ガンダムビルドダイバーズ リベスターズ (二葉ベス)
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レンズインスカイ バトローグ
付き合っちゃおっか?


「ちのお姉ちゃん、次はあっちに行こー!」

「はーいはいはい! 今日もセッちゃんはかわいいなぁ」

 

 休日にフォースネストに行けば、待ち構えていたのはフォース『ちの・イン・ワンダーランド』のリーダー、ちのっちであった。

 ハルとナツキチは受験中で今いないし、1人で過ごす感じかぁ、と思っていたところの客人だ。もてなさないわけにはいかない、とコーヒーカップを取り出した矢先だ。

 

『みんなで買い物行こ!』

 

 どこからともなく現れたちびっことちのっちの腕を掴まれそのままショッピングモールエリアへGO。もちろん同意はなしだ。

 

 そんなで連れてこられた2人の買い物にあたしはなんとなく思う。

 どっちが可愛いんだか。

 

 なんだかんだ言って、ちのっちもフォースメンバーやリスナーたちを魅了するぐらいには可愛らしい。

 ウキウキ気分でゴシックなワンピースを身にまとって、スカートをふわりと舞わせる。

 こんなところをリスナーが見たら、イチコロだ。あたしが男だったら間違いなく堕ちてた。

 

「どうしたの?」

「ん? あー、ちのっちもなんだかんだ可愛いよなーって」

「なんだかんだじゃなくて、とってもだよ!」

「そーでございましたー」

 

 そういう自信過剰なところがまた魅力の1つなんだろう。あたしからしたら鬱陶しいぐらいだけれども。

 肩掛けカバンを一度掛け直して、ちびっこの行った方を見るちのっち。

 その瞳は慈愛に満ちた親そのものの目線だった。

 ELダイバー奪還戦の時もそうだったけど、ちのっちはちびっこのことを子供同然に思っている。タッグフォースバーサスの時だって、本当はちびっこと一緒に出場したかったのだろうな。その機会をあたしが奪ったも同然なんだけど、ちびっこが楽しいなら、ってことで言葉を閉ざした。

 だからだろう。こんな言葉が自然と口から出てきたのは。

 

「ちのっち、マジママみ溢れてるよな」

「ちのがママ? いや、それは流石にぃ……」

「ヤングママは嫌だって?」

「そんなこと言ってないじゃん! でもちのは永遠の17歳だしー!」

 

 この間晩酌配信してたろあんた。日本酒うまーとか言いながら、お酒飲んで気持ちよくなってた17歳がその言葉を言えるのか。

 

「でもモミジちゃんも大概セッちゃんの親って感じするよねー」

「は? あたしが?」

「掲示板じゃちのとモミジちゃんが夫婦みたいなFA見るよ?」

「……マジ?」

「マジよ大マジ。結婚しちゃう?」

「冗談」

 

 ナツハルほど女同士の垣根がないわけじゃない。

 あたしだって、普通に男性が好きだし、一応初恋は男だったから。

 でも女の子といるほうが安心する、というのもまた事実だ。冗談半分にちのっちと付き合うという想像をしてみる。

 

「流石にないな」

「だよねー!」

 

 一瞬でも付き合おうとか思ったあたしがバカだったわ。

 ナツハルはナツハル。あたしはあたしだ。女女だの男女だの。関係ないとは思うけど、あたしとは無関係だと思っている。

 でも安心する相手という意味であれば、一番はちのっちとちびっこなんだろう。

 

「2人ともー! クレープ、セツが全部食べちゃうよ!」

「はーい、今行くよー! じゃあ、行こっか、カノピ!」

「はいはい、行きゃあいいんでしょ、カノピ」

 

 冗談みたいなやり取りに2人して鼻で笑う。

 ありえんありえん。けど面白い。こんな生活があったら、それはそれで充実した毎日なのかも。

 ほっぺたを膨らましながら、クレープを掲げるちびっこの笑顔を見ながら、あたしたちもまた笑顔になるのだった。



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真冬の空の下。ガンダムベース前

「ナツキ」

「なにー?」

「どうして真冬の空の下。しかもクリスマスイブの日にわたしたちはガンダムベースに並んでるのさ」

 

 さすがに一言二言は言ってやりたかった。

 わたし、ナカノ・ハルと隣で寒そうにコートとマフラーを身に着けている彼女、シライシ・ナツキは午前9時にガンダムベースの行列の中にいた。

 その理由はたった1つ。クリスマスと言えば、そう。限定ガンプラである。

 

「フリーダムのクリスマス仕様のガンプラだよ?! これはSEEDファンとしては買うしかないでしょ!」

「あー、はいはい。分かりました」

 

 聞いたわたしがバカだった。この女は筋金入りのSEEDオタクだったことを思いだす。

 そりゃマニア必見のガンカメラなんてものを去年のクリスマスのプレゼントとして、渡すわけがない。まぁ助かってはいるんだけどさ。

 

 手袋をしても中身まで突き刺す冷気。しばれる、という方言のとおり、体の芯まで冷えてしまいそうになる寒気に思わず身を震わせる。

 ハッキリ言って今日は機嫌が悪かった。何せ学校でもないのに朝早く起こされたのだから。

 わたしは休日の朝は寝ていたい派の人間なのにだ。

 

 そりゃあクリスマスという特別な日にナツキと一緒にいられるのは嬉しいよ。そばにいて嬉しい相手は一にナツキ、二にお母さんぐらいには順位付けされているし。

 でもそれとこれとは別だ。寒い日に外で待たされる身にもなってほしい。機嫌が悪くなるのは当然のことだろう。

 

「寒い?」

「当然」

「じゃあくっつく?」

「……人前だよ?」

「じゃあ手だけでも」

「じゃあ、まぁ……」

 

 相変わらず流される体質は変わらない。けれどいつまでも拗ねているようじゃ、大人にはなれない。

 コートから取り出したナツキの手が手袋越しに繋がれる。ナツキ、手袋持ってないのかな。

 

「えい」

 

 と思えばナツキに手を引っ張られ、ポケットの中に手を突っ込まされた。

 

「な、何するのさ!」

「暖かいかなって」

「ナツキ、そういうとこホント変わんないよね」

「ハルのこと好きですから」

 

 むふん、と胸を張る彼女に少しイラっとくる。同時にかわいげもあるなとも感じるわけでして。

 確かにポケットの中で手と手をくっつけるのは非常に暖かい。でも弄ばれているようでもある。謎のプライドがわたしの中で浮かび上がる。だから、わたしからもちょっとした反撃をしてやることにした。

 

「ナツキ、こっち向いて」

「ん?」

 

 振り向いた先。完全に気を抜いていた彼女に対して、片手でナツキの身体を抱き寄せた。

 コートとダウンジャケットが邪魔だけど、形としてはわたしがナツキを抱きしめたことになる。

 

「ハ、ハル?!」

「……仕返し」

「い、いやいやいや! ここ行列の最中って、ハルも言ってたよね?!」

「なんかイラっときたから」

「あぁもう、ホントにハルはかわいいなぁ」

 

 キスは流石にしないけれど、冷たい頬をこすりつけて暖を取る。

 柔らかい。マフラーがちょっと邪魔だけど、ナツキの体温が伝わってくる。愛おしい。胸がぎゅっとなる。満たされる気持ちばかりが、溢れて止まらない。

 

「……キスしたい」

「ハルから言うなんて、珍し」

「うるさい」

「でもダメだよ」

「公衆の面前だから?」

「ううん」

 

 名残惜しそうにそっと頬を離した彼女は指をさす。

 その先は行列が動き出したことを示す空白だった。

 

「もう入場だから」

「……そうでございましたね」

 

 不服だ。開店時間ごときにわたしとナツキの邪魔をさせられるなんて。

 手を繋いだままなのは変わりない。けれどなんというか、ガンプラに負けた気分だ。

 

「帰ったら、する?」

「ナツキっ!」

「あはは、ごめんごめん!」

 

 子供をあやす親みたいなことを言うもんだから、反抗してやった。後悔はしていない。

 でも身体は正直なようで、ぎゅっとナツキの手を包み込むように握った手はわたしの意図をそのまま伝えてしまう。

 

「じゃあ、帰ったらしよ!」

「…………とびっきり甘いので」

「りょーかい」

 

 あー、ホント。わたしも欲望には抗えないらしい。

 今からナツキの唇の味を想像しながら、ガンダムベースの中へと消えていくのだった。




スキあらばイチャつく


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それって焼き肉一択では?

「モミジちゃん、またやつれたでしょ」

 

 およそ3週間ぶりに会ったであろうちのっちが第一声で、本質を見抜いたかのような声を上げる。

 「そんな事ないけどなー」と声に出してとぼけるほど大人でもなければ、それが聞いてよと、悩みを共有するほどの出来事ではないので、自分の顔に笑顔の仮面を貼っつけておくことにした。

 

「だって、最近忙しそーにしてたでしょ?」

「ちのっちだって、ふあぁ……大概じゃん」

「ちのはいーの! それよりモミジちゃん、こんな時間にログインしてもセッちゃんはもう寝てるよ?」

 

 ELダイバーに寝るという概念があったのか。むしろそっちの方が驚きだ。

 

「別にそれが目的じゃないし」

「じゃー、傭兵稼業?」

「もち。最近なーんも出来てなかったしねー」

 

 結論から言う。確かに最近やつれた。というか仕事が忙しすぎるんだよ。

 年末年始の仕事がいつもどおり忙しいのは知ってたよ。これでも入社3年以上は経っている。

 けれどね、年末は厄年だった。後輩や同期がミスやらかしまくるから、こっちにまで仕事が回ってきて。はぁ、そりゃもうてんわわんやだったわ。

 

 まぁ、ちのっちがそれを察して言ってくるんだから、結構救われた気持ちにはなったけど。

 でもちのっちだってG-tuber活動で年末年始忙しいって聞いてたけど、なんだその変わらない顔色とボディは。呪うぞ。

 

「もう年始だしね。お仕事はおやすみ?」

「うんや。明日行ってから」

「うへー。ちの、絶対就職したくない」

 

 あんたなら十分G-tuberとして成功してるでしょうに。

 知ってるんだからな、あんたが普通に収益化してるの。結構トップ層にいるよなぁ?!

 

「インターンでもさせてやろうか?」

「勘弁。ちのちゃんは~、遊んで暮らした~いの~」

「あー、ファンのみんなが聞いたら幻滅するだろうなー」

「本心じゃありませんー! でももうちょっと稼ぎがあったらいいなーって思うけどね」

 

 曰く、同じG-tuberの中では稼いでいる方だと言うが、1人と1機で生活できるほどのお金はもらっていないとのことらしい。アルバイト感覚ってことか。

 

「って! ちののことはいーの! モミジちゃん、最近食べてないでしょ」

「た、食べてますが?」

「嘘だぁ! だって頬とか結構シュッとしすぎてるっていうか。ちょっと骨がうっすら反映されてるんだから」

 

 嘘でしょ。慌てて鏡を見て唖然とした。マジかー

 

「忙しいのは分かるけどさ、もっといいもの食べてよ」

「ちのっちはあたしのおかんかっての」

「じゃあ今度お母さんのお金でどこか行きますか? リアルで!」

 

 GBN内じゃカロリーに反映されないでしょーが。

 まぁ、食べるのであればやっぱりあれかな。

 

「肉食べたい。にんにくたっぷりなやつ」

 

【それって焼き肉一択では?】




年下の配信者の奢りで、焼き肉を食いに行く元ギャルがいるらしい


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『あいしてる』の暗号

「雪文字ってさぁ、なんであんなに読みづらいんだろうね」

「待って、雪文字ってなに」

 

 え、ナツキさんともあろう陽キャがご存じないのですか?!

 そう煽ったら、軽く小突かれた。痛い。

 

「雪文字、知らないの?」

「知らないよ。初耳」

「ナツキって地元民?」

「そうだけどもぉ?!」

 

 ナツキ地元民じゃない説を唱えようと思ったけど、2年前からずっといるらしいみたいなことを言っていたし、きっと地元生まれの地元育ちなんだと思う。

 とはいえ、あのナツキともあろう陽キャがご存じないとは思わなかった。

 ナツキならやったことあるだろう。というか地元民なら絶対に。

 

「雪に文字書かない? 指で」

 

 路上の真っ白な雪の山に指を突っ込んで、試しに「し」と書いてみた。何故「し」なのかは分からない。

 

「あー、それのことか」

「やっぱやったことあんじゃん」

「アレに正式名称あるんだーって思って」

「わたしも初めて言った」

「じゃあ私だって初耳だよ!」

 

 くすりと笑った彼女はかわいらしい。やっぱり綺麗どころのべっぴんさんだ。平然とわたしの情緒を撃ち抜いてくる。

 ぽーっと胸の奥で光った灯りに従ってボーっとしていると、何やらナツキは「し」の手前に2つの文字を書いた模様だ。

 ……読めない。

 

「ホントだ、全然読めないや」

「なんて書いたの?」

「知りたい~?」

 

 こういう時のナツキはちょっと面倒くさい。

 マフラーの奥で口元が歪んで、目元もにやけている。かわいいんだけど、気持ち悪い。

 あと、この時のナツキは大抵わたしを弄って遊んでいるので、それはそれで気に入らないのだ。だから必死で読むことにした。

 2文字目は、これ「い」かな。「り」にも見えるけれど、多分「い」。

 じゃあ1文字目は……「あ」?

 

「あい」

「し」

「…………」

 

 この女はバカなんだろうか。

 陽キャだから頭ハッピーガールだったわ。そんな彼女と仲良くしているわたしもハッピーガールなんだと思うけど。

 付け足すように「し」のあとに「て」と「る」を加えてみた。読めない。

 

「なんて書いたの?」

「あいしてる」

「ごほっ!」

 

 何故むせたし。

 

「ハ、ハル。たまにこういうことするから侮れないわー」

「いや、ナツキが『あいし』まで書いたんだったら、わたしは『てる』を書くしかないかなって」

「や、そういうんじゃなくってさぁ……」

「どういうことさ」

 

 ナツキが照れる理由が本気で分からない。

 だって『あいしてる』んなら愛してるって書くし。

 ため息しているナツキさんはなんだか儚げだ。かわいらしい。

 

「まぁいいや。というか、本当に読みづらい……」

「でしょ? なんて書いてるか分かんないや」

 

 雪文字はその場のノリで書いてるから雪がへこんでいる場所をよくよく見なければ、文字だとは思わない。

 なんだか文字っぽいな、って疑問に思うぐらいだ。

 

「なんか、秘密の暗号っぽいね」

「雪降ったら消えるけど」

「それがいいんじゃん」

 

 さっきからずっと繋いでいた手にぎゅっと力が籠められる。

 あぁ、そういう。ナツキも大概ロマンチストだよね。

 

「まぁ、分かるけど」

「でしょ?!」

 

 わたしも大概、ね。



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ある春の1ページ。始まりの空

 これはまだわたしが高校に入りたての時の出来事だ。

 いろいろあって落ち込んでいたけれど、なんとか踏みとどまって受験してどうにか入った高校で、わたしは脱力していた。

 手元にカフェオレを持ちながら、わたしは学校の中庭から空を見上げていた。

 

 とても雄大なのに、校舎が邪魔をしてまるで切り抜かれたフレームみたいに青色が天井を彩っていた。

 綺麗だなぁ。漠然とそんなことを思った。

 思うだけで、これといった具体的に何をしたいかとかはない。強いて言えばカメラに収めたら面白いかなぁぐらいなもので。

 でもそんなやる気は1年前のいつかに落っことしてきた。

 だから何も考えずに空を見上げていた。

 

「はぁ……。だる」

 

 やることは何もない。帰ったら寝るだけ。灰色の青春だ。

 何かあればよかったけど、何もないから何もしない。isそれが正義。

 

 昼休みはずっとこうしていよう。

 甘ったるいカフェオレを飲んで、上を見たら、奴がいた。

 

「何やってるの?」

「うわっ!」

 

 最初に入ってきたのは綺麗な顔。それから青みがかった黒髪。

 思わず立ち上がろうとして、そんな彼女と頭をぶつけあってしまった。

 瞬間。痛み。激痛。脳震盪とまではいかないけれど、相当な痛みだ。しばらくうずくまってしまった。

 

「いたた……。ごめんねー、急に話しかけちゃって」

「……いや、別に」

 

 誰だっけこの人。他人に興味がないというか、無気力すぎてクラスの人の名前全然覚えてなかったのを思い出す。

 でもいつもクラスの中心にいる陽キャだってことは覚えていた。綺麗だし、髪長いし。てか手足ほっそ。

 

「ナカノさん、何やってたの?」

「……なんでわたしの名前」

「いやいや、私が聞いてるんだってば! 何やってたの?」

 

 どうでもいい質問だったか。まぁ嫌がって言葉にしない理由もないし、何やってたかぐらいは答えておくか。

 

「空見てた」

「ここから?」

「うん。なんにもやる気なかったから」

「……なにそれ。なんにもないの?」

「なんにも。暇だから見上げてただけ」

 

 どうだ、これで満足だったか。ボーっとしてる人なんてみんなそんな感じだと思うんですけど、そうは思いません皆さん。

 誰に問いかけた変わらない言葉だけど、この目の前の綺麗めお姉さんの疑問に答えられたのならわたしも誇らしい。

 

「そっかー。いいよね、空って!」

「そんなもんかなぁ」

「好きじゃないの?!」

「別に。暇つぶしだって言ったでしょ」

 

 よほどびっくりしたのか、両手をわっとわたしに見せてオーバーリアクションする。

 なんだよぅ。そんなリアクションしたって、暇なものは暇なのだ。ボーっとして見上げるだけで何も考えずにいられるんだからそれでいいでしょ。

 

「なんか、ナカノさんって面白いね!」

「面白いかなぁ」

「うん。とっても面白いしかわいい!」

「……そう」

 

 ちょっと照れました。すみません。

 何に謝ってるかは分からないけれど、かわいいって言われる機会なんてそうそうない。わたしだって綺麗な女の子に言われたら死んでる表情筋を少し緩めてしまう。

 

「あ、照れてるー」

「うるさい」

 

 でも人に言われるのはちょっと癪だ。このぐらい反論するのは許してほしい。

 

「シライシー、次の授業の手伝い頼むわー」

「えー、分かったー! またね、ナカノさん!」

「ん」

 

 生気を感じさせない生返事で彼女は去っていった。

 そっか。あの人、シライシさんって言うんだ。まぁ関わる機会なんてもうないだろうし、覚えている理由はないか。

 と、そんなことを言いつつも1年後に本格的な交流をすることになるのだけど、それはまた別の話か。



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もしもの友達

「でかお姉ちゃんはさ、もしもとか信じる?」

「は? なに突然。ガンプラの次は変な電波受信しちゃった的な」

 

 さらっと傷つくことを言うなぁ、でかお姉ちゃんは。そんなんだからでかお姉ちゃんなんだよ。でもセツはもうすぐ1歳になる大人なので無視することができるのです。偉いでしょ、セツ!

 

 タッグフォースバーサスから数週間。

 最近はハルお姉ちゃんとナツキお姉ちゃんは一緒に受験べんきょーとかいうものをしているので、GBNにログインすることが少なくなっていた。

 寂しく思うことはあるけれど、セツは大人なのでそういった寂しさを超えて強くなれるのだ。えっへん。まぁ今は寂しいのでこうしてでかお姉ちゃんと一緒にいるんだけど。

 友達と一時的とはいえ別れたこともないセツにとって、この時間がどれだけ辛いものか。デカお姉ちゃんには分かるまいってやつだね。

 

 ちのお姉ちゃんは来ることがあったり、来ない日もあったり。

 配信してたり、個人のよーじでログインできない日もある。それも仕方ない事。

 だからそんな時はミッションをしているか、フォースネストの喫茶店でぐでーっと机に寝そべっているかのどっちかだ。

 変な話だってする。それは人間でもELダイバーでも変わらないと思うの。

 もしもの話だって、してもおかしくはない。

 

「言うてもしも、っしょ? 想像するだけ無駄じゃん」

「そんなことないよ! 妄想はいつも人を元気にするってちのお姉ちゃん言ってるし!」

「ちのっちの妄想って、基本ちびっこ関連じゃん」

「そーなの?」

 

 あー、でも妄想しているときのちのお姉ちゃんは若干妖怪めいているというか、げせた顔がやや不審者っぽく見えて、たまにゾッとするときがある。

 

「まー、だろうね」

「そーなんだ」

 

 いつもちのお姉ちゃんが言ってることだし、間違いないと思うんだけどな。

 内容は「セッちゃんがもし人間だったら」とか「セッちゃんがリアルサイズなら」とかそういうことばっかだけど、名誉のために言わないでおく。セツは大人なので!

 

「まぁ、やり直したいこったぁ、色々あるけどな」

「あるんだ。どんなこと?」

「まぁ1番は、ユカリっちとGBNでもっかい遊びたいなーって」

 

 ユカリっち。度々口にするモミジお姉ちゃんの引きこもりのお友達。

 もしも、があるとしたら。今でもユカリっちお姉ちゃんはGBNをやっていただろうし、セツとだって目いっぱい遊んでいたんだと思う。

 でも実際は今という、殻に閉じこもった生活なんだ。なんかもしもって残酷だなぁ。

 

「こーかいなの?」

「まぁね。いつだって自分の力がもっとあったら、マスダイバーをぶちのめす力があったらっていつも思ってるよ」

 

 お姉ちゃんはどことなく遠い目でお店の外を見ていた。

 そんなに大切な友達なんだ。なんか、変なことを聞いちゃったかも。

 でかお姉ちゃんもまた、寂しいってときが今なのかもしれない。そう思うと、胸の奥が疼く。何とか伝えたい。そんな気持ちばかりが早まって口が回ってしまう。

 

「で、でも! きっとユカリお姉ちゃんと一緒に遊べるよ! だって、お友達なんだよね?」

「……ちびっこ、早口。ウケる」

「な、なに?! セツ、でかお姉ちゃんを元気づけようと思ったのに……」

 

 いつもでかお姉ちゃんには元気づけられてるから、ちょっとでもへこんでいるお姉ちゃんは見たくない。だって元気が一番なんだもん。お姉ちゃんは元気であるべき!

 そう頬っぺたを膨らませていたら、何故だかお姉ちゃんが頭をポンポンと優しく撫でてきてくれた。

 

「ま、もしもがあったら、こうしてちびっことは和解できてないだろうけどね」

 

 どういうことだろう。

 その言葉の本意は分からないから聞き返してみた。

 

「ん、なんで? でかお姉ちゃんとセツは一緒だよ?」

「それが分かんない年頃なら、まだまだちびっこってこと」

「むー! お姉ちゃんのバカー!」



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レンズインスカイ、相方をエッチな目で見るか見ないかインタビュー

友人と恋人の違いはエッチな目で見れるか見れないかの差だと、革新を得たので初投稿です


 リベスターズの子たちに聞きました!

 相方にえっちな感情を抱いたことがあるかないか!!!

 

◇ナツハル編

 

「……いや、突然なに聞いてるの」

「笑っちゃうなー!」

「あほらしいよ。行こ、ナツキ」

「で? ハルはなったことあるの?」

「……え?」

「ハルは?」

「なんで追いつめてくるのさ!」

「気になるでしょ、恋人としてはさー」

「知ってるでしょ……」

「ちゃんと声に出してほしいなー」

「いや、あの……」

「んー、気になるなー。あー気になる私気になるなー」

「……あとで覚えてろよ」

「何のことー?」

 

 しばしの沈黙。

 

「まぁ、なったことが。ないわけでは、ないけど……」

「へー。へー!」

「いや、その……」

「私をカメラで撮るとき、そういうこと考えながら体を見てたの?」

「そ、そんなわけないじゃん! わたしはちゃんとした気持ちでっていうか、仕事で撮ってるわけですし!」

「じゃあプライベートでは?」

「うっ……」

 

 ニヤけるナツキの顔。

 

「わたしは結構スタイルいいからなー! 理想のボンキュッボン体系だと思ってるよーうーん。でー、そんな理想の体型の女に? 恋人にぃ? なんの感情も動かないのー?」

「………………な」

「なー?」

「……ナツキのバカ。言わなくても分かるじゃん」

「あー、やっぱハルはかわいいなぁ」

 

 両手を持って自分のほっぺたを擦りつけるナツキ。

 その顔はとんでもなく緩みきっていて、本当にナツキは彼女のことが好きなのだと思った。

 当の本人はすごく嫌そうな顔してるけど。

 

 それはそうか。突然インタビューされて、いじられまくってるんだから不機嫌にもなる。

 

「ナツキ、あとで」

「っ~! はーい!」

 

 きっとこれから起こることは、2人にしか分からない幸せな時間なのだろう。

 

◇ちのモミセツ編

 

「えっちな気持ちってなにー?」

「セッちゃんには聞かせられません!」

「出たモンペ」

「モンペって言わないで! ちのちゃんは、正当な権利を行使してるんですー!」

「そろそろよくね? でないといつまでも性知識のない生娘のままじゃん」

「それがいいんじゃん!」

「うわー、きも」

「キモくない! セッちゃんには純粋無垢なまま成長してほしいの!」

「えっちな気持ちじゃなくて、マジでキモいわ」

「じゃあモミジちゃんはセッちゃんをえっちな目で見たことあるの?!」

「あるわけないじゃん。相手が少女とかありえんわ」

「そーいう差別意識、よくないと思うなー」

「あたしはそういう節操がないのもよくないけどな」

「なんかシツレーなこと言われた気がする……」

「じゃあちのは?」

「なんであたしに聞くん?」

「ちのちゃんは結構そういう目で見られてる自信ありますわよ?」

「いや、まぁ……男受けしそうなアバターだわ」

「でっしょー!! ちのぐらいになったら、男の人の視線とかよゆーですわ!」

 

 あ、ちのの手が外れた。

 

「ちのお姉ちゃん、最近お腹周り気にしてなかったっけ?」

「ぎくー!」

「……へーーーーーーーーー。ちょっとその辺詳しく聞きたいなぁ」

「セッちゃん? 人には言っていいことと悪いことがあるの。それはELダイバーでも一緒なんだよ?」

「ちびっこ、人を弄るときは相手が調子に乗っているときが一番なんだぞ。いじれ」

「でかお姉ちゃんが悪いこと企んでるー!」

「そうだよセッちゃん。あのギャルは悪いギャルなんだ。だからあの子のことは無視しようね」

「けど太ったのは事実なんしょ?」

「事実じゃないですー! ちょっとジムに行かないとなーって思っただけだし!」

「ちびっこ、どんくらい太ったん?」

「えっとねー、この前体重計に乗ったときは―」

「やめてー!」

 

 どうやらインタビューの内容は忘れ去られてしまったらしい。

 ちのは結構お酒を飲むという噂もあるし、ある意味ではプリン体が体に増えたとも言えよう。

 だが果たしてGBNのアバターにまでそれが反映されるか、と言えば多分違う気がするから、気にしなくてもいいと思うのだけど。

 

 やはり女性という生き物は常に体重を気にする生き物なのだろう。

 

 ◇




◇補足
ハル←→ナツキ:両方えろえろ
モミジ←→セツ:両方ありえない
ちの→セツ:脱がせたいとかエッチなことしたいとかそういうことはないけど、なんかもう……好き……


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フォース『春夏秋冬』について語るスレ その4

5億年ぶりのスレッドネタです


【】春夏秋冬について語るスレpart15【】

 

1:名無しの四季さん

ここはフォース『春夏秋冬』について語るスレです。

ルールを守って楽しく語りましょう。

春夏秋冬以外のフォースについては、別スレで語るようお願いします。

 

Q.春夏秋冬って季節?

A.GBN動画配信サービス「G-Tube」で、主に旅動画を配信しているG-Tuberフォースです。愛称はバカルテット

 

春夏秋冬のメンバーは4人で、全員女の子です。以下メンバーの簡単な紹介

 

ハル:春夏秋冬の火力担当その1。大泉。

ナツハルのピンクでかわいい方。カメラマンやってる

 

ナツキ:春夏秋冬の切り込み隊長。

ナツハルの青くて綺麗な方。モデルやってる

 

モミジ:春夏秋冬のやべぇギャルスナイパー。

モミセツの赤くてギャルい方。多分ギャルしてる

 

セツ:春夏秋冬の火力担当その2。火力の妖精。

モミセツの白くてちっちゃい方。かわいい。

かわいい。よくちのちゃんに吸われている。

 

名誉春夏秋冬:2名

ちの:セッちゃんの親。今日もちのちゃんはかわいいなぁ!

タイル:百合の間に挟まるやべぇ戦闘狂。別名殺戮の天使

 

春夏秋冬のファンアートはこちら!

【URL】

 

春夏秋冬の動画アーカイブはこちらから!

【URL】

 

 ◇

 

289:名無しの四季さん

最近ナツキちゃんって子を知ったんだけど、めっちゃかわいいな!

 

290:名無しの四季さん

せやろ???

 

291:名無しの四季さん

当たり前だよなぁ!

 

292:名無しの四季さん

ナツキちゃんはほんま可愛い

顔が良すぎて、なんでこれでガンプラバトルも強いのか、マジでわからない

 

293:名無しの四季さん

この前1on1の参加型配信やってたんだけど、文字通り3枚下ろしにされた

 

294:名無しの四季さん

お前、マーメイドガンダムで来たやつだろ

 

295:名無しの四季さん

>>289

お主、どこでナツキちゃんを知ったん?

 

296:名無しの四季さん

ガンプラ雑誌のグラビア。

マジでかわいすぎてガチ恋しそう

 

297:名無しの四季さん

あっ……

 

298:名無しの四季さん

あぁ……

 

299:名無しの四季さん

ふぅーーーん

 

300:名無しの四季さん

南無

 

301:名無しの四季さん

え、なんでそんな態度なん?!

 

302:名無しの四季さん

新人四季さんか、テンション上がるなぁ!

 

303:名無しの四季さん

なるほどなるほど

 

304:名無しの四季さん

このスレの基本をご存知ないと見える

 

305:名無しの四季さん

ガチ恋しそうだけど、別に厄介ファンするつもりないけど……。

ワンチャン知り合えたらなー。って

 

配信やってるんでしょ?

 

306:名無しの四季さん

>>305

ちょっと雑誌に載ってるナツキちゃんのカメラマンを全員調べてみ?

 

307:名無しの四季さん

???

 

308:名無しの四季さん

 

309:名無しの四季さん

うん。

 

310:名無しの四季さん

まぁ検索かけたら一発でヒットすると思うな

 

311:名無しの四季さん

えーっと……。ナカノ・ハル、っていうカメラマンらしい。

……ん? ハル?

 

312:名無しの四季さん

そいつが春夏秋冬のハルですね

 

313:名無しの四季さん

あれ? てかなんでこのカメラマンしか出てこないん?!

 

314:名無しの四季さん

ナツキちゃんはハルちゃん以外の撮影を受けないからな

 

315:名無しの四季さん

なんでだと思う?

 

316:名無しの四季さん

……ん?

 

317:名無しの四季さん

さて、ここで配信の話に戻るが、確かに知り合うことはできる。

ガンスタグラムとかでも普通に視聴者に挨拶するしな

 

318:名無しの四季さん

……ん? ナツハル?

 

319:名無しの四季さん

それはナツキちゃんとハルちゃんのカップリングだね

 

320:名無しの四季さん

でも女性同士じゃないの?

 

321:名無しの四季さん

ニコッ

 

322:名無しの四季さん

ふふっ

 

323:名無しの四季さん

なんでだと思う?

 

324:名無しの四季さん

ヒント:パートナーシップ制度

 

325:名無しの四季さん

え、あ……。あっ?!!!!!!!

 

326:名無しの四季さん

クックックッ、お気づきになられたか……

 

327:名無しの四季さん

ようこそ

 

328:名無しの四季さん

俺たちはキミの仲間だ

 

329:名無しの四季さん

はっ?!! え???!!!!

いや、だって……

 

330:名無しの四季さん

追加のガンスタグラムURLを、喰らえぇえええええ!!!!!

【URL】

 

331:名無しの四季さん

ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!

 

332:名無しの四季さん

うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!

 

333:名無しの四季さん

んほおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!

 

334:名無しの四季さん

はぁ…………。てぇてぇ……。

 

335:名無しの四季さん

あー、ナツハル

 

336:名無しの四季さん

っぱナツハルしか勝たん

 

337:名無しの四季さん

あ、あっ……!

うそ、まじ……?

 

338:名無しの四季さん

ナツハルは付き合ってるわね

 

339:名無しの四季さん

ナツハルだもんな

 

340:名無しの四季さん

ワイは当時のくっついた時のスレにいたで。

気づいたらくっついてた

 

341:名無しの四季さん

あぁぁぁぁ、脳が破壊されるぅぅぅぅ!!!!

 

342:名無しの四季さん

お前も家族だ

 

343:名無しの四季さん

まぁナツキちゃんのグラビアって、めっちゃかわいいもんな。

そりゃそうだよ。カメラの向こう側にいるのが彼女なんだから

 

343:名無しの四季さん

今でもアツアツですよ!

割り込む隙なんて、まったくない

 

344:名無しの四季さん

いや、え……?

あんなに細くて、おっぱいおっきくて。

あの……え???

 

345:名無しの四季さん

全部ハルちゃんとナツキちゃんの努力の賜物ですぞwww

 

346:名無しの四季さん

あっ! ……あぁ

 

347:名無しの四季さん

まぁあんだけくっついてれば、な!

 

348:名無しの四季さん

ナマモノの妄想はあかんけど、あの2人はもう、ね!

 

349:名無しの四季さん

空気がしっとりしてるもん、な!

 

350:名無しの四季さん

この切り抜き、見てみ?

もっかい脳が破壊されるで

【URL】

 

351:名無しの四季さん

おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!

 

…………最高や

 

352:名無しの四季さん

ようこそ、こちら側へ

 

353:名無しの四季さん

キマシタワー!

 

354:名無しの四季さん

ヴァルガどうでしょうで僕と握手!

 

355:名無しの四季さん

あーーーーーーーー、スゥーーーーー……。

メンバーシップ入りました

 

356:名無しの四季さん

よし!

 

357:名無しの四季さん

やったぜ。

 

358:名無しの四季さん

メンシ限定でよりディープな話も……

 

359:名無しの四季さん

ぐああああああああああああああああああ!!!!!

 

360:名無しの四季さん

ライフポイント:0

 

361:名無しの四季さん

対あり

 

 ◇




シライシ・ナツキのマル秘情報:
手足はスラッとして、くびれもしっかりついてる。
なのにおっぱいがでかい!!
まさにモデル!!!! ナンデ?!!


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元ギャルの初恋の話

「そういえばモミジちゃんってさぁ、好きな人とかいないの?」

「はぁ? どしたん急に」

 

 唐突に訳の分からないことを話し始めるちの。

 当の本人は本当にどうでも良さそうな顔でジュースをチューチュー吸っている。なんだこいつ。ちょっと殴ってやろうか。

 

「いやさー。モミジちゃんってそういう色恋沙汰一切ないなー、って」

「まぁすぐ隣にいる年中イチャコラしてるナツハルよりはな」

「あれは例外だよ。……あそこだけ湿度が2℃ぐらい高いでしょ」

 

 ナツハルの話は置いておくとして、久々に配信外のちのと会ったのでこうやって郊外のレストランで飲んでいるわけだが。

 こういうときの話は基本恋愛の話なのかおたくらのフォースリーダーは。

 

「ちのも気になるわけだよ。うちの子がなーーーーーーーーーーーぜか気にしてるモミジちゃんは、いったいどういう恋愛を送ってきたのかなー、って」

「きっも」

「傷ついた」

 

 ちののいつものきーもい返事はともかく。

 まぁたまにはいいか、そういう話も。別に聞かれてどうこうするって話でもないだろうし。

 

「大した話じゃないけどさ。高校の時の過ち、みたいな」

「じゃあ……付き合っちゃったり?!」

「してない。ただの……。あたしの片思いだったと思う」

 

 ◇

 

 大体あれは高校時代のときかなー。

 ギャル全盛期。それこそガンプラなんかよりメイクにコスメ。ファッションやらネイルやらと。それはそれで楽しかった日々を送ってたよ。

 でもなんでだろうね。そんな楽しい生活を送ってたのに、なんとなーく。そう、なんとなく充実しない毎日みたいなのを過ごしてたんだ。

 

 そんな高校生によくある情熱を持て余してる時にたまたま目に入ったのがガンプラの展覧会、みたいなのをやってたんだよ。

 地下通路だからってそういうのやってもいいんだー、とか思って近づいたらさ。最後だったよ。

 

 最初にバッと目についたのは、ハイザックの美しい緑。そしてパイプを付けた重装備の重たさ。

 心がときめいた瞬間だったよね。こんな兵器じみたものになんであたしはこんなに心を打たれてしまったんだろうってね。

 んで、目を離せずにいたら隣にいた女の子が話しかけてきたんよ。

 

「ハイザック、好きなんですか?」ってね。

 

 そいつがあたしをGBNに誘った張本人なんだけど。

 あたしはそんな声すら聞こえないぐらい、心臓を鷲掴みにされたよね。

 この子、ハイザックっていうんだ……。ってね。

 

 ◇

 

「恋っていう恋はこんなとこかな」

「……初恋がハイザックなの?!」

「まー、そうなんのかね」

「うわー、マジでいるんだ。漫画の中の世界だと思ってた……」

 

 ま、本当は声をかけてきたユカリっちのことが、後々気になっていたわけだけど。

 女の子同士がどうこうって言うより、今はそれよりも大事にすべきものが見つかっちゃったのもある。

 なんだかんだ、ちびっこのことが心配でたまにいらん世話を焼いたりもするし。

 そんな姉妹のような、母親のような毎日が今は落ち着いてて、楽しいと思える日々なんだと思う。

 

 ってことを詳らかに口にでもしたら「セッちゃんは渡さないよ! シッシッ!」なんていう親バカ発言と共にくどくどとちびっこの何たることが美しいことか、ということを永遠に聞かされるに違いない。

 それは嫌だからね。

 

「マジかー。モミジちゃんも変わった人なんだねー」

「ムカつくから人を哀れ目でみんなやめろ」

「えー、だって初恋の相手を今も忘れられずにブンブン乗り回してるんでしょ? ちのとセッちゃんの方がまだ健全だよ!」

「あんたはもうちょっとちびっこを自由にしてやれっての。ここちのの奢りだから」

「わかったよー。むぅ……。ならピザ頼んでやる」

「お、いいじゃん」

 

 まぁ、あたしも。なんだかんだ今が幸せなのかもな。ふっ、なーんて。

 

【元ギャルの初恋の話】




裏話ですが、実はユカリっち復活ルートがあったりなかったり。
ただセツに恋愛感情をもたせるのがやや解釈違いだったので、その周りのルートをバッサリ切ってました


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リレーションシップ バトローグ
恋をムスんで。性夜の6時間ってなんですの?!


下ネタ注意


「ムスビちゃん。これは真面目な相談なんだけど」

「なんですの? いつもマヌケな顔ですのに」

「……GBNってセクハラ行為ってどこまでOKなのかな?」

「いつも通りマヌケでしたわね」

 

 前略。わたくしのELダイバーはバカだった。

 大真面目に相談に乗ろうとしたわたくしの方がマヌケだったのかもしれない。

 そんな後悔すら感じてしまうほどの内容だった。

 じゅるじゅる飲んでいたトマトジュースは今日も美味しい。流石カゴメ産は格が違う。

 

「違うんだよ! アタシだってもっとムスビちゃんにセクハラしたいの!」

「わたくしは御免ですわよ?!!!」

「でもGBNはそうはさせてくれない。ガードフレームちゃんがアタシたちの恋路を邪魔するの」

「まだ付き合ってもいませんわよ」

「だからアタシは決めました! どこまでなら許されるか! その瀬戸際を!」

「クリスマスになに言ってますのよ」

 

 そう。世間ではクリスマスらしい。

 おうちではユーカリさんがクリスマスツリーの飾りつけをしているし、当然のように家にいるエンリさんは当然のごとく鉄血のガンプラを作っている。

 わたくし、ムスビ・ノイヤーはと言えば、息抜きにGBNにログイン。フレンさんもそれに付き添ってログイン、という形をとっていた。

 つまるところ、今フォースネストにはわたくしとフレンさんしかいない状態。二人っきりなのである。

 

 普段使わない直感が何故だかここから逃げろとレッドアラートを鳴らしている。

 のんきにトマトジュースを飲んでいる場合ではないようだ。

 

「クリスマスだからだよ! クリスマスと言えば性の6時間という単語すらある恋人たちはいっぱい盛っているイベントだよ?!」

「ど、どこで習ったんですかその知識は?!」

「そりゃあ、マギーちゃんのところにいたら~、そういう知識も学びを得るわけよ」

 

 頭が痛くなってきた。まずはここから逃げることを考えた方がよいのでは。

 もれなくじりじり迫ってきているフレンさんから、何も考えずに逃げることを考えた方が今後の生活的によいと、猛烈なアラートが鳴っている。

 

「ま、まぁそれはそれとして。わたくしはこれから友達とクエストをしますので、これで……」

「ムスビちゃんに、友達なんていないよね?」

 

 ……この女、なかなかにドストレートなことを言ってきますわね。

 そうですよ! わたくしに友達なんていませんよ! いたとしてもフォースの面々ぐらいしかいませんわ!!

 そう叫んでいる内にフレンさんが退路を断つ。そう、出入口付近に立ったのだ。まるで獲物を狩る肉食動物のような狩猟の仕方。わたくしは草食動物ということなのだろう。って、そんなことを冷静に比喩している場合ではありませんわ!

 

「大丈夫だよ、アタシは優しいから!」

「あなたほど肉欲に溺れそうな人はいませんわよ!!」

 

 じわじわとわたくしの活動範囲が迫っていく。

 追い込み漁。わたくしという回遊魚を捕らえるべく、親友以上恋人未満の女が迫ってくる。

 まずいですわ。このままでは本当にやりたい放題やられてしまう。最後には2回目の垢BANを食らうかもしれない。その程度にはフレンさんの目はマジだった。大マジだ。本気だ。本気すぎてドン引きしてしまうぐらい。

 

 やがて背中が壁にぶつかる。左右は客席。逃げられない。

 引きつった笑顔が徐々に失われる。獲物の前で舌なめずりをするのは三流のすることらしいが、これが三流に見えたのならその人こそが三流なのだと思う。その程度には、ヤバい顔だ。

 

「このまま、アタシの女にする」

「や、やめてくださいまし! こんな方法でバーチャル処女を奪われるのは想定外でしてよ!」

「大丈夫、優しくするよ」

「い、嫌ですわよ! わたくしの純潔はユーカリさんの物であって……」

「でもログアウトしないよね?」

「はえ?」

 

 ……あ、そうでした。嫌ならログアウトすればいい。その発想に至れなかったのは焦っていたからだろうか。それとも。

 

「アタシになら、エッチなことされてもいいって思ったんじゃないの?」

「い、いや。ですが……」

「違うの?」

 

 半ば身長だけは大きいわたくしの胸元からフレンさんの顔がのぞきこむ。

 明るい金髪。朱色のメッシュに赤いリボン。それからわたくしが望んでも手に入れられなかった緑眼。うるんだ瞳で見られている理想の姿に思わず胸が苦しめられる。

 

「本当に嫌ならしないけど、ムスビちゃんもまんざらじゃないよね?」

「…………っ」

 

 この女。わたくしの心に土足でずけずけと。

 でも抗えない自分もいるわけで。悔しい。悔しいけれど、好きには抗えない。

 

 だからわたくしだって誤魔化すしかない。フレンさんの後頭部に手を添えて、こちらを向かせないように胸元に彼女の顔を押し当てる。

 

「んっ、なにこれ!」

「あまり、恥をかかせないでくださいまし」

 

 どうせこのぐらいならガードフレームも出てこないはず。

 だからこのぐらいで勘弁させてほしい。これ以上は、本当に身体がもたなくなる。

 

 と思っていた矢先、フレンさんはわたくしの胴体を覆うように抱きしめる。な、なんですの?!

 

「ムスビちゃん、ホント細いよね」

「フ、フレンさん?!」

「……こんなことされたら、アタシだって恥ずかしいんだよ」

 

 同じタイミングでわたくしたちは地面に腰を抜かす。ぺたんとくっつけた腰が動かないのはきっと動きたくないからなんだと思う。

 

「しばらくこのままでいさせて」

「……しょうがありませんわね」

 

 今思えば、フレンさんのそれは相当無理をしていたのかもしれない。

 だから気が抜けた今、腰を抜かして動けなくなっている。それを言うならわたくしもなのですが。

 ですからしばらく。そう。その"しばらく"の間だけ一緒にくっついて差し上げます。

 別に、そういう目で見てくれたのが嬉しかったとか、そんなのではありませんからね。

 

 憧れを手で梳きながら。わたくしは2人っきりの時間を過ごすのでした。



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やさぐれ女と若女将

「ふあぁ……」

 

 小春日和。というのは晩秋から初冬にかけての暖かく穏やかな晴天である。

 春先ごろの暖かい日ではないので注意してほしいと、今から会う人が言っていたのを覚えている。

 確か彼女と最初に会ったのもこんな晴れた日だったかしら。もちろんGBNとリアルでは晴天の価値というものが違ってくるのだが。

 GBNの天気は自由に決められる。一説によればランダムだという話があるらしく、曇りと雨の日は著しく少ないとか。

 リアルもそれだけ晴れの日が多ければいいけれど、冬は曇った中にあるこういう突き抜ける青い日が時々あるぐらいが気持ちがいい。

 

「まだかしら」

 

 あの人も結構忙しい人だからなぁ。

 そんな人から誘われたのだから小一時間待つこともいとわない。そうしたらきっと申し訳ないって気持ちでいっぱいになるのが彼女なのだけど。

 

 広場の謎のオブジェクトを背に暇つぶしにSNSを開く。

 ムスビはまたいつも通りお昼ご飯を添付している。今日はサラダチキンとトマトジュース。王道コンボだ。ネコビヨリが限界ツイートをしている。

 フレンはいろんな人にリプを送り合っている。こいつ、いつも暇そうなのに軽率にリプを送るから実は忙しい人なのかもしれない。それはないか。さっきだってフォースネストで日向ぼっこしてたし。

 

 ユーカリは……。あら、犬の画像。おっと、次はフェレットかしらね。

 もしかしてペットショップにでも来ているのかしら。GBNにもテイムの機能があったことを思いだす。確か伝説上の生き物も、BCさえあればテイムできるって話だ。あの子のことだからきっとかわいい子がいいのかしら。

 でも猫って言うよりも、あの子本人が子犬っぽいからやっぱりチワワを渡した方が喜ぶのかしら。

 

「かわいいわね……」

「あなたもですよ」

「え? うわっ!」

 

 現れたのは黒い髪を頭の上で結ったお団子バケモノだった。

 というのは冗談で、桃色の桜をモチーフにした着物を着飾った大和撫子。

 その名もダイバーネーム『若女将』。またの名をハルマチ・ヒナノ。以前お世話になった旅館『春町旅館』の若女将である。

 

「何よ突然……」

「ふふ。私のちょっとした悪戯心ですよ」

 

 柔らかく、春の木漏れ日のような笑顔を傾ける彼女はまさしく美少女だ。

 

「やめてほしいものね」

「今日はエンリさんの友人としてですから」

「はぁ……お誘い断ればよかったかしら」

「まぁまぁ」

 

 とはいえ、彼女にお世話になっていたことは間違いないわけでして。

 よくナツキの愚痴に付き合ってもらったっけ。懐かしい。

 

「では行きましょうか」

「どこに?」

「ガンプラスイミング大会にチケットです」

「なるほど。いいわよ」

 

 そもそもガンプラスイミングってなんだって話だけど、グランダイブチャレンジがあるんだからそういうのがあっても間違いではないだろう。

 GBN内では毎月行われているイベントの1つで、文字通りガンプラを泳がせて一番最初にゴールにたどり着いた機体が優勝というルールだ。伊達や酔狂でやっているようなイベントではないということが、これで分かる。

 

 チャンプに負けて以来、ひそかに水中戦の練習をしていたりする。

 目標はサブマリンマグナムを攻略できるような体捌きを会得すること。それにはガンプラスイミング大会を見ることも1つの勉強だ。

 

「って言ってもだいたい水中専用MSなのね」

「あとはあのラゴゥなどはダークホースと言われていますよ」

 

 ラゴゥって地上戦用のモビルスーツじゃなかったかしら。

 浮くの? それとも滑走。いや、水に入らないといけないと聞いたので、犬かき? 分からないけど、ラゴゥの犬かきか。……ユーカリが好きそうね。

 

「前に一緒に来てくださった方のことをお考えで?」

「な、なんで分かるのよ」

「そういう顔をなさっていたので」

 

 そ、そうなの?

 わたし、あまり感情が表に出ないと思っていたのだけど。

 どうしてわかったのよ。と聞いてみたところ、答えが返ってきた。

 

「ユーカリさんのことを考えているときの顔が、以前来てくださったときの顔と同じだからですよ」

「…………」

 

 あまりにも反論できない言葉だった。

 確かに旅館に来たときはだいぶ浮かれていた。ユーカリとデート……じゃない。お出かけだと言って、それはもう前日から準備していたぐらいには。

 でも好きな人のことを考えるのはいつだってそういうものだ。これは断言して言える。最近まで彼女も彼氏でさえもいたことがなかった発言ではあるのだけど。

 

「ユカリさんとはあの後お付き合いなされたと聞きました」

「耳ざとい事ね」

「アウトロー戦役の話を聞いていれば、嫌でも耳に入りますよ」

 

 それはそうか。

 あの戦役はかなり大規模にやらかしたから。

 その後のラストワン事変もその上を行くやらかしだったけど、あれはわたしは関与してないし。結局詳細も知らないのだけど。

 

「まさかあのエンリさんが、とは思いましたね」

「なによ、文句あるの?」

「いえ、感慨深いな、と」

「……ふん」

 

 何が感慨深いよ。義姉は1人で十分なのだけど。

 多分、ユーカリと出会っていなければずっと1人で頑張って、1人で潰れていたと思う。

 強くならなければならない。その気持ちは変わらないけれど、今はユーカリやムスビ、フレンが一緒にいてくれる。1人で背負わなくても、誰かが手伝ってくれる。それだけでわたしは強くなれたと感じた。

 

「以前よりいい顔をするようになりました」

「あんた、そんなことを言うために誘ったの?」

「違います。そんなあなたと刃を交えたいなと思いまして」

 

 わたしを見るその顔は小春日和なんて柔らかいものではなく、極寒の冬に吹きすさぶ風の如き鋭く触れたものすべてを切り裂く刃物のような微笑みであった。

 

「あんたは変わらないようでなによりよ」

「お褒めにあずかり光栄です」

 

 別に褒めてないんだけど。

 まぁ、このガンプラスイミング大会の間だけは休戦ね。

 

 ちなみに大会はラゴゥの優勝で幕を下ろした。

 ラゴゥは、それはもう素晴らしい犬かきで、最後の方は2人で完成度の高さに泣いていたことを覚えている。



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やさぐれ女とむっつり

 今日はわたしの家にユカリがお泊りに来ている。

 まぁこれから一緒に暮らす約束をしているのだし、今さら動揺することもないのよ。

 たかがひとつ屋根の下。いや、それどころかひとつベッドの上にわたしとユカリが2人並ぶのだ。

 ……どうしましょうか。緊張してきたわ。

 

「どうしたんですか、エンリ?」

「……いえ、なにも」

 

 暇つぶしに作っていたエントリーグレードのストライクガンダムの手が止まる。

 いや。わたしもね? こう、恋人としてユカリのことが好きなわけよ。

 そこにやましい気持ちや邪なものがないかって言われたら、それはNOとは言い切れないわけでして。

 

 問題はわたしの隣にあった。

 わたしが短パンにTシャツと、とてつもなくラフな格好をしている隣でやたら、こう。胸部の谷間をむき出しにした服を着ているユカリが気になって仕方ないのだ。

 別に同性しか愛せないわけではない。ただただ機会がなかっただけで、実際はそうなのかもしれないけど!

 でもね、仮にも恋人っていう人が部屋の中という密室で胸元をさらけ出すような恰好をしていたら、そりゃあもう目線には困るわけよ。ただでさえわたしが見下ろしたら胸元が見えるわけだし。

 そうなのよ。胸元が見えるのよ。目に入っちゃうのよ!

 目をそらそうにもユカリの純粋無垢な瞳を見れるわけもなく。……くそ、とんでもない策士ねあんたは。

 

「エントリーグレードって本当に何もいらないんですね!」

「そ、そうね」

「あ、ちょっと失礼しますね」

 

 あぁ、前のめりになったからちんちくりんなくせに豊満に育った胸の谷間が……!

 いやいや、相手はユカリよ?! そんな性事情も知らなさそうな純粋なユカリにそんなことを思うだなんてそれこそ邪悪極まりない。ユカリの彼女やめなさい! やめたくないわよ! そうよねやめたくないもの! でも目線はちらちらとそちらに向かうわけで……。

 

 あっさりとランナーを取って元の位置に戻ってきた彼女はずーっとわたしの顔を見る。

 な、なに。バレた? わたしがずっと胸ばっか見てるのが。

 

「……エンリって、むっつりですよね」

「へ?!」

「バレてないって思ってましたか? さすがに気付きますよ」

 

 何も気にしてないような仕草でランナーをパチパチと取っていく。

 そんなユカリの仕草に慣れているようなものを感じた。

 

「……すまなかったわね」

「いいんです。慣れっこですし」

 

 まぁ、ちいさい身体にそんなでかいものがついてればね。

 相対評価というか、相対性理論というやつなのかもしれない。わたし相対性理論のこと何一つ知らないから語感だけで考えていたけれど。

 

「それにエンリだったらいいですし」

「……それって、どういう」

 

 ユカリは作成中のガンプラを机に置くと、ニヤリと口元と目元を歪ませてから言の葉を紡ぐ。

 

「エンリだったら、いいって言ってるんですよ?」

 

 それって、ユカリは今日そういう風なことを考えながら胸元が見える服を着てきたってこと……?

 思わず喉がごくりと鳴る。

 いやいや。わたしはもっと清く健全な付き合いをすべきだって思ってるのよ。ホントよ?

 でも、ユカリがそう言っているんだったら、胸ぐらい揉ませてくれたっていいと思うの。そんなわたしにはない重たそうなものを2つも載せているんだったら、1つぐらい支えたって誰も文句は言わないと思うのよ。言いそうな相手が「いいよ」って言ってるんだから。

 

 いやいやいやいや! 待て待て待て待て!

 相手はJKよ?! 18歳未満の少女。手を出したらどこから経由して警察まで行って「未成年者性犯罪」の刑で死刑とか言われたらたまったもんじゃないわよ。

 だから清いお付き合いよ。わたしは少なくとも邪な気持ちでおっぱいに触りたいだなんて思ってないの。

 

 わたしは思わず頭を抱えた。

 

「エンリ?!」

「わたしにはわたしがもう、分からないわ」

「…………はぁ」

 

 自分がむっつりだって言うことは分かってたわよ。

 男性の筋肉を見て「あー、いいわね」とか思ったこともあるし、女性の腰を見て「んー、美しい」とか心の中で言ってたわよ。でも口にはしなかった。何故か。それは恥ずかしいから。

 自分の性癖を口にするってこと自体憚れることでしょ、普通は。

 

「エンリって、案外度胸ないですね」

「普通に刺さるからやめてくれないかしら」

「いつものガンプラバトルみたいに荒々しく私のことを乱してくれるのかなーって」

「あ、あんた?!」

「冗談ですよ! でも、私だってそういう知識はあるんですからね?」

 

 わたしにはわたしが分からないって言ったけど、あれに追記する。

 わたしにはユカリが分からないわ。こんなに積極的だったかしら。

 

「じゃあそんなエンリに罰ゲームです」

「どこにその要素あったのよ」

「いいから! 耳貸してください」

 

 まぁ、いいけど。

 そっと右耳を渡してみる。彼女は耳に両手を添えて、息を吸い込む。

 

「エンリのえっち」

 

 耳元でくすぐったい吐息と言葉を触って、みるみるうちに体温が上がっていくのを感じる。

 

「ユカリ!!!」

「あ、あはは。これ言う方もちょっと恥ずかしいですね」

 

 この女……。

 あーホント、今夜はちゃんと自分の理性を耐えられるかしら。



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やさぐれ女と初めての朝

「んん……うぅん……」

 

 ねむ。大学ももうすぐ3年目。

 そろそろ就活も考えていかないとなんだけど、これからの未来みたいなのも思いつかない。

 惰性で大学に行って、惰性でバイトで稼いで。それから……。

 

 あー、ねむい。まだ春休みだし、バイトの時間が数時間後だし。

 まだ眠いからもうひと眠りしよう……。そうしよう。わたし一人なんだし。

 

「……リ! 起きて……!」

「んん……」

 

 なんだろう。優しく揺れるゆりかごみたいな心地よさでさらに眠くなりそう。

 声もまるでわたしの好きな人の声みたいで、より眠くなる。

 

「エ……リ! あーさー……きて!」

「うぅん……」

 

 揺れがどんどん強くなる。んん、うっとうしい。

 わたしの眠りを妨げるな。わたしの家だぞ。この家の自由はこの家の主である……。ん?

 あれ、なんだったっけ。この違和感。うぅん……。

 

「エンリ、起きて―!!」

「んん……。あぁ……ユカリ? どうしてここ……っ!!」

 

 突然ボディに走る痛み!

 これは、ユカリのボディプレス!

 

「うぐっ!」

「ぐあー!」

 

 お互いに大ダメージ。ユカリ、あんたも普通にダメージ受けるのね……。

 

「ぐえへへ、おはようございます、エンリ!」

「……人を起こすのに命がけすぎるでしょ」

「だってー! エンリが起きてくれないからこうするしかないじゃないですか!」

「それは、ごめん……」

 

 朝が弱いっていうか、あんまり頭に血が回ってない感じがしてよろしくない。

 ふあぁ……。あくびまで出るぐらいには眠いし、やっぱりもうひと眠りしようかな。

 

「ユカリ、二度寝してもいい?」

「ダメです! 朝食作ったんですから、温かいうちに食べてください!」

 

 おぉ、わたしの彼女はもうお母さん気取りらしい。

 んなわけあるか。この子はただ単純にわたしとご飯が食べたいだけだと思う。

 でも勘弁してほしい。昨日やって来たユカリのために荷物を段ボールから取り出して、その辺に投げたり飛ばしたり捨てたり。

 まぁなんというか。一日でやる量じゃなかった。

 おかげで今日なんかソファーで寝てたし。二人でシングルベッドに寝る気力はなかった。

 

 やっぱりダブルサイズベッド欲しいなぁ。とは思ってしまう。

 だって狭いし。わたしも伸び伸びとベッドに横になりたいのだ。

 ユカリがこっちに来てからというもの少し浮かれていたばかりか、疲れが真っ先に来ることになってしまって、彼女にもちょっと申し訳ないという気持ちもあった。

 浮かれていたとは言え、金銭面の問題は本当に油断していた。

 

「だって、昨日の疲れが……」

「私も疲れてますけどぉ! それとこれとは別ですし」

 

 まぁ朝食を食べるのは健康への第一歩とは言う。

 でも多少抜いたって問題ないと思ってる。お腹は空くけど。

 

「それにこれでも怒ってるんですよ?」

「……ユカリ、まさかホントに抱かれて寝たかったの?」

「うぅ……それはっ! ……まぁ」

 

 くっ! この女、本当にかわいいが過ぎるが?!

 ダメダメ。クールにならなきゃ。寝起きでもちょっと頭を動かして……。

 

「分かったわ。今日の夜なら」

「やったぁ! 早くご飯食べましょ!」

「はいはい」

 

 まだちょっと眠いけど。眠いんだけど……。

 その辺は今後少しずつ合わせていこう。まだ同棲生活2日目なんだから。



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GBN後輩 バトローグ
クリプレ、何を送るか困ってるんだが


1:勇者イッチ

どないしよう

 

2:以下名無しのダイバーがお送りします。

お前、後輩ちゃんと付き合って何年よ

 

3:以下名無しのダイバーがお送りします。

 

4:以下名無しのダイバーがお送りします。

終わりにするんじゃなかったんか???

 

5:以下名無しのダイバーがお送りします。

情けない奴!

 

6:以下名無しのダイバーがお送りします。

勇者イッチ、情けないやつなのだな!

 

7:以下名無しのダイバーがお送りします。

これだからオールドタイプは

 

8:勇者イッチ

ちゃうんや!

ワイ、クリスマスに女性にプレゼント送るのが妹を除いたら初めてだから困っとるんや!!

 

9:以下名無しのダイバーがお送りします。

 

10:以下名無しのダイバーがお送りします。

勇者イッチ、潔い奴

 

11:以下名無しのダイバーがお送りします。

てかイッチに妹おったんか

 

12:以下名無しのダイバーがお送りします。

紹介してくれ

 

13:以下名無しのダイバーがお送りします。

妹を売ってくれたら、代わりにプレゼントを売る

 

14:以下名無しのダイバーがお送りします。

イッチより年下か……。マジで学生では

 

15:以下名無しのダイバーがお送りします。

妹ちゃんぺろぺろ

 

16:勇者イッチ

やめてくれ、妹に殺される

 

17:以下名無しのダイバーがお送りします。

今力関係が分かったわ

 

18:以下名無しのダイバーがお送りします。

完全に把握した

 

19:以下名無しのダイバーがお送りします。

妹は常に兄より強いもの

 

20:以下名無しのダイバーがお送りします。

イッチって、なんか弱そうだもんな。女に

 

21:以下名無しのダイバーがお送りします。

女だけの社会で生きていけなさそう

 

22:以下名無しのダイバーがお送りします。

勇者イッチ、情けない奴なのだな

 

23:以下名無しのダイバーがお送りします。

ハサウェイ流行ったからって、ネタ擦りすぎで笑う

 

24:以下名無しのダイバーがお送りします。

ガンダムだとっ?!

 

25:以下名無しのダイバーがお送りします。

鳴らない言葉をもう一度思いだせ

 

26:以下名無しのダイバーがお送りします。

マフティーだけど、質問ある?

 

27:以下名無しのダイバーがお送りします。

で、今日も安価か?

 

28:以下名無しのダイバーがお送りします。

ここに来たってことは、そりゃあ安価やろ

 

29:勇者イッチ

ハサウェイ面白かったよなぁ

 

せやで、安価や

 

30:以下名無しのダイバーがお送りします。

ハサウェイおもろかったわ。

映画見に行ってよかった

 

31:以下名無しのダイバーがお送りします。

ハサウェイよかったよなぁ。続編気になる

 

32:以下名無しのダイバーがお送りします。

安価。もしかして

 

33:以下名無しのダイバーがお送りします。

もしかするやろ

 

34:勇者イッチ

「ねぇ、クリスマスプレゼント。どうすればいい、>>50」

 

35:以下名無しのダイバーがお送りします。

情けない奴~~~~~~

 

36:以下名無しのダイバーがお送りします。

プレゼントどうするか悩むミカは解釈違い

 

37:以下名無しのダイバーがお送りします。

日夜クリスマスとアトラのことについて悩むミカは完全に解釈違い

 

38:以下名無しのダイバーがお送りします。

むしろオルガにあげるやつかもしれない

 

39:以下名無しのダイバーがお送りします。

安価ならコスプレグッズ

 

40:以下名無しのダイバーがお送りします。

愛ですよ、ナナチ

ということでボ卿のフィギュア

 

41:以下名無しのダイバーがお送りします。

そりゃあ金やろ

 

42:以下名無しのダイバーがお送りします。

キミに捧げる勝利

 

43:以下名無しのダイバーがお送りします。

お子様ランチ

 

44:以下名無しのダイバーがお送りします。

ぬいぐるみ

 

45:以下名無しのダイバーがお送りします。

コスプレ衣装

 

46:以下名無しのダイバーがお送りします。

ヒートテック

 

47:以下名無しのダイバーがお送りします。

ガンプラの改造キット一式

 

48:以下名無しのダイバーがお送りします。

エアブラシ

 

49:以下名無しのダイバーがお送りします。

指輪を差し出して「俺の女になれ」

 

50:以下名無しのダイバーがお送りします。

マグカップ

 

51:以下名無しのダイバーがお送りします。

ペアルックのサンタ服

 

52:以下名無しのダイバーがお送りします。

子供の種

 

53:以下名無しのダイバーがお送りします。

俺の女ニキ~~~~~~!!!!

 

54:以下名無しのダイバーがお送りします。

俺は信じてたぞ。今日も外すと

 

55:以下名無しのダイバーがお送りします。

愛してる

 

56:以下名無しのダイバーがお送りします。

やっぱお前がいないとダメだわ

 

57:勇者イッチ

普通に無難なの来たな

 

58:以下名無しのダイバーがお送りします。

てか後輩ちゃん、コーヒーとか飲めるの?

 

59:以下名無しのダイバーがお送りします。

ミルクしか飲めなさそう

 

60:以下名無しのダイバーがお送りします。

砂糖ガンガンに入ったコーヒーならワンチャン

 

61:以下名無しのダイバーがお送りします。

角砂糖めっちゃ入れそう

 

62:以下名無しのダイバーがお送りします。

個人的には後輩ちゃんがイキりながらコーヒー飲んで、うえーって苦そうにしてほしい

 

63:以下名無しのダイバーがお送りします。

わかる

 

64:勇者イッチ

それ、俺も知らんな

だいたい飲むのカフェラテだし

 

65:以下名無しのダイバーがお送りします。

やっぱブラックはあかんのでは

 

66:以下名無しのダイバーがお送りします。

試しに差し出してみ?

 

67:以下名無しのダイバーがお送りします。

聞いてみような

 

68:勇者イッチ

まぁ、聞いておくか

 

 ◇

 

「そういえば、お前ってブラックのコーヒーとか行けるのか?」

「……どー、思いますぅ?」

 

 イラァ。俺が聞いてるんだよ。今ならGBNだからお金はあるんだぞ。

 お金があるってことは、ブラックコーヒーを頼めるってことだ。分かるか? お前のわずかな自尊心を崩壊させてやろう。

 

「すみませーん、注文いいですかー」

「待ってください。本当に、待ってください」

 

 俺、ユウシの注文で上げた手を自称後輩であり、恋人でもあるユメに引き留められる。

 かわいい手だこと。だがそんな非力な力では止まらぬぞ。

 

「ブラックのコーヒー2つお願いします」

「ちょ、せんぱい!」

 

 ニタリと顔を歪ませる。やり切った。その顔だ。

 

「……せんぱい、夜覚えていてくださいよ」

「俺は純粋な好奇心からこういうことを言っているわけだ。あと昼間だからそういうことを言うなバカ」

 

 夜の覚悟は置いておくとして、ユメのことは常に知っておきたいと思っている。

 それがどんなに些細なことでも。恋人の好みぐらい知っておかないと、今後のプレゼントとか困りそうだしな。

 さて、さっさと本命を渡すとするか。GBN内で買っちゃったから、使い道はリアルよりは薄いかもだが、プレゼントとは気持ちが大事と妹から教わった。いつもバトルに明け暮れているのに、こういうことはアドバイスしてくる。誰かの受け売りかな。

 

 メニュー画面からアイテムを取り出して机の上に置く。

 包装されているのはクリスマス仕様のラッピング。これに何の意図があるのか、ユメになら一発で分かるだろう。

 

「これ……」

「メリークリスマス。ってことで、買ってみた」

「開けても?」

「あ、あぁ」

 

 何か急にこっぱずかしくなってきた。背中がかゆい。

 ラッピングを丁寧に外してから、灰色の段ボールの箱を優しく開いて、取り出す。

 

「……パンダ模様のマグカップ」

「まぁ、好きかなと思って」

 

 パンダをモチーフにした彩りのあるマグカップは、ユメならきっと気に入ってくれるだろう。というものだった。

 安直であるものの、こういうのは考えてくれたことが大事だと妹からうかがっている。

 呆けた顔をしたユメの頬が徐々に赤く染まっていく。

 やっぱりかわいいな。自慢の彼女なわけだし、顔小さいもんな。俺にはもったいないぐらいだ。手放すつもりなんて一切ないが。

 

「ど、どういう風の吹きまわしですか」

「いや、クリスマスだから」

「……安直すぎです」

「だろうな」

 

 ――でも、うれしいです。

 

 ぼそりとつぶやいた言葉が耳から入って、血液を巡っていく。

 俺もなんと言いますか。こう、熱くなってきた。あー、恥ずかしい。かゆくなってきた後頭部を掻く。

 

「ブラックコーヒー2つ、お待たせしましたー」

「「あっはい!!」」

 

 雰囲気をぶち壊すようにNPDの店員が机の上に2つのコーヒーを置く。

 黒い水面に浮かび上がるのは、俺のニヤケ面だった。

 

「……せんぱい。この際だから言っておきます」

「なんだ?」

「私、ちゃんとコーヒーは飲めますし」

 

 そう言って何故真っ先にミルクと角砂糖を投下するのだろうか。

 スプーンでぐるぐるとかき回して、一口飲んだ。

 

「美味しいです!」

「……っあはは!」

「な、なに笑ってるんですか!」

「いや、いつもと立場逆だなって思って」

「……だったら、せんぱいだってブラックコーヒーぐらい飲めますよねぇ?」

「ぐっ……。当たり前だろ?」

 

 煽られたからには、そりゃまぁ飲むしかない。

 白いコーヒーカップから黒い液体を口の中に流し込む。むせた。めっちゃ苦かった。



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