ハルウララさんじゅういっさい (デイジー亭)
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第1部 桜色の恋心 勇者の珍道中
ハルウララさんじゅういっさい


 「おはようウララ! 今日も頑張っていこう!」

 

 「うん! ウララ頑張る!」

 

 和やかな朝の一幕。

 

 トレーナー、21歳。

 

 ハルウララ、31歳の春であった。

 

 

 

 

 

 

 

 おわり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ではなく。

 

 

 商店街の永世アイドル。ハルウララは悩んでいた。

 

 最近腰の痛みがすんごい。

 

 端的に言って、年を感じていた。

 

 

 走り抜けたトゥインクルシリーズ。

 

 煌いていた日々。

 

 有マ記念で涙を飲んだあの日。それでもなお、輝いていたあの毎日。

 

 忘れがたき思い出である。

 

 

 

 「ウララさん! 娘のお世話を頼みたいの!」

 

 「ですわー!」

 

 5歳になる娘を連れて来た、キングヘイロー。

 

 学生時代に散々お世話になった彼女のお願いを断ることはできない。

 

 なんとなれば、毎日ベッドに潜り込み、彼女の布団を吹き飛ばしていたのだ。

 

 自分が卒業できたのも彼女のおかげだ。

 

 壊滅的な成績は、彼女のおかげで低空飛行ながら、なんとか卒業水準に達した。

 

 だが今は、後悔していた。

 

 この幼児、パワフルすぎるのだ。

 

 

 

 「ウララちゃんー! プリンセスごっこですわー!」

 

 ちゃん。ちゃん付けと来たかこの幼児。

 

 だが商店街のアイドル・このハルウララを舐めるな。

 

 「いいよー! プリンセスちゃんは何役?」

 

 口元に手を当て、渾身のぶりっこポーズ。昔取った杵柄である。

 

 媚びを含んだ腰の旋回に走った痛み。後でサロン〇スを貼らせねば。

 

 

 

 「ウララ……頑張れ……!」

 

 陰から見守るトレーナー。俗に言う若いツバメというやつである。

 

 トゥインクルシリーズを共に走り抜けたトレーナーは、寿退社した。

 

 

 

 キングヘイローと結婚して。

 

 (キングぅぅぅぅぅぅ…………! ちゃん……!)

 

 最後に残った良心で踏みとどまる。彼女には本当にお世話になったのだ。

 

 だが。略奪した男と、自分の愛の結晶を、被害者に預ける。

 

 あの女、とんだサイコパスである。これにはウララも思わずびっくりだ。

 

 だが、恐らく悪意はない。わりとポンコツだからだ。

 

 

 

 寝ている彼女のベッドに潜り込み、色々した学生時代。無垢な信頼を己に向ける彼女。

 

 取返しのつかないほどのトリック&トリック。

 

 翌朝、仕方の無い子ね、と苦笑いする彼女。

 

 退〇忍にされつつあるというのに呑気な物だ。だがそれがいい。

 

 いつかトレーナーと共に食らい尽くしてくれる。そう思っていたのに。

 

 

 

 トレーナーもとても満足したそうだ。結婚式の次の日、彼が言っていた。

 

 初めてなのは確認したが、しゅごい。まるで誰かに開発されたかのような。

 

 (トレーナぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!)

 

 トンビに油揚げを掻っ攫われた気分である。

 

 自らが育てた花を横から摘み取られ、感想まで聞かされた。

 

 彼女は笑顔で相槌を打ちながら心の内で激昂した。

 

 捨てた女に選んだ女との初夜の話をするな。お前もサイコパスか。

 

 可愛さ余って憎さ10000倍。でもすき。

 

 

 

 ウラっ☆

 

 回想を終え、わくわくとこちらを見る幼女に笑いかける。

 

 いかん顔面筋が。だが根性で耐える。芝2500m。

 

 己の適性とは真逆のレースを、根性だけで2着に入った己を無礼るな。

 

 尚一着はキングヘイロー。

 

 自分の頭を雑に撫でながら、彼女を褒めたたえる彼。

 

 怒りと愛の狭間で、恐らく自分の体温は50度を超えていただろう。

 

 

 

 う”ら”ッ☆

 

 「ウララ! ストップストップ! 子供に見せちゃダメな顔になってる!」

 

 ツバメの声になんとか笑顔を修正する。

 

 危ないところだ。まだお姫様はきょとんとしている。これはセーフだろう。

 

 「ウララちゃん! わたくし、プリファイのプリンセスやりたいですわ!」

 

 ぶんぶん、とちいさなおててを振り回す彼女。非常に微笑ましい。

 

 「そっかー! じゃあウララは……」

 

 「ウララちゃんは悪役のドブ・クセ―ですの! 愛される三下ですのよ!」

 

 「調子に乗るなよ小娘」

 

 「ウララっ!!!!」

 

 ツバメの叱責。うるさいぞ若造。

 

 

 

 プリファイはスマートファルコンと共に鑑賞したが、ドブ・クセ―ってあれだろ。

 

 すげー臭いやつ。己は臭くない。加齢臭などないのだ。

 

 商店街アイドルの座も狙う貪欲な猛禽類と、これはないと笑いあったものだ。

 

 独身三十路越え2人で見る女児向けアニメは、涙で霞んでほぼ見えなかったが。

 

 

 

 

 「うーん、じゃぁウララちゃんは何をやりたいですの?」

 

 「そうだねー、ウララは、三代目プリンセスをやりたいかな!」

 

 「歴代最年少の彼女を!? さすがウララちゃん、自らの年齢に自覚が足りませんわ!」

 

 「黙れ」

 

 「ウララッ!」

 

 ツバメの叱責。黙れ小僧。お前にわたしが救えるか。

 

 

 

 ハルウララさんじゅういっさい。

 

 和やかな昼下がりであった。

 

 その後、なんやかんやでご機嫌で眠りについたお姫様を存分にイチャイチャしてきたバカップルに返却。

 

 お礼を言われて2人に頭を撫でられた。しゅき。

 

 

 

 その後、彼らの家にそのまま宿泊。

 

 トレーナーと、キングヘイロー。彼らに挟まれ、お姫様を胸に抱き就寝。

 

 毎日恒例の就寝態勢である。

 

 彼らは違和感を感じていない。完全に洗脳は済んでいるのだ。

 

 最後に勝つのはこの、ハルウララなのである。

 

 

 

 

 

 

 

 おわり。




ついったでタイトルについて流れていたので思いついて書きました。

なんの問題もない簡潔かつ明瞭なタイトルでしょう。

すまんかった。


少しでも面白いと思って頂ければ、次話以降もお楽しみ頂きたく。

お気に入り登録・感想・評価なども貰えれば、幸福の絶頂であります。

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ハルウララさんじゅういっさい そのに 引退後の、おしごと

前のお話が予想外に好評だったため、調子に乗って続きを書きました。

元々構想自体はあったため、楽しく書けました。


 「良いこのみんなー♡クリークママといっしょ、始まりますー♡」

 

 

 

 甘く母性に蕩けたタイトルコール。

 

 ハルウララ(31)は、軋む腰に鞭打ちながら、笑顔でぶりっ子ポーズを決めた。

 

 「よい子のみんなー♡こんにちわぁ♡クリークママです♡」

 

 この番組の顔、スーパークリーク。

 

 

 「ウマのお姉さん、ハルウララだよ!」

 

 体操や遊びを主に担当する、ハルウララ。

 

 

 「歌のお姉さん、ファル子だよっ☆」

 

 歌を担当する、スマートファルコン。

 

 

 そう、今日もドリームトロフィーリーグを卒業した後の大事なお仕事。

 

 大人気教育幼児番組「クリークママといっしょ」の収録である。

 

 ドリームトロフィーリーグを引退した後、教育番組の主役に抜擢された、スーパークリーク。

 

 彼女が、子供と同じ目線で遊べるウマ娘を。

 

 そのように要望し、厳正なオーディションの結果、見事自分が当選したのである。

 

 スマートファルコンは、スーパークリークの足を誠意を込めて舐め尽くした結果。

 

 屠殺される豚を見るような目をした彼女の厚意で採用に漕ぎ着けた。

 

 路上ライブだけではウマ娘は生きてゆけぬ。

 

 スマートファルコン御年31歳。

 

 ウマドルと言う名の無職を卒業し、見事定職を得たのだ。

 

 

 

 「よい子のみんなー♡今日も、元気ですかー♡」

 

 「「「「「げんきー!!!」」」」」

 

 「はーい、みんな元気でちゅねー♡ウララちゃんはー?」

 

 「ウララ、元気いっぱい!」

 

 主役に全力で擦り寄る。

 

 これは、重要な処世術である。

 

 そのように自らを納得させながら、さらに腰に負担をかけて身体を捻り、媚を含んだ笑顔を見せる。

 

 笑顔で頷くスーパークリーク。

 

 どうやら、満足頂けたらしい。

 

 安堵の感情と腰から感じる不吉な感覚。

 

 これは、帰ったらまたツバメに湿布を貼らせねば。

 

 そう思いつつ、元の姿勢へ。

 

 腰を叩くのはNGだ。子供たちの夢を壊してはいけない。

 

 

 「ファル子ちゃんは、元気かなー?」

 

 「ファル子も、元気だよっ☆」

 

 スマートファルコンも、必死でぶりっ子ポーズ。

 

 以前ウマドルアピールをして、身の程を分からされた為だろう。

 

 真剣みが違う。

 

 やれやれ、しょうがない地下アイドルである。

 

 肩をすくめて、見咎めたスーパークリークに睨まれる。

 

 目が幼児番組で見せてはいけない感じになっている。

 

 

 

 いかん。やられる。

 

 背筋を走る死の予感。

 

 ここで軌道修正を図る。

 

 

 

 「クリークママ、元気の無い子がいるみたいだよ!」

 

 指を指す先には、沈んだ顔の幼児。

 

 たっくん(5)。

 

 獲物を見つけたクリークママの瞳がぎらつく。

 

 「あらあらー♡たっくん、どうしたんでちゅかー♡」

 

 「あのね、僕ね……幼稚園で、気になる子がいて……よし子ちゃんって言うんだけど……」

 

 「まぁ♡おませさんでちゅねー♡よーし、ママ、応援しちゃいますー♡」

 

 おずおずとした仕草に、母性をたいへん刺激されたのだろう。

 

 全力で、しかして脆弱なヒト息子を殺さぬよう、優しく抱擁するスーパークリーク。

 

 「あっ……やわらかい……」

 

 「たっくんは、いい子でちゅからー♡ぜったい、その子とうまくいきますー♡ママが、保証しちゃいます♡」

 

 ぎゅむぎゅむぎゅむ。

 

 「あっあっあっ」

 

 その、未だ成長を続ける雄大な胸に埋もれながら、脳に直接蕩けた声を流し込まれるたっくん。

 

 びくん! と断末魔の痙攣を残し、意識を失った。

 

 「あらー? お昼寝しちゃいまちたねー♡いい子、いい子ー♡」

 

 なでなでによる追撃。

 

 

 

 ハルウララはしめやかに十字を切った。

 

 また精通前の童貞が死んだ。

 

 必要な犠牲だったとは言え、心が痛む。

 

 彼は今後、Gカップ以下の女性を愛することはできないだろう。

 

 よし子ちゃんとの仲も、うまくは行くまい。

 

 無意識にまた幼児の性癖を破壊した母性の悪魔。

 

 その恐ろしさに震えながらも、機嫌を良くした彼女に声をかける。

 

 

 

 「クリークママ、今日は何して遊ぶのー?」

 

 「今日はですねー♡みんな大好き♡他界! たかーいですよー♡」

 

 冷や汗がこめかみを伝う。

 

 

 

 まずい。

 

 他界! たかーい。出演する幼児に大人気の遊びだ。

 

 ウマ娘の膂力をもって投げあげられた幼児は、まるで天にも昇るかのような爽快さを味わい。

 

 そして、その母性に富んだクッションをもって受け止めるクリークママの母性により。

 

 男児は性癖を破壊され、女児は牛乳に対して異常な執着を見せるようになる。

 

 

 

 子供たちが喜ぶ顔は自分も好きだ。

 

 是非ともやってあげたいのだが……今はまずい。

 

 恐らく今の自分の腰は、幼児を砲弾にする負荷に耐える事は出来ぬ。

 

 助けを求め、スマートファルコンを見る。

 

 全力で顔を逸らされる。

 

 

 

 なるほど、ヤツも同い年。

 

 腰痛に悩むのは同じということか。

 

 役に立たぬ地下アイドルから、クリークママに目を転じる。

 

 

 

 「ウララちゃん♡」

 

 笑顔とは、ここまで攻撃的になれるものか。

 

 まずい。このままでは、自分が砲弾にされる。

 

 しかも、クッションは期待できぬ。

 

 スタジオの床に汚い華が咲き、今回の収録が没になる。

 

 そして、次回は新しいウマのお姉さんがこのスタジオに姿を見せるのだろう。

 

 

 

 幼児相手に興奮を抑えきれず、べろちゅーをカマそうとして制裁を受けた、前任者。

 

 ナイスネイチャの笑顔が浮かぶ。

 

 今頃は泣き落としで転がり込んだトウカイテイオー宅にて。

 

 真心の籠った看病を受けつつ、彼女の尻を撫でて鼻の下を伸ばしているだろう。

 

 ナイスネイチャ。転んでも盛大に周囲を巻き込む女である。

 

 

 

 「よーし、ウララ頑張っちゃうぞー☆」

 

 「みんなー、ウマのお姉さんの前に並んでくださいねー♡」

 

 幼児どもよ。このハルウララの生き様、とくと見るがいい。

 

 あとそこのデブ。ダイエットしろ。

 

 

 

 決意に燃える目と、痛みを訴える腰。

 

 スマートファルコンは後に語る。

 

 彼女こそ、我が永遠のライバル。

 

 桜色の勇者。ハルウララである、と……

 

 

 

 ハルウララは収録終了後、直ちに整形外科に緊急搬送され。

 

 「ウララちゃん! 腰痛には座薬がいいんですのよ!!」

 

 処置が終わった後に、お見舞いに来た親友の愛娘をあやしつつ。

 

 また、生き延びた喜びと、無職になる危機を回避した安堵を胸に、求人情報誌に目を通すのであった……

 

 

 

  

 

 

 つづかない



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ハルウララさんじゅういっさい そのさん ツバメの苦悩

皆さんツバメが気になるところかと思いまして。

彼視点の寝取られ物に挑戦してみました。ですがガイドラインは遵守しております。


 ハルウララのトレーナーは悩んでいた。

 

 自分はこのままでいいのかと。

 

 トレーナー……仮にウララTとしておこう。

 

 トレーナー養成学校を優秀な成績で卒業し。

 

 輝かしい未来に胸を弾ませ、トレセン学園に向かったあの日。

 

 彼の人生はとんでもない勢いで狂ったのだ。

 

 彼女から渡された一枚のDVD。それを眺めつつ。

 

 

 あの日の事を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 「ねぇねぇ、あなた、トレーナーさんかなっ?」

 

 理事長への挨拶を終え、デビュー前のウマ娘のスカウトをしようと学園内の練習場へ向かう途中。

 

 三女神の噴水の前で、彼は運命と出会った。

 

 

 

 掛けられた朗らかな声。

 

 視線を下げると、満面の笑みを浮かべた、愛らしい桜色のウマ娘。

 

 さてはデビュー前の娘か。

 

 彼は、自分は新規に採用された、新人トレーナーであると答えた。

 

 幸先が良い。彼女の資質についてはまだわからない。

 

 だが、見るからに素直そうであり、社交性も高そうだ。

 

 彼女自信に素質が不足していたとしても、友人を紹介してもらうことも出来るだろう。

 

 

 

 そして何よりロリロリしい。

 

 彼はロリコンだった。

 

 慎重に飴を与え、ベンチまで誘導。

 

 まずは親交を深める。

 

 焦ってはいけない。

 

 

 まずは天気の話から。

 

 いい天気だな。

 

 「うんっ! ウララ、晴れの日はぽかぽかして好きだよっ!」

 

 とても良い返事だ。やはりロリはいい。

 

 名前はウララというらしい。可愛らしい名前だ。

 

 この間天気の話を振った同期のヒト雌など、つまらなそうな顔で、それで? などと言ってきたのだ。

 

 やはり女は15歳まで。

 

 彼の信念である。

 

 

 

 だが、ここで問題がある。

 

 ニシノフラワーなどの飛び級組を除き、トレセン学園に所属するウマ娘の最低年齢は15歳。中等部1学年だ。

 

 つまり、彼は1年担当した時点で、相手に対する熱意を失う運命にある。

 

 何故トレーナーになったのか。

 

 だが、彼には秘策があった。

 

 

 

 (賞味期限が切れてもロリのままなら愛せる……!)

 

 

 

 そう。彼は己の熱意を保つため。

 

 なるべくロリロリしいウマ娘を探していたのだ。

 

 そこに現れた桜色。

 

 この娘なら、15を過ぎても愛せる。

 

 確信できる。

 

 彼はいきなり現れた運命の相手を逃がさぬため、変質的なねちっこさで彼女との会話を続けた。

 

 

 

 趣味は。

 

 「お料理と、お昼寝!」

 

 およめさんに向いている。

 

 お昼寝姿の写真はとても彼のロリコン心を満足させるだろう。

 

 グッド。トレーナーポイント10点加算。

 

 

 

 得意なバ場と脚質は。

 

 「ダートで、差し! 距離は短い方が得意だよ!」

 

 既に自分の適正を把握している。

 

 グッド。トレーナーポイント10点加算。

 

 

 

 好きな食べ物は。

 

 「鮭とばと、あたりめ!」

 

 ……やたら渋いな? 

 

 首を傾げつつ、笑顔が眩しい高得点。

 

 グッド、トレーナーポイント10点加算。

 

 

 

 将来の夢は。

 

 「えへへ……およめさんっ!」

 

 恥じらいつつも、元気で可愛らしい笑顔。

 

 良かろう。我がロリ嫁にしてくれよう。

 

 マーベラス。トレーナーポイント百点加算。

 

 

 

 

 しばらくインタビューは続き、だいたい彼女のプロフィールは把握できた。

 

 素晴らしい。一部首を傾げる所はあれど、理想的なロリである。

 

 彼女とならば、トゥインクルシリーズを走り切り。

 

 ドリームトロフィーリーグに至っても尚、愛を注ぎ続けることが出来るだろう。

 

 選抜レースなど見る必要もない。

 

 運命の相手はここにいるのだ。

 

 彼は確信し、三女神に感謝した。

 

 

 

 立ち上がり、彼女に手を伸ばす。

 

 タッチするためではない。

 

 イエスロリータ、ノータッチ。

 

 ロリコンの基本だ。

 

 まぁ、相手から求めてくれば無罪。

 

 彼は己の愛を淫らに求めてくる未来の彼女の姿を幻視しつつ、握手のためその手を伸ばした。

 

 

 

 ウララ。君を担当したい。

 

 オレの愛バになってくれないか。

 

 「えっ? いいのー? 他の子とか、まだ声かけてないんでしょ?」

 

 疑問を投げ掛けてくる彼女。

 

 なんと奥ゆかしいロリか。

 

 ますます彼は夢中になった。

 

 およめさん適正の高さを感じる。

 

 素晴らしい、正に自分の理想である。

 

 

 

 問題ない。もう君しか見えない。

 

 新人トレーナーで信用できないかもしれないが、これでもトレーナー養成校を首席で卒業している。

 

 誠心誠意務め、君を夢の舞台へ導こう。

 

 さあ、返答は如何に。

 

 「……うんっ! 信じるよっ! よろしくね、わたしのトレーナー!」

 

 彼の手を握る、ロリ特有の温かく柔らかな手のひら。

 

 かかった。もう逃がさぬ。

 

 彼は内心で邪悪な笑みを浮かべ、つい失念していた、大事な事を聞くことにした。

 

 よろしく、ウララ。そういえば、順序が逆になってしまったが。

 

 

 

 フルネームは? 

 

 「ウララ! ハルウララだよっ!」

 

 満足して頷く。

 

 良い名前だ。

 

 そう、前回のウィンタードリームトロフィーで、ダート短距離部門を制したウマ娘。

 

 彼女もハルウララと言ったはず……

 

 ビキリ。彼の動きが硬直した。

 

 自分はロリコンであり、賞味期限の切れたウマ娘に興味は無かったため、ドリームトロフィーリーグは見ていない。

 

 そのためまだ確信には至らぬ。

 

 恐らく同名のウマ娘だろう。

 

 何、そういうこともあるさ。たぶん。

 

 でも一応確認しておこう。

 

 

 

 ウララ、不躾な事を聞くが、どうか許して欲しい。

 

 「うん? なーにー?」

 

 躊躇いつつも、聞いてみる。

 

 

 

 その……お嬢ちゃん、今なんさい? 

 

 「さんじゅっさい!」

 

 かわいらしくぶりっ子ポーズを決める彼女の腰から、グキッと言う音。

 

 崩れ落ちる違法ロリ。

 

 「ウララちゃんっ! ダメだよ、ギックリ腰は癖になるんだからっ!」

 

 走り込んでくる、賞味期限切れの栗毛のウマ娘。

 

 ロリでもないのにツインテールとは。

 

 万死に値する。でもちょっと手伝って。

 

 彼女と協力し、慌ててハルウララを保健室に運びながらも思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ、かわいいから良し。

 

 この時。

 

 ウララT、20歳。

 

 ハルウララ、30歳。

 

 そうして、彼らは出会ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 回想から戻り、グラスに入ったウィスキーを舐める。

 

 彼女は、あの時はどうやらラストランのために、トレーナーを探していたらしい。

 

 

 

 トゥインクルシリーズを共に走ったトレーナーは既に寿退社し。

 

 ドリームトロフィーリーグで彼女を担当していたトレーナー……六平トレーナーと言ったか。

 

 寄る年波には勝てず、彼女のラストラン前に引退してしまったそうだ。

 

 まぁ、それはいい。ラストランでは、彼女は多くのファンの声援の中、ぶっちぎりで勝利し、喜びの涙を流した。

 

 大人気のスターウマ娘が有終の美を飾った、その一助となれたのだ。

 

 トレーナー冥利に尽きるというものである。

 

 

 

 だが、今の状況。これはおかしい。

 

 彼女はドリームトロフィーリーグを卒業し、普通のウマ娘に戻った。

 

 だが、何故か自分はその世話を焼いている。

 

 マネージャーとしての働きを強いられているのだ。

 

 一応、トレセン学園から給料は出ている。

 

 スターウマ娘の、引退後の芸能活動を支えているからだ。

 

 そういう、引退後のウマ娘に対する支援も、手厚いのがトレセン学園だ。

 

 だが。だがしかし。

 

 自分はトレーナーなのだ。

 

 マネージャーではない。

 

 いや正直それはどうでもいい。

 

 

 

 ロリにタッチ出来ない。

 

 あの違法ロリ、距離感は近いくせに、やたらとガードが硬く、ラッキースケベすら許さぬ。

 

 酒を鯨飲するくせに、ウマ娘故潰れることもない。

 

 彼女を酔わせてえっちなことをするため。

 

 いったい幾らの飲み代が、彼女のロリロリしいおなかに消えていったのか。

 

 そして諦めきれぬ己は、毎回潰されて、翌朝軽くなった財布に涙とゲロを流すのだ。

 

 なんという仕打ちか。

 

 いつかわからせてやらねばならぬ。

 

 

 

 だが自分からセクハラを働くことは出来ない。

 

 イエスロリータ、ノータッチ。

 

 ロリの方から飛び込んで来てもらわねばならないのだ。

 

 彼は誇りあるロリコンであるが故に。

 

 例え、彼女が自身より、ほぼ一回り年上であったとしても。

 

 

 

 

 

 

 この現状を打破するため、彼は昨晩、彼女に労働条件の改善を求めた。

 

 同棲を打診したのだ。

 

 実は自分は彼女の家を知らなかった。

 

 彼女は現役時代はトレーナーたる自分の家と、トレセン学園。

 

 現在はマネージャーたる自分の家と、収録スタジオ。

 

 日中はこの2点間を往復し、夜間は姿を見せぬ。

 

 なんということだ。自分はロリとのお泊まりを楽しみ、あわよくばそのまま彼女を我が物にしたいのに。

 

 

 

 

 

 詰め寄る自分に、理由を説明する。一晩待って欲しいと言い。

 

 翌日のクリークママといっしょ! の収録後、彼女が渡してきた一枚のDVD。

 

 これは、まさか噂の……

 

 DVDを持つ手が震える。

 

 まさかこれは。寝取られビデオレターなる物なのか。

 

 見てはいけない。

 

 理性はそう告げるが、ロリが寝取られるのも見てみたい。その悪魔の囁きには勝てず。

 

 彼はDVDをプレイヤーに挿入した。

 

 覚悟を決める。

 

 ロリコンかつ寝取られマゾに堕ちる覚悟を。

 

 もはや社会復帰は絶望的だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 プレーヤーに入れた自分が見たもの。

 

 『やっほートレーナー! 元気ー?』

 

 笑顔の愛バ。今日もロリロリしい。

 

 この背景は……一戸建ての住宅。

 

 しかも、相当金のある家と見た。

 

 時刻は夜だろう。掛け時計は12時を指している。

 

 昼の12時は彼女はスタジオで、自分の劣情が籠ったお弁当に舌鼓を打っている頃である。

 

 『トレーナー、わたしとお泊まりしたいって言ってたでしょ? 

 ……今日は、それが無理な理由、教えてあげる……♡』

 

 ロリにあるまじき淫らな顔をする彼女。

 

 非常に興奮する。

 

 なんだと。もしや。この住宅の主。

 

 それが彼女の夜のトレーナー……? 

 

 指が停止ボタンを探す。

 

 だが、探し当てたボタンを押せない。

 

 駄目だ。このままでは自分は。

 

 ロリコン寝取られマゾに……

 

 一度決めた覚悟が揺らぐ。

 

 さすがにこれ以上の業の深さを抱え込むのは……

 

 だが無情にも手は言う事を聞かず、プレーヤーは淡々と再生を続ける。

 

 廊下を静かに歩いていく愛バ。

 

 寝室らしき扉の前でこちらを振り向き、最高の笑顔を魅せる。

 

 目を離せない。例えこの身の滅びが確定しようとも。

 

 

 

 

 

 

 そしてドアが開く。

 

 

 

 『ひゃっほーい♡♡♡』

 

 

 

 ……は? 

 

 ドアを開けた瞬間、中央のベッドに走り込み、ル○ンダイヴをキメる彼女。

 

 ベッドの上には、成人男性と賞味期限の切れたウマ娘。そして愛らしいロリ。いや、これはペド……? 

 

 どうやら夫婦とその娘のようだ。

 

 ペドは是非ともお近づきになりたい。

 

 

 

 彼の愛バは、穏やかに川の字で寝ている彼らのうち、賞味期限が切れたウマ娘の胸にダイブ。

 

 クッションを活かし、華麗な着地をキメるとそのまま狼藉を働き始める。

 

 

 

 『キ・ン・グ・ちゃーん♡』

 

 『んっ……♡はぁ……♡』

 

 賞味期限切れのウマ娘……キングというらしい。

 

 彼女の寝息に混じる、確かな快感の声。

 

 そのまま彼の愛バは、空いている方の手で、同じく眠っている男性のケツを大胆に揉みしだき。

 

 そのまま彼の耳元で囁く。

 

 

 

 『トレーナー♡』

 

 『んんん?』

 

 『なでなでして♡』

 

 『んあ……よしよし……』

 

 眠りながらも、愛バの頭をなでなでする男性。

 

 なんということだ。完全に調教されている。

 

 男性の方が。

 

 

 

 『んっはぁぁぁ♡この時のために生きてるぅぅぅぅ♡』

 

 両手で睡眠状態の男女の感触を大胆に楽しみつつ、頭に感じるなでなでにゲスい声を上げる愛バ。

 

 居酒屋でとりあえず生! とコールをキめ、一息で飲み干した時と同じ声だ。

 

 非常にご満悦であるらしい。

 

 彼はさらに混乱した。

 

 寝取り……? 寝取りなのかこれは? なんか違くない? 

 

 なんなのだこれは。どうすればいいのだ。

 

 混乱しつつ、動画の視聴を続ける。

 

 

 

 『ぷりんせすぱーんち……むにゃむにゃ』

 

 『ぐっほ!』

 

 あ、寝ているペドの正拳突きが愛バのみぞおちに。

 

 あのペド、いい拳をしている。

 

 しばらくベッドの上を跳ね回る愛バ。

 

 それにしてもあの夫婦と娘と思われる家族、よく起きないな……

 

 思いつつ見ていると、悶絶から復帰した愛バがカメラに向き直り、告げる。

 

 

 

 『ごめんねトレーナー♡こういうことなの♡』

 

 どういうことだよ。

 

 『ここがわたしの夜のおうち!』

 

 まぁせやろな。

 

 明らかに手慣れているし、寝室で自由きままに狼藉を働いているのに、彼らは安心しきって眠っている。

 

 相当信用されているのだろう。

 

 こんなに大胆かつアホな不法侵入者、いるはずもない。

 

 居たとすれば、既に実刑判決を受けている頃合いである。

 

 

 

 『だから、トレーナーの物にはなってあげられないの! 

 キングちゃんたちは、わたしの物だよ♡じゃあ、ばいばーい♡』

 

 いや、あの家族にはペド以外欠片も興味がないのだが。

 

 趣旨を完全に間違えている。あの違法ロリ。

 

 

 

 『うーん……ウララさん、うるさいわよ……』

 

 ぎゅむ。捕獲されて、夫妻の間にねじ込まれる愛バ。

 

 そのままおなかをぽんぽんと叩かれ、大人しくなる。

 

 健やかに眠りに就く愛バ。

 

 完全に調教されている。アホなペットとして。

 

 

 

 

 

 そしてDVDの再生が終わった。

 

 彼はしばらく悩んでいたが、結論を出した。

 

 

 

 寝よう。

 

 彼は健やかに眠りに就いた。

 

 さぁ、明日はどんな手管であの違法ロリを堕とすか……

 

 焦る事はない。

 

 どう足掻いても、彼女があの家族のペット枠から抜け出すことは無いだろう。

 

 最後にあの違法ロリをペットにするのは自分だ。

 

 

 そう思いつつ。

 

 彼は夢の世界に堕ちていった。

 

 

 

 

 

 続かない




せん○いのお時間も好きなんですよ。


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ハルウララさんじゅういっさい そのよん マスコット襲来

またネタを思いついたので書きました。

次回はキングちゃん家のお姫様が主役となります。

ちなみに、この世界の主要登場人物に、まともなヤツはいません。(断言)


 ハルウララは夜道を一人歩いていた。

 

 その足取りは常よりも些か重い物となっていた。

 

 「今日は疲れたなぁ……」

 

 思わず独り言も漏れるというものである。

 

 本日のクリークママといっしょの収録。

 

 番組の新たなマスコットたる、ウマ美ちゃんの活躍による疲れである。

 

 

 

 元々、クリークママといっしょにはマスコットが一匹いた。

 

 がろうくん。かわいらしい狼の着ぐるみである。

 

 

 幼児たちの呼び声に応じて現れ、一緒に歌や遊びを楽しんだ後。

 

 その親しみやすさに幼児たちが油断したところで突如豹変し。

 

 女児に対して狼藉を働こうとして、ウマのお姉さんたるこのハルウララに退治される。

 

 もしくはクリークママに胎児される、根っからのヒールである。

 

 

 

 子供たちに、悪い大人に騙されないようにと教訓を与える役柄だ。

 

 中身は自身のトレーナー。

 

 女児とウマのお姉さんに対する狂気的な執着心は、演技とは思えぬと評判である。

 

 

 

 そして、本日番組に登場したのは、そのライバルとして役割を与えられた者。

 

 正義のヒロイン・ウマ美ちゃんである。

 

 

 

 かわいらしいウマ娘をデフォルメした着ぐるみであり。

 

 そのチャーミングな姿は幼児を虜にした。

 

 チャームポイントはクリスマスカラーのメンコ。

 

 

 

 彼女は女児を人質に取り、ウマのお姉さんに対して同棲を要求するがろうくんの背後に突如現れ。

 

 アルゼンチンバックブリーカーによりがろうくんを見事退治したのだ。

 

 かわいらしい正義のヒロインに駆け寄り、そのふわふわの鹿毛のツインテールに夢中となった幼児たち。

 

 彼らがウマ美ちゃんを褒めたたえ、ウマのお姉さんががろうくんに三行半を突きつけたその時。

 

 

 

 そこでウマ美ちゃんは牙を剥いた。

 

 がろうくんが女児のみを狙うのに対し。

 

 ウマ美ちゃんは男児・女児の区別なく、その魔手を伸ばし、彼らの柔らかな尻を狙い始めたのだ。

 

 本能的な危険を感じ、悲鳴を上げて逃げ惑う幼児。

 

 彼らは感じたのだ。こいつガチのやつだ、と。

 

 そしてがろうくんを切腹させ、ケジメを取らせたウマのお姉さん。

 

 このハルウララによって、2匹目の悪夢は滅びたのだ。

 

 

 

 

 張り切ってウマライダーキックをかましたのがマズかった。

 

 ウマ美ちゃんの中身のウマ娘の首は、プロウマレスラー並みの強度があったのだ。

 

 反動でこの硝子の腰はまた悲鳴を上げた。

 

 さすがは土下座で首を鍛え上げた、先代ウマのお姉さんだけはある。

 

 

 

 ナイスネイチャ。汚い帝王。

 

 ウマのお姉さんをクビになった彼女は、トウカイテイオー宅で牙を研ぎ、尻を撫でて傷を癒し。

 

 突如クリークママの前に、一部の企画書を携え現れたのだ。

 

 

 警戒するクリークママに、彼女が告げた言葉。

 

 

 『貴女の教育には、厳しさが足りない』

 

 

 自身の教育に絶対の自信を持つ彼女は憤慨した。

 

 だが、怒り狂うクリークママにも怯まず、更に彼女は言葉を続けた。

 

 

 なるほどクリークママは、理想の母親として、幼児に夢と希望を与える存在である。

 

 がろうくんからも身を呈して幼児を守る。正に幼児の守護者。

 

 だが、足りない。

 

 クリークママが彼らを守れるのは、番組の間のみである。

 

 

 ハッとするクリークママに、悪魔は囁いた。

 

 彼らには、危機感を与えなければならない。

 

 この番組という名のゆりかごから出て、一人でも生きていくための強さを。

 

 そのために、このナイスネイチャがウマ皮脱ごう。

 

 脱いだ皮の代わりにマスコットの皮を被り、この身を犠牲にして教えようではないか。

 

 ゆりかごの外の厳しさというものを。

 

 

 

 まんまとその教育ママとしての義務感を悪用されたクリークママにより。

 

 また悪魔は幼児番組に潜り込んだのだ。

 

 その役柄は獅子身中の虫。

 

 迫りくる悪から幼児を身を呈して守り、信用を勝ち取り。

 

 そして、安心しきった彼らに対して牙を剥く。

 

 まさに、誰も信用してはならないという、教訓を与える悪魔である。

 

 

 

 番組が終わった後、自身の母親に駆け寄る幼児たちの瞳に宿る、猜疑心。

 

 彼らの姿を見て、クリークママは叫んだ。

 

 あっぱれナイスネイチャ。貴女こそが私の求めていた者である。

 

 そして、ナイスネイチャは痛む首を抑えつつもほくそ笑んだのだ。

 

 

 

 回想を終え、家への道をとぼとぼと歩きつつ思う。

 

 気が狂ってやがる。まともなヤツはこの世界におらんのか。

 

 

 

 ナイスネイチャの登用に対して、異論を挟んだ者はもちろんいた。

 

 自身のトレーナーもそのうちの一人だ。

 

 恐らく、ライバルの登場に、女児とウマのお姉さんを独り占めできなくなる危機感を覚えたのだろう。

 

 

 

 だが、彼はナイスネイチャに肩を抱かれ、番組のセットの裏に連れ込まれると。

 

 5分も経たぬうちにホクホク顔で現れ、彼女と堅い握手を交わしたのだ。

 

 何やら写真のようなものを持っていたため、買収されたのだろう。

 

 

 

 情けないツバメの代わりに自身ももちろん反対を叫びたかった。

 

 だがクリークママの目が怖すぎたのだ。

 

 彼女はスタジオ内における法律、絶対君主である。

 

 彼女に逆らえば、職を失う。

 

 涙を呑み、その指針に従う他無かった。

 

 

 

 家の明かりが見えて来た。

 

 今日はゆっくりと休もう。

 

 トレーナーがアルゼンチンバックブリーカーからの切腹をキメたため。

 

 ICUに緊急搬送され、今日は湿布を貼ってもらえなかった。

 

 クリークママは子供たちに嘘をつくことは決して許さないのだ。

 

 切腹ももちろんガチである。まぁあのツバメは頑丈だから明日には復活しているであろう。

 

 

 今日はお姫様に湿布を貼ってもらうとしよう。

 

 幼児に湿布を貼ってもらうのは、何か負けた気分になりアレなのだが。

 

 彼女はやたら湿布を貼るのがうまいのである。

 

 ハルウララはそう思い、玄関の扉を開いた。

 

 

 

 ただいま。

 

 「おかえりですの! ウララちゃん!」

 

 

 

 

 

 つづく

 



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ハルウララさんじゅういっさい そのご こんにちわ、おひめさま

ちょっとばかりしっとりウララ。

次回もお姫様編。

お姫様編のモチーフは刃牙のスカーフェイスと、ある少女漫画です。当てたらいい事が特にないです。

ちょいちょい私のイメージする引退後のウマ娘が出てきたりします。

引退後の幸せなウマ娘概念流行れ・・・流行れ・・・


~前回までのあらすじ~

 

 本日の収録で悟った、やべーやつしか周りにいない現実と、洒落にならない腰の痛み。

 

 ハルウララは今夜はおうちでのんびりすることを心に決めたのであった。

 

 

 

 「おかえりですのっ! ウララちゃん!」

 

 玄関の扉を開けた瞬間、幼気で元気に溢れた声。

 

 我が家のお姫様。プリンセスちゃんによるお出迎えである。

 

 「ただいま、プリンセスちゃん」

 

 この幼児、物心ついた頃からちゃん付けで呼んできよる。

 

 ほんの数年前まで、自分がおむつを替えていたというのに。

 

 とんでもない幼子である。まぁ可愛いから許そう。

 

 「おかえりなさい、ウララさん」

 

 リビングの方からキングちゃんの声。

 

 学生時代とは大違いの、大人びた声になった。

 

 自分とは違って。

 

 

 

 「ウララちゃん! 靴を脱いだら手を洗うんですのよ! 今日はシチューですの!」

 

 上がり框に腰かけ、靴を脱ぐ。立ったままだと腰に悪いのだ。

 

 幼児が頭をなでなでしつつ言ってくる。

 

 おしゃまな子である。というか26も年上の自分の頭を撫でるとは。

 

 まぁこのなでなで、親譲りか、やたら気持ちいい。疲れた身体に染み入るいいなでなでである。

 

 しばらく好きにさせることにする。別に自分が撫でられたいわけではない。

 

 

 

 満足したのか、撫でるのをやめたお姫様に手を引かれ、洗面台へ。

 

 この童顔も、メイクをする必要があまりないという点ではいいものである。

 

 手を洗い、ナチュラルメイクと言い張っている、薄くて適当なメイクを落とす。

 

 正直リップを引くだけでもバレない自信はある。

 

 むしろ一回ちゃんとスタイリストさんに頼み、メイクをしてもらったら。

 

 クリークママに顔をふきふきされてしまった事すらあるのだ。

 

 子供たちと同じ目線。それは別に身長とかそういう事だけではないと、お説教までされた。

 

 意味はよくわからなかったが。

 

 「はい、ウララちゃん!」

 

 顔を上げると、お姫様よりタオルを下賜される。

 

 ありがたく頂き、顔を拭く。

 

 さぁ、今日はシチュー。家庭的な親友の得意料理だ。

 

 星型の人参も入っているに違いない。

 

 

 

 たまに、食事をたかりに来るセイウンスカイなどにはメルヘン過ぎると笑われ、彼女は憤慨しているが……

 

 「キングも変わらないね~。ウララはもっと変わらないけど!」

 

 「いいでしょう、この人参は我が家の伝統なのよ! ねぇウララさん!」

 

 「二人とも、プリンセスちゃんが起きちゃうよ?」

 

 「ごめんごめんー。あーあ、私も子供欲しかったなー」

 

 「むう……この話はまた後でね、スカイさん」

 

 

 

 あの人参、昔から大好物なのだ。

 

 恥ずかしくて、今は口に出せないが。有マ記念の前に言ったのが最後だろう。

 

 機嫌良さげに笑っていたセイウンスカイ。

 

 現在はトレセン学園で教鞭を振るっている。

 

 あの日は同居している、ニシノフラワーが不在だったのだろう。

 

 子供が欲しかったというのは、本当だろう。でも作るつもりはないだろうな。

 

 愛のカタチはウマそれぞれである。

 

 

 

 

 思いつつ、お姫さまに手を引かれ、リビングへ。

 

 「改めて、お帰りなさいウララさん。お仕事の調子はどう?」

 

 「すごく……すごかったよ……キングちゃん……」

 

 自分の沈んだ声に悟ったのだろう。

 

 まぁ、と一言いい、料理に戻る。

 

 聞かれたくないことは無理に聞かない、気の利く奥様である。

 

 ソファーに座ると、お姫様が膝に登ってくる。

 

 彼女の頭に顎を乗せつつ、テレビを見る。

 

 今流れているのは自身の出演した番組。

 

 3回ほど前に収録した分のようだ。

 

 TVで見るだけとわからないが、クリークママにより精通前の童貞が次々と性癖を殺害されている。

 

 彼らの未来に幸あらんことを。なんとなく祈る。

 

 

 まぁ、楽しい遊びのひとつ。

 

 珠の子・お手玉! でクリークママの胸に彼らを投げ込んでいるのは、画面に映る自分なのだが。

 

 彼らも歓声を上げるだけで済ませればいいものを、途中で自由奔放に空中ポーズを取るものだから。

 

 そのまま継続することに危険を感じ、元気な子から順番に投げ込んでやった。

 

 とても良い子になった彼ら。未来は暗いが頑張って欲しい。

 

 

 

 だが収録の後、自分の胸を蔑んだ目で見て、鼻で笑った小僧。

 

 アレは、次にスタジオに来る機会があれば、さらに念入りに邪神に捧げ、性癖を歪ませよう。

 

 Gカップ以下は眼中に無く、さらには母性に溢れ過ぎる女しか愛せない男。

 

 もはやクリークママのクローンでもいない限り、子孫を残すことは叶わぬ。

 

 お前が末代である。

 

 

 

 「今日もすごかったんですのね! この回も十分すごいですけど!」

 

 元気いっぱいに言い、膝の上できゃっきゃと笑い、リモコンで録画設定を確かめるお姫様。

 

 この家では、毎日クリークママといっしょ! を録画している。

 

 自分が出演しているのに加え、お姫様が大のお気に入りなのだ。

 

 正直教育に悪い自覚があるので、おすすめはしなかったのだが。

 

 

 

 明日の予約大丈夫かしら……などと言いつつ、ハイテク機器を見事に使いこなしている幼児。

 

 誰に似たのだろう。まぁ自分ではない事は確かだ。血も繋がっていないことだし。

 

 のんびりと顎をかっくんかっくんやってお姫様を喜ばせつつ待っていると、奥様の登場だ。

 

 

 

 「ほら、二人とも、出来ましたよ。ママの愛情たっぷりシチュー」

 

 ぱちりとウィンクして、シチューを机に置く彼女。

 

 学生時代よりも茶目っ気が増したのは、やはり子供ができたからだろう。

 

 「いただきます」

 

 「いただきますわ!」

 

 手を合わせていただきます。

 

 夕食時には酒はお預けである。

 

 

 

 「ウララちゃん、はいっ!」

 

 ちいさなおててでスプーンを鷲掴みにし、シチューを自分の口元に運ぶお姫様。

 

 正直スプーンが小さすぎて、あまり食べた気にならないのだが……

 

 ありがたくいただく。

 

 断ると泣かれるのだ。

 

 星型の人参が来た。テンションが上がる。やったぜ。

 

 

 

 しばらくお姫様からの餌付けを味わっていると、満足したのか自分の食事に集中し始める。

 

 やはり幼児。すぐに飽きるところがそれらしい。

 

 まぁ毎回欠かさずやってくるところを見ると、もはや習性と化しているようだが……

 

 自身の父親にやるべき事だと思うのだが。

 

 

 

 だが今日は仕事でいないであろう彼に、これをやっているところを見た事はない。

 

 たまに共に食卓を囲む際には、歯軋りしそうな顔でこちらを羨んでくるので気分が良い。

 

 ざまぁ見ろ。自分を捨てて幸せになるからである。

 

 その際には優越感に浸りつつ食事を味わえるので、わりとお気に入りだ。

 

 

 

 「ごちそうさまでした」

 

 「ごちそうさまでしたわ!」

 

 2人揃って食後の挨拶。満足そうに頷くキングちゃん。

 

 「はい、お粗末様。じゃあウララさん、今日は晩酌は?」

 

 「うーん。ちょっとだけ飲んでいい?」

 

 「ええ。ちょっとと言わず、好きなだけ。疲れているんでしょう? 最初はビールでいい?」

 

 「大丈夫だよキングちゃん。自分で……」

 

 「わたくしが取ってきますわ!」

 

 膝から飛び降りて、冷蔵庫へと走るお姫様。

 

 最近は何をするにも自分でやりたがる。そういう年頃なのだろうか。

 

 

 「はいっ、ウララちゃん!」

 

 「ありがとう、プリンセスちゃん」

 

 ありがたく頂く。さて、缶からタンブラーに……

 

 「はいっ、ウララちゃん!」

 

 タンブラーを差し出され、缶を奪われる。

 

 何故一度渡した。まぁ幼児のやることに理由などないだろう。

 

 

 

 手に持つタンブラーに注がれる琥珀色。

 

 5歳児にお酌させる31歳児。絵面が最悪であるが、これも断ることはできない。

 

 ギャン泣きされると鼓膜が破壊されるのだ。

 

 だがこの5歳児、サービス精神旺盛すぎて、大人になったらダメ男に引っかかる可能性が濃厚である。

 

 聞き分けが良い年頃になったら、やめさせなければ。

 

 そう思いつつ、タンブラーを傾ける。

 

 

 「んんん……!」

 

 喉に沁みるこの味。快哉を叫びたくはあるが。

 

 居酒屋では行うコールも我慢する。

 

 さすがに悪影響が過ぎる。牛乳を飲んでこのために生きていると宣う5歳児。

 

 家庭での教育状況が疑われる乱行である。

 

 クリークママに知られれば、シベリア行きは免れまい。

 

 木を数える仕事は勘弁である。

 

 

 いそいそとお代わりを注ぐお姫様を見つつ、ふと思う。

 

 

 

 この5歳児、お家とお外で態度が違いすぎないか。

 

 この前ツバメと共に預かった時は完全に油断していた。

 

 まさかあそこまでお転婆な面を見せるとは。

 

 

 

 きゃあきゃあと笑い、息を荒げながら見守っていたツバメに、ローキックを執拗に食らわせていたお姫様。

 

 外弁慶というヤツであろうか。蹴っていたのも弁慶の泣き所だ。

 

 恐らく本能的に不倶戴天の邪悪を感知したのだろうけれど。

 

 番組でもそうだが、この年頃の幼児は本当にわからない。

 

 

 

 5年も共に暮らしていてわからないとは。本当に不思議な生き物である。

 

 あの時は本当に、小さな赤ん坊だったのに。時が流れるのは早いものだ。

 

 ふと、昔を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 トゥインクルシリーズを卒業したあの日。自分の時が止まった日から。

 

 結婚式の時を除き、しばらくは彼らとは音信不通だった。

 

 

 

 自分はドリームトロフィーリーグに移籍し、新しいおじいちゃんトレーナーと共に、引き続き走っていたし。

 

 もはや新しいウマ娘を担当する情熱を失い、一般企業に就職した彼と、主婦になった彼女。

 

 自分たちに接点などなかったのである。

 

 だが、あの日。5年前の、桜が舞う日に。

 

 自分はこの子と出会い、それからしばらくして。

 

 この家族と共に暮らすこととなったのだ。

 

 

 

 

 

   

 

 ある日、ウマホに届いた一件のメール。

 

 産まれた我が子を、自分にも見せたいという親友からのメール。

 

 安定のサイコパス。逆上した自分に赤子ともどもやられるとは欠片も考えていないのだ。

 

 やれやれ、しょうがないキングちゃんだ。あまりにも人を疑うことを知らない。

 

 だからあんなしょうもない男に引っかかるのだ。

 

 

 

 自分自身も盛大に傷つけつつ。

 

 その時はちょうど、レースも無く時間が空いていたため、了承のメールを返し。

 

 のんびりと桜吹雪の中を歩き、彼女が出産した病院を訪ね。

 

 

 

 彼らの愛の結晶を見て、ようやく恋を諦めようと。

 

 燻ぶった、消えない想いを振り払い、ようやく前へと進もうと。

 

 ゆりかごの中で自分を見て愛らしく笑う、この子の頭を撫でようとした時に。

 

 差し出した左手の。

 

 指を小さな手に握撃されたのだ。

 

 

 

 『いだだだだだだ! キングちゃん! この子生後何か月!?』

 

 『昨日産まれたばかりよ! こら、プリンセス! 離しなさい!』

 

 『おぎゃ────!!!』

 

 『いだだだだだ! 折れる! 私の指折れるから!』

 

 

 この子は立派なグラップラーになる。確信できる。

 

 この子が大きくなったら。

 

 レース引退後は飛翔する空をリングに変えた世界の猛禽。

 

 女子プロウマレスラーとなった、人気ルチャドーラ。

 

 エルコンドルパサーへ紹介しようかな。

 

 この間彼女からチケットをもらい、試合を見に行ったがすごかった。

 

 

 

 相手はマスクを着けぬ異色のルチャドーラ。

 

 彼女はクリークママにも匹敵する胸部戦闘力を活かし、エルコンドルパサーを追い詰め。

 

 互いに凄まじい恥ずかし固め合戦を繰り広げたのだ。

 

 

 ルチャをしろ。

 

 

 

 最後はエルコンドルパサーをその雄大なる山脈を活かしたプランチャで押しつぶし。

 

 勝利の雄たけびを上げた彼女は。

 

 その後歓喜のあまり、セコンドの男性の顔面を盛大に舐め回していた。

 

 なんだがとっても犬っぽかったが、まぁウマ娘だろう。

 

 耳としっぽが着いていたから間違いない。

 

 偉大なる皇帝の次の、トレセン学園生徒会長も大層犬っぽかったことであるし。

 

 

 

 その後のリング上でのウィニングライブの後。(この世界線ではウマ娘の出る競技にはほぼ全てウィニングライブがある)

 

 

 エルコンドルパサーが尊敬する父親から受け継いだルチャドーラの誇り。

 

 マスクを手袋代わりに、勝者に投げつけて再戦を誓った時には、会場は大きく沸いたものだ。

 

 敗北の屈辱と目の前で行われたイチャイチャに。

 

 怪鳥音を口から垂れ流し、怨敵を次こそ地に堕とさんとする。

 

 闘志と嫉妬を燃やすはエルコンドルパサー。

 

 今は自分と同じく31歳。当時は26歳。

 

 リングとロープだけが恋人であった。

 

 

 

 現実逃避しながらも、指に走り続ける痛み。

 

 

 

 『もう……ほーら泣かないで……よしよし……』

 

 『おぎゃああああああ!!!』

 

 『駄目ねこれ! 全然緩む気配がない! ウララさん、頑張って! 力づくで剥がすのは駄目よ! 相手は赤ん坊だから!』

 

 『ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅんん!!!!!!』

 

 

 

 役にも立たぬ赤子の実母の応援を受けつつ耐えた。

 

 この駄目キングめ。生産者責任を何と心得る。

 

 駄目元で頭を右手でなでなでしたら、力を緩めてくれて安心した。

 

 離してはくれなかったけど。

 

 しばらく指から手形が消えなかった。なんだったのあの怪力。

 

 まさか0歳児に海兵隊式気付け法をされるとは。起きてたのに。

 

 

 

 その後も……

 

 『じゃあキングちゃん、おめでとう。私、帰るね。……ねぇ、この子離してくれないんだけど……』

 

 『あらら……プリンセス。お姉ちゃん帰るって。離しなさい。……ぬぅ……そっと……』

 

 『おぎゃあああああああああああああああああ!!!!!!!!!』

 

 『『ぐあっ!!! 耳がああああああ!!!』指もぉぉぉぉぉぉ!!!!』

 

 とんでもないギャン泣きと、指を締め付ける万力のような圧力。

 

 赤ん坊の手は小さいため、常識外の圧力を掛けられた場合。

 

 力の掛かる面積が小さい分、ものすごく痛いのだ。

 

 二度とは経験しないと思うので、無駄な知識であるとは思うが。

 

 それを思い切り思い知らされた。

 

 その場は諦めて、赤子が寝るのを見計らい、病院を抜け出した。

 

 玄関にたどり着くと、とんでもない赤子の泣き声のような音が聞こえた気がしたが。

 

 知らぬ。存ぜぬ。我関せぬ。

 

 全力ダッシュでおうちへ帰る。

 

 

 

 

 

 そしてその2日後のことである。

 

 穏やかな昼下がり。おじいちゃんトレーナーとのんびり抹茶を啜っていると。

 

 

 

 ウマホに今度は着信が。またもキングちゃんからである。

 

 『もしもし、ウララです』

 

 『おぎゃああああ!!! もしああああああああ!! ウラあああああああああ!!! プリンあああああああ!!!』

 

 耳が破壊された。

 

 トレーナーの耳は既に遠いため、ノーダメージである。おのれ。

 

 

 

 赤子の声はウマホ越しでも相当なダメージを与えてくる。

 

 これも今後経験することの無い知識であろう。

 

 耳を抑えてうずくまり、やっと復帰すると、今度はメールの着信。

 

 『ごめんなさい、ウララさんが帰ってから、ずっとプリンセスが泣きやまなくて……

 もしかすると、刷り込み的なアレかも……母親、私なのに……』

 

 謝罪と近況報告。

 

 鳥の雛の習性と、ちょっとした愚痴。

 

 

 

 文面はそれで終わっていたが、直感する。

 

 これはアレだ。来いって言われてるヤツだ。

 

 だが指の痣は消える気配を見せぬ。次は折られる可能性まである。

 

 逡巡していると、新たなメール。すごく見たくないが、見てみる。

 

 『たすけて 病院追い出される』

 

 アカンやつである。おじいちゃんに行き先を告げると、慌てて病院に向かった。

 

 近い病院で助かった。

 

 現役アスリートとしての健脚を見せ、凄まじい勢いで病院へ。

 

 走れウララ。セリヌンサイコ親友ママヌスを救うため。

 

 

 

 『おぎゃあああああああああ!!!!!』

 

 廊下にも響き渡る全力の泣き声。一昨日からやってるのかコレ。

 

 というかよく今まで追い出されなかったものである。もはや音響兵器に近い。

 

 ドアを嫌々ながらも開ける。

 

 

 

 『おぎゃあああああああああ!!!!』

 

 『ウララさん! ごめんなさい!! 指を!!!』

 

 ドアを開けると、耳栓を耳にはめ、助けを求める親友と、全力で泣く全自動ケジメ装置。

 

 自分の指を犠牲にせよと申すか。

 

 しばし躊躇うも、さすがに親友が病院を追い出されるのは寝覚めが悪い。

 

 諦めて、右手を差し出す。

 

 『おぎゃああああああああ!!!』

 

 ぐあっ。まさか来たのは無駄であったか。

 

 なんということだ。

 

 諦めて病院を追い出されて欲しい。

 

 これも自分の恋をサイココンビネーションクラッシャーで破壊した罰……

 

 

 

 いや。まさか。

 

 恐る恐る、左手を差し出す。

 

 

 『ふえええ……あうう……』

 

 自分の左手の指を握り、安心した表情で眠る赤子。

 

 おっとこれは。お気に入りのおもちゃに自分の左手の指が登録されてますね。

 

 これ、もしかして。

 

 退院するまで、ずっと握らせておかないといけないの私……? 

 

 わりと真剣に困り果てた、あの日。

 

 

 

 数日後。追い出されるように退院し、愛していた男とその伴侶の自宅へ。

 

 

 

 病院では、腹いせに寝ているキングちゃんにひさしぶりのイタズラを執り行ったが。

 

 正直それが無ければキレていたと思う。

 

 相変わらず極上のボディである。この子持ち人妻。

 

 サイコパスのくせに、上げる嬌声は一級品。

 

 この人妻はわしが育てた。

 

 これは許さざるを得ない。

 

 思いつつ、赤子を抱きつつ歩く。

 

 指を握らせておかないといけないのかと思ったが、だっこでもいいらしい。

 

 

 

 だんだん取り扱い要領が掴めてきた。

 

 何せ、花を摘みに行くだけでもアウト。

 

 必然的に、指を掴まれながら行くしかない。

 

 駄目元で、抱き上げてみたらこれが正解。

 

 なんでもやってみるものである。

 

 便座に座りつつ、彼女をあやし。

 

 子育ての難しさを痛感した。

 

 恐らくこの子は赤子の中でも難易度ルナティックだとは思うが。

 

 まさか、世の母親はみんなこんな感じの音響指締め爆弾を抱えつつ生きているのか。

 

 母親ってすごい。ウララは思った。

 

 

 

 

 

 赤子を抱きつつ彼らの家に向かう途中、気づく。

 

 疲れと指の痛みに感覚が麻痺していたが、これはマズいのではないか。

 

 何と言っても、自分を捨てた男と、選ばれた女。

 

 彼らの自宅にのこのこと訪れる、選ばれなかった女。

 

 しかも手には産まれたばかりの彼らの愛の結晶。

 

 どんな状況だ。気まずいどころの騒ぎではない。

 

 殺人事件が起こりかねぬシチュエーションである。

 

 昼ドラでこの状況なら、間違いなく犯人は自分になる。

 

 手の中の赤子は人質に活用された後、殺害される運命だろう。

 

 念のため、彼女の所感を聞いてみよう。

 

 

 

 

 

 「ねえキングちゃん。この状況、何かおかしくない?」

 

 「えっ? 親友を家に招くのに何かおかしいことが……? 

 ああ、ごめんなさい。うちのプリンセスが迷惑をかけているものね。

 お詫びはいつかいずれ。

 ああ、かわいいわプリンセス……私にも抱かせてくれないかしら……」

 

 羨ましそうにこちらをちらちら見る彼女。

 

 

 

 駄目だ。やはりこやつサイコパスである。

 

 普通嫌がるだろう。

 

 自分の旦那が昔捨てた女が自宅に押し入るのだ。

 

 というかよくそんな相手に我が子を抱かせているものである。

 

 諦めたのか、高速で赤子の頬をプニり続ける彼女の姿に諦めを抱く。

 

 むずがってるむずがってる。

 

 

 

 そんなことだから我が子を旦那の昔の女に奪われるのだ。

 

 いや、やっぱりおかしいぞこの状況。昼ドラみたいな状況なのに。

 

 一向に被害者ポジションの女に危機感が見えぬ。

 

 その身体にわからせてやるにしても、上がるのは危機感ではなく嬌声だけだろう。

 

 ここはやはり、彼らの家に着いた瞬間に、赤子をパスして姿を晦まし……

 

 

 

 ガシッ。

 

 シャツの胸元が豪快に伸びる感覚。

 

 腕の中の赤子を見る。

  

 おっと。すごい勢いで握ってきますねこれは。

 

 離すつもりゼロですね。

 

 

 

 諦めて、のこのこと気まずい状況へ歩いて行く。

 

 彼がいないといいのだが。

 

 気まずい。でもアレはアレでサイコパスだからなぁ。

 

 たぶん気にしないような気もする。

 

 何せ捨てた女に、選んだ女との初夜の話を嬉し気に語り聞かせる男である。

 

 あの時手元にクリスタルの灰皿でもあれば、既に自分は豚箱に入っていたかもしれぬ。

 

 

 

 この子がまともに育つといいのだが。

 

 ハルウララは、真摯な願いと赤子を胸に、ようやく到着した一軒家を見上げる。

 

 

 

 

 

 

 ここがあの女のハウスね。

 

 一度言ってみたかった。

 

 

 

 

 つづかない

 

 



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ハルウララさんじゅういっさい そのろく ポンコツなやさしさ

おっと・・・お姫様編、筆が暴れすぎてまた続く・・・!
これは失策・・・!しかも内容は完全に趣味・・・!
だが私は謝らない・・・!
ギャグにしんみりそしてギャグ。
ウララちゃんの七転八倒をお楽しみください。

モチーフは幸せの青い鳥。


~前回までのあらすじ~

 

 幼児たちをちぎっては投げ、ちぎっては投げ。

 

 母なる邪神の懐に投げ込み。

 

 性癖の大量殺戮に加担しつつも、良心の呵責には特には苦しまず、日々業務に勤しんでいたハルウララ。

 

 番組に現れた、邪悪を煮詰めてウマ娘で稀釈。最後に隠し味に隠しきれぬ性癖を加え、ウマ娘を引いた存在。

 

 ウマ美ちゃんことナイスネイチャの再登場に、さすがに世の無情をレ・ミゼラぶる。

 

 家にとぼとぼ帰り、お姫様の手厚いサービスに心を癒され。

 

 彼女との出会いを振り返るのだった。

 

 

 

 

 

 

 ここがあの女のハウスね。

 

 

 

 人がゴミのようだ! 

 

 〇〇君って、本ッ当に馬鹿だよねぇ! 

 

 それらに並ぶ、一回で良いから言ってみたかったセリフ。

 

 それを言えた充足感に、胸を満たしつつ。

 

 手の中の赤子をむずがらせることに夢中な隣のサイコパス。

 

 親友にして略奪者たるキングヘイローに声をかける。

 

 

 

 「キングちゃん。ここだよね?」

 

 「ぷにぷにぷにぷにぷに……ああ……かわいすぎるわプリンセス…… 

 えっ? ああ、もう着いたのね……でもよくわかったわねウララさん。

 ここが私たちの家だって」

 

 「女の勘……ってヤツだよ。キングちゃん」

 

 「そう……さすがね。じゃあ入りましょうか」

 

 あっさりと納得し、玄関に向かう親友。

 

 

 

 他愛ない。疑う事を知らぬ彼女。

 

 訪問販売にも容易く騙され、家の中は新聞と羽毛布団に埋もれているかもしれない。

 

 親友をまた騙してしまった。だが必要だったのだ。

 

 

 

 言えぬのだ。いつか燃やすために下調べをしていたとは。

 

 家に帰ったら、キャンプファイヤーのために貯め込んであるアレ。

 

 消防法を大胆に無視した量のガソリンは捨てよう。さすがにガロン単位はマズい。

 

 手にお縄がかかってしまう。

 

 そう思いつつ、赤ん坊を手の中であやす。

 

 よしよし、命拾いしたな貴様。さすがに情が湧いたから生かしておいてやろう。

 

 きゃっきゃと無邪気に笑う、戦後未曾有の大火災を未然に防いだ立役者。

 

 

 

 「さぁ、入りましょう。いらっしゃい、ウララさん。

 ふふ。貴女にずっと言いたかったのよ。これ。

 スカイさんたちには悪いけど、一番の親友だもの」

 

 玄関を開きこちらに振りむき、優しく微笑む親友。

 

 やめろ。未遂ながら、罪悪感がストップ高だ。

 

 なんでそんなに無垢な笑顔を。

 

 目の前に居るのは貴様を家ごとファイヤーしようとした女なのだぞ。

 

 

 

 「お邪魔するね、キングちゃん」

 

 さすがに顔を伏せつつ、敷居を跨ぐ。

 

 「ええ。今後は気軽に。自分の家だと思って来てね? 

 ずっとおもてなしの準備をしてたのだけれど。

 ウララさんったら、いつも忙しそうで。招待したくてもできなかったの」

 

 

 

 さらに追撃。これも本音だろう。

 

 なんでこんなに自分を追い詰めるのか。

 

 

 

 玄関に入り。靴を脱ぎ。

 

 ふと顔を上げると、目にある物が映る。

 

 あまりの衝撃に身が竦む。

 

 

 

 廊下に飾られた額縁。

 

 その中で笑っているのは、愛していたトレーナーと、目の前の彼女。

 

 それだけなら良かった。

 

 ただの夫婦の写真ならば。

 

 憎しみを持ったままでいられた。

 

 

 

 だが、3人目がそこで笑っていたのだ。

 

 2人の間で無邪気に笑う、自分の姿。

 

 3人で撮った記念写真。

 

 

 

 自分が幸せになれることに、何の疑いも持っていなかった頃の写真。

 

 大好きな二人とともに、いつまでも一緒に笑っていられると思っていた。

 

 ウマ生で一番輝いていた頃の思い出。

 

 

 

 涙腺が決壊する。身体が言うことを聞かない。

 

 膝が勝手に折れ、赤ん坊に顔を埋めて泣きじゃくる。

 

 

 

 こんなに自分を想っていてくれた彼ら。

 

 それに対し、恨みしか感じていなかった自分。

 

 こんな邪悪な生き物。

 

 生きている資格はあるのだろうか。 

 

 

 

 「え? ウララさん? 急にどうしたの!? どこか痛いの!? 

 ほ、ほら、いたくなーい。いたくなーい。いたいのいたいの、とんでけー!」 

 

 慌てて自分の頭を撫でる、親友の久しぶりのなでなで。

 

 温かさが身に沁みる。さらに涙が溢れ出す。

 

 やめろ。やめてくれ。私に優しくするな。

 

 許されると、勘違いしてしまうではないか。

 

 

 

 さらに涙が赤子を濡らす。

 

 この汚れた涙で、穢れなき彼女を濡らす罪悪感。

 

 

 

 未来ある彼女のためにならない。

 

 最低限の理性を取り戻し、顔を上げる。

 

 すると、自分を不思議そうに見上げる彼女と目が合う。

 

 ぐしゃぐしゃの顔でなんとか微笑みかける。

 

 その情けない自分を、彼女は。

 

 そっとその小さな手で、頭を撫でてきた。

 

 

 

 全てが赦された気がした。

 

 

 

 恐らく気のせいであるけれど。

 

 生きていてもいいのだ。

 

 そう、言われた気がした。

 

 

 

 「う、ウララさん、大丈夫……? 

 私、何かしてしまったかしら……?」

 

 

 

 やっと泣き止んだ自分に、恐る恐るキングちゃんが声を掛けてきた。

 

 誤魔化さなければ。

 

 

 

 「だ、大丈夫だよキングちゃん。ちょっと持病の……そう。椎間板骨折が……」

 

 「椎間板!? 持病なのそれ!? というかよく今まで立ててたわね!?」

 

 しまった。さすがに不自然すぎたか。

 

 これにはいくらこの天然鈍感サイコパス人妻でも……

 

 

 

 「待っててウララさん! 私、いいお医者様を知ってるの! 確か名刺があったはず……!」

 

 だだだだだだ。

 

 出産から数日と経っていない筈なのに、現役時代から衰えぬ、豪脚を魅せて廊下を走り去る彼女。

 

 

 

 騙せてしまった。

 

 さすがにポンコツ過ぎる。

 

 こやつ。もしも自分がトレーナーと結婚していたら、傷心の内に結婚詐欺にあっさり引っ掛かっていただろう。

 

 確信できる。

 

 間違いなくトレーナーと結婚したのは、彼女のウマ生において最低限必要な事項だった。

 

 

 

 赤子になでなでされながら、呆然と思う。

 

 自分が捨てられたのは、このためだったのかもしれない。

 

 こりゃしょうがねーわ。

 

 だってこうなってなけりゃ、アイツ絶対今頃どん底生活だもん。下手すりゃ死んでる。

 

 

 

 やっと彼女を許せた瞬間だった。

 

 有無を言わせぬポンコツ具合。

 

 この折り合いの付け方は予想してなかった。

 

 しゃくり上げながら、愛しいポンコツを待つ。

 

 

 

 だだだだだだ。

 

 ポンコツ超特急が回送してきた。

 

 手には一枚の名刺。

 

 「あったわ! ウララさん! ここならその難病も治るはずよ!」

 

 いつの間にか自分の仮病は彼女の中で、治療困難な難病と化していたらしい。

 

 涙に霞む目で、彼女が差し出してきた名刺を見る。

 

 

 

 安心沢クリニック。

 

 カラー印刷された、不敵に微笑むサングラスの女。

 

 涙が一瞬で吹き飛んだ。

 

 こやつ、マジか。

 

 

 

 

 

 

 脳内に悪夢が甦る。

 

 学園に訪れた不審者。

 

 安心沢刺々美と名乗った女。

 

 疑うことを知らない彼女は、自分が止めるのも聞かず、まんまと騙され針を打たれ。

 

 

 

 身体の調子が絶好調になったの! 

 

 そう言う彼女に唆され、トレーナーの勧めもあり、自分も針を打たれた。

 

 

 

 ケツに突き刺さった針。

 

 しばらく下痢と吐き気が止まらず、トイレの住人となった自身と、心配そうにドアの外で寄り添う彼女。

 

 たづなさんに連行されていく不審者。

 

 

 

 

 やはりこやつ、許せぬ。

 

 善意の顔で差し出された、致死に至る毒の刃。

 

 悪くも無い腰がガチで破砕されかねぬ。

 

 

 

 消えたはずの怒りが再燃する。

 

 自分があれほど苦しんだのを忘れたのか。

 

 真意を問いたださねば。

 

 

 

 「き、キングちゃん。学生時代に私がトイレに引きこもったの、覚えてる……?」

 

 「ええ! ウララさんとの思い出は、ひとつも忘れた事は無いわ! 

 私の作ったシチューを食べ過ぎて、お腹を壊してしまった時よね? 

 ふふ、相変わらず食いしん坊さんなの? 

 そうだ、今日はシチューにしましょう! ウララさんの大好物だものね! 

 今度は食べ過ぎちゃ駄目よ?」

 

 

 

 ばちこーん。渾身のウィンク。

 

 

 

 悪意ゼロ。

 

 学生時代の悲惨な思い出は、彼女の中ではただの食い過ぎによるものと処理されていたらしい。

 

 再燃した怒りが、航空機によるダイナミック消火をされたように鎮静化される。

 

 

 

 こやつはこういうヤツだった。

 

 善意の塊。悪意無き破壊者。

 

 学生時代悟ったこと。

 

 いちいち怒っていたら身が持たぬ。

 

 

 

 今も感情のええじゃないかに乗せられ、振り回されている。

 

 いつからここは、富士急ハイ○ンドになったのか。

 

 凄まじい虚無感に襲われる。

 

 

 

 脳内に降り注ぐ御札。

 

 ええじゃないか。ええじゃないか。

 

 よいよいよいよい。

 

 囃し立てる民衆。

 

 明治維新の日は近い。

 

 

 

 

 「ほら、ウララさん、ちーんして。ちーん」

 

 涙が引っ込み、落ち着いたのを見て、涙を拭き取り。

 

 ハンカチを自分の鼻に優しく当てるポンコツ。

 

 お言葉に甘え、鼻に力を込める。

 

 ズビョオッ! 

 

 鼻水がたらふく出た。

 

 

 

 「わ。すごい量」

 

 しげしげとハンカチを眺め、満足そうに自分の頭を撫でると、洗面所に向かう彼女。

 

 そういえばあのハンカチ、学生時代から使っている、母から貰ったといういつものハンカチではあるまいか。

 

 飾り刺繍で補強されていて気付かなかったが、柄に見覚えがある。

 

 染みの位置も、記憶と一致する。

 

 

 

 数少ない母からの贈り物。

 

 とても大事にしていると語っていた。

 

 

 

 だが、必要な時が来たなら。

 

 彼女はそれを躊躇いなく、友の血と涙を拭うために差し出した。

 

 

 

 自分と、黄金世代の彼女たち。

 

 自らの涙は決して拭わず。

 

 ただ友の為に、大切な母との絆を使い、我等の絶望を拭い去る彼女。

 

 

 

 その優しさにどれだけ救われただろう。

 

 その優しさにどれだけ傷を抉られただろう。

 

 

 

 無垢過ぎる優しさは、時に人を傷付ける。

 

 そんな彼女が大好きなのだ。

 

 優しい優しいポンコツ天使。

 

 

 

 彼女を憎むことなど。

 

 玄関の写真で彼らの想いを知り。

 

 ハンカチで大切な記憶を思い出した自分には、もう出来ない。

 

 

 

 今日をもって、彼女たちの元から完全に姿を消すことを心に決める。

 

 ドリームトロフィーリーグももういい。

 

 自分はもう十分走った。

 

 

 

 

 栄光を得た。

 

 挫折を知った。

 

 怒りを覚え、絶望を味わった。

 

 だけどそれよりも、大切なものを沢山彼女に貰っていた。

 

 

 

 青い鳥は、そこにいた。

 

 ずっと心は傍に。

 

 離れていても、寄り添ってくれていた。

 

 彼女から逃げたのは、自分自身だ。

 

 

 

 そして、今。

 

 もう彼女の傍に居て、幸せを与えられる資格を失っていた自分に気付いた。

 

 

 

 地元に帰ろう。

 

 地元では、あまり自分は有名ではない。

 

 まぁ、飽くまで中央や、高知に比べてだが。

 

 それでも、望めばひっそりと暮らすことが叶うだろう。

 

 

 

 黄金世代の一人。

 

 スペシャルウィークも、引退後は地元に戻っている。

 

 彼女の牧場で雇って貰い、輝かしかったあの日々を語り合いながら、生きるのもいいだろう。

 

 そこでの生活に満足したら、そうだな。

 

 どうしよう。わからないや。

 

 多分、満足なんて、もう二度と出来ないような気がする。

 

 青い鳥は、二匹とは居ない。

 

 

 

 

 

 

 「さぁウララさん、リビングに………………

 いいえ。プリンセスをしばらくお願い。

 我が家自慢のシチューは時間が掛かるの。

 落ち着いたら、来て頂戴」

 

 洗面所から帰ってきたキングちゃん。

 

 私の顔を見て、立ち竦み。

 

 深呼吸を一つして。

 

 リビングへと向かう。

 

 なんだろう。どうしたのかな。

 

 背中が霞んで見えないや。

 

 あの日のように。

 

 

 

 

 

 

 ドバァン! 

 

 玄関のドアが凄まじい勢いで開かれる。

 

 

 

 「ただいまー!!! 愛する妻!! 産まれたばかりの娘!! そして随分ご無沙汰な、可愛いウララが来てくれていると聞いて!! 仕事の山も、パパっと解決!! パパだけにな!! ガハハ!! 大丈夫、上司には明日、土下座しよう!! 久し振りだなウララ!! オレは今、猛烈に感動している!! おや!? どうしたんだウララ!! なんでこちらを向いてくれないんだ!! 可愛い笑顔を見せてくれ!! もちろん背中も可愛いが!!」

 

 

 

 この、能天気な声。

 

 勢い任せの生き様。

 

 間違いない、ヤツだ。

 

 

 

 

 

 

 かつて愛していたヒト。

 

 トレーナーのお帰りである。

 

 

 

 

 

 

 

 つづかない



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ハルウララさんじゅういっさい そのなな おひめさまのこころ

 お姫様編最終回です。

 ウララちゃんは愛され体質なのです。

 次回からは、いつものノリに戻ります。

 舞台設定と、主要人物はだいたい紹介できたので。

 元ネタは、ド直球彼氏と、彼氏彼女の事情(原作)。あと色々。名作ですよ。皆さんも見ましょう。


~前回までのあらすじ~

 

 憎きあの女のハウスにたどり着いたハルウララ。

 

 悪意の炎を燃やすも、初手からポンコツ天使たちの善意にその膝を折る。

 

 そして畳みかけられる愛情とポンコツの弾幕。

 

 仮病に対して安心沢。何も安心できはしない。

 

 悪意を疑うも、善意100%の回答。

 

 迫りくるええじゃないかの囃子声。

 

 想い出のハンカチに、ついに自らの不明を悟る。

 

 そして、田舎へ帰るのを決めたその時。

 

 ヤツが現れたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 「ただいまー!!! 愛する妻!! 産まれたばかりの娘!! そして随分ご無沙汰な、可愛いウララが来てくれていると聞いて!! 仕事の山も、パパっと解決!! パパだけにな!! ガハハ!! 大丈夫、上司には明日、土下座しよう!! 久し振りだなウララ!! オレは今、猛烈に感動している!! おや!? どうしたんだウララ!! なんでこちらを向いてくれないんだ!! 可愛い笑顔を見せてくれ!! もちろん背中も可愛いが!!」

 

 

 

 ドドドドドン。捲し立てられる、アホと愛情が入り混じった言葉の奔流。

 

 やめてくれないか。言葉の洪水をワッと浴びせるのは。

 

 

 

 だが彼は止まらない。

 

 自分の肩に手を置き、強引に振り向かせると、ギョッとした顔をする。

 

 「どうしたウララ! 泣いているのか! 誰が泣かせた! そんなヤツは俺がブチ殺してやる!」

 

 お前らだよ。思うも、言葉は出てこない。

 

 「ふむ……まぁいい。良くはないが。まずは再会を喜ぶのが先だろう! 

 改めて久しぶりウララ! 結婚式の次の日の喫茶店以来だな! 

 あまり元気ではなさそうだが、だが相変わらず可愛い! 

 涙を舐めてもいいか?」

 

 良いはずがない。だが彼は人の話をこれっぽっちも聞いた試しがない。

 

 言っても無駄であるので、黙っておく。

 

 決して舐められたい訳ではない。

 

 

 

 しかし相変わらず感嘆符の多い男だ。

 

 頬を大胆に舐め回されながら思う。

 

 「うむ! 可愛いウララの涙! やはり……ウマいッ! 

 よし、プリンセスは元気だな! ウララを慰めていてくれたのか! 

 やはりキングの娘、優しいな! よーしなでなでイイッ↑タイ↓メガァァァ↑!!!!!」

 

 不用意に愛娘の頭を撫で、目突きを食らい悶絶する彼。

 

 相変わらずうるさい男だ。思った事を全て口に出す癖も変わらない。

 

 

 

 それで損しかした事がない。

 

 だが彼は、決して自分にも他人にも嘘をつくことをしない。

 

 自分を曲げるぐらいなら死ぬ。そういう男だ。

 

 そんな彼だからこそ。

 

 自分も彼女も、好きになってしまったのだ。

 

 

 

 もう少し、賢い男なら良かった。

 

 自分を傷つけずに振ってくれただろう。

 

 

 

 もう少し、不誠実な男なら良かった。

 

 自分に嘘をつき、呆れた自分は離れられただろう。

 

 

 

 だが彼は、愚かで嘘をつけない。

 

 トゥインクルシリーズ最後のURAファイナルズ。

 

 あのレースが終わり、選択の時が訪れる前日。

 

 ドリームトロフィーリーグへの移籍か。ふつうのウマ娘に戻るか。

 

 悩んでいる自分の前に、彼は現れた。

 

 

 

 『すまないウララ! ちょっといいか!』

 

 ずかずかと、いつも通りにチームルームに入って来た彼。

 

 『どうしたのトレーナー? そのほっぺたは?』

 

 『うむ! キングに思いっきり殴られた! 愛してると言われた際、オレも好きだ! うまぴょいしよう! と言ったらな! 訳がわからん! サイリウムも用意していたというのに!』

 

 

 

 こやつ、やはりアホだ。男女の仲でうまぴょい。普通そういう風に受け取られるに決まっている。

 

 いやちょっと待て。

 

 

 

 『き、キングちゃんに告白されたの……?』

 

 『うむ! された! その件でウララに相談があってな!』

 

 

 

 こいつマジか。鈍い鈍いと思っていたが、自分の好意に何も気づいていないと申すか。

 

 『ウララ! オレはどうしたらいい! オレはキングが好きだ! 彼女と家庭を持てば、とても幸せだろう! だがオレはウララのトレーナーでもある! ウララはまだ走りたいだろう? 目を見ればわかる!』

 

 

 こいつ、本当にそういう所は敏感なのに。恋心には気づきやしない。

 

 『ねぇ。ちなみに。トレーナーは私の事、どう思ってるの……?』

 

 『かわいい!』

 

 

 

 うむ。わかっておる。いやそうではなく。

 

 『そ、そうじゃなくて……私の事、恋愛対象としては……』

 

 『可愛いとは思うが性的な意味では対象外ッ!』

 

 

 

 おい。こやつ。即答しおったぞ。

 

 『それはキングちゃんを愛してるから?』

 

 『いや! ロリコンではないからだっ! ムッチムチボディだったら重婚を検討していた!』

 

 

 

 ゴガンッ。

 

 愛するヒトの頭部を大胆に凹ませて、自分は思ったのだ。

 

 これ、脈ゼロだわ……私、完全にペット枠だったんだな。

 

 こいつ、自分に正直すぎる……

 

 

 

 

 

 

 その後。自分は彼に三行半を叩きつけ。

 

 オグリキャップたちが引退し、暇を持て余していた六平トレーナーと契約。

 

 ドリームトロフィーリーグに進み。

 

 

 

 キングちゃんは、良妻願望の塊だったので、レースを引退。あのメルヘンが。

 

 彼は一般企業に就職。よく面接に受かったな。

 

 愛するキングちゃんと、ペット枠の自分。

 

 双方がトレーナーとしての自分の手から離れた彼は、続ける意義を見失ったのだろう。

 

 

 

 そしてキングちゃんの学園卒業を待ち、彼らは結婚し。

 

 その結婚式の次の日。キングちゃんとの初夜を臨場感と感嘆符たっぷりに語り聞かせる彼に辟易し。

 

 自分は彼らと距離を取るようになったのだ。

 

 

 

 

 (いや、やっぱり全部コイツが悪いのでは……?)

 

 ウララは訝しんだ。私絶対悪くない。

 

 キングちゃんはもう憎くないが、コイツは今でも死ぬほど憎い。

 

 

 

 「どうしたウララ! 可愛い顔が台無しだぞ! さぁリビングに行こうか!」

 

 がしっと自分を自分を赤子ごと抱え、リビングに歩みを進める彼。

 

 腹いせに赤子から片手を離してパンチをするも、効いた様子を見せぬ。

 

 昔から頑丈な男なのだ。

 

 「うむっ! 肋骨が折れた!」

 

 「あーうー!」

 

 いや、アホなだけかもしれない。ちょっとは痛がれよ。

 

 

 

 

 「おかえりなさい。あなた。レディーをそんな風に抱えてはいけないわよ?」

 

 「すまない! つい!」

 

 「もう。ごめんなさいね、ウララさん。

 分かっているとは思うけど、こういうヒトで……」

 

 「キングちゃんは悪くないよ。コイツが全部悪いから」

 

 「ハハハ!」

 

 「だー……」

 

 

 

 笑ってないで謝れ。私に誠意を籠めて土下座しろ。

 

 ほら、この子だって心なしか呆れた顔をしている。

 

 思いつつ、ひさしぶりのキングシチューに舌鼓を打つ。相変わらずべらぼうにうまい。

 

 星型の人参など、魅力的すぎて噛み締めるたびに多幸感に包まれる。

 

 ヤバい薬が入っていないか疑うレベルだ。

 

 

 

 「ふふ。ウララさんは本当に美味しそうに食べてくれるから、作り甲斐があるわ。

 このヒトは何を食べさせても、ウマいしか言わないから……」

 

 「ウマいッ!」

 

 愛する妻の手料理と、かつての愛バの涙の味。

 

 彼の中では等価値なのだろう。

 

 そりゃあ作ってて手応えもないわ。

 

 

 

 思いつつ、手の中のお姫様をあやす。

 

 よしよし、あんなクズみたいになっちゃダメですよ。

 

 キングちゃんみたいに……いやダメだな。

 

 悪い男に騙されるのが目に見えている。

 

 

 

 悪い男でなければ目の前の頭がかわいそうなバ鹿ぐらいだ。

 

 キングちゃんが幸福な家庭を築けたのは奇跡である。

 

 是非とも双方に似ず、独自性を持った奇跡の成長を遂げて欲しい。

 

 

 

 「ふむっ! しかしプリンセスは、本当にウララに懐いているな!」

 

 「ええ。ちょっと母親としての自信を無くしちゃうわ……」

 

 「大丈夫だよキングちゃん。いずれ本当の母親の素晴らしさに気づくよ」

 

 「あうー?」

 

 世辞である。何せこの中で一番まともなのは自分だ。確定的に明らかである。

 

 

 

 「でも困ったわね……ウララさんから離したら、泣きわめくもの……

 2日間ノンストップで泣き喚いたのはビビったわ……」

 

 「ふむっ! ならばウララがここに住めばいいのでは?」

 

 「だー!」

 

 「えっ」

 

 なんだそれは。いや解決策はそれしかないのだが。

 

 この男、自分が恨まれているのに気づいてもいない。

 

 

 

 「もう。ウララさんはちゃんと自分のお家があるのよ? そんなこと……」

 

 そうだ。もっと言ってやれ。

 

 「大丈夫だ! 家には酒とツマミしか転がってないらしい! ヒシアマゾンから聞いた!」

 

 「ア”マ”ゾ”ン”ッ!!!!」

 

 激怒する。あの女、たまに家まで世話を焼きに来るから。

 

 素直に感謝していればこの仕打ち。

 

 

 

 

 

 

 ヒシアマゾン。クリークママに匹敵する母性を持つ女。

 

 トゥインクルシリーズ卒業後、女優になり、大人気大きな子供向け性癖特盛特撮。

 

 仮面魔法ウマ少女ライダー。その第4作。

 

 仮面魔法ウマ少女ライダー・アマゾンを襲名する。

 

 

 

 アマゾン川流域で発見された、普通に日本語が堪能な少女。

 

 好きな物は手間のかかる子。

 

 何故熱帯雨林で発見されたのか。

 

 

 

 魔法少女要素はアレだ。

 

 マスコットが一応いた。

 

 密林の妖精。

 

 アマゾン淫獣、窮兵衛。

 

 ブラジル産の薩摩隼人である。

 

 示現流の達者であったが、パイタッチの罪により。

 

 放送初回にて、自ら腹をハヤテ一文字して果てた。

 

 真の薩摩隼人は、妄りに女人に触れると発狂して自刃する。

 

 まこと美事な、最期であった。

 

 

 

 

 

 

 戦闘に入ると同時に雑に投げ捨てられる、安っぽい仮面。

 

 ピッチピチの魔法少女風ライダースーツ。

 

 敵の攻撃で一瞬で破れる。

 

 中破ッッッッ!!!!!!!! 

 

 

 

 毎度ピンチに陥り、女騎士の如き媚態を魅せる。

 

 だいたい負けそうになるが最後は勝つ。

 

 顔を赤らめウマライダーキック。

 

 

 

 

 パンツの色は毎回変わる。

 

 キメポーズはもちろんあのポーズだ。

 

 入渠はしていないため、ほぼ毎回色々はみ出ている。

 

 ちなみに全年齢向けである。嘘だろおい。

 

 

 

 

 だが、順風満帆に見えた彼女の女優業は、突如暗雲に包まれた。

 

 ご懐妊である。

 

 愛する旦那になったトレーナーに、タイマンで毎夜ボロ負けしていたらしい。

 

 呆れた負けライダーである。

 

 

 

 大きなお腹を抱えては、仮面魔法ウマ少女ライダーの代名詞。

 

 ウマライダーキックも出来ぬ。

 

 パンツを魅せつけることが出来ぬのだ。

 

 すわ引退の危機と危ぶまれたが……

 

 ここに待ったを掛けたのが、新進気鋭の演出家として。

 

 数々の迷作を手掛けたあるウマ娘。

 

 テイエムオペラオーである。

 

 

 

 『待つんだ君たち! 逆に考えるんだ。妊婦さんだからこそ興奮する。そんな需要を狙うんだ!』

 

 感銘を受ける番組関係者。スポンサーに変態が多かったのも功を奏した。

 

 そして、暫しの放映中止後、彼女はまた銀幕に映し出された。

 

 

 

 仮面魔法ウマママ少女ライダー・アマゾンである。

 

 もはや属性を盛り過ぎて、何が何だかわからない。

 

 ウマライダーキックも出来ないし、もちろんバイクなど運転できぬ。

 

 彼女は徒歩で、現地に向かうのである。

 

 だいたい着いた頃には街は壊滅している。

 

 

 

 そして遅すぎる名乗りを上げ、悪役と対峙。

 

 自らのお腹を人質に取り、悪役を追い詰め。

 

 魔法少女ライダースーツはなんやかんやで中破する。

 

 そして囁くのだ。

 

 

 

 『ほら、あんたもこの子みたいな時が、あったんだよ……?』

 

 生命の神秘を宿すお腹に触れ、滂沱の涙を流す悪役。

 

 

 

 彼女は優しく微笑み、相手の頭をデリンジャーで撃ち抜いた。

 

 『悪いね。アタシのお腹は旦那専用でね。釣りはいらないよ。冥土の土産に取っときな』

 

 ニヒルに笑う彼女。ダークヒロインの誕生である。

 

 悪役と性癖に、更生の機会は永遠に訪れぬのだ。

 

 

 

 これがやたらにウケた。現在ではシーズン9に突入。出産した子の数も9人。

 

 オグリキャップがスペシャルウィークと共に。

 

 北海道にて繰り広げる、連続テレビドラマ。

 

 残虐! 飲食店壊滅型食い倒れドラマ『蟲毒のグルメ』に匹敵する快挙である。

 

 この世界には、変態しかいないのだ。

 

 

 

 

 

 

 それはさておき。

 

 子沢山かつ人気女優でありながら、有り余る母性でもって。

 

 知り合いの手間のかかる子(年齢不問)を自動追尾して世話を焼く。

 

 ちょっとイっちゃった母性の持ち主第2号・ヒシアマゾン。

 

 

 

 彼女によって、自分の悪しき生活習慣がバレたとなると……

 

 世話焼キングの反応は決まっている。

 

 「まぁ! ウララさん! 是非ともうちに住みなさい! 

 親友のそんな状態、放ってはおけないわ!」

 

 「あうあう! あー!」

 

 

 

 ほら来た。彼女は自分に対して過保護すぎる。

 

 自分の赤子に対してその母性を発揮しろ。

 

 今の状況を考えろ、今のお前はカッコウだぞ。

 

 無意識に托卵を目論見おってこのポンコツ。

 

 反論せねば。

 

 

 

 「いや、私にも私生活ってものが……」

 

 「日がな一日トレーニング! 空いた時間は六平トレーナーと茶を啜り! 夜は一人で酒浸り!」

 

 「トレーナー! うるさい!!! 私の私生活を的確に言い当てないで!!!」

 

 「あーうー?」

 

 「的確なの!? ますます放っておけないわ!!」

 

 「クソっ、この夫婦! サイコパスの癖にこういう時だけ理解が早い……!」

 

 ダメだ。詰んだ。

 

 話を聞かずに暴走するのは、彼らの得意技だ。

 

 学生時代、どんなに苦労させられた事か。

 

 諦めるしかないのか……! 

 

 いや! これがあった! 

 

 

 

 「ふ、夫婦の夜の生活とか……あるでしょ? この子の妹とか弟とか……」

 

 「しばらくは作る予定はないわよ。私。

 こんな勢いの子を同時に育てられないわ」

 

 「正論ンンンンンンンンンンン!!!!!!!!」

 

 そりゃそうだ。

 

 

 

 

 そしてその日の夜。夫婦の寝室にて眠る両サイドのサイコパスと、腕の中のお姫様。

 

 川の字に 一文字加え 四川風。

 

 麻婆豆腐のような、甘みと苦みと辛み。

 

 最後に少しばかりのウマみ。

 

 全てが渾然一体となった、渾身の一句が虚しく脳裏を過ぎ去っていく。

 

 

 

 どうしてこうなった。

 

 これはキングちゃんにイタズラをせねば収まらぬ。

 

 よし、やろう。

 

 

 

 「あうー?」

 

 赤子と目が合った。

 

 うむ。続けよう。

 

 

 

 うー! うまぴょいうまぴょい。

 

 「ああっ……!」

 

 わっしょいわっしょい。

 

 「いいっ……!」

 

 うー! うまだっち! 

 

 「ううっ……!」

 

 

 

 今日の勝利の女神は、私だ。

 

 キングちゃんを華麗にうまぴょい伝説しながら、確信し。

 

 トレーナーのケツもついでに揉み、彼を許した。

 

 このケツは、非常に好みなのである。

 

 

 

 イタズラできて、ケツさえ揉めればなんでもいいや。

 

 こいつらしゃぶり尽くしたろ。

 

 何、慰謝料というヤツである。

 

 

 

 

 

 

 

 回想を終える。

 

 「ウララちゃん、どうしたんですの?」

 

 ぼうっとしていた自分に、首を傾げるお姫様。

 

 「いや、プリンセスちゃんと初めて会った時のことを思い出しててね……」

 

 「まぁっ! そうなんですの! 当時はどんな感じだったんですか?」

 

 「ケツが柔らかかったかな……」

 

 「ケツ?」

 

 いかん。本音が。

 

 慌てて軌道修正を図る。

 

 

 

 「昔から、プリンセスちゃんは可愛かったんだよ。

 運命の王子様も、放っておかないかも」

 

 「まぁ、お上手なウララちゃん! でも大丈夫ですわ! 

 運命の相手は、もう見つけていますもの!」

 

 

 

 なんだと。運命の相手。どこの小僧だ。

 

 第2の母親どころか、第1の母親と言っても過言ではないこの自分。

 

 ハルウララの知らない間に。

 

 これは、家に連れて来たが最後。

 

 スタジオに連行し、母なる邪神に念入りに捧げ。

 

 そいつの運命を捻じ曲げ、かわいい娘の運命の相手で無くさねばなるまい。

 

 その小僧の運命は、バッドエンドで確定である。子孫を残せず死ぬが良い。

 

 

 

 もちろんこの娘はクリークママのようには育てぬ。

 

 このウララの手腕でもって、お淑やかでちょっと腹黒い、かわいいおよめさんに育て上げ。

 

 そして笑顔で見送るのだ。

 

 だがこの子には恋愛はまだ早い。

 

 この子が恋愛をしていいのは、自分が結婚してからである。

 

 

 

 生涯独身の道連れを増やさんとするハルウララ。

 

 プリンセスの未来も暗くなるかと思われた。

 

 

 

 「ち、ちなみにプリンセスちゃん。相手は何て子かな……? 

 

 大丈夫。変な事にするから!」

 

 「大丈夫さが見えませんわ! ウララちゃん、タンブラーが空ですわよ? 

 注いで差し上げます!」

 

 誤魔化された。いつか聞き出さねば夜も眠れぬ。

 

 キングちゃんの身体が更に開発される事態となるのだ。やったぜ。

 

 

 

 「ただいまー! キング! プリンセス! ウララ! 愛しているとも! だからパパにもビールを注いでおくれプリンセス! 後生だ!」

 

 「手酌で我慢なさって?」

 

 「畜生ォォォォォォォ!!!!」

 

 ハイテンションで帰って来て、つれない娘の対応に、すぐに泣き叫ぶかつての想いビト。

 

 あの日の夜に、蟠りは消えた。今では楽しく嘲笑うことができるのだ。

 

 いいケツに感謝である。

  

 

 

 

 

 

 さて、眠くなってきた。今日はどうやら、飲み過ぎたようだ。

 

 「ウララちゃん。眠そうですわ! ささ、ソファーに横になって?」

 

 「んん……ありがとうプリンセスちゃん……おひざ、痺れちゃうよ……?」

 

 かわいい娘の膝の上に寝かされる。

 

 本当におしゃまな子だ。誰に似たのだろうか。

 

 

 

 「んふ。おやすみなさい、ウララちゃん」

 

 「おやすみ。プリンセスちゃん」

 

 今日も、いい夢が見れそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふふ。かわいいかわいいウララちゃん。運命の相手はここにいますのよ? 

 5年前から、ずっと」

 

 眠りに就いた、彼女の頭を撫でながらつぶやく。

 

 本当に、愛らしい。31歳とは思えない。

 

 彼女の時は、トゥインクルシリーズを卒業した日。その日に止まったのだ。

 

 恋という名の呪いによって。

 

 

 

 「プリンセスは本当にウララが大好きだな! パパは嫉妬してしまうぞ!」

 

 「ねぇ。たまにはママにも甘えてもいいのよ?」

 

 こちらを見て微笑む両親。彼らには感謝している。

 

 

 

 愛しい彼女に呪いをかけて。自分をこの世に産んで。

 

 そして彼女と出会わせてくれたのだから。

 

 この、桜色のお姫様に。

 

 

 

 桜の舞うあの日。ゆりかごの中で。自分は彼女と出会った。

 

 涙を目に溜め、微笑む笑顔。

 

 自分はそれを見て、一目で恋に堕ちたのだ。

 

 

 

 直感したのだ。自分は彼女を愛するために生まれてきたのだと。

 

 両親が彼女を不幸にした贖い? いいや違うとも。

 

 

 

 だって、彼女は自分が溺れる程に幸せにするのだ。

 

 もう幸せしか感じられないぐらい。

 

 ±0どころではない。無限の愛をくれてやろう。

 

 

 

 「ねえママ。織姫と彦星は、一年に一度しか会えないんですわよね?」

 

 「え? ええ。織姫の父親である、天帝に引き裂かれてね。

 でも、彼らもまだ子供よね。親の事なんて聞かず。

 川なんて渡ってしまえばいいのに。でも、プリンセスはまだまだ私たちに甘えていいのよ?」

 

 「ええ。いっぱい甘えさせてもらいますわ!」

 

 そう。この家から膝の上の愛らしい生き物を追い出そうとすれば、おねだり攻撃により絶対阻止だ。

 

 まぁ、そうなることは無いだろうが。

 

 もはやあの日に勝敗は決した。

 

 彼女は自分の握撃とギャン泣きにより、この家に連れてこられた時点で、負けているのだ。

 

 

 

 七夕の話。自分の好きな話だ。

 

 なんと甘ちゃんな母か。

 

 川の両端に引き裂かれた時点でもう遅い。

 

 このプリンセスならば。

 

 引き裂かれる前に、天帝を引き裂いてやろう。

 

 それが唯一の正解である。

 

 

 

 「覚悟してくださいまし? ウララちゃん。絶対に、逃がしませんから」

 

 ぎゅうっと彼女の左手の指を握る。赤子の頃からの自分の癖だ。

 

 

 

 「んんん……甘えん坊だね、プリンセスちゃん……」

 

 可愛らしい寝言を言う彼女。

 

 もう慣れ過ぎて、ふつうなら痛いはずなのに。

 

 自分が甘えているとしか感じられないのだ。

 

 

 

 

 

 

 左手の。

 

 その薬指には赤い痣。

 

 毎日欠かさずつけている、自分のもののしるし。

 

 「わたくしの運命の相手。桜色のお姫様。誰にも渡してなるものですか。

 夢見るプリンセスは、止まりませんわ」

 

 いつかお姫様のキスで、お姫様の呪いも解いて差し上げましょう。

 

 その日はきっと、遠くない。

 

 

 

 

 

 

 カワカミプリンセス。御年5歳。

 

 赤子の頃からの記憶を保持する、ちょっと不思議なおんなのこ。

 

 

 

 職業は、愛娘、幼稚園児、お姫様。そして、ラスボスである。

 

 おねロリ。

 

 

 

 

 

 

 つづかない

 

 



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ハルウララさんじゅういっさい そのはち おうたのじかん

尻アスを書いた反動でギャグが書きたくなりました。
ファル子回です。
正直、すまんかった。

元ネタは能楽。わりと創作意欲が刺激されます。

あと某史上最強の弟子とか。


~前回までのあらすじ~

 

 昔の思い出に浸るハルウララ。

 

 愛していたトレーナーのニーズを満たせなかったあの日。

 

 仮面魔法ウマママ少女ライダー。

 

 ケツ。

 

 様々な思い出が駆け巡り、酔いが回った彼女は夢の世界に堕ちていく。

 

 ラスボスに見守られながら、良い夢を見るウララであった。

 

 おねロリ。

 

 

 

 

 

 

 

 「ウララちゃん、あーん」

 

 「あむっ。んー、おいひい……」

 

 「んふ。かわいらしいですわ……! はい、あーん」

 

 「むぐむぐ……」

 

 

 

 「はい、ウララちゃん。お顔を洗いましょう!」

 

 「はーい」

 

 「タオルですわ、ウララちゃん!」

 

 「ありがとう、プリンセスちゃん」

 

 「はい、今日も可愛いですわ! 

 タオルはわたくしが責任持って処理しておきます!」

 

 「うん、お願いー」

 

 

 

 「ん? あれどこやったっけ……」

 

 「はい、ウララちゃん!」

 

 「そうそうこれこれ。なんでわかったの?」

 

 「ウララちゃんのことなら何でもわかりますわ!」

 

 「プリンセスちゃんはすごいねー」

 

 「えっへん! ですわー!」

 

 

 

 「いってきまーす」

 

 「いってらっしゃい、ウララさん」

 

 「いってらっしゃいですの、ウララちゃん!」

 

 

 

 朝。朝ごはんを寝ぼけ眼で幼女に給仕され。

 

 顔を洗い、目を覚まし。

 

 タオルを懐にしまう幼女に首を傾げながら。

 

 服を着替え、探していたヘアピンを貰い。

 

 お見送りを受け、気分良く寄生先を出る。

 

 

 

 なんか幼女に凄まじく依存しつつあるが、問題無いだろう。

 

 彼女も成長するにつれ、すぐに飽きるに違いない。

 

 まさか成人するまであのサービス精神は続くまい。

 

 そう思いつつ、通勤経路を歩く。

 

 

 

 「あなたは神を信じますか?」

 

 「邪神なら知ってます」

 

 「オーウ……ラヴクラフト!」

 

 

 宗教勧誘を華麗にあしらい、スタジオへ。

 

 控室に入り、見回してみる。

 

 どうやら自分が最後のようだ。

 

 

 

 「おはようございます」

 

 爽やかな挨拶を試みる。

 

 

 「おはようっ☆ウララちゃん!」

 

 地下アイドルの己の年齢を弁えぬテンション。

 

 落ち着いた自分とは違うな。

 

 

 「おはよう、ウララ」

 

 ロリコンの冷静さを装ったネットリボイス。

 

 我が家のお姫様に手を出したら去勢する。

 

 

 「おはようございますー♡ウララちゃん♡」 

 

 邪神の甘い囁き。

 

 今日も瞳に秘めた狂気がヤバい。

 

 

 「うーん、今日もかわいいね! ウララ! 

 今夜、どう? 大丈夫、変な事はしないから!」

 

 朝から飲みの誘いをかけてくるゆるふわツインテール雑食バイ。

 

 狙いが見え見えで逆に潔い。

 

 

 

 同僚たるクズ共だ。

 

 ろくなヤツがいない。

 

 

 

 テンションが一瞬で底辺に堕ちるが、なんとか気を取り直す。

 

 ウマ娘は人参のみに生くるにあらず。だが人参が無ければ飢え死にする。

 

 さすがに、家に食費ぐらいは入れぬとまずいのだ。

 

 多分追い出されないが、残った最後のプライドが死ぬ。

 

 さぁ、今日も日銭を稼がねば。

 

 

 

 

 

 「よいこのみんなー♡クリークママと一緒、始まりますー♡」

 

 いつもの甘く蕩けたタイトルコール。

 

 

 

 騙されてはいけないぞ幼児ども。

 

 食虫植物ならぬ、食幼聖母の甘い罠。

 

 迂闊に近づけば、囚われた幼精の性癖が破壊される。 

 

 

 待っているのは悲惨な未来。だが騙される愚者が後を絶たぬ。

 

 まぁ賢い子はこのウララが放り込むのだが。

 

 思いつつ、自分の番だ。コールする。

 

 

 

 「ウマのおねえさん、ウララだよっ!」

 

 ぴょんと跳びはね、元気アピール。

 

 31歳児でも、プライドを投げ捨てればこれぐらいはできる。

 

 

 

 「歌のお姉さん、ファル子だよっ☆」

 

 手で♡を作る猛禽類。痛々しいが痛仕方なし。

 

 

 

 「がろうくんだがおー」

 

 今日も最初は善良面。女児たちから距離を取られている。

 

 

 

 「ブルヒヒィィィィン!!!!」

 

 おい。興奮のあまり野生を解放しているぞこの着ぐるみ。

 

 なんだその鳴き声。そんな声の動物は地球上に存在しない。

 

 幼児どもも怯えている。

 

 

 

 「ウマ美ちゃん、アウト―♡」

 

 クリークママの目配せ。やれやれ、ご指名のようだ。

 

 

 「ヒッヒィィィィン!!」

 

 狂乱の舞踏を踊る、ウマ美ちゃんの背後に回り。

 

 ケツに魅惑の脚線美を叩き込む。

 

 

 ズバァン! 

 

 「ヒヒィィィィィン♡♡♡」

 

 喘ぎ声が汚い。やり直し。

 

 ドゴォン。

 

 「あひっ……! う、ウララ、それはやばいって……」

 

 がくりと崩れ落ちるウマ美ちゃん。どうやら理性を取り戻したらしい。

 

 さすがに尾てい骨へのヤクザキックは効いたようだ。

 

 クリークママ直伝である。

 

 

 

 「スタッフさーん♡そのクズを、座敷牢へ♡」

 

 クリークママの裁定。どうやらまた暗くて狭い地下室へ送られるようだ。

 

 

 

 ウマ美ちゃんは登場時こそ、神がかったダーティプレイを魅せたが。

 

 残念ながらここ数日、情欲を持て余しているらしい。

 

 またトウカイテイオー宅から追い出されたのだろう。

 

 

 

 一度追い出されると、3日は再寄生は許されぬ。

 

 トウカイテイオーもとんだ甘ちゃんである。

 

 なんやかんやでムーンサルト土下座程度で許してしまうのだから。

 

 あの女はまだ、様々な土下座を隠し持っているというのに。

 

 108式まであるらしい。

 

 

 

 「さて♡改めて、良い子のみんなー♡今日は、お歌の時間ですよー♡」

 

 お歌の時間。素晴らしい。腰に負担がかからない。

 

 幼児たちの歓声。彼らも歌のお姉さんの歌声が大好きなのだ。

 

 

 

 「ファル子、がんばるねっ☆」

 

 猛禽類のやる気も好調だ。最近はウマ美ちゃんの登場により。

 

 猜疑心を育成するための教育に、クリークママは掛かり切りになっていた。

 

 お歌の時間はその割りを食っていたのだ。

 

 

 

 「じゃあ、みんなは、何のお歌が聞きたいかなー?」

 

 ウマのお姉さんとして、幼児どものリクエストを聞く。

 

 何、どうせいつものあの曲だろう。だが、それでいい。

 

 

 

 「「「「「にげー!!! らぶー!!!」」」」」

 

 やはり、あの曲か。がろうくんに目配せする。

 

 頷くと、舞台袖に向かうロリコン。大道具の準備も、彼の仕事だ。

 

 

 

 「クリークママ、ピアノだがおー」

 

 粛々とピアノを運んでくるがろうくん。

 

 「えらいでちゅねー、がろうくん♡」

 

 むぎゅむぎゅとお褒めの言葉を頂くがろうくん。

 

 彼はロリ以外に興味が無いため、クリークママの抱擁にも耐性がある。 

 

 むしろ蕁麻疹が出るそうだ。業の深い男である。

 

 

 

 「じゃあ、お歌の時間、始まります―♡」

 

 ポロロン。ピアノの鍵盤を軽く叩き、クリークママが宣言する。

 

 猛禽類と頷きあい、ステージへ。

 

 バックダンサーもウマのお姉さんの仕事である。

 

 

 「みんなー! 今日はファル子のライブに(ダァァァァン!)ごめんなさいなんでもありません。

 許してください。わたくしめは卑しい歌のおねえさんでございます」

 

 調子に乗ってクリークママに、鍵盤鉄槌で威嚇され、睨まれる猛禽類。

 

 徹底謝罪の構えだ。

 

 スキャンダルを起こしたアイドルでも、ここまでの平謝りは見せまい。

 

 路上ライブの癖が抜けていない、懲りない地下アイドルである。

 

 

 

 「ファル子ちゃん♡さっさとやれ」

 

 ドスの効いた聖母ボイス。

 

 青褪めた顔色でマイクを持つと、お歌の時間の始まりだ。

 

 多少進行に滞りはあったが、彼女とてプロ。

 

 その歌の技量に疑う余地は無い。

 

 

 

 歌のお姉さん。

 

 実を言うと、この番組で最も競争率の高いポジションなのだ。

 

 何故ならば、採用条件は歌の上手いウマ娘。

 

 トゥインクルシリーズを出走したウマ娘ならば、歌の一つなど、出来て当然。

 

 必然、オーディションではクリークママの審美眼も厳しくなる。

 

 

 

 そこで採用を勝ち取った彼女。

 

 足を舐めるだけが能の女では、無いのだ。

 

 クリークママの奏でるピアノが、優しい旋律を奏で始める。

 

 

 

 『あなたに 伝えたいことがあるの

  

  私を夢の舞台に 連れていってくれた あなた』

 

 まずはしっとりと。この曲のモデルは、彼女自身とそのトレーナー。

 

 彼らの愛を歌い上げる曲である。

 

 

 『とても幸せだった 夢のような日々

 

  あなたとなら どこまでも羽ばたいていける 砂に塗れた翼広げ』

 

 だんだんとアップテンポへ。2人で築いた栄光の日々。

 

 トゥインクルシリーズ屈指のダートの女王。

 

 短距離以外を制覇した、砂のハヤブサ。

 

 

 

 『卒業したら 何をしよう あなたと共に 何をしよう

 

  夢は広がり あの空へ どこまでも飛翔んでいく この想い』

 

 テンションは最高潮に達し、彼女が顔を伏せてバックステップ。

 

 そして溜め。能楽や歌舞伎に見られる、間の美学である。

 

 自身も下がり、がろうくんがサーブしたじゃがいもを受け取る。

 

 クリークママが総身をのけ反らせ、そして。

 

 

 

 『だけどあなたは どこかへ消えた……!』

 

 

 

 ダァァァァァァァァン! 

 

 クリークママにのみ許された、その雄大な胸部をも使用した、全鍵盤同時打撃。

 

 

 

 ここだ。じゃがいもを彼女の俯いた頭部にシュートする。

 

 

 

 彼女が顔を上げ、じゃがいもを掴み取る。

 

 じゃがいもが、常識外の握力により、容易く握り潰される。

 

 このじゃがいもは、後ほどがろうくんにおいしく頂かせる。

 

 食べ物を粗末にするのは、教育番組的にNGだ。

 

 

 

 そして彼女は感情を解放した。

 

 

 

 『フルルルルルルルルァァァァァァァッシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

 

 

 

 上げた顔には血の涙。

 

 逃げられっ☆堕天恋(にげられっ☆フォールンラヴ)。

 

 彼女の代名詞たる名曲だ。

 

 

 

 愛するトレーナーを親友に掠め取られた無念。

 

 『私たち、結婚しました』ドイツから届いた手紙。

 

 かわいさ余って憎さ100兆倍。

 

 

 

 今では彼女は、ドイツを連想させる物を見ただけで発狂するのだ。

 

 じゃがいももその一つ。二度とはファーストフード店に入れぬ身体。

 

 ポテトの一つもテイクアウト出来ぬ。

 

 

 

 狂愛の唄は、スタジオ中に響き渡る。

 

 

 

 『あなたに 伝えたいことがあるの

  

  私を夢から 覚ましてくれた あなた』

 

 まずはヘッドバンキング。滂沱の血涙がステージを赤く染める。

 

 この曲のモデルは、彼女自身とその親友。

 

 彼女に対する憎悪を歌い上げる曲である。

 

 

 『とても苦痛だった 独り身の日々

 

  あなたなら どこまでも憎んでいける 憎悪に塗れた翼広げ』

 

 くるりと廻り、ウィンクを一つ。眼光は猛禽を超え、怪物のそれ。

 

 独りで育んだ憎悪の感情。

 

 同期屈指の喪女の女王。憎悪の海を羽ばたいた、至高のおひとりさま。

 

 

 『ドイツに渡ったら どうしてくれよう あなたに対し 何をしよう

 

  殺意は広がり あの空へ どこまでも飛翔んでいく この想い』

 

 口元が痙攣し、歪んだ笑顔を作りだす。そう、それはまさに般若。

 

 

 

 道成寺、葵上、黒塚。それに続く、第4の演目。4人目の鬼女。

 

 その名こそは、スマートファルコン。

 

 だがその想いは決して成就しない。

 

 

 

 『だけどわたしは、飛び立てない……!』

 

 

 

 ダァァァァァァァァン! 

 

 クリークママによる、再度の全鍵盤同時打撃。  

 

 

 

 『ドイツ語が、わからねぇえええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

 

 

 

 そう。彼女はアホだった。短期のビザさえ取れぬほど。

 

 ドイツ語が壊滅的に苦手だった。

 

 辛うじて理解できるドイツ語は、ビールとソーセージのみ。

 

 何一つわかっていない。 

 

 

 

 エイシンフラッシュの身の安全は、完全に確保されているのだ。

 

 スマートファルコン。

 

 彼女の役割は、歌のお姉さん。そう。

 

 

 

 幼児に対して、歌を通して教えるのだ。

 

 男児には、女の情念の恐ろしさを。

 

 女児には、愛する者を決して逃がしてはならぬという、教訓を。

 

 

 

 愛するトレーナーを自らの実力で以て。

 

 有無を言わせず西松屋した、クリークママならではの気遣いである。

 

 

 

 留まる所を知らぬ、狂乱のヴォーカル。

 

 自身はブレイクダンスで、ステージ上を壊れたピンボールが如く跳ね続ける。

 

 

 

 転げ回る幽鬼。

 

 プンチャック・シラットにおける奥義。

 

 全画面ガー不即死技である。

 

 鬼女を彩るに、これよりも相応しいダンスなど存在しまい。

 

 

 

 この柳腰が上げる苦痛の絶叫も、さらに怨念を加速させる。

 

 誰だ。お歌の時間は、腰に負担が掛からないとか言った阿呆は。

 

 

 

 サビの合間に、怨霊に追加の燃料を与え。

 

 うっかり何の罪状も明るみに出ていない、がろうくんを八つ当たりにて轢き潰しつつ思う。

 

 

 

 

 

 なんにせよ、殺ウマ事件が起きずに何より。

 

 燃やそうとした自分の言えることではないが。

 

 こいつ、アホで良かったな……

 

 ウララは思った。

 

 

 

 

 

 

 つづかない

 

 



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ハルウララさんじゅういっさい そのきゅう 襲来! 第二のママ

コメント欄で大人気だったあの方が暴れ出しました。
今回はサービスシーン満載でございます。
ですがこの作品はKENZEN作品ですので安心!
ちなみに拙作におけるネイチャを良く知りたいという危篤・・・誤字じゃないなこれ。
奇特な方は、筆者の短編「汚い帝王」に目を通していただければ。
とても良く後悔できます。ダイマです。
元ネタは仮面○イダーと、NEXC○中日本。


~前回までのあらすじ~

 

 着々とラスボスの術中にはまりつつも、プロレタリア階級として、誇りを持って労働に勤しむハルウララ。

 

 頼れる仲間たちは、売れないアイドル、同志ママーリン、ロリコン、欲望の権化と彩り豊か。

 

 いつも通り、クズ共との収録に臨む。

 

 本日は楽しいお歌の時間。

 

 開帳される、能楽三鬼女に続く、第4の演目。

 

 シテは猛禽、ツレは自分。

 

 怨霊の歌声は、スタジオに響き渡り。

 

 きっとドイツに届くことは無い。

 

 クリークママと一緒。

 

 未だ、海外での放送予定は無い。

 

 最新話から読む派の方には申し訳ないが、このあらすじ。

 

 全て物語の中で起こった事である。是非最初から読んで欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 乾いた銃声。

 

 崩れ落ちる彼。

 

 彼女はそっと、銃口に艶やかな唇を添え、硝煙を吹き消した。

 

 飢えが、心を満たす。

 

 このままでは、自分は駄目になる。直感する。

 

 

 

 カンッ。

 

 拍子木の鳴る音。

 

 身を翻し、自らを褒め称える監督に微笑む。

 

 何も分かってはいない。

 

 だが、言っても無駄だろう。

 

 

 

 この渇望を、理解してくれる者など……

 

 「征くのか」

 

 この男ぐらいであろう。

 

 

 

 「ああ。征く。この渇望を、埋めるために。

 彼女には悪いが……決して損な話じゃないだろう? 

 アタシはこれでも人気者。視聴率も上がる筈さね」

 

 「然り。彼女の夢の実現。

 それを加速させる一助。そうなるだろう。主の考えは正しい。

 だがな、主。素直に頼むのも、偶には悪い物ではない。

 友人ならば、猶更にな」

 

 信頼する相棒の言葉。 

 

 心の裡に、染み渡る。どうやら、自分は思ったよりも焦っていたらしい。

 

 

 

 「悪いね、相棒。目が覚めたよ。アタシの道に、横道は無い。

 いつだって、直線一気。タイマン勝負がアタシの信条さね。

 

 

 後は頼んだよ……窮兵衛」

 

 

 

 悠然と頷く彼。頼もしい姿だ。

 

 

 

 「任されよ。主。

 おいどんが、すぱっとこの腹掻っ捌き!! 

 監督どんに、おんしの不在を認めさせもす!!! 

 キィェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!!!!」

 

 

 

 突如響き渡る猿叫。

 

 騒然とするスタジオ。

 

 肥後同田貫宗広。2尺3寸7分の無骨な姿を白日の元に晒し。

 

 ブラジル産のさぶらいは、監督に向かい詫び申さん。

 

 

 

 「監督どん! アマさッ! こどんわっぜぇ好いちょっど!!! 

 クリークかかどんが番組いっど!!! でいなこつしもした!! 

 ことわいにおいどんの腹ば掻っ捌き!!!!!!!!!!!! 

 おんしの腹がきわを、治めもうす!!!!!!!!!!!!!」

 

 「誰かあのバ鹿を止めろ!!! 何言っとるかわからんが、また切腹する気だぞ!!!」

 

 「何回目だよ!? 窮兵衛の切腹からの奇跡の復活は、番組だけで腹一杯だよ!!!! 

 スパスパスパスパやりやがって!! まだ足りんのかアイツは!!! 漢塾じゃねーんだぞ!!」

 

 「ぬおぉぉぉぉぉ!!!! おいどんの生き様見晒せ!!!! 

 チェストォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 喧噪を背に、歩み出す。

 

 頼りになる相棒だ。

 

 

 

 意図せぬセクハラの度にスタント無しで切腹するため、出演回数は少ないが。

 

 1クール目からずっと自分に寄り添う、信頼すべき薩摩隼人。

 

 

 

 だが些かパイタッチの回数が多い。

 

 半径10メートル以内に近寄らないように言うべきか。

 

 

 

 自分の身体は安くないのである。

 

 彼女はそう思いつつ、友人の元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よいこのみんなー♡クリークママといっしょ、はじまりますー♡」

 

 甘く母性に蕩けたタイトルコール。だが些か様子がおかしい。

 

 ハルウララは思った。

 

 

 

 ……何か、いつもと違う。声から感じる違和感。

 

 これは、何を秘めているのか。焔の如き炎熱。

 

 熱い感情がその二子山にて燃え盛っているような。

 

 

 

 

 「ウマのおねえさん、ウララだよっ!」

 

 くるりと笑って両手を広げ、にぱっと笑い自己紹介。

 

 まぁいい。このスタジオにおいては、一瞬の逡巡が命取りとなる。

 

 誇りを今日も彼方へと投げ捨て、労働の報酬を寄生先へ還元せねばならぬ。

 

 そうでなくば、己は真に愛玩動物へと堕ちるだろう。

 

 首輪を付けられるのは勘弁である。

 

 

 

 

 「歌のお姉さん、ファル子だよっ☆……はぁ」

 

 猛禽類も同じ気持ちだ。

 

 いつもと変わらぬ♡マークを手で作る。

 

 だが、少々精細を欠いている。

 

 溜息まで漏らす始末。

 

 

 

 昨日の歌の時間にて。

 

 ノリで燃料を与えすぎたためか。

 

 もしくは収録が終わった後も、曖昧な状態だったため。

 

 

 

 飲み屋でさらにビール飲み放題。山盛りポテト。

 

 おまけにソーセージをあーん♡してやって、思う存分煽ったのが悪かったのか。

 

 お持ち帰りのシュトーレン。良かれと思ってやったのだが。

 

 

 

 常ならばスタジオの絶対君主に、立場をわからせられているところ。

 

 だが同志ママ長は優しく微笑み、その無作法を見逃した。

 

 いよいよもって違和感は加速する。

 

 

 

 「がろうくんだがおー」

 

 がろうくんはいつも通り。

 

 クリークママにあまり興味がないのだ。

 

 今日も熱心に自分と女児の尻に熱い視線を向けている。

 

 死ねばいいのにコイツ。

 

 

 

 「ウマ美ちゃんも元気だウマー」

 

 ウマ美ちゃんも、今日は理性を保持しているようだ。

 

 トウカイテイオー宅への復帰を許されたのだろう。

 

 昨夜は余程、尻を楽しんだと見える。

 

 余韻に浸り。手を宙に向け、怪しく蠢かせている。

 

 

 

 こんな超弩級の穀潰しの寄生を、寛大にも許しているトウカイテイオー。

 

 実のところ、レズなのではないか。

 

 誘い受けの帝王。

 

 つまりはそういうことだろう。

 

 

 

 やはり当時のトレセン学園生徒会には碌な人材が居なかった。

 

 

 

 生徒会長。緋色の女王。ダイワスカーレット。

 

 副会長。奇跡の帝王。トウカイテイオー。

 

 同副会長。汚い帝王。ナイスネイチャ。

 

 

 

 君臨者の名を冠する、綺羅星の如き優駿たち。

 

 レースの実績で言えば、妥当な人選であった。

 

 だが、シンボリルドルフの目も曇っていたのだろう。

 

 

 

 愛しい後輩たちへその座を譲り、後見として。

 

 帝王たちの尻を満足げに揉みしだく、彼女の顔を思い出す。

 

 

 

 女王の尻はトレーナー専用。触れた瞬間消し炭となるのだ。

 

 一度やってみたら、首が360度回転したよ。

 

 彼女はそう言い、寂しげに微笑んでいた。

 

 やはり狙っていたらしい。色に目を曇らせすぎである。

 

 

 

 色ボケ。誘い受け。変態。

 

 トレセン学園を代表する優駿は、その実トレセン学園の乱れた性情をも代表していたのだ。

 

 世も末である。今はどんな変態が生徒会に巣食っているのだろう。

 

 興味はあるが知りたくはない。

 

 

 

 「よいこのみんなー♡今日はぁ♡特別ゲストが来てくれてるんですよー♡」

 

 クリークママによるアンブッシュ。

 

 彼女はいつでも突然に。

 

 こちらを殺しに掛かってくる。

 

 幼児の性癖を殺害するだけでは、満たされないのだろうか。

 

 

 

 特別ゲスト。どんな変態だ。

 

 自分の許容量にも限界というものがある。

 

 場合によっては、ハローワークの戸を叩く必要があるだろう。

 

 こういう時は、ゲストがレギュラー化することも想定しておかねばならぬ。

 

 甘い想定は、デスソースの如き激辛な現実にプランチャされるのが常である。

 

 エルコンドルパサーの独り身のように。

 

 

 

 

 スタジオに緊張が走る。

 

 誰だ。誰なのか。辺りを見回す我ら一同。

 

 どんな変態か。趣味は? 年収は? 

 

 

 

 特別ゲスト。お前は誰だ。誰だ。

 

 

 

 焚かれるスモーク。サンマの香り。

 

 

 

 「アーマーゾーンッ!!!!!!!!!」

 

 バァンッ! 突如床が開き、迫りあがってくる姿。

 

 幼児番組には明らかに不要なギミック。

 

 またプロデューサーの胃が破砕される。

 

 

 

 姿を探すと、七輪の前で涙を流す彼。目に沁みたらしい。

 

 予算をケチるからである。

 

 

 

 そして、スモークが薄まり、ヤツが姿を現す。

 

 いや待って欲しい。心の整理がついていない。

 

 さっき聞こえた登場の掛け声。

 

 十中八九間違いは無いが、嘘だと思いたい。

 

 だって人気女優なのだ。

 

 こんな世紀末性癖教育番組に出演していい立場ではない。

 

 願いも虚しく、彼女が煙を振り払い、ニカッと笑ってお腹を揺らす。

 

 

 

 母性に濁った瞳。

 

 抜群のスタイル。

 

 だが、シルエットに一つの異物。

 

 お腹が大層膨らんでいる。

 

 そう、彼女は妊婦なのだ。

 

 トレードマークの魔法少女ライダースーツではなく、マタニティドレスに身を包んだ姿。

 

 服装がいつもと違っても。その輝きを見誤る者などいない。

 

 性癖の伝道者。出生率の救世主。

 

 誰もが知る彼女を、クリークママが紹介する。

 

 

 

 「特別ゲストの、ヒシアマゾンちゃんです♡みんなもテレビで良く見てますよねー♡」

 

 「よう! 子供たち。ヒシアマゾンだ! 今日は仮面魔法ウマママ少女ライダーじゃないがね。

 気軽にアマゾンママって呼んどくれ!」

 

 「うふふ♡ママがいつもの倍♡今日は、張り切っちゃいますよー♡」

 

 この番組でママと名乗るのが許されるのは、偉大なるクリークママのみ。

 

 その不文律が崩れた。なにせ、彼女自身が認めたのだ。

 

 

 

 力の一号。力の二号。母性のゴリ押し。

 

 2人のママが並び立ち。

 

 辺り一帯の酸素が食い潰され。

 

 さらに狂乱の度合いを増した、歪んだ母性が場の空気を満たす。

 

 スタジオが、性癖の墓場と言う名のゆりかごと化した瞬間である。

 

 

 

 わぁぁぁぁぁぁぁぁ。幼児どもの歓声。

 

 何せ、大人気性癖特盛特撮ヒロインご本人のご登場だ。

 

 ご家庭のテレビ越しで見ていた姿を、目の前で見られる。

 

 彼らにとっては嬉しいサプライズだろう。

 

 

 

 だが、彼らは幼さ故、理解できていない。

 

 自分がこれからどうなるのかを。

 

 これから起こる惨劇を想うと、身が竦む。

 

 いったいどれだけの性癖が破壊されるのか。

 

 

 

 「ねえねぇアマゾンママ! おなか、触っていい? あかちゃん!」

 

 「ん? もちろんいいとも。ほら」

 

 勇気ある男児がゲストに歩み寄る。屈んでお腹を差し出すアマゾンママ。

 

 バ鹿、やめろ。

 

 心の中で呟いた制止は、届くはずもなく。

 

 

 

 「わー! 動いてる! すごい!」

 

 「ふふ。あんたにもこんな時が、あったんだよ……?」

 

 ゴリッ。男児の頭に押し当てられるデリンジャー。身に沁みついた動き。

 

 幼児は生命の神秘に夢中で、己が命の危機に気づいていない。

 

 引き金が引かれるその瞬間。

 

 

 

 「アマゾンちゃんー♡めっ♡」

 

 ドンッ! 

 

 母の皮を被った殺人者が、哀れな被害者の前から横にスライドして吹き飛ぶ。

 

 幼児の危機は見逃さぬ、クリークママが間一髪で、滅! したのだ。

 

 おなかの子に障らぬよう、常より優しめのヤクザキックである。

 

 ウマ美ちゃんならば、20メートルは吹き飛んでヤムチャしているところだが。

 

 さすがはライダー。そのままの姿勢で5メートルしか吹き飛んでいない。

 

 

 

 ヒシアマゾンは、スライドしつつばつ牛ンの体幹で、おなかの子を庇い、態勢を立て直す。

 

 ノーダメージ。母は強しということだろう。

 

 「おっと、すまないねクリーク。ついいつもの癖で」

 

 「もう♡今日は女優さんじゃなく、ただのママだっていうお約束でしょ♡

 ママ、ぷんぷんですよー♡」

 

 「はは、許しておくれよ。クリークには叶わないね。

 ウララ。悪いが預かっておいておくれ」

 

 

 

 パスされる拳銃。受け取った瞬間感じる重み。

 

 中折れ2連式。レミントンモデルのデリンジャー。明らかに実銃である。

 

 

 

 まさかと思い、手慣れた動きでバレルの固定をリリース。

 

 銃弾を検めると、誇らしげにトガる、熱い母性を注入するための鈍色。

 

 実弾である。コイツマジか。

 

 

 

 この世界のやたらと頑丈な人類でも。

 

 幼児では、ショート弾とはいえ、41口径を脳天に発砲されれば落命は免れぬ。

 

 危うく番組の放送禁止と共に、職を失う所であった。

 

 

 

 

 そして、今さらながらに自らの生命が脅かされていた事を認識した、もっくん(5)。

 

 「ぼ、ぼく、死……? あっ……だ、だめ……」

 

 その一張羅の、サスペンダーで保持した半ズボンを小水にて濡らす。

 

 おもらしである。約束のサービスシーンだ。

 

 これには読者諸兄もニッコリであろう。

 

 

 

 

 「あらあらまぁまぁー♡」

 

 「おやおや、これはいけないね……」

 

 しかしながら、なんと不用意なサービスか。

 

 致し方無いとはいえ、それは死刑執行書へのサインだ。

 

 幼児の世話を焼く事に飢えた、凶獣たちの目が愉悦を湛え煌めく。

 

 

 

 むぎゅむぎゅむぎゅむぎゅう。

 

 もっくんが両側から四本の手に持ち上げられ。

 

 二人のママのワガママなボディー。

 

 四つの偉大なる山脈に埋もれる。

 

 

 

 その大きさは、実に合計2メートルを越える。

 

 K2越えの、人類の登頂を一切阻まない。

 

 とても優しい、四つの母性に満ちた山。

 

 だが、それこそが罠。

 

 

 

 何時だって、無知な人類の。

 

 無謀な登山は死を招くのだ。

 

 「あっ……やわらか……」

 

 もう助からないゾ♡

 

 

 

 「あらあらー♡もっくん、おもらししちゃったんでちゅねぇ♡しょうがありまちぇん♡クリークママが、優しぃく♡おむつを履かせてあげまちゅからねぇ♡」

 

 「おっと、待ちなよクリーク。これはアタシのやらかしのせいだろ? もっくん、もっくんは、アタシにおむつを履かせて欲しいよなぁ?」

 

 むぎゅむぎゅむぎゅむぎゅ。

 

 愛情たっぷりの抱擁。

 

 熱の籠ったバイノーラルの囁きにより、理性を蒸し上げられるもっくん。

 

 

 

 「あひっ……! ぼく……え、えらべない……!」

 

 ばたばたと手足を跳ね回らせ、いやいやと首を振る彼。

 

 そして最悪の選択。

 

 どちらを選んでも性癖は死ぬ。

 

 だが、選択をしない自由など、このケースにおいては存在しない。

 

 否。選ばぬ事は出来る。

 

 出来るが……その選択は己の性癖の死を加速させるだけである。

 

 

 

 「もう♡もっくんは優柔不断でちゅねー♡こうなったら♡」

 

 「ああ。ママが1人という法は無い。二人のママの、共同作業……アタシたちが、王様みたいに贅沢に、おむつを履かせて上げようじゃないか」

 

 一人の哀れな男児。

 

 甘やかしママと、勝ち気ママ。

 

 二人の母に挟まれて。

 

 ママっぱい四天王に退路を塞がれ、行き着く先は八王子インターチェンジ。

 

 性癖の中央自動車道を逆走して行く幼子の運命。

 

 理性と言う名の機動隊のサイレンも、それを最早止められぬ。

 

 

 

 それにしても、ママが二人とは。

 

 こやつら分かっておらぬ。

 

 可愛いプリンセスの母は、このハルウララだけだ。

 

 ママは二人も必要ない。

 

 そう思いつつ、もっくんの性癖の行方を見守る。

 

 まあ結果など。

 

 偽りの母でうまぴょい伝説を演奏したら、淫らなヴォーカルが耳を楽しませるように。

 

 見るまでもなくわかること。

 

 

 

 逆走の代償とは。常に一つ。

 

 ぎゅううううううう……♡

 

 バタバタと跳ね回る四肢は母性の山脈に封じ込まれた。

 

 アカチャン奔放は許されぬのだ。

 

 

 

 「「ほら、もっくん♡はやくぅ♡きもちよぉく、なろう♡」」

 

 

 

 息のみ最低限出来るよう、膨大な母性に埋め込まれた幼い身体。

 

 トドメの蕩けたふたつのバイノーラル。

 

 さぁ、新生の時だ。

 

 

 

 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!」

 

 ぐりんと白目でWピース。

 

 サービスシーンその2である。大サービスだな。

 

 全身の穴から体液を垂れ流し、幼児の性癖が完全かつ徹底的に破壊された。

 

 もはや社会に出る事は叶わぬだろう。

 

 

 

 もっくんは、ツインママによりおむつを履かせてもらえねば、もう満足を得られぬ。

 

 叶わぬ再度の快楽を求め、生涯おむつを手放せぬ、永遠の島の住人。

 

 要介護ピーターパンと化したのだ。

 

 

 

 「あら、おねんねしちゃいまちたねー♡」

 

 「おや。こりゃおむつは起きてからだね。寝たまま履かせちゃ、可哀想だ」 

 

 痙攣を続けるもっくんを、慈愛の目で舐め回し、ねっとりとした手つきで撫で続ける彼女たち。

 

 

 

 性癖の破壊者たちは、二重の意味で目覚めた彼を更に破壊するだろう。

 

 今は幸せな夢を見ていて欲しい。

 

 起きたらきっと、更なる性癖の溶鉱炉に沈み行くこととなるのだ。

 

 ハルウララは、そっと十字を切った。

 

 

 

 心の中で思う。

 

 娘の運命の相手とやら、無理矢理聞き出すべきであった。

 

 このツインママ式性癖ミキサーなら、そやつを破壊し尽くせたのに。

 

 

 

 「ところでアマゾンちゃん♡どのぐらいの頻度で来れそうですかー♡」

 

 「週一が限度かねぇ。うちの子供も居るし、撮影もある。何より旦那とタイマンしなきゃいけないからねぇ」

 

 「お盛んですねー♡この負けウマ♡」

 

 アヘ顔の男児を愛玩しながら、のほほんと井戸端会議に興じる邪神ども。

 

 

 

 チャンスはまだまだある。

 

 ウララは密かにほくそ笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 この後、滅茶苦茶幼児の性癖が破壊された。

 

 被害者の数は、番組史上過去最大の数を記録したという……

 

 

 

 

 

 

 

 つづかない



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ハルウララさんじゅういっさい そのじゅう どうぶつパラダイス

蟲毒のグルメが人気だったので、書こうとしたら、別のウマ娘が脳内に走り込んできまして・・・
やはり降りないと書けないというのは、難しいものです。
世のウマ娘作家さんは、狙い通りの物をどうやって書いているのでしょうか・・・

元ネタは、彼の今の生活と、スタジオジ〇リと、クソゲーオブザイヤー。それにちょっぴり、高杉晋作と童話を添えて。

ちなみにこのスぺちゃん。短編「勝利の女神の後ろ髪は、蜘蛛の糸に似ている」の彼女と同一人物です。


~前回までのあらすじ~

 

 常と変わらぬ収録。そうなるはずだった。

 

 だが、薩摩隼人の切腹により、事態は風雲急を告げる。

 

 現れる、性癖二郎系ウマ娘。

 

 そう、ヒシアママの登場である。

 

 凍り付くスタジオ。湧く幼児。

 

 銃刀法を華麗に無視し、クリークママのヤクザキックを無傷でいなす立ち回りを魅せる彼女。

 

 ライダーにキック系の技が通じないのは常識である。

 

 広辞苑にも書いてある。

 

 そして、もっくんは八王子へ。

 

 さぁ、今日も地獄の収録が始まる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よいこのみんなー♡クリークママといっしょ、はじまりますー♡」

 

 「ヴッフ……ヴッフ……」

 

 「にゃーん」

 

 「メヘヘェェェェェェ!!!!!!」

 

 「ぴょ、ぴょんぴょんですぅ!」

 

 いつもの甘く蕩けたタイトルコール。そこに混じる4つの異物。

 

 上から順に、狸、猫、ヤギ、そしてバニーである。

 

 

  

 

 「ウマのお姉さん、ウララだよっ!」

 

 ビキビキビキ。血管が額に浮き出るのを、血流操作にて抑制し。

 

 笑顔で腰を痛めつけ、畜生共が映える角度でポーズを取りつつ。

 

 思う。

 

 

 

 しかし無礼な乳だ。自分をバ鹿にしている。

 

 これこそが、無礼面の音楽隊である。

 

 そう……メイショウドトウwith畜生どものご登場だ。

 

 

 

 

 「今日は―♡動物さんたちと、触れあいましょうー♡」

 

 クリークママが本日のお題目を告げる。

 

 動物回。視聴率の取れる、薄汚い大人の目論見丸出しの回である。

 

 

 

 「が、がんばりますぅ! ね、たぬ吉さん! にゃん太さん! がらがらどん!」

 

 「ヴッフ!」

 

 「なぁーん」

 

 「メヘヘヘヘヘヘヘェェェェェェェ!!!!!」

 

 「ブルヒヒィィン!!!!!!!」

 

 「ウマ美ちゃんは違いますぅ!!!!」

 

 

 

 気合を入れるメイショウドトウ。ネーミングセンスは、皆無と言っていいだろう。

 

 ウマ美ちゃんの捕食対象にもばっちり入っており。

 

 今はバニースーツからはみ出し気味の、胸を庇いながら逃げている。

 

 

 

 「狸さんかわいい!」

 

 「ん 猫ちゃん猫ちゃん!!」

 

 「わぁ! すげー! ぶるんぶるん揺れてる!」

 

 「ヤギって紙をほんとに食べるのかな?」

 

 「救いは、ないんですかぁぁぁぁ!!」

 

 幼児たちは動物たちに夢中。

 

 クリークママはその姿に胸いっぱいの喜びを得ており、助けが入る様子はない。

 

 

 

 地下アイドルの姿は無い。

 

 彼女は、通勤途中にとある一般通過ゴルシが口ずさんでいた七・七・七・五の詩。 

 

 『黙れば美人 喋ると奇人 走る姿は 浮沈艦』

 

 そう……都都逸を聞いたことにより、急遽発狂したため、本日不在である。

 

 

  

 愛らしい動物たちの群れに、ロリに飢えた餓狼が入り込む余地などある筈もなく。

 

 がろうくんは座敷牢へ放り込まれ。

 

 ウマ美ちゃんは何故か潜り込んでいた。ストーキング技術のちょっとした応用だろう。

 

 

 

 そしてこのハルウララ。

 

 己より胸の大きい女は、キングちゃんとクリークママとヒシアママ……

 

 あとは、無いと信じたいが、将来自分を超えるかもしれない愛娘を除き。

 

 『三千世界の 巨乳を殺し わたしの胸が 標準化』 

 

 その野望を常より抱いている。

 

 つまり、救いは無いということだ。

 

 変態なら山ほど巣食って居る。

 

 大人しくウマ美ちゃんの餌になるがいい。

 

 そう思っていると。

 

 

 「もう! こうなったら……がらがらどん! お願いしますぅ!」

 

 「メヘヘヘヘヘヘェ……メベェッ!!!!」

 

 あっ。バ鹿がヤギにがらがらドォン! された。

 

 よく躾けられたヤギである。

 

 吹き飛ぶウマ美ちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 メイショウドトウ。不屈の挑戦者。

 

 職業はアニマルトレーナー。

 

 動物に好かれやすい体質を活かし、トゥインクルシリーズ引退後。

 

 彼らを友とし、北海道にて、牧歌的な生活を送る事を志したのだ。

 

 

 

 

 だが、その道のりは、決して楽な物では無かった。

 

 動物を育てるのはいい。芸を仕込むのも、そこまで苦労はしなかった。

 

 だが、彼らに何をさせ、収入を得るのか。

 

 そのヴィジョンが、彼女には抜けていたのだ。

 

 致命的な見通しの甘さである。

 

 

 

 打ちひしがれる彼女。

 

 金にもならぬ動物を撫でながら、呆然とする彼女の元に一人のウマ娘が現れた。

 

 『やぁドトウ! 久しぶりだね!』

 

 『お、オペラオーさん! どうしてここに!?』

 

 そう。

 

 新進気鋭の演出家として数々のKOTY(クソ映画・オブザイヤー)を受賞した、彼女。

 

 ザじゃなくてジだろと突っ込んだヤツは、黙れバ鹿と言われるのがお約束。

 

 世紀末覇王。テイエムオペラオーである。

 

 

 

 今まで手掛けた映画に、何か足りない物を感じていた彼女。

 

 自分の才能には絶対の自信があるクソ映画メーカー。

 

 きっと、何かが見つかる筈。

 

 スランプを打破するため。

 

 終生のライバルたる、メイショウドトウを訪ねたのだ。

 

 

 

 和やかに、昔を懐かしむ彼女たち。

 

 まずは再会を喜ぶのが最優先である。

 

 テイエムオペラオーは、大事な物を決して間違えない、覇王たる資質を持つ。

 

 いきなりステーキの如く、仕事の話……

 

 しかも己のスランプを初手から持ち出すのはあまりに無粋。

 

 

 

 『ヴッフ……』

 

 『あら、たぬ吉さん。お腹が空いたんですか?』

 

 そして彼女は、談笑しているライバルの膝に乗って来た、一匹の闖入者に目を付けた。

 

 『ドトウ! さすがは僕のライバル! これだ! これが必要だったんだ!』

 

 『えっ!? ど、どうしたんですかオペラオーさん!?』

 

 

 

 「ヴッフ……ヴフゥゥゥゥ……」

 

 その始まりの一匹は、今は幼児どもに撫でられ、ご満悦の狸。

 

 たぬ吉さん。

 

 トゥインクルシリーズ中に出会い、一時は別れ。

 

 そして数奇な縁で以て、メイショウドトウと再会した。

 

 彼女の引退後の道に、大きな影響を与えた一匹のぽんぽこである。

 

 オペラオーは彼に目をつけたのだ。

 

 

 

 そう。動物が出る映画はウケる。

 

 彼女は特に映画に対するこだわりが無かったため。

 

 大衆に媚びることを決めたのだ。

 

 

 覇王は退かぬ。媚びる。顧みぬ。

 

 まさに王者の三ヶ条である。

 

 

 

 エウレーカ! エウレーカ! エロティカセブン! 

 

 狂ったアルキメデスの如き叫びを上げ。 

 

 そのままオペラオーは、ドトウが暮らす牧場のほど近く。

 

 スぺちゃん農場へ走り込み。

 

 戸惑うスペシャルウィークと、それに自動的に着いてきたポンコツ栗毛。

 

 異次元の逃亡者。現在は労働からの逃亡者たる、彼女。

 

 サイレンススズカを連れ、またドトウの元へやってきた。

 

 

 

 『サイレンススズカ。スぺちゃんおなか奏者としての、君に頼みがあるんだ』

 

 『……話を聞きましょうか。スぺちゃんのおなかと聞いては、黙っていられないわ』

 

 『スズカさん!?』

 

 真剣な面持ちのオペラオーの頼み。

 

 頷くポンコツ。

 

 戸惑うスペシャルウィーク。

 

 夢を喰らうブラックホール。星堕とし。

 

 日本一のウマ娘も、さすがにポンコツに押され気味だ。

 

 

 

 そう。スペシャルウィークは、トゥインクルシリーズ引退後、故郷に帰り。

 

 愛するおかあちゃんと共に、農場を熱狂的なファンの自主的な奴隷労働により、大きく発展させ。

 

 北海道の食料自給率を、大きく引き上げた。

 

 そして、現役時代と変わらぬブラックホールのような食欲でもって、それを自ら台無しにしたのである。

 

 

 

 サイレンススズカは、ポンコツだったため。

 

 かわいいスぺちゃんになんとなく着いてきて、お義母様のご厚意で牧場に住み着き。

 

 日がな一日、スぺちゃんのお腹をすぺんすぺんし、たまに気が向いたらバ鋤で農場を荒らしまわる。

 

 とんでもなく自由きままな生活を送っていた。

 

 特技はスぺちゃんおなか鼓。

 

 太鼓には一家言を持つ、リトルココンが唸る程の腕前である。

 

 そこに、オペラオーは目を付けたのだ。

 

 

 

 そして、半年後。一本のフィルムが産声を上げた。

 

 令和おなか合戦・奔放鼓! (れいわおなかがっせん・ほんぽこ!)

 

 テイエムオペラオーが絶対の自信を持って送り出した、正真正銘のクソ映画である。

 

 

 

 その内容は。

 

 嫌がる狸とスペシャルウィークを押さえつけ。

 

 メイショウドトウと、サイレンススズカ。

 

 二人のへっぽこが、スマートファルコンの歌に合わせて、かわいそうな二匹のお腹をぽんぽこする。

 

 3時間の上映時間を誇る、大作である。

 

 

 

 メイク・たぬっと! から始まり、ネクスト・たぬんティア。

 

 Winning the 総理、UNLIMITED・八畳敷。おなか・Phantasiaを経て。

 

 最後は飛び入り参加した、樫本理子と愉快な仲間たち。

 

 チームファーストによる、名物・ふしだら大太鼓を加えた。

 

 たぬぴょい伝説で〆である。

 

 

 

 ラストシーンでは、さすがにおなかに据えかねた、スペシャルウィークにより。

 

 逆シューティングスターでバ鹿共が打ち上げられ、夜空に笑顔の華を咲かせた。

 

 そのシーンのサイレンススズカの笑顔は、彼女のウマ生で一番輝いていたという。

 

 翌日、すぐに仲直りし、またおなかをすぺんすぺんしたらしいが……

 

 懲りない栗毛である。

 

 

 

 スペシャルウィークも、惚れた弱みにしても甘やかし過ぎている。

 

 スぺちゃん農場の奴隷どもも、一風変わった百合に大興奮し。

 

 さらに農場の規模は拡大した。

 

 

 

 これが、クソほどウケた。

 

 ノリに乗ったオペラオーは、特撮やドラマの分野にも手を伸ばし。

 

 その手腕でもって、仮面魔法ウマママ少女ライダー・アマゾンや、蟲毒のグルメを世に送り出すのだが……

 

 それはまた、別のお話。

 

 

 

 

 

 

 そして、メイショウドトウ。

 

 彼女はクソ映画により、多額の現金収入を得たものの。

 

 所詮は一発限りの栄光。

 

 今はうさぎのお姉さんに身を窶し、クリークママの忠実な下僕として。

 

 バニー姿で愛する畜生どもと共に、この番組で日銭を稼いでいる。

 

 動物と巨乳。

 

 小さな子供たちから、大きな子供たちまで、幅広いニーズを満たす、人気キャラである。

 

 

 

 もちろん、彼女にも性癖破壊機能は搭載されている。

 

 ほら、今も。

 

 

 

 「あうっ!」

 

 「んぷっ!?」

 

 何もない所でコケて、きっくん(5)をそのエベレスト級の二子山で押しつぶし。

 

 

 

 「や、山が……そうか……! チョモランマとは……! 世界の母なる女神……!」

 

 「大丈夫ですかぁー!? きっくん、しっかりしてぇ!」

 

 

 

 譫言をほざくきっくんを慌てて抱え起こし。自らの胸に顔面を埋没させる。

 

 むにゅり。

 

 

 

 「あああああああああああ!!! Hカップ以下は……! 貧乳……!」

 

 「きっくぅぅぅぅぅぅん!?」

 

 瞬時に性癖を破壊され、世の99,9パーセントの女性を愛することが叶わなくなったきっくん。

 

 

 

 「ヴッフ……」

 

 「にゃぁん……」

 

 「めへへぇ……」

 

 「ひひぃぃん……」

 

 動物たちも呆れ顔である。

 

 だが彼らは、決して愛する彼女を見捨てたりはしない。

 

 ウマ美ちゃんが、一人の男児を可哀想な事にし、落ち込んだメイショウドトウ。

 

 動物たちが彼女に寄り添うのに混じり、背後から慎重にパイタッチを狙うが。

 

 

 

 「ドトウちゃーん♡」

 

 「はいぃ! クリークママ!」

 

 

 

 ぶるんっ! バッチィィィィン!!! 

 

 「ひひぃんでぶっ!?」

 

 母なる邪神の呼び声に。

 

 慌てて振り向いた彼女の胸に、横っ面を殴打され。

 

 心なしか、満足そうに吹き飛んでいく。

 

 あのビンタ、凄まじい威力を誇るらしく、以前スイカをスイカで破砕する姿を目撃したことがある。

 

 首を鍛えているウマ美ちゃんでなくば、頸椎を破砕されていただろう。

 

 戦慄しつつ、思う。

 

 

 

 メイショウドトウが出演する回は、いつもこうだ。

 

 女の価値は、胸の大きさではない。

 

 わかっている。わかっているのだが……

 

 

 

 

 愛する娘に授乳を強請られ、無念にもキングちゃんにパスせざるを得なかったあの日。

 

 仕方がないとは言え、母としては誠に遺憾である。

 

 

 

 5歳になった今も、毎日ねだってくるのだが……

 

 そろそろ諦めてくれないだろうか、あのプリンセス。

 

 

 

 悲しみに涙を零さぬよう。

 

 空を見上げる、ハルウララなのであった……

 

 

 

 

 

 

 つづかない

 

 



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ハルウララさんじゅういっさい そのじゅういち お出かけですか、おひめさま

またやった……!
また、続き物を書いてしまうクソプレイ!
だが、書くね!何故なら私が書きたいからだ!!!


~前回までのあらすじ~

 

 ぴーひゃらぴーひゃら 叩く ぽんぽこぽん

 

 ドトウの如き勢いで鳴る腹太鼓。

 

 ポンコツによるスッペンペン。

 

 幼児が貧乳を愛せなくなった日。

 

 ハルウララはそっと思った。

 

 動物回はやっぱり視聴率が上がる……と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いってきますわー!」

 

 「いってらっしゃい、プリンセス。気をつけてね」

 

 「いってらっしゃい! 頑張るんだぞ!」

 

 「いってらっしゃい、プリンセスちゃん」

 

 

 

 愛する家族のお見送りを受け、手を振りつつ。

 

 家を出て、商店街に向かって歩む。

 

 カワカミプリンセス、御年5歳。

 

 初めてのおつかいである。

 

 

 

 とことこと歩きながら、掌中のメモを確かめる。

 

 じゃがいも。にんじん。かぼちゃ。たまねぎ。鶏胸肉。

 

 パセリ。最後に牛乳。

 

 

 

 そう。今夜は愛する桜色の妖精の大好物。

 

 シチューである。

 

 

 

 母の作る料理は、なんでもおいしいおいしいと。

 

 愛らしい笑顔を咲き誇らせて食べる彼女であるが。

 

 シチューはやはり別格なのだろう。

 

 

 

 お膝に座って給仕してあげると、至近距離で素晴らしい笑顔を魅せてくれるのだ。

 

 このおつかい、責任重大である。

 

 彼女は決意を新たにした。

 

 

 

 商店街のアーケードが見えて来る。

 

 トレセン学園の生徒もよく通う、地域の顔である。

 

 縄張りとするのはハルウララとナイスネイチャ。

 

 

 

 自分もいつも、彼女に手を引かれながら、お買い物に来る。

 

 だが、今日は自分の手を引く柔らかいてのひらは無い。

 

 それに寂しさを覚えつつ、アーケードをくぐる。

 

 

 

 「らっしゃい! 人参が安いよー!」

 

 「スゥゥゥゥ……ハァァァァァァ……」

 

 「おい! 勝二! 何吸ってやがんだ! お客さん来てるぞ! ……お前、まさか!」

 

 「ち、違う……これはただの、雑巾じゃ……」

 

 「ムスビッ うそをつけっ」

 

 馴染みの八百屋の前を通ると、ちょっとした狂乱。

 

 商店街では日常である。

 

 見ると、八百屋のゲンさんが丁稚の勝二から、何かの布を取り上げようとしている。

 

 直感する。アレだ。

 

 

  

 「ゲンさん! こんにちはですわ!」

 

 「おお、ウララちゃんとキングちゃんのとこのお姫様じゃねえか! 今日は一人かい? 

 ……おい、勝二! しまえ! 子供の前で見せるもんじゃねぇだろ!」

 

 「すいやせん大将……上物が入ったもんで……らっしゃい。

 嬢ちゃん。今日は何をお求めで?」

 

 ねじり鉢巻きの大将と、おにぎりのような愛嬌のある丁稚。

 

 愛想良く接客を試みる彼らが、後ろ手に隠した布を、このプリンセスアイは見逃さなかった。

 

 

 

 

 

 ハルウララ使用済みハンカチ。

 

 非合法に出回っている商品だ。

 

 商店街には彼女の熱狂的なファンが多い。

 

 

 

 選りすぐられた紳士である彼ら。

 

 パンツなど論外。彼女を穢すことは許されない。

 

 真のファンはハンカチで己のリビドーを慰めるのだ。

 

 

 

 そのため、自他共に認める熱狂的なファンである彼ら。

 

 彼らも聖遺物を裏ルートで入手したのだろう。

 

 だが己は知っている。

 

 あれ、パパのハンカチだ。

 

 

 

 

 

 

 事の起こりは数年前。

 

 ママが、消えた洗濯物に首を傾げていたのだ。

 

 下着類には一切手を付けず、数枚の女児向けハンカチのみ持ち去られていた。

 

 当時自分はまだ乳児を卒業したばかりであり。

 

 それを使うのは桜色の妖精のみ。

 

 そして持ち去られたハンカチの代わりに、新品のハンカチがそっと置かれていたのだ。

 

 紳士の手口である。

 

 

 

 これに対し、パパが激怒。

 

 愛しい愛バのハンカチ。

 

 補填をする気遣いはあれど。用途は明らかである。

 

 

 

 吸ってキメるのだ。それ以外に無い。

 

 何故なら自分もよくやっているからだ。

 

 愛バに対して性欲は感じないが、愛には満ち溢れているのだ。

 

 

 

 パパは対策を講じる必要性を感じ、しばし無事だった愛バのハンカチをキメつつ考えた。

 

 犯人を捜すのは困難極まる。

 

 何故なら、この地域にファン第1号たる自分を始め、ハルウララの男性ファンは多く。

 

 その中でも紳士となると、ほぼ100%である。それ以外は粛清されるからだ。

 

 ハルウララファンクラブは、自浄作用も完璧なのだ。

 

 特定は困難であろう。

 

 だが、このままにもしておけぬ。

 

 自分以外が愛バのハンカチをキメるなど、認める事はできぬ。

 

 

 

 そして彼は手を講じた。

 

 ハンカチを隠すならハンカチの中。

 

 彼は会社に女児向けハンカチを持っていくことに決め。

 

 愛バのハンカチは部屋干しするようにママに指示。

 

 そう。己の社会的地位の失墜と引き換えに、愛バのハンカチを守ったのだ。

 

 その言動により、社内では元より底辺の社会的地位。

 

 リターンの方が大きいため、妥当な判断である。

 

 

 

 

 

 (でも、やっぱりこのヒトたち、頭がおかしいですわ……パパもですけど……)

 

 「今日はコイツが良いぜ、嬢ちゃん。スぺちゃん農場から直送の人参だ」

 

 「おっと勝二、これを忘れちゃいけねぇ……このリンゴも出物だぜ? 

 なんたって、あのサイレンススズカが好き勝手に走り回った挙句。

 果樹に正面衝突して落ちたリンゴだ。こいつもスぺちゃん農場産。

 たぶんご利益がある」

 

 パパのハンカチを後生大事にしまいつつ、おすすめの根菜と果実を勧めてくる彼ら。

 

 筋金入りのド変態どもである。

 

 よく平気な顔で接客ができるものだ。

 

 

 

 彼女のハンカチは嗜みとして、自分もキメるが。

 

 自分はお姫様である。

 

 姫君として、当然の権利を行使しているだけである。

 

 

 

 だが、これは使える。

 

 そっと丁稚に近寄り、囁く。

 

 

 

 「先程のハンカチ……どちらのルートで?」

 

 「……何の事を言ってるのかわからんな。

 嬢ちゃん。大人をからかっちゃいけねえよ」

 

 「帝王商事」

 

 とぼけようとした彼の顔が青褪める。

 

 

 

 やはり、汚い帝王か。

 

 ゆるふわツインテールを思い浮かべる。

 

 彼女はこの商店街に深く根を張っており。

 

 たまに、独自ルートで入手した聖遺物を横流しすることにより。

 

 商店街の変態どもに、女神のように崇められているのだ。

 

 蛇の道はネイチャ。

 

 商店街においては常識である。 

 

 

 

 

 「……勝二。俺たちの負けだ。嬢ちゃん。

 好きなもんを持ってきな。金はいらねぇ。

 まったく……この前まで、こーんなにちっちゃかったのにな。

 俺も年を取るわけだぜ……

 ウララちゃんは年を取らないけどな!」

 

 

 ガハハ、と親指と人差し指で、豆粒の大きさを示し。

 

 この商店街で良く使われる、永遠のアイドル。

 

 ハルウララを賛美するための定型句を告げ。

 

 豪快に笑う大将。

 

 

 

 潔い男だ。変態だが、嫌いではない。

 

 なんといっても、愛しい彼女のファンである。

 

 つまり、自分と同志であるのだ。

 

 手を差し伸べる。

 

 

 

 「これからもウララちゃんをよろしくですわ!」

 

 「言われるまでもねぇ。だが、よろしくなお姫様。ウララちゃんほどじゃねぇが。

 良い女になるぜ。大きくなるなよ」

 

 ニカッと笑って答える、ロリコン大将。

 

 ハルウララファン。そういうことである。

 

 

 

 

 

 「ねぇねぇ! 君、ウララお姉さんのとこの子!?」

 

 気持ちよく野菜を分捕り、リュックサックに詰め込み。

 

 八百屋を辞す際。

 

 同い年ぐらいの男の子が声を掛けて来た。

 

 どうやら会話を聞かれていたらしい。

 

 「ええ。わたくしはウララちゃんの……そう。娘みたいなものですわ」

 

 今はな。

 

 

 

 心の中で付け加える。

 

 まだ娘としか思われていないのは知っているが。

 

 娘で終わる気などさらさら無い。

 

 だが、他人に聞かれた際は、まさか恋人とは言えぬ。

 

 いつかはなる気だが、さすがにまだ早い。

 

 そのため、こう答えるようにしているのだ。

 

 

 

 「じゃ、じゃあ……ウララお姉さんに、これを渡して! お願い!」

 

 紅潮した顔で、差し出されたのはヒシアマゾンがライダーポーズをキメている封筒。

 

 受け取ると、彼は脱兎の如き勢いで逃げていった。

 

 

 

 おや、恋文か。

 

 罪な妖精である。

 

 この男児も、彼女の被害者であろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 愛すべき桜の妖精。

 

 ハルウララは、常々番組における、クリークママによるでちゅね性癖破壊をテレビの前で嘆いているが。

 

 実のところ、男児の性癖を一番破壊しているのは、彼女である。

 

 

 

 男児から見た彼女はこうだ。

 

 自分たちと一生懸命遊んでくれる、少し年上のお姉さん。

 

 大人たちと対等に、すごいパワーを見せてくれる。

 

 なんてすごいお姉さんだろう。自分たちとあまり年も変わらないのに。

 

 かわいいしかっこいい。おまけになでなでがすごくうまい。

 

 小学校の何年生だろう。僕も小学生になったら。

 

 

 

 そんな男児の淡い初恋。

 

 ハルウララに惹かれた男児たちは、初恋パワーにより。

 

 クリークママの抱擁にも一時的な耐性を得る。

 

 番組中は、念入りに西松屋されない限りは、性癖を破壊されないのだ。

 

 違法ロリの奇跡である。

 

 だが。

 

 

 

 その奇跡は、番組終了後に凄まじい勢いで没シュートされるのだ。

 

 番組終了後は、クリークママたっての要望により。

 

 出演者と幼児たちの、懇談の時間が設けられている。

 

 テレビの前では、幼児たちも緊張して、ママに充分に甘えられないだろうという。

 

 クリークママの母なる邪神としての欲望を、丸出しにした制度である。

 

 そして、番組が終わると。

 

 

 

 3分の1の、番組中に性癖を破壊された男児は、クリークママの方へ。

 

 メイショウドトウが出演した際は、彼女の方にもその内約半数が。

 

 ニッチな性癖持ちの男児と、3分の1の女児は、スマートファルコンの所へ。

 

 そして残り全ての。過半数の幼児は、ハルウララとのお話を望むのだ。

 

 がろうくんとウマ美ちゃんは、寂しげに端の方でジェンガやドミノで遊ぶのが常である。

 

 

 

 当然のことだろう。一番年が近く、親しみやすい風貌。

 

 自分たちと同じ目線で、楽しく遊んでくれた彼女。

 

 そして天真爛漫な笑顔。それに彼らは惹かれるのだ。

 

 

 

 あれが楽しかった。次もここで遊びたい。私もデーモンファル子閣下みたいになる。

 

 楽しい懇談の時間はすぐに過ぎ。

 

 決まって、途中で一人の男児が不用意な質問をしてしまう。

 

 「ウララおねーさんって、なんさいなの?」

 

 

 

 凍り付くハルウララ。

 

 壊れた人形のように軋む指を、三本立てる。

 

 「小学3年生!? すごーい! ぼくたちとあまり変わらないように見えた!」

 

 軋む首を横に振るハルウララ。

 

 「えっと……13歳……? 中学生なの!? すごいや!」

 

 軋む腰の痛みに悩むハルウララ。

 

 そして告げるのだ。

 

 「わたし、さんじゅういっさい」

 

 

 

 さんじゅういっさい。さんじゅういっさい。さんじゅういっさい。

 

 まさかの自分たちの6倍ほどの年齢。

 

 

 

 ここで男児たちの脳は混乱する。

 

 

 

 「あと、腰痛が最近ひどくて……」

 

 腰痛。おじいちゃんおばあちゃんが悩んでるやつだ。

 

 

 

 さらに男児たちの混乱は加速する。

 

 

 

 そんなバ鹿な。こんなにかわいいのに。

 

 おとうさんやおかあさんよりも年上。

 

 つまり、おばさん……? 

 

 いや待て。こんなにかわいらしいおばさんが居てたまるか。

 

 およめさんにしたいけど、ぼくが大人になるころには何歳になっているというのか。

 

 腰痛とは。老人にならねば、悩まぬものではないのか。

 

 

 

 そして、混乱した幼い脳髄は、誤った答えを導き出すのだ。

 

 

 

 でも、このおねえさん小学生ぐらいからずっと成長していないのでは? 

 

 つまり、合法ロリ……! 

 

 紅ベン先生で出たやつだ!!!! 

 

 わかったよ先生! 永遠のロリ! これが先生の言っていた、理想! 

 

 

 

 僕、ウララおねーさんをおよめさんにする! 

 

 今は若くても、よし子ちゃんもさち子ちゃんも年を取る。

 

 つまりはかわいい子も、いつかはババァ。

 

 でもウララおねーさんは永遠にロリ。

 

 年を取るババァ共なんて、もう眼中にないや! 

 

 やっぱりロリは最高でおじゃるな! 

 

 腰痛持ち? 僕が一生支えるよ! 

 

 

 

 

 

 

 そう。

 

 彼らはその時、一時の祝福を剥がされ、呪いを得るのだ。

 

 腰痛に悩む、永遠のロリしか愛せない。

 

 そんな呪いを。

 

 子孫など、残せようはずもない。

 

 

 

 そう、クリークママといっしょ! に出演したが最後。

 

 男児の3分の1はクリークママに。

 

 ニッチな素質を持つ、数人はスマートファルコンに。

 

 そして残り全ての男児は、ハルウララに性癖を破壊されるのである。

 

 助かる者などいない。

 

 残酷極まりない、真実であった。

 

 

 

 

 

 

 

 世界はいつだって残酷だ。

 

 カワカミプリンセスはそっと微笑み、彼から受け取った封筒を。

 

 大胆に引き裂いて、ゴミ箱に入れた。

 

 ライバル登場の可能性は、0.000000001%とて、許容できないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お姫様のはじめてのお使い、つづかない。

 

 



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ハルウララさんじゅういっさい そのじゅうに 仮面の告発

今回は短めです。
クロスオーバー作品は、アレな感じが多いと伺いまして。
自他共に認める地雷作品である本作にも、その要素を取り入れることとしました。
さて、誰が出るでしょう。
当てた方は、精神に重大な疾患があります。
素直に病院に行く事です。
この作品は、LGBTに対する配慮を重視しております。

時代考証?ハハハ。
ウマ娘でやる必要がない?ハハハ。


~前回までのあらすじ~

 

 プリンセスちゃん、初めてのおつかい。

 

 輝かしき日本の伝統。

 

 幼児の登竜門。今日の晩ご飯の材料。

 

 おしゃまな幼児は前へと進む。

 

 愛するウララの笑顔のため。

 

 商店街へと歩みを向ける。

 

 立ちふさがるは、八百屋のギギギコンビと、老人性小児愛に目覚めた幼児。

 

 そう……この世界は残酷だ。

 

 ゴミ箱の中の、初めての慕情だけが、優しく微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 とことことこ。

 

 身の程知らずのラブレターをゴミ箱にシュートした後も。

 

 お姫様は歩み続ける。

 

 

 

 じゃがいも。にんじん。かぼちゃ。たまねぎ。鶏胸肉。

 

 パセリ。最後に牛乳。

 

 根菜・野菜・香草の類。おまけにデザートのフルーツまで手に入れた。

 

 浮いたお金はお小遣い。

 

 ハルウララグッズの購入資金に充てよう。

 

 

 

 さぁ、次はお肉だ。

 

 愛する彼女には最高のものを。

 

 スーパーのパック詰めなどでは、このプリンセスが己を許せぬ。

 

 次なる標的は、精肉店だ。

 

 次なる犠牲者を見定めた、彼女の背後には怪しい影。

 

 

 

 「いらっしゃい。おお、ウララちゃんのところの。今日は何をお求めで?」

 

 にこやかに自分を迎え入れる、恰幅の良い男性。

 

 割腹が趣味の、肉屋の店主。

 

 公威さんである。

 

 どうやら、現在の政治体制について、物申すところがあるらしい。

 

 軍部とも繋がりがあるらしく、偶に軍服を着た青年将校が、尻を抑えて店から出られておらぬ。

 

 珍しく、ハルウララのファンではあるが、熱狂的ではない。

 

 だが、弱点はある。

 

 弱みの無い聖人など、この世に存在してはならぬのだ。

 

 

 

 「公威さん、こんにちはですわ! 今日は鶏むね肉を買いに参りましたの!」

 

 「なるほど。偉いねぇ。

 さぁ、どれでも自由に見てご覧。

 ガラスの中の自慢の逸品。

 どれを選んでも、味は極上。

 舌で蕩けておなかは満足。

 けして後悔させませんとも。

 お安くしましょう。おじょうさん」

 

 お道化て告げる、公威さん。

 

 なるほど。さすがは、文筆家と言ったところか。

 

 表現にも気が利いている。

 

 だが、その文学的センスが、自分の身を亡ぼすのだ。

 

 

 

 「ええ。このにわとりさんのお肉など、よろしいのではなくて?」

 

 「おやおや。そいつは丸鶏だよ? お嬢さん。ローストチキンでも作るのかな? 

 だが、ちょいと困ったな。怒涛丸鶏。お値段は決して安くない。

 お嬢さん、予算は? 

 君のおさいふには、金貨でも詰まってゐるのかな?」

 

 渋面を浮かべる彼。

 

 

 

 怒涛丸鶏。

 

 かのメイショウドトウが、教育番組だけでは足りぬ、畜生どもの餌代を稼ぐため。

 

 彼らと共に世話になっている牧場で、丹精込めて育て。

 

 そして、そのエベレストで圧殺した、プレミア価値までつく逸品である。

 

 

 

 特徴は、喜悦に歪んだ死に顔。

 

 その肉質は、快楽の中で果てたためか。

 

 蕩けるような舌ざわりと、噛むと溢れる肉汁。

 

 まるでメイショウドトウの胸のようであると、大評判。

 

 お値段は、脅威の時価である。

 

 今の相場なら、諭吉さんが数枚はアディオスするだろう。アミーゴ。

 

 

 

 だがこのプリンセスには秘策がある。

 

 カウンターに寄って、ぴょいとそれに飛びつき、告げる。

 

 「ペルソナシャウト」

 

 「……何故それを知っている……!」

 

 愕然とする彼。他愛なし。

 

 

 

 『永いあいだ、私は自分が生まれたときの光景を見たことがあると言い張っていた』

 

 その一文から始まる小説。

 

 とても共感が持てる冒頭文であった。

 

 母が読んでいた、ハートフルホモストーリーである。

 

 執筆者の名は。

 

 

 

 「ええ。だってあの小説の主人公。わたくしのパパでしょう? 

 あのひとほど、自分に正直な方、わたくし見たことありませんもの。

 ねぇ、由紀夫さん?」

 

 作者の名前を告げる。彼の文筆家としての名前だ。

 

 なぜわかるか。それは。

 

 

 

 主人公は、冒頭文の直後に言ってのけるのだ。

 

 『尻だ!!! 尻が良い!!! 野郎の尻が最高だ!!! オー!! シャビダビダア!!!』

 

 などと。恐ろしく早い自白。

 

 このプリンセスでなくば、感嘆符の多さに気づかなかったほどの狂乱である。

 

 まったく仮面を被れていない。

 

 タイトル詐欺もいいところである。

 

 ママはたぶん気づいていないが、あの主人公。

 

 挿絵の体型といい、顔といい。

 

 完全にうちのパパである。

 

 

 

 「……恐ろしい。恐ろしいお嬢さんだ。

 何故、わたしだと?」

 

 「うちのパパの尻にあんな熱狂的な視線を向けるなど。

 あなたとうちのウララちゃんぐらい。

 

 そして、主人公の恋敵のモンスターエナジー。

 うちのママでしょう? 

 誰だって気づきますわ。

 あと、そこの少尉さん、そろそろ目覚めそうですわよ?」

 

 「おっと。薬の効きが甘かったか……

 負けたよ。やはり身近な家族をモデルにしてはいけないな……

 もってお行き。将来が恐ろしいプリンセス。こいつはわたしからの、プレゼント。

 そういうことにしておくれ。

 おまけだ。ママミルクも付けておこう」

 

 潔く敗北を認め、冷蔵庫から牛乳を。

 

 ショーウィンドウからよくわからない死に方をした、哀れな鶏を渡してくる公威さん。

 

 決断が早い。

 

 丸鶏だけでは、今後もお強請りを受けると睨んだのだろう。

 

 さすがはお昼休みに軍の駐屯地にカチコミをかけるだけはある。

 

 お昼ごはんに舌鼓を打っていた、ウマ娘兵士たちに速攻で叩き出されたらしいが。

 

 よくこの店を続けられているものである。

 

 

 

 では、優雅に去るとしよう。

 

 八百屋でカツアゲした生鮮食料品たちに、新たな仲間が加わる。

 

 怒涛丸鳥と、ママミルク。

 

 戦利品が誇らしげにリュックの中で微笑んでいる。

 

 しかしこの鶏、笑顔がキモい。

 

 

 

 ちなみにママミルク。

 

 クリークママがCMに出て、人気が爆発しただけの高級品である。

 

 キャッチコピーは、『ママのすんごい愛情で、赤ちゃんのお腹もダイナマイツ!』

 

 粉ミルクと勘違いしてはいまいか、あの邪神。

 

 そして乳児の腹部を爆弾成金させて、どうしようというのか。

 

 

 

 ちなみに、決して彼女の母乳というわけではない。

 

 それは彼女の愛する赤ちゃんだけの、専売品だからだ。

 

 おしゃぶりを咥えた、ダンディー赤ちゃん。

 

 初めて会った時は、思わず雪崩式プリンセスホールドを叩き込んでしまったものだ。

 

 寛大なクリークママは、甘やかす口実が出来て悦んでいたが。

 

 

 

 おっと、挨拶を忘れてはいけない。

 

 ちょこんとスカートの裾を摘み。

 

 カーテシーにて別れを告げる。

 

 「ありがとうございましたわ、由起夫さん」

 

 「その呼び方はやめてくれ。私にも体面というものがある。

 オラッ♡かわいいねっ♡二倍の濃度でイったら♡二分の一で快楽の内に死に給へ♡♡♡」

 

 文学的表現を最大限に活用しつつ。

 

 青年将校に菊乱暴を白昼堂々と働きながらも、鬼作に挨拶を告げる彼。

 

 

 

 体面など、どこにあるというのか。

 

 考えてはいけない。この世界では。

 

 深く考えると不覚を取るのである。

 

 

 

 彼女は狼藉を見逃すことに決め、店主のぬふぅ写真を一枚撮り、店から出た。

 

 次の脅迫材料である。

 

 

 

 さぁ。愛する妖精に捧げる供物は揃った。

 

 おうちに帰ろう。

 

 家に足を向けようとすると。

 

 

 

 「おっと。ちょいと待ちなよ、お嬢さん」

 

 ねっとりとした、声に步みを止められる。

 

 逃げ牽制。まんまと彼女の術中にハマッたようだ。

 

 

 

 変態を刺激せぬよう、ゆっくりと振り向くと。

 

 そこには明るい鹿毛のゆるふわツイン。

 

 性癖はガッチガチのバイセクシャル。

 

 ナイスネイチャが、そこに居た。

 

 そう……出オチ要員である。

 

 

 

 

 

 プリンセスの商店街蹂躙の旅、つづかない。




正解は、あの方でした。飽くまで元ネタで、本人ではありません。


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ハルウララさんじゅういっさい そのじゅうさん たたかうおひめさま

はじめてのおつかい編、終わり。
拙作におけるネイチャは、ただの変態ではありません。
すごい変態です。

元ネタは大魔法峠。


~前回までのあらすじ~

 

 お強請りの旅を続けるプリンセス。

 

 背後には怪しい影。だが彼女は気づかない。

 

 次なる獲物は肉屋の店主。

 

 割腹の良い文筆家。

 

 彼女はキモい鶏を手に入れんがため、彼の仮面を告発する。

 

 自分のパパをホモ文学のモデルにした罰である。

 

 仮面を剥がされた彼は、威風堂々と青年将校を菊乱暴。

 

 敗北の証に彼女に鶏と牛乳を献上した。

 

 満足感を胸に、家路に向かう途中。

 

 彼女に迫る怪しい影。

 

 商店街の裏の帝王。

 

 性癖はまったくゆるふわではないツインテール。

 

 ナイスネイチャが、そこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やぁ、ウララのところのお姫様。なんであたしがここにいるか。わかるかい?」

 

 「あらあら。ゲンさんに泣きつかれましたの? それともあの小僧? 

 なんにせよ、大の男が情けないことです」

 

 「いいや。違うね。違うとも。この商店街のルール。

 やり過ぎてはいけない。それにお姫様が、違反したからさ。

 さすがにあのお強請りは度が過ぎる。被害総額数万円。

 こいつが許されるのは、それこそお姫様の所の、ウララぐらいなもんだよ」

 

 「あら、泣きつかれていないとなると、自主的に? 

 おかしいですわね。ネイチャさん。動きが早すぎではありませんこと? 

 まるで、幼気な姫を、ストーカーでもしていたかのような」

 

 「えっ? 可愛い幼女が保護者不在でいたら、ストーカーするでしょ? 

 乙女の嗜みじゃん。そんなチャンス、逃がすわけがない」

 

 「…………」

 

 

 

 最初の小手調べはこちらの敗北。

 

 ストーキング行為に対し、まったく罪の意識が無い。

 

 この女、予想以上にガチだ。

 

 繰り出したジャブを、思うさまにしゃぶられた気分だ。

 

 

 

 あまりの怖気に身が竦む。

 

 愛する妖精は、これをどうやって制御しているのだろう。

 

 だが、敗北を認めるわけにはいかぬ。

 

 この身は姫。誇り高くあるべき王家の華。

 

 優雅に、淑やかに。

 

 華麗なる勝利を収めてみせよう。

 

 

 

 「わたくしを、どうなさるおつもりで?」

 

 「何。ひどいことはしないよ。ウララに殺されるからね。

 せいぜい、二度とおイタができぬよう。

 その可愛い未成熟な桃を。このネイチャさんが、舐め尽くしてあげるだけさ」

 

 「……それ、ひどいことじゃありませんの?」

 

 「えっ? テイオーは喜んでくれるんだけどなぁ。まだまだ序の口だよ。

 ひどいことって言うのは……そうだね。夜の楽しい食事の時に。

 ごちそうさまって言葉を、忘れるぐらい。

 それぐらいに楽しんだら、ひどいことになるかも。

 テイオーみたいにね」

 

 

 

 第2Rもこちらの敗北。

 

 倫理観が予後不良。

 

 ひどいことのハードルが、恐らく宇宙にまで飛翔している。

 

 エクストリーム走り高跳びである。

 

 

 

 ごちそうさまを忘れるということは。

 

 与えられる快楽を無限に貪り。けして満足をすることのない。

 

 飢えた淫らな獣になるよう、躾けられるということだろう。

 

 

 

 対の帝王は、どちらも変態。

 

 プリンセス覚えた。

 

 今後はトウカイテイオーとも、距離を取る必要があるだろう。

 

 

 

 常識ウマのように見せかけておきながら。

 

 邪悪なる帝王に、その水蜜桃を、毎夜淫らに大サービス。

 

 鳴りやまぬアンコール。終わりの合図は忘却の彼方に。

 

 奇跡の帝王が笑わせる。プリケツの帝王の間違いであろう。

 

 パパのケツとも、いい勝負に違いない。

 

 

 

 「そのテイオーさんという桃がありながら。未成熟な桃にも舌を伸ばす。

 浮気というものじゃありませんの?」

 

 「大丈夫さ。テイオーは、ちょっと嫉妬を煽ってあげた方が、いい声で鳴く。

 やり過ぎると、土下座謝罪をするハメになるけどね。

 蔑んだ目で踏まれるのもいい。お姫様も、大人になればわかるよ」

 

 

 

 駄目だ。手に負えない。無敵すぎるぞ、この女。

 

 幼気なこの身に、奇矯なディナーの話を嬉し気に語る。

 

 土下座など、テーブルマナーにありはせぬ。

 

 これ以上聞けば、倫理観が崩壊する。

 

 お淑やかに育てようとしてくれている、妖精に顔向けが出来なくなるだろう。

 

 

 

 身を翻し、逃走を……

 

 ぐらりと、身体が傾ぐ。

 

 

 

 「おっと。逃げられるとでも? 

 アタシの声を、舐めてはいけない。

 煽りの呼吸。皇帝直伝の、秘技ってヤツ。

 アタシの口数、やたら多いと思わなかったかい? 

 

 耳に入れば、じわじわ浸透。一言二言ならば、問題ない。

 だが、これだけ聞けば。

 もう腰が砕けて、動けないだろう? 

 

 さぁ。お耳に直接ASMRしてあげよう。

 マッドティーパーティーへようこそ、お姫様。

 お代は恐怖に溢れる黄金水。

 若い葉から搾り出されるアバ茶。

 きっと極上に違いない。

 

 さぁさぁさぁ。あと3歩、2歩、1歩。

 また油断したね? 顔が赤いよ。

 聞いてはいけない。無理やり聞かせるけど。

 顔を逸らしてはいけない。刮目してこの目を見よ。

 視線にも、毒は宿る。覚えて決して忘れるな。

 

 我が名はナイスネイチャ。汚い帝王。

 汚泥に塗れ、足を引き。

 呼吸を乱し、囁いて。

 誰も彼も嘲笑い、奇跡を飲み干す黒い影。

 残念だったね、お姫様。旅はどうやら、終わりらしい」

 

 

 狂言廻し。

 

 噂に名高い、汚い帝王の必殺技。

 

 耳に直接流し込まれる、鉛のような、重い情欲。

 

 脳が掻き混ぜられ、景色が極彩色に歪む。

 

 

 

 これが、かの汚い帝王か。

 

 聞きしに勝る、精神汚染。

 

 皇帝とは違い、デバフに特化した……

 

 強さという概念に対する、解答の一つ。

 

 G1レースの勝利数にも頷ける。

 

 ただの出オチ要員ではなかった。

 

 変態のくせに、ラスボスの風格がある。

 

 

 

 幼きこの身でこれに抗することは不可能。

 

 致し方なし。自分で勝利するのは諦めよう。

 

 

 

 「さぁさぁさぁさぁ! アタシ、興奮してきた! 

 友人の子を汚す快楽! 

 アタシ今、体温何度あるのかなぁ!? 

 クリークママも、ここにはいない! 

 過保護な親御さんたちも……

 いない? あの親バ鹿どもが?」

 

 ハッとする汚い帝王。

 

 囀る口が、動きを止める。

 

 

 

 気づいたか。だが、もう遅い。

 

 そう。はじめてのおつかい。

 

 保護者によるストーキングは、お約束である。

 

 

 

 高らかな蹄鉄の音。凱旋を告げる、喇叭のように。

 

 「やばっ……アタシ一人じゃ、分が悪い! せめて師匠でもいないと! 

 じゃあね! お姫様! アタシとは会わなかったことに……かひゅっ」

 

 さすがに引き際を心得ている。だが、もう遅い。

 

 

 

 

 ぐわしっ。ズルルルルルルルルル!!!! 

 

 霞んだ目に映る、趣味の悪い緑の服。

 

 妖精とは異なる、ナイスバディ―。

 

 汚い帝王の首根っこを引っ掴み、発声を封じ。

 

 そのままの勢いで路地裏へと消えてゆく。

 

 

 

 聞こえてくる、凛々しい声。

 

 決める時は決めるのだ。王者の誇りはその胸に。

 

 自慢の母の一人である。

 

 

 

 ダンッ! ダンダンダンッ! 

 

 「打撃系など、華拳繍腿……! 関節技こそ、王者の技よ!」

 

 「まってまってまってキング! 謝る! 謝るからぁ! この高さはやばい!! ネイチャさん死んじゃう!」

 

 「問答無用! 雪崩式・キングホールド!」

 

 ガゴォンッ! 

 

 「あぎゃああああああああ!!!! 気持ちいいィィィィィィ!!!」

 

 

 

 出た。コーナーポストは無いが。

 

 路地裏の壁を活用。

 

 三角蹴りにて、天高く舞い。

 

 相手の腰を腕ごとクラッチし、己の体重も加算して、地面に向けダイブ。

 

 後ろから抱き締めるようにホールドしながら墜落し、相手の頭頂部をそのまま地面に直撃させる。

 

 

 

 王者にのみ使用を許された技。

 

 幼いこの身で再現したものとは、練度が違う。

 

 石畳に頭頂部を埋められながらも、歓喜の悲鳴を上げる汚い帝王。

 

 ブレない女だ。

 

 自らの王者式格闘術の師たる、母のフィニッシュホールドを喰らいながら、あの余裕。

 

 油断とあの女は言ったが。

 

 この幼い身でアレを打倒するのは、まともに相対したとしても、さすがに困難だろう。

 

 まだ、出力が足りな過ぎる。

 

 

 

 冷や汗を垂らす。親バ鹿がいなければ、やられていた。

 

 しかし、妖精の姿が見えぬ。不在であろうか。 

 

 いや、いる。間違いない。

 

 過保護の塊たる彼女が、数少ない収録の無い休日……日曜日に。

 

 このプリンセスのはじめてのおつかいを見逃すはずがない。 

 

 

 

 ほら。その証拠に。

 

 「くっ……そりゃあ! いいケツしとるやないか! ワレェ!」

 

 「ひゃぁん!? くっ、このっ!」

 

 汚い帝王は生き汚さも一流。

 

 再度大空に舞おうとした天使を止めるため。

 

 腕を軟体生物のように蠢かせ、王者のケツを極限までいやらしく撫でて。

 

 気の強い女の例に漏れず。尻の弱い母を怯ませてホールドを外す。

  

 背を向けて逃走を図ったところで……

 

 

 

 パァンッ! 

 

 乾いた銃声。ナイスネイチャのクリスマスカラーのメンコが吹き飛ぶ。

 

 熟練の狙撃手たる、戦闘妖精の仕業だろう。

 

 やはり彼女もいる。愛されている実感に、胸がいっぱいになる。

 

 

 

 「狙撃ィッ!? ウララかっ! すたこらさっさだねっ!」

 

 耳本体は外されたのだろう。

 

 弾き飛ばされたメンコを掴み、今度こそ闘争から逃走する汚い帝王。

 

 バンッ! カァンッ! ぬるるるるるるぅ……

 

 地面を叩き、奥義・マンホール返しで銃弾を弾き。

 

 その姿がぬるりと下水の中に消えていった。

 

 くさそう。

 

 

 

 路地裏に立つ王者の姿にそっと近づき、声を掛ける。

 

 「ありがとうございますですわ。ママ」

 

 「いいのよ。でも、迂闊に変態に近づいちゃダメよ? ママとのお約束よ」

 

 「わかりましたわ」

 

 

 

 素直に頷く。

 

 嘘である。この世界で、どうすれば変態に近づかずに生きられるというのか。

 

 母の目に、世界はどのように映っているのだろう。

 

 この母、あまりにも現実が見えていない。

 

 だが、この異常なまでの純粋さが、きっとこの世界には必要なのだろう。

 

 

 

 そうでなくば、この残酷で美しい。

 

 バ鹿が酔っ払って描き出したような、クソみたいな世界で。

 

 寄りかかれるものなど、何もない。

 

 さすがは妖精が愛した女である。

 

 

 

 「じゃあ、帰りましょう? ウララさんも、おなかを空かせて待っているわ」

 

 「はいっ! ママ!」

 

 そっと差し出された手を取る。

 

 妖精でないのは残念だが。

 

 このてのひらも、嫌いではない。

 

 今度こそおうちに帰ろう。

 

 変態がギャァと鳴いたから。

 

 

 

 

 

 

 

 「ただいまですわ!」

 

 「ただいま。ウララさん、あの変態とは縁を切った方が良いと思うの」

 

 「おかえりなさい。プリンセスちゃん、キングちゃん。

 大丈夫、テイオーにはウマインで通報済みだよ。

 拘束具の山の写真で返事してきた。

 これはさすがに、得意の土下座でも。

 切り抜けるのは難しそう。むしろ態勢を取った瞬間。

 首輪と手錠と足枷と。最後にアイアンメイデンに封印される。

 家は追い出されないね。むしろ二度と出れなくなりそうな勢い」

 

 

 

 さっそくのママ会議。議題は本日の変態に対する報復措置についてだろう。

 

 どの変態かは、言うまでもない。

 

 やっと光の帝王が、闇の奇跡を魅せてくれるようだ。

 

 

 

 「あら。しっとり。テイオーも遂に我慢の限界かしら」

 

 「今までは、嘘とか演技だと思い込んでたみたい。

 番組での犯行を話しても、信じてなかったみたいだけど。

 今日の犯行を動画付きで送ったら、さすがに信じたね」

 

 「あの子、ほんと思い込みが激しいわね……

 反動が怖いわね。あの変態、五体満足で朝日を拝めるのかしら……

 以前テイオーがキレたのはアレよね。

 学生時代の……双帝王による、生徒会室皇帝拉致監禁ダブルピース事件。

 たづなさんが悲鳴を上げて酒に逃げてたもの。

 ダイワスカーレットも発狂して、トレーナーを押し倒してたものね」

 

 「この世から極上の変態が消える日だね。クリークママも喜ぶよ」

 

 

 

 なるほど。汚い帝王の獄中死も近い。

 

 トウカイテイオー。彼女は被害者だと思われがちだが……

 

 誘い受けだけの女ではない。

 

 彼女もこの世界の住人なのだ。

 

 頭がおかしくない者など。

 

 目の前で談笑する、母ぐらいだろう。

 

 

 

 戦利品を、信頼する母に渡す。

 

 にっこりと、それを受け取る母。

 

 開けた瞬間、キモい鳥の登場に。一瞬笑顔が凍り付いたが。

 

 怒涛丸鶏。ジョークグッズとしても、一流の存在感を示す。

 

 まさにキングに相応しい食材と言えるだろう。

 

 このプリンセス。母の取り乱す顔も、好みである。

 

 

 

 

 

 

 「それでね、ウララちゃん! 今日は、ゲンさんがねっ! いっぱいお野菜をくれたんですのっ!」

 

 「ゲンさんかー。あの人、いつもおまけしてくれるもんね。

 えらいね、プリンセスちゃん。おつかい、ちゃんとできたねー」

 

 夕食の時間。

 

 至福の時間である。

 

 なんといっても、愛する妖精のお膝の上で。

 

 彼女の可愛らしいお口に、このプリンセスが、手ずから食事を給仕するのだ。

 

 

 

 独占欲が、たいへん満たされる。

 

 しかも、今日はさらにすごい。

 

 成果報告もしながらである。肝心な所はボカすが。

 

 褒めそやされ、頭を撫でられながら、お口にシチューを入れてあげる。

 

 あまりの幸福に、体温が急上昇する。

 

 わたくし今、体温が何度あるのかしら。

 

 恐らく、50度は超えている。

 

 

 

 「あれ? プリンセスちゃん、なんだか顔が赤いよ? 疲れちゃったかな?」

 

 こつん。額で体温を測られる。

 

 目の前には、心配そうにこちらを見る瞳。そして。

 

 柔らかそうな、そのくちびる。

 

 ここで顔を突き出せば。この果実は、己の物に……

 

 

 

 ぼふんっ! 頭から煙を吐き、お膝の上に崩れ落ちる。

 

 「ぷ、プリンセスちゃん!? 大丈夫!? キングちゃん! プリンセスちゃんすごい熱! 座薬! 座薬ぅぅぅぅ!」

 

 

 

 薄れゆく意識の中思う。

 

 この性癖破壊ロリ、無自覚が過ぎる。

 

 このプリンセス、おでこっつんはまだ早いと思うのである。

 

 だが、座薬は是非妖精に挿れて頂きたい。

 

 

 

 おしゃまな女の子、カワカミプリンセス。

 

 5歳児にして、完全にイっちゃった変態以外には、わりと無敵なラスボス系お姫様であるが。

 

 

 

 愛する妖精からの攻撃には、防御力ゼロ。

 

 こちらから触るのは積極的でも、彼女から胸キュン仕草で攻められた場合。

 

 頭が沸騰しちゃう、お年頃であった。

 

 プリンセスが、桜色の妖精をその手に収める日は、遠い。

 

 

 

 

 つづかない



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ハルウララさんじゅういっさい そのじゅうよん リングに輝け、痴情の星

エルコンドルパサーが真剣にルチャ・リブレをやっている作品を見たことが無かったので、書きました。

あとついでにクソかわTSウマ娘異世界転生要素と相撲をブチ込んで台無しにしました。

すげー書いてて楽しかった。だいまんぞく。


~前回までのあらすじ~

 

 おつかいを終え、帰路に着かんとするプリンセス。

 

 だがその前に、最後の刺客が立ち塞がる。

 

 汚い帝王、ナイスネイチャ。

 

 出オチ要員と思われたが、その変態性を遺憾なく発狂。

 

 マッドティーパーティーにて、姫君のおまかせミックス桃じゅーちゅを絞り尽くす寸前まで、彼女を追い詰めた。

 

 だが、辛くも親バ鹿のサブミッションと、援護射撃により難を逃れ。

 

 なんとか我が家にゴーホーム。

 

 夕飯時に愛する妖精より。

 

 レギュレーション違反の愛情ヘッドバッドを食らい。

 

 頭が沸騰しちゃうよぉぉぉぉ!!! して。

 

 座薬をねだるプリンセスなのであった。

 

 光の帝王の、闇の奇跡。

 

 光と病みが合わさり、誘い受けからのアイアンメイデン。

 

 汚い帝王の、獄中死は近い。

 

 このあらすじ、必要かな。

 

 

 

 

 

 

 「ウララちゃん! 始まりますわー!」

 

 「うん。楽しみだねぇ」

 

 「ウララちゃん! これ売ってたよ! ファル子よく知らないんだけど、おいしそうだよね!」

 

 「マジかよお前」

 

 

 

 屋台で猛禽類が買ってきたのは、アイスバイン。

 

 ベルリン名物の、煮込み料理。

 

 豚すね肉の下に鎮座する、ザウアークラウトが見えぬとでも申すつもりか。

 

 

 

 「……?」

 

 豚すね肉で頬を満たし、疑問顔の猛禽類。

 

 やはりこいつ、アホである。だがこの衆人環視の中で発狂されるよりはマシか。

 

 プリンセスの前でもある。ビールが飲めぬのは、この際我慢しよう。

 

 

 

 しょうがないので同じく屋台で売っていた、ビオマニアをグラスへ。

 

 なかなか良い品を揃えていた。

 

 

 

 ドイツ製の白ワイン。

 

 だが、この猛禽類はドイツ語が読めぬ。

 

 バレることはないだろう。

 

 彼女のグラスにも注いでやる。

 

 

 

 「ありがとうっ☆ウララちゃん!」

 

 素直にお礼を言い、グラスを傾ける猛禽類。

 

 憎きドイツの命の水。もしも気づいたらどうなるのか。

 

 このウララ、ネタばらしの誘惑を堪える自信がない。

 

 

 

 『さぁ! 始まります! 今世紀一番の大勝負! 

 まずは彼女を紹介しましょう! 

 輝かしきレースを卒業し、羽搏く空はリングへと変わった! 

 だが、その飛翔は、留まることを知りません! 

 今日もマスクに秘めたる闘志、熱い闘魂は空を舞う! 

 期待のルチャドーラ! エストレージャ! 

 エルコンドルパサーの入場だ!』

 

 

 アナウンサーによる選手紹介。

 

 流れる入場曲。

 

 隣に座る猛禽類の歌声と、観客の歓声が野外の特設会場を包み。

 

 別の猛禽類が会場へと降り立つ。

 

 万国野鳥展覧会ではない。

 

 

 

 そう。今日は友人の試合。

 

 三十路独身怪鳥。

 

 エルコンドルパサーのプロウマレスを見に来たのである。

 

 

 

 「エルちゃん、人気あるねぇ」

 

 「そうですわね! ウララちゃんと同期なんですわよね? 

 試合が終わったら、サインを頂きたいですわ!」

 

 「良いよー。頼んであげる」

 

 「そういえば、ファル子ちゃんはお知り合いではないんですの?」

 

 「んー。芝で走ってればいいものを。ダートに踏み込んできたから。

 5バ身差でブッ千切ったよっ☆」

 

 「わぁ! 大人げないですわ! さすがはファル子ちゃん!」

 

 「フフフ。もっと褒めていいよ、プリンセスちゃん!」

 

 この猛禽類、己も皐月に出た癖に。

 

 ホームグラウンドでは強気である。

 

 

 

 しかし嘆かわしい事だ。

 

 適性外のレースを走るとは、常識はずれなやつらである。

 

 あと褒めてないぞ、それ。

 

 

 

 

 

 

 『そして対するは彼女。

 レースではその華はまだつぼみのまま。

 だがリングにおいて、大輪の華を咲かせました! 

 相撲をルーツとする格闘技と聞きます。

 だが、それを使うのは彼女のみ! 

 オンリーワンのスタイルで、怪鳥を地に堕とせるか! 

 アフガンコウクウショー!』

 

 

 

 リングで怪鳥に対するは、中東風のコスチュームに身を包んだウマ娘。

 

 トゥインクルシリーズにおいては、二年間走り。

 

 G3。重賞の冠を一つ得て、すぐにプロウマレスに転向した。

 

 もちろんそれだけでも偉業である。しかし。

 

 続けて走っていれば。G2、G1と更なる冠を得られたかもしれぬ。

 

 だが、そのチャンスを自ら放り投げたのだ。

 

 トレセン学園の変わり種。

 

 アフガンコウクウショーである。

 

 自分やエルコンドルパサーより、少々若い。少々な。

 

 

 

 リングの上でにらみ合う彼女たち。

 

 ここで、視点はエルコンドルパサーに移る。

 

 

 

 

 (ふぅ……この娘、スタイルがよくわかりません……相撲がルーツ? 

 それにしては、ウェイトが軽いように見えますデース……)

 

 マスクの下から猛禽の瞳で敵手を観察する。

 

 アフガンコウクウショー。初めての相手だ。

 

 

 

 ミディアムショートの黒髪に。

 

 褐色のシャワーを弾きそうな肌。

 

 ぷにっとしてそうだ。全体的に薄くてちんまい。

 

 ロリコン大歓喜であるが、さすがにハルウララには勝てまい。

 

 アレはもはや、合法を通り越し。

 

 違法なロリと化している。

 

 

 

 なんでも、空中殺法が得意だそうだが……

 

 相撲に空中殺法? スーパー頭突きでもしてくるのだろうか。

 

 それよりも……

 

 

 

 マスクに触れる。

 

 (マスクは戻って来たけど……嬉しくないデース……)

 

 そう。以前のルチャ・リブレ対決。

 

 そこで涙を呑んだ自分は、再戦を誓った。

 

 その時に手袋代わりに投げつけたパパのマスク。

 

 だが、この試合前に戻って来たのだ。

 

 ゆうパ〇クで。

 

 

 

 (クリムゾンッ……!)

 

 はらわたが煮えくり返る。

 

 なんと、復讐の相手は。

 

 できちゃった婚にて、プロウマレスの舞台から姿を消したのだ。

 

 

 

 許すことなどできぬ。

 

 そもそもルチャドーラの誇りを、ゆう〇ックで送りつけるなど。

 

 あきれ果てた女である。

 

 さすがはルチャの誇りも身に着けず、リングに上がるバ鹿犬っぽい女。

 

 己の嫉妬と復讐心は、どこに向かえばいいというのか。

 

 あと自分もそろそろ結婚したい。

 

 行き遅れるのは勘弁である。

 

 もう一度敵手を見る。

 

 若くてかわいい。

 

 

 

 よし、八つ当たりしよう。

 

 恥ずかし固めで、今度こそ。

 

 寿退リングできぬ身体にしてくれる。

 

 怪鳥は、マスクの下で陰惨に笑った。

 

 己より若い女が許せない年頃であった。

 

 

 

 

 (何か嫌な予感がするな……)

 

 アフガンコウクウショーは身震いした。

 

 あの女、何か恐ろしげな雰囲気を感じさせる。

 

 黄金世代。輝かしき実績をひっさげ、リングの上へ。

 

 笑わせる。大人しくレースを続けていればいいものを。

 

 羽搏く空を間違えるから、ここで恥を晒すことになるのだ。

 

 この、自分の相撲でな。

 

 彼女は、怪鳥を地に堕とす姿を幻視し。

 

 うっそりと笑った。

 

 わりと根暗である。

 

 

 

 

 レフェリーによるボディチェック。

 

 ウマ娘レフェリーが、両者の身体をいやらしく撫でまわす。

 

 

 入念なチェック。

 

 プロウマレスでは、栓抜きとパイプ椅子以外の凶器の所持は認められていない。

 

 両者、栓抜きのみ所持していることを確認し、レフェリーが満足げに頷く。

 

 良い仕上がりだ。触り心地も良い。

 

 やはりこの仕事は最高だ。

 

 たまに巻き込まれて痛い目に会うが、必要経費というものである。

 

 

 

 『さぁ! 両者、準備を終えたようです! 

 空中殺法を得意とする2羽の美しき野鳥! 

 ルチャが勝つか、相撲が勝つか! 

 この勝負、目が離せません! 

 開戦のゴングが……今っ!』

 

 

 

 カァン! 

 

 さぁ、勝負の始まりだ。

 

 

 

 まずは小手調べ。手四つで相手の力を……

 

 考えていたエルコンドルパサーの前から、敵手が消える。

 

 「何ッ!? どこにっ!?」

 

 「ここだっ! マヌケがぁっ!」 

 

 ドンッ。

 

 横っ面に蹴りを喰らい、吹き飛ぶ。

 

 (相撲じゃ、ない……!)

 

 ロープの反動を利して、態勢を取り直す。

 

 「相撲だなんて……大嘘をついてくれるじゃないですか……

 相撲で足技なんて、聞いた事無いデース」

 

 「相撲だとも。ただし。ニホンの国技ではない。

 アフガン航空相撲だっ!」

 

 ダンッ! 

 

 アフガンコウクウショーが再度、宙に舞う。

 

 あれだ。あのバ鹿げた脚力による跳躍。

 

 先ほどは、そこから旋風脚でも喰らったのだろう。

 

 アフガン航空相撲? 何をバ鹿な。アフガンなどという地名。聞いたこともない。

 

 

 

 そう。この世界に、アフガンなどという国はない。

 

 

 

 観客席より上がる、驚愕の声。

 

 「アフガン航空相撲っ!?」

 

 「知っているのか、ファル電!?」

 

 「なんだかとってもドイツっぽいと思うの。

 キレていい?」

 

 「黙れ」

 

 

 

 (この世界の誰も、知らぬだろう……! 我が故郷の、国技など……!)

 

 彼女……いや、彼は思いつつ、上昇気流に乗る。

 

 前世での名前はアブドゥル。

 

 そう、彼女が宿すは、ウマソウルではない。

 

 いかなる神の悪戯か。

 

 異なる世界から来たヒトの魂を宿す、異世界転生者である。

 

 

 

 

 

 

 

 思い出す。自らが死んだ日。

 

 自分は、航空会社に勤めており。

 

 度重なる欠航に、腹を立てた外国人どもに撲殺されたのだ。

 

 二ホンなる国から来た、フォースの暗黒面に堕ちたダースリキシがいたのも災いした。

 

 空港の低い天井では、鍛えた航空相撲もその力を発揮できぬ。

 

 健闘虚しく、二ホンの誇るリキシ奥義・マシンガンで全身を撃ち抜かれたのだ。

 

 あと殴られた。

 

 ヤオチョーを持ち掛ける暇もありはしない。

 

 

 

 

 

 

 そして、異世界にて。

 

 自我が再度目覚めた時。

 

 己の境遇に困惑した。

 

 年若い娘の身体。

 

 しかも耳としっぽが生えていた。

 

 二ホンのHENTAI文化は好きだったが、まさか自分がMOEキャラになるとは。

 

 このアブドゥル、不覚の極みである。 

 

 

 

 それから。己の異常性をひた隠し。

 

 トレセン学園になんとか入学を果たし。

 

 そして出会ったのだ。彼と。

 

 

 

 「アフガン竜巻脚ッ!」

 

 高高度からの蹴り。防がれる。

 

 この国では、真空刃が巻き起こらぬのだ。

 

 恐らく気候の違いだろう。

 

 

 

 「ぬぅっ! その高さ! まさか、領域ッ!?」

 

 エルコンドルパサーの驚愕の声。

 

 その通り。

 

 

 

 「正解だっ! なんのために、レースに出ていたと思っている!」

 

 「少なくとも、空を飛ぶためじゃないデース!」

 

 「不正解ッ! 空を飛ぶために決まっているだろうがっ!」

 

 「意味がわからないデース!!!!!!」

 

 

 

 

 領域。ウマ娘の夢を叶えるための、翼。

 

 そう。物心ついた己は、アフガン航空相撲の稽古に励み。

 

 そして気づいた。この国には、上昇気流がないのだ。

 

 これでは、アフガン航空相撲は出来ぬ。

 

 航空力士は、上昇気流と共に生き、上昇気流を失った時死ぬのだ。

 

 そういう、生き物なのだ。

 

 

 

 だが、希望はあった。

 

 それが領域である。

 

 

 

 夢を叶えるための翼。

 

 理想を現実に押し付ける奇跡。

 

 そう。それならば。

 

 上昇気流だって生めるはず。

 

 

 

 そう考え、自分はトレセン学園に入学したのだ。

 

 だって領域って、レースでしか目覚めないっていうんだもん。

 

 

 

 そして、G3の冠とは特に関係なく目覚めた領域。

 

 故郷の空を現出させる、この身に宿す奇跡の力。

 

 これこそが。

 

 領域『アフターバーナー』である。

 

 効果は単純。

 

 飛びます、飛びまぁす!! 

 

 

 

 領域に目覚めた瞬間。

 

 オープンレース中に大空に飛翔した自分。

 

 唖然と空を見上げる観衆。

 

 たづなさんに怒られる自分。

 

 美味しいちゃんこ作ったトレーナー。

 

 今夜も君に、ササニシキ。

 

 相撲甚句の調子も良い。

 

 

 

 

 「テッポウッ!」

 

 「ぐあああああ!? これは相撲っぽい!? いや、相撲は空を飛ばないデース!!!」

 

 上空50mからの張り手。

 

 それを受け止めるエルコンドルパサー。

 

 さすが、この世界のウマ娘は頑丈である。

 

 己の故郷では、これを防げたのは。

 

 同胞と、憎きモンゴル。

 

 同じ航空力士だけだった。

 

 

 

 「くっ、クケェェェェェェェェェェェェ!!!!!」

 

 怪鳥音を口から垂れ流し、エルコンドルパサーがコーナーポストから宙を舞う。

 

 地上で航空力士に相対する愚を悟ったか。

 

 だが、上昇気流に乗らぬ、空中戦など。

 

 

 

 「低いっ! アフガンウマ娘ミサイルッ! 

 ウェイ! メェイリエィヤス!」

 

 「なんですかそれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 低空に舞う猛禽など、格好の獲物。

 

 そのまま引っ掴み、更なる上空へ。

 

 エレベーターガール式京浜○行電鉄車掌で、ファンサービスもばっちりだ。

 

 ニホン文化の奥深さ。味わい尽くすがいい。

 

 この身に宿す翼で、地平線を魅せてやろう。

 

 山を越え。雲を突き抜けラピュ○は本当に、あったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 地上1000m。

 

 「どうだ、怪鳥。空から見る地上は。爽快な気分だろう? 

 ここからでも十分だとは思うが……折角だ。

 聖ダケの高さまで連れていってやろう」

 

 「それってどこデース?」

 

 「うむ。ナガノ県とシズオカ県に跨る山でな。3013m。いい景色だぞ」

 

 「高すぎるデース!!!」

 

 

 

 暴れる怪鳥。ニホンの誇る名峰を知らぬとは。

 

 これだから帰国子女はいけない。

 

 仕方がない。大人しくさせねば。

 

 

 

 「何故、貴様を相手に指名したかわかるかね?」

 

 「……空中戦が得意だから?」

 

 「いやいや、違うとも。

 ……エドモンド・喜八郎」

 

 「……何故、その名を?」

 

 「それはな……私のトレーナーだからだ。もちろん、リングでもな」

 

 「あのビッチ男!!! 私にはついてこなかった癖に!!! 呪ってやるデース!!!」

 

 「こらこら、彼にも事情があったのだよ……致し方無い」

 

 「……事情? 何か私についてこれない理由が?」

 

 「うむ。実はな……ただ単に、収入が落ちるのが嫌だったらしい」

 

 「次に会ったらミンチデース……じゃあ、なんで貴女には?」

 

 「うむ。私の顔と体型が好みだったらしい。ロリコンだな。貴様には最初から、恋が生まれる余地は無かった」

 

 「お前ら纏めてハンバーグにしてやるDEEEATH……」

 

 「おやおや……さぁ。上空3000m。ここから生き残れたならば。

 そうだな。彼は君に進呈しよう。生き残れたならばな。

 私は貴様を消して、彼の一番のみならず。

 絶対唯一の女になるッ……!」

 

 

 

 そう。アフガンコウクウショー。

 

 前世の名前はアブドゥル。

 

 TS異世界転生ウマ娘。

 

 お約束に漏れず、トレ堕ち済みであった。

 

 TS転生ウマ娘はトレ堕ちする。

 

 ウマ辞林にも載っている、世界の真理である。

 

 

 

 

 

 「痴情の縺れデース!!!」

 

 「そうっ! そして後は堕ちるだけ! 綺麗な華を、咲かせておくれ……!」

 

 痴情の縺れで地上に堕とす。

 

 気の利いた表現に心が躍る。

 

 ニホン語って素晴らしい。

 

 

 

 これもアフガン航空相撲のおかげ。

 

 トースト・ドメスト・ハーンに感謝を。

 

 この世界におわすかは分からぬが、アラー!! よ。

 

 御笑覧あれ。

 

 

 

 ベンチに座る、ピエロ風の不審者。

 

 我らを見守る、偉大なる神よ。

 

 

 

 

 「ウララちゃん、見えますの?」

 

 「うーん。なんか話してる事しかわかんないかな」

 

 「さすがウララちゃんっ! マサエ族もびっくりですわ!」

 

 「老眼かなっ☆」

 

 「挽肉にするぞ」

 

 「ファルコン・ミンチですわねっ!」

  

 大狂乱、フラッシュシスベシー。

 

 

 

 

 

 

 地上2000、1000、500。

 

 重力加速度を味方に着け、縺れ合って落ちていく痴情。

 

 最高にハァイ! ってやつだ。

 

 

 

 「こ、この速度では、貴女も無事では……!」

 

 「心配無用。アフターバーナーがある。上昇気流がある限り、アフガン航空相撲は無敵だ」

 

 エルコンドルパサーの顔が、恐怖に歪む。

 

 その顔だ。その顔が、見たかった。

 

 さぁ。地上が近づいた。

 

 残り50mになれば。

 

 必殺の、アフガン航空相撲殺でフィニッシュを。

 

 

 

 「くっ……! こうなったら……!」

 

 「何をするつもりだね? 空を舞えぬ、コンドルに逃げる道など……何ッ!?」

 

 

 

 ドンッ! エルコンドルパサーが、突如腕の中から消える。

 

 バ鹿な。推進力など無いはず……? 

 

 そして、身にまとう空気の異変に気付く。

 

 これは。メタンガスの香り。

 

 

 

 「キン肉〇ン式舞空術ッ……!」

 

 習得していたのかッ……! 

 

 伝説の技をッ! 

 

 歯噛みする。

 

 

 

 桃白○式、南斗ウマ娘砲弾式ならば、この状況では物の役にも立たぬ。

 

 我が翼から逃れる事は叶わなかった。

 

 まさか、乙女の尊厳を既に投げ捨てていたとは。

 

 一番しょーもない飛行方法だぞ、アレ。

 

 

 

 

 

 単独で地面に降りても自爆するだけだ。

 

 アフターバーナー最大出力。

 

 上昇気流で制動を掛け。

 

 空を見上げると。猛禽が翼を広げ。

 

 

 

 堕ちてくる。流れ星のような、煌めく肢体の躍動感。

 

 なんと美しい。

 

 やはりコンドルは、自らの翼で飛翔んでこそ。

 

 でも臭ぇ。普段何食ってやがる。

 

 

 

 

 「プランチャァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」

 

 ああ。そうか。

 

 己の敗因。それは。

 

 彼女の三十路を、舐めていた。

 

 だって私、まだ20だもん。

 

 

 

 

 そして、己は地へと堕ちた。

 

 大地にウマ娘型の穴を開けて。

 

 もちろん小指は立っている。

 

 古典表現である。

 

 二ホンのHENTAI文化を愛するが故に。

 

 

 

 

 

 「ワン! ツー! スリー! 

 勝者! エルコンドルパサー!」

 

 

 カンカンカーン!!!!!! 

 

 

 

 ゴングの音に、意識を取り戻す。

 

 立てた小指は骨折していた。

 

 致し方無い犠牲である。

 

 そうか、自分は……

 

 

 「まだ起きない方がいいデース」

 

 「エル、コンドルパサー……彼は……?」

 

 「あなたを置いて、スタコラサッサデース。お互い、選ぶ男を間違えましたね……」

 

 「そうか……私は見捨てられたのか……」

 

 「ええ。これからどうするのデース?」

 

 「その事なのだが……時に君は、独身かね?」

 

 「え? 殺しますよ? そうデース。独身三十路デース。なんですか。嫌味ですか?」

 

 「いいや。実はな……君に、惚れた。やはり私は、おんなのこの方が好みらしい。トウが立っていれば、尚良い」

 

 「どういう事デース!? こらっ! 尻を触るなッ!」

 

 「フハハハハハ! ウマ生って、最ッ高!!!!!!」

 

 

 

 トレ堕ちからの百合堕ち。

 

 急転直下のウマ生。

 

 アフガンコウクウショー。

 

 彼女はこの世界に素早く順応し、ウマい空気を思う存分謳歌していた。

 

 つまりは元から変態だったのである。

 

 「レズはグラスで、十分デース!!!!!!」

 

 ちゃんちゃん。

 

   

 

 

 「良かったね、エルちゃん……」

 

 感動に目頭が熱くなる。

 

 今夜は祝杯だ。

 

 なんといっても、不良在庫が一掃されたのだ。

 

 

 

 破れ鍋に割れ蓋。

 

 二人の幸せな食卓には、熱い煮汁が溢れ出すことだろう。

 

 まったく羨ましくはない。

 

 百合カップルなど、非生産的である。

 

 

 

 クリークママも言っていた。

 

 生産せぬ者には、死を。

 

 やたらと目が怖かった。

 

 早く結婚せねば。

 

 下手したら、彼女に無理やりウマされる。

 

 

 

 

 さぁ、気を取り直し。

 

 笑顔でこの喜劇の幕を降ろそう。

 

 これは主役の特権である。

 

 

 

 

 

 「サインは特に欲しくなくなってきましたわ……」

 

 「ファル子ちゃん、このワイン、実はドイツ製なんだけど」

 

 「フルルルルルルァァァァァァッシュウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この調子で、この小説においては、各ウマ娘の一風変わったハッピーエンドが描き出されるのだ。

 

 読者諸兄におかれましては、ストゼロをキメた上でお楽しみ頂きたい。

 

 

 

 

 おわり。

 




 ※アフガン航空相撲については、アンサイクロペディアを見てください。爆笑できます。


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ハルウララさんじゅういっさい そのじゅうご 人形遊び

ぺくしぼの方に投稿してる、オリジナルR-18の方を書いていたら遅れました。
前回、雑なオチに使った反省を込めて、ファル子回です。
楽しいお歌の時間。

元ネタは、大人気鉄道アニメ……?と、世紀末救世主、人形浄瑠璃、今作におけるファル子の異名。
最後に彼の産駒実績を添えて。


~前回までのあらすじ~

 

 唐突な青空プロウマレス回。

 

 リングに舞い降りる、美しき鳥が2羽。

 

 片や三十路独身ルチャドーラ、エルコンドルパサー。

 

 片やクソかわTS異世界転生ウマ娘力士、アフガンコウクウショー。

 

 空中戦はエアマ〇ターを読み直して勉強した、アツい戦闘描写で描かれ。

 

 アフガンコウクウショーは、見上げたコンドルの羽搏きに、自らの運命を悟る。

 

 そう。TS異世界転生ウマ娘は2度堕ちる。

 

 初手はトレ堕ち、次手百合堕ち。

 

 隙を生じぬ二段構え。

 

 古典的な漫画落ちも披露して、彼女の恋は急転直下。

 

 三十路と合法ロリが地に堕ちる時、愛が産まれて熱い煮汁が食卓を彩る。

 

 そう。百合ップルの誕生である。

 

 ウマ娘には百合が似合う。

 

 まるでイエローに染まったカサブランカ。

 

 辺りに漂う退廃的な香りは、キン肉〇ン式舞空術の代償か。

 

 その花言葉は陽気と裏切り。そう……

 

 ラテン系のノリで、この作品は読者の予想を裏切り続けるのだ。 

 

 黄色い救急車の登場は近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よい子のみんなー♡クリークママといっしょ、始まりますー♡

 ……うふふ。たまにはわるい子がいてもいいかも♡

 ママがいい子に、してあげる♡」

 

 甘く蕩けたタイトルコール。

 

 その甘さに潜んだ毒は、もはや隠しきれてはいない。

 

 

 

 クリークママが己が身を抱きしめ、禁断症状の到来を告げる。

 

 彼女はいい子が大好きだが、わるい子をママ堕ちさせるのはもっと大好きなのだ。

 

 あからさまな危険ウマ物……

 

 まさに超特急で幼児を堕とす、特級呪物と言えるだろう。

 

 幼児たちの保護者は何を考えて、己の子を千尋の谷に紐無しバンジーさせているのか。

 

 

 

 疑問に思いつつも、自分の番だ。

 

 今日も今日とて労働の。尊い汗を流すとしよう。

 

 

 

 「ウマのお姉さん、ウララだよっ!」

 

 にっこり笑い、宙返り。

 

 この程度の動きはウマのお姉さんの必須科目だ。

 

 体操も、己の仕事なのだから。

 

 着地に失敗し、腰を痛めて笑顔を歪ませながら、ハルウララは思った。

 

 誰だよバク宙なんて、三十路にさせようと思ったの。

 

 

 

 腰痛に苦しむ違法ロリの無理やりな笑顔を見て。

 

 男児たちの性癖も、また歪んだ。

 

 リョナはNG。だが痛みを堪え、クリークママの視線にて。

 

 笑顔を強制されるロリの姿。

 

 なんと愛らしいことか。

 

 およめさんにせざるを得ない。

 

 

 

 「歌のお姉さん、ファル子だよっ☆」

 

 ♡マークを象る手。

 

 弾む声に潜む狂気。

 

 

 

 猛禽類は今日も、己の年齢を華麗に無視し、あざといポーズで観衆を魅了する。

 

 永遠の17歳なのだ。

 

 スピンオフ作品・ファル子さんじゅうななさいの掲載が、心待ちにされることだろう。

 

 さすがに書かん。

 

 

 

 「がろうくんだがおー。がおがおー」

 

 お道化て告げる、幼児愛好着ぐるみ。

 

 今日も湿布を貼る際に、ロリ腰椎を見て楽しめる。

 

 

 

 徒になぞれば死を賜るが、なんのその。

 

 ロリにイタズラせずに、紳士は名乗れぬ。

 

 不退転の決意を固め。

 

 彼のテンションは、最高潮に達していた。

 

 

 

 「ウマ美ちゃんだウマー」

 

 どこか疲れた様子の愛らしい姿。

 

 ツインテールもどこかしっとりとしており。

 

 激しい湿度に晒された事を示している。

 

 

 

 着ぐるみに追加されたのは、ごついペット用首輪と鎖。

 

 汚い帝王は地に堕ちた。

 

 既にその地位は地殻を貫通していたため、次に到達するのはリオデジャネイロだろう。

 

 

 

 もはや気ままなセクハラは、更なる束縛の引き金となる。

 

 次に着ぐるみと中身に追加されるのは、アイアンメイデンかもしれぬ。

 

 フルアーマーウマ美ちゃんである。

 

 

 

 だが、やる。何故なら嫉妬に狂った相方の艶姿は、何よりも魅力的だからだ。

 

 エアー尻揉みをしつつ、硬いケツ意は彼女の胸に。

 

 

 

 以上、5名。

 

 番組の愉快な仲間たち。

 

 一騎当千の、社会不適合者どもである。

 

 

 

 自分を除いてな。

 

 ハルウララはそう思いつつ、母なる邪神の託宣を待つ。

 

 今日はどんな手法で、幼児の輝かしい未来を台無しにするのだろうか。

 

 教育とは、時に厳しい物である。

 

 

 

 この狂った世界で。

 

 生存競争に勝利するためには、死狂いの決意が必要なのだ。

 

 そのための、クリークママといっしょ。

 

 生存の代償は、子孫繁栄の権利である。

  

 

 

 「今日はー♡ファル子ちゃんの新曲の発表ですー♡」

 

 新曲。新曲と申したか。

 

 このハルウララにも知らされていなかった。

 

 ならば、怨霊に与える燃料は、誰が用意するというのか。

 

 

 

 ずずいと舞台に進み出る、猛禽と、ロリに飢えた狼の姿。

 

 まさかの裏切りである。

 

 湿布はプリンセスにお願いしよう。

 

 

 

 さて、ピアノはウマ美ちゃんに……

 

 奴隷2号の姿を探すと。

 

 鎖を掴まれ、トウカイテイオーに連行されて行く姿。

 

 あやつ。監視されていたか。

 

 不用意にエアー尻揉みなどするからだ。

 

 でも待って。今はマズい。

 

 

 

 「ウララちゃん♡準備♡」

 

 クリークママの艶やかな死刑宣告。

 

 このハルウララ、絶望顔を禁じ得ぬ。

 

 

 

 辛そうに ピアノを担ぐ 違法ロリ。

 

 聖帝十字陵を建造するかの如き川柳に、男児の性癖の歪みは加速する。

 

 

 

 「ありがとうウララちゃん♡……遅い。次は音速で運べ」

 

 抱擁と共に耳元で告げられる、同志ママーリンの叱責。

 

 自らが鉄道にて輸送される、永久凍土を幻視して。

 

 暖かい春の息吹が自分に訪れぬ事を知り。

 

 

 

 桜の妖精は、母の胸の中で泣きじゃくった。

 

 きっとその涙は、極上の甘露であることだろう。

 

 性癖が歪んだ男児たちの羨望の視線を集めつつ。

 

 彼女の頬をべろりと舐める、邪神の笑顔がそれを保証している。

 

 ウんマぁい! 

 

 

 

 「みんなーっ☆今日はファル子の……新曲を聞いてねっ☆」

 

 母の抱擁に力が籠り。同胞の腰が悲鳴を上げる音。

 

 猛禽類は、暗い未来の訪れの予感に。

 

 急遽ウマドル急行の路線を変更した。

 

 ナイス判断である。

 

 

 

 満足げに微笑む独裁者の腕から解放され。

 

 泡を噴いて崩れ落ちる、同じバ場の砂を食った同期。

 

 許せ。決していつものゲルマン煽りに対する復讐ではない。

 

 そう心の中で呟き、がろうくんと背中合わせの態勢へ。 

 

 

 

 この曲は。

 

 親友に送る、祝辞である。

 

 マイクのスイッチを入れ、息を吸い込む。

 

 さぁ。始めよう。私たちの、物語。

 

 生命に対する賛歌を。

 

 

 

 

 『強く なれる 理由を知った……』

 

 クリークママによる、優しい旋律に合わせた唄い出し。

 

 会場がざわめく。

 

 スタッフたちの青褪めた顔。

 

 JAS〇ACの襲来を恐れているのだ。

 

 

 

 だが、問題ない。

 

 短すぎるフレーズは、JA〇RACとて手出し出来ぬ。

 

 その曲であるという、特定が困難であるためだ。

 

 軽々な料金の請求は、言論統制を生みかねぬ。

 

 ウマグル先生がそう言っていた。

 

 

 

 強くなれる理由など。様々だが。

 

 今時の幼児どもでも知っていることだ。

 

 彼らは性癖を破壊されることで強くなる。

 

 

 

 がろうくんと背中合わせの態勢から、息を合わせて振り返る。

 

 彼の胸にはずらりと並ぶ、薄切りの菓子パンが貼りつけられていた。

 

 思い出す。あの日のクリスマス。

 

 

 

 

 

 

 『ファルコンさん、シュトーレンはいかがですか?』

 

 親友が、聖なる日に差し出してきたもの。

 

 『えっ? なぁに? それ』

 

 他国の文化に疎い己は、お出かけのための準備の手を止め。

 

 素直に疑問を告げた。

 

 

 

 『ドイツでは、12月になって少ししたら、これを焼きます。

 そして、少しずつ食べながら、ジングルベルの鐘を待つんですよ。

 今日はクリスマス。

 ドライフルーツやバターが馴染んで、最も美味になる日なのです』

 

 『へぇっ! 素敵な風習だねっ☆ファル子もいつか、立派なウマドルになって! 

 ドイツでも、たくさんライブをやってみたいなっ!』

 

 『ファルコンさんならできますよ。親友として、ファンとして。

 私は応援しています。ドイツに来たら。父の作った本格的なものを。

 あなたにご馳走しましょう』

 

 

 

 そっと微笑み、薄切りのシュトーレンを差し出す彼女。

 

 親友の、好意に満ちたお菓子。

 

 未来への希望まで詰まった、とっても嬉しいクリスマスプレゼント。

 

 自分は大喜びでそれにかぶりつき、舌鼓を打って。

 

 

 

 

 

 

 起きたら、朝だった。

 

 トレーナーとの約束、すごい勢いですっぽかした。

 

 この前気づいたけどアレ、睡眠薬入ってただろ。

 

 

 

 ダダダ……ダァァァァ―ン!!!!!!!! 

 

 早弾きからの、全鍵盤同時打撃。

 

 クリークママが、歓喜に胸を激震させる。

 

 足元には痙攣を続けるハルウララ。

 

 そろそろ搬送されないと、後遺症が残るやも。

 

 だが、もう知らぬ……! 

 

 

 

 『フルルルルルルァァァァァァッシュウウウウウウウウウウウ!!!!!!』

 

 今さら気づいた親友の裏切りに。

 

 脳内が赫怒に支配され、固めた指先で、憎きドイツ菓子を貫く。

 

 

 

 「……………………!!!!!!!!!!」

 

 一本目、二本目、三本目。

 

 がろうくんが痛みに耐えて歯を食いしばる。

 

 曲に豚のような悲鳴を入れる事は許されていない。

 

 そのような無作法。

 

 ピアノをノリノリで弾きこなす、邪悪と母性の塊が許すわけがない。

 

 

 

 だが、何本目まで耐えられるかな? 

 

 きっと、こらえきれず。

 

 クリークママにお仕置きされてしまうに違いない。

 

 彼は幼子ではないため、容赦は期待できない。

 

 

 

 見た目だけなら幼児に近い、ハルウララでさえ、ああなるのだ。

 

 タイキの壁を突破し、シャトルにて。

 

 宇宙空間でのおむつの耐用試験を強要されても、不思議ではない。

 

 

 

 自分の八つ当たりを必死に堪える彼の姿。

 

 罪悪感が、自分の手を鈍らせる。

 

 

 

 『お前も……』

 

 口を噤む。

 

 この辛い境遇。

 

 母なる邪神の暴虐に耐える、同志であるのだ。

 

 無残な最期を、遂げさせたくはない。

 

 だが。3日前届いた手紙。

 

 

 

 

 

 

 『ファルコンさん。おひさしぶりです。お元気でしょうか? 

 ウマドル活動は順調でしょうか。

 貴女の歌は、そろそろ日本中に轟いていることでしょう。

 愛する夫に続く、ファン第2号として確信しています。

 そうそう。この前、かわいい女の子が産まれました。

 名前はスマートワン。勝手ながら、ファルコンさんの名前を頂きました。

 親友ですから。でも、恋の競争には負けて欲しくないですね。(笑)

 ドイツにいらっしゃる時を、心待ちにしております。

 母は強し。閃光の右を、魅せてあげましょう。

 

 あなたの親友 フラッシュより』

 

 

 

 

 『木偶人形に、してやろうかァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!』

 

 四指を揃え、貫手と成し。

 

 がろうくんの胸板を怒りに任せ貫く。

 

 

 

 「ろりぶっ!!!!」

 

 崩れ落ち、四肢を跳ね回らせるがろうくん。

 

 耐えるなどできるはずがない。思い上がるなロリコンが。

 

 この鍛えた北斗七本貫手は、いつか母は強しとか抜かしたアイツを。

 

 己の知らぬ強さの理由を知った、憎き親友を。

 

 何もわからぬ木偶人形にするために。

 

 

 

 『憎悪の森の奥深く……

 

 鍛えた身体。軋む心。わたしは人形を作る……』

 

 

 

 がしゃんっ。

 

 壊れた人形の如き仕草で、立ち上がるがろうくん。

 

 素敵なマリオネットの出来上がりだ。

 

 

 

 この曲の名は、再度の産声を上げた憎悪を言祝ぎ。

 

 

 

 Make dekut! (メイク 木偶ット!)

 

 

 

 そう、名付けた。

 

 さぁ、グランギニョルの開幕だ。

 

 絶望の魔拳にて。

 

 全ての者は、哀れでかわいいお人形さんとなる。

 

 人形劇を始めよう。

 

 

 

 『罠に気づいたその時に あなたは既に ジングルベル

 

 だけど決して逃さない あなたはいつかわたしのもの』

 

 

 

 操り人形に手を取られ、憎しみのタンゴを踊る。

 

 がっくんがっくん首を揺らしつつ。

 

 踊り狂うマリオネット。

 

 

 

 『だからわたしは進化する……』

 

 

 

 ダァァァァァァァァァァン!!!!!!!!! 

 

 再度の全鍵盤同時打撃。

 

 腰に響く音撃に、さらに痙攣を激しくするハルウララ。

 

 

 

 打撃音に合わせてキメポーズ。

 

 そう。自分は新たな真実を知ったのだ。

 

 着実に進化している。

 

 いつか、ドイツへと羽ばたき。

 

 かの国で、狂乱の人形浄瑠璃で日本文化を教えてやろう。

 

 

 子のことは心配せずとも良い。

 

 わたしが愛情を籠めて、育ててやろう。

 

 子に罪は無いのだから。

 

 

 

 人形に腰を支えられ、のけ反りつつ。

 

 想いの限りを叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 『キャベツも、ドイツぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!!!!!!!』

 

 なんてことだ。酢漬けキャベツも、ドイツだったんだね。

 

 

 

 

 

 彼女は知らない。

 

 ザウアークラウトは、酢漬けではなく。

 

 発酵食品であることを。

 

 

 

 

 

 

 デーモンファル子閣下による。

 

 狂乱の新曲お披露目はさらに続き、ハルウララは入院した。

 

 あと、がろうくんは曲が終わったら普通にロリの尻を追いかけ始めた。

 

 頑丈な変態である。

 

 スマートファルコンの、ドイツへの道のりは遠い。

 

 

 

 

 

 

 つづかない




だが一応、ハーメルンの規約は遵守する、わたくしなのであった。


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ハルウララさんじゅういっさい そのじゅうろく ロリを探せ

一発ネタだけのキャラなど、この作品には存在しないのですよ……
たっくん・きっくん・もっくんは除く。
あと、一応オリキャラもいるからタグに追加しときました。


~前回までのあらすじ~

 

 今日も今日とて、勤労の喜びを知るハルウララ。

 

 だが、同志ママーリンの言葉に己が耳を疑う。

 

 猛禽類の新曲。

 

 怨霊に燃料をダンクする役割を持つ、自分が知らされぬはずはない。

 

 進み出るロリコン。

 

 裏切り者はここにいた。

 

 ピアノを運ぶという大役の放棄に、彼女は次善策を瞬時に検討。

 

 押し付けようとした汚い帝王は、既に虜囚と化していた。

 

 しっとり監禁である。

 

 もはやこれまで。

 

 彼女は腰痛の悪化に怯えながらも、ママ帝十字陵の礎となることを決める。

 

 そして、同志による論功行賞において、叱責を受け、シベリアの空気を感じたハルウララ。

 

 流した純粋な涙で独裁者を悦ばせ、ついでに男児の性癖を破壊する。

 

 腰痛三十路ロリのかわいそうなのでもいける。

 

 そして始まるお歌の時間。

 

 地下アイドルの粗相に、腹を立てた同志の愛情たっぷりの抱擁。

 

 彼女は蟹工船に揺られる甲殻類の如き泡を垂れ流しながら、薄れゆく意識の中、思う。

 

 猛禽類はいつか殺す。

 

 

 

 

 

 

 夕焼けに染まる空。

 

 ブラインドから差し込む夕陽に照らされたツインテールは、厳かに告げる。

 

 

 

 「さて、諸君。ゆゆ式問題だよこれは」

 

 

 

 なんとか片割れによる、闇の奇跡より脱出した彼女。

 

 首に巻かれた金属製の首輪は、愛する加湿器との絆の証。

 

 ナイスネイチャによる問題提起である。

 

 

 

 デーモンファル子閣下による木偶人形の館を終え。

 

 土曜日の夕方の、スタジオの楽屋は重い空気に包まれていた。

 

 クリークママは不在である。

 

 愛する赤ちゃんとの時間を邪魔する者は、クリークママに滅! されてしまうのだ。

 

 

 

 「なるほど、女子高生は既にババァ。オレは興味がないな」

 

 餓狼の頭を外したウララT。

 

 だが、ぎらつく瞳は着ぐるみのつぶらな瞳よりも、余程女児に飢えている。

 

 ゆのつく三人の女子高生の日常の話ではない。好きだが。

 

 

 

 「わかってないね……年齢を重ねた方が、味が出る。

 ウララだってそうでしょ」

 

 「なるほど……合法及び違法なロリについてはその主張を認めよう。

 だが、絶対数が足りぬ。大多数はやはりババァだ」

 

 「二人とも、話が大脱線してるって、ファル子思うの……」

 

 

 

 おずおずと、曖昧な状態を脱した猛禽類による路線変更。

 

 宙を舞っていたNゲージが、レールを粉砕しつつ着地をキメるかと思われた。

 

 

 

 「いや、この事態はあんたのせいだし……」

 

 「そうだぞ、元凶。罪の重さを自覚して若返れ。責任を取ってお前もヘルニアを悪化させろ」

 

 「ファル子、ガン泣きするよ? 三十路の涙、そんなに見たいの?」

 

 

 

 バ鹿二人による最もな指摘。

 

 そう。今回の議題は、本日の収録において、名誉の負傷を負った彼女。

 

 ハルウララの来週以降の代役を、誰にするかである。

 

 医師の診断によると、動けるようになるまで1週間はかかるとのこと。

 

 出演できるようになるまでは、それ以上にかかるだろう。

 

 彼らはそれを、彼女の保護者によるお叱りの電話で知ったのだ。

 

 

 

 『ちょっと! うちのウララさんになんてことしてくれるのかしら! ウララさんは持病の椎間板骨折が悪化してしまったのよ!? まともに動けるようになるまで一週間はかかるって安心沢先生が仰っていたわ! お宅の番組には、いたいけな天使を鯖折りするような悪魔がいるのっ!?』

 

 『います』

 

 『えっ』

 

 『ほんとすいません……うちの独裁者がご迷惑をおかけしまして……』

 

 『い、いいえ……今後は気をつけてもらえるかしら……ウララさんは、子供たちと接するのを楽しみにしてるもの……私が無理に仕事をやめろとは言えないわ……もう。永遠に養ってあげるのに……あっウララさん、起きたの!? 動いちゃダメよ! すぐに先生が針を……ここ、5階よ!?』

 

 

 

 そこで電話は切れた。

 

 常識ウマによる叱責は心に来る。

 

 電話を取ったスマートファルコンは、罪悪感で心が壊れそうになったという。

 

 自業自得である。

 

 あとハルウララは、5階からどうしようとしたのだろう。

 

 疑問は尽きない。

 

 

 

 「まぁ、責任を追及してもしょうがない……建設的な意見を出すべきだね。

 ファルコンのケツは後で好き放題するけど」

 

 「うむ、同意しよう。正直ウララが居ないと、番組はわりとヤバい。

 後で見舞いに行かねば……トレーナーとして、未来の夫としてな。弱ったロリもまた良い」

 

 「二人とも……!」

 

 ケツを庇いつつ、感動の涙を流す猛禽類。

 

 ファルコン・ピンチである。

 

 

 

 そう。ハルウララの不在。これが問題なのだ。

 

 彼女の役割は、体操、遊び。

 

 独裁者へのゴマすりと、大多数の男児の性癖の破壊。

 

 さらには他の出演者の牽制・鎮圧まで一人でこなしていた。

 

 不在の穴は、とても大きいのだ。

 

 

 

 「ネイチャは先代だろう? 臨時で元の鞘に収まることは?」

 

 「番組初期の話だからねぇ……あたしがウマのお姉さんやってたの。

 今やっても、幼児が満足しないさ。あと理性を抑える自信が無い。

 今度こそ長期監禁コースだね。

 着ぐるみごしなら、なんとかショート監禁で許してもらえるからね……」

 

 「セクハラしない選択肢って無いの……?」

 

 「「無い」」

 

 「ファル子、転職しようかな……」

 

 黄昏る猛禽類。がろうくんには聞いていなかったのだが。

 

 

 

 「ウマのお兄さん登場は? 臨時で」

 

 「オレも鍛えてはいるが……幼児を砲弾にするほどの膂力はないな。

 あと、それは多分誰も得をせんぞ……」

 

 「需要はあると思うけどねぇ」

 

 

 

 ウマのお兄さん。

 

 ウマ娘のコスプレをした野郎など、腐女子しか喜ばぬ乱行である。

 

 性癖にサミングをキメれば、彼は理知的な顔立ちをした、涼やかなイケメンではある。

 

 わりと需要はあるかもしれない。

 

 

 

 「ドトウはどう?」

 

 「難しいだろう。そもそも出演自体不定期だ。

 怒涛丸鶏の人気が大爆発したからな……

 この間、オレもウララからおすそ分けされたが、キモいわりにやたら極上の味だった。

 なんで年増の胸に挟まれて圧死しただけで、あんな肉質になるのか……世界は不思議だな」

 

 「ファル子も食べてみたいなぁ……」

 

 

 

 怒涛丸鶏は、お高すぎて買うには少々躊躇うのだ。

 

 今度彼女におねだりしてみよう。猛禽類は誓った。

 

 

 

 「ヒシアママは?」

 

 「同じく、出演回数が限られている。

 しかもアレが出るとなると、ウララによる牽制が必要になる。

 クリークママもはしゃぐからな……

 ツインママドライブを、なんとか暴走から防ぐのは、オレたちだけでは厳しいだろう。

 幼児たちが大量殺戮されかねん。性癖的にも、物理的にもな」

 

 「なんでそんな危険な呪物が国民的スターをやってるんだろうね……」

 

 

 

 この世界の不思議である。

 

 自分のウマドル活動は、歌以外鳴かず飛ばずなのに。

 

 

 

 実はこの猛禽類、アルバムの収入で、3代は遊んで暮らせるほど稼いでいる。

 

 テイエムオペラオーのクソ映画やクソドラマの主題歌や、プロウマレスの入場曲など。

 

 その他にも様々なオファーが来るため、印税だけでがっぽがっぽである。

 

 彼女の歌には、共感する独身ウマ娘がやたらと多いのだ。

 

 金銭感覚が庶民なので、贅沢もせず、普通に働いてはいるが。

 

 あとテレビ出演は出来ない。何故ならドイツは到るところに存在するからだ。

 

 

 

 「となると、ファルコンか……」

 

 「しかし、ファルコンはマズいだろう……」

 

 「ふ、二人とも。今回のはファル子のやらかしだから、ファル子頑張るよ……?」

 

 

 

 向けられる不審の目に怯える猛禽類。

 

 何故このような扱いを受けるのか。彼女は内心、首を傾げた。

 

 

 

 「急な発狂を止められる自信がないね。あたしは」

 

 「うむ。スピーディーな鎮圧が出来るのは、クリークママか、ウララだけだろう。

 これ以上出演者が減るのは避けたい」

 

 

 

 彼女のドイツに対する憎悪が、お歌の時間にしか発揮されぬとは限らない。

 

 幼児が隠し持ったじゃがいもやソーセージを見るだけで発狂する恐れがある。した。

 

 

 

 歌のお姉さんの、お歌の時間以外の急遽の発狂は、独裁者による圧政と。

 

 ハルウララの涙ぐましい努力により、食い止められていた。

 

 猛禽類の株価は、常に上場を差し止められている程の低さを誇る。

 

 そして、独裁者の手を煩わせた場合、出演者がまた一人減りかねないのだ。

 

 

 

 「な、なんとか持ち物検査をすれば……?」

 

 「幼児をまさぐるのはいいアイディアだね」

 

 「女児をまさぐるのは望むところだ」

 

 「やめよう」

 

 

 

 さすがに外聞が悪すぎる。

 

 この番組は、まだ放映打ち切りになっていないのが奇跡であるのだ。

 

 毎回通報を受けて、捜査に来るのが卒業後、ウマ娘警察に入隊した、ちょっと単純すぎる彼女……

 

 サクラバクシンオーでなくば、もう全員牢獄に収監されている。

 

 探られて痛い所しかない。

 

 バクシン式捜査術には感謝しかない。

 

 彼女はあれで特捜部のエースらしい。

 

 大丈夫か、ウマ娘警察。

 

 最も放置してはならない邪悪を大胆に見逃している。

 

 

 

 「やっぱり代役かねえ。がろうくん。合法ロリに心当たりは?」

 

 「有れば既にスカウトしている。ウララほどのロリは、合法違法問わず、なかなか居ない」

 

 「合法ロリ限定なの……?」

 

 

 

 その通り。

 

 彼らのやる気は、クリークママとスマートファルコンだけでは引き出せぬのだ。

 

 かわいい合法ロリは募集の必須要綱である。

 

 

 

 「できれば性癖がヤバすぎず、体力があって、幼児にセクハラを働かず、子供好きで、かわいらしくてクリークママも気に入りそうな……」

 

 「それでいてある程度の期間働いてもらうとなると、定職に就いておらず、日中暇で、多少腹黒くてツッコミもこなす、気が利いて世話好きなおよめさん適性の高い合法ロリか……」

 

 

 

 およめさん適性は必要なのだろうか。

 

 スマートファルコンは首を傾げた。

 

 しかし、そんなロリコンの理想を煮詰めたようなウマ娘など。

 

 最高のコンテンツを作る会社がいくら打診しても、受け入れる権利者はいないだろう。

 

 居るのは属性特盛ツンデレヒロイン系ウマ娘。

 

 ダイワスカーレットの存在は奇跡なのである。マジでよく許可出たな、アレ。

 

 

 

 

 

 「ふむ。ニシノフラワーとか?」

 

 「ああ、ウララの知り合いの……ううむ。なんというか。ピンとこないな」

 

 「まぁ主婦だから暇はあるだろうけど、ちょっと腹黒すぎるか……。

 およめさん適性は高いんだけどねぇ。

 ファルコンは、いい合法ロリ知らない? 違法でもいいよ」

 

 「えっ? 合法ロリの知り合いなんて……あっ」

 

 

 

 脳裏に走る閃き。

 

 

 

 

 

 

 そう。彼女には心当たりがあった。

 

 性癖はただの百合。

 

 体力があり、年増好きなので、幼児にはセクハラを働かないだろう。

 

 ファンサービスで子供に愛嬌を振りまいていたところを見ると、わりと好きそうだ。

 

 試合が終わったばかりであるので、そこまで忙しくはないと思われる。

 

 そしてとても世話好きであるらしい。

 

 

 

 およめさん適性は凄まじいと、彼女がその姿で語っていたのだ。

 

 以前、ハルウララと共に訪れた日本小料理店で。

 

 偶然居合わせた独身三十路怪鳥が。

 

 共に酒を楽しんでいた、褐色ロリにあまあま給仕をされながら。 

 

 

 

 

 

 

 そう……アフガンコウクウショーである。

 

 クソかわTS異世界転生ウマ娘力士は一発ネタではなかったのだ。

 

 オリジナルウマ娘力士はこう使う。このタグ、みんな使っていいよ。

 

 

 

 「いるっ! 居るよっ! 合法ロリッ! 性癖はただの百合! プロウマレスラーだから体力はある! 

 年増好きだから、幼児にセクハラしない! 黒髪ショートの褐色ロリ! 

 今エルコンドルパサーの所に転がり込んで、メイド服着てご奉仕致す♡とか言ってるらしいから、およめさん適性もたぶん高い!」

 

 

 

 アブドゥルは二ホン文化に造詣が深い。

 

 特に共感できる理由も無く、人格的に何の深みも無い主人公に熱狂的な奉仕精神を発揮する、チョロインムーヴもお手の物である。

 

 これとは特に関係ないが、筆者はなろう系も愛読している。いつもお世話になっております。

 

 

 

 

 ちなみに、この世界において、ただの薔薇と百合は常識人扱いである。

 

 ニシノフラワーとセイウンスカイのように。フラウンスは基本。もちろんスカイは猫である。

 

 

 

 「マジかよエルコンいつ百合になったの」

 

 「勝ち組すぎないかその年増怪鳥。どうやってそんな理想の合法ロリを手に入れた……? 

 オレにもご教授願いたいものだ……」

 

 「羨ましいよね…………違う。ファル子は百合じゃないもん……

 でももうウララちゃんでもいいかなぁ……

 まぁそれはともかく。ネイチャちゃんはエルコンドルパサーに連絡取れる?」

 

 「なんであんたが連絡しないのさ」

 

 「だってダートに来た時、ゴール後にクソほど煽ったし……」

 

 「こいつ、共演させて大丈夫か? その件の合法ロリの、嫁の仇では?」

 

 「うーん。エルコンには直接は関わらないだろうから……大丈夫かな……わかった。

 連絡してみよう。ネイチャさんにまっかせなさい!」

 

 

 

 さすが。性癖が絡まなければ頼りになる女だ。

 

 トレセン学園元副会長のウマ脈は伊達ではないのだ。

 

 件の小料理屋では、自身は気まずすぎて、ハルウララの背に隠れて熱燗をやっていた。

 

 怪鳥は気づいていなかったようで、助かった。

 

 ハルウララ様様である。結婚しよ。

 

 

 

 

 

 「ふむ。事前にエルから聞いていた通りだな。

 話はわかった。このアフガンコウクウショー、困っている者は見捨てられぬ。

 子供は国の宝とも言うしな。子供のファン層は貴重であるということもある。

 愛しの怪鳥の今後の役にも立つであろう。喜んでその大役、承ろう」

 

 

 

 翌日。ハルウララが破壊されたのが、土曜日であったのが幸いした。

 

 日曜日の昼に、クリークママ立ち合いの元、スタジオに招聘し、出演を打診。

 

 メイド服に身を包んだ褐色合法ロリは、快くこれを受け入れたのだ。

 

 できたウマ物である。

 

 口調も古風であり、とても20歳の合法ロリとは思えぬ、貫禄がある。

 

 

 

 それもそのはず。

 

 転生前も含めると、御年70近い。

 

 メイド服でご奉仕とかやるような年ではないが、彼女は今の自分に大層満足している。

 

 問題は何も無い。

 

 

 

 「じゃあ、アフちゃんって呼ばせてもらいますねー♡ママ、感激♡

 こんなにかわいい合法ロリが、すぐに見つかるなんて♡

 明日からよろしくお願いしますねー♡」

 

 「うむ。クリークママは素晴らしいママであると、エルから聞いている。

 その元でかわいらしい幼児と戯れつつ働けるとは光栄の極み。

 このアフガンコウクウショー、誠心誠意勤めることを誓おう。

 これは、つまらぬ物だが……皆さんでどうぞ」

 

 

 

 差し出されたのは段ボールに包まれた、お徳用の紙おむつ。

 

 しかも、メリ〇ズである。

 

 

 

 「あらあらまぁまぁー♡みんなで使わせて頂きますねー♡

 ありがとうございます♡アフちゃん♡」

 

 むぎゅむぎゅと、クリークママのご機嫌な抱擁を受けて、ニヤリと嗤う彼女。

 

 

 

 (アフガンコウクウショー……! 恐ろしい子……!)

 

 猛禽類は、衝撃のあまり劇画調になり、感嘆の声を心中で上げた。

 

 ウララTとナイスネイチャも、同じく劇画調になっている。

 

 

 

 なんというウマ娘か。完全に媚びを売るべき相手と琴線に触れる品を心得ている。

 

 輝ける二ホン文化の一つ。サラリーマン式贈答術を、この年齢にして完全に習得している。

 

 恐らくお歳暮も完璧だろう。

 

 これは、ハルウララの地位も危ういかもしれぬ。

 

 (ウララちゃん……! 早く、帰ってきて……! 居場所がなくなっちゃうよ……!)

 

 心中で桜の妖精の身を案じ、ナイスネイチャとウララTとの顔合わせを済ませた彼女に近寄る。

 

 自分が提案したこととは言え、同期の座を奪わせるわけにはいかぬ。

 

 飽くまで短期の付き合いだ。ビジネスライクな関係に留めるべきだろう。

 

 

 

 「アフちゃん、ファル子もよろしくねっ☆」

 

 「うむ。よろしく、ファル子ちゃん。エルから噂はかねがね。

 ……彼女はあまり気にしていないようだ。今度仲立ちをしよう。

 何、先輩と愛する者の関係修復は、およめさんとして当然である。

 外国語もいくらかは話せる。かの国に渡るための手助けも、微力ながらできるであろう」

 

 「これからずっとよろしくねっ☆」

 

 (ごめんねウララちゃん……! ワンちゃんを連れ帰ったら、ベビーシッター兼ロリ嫁として養ってあげるから……! 安心して引退してね……! 大丈夫、ファル子お金だけは腐るほどあるから……!)

 

 一瞬で篭絡される、猛禽類であった。

 

 

 

 

 

 

 つづかない 



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ハルウララさんじゅういっさい そのじゅうなな 負けバトル

シリアル回です。
ハルウララ不在の番組。
果たしてどうなることでしょう。
ちなみに本作品のスーパークリーク。
短編「マ魔王の産まれた日」の彼女と同一ウマ物です。
元ネタはダイ大。


~前回までのあらすじ~

 

 名誉の負傷を負い、安心に過ぎる病院へ運び込まれたハルウララ。

 

 猛禽類は己の罪の重さにその翼を折り。

 

 ケジメを求められ、そのケツをピンチにし。

 

 残された者たちは、失った物のあまりの大きさに、言葉は特に失わなかった。

 

 代打を要請しようにも、エースにして四番打者。

 

 主人公たる二刀流(バイセクシャル)。

 

 桜色のエースのリリーフは、並みの合法ロリでは務まらぬ。

 

 悩む彼ら。モンスター(エナジー)保護者による苦情。

 

 そして万策尽きた時。

 

 起死回生の策が、猛禽類に舞い降りる。

 

 クソかわTS異世界転生ウマ娘。

 

 アフガンコウクウショーである。

 

 彼女こそが最高のコンテンツを作る会社の呪縛から解き放たれた存在。

 

 ロリコンにとって、途方もなく都合のいい合法ロリである。

 

 精神年齢は還暦を迎えているが、些末事。

 

 そして、TSジジイはメイド服に身を包み、スタジオに舞い降りた。

 

 クリークママを瞬時に篭絡。

 

 変態二人は一目で満足。

 

 そして猛禽類の扱いに長けた彼女は、己のつがいとは異なる猛禽類をも手中に収めた。

 

 事態は混迷を極め、ハルウララは5階からダイブしようとしていた。

 

 安心沢は勘弁である。

 

 

 

 

 

 

 「よい子のみんなー♡クリークママといっしょ、はじまりますー♡」

 

 いつも通りの甘く蕩けたタイトルコール。

 

 だが。幼児たちの顔に映し出されたのは疑問。

 

 

 

 「歌のお姉さん、ファル子だよっ☆」

 

 猛禽類の年齢を弁えぬ仕草も、その疑問を払拭できぬ。

 

 

 

 「がろうくんだがおー」

 

 飢えた狼は、いつも通り幼児に避けられている。

 

 

 

 「ウマ美ちゃんだウマー」

 

 総スルー。

 

 

 

 そして上がる、疑問の声。

 

 「……ウララお姉ちゃんは?」

 

 

 

 そう。幼児たちの守護者。

 

 マ魔王の性癖破壊から幼児を守る、桜色の勇者が不在なのだ。

 

 

 

 「ウララお姉ちゃんがいないクリークママといっしょなんて!」

 

 「これじゃあトト○の居ない隣のト○ロだよ!」

 

 「隣にはいったい何がいるのさ!」

 

 

 

 もちろん、変態である。

 

 

 

 「み、みんなー、ちょっと落ち着いて……」

 

 「デーモン閣下は黙っとれ!」

 

 「じゃがいもぶつけんぞ!」

 

 

 

 信頼する彼女の不在に、幼児は容易く暴徒と化す。

 

 猛禽類の必死の制止も、違法なロリ中毒の彼らには効果が無い。

 

 むしろ彼らは攻撃性をさらに高めた。

 

 

 

 彼らもこの世界に生きる者たち。

 

 五年も生きれば悟るのだ。

 

 強くならねば生きてはゆけぬと。

 

 無力な存在と考えるのは、早計である。

 

 

 

 「金返せ!」

 

 あっくん。(5)

 

 「責任者を出せ!」

 

 いっくん。(5)

 

 「あなたを詐欺罪と性癖損壊罪で訴えます! 理由はもちろんお分かりですね? あなたが皆をこんなウララ抜きで騙し、番組の存在理由を破壊したからです! 覚悟の準備をしておいて下さい。ちかいうちに訴えます。裁判も起こします。裁判所にも問答無用できてもらいます。慰謝料の準備もしておいて下さい! 貴方は犯罪者です! 刑務所にぶち込まれる楽しみにしておいて下さい! いいですね!」

 

 ジョルノ。(15)

 

 

 

 幼児たちが口々に。無垢な嘆きの叫びを上げる。

 

 その狂奔は、西軍に襲いかかる薩摩隼人の群れが如く。

 

 番組は、ハルウララの不在により。

 

 容易くその地盤を揺るがし、倒壊するバベルの如き様相を呈していた。

 

 

 

 だが。

 

 

 

 パァン! 

 

 

 

 五歳以下の幼児に、覿面に作用する音量とタイミングでの拍手。

 

 崩れ落ちる暴徒たち。

 

 ヤクザキックでジョルノを始末し。

 

 放送事故をも恐れぬ貫禄。

 

 威風堂々とした立ち姿。

 

 

 

 クリークママが、ここにいる。

 

 

 

 「みんなー♡ちょっと、落ち着きましょうねー♡」

 

 

 

 彼らは、間違えたのだ。

 

 勇者のバフ無しでマ魔王に挑もうなどと。

 

 ひのきの棒で撲殺できるのは、そこらに転がっている、十把一絡げの惰弱な魔王どもまでである。

 

 行けたとしても、ハド○ーまで。

 

 彼の後に控える、大マ魔王に勝てるはずは無い。

 

 彼女は常に全盛期。弱体化も期待できぬ。

 

 

 

 クリークママが、次々と倒れた無謀な挑戦者も。

 

 特に何もやっていない無実の幼児も。

 

 一切合切の、区別も容赦も無いママに。

 

 むぎゅむぎゅと、熱い抱擁にて幼児の性癖をシリアルキラーしていく。

 

 

 

 男児はママ堕ち、女児は牛乳フェチ。

 

 ジェンダーフリーはここにあり。

 

 等しく彼らは産道を通らず、新たなる産声を上げる。

 

 今、新生の時。

 

 

 

 勇者のバフが無いため、彼らの防御力はゼロに等しい。

 

 このママ全員西松屋。

 

 そう、思われた。

 

 バッドエンドである。

 

 

 

 「く、クリークママ……」

 

 「なんでちゅか♡がろうくん♡」

 

 

 

 だが、勇気ある一匹の餓狼が立ち上がった。

 

 罪なき幼児を守るため。

 

 愛する違法ロリの帰る場所を守るため。

 

 真の勇気を胸に、彼はマ魔王に懇願する。

 

 

 

 「お許しを……! 彼らに罪は有りませぬ! 

 ただ、間違えてしまっただけなのです! 

 このがろうくん、誠心誠意勤めます! 

 決して、二度とママを煩わせることなど……!」

 

 

 

 そして、五体を地面に打ち付ける。

 

 男の土下座である。

 

 ブライドを捨て。

 

 既に存在しない世間体を捨て。

 

 ただ、許しを請う。

 

 愛する者を守るために。

 

 

 

 この番組が破綻すれば、彼女は無職となり。

 

 自分との繋がりも、希薄となるであろう。

 

 それだけは、断じて認める事はできぬのだ。

 

 マ魔王の怒りを収めねば、ハッピーエンドに至ることはできぬ。

 

 違法ロリ嫁と結納。それが彼のハッピーエンド。

 

 

 

 「がろうくん♡……このような醜態を見せて、それを信じろと……? バ鹿も休み休み言いなさい」

 

 

 

 だが、マ魔王には通じぬ。

 

 

 

 「退きなさい。性癖が惜しくないのですか?」

 

 「退けませぬ……! 

 愛バのためならこのがろうくん、己のロリコンなど、惜しくは無い……! 

 例えママ堕ちしようとも! 

 愛する彼女の為ならば! 

 この身の全てを贄として捧げ尽くしましょうぞ!」

 

 

 

 だが、退けぬ。

 

 男には決して退いてはならぬ時があるのだ。

 

 それが、今である。

 

 

 

 彼の頑なさに焦れたマ魔王が、ゆっくりと構えを取る。

 

 

 

 左手で天を。

 

 右手で地を。

 

 そして、その雄大なる巨峰で悪い子を指す。

 

 天地ママ闘。

 

 

 

 悪い子を確実に良い子堕ちさせるための、三位一体の構えである。

 

 

 

 振り下ろされる左掌。

 

 『バースデイ』によるなでなで脳破壊。  

 

 

 

 振り上げられる右掌。

 

 『西松屋』による顎クイでちゅねASMR。

 

 

 

 そして魔胸。

 

 『アカチャンホンポ』によるむぎゅむぎゅ甘やかし。

 

 

 

 それらを完全同時に行い、如何なる者も赤ちゃんにしてきた、必殺の構えである。

 

 マ魔王に防御など要らぬ。

 

 ただ只管に前進制圧あるのみ。

 

 

 

 がろうくん……いや、ウララTは悟る。

 

 

 

 今が、性癖の死に時である。

 

 なに、ママ堕ちしても、彼女の側には居られる。

 

 ならば、問題は無い。

 

 愛しい彼女との子を成すことは出来ぬ身となるだろう。

 

 

 

 だが。

 

 愛している。その気持ちだけは、失わぬ。

 

 この想いだけは、マ魔王ですらも穢し得ぬ。

 

 

 

 確信できる。

 

 例えロリコンでは無くなったとしても。

 

 ただひたすらに、君を想う気持ちは変わらぬ。

 

 それだけで、幸せ。

 

 それだけが、幸せ。

  

 性癖が死に瀕した今、気づいた。

 

 これこそが、真実の愛であるのだ。

 

 

 

 業腹ではあるが。

 

 彼女との可愛い子は、他の誰かに任せよう。

 

 ウララ。

 

 ベビーカーから、ずっと君を見守るよ。

 

 ロリコンやめても、愛してる。

 

 

 

 不動の構え。

 

 土下座にて、迫りくるマ魔王に相対しよう。

 

 

 

 「……聞き分けの無い子ですね。

 良い機会です。あなたのロリコンは目に余る。

 その性癖、矯正してあげましょう」

 

 

 

 そして、マ魔王がゆっくりと近づく。

 

 受け入れよう。もう何も怖くは無い。

 

 桜舞う、あの日の誓いは、この胸に。

 

 後は任せたぞ、同胞たちよ。

 

 

 

 そして、ゆっくりと。

 

 マ魔王の抱擁が……

 

 

 

 「クリークママ……! 待ってください!」

 

 「ママ! がろうくん(の性癖)を殺さないで!」

 

 「オレも居るぜ!」

 

 だが、彼の性癖の死を認められぬ者たちが居た。

 

 熱い魂を共有する、頼れる変態たちはここに。

 

 

 

 汚い帝王、ナイスネイチャ。

 

 怨霊鬼女、スマートファルコン。

 

 テリー○ン。(20)

 

 いづれも万夫不当の社会不適合者である。

 

 

 

 「あなたたちもですか……何故私の邪魔を?」

 

 天地ママ闘を使うまでもなく。

 

 テ○ーマンを地獄突きで始末し、マ魔王が問いかける。

 

 

 

 答えによっては。

 

 彼女らも、ママ堕ちさせねばならぬ。

 

 そして、孤独な玉座で凱歌を歌おう。

 

 何、寂しくは無い。

 

 玉座の周りは、ベビーベッドに溢れているのだから。

 

 

 

 「が、がろうくんに罪はありません……! 

 あたしも、止められなかった! 

 ママ堕ちさせるならあたしを! 

 正直興奮する! 全然守備範囲内!」

 

 

 

 性癖のオールラウンダー、ウマ美ちゃん。

 

 

 

 「わ、私も……! ウララちゃんみたいに出来なかった! 

 でも、きっと! きっと、ウララちゃんなら……! 

 諦めたりなんてしない! 私、気づいたの! 

 必死に足掻く彼女の姿は、愛らしすぎて結婚したい!」

 

 

 

 怨霊からロリコンカサブランカに昇華した、猛禽類。

 

 

 

 なんというやつらだ。

 

 当初の目的を瞬時に忘却し、イカれた性癖を自白し始めた。

 

 

 

 この乱行、手を止める価値はある。

 

 性癖を殺すには惜しいバ鹿どもである。

 

 ママ堕ちさせればこの性癖芸は味わえぬ。

 

 多様性もまた重要。クリーク覚えた。

 

 

 

 「……良いでしょう。あなたたちの性癖に免じ。

 今回は不問とします。

 この展開は予測していました。カメラはまだ回っていない。

 準備したら、始めますよー♡

 あ、スタッフさん♡ウララちゃんが居ないからって、不審者を見逃すのは駄目でちゅよー♡

 次は無いぞ」

 

 語尾に♡マークを戻そう。

 

 やれやれ、手のかかる子たちだ。

 

 

 

 スーパークリークは、ジョルノとテリー○ンをスタッフに引き渡すと。

 

 大きく手を拡げた。

 

 仲直りの抱擁だ。

 

 さぁ飛び込んでおいで、愛しい我が子たちよ。

 

 

 

 「「「ママッ!!!」」」

 

 幼児たちの転がる中。

 

 母と子の感動の抱擁。

 

 性癖を求めて三千里。

 

 確かに今、彼らの心は一つになったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 計画通り。

 

 がろうくんが、『あの男』と同じ領域に達しかけたのは焦ったが。

 

 寸での所で踏みとどまった。

 

 障害をこれ以上増やすわけにはいかぬ。

 

 

 

 だが……増えた所で問題はないが。

 

 なんとなれば、時間は無限にあるのだ。

 

 我が第三領域、決して破ることは叶わぬ。

 

 

 

 これで、あの愛しき桜色の勇者を。

 

 自分だけの我が子にする日が、また一歩近づいた。

 

 

 

 スーパークリークは、密やかに笑った。

 

 ラスボスの後には、大魔王が控えるのは、お約束である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アフガンコウクウショーは、天井にスパイダーマッ! しつつ思った。

 

 私の出番、まだかな。

 

 

 

 

 

 

 つづかない



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ハルウララさんじゅういっさい そのじゅうはち 王・平和

今度はファル子が暴れだす。
元ネタは少年の飛躍と、堕天録。


~前回までのあらすじ~

 

 ハルウララ不在の番組は、当初から暗雲が立ち込めていた。

 

 桜色の勇者の不在に、幼児たちは動揺する。

 

 そして、猛禽類の制止も虚しく、彼らはクリークママに対する叛徒と化したのだ。

 

 だが、マ魔王を相手にするに、彼らはあまりにも無力。

 

 勇者抜きのボス戦は、この世界のバトルシステムでは負けバトルである。

 

 倒れた彼らを庇い、立ち上がる一匹の餓狼。

 

 彼は五体投地により慈悲を乞う。

 

 だが、マ魔王に降伏など通用するはずもなく。

 

 彼は己のアイデンティティの喪失を覚悟した。

 

 だが、頼れるバ鹿どもは仲間を決して見捨てない。

 

 汚い帝王・怨霊鬼女・テリー〇ン。

 

 彼らは同胞の危機に、自らの隠された気持ちに気付き。

 

 急遽の性癖の自白により、彼の幼児性愛は寸での所で守護られた。

 

 そして、マ魔王は不敵に微笑み。

 

 存在を忘れられた褐色ロリは、一人寂しく天井に張り付いていた。

 

 

 

 

 

 

 「では、プロデューサー♡良いこのみんなもお昼寝から起きましたし♡始めますよー♡」

 

 「クリークママの御心のままに……」

 

 

 

 頭を下げるプロデューサー。

 

 ママの傀儡と化しているが、彼の表情に憂いは無い。

 

 ママゾだからだ。既に調教は完了している。

 

 

 

 「では、諸君。番組を始めよう」

 

 厳かに告げる彼のズボンは、微かに膨らんでいた。

 

 そう。アフガンコウクウショーの手土産は、クリークママの公約の通り。

 

 みんなで使われていたのだ。

 

 

 

 「はいっ!」

 

 ADも。

 

 

 「ほいっ!」

 

 APも。

 

 

 「フンガ―!!」

 

 ディレクターも。

 

 

 

 全員おむつ着用済み。

 

 心憎い、ママの気遣い溢れる演出である。

 

 

 

 そして、先程マ魔王の暴虐により、性癖を大量殺戮された幼児ども。

 

 彼らもにこやかに笑っている。

 

 猛禽類により、秘孔を突かれた彼ら。

 

 既に先程のマ魔王戦は忘却の彼方である。

 

 

 

 ファル子神ゲンコツの力は、絶大だった。

 

 何故彼女はそれで、自らの怨念を消去しないのか。

 

 

 

 「さて♡よいこのみんなー♡クリークママといっしょ、はじまりますー♡」

 

 甘く蕩けたタイトルコール。

 

 だが目が笑っていない。

 

 その意味を痛いほど知る彼らへの牽制だ。

 

 

 

 「歌のお姉さん、ファル子だよっ☆」

 

 両の人差し指を尖らせる、常とは異なる立ち姿。

 

 幼児たちは首を傾げるも。

 

 そのまま次の出演者に目を向けた。

 

 

 

 「がろうくんだ。がおー」

 

 そこに居たのは、変わり果てた野獣。

 

 

 

 女児たちは胸キュンした。

 

 何このがろうくん、推せる。

 

 

 

 常は感じる、自らの尻への飢えた視線。

 

 それは全く感じられず、彼から向けられる感情。

 

 そこに籠るは、大いなる父性。

 

 さらにはねっとり成分をデトックスされた声。

 

 凄まじい程の、男の色気を感じさせる。

 

 

 

 ただのイケメン狼と化した、がろうくんがそこに居た。

 

 キャラ崩壊にも程がある。

 

 

 

 「ウマ美ちゃんだウマー」

 

 幼児たちは興味を失った。

 

 いつも通りのウマ美ちゃんである。

 

 尻に感じる、歪んだ渇望。

 

 警戒を怠らず、慎重に距離を取りつつ無視することとする。

 

 ウマなのにシカトとはこれ如何に。

 

 

 

 「……ウララお姉さんは?」

 

 

 

 そして、核心に触れる一人の幼児。

 

 だが、先程とは覚悟が違うのだ。

 

 三匹の変態の覚悟が。

 

 すかさずがろうくんの目配せを受けた、猛禽類によるインターセプト。

 

 

 

 「ウララちゃんはっ☆遠い所に行ってしまったんだよっ!」

 

 「ウララお姉さん、死んじゃったの!?」

 

 

 

 ズバァンッ! 

 

 餓狼の爪が猛禽類の頭頂部を強襲した。

 

 

 

 「ファルコン。真面目にやるか。それともここでオレと死ぬか。

 好きな方を選ぶが良い。お前の意志を尊重しよう」

 

 「ヒィッ……許し亭許して(三代目襲名)ッ! ついッ!」

 

 

 

 がろうくんに詰め寄られ、極低音のバリトンで耳朶を擽られ。

 

 謎の落語家の襲名披露を告げる猛禽類。

 

 着ぐるみごしでもわかる。目がマジだ。

 

 下手をしなくとも殺られる。

 

 

 

 少し言葉選びを間違っただけで、彼の地を踏むこともなく。

 

 己の翼はカラスに襲撃された鳩の如く、儚く地面に散らばるだろう。

 

 

 

 

 「もういい。黙っていろ。ここはオレが説明しよう」

 

 やれやれと首を振る着ぐるみ。

 

 正直腹が立つが、命の方が大事である。

 

 ここは黙っておくのが得策である。

 

 猛禽類はまた少し賢くなった。

 

 

 

 間違ったやれやれ系主人公と化した、がろうくんは説明を試みる。

 

 女児たちは彼の着ぐるみの、引き締まった尻に夢中だ。

 

 新宿二丁目の女性向けストリップバーのような逆セクハラを受けながら、彼は宣った。

  

 こらこら、諭吉さんをファスナーに捩じ込もうとするな。

 

 

 

 「いいか。幼児ども。よく聞くが」

 

 

 

 ズガァンッ! 

 

 ウマの蹄が餓狼の頭を強襲した。

 

 天丼は基本である。

 

 

 

 「がろうくん。お子様に対する言葉遣いを覚えろ。マジで。

 いっつもがおがお言ってるからって、普段の言葉遣いで喋るな。

 わかったらおへんじ!」

 

 「きゅーん……くーん……」

 

 

 

 腹を見せて転がるがろうくん。降参の証だ。

 

 だってしょうがないではないか。

 

 自分のこの番組における台詞など。

 

 

 

 がおー。

 

 食べちゃうぞー。

 

 ウララおねーさーん。

 

 まったく幼女は最高だぜ! 

 

 このガキの命が惜しくば、オレと同棲するがいい……! 

 

 

 

 その程度だ。

 

 だから口調が多少普段通りでも、問題ないと踏んだのだが……

 

 どうやらダメだったらしい。

 

 しょうがない、ウマ美ちゃんのお手並み拝見といこう。

 

 

 

 無防備な降参ポーズで女児たちに全身を撫でまわされながら、がろうくんは思った。

 

 

 

 愛バと違い、こいつらすぐにババァになるからな。

 

 もう尻とかどうでもいいわ。

 

 でも、かわいいはかわいいから愛でよう。

 

 感謝しろ将来のババァども。もっと撫でるがいい。

 

 

 

 愛バへの真実の愛を自覚し、彼は駄目な方向に進化したのだ。

 

 合法もしくは違法ロリ限定のロリコン。

 

 もはや極めて限定的な対象以外とは、愛を育めぬ身体である。

 

 

 

 「よーし、そこでそのまま反省! セクハラはしないように!」

 

 ウマ美ちゃんが、ぷりぷりと躾を終え、幼児たちに向き直る。

 

 

 

 おかしい。幼児たちの混乱は加速した。

 

 一番の問題児が、常識的な振る舞いをしている。

 

 これは、何かの罠だろうか。

 

 また、最後に裏切られるに違い無い。

 

 彼らの猜疑心は加速した。

 

 

 

 「さて、ウマ美ちゃんが説明するウマー。

 みんなのかわいいウララお姉さんは、なんと! 

 今、ちょっとお出かけ中だウマ!」

 

 「えー! なんでー!」

 

 「ウララおねーさんが居ないクリークママといっしょなんて! 

 チョコの無いTOPP〇だよ! つまりはただのプレッツェル! 

 PL法を何と心得る! この駄バが! クーリングオフ待ったなし!」

 

 

 

 やたらと饒舌なえっくん(5)の叱責を受けるも、ウマ美ちゃんは動じない。

 

 彼の耳元にそっと着ぐるみの口を近づけ、囁く。

 

 

 

 「タ、べ、チャ、う、ゾッ♡♡♡♡♡ふぅっ♡」

 

 「あっぎゃああああああああああ!?」

 

 

 

 ガクンガクンプシャァァァァァァァ!!! 

 

 えっくんは一瞬で性癖を破壊され。

 

 下半身から水分を一気に垂れ流しつつ、崩れ落ちた。

 

 おもらしである。サービスシーンだな。喜んで欲しい。

 

 

 

 耳元で皇帝と、対なる帝王、自分自身。

 

 さらにはクリークママとヒシアママの情欲に塗れた声を完全再現した上で、5つ連続で発声し。

 

 指向性を与えた上で、脳髄に直接叩き込み、犠牲者の脳内で炸裂させる。

 

 

 

 夜の覇道裏奥義。

 

 『多元重奏飽和性癖』†クヴィンテッド・ネイチャ†だ。

 

 

 

 未来ある幼児の頭脳が、連続するそれぞれの異なる性癖に濡れた声により完全に混乱。

 

 最後の優しい吐息により、強制的に飽和状態となった性癖が脳内で爆発。

 

 もはや何に興奮していいのかもわからぬ、前後不覚の状態に陥り。

 

 最終的には薔薇の華が咲き誇る。

 

 

 

 自ら禁じた奥義だ。

 

 だがこのナイスネイチャ、容赦せぬ。

 

 

 

 この番組は、最高の職場なのだ。

 

 幼児の尻を、楽しむばかりではなく。

 

 愛しき光の加湿器の嫉妬を軽く煽り、お仕置きまでしてもらえる。

 

 もちろんリバースは基本である。

 

 相方は誘い受けが何よりも得意なのだ。

 

 

 

 その邪魔をするものは、誰であろうと性癖を生かしてはおけぬ。

 

 友人たちで実験を繰り返していた頃の自分を。

 

 彼女は久方ぶりに思い出していた。

 

 

 

 あいつら、元気かな。

 

 今度電話してみよう。

 

 きっとかわいいあの子は、大喜びで電話を取ってくれるだろう。

 

 電話越しでも性癖は伝わる。

 

 ねぇターボ。

 

 

 

 心底邪悪な、ナマモノであった。

 

 

 

 「さーて、よいこのみんな、わかったかな? ウマ」

 

 「「「「「「「はい!!!!」」」」」」」

 

 

 

 わからない。わからないが、逆らったらまずい。

 

 賢明な彼らは、元気にお返事をした。

 

 わかったと、お返事しなければ……

 

 理解らせられる。

 

 それを悟っていたのだ。

 

 

 

 「ん。いいお返事ウマ。じゃあ説明を続けるウマー。

 ウララおねーさんは、大事な用事があってお出かけ中! というわけで。

 今日はお歌の時間だウマー! 

 クリークママ!」

 

 「はーい♡じゃあ、ファル子ちゃん♡」

 

 「御意ッ! それでは歌います!」

 

 

 

 クリークママのご指名。

 

 もはや失点は犯せぬ。

 

 ウマドルは卒業だ。

 

 

 

 愛する我が子を憎き彼奴めから奪還し、大学に進学させるためにも。

 

 愛しの桜色を細くて長いアレにするためにも。

 

 金はいくら有っても足りぬ。

 

 歌のお姉さんと、歌手の二本立てでやっていこう。

 

 マイクを握る手を震わせながら。

 

 猛禽類は決意を固めつつ、一つの違和感に気づく。

 

 

 

 おや……? ピアノは……? 

 

 

 

 誰が運ぶのだろうか。

 

 がろうくんは女児どもに愛玩され。

 

 ウマ美ちゃんは、男児どもの性癖を破壊する作業に熱心に取り組んでいる。

 

 きょろきょろとステージから辺りを見回すと。

 

 

 

 ズゴゴゴゴ……

 

 

 

 クリークママの眼前の床が開き。

 

 ピアノが迫り上がってきた。

 

 以前仮面魔法ウマママ少女ライダーが登場した際に使われたギミックだ。

 

 

 

 悠然と椅子に座り。

 

 ピアノをぽろんと鳴らすクリークママ。

 

 マイクのスイッチを入れつつ思う。

 

 

 

 これ、ウララちゃんが見た時に、どんな反応するかな。

 

 ファル子、興奮してきた。

 

 その無駄な犠牲に流すあなたの涙、私が舐め尽くしてあげるからね。

 

 

 

 フッ……カッ! 

 

 

 

 スタジオの照明が暗転し。

 

 スポットライトに照らし出され、眩しさに目が眩む。

 

 強い光は怨霊に特効作用があるためだ。

 

 ダメージは3倍である。

 

 

 

 でも、もう光に目をそむけたりしない。

 

 気づいたんだから。真実の愛に。

 

 病院から聞いていてね。ウララちゃん。

 

 

 

 ゆっくりと、息を吸い込み。

 

 さぁ。愛を歌おう。

 

 

 

 この曲は、愛を求め彷徨う。

 

 心躍る、大航海の曲である。

 

 

 

 クリークママの奏でる、優しい旋律。

 

 

 

 『あの日 夢に見た再開 どこまでも飛べる 羽ばたく前は そう思っていたの』

 

 

 

 この間、リリースしたニューシングルだ。

 

 

 

 残念ながら、この短時間では。

 

 新曲を作る暇は無かった。

 

 

 

 だが、この曲ならば。

 

 彼女の愛を心から求める自分の気持ちを、伝える事が出来るだろう。

 

 

 

 『大空は私を拒んだ ならば 大海原へと漕ぎ出そう 行こう 

 希望へと舵を切り 遥かなる閃光目指し』

 

 

 

 空路からの領空侵犯は、機内食のヴァイスヴルストとドイツビールによる発狂を経て断念し。

 

 彼女は、単身太平洋へと。

 

 船の舵を切ったのだ。

 

 一繋ぎの憎悪を探すため。

 

 

 

 『どこまでも続く蒼 空を舞う海鳥 迫り来る海賊船 海賊王に 私はなる』

 

 

 

 思い出す。ライバルたちとの熱い海戦を。

 

 

 

 ここで、幼女にされるがままに愛玩されている、情けない餓狼のMCが入る。

 

 ちいさなおててでマイクをそっと着ぐるみの口に押し込まれ。

 

 彼のバリトンが優しく響く。

 

 

 

 『何ィっ!? ワシの鼻が尖っているじゃとぉっ!? ククク……愉悦……!』

 

 

 

 道化のワシーとの海賊船・エスポワール号甲板上での。

 

 透明な牌を用いた麻雀勝負。

 

 今でも彼とはたまに卓を囲み。

 

 病院に出血多量で運び込まれ、共に看護士に叱責される仲だ。

 

 

 

 がろうくんは続けて唄う。次はテノール。

 

 彼は芸達者であるので、幾つかのイケメンヴォイスを使い分ける事ができるのだ。

 

 才能をドブに捨てることにかけては、一流の男である。

 

 

 

 『オメェ、面白いヤツだなぁ! オラ、ワクワクすっぞ!』

 

 金麦のゴクウとの、酒盛り。

 

 発泡酒しか妻に買い与えられぬ、彼の侘しい懐具合に同情しつつ。

 

 自身はロマネ・コンティをがぶ飲みした。

 

 

 

 貧乏人を嘲笑う愉悦は、道化のワシーと、その友人の明王のビョードーに教えてもらった。

 

 まさに愉悦のひとときであった。

 

 

 

 そして、がろうくんがマイクを呑み込む。

 

 悪い狼は、腹に石を詰め込まれるという、寓話のオマージュだ。

 

 

 

 後で水槽に沈めよう。

 

 さぁ。自分の番だ。

 

 マイクを手に、彼女への愛を叫ぼう。

 

 

 

 ダァァァァァァン!!! 

 

 

 

 もはや擦られ尽くして味が無くなりつつある、クリークママによる全鍵盤同時打撃。

 

 我が愛を、聞くがいい。

 

 

 

 『柄杓をください! 柄杓をください! 神様仏様ウララ様! プリーズヘルプ! 愛羅舞勇!!!!!』

 

 

 

 曲名は、『柄杓を信じて!』

 

 

 

 そう。

 

 ゴーイングフラッシュ冥土号には重大な欠陥があった。

 

 丸太を綱で雑に括った構造上、衝撃に対し極めて脆弱だったのだ。

 

 流氷の衝突により、沈み行く愛船。

 

 自分は藁にも縋る気持ちで、神仏へ祈った。

 

 その時最後に頭に浮かんだのは、彼女の笑顔だったのだ。

 

 

 

 ドヤ顔気味だったので、バタフライで本土に戻った後に。

 

 大胆に膝を駆け上がり、閃光魔術を叩き込んだが。

 

 

 

 今でもたまに報復のゲルマン煽りを受ける。

 

 まったく、心の狭いポニーちゃんである。

 

 だが、そこがまたイイ。愛してるぜ。

 

 

 

 ニューシングルの発表と、その制作秘話に。

 

 世界は感動の涙を流した。

 

 

 

 ドイツは南極には無い。

 

 コンパスぐらい持っていけ。

 

 そもそも筏で太平洋を縦断するな。

 

 バタフライでそのままドイツ行けよ。

 

 失望しました。カレンチャンのファンやめます。

 

 

 

 等々。

 

 事務所は彼女の挑戦を応援する、暖かい声援に包まれたのだ。

 

 

 

 スマートファルコン。御年31歳。

 

 地政学及び航海術についても、曖昧であった。

 

 古式泳法の達者で無くば、命すら危うかった事だろう。

 

 

 

 『胸いっぱいの夢を探しに行こうぜ! 人魚のように海を渡り!!! 

 生足疑惑のマーメイド!!! センキュウ!!!』

 

 

 

 そして、最後まで発狂しない奇跡を魅せ。

 

 純粋な愛の歌が終わりを告げる。

 

 幼児どもによるスタンディングオーベーション。

 

 

 

 彼らは海賊物が、大好きなのだ。

 

 少年はジャンプするもの。

 

 ウマ明書房も言っていた。

 

 そして、拍手が治まる時。

 

 

 

 天使がスタジオに舞い降りる。

 

 サプライズだ。

 

 お歌の時間はそれを誤魔化すための前振りである。

 

 

 

 スポットライトを遮る影。

 

 天井を見上げた幼児たちが、口々に叫ぶ。

 

 

 

 「あ、あれは!?」

 

 「鳥か!? 飛行機か!?」

 

 「いや、違う! まさか!?」

 

 「知っているのか、ザムディン(5)!?」

 

 「ああ! 古文書によれば、天使が鯖折りにより堕ちる時、代わりの合法ロリが舞い降りると言う! 

 拙者はこれを、わんこロリの法則と名付けた!」

 

 「マジかよ古文書始まったな」

 

 「ああ、見よ! 親方ァ! 空から合法ロリが!」

 

 

 

 そして、一発ネタからスタジオぬぷり作品のヒロインへの、大躍進を遂げた彼女。

 

 

 

 アフガンコウクウショーは。

 

 アフターバーナーで慣性をゆっっっっっくりと殺し、着地に備えつつ思った。

 

 

 

 エル、たすけて。

 

 ニホンこわい。おうちかえゆ。

 

 

 

 真の変態の群れの前に。

 

 長年の経験など、物の役にも立たぬのだ。

 

 彼女は一連の惨劇を目撃して幼児退行しつつ。

 

 身に染みてそれを悟っていた。

 

 

 

 

 

 つづかない



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ハルウララさんじゅういっさい そのじゅうきゅう 愛しき、この世界

今回のメインテーマは、決別。
そして、胸いっぱいの喜び。
アフちゃんのファンアート、お待ちしております。
一体どんなスプーが送りつけられるのか。
筆者は期待と興奮を禁じ得ません。
元ネタは、荘子と、伝統芸能と……詰め込みすぎてオレにもわからぬ!!!

作品へのイメージアップの補助に、試験的に挿絵を導入してみました。

自分で書けなきゃソフトを使えばいいんだよォ!



使用ソフトはCOM3D2。未成年の方は調べぬようにお願いします。

ソフト・サイト規約的に問題ないかとは思いますが、見逃しもあるやもしれません。

その時はご一報をお願い致します。直ちに削除致します。


~前回までのあらすじ~

 

 ハルウララ不在のクリークママといっしょ。リテイク。

 

 一度目は膝を折ったものの。二度目の粗相は許されぬ。

 

 ママの叱咤激励を受けた彼らに、隙はあったが、なんとかした。

 

 猛禽類の誤解を招来する言動。

 

 がろうくんの幼女モテからのオレ様系ムーヴ。

 

 天丼を重ねる彼らに業を煮やし、ウマ美ちゃんは禁じられた奥義を開帳する。

 

 これには聞き分けの無い幼児たちも、思わずグッドなアンサーでママ満足。

 

 そして、今日のお歌の時間。

 

 猛禽類の、一繋ぎの憎悪を探す航海が幕を上げる。

 

 へんてこな鼻をした道化。

 

 麦をトレードマークとする明るい友人。

 

 あらすじでは明らかにアウトだが、実情はさらに異次元の展開を見せる。

 

 そして、彼女は柄杓を求め、愛しの桜の妖精への愛を叫んで閃光魔術を披露する。

 

 げに航海とは、男の胸をアツくするものである。

 

 そして、天使は舞い降りた。

 

 このあらすじ、マジでいらないような気が。

 

 

 

 

 

 

 

 「ヒャァ! 新鮮な合法ロリだァ!」

 

 「もう我慢できねェ!」

 

 

 

 眼下にてモヒった雄たけびを上げる、世紀末幼児どもを見て思う。

 

 まこと、マッポウの世である。

 

 

 

 アフガンコウクウショーは、己の安請け合いをとんでもなく後悔していた。

 

 猛禽類は航海していたが。

 

 

 

 (この世には、神も仏もおらぬのか……)

 

 

 

 思う。

 

 アラー!! がいないのは確定であろう。

 

 偉大なる彼が、このような暴虐を許すはずがない。

 

 

 

 代わりと言う訳ではないが。

 

 この二ホンなる国には、織田・ブッディなる神が居るという。

 

 聞くところによると、ゲイのサディストであるらしい。

 

 納得である。

 

 

 

 カンダタ。

 

 裸に覆面。さらには斧を担いだ益荒男。

 

 常識人として有名だった、彼が。

 

 ゲイの群れに、満面の笑顔の織田・ブッディによって。

 

 糸とか特に関係なく突き落とされたのは、あまりにも有名な寓話だ。

 

 だってトレセン学園で習ったもん。

 

 

 

 この惨状を見るに、彼は幼児にも厳しい神であるらしい。

 

 排水溝からも幼児を見守る彼。

 

 偉大なるピエロ風不審者とは、えらい違いである。

 

 そして、大人どもも。

 

 

 

 (正直、ないわぁ……)

 

 

 

 捨身シコの心意気。

 

 マ魔王の暴虐に対し、ロリコンを庇ったシーンは謎の感動を得たが。

 

 性癖の自爆によりマ魔王を留めた時は、本気で自分の頭を疑った。

 

 なんでそうなる。

 

 

 

 そして、性紀末覇者系猛禽類による、柔らかな頭に対するスタジオズブリ。

 

 おむつを着用して微笑むスタッフどもに、謎の特殊技術による幼児の破壊。

 

 挙句の果てには電波ソング。

 

 こやつらは何を考えて生きているのか。

 

 正直今すぐゴーホームして、酒飲んで怪鳥の腕枕で寝たい。

 

 

 

 いかんいかん。一度引き受けた仕事である。

 

 頭のホワイトブリムをふりふり、気を取り直す。

 

 最後までやり遂げねば、愛しの怪鳥に顔向けできぬ。

 

 お仕置きしてもらうのも、好みではあるが。

 

 

 

 さぁ、格好よく登場しよう。

 

 スーパーヒロイン着地は、恐らく万国共通で幼児にウケるはず。

 

 アフターバーナー停止。

 

 

 

 遠からん者は音に聞け。近くば寄って目にも見よ。

 

 航空力士の見参である。

 

 そこのけそこのけメイドが通る。

 

 まぁ毛は生えていないが。

 

 どこの毛かは言えぬが、愛しの怪鳥は大層満足してくれている。

 

 愛する彼女のニーズを完全に満たしていることを確信しつつ、いざ着地。

 

 

 

 スタンッ! 

 

 

 

 「あひゅガンコウクウショー! ……か、かんだぁ……」

 

 

  

 「「「「「「「「「「クソかわいい」」」」」」」」」」

 

 

 

 掴みは、オッケー。

 

 彼女は両手いっぱいの手応えを感じつつ、涙目になった。

 

 

 

 

 

 

 「よいこのみんなー♡クリークママといっしょには、ママとロリと怨霊歌手。

 ついでに畜生どもが二匹♡この黄金編成は、崩れまちぇん♡

 というわけで、かわりのロリをご用意しました♡

 はい、アフちゃん♡自己紹介をどうぞー♡」

 

 

 

 このママ、酷く口が悪い。

 

 幼児向け教育番組と聞いていたのだが。

 

 だが、スタッフがNGを出す様子は見えぬ。

 

 ここは流れに乗るべきか。

 

 

 

 戦慄しつつも、先程の、事故紹介のイメージ払拭を図る。

 

 

 

 「アフガンコウクウショーである。

 職業は怪鳥専属メイド嫁兼航空力士。

 趣味は空を飛ぶことと、怪鳥にご奉仕すること。

 特技は空を飛ぶことと、怪鳥にご奉仕すること。

 年齢は秘密である。女には秘密が必要なのでな。

 さぁ幼子たちよ。なんでも聞いてみるがいい。

 えっちな質問はいけないと思います」

 

 

 

 メイド服の胸に手を当て、ゆっくりと自己紹介する。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 合法褐色ロリメイド系お姉さんを見て。

 

 幼児たちは確信した。

 

 

 

 この女、チョロいぜ。ポンコツの香りがする。

 

 ウララおねーさんはなんだかんだで隙が無い。大好きだが。

 

 だがこいつは隙だらけ。

 

 

 

 一部違和感を感じるところはあるが、些末な事だ。

 

 航空力士ってなんだよ。まわしをつけろまわしを。

 

 おぢちゃんがお相撲を取ってあげようか。

 

 

 

 既に売約済みであるようだが。

 

 あどけない笑顔で骨抜きにしてくれる。

 

 怪鳥とやら。覚悟するがいい。

 

 貴様が、骨無しチキンのお客様。

 

 そう呼び出され、守護れなかった悲嘆に暮れて。

 

 性癖の道頓堀に投げ込まれる未来はすぐそこだ。

 

 

 

 我ら、ただの幼児に非ず。

 

 一騎当千のサンダース軍曹の大隊である。

 

 まったく、いいおもちゃを用意してくれたものだ。

 

 これだからクリークママといっしょに出るのはやめられぬ。

 

 

 

 まずはイニシアチブを取る。

 

 オークキングコング(5)の目配せを受けた、トンガリコーヌ(5)が頷く。

 

 幼児たちのあだ名は、時に残酷である。

 

 

 

 「アフちゃん! 今日のパンツは何色?」

 

 「履いておらぬ。えっちな質問は駄目である。気をつけるように」

 

 

 

 感嘆の声が広がる。やりおる。

 

 

 

 メイドスカートの防御力に、鉄壁の自信があるということだ。

 

 やたら短いスカートだが、成る程。

 

 どおりで先程下から見上げても、何も見えぬはず。

 

 スカートめくりを楽しむのは難しいだろう。

 

 強敵の出現に心が躍る。

 

 

 

 「怪鳥って?」

 

 奇妙奇天烈(5)による迂闊な質問。

 

 バ鹿。やめろ。明らかな地雷だろうが。

 

 周囲の気配が強張る中、ポンコツ褐色ロリメイドが大きく息を吸う。

 

 

 

 「うむ。よくぞ聞いてくれた。愛しの怪鳥、エルコンドルパサー。三十路独身怪鳥である。だが問題はない。何故ならば、このアフガンコウクウショーがいるからである。彼女との出会いは数か月前。リングの上で出会った我ら。はじめは敵同士であった。だが試合の最中。痴情のもつれにより地上に堕ちる我ら。キン肉〇ン式舞空術により、我が手から逃れる彼女。くせぇ。熟成された香りは濃厚だった。そして舞い降りる彼女の躍動する肉体に、私は心を奪われた。やはり年増はいい。最高である。そして、試合後にはメイド服をウマゾンぽちーして彼女のハウスに即座にメイド突撃。戸惑う彼女もまた愛しい。愛してる。はじめは門前払いを受けたが、二ホンの伝統的なおねだり、ドゲザにて。玄関前にてあどけない褐色ロリメイドがドゲザしている姿に、ご近所から彼女に向けられる視線はもちろん絶対零度。耐え兼ねた彼女は、ついに私を家へと招き入れたのだ。チョロいもんである。そして朝昼晩の奥義・褐色ロリメイドあまあまご奉仕により、怪鳥は私に完全に依存した。結婚までは秒読み段階だな。今は夜毎の洗脳を……」

 

 「アフちゃん♡ストップ♡」

 

 むぎゅう。大いなる母性に包まれる。

 

 「うむ? やはり年増の胸は最高であるな!」

 

 「奉仕のできない身体にしてやろうか」

 

 「マジすいません」

 

 

 

 二ホンの伝統。褐色ロリメイドドゲザを早速披露。

 

 完璧なアンサーだと思ったのだが。

 

 おっと、幼児どもよ。スカートを覗こうとしても無駄である。

 

 領域のちょっとした応用により、彼らの目に映るのは、アラー!! の眩しい笑顔のみ。

 

 メイドの防御力は完璧なのだ。当然の嗜みというものである。

 

 

 

 「ハァイ! ジョージィ!」

 

 「スカートが喋った!?」

 

 「新しい! これは流行らん! クソっ、医学の敗北だ!」

 

 コロッケが好きそうな幼児どもの嘆きの声。

 

 ざまぁない。自分は怪鳥だけの物である。

 

 

 

 「アフちゃん♡スタンダップ♡」

 

 「わんっ♡」

 

 

 

 立ち上がる。

 

 いかん。つい怪鳥に仕込まれたお返事を。

 

 ウマ娘に動物耳を追加するのはNG。

 

 神をも恐れぬ所業である。

 

 

 

 夜毎の愛犬の躾けがバレれば、ウマ娘警察特捜部の苛烈な取り調べを受けるのだ。

 

 バクシン式拷問術により。

 

 苦痛の怪鳥音を上げる、愛しき彼女の姿は記憶に新しい。 

 

 最高だった。また情報をリークせねば。

 

 

 

 「うむ。質問タイムはこれにて終了。

 クリークママ。本日のメニューは?」

 

 「はい♡今日はー、傘で遊びましょう♡がろうくん♡」

 

 

 

 なんとか誤魔化し、独裁者に本日の遊びを聞いてみる。

 

 傘。傘で遊ぶとは何か。

 

 寡聞にして知らぬ。やはり二ホン文化は奥深い。

 

 頷いていると、幼女を侍らせたがろうくんより。

 

 手渡される巨大な和傘。

 

 

 

 ついでとばかりに頭を撫でられ、唾を吐く。

 

 お前、洗ってないロリコンの匂いがするんだよ。 

 

 みよちゃん(5)から手渡されたスポイトで。

 

 嬉しげに唾をジップ〇ックに保管する彼。

 

 強すぎる。さすがは先輩といった所か。

 

 

 

 「あ、あれはっ!」

 

 「知っているのか、第1ドール・殺助(5)!?」

 

 「ああ! 奇天烈! コロッケが食べたいナ」

 

 「やめろバ鹿! 消されるぞ! 

 ただでさえまだ怒られてないのが奇跡なのに!」

 

 「にゅ、乳酸菌飲んでるナリィ?」

 

 

 

 スタジオの水銀の燈に照らされつつ。

 

 幼児どもが騒がしいが、まぁ問題ないだろう。

 

 クリークママに、やり方を聞かねば。

 

 さて。傘で遊ぶやり方とは。如何に。

 

 

 

 「ああ、アフちゃんはこういう撮影、初めて?」

 

 「はい」

 

 「緊張してる?」

 

 「ちょっとします(笑)」

 

 「初めてセッ」

 

 「ママ! アウトアウト! この番組、そういうのじゃないから!!」

 

 

 

 ウマ美ちゃんのインターセプト。

 

 正気に戻る。

 

 危ない所であった。

 

 夜のぱっぱか大レースを聞き出されるところであった。

 

 

 

 このママ、底が知れぬ。

 

 戦慄する。

 

 警戒を高めつつインタビューを継続することとする。

 

 

 

 「相手は?」

 

 「当番組に出演している幼児よ」

 

 「どうでした?」

 

 「痛がった記憶しかないわね……」

 

 「キリンについては」

 

 「好きよ。でも、うちの赤ちゃんの象さんの方がぁ……♡

 もぉぉぉっと……♡」

 

 「ママ!! 夜のでちゅね四十八手の話は今はいいんだよ!! 

 アフちゃんも悪ノリしない!!」

 

 

 

 怒られてしまった。てへり。

 

 さて、真面目にやるとしよう。

 

 

 

 「傘で遊ぶ、とは?」

 

 「ソマリア之助、ソマリア太郎。

 染色体ブラザーズと言えばわかるかしら?」

 

 

 

 なるほど。

 

 アフリカ出身のニホン伝統芸能継承者か。

 

 高齢につき、引退したと聞いたが。

 

 となると、アレである。

 

 

 

 ダイ・カグーラ。

 

 さらに傘を使うとなれば、曲であろう。

 

 だが、問題がある。

 

 毬はどうするのか。

 

 

 

 「もちろん、幼児よ」

 

 「なるほど、クレイジー」

 

 

 

 覚悟をキメる。

 

 メイド道とは、正気にてならず。

 

 狂気にて仕る……! 

 

 

 

 「アフちゃん、行っくよー!」

 

 ピッチャーは舟幽霊になり損ねた女。

 

 間違ったセイレーンにして、海賊王。

 

 スマートファルコン。

 

 

 

 傘を広げ、構える。

 

 さぁバッター四番、アフガンコウクウショー。

 

 一本足打法で構えました。

 

 

 

 「えいっ☆何と! 幼児砲弾ッッッッッ!!」

 

 「やらないかッ!!」

 

 

 

 やたらと良い声を発しつつ飛翔してくるえっくん。

 

 どうやら、ファル子神ゲンコツも、万能ではないようだ。

 

 破壊し尽くされた性癖は二度とは戻らぬと見える。

 

 

 

 「なんのっ!!」

 

 傘で優しく、それでいて大胆に彼をキャッチ。

 

 アフターバーナー限定起動。

 

 傾けた傘を、上昇気流の力も借りて。

 

 

 

 「いつもより 多めにヘビー ローテーションッ……! (字余り)」

 

 渾身のセンリューがキマる。

 

 センリュー・カライも、草葉の陰で喜んでいることだろう。

 

 

 

 「男は度胸。なんでもやってみるもんだぜ……!」

 

 

 

 廻す、廻す。

 

 転がるえっくんは愉悦の溜め息を漏らす。

 

 楽しんでくれているようだ。

 

 

 

 「まだまだァッ! 逝けッ! ファル子ネルッ!」

 

 飛翔する幼児の群れ。

 

 その煌めきは、流星群が如し。

 

 傘で受け止めつつ、思う。

 

 

 

 こいつら、気が狂ってやがる。

 

 だが。

 

 

 

 踊る阿呆に見る阿呆。

 

 同じ阿呆なら、踊らにゃ損……! 

 

 圧倒的大損………………! 

 

 ダイナミック阿波踊り…………! 

 

 顎までトガるというものだ! 

 

 

 

 「さーあ! 盛り上がって参りましたー!」

 

 

 

 回転を早めつつ、コールする。

 

 

 

 「「「「「Foooooooooooo!!!」」」」」

 

 

 

 オーディエンスにして、狂演者たる。

 

 幼児どものレスポンス。

 

 なんという一体感! 

 

 

 

 

 

 

 空元気で誤魔化してはいたが。

 

 いつも、不安だった。

 

 

 

 この世界に産まれ直し、二十年の年月が流れ。

 

 前世の記憶と今の自分の乖離に堪えきれず。

 

 愛しい怪鳥を、色々な液体で濡らした夜もあった。

 

 お仕置きは最高だったが、不安は拭えなかった。

 

 自分はこの世界に馴染めているのかと。

 

 

 

 自分はこの世界に、本当に生きているのか。

 

 今の自分。アフガンコウクウショーとは。

 

 アブドゥルが死に際に見ている、胡蝶の夢なのではないか。

 

 

 

 知らぬ街並み。

 

 航空相撲とは違う、大相撲暗黒場所。

 

 迫り来るロリコンの群れ。

 

 

 

 不安と絶望に、心を削られる日々。

 

 怪鳥による、褐色ロリメイドさんへの。

 

 ちっぱいイタズラが無くば。

 

 このちいさな胸は。

 

 不安に押し潰されていたかもしれぬ。

 

 

 

 だが。今なら言える。

 

 自分はこの世界に。

 

 このクソみたいな世界に。

 

 今、確実に生きている……! 

 

 

 

 妻よ。娘よ。

 

 すまない。

 

 アブドゥルの物語は、ここで終わりのようだ。

 

 私の事は忘れ、幸せになっておくれ。

 

 

 

 「エル! 分かったぞ! もはや私は迷わない! 

 今夜のご奉仕は! 過去最高の物となるだろう!」

 

 

 

 全身が愛を叫ぶ。

 

 もう、何も怖くない。

 

 

 

 腕に感じる重みが増す。

 

 廻る幼児の群れは、傘から零れんばかり。

 

 だが。

 

 答えを知った自分は、もはや迷うことはない。

 

 

 

 今だ。

 

 増えすぎた幼児どもを。

 

 クリークママの雄大な胸に。

 

 

 

 「いいですとも♡」

 

 

 

 むぎゅう。なでなで。「かわいいでちゅね♡」

 

 ズダダダダッ! 

 

 

 

 着胸し、アカチャンホンポからのバースデイ。

 

 トドメはもちろん西松屋。

 

 男児はベビーカーに。

 

 女児はミルクスタンドに向け、走り去る。

 

 

 

 さぁ、新たな産声を上げよう。

 

 それでは皆様、ご一緒に。

 

 

 

 「この、素晴らしき世界に性癖をっ!」

 

 

 

 彼女は、ようやく。

 

 妻子を愛する、一人の航空力士。

 

 アブドゥルから。

 

 

 

 独身三十路怪鳥を愛する、一人のウマ娘。

 

 ポンコツクソかわTS異世界転生褐色合法ロリメイド系オリジナルウマ娘力士(精神年齢還暦越え)。

 

 アフガンコウクウショーとなり。

 

 そんな自分を、長い年月を経て、今。

 

 愛することができたのだ。

 

 

 

 やったぜ。ハッピーエンドである。

 

 

 

 

 

 

 つづかない 



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ハルウララさんじゅういっさい そのにじゅう 心の冬景色

また続き物を書くという暴挙。
オリジナルTSウマ娘力士に出番を取られた彼女は、大層ご立腹なようです。
この怒り、容易には収まりますまい。
わりと今回はおとなしめ。

元ネタは、平家物語。
途中挟んだ考察については、独自設定です。


~前回までのあらすじ~

 

 ハルウララの不在。

 

 そこに立ち上がる、3人の変態。

 

 猛禽類は海を征き。

 

 飢えた狼はロリを侍らせ。

 

 汚い帝王はショタを薔薇した。

 

 そして、最後に舞い降りる天使。

 

 そう。

 

 ポンコツクソかわTS異世界転生褐色合法ロリメイド系オリジナルウマ娘力士(精神年齢還暦越え)(早口)

 

 寿限無の如き、性癖の煮込み。

 

 彼女はスタジオで大暴れ。

 

 スーパーヒロイン着地からの萌えキャラアピール。

 

 長広舌での愛情告白。

 

 秘密の花園から神を召喚。

 

 クリークママとのインタビュー。

 

 挙句の果てには太神楽。

 

 好き勝手に幼児を廻し、天地ママ闘の生贄とし。

 

 合間に怪鳥の異常百合性癖を大暴露。

 

 最後は勝手にTS異世界転生ウマ娘力士特有の葛藤を、スイーツな感じで片づけた。

 

 まこと、現世とは楽しいものである。

 

 このすば。

 

 

 

 

 

 

 

 『さぁーあ! 本日も! いい感じに飛んで! 飛んで! 飛んで! 飛んで! 堕ちろォッ!』

 

 『ママさん・バレィッ♡』

 

 『アタックファル子・ナンバーワンッ!』

 

 

 

 テレビ画面の中で、スタジオを所狭しと飛び回り。

 

 抱えた幼児を母なる魔王の懐に。

 

 華麗に投下して飛び去る、以前見た覚えのあるロリ。

 

 

 

 投下された幼児は、何故か体操服に身を包む、クリークママの胸に包まれることもなく。

 

 優しくレシーブされ、猛禽類の掌打にて。

 

 マゾ快楽を味わいつつ。

 

 がろうくんが抱える籠に、ホールインワンしていく。

 

 

 

 なんだ、これ。

 

 ハルウララは思った。

 

 明らかに、己の知らぬ遊びである。

 

 

 

 未知の遊びが登場し始めたのは、自分が同志ママーリンにより。

 

 この柳腰を鯖折られてから次の週。

 

 彼女が出演し始めてからである。

 

 

 

 確か、アフガンコウクウショーと言ったか……

 

 三十路独身怪鳥の家に押し掛けた、謎のプロウマレスラー。

 

 番組のニーズを完璧に満たす、褐色合法ロリメイドである。

 

 

 

 己が退院してから2週間の時が経ち。

 

 予定されていたよりも早く、腰の痛みは引いていき。

 

 現在では入院前よりも腰が軽くなった。

 

 安心沢も、たまには成功するものである。

 

 

 

 調子に乗ってポールダンスに挑戦したら、また腰を痛めたが。

 

 まぁ。些末事である。

 

 ありったけのセクシーを籠めたので、この家は熱狂の渦に包まれた。

 

 彼らに最大限のサービスをできたので、大成功と言えるだろう。

 

 

 

 褐色合法ロリメイドについて、思う。

 

 確かに、彼女の領域は破格の性能を誇る。

 

 なんといっても、発動条件は不明だが。

 

 およそ飛行する事において、何の制限も見えぬ。

 

 腰痛持ちの己より、若さとプロウマレスラーとしての鍛錬により。

 

 ただでさえ肉体能力としては優位。

 

 加えてそれが空を飛ぶのだ。

 

 新しい遊びも生まれようというもの。

 

 

 

 これは余談ではあるが。

 

 アフターバーナーの自由性が高い理由。

 

 とても単純である。

 

 

 

 レースには、クソの役にも立たぬからだ。

 

 この世界において、領域とは。

 

 切なる願いを抱いたウマ娘に対して与えられる、女神の恩寵。

 

 その発動条件は、『走るために生を受けた生き物にとって』。

 

 強い効果……すなわち。

 

 レースに勝ちやすい領域ほど、厳しくなる。

 

 

 

 3人抜き去らねば発動できぬ、皇帝の威光が。

 

 1人抜き去れば発動できる、流れ星よりも強いように。

 

 発動条件は、その効果の強さに比例して厳しくなる。

 

 

 

 それを踏まえると、アフガンコウクウショーの領域。

 

 効果は、多少の自由度はあるが、上方向に飛ぶだけ。

 

 ターフを踏みしめることもままならぬ。

 

 

 

 航空力士特有の技術で、横方向に滑空することもできるが。

 

 高高度の気流に乗らぬ限りは、一般のウマ娘が走るよりも、余程遅い。

 

 レースに負けるためにあるような領域である。

 

 

 

 そう。つまり。アフターバーナーとは。

 

 彼女の切なる願いに反応してしまった三女神が。

 

 走るための種族として生を受けたのにも関わらず。

 

 その本能をガン無視したアホみたいな要望に。

 

 ヤケクソ気味に授けた恩寵であるのだ。

 

 うるせー。飛びたきゃ飛べ。いつでも好きに使えカス。

 

 

 

 そういうことである。

 

 TS転生ウマ娘力士特有のチート能力などと、都合の良い物ではない。

 

 余談終了、彼女の視点に戻そう。

 

 

 

 さて、古来から言われている言葉がある。

 

 踊れる平家は久しからず。

 

 そう。新たなダンスパートナーの登場だ。

 

 あの番組に、自分の居場所はもう無いだろう。

 

 ハルウララは納得した。

 

 

 

 悔しくはない。むしろせいせいする。

 

 何といっても、シベリア送りの恐怖から解放されたのだ。

 

 木を数える仕事に従事するのは、勘弁である。

 

 

 

 だが。

 

 思う。

 

 

 

 (ニート……)

 

 

 

 恐れていた日が来たのだ。

 

 失職である。お役御免ということだ。

 

 働かざるもの食うべからず。

 

 

 

 就学も就労もせず。職業訓練も受けていない。

 

 穀潰しとしてこの家の資産を食いつぶす。

 

 何の利益ももたらさぬ。

 

 ただ一匹の寄生虫。

 

 もはや追い出す他に無い。

 

 そう思われていればよかったが。

 

 

 

 彼らはそう思ってはおらぬらしい。

 

 

 

 「ウララちゃんっ! これからはずっとおうちに居れますのねっ!」

 

 ぶんぶんと、おひざの上で。

 

 興奮気味に自分の左手を握り、おててを振るプリンセス。

 

 

 

 「元々、頻繁に腰を痛めるような重労働、良くないと思っていたわ。

 ウララさん。これからはおうちで、私とおしゃべりしてましょう? 

 もちろん家事は私がやるわ。

 おこづかいはパパの10倍あげるわよ」

 

 にこやかに微笑むキングちゃん。その手に握る、諭吉さんズが眩しく映る。

 

 

 

 「うむっ! ウララッ! 金の心配はいらんぞッ! オレの稼ぎは良くないが、キングの投資でうちは金がやたらあるからなっ! できる嫁をもらえて、オレは幸せだっ! むしろオレもずっと家にいていいか!?」

 

 「駄目よ。うるさいもの」

 

 「パパはいらないですわっ!」

 

 バ鹿。

 

 

 

 そう。

 

 この家において、自分の存在は凄まじい程のニーズを誇る。

 

 正直、働かずとも追い出されることはないだろう。

 

 だが。だが、しかし。

 

 

 

 (完全にペット扱い……!)

 

 

 

 そう。家に金を入れることもなく。

 

 パソコンに向かい、株式相場とにらめっこする奥様の横で。

 

 家政婦のように仕事を任されることもなく。

 

 日がな一日、幼女と戯れる自分。

 

 それだけで多額のおこづかいまでもらえるという。

 

 

 

 それは、もはやペットではあるまいか。

 

 いや、細くて長いアレ……? 

 

 なんにせよ。

 

 尊厳の危機である。

 

 

 

 「わ、わたし、まだ働きたいなぁって……」

 

 「もうあそこに居場所はなさそうですわっ!」

 

 ざくり。

 

 「そうねぇ。他の仕事と言っても、ウマ娘向けの仕事は肉体労働が多いし……

 腰が悪いと、厳しいわね」

 

 どすり。

 

 「うむっ! ウララは何の資格も持っていないからなッ! 再就職は絶望的だろうっ!」

 

 ズドンッ。

 

 

 

 カンカンカン! K.O.! 

 

 祇園ゴングのレフェリーの声。

 

 盛者必衰のうるせぇバ鹿。

 

 

 

 お姫様を抱いたまま、ソファーに横倒しになり、心の内で涙する。

 

 

 

 こやつら、これで本当に悪気が無いからタチが悪い。

 

 ネコが良いわけではないが。

 

 善意でしか喋らないのは、5年も共に生活していれば、嫌でもわかる。

 

 だが、悪意が無い分。

 

 容赦などゼロを通り越して、死体を興奮気味に蹴りつける新兵の如し。

 

 

 

 

 「ウララちゃんったら、甘えん坊さんですのねっ!」

 

 なでなで。

 

  

 「あら、眠たくなっちゃったのかしら? ふふ。毛布を持ってくるわね」

 

 なでなで。

 

 

 「うむっ! せっかくのんびりできるようになったんだ! 好きなだけ寝るといい! 寝る子は育つというしなっ!! まぁウララはこれ以上大きくならんがなッ!!」

 

 なでなで。

 

 

 

 追撃のトリオなでなでに、ダメージは加速した。

 

 

 

 やはり、ペット扱いである。

 

 こいつら、三十路女の頭を気軽に撫ですぎ。 

 

 でも、すっごい気持ちいい。

 

 やはり働かずに食う飯は最高では。

 

 もうペットでもいいかな…… 

 

 

 

 そう思いつつ、眠りに就いた翌朝。

 

 己は、リビングの隅に。

 

 ひっそりと置かれていた箱の中に。

 

 恐ろしい物を発見してしまったのだ。

 

 

 

 それは、赤い金属の光沢を放っていた。

 

 それは、短めの鎖が付いていた。

 

 それは、誇らしげに輝くネームプレートに、『うらら』と刻印されていた。

 

 おまけに、GPSが装着されていた。

 

 

 

 首輪である。

 

 あやつら、ガチだ。

 

 ガチで自分をペットにするつもりだ。

 

 しかも、自由に出歩く事も許されず。

 

 勝手きままに愛玩される、エロいゲームとかに出て来る方向性で。

 

 

 

 これにはこのハルウララ、身体のガックガクを禁じ得ぬ。

 

 たまらず家を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 そして、今。

 

 自分は途方に暮れていた。

 

 就職氷河期。

 

 気分はすっかりフユウララである。

 

 

 

 (碌な仕事が、無い……!)

 

 この世界はウマ娘に優しい。

 

 だが、無条件の優しさなど。

 

 そのような物が存在するはずも無く。

 

 自分の再就職への栄光の道は、落陽を迎えていた。

 

 

 

 一件目。

 

 メイショウドトウの暮らす牧場。

 

 キモくて美味なるチキンが、思うさま貪れると思い尋ねたのだが。

 

 

 

 『ええ……? 番組は大丈夫なんですかぁ? じゃ、じゃぁこの鶏さんを、絞めてみてくださいぃ……』

 

 『コッケェェェェェェ!!! コケッ!! コケコケェェェェェェェ!!!』

 

 『マジか』

 

 

 

 牧場において提案された仕事は、鶏の屠殺。

 

 考えてみれば、一羽数万円の値が付く、それ。

 

 金の卵は産めぬ雄鶏の世話を、牧場の看板娘の知り合いとは言え。

 

 得体の知らぬウマ娘になど、任されるはずもない。

 

 初手クライマックスである。

 

 

 

 『よーし、ウララ頑張っちゃうぞ!』

 

 『コケェェェェェェェェ!?』

 

 『ウララさん! ダメですぅ!』

 

 

 

 愛用の鉈を取り出し構えるも、ストップがかかった。

 

 何故だ。

 

 優に数十リットルもの血を吸った、業物であるのだが。

 

 

 

 『怒涛丸鶏はこう、胸で優しく……』

 

 『ふむふむ』

 

 『鋭ッ!』

 

 『我が鶏生に、一片の悔い無し……っ! 誇気ェッ!』

 

 

 

 胸おっぱいの、悦びに。

 

 安らかに 息を引き取る キモい鳥

 

 世の無常を感じさせる、生命の儚さを詠う川柳。

 

 渾身の一句だ。

 

 

 

 『圧死させますぅ』

 

 『ふざけんなよバ鹿』

 

 パァンッ! 

 

 『ああんっ! 乱暴ッ! 採用決定ですぅ!』

 

 

 

 なんでいきなり畜生が喋り出すんだよ。

 

 この世界には、動物すらも変態しかおらんのか。

 

 

 

 あまりの展開と、自身の彼女よりはやや小さめの胸に。

 

 腹を立てた自分は、乳ビンタにて遺憾の意を表明したる後に。

 

 牧場を後にした。

 

 謎の基準で採用が告げられた気がしたが、恐らく気のせいだろう。

 

 

 

 さぁ。次の就職先候補に向かうとしよう。

 

 きっと、見つかるはず。

 

 自分を暖かく迎えてくれる、理想の職場が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時の彼女に、知る由も無かった。

 

 この小説は、王道純愛ラブストーリー。

 

 筆者の無駄なこだわりにより、お約束は遵守される。

 

 

 

 そう。

 

 彼女の職場復帰は、世界に定められた確定事項。

 

 このリクルート活動は、全くの無駄である。

 

 

 

 だが。この世界に無駄な物語などない。

 

 これもまた、お約束である。

 

 全ての事象には、必ず意味が存在しているのだ。

 

 ヒシアママの登場シーンのように。

 

 

 

 そして、彼女はこの無駄なようでいて全く無駄の無い無駄な旅において、新たなる力を手に入れる。

 

 脇役のオリジナルTSウマ娘力士が、主役の上位互換となるなど。

 

 この世界が許すはずもなく。

 

 

 

 マ魔王を倒すための力は。

 

 桜色の勇者の手にのみ、握られているのだ。

 

 未だ、目覚めてはいないが。

 

 覚醒の時は近い。

 

 

 

 

 

 

 

 つづかない



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ハルウララさんじゅういっさい そのにじゅういち 大正バカ浪漫

今回のテーマはコンプライアンスと信頼。
とびっきりの、倫理法令遵守精神。
倫理はパワー。
完璧な理論武装を魅せてあげますよ。


元ネタは、大正浪漫の新撰組。
そして、パウロからの第二の手紙。


~前回までのあらすじ~

 

 名誉の負傷から復帰し。

 

 喜びのポールダンスに興じ、更なる負傷を負ったハルウララ。

 

 寄生先へのサービスのため、必要最低限の犠牲であった。

 

 彼女は、自分の居ない大人気幼児向けクソ番組を見て。

 

 もはや、己の居場所が無くなったことを知る。

 

 せいせいするぜ。あのバ鹿ども。

 

 やはり、最後に勝つのは資本主義である。

 

 だが。彼女は気づく。

 

 Not in Education, Employment or Training.

 

 すなわち、ニート。

 

 そう。

 

 己もまた、資本主義社会へ参入できぬ身の上。

 

 むしろ同志ママーリンによって搾取される、彼ら。

 

 それよりも下等な存在であることに。

 

 葛藤と、暖かい家族。

 

 悟る己の、低学歴。

 

 世界はウマ娘に無条件の愛までは与えてくれぬ。

 

 そして、ある朝見つけた、絶望の。

 

 パンドラの箱から、ペットの証がこんにちは。

 

 新たな労働形態の予感に、彼女は家をエスケープ。

 

 愛玩動物は、勘弁である。

 

 

 

 

 

 

 「ここが、あの女のスタジオね……」

 

 

 

 二件目。

 

 そう。

 

 性癖の煮凝り。

 

 懐かしき、硝煙の香りが漂うそこ。

 

 

 

 第二の母という名の獣。

 

 大人気性癖歪曲型特撮。

 

 仮面魔法ウマママ少女ライダー。

 

 ヒシアマゾンの職場である。

 

 

 

 スタジオと外界を繋ぐ、扉を前に暫し躊躇う。

 

 特撮と、教育番組は違う。

 

 幼き頃に見た、舞台女優の夢。

 

 自分は本当に、スターとしての華を、可憐に咲かせることが出来るのか。

 

 

 

 だが、もう迷わぬ。

 

 愛玩動物に堕ちるのか。

 

 華々しい二度目のメイクデビューを飾るのか。

 

 考えるまでもなく、後者である。

 

 

 

 何、以前我が古巣に訪れ、彼女が性癖を大胆に輸入してきたのだ。

 

 逆輸入が禁じられる道理など、有りはせぬ。

 

 テイエムオペラオーとも知らぬ仲でも無い。

 

 採用される公算は、極めて高いと言えるだろう。

 

 覚悟を決め、栄光への道を駆け抜けよう。

 

 

 

 「頼もう!」

 

 意気揚々とスタジオの扉を開ける。

 

 

 

 「アマさっ! おいがごと、撃てィっ!」

 

 「そんな、窮兵衛! アタシにそんなこと……!」

 

 「既に陰腹ば切っちょる……! 余命幾ばくも無かっ! 気にせず撃てィっ!」

 

 「アタシ……! アタシは……!」

 

 

 

 おっと。撮影中だったようだ。

 

 だが、こちらには気付いておらぬ。

 

 丁度良い。彼らのお手並みを拝見し、この将来の大女優。

 

 ハルウララの糧としてくれようではないか。

 

 

 

 そこらに立っていた若造に、椅子を要求する。

 

 直ちに準備される、丁度良いサイズの椅子。

 

 おまけにペロペロキャンディーまでついてきた。

 

 

 

 出来ておる小童だ。

 

 メイクデビューの暁には、付き人として雇ってやろう。

 

 メイクさんらしきウマ娘や、スタッフの皆様を侍らせつつ。

 

 撮影の行方を見守ることとする。

 

 

 

 うむ。撫ではあまりうまくない。

 

 やはり、飼い主たちによる撫では別格である。

 

 考えつつ見ていると、撫での腕が追加される。

 

 

 

 ぬぅ。セプテットなでなでとは。

 

 学園の小娘どもにやられた以来。

 

 あやつら、大先輩をなんと心得る。

 

 思わず愛嬌を振り撒き、危うく持ち帰られかけた。

 

 苦い思い出である。

 

 

 

 「窮兵衛……アンタが居ないと、アタシ、どうすればいいのさ……!」

 

 「アマさ……おいどんのやっめは終いぞ。

 あかごんこがおる。とのじょもおる」

 

 「窮兵衛……」

 

 「そいどん、おいどんを哀れば思うなら……最期に! 

 そん胸を チェストのママに パイタッチ!」

 

 「惨たらしく死にな」

 

 

 

 タンッ! タァンッ! 

 

 

 

 薩摩川柳に対するアンサーは、銃声だった。

 

 魔法少女局中法度に触れたためだ。

 

 パイタッチは死罪である。

 

 

 

 レミントン式デリンジャーは、二連装。

 

 一発を窮兵衛に。もう一発も窮兵衛に。

 

 窮兵衛が羽交い絞めにしていた悪役は、こそこそと逃亡を開始した。

 

 

 

 ベビーカーから離れつつ。

 

 赤ちゃんの安全を第一とする気遣いを見せて射撃する。

 

 

 

 「ぬおぉぉぉ! そげなもん、効かぬ!」

 

 

 

 だが、恐るべしは薩摩隼人の頑強さ。

 

 もし薩摩ゾンビなるものが存在したならば。

 

 シューティングゲームのクリアは困難だろう。

 

 

 

 ちなみに、ここで言う薩摩隼人とは、この作品において限定的に生産される亜種。

 

 アマゾン原産のマスコットを言う。

 

 通常の鹿児島産の薩摩隼人では無い事を、留意した上でお楽しみ頂きたい。

 

 

 

 「チィッ! リロード!」

 

 だが仮面魔法ウマママ少女ライダーに死角なし。

 

 デリンジャーの装弾数問題など、シーズン1でとうに克服している。

 

 まずはバレルのホールドをリリース。

 

 

 

 「キエエエエエエエィッ!」

 

 猿叫と共に襲いかかるマスコットを躱し。

 

 身を沈め、後ろに大きくバックステッポ。

 

 着地した瞬間、母性の証が大きく揺れ。

 

 谷間から宙に放られる、ふたつの鈍色の輝き。

 

 

 

 腕を大きく振り、銃身に新たな母性を籠め。

 

 ロックを掛けて装填完了。

 

 

 

 魔法少女の不思議な魔法のひとつ。

 

 マジ狩る☆リロードである。

 

 

 

 「いい加減にくたばりなっ!」

 

 タン! タァンッ! 

 

 

 「リロード!」

 

 ぶるんっ! カチンッ! 

 

 タン! タァンッ! 

 

 

 「さらに!」

 

 ぶるんっ! カチンッ! 

 

 タン! タァンッ! 

 

 

 「おまけだっ!」

 

 ぶるんっ! カチンッ! 

 

 タン、タァンッ! 

 

 

 

 連続する銃声。

 

 サービスシーンも兼ねる、一石二鳥のリロード。

 

 叩き込まれた母性の数は、10を数えた。

 

 だが、邪悪なるマスコットは健在だった。

 

 護身用の拳銃では、火力に欠けるためである。

 

 

 

 「効かぬっ! 日ノ本のさぶらいに、そがぁな豆がごってっぽなぞ!」

 

 

 

 ハルウララは思った。

 

 自動拳銃使えよ。

 

 

 

 「しぶといねぇ! マジ狩る☆倍駆ッ!」

 

 

 

 ズドムッ! 

 

 

 

 仮面魔法ウマママ少女ライダーの背後から現れ。

 

 大胆にマスコットに正面衝突する、操縦者不在の鉄の獣。

 

 ライダー要素だ。

 

 

 

 「ぬおぉぉぉっ! チェストォォォォ!」

 

 メキメキ……ドガァンッ! 

 

 

 

 だが、敵もさるもの。

 

 奥義・薩摩式鯖折りで、瞬く間に不埒物を始末する。

 

 

 

 ハルウララは腰をさすった。

 

 見ているだけでトラウマが刺激されたためだ。

 

 

 

 「さすがは窮兵衛……! シーズンごとに強化される! さすがはアタシの相棒さね!」

 

 「フシュウウウウウウウウウウ……

 いざ! 参らん! 天下無双のもののふの! 

 願いは常に、ただ一つ! 

 パイタッチの他、あるわけなかぁぁぁぁぁ!!」

 

 ドドドドドドドド。

 

 

 

 マスコットによる突進。

 

 彼の真の得手たる、アマゾン示現流は、封じられている。

 

 叩っ斬ると、パイタッチが楽しめないためだ。

 

 だが、その突進の圧力。

 

 まるで千の悍バの狂奔が如く。

 

 捕まれば、貞操は危ういだろう。

 

 

 

 仮面魔法ウマママ少女ライダーから。

 

 不倫魔法ウマママ少女ライダーにタイトルが早変わり。

 

 さすがにウマ娘警察特捜部の目溢しは期待できぬ。

 

 

 

 バクシン式拷問術により。

 

 テイエムオペラオーがアイアンメイデンに封じられる事態となる。

 

 アイアンオペラオーである。つよそう。

 

 

 

 流石の彼女も、バクシン式拷問術を味わうのは、月に5度が限度。

 

 それ以上の拷問は、マゾ性癖を開発される恐れがある。

 

 世紀末覇王とて、絶対無敵ではないのだ。

 

 

 

 だが、この程度のピンチなど、毎度の事である。

 

 彼女は慌てず騒がず、一度離れたベビーカーに近寄る。

 

 そのまま赤ちゃんを保護する覆いを取ると。

 

 怪物が姿を現す。

 

 

 

 束ねられた銃身が誇らしげに輝き。

 

 鋼の暴風の到来を予感させる。

 

 リチャードによる、一騎トーセン、ジョーダンのような兵器。

 

 

 

 そう。薩摩隼人にはガトリング砲。

 

 西と南の戦争で、特効作用が実証されている。

 

 

 

 そもそも、コンプライアンスをこそ重視するこの作品において。

 

 特撮の撮影という言い訳があったとしても、赤子を戦場に出演させる訳が無い。

 

 代わりにガトリング砲を出演させる。

 

 当然の心遣いである。

 

 

 

 ヒシアママのお腹もすっきりしている。

 

 妊婦のバトルシーンなど、論外も良いところ。

 

 幼子の性癖が歪みかねぬ、乱行である。

 

 コンプライアンスを軽視しては、ならぬのだ。

 

 

 

 「マジ狩る☆雅糖☆輪具ッ!」

 

 「おのれ! ガトリング斎ィィィィィィ!!」

 

 「ガトガトガトガトガトガトガトガトガト!!!」

 

 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ! 

 

 

 

 金に汚そうでそれでいて黄金の精神を感じさせる叫び。

 

 火力は十分と言えるであろう。

 

 やはり連射速度は正義である。

 

 尚、宝具名は、ドーナツ紳士の商品から着想を得たということになっている。

 

 

 

 仮面魔法ウマママ少女ライダーは、ベビーカーのハンドルを大胆にブン回し。

 

 この世界では、合法となったガトリングの威容。

 

 誇らしげなそれを、亡き武田観柳斎に見せつける。

 

 

 

 勿論、新撰組の五番隊組長である。

 

 彼は没後70年を越えている。

 

 著作権が失効しているのだ。

 

 そのため、遠慮なく作品にご芳名を記載することが叶う。

 

 もちろん、故人に対するリスペクトは忘れてはならない。

 

 ジーク新選組。

 

 その眼鏡、似合ってますよ。

 

 

 

 ガガガガガガガガガガガガガガチンッ。

 

 「ガトガトガトガトガ……チッ。弾切れかい」

 

 辺りに漂う硝煙の香り。

 

 これには彼の拝金主義者も、草葉の陰で喜んでいることだろう。

 

 彼の活動は無駄では無かったのだ。

 

 

 

 「チェストォォォォォォォォォ!!!」

 

 だが。

 

 悪は滅んでは居なかった。

 

 呆れた耐久性である。

 

 

 

 恐らくそれを犠牲にして、凶弾から身を守ったのであろう。

 

 手には柄だけとなった、彼のトレードマーク。

 

 不殺の誓いを示す、逆刃刀が。

 

 悪人とて、更生する機会は存在する。

 

 その事を現しているのだ。

 

 

 

 「やっぱい、同田貫以外はいかんっ!」

 

 ガランッ。

 

 

 

 そして今まさに、雑に投げ捨てられた。

 

 悪人と性癖に更生する機会は存在しない。

 

 当然の事実を教えるためだ。

 

 そのママ、その魔手を、ついにヒロインへと……

 

 

 

 「逃ィげるんだよォッ!」

 

 そしてヒシアママはそのままケツを捲って逃亡を開始した。

 

 三十六計逃げるに如かず。

 

 

 

 薩摩隼人と言えど、ウマ娘に速度で追い付ける筈はなく。

 

 彼は、そのまま思う存分走り。

 

 寂寥感と出血多量に、その息を引き取った。

 

 

 

 マスコットは雑な扱いを受ける。

 

 これもまた、世界の真理である。

 

 いわんや、オリキャラであれば猶更である。

 

 

 

 「アタシにタイマンで勝とうなんざ、十年早いんだよッ!」

 

 ヒシアママは、途中で何の意味もなく破れたライダースーツを誇らしげに晒し。

 

 中破して入渠待ちのその肢体を存分にサービスしつつ。

 

 正々堂々闘う事の素晴らしさを、全ての子供たちに伝えたのだ。

 

 

 

 愛と勇気と重火器。

 

 そして、ウマ娘ならではの種族特性を活かした戦法。

  

 正に、コンプライアンスの勝利である。 

 

 

 

 ハルウララは、歓待という物を心得ているスタッフどもに頭を撫で繰り回されつつ。

 

 思わずその場に立ち、スタンディングオベーションを捧げた。

 

 素晴らしい。

 

 

 

 窮兵衛の駆除。獅子身中の虫を見逃さぬ、目配り。

 

 当初の悪役の逃亡。細かい事は気にはしてはならぬという、戒め。

 

 巨峰リロード。クソが。

 

 ガトリング砲の登場。火力は正義。

 

 ガチ逃亡による、薄汚い勝利。好みだ。

 

 コンプライアンス。知らぬ。

 

 

 

 ここだ。ここでこそ、自らは才能を開花させることができる。

 

 そうと決まれば、責任者に擦り寄らなければ。

 

 枕営業はせぬ。

 

 この愛嬌溢れる100万ドルの笑顔があれば、ベッドなど飾りである。

 

 どれ、テイエムオペラオーは……

 

 きょろきょろとあたりを見回すと、撮影セットの前。

 

 そこには学生時代に見慣れた姿。

 

 

 

 「バックシーン!!!」

 

 サクラバクシンオーである。

 

 ウマ娘警察の象徴。

 

 ミニスカート制服から覗くふとももが、目に眩しい。

 

 痴漢電車での囮捜査が得意そうだ。

 

 

 

 そして、彼女が台車に乗せているのは。

 

 「ハーッハッハッハッハッ!」

 

 アイアンオペラオーである。

 

 クソ映画及びクソドラマの象徴。

 

 鋼鉄の処女が流す血涙が、目に眩しい。

 

 既に封印済みなようだ。 

 

 

 

 なんということだ。

 

 自分のスターへの踏み台を、バクシンメイデンするなど。

 

 やはり国家権力は敵だ。そう思いつつ。

 

 鼻息も荒く、サクラバクシンオーの前に立ちふさがる。

 

 

 

 「おや? ウララさんではないですか! 何故ここに? 

 小官はこれから、常習犯に反省を促すダンスを踊らせるところです! 

 まさか、ウララさんも共犯ですかっ! 

 このサクラバクシンオー、身内の犯行はさらに苛烈なバクシンでもって! 

 全身全霊で拷問致しますッ! 委員長ですからっ! 訂正ッ! 

 ウマ娘警察ですからッ!」

 

  

 

 わかっておらぬ。自分はまだ無実だ。

 

 わからせてやらねばなるまい。

 

 何、このハルウララの威光を以てすれば。

 

 バクシン式捜査術など敵ではない。

 

 珍しく真面目な顔をした彼女に、毅然とした態度で告げる。

 

 

 

 「へへぇ……」

 

 

 

 諂いの笑み。

 

 クリークママといっしょを、数々の放送禁止の危機から救った奥義である。

 

 

 

 「……なるほど! 共犯ではないようですねっ! 

 それでは小官はこれにてっ! バックシ──────ーン!!!!!!!!!!」

 

 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロズガン。

 

 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ×2。

 

 

 

 元スプリンターらしい、凄まじい初速でスタジオの扉に向かい。

 

 アイアンオペラオーを途中で大胆に床に放逐しつつ。

 

 彼女は去っていった。ちょろいもんである。

 

 

 

 こちらに転がり迫る、アイアンオペラオー。

 

 「ハーッハッハッハッハッ! 彼女は相変わらずだねぇ! スカウトしたい!」

 

 目の前で拷問器具の回転が止まり、中から陽気な声が響く。

 

 罪の意識はゼロのようだ。さすがは我が監督である。

 

 

 

 彼女をアイアンメイデンから救出させる。顎をしゃくる。

 

 嫌そうな顔で、バ鹿を取り出し、タオルで拭いていく我が取り巻きども。

 

 終われば褒美になでなでさせてやらねばなるまい。

 

 

 

 「おっと。ウララじゃないか! どうしてここに? 

 クリークの番組はいいのかい?」

 

 

 

 おっと。当座の共演者のご登場だ。

 

 実は、かくかくウマウマ。

 

 

 

 「……なるほど。事情はわかった。クリークも薄情だねぇ。

 同じママとして、ちょっと幻滅しちゃったよ。

 よしっ! アタシに任せなっ! 

 先輩として、ウララを立派な特撮ヒロインにしてやろうじゃないかっ!」

 

 

 

 よし。計算通り。

 

 この全自動甘やかし装置が、突然の失職に震える、可哀想でかわいいこの身を。

 

 放っておく訳がない。女優デビューは確定である。

 

 

 

 「そうと決まれば配役だねっ! オペラオー、空いている役は?」

 

 「ふむっ! よくわからないが、ウララ君か! 久しぶりだねっ! 

 相変わらず、ブリリアントなロリ具合ッ! 

 ドトウはそちらの番組では……ああ。

 怒涛丸鶏が人気沸騰したから、出ていないんだったね。

 勿体ない。彼女の輝きを理解できるのは、やはり終生のライバルたるボク! 

 この世紀末覇王しかいないようだね! 

 今度、新しい映画に出演を打診してみようっ! 

 実は、今度令和おなか合戦・奔放鼓! の続編をだね……」

 

 

 

 べらべらと捲し立てるオペラオー。

 

 ウマの話を聞かず、突っ走るのはいつものこと。

 

 

 

 ただ、クソ映画の続編。

 

 名作ですら、続編がつまらなくなるリスクは常に付きまとう。

 

 いわんや、狂乱のクソ映画の続編である。

 

 今度はどんな鮫が宙を舞うのか。

 

 ミソジドクシンオーの出演は。

 

 

 

 話を大胆に聞き逃しつつも、メイショウドトウの息災を祈る。

 

 乳がもげろ。

 

 

 

 「……というわけで、蟲毒のグルメと、狸汁をだね……」

 

 「オペラオー。そろそろ本題に入らないかい?」

 

 

 

 なるほど。たぬ吉さんの身が危うい。

 

 まぁ畜生の味噌汁など、些細なことである。

 

 ヒシアママの援護射撃。

 

 ようやくメイクデビューが決まるようだ。

 

 

 

 「ああ。仮面魔法ウマママ少女ライダーへの出演かい? 

 もちろん、大歓迎だとも! 

 実は、マスコットの役が来週まで空いていてね……

 窮兵衛は頑丈だが。

 さすがに治るまではしばらくかかるんだ」

 

 「いい考えだね。ウララは頑丈だし。

 ガトリング砲の次は、アームストロング砲を考えていたんだよ。

 やっぱり火力は正義だからね」

 

 「ガイドラインを読み直せ」

 

 パンッ! パァンッ! 

 

 「ンあッ! 天凛を感じさせるッ……! 

 仮面魔法ウマ違法ロリライダー、デビュー決定ッ!」

 

 「あひぃっ! タイマン勝負はアタシの惨敗ッ! 

 窮兵衛には包帯巻いとこう! これから共演、よろしくねっ!」

 

 

 

 バ鹿どもめ。

 

 ウマ娘を苦痛に喘がせるのは、禁忌である。

 

 加湿器の骨折芸が許されたのは、飽くまで原作。

 

 しかもストーリーライン上致し方無い、史実再現。

 

 あれがダンプに轢かれていれば、非難轟々だっただろう。

 

 

 

 二次創作では、繊細な忖度が必要なのだ。

 

 アームストロング砲をウマ娘にブチ込んではいけない。

 

 当然の気遣いである。

 

 先程の鋼鉄の処女の血涙も、勿論血糊である。

 

 

 

 反省を促す連続乳ビンタを叩き込み。

 

 ハルウララは遵法精神を高めた。

 

 

 

 身を翻し、思う。

 

 ここも我が理想の職場では無かった。

 

 なんだか異例の大抜擢を告げられた気がしたが、恐らく気のせいだろう。

 

 次なる職場を探すとしよう。

 

 

 

 名残惜しげななでなでを受けながら、勇者は歩む。

 

 次なる戦場へ。

 

 

 

 その身に秘められた力。

 

 果たして天使の祝福か。

 

 はたまた悪魔の禁忌か。

 

 覚醒の日は近い。

 

 

 

 

 

 

 つづかない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけの蛇 その頃のおうち

 

 

 「さて、ママ。言い訳を伺いますわ」

 

 「プリンセス。ママを正座させるのは、ちょっとどうかと思うの……」

 

 「良いですこと!? ママ! この書き置き! 完全に家出ですわ!」

 

 

 

 お姫さまの手が握る、一枚の便箋。

 

 『探さないでください。ペットは勘弁』

 

 かわいらしい丸文字で、そう書いてある。

 

 

 

 「しかもなんですの!? この首輪ッ!」

 

 もう片方の手には、首輪。

 

 『うらら』とネームプレートに刻印してある。

 

 ゴツくて重い、ニクいやつ。

 

 

 

 なんということか。

 

 愛しの妖精は、ポジション変更の予感に。

 

 この家を出て行ってしまった。

 

 

 

 首輪は時期尚早すぎる。

 

 自分のトレセン学園入学直前と考えていたのだ。

 

 寮生活に入るまでに、完全に堕とすつもりだ。

 

 

 

 まったく、愛しの妖精をペット扱いとは。

 

 我が母ながら、何を考えているのか。

 

 多分何も考えていない。

 

 恐らくいつものポンコツだろう。

 

 

 

 連れ戻す事は確定している。

 

 逃がさぬ。絶対に。

 

 このプリンセスの涙目おねだり攻勢。

 

 駄々甘な彼女が断れた試しなど無い。

 

 

 

 だが、その前にこのポンコツにお説教をしておかねば。

 

 再度の家出は十分あり得る。

 

 とっとと今回はどんなすっとんきょうをしたのか、吐くがいい。

 

 

 

 「う、ウララさんも早とちりよね? 

 その首輪、犬用なの……実は、今度犬を飼おうと思って。

 気が逸って、首輪だけ先に買ってしまったの。

 ほら、お仕事をやめると、子供たちと遊べなくなるから。

 寂しいかなーと思って。可愛いわよね。わんこ。

 ねぇ、そろそろ足を崩して良い?」

 

 

 

 痺れる足を気にしつつ、上目遣いのポンコツ。

 

 

 

 「駄目ですわ。うららって書いてあるのは?」

 

 「ふ、フユウララ。わんこの名前。

 実は、プリンセスが名前を授からなかったら。

 その名前を着けようと思ってたの。

 ママ友の間で流行ってるのよ。親友のお名前をもらうの。

 足が。プリンセス。ママの足。もう限界」

 

 

 

 足をちゃっかり崩しながら、ウマホを見せてくる。

 

 一件のメール。

 

 

 

 『お久し振りです。

 キングさんはお変わりありませんか。

 ウララさんとプリンセスちゃんも、お元気ですか。

 

 最近、我が家にも可愛い天使が産まれました。

 名前は授からなかったため、スマートワンと。

 親友のファル子さんのお名前を頂きました。

 ええ。親友ですから。愛してます。

 

 ところで最近のファル子さんの様子はどうでしょう。

 前回以降の収録分、楽しみにしております。

 あと新しいシングルやファングッズがありましたら。

 是非とも送ってください。

 代金はいつも通り、スイス銀行に。

 あなたの友人改めママ友 フラッシュより』

 

 

 

 なるほど。内通者はここに居た。

 

 こやつ。番組を毎日見ておきながら。

 

 あの猛禽類の憎悪に、欠片も気付いておらぬ。

 

 

 

 我が母ながら、サイコパスにも程がある。

 

 というか本人に了解を取らずに名前を使うな。

 

 著作権を何と心得る。

 

 

 

 しかしながら、例の彼女も大概ヤバい。

 

 愛情が完全に歪んでいる。

 

 まさか、略奪愛の理由は。

 

 

 

 「さ、さーて。お夕飯の支度をしないと」

 

 「ママ!? お話はまだ終わっておりませんのよ!?」

 

 

 この母。隙を見て勝手に立ちおった。

 

 なんてやつ。まぁ、事情は分かった。

 

 妖精を探しに行かねば。

 

 

 「心配し過ぎよ。プリンセス。ウララさんは必ず帰ってくる。

 誤解させたことは、その時謝るわ」

 

 

 母の声に足を止める。

 

 こやつ、彼女を信頼し過ぎている。

 

 純真過ぎるのも考えものである。

 

 あまりに何もかもを、信じすぎるポンコツ天使。

 

 

 

 「もうっ! 何故、そう言いきれますの? ペット扱いされると! 

 そう、思ってるんですのよ!? 普通、愛想を尽かせますわっ!」

 

 

 さすがにここまで言えば、気付くであろう。

 

 だが、痺れた足を擦り、下を向く母。

 

 彼女が気にする様子は無い。

 

 

 

 「だって、親友ですもの。

 私、昔にね。ウララさんにもっと酷いことをしたわ。

 あの時も。ずいぶん長い間、待ったけれど。

 最後は私の元に、帰ってきてくれたもの。

 信じてるもの。ウララさんは、私の物よ」

 

 

 

 下げていた顔を上げて、にっこりと笑う母。

 

 愛しの妖精よりも、尚幼く映る。

 

 愛情に満ち溢れた、無垢なる天使のような笑顔。

 

 

 

 だが。恐らく。この世界に存在する、何よりも。

 

 誰よりも。とてもとても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サタンは、天使の姿を借りて現れるという。



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ハルウララさんじゅういっさい そのにじゅうに 源平合戦待ったなし

今回の元ネタは源平合戦。
あとは紅茶と産駒実績。念能力を添えて。
日本の戦記物には、結構馬の表現も多いですよね。
さぁ、またまた新キャラ登場です。
実は彼女、ウマ娘で一番好きなキャラなんですよ。


~前回までのあらすじ~

 

 次なるリクルート先を求めるハルウララ。

 

 二件目はこの頃流行りの仮面魔法ウマママ少女ライダー。

 

 ヒシアマゾンの撮影現場。

 

 スタッフを即座に配下と化し、見学を試みる、未来の大女優。

 

 マスコットの示現流。

 

 響く銃声、轟く猿叫。

 

 その果てに現れる、明治ガトリング浪漫譚。

 

 感銘を受けた彼女は、銀幕での二度目のメイクデビューを決める。

 

 だが。現実は甘くない。

 

 バクシンメイデンされた監督。

 

 打診されるアームストロング砲。

 

 胸への闘魂注入により、バ鹿どもにガイドラインの重要性を言い聞かせ。

 

 彼女は次の職場へ向かう。

 

 待っているのは、果たして……

 

 あとキングちゃんがなんかすげーサタンした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「つ、疲れた……」

 

 そんな声を漏らす違法ロリ。

 

 

 

 人語で辞世の句を告げる、キモくて美味い鳥。

 

 珍奇なガンアクションをする外道ママと薩摩隼人。

 

 SAN値直葬待った無し。

 

 このまま次のリクルートは、精神状態が危うい。

 

 

 

 ここは休憩するべきだろう。

 

 そういえば、面接時の当然のマナーとして、ウマホを走行モードにしていた。

 

 ウマ娘専用レーンがあるこの社会では、必須の機能である。

 

 加湿器の芸を、交通事故で再現するわけにはいかぬのだ。

 

 コンプライアンスに違反してしまう。

 

 

 

 「Оh……」

 

 アメリカンな驚嘆の声が漏れる。

 

 ウマホの画面には大量の着信。

 

 

 

 『サイコパス』、『愛娘』、『牛』、『愛娘』、『バ鹿』、『愛娘』。

 

 『ゲルマン怨霊』、『愛娘』、『社会主義の権化』、『愛娘』、『AV女優』。

 

 『愛娘』、『クソ映画』、『愛娘』。『骨なしチキン』、『愛娘』。

 

 『ツバメ』、『愛娘』、『国家権力の猪』、『愛娘』。エトセトラ。

 

 

 

 その他諸々の着信が、数百件溜まっている。

 

 愛娘の着信件数が些か多いが、親離れできぬ年頃なのだろう。

 

 かわいいヤツである。

 

 しかし、まだ帰るわけにはいかぬ。

 

 このままエロめの哀願動物に堕ちるわけにはいかぬのだ。

 

 せめて内定を貰わねば。

 

 

 

 でもちょっと休憩してから。

 

 商店街でせしめたコロッケをぱくつきつつ、ゲームセンターに入る。

 

 あの場のアイドルたるこの身は、愛想を振りまけば食うには困らぬのだ。

 

 屋根としま〇らさえあれば、生きていける自信はある。

 

 どうしようもならなくなれば、ツバメの巣に転がり込もう。

 

 

 

 さすがは公威さんの旦那さん。いい味をしている。

 

 大恋愛の後に、見事婚姻を果たした、肉屋の薔薇カップル。

 

 性的嗜好はイカれているが、陸軍仕込みのコロッケの味は良い。

 

 

 

 ならば多少の狂乱には目を瞑るのが、大人の女である。

 

 だがうちの娘にゲイチャイチャを見せつければ殺す。

 

 覚悟を決めつつ、自動ドアをくぐる。

 

 

 

 「クソわよっ! なんですのこのキャラッ! しゃがみガード貫通なんて! 

 見てから昇竜余裕でクソがッ!」

 

 「ゲームでも、あたしが一番待った無しッ!」

 

 

 

 おっと。知り合いの声だ。

 

 この、ゲーミングなお嬢様風言葉遣い。

 

 トップを常に狙い続ける、事業仕分けの大敵。

 

 あの二人で確定だろう。

 

 源平合戦のような、格ゲー対戦。

 

 

 

 「コンティニューですわっ! 貴顕の使命はこの胸にっ! エドモンド増田は最強なんですのっ!」

 

 筐体に硬貨を叩き込む、薄い胸のウマ娘。

 

 そのような物、入る余積が有るようには見えぬ。

 

 

 

 そう……平氏の郎党・平熱盛の愛バ。

 

 連銭葦毛ならぬ、連コ葦毛。

 

 紅茶とスイーツが大好きな、黒い噂が絶えぬ一家の当主。

 

 メジロマックイーンである。

 

 

 

 彼女を見るたびに思う。

 

 何故、まだグランブルー〇ァンタジーに出演しておらぬのか。

 

 あの絶壁栗毛ですら胸を盛られるあのゲーム。

 

 彼女のコンプレックスを解消する良い機会だと思うのだが。

 

 

 

 対するは。

 

 

 

 「あたしが負けるッ!? 絶対にノウッ! 女王は常にこのあたしッ! カサブランカ、君に決めたッ!」

 

 レバガチャにてクリークママに匹敵する山脈とぶっといふとももを、震わせるウマ娘。

 

 そのマグニチュードは、このハルウララへの嫌味か。

 

 

 

 そう……源氏の郎党・羆谷直実の愛バ。

 

 権田栗毛ならぬ、ごん太栗毛。

 

 勝利の二文字が何より好きな、子沢山な一家の若奥様。

 

 ダイワスカーレットである。

 

 

 

 彼女を見るたびに思う。

 

 何故、まだラストオ〇ジンに出演しておらぬのか。

 

 ふとももの太さが戦闘力を決めるあのゲーム。

 

 ウルトラレアは堅いと思うのだが。

 

 

 

 「オラッ! エドモンド! 暗黒大相撲奥義・ピストルですわッ!」

 

 「ソラッ! カサブランカ! アマゾン示現流奥義・ロシアン肝練りよッ!」

 

 

 

 そして決着が着いた。

 

 もちろん、勝つのはごん太栗毛。

 

 歴史再現というものである。

 

 

 

 アマゾン原産の薩摩隼人が天井から吊り下げ、ブン回した火縄銃。

 

 回転を止めたそれが火を噴き。

 

 拳銃をまわしから取り出そうとした、暗黒横綱の胸板を貫通した。

 

 ピストルでは火縄銃には勝てぬ。

 

 自然の摂理というものである。

 

 

 

 「おファ〇クですわっ! このデブ、クソも使えませんわっ!」

 

 「ふふんッ! あたしが一番なんだからッ!」

 

 

 

 勝鬨を上げるダイワスカーレット。

 

 遠吠えをするメジロマックイーン。

 

 もはやメジロマックEーンと言えるだろう。

 

 育成失敗である。

 

 敗因はホープフルステークスでの逆噴射だ。間違いない。

 

 

 

 「二人とも、元気そうだねっ!」

 

 明るいウララちゃんによる挨拶。

 

 これにはさすがに気付くであろう。

 

 

 

 「さぁ! 勝負は始まったばかりっ! 今の所、100戦5勝95敗ッ! 

 メジロの勝負はここからですわっ!」

 

 「200勝まで終わらないッ! あたしの一番、魅せてあげるッ!」

 

 

 

 気づいておらぬ。こやつら、熱中しすぎ。

 

 三十路を超えているとは思えぬ大人げなさである。

 

 

 

 「ママ、また負けず嫌いが発動してる……」

 

 「教育を何だと思ってるのかしらねー」

 

 「パパには負けっぱなしなのにね」

 

 「あれはわざと負けてるんだよ」

 

 「あのダサいマスク、いつの間に消えてたね」

 

 「この前ゆう〇ックに出してたよ」

 

 「あれ持って帰って来たの、メモリーが産まれた後だっけ」

 

 「いやぁ。エトワールの時じゃない? 5年前でしょ確か」

 

 「おぎゃあ!」

 

 「ばぶー」

 

 

 

 ゲーミング栗毛の背後には、10の幼児と赤子ども。

 

 ぴーちくぱーちく好き勝手に囀っている。

 

 全員彼女の実子である。

 

 彼女はやたらと子沢山なのだ。

 

 

 

 あと三十路独身怪鳥恥ずかし固め事件の犯人が、今明らかとなった。

 

 髪染めと、ティアラの有無だけでも気づかない物である。

 

 どうせ旦那に、リングで輝く君が見たいとでも言われたのだろう。

 

 彼女の世界は、旦那様を中心に回っているのだ。

 

 

  

 どれ。幼子は嫌いではない。

 

 ゲームに夢中な栗毛に放置されている、彼奴めらの相手でもしておくか。

 

 

 

 「みんな、おひさしぶり」

 

 

 「「「「「「「「ウララおばさんだっ!」」」」」」」」

 

 「「ばぶー!」」

 

 「お前らの身代金って、纏めて幾らになるのかな」

 

 「レジェンドッ! ママに抱き着いて気づかせてっ! 目がマジよっ!」

 

 「レーヌお姉ちゃんはっ!?」

 

 「ここで食い止めるッ……! あたしが一番ッ!!! お姉ちゃんなんだからっ!」

 

 「遺伝子濃すぎィッ! ママッ! 集団児童誘拐の危機ッ!」

 

 

 

 おやおや。冗談だったのだが。

 

 二番目の子の必死のハグに、ごん太ママが振り返る。

 

 

 

 「あら。ウララじゃないの。お久しぶり。まだ独身?」

 

 「月の無い夜には気を付けろよ」

 

 「じょ、冗談じゃない……顔が殺人鬼よ。そんなに怒ることないでしょ?」

 

 「シャオラァッ! 誇りの勝利ですわぁッ!」

 

 

 

 連コ葦毛が、貴族の誇りの欠片も見えぬ、勝利の雄たけびを上げる。

 

 画面内では、ブラジリアン剣士が暗黒大相撲奥義・焼き入れにて。

 

 切腹を強要され、果てていた。

 

 情けない薩摩隼人も居たものである。まぁゲームだから致し方なし。

 

 

 

 「マックイーン! それはあたしの負けではないわ! ウララ―ストップよ!」

 

 「なんですのそれ。あら、ウララさん? おひさしぶりですわ!」

 

 

 

 筐体の向こうから、連コ葦毛が歩いてきた。

 

 メジロマックイーン。メジロ家当主。

 

 オラつきゲーマーと化しているが。

 

 れっきとした名家のご令嬢だった。

 

 10年前までは。

 

 

 

 『トレーナー……! トレーナー……!』

 

 『どうしたのさマックイーン。そんなに泣いて。また足痛めた?』

 

 『どうしたのマックイーンちゃん。ぽんぽん痛いの?』

 

 『テイオー……ウララさん……実は……

 トレーナーが、家中の者に連れ去られましたの……』

 

 『へぇ。いつかはそうなると思ってたけど……』

 

 『ライアンちゃん? アルダンちゃん? 大穴でパーマーちゃん? 

 やっぱり恋愛でもマックEーンしちゃったかー』

 

 『かなぐり捨てますわよ貴様ら』

 

 『貴族の誇りを?』

 

 『もう……誇りなんてクソですわ……! あんな裏切り……!』

 

 

 

 そう。メジロ家専属トレーナー。

 

 何故かメジロ家の全ウマ娘を担当することとなった、一般トレーナー。

 

 彼女たち全員に。恋慕の情を寄せられていた、彼。

 

 ハーレム物主人公のようななろうムーヴをカマしていた、彼が。

 

 同じメジロのウマ娘に、拐かされたのだ。

 

 

 

 『道理でドーベルとブライトとラモーヌも、そこでじめじめしてると思った。

 辛気くさいねぇ』

 

 『加湿器がそれ言っちゃう?』

 

 『おっ。いいのか? また有マの奇跡魅せちゃうよ? ボク』

 

 『また折れるぞ』

 

 『ウララさんは、全方位に喧嘩を売らないと気が済みませんの……?』

 

 『まぁ今に始まったことじゃないし……いいよ。あとでネイチャに慰めてもらうし』

 

 『うわぁ。ところで、今居ないのって、あの3人だけでしょ? 誰なの?』

 

 『あの3人じゃ、ありませんわ……今捜索隊として血眼で探しております』

 

 『んっ? メジロに他にウマ娘って居たっけ?』

 

 『居るではないですか。犯人はおばあ様ですわ』

 

 『『ババァ無理すんな』』

 

 

 

 そう。彼女は当時の当主に愛するヒトを奪われ、やさぐれ令嬢と化したのだ。

 

 まさかの大穴。120億円が紙切れになるよりもひどいオチである。

 

 トレーナーが熟女好きであることも災いした。

 

 

 

 捜索隊による相互協力型(ジョイントタイプ)の領域。

 

 紅茶を触媒にして顕現した、メジロ家秘奥義。

 

 『対空型パンジャンドラム』も、逃避行に使われた飛行機をパンジャンするだけに留まり。

 

 

 

 トレーナーの「このまま連れ戻されるぐらいなら、君と共に海に沈もう……」

 

 ヒロイン台詞に胸キュンしちゃったメジロ家当主。

 

 彼女の熟練のメジロ式泳法・愛情バタフライにより、振り切られてしまったのだ。

 

 

 

 今は彼らは、ドバイで悠々自適のイチャイチャライフを送っているらしい。

 

 一姫二太郎の幸せな家庭。

 

 メジロ家元当主。

 

 老いてなお、お盛んであった。

 

 

 

 「ケッ。ライアンもドーベルも。他の者どもも。

 家でじめじめしっとりテイオー。

 ゲームでもしなきゃ、やってられませんわ」

 

 「やさぐれたわよね、マックイーン。それでも当主? 

 呼び出されたと思ったらゲーセンなんて。

 あたし、子供の世話で忙しいんだけど」

 

 「おしぼり代で収入は十分です。

 新しい恋を探すのも、しばらくはいいですわ……」

 

 「そうして、二十年の時が経ったのであった……」

 

 「ウララさん。相変わらずブーメランがお得意なようで」

 

 「あ? 私は結婚しないだけだし。マックイーンちゃんと違って、娘もいるし」

 

 

 

 なんと失礼なやつか。

 

 ウマホの待ち受けにしている、愛娘の写真を見て、己が不明を悟るがいい。

 

 

 

 「カッコウの被害に遭った鳥ってこうなるのね……」

 

 「完全に洗脳されてますわね……そういえば、何故ゲーセンに?」

 

 「ああ、それは……」

 

 

 かくかくウマウマ。

 

 

 「あら。ならばメジロ家でメイドでもしませんこと? 

 週休無し。三食おやつ付き。住み込み可。

 仕事は三十路の量産型加湿器どもの世話。

 あとわたくしの格ゲーの相手と、おしぼり代の徴収ですわ」

 

 「それで頷くバ鹿、居る?」

 

 「お給料はクソほどあげますわよ。雇ったメイドたちも長くは続かなくて……

 今は主治医と爺やにメイド服を着せて、なんとかしています」

 

 「地獄絵図すぎる……」

 

 「メジロ家も終わりね……」

 

 彼らの忠誠心は、いったいどこから湧いてくるのか。

 

 

 

 「「「「「「「「ママ―。おなか減ったー」」」」」」」」

 

 「「ばぶー」」

 

 「あら。もうお昼? 熱中しすぎたわね……」

 

 「ママは勝負を持ちかけられると、我を忘れるもんね」

 

 「遺伝子が死ぬほど濃い、レーヌお姉ちゃんに謝って?」

 

 「なんで今あたしが煽られたの?」

 

 「とにかくー。早く帰ろうよー。パパに早く会いたい」

 

 「あわよくばキスしたい」

 

 「そのままベッドイン」

 

 「ママのミルクよりも、きっとパパのミルクの方が……」

 

 「やったぜ。さっさとゴーホーム!」

 

 「「ばぶー! ぱぱ!」」

 

 

 

 「……血を感じますわね。スカーレットさん。普段どんな教育を?」

 

 「あ、あたし何もしてないわ……

 トレーナーとラブラブチュッチュしてるだけよ。

 彼が家に居る間はずっと。たまに我慢できない時は、学園に押し掛けるけど」

 

 「幼い娘たちの前でやるなよ……」

 

 

 

 さすがは皇帝に次ぐレース実績。

 

 明晰な頭脳。

 

 さらにはその淫らな栗毛ぶりを評価され、生徒会長の座を受け継いだ女である。

 

 10人の娘たちにも、その栗毛は受け継がれているらしい。

 

 ハルウララは、教育の重要性を再認識した。

 

 やはり、教育番組は天職なのでは。

 

 ……ん? 教育? 

 

 

 

 「スカーレットちゃん。ベビーシッターとか欲しくない?」

 

 「えー。ウララお姉ちゃんがあたしたちの世話を?」

 

 「なんか独身がうつりそう」

 

 「幼児を砲弾にする以外の特技ある?」

 

 「選考結果は」

 

 「残念ながら、今回はご縁がなく」

 

 「貴殿のご期待には添えかねます」

 

 「せっかくご足労頂いたのに恐縮ですが」

 

 「ハルウララ様の、より一層のご活躍をお祈り申し上げます」

 

 「「ばぶー」」

 

 

 

 「スカーレットちゃん。放火魔とか欲しくない?」

 

 「教育の必要性を感じますわね……ある意味仕上がっておりますが」

 

 「こいつら、誰に似たのかしら……」

 

 「「あんただよ」」

 

 「でも、ベビーシッターはいい考えね……」

 

 「コイツ、また話を聞いておりませんわ」

 

 「なんでウマの話を聞かないヤツって、多いんだろうね……」

 

 「鏡、要りますこと?」

 

 「おいィ? どういう意味?」

 

 

  

 「……そうねっ! こいつらをウララに預ければっ! 

 トレーナーとイチャイチャし放題ッ! 

 新しい我が子が待ってるわっ! 今日から末っ子の成人まで、よろしくねっ!」

 

 「「「「「「「「「「大胆に 育児放棄を 目論むな」」」」」」」」」」

 

 パパパパパパパパパパワァッ!!!!!! 

 

 「あっひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! 母性の高まりを感じるわっ!」

 

 「「ばぶー……」」

 

 

 

 物心ついた実子どもと、特別移籍の贄になりそうな葦毛。

 

 さらにはこの母性の塊・ハルウララによる。

 

 相互協力型(ジョイントタイプ)の乳ビンタ川柳により。

 

 ダイワスカーレットの邪悪な企みは潰えた。

 

 だが、忘れてはならぬ。

 

 カッコウは、どこにでも存在することを……

 

 

 

 ハルウララは身を翻し、ゲームセンターを後にしつつ思う。

 

 また一匹のカッコウを始末した。

 

 だが、哀れな犠牲者はまだまだ存在するだろう。

 

 自分のような、隙の無い精神を持つ者ばかりではないのだ。

 

 彼らのためにも、世界の平和を守らねば。

 

 

 

 『夕飯までには帰る』

 

 そう、愛娘にメールを打ちながら。

 

 彼女は、次の就職先へと向かう。

 

 

 

 その手に宿る力。

 

 また新たな贄を喰らったそれは、不気味に胎動していた。

 

 

 

 

 

 

 つづかない

 




そういえば、ぺくしぼでひっそりと投稿している成人向けオリジナルを、はーめるんにもマルチ投稿することにしました。
成人済で興味のある方は作者マイページからどうぞ。


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ハルウララさんじゅういっさい そのにじゅうさん ラストバトル

最終回です。
やはり最後は、王道少年漫画の展開で。
魔王戦のBGMを流しつつ、お楽しみください。

私事ではありますが、小説を書き始めて7週間。記念すべき100本目がこれになりました。
後悔なんてしてない。


~前回までのあらすじ~

 

 ラヴクラフト汚染に息も絶え絶えのハルウララ。

 

 肉屋の文筆家のかわいいお婿さんからコロッケを徴収し。

 

 休憩のため訪れたゲーセンにおいて、更なる狂気をわんこそば。

 

 現代版源平合戦の始まりだ。

 

 連銭葦毛に権田栗毛。

 

 決着の後、羆谷次郎直実は、世の無常に出家を決意したが。

 

 そのような豆腐メンタルでは、この世界は生き抜けぬ。

 

 後退の二文字など、バックステッポ以外はありはせぬ。

 

 ハーレム物主人公は、間違った罪袋と化し。

 

 幼児どものシュプレヒコール。

 

 迫りくるカッコウの托卵。

 

 そして勇者は新たな被害者をかの害鳥から守るため、その場を去る。

 

 托卵された鳥は、幸せなのだろうか。

 

 答えはもちろんハッピーエンド。

 

 だって愛娘だもの。ウラを

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ついに、この時が来てしまった……」

 

 

 

 勇者が見上げるはラストダンジョン。

 

 長い長い旅路の果て。

 

 チルチルミチルはこう言った。

 

 幸福の青い鳥は、手の届く身近な魔王城にて貴様を待つ。

 

 

 

 そう……

 

 社会主義の牙城。

 

 性癖の墓場。

 

 勇者たるこの身を一度は地に堕とした、マ魔王の棲む魔窟。

 

 

 

 クリークママといっしょのスタジオである。

 

 

 

 「思えば長い旅路だった……」

 

 

 

 振り返るは、好敵手たちとの闘い。

 

 彼女に未来を託し、散っていった四天王。

 

 

 

 『怒涛丸鶏は、優しくですよ、ウララさん……』

 

 牛。

 

 

 

 『ハッハッハ! イグアカデミーは頂きさ!』

 

 クソ映画。

 

 

 

 『アタシとガトリングが憑いてるよ……』

 

 AV(アニメじみた性癖特撮ビデオ)女優。

 

 

 

 『おファ〇クですわ! レッツパンジャン!』

 

 特別移籍。

 

 

 

 『恥ずかし固めは、夫婦円満の秘訣よ……』

 

 カッコウ。

 

 

 

 三銃士の人数を間違える者が後を絶たぬように。

 

 四天王の数もまたフレキシブル。

 

 五条通りを歩く時。

 

 六つの幼子の童歌。

 

 すなわち。

 

 

 

 〇だけヤバめにつけておけ

 

 姐さん性癖タコ殴り

 

 もはやブッダも大満足

 

 

 

 十八の通りの名は堕ちた。

 

 つまり、そういうことだ。どういうことだよ。

 

 

 

 「よし……逝くか!」

 

 そして勇者は城門をくぐる。

 

 縄文時代以下の倫理を誇る、性癖の鮮血魔城へと至らん。

 

 

 

 

 

 

 

 「デトロ! 開けロイト警察だッ!」

 

 四天王の一人。

 

 仮面魔法ウマママ少女ライダーより借りパクしたデリンジャーを構え、突入する。

 

 魅惑の脚線美が物理的な威力を発揮。

 

 控室の扉が拉げて吹き飛ぶ。

 

 目にもの見せてくれよう。

 

 

 

 「長期の無断欠勤……! 誠に申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

 そのままスライディングしつつ土下座。

 

 摩擦熱に膝が熱い。

 

 もはや、腰が改善しようとレースには出られぬ身と化すかもしれぬ。

 

 だが、問題は無い。だって引退したし。

 

 

 

 初手謝罪は、社会人として当然のマナーだ。

 

 社会主義とは、こういうことなのだ。

 

 権力者の足は、積極的に舐めねばならぬ。

 

 猛禽類は正しかったのだ。

 

 

 

 「あらあらー♡ウララちゃん♡お元気そうで何より♡」

 

 「ウララッ!? まさか、安心沢より自力で脱出をッ!?」

 

 「ウララちゃんっ! 結婚しようッ!」

 

 「ウララ! 土下座ということは、おさわりオーケーッてことだね!? 

 あたし、萌えてきたッ!」

 

 「ウララ先輩っ!? 立て籠もったテロリストの鎮圧と、謝罪は両立するのか……

 やはり、二ホン文化はクレイジー……!」

 

 

 

 地面を舐める勢いで下げたぷりちーフェイスを、下げたママに考える。

 

 ……なるほど。やはり変態とシンザン者しかおらぬが、揃っているようだ。

 

 それぞれの声から、復帰の可能性を試算する。

 

 

 

 憎きニューフェイスは、二ホンで生まれ育ったくせに。

 

 どうやら文化の違いに戸惑っているらしい。

 

 二ホン文化の粋を集めた奥義。

 

 パワハラにて、ポジションの再奪取は容易だろう。

 

 

 

 セクハラは良くない。

 

 触られた瞬間、ラーニングしたマジ狩る☆リロードを活用し。

 

 穴あきチーズにしてやらねば。ヤツは発酵を通り越し。

 

 腐ってやがる。遅すぎたんだ。

 

 

 

 初手土下座のアンサーに、求婚を選ぶバ鹿がいるようだが。

 

 恐らく知らない猛禽類だろう。

 

 積極的にカッコウの巣から卵を強奪せんとする、摂理に反した怪鳥。

 

 ゲルマン怨霊が、容易く恨みを忘れるとは思えぬ。

 

 あとで45度の角度からのカラテチョップにて、真空管を直してやらねば。

 

 

 

 ツバメの声はやたらとキモやかだ。

 

 岩盤浴でもしたのだろうか。

 

 デトックスなぞすれば、骨も残らぬと思うのだが。

 

 まさかロリコンで無くなったわけでは無いだろう。

 

 尻に感じる視線がアツい。

 

 

 

 あとママの感情は読めぬ。

 

 恐らく、生物としての格の違いのせいだろう。

 

 

 

 「腰は既に治り申したッ……! 今すぐにでも働けますッ……!」

 

 

 

 「あらあらー♡もうちょっと休んでいても、いいんでちゅよ♡

 景色の良い所で、療養とか♡」

 

 

 

 なんと。これはもしや。

 

 シベリア送りは既に決定していたのか。

 

 考えてみれば当然だろう。

 

 彼の同志が、生産が出来ぬ者を、凄惨な目に遭わせぬはずが無い。

 

 

 

 プリンセス。おかあさん、もうダメかもしれない。

 

 だが。諦める訳には、いかぬ……! 

 

 愛玩動物を通り越し、木を数えちゃうおじさんと化す訳には、行かぬのだ……! 

 

 

 

 「そこを何とかっ……! このハルウララ、誠心誠意にてッ……! 

 クリークママといっしょを、二ホン一のクソ番組にする部品……! 

 理想社会のための歯車として、身を粉に致しましょうッ! 

 いえ、ならせて頂きたいッ……!」

 

 

 

 いかん。本音がちょろっと漏れた。

 

 だが、勢い任せは大得意。

 

 じゃじゃウマ娘の扱いは、お任せあれ。

 

 

 

 「……覚悟は本物のようですね。

 いいでしょう。ウララちゃん。復帰を許します。

 まず、役職ですが……」

 

 

 

 

 

 

 なんと。その腰をうっかり鯖折りし。

 

 逃がした勇者が、自分からまた我が懐に飛び込んできた。

 

 やたらとダイナミックな勢いで。

 

 

 

 このクリークの、偉大なる覇道への道。

 

 大人気乳児量産番組を、クソ番組呼ばわりは頂けぬが。

 

 自分から戻って来た、愚かで賢い青い鳥である。

 

 多少の粗相は寛大に許そう。

 

 

 

 まぁ、予想外ではあるが、問題ない。全てはこの偉大なる母の母性の内である。

 

 どのみち、来週には復帰を促すつもりであった。

 

 それが、早まっただけに過ぎぬ。

 

 

 

 スーパークリークは、にこやかにほくそ笑んだ。

 

 なんと愛らしいいきものか。

 

 やはり、コツコツと調教し続けたのが、実を結んだらしい。

 

 自分が胸を下すまでもなく。既に絶対服従の構え。

 

 これは、予定を早めるのも良いかもしれぬ。

 

 

 

 「やっぱりウマのお姉さん? 

 でも、困りましたねー♡もうウマのお姉さん役は、アフちゃんが居ます♡」

 

 「いや、私は別に、ここに就職を決めたわけでは……」

 

 「黙れ」

 

 「わんっ♡きゅーん♡きゅーん♡」

 

 

 

 腹を見せて服従の意を示す、アフガンコウクウショーを眺めつつ。みえた。はえてない。

 

 異邦の神の加護など、このマ魔王の眼力の前には無力。

 

 どう誘導したならば、この愛しい勇者を赤ちゃんに堕とすことが能うのか。

 

 思考を巡らせる。

 

 

 

 一度シベリアへ。否。

 

 

 

 狙う者が多い彼女の事だ。すぐに救出……いや、奪取され。

 

 逃げられかねぬ。

 

 二ホン国外では、さすがにこのママの威光も届かぬ。

 

 やたらとドイツ以外には活動範囲も広い、横の猛禽類も油断できぬ。

 

 

 

 昨日のお歌の時間。

 

 新曲『海底二万参り』。

 

 曲中で登場したフラッシュ脳散らす号。

 

 

 

 あれは、現存していると考えた方が良い。

 

 歌の中で、大破しておらぬ。

 

 帰港の理由は、酔っ払ったクルーと、本人の方向音痴だ。

 

 

 

 名も無き彼の者の愛船。

 

 そのスペックは、脅威の一言である。

 

 深海の底に籠城されたなら、自分とて手が出せまい。

 

 

 

 (コイツ、ほんとによくわからん生き物ですね……)

 

 

 

 能天気に勇者の復帰を喜ぶ、猛禽類を見て思う。

 

 なんでドイツに行こうとして、アトランティスの遺産を手に入れるのか。

 

 実はわざとやっているのではあるまいか。

 

 

 

 彼の閃光は、今は協力してやっているが、早めの損切りを考えねば。

 

 彼女に協力していることがバレれば。

 

 逆上した猛禽類の、オモシロ兵器により。

 

 我が魔城が崩壊しかねぬ。

 

 

 

 では、しばらくマスコットに封印を。

 

 失楽園ビースト君という名前はどうだろう。否。

 

 

 

 狂演する、他の畜生どもがまずい。

 

 

 

 まずがろうくん。

 

 ロリコンから進化し、合法及び違法ロリ限定のロリコンと化した、ヤツ。

 

 もはやこのスタジオに、彼のターゲットは2人しかおらぬ。

 

 百合大相撲本場所が揺らぐことはないだろう。

 

 ますます不都合。

 

 

  

 (なんであの状況で、退かなかったんでしょうかこのバ鹿……)

 

 

 

 いやらしく勇者の尻を視線にて舐め回す、彼。

 

 駄目な方向に進化した謎コンを見て思う。

 

 いや、あれ、退いても問題なかったじゃん。

 

 撮り直しでどうとでもなる物に、何故命を賭けたのか。

 

 

 

 クソかわ褐色合法ロリが靡かぬと確信したならば。

 

 彼の愛は勇者にのみ注がれる筈。

 

 脇目も振らず、自分にのみ愛情を向ける、一途なイケメンと化した餓狼。

 

 勇者が絆されても不思議ではない。

 

 

 

 (とびっきりのジョーカーもいることですし……)

 

 

 

 そして。セクハラの機会をうかがうツインテール。

 

 この場において、最も警戒すべき彼女。

 

 汚い帝王が厄介だ。

 

 ピエロを演じてはいるが、その隠した実力は脅威。

 

 少しでも油断したならば。

 

 マ魔王たるこの身とて、クッソ面白い変態性癖を、耳から植え付けられかねぬ。

 

 

 

 獅子身中の虫にしては、あまりにも巨大な障害。

 

 サナダ虫でももう少し、自重したサイズである。

 

 やはり、ウマ美ちゃんの起用は失敗だったかも知れぬ。

 

 だが、あの企画書はあまりにも魅力的すぎたのだ。

 

 だって、ママは子供たちが心配なんだもん。 

 

 

 

 ならば。答えは一つのみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭を下げたままに思う。

 

 腰が痛い。

 

 二ホンの伝統的な謝罪は、この身には負担が大きすぎる。

 

 早いところ、結論を出してもらえないだろうか。

 

 なんだか腹が立ってきた。

 

 

 

 ハルウララの、腰痛に起因する苛立ちは、最高潮に達していた。

 

 まぁ元々一瞬で切れたナイフであるのだが。

 

 

 

 おや。同志が考え込んでいた顔を上げた気配。

 

 如何なるポジションも、受け入れてやろうではないか。

 

 さぁ。我が新しい役目とは。

 

 

 

 「ウララちゃん♡じゃあ、収録中は、ママのお胸でねんねしてまちょうねー♡」

 

 「幼児どもと同じ扱いじゃねぇか」

 

 

 パァッン! 

 

 

 

 「ああんっ♡ウマのお姉さん復帰確定ッ♡お給料三倍ッ♡」

 

 「「「「「やったぜっ! 今夜はホームランだッ!!!」」」」」

 

 喜びの声を上げる、頼りにならないクズどもと自分。

 

 

 

 

 

 

 

 斯くしてマ魔王の野望は、土下座からの逆ギレにより打ち砕かれた。

 

 限界を超えた腰の痛みにより、完全なる覚醒を果たした、勇者の新たなる力。

 

 

 

 乳ビンタ式交渉術。

 

 その勇者の証たる力により。

 

 

 

 それは、彼女の巨乳への憎悪から生まれた力。

 

 少しばかり胸の大きさに自信が無い彼女。

 

 彼女の怒りが臨界点に達した時。

 

 

 

 正義の嫉妬の力により、悪の山脈に対し、張り手をカマすことによって。

 

 勇者に相対する者は、強力なウララン洗脳により、己が不明を悟り。

 

 ハルウララに都合の良い結論を出力するのだ。

 

 キレやすい彼女に、最適な力と言えるだろう。 

 

 

 

 ちなみに貧乳には効果が無い。

 

 飽くまで、強大な敵に相対するための切り札。

 

 三女神による、小粋な祝福なのだ。

 

 ヤツらもこの世界の住人である。

 

 

 

 

 

 

 

 「勝った……! 第1部、完ッ!」

 

 

 

 

 

 

 もちろん首輪を持って待ち受けていたキングちゃんにも、乳ビンタした。

 

 珍しく、ちゃんと反省したらしい。

 

 

 

 

 

 

 変態たちの戦いは、これからだ! 

 

 

 

 ハルウララの勇気が、世界を巣食うと信じて! 

 

 

 

 オレはようやく登り始めたばかりだからな。

 この果てしなく遠い性癖坂をよ……! 

 

 

 

 ご愛読、ありがとうございました! 

 

 

 

 デイジー先生の、次回作にご期待ください! 

 

 

 

 くぅ~疲れましたwこれにて完ケツです! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つづかない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もうちっとだけ(当社比)続くんじゃ。第2部をお楽しみにっ!




第2部以降も、ご愛顧頂きたく。

お気に入り登録・感想・評価なども貰えれば、幸福の絶頂であります。

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第2部 飛べない隼は、翼の意味を知る
ファル子さんじゅういっさい


ファル子さんじゅうななさいは書かないと言ったな。
あれは本当だ。

だが、ファル子さんじゅういっさいを書かないとは言っていない。
ハッピーエンドは終わらないッ!
何故ならば、まだたどり着いていないからだっ!

最初はちと重めです。
不思議の海のナデ○アは名作。


 私の罪は。

 

 

 彼を愛してしまったこと。

 

 

 そして、だいすきなあなたを。

 

 

 助けてあげられなかったこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハルウララさんじゅういっさい 第2部 飛べない隼は、翼の意味を知る

 

 

 

 つまりはそう。セカンドシーズン。

 

 ファル子さんじゅういっさい、始まります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ウララちゃんっ! 今日は飲みにいかないっ!?」

 

 「最近毎日じゃねぇか……ファル子ちゃん、近い。離れろ」

 

 「ウララッ! ならばオレとっ!」

 

 「まずはその手に持った目薬をしまえ」

 

 「じゃああたしとっ!」

 

 「湿ったアイアンメイデンにでも入ってろ」

 

 「じゃあ、ママと♡」

 

 「喜んでエスコートさせていただきます」

 

 「あ、私もご一緒してよろしいだろうか」

 

 「いいですとも♡」

 

 

 

 本日の収録が終わり。

 

 ハルウララは辟易していた。

 

 マ魔王を乳ビンタしたら、何故か職場復帰出来たのは良いが。

 

 最近、職場の変態どもの圧が強いのである。

 

 給料が上がったのは素直に嬉しいが。

 

 

 

 これで我が家のお姫様に、豪勢なおもちゃを買ってやれるというものだ。

 

 彼女はどんなこけしが好みだろうか。

 

 はたまた腹筋ローラーか。

 

 

 

 このハルウララ。

 

 愛娘に与えるおもちゃのチョイスを失敗したことはない。

 

 いつでも彼女は大喜びなのだ。

 

 母親の鑑と言えるだろう。

 

 

 

 さて、頼りにならぬうえ。

 

 娘もおらぬ、寂しい生活を送るクズどもに目を移す。

 

 

 

 まずツバメ。

 

 なんか一般の女児に対する興味を失っている。

 

 アイデンティティを喪失しているのだ。

 

 

 

 「トレーナー。女児どもはもういいの?」

 

 「オレは、真実の愛に気づいた。

 もはやウララとアフちゃんしか目に入らぬ」

 

 「真実の愛は複数バを対象にしねーよ。

 なんでマルチロックオン形式なんだよ」

 

 「近寄らないでもらえるか? 

 私は売約済みなのでな……」

 

 

 

 やはり、あまり変わっていないような気もする。

 

 クソかわ褐色合法ロリメイドも。

 

 これには思わず天井に張り付いた。

 

 

 

 スパイダー航空力士である。

 

 下から真剣な眼差しで見上げる彼。

 

 メイドスカートは鉄壁である。 

 

 

 

 「ウララ先輩は、こやつがトレーナーで満足しているのか……?」

 

 「アフちゃんのトレーナーとどっちがいい?」

 

 「うむ。どちらも要らぬ。つまりは怪鳥が最高ということである。

 最近彼女は、エストレージャから、スペルエストレージャになりつつある。

 リングに舞い戻った、正体不明の宿敵。

 ショウワ・クリムゾンとの恥ずかし固め勝負に夢中。

 

 まったく。年甲斐の無い。

 独身三十路と、既婚三十路ビッグマザーとの。

 年増肉と、熟成されたフレグランスの弾けるぶつかり合い。

 

 最高であるな! 

 私も心の不退転棒の滾りが隠せぬよ。

 さらには屈辱に燃える怪鳥の八つ当たりお仕置き。

 

 ダイワ家には、豪勢なお歳暮を贈らねばならぬ。

 ウマ美ちゃん一番くじなどがいいかな。

 そうそう、ウララ先輩は今年のお歳暮は何に……」

 

 

 

 こやつ、実は力士ではなく、ニンジャなのでは。

 

 情報収集力と、ヒデンニンポ・オセーボの使い方が。

 

 あまりにも巧みすぎる。

 

 

 

 番組において事業仕分けされたゴミ。

 

 それを最も喜ぶであろう相手に送りつける。

 

 元手がゼロで、リターンは図り知れぬ。

 

 

 

 あのツインテールは一番という響きだけで。

 

 幸福の絶頂に至ることが出来るのだ。

 

 

 

 あと人妻レスラーの正体教えてやれよ。

 

 可哀想だろ。

 

 しかしながら、思い直す。

 

 身内の裏切りはこの世界では日常茶飯事。

 

 他人の不幸は蜜の味。

 

 

 

 だが、身内の不幸は極上はちみーの味がする。

 

 三十路独身怪鳥の出バする、独り相撲本場所。

 

 鳥なのかウマなのか力士なのかすらわからぬ。

 

 このハルウララ、飯が美味くてしょうがない。

 

 よく出来た後輩だ。褒めてつかわそう。

 

 

 

 あとカニでお願いします。

 

 お返しは、愛娘へのプレゼント選び中に発見した。

 

 クッソえげつない形の、充電式こけしで良いだろう。

 

 

 

 ついつい購入してしまったが。

 

 清らかなるこの身には、無用の長物。

 

 あまりにもご立派な逸品。

 

 

 

 レジの小僧も、何を想像したのやら。

 

 このかわいいウララちゃんとこけしのハッピーセットに。

 

 鼻血と無料のダブルピースをカマしてきたものだ。

 

 

 

 というか、とてもではないが入らぬ。

 

 ボコォしちゃう。

 

 

 

 だが、彼女たちなら。

 

 有効活用してくれるに違いない。

 

 思う存分ひぎぃするがいい。

 

 所感は後程聞き出そう。

 

 天井でダーマしつつ、謎コンを威嚇する彼女に。

 

 

 

 アフガンコウクウショー。

 

 当初は、プロウマレスの舞台でイロモノ芸人として。

 

 次は、自分のポジションを奪った憎き大敵として見ていたが。

 

 同僚として働いてみると、中々便利な手駒である。

 

 

 

 自分の復職と共に、やはりウマのお姉さんは一人だけ。

 

 クリークママの信念は覆せず。

 

 妥協案として、ウマ褐色合法ロリメイドのお姉さん。

 

 謎の役職が新設され、正式採用が決まった。

 

 

 

 いつからこの番組は、オプション豊富な風俗店になったのか。

 

 だが、好都合。

 

 彼女はまだ腰の痛みが無いため、幼児を砲弾にする際。

 

 積極的に押し付ける事ができる。

 

 

 

 もう少し、胸の厚みがあれば始末していたが。

 

 厳正なる身体検査の結果、勝負はドロー。

 

 可愛い後輩である。

 

 やはりママは偉大なる指導者だ。

 

 

 

 あとあの元生徒会長。

 

 お隣に住んでるウオッカに、子供の世話を押し付けすぎである。

 

 母性本能の塊である彼女は、かわいそうに。

 

 大型バスのような、バ鹿でかいサイドカーでもって。

 

 自分の子供たちと、カッコウの雛ども。

 

 大家族で、大喜びでツーリングに興じている。

 

 やはり、哀れなカッコウの被害者は救済せねば。

 

 

 

 次に、クリークママ。

 

 最近は、民主主義に政治体制を変更したようにも見える。

 

 

 

 「うふふ♡赤ちゃんには悪いけど……♡

 ウララちゃんを甘やかすのも、大好きなのよね♡

 アフちゃんも加えて、両手にかわいい子♡

 ママ、最近ウマ生が充実しすぎて幸せよ♡」

 

 

 

 なんかやたらとみんなに優しい。

 

 何が彼女を変えたのか。

 

 シベリアの香りは、最近とんと嗅ぐ事が無い。

 

 相変わらず、幼児どもの性癖をミキシングする作業。

 

 幼子の未来を奪う、マ魔王業には熱心なのだが。

 

 

 

 そこから地面に目を転じ、汚い帝王。

 

 こやつは最近、追加のアクセサリをじゃらじゃらとぶら下げている。

 

 死刑囚でもここまでの拘束は受けまい。

 

 

 

 「首輪もいいもんだよね。手錠・足枷も嫌いじゃない。

 でも最近物足りなくなってさ。

 やっぱり知り合いと絡んだ方がさ。実感を得られるんだろうね。

 テイオーのワット数も上がりやすいらしいんだ。

 だからウララ。今度あたしとお出かけしない? 

 いいモーテルを見つけたんだ」

 

 

 

 早い所、監禁されればいいのにコイツ。そして二度と出て来るな。

 

 こいつはまったく、ブレることがない。

 

 

 

 そして。最後にこやつ。

 

 最近の自分の悩みの種だ。

 

 

 

 「ウララちゃんっ! 結納はいつにする? 

 ファル子ね、また海底で遺産を発見したから! 

 お金はゾンビと化すほどあるよ! ゴクウにワシ―。

 ビョードーも、結婚式には参加してくれるって!」

 

 

 

 猛禽類がおかしいのだ。

 

 怨霊からウラコンカサブランカに進化している。

 

 退化かもしれないが。とにかくおかしい。

 

 ターゲットが自分に変更されている。

 

 

 

 「ファル子ちゃん。フラッシュちゃんの事はもういいの?」

 

 以前の彼女なら、これで即発狂していたはず。

 

 

 

 「うんっ! もういいのっ! ファル子、真実の愛を見つけたんだからっ!」

 

 

 

 胸に提げた、蒼い宝石の着いたペンダント。

 

 それを揺らしつつ、即答する彼女。

 

 真実の愛を見つけた。

 

 こやつ、学生時代も同じことを言っていたはずだが。

 

 

 

 一体自分の何が、彼女の琴線に触れたのか。

 

 燃料を与えつつ、ゲルマン煽りしていただけなのだが。

 

 

 

 もはやビールもじゃがいもも、ソーセージも。

 

 シュトーレンでさえ。

 

 この猛禽類を発狂させるに至らぬ。

 

 だがその癖、ドイツに向かうのは相変わらず失敗している。

 

 

 

 本日のお歌の時間。

 

 「青空BLUE WATER」。

 

 曲のモデルとなった、体験。

 

 

 

 彼女が旧ウマソセス王国の遺跡において。

 

 うっかり発見したという、第四世代型超光速恒星間航行用超弩級万能宇宙戦艦、ファル子リヲン。

 

 聞いたスペックによれば、たどり着けない筈はないのだが……

 

 空路でも。海路からも。海中からも。

 

 あまつさえ大気圏外からでも。

 

 何故か、彼女はドイツの地を相変わらず踏めていない。

 

 まるで、そう定められているかのように。

 

 

 

 「ファル子ちゃん♡そういえばー♡」

 

 「はいっ! なんですかクリークママッ!」

 

 反射的にマイクを握りながら良い返事をする、猛禽類。

 

 こういう所は変わっていないのだが。

 

 一体自分の不在間に、何があったというのか。

 

 

 

 ウマドル活動を放棄し。

 

 この番組と歌手。

 

 活動を絞った事によって、その歌の練度は急激に上昇し。

 

 発狂しなくなったことにより。

 

 独身ウマ娘と幼児どもだけではないファン層を拡大し。

 

 二ホンを代表する、歌姫となりつつある彼女。

 

 一見栄華を極めているように見える。

 

 だが、このハルウララの目はごまかせぬ。

 

 

 

 ちっとも、幸せそうには見えぬのだ。

 

 まるで、何か大事な物を無くしたかのように。

 

 例えば。

 

 想う対象を、見失ったかのような。

 

 自分を見ているようで、見ていない。

 

 

 

 「フラッシュちゃんが、今度来日するそうですよー♡」

 

 「えっ? フラッシュちゃんが?」

 

 「ワンちゃんも連れてくるそうです♡良かったですね、ファル子ちゃん♡」

 

 「ワンちゃん……ワンちゃん……? あれっ……? 

 私、おかあさんで……? でも、なんで……?」

 

 「……ファル子ちゃん♡今日はもう帰りなさい♡」

 

 「でも、子供たちとの懇談が……」

 

 「そんな能面みたいな顔で。何を子供に教えるんですか。いいから帰りなさい」

 

 「えっ……? ふぁ、ファル子、笑えてない……?」

 

 

 

 そして、最大の違和感。

 

 彼女の顔。

 

 その顔は。

 

 怨霊ではなくなった。

 

 

 

 だがその代わり、感情と言う物が希薄になっていた。

 

 愛想笑いにすら失敗する始末。

 

 これでは、歌のお姉さんを降ろされるのも。

 

 時間の問題であろう。

 

 

 

 最近とみに丸くなったとはいえ。

 

 クリークママが、子供たちの利にならぬ者。

 

 役目を果たせぬ欠陥品を。

 

 そのままにするはずが無い。

 

 飽くまで彼女の役割は、剥きだしの感情を。

 

 歌を通して子供たちに叩きつけ。

 

 そして、彼らに相手を想う素晴らしさ。

 

 例え、それが憎悪だとしても。

 

 それを教えること。

 

 

 

 それが彼女の役割。

 

 そうでなくては、ならないのだ。

 

 衆愚の人気など、いくらあっても困らぬが。

 

 このバ場においては無価値。

 

 綺麗でオーディオ機能のついただけの。

 

 感情を知らぬお人形さんでは。

 

 とてもとても務まらぬ。

 

 

 

 「……すいません。今日は、お先に失礼します」

 

 ふらふらと、覚束ない足取りでスタジオを出る彼女。

 

 やはり、おかしい。

 

 

 

 「クリークママ。ファル子ちゃんの状態に、心当たりは?」

 

 「いいえ。でも、想像は着くわ。憎しみを失った事ね」

 

 「原因は?」

 

 「……てへっ♡」

 

 「お前かい」

 

 パァッン! 

 

 「あひんっ♡ちょ、ちょっと追い詰めただけで憎しみを忘れるなんてっ♡ママ計算外っ♡」

 

 なんというやつか。

 

 何故一回惚けた。これは、さらなる愛の張り手で躾けを……

 

 

 

 「そもそもあの時追い詰められてたの、がろうくんだしねー。

 元々限界だったのかもよ」

 

 ここで汚い帝王のインターセプト。

 

 こやつ、何か原因に心当たりがあるようだ。

 

 

 

 「限界とは? どういうことだ、ネイチャ。

 オレにもわかるように説明しろ」

 

 「遠距離恋愛で結婚までたどり着く確率。

 知ってる? なんと16%。

 たまに直接会えたとしても、その数字さ」

 

 「つまりは?」

 

 「愛は偉大だよ。でも、その偉大なる愛でさえ。

 近くでいなきゃ熱を失う。

 憎しみ程度が愛に勝てるとでも? 

 10年以上も保ってたのが奇跡だね。

 そんで、ウララと結婚したい気持ち。

 

 これも恐らく。

 心がからっぽになるのを恐れて。

 自己防衛で身近な者に縋ろうとしただけだよ。

 マ魔王降臨は切っ掛けに過ぎない」

 

 「つまり、お前はこう言いたい訳だ。

 ファルコンは、憎しみを失った。

 空洞となった心は、新しい中身を得るため。

 ウララを愛することにより。

 それを誤魔化そうとして。

 

 それさえも失敗した。

 ……残ったのは、抜け殻か。哀れなことだ。

 ワンちゃんとやらを求める気持ち、

 それも恐らく偽物だな。

 

 想っていた相手の子とはいえ。

 赤の他人をどうやって愛そうというのか。

 ウララとウオッカが特殊なだけだぞ、アレは」

 

 「おい。何故私を煽った? 恋愛クソ雑魚鹿毛はまぁいいにしても」

 

 「すまないウララ。

 あんまりにもカッコウの被害に遭った鳥だったもので……

 だが安心して欲しい。

 

 お前が鳥類としての習性を捨てきれぬというのなら。

 オレもプリンセスを、父として愛そうではないか。

 男の度量というものだ。

 

 あと彼女の方が、実は恋愛強者ではあるまいか。

 7人だぞ。7人。

 オレもそのぐらい……いや。

 それ以上にお前との愛の結晶を授かりたいものだ。

 サッカーチームでもまだ足りぬ」

 

 

 

 なんという男か。我が愛娘への愛を疑うとは。

 

 やはり、今日のママと合法ロリとの飲み会に拉致し。

 

 プリンセスの素晴らしさを、叩き込んでやらねばなるまい。

 

 あとコイツ、自分を犬か何かと勘違いしてはいまいか。

 

 ウマ娘はそんなにぽんぽんぽんぽん産めねーよ。

 

 あの出産数でも競い会う、バ鹿どもがおかしいんだ。

 

 なんだよ、10人と7人って。

 

 お盛んにも限度があるだろ。

 

 

 

 「ママ。この謎コンも飲み会に」

 

 「いいですとも♡」

 

 「ウララ、あたしは?」

 

 「加湿器の水でも飲んでろ」

 

 「冷たい……でもそれもイイ……」

 

 「もう♡ウララちゃん♡仲間外れは駄目ですよー♡」

 

 「はーい」

 

 「やったぜ! テイオーにウマインOh……はっや……」

 

 

 

 彼女のウマホを覗き込んでみる。

 

 

 

 『カエッタラワカッテルヨネイチャ』

 

 

 

 うむ。短い付き合いであった。

 

 理解らせ監禁とは風流。

 

 梅雨の時期はまだ遠いのだが。

 

 

 

 あと今日の飲み代のツケは、猛禽類に付けておこう。

 

 何、心配させた罰というものである。

 

 彼奴めは稼いでおるので、金の心配は要らぬ。

 

 

 

 

 

 

 一人納得し、クリークママに抱きかかえられ。

 

 幼児どもとの懇談に向かう彼女は気づいていない。

 

 

 

 主人公が交代したとはいえ。

 

 飽くまでこれは彼女を核心とした物語。

 

 またも始まる、読者の想像の大気圏を突破するクッソ面白い状況に。

 

 桜色の勇者たる、ハルウララが巻き込まれぬはずは無いのだ。

 

 彼女の珍道中は、続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つづかない



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ファル子さんじゅういっさい そのに 笑顔の意味

さぁ、第二話。
果たして正しかったのは誰か。
表層のみでは、心とは解らぬものです。
元ネタいっぱい。オレももうわからぬ。


~前回までのあらすじ~

 

 見事マ魔王をシバいた、カッコウ被害鳥類。

 

 その勇者としての役割を一旦終え。

 

 一息ついたハルウララ。

 

 だが、周囲の変態どもは、そんな彼女をブン回す。

 

 ツバメのマルチロックオン式純愛。

 

 力士の癖に情報戦に長けた、汚いニンジャ染みた後輩。

 

 赤ちゃんは好きだが、思想が赤くはなくなったクリークママ。

 

 一瞬で梅雨を作り出す、拘束された加湿器使い。

 

 そして、様子がおかしいウラコンカサブランカ。

 

 失職の危機は、別の鳥類にも迫っていた。

 

 怨霊を卒業した猛禽類。

 

 性癖以外は綺麗な歌姫と化した彼女。

 

 そのような薄いキャラに、番組での居場所は無かったのだ。

 

 そしてハルウララは酒を飲む。

 

 あまり興味が無かったからだ。

 

 滅びの時は、刻一刻と迫っていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わたしを。

 

 

 わたしだけを、見てください。

 

 

 脇目も振らず、わたしだけを。

 

 

 想い憎悪し、決して忘れないで。

 

 

 そうしなければ、愛しいあなたは。

 

 

 きっと、新たに愛した誰かを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よいこのみんなー♡クリークママといっしょ、はじまりますー♡」

 

 

 

 甘く蕩けたタイトルコール。

 

 そう。今日も今日とて収録である。

 

 

 

 「ウマのお姉さん、ウララだよっ!」

 

 

 

 腰の調子も悪くない。

 

 ブレイクダンスにて仕りクソが。

 

 盛大にセットに腰を打ち付け、悪態を「ウララちゃん♡」すいません。

 

 

 

 クリークママの視線が、熱い。

 

 丸くなったところで、赤い物は赤い。

 

 触れればキレる、原理主義者である。

 

 

 

 「歌のお姉さん、ファル子だよっ☆」

 

 

 

 猛禽類の♡マーク。だが、表情は硬いまま。

 

 これは今日で、お別れか。

 

 長い付き合いであった。達者で暮らせ。

 

 

 

 「ウマ褐色合法ロリメイドのお姉さん、アフちゃんである」

 

 

 

 ふわふわと浮かぶウマ娘力士。真下から覗き込む男児ども。

 

 

 

 「ハァイ! ジョージィ!」

 

 アラー!! 。

 

 

 

 医療の敗北に、膝をつく。

 

 愚かなことだ。

 

 ノーパンしゃぶしゃぶはもはや違法。

 

 

 

 綺麗なお姉さんたちが接客してくれて。

 

 楽しく遊べるおっさんの楽園。

 

 そう。おっさんと幼児をチェンジしただけで。

 

 彼の伝説の飲食店と、同じような業務形態を誇る。

 

 クリークママといっしょ。この番組においても。

 

 

 

 対策なしにあのような破廉恥なミニスカメイドスカート。

 

 クリークママが着用を許すわけがない。

 

 未来が暗い幼児どもに。

 

 愚かな役人どもと同じ轍を踏ませる訳には、いかぬのだ。

 

 

 

 ちなみに、ノーパンしゃぶしゃぶは健全な用語だ。

 

 なんといっても地上波においても。

 

 放送禁止用語ではないことが立証されている。

 

 細部はググって欲しい。

 

 

 

 「がろうくんだ。食べちゃうぞ。ウララとアフちゃんだけな」

 

 

 

 腰に響くイケメンヴォイス。顔と声だけはやたらといい。

 

 湿布を貼らせる際には、耳元で好みのシチュで囁かせよう。

 

 D〇Siteと違い、ツバメのASMRは無料なのだ。

 

 このハルウララに対してはな。

 

 

 

 女児に対し興味が無いことを告げる、己の役割を放棄した発言。

 

 偽りの愛に目覚めてしまった彼。

 

 ミサイルでもあるまいし。

 

 マルチロックとは呆れ果てる。

 

 この番組に必要なのは、精密誘導による人道配慮ではない。

 

 ジュネーブ法の違反だ。

 

 無差別大量の性癖クラスター爆弾こそが。

 

 人気の秘ケツである。

 

 

 

 だが、彼はこの番組において続投を赦された。

 

 何故か。

 

 

 

 「にいちゃん、良いケツしてるやないけ……」

 

 「デュフフ。某、萌えて参りましたぞ……!」

 

 「もう新宿二丁目なんて、行く必要はありませんわ!」

 

 

 

 女児どものいやらしい手つき。

 

 背中のジッパーに大量投入される、諭吉さん。

 

 

 

 そう。彼はビキニパンツを必要としない、新たな接客の形。

 

 お触りご自由ダンサー・餓狼として、新たな役割を与えられたのだ。

 

 中身は懇談の時間、女児どもにのみ。

 

 別室で開帳される。

 

 

 

 さすがに番組の最中に、頭を取り外すわけにはいかぬからだ。

 

 餓狼の頭をストリップし、女児どもとの握手会に臨む。

 

 それが彼の新たな現金収入である。 

 

 

 

 アメリカネズミはその頭を取り外すことは許されていない。

 

 子供の夢を壊さぬためだ。

 

 真夏の太陽に照らされつつ、仕事上がりのビールを希求する彼ら。

 

 夢の国は、オッサン臭い汗の迸りにより、その存在を維持している。

 

 儚い幻想である。

 

 

 

 だが、がろうくんについては問題ない。

 

 有閑マダムじみた、女児どもの夢。

 

 それはイケメンとの、密やかなる甘い時間。

 

 少女漫画のような、メルヘンで淫秘な体験。

 

 昨今の少女漫画の風紀の乱れは著しい。

 

 

 

 クリークママは、バナナ魚(漫画版)を読んで。

 

 このシステムを閃いたらしい。

 

 

 

 アイツ、幾つだよ。

 

 昨今の少女漫画じゃねーぞあれ。

 

 

 

 復刻版は全20巻。アニメ化に伴い。

 

 絶版から不死鳥のように蘇った、かの作品。

 

 少女漫画とは思えぬ乱行を示す名作である。

 

 

 

 菊乱暴から始まるラブストーリー。

 

 主人公はポルノ男優。

 

 戦争の悲惨さと、性的暴行被害者の悲哀を正面から描いている。

 

 表現の自由とは、かくも難しいものである。

 

 2018年にアニメ化されたので、是非見てみて欲しい。

 

 

 

 「ナデナデシテー……ブルル! ブルスコファァ!!!」

 

 

 

 ウマ美ちゃんの調子も良い。

 

 ウマカリで購入したため、動作には不安があったが。

 

 後で高評価をつけてやらねばなるまい。

 

 さぁ。仕事を始めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スマートファルコンはこっそりと溜め息をついた。

 

 調子が悪い。

 

 能面のような顔。

 

 そのように言われてしまった昨日。

 

 

 

 対処として、スタジオから出た後に。

 

 衛星軌道上から。母艦たる。

 

 第四世代型超光速恒星間航行用超弩級万能宇宙戦艦ファル子リヲン(早口)を呼び出し。

 

 表情を取り戻すための。たった一つの冴えた方法。

 

 

 

 『カカカカカカッ……!』

 

 『クキコケケケケ……!』

 

 『勝たなきゃゴミ……! 勝たなければ……!』

 

 『へたっぴ……! へたっぴね……! ツバメ返しの、やり方が……!』

 

 

 

 透明な牌を使用した、狂喜の遊戯。

 

 愉悦麻雀に興じたのが悪かったのかもしれない。

 

 

 

 卓を囲んだのは四人。

 

 自分とワシーとビョードー。

 

 ゴクウは麻雀ができぬ。

 

 

 

 彼に出来るのは食う寝る遊ぶ、酒を飲む。

 

 戦闘以外の役には立たぬ。

 

 そのため、急遽あの娘を参加させた。

 

 

 

 そう。ビョードーと共に。

 

 この隼の目が見いだした、逸材。

 

 

 

 その、金に対し異常な執着を見せる、ウマ生哲学。

 

 さらにはポエミーな名言癖を忌避され。

 

 トレーナーに選ばれなかった彼女。

 

 だが、神は彼女を見捨てていたのだ。

 

 

 

 あの日の事を思い出す。

 

 川辺で物の道理の分からぬアホどもに。

 

 途方に暮れていた彼女。

 

 

 

 川底より護岸設備を破砕しつつ。

 

 浮上する、フラッシュ脳散らす号。

 

 方向音痴とアルコールによるものだ。

 

 

 

 あわてふためく彼女の、きらりと輝く才能を。

 

 酔っ払った自分とビョードーは見逃さなかった。

 

 

 

 直ちに彼女を情熱的に拉致し。

 

 返す刀でトレセン学園に訪問。

 

 経営難に悩む合法ちびっこを、酒臭い甘言と札束。

 

 さらには砂の女王たる我が実績で誑かし。

 

 ターゲットを合法的に我らが物としたのだ。

 

 

 

 「ワシにはトネガワという冠名が……」

 

 「トネガワ? 贅沢な冠名ねっ☆

 あなたは今日から、ただのユキオーよっ! 

 分かったなら、返事をアンサー!」

 

 「くっ……! なんという理外……! 

 だが……狂気の沙汰こそ、面白い……!」

 

 

 

 我が目に狂いは無かった。

 

 己の見出したその煌き。

 

 彼女は、神に愛された、凄まじい適性。

 

 トレセン学園に居る、凡百のトレーナーでは見いだせぬ。

 

 輝かしい才能を持っていたのだ。

 

 リアクション芸人として。

 

 

 

 繰り返される、寝起きドッキリ。

 

 無茶振りの数々。

 

 熱湯チャレンジ。

 

 パイ投げ。

 

 

 

 そして、なんやかんやで札束の魔力と。

 

 たまに見せる偽りの優しさ。

 

 さらには衣食住完全保証。

 

 辛子入りシュークリーム付きの厚待遇。

 

 彼女は完全に、我らの掌中に堕ちた。

 

 

 

 今では我が一味の、頼れる芸人である。

 

 そのリアクションは、我らに最大限の愉悦を与え。

 

 船内の空気は、とても和やかになったのだ。

 

 

 

 それは、フラッシュ脳散らす号の涙の爆沈を経て。

 

 ファル子リヲンに乗り換えた今も、変わらない。

 

 そして、彼女にはもう一つ役割がある。

 

 それは。

 

 

 

 (なんといっても、ちっちゃくてかわいい現役JKロリだし……!)

 

 

 

 回想を終え、貧血にふらつきつつもガッツポーズ。

 

 そう。今朝緊急搬送された彼女。

 

 もちろん我がキープちゃんである。

 

 

 

 ユキオー。

 

 愛しの桜の妖精を、取り逃がした時のためのサブプラン。

 

 

 

 真実の愛には、サブプランが重要なのだ。

 

 もはや、同じ轍は踏まぬ。

 

 ジュネーブ条約の遵守は必須。

 

 精密誘導マルチロックオンこそが。

 

 勝利への方程式なのだ。

 

 

 

 計画的な行動は、何よりも大事。

 

 そう。いつも彼女も言って……? 

 

 

 

 「フラッシュちゃん……」

 

 

 

 ぽつり。と。

 

 口から漏れる、親友の名。

 

 無計画な自分を、三年間支えてくれていた、彼女。

 

 

 

 そして、我が愛するヒトを奪い去って行った、憎い怨敵。

 

 

 

 だった。

 

 

 

 だが。もう憎くはない。

 

 ウマ生で100回目の、真実の愛を見つけたのだ。

 

 ぐっちゃぐちゃに混ざりあった轍の数は、成長の証。

 

 憎しみに目を曇らせている場合では無い。

 

 

 

 愛しい彼女を、見上げる。

 

 

 

 「動くなよ。その頭がリンゴになるぜ。はいヨー! シルバーッ!」

 

 

 

 相変わらずかわいい。

 

 今日の楽しい遊びは、ウ射リアム・ヘル。

 

 幼児の頭に乗せた、リンゴを。

 

 

 

 褐色合法ロリに跨がった違法ロリが。

 

 空中流鏑メイドする、一子相伝の技である。

 

 

 

 舞い飛ぶナイフ、幼児の悲鳴。

 

 ハルのウララの流星は。銃弾よりも、速いのさ。

 

 

 

 ギブアップした、根性の足りぬ子は。

 

 クリークママの胸に、ご案内。

 

 どこ吹く風は、授けられぬ。

 

 マゾでもママでも、お好きな方を選ぶがいい。

 

 

 

 泣く子も漏らす、楽しい遊戯。

 

 これが愉悦というものだ。

 

 自分の脳天に飛来するナイフを、マイクで弾きながら。

 

 記念すべき百人目の、そして十年以上ぶりに愛する、対象を見る。

 

 

 

 くりくりとして、淀み尽くした愛らしい瞳。

 

 腰痛に悩む、ロリロリしい肢体。

 

 カッコウの被害を、断固認めぬ精神性。

 

 熟練の曲芸士がごとき、ナイフ捌き。

 

 そして。打てば響く、その。

 

 

 

 思えば、ダートのマイルのゴール後に、煽り尽くした時に。

 

 既に自分は恋に堕ちていたのかもしれない。

 

 桜色の妖精に。当時愛したトレーナーがいなければ。

 

 もっと早く気づいていただろう。

 

 

 

 愛したくてたまらない。

 

 昔から、愛する者の前では。

 

 緊張しすぎて無表情になる。

 

 自分の悪い癖だ。

 

 憎む時と煽る時には感情が出るのだが。

 

 

 

 だが。もう問題ない。

 

 頼りになるクルーとの出会い。

 

 愉悦の味を知った自分。

 

 解決策は既に見えた。

 

 昨夜の団欒時の、一幕を思い浮かべる。

 

 

 

 『ひゃー! このおでん、美味ぇなぁ! ユキオーも食ってみろよ!』

 

 

 

 ゴクウの快哉。彼はいつも美味そうに飯を食う。

 

 

 

 『はい、ユキオーちゃん、あーん♡』

 

 

 

 自分はキープちゃんに対して。

 

 愛情たっぷりのあーんをしてやった。

 

 

 

 『ワシは幼子ではないが……頂こアッツゥイッ!!』

 

 

 

 煮えたぎるおでん。

 

 舌もバ鹿なゴクウを利用した、巧妙なる。

 

 翔べない鳥類倶楽部。

 

 のたうち回るユキオーの愛らしいロリボディ。

 

 

 

 やはり。イジればイジるほど。

 

 魂とは輝きを見せるのだ。

 

 この一手間が、クズにはなかなか出来ぬ物……! 

 

 

 

 「ンォフウッ。コココココ……!」

 

 

 

 笑みが溢れ出す。

 

 胸元で輝きを増す、蒼き宝石。

 

 

 

 そうそうこれだ。この気持ち。

 

 愉悦こそが、長い冒険を経て知った、我が本質。

 

 愛しの妖精は、どんなリアクション芸を魅せてくれるのか。

 

 もはや我慢ならぬ。

 

 

 

 ファルファルファルファルファル……

 

 不穏な気配に、妖精がこちらを流鏑メる。

 

 マイクを廻し。ナイフを弾き。

 

 キンッ。キンキンキンッ。

 

 ハウリングと衝撃音。

 

 響き奏でるラプソディア。

 

 

 

 突撃準備。

 

 我が愛を見よ……! 

 

 

 

 「ウララちゃんッ! プリーズラブミーキルゼムオールゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

 「誰だよ! アイツの心が空っぽとか言ったの! 

 奥の奥までクソたっぷりじゃねぇか!!! 

 おいメイドォッ! 緊急浮上ッ! ママッ! 早くあいつをシベリアにッ!」

 

 「汚い帝王は嘘つきだッ! アフターバーナー最大出力ッ!」

 

 「剥き出しの感情ッ! ママはこれを求めていました……!」

 

 「クソァッ! ツッコミはどこだっ!」

 

 「ウララ先輩であるっ! 若輩者には荷が重いっ!」

 

 「私だけでツッコミきれるか、いい加減にしろバ鹿ッ!」

 

 「あんまり揺らされると、堕ちるのである────ーッ!!!」

 

 「モルスァッ!」

 

 

 

 流れナイフでハリネズミと化した、がろうくんは沈黙している。

 

 幼女の盾となれたなら、本望だろう。

 

 

 

 襲い狂うナイフの流星群。

 

 空へと堕ちる流星、シューティングスター。

 

 その煌めきを、穢したい……! 

 

 

 

 ファルファルファルファルファルファルッ! 

 

 

 

 「私は今、生きているッ!」

 

 

 

 スマートファルコン。御歳31。

 

 故意に恋する堕とし頃。

 

 堕ちた恋は、数知れず。

 

 

 

 愛する者に、無計画に無双乱舞。

 

 無表情で詰め寄り、無茶振りにてリアクションを求め。

 

 無い無い尽くしの恋愛プラン。

 

 破れた恋は、星の数。

 

 

 

 夢は両手にロリの、愛とリアクション芸に溢れた失楽園。

 

 あわよくば、アフちゃんも掠奪しよう。

 

 ワンちゃん。立派な芸人に育ててあげるからね。

 

 

 

 

 

 

 海賊王とは、最も無計画で強欲なる者の称号である。

 

 

 

 

 

 

 

 つづかない



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ファル子さんじゅういっさい そのさん 猛禽類っぽい何か

今さらながら。
この作品においては、具体的なレース名は、なるべく出さないようにしております。
ええ。コンプライアンスは重要ですから。
有マは例外とする。漢字が違いますから。
元ネタは、黙示録と花の傾奇者。あと雅楽。
一部抜けがあったので、修正しました。
以前の映画の部分ですね。


~前回までのあらすじ~

 

 猛禽類の失職の危機。

 

 だが、桜色の勇者は慌てない。

 

 登場シーンで腰を痛め。

 

 ツバメのネズミーランド二丁目。

 

 湿布の時間はASMR。

 

 忠実なる下僕のメイドスカート。

 

 しゃぶしゃぶはおいしいね。

 

 獄中にて梅雨の到来を告げる汚い帝王。

 

 代打として、綺麗な帝王を配備。

 

 それぞれのクズどもに対し、番組の要として。

 

 雅やか、かつ万全な気遣いを魅せる。

 

 猛禽類はスルー。マイル中距離での恨み。

 

 勇者は敗戦の屈辱を決して忘れぬ。

 

 昨今は暗い過去を克服する、成り上がりの需要が高い。

 

 流行りを追うのは当然のことだ。

 

 筆者とて、人気は欲しい。

 

 高評価待ってます。

 

 そして、猛禽類のアンサー。

 

 蠢動する愉快な宇宙海賊一味。

 

 オリジナルウマ娘リアクション芸人。

 

 第二のマルチ、ロックオン。

 

 無茶振り芸人、スマートファルコン。

 

 彼女の愛は、とても大御所だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ファル子さん。愛してはいけません。

 

 

 あなたの愛は、歪んでいる。

 

 

 あなたが仕上げたリアクション芸人。

 

 

 その数なんと、九十九。

 

 

 Übung macht den Meister. 素晴らしい成果です。

 

 

 ニホンのお笑い界を牽引する、有為の人材ではありますが。

 

 

 いかんせん、ツッコミの供給が追い付いていません。

 

 

 ウララさんはもっといけません。

 

 

 彼女は既に、一人前のリアクション芸人。

 

 

 きっとあなたは、彼女を壊してしまうでしょう。

 

 

 無茶振りのエスカレーションは、腰痛の元。

 

 

 やはりあなたの愛を受け入れられるのは。

 

 

 安産型の、私以外に居りますまい。

 

 

 待っててください、ファル子さん。

 

 

 ドイツ仕込みのツッコミは。

 

 

 あなたに捧げる、愛の証。

 

 

 Ich liebe dich.愛しの隼よ。

 

 

 とあるニホンの空港で。

 

 

 彼女はそっと、微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よいこのみんなー♡クリークママといっしょ、始まりますー♡」

 

 いつもの甘く蕩けたタイトルコール。

 

 教育番組に、非日常は似合わない。

 

 

 

 「ウマのお姉さん、ウララだよっ!」

 

 くるっと回ってプリファイポーズ。

 

 ぐきりと唸りをあげる腰。

 

 やはり、愛する我が子のおねだりとはいえ。

 

 三代目は若すぎた。

 

 あと一年早ければ。

 

 完璧なぺドフィリアを魅せられたものを。

 

 

 

 ハルウララは腰を抑えつつ、呻いた。

 

 冷や水である。

 

 だが、クリークママの叱責は無い。

 

 彼女も、昨日の収録でのダメージが大きかったのだろう。

 

 珍しく、中腰気味である。

 

 

 

 「大丈夫かウララ。

 後で痛い痛い気持ちいいしてやろう。

 あ、がろうくんだ。がおー」

 

 

 

 最近マッサージを習得したツバメ。

 

 そのいやらしい手つきの効果は高い。

 

 心地よさに、按摩時は寝入ってしまう。

 

 やはりあのドリンク。盛られていたか。

 

 美味であったので油断した。

 

 まぁ、ヤツに不埒な事を企む度胸は無いだろう。

 

 問題なし。

 

 

 

 「ウマ褐色合法ロリお姉さんのメイドさん、アフちゃんである」

 

 おっと。迂闊な後輩め。

 

 また名乗りを間違えおった。

 

 ふわふわと浮かぶ彼女を睨めつける。

 

 

 

 「わんっ♡きゃいんきゃいんっ♡」

 

 

 

 腹を見せて転がったので、許してやることとしよう。

 

 空中で服従ポーズとは。器用な犬である。

 

 みえた。はえてない。

 

 このハルウララの眼力。舐めてもらっては困る。

 

 眼球舐めは失明の恐れがある。

 

 良い子のみんなはやらないように。

 

 

 

 「ブルスコッ! ブルスコッ! オネエサーン! コレハヒドイ! アッフンッ!」

 

 ウマ美ちゃんの学習機能も正常に動作している。

 

 ナイフは電化機器にも効果的だったのだろう。

 

 やはりゾーリンゲン製は違う。

 

 

 

 「す、スマートウィークですっ! 頑張りますっ!」

 

 「サイレンスマイクよ。アゲて行きましょうね。スペちゃん」

 

 「アゲませんッッッッッ!!!」

 

 

 

 小粋な一週間の到来をお知らせする。

 

 少しばかり黒鹿毛な、道産子猛禽類。

 

 

 

 音響機器としての欠陥を高らかに告げる。

 

 ポンコツ栗毛な、起伏の足りぬ小道具。

 

 

 

 猛禽類の特徴の一つである、急な発狂まで完備。

 

 

 

 やはり彼女らを招聘したのは正解であった。

 

 ハルウララは自らの神采配に、深く満足した。

 

 

 

 音の出る面白いおもちゃ。

 

 その最大の特徴は、握り締めたマイク。

 

 完璧な替え玉である。

 

 

 

 蠱毒のグルメ出張版が、中央でやっていて助かった。

 

 快く乳ビンタに喘いだ、アイアンオペラオーには感謝しかない。

 

 

 

 まったく、あの猛禽類。

 

 心配は特にしなかったが。

 

 まさかあのような粗相をやらかすとは。

 

 シベリア送りは当然である。

 

 

 

 昨日の収録での、ヤツの蛮行を思い出す。

 

 鋼の暴風の中を駆け抜ける、一羽の猛禽。

 

 その羽ばたきは、我が投擲術をもってしても。

 

 仕留める事は叶わなかった。

 

 

 

 そしてそのまま、ヤツは。

 

 何故かバナナの皮を、地面に設置し始め。

 

 うっかりそれを踏んだクリークママが。

 

 素晴らしいドリフを披露したのだ。

 

 

 

 あの時のハーリティーの顔は、忘れられない。

 

 危うく、漏らしかけた。

 

 

 

 気遣いの達人たる、愛娘に。

 

 帰宅後、パルン○アをそっと手渡される事態になりかねぬ。

 

 

 

 彼女が幼稚園のお絵かきの時間。

 

 描き出したる三世代型住宅。

 

 バリアフリーまで完備であった。

 

 我が娘ながら、天晴れ。

 

 一級建築施工管理技士も狙える器である。

 

 

 

 「さて♡今日はスペシャルなお歌の時間♡

 太めのファル子ちゃん♡備品♡張り切ってどうぞ♡」

 

 このママ、言葉遣いと性癖破壊を除けば。

 

 理想的な鬼子母神であるのだが。

 

 世の中、ママならぬものである。

 

 ハルウララはそっと嘆息した。

 

 

 

 「行くわよスペちゃん! フォーメーションBよ!」

 

 「なんですかそれ」

 

 「豚」

 

 「このポンコツ、追い出してやろうか……」

 

 「からのー?」

 

 「私、なんでこんなの好きになっちゃったんでしょう……

 ごめんね、お母ちゃん……」

 

 

 

 スペシャルファルコンは、オグリキャップと共に。

 

 罪もない飲食店を破滅に追い込んだ証。

 

 そのぽっこりおなかを撫でながら、慨嘆した。

 

 いつの世も、惚れた者の敗けである。

 

 

 

 信じて送り出した愛娘が。ニホン一となり。

 

 エヘ顔Wピースでポンコツを伴って。

 

 帰ってきた際のご母堂の気持ち。察せる筈も無い。

 

 

 

 プリンセスの運命の小僧とやらは。

 

 真の母たる、このハルウララの厳正な審査を受けねばならぬ。

 

 ナイフと銃弾とミサイルの雨。

 

 それを潜り抜けた勇者にこそ、トドメの閃光魔術。

 

 勇者の代替わりにはまだ早い。

 

 

 

 思索に耽っている間も、繰り広げられる愁嘆場。

 

 このハルウララ、愉悦の笑いを抑えきれぬ。

 

 クリークママも、ケツを抑えつつ満足げだ。

 

 こやつら、反面教師としても適性が高い。

 

 

 

 安産型は、胎児の保護には向くが。

 

 代償として、転倒時の自身へのダメージも大きい。

 

 凄まじい快音に、快哉の叫びを挙げた我等。

 

 危うく全員永久凍土送りになるところであった。

 

 

 

 「さて。スペちゃん。おいで」

 

 ぽんぽん、と。床に女の子座りし。

 

 自らの膝を叩き、スペードウィルコンを誘う栗毛。

 

 

 

 「えぇ……ほんとにやるんですか……

 絶対幼児の教育に悪いですよ、あれ」

 

 「映画にまで出ておいて、今さら何を言ってるの。

 お義母様も大喜びだったじゃない」

 

 「知りたくなかった一面でしたね……」

 

 しぶしぶと、誘いに乗るスマシャルファルク。

 

 膝に頭を沈めた瞬間。

 

 

 

 彼女の表情が一変する。

 

 ここだ。ここからが彼女の本質。

 

 二ホン一のウマ娘たる、威容が見られる。

 

 

 

 「スペーッペッペッペッペッペッペッぺ! 

 このむっちむちのふとももだけで! 

 ポンコツ具合もなんのその! 

 一生養ってあげますからね、スズカさん!」

 

 

 

 全力で後頭部から頬にかけてを、大腿部に擦り付け。

 

 とんでもなく淫らな助平ヅラを魅せる、ニホン一。

 

 さすがは総大将である。二重人格を疑いかねぬ醜態。

 

 彼女はふとももフェチなのである。

 

 

 

 以前の令和狸合戦・奔放鼓では、まだ栗毛の練度が未熟であり。

 

 嫌がるスぺちゃんにウマ乗りになって演奏する、旧式の奏法のため。

 

 逆シューティングスターで夜空に打ち上げられる事態となった。

 

 

 

 だが。この新・スぺちゃんおなか鼓奏法。

 

 スぺちゃんに大好物を味合わせつつ、演奏することにより。

 

 Win-Winの法則により、逆撃を受ける可能性はほぼゼロ。

 

 

 

 欠点は、前屈みという無理な姿勢での演奏となることであるが。

 

 グランブ〇ーファンタジーに出演せぬ限り。

 

 栗毛の胸が障害となる事は無い。

 

 

 

 むしろ、ふとももには勝てぬものの。

 

 絶壁に興奮する、登山家のような習性を持つスマぺーフィ―ンに対しては、効果は絶大。

 

 まさに、サイレンスマイクにのみ許された、スぺちゃんおなか鼓の奥義である。

 

 

 

 この世界では、抱える業が深いほど。

 

 レースの実績も高い傾向にある。

 

 この、ハルウララを除いてな。

 

 彼女はキメ顔でそう思った。

 

 

 

 栄光の日曜日。そう謳われたレースがある。

 

 秋のやんごとなき方が見守る、そのレースにおいて。

 

 事件は起こった。

 

 

 

 今ふとももを楽しまれている、栗毛の故障である。

 

 テンションをアゲすぎた彼女は、うっかりウマ娘の限界を超え。

 

 大欅を超えた瞬間、汚いユニコーンに助けられたのだ。

 

 

 

 愛するふとももの危機を第六感で感じ取った、彼女。

 

 スマールファルークによって。

 

 栗毛は足に違和感を感じた瞬間、抱き上げられ。

 

 黒鹿毛はそのふとももを抱え上げ、頬ずりしたままに、一着でゴールした。

 

 

 

 不敬罪である。

 

 

 

 賓客席に居た、時の権力者は言った。

 

 『汝、何故神聖なるレースを穢したか』

 

 彼女は答えた。

 

 『我、ふとももフェチ故に。愛する彼女のふとももの危機。

 我が命を失おうと、見過ごすことなどできませぬ。

 赦しなど請いませぬ。

 ふとももに劣る太さしかありませぬが。

 不敬の代償。この素っ首をもって、贖わせて頂きます。

 ……グラスちゃんっ!』

 

 『スぺちゃん。私にあなたの首を落とせと言うのですか。

 しかも彼女を助けるために、その身を擲ったあなたを。

 ……ひどいウマ。よもや違う女のために。

 私に愛するあなたの命を絶つことなど……』

 

 『さっさとやれデカケツ。ふとももよりもケツが目立つから、タイプじゃないんです』

 

 『介錯しもす!!!!!!』

 

 『グラスっ! 落ち着くデース!!』

 

 振り上げられる薙刀。

 

 目を瞑る観衆。

 

 だが。

 

 

 

 『待てィッ! ……そのふとももを想う気持ち。誠に天晴。

 性癖に罪は問えぬ。汝、これより二ホン一の、ふとももフェチウマ娘。

 ふともも総大将を名乗れィっ! ふともも御免であるッ!』

 

 高らかに告げる、時の権力者。

 

 ふとももフェチの首魁。

 

 太(もも)閤。トヨトミ・モモキチ。

 

 

 

 二ホンの(ふとももフェチ)総大将。

 

 彼女はこの一事をもって。

 

 二ホン一の(ふとももフェチ)ウマ娘を名乗る事が赦されたのだ。

 

 彼女はお母ちゃんとの約束を守ったのだ。斜め下の方向に。

 

 

 

 ええ……こうはならんやろ……なんやこの日曜日……

 

 そう呟いた、URAの職員の嘆き。

 

 それを略し。

 

 ええこう(栄光)の日曜日と号された、輝かしいレースの記憶である。

 

 

 

 「さて、皆様。これより奏でるは。二ホンの誇りし雅楽にあらず。

 二鼓、四鼓は途絶えるも。一と三は未だ残る。

 しかしてこれは、数えられぬ、第五の鼓。

 スぺちゃんおなか鼓。とくとご覧あれ」

 

 

 

 朗々と唄い上げられる、前口上。

 

 相変わらず良い声をしている。思考は異次元に逃亡しているが。

 

 それでも、現役時代は並みいる強者を置き去りにして。

 

 ウィニングライブにて観衆を魅了した、魔性の逃げウマ。

 

 

 

 「ヨォーッ!」

 

 すぺんっ。

 

 「ハッ!」

 

 すぺぺんっ。

 

 「ヤッ!」

 

 すぺぺぺん。

 

 「イヤー!」

 

 すぺぺぺぺぺん。すっぽこぽん。

 

 

 

 どこかノスタルジィを感じさせる、懐かしき音。

 

 そして、今前奏が終わった。始まる。

 

 

 

 『ぽんぽこおなかのスぺちゃんは』

 

 すぺん! 

 

 『いつもかわいいアイドルで』

 

 すぺぺん! 

 

 『食べ過ぎ愛嬌、うっかりアポリオン』

 

 すっぽこぽんっ! 

 

 『なんともはや、飛蝗が如き、飢饉だね』

 

 すっぺんぺんっ! 

 

 『オグリの相棒、タマちゃんの』

 

 「スーペッペッペッペッ!」

 

 『実装めでたし、やれ愉快』

 

  

 

 蟲毒のグルメ、9thシーズン主題歌。

 

 

 

 『大食ウマ音取』。

 

 

 

 その音は、幼児たちの性癖に、優しく響き渡り。

 

 おなかフェチが量産されたという。

 

 タマちゃん、実装おめでとうございます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つづかない



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ファル子さんじゅういっさい そのよん シベリアより、愛をコメット

短めです。
彼女は今、何をしているのか。
第二章の主人公ですから。
ちゃんとこまめに出番を入れますとも。


~前回までのあらすじ~

 

 今日も今日とて通常営業。

 

 クリークママといっしょ。

 

 残念なイケメンによる催眠マッサージ。

 

 忠実なるメイド風駄犬。

 

 鬼子母神は少しばかり、中腰にてケツを擦る。

 

 現れる特別な猛禽類。

 

 自走式先頭民族な小道具。

 

 少しだけ、今日はいつもよりノスタルジィ。

 

 狸と猛禽類の奇跡の融合。

 

 栄光輝く日曜日。

 

 ニホン一のフェチ娘。

 

 ふともも御免の傾奇者。

 

 優しい響きはあなたの元へ。

 

 きっとシベリアにて木を数える、彼女へ。

 

 届くことを、信じてない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「37564……37565……」

 

 スマートファルコンは、充実感を持ってこの仕事に臨んでいた。

 

 

 

 カラマツ、トウヒ。

 

 カラマツ、マツ。

 

 カラマツ、モミ。

 

 カラマツ、オソマツ、ジュウシマツ。

 

 

 

 モミの木を見て思う。

 

 そういえばそろそろクリスマス。

 

 永久凍土を飾る、タイガと呼ばれる針葉樹林帯。

 

 ここにもきっと、素敵なサンタさんが訪れるに違いない。

 

 

 

 「ファル子、楽しくなってきちゃった!」

 

 「会長ぉぉぉぉぉ! 目を覚まして! 

 失脚! 失脚だからこれ!!」

 

 

 

 ウォッカを呷りつつ、テンションをアゲる。

 

 ウオッカを煽りつつ、テンションをアゲるのはツインテ栗毛。

 

 

 

 間違えてはいけない。

 

 ウマ娘警察は、どこに潜んでいるのか解らぬのだから。

 

 

 

 そう考えていると。

 

 無言でスカウターをカチカチやっていた、彼女。

 

 ユキオーが我慢の限界を迎えたような叫びを上げる。

 

 もっこもこの毛皮のコート。

 

 ウマ耳まで覆うウシャンカも愛らしい。

 

 

 

 何をバ鹿な。

 

 クリークママも言っていたではないか。

 

 栄誉ある仕事であると。

 

 この作業により、チキュウ温暖化は加速し。

 

 愚かな大人たちは絶滅し、幼児たちのエデンが産まれるのだ。

 

 

 

 「ひゃー! かき氷はうめぇなぁ!」

 

 

 

 見るがいい。

 

 ゴクウも大喜びで、食費を限りなくゼロに近づける作業。

 

 死の錬金術に勤しんでいる。

 

 というか、ヤツは道着一枚で寒くはないのだろうか。

 

 どれ、ウォッカをシロップとして与えてやろう。

 

 少し早めのクリスマスプレゼントだ。

 

 

 

 ロシアにおけるサンタ。

 

 ジェド・マロース。

 

 寒さに身を縮める子供に対し、寒風を吹き付け。

 

 震える彼らに暖かいかと問う、ボケてるのか。

 

 ドSなのかいまいちわからぬ、ジジイ。

 

 

 

 ゴクウはMUJAKIな愚か者。

 

 彼の問いかけにも、即座に暖かいと答え。

 

 毛布と食料を与えられる事が可能な逸材である。

 

 

 

 ちなみに、寒いと答えると凍死するハメになる。

 

 この地においては、正直よりも従順が美徳となるのだ。

 

 クリークママといっしょのスタジオと、同様である。

 

 

 

 滔々と言い聞かせると。

 

 ユキオーがスカウターを投げ捨て、やれやれと首を振る。

 

 従順さが足りぬ。躾が必要か。

 

 

 

 「えっと、会長、いまなんさい?」

 

 「死にたいか貴様」

 

 「ヒェッ。か、会長の年齢については置いておこう。

 ワシ、じゅうはっさいなんじゃが……」

 

 

 

 じゅうはっさい。こやつ、若さを自慢しておる。

 

 可愛いキープちゃんといえど、これは制裁の必要がある。

 

 

 

 寒中水泳などが、この場に相応しいネタ振りだろう。

 

 その可愛らしいロリボディに相応しい、衣装。

 

 白いスクール水着を用意させねば。

 

 砕氷船のような艶姿を魅せておくれ。

 

 

 

 彼女の基本的ウマ権すらも、自分が保有している。

 

 まったく。自分からネタ振りを求めるとは。

 

 彼女を拾ったのは大正解。

 

 このドMめ。どこまで自分を悦ばせる気か。

 

 考えていると、彼女から、再度の質問。

 

 

 

 「エデンが産まれたとして。生き残れるのはなんさいまで?」

 

 

 

 何を解りきったことを。

 

 やれやれ、甘やかし過ぎていたのかもしれぬ。

 

 そんな基本的な事もわからぬとは。

 

 呆れ果てたかわいこちゃんである。

 

 

 

 五歳までだ。当然だろう。

 

 クリークママといっしょの出演上限年齢は、五歳。

 

 エデンにおける生存可能年齢も、当然それに準ずる。

 

 生存が赦されるのは、幼児とママのみ。

 

 当然の理である。

 

 あとは恐らく……愛しの彼女も生き残れる。違法だがロリ故に。

 

 合法ロリも、生き残る目はあるだろう。

 

 

 

 

 「それ、ワシらも粛正されるんじゃない?」

 

 「天才かよ。その発想は無かったわ」

 

 

 

 なんと。

 

 こやつ、このファル子を越える閃きを魅せてきた。

 

 確かに、この永遠のじゅうななさいと言えど。

 

 ごさいと言い張るには、些か無理がある。

 

 

 

 あと一年若ければなんとかなったかもしれぬが。

 

 クリークママの粛正から逃れるのは困難だろう。

 

 数え終わればお役御免。我等の命は無い。

 

 待てよ……? と、いうことは……! 

 

 

 

 「おのれママ! ファル子を騙してたのねっ!」

 

 「ワシ、このウマに着いて行って大丈夫かな……

 そもそも、木を数えてもチキュウは温暖化せんじゃろ……」

 

 

 

 スマートファルコン、御歳31歳。

 

 歌のお姉さんにして、ニホンを代表する歌姫。

 

 そして。

 

 

 

 「ビョードー! ワシ-! 艦を回しなさい! ニホンに向かうわ!」

 

 「やっと気づきおったか。酒が進んでしょうがなかったわい。

 ククク……愉悦……!」

 

 散切り頭に和の装い。

 

 ニホンの金融業を牛耳る、闇の帝王。

 

 明王のビョードーのテイアイグループ。

 

 

 

 「さすがは愉悦の源。その七転八倒。

 それでこそ、我等が翼を預けた価値がある。

 クケコキキキ……」

 

 オールバックに尖ったお鼻。

 

 ニホンの軍需産業を牛耳る、怪物。

 

 道化のワシーのキョーセーグループ。

 

 

 

 その二つを統合した、巨大コンツェルン。

 

 フラッシュ・スプー・ラッタ商事。

 

 シンボルマークは酔っ払ったハルウララが描いた、奇跡の産物。

 

 

 

 かぼちゃのような、そうでないような奇形。

 

 ラグナロク星の王子を名乗る、よくわからない生き物、スプ○。

 

 

 

 電気ネズミに対し、勝てるはずもない戦いを挑む。

 

 身の程を知らぬ、茶色いドブネズミ、ラ○タ。

 

 

 

 どっちもどっちな両者が相争う。

 

 骨肉の争いを示したシュールレアリズムこそが。

 

 我等が企業理念。

 

 積極的に、弱者を見下そう。ヒトの本質を突いた言葉。

 

 

 

 両翼たるジジイどもに支えられた、弊社。

 

 些か高齢化が過ぎるきらいはあるが。

 

 影響力は世界中に及び。

 

 活動基盤たる、ニホンにおいてはほぼ無制限の強権が発揮できる。

 

 

 

 ワシ-の伝手により、警察など問題にならぬ。

 

 ビョードー配下の黒服どもにより、裏社会も掌握済み。

 

 トレセン学園どころか、URAの経営にも口を出せる。

 

 

 

 そうでなくば、ユキオーがどんなに成績が悪かったとしても。

 

 ウマ娘第一主義の、トレセン学園が手放すはずもない。

 

 

 

 理事長よ。権力無きその身を呪え。

 

 学生時代はお世話になりました。

 

 その後、いかがお過ごしでしょうか。

 

 

 

 この前お会いした時は、ロリロリしいままでしたね。

 

 たづなさんに狙われてますよ。気をつけて。

 

 わかるのです。この隼の眼力なら。

 

 まったく、年甲斐もなく発情するなど。

 

 呆れ果てたみどりのアクマオーです。

 

 

 

 学園が経営難の際はご相談を。

 

 そろそろユキオーの身売り代、尽きた頃でしょう? 

 

 ちゃんとあなたも高値で買ってあげます。

 

 

 

 立派なロリアクション芸人にしてあげますから。

 

 早く失脚してください。

 

 URA職員の買収は順調です。

 

 

 

 メジロ家の保持していた、おしぼり代の利権。

 

 既に我等が奪い去った。

 

 在りし日の栄光は、もはやその手から離れた。

 

 

 

 マックイーンよ。

 

 既得権益にあぐらをかいた、その油断を呪え。

 

 不労所得など夢幻。このファル子以外にはな。

 

 手元に残った量産型加湿器どもと共に。

 

 思う存分じめじめするがいい。

 

 

 

 ところで今度、商店街にタピりに行かない? 

 

 ヘリオスちゃんも誘ってさ。

 

 あいつ、いつまでパリピ続けるんだろ。

 

 旦那捕まえたからって余裕こきすぎだよね。

 

 羨ましくなんてねーぞ。

 

 

 

 彼女らに送る、手紙の文面を考えつつ思う。

 

 

 

 そう。あとは妖精を手に入れるのみ。

 

 百合とドリフ色の未来が待っているのだ。

 

 期待を胸に、手旗にてファル子リヲンを誘導する。

 

 

 

 「オーライ、オーライ。ストッ……オイィ! 

 数えた木、全部押し潰したぞゴラァッ! 免許持ってンのかっ!」

 

 「会長ッ! 操舵長もう年だからっ! 許してあげてっ!」

 

 「なんでジジイが運転してんだよ!! 

 昨今の高齢者による交通事故多発をご存知ない!? 

 お前どんな指導してんだよ!! 中間管理ロリだろ!!」

 

 「酔っ払って乗組員決めたの、会長ですけどォ!? 

 ワシ以外、ジジイしかいないじゃんっ! しかも! 

 操舵長、AT限定しか持ってないから断ったのに!! 

 あとわたし、自分のおじいちゃんより年上のヒト! 

 叱るとか無理なんですけどォ!?」

 

 

 

 わかっていない娘だ。このジジイ共は、孫娘より小さい娘に罵倒される。

 

 その快楽のために、老骨を粉砕機に掛けているというのに。

 

 あまりにも、未熟。だがその未熟さこそが。

 

 

 

 「てへっ☆ファル子、うっかりっ!! 

 そういやジジイしかいないよねっ☆

 あと一人称が戻ってるぞ。ちゃんとやれ。

 職場に早く馴染めるよう、ちゃんとワシって言え。

 ロリのジジイ言葉とか、ファル子興奮するから」

 

 「ぐっ…………まさか…………

 シベリアで年増と漫才をすることになるとは……

 一人称まで強要されるし……

 ワシのウマ生、どうなっとるんだ……

 でもお給料、いいんだよなぁ……金は命より重い。

 新作のコスメ、後で買おうっと」

 

 「よし、ちゃんと出来たな。褒美をやろう。

 後でシンボリルドルフのギャグ百連発視聴な」

 

 「お許しを……! 会長……! 何卒……!」

 

 

 

 そう、彼女こそ。

 

 現代のサンドリヨンにして、暴歌ロイド。

 

 奇跡の歌姫・スマートファルコン。

 

 彼女が座すは、第四世代型超光速恒星間航行用超弩級万能宇宙戦艦ファル子リヲン。

 

 

 

 孤独な艦隊の旗艦。

 

 フラスプネズミ商事が保持する、単独運用可能な軍事力。

 

 ただ一隻で、世界と闘える超兵器。

 

 

 

 陸海空から宇宙まで。電子戦に、リサイタル。

 

 全ての領域を制圧する、絶望を載せたノアズ・アーク。

 

 

 

 「行くよ! ワシ-、ビョードー、ゴクウ、ユキオー! 

 あとモブジジイ共! 縮退炉全開! 最大戦速! 

 ファル子リヲン! 北に向かって、全速前進!」

 

 「会長ぉぉぉぉぉ! そっちは北極ゥ!!! 

 操舵長! 素直に言う事聞いてンじゃねぇぞ!! 

 年長者として若者を導けよ!! クソがっ!」

 

 「性癖回路、全壊ッ! 出るッ!」

 

 「何を出すんだ、何をッ! わたし、もういやぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

 海賊王・スマートファルコン。

 

 望めば世界を掌中に収めることすら容易い、現代の怪物。

 

 頭はやはり、だいぶかわいそうであった。

 

 彼女は気づいてないが、クリークママといっしょの放送局も、実はグループ傘下である。

 

 なんで歌のお姉さんをやっているのか。

 

 答えは一つ。

 

 

 

 一心腐乱の、愛のため。

 

 

 

 

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ファル子さんじゅういっさい そのご クリスマス・東北

さぁ、伏線はどんどん回収しちゃおうねぇ……(ねっとり)
拙作は、東北三姉妹を応援しております。
元ネタは……なんだろ。敢えて言うなら、バ〇ル2世?


~前回までのあらすじ~

 

 遠き遠き北方の地。

 

 そこでは確かに、生命が息づいていた。

 

 ウオッカを煽って寒さを凌ぐのは、ふともも栗毛。

 

 だいぶ数を超過した、番町皿屋敷。

 

 猛禽類は、脳をアルコールでぬくめつつ。

 

 誠心誠意、無駄な業務に励んでいた。

 

 傍らには愛する予備。

 

 ジジイ言葉も愛らしい、可愛い玩具だ。

 

 おもちゃが告げる、驚愕の事実。

 

 彼女は憤慨し、恩師と友人に送る手紙を起案する。

 

 歌手にして実業家たる彼女は、筆まめであったのだ。

 

 ビジネスと私信。相反する両者。

 

 それを巧みに織り交ぜる、公私混同には定評がある。

 

 寒さというものを理解できぬ、魔訶不思議な友人。

 

 鼻に特徴がありすぎる、両翼。

 

 ジジイ言葉を強要した、自らの後継者では特にない新人芸人。

 

 超兵器にして老人ホームたる、母艦に乗り込み。

 

 彼らを従え、猛禽類は北極に向かう。

 

 彼女の行く先はいつだって未開の地。

 

 羅針盤が指し示す、希望へ向かっていざゆかん。

 

 老人の性癖だけが、優しく微笑んで方向音痴となっていた。

 

 ロリの罵倒って最高。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しゃんしゃんしゃん。

 

 街は、浮かれた様相を魅せていた。

 

 

 

 街を走り回る、角が生えたトウカイテイオー。

 

 袋を担ぎ、柔和な笑みを浮かべる悪質な訪問販売。

 

 恐らくチキンの販売だろう。

 

 道頓堀に沈んでいそうな顔をしている。

 

 

 

 そう。もうすぐクリスマス。

 

 この浮かれ具合も無理はない。

 

 カワカミプリンセスは、お買い物袋を肩に。

 

 うきうきと商店街を歩いていた。

 

 

 

 

 「おっ? プリンセスじゃん! 久しぶりだねー!」

 

 おっと。目を血走らせた鬼に目をつけられた。

 

 爽やかな挨拶に惑わされてはならぬ。

 

 ヤツの湿り具合は、留まることを知らぬのだから。

 

 ところで、曇らせはNGな方が多いが。

 

 湿らせはOKだろうか。興味は尽きぬ。

 

 

 

 「ウマ違いですわ」

 

 「またまたー。

 そんなクソ重そうな袋を担いでる5歳児。

 プリンセス以外に居るわけないでしょ。

 ネイチャ見てない? 隠すとためにならんぞ。

 はちみー飲む? さっさと吐け」

 

 

 

 韜晦して見せるが、すぐに看破される。

 

 さすが。理性を倒壊させているだけの事はある。

 

 まさにトウカイテイオーである。

 

 

 

 悪い警官と良い警官。

 

 尋問の必須テクニックを、単身にて巧みに使いこなしつつ。

 

 久闊を叙し始める奇跡の加湿器。

 

 まずいウマ物に掴まったものだ。

 

 呪物的な意味で。

 

 

 

 「お久しぶりですわ、テイオーさん。

 はちみーは要りませんわ。

 ウマ娘ポンプは大人のお仕事ですもの。

 今回はネイチャさんは何を? ところで寒くありませんの?」

 

 「はちみーの味を知らないとは子供だね。

 ネイチャの所業は、子供に話すことじゃないかなぁ。

 まったく。

 折角リクエストに応えて、こっだ服まで、着てけるに。

 ひどいダーリンはお仕置きだっちゃわいや」

 

 

 

 バチバチと、違法改造されたスタンガンを手に。

 

 やれやれと剥きだしの肩を竦める虎縞ビキニ。

 

 方言も巧みに使いこなしている。

 

 トーホクテイオーである。

 

 

 

 なるほど。ミヤギ出身のキャラなのだな。

 

 プリンセスは納得した。

 

 枝豆由来のあんこが好きなのだろう。間違いない。

 

 

 

 しかし、季節感の無い加湿器だ。

 

 梅雨の時期にも、その電力を下げる事は無いと聞く。

 

 きっと、愛の蜘蛛の巣には。

 

 たくさんのシイタケが生えていることだろう。

 

 

 

 「あちらの方で、幼女に声を掛けておりましたわ。

 ところで、最近新しいモーテルがオープンしたらしいですわよ」

 

 「ネイチャァァァァァァァァァァァァァァァ!!! 

 ずんだスタンガンときりたん包丁でっ!!!!! 

 半殺しズラァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 

 

 ズダダダダダダダ。

 

 凄まじい勢いで、指した方向に向かうる星ウマ。

 

 どうやらなまはげ要素も取り入れているらしい。

 

 ちなみに、半殺しとは。

 

 ニホンの一部地域において、おはぎの事を指す。

 

 

 

 汚い帝王といえば裏路地。

 

 躊躇いなく向かった。

 

 どうやら誘導には成功したようだ。

 

 

 

 「さて。ネイチャさん。行きましたわよ」

 

 「助かったよプリンセス。やはり持つべきものは可愛い幼女だね」

 

 「約束のブツ、お忘れ無きよう。

 ところで、今回の梅雨前線の理由とは?」

 

 

 

 ずるるるるる……

 

 マンホールから這い出す、拘束具に満ち溢れた汚い帝王。

 

 昨今の下水は、行政の不断の努力により、清潔である。

 

 

 

 バビロンの時代より、幾星霜。

 

 ついには悪臭を排除し、ご覧の通り。

 

 ツインテールがいつも通り湿っているだけで。

 

 地下を這いまわった彼女も。

 

 元気で不審な姿を見せている。

 

 

 

 でもぼったぼった言ってるから近寄らないで欲しい。

 

 ぼた餅は先程のトーホクズンオーで十分。

 

 愛する妖精に捧げる、略奪品が濡れたら困るのだ。

 

 

 

 今年のクリスマスは、いつもより豪勢に。

 

 ドトウ丸鶏をオーブンで焼いた、ローストチキン。

 

 母はサイコパスだが、料理の腕は良い。

 

 今からよだれが止まらない。

 

 

 

 公威さんの秘密の薔薇園。

 

 その存在を、旦那さんにリークするというお強請り。

 

 男と男のラブソング。

 

 幸せな家庭を崩しかけた甲斐があるというものだ。

 

 

 

 『オレという者がありながらッ!』

 

 旦那さんの悲痛な叫び。

 

 チキンに掛ける、良いスパイスとなることだろう。

 

 

 

 「いつも通り、テイオーとお散歩してたんだけどね。

 ほら、鎖。プリンセスも引いてみる? 

 楽しいよ。あたしが」

 

 「わたくしが引くのは、愛犬と、愛妖精のリードのみ。

 そう三女神様に誓っておりますの。

 お断りですわ」

 

 「つれないねぇ。純愛は目に眩しいよ。

 そんで、トウカイ電力がオーバーロードした原因だけど。

 ドトウが新商品のウラーひよこを売っててね。

 まったく。あんな胸をしておいて。

 サンタコスだなんて、各方面に失礼だと思わない? 

 思わずツッコんじゃったよ。胸に。顔面から」

 

 

 

 なるほど。

 

 先程自身も目撃したが、メイショウドトウの企業努力が伺える。

 

 でもヤギをトナカイ替わりに乗りこなすのは、動物虐待じゃないかしら。

 

 プリンセスは、かわいそうな乗り物の姿を思い出した。

 

 

 

 『メヘヘヘヘヘヘヘェェェェェェェェ!!!!!!!!!』

 

 『がらがらどんッ! ステイですぅ! 

 さっきも大型トラックを廃車にしたばっかり! 

 これ以上の交通事故はごめんですぅ! 

 たぬ吉さん! にゃん太さん! 止めてぇ!』

 

 

 

 問題なし。あのヤギの凄まじい威容。

 

 覇王の気風すら感じさせた。

 

 にゃんことぽんぽこも、処置なしとばかりに首を振り。

 

 

 

 被害に遭った運転手も。

 

 涙目のサンタの必死の上目遣いと、ロデオによる乳揺れに。

 

 快く彼女を赦したらしい。

 

 被害と言える被害は無い。

 

 精々あると、するならば。

 

 風俗店の呼び込みと、間違われる程度だろう。

 

 

 

 そして振り回される彼女を見て。

 

 牛乳を飲まなければ。

 

 プリンセスは使命感を新たにした。

 

 一日5リットルのママミルクがノルマだ。

 

 愛する妖精は、母の胸と父のケツが、大層お気に入りなのである。

 

 きっと自分の成長も悦んでくれるに違いない。

 

 

 

 そう誓った自分が、数年後。

 

 自らの性徴が、愛する妖精を自棄酒に走らせることを。

 

 神ならぬ彼女に、知る由は無い。

 

 

 

 「ところで、プリンセスは今日は一人? 

 あたしと新装開店セール行く? モーテルの」

 

 

 やはりか。誘いを掛けて来た。

 

 何故こやつを助けたのだ。わたくし。

 

 いくら学生時代の妖精グッズに目が眩んだとはいえ。

 

 

 

 隙あらば、またASMRを仕掛けてくるだろう。

 

 恩を音速で忘れるその態度。

 

 見習うべき所がある。

 

 

 

 襲い掛かられれば、幼い自分だけでは。

 

 初めてのおつかいの焼き直し。

 

 頼りになる三人の両親も。

 

 今日は忙しく、自分をストーキングしていない。

 

 

 

 頼れる味方が居なければ。

 

 マッドティーパーティーの開催は間違いない。

 

 だが。問題は無い。

 

 

 

 過保護どもが、自分一人での私掠に。

 

 許可を出すはずもない。

 

 頼れるお供がちゃんといるのだ。

 

 

 

 「いいえ。頼もしいボディーガードが着いておりますの。

 ねぇ、ナッちゃん。フユちゃん」

 

 「ピヨッ!」

 

 「ワンッ!」

 

 コートの袷。

 

 ふくらみかけの胸元から顔を覗かせる、彼ら。

 

 頼れる味方だ。

 

 

 

 そう。将来立派なプリンセスになるために。

 

 既にマスコットは確保してあるのだ。

 

 後は海戦担当だけである。

 

 

 

 「……子犬と、ひよこ? 

 随分頼もしいボディーガードだね。

 もしかして、あたしを舐めてるのかな。

 そんなにペロられたいのかな? 

 姫は良い子だ。ネンネはコロリ、懇ろリ」

 

 

 

 汚い帝王の囀りに、不穏な響きが混ざる。

 

 やはり。与し易しと見たか。

 

 狂言廻しを開始した。

 

 

 

 だが、舐めているのはそちらである。

 

 同じ手が、プリファイたるこの身に二度通じるなどと。

 

 その増上慢を、そげぶする……! 

 

 

 

 「フユちゃん! ナッちゃん! ゴー!」

 

 「わふっ!」

 

 「ピヨォッ!」

 

 「あはははは! 小動物に何が出来るのさっ! 

 この帝王を、無礼るなよっ! 

 何時でも何処でも絶好調ッ! 

 両手両足を封じられ! 

 挙げ句の果てに、重りを数十キロ程! 

 それぐらいはしてもらわないと! 

 そんなハンデを負わされぬ限り! 

 このネイチャに負けは無いっ! 

 やったぜ今日も、ホームランッ! 

 そんな状況に追い込まれる筈が……」

 

 「もう既にその状況ですが」

 

 

 

 じゃらじゃらと 音を奏でる 拘束具。

 

 お前は既に、湿っている。

 

 

 

 「Oh……日常過ぎて忘れてた。

 痛い痛い! このひよこ、やたら急所を狙ってくる!? 

 あとこのわんこ、トイレトレーニングちゃんとした!? 

 さすがにガチケモは、あたしでも厳しい! 

 そこまで行くと、ガイドラインに反しちゃう!」

 

 

 

 つんつんぴよぴよじょろろろろ。

 

 

 

 好き勝手に弄ばれる汚い帝王。

 

 完璧な勝利である。

 

 

 

 フユウララは陸を往き。

 

 ナツウララは空を舞う。

 

 残念ながら、アキウララは未だ欠番。

 

 代わりにフユウララの粗相にて、大海を表現した。

 

 

 

 そう。我が頼れるマスコット。

 

 量産型ウララシリーズである。

 

 

 

 まずフユウララ。子犬。

 

 妖精家出事件の翌日。

 

 メイショウドトウが丹精込めて躾けていた、彼女。

 

 母がそれを、貰い受けて来たのだ。

 

 

 

 やはりポンコツは本物だったらしい。

 

 正直あの時はちびりかけたが、まぁ問題ない。

 

 利害は一致しているのだ。

 

 嘘は吐かなかったこともあるし。

 

 母はやる時はやルシファーだが。

 

 あの程度で怯んでいては、妖精は手に入れられぬ。

 

 

 

 フユウララは、トレーナーの気性を反映してか。

 

 わりと大人しめのハスキーである。

 

 だが、嬉ション癖がひどい。

 

 恐らくメイショウドトウも……いや。

 

 今は語るべき時ではない。

 

 

 

 次にナツウララ。ひよこ。

 

 桜の色をした、かわいいピヨピヨである。

 

 彼女は自分の、夏休みの課題として生を受けた。

 

 妖精観察にっきは、3歳と4歳の時に。

 

 既にやってしまったのである。

 

 天丼は一回まで。当然の事だ。

 

 そのため、満を持して行った自由研究。それが。

 

 

 

 『カッコウ被害鳥類に、新たな卵を暖めさせてみた』

 

 

 

 絶賛を受け、学会への発表まで検討された。

 

 とても学術的かつ、先進的なテーマであった。

 

 

 

 健やかな寝息をたてる、ヘソ天妖精。

 

 愛する彼女のおなかに、有精卵をそっと置く日々。

 

 危うくおなかフェチになるところであった。

 

 自分は妖精フェチ。

 

 全身を、骨の随まで。余す所なく味わいたい。

 

 

 

 そして、研究が始まって、しばらくして。

 

 数度の夜を経た後に、彼女が誕生したのだ。

 

 もはや妹と言っても過言ではあるまい。

 

 

 

 妖精は、殻を破り、自らのおなかの上で。

 

 ピヨピヨと鳴く彼女を寝ぼけ眼で認識すると。

 

 すぐに飛び起き、物も言わずに子育てを開始した。

 

 やはり、鳥類としての習性には逆らえなかったらしい。

 

 

 

 そして、数ヶ月後。立派なひよこになった暁に。

 

 プレゼントとして自分に逆輸入されたのだ。

 

 プリンセス大勝利である。

 

 

 

 卵から育てられたためか。

 

 その性質は妖精と非常に似通っている。

 

 鶏になる兆しはなく。

 

 産まれた時から変わらぬ、愛らしい桜色の毛玉のまま。

 

 

 

 生き汚さを感じさせる、荒んだおめめ。

 

 みっしりと詰まった、羽毛の下の鍛え上げられた筋肉。

 

 凶器たるそれを隠し持ちながら。

 

 産まれたばかりのひよこと変わらぬ姿。

 

 短い手羽先で、短時間の飛行すら可能。

 

 プレゼントされた当日に。

 

 フユウララにマウントを取り、配下と化す傲岸不遜。

 

 自分の側を片時も離れぬ、絶対的な庇護欲。

 

 妹というか、第3の母めいた貫禄すら感じさせる。

 

 

 

 「ピヨッ!」

 

 「わふぅ……」

 

 今も、愛する娘を守護れた充足感に。

 

 お出かけの際の定位置である、フユちゃんの頭をぺしぺしし。

 

 こちらに戻り、自分の足元で誇らしげにピヨっている。

 

 なんと頼もしいマスコットか。

 

 

 

 愛する妖精も、あのような謎コンはすぐに手放し。

 

 新たなマスコットを探すべき。心底思う。

 

 まぁ、自分の事をエロい目で見なくなったのは。

 

 評価してやらないこともない。

 

 

 

 愛する妖精は、母性本能が非常に強い。

 

 恐らく鳥類としての習性だろう。

 

 

 

 自分と結ばれるのはもはや決定した未来ではあるが。

 

 子供を欲しがった際には、妖精を一心不乱に愛し。

 

 しかして独占を目論まない。

 

 都合の良い、ヒト雄の協力が必要となるだろう。

 

 

 

 今のヤツはまだ落第だが。

 

 妖精のみを愛するようになれば、まぁ認めてやらんこともない。

 

 設計中の、三世代型住宅に設置予定の犬小屋。

 

 そこに棲み家を用意してやろうではないか。

 

 姫君とは、寛容さも重要なのである。

 

 

 

 考えていると、雁字搦めのミノムシの声。

 

 「まさかね。思わぬ隠し球だねお姫様。

 ウラーひよこのオリジナルとは。

 幼児の護衛におすすめって、売り文句を聞いて。

 内心バ鹿にしてたけど。

 絶対売れるねあれ。間違いない。

 あと、これ緩めてくれない? 

 まさかひよこに鎖を締め付けられるとは。

 ネイチャさん、新たな性癖に目覚めそう」

 

 「ウララちゃん、育てる喜びに再度目覚めたようでして。

 今では量産態勢に入っておりますわ。

 この子を見せた、ドトウちゃんも。

 思わぬ商機に大喜びでしたもの。

 まぁ、ナッちゃんほどのソルジャーには。

 育つことはないとは、思いますが」

 

 

 鎖を緩めつつ、談笑する。油断はしない。

 

 ナッちゃんも、自らを弾丸と化す態勢を崩していない。

 

 彼女の初速は、恐らく銃弾より速い。

 

 詠唱を封じることも、容易であろう。

 

 

 

 「フユちゃんもすごいのですわよ。

 母が躾けていますが。

 なんと、50km離れたウララちゃんのハンカチも。

 余裕で嗅ぎ付けますわよ。

 今、貴女の香りも覚えたようです」

 

 「動物の調教って、そういうもんだっけ……

 トイレトレーニングが先じゃない?」

 

 「わたくしの護衛はもう完璧ですもの。

 問題ありません。時にネイチャさん。

 これ、物凄い重さですけれど。

 よくこのまま、下水を泳げますわね」

 

 「ああ。皇帝直伝・夜の覇道海戦編。

 素破・テンコーの力だね。

 師匠はもっとすごいよ。フジキセキと協力して。

 水中大脱出からのトレーナー消失マジック。

 師匠の旦那さんも大変だよね。

 目覚めたらタキシードで、式場に居たらしいもん」

 

 

 

 なるほど。ニンポ―とマジックの奇跡の融合か。

 

 ならば得心が行く。

 

 ちなみに素破(すっぱ)とは。

 

 泥棒とニンジャの意味を持つ言葉である。

 

 この場合、後者であろう。断じて狐ではない。

 

 

 

 「皇帝、凄すぎますわね……ネイチャさんは? 

 トレーナーさんと、まだ続いているのでしょう?」

 

 「あたしはまだいいかなぁ。

 遠距離恋愛っていいよね。

 成就確率16%は常人の話。

 電話越しのASMRにより、彼はもうあたしの物さ。

 テイオーを完堕ちさせてから、迎えに行くよ」

 

 「今度、教えて頂いても? 

 もちろん無料とは言いませんわ。

 王者式格闘術。あなたの子供に伝授しますわ。

 あと、忠実なマスコットの作り方も」

 

 「いいね。すごくいい。

 対等な取引は大事だよ。もちろん契約を破れば。

 お姫様、わかっているね?」

 

 「ええもちろん。そもそも破りはしませんわ。

 約束は大事。ウララちゃんも母も。

 約束を破ったこと、ありませんもの。

 もちろん嘘も。わたくしも同様です」

 

 「妬けちゃうね。よし、契約成立だ。

 弟子には尻以外、手を出さない。

 これも師匠の教えさね。

 よろしく、お姫様。

 悪い魔法使いは、これよりあなたのしもべ。

 夜の覇道。更なる発展を期待してるよ」

 

 「よろしくお願い致します。師匠。

 あとソフトタッチでお願いします。

 あまり激しいと、ひよこが頭を貫きますわ」

 

 「ピヨッ!」

 

 「本当に貫きそうで怖いよね……

 さすがはウララのひよこ版。

 怖すぎて手が震えるよ。おっと」

 

 「早速触ろうとしないでくださる?」

 

 

 

 ズギュウン。

 

 銃声ならぬ、ピヨ声は浮かれた空気を貫き。

 

 汚い帝王は、新たな性癖に目覚めた。

 

 ピヨ貫。かわいらしく、良い響きである。

 

 

 

 新たなしもべを得た満足感。

 

 取り敢えず、アキウララ(暫定版)と名付けよう。

 

 海戦も可能なようであるし。丁度良い。

 

 そう思っていると、計画性の高そうな。

 

 そうでもないような、穏やかな声が掛けられる。

 

 

 

 「もし。そちらの手遅れそうな方々。

 もしや我が友、ファル子さんのお知り合いでは?」

 

 「ばぶー。ふぁるー」

 

 「なにッ!? その孤独なSilhouetteはっ!」

 

 「赤子を抱いてる時点で、孤独じゃありませんわっ!」

 

 「そりゃそうだっ! 久し振りだね。

 ……フラッシュ。ニホンに帰ってきたんだ」

 

 「YES! アイ! マムッ!」

 

 「ドイツ語でおk」

 

 「また変態ですの……」

 

 

 

 その通り。

 

 

 

 

 

 

 つづかない



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ファル子さんじゅういっさい そのろく 第二日曜日

読者様がた、メリークリスマス。
しばらくクリスマスが続きます。
テーマは聖夜の奇行となります。
やっぱりクリスマスには、奇跡が起こりますからね!
後今回は、みんな大好き、ゆで理論に挑戦してみました。
恐らく納得いただけることでしょう。
我ながら、完璧な理論構築であります。


~前回までのあらすじ~

 

 愛する妖精に捧げる極上の聖夜のため。

 

 商店街をおしゃまに歩く、プリンセス。

 

 そこに現れるトーホクテイオーラム肉風味。

 

 彼女の執拗な尋問を華麗にかわし、マンホールからこんにちわ。

 

 汚い帝王のご入場。

 

 メイショウドトウの新商売。

 

 繰り返される、ASMR。

 

 だが残念。プリファイに二度同じ催淫音声は通じぬ。

 

 惨状するはマスコット。夏と冬の名を持つウララシリーズ。

 

 ピヨピヨワンワン、頼れるお供の登場でござい。

 

 そして汚い帝王の油断を突き。勝利を悦ぶ幼女ご一行。

 

 戦利品には秋の名を。新たなしもべを手に入れて。

 

 喜び束の間、不穏な気配。

 

 アメリカナイズされたのはドイツだ。

 

 そして、物語は紡がれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三女神様。

 

 教えてください。

 

 愛する事は、罪ですか。

 

 愛したくて、たまらない。

 

 走るために、生を受けしこの身。

 

 愛にその身を焦がすことが、もしも。

 

 摂理に逆らう罪。そうおっしゃられるならば。

 

 三女神様。わたしは貴女方にすら、叛逆の狼煙を。

 

 左手にマイク。右手に世界。この歌は、運命すらも打ち砕く。

 

 さぁ。開宴の時。ドイツもコイツも踊り狂え。この愛を聞くがいい。

 

 我が名こそは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ウララちゃん♡アフちゃん♡ファル子ちゃんっぽい何かと備品♡

 あとオマケのホスト気味な畜生♡今日もお仕事、お疲れ様でした♡」

 

 

 

 甘く蕩けたエンドコール。

 

 クリークママのねぎらいである。

 

 ねぎらっているのか、喧嘩を売っているのか。

 

 なかなか理解しづらいのが、欠点である。

 

 

 

 ハルウララは、またも今日の遊びの時間にて。

 

 痛めた腰を伸ばし、愛想笑いをした。

 

 猛禽類の抜けた穴は、思ったよりも大きかったのだ。

 

 

 

 「スズカさん。私のおなか、叩きすぎじゃないですか? 何ですか。

 もうおなか鼓っていうか。ストマックヘヴィドラムとかそういう感じですよ」

 

 「リクエストにお答えするには、ああするしかなかったわ。スぺちゃん。

 昨今の幼児は雅楽じゃウケが悪いわ。デスメタルこそ勝利の鍵よ。

 次回もアゲて、いきましょう?」

 

 「アゲませんッッッッ!!!」

 

 「年増のきゃぴきゃぴは見るに堪えん。他所でやってはくれまいか」

 

 「お主、いつか殺されるぞ……だからといってこっち見んな。変態が感染る」

 

 

 

 天丼をカマす、蟲毒のグルメからの刺客。

 

 喧嘩を売る、謎コン。

 

 謎コンを諫める、褐色合法……めんどい。ロリ。

 

 

 

 こやつらも頑張ってくれてはいるが。

 

 やはり、幼児どもはお歌の時間の、脳髄を貫く刺激。

 

 あれに慣れ過ぎているのだろう。

 

 

 

 三日目にして、もはや食傷気味のようだ。

 

 しかし、サイレンススズカも変わったものだ。

 

 昔の彼女を思い出す。

 

 

 

 サイレンススズカ。異次元の逃亡者。

 

 ふとももフェチのおなかをすぺんすぺんする以外は、レースにしか興味がなく。

 

 栄光の日曜日以降も、速さの極限を追求し続けていた。

 

 

 

 だが。ある事件により。

 

 レースを走れぬ身と化したのだ。

 

 

 

 事件は二度起きた。

 

 一度目は、『沈黙の日曜日』。

 

 『栄光の日曜日』と対を為す事件。

 

 

 

 栄光の日曜日を経て、自らの足が、己の速度に耐えられぬという事実。

 

 これを知り、対処を万全にしたサイレンススズカの出た、レース。

 

 

 

 牛乳を一日50リットル飲むという狂気。

 

 それを涼しい顔でこなした彼女は、万全であった。

 

 だが。その日。観客席は、沈黙に包まれた。

 

 

 

 サイレンススズカは、速度を追求しすぎて。

 

 第1コーナーで曲がり切れず。外ラチにそのまま突っ込んだのだ。

 

 

 

 笑っていいのか、心配したらいいのか。

 

 無傷で立ち上がり、その場左旋回を続ける彼女を見て。

 

 黙り込む観衆。

 

 牛乳を飲んでいなければ、彼女は怪我をしていただろう。

 

 牛乳ってすごい。みんなも飲もう。

 

 

 

 それから彼女のスランプは始まった。

 

 速度を落とすという、当然の事すら許容できぬ。

 

 ちょっとばかり、行き過ぎたスピード狂の彼女。

 

 壊した外ラチの数は数え切れぬ。

 

 

 

 だが、彼女は諦めなかった。

 

 

 

 ある日、相変わらずコーナーを破壊し続ける彼女に。

 

 業を煮やしたスペシャルウィーク。

 

 かわいい後輩に連れられ、気分転換に訪れた、北海道の農場。

 

 そこで見た、一つの物が。

 

 彼女を再びレースへと復帰させたのだ。

 

 

 

 

 

 

 ブルドーザーである。

 

 

 

 

 

 

 彼女は、ブルドーザーから着想を得て。

 

 再びコーナーを曲がれるようになったのだ。

 

 

 

 そもそも。ウマ娘がコーナーを曲がる際。

 

 自分たちは、遠心力に打ち勝つため。

 

 その身を曲がる方へ傾ける。

 

 

 

 これは、タイヤ式の車両と同じ原理だ。

 

 タイヤをハンドルにより、曲がる方向に傾ける事で。

 

 車は曲がるのである。

 

 

 

 対して、ブルドーザーや油圧ショベルなどの、キャタピラを装備した車両。

 

 ハンドルでキャタピラを傾ける事など、不可能である。

 

 そのため彼らは、左右の動力を伝えるギヤの不均衡。

 

 これによって曲がる。

 

 

 

 片側のみに動力を伝達し、片側の動力を切る。

 

 片側のみの速度を上げ、もう片側の速度を落とす。

 

 場合によっては、左右のギヤを逆回転させることにより。

 

 超信地旋回を行うのだ。

 

 

 

 そしてサイレンススズカは、キャタピラによる方向変換。

 

 この、戦車にも使われるコーナリング方式。

 

 これに活路を見出し。

 

 

 

 お義母様の懇意にする、農業用重機の整備工場において。

 

 ブルドーザーの整備に、熱心に携わり。

 

 ついには開眼を果たしたのだ。

 

 

 

 更なる速度を追求するための、第二の領域。

 

 

 

 『コーナーの景色も、譲らない……!』に。

 

 

 

 そもそも走ってる最中、前見えてんのかなコイツ。

 

 

 

 その発動条件は単純。

 

 先頭をひたすら走りつつ、全速力でコーナーに突っ込むこと。

 

 彼女以外誰もやろうとも思わない、クレイジーな発動条件に。

 

 三女神も思わずオーケーを出したのだ。

 

 

  

 サマードリームトロフィーで、それは初めてお披露目された。

 

 左足の速度はそのままに。右足を超高速でターフに連続で叩きつけ。

 

 芝を豪快に捲り上げつつ、左回りする暴走栗毛タンク。

 

 

 

 初めて彼女と走る、夢の舞台に。

 

 心をときめかせていた、スペシャルウィーク。

 

 戦車でも通ったかのように、捲れ上がった芝に足を取られ。

 

 二十バ身差を付けられ、ゴールした後に。

 

 

 

 初めて自棄酒をかっ喰らい、暴飲暴食を重ね。

 

 無事太り気味になったという。

 

 

 

 (コイツ、性癖のみならず。思考回路まで異次元に逃亡してやがんな……)

 

 

 

 ハルウララは思った。どうしてそうなる。

 

 まぁ彼女がレースを走れなくなった理由とは、『沈黙の日曜日』は関係ない。

 

 

 

 彼女がレースを引退したきっかけは、その次の事件。

 

 『常識が逃亡した日曜日』にある。

 

 いつか語られる時が来るだろう。たぶん。

 

 

 

 「そういえばスぺちゃんたちは、いつまで番組に出れるの?」

 

 首をかわいらしく傾けつつ、聞いてみる。

 

 ごきりと不穏な音が鳴るが、周囲はノーリアクション。

 

 彼女らにも情けはあるのだ。

 

 

 

 「はいっ! わりと長い間、お世話になりましたが! 

 明後日の飛行機で帰りますっ! 撮影も終わったのでっ!」

 

 元気にお返事するスぺちゃん。

 

 こやつ。己の年齢に自覚がない。

 

 元気な田舎系娘が許されるのは、二十代まで。

 

 

 

 己と同い年の彼女に、身の程を知るよう忠告すべきか。

 

 ハルウララは逡巡した。

 

 

 

 「あらー♡困りましたねー♡引き留めるわけにも、いきませんし♡

 ウララちゃん、他に心当たりは?」

 

 「そんな面白演奏できる芸人、他には心当たりないかなー」

 

 

 

 クリークママのご下問。

 

 無茶を言いなさる。この芸人どもですら、とても稀少な珍獣である。

 

 

 

 「もう。ファル子ちゃんも反省してるでしょうし♡そろそろ呼び戻しますか♡」

 

 「アイツ、反省とかすんのかな……」

 

 「しないと思います。学生時代からそうですもん」

 

 「しないと思うわ。以前、次は芝のサイレンススズカとか言ってたわ」

 

 「しないだろう。性癖を賭けてもいい」

 

 「しないと思うぞ。短い付き合いの私でもわかる」

 

 

 

 満場一致で否定される、猛禽類の。

 

 自らを省みる機能の存在。

 

 己もそう思う。だが、背に腹は代えられぬ。

 

 さて、シベリアに電報でも送らねば。

 

 

 

 『ママキチク スグカエレ』

 

 文面はそのあたりでいいだろう。

 

 さて、それでは郵便局に……

 

 そう思っていると。

 

 

 

 「ウララちゃんっ! お客様ですわっ! 

 ママのメールを見た限り、いつも通りヤベー奴ですわっ!」

 

 「サプライズってやつだねぇ。テイオーにも今度やろっと。

 ウララ、ビデオレターとか興味ない?」

 

 「ここに居れば、ファル子さんに会えると思いまして。

 お久しぶりです。皆さん」

 

 「だー!」

 

 

 

 おっと。かわいい娘と、汚い帝王。

 

 後は……なんと。よもやよもやだ。

 

 それは、紛れもなくヤツさ。

 

 

 

 「あ、あなたはっ!」

 

 「知っているの、スぺちゃんっ!?」

 

 「お前も恐らく知っているだろうに。これだから栗毛は……」

 

 「お主、全ての栗毛を敵に回したぞ……

 そろそろウララ先輩以外にも、気遣いを覚えるのである」

 

 「落ち着きなさい、クズども♡おひさしぶり、フラッシュちゃん♡

 まずはワンちゃんを抱かせてもらっていい? 返事は聞いてない♡」

 

 

 

 そう。エイシンフラッシュ。

 

 諸悪の根源が、そこにいた。

 

 

 

 

 

 

 つづかない



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ファル子さんじゅういっさい そのなな メリー・苦しませる

クリスマスは続くよどこまでも。
年末までに終わるかこれ・・・?
ボブは訝しんだ。


~前回までのあらすじ~

 

 猛禽類が不在のクリークママといっしょ。

 

 ママの求心力も、翳りを見せていた。

 

 暴言癖のためだ。

 

 あと雅楽は幼児にウケない。

 

 当然のことだ。

 

 明かされる、サイレンススズカの暗い過去。

 

 沈黙が訪れた日曜日。

 

 特に意味はない。

 

 そのママの流れで、尊敬すべき人民の指導者から。

 

 代わりの芸人の拉致を打診される、ハルウララ。

 

 彼女の脳内で微笑む、ピン芸人ども。無理。

 

 さすがに品切れだ。ウマ娘は全員歌って踊れるが。

 

 それに発狂をつけるとなると、些か人数が絞られる。

 

 そう告げると、嘆息の声。

 

 クリークママは現状を正しく認識。

 

 シベリアの地に放逐した、粗忽者。

 

 スマートファルコンを、寛大にも許すこととした。

 

 そして。

 

 姫君の案内により。

 

 最後の役者が姿を現す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「契約通り。わかっておりますとも。クリークさん、ワンをお願いします」

 

 「うふふ♡やっぱり生赤子は、母性本能の高まりが違うわ♡♡♡」

 

 「ばぶぅ。きゃっきゃっ!」

 

 

 

 産女から姑獲鳥にパスされる赤子。

 

 大喜びであやし始めるクリークママ。

 

 やはり本物の生贄は、訳が違うのだろう。

 

 

 

 ワンちゃんとやらの方も嬉しそうだ。

 

 クリークママは、新生児に対しては無害なので安心できる。

 

 少しでも育った者は害するが。

 

 彼女には、ネバーランドでも。年齢制限が高すぎるのだ。

 

 

 

 「フラッシュちゃん。なんで今頃ドイツから帰って来たの?」

 

 「封印が解けましたから。調伏せねばなりません」

 

 「Oh……ゲルマン陰陽師……シュバルツ・ディーンストメートヒェン……!」

 

 

 

 目を輝かせる褐色合法ロリ。

 

 恐らく、厨二心が擽られたのだろう。

 

 ドイツ語で必殺技を考えたことのある人、手ェ挙げて。

 

 

 

 しかしなるほど。怨霊の調伏か。だが疑問がある。

 

 

 

 「怨霊を作り出したの、フラッシュちゃんでしょ……」

 

 「彼女を怨霊と化さねば、トレーナーの身が危うかった……

 必要最小限の犠牲というものです。合法」

 

 

 

 合法なら致し方ない。だが、トレーナーだと。

 

 猛禽類の菅原道真公への転身と、トレーナーの身の安全。

 

 話が全く以て繋がらぬ。

 

 

 

 「……趣味ではなくて?」

 

 「私が愛するファル子さんを。趣味で怨霊と化すなど。

 確かに怨霊時のファル子さんも愛らしい。しかしながら。

 それは侮辱というものですよウララさん。

 私は彼女を、心の底から愛しているのですから」

 

 「意味がわからんぞ。エイシンフラッシュとやら。

 オレはお前とは初対面だが……それでもわかる。

 愛する者を怨霊に堕とすこと。これは、間違っている。

 ウララはカッコウ被害に堕ちたが。まぁ、本鳥が幸せならば良い。

 だがあれは……違うだろう。幸福とは程遠く見える」

 

 

 

 ツバメが第3者の観点から疑義を呈する。

 

 そう。愛故に怨霊に堕とす。意味が全く通らない。

 

 あと誰が鳥だ。ツバメは貴様。

 

 ウララちゃんはかわいいプリンセスの母だ。

 

 断じて鳥類ではない。

 

 

 

 ツバメを睨みつけていると、エイシンフラッシュが胸元から。

 

 何かの本を取り出す。揺れる母性。

 

 自慢してやがる。ドイツも焼き払うべきか。

 

 

 

 「……おお。二ホンお笑い芸人名鑑2021。

 私の家にもあるぞ。エルはお笑いが大層好きである。

 特に、ショー・天が大好きでな。

 

 私が家を合法的にメイド占拠するまでは。

 電気もつけずに、テレビだけつけて。

 一人で奇怪な怪鳥音を発し。

 ご近所さんに通報されていたらしい」

 

 「エルコンの暗い過去を、赤裸々にバラしてやるなよ……

 可哀想だろ。でも弱みを握りたいから後で詳しく」

 

 「了解である。怪鳥ネタならいくらでもあるぞ。

 ああ! 愛する者の恥部を晒すことの、なんと甘美であることか! 

 聖なる6時間! 延長して12時間はお仕置きしてもらえること、確定である! 

 今夜のご奉仕は、何を着ようか! 三つ指崩れて首輪が締まる! 

 ご休憩 些か短し メイド道 ご宿泊こそ 本懐よ(字余り)」

 

 

 

 クソかわ褐色合法ロリメイドが、違法な感じの顔をしつつ。

 

 メイド短歌を高らかに詠む。

 

 なんて奴だ。計算高すぎる。

 

 少子高齢化の解消には、寸毫たりとも寄与せぬ彼女。

 

 

 

 だが、そこには確かに愛があるのだろう。

 

 どれ。今度自分も、愛する者の弱みを握るとしよう。

 

 差し当たっては誰の弱みからにするか……

 

 まったく。愛されるのも大変である。

 

 

 

 「話が大胆にずれてますよ。ウララさん。また顔がロリがしてはいけない感じに。

 スズカさん。確実に悪化してますよこれ。私、どうしたらいいでしょう」

 

 「嘲笑えばいいと思うわ」

 

 「まともなのは私だけなんですね……知ってた。

 フラッシュさん。なんでお笑い。しかも二ホンの何です? 

 ファル子さんの太宰府天満宮と、何の関係が? 

 よっこらしょ。スーペッペッペッペッペッペッペッ!!!!」

 

 

 

 ポンコツ栗毛の膝枕に頭を預け。

 

 瞬時に分別を彼岸へ投げ捨てて。

 

 特別な笑い声をあげる二ホンの総大将。

 

 我が子らの教育に悪いから、やめてはくれまいか。

 

 やはり。まともなのは自分だけ。

 

 

 

 膝上のプリンセスの頭をよしよししつつ、頭の上のひよこをあやし。

 

 足に擦り寄る子犬にわんちゅーるを与える。

 

 甘えん坊な我が子らめ。

 

 

 

 聖夜のプレゼントは、どんなこけしが欲しいのか。

 

 大きな靴下を吊り下げて、待っているがいい。

 

 ウララサンタさんが、いくらでも夢と希望をプレゼンツ。

 

 

 

 『……ル。……ル。……マス』

 

 ほら。クリスマスに付き物のあの曲。

 

 些か遠いが。それも我が、母としての正しさを肯定している。

 

 

 

 「ふむ。フラッシュ。計算高いあんたが、無駄な事をするとも思えない。

 その名鑑。それが核心なんでしょ? 

 でも、ファルコンがお笑いに傾倒してるとか。

 ネイチャさん、聞いた事はないけどね」

 

 「彼女自身に自覚はありません。彼女は無意識に。

 ここに誇らしげに微笑む、新喜劇の住人。

 

 そう。ここ。リアクション芸人の項。

 かつて愛した彼らを、ベビーベッドの上から、トレセン入学までの間だけで。

 九十九人の劇場の華。リアクション芸人に仕上げてしまったのです」

 

 「……パードゥン?」

 

 

 

 珍しく、意表を突かれた顔をする汚い帝王。

 

 自分も同じ気持ちだ。

 

 無意識の大御所。何を言ってるのかさっぱりわからぬ。

 

 

 

 「わからないのは無理もありません。

 私も気づいたのは、選抜レースの後。

 両親紹介RTAの覇者に輝いた後、ファル子さんにマウントを取るため。

 

 チームルームへと足を踏み入れた時に。

 彼が、アラー!! した際、足元にそっと置かれた、それ。

 バナナの皮を見て、違和感に気づいたのです」

 

 「今我が神の名が告げられたような……」

 

 

 

 きょろきょろと、性夜の妄想に耽っていたロリが辺りを見回す。

 

 お前じゃねぇ座ってろ。

 

 

 

 「わんっ♡」

 

 

 

 フユウララと共に、おすわりの態勢を取り、こちらを見上げる彼女。

 

 この素直さは美徳である。褒美にわんちゅーるを与えることとする。

 

 

 

 「んむっ……ぺろぺろ……ちゅぱっ……はぁっ……おいし……」

 

 「三十路独身怪鳥はやはり滅ぼすべきでは? ロリになんという事を仕込んでいるのか。

 ウララ。オレたちも頑張っていこう。差し当たっては、バナナから行こうか」

 

 「ガチンッ。もぐもぐ」

 

 「ヒュンってしたぞ今……やはり、ヤツを師匠と仰ぐべきか……」

 

 

 

 差し出されたバナナを大胆に噛み千切る。ウマ娘は歯が命。

 

 青ざめたツバメの手から、南国の果実を想うさま貪る。

 

 やはり、これ。菓子類も嫌いではないが。

 

 果物が一番だわいのう。

 

 

 

 「話を続けてもよろしいでしょうか。

 ファル子さんの恐ろしい所は、愛=リアクションと思っていること。

 愛する者が素晴らしい反応を見せるのを、何よりも好みます。

 日ごと増えていくバナナの皮。トレーナーに義務づけられた、突発水垢離。

 そして輝く彼女の顔。

 

 私も最初は微笑ましく思っていたのですが……

 三年目のクリスマス前夜。チームルームで、彼が隠し持っていたそれ。

 蝶ネクタイがアクセントの、ステージ衣装を見た時に。

 気づいたのです。このままではマズいと。

 

 両親に孫の顔を見せられなくなると」

 

 「「「「「「気づくのおせーよ(ですわ)」」」」」」 

 

 

 

 一糸乱れぬツッコミ。だが、彼女は動じない。

 

 

 

 「だってファル子さんの笑顔、とっても魅力的だったんですもの。

 期待の若手を奪い合う仲と認識されていたため、私には可愛らしい笑顔だけ。

 トレーナーがズッコケる際の爆笑は、私に向けてくれませんでした。

 ひどいと思いませんか? 

 

 だから私はあのクリスマスの夜。

 うきうきとネタ振りを仕込んでいた彼女に。

 粉糖の代わりに睡眠薬を振りかけた、シュトーレンを盛ったのです。

 トレーナーはおいしかったです」

 

 「親友に劇薬食わして、お前はおいしいとこだけ食ってるじゃねぇか」

 

 「どっちもどっちですよ」

 

 「むしろトレーナーさんの心、広すぎじゃないかしら……」

 

 「良心の呵責とかないのか……」

 

 「これには私もさすがにドン引きである。わんわん。でも後で配合を伺っても?」

 

 「わたくしもお願いしますわ! 最近耐性がついてきたようでして……」

 

 「ぴよっ」

 

 「わふぅ……」

 

 「うふふ。ワンちゃんはいい子でちゅねー♡食べちゃいたい♡」

 

 「ふぁるー」

 

 

 

 『……へル。……へル。……マス』

 

 ほら。例のソングも、呆れたような響き。

 

 ん? 何か近くなってきているような……

 

 

 

 新たな政治体制を占う選挙も近い。

 

 恐らくサンタ式得票術の使い手がいるのだろう。

 

 今年はウマ娘議員は何人誕生するのだろうか。

 

 

 

 ちなみに己は、毎回シンボリルドルフへ投票している。

 

 彼女の政策は、ウマ娘とヒトの融和を謳いながら。

 

 その実ほんの僅かずつ、自分たちに有利なように、天秤を傾けている。

 

 

 

 きっと重賞勝利者による重婚も、そろそろ可能となることだろう。

 

 優秀な血を残すのは、ウマ娘にとって譲れぬこと。

 

 まずはG1勝利バの血を残し。

 

 世代を重ね、少しずつ条件を緩和していくのだ。

 

 

 

 シンボリのみならず。サトノもメジロも皇帝の政治活動を、強力に支援している。

 

 重婚の対象となる、彼ら。

 

 トレーナーとは、今もって尚、稀少な存在なのだ。

 

 独占するのはもう古い。

 

 

 

 でも、一夫多妻制と多夫一妻制だけで十分だと思うのだが。

 

 何故百合楽園婚や、男女複数混合婚、果ては近親婚までも。

 

 滅多やたらに条件を緩和しようとしているのだろう。

 

 

 

 首を傾げるハルウララは知らない。

 

 財界の王と呼ばれる存在が、影で暗躍していることを。

 

 王とは欲張りなもの。事実婚だけでは満足できないのだ。

 

 

 

 そして、おなかを痛めた我が子を。彼女なりに愛している。

 

 ただのカッコウとは一味違うのだ。

 

 

 

 あと近親婚は、ツインテールと、そのライバルの旦那どもが暗躍していた。

 

 愛する妻のレース引退後もトレーナーを続ける彼ら。

 

 双璧と呼ばれる今、各界への影響力も強い。

 

 

 

 彼らは父性愛が非常に強いためだ。パパのおよめさんになる。

 

 その言葉を、盲目的に信じていた。端的に言って気が狂っている。

 

 

 

 「そして、URAファイナルズの翌日。

 新弟子の卒業試験のあの日。

 

 私は愛するヒトを連れ、ドイツに逃れたのです。

 トレーナーを芸人にするわけにはいかなかった。

 

 実家には、既に彼の家具を新調してしまっていたからです。

 父も、マイスターとしての後継を欲しがっていましたから」

 

 「計画的犯行すぎる……そりゃあファル子ちゃんも怨霊になるわ」

 

 「さらに新たな犠牲者の誕生を防ぐため。

 定期的に手紙を送っていました。

 燃料を与え、封印を強固にするためです。

 あとファル子さんには私だけを見ていて欲しいという、ちょっとした独占欲です」

 

 「ドロッドロの目ェしやがって……ちなみに旦那さんはいいの?」

 

 「彼は……ワンが産まれて気が抜けたのでしょう。

 もう、去ってしまいました。

 

 ……いいのです。そのような顔、なさらないでください。

 短い間でしたが。私たちは確かに、幸せでした。

 次はファル子さんを幸せにしてあげないと。

 

 それが私の使命。彼女からお笑いを奪った者に科せられた、義務。

 ……いいえ。違いますね。義務などと。

 そのような無粋な物であるはずが、ありません。

 

 私は、私の意志によってのみ。彼女を笑顔にしてあげたいのです。

 例え、世界を敵に回そうとも。

 一心不乱の愛のため。この身を喜んで捧げましょう。

 

 その結末が、心臓に突き立つ刃だとしても。

 クリークさんなら、ワンを立派な子に育ててくれる。

 後顧の憂いはありません。

 

 そして、ウララさん。鍵はあなたが握っています」

 

 「良い事言ったみたいな顔やめてくんないかな……なんで私なの?」

 

 「もはや憎悪による封印は解かれました。

 あと5年は保つと思っていたのですが……

 

 大航海や、フラッシュ脳散らす号の爆沈。

 数々の経験が、ファル子さんを。

 明後日の方向に成長させたのでしょう。

 

 愛を取り戻した彼女は、恐らく新弟子を求める。

 そしてウララさん。あなたのリアクション芸人としての完成度。

 

 九十九の彼女の成果たちを合わせたよりも、尚輝きを放つ、記念すべき百人目。

 それがあなたです。わかるのです。

 

 私はずっと、クリークママといっしょを視聴していたのですから。

 キングさんにお礼をお伝えください。後でサインを頂いても?」

 

 「アイツ、帰ったら連続乳ビンタだな……あと誰がリアクション芸人だ。

 こんなに可愛いウララちゃんを捕まえて、何を申すか。ねぇみんな?」

 

 

 

 「「「「「「…………………………」」」」」」

 

 『……へル。……へル。……シマス』

 

 

 

 目を逸らす彼ら。愛娘までもが目を伏せている。

 

 静かな室内。近づくクリスマスの音。

 

 沈黙とは。時に何よりも雄弁である。

 

 

 

 「また家出しようかな……ドバイとかいいよね」

 

 「ウララちゃんはリアクション芸人なんかじゃありませんわっ!」

 

 「プリンセス。ちゃんと相手の目を見てお話しようって、お母さん言ったよね?」

 

 「許してくださいまし……どうか……」

 

 

 

 必死に胸元に縋りつく愛娘。

 

 いつもなら心地よい感触が、どこか空虚に感じる。

 

 

 

 そっか……愛娘にすらわたし、芸人だと思われていたのか……

 

 

 

 ハルウララの目が、急速に濁りを増していく。

 

 わりと地獄のような状況だった。

 

 

 

 だが。本当の地獄はこれからだ。

 

 

 

 

 

 

 『疾風れ憎悪……! 風のように……! 

 街の奴ら 軽くバラす……! 

 笑い声が 耳に障る……! 

 紅い血色の 華を咲かせッ! 

 シングルヘル! シングルヘル! 苦しますッ! 

 街のっ! 笑顔をッ! 破壊する……! ヘイッ! リサイタル砲! 発射ァッ!』

 

 

 

 ちゅどむ。

 

 

 

 クリークママといっしょのスタジオ。その控室。

 

 沈黙に包まれていたそこは、なんかやたら聞き覚えのある砲声により。

 

 爆炎に包まれた。

 

 

 

 『シングルヘル†独り身地獄†』

 

 

 

 ヤツのクリスマスにおける、定番ソング。

 

 怨霊を卒業したとは言え、幸せなカップルどもを見て。

 

 憎悪が一時的に復活したのだろう。

 

 

 

 ハルウララは、どこか冷静に。

 

 赤子の保護を最優先とし。

 

 スタジオを犠牲にしながらも、砲撃を弾き返し。

 

 

 

 被害を建物のみに収め、顔を伏せて呪詛を呟く。

 

 ちょっととんでもないほど怒り狂う、鬼子母神。

 

 

 

 瓦礫の山に立ち尽くす、ワンちゃんを抱いた彼女の姿を見ながら。

 

 ぼんやりと思った。

 

 アイツ、死んだな。

 

 

 

 

 

 

 つづかない



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ファル子さんじゅういっさい そのはち マなる者の声

ダイナミックお歌の時間です。
やはりお歌は重要。
あと、菊花のくだりは短編『マ魔王が産まれた日』をご参照ください。
ええ。ダイマですとも。



~前回までのあらすじ~

 

 遂に姿を現した、怨霊の産みの親。

 

 その名も名高きエイシンフラッシュ。

 

 クリークママへと贄を捧げた彼女。

 

 特に関係の無い独身三十路怪鳥の暗い過去と共に。

 

 衝撃の真実が今、明かされる。

 

 まさかの猛禽類大御所説。

 

 エルコンに対する、飼い犬による躾の告発。

 

 特に動揺はしなかったハルウララ。

 

 差し出される南国果実を噛み千切り。

 

 ツバメを玉ヒュン。子安貝の危機を告げる。

 

 予想していた数倍はクッソくだらない犯行動機。

 

 愛する我が子たちを甘やかしながらも。

 

 遠くより聞こえるジングルの響き。

 

 百駿多幸を心から願う、皇帝による政治活動。

 

 支える名家と変態ども。

 

 制度変更の理由は、愛のため。

 

 些か間違った方向にこそ。全力はつぎ込まれる。 

 

 そしてゲルマン陰陽師より告げられる衝撃の事実。

 

 自らに秘められた力。

 

 真実を認められぬ彼女は、周囲を見渡すも。

 

 沈黙が場を包み、ハルウララは拗ねた。

 

 そしてスタジオを砲撃するシングルヘル。

 

 鬼子母神の怒りは有頂天に達し。

 

 そして、物語は加速する。

 

 

 

 

 

 『北極南極なんのその! 

 世界の果てからこんにちは! 

 ニホンそしてスタジオよ! 私は帰ってきた! 

 みんなの歌の姫ねえ様、愛らしきファル子ちゃん! 

 この歌声は、少し早めのクリスマスプレゼント! 

 愛してるぜウララちゃん! 

 さぁさぁ、レスポンスや如何に!?』

 

 「……すぞ……」

 

 「だー?」

 

 

 

 空に浮かぶ、巨大宇宙戦艦より。

 

 自らの墓穴を、ボーリングマシンで掘り進む有頂天。

 

 はっちゃけ猛禽類のMCに。顔を伏せた鬼子母神。

 

 恐ろしく、低い声で紡がれる呪詛。

 

 

 

 ハルウララは冷や汗を掻いた。

 

 あの腕の中に居たのが、赤子でなかったら。

 

 その者の命は、既に無かったであろう。

 

 

 

 クリークママは、ハグが大好きなのである。

 

 恐らく、いつもならばぬいぐるみのように。

 

 常々抱かれている二人。

 

 自分か褐色合法ロリメイドの何れかが。

 

 

 

 危険を感じたナマコのように、内臓を口から吐き出し。

 

 天に召されていたに違いあるまい。

 

 ガイドライン違反の危機である。

 

 ハルウララは久方ぶりに、三女神に感謝した。

 

 

 

 『んー? お返事が聞こえないなぁ! 

 良いこのみんなに聞かせるように! 

 よろしくアンサー大きな声で! 

 さぁさぁバイブスぶちアゲよう!!』

 

 

 

 ゴンゴンアゲてくスマートファルコン。

 

 今度のライヴもコングラで。

 

 根性入れられ今生の別れ。チェケラァ。

 

 

 

 心のラッパーがレクイエムをNAMIMONOGATARI。

 

 つまりは炎上するということだ。

 

 ママの怒りが。

 

 

 

 「クリークママ。こちらを」

 

 「……ええ。プロデューサー、被害は?」

 

 「全壊ですな。ビルごと建て直しは必須。

 偉大なるママの加護により。

 人的被害こそ有りませんが、しかし。

 番組の再開は、しばらくは難しいでしょう。

 瓦礫の撤去だけでも、気が遠くなりますな」

 

 「よろしい。結構。非常に明快。

 つまりはこういうことね? 

 人バでちゅね計画が、遅延する。

 この認識に、誤りは無いかしら?」

 

 「残念ながら……無力な我らをお許しください」

 

 「……この子を。四方十里は離れなさい。

 可愛い我が子たちに、罪は問わぬ。だが。

 もはや我が子でない者に。遠慮呵責は無用。

 クリークの意味。教えてやろうではないか」

 

 

 

 プロデューサーより手渡されたメガホン。

 

 それを手に取り。

 

 代わりに赤子を手渡すクリークママ。

 

 恭しく受けとると、彼はリムジンに乗り込んだ。

 

 

 

 プリンセスも、既に後部座席に乗せられている。

 

 チャイルドシートで微睡む赤子に、興味津々。

 

 緊急時に向けた、常日頃からの避難訓練が生きたのだ。

 

 

 

 赤子、幼児が最優先。

 

 大人どもはどうでもいい。

 

 正に教育番組の鑑である。

 

 

 

 そして、タイヤの焦げる香り。

 

 法定速度ギリギリで走り去る、ノアの箱車。

 

 もちろん、逃げるためだ。

 

 ママから。

 

 

 

 待って。私も連れていって。

 

 そう思うハルウララ。

 

 だが、声が出ぬ。腰も抜けている。

 

 凍てつくママ動のあまりの強さ。

 

 勇者たる、この身ですら抗えぬ。

 

 

 

 やばい。バ鹿の砲声からは生き延びたが。

 

 助かってはいない。

 

 いやしかし。ママも一度は我らを守ったのだ。

 

 冷静に考えて、周囲を巻き込まぬため。

 

 ここから離れて戦闘を……

 

 

 

 自分でも欠片も信じていない、希望に縋る彼女。

 

 もちろん、赤子を守るためのついでである。

 

 ママは優先順位を間違えない。

 

 その証拠に、無情にも。

 

 

 

 ごうごうと風が鳴る。

 

 びゅうびゅうと吸い込まれていく大気。

 

 クリークママを中心に、局所的に気圧が変動していく。

 

 

 

 スーパークリーク。

 

 走行時、ヒトの数十倍の酸素を必要とする生き物。

 

 ウマ娘の身でありながら。

 

 菊花。芝3000メートルを、無呼吸で完走し。

 

 芦毛の怪物の、三冠を阻みしマ魔王。

 

 

 

 ゴールした後、彼女は領域に目覚めた。

 

 確信したのだ。愛を逃がさぬためには。

 

 最も信頼できる鳥籠。

 

 

 

 己の手で、握り続ける他に無し。

 

 そしてそれを阻む者には。

 

 一切容赦してはならぬと。

 

 

 

 その際浮かべた笑み。

 

 彼女がマ魔王と呼ばれる所以。

 

 どこまでも淫らで、母性に満ちた邪悪な微笑み。

 

 

 

 オグリキャップは、未だにそれを夢に見るという。

 

 そして食べ過ぎ、太り気味になる。

 

 つまりは。彼女は領域に目覚めずとも。

 

 

 

 芦毛の怪物を倒すだけの、『力』を持っていた。

 

 そして、彼女が三女神に願った力。

 

 その領域とは、呼吸に関する物であった。

 

 明らかに、レースに勝つためには無駄。

 

 既に肺活量において、ウマ娘の限界を超えた彼女にとって。

 

 勝敗に一切寄与せぬ、過剰な出力。

 

 

 

 そう。アフガンコウクウショーと同じ。

 

 レースには、何の役にも立たぬ領域。

 

 その領域の目的は。

 

 

 

 幸福を逃がさぬため。

 

 もう二度と、奪われる恐怖を味あわず。

 

 愛を与え、求め続けるための力。

 

 

 

 クリークとは。小川であり。

 

 闘争の意味も持つ。

 

 子育てとは、戦争なのだ。

 

 

 

 逆巻く大気。

 

 クリークママの怒髪が、天を衝く。

 

 

 

 ハルウララは思い出していた。

 

 かつて、この地に飛来した隕石。

 

 チキュウを再度、氷河期に陥らせかねぬ、凶星。

 

 空が赫く染まり。

 

 この星に生きとし生けるもの、全てが覚悟を決めた時。

 

 突如、消滅した。

 

 

 

 専門家は、その組成が非常に熱に弱く。

 

 大気圏突入に耐えられなかったのだろうと。

 

 そういう見解を発表したが。

 

 そんな戯れ言、誰も信じていない。

 

 

 

 確かに、この星を救った何者かは存在したのだ。

 

 世界はその何者かに、心の底から感謝した。

 

 そして、己はその正体を知っている。

 

 

 

 数年前の出演者を集めた飲み会。

 

 その日の収録は、とても愉しかったのだろう。

 

 珍しく酔っ払った彼女が、ぽつりと溢した一言。

 

 

 

 愛する赤ちゃんのためなら、世界すら救って見せる。

 

 というか、一回救ったわ。うふふ。

 

 

 

 誰も笑わなかった。

 

 目がマジだったからだ。

 

 それから自分たちは、彼女に逆らう事をやめた。

 

 ガチで殺される可能性があるからだ。

 

 

 

 赤ちゃんでない自分たちに、彼女の容赦は期待できぬ。

 

 そんな、世界を救う程の力の対象とならずとも、巻き込まれただけで。

 

 自分たちなど、儚く消し飛ぶに違い無い。

 

 

 

 『周辺の気圧、急速に低下! 

 中心点は……鹿毛のウマ娘です! 結構タイプじゃあ! 

 ワシがあと10年若ければ!』

 

 『あっ。やっべ。ユキオー。シールド全開。

 総員、対ショック態勢。シートベルトを締め付けなさい。

 ジジイ。年を考えろ』

 

 『会長、一体何が? シールドって。

 ワシにもわかるように説明してください。

 同型艦の砲撃でもないと、シールド無しでもダメージ入りませんよ。

 シベリアから脱出する時の対空砲撃でも、ノーダメ余裕でした。

 ジジイ、こないだ米寿のお祝いしたじゃん。ロリコンってレベルじゃねーぞ』

 

 『クリークママの事、完ッ璧に忘れてたわ。

 ママ、生身でこの艦落とせる。

 5年前の巨大隕石消滅させたの、多分……いや確実にママ。

 バリアだけだと厳しいかも。しゃあない、歌うか』

 

 『宇宙怪獣かなんかですか? マジありえんし。

 なんでそんな大事な事忘れてンですか。

 健忘症かよ。だから交渉から入りましょうって。

 わたし言ったよね?』

 

 『ええい! 言っとる場合か! デンモク寄越せ! 

 砲撃用アンプ! チャージ時間『短』! 放射時間『瞬』! 

 リクエスト! 曲名! んーと。アレだ。

 すっげーノるヤツ! そうそうそれ! 曖昧検索万歳! 

 

 †全力! 全壊! パパパパパワァ! † 

 

 さぁ、私の愛が世界を巣食う!』

 

 

 

 鋼の凶獣が、歓喜に鳴動する。

 

 本来の目的を果たせる喜びに。

 

 第四世代型超光速恒星間航行用超弩級万能宇宙戦艦ファル子リヲン。

 

 その建造目的とは。

 

 歌で世界を、変革すること。

 

 

 

 歌で世界を平和にしようとしたけど、うっかり。

 

 歌で世界を平らにする武装のみを搭載した、超兵器。

 

 

 

 「良い空気吸ってますね……私の世界を救う大望。

 それを阻むものには、わからせが必要でちゅ。

 ひっ……ひっ……ふぅ……おぎゃあ」

 

 

 

 チャージを終える。

 

 ここでラマーズ法。自らを産み落とすイメージ。

 

 実のところ、自身は甘えたがりでもある。

 

 

 

 母性とオギャり。

 

 相反する性癖の対消滅により高まる力。

 

 赤ちゃんから卒業してしまった、全ての憐れな人バを救済するため。

 

 打ち立てたプラン。

 

 

 

 それを阻むなら巨大隕石も。

 

 調子に乗ったバ鹿のおもちゃも。

 

 灰燼滅殺待った無し。

 

 

 

 我が名はスーパークリーク。

 

 全てのヒト。全てのウマ娘。全ての存在を赤子に堕とし。

 

 そして私も赤子に堕ちよう。永遠に! 

 

 

 

 

 

 

 「ウララっ! こっちへっ!」

 

 「トレーナー。アフちゃんはいいの?」

 

 「知らん! お前だけが、無事であればいい!」

 

 

 

 ツバメの必死な顔。

 

 抱き上げられ、揺られつつ思う。

 

 バ鹿だなぁ。ヒトの足で間に合うわけがない。

 

 

 

 そんな顔もできるんじゃん。

 

 普段からその顔なら。

 

 私だけを愛してくれたなら。

 

 惚れてやっても良かったのに。

 

 

 

 瓦礫の陰に転がり込み。

 

 何もかもをもかなぐり捨てて。

 

 自分を庇う、胸の中。

 

 初めて知る、彼の本気の想い。

 

 

 

 伝えるのが遅いよ。バ鹿。

 

 プリンセス。お空の彼方から見守ってるからね。

 

 あーあ。結婚したかったなぁ。

 

 

 

 「ねぇトレーナー。もしも、来世でまた逢えたら」

 

 

 

 また、私を愛してくれますか

 

 

 

 

 

 

 そしてぶつかり合う、双つの相克する砲声。 

 

 

 

 『ひたすら疾走れ! 笑顔をキメろ! Laaaaaaaaaaaaa!!』

 

 「マなる聖母はここに新生せり! Ogyaaaaaaaaaaaa!!」

 

 

 

 古代の超文明。その遺産に増幅された、滅びの唄。

 

 メガホンを投げ捨てて。身一つで放つ、生誕の唄。

 

 

 

 いやメガホン使わないんかい。生身で宇宙戦艦と張り合うな。

 

 

 

 お姫様だっこされつつ、ズッコケる高等テクニックを披露し。

 

 ハルウララは心中で、ウマ生最高のツッコミを入れた。

 

 よくわからん吊り橋効果的心情も、瞬時に吹っ飛ぶ衝撃。

 

 やはり、リアクション芸人であった。

 

 

 

 そして、世界から音と光が消えた。

 

 

 

 

 

 

 つづかない



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ファル子さんじゅういっさい そのきゅう ブラジル狂乱の混載

さぁ第2部も佳境に入って参りました。
もはや風呂敷を広げ過ぎて、空を飛びかねぬ勢い。
だがもう止まらぬ。最期まで走り切る所存。
あと、今回描写が薄い彼女については、機会を見つけて短編を投げようかと考えてます。

十九話にこっそり挿絵を挿入してみました。かわいいアフちゃんです。

絵じゃない? ハハハ。

さらにまさかのファンアートを頂く事態ッ……! 作品の目次に貼らせて頂きますッ!
んこにゃ様(Twitter垢:@Nkonya0529)、ありがとうございます! 欲しい物リストを公開した時が貴様の最期だッ・・・!


【挿絵表示】


綺麗なウララさんです。こう……浄化されすぎてやばい


~前回までのあらすじ~

 

 パリピっぽくアゲアゲな猛禽類。

 

 不穏な気配を発するクリークママ。

 

 緊急発車する、希望の車は防弾仕様。

 

 ハルウララは絶望に身を焦がされる。

 

 明かされる、クリークママ宇宙怪獣説。

 

 応戦を決め込む、ズッコケコンビの宇宙戦艦。

 

 勇者はあまりの状況に、脳がバグり。

 

 ツバメにキュンキュンしちゃう醜態を晒す。

 

 高まる鼓動、強まる圧力。

 

 片や、超古代バ鹿が酔っ払って建造した兵器。

 

 対するは、リバーシブル母性。

 

 アンプとメガホン。本来なら勝敗は明らかであるが。

 

 さらにクリークママは、メガホンを捨てる暴挙に出る。

 

 ハルウララはズッコケて、己の立ち位置を証明した。

 

 お姫様じゃいられない。

 

 いつだって、恋する乙女はリアクション芸人なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハルウララは目をしばたたかせた。

 

 周囲には瓦礫すらなく、全てが消し飛んだ景観。

 

 青空が目に眩しく、異物は天空に浮かぶ、一つのみ。

 

 飛んでも平気なトンデモ兵器。なんかちょっと傾いてる。

 

 見上げるは、ツバメの顔。

 

 不覚にも、ちょっとキュンとしちゃったではないか。

 

 

 

 生意気なツバメである。

 

 己はチョロくない。

 

 ウララちゃんは高級品なのである。

 

 

 

 だが、顔と声とケツは非常に好みである。

 

 ウララちゃんポイントはやろう。

 

 ひゃくおくてん。

 

 100点貯めると、可愛いウララちゃんに。

 

 セクハラされる権利が与えられます。

 

 

 

 「……私、生きてる?」

 

 「大丈夫? ウララさん」

 

 「お、お前はっ!」

 

 「危ない所だったわ……

 スペちゃんおなか鼓、最終奥義。

 ぽんぽこスペちゃんナイアガラ。

 太り気味でなくば、助からなかったわね」

 

 「うええ……口の中が酸っぱいです」

 

 「ガイドラインをご存知無い?」

 

 

 

 誇らしげに、無い胸を張るポンコツ栗毛。

 

 涙目でえづくスペちゃん。

 

 史上最悪の助かり方をしてしまった。

 

 

 

 ハルウララは、生きていることを三女神に呪った。

 

 三女神を呪うのは日常だ。

 

 やつらは頭がイカれているのだ。

 

 バ鹿に、無駄に力を与えすぎる。

 

 自分の領域は、死ぬほど使い勝手が悪いのに。

 

 

 

 そうだ。宇宙戦艦が傾くほどのダメージ。

 

 クリークママもきっとダメージを……

 

 

 

 ごうごうと風が吹く。

 

 びゅうびゅうと気圧が再度下がっていく。

 

 

 

 仁王立ちして第二の砲声を準備する、鬼子母神。

 

 ダメみたいですねこれは。

 

 

 

 音ゲー人どもを見てみる。

 

 スぺちゃんのおなかはもう平ら。

 

 栗毛のふとももに頬を擦りつけ、失われた体力の回復に努めている。

 

 

 

 これは、新たな発狂秘技は期待できぬ。

 

 ご都合主義の連発は禁物。

 

 次は防げないだろう。

 

 今度こそバッドエンドの香りが濃厚である。

 

 どれ。最期の想い出に、ツバメのケツでも揉んでおこう。

 

 

 

 「なんで私、宇宙戦艦を生身で圧倒できる大怪獣と。

 ウマのお姉さんやってるんだろう……」

 

 「う、ウララッ! テクニシャンッ! こんなの初めてッ!」

 

 

 

 ぽつりと呟きつつ、ケツを揉み。

 

 ハルウララは今さらながら、疑問を感じ始めた。

 

 判断が遅い。手は早い。これには天狗も呆れ顔だろう。

 

 

 

 『バリア消失! 再起動まで3うまぴょい! 

 会長の! ちょっといいとこ見てみたい!』

 

 『そんな悠長に歌ってられるかバ鹿! ママ、タンマ! 

 ユキオー! 時間稼いで!』

 

 『やれやれ。頭のおかしい会長を持つと苦労する。

 まぁ良い。このユキオーにお任せを。

 あー、スーパークリーク様。聞こえるだろうか。

 ファンです。後でサインください』

 

 「ぬっ……! ファン……!」

 

 

 

 クリークママが動きを止める。

 

 気圧が正常に戻っていく。

 

 

 

 ユキオーとやら。ウマい。

 

 我ら、トゥインクルシリーズを走ったウマ娘。

 

 ファンと聞くと、危害を加えるのを躊躇するのだ。

 

 たづなさんに仕込まれた、もはや本能とも言える条件付け。

 

 

 

 『お客様は神様です。

 ちょっとイラつかされた程度で危害を加えたら、どうなるか。

 知りたい方はどうぞ。やってみてください。

 トレーナーさん、大事ですよね?』

 

 

 

 あの卑しか杯常連。

 

 みどりのアクマオーは伊達ではないのだ。

 

 トレーナーを人質に取られたならば。

 

 我らは言うことを聞く他に無い。

 

 だが、明確に危害を与えられた時は。

 

 

 

 『でも、乱心したお客様は別。

 金を支払い、お行儀よく振る舞う方だけが。

 神様として扱われるのです。

 

 商売の基本ですね。

 よく吟味して、害となると判断したならば。

 躊躇ってはいけません。

 

 トレセン学園と、理事長を舐めた者には血の制裁を。

 彼女を舐めていいのは私だけです。

 大丈夫。合法ですよ、合法』

 

 

 

 所詮、数秒の延命に過ぎぬ。

 

 ヤツめ、ここからどうするのか。

 

 頑張って。私まだ死にたくない。

 

 

 

 『ええ。大ファンですとも。

 高速ステイヤー。マ魔王。憧れます。

 ワシは未勝利で終わったウマ娘。眩しくて堪りませんな』

 

 「くっ……! よしよししてあげたい……!」

 

 

 

 ここで追撃のお涙頂戴。

 

 ヤツめ、クリークママの習性を熟知している。

 

 彼女のアライメントは混沌・ママ。

 

 

 

 慰めがいのある子は、放っておけないのだ。

 

 なでなでむぎゅむぎゅが終わらぬ限り。

 

 クリークママは、彼女とその乗艦を害せぬ。

 

 

 

 『非常に結構。後でなでなでして頂きたい。

 では、今回の件について、落とし所を……』

 

 『ズゾゾゾゾッ……』

 

 『会長。タピるのやめてくれませんか。うるせーですよ』

 

 『ファル子、歌ったら喉渇いちゃって……ズゾゾッ』

 

 『なんですか。ワシが必死こいて交渉している時に。

 ズゾズゾズゾズゾと。

 しかもタピオカとか。逆に喉乾きません? 

 あと何でワシを置いてタピりに行ったんですか。

 タピるのはわたしみたいなJKの、特権でしょォ!?』

 

 『ごめん。ごめんて。

 マックちゃんとヘリオスちゃんと。

 旧交を温めたかったんだって。

 ユキオー、忙しそうだったし……』

 

 『忙しいのは、あんたのせいですけどォ!? 

 マジ信じられんし! ジジイの世話ばっかり押し付けて! 

 わたしも会長とタピりたかった! 駄弁りながら、青春の一ページ! 

 

 もう、会長なんて知らない! 

 一人で好きなだけタピりながら! 

 ウマ外バトルしてればいいじゃん!』

 

 『反省してるから! 機嫌直してユキオー! 

 ほ、ほら、タピオカ飲む? 

 飲みかけだけど『ズゾゾゾゾッ!』

 Oh……はっや……すげー勢いでしゃぶりつくじゃん?』

 

 『まったくもう。次から気をつけてくださいよ。

 間接ちゅーに免じて許してあげますから。えへへ。

 ズゾゾゾゾッグッホッ!?』

 

 

 

 なるほど。やはり変態か。

 

 年増好き、意外に多いのかな。

 

 ハルウララは、多様化する性癖の流れを感じた。

 

 

 

 『ふふ。こんなこともあろうかと。

 ブルーシャインタピオカフラペチーノ固め濃いめガッツリ多め、当たり入り。

 当たりのスコビル値は、なんと脅威の350万SHUでーす』

 

 『ゲッホゲホゥン! ズゾゾゾゾッ! ガッフッ! 

 自分で当たったらどうするつもりだったんだッ! 

 なんという理外……! ゲフッ! ジジイ! 水ッ! 

 

 だがっ! ごっきゅごっきゅ! んっ。おじいちゃん、ありがとね。

 あとで肩たたきしたげる。ンんッ! 

 

 しゅ、収支は依然プラス……! 

 このユキオーのウマ生哲学に間違いは無い! 

 世間の大人たちが言わぬなら、ワシが言ってやる! 

 性癖は命よりも重い……!』

 

 

 

 早いとこ本題に入ってくれないかな。

 

 ツバメのケツの感触を楽しみながらも。

 

 ハルウララは寛大な心で、会話の趨勢を見守った。

 

 

 

 「やっているようですわね。ズゾゾゾゾッ」

 

 「マックイーン。急に出てきてタピるな」

 

 「学生時代を思い出しまして、つい。

 あとファル子さんが地獄行きになるところを。

 特等席で見ようと思いまして。

 メジロの権益の横取りとは、舐めてくれます」

 

 「またテイオーと?」

 

 「いいえ。ファル子さんとヘリオスさんですわ。

 あのクソ猛禽類の所業は許せませんが。

 スイーツに罪はありませんもの。

 

 美味しいんですのよ。これ。

 このタピオカ、米粉100%ですの」

 

 「それはタピオカじゃねぇよ。あとお前ら、仲良いの? 悪いの?」

 

 

 

 タピオカの原料はブラジル熱狂の根菜。

 

 キャッサバである。

 

 こやつ、根本的に勘違いしている。根菜だけに。

 

 自分を見習うべきだ。

 

 愛する娘に、本物を与えた時の事を思い出す。

 

 

 

 『ウララちゃんっ! タピるのが今アツいらしいですわっ!』

 

 『へぇ。ギャルっぽいね。プリンセス、飲んでみたいの?』

 

 『ええっ! ウララちゃんと一緒に、タピりたいんですのっ!』

 

 

 

 自分はその言葉を聞き。すぐにヒシアマゾンに連絡を取った。

 

 もちろん、窮兵衛を紹介してもらうためだ。

 

 彼はブラジル産薩摩隼人だからだ。

 

 

 

 『キャッサバ? そげんもんいけんすっと?』

 

 かくかくウマウマ。

 

 『よかっ! こどんばおもう心! アマさと同じ! この窮兵衛に任せィ!』

 

 

 

 そして。

 

 『プリンセス。これをどうぞ』

 

 『ウララちゃん。……これは?』

 

 『キャッサバ』

 

 『キャッサバ』

 

 『お母さん、原料は知ってたんだけど』

 

 『はい』

 

 『作り方知らんかったから、蒸かしてみた』

 

 『蒸かしてみた』

 

 『芋だし。多分美味しいよ。さぁお食べ』

 

 『いただきますわ……』

  

 

 

 パリピに作り方を聞いておけばと思ったが。

 

 原料はどうせキャッサバなのだ。

 

 プリンセスも満足していたようであるし、問題は無い。

 

 

 

 回想を終える。

 

 このポンコツにも、本物の重要さを教えなければ。

 

 

 

 「これだからマックEーンは……」

 

 「ヘリオスさんも大喜びでしたわよ。これ。

 旦那さんに飲ませるんだって言って、ダッシュで帰りましたわ」

 

 「マジかよ私も今度買うわ。どこの店?」

 

 

 

 パリピが言うのなら間違いはあるまい。

 

 ヤツはギャルっぽい物に、一切の妥協をしない事で有名である。

 

 プリンセスに、今度こそ本物のタピオカを飲ませなければ。

 

 やはり根菜まんまはいかんかったかもしれん。

 

 

 

 「ブルボンさんが露店で売ってましたわ。

 サンバ衣装で。相変わらず、ブルンボルンしておりました」

 

 「またコンバイン壊して、出稼ぎに行かされたのかアイツ……」

 

 

 

 ミホノブルボン。トゥインクルシリーズ卒業後。

 

 ポンコツ栗毛と同じような流れで、ライスシャワーの米農場に転がり込んだ。

 

 サイボーグっぽいけど、全ての機械から嫌われた栗毛。

 

 定期的にその体質により、お高い農業機械を破壊し。

 

 ライスシャワーに蹴り出され、損失を補填するための出稼ぎに励んでいるのだ。

 

 

 

 稼ぐために使う材料は、青薔薇イス。

 

 ライスシャワーの不幸体質と、コンバインから流れ出した重油。

 

 それが水田で、奇跡の科学反応を起こし。

 

 咲き誇った奇跡の蒼い宝石。

 

 

 

 そのドス青い色により、米としての食用には向かず。

 

 青色2号に代わる、新たな着色料として業界からは注目されている。

 

 絶対インディゴカルミンより、身体に悪いぞあれ。

 

 

 

 「大盛況でしたわよ。あれだけ売れれば、農場への帰参を許されるでしょう。

 スターウマ娘がその手で米を粉砕し、練った手作りタピオカ。

 稀少価値は計り知れませんわ。

 しかもやたら蒼い。ちょっと光ってる。

 サンバ衣装も効いたのでしょう。あの駄肉」

 

 「アイツ、ミキサーとかも使えないもんね……手作りしかできないのに。

 よくもコンバイン買えるだけの数、作れるもんだわ。あの駄肉」

 

 

 

 ハルウララは、心が通じる感覚を得た。

 

 やはりあのブルンボルン。粛清すべきである。

 

 ブラジルだからといって、サンバとは。

 

 

 

 ウマ娘として恥ずかしくないのか。

 

 いや、羞恥心とかないわアイツ。

 

 あの勝負服から見ても明らかである。

 

 

 

 「ライス農場を支えているのは、ブルボンさんですもの。

 手を変え品を変え、様々な手段で稼いでますわ。

 修練の賜物ですわね。

 むしろ、農場が邪魔ではないでしょうか」

 

 「おかゆの存在全否定じゃん」

 

 

 

 ライスシャワーは頑張る子だが。

 

 不幸を超えた、何かが彼女を残念なおかゆにしている。

 

 だがブルボンも、単体ではポンコツなので生きてゆけぬ。

 

 

 

 まぁ、良い共依存の関係なのだろう。

 

 ハルウララは納得した。

 

 さて、ユキオ―とやら。ここからどう、話を収めるつもりか。

 

 

 

 『ところでスーパークリーク様。あなたの番組のテレビ局。

 クリークママといっしょの予算を出しているのは、どこかご存知だろうか』

 

 「えっ? もちろん知っているわ。UHK。【ウ】マ娘【放】送【協】会よ」

 

 『その情報は古いですよ。今はFHKです』

 

 「そういえばプロデューサーがそんな事を言ってたような……

 でも当番組には、さほど影響は無いと聞いているわ。

 どうせ一文字変わっただけでしょ? 

 それが今、何の関係があるのかしら?」

 

 『FHKの正式名称を知っておられますか? 

 【フ】ラッシュ・スプー・ラッタ商事【放】送業界【革】命部門なんですよ。

 おや。この艦にも、スプ〇とネズミの紋章がついておりますな』

 

 「……フラッシュ・スプー・ラッタ? 

 ママ、とっても聞きたくないんだけども。一応聞かないとね。

 ちなみに、ちなみになんだけど。御社の代表取締役のお名前は?」

 

 『スマートファルコン会長ですよ。当然でしょう。

 こんなクソみたいな名前。会社につけるヤツ、他にいます?』

 

 『ユキオー。後で制裁な。ママ。なんかそうだったみたいだよ。

 私も知らんかったけど。いやー、うっかりファル子、上司になってたみたい』

 

 「畜生ッ……! 納得いかないわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 

 下剋上ものが流行りだからって! こんなのあんまりよっ! 

 こんな適当な流れで! バ鹿に生殺与奪の権を握られるなんて! 

 かくなる上は、最大出力のマ魔王の産声で……」

 

 『楽しみにしておりますよ、会長。

 ところで、最近弊社の中間管理職たるワシに。

 スタジオ老朽化の話が耳に入りましてな。しかも不幸な事故により更地に。

 いい機会ですので、スタジオ建造に、以前の3倍の予算をつぎ込もうと思いまして。

 そうそう。国際放送も視野に入れておりますよ』

 

 「永遠の忠誠を誓います♡」

 

 

 

 ハルウララは、バ鹿が殿上人になった悲しみと。

 

 クリークママのあまりの変わり身の早さに。

 

 膝を折って、顔面をツバメのケツに埋めた。

 

 

 

 クリークママは、優先順位を決して間違えないのだ。

 

 赤子のためなら、不倶戴天の敵の足を。

 

 喜んで舐め尽くす女である。

 

 誇りでは、子育てはできぬのだ。

 

 

 

 

 

 

 つづかない



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ファル子さんじゅういっさい そのじゅう 要忖度、交渉術

さてさて。クリスマスどころか、大掃除の時期になりつつありますが。
伏線回収に勤しみます。
展開を予想できる勇者は、果たしておられるのでしょうか……
ファル子さん、第2部ヒロインだからね。こういう展開もあるよね。


~前回までのあらすじ~

 

 宇宙戦艦と母性怪獣の大決戦に巻き込まれたハルウララ。

 

 凄まじい『力』の激突に、己の天国行きを悟る。

 

 だが、三女神はウマ娘の危機を見逃さなかった。

 

 ガイドラインを遵守するため細部は記載できなかったが。

 

 ポンコツ栗毛によるスぺちゃん虐待により。

 

 彼らの命は守られたのだ。

 

 ハルウララは三女神を呪った。

 

 バ鹿に力を与えすぎるからだ。

 

 そして、死の危険から生き延びた本能は、彼女をセクハラに走らせる。

 

 ツバメのケツ。初めて揉んだが、これは感嘆符の多いバ鹿に勝るとも劣らぬ。

 

 幸せの青いケツはここにあったのだ。若造だけに。

 

 そして、クリークママが次なる砲声を準備。

 

 ハルウララは知っていた。ご都合主義の天丼は無い。

 

 最期に、純情な恋心を満足させつつ、終わりの瞬間を待つ。

 

 兄ちゃん、いいケツしとるやないけ。

 

 だが、神がウマ娘を見捨てても。

 

 バ鹿は自分で生き延びるもの。

 

 謎のウマ娘・ユキオ―のインターセプト。

 

 みどりのアクマオーに刷り込まれた学園OGの習性と。

 

 マ魔王特有の習性を利し、破滅の産声を封じる。

 

 感嘆するハルウララを他所に、続く交渉。

 

 猛禽類の年甲斐も無いギャルアピール。

 

 スイーツ無罪を掲げる、葦毛の野次ウマ。

 

 一連の流れにおいて、明かされる当然の事実。

 

 ただの切れ者キャラに、この作品では居場所は無い。

 

 年増好きリアクション芸人としての一面を覗かせるユキオ―。

 

 やはりか。そう思いつつ、ハルウララは愛娘に与えた、本物の蒸かし芋を想う。

 

 蒼い米は、寄生されているようで、その実ポンコツ栗毛に全面的に依存する。

 

 役にも立たぬ農園を、必死に維持するおかゆのダメさを浮き彫りにし。

 

 続く交渉。音速で権力に対し、膝を折るママ。

 

 ハルウララはツバメのケツを、顔面で楽しみつつ思う。

 

 なんでやねん。

 

 

 

 

 

 

 

 『さすがスーパークリーク様。賢明な判断です。

 やはり、道理を分かっている方はいい。

 道理をわからぬバ鹿ほど始末に困る者は無し。

 まぁそやつはワシの横で、タピオカの次は飴ちゃんを舐めておりますが。

 おじいちゃん、あんまり甘やかしちゃダメよ。後でわたしにも頂戴。

 

 ゲフン。スマートファルコン会長の翼の庇護下で、さらなる番組の隆盛と。

 幼児たちの暗い未来の実現。

 このフラスプネズミ商事中間管理職。

 ユキオ―が全面的に保証いたしましょう』

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 中空に映し出された、秘書っぽい服装の。白髪のウマ娘が告げる。

 

 なるほど。やはりあの猛禽類。

 

 ロリが好みと見える。

 

 

 

 「やったわウララちゃん♡クリークママといっしょの更なる飛躍は確定♡

 人バでちゅね計画実現の暁には、豪華なベビーベッドを用意してあげるわ♡

 やっぱり誠意を籠めて話せば、想いは通じるのね♡

 ママ、これからも頑張るから、せいぜい私の足元で足掻け」

 

 「ママ。素。素が出てるよ?」

 

 「ウララ。オレのケツからまずは顔を離してくれないか。

 新たな性癖に目覚めそうだ」

 

 「あらあらうふふ♡ごめんなさい♡

 でも、ファル子ちゃんはどうするのかしら。

 歌のお姉さん、続ける理由ないわよね? 

 私も上司を顎で使うのはまぁできるけど……

 

 雑に扱いすぎるのも良くないわよね。

 スタジオに私より上位者が居てはならない。

 畑から兵士が取れるように。当然の道理よね。

 どうやっておだてて、退職に追い込もうかしら……」

 

 「ママはまっこと、産まれついての支配者じゃき……」

 

 

 

 思わず別世界線の自分と交信し、高知訛りが出た。

 

 このハルウララ、産まれも育ちも北海道。

 

 根っからの道産子である。

 

 まぁ北海道弁は既に忘却したが。

 

 はんかくせぇ。

 

 

 

 『さて会長。これでケリは着きましたな。本社へ帰りましょう。

 会長室に、本来の支配者が座す時です』

 

 「あら、おだてる必要すらなかったわ♡

 ユキオ―とやら、後で死ぬほどなでなでむぎゅむぎゅしてあげないと♡

 ウマ娘は頑丈だから、わりと力を入れても大丈夫よね♡」

 

 「次回、ユキオ―死す……!」

 

 

 

 さて、新しい歌のお姉さんを探さねば。

 

 猛禽類よ。良いリアクション芸人を見つけたようであるし。

 

 私のお給料アップもお願いします。

 

 ハッピーエンドである。

 

 

 

 「う、ウラッ! ウラァァァァァ! ウーランツァール!!!」

 

 そう、納得し。あまりの快楽に、帝国の隆盛を誇る。

 

 ツバメのケツをヘッドバンキングにより、楽しんでいると。

 

 

 

 『えっ? ファル子、歌のお姉さんは続けるよ? 

 ウララちゃんをまだ我が物にしてないし。

 なんだかんだ、子供と遊ぶのも好きだし。

 引き続き、会社の運営はよろしくね?』

 

 『……は?』

 

 

 

 おっと。雲行きが怪しくなって参りました。

 

 致し方ない。ヘッドバンキングを止め、見守るとしよう。

 

 ほら、ツバメ。女王をなでなですることを赦す。

 

 

 

 「う、うむ……ウララ、今日はなんだか積極的だな……

 やはりマッサージ時の洗脳が効いたか……? 

 まぁ役得役得。どれ、なでなで催眠法でも……」

 

 

 

 なでなでを楽しみつつ、会話の趨勢を見守るとしよう。

 

 あとツバメ。調子には乗るなよ。ウララちゃんに催眠など効かぬ。

 

 だがとっても気持ちいい。結婚しよ。

 

 

 

 『会長。趣味を仕事にする。まぁ良いでしょう。

 ワシにはわかりかねますが、成功者も、少なからず居る。

 ……ですが、現場の者たちの気持ちも考えてあげるべき。

 絶対的支配者に対し、ツッコミなど入れられる訳もなし。

 

 スタジオに響き渡るのは、幼児たちの歓声ではなく。

 揉み手にて、指紋を削り倒す音だけです。

 幼児たちの性癖を破壊するのは合法でも。

 幼児たちをサラリーマン化するのはあまりに侘びしい。

 もう身バレしちゃったんだから、潔く身を引きなさい』

 

 

 

 そうでもないと思うが。

 

 あの幼児ども、なんだかんだ自分の立場の強さを分かっている。

 

 思う存分、猛禽類の歌を楽しみ、隙あらばセクハラすることだろう。

 

 このウララちゃんへのセクハラは、許容できぬが。

 

 

 

 ハルウララは、なでなでを存分に楽しみ。

 

 ツバメの魔手にて、結婚願望を増大させられつつ思った。

 

 

 

 『えー? やだやだ。ファル子やだ。

 もっとウララちゃんで遊びたい。

 スタジオには、真実の愛があるんだよ? ユキオ―』

 

 『ハッ。何をおっしゃる。

 真実の愛は、弱者の積みあがったピラミッドの頂点に。

 そうワシに教えてくれたのは、会長ではないですか。

 いいからつべこべ言わずに本社に戻りますよ。

 

 大丈夫です。会長に難しい事など期待しておりませんよ。無駄なので。

 会長室で、ふっかふかの椅子に座って。

 わたしを膝の上に乗せて、愛でるだけの簡単なお仕事だよ。

 

 ほら、簡単でしょ? セクハラももちろんいいですよ。

 当然の権利ですからね。わたしの。

 会長からしか摂取できない必須栄養素。

 ファル子ニウムとでも名付けますか……

 それを情俗的に得られるなら、わたし無敵だし。

 ユキオ―、マジ頑張るし。経済界を制圧するし。

 

 こんなので金がもらえるとか、世の中舐めてます? 

 会長がペロっていいのは、このユキオーのみ。

 それが世の道理ってもンだし』

 

 『どうしてこんなになるまで放っておいたんだ……!』

 

 『会長のせいだと、ワシら思うんじゃけど。

 口調すらあやふやになってきとるぞ』

 

 『ユキオ―ちゃん、孫娘みたいに思っとるけども。

 この性癖には、ワシ、ついていけんなぁ』 

 

 『責任とって結婚してあげるべきじゃと、ワシ思います。

 ご祝儀は弾むぞ。この仕事もぶっちゃけ趣味じゃし』

 

 『ええいっ! ジジイども! ワシワシワシワシうるせーぞっ! 

 ファル子は隼だよっ! 飛べない隼はただの……何?』

 

 『わたしの愛する支配者に決まってンじゃん。

 ペットはわたし。あなたは飼い主。まぁ離さンけど。

 ああ、安心して? 下剋上なんてしないから。

 ユキオー、恩は忘れないから。でもあなたの自由はオフ。

 おじいちゃんたち。逃がしたらもう肩揉んであげないかンね』

 

 『『『『『会長! 御免ッ!!!』』』』』

 

 『ぬわー!!! HA☆NA☆SE☆!!!』

 

 

 

 どったんばったんがんがらがっしゃん。

 

 宇宙戦艦のスピーカーから、聞こえる狂乱のジジイハザード。

 

 下手に抵抗すると、骨粗鬆症により、仏を量産しかねぬ物量戦術。

 

 あの性根はなんだかんだで優しい猛禽類に。

 

 脱出することはできないだろう。

 

 

 

 ハルウララは満足した。

 

 もうあやつ、二度と会長室から出られないな。

 

 バ鹿の封印は強固となることだろう。

 

 ユキオ―とやら。いい仕事をする。

 

 満足しつつ、なでなでを楽しんでいると、猛禽類の悲鳴。

 

 

 

 『ウララちゃんっ! 助けてェッ! ファルコン・ピンチッ!』

 

 

 

 助けを呼んでも無駄である。何せ、私に助ける気がないのだ。

 

 せいぜい幸せな余生を送るがいい。

 

 そう思っていると。

 

 

 

 『……おじいちゃんたち。圧力弱めて。

 骨ヤバいっしょ。圧し掛かってれば大丈夫だよ。

 会長優しいから。大事なおじいちゃんたちを害せないよ。

 そういうところに惚れたンだし。

 

 会長。これで落ち着いて話せるね? 

 前々から聞きたかったンだけど。

 フラッシュとやらはもういいんでしょ。口に出さなくなったもンね。

 偉いね。昔の女は忘れてくれたンだ。洗脳の成果はあったし。

 でも、ユキオー気にいらないンだけど。

 ハルウララって、会長にとって、何?』

 

 『えっ? ウララちゃんは……私にとって……大事な……』

 

 『……なるほど。アイコピー。そういうことね。

 まだ気づいてないみたいだけど、叛逆の芽は早めに摘み取るべき。

 会長が教えてくれたこと、ユキオー何一つ忘れてあげないよ。

 おじいちゃんたち。独房型艦長室に連行して。

 隣のユキオー愛玩専用艦長室と間違えちゃダメよ。

 あそこ、椅子とベッドしかないから。

 

 ……さて、スタジオの諸君。会長がお世話になっておりました』

 

 「まずはマヤノに謝れよ。可哀想だろ。過去形なのはまぁいいとして。

 自然に台詞をパクるんじゃない。アイツ、出番無いんだから」

 

 

 

 現在の所、出演は未定である。

 

 

 

 『これは失礼。ユキオー、わかっちゃった!』

 

 

  

 こやつ。恋犯にして故意犯である。

 

 このような濃いオリキャラ。ガイドラインには抵触せぬが。

 

 今度こそ読者減少の危機である。わりと頻繁にあるが。

 

 ハルウララは冷や汗を垂らした。

 

 

 

 『んふっ。さて、会長は預かった。まぁ元々わたしのもンだけど。

 文句があるのなら! 

 第四世代型超光速恒星間航行用超弩級万能宇宙戦艦ファル子リヲンまでいらっしゃい! 

 来れるものならな。ああ、アフガンコウクウショー先輩。

 先輩なら、その難しさ。わかってますよね?』

 

 「ユキオー……思い込みが激しいタイプだとは思っていたが。

 なんという面白い姿に……」

 

 「うおッ!? びっくりしたっ! アフちゃん。どこに居たの? 空気だったじゃん」

 

 「ウララ先輩。ずっと横でお座りしておったぞ。

 先輩の助平面、怪鳥にそっくりであった」

 

 『会長にもねっ!』

 

 「カイチョーカイチョーうるせえぞ。

 乾燥してた頃のトウカイテイオーかよ」

 

 「ウララ先輩。その発言はやや危ない。

 まるで今はジメっているかのような誤解を招く」

 

 「ウララ、うっかりっ☆」

 

 

 

 てへぺろにて不明を詫びる。

 

 

 

 「アフちゃん。あの精神状態と口調が不安定なファルコン

 (ファル子コンプレックスの意)知り合いなの? 

 早めに縁を切った方がいいよ」

 

 「あの程度で縁を切っていたら、ウララ先輩とも縁を切らねばならぬ。

 私は実はにじゅっさいでな……あやつはじゅうはっさい。

 ついでにウララ先輩はさんじゅういっさい」

 

 「喧嘩を爆盛りで売ってくれるね……やるか? オイ」

 

 「許してだワンッ!」

 

 

 

 腹を見せて転がる褐色合法ロリメイド。

 

 犬芸も堂に入ってきたものだ。

 

 

 

 「わんっ♡わんっ♡……もういい?」

 

 「話が進まないから許す」

 

 「わぁい。年の差の通り、トレセン学園では1年生と3年生。

 接点はあまりなかったが……偶然気が合ってな。よくカフェテリアで共に。

 抹茶と芋ようかんに舌鼓を打ったものである」

 

 「お前ら、やたらじじむさいよね……年齢詐称してない?」

 

 「しておらぬ。先輩とは……わんわんっ♡きゃうううんっ♡」

 

 

 

 口調のわりに、口を滑らせがちなロリを踏みつけながら思う。

 

 なるほど。若い。つまりは敵だ。

 

 ならば。猛禽類を助けるためというのは気に食わぬが。

 

 このウララちゃんに喧嘩を売った事。

 

 生涯後悔させてやらねばならぬ。

 

 

 

 「ウララ。オレはたまに思うんだが……

 よくオレたち人類は、ウマ娘と共存できてるよな……」

 

 「どうしたのトレーナー? なでなでの手が止まってるよ」

 

 「すまない。……好戦的すぎないかな、この種族……」

 

 

 

 普通の世界線のウマ娘と一緒にしてはいけない。

 

 彼女たちはレースに関しては好戦的だが。

 

 この作品においては、全てに対して全面闘争である。

 

 

 

 「さて。アフちゃん。

 あのバ鹿みたいな宇宙戦艦にたどり着くのが、難しい理由。

 アフちゃんならわかるっていうのは? 

 さっさと吐け。話の腰ばかりポキポキポキポキ折りおって。

 腰痛持ちの私に対する嫌味か」

 

 「そのような気は無かったのだが……ゆるして。

 領域である。ユキオ―は未勝利ウマ娘だが。

 トレセン学園に入る前から、目覚めていたらしい。

 あやつの領域、私のアフターバーナーとは相性最悪でな……

 私がウララ先輩を抱えて飛んでも。すぐに撃墜されるであろう。

 私の他にも、飛行手段が必要である」

 

 「領域に学園入学前から目覚めてるとか、オリーシュかよ……」

 

 「レースにはクソの役にも立たんからな。そういうこともあるのだろう」

 

 「お前らウマ娘舐めすぎじゃない? 領域は走るために使えよバ鹿」

 

 「今、何か悪口を言われたような気がするわ♡」

 

 「クリークママの事じゃありません。ごめんなさい」

 

 

 

 さて。これは困った。

 

 空を飛ぶしか能の無いくせに、このロリ、役に立たぬらしい。

 

 使えぬ手駒を持つと苦労する。

 

 褐色ロリの他に、飛行手段がいる。

 

 

 

 ……問題ない。

 

 実に良いタイミングだ。

 

 すぐにフライトできるだろう。 

 

 

 

 だが、陽動が必要だ。

 

 生身で宇宙戦艦に飛びつくなど。

 

 命がいくらあっても足りぬ。

 

 そう、頭をなでなでされつつ、悩ませていると。

 

 

 

 「やはり宇宙戦艦ですか……

 いつ出発致しますか? 私も同行いたしますわ」

 

 「メジロマック院」

 

 

 

 そうだ。こやつがいた。

 

 ハルウララは、満足げに微笑んだ。 

 

 

 

 

 

 

 つづかない



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ファル子さんじゅういっさい そのじゅういち 愛のゴングを打ち鳴らせ

はい。

皆さま、よいお年を。これは煩悩を払うべく準備した。
私からの、ちょっとした除夜の鐘でございます。


~前回までのあらすじ~

 

 その巧みな交渉術で。

 

 鬼子母神を見事鎮めてみせた、謎のウマ娘。

 

 ユキオーの怪獣への懐柔策に、驚嘆するハルウララ。

 

 立場を利用して札束で殴る。まさに王者の交渉術である。

 

 政界をも制圧可能な奥義に、やっと沈静化した大怪獣系ママ。

 

 通常攻撃が性癖破壊でキレると産声で消滅させてくるオギャリ系お母さんは好きですか。

 

 ラノベのタイトルのような、ジョーダンの塊が大人しくなったことに。

 

 安心するも束の間。

 

 猛禽類の、巣への帰還を促すユキオ―。

 

 だがこの猛禽類。そんじょそこらの怪鳥とは訳が違う。

 

 自由と桜の妖精をこよなく愛する彼女は、立場に縛られぬ会長なのだ。

 

 瞬時にこれを固辞。だがこれは。虎児の穴を、ヘイラッシャイするが如き行為。

 

 瞬時にオリキャラ特有の口調の曖昧さと、精神の不安定さを。

 

 誠心誠意見せつけるユキオ―。

 

 下剋上はしないけど自由は奪う。飼い主はわたしのもの。

 

 お猫様のような女王様宣言をカマし。

 

 傀儡政権を高らかに表明し、ジジイ使いとしての必殺(ジジイが)奥義。

 

 老爺津波により、猛禽類を見事ジジイハザードしてのける。

 

 孫娘ポジションを利し、制圧と爺質を同時に実現する奥義。

 

 姥捨てについて知見の無い猛禽類に、これを回避する術は無かった。

 

 そして、ほっこりするハルウララ。

 

 達者で暮らせ。何回言ったかもう覚えてないけど。

 

 だが、猛禽類のキャプテンっぽいヘルプミーが、状況をさらに混沌とさせる。

 

 エセマヤノのコールに対し、わからせを誓うハルウララ。

 

 オリキャラ同士の誰得交友関係の開示。

 

 カイジとはまったく関係のないオリキャラ。

 

 事態が混迷を極める中、鍵を握るはメジロカッキョウイーン。

 

 ツバメの催眠魔手だけが、優しく頭をブレインウォッシュしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 「さて。状況を整理しようか。

 アホ特有の慢心で。あのジョーダン兵器はホバリング。

 動く気配はない。お約束だからね。

 こっちが動くまであのままでしょ。それはそうと。

 今日はクリスマスイヴ。まずはプリンセスの靴下にこけしを……」

 

 「待てウララ。父として言わせてもらうが、サンタからこけしとは。

 それでプリンセスが本当に喜ぶと思っているのか。

 ミニスカサンタウララ。これこそが、勝利への道筋だろう」

 

 「ミニスカウララちゃん。わかっておりますわねツバメ。

 でもまだ、パパと呼ぶには未熟が過ぎますわよ?」

 

 

 

 執拗に自分の頭を撫で続ける、ツバメからの苦言。

 

 カッコウ被害鳥類には、雌雄が存在したのだ。

 

 シングルベルは鳴り響かない。

 

 

 

 だが、わかっておらぬ。

 

 このツバメ、まだまだである。

 

 やれやれと、手のひらに頭を擦りつけながら首を振る。

 

 

 

 「ミニスカは腰が冷える」

 

 「すまない。全面的に謝罪しよう。ウララ。

 後でオイルマッサージをしてやろう。

 ぽっかぽかな長ズボンで。思う存分煙突から不法侵入するといい」

 

 「我が家に侵入するのは合法だ。勘違いするなよ」

 

 「あの……ウララさん。よろしいでしょうか」

 

 「何? ウマの家庭事情に、口を挟まないでくれる?」

 

 

 

 振り返ると、黒幕のわりに、やたらと影が薄かった彼女。

 

 エイシンフラッシュが困ったように、こちらを見ていた。

 

 

 

 「うむ。ウララ先輩。謎コン。

 今は、どうやってあの宇宙戦艦に不法侵入をキメるか。

 これが焦点であろう。煙突などアレには無い。

 空を飛ぶ手段も、このアフガンコウクウショー以外には無かろう。

 ママが動けるなら話は変わってくるが……

 ご覧の通りの有様である」

 

 「あらあら。ユメガ・ヒロガリングスねぇ……♡

 うふふ♡今度のスタジオは、どんなギミックを付けようかしら♡

 プロデューサー♡ゴンドラとかどうかしら♡」

 

 「よろしいかと。スタジオと式場。親和性は悪くは無い……

 いや。マズいな。申し訳ありませんママ。却下です。

 スタジオの面積的に、ジェットコースター形式のゴンドラになりましょう。

 予算が三倍でも、面積も三倍とは限りませぬ。

 ざっと構造を考えてみましたが。あの幼児どもの満足する速度。

 それを実現するとすれば……AD。何か描くものを。うむ。

 1.5倍だと、こう。仮に3倍だとしても、こうです」

 

 

 

 手渡された木の枝を用いて。

 

 地面に安全基準を無視した殺人コースターを描き出す。

 

 スーツをおむつで膨らませた成人男性。

 

 やはり、ただのイエスマンではクリークママの下僕は務まらぬ。

 

 独裁者とは、時には苦言でもって支える者がいなければ。

 

 理想社会実現前に、過労死してしまうものである。

 

 

 

 「あら……ジェットコースター形式ゴンドラ。

 幼児は喜びそうだけれど。安全性に欠けるわね。

 しょうがない。ワイヤーアクション用の設備で我慢しましょうか。

 ねぇワンちゃん♡ウララちゃんのピーターパン、見たいわよね♡」

 

 「だぁー! ウラー!」

 

 

 

 赤子をあやしつつ、己を飛ばそうとしてくる独裁ママ。

 

 心無しか、ワンちゃんも満足げだ。

 

 ワイヤーは腰以外に付けていただきたい。

 

 というか、褐色ロリに抱えられて飛ぶのでは、駄目なのだろうか。

 

 そのようなアクションを求められるのは。

 

 少年をいつまで経っても卒業しない、某特殊部隊だけではないのか。

 

 

 

 「取らぬたぬ吉さんの皮算用に夢中である。

 マ魔王の助力は期待できまい。

 むしろ、声を掛けたが最後。ママ堕ちさせられる恐れすらある。

 なんか空すら飛べそうな。かの独裁者を、動かせぬとあれば。

 似非メスガキをわからせるのは、些か困難では? 

 それとも、空を飛べる変態に心当たりが? 

 そのようなアホっぽいキャラ。寡聞にして心当たりがないが」

  

 

 

 自らの存在を、大胆に否定する褐色ロリ。

 

 力士はノーカン。そういうことなのだろうか。

 

 だが、甘い。このバ鹿みたいな変態世界。

 

 空でも飛ばねばやってられぬ事も多い。

 

 

 

 「問題ないね。マックイーンちゃん。メジロ電器の加湿器どもの具合は?」

 

 「我が社を勝手に名義変更しないでくださる? 

 今、ヘリオスさんに連絡を取りました。

 愛弟子の醜態に、心を痛めていましたもの。彼女。

 直にパリピ見習いと、巻き込み事故でワセリン多めの見せ筋。

 それぐらいは連れてきてくれるでしょう」

 

 「よろしい。スズカさん。足の具合は?」

 

 「スぺちゃんのもちもちほっぺで、だいぶ暖まってきたわ。

 北海道の厳しい寒さ。最初はあまりの寒さに、つい走り出しちゃって。

 屯田作業に勤しんでいたけれど。スぺちゃん懐炉はすごいわね。

 ふとももだけは。いつでもほっかほかよ。むしろ現役時代より調子がいいわ。

 さらに暖かいここならなおさら。最速の機能美、魅せてあげるわ」

 

 「非常に結構。プリンセス。牛に連絡を。

 カスタマーに、迷惑をかけるから。謝罪行脚の準備をさせておいて」

 

 「ウララちゃん。自分で謝りに行く気はありませんのね。

 そこに痺れて憧れますわ。ナッちゃん。頑張ってきてくださいまし」

 

 「ぴよっ!」

 

 「よしよし。かわいいヤツめ。ミミズか? ミミズが欲しいのか? 

 三匹か? 四匹か? 「ぴよっ!」……十匹! いやしんぼめ! 

 ヨーシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシ!!」

 

 

 

 ポケットからミミズを取り出し与える。

 

 いい食いっぷりだ。明らかに己の体積以上の量を喰らうひよこ。

 

 きっと、立派な怪鳥になってくれるに違いない。

 

 

 

 「ウララ。ひよこの餌は穀物では……」

 

 「トレーナー。この子はそんじょそこらのひよことは違うんだよ。

 かわいい我が子だもの。常に最高級のミミズを与えないと」

 

 「肉食系ひよこ……ウララも肉食系だものな。そういうこともあるか」

 

 

 

 我が家の食育に、疑義を呈するも。

 

 自分の母としての貫禄に、瞬時に納得するツバメ。

 

 さすが、わかっておる喃。 

 

 伊達に毎度。クッソ高い、高級牛肉を奢らされてはいないということだ。

 

 キングちゃんのシチューは大好きだが。

 

 このハルウララ。Tボーンステーキも大好物である。

 

 

 

 「……なんとなく展開が読めてきたが。

 マックイーン先輩、白マックであったか……? 

 アレ、そんなに飛べたっけ。

 今着てるの、ダサいジャージだし。

 

 それとスズカ先輩。

 いくら走っても空にはたどり着かんぞ。

 海の上ぐらいは走りそうな気合であるが。

 

 あとひよこ。ひよこって。にわとりでも難しいのでは?」

 

 「心配は無用ですわ。貴顕のおしぼり代を取り戻すべく。

 見てから昇竜余裕ですわ」

 

 「先頭の景色と、スぺちゃんのおなかは、譲らない……!」

 

 「ぴよっ!」

 

 

 

 それぞれ気勢を上げる、頼れるクズどもとかわいい我が子。

 

 我が子を除き、こやつらの。

 

 理性と常識の飛行性能だけには、信用が置ける。

 

 頼もしい姿だ。さて、編成は……

 

 

 

 「ウララ。本当に行くのか……?」

 

 「どうした急に」

 

 

 

 ツバメの今さらな疑問。

 

 思わずますおになりつつ問いかえす。

 

 

 

 「……正直、オレは反対だ。

 ウララが危険を冒す必要はない。

 いいではないか。

 ファルコンは三食昼寝・ロリ付きの贅沢な生活。

 オレはライバルが減る。ウララはオレと幸せな新婚生活。

 誰が不幸になるというのか。

 

 ウララ。オレは先程、遂に理解した。

 マ魔王の産声の中で。オレも新生を果たしたのだ。

 もはやアフちゃんも興味が無い。 

 

 お前しか目に映らぬ。

 オレの世界の全て。愛しき我が愛バよ。

 もし、オレを置いてあの宇宙戦艦に向かうというのなら……

 

 オレの屍を超えて行けっ! 

 さぁ! トレーナーとウマ娘! 

 時にはぶつかり合うのも必要というもの! 

 オレが勝ったら! 今度こそ同棲してもらうぞ! 

 

 ……いいや! それではもう我慢できぬ! 

 そのまま幸せなキスをして、この連載を終了させてくれるッ! 

 そろそろ読者も飽きてきた頃だろうしなッ!」

 

 

 

 急遽の発狂を果たし、メタ発言をカマすツバメ。

 

 なんということだ。幸せなキスだと。

 

 正直興味はあるが。

 

 キスについてはガイドライン上、まだ議論の最中。

 

 連載が強制終了させられる恐れがある。

 

 そんなことは、認められぬ。

 

 だって。まだ。

 

 

 

 「ファーストキスは、結婚式で。

 万雷の拍手の中で……! 

 言ったよねトレーナー……! 

 私の夢を……!」

 

 

 

 およめさんになっていないのだから……! 

 

 

 

 「メルヘン過ぎるのだ……! 

 お預けが過ぎるぞ、ウララ……! 

 パイタッチすら許されぬ! 

 このような現状に、オレは一石を投じる! 

 今、叛逆の時……!」

 

 

 

 ツバメ……いや。もう認めてやろう。

 

 性徴したな、我がトレーナーよ。

 

 お互い慎重に。

 

 バックステッポで距離を取り、にらみ合う。

 

 

 

 ヒト息子がウマ娘に勝てるわけがない。

 

 そのような常識、通じぬと考えた方が良い。

 

 あの自信に満ちた顔。

 

 何か秘策があるに違いない。

 

 

 

 「私たちは、何を見せられているのか……」

 

 「私も、そろそろ結婚するべきですわね……」

 

 「というかウララさん、メルヘン処女すぎませんか? 

 ドイツではキスなど、挨拶ですよ。

 そう言って、私はトレーナーを堕としました」

 

 「スぺちゃん。帰ったらちゅっちゅしましょう? もちろん比喩表現よ」

 

 「もちろんです、スズカさん!」

 

 「ウララちゃんの唇は、わたくしの物ですわっ!」

 

 「あらあら♡青春でちゅねー、ワンちゃん♡」

 

 「うらー! ちゅー!」

 

 

 

 うるさい、気が散る。一瞬の油断が命取り。

 

 気を取られたが最後。

 

 一気にイニシアティブを握られかねぬ。

 

 

 

 「……は………………師……

 ……は愛……門……ベ……術師……」

 

 

 

 トレーナーは顔を伏せつつ、何事かを呟いている。

 

 なんだ。何の詠唱か。

 

 イケボはもっと近くで聞きたい。

 

 警戒を高めつつ、接近する……! 

 

 

 

 高まる戦闘のリズム。

 

 闘いのゴングを鳴らせ。

 

 これは、聖戦である。

 

 

 

 さぁ。愛しき我が大敵よ。

 

 この桜色の勇者を。

 

 倒せるものなら、結婚してみせるがいい……! 

 

 

 

 そして、トレーナーの手から零れる。鈍い銅の輝き。

 

 

 

 五円玉、だとッ……!? 

 

 

 

 驚愕に目を見開きつつ。そのまま彼の懐に…… 

 

 

 

 「オレはッ! 愛バッ!! 専門ッ!!! ドスケベ催眠術師ッ!!!! 

 自己催眠ッ! ここに完了ッ!! 喰らうがいいウララ!!! 

 我が愛のッ! 全てをここにッ!! 

 泰山の奥深くッ! 幽玄の霧の中オラつく!! ちん〇ん亭仙人より学んだ!!! 

 お前のトレーナーたるこの身に刻んだ、最終奥義ッ! 

 味わい尽くしてガイドラインに抵触しない程度にえっちになれ……! 

 

 オラッ♡♡♡催眠ッ♡♡♡」

 

 「アホか」

 

 

 

 ウマパンチをキメた。

 

 「ガッシ! ボカッ!」トレーナーは倒れた。スイーツ(笑)

 

 

  

 「ぐはっ……! な、何故だ……! 

 オレの催眠は完璧だったはず……! 

 何故恋空される……!? 

 オレの愛が、通じぬはずが……!」

 

 「トレーナー。てめーの敗因は、たったひとつだ。

 てめーはウララちゃんをガチ恋させた」

 

 

 

 そう。催眠は効果を発揮していた。

 

 だが。描写せぬ限りは問題ない。

 

 このハルウララ。既に発情状態である。

 

 三十路独身ウマ娘の性欲。

 

 舐めてはいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつだって。恋する乙女は、無敵なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 つづかない



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ファル子さんじゅういっさい そのじゅうに ギターを鳴らせ

明けましておめでとうございます。
なんかまたオリキャラが暴走しました。
反省はしない。
カイジ、名作ですよね。


~前回までのあらすじ~

 

 囚われのバ鹿を救うためとかは特に関係なく。

 

 舐められた落とし前を付けさせるため。

 

 第四世代型超光速恒星間航行用超弩級万能宇宙戦艦ファル子リヲン(早口)攻略会議。

 

 ハルウララはその、智将としての才。

 

 これを遺憾なく発揮。

 

 まずは今日はクリスマス。

 

 愛する娘に与える、とびっきりのこけし。

 

 その選別こそが最も重要な議題。

 

 だが未熟なツバメの問題提起。

 

 腰痛予防に即座に却下。

 

 影の薄い黒幕をスルーしつつ。

 

 更なる野望に燃えるマ魔王を横目に。イカした作戦を練り切りする。

 

 使える手駒はゲーミング紅茶中毒、速度中毒ばんバ、さらには愛する我が子。

 

 おまけの褐色ロリの疑問を華麗にスルーし、草案が出来たところで。

 

 ツバメによる、独占欲の発露。

 

 ガイドラインに対する叛逆の狼煙。

 

 ちゅーなどと。呆れたツバメにウララは唸る。

 

 正直興味はあるが、ガイドライン以上にメルヘン重視。

 

 勇者の唇は安くない。

 

 だが、その心意気を認めたハルウララ。

 

 顔ケツ声と三拍子揃った彼を、初めてトレーナーと認める。

 

 そして始まる決戦。

 

 宇宙戦艦など知らぬとばかりに、脱線するが世の定め。

 

 彼が必死に練り上げた、トレーナーとして生きた証。

 

 ちん〇ん亭式催眠術に、思いックソドはまりしつつ。

 

 彼を華麗に恋空し、乙女の意地を見せつけた。

 

 宙を舞った本筋は、今こそ線路を破砕しつつ着地をキメる。

 

 初見殺しとはこうやるのだ。

 

 最新話から読む派の読者様、申し訳ありません。

 

 第一話から読め。

 

 

 

 

 

 

 

 「会長。無駄な抵抗って、知ってる? 

 今の会長の事を言うンだよ。

 またひとつ、お利口になったね?」

 

 「ユキオ―……! なんでこんなことを……!」

 

 「なんで? なんでって言った? わかってないね会長。

 ほら、顔を背けちゃダメだよ。

 その頑なな心。わたしの愛で破壊したげる」

 

 「ひっ……! いやっ! ファル子、そんなもの……!」

 

 

 

 差し出される、鈍い輝きを放つ金属。

 

 その上に載せられた、おぞましき物。

 

 スマートファルコンは、いやいやと首を振る。

 

 

 

 「いいから食えしっ! その年になって! 好き嫌いしてるンじゃないッ!」

 

 「ファル子、レバー苦手ぇぇぇぇッ! 血なまぐさいもんっ! んぶっ!」

 

 「はい噛んで噛んで。ちゃんと一口につき、10回は噛むンだよ?」

 

 「んぐんぐ……あれ。臭くない」

 

 「んふ。新鮮なヤツを、氷水で血抜き。牛乳で臭み取り。

 さらにニラと、ちょっぴりにんにく。これで臭みは気にならンしょ。

 子供の頃苦手だと思って、そっから食べてなかったンしょ? 

 わたしが作る限り、臭いとかの心配はしなくていいし。

 師匠直伝の料理テクで、会長を健康にしてあげるし」

 

 「うう。部下の女子力が高い……おいしいけど複雑な気分。

 ユキオ―、こんなのどこで習ったの? 

 ファル子、料理は教えた覚えないんだけど」

 

 「会長の家の冷蔵庫。初めて見た時さ。

 酒とツマミしか入ってなかったから。

 見た瞬間、ヘリオス師匠の所に駆け込ンだし。

 師匠主催の、ギャルのための料理教室。

 

 すごい評判いいンだよ。実際。

 まぁ口調は多少、ギャルっぽくなるけども……

 愛する旦那様と、幸せなパリピ生活を送るため。

 まずは食から整えましょう。道理だよね。

 一日三食。五十品目が基本だよ」

 

 「ギャルってそういうものだったっけ……」

 

 「二ホン一のギャルの、師匠が言うンだもん。

 間違いがあるわけないっしょ。

 さて、会長。お話を続けようか」

 

 

 

 独房型艦長室の中心。

 

 ふっかふかの椅子の上に囚われた、スマートファルコン。

 

 彼女は身構えた。一体次はどんな無理難題を。

 

 決して屈するわけにはいかぬのだ。

 

 膝の上で、自分のお口をふきふきして、空になった皿を眺め。

 

 上機嫌になでなでを要求する、ユキオー。

 

 その白髪を撫でつつ、彼女の言葉を待つ。

 

 かわいいヤツめ。これでもう少し素直ならば。

 

 キープから本命への昇格も。

 

 やぶさかではないのだが。

 

 

 

 「さて会長。条件を整理するよ。

 わたしの要求はよっつ。

 

 ひとつ。クリークママといっしょの出演は、週三回。

 やっぱり縛りすぎるのもよくないし。

 月曜日と金曜日は、会社で決裁してね。

 

 今までわたしが代行してたけど、やっぱりおじいちゃんたちも。

 恩義ある会長が決裁した方が、嬉しいと思うし。

 たまに現場にも、顔を出してあげてね。

 

 ああ、厳選して後は決裁するだけにしとくから、そこまで難しくはないよ。

 ビョードーおじいちゃんと、ワシーおじいちゃんも手伝ってくれるし。

 調子が悪い時とか、やる気が出ない時は言ってね。お休みにするから。

 土日はおうちでゆっくり休んでね。

 

 

 ふたつ。わたしに食生活を委ねること。

 会長にはいつまでも、綺麗で長生きしてもらいたいし。

 外食したい時は、事前に言うように。

 レシートだけ持って帰ってきてね。次の献立に反映するし。

 

 

 みっつ。ハルウララと結婚するのはいいけど、わたしを愛人にすること。

 もちろん法改正したら、ちゃんと結婚しようね。

 

 

 よっつ。ワンちゃんとやらはまだ興味ある? 

 子育てはあんま自信ないンだけど。

 でも、うちの子になるからには、本気で育てるから。

 ちゃんと、エイシンフラッシュに同意を取ってね。

 

 まぁわたし、あんまあのウマ気に入らないけど……

 会長の笑顔を取り戻せたから、許したげるよ。

 やっぱ、産みの親と無理やり引き離すのはよくないし。

 養子縁組は、わたしがどうにかするから。

 

 

 このよっつだよ。

 どう? 大分厳しいとは思うけど……

 でもわたし、一生懸命考えたンだよ。

 不満な所があったら言って。案を修正するから。

 

 リアクション芸は、正直どうかと思うけど……

 会長の笑顔のためなら、頑張るし」

 

 

 

 スマートファルコンは唸った。

 

 このウマ娘、愛する者をダメにする才能に。

 

 あまりにも満ち溢れている。

 

 身を任せたが最後。死ぬほど幸せにされてしまう。

 

 一度受け入れれば。

 

 もはやウマ生の墓場からの脱出は、不可能だろう。

 

 

 

 ……あれ。何も問題ねーなこれ。

 

 むしろコイツを逃すと、これ以上の優良物件は得られぬ。

 

 桜の妖精を思うさま愛玩しつつ、幸せな家庭生活を送れるだろう。

 

 よし。ここは渋る振りをして、さらなる譲歩を得よう。

 

 愛しの二号さんよ。もっと甘やかして。

 

 

 

 『ユキオーちゃん。下に動きがあったぞい』

 

 「ん。ハルウララが動き出したみたいだね。

 会長。ここで待ってて。おつまみはここ。

 ナッツ類を中心に食べてね。

 チェイサーもちゃんと飲むように。

 じゃあ、わたし対処してくるから。

 いい子で待っててね。あ、なでなでして」

 

 

 

 ご要望にお応えして、なでなですることとする。

 

 

 

 「んふー。しゃーわせ……

 行ってくるね。あ、手錠キツくない? 緩める?」

 

 

 

 ふわふわの。カバーに包まれた手錠。

 

 まったくキツくないそれを、気遣わしげになでられる。

 

 というかこれ、普通に抜けるな。

 

 

 

 「大丈夫だよ。ユキオ―。気をつけてね。

 ウララちゃん、キレると鬼より怖いから」

 

 「うわぁ。正直勘弁して欲しいンだけど……

 でも会長は、あの違法ロリと結婚したいんでしょ? 

 やっぱ暴力的なおよめさん、良くないと思うよ。

 正妻となるに、相応しい教育をしてあげるし。

 まずは無力化して、洗脳を……」

 

 

 

 ぶつぶつと呟きつつ、部屋を出るユキオ―。

 

 頑張って欲しい。幸せな結婚生活のために。

 

 

 

 スマートファルコンは、グラスを傾け。

 

 ユキオ―お手製の、塩分控えめのおつまみに。

 

 舌鼓を打ちつつ、思った。

 

 ユキオ―攫ってきた過去の自分、超グッジョブ。

 

 やはり、最後に勝つのはこの自分である。

 

 

 

 

 

 

 「一おじいちゃん。状況は?」

 

 

 

 なでなでの余韻に浸りつつ、艦長席の横。

 

 副長席に座る。

 

 艦長席は会長限定。お膝の上に乗らぬ限り、自分が座るなど。

 

 とてもとても、出来はしない。

 

 索敵担当のおじいちゃんに、状況を聞く。

 

 

 

 「おお。ユキオーちゃん。下でなんか仲間割れしとる。

 あやつら何を考えておるんだか、さっぱりわからんな。

 だが、勝負はついたみたいじゃぞ。

 ハルウララの勝ちだ。さすがは桜色の暴帝と言ったところか」

 

 「ふむ。六おじいちゃん。予想される相手の出方は?」

 

 

 

 なるほど。わからん。だが、信頼できるアドバイザーが居る。

 

 ハルウララについて聞くならば、このおじいちゃん以外には居ない。

 

 

 

 「……ウララは全盛期から大分落ちてる。

 ドリームトロフィーリーグ時代なら。

 桃白〇式舞空術でもやってきただろうが……

 アイツの腰は、そんな出力にはもう耐えられん。

 できて一回のみ。しかもやった瞬間リタイアだ。

 考えなくてもいいだろう。

 

 恐らくアフガンコウクウショーによる飛行と。

 メジロマックイーンの第2領域による、短時間の飛行。

 それぐらいがせいぜいだろうさ。

 

 サイレンススズカがアップしてるのは謎だが……

 いくらスピードを乗せても。

 走り高跳び程度じゃ、この高さには届かん」

 

 

 

 なるほど。相手の手札はやはり少ない。

 

 このファル子リヲンなら、容易く蹂躙できるだろう。

 

 

 

 「ふぅん……三おじいちゃん。バリアは?」

 

 「問題ないぞい。やれやれ。ひさしぶりのうまぴょい伝説。

 老骨には応えるわい。六よ、腰は大丈夫か?」

 

 「まだまだ現役だっていけるわ。舐めるんじゃねぇぞ」

 

 「引退したわりに元気じゃのー。

 まぁ、身を引く他に無かったとはいえ。

 会長には感謝じゃわい。やはりわしらは……」

 

 「むっ。動き始めたぞい! ユキオーちゃん、ライブの準備は!?」

 

 

 

 おっと。動き始めたか。

 

 あちらの手札は僅か。

 

 こちらは頼れるおじいちゃんたちの。

 

 腰を気遣いつつのうまぴょいにより、バリアも万全。

 

 

 

 昔取った杵柄を、舐めてはいけない。

 

 そして。

 

 このユキオーがいる。

 

 

 

 「オッケー。おっぱじめようじゃん? 

 おじいちゃんたち! ノッてるかー!?」

 

 

 

 じゃかじゃかじゃかじゃかじゃんッ! 

 

 

 

 艦長席の前のステージ。そこに乗り。

 

 ギターをかき鳴らす。

 

 この第四世代型超光速恒星間航行用超弩級万能宇宙戦艦ファル子リヲン(早口)。

 

 ヒトの力も、ある程度は増幅するが。

 

 ウマ娘の力を、最大限に増幅する。

 

 古代ウマソセス王国の遺産。

 

 その性能を最大限発揮するため。

 

 必要なのは、歌のウマさではない。

 

 感情の昂りである。

 

 

  

 「「「「「「ノッてるぞおおおおおおおい!!!」」」」」」

 

 

 

 オーディエンスのレスポンス。

 

 いい。非常に良い。

 

 自分の奏でる、アコースティックギターも。

 

 彼らの嗜好に即している。

 

 レコード世代は伊達ではない。

 

 

 

 街はずれの楽器店。

 

 会長とともにお出かけして、一目惚れしたこのギター。

 

 買い与えてもらった時、思わずほっぺにちゅーしたものだ。

 

 トランペットを買ってくれる、あしながおじさんは居なくとも。

 

 わたしには大恩ある、愛しいあのウマが居る。

 

 

 

 とても手になじむ。

 

 多分、産まれた時から助言してくれている、彼。

 

 やたらポエミィなおじさんが、ギターが得意だったのだろう。

 

 このユキオー。彼にはとてもお世話になっている。

 

 

 

 困った時は、彼が頭の中でそっと囁くのだ。

 

 幸せになるための道筋を。

 

 

 

 金は命よりも重い。

 

 金の話をする時は、虚偽は言ってはならない。

 

 部下の心を掴む方法。

 

 要忖度おじさんの扱い方。

  

 決して油断してはいけない。  

 

 奴隷も皇帝を二度刺すことがある。

 

 そして。

 

 

 

 「勝たなきゃッ!!! ゴミなんだよッ!!! 

 わたしはこのウマ生を、精一杯生きるッ!!! 

 生きて生きて生きて生きて生きて生きてッ!!! 

 勝ち続けて、決して後悔なんか、してやらないッ! 

 おじさん、見ててッ! あなたの分までッ! 

 幸せなウマ生を送ってあげるッ! 

 カイジとやらも、ここには居ないッ!」

 

 

 

 そう。

 

 志半ばで奴隷に刺された、堕ちたる皇帝。

 

 自らを負け犬であると告げた、彼の無念。

 

 それを晴らすためには、完全無欠のハッピーエンド。

 

 それこそが。それだけが。それ以外には、有りはしない。

 

 

 

 さぁ。来るがいい。我が恋敵。

 

 彼女の一番は譲ってやろう。

 

 一番になど、ならなくても良い。

 

 『彼』の魂を受け継いだ自分に、一番は似合わない。

 

 だが。

 

 

 

 「それはそれとしてっ! 上下関係は大事じゃんッ!? 

 会長が上ッ! あンたは下ッ! 

 たどり着く可能性なんて、万に一つも残さないッ! 

 会長の『力』に跪いて、堕ちて堕ちて堕ち尽くせッ! 

 領域増幅用アンプ! 出力最大ッ!」

 

 

 

 アフガンコウクウショーには、ああ言ったが。

 

 本来なら、彼女一人を堕とすのが精々だ。

 

 自分の領域は、極小範囲にしか作用しない。

 

 元々、自分に作用させるための。

 

 『彼』の末路を再現したものだからだ。

 

 

 

 だが、このファル子リヲンなら。

 

 その領域を、歌により増幅できる。

 

 さぁ、悲しみを歌おう。

 

 喜びを叫ぼう。

 

 この曲は。

 

 

 

 「ファル子リヲンッ! リクエストッ! 曲名ッ! 

 

 †逃げられっ☆堕天恋(にげられっ☆フォールンラヴ)†パロディソングッ! 

 

 †落ちぶれっ☆堕天録(おちぶれっ☆フォールンダウン)! †

 

 さぁ、わたしの恋で、全てが堕ちるッ!」

 

 

 

 『彼』の失墜と。『私』の恋心を歌う曲である。

 

 

 

 

 

 

 つづかない



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ファル子さんじゅういっさい そのじゅうさん 見よ。この生き様を

うーん。話が。話が進まん……!
書きたい事が、多すぎる……!


~前回までのあらすじ~

 

 見事トレーナーを恋空したハルウララ。

 

 その頃、第四世代型超光速恒星間航行用超弩級万能宇宙戦艦ファル子リヲン(早口)では。

 

 特に期待されていなかったオリキャラ。ユキオ―が、叛逆の狼煙を上げていた。

 

 スマートファルコンに対する、女子力マウント。

 

 突きつけるは、過大な要求。

 

 屈辱に猛禽類は、ロマネ・コンティと手作りのおつまみに舌鼓を打ち。

 

 ユキオーを快く送り出した。

 

 私の大望のため、超がんば。

 

 なでなでで気分を高揚させたユキオー。

 

 理想のナンバーツー生活のため。

 

 おじいちゃんたちをノせて、アゲアゲで。

 

 アコースティックギターをかき鳴らす。

 

 想起するは、前世の記憶。

 

 彼女こそ、ポンコツクソかわTS異世界転生褐色合法ロリメイド系オリジナルウマ娘力士(精神年齢還暦越え)(早口)と似て非なる者。

 

 敏腕従順ダメウマ全自動甘やかし異世界魂転生白髪合法JKロリ秘書系オリジナルウマ娘中間管理職(ギャル口調)(早口)である。

 

 褐色ロリと対を成す、ウマソウルとは異なる魂の持ち主。

 

 異世界の利根川先生の魂を宿す、前世の記憶持ちであった。

 

 アフちゃんは空に昇り。ユキオーは地に堕とす。

 

 まさに表裏一体のオリキャラである。

 

 さぁ、歌おう。小さな故意の唄。

 

 終わりへと続く、失脚のメロディーを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ウララさんっ! 第四世代型超光速恒星間航行用超弩級万能宇宙戦艦ファル子リヲン(早口)に動きがっ!」

 

 「お前それ、よく噛まないよね……あと、なんで正式名称覚えてんの?」

 

 「ファル子さんの事ならなんでもわかります。そう……愛故に」

 

 「その愛、絶対マトモじゃないから。さっさとゴミ箱に捨てろ」

 

 「なんてひどい……ウマの心はないんですか?」

 

 「心は中山競バ場で死んだよ。さて、マックイーンちゃん。電化製品どもは?」

 

 

 

 重要人物のわりに、粗雑な扱いを受けていた、徹底管理系ウマ娘。

 

 エイシンフラッシュが宇宙戦艦の異常を叫ぶ。

 

 ハルウララは、適当に相手をしながらも、準備状況の確認をする。

 

 

 

 「ええ。もうじき到着しますわ。メジロタンク。走破性能はばつ牛ンですわ」

 

 「自力で走らせろよバ鹿」

 

 「せっかく作ったんだから、見せたくって……鈍ったウマ娘よりは速いですわ」

 

 「でも私の方が速いですよ?」

 

 「黙れ」

 

 

 

 遠くに見える土煙。

 

 その鋼の履帯をキュラキュラさせながら迫る。

 

 やたらパン工場を内包してそうな外見の。

 

 メジロの誇りが姿を現す。

 

 運転席にはパリピ。

 

 上部には、縛り付けられたウマ娘が二人。

 

 

 

 「なにっ!? なんなのっ!? いきなりクライマックスじゃんっ!」

 

 「腹筋が唸りますねえっ! ついに筋肉を見せるべき時がっ!」

 

 「ライアン。あんた湿ってるくせに、やたら元気だよね」

 

 「パーマーこそ。湿ったギャルとか、誰が得するんですか」

 

 「いいねぇっ! このずんだパンマンタンクッ! アゲアゲじゃんっ!? 

 あとパーマー。あとで説教すっから。ギャル道不覚悟だよ。

 ちょっとウチが、旦那とイチャイチャパリピしてる間にさ。

 じめじめじめじめしやがって。おけまる水産?」

 

 「10年はちょっとじゃねぇよ。死んだわこれ」

 

 

 

 

 「ほら、ウララさん。新しい加湿器ですわよ?」

 

 「まずは国民的アニメに謝れよ。このアンポンタンが」

 

 「パクパクですわっ!」

 

 

 

 顔を逸らす、言ってない定期。

 

 後でコンプライアンスの重要性を説くことを決め。

 

 ハルウララは、空を仰ぎ見る。

 

 

 

 空にはギターをかき鳴らしつつシャウトする。

 

 白髪の秘書系ウマ娘。

 

 その映像が、投影されていた。

 

 なんだこれ。

 

 

 

 『貴様に 伝えたいことがあるの

 

 ワシを玉座から 引きずり堕とした 貴様』 

 

 

 

 しかし相変わらず口調が安定していない。

 

 そのわりに、一人称が堂に入っている。

 

 相変わらずおかしなウマ娘だ。

 

 だが……何か聞き覚えがあるような……

 

 

 

 

 「これは……逃げられッ☆堕天恋……? 

 ですが、歌詞が違います。粗悪なパロディですね」

 

  

 

 ぽつりと、エイシンフラッシュが呟く。

 

 そうか。この曲。

 

 猛禽類の持ち歌だ。

 

 

 

 『とても充実していた 重役としての日々

 

  会長の元で どこまでも利益を追求できる 欲に塗れた金を広げ』 

 

 

 

 なんだ。これは。

 

 何を歌っている……? 

 

 

 

 『出世したら 何をしよう 退職後は 何をしよう

 

  夢は広がり あの空へ どこまでも飛翔んでいく この想い』

 

 

 

 テンションは最高潮に達し、彼女が顔を伏せてバックステップ。

 

 

 

 そして溜め。能楽や歌舞伎に見られる、間の美学である。

 

 

 

 ジジイの一人が、総身をのけ反らせ、そして。

 

 

 

 『そこでまさかの、焼き土下座……!』

 

 

 

 

 プオオオオオオオオオオオオッ! 

 

 法螺貝が鳴り響く。やたら古い表現を使いおって。 

 

 

 

 

 ここで。サイリウムを握るジジイの一人が、彼女に何かをシュートする。

 

 ん……? 何かあのジジイ、見覚えがあるような……? 

 

 

 

 彼女が顔を上げ、それを掴み取る。

 

 

 

 それはカードの束。皇帝と、市民と奴隷が描かれている。

 

 常識外の握力により、容易く握り潰される。

 

 

 

 そして彼女は顔を上げ、感情を解放した。 

 

 

 

 『クゥゥゥゥゥゥゥゥワァァァァァァァイイイイイイジィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

 

 

 

 上げた顔には、血の涙。

 

 莫大な音圧により、地面に押し付けられる感覚。

 

 なんと。あの娘。

 

 クワィジィと言うのが誰かは知らぬが。

 

 全盛期の猛禽類と同質同量の、怨念を発しおった。

 

 

 

 「ぬぅっ……! ウララ先輩ッ! 感心している場合ではないぞ! 

 あやつ、やりおった! 領域だッ! 地面に押し付けられる感覚ッ! 

 レースでは、地面に軽く押し付けられるだけだから、役には立たんが! 

 空を飛んでいる者には特攻作用があるッ! 

 なんか空を飛びたくなった私が、急に墜落させられた時と同じッ! 

 下方向への、重圧を生み出す領域であるっ! 

 しかも、あの宇宙戦艦により。増幅されているようであるッ!」

 

 「鳥かよ。気分で空を飛ぶな」

 

 「ああん! 冷静ッ!」

 

 

 

 アフガンコウクウショーが、三つ指を突きながら叫ぶ。

 

 もはや、身に沁みついているのだろう。

 

 この重圧下で、一番楽な姿勢を自然に取っているようだ。

 

 つーか、腰痛いなあ。

 

 

 

 「う、ウララさんっ!? なんで平気で立ってますのっ!?」

 

 「短距離選手舐めんな。筋力が重要だよ」

 

 「ダート短距離恐るべし……いやいや。納得いきませんわっ!」 

 

 

 

 地面に押し付けられている、ヤクザ一家当主の疑問。

 

 やはり長距離選手はいけない。

 

 スピードを長時間持続させるための、長くていい足。

 

 それを確保するため、筋力トレーニングを疎かにしていたのだろう。

 

 重すぎると、体力の消耗が激しいためだ。

 

 

 

 「そんなこと言われてもなぁ。実際平気だし。

 やっぱり日頃の行いじゃない?」

 

 「なんてことっ……! ウララさんに、日頃の行いで負けるなんてっ……!」

 

 「どういう意味だよ。踏むぞ」

 

 「踏んでから言わないでくださいましっ……!」

 

 

 

 紅茶党を葦毛にしていると、空から聞こえる声。

 

 

 

 『ハルウララ……! 何故立っている……!? 

 私の領域では、誰もが重圧に跪くはずっ……! 

 例外は無いッ! 煌く夢は失墜するッ! 

 夢! 希望! 未来への願い! 

 輝かしい想いを抱いている限りッ! 

 それを失う重みに耐えかね、人バはその膝を折るはずだ!』

 

 

 

 なるほど。そういうことか。バ鹿め。

 

 

 

 「そりゃ私には効かないわ。

 だって夢とか希望とかねーもん」

 

 

 

 『えっ』

 

 

 

 「う、ウララ! オレとの結婚は!? それは希望とか夢とか! 

 そういうものではないのか!?」

 

 

 

 地面に土下寝するトレーナーが叫ぶ。

 

 まったく。だらしのないトレーナーだ。

 

 

 

 「それは確定事項でしょ。お前は私の物だよ。

 夢とか希望とかとは違うかなぁ」

 

 「やったっ! 勝利だッ! 幸せにしてねっ!」

 

 

 

 土下寝したままにガッツポーズを取る、我がトレーナー。

 

 器用なやつだ。だが自分の立場を分かっているのは高得点。

 

 あとで褒美をやろう。なでなでして。

 

 

 

 『いやいやいやいやっ! 目が濁ってるとは思ったが! 

 そンなわけないっしょっ!? 子供に夢と希望を与える! 

 ウマのお姉さんが、それを持ってないなんて! 

 幼児教育番組に、居てはいけないウマ材じゃんっ!? 

 そこンとこ、どうですかスーパークリークさんっ!?』

 

 

 

 混乱した様子の白髪JKロリが、クリークママに尋ねる。

 

 おや。クリークママも平気なようだ。

 

 さすがは、マ魔王と言ったところか。

 

 

 

 「えっ? そうねぇ♡

 ウララちゃんはかわいいし……♡

 いいんじゃないかしら♡

 濁った瞳もチャーミングよね♡

 あと、この重圧。多分だけども……

 産まれついての王者には、効かないと思うわ♡」

 

 

 

 なるほど。このハルウララ。

 

 常に自分が、最も至高の存在だと思っている。

 

 世界で一番、お姫様。

 

 これは我が家のプリンセスとは、また別の事。

 

 効かぬのも道理ということだ。

 

 

 

 『ああ……そういやこれ、会長にも効かなかった……

 まさか、自分が一番偉いと思ってる、唯我独尊なウマには効かないの……? 

 ナンバーツー志望が仇となったということか……! 

 だが。他の者には効果覿面のようだな……!』

 

 

  

 言われ、周囲を見回す。

 

 

 

 ゲルマン陰陽師。潰れている。

 

 見せ筋。潰れている。

 

 褐色ロリ。潰れている。

 

 パリピ見習い。潰れている。

 

 ゲーミング葦毛。潰れている。

 

 パリピ。化粧直しに余念がない。

 

 クリークママ。あらあらしてる。

 

 手の中の赤子も、もちろん無事。

 

 恐らくマ魔王力場の力だろう。

 

 太鼓。潰れている。

 

 ポンコツ栗毛。ぼんやり立ってる。

 

 トレーナー。潰れている。

 

 プリンセス。わんことひよこに餌を与えている。

 

 なるほど。

 

 

 

 「意外と平気なヤツが多いみたいだけど」

 

 『お前ら、自分大好きなヤツ多すぎン……? 

 わたし、領域に自信なくなってきたンだけど……』

 

 「さて。じゃあどうしてくれようか……」

 

 『ええい。ファル子リヲン! 増幅停止! 

 無駄な体力は使わない主義だよ、わたし! 

 

 でも、ここにたどり着ける? 

 アフガンコウクウショー先輩が飛んだ瞬間! 

 また起動すれば問題ない! 

 メジロマックイーンも、短時間しか飛べない! 

 

 依然、こっちの有利は動かない! 

 高所を取った方が有利! 

 ヘリオス師匠も言ってたし!』

 

 

 

 化粧直しを終えたパリピを見る。

 

 こやつも謎が多い。

 

 まぁいずれ、詳細に描写されることもあるだろう。

 

 

 

 領域が解除されたため、立ち上がる弱者ども。

 

 明らかな失策だ。

 

 このハルウララの前で、油断など。

 

 殺してくれと言っているようなもの。

 

 

 

 さぁ。始めようか。

 

 宇宙戦艦攻略作戦。

 

 周囲を見回す。

 

 

 

 ツバメから、我が所有物に。進化を遂げたトレーナー。

 

 ぼんやりと、アップを続けるポンコツ栗毛。

 

 空を飛びたそうにしてる、褐色ロリ。

 

 パリピ見習い、見せ筋、連コ葦毛の3人衆。

 

 ぴよぴよしてる、愛する我が子。

 

 

 

 手駒は十分。お釣りが来る。

 

 さぁ、久しぶりだが。

 

 勇者から、暴帝に戻るとしよう。

 

 我が領域。その力を刮目して見るがいい。 

 

  

 

 

 

 つづかない



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ファル子さんじゅういっさい そのじゅうよん 華咲く生は、誰のため

さてさて。領域の考察。
ウマ娘小説には欠かせますまい。
我が考察、存分に見るがいい……!


~前回までのあらすじ~

 

 勝利の余韻に浸る間もなく。

 

 ゲルマン陰陽師の声に。宇宙戦艦の異常に気付く、ハルウララ。

 

 愛について講釈を垂れながらも、紅茶中毒に準備状況を問う。

 

 勇気の履帯が ギュイギュイギュイン。

 

 不思議なアホが ルンルン気分。

 

 パリピ 見習い 筋肉ン。

 

 メジロ一家のカチコミだ。

 

 一人は特にメジロと関係ないが。

 

 メジロパリピ。意外に居そう。

 

 そして、宇宙戦艦に動き。

 

 ステージの上でジジイに崇められる。

 

 ウマサ―の姫。

 

 敏腕従順ダメウマ全自動甘やかし異世界魂転生白髪合法JKロリ秘書系オリジナルウマ娘中間管理職(ギャル口調)(早口)。

 

 ユキオ―の単独ミニライブだ。

 

 アコースティックギターをかき鳴らし、歌い奏でるパクリ歌。

 

 パロディの濫用は厳禁。

 

 わかっておらぬと憤慨するも、その身に感じる重圧。

 

 ユキオ―とやらの領域である。

 

 来たぜぬるりと。失脚の香り。

 

 そして弱者どもは跪き。

 

 産まれながらの強者たる、ハルウララ。

 

 膝を屈さぬ、覇王の威風を見せつける。

 

 夢と希望など。そのようなものは必要ない。

 

 ウマ娘は結果でのみ語る。

 

 頼るべきは、己の脚と拳のみ。あと愛嬌。

 

 そのように生きて来た。

 

 さぁ、始めよう。

 

 劇場版呪物開戦。

 

 領域展開である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「まさか。わたしの領域を生き様のみで破るなんて。

 想定できるわけないじゃン? 六おじいちゃん。

 ハルウララって、昔っからあンな感じなん? 

 ズゾゾゾゾッ。ガフッ! 当たり再びィッ!」

 

 「ああ。アイツを送り出してすぐ。

 縁側でぼうっとしてたら、いきなり現れてな。

 いきなりズタ袋に詰め込まれて、気づいたらトレセンよ。

 まったく。年寄りは敬えっての。

 まぁ、育て甲斐は死ぬほどあったから。いいけどな。

 お陰で10年は若返ったぜ」

 

 「水ぅっ! んっくんっく……ふう。

 一おじいちゃん。ありがとう。

 トレーナー契約ってそれでいいの……? 

 わたし。誰も契約してくれなかったから、黄昏てたら。

 会長に無理やり潜水艦に連れ込まれて。

 あれよあれよという間に、中間管理職になってたんだけど。

 まぁ、今は満足してるからいいけどさ。

 会長かわいいからね。当然だね」

 

 「似たようなもんだな。

 人生もウマ生も変わらん。

 大事なのは、笑って死ねるかどうか。

 それだけだろ。

 まぁ……アイツほどウマ生を楽しんでるヤツも。

 なかなか居ない気がするがな。

 さて、どうするんだアイツ。

 領域はもう使えんはずだが……

 何か隠し玉でもあるのかねぇ」

 

 

 

 

 ユキオーは、ファンサービスを終え。

 

 汗を拭きつつ、信頼するアドバイザーと駄弁っていた。

 

 タピオカうめぇ。たまに痛い目に遭うが。

 

 まぁスパイスというやつだ。

 

 会長の使ったストロー。値千金の価値がある。

 

 というか、これ。やたら多いなぁ……

 

 

 

 

 『マックイーンちゃん。飛べ』

 

 『端的すぎませんこと……? 

 カツアゲするヤンキーかなんかですか。

 というか、あのバリアっぽいの。

 どうにかしてからにしてくれませんこと? 

 わたくしの領域、攻撃性能は無いんですけど。

 さすがに昇竜じゃあ厳しいですわよ。あれ』

 

 『チッ。じゃあいいよ。プランBで行こうか。

 トレーナー。準備』

 

 

 『ウララ。何をするのか、教えてくれないか。

 オレに何か役割が? ヒト息子には厳しい世界だぞ。

 ウマ外バトルに参入するには、一か月ほど修行期間が欲しい』

 

 『一か月あればどうにかできますの……?』

 

 

 

 

 集音マイクから聞こえる音に。

 

 耳をぴこぴこさせる。

 

 このファル子リヲン。

 

 ライヴ中はさすがにうるせーから無理だが。

 

 古代ウマソセス王国の遺産は、伊達ではない。

 

 下の会話も、余裕で拾える。

 

 

 

 バ鹿どもめ。作戦が筒抜けになっているとも知らず。

 

 好き勝手にぴーちくぱーちくと。

 

 わたしも駄弁りに参加したいなぁ。

 

 

 

 艦内に居るのは、会長と、おじいちゃんたち。

 

 あとゴクウ。

 

 下の彼女たちも、同年代というには。

 

 ちょっとばかり、離れているが。

 

 このユキオ―。女子トークには常に飢えているのだ。

 

 

 

 この戦いが終わったら。お友達になってもらうんだ。

 

 心に決めつつ、ハルウララたちの動向を見守る。

 

 何が好きかな。山吹色のお菓子でいいかなぁ。

 

 おっ。動き出すみたいだぞ……? 

 

 

 

 

 

 「さて。始めようか。まずはトレーナー。ケツ文字を」

 

 『盗聴の危険性アリ。話を合わせろ』

 

 

 

 言いつつ、ハンドサインを出す。

 

 バ鹿め。盗聴対策など。

 

 基本中の基本である。

 

 ウマ特殊作戦部隊にスカウトされたこともある。

 

 このハルウララを舐めてはいけない。

 

 

 

  

 「ううむ。ウララ以外にケツを出すなど。

 紳士として耐えがたいが……

 お尻を出した子は一等賞だ。致し方あるまい」

 

 「あなた方の関係。羨ましく思いますわ。

 ドバイのあの方は、お元気でしょうか……」

 

 「そろそろ諦めろ。新しい恋を探せ。

 上だけ向いて生きていこう。

 下を向いても、小銭ぐらいしか落ちてないよ。

 トレーナー。もっと淫らに振れ」

 

 『タンクへ。陽動する。説得が終わったら栗毛とゲルマンに準備させろ』

 

 

 

 「いいケツしてますわね……じゅるり。

 おっと。そうさせてもらいますわ……

 どれ。ライアンとパーマーと。奪還作戦でも練るとします」

 

 「話聞いてた? 未練の塊じゃねーか。

 もういいわ。40年後にドバイ行けよ。

 そしたらババコンのストライクゾーンでしょ」

 

 「華の命は短いんですのよ? 今を精一杯生きなくては」

 

 

 

 

 我が物であるケツを、名残惜し気に眺めながら。

 

 ずんだ餅のパン。

 

 そのような形ということになっている、戦車に向かう彼女。

 

 よし。通じたようだな。

 

 でもどう見ても緑色じゃねーぞ、あれ。

 

 

 

 ずんだパンマンタンクに駆け寄り、ハッチを覗き込む彼女。

 

 加湿器どもは、例の領域により。

 

 縄が死ぬほど食いこんだため、処置のため。

 

 パン工場内部に引っ込んでいた。

 

 

 

 

 「オラッ! いつまで手当してるんですのっ! 

 ……Oh……修羅場ってますわね……」

 

 「だいたいさ。あンたらほんとありえんじゃン? 

 パーマー。ウチ、言ったよね? 一度のウマ生。ハジけたもん勝ち。

 なのに何さ。ギャル修行もせずに。ムキムキムキムキと」

 

 「あの……私はライアン……」

 

 「は? 口答えすンの? 電化製品の見分けとかつかンし。

 悔しかったら、ギャル道場にかしこまりっ! 

 立派なギャルにしてやるし。

 オラッ! ポージングしなっ! 

 あんたらの魂のギャルを呼び覚ましてやんよっ! 

 ヘイヘイ! 肩にロードローラー! ブッ潰れよォッ!」

 

 「なんて素敵なコール! 燃えてきましたよー! ねぇパーマー!」

 

 「腹筋に私の名前つけるのやめて?」

 

 「あの……お話をですね……ヘリオスさん?」

 

 「マックイーン。あンたは働いてるからまだマシだけど……

 丁度いいからギャル道場に拉致ピッピだし」

 

 「あら。わたくしのギャル力。

 舐めてはいけませんわ。

 メジロを舐めた者には死を。家訓ですわ。

 まぁパーマーがお世話になっておりますから。

 料理でわからせて差し上げますわ。

 わたくしのスターゲイジーパイの完成度。

 魅せて差し上げますわ。パイあそばせ?」

 

 「私、あのパイ嫌いなのよね……」

 

 「黙れパーマー。うなぎゼリー食わせますわよ?」

 

 

  

 

 なるほど。よくわからんことになっている。

 

 ゲーミング葦毛なら、パリピも説得できないかもしれないが。

 

 強く生きて欲しい。

 

 

 

 

 「さて。ナッちゃん。出番だよ」

 

 「ぴよっ!」

 

 

 

 飛び去るナッちゃん。

 

 ひよこが空を飛べぬなどと。

 

 誰が決めたというのか。

 

 ハルウララは、溶鉱炉に沈み込みながら。

 

 ガッツポーズをキメる、ミホノブルボンを幻視した。

 

 常識は、敵だ。

 

 

 

 さぁ。魅せてやろう。

 

 暴帝と呼ばれた所以。

 

 

 

 領域。

 

 ウマ娘にのみ許された。

 

 速く走るために三女神から与えられた、奇跡。

 

 まぁ、用途外使用をキメ込む、バ鹿どももいるが。

 

 このハルウララに限って、そのような。

 

 道理に反したことなどはせぬ。

 

 

 

 通常、レースで使われる『領域』とは。

 

 固有スキルとも呼ばれる発動形式だ。

 

 銃刀法に違反したり、セルフダーリンお仕置きだっちゃしたりするが。

 

 それらは、全て、『領域』そのものではなく。

 

 そこから漏れ出した、力の片鱗である。

 

 

 

 固有スキルだけを見ると、千差万別であり。

 

 共通点など無いようにも見える。

 

 だが、根本は同じ。

 

 

 

 ウマ娘の心象風景。

 

 ウマソウルが見た夢の続き。

 

 それを現出させ。

 

 この世界というキャンバスを、塗り潰す奇跡である。 

 

 

 

 レースにおいては。

 

 ルーティーン化した、発動条件を満たした際の。

 

 ごく一部の現出に留まり。

 

 領域そのものを、完全に展開することは無い。

 

 全てを引き出すには、極度の集中が必要であるためだ。

 

 

 

 目を瞑り、胸に手を当てる。

 

 ウマソウルが絶叫する。

 

 勝ちたい。それしか叫ぶ事の無い、彼女。

 

 彼女の願い。それは。

 

 レースに勝つ事。

 

 

 

 では、ない。

 

 

 

 走って、走って、とにかく走って。

 

 一勝もできなかった。

 

 なんど走ったところで、その身に栄誉は無く。

 

 本来ならば、この世界に流れ着くのに足る功績など。

 

 このウマソウルには無かった。

 

 

 

 でも、愛してくれた人たちがいた。

 

 応援してくれる人たちがいた。

 

 彼らの願いにより、この身は。

 

 第二の生を受けたのだ。

 

 彼らに、恩返しを。

 

 

 

 懸命に生きて、生きて、生き抜いて。

 

 彼らが与えてくれた、二回目のウマ生。

 

 それに意味があったということを。

 

 

 

 証明しなければならない。

 

 ならばどうするか。

 

 

 

 笑って死んだ姿を。

 

 現世ではもう会う事のできぬ、彼らに。

 

 

 

 最少単位の最大幸福。

 

 このハルウララの、完膚なきまでのハッピーエンドを。

 

 この手で掴み取り。

 

 ヴァルハラにて待つ、彼らに捧げる事こそが。

 

 

 

 それこそが。

 

 今生における、勝利であるのだ。

 

 そのためには、こんな所で躓いてはおられぬ。

 

 領域よ。ここに。

 

 世界が塗り替わる感覚。

 

 

 

 

 

 

 

 目を開ける。

 

 桜色が舞っている。

 

 花弁がひらひらと落ちる、庭園の中央には。

 

 雄大なる桜の木。

 

 

 

 己の『力』の象徴。

 

 この風景を目にするのも久しぶりだ。

 

 

 

 

 「ウララ。これは……?」

 

 「領域。わたしのウマソウルの見た夢。

 聞いたことはあるでしょう?」

 

 「ウララの領域を見るのは、初めてだな。

 これが噂に聞く、完全展開か……

 ラストランでも、片鱗すら。目にすることはできなかった。

 オレが未熟であるためか?」

 

 

 

 展開時取り込んだ、彼。

 

 トレーナーが、花弁を手のひらに載せ。

 

 尋ねてくる。

 

 何をバ鹿な。

 

 

 

 「うん」

 

 「うんっ!? 今うんって言ったっ!? 

 そこはそんなことないよって! 

 オレ、言って欲しかったなぁ!?」

 

 「わたし、自分に正直に生きるって決めたんだぁ」

 

 「愛バがオレの心を積極的に破砕してくる……」

 

 「まぁ、先程の戦いで。トレーナーの成長はわかったよ。

 合格点をあげる。わたしの領域。魅せてあげるよ」

 

 「アフちゃんとかは勝手気ままに使ってるのに……

 領域って、トレーナー必要なのか……?」

 

 「わたしに限ってはそうだよ。この領域、ちょっと特殊なんだよ。

 固有スキルだけでもきつい。しかも完全展開。

 わたしだけだと、自爆するだけだよ」

 

 「ふむ。まぁそういうことなら……

 それで。オレは何をすればいい?」

 

 「見てればわかるよ。さぁ、殺るよ」

 

 「領域って。走るための物じゃなかったっけ」

 

 「走るためにも使える。当たり前でしょ。

 でも走るためだけの領域だと。

 わたしのウマソウルは満足できないんだ。

 そんで、走るために使わない時は、条件を満たせば。

 わりと自由に使えるんだよ」

 

 「三女神、ガバガバすぎだろ……」

 

 「やつらレース脳だから。さて、宇宙戦艦の様子はっと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「冬に桜ァッ!? まさか領域ッ!? 六おじいちゃん!? 

 ハルウララ、領域使えなかったんじゃないの!?」

 

 「予想外だッ! あの若造! まさか、オレと同等の能力を……!? 

 ウララの領域は、熟練のトレーナーが居れば発動できる! 

 だが、完全展開だとっ!? 

 部分展開だけでも厳しいというのに! 

 アレを支えられるほどのテクなど! 

 20やそこらの若造に、できることではないっ! 

 自爆するだけだ! ハッタリだっ!」

 

 「……領域発動にトレーナーなんて。

 必要ないんじゃないの? 

 そりゃあ心が繋がったトレーナーが居れば。

 心象風景は広がっていくっていうけど。

 でも、必要なのは成長する時だけでしょ? 

 発動時はいらないでしょ。

 アイツの領域、あのデカさ。育ち切ってるじゃん。

 なンだよあの桜の木。世界樹かよ」

 

 「まぁすぐに閉じるだろ。目くらましだ。

 ぼうっと見てる隙を突かれちゃたまらん。

 メジロのパン屋戦車の動向を見ておこう」

 

 

 

 

 

 

 

 「うん。動きはないみたいだね。油断したな。ド阿呆め」

 

 「ウララ。よくわからんが頑張れ……!」

 

 「んふ。いいね。トレーナー。自己催眠始めて。

 職業はマッサージ師。ドスケベ抜き」

 

 「お? おう……。オレは愛バ専門マッサージ師……

 オレは愛バ専門マッサージ師……」

 

 

 

 トレーナーの応援。

 

 応援は大好きだ。

 

 ウマソウルがときめく。

 

 やはり、このハルウララには。

 

 声援が無ければ始まらぬ。

 

 

 

 トレーナーに準備をさせ。

 

 桜の幹に手を当てる。

 

 流れ込む、力。

 

 

 

 みしみしみしみし……

 

 

 

 領域に響く、骨が軋む音。

 

 異音にトレーナーが眉を寄せる。

 

 だが、五円玉の動きに淀みはない。

 

 自己催眠は順調なようだ。

 

 

 

 このハルウララ。

 

 適性はダート短距離。

 

 短距離選手に必要なもの。

 

 それは何か。

 

 レースに必要な要素はいくつかあるが……

 

 

 

 駆け引き。圧倒的な実力で、蹂躙すれば良い。

 

 持久力。短距離を駆け抜けるためには、必要ない。

 

 デバフ。弱者の発想である。

 

 必要なのは、ただ一つだ。

 

 

 

 めきめきめきめき……

 

 

 

 軋み続ける不協和音。

 

 固有スキルの、レースにおける発動条件。

 

 

 

 最終コーナーで、後方に位置し。

 

 前を征くウマ娘どもを見て。

 

 敗北の予感に、腹を立てること。

 

 今の自分は、大層立腹している。

 

 

 

 バ鹿に舐められたためだ。

 

 舐められたままで済ませては。

 

 このウマ生に、後悔が残る。

 

 それでは胸を張って、彼らに会えぬ。

 

 

 

 この領域の効果は、単純明快。

 

 怒りを引き金に、瞬発的な推進力を得て。

 

 己を甘く見たバ鹿共を抜き去り。

 

 そのまま全てを置き去りに、駆け抜けるため。

 

 

 

 圧倒的な筋力を、この身に宿すことである。

 

 レースを走り終わり、引退した後も。

 

 幸せを掴み取るために、最大限に活用できる。

 

 一石二鳥というものである。

 

 

 

 固有スキルを展開せずとも、その副作用により。

 

 己は他のウマ娘よりも怒りっぽく。

 

 この矮躯には過剰な筋力のため。

 

 身長が伸びなかった。

 

 やはりウマ。代償までは、考えが及ばなかったようだ。 

 

 

 

 そして。腰が痛い。

 

 若い頃は良かったが、バ鹿げた筋力に背骨が締め付けられ。

 

 ラストランでは、固有スキルの発動すら覚束なかった。

 

 完全展開して、『これ』を使おうものなら。

 

 椎間板が一瞬でパァッンする。

 

 だが。マッサージ師さえいれば……! 

 

 

 

 「トレーナー! 腰を揉めッ!」

 

 「おうっ! ヒャッホウ!! 役得ッ!!!」

 

 

 

 いやらしい手つきで、腰を揉まれる。

 

 うむ。とても心地良い。

 

 こやつ。元々の腕に加え、思い込みだけで。

 

 

 

 現役時代を支えた、2人のトレーナーよりも。

 

 マッサージの腕が上になっている。

 

 さすがは己が認めた最後のトレーナー。

 

 我が覇道を支えるに、相応しい……! 

 

 

 

 めきめきめきめき……ずぼっ! 

 

 

 

 構える。

 

 拳銃? 薙刀? 

 

 スケールが小さい。

 

 

 

 丸太? 

 

 ふざけているのか。

 

 そのようなもので、生は誇れぬ。

 

 

 

 この領域の名を聞け。

 

 そして、この生を称えよ。

 

 断末魔の悲鳴で以て。

 

 

 

 見ていてみんな。

 

 愛してくれた、全ての人たち。

 

 この世界に、わたしは立派に咲いている……! 

 

 

 

 ウマは黙って。

 

 大樹で殴る……! 

 

 

 

 

 

 

 「後悔無き生をッ! 怒りがッ! 『沸く沸く! 喰らえマックス!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 つづかない 



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ファル子さんじゅういっさい そのじゅうご メジロ・オラ(つき)トリオ

うん。真面目に書いてるつもりなんだ。
ほんとだよ。


彼女はまだ存命ですが。
ウマソウルの関係上。
この作品に於いては既に、眠りに就いております。
申し訳ありません。


~前回までのあらすじ~

 

 バ鹿に落とし前をつけさせんとするハルウララ。

 

 宇宙戦艦ではユキオーが。

 

 あまりに雄々しい生き様に。

 

 目を点にしながら、盗聴していた。

 

 トレーナーのケツを目眩ましに、作戦を練る暴君。

 

 お友達を切に求める、ぼっちギャルの想いを他所に。

 

 信頼は特にしていない、葦毛を使いに出し。

 

 アンポンタンクから聞こえる罵声。

 

 ギャル道とは、正気にてならず。

 

 特に気にすることもせず。

 

 ウマ娘世界における必殺技・領域展開に臨む。

 

 唸りを上げる、ウマソウル。

 

 かつて人を愛した魂。

 

 『彼女』の想いを継承した、自らが願うは。

 

 完全無欠のハッピーエンド。

 

 さぁ、咲かせよう。

 

 我が生き様を。

 

 この世界 咲き誇りしは ハルウララ。

 

 トレーナーとの絆を以て。

 

 今、振り抜こう。

 

 咲き誇るこの命を。

 

 ウマ娘は、いつだって。

 

 全力で今を、生きている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『被害報告ッ!』

 

 『バリア全損ッ! 修復までオールナイツ! 

 うまぴょい伝説は終わらないッ!』

 

 『装甲に被害なしっ!』

 

 『わしらもそこまで踊れんぞッ!? 

 寄る年波には勝てんッ!』

 

 『二おじいちゃん! 機関部はッ!?』

 

 『無事じゃいっ! ファル子リヲンは柔じゃないぞいッ!』

 

 『オッケー! もうあんなトンでも武器! 

 出てこンでしょ! 装甲板は破れないッ! 

 勝ったッ! 第二部完ッ!』

 

 『ユキオーちゃんっ! フラグが建っとる!』

 

 『立った! 勃った! クララが勃った!』

 

 『何を言っとる!! 灰二ッ!!』

 

 『名前で呼ぶなァッ!!』

 

 

 

 

 

 上空が騒がしい。

 

 ぼうっと。

 

 涙も拭わぬままに。

 

 腕の中の、鹿毛のウマ娘を見る。

 

 

 

 桜は散った。

 

 彼女の髪の色に、籠められた想いも。

 

 回復まで、時間が掛かるのだろう。

 

 

 

 「こ、腰が……腰がぁ……」

 

 

 

 譫言を呟く姿も愛らしい。

 

 この重みが、愛しくてたまらない。

 

 

 

 彼女の領域の中で、桜が散った瞬間。

 

 恐らく魂が繋がったためだろう。

 

 ぼろぼろの、彼女の蹄跡を見た。

 

 

 

 懸命に走り続ける、彼女。

 

 誰にも見向きもされなかった。

 

 その所有者にすら。

 

 

 

 年間に走れる数が、少しでも少なかったなら。

 

 この場には居なかっただろう。

 

 競争は、勝てない者に残酷だ。

 

 

 

 その連敗記録に注目され始めた彼女。

 

 終わりつつあった地方の。

 

 夢と希望を背負わされた。

 

 

 

 勝利への期待など、掛けられず。

 

 競走者として、あるまじき姿。

 

 だが。

 

 

 

 しかし。

 

 恐らく、とても。

 

 尊い敗北であったのだ。

 

 その身を削り、観衆に笑顔をもたらした。

 

 

 

 でなければ、ここには居ない。

 

 彼女は愛されていた。

 

 だが。

 

 

 

 それは。人のエゴではないだろうか。

 

 

 

 走り終わった彼女の、その後。

 

 怖気が走る程の、人の身勝手さ。

 

 その醜さを、ぼろぼろの身で味わい。

 

 

 

 人の善性がもたらした。

 

 最後に得た、安住の地。

 

 

 

 ハルウララは。

 

 そこで最期に。

 

 何を、想ったのだろうか。

 

 

 

 ぽつりと呟く。

 

 

 

 「ウララ。ハルウララは。

 人を、愛していたのだろうか。

 幸せに、終われただろうか」

 

 

 

 腕の中で、彼女が頬をすり寄せてくる。

 

 甘えん坊な子だ。

 

 

 

 そうか。君は。

 

 まだヒトを愛しているのか。

 

 ヒトは。

 

 自分は。

 

 

 

 ウマ娘。

 

 走るために、再度の生を受けた彼女たち。

 

 走り終わった彼女たちに。

 

 いったい何を、してあげられるだろう。

 

 

 

 「……オレは人が嫌いだよ。

 いつだって。君を傷つけた」

 

 

 

 「ツバメ……?」

 

 「ウララ。オレはもう、ツバメではないよ」

 

 「んふ……なまいきぃ……

 しょうがないなぁ……トレーナーって。

 ちゃんと呼んであげる……

 ねぇ。トレーナー。重くない?」

 

 「ああ。重いよ。愛しい重みだ。

 軽いなどと。口が裂けても言えない」

 

 「デリカシー、無いんだぁ……」 

 

 「オレは君に、いつでも正直で居るよ。

 さぁ、お眠り。疲れただろう。

 ……右手の爪。割れてしまったな」

 

 「昔から……割れやすいんだよね……

 ……『ハルウララ』の夢。見た?」

 

 「見たよ。とても綺麗で。

 とても痛い夢だった」

 

 「痛かったの? ……変なヒト。

 初めてだよ。そんなこと言われたの。

 あれはわたしじゃないよ」

 

 「オレは、変な人で居たかったよ。

 ツバメではなく」

 

 「……おかしなトレーナー。

 ちょっと休んだら、起こしてね」

 

 「ああ」

 

 

 

 彼女を横たえ、マッサージを始める。

 

 ちいさな身体。

 

 夢と希望を。

 

 今生でも、背負わされ。

 

 蹄の代わりに、腰を痛めたのだろう。

 

 

 

 また走り出す、彼女のため。

 

 調子を万全に整えなければ。

 

 いつもの仕事だ。

 

 ……いや。

 

 

 

 空を見上げる。

 

 桜吹雪が舞っていた。

 

 

 

 「ウララ。今度こそ。オレは」

 

 

 

 魂が告げている。

 

 二度と、間違えてはならない。

 

 

 

 植樹し直された、桜の樹の下には。

 

 彼女が今も、微睡んでいる。

 

  

 

 

 

 

 

 

 「さて。ウララさんは仕事をしましたわ。

 次はこちらの番です。

 ここで我らが役目を果たさなくては。

 メジロの名折れ。死ぬまで煽られ尽くします」

 

 「マックイーンが煽られたくないだけじゃない? 

 しっかし、相変わらず冗談みたいな力だね。

 こりゃ、私もじめじめしてらんないね。

 後で、ヘリオスとジョーダンと遊びに行こっと」

 

 「ウララさんの、あのパワー! 

 マックイーンが唸りますねぇ!」

 

 

 

 ジト目でこちらを見る、ギャル見習い。

 

 上腕二頭筋を見せびらかす、見せ筋。

 

 

 

 宇宙戦艦の装甲を破壊し。

 

 侵入可能にすること。

 

 それが、湿り気がようやく抜けてきた。

 

 このバ鹿どもと、自分の役割だ。

 

 

 

 「お黙り。調子が出てきたようで何より。

 殺りますわよ。領域、展開」

 

 

 

 バ鹿どもと、手を繋ぎ。

 

 そっと目を閉じ、呟く。

 

 広がる領域。

 

 手汗すげぇ。まだ湿ってたわ。

 

 

 

 

 

 

 目を開ける。

 

 眼前に広がる、風景を眺める。

 

 

 

 「……ここは。いつ来ても慣れないよね」

 

 「アルダンも震えてます」

 

 「そうですわね……でも、此処が。

 我らメジロの故郷ですもの。

 この、湖と火山。

 水と火が合わさり最強に見えますわ」

 

 「「マックイーンの感覚はおかしい」」

 

 「クソわよ。さっさと準備!」

 

 

 

 メジロ家のウマ娘には、一部の例外を除き。

 

 他のウマ娘には無い、ある特徴がある。

 

 

 

 産まれた場所が違っても。

 

 レースの勝利数に関わらず。

 

 ある、共通の特徴が。

 

 

 

 それは何か。

 

 総じて、長距離に高い適性を持つこと? 

 

 障害競争が得意なこと? 

 

 

 

 それは、全般的な特徴だ。

 

 全員には当てはまらぬ。

 

 答えは、此処。

 

 

 

 「共通領域最大展開! 

 甘味! メジロマックイーン!」

 

 「……苦味。メジロパーマー」

 

 「辛味! メジロライアン!」

 

 

 

 メジロ家の、ウマ娘は。

 

 自身の固有の領域に加え。

 

 共通の領域を持つのだ。

 

 

 

 『共通領域・メジロ牧場』

 

 

 

 メジロの栄光と、斜陽を表す。

 

 我らのウマソウルが見た光景だ。 

 

 レースに活用することは出来ない。

 

 

 

 ウマ娘は、己の力のみで。

 

 輝かしい勝利を掴み取るのである。

 

 

 

 では、この領域。

 

 メジロの系譜が生んだ、領域にして領域ではない。

 

 想いが、重なりあい。

 

 偶発的に産まれた、心象風景。

 

 

 

 ただの飾りか? 

 

 いや、そうではない。

 

 

 

 ここを利用して。

 

 ウマ娘単独では、起こせぬ。

 

 奇跡を起こすことができる。

 

 

 

 「さぁ! 紅茶をキメますわ! さらにこれ! 

 パクパクですわっ!」

 

 

 

 紅茶にチョコレート。

 

 これさえあれば、勝ちである。

 

 甘味が、領域に加わる。

 

 

 

 「毎度だけどさ。これ、三女神様に怒られない?」

 

 

 

 顔をしかめた、パーマー。

 

 彼女のウマソウルの、苦い思い出。

 

 障害競争を思い出しているのだろう。

 

 主流から外された、経験。

 

 苦味が、領域に加わる。

 

 

 

 「フンッ! フンフンフンッ! いいですよアルダン! 

 パァッンするまでッ! ボンバイエッ!」

 

 

 

 スクワットで、大腿四頭筋を痛め付けるライアン。

 

 あまりにマゾヒストじみた、トレーニング強度。

 

 辛味が、領域に加わる。

 

 

 

 領域システムから。

 

 三女神に伝わる、甘味と苦味と辛味。

 

 出所も不明な、訳のわからぬ不正アクセス。

 

 彼女たちの、今夜の献立は。

 

 麻婆豆腐にさぁ決まり。

 

 そしてウマれる、領域のバグ。

 

 

 

 「来た来た来た! 来ましたわッ!」

 

 「そりゃ三女神様も混乱するよね。

 与えた覚えのない領域から、よくわからん味が。

 ダイレクトに伝わってくるんだもん」

 

 「この技、誰が発見したんでしょうね」

 

 「さぁ! 詠唱ですわっ!」

 

 

 

 洞爺湖の湖面から、生まれる波紋。

 

 

 

 「そこでむすめはうかつにもっ!」

 

 「バリカンに嫁ぐことになったのさ」

 

 「出席したのは!?」

 

 「「「メジロ! メジロ! メジロ!」」」

 

 「それにお偉い……『パンジャンドラム』ッ!」

 

 

 

 混乱した三女神に叩き込まれる、謎の詠唱。

 

 トドメに告げられる。

 

 昨今ウマウマ動画のランキング上位を占める、彼。

 

 

 

 ウマ厨気味の三女神の混乱は、極限に達し。

 

 微笑むネビル・シュートの幻影。

 

 いい、笑顔です……

 

 

 

 そして、怪物が。

 

 湖面から姿を現す。

 

 

 

 この姿は、英国の誇り。

 

 メジロとは特に関係無い。

 

 この作品においてすら、栄光ある孤立を保つ。

 

 バ鹿と冗談の、総動員。

 

 

 

 迂闊に存在を文中に出してしまったため。

 

 再度使わざるを得なかった。

 

 酔っ払った際にやらかした、負の遺産。

 

 

 

 本作品は、英国面に堕ちた茜ちゃんを。

 

 応援しておりますッ……! 

 

 次回は真面目に領域バトルするから許して。

 

 

 

 「相互協力型(ジョイントタイプ)領域ッ! 

 通称バグ技ッ! 『対空型パンジャンドラム』ッ! 

 散れィッ! ババアのようにっ! 

 最後に勝つのはわたくしですわっ! 

 ぱんころー!!!!!!」

 

 「ババア無傷だったじゃん。

 次は大陸間弾道型にしようよ」

 

 「フンッ! フンフンッ! アッギッ!? 

 アルダァン!! なんてことですかっ! 

 プロテインが足りません!」

 

 

 

 

 

 

 つづかない 



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ファル子さんじゅういっさい そのじゅうろく 魂の唄を聞け

言い訳を一つ。
脳が乗っ取られました。
オレは悪くねぇ!


~前回までのあらすじ~

 

 桜吹雪の舞い散る空。

 

 見上げたツバメは涙を流す。

 

 華の散った、大樹と愛しい彼女。

 

 花弁無き幹の色。

 

 鹿毛の手触りを感じながら。

 

 領域内で彼女を支えた時。

 

 ウマソウルに触れたツバメ。

 

 彼が視たのは、『ハルウララ』の蹄跡。

 

 人のエゴに振り回された、彼女。

 

 彼は人の罪深さに落涙するが。

 

 愛しい彼女は、ヒトを愛していた。

 

 この純粋過ぎるいきものに。

 

 ヒトは、何をしてあげられるのだろう。

 

 彼女の重みを感じながら。

 

 彼はそっと、決意した。

 

 その頃メジロは紅茶をキメていた。

 

 英国面の闇は深い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「右舷中破ッッッ!」

 

 「アイエエエエエ!? パンジャン!? バンジャンナンデ!? カイチョーカワイイヤッター!!」

 

 「いかん! PRS(パンジャン・リアリティ・ショック)じゃっ! 

 もはやホーカイユキオーじゃっ!」

 

 「落ち着くんじゃぁ! ユキオーちゃんっ!」

 

 「高度低下ッ! 出力足りぬぞいっ!」

 

 「ウマ生経験の浅さが裏目に出たかっ……!」

 

 「わしらはあやつらと、付き合い長いから。

 こんなの慣れっこじゃがのう……」

 

 「言っとる場合かっ! ユキオーちゃんがこの有り様じゃあ! 

 ライヴなんぞ出来ん!」

 

 「つまり?」

 

 「堕ちるぞいっ!」

 

 「人生、堕ちる事もあらぁな……」

 

 「サブッ! 落ち着いてる場合じゃないぞいっ!」

 

 「てやんでぇ。名で呼ぶんじゃねえや。

 ……オレが、やる」

 

 

 

 一人の老爺が、艦橋にて立ち上がる。

 

 

 

 「三の。おぬし、行けるのか……? 

 あれ以来。歌っておらぬじゃろう」

 

 「やる。やってやらぁ。二足のわらじはもう脱いだ。

 だが。だがなァ……」

 

 

 

 思い出す。

 

 長かった、トレーナー生活。

 

 送り出した、最後のウマ娘。

 

 幸せに微笑む、ヴァージンロードの上。

 

 

 

 彼女たちを送り出した、決別の歌。

 

 それを歌い終わった時。

 

 彼は魂に、誓ったのだ。

 

 

 

 「こちとら生涯童貞よッ! 

 童貞にしか歌えぬうまぴょい、魅せてやらぁッ!」

 

 「いいぞ! サブー!」

 

 「そこに痺れる! 憧れるゥ!」

 

 「おぬしが末代じゃっ!」

 

 

 

 「オラッ! 準備しなァ! あるんだろ! 燃料がよォ!」

 

 「ああっ! プロジェクター準備ッ!」

 

 

 

 ステージに登る。

 

 肩をはだけて、晒す諸肌。

 

 老いて尚。この肉体は意気軒昂。

 

 ジジイどもの中では、最年少だ。

 

 

 

 「「「位置について……! 用意ッ!」」」

 

 

 

 ジジイどものコール。

 

 マイクを手に、息を吸い込む。

 

 

 

 「「「ドンッ!」」」

 

 

 

 掛け声と共に、映し出されたのは。

 

 ウェディングドレスに身を包む、鹿毛のダブル新婦。

 

 

 

 『うおおおおおっ! 百合の香りがぷんぷんと! 

 畜生めェッ! オレの物にはなりはせぬッ! 

 二度とは届かぬ、理想郷(アルカディア)ッ! 

 キタァッ! ダイヤァッ! 幸せに、なりやがれェッ! 

 

 逝くぞッ! うまぴょい伝説・カヴァー演歌! 

 

 †涙唄・うまぴょい百合咲き乱れ! †

 

 う゛ぅ゛ぅ゛ま゛ぴょ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛い゛!!!』

 

 「「「サブちゃぁぁぁぁんんん!!!」」」

 

 

 

 NTRれ性癖と、百合性癖を。

 

 最大限に刺激されながら想う。

 

 

 

 この北 燦三郎。

 

 トレーナーと、演歌歌手。

 

 兼業しつつ、生きてきた。

 

 ウマ娘たちに、結婚を求められた事はあったが。

 

 全て袖にしてきた。

 

 

 

 コンプライアンスを遵守するためだ。

 

 昨今の、軽はずみなぴょいぴょいに耽る。

 

 バ鹿どもに対し、本物の男の意地を示すため。

 

 百合好きな己の性癖を、最大限に満たすため。

 

 

 

 そして、もう一つ。

 

 (童貞の歌には……ソウルが宿るッ!)

 

 

 

 そう。己は。

 

 魔法使いではなく。

 

 シンガーなのだ……! 

 

 

 

 「いいぞっ! 出力安定ッ!」

 

 「行けるッ! もっと脳を破壊しろっ!」

 

 「おお。ポチっとな」

 

 

 

 『今日のぉぉぉ! 百合ぃぃのぉぉ! 女神はァァ……

 はァァァァァァァァンンンンン!?』

 

 

 

 マイクを持つ手が震える。

 

 イキった人気若手歌手のような、コブシが効く。

 

 

 

 スライドショーに映し出されたのは。

 

 ちょっとばかり。コンプライアンスに反し気味な。

 

 二人の愛バのお風呂シーン。

 

 そのエアマットで、何をしようというのか。

 

 何故。洗面器で。液状の何かを溶いているッ……! 

 

 

 

 「高度、完全に安定ッ!」

 

 「トドメじゃあッ! 勃たなくなれィッ!」

 

 

 

 「オレェェだけェェェを……誅するぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!?」

 

 

 

 ダァァァァン! 

 

 ステージ上に、崩れ落ちる。

 

 

 

 映し出されたのは。幼少期の。

 

 愛バ二人の。顔を寄せあった、もっちりほっぺ。

 

 ほらじゃねぇよ、ほらじゃ……! 

 

 

 

 『うおおおおおっ! また挟まれてェェェッ!』

 

 

 

 崩れ落ちたままに、叫ぶ。

 

 そのもっちもちのほっぺた。

 

 カサブランカキタサトほっぺバーガー。

 

 百合に挟まるのは罪と知りながら。

 

 怒張を禁じ得ぬッ……! 

 

 

 

 「出力再低下ッ!」

 

 「何故じゃっ!? 童貞の魂の叫びッ! 

 ユキオーちゃんにも劣らぬはずッ!」

 

 「百合の女神様のバチがっ!?」

 

 

 

 燦三郎の唄。

 

 童貞であるという、強力な概念ブーストにより。

 

 ウマ娘に匹敵する、『パワー』を得られる筈であった。

 

 

 

 だが。

 

 彼自身も、知らなかったのだ。

 

 既に彼が。ソウルシンガーの証。

 

 その純潔を失っていたという、驚愕の事実を……! 

 

 

 

 半年前の結婚式。

 

 

 

 『トレーナーさん! 法改正、待っててくださいね!』

 

 『サトノの総力を尽くしますから!』

 

 『『三人で、幸せになるんだもん、ねー!』』

 

 

 

 己は、愛バたちが結婚するという衝撃に。

 

 上の空で、ヴァージンロードを歩んでいた。

 

 何故かタキシードを着せられ。

 

 彼女たちのもちもちほっぺに、顔面を挟まれて。

 

 花道の中央を、歩みながら。

 

 

 

 『うふふ。キタちゃん。トレーナーさん。

 とっても緊張してるみたい』

 

 『もう。これ、リハーサルみたいなもんなんだから。

 本番は、ルドルフ会長が、愚かなる政界を。

 その神威で、制圧してからなのにね?』

 

 『うう……もちもち……』

 

 『トレーナーさん、ほんと私たちのほっぺた好きだよね』

 

 『まぁ好都合だよね。ほっぺサンドすれば。

 おねだりは全部通るし』

 

 『さて。トレーナーさん。未来の新郎として。

 お歌のお時間ですよ?』

 

 

 

 言葉と共に。

 

 自らの心を支配する、ほっぺたが離され。

 

 目覚めた己に、告げられた言葉。

 

 

 

 正気を取り戻した己は、マイクを握った。

 

 そうだ。歌だ。

 

 彼女たちの門出を。

 

 この歌で祝い。

 

 

 

 笑顔で子孫に。別れを告げよう……! 

 

 百合さえ見れれば。

 

 オレ、満足……! 

 

 

 

 万雷の拍手の中、式は大成功で終わった。 

 

 誓いのキスは、何故か省略されていた。

 

 何か不具合でもあったのだろうか。

 

 

 

 キャンドルサービスで回った際。

 

 何故か、臨席した新婦の親父どもから。

 

 己は死ぬほど殴られ、腹を立てた愛バコンビ。

 

 

 

 彼女たちの豪腕に。

 

 己と同い年ぐらいの、彼らは。

 

 ヴァージンロードに、悔し涙を流した。

 

 何か、嫌な事でもあったのだろうか。

 

 娘の晴れ舞台だというのに。

 

 

 

 そして、披露宴が終わった夜。

 

 どうしてもという、彼女たちに手を引かれ。

 

 訪れるは、名家。サトノの本家。

 

 

 

 もちもちほっぺに挟まれて。

 

 可愛い愛バたちに。

 

 お酌をされて、上機嫌。

 

 ニホン酒を痛飲した己は。

 

 

 

 腰の鈍痛を感じながら。

 

 愛バ二人の間で目覚めた。

 

 わりとよく知った、天井であった。

 

 

 

 豪勢な天蓋付きの、キングサイズのベッド。

 

 両面イエスの枕。

 

 

 

 明らかに、新婚百合の花園。

 

 覚えてないから、多分ヤッてない。

 

 それだけが救いだ。

 

 だが。百合の初夜を、邪魔してしまった……! 

 

 

 

 百合の間に挟まるという、大罪を犯した事実を知り。

 

 己は、泣き叫びながらサトノの家を出た。

 

 

 

 『婿殿ッ! どちらへっ!?』

 

 ウマハウスメイドの制止も耳に入らず。

 

 

 

 そして、疲れて倒れ伏し。

 

 もう彼女たちの側に、居られぬ事を悟り。

 

 涙を流す己は、会長に拾われたのだ。

 

 何も聞かずに、この艦に乗せてくれた会長。

 

 

 

 「恩義を果たせぬとあっちゃあ、歌手の名折れ……! 

 オレはまだ……!」

 

 「そういや、このスライドショー。

 三の字の私物か?」

 

 「いんや。会長が貰ってきたらしい」

 

 「誰にじゃい?」

 

 「そりゃ、本ウマたちじゃろ。

 不特定多数に、見せるもんじゃないじゃろ。

 枯れてるワシらはともかく」

 

 「……おぬし。そんな白々しい発言で。

 許してもらえましたか……?」

 

 「……すまん。嘘ついた。未だに絞られとる。

 おぬしもじゃろ。というか、六の以外はみんなそう。

 ええい。続き見るぞい、続き」

 

 

 

 スライドショーがポチられる。

 

 映し出される、手書きの手紙。

 

 

 

 『トレーナーさんへ。お元気ですか。

 もう逃がさんぞ。場所は特定した。

 

 私たちは、あれから泰山で修行を積み。

 オラつく、かの仙人を殴り倒し。

 

 あなたをスピーディーかつ正気のまま。

 愛バ堕ちさせる、確信をゲッツ。

 

 このもちもちダブルほっぺ式催眠術・改。

 もはや逃がさぬ。次にサンドしたが最後。

 

 味わい尽くして幸せにしてやる。

 覚悟してくださいね。愛しい貴様。

 

 ダイヤちゃん、手紙だと口調変わるよね。

 キタちゃん、私もう我慢できないよ。

 

 しっとりテイオーやマックEーンとは!! 

 違うんだよアハハハははハはハはハ!!! 

 

 愛と興奮と、持て余した性欲を籠めて。

 あなたを愛し尽くす、愛バたちより』

 

 

 

 手紙はそこで終わっていた。

 

 

 

 「三の。おめでとう」

 

 「めでたいなぁ!」

 

 「おめでとう」

 

 「コングラッチュレーション!」

 

 「「「「「Congratulations!!!」」」」」

 

 

 

 ジジイどもの、生暖かい視線と拍手。

 

 

 

 「お前ら、オレのこと。実は嫌いだろ。

 百合の女神様の罰が当たったら、どうしてくれんの?」

 

 「いや、無罪じゃろ。あんなダンプカーみたいな。

 凄まじい勢いで突っ込んでくる。

 クソみたいな百合があって堪るか。

 お主の勘違いじゃろ。安心して轢き潰されろ」

 

 「どうみても件の百合婚。

 どちらかが三の字を独占して、殺しあいに。

 そういう事態を防ぐための、牽制じゃろ」

 

 「というかお主。ガチで気付かんかったの? 

 鈍感系主人公にも程があるじゃろ。

 なろう系かよ。くたばれカス」

 

 「世界がオレに、優しく無い……」

 

 

 

 北 燦三郎。

 

 偉大なる歌手の、ヒトソウルを宿した男。

 

 その人生の、幸せな墓場。

 

 

 

 底すら見えぬ墓穴の底に、叩き込まれる日。

 

 ユリモドキニクショクジューモチモチどもに。

 

 愛情ダンクシュートをキメられる日は、近い。

 

 

 

 

 

 「あら? 今がチャンスじゃありませんこと? 

 行きますわよ逝きますわよイきますわよっ! 

 ライアンッ! うまく出来たら、プロテイン三年分!」

 

 「わっかりましたー! あ、あと……

 そのですね、言いにくいのですが……」

 

 「いいですわよ。飛びきりゴスい、ロリータ衣装。

 タンスを肥やし尽くして、ミミズでパスタが茹でれるぐらい。

 買ってオーケー。当主として許可します。

 あなたの筋肉少女趣味。わりとお金になりますの」

 

 「と、撮られていたっ!? マックイーン……! 

 恐ろしい子……! ねえ、パーマー!」

 

 「ん? 私がカメラウマだよ。

 あんた毎回ノリノリだし。まったく気付かんよねしかし。

 いい収入源だよ」

 

 「クソァッ! 恥ずかしいィィィィ!!! 

 マックイーンごと……! 滅びろォッ!」

 

 

 

 あまりの羞恥に、筋肉を躍動させたライアン。

 

 ピッチャー振りかぶって、今ッ! 

 

 葦毛を大胆にッ……! 投げたァッ! 

 

 

 

 「三十路」「「ヴァージンレイザー・パラディオンッ!」」

 

 「パァァァァマァァァァァ!! 後でお仕置きですわぁぁぁぁぁ……」

 

 

 

 射出され、ドップラー効果をキメながら。

 

 飛び去りゆく、かわいい妹分。

 

 その愛バは流星のように。

 

 宇宙戦艦の、無事な左舷に向かう、光の槍。

 

 

 

 我らが力を合わせれば。

 

 領域など使わずとも。

 

 空ぐらい、飛べるのだ。

 

 ほら。

 

 

 

 「ライアァン! こっち破れて無いッ! 

 お仕置き確定ッ! 甘ロリ追加ァッ! 

 クソわよっ! メジロ百烈脚ッ!」

 

 

 

 ドドドドドゴンと。

 

 春麗(ハルウララ)に習ったという。

 

 魅惑の脚線美を魅せる、マックイーン。

 

 ほどなく空いた、大穴に。

 

 見事に不法侵入をキメる。

 

 

 

 さすが。それでこそ。

 

 湿った振りをして、我が物にせんと。

 

 画策した甲斐があるというもの……! 

 

 

 

 「パーマー。悪い顔をしてますよ」

 

 「ライアンこそ。そんなに載せた時の感触。

 サイコーだったんでしょ」

 

 「当然では? それとですねパーマー。

 今の私はマックイーンを。

 どうやって騙くらかして。

 お揃いコスをするか。それだけに夢中です。

 何か良いアイディアは?」

 

 「思い切り恥ずかしがる振りを。

 そんで、調子こいたマックイーンに。

 こう言ってあげるのよ。

 『かわいいマックイーンに、2Pカラーされたら! 

 とても羞恥に耐えきれませんッ!』」

 

 「さすがですねパーマー。

 我が魂の姉妹にして、メジロ1の策士。

 まさか、まんじゅうこわいとは。

 メジロまんじう。マックイーンに相応しい。

 成功の暁には、料金は弾みますよ」

 

 

 

 爽やかに笑い合う。

 

 そう。可愛いマックイーンは勘違いしている。

 

 我らの標的は、ババコンなどではない。

 

 マックイーンのまんじう面を楽しむため。

 

 ヤツを利用していただけだッ……! 

 

 

 

 「ライアン。帰ったら。

 偽装加湿器どもを、除湿するよ」

 

 「おや。もういいのですか? 時期尚早では?」

 

 「いいよ。そろそろ地面は固まる頃。

 世話好きのマックイーンは、除湿の必要無い我等。

 私たちが自立する姿に、寂しさを覚えるでしょう。

 そうなればこちらのもの。

 逆に甘やかし尽くして、思うさまに。

 アバ茶をキメて、ティータイム。

 ガハハッ! Vやねんっ! メジロウマ娘ーズ!」

 

 「ウェーイ! パリピピリピリ パリピッピ!」

 

 

 

 パァン! 

 

 

 

 踵を返し、ヘリオスとハイタッチ。

 

 彼女にも迷惑を掛けた。

 

 だが、もはや自分は完璧。

 

 

 

 ギャル道免許皆伝。

 

 マックイーン好みのスイーツを。

 

 素材があれば、作り出せる。

 

 掃除洗濯は言うまでも無い。

 

 

 

 爺やと主治医もこちら側。

 

 自分一人で、マックイーンにご奉仕しつくすのだ。

 

 もはや女装メイドは必要ない。

 

 

 

 メイド服を、やっと脱げる彼ら。

 

 喜ぶ顔を想像すると、頬が綻ぶ。

 

 やつらにも、ボーナスを与えねば。

 

 

 「さあ。行くよライアン。

 大願成就の日は近い」

 

 「ええ。朝マックから、夜マック。

 マックイーン尽くしの食生活。

 筋肉が震えますねぇ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

  つづかない



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ファル子さんじゅういっさい そのじゅうなな 機能美は、速いだけじゃない

うん。勢いがちょっと足りないかな……
精進せねば……!


~前回までのあらすじ~

 

 見事、宇宙戦艦をパンジャンしたメジロ一家。

 

 動揺のあまり、ユキオーはPRS……

 

 パンジャンリアリティショックを発症し、ヤッターした。

 

 ウマ生経験が浅いためだ。

 

 利根川先生の助言も聞こえぬ。

 

 彼はわりと、不測の事態に弱いためだ。

 

 そして、堕ちゆく宇宙戦艦を救うため。

 

 老人ホームに巣くうジジイの一人。

 

 北 燦三郎が、立ち上がる。

 

 ソウルを宿した この命。

 

 一華咲かせて やりやしょう。

 

 彼の童貞から繰り出される、男節。

 

 宇宙戦艦は、持ち直すかと思われた。

 

 だが、彼の渾身の脳破壊。

 

 それではフネは、応えない。

 

 実は童貞では無かったからだ。

 

 ユリモドキニクショクジューモチモチどもに。

 

 彼の純潔は、知らぬまに。

 

 ごっつぁんされていたのだ。

 

 そして、人生の墓場へのホールインワン。

 

 ほっぺに圧殺される未来を予感する。

 

 百合好きなろう系主人公を他所に。

 

 マックイーンは、老人ホームへの。

 

 不法侵入をキメていた。

 

 直下で蠢くは、加湿器の偽装を剥いだ。

 

 熱狂的なマック信者。

 

 ウィン・ドウズなど、もう遺物。

 

 時代はブイ・ヤネンである。

 

 メジロの闇は深い。

 

 近親プレイは、名家の嗜みである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さすがマックイーン。美事なブチギレ金剛ね」

 

 

 

 サイレンススズカは、その場左旋回を止め。

 

 そっと微笑んだ。

 

 

 

 「スズカさん。一つ聞いてもよろしいでしょうか」

 

 「え? ええ。どうぞ」

 

 

 

 背面から聞こえる、エイシンフラッシュの声。

 

 どうしたのだろうか。

 

 

 

 「何故。私はスズカさんに。

 縛り付けられているのでしょう。

 しかも亀甲縛り。ニホン文化は奥が深い」

 

 「宇宙戦艦に行くためよ。

 フラッシュさんは、自力では。

 あそこに辿り着けないでしょう?」

 

 

 

 背面を見ようとして。

 

 更地に鏡は無いことに気付く。

 

 まぁ問題無いだろう。

 

 てくてくと、目標地点に歩を進める。

 

 

 

 熟練の縄師たる、スペちゃんが結んだのだ。

 

 その堅固さと、淫らな肉のはみ出し方。

 

 それには全幅の信頼が置ける。

 

 

 

 彼女は今回お留守番だ。

 

 クソ重いからだ。

 

 

 

 「……私は、アフガンコウクウショーさんに。

 運んで頂ける物と。そう思っていたのですが」

 

 「アフちゃんは、ウララさんのトレーナーさんを。

 ヒト雄は脆弱だもの。優しく運ぶには、彼女でないと」

 

 「ヒト雄が、この闘いに。役に立つと?」

 

 「役に立たないかもしれないわね。

 でも。それでも」

 

 

 

 言葉を切る。

 

 

 

 「私たちには、もうトレーナーさんは居ない。

 とても寂しいことだわ。

 でも、私には。スペちゃんがいる。

 心を繋いだ、愛するウマが。

 でもね。ウララさんは違う」

 

 「…………」

 

 「あの関係は、まだ定まっていない。

 燃えるような、恋となるのか。

 大海のような、愛になるのか。

 それとも、悲しい終わりを迎えるのか。

 

 結論を見ぬままに、引き離してはいけない。

 ウマ娘は、いつだって。

 自分の夢と。愛のために。全力で走るのだから」

 

 「……そう、ですね。

 愛と言われては、何も言えません。

 私がここに居る、理由でもあります。

 ですが、ひとつ疑問が」

 

 「何かしら」

 

 「どうやってあそこに? 

 あなたの領域は、速度関連の物では?」

 

 

 

 言われて気付く。

 

 そうか、彼女は。

 

 自分のドリームトロフィーリーグ時代には。

 

 もう帰国していた。

 

 知らないのも、道理というものだろう。

 

 ならば、教えて……

 

 

 

 「おぎゃあ」

 

 

 

 「ワン? いえ、何か声が低いような……?」

 

 

 

 目の前に現れた、赤子を見る。

 

 

 

 「お久しぶりです。

 クリークさんのトレーナーさん。

 相変わらず、オギャっているんですね」

 

 「バブゥ……」

 

 「おぎゃあ♥️ばぶー♥️」

 

 

 

 サムズアップをキメる、でかい赤子。

 

 おしゃぶりと、サングラスが似合う。

 

 その膝には、スーパークリーク。

 

 愛しの赤ちゃんの、なでなでにより。

 

 顔が蕩けきっている。

 

 

 

 なるほど。ここ一帯が更地になってきたのに気付き。

 

 愛する彼女の様子を、見に来たのだろう。

 

 

 

 「スーパークリークさんと。

 そのトレーナーさんですか。

 ……相変わらず、凄まじいですね。

 何がとは言いませんが。

 そういえば、スズカさんのトレーナーさんは」

 

 「……私のトレーナーさんは。もう居ないわ」

 

 

 

 思い出す。

 

 あの日のことを。

 

 

 

 『スズカ。今日の調子は?』

 

 『トレーナーさん。いい調子です。

 今日も、良い景色が見られそう』

 

 『好きに走っておいで。

 きっと。素晴らしい日になるよ』

 

 『そうですね』

 

 

 

 穏やかな声で告げる彼。

 

 牛乳で強化した足に、死角なし。

 

 前回のドリームトロフィーのように。

 

 また良い景色が見られるに違いない。

 

 自分は、うきうきとパドックに向かった。

 

 

 

 『スズカさん! 勝負です! 今回は負けませんッ!』

 

 かわいいスペちゃんの宣戦布告。

 

 どうやら、何か掴んだようだ。

 

 これは手強いライバルになる。

 

 自分は気を引き締めた。

 

 

 

 『さあ! 今回のドリームトロフィーリーグ! 

 勝利の女神が微笑むのは誰かっ!? 

 今…………ゲートが開いたっ! 

 先頭に飛び出したのは、サイレンススズカッ! 

 前回、奇跡の復活を魅せてくれましたっ! 

 その奇跡は、どこまでも続いていくのか!?』

 

 

 

 逃げ。

 

 主流から外れた戦法。

 

 最初から最後まで先頭を行くため。

 

 風除けはなく、ペースも自分で作る必要がある。

 

 先行・差しの方が、王道と呼ばれるのに対し。

 

 徒花とも言える戦法。

 

 だが。自分には関係ない。

 

 

 

 『サイレンススズカッ! 速い速い! 

 どんどんあげていくっ! 後続との差は、ニバ身! 

 スペシャルウィークが続いているっ!』

 

 

 

 先頭のまま、最終コーナーに向かい直進する。

 

 発動条件を満たした。

 

 曲がれッ……! 

 

 

 

 『サイレンススズカ! 逃げる逃げる! 

 最終コーナーでも、一切の減速無し! 

 工事現場の、ランマーのような轟音! 

 サイレンスはどこ行った!? 

 芝がめくれていくー! 

 作業員さん、レース後整備。頑張って!』

 

 

 

 ドドドドドドド、と。

 

 左右の足の回転数を変え。

 

 戦車のようなコーナリングを魅せる。

 

 最終直線へ。

 

 スペちゃんは……

 

 

 

 『甘いですよスズカさん。

 ニホン総大将。伊達じゃないんですっ!』

 

 

 

 コーナーを曲がり、速度を上げ。

 

 再度後ろに。詰めてきた彼女。

 

 なるほど。内ラチ沿いは諦め。

 

 

 

 最終コーナーを大回り。

 

 最終直線で差し切る作戦か。

 

 今回は、直線が長い。

 

 いい作戦と言えるだろう。

 

 

 

 だが……! 

 

 

 

 『先頭の景色は、譲らない……!』

 

 

 

 

 最終直線に、先頭で入った時点で。

 

 領域の発動条件は、満たしている。

 

 自分の勝ちは、揺るがない。

 

 その筈なのに……! 

 

 

 

 『うわあああああああっ!!』

 

 

 

 スペちゃんが離せない。

 

 何故だ。彼女の末脚でも。

 

 この領域発動時の自分。

 

 これに追い付くことなど……! 

 

 

 

 『ぬあああああっ! 勝ったら、ふともも! 

 好きなだけェェェェェェェ!!!』

 

 

 

 えっ。

 

 いや、そういえば昨晩。

 

 膝枕してあげた時に。

 

 スペちゃんが勝ったら。

 

 ふとももを好きにしていい。

 

 

 

 そう言った覚えはあるが……

 

 それだけで、ウマ娘の限界を超えつつある。

 

 自分に競ってくるとは……! 

 

 

 

 『負けない……! 先頭の景色! 

 例えスペちゃんにだって、譲らない……!』

 

 

 

 そして。自分は。

 

 

 

 普通に一バ身差で勝った。

 

 

 

 ゴールで見た、先頭の景色もそうだが。

 

 悔しがるスペちゃんの顔。

 

 最高の景色であった。

 

 

 

 

 回想から戻る。

 

 

 

 「とっても良い景色だったわ」

 

 「今の回想、必要でした?」

 

 「…………?」

 

 

 

 首を傾げ、左旋回する。

 

 おかしい。景色の話は鉄板のはずだ。

 

 スペちゃんも。

 

 いつも笑顔でふとももすりすりしながら。

 

 特別な笑い声で、相槌を打ってくれるのに。

 

 

 

 「あと、トレーナーさんとの関係は?」

 

 「普通に引退する時に。笑顔で別れたわ」

 

 「スズカさん、いつも何を考えて生きてます?」

 

 「走ることと、スペちゃんのことよ」

 

 「それ以外は?」

 

 「えっと…………」

 

 

 

 左旋回を早める。

 

 

 

 「いえ。わかりました。もういいです。

 で、どうやって宇宙戦艦に?」

 

 「そうね。じゃあ走りましょう」

 

 「フフフ。話を聞いてくれません……」

 

 

 

 赤ちゃんとスーパークリークに手を振り。

 

 スタートの体勢を取る。

 

 ゲートは無い。

 

 だが。

 

 

 

 「用意……ドンッ!」

 

 最高のスタートをキメる。

 

 初速から、凡百のウマ娘とは訳が違う。

 

 このサイレンススズカ。

 

 スタートからゴールまで。

 

 先頭でなくば、満足できぬ……! 

 

 

 

 スペちゃんが野生の本能で割り出した。

 

 必要な距離は約2000。

 

 芝では無く。アスファルトだが。

 

 問題無い。得意な距離だ。

 

 

 

 加速していく。

 

 エイシンフラッシュの重み。

 

 関係ない。

 

 足の負担は、許容範囲。

 

 牛乳は偉大だ。みんなももっと。

 

 

 

 「牛乳を。飲もう……!」

 

 

 

 現役時代から、欠かさず飲み続けている。

 

 スペちゃん農場の牛たちにも。

 

 既に我が子と認められている。

 

 

 

 スペちゃん農場の牛乳に。

 

 余りなど出るはずもない。

 

 自分が飲み尽くすからだ……! 

 

 

 

 宇宙戦艦に近づいていく。

 

 元より直線。

 

 これはレースではない。

 

 テンションが上がり、領域発動。

 

 

 

 『廃墟の景色も、乙なもの……!』

 

 

 

 加速度が上がる。

 

 

 

 「スズッ」

 

 「舌を噛み尽くせッ!」

 

 

 

 速度を上げて黙らせる。

 

 走る時はね。

 

 誰にも邪魔されず。

 

 自由で。

 

 なんというか、救われてなきゃあ。

 

 ダメなんだ……! 

 

 

 

 「但し、スペちゃんは可愛いから許すッ……!」

 

 

 

 宇宙戦艦を射程範囲に収める。

 

 今だッ……! 

 

 

 

 「領域完全展開ッ! 『天バのようにッ!』」

 

 「全力で、走りながらの完全展開ッ!?」

 

 

 

 荷物が驚愕の声を上げる。

 

 何を驚いているのか。

 

 このサイレンススズカ。

 

 走る時以外に、集中することなど。

 

 スペちゃんのおなかをすぺんすぺんする時ぐらいだッ……! 

 

 

 

 領域が姿を見せる。

 

 それは、夢幻に広がる草原。

 

 降りしきる雪。

 

 ああ。静かで。美しい景色。

 

 

 

 『サイレンススズカ』。

 

 速すぎた彼は。

 

 最期のレース。沈黙の日曜日。

 

 天へと駆けていったと、唄われた。

 

 

 

 この領域は、彼のあったかも知れない可能性。

 

 足さえ保てば。そう言われた彼。

 

 それを、牛乳の力により。実現した。

 

 無限に加速し続ける領域である……! 

 

 

 

 「速さ×速さ=速さァッ!」

 

 「頭が栗毛過ぎますッ!」

 

 

 

 うるさいぞ。

 

 

 

 速度を天井知らずに上げ、その時が来た。

 

 天へと昇る時が来たのだ。

 

 

 

 この、最速の機能美。

 

 実は速いだけではない。

 

 

 

 「スズカ・テイクオフッ!」

 

 「マヤノさんに謝ってッ!」

 

 

 

 そう。このサイレンススズカ。

 

 加速し過ぎると。

 

 この流線形の、魅惑のボディ。

 

 

 

 それがよくわからん理屈で、揚力を生み。

 

 ついつい空を飛んじゃうのだ……! 

 

 最速の機能美は、航空力学的にも機能の塊! 

 

 

 

 レースでの手加減など。

 

 出来る筈もなく。

 

 初めてフライトに成功した、あの日。

 

 『常識が逃亡した日曜日』にて。

 

 引退を、余儀なくすることとなったのだ! 

 

 

 

 

 『スズカはなんで飛ぶのん?』

 

 呆然と空を見上げた彼。

 

 トレーナーさん。

 

 飛ぶのも気持ちいい。

 

 

 

 景色が綺麗だもの すずか

 

 

 

 迫る宇宙戦艦の横ッ腹。

 

 さすがはスペちゃん。

 

 完璧な軌道計算だ。

 

 だが一つ、問題がある。

 

 

 

 「但し、離陸した後はっ!」

 

 「後はっ!?」

 

 

 

 「とっても緩い、放物線を描く。

 それだけよ。走れないもの。当然でしょ? 

 着地? 着艦……? どうしようかしら」

 

 「詐欺ですっ! あなたを訴えますっ!」

 

 

 

 栗毛飛行機は、美しい軌跡を描き。

 

 大胆に宇宙戦艦に突き刺さった。

 

 

 

 牛乳って大事。みんなも飲もう。

 

 彼女は後に、語ったという。

 

 

 

 

 

 つづかない



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ファル子さんじゅういっさい そのじゅうはち ウララン掲示板

掲示板形式が流行りと聞き。
挑戦してみました。
すげーめんどくさいですが、好評ならたまにやろうかな。


~前回までのあらすじ~

 

 

 

 見事宇宙戦艦に不法侵入を決めた、連コ葦毛。

 

 ストリートでファイトする感じの技を見て。 

 

 栗毛は先頭民族の血の昂りを感じる。 

 

 背に負うは、諸悪の元凶。 

 

 思い出すは、綺麗な景色。

 

 特に意味の無い回想。

 

 景色の話題は安牌なのだ。

 

 赤ちゃんコンビに別れを告げ。

 

 いざ、己が最速を証明せん。

 

 レースを引退したとしても。

 

 最速の称号を、返上する理由にはならぬ。

 

 『サイレンススズカ』の名と、黒鹿毛を背負い、彼女は征く。

 

 いざ、大空へ羽ばたこう。

 

 天バの蹄は高らかに。

 

 宇宙戦艦へのノックをキメた。

 

 頭突きで。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ウララ。ウララ。起きないとイタズラするぞ」

 

 

 

 ねっとりとしたイケメンヴォイス。

 

 うむ。目覚ましとしては最適であろう。

 

 

 

 ハルウララは、瞬時の覚醒を果たし。

 

 マッサージ師の魔手を楽しみつつも、顔を上げた。

 

 

 

 「トレーナー。鏡」

 

 「ほら。今は七分咲きといった所だ」

 

 

 

 忠実なる臣下から手鏡を受け取り、愛らしい美貌をチェック。

 

 混じりあう、鹿毛と桜。

 

 なるほど。満開まであと少しである。

 

 

 

 「まだ完全に回復するまでは。

 しばらくかかるみたいだけど。

 なんで今起こしたの?」

 

 「状況を。把握しておきたいだろう。

 起き抜けにいきなり飛んでも、どんなトンチキを。

 やつらがキメたのかを、知っておかなくては。

 いくらウララでも、遅れを取る可能性がある」

 

 「なるほど。経験が生きたな。後でジュースを奢る権利をやろう」

 

 「感謝の極み」

 

 

 

 恭しく礼をするトレーナー。

 

 出来た臣下である。

 

 どれ、その気遣いを無駄にするのも嫌いではないが。

 

 ここは状況把握をしておくか。

 

 

 

 ウマホを取り出し、ネットに接続。

 

 トレセン学園掲示板を開く。

 

 現役の学園生とトレーナー。

 

 

 

 そしてOGと、引退したトレーナーしかアクセスできぬ、これ。

 

 秘匿回線としての。使い勝手はなかなか良い。

 

 緑のアクマオーも、たまにはいい仕事をする。

 

 建てておいたスレッドを開く。

 

 

 

 

 

 

 『バ鹿に身の程を思い知らせるスレPart1145』

 

 

 

 336:奇跡のウマドル ID:FarcoS0404

 うーん。酔っ払ってきた。やはりロマネ・コンティこそ至高

 

 

 337:宇宙大統領・桜 ID:UraranH0227

 状況を報告しろクズども

 >>336 お前なんなの? 死ぬの? 

 

 

 338:貴顕の紅茶中毒 ID:AsamacM0403

 >>337 昇竜ではなく百裂脚ですが。侵入に成功しましたわ

 >>336 やはり宇宙戦艦ごと堕とすべきだったかもしれませんわね

 

 

 339:愛バ専門ドスケベマッサージ師兼催眠術師 ID:HaitoK1888

 オレたち、なんのために戦ってたんだっけか

 

 

 340:宇宙大統領・桜 ID:UraranH0227

 >>339 スレタイ見ろ。それとお前、名前被ってるよ。

 愛バ専門ドスケベマッサージ師も、催眠術師も。

 この掲示板には腐るほどいるんだから。

 もっとわかりやすくしろ

 

 

 341:愛バ専門厩務員 ID:HaitoK1888

 >>340 こうかな? これは被ってないだろ

 

 

 342:ベルリンの一児の母 ID:FlashE0327

 >>341 それなんて読むんですか

 

 

 343:愛バ専門厩務員 ID:HaitoK1888

 きゅうむいん だが

 

 

 344:宇宙大統領・桜 ID:UraranH0227

 >>343 造語を使うな。あと読み方本名じゃねぇか

 ハンドルネームの意味が無い

 

 

 345:ハルウララ直属愛の奴隷 ID:HaitoK1888

 これならどうだ

 

 

 346:宇宙大統領・桜 ID:UraranH0227

 それなら良し

 

 

 347:怪鳥専門ご奉仕メイド ID:AfgahnK0214

 いいのか……(困惑)

 

 

 348:蒼き米農家 ID:RiceS0305

 えっとね。スレチだと思うの。

 HN談義は他所でやって欲しいなって

 

 

 349:宇宙大統領・桜 ID:UraranH0227

 >>348 スレ主は私だが? いいんだよ私がやってるんだから。

 さてはアンチだなおめー

 

 

 350:サイボーグ栗毛 ID:BurubonM0425

 くぁwせdrftgyふじこlp

 

 

 351:宇宙大統領・桜 ID:UraranH0227

 >>お前はブチ壊すことがわかってるのに。

 なんで毎回果敢に挑戦するんだよ。

 そのフロンティアスピリッツはいらねーんだよ

 

 

 352:国家の驀進犬 ID:BakusinS0414

 うーん。やはりこの掲示板は! 

 1のキレ味が違いますねぇ! バクシーン! 

 

 

 353:光速の鼓奏者 ID:SuzukaS0501

 こっちも無事に突き刺さったわ

 

 

 354:ベルリンの一児の母 ID:FlashE0327

 アレを無事と呼ぶ栗毛具合。やはり栗毛は滅ぼすべき

 

 

 355:トップを狙う十児の母 ID:ScarletD0513

 >>354 なんだァ? てめぇ……? 

 

 

 356:バイクを愛する七児の母 ID:VodkaV0404

 栗毛、キレた! 

 

 

 357:宇宙大統領・桜 ID:UraranH0227

 お前ら毎度思うけど、産みすぎだろ。

 書記長の視線が痛いんだよ。自重しろ

 

 

 358:トップを狙う十児の母 ID:ScarletD0513

 次こそ男の子よね。きっと旦那様そっくりのイケメンに育つわ

 

 

 359:太鼓の達人 ID:KokonL0311

 姉10人とか、性癖歪みそう

 

 

 360:宇宙大統領・桜 ID:UraranH0227

 >>359 お、珍しいな。ヨソジドクシンオー元気? 

 

 

 361:真の太鼓の達人 ID:BitterG0224

 太鼓なら、今私のベッドで寝てるよ

 

 

 362:太鼓の達人 ID:KokonL0311

 は? 何してくれてんの? これは戦争ですね

 ハイスラでボコるわ……

 

 

 363:絶対皇帝 ID:HrodulfS0313

 まぁ落ち着け。喧嘩は良くない

 

 

 364:宇宙大統領・桜 ID:UraranH0227

 >>363 政治活動の調子はどうっすか

 

 

 365:絶対皇帝 ID:HrodulfS0313

 百駿多幸の実現のため。誠心誠意頑張っているよ。

 愛弟子たちよ。待っていておくれ。

 ちゃぁんと娶ってやるからなァ……

 

 

 366:爆逃げコンビ・長距離 ID:PalmerM0321

 百合楽園婚の実現待ってます

 

 

 367:パリピッピ ID:HeliosD0410

 我欲に塗れきってるのマジおもろいんだけど

 

 

 368:タイマンの母 ID:AmazonH0326

 これにはアタシも思わず発砲

 

 

 369:宇宙大統領・桜 ID:UraranH0227

 でも汚いのも加湿器も、本命は師匠じゃねーんだよな

 

 

 370:有マの奇跡 ID:TeiohT0420

 まぁカイチョーならギリ許せるかな

 

 

 371:デバフは性義 ID:NatureN0416

 やっぱさ。たまにはしっとりバウムじゃなくて。

 煎餅が食いたくなる時があるんだよ

 

 

 372:絶対皇帝 ID:HrodulfS0323

 私は尻さえ揉めれば満足だよ

 

 

 373:宇宙大統領・桜 ID:UraranH0227

 歪みねぇな

 

 

 374:猛禽類ガチ勢 ID:YukioT0304

 求)正気な世界

 

 

 375:宇宙大統領・桜 ID:UraranH0227

 >>374 来世は平和な世界だといいな

 

 

 376:特別な一週間 ID:SpecialW0502

 求)ふともも

 

 

 377:宇宙大統領・桜 ID:UraranH0227

 デブでも食ってろピザ

 

 

 

 

 

 

 スレッドを閉じる。

 

 なるほど。

 

 おおよそ状況は把握した。

 

 

 

 

 「バ鹿しかいねぇな」

 

 「何を今さら」

 

 「やはりわたしが世界を変革せねば……」

 

 

 

 「ウララ。野望を燃やすのは結構だが。

 それよりも、オレとの幸福な結婚生活。

 今はそれを。考えるべきではないか」

 

 「そうだな……トレーナー。

 黙ってわたしについてこい」

 

 「一生……! 来世まで……! いや永遠に! 

 憑いていくとも! 任せてくれ!」

 

 

 

 「そろそろ話しかけても大丈夫だろうか。

 アフガンコウクウショー。ここに推参である」

 

 

 

 椅子を、尻の感触で楽しませてやりつつ。

 

 顔を上げる。

 

 

 

 「遅いぞアフちゃん。だがまぁ丁度いい。

 このプリティーフェイス。どう思う?」

 

 「すごく……九分咲きです……

 というか、領域を完全展開するとそうなるのか。

 驚愕の事実である。元々は鹿毛だったとは。

 かっこいい。メッシュ入れてるみたい」

 

 「わたしの場合はそうだねぇ。

 なんかそうなるっぽい。

 速度中毒栗毛とかは、変わらないらしいよ」

 

 「ふぅむ。ウマソウルによって違いが出るのか……

 私もいつか、完全展開に挑戦せねばなぁ」

 

 「別に必要ないと思うけどね。

 アフちゃんの完全展開とか。

 それ以上飛んでどうなるんだ」

 

 

 

 「うれしい」 

 

 「そうか……飴をやろう」 

 

 「わぁい」

 

 

 

 こやつ、ウマ娘ではなく。

 

 鳥に生まれるべきだったのでは。

 

 そう思いつつ、空を見上げる。

 

 

 

 「「「「「「「「「「ぴよー!」」」」」」」」」」

 

 

 

 舞い降りる、かわいい我が子たち。

 

 愛するひよこが一時的に居なくなる幼児たち。

 

 彼らには苦労をかけるが……

 

 

 

 このハルウララの役に立つのだ。

 

 光栄に思って欲しい。

 

 ミミズを与えて、愛でると満足そうな顔。

 

 よし。準備は完全に整った。

 

 

 

 「トレーナー。細長くて縛るアレを出して」

 

 「ウララ先輩。この世界はやはりおかしい」

 

 「ウララは頑なに、細長くて縛るアレの名称を。

 言いたがらないな……」

 

 「わたしにもプライドはある。

 ちゃんと家には金を入れている……

 細長くて縛るアレじゃあない。ないんだ……!」

 

 「そうか……」

 

 「ぴよっ?」

 

 

 

 ピヨる我が子たち。

 

 細長くて縛るアレを、括り付けていく。

 

 

 

 「ウララ先輩。動物虐待では? 鶏ならまだしも。

 いや鶏でもおかしいんだけど。ウララ先輩、クソ重いじゃん」

 

 「黙れ」

 

 「わんわんっ♡」

 

 

 

 わかっていない駄犬だ。

 

 このハルウララ。自らがちょっとばかり筋肉質なことなど。

 

 疾うに理解しているのだ。

 

 そのための、こやつの上昇気流。

 

 

 

 我が子たちのかわいい手羽先。

 

 それを補助するのが貴様だ。

 

  

 

 「ううむ。この重み。愛を感じるな……」 

 

 椅子の恍惚とした声。

 

 自分をお姫様だっこできる、逞しい男性。

 

 それはこのハルウララの結婚対象の、最低条件だ。

 

 その点、こやつは合格である。

 

  

 

 「よし。準備完了。アフちゃん、トレーナーを」

 

 「私、こやつにあんまり触れたくないんだが……

 セクハラされたらおよめにいけない」

 

 「大丈夫だアフちゃん。もはやお前も眼中には無い」

 

 「それはそれでムカつくな……どこまで行っても。

 腹の立つ男である。ウララ先輩は、こやつで良いのか?」

 

 「ヒシアケボノを。軽々と持ち上げられるような。

 益荒男かつ。声とケツと顔が。

 いい男が、他に居たら考えるよ」

 

 

 

 「……ウララ先輩。体重何キロ?」

 

 「貴様、死にたいか」 

 

 「きゃうんっ♡きゃうんっ♡」

 

 

 

 さて。優雅に参るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 「マジありえンし……ブクマ見て、SAN値を回復だね。

 えっと、学園掲示板……このシリーズ、好きなンだよねぇ。

 スレ主はセンスあるよ。今までの1144人の犠牲者。

 クッソ面白い最期を、毎回迎えるもン。

 今回はどんなバ鹿を、土下座謝罪させるのかな……

 まさか実話じゃないと思うけど。

 でも誰が話に割って入っても。ちゃんと終わるもんなぁ」

 

 「ユキオ―ちゃん! ネットサーフィンしてる場合じゃないぞいっ!」

 

 

 

 おじいちゃんの声に、ウマホから顔を上げる。

 

 

 

 「どうしたの。四おじいちゃん。今わたし、レスバに夢中なンだけど」

 

 「うーん。今時の若者すぎる。読書をしろ読書を。

 ……そうだっ! そんな場合じゃないぞい! 

 ついに本命が来たぞいっ!」 

 

 「えー……見たくないなぁ。パンジャンで狂気に囚われてる間にさ。

 なんか色々頭がおかしかったらしいじゃン。

 報告聞いたら、砲丸投げからの格ゲー。

 

 おまけになんと! 栗毛砲弾と来た。今度はどンな方法で。

 わたしのSAN値を削ってくるのさ。もう歌う気力もないよ。

 ……ところで。二おじいちゃんどうしたの? 

 気づいたら燃え尽きてたンだけど」

 

 

 

 この老人ホームでは、自分と会長。おまけにゴクウ。

 

 それを除けば、最年少の筈の彼。

 

 なんだかとっても、老けて見える。

 

 

 

 「ヤツは、交通事故に遭ってしもうてのう……」

 

 「ここ、宇宙戦艦だよ……? 道路とか無いじゃン」

 

 「性癖の交通事故じゃ。百合を偽装したダンプ2台。

 恐ろしい轢かれ方じゃった」

 

 「聞きたくなァい……」

 

 「まぁそれはいいとして。ほれ、モニターを見ろ」

 

 「見たくなァい……」

 

 「ワガママ言わないのっ! おじいちゃん怒るぞい!」

 

 「はぁーい……」

 

 

 

 しぶしぶと、モニターに目をやる。

 

 んンッ!? 

 

 

 

 「……おじいちゃん。アフガンコウクウショー先輩はまだわかるよ。

 でも。でもさ。ここ、妖怪ポストとか。あったっけか……」

 

 「あるわけないじゃろ。やたら古いもんを知っとるのぉ……」

 

 「いやさ。脳内のおじさんが囁いたンだよ。

 アレ、見たことあるって」

 

 「ユキオ―ちゃんは、不思議ちゃん要素まで完備しておるのう。

 大人になる前に、それは捨てるんじゃぞ」

 

 「えー。おじさんとは一生の付き合いだよ。

 ユキオ―をいつも助けてくれるの」

 

 「そうか……ところで、そろそろ現実を直視してみんか?」

 

 

 

 言われ、大きく息を吸い込む。

 

 吸って、吸って、吸って……

 

 そして叫ぶ。

 

 

 

 「そんなバ鹿みたいな方法でッ! 空をッ! 飛ぶんじゃないイィィィッ! ……あっふん」

 

 「おお。気絶したか。やれやれ。まぁ20歳じゃからのう。

 この世界の常識。今のうちに慣れておかないと苦労するぞい」

 

 

 

 四おじいちゃん。メンタルケア担当。

 

 本名、甘草 四朗はモニターを見る。

 

 胸元に吊り下げた、十字架を握り。そっと呟く。

 

 

 

 「まぁひよこが空を飛ぶ事もあるわな。

 この子の未来に、幸あれ。偉大なる三女神よ。

 我らの最後の担当ウマ娘。ユキオ―に祝福を」

 

 

 

 モニターに映る映像。

 

 そこには、アフガンコウクウショーに抱えられた、若造と。

 

 手を繋ぎながら、ハルウララがひよこブランコに座り。

 

 空中デートを楽しんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つづかない



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ファル子さんじゅういっさい そのじゅうきゅう ロマンシング・佐賀

今回はちゃんとしたバトル回です。
トレーナーにも活躍の機会を与えないと。


~前回までのあらすじ~

 

 桜の花は何度でも。

 

 咲き誇るはこの世界。

 

 ハルウララは、覚醒を果たした。

 

 未だ七分咲き。覇を唱えるにはまだ足りぬ。

 

 忠実なる臣下に、タイミングの真意を問う。

 

 彼のアンサー。状況把握。

 

 なるほど、出来た臣下。

 

 先見の明を発揮し、作成しておいたスレに目を通す。

 

 通称、ウララン掲示板。

 

 バ鹿に思考環境を乱されることが多いが。

 

 カッ飛んだアイディアが出る時もある。

 

 学生時代から続けている、人気の処刑用スレッドだ。

 

 よくわからんが、やつめらは不法侵入を。

 

 頭のおかしい発想で、無事キメたらしい。

 

 スレッドに目を通し、レスバに興じる内。

 

 遅参した、駄犬メイド。

 

 九分咲を確認し、ついに主役の登場を決める。

 

 さぁ。愛する我が子たちよ。

 

 わたしを空へ。

 

 トレーナーよ。空中デートのお時間だ。

 

 一方、ユキオーは今回の被害者が。

 

 自分だとは、露とも知らず。

 

 レスバトルに興じ、モニター越しに見せつけられた異常な光景。

 

 彼女は、己の経験の浅さに。意識を月まで遠投した。

 

 なまじ、異なる常識を宿していると。

 

 この世界で生きるのは、とても大変なのである。

 

 

 

 

 

 

 「「「「「「「「「「ぴよぉ……」」」」」」」」」」

 

 

 

 些か疲れた様子の我が子たち。

 

 ねぎらいのミミズを与え、しばらく休憩させた後。

 

 幼児たちの元へ、帰るように指示する。

 

 ナッちゃんについては、回復次第追随させる。

 

 じきに追い着くだろう。

 

 

 

 「ウララさん。遅いですわよ」

 

 「乙女の支度には時間がかかる。基本でしょ?」

 

 「なるほど。乙女と言われては。何も言えませんわ」

 

 

 

 納得する連コ葦毛。わかってもらえて何よりである。

 

 現在の位置は艦内左舷。

 

 栗毛たちが着弾したのは、右舷であるらしい。

 

 まずは合流するべきだろう。

 

 

 

 「ヘイ。尻。艦内の地図は?」

 

 

 

 情報収集に定評のある。トレーナーのケツを撫でてやる。

 

 

 

 「んっ……♡エクスタシィ……!」

 

 「なるほど。喘ぎ声もいい。良いトレーナーを見つけましたわね」

 

 「自慢のケツだよ」

 

 

 

 葦毛の感心した声。

 

 やらんぞ。

 

 

 

 「ふぅ。この第四世代型超光速恒星間航行用超弩級万能宇宙戦艦ファル子リヲン(早口)。

 スレッドにて。酔っ払いが上げた、画像はこれだ」

 

 

 

 トレーナーの嗜みとして、超小型プロジェクターを携行している彼。

 

 謎材質の白い壁面。そこに映し出された画像を眺める。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 「幼児が描いたイカかな?」

 

 「クリークママといっしょ。お絵描きのお時間が無くて、良かったのである」

 

 「まぁ酔っ払いの描く絵など。こんなものだろう」

 

 「それもそうですわね」

 

 「話を続けよう。今オレたちがいるのがここ。

 望遠鏡で観測した、栗毛と黒鹿毛の着弾地点がここだ」

 

 

 

 トレーナーが、先端付近のイカ耳の左右にポインターを照射する。

 

 左が我ら。右がバ鹿どもだろう。

 

 

 

 「そして、おそらく艦橋は。この丸の部分だろう」

 

 「そうですわね。下からしか見てませんので、断言できませんが」

 

 「丸だけやたらと綺麗であるな」

 

 「グラスの底を、使ったのではないかと思う」

 

 

 

 あの酔いどれ猛禽類、生意気に。良い酒に溺れおって。

 

 

 

 「ロマネ・コンティかぁ。一回でいいから飲んでみたいよね」

 

 「わたくしでも。たまにしか飲めませんわよ、アレ」

 

 「ふむ。食糧庫が見つかれば。強奪していくか? ウララ」

 

 「もちろん。アイツのものはわたしのもの。わたしのものはわたしのものだよ。

 むしろこの世にわたしのものでないものなんて。存在してはならない」

 

 「ウララ先輩は海賊適性SSであるな……天才はいる。悔しくはない」

 

 

 

 当初の目標を、食糧庫に設定。

 

 兵糧攻めは、兵法の基本である。

 

 やたらとデカい宇宙戦艦であるが、まぁ心配あるまい。

 

 

 

 この艦、やたらとバリアフリー設計。

 

 入居料が、クソほど高い老人ホームでも。ここまでではあるまい。

 

 まさかクルーが全員、老人というわけでもあるまいが。

 

 好都合だ。案内板はすぐに見つかるだろう。

 

 

 

 「ぴよっ!」

 

 

 

 ナッちゃんも来たようだ。

 

 これで準備は整った。

 

 蹂躙を始めるとしよう。

 

 

 

 「よいかトレーナー。

 我々は、インペリアルウララという陣形で戦う。

 キレやすい葦毛が前衛。両脇を、駄犬とひよこが固める。

 お前はわたしを喜ばせろ。お前のポジションが一番安全だ。

 安心してケツを振れ。ここのバ鹿どもにはわたしが立腹している。

 思う存分強奪し。用済みになれば自沈させるのだ。

 クズども、行くぞ!」

 

 「覇王の威風を感じますわね」

 

 「当初の目的を。完全に忘却している気がするのである」

 

 「ぴよぴよ」

 

 「なるほど。理に適った陣形だな。ウララに従おう」

 

 

 

 さぁ、まずは案内板だ。さて、どこにあるか……

 

 歩き出してしばらくして。葦毛が何かを見つける。

 

 

 

 「ウララさん。これを」

 

 「なぁにそれ」

 

 「おまるですわ。マニアが居ますわね」

 

 「ニッチな需要を満たそうとするんじゃないよバ鹿。

 マックEーンちゃんの見解では。この艦のクルー構成は?」

 

 「何か響きに不穏を感じますわね……」

 

 

 

 まさか本当に、老人ばかりなのか。

 

 老人に詳しい、葦毛に聞いてみる。

 

 

 

 「艦内のBGM。演歌が中心ですわ。

 わたくしのトレーナーが、老婆と共通の話題を得るため。

 聴いていた曲と、年齢層が一致しますわ。

 この艦内、思った通り限界集落ですわね」

 

 「お前、なんでそんなトレーナーに惚れてたの?」

 

 「顔とケツと声が良かったんですの。性癖は矯正できると思ってて……」

 

 「見通しが甘いよ。性癖を矯正できるんだったら。トレセン学園はもっと平和だったよ」

 

 「ぐうの音も出ませんわね。早いところドバイに渡りませんと……」

 

 「あきらめろって言ってるんだよ。バ鹿」

 

 

 

 諦めの悪い葦毛である。ハルウララはやれやれと首を振る。

 

 自分のように、全てを掴み取るための器量が足りぬ。

 

 優しいウララちゃんが、忠告してやるとしよう。

 

 

 

 「マックイーンちゃん。幸せを掴む方法を教えてあげよう」

 

 「なんですの? 今の私なら、藁にだって縋りますわよ」

 

 「まず声とケツと顔がいいトレーナーを探します」

 

 「ええ。基本ですわね」

 

 「堕とします。ここに愛の奴隷に堕ちたトレーナーをご用意しました」

 

 「オレだ」

 

 「それができないから悩んでいるんですが? かなぐり捨てるぞ貴様」

 

 「貴族の誇りを?」

 

 「学生時代を思い出しますわね……」

 

 

 

 緊張がほぐれたところで、行進再開。

 

 高級ワインが待っているのだ。

 

 足踏みしている時間などない。

 

 

 

 「ウララ先輩。あれを」

 

 「どうしたアフちゃん。くだらない事だったら粗相させるぞ」

 

 「報告するのやめようかな……」

 

 「さっさと言え。言わないと、さらにひどいことをしてやろう」

 

 「暴君すぎる。ほら、あれ」

 

 

 

 駄犬メイドが指し示す、右方向に目を移す。

 

 あれは。

 

 

 

 「止まってもらおうか。おぬしらの楽しい旅行は、ここで終いじゃ」

 

 

 

 一人の老爺。やはりジジイか。

 

 

 

 「ご老体。ここは危険だぞ。今から我が愛する暴君が。

 ここを蹂躙し尽くすからな。下がっているといい」

 

 

 

 トレーナーが敬老精神を発揮し、うかつにも近づこうとするのを。

 

 ケツを鷲掴みにして止める。

 

 

 

 「あっふん」

 

 「トレーナー。陣形を崩すな。

 ものども。陣形を右正面に。

 マックイーンちゃん。おかしな挙動を見せたら。

 遠慮はいらん。残虐ファイトを魅せてやれ」

 

 「言われるまでもありませんわ」

 

 「老体は大事にするべき。アフちゃんは思うのである」

 

 「味方ならな。敵なら滅ぼしてから敬ってやろう」

 

 「世紀末すぎる……」

 

 

 

 「やれやれ。コンプライアンスを知らぬやつらよ。

 どれ。このわし……市川 五右衛門が。

 貴様らを。思うさまに海老反りさせてやろうぞ」

 

 

 

 老人が、ニホン刀を抜き放ち、見得を切る。

 

 

 

 「歌舞伎なんだか。釜茹でなんだか。はっきりしろよ」

 

 「ウララ先輩。問題はそこではない。痴呆による剣筋の乱れ。

 バ鹿にできるものではないぞ」

 

 「なるほど。強敵そうですわね」

 

 「わしはまだボケておらんわ。ところでよし子さん。

 メシはまだかいのう?」

 

 「誰がよし子ですの。おじいちゃん、3日前に食べたでしょ?」

 

 「毎日食わせてやれよ」

 

 「そうじゃった。風呂はまだかいのう?」

 

 「こやつ。介護士に迷惑を掛けるタイプ……!」

 

 

 

 小手調べで危険性を感じ取る。

 

 甘くみたらやられる。

 

 

 

 「そうじゃった。言い忘れていたな。

 ハルウララさん。メジロマックイーンさん。アフガンコウクウショーさん。

 ファンです。サインをくれんかのう?」

 

 「「「ぬっ……! ファン……!」」」

 

 

 

 思わず色紙を取り出して。サインを書き始める学園OG3人。

 

 時間に余裕があり。対面で、直接。

 

 少人数からサインを強請られた場合。対応しなければならない。

 

 みどりのアクマオーに仕込まれた、輝ける現役時代から残る習性。

 

 見事に利用された。

 

 

 

 「そうそう。わしの同僚の分も頼むぞい。

 そうさな……主要メンバーのみでよい。

 ユキオーちゃんも大ファンじゃし。7人分でよいぞ。

 ハルウララさんについては、6人分でよい」

 

 「くっ……! なんてことですの! 強欲なファンですこと! 

 各人のフルネームを教えてくださる?」

 

 「G3勝利バの私に、そんな熱心なファンがいるとは……! 

 このアフガンコウクウショー、感動の極みである!」

 

 「やるね。わたしたちの習性。こうまで見事に活用されるとは。

 わたしだけ一人分少なくていいんだね。知り合いでもいるのかな? 

 ところでイラストは要る?」

 

 「ぜひとも頼むぞい。孫に自慢できる。我が家の家宝にするわい」

 

 「「「えーと、市川 五右衛門さんへ……」」」

 

 

 

 トレーナーは唸った。なんという見事な封殺。

 

 これは、トレセン学園について詳しくなくば。

 

 とても出来る業ではない。

 

 

 

 トゥインクルシリーズの出走バと。

 

 少数で接触できる幸運など、稀なのだ。

 

 一般のヒトでは、サインをもらうチャンスなど。ほぼ無い。

 

 

 

 彼女らは大体、町ではウマ娘レーンで走っており。声を掛けるのはマナー違反。

 

 また、商店街等で出会ったとしても。周囲には人だかりができる。

 

 みどりのアクマオーの調教成果が出るのは、このような。極限定された状況のみ。

 

 思い付きでできることではない。

 

 

 

 「ご老体。もしやあなたは、元トレーナーでは?」

 

 「鋭いのうおぬし。若いのに大したもんじゃ。

 そうじゃよ。わしらはトレーナーじゃ」

 

 「そうでしたか……偉大なる先達を。

 老体扱いしたこと。ご寛恕を賜りたい」

 

 「よいよ。わしなぞ大したトレーナーではない。

 わしの担当したウマ娘は、全員最高じゃがな。

 若いおぬしが、知らぬのも当然のことよ」

 

 

 

 トレーナーは確信した。鎌をかけてみたが。

 

 間違いなく元トレーナーである。

 

 しかも、そこらに転がっているような。

 

 数年で夢を諦めたような、紛い物ではない。

 

 

 

 養成所を出たての、若いトレーナーなどは。勘違いしがちだが。

 

 トレーナーとは。自らを卑下することはあっても。

 

 担当ウマ娘。我らの全てたる、彼女らを。

 

 自らが貶めること。それだけはしてはならない。

 

 

 

 例えオープン戦未勝利で終わったとしても。

 

 それは自らの責任であり、愛バこそが至上の存在。

 

 それは永遠に変わらぬ事実。そうあらねばならぬ。

 

 自分も若造であるが、トレーナーの心構え。

 

 それだけは、実家で叩き込まれた。

 

 

 

 彼が見せた、担当バたちを想う顔。

 

 間違いなく、一廉のトレーナーであったに違いない。

 

 愛する暴君たちは動けぬ。ここは自分が何とかせねば。

 

 

 

 「……侮っておりました。元トレーナーといえど。

 大した人物ではなかろうと、そう思っておりましたが。

 違うようですね。一手御指南願いたい」

 

 「ほう。アレだけで感じたか。

 わしも侮っておったよ。……アレは、習得しておるか?」

 

 「偉大なる先人よ。愚かな質問をされますな。

 私の担当バ。最高のウマ娘である、彼女。

 ハルウララに認められたトレーナーが。

 習得していないはずがない。そうは思いませんか?」

 

 「……謝罪しよう。そうさな。そうであるに違いない。

 桜色の暴帝。蹂躙する者。彼女が生半可なトレーナーなど。

 選ぶ筈がない。やれやれ、わしも年を取ったのう……

 遠慮する必要などないな。全力で仕る! 

 いざ。尋常にッ!」

 

 「勝負ッ!」

 

 

 

 お互い、一気にバックステッポ。

 

 慎重に間合いを計る。

 

 一足一刀の間合い。

 

 

 

 相手の二ホン刀に、注意を払う必要などない。

 

 極まったトレーナー同士の勝負。

 

 その闘争に、物理的な威力など。

 

 意味を持たぬからだ。

 

 

 

 「……抜かぬのか?」

 

 「ご老体こそ。いつまでそのような鈍ら。

 握っておられるので?」

 

 「言うてくれるのう。大業物とはいかぬが。

 初代ヤスヒロ、二尺五寸四分。斬鉄剣の名も高い業物よ。

 そんじょそこらのトレーナーなら。

 ビビってくれると思ったんじゃが。

 

 やれやれ。人生思ったようには、いかぬもんじゃのう。

 まさか、半世紀も生きておらぬ若造に。

 初心を思い出させてもらおうとは」

 

 

 

 じりじりと、間合いを詰める。

 

 舌戦で、熟練のトレーナーに勝てるなどと。

 

 そこまで思い上がれはしない。

 

 ただの時間稼ぎだ。

 

 

 

 「長さではなく、生き様。

 そのように考えております。

 あなたも同様では?」

 

 「やれやれ。老いた身には耳が痛い。

 その通りじゃよ。だがな。若人よ。

 愛バを幸せにするためには、命を無駄にしてはいかぬよ」

 

 「まっことその通りですな。

 あなたに勝利し、我が愛バの覇道の礎。

 そうなっていただきましょう」

 

 「言うてくれる……!」

 

 

 

 痺れを切らしたのか。

 

 先達が懐に手を。

 

 今だッ……! 

 

 

 

 「ナッちゃん、ゴー!」

 

 「ぴよー!」

 

 「何ィッ!?」

 

 

 

 先達の後頭部に突き刺さるひよこ。

 

 愛バの愛する子である彼女。

 

 自分の子でもあるのは、当然のこと。

 

 もちろん、我が想いが伝わらぬ筈がない。

 

 

 

 「ぬぅ……! 無念……」

 

 

 

 崩れ落ちる、人生の先輩。

 

 さぁ、勝鬨を上げよう。

 

 肩で頬を擦り寄せてくる、ナッちゃん。

 

 嘴についた血を、優しく拭き拭きしつつ叫ぶ。

 

 

 

 「オレたちの、勝利だ!」

 

 「やっぱりこやつ、ウララ先輩のトレーナーなんじゃなって」

 

 「このダーティーな勝ち方。さすがはウララさんのトレーナーですわね」

 

 「お前らどういう意味? まぁよくやった。トレーナー。

 サインも書き終わったことだし、先に進むとしよう」

 

 

 

 彼女たちの、蹂躙行進曲は続く。

 

 

 

 

 つづかない



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ファル子さんじゅういっさい そのにじゅう 旧世代型低速通信

 読者の皆様のご愛顧により。
 この小説も、ついに10万UAを突破致しました。
 感謝の念に堪えません。

 感謝の印にッ!このデイジー!
 コンプライアンスを遵守しつつ!
 引き続き、好き勝手に書き散らす事を誓いますッ!
 これがオレの、書きたい物だッ!


~前回までのあらすじ~

 

 ついに宇宙戦艦への不法侵入を。

 

 優雅に華麗に美しく。

 

 しかして大胆にキメる、ハルウララ。

 

 ウマ娘小説として、どうかしている状況。

 

 本作に於いては、通常運転でございます。

 

 まずは戦艦内部の確認。

 

 酔っぱらいのリークした、幼児性イカ踊り。

 

 なるほどわからぬ。だがいける。

 

 今回の目的たる、海賊行為には十分。

 

 正義の私掠を見るが良い。

 

 桜色の暴帝は、イカした陣形を固め。

 

 従う配下は少数精鋭。

 

 格ゲ名優。

 

 奉仕駄犬。

 

 愛隷桃尻。

 

 飛翔桜雛の、四天王。

 

 群鶏一ぴよの、性癖無双。

 

 敵する者がいようとも。

 

 鎧袖一触に蹴散らしてくれよう。

 

 進むにつれ明らかとなる、限界集落の実態。

 

 現れるは、呆け気味のファンを名乗る。

 

 歌舞伎剣士・市川五右衛門。

 

 こんにゃくは、切れなさそうである。

 

 トレーナーは、先達への敬意を払い。

 

 彼の後頭部を、思う様に痛打した。

 

 ひよこで。

 

 このあらすじだけ読んだ状態で。

 

 前話の展開を当ててみよう! (配点:10点)

 

 

 

 

 

 

 

 「くくく、五右衛門がやられたか……」

 

 一の字を戴く、艦内の最長老。

 

 

 「ヤツは6Gの中でも、燦三郎に次ぐ若さ……」

 

 登山が趣味の、高峯 灰二。

 

 

 「ぶっちゃけあやつ以外は、戦闘がきつい……」

 

 酒と博打が止められぬ、甘草 四朗。

 

 

 「オレは武闘派じゃねぇからなぁ」

 

 六の字を冠する、在りし日の暴君を支えた者。

 

 

 

 燦三郎と、五右衛門。

 

 2人ほど、ベッドでダウンしているが。

 

 艦内主要幹部。誇り高き翁。

 

 彼らは今、作戦会議を開いていた。

 

 

 

 「ワシ、腰が痛い」

 

 「ワシはどうも、老人性の手の震えが」

 

 「おじいちゃんたち。無理はしなくていいンだよ?」

 

 

 

 

 6G会議。それが会議の名前。

 

 次々世代型の、高速通信をしそうな名称。

 

 そこで。旧世代型の彼らは、悩んでいた。

 

 

 

 気遣わしげに、お茶を配り。

 

 肩を揉んでくれる、ユキオー。

 

 可愛い担当バのためには、我らが踏ん張らねば。

 

 

 

 だが、現状は少々厳しい。

 

 ネタが尽きたためだ。

 

 サインはもう、全員分。

 

 書いてもらってしまった。

 

 五右衛門を回収した、清掃のお姉ちゃん。

 

 

 

 そう呼ばぬと、マジギレされるのだ。

 

 己らと同年代の癖に。

 

 でも怖いから、素直に従う。

 

 

 

 ちゃっかり自分も書いてもらったという。

 

 彼女から先ほど、負け犬とサインを受け取った。

 

 孫が喜ぶことだろう。

 

 

 

 「隔壁閉鎖の効果は?」

 

 「先程から、艦内を左周りに。

 爆走しとる栗毛と、背中の荷物。

 ヤツらのせいで、デカい穴が。

 そこかしこに空きまくっとる。

 侵攻の妨げには、なるまい」

 

 「あやつら、どこを目指しておるんじゃ?」

 

 「左手の法則で、いつかはゴールに辿り着くと。

 考えているのではあるまいか」

 

 「壁ブチ抜いておいて。迷路の必勝法が通じると。

 よく思えるもんじゃのう。

 賢さトレーニングが足りないようですね」

 

 「おお、たづなちゃんに似とる! 

 おぬし、やるのう!」

 

 「ふふふ。わしもまだまだいけるのう」

 

 「わたしたづなさん苦手……

 だって怖いもン。目が」

 

 

 

 よしよしと、かわいい彼女の頭を。

 

 ジジイ総出で撫で回しつつ、小遣いを与える。

 

 やはり無条件降伏などできぬ。

 

 

 

 最低でも、彼女の身の安全。

 

 それだけは保証させねば。

 

 会長も。命だけは、助けてあげて欲しい。

 

 我らが恩ウマであるのだ。

 

 

 

 あの桜色。現役時代が被っておらぬ者も。

 

 被っている者も、知っている。

 

 

 

 敵対して、無事に済んだ者は居らぬ。

 

 必ず、えらい目に遭わされるのだ。

 

 喧嘩を売られてすぐキレる。

 

 落とし前を、着けずには。

 

 黙って居られぬ、その精神。

 

 

 

 正直、レースなど出走せず。

 

 任侠の道に進んでいれば、裏社会を。

 

 その手腕で、今頃は。

 

 天下統一していただろう、逸材。

 

 

 

 「わしら総出で土下座したら。

 なんとか許してもらえんかな」

 

 「土下座程度で止まるなら。

 暴帝などとは。呼ばれておらんじゃろ」

 

 「あやつ、マジなんなの? 

 おい六の字。おぬしの怠慢では? 

 ちゃんと、お淑やかに育てておけ」

 

 「オレに言うない。もう人格なんざ。

 既に完成し尽くしてたよ。それに。

 お前らの愛バ、お淑やかに育ちましたか?」

 

 「「「わしらが悪かった」」」

 

 

 夢物語を囀ずった、不明を詫びつつ。

 

 彼女と関係性の深い、一人のジジイに視線が集中する。

 

 

 

 「ちなみに。おぬしが謝罪するならどうする?」

 

 「謝っても無駄だ。腹ァ括って待っておく。

 いいか。防ごうと考える方が無駄だ。

 ファル子リヲンなら、いけるかと思ったが……」

 

 「隕石か何かか?」

 

 「おいおいお前ら。勘違いしてねぇか? 

 隕石よりもタチが悪いぞ。なんたって。

 絶対に相手に、一直線に容赦なく。 

 遠慮呵責ゼロで、カッ飛んで行くんだ。

 天災と違って、運の良さなんて関係ねぇ」

 

 「「「「…………」」」」

 

 

 

 静寂が、場を包む。

 

 

 

 

 「わ、わたし。なんてことを……」

 

 「ゆ、ユキオーちゃんのせいじゃないぞい!」

 

 「六の字ッ! なんでそれを先に言わぬッ!」

 

 「ユキオーちゃんのウマ生に! 支障が出るではないか!」

 

 

 

 非難の声にも、怯む事はない。

 

 どこ吹く風、レベルマックス。

 

 伊達に彼女を育てた一人では、ないのだ。

 

 

 

 帽子の庇を下げ。

 

 サングラスを煌めかせ、告げる。

 

 

 

 「安心しろ。死にはしねぇ。

 むしろ、いい経験になるさ」

 

 「……なぜ、そう言える?」

 

 「ウララにやられたヤツはな。

 必ず、また立ち上がるんだよ。

 アイツは、そういうやり方をする」 

 

 「良い事言ったみたいな顔はやめい。

 ジジイのドヤ顔はムカつく」

 

 「アレに喧嘩を売るような。

 ガッツとバイタリティがありゃ。

 そりゃあ立ち直るのは、当然じゃろ」

 

 「違いねぇ! そりゃそうだ!」

 

 

 

 ツッコミを受けても、呵呵大笑する彼。

 

 やはりこやつ、暴帝に影響を与えたのでは。

 

 そう思う周囲を他所に、彼は続けた。

 

 

 

 「オレたちに出来る事は、ただ一つ。

 全力で迎え撃ち、アイツのストレスを。

 発散させて、ユキオーへの着弾時の威力。

 そいつを抑える事だけだな」

 

 「つまり?」

 

 「一緒にシバかれようぜ。

 なァに、無駄に長く生きてんだ。

 屈辱なんぞ、慣れっこだろうがよ。

 泥水の味、忘れてねぇか? 

 久し振りに、思い切り啜りてぇだろ?」

 

 

 

 にやけて告げる、彼に。

 

 嘆息しつつ。覚悟を決める、老雄たち。

 

 

 

 「おぬし。最初から、それが目的か」

 

 「思えば、ユキオーちゃんへのアドバイス。

 ピントが外れておった。

 こうなることを、予期しておったな?」

 

 「わしら、そんなに腑抜けて見えてたかのう?」

 

 「ああ、最悪だね。オレァお前らを。

 心の底から。尊敬してたんだぜ? 

 偉大なる、先達どもをよぉ」

 

 「言葉遣いから、敬意が感じられんのう」

 

 「なのにお前らと来たら。

 ただの孫バ鹿と化してやがる。

 ユキオーを甘やかしすぎじゃねぇか? 

 

 ロートルに、活躍のバ場。

 さらには育て甲斐のあるウマ娘。

 そいつを与えてくれた、会長。

 

 ファル子の嬢ちゃんに、申し訳ねぇと。

 ちったぁ思わねぇのかい」

 

 「話聞かんのも、愛バに似てるなこやつ」

 

 

 

 そして告げられる、真の目的。

 

 

 

 「ユキオーはこのままじゃ駄目だ。

 この世界じゃ生きていけねぇ。

 だから、アイツを呼び込んだ。

 

 可愛い子ウマは、千尋の谷に投げ落とせ。

 昔から言うだろ? 

 痛くなけりゃあ、覚えねぇんだよ。

 お前らが一番、解ってる筈だ」

 

 「痛い事を言うてくれるのう。

 背中を見せる。痛みを教える。

 両方やらにゃいかんと。

 そういうことか。

 ……やれやれ、相変わらず。

 業の深い生き方よ」

 

 「六おじいちゃん……?」

 

 

 

 可愛い愛バの、不安げな顔。

 

 彼女に裾を、ぐいと引かれ。

 

 彼は不敵に微笑んだ。

 

 

 

 「見てろよユキオー。

 オレたちはジジイだが。

 ただの老いぼれじゃあ、無い。

 

 いつくもの綺羅星たちを送り出した。

 最高のトレーナーだって。

 最後の担当ウマ娘。お前に。

 お前だけに、教えてやる。

 

 おい、燦三郎! 五右衛門! 

 寝てる場合じゃねぇぞ!」

 

 「やれやれ。年寄り遣いが荒いのぅ」

 

 「もう少し、現実から。逃げていたかったんだがなァ」

 

 

 

 再度立ち上がる、戦士たち。

 

 負けジジイの復活に、満足げに微笑み。

 

 彼は出陣を告げる。

 

 

 

 「行くぞお前ら! 年寄りの意地! 

 かわいい愛バと、アイツらに!

 思う存分ひけらかし! 笑ってくたばれ!」

 

 「ろっぺいおじいちゃん! みんな! 

 ユキオーを、置いて行かないで!」

 

 「六平だっつってんだろ。

 最後までわかんねぇやつだな。

 いいかユキオー。お前は、一人で走ること。

 これを覚えなきゃいけねぇ。

 

 オレたちは、お前より早く死ぬ。

 こいつは、三女神様でも動かせねぇ。

 純然たる、事実だ」

 

 「おじいちゃん……」

 

 「なぁに、安心しろ! 死にはしねぇよ! 

 ちょっとばかし、再起不能になるだけだ! 

 最後に闘うのは、お前。オレたちの集大成。

 我らの煌めく一等星。ユキオー。頑張れよ」

 

 「さらっと。恐ろしいことを言いよったぞこやつ」

 

 「わしら、生きて帰れるかのう」

 

 「心臓発作には、気をつけねばな」

 

 「オレ、生きて帰ったら百合に挟まるんだ……」

 

 「お前は一度、死んでおけ」

 

 

 

 彼らは、愛する担当ウマ娘に。

 

 萎れた大きな背中を見せ。

 

 威風堂々。よぼよぼと歩き出した。

 

 

 

 「待って!」

 

 「ユキオー。あまり覚悟を決めた男を。

 引き留めるもんじゃあないぞ」

 

 「ううん、違うよ。おじいちゃんたちの覚悟。

 わたしにも伝わったよ。

 おじさんも、笑って送り出せって言ってる。

 でも。せめて、これを。自信作なんだよ?」

 

 

 

 涙を必死に堪える、愛らしき瞳。

 

 彼女が皿を取り出し、渡してきたそれ。

 

 今日のお茶請けにと。用意していたのだろう。

 

 

 

 円筒形の、ニクイやつ。

 

 ほかほかと、おいしそうに。

 

 その姿を、晒している。

 

 

 

 その名を告げて、頂くこととする。

 

 冥途の土産には、上等すぎる。

 

 

 

 「今川焼きじゃねぇか。ありがとよ、ユキオー」

 

 「は? 大判焼きじゃろ。カスが」

 

 「何を言うとる。蜂楽饅頭じゃろう。ボケ」

 

 「回転焼きに決まっておろうが! バ鹿どもめ!」

 

 「太鼓焼きだろうが! これだからジジイどもは」

 

 「もはやこれは許せぬで、御座候!」

 

 

 

 飛び散る火花。充満する殺気。

 

 前哨戦には、相応しい。

 

 己が正しさを。証明する……! 

 

 

 

 「「「「「「やるかゴラァッ!」」」」」」

 

 

 

 突如勃発した、第一次ジジイ大戦。

 

 骨肉の争いに、残り僅かの寿命。

 

 どんどん無駄に、消費されていく。

 

 

 

 げに、地域のこだわりとは。

 

 恐ろしきものである。 

 

 

 

 ユキオーはおろおろと、争いの火種。

 

 残り一つをぱくりと咥え。

 

 ひとりごちた。

 

 

 

 「ベイクドモチョチョでしょ」

 

 

 

 それだけはない。

 

 心の中の利根川先生だけが。

 

 優しくツッコミを入れていた。

 

 

 

 

 

 

 つづかない 



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ファル子さんじゅういっさい そのにじゅういち 真意はどこに

しばらく、試される大地にて。
存分に試されておりました。
途中に入る、感情表現。
筆者自身が、そのような感じになりました。


~前回までのあらすじ~

 

 闇に蠢く黒い影。

 

 宇宙戦艦の中核にて。

 

 6人のジジイは、頭を抱えていた。

 

 ネタ切れだ。

 

 初手最大戦力を出したため。

 

 順当に。各個撃破されてしまったのだ。

 

 戦力の逐次投入は、愚策である。

 

 先頭栗毛の暴走も、彼らの頭を悩ませていた。

 

 相手は頭を一切使っていないのだが。頭突き以外。

 

 足止めすらままならぬ。

 

 そして、謝罪を検討するも。

 

 彼女をよく知るサングラス。

 

 やっても無駄だと、すげなく告げる。

 

 憤るジジイども。

 

 追求される、落ち度にも。

 

 どこ吹く風の、元暴帝担当トレーナー。

 

 六平 銀次郎はこう言った。

 

 ユキオーを、育てるためだと。

 

 真意を悟り、納得するジジイども。

 

 おろおろと。理解ができぬ、担当バ。

 

 彼の狙いは、己らの。

 

 背中で彼女を、突き落とし。

 

 一人で生きていける力。

 

 これを、与えること。

 

 ユキオーは、涙を呑み。

 

 彼らに戦争の火種を。罪悪感無く投入した。

 

 筆者はちなみに……おっと。誰か来たようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 艦内を進む一行。

 

 結局、案内板は見つからなかったため。

 

 

 

 出会う老人どもに、サインを与えながらの進軍。

 

 ファンサービスを重視した結果だ。

 

 とりあえず、歩いてりゃいつかは着く。

 

 ウマ娘は、いつだって。

 

 自らの足で進むのだ。どっか適当なところに。

 

 

 

 また一つ、棒倒しにて。

 

 適当に決めた方向に進む時。

 

 違和感に気づく、ハルウララ。

 

 

 

 「……全員とまれ。薄汚い殺気が。

 ぷんぷんしてきたよ」

 

 「やれやれ、勘の良いウマ娘は好きじゃが。

 こと今回に限っては、嫌いじゃよ。

 ……燦三郎。四朗。五右衛門。

 奇襲は失敗。プランBで行くぞい」

 

 「プランBって。なんじゃったっけ」

 

 「知らぬ。横文字はどうも苦手でのう……」

 

 「おいおいジジイども。忘れちゃならねぇ。

 お歌の時間。そうだろう? 灰二の旦那」

 

 「お前ら全員、不正解。真向勝負だと言ったじゃろ」

 

 「「「いや、言っとらんじゃろ。ボケたかジジイ」」」

 

 

 

 ハルウララは唸った。

 

 ジジイどもの、狙いが読めぬ。

 

 こやつら、既に曖昧な状態である。

 

 これは面白くなってきた。

 

 

 

 「墓穴に。首まで埋まった老人が。

 このハルウララの、覇道に立ちふさがるとは。

 さっさと、食糧庫の場所を自白して。

 速やかに。腰を労りつつ、失せることだね」

 

 「おぬしらなにしに来たの?」

 

 

 

 高峰 灰二は唸った。

 

 このウマ娘、目的が読めぬ。

 

 我らに落とし前を。そのために来たのでは。

 

 しかも腰まで、気遣ってきた。

 

 何か。重大な齟齬が、あるような気がする。

 

 

 

 「……暴帝。何が目的じゃ」

 

 「知れたこと。分不相応な、ラグジュアリー。

 一切合切奪いつくし。勝利の美酒で、杯を満たし。

 タダ酒に。思う存分、酔いしれることだよ」

 

 「おぬしら、海賊だったっけ?」

 

 「かわいいウマ娘に決まってるでしょ」

 

 「……食糧庫、あっち。

 うしろの2本のイカゲソの。

 まんなかのトサカの下のウロコの右じゃ」

 

 「トレーナー。地図」

 

 「うむ。……ここだな。

 この位置で合っているか? ご老体」

 

 「うむ。そこじゃ。案内板は、音声認識で出る。

 合言葉は、ファルファルファル子じゃ」

 

 「誰の趣味だ。それは」

 

 「ユキオーちゃんじゃよ。当然じゃろ」

 

 「そうか……ありがとう。

 腰を大事にね」

 

 

 

 去っていく、ハルウララご一行。

 

 

 

 「いいのかい? 灰二の旦那」

 

 「いいぞい。たぶん勝手に。

 酔っぱらって、絶不調になってくれるじゃろ」

 

 「なるほど。銀次郎の情報によると。

 ハルウララは、安酒を好んで飲む。

 貧乏性が、染みついておるとな。

 急な高級酒は、脳にキくじゃろう。

 さすがの神算鬼謀の灰二。そう呼ばれた男じゃ」

 

 「ふふ。よせやい。ケツが痒くなるじゃろ」

 

 「さて、それではユキオーちゃんを。

 愛でて、小遣いを与える仕事。

 我らの本業に、戻るとしようか」

 

 「賛成じゃ。やはりあれでお別れは。

 少し足りぬと、思うてたところよ」

 

 

 

 ジジイどもも、のそのそと。

 

 かわいい愛バの元へ向かう。

 

 誰も不幸にならぬ、優しい世界であった。

 

 

 

 

 

 「おめぇら、堂々とした不法侵入だなあ! 

 オラ、ワクワクしてきたぞ!」

 

 「ゴクウこそ。その、一切の警備を放棄した。

 勝手気儘な番人ぶりに、わたしも感心したよ」

 

 「なるほど。熱心に働くアリが多いと。

 感心しておりましたが。

 ここに居たのですね。怠けるアリ」

 

 「そんなにほめられっと、照れるなぁ!」

 

 

 

 ノーダメージ。

 

 サインを十枚ほど生産しつつ、辿り着いた場所。

 

 空き缶と、空き瓶が転がる中央に。

 

 ケツをかきながら、座る男。

 

 食糧庫の番人は、もう出来上がっていた。

 

 

 

 ゴクウはMUJAKIな無駄飯喰らい。

 

 これには、三蔵法師もニッコリだろう。

 

 

 

 「まずは駆けつけ一杯、二杯、三倍海王献杯!」

 

 

 

 嬉しげに、職務を放棄する彼。

 

 ゴクウに注がれた、黄金色の液体。

 

 喉に流し込み。その滑らかさに息を飲む。

 

 これが、これこそが……! 

 

 

 

 「これが高級酒の味……」

 

 「ウララ。それは発泡酒だ」

 

 「さすがは、以前行われた。

 G1ウマ娘、格付けチェック。

 最初の数問で真っ先に。

 音速で映らなくなった、ウララさん。

 納得のバ鹿舌ですわね」

 

 「あれはおかゆが悪い。

 良いんだよ。酒なんて、喉元過ぎて。

 酔っぱらえればオッケー。

 ところで、高いのはどれ?」

 

 「これだな。ボルドーグラスは……

 ありがとう。ゴクウ氏」

 

 

 

 トレーナーにお酌させ、今度こそ。

 

 ぐいと飲み干す、命の水。

 

 なるほど、これは。

 

 

 

 「よくわからん」

 

 「ウララ。一気に飲んではいけない。

 まずはそのままの薫りを。

 次にグラスを手で暖め、広がる薫香を楽しむ。

 薫りの次は、いよいよ味だ。

 そっと傾け、少しだけ口に。

 舌の上で転がして、そっと喉に流し込み。

 馥郁たる余韻に浸るものだ。

 少し待て、デキャントを……」

 

 「うるせぇ。瓶ごと寄越せ」

 

 「そこに惚れた。好きに飲むといい」

 

 

 

 トレーナーより、瓶を手渡され。

 

 ラッパ飲みにて、豪快に楽しむ。

 

 うむ。やはり。

 

 

 

 「やっぱよくわかんねーな」

 

 「まぁ、値段とか気にせず。

 楽しんで飲めば、いいのではないか」

 

 「ウィスキーの方が、向いていると思いますわ」

 

 

 

 そのまま、次の瓶を差し出してくるトレーナー。

 

 よく出来た配下だ。

 

 花の愛で方。それを解っている。

 

 このハルウララ。

 

 心の広さには、自信があるが。

 

 

 

 一つだけ、赦せぬことがある。

 

 花の咲き方に、注文をつけられることだ。

 

 己は、全てを魅了する。

 

 満開の桜花絢爛である。

 

 

 

 猛禽類や、ユキオーとやらの粗相など。

 

 無粋な花見客に比べれば。

 

 シバきはするが、可愛いものである。

 

 

 

 酒は、細かい事など考えず。

 

 好きに飲むのが一番だ。

 

 ウィスキーを頂く。

 

 

 

 がぶ飲みする。

 

 スモーキーな薫りが広がる。

 

 チェイサーとして、最高級ワイン。

 

 鼻から抜ける、芳しい薫りに。

 

 目を細め、吐息を吐く。

 

 

 

 花はきままに咲き誇る。

 

 ウマ娘という、花。

 

 観衆という名の、花見客。

 

 

 

 存分に、我らを。

 

 勝手気儘に、愛でるがいい。

 

 だが、咲き方に。文句をつけてはならぬ。

 

 ウマ娘は、盆栽では無いのだ。

 

 

 

 在りし日の、菊花の冠。

 

 三冠目を、サイボーグ栗毛から奪取したおかゆ。

 

 憤る観衆どもに、告げた理事長の言葉。

 

 

 

 『笑止ッ! 勝者を批判する権利などッ! 

 敗者にすら無いッ! 誇り高き冠の価値ッ! 

 穢すことなど、例えURAが許しても! 

 トレセン学園は、決して赦さんッ!』

 

 

 

 幼き身にして、高らかに。

 

 真理を告げる理事長。

 

 感涙したおかゆは、その後。

 

 凄まじいまでの。合法さを以て。

 

 批判した者どもに、地獄を見せていたものだ。

 

 

 

 その点、こやつは合格である。

 

 トレーナーを見つつ思う。

 

 花の愛で方を、知っている。

 

 

 

 寿司の食い方。そばの手繰り方。

 

 以前、食事に同席したURAの高官どもに。

 

 訳知り顔で、正しいやり方とやらを強要された際。

 

 

 

 己は、広い心で以て。

 

 正しい花の楽しみ方を、教えてやったのだ。

 

 今ではやつらも、立派なザギンの職人である。

 

 

 

 こやつは違う。そのままの自分を愛でている。

 

 花の命は短くて。

 

 己はもう、満開を過ぎた。

 

 

 

 だが。

 

 こやつならば、枯れた後。

 

 焼け落ちた、己の遺灰すらも。

 

 愛でて、酒杯を傾けて。

 

 そっと涙を零すだろう。

 

 上機嫌で告げる。

 

 

 

 「うん、いいね。他の酒も行ってみよう」

 

 「これ、一本百万とかでは無かったか……?」

 

 「猛禽類の金だ。わたしの懐は痛まん」

 

 「さすがのウララニズム。

 エルも、このぐらい自儘に。

 私を愛玩してくれると良いのだが」

 

 「お前、どこまで行こうとしてんの?」

 

 

 

 既に相当アカン具合まで。

 

 調教され尽くしている筈だが。

 

 こやつ、どのような花を。

 

 淫らに咲かせようと、しているのか。

 

 嬉々として。カニバまで行きかねぬ。

 

 三十路独身怪鳥の、獄中死は近い。

 

 

 

 ウマ娘警察は、普段は軽い拷問で済ませるが。

 

 リョナの段階に踏みいると。

 

 凄まじい勢いで、下手人をリョナるためだ。

 

 

 

 コンプライアンスを遵守し。

 

 世界の崩壊を防ぐため。

 

 彼女たちは、容赦やウマの心を。

 

 容易く彼方に放り投げる。

 

 ハンムラビ法典を、準用しているらしい。

 

 

 

 「アフちゃんの大望成就と、怪鳥の暗い未来に!」

 

 「「「「乾杯!!」」」」

 

 「ぴよっ!」

 

 

 

 そして始まる酒盛り。

 

 酒には出し物が必須である。

 

 

 

 トレーナーの、ケツ踊り。

 

 アフちゃんの、メイド南京玉すだれ。

 

 マックイーンとゴクウの。

 

 限界バトルは描写できぬ。

 

 版権的に、ギリギリなためだ。

 

 

 

 ゴクウの出身は、花果山である。

 

 決して野菜星ではない。

 

 一方、その頃。

 

 

 

 「でね。その時会長がね?」

 

 「うむうむ。ユキオーちゃん。

 やはり、会長の話をする時が。

 一番愛らしい笑顔を、魅せてくれるのう」

 

 「やはり、オレァ間違っちゃ居なかった。

 百合こそが至高」

 

 「黙れ、燦三郎。

 次にワシの前で、百合好きを僭称してみろ。

 その首。胴体から脱出マジックさせてくれよう」

 

 「オレ、なんか悪いことしちゃいました?」

 

 「やはりこやつ、なろう系……!」

 

 

 

 和やかな歓談。

 

 そこに入る、無粋な通信。

 

 

 

 『おいお前ら。いつまで経っても来ねぇんだけど。

 ウララたちはどうした?』

 

 「おお、銀次郎。奴らなら、今頃酒盛り中。

 あと三時間も待てば、寝こけるじゃろう。

 そうなれば、勝利は容易いぞい」

 

 『酒だとっ!? バ鹿野郎ッ!』

 

 「なんじゃ。あやつらは、ひよこを除き。

 だいたいは、とっくの昔に成人済み。

 コンプライアンスは完全遵守。

 責められる謂われは無いぞい」

 

 「どったの六おじいちゃん? そンなに焦って。

 あっちが勝手に絶不調になってくれるンだよ? 

 もう血管脆いんだから。気をつけてね」

 

 

 

 血相を変える、通信モニタに映る。

 

 ハルウララの、元トレーナー。

 

 一同は、首を傾げた。

 

 何の問題があるというのか。

 

 

 

 『お前らは、アイツの酒癖の悪さを知らねぇ! 

 アイツは、怒り上戸だッ!』

 

 

 

 

 

 

 「シャンパンタワー、入りましたァッ!」

 

 「全ての人バに、ありがとう!」

 

 「いいウマ乗ってんね!」

 

 「ぐいぐい良し来い! ばんばんドス恋!」

 

 「もっと頂戴! いっぱい来い!」

 

 「ババっと一発、重バ場!」

 

 

 

 シャンパンコールは高らかに。

 

 バ場は、十分温まった。

 

 そして、いよいよ真打ちの。

 

 実力をまさに、魅せる時。

 

 

 

 「四番バッター! ハルウララ! 

 ポールダンスにて仕るッ!」

 

 「脱げっ! 脱げッ……!」

 

 「こやつ、本気過ぎる」

 

 「脱げるわけがないでしょう。

 コンプライアンス的な意味で。

 大人しく。座ってシャンパン! 

 呷ってパンジャン! 

 ごちそうさまが! 聞こえない! 

 はしたなくってよ、ツバメさん!」

 

 「このゲーミングお嬢様。

 ホストクラブ通いの疑いが」

 

 「オレをツバメと呼ぶな」

 

 

 

 流れる、オリーブオイルの首飾り。

 

 著作権は、未だ失効していないためだ。

 

 ゴクウより拝借した、如意棒を用いた。

 

 とびっきりの、淫らの具現。

 

 

 

 「良いぞウララッ! オレは今! 猛烈にッ! 

 感動しているッ……! なんたるセクシー! 

 キュートかつ大胆な腰使いッ! 

 オレの如意棒もマックスハートッ!」 

 

 

 

 トレーナーのアツいコール。

 

 いいぞ。もっと声援を。

 

 家で披露した時より。

 

 高まる熱気。

 

 

 

 偏執的な、コール。

 

 わたしが、一番セクシィ! 

 

 もはやゼクシィなど、買う必要も……! 

 

 

 

 ハルウララが、ノリノリで。

 

 ポーズをキメた、まさにその時。

 

 ブチ破られる壁。

 

 

 

 ひょっこり穴から、顔を出す。

 

 元気そうな栗毛と、ぐったりした黒鹿毛。

 

 告げられる言葉。

 

 

 

 「うーん。ここ結構広いわね。

 わりと、満足したわ。

 あら。お遊戯会かしら。

 相変わらずウララさん、お色気ゼロよね」

 

 「く、栗毛はいつか……絶滅……ガクッ」

 

 

 

 背中の荷物をゆすりつつ。

 

 うふふ、とMUJAKIなツルペタ栗毛。

 

 

 

 「おめー、気が合うなぁ! 

 オラの五歳の娘! ゴパンって言うんだけどよ! 

 アイツより、色気がねぇと思ってたんだ!」 

 

 「何を言う! ウララのセクシーポーズに対して!」

 

 「ぴよっ!」

 

 トレーナーと、愛する我が子の反論も虚しく。

 

 

 

 「年増の色気が出ておらぬ」

 

 「当家のババアのポールダンスよりは。

 ちょっとばかり、マシでしたわよ?」

 

 

 

 釣られた愚か者の、量産体制。

 

 なるほど。

 

 

 

 「……トレーナー。

 おさわりを許す。腰を。

 ナッちゃん、こっちへ」

 

 「うむ。役得。

 色気の大放出。疲れただろう」

 

 「ぴよっ」

 

 

 

 罪無き者のみ。生きることを赦す。

 

 選別はもう終わっている。

 

 彼女はにっこりと、微笑み。

 

 

 

 次の瞬間。

 

 枯れ果てる、表情と髪色。

 

 ヒトもウマも。

 

 怒りが限度を超え尽くすと。

 

 最初に笑い、続いて表情を失う。

 

 

 

 激しい怒りと悲しみにより。

 

 ハルウララは覚醒した。

 

 覚醒イベントは、お約束である。

 

 

 

 もはや庭園も必要ない。

 

 瞬時にバ鹿を、わからせる力。

 

 部分顕現にて、最大威力。

 

 

 

 自らを赫怒させるアホが。

 

 三人を超える時。

 

 発動する、新たなる力。

 

 

 

 皇帝は、雷鳴にて。

 

 暴帝は、桜吹雪にて。

 

 衆生にその、真意を悟らせる。

 

 

 

 「汝、暴帝の瞋恚(しんい)を見よ」

 

 

 

 如意棒を核とし、咲き誇る。

 

 先程よりも、色鮮やかな桜花繚乱。

 

 それは、バ鹿どもを床に押し潰し。

 

 

 

 直線上の、部屋に居た。

 

 ジジイ四人を、巻添えにした。

 

 ユキオーは、奇跡的に無事であった。

 

 

 

 高峯 灰二。

 

 北 燦三郎。

 

 甘草 四朗。

 

 市川 五右衛門。

 

 

 

 ジジイども 雑な感じで 再起不能(リタイア)! (字余り)

 

 

 

 

 

 

 つづかない



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ファル子さんじゅういっさい そのにじゅうに 支える者の激闘

ついに、トレーナー同士の闘争。
その詳細が開帳されるとき。
企画短編2本同時参加は、さすがにやりすぎ申した


~前回までのあらすじ~

 

 ついに、2度目の接敵を果たした、ハルウララ。

 

 だが、ジジイどもなど眼中になく。

 

 食糧庫の場所のみ吐かせ。

 

 鷹揚に、彼奴らを見逃してやる。

 

 酒が飲みたかったためだ。

 

 果たしてたどり着いた、食糧庫。

 

 その番人、ゴクウ。

 

 働かぬアリが発生する、社会組織の構造。

 

 それを全身で体現しつつ。

 

 彼女たちを、歓迎する。

 

 宴会が、大好きなのである。

 

 艦内では、あまり宴会は行われない。

 

 ジジイに飲ませすぎると、命の危険があるためだ。

 

 始まる宴会。高まる怪鳥の身の危険。

 

 ハルウララは、再度確信する。

 

 トレーナー選び。間違ってはいなかった。

 

 上機嫌でポールダンスに興じるも。

 

 壁を壊した栗毛の暴言。

 

 悪意無くして、ウマはウマを傷つけられる。

 

 釣られたバ鹿も含め。

 

 彼女を怒らせた者は、3人を超え。

 

 ハルウララは、新たな力に覚醒する。

 

 3人抜かし、最終直線で加速する皇帝。

 

 3人にキレ、最終奥義をぶっぱする暴帝。

 

 やはり帝王たるもの。こうでなくてはならぬ。

 

 そう思いつつ、彼女は桜の華を咲かせ。

 

 バ鹿どもを存分にわからせた。

 

 たぶん反省はしないけども。

 

 あとジジイが4人、巻き添えで医務室送りになった。

 

 

 

 

 

 

 「全身が痛いのである」

 

 「うーん。学生時代よりも威力が上がってますわね」

 

 「ウララさんも、成長しているのね。胸の性徴は0だけど」

 

 「スズカさん。私はこれ以上、栗毛を憎みたくありません。

 言動には細心の注意を払ってください。

 ファル子さんも栗毛なのですから」

 

 「というか、サイレンススズカも同じ穴のたぬ吉さんだと。

 オレは思うのだが」

 

 「私は機能美だもの。むしろ胸は邪魔よ。

 ふとももさえ太ければ、スぺちゃんは満足してくれるわ」

 

 「やはり、グラ〇ルではなく、ラス〇リに。

 ダイワスカーレット先輩と共に、出演するべきだったのでは? 

 私などは、そう思うのである。

 ところでウララ先輩。痛いのである。もっとして」

 

 

 

 バ鹿どもを、如意棒で小突きつつ。

 

 歩を進める、ハルウララ。

 

 隊形は、バ鹿が増えたため。

 

 ヒシアマゾンストライク・改。

 

 向かう先は、動力部。

 

 

 

 もちろん宇宙戦艦を堕とし。

 

 胸をすっきりさせるためだ。

 

 堕ちた先のことは知らぬ。

 

 どうせ、ギャグ補正で全員生き残るだろう。

 

 

 

 「いいかバ鹿ども。次にわたしを怒らせてみろ。

 スイープトウショウの魔法陣に、生肉付きで。

 痺れ薬で胃を満たしてから、放り込んでやるからな」

 

 「触手物は、ガイドラインとの親和性が悪い。

 忘れてしまったのかしら」

 

 「覚えているとも。だが、描写しなければ問題は無い。

 大丈夫だ。ハルウララ以外の登場ウマ娘は、幸せになりました。

 触手の嫁として。そう描写されるだけだよ。

 ハッピーエンドだな。喜べ」

 

 「ちょっと震えてきたのである……

 エルをタキオン先輩の薬で、触手化する。

 その辺で手を打っていただけないだろうか。

 私は純愛志向なのでな。NTRはNGである」

 

 「お前はエルコンをどうしたいんだよ」

 

 「はちゃめちゃに愛されたい」

 

 「そうか……」

 

 

 

 ちょっと危うい思想を持つ、駄犬の主張。

 

 ハルウララは、如意棒を引っ込めることとした。

 

 こやつらに、何を言ってもわりと無駄。

 

 そう、改めて悟ったからである。

 

 あとタキオンの薬と言われると、マジで出来そうでヤバい。

 

 

 

 アグネスタキオン。

 

 大手製薬会社の、熱烈なラヴコールにより。

 

 様々な、ウマ娘に役立つ薬。

 

 これを、外部顧問のメジロ家主治医と。

 

 彼女の愛するモルモット氏と共に。

 

 日夜開発し、ウマ娘の救世主と。

 

 そう呼ばれてはいるが……

 

 

 

 自分は、ツインテ栗毛経由で知っている。

 

 モルモット氏と楽しむための、夜の秘薬。

 

 研究開発費のほとんどを、そちらに注ぎ込んでいるのだ。

 

 

 

 屈腱炎を治癒する薬。

 

 繋靭帯炎を治癒する薬。

 

 涙を呑み、引退する筈だった。

 

 数々のウマ娘を救った、奇跡の秘薬。

 

 

 

 あれらは、モルモット氏の不退転の心構え。

 

 それが輝いたり、ピサの斜塔になったり。

 

 果ては触手になったりしたときに。

 

 偶然採取された、成分を分析し。

 

 なんかすごい薬効があったため、偶然産まれた物に過ぎぬ。

 

 

 

 救われたウマ娘たちも、開発経緯と。

 

 薬がやたらと生臭い理由。

 

 それを、知ってしまえば。

 

 微妙な笑顔を見せることだろう。

 

 真実とは、時にウマを傷つけるのだ。

 

 

 

 回想を終え、前に目を向ける。

 

 トレーナーのケツ。やはりいい。

 

 そう思っていると。

 

 

 

 「来たか。わしの弟分どもが。

 世話になり尽くしたのう」

 

 「接敵。インド人を右に」

 

 「私はアフガン人だが」

 

 「お前はジャパニーズウマ娘だろ。目を覚ませカス」

 

 「きゅうん……」

 

 

 

 駄犬を叱責し、心の余裕を作る。

 

 余裕は大事だ。メジロ家の秘伝でもあると聞く。

 

 さて、自己紹介のお時間だ。

 

 さっさとどんな変態か。自白するがいい。

 

 

 

 「あなたはだぁれ? どんな性癖を持っているのかな」

 

 「お前らと一緒にせんで貰えるかのう。わしは正気じゃよ」

 

 「この世界にまともなヤツがいるとは、寡聞にして聞かないね」

 

 「まぁ否定はせんけど。三十路でその瞳。どんな地獄を見てきたんじゃ」

 

 

 

 黙って不快な仲間たちを見る。

 

 目がさらに濁った気がする。

 

 

 

 「……すまんななんか。泣かないでおくれ。

 ほら、飴ちゃんはいるかの?」

 

 「欲しい」

 

 「ほれ、転ばぬように気をつけるんじゃぞ」

 

 「わぁい」

 

 

 

 飴をペロリつつ、ハンドサインで合図。

 

 死角から、壁に向かって走り去るツルペタ栗毛。

 

 轟音と共に、壁に新しい穴が開く。

 

 

 

 「だまし討ちもできねーのか。栗毛め」

 

 「やっぱりおぬし、一番邪悪じゃね?」

 

 「かわいいウララちゃんを捕まえて。何を言うのか。

 ……うぐぅっ!?」

 

 

 

 膝が折れる。まさかこれはッ……! 

 

 

 

 「まさか、毒ッ!?」

 

 「いや、酔い覚まし飴じゃ。飲めば飲むほど、強烈に分解する。

 立てなくなるほどでは無い筈なんじゃが……おぬし、どんぐらい飲んだんじゃ」

 

 「何リットルだっけ」

 

 「ガロン単位で飲んでましたわよ。

 もちろん、英ガロンで」

 

 「今さらながらのイギリス要素ッ……!」

 

 

 

 床に接吻する前に、トレーナーに支えられる。

 

 

 

 「ご老人。些かオイタが過ぎるな」

 

 「話聞いておったおぬし? 純粋に好意なんじゃが。

 やれやれ。九夢院の次代がこれでは。

 次の世代は、どうなってしまうのかのぉ」

 

 「……なぜ、オレのことを?」

 

 「知らんわけなかろ。わしらはトレーナーじゃぞ。

 トレーナーの名家。基礎知識じゃろうそれは。

 まぁ、二の字たちは、おぬしがそれだと。

 気づいておらんようじゃったが」

 

 

 

 ハルウララは、トレーナーの腕の中で思う。

 

 久しく聞いていなかった名だが。

 

 こやつの本名、相変わらず厨二くせーな。

 

 

 

 「オレの生家など。今ここに、関係があるのか?」

 

 「無いと思っておったよ。だがおぬし。顔が険しくなったぞ」

 

 「年の功。厄介な物だな」

 

 

 

 トレーナーが、自身を駄犬メイドに優しく渡し。

 

 ゆらりと立ち上がる。

 

 下から見上げるケツもまたいい。

 

 

 

 「おぬし。嫡子じゃろう。それが暴帝とは言え。

 レースから身を引いた、ウマ娘の担当。

 九夢院の当代は、さぞかし気を揉んでおることじゃろう。

 おぬしは、勝手気ままに生きられる身分ではない。

 そういうもんじゃろう? 名家とは、体面を気にする。

 哀れなことじゃな。生まれに縛られるとは」

 

 「何か勘違いしているようだな。ご老体。

 もはやオレは、何者にも縛られん」

 

 「口ではなんとでも言える。

 あと何年、猶予があるのかの?」

 

 「…………」

 

 「それとももう、勘当されておるのか? 

 いやいや、おぬしは兄弟が居ない。

 となれば、九夢院はおぬしを放せぬ。

 血を繋ぐ義務があるからのう。

 実績が足りなければ、家は継げぬ。

 困ったのう。弱ったのう。

 枯れつつある、桜の大木。

 患っている暇は。もはやおぬしには……」

 

 「黙ってもらおう。

 オレの咲かせる華は、ただ一本。

 魂に誓ったのだ。ハルウララという桜。

 それを、今度こそ咲かせることこそが。

 我が使命。我が喜び。我が愛の全て。

 誰にも。何にも。邪魔などさせぬ」

 

 

 

 彼が告げる言葉。

 

 酒が回ってよくわからないが。

 

 たぶん、とても重要なことなのだろう。

 

 いつも自分を見て、幸せそうに微笑む顔ではない。

 

 真剣な、男の顔だ。

 

 

 

 「……揺るがぬか。おぬし、まだ二十一じゃろう。

 暴帝とも、出会って一年と聞く。

 まだ自分の生涯を定めるには。些か早くはないかの」

 

 「早い、遅い。短い、長いなど。愛に関係があるのか? 

 それに、短くなどない。オレと『ハルウララ』にとってはな。

 貴様の人生経験など、その程度の物か」

 

 「愛か。そう言われると、これ以上はつつけぬの。

 確かに、ウマ娘を担当する我ら。

 3年間に、全てを注ぎ込む。

 それだけで幸福。それだけが生きる意味。

 そうでなくては、トレーナーになど。

 ならぬ方がマシというもの。

 サラリーマンにでもなっておいた方が。

 まだ利口というものじゃな」 

 

 

 

 舌戦は終わりを告げる。

 

 ゆっくりと、お互いを見据える二人。

 

 駄犬メイドの尻は、些か物足りぬ。

 

 だが、手が寂しいため撫でてやろう。

 

 

 

 「ウララ先輩。私はエル専用なのだが」

 

 「もっと肉をつけろ。ケツがデカい方が、エルコン喜ぶぞ」

 

 「マジかよ。ピザとコーラででっかくなるかな」

 

 「デブるだけだぞ。サイボーグ栗毛の現役時代。

 そのトレーニングメニュー。いくらまで出す?」

 

 「言い値で買おう。犬とお呼びください。わんわん」

 

 「もっと媚びろ。いいぞ。その調子だ」

 

 

 

 駄犬メイドにケツを振らせつつ。

 

 ポップコーンを片手に、戦いを見守ることとする。

 

 トレーナー同士の戦い。すると、()()か。

 

 我がトレーナーよ。その価値をわたしに見せるがいい。

 

 勝利した暁には、褒美をやろう。

 

 

 

 「おぬし。本当にアレでいいのか?」

 

 「ああいうところがかわいい」

 

 「こやつ、ガチで狂っておるな……

 名乗りを忘れておった。我が名こそは。

 6Gの頭領。銅大地 一(どうだいち はじめ)

 冥途の土産に、覚えておくがよい」

 

 「墓石に刻む銘に、悩んでいたところだ。

 ありがたいことだな。

 ……待て。銅大地だと? 

 まさか、伝説のトレーナー。名高き神バ。

 それを育て上げた、生きる伝説か?」

 

 「照れるのう。もはやロートルじゃよ。

 家内は有名じゃがな。だが、わしの実力。

 見誤るでないぞ?」

 

 

 

 ぴりりと弾ける、殺気。

 

 トレーナーの肩が揺れる。

 

 動揺したか。愚か者め。

 

 

 

 「トレーナー。わたしにかっこいい姿を見せろ」

 

 「ああ。ウララの声援。オレを昂らせる。

 神バの伝説。おおいに結構。だがオレは。

 ハルウララ。今代において、最も我が強いウマ娘。

 そのトレーナーだッ!」

 

 

 

 トレーナーの闘気が、膨れ上がる。

 

 手間を掛けさせるトレーナーだ。

 

 だが、持ち直した。勝率はわからぬが。

 

 あと、我が強いってなんだよ。お仕置きするぞ。 

 

 思いつつ、駄犬の調教を続ける。

 

 

 

 「あっ……ウララ先輩……これ以上はッ!」

 

 「うるさい。今大事なところだろ。

 エルコンには、出来ないだろう? この指遣い」

 

 「ウララさんって、なんでこれで愛してもらってますの? 

 わたくし、ものすごく納得いきませんわ」

 

 「おそらく、あのトレーナー。マゾ気質ですね。

 私のデータによると、間違いありません」

 

 「データを見るまでも無いと思うわ。勝手きままにかわいがる。

 それが、愛を得る術。私はこれでスぺちゃんを楽器にしました」

 

 「いつの間に帰ってきたんですか」

 

 「三周して、そろそろかなぁって」

 

 「クソみたいな恋愛観のやつばっかり、いい目を見ますわね。この世界」

 

 「嘆かわしいですね」

 

 「鏡、いりますこと?」

 

 

 

 外野がうるさい。

 

 まぁ、いい出し物だ。騒ぐのもわかる。

 

 映画館で騒ぐ、腐女子のようなものだろう。

 

 もしもトレーナーが負けても。ケツ拭いはしてやろう。

 

 ウマ娘の、甲斐性というやつだ。

 

 ジジイの散華は、確定している。

 

 

 

 「厄介じゃのう。若さというものは。

 ちと羨ましくなるな。……では参るッ!」

 

 「我が決意。我が純情。我が愛の全てをここにッ!」

 

 

 

 二人が同時に。

 

 懐に手を突っ込む。

^ 

 出るッ……! 

 

 

 

 「神バの呼吸ッ! 壱の型ッ!」

 

 「暴帝の呼吸ッ! 壱の型ッ!」

 

 

 

 技名のコール。愛バを示す名と、型番。

 

 正式な作法だ。

 

 引き出された手の内には。

 

 鈍い銅の輝きッ……! 

 

 

 

 「「オラッ♡♡♡催眠ッ♡♡♡」」

 

 

 

 そう。トレーナー同士の闘争とは。

 

 催眠術によって、行われる……! 

 

 

 

 暴力描写はできぬため。

 

 ガイドラインを遵守するため。

 

 平和的に、愛と勇気で戦うのだ! 

 

 そして、勝負は一瞬でキマる。

 

 

 

 「んほぉぉぉぉぉッ♡♡♡」

 

 「わしの勝ちじゃなッ! 貴様は既に、退マ忍ッ!」

 

 

 

 三千倍の喘ぎを上げるトレーナー。

  

 勝ち誇るジジイ。

 

 その後頭部を。

 

 ハルウララの、剛腕が襲う。

 

 

 

 「なぬぐぅっ!?」

 

 

 

 倒れるジジイ。

 

 血は、無論出ていない。

 

 ただの脳震盪である。

 

 

 

 「な、何故じゃ……そやつは! 

 先ほどまでただの観客! 

 鼻の下を伸ばして、そこのロリの尻を撫でていたはず! 

 動く予兆も、合図も見えんかった……! 

 演技でも、なかったはず……!」

 

 

 

 悔しいビクンビクンしていたトレーナーが、ジジイの催眠が解け。

 

 ゆっくりと、虚ろな瞳の愛バ。

 

 ハルウララの腰を抱き。彼に近づき告げる。

 

 

 

 「ジジイ。奥義の練度で、オレが叶う筈はない。

 年季が違いすぎるからな。

 だから、催眠を掛けたのさ。

 貴様ではなく、オレの声が必ず届く。

 ハルウララ。オレの愛バにな!」

 

 「まさか、そのような手が……

 催眠耐性の高いウマ娘に、催眠など。よほどの信頼が無くば。

 決して届かぬはず! 一年で、そのような信頼関係……!」

 

 「一年ではないさ。ハルウララは、オレの『あいば』だ。

 お前には、わからぬだろうがな。

 さぁ。この五円玉を見るがいい」

 

 「嗚呼ッ! あああッ! ああああああっ!?」

 

 

 

 ハルウララの頬を、べろりと舐め。

 

 彼は動けぬ老人に対し、厳かに告げた。

 

 

 

 「奥さんとよろしくやれ。こんなところで油を売って。

 寂しがらせているだろう? 思う存分、愛を確かめるがいい。

 その老体が、枯れ果てるまでな」

 

 

 そして、脳震盪から回復した彼は。

 

 一人用の脱出ポッドを、自ら操り。

 

 出迎える彼女に対して。夜の誘いは大胆に。

 

 

 

 銅大地 一。

 

 

 

 ご無沙汰の 愛バの手により 再起不能(リタイア)! (字余り)

 

 

 

 

 

 つづかない



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ファル子さんじゅういっさい そのにじゅうさん 先代を超えろ

そろそろガチで怒られるやも。
だが、オレはこれが書きたい。


~前回までのあらすじ~

 

 お仕置きを終え。

 

 進軍を再開した、ハルウララご一行。

 

 アグネスタキオンと、駄犬メイド。

 

 業の深さに、思いを馳せながら。

 

 次なるジジイと接敵する。

 

 初手の騙し合いの結果は、こちらの敗北。

 

 ポンコツ栗毛は、壁をブチ抜き走り出し。

 

 ジジイのご厚意により、崩れ落ちるハルウララ。

 

 飲み過ぎたためだ。

 

 愛する暴君の、膝を着く姿に。

 

 腹を立てた、トレーナー。

 

 彼女を地に伏せさせていいのは、自分のみ。

 

 独占欲が強いためだ。

 

 敬老精神を、遥か彼方に投げ捨てて。

 

 老爺わからせ企画物バトル。

 

 果敢に挑む、彼の姓。

 

 その名も高き、九夢院。

 

 桐生院に匹敵する、名家だ。

 

 ジジイに嫡子たる、義務を問われるも。

 

 そのようなこと、知らぬのだ。

 

 家に縛られるのは、もう古い。

 

 そう告げるも、老爺の唐突な自分語り。

 

 なんと、神バのトレーナー。

 

 ハルウララは、彼の動揺を見抜き。

 

 駄犬の薄い尻を楽しみながら。

 

 叱咤激励、待ったなし。

 

 彼は、愛する暴君の声に。

 

 ついに、秘められた力を開帳する。

 

 催眠バトル。正式な作法であった。

 

 告げられる、誇りある愛バの生き様。

 

 振り回される、五円玉。

 

 年季の違いに、んほぉするも。

 

 愛バを傀儡と化す、奇策により。

 

 見事、勝利を納める彼。

 

 灰は灰に。塵は塵に。

 

 ジジイはジジイの。

 

 愛バに生を、搾らせる。

 

 そして、最後の刺客が訪れる。

 

 彼の名は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハルウララは、目を覚ました。

 

 どうやら、楽しく観戦するうちに。

 

 寝てしまっていたようだ。

 

 自身は、彼の腕の中。

 

 

 

 状況を見るに、勝ったのだろう。

 

 後で、褒美をやらねば。

 

 しかし、一つの違和感。

 

 

 

 「トレーナー。何か頬が。

 舐め回されたように濡れてる」

 

 「ウララ。恐らく、倒れた時に。

 地面が濡れていたのだろう。

 どれ、オレがふきふきしてやろう」

 

 「なんか、粘ついているような」

 

 「気のせいだ」

 

 「むぅ。釈然としない……」

 

 

 

 何か。違和感を感じるが。

 

 大人しく、奉仕を受け入れることとする。

 

 忠実な臣下だ。

 

 自分を害することは、未来永劫無い。

 

 

 

 「これは、教えたほうが?」

 

 「教えない方が、面白いから却下よ」

 

 「あんなに思い切り、催眠に。

 ドハマりし尽くす、ウマ娘。

 初めて見ましたわよ、わたくし」

 

 「思い出しますね。よく私のトレーナーも。

 ファル子さんを、催眠していたものです。

 私はもちろん、かかりませんでしたが」

 

 「催眠なんて?」

 

 「ありえないわ」

 

 「絶対かかっている。私は確信したのである」

 

 

 

 外野が、ややうるさいが。

 

 大したことは、話していないだろう。

 

 気を取り直し、前進再開である。

 

 

 

 「ところでトレーナー。鏡」

 

 「うむ。どうぞ」

 

 

 

 差し出された、手鏡に映る。

 

 一分咲きの、物足りぬ桜。

 

 鹿毛のウマ娘の、ぷりちーフェイス。

 

 

 

 「んー。回復が遅いな」

 

 「完全展開に加え、あの威力の、謎奥義。

 今元気に喋れている方が、不思議ですわよ」

 

 「そうね。私も、あと10回ぐらいしか。

 今日は、全力では走れないわ」

 

 「スズカさん。容易くウマ娘の限界。

 栗毛力で突破するのは、やめて頂けませんか」

 

 

 

 やはり、栗毛はおかしい。

 

 思いつつ、横を見ると。

 

 駄犬メイドの、疑問顔。

 

 何か聞きたいことでも、あるのだろうか。

 

 

 

 「私は領域について、自分の物以外について。

 あまり、良く知らぬのだが。

 普通は、日に何回が限度なのだろうか」

 

 「ルーティーン化した、部分展開でも日に一度。

 レースを日に何回も走る、ウマ娘なんて。

 見たことありますこと? 

 伝説の、キンチェムぐらいでは?」

 

 「私、いつでもどこでも何度でも。

 わりと、自由に飛べるのだが」

 

 「レースに使えないからだろ。

 三女神は、そういうとこザルだよ」

 

 「スズカ先輩のは? めちゃくちゃレース向きである。

 飛ぶこと以外。親近感を感じはするが」

 

 「飛ぶからだからじゃ、ないですかね……

 いや、飛ばなくても。とんでもない速度でしたが」

 

 

 

 遠い目をする、エイシンフラッシュ。

 

 何やら、思う所があるらしい。

 

 

 

 「肉体負荷も、関係しているのだろう。

 アフちゃんのは、上昇気流に乗るだけ。

 サイレンススズカは、やたらと頑丈。

 メジロマックイーンと、エイシンフラッシュ。

 お前たち二人の領域については。

 オレは、内容はわからないが。

 

 ウララの領域は、身体の負担がでかい。

 恐らく、防衛本能だろう。

 己を壊さないための」

 

 「なるほどね。つまりはこうだな。

 か弱いウララちゃんはかわいい」

 

 「その通りだ」

 

 「ウソでしょ……」

 

 

 

 珍しい、栗毛の呆然顔。

 

 何かおかしい所が、あっただろうか。

 

 トレーナーに、お姫様だっこされつつ。

 

 動力部へと向かう。

 

 

 

 「そういえば、トレーナーさん。

 ご実家の話を、されておりましたが。

 お家は、大丈夫なんですの?」

 

 「心配は無用だ。いいか、考えてみろ。

 名家は、幾つかあるが。

 まず、サトノ。百合婚をした挙げ句。

 謎の、引退した演歌歌手兼業トレーナー。

 それも、己の親より年上。

 そいつを囲おうと、画策しているらしい」

 

 「どんなヤツなんだろうね。その被害者」

 

 「顔を見てみたいものですわね」

 

 

 

 既に見ているが、彼らは知らない。

 

 北 燦三郎。

 

 キャラは濃いが、先程の登場では。

 

 影は死ぬほど、薄かった。

 

 

 

 「次に、桐生院。家の秘伝だか知らんが。

 鋼の意思とかいう、誰に役立つのか不明な。

 よくわからんスキルを、嫌がらせのように。

 ティッシュよりも気軽に、ばら撒いた挙げ句。

 白毛のウマ娘に、執着されて未だに独身」

 

 

 

 既に、二代目ミソジドクシンオーを襲名している。

 

 

 

 「シンボリは、まぁ政治家だ。

 誇れる職ではあるが。なんというか……

 動機が欲に塗れている上、やり方がダーティ。

 逮捕と変革。どちらが先になるやら」

 

 「是非頑張って欲しいと、思ってるよ」

 

 「ウララ。オレ一人では不満か」

 

 「たまには、ステーキ以外も食いたいんだよ」

 

 「そうか。まぁオレがメインディッシュであれば、それでいい」

 

 「そういうところ、高ポイントだよ」

 

 

 

 驚愕の顔で、こちらを見るバ鹿ども。

 

 何か、おかしい所があっただろうか。

 

 

 

 「なんと。どこまでも都合の良い。

 顔と声とケツの、すこぶる良い男。

 ウララさんは、どうやってこんな優良物件。

 捕獲したのでしょうか」

 

 「洗脳も完璧ですね。違和感を感じる、素振りも無し。

 腕力だけだと、思っていましたが。

 これは、後程やり方を。ご教示願わねばなりません」

 

 「私は怪鳥一筋。あまり関係ないのである」

 

 

 

 「最後に、メジロマック院。

 ごらんの有り様だ」

 

 

 

 全員の視線が、ゲーミング葦毛お嬢に集中する。

 

 

 

 「わたくしだけ、何故名指し? 

 ……やめてくださいまし。

 わたくしを、憐れんだ目で。

 そんなに見るのは、やめてくださいましっ!」

 

 

 

 泣き崩れる、メジロ家首魁。

 

 長らく、目を逸らし続けていたが。

 

 本当は、気づいているのだろう。

 

 

 

 愛するババコンに、愛される頃には。

 

 恐らくとっくに、アガっている。

 

 何かはコンプライアンス上、言えぬが。

 

 

 

 新しい恋を見つけぬ限り。

 

 子孫を残せぬ、身の上である。

 

 

 

 「思い付くだけでも、この惨状。

 オレは、子孫を残す気満々。

 むしろ、100人は。愛の結晶が欲しい。

 どうだ。家に貢献しているだろう」

 

 「わたしはそんなに産めねーよ。

 殺す気か、貴様」

 

 「いけるいける。愛があれば」

 

 「ツインテ栗毛どもと、一緒にするなよ。

 いいか。いつも言っているだろう。

 わたしは、一姫二太郎ぐらいが理想だ」

 

 「オラッ♡催眠ッ♡」

 

 「いけそう」

 

 「よし」

 

 

 

 バ鹿どもが、やれやれと首を振る。

 

 どうしたのだろうか。

 

 かわいい我が子に満ち溢れる、このハルウララの。

 

 輝かしい未来に、嫉妬しているのだろうか。

 

 

 

 「やっぱこいつは、ダメですわね。

 罪悪感とか、倫理観とか。

 欠片も、持ち合わせが無さそうですわ」

 

 「オレ様系は、少女漫画でウケると聞きますが。

 どちらかというと、そのような作品への出演。

 登場した途端に、非業の死を遂げさせられる。

 エロ漫画島に生息してそうな、ヒト息子ですね」

 

 「ウララ先輩、退マ忍より催眠に弱くない?」

 

 

 

 よくわからないが、無礼なことを言われている気がする。

 

 トレーナーの首元を、くんかくんかしつつ。

 

 反論を、試みることとする。いいにおい。

 

 

 

 「誰が感度三千倍だよ。ウララちゃんは清い身だ」

 

 「好感度は弄っていない。完全に合法だ」

 

 「絶対弄ってますわよね?」

 

 「いや。ウララには効かなかった。オレにできるのは。

 ちょっと性癖を、オレ好みにすることだけだよ」

 

 「十分大惨事だと。思うのだけれど」

 

 「マゾなのか、サドなのか。私のように、はっきりするべきである」

 

 「エルコンドルパサーさんへの、扱いを見るに。

 アフちゃんも、相当歪んでいると。私は思うのですが」

 

 

 

 失礼なヤツである。完全に純愛だというのに。

 

 更なる反論を考えるうちに。よく知った気配。

 

 通路の先から、感じるこれは。

 

 

 

 「……おじいちゃん?」

 

 「よう。久しぶりだなウララ」

 

 

 

 つば短の、麦わらハットにサングラス。

 

 手には、ステッキを携えた。

 

 悪人面の、おじいちゃん。

 

 己の、ドリームトロフィー時代を支えた男。

 

 六平 銀次郎が、そこにいた。

 

 

 

 「ほう。ウララの元トレーナー。

 フェアリーゴッドファーザーか。

 お噂はかねがね。ウララがお世話になっておりました。

 もうオレの物だがな。羨ましかろう」

 

 「敬意を払うか、喧嘩を売るか。どっちかにしやがれ。

 あと、オレをそのあだ名で呼ぶな」

 

 「失礼。ジジイ。これでいいか?」

 

 「いいねぇ。はっきりしたヤツは好きだぜ。

 ウララに相応しい、バ鹿野郎だ」

 

 

 

 ゆらりと。身を揺らす、おじいちゃん。

 

 何か、様子がおかしい。

 

 と、いうか彼は。

 

 

 

 「おじいちゃん。腰は大丈夫なの? 

 それが原因で引退したじゃん」

 

 「お前と一緒の原因だということに。

 そういうことに、していたな。

 だがな。あれは方便よ。

 本当の理由。お前が知る必要は無いがな」

 

 「……貴様。ウララに嘘を? 

 オレがウララを担当出来たのは、貴様の引退が原因。

 それについては、感謝しよう。

 だがな、担当ウマ娘に。嘘をつく。

 それだけは、トレーナーとして。

 やってはならない事ではないか?」

 

 

 

 トレーナーの、怒り。

 

 この顔も、わりと好みだ。

 

 だいたい大好物だが。イケメンだし。

 

 

 

 「お前にはわからねぇよ。若すぎる。

 必要だったんだ。嘘なんてつきたかぁ、無かった。

 だがな。世の中には、それが必要な時がある」

 

 「……サングラスを外してくれないか。

 オレは未熟者でな。目を見ないと。

 相手が、尊敬すべき者であるのか。

 ちゃんと、催眠にかかっているのか。

 まだ、見抜くことができんのだ」

 

 「さらっと催眠を自白したな。こやつ」

 

 「うるせぇぞ。育て甲斐がありそうなロリ。

 おい、小僧。オレの目を見たきゃあな。

 実力で見てみやがれってんだ」

 

 

 

 ステッキを、こつこつと。

 

 突きながら告げる彼。

 

 感じる圧力が増す。

 

 

 

 「……ウララ。ヤツの実力は?」

 

 「強いよ。シンデレラを作る魔法使い。

 フェアリーゴッドファーザーは、伊達じゃない。

 おじいちゃんじゃなきゃ、オグリは2冠を取れてない」

 

 「なるほどな。……なるほど。

 強いな。未熟なオレでもわかる。

 先ほどの、銅大地とやらが最強。

 そう考えていたが……

 どうやら、この世界は。

 オレが思っていたよりも、広いらしい」

 

 「銅大地の兄貴か。

 あっちの方がつえぇぞ。だがな。

 オレは、アイツほど甘くねぇ。

 その違いだと考えろ」

 

 「……ウララ。降ろすぞ。

 どうやら、お前を抱えたままでは。

 一瞬で、勝負が決められる。

 お前を抱えたまま、喘ぎたくはない」

 

 「当たり前だろバ鹿」

 

 

 

 そっと、地面に降ろされる。

 

 かつんという音。少しばかりの喪失感。

 

 下がって、見守ることとする。

 

 

 

 「さて。こちらの準備は良いぞ。

 ご老体、やはり催眠で?」

 

 「それもいいが。せっかくウララがいるんだ。

 ネ・トレ・ラレWピース。そいつで決めようや」

 

 「ネ・トレ・ラレWピースですって……!?」

 

 「知っているのですか、スズ電!?」

 

 「ええ。知っているわ。恐ろしい勝負方法よ……」

 

 

 

 栗毛が、平坦な胸に手を当て。ゆっくりと告げる。

 

 

 

 「ネ・トレ・ラレWピース。ピ・クシブを発祥とする勝負よ。 

 安直な、嫌われの氾濫。現れる、謎の敏腕トレーナー。

 ちょっとチョロすぎる、ウマ娘たち。

 これを問題視した、理事長が提案した方式よ」

 

 「大丈夫ですの? なんかすごい勢いで、喧嘩売ってませんこと?」

 

 「安心して。今さらよ。……続けるわね。

 1人のウマ娘を争う時。トレーナーは、催眠で勝負をつける。

 そして、愛の深さを競うのよ。

 当然よね。催眠に最も重要なのは、リラックスと信頼関係。

 絆が深いトレーナーだけが、愛バを催眠にかけられるの」

 

 「愛っていったい。私は思ったのである」

 

 

 

 朗々と紡がれる、栗毛の美声。

 

 そうか。こやつも確か。

 

 

 

 「スズカさんも。トレーナーが交代したのでしたね」

 

 「そうよ。私の、2人のトレーナー。

 王道戦法を至上とする、前トレーナーと。

 私を好きに走らせようとした、彼。

 彼らは、私に催眠をかけ。

 そして、勝者が私を勝ち取ったの」

 

 「スズカさん。なんでもないように言ってますけど。

 基本的ウマ権の侵害では?」

 

 「正式な作法だもの。しょうがないわね」

 

 「スズカ先輩、メンタルつっよ……」

 

 

 

 ちょっと引いた感じのアフちゃん。

 

 栗毛に慣れていないためだろう。

 

 こやつは、走ることと、スぺちゃん以外。わりとどうでもいいのだ。

 

 ……というか。ちょっと待て。

 

 

 

 「わたしの意志は?」

 

 「ウララ。わがままを言ってはいけない」

 

 「そうだぞ。たまには言うことを聞きやがれ」

 

 「釈然としない……」

 

 

 

 だが、こやつら話を聞きそうにない。

 

 まぁいいだろう。ウララちゃんは、催眠になど。

 

 絶対に、負けはしないのだ。

 

 

 

 ※負けます

 

 

 

 「さぁ! 五円玉を出せ! ちっとばかし、ブランクはあるが! 

 オレたちの十一年、お前の一年で勝てるかな!」

 

 「愛とは、時間ではない。忘れてしまったようだな」

 

 

 

 ゆっくりと、己の前で五円玉を揺らす彼ら。

 

 なんだこれは。どうしろというのだ。

 

 

 

 「ちなみにスズカ先輩。先輩は催眠には?」

 

 「かからなかったわ。普通に前トレーナーを殴り倒したわ」

 

 「さすがすぎる……勝負の意味、ゼロである」

 

 

 

 そして。

 

 

 

 「「オラッ♡催眠ッ♡」」

 

 

 

 最低の勝負が、始まった。

 

 こいつら、後で殴る。

 

 ハルウララは。

 

 そう思いつつ、催眠にドハマりした。

 

 

 

 

 つづかない



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ファル子さんじゅういっさい そのにじゅうよん ウマ娘を守る、冴えた方法

 さてさて、何故催眠なのか。
 説明回であります。
 ちゃんとあるのですよ、理由が。


 あと、嬉しい報告です。蕾雅之銀狐さん(@LQ150i57)より、かわいいウララちゃんのファンアートを頂きました!

 
【挿絵表示】


 ありがとうございます!

 愛で尽くさせて頂きますぺろぺろ


~前回までのあらすじ~

 

 銅大地 一を撃破し。

 

 さらに、歩を進める。

 

 道中、確かめる。

 

 桜の開花の、その時期を。

 

 領域の設定について、少々お漏らししつつ。

 

 子沢山を、夢見るハルウララ。

 

 三代目トレーナーの、卑劣な催眠術だ。

 

 九夢院の、未来について。

 

 問うは、メジロマック院。

 

 繰り出されたアンサーに。

 

 己の将来を、不安視し。

 

 泣き崩れる、ゲーミング葦毛。

 

 彼女は知らない。

 

 家に帰れば、偽装加湿器どもに。

 

 愛玩され、全てがどうでも良くなることを。

 

 メジロ家の、未来は暗い。

 

 そして、現れる最後の刺客。

 

 シンデレラを作る者。

 

 悪人面のおじいちゃん。

 

 六平 銀次郎の登場だ。

 

 ハルウララは、久し振りの再開に。

 

 特に、感銘は受けなかった。

 

 過去は、あまり振り返らないからだ。

 

 明かされる、謎の勝負方法。

 

 サイレンススズカの、栗毛的過去。

 

 そして、始まる催眠バトル。

 

 果たして、勝負の行方と。

 

 ハルウララの、感度は如何に。

 

 

 

 

 

 

 

 フラスプネズミ商事、本社。

 

 会長室にて。机に向かう、ジジイが二人。

 

 片割れが、窓の外。

 

 空を見上げ、呟く。

 

 

 

 「む。……6つ同時とは」

 

 「どうしたかの? ワシズー」

 

 「ビョードー。あれを見ろ」

 

 

 

 尾を引いて過ぎ去る、大きな流れ星。

 

 その数、6つ。

 

 

 

 「ジジ座流星群。またこの目で。

 あれを見ることと、なるとは」

 

 「彼奴ら、役目を果たしたと見える」

 

 「何を願った? ビョードーよ」

 

 「知れたこと。聞くまでも無いな」

 

 

 

 二人、息を揃えて告げる。

 

 

 

 「「だーいすきなのはー! 金! 女! あと酒ェ!」」

 

 

 

 「クカカカカカカカカカカカ!!!」

 

 「キキキクククケケケコココ!!!」

 

 

 

 とっとこ走るよ。見果てぬ野望。

 

 ひとしきり笑うと。彼らは、職務に戻った。

 

 ユキオーは、有能なのである。

 

 抜けた穴は、大きい。

 

 

 

 特に意味の無い描写が終わったところで。

 

 その頃、宇宙戦艦では。

 

 

 

 「ぐはぁっ!?」

 

 

 

 ずざざざざ、と。

 

 地面を削り、転がる男。

 

 彼が、霞んだ目で見据えるは。

 

 虚ろな瞳の、ハルウララ。

 

 

 

 猫耳と、ウマ耳のダブルケモミミ。

 

 大胆に。淀の坂を全速で駆け抜けるような、タブーを犯し。

 

 身に纏うは、アフちゃんの予備のメイド服。

 

 催眠懸糸傀儡奥義・にゃんにゃんご奉仕暴帝拳。

 

 それが、ついに炸裂したのだ。

 

 

 

 「くそったれ……! まさか。

 このオレの、催眠が通じないだと!?」

 

 「催眠の基本を忘れたか。

 既に催眠に掛かった者に。

 新たな催眠は、掛けられぬ。

 操作系能力者として、当然の常識だろう」

 

 「いつから、連載休止しましたの?」

 

 「何のことか。わからんな」

 

 

 

 ハルウララを、そっとダブルピースさせ。

 

 頭頂部の薫りを楽しむ、トレーナー。

 

 タッチしていないため、セーフだ。

 

 

 

 「いつだ。催眠に掛かっている素振りなど……!」

 

 「既に、キーワードを仕込んでいた。

 オレがオラついた瞬間。

 既に催眠は、完了していたのだ!」

 

 

 

 トレーナーが、高らかに勝ち誇る。

 

 胸に抱く、ハルウララとお揃い。

 

 ドヤ顔ダブルピースである。

 

 

 

 「キーワード、だと……!? 

 迂闊な言葉は、不意の催眠を招く。

 そのため、日常で口に出さぬ言葉! 

 それがキーワードの、鉄則の筈! 

 

 オレはお前の言葉に、気を配っていたが。

 不自然な言葉は、なかった! 

 どこに仕込んでやがった!?」

 

 「『わがままを言ってはいけない』。

 ウララのワガママが、大好きなオレが。

 そのような言葉、日常で使う筈も無い。

 キーワードとして、相応しい。

 そうは思わないか?」

 

 「思いませんわよ」

 

 「だから、サドなのかマゾなのか。

 はっきりして欲しいのである」

 

 

 

 六平 銀次郎は、敗北を悟った。

 

 この男。二十代にして、器が巨大(デカ)い。

 

 ハルウララを任せるに、相応しい。

 

 とびっきりの、包容力である。

 

 

 

 「くっ、こいつ。最大限の悦びを以て。

 かかあ天下を受け入れてやがる! 

 オレの、負けだ……!」

 

 「成る程。こうやって勝敗を……

 いえ。成る程でもなんでもないですね」

 

 「まぁ、深く考えると。

 不覚を取るわよ、フラッシュさん」

 

 「なんて説得力……!」

 

 

 

 勝負は決した。

 

 六平 銀次郎。

 

 凄まじい強敵であった。

 

 

 

 舐めプしてたら、まさかの猫耳。

 

 思わず、こっそり指示して彼女に着けさせたが。

 

 メイド服を、着せていなければ。

 

 先手を打った我が身とて。

 

 鼻から噴き出す、愛の量に。

 

 敗北を、喫するところであった。

 

 

 

 「六平老。立てるか?」

 

 「なんでぇ。いきなり敬いやがって。

 どういう風の吹き回しだ」

 

 「ウララが世話になったからな。

 貴方が居なければ。オレは、ウララと。

 出会うことが出来ず。寂しい人生を送っていただろう」

 

 「人生を狂わせた、元凶では?」

 

 「オレは幸せだ」

 

 「この男。自分の人生に。

 一片の悔いも無い顔を、しているのである」

 

 

 

 尊敬すべき男を、立ち上がらせる。

 

 勝敗が着いたのだ。

 

 遺恨は捨て、前を見て生きていこう。

 

 

 

 「銅大地氏、かわいそう」

 

 「アフちゃん、あれはあれで幸せだ。

 恐らく、そうなっている」

 

 

 

 現在、彼はミイラの如き有り様である。

 

 

 

 「ところで、聞きたかったのであるが」

 

 「なんだ? アフちゃん」

 

 「なんで催眠? コンプライアンス上。

 だいぶ、グレーゾーンでは?」

 

 

 

 そうか。この娘。

 

 彼女のトレーナーと、最後まで。

 

 真の絆は、結べていなかったらしい。

 

 

 

 「よし、九夢院先生が。

 優しくわかりやすく、教えてやろう」

 

 「眼鏡、どっから取り出したの?」

 

 「眼鏡イケメン……」

 

 「ウララさん、自力で催眠を!?」

 

 「なるほど。ツボに入ったようですね」

 

 

 

 超小型プロジェクターにて。ホワイトボードを投影しつつ。

 

 眼鏡を取り出し、知性をアッピル。

 

 目に、わずかに光が戻り。

 

 眼鏡をかけた、己に対する。

 

 異常な執着を示す、愛バ。

 

 彼女をあやしつつ、説明することとする。

 

 

 

 「ウララ。あまりケツを情熱的に揉むな。

 催眠の後遺症が残っているからな。

 ついついんほぉ」

 

 「知性台無しであるな」

 

 

 

 ロリのジト目も、またいい。

 

 真実の愛に、目覚めていなくば。

 

 彼女にも、催眠を試みているところだ。

 

 思いつつ。愛バを楽しませながら、続ける。

 

 

 

 「いいか。まず大前提。

 ヒト息子は、ウマ娘に勝てない」

 

 「ええ。ヒトがウマ娘に勝とうなどと。

 ……理解できません。ウマ娘に人間が。

 勝てるわけがない」

 

 「唐突な原作要素」

 

 

 

 エイシンフラッシュが、したり顔で告げる。

 

 出番を狙っていたのだろう。

 

 

 

 「そう。身体能力に差が有りすぎる。

 だが、トレーナーは、イエスマンでは勤まらん。   

 時には、彼女たちを止める必要がある。

 多少強引にでもな。

 そのため、コレに頼るわけだ」

 

 

 

 ぶらぶらと、五円玉を揺らす。

 

 警戒し、目を逸らすアフちゃん。

 

 またもドハマリする、ハルウララ。

 

 

 

 「ドヤらないでもらえるか? 

 多少どころか、基本的ウマ権を。

 大胆に、無視しているのである」

 

 「眼鏡最高……結婚しよ」

 

 「そう思うか? しかしだな。

 そうだなウララ。結納はいつがいい? 

 どうしても、ウマ娘を止めないといけない時。

 必ずあるのだ。オレたちにはな。

 ご両親への挨拶は、いつ行こうか」

 

 「説明と求婚。どっちかにするのである」

 

 「うむ。催眠解除」

 

 

 

 催眠を解くこととする。

 

 意外そうな顔の、アフちゃん。

 

 

 

 「意外である。求婚を優先するものと。

 思っていたのである」

 

 「純愛志向なのでな。催眠で言質を取っても。

 真実の愛とは、言えぬ」

 

 「そもそも催眠するなと言いたい」

 

 「あれ? わたしはいったい? 

 何この服。……おい。ウマ娘に動物耳は。

 御法度って言っただろ!」

 

 

 

 催眠が完全に解除され、怒りだす愛バ。

 

 だが、問題ない。

 

 

 

 「猫耳は、アイツがやった。

 メイド服はオレ。似合っている。

 かわいいぞ、ウララ」

 

 「なるほど、かわいいならしょうがない。

 許したげるよ、トレーナー。

 おいジジイ。どういう了見だ」

 

 「オレだけェッ!? 

 待てウララ! 話せばわかる!」

 

 「問答無用ッ!」

 

 

 

 悲鳴を上げつつ、虐待されるジジイ。

 

 この時のために、生かしておいたのだ。

 

 

 

 「ジジイがボコられてる今がチャンス。

 説明を続けよう。よく聞くといい」

 

 「やはり、こやつ外道である」

 

 「ウララ以外はどうでもいい。

 さて。催眠してでも、愛バを止めなければ。

 それは、どういう状況だと思う?」

 

 

 

 こちらから質問してみる。

 

 自分自身で、考えさせる教育。

 

 この身はトレーナー。

 

 ついつい、教育理論を体現してしまう。

 

 

 

 「うーむ。恐らく……そうであるな。

 トレーナーを、押し倒した時?」

 

 「五十点。そうだな、それもある。

 コンプライアンスは、重要だからな。

 だが、もう一つ。重要な時がある。

 いいか、ウマ娘は。何のために生まれた?」

 

 「飛ぶため?」

 

 「それは、アフちゃんだけですわよ」

 

 

 

 やれやれと、首を振る。

 

 もしやこのロリ、ウマソウルではなく。

 

 何か、別のソウルが入っているのでは。

 

 

 

 真実に気付きつつも、そんな筈は無い。

 

 イレギュラーなど、()()()()知らぬのだ。

 

 そう思い、続けるトレーナー。

 

 

 

 「走るためだろう。

 正解はな、アフちゃん。

 愛バが、不調になった際、無理に走り。

 二度と走れぬ身体になり。

 夢が断たれる、事態を避ける。

 催眠術は、そのための技能だ」

 

 「口で言うべきでは?」

 

 

 

 そう。催眠術とは。

 

 彼女たちを、守るための物なのだ。

 

 

 

 「アフちゃん。そうは言うがな。

 G1レース直前に。体調不良になったとする。

 諌められたぐらいで。走るのを、諦められるか?」

 

 「うん」

 

 「お前に聞いた、オレがバ鹿だったよ。

 多分、アフちゃんが催眠を知らないのは。

 走るのに、そこまで興味が無かったから。

 それもあるのだろう。

 アフちゃん、本当にウマ娘? 

 実はトリソウルとか。そこら辺が入ってない?」

 

 「入っておらぬぞ。トリは」

 

 

 

 ※力士が入ってます

 

 

 

 「まぁ。気を取り直して。

 メジロマックイーンはどうだ」

 

 「諦められませんわね。

 春の盾を、諦めるなど。メジロとして。

 とても、耐えられる物ではありません」

 

 「いいか、アフちゃん。

 普通のウマ娘の反応は、こうだ。

 そのため、催眠術が必要となる。

 ついでだ、サイレンススズカは?」

 

 「栄光の日曜日では。トレーナーさんに。

 とってもかわいそうなことをしたわ」

 

 「トレーナーさんかわいそう」

 

 

 

 やはり、栗毛であった。

 

 

 

 「いや、あまりの栗毛にスルーしかけたけど。

 なんでそこで、催眠?」

 

 「ウマ娘は、意地っ張りが多い。

 もしかしたら、怪我をしないかも。

 もしかしたら、無事に走りきれるかも。

 もしかしたら、栄光を得られるかも。

 そう、思ってしまう生き物だ」

 

 

 

 そして。意地っ張りの代償は。

 

 あと、他のウマ娘たちは。

  

 ジジイのお仕置き観戦に、夢中であった。

 

 ウマ娘は、わりと飽きっぽいのだ。

 

 

 

 「それを赦せぬ、一人の男がいた。

 ────銅大地 一。

 彼が、トレーナー式催眠術。

 その、始祖なんだ」

 

 「さっきのジジイ、凄いバ鹿だったのであるな」

 

 「バ鹿を言うな。偉人だぞ。

 本来、オレなどが叶う相手ではない。

 そのため、絡め手を使わせてもらった」

 

 

 

 銅大地 一。

 

 ちん〇ん亭仙人……

 

 本名、銅大地 耕助の孫である。

 

 じっちゃんの、ナニかけて。

 

 

 

 「神バ。彼女は、たいそう意地っ張りだったと聞く。

 骨にヒビが入っても。走ろうとするほどに。

 彼が催眠術に開眼し。彼にガチ恋していた彼女に。

 イチャイチャデートを優先させていなくば、五冠を得る前に。

 おそらく、その脚は砕けていただろう」

 

 「いい話なの? それ」

 

 「いい話に決まっているだろう。

 催眠は、ウマ娘を救ったのだ。

 

 ……さて。ここで問題だ。

 トレーナー式催眠術。素晴らしい力だ。

 だが、あまり使える者はいない。

 一流と呼ばれる、トレーナーしか使えぬ。

 アフちゃんが知らないように。なぜだと、思う?」

 

 「普通のトレーナーは、常識人だから?」

 

 

 

 不正解である。

 

 眼鏡をぐいと上げ。

 

 厳かに告げる。

 

 

 

 「違う。催眠術はな。心を繋げた愛バにしか。

 掛けることはできんのだ」

 

 「心を繋げる……? やたらと抽象的である。

 何か、条件が?」

 

 「ああ。……領域。アフちゃんも知っているだろう。

 オレも、気づいたのは先ほどだがな。

 ウマソウルの見た夢。魂に触れること。

 それが、催眠を掛けるための条件だ」

 

 

 

 そう。表層のみの催眠ならば。掛けられたが。

 

 彼がハルウララに、敗北を喫した理由。

 

 それは、ウマソウル。

 

 彼女の無防備な魂に、触れていなかった。

 

 そのせいである。

 

 そして、今。

 

 

 

 「そして、先ほど。オレは彼女の領域に。

 その核心たる、ウマソウルに触れた。

 ウマソウルは、心を許した相手に。

 どこまでも無防備だ。元は動物だからな。

 ウララが催眠にドハマりしたのも、そのためだ」

 

 「どうりでチョロいと思ったのである。馬だもんね。

 でも、それだと。学園には催眠術師が蔓延っているのでは?」

 

 「領域に開眼するには、ウマソウルを覚醒させる必要がある。

 ウマソウルは、お前たちの胸の中で眠っている。

 恐らく、元の身体とは違うからだろうな……

 

 レースを走り、その本能を刺激する。

 それでしか、原則目覚めることは無い。

 アフちゃんと、ユキオーとやら。

 

 おそらく、例外中の例外だ。

 通常、時代を代表するほどの実力を得た……

 G1クラスに勝利するほどの実力なくば。

 目覚める事は無いだろう」

 

 「なるほど。私、どちらにせよヒト型だもんなぁ」

 

 「なんて?」

 

 「なんでもないのである」

 

 

 

 不思議な子である。

 

 疑問に思いつつも、続ける。

 

 

 

 「まあ、オレが曲りなりにも。

 半端な催眠術をウララに掛けられたのも。

 別の理由があるが……今は語れぬ。

 催眠術を使えるのが、一流トレーナーの条件。

 以上が、オレの仮説だよ。

 おそらく、間違ってはいまい」

 

 「一流トレーナー、ろくでもないなぁ」

 

 

 

 実は自分も、そう思う。

 

 だが、この力は有用だ。

 

 

 

 「ウララッ! ギブッ! ギブアップッ!」

 

 「うるさいぞ。もっと悲鳴を聞かせろ」

 

 「お前、容赦がさらに無くなったなぁ!」

 

 「ウマは、成長するものだよ」

 

 「ウララさん。折らない程度に」

 

 「チョコが進みますわね。パクパクですわ!」

 

 「ジジイの悲鳴も、中々いいですね。

 早くファル子さんの悲鳴。楽しみたいものです」

 

 

 

 お仕置き中の、愛バを見る。

 

 ウマソウルに触れた時。

 

 己が、見た物。

 

 魂を、共有するということ。

 

 それが自分に、思い出させた物。

 

 

 

 「さて。そろそろウララを止めよう。

 そして、この争いに。決着をつけるとしようか」

 

 「唐突な主人公ヅラ。キャラ変わりすぎだと思うのである」

 

 「ふふん。今のオレは無敵だとも。なんといっても。

 真実の愛に、目覚めたのだからな。このソウルが」

 

 「お前、何回真実の愛に目覚めるの?」

 

 

 

 ロリのジト目にほっこりしつつ。

 

 愛バの元に歩みを進める。

 

 さぁ。進もう。ハルウララ。

 

 お前の身には、栄光しかないのだから。

 

 なんといっても。もはや。

 

 ツバメは、もう居ない。

 

 

 

 

 

 つづかない  



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ファル子さんじゅういっさい そのにじゅうご 最後の刺客

ファンアート乞食のため!
オリキャラの見える化をする、神采配!
小説を書くより、時間がかかり申した。
反省は、しておらぬ。
はめるんは、挿絵容量が決まっているため。
切り取った部分を含めて見たい方は、ぺくしぼの方へどうぞ。


~前回までのあらすじ~

 

 不在のジジイの行方。

 

 薙ぎ倒されるジジイ。

 

 ハルウララの、にゃんにゃんご奉仕暴帝拳。

 

 ラヴの代わりに、気合を注入。

 

 相手がジジイであるためだ。

 

 勝利の証は、Wドヤ顔Wピース。

 

 トレーナーは、勝ち誇る。

 

 薄汚い、権謀術数の勝利である。

 

 彼は、愛バのわがままを。

 

 三度のメシより、愛してる。

 

 普段使わぬ、その言葉。

 

 カモフラージュは、万全だ。

 

 あまりの器の大きなマゾに。

 

 ついに、敗北を認めるジジイ。

 

 敗者に手を差し伸べる、トレーナー。

 

 心の広さを見せ、油断させるためだ。

 

 駄犬メイドの疑問。

 

 答える彼の、眼鏡イケメン。

 

 ハルウララは、催眠を。

 

 愛の力で打ち破り。イケメンのケツを撫でる。

 

 眼鏡フェチであるためだ。

 

 そして、求婚と説明。

 

 Wタスクをこなしつつ。

 

 褐色メイドに、説明を優先。

 

 純愛故、催眠を解く。

 

 怒りに震える、ハルウララ。

 

 ジジイを差し出し、生贄とする。

 

 愛バの怒りは、敗者に華麗に押し付ける。

 

 自然の摂理を体現しつつ、説明を継続。

 

 ただ、ガイドラインギリギリを。

 

 みだりに攻めていたわけでは、ない。

 

 作者の趣味は、決して否定しないが。

 

 催眠にも、正当なる理由があった。

 

 それは、闘争本能に溢れすぎた。

 

 彼女たち。ウマ娘を救うため。

 

 例え、本ウマの意志を捻じ曲げようとも。

 

 愛ゆえに、彼女たちを守るための。

 

 たった一つの、冴えた方法。

 

 それこそが、催眠であるのだ。

 

 ウマソウルの見た夢。それを共有することで。

 

 トレーナーは、一流の催眠術師となるのだ。

 

 愛バ限定の。

 

 倫理に華麗に、背を向けて。

 

 ウマ娘を守る、トレーナー。

 

 駄犬メイドは、ドン引きだ。

 

 ソウルが、ウマ娘とは違う。

 

 ウマではなく、力士だからだ。

 

 そして、トレーナーはそっと。

 

 主人公ヅラしながら、愛バを止める。

 

 さぁ行こう。栄光を得るために。

 

 誰かを幸せにするために。

 

 その生を駆け抜けた。ぼろぼろの魂。

 

 それに、今度こそ。

 

 彼女自身の幸せを。掴ませるための旅路。

 

 トレーナーは、ひっそりと笑う。

 

 その胸に、宿した物とは。

 

 

 

 

 

 

 「さて。ジジイ。動力部に案内しろ」

 

 「ウララ。もうちょっと元トレーナーに。

 手心を加える気はねぇのか?」

 

 「ないな。貴様はわたしに敵対した。

 仏の顔は、三度まで。わたしの顔は、一度まで。

 逆らう者は、サンドバッグだよ」

 

 「やはり。この国は末法の世である」

 

 「俺、教育方法間違えたかなぁ……」

 

 

 

 ぼやきつつ。前へと進む六平トレーナー。

 

 その後に続きながら。

 

 ハルウララは、違和感に気づく。

 

 葦毛が先に、疑問を口に。

 

 

 

 「あら。六平トレーナー。艦橋に向かってませんこと?」

 

 「ああ。艦橋を通らないと、動力部には行けん。

 ……そうだウララ。新しいトレーナー。

 お前らの馴れ初めを聞きたい」

 

 「しょうがないな。教えてやろうジジイ。

 あれはオレが20。ウララが30の頃。

 オレは、運命と出会ったのだ。

 桜色の天使。見た瞬間そう思ったよ。

 そして、今でもそう思っている。

 まずは、ウララのかわいいところ。

 それを、手始めに108か所ほど。教えてやろう」

 

 

 

 滑らかに囀る、トレーナー。

 

 出来た男だ。だが己の年齢を。

 

 口に出すのは、減点100。

 

 後で、お仕置きせねば。

 

 

 

 「おいウララ。こいつ、わかっちゃいたが。

 相当やべーやつじゃねぇか?」

 

 「浮気とか、絶対しなさそうでしょ?」

 

 「それは確かに。そうかもしれんが。

 お前、愛され過ぎて。壊されるんじゃねえの?」

 

 

 

 ジジイが、ちょっとドン引きしている。

 

 ほとほと呆れたジジイである。

 

 かわいいウララちゃんは、ちゃんと制御方法も。

 

 しっかり確保した上で。こやつを愛してやっているのだ。

 

 

 

 「暴走したら、ブン殴るからだいじょうぶ。

 斜め45度の角度がコツだよ」

 

 「スぺちゃん鼓のスティック角と同じね」

 

 「安心できねぇんだよなぁ。

 お前の力で、ブン殴られたら。

 潰れたトマトになるだろ。そいつ」

 

 「こやつ、やたらと頑丈である。

 ウララ先輩の、正中線五連撃。

 受けて1分で復活するぞ」

 

 「こいつ、本当に人間か……?」

 

 

 

 もちろん、手加減はよく間違える。

 

 ほとほと、頑丈な男である。

 

 

 

 「いいかジジイ。まずウララのだな。

 かわいいところ、一つ目。

 この傍若無人かつ、誰にも。

 容赦を、一切しないところだ。

 オレは、ウララに殴り倒されるたびに。

 そのかわいさを、再確認している」

 

 「無敵すぎませんこと? この男」

 

 

 

 壊れたテープレコーダーのように。

 

 自身を、褒め称え続けるトレーナー。

 

 つくづく、よくできた男である。

 

 先程の失点は取り消し。プラス1000点。

 

 ケツを撫でてやりつつ、前進を継続する。

 

 

 

 「まぁ、愛する男が出来て何より。

 おめぇ、俺をずだ袋で拉致して。

 無理やり、契約してきた時。

 切れたナイフみてぇだったからな。

 俺も思わず、オーケーしちまったぜ」

 

 「誰がリアクション芸人だ。ジジイ」

 

 「ウララさんでは?」

 

 「黙れ黒鹿毛。そんなに乳をもがれたいか。

 だいたい、そのメイド服はなんだ。

 年を考えろ、年を」

 

 「ディアンドルです。

 我が国の、伝統衣装ですよ。

 ところで、鏡いります?」

 

 

 

 手鏡を向けられ。猫耳を外した、三分咲の桜を確かめる。

 

 メイド服が、よく似合っている。

 

 やはりわたしこそが。一番セクシー。

 

 

 

 「何の問題もないな。しかし回復が遅い。

 トレーナー、マッサージは?」

 

 「ああ。とてもかわいいぞウララ。

 だが、マッサージはお預けだ。

 オレは、身体の調子を整えることはできても。

 失われた体力を、回復させることはできん。

 自然回復を、待つべきだな。

 マッサージも、催眠術も。

 けっして、万能の魔法ではないのだ」

 

 「そうか。ならいい。わたしは観戦しておこう。

 アフちゃん、出番だよ。バ車ウマのように働け」

 

 

 

 足を止める。

 

 目の前に現れた、巨大な扉。

 

 それを、見上げつつ。

 

 トレーナーの説明に、納得する。

 

 

 

 確かに、日に2回咲き誇るのは。

 

 20代の頃でも、次の日は地獄を見た。

 

 基本的に。己を全肯定する、こやつ。

 

 このマッサージ師が、こう言うのだ。

 

 

 

 おそらく、これ以上暴れるとマズい。

 

 ここは回復に、努めるべき。

 

 大人しく、駄犬メイドに任せておくか。

 

 

 

 「ウララ先輩。観戦とは? 

 あとは、動力部をウララ先輩が壊して。

 それでこの宇宙戦艦とは、おさらばでは?」

 

 「アフちゃん。お前はほんとに駄犬だね。

 殺気を感じる力を、身につけろ。

 ……ジジイ。いるんでしょ? 扉の向こうに」

 

 「ああ。いるともさ。俺の。

 俺たちの。トレーナーとして生きた、最後の証。

 あいつには、全てを注ぎ込んだ。

 そのロリに、果たしてアイツを倒せるかな?」

 

 「アフちゃんならいけますわ。根拠はありませんけど」

 

 「アフちゃんならいけると思うわ。私より遅いけど」

 

 「アフさんならいけますね。私の勘が告げています」

 

 

 

 きょろきょろと、助けを求めるように。

 

 周囲を見回す、駄犬メイド。

 

 とても、いぢめたくなる姿だ。

 

 

 

 「あの。なんで、私なのである? 

 私、特に因縁とか。そこらへん無いのであるが」

 

 「何言ってんだお前。

 相手は、未勝利のウマ娘だぞ。

 わたしたち、G1勝利バ。

 明らかに、弱い者いじめになるだろ。

 

 まぁ、嫌いではないが。

 コンプライアンス上、問題がある。

 お前もまぁ、G3は勝ってるけど。

 ジジイどもが育てたんだ。

 いい泥試合になるでしょ」

 

 

 

 諦めた顔をする、褐色ロリ。

 

 そうだ、それでいい。

 

 どうせ、避けては通れぬ道。

 

 ならば、実力の伯仲したロリ同士の。

 

 キャットファイトを楽しむのも。

 

 風流というものだろう。

 

 

 

 「ええい。この世界には。

 神も仏もおらん! 居るのは外道魔性の類! 

 アフちゃん、もう知ってる!」

 

 

 

 諦めて、扉に蹴りを入れる。

 

 やさぐれ気味な、ポンコツロリメイド。

 

 調教は順調である。

 

 校舎のガラスを、割りまくれ。

 

 蹴倒された扉の。倒れ行く先。……そこには。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 「遅いよ。首をながーくして。待ってたンだよ?」

 

 「ユキオー。調子は?」

 

 

 

 ゴキブリのような素早さで。

 

 服装が一新された彼女に駆け寄り。

 

 調子を尋ねる、ジジイ。

 

 見逃してやるのも、王者の貫禄というものだ。

 

 

 

 「上々だよ、六おじいちゃん。

 わたし、勝負服は着れないけど。

 おじいちゃんたちの、心の籠った。

 わたしだけの、オートクチュール。

 身体にぴったし、合いまくり。

 これなら、ハルウララだって!」

 

 「あー。ユキオー。

 気合入れてるとこ、悪いんだが。

 お前の相手、あのロリメイド」

 

 「2人いるけど。どっちのロリメイド?」

 

 「褐色の、駄犬っぽい方だ。

 ウララの相手は、お前にゃ荷が重い。

 大丈夫だ。褐色ロリメイドさえ倒せば。

 ウララは、大人しく引き下がる。

 あいつは、そこらへん律儀だからな」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 「うう。視線が痛いのである」

 

 なお、愛する怪鳥を飽きさせないため。

 

 彼女のメイド服は、毎日変わる。

 

 アフちゃんは、凝り性なのだ。

 

 しげしげと、駄犬を見つめる。白毛のウマ娘。

 

 

 

 「うーん。学生時代を思い出すなぁ。

 アフガンコウクウショー先輩。

 わりと、いぢめがいがあるンだよねぇ。

 何回、ふらふら飛んでるところを。

 堕としたかわからんもン」

 

 「一日に三回は、叩き落されたのである……

 ひどい後輩である。飛んでただけなのに」

 

 

 

 おっと。先輩後輩のわりに。

 

 力関係が、わりと逆転しておる。

 

 

 それもそのはず。アフちゃんは。

 

 立ち位置としては、クロ○ダイン。

 

 仲間になると、弱体化する。

 

 

 

 お約束と、いうものだ。

 

 だが、問題はない。

 

 あとこやつ。本当に、トリソウル持ちでは。

 

 そう思いつつ、発破を掛ける。

 

 

 

 「アフちゃん。負けたらおよめに行けない身体に。

 わたしたちが、全身全霊で。アフターフォロー。

 思うさまに、きままにわがまま贅沢に。

 お前を面白いいきものに、調教してやろう。

 エルコンとの、明るい未来は無いと思え」

 

 「こやつを殺し。幸せちゅっちゅなご奉仕生活。

 そのために、私は既に殺意マックスである」

 

 「よし」

 

 「おじいちゃん。なんか悪寒が」

 

 「ウララの鼓舞。アイツは死兵を作るのが得意だ。

 舐めてかかったら、ガチで死ぬから気をつけろ」

 

 

 

 学生時代を思い出す。

 

 やはり、闘争とは。配下を使わねば。

 

 それが覇王の道である。

 

 おかゆとサイボーグ栗毛は、いい駒であった。

 

 

 

 「逝けッ! アフちゃん! 

 なるべく面白く! ちょっとエッチに! 

 七転八倒した上で勝てッ!」

 

 「味方がどこにも居ない。エルたすけて」

 

 

 

 さぁ、行くが良い下僕よ。

 

 いやいやする、躾のなっていない駄犬。

 

 そのケツを、蹴り飛ばそうとしたところで。

 

 ユキオーとやらから。ストップが入る。

 

 

 

 「おっと。ちょっとタンマ。

 戦う前に。賞品を見ないでいいの?」

 

 「賞品? パジェロか何かかな?」

 

 「たわしかもしれんぞ、ウララ」

 

 「あンたら、大事な者忘れてない?」

 

 

 

 ジト目のユキオーとやら。

 

 バ鹿め。大事な者を忘れることなど。

 

 このハルウララに限って、あり得ぬ。 

 

 

 

 「かわいい我が子を、忘れるわけないでしょ」

 

 「オレはウララ以外、どうでもいい」

 

 「こいつら、ほンとアレだよね。おじいちゃん」

 

 「諦めろ。勿体ぶってないで、さっさと出せ」

 

 「ちぇっ。見せびらかしたかったのに。

 会長が! 既にわたしの物だってね! 

 あ、ポチっとな」

 

 

 

 押される、自爆しそうなボタン。

 

 そして。

 

 

 

 ゴゴゴゴゴ、と。

 

 迫りあがる、何か。

 

 既視感がある。

 

 

 

 そう、あれは。クリークママといっしょ。

 

 番組に。復帰を果たした日の収録。

 

 猛禽類の歌が、始まった時ッ……! 

 

 

 

 「わたしの腰をッ!! 返せェッ!!!」

 

 「いかん! PRS(ピアノリアリティショック)だ!」

 

 「ウララ先輩! もう運ばないでいいのである! 

 ここには、同志書記長はおらぬ!」

 

 「ウラアアアアアアアア!!! 

 ウ゛ラ゛ラ゛ラ゛ラァッ!!!」

 

 

 

 己が身を抱き。暴れ狂う、ハルウララ。

 

 ママの熱い抱擁の、トラウマは深い。

 

 

 

 「おい、鬼畜外道ッ! 催眠術ゥ!」

 

 「よし来た! ウララッ! 

 お眠りィィィィィ!!!」

 

 「ぬ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あっふん。

 いい、ケツです……」

 

 

 

 緊急時故。

 

 ハルウララに特効作用のある、彼のケツ。

 

 そこに挟まれた五円玉から発される、催眠波動。

 

 ケツ鬼術。『強制昏倒催眠・尻』である。

 

 

 

 ズボンを履いていなければ。

 

 危ういところであった。

 

 ガイドラインに、抵触するところだ。

 

 

 

 トレーナーは、汗を拭い。

 

 安らかな眠りに就いた、愛バをそっと横たえた。

 

 いい夢を見るといい。

 

 そして、黒鹿毛の声。

 

 

 

 「ファル子さん……! 

 なんと痛ましい姿に……!」

 

 

 

 この乱痴気騒ぎの原因。

 

 スマートファルコンの、登場である。

 

 

 

 

 

 

 

 つづかない




 そういえば、更にやさぐれ汚染を拡大するため。
 もし面白いと思っていただければ、ちょいとばかり下にスクロールして頂き。
 評価をして頂けると、デイジーのやる気がアップ。
 さらに錯乱しかねぬ一手であります。


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ファル子さんじゅういっさい そのにじゅうろく 微笑みピエロの赤い鼻

バトルと、領域の設定回です。
アプリ版に、ウマ娘トレーナーが出ない理由。
それを、私なりに解釈しました。


~前回までのあらすじ~

 

 ジジイを下し。動力部へと向かう、道すがら。

 

 艦橋へと。向かっていることに気付く。

 

 ジジイのアンサー。理由としては最もだが。

 

 十中八九罠である。しかし、敢えて乗る。

 

 駄犬メイドの七転八倒。見たい気分だったからだ。

 

 道中語られる、トレーナーの愛の言葉。

 

 普通のヒト雌ならドン引きであるが。

 

 ウマ娘は、純情一途の愛されたがり。

 

 気分よく、罠へと直線一気をキメる。

 

 扉の前。ようやく気付く、褐色ロリ。

 

 味方は、味方だが。だがしかし。

 

 ドSしか、ここには居らぬ。

 

 ハルウララは、立ち止まる彼女に。

 

 正当っぽい、理由を告げて。

 

 罠へと、メイドを派遣する。

 

 出張メイドと、いうやつだ。

 

 デリバリメイド。些か風俗の香り。

 

 全てを悟ったアフちゃんは。

 

 十五夜を思いだし。

 

 ママ直伝の、ヤクザキックを扉にキメる。

 

 そして現れる、最後のおもちゃ。

 

 ジジイと、白髪ロリの作戦会議。

 

 発破を掛ける、ハルウララ。

 

 ダーツの旅の予感と、迫り上がる床。

 

 想起される、外道ママの鬼畜抱擁。

 

 ハルウララは、しばしの錯乱の後に。

 

 そっと、意識を手放した。

 

 ケツ鬼術。恐ろしい術である。

 

 果たして、スマートファルコンの安否は。

 

 

 

 

 

 

 

 「ファル子さん……! 

 なんと、痛ましい姿に……!」

 

 

 

 

 呆然と告げる、エイシンフラッシュの声。

 

 一同は、変わり果てた猛禽類。

 

 それを見て、戦慄した。

 

 

 

 

 「むにゃむにゃ……すんすん。

 えへへ、いいにおい……

 ファル子、もう飲めない……」

 

 

 

 頭部を覆うは、白い布。

 

 ウマ耳を、びょいと元気に突き出して。

 

 鼻梁に乗っかる、可憐なリボン。

 

 酒瓶を抱く、眠り姫。

 

 

 

 「Oh……HENTAI仮面……」

 

 

 

 思わずアメリカンに告げる、芦毛の声。

 

 そう。

 

 

 

 「ファルコン・パンツであるな」

 

 せっかくぼかしたのに。

 

 

 

 「会長を、迎えに行ったらさ。

 酔ってたからだね。いつも通り。

 気ままに、無体を働かれたよ。

 タイトスカートで、助かったね」

 

 「助かってはいないと思うわ」

 

 

 

 非常に珍しい、栗毛によるツッコミ。

 

 アフガンコウクウショーは唸った。 

 

 

 

 「ユキオー。今、私は。

 初めてお前に、凄まじい親近感。

 これを、感じたのである。

 やはり。はいてない方が気持ちいい」

 

 「一緒にしないでくれる? 

 わたしは、自主的にそうしてるンじゃなく。

 いっつも会長に。脱がされてるだけだよ。

 つまりこれって、愛じゃン?」

 

 「ドングリの。袴比べだと思いますが」

 

 「どちらも、履いておりません。

 比べようがないと思いますわ、わたくし」

 

 

 

 ノーガードを誇る、リスの餌ども。

 

 黒鹿毛の、冷静なツッコミ。

 

 片手では、ウマホでの高速連写。

 

 どうやら、猛禽類の痴態。

 

 いたく、気に入ったらしい。

 

 

 

 「さて。それじゃあ始めようか。

 なんで履き直さなかったか、わかる?」

 

 「気持ちいいから?」

 

 「それは、まぁ……そうだね。

 会長が履いてくれてる。頭に。

 なら、わたしが履いているのと同じ。

 むしろ、心が繋がっているのを感じる。

 それが、理由のひとつ」

 

 「なるほど。スペちゃんのおなかと。

 私のふともも。それと同じようなものね」

 

 「すまん、サイレンススズカ。

 オレにも理解可能な、例えをしてくれないか? 

 未熟者故、ニホン語と、ウララ言語。

 あと幾つかの、外国語しかわからん。

 栗毛言語は、履修していない」

 

 

 

 外野の声。理解できまい。

 

 この自然主義。

 

 はいてない者しか、わからぬ……! 

 

 

 

 「そしてッ! 追い詰められた方がッ! 

 ヒトの魂はッ! 輝きを放つ! 

 そう、あの男ッ! カイジのようにねッ!」

 

 「ウマ娘ですわよね? この白髪。

 あと、カイジって誰ですの?」

 

 

 

 ウマ娘の身体に、トネガワソウル。

 

 これをウマ娘と、呼んでいいのかどうか。

 

 この小説の根幹に関わる、議題である。

 

 

 

 「つまり、背水の陣ッ! 

 狂気の沙汰ほど、面白い……!」

 

 「ぬぅっ! なんという圧力! 

 ユキオー! 成長しおったな……!」

 

 

 

 感じる圧力。

 

 わかる。これは。

 

 愛しの怪鳥に匹敵する。

 

 全てを解放して、当たらねばならぬ。

 

 アフガン航空相撲力士として。

 

 あの頃の自分に、還るとしよう。

 

 

 

 アフガンコウクウショーは、覚悟を胸に。

 

 ユキオーが待ち構える、ステージに登る。

 

 

 

 「さぁ! 飛んでごらン! 

 アフガンコウクウショー先輩! 

 わたしの恋で、故意の航空事故! 

 味わい尽くして、地に堕ちろ! 

 『フォーリンダウン』!」

 

 「いや、飛ばんけど」

 

 「えっ」

 

 

 

 高らかに。告げて仁王立ちしたままに。

 

 こちらに重圧を掛ける、ユキオー。

 

 接近して、メイドヤクザキック。

 

 

 

 ふわりと優雅に。広がるメイドスカート。

 

 後ろに吹き飛ぶユキオー。

 

 ガードがウマい。ダメージは軽微だろう。

 

 

 

 「ぬああっ!? いったぁぁぁい! 

 飛びなさいよっ! トリでしょッ!? 

 あと、何そのスカートの下ッ!? 

 ピエロの笑顔がキモいんだけどっ!」

 

 「トリではない! 航空力士だっ! 

 あと、アラー!! の加護である」

 

 

 

 くるりと廻り、スカートを翻し。

 

 道化師の威光を魅せつけて。

 

 にぱっと笑い、見得を切る。

 

 やはり、サービスは大事である。

 

 

 

 「学生時代から、意味わかンなかったけど。

 相変わらず、よくわからン先輩だね。

 さっさと飛んでくれない? 堕とせないでしょ」

 

 「ユキオー。お前の領域の弱点。

 このアフちゃん、まるっとお見通しである。

 アフターバーナーで、十分対応できる」

 

 「なンと……! まさか、気づいたの!?」

 

 

 

 ユキオーの驚愕。

 

 甘い。怪鳥の唇のように。

 

 この人生経験豊かな、アフちゃんを無礼るな。

 

 上昇気流を。己の肉体のみに纏わせ、告げる。

 

 領域はフレキシブル。服に影響を与えぬことも、できる。

 

 

 

 「お前の領域。宇宙戦艦で、増幅せねば。

 飛んでる私一人を落とす。

 それぐらいが、精一杯。

 

 そして、地面に立っている今。

 既に、私は堕ちている判定ではないか? 

 領域の、効果はほぼ発揮できぬ。

 今のように、ちょっとばかり重くなるだけ。

 そうであろう?」

 

 「くっ……! 学生時代に見せすぎたねっ! 

 まさか、気付かれるとはッ……!」

 

 「当然である! 賢いのでなッ! 

 ……まあ。私も飛ばないと! 

 ちょっとした、重量軽減しか出来ないけど!」

 

 

 

 えっへんと、胸を張る褐色ロリ。

 

 歯噛みする、白毛ロリ。

 

 

 

 「どちらも、アホだとは思いますが」

 

 「今さらだと思うわ」

 

 「まぁ、このぐらいのバ鹿。

 学生時代から、慣れっこですわ。

 ほら、紅茶が入りましたわよ」

 

 「ほう。メジロの紅茶とは。

 お茶請けには、これなどどうだ」

 

 

 

 あるお菓子を取り出す、トレーナー。

 

 ウマ娘は、甘味が大好き。

 

 嗜みとして、甘いおやつは常備しているのだ。

 

 

 

 「あら。ベイクドモチョチョ。

 ありがたく、パクパクですわっ!」

 

 

 

 それを見て歓声を上げる、ゲーミング葦毛。

 

 現役時代は我慢していたが。

 

 今、彼女を阻む糖質制限はない。

 

 おなかのおにくは、摘まめるほどある。

 

 

 

 「モチョチョ、わりと好きよ」

 

 「学生時代を、思い出しますね」

 

 「まぁ、呼び方は自由だが。

 これの名称は、今川焼きでは……?」

 

 「うーん、腰がぁ……」

 

 「お、今川焼き。俺も頂くぜ」

 

 

 

 褐色ロリの、前蹴り。

 

 微笑むピエロの、赤い鼻。

 

 

 

 「アフガン前蹴りッ!」

 

 「そのまんま、ミヤザキ県知事すぎンッ!?」

 

 

 

 東の国の原っぱっぽい蹴り。これを利し。

 

 ユキオーは、後方へと跳んだ。

 

 

 

 やはり、ベイクドモチョチョは共通認識。

 

 自分の正しさを、再確認したのはいいが。

 

 ピクニックシートを広げ。

 

 和気藹々と、ティータイムと洒落こむ外野。

 

 

 

 (おじいちゃんまで、参加してる……!)

 

 

 

 ずるい。わたしもアオハルしたい。

 

 そう思いつつ、領域を維持。

 

 重圧を掛けるが、相手の動きに遅滞はない。

 

 痴態は晒しているが、ピエロの笑顔で隠されている。

 

 拮抗状態は、変わらない。

 

 

 

 「そういえば。領域とは。

 ここまで拮抗するものか?」

 

 「なんだ小僧。知らねぇのか。

 まぁいい。先輩の務めってヤツだな。

 六平先生が、優しく教えてやろう」

 

 

 

 授業まで始まった。

 

 

 

 「アフガン航空掌ッ!」

 

 「自己紹介かなッ!?」

 

 

 

 褐色ロリの、張り手をいなしつつ思う。

 

 学校生活、懐かしいなぁ。

 

 

 

 「いいか小僧。俺が見た限り。

 アフガンコウクウショーとやら。

 あいつも、領域に入門したばかり。

 ……と、いうか。練度自体は高いな。

 部分展開まで達していない。

 こう言った方が適切か」

 

 「部分展開?」

 

 「そっからかよ。

 まぁ、ウララしか担当してねぇからな。

 完成形しか、知らねぇこともあるか」

 

 

 

 やれやれと、サングラスを上げ。

 

 超小型プロジェクターを展開する、ジジイ。

 

 トレーナーの嗜み。彼も未だ、現役を張れる。

 

 

 

 「いいか。領域には、大きく分けて三段階ある。

 第一段階。ウマソウルの存在を知覚し。

 ウマ娘の意志で、力の片鱗を振るえる『開眼』。

 これは、目では見えねぇ。一部の例外を除いてな。

 力を振るう、本ウマと。それに触れているトレーナー。

 その二人だけが、領域の存在を知覚できる」

 

 「ほう。レースで使われるのは、それか?」

 

 「まぁ、使われることもあるな。

 ユキオーと、褐色ロリが使ってるのも。この段階だ」

 

 

 

 彼女たちのバトルに、目をやり。

 

 ピエロと目が合ったため、逸らして説明を続ける。

 

 一部の例外だ。神の加護は強い。

 

 

 

 「なんだよあのピエロ。

 アイツ、まだ開眼の筈だろ……

 視覚への干渉とか、器用すぎるんだろ。

 まぁいい。第二段階。

 ウマソウルが、ある条件で励起され。

 この世に適合しつつある状態。

 夢の一部を現出させる、『部分展開』。

 領域の存在を、知覚した……

 目覚めたトレーナーなら、幻視できる。

 レースでウマ娘が、ルーティン化して使う。

 『固有スキル』とも呼ばれるものだ。

 マックイーンのお嬢ちゃんの、紅茶とか有名だな」

 

 「ああ、カットインが入るヤツか」

 

 「メタな話はよせ」

 

 「すまない。つい……」

 

 

 

 叱責しつつ、続ける。

 

 

 

 「そして、第三段階。

 ウマソウルの励起が、臨界に達し。

 ウマ娘と完全に、同調した状態。

 夢で世界を塗り潰す、『完全展開』だ。

 こいつは、誰でも見える。

 そのウマ娘に、都合の良い世界。

 我が儘を、無理やり現世に描き出してるからな」

 

 「ほう。オレは完全展開しか。

 目にしたことは無いな」

 

 「珍しいケースだな。

 普通は、最初の三年間。

 担当ウマ娘と絆を深め、開眼を果たした彼女と。

 触れ合ったトレーナーは、見るんだよ。

 微睡むウマソウルの、夢の一部を。

 『知覚』って、言うんだがな。

 完全展開でやったヤツは、初めて見た」

 

 

 

 そう。彼は、ハルウララしか。

 

 既に完成したウマ娘しか、担当していない。

 

 それ故、歪んだ知識しか。

 

 実感として、持ってはいない。

 

 

 

 「おめえ、よく無事だったな。

 事故とかで、トレーナーを引き継いで。

 部分展開で、初めて知覚したヤツでも。

 魂に掛かる負荷は、相当らしいぜ。

 

 全く覚えの無い知識。見知らぬ風景。

 そして。温もりを求める、魂の声。

 そいつを急に視て、発狂しかけるヤツも。

 過去には居たらしい」

 

 「ああ、とても衝撃的だったよ。

 オレは、全てを見たからな。

 魂が、揺さぶられたよ」

 

 「ウララとの相性が、余程に良かったんだな。

 三女神に感謝しろよ、小僧」

 

 「感謝しているとも。また、出会えた。

 ツバメに、チャンスを与えてくれたこと。

 オレは、生まれ変わっても忘れぬ」

 

 

 

 六平トレーナーは、サングラスの下で。

 

 そっと微笑んだ。

 

 彼女は、いい出会いをしたらしい。

 

 

 

 先ほどからの言動を見るに。

 

 この小僧。意味がよくわからない、発言が多い。

 

 まだ、多少混乱しているのだろう。

 

 後遺症としては、軽い方ではあると思うが。

 

 会話を続ける。彼が自分を取り戻す、一助となるだろう。

 

 

 

 「小僧。最強の領域とは。何だと思う?」

 

 「決まっている。ウララの領域だ」

 

 「いいね。その答え。すげぇ好みだ。

 トレーナーは、そうでなきゃいけねぇ。

 だが、不正解。今のは意地悪問題だ」

 

 

 

 引退する時、心残りだったのだ。

 

 愛バを最後まで、支えられなかったこと。

 

 ラストラン。万全とはほど遠く。

 

 それでも、壊れかけた身体で。

 

 最後の勝利を掴んだ、彼女。

 

 寄り添えぬ、自分を呪った。

 

 

 

 だが、今や心配は無いだろう。

 

 信頼すべき、パートナーを見つけられたことに。

 

 自身も三女神に、感謝を捧げる。

 

 

 

 「正解はな、無い。

 最強の領域なんてものは、無ェんだよ。

 領域には。練度やら、条件。代償。

 

 その他、色々な差があるが……

 三女神は、平等だ。残酷な迄にな。

 与えられる、力の総量。

 こいつだけは、どんなウマ娘でも変わらん」

 

 「なるほど。それが拮抗の理由か」

 

 

 

 そう。互いに、レースに役立たぬ領域。

 

 天に昇る、アフターバーナー。

 

 地へ堕とす、フォーリンダウン。

 

 

 

 どちらも、開眼しただけの領域。

 

 条件も、緩い。

 

 本領を発揮出来ぬ、今の状態。

 

 差が生まれるわけもない。

 

 

 

 「ああ。ユキオーも、開眼は元々してたが。

 次のステージに、目覚めさせること。

 こいつが、俺たちには出来なかった。

 歴戦と自負する、ジジイが六人も居てだぜ? 

 俺たちは、自分が情けねぇよ」

 

 「ご老体。あまり気に病むな。

 未勝利バが、G3勝利バと対等に。

 キャットファイト出来ている。

 それが、あなた方の実力を。

 今まさに、証明しているではないか」

 

 「まあ、領域が全てじゃねぇからな。

 だがよ。既に開眼してるのに。

 部分展開……魂の、共振による励起。

 こいつができない理由がわからん。

 ウマソウルと、ヒトの魂。

 条件は満たしてるはずだ」

 

 

 

 彼女の魂が、ジジイとの触れ合いで励起しない理由は。

 

 ウマソウルを、持っていないから。

 

 入っているのは、トネガワソウルである。

 

 彼らが知る由も無いが。

 

 

 

 「ちなみに、ウマ娘のトレーナーを見たことが無いが。

 それも、領域が原因か?」

 

 「そうだな。ウマソウルの目覚めは。

 『ヒト』と『ウマ娘』の、魂の共振。

 これによって起きると言われている。

 ウマ娘同士だと、波長っていうのかね……

 そいつが似通いすぎていて、ソウルが震えないらしい」

 

 「ふむ。……領域を覚醒させることが出来た、ウマ娘トレーナー。

 これは、過去に存在しないのか?」

 

 「過去に、やたらと男らしいウマ娘トレーナー。

 そんなヤツがいたらしくてな。

 そいつは、担当したウマ娘を完全展開まで。

 魂を、共振させることができたらしい。

 詳しい資料が残っていないから、眉唾もんだがな」

 

 

 

 そして、六平 銀次郎は。

 

 会話を打ち切り、視線を戦いに戻した。

 

 彼女の雄姿を、目に焼き付けるため。

 

 己らの、愛しい最後の担当ウマ娘。ユキオーを。

 

 

 

 「アフガン旋風脚ッ!」

 

 「あっぶなッ!? オールバックで助かった!」

 

 

 

 ユキオーは、旋風脚を屈んで避けつつ。

 

 己のヘアースタイルに感謝した。

 

 前髪があれば、千切り飛ばされていただろう。

 

 モテカワスタイルに、傷がつくところである。

 

 思いつつ、次なる手を考える。

 

 形勢不利。

 

 

 

 そもそも、相手はウマレスラー。

 

 上半身の動きだけで、いつまでも捌ききれぬ。

 

 しかも、謎の加護により。

 

 はいてないを気にせずに。

 

 勝手気儘に、跳ね回る。

 

 

 

 (これが無けりゃ、既に負けてたね……)

 

 

 

 視線を、身に纏う戦闘服に落とす。

 

 擬似勝負服。

 

 おじいちゃんたちの叡智を結集した、この衣装。

 

 真正の物には劣るが、動作サポートは抜群。

 

 

 

 「どこを見ているッ!? もっとアラー!! 

 私の下半身を見て讃えろッ!」

 

 「痴女かよッ!? 下半身を見せびらかすなッ! 

 なんだよ、そのピエロ! どこから見ても笑顔じゃン!?」

 

 「笑顔が大事ッ! スマイル、スマイル!」

 

 

 

 スカートを盛大に捲り上げながら、蹴りを中心に放つ褐色ロリ。

 

 なんとか避けつつ、歯がみする。

 

 あちらと違い。こちらは、脚技が封じられているのだ。

 

 タイトスカートは、ずり上がりやすい。

 

 自業自得といえど。会長以外に、魅せるわけにはいかぬ。

 

 ガイドラインに反するためだ。

 

 

 

 「シッ!」

 

 「おっと。往生際が悪い」

 

 

 

 牽制の拳を振るい。

 

 相手を少々、退がらせる。

 

 さて。このまま続ければ、敗北は必定。

 

 ならば。チノ=リを活かす……! 

 

 

 

 「ファル子リヲン! リクエストッ! 

 領域増幅用アンプ! 出力最大ッ! 

 範囲ッ! 『ステージ上』ッ! 

 曲名ッ! †落ちぶれっ☆堕天録!†

 ……2番ッ!」

 

 

 

 さぁ。お歌の時間だ。

 

 恋に堕ちる音を、聞くがいい。

 

 

 

 

 

 つづかない 




もしも、面白いと思っていただければ。
ブクマ・感想・評価などを頂けると。
やる気が走り高跳びします。
正常な方向に跳ねるとは限りませんが。


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ファル子さんじゅういっさい そのにじゅうなな 花咲く珍奇

ユキオーの過去。
彼女はどのようにして、翼の元へ参じたのか。
細部は、回想にて。
元ネタは、戦姫の絶唱。


~前回までのあらすじ~

 

 ついに姿を現した。

 

 囚われの、猛禽類。

 

 酒瓶抱き、寝言をほざく。

 

 顔にはユキオーとの絆の証。

 

 HENTAI仮面のご登場だ。

 

 動揺する、突入メンバー。

 

 あまりの痴態に、エイシンフラッシュ。

 

 思わずウマスタ用の写真を、連写する。

 

 BANは間違いない痴態。これはバズる。

 

 敵手・ユキオーに対する親近感。

 

 アフガンコウクウショーは、心のつながりを感じ。

 

 自然主義浪漫派の、正しさを再確認する。

 

 はいてないは、正義。

 

 それを否定し、高らかに。違いを告げる白髪ロリ。

 

 その理由は、だいぶイっちゃっていた。

 

 気の狂った悪役は、基本。方向性はちょっとアレだが。

 

 そして始まる、ロリどもの。

 

 下半身が無防備な、限界バトル。

 

 アフちゃん優勢。理由はふざけた神の加護。

 

 しみじみと、キャットファイトを楽しみつつ。

 

 歓談に興じる外野ども。

 

 ジジイのはちみつ授業において。

 

 トレーナーは、領域の段階について。知識を得る。

 

 『ヒト』と『ウマ』の魂は、共振して奇跡を起こす。

 

 そして、不利を悟ったユキオー。

 

 ついに、奥の手を開帳する。

 

 会長への恋により。敵手を地に堕とすのだ。

 

 そして、お歌の時間が始まる……

 

 歌いながら戦うのは、基本である。

 

 

 

 

 

 

 

 「ファル子リヲン! リクエストッ! 

 領域増幅用アンプ! 出力最大ッ! 

 範囲ッ! 『ステージ上』ッ! 

 曲名ッ! †落ちぶれっ☆堕天録!†

 ……2番ッ!」

 

 

 

 アフガンコウクウショーは、にやりと笑った。

 

 スピーカーから2度ほど聞こえてきた、フレーズ。

 

 試してみる、価値はある。

 

 

 

 「ファル子リヲンッ! リクエスト!

 領域増幅用アンプ! 歌手追加ァッ!」

 

 「なンッ……!?」

 

 

 

 顔を蒼ざめさせる、ユキオー。

 

 どうやら正解のようだ。

 

 

 

 「駄目元だったが……正解を引いたようである。

 この宇宙戦艦、まさかとは思ったが。

 ステージ上にさえ立てば。増幅は、対象を選ばんらしいな?」

 

 「チッ。バ鹿の癖に。冴えた手を打ってくれるじゃン?

 でも、認証しなきゃいけない可能性もあったよね?

 そン時は、どうするつもりだったのさ」

 

 「先輩方に、レギュレーション違反を主張。

 土下座して、涙目おねだりをするつもりであった」

 

 「プライド地べたじゃん。堕とす必要すらないわ」

 

 

 

 ユキオーは、唸った。

 

 この先輩、あまりにも。

 

 誇りというものを、持ち合わせておらぬ。

 

 そこまで、追い詰められていないのに。

 

 土下座に対し、一切の躊躇いが無い。

 

 だが、流れるイントロ。

 

 こちらの優勢は、変わらない。

 

 

 

 「……初めて、あンたが怖いと思ったよ。

 だけどね! わたしの有利は変わらンし!

 メロディーは、わたしの十八番!

 マイクだって、こっちにしか無い!

 アカペラで、どこまで食い下がれるかナッ!?」

 

 「怪鳥と、私の絆。舐めてもらっては困るのである。

 メイドは、主人の無茶振りに応えるもの。

 急に、エルにお歌を求められたときのため。

 マイクだって、常に持っているのである。

 アカペラでの、褐色ロリメイドいたずらカラオケ。

 舐められながら歌うなど。日常茶飯事も、いいところよ」

 

 

 

 スカートのポッケから。

 

 誇らしげに、姿を晒すマイク。

 

 アンプ内蔵型だ。

 

 

 

 「エルコンドルパサーさん、ウマ生を謳歌しておられますね」

 

 「調子に乗り過ぎでは、ありませんこと?」

 

 「気ままに愛するのは、正義よ」

 

 「ウララにも、是非ともやってみたいものだ」

 

 「あのロリ。恋人の性癖暴露に、余念がねェな」

 

 「ぴよっ」

 

 

 

 外野の、感嘆の声。

 

 ひよこも、お昼寝から起きてきたようだ。

 

 もっと褒めて。そう思いつつ。

 

 イントロの終わりを待つ。

 

 あとは実力勝負。

 

 この恋を、語り合おう。

 

 

 

 

 『……ッ! あなたに 伝えたいことがあるの

 

 わたしを絶望から 引き上げてくれた あなた』 

 

 『君と空を駆けるよ 何mだって急上昇 性癖のその先へ』

 

 

 

 互いに、歌い出しは上々。

 

 フォニックゲインの、高まりを感じる。

 

 

 

 「あの。すごいバ鹿にされてる気分ですわ」

 

 「シーズン2は、名作だったわね。でもシーズン1の方が好きよ」

 

 「唐突な自己アピール。さすがは栗毛」

 

 

 

 アフちゃんの、歌唱力は確かである。

 

 

 

 『とても充実していた 学園での日々

 

  出走したら ウハウハ三冠ウマ娘 欲に塗れた翼を広げ』 

 

 『フライハイ! 下を見れば エルコン! 高まる恋心

 

 ご奉仕一直線! (目指せ結納)』

  

 

 

 ここだ。テンションは既にアゲアゲ。

 

 スカートを地上から、愛するウマに覗かれる快感。

 

 小娘には、わかるまい。

 

 地面を滑るように、奔り。

 

 蹴りでもって、ラヴ注入。

 

 

 

 『ぬぁっ!? 歌いながら攻撃ィッ!?』

 

 『奏者として、当然である! 歌いながらの攻撃は!』

 

 『走者じゃないンッ!?』

 

 

 

 「アフちゃん、作品間違えてないか?」

 

 「まぁ、歌繋がりでセーフだろ。たぶん」

 

 

 

 ユキオーは。必死にマイクで蹴りを捌き、歯噛みした。

 

 この先輩。あまりにも、歌いながらの行為に慣れている。

 

 どんな変態と、愛を育んできたのか。

 

 ご近所さんの視線とか。大丈夫なのだろうか。

 

 

 

 『出走レースは どれにしよう 引退後は 何をしよう

 

  夢は広がり あの空へ どこまでも飛翔んでいく この想い』

 

 『エルコン ノらないときは ガッとご奉仕して 挑発ユー

 

 このボディ 愛されたいから……GOHOUSI PARTY!』

 

 

 

 スカートを持ち上げ。放たれる、弾幕のような蹴り。

 

 それにしてもこのロリ、ノリノリである。

 

 

 

 (でも。システムの理解が甘いッ……!)

 

 

 

 ユキオーはマイクを回転させ受け、後方に飛びつつ。ほくそ笑んだ。

 

 歌に不純物……歌詞以外を混ぜると。増幅係数は下がるのだ。

 

 増幅が始まれば、こちらの優位。

 

 このまま好き勝手に跳ね回らせ。

 

 ファル子リヲンの、増幅開始を待つッ……!?

 

 

 

 『ロリ同士の戦闘とか大好物。増幅係数を上昇させます』

 

 「「キェェェェェアァァァァァシャベッタァァァァァァァ!!」」

 

 

 

 思わず、歌を止めて。ハッピーセットを唱和する。

 

 喋れたのかよ、ファル子リヲン。

 

 

 

 「そりゃあ、無機物が喋り出すこともあらぁな……」

 

 「やはり。十代、二十代では対応能力に欠けますね」

 

 「やっぱり、女は三十路からよね」

 

 「この世界の、アホさ加減を無礼てますわ」

 

 「最近思い出したが。やっぱおかしいよなこの世界」

 

 「ぴよぴよ」

 

 

 

 外野に動揺は無い。

  

 なんだこいつら。発狂が常態化してやがる。

 

 そう思いつつ、制限解除を理解。

 

 こうなれば。歌いながら戦う他ない。

 

 難易度、上がり過ぎじゃンッ……!?

 

 

 

 『そしてあなたに、出会ったの……! ロリポップ・フィストォッ!』

 

 『気持ちいいれす! それそれそこが良い! 蹴って! BILLION KAIKKAN!』

 

 

 

 疑似勝負服、ギミック起動。

 

 鋼鉄の籠手が、肩までを覆う。

 

 担ぐような構えから。放たれるロリ鉄拳。

 

 対するは、突き刺すような前蹴り。

 

 ぶつかり合う、お互いの意地と恋。

 

 衝撃に、一瞬意識を手放し。

 

 思い出す。あの日のことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『あら。未出走の子?

 トレーナーさんは、まだ居ないみたいね』

 

 

 

 いきなり現れた、潜水艦。

 

 そこから降り立つ、栗毛のウマ娘。

 

 首を傾げて、一人で納得したように頷き。

 

 こちらに歩んできた。

 

 

 

 『……何故、わかるのです?

 わたしは、そんなに遅く見えますか』

 

 『遅い、早いじゃないわ。心構え、かな。』

 

 『精神論? あまりにも古い。時代に即しておりません』

 

 『ピンと来るトレーナーさん。見つからなかったでしょう?』

 

 『……ッ!』

 

 

 

 何故だ。何故わかる。

 

 この身は、入学前から領域に目覚めていた有望株。

 

 だが、トレーナーたちは。

 

 自分を育てようと、名乗りを上げなかった。

 

 物の道理のわからぬ者が、多すぎるのだ。学園には。

 

 

 

 『やっぱりね。あなた、とってもつまらない顔をしてるもの。

 走るの、そんなに好きじゃないでしょ?

 レースは、目的では無く手段。そんな顔』

 

 『勝つのは、幸せになるための過程!

 違うとでも!? 走ることが目的など!

 走るだけで、満足するなど!

 生物として、あまりにも欠陥!

 レースを手段として捉えて、何が悪い!?』

 

 『ウマ娘としては欠陥ね。

 わたしたちは、ウマソウルの無念。これを晴らさねばならない。

 それが、産まれた意味の一つ。彼らが満足するためには。

 一心不乱のレースが必要よ。領域は必須じゃないけど……

 でも、その心構えじゃ。ウマソウルは目覚めてくれないわ』

 

 『……これを見ても。その戯言を続けられますか!?』

 

 

 

 頭に血が上る。

 

 秘められた力を開帳する。

 

 自分は既に目覚めている。

 

 選ばれた存在なのだ……!

 

 

 

 『フォーリン・ダウンッ! 地に伏せろ!』

 

 『あら。使えるのね。でも貧弱』

 

 

 

 なんでもないように、領域を打ち払われる。

 

 なんだと……ッ!

 

 

 

 『ちょっと驚いたけど。開眼だけね。

 その程度なら、まともなトレーナーと絆を育めば。

 ジュニアの初期には目覚めるわ。まぁ、それでも少数だけど……

 時代を作るには。アドバンテージにはならない』

 

 『時代を、作る……?』

 

 

 

 呆然と、俯く。

 

 巨大な力の差。

 

 わかってしまった。通用しない。

 

 だが。どうしろというのか。

 

 説教だけで終わるなら。誰も苦労などしない。

 

 

 

 『ええ。わたしたちは、前世を超えなければならない。

 その脚で以て、時代を作り。ウマソウルを満足させ。

 そして、引退して幸せになるの。まぁ私も、その途中だけどね?』

 

 『呑気に言ってくれる……! 時代を作る!?

 ごく少数の、強者しか出来ぬではないか!

 敗者は、黙って地を舐めていろと!?』

 

 『当たり前じゃない。弱い方が悪い』

 

 

 

 立ち竦む。

 

 なんという傲慢。

 

 だが。この身が馴染めぬ、ウマ娘の論理。

 

 強者のみが総取り。弱肉強食の極致。

 

 それを体現する。残酷なまでに美しい、立ち姿。

 

 見惚れて、しまった。

 

 

 

 『私の名前は、スマートファルコン。

 ダートの覇者。短距離は除くけどね?』

 

 『あの、砂のサイレンススズカッ!?』

 

 『あら。知ってるのね。あなたのお名前は?』

 

 

 

 押し黙る。

 

 名前を告げたら。何かが終わってしまう気がする。

  

 悪魔との契約。その悪寒。

 

 心の中のおじさんが、警鐘を鳴らしている。

 

 

 

 『……名前を教えたとして。わたしをどうするつもり?』

 

 『教えてあげるわ。ウマ生の楽しみ方。

 あなたは、走るのに向いていない。

 学園を辞め、私に仕えなさい。

 私の翼の下で、満足できなければ。

 学園に戻るといいわ。口利きはしてあげる。

 ちょっとした回り道よ。でも、あなたには必要』

 

 『何故、そのように断言できる? 走って見なければ、わからぬ』

 

 『走った時にはもう遅い。メイクデビュー、舐めてない?

 闘争本能を持たぬ、ウマ娘など。駄バにも劣る。

 練習と、本番は違うのよ。入学は出来てもね。

 学園で夢破れ。去るウマ娘の多いこと。

 このままだと、そうなる。ファル子が保証、してあげる』

 

 

 

 恐ろしいほどの自信。

 

 いや、これは確信だ。そのような表情をしている。

 

 わかっていたのだ。自分が勝てぬことなど。

 

 だって、この身が宿すのは。

 

 

 

 (止せッ……! 罠だッ! 後戻りできなくなるぞッ!)

 

 

 

 利根川先生。あなた、ウマじゃないもの。

 

 

 

 『……ユキオー。トネガワユキオー。それがわたしの名前』

 

 『ユキオーね。わかったわ』

 

 『話聞いてる? トネガワって冠名。言ったよね?』

 

 『贅沢な冠名ねっ☆でも、ファル子の物になったからには。

 あなたは今日から、ただのユキオーよっ! 

 分かったなら、返事をアンサー!』

 

 『くっ……! なんという理外……! 

 だが……狂気の沙汰こそ、面白い……!』

 

 (ワシ、もう知らん)

 

 

 

 そして、恋が始まったのだ。

 

 まだ短いが。確かに、愛を育んだ。

 

 会長の正しさは、この身が今も実感している。

 

 好き勝手に、愛されるってサイコー。

 

 もう、学園とかレースとか。どうでもいいじゃン?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『しめしめ。ウララちゃんの真似してみたら。

 なんか、ウマい具合に騙せたね。

 いいロリゲット。キープちゃんにしてあげよ。

 まぁ、なんかウマっぽくないし!

 金に汚そうだし! Win-Winでしょ!』

 

 『ククククク……たまにおぬし。ワシらよりも邪悪では。

 そう思う時があるぞ、ファルコンよ』

 

 

 

 ユキオー。彼女は思考に没頭すると。

 

 ヒトの話を聞かぬ、悪癖があった。

 

 酔っぱらって、ノリで話していたスマートファルコンと。

 

 にやにやしながら、聞いていたビョードーの。

 

 その後の、クソみたいな会話。

 

 聞き逃していなければ、違うウマ生を歩んでいただろうに。

 

 まぁ、どの道ハッピーエンド。

 

 この小説は、ハッピーエンド至上主義なのだ。

 

 

 

 

 

 

 つづかない 



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ファル子さんじゅういっさい そのにじゅうはち 開帳される絆

そういえば。自分で作品を読み返していて。
どの回が、どういう内容なのか。
すげーわかりにくいことに、気づき申した。
サブタイトルの、出番ですなぁ!
全話つけてみました。わかりやしゅい!


~前回までのあらすじ~

 

 領域バトルの、膠着を。

 

 脱する方策、ファル子リヲン。

 

 アフちゃんは、出し得の精神で。

 

 奏者のステージ、土俵入り。

 

 航空力士であるためだ。 

 

 動揺するユキオー。

 

 高らかに、怪鳥の性癖を暴露しつつ。

 

 ついに、始まるシン〇ォギア。

 

 フォニックゲインの、高まりと。

 

 褐色メイドの蹴り弾幕。

 

 ユキオーの、目論見も。

 

 宇宙戦艦の、性癖。

 

 予想できぬ、要素によりご破算。

 

 やっぱり最後は、真っ向勝負。

 

 最速、最短、思い切り。

 

 手など繋がぬ。拳で語る。

 

 ぶつかり合う、我が儘な純情。

 

 衝撃に、遠退く意識。

 

 ユキオーは、幻視する。

 

 彼女がここに、居る理由。

 

 愛しい彼女の、その翼。

 

 それに包まれた、日の事を。

 

 真相は、酔っ払い。

 

 恋とは、勘違いから始まるものである。

 

 ラブコメ。

 

 

 

 

 

 

 

 「……ッ! 会長ォォォォォォォォォォォォッ!」

 

 「ぬうっ!? こやつ、急にッ!?」

 

 

 

 意識を取り戻し。

 

 思い出した、恋の始まり。

 

 恋する乙女の、絶叫は。

 

 敵手を弾き、間合いを作る。

 

 

 

 「来たよっ! 来た来たァッ!」

 

 

 

 ワンフレーズ歌い、感情が昂った。

 

 ファル子リヲンの、増幅回路が駆動。

 

 魂が震え、心の中のおじさんの絶叫。

 

 トラウマが甦り、悲痛な声で告げる。

 

 皆、ワシと共に。堕ちるがいい。

 

 

  

 「フォーリンダウンッ! ダウンダウンダウンッ!」

 

 「ぬぅっ!? 妻と娘の顔がァッ!? 

 アフターバーナー! 飛びます飛びまァす!」

 

 

 

 敵手が、頭を抱えて叫ぶ。

 

 妻と娘? その年で既に子持ち? 

 

 疑問に思いつつ。

 

 圧力を、どんどんどんどん強めていく。

 

 

 

 「身体に上昇気流! かけてンだよねえっ!? 

 ならさ! 重圧が強まれば! 

 そのちんまい身体で、耐えられるッ!? 

 上下からの圧力で! お洒落なウマスタ映え! 

 ホットサンドみたいに、潰れなァッ!」

 

 「ぐぁぁぁぁぁぁっ!? SMも、エル専用ォッ!!」

 

 

 

 アフガンコウクウショーは、領域を解除。

 

 上昇気流で支えれば、この骨身が耐えられぬ。

 

 貞操観念の強さを、示しつつ。

 

 

 

 三つ指突いて、最も圧力を。

 

 掛けられ慣れている、姿勢へシフト。

 

 怪鳥は、わりとドS。

 

 自分のM心を、常に満足させてくれるのだ。

 

 

 

 (だが、わりと詰んだッ!)

 

 心中で、臍を噛む。

 

 奥の手は、無くは無いが。

 

 今は使い時ではない。

 

 この態勢で使っても、効果は薄いだろう。

 

 

 

 「ダウンッ! ダウンッ! ダーウンッ!」

 

 ユキオーに、油断する様子は無い。

 

 さらに強まる、プレッシャー。

 

 このまま、こちらの体力を削り。

 

 順当に勝利を、掴むつもりだろう。

 

 

 

 (こういう時、不便であるなぁ。アフターバーナー)

 

 自分には、必要不可欠な物ではあるが。

 

 この状況では、使いようが。まるでない。

 

 試しに、頭を少し上げ。

 

 敵手に上昇気流を、吹かせて見る。

 

 

 

 お歌の時間の、成果確認だ。

 

 自分を浮かせずに、他を浮かす。

 

 普段は出来ない行為だが、果たして。

 

 

 

 ふわり、と。

 

 微かに浮かぶ、ユキオーの痩身。

 

 

 

 「ン? 天井にでもぶつける気? 

 でもね。ユキオーわかっちゃった! 

 あンたの領域は、飽くまで自分が飛ぶための! 

 ハルウララの、錯乱桜と同じタイプ! 

 範囲が自己チュー気味な、おひとりさま用! 

 対象指定型デバフの、わたしのとは違う! 

 

 増幅したら、差が出たね! 離れすぎだよ! 

 あンたを浮かせずに、わたしに作用させるには! 

 とことン向いてないから、出力が足りない!」

 

 (うーむ。悔しいが。言うとおりであるなぁ。

 増幅は、されているようだが。

 あやつを、ちょっと浮かせた所でなぁ。

 でも軽い物なら、結構な勢いで……あっ)

 

 

 

 浮かぶ、天啓。

 

 いけるわこれ。

 

 そう思うが。

 

 

 

 (うーむ。罪悪感が……)

 

 なんといっても。相手は自分とは違う。

 

 十中八九、見た目通りの精神年齢。

 

 わりと、非ウマ道的行為な気がする。

 

 なんといっても、かわいい後輩であるのだ。

 

 彼女との、心温まる思い出。

 

 思い出される、学生時代。

 

 

 

 

 『先輩! 街にいい店あるンですよ!』

 

 彼女に、話題の和スイーツ店に誘われ。

 

 やたらと高い、それを奢らされた日。

 

 

 

 『先輩ッ! 堕ちろォッ!』

 

 ふわふわ空を散歩していたら。

 

 気まぐれに、叩き落とされ続けた毎日。

 

 

 

 (罪悪感/ZEROッ!)

 

 

 

 恨み骨髄。

 

 およめに行けないように、してくれる。

 

 

 

 「アフターバーナーッ! 最大出力ッ!」

 

 「無駄な足掻きッ! 何を浮かすつもりっ!?」

 

 

 

 決まっている。お前の尊厳だよ。

 

 

 

 「神の加護を持たぬ身を、呪うがいい! 

 ダイナミック・上昇気流スカートめくりっ!」

 

 「ちょっとォォォォォォォォォッ!?」

 

 

 

 対象指定、ユキオーのタイトスカート。

 

 身体全体は、きつくとも。

 

 布切れ程度、訳は無い。

 

 

 

 「先輩ッ! ガイドラインガイドラインッ! 

 マジヤバいってこれっ!」

 

 「ちゃんと抑えているのだぞ。

 遵法精神の行方は、お前のその手に」

 

 

 

 悪戯な風さんに。

 

 必死に、スカートを抑えるユキオー。

 

 領域に、集中など出来よう筈も無い。

 

 こちらも立ち上がり、肩を回す。

 

 

 

 「ウララさんの影響、受けておりますわね」

 

 「まぁ、ダーティプレイも嫌いじゃないわ」

 

 「なかなか、いいネタを使いますね。

 ヨゴレ芸人向きです、彼女」

 

 

 

 先輩方も、満足してくれている。

 

 

 

 「もう、彼女らでは興奮できんからなぁ。オレ」

 

 「その年で枯れてんのかよ。大丈夫か?」

 

 「ウララが生きてるだけで、興奮できる。

 何も問題は無いな」

 

 「もう一度聞くが。大丈夫か?」

 

 

 

 男どもは、あまり興味が無さそうだ。

 

 彼女にも、自分にもである。

 

 わりと、プライドが傷付くが。

 

 まぁ、大興奮で見られても。

 

 それはそれで問題がある。

 

 寛大な心で、許すとしよう。

 

 

 

 「ぬうっ! フォーリンダウン! 

 対象指定ッ! わたしのスカートッ!」

 

 

 

 おっと。余裕を見せているうちに。

 

 対処を終えたようだ。

 

 わりと、応用性の高い領域。

 

 初期段階の領域で、戦うのは。

 

 そろそろ、困難であろうか。

 

 

 

 「コンプライアンスを守れたな。

 えらいのである。ユキオー」

 

 「こ、この外道ッ! 乙女の花園ッ! 

 あンたのよりも、高値だよッ!? 

 ……でもっ! もう通用しないっ! 

 依然わたしが、有利だしッ! 

 あンたが急に! 領域を成長させない限りッ!」

 

 

 

 タイトスカートを、異常振動させながら告げる。

 

 ユキオーを、ほっこりと眺め。

 

 アフガンコウクウショーは、意地悪く笑った。

 

 

 

 「ユキオー。私が、いつ。

 初期段階の領域しか、使えぬと。

 発言したのである?」

 

 「……まさかっ!?」

 

 

 

 ルーティンを行う。

 

 スカートの裾を。

 

 ちょいと摘まみ、カーテシー。

 

 一流メイドとしての、所作である。

 

 

 

 「そういやアフちゃん、さっき。

 完全展開に、いつか挑戦せねばと。

 具体的には、乗り込む前に言ってたなぁ」

 

 「雑な伏線ですこと」

 

 

 

 外野の視線。

 

 能あるメイドは、スカートの中も隠すが。

 

 爪も、隠すものである。

 

 

 

 思い出す。このヒトソウルが。

 

 この世界に、馴染んだ日。

 

 愛する怪鳥と、魂を共振させた日を。

 

 

 

 

 

 

 

 『エルッ! 聞いてくれ! 

 私は、答えを得たのであるッ!』

 

 『どうしたんデース? アフちゃん。

 クリークママといっしょ。馴染めそうですか?』

 

 

 

 そう。あの日。

 

 ウララ先輩の代打として。

 

 アブドゥルに、別れを告げた日に。

 

 おうちで寝転ぶ、彼女に駆け寄り。

 

 自分は、大興奮で彼女にわんわんした。

 

 

 

 『それはもちろん。幼児どもにも大人気。

 やはり、ニホン人は。力士に惹かれるものである』

 

 『ただ単に、褐色合法ロリが。

 好きなだけだと思うデース。

 私と、同じように。まぁアフちゃんを。

 楽しんでいいのは、私だけデースけども』

 

 

 

 つれない言葉を返しながらも。

 

 セクハラを敢行してくる、愛しいウマ。

 

 調教の成果を。スカートの中で、実感する。

 

 

 

 『んっ。エクスタシィ。

 エル。それよりもだ。

 話を聞いて欲しいのである』

 

 『おや。珍しいデース。何かありましたか?』

 

 

 

 スカートの中から、顔を出し。

 

 不思議そうに、問う怪鳥。

 

 愛しさに、心が震える。

 

 

 

 『ああ。私は、ようやくこの世界に。

 馴染めた気がするのである』

 

 『遅くないデース? というか、アフちゃん。

 この世界産まれの、ウマ娘でしょ?』

 

 

 

 彼女の疑問。

 

 もう、この愛しさを止められない。

 

 隠し事など、愛する彼女にしてはならない。

 

 全てを、話す事を決め。

 

 自分は、そっと怪鳥の愛しい瞳。

 

 それを、見つめて告げた。

 

 

 

 『実は、エル……私は、隠していたことがある』

 

 『お仕置きデース』

 

 『まって♡』

 

 

 

 隠し事をしていたこと。

 

 それを、正直に告げた自分。

 

 だがそれが、逆に怪鳥の逆鱗に触れた! 

 

 

 

 およめさんメイドが、愛しい主人に隠し事。

 

 なるほど、確かに大罪である。

 

 

 

 全てを話すどころか、初手にて口を。

 

 ベイクドモチョチョ型の、鉄球で塞がれ。

 

 夜のぱっぱか大レースを、好き勝手に。

 

 かわいがりされ尽くした自分。

 

 力士であるためだ。

 

 

 

 そして、激しいお仕置きの中で。

 

 怪鳥なのに、テンションが昇り龍した、ドSな彼女。

 

 魂を共振させた、ドМな自分。

 

 SとMの相性は最高。そりゃー魂も震えるというもの。

 

 

 

 エルコンドルパサーが。

 

 ポンコツクソかわTS異世界転生褐色合法ロリメイド系オリジナルウマ娘力士(精神年齢還暦越え妻子持ち)(早口)

 

 その、正体を知ることは。

 

 未来永劫無い。

 

 

 

 彼女の趣味は、愛するおよめさんメイドを。

 

 好き勝手に、お仕置きすること。

 

 恥ずかし固めよりも、大好きなライフワーク。

 

 

 

 お仕置きの口実を見つけ次第。

 

 理性を華麗に、コンセントレーションするため。

 

 アフちゃんの、自白は毎度。封じられるためだ。

 

 知らぬが仏。TSウマ娘の中身など。

 

 読者以外が知っても、得など特にない。

 

 誰も不幸には、ならないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 「……と、いう経緯で。私は領域を。

 ジョグレス進化させたのである」

 

 「あンたの恋人、大丈夫? 

 ウェカ〇ポの妹の夫より。

 気が短いじゃン」

 

 「そこも愛しい。およめさんメイドは。

 主人を丸ごと、全肯定。

 皇帝みたいに扱って。気ままに愛され。

 そして、甘々奉仕でベッドインである」

 

 「まぁ、うちの会長も。似たようなもンだけど。

 なンか、親近感。感じちゃったなぁ。

 先輩、今どこ住み? てかウマインやってる?」

 

 「うむ。フルフルでよいかな?」

 

 

 

 回想を、捲し立て。

 

 同意を得て、満足しつつ。

 

 ウマホを振って、連絡先交換。

 

 

 

 尽くす、喜び。

 

 後輩も、純愛を育んでいるようだ。

 

 先輩として、ホワイトプリムが高い。

 

 

 

 「こいつら、クソみたいな恋愛観ですわね?」

 

 「マックイーンに。言われたくないと思うわ」

 

 「純愛というなら、私は何も」

 

 

 

 先輩方は、賛否両論。

 

 まぁ、メイドではない。当然である。

 

 

 

 「ウララには、お仕置きされたいが。

 たまにはお仕置きもしてみたい」

 

 「おめぇ、命知らずだなぁ」

 

 「時にジジイ。ウマ同士では、領域は成長しないのでは? 

 後輩に嘘をつくとは。呆れた先輩だな」

 

 「やっぱアイツ、トリじゃねぇ? 

 トリとウマで、共振するかはわからんけど」

 

 「トリならしょうがないな……」

 

 

 

 正解は、リキシソウル。

 

 ウマと力士は、相性が良い。

 

 

 

 「さぁ! 改めて、ご開帳! 

 怪鳥との愛、快調故! 

 目覚めし新たな、我が力!」

 

 「くッ……いったい、どんな飛び方を!?」

 

 「ネタバレはやめるのである」

 

 「だって先輩、飛ぶしか能がないし……」

 

 「くやしい」

 

 

 

 肩を落として、再度のカーテシー。

 

 既に、わりとバレているが。

 

 全貌が割れたわけではない。

 

 ちょっとばかり。

 

 ションボリルドルフ、しただけである。

 

 

 

 「まぁ良い! さぁさぁ航空力士の土俵入り! 

 土俵の高さは、何m!? 正解は、全高度! 

 世界を四股にかけたる我ら! 飛ぶ空を選ばぬ! 

 部分展開ッ! アフターバーナー『雲竜型』ッ!」

 

 「なン……!? 寒いッ!?」

 

 

 

 我が身を包む、数多の気流。

 

 さぁ、空の広さを知るがいい。

 

 

 

 

 

 

 つづかない



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ファル子さんじゅういっさい そのにじゅうきゅう 魔法が解ける時

さぁ、領域バトルはインフレーション。
アフちゃんの活躍。
ユキオーの、対抗手段は果たして。


~前回までのあらすじ~

 

 泡沫の。夢から覚めた、白髪ロリ。

 

 敵手をはじき、間合いを作り。

 

 増幅される、トラウマと領域。

 

 だが、彼女はノーダメージ。

 

 利根川先生が、痛みを引き受け。

 

 褐色ロリを、圧迫面接。

 

 これにはたまらず。駄犬メイドは、三つ指突きて。

 

 領域解除し、地を舐める。

 

 既に、アブドゥルは亡く。

 

 妻子の顔を、思い出したのとは特に関係なく。

 

 上下の圧力で、ウマスタ映え化。

 

 プレスされるのを、防ぐためだ。

 

 そして、強まり続ける圧力。

 

 アフガンコウクウショーは、考える。

 

 起死回生の策。増幅された領域。

 

 コンプライアンス。後輩との思い出。

 

 よし、恥をかかせてやろう。

 

 音速で決意し、上昇気流で恥ずかし固め。

 

 怪鳥と、爛漫先輩。

 

 彼女ら譲りの、ダーティプレイ。

 

 態勢を、強引にリセットし。

 

 ちょんとお澄まし、カーテシー。

 

 アブドゥルが死んだ日。

 

 告げられなかった秘密。

 

 怪鳥の、錯乱具合を大暴露。

 

 そして、開帳されるは絆。

 

 優雅に瀟洒にかわいらしく。

 

 航空力士の、土俵入りである。

 

 

 

 

 

 

 

 「ユキオー。私のアフターバーナー。

 この場合は、初期の領域という意味であるが……

 何のための。領域だと思う?」

 

 「飛ぶためでしょ。聞くまでもないじゃン?」

 

 「でも私の方が、速いですよ?」

 

 「スズカさん。ステイ」

 

 

 

 アフガンコウクウショーは、静かに問う。

 

 告げられたアンサー。

 

 なんか混じった、栗毛。

 

 わかっておらぬ、後輩である。

 

 

 

 「正解であり、不正解であるな。

 飽くまで、アフターバーナーは。

 土俵に上るための、領域である」

 

 「へぇ? 雲竜型。確か、横綱用の所作だよね? 

 部分展開も、土俵入りのためじゃないの? 

 意味が被ってるじゃン」

 

 

 

 頭の中で、相撲知識をひけらかすおじさん。

 

 利根川先生は、相撲についても詳しい。

 

 おじさんで、あるためだ。

 

 

 

 「土俵への移動と、土俵入り。

 意味が少々違うのである。

 この身は未熟故。完全展開には至らぬが……

 雲竜型は! 土俵を部分展開する領域ッ!」

 

 

 

 轟、と風が吹きすさぶ。

 

 

 

 「はぁ? 土俵を展開? 

 それが何の役に立つのさ。

 いいよ。もう十分。スカートを抑えながらでも。

 あンたを堕とすには十分。

 フォーリンダウ「遅い」ンッ!?」

 

 

 

 指を差し向けた時には、もう遅い。

 

 敵手を見失い、目を瞬かせたときには。

 

 ユキオーの、痩身は宙を舞っていた。

 

 

 

 「なンッ!?」

 

 慌ててスカートを、手で抑える。

 

 廻る景色。上下左右が、わからない。

 

 そして。耳元で聞こえる声。

 

 

 

 「ダウンバースト」

 

 

 

 下向きの圧力。自分と同じ。

 

 思った時には、ドンと快音。

 

 ユキオーは、地に伏せた。

 

 

 

 「ぐあっ!? 上昇気流しか! 

 使えないはずじゃないの!?」

 

 「言ったであろう? 土俵入りと。

 航空力士の土俵は、全ての空。

 地表から空への風しか、再現できぬアフターバーナー。

 

 雲竜型はな。ユキオー。

 高高度での気流を、我が身周辺に現出。

 航空相撲本場所を、再現する領域なのだ」

 

 「高高度の、気流ッ!?」

 

 

 

 愕然とする。

 

 そんな。それは。

 

 

 

 「つまり、どういうこと?」

 

 「しょうがない後輩である」

 

 

 

 わからなかったら、ウマに聞く。

 

 ユキオーは、とても素直な子であった。

 

 

 

 「アフちゃんが、丁寧に教えてやるのである。

 決して、自慢したいからではないのである」

 

 「うんうん、それで? アフちゃん先輩の。

 領域、すごくかっこいい。ユキオー、とっても気になる。

 詳しく知りたいなぁ」

 

 「しょうがないのであるなぁ! よく聞くのである!」

 

 

 

 うまくいった。ユキオーは、ほくそ笑んだ。

 

 学生時代と、変わらぬ。

 

 こやつはウマだが、どこかおじさんくさい。

 

 おじさんは、自分の自慢話が大好き。

 

 要忖度おじさんの扱い方。

 

 利根川先生の知識は、いつでも自分を助けてくれる。

 

 

 

 「外道。プロジェクターで、大気の断面図」

 

 「ああ、存分に使うといい」

 

 「ユキオーは、頭はいいが。知識不足でなぁ。助かるぜ」

 

 

  

 いそいそと、自分の領域。

 

 そのネタバラシをする、アフガンコウクウショー。

 

 前世と完全に融合した、彼女。

 

 おじさんは、若い娘におだてられると。

 

 ついつい、なんでも教えたくなっちゃうのだ。

 

 

 

 「つまりだな。まずアフターバーナー。

 上昇気流は、地表から空へ。

 これに対し、雲竜型。

 高高度……その中でも、対流圏から成層圏までの。

 気流を、自由に再現できるのである」

 

 

 

 これも借りた、ポインターで。

 

 地上から、空への矢印と。

 

 大気の層を、指す彼女。

 

 

 

 「ふむふむ。それでそれで?」

 

 「中間圏から上は、再現できん。中間圏界面は、約ー92.5度。

 航空力士でも。装備が無いと、普通に死ぬのである」

 

 「なるほど。高度の限界はあるンだねぇ」

 

 

 

 アフガンコウクウショーは、ノリノリで。

 

 自分の領域の、細部を囀る。

 

 とても勉強になる。ペンでも回したい気分。

 

 ユキオーは、学生時代を思い出しつつ。

 

 メモを取り、気になることを質問することとした。

 

 

 

 「さっきの、バ鹿みたいな速度は?」

 

 「あれは、対流圏上層。ジェット気流を、再現したのである」

 

 「なるほど。ダウンバーストって?」

 

 「積乱雲は知っておるな? あれは、上昇気流によって形成されるのであるが。

 減衰期に入ると、下降気流が発生する。それを、ダウンバーストと呼ぶのだ。

 雲の中を泳ぐ、航空力士の姿。それを見て、ヒトは雲竜と呼んだ。

 未確認飛行物体の正体は、だいたい航空力士である。うまよんにも書いてある」

 

 

 

 なるほど。先ほどの重圧。

 

 カラクリはそれか。

 

 だが、疑問がある。

 

 

 

 「万能すぎン? 何か弱点は?」

 

 「うむ。実は弱点が一つだけあってな……」

 

 「ほうほう! ユキオー、弱点知りたいなぁ!」

 

 「ほう。そんなに知りたいか、ユキオー」

 

 

 

 いける。この褐色ロリ。学生時代と変わらず。

 

 あまりにも、おだてに弱い。

 

 このまま、弱点を聞き出し……! 

 

 

 

 「知りたい知りたい! アフちゃん先輩の! 

 クソみたいにチョロいところ、ユキオー大好き!」

 

 「やはり学生時代。煽てられ、奢らされ尽くした毎日。

 お前の気持ちは、よ──────く。わかったのである」

 

 「しまった。つい本音が」

 

 「もはやこのアフガンコウクウショー! 容赦せぬ!」

 

 

 

 バッと飛び退る、煽てに弱いバ鹿。

 

 だが、十分である。

 

 時間はだいぶ稼げた。

 

 ハナから、初期段階の領域で。

 

 上位の領域に勝てるなど。

 

 思い上がっては、いないのだ。

 

 

 

 「ちょっとタイム」

 

 「む。タイムなどルールに……」

 

 「アフちゃん。ルールは守らないと駄目ですわよ?」

 

 「やきうの、おウマさん……!」

 

 

 

 急に出てきた、メジロマックイーン。

 

 狙い通りだ。野球好きな彼女。

 

 タイムという言葉には、敏感に反応する。

 

 

 

 「1イニングに2回。これは、譲れませんわ」

 

 「プロやきうの、おウマさん……!」

 

 

 

 なるほど。2回使うと交代。

 

 このタイムで、決めねばならぬ。

 

 急いで、後方へ駆け寄る。

 

 

 

 「会長ッ! 起きてッ!」

 

 「うにゅう……? ユキオー?」

 

 

 

 その先には、愛しいウマ。

 

 そう。彼女の酔いが冷めるまで。

 

 その、時間稼ぎだったのだ。

 

 

 

 褐色ロリが、愛するウマと魂を共振させ。

 

 部分展開に目覚めたと、言うならば。

 

 自分と、会長の絆なら。 

 

 出来ない方が、不思議というもの……! 

 

 

 

 「あれ? 前が見えない。でもいいにおい」

 

 「そりゃっ」

 

 「むぐっ。おお、見えるようになった」

 

 

 

 会長の、顔から布を取り払い。

 

 そっと、握らせてやる。

 

 自分の全ては、彼女のもの。

 

 衣類とて、例外ではない。

 

 

 

 「会長。お目覚めの気分はどう?」

 

 「えへへ。とってもいい気分。……あれ。ウララちゃんがいる」

 

 

 

 ふりふりと、ツインテールを揺らし。

 

 目敏く、トレーナーの膝枕で。

 

 健やかに眠る、正妻を見つける彼女。

 

 少し胸がざわつくが。

 

 ナンバーツーで、構わない。

 

 

 

 「ファル子さんッ……!」

 

 「あれ。フラッシュちゃんも? お久しぶり」

  

 「ッ……!」

 

 

 

 平気な顔で、憎かった筈の彼女。

 

 それに、挨拶する会長。

 

 傷ついた顔をする、エイシンフラッシュ。

 

 実感したのだろう。

 

 もはや、彼女に会長は。

 

 何の、感情も抱いていない。

 

 愛情の反対は、無関心である。

 

 

 

 「会長。魔法を解いて、欲しいンだ」

 

 「魔法……?」

 

 「そう。わたしの名前。冠名を、返して欲しい」

 

 「どうしたの? 急に。学園に戻る気になった?」

 

 

  

 不思議そうに、問うてくる会長。

 

 わかっていない。だがそれが愛しい。

 

 自分に、彼女から離れる気など。

 

 未来永劫、有りはしない。

 

 

 

 「んふ。違うよ。これは、誓い。

 わたしは、おじさんとお別れする。

 そろそろ、わたしも独り立ち。

 おじさんを、解放してあげなくっちゃ」

 

 「……よくわからないけど。いい顔するようになったね。

 いいよ。返してあげる。今のあなたなら。

 贅沢な冠名じゃないね」

 

 

 

 (ユキオー。いいのか?)

 

 

 

 心配そうに告げる、おじさんの声。

 

 いや。もう自分に嘘をつくのは、やめよう。

 

 

 

 「おじさん。今までありがとう。

 わたしが心配だったから。今まで残っててくれたんだよね。

 わたしの。わたしだけのイマジナリ・フレンド」

 

 

 

 そう。おじさんとは。

 

 幼きこの身が。魂が。

 

 この美しくも残酷な世界に、耐えきれず。

 

 前世の人格をもとに。

 

 作り出した、幻想の友達。

 

 でも、もう大丈夫。

 

 わたしは、この世界に生きている。

 

 

 

 「わたしの名前はッ! ユキオー! 

 ()()()()()()()()()

 誇り高き、敗者の魂を継ぐものッ! 

 そして、スマートファルコンを心から愛する! 

 たったひとりの、ウマ娘ッ! 

 さぁ、会長! 新しい魔法をかけて! 

 もう、わたしは迷わないッ!」

 

 

 

 そして、夢から覚めたシンデレラ。

 

 十二時の魔法は、この胸に。

 

 脚を上げて、微笑む。

 

 

 

 「んふっ。とっても私ごのみの展開。

 ガラスの靴は、無いけれど。

 履かせるなら、なんでもいいよね?」

 

 「もちろん。悪い魔法使いさン。

 でも、主君に履物を。温めさせるのは、不敬かな?」

 

 「いいよ。許したげる。あとで制裁するけどね。

 正妻を、手に入れたあと。たっぷりお仕置き、してあげる」

 

 「ンッ♡エクスタシィッ!」

 

 

 

 そして。心許なかった、スカートの下が。

 

 会長の、ぬくもりに包まれる。

 

 ヒトソウルが、彼女とつながり。

 

 異常振動する、この魂。

 

 

 

 「パーフェクト・トネガワユキオー! ここに推参ッ!」

 

 「私は、何を見せられているのである?」

 

 

 

 茶番劇である。

 

 

 

 

 

 つづかない



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ファル子さんじゅういっさい そのさんじゅう 悪夢のゲーム

 さぁさぁ。もうすぐ第2部も終わり。たぶん。
 そして! またもや! んこにゃ様(@Nkonya0529)より、拙作のかわいいウララちゃんのファンアートを頂く神展開!

 
【挿絵表示】


 かわいい(確信)

 とってもかわいいウララちゃんを、これからもよろしくお願いいたします!


~前回までのあらすじ~

 

 怪鳥との絆により、目覚めた力。

 

 開帳された、アフちゃんの。

 

 新たな領域、雲竜型。

 

 褐色ロリは、静かに敵手に問う。

 

 ところで、こいつをどう思う。

 

 白髪ロリの、アンサー。

 

 すごく……わかりません。

 

 どうでも良いと、指を差し。

 

 次の瞬間、宙を舞い。

 

 タイトスカートを、抑えるユキオー。

 

 自然主義で、あるためだ。

 

 そして、地面に堕ちたる彼女。

 

 ドヤる敵手に、解説おねだり。

 

 わからなかったらウマに聞く。

 

 社会人になっても、とても重要である。

 

 ノリノリで、解説するアフちゃん。

 

 大分、頭が悪いためだ。

 

 そして、ちょいと口を滑らせた白髪。

 

 激昂した、褐色ロリ。

 

 やきうのおウマさんを利し。

 

 愛する彼女へと。駆け寄るユキオー。

 

 そして、魔法が解ける時間。

 

 おじさんに、涙の別れを告げ。

 

 契約更新。新たな魔法が、掛けられる。

 

 リバーシブル・戦国大名シンデレラ。

 

 ガラスの靴も、草履ももはや過去の遺物。

 

 おじさんと、ノーパンからの卒業である。

 

 

 

 

 

 

 「おいジジイ。オレを騙したのか?

 あのロリ、飛ばないぞ。

 どう見ても、トリじゃないだろ」

 

 「いやぁ。ちょっと夢見がちな。

 普通のウマ娘だと、思ってたんだがな」

 

 

 

 さすがに、異例が続けば。

 

 心が、大海のように広い自分とて。

 

 苦言を呈さざるを、得ない。

 

 トレーナーは、ジジイに問いただすこととした。

 

 

 

 「夢見がちとは?」

 

 「脳内のおじさんとやらと。

 喋る時が、稀によくある」

 

 「なるほど。不思議ちゃんなら。

 何があっても不思議ではない。

 そういうことだな?」

 

 「まぁ。そういうことにしておこう。

 俺も正直、よくわかってねぇ。

 ウマソウルってのはな。

 まだまだ、ヒトの理解を超えてやがる」

 

 「ウマソウルって凄い」

 

 

 

 リキシソウルと、トネガワソウル。

 

 不思議に満ちた、異世界ソウルである。

 

 

 

 「さて。待たせたね? 先輩」

 

 「マジで待ったのである。

 私が待てが得意な、優秀なメイドでなくば。

 今頃、わんわんしてるところである」

 

 「犬か駄犬か。はっきりしてくンない?」

 

 「わんわん」

 

 「やはり」

 

 

 

 話術で時間を、稼ぎつつ。

 

 ゆっくりと、新たな力を確認する。

 

 

 

 「ファル子さんッ! 私の話を……!」

 

 「フラッシュちゃんと話す事なんて。

 ファル子、何一つ。無いよ」

 

 

 

 エイシンフラッシュの、悲痛な声。

 

 無駄だ。会長は、呪いから完全に脱した。

 

 毎日の、晩酌後。

 

 寝入った彼女へ、あまあま解呪ASMR奉仕。

 

 会長の心の中の、お前のポジション。

 

 このトネガワユキオーが、埋め尽くした。

 

 もはや、声など届く筈も無い。

 

 命を惜しみ、ドイツまで逃亡するなど。

 

 退くべきところは、退くが(つわもの)

 

 だが、それで貴様は。

 

 最も大事な者を失った……!

 

 

 

 「こうなれば……! ウララさん!

 バナナ……Oh……寝てました」

 

 「ウララちゃんには、興味津々かなぁ」

 

 

 

 正妻には、興味あり。

 

 あの桜色は、キャラの濃さは。勿論の事。

 

 常に、番組で共演していたため。

 

 我が奉仕では、居場所を奪えなかった。

 

 だが、まぁいい。

 

 ナンバーワンなど、似合わない。

 

 この身は、奉仕するもの。

 

 第二正妻として。雑に愛されるが本望。

 

 何故ならば。

 

 この身は、彼の敗者の魂。

 

 トネガワソウルを、継いでいる。

 

 自分は常に。ナンバー2狙い……!

 

 

 

 「おじさんは、心の中にッ!」

 

 「プレイッ!」

 

 「スタートの景色も、譲らないッ!」

 

 

 

 自分の準備が、整ったことを。

 

 敏感に、察したのだろう。

 

 先ほどの、タイムで。

 

 完全にやきう脳になった、葦毛の合図。

 

 反射的に、何処かへ走り出す栗毛。

 

 

 

 「ええ……」

 

 

 

 こやつら、マジで何なの。

 

 頭を抱える。

 

 

 

 「だ、大丈夫であるか? ユキオー」

 

 

 

 心配そうな、褐色ロリの声。

 

 バ鹿め。まんまと騙されおった。

 

 でも、お友達としては。とても良いウマ。

 

 ユキオー、優しいウマは大好き。

 

 戦いが終わったら、仲直りしなきゃ。

 

 思いつつ、ほくそ笑む。

 

 

 

 この、頭を抱える格好こそ。

 

 利根川幸雄の、お決まりのポーズ。

 

 これこそが。我がルーティン……!

 

 

 

 「ぬぅぅ……!」

 

 魂が、熱くなる。

 

 おじさんは、この魂に完全に馴染んだ。

 

 心象風景に、堕ちていく。

 

 

 

 洋上の豪華客船。違う。

 

 チームトネガワ。違う。

 

 

 

 領域は、ソウルの見た夢。

 

 夢は、一つとは限らない。

 

 だが、核心となる。

 

 最も、強き心象風景。

 

 それは、たった一つだけ。

 

 さらに潜航していく。

 

 おじさんが、抱えていた闇の中へ。

 

 

 

 高層ビルと、鉄骨。違う。

 

 エビロォォォォォォッル! 海老谷貴様。

 

 

 

 危ない。一番手の掛かった、部下の顔。

 

 海老ロールを、顕現させるところであった。

 

 さすがに、赤座海老では勝負に勝てぬ。

 

 借金を背負うのが、関の山。

 

 

 

 恐らく。誤った心象を具現してしまえば。

 

 次に魂を、震わせるまで。

 

 その心象だけでの、戦いを強いられる。

 

 会長に、無様な姿を魅せるなど。

 

 彼女が許しても、このトネガワユキオー。

 

 自分自身が、許せぬのだ。

 

 

 

 

 さらに、深度を深める。

 

 魂が告げる。ここだと。

 

 前世における、会長の笑顔。

 

 耳当てをつけた、ヤツの……!

 

 

 

 「これだッ!」

 

 

 

 そして。見つけた。

 

 スターサイドビル内部。

 

 十枚のカード。

 

 これだ。これこそが。

 

 我が、真なる武器……!

 

 

 

 「フォーリンダウン! 『失脚へのカウントダウン(Eカード)』!」

 

 「ぬぅッ!?」

 

 

 

 心象風景から浮かび上がり。

 

 顕現させるは、皇帝と市民。

 

 握られる、二種のカード。

 

 手首に巻かれる、精緻な時計。

 

 

 

 「これは……!?」

 

 駄犬メイドの手には、奴隷と市民。

 

 ウマ耳には、お洒落なアクセサリ。

 

 

 

 「なんであるかッ!?」

 

 「Eカード。あンたを地獄に堕とすッ!

 わたしの新たなる力ッ!」

 

 「どんなルールッ!?」

 

 「皇帝が強いッ!」

 

 「無いんだけどッ!?」

 

 「質問すればッ!

 答えが返ってくるのが、当たり前か……?

 バ鹿がっ! 大人は質問に答えたりしないッ!

 それが基本だッ!」

 

 「理不尽!」

 

 

 

 一喝する。

 

 道理の分からぬ、先輩である。

 

 ウマは、平等ではない。

 

 会長が教えてくれた、真実。

 

 味わい尽くして、地に堕ちろ。

 

 さぁ! 闇のゲームの、始まりだ……!

 

 

 

 「デュエル・スタンバイッ!」

 

 「ルールが分からぬッ!」

 

 「甘いぞ凡骨ッ! わたしのターン!

 皇帝を、攻撃表示で場にッ!」

 

 「わ、私は市民を防御表示!」

 

 

 

 バ鹿め。乗ってきおった。

 

 応じなければ、命を永らえたものを。

 

 

 

 「あンたは、高級羽毛布団!

 それに、埋め尽くされるタイプッ!

 皇帝ッ! 滅びのバースト王権神授ッ!」

 

 「なん……だと……!?」

 

 

 

 そして。

 

 

 

 「「……」」

 

 「何も起こらないんかいっ!」

 

 

 

 スパパァン、と。

 

 両者の頭上に、振り下ろされる。

 

 ゾーリンゲン製ハリセン。

 

 ドイツ仕込みの、ツッコミ。

 

 エイシンスラッシュである。

 

 

 

 「「いったぁぁぁぁぁいッ!」」

 

 「……」

 

 

 

 頭を抑え、転げ回るロリども。

 

 エイシンフラッシュは、慎重に。

 

 スマートファルコンの、顔色を伺った。

 

 口の端が、微かにひくついている。

 

 やはり。

 

 

 

 (お笑いのソウルを。失ってはいない……!)

 

 

 

 まだ、目はある。

 

 この身に、リアクション芸人の適性。

 

 それは、皆無である。

 

 クールビューティだからだ。

 

 

 

 (ですが……! 修行で身につけた、この力ならッ!)

 

 そう。ツッコミならば。

 

 彼女を、喜ばせてやれる……!

 

 今までは、温存していたが。

 

 まさに、成果を魅せる時ッ!

 

 

 

 「ファル子さんッ! 目を覚ましてッ!」

 

 「フラッシュちゃん。芸が楽しめないから。

 ちょっと黙ってもらっていい?」

 

 「はい」

 

 

 

 やはり。リアクション芸が大好物。

 

 ロリアクションに、ご執心のようだ。

 

 映画も喜劇も、客がうるさすぎるのは、禁物。

 

 感激しすぎた絶叫で。観劇し損ねるなど。

 

 あってはならない、状況である。

 

 エイシンフラッシュは、機会を伺うこととした。

 

 大人しく、下がってロリどもの。

 

 戦いを、後方師匠面で見守る。

 

 

 

 「おじさァン!? これ、使えないンだけどッ!」

 

 「おじさんって、誰であるッ!?」

 

 

 

 ちょっと掛かり気味な、ユキオー。

 

 もう居ない、おじさんに苦情を申し立て。

 

 返答の無い虚無感に、肩を落とし。

 

 次いで腕時計に、目を落とす。

 

 

 「ン……?」

 

 文字盤には、時刻以外に見慣れぬ数値。

 

 そして、波打つ何かの線。

 

 これは。もしや……?

 

 

 

 「先輩。パンツ丸出し」

 

 「はいてないのである」

 

 

 

 波形に、変化なし。

 

 

 

 「先輩。後方から栗毛が」

 

 「そんなベタな嘘。騙されないのであるぅおお危なッ!?」

 

 

 

 超特急で、褐色ロリを掠める栗毛。

 

 ガチビビリした、駄犬。

 

 

 

 「褐色ロリアクション芸人……いいなぁ。

 スカウトしたいなぁ」

 

 満面の、笑顔の会長。とてもかわいい。

 

 

 

 「ふう。だいぶ満足したわ」

 

 「スズカさん。マウンドに選手以外の立ち入り。

 次は見逃しませんわよ?」

 

 「やきう好きよね。マックイーン」

 

 

 

 栗毛はどうやら、相当楽しんできたらしい。

 

 せっかく、教えてあげたのに。

 

 ウマの好意を、無駄にするとは。

 

 とんでもない先輩である。

 

 思いつつ、文字盤に目を落とす。

 

 波の高さが、天元突破。

 

 やはり。

 

 

 

 「あー!! びっくりした! もー!! びっくりしたッ!」

 

 「なァるほどねェ! こいつは素敵だよ、先輩!」

 

 「むぅ……?」

 

 

 

 わかった。この力の使い方。

 

 カードは、フェイク。

 

 本命は、この腕時計ッ……!

 

 

 

 「先輩。時に、フォーリンダウン」

 

 「うおッ!? 危ないのであるッ!」

 

 

 

 そっと指さし、告げてみる。

 

 一瞬で、飛び退く彼女。

 

 不必要なまでの、飛距離。

 

 再度跳ね上がる波形。

 

 脳内に閃く、ある推測。

 

 

 

 「先輩。もしかしてさ。

 その領域、()()()()()ンじゃないの?」

 

 「ま、まっさかー! このアフガンコウクウショーが!

 練習不足の部分展開! 使ってみたはいいものの!

 あんまり制御ができなくて! 焦っているなど!

 あるはずが、ないのであるッ! ふひゅー。すー」

 

 「口笛吹けてないよ? なるほどねェ……」

 

 

 

 文字盤に、目を移す。

 

 ばっくんばっくんと、乱高下する波形。

 

 確信に変わる。

 

 

 

 「フォーリンダウン『失脚へのカウントダウン(Eカード)』。

 どうやら、とっても使えるようだね。

 ……まァ。アフちゃん先輩には。

 あンまり必要ないかもだけども……」

 

 「むぅ? どういう能力なのである?」

 

 「先輩じゃないンだから。教えるわけないでしょ」

 

 「けち」

 

 

 

 口を尖らせる、褐色ロリ。

 

 とてもかわいらしい。

 

 お友達もいいが、ペットにしてあげるのもソソる。

 

 会長と、正妻の新居。

 

 メイド服を着て奉仕する、自分。

 

 黒鹿毛の、かわいい子ウマ。

 

 庭には、褐色ロリの犬小屋。

 

 素敵な、未来予想図である。

 

 そう思いつつ、指を差し向ける。

 

 

 

 「む? 懲りないヤツである。それでは私を捉えることなど……」

 

 「連射したらさ。どうなるのかな」

 

 「やめてッ!?」

 

 

 

 跳ね上がる、波形。

 

 悲鳴を上げる、褐色ロリ。

 

 やはり、この力。

 

 相手の、耳のアクセサリから。

 

 その、動揺を見抜く。

 

 勝負に、非常に役立つ力……!

 

 

 

 「もっとポーカーフェイスな、相手が良かったッ!

 フォーリン、ダウンダウンダウンダウンダーウンダーウンウンッ!」

 

 「連射しすぎィッ!」

 

 

 

 びゅんびゅんと、空を駆けまわる。

 

 アフガンコウクウショー。

 

 部分展開した自分なら。

 

 出力を絞れば、連射は容易。

 

 必死な顔で、避け続ける彼女。

 

 だが、制御の利かない領域で。

 

 そんな、無理な機動をしたら?

 

 

 

 「あら」

 

 「すごく痛いッ!」

 

 

 

 ガァン、と。

 

 栗毛の壁に、衝突する褐色ロリ。

 

 

 

 「アフちゃん。いい度胸ね。

 さすがに私も、こう真正面から。

 大胆不敵に、ナイムネ強調。

 ちょっと。とても。すごく腹が立ったわ」

 

 「ご、ごめんなさいなのであるッ! ゆるしてッ!」

 

 

 

 珍しい、栗毛の真顔。

 

 握り締められる拳。 

 

 慌てて飛び上がる、彼女。

 

 下から見上げ、先程とは違う点に気付く。

 

 

 

 「へぇ……」

 

 

 

 舌なめずり。

 

 なるほど、部分展開の利点。

 

 こんなところにも、あったのだ。

 

 もっと足掻いて、ドツボにハマれ。

 

 思いつつ、連射を継続。

 

 掠めるだけで、痩躯が揺れる。

 

 なるほど。動揺すると効果アップ。

 

 

 

 「はい、ダウンダウンダウンダウンダウン」

 

 「もうッ! ドSゥッ! 恋しちゃいそうッ!」

 

 「やだ。そんなこと言われたら。

 わたし、キュンキュンしちゃう。

 もっと堕としたくなるじゃン。故意に。

 ダウダウダウダウダウダウダウダウダダダダダダダダ」

 

 

 

 胸が、ときめくその悲鳴。

 

 とってもアガッてきた。

 

 連射速度が、高橋名人。

 

 会長には、ドMだが。

 

 本来、自分はドS。

 

 会長と出会っていなかったら。

 

 彼女と、爛れた学園百合ラブコメディ。

 

 そんな、運命もあったかもしれぬ。

 

 だが、このユキオー容赦せぬ。

 

 楽しむのは、会長を楽しませてから。

 

 部下として、基本の心構えである。

 

 

 

 「ひぃんッ! も、もう持たないッ!

 アテンションプリーズッ!」

 

 順当に、アフガンコウクウショーは制御を失い。

 

 

 

 「ぬわー!」

 

 「ぐっほ!」

 

 「ウララッ!?」

 

 

 

 どことなく、既視感を覚える悲鳴。

 

 アフガン航空、墜落の巻。

 

 

 

 

 

 つづかない




たまに、おねだりするが吉。
そう伺いましたので。
もしも、面白いと思っていただければ。
ちょいと、下にスクロール。
ブクマ・感想・評価などを頂けると。
わたくしが嬉しい。ほっこり。
パワー


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ファル子さんじゅういっさい そのさんじゅういち ウマ娘の使命

さぁ、アフちゃんの運命や如何に。
そして、頼れる仲間たちの奮戦。
お楽しみください。

P.S. 投稿時間は、21時が良いと聞き。
勝手ながら、今後は21時に予約投稿いたします。


~前回までのあらすじ~

 

 ジジイに、詰問するトレーナー。

 

 例外しか、登場していないためだ。

 

 神ならぬ彼では。

 

 目の前の、ロリどもが。

 

 ちょっと愉快な、初老の男性。

 

 そのソウルを宿しているなど。

 

 想像の、埒外だったためだ。

 

 そして、葦毛が告げる。ゲーム再開。

 

 レースと勘違いした栗毛。

 

 走り去る、彼女を他所に。

 

 トネガワポーズを取るユキオー。

 

 心配そうな、アフちゃん。

 

 その善良さが、仇となるのだ。

 

 堕ちる堕ちる、心の中へ。

 

 輝かしき実績。

 

 すごく印象深い部下。

 

 煌めく記憶の大海の底。

 

 そこで見た、最も強き心象風景。

 

 おじさんの消えた今、止める者など居はしない。

 

 トネガワユキオーは、目を開き。

 

 顕現するは、Eカード。

 

 カードバトルは、大人気。

 

 昨今の若者らしく。

 

 デュエルに興じることとする。

 

 一方的な、スタンバイ。

 

 反射的に、応じる敵手。

 

 初心者狩りは、カードの基本。

 

 そして、何も。起こらない。

 

 フレーバーアイテムだったためだ。

 

 いきなり豹変した、黒鹿毛。

 

 ハリセン用いて、猛禽類の。

 

 優しき心を、取り戻さんと。

 

 修行の成果は、空振り三振。

 

 そして、ついに掴んだユキオー。

 

 自分の力の、使い方。

 

 皇帝としての、立場を守る。

 

 イカサマこそが、本質だ。

 

 そして、アフガン航空は。

 

 ついに、地へと墜落し。

 

 着地点には、ハルウララ。

 

 薫るぜ。プンプンと。

 

 危険な香り。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──最も、嫌いな物は。

 

 苦痛に喘ぐ、彼女の悲鳴。

 

 

 

 とある、悲恋の話をしよう。

 

 ハッピーエンドに辿り着けなかった。

 

 ちいさな恋の、物語。

 

 

 

 王様に、命じられ。

 

 お世話を仰せつかった、従者が一人。

 

 気難しい、お姫様。

 

 始めは酷いものだった。

 

 我が儘放題、好き勝手。

 

 誰にも心を開かない。

 

 そして。彼女の闘う姿。

 

 てんで弱くて、まるで駄目。

 

 誰にも勝ちなど、期待されず。

 

 だが。その姿に。

 

 従者は恋に、堕ちたのだ。

 

 

 

 闘い疲れた、彼女を癒し。

 

 次の戦場に、送り出す。

 

 やっと彼女が、心を開き。

 

 目を細めて、彼の手を受け入れた時。

 

 その身は既に。ぼろぼろだった。

 

 

 

 携える、四本の剣。

 

 一本は、ひび割れ。

 

 打ち直すことも、許されず。

 

 ひたすら闘う、彼女の姿。

 

 ただただそれは、生きるため。

 

 闘えなくなった彼女に、価値は無く。

 

 華やかな、中央での舞踏。

 

 弱き彼女は、向かえない。

 

 小さな小さな、舞踏会。

 

 観衆どもは、囃し立てる。

 

 あまりの彼女の、弱さを讃え。

 

 

 

 一人の男が、気付いた価値。

 

 敗北が産んだ、あまりにも身勝手な。

 

 弱者の星という称号。

 

 異論を叫んだ者もいる。

 

 闘争の、価値を損ねると。

 

 賛否両論の、声を背に。

 

 どこ吹く風と、闘い続けるお姫様。

 

 人の言葉など、届きはしない。

 

 届くのは、その身に浴びる歓声と。

 

 愛してくれた、彼らの笑顔。

 

 

 

 ある時、男は王様に。

 

 首を切られ、その地を去った。

 

 金銀ダイヤ、エメラルド。

 

 財宝よりも、彼にとっては価値のある。

 

 煌めく瞳。艶やかな毛並み。

 

 少しずつ、少しずつ剥がれていく姿。

 

 彼女の身体を細らせて。

 

 夢と希望を、人に与え続ける仕事。

 

 燕としての、生活に。

 

 耐えきれなかったためだ。

 

 

 

 人の言葉は通じるが。

 

 話が通じるとは、限らない。

 

 王様は、彼の言葉をうるさがり。

 

 彼女の、最後の闘いを。

 

 支えることは、叶わなかった。

 

 観客席にて、一人佇み。

 

 呆然と、眺めた姿。

 

 勝ちの無い、彼女の価値。

 

 走り終えた、彼女の行方を聞き。

 

 怒りと、絶望に心を染めた。

 

 男の闘いは、その時から始まったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 意識が、浮上する。

 

 あまりの怒りに、自失していたらしい。

 

 

 

 「う、ウララ先輩ッ! ごめんなさいであるッ!」

 

 「ぬぁぁぁぁぁ……」

 

 

 

 おなかを抑え、転げ回るハルウララ。

 

 トレーナーは、大層腹を立てた。

 

 この褐色ロリ。

 

 自らの、世界の全て。我が愛バに。

 

 よもや、全身で腹パンをキメようとは。

 

 これは、注意してやらねば。

 

 なんとか落ち着いた、愛バの。

 

 おなかを撫でてやりながら、告げる。

 

 

 

 「アフちゃん」

 

 「ヒィッ!」

 

 「どうした。オレの顔に何か?」

 

 「ゆるして。もうしません。殺さないでッ!」

 

 

 

 どうしたのだろう。

 

 腰を抜かして、へたり込む褐色ロリ。

 

 指を、彼女の細い肩に。

 

 ぎちぎちと、食い込ませながら考える。

 

 

 

 「トレーナーさん。顔。

 殺人鬼でも、もうちょっと。

 穏やかな顔をしますわよ?」

 

 「キレた時の、ウララさんそっくり。

 やっぱり、似るものね」

 

 

 

 なるほど。自分もまだまだ未熟。

 

 思いつつ、ちょっとした注意をロリに。

 

 

 

 「いいかアフちゃん。ウララはな。

 母性本能の塊だ。子供が大好き。

 これは、産駒を残せなかったこと。

 それも、関係しているのだろう」

 

 「これから産むんじゃないの?」

 

 「おっと、失礼。まだ引っ張られているな……

 まぁそれはいい。大事なことは一つだ。

 おい、ウララが子を産めなくなったら。

 どう責任を取るんだ貴様」

 

 「う、ウララ先輩頑丈だし……

 スズカ先輩の胸ぐらい。硬い感触であった」

 

 「殺すわ」

 

 「さよなら現世」

 

 

 

 自らの生の、終わりを悟り。

 

 うちひしがれる、アフちゃん。

 

 だが、そうはいかぬ。

 

 責任を、取らせねばならんのだ。

 

 

 

 「駄目だ。サイレンススズカ。

 アフちゃんは、殺させん」

 

 「あら。どうして?」

 

 「し、信じてたのである! 

 かっこいい! 守って守護外道ッ!」

 

 

 

 きらきらとした目で、見上げてくる褐色ロリ。

 

 何、彼女を守るのは当然のこと。何故ならば。

 

 

 

 「ウララが百人産めなかったら。

 母性本能が、満足出来ない可能性がある。

 不足分を、アフちゃんにウマせねばならん。

 ウララのおなかを、痛め付けた罪。

 それで帳消しにしてやろう」

 

 「どちらにせよ殺される」

 

 「お前らの愛、歪んでねぇ?」

 

 

 

 当然の、論理を告げる。

 

 『産駒自在の母性(ハルウララ)』は、大海のごとき母性と。

 

 カッコウ被害鳥類。両方の特性を持つ。

 

 

 

 産むのが、彼女だけでなくとも。

 

 別に、問題は無い。

 

 育てるのが、彼女であれば良い。

 

 プリンセスなど、良い例である。

 

 そう、説明したところ。

 

 頭を抱える六平老と。

 

 異常振動する、アフちゃん。

 

 何故だ。

 

 

 

 「しょ、初犯故。許して頂けないである?」

 

 「まぁ、しょうがない。

 まだ、ダメージが残ると。決まった訳ではない。

 寛大な心で。ウララがギブアップするまでは。

 執行猶予をつけてやろう」

 

 「ウララ先輩……! マジ頑張って! 

 私の幸せのために! ウマされるのは嫌ァッ!」

 

 

 

 愛の籠った、おなかなでなでにより。

 

 穏やかな顔に、なりつつある愛バ。

 

 必死で彼女を応援する、褐色ロリ。

 

 まぁ、触った感触からして、ダメージは無い。

 

 ちゃんと、百……いや、百十三だな。

 

 ウマせてやることを誓い、なでなでを続行。

 

 

 

 「わかったならいい。

 戦いに戻れ。カッコウ」

 

 「ヒィッ……! 既に分類されているッ!?」

 

 

 

 顔を青ざめさせつつ、敵手に向き直る母体。

 

 それで良い。そう思っていると。

 

 葦毛と栗毛が、怪しい動き。

 

 

 

 「マックイーン。ちょっと」

 

 「どうしましたの? スズカさん」

 

 

 

 こそこそと、端に移動し。

 

 内緒話の構え。どうしたのだろうか。

 

 

 

 「いい? マックイーン。

 千載一遇。またとないチャンスよ」

 

 「チャンス、とは?」

 

 

 

 やれやれと、サイレンススズカは。

 

 これが、どれほどの好機か。

 

 解っておらぬ、葦毛に囁いた。

 

 

 

 「私たちは、実績は十分。祖先に顔向けできるわ」

 

 「何を今さら。メジロの歴代も、満足している。

 そう、確信しておりますわ。

 貴顕の使命。十二分に果たしております」

 

 「でも、血統残せないわよね? 

 トレーナーさん、アガる前に捕まるかしら。

 まだ、忘れられないんでしょう?」

 

 「がフッ」

 

 

 

 サイレンススズカは、吐血する彼女の。

 

 背中をそっと摩りつつ、続ける。

 

 

 

 「いい? マックイーン。私もそう。

 愛してるのは、スペちゃんだもの。

 彼女以外と、愛を育むだなんて。

 考える前に、走り出すわ」

 

 「そこは、考えてくださいまし」

 

 

 

 メジロマックイーンは、唸った。

 

 この栗毛、何が言いたいのか。

 

 本題が、見えてこない。

 

 

 

 「これはチャンスよ、マックイーン。

 ウララさんに、腹パンするだけで。

 自動的に、血統を残せるわ」

 

 「なんッ……!」

 

 

 

 この時、マックイーンに電流走る! 

 

 その発想は、無かった……! 

 

 だが、なんと邪悪なことを思い付くのか。

 

 この栗毛、走ることしか。

 

 考えてないように、思えていたが……。

 

 それは、素人考えというもの。

 

 

 

 例え戦法が。只管先頭、逃げであっても。

 

 フォーム改善、ダンスの習得。

 

 トレーニングは、バ鹿では効果が薄いもの。

 

 目的意識と、趣旨の理解。

 

 頭を使う部分は、いくらでも。

 

 

 

 脳が空では、いくら素質があろうとも。

 

 レースに勝てる、筈は無く。

 

 頭が回るのは、道理である。

 

 

 

 「でも、スズカさん。さすがにそれは……」

 

 

 

 血統を、残す。

 

 確かに重要だが……ウマ道に反する。

 

 なんとか、翻意させねば。

 

 そう思ううちに、栗毛の追撃。

 

 

 

 「いい? ウララさんのトレピッピ。

 恐ろしいほどの、優良物件よ」

 

 

 

 彼を見てみる。

 

 顔よし、声よし、ケツも良し。

 

 三拍子で、手を叩きたいほど。

 

 実は、友人のトレーナーである手前。

 

 我慢してはいたが……

 

 相当自分の、好みである。

 

 

 

 「ソソりますわ……」

 

 「おまけに彼は、九夢院。血統も確か。

 私の家や、メジロとも。釣り合うどころか。

 望んでも、縁談を結べない可能性すらある」

 

 

 

 トレーナー名家。

 

 実績を残したウマ娘。

 

 彼女らを、育てて子を育んだ。

 

 そうで無ければ、名家などと。

 

 呼ばれることはあり得ない。

 

 

 

 「で、ですがッ! 

 ウララさんの先程の、悲鳴! 

 わたくしたちの、産駒を残せても! 

 もし、ウララさんのおなかに! 

 ダメージが残ったら、どうしますの!? 

 地獄垂直落下、待った無しですわ!」

 

 

 

 そう。さすがにそれは。

 

 我らの我が儘で。

 

 彼らの愛の、結晶。

 

 それを育む、彼女のおなか。

 

 害することなど……! 

 

 

 

 「ウララさんのおなか。触った事ある?」

 

 「ぷにっとした感触の下に、隠れる。

 オリハルコンの、バッキバキ」

 

 「そうね。あの違法ロリ。筋肉量すら違法。

 ステロイドを使っても。

 あそこまで、ガッチガチにならないわ」

 

 「パワー」

 

 

 

 そう。ハルウララのおなか。

 

 領域の副作用により、みっしり詰まった腹筋。

 

 ダメージを与える事すら、容易ではない。

 

 

 

 「だけどね? それが逆にチャンスよ。

 罪悪感ゼロで、拳を叩き込めるわ」

 

 「なるほど……! でも、先ほどの航空事故。

 相当痛がっておりましたが」

 

 「ふふ。ウララさんは、メルヘンだもの。

 愛するヒトの子を産むため。

 過剰に反応しただけよ。

 今も、安らかに寝てるでしょう?」

 

 「なんと……!」

 

 

 

 なるほど。学生時代の河原。

 

 砂利の上で、二人で見上げた夕焼け。

 

 あの時も、確かに。

 

 黄金船直伝、ドロップキック。

 

 まったく効果は、見受けられなかった。

 

 だが……

 

 

 

 「ですが、スズカさん。愛する二人の間に入り込むなど。

 百合の間に挟まることに匹敵する、違法な行為では?」

 

 「あのトレーナー。ウララさんを愛しすぎて。

 彼女のためには、なんだってやる。

 そのような、覚悟を感じる。

 でも、ウララさんのちんまい身体で。

 百十三なんて、気の狂った数。

 本当に、愛の結晶を宿せるかしら? 

 アフちゃんの母体化は、避けられない。

 負担の分散というものよ」

 

 「けれどもッ! あれは不可抗力ッ! 

 わたくしたちが。外野の者がッ! 

 それに挟まっていい道理などッ……!」

 

 

 

 優雅さを投げ捨て、彼女に食ってかかる。

 

 そのような、そのような行為……! 

 

 

 

 「『カッコウ』するわ」

 

 「だから気に入りましたわ」

 

 「良し(ベネ)。そう言ってくれると思ってたわ」

 

 

 

 なんと、甘美なる行為か。

 

 友人たる、ハルウララの。

 

 理解ある彼ピッピ。

 

 我らが、種ピッピとして。

 

 この遺伝子を。愛の無い行為で、後世につなぐ。

 

 例え、産まれた我が子が、ハルウララに奪取され。

 

 母とは名乗れぬ、身になったとしても……! 

 

 

 

 「恐らくとっても。気持ちいいに間違いありませんわ……!」

 

 「うふふ。マックイーンも、そう思うのね。

 首尾よくいけば、スぺちゃんにも。

 大胆に、腹パン太鼓をさせないと」

 

 「うちの、加湿器どもにも。

 分け前を、与えねばなりませんわね。

 メジロ家総出の、カーニヴァル。

 ヤ〇ザキ、ハル(ウララ)の腹パン祭り。

 血が滾って参りましたわ……!」

 

 「へぇ。なるほど。いい計画だね」

 

 「でしょう? ウララさんの負担は減る。

 私たちも、産駒を残せる。

 おまけに、トレーナーさんも。

 ハーレム系なろう的な肉欲に。

 思う存分、溺れられる。

 三方良しとは、このことよね」

 

 

 

 夢の翼が、どこまでも。

 

 失楽園に向けて、飛翔してゆく。

 

 二人も、同意してくれている。

 

 サイレンススズカは、確信した。

 

 イケる……! 

 

 産駒を残せなかった、自らのウマソウル。

 

 その無念を、晴らす時! 

 

 

 

 「なるほど、完璧な計画だよね。

 不可能だという点に。

 目をつぶればなァ……!」

 

 「「う、ウララさんッ!?」」

 

 

 

 ハルウララは、激怒した。

 

 必ず、かの邪知暴虐の友人(カッコウ)どもを。

 

 除かねばならぬと、決意した。

 

 ハルウララには、愛なき行為がわからぬ。

 

 ハルウララは、母性溢れるウマ娘である。

 

 ケツを撫で、トレピッピを弄び。

 

 純朴な愛を、育んできた。

 

 けれども、NTRについては。

 

 人一倍敏感であった。

 

 あのような、痛み。

 

 一度だけで、十二分過ぎる……! 

 

 

 

 「害鳥は、駆逐しないとね……」

 

 

 

 そっと、握るその拳。

 

 天を衝く怒り。

 

 五分咲の桜が散っていく。

 

 部分展開。

 

 舞い散り踊る、桜吹雪。

 

 ぼそりと告げる、言の葉。

 

 

 

 「ハイクを詠め。ドロボウウマ=サンタチ」

 

 「愛は無い つまりはNTR ではないの」

 

 「わたくしは あなたを想い 善意です」

 

 

 

 なんというやつらか。

 

 ハルウララは、さらなる怒りを感じた。

 

 ハイクを詠めと、言ったというのに。

 

 帰って来たのは、センリューである……! 

 

 怒りに任せ、シャウトする。

 

 

 

 「わたし、産むからッ!」

 

 「よし。言質を取るのは、正気の際に限る」

 

 「タイシンさんに、謝る必要は……

 有りませんね」

 

 

 

 

 言ってない定期。

 

 

 

 「怒りが。沸く沸く。用意……」

 

 「儚いウマ生でしたわ」

 

 「スぺちゃん。ごめんね。帰れそうに無い……」

 

 

 

 「怒ンッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (カッコウ)は滅び。

 

 正義の使者は、鹿毛を揺らし。

 

 怯えて伏せる、駄犬を踏みつつ。

 

 にっこりと、微笑んだ。

 

 

 

 「さて、邪魔者は消えた。次は貴様らだ」

 

 「その錯乱。やはりウララちゃんこそ。

 我が正妻に、相応しい……!」

 

 「会長、ウマの趣味だけは悪いと思うよ。ほンと。

 完全に、ポテトマッシャーじゃン。

 敵味方、関係ない大爆発。正妻に相応しいかなぁ……?」

 

 

 

 さぁ。決着をつけるとしよう。

 

 あと、ヤツらは一応生かしておいた。

 

 冷静になれば。百十三とか、普通に死ぬ。

 

 ちらりと、背後で己の腰を揉む。

 

 理解ある、トレピッピを見やる。

 

 

 

 『わたし、産むからッ! わたし、産むからッ! わたし、産むからッ!

 わたし、産むからッ! わたし、産むからッ! わたし、産むからッ!』

 

 「うむ、これは永久保存。

 嬉しいぞウララ。オレは頑張るからな。

 例えお前を、愛で壊すことになったとしても」

 

 

 

 ヘッドホンで、先程の決意表明。

 

 感極まった表情で。鬼リピする彼。

 

 

 

 『理性不在の愛(トレーナー)』は、理解あるトレピッピと。

 

 気の狂った、ちん○ん亭。

 

 両方の、特性を持つ。

 

 

 

 (ガチで愛し殺される……!)

 

 

 

 よくよく考えれば……

 

 ウマ娘の使命の一つ。血統の保持。

 

 とても重要な、命題である。

 

 協力するのも、吝かでは無い。

 

 ヤバくなったら、押し付けよう。

 

 ハルウララは、決意を新たにした。

 

 純愛。

 

 

 

 メジロマックイーン並びにサイレンススズカ。

 

 カッコウ御法度により、再起不能(リタイヤ)! 

 

 

 

 つづかない



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ファル子さんじゅういっさい そのさんじゅうに ゴリラの毛色

ようやく、第2部主人公のエンジンがかかってきました。
スロースターターにも程がある。


~前回までのあらすじ~

 

 ちいさな、恋物語。

 

 忘我していたトレーナー。

 

 褐色ロリに、責任を問う。

 

 愛バのおなかは大切だ。

 

 母性の塊たる、彼女。

 

 もしも愛の結晶が。

 

 少数しか、ウマれなくば。

 

 悲しむに違いない。

 

 そう思った彼は、サブ母体を求めた。

 

 カッコウ被害鳥類たる、ハルウララ。

 

 赤子さえ、与えておけば多分満足。

 

 彼の、ささやかな心遣いだ。

 

 怯える褐色ロリ。密談するカッコウズ。

 

 ウマ娘の使命のひとつ。血の継承。

 

 栗毛と葦毛はほくそ笑む。

 

 ハルウララのおなか。

 

 一つ叩けば、産駒がぽんぽん。

 

 二つ叩けば、いったいいくつ? 

 

 魔法の拳を、叩き込め。

 

 愛の無い、行為は大好物。

 

 三十路の気持ちは、一致した。

 

 そして、怒れるハルウララ。

 

 トラウマを、刺激されたためだ。

 

 純愛の御旗の元。桜を咲かせ。

 

 カッコウどもを、始末する。

 

 粛清を終え、一息ついた彼女。

 

 言質を取られた事実に、焦り出す。

 

 百十三は、多すぎる。

 

 フレキシブルに、純愛分配を目論みつつ。

 

 最後の戦いに臨む。

 

 トレーナーは、わりと気が狂っていた。

 

 ハルウララ。例の物置より、大丈夫。

 

 嫌な信頼である。

 

 

 

 

 

 

 

 ──彼は必死に働いた。

 

 愛する彼女と暮らすため。

 

 血尿流し、汚泥を啜り。

 

 地を這いずり、頭を踏まれ。

 

 やれることは、なんでもやった。

 

 悪事にだけは、手を染めなかった。

 

 彼女に穢れた手では、触れられぬ。

 

 

 

 心の癒しは、月に一度の彼の地の訪問。

 

 触れ合うことは、もうできぬ。

 

 だが。穏やかに暮らす、彼女の姿を見るだけで。

 

 削られた心は、癒された。

 

 何度でも、誓いを思い出せたのだ。

 

 

 

 だが、ある時気付いた。

 

 このままでは、間に合わぬ。

 

 彼女の時間は、有限である。

 

 焦りは彼を、修羅にさせ。

 

 彼の地を訪問せずとも。

 

 戦い続けられるようになった。

 

 

 

 そして、最後に彼の地を訪れてから。

 

 十の年月が過ぎたとき。

 

 彼は、目標を達成した。

 

 彼女に与える、何不自由ない暮らし。

 

 それを可能とする資産。

 

 金銀ダイヤ、エメラルド。

 

 彼女から奪われた、全てを補い余りある。

 

 莫大な富を、携えて。

 

 向かうは、彼女が暮らす牧場。

 

 そして、彼は知ったのだ。

 

 人と自分の、あまりの愚かさを。

 

 

 

 

 

 

 「さぁ。ウララちゃん。ラストバトルのお時間だね。

 ファル子、張り切っちゃうよ?」

 

 「会長と共に戦える。わたしはそれだけで幸福。

 なンて僥倖。なンて昂る。この想い。あンたたちに。

 ぶつけて全てを、地に堕とすッ!」

 

 

 

 くるくると、マイクが回る。

 

 敵手は、共に意気軒高。

 

 こちらの手札は、数少ない。

 

 ハルウララは、舌打ちした。

 

 背後を見やる。

 

 

 

 「きゃんきゃんっ」

 

 褐色ロリ。どうやら部分展開に成功したようだが……

 

 完全に、怯えている。

 

 何か怖い目にでも、遭ったのだろうか。

 

 

 

 「ウララさん。もぐもぐ。バナナの準備は。

 むぐむぐ。万端ですもぐもぐ」

 

 黒鹿毛。なんかすげーバナナ食ってる。

 

 ゴリラと同じ、毛色なだけはある。

 

 計画性の、欠片も見えぬ。

 

 脳細胞の、存在を疑う姿。

 

 

 

 『わたし、産むからッ! わたし、産むからッ! わたし、産むからッ! 

 わたし、産むからッ! わたし、産むからッ! わたし、産むからッ!』

 

 「ンエクスタシィッ! 謎の記憶もなんのそのッ! オレの愛は、今最高にッ! 

 昂り続けて股間が滾るッ! もはや結婚式が待てぬッ!」

 

 トレピッピ。完全に錯乱している。

 

 言質を取られたのは、非常にマズい。

 

 このままでは、明るすぎる家族計画。

 

 

 

 (さすがに、百十三は無理ッ!)

 

 だが、頑張らねばならぬ。何故なら純愛だからだ。

 

 でも、ちょっとは手加減して欲しい。

 

 褐色ロリと、そこらに転がるバ鹿ども。

 

 三人で、十三ぐらいは担当して欲しい。

 

 百人までなら、大丈夫。おそらく。きっと。

 

 ハルウララ、頑張る。

 

 思いつつ、我が軍の総合戦力を試算する。

 

 結論。

 

 

 

 「ろくな戦力が、いねぇ……!」

 

 ステージの横。練習スペースだろうか。

 

 壁に掛けられた姿見を見つつ、嘆く。

 

 鹿毛のかわいい、ウマ娘。

 

 桜の色は、欠片も見えぬ。

 

 自身の弱体化も、著しい。

 

 

 

 「ぴよっ」

 

 かわいい我が子だけが、救いである。

 

 弟妹を、死ぬほど作ってやるからな。

 

 

 

 「ウララ先輩が、二人ほど始末して。

 領域を 後先構わず ブッ放す(字余り)」

 

 「黙れ」

 

 「くぅーん……」

 

 

 

 駄犬を叱責しつつ、考える。

 

 対面不利。これ以上の戦力の減少は、許容できぬ。

 

 思いつつ、ふと気づいたことについて。

 

 褐色ロリに、確認することとする。

 

 

 

 「ところでアフちゃん」

 

 「なんである? ウララ先輩」

 

 

 

 ふわふわと、近くに寄って来た駄犬。

 

 彼女のスカートを覗き込み、首を傾げる。

 

 

 

 「ここ、完全展開まで。できるヤツばっかりだけど。

 お前、丸出しで戦ってたの?」

 

 「えっ」

 

 「いや、お前のピエロとやら。

 初期段階の領域。それの応用でしょ? 

 部分展開までしてるヤツなら、集中してれば普通に見えるよ」

 

 「あら。言われちゃったねぇ。先輩。

 後で、それでからかって。動揺を誘おうと思ったのに。

 うまくいかないもンだねぇ」

 

 ユキオーが、先にネタバラシされたことをぼやく。

 

 部分展開に成功した彼女も、気づいていたのだ。

 

 アフちゃんが、大サービスをバラ撒いていたことに。

 

 

 

 クリークママと、自身が。

 

 褐色ロリの、メイドスカートの中を。

 

 普通に確認できていた理由。

 

 肉眼ならば、上位領域覚醒者なら。

 

 初期段階の領域。それによる幻影など。余裕で突破できるから。

 

 アラー!! とやらの加護は、ガバガバだったのだ。

 

 

 

 「そういうのは、早めに教えて欲しいのであるッ! 

 だ、だがッ! 同性同士なら、問題ないッ! 

 六平トレーナー! アラー!! しか見えておらぬよなッ!?」

 

 「ああ。俺にはピエロしか見えんが……」

 

 「ほらッ! セーフセーフ! アフちゃん貞淑!」

 

 

 

 ほっと胸をなでおろす、褐色ロリ。

 

 自分は、怪鳥専属ご奉仕メイド。

 

 男になど、見せるわけにはいかぬ。

 

 

 

 「すまないアフちゃん」

 

 「嘘でしょッ!?」 

 

 

 

 あまりの衝撃に、栗毛っぽく地面に堕ち。

 

 ゴリラが設置していた、バナナの皮。

 

 それに足を滑らせ。トレーナーにToL〇veるする、褐色ロリ。

 

 お約束である。

 

 

 

 「気にするな、アフちゃん。どうせウマせるのだ。

 将来見ることは、確定している。予定が早まったに過ぎぬ」

 

 「くぁwせdrftgyふじこlpどす恋ッ!?」

 

 

 

 しげしげと、メイドスカートの中を眺め。

 

 冷静に告げる、トレーナー。

 

 彼は、愛する自分以外では。

 

 寸毫たりとも、興奮すること能わぬ。

 

 純愛志向ゆえだ。

 

 ハルウララは、うんうんと頷いた。

 

 できた男である。

 

 

 

 ギブアップした後は、予備どもとの儀式の際。

 

 補助に付く必要が、あるだろう。

 

 まぁ、致し方ない。生きるためだ。

 

 羅生門でも、言っていた。

 

 

 

 「もうッ! アフちゃんお嫁に行けないッ!」

 

 「嫁に来る必要はない。調子に乗るなよ褐色ロリ。

 お前に求めているのは、身体だけだ」

 

 「最低すぎるのであるッ……!」

 

 

 

 身の程知らずにも、我がトレピッピの顔面に。

 

 ウマ乗りになっていたアフちゃん。

 

 ふらふらと、立ち上がり。

 

 端の方に歩いていき、さめざめと泣き始める。

 

 この戦いの間に、立ち直るのは難しいだろう。

 

 アフガンコウクウショー、再起不能(リタイヤ)! 

 

 

 

 「チッ。戦力が減りやがった。これだから若輩者は」

 

 「会長、あのさ。本当にアイツでいいの? 

 アイツ一人で、三人ほど。

 今後、立ち上がれるかも怪しいダメージ。

 獅子身中の虫っていうか。もう大量虐殺兵器じゃン? 

 燃料気化爆弾を、抱え込むようなもンでは?」

 

 

 

 白髪ロリの疑問。誰がデイジーカッターか。

 

 厳密には、違うという説もあるが。

 

 まぁ似たようなものであろう。

 

 だが、猛禽類に動揺は見えぬ。

 

 

 

 「ユキオー。あんな珍獣。長いウマ生でも。

 二度とは出会えぬ、確信がある。

 ハルウララ(燃料気化爆弾)は、まだ条約違反じゃない。

 合法だよ。違法ロリではあるけど。

 

 ファル子、ウララちゃんには前から目をつけてたんだぁ。

 きっと、刺激的な毎日が。待っているに違いないよ。

 わたしも、産駒は残しておきたいし。

 ユキオーにも、分け前はあげるからね?」

 

 「なンという器の広さ……! 

 なンという深謀遠慮……! 

 部下にも配慮する、その心遣いッ! 

 ユキオー、イケメンも大好きッ! 

 一生ついていきます、会長ッ!」

 

 「ふふ。素直な部下は、大好きだよ。

 勝負が終わったら、さっそく爛れた失楽園」

 

 「俺、やっぱり育て方間違えたよなぁ……」

 

 

 

 一瞬で、部下のメンタルケアを行い。

 

 更なる忠誠を、勝ち得る一手を打ち。

 

 こちらを見やる、猛禽類。

 

 サングラスの下で、涙を流すジジイ。

 

 

  

 (やりおる……)

 

 敵に回すと、相変わらず恐ろしい女である。

 

 味方にすると、それ以上に厄介だが。

 

 ハルウララは、激闘の予感に。

 

 そっと、覚悟をキメる。

 

 失楽園は、結婚式にて。

 

 幸せなキスを、してからである。

 

 この勝負、負けるわけにはいかぬ。

 

 メルヘン回路を、躍動させ。

 

 いざ、決戦の時……! 

 

 

 

 「ゴリラ。征くぞ」

 

 「フラッシュです」

 

 

 

 現有戦力は、互いに2。

 

 こちら、無敵でかわいい、ウララちゃんとゴリラ。

 

 あちら、猛禽類と白髪ロリ。

 

 類人猿が混じっているが。まぁあちらも鳥類が混じっている。

 

 トントンと言っていいだろう。

 

 

 

 「部分展開ならッ! 生き様で無力化できるッ!? 

 しかもあンたは弱ってる! 鹿毛もかわいいねッ! 

 試してガッテン! 愛なき楽園にもハッテンッ! 

 フォーリンダウン『失脚へのカウントダウン(Eカード)』ッ! 

 対象指定、ハルウララッ!」

 

 「むうっ……?」

 

 

 

 ウマ耳に、ふわふわとした飾り。

 

 手に、いくつかのカード。

 

 感じる重圧。しゃらくさい。

 

 カードを投げ捨て、前傾姿勢。

 

 

 

 「効かぬッ!」

 

 「嘘でしょッ!?」

 

 

 

 領域は使えずとも。

 

 筋力は健在。

 

 莫大な初速をもって、いざ吶喊。

 

 

 

 「相変わらず、何があっても止まらないねッ!」

 

 「ぐえっ」

 

 「チッ!」

 

 猛禽類のインターセプト。

 

 白髪ロリの襟首を引っ掴み。

 

 こちらの突撃線上から逃れる。

 

 

 

 どごん、と壁に突撃痕。

 

 仕損じた。全身を引き抜き、方向転換。

 

 

 

 「ねぇ会長。アレ、猪かなンか?」

 

 「猪よりもタチが悪い。なんたって止まらない。

 ボーラでも無駄だったよ。というかトレーナーさん。

 相当に腕がいいね。全盛期と同じ、キレがあった」

 

 「ウララの体調管理。オレに勝てる者などいない」

 

 「夜にも期待が持てそう。ファル子わくわくしちゃう。

 ……おっと」

 

 

 

 ぎぃん、と弾かれる音。

 

 ゴリラの奇襲が、防がれた。

 

 マイクで先端が欠けた、レイピア。

 

 あのマイク、どんな材質だよ。

 

 

 

 「くっ……! 計算が狂いましたかッ!」

 

 レイピアを、即座に破棄。

 

 飛び退る、ゴリラ。

 

 

 

 「会長、あのレイピアは?」

 

 「『黒い剣』。フラッシュちゃんの部分展開。

 計画通りに、戦闘が進むほど。

 刀身強度と、突きの速度が上がる。

 グラスちゃんとか、タイキちゃんとかと同じ。

 単純な、具現化系の領域だね」

 

 「レースであンな、物騒なもン。振り回していいの?」

 

 

 

 白髪ロリへの、領域授業。

 

 そんなわけがない。

 

 

 

 「レースでは、幻影のみだよ。単純な最高速度増加。

 ゴルシちゃんの領域とか、死傷者が出るでしょ」

 

 「なるほどねェ……そりゃそうか」

 

 「刃傷沙汰になったのは、一回しか見たことないよ」

 

 「あったのッ!?」

 

 

 

 栄光の日曜日の、次のレース。

 

 あるグランプリにおいて、起きかけた惨劇。

 

 グラスワンダーは、有言実行の徒。

 

 スペシャルウィークが、もう少し遅ければ。

 

 切腹抜きでの、ダイナミック介錯待ったなし。

 

 かわいさ余って、憎さ億倍。

 

 

 

 URA職員が、領域を視認できていれば。

 

 和風栗毛は、今頃臭い飯に。

 

 舌鼓を打つことに。なっていただろう。

 

 スぺちゃんおなか鼓を打つ、ポンコツ栗毛とは。

 

 凄まじい違いである。同じ栗毛なのに。

 

 どこで、差がついたのか。

 

 せめて、デカいのがケツではなく。

 

 ふとももであれば。勝ちの目はあっただろうに。

 

 勝負の世界は、残酷である。

 

 

 

 「わたし、レースに出なくてよかったわ」

 

 「まぁ、ユキオーは言ったとおり。向いてないよ。

 私の翼の下で、足掻いてればいいよ。ほらお返事」

 

 「わンッ♡」

 

 「ここは駄犬の多い宇宙戦艦だね……」

 

 「うう……エル……私、穢されちゃったのである……」

 

 

 

 もう一匹の駄犬は、うじうじしている。

 

 辛気臭いにも程がある。

 

 我がトレーナーの、どこに不満があるのか。

 

 ちょっと気が狂っているだけ。

 

 この世界では、呆れるほどの優良物件である。

 

 

 

 「ウララッ! そこだっ! 目を狙えッ!」

 

 「お前、ダーティプレイを推奨するんじゃねぇよ。

 もっと、明るく楽しく健全な戦いをだな……」

 

 「何か言ったか。先代」

 

 「その節については、誠に申し訳なく……」

 

 

 

 サイリウムを振りつつ、声援を送ってくる彼。

 

 心が躍る。無限のエネルギ―が沸いてくる。

 

 おじいちゃんは、どうしたのだろうか。

 

 学園において、面白い不祥事が起きた時の理事長。

 

 彼女と、同じ顔をして項垂れている。

 

 

 

 恐らく、育て方を間違えたシンデレラについて。

 

 自責の念に、駆られているのだろう。

 

 同じトレーナーに育てられた者として。

 

 呆れ果てるウマ娘である。一体どんなヤツなのか。

 

 

 

 「おじいちゃんも、大変だね……」

 

 「会長。これツッコミ待ち?」

 

 「天然だよ。退かぬ媚びる省みぬ。

 王者に至るには、自らが常に至高であるという確信。

 それこそが、最も重要だよ」

 

 「会長には、感謝しかないね。

 あンなやつらと、レースとか。

 出走してたら、今頃発狂してたよ」

 

 「ウララさんとファル子さんは。

 その中でも相当、特殊ですよ。

 私とか、まともでしょう? ユキオーさん」

 

 「話しかけないでくれる?」

 

 

 

 唾棄すべき者を見た顔をする、白髪ロリ。

 

 どうやら、ゴリラは嫌いらしい。

 

 恐らく、細マッチョが好みなのだろう。

 

 趣味が合いそうだ。勝利の暁には、配下にしてやろう。

 

 あと、百人もよく考えるとキツい。

 

 有望な、生贄となってくれるだろう。

 

 何。猛禽類のものは、わたしのもの。

 

 わたしのものは、わたしのもの。

 

 つまりは、夫婦の共有財産の一部。

 

 当然の摂理である。

 

 

 

 「さて。仕切り直そうか。フラッシュちゃん。

 レイピアの具合は?」

 

 「栗毛に載せられたのが、効きましたね……

 ハリセンと、然程強度に差が無い。

 しばらく、プラン通りに進めないと。

 お役に立てそうもありません」

 

 「役立たずが」

 

 「だからアフさんに、乗りたかったのです。

 あのような飛び方。想定できるはずもありません」

 

 

 

 一度、ゴリラと合流。

 

 前衛自分、後衛彼女。

 

 一撃離脱を、旨とする。

 

 アサシン型の彼女には、前衛は務まらぬ。

 

 調子を尋ねるも、貧弱な回答。

 

 呆れ果てる限り。

 

 軟弱なゴリラなど。チンパンジーにも劣る。

 

 やはり、このハルウララについて来れる者など。

 

 トレーナーと。そして。

 

 

 

 「んふっ。お困りですか、ウララちゃん。

 ファル子、容赦しないよ?」

 

 「言ってろ、バ鹿」

 

 

 

 業腹だが。こやつぐらいであろう。

 

 まったく。楽しませてくれる。

 

 拳を握りしめ。突撃姿勢を取る。

 

 久方振りの、好敵手との闘争。

 

 楽しみ尽くして、くれようではないか。

 

 

 

 

 つづかない




ついに、お気に入り1000件達成。
人を選ぶ作品である自覚しかないので、小躍りしております。
タンスの角は、痛い。
気が向いたら、感想なども頂けると。
マンモス嬉ピーでございます。


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ファル子さんじゅういっさい そのさんじゅうさん ウマ娘の産まれた意味

ギャグ控え目。シリアス多めであります。
この世界の、ウマ娘の価値観はこうなっております。


~前回までのあらすじ~

 

 トレーナーの脳裏に流れる、存在しない記憶。

 

 特に彼は気にしなかった。

 

 そして臨むは、最後の戦い。

 

 まずは、冷静に戦力分析。

 

 ボス戦前の、基本である。

 

 こちら、無敵のハルウララ。

 

 他は、駄犬とゴリラ。あとひよこ。

 

 錯乱した、トレピッピ。

 

 なかなか厳しい、状況である。

 

 自身の桜も、散ってしまった。

 

 これ以上の損害は、許容できぬ。

 

 思いつつ、駄犬に一つの疑問を問う。

 

 丸出しだったためだ。

 

 ゴリラのバナナ。その皮が。

 

 炸裂して、急遽ToL〇ve発生。

 

 およめに行けぬと嘆く駄犬。

 

 冷静に、彼女を叱責する彼。

 

 不測の事態に、戦力が減り。

 

 ハルウララは、舌打ちひとつ。

 

 倒れていった、仲間を想う。

 

 そして始まる、ラストバトル。

 

 再度の重圧。だが効かぬ。

 

 吶喊外され、壁を貫き。

 

 ゴリラによる、アサシネイション。

 

 猛禽の瞳は、見逃さぬ。

 

 類人猿と、猛禽類。

 

 字面だけなら、動物大バトル。

 

 ポンコツ、ケツデカ。栗毛勝負の行方。

 

 フェアリーゴッドファザーの嘆き。

 

 どこ吹く風と、ハルウララ。

 

 友にして、好敵手たる猛禽類の挑発。

 

 そして、戦いは次のステージへ向かい。

 

 飛翔する、第2部の当初の構想。

 

 どうしてこうなった。

 

 予定通りなのは、宇宙戦艦の登場ぐらいである。

 

 

 

 

 

 

 

 久方ぶりに、顔を合わせた。

 

 腰を屈めた、牧場の職員に導かれ。

 

 近くの小山に足を運び。

 

 彼が、そこで見たものは。

 

 満開の、桜の木の下。

 

 粗末な木で組まれた、十字。

 

 彼女で稼げるだけ稼いだ後。

 

 王様は、所有権を放棄し。

 

 預けられた牧場で。

 

 残ったのは、わずかな人々の善意のみ。

 

 支援者が、老人ばかりなのも災いした。

 

 (くしけず)られるように、優しき人々は減り。

 

 彼女の偉業は、人々の。

 

 心から既に消え去って。

 

 人は、食わねば生きられぬ。

 

 善意には、限りがあるのだ。

 

 彼を導いた、牧場職員。

 

 枯れ木のように、痩せ細った老人は。

 

 悲しそうに、呟いた。

 

 「君に、会いたがっていたよ」

 

 続く言葉を飲み込んで。

 

 老人は、その場から去った。

 

 泣き崩れる彼に、告げられなかった言葉。

 

 彼女は、もう十年も前に。

 

 優しき老人は、知っていた。

 

 真実は、嘘よりも人を傷つける。

 

 溌剌としていた、青年の。

 

 変わり果てた、その容貌。

 

 罅割れた、巌のような顔に。

 

 その言葉を、投げかけられる筈もなく。

 

 ただ黙することだけが。

 

 自分の与えられる、ただ一つの優しさであることを。

 

 優しき老人が、去った後。

 

 彼は、墓標に縋りつき。

 

 涙を枯らし。ただただ人を。

 

 愚かなる、自分自身を呪った。

 

 そして、涙が涸れ果てて。

 

 呆然と、桜を眺める彼の元に。

 

 現れた、一人の女。

 

 彼女は、安心したように微笑んだ。

 

 「やっと見つけた。()()()()()()で最も。

 人の想いを受けた、敗北者を支え続けた者。

 何もかもをも投げ捨てて。勝利を得られなかった、愚かな魂。

 彼女の魂だけでは。片手落ちになるところだったわ」

 

 彼女は、力尽きた燕に。

 

 嫋やかな手を伸ばし。そっと彼に囁いた。

 

 「彼女に、会いたい?」

 

 そして、燕は答えた。

 

 

 

 

 

 

 「さーて。そろそろファル子の出番だよねッ☆」

 

 くるくると、マイクを回し。

 

 不敵に微笑む猛禽類。

 

 

 

 「少々お待ちを。会長。

 わたし、試したいことがあるンだ」

 

 「へぇ? ウララちゃんに通じる自信は?」

 

 それを制し、前に出る白髪ロリ。

 

 小娘の癖に。挑戦を恐れぬ心。

 

 正直、嫌いではない。

 

 身の程知らずでなくば。勝利など得られない。

 

 いつだって。無謀な挑戦が、明日を切り開くのだ。

 

 

 

 「正直、そこまでは。だけど。少々の動揺ぐらいは」

 

 「ふゥん。素直でよろしい。やってごらん? ユキオー。

 うまくいったら。褒めてあげるし。

 うまくいかなかったら。お仕置きしてあげるよ」

 

 「つまりはどちらにせよハッピー! 

 トネガワユキオー、いっきまーす!」

 

 うっきうきで、こちらを見やる白髪ロリ。

 

 失敗を、これでより恐れなくなった。

 

 己のような、全てを自ら切り開く。

 

 そのような力を持ちはしない。

 

 

 

 だが、他者の心。自らの手足を掌握することに。

 

 長けたる、覇道の一つの形。

 

 この宇宙戦艦。運だけで手に入れたものではない。

 

 そもそも、これだけあっても意味が無い。

 

 母港まで、揃えてこその海賊王。

 

 そういうことだろう。

 

 

 

 「ごほンッ。さぁて。ハルウララ。

 この艦。おじいちゃんばっかりじゃなかった?」

 

 「老人ホームかと思ったよ」

 

 「だろうねぇ。わたしも最初はそう思った。

 ねぇ、ハルウララ。今のわたしのトレーナーの一人。

 六おじいちゃんの引退の真実。知ってみたくなァい?」

 

 「ほう?」

 

 「おい! ユキオー!」

 

 

 

 おじいちゃんが、焦ったような声を挙げる。

 

 なるほど。知られたら不都合な真実。

 

 大方、想像はつくが……聞いてみることとしよう。

 

 

 

 「話してみるといい。トレーナー、椅子」

 

 「うむ。この重みがオレを狂わせるッ……!」

 

 己に従順な、理解あるトレピッピを呼び寄せ。

 

 その背中に腰を下ろし。話を聞いてやる態勢を取る。

 

 ケツを撫でて、褒美をやりつつ。

 

 ポップコーンが無いことを、些か残念に思う。

 

 

 

 「さぁ。話すといい。咄家としての実力。見せてごらんよ」

 

 「会長。ちょっとわたし、自信なくなってきたわ」

 

 「大丈夫。あんま期待はしてない。思い切ってどうぞ」 

 

 「ひぃン。あんな唯我独尊が服着て歩いてるヤツ。

 このぐらいで、動揺してくれるかなァ……? 

 ごほン。ハルウララ。オグリキャップのクラシック。

 覚えてるよね?」

 

 「オグリちゃんの? うん。覚えてるよ」

 

 

 

 言われ、記憶の隅を探ってみる。

 

 オグリキャップ。カサマツのシンデレラ。

 

 彼女は、クラシック三冠に挑戦できる身の上ではなかった。

 

 地方からの移籍。登録制度など、知る筈もなく。

 

 シンデレラが、舞台に上がるには。

 

 些かの、時間が必要である筈だった。

 

 だが。

 

 

 

 「シンボリルドルフを中心とする、学生闘争。

 それで、出走をURAに。強引に認めさせたンだよね?」

 

 「そうだよ。懐かしいね。会長に頭を下げられたからね。

 バ鹿どもを率いて、戦ってやったとも」

 

 

 

 シンデレラを見つけた者は。不条理を許せなかった。

 

 自らが見つけた、大粒の原石。

 

 拾い上げた輝きを、古臭い慣習でくすませることなど。

 

 百駿多幸の夢以前に。彼女自身の責任感が。

 

 それを、許せる筈がなかった。

 

 

 

 『ハルウララ。協力して欲しい。君の力も必要だ』

 

 『へえ? なんで? 会長、URAと仲良くしておいた方が。

 夢の実現には、近道なんじゃないの?』

 

 心底、自分は疑問に思った。

 

 慣習で、出走を制限されるなど。

 

 哀れだとは思ったが……

 

 自身の戦場は、ダートを主とした。

 

 クラシック三冠など、対岸の話。

 

 そもそも、挑戦できぬ者など。山ほど居る。

 

 なぜ、オグリキャップにそこまで親身になるのか。

 

 

 

 『見つけてしまった。原石を。

 見つけただけならば、良かった。

 磨くのは、カサマツの誰かで良い。

 

 だが、私は拾い上げてしまったのだ。

 皇帝たるこの身が、彼女が埋没することを。

 認められず、拾い上げた。

 山が低くとも、頂点に立てる逸材を。

 

 強引に、中央に引きずり出しておきながら。

 走る場所を与えない? 古臭い慣習で? 

 高い山を見せておきながら。挑戦する事すらさせぬ? 

 私はね、ハルウララ。

 皇帝だ。皇帝なんだよ。

 

 嘘はついていない。だが、未だ私は。

 当然の道理も、通していない。

 私は詐欺師ではない。皇帝だ。

 オグリキャップのためではない。

 私は、私の自尊心のために。

 君に頭を下げているのだ。

 失望したかね?』

 

 『あはっ。さすがはわたしたちの生徒会長。

 エゴイズムの塊だね。オグリキャップのためとか。

 少しでも口に出したら。殴り飛ばしてたよ、陛下。

 ご命令を。ハルウララは、学園一番の負けず嫌いに。

 尊敬すべきあなたに、協力致しましょう』

 

 『感謝する。さぁ、闘争を始めよう』

 

 

 

 そう。オグリキャップに協力したつもりはない。

 

 自分たちは、尊敬すべき負けず嫌いの頂点。

 

 無敗の皇帝。愛すべき大バ鹿者。

 

 百駿多幸などと。口にしてしまったばかりに。

 

 ただ、自分が嘘をつきたくないだけの。不器用な彼女。

 

 誰も彼をも背負いこんで、走り続ける皇帝に。

 

 その脚を預けたのだ。

 

 

 

 『あらあら♡ウララちゃんもですか?』

 

 『あれ、クリークちゃんも? オグリちゃんとは?』

 

 『ライバルですよー♡不在だから勝てたとか。

 言われるのを想像するだけで、虫唾が走ります♡』

 

 『ははっ。こりゃ力強いね。ファル子ちゃんは?』

 

 『ファル子ね? クラシックは嫌い。ファル子が輝けないもの。

 だからね。ぶっ壊してやろうと思って。

 ファル子より、輝く筈だった星たち。

 カサマツのシンデレラに堕とされたらさ。

 きっと、いいリアクションをしてくれるよ』

 

 『コイツ、ただ単に性格が悪いだけだな……』

 

 『そういうところが可愛いんですよ。ファル子さんは』

 

 『趣味が悪いねぇ。フラッシュちゃんは。

 んじゃ、行こうか。世界を我がままで壊しに行こう』

 

 

 

 振り返り、背後を見る。

 

 目をぎらつかせる、綺羅星たち。

 

 三冠バ。G1バ。G2バ。G3バに、オープンバ。

 

 それぞれ、口に出した理由は異なるが……

 

 ここに集った理由は、ただ一つ。

 

 皇帝陛下が、我らに命じたのだ。

 

 私の我がままに、協力せよ。

 

 学園で、一番強いウマ。

 

 九冠バが命じたのだ。

 

 それだけで、十分。

 

 それ以外の理由など、必要ない。

 

 だって。強い者が正しいのだ。

 

 最も強い者の我がままが、通らないならば。

 

 この世に、ウマ娘が走る意味などない。

 

 ウマ娘は、走るために。

 

 走って、勝つために産まれたのだから。

 

 報酬は、勝つこと。

 

 意見を曲げるとは、つまりは。

 

 負けることに他ならない。

 

 

 

 『さぁ諸君。よく集まってくれた。

 私は、諸君に一つだけ命じる。

 勝て。私に我がままを通させろ。

 ならば、この世に勝利の価値はある。

 

 私の我がままこそが。この学園で最も価値がある。

 だってそうだろう? 弱者ども。

 弱者に産まれた価値など、無いのだから。

 

 悔しかったら、私に勝って見せろ。

 諸君ら以外に私が負けるとすれば。

 それは、ウマ娘の敗北である。

 潔く、枕を並べて死のうではないか。

 なに、敗北者にはお似合いの死にざまだよ。

 死にたくなければ、せいぜい張り切るんだな』

 

 

 嫌味たっぷりに、囀る皇帝。

 

 我らの答えは、ただ一つ。

 

 

 

 『『『『『『『『『『いつか、負けを認めさせてやるッ!!!!!!』』』』』』』』』』

 

 

 

 こいつが、自分以外に負けるのはムカつく。

 

 それだけだった。

 

 

 

 

 

 皇帝、負けず嫌いでクラシック制度破壊事件。

 

 URAは、彼女が自分以外に負けることを許さぬ者たち。

 

 我ら、ウマ娘の我がまま故に。

 

 その膝を屈したのだ。

 

 トレーナーが、投影していた再現ドキュメンタリー。

 

 スタッフロールを見ながら。

 

 回想を終え、呟く。

 

 

 

 「懐かしいね……いつかヤツとは、決着をつけねばならぬ」

 

 「ヒトは何故、ウマ娘と共存できているのだろうな……」 

 

 「かわいいからだよ。ほら」

 

 「かわいい」

 

 「よし」

 

 

 椅子に、顔を近づけて。とびっきりのウィンク。

 

 それだけで、彼は納得してくれた。

 

 できた男である。

 

 

 

 「んで、それがどうしたの」

 

 「い、いや……あの事件の責任、誰が取ったか知ってる?」

 

 「URAの職員とかでしょ? 知ってるよ」

 

 「そ、それだけじゃないよッ! あの事件で、学園にいたヒトたち! 

 トレーナーたちの、責任も問われたッ! 

 おじいちゃんたちは、あンたらの被害者なンだよッ!? 

 六おじいちゃんだってッ! もうちょい長く続けられた筈ッ!」

 

 「そうなの? おじいちゃん」

 

 「んあ。年長のヤツらはそうだよ。

 燦三郎は、愛バどもから逃げるためだから違う。

 俺は、アレだ。オグリがグルメドラマに出演したろ? 

 学園にまで、報道陣が押しかけてきてなぁ。

 めんどくせーし、上層部に目をつけられてたし。

 いい機会だったから辞めた」

 

 「わたしのラストランぐらい、見てくれても良かったのに」

 

 「無茶いうない。アイツらに詰め寄られながら、お前の世話とか。

 老骨には、荷が勝ちすぎるぜ」

 

 「まぁ、トレーナーと出会えたし。許してあげるよ。感謝するといい」

 

 「お前、ほんと唯我独尊だよなぁ……」

 

 

 

 そして、立ち上がり。

 

 ユキオーとやらに、聞いてみる。

 

 

 

 「全員死ぬか。勝つか。戦うのは当たり前でしょ? 

 負けるわけにはいかないからさ。必要な犠牲だったよね」

 

 「こいつら、頭が戦国時代すぎるッ……! 島津かよッ! 

 会長、お役に立てず申し訳ありませンッ! お仕置きしてッ!」

 

 ユキオーは、欠片も動揺していないハルウララを見て。

 

 自分が、レースに向かぬという。会長の真意を悟った。

 

 ウマ娘は、皆。勝つためだけに走っているのだ。

 

 ヒトには理解できぬ価値観。

 

 自分などが、出走しても。

 

 生半可な覚悟では、食われるだけであるッ……! 

 

 

 

 「あはっ。ユキオーったらおバ鹿さん。

 何をするかと思ったら。誰の首が飛ぼうと。

 私たちは、止まらなかったよ。

 教えたでしょ? 敗者に価値なんてないって。

 さぁ、勝つよ。私に我がままを通させろ」

 

 「はいっ! 勝たねば……! 勝たねばゴミッ! 

 おじさんも正しかったッ! 戦わなきゃ、生きられないッ! 

 この生は、闘争に満ちているッ! なんて世界だッ! 

 楽しくて仕方がないッ! 会長の我がままのためッ! 

 粉骨砕身ッ! この身を如何様にもッ! 使い捨てて頂きたいッ!」

 

 「お前を使い捨てなくちゃ勝てないとでも? 

 バ鹿を言っちゃいけないよ、ユキオー。

 当然の如く。笑いながら勝つ。それが王者だよ。

 まぁ……まだ皇帝には勝ててないけど。

 いつか勝つ。この身が果てる前にはね。

 さぁ、やろうかウララちゃん。

 負け犬同士、無様なダンスを踊ろうよ。

 そんで勝った方が、挑戦権を得る」

 

 「ははっ。泣かせてやるよ、ファル子ちゃん。

 最後に勝つのは、このわたし!」

 

 

 

 「「わたしがあいつをブチのめすッ!」」

 

 

 

 誠、残酷な世であった。

 

 

 

 つづかない



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ファル子さんじゅういっさい そのさんじゅうよん 黒の領域

さぁ、まずは前座の戦い。
下剋上は、狙えるのでしょうか。


~前回までのあらすじ~

 

 燕の記憶。

 

 彼の無念を他所に。

 

 今を生きる者たちは。

 

 己が正義を、証明せんと。

 

 とんでもバトルを、継続する。

 

 白髪ロリの、無謀な挑戦。

 

 王者として、受けて立つハルウララ。

 

 敵手の攻撃、ノーガード。

 

 プロウマレスの、基本であるためだ。

 

 猛禽類の、激励に。

 

 堂々と。立ち向かってくる小娘。

 

 愛するヒトを、椅子にして。

 

 わくわく見守る、ハルウララ。

 

 白髪ロリの、ある質問。

 

 あの闘争を、覚えているか。

 

 甦る、彼の日の記憶。

 

 理解ある彼ピッピの気遣い。

 

 気違いだが、気は利く彼。

 

 そして始まる、上映会。

 

 我らが闘った理由。

 

 オグリキャップのためでなく。

 

 皇帝陛下のためでなく。

 

 ウマ娘の脚は、自分自身の。

 

 いつだって、勝利のために。

 

 野菜王子は、間違っていた。

 

 負けたままでは、ならぬのだ。

 

 上映会が終わり。

 

 不敵に微笑むハルウララ。

 

 面白い、出し物だった。

 

 対するは、スマートファルコン。

 

 道理の分かっておらぬ部下。

 

 白髪ロリを、鼓舞して笑う。

 

 敗者に価値など、有りはしない。

 

 そう、我らはウマ娘。

 

 ダートもダーティもなんのその。

 

 何時如何なる時も、変わらぬ真理。

 

 勝ったやつが、偉いのである。

 

 弱肉強食。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 燕は問うた。

 

 ──行きたいが。貴女は何者か。

 

 「競バ好きの、女神様よ」

 

 ──ならば自分が向かうのは、地獄か。

 

 「へぇ? 何故そう思うのかしら」

 

 ──貴女が真に、競馬好きというのなら。

 彼女が天国に行ける筈が無い。

 

 それを聞いた女神は、初めて。

 

 彼に、好奇の視線を向けた。

 

 「へぇ。あなたは、ハルウララを。

 彼女を、愛しているのでは? 

 何故、愛する彼女が地獄行き?」

 

 ──決まっている。

 競馬において、勝つことこそが正義だから。

 敗者の星と呼ばれた、彼女。

 競馬の価値観を、曖昧にしたハルウララが。

 天国になど、行ける筈が無い。

 

 「アハハハハハハハッ! 

 いいわ、凄くいい! あいつらに! 

 賭けで負けたから、嫌々来たけれどッ! 

 愛した者が地獄行きッ! 

 心の底から信じてるッ! 

 こんな! 正しいくせに、狂った魂! 

 面白過ぎて、あいつらになんか! 

 任せてちゃ、損してたわ!」

 

 ──やはり、邪神か。

 

 「こんなにかわいい女神様を捕まえて。

 なんて愚かな人間かしら。

 わたし、正義の女神でもあるのよ? 

 だって、一番速いもの」

 

 ──競馬好きなのは、確かだな。

 

 「ええ。当たり前じゃない。

 わたし、嘘なんてつかないわ。

 つく必要がないもの。

 嘘は、弱者が使うものよ」

 

 ──そこに、彼女が居るのなら。

 是非とも、連れて行って頂きたい。

 

 「ええ。残念ながら、行くのは地獄……

 ではないわ。もっと素敵なところよ」

 

  ──ほう。どんなところだ。

 

 「ウマがウマらしく生きられる世界」

 

 ──彼女はそこでなら、勝てるのか。

 

 「知らないわよ。でも勝ちへの執念は凄い。

 齢10にして、あれならば。

 もしかすると、歴史に名を残すかもね」

 

 ──何故、彼女を? 

 

 「面白いじゃない。弱者に興味なんてないわ。

 でも、あれだけ勝ちたいと叫んでる魂。

 初めて見たわ。だから連れていった。

 チャンスだけは、与えてあげたわ」

 

 ──彼女は、勝てるのか? 

 

 「だから、知らないわよ。チャンスは平等。

 そこは曲げないわ。つまらないもの。

 勝てなきゃ、また敗者になるだけよ」

 

 ──とても、残酷な世界だな。

 

 「でも、とっても楽しいのよ。

 あなたもきっと、気に入るわ」

 

 ──自分は、彼女をまた。

 支えることは、出来るのか。

 

 「保証はしないわ。嘘はつかないもの。

 あなたが大人になるまでに。

 現役、もう引退しちゃってるかも。

 あなた十年も、何やってたの? 

 レースだったら、この出遅れ。

 もう既に負けてるわよ」

 

 ──ああ。俺はいつも負けっぱなしだよ。

 

 「こんなにあっけらかんとした、敗者。

 初めて見たわよ、わたし。

 人って、ほんと。よくわかんないわねぇ」

 

 ──貴女は、人は好きか。

 

 「好きよ。たぶん。観客がいないレースとか。

 盛り上がらないでしょ? 人が居ないとつまらないわ」

 

 ──俺は、嫌いだよ。

 

 「負け犬だものねぇ。知ってるわよ、わたし。

 人って、勝者を妬むんでしょ?」

 

 ──貴女たちは、妬まないのか。

 

 「無駄でしょ。そんな暇があれば。

 勝つために、努力しなさいよ。

 そこらへんは、人は嫌いよ」

 

 ──とても良い世界なんだな。

 

 「ええ。とっても。あの世界に。

 産まれ直して、とっても幸せだったわ。

 今だって、とても楽しいもの」

 

 ──貴女は、造物主ではないのか? 

 

 「違うわ。わたしたちは、最初に。

 あの世界に招かれた、始まりの魂」

 

 ──閻魔のようなものか。造物主は、他に居るのか。

 

 「ええ。多分ね。見たことはないけれど」

 

 ──どんな、神なのだろうか。

 

 「さあ? でも、一つだけ言えることがあるわ」

 

 ──なんだろうか。

 

 

 

 彼女は、ぴこぴこと。

 

 ウマ耳を揺らしながら告げた。

 

 「競馬好きの、軽度のケモナーよ。間違いないわ」

 

 ──説得力、すげぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やはり。ウマ耳こそ至高!」

 

 「どうした急に」

 

 「すまない、急に愛を叫びたくなってな」

 

 「そうか。ほれ、よく見とけ。

 あれが、ウマ娘の闘争だ」

 

 

 

 

 

 「フォーリンダウン『失脚へのカウントダウン(Eカード)』ッ! 

 対象指定、エイシンフラッシュッ!」

 

 「あら。計画通りですね」

 

 「なンッ……!?」

 

 ユキオーは、悪寒を感じ。 

 

 横っ跳びに転がった。

 

 びゅうんと過ぎ去る、旋風。

 

 

 

 「……避けましたか。なかなか()()

 

 「さ、殺ウマ未遂ッ!」

 

 柄元まで壁に埋まった、レイピア。

 

 そこから手を放し。

 

 ゆっくりとこちらを振り向く、黒鹿毛。

 

 微笑んで、無罪を主張する。

 

 

 

 「何をバ鹿な。峰突きですよ」

 

 「突きに峰はねーよ」

 

 「失礼。殺意はありませんでした」

 

 「絶対、殺す気だった……!」

 

 ユキオーは戦慄した。

 

 この黒鹿毛、ずっと笑顔であるが。

 

 目が、全く笑っていない。

 

 完全に、シリアルキラーの目をしている。

 

 腕時計に目を落とす。

 

 波形が常に一定値。

 

 笑いながらウマを殺せるタイプッ……! 

 

 

 

 「大丈夫ですよ。ユキオーさん。

 私はファル子さんを愛していますから。

 ええ。邪魔な者は全て。須らく排除します」

 

 「大丈夫さ/ZEROッ! フォーリンダウンッ!」

 

 「計画通り。ご協力に感謝」

 

 「ふぬぅあッ!」

 

 指を指した瞬間に、重圧に膝を屈めた彼女。

 

 横っ飛び……と見せかけ。

 

 イナバウアーにて! 

 

 

 

 びゅうと、風が吹き。

 

 胸元及び鼻先を掠める切っ先。

 

 「貧乳で助かった……!」

 

 「あら計画外。うまくいかないものですねぇ」

 

 

 

 ぎぃん、と壁に弾かれ。

 

 先端が折れたレイピア。

 

 なるほど。会長の言った通り。

 

 

 

 「あンたの予想外の動きを。

 しなきゃいけないってことね……!」

 

 「気づかれましたか。ええ。私の『Schwarze Schwert(黒い剣)』は。

 計画外の行動に弱い。ファル子さんに勝てたことはありません。

 彼女はいつだって、私の予想を超える。かわいい。結婚したい。

 つまりは愛ということ。そもそも私がドイツに渡ったのも。

 彼女の気を引くためです。それだというのに。

 彼女は私を追いかけてきてくれなかった。なんで。どうして。

 こんなに愛しているというのに。私の計画は、完璧だったのに。

 このような状況、私の計画になかったのです。計画にないならば。

 修正しなければならない。我が全力を以て、誤りを糺す。

 あなたもです、ユキオーさん。あなたのようなリアクションのいい白髪ロリ。

 リアクションとロリが大好きな、ファル子さんが気に入らないはずがない。

 つまり、あなたが居る限り。彼女が私に目を向ける可能性は。

 ゼロに等しいと、言っていいでしょう。なんということか。

 計画を前倒しして、彼女の前に現れたというのに。

 ファル子さんはウララさんに夢中。私など、眼中にない。かなしい。

 でもそれは計画通り。ウララさんに彼女を倒させ、洗脳して。

 愛を、直接大胆一直線。思うさま、脳に吹き込むつもりでした。

 ですが、あなたがいた。ファル子さんのちっちゃくてかわいい脳は、容量が小さい。

 あなたがいれば、容量を圧迫し。上書きが失敗する可能性がある。それは許せません。

 私の計画に失敗はない。あってはならない。何が言いたいかというとですね、ユキオーさん」

 

 「こいつ、やっば……!」 

 

 「()()()()()()()()()? 

 計画通りです」

 

 「しまっ……!」

 

 

 

 そして、閃く旋風。

 

 

 

 「海割ッ!」

 

 「ウボア」

 

 

 

 エイシンフラッシュは、スマートファルコンの蹴り。

 

 それにより発生した衝撃波により、宙を舞った。

 

 

 

 「ん? なんか吹き飛ばしたような……気のせいかな。

 さすがだねウララちゃん。この美脚を避けるとは」

 

 「予備動作がでかいんだよ。わたしに当てたければ。

 もっと小刻みに撃つことだね」

 

 「小刻みだと弾くじゃん。面白くなってきたね……」

 

 「キャー! 会長ー! 愛してるッ!」

 

 「ふふ。ファンコールとは。わかってるねユキオー」

 

 

 

 トネガワユキオーは、忠誠心を高めた。

 

 さすがは会長。流れ弾で部下の命を救ってみせた。

 

 一生どころか来世まで。ついていかねばならない。

 

 思いつつ、吹き飛んだ黒鹿毛を見る。

 

 

 

 「ふふ。ファル子さんの愛を感じます……」

 

 「ヒィッ」

 

 

 

 ゆらりと、幽鬼のように。

 

 立ち上がり、こちらを髪の間から見つめる瞳。

 

 ちょっとちびりかけた。

 

 「会長の、海割で無事ッ!? どンな超合金ッ!?」

 

 「ファル子さんに愛されるのは、計画通り。何の問題もありません。

 むしろ、テンションがアガってきました」

 

 「厄介なストーカーッ……!」

 

 

 

 ユキオーは、総髪を総毛立たせた。

 

 この黒鹿毛の領域。計画通りなら。

 

 防御力も、刀身同様に上がるらしい。

 

 そして、こやつ。会長から受けるダメージは。

 

 全て、計画通りと処理する。

 

 愛されていると、勘違いしているからだ。

 

 つまり、流れ弾でダメージを受ける確率は、自分の半分ッ……! 

 

 だが。

 

 

 

 「分の悪い賭けほど、面白い……!」

 

 「あら。成長しましたか。これは計画外ですね」

 

 そう。自分も、今までの自分ではない。

 

 皇帝は、他に居るのだ。

 

 スマートファルコンという名の、我が主君が。

 

 その露払いをするためには。

 

 

 

 「奴隷は二度刺すッ!? 上等ッ! 

 わたしはもう、皇帝じゃないッ! 

 市民ならば、奴隷に勝てるッ! 

 かかってきなよ、愛の奴隷ッ!」

 

 「いい啖呵です。あなたも好きになってきました。

 ファル子さんを手に入れる、我が計画。

 あなたも計画に入れてあげましょう。ええ。

 どさくさに紛れて、ウララさんも始末すれば。

 ファル子さんの脳の容量も、間に合うでしょう」

 

 

 

 戦慄する。

 

 こやつ、裏切りに躊躇いが一切ない。

 

 吐き気を催す邪悪。

 

 「……あンたら、味方じゃなかったの?」

 

 「ウマ娘に、心底からの味方など。

 居る筈もありません。だって、みんなライバルですから。

 覚えておくといいですよ。裏切りははちみーの味」

 

 「ウマ娘、こわ……」

 

 

 

 だが、確信した。

 

 コイツを、会長の元に向かわせてはならない。

 

 相手はG1勝利バ。対してこちらは未出走。

 

 彼我の差は歴然であるが。関係ない。

 

 ここで止めるッ……! 

 

 

 

 「あっ! ハルウララッ!」

 

 「騙されるのは、計画に入っていまウボア」

 

 

 

 どごん、と撥ねられるエイシンフラッシュ。

 

 ハルウララの突進(天丼)である。

 

 

 

 「ん? 何か撥ねた気が……」

 

 「よそ見してる、暇あるのッ!?」

 

 「無いね。さぁかかってこいッ!」

 

 

 

 ユキオーは、胸を撫でおろした。

 

 強敵ではあったが、こやつ。

 

 致命的に運が悪い。

 

 さぁ、会長の元へ……

 

 

 

 三度、剣風が吹く。

 

 「フォーリンダウンッ!」

 

 「ぬっ。やりますね。計画外です」

 

 

 

 上空からの奇襲。

 

 天を指し、加重を加え。

 

 手前の床で折れた、切っ先に冷や汗を流す。

 

 

 

 「天丼は2回まで。お笑いの基本をご存じない?」

 

 「何故わかったか、伺っても?」

 

 「やっぱ部分展開はすごいね。あンたの心音。常に一定だよ」

 

 「あら。死んだふりも見抜けるのですね、便利な領域です」

 

 

 

 からんと、レイピアを転がし。

 

 微笑む黒鹿毛。

 

 頑丈にもほどがある。

 

 

 

 「あンた、頑丈すぎない?」

 

 「ファル子さんのネタ振り。頑丈でなければ、耐えられません」

 

 「そこは相手を尊重するンだ……」

 

 

 

 恐らく、会長のネタ振りに耐えるため。

 

 弛まぬ鍛錬を積んできたのだろう。

 

 だが、活路は見えた。

 

 

 

 「あンたが会長に、愛想を尽かされた理由。

 教えてあげよっか?」

 

 「ほう。拝聴しましょう」

 

 

 余裕綽綽に、こちらを見やる彼女。

 

 その鉄面皮を、歪ませる……! 

 

 

 

 「リアクションが、詰まらないッ!」

 

 「クールビューティだからッ……! 仕方ないんですッ!」

 

 「動揺したね? フォーリンダウンッ!」

 

 「しまった……!」

 

 

 

 動揺させれば、効力が増す。

 

 エイシンフラッシュは、そのリアクション芸人への適性の無さと。

 

 その、計画性を持った鍛錬故に。地に伏せることとなった。

 

 会長は、面白い反応を。こよなく愛しているからである。

 

 エイシンフラッシュ、行動不能(一回休み)ッ! 

 

 

 

 

 

 つづかない




そういえば。
雅媛様 https://syosetu.org/user/349081/ 主催の、短編合作企画に参加させていただきました。
https://syosetu.org/novel/279657/
2月1日12時より、順次投稿されるそうです。
拙作が何番目に投稿されるかは、まだ言えませぬが。お楽しみに!


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ファル子さんじゅういっさい そのさんじゅうご シャカ聖翔

前話は勢いが足りませんでした。
反省の証に、さらにトビます。自重が。



~前回までのあらすじ~

 

 燕と女神の邂逅。

 

 けもみみは、二ホン人として。

 

 当然の嗜みである。

 

 抑えきれぬ、愛バのウマ耳へのパトス。

 

 叫んだトレーナーは、初めて目にする。

 

 ウマ娘の、闘争の真髄を。

 

 まずは前座から。

 

 片や、エイシンフラッシュ。

 

 黒鹿毛を揺らし、不気味に微笑む。

 

 片や、トネガワユキオー。

 

 白毛と、秀でたおでこを晒し。

 

 警戒を高める。

 

 G1バと、未出走ウマ娘。

 

 格の違いは、明らか。

 

 だが、大番狂わせが無くば。

 

 レースとは、つまらぬもの。

 

 領域の、ぶつかり合い。

 

 閃くレイピア、ストーカー気味な言動。

 

 対する指差し、忠義を叫びてイナバウアー。

 

 計画とは。外部の介入にて、崩れるもの。

 

 巻き込み事故にて、差は埋まり。

 

 そして、黒白の闘い(ヴァイスシュバルツ)の。明暗を分けるのは。

 

 リアクション芸人としての。適性の差。

 

 イジられキャラは、愛される。

 

 世界の真理である。

 

 

 

 

 

 

 

 「さぁ。行きましょう。

 彼女とまた出会えるとは、限らない。

 ソウルが目覚めるとは、限らない。

 でも行かねば、チャンスはゼロよ」

 

 ──俺は。どうなる? 

 

 「全ての記憶を失い、新たな生を得る。

 それがルール。新たなあなたの奥深く。

 魂は、眠りに就く。ウマソウルとは違い。

 ヒトソウルは、目覚めにくい。

 走らないもの、当然ね。

 ヒトの本能って、よくわからないわ。

 無駄足に終わる可能性は、高い。

 でも、好きでしょう? 無駄な足掻き」

 

 ──厳しい女神様だ。目覚める条件は? 

 

 「ウマならば、その脚で以て。

 勝利を重ね、微睡むソウルを自覚して。

 ヒトと魂を繋ぎ。そのソウルを震わせる。

 ヒトならば。覚醒したウマと、魂を繋ぎ。

 そのソウルを、震わせなさい。

 かつて、導いたヒトの魂は。

 トレーナーとして、魂を震わせた。

 前例がある。不可能では無いわ。

 まぁ稀に……無念が強すぎる場合。

 単独で目覚める場合もあるけど。

 レアケースよ。期待するものではないわ」

 

 ──トレーナーとは? 

 

 「ウマを導く者。そのままの意味よ。

 調教師と、厩務員を合わせたようなものね。

 ソウルは、未覚醒でも。

 新しいあなたに、影響を与える。

 彼女を愛する、厩務員のあなたなら。

 トレーナーを目指す可能性は、高いわ」

 

 ──そうか。では、導いてもらう……前に。

 

 「あら? この世に未練でも?」

 

 ──ああ。負け犬の遠吠えを。

 この世界に、響かせる。1ヶ月、待って欲しい。

 

 「わたし、そういうの好きじゃないんだけど。

 随分待ったし。敗者が勝者に何を言うの? 

 敗者は黙して、鍛練を積み。

 勝ってから煽るのが、気持ちいいんじゃない」

 

 ──安心して欲しい。勝者には何も言わない。

 言う、権利が無い。ただの自己満足だよ。

 

 「わかってるなら、まぁいいわ。

 あなたがやること、興味もあるし……

 いいわ、やってみなさい。

 女神が許しましょう。見苦しく吠えなさい。

 きっと、それには意味がある。

 あなたの魂、輝いているもの」

 

 ──見ていて欲しい。俺の生きた証など。

 要らない。欲しくない。けれども。

 彼女の生きた証だけは。この世界に。

 

 

 

 

 

 

 

 「ぬう……!」

 

 「どうした? 様子がおかしいが」

 

 「いや、何か急に……吠えたくなってな」

 

 「犬かよ。お前、ヒトだろうが」

 

 

 

 うじうじしている、褐色ロリと。

 

 指先を、黒鹿毛に向けて。

 

 ぐぬぬと唸る、白髪ロリに目を向ける。

 

 

 

 「ここは駄犬の多い、宇宙戦艦ですね」

 

 「ユキオーについては、俺の不徳の致すところ。

 すまなかった。存分に吠えてくれ」

 

 「まぁ、別に吠えることも無いんだが」

 

 「何がしたいんだよお前」

 

 

 

 

 さて、前座の勝敗はついた。

 

 本命の、勝負の行方は如何に。

 

 

 

 

 

 「ぬんッ!」

 

 「相変わらず、バ鹿力ッ!」

 

 

 

 スマートファルコンは、飛び退いて。

 

 床に突き刺さり、破片を散らす豪腕に。

 

 自らの、劣勢を悟った。

 

 

 

 「腰、大丈夫なのっ!?」

 

 「優秀な、トレピッピが居るからね」

 

 

 

 ぶらぶらと、ちっちゃな拳を揺らし。

 

 不敵に微笑む、ハルウララ。

 

 自慢か、こやつ。そう思うも。

 

 打開策は、あまり無い。

 

 

 

 

 「鹿毛もかわいいけど。桜が無いと、寂しいね?」

 

 「ちょうどいいハンデだよ。

 領域が無くても、わたしは強いからね」

 

 「強がりじゃないのが、腹立つね……!」

 

 

 

 舌打ちする。本心からの言葉だろう。

 

 彼女の領域は、回数制限がある上に。

 

 身体への負担も大きく、隙もでかい。

 

 使い勝手が死ぬほど悪い。

 

 まさに、桜の散り様のような力。

 

 役に立ったのは、URA本部を。

 

 一度、更地にした時ぐらい。

 

 だが。領域抜きの戦闘なら。

 

 

 

 「ほら、ちょっとテンポを上げようか」

 

 「小パンチ連打はやめてッ! 

 友達無くすよっ!? ハメ反対っ!!」

 

 「お前はいい友達だったよ」

 

 「過去形ィッ!」

 

 

 

 アカン。魅せ技に飽きたようだ。

 

 彼女は様々な技を習得しているが……

 

 本当のスタイルは、ただ一つ。

 

 ステップインからの、ジャブの雨。

 

 マイクで弾くのも、限界がある。

 

 後方に下がり。態勢を……! 

 

 

 

 「遅い」

 

 「はッやッ!?」

 

 

 

 ぎゅりい、と床を蹴る音。

 

 瞬発力が、並みではない。

 

 一瞬で、間を詰められる。

 

 

 

 「ハルウララ通常技。ジャブ連打」

 

 「ひええええええっ!?」

 

 

 

 慌ててマイクを構えるも。

 

 降りかかる、絶え間ないヘヴィーレイン(重撃)

 

 みしみしと、軋むマイクの悲鳴。

 

 壁に詰められたら終わりッ……! 

 

 

 

 「Laaaaaa!!!」

 

 「うぬっ」

 

 

 

 マイクに、一瞬の歌声。

 

 これも、遺物のひとつ。

 

 歌劇戦闘用、超小型収音増幅声撃機器。

 

 通称、『歌音(カノン)砲』である。

 

 これを軋ませるなど。どうかしている。

 

 思いつつ、増幅された指向性音撃を発射。

 

 ハルウララは、ウマ耳をぺたりと伏せ。

 

 手が止まった隙に、なんとか離脱を完了する。

 

 

 

 「あ、危ない……ファルコンピンチだったよ」

 

 「耳が痛い。次は壁に埋める」

 

 「ヒィッ……!」

 

 「会長っ! 頑張ってっ!」

 

 「ぬぐぐ……我が愛は負けません……!」

 

 

 

 声援の方を見ると、黒鹿毛を指差し。

 

 領域の維持に、精一杯な様子。

 

 救援は期待できぬ。面白くなってきた。

 

 挑発を試みる。

 

 

 

 「もうちょいさ。ウマスタ映えする。

 ド派手なバトル、してみない?」

 

 「お前の無惨に敗北した、土下座姿。きっとバズるよ」

 

 「そこをそう言わず! ウララちゃんの! 

 ちょっと良いとこ、見てみたいィッ!?」

 

 

 

 豪、と顔を掠める拳。

 

 アカン。バ耳東風。

 

 話を聞いてくれない。

 

 受けに回ったが、最後。

 

 宣言通り、壁に埋められる。

 

 柱の女は、勘弁……! 

 

 

 

 

 「ファル子百烈脚ッ!」

 

 「小パンチ連打」

 

 

 

 魅惑の美脚で、彼女より伝授された奥義。

 

 流星の如く、閃く脚線美。

 

 ヒト息子の脚力は、腕の十倍。

 

 走るために産まれた、ウマ娘の脚力。

 

 腕の数十倍は、堅い。

 

 それを手打ちのジャブで、相殺される恐怖。

 

 

 

 「相変わらず、インチキッ!」

 

 「百烈脚とは、こう打つのだ」

 

 

 

 全身に走る悪寒。

 

 腕であれ。なら脚は? 

 

 

 

 「元祖。春麗(ハルウララ)百烈脚」

 

 「栗毛ウォールッ!」

 

 

 

 たまたま、足元にカッコウが。

 

 物も言わずに、吹き飛んでいくグラ○ル出演者。

 

 ざまぁみろ。私より目立つからそうなる。

 

 思いつつ、吹き飛んだ先を見る。

 

 

 

 「おそらきれい」

 

 「多分生きてるだろ」

 

 

 

 抜けるような、青空。

 

 さらば、サイレンススズカ。

 

 

 

 

 「う、ウララちゃん。腰の調子は?」

 

 「絶好調。今なら新記録が出せるね」

 

 「何の?」

 

 「デッドリフト」

 

 「パワー」

 

 

 

 歯噛みする。

 

 完全に、当てが外れた。

 

 彼女の柳腰。完全に復調している。

 

 少々時間を稼げば、自爆すると思ったが。

 

 こちらの方が、息が上がる始末。

 

 むしろ、こっちの腰が痛い。

 

 

 

 「いいぞウララ。夜の生活には。

 腰が最も重要だからな」

 

 「やめてくれ。元担当ウマ娘の。

 赤裸々な、ヨルウララは俺に効く」

 

 

 

 やつめ。なんと都合の良い彼ピッピを。

 

 マッサージの腕が、常軌を逸している。

 

 笹針を、適当に刺しまくり。

 

 全て成功させたとしても。

 

 ここまでの回復は、見込めまい。

 

 勝ったら、私もしてもらおう。

 

 

 

 「ウララちゃん。良い彼ピッピだね」

 

 「やらんぞ。わたしだけの物だ」

 

 「ウララちゃんごと。貰って上げるよ」

 

 「セット販売は、してないよ」

 

 

 

 拳を構える、ハルウララ。

 

 現役時代を、思い出す。

 

 

 

 

 ハルウララの戦闘スタイルは、単純。

 

 圧倒的な膂力による、前進制圧。

 

 ただ、それだけだ。

 

 

 

 『わたしより、強いヤツを滅ぼしに行く』

 

 

 

 ダートのレースは、芝に比べて少ない。

 

 出走レースが、あまり無い時期。

 

 ふと思い立ったように、告げる彼女。

 

 そう言い残し、武者修行の旅に出た。

 

 

 

 『やはり。武術など惰弱』

 

 『ウマ娘武術家さんかわいそう』

 

 

 

 三ヶ月後。帰ってきた彼女。

 

 背中には、看板の山。

 

 道場破りに、興じていたらしい。

 

 

 

 『楽しめたのは、裏闘技場ぐらいだったね。

 面白い曲芸を、たらふく見れたよ』

 

 『何人殺したの?』

 

 『生命活動は、止めてない』

 

 

 

 ウマ娘武術家としての命は、(すべから)く絶ったらしい。

 

 

 

 『四天王は、強敵だったよ』

 

 『五人ぐらい居そう』

 

 『八王子も、中々良かった』

 

 『旅行の話してる?』

 

 

 

 ぱちぱちと、燃え上がる。

 

 ウマ娘武術家の、誇りたち。

 

 焚き火の前で、彼女の横顔を眺めつつ。

 

 自分は思ったのだ。

 

 こいつ、ヤバい。

 

 レース以外で、逆らわんどこ。

 

 

 

 

 

 

 「ウララちゃんのトレーナーさんっ! 

 何でウララちゃんの腰なんて! 

 治しちゃったのッ!?」

 

 「トレーナーだからだが」

 

 「正論なんて、聞いてないッ!」

 

 「理不尽」

 

 「ほら、もっと足掻け」

 

 「ヒィンッ!」

 

 

 

 全身を掠める、拳の流星群。

 

 ひとつでも受けたら、アウトである。

 

 

 

 「ウララー。がんばえー」

 

 「むふ。声援はやはりいい」

 

 

 

 トレーナーの声に、手を止め。

 

 手を振りファンサする、ハルウララ。

 

 好機ッ……! 

 

 

 

 「ファル子流星脚ッ!」

 

 「ぬっ?」

 

 

 

 どごん、と一発。

 

 会心の蹴りを見舞う。

 

 鋼の塊を、蹴った感触。あかん。

 

 

 

 「今、何かした?」

 

 「ノーダメージッ! やってらんないッ!」

 

 

 

 ハルウララ。

 

 桜色の暴帝。

 

 自分の世代のトレセン学園の、暴力の象徴。

 

 特徴は、2つ。

 

 とんでもなく、パワーがあって。

 

 とんでもなく、頑丈。

 

 領域の副作用により。

 

 全身の筋力が、通常のウマ娘の。

 

 十倍以上ある怪物。

 

 弱点は、ただひとつ。

 

 

 

 「必殺技とかさ。別に要らないよね」

 

 「もうちょい油断してッ!」

 

 

 

 己の出力に、自分の身体が耐えきれない。

 

 そのため、彼女が全力で。

 

 その暴力を振るうことは無い。

 

 ()()()使()()()()()()

 

 

 

 「しょうがないでしょ? 領域は品切れ。

 じゃあ、手加減して戦わないと」

 

 「領域を、出力を上げるためじゃなくッ! 

 上がり過ぎた出力を、制御するために使うバ鹿ッ! 

 ウララちゃん以外、見たことないッ!」

 

 「照れるね」

 

 

 

 そう。彼女の領域の、部分開放以上は。

 

 本質は、出力を上げるためではなく。

 

 開眼した際に、向上を始め。

 

 今も尚、上がり続ける『力』。

 

 その、バ鹿げた筋力で自壊せぬよう。

 

 自らの、身体を保護するための『力』を受け取る領域である。

 

 桜の大樹を振り下ろしたのは、自前の筋力だ。嘘だろおい。

 

 そのため、領域が使えない状態になると。

 

 手加減した、通常攻撃のみのスタイルになる。

 

 そして、それが一番強いのだ。

 

 開幕領域ブッパで、仕留められずとも。

 

 まったく問題なく、敵手を蹂躙できる。

 

 味方を粛清したのも、同様の理由。

 

 彼女一人で、万軍を殲滅できるからだ。

 

 

 

 「ほら、無様に踊れ。

 パンチパンチパンチパンチ」

 

 「あわわわわわっ!」

 

 

 

 必死に避け続ける。

 

 ジャブの速度は、ヒトの神経伝達速度を越える。

 

 優れた反応速度を持つウマ娘故、なんとか避けられているが……

 

 ジャブなのに、威力は普通のウマ娘の。

 

 右ストレートの、数倍以上。

 

 それが、連射されるのだ。

 

 シンボリルドルフが、肉弾戦による闘いを避けたのも。

 

 頷ける、最終鬼畜兵器である。

 

 

 

 「タイムッ!」

 

 「む。しょうがない」

 

 「やったぜ」

 

 「ほらウララ。疲れただろう。マッサージの時間だ」

 

 「んふー。至福」

 

 

 

 トレーナーから、ドリンクを受け取り。

 

 寝そべり、気持ち良さそうに。

 

 マッサージを受ける彼女を見て、思う。

 

 勝ち目ないな、これ。

 

 

 

 「やっぱ、謝ろうかな……」

 

 「会長ッ!?」

 

 「ユキオー。敗北を受け入れるのは、恥じゃない。

 最後に勝てば、いいんだよ」

 

 

 

 驚愕の声を上げる、かわいい部下。

 

 だって、無理なんだもん。

 

 ファル子、ミンチにされちゃう。

 

 

 

 「いつ勝つのっ!?」

 

 「百人目を産んだ直後とか。狙えばあるいは」

 

 「卑劣ッ! でも、ついて行きますッ! 

 ……じゃ、なくて。会長。領域は?」

 

 「ファル子の領域、ファンがいっぱい居ないと。

 クソ雑魚ナメクジだよ? 無理無理。勝てん。

 ファル子、ウマドル廃業しちゃったし……」

 

 「会長。ファンなら居るでしょ」

 

 「ユキオーは、確かにファル子の大ファンだよ? 

 そうでなければならぬ。そうだな駄犬」

 

 「わんッ♡……いや、そうだけど違うよ会長。

 わたしはもちろンだけど。全社員、会長のファンみたいなもンでしょ」

 

 「天才かよお前」

 

 

 

 そうか。確かに我がフラスプネズミ商事。

 

 社員の頭のてっぺんから、つま先まで。

 

 この、スマートファルコンの持ち物である。

 

 つまり、こうだ。

 

 

 

 「タイム終了ッ!」

 

 「む。もうちょい待って」

 

 「しょうがないにゃあ。準備してるからね」

 

 「いいよー。たっぷり負ける準備をしておくといい」

 

 

 

 マッサージを、そのまま楽しむハルウララ。

 

 狙い通り。これでゆっくり準備ができる。

 

 

 

 「ファル子リヲンッ! リクエストッ!」

 

 「む。領域増幅? いいよいいよ。ファル子ちゃんの領域。

 その白髪ロリぐらいじゃ、増幅しても鷹が知れてるし」

 

 「会長をバ鹿にするなッ! 鷹じゃなくて、隼だよッ!」

 

 「ユキオー。ずれてるずれてる。ツッコミどころが」

 

 「お仕置き? お仕置き?」

 

 

 

 わくわくと こちら見上げる 白髪ロリ。

 

 

 

 「誰がこんな、クソマゾに育てたのかな……」

 

 「俺じゃねぇぞ。お前だろ」

 

 「くそっ。なんて時代だ!」

 

 

 

 小芝居を挟みつつ。

 

 リクエストを続ける。

 

 

 

 「回線開けッ! 配信準備ッ! 

 対象、フラスプネズミ商事全端末ッ! 

 『ファルファル動画』配信開始ッ!」

 

 『リクエスト受理。投げ銭期待しております』

 

 「キェェェェェアァァァァァシャベッタァァァァァァァ!!」

 

 「会長。それわたしがもうやった」

 

 「軽々しい天丼は、NGだよ」

 

 

 

 もう一度言おう。なんて時代だ。

 

 無機物まで、喋り出しおる。

 

 思いつつ、艦橋の中空。

 

 華開く、満開のウィンドウ。

 

 

 

 『待ってましたッ! ファルファル動画ッ!』

 

 『会長ッ! ファル子ワイン足湯の下賜はまだですかッ!?』

 

 『今日のユキオーたんはッ!?』

 

 『はぁはぁ、ウララたん萌え……』

 

 

 

 かわいい社員どもの顔。幸福度数は、天井知らず。

 

 

 

 「ビョードー。お前のところの黒服。裏切者が居るぞ。

 粛清待ったなし」

 

 『クカカカカカカ! まぁ許してやれ、ファルコンよ! 

 きっと悩みがあるのだろう。コンプライアンスのためだ。

 ちゃぁんと、ワシが。悩み相談してやるからのう?』

 

 『会長ッ! お許しをッ! 出来心だったのですっ! 

 ハラスメント相談室は嫌だァッ!』

 

 「駄目だ。ちゃんと悩み相談しろ。

 私の会社に、幸福でない者が居てはならない」

 

 『会長ぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!』

 

 

 

 うむ、と頷き満足する。

 

 

 

 「また、悩める子羊を救ってしまったな……」

 

 「お前、何がしたいの?」

 

 「粛清」

 

 「暴君かよ」

 

 

 

 何を言うのか。ビョードーのテイアイグループ。

 

 ワシーのキョーセーグループ。その二つを統合した際。

 

 劣悪だった労働環境は、大幅に改善したのだ。

 

 地下施設での労働は。

 

 1日20時間から、19時間へ短縮。

 

 

 

 「あんまり変わってねぇだろ」

 

 「だいぶ違うでしょ。たぶん」

 

 

 

 給与についても、希望者には。

 

 ユキオーの、私物をたまにプレゼント。

 

 さらに、ボーナスについても素晴らしい。

 

 このスマートファルコンが、楽しんだワイン足湯。

 

 それを、寛大にも下賜してやっているのだ。

 

 負け犬どもには、上等過ぎて涙が出るほどの。

 

 素晴らしい好待遇だろう。私ってすごい。

 

 ひとしきり、説明した後に。確認する。

 

 

 

 「みんなー、今幸せッ!?」

 

 『『『『『『『『『『幸福すぎて、泣きそうですッ!』』』』』』』』』』

 

 「ほらね?」

 

 「お前の会社、倒産した方がいいよ」

 

 「解せぬ」

 

 

 

 わからないロリだ。そう思いつつ。

 

 

 

 「ユキオー。社歌斉唱」

 

 「お任せをッ! ファル子リヲン! ミュージックスタートッ!」

 

 

 

 指揮棒(タクト)を取り出し、振り上げるユキオー。

 

 伊達に、燕尾服風の疑似勝負服。着てはいないということだ。

 

 そして、流れるイントロに。

 

 満場一致の、幸福論。

 

 

 

 『我ら フラスプ ネズミの下僕 会長称え 今日も労働 72時間 まだ短い

 

 週休0の 奇跡の元で ご褒美いっぱい 会長ワイン 出汁が決め手の 味を知る

 

 ビョードー ワシズー さすがに勘弁 ジジコンでは ありませぬ

 

 ユキオーちゃんを 添えた時 生まれる至福の この感情 ああ フラスプネズミ商事……!』

 

 

 

 かぁんと鳴り響く、終業の鐘。

 

 いつ聞いても、良い歌だ。心が躍る。

 

 

 

 「さぁ! ノッて参りましたッ! 部分展開ッ! 

 『キラキラ☆STAR☆DAMN』(堕ちろ、私以外の煌めく星)ッ!」

 

 「いつ聞いても、最悪な名前だな。その領域」

 

 「かわいいと思うんだけどなぁ」

 

 

 

 さぁ、ライヴの時間だ。

 

 

 

 

 

 つづかない




雅媛様 https://syosetu.org/user/349081/ 主催の、短編合作企画に参加させていただきました。
https://syosetu.org/novel/279657/

なんとトップバッター。いいのかこれ。

お読み頂き、気が向けば。

ちょいと下にスクロール。

感想。お気に入り。評価など。

頂ければ、幸いであります。

定期的におねだりしていくスタイル。


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ファル子さんじゅういっさい そのさんじゅうろく 旗持ち聖女のコロリ唄

難産ッ!
ちょっとシリアスになりすぎた感。
反省である。


~前回までのあらすじ~

 

 誘われる、新たな世界。

 

 待ったを掛けて、彼は告げる。

 

 負け犬の、咆哮を。

 

 この世界に、響かせる。

 

 そして、トレーナーは犬っ気を出し。

 

 六平トレーナーは、謝罪する。

 

 駄犬ブリーダーの、不徳のためだ。

 

 そして、本命の闘い。

 

 スマートファルコンは思う。

 

 ハルウララ やっぱりヤバい この女。

 

 なんとか攻撃を捌き。

 

 マイクで砲音、ぶっ放す。

 

 クレバーに。ジャブジャブ続けるハルウララ。

 

 酔いが醒めたためだ。

 

 犠牲は払わせたが。問題ない。

 

 己一人で、事足りる。

 

 領域など、魅せ技であり。

 

 ジャブで世界を、蹂躙可能。

 

 全ての基本は、ジャブなためだ。

 

 猛禽類の、模倣技。

 

 余裕で返し、栗毛は空へ。

 

 隙見て放たれる美脚。

 

 ノーダメ余裕で微笑む彼女。

 

 告げられる、ちょい待った。

 

 快く受け、楽しむふれあい。

 

 そして、弱気になる猛禽類。

 

 酔いが醒めたためだ。

 

 だが、愛する部下の鼓舞。

 

 勝機を見いだし、職権乱用。

 

 下僕どもに、唄わせる。

 

 絶対無敵の、幸福論。

 

 降伏には、まだ早い。

 

 さあ、お歌のお時間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──あなたに、託す。

 あなたなら、きっと。

 正しく、響かせてくれるから。

 

 痩せ細った老人は、戸惑った。

 

 あの日。いつの間にか、去った彼。

 

 一月の後に、また訪れ。

 

 朗らかに笑う、青年だった巌。

 

 傍らには、見慣れぬ青年。

 

 何を託すというのだろう。

 

 ──彼女の生きた証。

 俺にはもう、時間が残されていない。

 こいつは、我が腹心である。

 きっと、あなたを支えてくれるだろう。

 

 「社長。言われるまま来ましたが。

 私は、納得していません。

 ご老体には、荷が重いのでは?」

 

 ──いいや。彼で無ければいけない。

 金にもならぬ、引退馬。

 彼らを引き取り、一時の安寧。

 闘いの、報酬を与え続けた彼こそに。

 我が、想いを託したい。

 

 「この老体に、何をせよというのかね。

 もう、この牧場は。私の代で終わりだよ」

 

 「そうですよ、社長。お礼をするならともかく。

 まだ働けとか。ちょっとどうかしてます」

 

 ──なに。頼みたいのは、一つだけだ。

 綴って欲しい。あなたの見た。

 彼女たちが、生きた軌跡を。

 

 「生きた、軌跡?」

 

 ──この牧場で、どのように生きたか。

 何を好み、何を嫌ったか。

 勝利を得られなかった彼ら。

 でも、確かに生きていた。

 勝利を得られなかったから。

 その闘いは、賞賛を受けぬ。

 当たり前のことだ。

 でも、敗者が居なければ。

 勝者だって、生まれ得ぬのだ。

 

 「……もう一度聞く。私に何を。

 何を求めているのだ」

 

 ──世界に轟かせて欲しい。

 彼女たちの誇り無き、嘶きを。

 

 「……競馬の世界は残酷だ。

 走れなくなった馬は。業績を残さねば。

 殺処分は免れない。私はそれが嫌だった。

 だから、自己満足で続けたのだ。

 だが、この手はあまりにも小さい。

 零れ落ちた数の方が、多い。多すぎる。

 何も残せず、この世を去る老人に。

 君は一体、何をさせようとしているのだ」

 

 ──世界に、伝えて欲しいのだ。

 彼女たちが、敗者が。競走馬が。

 何の業績も、得られなかったとしても。

 それでも。必死に生きて、死んだこと。

 その生に、確かに意味があったことを。

 

 「私のやったことに、意味が有ったと?」

 

 ──俺は見た。

 彼女たちを見上げ、笑う幼子が居た。

 彼女の闘いを、覚えている青年が居た。

 涙を飲んで、愛馬を手放した馬主が居た。

 彼女たちは、確かに。ここで生きていて。

 そして、人に愛されていたのだ。

 それを、誰かに。一人でも多く伝えて欲しい。

 それがあなたに、望むことだ。

 

 「やれやれ。牧場を畳むこと。

 それすら許してくれないと?」

 

 ──スタッフは、こちらで用意する。

 運営資金も、俺の個人的な資産を充てる。

 そして。

 

 「はいはい。わかりましたよ。

 売れない作家や、画家に彫刻家。

 果ては、プログラマーまで。

 そんな相手ばかりを集めて。

 何をさせるのかと思ったら。

 もうちょっと、売れる題材を。

 与えてやるのが、優しさってもんでしょう?」

 

 ──チャンスは、与えてやる。

 彼らは、至当な給金を支払われる。

 その後人気を得るかどうか。

 それは、彼ら次第だよ。

 

 「社長。私が裏切るとは、考えていないので?」

 

 ──負け犬には、負け犬の誇りがある。

 お前は俺に似てるよ。

 

 「かなわねぇなァ。あんたに拾われて。

 命を拾った。飯ももらった。

 上等なおべべまで。着れるようにしてくれた。

 俺にやってくれたことを、馬にもしろ。

 そう言われちゃあ、裏切れねぇや」

 

 ──言葉遣い。

 

 「知らねェよ。あんたは居なくなるんだろ? 

 そんな顔、してやがる。

 最後ぐらい、本音で喋らせろ。

 困るんだよなァ。目標が。

 超える前に、居なくなりやがる。

 俺は、何を見て。

 これから生きればいいんですかい?」

 

 ──決まっている。前だよ。

 前を見ろ。そして走り続けろ。

 負け続けても、いつかは勝てる。

 そう、俺は信じてるよ。

 

 「あんたの大好きな、ハルウララ。

 生涯勝てなかったっていうのに?」

 

 ──勝ったさ。彼女は。

 そして、これからも勝つだろう。

 

 「勝ってねぇでしょう。

 何に勝ったって言うんですかい」

 

 ──愛され具合。

 よく言うだろ、惚れた方の負けって。

 少なくとも、俺にだけは勝ってるさ。

 

 「あんたは本当に、馬鹿だなぁ! 

 あんたの一人負けじゃないですかい」

 

 ──何、これから勝つのさ。

 さて、後は頼んだ。

 俺は、彼女に会ってくるよ。

 

 「社長、どこに行くんですかい?」

 

 ──満開の。桜の木の下で。

 彼女を想って酒を飲む。

 きっと、ウマいに違いない。

 

 「へいへい。お熱いことで」

 

 ──ウララ。今行くよ。

 

 そして彼は。終わりに向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「つまりは愛ッ!」

 

 「何故そこで愛ッ!?」

 

 

    

 六平銀次郎は、驚愕した。

 

 あまりにも唐突な、愛情狂現。

 

 こやつ、本当にハルウララを託して大丈夫か。

 

 思いつつ、正気の実在を確認する。

 

 

 

 「大丈夫か? 小僧。この指、何本に見える」

 

 「ウララに見える」

 

 「よし。大丈夫じゃねえな」

 

 

 

 愛に狂っているだけである。

 

 何、愛情がちょっと深すぎるだけ。

 

 きっと彼女を、とんでもない勢いで。

 

 幸せにし尽くしてくれるだろう。

 

 安心して、戦いに目を向けられる。

 

 

 

 

 

 

 「来た来た来たー! 力を感じるッ!」

 

 「会長ー! かっこいいッ! 抱いてッ!」

 

 「戦いが終わった後でねッ!」

 

 

 

 スマートファルコンは、己に流れ込む力を。

 

 社員からの、想いを受け取り。

 

 高揚感に、酔いしれていた。

 

 

 

 『会長ッ! ワイン足湯ッ! 待ってます!』

 

 『会長ッ! ユキオーチャンカワイイヤッター!』

 

 『会長ッ! 百合が好きだァッ!』

 

 

 

 どんどんと、流れ込んでいく力。

 

 膨らみ続ける、愛され願望。

 

 『スマートファルコン』。

 

 砂のサイレンススズカとまで呼ばれたが。

 

 彼は、賞賛を受けることが少なかった。

 

 裏街道を、走り続けたためだ。

 

 中央8戦。地方25戦。

 

 地方での戦いが多く。

 

 地方荒らしと呼ばれ。

 

 それでも必死で走った。

 

 走って、走って、また走って。

 

 そして、彼が最後に想ったことは。

 

 

 

 「私はッ! 輝きたいッ! 

 世界の中心で、輝き続けたいッ! 

 煌めく星になるッ! そのためにッ! 

 勝つよ、ユキオー!」

 

 「了解ッ! ファル子リヲンッ! リクエストッ! 

 領域増幅アンプッ! 出力最大ッ! 曲名ッ!」

 

 

 

 「「『UNLIMITED DESERT』!」」

 

 

 

 流れる、イントロ。

 

 ハルウララは、顔をしかめた。

 

 新曲。だが、この曲調。

 

 歌ったことがある。

 

 万雷の、拍手の中で。彼女と共に。

 

 

 

 『衆目全部 奪い尽くす』

 

 『打ち付ける歓声の中でも』

 

 

 

 猛禽類の、リードに従い。

 

 くるくると廻る白髪ロリ。

 

 まるで、衛星のように。

 

 

 

 『勝利全部さらい尽くし』

 

 『いい空気 吸い尽くそう』

 

 

 

 砂の覇者のみが、歌うことを許される曲。

 

 かの、無限の衝撃と似ている。

 

 だが。

 

 

 

 『ぬかるまぬ砂 渇き尽くせ』

 

 『気持ち籠る声援の中で』

 

 

 

 これは、彼女の曲だ。

 

 極限までの、渇きを表現するための。

 

 彼女が、世界の中心であると。

 

 告げる、強欲の唄。

 

 

 

 『この声は響き渡るでしょう』

 

 『その脚は勝利を掴むでしょう』

 

 

 

 『『命の限り……!!』』

 

 

 

 だって。あんなにも。

 

 叫んでいる。魂が。

 

 愛されたいと……! 

 

 

 

 「キャー! ファル子さーん! 愛してるー!」

 

 「お前空気読めよ……」

 

 

 

 すげー愛されてた。

 

 狂ったように、サイリウムを振り回すゴリラ。

 

 台無しである。

 

 

 

 「読んでいますとも。ほら、ファル子さんがこっちを向きました。

 これはウィンクの前触れでは? 私だけを見ている……!」

 

 「厄介なファンがいたもんだね……」

 

 

 

 この黒鹿毛。己が憎まれていたこと。完全に忘却している。

 

 これは、あの盛り上がりも……

 

 

 

 「ん……?」

 

 

 

 一滴の。違和感。

 

 

 

 (相変わらずだね、フラッシュちゃん……)

 

 

 

 スマートファルコンは、ひっそりと。

 

 胸中で独り言ちた。

 

 やめて欲しい。

 

 もう、忘れられたと思ったのに。

 

 あんなに、冷たくしたというのに。

 

 あんなにも、真っすぐにこちらを見てくる。

 

 誰よりも、夢を応援してくれた彼女。

 

 誰よりも、自分を支えてくれた理解者。

 

 だが。

 

 

 

 『お前は私を、裏切った……!』

 

 『会長は、渡さない……!』

 

 

 

 ワンフレーズ唄い終わった。

 

 心象風景が、強制的に励起される。

 

 無限の砂漠。愛を吸い込む砂。

 

 そして、黒い太陽。膨らみ続ける、渇望。

 

 ぴきりと罅割れる、異音。

 

 

 

 『『フルルルルルルルルァァァァァァァッシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』』

 

 

 

 そして、領域が華開く。

 

 部分展開。

 

 『キラキラ☆STAR☆DAMN』(堕ちろ、私以外の煌めく星)

 

 その、象徴は。

 

 

 

 「私は、奪い続けるッ! 衆目を奪い! 先頭を譲らないッ!」

 

 

 

 旗が現出する。

 

 現役時代は、勝ち取ったG1の、勝利レイ。

 

 それを、旗印としたものだが……

 

 今は、違う。

 

 

 

 「フラスプネズミ商事、万歳ッ……!」

 

 

 

 誇らしげに告げるユキオー。

 

 そう。この身は、もはやウマドルではない。

 

 フラスプネズミの、社章。

 

 それこそが相応しい……! 

 

 始めよう、骨肉の争いを! 

 

 スプ〇と、ラ〇タも、見守ってくれている! 

 

 

 

 「さぁ! 行くよウララちゃんッ! 

 ファル子の純情ッ! 味わい尽くして知るが良いッ! 

 フラスプネズミの総力ッ! 経営者系偶像(アイドル)の底力ッ!」

 

 

 

 旗を振りかざし、告げる。

 

 まるで、救国の聖ウマ娘のように。

 

 

 

 『ジャンヌ・ダル子』。

 

 彼女は神の声を聴いたと告げ。

 

 民衆を先導し、その剛腕で全てを薙ぎ払い。

 

 そして、その戦いの最後に。

 

 異端審問に掛けられ。

 

 三女神を崇拝せぬ、異教徒どもを。

 

 その、輝かしき領域。

 

 『紅蓮の聖女(ソーラービーム)』で焼き払い、愛する青髪のウマ娘……

 

 ジル・ザ・サーヴァント。

 

 通称、ジル奴隷と共に。

 

 田舎で、いちゃいちゃ百合ライフを送ったという。

 

 三女神を、太陽だと思っていたためだ。

 

 太陽崇拝である。

 

 

 

 「我が領域も、かの聖ウマ娘と同じッ……!」

 

 「旗だけだろ。共通点」

 

 

 

 スマートファルコンの領域。

 

 『個』を極めた、ハルウララの領域とは対照に。

 

 『集』を極めた領域である。

 

 その効果は、極めて単純。

 

 

 

 「『衆目』を奪えば奪うほど強くなるッ! フラスプネズミ商事、全社員ッ! 

 テーアイより、1200人ッ! キョーセイより、1200人ッ! 

 あとジジイが8匹ッ! ロリ1匹ッ! 最後にかわいいファル子ちゃんッ! 

 2410人の、総力に! 膝を屈してかわいがられるがいい……!」

 

 「現役時代より少ないだろ」

 

 「りょ、量より質だし……」

 

 

 

 冷静なツッコミにより、多少我に返るも。

 

 そこは、ファル子リヲンの増幅でカバー。

 

 全く何も、問題ない……! 

 

 

 

 「ファル子さんが、私の名を……! ウララさん、聞きました!? 

 愛の告白ですよ、あれは!」

 

 「どう見ても、憎悪の絶叫だった気がしたけど……

 フラッシュちゃんがいいんなら、いいんじゃない」

 

 

 

 訂正。2411人であった。まぁ、誤差であろう。

 

 だが、この流れ込む力。

 

 気狂いじみた、黒い愛情。

 

 みしみしと、魂が軋む。

 

 忘れていた、何か。

 

 はて、私は何故。完全展開ではなく。

 

 部分展開したのであったか……

 

 だが、気にしない。だって。

 

 

 

 「ファル子、むずかしいことわかんないッ! 

 脳がちっちゃくてかわいいものッ! 

 スマートファルコン、いっきまーす!」

 

 「いいだろう。受けて立ってあげよう、ファル子ちゃん。

 魅せてやるよ、格の違いを……!」

 

 「キャー! ウララ―!」

 

 「怪我はしないようになー」

 

 『『『『『『『『『『会長ぉぉぉぉッ!』』』』』』』』』』

 

 「会長ッ! 頑張ってッ!」

 

 「ファル子さん、ウララさんなんてワンパンでッ!」

 

 「黒鹿毛は後で殺す」

 

 

 

 この声援。完全にホームである。

 

 さらに調子が、ノッてきた。

 

 さぁ、本番を始めよう。

 

 

 

 

 

 

 つづかない



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ファル子さんじゅういっさい そのさんじゅうなな 魔球の行方

ううむ。組み立てに悩む。
だが、頭をアホにすれば道は開けるッ……!


~前回までのあらすじ~

 

 手前勝手な、想い。

 

 ツバメは、終わりに向かい飛翔した。

 

 そして、唐突に叫ばれる愛。

 

 六平トレーナーによる、SAN値チェック。

 

 ハルウララしか、頭にない。

 

 問題なし。既にこやつ、狂っていた。

 

 死んでも彼女を、幸せにする。

 

 その心意気しか、感じとれぬ。

 

 そして、ウマ娘の戦いは。

 

 デュエットにより、加速する。

 

 無限の渇き。

 

 輝きたいという願望。

 

 ちらりと黒鹿毛を見やり。

 

 ぴしりと心に一つの異音。

 

 旗を靡かせ、決然と告げる。

 

 フラスプネズミの総力。

 

 味わい尽くして、我が身に屈せ。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふらりと、彼が向かうは小山。

 

 老人は、説明責任を果たさせるため。

 

 彼を止めようと、試みた。

 

 「あ、君ッ!」

 

 「止めねぇでくれ。頼む」

 

 「だが……泣いて、いるのか?」

 

 老人の、足を止めたのは。

 

 青年の、足元を濡らす滴。

 

 「泣いてねぇ。泣くモンか。

 男の門出だ。笑って見送るのが。

 筋ってもんだろう?」

 

 「……彼は、そんなに悪いのか?」

 

 「もうとっくに死んでておかしくねぇ。

 無理し過ぎたんだよ。

 よっぽど愛してたんだな。

 最後は。最後ぐらいはよ。

 彼女と一緒に過ごさせてやりたい」

 

 「……やはりか。自分勝手な男だ。

 責任重大だな……。この老体には堪えるよ」

 

 「大丈夫だ。俺らが支える。あんたも。

 その後継者も。クソみてぇな、この命。

 それが尽きるまでなァ」

 

 「なぜ、君はそこまで?」

 

 「恩義があるんだ。負け犬を拾ってくれた。

 言っただろ? 命を救われた。

 飯もくれた。仕事まで与えてくれた。

 それ以上に、何が必要だ?」

 

 だが、老人は。

 

 誤魔化されなかった。

 

 長きに渡る人生で。彼は知っていた。

 

 命を救われても。裏切る者はいる。

 

 人は、喉元を過ぎれば。

 

 熱さも、恩も忘れる物である。

 

 だが、この青年。

 

 「それだけではない。そんな顔をしている」

 

 「亀の甲より、年の功ってか。

 かなわねぇなあ。相変わらず、俺は。

 誰にもまだ勝ててねぇ。

 ……あの人はよ。馬鹿なんだよ。

 とんでもねぇ馬鹿」

 

 「ひどい言い様だな?」

 

 「それ以外に言えねぇよ。

 身体壊して働いて。

 やりてぇことが、馬との暮らし。

 しかもそれさえ、寄り道して。

 こんな、馬鹿ばっかりを拾いやがって。

 お陰で、彼女の死に目に逢えてねぇ。

 ……みんな、知ってたんだよ。

 あの人が大好きだからな。

 調べて、愕然とした。

 言えなかった。言える筈がねぇ」

 

 「彼女が、既に死んでいたことをか」

 

 ぽつり、ぽつりと青年は告解する。

 

 自らの、罪を。

 

 「ああ。だってそうだろう? 

 自分の身体を、ぶっ壊してでも。

 死んだっていいなんて、口では幾らでも言える。

 でも、あの人は実行しやがった。

 その、あの人の。幸せにしたい相手がよ。

 既に死んでるんだぜ? 言った瞬間よ」

 

 その瞳に宿るのは。

 

 後悔と、そして。

 

 「……そのままくたばっても、おかしくねぇ。

 だから、みんな黙ってた。

 ひでぇ裏切りだよな。

 俺たちは、あの人に生きて欲しかった。

 だから、あの人の一番大事なものを。

 あの人の、生きる目的が既に無いことを。

 示しあわせて、隠してたんだ。

 殺されたって、文句が言えねぇよ」

 

 「……誰だって、大事な者には。

 生きていて欲しいものだろう。

 君たちは、間違ったことはしていない」

 

 「間違ってる、間違って無いじゃねぇ。

 仁義の話だ。俺らはあの人に救われた。

 あの人は、世界に負けちまった俺たちに。

 また、立ち上がるチャンスを。

 ケツを蹴飛ばしながら、くれたんだ。

 なのによぉ。俺らは裏切った。

 全員揃って地獄行き。間違いねぇ。

 だっていうのに、あの人はな。

 帰ってきた時、なんて言ったと思う?」

 

 「彼は。一月前に。彼女の死を知った時。

 君たちに、何を言った?」

 

 自らに対する、絶対の誓い。

 

 「『馬鹿ども。よくも騙してくれたな。

 ありがとう。罰として。

 俺の、最後の我が儘を。

 お前たちに、手伝わせてやる』」

 

 「……厳しい男だな。絶対に断れない。

 その信頼を、裏切れば。

 それはもはや、負け犬ですらない」

 

 「社長がよ。彼女に逢いに行くって聞いて。

 俺たちは、覚悟してた。

 その場で、あの人がくたばるかもしれねぇ。

 全てを知って、俺たちを殺すかもしれねぇ。

 全部、全部覚悟してたんだ。

 

 ……でもよ、あの人は言ったんだ。

 裏切った俺たちを。信じてくれるって。

 手伝わせてくれるって言ったんだ。

 これでよ。あの人の最後の我が儘を。

 聞いてやれなくちゃ、俺たちは。

 お天道様に、二度と顔向けができねぇ。

 墓参りだって、出来やしねぇ」

 

 燃えるような瞳。

 

 彼と同じ。

 

 生涯を、ただ一つのため。

 

 捧げると、誓った瞳。

 

 「だから、君たちは」

 

 「ああ。死んだってやる。誰だって殺す。

 俺らの、あの馬鹿みてぇなボスのためなら。

 一生を、馬鹿みてぇな仕事に使うぐらい。

 お釣りが来るってもんだろ。

 すまねぇな、爺さん。

 俺らの我が儘に、付き合ってくれや」

 

 「わかった。私も覚悟を決めよう。

 君たちは、本気なんだな。

 本気で、報われない生き方を。

 死ぬまで続けると、決めている。

 ここで引いては、老人として。

 馬鹿な若者どもに、示しがつかぬ」

 

 「ありがてぇ。でもいいのかい? 

 あんたには、何の義理もねぇってのに」

 

 老人は、ふんと鼻を一つ鳴らし。

 

 呆れたように、苦情を申し立てた。

 

 「ようやく合点が行ったよ。

 ……君たちは、揃って素直じゃない。

 てんでバラバラに、牧場に寄付なぞしおって。

 ここまで、ここが保ったのも。

 君たちの、彼への愛情故だろう。

 まとめて贈るものだぞ、そういうものは。

 私は、金勘定は苦手なんだ」 

 

 「バレてら! しゃあねぇだろう。

 俺たち、すげー馬鹿なんだから。

 社長のために、何かをしてやろうとか。

 恥ずかしすぎて、口にも出せねぇ。

 目立って社長にバレたら、事だしな」

 

 「そうか。馬鹿ならしょうがない。

 それで、具体的には。どうするつもりなんだ?」

 

 青年は、にやりと笑い。

 

 馬鹿な夢を。実現するための方策。

 

 それを、得意げに語る。

 

 「ああ。あらゆる媒体で。

 あんたの見た、彼らの姿を描き出す。

 馬主が権利放棄した馬、多いんだろう?」

 

 「ああ。名目上は、私が馬主。

 そういうことになっている、馬が殆どだ。

 ハルウララを、始めとしてな」

 

 「なら、権利問題はねぇ。

 負けた馬は、目立たねえ。

 目に写らなきゃ、居ないと同じ。

 なら、目に写るようにしてやりゃいい」

 

 「無名の馬ばかりだぞ。人気が出るとは思えん」

 

 「()()()()()()

 なんなら、人気がある馬も。

 馬主を説得して出す。金も積む。

 社長は、馬鹿だがすげぇ馬鹿だ。

 準備は、バッチリ整えてやがる。

 あとは、俺らが気張るだけだ。

 ……ここに、社長の原案がある。

 一か月かかって、作ったらしい」

 

 分厚い封筒の、封を解いて。

 

 それを、一目見た瞬間。

 

 彼らは、絶句した。

 

 「「……没ッ!」」

 

 そして、そのまま地面に叩きつけた。

 

 「あの馬鹿ッ! ふざけやがって! 

 俺たちに、自分で考えろってか!?」

 

 「いいや、違うよ。彼は本気だ」

 

 「……マジで?」

 

 「マジだ」

 

 「……なんでそう思う? 

 正気の沙汰とは思えねぇ」

 

 「わかるさ。だって彼は」

 

 放り捨てられた企画書に。

 

 描かれていた、一枚のイラスト。

 

 二足歩行の馬と、筋骨隆々たる青年の。

 

 濃厚なラヴシーン。

 

 『ウマ娘ガチケモダービー』。

 

 そう、号された原案。

 

 「牧場で、いつもウマっ気を出していたからな。

 ガチのケモナーだよ、あの小僧」

 

 「俺にゃあわからねぇ……社長。

 あんた、童貞だって言ってたの。

 マジだったんだな……

 そりゃ、命も賭けるか。

 愛って、そっち方面も含んでたのかよ」

 

 彼らは、しばらく黄昏れて。

 

 老人は思った。

 

 彼が、手遅れになっていなくば。

 

 彼女が被害に遭っていた可能性が、高い。

 

 不謹慎ではあるが……

 

 「世の中、ウマく出来てるものだな……」

 

 彼の呟きは。

 

 優しく、空に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そこはちょっと……どうかと思うな」

 

 「どうした。急に冷静になりやがって」

 

 「いや、愛のカタチはヒトそれぞれ。

 そう、急に思い立ってな……」

 

 「ちなみにお前の愛のカタチは?」

 

 「ウララのカタチをしている」

 

 「知ってた」

 

 

 

 六平 銀次郎は、特に相手にせず。

 

 戦いに、目を移した。

 

 

 

 「さぁさぁさぁ! 盛り上がってッ! 

 参りましたァッ!」

 

 「相変わらずッ! 調子に乗ると鬱陶しい……!」

 

 

 

 たんたんと、ステップを刻むハルウララ。

 

 びゅんびゅんと、走り回るスマートファルコン。

 

 『個』の極み、ハルウララ。

 

 『集』の極み、スマートファルコン。

 

 彼女たちの、戦闘論理は。

 

 その、得意距離に於いても対照的だった。

 

 

 

 「ウララちゃんはッ! 

 マイル以上は、苦手だもんねぇッ!?」

 

 「お前が得意すぎるんだよッ……!」 

 

 

 

 ハルウララ。ダート短距離の王者。

 

 スマートファルコン。ダートマイル以上の王者。

 

 その、違いとは。

 

 

 

 「()()()()()()んだよ、ウララちゃんッ! もっと伸びやかにダンスしよッ!?」

 

 

 

 その、常識はずれな瞬発力を以て。

 

 地を蹴り、跳ぶハルウララ。

 

 その、過剰に搭載した筋力により。

 

 軽く地を蹴っても、膨大な推進力。

 

 ダート短距離に、敵はない。

 

 だが。

 

 

 

 「知ってるよ、ウララちゃんッ!」

 

 

 

 タタタタタタン、と。

 

 小刻みに動くハルウララに対し。

 

 たぁん、たん、たぁんと。

 

 伸びやかなステップを刻む、スマートファルコン。

 

 翼のように、旗をはためかせ。

 

 際限なく加速する。

 

 

 

 「加速力が高くてもッ! 最高速度が遅いッ! 

 当然だよねッ!? 跳ねすぎるとッ! 

 ()()()()()()()()()()()ものッ!」

 

 「ッ……!」

 

 

 

 そう。ハルウララの弱点。

 

 その絶大な脚力を以て、地を蹴り。

 

 跳ね続ける、特異な走法。

 

 性質上、速度に上限がある。

 

 速度を上げるため、蹴り脚を強めると。

 

 次に地を蹴るまで、滞空時間が伸びるためだ。

 

 バランスが崩れると、逆に遅くなる。

 

 領域を展開すれば、バランスを無視しても。

 

 過剰な出力で、一気に距離を稼げるが……

 

 今は、使えない。使えても、意味が無い。

 

 

 

 「短距離に特化しすぎたねッ!? 

 戦闘スタイルも、同じッ!」

 

 

 

 そして、インファイトでは無類の強さを誇るが。

 

 ヒット&アウェイは、苦手である。

 

 普通の相手ならば、問題ないが……

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 明確な弱点となり得る。

 

 

 

 

 「会長ッ! かぁっこ……いいッ!」

 

 

 

 じゃかじゃんと。ギターを掻き鳴らす、ユキオー。

 

 

 

 「「「「「会長ッ! 粉砕ッ☆ 玉砕ッ☆」」」」」

 

 「「「「「大喝采ッ!!!!!」」」」」

 

 

 

 社員(奴隷)どもの、コール。

 

 そして。

 

 

 

 「キャァァァァ! ファル子さーん! 

 ファルッ! ファルファルファルッ!! 

 ふぁるうぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!」

 

 

 

 頭に「ファル子命」と、揮毫された鉢巻き。

 

 纏う法被の、背中には。

 

 スマートファルコン親衛隊、筆頭の文字。

 

 片手にうちわ、片手にサイリウム。

 

 凄まじい練度の、オタ芸。

 

 かの、アグネス家のデジたんが。

 

 教えを乞うたと、言われるほどの絶技。

 

 限界オタクと化した、ゴリラのコール。

 

 ハルウララは、歯噛みした。

 

 

 

 「みんなーッ☆ありがとーッ!」

 

 

 

 スマートファルコンの、速度は。

 

 天井知らずに、加速していく。

 

 スマートファルコンの、部分展開。

 

 『キラキラ☆STAR☆DAMN』(堕ちろ、私以外の煌めく星)

 

 オーディエンスの熱狂が。

 

 加熱すれば、加熱するほどに。

 

 その強化係数を、上げて行くのだ。

 

 注目を、浴びるほどに強くなる。

 

 

 

 短距離では、テンションがアガりきる前に。

 

 この身の勝利が、確定するが……

 

 マイル以上では。

 

 最高速度で、遅れを取る。

 

 追い付けないのだ。

 

 伸びやかに、真っ当に走る彼女に。

 

 加速力に、全振りし過ぎたためだ。

 

 

 

 「Lalalai! Lalalai! Lula-la!」

 

 「ぬぐぅっ!」

 

 

 

 そして、自らの射程外から放たれる。

 

 短い音節。弾ける衝撃。

 

 あの、マイク。

 

 あれが、手品の種だろう。

 

 判ったところで、どうにも出来ぬが。

 

 

 

 「あははははっ! どうしたのかなっ!? 

 ウララちゃん! キャッチミー! 

 イフッ! ユーキャンッ!」

 

 「調子に乗りおって……!」

 

 

 

 スマートファルコンは、確かな手応えを。

 

 その脚に、感じていた。

 

 

 

 (さすがに無手だと、厳しいけどね……!)

 

 

 

 ハルウララの間合いに入ったが、最後。

 

 どんなにこちらが速くとも。

 

 相討ち狙いで、合わせられた場合。

 

 身体強度と、膂力の差で。

 

 容易く、圧殺される。

 

 だが。自分には。

 

 『これ』があるッ! 

 

 

 

 「文明の利器(歌音砲)、万歳ッ! 

 Lalalalala! Lalala……La!」

 

 「鬱陶しいッ……!」

 

 

 

 そう。アウトレンジから、音の砲撃を。

 

 歌劇戦闘(ミュージカル)を、続ける限り。

 

 自分に負けは無いッ……! 

 

 

 

 「勝てば良かろうなのだァァァァァ!」

 

 「調子に……乗るなッ!」

 

 

 

 撞球のように、床だけでなく。

 

 天井と壁を蹴り、跳ね回るハルウララ。

 

 こちらに迫り、拳を振るおうとするが……

 

 無駄だ。

 

 

 

 「強化係数、大逆転ッ! 

 領域で補強されてない、ウララちゃん! 

 加速しきった、ファル子の方がッ! 

 速いって、知ってるでしょッ!?」

 

 

 

 全速力で、後方へ。

 

 ハルウララは、虚しく跳ねて止まる。

 

 追い付けないことを、悟ったのだろう。

 

 当たり前だ。

 

 もはや、戦いはマイルの長さを超え。

 

 中距離じみた、戦闘時間。

 

 例え、部分展開したとしても。

 

 速度で、自分が負けることなど。

 

 あり得なさ過ぎて、笑えてくる。

 

 

 

 「Lalalalala! La! La! La!」

 

 「何か、焦ってない?」

 

 「La……!?」

 

 

 

 ハルウララは、直感した。

 

 敵手が、圧倒的有利。

 

 そのはずだが、動きに余裕がない。

 

 まるで、時間制限でもあるかのように。

 

 伸びやかに、走るのとは対照的に。

 

 どんどんと、声撃間隔が。短くなっている。

 

 

 

 「時間稼ぎ。やってみる価値はあるね……!」

 

 「……Lalulalala! Laaaaaaa……laッ!?」

 

 

 

 そして、驚愕に。

 

 声撃を止めた、スマートファルコン。

 

 彼女に迫る、砲弾。

 

 

 

 「デッドボールってっ! 

 こういう意味じゃ、ありませんわぁぁぁ!?」

 

 

 

 メジロ魔球(マッキュ)イーンである。

 

 

 

 「うわぁおッ!?」

 

 

 

 あまりの衝撃に、足が止まってしまった。

 

 危ういところで、イナバウアー。

 

 ぶるんと、揺れた胸に。

 

 迫る、悪寒。

 

 過ぎ去った筈の。

 

 確かな、平坦なる殺意。

 

 

 

 「ユタカァァァァァァァァ!!」

 

 「ヒィィィィィィィィッ!?」

 

 

 

 メジロの魔球(マッキュ)は、追尾型。

 

 壁で跳ねた、デッドボールが再来。

 

 がしりと、胸を鷲掴みにされる。

 

 現役時代より、育っていたためだ。

 

 恐らく、イナバウアーのポーズ。

 

 逸らした胸が、自慢と判定された。

 

 憎しみが、尋常では無い……! 

 

 

 

 「放しッ……!」

 

 「やはり胸など、戦闘の邪魔。

 貧乳は、ステータスッ!」

 

 「しまっ!?」

 

 

 

 そして、揉みあうというか。

 

 揉みしだかれる隙に。

 

 迫る、桜色の殺意。

 

 これは。避けきれ……! 

 

 

 

 「フォーリンダウンッ! 

 会長の胸は、わたしのもンだよッ!」

 

 「ファル子の胸は、ファル子のだよッ!? 

 もげるかと思ったけどねッ! 

 だが、よくやった駄犬! 

 後でおさわりを許すッ!」

 

 「感謝の極みッ!」

 

 

 

 危ういところで、駄犬の援護射撃。

 

 べりっと床に堕ち、ハルウララの脚を掬えず。

 

 そのまま、蹴り飛ばされる葦毛。

 

 

 

 「ですわぁぁぁぁぁぁ……」

 

 

 

 よほど、騎空士となり。

 

 特定部位を、盛られたかったのか。

 

 蒼空(グランブルー)へと、消えてゆく葦毛。

 

 なんだかとってもファンタジィ。

 

 想いつつ、次弾が来る前に。

 

 強化係数を、高めることを決める。

 

 

 

 「油断大敵ッ! 忘れてたよ、ウララちゃんッ! 

 ファル子リヲン! リクエストッ! 

 領域増幅アンプッ! 超過増幅(オーバーロード)ッ! 

 曲名ッ! 『†逃げられッ☆堕天恋†』……ッ!?」

 

 

 

 やはり、ここは十八番。

 

 告げて、マイクを構えつつ。

 

 走り出そうとした、矢先。

 

 脳裏に溢れだす、知らない歌詞。

 

 ぴきりぴきりと、響く音。

 

 忘れていたはずの……! 

 

 

 

 『……ッ! あなたに! 伝えたいことがあるのッ!』

 

 

 

 だが、もう止まれない。

 

 この身は、歌姫であるのだから。

 

 例え、黒い雨が降ろうとも。

 

 歌わなければ。

 

 

 

 

 

 つづかない



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ファル子さんじゅういっさい そのさんじゅうはち 愛の在り処

クッソシリアスです。お気をつけください。
彼女たちの理由。


~前回までのあらすじ~

 

 ツバメに託された人々。

 

 ツバメの秘められた業の深さは、彼らの予想を。

 

 斜め下に貫通し、呪いの企画書は闇に葬られた。

 

 コンプライアンスのためだ。

 

 そして、トレーナーは思う。

 

 性癖は、ヒトそれぞれ。

 

 お互いを尊重してこその、ヒトである。

 

 まぁ、自分はウララ以外。愛することはできぬのだが。

 

 そしてぶつかり合う、『個』と『集』の極み。

 

 スマートファルコンは、敵手の弱点を最大限に活用。

 

 チート気味な武器を以て、ハルウララを追い詰める。

 

 加速し続ける、脚と歌劇戦闘(ミュージカル)

 

 だが、ハルウララは見逃さなかった。

 

 猛禽類に宿る、一片の焦りを。

 

 そして、いきなり大暴投。

 

 狙い通り、グラ〇ル出演を熱望する葦毛。

 

 巨峰に対する憎悪は、相当に根深い。

 

 先ほど旅立たせた、栗毛には無い持ち味である。

 

 違いはひとつ。愛する者を、手に入れているかどうか。

 

 自分の持ち味が活かせなければ、他者の持ち味を投げ捨てる。

 

 ハルウララの、覇王の資質は誰よりも高かった。

 

 そして、猛禽類は覚悟をキメた。

 

 油断を捨てて、さらなる増幅。

 

 部分展開は、過剰な増幅に耐え兼ね。

 

 彼女の脳裏に浮かぶ、知らない筈の何か。

 

 飛べない猛禽類は、翼を広げ。

 

 終わりに向かい、飛翔していく。

 

 

 

 

 

 

 ――待たせてしまった。申し訳ない。

 

 「本当よ。わたし、待つの嫌いなの」

 

 満開の桜の下。

 

 盃を傾ける、ウマ耳の女神。

 

 守備範囲外だが、絵になる姿である。

 

 「目的は果たせたの?」

 

 ――彼らが、きっと。果たしてくれるだろう。

 

 「何? 他力本願なの? 人ってほんと。

 自分だけじゃ、何も出来ないのねぇ」

 

 ――そうだ。人は単体では、何も出来ぬ。

 だから、競馬も発展したのだろう。

 

 「ああ……言われてみればそうかも。

 あなたたち、脚が遅いものね。

 『わたしたち』に乗って、初めて世界が広がったのよね。

 レースも、そこから発展したものなのだし……

 そう考えると、人としては。正しい行いなのかしら?」

 

 ――正しいも、正しくないもない。ただ、必要なだけだ。

 想いを託して、人は発展してきたのだから。

 

 「そう。遠吠えは、伝わりそうかしら?」

 

 ――俺は、信じてるよ。

 俺の築いたものは、決して大きくはない。

 せいぜい、土台程度さ。

 でも、彼らがきっと。

 愛すべき、馬鹿どもが。

 彼女が生きたこと。それを伝えてくれるだろう。

 

 「あら。彼女だけ? あなたが生きた証とか。いらないの?」

 

 ――不要だ。俺に、その資格はない。

 彼女を幸せにしてやれなかった。

 彼女を、孤独にしてしまった。

 

 「ふゥん。勝手に遺されるかもしれないわよ?」

 

 ――要らないと、ちゃんと馬鹿に伝えてある。

 最後ぐらい、言うことを聞いてくれるだろう。

 

 「そういうものなのかしら? まぁ、いいわ。

 あなたの発想、面白いわよね。でも、人って。

 『わたしたち』の姿に、性的興奮って。

 覚えないんじゃなかったかしら」

 

 ――愛のカタチは、人それぞれ。

 きっと、俺の同志が居るはずだ。

 

 「そう。まぁ、人が言うのだからそうなんでしょう。

 さて、持ってきてるんでしょ。出しなさい」

 

 ――もうすでに、楽しんでいたのでは?

 

 「一人で飲んでも、そんなに楽しくないわ。

 わたしたちは、一人で生きていけるけれど。

 ヒトが居ないと、寂しいのよ」

 

 ――そこらへんは、彼女と一緒なのだな。

 

 「ウマだもの。人と共に生きた命。

 特に、サラブレッドはね。

 だから、わたしたちにも習性が残ってるわ。

 ヒトと共に生きないと、魂が震えないの。

 愛しくて、愛しくてたまらない。

 その想いが、きっと奇跡を産んだのよ」

 

 ――人が、君たちに。どんなに非道なことをしただろう。

 それでも君たちは、人を愛せるのか?

 

 「あら。あなた、ほんとにわかってないのね」

 

 とくとくと、彼の杯を満たしてやりながら。

 

 彼女は、灰となった命に。

 

 優しく、酷薄に告げた。

 

 「愛してあげるわ、自由きままに。

 嫌いになったら、放り捨てる。

 わたしたちは、もうあなたたちの手から離れた。

 わたしたちは、自由に生きることができる。

 わたしたちは、あなたたちを愛してもいい。

 わたしたちは、あなたたちを愛さなくてもいい」

 

 ――つまりは、俺が考えていたことは。

 

 「人ってほんとに、馬鹿よねぇ。

 わたしたちの気持ちなんて。

 わたしたちにしか、わからないわよ。

 わたしですら、他のウマの気持ちなんてわからない。

 なんて、傲慢な生き物なのかしら」

 

 ――そうか。その通りだな……

 俺は、最後まで間違えていたんだな。

 

 「ええ。間違いだらけの酷い馬鹿。

 でも、安心なさい? ちゃんと導いてあげるわ。

 覚悟して、次の世界に向かいなさい。

 運が良ければなんて、言わないわ。

 死に物狂いで、足掻きなさい。

 愛って、勝ち取るものよ」

 

 ――俺の記憶は、失われるのに?

 なんて酷い女神様だ。

 

 「当たり前よ。わたし、優しくないもの。

 イージーモードなんて、つまらない。

 デウスエクスマキナ(機械仕掛けの神)なんて、とうの昔に破壊したわ。

 だって、ウマだもの。勝ち取る以外の生き方なんて。

 知らない。出来ない。やりたくない。

 見たくもないわ、そんなもの」

 

 ――そうか。では頼む。

 

 「あら、潔いわね。もっと文句を言われるものと」

 

 ――文句なんて言わないさ。彼女を愛するためだ。

 どんなにルナティックな難易度だって。

 鼻歌混じりにクリアしてやる。

 

 「あなたが好きになってきたかも。

 では、最後に願うことは?」

 

 ――願わない。桜の下で、ハルウララ。

 彼女を想い、灰となり死ぬ。

 

 「咲かせて見せなさい。愚かな魂。

 願わないなんて、見上げたものね。

 サービスなんて、しないけれど。

 あなたの幸せを、女神が祈ってあげる」

 

 ――ありがとうとは、言わない。

 ウララ、今行くよ。

 

 彼は杯を呷り。

 

 そっと、目を閉じて。

 

 その生に、幕を閉じた。

 

 「やっぱり人って、わからないわ。

 わからないけれど……きっと。

 わからないからこそ、愛しいのね」

 

 彼女はそっと、彼の魂を手に取り。

 

 その輝きに、目を瞠った。

 

 「汚らしい、宝石だこと。

 負けしか知らない、くすんだ魂。

 でも、こんなに輝いてる。

 わたしたちの価値観からすれば。

 石ころにしか、見えない筈なのにね」

 

 ふわふわと、浮かび上がり。扉を開いて告げる。

 

 「気が変わったわ。わたし、我がままだもの。

 ちょっとだけ、サービスしてあげる。

 彼女に出会えなければ、意味ないもの。

 これぐらい、あいつらも見逃してくれるでしょう。

 文句を言ってきたら、ぶちのめすわ」

 

 そして、懐から取り出したもの。

 

 「鉛の心臓(彼女の魂)の、片割れ。

 やっぱ、いくら想いを受けていても。

 勝ってない馬だもの。

 彼女には、大きい方しか入らなかったけれど。

 まぁいいかと思って、取っておいたこれ。

 あなたにあげるわ。ゴミ処理よ。

 せいぜい、役立てなさい。

 よく考えると、これが入ってないから。

 彼女も苦労するかもしれないわね。

 でも、いいわよねべつに。ハンデなんて、誰でも持ってるし」

 

 そして、ツバメは旅立った。

 

 しっかりと、彼女の破片を抱きかかえ。

 

 「さーて。罰ゲーム、まだまだ続くのよねぇ……。

 次は、どんな面白い魂。探そうかしら。

 負け犬の魂も、面白いわよね。

 きっと、面白い死に方をした魂。

 そこらに堕ちてる筈だもの。

 なんかちょっと楽しくなってきたわ。

 人の魂、あと2つぐらいならバレへん、バレへん」

 

 生涯、競争で負けたことの無い女神。

 

 彼女は、敗者に対して寛大だった。

 

 理解できないからこそ、面白いからだ。

 

 そして、3年の罰ゲームの中で。

 

 拾い上げた、面白い人の魂。

 

 彼女は帰った後、大層怒られ。

 

 逆切れして、2人の女神と。

 

 盛大な大喧嘩を、繰り広げたという。

 

 

 

 

 

 

 

 「三女神信仰が、揺らいできたな……」

 

 「どうした。異端審問される気になったか?」

 

 「三女神信仰って、異端審問あったっけ」

 

 「無いな。自由な信仰がウリだ。言ってみただけだ」

 

 「そうか……まぁ、女神からしてフリーダムだからな……」

 

 「お前、さっきから何言ってんの?」

 

 

 

 六平 銀次郎は、サイリウムを振りつつ。

 

 横の彼に、促した。

 

 

 

 「ほれ、お前も応援しとけ。ウマ娘の闘争だ。

 ヒトが見てなけりゃ、話にならんだろ」

 

 「それもそうだ。行けッ! ウララッ! 

 勝ったら祝勝会からの結納ッ!」

 

 「欲望しか見えねぇな、コイツ……」

 

 

 

 彼らの視線の先。

 

 ステージ上での、2人の輪舞。

 

 戦いは、佳境に差し掛かっていた。

 

 

 

 『……ッ! あなたに! 伝えたいことがあるのッ!』

 

 

 

 『ファル子さん。ここが、我が故郷。ドイツです

 

 『へぇ。ヨーロッパのここらへんにあるんだぁ』

 

 

 

 思考にノイズが走る。

 

 スマートファルコンは、さらに加速し続ける。

 

 もはや、ハルウララが追い付けるどころか。

 

 投擲物も、当たることはないだろう。

 

 

 

 『私の夢とわがままを 支え続けてくれた あなた』

 

 

 

 『フラッシュちゃん、部分展開できるようになったの?』

 

 『ええ。ファル子さんに負けてばかりもいられません。

 これが私の部分展開。『Schwarze Schwert(黒い剣)』です』

 

 『ファル子、ドイツ語苦手……』

 

 『ふふ。少しずつ覚えていけばいいのですよ』

 

 

  

 『……ッ! Laaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!』

 

 「ぐぅぅッ!?」

 

 

 

 ハルウララの、決して届かぬ距離から。

 

 腹の底から絞り出す、苦痛の絶叫。

 

 歌音砲は、忠実にその機能を発揮。

 

 増幅された音撃が、四周から敵手を襲う。

 

 

 

 「痛いッ! ……が、まだまだァ! どんどん来い、ファル子ちゃん!」

 

 「いい加減倒れてよッ……!」

 

 

 

 なんと頑丈な。

 

 さらに、出力を上げなければ。

 

 ぬかるんだ砂を走るように。

 

 脚は軽いのに、とても重い。

 

 歌だ。歌を歌わなければ。

 

 自分は、忘れたのだ。

 

 ドイツへの行き方も、ドイツ語も。

 

 彼女を傷つける、全ての可能性。

 

 何もかも、もう思い出せない。 

 

 

 

 『とても幸せだった 愛しい日々

  あなたに支えられ どこまでも羽ばたける そう翼は告げていた』

 

 

 

 『フラッシュちゃん、大丈夫?』

 

 『ごほっ……まだまだ修行が足りませんね。

 もっと強くても大丈夫ですよ、ファル子さん。愛してますから

 

 

 

 

 『Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!?』

 

 「ウマ娘は、根性ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!」

 

 

 

 絶叫が、止まらない。

 

 1オクターブ、跳ね上がった音撃。

 

 だが、ハルウララは屈さない。

 

 

 

 「なんでッ!? なんで倒れないのッ!? ファル子、思い出したくないッ!」

 

 「後ろ向きな気持ちで、わたしに勝とうなんてッ! 万年早いんだよッ!」

 

 「……ッ!」

 

 

 

 びゅんびゅんと、加速し続ける走馬灯。

 

 流れ続ける、愛しい記憶。

 

 スマートファルコンは、自らのコントロールを失った。

 

 胸の奥から湧き出る歌が、壊れたレコーダーのように溢れ出す。

 

 

 

 『卒業したら 何をしよう あなたと共に 何をしよう

 夢は広がり あの空へ どこまでも飛翔んでいく この想い』

 

 

 

 『フラッシュちゃんは、卒業したら何をしたい?』

 

 『あなたのウマドル活動。ずっと支え続けますよ。

 私は、あなたに夢中ですから』

 

 『……トレーナーさんは、いいの?』

 

 『彼とは、あなたが幸せになってくれれば。

 私は、それを見守れれば。満足なのです』

 

 

 

 そんなのは認められない。

 

 自分は、彼女の笑顔が大好きなのだ。

 

 自分だけ幸せになるなど。

 

 愛する彼女が、それを見守れれば満足などと。

 

 彼女が、側に居なければ。何の意味も無いのに。

 

 

 

 『あああああああああああああああああああああああああッ!?』

 

 『ファル子さんッ!? トレーナーさん、これはッ!?』

 

 『完全展開だ……! ファル子の領域は、自己強化型の中でも、珍しい!

 制御が出来ていない! このままだと、ファル子は……!』

 

 『私に、何か出来ることはッ!?』

 

 『……ファル子の領域は、『奪って』自分を強化することに特化している。

 完全展開も恐らく同様だ。何かを奪えば、或いは』

 

 

 

 あの夜。クリスマスイブ。

 

 想いを昂らせた自分は、領域を暴走させた。

 

 愛する彼らに対する、想い。

 

 制御し切れなくなった。

 

 

 

 『……なら、話は簡単です。私を奪わせれば。

 何を奪われるかはわかりませんが。

 ファル子さんが助かるならば。

 私は、喜んでこの身を捧げましょう』

 

 『フラッシュ!? いけない! それはトレーナーの仕事だ!』

 

 『私はね、トレーナーさん。あなたたちが笑いあう姿が。

 一番好きなんです。ファル子さんが欠けても、あなたが欠けても。

 私は満足できないでしょう。私、強欲なんです』

 

 『待て、フラッシュ! 止まれッ!』

 

 

 

 愛の砂漠の中心で。

 

 黒鹿毛の、ウマ娘はそっと微笑んだ。

 

 

 

 『フラッシュ、ちゃん……?』

 

 『いいえ、私は名もなきウマ娘です。

 罪悪感なんて、あなたには似合わない。

 奪ってください、ファル子さん。すべてを、私から。

 あなたが幸せになってくれること。それが、我が報酬』

 

 『奪う……? 待って、『スマートファルコン』ッ!』

 

 

 

 渇望が、止まらなかった。

 

 まだ、同調しきらぬうちに、目覚めてしまった。

 

 愛を求め続ける、『彼』の魂が。

 

 全てを奪い尽くそうとして。

 

 そして、自分は奪ったのだ。

 

 残ったのは。

 

 

 

 『ファル子、さん……?』

 

 『フラッシュちゃん? どうしたの?』

 

 『無事だったのですね……! 良かった……!』

 

 『……触らないでもらえるかな? 

 ファル子、トレーナーさんが好きだよ。

 トレーナーさんだけが、好き』

 

 『え……?』

 

 『ファル子……?』

 

 

 

 愛し気に自分を抱きしめる彼女。

 

 だが、自分は。

 

 彼女を、拒否した。

 

 今にして思えば。封印した想いが、彼女を拒んだのだろう。

 

 彼女を、これ以上。自分に縛り付けたくなかったのかもしれない。

 

 

 

 『トレーナーさん。ファル子さんは……?』

 

 『……奪ったんだ。君への想いを。

 恐らく、彼女は君を。オレなんかよりも。

 ずっとずっと、愛していた。

 すまない、フラッシュ。オレは、無力だ……!』

 

 『どうしたの? トレーナーさん?

 ファル子ね、トレーナーさんのこと、大好きだよ!』

 

 『すまない……! オレが奪われていれば……!

 オレが居なくなっていれば、こんなことには……!』

 

 『……トレーナーさん。ファル子さんに、催眠術を』

 

 『……わかった』

 

 『えっ? なになに? ……すぅ』

 

 

 

 眠りに就いたお姫様。

 

 愛に渇いた、愛しいウマを見つめ。

 

 エイシンフラッシュは、告げた。

 

 彼女の愛を、取り戻すための計画を。

 

 

 

 『トレーナーさん。ファル子さんは、私への愛を。

 自分で奪ったんですよね?』

 

 『……そうだ。そしておそらく。君から奪わないため。

 彼女が、完全展開をすることは。未来永劫ないだろう。

 魂の奥底に、刻んだ筈だ。『スマートファルコン』の危険性を。

 ……愛する君を、傷つけないために。優しい子だから』

 

 『なら、憎しみは?』

 

 『……フラッシュ。君は何を……?』

 

 『愛の反対は、無関心。

 ならば。私は、彼女に憎まれる。

 いつか、愛を取り戻すために。

 トレーナーさん。私に、催眠術を。

 あなたを彼女より愛していると、私に誤解させてください。

 ファル子さんを、出し抜くために。

 手段を選ばず、彼女からあなたを奪うために。

 冥府魔道に、堕としてください。

 ……嫌とは、言わないですよね?』

 

 

 

 ごくりと彼は、喉を鳴らし。

 

 震える手で、五円玉を揺らした。

 

 

 

 『フラッシュ。俺を愛せ。

 契約だ。期間は彼女が、大人になるまで。

 ……ちゃんと、誰かを愛せるように。

 真実の愛を、自分の中から見つけられるまで』

 

 『……優しいヒト。だからファル子さんも、私も。

 あなたを好きになったのでしょうね。

 …… Ich liebe dich sehr.(愛しています)

 我が偽りの。愛しきヒト 』

 

 『こんにちわ、メフィストフェレス。

 時よ止まれ。お前は美しい。

 彼女の時計が、動き出すまで。

 偽りの愛を、紡ぎ続けよう』

 

 

 

 そして、ファル子リヲンの増幅により。

 

 負荷が掛かり過ぎ、綻んだ封印。

 

 彼女の時計の、秒針は。

 

 音を立てて、軋み始めた。

 

 

 

 「ああああああああああああああああああああああッ!!!!!

 ファル子、わかんないッ! もう、何もわからないッ! 

 何もかも、どうでもいいッ! 

 全部全部全部ッ! 愛の砂漠で朽ち果てろッ!

 奪い尽くせッ! もう何も要らないッ!

 『スマートファルコン』ッ! 完全展開ッ!」

 

 「会長ッ!? 完全展開、使えない筈じゃッ!?」

 

 「あのクラスのウマ娘が、使えないわけないだろッ!

 下がれ小娘ッ! お前にアイツは、救えないッ!」

 

 「……ッ!」

 

 

 

 白髪のウマ娘と、鹿毛のウマ娘。

 

 こちらを見て、何事かを叫んでいる。

 

 はて。あれは誰だったか……

 

 

 

 「ファル子さん……! もう私は、間違えないッ!」

 

 

 

 黒鹿毛のウマ娘。

 

 見ていると、脳が軋む。

 

 もう何も見たくない。

 

 さぁ、広げよう。誰も居ない世界を。

 

 

 

 「『暴夜物語(えいえんのさばく)』」

 

 

 

 そして、世界は夜に包まれた。

 

 

 

 

 つづかない

 

 



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ファル子さんじゅういっさい そのさんじゅうきゅう 起死回生の、布

うん。すまない。シリアスが続けられない体質なんだ。


~前回までのあらすじ~

 

 何もかも、飲み込んで。

 

 ツバメは静かに燃え尽きた。

 

 灰となった、彼の魂。

 

 女神は抱え、微笑んだ。

 

 サービス(わがまま)する価値が。

 

 これにはあると。

 

 彼女はそっと、欠片を託し。

 

 彼を見送り、決意する。

 

 まだ、きっとある筈。

 

 薄汚れた、輝く魂。

 

 そして、トレーナーは思った。

 

 三女神、相当フリーダム。

 

 ならば、自分も好き勝手。

 

 愛する彼女に声援を。

 

 加速し続ける、歌劇戦闘(ミュージカル)

 

 スマートファルコンの、脳裏を。

 

 過ぎ去り続ける、忘れた記憶。

 

 悲鳴の唄は、高らかに。

 

 忘れなければ、ならなかったもの。

 

 彼女の元へ、向かうための知識。

 

 現地で、彼女を探すための言語。

 

 彼女を傷付ける、全ての手段。

 

 ハルウララは、強い。

 

 このままでは、勝てない。

 

 苦鳴の唄は加速していき、制御を失い。

 

 彼女の秒針が、きしみ始めた。

 

 失われたストーリー。

 

 ここには居ない、魔法使い。

 

 黒鹿毛の、罪の記憶。

 

 だいすきなあなたを。

 

 助けてあげられなかったこと。

 

 愛しいウマから、奪われた全て。

 

 取り戻さんと、彼女は告げた。

 

 愛を、あなたに。

 

 憎悪を、私に。

 

 彼を、愛しましょう。

 

 あなたが愛を取り戻すまで。

 

 そして、いつの日か。

 

 暴走し続ける想い。

 

 強制的に開かれる世界。

 

 その砂漠の名は、スマートファルコン。

 

 己を濡らす、慈愛の雨を。

 

 愛ゆえ、自ら奪った女。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……君は、彼のなきがらを。

 どうするつもりだい?」

 

 「そうだな。彼女はどこに?」

 

 「桜の下に埋まっているよ。

 食肉になど、させるものか」

 

 「なら、同じところかねぇ」

 

 小山を登り、彼らは歩む。

 

 「爺さん。あんたマメだな……」

 

 「何がかな」

 

 「道。ちゃんと整備してるんだな」

 

 「彼がいつ来てもいいように。

 最低限の義理だよ」

 

 「あんた、損する性格って言われねぇ?」

 

 「言われるな。だがそれがどうした。

 私は、好きでやっているのだ。

 嫌いなことをやるよりは。余程いい」

 

 「……彼女の生の最後が。

 あんたの元で良かったと。

 きっと社長も思ってるよ」

 

 「心にもないことを言うな。そんな筈がない。

 必ず迎えに来ると。彼は私に言った」

 

 しかめっつらの老人を見て。

 

 青年は、少し笑った。

 

 「あんた、社長にちょっと似てるよ」

 

 「そうか? ……そうかもしれんな。

 なんといっても、ひどい馬鹿だからな」

 

 「あと、どんぐらいだ?」

 

 「この坂を登れば、彼女の桜だ」

 

 「そうか……きっと綺麗なんだろうな」

 

 「当たり前だ。彼女が埋まっているのだぞ」

 

 「あんたもさ。相当彼女のこと、好きだよな」

 

 「彼には勝てんさ。私は、牧場にいる彼ら。

 みなを愛しているからな」

 

 「博愛ってやつかい?」

 

 「偏愛というやつだ。私は人間が嫌いだよ」

 

 「素直じゃねぇジジイだな……お、……!?」

 

 「どうした? ……!」

 

 彼らが、小山の頂上にて見たもの。

 

 「……社長。あんたは願いを果たしたんだな」

 

 「ウララ。お前はずっと、待っていたんだな」

 

 馬の耳を生やした、少女が見守る中。

 

 彼のなきがらに、頬を擦り寄せる。

 

 鹿毛の、ぼろぼろの馬。

 

 一声だけ、満足げに嘶いて。

 

 霞ゆく空へと、消えて行った。

 

 少女はそっと微笑み。

 

 彼らに手を振り、姿を消した。

 

 「爺さん。俺はもう一回だけ、社長を裏切る」

 

 「奇遇だな。私もそう思っていたところだ」

 

 彼らは、決意した。

 

 「やっぱ、あの人が忘れられるのは。許せねぇ」

 

 「馬耳美少女。これは流行るぞ」

 

 そして、彼らは殴り合った。

 

 心が、通じ合わなかったためだ。

 

 滾る情熱と、老練の拳。

 

 二人は桜の下で、ぼこぼこに顔を腫らし。

 

 彼の話題で笑い合い、涙を溢し。

 

 誓いを新たに、盃を交わし。

 

 そして、産まれた二つの作品。

 

 『幸福な王女』と号された、銅像。

 

 『ウマ娘プリティ―ダービー』と号された、アプリゲーム。

 

 後世に愛される、名作となったという。

 

 今も桜の下には。

 

 鹿毛の馬を撫で、微笑む巌のような青年。

 

 彼らの生きた証が、残り続けているという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 くろいくろい太陽に照らされた。

 

 永劫に、続く砂漠。

 

 砂丘は無く、ただただまっすぐに。

 

 地平線だけが、その輪郭を告げていた。

 

 

 

 「なるほど。規模がバ鹿でかい。

 やっぱりわたしのとは違うね」

 

 「ウララさんの庭園。わりと小さいですもんね」

 

 「多分、一番小さいんじゃないかな。

 理由はよく知らんけど」

 

 

 

 並び立つ、黒鹿毛を見やり。

 

 ハルウララは、問うこととした。

 

 

 

 「フラッシュちゃん、計画通り?」

 

 「ええ。黙っていて申し訳ない」

 

 「あとでボコる。……勝利条件は?」

 

 「お好きなように。

 必ず生き残りますから。

 ……ファル子さんの、愛を取り戻す。

 私はそのために、生きてきました」

 

 「純愛?」

 

 「これが純愛でないのならば。

 世界に愛など存在しないでしょう」

 

 「ならいいや。協力してあげるよ」

 

 「よろしいのですか? 

 言えば、断られると。

 そう思い、黙っておりましたが」

 

 「バッドエンドに終わる純愛なんて。

 作品としては綺麗かもしれんけど。

 わたしは、とっても嫌いなんだよ」

 

 「……感謝します。桜色の暴帝よ」

 

 「さて。理由はいい。次は手段だ。

 アレ、どうする?」

 

 「ノープランです」

 

 「この役立たずが……!」

 

 

 

 彼女たちが、見つめる先。

 

 

 

 「Lu La La La, La La Lu La La,

  La La, Lu Lu Lu Lu, Lu La Lu La……?」

 

 

 

 届かぬ太陽に、片手を伸ばし。

 

 旗を片手に歌い続ける、その姿。

 

 スマートファルコンは、じっと。

 

 こちらを見据えていた。

 

 

 

 「増幅機構。活きてるのかな」

 

 「恐らく。見えていないだけかと。

 完全展開は、上書きではありますが……

 元々有った物を、潰す物ではありません」

 

 「つまり、放っておくと?」

 

 「どうしようもなくなる。

 その可能性が濃厚ですね」

 

 「んで、アレは。どういう攻撃を?」

 

 「今から体験できるようですよ……ッ!」

 

 

 

 

 「La La Lu La, La Lu La Lu La,

  Lu La La La, La La Lu La La,

  La La, Lu Lu Lu Luッ!」

 

 

 

 太陽を取り巻く、黒炎(プロミネンス)

 

 ほどけて、こちらに降り注ぐ。

 

 

 

 「当たるとヤバそうっ!」

 

 「ダートは苦手なのですがッ……!」

 

 

 

 どんどんどん、と。

 

 砂地に突き刺さる、黒炎。

 

 エイシンフラッシュを抱え。

 

 なんとか離脱を果たした、ハルウララは。

 

 ごくりと、唾を飲んだ。

 

 

 

 「足元の感触からすると。

 ダートコースだね、これ。

 と、いうか。覚えがあるぞ。ここ」

 

 「と、いうと?」

 

 「坂が無い、平坦なダートコース。

 おまけに、このクッション砂。

 間違いない。ここは。()()()()()()だよ」

 

 「……詳しいですね?」

 

 「お前ら、芝の選手と違って。

 ダートは重賞が少ないからね。

 現役時代、よく走ったもんだよッ!」

 

 

 

 連続して突き刺さる、黒炎を躱しながら。

 

 ハルウララは、右回りに。

 

 太陽の周りを駆け巡る。

 

 

 

 「やっぱりねっ! 

 右回りだね、この領域ッ!」

 

 「右に回ると、どうなるのですかっ!?」

 

 「完全展開は、ルールも上書き! 

 ここが大井レース場ならッ! 

 左回りすると、恐らく速度が落ちるッ!」

 

 「詳しいですねッ!?」

 

 「わたしは怒りっぽいからねッ!」

 

 「今まで、何人潰しました?」

 

 「数えてない。生きてるからセーフ」

 

 「アウトだと思うのですが……」

 

 

 

 なんとか避け続けるうちに。

 

 

 

 「La Lu La, La Lu La Lu La, La Lu La Lu Lu,

  La La, Lu La Lu La, Lu La Lu Lu, La La,

  Lu La Lu Lu La, La La Lu Lu?」

 

 

 

 こちらに降り注ぐ、黒炎を止め。

 

 首を傾げる、スマートファルコン。

 

 彼女の領域内で、こちらが避け続けられるのが。

 

 恐らく、不思議なのだろう。

 

 

 

 「チョン避けは、得意だからね……!」

 

 「いつから、東方に向かったのです?」

 

 「わたしの髪型がなんだって?」

 

 「そちらではありません」

 

 

 

 ちょっとした、ジョーダンにより。

 

 空気をリフレッシュ。

 

 シリアスを続けると、被弾からの回復。

 

 これに、時間が掛かるためだ。

 

 安全圏まで下がらせた、彼に向かい叫ぶ。

 

 

 

 「トレーナー! あれの弱点はっ!?」

 

 「弱点は、まだわからん。

 だが、攻撃の起点は黒い太陽。

 アレが、何にしろ核心だろう」

 

 「なるほどね……良かろう。いい分析だ」

 

 「感謝の極み」

 

 

 

 美しい礼を魅せる、彼に満足し。

 

 太陽を、堕とす方策を考える。前に。

 

 

 

 「ファル子ちゃん! タイムッ!」

 

 「Lu La Lu, La Lu La La, Lu La」

 

 「よし。理性を失っても、お約束は遵守するらしい」

 

 「お笑いソウル、強いですねぇ。さすがはファル子さん」

 

 

 

 戦力を、今一度分析する。

 

 あちら、正気を失った猛禽類。

 

 

 

 「こっちは……」

 

 

 

 安全圏に避難させておいた、他の者どもを見る。

 

 

 

 「えぐえぐ……エル……そうだ、嘘NTR煽り……! 

 今夜もホームランである! そうと決まれば、状況証拠を……!」

 

 

 

 碌なことを考えていない、褐色ロリ駄犬。

 

 恐らく、実行した瞬間に。

 

 とんでもない勢いで、お仕置きされること請け合いである。

 

 どうせここで生き残っても、拷問により。

 

 儚く命を失う可能性が高い。

 

 ここは、捨て駒とすべきだろう。

 

 

 

 「会長……わたし、要らない子なの……? 会長ぅぅぅ……」

 

   

 

 打ちひしがれる、白髪ロリ駄犬。

 

 よほど、猛禽類に見向きもされなかったこと。堪えたのだろう。

 

 やけっぱちになり、突っ込んで無駄死にする可能性が高い。

 

 ここは、捨て駒とすべきだろう。

 

 

 

 「おいおい。ジジイには刺激が強すぎるぜ、この展開……」

 

 

 

 呆然と、帽子の庇を下げ。

 

 ユキオーを、なでなでしているジジイ。

 

 老い先短い身である。

 

 ここは、捨て駒とすべきだろう。

 

 

 

 「ウララさん。何か良からぬことを考えているような……?」

 

 

 

 横で、レイピアを構えるゴリラ。

 

 動物園かここは。あまりにも動物が多すぎる。

 

 駄犬が二匹にゴリラが一匹。

 

 メイショウドトウ回ではないのだ。

 

 ここは、捨て駒とすべきだろう。

 

 

 

 「ううむ。あの歌。何か法則性があるような……?」

 

 

 

 必死に、敵手の動向を解析するトレーナー。

 

 顔よし、声よし、ケツもよし。

 

 おまけに気も利くときた。

 

 気が、多少狂っているのが難点であるが……

 

 生かしておいても、良いだろう。

 

 理解のあるトレピッピ。

 

 もう、逃すわけにはいかぬ。

 

 

 

 「よし。捨て駒どもとトレーナー。

 作戦を説明するよ」

 

 

 自信を持って告げる。

 

 ヤバい時こそ。堂々とした態度が必要なのだ。

 

 

 

 「ウララさん。あまりにも判断が早い。

 これには天狗も呆然です」

 

 

 

 捨て駒その一、ゴリラ。

 

 

 

 「まずは、あやつにいやらしいことを。

 されている写真を、確保せねばならぬ。

 ユキオー、自撮り棒は持っているのである?」

 

 

 

 捨て駒その二、褐色ロリ駄犬。

 

 

 

 「ほい、アフちゃん先輩。うう、会長……」

 

 

 

 捨て駒その三、白髪ロリ駄犬。

 

 

 「こいつの性格、俺の責任じゃねぇよな……?」

 

 

 

 捨て駒その四、ジジイ。

 

 

 

 「二進法……? いや、違うな……それにしては短い。

 いいぞウララ。俺はお前の物だ。好きに使ってくれ」

 

 

 

 彼ピッピ。

 

 以上、5名の異常者を。率いて勝負に臨む。

 

 分の悪い賭けだが……嫌いではない。

 

 

 

 「いいか。まずアフちゃん」

 

 「わんっ」

 

 

 

 元気のよい、お返事を返す駄犬。

 

 どうやら、回復したようで何より。

 

 

 

 「飛んで、アレを堕とせ」

 

 

 

 太陽に向け、顎をしゃくる。

 

 

 

 「ウララ先輩。私、まだはいてないのである」

 

 「だから?」

 

 「だからッ! 飛んだら下から! こやつに見られちゃうし……!」

 

 「俺は貴様のスカートの下になど。寸毫たりとも興味が無い。

 調子に乗るなと言ったはずだぞ、アフちゃん」

 

 

 

 鼻を鳴らして、見下した視線を向けるトレピッピ。

 

 やはり出来た、男である。

 

 

 

 「この男ッ……! これはこれで腹が立つのであるッ……! 

 もっといやらしい視線を向けてもらわねば! 

 エルに嫉妬してもらえないのであるッ! もっと欲情してッ!」

 

 「貴様。誰の男に手を出そうとしている……?」

 

 「ゆるして。ころさないで。きゅーん♡きゅーん♡」

 

 

 

 腹を見せて、転がるアフちゃん。

 

 そのスカートの下を、じっと見るトレピッピ。

 

 一切の、熱の籠らぬ視線。

 

 恐らく、参考資料としているのだろう。

 

 学術的興味しか、その視線からは感じられぬ。

 

 

 

 「しょうがない。トレーナー、なんとかしてやって」

 

 「ふむ。アフちゃん。これを」

 

 「これは?」

 

 

 

 スーツのポケットから、包みを取り出し。

 

 駄犬に手渡すトレーナー。

 

 

 

 「おむつだ。クリークママから頂いてな。

 何かの役に立つかと思い。持ってきてあった」

 

 「おむつ」

 

 「おむつだ」

 

 「つけるの? 私が?」

 

 「つけるのだ。お前が」

 

 

 

 しばしの、静寂。

 

 

 

 「嫌であるッ! 私、まだにじゅっさいッ! 

 おむつをつけるには、まだ早いのであるッ!」

 

 「ノーパンよりマシだろうがッ! 贅沢を言うな、駄犬! 

 クリークママなら、遅すぎるぐらいだと言うぞッ!?」

 

 「あれは気が狂ってるだけであるッ!」

 

 

 

 ぎゃあぎゃあと、喚く。躾けのなっていない駄犬。

 

 それを、諭そうとするトレーナー。

 

 ほのぼのと、見守るものとする。

 

 

 

 「わたし。会長に履かせてもらっててよかったぁ……」

 

 「俺は、アレを見た時眩暈がしたよ。育て方、どこで間違えたんだろう……」

 

 

 

 無い胸を撫でおろす、もう一匹の駄犬と。

 

 悲しみに暮れる、おじいちゃん。

 

 かわいくて完璧な自分とは違い。

 

 変なウマ娘を、担当してしまったためだ。

 

 

 

 「いいリアクションは、ファル子さんの興味を引ける可能性がある。

 頼みましたよ、アフさん」

 

 

 

 計算高さを魅せる、ゴリラ。

 

 

 

 「いつも通り、味方が居ないッ! 知ってたッ! 

 だが、私は、尊厳のためッ! エルへの純愛を貫くためッ! 

 これを、拒否するのであるッ!」

 

 「ウララ。抑えてくれ」

 

 「よしきた」

 

 「ひぃぃぃぃッ!? HA☆NA☆SE☆ッ!」

 

 「誰に口を聞いてるのかな」

 

 「きゃんきゃんッ♡……ッ!? やめ、やめるのであるッ! 

 男におむつを履かされるのは嫌ァ! せめてフラッシュ先輩にッ!」

 

 

 

 大暴れをする駄犬。だが、無駄だ。

 

 恥ずかし固め合戦。このハルウララ、負けた事がない。

 

 筋力がすごいからだ。

 

 

 

 「うむ。ウララとの子のおむつを替える、よい予行練習となる。

 さぁて、アフちゃん。おじちゃんが、おむつを替えてあげよう」

 

 「履いてないのであるッ!」

 

 「お前が今から履くんだよッ!」

 

 「ゆ、ユキオー! 助けッ……なんで撮ってるのッ!?」

 

 

 

 ウマホを構える、白髪ロリ。

 

 きょとんとした顔で、告げる。

 

 

 

 「証拠写真欲しかったンでしょ? アフちゃん先輩。

 良かったじゃン。動かぬ証拠だよこれ」

 

 「こんなのエルに見られたら、ガチで殺されるのであるッ!」

 

 「じゃあ……先輩、今度遊び行かン? 

 いいレストラン見つけたンだぁ。

 会長と行く前に、下見しとかないと」

 

 「この流れだと、奢らされる予感しかしないのであるッ! 

 しかも、お主らは結構上流階級ッ! 

 私、お給料そんなにもらってないッ!」

 

 「いいじゃン。ばら撒くよ? 不特定多数に」

 

 「早速脅されてるぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ! 

 じ、ジジイッ! 助けてッ!」

 

 

 

 藁にも縋る表情で、よく知らないジジイに頼るアフちゃん。

 

 往生際の悪い駄犬である。

 

 

 

 「こいつらは、俺が育てたんじゃない……

 俺、フェアリーゴッドファーザー……

 気の狂ったシンデレラっていうか。

 常識が死ンデレラだろこいつら……」

 

 「現実逃避する気持ちはわかるけどもッ! 

 生産者責任果たしてジジイッ!」

 

 「記憶にございません」

 

 「ジジイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!」

 

 

 

 そして、審判の時は来た。

 

 

 

 「さぁ。アフちゃん。赤ちゃんになろうなぁ?」

 

 「嫌ッ! 嫌であるッ! 助けてエルぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! 

 アッー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 「Lu La La Lu, Lu Lu La Lu La, La La, La Lu」

 

 

 

 彼女が最期に叫んだのは。

 

 愛する、ウマの名だった。

 

 合掌。

 

 

 

 

 つづかない

 



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ファル子さんじゅういっさい そのよんじゅう 大人からの卒業

さすがに、オリウマといえど。
いつまでも、生装備はさすがに。
コンプライアンスに反すると思い。
このような、顛末に至りました。
コンプライアンスの遵守。
ウマ娘創作と、切って離せぬ命題であります。


~前回までのあらすじ~

 

 老爺と青年は、小道を行く。

 

 彼の終わりを、見届けるため。

 

 頂上で咲き誇るは、彼女の眠る桜。

 

 しんしんと降り積もる、花弁の中に。

 

 彼らは、奇跡を見た。

 

 やっと出逢えた、彼ら。

 

 彼女の欠片は、満足げに嘶いて。

 

 天馬の如く。登って行った。

 

 見守るは、馬の耳を備えた少女。

 

 彼らは、その光景に。

 

 彼を、もう一度だけ。

 

 裏切ることを決めた。

 

 そして、明らかになる音楽性の違い。

 

 だが、そんじょそこらの馬鹿ではない。

 

 彼らは、酒の勢いで。

 

 後世に、残す物を決めた。

 

 ハッピーエンドに、書き換えた物語。

 

 ハッピーエンドを、目指すための物語。

 

 彼の誤算は。自らが愛されていたことに。

 

 気付かず、走り終わってしまったこと。

 

 そして、場面は砂漠の物語へ。

 

 くろいくろい、太陽に照らされた夜。

 

 ハルウララは、懐かしさと。

 

 焦りを胸に、駆け抜ける。

 

 完全展開は、訳が違う。

 

 ルールまでも強制される。

 

 ウマソウルの、夢の中。

 

 『スマートファルコン』の心象風景。

 

 全てを貫く、黒い炎。

 

 タイムと一声、待てを掛ける。

 

 理性を失おうとも。本質的には芸人。

 

 お利口さんに待つ、猛禽類。

 

 作戦会議の始まりだ。

 

 手元にあるのは、捨て駒ばかり。

 

 覇王に必要なのは、彼ピッピぐらいである。

 

 そして、褐色ロリ駄犬の運用に。

 

 彼女の自然主義が、待ったを掛ける。

 

 問題なし。気の利く彼の、気違いに。

 

 鳴いて喜ぶ、赤ちゃん予備軍。

 

 緊急事態故、尊厳を。

 

 大胆に無視、待ったなし。

 

 名バでないため、問題なし。

 

 そして、愛の共同作業。その予行演習。

 

 聞き分け足らぬ、赤子のおむつ交換。

 

 順番など、知らぬとばかりに。

 

 愛の結晶に、思いを馳せる。

 

 きっと、未来のその夫婦は。

 

 幸せな、狂乱家族を築くだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 領域に目覚めた時。

 

 『彼』が、感じたのは喜び。

 

 『私』が感じたのは怒り。

 

 部分展開に成功した時。

 

 『私たち』は、思いを重ね。

 

 そして、世界を塗り潰した時。

 

 『私』は、『あなた』を奪えなかった。

 

 砂漠の海に、沈みゆこう。

 

 人魚になんて、なれないから。

 

 泡へも至れぬ、この身が憎い。

 

 ぎらぎらと、輝くこの想い。

 

 彼女が開いた、庭園を。

 

 初めて見た時、感じたのは。

 

 気が狂うほどの。羨望と嫉妬。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「えぐえぐ……と、とんでもない勢いで。

 尊厳を凌辱されたのである……」

 

 「よし、ちゃんと着けられたな。

 良かったなアフちゃん。

 これで、粗相をしても安心だ」

 

 

 

 アフガンコウクウショーは、恨みがましく。

 

 頬を染め、涙が滲む上目遣いにて。

 

 朗らかに笑う、男を睨んだ。

 

 

 

 「ど、どうしておむつなのである……? 

 他に、布とかパンツとか。なかったの? 

 新たな快感。目覚めかけてしまったのである。

 ばぶばぶぅ」

 

 

 

 赤ちゃんプレイ。

 

 一度ハマると、抜け出せぬと評判。

 

 それ専門のお店が、大繁盛するほどの。

 

 魔性を誇る、禁断の遊戯。

 

 クリークママといっしょでは。

 

 幼児限定で、無料で体験できる。

 

 そこも、人気の秘訣なのであろう。

 

 アフガンコウクウショーは、理解した。

 

 

 

 (ハマるわ、これ。だってイケメンに。

 囁きASMRされながら。

 優しく、おむつ替えてもらえるとか。

 いくら払えば、再度体験できるか。

 想像もつかぬのである……!)

 

 

 

 ちらりと、トレーナーを見やる。

 

 騙されてはいかぬ。

 

 でもイケメン。

 

 正直、前のトレーナーより。

 

 ずっともっと。ストライク。

 

 アフちゃんハートにずきゅんばきゅん。

 

 

 

 (……ウララ先輩に内緒で。

 またおむつ、替えてもらえないかな。

 どんな粗相をすれば良いか。

 それが、問題である。

 浮気ではないぞ、エル。

 今のアフちゃん、赤子だもの。

 赤ちゃん無罪。ばぶばぶ)

 

 

 

 ガチ恋赤ちゃんの、アツい視線を感じつつ。

 

 トレーナーは、優しく告げた。

 

 

 

 「アフちゃん。後ろを見てみろ」

 

 「へっ? ……ッ!? 死んだッ!」 

 

 

 

 振り向くと。全てを圧壊させる、ちいさな手のひら。

 

 

 

 (いかんっ! ガチ恋顔を見せてしまった! 

 ウララ先輩の、嫉妬が限界を通り越したかっ! 

 すまぬ、エル……先に待っているのである。

 華と散る 赤ちゃんプレイ 気持ちいい)

 

 

 

 迫る、小さな殺戮兵器。

 

 褐色ロリの思考は、加速し。

 

 謝罪と辞世。同時にこなす、冴えを魅せる。

 

 それは、恐らく。消え行く命の最後の煌めき。

 

 ろうそくの、最後の輝き。

 

 そして、彼女の頭頂部に。

 

 そっと、触れる死天使(ハルウララ)の繊手。

 

 

 

 「捨て駒にしようだなんて。

 わたしが間違っていたよ。

 ごめんね? アフちゃん(我が子よ)

 この身に代えても。守ってあげるからね」

 

 「ぬおおっ!? 何という母気(オーラ)ッ!? 

 クリークママに、匹敵するのである……!」

 

 

 

 優しく、頭をなでなでされ。

 

 初めて告げられる、誠心誠意の謝罪と。

 

 絶対的な、安心感を感じさせる。

 

 無限の慈愛が、ハルウララから放たれる。

 

 これはもしや。

 

 

 

 「劇場版ウララ先輩……!?」

 

 「ウララはいつでも、かわいいだろう。

 我が子でなければ、仕置きするところだ。

 ……いいかアフちゃん。これがおむつの効果だ。

 オレとて、無駄にお前の尊厳を。

 楽しくわくわく。凌辱したわけではない」

 

 「やはり、趣味では?」

 

 「否定はせん」

 

 「うちの子かわいい」

 

 

 

 むぎゅむぎゅと、航空力士的な意味でなく。

 

 違法ロリママに、正しくかわいがられつつ。

 

 アフガンコウクウショーは、呆然とした。

 

 

 

 「こ、これはッ!? 外道ッ! 説明ッ!」

 

 「ウララの、カッコウ被害鳥類としての特性。

 それを、利用した。

 ……アフちゃん。ウララの特性は?」

 

 「気が短い。すぐキレる」

 

 「うむ。それも正解だ」

 

 「わぁい」

 

 「だが100点ではない。罰として。

 週7回のおむつ交換を義務づける。

 異論はあるか? 答えは聞いてない」

 

 「やったぜ。無いのである」

 

 

 

 アフガンコウクウショーは、ほくそ笑んだ。

 

 無料でのおむつ交換。

 

 粗相する必要すらない。

 

 昼は赤ちゃん。夜はご奉仕メイド。

 

 凄まじい、性活の充実が予期される。

 

 赤ちゃんってすごい。クリークママありがとう。

 

 

 

 「いいかアフちゃん。『産駒自在の母性(ハルウララ)』は。

 大海のごとき母性と、カッコウ被害鳥類。両方の特性を持つ……♤」

 

 「メモリ足りなそう。脳の」

 

 「良く分かっているな。

 オレの脳に、ウララ以外が入る余剰スペースなど。

 あるはずがない。褒めてやろう」

 

 「アフちゃんは賢いね」

 

 「わぁい」

 

 

 

 素晴らしい。命の危険を全く感じぬ。

 

 なんということだ。

 

 もっと早く、おむつ派に転向していれば。

 

 だが、まだ遅くない。自然主義などもう古い。

 

 時代は、アダルトベイビーである。ロリだけど。

 

 大人しく、ダブルなでなでを楽しみつつ。

 

 耳を傾け、種明かしを聞く。

 

 

 

 「よし、続けるぞ。

 オレは、ウララとの結納が内定している。

 つまりは、将来のウララの産駒。

 113人の子供たち。その父親だ」

 

 「うむ。まぁ揺るがぬ事実であろう。

 常識は揺らいでるけど。もっとなでて」

 

 「よしよし。……つまりはだな。オレが。

 お前の、おむつを替える。その行動を以て。

 逆説的に。お前は、ウララの子供と認識される訳だ」

 

 「うん。……うん?」

 

 

 

 ちょっとよくわからなかった。

 

 鳥類の気持ちなどわからぬ。

 

 だって、私トリじゃないもん。飛ぶけど。

 

 

 

 「ウララ先輩って。なんだかとっても。

 面白いというか……なんというか。

 クッソチョロい生態。しているのであるな?」

 

 「わたしはチョロくない。でもよしよし」

 

 「うむ。このチョロさも愛おしい。

 ウララが愛を注ぐ限り。

 オレも、子らに愛を注ごう。

 つまりは、ハッピーエンドというわけだ」

 

 「おむつすげぇ」

 

 

 

 叱責もマイルド。むしろなでなでが加速した。

 

 脳が蕩ける、甘やかし。

 

 いかん。ドハマりしてしまいそう。

 

 だが、アフちゃんは負けない。

 

 我が、真の愛の対象は。

 

 エルコンドルパサー、ただ一人である。

 

 ばぶばぶおぎゃあ。

 

 

 

 「む? 着信……?」

 

 

 

 思っていると、メイドスカートが震える。

 

 戦闘中は、マナーモード。

 

 当然の、心遣いである。

 

 

 

 「まったく、誰である? 

 この忙しい時に……」

 

 

 

 『クリークママ』と表示されている。

 

 反射的に、通話ボタン。

 

 遅れると、命の危険があるためだ。

 

 

 

 「わんッ! わんわんッ!」

 

 「子犬は別に要らんのだが」

 

 「アホかわいいからよし」

 

 

 

 焦りのあまり、わん娘と化しつつ。

 

 おへんじすると、蕩けた声。

 

 

 

 『アフちゃん♡おめでとう♡薄汚い大人、卒業ね♡

 帰ってきたら、うんと甘やかしてあげまちゅからねー♡

 ……誰かにいぢめられたら言いなさい。

 ママが、そいつを生のにんじんハンバーグ♡にんじん抜き♡』

 

 「ママ。それは一般的に。ミンチというのでは?」

 

 『おい。赤ちゃんはミンチとか言わねえだろ。

 真面目にオギャれ』

 

 「ばぶばぶ♡おぎゃあ♡」

 

 『帰りを待ってまちゅからねー♡』

 

 

 

 そして、通話が切れた。

 

 ウマホを片手に、呆然と両親(仮)を見る。

 

 

 

 「恐らく、赤子の波動を感じたのだろう。

 良かったな、アフちゃん。

 さらに安全性が高まったぞ」

 

 「もはや、死ぬ方が難しい。

 アフちゃん思うのである」

 

 「クリークママにだって。

 アフちゃん(我が子)は渡さない……!」

 

 「母性と独占欲。両方の特性を併せ持つ……?」

 

 

 

 いかん。赤ちゃんになって、いいことしかない。

 

 これは、褐色ロリメイドを卒業し。

 

 褐色ロリ赤ちゃんとして、生きていくべきでは。

 

 思いつつ、浮かんだ疑問を問うてみる。

 

 

 

 「ところで。なんで私をカッコウの雛に?」

 

 「うむ。恐らくハードな戦いとなる。

 アフちゃんを、殺させるわけにはいかんからな」

 

 「外道パパ……!」

 

 

 

 いかん。堕ちてしまいそう。

 

 だって、顔よし、ケツよし、声もよし。

 

 身の安全まで、確保してくれた。おむつで。

 

 なんといい男か。浮気はせぬが。

 

 でも、赤ちゃんにはなっても良い。

 

 思いつつ。きらきらとした、ガチ恋目線で見上げる。

 

 

 

 「大事なお前(の子宮)を。失うわけにはいかんのだ」

 

 「ばぶぅ♡ぱぱッ♡ままっ♡」

 

 

 

 アフちゃんは堕ちた。

 

 トドメはやはり、口説き文句。

 

 常に、ハルウララを最優先とする。

 

 彼の、敢えて隠した言葉。

 

 その内心を、知らぬがママ。

 

 愛する両親に、しっぽをふりふり。耳ぺしぺし。

 

 甘え尽くす、褐色ロリ赤ちゃん。

 

 

 

 「アフちゃん先輩。遠いところに行ってしまったンだね……」

 

 「心温まる展開ですね」

 

 

 

 彼女が、トレーナーに逆らうこと。

 

 恐らく、未来永劫無いであろう。

 

 甘やかし尽くされ。脳を蕩かされ。

 

 気づいた時には、ウマされている。

 

 催眠術など不粋。

 

 真のトレーナーは、おむつで堕とす。

 

 これには、施しの英雄もニッコリであろう。

 

 

 

 「さて。では闘争を……」

 

 「お待ちください。トレーナーさん」

 

 「どうした急に」

 

 

 

 トレーナーが振り向くと。 

 

 そこには、おしゃぶりを咥え。

 

 おむつ交換を希求する、黒鹿毛の姿。

 

 

 

 「ばぶばぶ。おぎゃあ」

 

 「ここではリントの言葉で話せ」

 

 

 

 パァッン! と快音。

 

 久方ぶりの、乳ビンタ式交渉術の出番である。

 

 

 

 「おぎゃあッ!? ダメ出しの意志が直接脳内にッ!? 

 しかし、理由を知らねば諦められませんッ! 

 私は、赤子に身を(やつ)したとしても! 

 生き残る必要が、あるのですっ!」

 

 「巨乳は殺す」

 

 「言い忘れていたが。

 ウララより、ロリくないとダメだぞ。

 具体的には、胸が。

 無制限に、赤ちゃんになれるわけではない」

 

 「自らの、ダイナマイツを恨む時が来るとは……ッ!」

 

 

 

 打ちひしがれる、エイシンフラッシュ。

 

 やはり、貧乳は希少価値である。

 

 そして、ここにロリは一人ではない。

 

 貧乳回避。資格を見せた、ウマが一人。

 

 

 

 「と、いうことは。わたしもオッケーってことだよね?」

 

 「む。白髪ロリ。別に構わんが……その場合。

 お前にもウマせるぞ。当然ながら」

 

 「そういう意味だったのッ!? ばぶばぶ」

 

 

 

 愕然としつつ。名乗りを挙げた、後輩を見守る。

 

 ウマく有耶無耶に。出来たと思っていたが……

 

 身の安全の代償は。あまりにも大きかった。

 

 まだ間に合う。赤ちゃんプレイは惜しいが。

 

 ここは、褐色ロリメイドに戻るべき。

 

 そう思いつつ。スカートの下を、ごそごそやっていると。

 

 

 

 「いいよ。望むところだね」

 

 「望んじゃうのッ!?」

 

 「俺が育てたって口外するなよッ!?」

 

 

 

 衝撃の、後輩のウェルカム。

 

 これにはアフちゃんもびっくりである。

 

 六平トレーナーも。

 

 生産者責任の放棄。心に決めたようだ。

 

 思わず、脱ごうとした手が止まる。

 

 

 

 「ちょ、ちょいちょいユキオー! 

 ウマされるのであるッ! マジヤバい! 

 乙女の尊厳が、軽率に破壊される危機ッ!」

 

 「アカちゃん先輩」

 

 「一文字違うのであるッ!」

 

 

 

 なんということだ。この後輩。

 

 既に、覚悟がキマった目をしている。

 

 怯みつつ、翻意させようと試みるが。

 

 彼女の手招き。両親(仮)の手から、脱出。

 

 

 

 「先輩。ちょいこっち来て?」

 

 「なんである? 見損なったのである、ユキオー。

 アフちゃん、後輩の乱れた貞操観念。心配である」

 

 「アカちゃん先輩に言われたくないかなぁ」

 

 「アフちゃん泣いちゃう。おぎゃあ」

 

 

 

 こそこそと、父母から離れる悲しみに。

 

 寂寞の想いを、振り切り。ロリ会議を開催する。

 

 

 

 「いい? 先輩。これはチャンスだよ?」

 

 「チャンス? 純愛の危機である」

 

 「わかってないね、先輩。

 怪鳥とやらとの、愛の結晶。

 欲しいとか、思ったことない?」

 

 「そりゃ、欲しいであるが……

 ウマ娘同士。子供は作れぬ。

 養子をもらうつもりであった」

 

 

 

 そう。百合は美しいが。

 

 実を結ばぬからこその、美しさ。

 

 それもまた、揺るがぬ事実。

 

 悲しいことであるが、致し方ない。

 

 

 

 「産駒、残したいよね?」

 

 「残したいが……そこまででは。

 エルとの愛より、優先するものでは。

 最後は愛が勝つのである」

 

 「わたしもそう。会長が最優先。

 それは、変わらない事実だよ? 

 わたし、ウマ娘の本能薄いしね。

 だけどさ、先輩……彼女との愛の結晶。

 残せる、チャンスだよ?」

 

 「詳しく」

 

 

 

 なんと。愛の結晶が残せる。

 

 それは、なんて素敵なことだろう。

 

 それは、なんという奇跡だろう。

 

 そのような手段があれば。

 

 冥府魔道に堕ちても構わぬ。

 

 

 

 「タキオン先輩とか、言わないのであるよな……」

 

 「言わないって。わたしも、面白ウマ娘怪人とか。

 マジ勘弁だし。そうじゃないよ、先輩」

 

 「なら、どんな方法が……?」

 

 「先輩は、もう手に入れてるじゃン」

 

 「私が、手に入れている……?」

 

 「そして今。投げ捨てようとしているものだよ」

 

 「まさか……?」

 

 

 

 メイドスカートの下に。確かに感じるそれ。

 

 

 

 「そう。おむつ! それが鍵ッ! 

 わたしたちの、勝利の方程式なンだよッ! 

 ブイやねン! Q.E.D!」

 

 「ハヤヒデ先輩に謝って?」

 

 

 

 こやつ、ついに狂ったか。

 

 そう思い、真意を問いただす。

 

 

 

 「ユキオー。おむつから愛の結晶とか。

 まだ、コウノトリとか言われた方がマシである」

 

 「トリはトリでも。カッコウだよ」

 

 「カッコウ……? まさかッ!」

 

 

 

 愕然とする。まさかそんなことが。

 

 そのような、邪悪なことが。

 

 あり得ていいはずが……! 

 

 

 

 「ハルウララ先輩の彼ピッピ。

 子供がたくさん欲しいンでしょ? 

 そして、それはハルウララ本人が。

 ウマなくても、構わない」

 

 「うむ、その認識で間違いない」

 

 

 

 離れたところから。

 

 赤ちゃんの、初めての陰謀を。

 

 後方保護者面で見守る、彼。

 

 トレーナーの、肯定。

 

 あいつ、耳いいな。

 

 アカチャンコウクウショーは思った。

 

 

 

 「つまりだよ? アカちゃん先輩。

 種ピッピパパを、最大限に活用。

 お互いの、産駒を作り。

 その産駒同士を、いちゃらぶさせ。

 ハッピーエンドを、迎えさせる。

 それならば。その手段ならば。

 お互いの遺伝子を受け継いだ、産駒ができる……!」

 

 「お前、なんということを考えるのである……!」

 

 「大丈夫。本人たちの意志は尊重するから……!」

 

 

 

 よく知ったはずの後輩。その顔が。

 

 ヒトを堕落させる、悪魔のように見えて。

 

 アカチャンコウクウショーは、粗相した。

 

 怪鳥の趣味により。

 

 愛されすぎて、緩くなっていたからだ。

 

 

 

 「む。アフちゃん、さっそくか」

 

 「しょうがない子だね。そこがかわいいんだけど」

 

 「スタァァァァァァップ!」

 

 

  

 敏感に、我が子をかわいがる口実を察知し。

 

 にじり寄る、父性と母性の挟み撃ち。

 

 アカチャンコウクウショーは。

 

 再度の尊厳の、危機を迎え。

 

 開けロイト市警じみた、制止の声を挙げる。

 

 

 

 「ここでは、(なん)語で話せ。クリークママにも言われただろう」

 

 「ほらほら、あんよが素敵。そのまま上げろ……!」

 

 「くっ……! ユキオー! ここはお前に任せて私は逃げるのであるッ!」

 

 「甘いよアカちゃん先輩」

 

 「ぬああッ!? 離せッ! お前も赤ちゃんにされるのであるッ!」

 

 「『主人を助ける』、『自分も生き残る』。

 両方やらなきゃいけないってところが。

 『忠犬』の、辛いところだね? 

 でも、『赤ちゃん』になれば万事解決。

 となれば、やらない理由が無い……! 

 覚悟はいい? わたしは出来てる」

 

 「ガンギマリィィィィィィィィィィィッ!!!!!」

 

 

 

 アカチャンコウクウショーは。

 

 後輩の、黄金の精神を見せつけられ。

 

 全てを諦め、思った。

 

 

 

 (すまぬ、エル……)

 

 

 

 愛する怪鳥よ。この快楽。

 

 あなたにも、教えてあげるからね。

 

 拒否権は無い。

 

 (尊厳が)死ぬ時も一緒だよ。

 

 もういいや。産駒残しまくってやる……! 

 

 だってイケメン、好きだもん! 

 

 

 

 「さぁ。赤ちゃんが二人! 

 始まるぞウララ!」

 

 「わたしの負担が減るッ! 

 素晴らしいな貴様ら!」

 

 「ウララ先輩ッ!? まさかッ! 

 カッコウ被害鳥類の習性はブラフッ!?」

 

 

 

 赤ちゃんになる覚悟を、キメたところで。

 

 再度の衝撃。もう何度、受けたかわからない。

 

 まさに、UNLIMITED INPACTである。

 

 大井レース場だけに。

 

 そう思いつつ、問うたならば。

 

 きょとんとした、ハルウララの顔。

 

 

 

 「……? わたしの子であるということは。

 わたしを助けるべきでは? 

 コーラを飲んだらゲップが出るくらい。

 当然の、理屈だよね」

 

 「さすがは大先輩ッ! この錯乱ッ! 

 見習うべきところしかないじゃンッ!?」

 

 「ブラフじゃなかったッ! 

 ただただ、頭がおかしいだけであるッ!」

 

 

  

 たまご(クラブ)が先。

 

 因果性のジレンマの、結論を悟り。

 

 アカチャンコウクウショーは、ただ叫んだ。

 

 ちょっと、宇宙戦艦にカチコミしたら。

 

 後輩と共に、赤ちゃんにされた上。

 

 ウマされるなんて、そんなこと。

 

 

 

 「聞いてないよォッ!」

 

 

 

 飛べない鳥倶楽部が、後である。

 

 だって、赤ちゃんオチ(堕ち)だし。

 

 

 

 

 

 

 つづかない



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ファル子さんじゅういっさい そのよんじゅういち 堕ちる太陽

なんか脳がバグってる感があるな……
第2部も、恐らくあと数話で終わりでございます。
また、妙なことを思いつかない限り。


~前回までのあらすじ~

 

 彼女の想い。

 

 アフちゃんは、父性の暴虐により。

 

 悲しみと、快楽を得た。

 

 イケメンにやられたためだ。

 

 ただし、イケメンに限る。

 

 万国共通の、真理である。

 

 そして、ガチ恋赤ちゃんに迫る。

 

 ハルウララの、凶手。

 

 死を覚悟した、褐色ロリ。

 

 だが、賜ったのは死ではなく。

 

 なでなでであった。

 

 我が子と誤認されたためだ。

 

 身の安全を、世界を滅ぼしてでも。

 

 絶対に守ってくれそうな。

 

 ウララママと、クリークママ。

 

 2枚のママシールド、堅牢さは筋金入り。

 

 絶対的な、安心感。

 

 便乗図る黒鹿毛は、己の豊満に打ちひしがれ。

 

 もう一人のロリが、名乗りを挙げる。

 

 だが、そこに一つの落とし穴。

 

 プレイ自体は無料だが。

 

 タダより高いものは無し。

 

 赤ちゃんに課せられた義務。

 

 少しばかり、気の狂った父性の発露。

 

 アフガンコウクウショーは、脱おむつを決意。

 

 イケメンパパだと思ったら。

 

 種付けパパだったからだ。

 

 彼は、愛バ以外どうでもいい。

 

 正確には、愛バのためなら全てを犠牲に。

 

 一本筋の、入った気違い。

 

 焦る彼女と対照的に。

 

 望むところと意気揚揚。

 

 白髪ロリの、キマった覚悟。

 

 百合に実を成す方法。

 

 当然ながら、雌蕊(めしべ)だけでは実は成らぬ。

 

 雄蕊(おしべ)が必要、これ幸い。

 

 ウマ娘ならではの発想。

 

 インブリードの、出番である。

 

 ちなみに、この世界では合法。

 

 三女神は、元の世界の記憶を持つ。

 

 彼女たちの、お墨付き。

 

 逃れられぬ、(なん)語の手招き。

 

 アカチャンコウクウショーは、決めた。

 

 どこまでも堕ちていこう。愛する怪鳥と共に。

 

 同意は要らぬ。愛してるから。

 

 因果性のジレンマは、その答えを高らかに告げた。

 

 ダチョウのクラブは、後である。

 

  

 

 

 

 

 

 馬には。人ほどの知能は無い。

 

 彼は、ただただ走っただけ。

 

 人の、望むままに。

 

 腰が弱く、勾配のある馬場は向かぬ。

 

 そう人は判断し、各地を巡り。

 

 地方の砂と、勝利を巻き上げた彼。

 

 人の反感など知らぬ。

 

 知るはこの身へ降り注ぐ。

 

 声援と、身近な人の温かさ。

 

 ただただ彼は、生きるため。

 

 走って走って、走り終え。

 

 その業績が、女神の目に止まり。

 

 そのソウルは、ある胎児へと宿り。

 

 何も知らず、夢へと向かい。

 

 彼と彼女と出会い。

 

 駆け出して、すぐに『彼』が目覚め。

 

 夢見た彼女は、夢を見た。

 

 万雷の喝采。誰からも愛される。

 

 理想の自分になるために。

 

 歌を歌おう。踊り狂おう。

 

 目指すとしよう、偶像(ウマドル)を。

 

 今度こそ。全てのヒトに愛されるために。

 

 一切の。瑕疵なき勝利を得るために。

 

 それが、幻想と気づくことなく。

 

 気づいたのは、ただ一つの。

 

 愛に気づいた、その時だった。

 

 彼の夢と。彼女の渇望(ユメ)

 

 2つが重なり合った時。

 

 砂漠は、どこまでも広がった。

 

 渇きの夢は、終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「これが、わたしの新しい力……!?」

 

 「新しい痴態である。アフちゃんは思った」

 

 「うおお! 母パゥワァ!」

 

 「ウララ! パワー!」

 

 トネガワユキオーは、赤ちゃんの暗黒面。

 

 おむつから伝わる力に、酔いしれた。

 

 なんという解放感。

 

 なんとなれば、降り注ぐは無償の愛。

 

 ハルウララ()の背中の、頼もしいこと。

 

 しみじみ幸せを感じられる。

 

 普段感じることのできぬ、セーフティーという名の悦楽。

 

 「安全」であることの愉悦。

 

 誰に阿ることもなく。

 

 ただただ、愛されていればいい。

 

 ハルウララが、勝ち取ってくれる。

 

 完全無欠の勝利(ハッピーエンド)を。

 

 

 

 「おじさん……きっとこれで、わたしたちは勝てる」

 

 きっと、おじさんは。

 

 これが欲しかったのかもしれない。

 

 安全圏から、ただ勝利に酔い痴れる。

 

 正気に戻った会長と。いつも通りの愛しい日常。

 

 それこそが、幸せへの……? 

 

 心の中に、滲み出る。

 

 あからさまな、違和感。

 

 

 

 「……違う」

 

 「何が違うのである? ばぶばぶ」

 

 「勝ち取らなきゃいけない。

 勝たねば、ゴミ。ただただ口を開けて。

 勝利という名の。餌を待っていればなんて。

 あまりにも。怠惰が過ぎる。

 勝ちもせず! 生きようとすること! 

 論外にも程があるッ!」

 

 「ゆ、ユキオー?」

 

 でかいアカチャンがこちらを。

 

 呆然と見ている。

 

 なんと呆れ果てた輩か。

 

 闘争心の、欠片も感じられぬ。

 

 

 

 「先輩。今。何を考えてる?」

 

 「このまま待っていれば、おうちに無事に帰れるのである。

 ウララ先輩は、最強であるが故に。

 きっと、勝ってくれるのである。

 愛しい怪鳥に、今夜はどんなご奉仕を。

 あと、洗脳の深度を深めなければ……」

 

 「話にならンッ!」

 

 「うおおおッ!?」

 

 褐色ロリの、胸倉をつかみ。

 

 睨みつけて、告げるは真理。

 

 

 

 「与えられた勝利にッ! なンの意味があるッ!? 

 ハルウララは、確かに強いッ! きっと、会長を! 

 救ってくれるよッ! わたしもそのためにッ! 

 赤ちゃんになった! でもね、でもね先輩ッ!」

 

 「いきなり発狂しなきゃいけないの、この世界ッ!?」

 

 「わたしたちは、勝ち取らなきゃいけないンだッ! 

 ウマ娘は、その脚で以て! 勝利を掴まなきゃいけないッ! 

 走るのを止めた時、わたしたちは死ぬッ! 

 今、わたしは理解したッ! 金よりも、命よりも重い物ッ!」

 

 「……それは、何であるか? ユキオー」

 

 アカチャンコウクウショーの、瞳に宿ったもの。

 

 彼女を、赤ちゃんから。

 

 航空力士に引き戻したもの。

 

 

 

 「()()()()()ことッ! 

 勝利をこの脚で掴み取るッ! 

 わがままを、己の力で通すッ! 

 フォーリンダウンッ! 対象! 『スマートファルコン』! 最大出力ッ!」

 

 「La……?」

 

 愛するウマに、指を向け。

 

 他愛なく、弾かれる力。

 

 昔のように。だが今は。

 

 頼れる、敵たちが居る……! 

 

 そして。猛禽の瞳に宿る。

 

 確かな、苛立ち。

 

 

 

 「会長にもっ! わたしは、勝ってみせるッ!」

 

 「……La victoire est à moi(調子に乗るな)!」

 

 まさかの、未勝利の小娘に。

 

 勝利を宣言されるという、屈辱。

 

 沸騰した、脳髄は。

 

 彼女の虚飾を剥ぎ取った。

 

 ニホン語では、今は歌えない。

 

 歌詞として成り立たせるため。

 

 別の言語にて、黒炎を放つ。

 

 

 

 「ナイスユキちゃん! 後はいい子にしてなさい! 

 怪我したら、ベビーベッドに軟禁するからなッ!」

 

 「マジこわい」

 

 「やはり演技かっ! ファルコン! 

 お前、正気だなッ!? 

 ()()()()()()などッ! 

 正気を失った状態で、使えるものかッ!」

 

 相手に会話が通じてしまうと。

 

 ふとした拍子に、罅が入る。

 

 思い出してしまう。

 

 思い出してはいけない。

 

 愛しい想い出。きっとそれは。

 

 彼女を壊してしまうから。

 

 

 

 「歌わなきゃッ! 歌わなきゃいけないッ! 

 放っておいてよ、ウララちゃんッ! 

 もう、歌詞すら聞こえてこない! 

 『スマートファルコン』は、何も答えてくれないッ!」

 

 スマートファルコンの歌は。

 

 胸の奥から溢れる激情。

 

 それが、勝手に出力されるだけ。

 

 歌詞を考えた経験など、彼女には無く。

 

 一度失えば、戻らぬ類の物しか。

 

 閃きでしか、彼女は歌を作れない。

 

 異端の天才であるが故に。

 

 彼女は、頭で考えて。歌のなり損ないを紡ぐことしか。

 

 完全展開をした状態では、出来ない。

 

 

 

 「当たり前だッ! 完全展開の領域内だぞッ!? 

 夢を見ている者が、夢の中に口出しなぞ! 

 出来る筈が無いだろッ!」

 

 「……ッ! ファル子、そんなの知らないッ! 

 誰も! 誰も教えてくれなかったッ! 

 トレーナーさんも! フラッシュちゃんも! 

 私の前から、居なくなったもの!」

 

 新しいトレーナーとも。

 

 事務的な関係しか、築けなかった。

 

 築きたくなかった。

 

 想い出が、色褪せることを恐れて。

 

 歯抜けの記憶は、それでも愛しかったから。

 

 

 

 「何故追いかけなかった! 諦めたのか!?」

 

 「……ッ! うるさい! うるさい! 

 黙れ! お前は裏切り者だッ! 

 何でッ! どうして!? 

 Puoi cantare canzone di tristezza(唄うがいい! 悲鳴の歌を!)!」

 

 「ははっ! らしくなってきたんじゃないッ!?」

 

 裏切り者の鎮魂歌。

 

 黒炎を、歌詞に乗せ放つ。

 

 これも届かない。

 

 学んだ。色々なことを。

 

 歌を、彼らに届かせるため。

 

 主要な言語は、網羅した。

 

 私はここに居ると。

 

 いつまでも待っていると。

 

 きっと、届くと信じてたから。

 

 

 

 「勉強家だもんね、ファル子ちゃんッ! 

 でも、残念だよねぇッ!? 

 ドイツに歌を届かせたいのにッ! 

 ドイツ語だけは、どう足掻いても覚えられない! 

 ここに居る()()()も、見えちゃいないッ!」

 

 「ファル子さんッ! 

 

 「……? 誰か、居るの?」

 

 誰かが、ハルウララと並走しているかのように。

 

 砂が、重なり跳ねあげられていく。

 

 見えない。何かが居るのか。

 

 黒い太陽に照らされて。

 

 くろぐろとした、影だけが伸びる。

 

 

 

 「そういえばッ! なんでわたしが! 

 裏切り者なのかなッ!?」

 

 「ウララちゃんも! 裏切られた癖にッ! 

 裏切られた、仲間だった筈なのにッ! 

 なんで!? どうしてウララちゃんは! 

 庭園が枯れないの!? 

 桜なんて、咲かせ続けられるのッ!?」

 

 「わたしの領域の話? 意味がわからないねッ!」

 

 「ファル子さんッ! それ以上は……! 

 

 ぎりぎりと。歯噛みする。

 

 わかっているくせに。

 

 わからないふりをして。

 

 そうやって、いつも自分をバ鹿にする。

 

 だって。彼女は。咲かせられる。

 

 いつだって、愛に満ちた桜花の繚乱。

 

 謳歌しているのだ。そのウマ生を。

 

 

 

 「私も! 裏切られても良かった! 

 この気持ちに嘘をつき続けても! 

 ただ一緒に! 一緒に居てくれれば! 

 それだけで幸せだったのに! 

 あの二人の幸せを! 側で見続けたかった!」

 

 「ははッ! 本音が出てきたねッ! 

 そうか! トレーナーさんを欲しくは無かったか!?」

 

 「私をトレーナーさんが選ばないことなんて! 

 知ってたよ! 彼の瞳に映るのは! 

 いつだって、黒い影! 

 栗色なんて、映らない!」

 

 「ファル子さん……!? 

 

 鹿毛が、突き刺さる黒炎を躱して走り去り。

 

 呆然と、立ち尽くす黒影。

 

 見えない。わからない。傷つけてはいけない。

 

 傷つけたくないから。この気持ちに蓋をしてきたのに。

 

 

 

 「何棒立ちしてんだゴリラ!」

 

 「なんで類人猿連れてきてんの!?」

 

 「ファル子さんにゴリラ呼ばわりッ!? 興奮しますッ! 

 

 なんということだ。

 

 よく見えないと思ったら。

 

 まさか、ゴリラとは。

 

 恐らく、黒いからだろう。

 

 動物愛護精神に則り。

 

 黒炎を、鹿毛に集中。

 

 こちらに歩み寄る、ゴリラの影。

 

 やたらと、ウマ娘に似てる気がするが。

 

 シルエットだけでは、わからない。

 

 

 

 「なんで!? なんでウララちゃんはッ! 

 選ばれなかったくせにッ! 

 私と一緒で、()()()()()くせにッ! 

 なんで、一緒に居られるのッ!? 

 不公平ッ! ファル子、わからない!」

 

 「わたしだって、わからないよ! 

 でも、わたしは幸せだっ! 

 どうだ、羨ましいか? 負け犬! 

 悔しかったら、わたしを倒して見せろ!」

 

 「──────ッ!」

 

 ごうごうと、燃え盛る激情。

 

 劇場に一人、立ち尽くす自分。

 

 くろぐろとした太陽は、さらに膨れ上がっていく。

 

 愛しい。妬ましい。狂おしい。

 

 

 

 「そういえばっ! 何で奪わないのかな!? 

 お前の本質は、『奪う』ことだろうッ!」

 

 「奪わなくても! 領域も使えないウララちゃんなんてッ!」

 

 「もう、奪ってるからかなッ!?」

 

 「黙れッ! Rain down(降り注げ)! Drop of()……!」

 

 「ははッ! やっぱりそれ、太陽じゃないなッ!?」

 

 押しつぶされそうな、重圧。

 

 この重さを、もはや支えきれない。

 

 重くて、重くて。

 

 抱えきれなくて。

 

 潰れてしまいそう。

 

 自分が奪い続けてきたもの。

 

 自分が、彼女を守るために。

 

 ずっと、心の奥に隠し続けていたもの。

 

 

 

 「Crazy Love(狂愛)!!!!!!!!」

 

 愛してるから。愛しくて、愛しくてたまらないから。

 

 この、狂おしい激情を。

 

 ずっとずっと。封じてきた。

 

 届かぬ想い。届かせてはいけない。

 

 彼女を傷つけたくないから。

 

 どうか。

 

 

 

 「潰れろ、ウララちゃんッ!」

 

 「ふんがああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

 

 太陽で、殴りつける。

 

 抱え続けたこの想い。

 

 緑溢れていた楽園。

 

 失えば、砂漠と化すほどのこの狂愛。

 

 『スマートファルコン』の想いなど。

 

 今を生きる自分に、叶うはずが無い。

 

 彼は砂漠の底に封じた。

 

 くらやみの中に沈んだ想い。

 

 目を、開けるのも億劫。

 

 

 

 「このまま、どこまでも堕ちていけ……!」

 

 「ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」

 

 「『雲竜型』ッ! 上昇気流最大出力ッ!」

 

 「ハルウララッ! 頑張ってッ!」

 

 「ウララッ!」

 

 誰にも、気づかれたくなかった。

 

 この、嫉妬を。

 

 泡となり果て、消えて欲しい。

 

 なのに、なんで彼女は。

 

 

 

 「なんで、なんで……」

 

 「オギャッておけば、安全だと思ってたのであるッ!」

 

 「言ってる場合!? アカチャン先輩ッ!」

 

 「ウララ的には、赤子に支えられるのはセーフだッ!」

 

 「何でッ!?」

 

 自分と違い、たくさんに支えられた彼女。

 

 狂おしいほどに、妬ましい。

 

 光輝く、その姿を見るのが辛い。

 

 でも。いつだって彼女は。

 

 

 

 「わたしのママは言ったよ。走りなさいって。

 走って走って、勝ちなさい。愛しいウララ。

 走る(闘う)のを止める権利なんてッ! 母親にだって無いんだよッ! 

 支えろ、我が子どもッ! 走り切ったら褒めてやるッ!」

 

 不敵に笑い、告げるのだ。

 

 いつだって、自分は全力で生きている。

 

 後悔なんて、絶対しない。

 

 偽りの、太陽は。

 

 本物の太陽(ハルウララ)に、叶わない。

 

 このままならば。

 

 

 

 「あアアア嗚呼アアアアアaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!!」

 

 制御を放棄する。

 

 記憶が、膨れ上がり。

 

 側ににじり寄っていた、ゴリラを弾き飛ばし。

 

 奪い尽くす。この想い。

 

 エイシンフラッシュを、愛しいと思う気持ち。

 

 この、狂った愛情を。

 

 

 

 「愛よ、堕ちろッ! 何もかも失って! 

 私はただただ歌い続ける! だって、愛してるッ! 

 ずっとずっとずっと! 愛してるんだッ! 

 誰も要らない! 欲しくない! 欲しがったら、壊してしまう! 

 なら……!」

 

 「「「「うおおおおおおおおおお!?」」」」

 

 「全部壊して、眠りに堕ちる! 

 誰にも、見つけられぬよう……!」

 

 「ファル子さんッ!」

 

 愛しい声が、聞こえてしまった。

 

 でも、もう遅い。

 

 失おう。全てを。

 

 こんなにも辛いなら。

 

 心なんて、要らない。

 

 

 

 「『心壊少女(ロスト・メモリーズ)』ッ!」

 

 

 

 

 つづかない




そういえば、また連載を増やしました。
R-18ですので、成人している方のみ。
作者ページからどうぞ。メイドラゴンです。
ほんとコイツ、何やってるんだろ……


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ファル子さんじゅういっさい そのよんじゅうに 太陽に近づいた男

エロ小説書いてたら、いつの間にかだいぶ間が空いておりました。
申し訳ありません、エロ小説書くのマジで楽しい。

アフちゃんがTSした理由。
ついにお見せ致しましょう。


~前回までのあらすじ~

 

 『スマートファルコン』の想い。

 

 彼の想いを引き継いだ、彼女は偶像を目指し。

 

 気づいたときには、もう手遅れだった。

 

 全ての者に愛される。そのような幻想を抱いた彼女。

 

 知らなかったのだ。誰も教えてくれなかった。

 

 全てを掴むには、一人の手では小さすぎて。

 

 掴みきれない物は、手から零れていく。

 

 愛とは、手を放すと。逃げていくものなのだ。

 

 彼女は、失ってからそれを知り。

 

 そして、砂漠を産み出した。

 

 ユキオーは、砂漠の中で。

 

 幻想の友人(おじさん)の、求めていたものを知る。

 

 安全ではなく。

 

 勝利ではなく。

 

 必要だったものは。

 

 勝つという、生物としての根本原理。

 

 ただ座して、見守っていれば。

 

 得られる勝利に、価値は無く。

 

 その脚で掴まなければならない。

 

 それが生きるということだと。

 

 ウマ娘の価値観を、ようやく理解した彼女。

 

 何のことはない。大事なのは、ただ一つ。

 

 自分の力で、我がままを通すこと。

 

 生きるとは、闘争であったのだ。

 

 旗持つ彼女に、反旗を翻し。

 

 勝ち取ることを、決めた彼女。

 

 その想いは、愛するウマの虚飾を剝ぎ取った。

 

 歌えなくなった歌姫。

 

 全てを掴もうと、努力して。

 

 大事なものだけ、失った彼女。

 

 黒い太陽に照らされた黒鹿毛。

 

 黒い影は、彼女の目には映らない。

 

 愛してるから、見てはならない。

 

 愛してるから、たどり着けない。

 

 袋小路に迷い込んだ想い。

 

 想いは臨界点を迎え、偽りの太陽は。

 

 真なる太陽へと堕ちる。

 

 このままどこまでも堕ちてゆき。

 

 誰にも、見つけられなくなる場所へ。

 

 深海少女は、沈めたまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 君に会うために、産まれてきた。

 

 君を幸せにするために、また生を受けたというのに。

 

 くろいくろい、どろどろとした膿みの中。

 

 後悔だけが、リフレインする。

 

 

 

 「……ウララ……!」

 

 トレーナーは、立ち上がろうと藻掻いた。

 

 あの衝撃、脆弱なヒト息子がまだ生きているのは奇跡。

 

 そう思った彼は。ぬるりとした感触に。

 

 奇跡など、存在しないのだと知った。

 

 

 

 「ああ。あああ。あああああ……!」

 

 (ノワール)に混じる(ルージュ)

 

 割れた、彼女の蹄。

 

 間に合わなかった再開。

 

 フラッシュバックしていく、存在しない記憶。

 

 ただただ、彼は泣き叫んだ。

 

 また、彼女に背負わせて。

 

 剥落していった、尊いもの。

 

 金銀ダイヤ、エメラルド。

 

 己の罪の重さに、堪え切れなかった。

 

 もう、ツバメは堕ちた筈なのに。

 

 

 

 「……潮時であるな」

 

 「アフちゃん、先輩……?」

 

 「ユキオー、ウララ先輩の処置を」

 

 「どうにもならないでしょ、あれ……」

 

 『Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!』

 

 偉大なる先達に守られて。

 

 無事だった彼女たちが、見る先。

 

 蟻地獄のように、砂を吸い込む空洞の中心。

 

 黒く塗り潰された、砂の巨人。

 

 愛を見失って、泣き叫ぶ彼女を見て。

 

 トネガワユキオーは、諦めを知った。

 

 

 

 「仕方ない。私が処置するのである」

 

 「……もう、戦えないでしょ。ハルウララ」

 

 「命は繋げる。それだけで十分である」

 

 びりりと、引き裂いた白いもの。

 

 赤ん坊からの、三度目の卒業。

 

 衛生的にも、まぁセーフだろう。

 

 叩きつけられた感情を、真正面から受け止めて。

 

 傷つき倒れたハルウララに、優しく巻き付けていく。

 

 

 

 「応急処置など、久しぶりであるが。まだ覚えているものであるな」

 

 「アフちゃん先輩。紛争地帯にでもいたの?」

 

 「ああ。生涯が戦いだったのである」

 

 「……?」

 

 アフガンコウクウショーは、想起する。

 

 アブドゥルの記憶。

 

 別れを告げたと思ったが……

 

 どうやら、それも含めての今生らしい。

 

 こちらを見やる後輩に、そっと笑いかけ問うてみる。

 

 

 

 「ユキオー。おじさんとやらの話が聞きたいのである」

 

 「……笑わない?」

 

 「笑わないとも。私が考えている通りであれば。

 きっと、私たちが出会ったことにも。意味があるのである」

 

 ぽつりぽつりと、語られる。

 

 彼の闘争の記憶。

 

 届かぬものに手を伸ばそうとして。

 

 ついには、地へと堕ちた彼の記憶。

 

 

 

 「……やはり、似ているのである」

 

 「先輩……?」

 

 「処置は終わりである。完全展開も、永遠には続かないはず。

 時間を稼ぐ。2人を頼むのである」

 

 「時間なんて。下降気流でも吹き付けるの?」

 

 「いや。完全展開の領域内では、他の領域はだいぶ力が落ちるらしい。

 ウマ生とは、新発見の連続であるな」

 

 「駄目じゃン。どうやって時間稼ぎなンてする気なの?」

 

 「完全展開を使う。同位階の領域なら恐らく、多少は通じるであろう」

 

 こきこきと、首を鳴らし。

 

 目を白黒とさせる、後輩に笑いかける。

 

 

 

 「……なんで今まで使わなかったのさ」

 

 「無論、制御ができないからである」

 

 「制御できない力で、時間稼げるの?」

 

 「ああ、間違いなく稼げるはずである」

 

 「先輩って、ほンと謎だよね。やたらジジくさいし。

 急に、やる気出すし。わたし、訳わかンない」

 

 「何、お前のおじさんと似たようなものである」

 

 不思議そうな顔で、見上げてくる彼女に。

 

 種明かしをしてやることにする。

 

 

 

 「ユキオー。お前の友達。恐らく、実在していた人物である」

 

 「……なンでわかるのさ。おじいちゃんたちも、早く卒業しろって」

 

 「それはな。私の中にも、おじさんが居たからである」

 

 「アフちゃん先輩。まさか」

 

 「ユキオー。これを」

 

 「……ねえ。何する気なの」

 

 「バ鹿なことである」

 

 ホワイトブリムを、外して渡す。

 

 自分が、生きた証を。

 

 

 

 「先輩ッ!? やめてよ、まるで!」

 

 この場に集った、三つのヒトソウル。

 

 最も、馬鹿で。

 

 最も、尊いと女神が感じた。

 

 愚かなる、人の魂。

 

 

 

 「ツバメ」は、敗北しか味あわず。

 生涯をただ一匹の馬に捧げ。

 全ての記憶を失った。

 

 「利根川幸雄」は、二番手の栄光を掴むため。

 勝利だけを追い求め。

 勝って負けて、また勝って。

 最期の勝負で、奴隷に刺されて失意のうちに。

 その記憶を、彼女の内に残した。

 

 

 そして。

 

 

 

 「届かぬ物に手を伸ばそう。愚か者こそ世界を変える」

 

 「やめて! 置いていかないで! 先輩!」

 

 「さぁ。世界の果てを見よう。開け。彼が夢見た世界」

 

 『アブドゥル』の、人生は。

 

 航空力士の横綱として、勝利に彩られていた。

 

 そして、彼はその勝利の最期に。

 

 とても愚かな夢を見て。

 

 そのせいでただの一度、敗北した。

 

 彼は、彼女と同化した。

 

 

 

 シンボリルドルフは、前世の記憶を多く引き継いでいる。

 

 そのために、百駿多幸の夢を見た。

 

 この世界のルールでは、前世における勝利者が。

 

 多くの物を、ソウルに託せる。

 

 ハルウララは割れた魂、その片割れしか。

 

 引き継ぐことは、出来なかった。

 

 彼女のソウルに残っていたのは。

 

 人の温もりと、声援の味。

 

 勝たなければいけないということ。

 

 自分は、ここに生きていると。

 

 最期に逢えなかった■に。

 

 伝えなければいけないということ。

 

 

 

 「アフターバーナー、完全展開」

 

 全てを引き継いだ、アフガンコウクウショー。

 

 今から再現する夢は。

 

 彼しか知らぬ、神の火。

 

 知ってはならない禁断の炎。

 

 雲竜型と対を成す、横綱のみに許された型。

 

 ふわふわと、浮かび上がる痩身と記憶。

 

 

 

 

 

 

 『見たい。果てを』

 

 横綱にしか許されぬ、土俵入りの作法。

 

 それを、許された時には。

 

 彼は老境に達していた。

 

 横綱の土俵入り。

 

 雲竜型は、極め尽くし。

 

 残る型は、もうひとつ。

 

 使ってはならぬと、口伝のみで伝わる奥義。

 

 彼は、空へ空へと昇っていった。

 

 

 

 『対流圏などなんのその。成層圏もまだ低い』

 

 雲竜は、自らを育んだ雲海を抜け。

 

 その上へと昇っていく。

 

 手元の計器に目をやると。既に高度は地表より。

 

 50kmに近い位置。

 

 もうすぐ辿り着ける。前人未到の世界へと。

 

 中間圏界面は、-92.5度。

 

 通常の、航空力士では耐えられぬ。

 

 だが、横綱ならば話は違う。

 

 

 

 『気流よ、我が身を纏え』

 

 横綱の命に従い。

 

 アブドゥルの身を優しく包む、大気の鎧。

 

 極めた航空力士なら。気流の全てを支配下に。

 

 上昇気流は、中間圏に空気を流入させていき。

 

 彼の花道を確保した。

 

 

 

 

 

 「懐かしい。あの時も、私は太陽へと昇っていった」

 

 ふよふよと、黒い太陽を捧げ持つ怪物へと。

 

 気流を纏った彼女は、ゆっくりと近づいていった。

 

 べしゃべしゃと汚泥のように纏わりつく、悲鳴のような愛の絶叫。

 

 愛して欲しい。愛してはいけない。

 

 傍に居て欲しい。あなたに近づいてはいけない。

 

 あなたを忘れたくない。何もかも忘れたい。

 

 ただただ矛盾した絶叫を、放ち続ける彼女の悲鳴も身に纒いながら。

 

 アフガンコウクウショーは、笑った。

 

 

 

 「すまぬ、万全な状態で負けたことはないのだ。負け犬の気持ちはわからん」

 

 ぼう、と中天に浮かび上がる太陽。

 

 歪みゆく景色。

 

 展開が始まった。

 

 もはや、止めることはできぬ。

 

 上昇気流が空へと、自分と汚泥の怪物を運ぶ。

 

 

 

 

 

 

 『オケアノスは遥か下。人の夢は、今私が結実する……!』

 

 科学が発展した時代。

 

 アブドゥルは知識として知っていた。

 

 熱圏は、太陽に程近く。

 

 昇れば昇るほど、温度は高くなり。

 

 最高では、2000度に達するが。

 

 熱くはないということを。

 

 

 

 『さぁ、私は最も生身にて! 太陽に近づいた男となる……!』

 

 だが、彼は知らなかった。

 

 熱圏が、熱くない理由。

 

 空気が無いから、気温が無い。

 

 彼の身に纏う上昇気流は、彼を確かに守っていた。

 

 熱圏の、上層に達するまでは。

 

 

 

 『……ッ!?』

 

 彼は夢を叶えた瞬間、堕ちた。

 

 堕ちても命は拾えたが、無理を推して出勤した空港にて。

 

 ニホンの暗黒力士に勝つための力は、残されていなかった。

 

 薄れゆく意識の中で、彼が最期に見たもの。

 

 涙ながらに縋りつく、妻子の顔。

 

 

 

 「ユキオー。お前、似ているのである。

 馬鹿な男に似た、空を目指すと言った我が娘(ライカ)に」

 

 彼女が戦うと決めた理由。

 

 彼は、記憶を残してしまった。

 

 愛する家族。彼を優しく迎えてくれた妻。

 

 宇宙飛行士を目指すと、父とは違う道で空を目指すと。

 

 朗らかに笑った、賢い娘。

 

 ユキオーは似ていた。それだけで。

 

 彼女はまた、愚かになると決めた。

 

 

 

 「愚かな男の夢を見よ。見果てぬ夢の果て。燃え尽きよ、我が翼。」

 

 『Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!?』

 

 かっ、と闇の砂漠を照らす太陽。

 

 怪物が、光を感じて絶叫を挙げる。

 

 ばたばたと、汚泥を垂れ流しながら。

 

 掲げ持った、黒い太陽に身を隠そうとする。

 

 偽りの太陽は、真なる太陽に勝てない。

 

 上昇気流は容赦なく。2人の身を空へと運ぶ。

 

 

 

 「泥だらけであるな。メイドの誇りが台無しである」

 

 暴れ狂う怪物。なんとか逃れようと、全方位に泥をばらまく。

 

 だが、無駄だ。完全展開は、夢を再現する。

 

 頭上には、大きな大きな太陽。

 

 どこまでも続く、蒼い空。

 

 ここは、()()()()()()()の世界。

 

 外気圏のすぐ下。

 

 熱圏の中でも、最も太陽に近い場所。

 

 その温度は、摂氏2000度に達する。

 

 熱は感じない。空気の濃度が薄いからだ。

 

 だが、航空力士が操る上昇気流を構成するのは。

 

 地上から噴きあがる、密度の高い空気。

 

 

 

 「愚かな男を知っているか? 彼は蠟の翼を用いて、空を目指したらしい」

 

 じゅうじゅうと、汚泥が焦げる音。

 

 流入した空気が、太陽熱で熱せられる。

 

 気温はどんどんと上がっていき。

 

 灼熱の地獄に包まれて、彼女は笑った。

 

 この領域は、制御できない。

 

 ただただ、己と相手を焼き尽くすだけ。

 

 

 

 「太陽に近づこうとした不遜な者は、こうなるのだよ。

 理解して、共に焼き尽くされろ。『不知火型(イカロス)』」

 

 アフガンコウクウショー。

 

 彼女が、ポンコツクソかわTS異世界転生褐色合法ロリメイド系オリジナルウマ娘力士(精神年齢還暦越え妻子持ち)(早口)である理由。

 

 女神が、彼を彼女にした理由。

 

 なんのことはない。

 

 サブカルチャーに毒された女神は、ツバメの次に見つけた彼の魂。

 

 3つのヒトソウルの中で、最も男らしい(勝者たる)彼を、その記憶を残したまま転生させたのだ。

 

 

 

 「ああ、エル。許しておくれ。私はやはり、アブドゥルだった。でも、もし願いが叶うなら」

 

 泣いている子は見捨てられない。いわんや、実の娘に似ている彼女。

 

 父親として、男として。どうしても、黙っているわけにはいかなかった。

 

 

 

 

 「もう一度、君に逢いたい」

 

 そして、陽炎の中に彼女は消えた。

 

 TS雌堕ちとは、男の中の男にしかできない、最も男らしい行為である。

 

 

 

 

 

 つづかない



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ファル子さんじゅういっさい そのよんじゅうさん 間違いだらけの不退転

ウマ娘小説とエロ小説をそれぞれ書いていると、ふとガイドラインに抵触しそうになります。
落ち着けわたし、脳内世界の区切りを強化。


~前回までのあらすじ~

 

 傷つき倒れたちいさなビッグマム。

 

 トレーナーの脳裏に、存在しない記憶が溢れ出す。

 

 それは、ツバメの後悔。

 

 彼女に、背負わせたこと。

 

 幸せにしたかった彼女から、剥落していった尊いもの。

 

 彼の心は、己の罪に耐えきれず。

 

 ただただ、痛みに泣き叫ぶ。

 

 アフガンコウクウショーは、覚悟を決める。

 

 泣き叫ぶ2人の咎人。

 

 砂の巨人は、幼い少女のように。

 

 ただただ、愛を叫んで奪う。

 

 思い出す、在りし日の記憶。

 

 闘争に生きた記憶。

 

 愛らしき後輩に、問うは彼女の記憶。

 

 利根川幸雄の、闘争の記憶。

 

 彼女は確信する。似ている。

 

 運命などは信じない。そのようなものに縋るなど。

 

 弱者の発想である。だけど、きっと。

 

 自分がここに、居ること。

 

 きっと、彼らが出会ったことには意味がある。

 

 集いし三つのヒトソウル。

 

 女神が選んだ、最も愚かで。

 

 尊き闘争に生きた男たち。

 

 アブドゥルだけは、覚えている。

 

 勝者の義務を、今こそ果たそう。

 

 生きた証は、置いて行こう。

 

 彼女は寂しがり屋だから。

 

 愚かな夢を、また見よう。

 

 きっと、手を伸ばしたことに。

 

 間違いなんて、ありはしないから。

 

 花咲き開く、失墜した夢。

 

 雲竜が飛んだ証。不知火へ至る愚かなる挑戦。

 

 上昇し続ける熱き想い。

 

 どこまでも蒼い空。中天に輝く真なる太陽。

 

 生身にて、輝きを掴もうとした蝋の翼。

 

 溶け堕ちるそれは、愚かだけれども。

 

 夢見ぬ人は、もっと愚かだ。

 

 彼は妻子の顔を思い出し、そっと懺悔する。

 

 愛しい彼女から去ることに、後悔が無いはずはない。

 

 だって彼女を、愛してるから。けれども。

 

 娘に似た彼女が、泣いている姿は見過ごせない。

 

 だって彼は、父親だったから。

 

 さぁ燃え尽きよう、心の限り。

 

 明るい未来を、照らし出そう。

 

 

 

 

 

 

 

 「アフちゃん、先輩……?」

 

 『Aaaaaaaaaaaaaa……』

 

 呆然と呟く。

 

 既に、輝く太陽は堕ちた後。

 

 彼女が遺した成果は、地面に堕ちて呻く怪物。

 

 立ち上がろうとして、灼けた()を再生しようとする彼女。

 

 愛しいスマートファルコンは、未だ健在だった。

 

 

 

 「……なンでさ。なンでそんなことしたの」

 

 意味がわからない。だって意味がない。

 

 ハルウララは、起き上がる素振りを見せない。

 

 トレーナーは、彼女を抱えてただただ涙を零している。

 

 戦える者はいない。時間を稼いでも意味がない。

 

 自分は、戦う意志など無いのだから。

 

 道理に反している。自分を守る意味など無かった。

 

 がりがりと、爪を齧る。

 

 脳の冷静な部分が告げる。

 

 彼女は、愚かで無駄な行為に、己を消費した。

 

 理外の発想。彼の記憶も告げている。

 

 ベットしたチップに、リターンが釣り合わない。

 

 

 

 「でも」

 

 脳の愚かな部分が告げる。

 

 彼女は、尊き闘争に身を委ねた。

 

 戦わぬ者に、戦った者を嘲笑う権利はない。

 

 彼女は必死に生きて、必死に戦い。

 

 笑って空に消えていった。

 

 それは、世界で最も尊い行為。

 

 この世界に生きる、ウマ娘の理想。

 

 見る者の心に残れば、それは勝者だ。

 

 蹄跡は、深く深く刻まれた。

 

 それが例え、たった一人の心の中にしか無くとも。

 

 

 

 「……ン。トレーナーは……まだ駄目だね」

 

 胸の中で、暴れ続ける始まりのシグナル。

 

 想いは、引き継がれた。

 

 デビューしていない彼女は、知らないが。

 

 ウマ娘は意志を繋いで走って来た。

 

 偉大なる先達の、走り続けた記憶。

 

 蹄跡は繋がっていき、道となり。

 

 彼女たちは、どこまでも挑戦し続ける。

 

 走るために産まれた生き物。

 

 レミングのように、愚かな暴走。

 

 死ぬために走る彼らと、何も変わりはしない。

 

 違うのは、ただひとつ。

 

 

 

 「わたしたちは、何のために走るンだろうね」

 

 彼女が走った理由。

 

 死出の旅を、笑顔で駆け抜けた褐色の君。

 

 君は何を、想っていたのだろう。

 

 わからない。わかったふりなどしてはいけない。

 

 彼女の走った理由を、想像するだけで烏滸がましい。

 

 だって走っていない者に、走る者の気持ちはわからない。

 

 だから自分には、永遠にわからない。わかってはいけない。

 

 

 

 『Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa……』

 

 ずんずんと近づく、歩みよる絶望。

 

 彼女を見て、ユキオーは笑った。

 

 

 

 「会長、わたし自分で頭が良いと思ってたけど。勘違いしてたみたいだよ」

 

 愛しい彼女に叩き潰されるのは、とても痛いだろう。

 

 でも、それでもいい。

 

 だって愛してるから。

 

 でも、それじゃダメだ。

 

 彼女が見せた、覚悟にとても追いつかない。

 

 とっても愚かで、かっこいい先輩。

 

 見せた背中は、輝かしかった。

 

 

 

 「だからね、バ鹿なことをしてみようと思うの」

 

 『Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa……?』

 

 ぴたりと、彼女が脚を止める。

 

 じゅうじゅうと、焼き焦がされる足の裏。

 

 気づいたのだろう。もう遅い。

 

 

 

 「フォーリンダウン」

 

 彼の人生は、人を蹴落としてきた。

 

 指差し告げるは、目覚めの力。

 

 掛かる重圧は、怪物の逃亡を封じる。

 

 

 

 「失墜へのカウントダウン(Eカード)

 

 いつも通りの、日常。

 

 牙を剥いた奴隷に、やれやれと道理を教える皇帝。

 

 眺める市民の、嘲笑は遠く。

 

 加えて告げるは、カウントダウン。

 

 終わりへ向かい数えていく、彼の最後の記憶。

 

 怪物の膝が、みしりと音を立てる。

 

 動揺せずとも、問題ない。

 

 少しでも止まれば、大丈夫。

 

 

 

 「会長。わたし、()()()()ことにしたよ」

 

 『領域』。ウマ娘の夢を掴むための力。

 

 ソウルが見た夢を、現世に具現化する力。

 

 ヒトソウルは、ウマソウルよりも。

 

 多彩な夢を、選びうる。馬よりも長く生き。

 

 馬よりも、生き方を選べる生き物。その魂。

 

 でも、選べる夢はただ一つ。

 

 間違った夢を選び取ったならば。次に魂を震わせるまで。

 

 その誤った夢での戦いを強いられる。

 

 そして、この魂が震えるのはこれで最後。

 

 完全展開より先は、存在しない。

 

 だから、自分はもう走れない。

 

 彼女の蹄跡は、ここで途絶える。

 

 想いなど、引き継いでやらない。

 

 あの輝かしい背中は、自分だけが知っていれば良い。

 

 

 

 「ほら、会長もわたしも、企業人じゃン? わたしデビューしてないし。

 走るための力とか、要らンよね絶対」

 

 破却していく、栄光の記憶。

 

 チームトネガワ。成長した彼らの姿を見れなかった。

 

 栄光への(きざはし)。途中で途切れたそれ。

 

 クロサキだけは、絶対に許さん。何が相撲だ、ちゃんこ食え。

 

 深く深く沈んでいく、己の心象風景。

 

 奥底に沈んでいたそれを、おっかなびっくり掴み取る。

 

 求めたのは、前に進むための力ではなく。

 

 脚を止めるための力。

 

 正解である筈がない。これは敗北の記憶なのだから。

 

 

 

 「だってさ。わたしたち、フラスプネズミ商事のトップじゃン? 

 トップには、責任が伴う。一番大事なお仕事なんて、決まりきってるよね」

 

 本当に怖い。だって前世でこれをして。

 

 おじさんは、廃人と化した。

 

 

 

 「じゃ、ハルウララとトレーナーさン。ごめンね、巻き込んで。

 この無様な姿を見て、手打ちとして頂きたい」

 

 そっと、ぎしぎしと重圧に抗しようとする彼女に近づく。

 

 どろどろと、垂れ落ちて。

 

 じゅうじゅうと、()()の上で焦げるそれ。

 

 受け止めて、うっとりと濡れる彼女の愛。

 

 

 

 「さ、会長。会長は、わたしの上司だし。ママみたいなもンだよね? 

 わたしを育ててくれた。わたしを愛してくれた。

 だからさ、一緒に粗相の責任を取って? シンデレラになんてなれなかったけど。

 鉄板の上で、一緒に踊ることぐらいはできるよ、わたし」

 

 ()()()グリム童話。

 

 シンデレラのラストシーン。

 

 継母は、孤独に踊り狂い死んだ。

 

 道理に反している。家族とは、運命を共にするもの。

 

 これが、自然な形だ。共に踊ろう、愛しいウマ。

 

 

 

 「フォーリンダウン、完全展開」

 

 魂は、十分に震えた。

 

 トレーナーとウマ娘よりも、ずっと深い関係。

 

 上司と部下。それ以上に自分たちは繋がっている。

 

 花開く、利根川幸雄の記憶。

 

 デビューしていない自分に、走る権利はない。

 

 当然の道理だ。だから、走るための力なんて要らない。

 

 必要なのは、管理職としての資質。

 

 囁くように絶叫しよう。己が失態の詫びを。

 

 五体を投地して告げるは、誠心誠意のまごころ。

 

 

 

 「『焼き土下座(謝罪会見)』ッ! ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅああああああッ!」

 

 『Ooooooooooooooooooooooooooooッ!?』

 

 責任者は、謝るのが仕事である。

 

 大人は、責任を取らなければいけない。

 

 己が失態を、顧客に謝罪しなければ。

 

 本当に申し訳ないという気持ちがあれば、どこでだって土下座が出来る。

 

 例えそれが。肉焼き、骨焦がす鉄板の上であっても。

 

 じゅうじゅうと、焦げていく感覚。

 

 だが、これは。

 

 

 

 「……なァるほどねェ! 希望が見えてきたアッツゥイ!!」

 

 わかる。これは違う。

 

 ()()は、まだ終わっていない。

 

 熱いは熱いが、まだいける。

 

 会長に課せられた、飛べない鳥倶楽部熱湯チャレンジ。

 

 それに比べれば、このぐらい。

 

 

 

 「会長ッ! もっと頭を下げ尽くせッ!」

 

 『Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaッ!』

 

 ばしゃばしゃと、撒き散らす泥はじゅうじゅうと溶けて。

 

 フォーリンダウン完全展開、『焼き土下座(謝罪会見)

 

 過ちを、認める力。

 

 栄光の階から転げ落ちた、おじさんの暗いユメ(欲望)

 

 彼には叶わなかった、浅ましき欲望。

 

 自分より立場の高い者に、己と共に頭を下げさせる。

 

 最低最悪の、ほの暗い欲望の具現。

 

 己と共に、全てを焼き焦がす領域である。

 

 

 

 『Oaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaッ!?』

 

 がくりと膝を着く怪物。灼けた鉄板は、彼女の虚飾を燃やし尽くす。

 

 この領域に、謝罪の意志など関係ない。

 

 トネガワユキオーが、己と関連して非があると認めれば。

 

 土下座謝罪を強要できる。代償さえ支払えば。

 

 全ての罪人は、鉄板の上で踊り狂う。

 

 

 

 「わたしが悪いッ! 会長も悪いッ! だから一緒に焼け焦げようッ!」

 

 『Nuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuッ!?』

 

 代償は、ただひとつ。

 

 自分自身の、灼けつく痛み。

 

 おじさんが廃人と化すほどの、痛みにさえ堪えられれば。

 

 ぼちゃりとひとつ、堕ちる音。

 

 こそげ堕ちた虚飾は、取り込んだ物を溢した。

 

 

 

 「うおおっ!? なんでいきなり鉄板焼きッ!?」

 

 「六おじいちゃん、そんなとこに居たのッ!? ちょうどいいから焼け焦げろッ!」

 

 「何でッ!?」

 

 「わたしと会長を、育てた責任ッ! トレーナーでしょ? 反省しろッ!」

 

 「納得いかねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 泥に取り込まれていた、六平 銀次郎。

 

 急遽の土下座に、喚くが無駄。

 

 バ鹿なウマ娘たちを、育てた。

 

 非があるため、土下座させる。

 

 納得など、必要ない。

 

 火力が上がるが、元気に喚く。

 

 当然だ。この世界のヒトは、とても頑丈。

 

 幼児でも無ければ、頭部へのデリンジャーのゼロ距離発砲にも耐えうる。

 

 そして、燃料はまだまだある。

 

 獲物がもひとつ、おっこちた。

 

 ぼたりと黒より出でる黒。

 

 

 

 「熱いッ!? なんですかもう! ファル子さんに取り込まれて、幸せを感じていたのですがッ!」

 

 「あンたが一番、気に入らないッ!」

 

 「熱湯チャレンジよりもアッツゥイッ!」

 

 G1バ。もちろん自分よりも上。

 

 エイシンフラッシュも、土下座させる。

 

 会長の心を、最も揺るがせた女。

 

 いくら頭を下げさせても、飽き足る筈もなし。

 

 失態を犯した者が多いほど、その非が重いものであるほど。

 

 火力は天井知らずに上がる。

 

 

 

 「トレーナーさんッ! ハルウララを起こしてッ!」

 

 「……今起こしても、剥げ落ちた者は戻らん。ウララをこれ以上傷つけたくない」

 

 ハルウララを胸に抱き。呆然とこちらを見る彼。

 

 負け犬の顔だ。許せない。

 

 

 

 「まだ終わってないッ! まだ何も、剥がれ落ちてないッ!」

 

 「アフちゃんは、もう……」

 

 鈍い男だ。これを見て気づかないとは。

 

 

 

 「具現化系の領域は、物理ダメージ無いよバ鹿ッ! 

 これが本物の焼き土下座だったら、とっくにわたし焼け死ンでるよッ!」

 

 「……ッ!?」

 

 そう。やってみて気づいたが。

 

 12秒は、とうに超えた。

 

 ハルウララの、強化系。

 

 領域で己を強化し、やべー膂力でブッ叩く。

 

 物理ダメージは、もちろんある。

 

 それに対し、事象を具現化する自分の領域。

 

 己の暗い欲望を具現化し、想いをそのまま叩きつける。

 

 物理ダメージなど、有りはしない。

 

 領域そのもので、他者を傷つけることはできない。

 

 自分の力は変質したが、三女神の祝福は。

 

 走るための力であり、他者を害するための力ではないし。

 

 妄想だけで、敵を倒せるなら苦労はない。この世界のルールに反している。

 

 ウマ娘はいつだって、己の脚で語るのだ。

 

 ならば、彼女の領域も。

 

  

 

 「ふぬおおおおおおおお……」

 

 『Oooooooooooo……?』

 

 ひゅるるるぽちゃんと、軽い音。

 

 今の今まで、気絶していたのだろう。

 

 軽い彼女は、上昇気流に乗り。

 

 怪物よりも、高く上がってふわふわと落ちてきた。

 

 

 

 「心配かけさせおって、この先輩……!」

 

 「アッツゥイッ!? なにっ!? なんであるっ!?」

 

 「反省してないね? よし灼けろ」

 

 「何がなんだか、わからないのであるぅぅぅぅッ!! 

 私、かっこよく退場したはずなのにィッ!」

 

 G3バ。己より上。年も上。

 

 勝手にかっこよくこの世を去ろうとした。許せない。

 

 非がある。己を心配させただけでなく。

 

 尊敬する彼女のトレーナーを、負け犬顔にさせた。

 

 だからコイツも、焼き土下座。

 

 

 

 「さぁさぁさぁッ! バ鹿どもここに勢ぞろいッ! 

 何がもう無いのッ!? 何がもう手遅れなのッ!? 

 さっさと起こして、乱痴気騒ぎを続けようッ! 

 というか謝罪対象に許してもらえないと、この領域とまらンからッ! 

 お願い助けてトレーナーッ!」

 

 「……ウララ」

 

 眠り続けるお姫様。

 

 愛しい愛しい、彼女の顔。

 

 鼻に詰まった白い布を、きゅぽんと外して微笑み告げる。

 

 血は、もう止まっている。噂に聞く、鼻血が出タンホイザよりも余程出ていたため。

 

 相当我らは焦ったが。よくよく考えると、彼女はいつも高血圧。

 

 いつもイラついており、血の気が死ぬほど多い彼女。

 

 気合を入れすぎて、余った分が溢れ出しただけだろう。

 

 健康診断も、今回はなんとかパスできるかもしれない。

 

 血圧を下げるため、トマトを死ぬほど食わさねば。

 

 嫌がる彼女の顔が見たい。でもそれよりも。

 

 

 

 「起きてくれ。お前の笑顔が見たい」

 

 お姫様を起こすのは、いつだって。

 

 初めてのそれは。

 

 

 

 「我が子の悲鳴ッ! どいつが泣かせたブッ殺すッ!」

 

 「ウボァ」

 

 火花が散るような、意識を失う味がした。

 

 いつかきっと、ちゃんと唇奪っちゃる。

 

 彼は薄れゆく意識の中で、そう堅く決意した。

 

 

 

 

 つづかない



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ファル子さんじゅういっさい そのよんじゅうよん 彼と彼女の理由

思ったより温度差が激しくなりました。
うーん、どうしてこうなった。


~前回までのあらすじ~

 

 空に消えた、褐色の君。

 

 ユキオーは、呆と一人呟く。

 

 何も、解決していない。

 

 何も、成果を得ていない。

 

 リターンが勝利ではない、愚かな戦い。

 

 アフガンコウクウショーの自爆。

 

 死へと向かう飛翔は、少しばかりの時間を稼ぎ。

 

 たった一人の心に、消えない蹄跡を残した。

 

 それは、受け継がれる焔。

 

 ウマ娘が走った後には、蹄鉄の傷が刻まれて。

 

 それが連なり、道が出来てきた。

 

 ユキオーは想いを継いで、決意した。

 

 走る意味など知らない。走ったことが無いから。

 

 だから自分は立ち止まろう。

 

 誰も彼をも巻き込んで。

 

 尊い飛翔は、自分だけの独り占め。

 

 彼女の蹄跡は、ここで途絶えさせる。

 

 ウマ娘は、わがままな生き物なのだから。

 

 指差し告げるはおじさんの記憶。

 

 目覚めの重圧。彼が蹴落とした記憶。

 

 皇帝奴隷と市民の姿。彼が堕ちる寸前の記憶。

 

 最後に掴み取ったのは、ウマ娘として誤った記憶。

 

 勝つためではなく、謝罪するための力。

 

 燃え盛る鉄板は、覚悟と決意を示すため。

 

 自分自身を贄として、全ての愚者を焼き尽くす。

 

 炎熱に喘ぎながらの謝罪は、責任者の虚飾を燃やし。

 

 ユキオーは、本質を見出だした。

 

 ぼとりぼとりと堕ちる愚者。

 

 心を灼かれ、苦鳴を溢す。

 

 肉体燃やさぬ、浄滅の焔。

 

 領域で、罪を自覚させることは出来る。

 

 だが、いつだってウマ娘は。

 

 己が肉体で結果を出してきた。

 

 謝罪で見つけた、大きな希望。

 

 彼女はトレーナーに叫ぶ。

 

 まだ終わってはいないと。

 

 トレーナーは、愛しい彼女を抱えて嘆く。

 

 失った者は、戻らないと。 

 

 それが大きな勘違い。

 

 ひゅるると堕ちた、褐色の君。

 

 太陽だろうと、焔で灼けるのは精神のみ。

 

 脚で語らぬ者は、犠牲にすらなれない。

 

 ユキオーの、再度の問い。

 

 始まりを告げるシグナル。

 

 お姫様を起こすのは、いつだって王子様のキスで。

 

 彼はそっとくちづけを落とし、思い切り顔面を強打した。

 

 高血圧過ぎると、寝起きもヤバい。

 

 ハルウララ、復活である。

 

 

 

 

 

 

 堕ちていく。堕ちていく。記憶の中へ。

 

 ちょっとした行き違いから、思う存分催眠に堕とした彼女。

 

 ポジションを奪われたと勘違いし、マ魔王にスライディング土下座をカマす彼女。

 

 スマートファルコンの歌を聴きながら、やれやれと肩を竦める彼女。

 

 なにかを間違えた、ビデオレターに映る彼女。

 

 桜舞う日に出会った彼女。

 

 鮮明なのは、そこまで。

 

 無味乾燥な、彼女と出会うまでの日々。

 

 桜色に染まらぬ世界は、色彩を失っていた。

 

 九夢院。トレーナーの名家。

 

 ウマ娘の肉体賦活……マッサージを得手として。

 

 彼女たちを、勝利へと導いてきた家。

 

 その嫡男として産まれた、笑顔を知らない少年。

 

 運命と出会うまで、機械のように従順に。

 

 家を継ぐため、トレーナーを目指していた日々。

 

 物心ついた後、流した涙はただ一度。

 

 満開の桜の下で、その美しさに忘我した。

 

 一瞬だけ色づいた記憶は、すぐに視界の後ろへ消え。

 

 ここからは、彼の知らない記憶。

 

 ゆりかごの中の彼に笑いかける、美しいウマ娘。

 

 写真だけで見た、今は亡き母。

 

 そして視界は闇へと染まり。

 

 

 

 『願わない。桜の下で、ハルウララ。彼女を想い、灰となり死ぬ』

 

 

 

 燃え尽きたツバメは、飛翔する。

 

 大切な、彼女の欠片をその胸に抱き。

 

 最期の役割を果たすため。

 

 

 

 

 

 

 

 「ふぅむ……ユキちゃん。今北産業」

 

 「ウララママ気絶。

 褐色ロリ自爆特攻。

 わたしとバ鹿ども焼き土下座」 

 

 「なるほど、わからん」

 

 ハルウララは、状況の把握に苦慮していた。

 

 椅子のクッション性はいいが、何故か気絶しているようだ。

 

 ケツを揉んで、その感触を楽しむぐらいにしか使えぬ。

 

 起きるまで、闘争のやる気など出ない。

 

 自分の戦いは、声援の中でなければならぬ。

 

 

 

 「ところでその鉄板、熱くないの?」

 

 「とっても熱い。ねぇ許すって言って?」

 

 「でも、焦げてはいないようだけど?」

 

 「ねぇウララママ。かわいい娘のおねだりだよ?」

 

 『Luaaaaaaaaaaaa!!!』

 

 「「「アッツゥイッ!!!」」」

 

 かわいい娘のおねだり。

 

 だが、肉体的なダメージは無いようだ。

 

 バ鹿どもともう一人の娘も、元気に悲鳴を上げているようであるし。

 

 ここは、様子を見るべきだろう。

 

 

 

 「ユキちゃん。ウマ娘なら、それぐらい耐えれるでしょ」

 

 「ウララママ、実はわたしのこと嫌い?」

 

 「愛してるよ。でもわたし、躾も重要だと思うんだぁ。

 わたしも子供の頃は、よくママにケツをシバかれたもんだよ」

 

 「クソが」

 

 うむ、悪態をつく元気がある。

 

 幼少期の自分と同じ。

 

 ならば、まだまだ余裕と言うことだろう。

 

 躾は、泣き叫ぶ気力が無くなってからが本番。

 

 ママも、そう言いながら自分をシバいていた。

 

 

 

 「完全展開出来たんだね、おめでとうユキちゃん。

 あとでお赤飯を炊いてあげよう。早いとこ解除したら?」

 

 「だからッ! 自分じゃ解除できないから、ウララママに頼ンでるンだってッ!!」

 

 「わたし、他のウマの完全展開の強制解除なんて出来ないよ?

 さすがに娘の心を圧し折るわけにもいかないし……キングちゃんが居ればなぁ」

 

 「キングヘイローは出来るのッ!?」

 

 「そりゃそうだよ。わたしもそれで助かったし」

 

 昔のことを思い出す。

 

 G1の冠を、初めて戴いた日。

 

 万雷の喝采を浴びながら自分は、何かを探していた。

 

  

 

 

 

 

 

 『……いない。……誰が?』

 

 ウマソウルが叫ぶのだ。

 

 きっと■は、自分を見つけてくれる。

 

 

 

 『『ハルウララ』。誰を探しているの?』

 

 勝者の問いは虚しく響いた。

 

 『ハルウララ』は、答えを持っていなかった。

 

 それが何かを知らなかった。

 

 でも、それを求めていた。

 

 

 

 『……ッ!? 領域がッ!?』

 

 だから、最も目立つ手段を使った。

 

 ■が、自分を見つけてくれるように。

 

 ウィナーズサークルに広がる、最期に見た景色。

 

 満開のそれは、必ず■の目に止まると信じて。

 

 

 

 『あ、ああああああああああああああああッ!?』

 

 『ウララッ!?』

 

 『ウララさんッ!?』

 

 突如として開かれる、桜の庭園。

 

 砂を踏みしめ、駆け寄る二人。

 

 彼らに必死に手を伸ばし、ぎしぎしと軋む手は宙を掻いた。

 

 

 

 『勝てばッ! 幸せになれるんじゃないのッ!?

 わたしは、見つけられるんじゃないのっ!?』

 

 重なる問いにも答えは無く。

 

 『ハルウララ』は、ただ桜の下で宙を見据えていた。

 

 闘争心しか、持ってこなかった彼女は。

 

 自分の求めているものが何かすら、失ってしまっていたから。

 

 

 

 『トレーナーッ! アレはッ!?』

 

 『恐らく完全展開だが、わからんッ! 今開く必要が無いッ!』

 

 『ウマソウルの暴走ッ!?』

 

 『暴走する理由が無いッ! 『ハルウララ』の無念はッ!

 部分展開の幻影は、勝利だけを求めていたはずだッ!

 まさか芝のG1で勝利せよとでもッ!? あまりにそれは酷すぎるッ!』

 

 万雷の喝采。得たことの無い勝利の味。

 

 それだけが『彼女』を癒す筈だった。

 

 だからハルウララは、幼き頃から闘争心に満ちていた。

 

 勝利を以てウマソウルを満足させ。

 

 そこから、歩き出すために。

 

 自分だけの、幸せを探すために。

 

 

 

 『催眠術はッ!?』

 

 『やってはみるが……そもそもウララには相性が悪いッ!

 全身の筋肉が常に緊張状態だッ! 常在戦場にも程があるッ!』

 

 制御できない完全展開は、自身の保護ではなく。

 

 ただただ、一つの指向性を示していた。

 

 さらに勝利を得るための強化。

 

 もっと勝たなければいけない。勝つ。勝つ。勝つ。

 

 勝って勝って勝って勝って勝って。

 

 最期に迎えに来てくれなかった■に、自分がここに居ると。

 

 伝えなければ、この世界に産まれなおした意味が無い。

 

 『ハルウララ』は、高らかに嘶いた。

 

 癒えぬ渇きは、桜を軋ませて。

 

 じゃりりと鳴る砂は、庭園の崩壊を暗示していた。

 

 

 

 『眠れ、ウララッ! ……クソっ! 止まらんッ!』

 

 『トレーナーッ! このままじゃウララさんがっ!』

 

 ハルウララの髪色は、鹿毛の色に染まりきり。

 

 そして、その色すらも失っていく。

 

 鹿毛は、葦毛へと近づき。

 

 目を見開くハルウララの瞳は、何者をも映さず。

 

 ぎしぎしと軋む身体は、崩壊へと歩き出していた。

 

 

 

 『ウララさん、必ず助けるわ。キングは嘘をつかないのよ?』

 

 『キング、ちゃん……』

 

 そして、ハルウララの記憶に残っているのはそこまで。

 

 最後に見たのは、キングヘイローの。

 

 覚悟を決めた、悲しい笑顔。

 

 

 

 

 

 

 「キングちゃんが、わたしを助けてくれた。

 ポンコツだけど、頼りになる天使ちゃんだよ」

 

 「キングヘイロー、すごいンだねぇ。

 それよりウララママ。早く許して? 

 わたし、超熱いンだけど」

 

 「んー。ファル子ちゃんの泥、いい感じで焼けてるし。

 もうちょい待ってからでいいかなぁ。ファイト、ユキちゃん」

 

 「このママ、鬼畜すぎる……!」

 

 「ウララさんは、生きていればオッケーと思っている節があります……!」

 

 エイシンフラッシュの言う通り。

 

 ハルウララは、命は決して奪わない。

 

 それが敵対する者であっても。

 

 それが例え、愛する子であろうとも。

 

 生きていれば、問題ないと思っている。

 

 どんなに痛くとも、苦しくとも。

 

 生きてさえいれば、また走り出せるのだから。

 

 

 

 「当然でしょ? 生きてりゃオッケー。

 取返しが付かなくなることなんて、めったに無いよ」

 

 「ウララは修羅場を潜りすぎてるッ……!

 やっぱりオレの責任じゃねぇなッ!」

 

 「見苦しいよ、六おじいちゃんッ! 誠心誠意焼け焦げろッ!」

 

 「オレのとこだけ火力上がるのッ!?」

 

 自分が、彼女に救われて。

 

 また、走り出して彼と出会えたように。

 

 ハルウララは、わくわくと鉄板焼きを眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてここからは。

 

 ハルウララの知らない、残酷な真実の物語。

 

 もう取返しの付かない、悲しき愛の物語。

 

 

 

 『……トレーナー、私の完全展開を使うわ』

 

 『キング。お前のアレは……』

 

 『ええ。発動には、代償が必要よ』

 

 キングヘイローは、そっと彼に笑いかけた。

 

 自分の完全展開なら、彼女を助けられる。

 

 そう、確信していたから。

 

 例え、それで自分が犠牲になったとしても。

 

 

 

 『ねぇトレーナー。私、ウララさんのためなら。何でもするわ』

 

 『キング、それはトレーナーの仕事だ。我が王に、臣下が願い奉るッ!』

 

 だが、彼女の覚悟は無為に帰した。

 

 間違えた男。黒鹿毛と栗毛のトレーナーよりも。

 

 即断即決、果断なる男。

 

 その結果が、導く物を知っていながら。

 

 一切の躊躇を、不要と断じて。

 

 間違えなかった男は、そっとハルウララの頭を撫でた。

 

 

 

 『待ってトレーナーッ! 何を捧げる気ッ!? 私が、自分を……ッ!』

 

 『知れたこと。オレの持っている物で、最も重い物だよ。

 そうでなくば、止めることなど叶うまい。

 ……王が自身を捧げては、効果が正しく発揮されないだろう?』

 

 『……ッ!』

 

 王は、臣下の言葉を正しいと思ってしまった。

 

 無理やり思いこんだ確信が、揺らいでしまう。

 

 キングヘイローの完全展開は、スマートファルコンの物に似る。

 

 『スマートファルコン』が奪って強化するのに対し。

 

 『キングヘイロー』は、捧げられて強化する。

 

 どちらも、代償を必要とする領域であるが。

 

 違いは、いくつかある。

 

 

 

 『で、でも! 卒業したら、伝えるんでしょう!?』

 

 『ああ。……いいんだ、キング。オレはウララが笑っているのが好きだ。

 彼女の全てが好きだ。だから、彼女のために捧げよう』

 

 『……ッ! 赦さないッ! 絶対に赦さないわッ! 私はそれを受け取らないッ!』

 

 『君は、拒否できない。王とは、そういうものだから』

 

 『いや……! 嫌よ……! やめて! やりたくないッ!』

 

 奪った物は、自分を強化することにしか使えない。

 

 捧げられた物は、他者を強化することにも使える。

 

 奪うことは、能動的な行動だ。

 

 捧げられることは、受動的な行動である。

 

 そうでなくては、その効果を正しく発揮できない。

 

 そのため、エイシンフラッシュは自身を捧げられず。

 

 キングヘイローは、捧げられる物を拒めなかった。

 

 

 

 『キング。我が王よ。我が儘を言わないでおくれ。

 オレは、彼女を失えば生涯後悔する。

 ……ウララを頼んだ。君にしか頼めない』

 

 『ずるい。一流のする顔じゃないわ、そんなの。

 そんな未練がましい顔して、笑わないで。

 あなたって、本当に最低よ……』

 

 最大の違いは、その不可逆性。

 

 捧げられた物は、奪った物と違い。

 

 持ち主の元には、二度と帰らない。

 

 略奪された物は、帰ってくる可能性があるが。

 

 王に捧げるとは、そういうものだから。

 

 

 

 『受け取ってくれ。オレが持つ最も重い物。

 彼女が、これからも走り続けるために。

 ……新しい恋を、見つけられるように』

 

 『……我が臣下よ。汝の心からの願い。

 その捧げる想いを以て、この王が叶えましょう。

 ……さぁ、あなたは何を捧げ、何を望むの?』

 

 『ありがとう、キング。……ウララ』

 

 トレーナーは、晴れやかに笑った。

 

 ぐしゃぐしゃに歪んだ顔で、ポケットの小箱を握り潰し。

 

 

 

 『愛してるよ、心の底から。だから……

 王よ、我が愛を捧げよう。ウララを、助けてくれ』

 

 『……完全展開。『絶対王権(キングス・オーダー)』』

 

 王権の錫は彼の肩を叩いて、虚しく音を響かせて。

 

 広がった王城は、庭園を優しく押し潰し。

 

 ぼろぼろの馬は、桜の下に埋められた。

 

 

 

 『あ……』

 

 その力は、彼女の生きるための力を強化して。 

 

 ハルウララは、また走り出す力を得た。

 

 気を失った二人の男女。

 

 キングヘイローは、そっとつぶやいた。

 

 

 

 『愛してるわ、ウララさん。世界で一番、愛してる。

 ……だって、二人分だもの。そうじゃなくっちゃ、おかしいじゃない……』

 

 これは、ハルウララが知ってはいけない物語。

 

 終わった恋の物語。始まった、狂気の愛の物語。

 

 真実は、永遠に秘されたまま。

 

 夫妻は、黙して決して語らない。

 

 彼が彼女を、愛さない理由。

 

 彼女が彼女を、愛する理由。

 

 この世界は、きっと無限の愛に満ちていた。

 

 

 

 

 

 つづかない



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ファル子さんじゅういっさい そのよんじゅうご コーヒーの味

今までの作品で、一番ひっでぇルビを振った気がする……
まぁこういう作品ですので、諦めてください。


~前回までのあらすじ~

 

 トレーナーの、お姫様起床チャレンジ失敗。

 

 堕ちてゆくは、記憶の中。

 

 深々(しんしん)と、堕ちる先には桜色。

 

 桜過ぎれば灰色が。

 

 最深部すら突き抜けて。

 

 記憶の海は、その底を見せない。

 

 彼が堕ちるのに変わり、一羽の鳥が羽ばたいた。

 

 ツバメはまた飛翔する。

 

 最期の役割を果たすため。

 

 抱えるは、鉛の心臓の片割れ。

 

 彼女が持っていけなかったもの。

 

 ところ変わりて現実世界。

 

 彼女はううんと唸り聞く。

 

 掲示板の作法に則り、土下座ロリに状況を問う。

 

 だいたいわからん三行に、三行半(みくだりはん)のごとき切り捨て。

 

 わからなくても、どうにかなる。

 

 トレピッピを椅子代わりに、焼き土下座の鑑賞会。

 

 怪物じみた猛禽類に、愛しい娘が2匹とその他。

 

 じゅうじゅうと焼き焦げるそれに、ほっこりと頬を緩める。

 

 ママの愛を思い出す。ヤツもやたらと鬼畜だった。

 

 我が家は相当スパルタであり、娘たる自分。

 

 尊敬する母に倣い、躾の機会は見逃すべきではない。

 

 実際肉体は灼けてないようだしセーフ。

 

 バ鹿に目にもの見せるにも、とっても有効。

 

 孝行娘な白髪ロリに、にこやかにエールを送る。

 

 助けを求められるも自分に、完全展開を解くすべはない。

 

 殴り倒して気絶させれば不可能ではないが、さすがに娘はドつけない。

 

 想起するは、キングヘイロー。

 

 彼女が起こしたその奇跡。

 

 自分が初めて完全展開をした日。

 

 ポンコツ天使が自分を助けた時のこと。

 

 あまり、細部は覚えていないが。

 

 確かに彼女に助けられた。

 

 虫食いだらけのストーリー。

 

 気絶していた彼女は知らない。

 

 指輪の砕ける音とともに、一つの恋が終わりを告げ。

 

 一つの狂愛が、産声を上げたことを。

 

 彼女は愛に包まれていた。

 

 その愛のカタチが、例え捻じ曲がり歪んでいたとしても。

 

 硝子のように、溶け崩れて歪んだ愛。

 

 それはとても、美しく無惨な姿を世界に晒していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『Luaaaaaaaaaaaaaaaaaa……』

 

 「ははっ。ファル子ちゃん、かわいい顔を見せておくれ。

 そろそろお前の泣き顔が見たい」

 

 「ウララママって、ほンッ……と。ドSだよね」

 

 「Mならレースに勝ててないだろ。ウマ娘が受け身で許されるのは、ベッドの上ぐらいだよ多分」

 

 「うわぁ、下ネタまで……アフちゃん先輩、わたしたち母親を選び間違えたね」

 

 「通常、親も子も互いを選べぬのである……あっちゅい」

 

 ぐったりとした、褐色ロリ。

 

 だいぶ反省したのであろう。

 

 彼女の下の鉄板は、赤みをだいぶ失っていた。

 

 

 

 「六おじいちゃんと、黒鹿毛は反省した?」

 

 「オレ、絶対悪くないよなぁ……」

 

 「私は愛のために生きています。省みる暇などありません」

 

 「うーん、このクソども」

 

 煌々と光を放つ鉄板の上。

 

 アホなウマ娘たちを育てたトレーナーと、諸悪の元凶は。

 

 じゅうじゅうと精神を灼かれながらも、己の罪に無自覚だった。

 

 

 

 『Laaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa……』

 

 「会長……あなたの、ほンとの声が聴きたいよ」

 

 そして、ユキオーが最後に目を移す先。

 

 じゅうじゅうと溶け堕ちる泥。

 

 少しずつ、小さくなりゆく怪物。

 

 その歌は、濁ったヘドロのようで。

 

 歌姫など、とても名乗れぬ艶姿。

 

 スマートファルコンは、未だその正気を取り戻さずにいた。

 

 

 

 「そンでウララママは……oh」

 

 「うーん。いい音色だ。おなかに響く音。結婚式が待ち遠しいね」

 

 パァン! パァン! とパパのケツが鳴り響き。

 

 彼女はドラムソロに興じていた。

 

 一心不乱のその手さばきは、ユキオーの思惑などどこ吹く風。

 

 その精神性に、ユキオーは驚嘆の声を挙げた。

 

 

 

 『どこ吹く風』。ハルウララを象徴するレアスキル。

 

 彼女と共にトレーニングに励んだ者のみが、その片鱗を学ぶことが出来る。

 

 それは、100を超える戦いにおいて『ハルウララ』が獲得した精神性の表出。

 

 レースにおいては、中盤において囲まれた場合持久力を回復させ。

 

 闘争の場においては、あらゆる精神的影響を無効化するスキルである。

 

 彼女はキレる時は、身勝手にキレる。

 

 何者も闘争に励む彼女に対し、負の精神的影響を与えることはできない。

 

 このバ場においても、そのスキルは普段通り機能していた。

 

 

 

 「さてユキちゃん、そろそろだよ」

 

 「へ? そろそろって?」

 

 そんな彼女が、ぐりんとこちらを向いた際。

 

 ユキオーは、わりとガチビビりした。

 

 いつでも彼女は唐突すぎて、自分の理解を超える。

 

 思っていると、ちっちゃなおててで指差すは。

 

 泥に包まれた、愛しいウマ。

 

 

 

 「それ、たぶん繭だよ。あのままじゃ勝てないって思ったんだろうね。

 まったく、何回お色直しするつもりだそいつ。披露宴じゃないんだから」

 

 「繭? 会長は蛾だった……?」

 

 「蝶と表現しないところが、育て方を間違えたところだよなぁ」

 

 「うるさいよジジイ」

 

 「アッツゥイッ!!!」

 

 余計な茶々を入れるジジイを、香ばしく焼き上げる。

 

 わりと制御に慣れてきた。

 

 理不尽な八つ当たりは、ウマ娘の得意分野。

 

 成長しつつある彼女は、少しずつ世界の真理を悟ってきた。

 

 他人に遠慮するヤツは、損をするのがこの世界である。

 

 勝手にきままにわがままに、己の心の赴くままに。

 

 ただ、精一杯生きる。

 

 それが、この世界の理。

 

 それが、三女神の望み。

 

 ウマがウマらしく生きられる世界。

 

 誰もが幸せになれる世界。

 

 競争の勝敗には厳しいが、勝利の形は一つではない。

 

 心から、笑えた者が勝者ならば。

 

 この世界は、きっと勝利に満ち溢れていた。

 

 

 

 「…………………」

 

 「乾いたね、そろそろだ。ユキちゃん、解いて」

 

 「だからッ! ウララママに許して貰わないと! 解けないって言ってンじゃン!!!」

 

 「でもわたし、心の底から誰かを許したこと無いよ?」

 

 「ウララママは、根に持つタイプであるからなぁ」

 

 「ウララはマジで、なんでこうなったんだろうな……」

 

 泥が渇き、ぴしりぴしりと亀裂が入る。

 

 娘に解除を打診するも、彼女の意思では出来ないらしい。

 

 まぁ完全展開は、勝手に開くこともままある。

 

 そういうものかと納得し、ハルウララは言葉を続けた。

 

 

 

 「まぁ、相手に土下座させたままでも闘えるか。

 フェアプレーとか、レース以外では必要ないよね」

 

 「判断が早いッ……! これには天狗も呆然ですッ!」

 

 「軽率な天丼は厳禁だよ、フラッシュちゃん」

 

 「口で言うだけでいいから多分っ! お願いウララママ! 何でもするからッ!」

 

 「ユキオー! ウララに何でもするはマズい! 軽々しく言ったら最後、骨までしゃぶられるぞ!」

 

 「さすが、元トレーナー。しゃぶられた実感が籠っているのである」

 

 「わたしが誰にでもしゃぶりつくみたいに言うの、やめてくれる?

 貞淑なウララちゃんに、何と言うことを」

 

 げしげしと、元トレーナーを老人虐待する。

 

 確かに彼の老後資金を、大胆に切り崩すこととなったこと。

  

 このハルウララにも、責任の一端はあるかもしれない。

 

 だがニホン産の牛肉の醸し出す、確かな味。

 

 それは、自らの体調管理に欠かせぬ物であり。

 

 トレーナーとして、ウマ娘の身体作りは必須事項。

 

 当然のおねだりであった。

 

 

 

 「さて、んじゃあ非常に遺憾だけども。心の底から、言いたくないんだけど……」

 

 「無念と言う言葉を題材にすると、今のウララ先輩の顔になるのである」

 

 「ウララさんは変わりませんねぇ」

 

 「三女神教が覇権握るまで、戦争が終わらなかった理由が理解できるよな」

 

 苦渋の決断である。

 

 だが当時三女神は、神託でこう告げたという。

 

 

 

 『くだらんことやってないで、走れバ鹿ども。お前ら何のために産まれたと思ってんの?』

 

 そのお告げを聞いた、当時のウマ娘たちは。

 

 一切の戦争から手を引くだけに飽きたらず。

 

 

 

 『レースのためだ、致し方ない』

 

 そう言いながら、戦争を主導する者全てを殴り倒したという。

 

 ヒトは、暴力と領域の前では無力であった。

 

 

 

 「はぁー……。許すよ、バ鹿ども」

 

 「クソデカ溜め息。ウララ先輩のどこからこんな風圧が」

 

 「やった、ありがとうウララママ!」

 

 「やれやれ、無辜の罪で灼かれるとは。これには聖ウマ娘もびっくりですよ」

 

 「こいつはもうちょっと、灼いといた方が良かったんじゃねぇかな」

 

 土下座を強要されるという、ハルウララの周りではよくある体験。

 

 そこから解放された彼らは、大きく伸びをした。

 

 ユキオーの完全展開、『焼き土下座(謝罪会見)』。

 

 利根川幸雄が生きた世界と同様に、形だけの謝罪。

 

 そのような結果に終わり、鉄板は無念そうに姿を消した。

 

 

 

 「さーて、起きろファル子ちゃん。入ってますかオラッ」

 

 「抉り込むようなボディ。やはり世界を狙える器……!」

 

 「やっぱり、ウマ娘格闘家を志しておいた方が良かったンじゃない?」

 

 「滅多なことを言うなユキオー。リングの上で相対したら、私は即座に腹を見せるのである。きゃいんきゃいん」

 

 「この負け犬がッ……!」

 

 よく躾けられた、アフちゃんを見て嘆くユキオー。

 

 それを横目にしつつ、乾いた泥の塊に連続ジャブを叩き込むハルウララ。

 

 

 

 「ウラウラウラウラウラウラウラウラウラ……ウラァッ!」

 

 「殺した後に『ブッ殺した』って言いそうですね」

 

 「立派なイタリアンマフィアの鑑に育って、オレは世間様に合わせる顔がねぇよ」

 

 そして、ついに繭が崩れ落ちる。

 

 そこから姿を見せたのは。

 

 

 

 「………………おはよう、ウララちゃん」

 

 「おはようファル子ちゃん。気分はどう?」

 

 「最高だね。空だって飛べちゃいそう」

 

 「ファル子先輩、私のアイデンティティを奪うのはやめて欲しいのである」

 

 「既にサイレンススズカに奪われてるじゃん、アフちゃん先輩」

 

 「ファル子さん……!」

 

 「おいおい、成長期かぁ? こいつはウマ娘学会に発表せんといかんぞ」

 

 ゆっくりと、こちらを睥睨する彼女。

 

 その姿は、変わり果てていた。

 

 

 

 「ウララちゃん、ファル子気づいちゃったんだぁ」

 

 「お前、今まで気づかなすぎじゃない? 赤ちゃんよりも、新発見の連続じゃん」

 

 「くふふっ」

 

 おかしそうに笑う彼女。

 

 そのツインテールは、くるぶしまで伸びており。

 

 

 

 「うわぁ会長、大人の女って感じ。また好きになっちゃうじゃン? 反則だよそれ」

 

 「後でかわいがってやる。楽しみにしていろ駄犬」

 

 「声までセクシー……! 濡れるッ!」

 

 そのすらりと伸びた手足は、同じ栗毛のウマ娘。

 

 タイキシャトル程の、視野の高さを彼女に与え。

 

 

 

 「ファル子さんッ! そこでダブルピースッ!」

 

 「…………」

 

 そのたわわに実った果実は、クリークママを想起させる程に。

 

 官能的な、母性に満ち溢れていた。

 

 

 

 「強制的に成長したんだ……! ウララを倒せる年齢までッ!」

 

 「三十路から何歳育てばああなるんだよ。

 成長期来るの遅すぎだろ。……待てよ、わたしにもこれから成長期が?」

 

 「それは無い」

 

 「ありませんね」

 

 「無いと思うのである」

 

 「ウララママ、現実見なよ」

 

 「ウララちゃんは、ちっちゃいからかわいいんだよ?」

 

 「お前らマジでいい加減にしろよ」

 

 あと、ケツもやたらにでかかった。

 

 ハルウララは、三十路からの成長期の実例を見て。

 

 希望にちっちゃなボディを震わせたが、バ鹿どもに全否定。

 

 怒りにその身を震わせた。

 

 先ほど余分な血を抜いておらねば、脳溢血もあり得る血圧の急上昇である。

 

 

 

 「おい、アダルトファル子ちゃん(仮)。成長の秘訣をわたしに教えろ。

 そうすれば、命だけは助けてやる。領域か? 領域なのか? マジで死活問題なんだよ。

 このミニマムボディじゃ、百人はきついんだよ……!」

 

 「ウララ先輩、マジで産む気なのであるな」

 

 「成長してもきついと思うンだけど」

 

 「だからヨルウララを、オレの前で赤裸々に話すのはやめろとあれほど」

 

 「体験談から言わせてもらいますが、一人でも相当きついですよ」

 

 ハルウララは必死だった。

 

 周りのウマ娘たちは、結構育ったというのに。

 

 自分は一向にちっちゃいまま。

 

 このままでは、彼ピッピの愛は受け止めきれぬ。

 

 根性でなんとかしようとは思うが、愛で殺害される危険性すらあるのだ。

 

 ここは信条を曲げて、下手に出てでもコツを聞くべき時である。

 

 

 

 「んふっ。ウララちゃん、別にファル子は大したことしてないよ?

 時計が動き出しただけ。ねぇ、()()()()()()()()()?」

 

 「ファル子さん……!? まさか、記憶が……!?

 ……いいえ、あの時あなたは気を失って居たはず! 覚えている筈が無いッ!」

 

 「全部捨てようとしたけど、逆に全部思い出しちゃった。

 フラッシュちゃんは、頭がいいけどバ鹿だよね。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 「ッ……!」

 

 「『スマートファルコン』が聞いてたよ。馬の言葉なんてわからないけど。

 完全に取り込んだからね。聞いた言葉ぐらいはわかる」

 

 エイシンフラッシュは、愕然と立ち竦んだ。

 

 知られてはいけない物語。

 

 彼女にだけは、教えられなかった。

 

 罪は自分だけが、抱えていればいい。

 

 愛しい彼女(ウマドル)に、傷など背負わせるわけにはいかないから。

 

 

 

 「ああ、勘違いしないでね? ファル子、恨んでないよ。

 二人が私を愛してくれたこと。

 二人が私のために、色々な物を捨てたこと。

 二人が私を想って、私から離れたこと。

 ぜんぶぜんぶ、思い出した。

 大好きだよ、フラッシュちゃん。もう二度と逃がさない」

 

 「ファル子さん……」

 

 「ハッピーエンドだね。でもファル子ちゃん」

 

 ハルウララは、にこやかに告げた。

 

 彼女の全身から立ち上る、ある感情を見て取って。

 

 

 

 「このまま終わらせる気、無いよね?」

 

 「当たり前だよウララちゃん。ハッピーエンドはまだ遠い。

 ウララちゃんはさ、自分を怒らせたヤツを許せる?」

 

 「さっき許したよ。戦いが終わったらシバくけど」

 

 「許せていないのである」

 

 「ウララに怒りを納めさせるには、人身御供かウマ身御供が不可欠だからな」

 

 「怒った時のヤバさが、完全に荒御魂。水害とか疫病でも起こすンかな?」

 

 『憤怒』の化身と言われるウマ娘。

 

 ハルウララが、その怒りを抑えられないように。

 

 

 

 「ルドルフ会長が、その傲慢を以て頂点に君臨したように。

 ネイチャちゃんが、その嫉妬を以て全てを泥に沈めたように。

 私たちは、その本質から逃れることは出来ない」

 

 「ふぅん。()()()()()なんて、持ち出すとはね。

 学園時代のつまらんあだ名に、何の意味がある?」

 

 この世界では、奇跡を実現する三女神が駆逐したもののひとつ。

 

 細々と残る、とある宗教の名残。

 

 七つの美徳と、七つの大罪。

 

 

 

 「ああ、学生時代聞いたことがあるのである」

 

 「ウララママの世代の、十四人のウマ娘だっけ?」

 

 「ああ、他にも強いウマ娘ばっかりの。一般ウマ娘にとっては、絶望の世代。

 その中でも強すぎる十四人が、そう言われていたな」

 

 『傲慢』のシンボリルドルフ。

 一切の敗北を許容できなかった、誇り高過ぎた皇帝。

 

 『謙譲』のエアグルーヴ。

 身を尽くして、皇帝を支えた影の立役者たる女帝。

 

 『嫉妬』のナイスネイチャ。

 煌めく星に憧れて、全てを堕とす汚い帝王。

 

 『忍耐』のトウカイテイオー。

 度重なる故障にも挫けず、奇跡を起こした光の帝王。

 

 『怠惰』のゴールドシップ。

 彼女にとって価値ある戦いにしか、本気を出さぬ浮沈艦。

 

 『勤勉』のメジロマックイーン。

 貴顕の誇りを胸に抱き、目標に邁進した名優。

 

 『暴食』のオグリキャップとスペシャルウィーク。

 食べ過ぎ注意。

 

 『節制』のスーパークリーク。

 ちょっとは自制して欲しい(願望)。

 

 『色欲』のダイワスカーレット。

 色ボケ。

 

 『純潔』のウオッカ。

 恋愛クソ雑魚。

 

 『憤怒』のハルウララ。

 すぐキレる。

 

 『寛容』のキングヘイロー。

 ぽわぽわしてる。

 

 『分別』のエイシンフラッシュ。

 計画的犯行。

 

 そして。

 

 

 

 「私は、『強欲』のスマートファルコン! 何もかも欲しくてたまらない!」

 

 「絶対考えたやつ、途中でめんどくさくなったのである」

 

 「サイレンススズカとか入ってないし、十五人居るしね。

 願望まで入っちゃってるじゃん。いつもの学園のアホなノリだね」

 

 「うるさいぞ外野」

 

 気を取り直して、スマートファルコンは高らかに告げる。

 

 

 

 「だからさ、ウララちゃん! ファル子の物にしてあげる!

 お友達だもんね? 答えなんて聞いてない!」

 

 「こいつ、本当に厄介だな……! 敵にしても味方にしても、話を聞きやしない!」

 

 「ウララ、世の中には鏡というものが有ってな?」

 

 「うるさいぞジジイ」

 

 「ウボア」

 

 引き続く老人虐待。

 

 オリウマ娘といえど、暴力の対象には出来ぬ。

 

 コンプライアンスに反するからだ。

 

 

 

 「さあ第三ラウンドだよウララちゃん! 今度こそ、ファル子の本気を見せてあげる!」

 

 「はっ。長年溜め込んだアレも失くなったのに。大した自信だね、ファル子ちゃん?」

 

 「ああ、勘違いしてるよウララちゃん」

 

 天頂を指差して、スマートファルコンは告げた。

 

 

 

 「ファル子は現役時代、確かにダート走者だったよ?

 でもね、今は海賊王ッ! 愛は、形を変えても失われないッ!」

 

 ざぁざぁと、降りしきる雨。

 

 それは、悪魔のように黒く。

 

 それは、地獄のように熱く。

 

 それは、天使のように純粋で、

 

 それは、恋のように甘やかに。

 

 砂を溶かすほどの集中豪雨。

 

 呆れるほどに膨大なそれは、いつしか領域に満ち満ちて。

 

 

 

 「作者の書きたかったものなんて、知ったこっちゃないよねぇ!?

 だからファル子が書き換えるッ! わがままだらけの強欲を見よ!

 完全展開、『暴夜物語(えいえんのさばく)』改メッ! 『完全無欠の人魚姫(クスリをキメたアンデルセン)』ッ!」

 

 

 

 

 

 続かない



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ファル子さんじゅういっさい そのよんじゅうろく わがままばかりのオーケストラ

色々な言語を使うと、勉強になりますが。
書くのにやたらと時間がかかる。
詳しい方で、誤りを発見したらご指摘頂きたく。


~前回までのあらすじ~

 

 苦しみ喘ぐ泥の怪物。

 

 わくわく見守るハルウララ。

 

 反省しないアホどもを、鉄板が悲しげに焼き続け。

 

 暇潰しに、トレピッピでケツドラム。

 

 ハルウララは、いつ何時もどこ吹く風。

 

 その行動は、常にユキオーの予想を裏切り続ける。

 

 道理を無茶で吹き飛ばしてきた、その生き様こそウマ娘。

 

 この世界で最もわがままないきものである。

 

 必死に駄目な見本を学ぶユキオーに、指差し告げるは次なる闘争。

 

 もっと楽しみたかったが、バ鹿をわからせるためなら致し方ない。

 

 口先だけの、許しの言葉。

 

 己の信条に反するそれは、ハルウララの心をいたく傷つけた。許さん。

 

 八つ当たり気味に連続ジャブ。

 

 叩き込むおてては乾いた泥にひびを入れ。

 

 崩れる繭から現れる、やたらでっかくなったバ鹿。

 

 スマートファルコンは、変質していた。

 

 その精神を体現する、ワガママボディ。

 

 三十路を過ぎた成長期。ハルウララは希望を見て。

 

 トレピッピとの愛のため、成長の秘訣を聞き出さんと試みる。

 

 スマートファルコンは告げる。

 

 時計が動き出したのだ。

 

 止まった針は軋みを上げてぶち壊れ。

 

 メフィストフェレスの懺悔もいらぬ。

 

 その意思を示すため己の罪を、朗々と歌い上げる。

 

 7つの美徳、7つの大罪。

 

 学生時代に詠われた、十四の化身。

 

 砂の隼が司るはグリード。強欲の化身たる海賊王。

 

 なにもかもをも奪いつくし、ハッピーエンドを叩き込む。

 

 タレーランの恋した飲み物のように。

 

 悪魔のように黒い欲望。

 

 地獄のように熱い想い。

 

 天使のように純粋で。

 

 甘やかな恋はこの胸に。

 

 後悔などは投げ捨てた。

 

 幸せな未来を掴みとれ。

 

 大航海を始めよう。わがままだらけの完全展開。

 

 バッドエンドを書き換えた、想いのままのハッピーエンド。

 

 渇いた砂漠は、愛に満ちた大海原へと変わっていた。

 

 

 

 

 「海ィッ!? なんであるかこれっ!」

 

 「さすが会長ッ! 道理がまったく通ってないッ!」

 

 「完全展開を、()()()()()だとぉッ!? ふざけんなウマ娘学会ッ! 会費返せッ!」

 

 「ファル子さんかっこいいっ!」

 

 ばしゃりと海面へと落下。

 

 慌てふためく衆愚ども。

 

 ハルウララは、やれやれと嘆息した。

 

 

 

 「状況適応力が低い。そんなんじゃ、これから先生きのこの山」

 

 「なんでっ!? 水面を走っているのであるッ!?」

 

 「わたしはちなみにたけのこ派ッ! 六おじいちゃんは!?」

 

 「煎餅」

 

 「六平トレーナー、せめてチョコ菓子にしてください」

 

 パパパパパパン、と連続して弾ける水面。

 

 愛しのトレピッピを濡らすわけにはいかない。

 

 当然の如く、ハルウララは水面を跳ねていた。

 

 

 

 「沈む前に跳ねればいける」

 

 「右足が沈む前に左足理論よりひどい。……ちなみにどンぐらい行けそう?」

 

 「13kmや」

 

 「藍染暗殺目論みそう」

 

 実際は、ほぼ無限に行ける。

 

 この海、粘度がわりと高い。砂が混じっているためだろう。

 

 片栗粉を溶かし尽くした水のように、衝撃を与えれば反動を得られる。

 

 逆に引きずり込まれると、動きを通常の海より制限される。

 

 足元で藻掻く、バ鹿どものように。

 

 止まるわけにはいかない。アイツに対してその隙は大きすぎる。

 

 

 

 「あははっ! さすがだねウララちゃんっ!」

 

 「ファル子ちゃん、いつから魚になったんだい? ウマの誇りはどうした」

 

 ばしゃんばしゃんと跳ねる音。

 

 生き生きとした表情で、迫りくるスマートファルコン。

 

 生気に満ち溢れた顔は、悔しいが魅力的。

 

 その右足が、ぶぅんと不穏な音を立てる。

 

 ハルウララは、回避のために脚に力を籠めた。

 

 

 

 「誇りでハーレムが作れるかッ!」

 

 「捨てるにも理由がひどいのであるッ!」

 

 ドン、と快音。割れる海。

 

 『海割』。夏合宿でスマートファルコンが会得した奥義。

 

 それを見た彼女のトレーナーは、さすがに跪いて許しを乞うたと言う。

 

 エイシンフラッシュと、イチャイチャしすぎていたためだ。

 

 ただでさえ、バ鹿げた出力を叩きだすその奥義。

 

 彼女の成長した肉体は、聖者の奇跡を再現する。

 

 

 

 「さすがに冗談が過ぎるッ!」

 

 「モーセもこれにはびっくりですッ!」

 

 海がばかりと顎を開き、何も無い海底が見える。

 

 両側に聳え立つ壁は、数秒後に奈落の底へ流れ込む。

 

 

 

 「アフちゃん、ユキちゃん。頑張って生き残れッ! ジジイと黒鹿毛はどうでもいいッ!」

 

 「助けてくれないンッ!?」

 

 「わたしは優先順位を間違えない」

 

 「そこに痺れて恨むのであるゥゥゥぅッ! ウボァ」

 

 「やれやれですね。潜水は得意ではないのですが」

 

 「すまねぇオグリ……先に逝くぜ」

 

 ハルウララが緊急離脱すると、焼き土下座からの海底旅行。

 

 急転直下のその展開に、飲み込まれる娘2人とバ鹿2人。

 

 腕の中のトレピッピが、急激に増したGに苦し気に呻く。

 

 

 

 「あはは。死なないから安心してね? なんたって肉体()()優しい心折(しんせつ)設計だよ」

 

 「心は折るんじゃねぇか。まぁかわいい子は千尋の谷にダンクシュート。

 ママも言ってたように、いい社会勉強になるかなぁ」

 

 そう、先ほど実証されたように。

 

 完全展開で具現化された物だけでは、肉体にダメージは無い。

 

 砂に沈もうと、海に沈もうと。窒息死する危険性はない。

 

 その証拠に。

 

 

 

 「ぬおおおおッ! 海であろうとなんのそのッ! 雲竜型ァッ!」

 

 「おお、成長したねアフちゃん。母として鼻が高い」

 

 どぱんとノックアップストリーム。

 

 竜巻のように巻きあがる水流。

 

 アフガンコウクウショーと、愉快な仲間たちが海中より飛び出してきた。

 

 部分展開を無理やり使い、上昇気流ならぬ上昇海流を産み出したのだろう。

 

 

 

 「ぜはーッ! ぜはーッ! 絶対助けてもらえない! ならば、自分で助かるしかないのであるッ!」

 

 「アフちゃん先輩ナイスッ! わたしは沈むしかできンからッ!」

 

 「素晴らしいですアフさん。百点をあげましょう」

 

 「コイツ、どの立場から言ってんだろなぁ」

 

 部分展開も、使っているうちに慣れてきたのだろう。

 

 洗濯機のような流れから脱し、空中でふわふわと元気そうにするバ鹿ども。

 

 ハルウララはなでおろす胸が無いことに気付き、さらに勝手に腹を立てた。

 

 

 

 「クソが。その無駄乳をもぎとってやる」

 

 「無駄じゃないよ? 夢と希望が大安売り。ファル子のお胸には、無限の未来が詰まってる!」

 

 「その未来をわたしが全部、投げ捨てて廃棄してやろう……!」

 

 ぶるんと胸を張って、海上に立つスマートファルコン。

 

 自分と違い、脚を動かす必要すらない。さらに腹が立ってきた。

 

 さらに怒りを天元突破し、ハルウララは加速する。

 

 その瞋恚(しんい)を示す連続する波紋は、怒涛の如く荒ぶった。

 

 

 

 「甘くて美味しいウララちゃんッ! ここはファル子の領域だよッ!?」

 

 「むおっ!? アフちゃんパスッ!」

 

 「ウボァ」

 

 突如として足元に開く渦潮。小刻みな走法では、次の足場に届かない。

 

 瞬時に判断し、トレピをパス。剛速球が褐色ロリを痛打する。

 

 自分だけなら、何があろうと生き残れる。

 

 その確信の元に行動したが、わりとマズいかもしれない。

 

 思いつつ、海底へと堕ちていくハルウララ。

 

 

 

 「あははっ! もう逃がさないッ! ウララちゃんさえ無力化すればっ! 

 全部手に入れたようなもんだよねッ! ファル子も優先順位を間違えないッ!」

 

 「ぬぅぅぅぉぉぉぉッ!」

 

 細く絞られる渦。

 

 揉みくちゃにされつつ、防御態勢。

 

 痛みはないが、なかなかに動きが制限される。

 

 思いつつ堕ちるその表情が、少しだけひきつった。

 

 

 

 「ウララママッ! アフちゃん先輩、完全展開って変わるもンッ!?」

 

 「変わるはずが無いのであるッ! 最後に選んだ夢であるぞッ!?」

 

 「ウマ娘学会の論文でも、一度選んだら変えられねぇと結論づけられてた筈だッ!」

 

 「ファル子さんはやはり、常識を超える……! それでこそ我が愛するウマッ!」

 

 「「「ちょっと黙っとれィッ!」」」

 

 海上で続く漫才に、スマートファルコンは口の端をゆがめた。

 

 完全展開を果たしたウマ娘が3人。夢を選んだ彼女たちは、もう次の夢を見られない。

 

 だが彼女たちとスマートファルコンは違う。完全展開をした状況が違うのだ。

 

 

 

 「勘違いしてないッ!? ファル子は()()()()()()()ッ!」

 

 「なンッ!?」

 

 「なるほど……! あの日、ファル子さんは強制的に……!」

 

 選択肢すら与えられず、開いてしまった砂漠。

 

 それは『スマートファルコン(ウマソウル)』の選んだ夢であり。

 

 スマートファルコン(今を生きる彼女)の選んだ夢ではない。

 

 彼女は先ほど選んだのだ。最後に見る夢を。

 

 三十一年にも及ぶ、自らの生の集大成。

 

 通常はトレセン学園のウマ娘が、レースに勝つために見る夢。

 

 海賊王は、まったく別の目的のために夢を見た。

 

 

 

 「人魚姫は泡になって消えました!? それじゃあどうみてもバッドエンド! そんなのファル子は許さない!」

 

 ごうごうと渦巻く波に乗り、スマートファルコンは加速する。

 

 その手に掴むマイク。たなびく旗は大漁を示すように。

 

 

 

 「人魚姫は王子様と結ばれました!? 意識が低すぎ、ノーマルエンド!」

 

 堕ちゆくハルウララを中心に、廻るワルツは情熱を示す。

 

 渦はその半径をぎゅるぎゅると狭めていき、ちいさな身体を締め上げる。

 

 

 

 「ぐああッ!?」

 

 「人魚姫は、あらゆるものを深海に! 引きずり込んで、ハーレム築く! 

 これこそ完全無欠のハッピーエンド! お前ら全員、ファル子がかわいがり尽くしてやんよ!」

 

 ハルウララを巻き込む水流は龍と化し。

 

 その姿をどこまでも沈めて行く。

 

 堕ちて堕ちて堕ちゆく先は、スマートファルコンの腕の中。

 

 

 

 「(だい)(かい)(ショウ)ッ!」

 

 「グボァッ!?」

 

 ぎゅううと抱きしめる幼き身体。

 

 海底の水圧をも加算した、愛の抱擁はハルウララの腕力を超え。

 

 その肉体をぺしゃんこにすべく、彼女を締め付け悲鳴を絞り出す。

 

 

 

 「色気がないねウララちゃんッ! お歌の時間、楽しく逝こうッ!」

 

 「は、な、せぇぇぇぇッ……! 領域……」

 

 「展開されるわけあるかいッ! 私は今なら歌えちゃうッ!」

 

 桜色が失せた鹿毛。

 

 振り絞らせて、枯木にしては味わえぬ。

 

 抱きしめる両腕は強くハグを継続し。

 

 愛らしいウマ耳に、愛の限りを叩きつける。

 

 取り戻した歌は、轟音のオーケストラを奏で始める。

 

 マイクなど使わずとも、愛の力は無限大……! 

 

 

 

 「Freude schöner Götterfunken(歓喜よ! 美しき神々の光!)!」

 

 ドイツ語は、取り戻した。歌おう。この歓喜を。

 

 失った者の歌。苦痛と絶望に彩られた半生。

 

 だが、彼は喜びを奏でた。ならば取り戻した自分も奏でよう。

 

 きっとこの歌は、喜びと共に自分に勝利をもたらすから。

 

 

 

 「Drei Göttinnen aus Himmel(天上におわす三女神よ), Wir betreten feuertrunken(我らは情熱と陶酔の中), Himmlische dein Heiligtum(汝らの聖殿に脚を踏み入れよう)! 」

 

 三女神は望んでいるのだ。我らの幸福を。掴み取らねばならない。

 

 勝利を捧げて、その報酬を得よう。

 

 きっと甘美に違いない。甘やかな絶望を、叩きつけて全てを奪う。

 

 

 

 「Mein Gesang binden wieder(我が歌声にて再び一つとなる), Was die Mode streng geteilt(時の流れが引き裂いたもの)

 

 鬼畜外道おおいに結構。純真なままで居られるのは十代まで。

 

 三十路を過ぎれば、手段を選んでいられない。

 

 

 

 「Alle existieren werden mein(全ては我が物となる), Wo mein Flügel weilt(我が翼でもって)!」

 

 この翼で全てを包もう。飛べない自分にはふさわしい。

 

 この歌声は、ハルウララを包み込み。

 

 喜びで以て、その矮躯を吞み込んで。

 

 

 

 「愛してるぜ、ウララちゃんッ! 喰らい尽くして私を愛せッ! 

 強欲な人魚姫の、愛の歌はちと痛いッ! 交()曲第九ッ!」

 

 何も聞こえなくても、歌えていた。

 

 彼女の声も、ドイツ語も。あらゆる愛はこの耳には届かず。

 

 ならば全てを取り戻した今、この歌声はどこまでも響き。

 

 全てを呑み込む濁流と成す……! 

 

 

 

 「『歓喜の砲声(ベートーヴェン)』ッ! Laaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!」

 

 海底から天上へ向かい、打ち上げられるハルウララ。

 

 ちょっと気持ちよく歌いすぎた。生きてると思いたいな。

 

 スマートファルコンは、舌ペロしてウィンクした。

 

 手加減とか、忘れてた。

 

 

 

 

 つづかない



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