ヒカリちゃんはキングと遊びたい (SSKキング)
しおりを挟む

煉獄無双~~~略!!

キングって結構ヤベーよね(笑)


 

「幅15m以内に怪人たちを誘導したら、『スーパースパーキングキングモード』(SSK)のキングさんの限定必殺奥義、【煉獄(れんごく)無双(むそう)爆熱(ばくねつ)波動砲(はどうほう)】で、跡形もなく消滅させる!」

 

 

ドッドッドッ

 

 

ドッドッドッドッ

 

 

ドッドッドッドッドッ

 

 

 

「これなら弱点の見当たらなかった凶悪怪人もまとめて倒せる! 今ちょっと糖分が足りなかったケド、なんとか成立する作戦が閃いてよかった……!」

 

「(そうか……、糖分て、本当に大事なんだな…………)」

 

 

キングエンジンが更に一際大きく、重く、大地を揺らさんばかりに鳴り続ける。

 

それはまるで、このSSK限定必殺奥義作戦を考えついた童帝の作戦に、キングが呼応したかの様だ。少なくとも、この圧倒的な戦力差を痛感した、【災害レベル竜】の怪人たちを前にして、勝機が見えなかった他のヒーローたちも、皆一様に頷き、一瞬の判断ミスが命取りとなる、この修羅場において、安堵する切っ掛けにもなった。

 

 

当のキングはと言うと。

 

 

「(かんべんして。今、いないんだよ、あの子(・・・)いないんだよ………。とっても強いあの子(・・・)も、それにサイタマ氏だって居ないんだよ。――――た、他力本願でここまでやってきたツケが回って来たのか……)」

 

 

 

地上最強のヒーローの称号を持つキング。

その実態は、最強でも何でもなく――――無職でオタクな引きこもり(29歳)。

大地を揺らさんばかりの振動、通称キング・エンジンは、ビビり過ぎて高鳴る心臓の鼓動が他人にまで聞こえてしまうから起こっている現象なのだ。

 

それでも、一切手を出さず、ここまで成り上がってきた? のは偶然の産物。

そして何より他力本願。

 

最強は他に居る。

寧ろ自分自身は最弱です。ただの人間です。

すみません、すみません、死んでしまう死んでしまう、死にたくない。

 

 

 

「すみませ――――」

「(ネーミングセンスが、お子様、って感じだけど、あたしは好きだよ、よっしゃ! それで行こうっ! キングっ!)」

「ッッ――――――!!??」

 

 

 

煉獄なんちゃら~ はさて置き、必殺土下座ぁ、をやろうか否かと思案していた矢先に聞こえるのは、陽気で明るく、無邪気な声。

 

 

 

ドッ、ドッ、ドッ―――――――――――――――――。

 

 

 

 

 

この瞬間。

キングエンジンが鳴りやんだ。

 

 

 

「(キング・エンジンが止まった……!?)」

「(この感じは……、出撃前の………!?)」

 

 

 

嵐の前の静けさとはこの事。

極限まで集中し、己を無とする。圧倒的な威圧感を放ちながらも、まるで消えたかの様に、一切水面に波紋が映らぬ静止した世界が訪れたかの様に。

 

場に静寂が訪れた。

 

 

 

「ッッッッ――――!!?? 余裕ぶっこいでる場合じゃねぇ!! いくぞ、オラッッ!! 54兆究極合体!!」

 

 

 

この静寂に耐えきれなくなった怪人・黒い精子(11兆4491億71万2553体)+黄金精子(43兆体)が行動を起こす。

この相手には、持てる全てを出し尽くさないと敵わない。消し飛ばされると本能的に察したからだ。

 

合体したら勝てる―――と本当に、本心で思っているかどうかは、この怪人にしか分からない。

 

 

 

 

「しめた!! キングさんの必殺奥義の予兆に堪えられなくなった! チャンスです! キングさん!!」

 

 

 

 

 

涼しい顔をしながら、戦況を見据えるキング。

エンジンはもう鳴らない。

 

ただ、その代わりに1つだけ、心に誓う。心底誓う。

 

 

 

 

「(―――身体、鍛えます。ちょっとくらいは………)」

 

 

 

 

 

そして次の瞬間光の奔流がキングを包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キング・SSKモード、煉獄無双爆熱波動砲が爆誕した事を記念し、少々時を遡ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故、ヒーローの中では誰よりも弱い、ビビリ、と嘆く彼がそれをする事が出来るようになったのか。

 

 

全ては、1人の青年……リストラされて無職となった1人の青年と、1体の怪人との出会いから始まった。

 

 

 

 

 

約4年前。

 

 

 

「―――思い出した。オレ、小さい頃ヒーローになりたかったんだよ。サラリーマンじゃなく、テメェみてーなあからさまな悪役を一撃でぶっ飛ばすヒーローに。………就活なんざ、止めだ」

 

 

 

 

絶体絶命のピンチが訪れた。

カニを喰い過ぎて、突然変態を起こしたカニランテと言う怪人の襲来。

 

油性マジックで、乳首を描かれた事に激昂して、子供を殺そうとした場面に、飛び込んだ1人の青年。

 

仕事をクビになり、全てがどうでもよく感じていた、虚無だった筈なのに、身体が勝手に動いた。

子供が殺されそうになってる場面で、身体が勝手に動いた。

 

 

 

「かかってこいや!! コラァァ!!」

「プクプクプク。なぁにが……ヒーローだ!!」

 

 

カニランテの大きくて、硬質な蟹鋏で殴りつけられる。

何度も何度も殴りつけられる。

 

 

「キミに勝機なんてねーんだよ。折角、同じ目をしたよしみで見逃してあげたってーのに、相当お馬鹿さんなんだね。プーーックックックック(笑)」

 

 

 

実は少し前に遭遇して、彼を見逃したのだ。

カニランテの目的は、自分の身体に乳首を描いた子供。それも油性ペンで描いたから消えないし、蟹鋏だから、タオルで器用に拭いたりも出来ない。

だから、あまり彼に固執していなかったのだが、向かってくるのなら話は別。

 

 

「あのガキの前にバラバラにしてやるよー! プーーーックックックック!」

 

 

八つ裂きの刑、と鋏を大きく振りかぶったその時だった。

カニランテの傍で、至近距離でピカピカ、と瞬く何かが纏わりついていたのに、気付いたのは。

 

 

「ん?」

 

 

なんだ? とそれを凝視した途端。

 

 

「ぴかーーーーっっ!!」

「!!?」

 

 

 

何が起きたのか解らない。

ただただ、カニランテは絶叫する。

 

 

「ギョワアアアアアア!!!! 目が、目がぁぁぁぁぁ!!?」

 

 

 

何が起きたのか、それはカニランテの眼前で、突然光源が発生した。

強烈な光を至近距離で受けた為、視力を奪われたのだ。

 

元々、蟹怪人であるコイツは、眼球が外に飛び出している。瞼を閉じて回避する~なんて事は出来ず、ただただ完全に視力を奪われてしまったその隙に。

 

 

「ぎゃあぎゃああぎゃああ!!」

「オラぁぁッ!!」

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

眼球にネクタイ引っかけて、思い切り引っ張り出した。

長い長いツタの様に伸び続けて伸び続けて、噴水の様に血を吹き出して―――軈て絶命する。

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……、なん、だったんだ? 今のは……」

 

 

殴られ続けたが為、己の血が目に入って視界が朧気だったお陰も有り、カニランテの様に強烈な発光で目をやられる事が無かった彼は、周囲を見渡した。

何が起きたのか……と確認する為に。

 

すると、光が形となり、軈てそれは小さな小さな少女の姿になる。

 

 

「格好良かったよ、お兄さん!」

「なん、だ? お前。……怪人、か?」

 

 

血糊を拭いながら何度も何度も凝視しなおす。

気のせいか? とも思ったが、どうやら気のせいでは無さそうだ。目の前に確かに存在する。

 

醜悪な怪人を見たばかりだったから、同じ怪人だとは思いたくない。けど、その身形を見れば人間じゃないのは間違いない。

 

 

「うーーん、まぁ、分類上はあたしも怪人、になっちゃうんだろうけど……あたしは、ヒーローの側が良い。お兄さん、めっちゃ格好良かった! 怪人より、ヒーローが良い!!」

 

 

ぴょんぴょん、ひゅんひゅん、と飛び回る得体のしれない何か。

一戦終えたばかりに心臓の鼓動がヤバイ。

頭がくらくらする、と自分の身体のダメージを再認識した男は。

 

 

「そう、かい。あぁぁ……、助かった。ありがと、な」

「ねーねー、あたしでもヒーローになれるのかな? 怪人ばしーーー! ってやっつけたら! 同族って訳じゃないし、別にかんけーないし! なれるかな?」

「あ? さぁ……、そりゃ、わかんね……」

「なに? 聞こえないよ! ねーねー、おにーさーん! あたしもヒーローが良いーー!! 今はぴかーーー! って目を晦ます程度だけど、ヒーローだったら強くないとねっ!! 頑張る!! 頑張ったら、なれるかなー!?」

「だぁぁぁぁぁ! オレ今結構重傷中なんだよ! 静かにしてくれ!!」

 

 

 

 

ヒーローになりたい男と怪人。

 

この2人の邂逅により、ここから4年後――――SSKキングが生まれるのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

セリフなし、即退場、ワクチンマンっ♪

 

ヒーロー協会に激震、戦慄が走る。

 

 

 

 

某日 A市

 

 

 

 

 

「大変です!! 本部より北西へ約20㎞の地点……! 推定災害レベル鬼以上、竜の可能性も!! イナズマックスとスマイルマンが出動するも通信が途絶えました……!」

 

 

この街に、これまで確認された限りではおそらく最大規模の怪人が出現した。

街のありとあらゆる場所が破壊され、灰燼と化して逝く。

街そのものが死んでいっている様に錯覚する程に。

 

未だ報告はないが、この破壊の規模・A級に分類されるヒーローたちが次々と敗北、音信不通になる所を見ると、推定災害レベル竜であったとしても不思議ではない。

 

 

「うっ、狼狽えるな! この街は我々の本拠地だぞ!」

「はっ!! ……し、しかしS級が近辺にしかおらず……」

「B級でもA級でもかき集めてぶつけろ! ここの警護に当たってる者も直ちに向かわせろ! 連携だ! 連携を取らせて兎に角時間を稼ぐんだ!!」

 

 

怒号の様な指示が飛ぶ。

堅牢に作られたシェルターの様なヒーロー協会本拠地には未だ影響は及ぼされていないとはいえ、街の様子はすぐさまモニターされてた。

プロジェクターで映し出されたその光景は、まるでこの世の終わりを彷彿させる様だった。

 

 

「め、メタルナイトに機兵団を出すように伝えろ! 代わりにここを護らせる! タツマキにも急いでくるようになんとしてでも連絡をつけろっ!!」

 

 

S級を総動員したいところではあるが、S級の上位とは連絡がまだ付かず、この街にもいない事から、急行したとしても時間がかかるだろう。

 

仮に気づけたとしても、この規模の破壊だ。知らせを受け、駆け付けたとしても……それまでの間に街は消滅する。間違いなく。

 

 

 

よって、急ごしらえではあるが、どうにか集められたA、B、C級のヒーローたちに託された。

 

 

「それにしても、もの凄い破壊力ですねぇ……、これは命がけの時間稼ぎになる予感がします」

「………」

「気持ちで負けたらそこで終わりだ!」

「これ以上被害を広げさせちゃいけない、絶対にここで食い止めよう!」

「間に合わせのコンビネーションがどこまで通用するか……、さて」

 

 

【ヒーローの時間だ】

 

 

A級 ブルーファイア、バネヒゲ、三日月フトマユゲ

B級 ダブルホール

C級 無免ライダー

 

 

集まった5人のヒーロー。

彼らの中には逃げると言う選択肢は一切ない。

例え相手が強大だったとしても、例え命が失う事になったとしても、背を向ける様な真似はしない。逃げ傷をその背に受ける様な真似はしない。

いつもいつだって、前のめり。

 

その精神性故もあって、人は彼らをヒーローと呼ぶのかもしれない……が、今回ばかりは相手が悪すぎた。

 

 

災害レベル竜。

 

 

その強さは人知を超える。

5段階に分かれている災害レベルの1つ【竜】とは、上から数えて二番目に危険とされる分類。

ただ、最上位に位置する災害レベル【神】は、現在も尚、存在されていない代物なので、実質最大クラスの災害と呼んでも差し支えない。

 

その威力は凄まじく、まるで枯れ葉の様に吹き飛ばされてゆく。

枯れ葉ゆえに、相手は彼らヒーローに気付きもしない。

 

 

「ぐわあああああ!!! だ、駄目だ!! 全然だめだ!! 強さが異次元過ぎる!!」

 

 

皆で力を合わせ、現場に急行したヒーローたちも例外ではない。

 

 

「クソッ……!! 近づきさえ、出来ないなんて……!!」

「あいつ、俺たちに気付きもせず素通りしていったぞ!」

 

 

有象無象、塵芥とでも思われているのか、意に介する事なく蹂躙をし続ける。

 

 

 

「ワタクシたちでは、止められません……!」

「っていうか、あんなの倒せる奴いるのか!?」

 

 

 

 

 

そして、通信は途絶えた。

再び、ヒーロー協会に激震が走る。

 

 

「現着したヒーロー合計、C,B,A級合わせて31名! 敗北! 撤退しましたッ!! アトミック侍、豚神、金属バット、タンクトップマスターは現場に急行中です!! ただ、豚神は協会の手配した車に入りきらず、徒歩でこちらに向かっていますが、4時間はかかるとの事……ッ!! 電波障害も発生し、他のS級とは連絡が取れません!」

 

 

如何にランクで言えば低い方であり、S級と言うトップヒーローがいない中だったとはいえ、彼らも決して弱いと言う訳ではない筈だ。

だが、それはあくまでも人間の範囲内に過ぎない。

真なる怪物、怪人の前には無に等しかったのかもしれない……。

 

 

 

「まずい、まずいぞ……!! この協会本部が陥落したら………」

 

 

 

人類が――――終わる。

 

 

 

誰もが脳裏に過った最悪の結末だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――ドッドッドッドッ

 

 

 

 

 

 

 

「ほ、ほんとにするの……?」

「あったり前じゃんっ! ほらほら、堂々としててよ! キング、でしょ!? ヒーロー、さいきょー、それがキングの称号、でしょっ!?」

「い、いや、それは君も知ってる筈だよね?? 勝手に回りが騒いだだけで、俺は何にも……」

「だいじょーぶだって! ああもう、サイタマが終わらせちゃうよ、早く早くっ! 今、私があそb……、目指してるのは影の大々ヒーローなんだからっ!」

「ああっ、今遊ぶって言ったでしょ、絶対!!」

 

 

 

 

 

 

 

―――――ドッドッドッドッ

 

 

重低音が場に響き渡る。

これこそがキングエンジンと呼ばれる彼が戦闘態勢である証!

 

無論、それは表向きの話ではあるが。

 

 

未だ物凄い轟音・揺れが続き、町全体が大爆発してるとさえ思える修羅の場に、まるで遊びに行くかの様に闊歩する男の名はヒーロー名 キング。

 

目の錯覚だろうか? あのキングエンジン以外にも、仄かな光に身を包まれいた。

光とキングエンジンを纏い、歩みを止める事はなく、ただただ爆発の震源地へと歩みを続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

あそぶ、と称し、歩いているその街中では所々に悲鳴も木霊している。

世の地獄があるとすれば、ここの事を言うのだろう?

建物に押しつぶされたか、或いは所々で起きている大規模火事に燃やされたか、或いはあの怪人に直接蹂躙されたか……、不幸にも(・・・・)即死する事が出来なかった人間たちは、ただただ痛みと恐怖の中、叫び声を上げ続ける。

 

迫りくる確実な死を前に、ただただ泣き叫ぶ。

 

 

 

「――――ううん、ここ素通りするひとは、ヒーローじゃないっ! よっし、キングっ! 打ち合わせ通りにやってよ?」

「え、えぇぇ……、ほんとに、そんな事するの? と言うか、出来るの……?」

「わったしを、しんじなさーい! さ、さっ、やろっ!? キングっ! ヒーローの登場だよー!」

 

 

まだまだ照れが見られる男……キング。

 

 

 

 

 

【星降ル光ノ空ニ】…………~~~~っっ///」

 

 

 

 

 

 

 

顔が真っ赤になりながらも、キングは片手を空へと掲げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ……、せ、せめて1人でも多くの市民を……」

 

 

地を這ってでも、血反吐を吐いてでも、出来る事を成そうとする。

あの怪人に勝つ事は出来ない、無駄死にする、それが解っていても、か弱く、助けを求める市民がいるのであれば、必ず駆けつける……、と思っていたその時だ。

 

 

上空に光が差したのは。

 

 

「は……?」

 

 

空が、黄金色に染まる。

まるでそれは神でも降臨したのか? と錯覚してしまう程までに、本当の意味で神々しいとはまさにこの事だろうか。

 

 

その慈愛の光? は、周囲の瓦礫の山とかした建物に降り注いだかと思いきや、それらの建物を丸ごと持ち上げてしまった。

 

 

「超能力……? 戦慄の、タツマキ……? っ、い、いや、あれは………」

 

 

その光景は見た事はある。

S級2位の戦慄のタツマキ。

 

超強大な超能力を駆使して戦う現行ヒーロー協会トップ中のトップヒーローと言って良い存在だ。

厳密には1位がいるのだが、そこは割愛する。

 

 

だが、以前見た事がある超能力とはどこか違う、と直ぐに気付いた無免ライダーは指を差した。

 

 

光の中心に立つのは、小柄な女性であるタツマキではない。男だ。

それにタツマキは大体空からやってくるし、実のところ、誰もが空を飛んでいる光景しか見た事がない。

臨時S級会議の様な場ではその限りではないが、A,B、C級は呼ばれる事がなく、そのまま空を飛んで帰って行ってしまうので、ある意味仕方がないともいえる。そもそも、空を飛んでいる、と言う場面が強烈過ぎて、印象に残った、と言うのもあるが。

 

 

 

――――ドッドッドッドッ

 

 

 

 

そして、タツマキではない、と決定づけるモノがこの音。

知っている。知らない訳がない。

 

 

地上最強の男 と称される絶対の男が戦闘態勢に入った時に鳴る音。

この音を聞いて、生きて帰った怪人は誰一人としていないと言われている代物。

 

 

「き、キング……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【スーパーキングモード】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、怪人はおろか、ありとあらゆる障害物、物質をキングの目の前にある事を許さない無敵形態の1つ。

 

話には聞いていたが、初めて目の前にする。

積みあがった瓦礫の山は、直ぐに宙に浮かされ、宙で一瞬で粉微塵にされる。

周囲に影響がないように、細かく、細かく……、肺に吸い込んでしまったら大変な気もするが、光の波動と共に上空高くに吹き飛ばしてしまったので、恐らくこの周囲は大丈夫だろう。

 

後々、雨と一緒に振ってきそうな気もしなくもない……が。

 

 

 

 

「い、いまの……みた?」

「非常識過ぎる、ひ、非常識な相手には非常識をぶつけるしかない、と言う事なのか……?」

「た、単独で向かってる……、本来なら、止めるべき筈なのに……」

「触らない方が良い。今のキングは完全な戦闘態勢だ……、巻き込まれない様に離れるぞ。キングが、キングが瓦礫を消してくれた……、今の内に生存者を……っ」

 

 

重症の身体だが、それでもあのキングが来てくれた事に安心感が芽生え始めるヒーローたち。

動けない身体に鞭をうち、この絶望的な状況の中で打開をしてくれた男の背を見て、己を奮い立たせる。

 

重症かもしれないが、それでもヒーローとして、そう生きていくと決めたヒーローとして、出来る事はある筈だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ……、人助けも大切だけど、やってる間にサイタマが終わらせちゃったよ……」

「えっと、サイタマって?」

「私の仲間! トモダチ! かな? 色々あったけど、今は無敵のすごーーく強いヒーローだよ?」

「………」

 

 

暫く瓦礫処理をしている内に、一際デカい衝撃波が身体を叩いてキングはすっころぶ。

その拍子に、キングに入っていた? 者が外へと出てきていた。

それは、手のひらサイズの大きさで、何処か妖精を彷彿させる容姿で……。

 

 

「じゃあさ? 僕……俺と一緒にいるより、その人と一緒に世を正した方が良いんじゃ……?」

「うーん、それは駄目っ! 今のマイブームはキングと遊ぶ事なのっ! サイタマと一緒だったら、あっと言う間に終わっちゃって、なーんも残らないんだもんっ! ほら、キングが作ってた小説の主人公みたいにさ? 裏のヒーロー! あれがかっくいいんだもんっ!」

「ええええええ!! あ、アレ見たのっっ!?? 見ちゃったのっっ!?? だ、誰にも見せるつもり無かったヤツなのにっ!??」

「なんで驚くのさー。色々作って投稿してるんでしょ? それも大ヒット連発じゃん? ワタシ、好きだよー」

「そ、れはありがとう。いやいやいや、でも匿名だから出来る事であって、素性バレしてる人に知られるのって抵抗があるって」

「いいじゃんいいじゃん! っとと、それじゃキング! 戻るね? また遊ぼうっ! ばいばーーーい!」

「へ?」

 

 

爆発が止んだ。

もう大丈夫……と言っていたが、この場所は修羅の地、死地、非常に危険地帯。

なのに、その中心部まで来て、ここからは1人で帰れ――――ともなれば、より強く、より大きくキングエンジンが鳴り響いても仕方がない。

 

 

 

「さ、最後まで一緒にいてくれよぉぉぉぉ、へぶっっ!??」

 

 

 

慌てて飛んでいった方に向かって追いかけようとして……、足下が疎かになってしまっていた様だ。

本日の怪人、その細切れになったうちの1つであろう肉塊に足を取られて、キングはその血の海へとダイブした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は変わり、ヒーロー協会本部。

 

 

 

「朗報です!! A市の怪人、撃破に成功しました!!」

 

 

最初とは違う意味で、激震が走る。

盛大に騒ぎに騒ぐ。大歓声だ。

 

 

「おおお!! 良かった! やはり我々に敵う怪人などいないのだ! ふははははは!!」

「此度、仕留めたのは誰だ? 相応のポイントを付与せねばなるまい?」

 

 

 

常識では考えられない程の怪物。

過去最悪の怪人襲来、ヒーロー協会本部があるA市壊滅の危機。

 

それを防いだヒーローだ。一体だれか? と尋ねるのは当然の事。

 

そして、前代未聞の戦果を挙げた者の名を聞いて、直ぐに納得できるのも当然だ。

 

 

 

 

「やったのは、今回も《あの男》ですよ。……あんな脅威が我々の味方でいてくれるのが頼もしい限りです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今はまだヤバい場所。

一刻でも早く安全な場所へといきたくてたまらない男。

 

 

盛大にエンジンを鳴らせながら歩き続ける。

怪人の血だまりの上に頭からダイブしてしまったのだ。直ぐにシャワーも浴びたい。

返り血の様に滴り落ちてくる血がキモチワルイ。

 

 

この場所に来るまで結構歩いたし、走ったし、疲れてる。だから、決して早くはないが、それでも一歩一歩と大地を踏みしめる様に離れて行く。

 

 

「え、エンジンが鳴り響いてるって事は、あの先にまだ怪人が……?」

「今、一瞬でしたが、キングと目があいました。恐らく【次の怪人の元へと向かうから、ここは任せる】と言う意思表示かと思われます」

「あんなバケモノ倒した後直ぐに次に、か……、とんでもなさすぎるだろ……」

 

 

 

歩いていく大きな大きな背。

 

 

人類最強、その4文字に偽りなし。

 

 

S級ヒーロー キングここに有り!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそったれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「まーた騒いでる。早く倒すのが嫌ならさ? サイタマは加減、ってのを覚えた方が良いんじゃない? 怪人に加減がいるかどうかは置いといて」

「ぇぇぇぇぇぇぇ!! ……って、お? ヒカリじゃん。めっちゃ久しぶりだな! ………いや、ちょっと待て。毎度毎度、なんでお前は人の恥ずかしい場面に姿見せるんだよ。狙ってんのかよ」

「えっへっへっへ。欲求不満なら、私の事また殴ってみる? あ、でも思いっきりは駄目だよ? 宇宙からここに戻ってくるの大変だったんだからさ!」

「いや、だから! 望んでるみたいな言い方すんな! お前が自分を確認したいから、ちょっと殴ってみて? ってお願いしてきたんだろ? ……高級焼肉セットと引き換えに」

「だって、モノで釣らないと、サイタマやってくれないんだもん」

「見た目、女なお前を簡単に殴れるか。怪人でもあるまいし」

 

 

 

そして、世界はまだ知らない。

ここに無名にして無双、無類のヒーローがいる事を……。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

めておすとらいく!?

 

 

ある日、キングはヒーロー協会に呼び出されていた。

その場所へとやって来てみると、顔見知りが1人、たった1人だけだった。

 

 

 

 

「バング氏!」

「なるほどのぉ……、やはりキミも呼び出されたか。じゃが、呼び出した連中はみ~~んな避難しちまって、この通り、この支部(ココ)はカラッポじゃよ」

「え? それはなんでまた……。俺もなんの詳細も連絡されず、ただ集まれって言われたから来ただけで」

 

 

 

 

 

―――ドッドッドッドッ………。

 

 

 

 

 

確かに人通りも少なく、交通の便も問題なし。いつも沢山集まってくるファンもいなくて楽だったと言えばそうだが、ここまでくれば不自然。だから、今日初めて出会ったバンク氏……シルバーファングの姿を見つけて少々安心した自分もいたのだが、キングは、それは誤りだった、と言う事に気付くのに時間は掛からなかった。

 

 

「おう。もう1人やってきたようじゃぞ」

「え?」

 

 

支部の入り口が開き、新たな来訪者がいる。

それは見覚えのある姿だ。実は交流も少なからずある。共通の友人がいるから。

 

……友人と言うか恩人と言うか、巻き込まれ型と言うか、兎も角いつもいつも遊ばれ、命を助けていただけ、本当に強いのだが、時折ヤバい場面に遭遇する事も多々あるので、全く安堵は出来ない妖精少女ヒカリと彼女のトモダチでもあり、彼女曰くこの世の最強ヒーロー、ワンパンチ事、ハゲマント・サイタマ。

 

彼は、ハゲマント・サイタマの弟子を名乗るサイボーグ。

 

 

「ジェノス氏!?」

「! キングか。それに……」

「ほぅ、君がジェノス君か。わしはバングと言う者じゃ。よろしこ」

「……………」

 

 

サイボーグジェノス。ヒーロー名 鬼サイボーグ

彼は絶対的な強者であるサイタマを前にして、大抵の相手は有象無象だ、と思う節はあるが、それでも自分自身が強い訳じゃない。

サイタマの弟子を名乗っているが、それでもその師の強さを借りるだけでヨシとする訳もない。

 

だからこそ、強者に関してはちゃんとデータにいれている。

特に所属する事になったヒーロー協会については、データの更新は常々心がけている。

 

 

「(バング。S級3位のヒーロー。実力差、その云々はさておき、序列で言えばキングよりも遥か上。S級5位圏内。………本物の実力者か)」

 

 

バングの強さは、ヒシヒシと伝わってくる。

身体の殆どをサイボーグに改造を施しているが、それでもしっかりと感じる事は出来た。

 

 

「キングにバング。協会から呼び出されたと思えば、ここには誰もいないこの状況。一体どうなっている?」

「そ、それは俺も聞きたい。どういう事なんだ? バング氏」

「…………」

 

 

2人の問いに対し、バングのその老齢を感じさせない圧倒的な強者感漂う顔が陰る。

だがダンマリ、と言う訳にはいかない。少しだけ間をおいて、答えた。

 

 

「……来てない奴らは、場所が遠かったり、他の事で忙しいんじゃろ。面倒くさがって、来ない薄情者もおるがのう。なんにせよ、呼び出されるときは大体無理難題。厄介事の処理が常じゃからな。――――が、今回は輪にかけて悪い」

 

 

バングはそういうと、キングの方を見た。

 

 

「数多の怪人を屠り、血祭に上げ、人界、怪物界にその名を知らぬ程のキングがいたとしても、今回に限っては相手が悪すぎる」

「は、はぁ……(えぇ……、ちょっと待ってちょっと待って、今いない! 彼女いないっ!!)」

「災害レベルで言えば竜。そのレベルの怪人も屠った事があるじゃろうが、相手は怪人じゃない。―――35分後、ここZ市に巨大隕石が落下する。近場のS級ヒーローたちでどうにかしてくれ、といっとった。落ちれば間違いなくZ市は滅ぶ。……或いはそれ以上か。それをヒーローが食い止める事が出来たなら、ヒーロー協会の地位がハネ上がる事間違いなしじゃろう。寄付金も当然増える」

 

 

あまりにも現実離れし過ぎた話に目を丸くするキング。

そう、彼の伝説はヤバい。人間は寄ってくるが、怪人は離れて行く。たまに、命知らず(笑)な怪人が挑んでくる事も無い事は無かったが、運が良かったり、たまたま居合わせたヒカリによって即座に打ち滅ぼされた為、負けなし無敗、人類最強とまで呼ばれている。

悪い気はしないし、胡坐をかきたい気分になる事もあるが、それ以上にヒカリがいない状態が怖すぎるので、欲走る様な事は絶対にしないと誓っている。

 

ヒカリが遊びたい! と言って怪人(災害)に巻き込まれる、飛び込んでいく事は多々ある時は寿命が縮む思いだが、自分一人、身1人の状態の恐怖を、絶対的恐怖を知っているから。

だから、調子には乗れないし、乗るつもりもない。

 

 

 

でも、今回ばかりはヤバい。隕石、無機物だ。キングの威光が通じる様な相手じゃない。

ただただ、地球の引力に導かれて落ちてくるだけなのだから。

 

 

 

「キングがこの場におって、連中は喜んでおったが、いち早く避難する事はやめなんだ。安全圏内で悠々自適に、この災害を防ぐ場面を待ち望んでいるようじゃが……正直不可能以外に言葉が思い浮かばん。人間が太刀打ちできる相手とも思えんしな」

 

 

バングの顔には死相は見えない。

彼自身は生き残る事は余裕で出来る、と言った感じだが、ヒーローを名乗っているのだ。ヒーローとはだれかを助ける。弱き民を助けるのが仕事だ。正義の権化。

なのにも関わらず、街やその住人を守れず、ヒーローとは呼べないだろう。だからこそ、その顔は暗い。

 

 

「今回ばかりはどうにもならん。キングにも言う所じゃったが、1人でも多くを救う事を目指す方が現実的じゃ。大切な人と、遠くに避難、とかのぉ」

「ちょっと待て。隕石だが、市民は知っているのか?」

「30分前までに落下予測ポイントを絞って避難警報を出すと言っておった。まぁ、つまり、たった今報道開始、と言う事じゃよ。……これが何を意味するか解るか?」

 

 

解る。

と言うか、解らない方がおかしい。

 

人通りは確かにいつも以上に少なかった。それとなく外出制限の様なモノを、警報していたのだろう。詳細は語らずに。

 

だが、ここへきて突然隕石襲来メテオストライク!! なんて報道をしたらどうなるか?

 

火を見るよりも明らか。

 

 

「ほほっ、パニックが起こるぞ」

「~~~~~ッッ!(なんで笑ってるんだよバング氏!!)」

 

 

ここで取り乱しては、キングの名もヤバくなる。

まぁ、今はそれどころじゃない状況ではあるが、情けない姿を晒して、余計な事態を生むのは避けなければならない。

最強だ、と言われているからこそ、そのネームバリューが障壁となって、誰も寄せ付けない様になっているのだ。強さにムラあり、なんて事が広まったら……と考えたら、考えただけでも背筋が凍る。

 

今の隕石騒動も大変な事態だが……、それ以上にそっちの方がヤバい。

 

 

 

 

 

 

――――ドッドッドッドッ!!

 

「(ヒカリ氏~~~~~~!! サイタマ氏~~~~~~!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

あの気まぐれで娯楽主義で、愛らしくもあり可愛くもある妖精少女と、その少女が最強と認め、且つこれまでの怪人騒動でも幾度も自分の代わりに倒してくれちゃってた(特にヒカリと出会う前)自分の中でも絶対のヒーロー、サイタマの名を心の中でキングは叫んだ!

 

それが伝わる~~~なんて機能は搭載していないが……、彼女たちなら何とかしてくれるとは思う。

と言うか、何とかしてくれなかったら、自分が死ぬだけだ。

 

 

「(ほお……、この状況、ここへきて更にキングエンジンが増しおった。それに時折見せるこの痙攣にも似た震え。……殺気の塊か。それでいて外へは一切出しとらん。無駄な気配を断ち、その気を身の内に集中させておる、か………爆発させるその時の為に)」

「(キング。……サイタマ先生は別格として、この場においては間違いなく最強戦力。この男がいれば隕石をも粉砕しそうな気はするが、何もせず、それでは弟子の名が廃る)」

 

 

 

キングの様子を見て、ま~~~~ったく的外れな感想を抱く2名。

これもまた、相手が違うだけで日常茶飯事なのである。

 

 

 

 

 

 

 

――ウゥゥゥゥゥゥゥゥ――

 

 

暫くすると、街から警報が鳴り響いた。

どうやら、バングが言った通り絶妙なタイミングで協会から避難警報が出された様だ。

 

 

静まり返っていた街が突然飛び起きた様に大パニック。

 

 

 

「キング。本当に行くつもりか?」

「………(ヒカリ氏~~~! サイタマ氏~~~!! どう頑張ったって、俺じゃそっちに行くのに1時間は掛かっちゃうよぉぉぉ!!)」

「……言う間でもない、と言う事か」

 

 

 

大パニックなキングは、キング・エンジンだけは今日も元気に健在。

バングの問いに対してエンジンで返してきた所を見て、納得した様子。

 

 

「キングは解った。では、お前はどうするんだ?」

「お前じゃない。バングさんと呼ばんか」

 

 

ジェノスにもそのエンジンは当然聞こえており、臨戦態勢を取っている、その力を極限まで身に圧縮しているのを察知して、キングは大丈夫だ、とバングの方を見た。

 

バングは腰を一度、二度叩きながら背を向ける。

 

 

「今回ばかりはキングでも難しい、と言うのがわしの判断。じゃが、代々引き継いできた道場を離れる訳にはいかんのも事実。……ここに残るしかないのお」

「そうか。(……サイタマ先生の一の弟子として、キングに後れを取る訳にはいかない。……キングよりも先に、そして防いで見せる)」

 

 

そう言うと、ジェノスの方を振り向いて、構えて見せた。

バングの代名詞であり、格闘技界においてもトップレベルに位置する武術の型を披露。

 

 

 

 

 

「流水岩砕拳。――――知ってる?」

 

 

 

 

 

決まった! とポーズを取ったのだが、そこにはジェノスはおらず。

 

 

 

「……………行ったか。これが若さ、かのぉ。……のぉ、キングよ」

「ファッ!?」

「そういきり立つな。まだ衝突まで時間はある。………力を溜めておくには十分過ぎる時間が、の」

 

 

キングの肩をぽんっ、と叩いて見せるバング。

臨戦態勢のキングに触れる事にリスクがある事は当然だが、バングは自分自身の武術に自信があり、キングの一撃を受けてみたい……と言う気持ちもあり。

 

だが、根幹はキングの力は怪人、即ち悪にのみ発生し、消滅させる力だから、問題ないと判断していた。

 

 

ただただ、キングはこの場に取り残され、未だ来る様子が見えないヒカリの姿を瞼に焼き付きつつ――――天井を見上げた。

バングからすれば、見えないが隕石を見据えている……ようにも見えるかもしれないが、ただただこの命が後数十分後にどうなっているのか……、それだけをキングは考え続ける。

 

 

何せ、今から逃げた所で自分の足じゃ100%逃げれないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緊急避難警報。

それが街に鳴り響いている。

災害レベルも竜である、と。

かつてないレベルの警報に、逃げ惑う市民。

 

 

ここへきて、何一つ隠す事なくヒーロー協会は警報、警告する。

この巨大隕石によって、Z市は間違いなく丸ごと壊滅すると。消滅し、蒸発し、地図を書き換えなければならない、と。

 

 

だが、あまりに突然過ぎた………。

猶予が無さすぎた。

 

 

我先に、と人を押し退け、女だろうが子供だろうが年寄りだろうが、自分を優先して前へ前へと進み続けたが、ある時示し合わせたかの様に歩を止めた。

 

 

 

「――――でけぇ………」

 

 

 

その隕石を視認したからだ。

あの大きさなら、何処へ逃げても同じだと。

そして、自然に涙が流れた。

 

 

 

 

―――死ぬ前に、彼女欲しかったなぁ…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

諦めの境地に至った市民たちを上から見ているのはジェノスだ。

 

兎に角街を駆け巡る。

落下ポイントを正確に測り、最適な位置、マーキングしたビルの屋上へと急ぐ。

 

 

「(流石に今回は生存をあきらめてる者も多いな。……だが解せない。何故協会はキングがいる事実を伝えない? ………つまり、そういう事か(・・・・・・))」

 

 

キングがこの街に居る。

それを知れば、安心する者も当然出てくるだろう。

パニックの際に起こる二次被害を防ぐ事だって出来る筈なのに、それをしないヒーロー協会に疑問を覚えた……が、最後の最後に発表し、寄付金をより多く募る事が目的だろう、と。ギリギリまで発表を遅らせたのもそこに在るのだ。ならばキングの名もここ一番で使おうと言うのだろう。

 

正直、守銭奴、ゲスな臭いがするのも事実だが、ジェノスがする事も変わりない。

 

 

 

「キングよりも先に、止めて見せる―――この街には先生も住んでいるんだ。逃げる訳にはいかない」

 

 

 

ジェノスはとっておきの強化パーツ、その試作品を取り出し、装着させた。火力特化の兵器、出力がこれまでの倍近く上がっている兵器。

その反動が未知数で最悪自爆する可能性も見えてるので、慎重に使う事を考えていたが、四の五の言っている暇はない。

 

 

 

「(俺の焼却砲フルパワーでなんとか迎撃して見せる! ………出来なければ、後は託すしかないが、それでも先生の顔に泥を塗る真似はできん)」

 

 

腕にエネルギーを集中させて、砲撃準備を整えようとしたその時だ。

空気を切り裂く轟音と共に、巨大な何かが超スピードで横切って行った。

 

 

「! あれは―――!!」

 

 

 

自分より早く、そして大きく、強い。

それを、先ほどのバングやキングとはまた違った意味で感じさせる相手がそこにいた。

 

 

一足早くに、落下地点へとおり、砲撃を構えるサイボーグの姿。

 

 

 

「お前は……、ボフォイだな!?」

 

 

ジェノスも見知った姿だ。

それは当然、市政も知っている。

何せ、このボフォイと呼ばれたサイボーグもS級ヒーロー7位。高火力の兵器で敵を周囲の建物ごと粉砕するヒーローなのだ。

駆けつけたヒーローの内の1人か。

 

 

「オ前ハ、新人ノジェノスカ。隕石ヲ止メニ来タノカ?」

「ああ。そうだ。……キングも来ている。ゆっくりはしてられん状況だ。……まぁ、好都合。隕石(向こう)もゆっくりしていない様だがな」

「何。キングモ、カ。コレハ俺モ急ガネバナルマイ」

 

 

キングの名は当然知っている。

その計り知れない実力、数値で表す事が出来ない強大さを知っている。だからこそ早々に済ませなければならない、と判断。

無論、それはジェノスも同じだ。

 

 

「俺が先に止めるぞ」

「結果ガドウナロウト構ワナイ。俺ハ新兵器ノ性能ヲ、試ス。ソノ実験ニ来タダケダ。隕石(アレ)ハ都合ガ良イカラナ」

「実験だと? 動機があまりにも不純な気がするな。まぁ、俺も他人の事をどうこう言えた性質ではないが。だが、実験にかこつけて、止めれなかった時はどうするつもりだったんだ? 隕石が落ちればお前も死ぬだろ?」

「俺ハ死ナン」

「何?」

 

 

実験の果てに、死ぬ気か? とジェノスが聞き返す。無論、ジェノスとて死ぬつもりは無いが、それくらいの気概と覚悟を持って臨むつもりだ。

キングがいるから、と言う後ろ向きで他人任せ、凡そヒーローとは呼べない精神性で、サイタマの弟子を名乗る事なんて出来ない。

だが、この目の前の男はそういった類の気概ではないと思えた。

 

その理由は直ぐに判明する。

 

 

「今オ前ガ話シカケテイルノハ、遠隔操作サレテイルロボットダ」

 

 

 

 

 

 

そう―――、ここに厳密には彼は居ないのだ。

 

 

 

『残念だが、俺は命をかけてる訳じゃない。隕石で死ぬのはごめんだ。……それはキングがいようがいまいが、変わらん事』

 

 

 

素性は明かさない、下手な隙は見せない。それが彼、ボフォイ。

 

 

「アア、ソレト俺ヲ呼ブ時ハ、ボフォイデハナク、【メタルナイト】ト呼ベ。ヒーローハ 本名ジャナク、ヒーロー名デ呼ベ。ソレガ常識ダ―――ット、ソロソロ話シテル場合ジャナクナッテキタナ」

 

 

大気が震える。

地面が唸っている。稲光も見え始めた。

絶対的な破壊の力が今目の前に迫っているのが感じられる。

 

 

それを迎え撃つは地上のロボット。

 

 

 

「ミサイル、発射」

 

 

 

メタルナイトに装備された対空ミサイルの一斉掃射が始まった。数発のミサイルが一斉に、ロケットの様に空高くに飛翔び、向かっていく。

 

凡そ一個人、単機で備わっているとは思えない程の物量。

そして――――威力。

 

 

着弾したのだろう、空で大爆発が起こった。

あまりの振動、そして爆発時の発光と発熱が街を、大地を揺らす。

 

 

「(実験、その価値がある、と言うだけの事はある様だ。これだけの破壊兵器を使うとは………。だが)」

 

 

あまりの破壊力、そして明らかに人を殺傷し、建物を破壊するだけに特化した無感情の兵器。ジェノスは同じサイボーグではあるが、人間性は捨てていないからか、相容れないナニカをそこに感じた。

 

 

「―――警戒しておく必要があるな。……メタルナイト(アイツ)は危険だ」

 

 

隕石の事より、大量破壊兵器を一斉掃射したメタルナイトに危機感を覚え始めていたジェノスだったが、直ぐに横っ面を殴られる感覚に見舞われる。

目標だった隕石だが、その弾幕、空を黒く染め上げた黒煙を貫いて迫ってきたのだから。

 

 

「「!??」」

 

 

確かな手ごたえ、そして隕石の破片を見たが、全く威力が衰えていない。それどころか、傍に近づきすぎた分、威力が増している様にも見える。

 

 

「ダメカ、コノ程度ノ威力デハ。……フム。傍観ニ回ルトシヨウ」

 

 

メタルナイトはそういうと、活動を止めた。全く動かず……いや、目の部分が開き、その中から目玉の様な代物が、ぎょろりと周囲を見渡す様に動き始める。

 

 

「ッ、今はそれどころではない! あれほどの兵器が通用せん以上、厳しいが――――衝突まで、推定後33秒!」

 

 

止める気満々だった。

だが、うぬぼれていた自分がいるのに気付く。

キングや、自身の師匠サイタマの存在が、それに拍車をかけてしまっていた。

まだまだ、自分は未熟そのもの。災害レベル竜に太刀打ちできるわけがない。

 

初めてサイタマとあったあの時―――後々調べて解った事だが、あの蚊の怪人。完膚なきまでに叩き壊された相手の推定災害レベルは【鬼】。竜には遠く及ばない相手に完敗してしまったのだから。

 

 

「……だが、だからと言って背を向ける訳にはいかん」

 

 

フルパワーで焼却砲を放つ。

そのエネルギーのチャージに掛かる時間は5秒。

 

 

だが、それで良いのか? 最善の手なのか? とここでジェノスの中に迷いが生まれた。

 

 

メタルナイトのあの破壊兵器でさえ効果が薄かったにも関わらず、この程度の兵器で一矢報いる事が出来るのか? と。

標的との距離はもう後ほんの僅か。迷っている時間がないのも解る。だが、街を、ヒトを護ってこそのヒーロー。その精神は師匠サイタマから学んだ筈だ。

強さで師に追いつきたい。ならば、その精神性をも学び、追いつかねばならない。

 

 

何が正解か――――それを導き出そうとしたその時だ。

 

 

「まぁ落ち着け。心に乱れが視えるぞい」

 

 

いつの間にか、背後にバングがやってきていた。

全力ブースターで、この場へと駆けつけた。生身では到底追いつけるものではない、と思っていたのだが、この老人は息1つ乱す事なくやってきていた。

 

 

「失敗を考えるには、おぬしはまだまだ若い。……適当でええんじゃよ。土壇場だからこそ、な。結果は変わらんかもしれん。じゃが、それがベスト。自然体。土壇場の今、突然何かに目覚めたかの様に自分の出来る以上の力なぞ出せやせん。自然に、適当に、そして全力を出し―――――後は任せたらええんじゃ」

 

 

 

 

 

――――ドッドッドッドッドッドッ

 

 

 

 

そして、響いてくる圧倒的な強者の音。

ジェノスは―――決めた。

 

 

出来うる全てを出し尽くす、と。それこそがベストであり、自然体であり、適当なのだと。

 

 

 

 

 

 

 

「(ヒカリ氏~~~~!! ほ、ほんとーにだいじょーぶなの~~~~!??)」

「(だいびょびだいじょび! ほらほら、堂々としてて! さっき、ケータイで連絡来たけど、サイタマも来るみたいだし?)」

 

 

 

 

 

 

災害レベル竜。

竜退治の始まりだ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

めておでぃさぴあー!?

 

 

 

強さを求めてきた。

圧倒的な強さを。

 

 

そして、今現在……その強さを、強さの頂きの1つを目の当たりにしている。

 

 

巨大すぎる力持つ人を師として崇め、そしてその師が認める強者に対してはジェノスは尊敬の念を持っている。

以前までの自分では考えられない事だった。

 

 

 

―――背中を護ってくれる大きな存在とは、こうも自分の心を整えてくれるものなのか。

 

 

 

ジェノスは、あれだけ葛藤していた思考が、まるで時が止まったかの様に静かになっているのを感じた。

バングの言葉だけでなく、あの怪人にとって死を意味するキング・エンジン、人類最強クラス、キングの存在も大きいだろう。

 

そして、無論この場にはいない自分の師―――サイタマの存在も。

 

 

ジェノスは、己の衣服を破き捨てた。胸のパーツを外し、胸部内、人間で言う心臓部にある拳大の光る球体を取り出す。

 

 

「キング。まだ、手を出さずに見ていてくれ。それとバング。伏せていろ!」

 

 

失敗、二次的な被害。そんなの考える余裕がどこにあるというのだ?

キングが居る時点で、確定している未来だと言える。

キングやサイタマがこの星に居る限り、何人たりとも敵わない。

 

だが、だからと言ってその背に全てを任せて、後ろからただ見ているだけでいられるか?

 

 

答えは否!

 

 

 

「この一撃に、オレの今の全てを—————捧げる!!」

 

 

 

 

胸部のコア。

己の全てのエネルギー、その根幹を使った超螺旋焼却砲。

 

 

眩い光線の様に天へと放たれ———そして落下してくる巨大隕石と相対する。

 

 

 

 

 

 

ドウッ!!

 

 

 

 

 

 

隕石と衝突した瞬間感じるのは、圧倒的な質量、そして圧倒的な破壊力。

 

 

「ぐああああああああああ!!!」

 

 

ジェノスの焼却砲は、その身体と繋がっている為、威力を分散させる事が出来ずその衝撃を受け続けた。

 

それでもジェノスは地に伏す事はない。

 

 

「ぐ、ぐぐぐ………、こ、このくらい破壊出来なくて——————」

 

 

サイボーグの身体、その各部位がショートし、煙が上がるのも構わず、ジェノスは立ち続ける。そして、自分には似合わない【気合】と言う精神力で吼えた。

 

 

「先生の弟子が務まるものか!!!」

 

 

巨大隕石を中心に、波状に広がる衝撃波。

大気を震わせ、人間の目で確認出来る程に広がっている。

 

だが、隕石は落下を続けていた。

 

 

 

「おお! こりゃ、隕石が勢いを落としている様にも見えるぞ!」

「本当か!??」

 

 

ジェノスの渾身の一撃。

それが災害レベル【竜】にも届き得る、背が見えない師、そして人類最強の背に少しでも近づけたか!? と声色に活気が見れるジェノスだった……が。

 

 

「あ、すまん。気のせいじゃった!」

「このくそジジィめ!!」

 

 

上げて堕とす、とはまさにこの事。

精神的にも、中々落としてくれた最悪の言葉。

抜けた力を再び再充填して、天へと砲撃をするのだが—————。

 

 

 

「ぐ————ぁ………つ」

 

 

 

腕の接続させたコアの輝きがまるで花火が消えた時の様に切なく———軈て完全に消失した。

 

 

「……情けない事極まれり、だ。済まないキング……残り9秒。オレでは到底、敵わなかった。……不甲斐ない」

 

 

そんなジェノスの背に、手をかけるのが我らが人類最強・キング。

黙して語らず、ただただ ドッドッドッドッ————と、キングエンジンだけが場を支配し、鳴り続ける。

 

それでも、そこには安堵感が確かにあった。

この感覚は、恐らくはサイタマとキング以外には有りえない。

 

 

「さて、こっからがオレの出番だな」

「! だ、誰じゃねキミは!?」

「オレはヒーローをやってる者だ」

 

 

そんな時だ。

キングやバングの更に後ろから声が聞こえてくる。

この隕石衝突まで10秒切った後の無い状況で、新たな来訪者が現れる等、如何に武術を極めたと言って良い人類最高峰の武術家であるバングも想定外だったようで驚きを隠せれない。

 

 

「―――――サイタマ氏」

 

 

そして、キングは………死んだ魚の様な目をサイタマに向けた。

精神は、この圧倒的な死地を前に死んでしまっている。それでも立ち続けるのは、光が共にあるからだけだろう。

 

 

「勝負だ。サイタマ~~~………氏! どっちが先に、隕石(アレ)やっつけれるか!」

「お前と獲物の取り合いするなんざ、久しぶりだな」

「そりゃ、到着したら大体一発でぶっ飛ばしてるんだし。よーいドンっ! でやる事なんて殆ど無いんだし、仕方ないじゃん? それに忘れっぽい所もあるしね~」

 

「……キング? おぬし口調が………」

「……いや、何でもない。バング氏も離れて見ていてくれ。ああ、ジェノス氏を頼む」

 

 

膝をつき、もう身体を動かすエネルギーの欠片も無いジェノスをバングに託すキング。

 

 

「(ヒカリ氏~~~!! ほんとに大丈夫なのっっ!??)」

「(だいっじょ~~ぶ! サイタマ来ちゃったし? ほらほら台詞! 台詞頼むよキングっ! かっくぃぃヤツ!)」

 

 

キングの声色も完璧に再現できるヒカリ。

でも、その声色とキングの容姿からは、少々ギャップがあるので、時折違和感を感じるのだが、その辺りはキング自身がフォローをするから大丈夫だ。

自身が作成した短編アニメの声を当てた事もあるから、声優業だってお茶の子さいさい。

 

それが自分自身の声で、強者を演じるだけ……なら何ら問題ない。

 

 

ただ、問題なのは、いつもいつも地獄の様な場所がロケ地だという事。

無数の怪人の次は、天災の場。

 

 

こればかりは、キング自身が慣れる事は無い。

 

 

 

それに意図的になれない様にしている———と言うのもあったりする。

 

 

ヒカリの力を自分の力だと錯覚したり、過信したりしたらどうなるか。

よくある作品の強い力、それも他人の力を持ったモブキャラの末路。それを当てはめて考えてみれば………手痛いしっぺ返しを受けるのが目に見えているから。

 

 

「じゃあ、爺さん。オレからも頼むわ。ジェノスと一緒に避難しててくれ」

 

 

そう言うと、まるで垂直跳び? の直前の動作の様に深く膝を曲げて力を溜める。

 

 

「(あっ、フライング! キングっ、こっちも負けてられないよぉぉ!)」

「(わ、解った、わかったからっ!!)」

 

 

そして、キングも同様に準備に入る。

全身が光に包まれ———軈て、光は腕に集中。

 

 

 

ドンッ!!

 

 

 

その時、サイタマを中心に爆発が起きたのか? と思う様な衝撃が湧き起こった。

ビル全体に亀裂が入り、その地盤も砕かん勢いだ。

 

 

そして、驚くべき事に、その衝撃はまるでキングには届かないとでも言うのか、彼を中心に2~3m程の周辺は全くの無傷。

故に、バングもジェノスも吹き飛ばされたりしなかったのだ。

 

その中心部にて、死んだ魚の様な目をしていたキングの顔が赤く、燃える様に赤く染まっている。

力を溜めた弊害だというのだろうか? 光が集中する腕部よりも気になる点になってしまいそうだ。キングエンジンの高まりが更に上がったのも気になる。

 

 

「(ほらほら! キング! サイタマが壊しちゃうっっ!!)」

「―――――【轟キ渡ル破壊ノ光】」

 

 

怒りの本流、赤き王の右拳から迸る膨大な光。

それは、先ほどの全身全霊を以て放ったジェノスの一撃が霞んで見えなくなる程の差、果てしなく、どれ程離れているか解らない程の絶対的な差を感じた。

 

巨大な光の拳は、そのまま先に空を跳んだサイタマ目掛けて迸り———。

 

 

 

 

「オレの町に—————」

 

 

 

 

軈て、光はサイタマに追いつき————。

 

 

 

「落ちてくんじゃねえ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、隕石は消失した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイタマの拳が巨大隕石を貫いたのと同時に、光の奔流に包まれた隕石は、一瞬の内に粉微塵へと姿を変えたのだった。

 

 

 

「……信じられん。空が、空が晴れおった………」

「流石は、先生……、それにキング」

 

 

 

巨大隕石の接近により、空が朱に染まり、地獄の前触れの様な景色を形成していたというのに、それは全て一掃されて目が痛くなる程の蒼い空となっていた。

 

長年生きてきて、これほどまでの光景は見た事が無い、と暫くシルバーバングは唖然と空を見上げ、ジェノスは目指すべき頂きを……まだ、全く見えない状況ではあるが、いつの日か、その頂きに到達すると固く心に誓うのだった。

 

 

 

「う~~ん……ほぼ同時?」

「お前が後ろから来てたの解ったし、オレの方が一瞬早かったと思うぞ? つまりオレの勝ち。約束通り、高級焼肉セットな」

「ええぇ~~。でもサイタマ、隕石にパンチする事ばっかり考え過ぎてて、砕いた後の事考えてなかったでしょー! 私はちゃ~~んと、皆の事守ろうって考えてた分、ヒーロー度合いは私の勝ちっ!」

 

 

 

放心状態なキングは、そんな陽気なやり取りを聞いたとか聞かなかったとか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3日後———。

 

 

「いや! やっぱり納得いかないよサイタマ氏!!!」

「んだよ、キング。ゲームならまだ終わってねぇぞ! まだ、お前と対戦する訳にはいかないんだ! おっさんファイターズのレベルをMAXに上げるまでは!」

「あ、そのキャラレベルMAXでも勝てないよ? だって最弱キャラだから」

「ええええ!! うわっ、一気にヤル気なくした……。オレのこの5時間のレベル上げは何だったんだ……」

 

 

サイタマ宅にて。

ニュースを寝転んでみつつ、視線は携帯ゲームでピコピコやっていたサイタマ。

キングは慌ててサイタマ宅へとやってきて、色々と訴えようとしたのだが……ゲームの話になっちゃって、完全に出鼻くじかれた様子。

本人はゲーム談だったら、他の事そっちのけで、かなり熱くなるから仕方ないと言えるかもしれないが。

 

 

 

「そんな慌ててどうしたんだキング」

 

 

そこに、家事全般を行ってるジェノスが変わりに来訪の理由を聞いた。

ジェノスに聞かれたからか、キングは、ハッ! として。

 

 

「そうだった! なんであの隕石騒動、全部オレの手柄みたいになっちゃってるの!? って話だよ、サイタマ氏!! サイタマ氏だって、ヒカ————……っ、お、オレと同じ、それ以上、先に隕石砕いたのはサイタマ氏なんだから、良くて半々でしょ!?」

「なんだ、そんな事か。別に良いじゃん。気にすんなよ。オレ全然気にしてねーし。ヒカリ、アイツだってそう言ってただろ?」

「ぅ……」

 

 

これが頂上に住む、超常の力を持つ男たちの会話か……と、ジェノスは何やらノートとペンを取り出して、一言一句聞き漏らすまい、としている。

 

 

「ジェノス氏もそう思うでしょ?? 一緒に協会に抗議しようよ!」

「いや、オレも思う所が無い訳ではないが、先生がそれを望む以上、弟子であるオレがこれ以上でしゃばる訳にはいかない、と判断している。そして、キングのその謙虚な姿勢には尊敬の念を覚える」

「ぅぅ……(ジェ、ジェノス氏もメッチャ勘違いしてる………。ヒカリ氏~~……)」

 

 

キングの力の正体をしるサイタマ以外のキングの株は更に爆上がり。

サイタマ自身も、キングにはかなり世話に(主にゲーム関係)なってるから、ある意味では信頼されているので拍手喝采大称賛、である。

 

 

「それより、オレらのランキング順位って上がってんだろ? キングはどーだったんだ?」

「……全力で拒否したよ。これ以上、あがりたくない」

「あ———そう。ジェノスは?」

 

 

キングはまた、死んだ魚の様な目で答えた。

サイタマはとりあえず頷いて、次にジェノスを見て聞いた。

 

 

「オレはS級17位から16位に。メタルナイトは8位から7位に。確かにキングは6位と不動でした」

 

 

隕石事件で絡んだヒーローで目立った行動をした者達は全員上がっている、と思っていたジェノスだが、キングだけは全く変動せず、不自然に感じていたが、キング程の力の持ち主であれば、本人の意思が優先されても不思議じゃないだろう、と理解した。

 

 

「そして、サイタマ先生はC級342位から5位に一気に上がってます」

「――――――は!? いやいやいや、待て待て。そりゃ、上がり過ぎじゃね!? 343位から5位っておかしくないか!?」

「いえ。寧ろ一気にA級かS級に昇格してもおかしくないレベルですよ。キングが辞退した分の繰り上がりが先生に行ってもおかしくありません。何せ、災害レベル竜の危機的状況でしたから」

「え………」

「オレの推察の域をでませんが、ヒーロー協会はおそらく今回の件はキングの役割が最も大きく、その評価のみを取っているのだと。メタルナイトとオレが上がってるのも、恐らくキングが辞退したが故の帳尻合わせ、と推察します」

 

 

サイタマはジェノスの言葉を殆ど右から左へと受け流す姿勢———だったが、1つだけ気になる部分が有ったので、そこだけを聞く事にした。

 

 

「………そういえば、いつも災害レベル~だとか、鬼が出た虎が出た、とか報道してるけど、あれ意味あんのか?」

 

 

災害レベル一覧。

 

それはサイタマはいつも気にした事が無い。付け加えるなら、キング————……ヒカリも全く気にした事無いし、図れるモノでもない。

 

 

5段階あるレベル。

 

狼<虎<鬼<竜<神

 

竜はいくつもの町が壊滅する危機、だ。

 

 

 

「あります。通常、ヒーローは恐らくC~Sと力量に応じて、出動するか否かの判断をそのレベルに合わせているのだと思いましたが、先生やキングには全く関係の無い話の様ですね」

「…………………」

 

 

 

関係ない話な訳無い!!

 

 

と、キングは大きな声で言いたかったが、そのまま沈黙を貫くのだった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

襲来‼ かいちんぞく!?

気付けば、めっちゃ評価されとる―――――――(・.・;)


なので、ちょっと頑張ろう! と思う今日この頃でありますm(__)m


 

 

 

「うわぁぁぁぁぁ―――――!!」

 

 

 

 

 

とあるマンションの一室に、少女であろう声が木霊する。

誰かの悲鳴。即ちまた怪人でも現れたのか? と連想するのは必然であり周囲は戦々恐々とする………のは、もう昔の話。

 

何故なら、悲鳴の後は決まって……。

 

 

 

「うぅぅぅ~~~‼ また負けた~~~~~‼」

 

 

 

と言うセリフが続くからだ。

 

怪人ではない事に安堵しつつ、勿論今度はその騒音? を起こす住人に文句の1つや2つ、言ってやろうという者も出てくる。

(仲睦まじい姉妹? 兄妹?? でも暮らしてるのか、と殆どの住人が穏やかに微笑むレベルで、騒音と言う程ではない)

 

ガラの悪いヤンキーが睨みを効かせながら部屋へと突入する為にエレベータに乗る。

そしてものの数分、下手したら数秒で即Uターンしてくるのも恒例だ。

 

 

何故なら、部屋へと向かう無謀な男たちは知らないから。

そこに誰が暮らしているのか、など。

 

 

 

 

人類最強・キング

 

 

 

 

 

最強ヒーローが暮らしている等、知る訳もないから。

 

 

「ヒカリ氏。段々上手くなってきてるよ。オレもちょっと本気出しちゃったし」

「うぅぅ~~~~!! キングずるいっっ! 勝てる気しないよっっ!!」

「……………まぁ、頑張って(スケールは小さいケド、それオレがヒカリ氏やサイタマ氏にいつも思ってる事だよ……)」

 

 

ヒカリとキングが遊んでいる。

以前より、ヒカリがキングにゲームを挑んだ日には、100%ヒカリの絶叫が響くのが定常運転。住人の皆は、キングの親戚の子、と言う認識でヒカリの事を認知している。

あのキングがこの場所に暮らしていて、騒ぎにならない理由も勿論ある。

 

拠点がバレたら当然怪人・凶悪犯が腕試し? 怖いもの見たさ? に押し寄せてくる可能性が高くなる事をキングはそれとなく言って注意喚起。

―――勿論、ドッドッドッドッ……! とキングエンジンを鳴らしながら。

 

 

 

 

 

 

【何が有ってもこの場所は守るよ! だから、黙っててね??】

 

 

 

 

 

そう言う事で、このマンションの住人は皆世界一安全なマンション、と言う事で安心安全に暮らしているのだ。

 

(その時のキングの口調が何処かおかしかったのは、誰も気づいていなかったりする)

 

 

 

 

 

「これで、私の212戦0勝212敗………」

「しょ、しょうがないでしょ? だってヒカリ氏、手加減しようとしたら凄く怒るし……」

 

 

キングとて、見た目幼女~少女に化けるヒカリの姿を見て、少し位手加減して、勝ちを譲ってあげても良い、と思った事は多々ある。

だけど、そういった手心に、物凄く敏感なのはヒカリだ。手加減するや否や直ぐに拒否して、わざと負けたら許さない!! とヒカリは光全開にしてるから、手加減のしようがないのだ。

 

 

「へへんっ! 良いもん良いもんっ! いつか、ぜ~~ったいに実力でキング負かしてやるんだもんっ!! このストレスは、ヒーロー活動で発散するから良いんだもんっ!! だからほら! ゲームはまた次の勝負で! 災害警報出てないか、調べようっと!」

「えぇ…………」

 

 

ヒカリのストレス発散に付き合わされちゃうキング。

勝っても負けても、多大なるストレスが己を襲うから、結局損しかしてない気がする………とゲンナリする。

 

 

ただ、、本心では解っている部分はある。

ヒカリのおかげで、自分は世界一安全なのだと。常に人類最悪な絶叫マシンに乗り続けなきゃいけない、その代わりにこの怪人が蔓延る修羅の世界で安心と言う中々手に入らないモノをくれる彼女には感謝している。

 

 

でも、絶叫マシンに乗って、最高潮の部分に差し掛かると――――どうしようもない。

 

 

だからキングは、死んだ魚の様な目をする。

精神を疑似的に殺して、少しでも負担を軽減させよう、と心を閉ざす手法を身に着けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方そのころ――――別の場所では。

 

 

「ぐはははははは!! 皆殺しにされたくなければ聞くがよい!!」

 

 

新たな危機が生まれようとしていて―――。

 

 

 

「我は深海からの使者である! 人間どもよ! 地上を我々海人族に明け渡すのだ!!」

 

 

頭がタコ、胴体が巨人のハイブリット? な怪人が地上に現れて――――。

 

 

 

「そして貴様ら人間は我々のエサとしてなぐぉわっっはぁぁぁあぁああああああああぁぁぁぁぁ―――――!!」

 

 

 

その生涯を終えた。

 

最早原型が何だったのか解らない程バラバラになっており、辛うじて解るのは僅かに残った四肢の先、そして飛び出た目玉。

あまりにもグロ過ぎる凄惨な現場+普通の人間じゃ抗えそうにない見た目な怪人に、皆逃げ惑っていたので何が起きたのか理解する者は1人もいなかった……。

 

 

 

 

 

「なぁなぁ、、知ってる? 今C級ヒーローにすごい強いヤツがいるらしいぜ!」

「C級って(笑)」

「いやいや、バカにならねぇんだって。あのキングと一緒に行動してた、って話もあるんだから」

「それ、キングの腰巾着的なヤツじゃねぇの? いや、キングは基本1人だし、どんな規模でも単独行動だって話も聞く(ウィキ参照)。居合わせただけじゃね?」

「それでもあのキングと一緒に居たC級ってだけでも凄いって。名前は……なんだっけ?」

「知らねぇのかよ。それで超強いとか」

「忘れたけど、大体1発で終わるらしいよ」

「嘘くせぇ」

「キングと一緒、って言うのは知らんけど、A級ヒーローの近くで見た事ある。意外と普通の人だった」

「おいおい、夢壊すな」

「いや、最初からネタだろ。強かったらC級スタートじゃなくて、BかAだろ?」

「つーか、その噂の出所ってあの隕石騒動ん時のヤツだろ? 殆どキング、それに補佐的な役割で、S級2人がやったって言う。C級なんて救助されただけに決まってるじゃん」

「あ~~、それで調子に乗って弱いヤツばっか狙って倒してヒーロー気取り、か? 実際頼れるヒーローなんて極々少数だってのによ」

 

 

 

 

今日も、街中では噂? のヒーローの話とメジャー所のヒーローの話で持ち切りだ。

全てをワンパンでやっつけるヒーローの話は、半ばネタとして扱われている。

本人の容姿を見れば、一発で弄るネタがあるというのに、それを弄らない所を見ると、実際に見た、と言うのも気を引く嘘だと言えるだろう。

 

かのヒーローを一度でも視たというのなら、人は口揃ってこういう筈だ。

 

 

 

【ハゲッッ!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だぁぁれがハゲだコラァァ!!」

「いや、サイタマ実際ハゲてるじゃん? ってか、イヤなら何でハゲキャラ使うの? このハゲ――――!! って決め台詞があるの知ってたでしょ?」

「うっせ!!」

 

 

 

現在、サイタマ家にてサイタマVSヒカリ。世紀のゲーム対決(笑)勃発中だ。

 

戦績は思ったよりも勝負。累計30戦して21勝8敗1分。

思ったよりもゲーム対戦回数は少なかった。

 

 

「ふふんっ! こう見えて、キング相手にバシバシ鍛えているからね!」

「おまえ、何時の間にゲーマーになったんだよ……。いや、しかしたまに勝つとはいえ、負け越しは腹立つ! オラ、もう1戦だ!!」

「ふふんっ! 受けてた~~~つ!」

 

 

賑やかなサイタマ家。今はジェノスは買い出しでいないが、ヒカリやジェノスが来て退屈が徐々に薄らいでいくサイタマ。

 

このまま、薄らいでいた頭頂部もすっかり生え揃えば……とサイタマは切に願う……。

 

 

「んなモン考えてねぇよ!!」

「ほっほっほ♪」

「うがっ! ハメ技してくんな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ジェノスが帰宅。

ついでにキングも道中あったとか合わなかったとかで、一緒に。

サイタマの家でゲームしているというヒカリの様子を見に来たのかもしれない。……最近、怪人警報が多いから、と言うのもあったりする。

 

 

 

「先生の順位がC級2位になってました。後少しでB級に昇格出来ます」

「へぇ~~、B級って事は週一活動ノルマ、ってヤツは無しになるんだな」

「大変だよね。そういうノルマって。……自由気ままなヒーローって言うのも憧れるさ……」

「? それはキングの事を言うのではないのか?」

「あぁ……いや、うん。そうなんだけど。ほら、客観的な感想、的な?」

 

 

ヒーロー協会のHPを逐一チェックしているジェノス(サイタマ項目のみ)。

なので、順位に変動が有れば直ぐに知らせているのだ。

 

現在も、食器洗いを済ませて乾燥させて……と家事を率先して行い、その間に報告をしている。

 

 

「先生の場合は、C級ランキングで1位になれば、B級ランカーになれますが、1位のままC級ランキングに残る事も出来ます。現在C級ランク1位のヒーローは、半年以上B級に上がらず今の順位を守ってます。ただ――――」

 

 

そこで、ジェノスの声色が変わる。

キングも深くため息を吐く。

 

 

「フブキ氏、だね」

「ええ。キングの言う通り。B級1位のヒーロー地獄の―――」

 

 

と、ジェノスがB級についての説明をサイタマにしようとしたその時。

携帯が鳴る。

 

 

「失礼。もしもし」

 

 

 

「キング。なんだ? その嵐だか何だかって」

「フブキ氏だよサイタマ氏。現在のB級1位。サイタマ氏が上にあがっていけば絶対にぶつかる相手で、ちょっとオレ、苦手で……」

「??? お前に苦手じゃない相手とかいんのか?」

「地味にひどいな! サイタマ氏!! サイタマ氏だってジェノス氏だって、苦手とか思ってないんだけど!?」

「お、おお。そりゃそうだ」

 

 

ヒカリに振り回されて、色んな七変化な顔を見てきているサイタマ。

ある意味では当然の疑問だ。人見知り気質だって性質もキングにはあるのだから。

 

 

そう言うキングのステータス? 的なのをこの世界でトップクラスに知ってるのがサイタマだったりするから。

勿論、1位はヒカリだ。

 

 

「先生。先日先生が通りすがりに倒した怪人は、【海人族】と名乗っていたんですよね?」

「かいちん族? 覚えてねぇな」

「恐らく間違いないかと。先生の英雄譚は日々記録してますので」

「……ぉ、おお」

 

 

サイタマは、真顔でそういうジェノスに思わず絶句した。

何だかほんの少し、ヒカリに振り回されるキング? の気持ちになった気がしたとかしなかったとか。

 

 

「その海人俗の仲間らしき連中が数匹でJ市で暴れてるようです。たまたま居合わせたA級ヒーローが1人で戦いを挑むも苦戦中とのことで」

「おおっ!! それは直ぐに行かなきゃ!! 仲間(疑)のピンチに駆けつけてこそのヒーローっ!」

「―――――ッッ!!?(ちょっっ、ヒカリ氏! 勝手に身体動かさないで! 関節痛いっし、メチャクチャビックリするんだからっ!!?)」

 

 

びゅんっ!! といつの間にか、ジェノスの直ぐ隣に高速移動。………光速度?

結構慣れてきたとはいえ、本当に心臓が悪い、とキングはいつも悲鳴を上げる。

 

ただ、キングは気付いていない。

ヒカリの速度で動いて、関節痛い! だけで済んでいるのもすごい……と言う事実に。

 

 

「ッ……(見えなかった。比喩ではない。全く視えなかった。検知、知覚すら出来ず、一瞬でここに……!?)」

 

 

サイタマの隣にいた筈のキングが。視界の中にハッキリとサイタマの隣にいた筈だった。

なのにも関わらず瞬きすらしてないのに気付けば隣にいて冷や汗をかいている。

言動と様子が一致しない様だが、現在のジェノスには、そんなのは全く関係ない。

ただただ、目の前の男が、倍増しでデカくなった気がした。

 

 

「苦戦、つまり強いって事か? ちょい待てよキング。取り合えずテレビつけっから」

 

 

サイタマはテレビのリモコンを操作した。

丁度、生中継の最中で見覚えがある様なない様な姿の怪人たちが、1人の男を囲んでいるのが見える。

 

 

「あ、彼はA級のスティンガー君だよ。最近ランクも上がってきてそろそろA級一桁になる、って人気も出てるって、聞いたよ」

「ふーん……。結構しんどそうだな」

 

 

テレビ越しでもハッキリと解る。

息が上がっていて、立ってるのもやっとの様子だった。

 

 

何より、アナウンサーの解説もある。

 

 

『只今ヒーローが侵攻を食い止めようと抵抗してますが、体力の限界が近いようで。我々取材陣の目から見ても疲労感が伝わってきます。災害レベル虎!! 市民は現場近辺に決して近づかぬよう――――』

 

 

 

そして、サイタマは立ち上がった。

 

 

「……こりゃ、ダッシュで行くしかねぇな」

「相手はカニにイカ、ウニやサザエもいる感じだしねっ♪」

「………おいおい、ヒカ……キングよ。仲間を助ける意識はどこ行った?」

「涎垂らしながら言っても説得力皆無だよぉ! それはそれ、これはこれ! もちろんっ! えっと、すてぃんが? くんも助けないとだね!」

 

「………(キングは二重人格なのだろうか? 或いは何等かの意図が? 先生の鍛錬法も常識では考えられない成果が表れている。ならば、キングもこの一見何でもない、或いは戯れてる様に見える仕草も、最強への道に通じるモノだったりするのか? 先生に少しでも追いつくには、まずはキングを………)」

 

 

 

ジェノスはキングを見ていた。

そんな様子はキングは勿論気付かず、ただただ念話? みたいなのでヒカリに苦言ばかり。

 

 

キング自身が、サイタマには敵わない! 絶対無理!! と断言してるので、ジェノスの中では、サイタマが不動のトップ、そして限りなく近い領域に居るのが人類最強と称されるキングだと認識している。

 

だからこそ―――だからこそ――――。

 

 

 

「キング。済まない。……今回も、最後の最後まで、オレが立ち上がれなくなるまで手は出さないで貰えると助かる。……少しでも追いつきたい。頼む」

「え!?」

 

 

 

 

ジェノスの中でどう結論付いたのかはキングもヒカリも解らない。

ヒカリはただただ面白そうに見てキングの代わりに了承し、当のキングは ただただ困惑するのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

……あっ

 

 

「キ~ングは走る~~よ~~♪ ど~~こま~~でも~~~♪ さぁさぁゆけゆけ! 怪人たおせっ! 平和のた~め~に~っ♪」

「―――――………(……走ってないよ? どっちかと言えば運ばれてる……)」

 

 

 

 

「先生、キングは移動する時いつもあの様な感じ、なのでしょうか? 隕石事件の際は見られなかったのですが……」

「ん? あ~~……最近は、アレがマイブーム(・・・・・)らしい」

「?? なるほど……。キング独特の歩法、と言う事ですね」

「かもな。(てかヒカリが浮かせてるから、アイツが運んでるも同然なんだけどなぁ……)」

 

 

海人族討伐! 

傷ついた仲間を、ヒーローの1人を救うべく……否、命ある限り市民の為に戦っているヒーローに加勢すべく、S級、C級の3人が街を駆ける。

 

 

普通に駆け足、車の速度をも超えて周囲を驚かせる―――。中でも一番驚かされてるのは当然キングの姿だろう。

 

 

元々、そこまで露出が多いとは言えず、ヒーロー活動に常日頃勤しんでるA~C級と比べたら雲泥の差。

見かけたら怪人は消滅するから、色んな意味で幸運だと人々は思う筈だ。

 

そんなキングが、移動している姿を目にした瞬間、まず初めに起こるのは大歓声————ではなく。

 

 

 

「「「「………は?」」」」

 

 

 

 

驚愕し、言葉が詰まる。上手く声に出す事が出来ない事から始まる。

 

それは一般人だけではない。高速道路を運転し、現場へ急行しようとしてるC級ヒーローたちも例外ではない。

 

 

キングは両手を組み、直立不動で備え―――そして前方に移動している。

神々しい光を纏いながら。

 

 

 

ドッドッドッドッドッ―――――!

 

 

 

そして、勿論あのキングエンジンも健在。

車の中でさえ、余裕で聞こえてくる程に―――。

 

 

 

 

 

「オレ、初めて生でキングみた……」

「キングの前を、走ってたの誰だ?」

「あれ、どんな推進力で前に進んでるんだろう……?」

「非常識過ぎるよな……、同じ人間とは思えん」

「でも、スゲー憧れる……。キングエンジン最高!」

 

 

 

 

J市まで向かい、手柄を立てて一旗揚げよう! と野心に溢れていたC級ヒーローズの皆だったが、キングの姿を見て、目的を忘れて、ただただ感想会を続けるのだった。

 

 

 

「――――――――」

 

 

 

ドッドッドッドッ――――――

 

 

激しく鼓動する心臓(エンジン)

キングは今回もただただ、己の感情を、精神を殺しに殺し――――恐怖心さえも忘却させる事に勤しむ。

普通ならば、精神を極限まで殺せば、キングエンジンも心臓の鼓動故落ち着けば収まっていくもの。そしてそれは目安になる。と本人は考えていたのだが、キングエンジンは活動時は常に一定。今日も絶好調だった。

 

ヒカリと共に危険地帯に赴く時は、如何に精神を極限まで殺してもこのキング・エンジンだけは鳴り、大地を震わせ続ける。

ヒカリの遊び場は地獄への入り口である事を知っているからこそ、キング・エンジンは常時鳴動中である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして暫くして――――

 

 

 

「ん~~~……、幾ら新鮮とはいえ、こんなゲテモノ魚は好みじゃないな………」

「これがテレビでもやってたかいちん族? いや、カニじゃないし、エビでもイカでもないじゃん……、あ~ぁ サイタマがワンパン嫌だ、って変に手加減してたから時間かかってジェノス完全に見失っちゃったじゃん。その上結局ワンパンだったし」

「うっせ! お前だってノリノリでやってたじゃねーか!」

「ふふんっ! 私は! キングは! この町の平和も守ってたのだっ! 見捨てる事なんて、出来ないもんね~~っ!」

「……………………」

 

 

 

只今サイタマとヒカリ(キング)は、J市まで向かってる途中でジェノスと二手に分かれて行動中。

 

ぽっとでの怪人たちをワンパンしつつ、キングビームで掃討しつつ、雨降る中、大量の怪人退治に勤しむS級とC級ヒーロー。

 

因みに、ジェノスと分かれたのには理由がある。

 

 

 

【ここは任せて先にゆけ!!】

 

 

 

をヒカリがやりたかったらしい。ノリノリで。(+キングの声で)。

でも、ジェノスはまたヒーローとしての精神をキングから学べた、と感銘を受けたようで、師であるサイタマの了承を得て、単機掛けで向かったのである。

 

 

少々想定外だったのは大雨と怪人はセット? って思いたくなるくらい、結構な数の怪人と遭遇したという事だろう。

本命のかいちん族じゃなかった。でっかい牛みたいなのとか、でっかいミミズみたいなのは入るけど、どうみても海鮮モノじゃないから。

 

 

「あの~、ヒカリ氏?」

「うんうん、次は向こうの方……って、どうしたの? キング」

 

 

サイタマと一緒に行動、キングと離れて実体化して行動していたヒカリに、キングが話しかける。

時折抜け出す事もあって、云わば生身状態の今がキングにとっては一番危険なのだ。これで色々と痛い目を見てきた過去があるから。

それに今は怪人を倒したとはいえ、明らかに危険地帯。

だから、そんなに離れないで――――――と言いたい……のではなく。

 

 

「ニュースになってるくらいの規模だし、協会に問い合わせたら直ぐに場所解ると思うんだけど………」

「あ! それが有った!!」

 

 

ひっ切りなしに、キングに掛かってくる災害警報に日々キングは戦々恐々していた。

ヒカリと共にいる時は、自分の精神を殺すだけで終わっているんだけど、なんだか狙っているのか? と思うくらいキングが1人の時ばかり電話がかかってくる。

 

助けを求める声は、ヒカリと行動を共にしてる時は大体現場から聞こえてくるので、ヒカリが直ぐにその方法を思いつくのも難しい、と言えるだろう。

 

 

「んだよ! そんなのあんなら早く言えよな~! あ~あ、雨降られて大変だ。お前のそのヒカリバリアー、良いよなぁ……」

「ふふんっ! 良いでしょ? あ、でもサイタマが真似しようとしちゃ駄目だよ? 周りの被害も考えてね」

 

 

そもそもサイタマの場合、雨雲くらいパンチ一発で吹き飛ばせる。

必殺シリーズを使えば、雨粒1つ残さず全て吹き飛ばして仕舞だ。

でも、そんな事したらこの辺りが大変な事になる。元来、サイタマは力加減と言うモノが出来ないからいつも怪人をワンパンしては落ち込んでるのだ。

 

そもそも、手加減しててもトンデモナイからヒカリは駄目出しをしていたりするが。

 

 

「ヒーローが皆に迷惑かけちゃ駄目だもんね」

「解ってるよ! ほれほれ、キング。オレ達はどっち行けば良いんだ?」

「あ、ああ。今丁度電話がかかってきたから。直ぐに確認するよ」

 

 

 

Prrrr……ガチャっ

 

 

当然ワンコール。

 

 

【キング!! キングだなっ!? 良かった通じた!! 応援要請を頼みたい!!】

「……ぁぁ、ニュースの件で良いな? J市に海人族を名乗る連中が暴れている。……既に現場へと向かってる。現在の状況は?」

 

 

電話越しでもしっかりとキングエンジンが聞こえてくるのを確認すると、一気に歓声が湧き起こった。それはサイタマやヒカリ、勿論キングにも聞こえる程の大歓声。

 

 

 

【良かった!! A級だけでなく、S級までもが負けた! 17位のプリプリプリズナーだ。相手は海人族の長。想像以上の強敵だった、と言う事だろう。災害レベルは鬼では済まされない相手かもしれない!】

「………そうか」

 

 

 

キングは死んだ魚の様な目をしながら頷いた。

抑揚のない返事は、まるで相手の脅威度など、自分には関係ない、と言わんばかり―――の様に相手には伝わる。それが何よりも頼もしい、頼もしすぎる。

 

ただ、だからと言ってキング1人に丸投げする訳にもいかないから対応策は練って、それを伝える。

 

 

【我々の方で討伐隊を組む計画だが】

「いや、構わない。……我々(・・)だけで良い。早く詳細を教えてくれ」

 

 

キングのそれはまるで覇気がない……様に感じられるのは、本当の意味でキングを知る者だけ。

 

それ以外の者ならば、まるで大津波が来る前の海辺に佇んでいる様な不気味さを覚えた。

 

味方である筈の自分達でさえも、不気味に思えるのだ。

相対する怪人たちには思わず道場してしまう。

 

 

 

【そうか。了解した。……ん? キング以外にも出動してくれるヒーローが居るのか? そこには】

「……現在活躍中のC級2位の彼だ。……オレ達が居れば何の問題もない」

 

 

キングの言葉を聞いたオペレーターは、即座に協会のデータにアクセスをする。

C級2位。それだけの情報で十分だ。直ぐに出てきた。

 

 

新人ヒーロー サイタマ。現在C級2位。

体力試験で、新記録を連発。その後、S級2人『キング・ジェノス』と協力して隕石を破壊した功績を持つ。

キングが(それとなく)推薦する点も踏まえれば極めて異例な新人だと言えるだろう。

 

だが、過去に格闘技・スポーツと言った成果を修めた背景が無く、素性も全くの不明、故にキング・ジェノスの腰巾着とみられている節が多い。

 

 

だが、キングと一緒に行動をするのなら全く問題ないだろう。

誰かを育ててみたい――――そういう境地に立った、と言う可能性だってある。

身近で言えばS級3位、シルバーファング。流水岩砕拳の師として道場も行っている。

同級4位アトミック侍も剣術免許皆伝に加えてのA級上位3名を弟子に持つ。

 

 

「(とはいってもC級だ。大型新人であるジェノス、ましてやキングの頂きにまで来られるとは到底思えないが……それでも、怪人災害が年々増加の一途。協会の戦力が増える事は好ましい事でもある……と捕えるべきか)」

 

 

 

サイタマの実力を知らない者からすれば、S、Aと軒並みやられている死地にC級を送り込むなどバカげている、と言えるのだが、キングの存在があり、そのキングも大丈夫である、と言い切っている。

キングの元で成長を遂げた彼がどうなるか、それも気になる。

 

 

【怪人はJ市、避難シェルターに向かっている。位置情報は、今転送した。確認してくれ。――――頼んだぞ】

「………ああ。任せておけ」

 

 

 

――ドッドッドッドッ

 

 

鳴り響くキングエンジン。

人類最強に死角なし。

 

それを思わせる程の安心感を齎せてくれた。

 

 

 

「よっしゃ!! 速く行くよ! 無辜の民に危険が迫ってるともなると、勝負だ早い者勝ちだ、なんて言ってられないからねっ!」

「だな」

「く~~~! キングっ! かっこいいよ! 最高だよっ! わたしも燃えてきたよぉぉぉ!!」

「…………。ふっ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒーローなんて、ゴミばっかりねぇ……」

 

 

 

海人族の長は、侵攻を阻もうとする全てのヒーローを蹴散らし、今まさに一般人を殺戮しようと迫っていた。

 

 

 

「私は深海王。海人族の長。……海の王。万物の根源であり、母親の様なもの。……その私に盾突くとどうなるのか、この身を以てゴミたちは示してくれたようよぉ」

 

 

 

地に倒れ伏すのは、A級、C級……そしてS級ジェノス。

ジェノスの機械の身体は見るも無残な姿に成ってしまっている。まるで、何かに溶かされた様に、機械の身体の大部分が露出しており、頭部も凡そ半分程が欠損している。

サイボーグ故に、辛うじて生きている様だが、それでも動く事は出来ない。

 

 

ただ、自分の弱さを嘆いていた。

アレだけ大見えを切り、キングやサイタマに先鋒を任されたというのに、この体たらく。

この身体では、彼らがたどりつくまでの時間稼ぎさえ出来ない。

 

 

 

「―――勿論、これで満足なんかする訳無いでしょう? 精々、気持ちの良い悲鳴をあげる事ね。私の兵たちが受けた痛み、アナタたちにも1億倍にして返してあげるわよぉ」

 

 

 

全てのヒーローが倒れ、その凶悪な牙は、獰猛な刃は自分たちに向けられている。

抗えない絶対的な死が迫る中でも、誰一人として逃げ惑う事は無かった。

 

まるで己の死を受け入れたかの様に。自然の摂理、大災害を前に立ち尽くす様に、ただただ立ち尽くし、涙を流していた。

 

 

だが、1人だけ例外が存在した。

 

 

 

「ジャスティス…………すと、っぷ……っ」

「……はぁ?」

 

 

 

深海王の背に抱き着き、絶対に行かせまいとしている者が。

たった1人でも、絶望的な状況でも諦めてないヒーローが。

 

 

「ゴミもここまで来たら、なんて表現して良いか分からなくなってくるわぁ」

 

 

そのヒーローの名はC級1位 無免ライダー。

自身の身体くらいはある巨大な腕に振り払われ、まるでゴムボールの様に弾き跳んでいった。

 

―――だが。

 

 

 

「……C級、ヒーローが大して役に立たないなんてこと、俺が一番よくわかってるんだ!」

 

 

 

 

身体中傷だらけ、骨も何本も折れている事だろう。

だが、心だけは折れてない。まだ立ち続ける。

 

 

 

「俺じゃB級で通用しない……、自分が弱いって事は、ちゃんとわかってるんだ!」

 

 

 

弱さを受け入れ、抗えない事も理解し、それでも立ち上がる。

それを虫けらを見る目で見下ろすのは深海王。

 

 

「な~にボソボソほざいてるの? 命乞い?」

 

 

大きく割けた口が歪む。

ニタニタと下卑た笑みを向け続ける。

 

 

 

 

「俺がお前に勝てないなんて事は、俺が一番よくわかってるんだよォッ……!! それでも、それでも、やるしかないんだ!! ここには、もう俺しかいないんだ!!」

 

 

 

 

 

全てのヒーローは倒れた。

援軍が来る気配もない。

 

もう、ここにいるのは守るべき市民と、目の前の巨悪だけ。

 

 

 

 

 

 

「勝てる勝てないじゃなく、ここで俺はお前にたち向かわなくちゃいけないんだ!!」

 

 

 

 

 

 

頭から口から、血が流れて重症な身体を奮い立たせる。

 

 

「わけわかんない事言ってないで早くくたばりなさい」

 

 

そんな決死の覚悟も、人をゴミとしか認識していない深海王には無意味。

さっさと殺してしまおう、と歩み寄ろうとしたその時だ。

 

 

「頑張れぇぇぇぇ!!」

「無免ライダー!! 頑張れぇぇぇ!!!」

 

 

1人、また1人と死を受け入れたかの様に動けなかった市民たちが声を振り上げた。

 

 

「そいつをやっつけてくれぇぇ!!」

「がんばれ!! がんばれ!!」

「勝ってくれ―――――!!!」

 

 

 

まさに最後の希望。

それを彼に託した。

 

 

応援される事。

それがこんなにも力が出るモノなのだ、と改めて無免ライダーは実感する。

もう、本当は一歩も動けない筈なのに足取りも不思議と軽やかになる。

 

 

「ぬぅおおおおおおおお!!!!」

 

 

最後の力だ、と声を張り上げようとしたその時だ。

 

 

「残念、無駄で無意味でしたぁ♡」

 

 

茶番にはもう付き合わない、と言わんばかりの巨拳が彼の頬を貫いた。

頭蓋が歪み、鈍い音が響き渡る。常人であれば致命的な一撃。

ましてや、深海王はS級を2人も倒している。そんなバケモノの拳を受ければ、一般人と大差ない程度の身体でしかない無免ライダーには一たまりもないだろう。

 

 

だが、残虐が故に、希望を徐々に削ぎ、甚振る事に切り替えた深海王のその悪辣な性質が故に、彼の命の灯が消える事は無かった。

 

そして――――結果。

 

 

「よくやった。ナイスファイト」

 

 

間に合った。

 

 

「! ま~~た、ゴミがしゃしゃり出てきたわねぇ」

 

 

倒れ伏そうとしていた無免ライダーを支える様に割り込んできた男が1人。

そしてもう1人。

 

 

「ジェノス氏!!?」

「き……んグ。すまない……、おれ、ではあしどめ、すら……」

「! ぅお!? ジェノス!? 生きてんのかそれ!??」

「先……生………。もうしわけ、ありません……」

 

 

 

身体機能の殆どを故障させたジェノスに駆け寄る男もいた。

 

 

 

 

――――ドッドッドッドッドッ

 

 

 

 

そして、一際高鳴る鼓動が、場を支配する。

 

 

「! ………へぇ。噂に聞く、人類最強とはあなたのこと、かしらぁ?」

 

 

空間を地を揺らさん勢いで響く音を前に、深海王は少しだけ表情を歪ませる。

地上には、数多の怪人を屠り続けてきた男が居る。怪人たちにとってもバケモノと称する地上最強が居る。

 

それは、海人族の間でも名が轟いていたのだ。

 

 

 

「人類最強キング。アナタは他のゴミとは明らかに違う。無視して良いゴミじゃないようねぇ」

「…………ふっ」

 

 

そんな深海王の言葉も軽く笑って見せる。

 

 

 

「その男を無視しない方が身のためだぞ。海の怪人」

「?」

 

 

深海王の傍に居る男。

キングが出現した故に、完全に忘れかけていた。

 

 

「お前がかいちんぞくってヤツか」

「海人族よ!!」

 

 

だから、速攻で殺してキングに集中する――――と深海王は拳を振るった。

バキッ!! と殆ど無防備の頭部に向けて無免ライダーを屠った時とは比べ物にならない程の一撃を見舞う。

 

 

「!!」

 

 

それに目を見張るのは深海王だ。

キングばかりに気を取られていたが、目の前の男もただものではない、と今更ながらに実感する。

 

 

「なるほど。キングと共に居るんだからそれなりには出来る男のようね。私の殴打で倒れないのだから」

「テメーのパンチが貧弱過ぎるだけだろ? キングのキング・パンチ! に比べりゃ、蚊が止まった程度ってもんだ」

 

 

 

「え……キング、パンチ??」

「おっ、今度それしてみる? たまには光の攻撃以外のキングの必殺技も増やさないとだしね?」

「むむ、ムリムリ!」

 

 

 

これまではキングが放った(様に見える)光で怪人を圧倒してきたのだ。だから、キングはこれまで一度も攻撃らしい攻撃はしていない。そんな華奢な身体で攻撃したら、逆に拳の粉砕骨折だって有りえそうだ、と盛大に首を横に振っていた。

 

 

 

 

 

そして、ここで無免ライダーがやられた事で再び絶望に沈みかけていた市民たちが声を上げ出した。

 

 

「キングだ」

「キングが来てくれた!!」

「キングだ!!!」

 

 

 

【キング!! キング!! キング!! キング!!】

 

 

 

キングコール一色になる。

戦おうとしてるのはサイタマなんだけど……。

 

 

ここで、いつの間にかサイタマの傍に移動したヒカリと、サイタマは目が合った。

 

 

【代わろっか??】

【嫌なこった!!】

 

 

目だけでアイコンタクト。

それを受け取ると、ヒカリはしぶしぶキングの傍へと戻った。

 

 

「たかだかゴミの中での最強程度が、この大海の支配者、万物の王である私に逆らう等と、身の程を知るにはいい機会ね。……私の本気と言うモノを、見せてあげるわ。全生態系ピラミッドの頂点に立つ存在の本気をね」

「生態系最強(笑) とか言ってて、だーれも倒せてないってのも笑えるよね~~」

 

 

キングの声色で、そんな陽気な言葉を使うのだから、思わず場が静まり変える。

 

 

 

「………なんですって?」

「だってそうじゃん? ワタシツエー ワタシスゲー ワタシチョウテン! って言ってるケド。結局ぜーんぜん倒せてないし。一番危なかったのはジェノスだけど、大丈夫っぽいし。こういうのって口だけ、って言うんじゃないの?」

 

 

深海王の身体がこれまで以上に膨張し、元々筋肉質な身体が更に盛り上がって行く。

怒りを力に変えて、と言うのが正しいだろう。

 

 

 

「でも、それが当然だから安心して? 真のヒーローって言うのは悪いヤツには倒せないってものだから」

「…………今その辺で転がってるゴミの掃除なら、あんたを殺した後にゆっくりと料理したげるから、あんたこそ安心しなさい」

「へぇ……誰が倒れてるって?(ほら、キングっ!)」

 

 

 

最終的には、サイタマVS深海王の流れだったのに、いつの間にか喋り出したヒカリに呆然と放心とさせていたキングだったが、ヒカリの合図で両手を広げた。

 

 

 

 

【伏シテ死ナズ、英雄ノ輝キ】

 

 

 

 

キングに集った光が一瞬で広がり、軈て深海王にやられたヒーローたちを包み込んでこの場へと連れてきた。

完全に気を失っている様だが、それでも傍目からは、彼らが一瞬で駆けつけてきたかの様にしか見えない。

 

 

「ヒーローは倒れない。悪を前に倒れたりしない。そう言うモノなの。理解できたかな? え~~っと、かいちんおう?」

「海人王!! っっ、深海王よ!!」

 

 

激昂して飛び掛かろうとする深海王……だったが。

 

 

「コラコラ。お前に代わってやらねぇっつったろ? オレがやんだよ!」

「うるさい!! 今はそれどころじゃないのよ!! ゴミはとっとと死になさ「耳元でうるせえな!」ッッ!!???」

 

 

ヒカリに抗議しようと声を上げたサイタマ。

その更に後ろから激昂した深海王がサイタマに殴ろうとした。

 

 

結果——————。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「あっ」」

 

 

 

 

 

 

 

 

うるせえな、の一言とワンパンで深海王の上半身は消し飛んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

キングはゲームをやりたい

 

 

 

「………なんでこうなるのかなぁ」

 

 

 

キングは青々とした空を、部屋の中から見れる窓の外、あの目が痛くなりそうな程青い空を見ていた。

なるべく視線を上を向けて。ただただ涙が零れない様に………。

 

 

「なーに黄昏てんのさ? キング」

「……………」

 

 

ひょこっ、とキングの視界に現れるのはヒカリ。

明らかに空中に居るその姿……もう今更だ。驚いたりはしない。これが日常。

とは言っても、あの海人族襲来事件から4日経ってて、それまでは別行動? だったから、やっぱりちょっとは驚くか。

 

 

でも、今回はちょっと~~だけで、認めたくない気持ちでいっぱいだ。

 

 

「だってさぁ、ヒカリ氏ぃ……。今回は隕石騒動(前回)と違って、皆の前でサイタマ氏があの怪人やっつけた訳じゃん? ……なのに、なんでこうなってのかなぁ、って」

「もー、そんな小さい事言ってないでさ? 良かったじゃん、良かったじゃん! キング、かっこよかったよ! だから、ほら早くゲームしよう!」

 

 

キングは今度はうつ伏せになって倒れた。

涙が零れない様にしてた筈なのに、ガンガン流れ出て地面を濡らしてる。

 

 

 

 

 

 

そう―――あの怪人を、深海王をなんかの次いでにやっつけた。

絶対やっつけるタイミングじゃないだろ? ってタイミングでアッサリやっつけた後のこと。

 

 

最初こそは、皆も唖然としていた。

キングが来てくれた事に対して、圧倒的な安心感、そして熱狂の渦だったのだが、サイタマの虫でも払うかの様なちょっとしたパンチで吹き飛んだ深海王を見て、一瞬で静寂となった。

 

 

でも、その静寂の終わりも一瞬だ。

 

 

 

【ワンパンだ!! ワンパン!! 強過ぎる!!】

 

 

 

一気に場が湧きに湧いた。

当然だ。S級ヒーローを2人仕留めた。A・B・C級は言わずもがな。

 

そんな強大な相手をたった1発のパンチでやっつけた、それを認識できた、ともなれば場は一気に騒然とし、大歓声で包まれる事だろう。

 

 

 

「(そうそう……、そうだよ。サイタマ氏こそ認められるべき最強のヒーローなんだ。……所詮、俺は嘘で塗り固めた紛い物……。ヒカリ氏と言う絶対的強者の影。……いや、そんな高尚な表現では表せれない。その辺に転がる塵程度。……今こそ、サイタマ氏に脚光を。そして、俺には平穏を―――――――)」

 

 

 

アーメン、と言いそうな顔。

死んだ魚の様な目をしていたキングだったが、今は清々しいまでに晴れ渡った爽やかな表情をしていた。

 

 

 

だが、そんなキングの思いとは裏腹に――――。

 

 

 

【でも、やっぱキングじゃね?】

 

 

 

誰かの一言から始まった。

手だしは一切してない。一応、傷つき倒れていた他のヒーローをこの場に収集させたのは自分(ヒカリ)となっているが、あの深海王をやっつけたのは誰がどう見ても、サイタマ。

 

それ以外ありえない。

 

 

 

【あんだけ強かったんだし。絶対にそうだよ。キングが何かしたんだ!】

【存在するだけで、怪人を滅ぼす威圧か!?】

【今はやりの()か!?】

【ああ! 覇王な色!!】

【絶対そうだよ! 間違いない!! そもそも怪人側にとって確実な死を意味する象徴って言われてたのがあのキングエンジンなんだし!!】

 

 

 

なのにも関わらずだ。

勝手な妄想から始まり、瞬く間にサイタマの話題は消え失せ、ただちょっと後ろで腕組んで経ってるだけのキングを称賛し始めた。

 

いつの間にか、ヒカリも居ない。

気付けば、ヒカリはサイタマの方に行ってて口喧嘩してる。

 

 

「相変わらずの加減知らずだーー! もっとこう……カッコよく演出出来なかったの!? あのかいちんおうだって、上手く盛り上げてくれたのにっ! 何のためにマンガ沢山読んでるのさ!」

「何のためって、マンガ読む理由なんざ、暇つぶし以外の何物でもないだろっ!?」

「ちょっとは演じてるキング見習ってよ! 私は最近【こういうのが良い!】って言ってるだけで、後のシナリオはキングが作っちゃってるんだよ!?」

「そりゃ、暇見つけてはゲーム作ってるヤツならそんくらい朝飯前だろーよ!」

 

 

楽しそうに口喧嘩している。

何だか、サイタマは活き活きしてる様にも見えるから不思議だ。

 

怪人をあの最強の一撃(ワンパン)で屠ってる場面は幾度も見てきたが、時折何処か寂しそうにしている顔も、虚無とも思える表情をキングは見た事があった。

それが何を意味するのかは聞いてない……が、今のサイタマにはそんな気配はまるでない。

 

怒った顔よりは何倍も良い。あの時の顔に比べたら。

 

 

 

 

―――だが、それよりも今は違う。

 

 

 

 

【やっぱ、キング以外は雑魚なんだな】

【キングと一緒に来たとはいえ、C級が倒せる様な相手にこんだけ束になっても勝てないとか終わってるじゃん】

【も、キング以外はヒーロー返上しろよ、って思うわ】

 

 

 

 

最初はただ拍手喝采だったが、ちらほら他のヒーローに対する中傷が出てき始めて――――やがて、キングコールの中でもハッキリ聞こえてくるようになり、生命の危機から脱した事もあって気が強くなった嫌な顔の男が言った。

 

 

 

【命張るだけなら誰でも出来るじゃん。やっぱ怪人を倒してくれないとヒーローとは呼べないっしょ。今回めっちゃ重傷者出てるみたいだし? そんな連中を今後も頼りに出来るかっつーと疑問だよね~】

 

 

 

 

ヒカリはいない。サイタマと楽しそうにケンカしてるから、こっちの事なんか耳にも入っていない。

 

ヒカリが連れてきた重症のヒーローたち。直ぐにでも病院に行かなければ命が~とも思ったが、不思議パワーとでも言うのか重篤な状態を脱して、快方に向かっている。

命を張った彼らに対し、何の敬意も払わない心無い市民たちに対して、キングは怒りを覚えた。

 

 

 

 

 

 

よさないか、君たち

 

 

――――ドッドッドッドッドッ!!

 

 

 

 

 

 

 

静まった筈のキングエンジンが再び轟く。

 

―――そう、キング自身も安全と見るや否や気が大きくなって、気が立ってしまった、のである。

 

ただ、大勢の前で話すのはやっぱり緊張してしまうため、普段よりも大きく鳴り響くキングエンジン。

 

 

 

【―――――――ッッ!!!!】

 

 

 

 

どんな軍隊でも、ここまでの規律、整列はムリなのでは? と思える程、ピタリと声が止まって皆が改めてキングの方を見る。

 

常に怪人に向けられているキングエンジン。今初めて自分達に向けられた――――気がした。

 

 

 

 

「(激怒り!!?)」

「(なんで!? どうして!??)」

 

 

 

 

特に、ヒーローたちに悪態をついていた者達は、特にキングエンジンに縛られていた。

キングエンジンに加えて、キングのその凶悪な眼光を一身に受けているからだろう。

 

 

 

 

「彼らを侮辱するのは違うのではないか?」

 

 

 

 

ヒカリの光が消えると同時に、地に寝かされているヒーローたちを見据えながら、キングは続けた。

 

 

 

「ここに伏している彼らが、彼らが1人でも欠けていたなら、被害はもっと甚大だった事だろう。今、君たちが無事なのも、彼らが命を賭けて時間を稼ぎ、命を繋いでくれたんだ」

 

 

 

血色がよくなっているその表情。苦悶に満ちた顔つきだった筈のその表情が和らいでいくのを感じる。

ひょっとしたら、キングエンジンと共に、キングのその声も彼らに届いているのかもしれない。

最大級の労いとして。

 

 

 

 

 

「そんな彼らに感謝こそすれ、侮辱するのは――――――違うのではないか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなキングの言葉に、もうこの場の誰もが異論を挟む訳も無く。

ただただ、キングの登場・安全確保に熱狂していた者は、涙を流しながら命ある事を感謝、怪人の侵攻を抑えてくれていたヒーローたちに心から感謝を。

そして、罵倒し中傷をしていた者たちは、悔い改めた様に首を垂れた。

 

 

 

「………まさに、王………か」

 

 

 

民が傅く姿を目の当たりにしたジェノスがそう呟く。

あれだけ騒いでいた大衆がここまで静かになり、感謝の意を表明するその姿を見て……。

 

 

「スゲーよな、アイツ」

「先生……」

 

 

今の今まで、ヒカリと口喧嘩していたサイタマも状況に気付いて晴れやかな顔つきでジェノスに手を貸した。

 

 

「ここ一番のヒーロー的な勘っつーか、行動力っつーか、そのつもりが無くても、例えヒカリ(アイツ)が居なくても、結果オーライに繋がる。俺には出来ない芸当ってヤツだ」

「……………先生より」

 

 

実力は本人も全力で肯定する様にサイタマの方が上なのだろう。

でも、ヒーローとはそれだけでは成りえない。

 

確かに強さと言う一点に置いては、サイタマの方が上だったとしても、ヒーローとしての姿は、或いは……。

 

 

「まっ、ジェノスも見習ってみれば良いんじゃね? えーっと、ほら。習うべきもんって増えても困らねぇと思うし?」

 

 

正直、自分がジェノスに教える事なんてもう全然ないから~と腹積もりもあった事だろう。

でも、ジェノスはそれに気づかずただただ頷いていた。

 

 

「先生の背に追いつく為にも、かのキングを先に越えなければならない、と判断しました。例えヒーローとしてキングに敵わなくとも、力で、強さではいつかきっと……」

「おう? そっち??」

「はい。……やはり、俺が求めているのは強さですから。……例え、ヒーローとしては届かなくとも、強さで………」

「あー、まーそうだな。頑張れ」

 

 

そう言うとジェノスを連れてサイタマは撤収開始。

シレっと消えてしまった事もあってか、より一層キングの偉大さを再周知されてしまい、サイタマがやっつけたという事実も霞がかってしまった。

 

自分が殆ど勢いでやった事で色んな意味で自業自得とはいえ、それでもやっぱり納得しがたい。

ただムカついたから説教した程度なのに。

 

 

 

「キングっ! すっごいじゃん!! まさにヒーローだっ!!」

「…………………ははは、………は、は……」

 

 

 

自分の周囲ではしゃぎ回るヒカリの声が何処か遠い。

キングは乾いた笑みを浮かべて、白目をむいて笑う。

 

キングもこんなことになるとは思わなかったし、ここまでするつもりも無かった。

ただ、罵詈雑言飛ばしてる前の子達2人にお説教……くらいの気持ちだった。

 

 

ところがどっこい…………。でも自業自得である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みに、全てを終えて誰もが現場を去った後、忍者風な男が1人やってきたとか来なかったとか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日談。

 

倒れたヒーローたちは朧気にキングに救われた、と覚えていた様子。

特にプリプリプリズナーからは熱烈なアプローチを貰ったのだが……全力で拒否。

 

 

各ヒーローたちの証言、そして何よりもS級2人の証言が協会に伝わり、元々キングとコンタクトを取れた時点で事件解決を確信していた者達の根回しもあり……瞬く間に発信された。

 

 

 

そして……。

 

 

 

「今回も何とか順位は不動で終わったけど……、ほんともう勘弁して欲しい、と言うか、なんでサイタマ氏の順位がB級92位なの……」

 

 

順位こそ変わらず6位のまま。

トップ5に切り込むのは断固阻止した。

自由にやらせてもらう為には、これ以上はいらない、と。

 

協会側としても、これからもヒーローとして手を貸してくれるのであれば、順位など飾りも同然だからそこまで固執せず。キングの機嫌を損ねる方が不利益度合いが高いとも判断して、不動のモノとした。

 

上位メンバーの中で、順位変動が有ればそれはそれで色々と反応する者もいるから。

非常に大変なのだ。

 

そして不満なのは当然サイタマの順位。

殆ど全てサイタマの手柄だというのに、S級が倒せなかった怪人をワンパンなのに。

 

サイタマとヒカリの2人は本当にヤバい。

この2人が居なかったら、きっと人類は滅んでいたのではないか? と冗談抜きで思える程に凄い。

 

なのに、正当な評価を得られないなんてヒドイと思う。

 

 

でも、ヒカリは裏に徹するのが好きと言って譲らず、サイタマも全くと言って良い程固執しない。

何なら、物凄くめんどくさそうだった。

今回の昇格呼び出しに一応向かったらしいけど。

 

 

 

ただ、屋台のもずくが美味しかった、だけらしい。

 

 

 

 

 

 

「はぁ……そもそも、ヒカリ氏だって、いつも俺と一緒………ってわけじゃないし」

「あっ、くそっ!! このっっ!! わっっ!! ほらほら、キング! 速く途中参加してよ! こいつ強いよっ!!」

 

 

ゲームに白熱しているヒカリの姿を見てため息を吐く。

ヒカリが遊ぼう! と言ってから始まったこの状況。

絶対に調子に乗ってはいけない、と思うのはそこにある。

 

ヒーローが格好良い! と動機が微妙な所がある彼女。

それでもこのゲームの様に他事でも楽しめる事があるので、熱中している間に怪人災害に巻き込まれたらどうしようもないし、以前にもその手の問題があった。

 

ヒカリが居ない状態で、災害レベル鬼・竜に絡まれる事だってあった。(全部サイタマがワンパン)

 

自分の力を自覚している。だからこそ再三思う。

 

 

 

 

 

安全基準その①————絶対に調子には乗らない事。

 

 

 

 

 

 

この日も、唯一最強と自信を以て言える競技(ゲーム)でキングはヒカリを圧倒するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に数日後……。

 

 

「そう、これだよ……、人生の至福って言うのはこれなんだよ。メッチャテンションあがってきた!!」

 

 

帽子を深くかぶり、パーカーのフードで更に覆い、顔を見られない様にGE◎から念願の物を手に入れて意気揚々と帰宅する男がいた。

 

その手にある黒いビニル袋の中には、もう何か月も前から楽しみにしていた新作ゲーム。

その名も《どきどきシスターズ》初回限定版!

 

ジャンルは恋愛シミュレーション。

手に入れた瞬間から身体の中が異常に熱く、熱をもっていくのを感じる。

テンションが上がり、異様にドキドキする。

 

 

つまり。

 

 

 

 

―――――ドッドッドッドッドッ

 

 

 

キングエンジンも絶好調。

ただ、この種類は全く問題ない(キングにとって)エンジン音。

 

気分は最高中の最高。足取りも軽くなるというもの。

余りにも興奮し過ぎていたせいか、現在目の前で起こってる事件に全く気付かず……。

 

 

「ん?」

「うわっっ!!? ビックリした!!」

 

 

目の前にきて、初めて気づいた。

明かに人間ではないその風貌の男が暴れている事に。

そして、その攻撃の余波を受け、掠めたせいで防止も吹っ飛び、素顔を晒してしまった。

 

 

「(……やばっ。絶対怪人だ。今日、ヒカリ氏いないのに………ヤバい。ヤバいヤバいヤバい………)」

 

 

 

緊張感フルMax。

高鳴るエンジン音、そして……。

 

 

 

「なんなんだよテメェは!?? なんだ!? この雰囲気は!??」

 

 

 

人非ざる男の混乱もピークに達する。

至近距離で見るキングの顔。凄まじい眼光。そして何より大地を揺るがすかの様な重低音。

 

 

 

―――ただモンじゃねぇ!?

 

 

 

そう察した瞬間、周りから歓声が湧き起こった。

 

 

【キングだ!!】

【キングが来てくれた!!】

【地上最強の男だ!!】

 

 

 

相手が一体誰なのかを、もうこの怪人にもわかった。

 

 

「どっ、どっかてみたと思ったら、あの伝説の………!??」

 

 

キングの名を知らない怪人などいる筈もない。

アレほどまでに、怪人に対して災害(・・)と称される男は他にはいないから。

 

絶対的な死を意味するキングエンジンを一身に受け、心身ともに多大なるダメージを負う。

 

 

 

「こ、こここ、降参いたしますっっっ! この度は皆さまに多大なるご迷惑をおかけしまして、誠に申し訳ございませんでした!!!」

 

 

 

そして、即座に土下座した。

身体が動いてくれて良かった。あのまま動けず戦う意思有りと判断されたら、その瞬間に命を刈り取られている、と認識したから。

 

 

 

「―――――――(……ほっ、良かった……名前だけでビビってくれた………。前みたいに、挑戦者みたいなノリで来られたらほんと、どうしようかと………)」

 

 

 

キングは軽く一瞥すると、短く一言お願いを。

 

 

「消えてくれないか?」

「ッッッ!!?」

 

 

勿論、それに抗う訳も無く、ただただ頭を地に擦りつけて。

 

 

「りょ、了解致しました!!」

 

 

約束するのだった。

 

周囲から罵詈雑言が飛ぶ。

今の今まで男は皆殺し、女は全て自分のモノ、精神で怪人やっていたつもりだったのに、完全に精神を破壊された気分だ。

 

キングから逃げる事が出来るなら、雌として見ていた女からの反撃も、ただのゴミとして見ていた男連中からの投石も、まるで問題ない。

 

 

 

「―――顔は、覚えたから。お互いの為だ」

「ッッ!!?」

 

 

 

そして、何処に逃げて、何処で悪さしてももう無理だと判断。

ヒーロー協会に自首する事にするのだった。

 

 

 

その後は、もう大変だった。

早く帰ってゲームする筈だったのに。今日はヒカリもやる事があるから、と別行動だから心行くまで自宅でずっとゲームする筈だったのに。

たまには、1人きりでしかやれない……、ヒカリの様な女の子と一緒には到底出来ない恋愛モノゲームを心行くまで……と思っていたのに。

大衆が押し寄せてきて身動きが取れない。

 

 

「(どいてって言ったら、どいてくれるかなぁ……この人達。ちょっと申し訳ないけど、やっぱり早くゲームしたい……)」

 

 

兎に角自宅へ帰る事を考えていたその時だ。

 

 

「キング様ッッッ!!」

「済まない!! 皆退いてくれ! 緊急事態、非常招集がかけられたんだ! 道を開けてくれ!!」

 

 

今度は、黒服に包まれた男たちが。

 

 

 

「(えぇ………?)」

 

 

 

 

益々至福の時から遠ざかっていくキング。

 

ただ、この時のキングは知る由も無かった。

この度の非常招集。ヒーロー協会にて、トンデモナイ事が起こるという事を――――。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大集合っ!

 

 

その非常招集は当然キングだけではなかった。

 

S級と呼ばれる全ヒーローに声が掛かっている。

ヒーロー協会の持てる力の全てが今、本部に結集しようとしていた。

 

 

「…………」

 

 

 

――――ドッドッドッドッ

 

 

今日も今日とて、絶好調なキングエンジンを奏でながら、本部へと足を運ぶキング。

ここは云わば、世界二の安全な場所。故にキングエンジンを鳴らせる必要は無い場所だし、その性質上鳴る事自体がおかしいのだが、止まる事はない。

 

当然だ。

 

 

「あっ、キングきゅん♡」

 

 

まず最初に遭遇したのがプリプリプリズナー。

あのかいちん……じゃなく、海人族の長、深海王の襲撃事件から妙に距離感が近い。

応対してたのが、キングでありヒカリだったから、結構なフレンドリー口調で話されてしまったのが仇となってしまった、のである。

 

 

 

「キングさん! 貴方が来てくれたのなら、もう大丈夫ですね。僕はこれから塾があって色々と大変で―――」

 

 

 

続いて童帝くん。

S級5位にランクしているトップ5ヒーローの1人!

彼は、驚くべき事に10歳と言う若さ……と言うか子供。身体的にはまだまだ成長途中の子供だが、特筆すべきはその類稀なる頭脳。ありとあらゆる発明品で怪人たちを駆逐していった姿には背筋がゾっとする思いだった。

 

 

 

「……成る程。キングまで呼ばれていたのか。他にも揃ってる。つまり相応な事態、と言う訳だな……」

 

 

 

続いて閃光のフラッシュ。

鋭い眼光と中世的な顔立ち、黒いタイツのような生地で身体のラインがしっかりと強調されていて、ありとあらゆる無駄を省いた最善の身体、との事。閃光の異名を持つ様にとてつもないスピードで敵を切り伏せる姿は、キングも見た事がある。

スピードの領域では勿論ヒカリがヤバくて指標にもならない事が続いたが、フラッシュを見てもしかしたら、と思ったり思わなかったり。……最終的には気のせいだと思った。

 

 

 

「無駄足だったか。キング1人いれば問題ないだろう……」

 

 

 

続いてゾンビマン。

まるで生気の感じられない肌色の肌に、黒い短髪、全てを見抜いてるかの様な赤い瞳は、見られただけで正直ビビってしまう。名前の通りの不死身のヒーローで如何なる傷を負っても、部位折損しても、頭部が弾け飛んでも復活してくる彼はまさにゾンビ。

その身体的な部分に目を瞑れば、S級の中でも常識人の枠内だとキングは評している。

 

 

 

 

 

 

などなど―――――etc

 

これらもあって解る通り、協会には何度も何度も足を運んできてるケド、ここまでS級ヒーローたちが集ってるのは見た事がない。

それぞれが一騎当千の猛者たちであり、協会最強戦力が一同に集う事態に呼ばれた事に対して、キングはその鼓動を、ハートを只管大きく鳴らせているのだ。

 

 

「ふっ……、まだ何か起きた訳でもなく、説明もない現状で、そう臨戦態勢に入る事もないだろ? キング。抑えきれんと言うのなら、俺が相手になっても良いぞ」

「………いや、良い。無益な争いは好まん」

「………そうか。(キングの力を体感してみたかったのだが……。ここまで殺気の塊を内包させていて、それを外に出さずに留めておく、か。向けるべき相手が現れるその時まで……)」

 

 

 

そしてそして、S級の中でもトップクラスに好戦的な男が最も厄介。

S級4位 アトミック侍。

隙あらば手合わせ願いたい、みたいな事いってくる。その都度エンジンが高鳴って、キングも嬉しそうだ、と変に誤解されて大変なのだ。

いつも怪人の横やりが入ったりして、結局は有耶無耶になるのだが……困った事に、こう面向かって話をするときはヒカリが居ない。

今も居ない。狙ってるとでもいうのだろうか?

 

 

キングエンジンは鳴り響き、その胸中はへるぷみー!! である。

 

 

 

そんな時———奇跡が起きた!! ……かもしれない。

 

 

「おお! シルバーファング」

「久しぶりじゃな、アトミック侍」

 

 

シルバーファングとその後ろにジェノス、そして……。

 

 

「!!!」

 

 

サイタマが来ていたのだから。

光明を得た気分だった。サイタマが来ているのであれば、彼女も――――。

 

 

「さ、サイタマ氏! その、ヒカリ氏は………」

「…………アイツ、甘いモノツアーとか何とか、目ぇ輝かせながらA市ん中に飛んでったわ! くっそぅ……オレだって行きたかったのに、18歳以下女の子限定!! あの文字が、あの一文がオレを阻んだんだ………」

「ぇ……………」

 

 

来てると思った。

ヒカリならば、緊急招集なんて面白そうな出来事、見逃すわけがないと思っていた。

だが、忘れかけていた。

彼女は物凄く甘党だという事。

キングがヒーロー活動? で得た報酬でケーキバイキングに連れて行った時なんか、目を輝かせて顔を真っ赤にさせながら頬張っていたのを覚えている。

1にも2にもヒーロー好きな彼女だが……最近よく考えたらご無沙汰だったのかもしれない。少なくとも、キングと行動を共にしている時、ヒーロー活動以外はゲームしかしてない気がするから。

 

 

つまり、奇跡など無かったのである……。

 

 

 

 

 

「ほお。キングも知ってるヤツなのか」

「彼はB級のサイタマ君じゃ。ワシとキングのお墨付き。間違いなく今後S級のトップクラスに君臨する事じゃろう」

「……なるほど」

 

 

キングとシルバーファング。

アトミック侍が一目置いてるヒーローが2人も認めているB級ヒーロー。

名くらいは覚えておこう、とその顔を見据えた。

 

 

 

「けっ、お土産もってこねーと承知しねぇぞ……絶対」

「……ムリだよサイタマ氏。ヒカリ氏が残して持って帰ってくる(・・・・・・・・・・・)……」

「うぐぐぐぐ………。ジェノス……今度、男のコでも参加できる甘いモノツアー……検索しといて……」

「はっ。了解しました先生」

 

 

色んな意味で意気消沈してるサイタマとキング。

ジェノスはそんなサイタマの要望に全力で応える! と周辺のスイーツ店の検索を始めた。

 

 

そんな時だ。

 

 

 

「ちょっと誰よ! B級の雑魚なんて連れてきたの!!」

 

 

 

一際大きく、そして声高な声が響いてくる。

何処か幼さを残す少女のモノ。

 

 

「……げっ」

 

 

それが誰なのか、キングは当然直ぐに理解した。

アトミック侍に続いて、少々————どころじゃないかなり面倒な相手。

 

 

◇戦慄のタツマキ◇

 

 

「ちょっとキング! 今、げっ! って言ったかしら!?」

「うわっ!!? (聞こえてた!??)」

「ちょっと私の超能力に対抗出来たから、って良い気になってるのも今のうちよ! 直ぐにアンタなんか勝負にもならないくらいになってやるんだから!!」

「た、タツマキ氏。おちついて、おちついて………。ほ、ほら、ここで暴れたら協会の人にも迷惑が掛かるでしょ?」

 

 

アトミック侍の時とは違った口調での応対。

タツマキを前に、鼻につく様なカッコつけの様な対応はご法度なのだ。直ぐにムキになって凶悪な事をしてくるから。

少なくとも、今はヒカリが居ない大ピンチ。こんな状態で、戦慄なタツマキを受けた日には、一瞬で細切れ肉になる自信しかない。

 

 

「な、なんなんだ、このナマイキな……迷子? キング知り合い?? ふげっ!?」

「~~~~ッッ!!」

 

 

慌ててキングはサイタマの口をふさいだ。

あのサイタマの顔面に掌底? を決める事が出来た、それも生身な状態で決める事が出来たなんて快挙以外の何でもないが、今のキングにはそんな達成感を味わう暇なんかない。

命がけだから。

サイタマとタツマキがぶつかるなんて、考えたくもない。この世の終わりだ。………そんな場面に出くわしたら、嬉々と連れて行かれると思うのも何だか嫌だ。

 

 

「サイタマ氏も!! タツマキ氏も!! ほら、皆揃ってるから直ぐに席につこう! 怪人が気になってしかたない!!」

「お、おお」

「ちょっと待ちなさいよ! まだ話は終わってないわ!」

「これこれ。タツマキよ。お主もヒーローなら、この非常招集の中身の方を気にせんかい……」

「ぅ………ふんっっ。とっとと片付けてからにするわよ」

 

 

取り合えず、荒ぶる若者たちを諫めた最年長者シルバーファング事バングのファインプレイである。

アトミック侍もタツマキについては特に気にする様子も無く、ただただシルバーファングが連れてきて、且つキングも知っているという若手2人の方に注目し続ける。

 

S級に上がってくるという事は、自身の弟子であるA級トップクラスのヒーローたちを超えるという事。……間違いなく良い刺激になるだろう、と。

 

 

「(………サイタマ氏の傍に居るしかない………それしかない………、でも、席順きまってる………………)」

 

 

 

キングはただただ、その鼓動を大きく強く鳴らし続けながら、どう切り抜けるのかを模索し続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

S級ヒーロー勢揃い。

 

とは言っても、7位と1位が空席なので全員と言う訳ではない。

 

 

17位 ぷりぷりプリズナー

「(キングきゅん、素敵……。あぁでもこれを機にジェノスちゃんとも仲良くなりたい…… うぅ~~ん、悩ましい)」

 

16位 ジェノス

「(よほどの一大事なのか……、殆どが出席している。……まぁ、先生とキングが居れば事足りるとは思うが。………ついていかなければ)」

 

15位 金属バット

「鬼でも竜でも俺はいけるぜぇ!」

 

14位 タンクトップマスター

「(B級サイタマ………、確か舎弟の1人がとんでもない速さで上に昇ってきてるヒーローが居る、と言っていたが……。まさかな。ジェノスの連れだろう)」

 

13位 閃光のフラッシュ

「―――――――」

 

12位 番犬マン

「(誰か屁こいたな)」

 

11位 超合金クロビカリ

「(皆がオレの肉体を見ている!? 俺がこの中で一番輝いている!??)」

 

10位 豚神

【ばくばく、むしゃむしゃ、くっちゃくっちゃ、ぺろっ】

 

9位 駆動騎士

「――――――」ジ―—————— 

 

8位 ゾンビマン

「(協調性なんて有る訳ないか。こいつらに。………キングが前に出りゃ変わるかもだが、あのエンジンじゃ、その期待も薄いな。……あと、あのブタはいつまで食ってんだよ)」

 

7位 メタルナイト

欠席

 

6位 キング

「―――――――――」 ドッドッドッドッドッ!!!

 

5位 童帝

「(あれ? また1位の人来てないんだ……。あった事無いの、もう彼だけなのに)」

 

4位 アトミック侍

「(キングとシルバーファングがそれぞれを鍛える、と言う事か? キングの流派は知らんが、シルバーファングならば十分ありうる。あの武術だ。…俺の弟子たちもうかうかしてられんな)」

 

3位 シルバーファング

「んで、突然呼び出されてわけわからんが、一体今回はなんの集まりなんじゃ?」

 

2位 戦慄のタツマキ

「知らないわよ!! こっちは2時間も待たされてるのに、まだ何の説明もなしよ!」

 

1位 ブラスト

欠席

 

 

B級 サイタマ

「お茶貰える?」

 

 

 

とてつもなく嫌な予感がする。

それしかしない。ヤバい気配がビンビンに感じる。

 

 

【ヒカリ氏戻ってきてぇぇぇぇぇ……………】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

丁度そのころ、ヒカリはと言うと。

 

 

「ん~~~~っ、おいしぃぃぃぃ、このクロワッサン! いやいや、こっちのクレープもっ! さいっこうっっ!! 今なら、サイタマだってやっつけれるかもね~~~!! 甘いモノ、最強っ♪」

 

 

両手に沢山の袋を持ち、パクパク食べ歩き中。

空飛べば良いんだけど、今日は歩きたい気分らしい。

 

一応キングの力! と言う設定も引き継いでるので、あまり目立つのも好ましくない。

この設定が今一番気に入っているから。

 

 

「ややっ! あっちはどら焼き! こっちは凹版焼き!? A市てんごくっっ!!」

 

「ほらほら、お嬢ちゃん! こっちも美味しいぜ~~!」

「いやいや、こっちだって負けちゃいねーよ! お嬢ちゃん、カワイイから1つ多めにサービスしちゃうぞ!」

 

 

 

まだまだ入る。

美味しい、美味しい―――――天国!

 

 

 

「わーーいっ! ぜんぶいただきますっっ!!」

 

 

 

 

暫くの間、A市のグルメツアーに没頭していた。

 

 

 

そして、この時は誰も知る由もなかった……。

 

 

 

町中の甘いモノ店の皆さんのおかげで。

今日この日、大サービスデイをしていたおかげで。

 

彼女がヒーロー活動を忘れる程沢山の美味しいモノたちで溢れていたおかげで。

 

 

 

町は助かったのだという事が―――――。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

地球ってヤバいの?

 

「ヒカリちゃ~ん! こっちのタルトも食べてみる?? 出来立てほやほやで美味しいよー」

「えっ!? 食べる食べるっ!」

「嬢ちゃんはやっぱカワイイな! こっちのモンブランもおまけにやるよ!」

「良いのっ!? わーいっ!」

 

 

両手にしっかりと抱えられてるのは、持ち帰って(キングの)家で食べる様の甘い甘いスイーツたち。でも、更にサービスをしてくれると聞いて、きょろきょろと見渡し、店に備え付けてあるイートスペースのテーブルにひょい、と置いた。

 

御馳走してくれた品たちに目を輝かせながら、頬張る。

 

 

「おいしぃ~~~~♡ おじちゃん、おばちゃん、ありがとうっ! だいすきっっ!!」

「ほんっと、美味しそうに食べてくれて、こっちが嬉しくなっちゃうよ」

「だなだな。最近いろいろと物騒で、皆顔にこそ出さねぇが、やっぱ街が暗くなっててなぁ。……ヒーロー協会の本部があるとは言っても、ニュースとか見てたら……なぁ?」

 

 

店のテレビに視線を移すと――――あの、海人族襲来! の番組が行われていた。

キングと一緒に? やっつけたのなら兎も角、サイタマが一発でぶっ飛ばした怪人だったから、あんまり印象が薄く、ただただ新鮮な魚介類~食べたい~~って思ったくらいだろう。

ゲテモノ系料理もヒカリはイケル!! ……無論、だからと言って怪人を食べたりはしないが。

 

 

「はむっ、はむっっ! だいじょーぶだよ! きっと皆の事は、キングが守ってくれるよ! んぐ、んぐっ」

 

 

上唇についたシロップをなめとりつつ、キングの話をしつつ―――場が盛り上がった。

 

 

「人類最強……かぁ。長い事生きてるが、あの人みたいな人間はマジで初めてだったよ」

「あんた、S級ヒーローのキングを見た事あんのかい?」

「まぁな。仕入先で色々あって。雲にも届きそうな巨人が突然現れて、街が騒然となってた時、あっと言う間にやってきて、あっと言う間に巨人を消し去っちまったのさ。……あのまま、倒れこんできてりゃ、確実に俺はあの世に行ってたな……」

「むぐっ、むぐっ、ん~~……(そんな怪人いたっけ? 大きいヤツは何人がいたきがするけど――――)」

 

 

ヒカリは両手のスイーツを全部平らげると、改めて言った。

 

 

「私はキングの顔なじみだったりするからねっ! 皆のこと守ってね! って伝えておくよ」

「あらまぁ、それは心強い。頼んだよ、お嬢ちゃん」

「なら、今度買いに来てくれた時もまたサービスすっからよ。キングのサイン、1枚いただけたりしね~かい? 家宝にしたいからよ!」

「OKOK! 任せといて! おばちゃんっ! おじちゃんっ!」

 

 

見た目幼い少女の言う事だ。

話半分にしか聞いていない、ゴッコアソビの延長くらいにしか感じなかったが、それでも良い笑顔を見せてくれる彼女に心が洗われる2人。

 

毎日が不安。ヒーローがいて、守ってくれた事もあってもやっぱりあの凶悪な怪人たちが迫ってきた事件を目の当たりにしたら……大きな被害が出た町の事を思い返してみれば……。どうしても恐怖心が湧いて出てくる。

 

でも、こんな元気な姿を、可愛らしい姿を見ていたら自分達も頑張らなければ、と思わせてもくれるのだ。

 

 

「ん~~、ごちそうさまでし―――――んん??」

 

 

改めてありがとう、とゴチソウサマでした、と言おうとした時だった。

ヒカリが何かに気付いたのか、店の天井を見上げたのは……。

 

 

「おじちゃん、おばちゃん。また食べに来るからね~! 今日はありがとうっ!」

 

 

直ぐに軽く手を振って、外に出た。

夫婦の2人は特に気にする事なく、手をふって返して……またいつも通りの仕事へと戻る。

 

 

 

まさにA市にとっての分岐点。

 

 

滅びの道一択だった筈の運命が、この町の数件のスイーツ店によって運命が覆される。

 

 

 

「ん?? んん?? あれってひょっとして―――――――……!!」

 

 

 

目を大きく輝かせるヒカリの姿がそこには合った。

それは、スイーツに目を輝かせていたそれとはまた違う表情であり、視線。

それは、キングと共にヒーローを、隠れヒーローを楽しんでるときに向けていた輝かんばかりの笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

丁度そのころ―――。

 

 

「今回は地球を守っていただきたい」

 

 

突拍子もない、と言えばそうだろう。

ヒーローとして人々を守る―――のならこれまで通りなのだが、まさかのこの地球、惑星を護れというのだから。

 

だが、構わず続けた。

 

 

「今回ばかりは超人揃いのS級メンバーでも命を落とすかもしれん。逃げるのも勇気だ。今なら辞退してもS級に籍だけは残してやる。―――が、今から言う話を聞いた者は逃がす訳にはいかなくなる。………その場合、事が終わるまでこちらの方で軟禁させてもらう。混乱は避けたいのだ」

 

 

想像を超える事態が起こっている。

それだけは納得出来た。

 

 

 

「皆、話を聞く覚悟は良いか?」

 

 

 

だが、この場に揃っているのは曲者ではあるが、無類の強さを誇るS級ヒーローたちだ。覚悟などと言う単語からは程遠い人種。そして、少々勝手が過ぎるメンバーも中にはいる。

 

 

「おい、その話……マジでオレ達を集めるだけの内容なんだろうな?  こちとらわざわざ妹の大事なピアノ演奏会を抜け出してきたんだ。大した事ねぇ話だったらこの本部をぶっ壊すぞコラ」

 

 

好戦的で、ガラの悪い者だっている。

人外の力を以ているからこそ、許される横暴だったりもする。

 

 

そして、シッチは無論だ、と言わんばかりに口を開いた。

 

 

 

 

「……大預言者、シババワ様が死んだ」

 

 

 

 

ヒーローたちにその事実を告げ、一気に激震が走る――――無論、一部を除いてだが。

 

 

「あのシババワが……!? 誰かに殺されたというのか?」

 

 

シババワを知ってるからこその疑問。

その予言を、その結果を知ってるからこその疑問。

予言者を亡き者にすれば、得をするのはこれから何か凶悪な事を起こそうとするモノ達だから。

 

だが、それは否定された。

 

 

「いや、半年先までの未来を占っていたところ、気が動転したのか、息が荒くなり、咳が出たため のど飴を口に入れたら詰まって死んだらしい」

 

 

随分とまぁ、笑えない死に方だ、と一般人だったら呆れても良いかもしれないが、その人物が人物だ。

失ってしまった事による今後の人類の被害を考えれば全くをもって笑えない。

 

 

「ふむ。なるほど。今後はシババワの未来予想ナシで、災害対策をしなければならない。……つまり、それが今回の話の核、と言う訳だな?」

 

 

怪人襲来も予知した。いくつもの大災害、危険生物の発生、洪水、大地震、そしてあの隕石。

予言があったからこそ、いくつかの対策を取れていたが、今後はそうはいかない。

超合金クロビカリがそう結論付けるのも的を得ている、と言えるがそれもまた違うとシッチは首を横に振った。

 

 

 

「いや、違うな。シババワ様はいつもごく一部の災害しか予知出来なかった。これまでも未来予想されなかった災害の方が圧倒的に多い」

 

 

 

ならば一体何か……? と言う疑問以前の話を聞く者がいた。

 

それはサイタマ。

 

 

「すいません、ちょっとそこの人。シババワ様って誰? ヒーロー??」

「なに? シババワを知らないのか? テレビとかにもたまに出てたぞ。予言者だよ大預言者。地震とか怪人の来るタイミングをピタリと当てる老婆だ」

 

 

比較的傍に居たプリズナーにサイタマは質問。

シババワの事自体知らないから、正直話についていけてない。

元々ついていくつもりは無かったのかもしれないが、それでも質問したのだ。いつものサイタマ以上に、聞く姿勢は持っているのだろう。

 

怪人が来たらぶっ飛ばせば良いし、地震が来ても止めれば良い。程度にしか考えてないサイタマだから、やっぱり何を慌てる必要があるのか解らず、取り合えずシババワについて分かったから、軽く手を振って礼を言った。

 

 

そしてその後、シッチは続ける。

 

 

「予言ナシでも乗り越えてきた窮地は沢山ある。それでも我々がシババワ様の身辺警護をし、特別扱いしていたのは、その予言が100%的中するからだ。……問題の核となるのは、シババワ様が最後に残した大予言文」

 

 

シッチは懐から四つ折りにたたまれた一枚の紙きれを取り出した。

 

 

「のど飴を詰まらせながらも、書き残してくださったこの小さなメモ……100%訪れる未来がここにある………」

 

 

そう言うと、ホログラムスキャナーに翳し、全員に見える様に立体化させた。

 

 

「これだ! 読めるか!!?」

 

 

 

 

そこに書かれていたのは小学生でも読めるし、書けるであろう文字。

 

 

 

 

『ち……地球がヤバい!??』

 

 

 

 

 

それは驚く。驚くと同時に拍子も抜ける。

あまりにも雑で稚拙な文章だから。

 

 

「えぇ……、なにそれ。くだらないなぁ。ボク塾があるから帰って良いかな?」

 

 

中でも一番呆れ果てたのは、ヒーローの中でもトップクラスの頭脳を持つS級ヒーロー童帝だ。

頭脳派で、これまでも幾度も貢献し、切り抜けてきたからこその反応だった。

 

 

「…………童帝くん。キミは10歳だったかな? 天才少年と聞いていたが、この危機を認識できないようでは、所詮はお子様だと言わざるを得ないぞ」

「なんだと………?」

「いいかい。よく聞きたまえ。キミも知っての通り、シババワ様の予言は全て当たる。例外なく100%だ。これまでも、これからもそれだけは真実だった。……そして、今回特筆すべきは、この《ヤバい》と言う表現だ。こうも直接的に表現した予言はこれまで嘗て無かった。地球そのものがヤバい、などと言う表現はな。これまで予言してきたのは竜レベルの災害。その時でさえ、ヤバいなどとは使っていない」

 

 

そして、シッチは机を強く叩いた。

 

 

「これまでのレベルを遥かに超える《ヤバい》事が起きようとしているのだ!! それもこの半年以内に!」

 

 

 

人非ざる力をもつヒーローたちだ。

これまでの事態も、どれもヤバいと感じた者は少ない。

 

寧ろ受けて立つ構え、ふてぶてしくも来るなら来い、と言う気概だ。

 

でも……。

 

 

「うん。わかったけど。半年以内じゃいつ来るかわからないね。対策もやりようがない」

「確かにその通りだ! だがしかし! 半年以内に戦う覚悟はしておいてくれ。非力な文人を代表して言うが、君たちだけが頼りだ」

 

 

シッチが最後に頭を深く下げた。

大量の汗、鬼気迫る表情。何より、このS級ヒーローたちの事を、そのバケモノ染みた力を知って尚、この姿勢。

 

 

何かが来る――――それは間違いないのだろう。

 

 

 

 

「――――――――(嫌だ……、嫌すぎる………、ヒカリ氏……、サイタマ氏が居るとはいえ、マジいきなり消えないで…………。マジ、傍にいて………)」

 

 

 

 

今更幼女に縋ってる大人な自分……なんて見た目なんか気にする訳もない。

キングはただただエンジンを鳴らし、ここに来ていないヒカリを想う。

 

間違いなく、彼女がいなければシッチじゃない、この非力な一般人代表クラスである自分は粉雪の様に消し飛んでしまうから。

 

 

 

そんな時だ。

 

 

―――――Prrrrrrr

 

 

端末が何かを受信したのは。

 

そして、キングはこの事態でも、エンジンが高鳴り、それこそヤバいくらいなエンジンを鳴らしているこの時でも、それにだけは絶対に気付く。

何故なら、それはヒカリへの唯一のホットライン、だったりするから。……ほぼ一方通行で、自分からの通信は無視される(気付かれない)事が多い。新作ゲーム系や美味しいごはん系でも中々難しいレベル。

因みに向こうから発信してきた場合は、それこそ100%通じるのだ。

 

 

「(ひ、ヒカリ氏!! ………ん? ナニコレ??)」

 

 

 

それに直ぐに目を通し、ヒカリとコンタクトを――――と思っていたキングの目は点になった。

 

そして、顔を赤くさせた? かと思えば次はまるで死んだ魚の様な目になり………軈て、キングエンジンが鳴りやんだ。

 

 

 

 

 

 

『(キングエンジンが……止まった?)』

 

 

 

 

 

「(臨戦態勢、と言う訳か。半年以内と言わずいつでも、と言う)」

「(キングきゅん……素敵……)」

「(なるほど。流石はキングさん。今この瞬間から己を高めよう、と言う事か。うむ、俺も直ぐに筋トレ開始しなければ)」

 

 

 

キングエンジンが止まった事への逆の異常性に皆がシッチよりも注目。

 

だが、キングエンジンを無視できる唯一の男だけは違う。

 

 

「なぁなぁ、おっさん。半年以内って事は明日かもしれないし、今日かもしれない、って事で良いよな?」

「え、あ、ああ。その通りだが。お前は誰だ? 何故S級の集会に?」

 

 

勿論サイタマ。

シッチは何故サイタマがこの場にいるか解らない。

でもそこを追及するつもりも無い。

今は、鳴りやんだキングエンジンに、他のヒーローの様に身体が反応してしまったから。

 

 

「なるほどな。……来てよかったぜ。今回は俺の方が早いかもな、ヒカリ」

「?? 先生。ひかり、とは?」

「あーーー、いや、なんでも無い。気にすんな」

 

 

 

 

その次の瞬間

 

 

 

 

 

 

 

ドンッッ!!!

ドドドドドドドッッッ!!!

ドンッッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

凄まじい轟音が、振動が協会に響き渡った。

 

 

「なっ!??」

「これは、この建物が攻撃されている!??」

「馬鹿な、ここはヒーロー協会本部だぞ!」

 

 

当然驚き、立ち上がる者達が大多数。

 

 

 

 

「《――――みな、落ち着け》」

 

 

 

 

だが、その衝撃を、その轟音等を全て掻き消してしまう様な圧倒的存在を前に、黙った。

 

 

 

 

 

 

 

―――――ドッドッドッドッドッ

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、あのエンジン音を鳴らせながら机に立つのはキング。

 

 

「ちょっと! 何いきなり立ち上がってんのよ。目立ちたがり屋のつもりっ!?」

 

 

自分を見下ろされるのを嫌うタツマキが、キングに抗議を入れるが、キングは右手でそれを制する様にして、左手で端末を持ち、それにちらちら視線を送りながら言った。

 

 

 

 

 

 

『…………星降ル光ノ空ニ

 

 

 

 

その次の瞬間、キングの身体が突然輝き出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

地球ヤバそう!? 宇宙大戦争!

 

 

 

「(これはアテレコアテレコ……、自主製作、個人の小説アニメ化させて、いや、アニメも自力で作って今アテレコしてるだけ――――。いやいや、違う違う。まだ妄想の段階。妄想を口にしてるだけ――――。いつその時が来ても良い様に練習練習……みんなカボチャ……)」

 

 

 

 

 

いつもの怪人と相対する時よりは、精神に余裕が出来ている理由の1つとして、キング自身の趣味で制作している創作物。その作成過程? を連想させてたり、妄想だったりを利用しているから。

勿論、大半が命がかかってない場面だからだ。恥ずかしい想いをする方が大分マシだと言えるから。

 

 

 

勿論、キング以外の面子はキングの心情を理解している訳がない。※但しサイタマは除く。

 

目の前で突然輝きだしたかの姿に注目を集めた。

S級の超人達でも、人類最強と呼ばれるキングには敬意を払い、そして彼が成そうとしている事に横やりをしたりもしないという事だろう。

 

あの文句を言ったタツマキでさえも、今回ばかりは何も言わず、ただただ成り行きを見る側に回った。

 

 

そして、キングが輝いたのはほんの一瞬の出来事。

 

 

瞬き厳禁、とでも言えばよかったのか、あの光は気のせいだったのか? と思えてしまう程に、消失していた。

後に見えるのは、この集会所、S級が集ってるこの部屋の無骨な機械類の灯りだけだ。

 

 

そんな中で、これまたいつの間にか両腕を組み、上を見上げているのはキング。

威風堂々―――と言う言葉がピッタリなその風貌に一瞬だけ静寂が起こり……。

 

 

 

 

 

 

 

「………さぁ、ヒーローの時間だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

キングの言葉で静寂は破られる。

 

視線はしっかりとカンペの位置へ。

 

 

 

 

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

FROM:ひかりちゃん

 

件名;緊急連絡! UFO襲来!? ヒーローよ、集いて戦えっ!!

本文:

ヒーロー協会に多分もうちょっと、後ほんのちょっとで攻撃してくるよ!

すごいよ! 空からおっきな乗り物が降りてきたもんっ! すごいすごいっ!!

だからね、キングもいつもの感じで( `・∀・´)ノヨロシク! 

 

市民の味方! 皆を護るキングの光! 

色々と演出の方は任せといてっ! 

 

 

 

あ、追伸~~!

ワタシもキングみたいに色々と考えてみたんだ! こんな感じで今回やってみよーよっ!?

 

 

どかーんっ☆

動揺するヒーロー協会。

そこに、我らがキングが立ち上がり、言った!

 

 

 

 

キング『みな、落ち着け』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………以下長文。

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 

 

 

ヒカリの即興小説? 最強ヒーローキングの大冒険(仮) は異様に長い大作となっていた。

本当にこの文字を打つ時間は何処にあったのだろう? と言う疑問も無くは無かったが、今は良い。

 

 

キングはセリフを覚えるのは完璧に出来る。

所々、丸投げ気味だった部分でのアドリブにも当然完全対応できる。

 

元々趣味で創作業していたし、ネット投稿すればそれなりに人気があったから自信もそれなりにあり、才能だって悪くない。

 

でも、それを公衆の面前……皆の前で行う事がかなり恥ずかしいのがネックだった。

 

落ち着きを取り戻して、エンジンも消えたと思ったのに、再燃してしまった。

 

 

 

そして、不吉極まる文に目を通した瞬間に、恥ずかしくて赤くさせていたキングの顔色は完全に消えている。

消えた、ではない真っ白になっている。

 

 

 

 

シッチが言っていたシババワの最後の大予言の事を思い返したからだ。

 

 

 

 

とてつもない事が起こる。それも半年以内に。

 

心の底から憂鬱に考えていて、今後の事をすり合わせてすり合わせて、相談して、身の安全を第一に考えて――――と頭の中でシミュレートしていたというのに……、まさかのUFO襲来。宇宙人の侵攻。宇宙戦争。

まさかのSFモノに驚きを通り越している。

 

そして間違いなくコレが予言の件だと連想出来るから。

 

 

 

 

普通なら、子供の戯言と一笑して一蹴して終わりにしたい所ではある。………でも、この連絡の相手が相手。そういう訳にはいかない。

 

 

地球生まれの怪人たちだけで飽き足らず、他の星から攻め入ろうとする者達が本当にいたのか……と、それと相対しなければならないのか……、と。意識した瞬間には、目がいつも通り死んだのだ。

 

 

 

 

 

間違いなく。予言が現実に起こった。

過去最大にして最悪、最強、最凶な相手がやってきたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「き、キング!? これは一体っ―――!??」

「落ち着け。シッチ氏。……外の映像、様子はここから解るか?」

 

 

腕を組み、天井を見据えながらキングはシッチに外の様子が解るかどうかを尋ねた。

 

ヒーロー協会本部に起こった現象、核シェルター並の強固な建造物を前に、ここまでの衝撃は前代未聞だ。怪人に接近された事もそう。A市は非常に大きな町だ。そんな大きな町に怪人が現れたともなれば当然騒ぎになる。

ヒーロー協会に近づく前に、必ず騒ぎになり、警戒網に引っかかる筈なのだ。

 

だが、それらが一切なく、直接本部に攻撃が来た。

それもシババワが死に、未曾有の災害、その予言を伝えた矢先の出来事。

 

キングに言われるまでも無く、外の様子は直ぐに確認させている。

 

そしてその内容を知らされ大騒ぎになる。

 

 

 

「ほ、報告します! A市、A市が消失――――!??」

「はぁっ!??」

 

 

 

内容とは、ついさっきまで有った筈の町。大規模なA市が完全に消失しているとの。

まるで最初から無かったかの様に真っ白に染まっていたのだ。

 

 

 

「ば、ば――――ばかな!! そんなばかなぁぁぁぁぁぁああああああ!!?」

 

 

 

 

シッチは、報告内容を信じず、自分自身の目で、外のモニターに目を通した。

ホログラムで見る3D映像は外の状態を正確に映し出していた。

確かに、映し出されたそこには何もない。全て塗りつぶしたかのだった。

 

他のデータも全て《ERROR》と表示されている。

生存、建物倒壊率等、全ての計器の表示が《ERROR》となっており、オペレーターの声が嘘ではなかった事の証明となってしまった。

 

 

 

 

「まさか、そんなまさか!? 今すぐ予言の時が来るなんて誰が予想できる!? ほんの一瞬で、町が、A市が――――この町が消え去ったと言うのか!?」

「おい! この建物はなぜ無事なんじゃ」

「ここは、この本部の建設はメタルナイトに依頼して、並のシェルターよりも強固に出来ている!! 核ミサイルを打たれても守れる! だが、外は、外がぁああ!!?」

 

 

 

大パニックになってしまってる間に、誰にもバレない様にいそいそと端末でやり取りしているのはキング。

 

 

「………………」

 

 

 

流石のキングも外の状態が解る筈がない。

 

ヒカリから送られてくるメッセージで全てを把握できるわけがない。

確かに文字数は非常に多いのだが、その中身は、キングに言わせれば少々稚拙。

擬音たっぷりで、地の文は殆どない台本式の小説だから、その情景は自分のセリフ? から想像するしかない。

 

そして、シッチから知らされた結果は外のA市の消失と言う想像を遥かに超えた事態だった。気を失いかけていたが、ヒカリとのホットラインが繋がってるので、どうにかこうにか意識を繋ぎとめる事が出来たのである。

 

 

「問題ない。……なにひとつ、問題ない」

 

 

短い時間ではあるが、全てを網羅しキングは再び話し出した。

大パニック状態であっても、彼の声はしっかりと皆に届く様だ。

 

 

「き、キング!? 何が問題ない、と言うのだ!? A市が! A市が消えたのだぞっ!!?」

 

 

当然シッチは、如何に人類最強キングに諭されても、起こった現実が変わる訳ではない、と声を荒げた。

そんなシッチとは実に対照的に、当然の様に平然と落ち着きを払っているのはヒーローたち。

 

 

「取り合えずキングさんの話を聞きましょうよ。外の様子を知る様に指示したのもキングさんだし、予期してた様にも思えるし」

 

 

 

騒然としている協会側を制する様に、ペロペロキャンデーを差し向けたのは童帝。

 

 

「うむ。説明は欲しいぞキングよ。町が消えて尚、何故問題なし、断言できるのじゃ?」

 

 

シルバーファングも続く。

 

 

「先生、キングは一体なに――――………!?」

 

 

そしてジェノスも気になり、サイタマにもいろいろとご教授願おうとしていたのだが、そこにはもう彼の姿は無かった。

 

ジェノスがそれを確認すると同時に、キングが口を開いた。

 

 

 

 

 

「今、町は護っている(・・・・・・・)―――が、依然として脅威は頭上に迫っている。……早く住人の避難指示をしてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして遡る事数十秒前。

 

 

 

ヒーロー協会を襲撃したのは空を統べる怪人たちだった。

何やらブンブンと上で色々と言っていた様だが、それ以上に気になる存在が更に上から迫ってくるのをヒカリは視たのだ。

 

 

「すっごいっっ!! SF漫画でも映画でも見たヤツだね、これっっ! これってあれだよね? 宇宙人が攻めてきた! ってヤツだよねっ!!」

 

 

両手をぶんぶん、と振るいつつ、わぁわぁきゃあきゃあと、興奮していた。

 

でも、ただただ子供の様に喜び、興奮しているだけじゃない。

 

マンガ等での宇宙戦争的な展開。その序盤。大体力の無い市民たちが多大な犠牲を被ってその脅威を知らしめる~~となるのを知ってるので早速行動。

 

 

 

 

「キングはぜーーんぶ、救っちゃうもんね!」

 

 

 

 

そんなセオリー通りにはいかない。

何故ならキングが居るから! 最強のキングが居るから! と興奮気味に素早く全ての対応を済ませる。

 

怪人をやっつけるだけでなく、皆を護るのもヒーローだ!!

あの美味しいスイーツ店の皆、美味しい美味しいスイーツをくれた皆の事は―――。

 

 

 

「ぜーーったい護るよ~~!」

 

 

 

と、ヒカリは気合がいつも以上に入った。

 

 

取り合えず放置しても問題なさそうな何匹かの怪人は無視して、キングに光を送る。

電波よりも余裕で早い光の速さで広がるヒカリ自身は容易にキングが居るヒーロー協会へと到達し、内部にまで侵入出来た。

この光もヒカリの一部の様なモノだから

 

 

 

 

「ぃよしっ! んじゃあ、いくよキング(・・・・・・)――――」

 

 

 

 

「『星降ル光ノ空ニ』」~~っと!」

 

 

 

 

キングの身体が輝き―――

そしてヒカリは笑顔で両手を振り下ろすと、瞬く間に世界は光に包まれた。

 

 

光は眼下の町を綺麗に覆い、まるで光の絨毯でもひいた様だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何事だ!!?」

 

 

 

 

突然の事態にヒーロー協会を攻めていた怪人たちも驚き、全員が等しく時間が止まったかの様に固まった―――が、固まっていられたのは、ほんの一瞬だった。

 

 

空を統べる怪人たち、その長の名は【天空王】

 

 

配下を従え、一斉攻撃にうって出てきたが、まるで眼中に無し、と言わんばかりにあの宇宙船からの砲撃で全て吹き飛ばされてしまったからだ。

 

天空王1人を除いて……。

 

あまりの事態に狼狽する。

そんな天空王とはまた違った意味で困惑の色を隠せれない者もいた。

そう、攻めてきた宇宙船に乗っていた怪人だ。

 

 

 

 

 

「おかしいな」

「うん、おかしいと思う」

「突然光ったかと思ったら、これ、バリアーでも形成された? 砲撃が通ってない」

「この星の文明レベル結構高いって事か」

「うん、そうだと思う」

「取り合えず、下に降りてみる?」

「いいと思うよ」

 

 

 

突然光ったのは視認出来た。でも構わず一斉砲撃を行った。

でも、その全てが表面で爆発しただけで、光を消失させることも出来なかった。あの光の下がどうなってるのかは確認出来ていないが、それを確認する意味でも、降りてみよう……と下降を始める宇宙人。

それは多数の頭部を持つ宇宙人。

 

 

 

 

その後、降りる過程で天空王と鉢合わせたので、軽く一蹴したのだった。

何も言葉を介さない、ただ羽虫を叩き落とすかの様に。

 

 

 

 

「ぇ………これ、でおわり………?」

 

 

 

 

 

意気揚々と全てを統べる! と攻め入った王にしては何とも可哀想な展開。

 

片手間で叩き潰されて、その身体は爆散してしまった。辛うじて残った意識の中で、尋ねる様に虚空に呟くが無論それが正解。

 

日の目を見る事なく、天空王は消滅した。

 

 

地球の陸海空それぞれを統べる(と思ってる)怪人たちはこれにて全滅である。

※因みに陸を統べる地底王はサイタマ&キング(ヒカリ)と運悪く出た瞬間鉢合わせてセリフ無くワンパン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わおっ! サイタマ。出てきたんだね?」

「何かキングが色々とやりだしたから、ぜーったい、お前がやってると思ってな。案の定だ。今回は俺の方が早い! って思ったのによぅっ!!」

「まーまー、運が悪かった、って事で諦めてどーぞ! あ、食べる? クロワッサン美味しいよ」

「喰う!」

 

 

 

 

ある程度の対応をした後、ヒーロー協会本部の天辺で、足をプラプラさせながら座っていたヒカリの傍に、天井突き破ってやってきたのはサイタマ。

 

核シェルター並の装甲を意図も容易く……とツッコむ者はここには誰も居ない。

サイタマの実力を知っているヒカリしかいないから。

 

 

「それであのでっかいのは何なんだ?」

「えーサイタマ見てわかんない!? 宇宙人だよ! 世界大戦、じゃなくて宇宙戦争で宇宙大戦だよっ! とうとう、宇宙規模な戦いが始まるんだよっ! 面白いよきっと!! 大きな戦いだから、早い者勝負~なんて事しなくても大丈夫そうだね。地球育ちのヒーローVS全宇宙の王の激突だよっ!」

「うーーん……、盛り上がってるトコ悪いけど、いっつも1発で終わるから、面白い! って言われてもなぁ……正直微妙。まぁ、やって見てから感想言うわ」

「そりゃ、サイタマが力加減が絶対的に下手っぺなだけでしょ? 折角カッコイイ演出とかアイディアとか出したのに、ぜーんぶダメにするんだもんっ」

「つーか、忘れてたけど、俺はずいぶん前から言った筈だぞ! いろいろ小細工演技すんじゃなくて、頑丈で丈夫なヤツと思いっきり全力で! って。そもそも、おままごとしてるみてーで、ガラじゃねーんだよ。俺はもう大人だ」

「ムリ言わないの。それなら流れ星にでも願ったら良いじゃん。強くて頑丈な怪人きてくれ~~って。いっちょ勝負しようぜ! って。頑張って願ってたら叶うかもしれないよ? ……でも、サイタマ流れ星壊しちゃったしなぁ~」

「そりゃ、お前も一緒だろ? 跡形も無く破片すら残さず消したって意味じゃ、俺より性質悪いぜ」

 

 

わいわい、といつも通り談笑を楽しんでる2人の元に、とてつもなく巨大な砲弾が放たれた。

それは一撃で町を破壊し、吹き飛ばす威力を備えている凡そ、人類では作れそうにない破壊兵器………。

 

 

「さっきからドッカンドッカンうるせーのはアレ(・・)か?」

「そっ。着実に侵略してきてるよっ!! ……ま、でもやっぱレーザービームとかじゃなくて良かったね。あれ、波長が合っちゃったのか私の光透過してくるパターンとかあったし。皆の事も護るヒーローとしては、やっぱり考えものだし?」

「そりゃ同感。なんせ服が燃えねぇしな。……思いだした。光貫通したヤツ? それキングがビビッて立ったまま気絶してたやつだな。 いや、面白かったよ。うんあれは面白かった」

 

 

そんなヤバい兵器がやってきても、何も変わる事が無いのはサイタマとヒカリ。

何ならお茶でも1杯やって悠長に~と出来そうな気がするのだが、流石にそんな勿体ない事はしない。

 

 

「んじゃ、いい加減お返し行ってくるわ」

「りょーかい。私はキングに町の皆避難させて~~って言ってるから。それが終わったらキングと一緒に色々と活躍するよ! 上も下も、ってちょっと疲れちゃうし、やっぱり集中したいじゃんっ! ……あ、でも空飛んでるし、空での戦いは初めてだし。キング嫌がらないかなぁ? ちゃんとついてきてくれるかな?」

「―――まぁ、嫌がるだろな。んでも、キングもヒーローだ。お前も一緒に居るし、怪人相手に全拒否はしねぇんじゃねーの?」

 

 

話を終えると、サイタマは勢いよくジャンプ。

ヒカリによる守りの光を突破出来ないのに業を煮やしたのか、あの砲弾が雨あられの様に降り注いできた。

 

その内のひとつにサイタマは狙い定めてシュート。

 

 

 

 

 

 

「頭上でドッカンドッカン喧しいわ。星に帰れ」

 

 

 

 

 

 

跳ね返された極大砲弾は、宇宙船に当たって大爆発。

 

 

それは、いつもの怪人が爆散するグロくて汚い花火ではない。

爆炎の綺麗な花火。

 

 

 

 

 

それが開戦の合図となる――――。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

私のマジ‼

 

 

「やっぱりだ」

「うん、そうだったね」

「思った通り」

「抜け穴はどんなモノにでもある」

 

 

光で覆われた町は無傷だった。

町の住人も勿論無事だった。

 

でも、殆どが唖然と空を見上げて固まっている。

ある者は、まるで神に祈りを捧げてたり、またある者は腰を抜かしたり。

 

一概に言える事は、まだ殆どが逃げていないという事。

 

 

「生き物たくさんだ」

「砲撃だったら簡単だったのにね」

「メンドウだけど、殺す」

「いいと思うよ」

「でも、油断だめ。この規模のバリア張れるヤツ、紛れてるかも」

 

 

 

そして、そんな光の中から悍ましい怪人の姿が現れればどうなるか。

神の御業と思ったこの光景が、更に耳を劈く様な轟音が幾度も轟く場で、奇怪で異形で醜悪な複数の頭を持つバケモノが降りてきたとなればどうなるか。

 

 

 

【うわああああああああああ!!】

 

 

 

固まってた人達も一斉に正気を取り戻す事が出来た。

ただ、上手く逃げれているか? と問われれば甚だ疑問である。

 

怪人警報も出ていない現状での襲来。

更に言うならヒーロー協会本部があるこのA市に大規模な怪人が現れたなんてこれまで無かった事に対する絶対的な安心感が覆ってしまった今。

この混乱しきった頭が、脳が、身体に全速力で逃げる様に指示出来ていたか? と問われれば疑問なのもムリは無い。

 

 

 

異形な姿の怪人が、己の腕を巨大な槌に変える。

それは人一人余裕で潰せるサイズであり、ここまでくれば攻城兵器だと言っても良い程の威圧感を備え、空から降りてくる。

 

 

 

「メンドウだけど、警戒するには1人1人潰していくと良いかも?」

「良いと思うよ」

「術者仕留めれば、後は船が皆殺す」

「でも、油断駄目。未知の相手、強い相手と思ってやる」

「うん。これまでにも有ったしね。全部殺してきた。油断は駄目。でも自信は持って」

 

 

 

悠々と降り立ち、巨大な槌を振り上げ、まずは照準を腰抜かして座り込んでる中年デブに向ける。

 

 

「ひっ、ひっっ、た、たすけ―――」

 

 

 

一通り眺めた後———。

 

 

 

「どうみても弱小種族。塵以下」

「そうだね。殺すの凄く簡単。でも数多い。船じゃなきゃ時間かかる」

「こんな種族があのレベルのバリア張る? 理解不能」

「はぁ。……いや駄目。弱くても、油断よくない」

 

 

攻撃するまでも無い、と判断。

ただ、頭を撫でるだけ、何なら歩いただけで潰れる様な強度くらいしかないのは視ただけで解る。

最初こそ油断なく全力で攻撃しようとしたが………涙と鼻水、失禁で見るに堪えない姿に成ってからは、その決意も萎えるというものだ。

油断駄目、と口々に出してる頭でさえも、半ばため息を吐くのだから。

 

 

取り合えず、この星に来て潰した相手第1号と言う訳で、踏みつぶそうとしたその時だ。

 

 

 

「そんな狼藉、許せると思うか?」

「「「「!」」」」

 

 

 

甲冑に身を包んだ男が、それを阻む。

A級2位ヒーロー イアイアン。

 

 

S級4位ヒーローアトミック侍の弟子であり、A級トップクラスのヒーロー。

 

一瞬の内に間合いに入りこみ、必殺の斬撃、居合を放つ。

 

そして、一息つく間もなく、頭の1つが切り離された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒーロー協会屋上部にて。

死んだ魚の目をしていたキング。

直立不動で放心していたキングが目を覚ます。

 

 

 

「―――――ちょっとヒカリ氏」

「ん?」

 

 

記憶をどうにかこうにか揺り起こし、一体自分の身に何が起きたのかを冷静に分析し、何より直ぐ隣で笑ってる彼女の姿を見て絶対なる安堵をし……取り合えず抗議する。

 

 

「いきなりやられたらビックリするでしょ!?」

「やー、さっすがキング! 正直、ちょっと悲鳴上げたらどうしよう? って後で心配してたけど大丈夫だったね! 折角のキング像が台無しになっちゃう」

 

 

カラカラ、と笑うヒカリ。

キングは抗議はしているものの、やっぱり安心を与えてくれた事に対しては感謝しかない。

いつもいつも振り回されて死ぬような目に遭ってきたが、それでも運要素がいくらかあれど、このヒカリが居なければ、サイタマが居なければ間違いなく死んでいたという自覚はある。

 

でも、ある程度の文句を言うのくらいは感謝して貰いたいモノ、である。

 

 

「んっん~~…… 皆逃げてるみたいだね」

「あ、ああ。シッチ氏が通達して、軍を動かしてるみたい。元々その手の訓練はしててくれたのも良かった、って言ってたよ。幾らここがヒーロー協会本部のある都市でも、危険意識は高かったみたいだね」

 

 

年々増え続ける怪人災害。

A市は安心安全都市だと思っていたのも嘘ではないが、幾度となく迫る脅威に対し、圧倒的な力を持つ者、人ならざる力を持つ者は別にして、無辜の民はどうしても己の身を護る事が出来ない。

 

鬼レベルの怪人は、重火器をもってしても対応しかねるモノが殆どだから。

だからこそ、怪人は【災害】と称している。

人が災害に対して出来る事一番の有効な手段は逃げること、だから。

 

 

「見た感じ、4人くらい下に駆け付けてる?」

「うん。バング氏、金属バット氏、アトミック侍氏、プリズナー氏の4人が地上に降りてるよ。ヒカリ氏から連絡貰った通りに説明して」

「くぅ~~~~っっ、それでこそキングだよっ!! 燃えるねっ!!?」

「は、はははは………」

 

 

はしゃいでるヒカリといつも対照的なのはキング。

この相互関係はこのままずっと変わらないだろう。

まさにヒカリとヤミ………。

 

 

「(いやいや、闇だなんてそんな高尚な、それも格好良い表現など駄目駄目………。演じる事は出来たとしても、有事の際は俺は有象無象以下。基本塵も同じ……ああ、ヒカリ氏の傍に漂う微生物……これで良い)」

 

 

調子に乗らない。絶対に乗らない。勝手な判断断固NG。

これまで培ってきた処世術を今も100%活用している。

 

ヒカリが傍に居る事で安堵感は抜群に増したが、それでも初心は決して忘れないのがキングなのだ。

 

 

「キングさん!!」

 

 

そんな時だ。

サイタマ・キングに続いて、ブチ開けた? 穴から上がってきた者が居たのは……。

 

 

「いきなり驚くじゃないですか。と言うか、核兵器も耐えるシェルター破るって。相変わらず凄いんだからっ!」

 

 

その名は童帝。

S級5位の類稀なる才を持つ天才少年……だが、今の彼は年相応な幼い子供の様だ。

キングの力? の一端を見れてはしゃいでる子供。

 

余りにも頭が良すぎて、色々と不便だろうなぁ……と、何処か他人事ながらも心配していたキングにとっても良い事かもしれない。無論、自分以外に目を向けてくれたら、の話にはなるが。

 

 

「う、うむ。後日、メタルナイトに修繕・改善依頼するが良いだろう。……外からは堅牢かもしれないが、内側からはこうも脆い事が分かった」

「なるほど……。確かに外からの衝撃には強くても、内部からだったら……勉強になります」

「は、ははは………」

 

 

いつの間にかヒカリはいなくなっている。

傍に来て、姿を消してしまっている。

耳元で台本の様に色々として欲しい演出、リクエストをしてくれるのは正直擽ったい。

 

 

 

「キング。俺もやはり勉強になる。先生から言われた通り、キング。お前に学ぶべき所がまだまだ多くあるようだ。先ほどの他ヒーローたちへの発破もそう」

 

 

 

4人のヒーローたちが外へと出た。

それは、意図して……とは言えないかもしれないが、キングの言葉が有ってこそだとも言える。

 

キングが守っている地上に、怪人が降り立った。

協会のセンサーや、街中の防犯システムでもその姿をしっかりと捕える事が出来ている。

 

 

それでいて、キングの【ヒーローの時間】と言う言葉。

 

 

 

【敵は遊星からやってきた存在。―――今こそ、その力を見せ、示す時だ】

 

 

 

キング1人で滅する事が出来るのでは? 

 

そう思った協会職員、無論S級ヒーローの中にさえも居た事だろう。

だが、それを見越して、誰一人としてたった1人に任せてヨシとするヒーローなどいないという事、その本質を見抜き、鼓舞を与えた。

 

如何に全ての怪人の天敵であり、人類最強のヒーローと言えど、その全てを守り抜くのは困難。倒す事が出来ても、守る事は難しい。それがこれまでの犠牲となった町や人達の数でも現れている。

 

だからこそ、未曾有の災害時、キングは己の力を示すだけでなく、真に守るべき者がハッキリしているその姿勢を見せた。

それに感銘を受け、更に高揚し、我こそがと立ち上がったのだ。

 

 

 

 

 

 

―――――——と、ここまでジェノスが盛り上がってくれたキング像。

 

 

勿論、目を輝かせてる童帝も似たようなものである。

 

 

 

「うんうん! でも、地上はキングさんの守りやあの4人が行った事で良いとしても、やっぱり一番の問題はあのバカでかい兵器だよね」

 

 

 

そして、ずっと燥ぐ子供モード……になってる訳ではない。

すぐさま現在の問題点を洗い出す。

 

 

「あの上空にいたんじゃ、中々手が出せない。乗り物を用意してもあの弾幕をかいくぐるのは難しいよ。キングさんが居なかったら、多分A市1000回は壊れてるんじゃないかな?」

 

 

クールダウン、リロード時間? でもあるのか、ある程度の()は存在するとはいえ、一斉掃射はまさに圧巻の一言だ。

そもそもな話、あの頭上の宇宙船? の中に本当にあれだけの数の砲弾が備わっているのか? と言う疑問もある。

何せ一発一発がトンデモなくデカい。機関銃掃射! の如く勢いで撃ち続けてくるところを見ると弾丸生成でもしているのか、若しくは転送装置の様な未知の技術力なのか……

 

兎に角解らない事が多い。

それを防いでるキングには改めて尊敬と羨望を向ける思いではあるが、考える事が多そうだ、と童帝は頭を悩ます。

 

 

 

「この光も全てキングさんの堅牢な守り。とするなら、その逆、攻勢に打って出るとすれば、キングさんならどうする? あなたのプランを聞いてみたいな」

 

 

 

同じく昇ってきたのは筋骨隆々、筋肉ムキムキなヒーロー界一の怪力男、超合金クロビカリ。

格闘戦に置いてはシルバーファングと双璧を成す無類の男ではあるが、この手の戦闘に関しては、中々活用しにくい、と言うのが痛点。

思いっきり投擲を試してみたが、所々に穴は空くものの、殆ど焼け石に水。

 

 

 

―———ドッドッドッドッドッ

 

 

 

そして、一際高鳴るキングエンジン、その圧を感じた所で王者(キング)の声。

 

 

 

「……俺がヤッても良いが、それをヨシとしないのが彼女ではないか?」

 

 

 

ちらり、とキングが視線を向けるのはタツマキだ。

今も何か気分が悪いのか機嫌が悪いのか、頬を膨らませて不貞腐れてる様子。

キングの視線や、キングが言わんとしている事の意味を理解したのか、今度は顔に幾つもムカつきマーク? を作って全否定。

 

 

「ちょっと!! 私がいつ、そんな子供みたいな事言ったっていうのよ!!? 私だって1人で片付けられるけど、あんたの見せ場を取っちゃうのも大人気ない、って思ってたから先手譲ってあげてんのにっ!!」

「ちょっ、た、タツマキちゃん。キングさんを怒らせちゃ不味い。幾ら温厚でも殺されるぞ」

 

 

クロビカリにどうか抑える様に、と間に入ろうとするが、タツマキはその間を縫ってキングの前へ。

 

 

「そもそも、あんたが1人でやれるって言うなら、証明して見せなさいよ! 実際、アンタが戦ってるトコなんて、殆ど見た事ないんだから!」

 

 

不思議な光の力で全て解決(笑)

みたいなのは幾度も見た事がある。巨大な超能力を有する戦慄のタツマキであっても、それは出来ない芸当。

 

文字通り、見た通り、あの光は全てを消失させる力を持っているのだ。

超能力では無しえない更なる高みな力に思えてならず、それでもそれを全否定してライバル視しているのがタツマキ。

 

この世界に入る切っ掛けは、S級1位の彼(・・・・・・)だが、この世界唯一のライバルは、目の前の男(キング)だから。

 

 

「(た、タツマキ氏……近い近い! なんか、圧が凄い凄い!! ちょっと、ヒカリ氏どうすれば――――!??)」

 

 

 

宙を浮き、迫ってくるタツマキ。

戦慄するのは彼女の通り名の通り……だが、こうも間近であの巨大な強大な力を目の当たりにするのはハッキリ言って心臓に悪い。

如何にサイタマやヒカリである程度の耐性がついたとは言っても、自分自身の力じゃないのだから。

 

 

 

『ん? あ~ ちょっと待ってちょっと待って。サイタマに確認取ってる最中だから。メッチャ渋られてるケド。……うんうん。ほら、また今度はスイーツじゃなくて、お肉奢ってあげるから。それで良い? 大丈夫だよ。だってまだ下の方に力入れてるし。そもそも、サイタマ喰らってもケロっとしてるじゃん? 服? まぁ、その辺は頑張って! って事で』

 

 

そんなヒカリだが、どうやってキングの傍でサイタマとの連絡やり取りをしているのか……(もうキング自身は、それを考えたりしないが)どうやら先に先陣切って飛び込んでいったサイタマと何やらやり取りをしている様だ。

 

 

何を確認するの? と言う疑問は直ぐに解消される。

 

 

耳元で囁く【キングの台詞】を聞いて………。

 

 

 

 

「(んじゃあ、ヒカリの必殺マジシリーズ(・・・・・・・・・・・・)! いっちゃうよーーー!)」

「―――――――ゑ?」

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

SSKの片鱗?

 

 

「ふははははは! よくぞここまで来たな侵入者! だが、ここまでだ!!」

「……やっべーぞ。アイツもアイツで夢中になってたら加減とか知ってて知らねー様なモンだし……、巻き込まれたら間違いなくめんどくせー」

「このグロリバースを倒す事など不可能なのだからな!!」

「一応、この船の後ろの方をやれ~とは言ったけど……、今俺の位置、どの辺だ??」

 

 

突然登場した幹部っぽい敵。

でも、その姿は全く目に入らない、と言わんばかりにサイタマは腕を組み、小首を傾げながら歩き続けた。

 

 

ただただメンドウなのは、ただただヤベーのは他の誰でもない、身内に居るから。

 

 

そして今のシチュエーションを考えたら、間違いなくテンションMAXだろう事は容易に想像がつく。

宇宙人襲来なんて、それこそテレビの中の世界が突然現実に現れた様なモノなのだ。燥ぎ回ってるあの見た目幼子の姿が目に浮かぶ。

浮かぶからこそ、目の前のグロ? は入る訳がない。

 

 

「きっさまーーー!! このグロリバースを無視すると―――――――は……?」

 

 

目の前に来て無視をする地球人に対し怒りを剥き出しに攻勢に打って出ようとしていたグロリバースだったが、サイタマが軽く放った腕に当たって上半身が消し飛んだ。

まるで、羽虫でも払うかの様に無造作に、圧倒的な戦力差で。

 

 

「うーーん、どうせならヒカリより早く壊してやろっ! っとか考えてたけど、アイツの攻撃以上に、下の町の事考えたら無茶な攻撃できねーし。取り合えず宇宙船の幹部っぽいヤツらは何匹か倒したよな? そろそろボス辺りが出てきても良いころだと思うんだけど………」

 

 

再びサイタマは、周囲の壁やら機械っぽいモノやらを破壊開始。

手あたり次第に壊していき……。

 

 

「……取り合えず、船の真ん中あたり目指そ」

 

 

後方部を狙うと言っていたヒカリを信じて、勘を頼りに宇宙船の中を進むのだった。……破壊しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ば、ばかな……!」

 

 

サイタマの破壊活動? を間近で見ていた者は、ただただ戦々恐々としていた。

侵入者1人くらい、直ぐに殲滅出来る筈の戦力を携えていた筈なのに、それらがまるで塵の様に。この大規模宇宙船をまるで子供が玩具を崩す様に簡単に破壊していく。

 

更に今し方何かの次いで? の様な勢いで一蹴したグロリバースもそうだ。

 

 

「最上位戦闘員のグロリバースまで、ああも容易く……」

 

 

自信満々に宣言し、散っていたあの宇宙人だったが、その自信に見合うだけの力量は備わっていたのだ。無論、それはサイタマを相手にしなければ、の話にはなってくるが……。

 

気付かない間にワンパンされたその他大勢の怪人たちと最上位(笑)グロリバースの差がまるで解らない。

 

 

「なんて奴だ……! くそ、そもそも何でこんなバケモノがここにいる!? どうやって侵入したというんだ!?」

 

 

気付いた時にはそこに存在したハゲ。

そして次には船内のメンバーたちが粉砕されていき……監視カメラからその姿を捕らえた時には、もう船を破壊し始めていて、最早収集がつかなくなってしまっている。

 

 

「くそっ! 見張りのメルザルガルドは何をやっている!! 地上のバリアを確認しに行くといったっきり、帰ってこないじゃないか! もう、最上位戦闘員は俺とアイツしか残ってないというのに……!!」

 

 

グロリバースの姿を見ればメルザルガルドの末路も……と想像してしまうのは仕方がない事だろう。もう一蹴されて粉砕されて、粉微塵になってる可能性だって……。

 

 

その時だ。

 

 

「ゲリュガンシュプ。何をしている」

「!!!」

 

 

 

とうとう―――この宇宙船のボス、大ボスが姿を現したのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺そう」

「うん、殺そう」

「早く早く殺そう」

 

「……ッ」

 

 

イアイアンにとっての必殺。一撃斬殺の居合。それを何太刀浴びせても全く倒れる気配がないバケモノ。

過去に遭遇した最強の怪人を天秤に合わせても、まるで足りない程、途方もない力の差。それを嫌でも感じていた。

 

 

「死ね」

「―――!!!」

 

 

一瞬にも満たない時間で、その凶悪な腕が変形すると一直線に迫ってくる。

受け流す事が出来るか、と迎撃(カウンター)の姿勢を取るが。

 

 

「受けるな!! イアイ!!」

「ッッ!!?」

 

 

それは聞き覚えのある声によって寸断され、全神経を回避へと向かわせる結果となった。

 

 

 

 

 

 

 

それは、サイタマが頭を抱え、ヒカリがテンションMAXまで上がるほんの数十秒前。

たった1人、地上に降り立った最上位戦闘員メルザルガルドとA級2位ヒーローイアイアンの一騎打ちが始まっていた。

 

丁度、そこに割って入ったのはイアイアンの師匠アトミック侍だ。

 

メルザルガルドの一撃を、その刀で受けようとした矢先の出来事。

アトミック侍の鬼気迫る怒号がイアイアンの耳に届いていなかったら、受け流す事は疎か、かすり傷1つ付ける事が出来ず、身体を粉砕させられていただろう。

 

その未来がハッキリ見える。

イアイアンの背後を見てみれば尚更だ。

 

直ぐ後ろにあった筈の建物が粉砕させられた。

市民が逃げてなかったら、と考えたらぞっとするが、それ以上にアレを受け止めてれば自分がどうなっていたのか、簡単に想像できる。

全身の毛が総毛だつ程の破壊威力だった。

 

 

「なんだ? もう1匹湧いてでた」

「こいつはどうみても弱小だけど、あれはマシなヤツ?」

「そろそろバリア張ってるヤツ出てきてくれないと侵攻速度に影響が出る」

「そろそろ分かれるのも良くない?」

「うん、いいと思うよ」

「船の方も気になる」

 

 

1つだったメルザルガルドはみるみる内に分裂を始めた………が、その分裂を悠長に観戦し続ける訳がない。

 

 

「うるせぇ」

 

 

横一文字に切り裂かれるメルザルガルド。

分裂した身体は夫々が胴体から切断されて、更に二分割されて地に伏した。

 

 

「イアイ。敵の力量を察し、斬る往なす受ける流す、時には退く。……状況に応じて戦術を変えるのも基本中の基本だ。俺の剣の道を目指すならば、基本を疎かにするな」

「は、はい……師匠……ッッ!! 師匠!!」

 

 

アトミック侍とイアイアンは師弟関係。

その力量はまだまだ天地と離れている、と自負し精進を続けるのがイアイアンだ。だが、そのアトミック侍より勝っている部分があるとするなら、情報力。

 

この目の前のバケモノに数号ではあるが打ち合ったという実績。

普段の怪人であれば、この一刀で間違いなく終わっていたが、それで終わりではない事を知っている事。

 

 

「この怪人には剣撃の効果が薄い!! 俺に構わず一旦退避してください!!」

 

 

アトミック侍に迫る脅威。

だが、それがかの者に届く事はない。

 

 

「邪魔だ!!」

 

 

何故なら、それを一喝せんばかり斬撃が、粉微塵に変えん勢いの斬撃が飛んだから。

たった一振りだと思った。その筈だった。

 

だが、メルザルガルドのその五体に刻まれた斬撃の数は最早数えきれない……が、数える必要もない。

 

 

「ヴフフフフフ」

 

 

どれ程斬られようと、刻まれようと、それは意に介さず、意味を成さないからだ。

バラバラにした筈のその身体があっと言う間に再生した。

 

 

「成る程成る程。戦い方から察するに、このバリアの術者ではない……が、この俺と戦えるこの星の生命体である事は認識した。大事の前だ。とっとと終わらせてやろう。侵攻に抵抗をしてみろ」

「あ? キングが一瞬、片手間で練り上げた障壁に傷ひとつ付けれねぇ弱小がほざいてんじゃねぇぞ。宇宙から来たっつー空のおもちゃの連中に伝えとけ。お前らは1人残らず灰燼に帰す」

 

 

アトミック侍は刀を構え直した。

メルザルガルドも完全に再生させ、臨戦態勢になる。

 

その時だ。

 

 

「アトミック侍。手伝うぜ」

「おーおーおー、テメーか。地球に侵攻しようっつー輩は。コラ」

 

 

シルバーファング、金属バッド。

S級ヒーロー2名が到着。

 

 

「フフ。また湧いて出た。……成る程キングと言うのか、この星を守護している存在は。そいつもとっとと消すとしよう」

「キングきゅんに手を出そうなどとは笑止」

「!?」

 

 

そしてもう1人。

背後より迫る巨躯がそこに居た。

 

 

 

「―――相手を確実に仕留めるよう、一発一発殺意を持って打つ」

 

 

 

それは嘗て、敗北を喫した怪人が言っていた言葉。

負けはした。キングが片付け、自分は何も出来なかった。

だからこそ、糧とする。

 

あの敗北を、あの屈辱を、あのキングの偉大さを、全て妄想へと変えて、己が力へと昇華させる。

 

 

 

「ダーク★エンジェル☆ラッシュ」

 

 

 

現れたのはS級ヒーロープリプリプリズナー。

ヒーローVS宇宙侵略者

 

今、戦いの火ぶたが切って落とされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――」

 

 

そして、場面は戻りヒーロー協会天井部。

腕を組み、少しだけ顎を上げて空を見つめるのはキング。その目は通常通り、死んだ魚の目の様だが、他のメンバーにはそうは映らない。

 

 

「……いつの間にか、エンジンが消えてる」

 

 

あの大気を震わすキングエンジン音が一切聞こえない。

先ほどまで、茶々を入れていたタツマキが静かになった一番の理由はここに有ったのだ、と理解する者が殆どだ。

 

 

「大見得きった以上、ハンパな事したら私が1人で片付けるからね」

 

 

静かになったタツマキだったが、それはキングを邪魔しない、と言うだけの様で、これから行う事に対して不服があれば直ぐにでも飛び出す勢いだった。

 

 

「―――――――」

 

 

キングは、ただただ周囲の声が届いていない、まるで別次元にでもいるかの様に佇んでいた。

 

 

「(ひょっとして、これがキングさんの形態(モード)……? 何か、溜めてる……!?)」

 

 

童帝は、キングの一挙一動を見逃すまい、と目を輝かせている。

どうにか、彼の戦闘力を自身の科学力に活かせないか、も同時に画策しており、常に貪欲な姿勢だ。

 

 

「(………あの隕石よりも遥かに巨大で、強大な相手だ。それを一体どうする……? それにあそこには先生が乗り込んでいる。それでも尚、攻撃をしようと言うのか……?)」

 

 

ジェノスは少々違う意味で目が離せない。

サイタマが突入した事は知っている。

そしてキングの力に関してもあの隕石騒動の際には間近で見ているのだ。知らない訳がない。サイタマがどうにかなるとは思っていないが、やはり師匠であるのはサイタマ。その師匠もろとも攻撃する~と言うのは心情的には納得しがたい面があるのだ。

 

だからと言って、止めたり口を挟んだりはしないが。

 

 

 

『ほらほら、キングっ! サイタマには、ちゃあんと言ってあるからさ? だいじょびだいじょび! いっくよ~~!』

 

 

因みに、丁度キングは絶賛自分の中のひと? と会話中。

 

 

「――――――(………前に、見たヤツ、だよね? サイタマ氏と一緒になって、()に向かってやったヤツ)」

『そだよ~~!』

 

 

音や時間とかを遮断している訳ではないが、それでもヒカリとのやり取りがキングにとって何よりも優先させられるものだから、完全に周囲を無として自然体でいる様にしている。

 

それが、それこそが回りには異常に感じてしまうという結果に繋がっている。

自然体に、ゆったりゆっくりと精神を落ち着かせるが故に、そのキングエンジンの高鳴りも沈み、軈て聞こえなくなるまでになる。

 

 

それこそが異常なのだ。

 

 

だが、キングにとっての異常はヒカリがこれからする事であって、それ以上の異常は存在しない。だから、キングエンジンが消えて、明かに動揺の色が見え始めてる周りに、気を遣う余裕なんて皆無だ。

 

 

「…………………(ここ、大丈夫なの? 余波とか大丈夫?? ……地球が侵攻、侵略される前に滅んだりしない……? その、普通に、いつもやってる感じの方が、よくない?)」

『もーーー、何言ってんのさ、キングっ! キングは最強ヒーローが1人なんだよ! ヒーローは皆を、地球を守ってこそなんだよ! そんな事する訳ないじゃん! おじちゃんやおばちゃんたちのお店、大好きなお店狙うような宇宙人なんだからさ! 久しぶりに、私もマジでヤっちゃおうって! サイタマもOKだって(※OKとは言ってない)。あ、でもキングはちゃんと必殺技名言ってね? ほら、はいスタート!』

「……………」

 

 

 

ヒカリに半ば押し切られる形で、キングは構えをゆっくりと解いた。

すると、キングの全身に淡い光が集中し始める。

 

 

「こ、これは………」

「ふんっ……」

 

 

ヒカリの、光の粒子たちが、キングの元へと集っていく。

砲撃が今は収まり、ある程度町の皆の避難も完了し、建物は心配だが少しの間解除しても問題なし、と判断した様で、防護壁の役割を担っていた光たちが集まってくる。

 

 

「す、すーぱーすぱーきんぐ………っ」

 

 

童帝はぎゅっっと拳を握りしめた。

 

 

 

『じゃあ、必殺マジシリーズっ!!』

 

 

 

「――――『轟キ渡ル破滅ノ輝キ(マジ・レーザーぁぁぁ!!)』」

 

 

 

両の腕から放たれる超高密度の光粒子たちが、一斉に宇宙船に向かって放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当然、一瞬昼よりも明るい恒星の如き輝きを発した事に気付かない訳がない。

 

 

「「「「「!!!!」」」」」

 

 

その途方もない莫大なエネルギー波を感知できない訳がない。

 

 

「……俺たちを煽っておいて、守りに徹するだけじゃないとは解っていた。……が、時間はそれなりに掛かったなキング」

「やれやれ。味方でほんと助かるわい」

「何するつもりかしんねーけど、まぁ、あのキングだ。きっちり仕事するだろ」

「キングきゅんに負けられない! 抱きしめて貰うまでは!!」

 

 

 

メルザルガルドの全ての首がねじ切れん勢いで振り返っている。

他のS級ヒーローたちはただ談笑している。

 

信じられない程の密度のエネルギーの塊を前に、唖然とする事しか出来ない。

言葉が出てこない。

 

 

 

【な、ななな、地上で何が起こっている!! メルザルガルド!!】

 

 

そして、それは無論宇宙船側も例外ではなく―――――。

 






必殺マジシリーズ。マジ・レーザー(^○^)爆誕


まぁ、イメージ的には、最近終わっちゃった某大冒険!

ドルオーラ( ´艸`)を、船にぶっぱなす! って感じにしてますm(__)m

モロ、某煉獄~~~~略 の前身となった必殺技ですな(*´▽`*)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

キングお役御免!

 

光———。

 

その言葉が連想させるモノとはどんなモノだろう?

 

人々の暮らしに欠かせない照明?

全てを照らす太陽?

光と闇と言った属性観点から鑑みた正義?(個人的な意見含む)

 

 

等々と、連想されるモノは多岐に渡る事だろう。

ただ、やはり光に感じるのは【優しさ】である、とここに言いたい。

朝日を浴び、光がそこに射すとき、暖かな優しさに包まれる。

光と闇は相対するモノではなく、光とは影を生み出すモノ。

 

だからこそ、光は優しい。

 

 

ただ――――例外が存在するとしたら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「測定……不能? 全てのデータが……きょ、虚数値に…………」

 

 

ゲリュガンシュプは、今まさに光が齎すモノを、唯一の例外をその身で体感していた。

 

これまで幾つもの星に侵攻し侵略し、蹂躙し、全宇宙の覇者と呼ばれるお方の下で、飽くなき欲を満たす為に、他者を蹂躙し続けてきたそのツケが返ってきた、とでも言うのだろうか……。この光には絶望を、狂気を感じる。

 

 

眼下から突如発生した原因不明の高球体。超高エネルギーだという事は理解できるが、理解できないのが、計器で測定不能だという事。

こんな事、未だ嘗て遭遇した事が無い。

 

自分達の主であり、全宇宙で唯一無二絶対の覇者ボロスでさえ、【計器カンスト】と言う表示は現れているというのにも関わらずに、だ。

その上改良に改良を重ねた超高度な技術を用いたこの船の計測器が……。

 

 

 

「…………………」

 

 

 

そのエネルギーを感じ取ったのは、横で控えているボロスも同じ。

それはゲリュガンシュプの様にただただ恐れ戦き、戦々恐々とし、言葉を失っている……と言う事ではない。

 

ただただ、その身で感じたいと反射的に、本能的に思ったからだ。

 

 

だが、その本能的なモノでさえも、ここで遮られる。

 

 

『あっちゃ~~~! 始まったか。くそっっ、巻き込まれねぇ様にもっと離れておくか』

 

 

大型モニターに映し出されている男、船に侵入してきた原住民の姿と声が入ってきたから。

 

 

「ゲリュガンシュプ」

「は、はっ!!」

 

 

ボロスはただただ短く、命令を下す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この男をここまで案内させろ。……この船がそれまでもっていてくれれば(・・・・・・・・・・・・・)、の話になるがな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これはサイタマの記憶。

 

 

「ねーねー、やっぱりこういうの、どう? 超破壊拳(ビッグバンインパクト)ぉぉ~~!!」

「却下」

「えーー、なんでーー! かっくいいじゃん!」

 

 

郊外にある海辺にて、サイタマとヒカリは揃って特訓していた―――――のではなく、海の幸を食べに来ていた。

色々とケチな為、サイタマは万年金欠。ヒカリはヒカリでただただ楽しい事を第一優先にし、惜しみなく経済を回す様に使うので、基本的に貯金は無い。

 

だから、自分達でササっと狩ったり釣ったり突いたりして、素材をゲットし仲良くなった海辺のお店の店長さんに色々譲る代わりに捌いて貰う、と約束を交わしたのだ。

愛嬌があり、愛らしさもあり、社交性もそれなりに兼ね備え、見た目幼いヒカリだから出来る芸当。更にちょっとした怪人退治(キング無しver)もやっちゃったので、互いにwinwinな関係性となってたりもしている。

 

 

 

そんな時にふとヒカリがサイタマに提案したのが所謂《ワザ名》だ。

ありとあらゆるマンガを、バトル系のマンガを聖典とし、沢山読んでカッコイイのを選出し、更にサイタマのパンチと連想させて、これ! と決めたのだが肝心なサイタマは乗り気じゃなかった。

 

 

「なんか小恥ずかしい、って前から言ってんだろ? 必殺技言いながら攻撃すんのも前はかっけーって思ってたけど。そもそも必殺技出す前に相手終わっちゃってるし……」

「だから、その辺は加減を覚えるんだよ、サイタマっ! 必ず殺す技が無造作に出ちゃってるから、カッコよさが薄れてるだけだって! ほらほら、前のでっかいのやっつける時。普通にワンパンするんじゃなくて、彼方に吹き飛ばす! 勢いでやってたら私がフォローしなくても町助かってたでしょ?」

「……や、その節はマジで感謝だ。あの怪人に潰されてたらって考えると……大変だ。あそこのスーパーはこの辺でもかなり安いし」

 

 

サイタマはそういうと、次に少しだけ考えて――――。

 

 

「普通のパンチ。でいいや」

「えええ、なんかカッコ悪くない? 強めのパンチの時も《強めのパンチ》で済ませちゃうの?」

「んっんん――――じゃあ、もいっこ考えてた切り札。マジ殴り」

「大して変わってないじゃん!」

 

 

折れないサイタマ。

何とか改名に持っていこうとするヒカリだったが……。

 

 

「ん? いや待って。ひょっとして一周回って……カッコよかったりする? 必殺マジ殴り?」

「マジシリーズな。パンチだけじゃなくて、蹴りとか頭突きとかその他諸々。ほれ、使いやすいし、言いやすいし、良い感じだろ? ……そもそも、ヒカリの言うカッコイイ技名言い終える前に倒してたら、何かむなしいし……」

「そっかそっか……、じゃあ、私もサイタマに倣ってちょっとやって見ようかなぁ……、んーと、んーと……必殺マジシリーズ」

「ちょっ、オイコラ!!」

 

 

ひょい、と空に向かってヒカリは放ってしまった。

後々、大変な騒ぎになって、海鮮系がお預けになってしまう最悪な未来が待ってるのも知らないで……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マジ・レーザーぁぁぁ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光が集う。

もっと集う。沢山集う。物凄く集う。

もっともっと強く、もっともっと明るく。

 

 

何かを生み出すからこそ、そこには優しさがある。

 

 

でも、この光は生み出す筈の影をも容赦なく呑みこむ。

 

 

光が通った先は―――――何も残らない。

衝撃音も何もない。

 

音すらも呑みこみ、形となって結果だけを残す。

 

 

ボロスの船、後方部完全消失。

全体の67%が消失。

船がまだ浮いている理由は、動力球が健在だった。それだけの事であり、狙いが外れていたから無事だっただけだ。

 

この船の源である動力球は相応の守りで固めている。

全宇宙の中でも最も固い鉱石と金属をハイブリットさせて作りこんだアダマンタイトで覆ってあるが、それがあっても何ら意味を成さないのは、今の一撃を受けて、光の狂気が去った後で、気づけた。

 

アレを受けて、形を保っていられるのは恐らく………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ば、ばかな………」

 

 

狂気に身を晒されたのは船側だけじゃない。

直接的な影響がないとはいえ、視覚的に飛び込んでくる情報は一気に脳内を【恐怖】の二文字で支配してしまう。

 

 

あの光が消えた後、残ったのは綺麗に抉れた船。

残骸も何も残っていない。

破壊された筈なのに、元々そこには何も無かった? と思わせる様な光景だ。

 

 

メルザルガルドは、我が目を疑う。

何百年も宇宙で暴れ続け、今日もなんの疑いも無くただただアソビながら滅ぼす星だと思っていたのに。

 

 

これまでは、数多の世界を、星を食んできた。

圧倒的な強者側の立場だった。

 

そして今————

 

 

自分達が喰われる側である事(・・・・・・・・・・・・・)を実感した。

 

 

 

 

「おーおー……流石キングだな。こりゃ圧倒的だわ。綺麗な空が見えて痛快だわ」

 

 

金属バットが空を、天を見上げる。

鬱陶しい鉄の塊が空にいて邪魔で不快感極まりなかったが、それが半分ほど晴れて、そこから太陽光が差し込む。これ以上ない程に痛快で、爽快だと言えるだろう。

 

 

「影も形も無く、怪人を屠るという話は耳にしてきたが、こういう理屈だったという訳か。……隕石が跡形もなく消失するのも頷けるな」

 

 

アトミック侍もにやり、と笑った。

 

ある程度の測れる力量の相手であれば、ライバルとして認定し、互いに高め合い、認め合う存在として己らを認識するが、キングと言う男に対してはその認識を変えざるを得ない、と思えた。

これまで幾度となく絡んできたが、これ程の力を誇示した事も無ければ、ひけらかした事も無い。周囲を、自分を黙らせるだけの力を有して尚、謙虚であり、その力は怪人にのみ使うとヒーローとしての器のデカさも同じく感じた。

 

だが、それでも今後もキングとは刃を交えたい……と言う気持ちを抑える訳もない。

力の頂きに、キングがいる以上、強ければ強い程目指したい。果てが見えない道であっても歩みたい。その気持ちを抑える事など、アトミック侍に出来る訳がないのだから。

 

勿論、アトミック侍のその決意は、キングにとって頭を悩ます決断になってしまったのである。

 

「ほっほっほ。この上なく、助かる存在じゃのぉ。彼に野心の欠片でもあれば、世界は大変だったかもしれんぞい」

 

人類最強。

その名に相応しい一撃を見てバングはただただ笑うだけだった。キングと何度か付き合いがある故に、その様な野心が欠片も無い事は知っている。野心を持たぬモノだからこそ、立てる高みと言うものがあるのだろう……と、バングは晴れた空を見上げる。

 

 

「キングきゅんに限ってそんな事は有りえないよファングさん! 彼は正義の塊! だからこそ、この俺プリズナーは全力で愛する、と誓ったのだ!!」

 

 

横で聞いていたプリズナーも同様だ。

キングは敬愛し親愛し情愛し……兎に角プリズナーが狙っているヒーローの1人。

正義の塊である事を疑ってる訳がない。

 

プリズナーもまたアトミック侍同様に頭が痛くなる種であり続けるのだ。

 

 

「こ、こいつら……!!」

 

 

悠長に笑い、空を見合い、ピクニックでもしているのか? と思いたくなる連中を見て、メルザルガルドは目を血走らせる。

 

アレを見て勝てるなどとは思ってない。

可能性があるとしたら自分達のボスだけだと思っている。

だから、この場はなんとしても離脱し、どうにか皆と合流する事だけを考えていたのだが……、あまりにも舐めた態度の連中を見て気が変わった。

 

 

「1人、1人だけで良い」

「うん。逃げるのはそれからで」

「多分、地上(こっち)向いては今の打てないと思う」

「そう思うよ。だってこの星が無くなるから」

 

 

 

強過ぎる力の弱点。

仲間内にも被害が被るかもしれない、と言う所。

空に飛んでいる宇宙船だったからこそ放てた。

 

 

 

「1人でも殺して」

「うん。船に戻って合流」

「船、地上に降ろした方が良いと思うよ」

「ボロス様がいる。これ以上は無いと思うけど、万全期す。これ大事」

 

 

 

複数ある頭の考えが、1つにまとまった。

呑気にお喋りをしている内の1人を――――。

 

 

 

「!! バングさんッ!! 危ない!!」

 

 

 

 

―——全力で、潰す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

丁度その頃————ヒーロー協会にて。

 

 

「……………」

 

 

天へと手を伸ばしていたキングは、ゆっくりとその手を降ろした。

キングエンジンは……鳴りやんでいる。心臓止まってる?

あの力を見るのは2度目。……何度見ても慣れない。生気まで一緒にすっ飛ばされる様な感覚。死んだ魚の様な目は、あれから始まったのかもしれない。

 

 

「………ふん。やれば出来るんじゃない。なんで勿体ぶる必要があるのよ」

 

 

今の一撃を見たタツマキも素直に認めた。

自分を差し置いて、面識のある1位のブラストを差し置いて、S級6位のキングが人類最強などと呼ばれているその理由を。

 

 

「おい、キング。先生は――――」

 

 

そして、ジェノスはキングの力も色々と聞きたいし、参考にしたい気持ちもあるのだが、それらを押し退けて、最も気になる事、サイタマの事を聞こうとした。

 

 

「あ、ああ。大丈夫だよジェノス氏。サイタマ氏はあのエリアにはいなかった様だから」

「!!(触れるモノの餞別まで出来る……と言うのか? ただ破壊する、無に帰すだけでなく、精密さも兼ね備えている、と?)」

 

 

キングはそういうとゆっくりと降り、ドカッと座り込んだ。

そして、ドッドッドッドッ…… と再びキングエンジンが鳴り響く。

 

 

「凄い! キングさん! このまま、アレを打ち落としますか!?」

 

 

少年の様な目で……、いや、元々10歳の少年だが、歳相応な笑顔でキングに駆け寄った。

すると、キングは軽く首を振り。

 

 

「いや、これ以上俺から手を出す事はしない。……危なくならなければ、の話ではあるが」

「! ……因みに、その理由は?」

 

 

キングは童帝の方を見ずに、天を見据えて……自分が? 無にしたあの波動の軌跡を見上げながら続ける。

 

 

「少々疲れた、と言うのもあるがそれ以上に。―――俺には、この力がある。でも決して自分を万能だとは思っていない。俺が手の届かない範囲は、必ずある。だからこそ、ここからは皆を頼らせて貰いたい」

「……………」

 

 

キングの言葉を聞いて童帝は納得する。

キングのこの力であれば、本当に一瞬で全てを解決する事が可能だろう。

でも、彼が言う様に手の届く範囲では無敵で最強でも手の届かない範囲で何かが起きた時……必ず他のヒーローが必要になる。他の強さが必要になる。

キングと言う最強戦力に甘えるという結果にさせないためにも……、いや或いは問題児だらけでもあり、想像以上にプライドが高い他のS級ヒーローたちにも活躍の場を、経験の場を残しておいて、自分の高みへと昇って来られる様に、示しているのかもしれない。

 

 

「(やっぱり、キングさんは凄い……!)」

 

 

自分の中で自己完結した童帝。

キングは、そんな事は露知らず、ただただ身体全体から力を抜いていた。

 

 

 

『キングっ! ちょっと面白そうなのがいたから、出てくるね? こっちの方はよろしく! 格好良くキメといて!』

 

 

 

そう言葉を残して、全ての力の源であるヒカリは飛び去って行ってしまったから。

 

 

つまり、打ちたくてももう打てない。

敵がまだいるのなら早く安心したい。風呂入りたい。布団にもぐりたい。潜ってゲームしたい。

 

 

「他の雑魚が船から降りてるって情報もあるし。アレもどういう理屈か知らないけどまだ浮いてる。……暇だから出てくるわ」

「……俺も行こう。疼いてきた」

「まだ、残存しているあの機体に砲撃が通じるかどうか、新兵器を試したい。俺も行く」

「うおおおお! キングさんの圧倒的な力を前にして、筋肉たちが喜び、歓声を上げている! 俺も行くぞ!!」

 

 

キングの言葉に触発されたのか、皆は夫々戦地へと赴いて行った。

あの船から何かうようよと出てきているのも見える。暴れる場所はまだ残っている。

 

 

「ボクも行ってきます! 見ていてくださいね、キングさん!」

「え……? あ、ああ。うん。……ガンバッテ」

 

 

 

童帝を見送り……キングは、キングエンジンを鳴らしながら―――――死んだ魚の様な目で虚空を見つめ続けるのだった。。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

頂上大決戦っ!

 

 

 

 

 

 

―—侵入者に警告する――

 

 

―—即刻破壊行動をやめ、退去せよ――

 

 

―—警告する!! 退去せよ!! さもなくば全戦力を挙げ、お前を殺す!!——

 

 

 

 

「頭ん中に直接声が入ってくんのか? これ」

 

 

 

そんな警告がサイタマに向けられるが完全に暖簾に腕押し。

当の本人は耳を穿りながら歩いて先を進んでいる。それもある意味では仕方がない。何故なら、この声は()から聞こえてくる様に見えて、実は()に直接響いてくるモノだから。

 

耳が悪くなったか? と耳を穿り出したサイタマの行動もある意味では自然なのだ。

 

 

「つってもよぉ~。もう既に大分壊れてんじゃん。ヒカリのヤツが特大ビームかましやがったんだし。つか、オレまで巻き込むつもりだったんじゃねーだろーな? 後で文句言ってやる」

 

―—それとこれとは話が別だ!! これ以上壊すな踏み込むな! 殺すぞお前!!——

 

 

先へと進むのは止めない。

取り合えず攻撃するのは止めている。粗方倒したし、ヒカリの攻撃で半分以上が消し飛んでるし、それでも浮いている~と言う事はひょっとしたら、元々宙に浮く面白物質な感じもしてきた、と言うのがサイタマの弁。

 

 

「そもそも、帰れって言われても道に迷っちゃってさぁ? 何処向かってんの? って感じ」

 

―—嘘つけ!! 帰りたいのなら攻撃された部分から降りれば良いじゃないか!! どんだけの損害被ったと思ってんだ!!——

 

「自分らから攻めてきといて何? その言い分」

 

 

地球を滅ぼそうとしにきたのではないか?

サイタマはよく解ってないが、兎に角凄い占いばあちゃんが《ヤバい》と表現する存在なのではないか? 

と、色々とツッコミたかったサイタマだが、しなかった。何故なら、声が続いたからだ。

 

 

―—ああ、もう! 解った! ならばこうしよう! これからお前の事を誘導してやる! その言葉が真であるのなら聞くよな? 取り合えずあの攻撃の断面部分は全部オープンフリーになってる。その通路の右に曲がって階段をあがれ。最短で外に出れる。後は外の光が漏れてる部分を進めば苦も無くいけるだろう――

 

「なるほどなるほど―――じゃあ、左に進もうっと。へへへ……」

 

―—あ!! やっぱりか貴様!! この卑怯者!!——

 

「いきなり現れて攻撃してくんのって卑怯じゃねーの?」

 

―—う、うるさい! いや、ま、待て! わかった! わかったから。オレが悪かった! 謝る! 謝りますから先に進まないで~~~!!——

 

 

高圧的な声だったのに、最後は懇願へと変わってしまった。

それも仕方ない。

サイタマはずんずんと船の奥へ奥へと進んでいってしまってるから。

固く閉ざされた鋼鉄の扉、宇宙でも最硬度の鉱石を加工して作った扉など意にも返さない。

 

 

大きな大きな扉に向かって思いっきり振りかぶって~~~

 

 

 

 

 

―——あああああああああ! やめてえええぇぇぇぇぇ!!!―――

 

 

 

 

どかんっ! と扉は吹き飛んだ。

そこにあった筈のソレはもう既に瓦礫の山となってしまっていて、元が何だったのかが解らないありさまだ。

 

 

そしてサイタマが入った部屋は非常に広い部屋だった。

その中心には祭壇の様なモノが備わっており、そこには1人の男が佇んでいた。

 

 

「……ゲリュガンシュプ。オレはここへ招待しろ(・・・・・・・)、と言った筈だが?」

「!!! も、申し訳ありません、ボロス様っっ」

 

 

そして、まるでタコの様に軟体で無数の足? を持つ異星人もそこにいた。

どうやら声から察するに、サイタマの頭の中で語りかけていたのは、あのタコの様だ。

 

 

「……………」

 

 

ボロスはじっ……とサイタマを見た。

データ数値では計り知れない巨大なナニカをその身に感じられる。

身体自体はデータである通り、この星の住人の平均値程度。でも、内包するそれはこれまで見てきたどの存在よりもデカい……が。

 

 

「先ほどの光の正体は貴様ではないな?」

「あ? 光?」

 

 

エネルギー数値を計測する測定器の数値をまさかの《虚数》へと変えた存在ではない、と本能的に察知をした。

目の前の男は計り知れないエネルギーを持ち、それの底が見えないかもしれないが、それならばあくまでカンスト。計器では測り切れないから表示がカンストされるのが普通。

でも、あの一瞬は違ったのだ。

 

 

「オレが乗ってるっつーのに、ものの見事にすっ飛ばそうとしたのは、オレの連れでダチで暇つぶし相手だ。んで、てめぇがこのインベーダーの親玉か? 地球をヤバくしようとしてる、って聞いたぞ」

「ふふ、ふふふふ……そうか、そうか。成る程。オレはトンデモナイおもちゃ箱を開いた様だ。嬉しいよ」

 

 

生まれて初めて、勝敗の先の見えない勝負に赴くこの高揚感。

己が抑えきれなくなる。今直ぐにでも解放したい所ではある、が。

 

 

「ようこそ、我が船へ」

 

 

まずは客人を丁重にもてなす所からボロスは入った。

心行くまで堪能する為に。

 

 

「……ぼ、ボロス様。先制をうっても?」

「いらん。と言いたいが好きにしろ。……何をやってもお前では通じぬ」

「!!」

 

 

ゲリュガンシュプは、ボロスの命令に背き、侵入者が帰る様に促した。

心底恐怖をしたからだ。あの光で全てを消失された瞬間、測定器がカンストではなく虚数を示した瞬間、攻めている側の筈が、喰らおうとしている側が逆に捕食される側に、喰われる側に回ってしまったのではないか? と。

 

だが、それでもボロスは絶対。ボロスを超える者などこの世に存在しない。

そんなボロスに自分は認められ、最上位3戦士と言う地位に昇りつめたのだ。

ボロスは自分では無理だと言った。そこに悔しさがある訳ではない。この度の失態を愚行を返上する為にも、再びボロスに強き最上の戦士である事を認めてもらう為にも、ゲリュガンシュプは逃げの選択はとれない。

 

 

「……やらせてください」

「好きにしろ」

 

 

今一度、ボロスに了承を得て、その巨体はうねりながら前に出てきた。

周囲には先ほどサイタマが砕きいた扉の残骸、瓦礫の山がまるで竜巻で巻き上げられたかの様に、ゲリュガンシュプの周囲を舞っている。

 

 

「ん? なんだあれ? 瓦礫が飛んでる??」

 

 

サイタマは、変化が起きた事に対して興味津々に目を向けた。

明らかに舐められているのは解ったが、最初から初手から最大最高出力で応戦しなければならない、とゲリュガンシュプは思っている。

ボロスに認められている以上、先ほどの船での戦闘を見ている以上、明かな格上だから。

 

 

 

「貴様は宇宙一の念動力使い、このゲリュガンシュプが挽き肉n「あ~~、サイタマいた~~! みてくれた!? みてくれた!? 今のキングの必殺技の1つにしてるんだよ! 聞いてみたけど、なんだか見事にシンクロ出来てたみたいでさー!」―――――……」

 

 

 

決意をした筈だった。

もう後には引けぬ、命を賭けて主に対し忠を尽くし、そして認められる為に持てる全ての力を使うつもりだった。

 

なのに、何かが光った? かと思えば次はまるで電源を落としたかの様に目の前が真っ暗だった。

 

 

一体何が起きたのか解らぬまま、そもそも自分がどうなったのか解らぬまま、ゲリュガンシュプは消失した。

 

 

「見てくれた? じゃねーし。そもそも見れるかよ! 船ん中にいんだぞオレ。オレ事吹っ飛ばす気だったのかよ?」

「だって、しょーがないじゃん! 絶対カッコ良いって思ったし! あの場ではさ、ついでにタツマキちゃんにもキングを認めさせれる良い機会だ~って思ったんだ! まさにグッドタイミング! あ、そもそも当たっちゃってもサイタマだったら全然問題なかったでしょ?」

「問題あるわ。前は服が消し飛んだだろ! それに吹っ飛ばされて戻ってくるのも一苦労だったし。大体、見た目少女のヒカリが、野郎の裸見てなんとも思わんのか?」

「え~~、サイタマの裸? …………………ふっ」

「むっかーーー!! なんだその含み笑い!!」

 

 

ゲリュガンシュプが消失した原因。

それは勿論ながら突然割り込んできたヒカリのせいである。

 

サイタマの位置をさっきの攻撃で大体把握。光の粒子状になって文字通り光速移動で迫ってその威力を以てゲリュガンシュプの全てを、構成する素粒子の1つ1つを吹き飛ばしてしまったのだ。

ヒカリ自身も怪人(宇宙人?)を倒した、と言う認識はない。

 

よく移動すると同時に怪人を蹴散らす手段として用いていた移動法なので、ぶつかったら死ぬ、程度なのだ。つまりそこらへんの有象無象程度にしか考えてなかったので、ある意味一大決心をしたゲリュガンシュプは憐れだ。

 

 

「……先ほどのエネルギー放出は、そっちの娘か?」

「ん?」

 

 

完全に無視されてた形にはなるが、ボロスは別に気にする様子も怒る様子も一切見せず、ただ淡々とヒカリに聞いた。

ヒカリ自身も、何かいるな~~~程度にサイタマ目掛けて突っ込んできただけだったから、ここが所謂ボスステージ、ボスエリアだとは思ってなかった様子。

 

振り返ってみれば、おあつらえ向きな祭壇があってその上には明らかに雰囲気が違う一つ目の男が経ってて、祭壇のずっと上には輝く球体状の何かがあって――――。

 

 

「うっわぁぁぁぁぁ!! 私、めっちゃ良いタイミングだった!? ここ、ラスボスって感じがするしねっ!? 宇宙大戦争もエンディングが近いね!!」

「精々数十分程度なのに大戦争(・・・)か。あの会議から時間計ったら」

 

 

ヒカリ1人で盛り上がっただけじゃん、と言わんばかりのサイタマの無粋なツッコミにヒカリは頬を膨らませて抗議した。

 

敵地のど真ん中にやってきてあの振る舞い。遊んでいる様にしか見えない振る舞いを見て、ボロスはぶるりと身体を震わせる。

 

 

つまり、あの2人にとっては―――――――

 

 

「カァッ!!!」

 

 

「「!」」

 

 

 

ボロスは全身光らせたかと思えば、身に纏っていたモノ全てを吹き飛ばしていた。

見事な全裸、素っ裸。―――と言う訳ではなさそうだ。下半身はしっかり見えない様になっている。

 

 

 

 

「この鎧はもう要らんだろう。オレも自分のパワーを封じている場合では無くなった」

「―――そうか」

「ちょっと! もっとこう……台詞考えてよサイタマ!」

 

 

 

 

身の入ってないサイタマとは違い、ヒカリは目を輝かせている。

圧倒的な力で、全宇宙を蹂躙して回ったボロスの覇気を前に、解放した力を前にしても全くブレない。

 

 

「……本当に素晴らしいな! お前達」

 

 

そして、ボロスの口端も吊り上がる。

勝敗が見えない。寧ろ得体のしれない存在×2だ。負けだって十二分に有りえる。

それでも、この気持ちは抑えられない。

 

 

「戦う前に、お前達の名を聞いておこうか。……俺は暗黒盗賊団【ダークマター】の頭目であり、全宇宙の覇者、ボロスと言う者だ」

「わっ♪」

 

 

ダークマターきたーー! 全宇宙の覇者きたー!! と声を挙げそうだったが、ここはしっかりと我慢。真面目な場面なのだから燥いで白けてしまうのは無し。

 

 

「私は憧れて追い求めてヒーローになった! それで今は最強のヒーローのお供をするヒカリだっ!」

「やれやれ。こっちは趣味で……じゃなくて、プロのヒーローをやってるサイタマという者だ。んで、今からはオレのターン(・・・・・・)で良いな?」

 

 

ちらり、とヒカリに確認を取るとヒカリは ニコリと笑って親指と人差し指で〇を作る。

オッケー♪ の証だ。

恐らくだが、船をすっ飛ばした一撃と、キングで演じた最高にカッコイイ最強ヒーロー! が出来たので、粗方満足をしているのかもしれない。

 

 

「全宇宙の歯医者が地球になんの様だか知らないが、ヒーローとして任された以上、地球がヤバい元凶のお前らを逃がす訳にはいかねぇな」

「そうだな。何の用……か」

 

 

ボロスは懐かしむ様にゆっくりと呟く。

 

 

「予言があったのだ」

 

 

そして、その予言と言うワードに少しだけサイタマは反応した。シババワの予言でこの襲撃を察知する事が出来た。相手も予言頼りに地球へとやってきている。何か因果関係が――――?

 

 

「宇宙中を荒らしまわり、オレに刃向かう者も誰一人いなくなり、正直退屈していたんだ。そんな時に、ある占い師が言ったんだ。遠く離れたこの星に俺たち……いや、俺自身にとっての脅威(・・)が生まれると」

 

 

宇宙中を荒らしまわり、全てを平伏させたボルスにとって脅威とは一体なんだろうか。

銀河系と言う宇宙の端にある田舎と言っても差し支えない小さな所に一体何が脅威なのだろうか。

 

 

久方ぶりに湧き上がってくる興味、好奇心、それらをボロスは抑えきれなかった。

 

 

「それが約20年前だな。ここまでくるのに随分時間がかかったが……、間違いはない様だ。手下どもはあの予言はオレ達を一時的に遠ざける為のデマだったと思っていたが」

「つまり、ボロは綺麗な悪者で良いって事かな? 自分の星がピンチで移り住まなきゃ全滅なんだ~~うえぇぇん、みたいな訳アリボスじゃなくて?」

 

 

ヒカリはワクワク、と思わず聞いてしまった。

 

ここは黙して語らず、それでいて雰囲気に身を委ねるのが一番だと思っていたのに、やっぱり抑えきれなかった。

 

 

「悪者、か。どうだろうな。……俺は俺自身がしたいと思った事をしただけに過ぎぬ。成る程、奪い取ってきた者達にとっては俺は紛れもなく悪だと言えるだろう。まあ、そんな事はこの際どうでも良い」

 

 

途端に、一気にオーラを解放させた。

立ち上る全てを圧倒する強者……覇王のオーラを。

 

 

 

「さぁ、貴様らは間違いなくこの俺にとって脅威だ! 存分に楽しませてく――「もっと広いトコいこっ!」ゴベッ―――!?」

「あっ、ずりーな!? オレのターンだっつったろ!?」

 

 

サイタマが一気に接近して、《普通のパンチ》を繰り出すよりもほんの少しだけ早く、ヒカリの光による特大パンチをお見舞いしていた。

自分が知覚するよりも早く、何を受けたのか解らないが、圧倒的にデカいその拳をモロに受けて、吹き飛び、船の天井部を貫いて飛び出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今の、猛ル光ノ咆哮! って感じかな。それより外の方が広くて良いじゃん。こんな陰気な場所より、決戦はやっぱり満天の星空の下じゃないと!」

「……今昼下がりだろ」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

地上戦決着?

遅くなりました~~~~~~m(__)mm(__)m


 

―——いったい、なにがおきた?

 

 

ボロスは、力ある種族でありその中でも突出した力の持ち主であるからか、あまり知られてない事だが、その頭脳も見合っただけの性能を誇っている。

だが、今回のこの現象———それは一切思考回路が追い付かなかった。

 

ただ、思考を放棄し現在の状況だけをどうにか理解しようと試みた結果……宙を飛んでいる、と言う事だけは判明。そしてそれが功を成す事になる。

自分の現在の状況から導き出される結論に至るまでにそう時間がかからなかったからだ。

 

あの時、あの一瞬で臨戦態勢になった筈だった。例え相手が誰であったとしても、例えどの様な攻撃が来たとしても、例え何をして来ようとも対応できる筈、……筈だったんだ。

 

 

「ッッ!!!」

 

 

一気に意識を覚醒させると、ボロスは出力を地上に向けて全開にする。

後ほんの数秒、対応が遅れて居たら宇宙に放り出されていた可能性が有った。成層圏を抜けていたのだから当然だ。

闘いに来た筈なのに、闘いの「た」の字さえ行われず、まるで羽虫を追い払うが如くにこのまま、何も出来ず地球から追い出されると言う屈辱以外の何物でもない

 

 

自身を纏っていた鎧も見るも無残な姿。まさに粉々だ。でも、それは好都合とも言える。

ボロスが身に纏っている鎧、それは自分の身を護る為の鎧ではなく、己の力を抑える為のモノ。そうしなければ、戦闘した星が容易く砕け散ってしまう可能性があるからだ。

それでは楽しくない。だからこそ、自分の枷と言う意味でも鎧をまとっていたのだが……。

 

 

この相手には、自分の全てをぶつけなければ勝負にすらならない事を自覚した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお~~、なにあれ! キレイな……花火?」

「昼下がりなのにな。……ほっ」

 

 

ひょい、と宇宙船の外、天井部を抜けて外へと出てきた2人。

きょろきょろと見渡しても、宇宙の歯医者もボロも何処にもおらず少々焦った2人だったのだが、頭上で爆発? 花火? を見て取り合えず安心した。

特にサイタマは顕著にその様子が現れており、結構ヤル気になったのに何もせずに終わりとか……と半ばあきらめかけていたから。

 

 

空を見上げる限り、どうやらまだ終わりじゃなさそうだ。

 

 

待つ事数秒後———体中が真っ赤になったボロスが降りてくると、その額の大きな目がぎょろりと開き、サイタマとヒカリを見据えた。

 

 

「すまなかったな。全力で相手をするつもりだったが、どうやらまだ俺の心に贅肉がついてしまっていた様だ。これまでの戦闘が如何に楽しく無かったか、痛感させられる」

「おーおー、そんな負けそうなヤツが言うセリフ、とっとと止めてかかってこい。次、相手は俺だから。……お・れ! だからな!?」

「も~~、解ってるよぅ。そんな子供みたいにダタこねないでよぅ」

「子供っつったら、おめーの方もだろーがよ! オレだっつってたのに、横やりしただろーが!」

 

 

ずいっ! と前に出るサイタマ。

今の今までヒカリと横並びだったのがいけなかったのだ。速度の領域においてはヒカリが圧倒的に有利。結構本気出してしめてかからないと、最初から最後までヤられる。

 

だから、サイタマは念には念を入れたのである。

何せ、サイタマ自身もそれなりに期待している部分があったから。

 

 

いつもいつも、何だかんだ楽しめているヒカリとはやっぱり違う。ごっこ遊びで満足できる様な歳じゃない。頑丈なヤツと心行くまで殴りあえたら……と思う。

少なくとも、ヒカリの初撃を受けて尚立っている所を見ても、これまでのヤツらよりは強いと言えるだろうから。

 

 

「―――――」

 

 

ボロスは、明らかに侮られている事を実感していた。

こんな事未だ嘗て無かった事だ。

 

でも、不思議とそこまでの屈辱感は沸いてこない。未だかつてない巨大な強大な敵を前にして己が力を存分に振るえる事が出来て、ただただ歓喜している。

 

 

「ゆくぞ!!」

 

 

ゴッッ!!

 

とてつもない圧力と共に、怒髪天と言えば良いか、坊宇宙人と似たような逆立つ髪を靡かせながら、突っ込んできた。

サイタマもそれに呼応する形で応じる。

髪がふさふさしていて、バサバサ棚引いている所を見て………複雑な心境を覚えながらも、今は戦いをしてみたい、と言う欲求だけに従い、ボロスの嵐の様な圧力と暴風雨の様な手数の攻撃を真正面から受けたのだった。

 

 

「わー、キレイだね~~」

 

 

ヒカリは、ぽてっ、と船の瓦礫の1つに腰かけて見上げる。

サイタマは、その気になったら空だって飛べる。……勿論、羽根がある訳じゃないので毎回地面に戻ってくる感じではあるが、虚空を蹴る事でそれなりには空を移動できるのだ。

 

因みに、ヒカリが聖典(マンガ)で見た技術をサイタマにやってみて! と言ったのが切っ掛けである。光に成れるヒカリは空中移動はお手の物。サイタマとは一応同じ地平に立ってる存在である、と認識しているのでキングとはまた違う意味で一緒に居たい人物なのだ。

 

長らく一緒に居たからこそわかる。

 

 

「……うーん。やっぱしツマラナイのかなぁ? ん? およ?」

 

 

ボロスと何度も何度も打ちあっているサイタマを見てヒカリはそう零したその時、ヒカリのポケットの中のスマホが震えている事に漸く気付くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとキング! 私もそろそろ攻撃したいんだから、アンタのバリア外してよ!」

「……あー、うー、忘れていたな(ひ、ヒカリ氏ぃいぃぃ!!)」

 

 

外に出てきたは良い。

敵船の半分をすっ飛ばしたのも良い。

 

でも、ヒカリの気遣いか、やっぱりヒーローとして民間人への被害はゼロのままにしたい、という気持ちがあるのは間違いないので、船をすっ飛ばした後再び地上を攻撃されない様に、瓦礫の落下を防ぐ為に、またあの光で一面包んでしまっている。

 

それはキングの所作である事は皆理解しているので、別に問題はない。

敵もまだ数体下に降りてきているので、地上で戦ってるから全く問題ない。

 

ただ、唯一の例外がこの戦慄のタツマキである。

 

 

船から降りてきたのは最初のデカいヤツ以外はほぼ烏合の衆。

S級ヒーローの敵ではなく、童帝・クロビカリ・番犬マン・豚神・ゾンビマン・駆動騎士らで十分過ぎる。

サイタマもキングに見せられて、張り切ってねじり切ってしまったので、早速暇を持て余してる状況になっているのだ。

 

一応、船が半壊した弊害からか、あの船から怪人(宇宙人?)が落ちてきているので、敵がいない訳じゃないんだけど、思いっきりライバル視しているタツマキにとっては物足りなさすぎる。他のヒーローが打ち漏らしでもすれば、意気揚々とやらない事も無いのだが、この面子にそれは望めない。

 

 

と、色々あったのでキングはポケットに手を突っ込み(格好つけ)、指を高速でタップさせながら、器用にスマホを操作。ヒカリに何通もメッセージを送っているのだ。

 

【タツマキちゃんがバリア外せと言ってる!!】

 

何度も何度も送信しては送信して―――軈て返信がきたのが、スマホが震えた。

それを確認すると同時に、キングは《今気づきました!!》と言わんばかりに、ゆっくりとした所作でポケットからスマホを取り出し。

 

 

 

『おっけー! ちょっぴり暇な時間になっちゃったからさ? ほらほら、行くよキング!! 右手を掲げて、指を立てて~~』

 

 

 

と、お馴染みの演出をキングに示唆。

何通送ったか解らないが、漸くつながった事にキングは安堵。相変わらず死んだ魚の様な目は変えられないのだが、それでも眼には光が戻り、ヒカリの指示通りに指を立てて左右に振った。

 

 

 

 

「お!?」

「空が、覆ってた光が……!?」

 

 

 

戦っていたヒーローたちも、その変化に気付いたようで空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分余裕の様だな、貴様ら!! 状況が解ってないと見える! 今、たった今、1人殺した! 脆い脆い貴様らは一撃で即死だ!!」

 

 

同刻、キングやタツマキらから少々離れた場所にて。

シルバーファングを吹き飛ばした怪人メルザルガルドは調子を取り戻す……事は無いが、己を鼓舞する様に、或いは恐怖心を誤魔化す様に声を荒げた。

 

 

船を一瞬で半壊させた正体不明の攻撃について何も解っていない。急いで対策を、或いは他の仲間たち、ボスであるボロスと合流する事が何よりも先だった。

明かな自分達の劣勢を誤魔化したいが為の強がりだった。

 

でも、あの異常な攻撃以外であれば自分が本気で攻勢に出れば余裕と言うのは信じて疑っていない。

 

あの攻撃をする強大な相手が来る前に、全滅させて離脱する。

 

 

「さっさと船に戻らせてもらうぞ! 貴様ら如きにてこずる訳がないのだ! オレは守らずに攻める。それだけを意識して攻め込めば、早々に片付ける!」

 

 

そう言うと、右手を刃状に変形させ、残った左手でアトミック侍を指さす。

 

 

 

「とっとと始末させて貰おうか。まずは貴様からだ雑魚剣士」

「―――ふはっ。見え見えだぞ、貴様のその小根が」

 

 

 

アトミック侍愛用の長爪楊枝を思わず吹き出しそうになるのを堪えつつ、出来る範囲内で思いっきり笑う。

 

 

「貴様はこう考えてる。……あの攻撃だけはどうしても抗えない。お仲間たちの元に逃げなきゃならない。でも、悔しくて悔しくてたまらないからせめて一矢報いたい。……違うか?」

「あ゛あ゛!!?」

 

 

アトミック侍の指摘を受けて、残った最後の頭部が異常に歪みを見せる。

髪は無いが、怒髪天をついているのだと容易に想像が出来る風貌だった。

 

 

「脳の足りてない弱小種族が。何筋違いな事を妄想している! そもそも、一矢報いるだと!? 先ほどの爺は殺しておいた。これでもまだ足らんと言うのなら、貴様の頭蓋を砕いて、屍を此処に追加するのみよ!」

「へぇ――――、誰が誰を殺したって?」

 

 

アトミック侍の背後から歩いてくる人影があった。

それが一体誰なのか……、それは直ぐに判明する。アトミック侍がこれ見よがしに、身体を半身動かしてハッキリとメルザルガルドに見える様に位置調節をしたからだ。

 

 

「うぃ~~~~、まさかこの歳でワープを経験するとはのぉ……。年甲斐もなく燥ぎたい気分じゃわい」

「!!!」

 

 

そこに現れたのは……まさかのシルバーファング

 

 

「ば、バカな!! 生きて―――、いや、それよりも! 何故そっちにッッ!??」

 

 

反対方向に吹き飛ばした筈だった。

なのにも関わらず、あのアトミック侍の後ろから現れるなんて、普通に考えたらあり得ない。

 

ただ、シルバーファングは今ワープと言っていた。

そんな超高次元の技術がこの地球にあるとは思えないのだ。

 

 

「それにしてもまぁ、鈍っとるのぉ。年寄りを労わってくれとんのは有難い事じゃが、たまには全力で運動せんといかんな」

 

 

そして、それ以上に何故生きているのかもわからない。

手応えありの一撃だったのは、メルザルガルド自身が一番よく解っているからだ。

 

 

「おい、俺から視線を外してんじゃねぇよ」

 

 

シルバーファングの再登場に思わず固まってしまっていたメルザルガルド。

そんな攻撃してください、と言ってるも同然な状態で待ってやる程甘くはない。

 

何より、先ほどは盛大に笑ったが、ここまで侮られて侮辱された事を良しとしている訳でもない。

 

 

 

―——アトミック斬!!!

 

 

 

一瞬千斬。

アトミック侍の必殺技は、メルザルガルドを粉々に剣閃で切り刻んだ。

 

 

 

【生意気な、生意気な!!】

 

「普段は肉体のどこに心臓部があるか解らんように自由に移動させている。……で、肉体が復活する時は頭部から再生されて、その中心に心臓部がある」

 

 

シルバーファングは、再生されていく頭部へと一足飛びで到達すると抜き手を以てその頭部を穿った。

まだ、再生の途中だった為、非常に脆く用意に心臓部に到達し、その小さな球を引っこ抜いた。

 

 

 

 

 

「これだけ見せりゃ、猿でも要領を掴めるわい。ほい、王手じゃ」

『くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

 

 

 

 

 

握り潰されて、そのままメルザルガルドは消失した。

 

 

 

「アトミック侍よ。お前さん、よく解ったの? ワシが背後から出てくると」

「キングのあの光が視えた。シルバーファング、お前さんが受けた衝撃をあの光がいなしているのがな。目で追えば容易に解る」

「いや驚いたもんじゃよ。それに、こうも労わってくれるとはのぉ。後で礼をいっとかんと」

 

 

キングの光は、形を性質を自在に変える事が出来る様だとアトミック侍は認識した。

加えてあの破壊力。……地上最強の称号に相応しい人物だと改めて認識。

 

遠距離攻撃手段を持ってない訳ではないが……それでもあの域には到底及ばない。

 

 

「何れは、俺の剣撃もあの域に――――」

 

 

キングの攻撃を思い返して、アトミック侍は己の剣の束を強く握りしめるのだった。

 

 

 

「バングさん!!? 無事だったのですか!?!」

「おーう。ピンピンしとるぞい。一応強がっておくが、キングの守りが無くとも問題なかったわい。肩こりがとれたくらいじゃな」

「えええ!!」

 

 

シルバーファングが吹き飛ばされた瞬間を見て誰よりも心配し、誰よりも驚き、誰よりも戦慄していたイアイアンだった……が、ケロっとしてるシルバーファングを見て絶句。

 

A級とS級には、限りなく限りなく……いや、最早見えない程の大きな隔たりがある事を実感してしまう。

 

 

「イアイ。日々精進だ」

「ッ……は、はい!!」

 

 

そんな心情を察したのか、或いは偶然なのか、師であるアトミック侍はイアイアンに向かってそう告げる。そして、イアイアンもヒーローとして生きていくと、このアトミック侍の元で心身共に鍛えると決めた以上、後退の二文字は無い、と気を新たに持つのだった。

 

 

 

「これで勝利! と言いたいが、キングきゅんが吹っ飛ばした船の断片からワラワラと宇宙人共が落ちてくるな」

「こりゃ、掃除が面倒くさそうだ。頭数だけは多いぞ」

 

 

プリズナーと金属バッドも勝利の余韻に浸りたい気分ではあった。再生する厄介な怪人を倒し、これにて勝利! ……とはならないので、そんな気分は捨てる。

 

ヒカリのバリアが解除された事と、船が思いっきり傾いている状況もあって、空からどんどん新手が迫ってる状況(……ただただ落ちてきてるだけ?)を見て、改めて己の得物を構え、己の肉体に力を入れて、再び臨戦態勢になるのだった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

不器用なヒーロー

『俺の願いっつーか、俺の夢っつーか、念願っつーか……』

 

 

ヒカリは、頭上で繰り広げられる大スペクタクルな戦いを見上げながら、間違いなく過去一な怪人(宇宙人)と戦っている姿を見上げながら……以前サイタマが言っていた事も思い返していた。

 

 

『楽しい事最優先っつーんなら、ヒカリ(お前)の様な考え方でも十分だと思うんだけどなぁ。……やっぱ、俺の念願はこれ(・・)だよ』

 

 

そう言って、グッと拳を握りしめるサイタマ。

《手品でもするの?》 とヒカリがボケて見たら《違うわ!!》とツッコミ……等と茶々を入れながらも、サイタマはハッキリと言った。

 

 

『漢なら拳骨勝負だ。丈夫なヤツと全力で殴り合う。ピンチを、緊張感を、戦いの昂揚感を。それを求めてるんだ』

『じゃ、(キング)とやり合ってみる?』

『バカ言え。敵相手にヤれるから良いんだろうが。……男女関係ない。お前の事をどうしても敵には思えねぇよ。もう良い加減長い付き合いでもあるしな。……ったく、最初っから最後まで変なヤツだぜ、全く』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

単純な戦いであれば、紛れもなく、比べるまでもなく、サイタマに匹敵するのはこのキング(ヒカリ)だろう。

でも、それはただのじゃれ合いに過ぎない。仮に本気でやり合ったとしても、それはただの練習相手に過ぎない。

そもそも練習するまでもなく、身体を鍛えるまでもなく、相手は等しく塵芥なのだから。

 

 

「……ほんっと不器用なんだからサイタマは。でも、そこが良いんだけどね」

 

 

いつも気だるそうにしていて、感情が希薄になった、何も感じない! とか何とか言ってる癖に、実は子供の様に燥ぐ、拗ねる事だってあるのをヒカリは知っている。

でも、そのある意味苦しい部分がある事も知ってる。

 

その夢は遥か彼方。確かに念願はまだまだ叶わない、夢の果てにも無い可能性だってあるのかもしれない。

何故なら強くなり過ぎた為にだ。

それはヒカリ自身にも言える事。故に葛藤はヒカリにも解らなくもないのだ。

 

 

 

『うおおおおおおお!!!』

『よっ、ほっ、ほいっ、そいっと』

 

 

 

それでも、ほんの少しでも楽しめる様に。

ヒーローとして生きていく為に。

 

 

 

「ほらほら、やっちゃえ~~、そこだいけーー! ヒーローサイタマぁぁっ!」

 

 

ヒカリは惜しみない声援を送るのだった。

 

 

 

「ッ~~~!!」

 

 

 

ヒカリの声援。それは決して大きいモノではないが、それでもハッキリと聞こえてくる。

全ての能力がバケモノ染みているボロスにとっては、それくらいは造作もなく聞き分ける聴力を持っているからだ。

 

 

だが――――だが―――――。

 

 

 

「ここで応援かよ。……まぁ、横やりに比べたら大分マシ、ってか?」

 

 

 

何だかんだで何処か嬉しそうなサイタマも目に入る。

ボロスは自分が最強であると言う自覚があった。自他ともに最強である、と言われ恐れ続けてきた。

宇宙中を駆け巡っては破壊を尽くし、軈ては手古摺ると言う事自体に手古摺る毎日だった。

 

でも、今はどうだ?

 

相手の力の底が全く見えない。

自分を遥かに上回るバケモノ。それが2人も居る。

 

いや、そもそもバケモノと一言で片づけて良いモノではない。力だけでなく叡智も備えている筈のボロスが、全くと言って良い程、ピタリと当てはまる言葉が見つからなかった。

そして考えるのをもう止める。

 

 

「メテオリックバースト!!」

 

 

今自分に出来るのは己の限界以上の力で、これまで以上の力で、己が命を消費する最終奥義でぶつかるだけだ。

 

 

「!?」

 

 

突然早くなったボロスに少々面食らうのはサイタマ。

そして直線状、真っ直ぐ、ただただ真っ直ぐに飛び込んでくるそのボロスの拳をその身で受ける。

 

 

ゴバッッ!!

 

 

 

『ぎゃあああああああ!!』

『ぼ、ボロス様ぁぁぁぁぁ!!!』

 

 

 

最早動力コアだけで浮遊している船。

3割程しか残っていない船の上、上空とはいえボロスのMAXパワーで放つ拳の衝撃波は想像を絶する。

外に出る事を躊躇い、唯一中に残っていた船員たちが、あっという間に塵になって行く。悲鳴だけを残して、跡形もなく消え去って行く。

 

 

「おおっ! 今日1のでっかい花火だっ!」

 

 

ヒカリは、た~~まや~~~♪ と盛大な歓声を上げていた。

自分の身体が砕け散るその一瞬の間、走馬灯の様に凝縮された思考、視界の中でハッキリとそのヒカリの姿を見た宇宙人たちは、悲鳴を上げるのも忘れて呆然としていた。

 

まるで、子供の様に、燥ぐ子供の様に手を叩いて笑顔なヒカリの姿を見て何処か現実感が無かったのか……、ヒカリの姿を目撃した者達だけは、悲鳴も何もなく、ただただ消え去ったのだった。

 

 

「でも、下が気になるなぁ……。おばちゃんやおじちゃん達、皆が気になる……」

※主にスイーツ店の皆さん

 

 

キングに言われて、ヒカリのバリアを解除していたのだが……、この花火は余波だけで周囲を瓦礫の山にしてしまう程のモノ。そこにサイタマのパンチが合わさったら、もう質の悪い災害そのものになってしまうので。

 

 

「キングへ……っと」

 

 

ヒカリはスマホを取り出し、これからする事をキングに送信。

勿論、台詞もつけて送信。

 

 

宇宙船の真下の避難はもう済んでいる。

でも、半径1㎞程はやっぱり危険だし、広範囲で避難はまだ完了してないとの事なので、この船を中心に、筒状に、天井部は完全に開けて、ヒカリのバリアを。

 

 

「う~ん、技名何にしよう? 《星降ル光ノ空ニ》はちょっとなぁ……だって、空開けてるし」

 

 

サイタマとボロスが戦ってるので空にはバリアは張らない。何なら宇宙にまでいって戦ってほしいくらいに想ってるから、完全に開けている状態なのだ。

 

 

「趣向を変えて、フォースシールドっ! とか? いやいや、突然技名変えちゃうキングってのも微妙だよね……」

 

 

もうヒカリのバリアはとっくの昔に完成している。

でも、それは見えない様にしているバリア。キングの台詞が入って初めて光輝く様に……と設定している演出仕様だから、まだちょっぴり考える余裕があるのだ。

 

でも、タツマキ辺りにはバレちゃう可能性も否定できないので。

 

 

「《神々ノ黄昏!》で、ラグナロクだね!! でも、普通に日本語で呼んで……うん、これでいこうっ!」

 

 

 

シンギングタイムは終了。名前も決定し、キングへと改めて送信するのだった。

 

 

 

 

丁度、全ての内容を決定させて、キングがその指令? を目にした瞬間に、ボロスは最大威力の攻撃を放った。

 

単純な腕力だけでなくボロスの体内エネルギーの放出を推進力として更に威力を向上。凡そ、一般的な生物の限界を超えた速度から生み出されるパワー。

 

 

 

 

「砕け散れぇぇぇ!!」

 

 

 

 

それがサイタマの腹部を穿った。

衝撃波が貫通し、サイタマの背後を全て吹き飛ばしはじめる。

 

 

 

 

そして、その影響は眼下で戦い続けているヒーローたち・宇宙人たちにも当然伝わっていた。

ヒーローたちは驚愕し、宇宙人らは泣き叫んでいる。

 

 

「おおおおお!!??」

「なんだ!? 何事だ!!?」

「落ちる前兆……なのか!?」

 

 

「ぼ、ボロス様ぁァァ!!」

「やり過ぎ!! やり過ぎですぅぅぅぅ!!」

「船落ちる!! いや、そもそも逃げてきた俺たちまで消し飛んじゃうぅぅ!!」

 

 

最上位戦闘員であるメルザルガルドを葬った以上、ヒーローたちを脅かすレベルの宇宙人はおらず、ただのゴミ掃除レベルで戦っていたのだが……、まだまだ数だけは無数にいた宇宙人たちの絶叫を聞いて思わず頭上を見上げた。

 

 

「ボロス?」

「それが敵大将、親玉の名か」

 

「これほどの気を持つ敵がいる、って言うのか……?」

 

 

深くは考えていないプリズナーは敵を屠りながらも、その叫び声の内容を聞いて手を止める。金属バッドも同じく、この頭上の敵を夢想しながら空を見上げていた。

 

そんな中で、少々焦りを感じていたのはアトミック侍。

目を凝らし、その気の強さを肌で感じていたからだ。

 

最早見るまでもなく、感じるまでもなく、巨大な、強大な何かが船上で争っているのはヒシヒシと感じられていた。上空に居る以上、踏み込む事が出来ないので、地上でゴミ処理を行っていたのだが、ここまでの相手とは思いもしなかった様だ。

 

当初は今誰かが言っていた様にこの宇宙船の爆発の兆候、落ちる前兆、そこからくる未知のエネルギーの類が気の様に感じられるだけ、と思っていたのだが……。

 

 

「いや、マズイぞ! この勢いで未確認の敵に暴れられたら、折角キングさんが折角守ってくれた街が――――」

 

 

童帝が慌てて声を上げる―――が、それは無用な心配だったことに直ぐ気付く。

 

 

「……ふんっ。何よその程度、全部私に任せても良かったんだからね!」

 

 

勿論、タツマキもそれにいち早く気が付いた。

 

いつの間にか、空に向かって伸びる光の壁が周囲に出来上がっていたからだ。

 

そして、それをしたのは間違いなく………彼だ。

 

 

『民は、皆の背は護る。……前を向け、ヒーローたちよ』

 

 

そう言っている……様に思えた。

 

 

「(はぁ、はぁ、はぁ……し、しんどい。腕、上げ続けるの、しんどいぃぃ………)」

 

 

勿論当の本人は、そんな高尚な事を考えてる筈もなく、両手を上に広げ上げると言う動作をキープしてたら腕が痛くなってきて泣き言を心の中で漏らしていた。

外に出さなかった自分を思い切り褒めてあげたい! と多少の自画自賛あり。

 

技名から技動作までヒカリが指定していたから、それを実行したのである。直ぐに腕を降ろせば良かったんだけど、皆の視線、あまりにも熱い視線が嫌でも感じられるので、降ろすに降ろせなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふっ、ふっ、ふっ、……――――

 

 

荒く、短い息遣いが静かに木霊する。

全身全霊の一打だった。

サイタマは勿論、その背後の世界をも消し去る勢いで、この星をも打ち砕く勢いで入れた一撃だった。

 

なのに、これはどういう事だろうか?

 

 

「あーー、クソッ!! 服が破けたじゃねーか!!」

 

 

煙の向こう側から出てきた男、サイタマはまるでノーダメージ。

 

 

 

「ぬおおおおおおおおお!!」

 

 

それを見たボロスは再び体内のエネルギーを集める。

一瞬千撃をサイタマに見舞い続け―――。

 

 

「殺せぬと言うのなら、この星から―――――」

 

 

深く深く沈み込むと、再びサイタマの腹部目掛けて垂直に蹴り上げた。

凡そ、《蹴り》と言う足技が出せる衝撃音ではなく、これはまるでロケット発射だ!

 

 

「この星から追い出してやろう!!!」

 

 

ボロスの蹴りで、轟音と衝撃を纏ったサイタマは空高く高く上がり、軈て大気圏を突き抜けて地球外へと弾き飛ばされてしまった。

 

殺せないのであれば、星から追い出す。これはある種の最適解。

宇宙は果てがなく広大。宇宙から見れば、この地球など豆粒ほどの大きさも無い小さな小さな惑星なのだから。

 

そんな広大な宇宙に吹き飛ばしたともなれば、早々帰ってこられないのは間違いない。

普通に人間は酸素、空気が無ければ生きれない筈なのだが、ボロスの中ではサイタマが死ぬと言う結果はどうしても浮かばないが。

 

 

「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ……」

 

 

メテオリックバースト。

ボロス奥の手、最終形態は人間で言う無呼吸運動をし続けるに等しい行為。

つまり、相応の負担が身体に掛かると言う事。長くこの形態を保つ事即ち死を意味すると言っても過言ではない。

 

だが、今解く訳にはいかない。まだ、いるから。

 

 

「さぁ、次はキサマだ」

 

 

この状況に置いて尚、笑顔が絶えず、瓦礫の1つに腰を掛けて足をフラフラさせてる見た目幼い少女が居るから。

 

知覚するよりも早く、気付けば攻撃されていた。気付けば吹き飛ばされていた。

比べる事なんて、正直出来はしない。殆ど直感に等しいがボロスは事、スピードにおいてはあのサイタマを凌駕する程の力量を内包している、と判断している。

 

即ち、知覚する間もなく、気付けばこの命を奪われている、何て事だってありうると言う事だ。

 

 

「ん~~~~」

 

 

そんなヒカリはと言うと、少しだけ考える仕草をすると。にやり……と笑みを浮かべた。

その姿を見てボロスは身構える。

そして、耳を疑う言葉が届いてきた。

 

 

「ククク……、いい気になるのにはまだ早いんじゃないか? 何故ならヤツは四天王の中でも最弱……」

「!!!!」

 

 

ヒカリの口調が変わった。

更に言うなら、四天王と言う言葉も聞かされた。

 

こんなバケモノが4人……つまり、後3人も居ると言う事に驚きを隠せられない。更に、あのサイタマが4人の中で最弱と言う立位置だと。驚きを通り越して身体が凍り付きそうな感覚に見舞われたその時だ。

 

 

 

 

 

「だーーーーーーれーーーーーーーーがーーーーーーーーーーーー」

 

 

 

 

 

 

今し方、宇宙の彼方へと飛ばした筈の男が……。

 

 

 

 

「最弱だコラぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

この地球へと帰ってきたのだ。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決着

 

—――バカな……。

 

 

今のボロスの心情はその言葉に尽きる。

サイタマの強さは最早異常だったのだが、吹き飛ばし、戦線離脱させる事は十分出来ると踏んでいた。だからこそ、全身全霊を籠めた蹴りで地球外へと叩き出したと言うのに、あまりにも帰ってくるのが早過ぎる。

 

 

「あ、おかえり~~。思ったより帰ってくるのが早かったね?」

「おかえり~~! じゃねーわ! 誰が最弱だコラぁ!!」

「え? サイタマ知らないの? この有名なセリフ。一度言ってみたかったんだよね! まさにココッ! って場面が来ちゃったから使わない手は無いでしょ?」

「同意求められてもわかんねーし! そんなセリフ知らんわ!」

 

 

サイタマは確かに吹き飛ばされた。

当然、吹き飛ばず留まる事も出来たが、そのボロスの一撃がどれ程のモノか体感してみたかった、と言う好奇心がサイタマから一瞬だけ力を抜けさせ、受けたのだ。

 

結果、確かに大気圏を突き抜けて宇宙空間へと飛び出し、辿り着いた先はなんと《月》

 

 

 

 

—―地球は青かった……。

 

 

 

 

な~んてベタなセリフをサイタマが出す訳も無く、ただただ宇宙に驚き、そしてちょっぴり慌てて息を止めて、更に更にちょっとだけ戦いっぽくなった事に感動しつつ、月の重力から地球へと戻るだけの力をその足に力を込めたその時————確かに聞こえたのだ。

 

 

 

『ヤツは四天王の中でも最弱………ククク』

 

 

 

この声、サイタマが聴き間違える筈もない。

何故聞こえてきたのか? ……それは取り合えず横に置いとく。それよりもサイタマのハゲな頭に沢山の四つ角(ムカツキマーク)が出来て、血液が沸騰しそうになって、それが爆発力ともなっていた。

 

思い切り月を蹴っ飛ばして地球に戻ってきたのである。

 

人類が月まで行って還ってきた驚愕の事実!!! ……となる訳もなく、ヒカリ自身は『やっぱりね~~』と、サイタマが戻ってくる事を予想していた様で、ただただ笑っていた。

 

 

後に天文学者たちが観測した月に出来た新たな巨大なクレータ。

原因不明と言われていたが、それは《キング》の仕業である、と何故か周知されたらしい。当人は、ただ元●玉? の様に空に手を掲げていただけだと言うのに、また新たに伝説の1ページとして語り継がれる事となる。

 

その一節に掛かれたのは月の事件。何でも、月をサンドバッグにしたとか何とか……。

 

 

閑話休題。

 

 

 

「それでサイタマ。私と交代する?? 疲れちゃった??」

「しねーわ! 疲れてねーわ! ちょっぴりでも楽しくなってきたってのに、誰が譲るか!」

「え~~、残念! ……あ、ちょっと待って! 待って待って! サイタマそれって月の石じゃん」

「へ?」

 

 

ポロッ、とサイタマの破れた服の中からポロッと落ちてきたのは小石程度の大きさの石。

 

 

「んんん? ああ成る程。さっきのヤツか。一緒にくっついて来てたみたいだな。……あれ? 月の石って確かスゲー高いんじゃなかったっけ!?」

「うん! 高額だよ~! 何なら私のお小遣いになってるし」

「なにーーー!! 初耳だぞそれ!!?」

「にひひっ」

 

 

サイタマは驚きつつも合点が言った。

何せヒカリと言えば最新型のゲームやら各所美味いモノ巡りやら、そのお土産やらで、何気に小金持ちだと思っていた。別にお土産くれるから追及みたいなのはしてなかったが………、どうやらそれなりに所ではなく、相当金持ちなのでは? とサイタマが目を爛々と輝かせたその時だ。

 

 

 

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 

 

全力。まだまだ絶対に自分の中にある筈の力の全て。100%中の100%を意識してボロスは駆けた。空気の摩擦によりボロスの身体は発火する勢いで輝きだし、雨霰の連撃がサイタマの身体を捕らえる。

当然サイタマはそれに反応し軽く防御体勢。

ヒカリも自分に攻撃が来ないのを解っていた様で回避行動等はせず、ただただ間近で観戦。『お~~~』と歓声を上げた。

 

 

「あああああああああ!!」

 

 

折角手に入れた月の石。折角の大金が粉微塵になってしまってサイタマは激昂。

 

よくも俺の金を!! と、右ストレートをカウンター気味にボロスの腹部に打ち込んだ。

 

ドンッ!!

 

それはとてつもない衝撃と轟音。

この世のモノとは思えない威力をボロスは体感。

そこにあるべき筈の自分の肉が、腹部が拳大に陥没し、貫いていた。ほんの少し、防御をして身体を固めていたら爆散していた事だろう。

 

それでも自分の身体は強靭な筈。

その堅牢な肉体がまるで紙切れの様に飛ばされる。……だからこそ遣り甲斐があると言うモノなのだ。

 

 

「ぐっ、がッッ!! そうだ!! それだサイタマ!! 小賢しい真似をするのではなく、正面から真っ向勝負!! それで良かったの———「連続普通のパンチ」!!!!」

 

 

正直サイタマは驚いた。自分のパンチを受けてワンパンにならなかった事実に。

その事実だけで、先ほどの月の石の件はチャラ………にはならないかもしれないが、忘れる事が出来そうだ。

 

だから、悪役が言いそうなセリフはもう良いから戦いの続きをしよう、とサイタマは更に接近。

ヤル気を少しだけ出して、連続して普通のパンチをボロスに浴びせる。音を殆ど置き去りにし、ボロスの身体を粉々にしていくと言う結果だけが残っていく。

軈て、音も追いつく事が出来たのか。

 

 

ドパンッ!!

 

 

と、まるで花火の様に連続攻撃な筈なのに1回だけ鳴り響いた。

一撃一撃が山を粉砕し、地球を割るくらいの威力はありそうなサイタマのパンチの連撃。

これまで出会ってきた怪人は例外なく全てワンパンで弾け飛ぶ威力のパンチの連撃。

先ほどでもある通り、そんなものを受けたボロスの身体は、原型をとどめる事が出来る訳もなく、身体は粉々になった———のだが。

 

 

「……ッッ!! オ゛オ゛ッッ!!」

 

 

ボロスは気合一閃。

粉々になったボロスの何処に考える機能、脳の前頭前野が残っていたと言うのだろうか……或いは細胞の1つ1つ全てが生きているとでもいうのだろうか、瞬時に爆発的に快復力を高めて復元。

 

まさに再生できるタイプの怪人。あそこまで完膚なきまでに破壊され散らばった肉片たちが集まって再びボロスの身体を創り上げてしまった。

 

 

 

「―――ならば、このボロス、生存を度外視した最後の一撃を見舞ってやろう!!」

 

 

 

ボロスは宙に浮くと、その一つ目の瞳を見開き、身体中からエネルギーを集中させた。

 

 

 

「オレの生命エネルギーの全てを、何もかもをエネルギーへと変え、貴様らもろともこの星を消し飛ばしてくれる!!」

「!」

「えーーっ! それは駄目だって。地上(こっち)向けてないで、サイタマの方目掛けて撃ってよ。掠っちゃっただけでも地球が大変だよ」

 

 

この戦いで初めて、ヒカリの声色が変化した事にボロスはニヤリと笑う。

 

 

 

「貴様らはヒーローだったな!? なら、護ってみせろ!! この星をぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 

ボロスのエネルギーの迸り。

それは自らの船からも吸収しているかの様に各部位が連動して光輝き、船が再び大きく傾いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鬱陶しいわね。落ちるならとっとと落ちなさい!」

 

 

 

その眼下では、もう殆ど討伐して死屍累々となった宇宙人らの残骸の上で、タツマキが岩盤を抉り上げて投擲攻撃を開始していた。

 

 

「た、タツマキちゃん。街壊しちゃ駄目だって」

「ちょっとくらい壊れても、また直せば良いでしょ。それくらい直してあげるわ」

 

 

地面を掘り上げ、岩盤やら建物の残骸やら、宇宙船そのものの残骸やらを思い切り下から砲撃する様に叩き上げる。

 

上ではボロスのエネルギーの奔流が、下ではタツマキの容赦ない物理攻撃が、最早何で船が空に浮いていられるか、下では解らない程だ。

 

 

「キングさんが居てくれて、本当に助かりました……。あの規模を護るなんて芸当、一体誰が出来るのでしょうか」

「………だな(そりゃそうだ。キングが居なけりゃ、このA市は……、いや、街そのものが瓦礫の山だった。……俺は剣閃が届く範囲内でしか守れん。その名に偽りなし、か)」

 

 

イアイアンの言葉を聞きき、軽く笑うアトミック侍。

高度がある為効果は薄いと解っていても、もう宇宙人らは一掃してやる事が無くなっていたので、遠距離攻撃の飛空剣で攻撃をしつつ……感じていた。

エネルギーの規模がどんどん膨れ上がっていくのを感じる。

 

それでも、キングが展開している光の壁は突破出来ていない。アレが無ければ間違いなく衝撃波は、そこに居る全てを薙ぎ倒していくだろう。

 

剣士とはまた違う力。

人類最強の名に全く恥じない男の姿を目に焼き付け、そしてそれをも超える剣を身に着けてみせる、と気を新たにするのだった。

 

 

「エスパーのガキとキングが揃えりゃ、落とす事は出来そうだが……、宇宙船(あれ)、何処に落としたら良いんだ?」

「確かにのぉ……、半分以上が消失したとはいえ、あの巨体じゃ。A市の被害もバカにならんな。ただでさえ小規模の破片が隕石の様に落下しとると言うのに」

 

 

金属バッド、そしてシルバーファングは頭上を見上げながらそう呟く。後始末はどうするんだ? と。キングのあの消失ビームをもう何発か打てば大丈夫な気もするが……、それを全て頼ると言うのは同じヒーローとして立つ瀬がない。

 

因みにここまで明言していなかったが、如何にキングの守りでも、如何にタツマキの超能力をもってしても、破片1つ残さずに地上を守るのは正直難しい。雑魚とはいえ敵も無数におり、メルザルガルドの様な強敵が混ざってないとも限らない。守りだけに集中するのは寧ろ危険なのだ。

 

まぁ、タツマキはそんな事を言ったら鬼の様に起こって『出来るわよ!!』と言ってきそうだが、実際建物は壊れてるので仕方ない。

 

キングの守りに関しては、主にスイーツ店の付近を重点的に護っているから、正直どうでも良いヒーロー協会のお偉方ら(ムカつくタイプ)が住んでる付近、変なおっさん(汚職政治屋など)らの無駄にデカく、場所を占めている場所らへんは、ヤル気のない護り方をしてるので、その辺の被害が大きかったりするのは別な話。

 

この規模の災害がA市に来るのは初の事であり、巨大で強大な宇宙船は皆が目視しており、権力を持つ者から一斉に避難をし始めているので、人的被害は0だ。文句は言わせないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、さぁさぁ!! 貴様らの肉体は耐えられるか!? このボロスの生存を計算から排除した、死を覚悟した最後の一撃を!!」

 

「「………………」」

 

 

向き合う両雄。

ごくりっ、と唾を飲みこむ音が聞こえてきそうな気がする。

船が揺れ、大地が揺れ、空気も揺れ始める。

 

これまでで最高の最強のエネルギーがボロスに集中していく。

そして、恒星の輝きと見紛う程の光が迸ったその時。

 

 

 

「崩星咆哮砲!!!」

 

 

 

星を崩す咆哮。

特大ビームとなってサイタマとヒカリの元へと打ち放たれた。

 

普通であれば(・・・・・・)、それは絶対なる死を連想させられるだろうその攻撃を前にした2人はと言うと。

 

「じゃあ、こっちも切り札だすか。オレの番だぞ?」

「良いよ~。よく我慢(・・)したね?」

「……まぁ、危うかったけど」

 

 

悠長に会話をしていた。

全てを吹き飛ばすつもりで放ったボロス。全神経を攻撃の1点に集中させていた為、2人の会話や様子は完全に意識の外だった。

 

ただ、この一撃で、命の一撃で全てを終わらせる。それだけを考えていて————。

 

 

 

「んじゃ、こっちも切り札見せるぜ。必殺《元祖》マジシリーズ」

 

 

 

《必殺マジシリーズ マジ●●》。

それは、ヒカリよりも先にサイタマが命名したモノ。

最初にキングから放たれた《|轟キ渡ル破壊ノ輝キ(マジ・レーザー)》があったから、二番煎じに思われてしまう……と思ったのはサイタマ。《元祖》の部分を強調しつつ、固く握り込まれた拳を突き出す。

 

 

 

 

「マジ殴り」

 

 

 

 

 

ボロスの最後の命の輝きの様なビームは、サイタマのマジな拳によって左右に割れた。

それだけじゃなく、空が割れた。雲を吹き飛ばし、たまたま空を飛んでいた飛行型の怪人(災害レベル竜クラス)も一瞬で消し飛ばし、……全世界規模でサイタマが放ったパンチの軌道上には何も残らなかった。

 

パンチの軌道上に人間の乗る飛行機や戦闘機の類が無くて良かったね、と言いたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボロスの船は今こそ完全に破壊された。

あまりの衝撃により、動力源であるコアが粉砕される。幾重に守られていたコア、最高硬度の守りに囲まれていた船のコアだったが……流石にサイタマの一撃を防げる訳もなく、直接狙った訳でもないのに、その余波だけで破壊されてしまったのだ。

 

 

 

 

「――――俺は、敗れた、のか……」

 

 

 

 

普段なら跡形もなく消滅していた筈のサイタマのパンチを喰らっても尚、意識があるボロスに驚きを隠せれない。

 

 

「悪の親玉の意地、だね。こんなの初めてだ。……うん、素直にビックリ。凄く強かったよ、ボロ」

 

 

楽しそうに、傍から見れば茶化している様にしか見えなかったヒカリの言動や行動だったが、今回に関しては心の底からの賛辞である、とボロスは何処か理解していた様でわずかに動く口を少し動かして、口角を吊り上げる。

 

 

「そうだな。アレ受けてまだ意識あるとか。やっぱ強ぇーよお前。過去一だ」

 

 

サイタマからも賛辞の言葉を残す———が、ボロスは一笑に伏した。

 

 

 

「多少、楽しませた程度……か。まさに、大道芸のような、もの、だった……か。………俺とは、戦いにすら、……なって、なかった……。最弱の、きさまでも、まったく歯が立たなかった……ふふふっ」

「オイコラ! 誰が最弱だ!!」

 

 

抗議するサイタマ。解ってなかったのか、と怒気を込めるが……ボロスには最早届いていない。もう耳が聞こえてない様子だった。

ただ、一方的にボロスは続けた。

 

 

「どうやら……、予言、など。アテにはならん、ようだ。………おまえは、おまえたちは、強過ぎた………」

 

 

 

 

その言葉を最後に、ボロスの意識は完全消失した。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

後始末

 

「うーん、サイタマのせいでこの船、浮かんでられなくなったみたいだよ? 落ちてってる」

「いやいや、絶対半分以上はお前のせいだろ?? 船の半分消し飛ばした張本人なんだからよ。オレは表面すっ飛ばしただけだし」

「ブーっ、ダメでーす! だって私の時はちゃんと浮いてたもん。絶対サイタマのマジ殴りの衝撃波が、きっとエネルギーコア!! みたいなの壊しちゃったんだよ。私のマジレーザー関係ないですっ。トドメはサイタマなのっ」

「ぐぬぬぬ」

 

 

ボロスをやっつけたまでは良い。

でも、ボロスが死んだからなのか、或いはサイタマのマジ殴りの余波のせいか、明らかに浮遊力を失っているのが分かる。と言うより絶賛落下中。このままじゃ、折角守った街に被害が出てしまうだろう。

 

 

「んじゃ、全部消し飛ばしちゃえば良いじゃん? オレ、キレイに消し飛ばすなんてできねーし。残骸残って壊しちまうし」

「ほっほ~~、隕石やでっかい巨人の時の事覚えてたんだね~? 学習した??」

「うっせっ!」

 

 

迫りくる隕石を殴り飛ばした。

雲を突き抜け、天にまで迫る巨大な怪人を殴り飛ばした。

 

結果どうなったか?

 

隕石衝突(メテオインパクト)!! は回避できたものの、破片が散らばった隕石流星群(メテオリックシャワー)!! は防ぐ事が出来ず、街を襲う……筈だった。

巨人に関しては殴り倒すまでは良かったが、倒れる先にある街まで考慮せずB市を押しつぶしてしまう……筈だった。

 

そこへやってきたのが、我らがヒカリちゃんなのだ。

 

キングとヒカリは、サイタマがやらかす破壊を食い止め、平和を築き上げたのであるっ!

 

「おいコラ。何処向いて誰に説明してんだよ。コッチ向け」

 

ナレーション的な解説パターンに入ろうとしてるヒカリに対して、サイタマはその視界の中に強引に入ってきた。

 

 

「あー……、まぁ、そうだよ。お前のおかげだよ。オレだって学習出来てるし、それなりにつまらなくない日常を過ごせてんのもお前のおかげだ」

「およ? どしたのサイタマ。変なモノでも食べた?」

「……情緒ってもんがねーな、お前はよ。まぁ、それもいつも通りと言えばそうか」

 

 

全力で、思いっきり拳骨をぶつけ合える敵。

思う存分拳を振るい、己の命を賭して、全てを賭して戦えるそんな相手。

叶わないが為に、それを夢と言う。

 

でも、サイタマはある種満足は出来ている。

 

ヒカリと言う同等とも思える相手が出来た。

別の意味で、圧倒されるキングと言う知り合いも出来た。

何なら、ジェノスと言う弟子だって出来た。

 

ヒーローを目指すと決めたタイミングで出会った、この奇妙な少女が居なければ、辿り着かなかったかもしれない。

或いは、もっともっとつまらない日常だったかもしれない。

 

だからこそ、サイタマは感謝をそれとなく伝えたのだが………。

 

 

「あっ、解った! さっき月の石粉砕しちゃったからでしょ?? 私に取ってきて~~って? へへーん、ダメだもんね~~! ヒーローは餓えてるくらいが丁度良い、でしょ~~」

「―――――――」

 

 

早速前言撤回どころか、思考撤回もしたくなるサイタマだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ————」

ドッドッドッドッドッ!!!

 

 

腕を上げ続けるのも結構な労力。かなりしんどい。

一般人に毛が生えた程度の身体能力であるキングにとってすれば尚更だ。

でも、どのタイミングで降ろせば良いのかわからず、終わりの見えない状況もかなりしんどい。

更に言えば、あの宇宙船が落ちてきているのが分かる。

でも、周りは自分が止めてくれる、と期待に満ちた目を向けている(主に童帝のみ)

腕は痛いし、まさかまさか……サイタマやヒカリに何かあったのでは!? と気が気じゃないし、色々ともう無理! となりそうだったその時、救いの手―――スマホが振動したのだ。

 

それは正しく光! 救いの女神!

ヒカリ氏~~と、その名を何度キングの脳内で呼び続けたか解らなかった。手を挙げて———

 

 

「ゑ?」

 

 

文面を見て、感動の涙も一瞬で引っ込んだ。

 

 

 

 

 

『ヒーロー協会本部周辺の高級住宅街って、ぜ~~んぶエラソーな大人の家だったデショ? 確か。そこに宇宙船堕とすから、それっぽいセリフ宜しく!!』

「!!!!????」

 

 

 

 

 

 

人類の守護者、不滅にして最強のヒーローの一角ともあろうお方のメッセージとは到底思えず。

 

 

「……あ、あれ? キングさん。あの宇宙船はそのまま消し飛ばすのでは……?」

 

 

童帝も落下軌道が気になったのか、キングに聞いていた。

彼も、あの特大砲撃(煉獄キング砲撃(童帝:命名))を再び空に打ち上げて、塵芥、粉微塵にして被害を最小限度に留めるものだと思っていたのだが………。

 

 

「―――――――――」

 

 

キングは、死んだ魚の様な目をした。

それがいつもの標準装備だったな……と何処か現実逃避をしつつ、童帝の方をくるりと向き直して、ニヤッ、と笑った。

 

 

 

 

「――――手が、滑った」

「はい? ……はぃぃぃぃ!!??」

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ————―

ドッドッドッドッドッ—————

 

 

 

地上に災害が堕ちてくる。

まるで、狙い定めたかの様に………、主に汚職関係で目立ってそうな、それでいて偉そうで色んな所から金巻き上げて私腹を肥やしてそうな。

 

因みに、これらは別に裏を取った訳ではない。殆ど感覚、直感に似た様なモノ。

でも、ヒカリのその感覚は実に鋭く、実に正確。

ここら一帯を買い占めている重鎮たちのその懐は全部そう言う類のモノ。日々命がけで戦ってるヒーローたちに胡坐をかき、甘い蜜だけを吸い続けている様な人種。

 

 

 

『モニターの故障(原因不明)、直りました!! 周辺の映像を映し出します』

 

 

偶然なのか、或いはここまで計算づくなのか……、メタルナイト製の耐衝撃監視カメラがつい先ほどまで視聴不能になっていたが、復旧出来た。

キングが居れば大丈夫。あの巨大で強大な戦力を囲っている以上、何も問題ない……とこれまた胡坐をかき、優雅に葉巻を吹かしている様な連中がニヤニヤと笑っていた。

宇宙からやってきた大災害を、その侵攻を阻止したともなれば、更に盤石となり、更なる巨万の富を—――――と思ってみたらの衝撃映像。

 

 

 

 

『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ァァァァァァァ!!?』

 

 

 

 

それなりに……いやいや、家くらい沢山持ってそうだろ? って感じの重鎮たちは、目玉が飛び出るのでは? と思えるくらいに目を見開き、あんぐりと口を開けて叫んだ。

 

ここはヒーロー協会本部。

揃えているのは最新にして最高額のモノばかりで、自分達だけでなく愛人の愛人の妾の……と、数え出したらキリがないくらいの美女たちの住処も容易している。その他、娯楽施設も全て自分ら負担で立てた。

 

 

それらが全部真っ黒に塗りつぶされて—―――――潰れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや? A市の一部が何故こんな事に? 今日はS級集会があったんじゃないのか」

 

 

 

そして、遅れて現れるのはA級1位ヒーロー イケメン仮面アマイマスク。

 

 

「いきなり宇宙船堕ちてくるから何がどーしたんだ? って思ったら見事に潰れたな。この辺」

「一般人たちに被害がゼロなのがせめてもの救いですよ。……キングさん? 手が滑ったってホントですか?」

「…………ほんと、だ」

「だらしないわね! あ~あ。私が全部やってたら良かったわ! ……まぁ、何故だかスッキリした気分ではあるけど」

「師匠、この辺りの調査は済ませてあります。童帝が言う様に人的被害はゼロです」

「だな。……後はたんまり溜め込んでそうな上の連中が何とかするだろ。アレほどの規模の災害だ。安いモノだと納得してもらう他ない」

「男子たちに被害無く感無量だ! 流石はキングきゅん! これぞ完全勝利!」

「ふぃ~~、腰が痛いわい。……それにしても、ものの見事にピンポイントで押しつぶしたのぉ~。……のぉ? キング」

「…………何の事か、解らないな」

「ほほほほ。そう言う事にしとくわい」

 

 

アマイマスクが見下ろした先には、数人のS級ヒーローたちがいた。

 

 

「ほう……、この状況の説明はキング。キミがしてくれる、と解釈をして良いと言う事だな?」

 

 

ここで、S級ヒーローたちもアマイマスクが居る事に気付いた様だ。

見上げてその姿を確認し……少々怪訝な顔をする。

 

「イケメン仮面アマイマスクか。てめー、どっから沸いて出やがったんだ?」

「別にキミに話しかけた訳じゃない。少し黙っていたまえ、金属バッドくん」

「あ?」

 

高圧的で、高い所から見下ろしてる様な……、いや、実際見下ろされてるがそう言う類を極度に嫌う金属バッドは青筋を立てながら肩にバンッ! とバッドを当てて眼光を飛ばした。

 

 

「あ……(この人、ニガテなんだよなぁ……、まだ全然固まってないのにぃ……)」

 

 

キングエンジンこそどうにか鳴りやます事が出来たが………上手い設定は固まってないのが現状。その上、メディア等にも精通し小言やら注文やらも多いアマイマスクの登場。

このアマイマスク、アトミック侍とはまた違った種類でニガテなのだ。

 

 

「説明も何も見りゃ解んだろうが。でけぇ乗り物に乗ったバケモンが砲撃かましながら攻めてきた。キングがぶっ飛ばして突き落として決着だ」

「市の一角とはいえ、ここら周辺は壊滅的な被害だ。これで勝利だと手放しで喜べるのかい? キミの残念な頭の中では」

「オイオイ。ケンカうってんのか? テメーはよ。この場に間に合わなかった分際で偉そうに」

「ああ。僕は近くでドラマ撮影があって、轟音と衝撃があったので駆けつけてきた。確かに間に合わなかったさ。……だが、本来A市で集会があり、この場に集まっていたのはキミ達S級ヒーローだろ? 現場にいた挙句にこのザマ。手放しで喜べる精神が理解できないと言ってるんだよ」

 

 

キングはどう言おうか~~と表情こそ変えずに考え込んでいると、アトミック侍が一歩前に出た。

 

 

「オレ達は全員本部建物内で会議中だった。キングの超感覚で敵の接近、殺気に気付いてA市の大部分は守護出来た—――が、流石にあの規模のデカさだ。寧ろこの程度で済んで御の字だろ」

「ほう? だからどうした? メディアからお咎めなしにしてくれと? ここ周辺はヒーロー協会関係者たちだけじゃなく、多数の政界の重鎮らも居住区としている。それらが根こそぎ潰れている。御の字で済ませるには中々難しいんじゃないかい?」

 

 

ここで、プリズナーも前に出る。

 

 

「世間に何か言いふらすつもりか? 宇宙船の襲撃は大々的にニュースで報道されている。人的災害は童帝きゅんやイアイちゃんの言う通りゼロ。これ以上ない最善を尽くした。あなた……どっちの味方なんだ!」

「ああ、それは決まってるだろう? 僕は正義の味方だ。一応、曲がりなりにも協会の正義の象徴の一翼であるのがキミらS級ヒーローの筈だろ。それがこの程度で満足、この体たらく……正直困るんだよ。そもそも話を聞けば大体がキングが守ったと言うじゃないか。役に立たないなら自主的に引退したまえ」

 

 

ずげずげ、と遅れてきたヒーロー。何もしてないヒーローにここまで言われて黙ってられる程気は長くないのが金属バッド。

相手は素手だ。バッドと言う凶器は取り合えず捨てて、迫る。

 

 

「オイ……黙って聞いてりゃ調子こきやがって」

「君がいつ黙ってたと言うんだい? 金属バッドくん」

「うっせー。調子こいてんじゃねーぞコラ。アイドルだか何だか知らねーが関係ねぇ。ぶっ飛ばすぞコラ」

「ふ……、残念なキミの頭では解ってない様だね。僕がなぜS級に上がってないかが。キミの様な弱くて何の取り柄もない《雑魚》をS級にさせない為に、A級1位を護っているのさ」

「(……このまま、空気で行けるかなぁ……………)」

 

 

まさに一触即発。

殺気が交錯し、今にも手が出そうなその時だった。

 

 

ドギャァッッ!!

 

 

空から何かが堕ちてきた。

新たな宇宙船の残骸か? と思いきやそうではないらしい。

 

 

「君は……メタルナイト!? 集会があったと言うのに、今更きたのか。全く呆れ果てるな」

「(! ……形状から察するに5割強は吹き飛んでいる様だが、恐らく主要部分はほぼ残っている)スバラシイ」

 

 

アマイマスク等眼中に無く、ただただ宇宙船に釘付けになってるメタルナイト。

そんなメタルナイトに声をかけるのはジェノス。

 

 

「メタルナイト! 何の用があってここへ来た? 招集命令を拒否し、戦いが終わった後にやってくる理由はなんだ?」

 

 

ジェノスの疑問。

それは、つい今し方……戦いの終結直後に駆動騎士に言われた言葉に起因する。

彼はもうこの場には居ないが確かに言った。

 

 

【メタルナイトはお前の敵だ】

 

 

そう言っていた。

そしてジェノスが追いかけている仇もロボット。メタルナイトともしかしたら関係性が……? と疑っている。確たる証拠がない為、安易に手は出せないが。

 

 

「……成る程。宇宙船の残骸を回収に来たのか? 未知の科学を取り入れ、より強力な兵器を作り出す為に?」

「ワカリキッタコトジャナイカ。コノUFOハ カイシュウサセテモラウ。ヘイワノタメニ、キョウリョクナ、ヘイキガヒツヨウ、ダカラナ」

 

 

アマイマスクを無視する形となったが、別に気にしてない様だ。

金属バッドの様に過剰に絡む事はしない……が、逐一癪に障る物言いをする。

 

 

「強力な兵器があってもこのありさまでは持ち腐れだがな」

「オイコラてめー。後で相手してやる。覚悟しろよ」

 

 

 

そんな時だった。

 

周辺を見渡していた内の1人であるクロビカリが声を上げたのは。

 

 

 

「おおおい! 宇宙人の生き残りがいるぞ!」

 

 

 

そして、アマイマスクは目の色を変えた————。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃のサイタマとヒカリはと言うと……。

 

 

「ほんと、お前のおかげで道迷わなくて済みそうだわ。明るいし」

「もっと明るくしてあげよっか? ほらほら、間接照明~~」

「お~~、落ち着ける暖色の光が~~~って、てめぇ!! ぶっ飛ばすぞ!!」

「にひひっ。サイタマの()も十分明るくなって良いじゃん」

 

 

思わず手をぶんっ! と振ったサイタマのパンチ。ヒカリは笑顔で躱したが、周囲の壁はその衝撃を躱す~なんて出来る訳も無く。

壁が吹き飛んで結果的に外に出れた。

 

 

「別に私の光が無くたって問題ないって当てつけのつもり? ひっどいなぁ~~ここまで便利に使うなんて~~」

「そーいう意味じゃねーし! ダンジョン探索で壁壊すとか、面白みの欠片も無い事したくねーし!」

「迷いまくって、セーブポイントに中々たどり着けなくて、停電来て消えちゃった~って人のセリフには重みがあるね!」

「うるっせーな! もう道順覚えたっつーの!」

 

 

ひょっこり、サイタマとヒカリが宇宙船から出てきたのを目撃したクロビカリは目を丸くさせる。

 

 

 

「んあ!!? さっきのB級の————それに一般人の女の子!? なんで中から出てくる!??」

 

 

宇宙船に囚われた女の子を救ったヒーロー! な絵に見えなくもないが、当然驚く方が先だ。

一般人の女の子? のクロビカリの言葉に気になってタツマキもやってきて—――――。

 

 

「なんでアンタが……って」

 

 

そして、少し間をおいて、タツマキにしては珍しく驚いた顔をして叫んだ。

 

 

 

「ヒカリ!? なんでアンタがここに居るの!?」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

お茶友達

 

 

「あ、タツマキちゃんだー! ひっさしぶりーー! (会議の時、見てたけど)」

 

 

ぱぁっ、と花開く様な輝いた笑顔を見せるのはヒカリ。

そんな姿を見たサイタマは、首を大きく傾けていた。

 

 

「知り合い?」

「え? うんっ、そうだよ。お茶友達ってヤツかな? あ~~~勿論、この姿での(・・・・・)友達~ね?」

「ふーん」

 

 

日頃から、キングの本体? 的な活動をしている影のヒーローがヒカリ。(影でヒカリとはこれ如何に?)

なので、ヒカリ本人が言う【本体】で活動している時間は基本的に少ない。

だから、今回の様に、美味しい美味しいスイーツ店巡り等をする時は、本体?……正体? 的な設定で盛大に楽しむ。

その道楽の際に、タツマキとの出会いがあった。

 

因みに、体格はタツマキと似たり寄ったりな体型に変身しているから本当に同学年のお友達~と言う感じで回りからは観られていた。ただ、戦慄のタツマキの名を持つ彼女だから、結構騒ぎになったりもしていたが。

 

 

サイタマは、そう言えばスイーツ巡り以外にも色々とやる! って言ってたなぁ……と思い返す。

それと、ヒカリにはちゃんと友達いたんだなぁ……自分の周りにはキングと押掛弟子のジェノスだけ……、と何だか哀愁漂う雰囲気になってしまっていた。元々、コミュ力の高さは言うまでも無いし、数々の店舗では顔なじみになってると言う話だし。

 

 

———陰のヒーロー設定じゃなかったのか?

 

 

と、今更ながらサイタマは脳裏で毒付くのだった。

 

 

そうこうしている内に、タツマキが宙を飛んでこちらへと接近してきた。

 

 

「何でアンタがこんな所に居るのよ!? ってか何で宇宙船の中から出てきてんのよっ!? 大丈夫だったの??」

 

 

ヒカリに友達~と紹介されたのはウソでは無かった様子。

あの傍若無人、我儘が服を着て歩いている様なタツマキからは、中々想像が出来ない様に心配する声が上がっていた。

ある者が記憶を辿ってみると……ここまで心配し、感情を露にするのは姉妹であるB級トップヒーロー 地獄のフブキだけではないだろうか。

 

そして、S級トップクラスのヒーローであるタツマキにそこまで目を賭けられるあの少女は一体何者なのか? と注目はヒカリにも向かれる。

 

 

「えへへ。だいじょぶだいじょぶ! えっと、ほらほら、このオジサン(・・・・)が助けてくれた~って感じ?」

「お、おじっっ!!?」

 

 

色々と考え込んでいたサイタマの脳内に、いつもどうでも良い声や音は右から左へ華麗に受け流す都合の良い脳みそしてるのに、どうもヒカリ関係の口撃は煽り耐性0にまでなってしまう様なのだ。

 

 

「おいコラぁぁ!! 誰がオジサンだ!! オジサン!!」

「それでねそれでね! ほら、これA市のスイーツ店のおじちゃんがくれたタルトなんだけど! それにおばちゃんがくれたのもあるよー」

「話聞けや!! つか、よくそんなモン持ってられたなぁ、お前!」

 

 

懐から取り出したるは、サービスだと持ち帰らせてくれた美味しい美味しいスイーツの皆さん。ヒカリの様に輝いてる……のは気のせいじゃないのだろう。

 

あのボロスとの一戦……戦いになってたかどうかは別にして、サイタマとボロスの戦いの最中、周囲に巻き散らかされた衝撃波はトンデモ無かった。何せ、サイタマのお金……ではなく、月の石が軽く粉微塵になって空気中に消えていった程だったから。

 

……まあ、ヒカリはそれなりに離れていたし、あの月の石が壊れてしまったのもボロスの一撃から出る衝撃波を至近距離で受けてしまったので壊れるのは必然。比べる物を間違えてる様な気がするが。

 

 

「ふーん。……で、そっちのアンタの方は何で宇宙船に乗ってたワケ? B級の。確か集会場に来てたわよね?」

 

 

ヒカリの事は一先ず置いといて、懐疑的な視線をサイタマに向け始めるタツマキ。

ヒカリが嘘を言う様な人物ではないのはタツマキも良く知っている。……数少ない友達で、ある意味タツマキに賭けられている呪い(・・)を笑顔で踏み越えてきた人だから。

 

ただ、ヒカリの真の意味での実力を知る人物~と言う訳ではない。

彼女の正体を知るのは現時点でたった2名しかいないのだ。

 

 

「お前、ソレ俺にもくれ」

「えー、どーしよっかな~~」

「つーか、顔どんだけ広くなってんだよ。どんだけ広げる気だよ。店主のおっさんおばさんは兎も角、いつの間にかヒーロー内にまで届いてるし。最初の設定何処いった?」

「設定言わないでよ、無粋ってヤツだよそれ。タツマキちゃんとは以前の怪人騒動……えーっと、扇風機? みたいな変なのがお菓子屋さん襲ってて、そこであったのが初めてで———」

「そんな話聞いてねぇし」

 

 

サイタマは、そんなタツマキの疑問? 問? に対して華麗にスルー。

 

 

——む……無視?

 

 

何だったら目も合わせてないし、存在を認識もしてない様な素振りさえ見せてる。

ピキリッ……と、何かに触れそうになってしまった。

でも、一応はヒカリを助けたようだし、ヒカリの知り合い? かもしれない。その辺りを考慮して、もう一度だけ話を聞こうとする大人な面も向ける。

 

 

「もう一度、聞くわよ。アンタは何で———」

 

 

落ち着かせて、深呼吸も軽くして、ムカつかない様に怒らない様に再度聞こうとしたのだが……。

 

 

「先生! ご無事でしたか!?」

「あ、ジェノスか」

「ジェノス~おつかれさま~~!!」

 

 

ジェノスが割って入ってくる。

 

因みに、あまり絡みがこれまで無かったかもしれないが、ジェノスもヒカリとは顔見知り、顔馴染みである。

ジェノスがサイタマ邸(勝手に住んでるマンション)に住み着くよりも前からヒカリはサイタマのゲーム友達? みたいな感じで家に出入りしていたのを知っているからだ。

 

ただ、強さについては全く知らない。

 

サイタマと共に有る……と言うだけである一定の評価をジェノスの中でしている。

 

あの家に関して言えば サイタマ>キング>ヒカリ と言った感じだろうか。

 

あの家には弱者はいない!! と言うのがジェノスの考えであり、師匠の友達であるなら相応の敬意は払っていたりもしているのだ。

 

 

「敵の大将は片付けたんですか?」

「あぁ~、結構強かったよ。マジで。過去一かもな。だってワンパンで死ななかったし。何なら再生したし」

「一発で終わらせてたら、月の石も壊れなかったかもしれないのにね~~。こういう時に裏目っちゃうのがサイタマ! って感じだ♪」

「うぐっっ!! う、うるせーな! どーせどーせ、月の石なんてそこまで大した価格って訳じゃ……」

「月の石ですか? 確か1g=60万円相当、だったかと」

「―――――――――――――――」

「何故月の石が? あの宇宙船に乗ってたのですか?」

「それはね~~~」

 

 

完全に蚊帳の外にされてしまったタツマキ。

ここらで限界突破。

 

 

「いい加減話を聞きなさい!!」

 

 

轟ッ! と持ち前の超能力を使った訳でもないのに、声量だけで周囲を震わせる程の怒声をタツマキはサイタマに、ついでにジェノスに対しても向ける。

 

 

「どうやったか知らないけど、単独で乗り込んで何を勝手な事やってるの!? ヒカリだって危なくなったら私の携帯番号教えてるんだから、かけてくれば良いじゃない! そっちのハゲはB級! B級の分際ででしゃばるんじゃないわよ!! アンタなんかいなくても私1人で十分だったんだから! このハゲ! このハゲ―――!!」

 

 

ハゲハゲ連呼した後は、タコ、ゆでたまご、電球、アボカド、間抜け顔、妖怪、虫……と罵声のレパートリーが豊富だ。……少々精神年齢と肉体年齢が=で結ばれた気がするが。

 

 

「タツマキちゃんタツマキちゃん。ほ~ら、これ飲んで飲んでっ」

「ちょっと! まだ言い足りな————………ズズズッ」

 

 

ひょい、と取り出したるは、ローズヒップティー。

落ち着きますよ~♪ と差し出されて、その香りが鼻腔に入り……あっという間に虜になって。

ずずず………、と飲み始めた。

 

 

「やーヒーローネーム新候補! 沢山貰って良かったね~サイタマ?」

「いや、良くねーだろ。何がネームだ。まんま罵倒の嵐じゃねぇか」

 

 

子供の様な悪口オンパレード(サイタマ視点ではタツマキは間違いなく子供)

何処からツッコめば良いか、正直面食らってる所ではある……が。

 

 

「俺の先生に罵倒。許せませんね。……いかがいたしましょう? 先生」

「あー、うん。何か言ってやってくれ。大人として」

「了解」

 

 

ジェノスが一歩前に出た。

確かにサイタマを心酔していると言っても良いジェノスが、今の罵倒……幼稚とはいえそんなものを聞いて胸中穏やかではいられないだろう。

人でも殺しそうな顔つきになっていて、紅茶を楽しむタツマキの方へ向かった。

 

 

 

「おい糞餓鬼。誰に向かって生意気な口聞いてんだ? ぶちのめすぞ」

 

 

 

何処のヤ〇ザだ? どこの組の舎弟だ? と言いたくなるジェノスの文言。

紅茶を楽しんでいて、暫くは落ち着いていたタツマキだったが、基本的には彼女は瞬間湯沸かし器。

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰が餓鬼——————ですって?」

 

 

ドンッッ!

 

 

 

 

 

 

 

と言う轟音を聞いたかと思えば、気付いた頃にはジェノスは吹き飛んでいた。

精神安定剤となっていた紅茶のおかげで出力は多少落ちている様だが、それでも超高威力。ジェノスが成す術無く吹き飛ばされた程の。

 

そして、まるで芸術(アート)の様に壁にめり込み、そのまま沈黙した。

 

 

「私はアンタより年上よ! 覚悟しなさい、次はアンタよBきゅ「はーい、お代わりだよ~!」………ズズズズ」

 

 

見事にタツマキをコントロールして見せるヒカリをに目が点になるのはS級ヒーローの面々。実力は折り紙付きだが、その傍若無人な性格には四苦八苦。ただでさえ問題児が多いS級において、纏まるモノも纏まらない原因の1つ。(と言ったらガチギレされる)

 

なので、是非とも彼女をタツマキ専属の御目付に~~と、童帝が画策しようとしたその時。

 

 

「(……ヒカリ氏~~~、ヒカリ氏~~~~!!)」

「およっ? ……あ、そーだった」

 

 

ドッドッドッドッドッ————————!!

 

 

物凄いキングエンジンが周囲に響き渡ってきた。

忘れていた事がある。宇宙船の残骸、全て落としたつもりだったが、実はそうではない。

まだ地味に浮いていた破片があるのだ。

 

だから、キングは律儀にも手を挙げ続けて空中で固定している(フリ)をしていたんだが……、そろそろ真面目に限界。

 

 

「ほいっ、と」

 

 

それに気付いたヒカリは、にこっ、と笑みを浮かべて歯を見せると指先を操り、そのまま高級住宅地の1つへGO。

 

 

超高級ハウスの数々が潰れて、億と言う金が綺麗に潰れてガックリと絶望している面々の中、唯一被災を免れた!! と心の中でガッツポーズしていた協会貴族(笑)がその瞬間崩れ落ちたのはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宇宙人襲来。

狙われたA市。

 

それは歴史的大事件として連日報道。

そして、ジャーナリストとしての使命を全うした1人のカメラマンが大々的に表彰もされた。あのキングが宇宙船を食い止めている場面、半分以上を消し飛ばした場面、一般市民を、無辜の民の家を守る為に破片を抑えてくれた場面(協会貴族は別)。

 

全部綺麗に保存していて、連日人々を飽きさせなかった。

 

宇宙船が襲来した事、地球外生命体を確認したと言う歴史的事実なぞはとっくに忘れ去り、改めて人類の守護者としてキングへの賞賛が湧き起こり続ける。

 

 

とうのキングは頭を悩ます結果となり、引きこもりに磨きがかかった。

 

 

 

高級住宅地に落ちた宇宙船に関しては、メタルナイトの集団? がどこからともなく現れて、移動。ついでに,ヒーロー協会本部は更に強固な建物とする為に強化改築を行う事で一致。……どうせ潰れた家を元に戻すのに財力を使うのなら、ヒーロー協会そのものをデカい家にしてしまえば良い、と考えた者が多かったからだ。

 

何より、あの規模の怪人……宇宙人が現れた事。キングの力を目の当たりにした事もあって、ヒーロー協会以上の安全地帯はこの地球上どこにもない、と認識したのが大きかった。

 

私財投入を惜しまず、鉄壁の要塞に加えて、キングの守護。

 

勿論、周囲の目もあるのでしっかりと新しい道路等を作ってどの町にも迅速に駆けつけれる様にした。

 

A級以上の希望したヒーローたちにも移住する権利を与えられているが、定員が今の所あるので、目下競い合い中である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お会計5800円でございます」

「どうぞ」

「はい。確認出来ました。ありがとうございます、またお越しくださいませ」

 

 

TVゲーム専門店 パズー。

 

無事目的のブツを得た男の名はキング。

地上最強、地球最強の名をほしいままに、今日もひっそりと息を殺して歩いていた。

 

と言うのは誤った事実。

ガラスハートの平均的一般男性。ただ心臓の音だけが常人離れしているだけの普通な男である。

 

ちょっとした穴場で、何より周囲に人が少ない場所にある数少ない憩いの場。

過大評価の極みと言う頂きを経験した今———本当の意味で安らげるのはもう二次元以外にあり得ないのだ。

 

 

「ようやく、何事も無く、無事に買えた……。新作ゲーム初回限定版【どきどきシスターズ】」

 

 

……流石に、ヒカリが家にちょくちょく来るので、美少女系フィギュア等は置いてないが……、美少女系ゲームくらいは許して貰いたい。

恋愛シミュレーションゲームは絶対に1人でするから。

 

 

「今日はヒカリ氏も来ないらしいし……、怪人警報も出てない。うむうむ。久しぶりにテンション上がってきた………。ほんと、大変だったもんなぁ……」

 

 

じわり、と目に涙が溜まる……。

宇宙戦争? を終わった後のひっきりなしのメディアの取材。

 

それがある度に、ゴーストタウンであるZ市へと逃げて撒いてを繰り返して………大変だった。

それまで怪人に出会ってないから、ある意味マシだったのかもしれないが、それでも心労がハンパじゃないのだ。

 

だからこそ、今日めいっぱいこのゲームを楽しむ。

 

 

 

 

でも、キングはやっぱり解ってなかった。

いや、解りたくなかった、現実逃避していた、と言うのが正しい。

 

 

 

 

安息の日、安寧の日と言うものは、幻想であると言う事……。

自分が居る世界は修羅の世界であると言う事。

 

けたたましい機械音と共に、地を踏み荒らしながら近づく機会兵器が直ぐ後ろに迫ってきた……。

 




流石にそんな頻繁にはタツマキちゃんとTタイムはしないです(笑)
ヒーローですからw


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。