転生したらベビーサタンだった件 (あしあと)
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目覚めと接敵

ふと目を覚ます。

 

「…なんだ?ここはいったい…」

 

固い場所で寝ころんでいたようで痛む背中を気にしつつ周りを見渡すと、松明に照らされ石のレンガに包まれた空間が広がっていた。

 

何があったか思い出そうとすると、ぽつぽつと記憶が蘇ってくる。

 

「…そうだ、俺は…確か、大学の講義の帰りに事故にあって!!?」

 

慌てて自分の体に目をやる

 

「………っなんだこれ!?」

 

自分の体の安否を確かめようとした彼の目には、紫色の体にこげ茶色の足が映っていた。

 

「いったいどうしちまったんだ俺は」

 

(落ち着け、垣川讓次(かきかわ じょうじ)…自分の名前だってちゃんと覚えてるし、大丈夫だ!)

 

気持ちを落ち着けつつも、この突拍子の無い事象を説明する記憶が浮かんできた。

 

「まさか…異世界転生…か?」

 

転生先によってはまだ希望はあると思いつつ、周りをもう一度見まわすと、自分の体より大きいフォークを持った紫の小悪魔<ベビーサタン>が目の前を横切り、フォークで壁の仕掛けのようなものを作動させると石を引きずるような音とともに壁が回転して見えなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「状況を整理しよう」

 

しばらく唖然としていたが、いくぶんか落ち着きを取り戻した様子で彼は状況を整理し始めた。

 

(まず俺はベビーサタンに転生したようだ…俺の近くにフォークが落ちてたことや体の色からおそらくあってる…となると転生場所はドラクエの世界か…4とか8とかモンスターズで見た気がするが…MPが足りなくて呪文が不発するギャグキャラだった気がする…これはやばい…強いやつに殺される…けどさっきのベビーサタンの反応から少なくても同種からは襲われなさそうだし…ドラクエの世界って基本主人公 vs 魔物の戦闘だった気がするから魔物は大丈夫か?…となると)

 

「問題は人間か」

 

そう話した途端、強い衝動に駆られた

 

「…っ」

 

(…ってなんだ!?人間って考えた途端…奴らで遊びたくナッテ…オレサマニニンゲンノオビエタカオヲミセロォォォォォ)

 

彼は自分の口角が吊上がってるのも感じない様子で、本能に従うままその欲を満たせる相手を探しに駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ちなみに、讓次(じょうじ)が居るリーザス像の塔では、回転する仕掛け壁を作動させて通り抜けないと他の場所に進めないのだが、彼はそんなことは忘れているようで今いる部屋をグルグルと回っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくの間讓次が走っていると、戦士のような格好をした美男子が回転する仕掛け壁から出てきた。

 

「ピャアァァァァァァニンゲンダァァァァァァァァ」

 

意表を突かれて戸惑った様子の男にベビーサタンは超強力な即死呪文を放った。

 

「 ザ ラ キ 」

 

 

 

 

 

 

 

-しかしMPが足りない

 

時が止まったかのように場が硬直する。超強力な即死呪文を前に男が倒れたのではない。呪文は発動しなかった、MPが足りなかったのだ。

 

男は緊張した顔を緩め、ゆっくりとこちらに近づいて来た。

 

(オカシイィ…オレサマノジュモンガキカナイィ!…ナラベツノジュモンヲツカウマデダァァァ)

 

今度は知りうる中で最も強力な爆裂呪文を唱えようとしたが、その男は、讓次が呪文を放つ直前に石畳みの床が割れんばかりに足を踏み込み、腰の剣を抜き放ちつつ猛スピードで迫ってきた。

 

「ック イオナズギャァァァァァ」

 

剣で腹を抉られながら吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。

 

「グヘェェェ」

 

すると男が入ってきたものとは別の仕掛け壁が作動したようで、仕掛け壁がぐるりと回転した。

 

(…うっ 何だいったい…腹が、全身が尋常じゃなく痛い…青色の血がめっちゃでてる…そうだ正気を失っている間に男にやられたんだ…あいつ…どこかで見た顔だ…確かドラクエ8のサーベルト!…ゼシカの兄でかなり剣の腕が立つキャラだった気がする)

 

 

 

 

 

 

 

「何だあのベビーサタンは…やけに殺気立ってるようだが。やはり塔に何か異変が起こっているのか…?」

 

取り残された男は、何かを勘ぐるように呟きつつ、魔物を仕留めに吹き飛ばした仕掛け扉に向かった。

 

(足音だ…壁の向こうに居る…殺しに来るぅ…!…けどもうボロボロで動けないぃ…!)

 

重い音とともに仕掛け扉が作動する。讓次にはその音が、2度目の生の終わりの音に聞こえた。

 

サーベルトは仕掛け壁を作動させると、回転し終わる前にその場を飛びのき、壁の先の空間でさっきの魔物を警戒する。奴らは追い詰められたときこそ一番危険なのだ。だが、魔物はどこにも見当たらない。

 

「…死んだか」

 

魔物は死ぬと跡を一切残さずに消える。稀に何か落として死ぬものもいるが、彼は奴がさっきの剣撃で死んだと考え歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―足音が遠ざかり、しばらくたった。

 

(危ねぇーーー! セェーーーフ!!! この仕掛けはまじ助かった!)

 

そうである。仕掛け壁によって一人と一匹は入れ違いになったのだ。

 

「う…ゴボッ」

 

しかし讓次の腹の傷は相当深いようで、彼の体の下には青い血だまりができつつあった。

 

(やばい…出血多量でしぬ…からだうごかねぇ…いたい…いしきが…めのまえが…まっくら)

 

そう考えたきり、彼は意識を失ってしまった。

 




友達とドラクエ8やっててその時のノリより生まれし小説。
小説書くの初めてなのでお手柔らかにお願いします。


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恩と能力と因縁

2週間に1回ぐらいのペースで投稿しようかなと思ってます。

しばらくは書き方とか間隔の入れ方とか変えて試すかもです。

あと原作改変タグを追加しました。大きな流れは変えないと思います。




気が付くと腹がとても暖かく、心地よい感覚に包まれていた。

 

(う…腹があったけぇ…)

 

目を開けるとそこには、ホイミスライムのにへらとした笑顔があった。体の傷を治してくれているようで、あたりにはホイミを詠唱した際の黄緑色の光の粒が舞っている。ベビーサタンの体はみるみると治っていった。

 

「ありがとう」

 

讓次がそう言うと、ホイミスライムは何を言っているのか理解できていなさそうに首を傾げた。

 

(言葉が通じないのか?…というか日本語が通じないのか?…それにドラクエの世界で人間語をしゃべれる魔物は少なかった気がする)

 

「●▼◇✕✕●□▲」

 

ホイミスライムが話しかけてくると、なぜかその内容が理解できた。

 

(ダイジョウブ?って言ってる…明らかに日本語と違うのになんで理解できるんだ?)

 

「あっ」

 

讓次はそこである記憶を思い出した。この塔に連れてこられる前のエリート魔族のベビーサタン、レベルズと呼ばれていた頃の記憶である。様々な悪魔系が住む村、村でも変わっていた師匠に様々な魔法を教わった日々、「つぎは うぬらの じだいじゃ」とか言われて村からバシルーラされたこと、魔族(魔物)語のことなど、2、3年の事だが様々な記憶が蘇ってくる。

 

(…そうだ…俺は魔族として何年か村で育てられていたんだ…でもともかくお礼を言わないと)

 

「ありがとう、助かったよ!」

 

今度は魔族語で話すと、ホイミスライムは空中で優雅に一回転した。どういたしましてのかわりのようだ。

 

(今後は違和感ないだろうし、こっちの名前のレベルズで通すか)

 

「俺はレベルズだ、あんたはなんて名前なんだ?」

 

「そうかレベルズ ボクはミイだ 助けられてよかったよ」

「さっき物陰から見かけたけど 戦士の格好をした人間にやられたのかい?」

 

「そうなんだ、あの男めちゃくちゃ強くて。それより、命を救ってもらったしなんか手伝えないか?」

 

「ん~今はないかな 今度お話しようよ じゃあまたね」

 

そう言ってミイはフヨフヨと去って行ってしまった。

 

(ミイか…助けたのに何も求めないなんてかっこいいな…見た目はかわいいけど…今度何かお返ししないとな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いろいろあったけど、もう一回現状を考えよう」

 

(さっき暴走したのはなぜだ?…魔族の村に居た頃の記憶も感情も残ってるから、それが暴走したのか…?…もうしっかり思い出したし暴走することはないと思うけど心配だな)

 

(この体の能力はどうだろう?)

 

魔族の村で練習した通り、体の奥底から流れる魔力を捻出し、爆発をイメージして呪文を唱える。

 

「イオナズン!」

 

呪文は発動しないが、詠唱した時に体からオレンジ色の光の粒が出て、少し疲れた気がする。

 

今度は、おどろおどろしい死をイメージして呪文を唱える。

 

「ザラキ!」

 

同じように紫の光の粒が出て、また少し疲れる。

 

転生前の記憶を頼りに、適当に呪文を唱えてみる。

 

「メラ! イオ! ギラ! バギ! ヒャド! ホイミ! 後は…ザキ!」

 

呪文は発動しないし、光の粒も出ない。疲れもない気がする。

 

(ザラキ-イオナズン-メガンテは教わってたから詠唱したときに光の粒が出たな…発動しなかったのはMPが足りないからか?…メガンテは………やめとこ…他の魔法は練習してないから出ないのかな…それともモンスターズみたいに生まれた時からできる呪文が決まっているからか?そうだとしてもあの村の師匠はもっと初級の魔法を教えてくれたらよかったのに…生き残って成長したものだけが強力な魔法を使えるとかいかにも魔族っぽいけどな)

 

(…他に使えるものは“つめたい息”か。)

 

息を吸い込み、人間の頃にはなかった肺の近くにある器官に空気を入れ、一気に吐き出す。

すると、小さな氷の欠片を含んだ白い息が、地面を引っかきながら前方に広がる。息に触れた地面は、霜がびっしりとついていた。

 

(これはすごいな…原作じゃここを通過するときの主人公達にはきつい攻撃だったはず…フォークで攻撃はそこそこだった気がするが…近接戦はしたくないな…っていうか主人公来るじゃん!さっき会ったサーベルトがドルマゲスに殺されてたら主人公来るじゃん!…これはまずい!…あんなバケモンみたいな身体能力したやつと戦いたくない!しかも2人じゃん!俺は逃げるぞ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リーザス像の塔の最上階におそるおそる行ってみると、原作通りに冷たくなったサーベルトの死体が転がっていた。腹を杖で貫かれたようで、穴が開き血だまりができていた。

 

(やっぱ殺されてるじゃん!奴らが来ちまう!)

 

頭を抱えて動揺する。

 

(でもこいつを倒したドルマゲスも主人公達に倒されるって考えるとドラクエ8の世界ってやべえな)

 

「っな アルバート様!」

 

振り向くと、覆面を被った荒くれ者のような姿をした男が、何かを叫びつつ剣を抜くところだった。

 

斬られないようにその場から飛びのく。

 

すぐには襲ってこないようで様子を伺っていると、あらくれはこちらを警戒しつつサーベルトの安否を確認するようだった。

 

「アルバート様! アルバート… くそっ こいつがやりやがったのか!」

 

(あれ…何か言ってるけどわからない…この世界の人間語って…日本語じゃないのか…それよりこれやばくね?俺がサーベルト殺したことになるんじゃ)

 

「ぶっ殺してやる!」

 

何か叫びつつ斬りかかってくる。

 

慌てて背中についた羽根を羽ばたかせて後方に飛びのくが、フォークに当たり甲高い音とともに三又の部分に横に傷が入る。

 

(この状況を見られた以上覆面男ををリーザス村に返すわけにいかない…とにかく逃げられなくなるように足を弱らせよう)

 

すぐさま息を吸い込み、つめたい息を吐き出す。

 

「ぐっ」

 

氷の欠片を食らったあらくれの足は傷だらけになり、霜が付着する。

 

すると、あらくれは距離を取り、腰のポーチから緑の草を取り出し食べた。足から蒸気のような白いもやが出てくる。

 

(なんだ…?くそっ!やくそうか…けど逃がすわけにはいかねぇ!)

 

近づきつつ、つめたい息を吐きだす。

 

すると今度はあらくれが後ろへ飛び、躱される。飛んだ先にはサーベルトの遺体が横たわっていた。

 

「…くっ アルバート様!」

 

よく見るとあらくれはズボンがボロボロで、そうとう苦労して登って来たようだった。

 

(奴はこの塔を登って来たんだ…弱ってるはずだ…このまま攻めれば行けるかもしれない)

 

しかし現実は非常だった。

 

「覚えていろよベビーサタン…追いかけて必ず殺してやる…リレミト!」

 

そう唱えるとあらくれとサーベルトを包むようにオレンジの球体が出現した。

 

「おいやばいって!」

 

球体へ飛んでフォークを突き出すが、到達する前に球体は小さくなって消えてしまった。

 

(これ…死んだわ…ゼシカの仇が…俺になると…主人公達に追われる…しかもあいつらはドルマゲスもラプソーンも倒すぐらい強くなっていく…ムリポ)




(2022/1/30 魔族語(魔物語)の色を黄緑から緑へ変更しました。)

・言語について

 日本語:紫

 この世界の人間語:黒

 この世界の魔族語:緑

 呪文は人間語も魔物語も日本語も共通とします。リレミト!


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目標と修行

(2022/1/30 魔族(魔物)語の文字色を黄緑から緑へ変更しました。)

ストーリーは軽く入れていきます。

今回はちょっと長めです。


レベルズはあらくれとの一戦の後、すぐに(つた)で覆われた扉と鉄柵でできたリーザス像の塔の入り口に向かった。

 

(急がないと…原作じゃこの扉を持ち上げれば通れたはず)

 

扉に触れようとすると、扉が眩しく光を発して体が弾かれた。

 

「くそっ 何だこれ!」

 

(中からじゃ開かないのか?それとも俺が魔物だからか?…こうなったら鉄柵をよじ登って追いついてやる)

 

レベルズが鉄の柵に触れようとすると、今度は柵が激しく光り弾き飛ばされた。

 

「ぐっ ここもかよ!」

 

(…あのあらくれが何をしゃべってるかはわからなかったが…おそらく奴は俺がサーベルトをやったと思ってる…奴がリーザス村に到着すればサーベルトを殺したのが俺になってしまう…言葉が通じないから説得もできないし…どうしたら)

 

「どうしたんだいレベルズ さっきから外へ出ようとしているみたいだけど」

 

一体のホイミスライムが近づいてそう言った。

 

「ミイ! ここから出る方法を知らないか?」

 

「何かあったのかい? …だけど残念ながら今すぐここから出る方法はないよ ボクたち魔物が外へ出ようとすると 不思議な光に弾かれるんだ」

 

「そんな!」

 

「今すぐ外に出なきゃいけないのかい? すぐじゃなければ出る方法はあるよ」

 

「……すまない教えてくれないか? だいぶまずい状況なんだ」

 

(サーベルトをやったのが俺だと思われたとしても この塔から逃げさえすれば死なずに済む)

 

「この塔にはニンゲンがときどき見回りに来るのさ ニンゲンが塔を見回っている内に この扉は開けっ放しになる その時はここから出られるよ」

「何があったかよければ教えてくれるかい? キミいまひどい顔をしているよ」

 

(…リーザス村の人は血眼になって俺を探すだろうけど…入れ違いで出られればいけるか?)

 

「実は…」

 

レベルズは成り行きを説明した。

 

「…なるほど つまりキミは戦士の姿をしたニンゲンの仇だと勘違いされたのか それでこの塔から出ていきたい…と」

「…協力するよ 困っている生き物を助けるのが ボクたちホイミスライムの生きがいだからね」

 

「ありがとう、ミイには助けられてばかりだ。前にも言ったけど、何か助けられないか?」

 

「それじゃボクの話し相手になってよ それでいいからさ キミはどんな感じにあの戦士と戦ったんだい?」

 

「どんな感じ…か う~ん…あんまり覚えてないんだけど、初めてニンゲンに会って慌てて呪文を打ったんだ。魔力足りなかったんだけどさ」

 

「アハハ! 初めての戦闘はみんな緊張するみたいだね」

 

「それで、いきなり距離を詰められて、やらなきゃやられると思って、もう一回呪文を打とうとしたら倒されてたんだ。運良く仕掛け壁で入違ったから殺されずに済んだけど」

 

「…なるほど ちょっと聞いておきたいんだけどさ レベルズはニンゲンを殺すべき…というか 殺したいと思うかい?」

 

(何だこの質問…ミイは原作でもちらほらいた“いいスライム”みたいな感じなのか?…あの時は暴走してたしそれで死にかけたんだ…もう絶対戦いたいなんて思わないな)

 

「あの時はちょっと混乱してたんだ。死にたくないし、もう戦いたいなんて思わないな。」

 

「…そうか キミがニンゲンを殺そうとする魔物じゃなくてよかったよ! みんな仲良くすれば誰も傷つかなくていいのさ」

 

ミイはそう言って触手をフヨフヨと動かし力説する。

 

「そうだな」

 

「キミはここから逃げたらどうしていくんだい? ニンゲンを殺さない魔物は少なくてさキミがどうしたいか気になるんだ」

 

(俺は…どうしたいんだろう…この世界で…どうやって生きていくんだ?…死にたくないな…けどミイみたいに人間を憎まなくて話しやすい魔物は少ないらしいし…もとは人間だったんだ…魔物とだけじゃなくて…人間とも友達を作って…人間らしい生活がしたい…人の食べ物も食べたいし…しばらくはごめんだけど)

 

「……しばらくは人間と会いたくないけど、俺は人間みたいな、人間っぽい生活がしたい」

 

「…キミは変わってるね そんなこと言う魔物は見たことないよ でもそういう魔物が一体くらい居てもいいかもね」

 

(どうにかして人間の言葉を使えたら…話してくれる人間もいなくはなさそうだけど………そうだっ原作では三角谷ってとこで人間と魔物が共存してたはず…あそこにたどり着ければ人間の言葉を覚えていろいろできるかもしれない)

 

「逆にミイはどうしたいんだ?」

 

「さっきも言ったけど ボクは困ってる生き物を助けられればそれでいいのさ ニンゲンも含めてね …みんなが傷つけ合わなくなればいいんだけどなあ」

 

ミイは目を輝かせてそう言った。

 

その後二体は見回りが来るであろう日中に塔の入り口を見張る約束をして、今日はそのまま夜まで見張ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

清らかな水が溜まり、壁面に反射して透き通るような青が揺れている滝の洞窟の中、二人の男が道を歩いていた。

彼らはトロデ王国をいばらで呪ったドロマゲスを追う道中、立ち寄った町トラペッタの占い師の娘ユリマの願いで水晶玉を探していた。

 

「待ってくだせぇ おちんちの兄貴」

 

こんぼうを背中に携えた強面の元山賊ヤンガスがどうのつるぎを装備している細身の近衛兵おちんちに駆け寄る。おちんちはあたりを警戒している。

 

「さっきのおおきづちはなかなか強かったでがすが アッシらに力勝負で勝てるわけないでげすよ」

 

ヤンガスがそう言う。

 

「そんなことないよ 力を溜めて隙を突けなかったら危なかったよ」

 

「そうでがすか? さすがは兄貴 用心深くて頼れるでげす!」

 

洞窟で立ちふさがる力自慢のおおきづちもトロデ王国の近衛兵と元山賊ヤンガスにかかれば楽な相手だった。なぜなら一行は既に一帯で名のある魔物たちを倒し、経験を積みまくっていたからである。彼らは今日も油断せず突き進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

塔の入り口を隠れながら二人で見張りつつ、ミイが触手をくねらせて言った。

 

「そういえば最近 ここらへんで名のある魔物が二人組のニンゲンに倒されていってるらしいよ 不屈のスナイパーリリッピとか 愛の戦士ピエールとか 滝の洞窟の門番きづちんとかさ」

 

「なん…だと…」

 

(絶対主人公達じゃん)

 

「特にリリッピは防御呪文スカラと回復呪文ホイミを使いこなす凄腕リリパットだって有名だったのに そいつらもやるよね …幸い殺されはしなかったみたいだけど」

 

「ソウダナ ソレハサイワイダナ」

 

(絶対強いじゃん)

 

「…なんかカタコトになってない?」

 

(ゼシカが仇討ちに行ったことを知って主人公たちも来るはずだし…塔に来た人間をうまくかわせなかったときを考えて修行しとこ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虫の鳴く声が聞こえる夜、石壁が松明の炎で照らされた空間で1体のベビーサタンが真剣な顔つきで魔法を練習していた。

 

師匠の教え通り魔力を体の奥底から捻出し、明確なイメージを持って呪文を唱えていく。

 

「……メラ!……ヒャド!……ギラ!」

 

詠唱時の光の反応すらなく呪文は失敗に終わる。

 

「……バギ!……イオ!……ホイミ!……ザキ!」

 

今度も詠唱時の光の反応もなく呪文は失敗した。

 

(詠唱時の光すら出ないなんて…イオナズンやザラキを使うにはおそらくMPが足りないから初級魔法を練習しようと思ったのに…明確なイメージが足りないのか…それともそもそも生まれた時から使えない魔法があるのか…俺は一応エリート魔族として集められたんだ…才能はあるはず)

 

その後も練習を続けるが、一向に詠唱時の光すら出ない。

 

(まるで反応がない…もうちょっと考えて練習するか…生まれた時から使えない魔法があったとしてもイオ系-ザキ系-メガンテは使えるはず…しっかりイメージしてそこから練習しよう!) 

 

レベルズは背中に生えた蝙蝠のような羽根を伸ばし何度か羽ばたかせ、フォークを左手から右手、右手から左へと持ち変えると改めて練習を始めた。

 

(イオとは…小さな爆発…爆発とは…空気の瞬間的な膨張…爆発を起こすには…エネルギーを凝縮して…)

 

「……イオ!」

 

なにも起こらない。

 

「…魔法の練習かい? レベルズ」

 

ミイがフヨフヨと漂ってきた。

 

「ミイ! 逃げるのに失敗してこの前みたいに魔法が出なかったら怖いからね」

 

 

「何がうまくいかないんだい? このボクがホイミの使い方でも教えてあげようか?」

 

ミイが得意げに言いつつすぐそばまで近寄ってくる。

 

(…助けるのが生きがいなのはいいけど…ミイってなんかいつも近くないか?……っは!相手はホイミスライムだぞ!俺は何を考えているんだ!しっかりしろ――!)

 

「そっそれもありがたいんだけど、今はイオの練習をしているんだ、詠唱時に光の粒が出るのが教えてもらったイオナズンとザラキくらいでさ」

 

「ザラキだって!? キミは誰かを呪い殺したいのかい?」

 

ミイが信じられないものを見たかのように触手をうようよさせている。にへらとした笑顔も普段より引きつっているように感じる。

 

(…嫌われてしまう…はっ…違うこれは命を救われたからその補正ガガガ…)

 

「ちっ違うんだ!魔族の村に住んでた時、師匠にザラキは呪い殺す気でやれって言われたんだ!その時は人形相手だったし…つい」

 

「…ふ~ん…ほんとかな~」

 

ミイが離れていきこっちを疑っている。目が笑っていない気がする。

 

「ほんとなんだ!信じてくれ!今はあの男に殺されかけて人間と戦う気なんかこれっぽっちもないんだ!それにほら!前に人間っぽい生活がしたいって言ったじゃないか!」

 

「アハハ冗談だよ~ キミは慌てると面白いな」

 

そう言うとまたフヨフヨと近寄ってきて、満面のにへら顔をこちらに向け、肩に触手を置いてくる。

 

「ぐっ このっ」

 

(ミイに遊ばれている…!)

 

「まあでもそこが重要なんだ 気持ちを込めないと呪文は打てないのさ」

「ホイミなら相手を癒したい ザキなら相手を殺したい 攻撃魔法を使うなら相手を傷つける強い気持ちが 覚悟が必要なんだ」

 

一変して真面目な調子でそう言う。

 

レベルズもミイの真面目な様子を見て、真剣な顔つきに戻って考え始めた。

 

(死ぬわけにはいかない…そのためには相手を傷つける…!死なないためだったら…サーベルトだって…あのあらくれだって誰だって傷つけてやる!)

 

そう決意を固め、魔力を体の奥底から呼び出し凝縮するイメージで、数メートル先の瓦礫へ解き放つ。

 

「………イオ!」

 

―しかしMPが足りない

 

呪文は発動しなかったが、詠唱時にオレンジの光の粒がレベルズの体から溢れ出る。

 

(…さっきと違って呪文の詠唱はうまくいった……けど初級魔法ですら…MPが足りないのか)

 

「…キミは魔力が少ないみたいだね …アハハ」

 

ミイがちょっと呆れた様子でそう言った。

 




主人公の名前は、友達とドラクエ8したときに名前で遊んじゃったのでそこからきてます。本当に申し訳ないw

※名のある魔物は原作におけるスカウトモンスターやボスなどの強いモンスターのことです。


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復讐

(2022/1/30・31 文字色や誤字などを修正しました。)

(2022/3/12 ミイとレベルズの2回目の会話シーンを変更しました。)

・今更なんですが不定期で上げます。


リーザス像の塔には大きな塔と小さな塔があり、それらを繋ぐ渡り廊下がある。渡り廊下には人が屈めば隠れられるほどの蔦で覆われた石壁があり、身を乗り出さない限り塔の入り口からは見えなくなっている。レベルズとミイはそこで見張りや修行をして過ごすようになっていた。

しかもどちらの塔も入り口に繋がっているため、来た人間と逆の塔に行けば人間に会わずに入り口にたどり着けるのだ。

 

太陽が空高く位置する昼、ミイは閉ざされたリーザス像の塔の入り口の扉から目を離した。

 

「…レベルズ そろそろ交代だ 起きてくれ」

 

ミイがそう言って黄色い触手でフヨフヨと寝ているレベルズの体を揺すった。

 

「ん…わかった」

 

レベルズが眠そうに体を起こすと、今度はミイが浮遊するのをやめ、触手の上に青い体を乗せ、眠る体制に入った。

 

レベルズは入り口をじっと見るが、まだ誰も来ていないようだ。

 

(ミイは見回りがくるのは満月のたびだと言っていたが…昨日は三日月だったしまだ先だ…もし先にゼシカが来て逃がさないように入り口を閉じたらどうする…そうなったら中で逃げ続けるしかないのか?…つめたい息しか吐けないんじゃ射程はメラを打てるあっちの方が上だし…)

 

「キミはニンゲンが来るのが心配かい?」

 

ミイが目を閉じたままそう言う。

 

「っ!そうなんだ、もし人間が来て、入り口を閉じられたら逃げられないわけだし」

 

「そうなったら …ボクが守ってあげるよ」

 

「それはありがたいけど、さすがに助けられてばかりだし悪いよ…ってミイ?」

 

ミイはすやすやと眠っていた。

 

(ミイには頭が上がらないな…っていうか寝顔がかわいすぎる…SAN値がみるみる回復していくぅ!)

 

さっきよりも不安が無くなったレベルズは見張りを続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、レベルズが呪文の練習をしていると、赤い体に鬼のような顔が背中に付いたカエル<ジンメンガエル>が近寄ってきた。

 

ホイミスライムのような例外を除き、ほとんどの魔物は同種で集まることから、何かしてくるのかとレベルズは身構えた。

 

「おいベビーサタン! えらく熱心に修行しているみたいだがどうかしたノカ?」

 

ジンメンガエルはまだかわいい方の正面の顔を向けてそう言ってきた。

 

「ああ、呪文を使えるようになりたくてな」

 

「その割に全然呪文が発動してねえナ ゲヘッヘッヘ」

 

「うるさいな、MPが足りないんだよ」

 

「なんだMPを増やす方法も知らねえノカ? ああオマエがつるんでるのはホイミスライムだったナ」

 

赤いカエルは口角を上げてそう言った。

 

(なんだこいつ…いちいち棘のある言い方するやつだな)

 

「…それが何か関係あるのかよ」

 

「教えてやってもイイガ… ただってわけにはいかねえヨナ」

 

赤いカエルは口角を上げたままそう言う。

 

「この前見回りでもないのにニンゲンが来てたダロ? ああいう風に一人でうろついているニンゲンとか見かけなかったカ?」

 

(こいつは…ニンゲンを襲うつもりっぽいな…魔物だから普通か…そうだとしたらゼシカがもうすぐ来るってことを言えば多対一で安全に戦えるんじゃないか…?…けどミイはここの魔物とゼシカとかが戦うと悲しむか…何もミイに返せてないし…こいつにゼシカの事を教えるのはやめとこう)

 

「う~ん、いや、そういうのは見てないな」

 

「なんだ知らねぇのかヨ …ケッまあそういう情報があれば教えろヨ!」

 

そう言うとジンメンガエルは、後ろを向き怖い方の顔の黄色い目でこちらを睨みつけつつ去っていった。

 

 

次の日も同じように昼に見張りをし、夜に呪文の練習をしたが、ミイがかわいい以外に特に何も得られるものはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静まりかえり夜も明けていない頃、リーザス村の中を決意に満ちた目で進む者がいた。アルバート家のご息女にして攻撃呪文(メラ)の使い手アルバート・ゼシカだ。最も仲が良かった(サーベルト)を失いその復讐に駆り出そうとしていた。

 

(あんなに強くて優しくてずっと一緒にいてくれたのに…そんな兄さんを殺すなんてベビーサタンとかいう魔物は許さない!お母さんもお母さんよ!兄さんの死を(いた)めて大人しくしてなさいって?兄さんを殺した魔物がまだあの塔にいるのに?信じられない!)

 

(兄さんを連れ帰った防具屋のパディスさんの話だと…兄さんを殺したのはベビーサタンでフォークみたいな武器に横に一本傷を入れたって言ってた…そいつを探して兄さんと同じ目に遭わせてやる!)

 

「ゼシカ嬢様。 こんな夜更けにどうしたんだ?」

 

不意に声を掛けられて止まると、そこには角の生えたマスクをかぶった筋肉質な男、防具屋のパディスが佇んでいた。

 

「その…眠れなくて 外の風に当たりに出てたんです」

 

ゼシカは慌ててごまかそうとした。リーザス村の人にばれると、仇を討ちに行けなくなるからだ。

 

「仇を討ちに行くんだろ? その憎しみに満ちた顔を見ればわかるさ」

 

「…止めるつもりですか?」

 

「いや嬢様の気持ちもオレにも少しはわかる 止める気はないさ」

「オレは村の用心棒としてアルバート様がガキの頃から見てきた。 俺が用心棒をやめる前まではよく一緒に見回りに行ったよ。 アルバート様は剣の腕でも人間としても立派に育ってこれからだった。 そんなあいつをやった魔物は必ず殺す。」

 

パディスは殺気立った雰囲気でそう言った。

 

「…そうですか 兄からパディスさんのことは聞いていました。 一緒に戦ってくださるなら心強いです。」

 

ゼシカは緊張した顔を少し緩め、村の外でキメラの翼を使い、リーザス像の塔に飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辺りが白んできて今に夜が明けるかという時、レベルズとミイは塔の渡り廊下で見張りをするために集まったところだった。

 

「やあミイ、今日も助かるよ!」

 

「いいさ 特にすることもないしね」

「それにキミだけでニンゲンと戦うことになったら すぐやられちゃいそうだしね」

 

ミイは触手をフヨフヨと動かしながらにへらとしてそう言った。

 

その時だった。風を切る音とともに上空から何かが飛んできたのは。

 

レベルズは咄嗟に身を屈め、渡り廊下の石壁に隠れた。ミイも同じように隠れたようだ。

 

壁から顔を出し、様子を伺う。鉄がこすれる音と共に塔の入り口の扉が持ち上がり、松明を持を持ち、角の生えたマスクをかぶった筋肉質な男と、赤毛のポニーテールで白いブラウスと黒いスカートを着た女がずかずかと入ってきた。

 

(あらくれとゼシカだ!二人だと…!?原作と話が違う!)

 

するとあらくれは、松明で照らし、辺りをぐるりと睨みつけた後、後ろを向き、入り口の扉を固く閉じた。

 

(今の見られてないよな…こっちのほうがずっと暗いし…っていうか入り口を閉じられた…やっぱり逃げられないようにするつもりだ…!ど…どうしよう…)

 

「レベルズ! キミの言った通り扉が閉じられた! これじゃ逃げれない! どうする!?」

 

ミイが小声かつ少し慌てた様子でそう言ってくる。

 

(どうしよう…とりあえず見つからない様にしないと…けど下手に動くとまずい…このまま隠れてやり過すか…?…ばれなきゃいいけど…もしこっちに来たら全力で逃げよう)

 

「とりあえず、見つからないようにこのままやり過ごそう! もしこっちに来たら全力で逃げる感じで」

 

体がこわばって震えているのを感じつつ、レベルズはそう伝え、二人は息をひそめた。

 

様子を伺っていると、あらくれはゼシカに何か話した後、階段を上り、こっちへ歩き始めた。ゼシカはその5メートルほど後ろについてきている。

 

(こっちに来た…逃げるか…?もうかなり近い!逃げよう!)

 

緊張した様子のミイと目を合わせ、同時に頷いた。

 

大きい塔へ駆け出すが、あらくれが飛び出してきた。

 

「だめだ! 小さい方の塔へ逃げよう!」

 

ミイにそう言って、小さい方の塔に入ろうと、踵を返すと「メラ!」という声と共に火球が飛来し、小さい方の塔の扉が炎を上げ始めた。

 

炎は一瞬で広がり、辺りが赤く染まる。

 

(退路をふさがれた…やるしかない!)

 

「その傷…アルバート様をやりやがった魔物だな…! 今度こそぶっ殺してやる!」

 

あらくれが何かをすごい剣幕で吐き捨て、あらくれとゼシカが襲い掛かってきた!

 




小説書くの難しい…


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戦闘

(2022/3/13 前話のミイがレベルズについていくって言ったシーンちょっとしっくりこなかったので無くしました。)


少し前、リーザス像の塔の扉を潜り抜けたパディスは、こちらの様子を伺う魔物の気配に気づいていた。

 

(左上の石壁の裏からこっちを探っている魔物が1…2匹いるな…奴だとすると仲間ができたのか…?厄介だな)

 

(奴はアルバート様の腹を一突きで殺している…もしゼシカ嬢様まで死なせたらあの世にいるアルバート様に顔向けできない…絶対にゼシカ嬢様の前に奴を立たせるわけにはいかないな)

 

そう考えると後ろを向き、緊張した顔のゼシカに話しかけた。

 

「ゼシカ嬢様。 オレの右後方の石壁に魔物が潜んでいる 奴かはわからないがこれから近づいて確かめようと思う オレが前衛を張るから後方から魔法で支援してくれ」

 

ゼシカは改めて覚悟するように一呼吸してから「わかりました」と頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

あらくれが迫りつつ、両手でレベルズを斜めに断ち切る勢いで剣を振ってきた。

 

レベルズもフォークの柄の部分を両手で持って剣を受けるが、受け止めきれずどうのつるぎが右肩に食い込み、青い血が滲んでくる。あらくれの目は血走っている。怖い。

 

「グッ」

 

レベルズはたまらず出た声を押しとどめ、息を吸い込み、肺とは別の器官へ空気を送り、氷の欠片を含んだつめたい息を思い切り吐き出した。

 

するとあらくれは顔色を変えて慌てて後ろへ飛ぶが、大量の氷の刃があらくれの下半身を中心にズボンごと切り裂く。あらくれは相当効いたようで、表情を歪ませた。傷口から出た血が凍りそうなほど、霜が付着している。

 

「レベルズ!」

 

ミイが警告する。後退したあらくれの陰から出てきたゼシカが火球をこちらに飛ばしてきていた。

 

真正面に飛んできた火球を避けるために右へ飛ぶが、躱しきれず左足へ着弾し、衝撃によって体制が崩れ、左足が燃え上がり、激痛が走る。

 

「ガァァァ」

 

レベルズは、これ以上攻撃を貰わないように、何とか体を起こし、痛みをこらえて右足と背中の羽根で後ろへ飛んだ。

 

炎はおさまったが、レベルズの左足は表面が炭化していた。すかさずミイが「ホイミ!」と叫ぶと、体が緑の光に包まれ、傷が癒えていく。

 

暖かさと共に肩と足の痛みが消えていくのを感じながら、レベルズがあらくれとゼシカの様子を伺うと、あらくれもやくそうを食べ傷を癒しているようだ。

 

すると、その背後から出てきたゼシカが新しい火球を創り出し、こちらに飛ばすところだった。

 

「ミイ!」

 

掛け声とともに2匹は左へ飛んで躱した。

 

火球はすぐ右の石畳の床へ爆発が起きたかのような低い音とともに着弾し、炎を上げる。

 

ゼシカは火球が外れるとあらくれに背後に隠れた。

 

(くそっ…あらくれが邪魔でゼシカのメラがいつ飛んでくるかわからない…あのメラはやばい…痛いし衝撃がある…今度食らったら一気に詰められるな…どうしたらいいんだ)

 

あらくれは憎しみのこもった眼でこちらを睨んでいる。殺せる隙を伺っているのだ。

 

(怖えぇ…けど……ここで迷ったら死ぬ…何とか生き残る方法を考え出すんだ!)

 

レベルズはあらくれを睨み返した。

 

(メラを食らったらかなり危ない…メラを食らわない様にするんだ!…どうやって?あらくれの陰から突然飛んでくるんだぞ!…そんなもの躱せな……ん?あらくれの陰から? あらくれに張り付けばメラは打てないんじゃね?……そうだ!たぶんあってる!)

 

「ミイ!あのあらくれに張り付けばメラは飛んでこない!あらくれに近づいて戦う!ついてきてくれ!」

 

後ろを見ずにミイにそう言った。

 

「…わかったよ けど殺すのはなしだよ」

 

ミイは一瞬考えた後に少し不満そうにそう答えた。

 

「ああ」

 

(この状況じゃ殺されないようにするので精一杯なんだけどな)

 

レベルズはそう答え、メラが来ても躱せるようにジリジリと前へ進み始めた。ミイもその後ろをついてきている。

 

またあらくれの陰から出てきたゼシカが火球を飛ばしてくる。

 

「クッ」

 

右へ躱す。左半身が熱されるのを感じ、後ろで着弾した音が低く響く。ミイは躱すのは得意なのか余裕そうだ。

 

警戒しつつ距離を詰めていく。

 

すると今度は火球を飛んでくるのと同時にあらくれも詰めてきた。

 

なんとか左へ飛んで火球を躱し、あらくれの上からの一閃をフォークの柄で受け止めようとするが、受け止めきれず、体制が崩れる。

 

すぐさま息を吸って前方につめたい息を吐きだすと、あらくれは一瞬視線を背後へ向けた後、素早くレベルズの右側に回り込んで息躱すと、首を狙った鋭い横凪の一閃を放ってきた。

 

すんでのところでフォークを割り込ませるが、間に合わず、レベルズの首にどうのつるぎが食い込み、青い血が噴き出す。

 

「グッ」

 

「メラだ! レベルズ!」

 

あらくれが右に回り込んだせいでメラの射線が通っていた。

 

脚力を総動員してあらくれを盾にできそうな位置へ飛びのくが、尻尾に着弾し、燃え上がる。激痛で揺れる視界からあらくれがどうのつるぎを両手で高く振りかぶっている姿が見えた。あれをまともに食らったら一刀両断されそうだ。

 

ダメもとで、フォークを両手で掲げて防ごうとするが、案の定防ぎきれず、顔面にどうのつるぎが食い込む。青い血が噴き出し、揺れる視界が青く濁る。

 

「ギイ゛イ゛ィ」

 

「レベルズ! くっホイミ!」

 

体が緑に包まれ、痛みがましになるのを感じつつ息を吸い込み、あらくれへつめたい息を吐きだす。あらくれはさっきと同じように一瞬ゼシカの方を確認したが、絶対にあらくれから目線は離さない。今つめたい息を外すと死ぬ。

 

「くそっ」

 

すると、あらくれはつめたい息で身を切り裂かれながら、後ろへ跳躍した。

 

ゼシカが出てきて火球を放ってくるが、さっきもあらくれが引くタイミングで放ってきたため飛んで躱せた。

 

ミイに回復してもらいつつ考える。傷口が塞がるが、尻尾がもう一回生えてきたり、深い顔の傷が治ったりはしないようだ。

 

(やばい死にかけた…こんなことやってられない…倒すとか無理だろ…なんとかして塔の中に逃げ込めないか?…でもあらくれを躱せてもゼシカのメラが待ってるし…俺があらくれを躱せてもミイはあらくれの攻撃を防げないし…一回失敗したら挟まれてこうやって引くこともできないし…無理か…くそっ)

 

ゼシカがこちらを睨みつけている。あらくれは警戒しつつやくそうを食べている。

 

(そもそもサーベルトの仇じゃないのに…なんでこんな目に遭ってるんだよ!)

 

苛立ちと焦りで顔が強張る。

 

「レベルズ 大丈夫かい?」

 

ミイが心配そうな声でそう言った。

 

「…だいぶ厳しいかもしれない」

 

混乱した頭であらくれ達に目を向けたままそう返す。すると、ミイは触手を肩に置いて言った。

 

「まぁ ボクがいるから大丈夫さ」

 

一瞬何を言っているのかわからなくなり、ミイの方に顔を向けると、いつも通りのへらとした笑顔をこちらに向けていた。かわいい。

 

「え~と、ミイがいるから大丈夫…?…そうかもしれない」

 

ミイに見とれて頭が働かない。

 

「だろう? 怪我しても治してあげられるよ 一緒に切り抜けよう!」

 

しかし混乱は収まった。さすがミイだ。かわいくてカッコイイ。

 

「…ああ! ありがとうミイ!」

 

(また助けられた…まだ何も返せてないな…けどはっきりした…!ここでミイを死なせない…!絶対切り抜ける!)

 

 

パディスは警戒を緩めずに小声で言った。

 

「ゼシカ嬢様 このままではどうも攻めきれない 次はオレがベビーサタンを捕まえるからそこをメラで焼いてくれないか?」

 

「でもそれじゃパディスさんも焼けてしまうんじゃないですか?」

 

「直接当たらなければ問題ないさ あと奴が吐くつめたい息には注意するんだ 動けなくなるとまずい」

 

「わかりました」

 

 

レベルズが視線をあらくれ達に戻すと、こちらを警戒しつつ、何か話し合っていた。作戦でも練っているのかもしれない。人間語はわからないので聞いても仕方がないが。

 

(さてどうする…?結局メラを食らわないようにしつつ…今の最強の攻撃のつめたい息をうまく当てるっていうのがいいんだろうな…メラもつめたい息もさっきはあらくれに回り込まれたのが良くなかった…回り込まれないように気を付けよう!)

 

(今までは先手を取られてたけど…先に攻めるのはどうだろう…?今までは剣とフォークで押し合ってる時につめたい息を吐けたんだから…フォークを剣で防がしてそこでつめたい息を叩き込めばいけるかもしれない…!)

 

「ミイ、倒しに行こう!」

 

「ああ レベルズ!」

 

レベルズは決意を新たにし、進んだ。

 



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