機動戦士ガンダムUC F (壊れゆく鉄球)
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第二次ネオ・ジオン戦争編
シャアの反乱


《第1戦闘配備、隔壁閉鎖。パイロットは各自MSにて待機を!》

 

警報とともに第1戦闘配備を命じられる。俺はコックピットに乗り込み起動させる。

 

「これが俺の初陣か……」

 

「カイト准尉、初めての実戦だけど機体は大丈夫か?」

 

「スポッター機付長!調整は済んでいるんですが……初の実戦なんでちょっと…いやかなり緊張していますね」

 

俺が本音を漏らしていると、俺の機体―――バウ―――の機付長、スポッターさんがきた。この人は第1次ネオジオン戦争から参加しているらしく、俺から見ればかなりのベテランだ。

 

「まあそこまで緊張すんなって。准尉、ここは最前線からは離れている。連邦と会っても小戦力さ」

 

「うぅ…はい。スポッター機付長、離れてください。出ますよ」

 

「了解」

 

そう言ってスポッターさんが離れていく。それを確認しながら俺はカタパルトまで歩かせる。

 

「カイト・マツムラ、バウで出ます!」

 

それに合わせてフットペダルを踏み加速させる。前からのGに耐えながら先に出ていたドライセンに合流する。すると、ドライセンから通信が入った。

 

《おい新米!初めての実戦だからって浮かれれるんじゃねえぞ!》

 

「浮かれていませんし浮かれませんよザミュ大尉!」

 

この人も先の大戦に参加していた人だ。というよりも、パイロットで俺のような新米はこの船にはほとんどいない。新米の補充兵のだいたいがメカニックだ。俺のほかにもパイロットが配属されると思っていたのだが…はっきり言って気まずい。さらにh…いやここらで終わりにしておこう。今は戦闘中だ。

 

ピピピピピ!

 

そう思った矢先にこれである。センサーの示した方向を見るとスラスターの光とビームの光が見え……って危な!

とっさにシールドで防いで左手に持ったビームライフルを連射する。敵は…ジムⅢが3機か。奥に戦艦もいるようだが、味方にあたるのを警戒してか主砲を撃ってくる気配はない。

 

《准尉!敵艦は俺がやる。お前はテルスの援護に回れ!》

 

「了解ですザミュ大尉!」

 

そういうや否や、ザミュ大尉のドライセンがジムⅢにトライブレードが射出し、本体は敵の母艦に向かって行った。

 

「援護って言ったってビームライフルを撃って牽制すればいいんだ。そうすればテルス少尉が敵機を屠ってくれる」

 

自分にそう言い聞かせながらビームライフルを撃つ。そうするうちに、テルス少尉のドライセンがジムⅢを真っ二つに切った。

 

「ふぅ……」

 

《その調子よ、頑張って!》

 

「は、は…うわああぁぁぁ!」

 

テルス少尉に褒められ、返事をしようとしたらジムⅢのミサイルが俺を襲った。とっさに分離して避けたからいいモノの、一瞬でも遅れたらし、死んでいたかもしれない……。

 

「やられたままで終わるかよ!やり返してやる!」

 

バウ・ナッターにあるミサイルを発射し、バウ・アタッカーとともに背後に回って合体する。予想通りジムⅢはシールドで防御して生きているようだ。ジムⅢのカメラがこっちを向く。

 

「こっちに気づいたか!だがもう遅い!」

 

ジムⅢに向かいながらサーベルを取り出し横に切り裂いた。そのまま振り向いてダメ押しにビームを打ち込む。何発か当たったところでジムⅢは爆散した。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…い、1機落としたぞ。俺の初めての戦果だ」

 

《お疲れ様。こっちももう1機落としたからおそらく敵にMSはもういない。カイト准尉、ザミュの援護に行くよ》

 

「了解しました」

 

バウを加速させ敵艦に向かう。機銃はザミュ大尉のドライセンに夢中になっているから狙撃するには今がチャンスか?

 

《カイト准尉、主砲は私がひきつけるから狙撃よろしくね》

 

「了解です」

 

ビームライフルを敵艦の艦橋に向ける。敵艦は2機のドライセンに翻弄されて混乱しているように見える。しかし、ドライセンも敵艦に有効打を与えられないようだ。

 

「あわてるなよ。ザミュ大尉とテルス少尉がひきつけてくれているんだ。外したら大恥だぜ」

 

ゆっくりとだが、ロックオンマーカーは敵艦の艦橋に近づいて行っている。

 

「………今だッ」

 

艦橋にあった瞬間にボタンを押す。すると、発射されたビームが吸い込まれるように艦橋に命中した。

 

《よくやった准尉。周囲に残存敵部隊なし。母艦に戻るぞ》

 

「《了解》」

 

初陣でMS1機、(協力して)戦艦1隻。なかなかの戦績ではないだろうか。まあ、ルウム戦役で活躍した方々には遠く及ばないが。

 

 

 

「准尉、初めての実戦はどうだった?」

 

「かなり緊張しましたがなんとかなりましたよ」

 

「しかし今回の実戦で准尉のデータが取れた。このデータでもうちょい准尉に合わせた調整ができるぞ」

 

「では後は任せましたよ」

 

パイロットスーツがかなり蒸れている。シャワーを浴びてすっきりさせたい。ほかのことはそこからでいいや。そう思いながらシャワールームへ向かおうとするとザミュ大尉が話しかけてきた。

 

「カイト」

 

「なんですザミュ大尉?」

 

さっきまで准尉と呼んでいたのにいきなり名前で呼んでくるとはどういうことだ?

 

「さっきの戦闘の動きは初陣にしてよかった。だが、それで満足するなよ。まあ、そんなところだ」

 

「はっ!」

 

そういって通路のほうへ行った。う~ん、なんか気分が変わった。機体の調整を手伝おうかな。

 

「スポッター機付長!機体の調整手伝いますー!」

 

 

つづく




ユニコーンの完結記念に書いてみたのですがどうでしょうか?


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陽動任務

初の実戦から5日後、ネオジオン軍本隊がアクシズの奪取しに行ったが、俺たちの任務は本隊に合流しないで相も変わらずの陽動だ。たかが1隻で何ができるかはわからんが。

この戦争が終わりに近づいていくのを感じる。でも、俺の機体をもっと動かしたいように調整してくれたスポッターさんに感謝しないとな。あとは生きて帰ってくるだけだ。

 

「機体の調整はばっちりだがちょっとでも気持ち悪いとこあったらすぐ戻って来いよ」

 

「大丈夫ですよスポッター機付長。問題なんてありませんよ」

 

「ならいいんだけどな」

 

コックピットハッチと閉じカタパルトまで歩かせる。この作業もこなれたものだ。

 

「カイト・マツムラ、バウ、行きます!」

 

この出撃時のGに慣れるのはまだまだ時間がかかりそうだ。

センサーを見て機種を照合する。ジェ…ガン?確か連邦の新型のはずだ。これを配備されているということは………かなりの手練れがいるということか。

 

《准尉、敵は連邦の新型だ。いつもより手ごわいかもしれんが、いつも通りのフォーメーションで攻めるぞ》

 

「わかりました」

 

命令とともにシールドのメガ粒子砲を発射して敵を分断させる。ザミュ大尉が分断された1機に向かって行く。テルス少尉とともに残りの2機を落としにかかるか。

 

ビームライフルを撃つが、敵の動きが怪しい。まるで5日前の俺を見ているような動きだ。浮足立っている。なら―――――

 

「――――逃げ場をなくして当てる!」

 

ビームをジェガンの少し前に撃って足が止まったところで次のビームで当てる。ほっとしたのもつかの間、敵艦の発砲でテルス少尉と分断される。それと同時に敵艦周辺にいたMSがこっちに来るのを確認。数は3で、全部……俺ェ!?

 

「おいおいおいおいおいおい!この数の相手はできんぞ!?」

 

《准尉、今向かう。少しの間耐えるんだ》

 

「了解!」

 

敵のジェガンがビームライフルを一斉射撃を行うが、アタッカーとナッターに分離して回避。ジェガンは背中合わせの密集体系で俺を落とそうとする。

 

「その程度じゃ俺を捕らえられんぞォ!」

 

こんなこと言ってもギリギリ避けているだけでいつ当たってもおかしくない。なかなか当たらなないことにしびれを切らしたのか1機突っ込んできた。

 

「ジムⅢより早い!?」

 

すぐに合体するが、合体した瞬間を狙われて足を切られる。

 

「ちっ……!アンバックしにくいように整形してくれやがって!」

 

ライフルを銃剣モードに変えて切りかがるが、ビームサーベルで防がれる。

 

「右利きかよやりにくい……!だったら!」

 

シールドでジェガンのシールドどかし腕部のグレネードでコックピットを破壊する。

 

《よくやった准尉!敵は仲間が落とされた影響で動揺している!》

 

そういいつつザミュ大尉は片方にビームガトリングガンでハチの巣にし、もう1機をトライブレードで足止めをしてビームトマホークで切り裂いた。

敵艦を落とそうと思ったがすでに戦闘宙域から離れていて、ナッターをミサイルに使っても届きそうにない。……それ以前に両足を切られていて飛ばすこと自体できないが。

 

《准尉、一度艦に戻って補給を受けるぞ》

 

「了解!」

 

 

 

 

「ふう……」

 

「お疲れ様准尉。しっかしまあ派手に壊してくれたもんだ」

 

「うぅ……。すみません」

 

「ま、予備パーツがあるから何とかなるが気を付けてくれよ?」

 

「ぜ、善処します」

 

さっきのは応戦するじゃなくて別のところで合体すればよかったか?シミュレーターで訓練しなくっちゃあな……。

 

「そういえば准尉。もうすぐこの艦も本隊に合流するらしいぞ」

 

「本当ですか!?」

 

単艦で連邦の陽動にまわれと言われて目の前が真っ暗だったがこれで少しは光が見える。しかし本隊と合流か……。さしずめアクシズの防衛だろうか。ということはさっきの奴らよりもっと強いのが出てくるということで……。

 

《MSパイロット各自へ、0800にブリーフィングを行います。至急ブリーフィングルームへ!》

 

「だってよ?」

 

「のようですね。行ってきますよ」

 

コックピットを蹴って出口にまで移動する。時間を確認するが、今は7:42か……。ブリーフィングルームまで普通に行くと20分くらいかかるから…やべぇ急がねえと!

 

 

 

 

「7:58か。ぎりぎりセーフ……!」

 

襟元をただし、入室する。だが、聞こえたのは俺に対する怒号であった。

 

「カイト准尉、遅いぞ!何やっていたんだ!5分前には来るように教え込まれなかったか!」

 

「申し訳ありません艦長!道に迷っておりました!」

 

「………今回はいい。次はないぞ」

 

「はっ!」

 

所定の席に座り、艦長に聞こえないように溜息を吐いた。いや、遅れかけた俺も悪いよ?でも時間設定とかもうちょっとどうにかならなかったのか?

 

「さて、今回のブリーフィングは次の任務のことだ。本艦は0820を持って本隊と合流しアクシズの防衛に入る。出番が来るまでパイロットはMSに待機。以上だ」

 

『はっ!』

 

「では解散!」

 

艦長が先に出て、テルス少尉や砲雷長などのほかの長も出ていく。その中で、ザミュ大尉は出て行かず俺に話しかけてきた。

 

「道に迷ったってのはウソだろカイト?」

 

「うぅ……そうですが逆に大尉はなんでそんなに早くにブリーフィングルームにいたんですか?MSデッキをでるのは小官とあまり変わらなかったはずですが……」

 

「素直に主通路を通ってきたんだろ?この艦には近道ってのもあるんだよ。教えるからついてこい」

 

「りょーかい」

 

本隊と合流まで、あと3時間。

 

つづく



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アクシズ防衛戦

エンドラⅡが本隊と合流した時、アクシズにある核パルスエンジンに火がついた。当然、すでに戦闘になっているので俺はバウに乗って母艦の防衛をやっている。

しかし、俺たちが使っている先のネオジオン戦争の時に使われた機体が見当たらないな。

 

《准尉!俺たちは防衛線を抜けてきた敵機を落とす。いいな?》

 

「了解ですザミュ大尉!」

 

遠くを見ると、ミサイルやMSの爆発の光より大きなものが見える。データベースでは熱量から核ミサイルだと判別しているが……ロンド・ベルはどっから調達してきたんだ?しかも普通のミサイルをダミーとして扱っているところを見ると数はそこまで多くないと思うんだが……。

 

ピピピピ!

 

「来た……!」

 

抜けてきたジェガンがビームサーベルを手に持って突っ込んでくる。こちらもビームサーベルを持って応戦する。時々切り払ってジェガンから離れようとするがジェガンはしつこく俺を狙ってくる。

 

「いい加減しつこいんだよっ!」

 

何度目か切り結んだ時にジェガンのシールドを足場にして離れる。すると、ジェガンのシールドからグレネードが発射された。

 

「なめるな!コッチにだってシールドに武装がついているんだよっ!」

 

メガ粒子砲を使ってグレネードを破壊し、また1射する。しかし、それはジェガンのシールドを破壊するにとどまった。

 

「逃がすかよ!」

 

シールドを破壊されたジェガンはビームライフルを撃って後退しようとするが、俺が撃ったビームライフルが数発被弾し爆散した。

 

「スゴイ戦場だな。ビームの軌跡がいろんなところにある。流れ弾に注意しなくちゃ」

 

通信を聞く限りシャア総帥もアクシズ防衛のために出撃しているらしい。見られているわけないと思うが無様な姿は見せられないな。

 

《カイト准尉出すぎだ!前にいる敵は本隊の奴らに任せておけ!》

 

「了解、失礼しました!」

 

返事をしながらミサイルにビームを撃つ。ジェガンに母艦から離され過ぎたか……!

 

《エンドラ隊各機へ。もう少し前線へ出てアクシズの防衛を!》

 

『了解!』

 

だったら最前線とアクシズの間にいればいいか?

 

ピピピピ!

 

「ミサイルか!なに!?勝手に爆発しただと!?」

 

ビームの光が全く見えなかったぞ!いや、前方に1機味方機がいる。データベースには『ヤクト・ドーガ』と示されている。奥の方にもサザビーとともに赤いのがいる。

 

「アレは確か俺たちの最新鋭機でニュータイプ用だったはずだ。噂じゃあルナツーの核を奪いに行ったって聞いたが……もしかして分隊がコッチに到着したのか……?」

 

《そこの君聞こえるか?》

 

この声はシャア総帥!?モニターにはほかに民間人のような少女もいる。アクシズに民間人いたっけ?この人もしかして……あっ。

 

「はっ!聞こえております!」

 

《このヤクト・ドーガをアクシズに持ってってくれ。頼んだぞ》

 

「はっ!了解しました」

 

赤いヤクトドーガを回収するが、右腕が破壊されておりパイロットも載っていない。さっきの少女が乗ってきたっていうのか?ウソだと思いたいが……。

 

「ザミュ大尉、テルス少尉!援護お願いします!」

 

《任せろ!》

 

《わかった》

 

総帥からの直接言われたんだ。これは絶対成功させなくちゃいけないな。

 

「ビームの光が少なくなって……連邦が引いてってるのか」

 

それに合わせてギラ・ドーガの部隊も戻ってきている。総帥のサザビーは未だに動いていないがじきに帰還するのか。

 

《だがこれは所詮第一派だ。すぐに第二派が来るかもしれん。早く戻ったほうがいい》

 

「そうですね」

 

ペダルを踏んでさらに加速させる。しかし、このヤクト・ドーガってヤツには何かを感じる。なんなんだこの感じは。

 

 

 

「ナッターの部分交換できます?さっきの戦闘で結構雑に扱っちゃったので」

 

「戦闘記録を見ればそうだがフレームは歪んでないしケーブルも交換したから無理だな」

 

「そうですか……。じゃあ戦闘が始まったらナッターの部分をいつでも飛ばせるようにできます?」

 

「そこはほかの奴らと相談だな。俺の独断じゃあ無理だ」

 

「そうですか……」

 

「シャワーでも浴びて来いよ。戦闘になる前にすっきりしたほうが気分もいいだろ?」

 

「そうっすね。じゃああとは任せます」

 

「任された!」

 

シャワーを浴びるついでになんか食べに行くか。旧世紀の東洋にいたサムライも『腹が減っては戦はできぬ』って言ってるからな!

 

 

 

味気ない宇宙食を食べ、シャワーを浴びて大体大体30分ぐらいに発進命令が出された。今度は俺たちも本格的に前に出るようだ。

 

「前方に味方機が2機いる。ヤクト・ドーガと新型の……MA!?先行してロンド・ベルの部隊を倒しに行くのか」

 

《准尉、艦長はさっきあー言ったが基本的にはさっきとあんまり変わらないからな》

 

「わかりました」

 

前方に爆発の光……あのMAがやったのか!?スゴイ火力だ。なんだ!?ヤクトが白いMSを追ってどっかに言ったと思ったらMAもどっかに行きやがった!後続のジェガンの相手をやってくれよ……。

 

「でも数は減らしてくれたからいいか」

 

《准尉、今までとは違って大部隊だ。気を抜くなよ!》

 

「了解……!」

 

シールドのメガ粒子砲とビームライフルを撃ちながら前進する。確かに今までと違う。この攻撃を防がないで避けているからな。ここで分離するのは悪手か。すると、何機がか抜けていくのが見える。

 

「抜けられた!?この野郎!」

 

《准尉!どこに行く!》

 

ここはギラ・ドーガに任せておけばいい。それよりも抜けていったジェガンを落とさなくては……!

 

「行かせるかっ!」

 

ビームライフルを撃ちながらサーベルを抜刀、切り結ぶ。しかし、それだけでは終わらずにバーニアを吹かしてデブリに叩きつける。

 

「貴様らとは推力が違うんだよ!」

 

グレネードを発射し、新たに来たジェガンと切り結ぶ。こっちはほとんど止まっていたのに対し向こうは加速しながら切りかかってきた。比べるまでもなく押される。ここはパワー勝負するべきではないか……!

 

そう考え、ジェガンのシールドを蹴って距離をとる。先ほどとは違いこのジェガンは距離を詰めようとはせずにビームライフルで応戦してきた。

どうする?そう思ったら、ジェガンの両腕が切り裂かれ爆発した。

 

《カイト!独断行動をするんじゃない!死にたいのか!》

 

「しかしj《しかしでもなんでもない!おまえの勝手な行動で味方が死ぬのかもしれないんだ!覚えておけ》……了解」

 

《説教はこれくらいでいいとして補給に戻るぞ。推進剤を使いすぎた》

 

「了解(ピピピピ!)なんだ!?」

 

《うぉぉぉ!!》

 

「大尉!?うわぁぁ!」

 

警告音が鳴った瞬間にモニターが真っ暗になった。ディスプレイで損傷具合を確認すると、頭部と左腕がやられていた。サブセンサーでモニターが復活するが、一部が映し出されていない。

 

「ザミュ大尉!大丈夫ですか!」

 

《頭部をやられた。撤退する》

 

「自分も撤退します。つかまってください。……っとその前に」

 

バウを分離し、ナッターをロンド・ベル艦隊に向けて発射する。これならある程度軽くなったぞ。ついでにビームライフルを回収しておく。

 

「では行きますよ」

 

《……安全運転でな》

 

「善処します!」

 

ペダルを踏んでトップスピードで行く。ドライセンのバーニアもありかなり速い。

 

ピピピピ!

 

あともう少しで母艦に着くというところでセンサーが反応した。

 

「後方に敵3。ジェガンの一個小隊か」

 

《准尉、先に戻ってろ。こいつらの相手をする》

 

「いえ、相手をする必要はありませんよ。グレネードを撃ちます」

 

グレネードを発射してジェガンをけん制する。それとともに前方からギラ・ドーガの小隊がジェガンに向かってビームマシンガンを撃ち始めた。

 

《エンドラⅡ、こちらザミュ大尉のドライセンとカイト准尉のバウだ!受け入れの準備を!》

 

《了解!……信号確認、着艦を許可します》

 

減速してカタパルトに着艦する。そのままMSデッキに入る。

 

「ふぅ~~。ヘルメットは外せんがこれで一息つける」

 

《カイト准尉!なんだこの損傷は!?》

 

「……気がついたらやられていたんですよ。何が起きたかはこっちが聞きたいくらいです」

 

《何はともあれよく帰ってきた。しかし……肩は付け根からやられて頭部もやられている。さすがにこの機体で戦いには出せねえなぁ》

 

「えぇ!?じゃあほかに使えるMSは!」

 

ここで俺はリタイヤなのか!?友軍は未だに戦っているのにか!?冗談じゃない!

 

《調べておく!何かあったら連絡するからなんか食べて来い!》

 

「さっき食べたばっかで入りませんよ!」

 

《なら邪魔にならないところで待機していろ!》

 

「りょーかい」

 

確かに俺は今邪魔か……。悔しいけど俺は艦でお留守番かよ……!でも何かあるかもしれないから待機ブロックで一睡しておくか……。

 

つづく




ちなみにですがバウとドライセンをやったのはνガンダムです。


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『機動戦士ガンダムサイドストーリーズ』明日発売記念


《…尉!准尉!起きろ!》

 

「………はっ!」

 

寝てから何分経った?まさか作戦は完了したのか?慌てて時計を見るが、時間はまだ10分も経っていない。

 

《カイト准尉、大丈夫か?》

 

「……スポッター機付長。今戦況はどんな感じで?」

 

《まだ戦闘は終わっていない。でも准尉が乗れる機体が見つかったぞ!》

 

「本当ですか!?」

 

《ああ、ついてきてくれ》

 

スポッターさんについていくと、そこには俺が運んだヤクト・ドーガがあった。もちろん、修理はされている。

 

「スポッター機付長、こいつニュータイプ専用だったはずですよ?」

 

《確かにこいつはサイコミュ搭載機だがビームライフルとかを使うのだったらオールドタイプでもできる。しかもこいつには『サイコフレーム』と呼ばれる材質がコックピット周辺に使われているからニュータイプ適性が低いヤツでも使えるそうだ》

 

「説明書を見る限りほかの材質はガンダリウムだから対弾性もいいのか。しかも分離状態のバウぐらいの機動力がある」

 

渡された資料通りに機体の機動設定をする。武装もバウのものに近い。何とか使えるか……?

 

《しかし准尉のニュータイプとしての能力がわからないからサイコミュの調整ができない。つまりファンネルの細かい動作はできないって考えてくれ》

 

「わかりました。しかしなんでこの機体自分に支給されたんです?」

 

《ほかに准尉に回せる機体がないってのと、この機体を遊ばせておく余裕がないからってよ》

 

「ま、そんなもんですよね。では行きます」

 

《ちゃんと戻って来いよ》

 

「わかってますよ。カイト・マツムラ、ヤクト・ドーガで出ます!……っ!」

 

カタパルトから離れ、フットペダルをいつも通りに踏み込んだら予想以上のGが来た。機種転換の訓練も受けていないのにこの機体を扱うのは無理なんじゃないか?

 

「早く慣れるしかない…か。うぅ……!」

 

しかしこの機体はサイコミュを搭載しているからか不思議だ。いろんな感情を感じ取ってしまう。もちろん、死に際の言葉まで。敵味方問わずだ。

 

「いけ、ファンネル!ジェガンを撃て!」

 

サイコミュの調整ができていないからってファンネルが使えないわけではない。だが、以前使っていたパイロット用に調整されているからか違和感を感じぱなっしだ。

俺が使えるのは頑張って2基だが、立ち止まって集中すればもうちょいいけそうな感じがする。

 

「よし、足が止まった!今!」

 

左手に持ったメガガトリングガンがジェガンをハチの巣にする。これでいけばある程度いけるかもな。

 

《カイト君?その機体は?》

 

「テルス少尉!自分の乗機がすぐには修繕が不可能とのことでこの機体を拝領しました!」

 

《その機体……不思議な感じがする……》

 

「は?」

 

思わず間抜けた声を出したがそれはサイコフレームのことではないだろうか。

 

《いえ、問題ないわ。援護して》

 

「了解!」

 

テルス少尉が敵に切りかかり、その間にファンネルが敵のコックピットを破壊する。敵の思念が聞こえるがすべて無視だ。ヘタしたら飲み込まれてしまう。

 

《テルス、それに准尉、無事だな》

 

「大尉!機体の修理が終わったのですか」

 

《そうだ。しっかし准尉がサイコミュ機になるとは……》

 

「?」

 

《何でもない。連邦に反撃を加えるぞ!》

 

『了解!』

 

―――――ハサウェイ!

 

「!?」

 

いきなり頭の中に()()()()()声に思わず立ち止まってしまう。敵のジェガンがそれを見逃すはずもなくビームサーベルでファンネルを切りながら接近してきた。

 

「うっ!!」

 

《准尉何をしている!》

 

「―――――はっ!なっ!?」

 

切られる。そう思った時に体が勝手に動きジェガンの背後にまわりガトリングガンを掃射した。

 

「サイコミュが俺を引っ張ったのか……?」

 

《准尉、大丈夫か?》

 

「問題ありません。それよりもロンドベルを!」

 

《わかっている!》

 

新たにファンネルを展開しながら移動する。バウよりも敵を察知しやすいため先手をとれるのは大きなメリットだ。この機体を回してくれたのを感謝しなければ。

しかしこの宙域は味方が多すぎる!敵意があふれ過ぎて敵を感知できない。結局は敵を目視しなければいけないのは何かの皮肉か?

 

「まったく…便利なのか不便なのかわからねえな……」

 

《なんか言ったか准尉?》

 

「いえ、何でもないです。なっ!?前方に連邦の戦艦が一隻、アクシズに張り付こうとしています!」

 

データにはない戦艦……アレはロンド・ベルの旗艦か?旗艦が前線に来るとはな。しかしジェガンが多すぎる。いくら新型でもさすがにあの数は対応できない。

遠くから狙撃か?いや、この機体にはそんなものは装備されていない。しいて言うならばファンネルだがあそこまで遠いとそんなことは不可能だ。援軍が到着するのを待つか?しかしそんな悠長なことが許されるほど時間に余裕もない。……このままで攻めるしかないか………!

 

《テルス、准尉。一撃離脱だ。それを繰り返してアレを落とす。俺たちの現状じゃあそれしかない。しかも運がいいことに俺たちの機体には遠隔操作できる兵装がある。それもとびきりのな》

 

それは大尉のロマンとやらで未だに設置されているんではないだろうか。まあ今はそのロマンのおかげで攻略できそうな感じなんだが。

 

《テルス、准尉、ガトリングガンで弾幕を張れよ……いくぞ!》

 

『了解!』

 

ガトリングガンを掃射しながら接近するが、敵艦は弾幕が厚くて接近することができない。代わりにジェガンが攻めてくる。

 

《限界だ。一度離脱するぞ》

 

「……了解」

 

こちらが引くと、一部を除いて艦の護衛にまわった。しかもその一部がかなり厄介だ。なかなか振り切れそうになく、囲むような連携で俺を追い詰めてきている。しかもそのせいでザミュ大尉とテルス少尉とはぐれてしまった。

 

「ちっ!ならこっちから仕掛けるしかないか……!」

 

振り向いてシールドのメガ粒子砲を撃ちまくる。ジェガンはそれをシールドで受け止めてビームラフルで応戦する。しかし、シールドにあるグレネードにあたり爆発。その影響で連携が崩れたのを逃さずに接近しビームサーベルで切る。

 

「まず1機。ファンネル!」

 

最後の2機を惜しまずに展開し1機に攻撃、そして俺はシールドを捨てて二刀流でもう1機のジェガンに接近した。

ジェガンはビームを撃ってくるが、動揺していてなかなか当たらない。そのまま切ることもできたが、確実に仕留めるために背後にまわって切った。

 

―――――次はど……どこから……。い……いつ襲ってくるんだ!?俺は!俺はっ!俺のそばに……!

 

「ハァ……ハァ……ハァ……これで……さ、最後か……」

 

ジェガンを切ったと同時にファンネルは敵を仕留めたようだ。しかし敵艦はアクシズに取り付いてしまった。しかも大尉たちとはぐれたままだ。このまま攻めても俺が落とされるだけだ。

ファンネルは全基消失してしまったしガトリングガンの残弾も心もとないから補給に戻ったほうがいいか。

 

 

 

 

《戻ってくんのが早いよ准尉!》

 

「す、すみません。無駄弾を撃ちすぎてしまいまして……」

 

《言い訳は聞いてない!まあともかくこれで准尉のサイコミュの運用データがとれたし調整ができるか……》

 

「言えた義理じゃないですけど早くしてくださいよ?」

 

《わかっている!調整はすぐ終わるからちょっと待ってろ!》

 

「了解」

 

スポッターさんはタブレットに目を通しながら何かを入力していく。これで俺に最適化しているのだから不思議だ。

 

 

数分ぐらいしたら、調整が終わったのかスポッターさんがコックピットから出ていく。

 

《これで准尉に合わせた調整は終わった。だからと言って弾数は変わったりしないんだ。気をつけろよ》

 

「……了解。カイト・マツムラ、ヤクト・ドーガ行きます!」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!

 

「っ!?」

 

警告音のしたほうに目を向けたら、アクシズが2つに割れていた。ロンド・ベルが割ったのか!?まさかの作戦失敗か?!

この動揺を感じ取ったのか、ジェガンが切りかかってくる。

 

「ちっ……!邪魔だっ!!」

 

すぐさまサーベルを取り出しジェガンを切り裂く。

そんなことよりもアクシズは落ちるのか?ディスプレイで計算すると、アクシズは地球に落下するコースをとっていた。軽くなって普通は落ちないはずだが……爆破の衝撃が強かったのか?しかし――――

 

「――――アクシズが光っている!?何が起きているんだ……?」

 

《准尉!大丈夫!?》

 

「テルス少尉!ザミュ大尉は!?」

 

俺が考えていたらテルス少尉と合流した。少尉の機体は特に目立つ損傷もなくパイロットの腕を再認識させる。というよりさっきのジェガン部隊俺に集中して攻撃してきたんだけど。

 

《今はエンドラにいる。ともかく一端エンドラに帰投するよ。作戦は成功したし、敵の部隊が新たに来ているし》

 

「了解」

 

すでに一部の小隊単位の部隊が到着しているが、敵に目もくれずアクシズに向かって行った。次々に到着するが、やはりアクシズに向かって行く。

 

「こいつら……何を考えているんだ?」

 

《アクシズを押し返そうとしているの?できるはずもないのに……》

 

ああいった行動には心に来るものもある。しかし、俺は軍人だ。自軍の作戦を否定するような行動はとれない。だが……!

 

「少尉は先にエンドラに戻ってください!自分はアクシズにいる友軍の脱出の支援に行きます!」

 

《准尉!ああもう!》

 

フルスロットルで機体を加速しアクシズに近づく。モニターがアクシズを段々と拡大している。すると、アクシズの先端にジェガンやジムⅢといった連邦の機体が取り付き押し返そうとしていた。よく見ると、ギラ・ドーガまで見える。

 

「ほんとに何やってんだよ……!なぜ命を捨てるような行動ができるんだ!?」

 

《地球g……な……価値……せ!》

 

ちぃ……!摩擦熱か何かのせいで電波が乱れて通信を受け取れねえ!

 

―――――ガンダムの力は……!

 

声が聞こえた。と思ったら、中心にいたガンダムから虹色の光があふれだした。その光は周囲の機体を包み、上へ押し上げる。そして、俺の機体も包んで押し上げる。

 

「暖かい。なんて暖かくて優しい光なんだ。これは……人の心が作り出した…のか?」

 

わからない。何が起きたのかさっぱりわからない。でもこれだけはわかる。これは人の心が作り出したモノ。そして人の可能性を表している。……………柄にもないことを考えるべきじゃないな。めっちゃ恥ずかしい。

 

「おっ。あそこに友軍機発見。大丈夫ですか!」

 

今考えたことを忘れたかのように通信を試みる。

 

《バックパックと足のメインスラスターがやられた。済まないがどっかの艦まで引っ張ってくれないか?》

 

「お安い御用ですよ。しっかりつかまって!」

 

手から撤退信号を打ち出し、両肩をつかんでギラドーガを運ぶ。途中で他隊のギラ・ドーガと合流し、エンドラⅡに帰還した。あの光を見たからかはわからんが、連邦が追撃をしてこなかったのは助かった。

 

 

 

 

あの光は地球を覆い、アクシズを地球の外へ押し出した。そして、総帥は行方不明になった。つまり、ネオ・ジオンは負けたのだ。こうして、俺の第二次ネオジオン戦争は終結を迎えたのだった。

 

 

第1部 完



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ジオン軍残党狩り編
平和になった世界で


アクシズ落としが失敗して1ヶ月ほど経った。その間に俺たちネオ・ジオン軍はテロリストとされ指名手配にされた。総帥は行方不明になり士気はがた落ち、現在は旗艦のレウルーラとともに行動しているが、もうそろそろ決めねばならないと思う。潜伏を続けるか、投降するか、はたまた船を降りて民間人として生きるか。

俺はまだ決めかねている。仲間たちと一緒にいたいという気持ちもあるし、この不安定な状態にいたくないという気持ちもある。

 

「……ふぅ。もうそろそろ決断しなきゃいけないか……」

 

自室から出て、食堂に向かう。国際的な立場が不安定でも食事がとれるのはまだましな方だろう。

 

食堂に着くと、そこにはスポッターさんがいた。

 

「おっ、少尉じゃん。いつもより遅かったけど寝坊か?」

 

ちなみに、あの戦争のときの戦功で階級が少尉に上がった。これで給料も上がったのだが……負けた今となっては金がもらえるのかどうかが疑わしい。予定ではそろそろ給料日なんですが……。

 

「いえ、ちょっとボーっとしてて。それと階級で呼ぶのやめてください。階級同じ人結構いるんですから」

 

「いや~そう呼ぶの少尉だけだからさ~」

 

「知ってます」

 

昨日はB定食にしたから今日はA定食にしようかな。カウンターでA定食を受け取りスポッターさんのところまで行く。

 

「……そろそろこの艦を降りるやつを募集するらしい」

 

「?」

 

ボソッとスポッターさんがそう言ってきた。本当だとしたら……降りろって言ってるのか?たしかにこのチャンスを逃したらもうずっと戦い続けなけることになるかもしれない。すると、放送が流れた。

 

《艦長より達する。1000に補給物資を買いに行く。それと同時に、この艦から降りるものを募集する。その者はシャトルに乗せコロニーで降ろす。この機を逃したら2度と募集することはないと思ってくれ。降りる決意をしたものを攻めるつもりはない。艦長からは以上だ》

 

ほんとにどうする?でも………。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、これとあとこれをこんぐらいください。輸送先はえっと……第3スペースポートに。そこで受け取るんで」

 

「あいよ。毎度あり!」

 

(これで最後か……。思ったより早く終わったな。物資を積むのは今日の夜当たりだから……あとは自由に過ごすか)

 

降りることになったのは10人で結局、俺は艦を降りることをしなかった。しかし、補給物資を買いに来たのだから未練があるのかもしれない。

 

アイスを買って、適当な場所を歩いく。すると、ザクとガンダムが切りあっている絵が描かれている場所に出た。そういえばこのコロニーは連邦が秘密裏にガンダムを造っていたな。

 

「よく見ると上手に描けてるな。「グラフィティに興味ある?」!?」

 

いつの間にか後ろに女の子が立っていた。手にペンキの缶を持っていることや先ほどのセリフからこの子が描いたんだろう。

 

「ペンキを使うの。ラクガキじゃないよ」

 

「特に興味はないが、この家の持ち主に許可とってんのか?犯罪だぞ」

 

テロリストの俺が言えたことじゃないけどな。

 

「ここはあたしの家っすよ。だから犯罪じゃないと思うな」

 

「Oh…」

 

見た限りただの1軒家だが、シャッターが掛かっていて昔は商売でもしていたのかもしれない。それかエレカの格納庫か。

 

「まあ、本人の家ならいいんだけどな。で、MSとかが主に描いてあったがそれにも興味あんのか?」

 

「そこまでないけど……デザインにちょっと」

 

「ふ~ん」

 

まあジオンは今も昔もいろんな種類のMSを造っているからな。いろんなデザインの。しかしそのおかげで規格が合わないってスポッターさんが嘆いてたのを聞いたことがある。

 

「あ、そういえば自己紹介してなかったすね。あたしはサキ。サキ・ヨシオカっす」

 

「俺は……カイt…カイ・シデンだ」

 

とっさに偽名を言ったがなんでカイ・シデンにしちゃったんだ!1年戦争の英雄の1人じゃねえか!

俺のバカっ!

 

「へえ、1年戦争の英雄と同じ名前なんだ!」

 

「…まあな。といっても彼と違って俺は日系だがな」

 

「ふ~ん。観光でここに?」

 

「そんなところだな{ぐ~}。うぅ」

 

なぜこんなところで腹の虫が鳴くのだ。初対面の人では恥ずかしいではないか!

 

「ガイドに載ってないようなうまい店教えるっすよ。ついてきて」

 

「おい、手ェ離せ!」

 

そう言ってヨシオカは俺の手をつかんで走り出した。ちなみに、ちゃっかりこの話をしている間にペンキの缶を家の中に入れていた。

 

ヨシオカが連れてきたのは『フィリップズベーカリー』と書かれたパン屋だった。外にはテーブルと椅子があり、外で食べることもできるようだ。中に入ると、少数だが客がいて、うまそうなパンが並んでいる。

 

「おう、いらっしゃい嬢ちゃん!いつものか?」

 

「ええ、いつもので」

 

「待ってな…ってなにぃ!?嬢ちゃんが男を連れてきているだと!?おいユウ!こりゃあ一大事だぜ!」

 

「話を広げないで!案内してるだけだから!」

 

「落ち着け、サキ」

 

「落ち着いてられないっすよ!」

 

パンの値段を見るが、そこら辺のパン屋より安い。ほかにもサンドウィッチなども少し置かれているようだ。

 

「それにカイはなんでパンを見てるんすか!弁解してよ!」

 

「え?あ、ああ。彼女とはたまたま会っただけだ」

 

「なにぃ!?偶然会った男と一緒にいるのか!?」

 

「あ~もうっ!」

 

「冗談だよ嬢ちゃん。ちょっとからかっただけだろ?」

 

「乙女をからかうのはどうかと思うんすけどねェ」

 

「あ、会計お願いします」

 

「マイペース過ぎっすよ!?」

 

うるさい!こちとら腹減って死にそうなんだよ!

 

「はいよ嬢ちゃん。会計はこの兄ちゃんと一緒か?」

 

「一緒じゃなくて「俺が払う」え?」

 

「ここ案内してくれたお礼ね。俺はやられたことはやり返す主義だからな。それがいいことでも、悪いことでもな」

 

それに銀行の俺の口座にしっかり給与が振り込んであったしな。

 

「はっはっは!いいねぇ!気にいったよ!サキもいい男を見つけたじゃねえか!サキの分は俺からのおごりだってことにしてやる!」

 

「いい男って……{カアアア}」

 

ヨシオカの顔が赤くなってる。かわいい。そう思いながら買ったパンを受け取り、テラスのほうに移動する。

 

「さっきフィリップさんが言ったのは忘れて……」

 

「え?あ、ああ」

 

そう返しながらパンをかじる。ほう、確かにうまい。しかも安い。有名になってもおかしくないと思うんだがな。

 

「どうっすか?」

 

「ああ、うまいな」

 

「できた当初はそこまでうまくなかったんすよ。でも、さっきいたユウって人が来てからかな、うまくなったのは」

 

その人がパンを作ってること確定じゃねえか!でもまあそこまで人がいない理由がわかったしいいか。

 

 

 

 

その後も談笑もしたが、時間が迫っていた。

 

「すまんな、ヨシオカ。もうそろそろ時間だ」

 

「今日は楽しかったっすよ。で…その……」

 

「?」

 

「また会えるっすか?」

 

若干赤くしながらヨシオカが言う。やっぱりかわいい。

 

「あ~、それはわかんねえな」

 

「そうっすか……」

 

その目で見るのやめてくれ、俺がいわれもない罪悪感感じちゃうから。

 

「でも、だ。気が向いたらこっちに来るよ」

 

「本当すか!」

 

「気が向いたらな。こっちだってそこまで暇じゃないからな」

 

「でも来るんすよね!約束っすよ!」

 

「ああ、じゃあな!」

 

「もう迷子にならないでね!」

 

「最後にそれ言うな!」

 

いい感じに終わっただろ!確かに道に迷ってスペースポートまで送ってもらったけど!

 

 

 

「すまん、ちょっと遅れた」

 

「問題ありませんよ少尉殿。してもさっきの娘は?まさか彼女!?」

 

「ちげえよ!それよりも物資は積んだか?」

 

「ええ積んでいますからいつでも出れます。それよりもさっきの娘との関係を――――」

 

「さっさと出せ!」

 

パイロットに指示を出して座席に移動する。パイロットは文句を言いつつも仕事をこなす。

座席に座ると、今日の疲れがたまっていたのか、すぐに睡魔に襲われたのだった。

 

 

 

『―――殿!起きてください少尉殿!」

 

「どうしたぁ?もう着いたのか?」

 

パイロットに起こされ、予定ポイントに到着したと思ったが、パイロットの顔が必至だ。何か問題でも起きたのか?

 

「どうした?エンジンにトラブルか?」

 

「いえ、それよりもヤバいっすよ……」

 

そう言ってパイロットは外の風景が映ったモニターを見せる。するとそこには、何機かのMSがいたのだった。

 

「……宙賊か」

 

「のようですね」

 

シャトルにはMSを載せていない。なぜなら、入るスペースもないしばれたら入国審査にも引っかかるからだ。だからあるポイントに行きたかったのだが……。

 

「振り切れるか?」

 

「無理に決まってるじゃないですか」

 

「あそこまではドンくらいかかる?」

 

「あと10分です」

 

「それまで何とか持ちこたえろ。できる限りのスピードでな」

 

「了解!」

 

「じゃあ俺は着替え…うぉっ!」

 

この野郎!俺が着替えるときに加速すんじゃないよ!

着替え終わり、外を見ると、ここは暗礁宙域のようだ。振り切れなくとも相手のスピードは落ちるし何とかなるか?

敵の行動を見る限り、ヤツらはこのシャトルを鹵獲するつもりのようだ。だから積極的に攻撃を仕掛けてこない。まだ距離はあるが、詰められたらヤバいぞ。

 

「少尉殿!もうすぐ着きます!ハッチへ!」

 

「了解した」

 

シャトルがデブリと相対速度を合わせる。そして、俺はボタンを2つ押す。すると、ハッチが開き、目の前のデブリが破裂した。その中から、俺の乗機が現れる。

 

「せー…の!」

 

勢いをつけてヤクト・ドーガまで飛ぶ。すると、チラッとだが敵MSが見えた。

シートに座りコックピットをすぐに閉めて起動する。敵の数は……6か。

 

「シャトルは先にエンドラに帰還しろ。俺はこいつらを片付けてから合流する」

 

《了解です少尉殿。御武運を》

 

「ふっ、武運が必要なのは連邦と戦う時だけだ。行けっ、ファンネル!」

 

デブリがあるせいで敵を視認することはできない。それは敵も同じだが、こっちにはサイコフレームのおかげで敵を感じ取れる。

遠くで爆発の光が見える。それに伴ってそこから離れるMSを確認する。

 

「バカは来る!……そこ!」

 

シールドのメガ粒子砲でもう1機落とす。よく見ると、敵はティターンズの残党のようだ。昔はエリート部隊でも、今となってはただの宙賊。落ちたもんだな。

 

《ファンネル!?敵はニュータイプなのか!?》

 

《敵がいくらニュータイプだろうがこっちは数で勝っているんだ!落ち着いて行動しろ!》

 

《了解!》

 

腐ってもエリート部隊なのか、すぐにファンネルの直撃を避ける。が、それでも武装がやられる。

 

「まだまだ!ファンネル!」

 

さらにファンネルを展開して追撃する。さすがに多方向からのビームは避けられないのか次々とあたり爆散する。

 

《エリオット!このぉ、キサマぁ!》

 

「その程度で!」

 

マラサイがサーベルを抜いて接近してくる。それをシールドで受け止めてメガ粒子砲で破壊する。その後ろにいたハイザック2機をファンネルで撃墜。これであと1機。

 

「どこだ。どこにいる……?」

 

ミノフスキー粒子によってレーダーがまともに使えないため敵の場所を察知できない。しかも破壊したMSからの残留思念もあり見つけることができない。

すると、後ろから殺気を感じるとともにビームが飛んできた。それをシールドで受け止め、メガガトリングガンで応戦する。

 

「なんだ今のMSは……{ピピピピ!}なに!?」

 

背後から警告音が鳴り、振り向く。すると、敵MSがビームサーベルを抜いてきた。とっさにビームサーベルを取り出しつばぜり合いになる。

ディスプレイを見ると、バイアランと表示される。

 

「旧式だが速いな……!」

 

《小僧!よくも仲間を!》

 

「そっちが仕掛けてきたんだろうが!ファンネル!」

 

しかし、バイアランはそれを巧みによける。ガトリングガンを撃つが、ヤツの装甲もガンダリウムなのか効き目が薄い。接近戦しかないか……!

ビームサーベルをもう1本抜き切りかかる。しかし、それもバイアランは受け止める。

 

《子供にしてはかなりの腕前じゃあないか……!》

 

「コンニャロ!」

 

肩のバインダーからミサイルを発射する。離れてよけようとするが、バイアランは避けきれずに左腕を持っていかれる。

 

「これでとどめだ!ファンネル!」

 

そこらへんに漂っているファンネルを呼び戻し掃射する。バイアランは、はじめは避けていたものの、左腕がやられてことによってバランスが崩れたのか次第に当たるようになっていく。

 

《このままで終われるかよぉーー!!》

 

そう叫びながらバイアランは突っ込んでくるが、俺は冷静にサーベルを一閃し、撃破した。

 

―――――ジオンのごみが……!

 

「……。残存敵部隊なし。シャトルと合流する」

 

ギギギ!

 

フレームが悲鳴を上げている。もうそろそろオーバーホールが必要か?

 

 

つづく




詰め込み過ぎたか……!


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追撃戦

買い出しから3日ぐらいたち、これで当分潜伏できると思ったのもつかの間、連邦のパトロール艦隊に見つかってしまった。……って連邦って暗礁宙域まで出張るほどやる気あったっけ。絶対ここ張ってただろ。

 

《カイト少尉、気を付けてくれよ。この機体はあと一回戦えるかどうかってレベルだ。機付長としてはこの状態では出したくないんだが…いまが正念場なんだ。準備はいいか?》

 

「……ヤバくなったらすぐに戻ってきますからね。ヤクト・ドーガ、カイト・マツムラ、行きます!」

 

フットペダルを踏み機体を加速させる。外では既に戦闘が始まっているようで、爆発の光がいたるところに見える。

 

「さて……この機体でどこまでできるか……」

 

ちなみにだが、この機体は以前とはカラーリングが違っており、赤い部分を金色に塗り替えている。そのおかげか(せいで)敵がわんさか寄ってくるようになった。(スポッターさん曰く「新式のビームコーティングだ」とのこと)その結果、機体に無茶をかけすぎてこのようになってしまったのだが。

 

「よし、敵がこっちに集まってきている。いいな?ひよっこども。先に言った通り足が止まったヤツを狙うんだ」

 

《了解です少尉!》

 

まあ悪いことばかりではない。この機体を使うことに加え、ギラ・ドーガの一個小隊の指揮権ももらっているのだ。といっても、1ヶ月前の戦争の時の予備パイロットだったヤツらだが。……あれ?これって体のいい厄介払いじゃ……。

 

「ファンネル!」

 

ファンネルを展開をしてジェガンに攻撃を仕掛けるが、本隊と戦うことを想定していたのか技量が高く、ファンネルを避ける。しかし、避けた先にはギラ・ドーガがいてハチの巣にされる。それから逃れたやつもいるが、そいつは俺が落とした。

 

「ヤクトⅠより各機、機体の損傷報告」

 

《ヤクトⅡ問題ありません》

 

《ヤクトⅢ損傷なし》

 

《ヤクトⅣシールド破損》

 

「了解した。ヤクトⅣはⅡ、Ⅲの援護にまわれ」

 

《了解!》

 

「母艦を沈めに行く。ついてこい!」

 

『了解!』

 

部下に指示を出し、敵艦に向かってビームを撃ちながら前進する。途中でジェガンの小隊にも会うが、部下を先に行かせ、照明弾を使って目をくらませて撃破した。敵艦の近くにまで移動すると、戦艦の弾幕の前で右往左往する部下と合流した。

 

「各機何やっているんだ!敵艦を沈めろ!」

 

《隊長、敵の弾幕が厚くて接近できません!》

 

「機銃より早く動け!自動だろうが手動だろうがMSのほうが機動力がある。それを忘れるな!」

 

『はっ!』

 

弾幕を避けながら左舷の機銃を破壊し、サーベルを抜いた瞬間、撤退信号が上がった。

 

「なっ……『帰還セヨ』だと~~!?あと少s……!」

 

俺が撤退信号を確認した瞬間、戦艦がメガ粒子砲を発射した。避けられないと判断した俺はシールドで防御をする。

 

「(さすがは新式のビームコーティングだ。なんともないぜ。)連邦の機体が戻ってくる前に撤退するぞ」

 

『了解』

 

ゴキンッ!

 

そう言って振り向いたとき、機体に嫌な音がした。恐る恐るディスプレイを見ると、右腕が肩から折れているではありませんか。

 

「オーノー!なんてこった!機体がここで壊れれちまうのかよ!」

 

素早く折れた右腕を回収し機体の速度を上げる。部下に怪しまれたが問題はない。……たぶん。

 

 

 

 

「貴重なサイコミュ機をここまでするなんてたいしたやつだよまったく」

 

「いえ、本当に申し訳ないです。反省しております」

 

でもさ、戦艦の主砲を受け止めたんだよ?むしろ誇っていいんじゃないかな。……いえ、何でもないです。

 

「……肩が根元から折れているな。とするとカイトにはバウに乗ってもらうか」

 

「バウか…。久しぶりに乗りますね」

 

「だがメンテはしっかりしてるしカイトのこれまでの運用データを反映しているんだ。結構変わると思うぜ?……あ~でもスピードはヤクト・ドーガより下だから気をつけろよ」

 

「了解」

 

ヤクトの隣には、以前俺が乗ってたバウが置いてある。もちろんと言っていいのかわからないが金のカラーリングに変更されている。(……趣味が悪いといってやりたい。)また、武装もギラ・ドーガのビームマシンガンに変更されているが、シールドはそのままだ。

 

 

 

 

2時間ほど時間が経った。依然連邦は俺たちの艦隊をつかず離れずの距離をとっている。観測班によるとまだ連邦には援軍が来ていないらしい。それで先ほどお上の人たちが連邦に援軍が来る前に攻めようということを採決したことを伝えた。しかし、旗艦のレウルーラを逃がしつつ戦うため戦力がかなり減る。そのために援軍が来る前に叩くのだが。

さて、シャワーを浴びてすっきりしたし、メシも食って気力は万全。いつでも行けるぜ!

 

「バウ、カイト行きます!」

 

ペダルを踏むが、いつもより遅い。分離しないとヤクトの感覚でやっていけないな。だが、反応速度はヤクトとあまり変わらない。これは助かるな。

 

「ヤクトⅠより各機、相手は手負いだ。そういった相手にはさっきより気を引き締めてかかれよ」

 

『了解!』

 

《おお、『隊長』をやってるなぁカイト少尉?》

 

「何ですかザミュ大尉、自分は今かなり忙しいんですよ?」

 

《あんまり気負うなよ?お前はいいセンスを持っているんだからよ》

 

「…ありがとうございます」

 

《ま、無駄話はこんぐらいにしとくか。ちゃんと帰って来いよ》

 

「少なくとも部下は帰しますよ」

 

《バーカ、お前も帰ってこなくちゃ意味がないんだよ》

 

そう言ってザミュ大尉は離れていく。確か大尉はテルス少尉とともに遊撃だったな。

目線を戻すと、段々と大きくなっていく戦艦とMSが見える。

 

「各機、対MS戦闘だ。戦艦の主砲にも気をつけろよ。Cフォーム!」

 

『了解(です)』

 

Cフォームとは、俺がミサイルを放って敵機を分断し、1機になったところをギラ・ドーガが攻める。その繰り返しだ。そうすれば効率は多少悪いが新兵だけのこの小隊には確実な戦法だ。

この戦法を何回かやるが、まだ戦艦にたどり着けない。

 

「……機体が多い。連邦め…既に補給を受けていたな……?」

 

おそらくだが自軍のセンサー範囲に入ったときにエンジンとか消してたな?それで熱源探査が効かなかったとかそんな感じか。

 

《すまない。遅れた》

 

「大丈夫ですよ大尉。では申し訳ありませんがここのMSは頼みます」

 

《任せろ!》

 

「大尉がここを抑えてくれる。各機、戦艦を落とすぞ!ついてこい!」

 

『了解!』

 

大尉のドライセンや他隊のMSが俺たちを追いかけるMSを押さえてくれる。早く1隻でも落とさないと……!

チラッと部下を見るが、さっき俺が言ったことをしっかり実践している。

 

ドーーンっ!!

 

《1隻落としましたよ!t》

 

「なに!?」

 

部下が戦艦を落とし、声を掛けようとした瞬間、部下の機体が爆散した。ビームのした方向に目を向けると、そこにはゲタを履いた若干の青みがかかったジェガンがいた。

 

「キサマが部下をやったのかぁ!」

 

《カイト!レウルーラが撤退に成功した、俺たちも引くぞ!》

 

「……大尉、部下を連れて撤退を、自分は殿を務めます」

 

《少尉!》

 

「ザミュ大尉、あなたの機体は損傷しています。それにあの機体のパイロットですよ。だから……!」

 

《……くっ……!ギラ・ドーガの坊主どもついてこい!》

 

《しかし、ザミュ大尉!隊長が……!》

 

《お前らがいるとあいつも撤退できないんだ!いいから撤退するぞ!》

 

《……了解》

 

やっと撤退していったな。これで俺はまわりを気にしないで思う存分戦える。

 

ビームマシンガンを撃ちジェガンをけん制する。ま、射程もないし1発1発の威力も低いから期待は全くしてないからな。

 

ジェガンは余裕でそれを避けて、ビームライフルで応戦する。

 

「こいつ…!」

 

それを幾度か続けるが、埒が明かないと思い、ビームサーベルを抜く。向こうもそう思ったのか、ビームサーベルを抜いてきた。

 

ギィィン!

 

サーベルとサーベルがぶつかり合い、火花が散る。すると、敵から通信が入ってきた。

 

《総帥であるシャアは消えた。なのになぜ戦い続ける!?お前たちもあの光を見ただろ!》

 

「その結果がどうした!連邦政府はますます腐敗しているじゃないか!!」

 

《なっ!?この声はサキと一緒にいた……!》

 

そのことを言うってことはあんたは『ユウ』と呼ばれてたやつか!?

 

《キサマ……!サキを誑かしたのか!》

 

「あいつは関係ない!あん時にたまたま会っただけだ!」

 

ユウのジェガンがシールドを使ってバウを弾き飛ばす。機体を立て直し、仕返しとばかりにシールドのメガ粒子砲を撃ち、シールドのグレネードに当てて破壊した。しかし、そこにジェガンはいなかった。

 

「なっ……!消えただと!?ヤツは…上かァーー!」

 

気づいた時にヤツはビームを撃ってきた。それをシールドで受け止めるが、運が悪く、シールドのメガ粒子砲の銃口に当たった。もう使えないと判断した俺はシールドとビームマシンガンを捨て、左手にもビームサーベルを持たせる。

それに呼応してか、ヤツもビームサーベルを持つ。

 

「ウオオォォ!」

 

《ハァァーーー!!》

 

サーベルとサーベルがぶつかり合う。俺は、左手にあるサーベルで突こうとするが、ユウのジェガンはそれを蹴りあげた。

 

《俺は連邦の軍人だ。サキの友人だろうが容赦しない!》

 

「勝手にそう言ってろ!」

 

一端離れて、腕部のグレネードをすべて撃つ。そして、サーベルを突きの構えにしてバーニアを吹かす。予想通りユウは無傷でいた。そして、ユウはダミーバルーンを放った。

 

「ちっ……!センサーが誤認している!この……うぉぉぉ!」

 

ダミーバルーンをバルカンで掃射するが、それには機雷が仕掛けてあったのか弾丸が当たったものから爆発する。すると、後ろから殺気とともにユウの声が聞こえた。

 

《もらった!》

 

「後ろかッ!」

 

後ろだと気づいた俺は振り向いたが、ユウのほうが行動が早く、右腕を持っていかれる。そのままユウのジェガンは俺を戦艦の残骸に叩きつける。

 

「ぐはっ……!」

 

《こいつで終わりだ!》

 

そう言ってユウのジェガンは腰のグレネードを発射した。俺が避けられるはずもなく全弾命中し、その衝撃で脱出ポッドが作動した。

 

「友軍は近くにいないうえに目の前に敵の機体。終わりだな」

 

《これでお前の負けだ。然るべき場所で然るべき罰を受けてもらう》

 

世界的に見れば俺はただのMSを使ったテロリストだからな。極刑の未来しか見えない。誰かホント助けて……。

 

つづく



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釈放~そして連邦へ~

連邦につかまってから何ヶ月経っただろうか。地球に降ろされ、最低でも1ヶ月は経ったはずだ。だが、そこから先は数える気にならなかった。ヘタしたら1年経っているかもしれない。

 

捕まった後のことを簡単に言うと、形だけの裁判を受け、拘置所に連れていかれた。裁判の結果は言わずもがな死刑で、生きていられるのは死刑の執行待ちと言ったところだ。

 

拘置所での生活は最悪だった。メシはまずく、ベットは固い。おまけに拘置所にいる兵にド突かれたり聞こえるように陰口を言われるのだ。唯一よかったのは個室だったってところか。ほかにも誰かいたら俺は発狂していた。

 

そんな俺に転機が訪れた。なぜか、いきなり釈放されたのだ。……これには語弊があるかもしれないが、ともかく拘置所から出られたのだ。出た先には、連邦のヤツらがいて、今護送車に乗せられどこかに移送されている。……釈放だよね?

 

「今どこに向かってんです?」

 

「………」

 

さっきからこんな調子だ。聞いても答えないのはどうかと思うね。時間を聞いても答えてくれない。

 

 

 

何時間経っただろうか……。いくら護送車と言っても、外の音はある程度聞こえる。すると、外からシャッターが動く音が聞こえてきた。それに合わせて護送車も止まり、また動き出す。

 

嫌な予感がする。なんかの実験のサンプルに使われるのかも。そんな考えが俺の頭の中を駆け巡る。

 

「おら、出ろ」

 

そう言って、護送車の扉が開く。目を少しだけ動かしてまわりを見る。降ろされた場所はどこかの施設の中のようだ。

 

連邦兵が俺の周りを囲っている。しばらくすると、黒服が動き出した。こいつらについて行け、ということなのか。

 

少し歩いて、ある扉の前に立つ。その扉が開くと、そこには初老の男性がいた。

 

「やあ、初めましてだな。私はこの基地の司令を務めているマイケル大佐だ」

 

「……小官はカイト・マツムラ少尉であります」

 

名乗ってきたのでこちらも名乗ったが……こいつはなんか危険な気がする。温和な笑みを浮かべてはいるがその内側は何を考えているのかまったくわからない。

 

「君たちは下がっていい。……それで君をあの拘置所から出したのはちょっとしたお願いがあったのでね」

 

兵が引くのを確認したマイケル大佐は何かを言ってくる。俺のカンはそれ危険な誘いだと言っている。それ以上に俺の命にかかわりそうな気がする。

 

「質問よろしいでしょうか」

 

「構わんよ」

 

「なぜ、自分が選ばれたのでしょうか。連邦にもそのお願いとやらを実行できるものがいるはずです」

 

「いい質問だ。その答えは……恥ずかしいことながら優秀な人材は先の戦争で消えてしまってね。生き残ったのもほとんどが宇宙の残党狩りに出ているうえに外郭部隊のロンド・ベルにいるときた。そうなってしまっては手が出せないんだ。そんな時に君が来た」

 

あっ……コックピットからデータを吸い出したということか。

 

「君の乗っていたバウのデータを見させてもらったよ。なかなかいい腕だ、そう思っていろんな機関に圧力をかけさせてもらった。だから君はここにいる」

 

あ…もうこれは逃げられないな。大佐殿のお願いを聞くしかなさそうだ。

 

「もちろんただではないさ。一度連邦に属してもらうことになるが、ある程度の自由がある。給料もしっかりもらえる」

 

「……では、そのお願いとやらは?それを聞かされなくては判断のしようもありません」

 

「おお、そうだったね。それは……新型のオプション装備のテストだ。ここから先おそらくは大きな戦争はない。そうすると新規にMSを造ったりする資金が削られる。だから、そういったものがなくなったら君は連邦から離れてもいい。ある程度の監視を受ける羽目になるがね」

 

確かにこの後シャア総帥のようなカリスマ性を持った人が決起する可能性は低いだろう。それに加えて決起するほどの資金もないはずだ。噂ではあったがシャア総帥が決起するからアナハイムもかなりの低額でMSを配給してたらしいし。

オプション装備のテストか……。それなら早めに終わるかな……?そのあとはサイド6とかに行けばいい。

 

「わかりました。お引き受けします」

 

「うむ。その返事が聞けて助かったよ。試験は明日からだ。今日はしっかり休んでくれたまえ」

 

 

 

そして1日経った。渡された地図を見て食堂とかに寄ったが、連邦はいつもこんなうまいの食っていたのか!?さすが地球だ。やることが違うぜ。それよりも司令室に向かわなくては。

 

「さて、これからの君のことなんだが……階級は中尉に昇格してもらった。任務は昨日言ったとおり試作兵器のテストだ。で、早速だが任務だ。ジェガンのマイナーチェンジのオプション装備をテストしてもらう。それに合わせて試作OSもテストしてもらう。頼んだぞ」

 

「はっ!」

 

MSのテストか……。これは逃げるチャンスか!

 

「言い忘れていたが、機密保持の意味を含めて遠隔操作式の自爆装置もあるからな」

 

知ってました。だが試作OSってなんだ?新しいMSでも造んのか?

 

「第3格納庫だ。地図は持っているな?1020に試験開始だ」

 

「了解しました」

 

 

 

連邦のパイロットスーツに着替えて格納庫に着き、扉を開ける。しかし連邦のパイロットスーツって性能いいんだな。今まで俺が着ていたものよりぴったりだしそこまで息苦しくない。

 

「ここか……。連邦の機体に乗ることになるとはな……。あれが俺の乗るジェガンか……マイナーチェンジって聞いたが……なるほど確かに肩とかの形状が違うな」

 

肩とかにオプションパーツをつけられるのか…。

 

「おい、聞きたいことがあるんだが」

 

ジェガンに乗り、渡されたマニュアル通りに設定するが……この操縦桿はなんだ!?アーム・レイカー式じゃない!?

 

「あ~これは新型の94式コックピットですね。先の大戦でアーム・レイカー式の弱点があらわになったのでそれを改良したものと聞いています。操作性も向上しているはずですよ」

 

「そうか……」

 

このコックピットのテストもするのか……。まずはノーマルの状態でテストでそのあとにオプション装備か。

 

「武装は以前のジェガンと同じです。準備いいですか?」

 

「ああ……構わん」

 

「お~い!シャッター開け!中尉殿がテストに出るぞ!」

 

そう指示を出して離れていく。しばらくすると、機体の固定具も外れていった。それを確認すると、ジェガンを歩かせ外に出る。

 

「操作性は確かに上がっているな。俺の動きたいように動いてくれる……!」

 

《中尉、操作性のほうはどうですか?》

 

「素晴らしいな。今までとは全く違う」

 

《そうですか。ではスラスターなどで移動してみてください》

 

「了解」

 

スラスターを吹かしてホバーの真似事でもしてみる。意識していなかったがMS形態のバウより早いのか。マイナーチェンジに合わせて推力も強化されているのか。それに加えてシールドのビームコーティングも強化されているらしい。ガザCのハイパーナックルに耐えられるくらいには。

 

《必要なデータは取れました。一度戻ってオプション装備に換装してください》

 

「了解した」

 

 

 

 

「オプション付けるとこうなるのか」

 

「ええ。一部一部に追加装甲を付けるんですよ。バックパックも換装するんで追加装甲の重量を相殺するだけでなく機動力も上がりますよ」

 

「そうか。でもこっちのオプションはなんだ?」

 

いくつかあるうちの1つの装備を指さす。試験したらそのまま極秘扱いされるようだが……。

 

「あ~これは……極秘部隊専用だと聞いております。サバイバビリティを上げるためにバイザーやコックピット周りに追加装甲を施すようですね」

 

「狙撃用のバイザーも用意されているのか」

 

「中尉、換装が終わりました。試験がもうすぐ始まります。搭乗を」

 

「わかった」

 

名称は確か…『RGM―89S スタークジェガン』だったか。こいつのテスト内容は専用バズーカとミサイルの照準だったか?

 

《中尉、よろしいですか?》

 

「問題ない。出るぞ」

 

肩にミサイル、右手に専用バズーカ。いろいろありすぎだな。総合強化型としてはいいかもしれないが。

 

《中尉、テストを開始します。的に向かってミサイルランチャーを発射した後パージしてください。そのあとは適当に動いてシステムが機能しているかをテストします》

 

「了解した」

 

的に向かってミサイルを撃ち、素早くパージする。ミサイルは所詮模擬弾のため基地に被害を出すことはまずない。

 

「素早いな。これは……《中尉、司令から連絡が》……繋げてくれ」

 

《カイト中尉、先ほどこの基地から10㎞離れたところにMSを不法所持している武装集団を見つけた。これを鎮圧してきたまえ》

 

「……了解しました」

 

どうかジオンの部隊でありませんように。ジオンの人だったら迂闊に動かないと思うけどね。とりあえず整備主任に指示を出す。

 

「聞こえるか?スタークジェガンのすべての武装とベースジャバーを用意してくれ。今すぐにだ」

 

《了解です中尉》

 

格納庫に戻り、武装を装備させる。今度はEパック換装できるように改造されたビームライフルも装備させる。

 

《中尉、ベースジャバーの準備が整いました》

 

「了解した」

 

ビームサーベルを使えるように再設定しながらベースジャバーに乗る。

 

《中尉、今回の実戦で『ナイトロ』というシステムのテストもさせてもらいます》

 

「『ナイトロ』?なんだそれは」

 

《渡された資料によりますとオールドタイプでもニュータイプのように動けるようにするシステムと書かれておりますが……》

 

「そんなもんもテストされるのかよ{ボソッ}」

 

《?》

 

「何でもない。スタークジェガン、出るぞ」

 

その掛け声とともにディスプレイに『n_i_t_r_o』という文字が現れる。

 

「ちっ……」

 

 

 

 

数十分の飛行末やっと武装集団を見つけた。向こうもこちらを視認したようで弾幕を張ってくる。

 

「さて、ベースジャバーは上空で待機してもらって、俺は行くとするか!…ん?」

 

ベースジャバーから飛び降り、スラスターを吹かしながら降下する。一瞬モニターに青い炎を見たので確認するが、ディスプレイに異常はどこにも見当たらない。……気のせいか?

 

「じゃあこっちも始めさせてもらうか!……!?」

 

ミサイルやバズーカを撃った途端に頭の中にいろんな情報が入ってきた。以前ファンネルを使った時にもいろんな情報が入ってきたが、これはそれ以上の量だ……!

 

「……はっ!後ろ!」

 

後ろにいたジムⅡのビームサーベルを避け、バズーカを撃つ。それを相手は避けられるはずもなくバックパックに当たり爆散。

残りは5機か。機種は連邦だけでなくジオンのヤツもいる。ジオンは連邦の機体をあまり使わないからこいつらはホントにテロリストかもしれない。

 

そう考えていたら、1機がサーベルを構えて突っ込み、ほかの機体がそれを援護するように下がりながらビームを撃ってくる。

 

「バズーカは弾切れか……」

 

そう言い、バズーカを捨てて左腕のボックスからビームサーベルを取りだしてつばぜり合いになる。

 

「その程度の腕で私の相手になると思うな!」

 

サーベルを相手のグリップまで下げ、破壊しながら切りはらう。爆発し、その間にビームラフルを腰から取り出す。

 

「敵の位置は把握している。そこ!」

 

フルスロットルで機体を動かし、1機をビームで打ち抜きながらもう1機をサーベルで突きさす。その瞬間、1機のマラサイがサーベルを構えてくる。

 

「へぇ…キサマが一番できるヤツか!!」

 

つばぜり合いになるが、それは一瞬だけで、マラサイは手から煙幕を放ち、下がる。そして、ビームが肩に命中した。威力が低かったのか、貫通まではしなく、追加装甲を破っただけであった。だが、撃破されたことを演出するために右腕のボックスのグレネードを地面に向けて撃つ。

 

「チッ……スナイパーもいるのか」

 

煙が晴れる前にバーニアを吹かす。ヤルのは私を狙ったスナイパーだ。私を墜としたと勘違いをしていたため、動きが一瞬止まる。その隙にビームをありったけ撃ちこむ。

すると、マラサイがいつの間にか接近していて、ビームライフルを切り裂いた。

 

「たかがビームライフル!」

 

そう言って左手にもサーベルを持たせつつ切りかかる。それをマラサイはたやすく受け止める。

 

「ならこっちはどうだ!」

 

左のサーベルで突くが、それをマラサイは後ろに下がることで避ける。そのまま、ビームライフルで牽制しながら後ろに下がっていく。

 

「逃がすかよッ!!」

 

こっちもバーニアを吹かして追いかける。ところどころビームが当たるがそれは許容の範囲内だ。それよりも私をもっと楽しませてくれ!

 

《もう……終わりだ》

 

相手から通信が入ったと思ったら、ミサイルが飛んできた。ミサイルをバルカンで掃射しながらマラサイに突っ込む。

 

「そうだぜ。これで……終わりだ!」

 

サーベルを交差させるが、マラサイは切っ先をうまく使いスタークジェガンの両腕を上に切りはらわれる。

 

「やばい……!」

 

しかし、マラサイはスタークジェガンを切らずに抱き着いてきた。

 

「こいつ……何をする気だ!?」

 

モニターはマラサイのコックピットからパイロットが降りる様子をとらえる。

 

「まさか自爆する気か!?」

 

すぐさまビームサーベルでマラサイの両肩を切り裂いて蹴り飛ばす。その瞬間にマラサイは爆発した。

 

「ちっ……。逃げたやつがどこにいるかはわからないか……。任務完了した。これより帰投する」

 

 

 

 

 

 

 

 

《司令、『ナイトロ』の運用データが取れました》

 

「そうか。それはロック大佐に提出し、ジェガンからナイトロを削除しろ。あとパイロットはどうだ」

 

《『ナイトロ』の使用前より気性が荒くなり、記憶の一部を失ったようです。運用に問題ありません》

 

「念のためにオーガスタで調整してもらえ」

 

《はっ》

 

通信が終わり、音が聞こえなくなる。

 

「これで『UC計画』からビスト財団を排除するための駒が一つできたな」

 

 

つづく




ナイトロの出番はこれだけです。強化人間にする口実がほしかったんです。(泣)

あとマラサイのパイロットは長年の潜伏生活で牙が抜けちゃったんです。たぶん生きてる。


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デルタの息吹

オーガスタ研究所から戻ってきて数日、私のもとに新たな機体が配備された。

型式番号MSN―001『デルタガンダム』だ。渡された資料によると、コイツ自体は

U.C.0090に製造され、アナハイムの倉庫に眠っていたものを引っ張り出してきたものらしい。それに合わせてジェネレーターや推力周りの改善をしており、かなりの高機動、高出力になったようだ。

 

しかし、目的はそれのテストというわけではない。このデルタガンダムの後継機を製造するためにデータをとるというのだ。主にオプション装備開発のためのだ。そのために高出力のジェネレーターに換装して余裕を持たせている。さらに、基本的な武装がビームライフルからロングメガバスターに変更された。

 

「だが、世間は『フル・フロンタル』とやらでもちきりなのに私はここでMSのテストとはね。悲しくなってしまうよ」

 

「そう言わないでください中尉。このデータがいつかは役に立つんですから」

 

「いつなんだろうねぇ~」

 

「さあ」

 

「はっきり言うねぇ君も」

 

「ええ、それが自分のいいところだと思っていますから」

 

それがいい方向に向いているかわ知らんがな。それよりも、デルタガンダムのシールドに新たな武装が取り付き終わりそうだな。確か…メガマシンキャノンだったか?サナリィから提供されたのをシールドに取り付けているんだったか。もともとこいつのシールドには何かを付けない設計だから、武装自体にマウント装備を新たに追加したらしい。

 

「……シールドに武装を付けるのか。あれじゃあシールドの意味がないな。ただのプラットフォームじゃねえか」

 

「そうですねえ。しかしデルタガンダムの後継機、MSN―001X1のシールドはもともとそういう風に設計されているようですね」

 

「わざわざこいつでやる必要あったのか?こいつにも他にあっただろう。デルタ…プラスだったか?そんな感じのが」

 

「確かにMSN-001A1でやる計画もあったらしいのですが、シールドが曲面になっているので断念したようです」

 

ともかくシールドにオプションを付けるのは確定だったのか。

 

「あ、あとそういえば中尉、この試験が終わったらこの機体を基本的に使うらしいですよ?」

 

「なんでだ?他にもテストする機体や装備があるだろ?」

 

「MSN―001はユニバーサル仕様なのでいろんな武装が使えるのです。そのためにこの機体で新規開発した武装を試験するのですよ」

 

なるほど、新たに機体を配備しなくてもデルタガンダム1機あればテストできるというわけね。私もめんどくさい機種転換訓練を受けなくて済むってことだから大歓迎だけどね。

 

「中尉、そろそろ換装が終わります。搭乗を。あと言い忘れていましたが、今回は開発中の新型MSの試作OSも一緒に試験させていただきます」

 

「了解した」

 

そう言われ、デルタガンダムに乗る。そういえば、あの整備兵が言うには、私が乗ることを想定して『バイオセンサー』を搭載しているらしい。聞く限りだと、機体制御機能を高めるらしいが……ま、どんなものでも乗りこなせば問題ない。

 

《中尉、準備はいいですか?》

 

「問題ない。いつでもいいぞ」

 

《了解しました。それでは試験を開始します。まずは指定ポイントに飛ばし、そこから標的に向かって撃ってください》

 

「了解した」

 

指示通りに機体を変形させて飛ばす。シールドに武装を施したにもかかわらずデルタガンダムは高い機動力を示す。が、試作OSの影響か、思った通りの動作ができない。

 

「到着した。それでは試射を行う」

 

デルタガンダムをMS形態に変形し、的に狙いを合わせてトリガーを引く。メガマシンキャノン自体にも対空精密照準センサーを搭載しているが、うまくデルタガンダムのセンサーともリンクしているようだ。そのおかげでこの距離からも的に命中する。……と言ってもペイント弾だが。

 

《命中を確認……!?ミノフスキー濃度上昇中!警戒されたし!》

 

「何!?他に異常は!?」

 

《高熱源接近!MSと推定、しかし早……!MSの……ない!?》

 

「可変機じゃないのか!?ちっ……!通信が切れてしまった」

 

ピピピピピ!

 

「その程度……!」

 

手動で試作OSを切り、ロングメガバスターを使えるように再設定する。すると、遠くからビームが飛んできた。それを回避し、デルタガンダムを変形させる。

ビームの飛んできた方向に機体を飛ばす。その瞬間にまたビームが飛んできた。それも難なくかわすと、機体のカメラがビームを撃ってきたモノを捉え、モニターに映す。

それは驚愕に値するものだった。なぜなら――――――

 

「なぜ『スタークジェガン』がいるんだ……!?」

 

―――――友軍のMSだったからだ。スタークジェガンとは言ったが、細部が異なっている。頭部は狙撃用のバイザーが付けられ、胸部も特殊部隊用の装甲が、手には旧型のスナイパーライフルを持っている。塗装は青く、このデルタガンダムほどではないが、他に何もないこの地域では十分目立つ。

 

「ミサイルがないのが救いだが……それでもあの精密な狙撃が厄介だな」

 

当たらなければどうということはないが、昔からあー言ったビーム兵器は威力は高いからな。しかし、あー言ったヤツはチャージ時間が長いのが相場だ。

 

「よし、途切れた。そこ!」

 

ロングメガバスターの射程に入り、相手の攻撃が止んだ瞬間に撃つ。MS本体には当たらなかったが、スナイパーライフルに命中した。モニターを見る限り、他にヤツの武装は見当たらない。あるのはボックスユニットにあるものだけだ。

 

「なんだ……この感覚は……?嫌な予感がする……」

 

その予感が早速的中する。スタークジェガンのバイザーが上がったと思ったら、ゴーグルが赤く染まっていったのだ。それに合わせて排熱ダクトから熱量が上がってきている。

動き出した。そう思ったら既に違う場所にいた。スピードがかなり上がっている!?私が試験した時よりも格段に速い!推力が大幅にアップしたせいか、空を飛ぶ真似事すらやってのける。ベースジャバーを使ってはいるが、それも時々だ。

 

「だが、そのスピードは機体の負荷が大きいだろ!?どうせすぐにガタが来る。しかし、それがいつ来るかわからない。ジェガンは優秀な機体だからな。だったら……こちらからやればいい!」

 

そう言いってメガマシンキャノンを掃射する。いくらペイント弾とは言え、メインカメラに当てれば効果はある。

 

「速すぎる……!……後ろをとられた!?」

 

後ろをとられ、接近を許してしまう。変形して機体を反転させ、シールドから直接ビームサーベルを展開する。

 

「う…っぐ……。だが出力は私のより低いようだなァ!」

 

バルカンで頭部を撃ち、足で蹴り飛ばす。蹴とばした先にはベースジャバーがあり、乗ろうとした瞬間を狙撃する。

 

「避けたか…だが……それも想定通り!こちらから仕掛けさせてもらう!」

 

ロングメガバスターをフレキシブルバインダーにマウントし、ビームサーベルを抜いて接近する。それに合わせてスタークジェガンは、両手にビームサーベルを持つ。

デルタガンダムが振るったサーベルは、2本の交差したサーベルに防がれた。

 

「かかったなマヌケ!私はこれを()()()()()のだよ!!」

 

すぐにシールドを構えてメガマシンキャノンをコックピットに向かって放つ。所詮ペイント弾だが、ずっと撃ち続けることでセンサーが誤認し、増加装甲が剥がれた。敵パイロットが驚愕し動きを止める。その瞬間を逃さずに両腕を切り落とす。

すぐさまシールドにビームサーベルを戻し、空いた手でスタークジェガンの肩をつかんで着地した。

 

「敵MSパイロットに告ぐ。キサマのMSはもはや抵抗できるほどの能力はない。直ちに投降せよ。この警告を受け入れない場合は死を覚悟してもらうことになる」

 

《……》

 

相手からの反応はない。強制連行でもいいのだが……友軍と連絡できないこの状況では無理と考えるべきか。そう考えていたら、スタークジェガンがタックルを仕掛けてきた。

 

ブッピガン!

 

「うぐぁ……!こいつ…無駄な抵抗h{ピピピピ!}!?ミサイルだと!?」

 

タックルが命中し、よろけた瞬間にミサイルが飛んできた。見た感じ目の前のスタークジェガンに当たってもいいという感じがある。

私はすぐさまシールドのビームガンとメガマシンキャノンを撃って対応する。すると、スタークジェガンは全速力で逃げ出した。

 

「ま、待て!ええい……!ミサイルがうっとおしい!」

 

そう言った時には既にスタークジェガンの姿は見えなくなっていた。それと同時にミサイルの雨もやむ。

 

「逃げられたか……。だが、何が目的で私を襲ったんだ?くそっ!またあいつ(スタークジェガン)に会いそうな気がする……!」

 

変形し、基地の方向に進路を向ける。さて、これから逃げられたことに対する報告書を書かなくてはらないのか。くそっ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

司令室、そこにはマイケル大佐がいて、目の前にはモニターが点いている。そのモニターにはカイトからの報告書と、その時の戦闘データが示されていた。

 

「ふむ。グレイブの遺産とも呼ぶべきものがあったとはな……。オーガスタにあるとは聞いてはいたが、搭載されるとは…これは妨害工作とみるべきか……?心当たりはあるが武力行使してくるとは……。そこまでご執心と言うことか?まあいい。この程度の障害物でやられては逆に困る」

 

モニターを閉じ、立ち上がる。この時の彼は、いつもの温和な笑みとは違い、獰猛な、獣のような顔をしていた。

 

「やってみるがいい。この連邦をキサマらの好きにはさせんぞ……!」

 

つづく




ちなみにですが、カイトはシャイアン基地に勤めている設定です。
もちろん『システム』のことは知らされてはいません。


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休暇

所属不明のスタークジェガンの試験乱入から数日たった。私の所属する『新型兵器試験部隊』という何のひねりもない名前の部隊はその名のとおり新型兵器(武装だけでなく、MSやOS含む)を実戦で使用、どのような効果をもたらすのか試験するものだ。それは、新型兵器を試験する部隊なのであって、裏を返すと新兵器がなければただの無駄飯ぐらいと揶揄されるのである。

 

まあ何が言いたいのかと言うと、ここ最近暇なのだ。そのため、休暇を申請し、現在は基地を離れ街に訪れている。

 

「街に訪れはしてみたものの…やはり暇だな……。しかし平和なのはいいことか。……やっぱり暇すぎる。何か趣味をつくるべきか?」

 

それは基地の中でもできることならなおいい。無難に料理でもしてみるか?私の柄ではないにしても、所詮は趣味。何をしても許されるはずだ。

 

「『善は急げ』って言うらしいし、材料とか買ってみるか。あ、あとは料理本も買っておかないと」

 

そう言って、デパートに足を向ける。キッチンとかは食堂のを使わせてもらえばいいし、食材は冷蔵庫でも買っておけば保存ができる。

 

 

 

 

「これはここに輸送しておいてくれ。代金は現金で払うからちょっと待ってくれ」

 

食材と冷蔵庫を買い、今は基地に輸送の手続きをしている。確か連邦軍では私物の持ち込みはある程度容認されていたはずなので問題はないはずだ。

 

「はいよ。これで正しいか一応確認してくれ」

 

「おう、きっちりあるな。まいど!」

 

さて…あとはサングラスか。ヘルメットをかぶってないときにあの金ぴかは目に悪いからな。近くにサングラスを売っている店があってよかった。

 

「このサングラスとかいいかもな。……昔テレビでこれと同型のを掛けてたやつを見たことがあるような……?」

 

疑問に思いつつ購入。このグラサンはマジックミラーのようなもので、外側からは一切見えなく、内側ははっきり見えるというものだ。……最近はこーいったやつも販売しているとは知らなかった。

 

「……買いたいやつを買ったがどうしよう……。結局また暇になってしまった」

 

買った材料は後日基地に届くし、サングラスは今掛けている。昼は既にとっているしな。

 

「あ~結局暇だァ~。このまま基地に帰るか?でもあそこですることないしな~非常にn「カコちゃん家にいるんじゃなかったの?」!?」

 

このあとどうするか迷っていたら、1人の女性が絡んできた。しかもかなり酒ぐさい。なんで真昼間に酔っ払いに絡まれなくちゃいけないんだ……。

 

「私は『カコ』とかいう人物ではないぞ。それと離れろ」

 

「え~?ここら辺では珍しい黒髪じゃん~……あれ?カコちゃんにしては大きいような……」

 

この酔っ払いしつこいぞ!?いい加減離れろよ。

 

「それよりも聞いてよ~!キャッツがさっき負けちゃったんだよ~…うぅ……グスッ……」

 

「やけ酒かよこの野郎!」

 

「酔ってないモン……!」

 

完全にめんどくさいなこの人!そう思いつつベンチに座らせる。水を近くの自販機で買って酔っ払いに渡す。

 

「これ飲んで酔いを醒ませ」

 

「だから酔って「飲め」……ハイ」

 

私に諭され、ちびちびとだが水を飲み始める。すると若干だが、顔色は良くなっていった。

 

「う~頭がくらくらする~」

 

「何も考えずに飲もうとするなよ……。『酒は飲んでも呑まれるな』って聞いたことがないのか」

 

「何も言わないで…いろんな言葉が頭に響くから」

 

「はぁ…それよりも『カk{ウゥーー!}なんだ!?」

 

私が『カコ』とかいう人物のことを聞こうとしたら、スピーカーから警報が流れた。

 

《現在、街の西側からジオン残党と思われる武装集団が接近中!安全のため緊急避難場所まで移動してください!繰り返します!――――――》

 

周りがざわついてくる。無理もない。自分の命を奪うかもしれない存在が近づいてきているのだから。

 

「(規模はわからんが楽観視してはいられないか……!)おい酔っ払い、おんぶするから急げ」

 

ここの基地の防衛隊がどの程度の実力なのかは知らんができれば街に侵攻させるなよ?

 

「うぅ…ごめん」

 

「その感じじゃ避難所まで行けないだろ?そこまでは送ってやる。あとは自分でどうにかしろ」

 

「え!?そのあと君はどうすんの!?…うっ頭が……」

 

「私はそのあとは避難誘導の手伝いでもするさ。今の自分にできるのはそんぐらいだからな」

 

せめてジムⅢがあればもうちょいいい仕事ができると思うが…ないものねだりはよしたほうがいい。

酔っぱらいを背負い、歩き始める。周りはまだ混乱している。行くのなら今のうちか……。

 

「落ちないようになしっかりつかまっててくれよ。なるべく早めにあんたを避難所に送ってやる」

 

歩を進め、次第に走り始める。そのころには他の奴らも状況を理解し始めたようで避難所まで走っていく。

 

「もうちょっとゆっくり進んで……吐きそう……」

 

お願いだから吐かないでくれよ?

 

 

 

 

 

走り続け、避難所がようやく見えてきた。片っ端からシェルターを訪れていったが、そこは既に許容限界で扉を閉めてやるのが精いっぱいだった。せめてこの酔っ払いだけでもと思ったが、そんな余裕があるところはなかった。

 

「ようやく見えてきたな。あともうちょっとだ。気をしっかり持て」

 

「……」

 

返事はないが重くはなっていないから死んではいないんだろう。おそらく気絶でもしたのだと思う。

すると、視界の端におろおろしている少女が目に映った。この酔っ払いのことも気になるが…くっ、私は誇りある連邦の軍人だ。今急いでいるからと言って民間人を見過ごすことはできない……!

 

「君ィ!そこで何をしている!今は非常事態宣言がされているんだぞ!早く避難所にいきたまえ!」

 

「あっ、え…えと……知り合いの子と別れちゃったんです!その子は留学生だからこっちの言葉とかあまりしゃべれないんです……」

 

「その子の名前は?」

 

「アナスタシア…ですけど……あなたは?」

 

「カイト・マツムラ、ただの軍人だ」

 

そう言って腕のドッグタグを見せる。すると、突然少女は謝りだした。

 

「すすみません!軍人さんに失礼な行動をとってしまって……」

 

「謝るなよ。君の反応は当然さ。それよりも避難所にいそごう。そのアナスタシアちゃんの特徴も教えてくれ」

 

MSの音が結構近い。かなり近くまで侵攻されているようだ。しかし何が目的でここを襲ったんだ?

 

「アーニャは髪と肌が雪のように白いんです。それと今日は青い服を着てきたんでたぶんすぐにわかると…聞いてますか?」

 

「聞いていたさ。白い髪で青い服を着てたんだろ?そこまで特徴が分かるならすぐに見つかるさ」

 

そうこうしている内に避難所に到着する。さすがはこの街最大の避難所か?まだまだ人が入る。

 

「おい、起きろ酔っ払い。避難所についたぞ」

 

「う…うぅ…あまり揺らさないで……まだ気分がすぐれないんだよ~」

 

「じゃあ君はこの酔っ払いとともに避難しててくれ。君の友人は私が責任もって見つけ出してくるからな。あ、あと君の名前を教えてくれないか?君の名前を出せばアナスタシアちゃんも安心するだろうし」

 

「そ、そうですね……。ホタル……ホタル・シラギクです」

 

「そうか、じゃあホタルちゃん気をつけてな」

 

「カイトさんも気を付けてくださいね……?」

 

「わかっている」

 

おんぶしている酔っ払いを下ろし、立たせる。酔っぱらいはおぼつかない足取りだが、ホタルちゃんに連れられ避難所の中に入っていく。

 

「さて、アナスタシアちゃんとやらを探しに行かなくてはならないんだが……どこから探す?手当たり次第に探してもただいたずらに時間と体力を消費するだけだし……」

 

ずどーーん!

 

遠くで何かが爆発する音がする。うかうかしていると私も爆発に巻き込まれて死ぬぞ。

 

「チッ……さっきホタルちゃんを見つけたあたりを探すしかないか……!」

 

そう考え、先ほどホタルちゃんがいたあたりに行く。ケータイのマップ機能によると、この近くで避難できる場所はさっきのあそこのほかに一か所しかないようだ。人ごみに紛れてはぐれたとすると、そこにたどり着くまでの道にいる可能性がある…か。

 

 

 

 

「おいおい……マジかよ……」

 

違う場所の避難所についたが、その道中にはホタルちゃんの言ってた特徴の子はいなかった。

だが、私が言いたいのはそこではない。私が言いたいのは、この避難所が破壊されていることだった。おそらくだが、先ほどの爆発音がそうだったのだろう。生存者がいるかは絶望的だが探すしかないか。

 

「おーい!生きているやつはいるか!いるなら返事をしてくれ!」

 

破壊された場所から入り叫ぶ。そこは肉の焼けたにおいや血のにおいがする。誰でも生きててくれよ…!

 

「Кто-то?」

 

「だれかいるのか!?」

 

微かだが声が聞こえた。どこだ!?少なくとも1人は生きているんだ……!

 

「Это здесь! 」

 

「そこか!」

 

今度は声とともに何かをたたく音が聞こえた。今度はどこから聞こえるのかはっきり聞こえた。

そこには、周りにコンクリートの塊が落ちていてその奥から音が聞こえてくる。

 

「そーれ!」

 

近くにあった大きいコンクリートを前に動かす。すると、そこにはホタルちゃんの言ってた特徴と一致する子がいた。

 

「君がアナスタシアちゃんかな?」

 

「!?」

 

「おっと!警戒しないでくれ。私はただの連邦の軍人だ。ホタルちゃんから君を探すように頼まれたんだ」

 

「Истинный?……本当…ですか?」

 

ロシア語なまりがある…ロシアあたりからの留学生だったのか。

 

「ああそうだ。足とかにケガはないな?ホタルちゃんのいる避難所まで移動しよう」

 

「わかり…ました」

 

アナスタシアを先に外に出し、念のために他に生存者がいるか確認したがダメだった。外ではいまだに戦闘が続いている。

 

「……戦闘が続いているな。急ごう、ホタルちゃんが待っている」

 

「はい……」

 

ピューン ピューン ピューン

 

「なに!?」

 

どこからかビームの流れ弾が飛んでくる。それを私はアナスタシアを抱くようにして横に避けようとする。

 

「(間に合わない……!)」

 

そう思った時、何かが上からきてビームを防ぐ。恐る恐る目を開くと、そこには『デルタガンダム』がいた。

 

「хороший ……きれいなMS……」

 

「な…なぜデルタガンダムがここにいるんだ……?」

 

そして、デルタガンダムはこちらを向いてコックピットを開く。奇妙な確信があったと言うべきか、やはり中は無人だった。

 

「アナスタシアちゃん、このMSに乗ろう。このタイプのMSに乗ったことがある」

 

「え?は、はい」

 

コックピットに入り、簡易型の補助シートを出す。それとともに予備のヘルメットをかぶる。と言っても、戦闘機パイロットのモノだが。

 

「シートベルトはしたな。身構えてくれよ。結構Gがかかるからな」

 

コックピットを閉め、機体を起動させる。そのまま変形して上空に上がって状況を確認する。

 

「う…ん……!」

 

「大丈夫か?つらいならスピードを落とすぞ」

 

「だ、大丈夫です」

 

アナスタシアの返事を聞きながら計器を見る。ディスプレイには敵のMSの数が示されていた。数は8。内1機がMA。敵はこちらには注意を払っていない。下ろすなら今のうちか。

 

「今から降りるぞ。下からのGに気をつけろ」

 

「はい……!」

 

MS形態に変形し、バーニアを吹かしてゆっくり降りる。出来得る限りGを押さえたつもりだが……大丈夫のようだな。

 

ガシーーン

 

「んッ……!」

 

「これでたぶん大丈夫だ。早く降りてホタルちゃんを安心させるんだ」

 

「はい……!Спасибо……ありがとう…ございました!」

 

コックピットを開けると、そう言って降りていった。後ろからはドライセンが接近している。アナスタシアちゃんは走ってるけど、間に合わない。これは私が守るしかないか……!

ドライセンが3連ガトリングガンを撃ってくるが、それをシールドで防御。私が動けないのをいいことにドライセンはトライブレードも展開してくる。

 

「早く避難してくれよ…!このままではいい的だ」

 

ドライセンの攻撃は止まず、むしろどんどん激しくなっていく。その激しさに耐えられず頭部のロッドアンテナが折れる。

 

「よし、避難完了!やり返す!」

 

アナスタシアちゃんが建物に入っていくのを確認して、フットペダルを踏む。サーベルを抜いたデルタガンダムは、シールドを構えつつ全速力でドライセンに接近する。ドライセンは突然の行動に対応できずに真っ二つにされる。

 

「残り7機。……こちらシャイアン基地に所属するカイト中尉である!状況を知らせろ!」

 

《援軍か?助かる!現在MSを残り3機にまで減らしたが、他にMAがいてそいつに手間取っている!データを送る!》

 

「助かる」

 

受信したデータを見るが……ビグ・ザムのマイナーチェンジ機なのか?もともとのデータベースにあったビグ・ザムのデータを見てそう考える。主な変更点はメガ粒子砲の砲口を減らしたことか。減らしたと言っても、口径がでかくなり、拡散ビームを撃てるように改良されているのだ。他にも機銃を増やして近接防御に力を入れている。

 

「近づく前にハチの巣だなこりゃ。さて、どう接近するか」

 

機体を変形させ、最高速度で移動する。すると、ものの数分で例のMAがいるところまで移動できた。

 

「あれか……。2機のMSがビグ・ザムの下にいて、残る1機が上に乗ってカバーするのか。そりゃあ手こずるな」

 

ロングメガバスターを撃つが案の定Iフィールドによってビームが無効化される。しかも一定距離に近づいたら拡散メガ粒子砲を撃ってきてめんどくさい相手だ。

 

「死角がないな。あったとしても3機のMSによって阻まれるか……」

 

《どうやってあのMAを破壊するんだ!?このままじゃじり貧だぞ!》

 

「せめてあっちのビーム兵器も無効化できれば……。……それだ!聞こえるか守備隊!ビーム攪乱幕を展開できるか!?」

 

《こちらはバズーカの残弾がない!出撃準備しているの機体が他にもあったはずだが……》

 

「なら向こうに攪乱幕弾を装備した部隊を寄越せって言っておけ!」

 

《了解!司令部、聞こえるか!こちら―――――》

 

しかしこの間に何もしないってのも無理な話だ。敵は少しずつだが侵攻しているのだ。民間人の被害をこれ以上増やすわけにはいかない。

 

「……カイト中尉、突貫する!」

 

しょうがない。この機体のビームコーティングに期待させてもらう!

 

ペダルを踏み、機体を加速させる。当然、敵は近づけさせまいとして弾幕を張る。それを避けつつ途中でMS形態に変形する。そして、手からダミーバルーンを射出した。それはすぐに破壊されるが、破壊された瞬間に爆発した。機雷を仕込んでいたのだ。MS形態のまま爆煙を突っ切る。ビグ・ザムはすぐに拡散メガ粒子砲を撃って迎撃するが、コックピット部分をシールドで防御しつつ前進する。

いくらビグ・ザムとはいえ所詮は拡散ビーム。ディスプレイにはまったく被害報告が入ってこない。

 

「ビグ・ザムのメガ粒子砲はチャージ時間がある。今撃ったんだから今のうちに接近すれば……!」

 

《中尉殿!援護します!》

 

通信が聞こえ反対側から爆煙が見える。バズーカを持った新たな部隊が来たのだろう。しかし、それでもビグ・ザムをよろけすらさせない。

 

「間合いに入った。これなら!」

 

シールドからビームサーベルを起動させて接近する。下にいたザクⅢがビームサーベルを抜き、デルタガンダムとつばぜり合いになるが、デルタガンダムはさらにスピードを上げてビグ・ザムの脚に叩きつける。

そのままザクⅢを切って爆発させ、脚をやられたビグ・ザムが倒れる。その影響で下にいたもう1機が押しつぶされ、体勢を崩した上のMSが守備隊のMSに撃破された。

 

《このまま終わってたまるか…!宇宙のジオンが活動を再開したのだ。我々がこのまま指をくわえて待っているわけには……!》

 

「キサマらの機体はもう動かせまい。諦めて投降するんだ。裁判を受け、然るべき罰を受けるんだ」

 

《我らここが朽ち果てようとも……同志が志を継いでくれるはずだ。後は頼んだ、ジーク・ジオ{グシャアア}》

 

ヤツらの言葉が言い終わる前にコックピット部分をシールドで突きさす。どーせ自爆でもしようとしたんだろう。

 

「それに、関係のない市民を巻き込んだ連中に大義などありはせんよ……」

 

この胸のイライラを抱えたまま、私の休暇が終わったのだった。

 

 

つづく




日刊ランキング1位ありがとうございます!
しかし……お気に入り数が最後に見てから2倍に増えていたときは「これ自分のアカウントだっけ?」と思いましたね。

今回オリジナル機体を出したので、その解説をします。

MA-08-2
ビグ・ザム改

頭高長:59,6m
出力:140,000kw
本体重量:896,3t
全備重量:2103,2t
推力:580,000㎏
センサー:162,000m
装甲:超硬スチール合金+一部ガンダリウム合金
武装:大型メガ粒子砲
メガ粒子砲×13
機銃×13

ビグ・ザムをU.C.94の技術で改修した機体。姿はより円盤のようになった。
メガ粒子砲を半分に減らし、代わりに機銃を設置することでビームコーティングした機体に対応している。
メガ粒子砲は口径を出かくして拡散ビームを撃てるように改良されている。
地上で運用することを前提しているため脚部クローを廃止、地盤をしっかり『掴む』ことができるようにしている。
原型機に問題があった排熱は解決し、Iフィールドの出力も安定している。
上空からの爆撃を考慮してガンダリウム合金に変更されているが、MSを上下に配置することで資格を補っているようだ。


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宇宙からの襲撃

7/3 追記しました。


休暇から数か月経つ。その間にもいろんな兵器を運用した。正式採用された兵器がいくつあるのかは知らないが…私がテストした兵器が友軍を生かしているとしたらこれほどやりがいのある仕事はないな。

 

今回は、完成した先行量産MSのテストだ。以前にもこいつ用の武装をテストしたことがあるが……いい思い出ではないな。

 

「ふぅ~。久しぶりの宇宙だな。この無重力が懐かしすぎる」

 

「中尉はスペースノイドだったのですか?」

 

「ああ。サイド7出身だ。あそこは戦後もいろいろあったからな……。あん時は『BGST(バーゲスト)』がいたから何とかなったが……だからそれをどうにかしようと思って連邦に……。……!?」

 

「どうかしました?」

 

「いや、何でもない。忘れてくれ」

 

私の過去に一瞬違和感を感じたが……気のせいか?それよりも久しぶりの宇宙だ。宇宙でMSを動かしたのは士官学校以来だ。まずは慣れてからか……。

 

「今回はいつもと違い、他のMS部隊と共同で試験を行います。っと、他隊と共同で行うのは今回が初めてというわけではありませね」

 

「ああ。だが、今回は前回とは違い1機なんだな」

 

「というより1機が限界なんですよ。今回の試験だと」

 

「なんでだ?……あぁ、そういうことか」

 

資料を読み進め納得する。今回は大気圏突入用装備を試験するようだ。しかもこの機体はSFSとしても扱えるように設計しているようで、MSを乗っけた状態で地球に降下するようだ。また、それに合わせてこいつの専用武器のテストも行うようだ。

 

「ま、共同で試験をやるんだったらあいさつ回りに行かないとな」

 

「そこんとこは中尉の裁量に任せます。日程は決まり次第知らせますので。では」

 

「わかった」

 

さて、焼いたクッキーでも差し入れに行ってみるかな。

 

 

 

 

数時間後、私は試験対象である新型可変MS『リゼル』のC型と呼ばれる指揮官機に乗り込んだ。こいつは一般機のリミッター上限を引き上げ、それに合わせて各部を強化された改修機だ。今回はこいつの武装の1つ、『メガ・ビーム・ランチャー』のテストと、それを装備したうえでの大気圏突入が試験内容になる。

 

《アルバ・メルクルディ》

 

《ドリット・ドライ。スタークジェガン、出る!》

 

「カイト・マツムラ、リゼル、出るぞ!」

 

フットペダルを踏み、機体を加速させて『アイリッシュ級オアシス』から発艦する。

 

今回の試験では専用OSを切っている。開発陣もそれを想定してようで、私の要求が通った。それに、新型OSは一般機でテスト済みらしい。

 

「あいつ等…『スタークジェガン』と言っていたが形状が違うな……」

 

頭部やバックパックの形状が若干違う。もしかしたらA型ベースの試作機かもしれないな。また、手にはリゼル用のビームライフルを装備している。

 

「あのビームライフル……まさか暴発とかしたりしないよな……?」

 

《中尉、あれは正規品ですよ?中尉が以前テストした試作品とは違います》

 

「わかってるって。……では、これより試験を開始する。と、言いたいところだが慣らし運転してもいいか?何もしないでいきなりテストってのは無理だ」

 

《……そういえばC型の機動性テストをしていませんでしたね。まずそちらから始めましょうか》

 

「……なるほど、そういうことか」

 

そもそも低軌道上でのテストの上、初めて動かす機体で大気圏突入はできっこない。

 

「じゃあ適当に動かしてみますか」

 

言葉通り適当に動かす。デルタガンダムほどではないが、量産機にしては結構速い。整備主任の話によると、他にも高機動化させるオプション装備をつくっているらしい。地球連邦にこーいったMSをつくることが許されるような時代になったってことか。

 

「まったくもっていい機体だな。ただ……推力がないな。私好みに調整されたとしてもこのスピードだけはどうにもできないからな。そこだけが残念だな」

 

《無茶言わないでください!これ以上速くしたら扱える者が本当にいなくなってしまいます!》

 

「そこはわかっているさ。ただの一個人の意見さ。さて、暖まってきたことだしメガ・ビーム・ランチャーの試射を行う」

 

《了解です。では地球に落下するコースのデブリを撃ち落としてください》

 

「わかった」

 

リゼルを索敵モードに変える。それに合わせてモニターが青くなりデブリ一つ一つの軌道を計算する。……見つけた。近くに1つ、10㎞先にもう一つある。

 

「では、試射を行うとしますか」

 

メガ・ビーム・ランチャーを構え、最大出力で撃つ。すると、もともと小さめだったためか、いともたやすく溶解する。

 

「ひゅ~♪これは完全なリゼル用だが、結構な威力があるな。だが、バックパックと繋がっているから取り回しが悪いな」

 

WR形態に変形し、遠くのほうにあるデブリも狙撃する。そちらは大きいためか細かい破片をまき散らして分解した。その分解した破片をスタークジェガンが狙撃している。また、ビームライフルでの狙撃で分解しきれないものは、接近しロングビームサーベルを展開して叩き切る。

 

「アルバ中尉、ドリット少尉。デブリの破壊作業手伝おうか?」

 

《そうしてくれると助かるんだけどね》

 

《馬鹿を言え、そうしたら試験の意味がないだろう》

 

「……真面目だな」

 

《任務に忠実なだけだ》

 

「知ってる」

 

軽口をたたきつつスタークジェガンに近づく。スタークジェガンもこちらに近づき、バックアップにあるグリップをつかむ。ガゴン!という大きな音と衝撃を受けながらつかんでいることを確認し、そのまま機体を加速させる。

 

「このまま大気圏突入能力を試験する。チャンスは1回だ。しっかしモニタリングしてくれよ?居眠りしていてデータを取れていませんでしたってのはなしだぜ」

 

《わかっています。でも今は目の前のことに集中してください。私に気をとられて突入に失敗しまたってのもやめてほしいですからね》

 

「わかっている。……ではお二人さん。しっかりつかまっててくださいよ。……突入角度修正、コンマ3―――――」

 

計器を見つつディスプレイの指示に従って修正をする。数秒後、モニターの下の画面が乱れていき、突入を開始したことを実感させる。

 

予定では、このまま大気圏突入した後は降下ポイントであるギアナ高地にいるであろうジオン残党を叩いて実践での戦闘能力を計るはずだ。いなかったら近くの基地に行く手はずになっている。

 

《初めてだぜ…大気圏突入するのは》

 

「私も初めてだ。できればこのまま何もなく終わってほしいね」

 

《誰だってそうさ。私だってそう思う》

 

降下が終わるのは約45分後。この時間は襲撃にでも合わない限り(あるわけないし、あってほしくない)暇だ。ここはなんとか時間をつぶしたい。

 

「そういえばなんだが……君たちに渡したクッキーはどうだった?」

 

《いきなりなんだ?まあうまかったけどよ……弟たちに食わせてやりたいほどにさ……》

 

「それは……すまなかったな」

 

《勘違いすんなよ!?弟たちは生きてるからな!?五体満足で!》

 

《確かに軍務に励んでいると嗜好品はなかなか口にしないからいいと思ったが…ドリット少尉、カイト中尉。任務に集中するんだ。しかも今は大気圏突入中なんだ》

 

「《りょーかい》」

 

《はぁ……》

 

 

 

 

 

「降下ポイントに到着を確認。これより索敵を開始する」

 

そう言ってリゼルを索敵モードに変える。すると、早速反応があった。少なくとも下に2機いる。他にもいるかもしれないが、機動させなくちゃわからないな。

 

「敵機を2機確認した。お客さん(プロト・スタークジェガン)を降ろすために少し掃除をする」

 

機体を少し下に向け、メガ・ビーム・ランチャーの射角を確保する。敵はまだこちらに気づいていない。

 

「射程まで3…2…1…発射!」

 

トリガーを引き、メガ・ビーム・ランチャーを撃つ。それは吸い込まれるように機体に命中し爆散する。すると、少しづつ機体反応が増えていく。もちろんIFFは敵を示している。

 

「よし、ご到着だぜ!代金は戦果で頼んだ!」

 

《了解!任せな!》

 

《こちらも敵の位置を把握した。ドリット、降下しながら狙撃して数を減らすぞ》

 

《わかった》

 

声が引き締まっていくのがわかる。先ほどとは違い、意識を切り替えているのだ。さすがはプロって言ったところか。

 

「さて、こちらは上から降下の援護をするとしますかね」

 

少なくとも敵の上を飛んでいるだけでもちょっとした牽制にはなる。敵の数は8。ゲリラにしては数が多い。ここまでの組織を把握できていなかったって言うのか?連邦政府は。

ここのゲリラは錬度が高いのか、すぐさま弾幕を張る。しかし、敵のMSや武装が旧式なのが幸いして降下中のスタークジェガンは全くと言っていいほどダメージを受けずにいた。

 

「この距離で当ててくるのか!?まったく…旧式の実体弾なのが唯一の救いだな」

 

そうこうしている内にスタークジェガンが2機狙撃して降下を成功させた。こちらも負けじとメガ・ビーム・ランチャーを撃つが、1機をかすめるにとどまった。すると、別の1機のMSがSFSに乗ってこちらに飛んでくる。

データバンクによると、『イフリート』のようだが、一部形状が合致しない。といっても、参照にしたのがカスタムタイプの『イフリート・ナハト』だから仕方がないのかもしれないが。

紫の色をしたイフリートは、手にグフ用のヒートサーベルを構える。こちらも、MS形態に変形し、右腕のボックスからサーベルを取り出して構える。

 

ガキイイイン!

 

サーベルとサーベルがぶつかり合う。力任せにサーベルを振るうが、向こうはそれを受け流して距離をとった。リゼルは機体を反転させ、WR形態の変形して追撃する。

 

「チッ……。遅いぞ!こいつは前面の表面積が広すぎるんだ!だから空気抵抗が大きくて大したスピードが出ないんだ!」

 

メガ・ビーム・ランチャーの出力を下げて連射するが、イフリートはSFSをうまく使い避けきる。

トリガーを引き、新たにメガ粒子弾を放とうとしたら、背後からゲルググがビームを撃ちながら接近してきた。

 

「邪魔をするんじゃあない!」

 

MS形態に変形し、振り向きざま、肘鉄の要領でハンマーブレードを当てる。ハンマーブレードが命中し、吹っ飛んでいくゲルググをシールドのビームキャノンで仕留める。

 

「ちっ…!距離をとられたな……。……ん?なんだこの感覚は……以前も感じたことのある感覚……思い出せない……何かが近づいて……!アルバ中尉!何かが接近してくる!気をつけろ!」

 

《何かってセンサーにはなんの反応もないぞ!》

 

ミノフスキー濃度が高すぎたのか!?でもこの感覚はやばい。嫌なプレッシャーが近づいてくる。

 

再接近したイフリートのサーベルとリゼルのサーベルがぶつかろうとしたその時、一条のビームが横切った。

 

《捉えた。データを転送する……!?》

 

アルバから驚きの声が漏れる。それはそうだろう。それはアルバたちが使っているスタークジェガンの後継機なんだから。

こいつの目はすでに赤く、IFFの反応もない。以前と違うのは、バックパックが変わったことか。さらに言うとそのバックパックに中、遠距離用の武装が搭載されている。

 

「アルバ中尉、ドリット少尉。私は以前あいつに襲われたことがある。その経験からするとあいつは君たちの機体よりも圧倒的の速いぞ」

 

イフリートは青いスタークを見るや、手にクナイを持って味方に手信号を送っていた。おそらくは撤退か何かの合図なんだろう。

 

《あの青いの…まさかな……。だが……各機!非戦闘員の退却を確認してから撤退だ》

 

混線したのか、イフリートからの通信が聞こえた。逃がすか、と思いメガ・ビーム・ランチャーを構えるが、青いスタークが発射の邪魔をする。したがたなしに青いスタークに撃つが、牽制にもならない。残党軍も戦闘区域から離れようとしている。

 

《逃がすかよッ!!》

 

「ドリット少尉!落ち着くんだ。撤退するヤツは放っておいてまずはあの青いヤツから仕留めるんだ。そうしなきゃこちらがやられるぞ」

 

《スタークジェガンなら残党を狩ってくれってんだよ……!》

 

全面的に同意したいところだが、相手はこちら、特に私をつけ狙う。はっきり言ってかなりしつこい。

ヤツはその無駄に上がった推力を使って飛び上がる。以前のままだったらデルタガンダムならヤツを倒すこともできるかもしれないが、慣れないこの機体じゃ難しいな。

 

あいつ(青いスタークジェガン)から距離を取れればアルバたちが狙撃をしてくれるが……難しいか。だったら!……なに!?」

 

MS形態に変形してメガ・ビーム・ランチャーを構えようとしたら、すぐそこに青いスタークがいた。重そうなバックパックとは裏腹に大出力のスラスターもあるようだ。青いスタークは手に持ったビームサーベルでメガ・ビーム・ランチャーを切り裂き、リゼルを蹴ってプロト・スタークジェガンの方に向かっていった。

 

「私を踏み台にしただと!?ええい……!」

 

川の水面に触れる直前に変形し、青いスタークを追いかける。ついでにメガ・ビーム・ランチャーをパージした。これである程度軽くなったはずだ。

 

「アルバ中尉!出来ればヤツを鹵獲したい。あくまで出来ればの話だが」

 

《善処する。……が、出来ないと思っていてくれ》

 

「ああ、そういうと思っていた!」

 

ビームキャノンで青いヤツを牽制しながらMS形態に変形し、タックルを仕掛ける。プロト・スタークジェガンとつばぜり合いになっていたために、青いスタークジェガンにキレイに命中した。

 

「これで以前やられた分はやり返したぜ。あとは動けないように鹵獲するだけだ」

 

姿勢を立て直した青いスタークは肩のビームキャノンとグレネードランチャーらしきものを撃ってくる。リゼルとプロト・スタークジェガンはそれを避けるが、撃ってきたモノの中には散弾が含まれており、一部鉄球が当たる。

 

「当ててくるか。だが、散弾ではなァ!」

 

機体を高速で移動させて青いスタークに接近する。青いスタークはビームサーベルを構えながら肩にある武器で牽制してくる。

 

「そんなものビーム砲側に移動させればどうということはない!!」

 

時折敵の弾丸がリゼルに当たるが、構わずに突進する。一瞬のうちに青いスタークの持つサーベルとつばぜり合いになった。さて、どうやって鹵獲するか。頭の中にある機体の構造、兵器を思い起こさせる。

 

「……そうだ!アルバ中尉、そのプロト・スタークジェガンにはグレネードが搭載されていたな?」

 

《あ、あるがどうした》

 

「その中にスタングレネードはあるか?」

 

《……!わかった。だがどうやってヤツに押し当てるんだ?》

 

「次つばぜり合いになったら仕掛けるんだ。リゼルの上に乗れ。タイミングはこちらで作る」

 

《了解した!》

 

バルカンで牽制しつつ距離をとり、WRに変形してプロト・スタークジェガンの方に飛ぶ。

 

「ジャンプしろ。その下を通る」

 

《その瞬間にグリップをつかめってことだな?任せな!》

 

ガシン!

 

プロト・スタークジェガンが乗ったことを確認してスラスターを吹かす。

 

「勝負は一瞬!気を抜くなよ!」

 

《わかってるって》

 

青いスタークは弾幕を張りながら後退しようとしている。だが、その背後を何かが接近してくる。そして青いスタークとつばぜり合いになった。

 

《イフリート!?なんであそこにいるんだ!?逃げていったはずじゃ……!》

 

「どういう理由が存在がしようともあいつが隙をつくってくれた。このままいくぞ!」

 

《了解!》

 

さらに加速させ、距離を詰める。イフリートはこちらが近づいてくるのを確認し、青いスタークから離れていく。置き土産にクナイを投げて肩のキャノンを破壊していってくれた。ここまでお膳立てされたんだ、失敗するわけにはいかない。

 

《我々はジャンプしてヤツの背後に回る。その隙を何とか作ってくれよ……!》

 

「わかっている!」

 

プロト・スタークジェガンがジャンプしてリゼルから離れていく。軽くなった分リゼルは加速し、青いスタークの距離をさらに詰める。100mを切ったところでMS形態に変形し、ビームサーベルを取り出す。

 

「ウオォォォ!!」

 

ギイイイイン!!!

 

サーベルがぶつかり合い2つの機体が硬直する。背後に降り立ったプロト・スタークジェガンがそれを逃すはずもなく手に持ったスタングレネードを青いスタークに押し当てた。目に見えるほどの電撃をまき散らしながらスタングレネードは所定の機能を発揮する。そして、青いスタークは機能停止した。

 

「アルバ中尉、ドリット少尉。やったな。敵のMSを鹵獲したぜ…!」

 

《そうだな。あとは機体を運んで近くの基地に移動するとしよう》

 

「あ~…そのことなんだが……」

 

《まさか、別の任務でこの機体を引き渡すことができないとかではないな?》

 

「そういうわけではないんだが……」

 

ディスプレイを見て、私は先ほどとは違い歯切れが悪くなってしまった。さて、どうする。

 

《何が言いたい》

 

「先ほどの戦闘で推進剤をほとんど使い切ってしまった。リゼル1機だけでも近くの基地に飛ばすことができないほどにな」

 

《……確かに、私たちの機体もそのようだ。このまま歩いていくしかない…か》

 

徒歩で移動とは……帰還は何日後なんだ?しかもこの青い所属不明機も一緒に連れていくからさらに時間がかかるはずだ。

 

《何言ってんだアルバ。この近くには他にあるだろ?行ける場所が》

 

《……そうか!確かにここなら残りの推進剤でも速く行けるな》

 

「お二人さん……もったいぶらずに私にも教えてくれませんかねぇ?」

 

《すまないカイト中尉。この近くにはドリット少尉の故郷があるんだ。しかも今の時期はアナハイムの社員である私の友人を通じて居場所を伝えることが可能だ》

 

そう言ってプロト・スタークジェガンから村のある場所のデータが送られてくる。確かにここなら明日には帰れるかもしれない。

 

《久しぶりに弟たちに会えてよかったな》

 

《予定よりかなり早くだけどな》

 

「そうか、なら私も腕を振るうことができるというものだな」

 

《え?》

 

「今日はいろいろあった。だが、それでも今日を生き残れたんだ。これはパーティーを開かなくちゃな。もちろん君の故郷全体でな」

 

《……ああ!》

 

 

 

司令室、そこにはいつも通りマイケル大佐がいた。しかし、マイケル大佐の顔はいつもの笑みではなく、疲れ切った老人のような顔をしていた。そして、手にはとある場所から提出された報告書があった。

 

「オーガスタのヤツらめ、グレイブの遺産だからってわざわざ少女を使わなくたってよかっただろうに……」

 

報告書の内容は、鹵獲したスタークジェガン、及びそのパイロットについてだった。

 

「『パイロットの少女にはÆ社、またはそれに類するものは一切なかった』……か。しかしスタークジェガンのバックパックは『UC計画』で開発される予定の『ジェスタ』のオプションに近いデザインだった。これはどう考えるべきか……。無駄になるかもしれんが、少女の警備はしっかりせにゃならんか。物理的にも、政治的にも」

 

マイケル大佐の苦悩はまだ消えない。

 

 

続く



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転勤

青いスタークジェガンを鹵獲し、友軍によって救助された私は3日後、司令官であるマイケル大佐に呼び出された。最近何かをやらかした心当たりがなく、新型兵器についてもメールなどで伝えられるため不審に思った。

 

そして、指令室の前に立ち、深呼吸を行ってからノックする。

 

「こちら、カイト・マツムラ中尉であります。出頭命令に応じ、参りました」

 

《了解した。入り給え》

 

ボタンを押し、司令室の中に入る。中には大佐のほかに秘書がいる。調度品はあまりなく、植物が申し訳程度にあるだけだ。

 

「さて中尉、今回呼び出したのは君にある任務をしてほしいのだよ」

 

「ある任務…ですか……」

 

「そうだ。これを受け取り給え」

 

嫌な予感がする、そう思いつつ大佐殿が出したファイルを受け取る。たいした厚みもなく、機密的な何か、というわけでもなさそうだ。

 

「拝見しても?」

 

「構わん」

 

そういわれ、ファイルを開く。そこに書かれていたものは少し、いやかなり予想外なものであった。

 

「私が教官…ですか!?」

 

「そうだ。来年から君がテストした可変機、確か…『リゼル』だったか?あれが配備される。『アッシマー』や『ゼータプラス』などといったエースに向けたモノではなく適性のあった一般兵に配備される。ロンド・ベル優先だがね。ともかく、これからは量産型可変機が主力になる。それに備えて士官学校などで可変機に対する授業を始めようということになったのだ」

 

「質問よろしいでしょうか」

 

「構わんぞ」

 

「なぜ、私なのでしょうか?それにリゼルは宇宙用です。わざわざ地上で訓練する必要はない気がするのですが……」

 

ファイルを受け取った時からの疑問を投げかける。それに対しマイケル大佐は、ふっといい口を開いた。

 

「確かに中尉の疑問はもっともだ。ではまずは最初の質問から答えよう。なぜ中尉に白羽の矢が立ったというとだな、中尉は()()()()()()『デルタガンダム』を扱っていて、しかも実戦経験があるからだ。「だったr」落ち着くんだ。まだ話は終わってはいない。中尉はこう思っただろう?〝ほかにも可変機を扱ったベテランがいるではないか”と」

 

ええ、思いましたよかなり。

 

「この基地にもいるにはいるのだが…絶対数が少なくてな。それでこれから当分新兵器の試験がない中尉になってもらうのだ。当然、試験の時は教官の任務ではなくそちらを優先してもらう。そして2つ目だが、開講できる場所がコロニーにあまりなくてだな……それに宇宙に対応した可変機がコロニーに回せるほどないからだ。それに対し、地球には先の大戦で大量生産された『アッシマー』や『ゼータプラス』が各地に配備できるほどあるからだ。さらに言うと、可変機に対する扱いを覚えてもらえばいいのだよ。覚えたなら宇宙での訓練で何とかなるからな。他に質問はないな?なかったら退室し、ファイルをよく見ておくんだ。明後日に士官学校に向かってもらうぞ」

 

「はっ、了解しました。……あ、1つよろしいでしょうか」

 

「いいが」

 

「では、あの『スタークジェガン』のパイロットはどうなったでしょうか?」

 

「今も拘置所にいるさ。さて、早く出発に向けて支度をしてきなさい」

 

「そういうことではなk「君は『1つ』と言った。私は答えたぞ?退室しなさい」……了解」

 

納得がいかないが、司令室から出、まっすぐに自室に戻る。これ以上言っても大佐殿は答えないだろうし、今は新しい職務を果たすことだ。そのためにはファイルを読むことだ。司令は明日私が非番であることを知っていたからこそ今日渡したのだろう。明日移動できるために。…厄介なことだ。

 

「えーと何々?『転属命令―――』ここは読んだ。次、『職務内容』…ここか」

 

読み進めていくうちに、私のやることが大体把握できた。私がするのはシミュレーター、実機を使った講義だった。実機と書かれていて使われるのは『ゼータプラス』なのだが、複座席のB型ではなく、94式コックピットに換装されているゼータプラスだった。おそらくは補助席に教官を乗せ普段は指示やアドバイスをし、いざとなったら訓練生と交代して操縦をするのだろう。

 

「明日移動か……。時間は遅めだが今のうちに私物をm{ジリリリ!}なんだ?」

 

動こうとした瞬間に通信機が鳴り一瞬動きが止まる。一呼吸し通信機のモニターを開く。すると、現れたのは食堂の料理長だった。

 

「え~と料理長、ご用件は……?」

 

《申し訳ありませんが中尉、今日は非番が多くて手が回らないのです!少し助けてくれませんか!?》

 

確かにここ半年ぐらいあそこの厨房には世話になった。いつ戻るかわからないから今のうちに恩返しするものいいだろう。

 

「わかった。今向かおう。{ピッ}まったく、私はシェフではないのだがな……」

 

 

 

私が勤務する士官学校は、以前ゲリラに襲撃された街に隣接する基地あった。(現在は復興作業が行われている。)

 

昨日は、その士官学校に到着しあいさつ回りをしていた。そして発覚したことだが、ここのシェフは塩味が効きすぎてる。そのため私はここのシェフを買って出てしまった。これではマーティン大尉と同じではないかと思ってしまったが、職員や候補生が健康的な食事が食べられるならいいと思い至って結着をつけた。

 

私が基本的に担当するのは、シミュレーターや実機での訓練だ。まずは実機よりも簡単なシミュレーターである程度の動かし方を覚えさせる。その後、テストでもして成績の良かった者から乗せると考えている。言うまでもないが、実機の場合は、他の教官と合同で行う。そして他の教官は、座学を担当する。TMSを使った戦術などを教えるのだろう。

 

「さて、もうそろそろ行かなければな」

 

気負いすぎなければ何とかなる。そう思いながらシミュレーターのある部屋へ向かうのであった。

 

 

つづく




主人公の人格が安定しすぎている気がする。強化人間のはずなのに……。


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初フライト

私が転勤してから1か月ほどたった。そして、この1か月で大体の順位が決まった。

 

今私が見ているのは生徒たちのシミュレーターでの成績だ。この成績によって乗ることのできる乗機が変わる。

 

――――成績のいい者には『Zプラス』を、それ以外には『アッシマー』になるのだが、カタログスペックだけを見ると、アッシマーの方がかなりいい。要するに成績にいいものには『ガンダム(もどき)』を、それ以外には『モノアイ機』に乗せて意識の向上を狙ったものである。―――――

 

ともかく、私が担当している生徒にも出来のいいのがいるのだ。名前は『リディ・マーセナス』と言い、見た感じかなりの好青年だ。そして、かなり勤勉で生真面目な奴で、ほぼ毎日シミュレーターの授業外での使用許可を求めてきてる。それが功を奏してか、この士官学校の全体トップなのだ。

 

「{コンコン}リディ・マーセナスです。入室の許可を」

 

私が明日の成績発表の仕方について考えていると、ドアをノックする音とリディ君の声が聞こえてきた。時計を見ると、いつも通りの時間である。

 

「いいぞ」

 

「失礼します。カイト教官、シミュレーターの使用許可をお願いします!」

 

「いいだろう。これいつものカギな」

 

リディ君は入室するや否や、シミュレーターの使用許可を求めてきた。それに対しては特に問題ないので、鍵を渡す。鍵を受け取ると、リディ君は手に持っていた袋のうち、小さいほうを渡してきた。(ちなみにリディ君が持っているもう一つは、袋の切れ目からプラモの絵が見えた)

 

「あ、あとカイト教官。配給の方からこれを渡されてきたのですが……」

 

「ん?ありがとう」

 

私に郵便を送る者はいただろうか、と考えながら封を切る。すると、中から可愛らしい絵がプリントされた便箋と、T字をした何か、そしてDISKが入っていた。それと同時に、誰かの視線を感じた。言うまでもなくリディ君だ。リディ君の方に顔を向けると、そこにはニヤニヤした顔のリディ君がいた。

 

「教官、もしかしてk「そんなこと聞く暇があったらさっさとシミュレーター室に行ってこいっ!」は、はぃぃいい!」

 

バタンと音を立ててリディ君は部屋を出ていった。あのニヤケ顔にまだイライラしたのか、私は1回壁を思いっきり殴ってから手紙を読んだ。

 

 

『 私たちを救ってくれた軍人さんへ

 

 

お久しぶりです。忘れているかもしれませんが、あなたに助けてもらったホタル・シラギクです。最近、私たちの街も復興を遂げ、ようやく以前のような生活に戻ってきました。それは、カイトさんのような軍人さんに手伝ってもらったからです。そして、その生活が出来るのはカイトさんに助けていただいたからです。そのお礼にこれを送ります。お守りとして持っていてください。

 

 

 

ホタル・シラギクより』

 

 

DISKには野球の映像と、ホタルちゃんたちからのビデオメッセージが入っていた。また、あの事件がきっかけであそこにいた酔っ払いとも仲良くなったらしい。ホタルちゃんたちもあの後無事のようで何よりだ。

 

 

 

 

 

 

翌日、私はMS格納庫にいた。ほかには生徒がいる。そして、全員がパイロットスーツを着ていた。

整備については、工学科がすでにやっており、万全な状態のはずである。

 

「全員、準備はいいな?」

 

『はい!!』

 

「今回が初のフライトだ。緊張するのはわかる。だからあえて言おう。落ち着いて行動しろ。以上だ。各人自機に移動!」

 

『はいっ!』

 

生徒が各々のMSに移動したことを確認して、私も自機に乗り込む。今回使うMSは『ギャプラン』だ。なぜなら、ワンオフ機は持ってこれない上に、公式では『存在しない』機体のためここにはない。その代わり、このギャプランが配備され、こいつは熱核ジェットエンジンに換装すると言った改修を加えられている。

 

そして、今回の教導から、幾つかのチームに分かれて行うようだ。私が担当するのはリディ君含むZプラスで構成されたAチームだ。

 

「Aチーム各機、聞こえるか?」

 

《リディ機、問題ありません》

 

《ブラウン機、問題ありません》

 

《ウィルバー機、問題ありません》

 

3機とも問題ないのを確認し、指示を出す。

 

「それじゃあ、リディ機から順番に滑走路からポイントK13まで飛翔しろ。シミュレーション通りにやればできる」

 

『りょ、了解』

 

格納庫から出、その場で変形して飛び立つ。その間にもリディ機から目を離さない。すると、リディ機から順にZプラスが飛び立っていく。

 

10分後、そこには小隊単位のZプラスが集まっていた。ぎこちなくではあるが、しっかり飛べているようだ。

 

《俺が宙に浮いているようだ……》

 

「その気持ちはよくわかるが、操縦がおぼつかないようにな」

 

《は、はい!》

 

「では、各機!Aフォームをとれ」

 

『了解!』

 

返事をしてから陣形をとり始める。と言っても、三角形の形をとるだけなのですぐに組み上がった。

 

「今日は戦闘機動をとるわけじゃない。基本的な操縦でただ単純に飛ぶだけだ。あんまり気負うなよ?」

 

『了解』

 

この後は進路を北西にとり、山岳地帯を1周してから帰投する予定だ。今日の山の天候は晴れ、ただ、最近は風が強いから操縦をしっかりやっていないと崖にぶつかることになる。

 

「各機、しっかりついて来いよ。迷子になっても捜しに行かないからな」

 

『了解』

 

ペダルを踏み加速する。後続のZプラスがついてきていることを確認し、Zプラスの限界まで加速する。すると、ほんの2時間で着いてしまった。予定より1時間早い。

 

「各機、計器にしっかり目を向けておけよ。風にあおられるからな」

 

『はい』

 

ビューー!

 

言った直後に風が吹いてきた。私は素早く姿勢制御をこなしたから何とかなったものの、Aチームの陣形はいともたやすく崩れていた。

 

「Aチーム各機、大丈夫か?」

 

《リディ機、問題ありません……》

 

ほかの2人も同じ反応だった。初めてとはいえ、風に陣形を崩されるとは……。先が思いやられるな……。

 

 

 

山地の中腹あたりまでやってきた。先ほどからどこかから視線を感じる。使用許可を求めた際には武力集団などの情報はなかったんだが……。

 

すると突然、ミノフスキー濃度が高まってきた。瞬く間に濃度が上がり、戦闘濃度になる。

 

《ミノフスキー濃度上昇、何かの訓練なのか…?》

 

「各機、Eフォーム!これは訓練ではない!モニターから目を離すなっ!」

 

『……了解!』

 

意図を感じ取ったのか、すぐに隊形を組み替える。すぐに私は手動でセーフティを解除して戦闘態勢になる。

 

「各機、機体にあるすべての武器を使用可能な状態にするんだ。いつ戦闘が起きt{ピピピピ!}散開!!」

 

『は、はい!』

 

隊形の中央にビームの弾が通る。先に指示を出したのが功を奏し、当たる者がいなかった。しかし、これが敵の狙ったものだった。

敵は、散開したところを狙ってきたのだ。敵の攻撃がブラウン機に集中する。

 

《うわあああああ!》

 

「ブラウン!聞こえているかブラウン!聞こえているのなら返事をしろ!」

 

《敵が僕を狙って……!ああああああ!》

 

「上昇しろ!敵の攻撃が当たらないところまで動くんだ!」

 

《誰か助けてェェェ!》

 

「ええい……!」

 

《ブラウン!このォ……!》

 

「リディ!勝手に動くな!」

 

敵の攻撃が実弾中心のおかげで機体にたいしたダメージを与えていないが、パイロットに対する心理的動揺を与えると言った意味では成功と言えるだろう。

勝手に動くバカ(リディ)もいるが、ブラウンを放っておくことも出来ないため、ブラウン機の前に滑り込んで盾になるように動く。

 

「ブラウン!高度をとって敵の射程から離れるんだ!」

 

《は、はいいい……》

 

「いい子だ。ウィルバー機はブラウン機を護衛しつつ現区域から離脱、基地にまで撤退しろ」

 

《教官はどうするつもりなんです?》

 

「君たちが撤退するまでの時間稼ぎをする。それに、熱くなって勝手に動いたバカを回収しなければならん」

 

《了解です。ご武運を》

 

「祈るまでもないさ」

 

ウィルバー機とブラウン機が上昇するのを確認すると同時にリディ機の居場所を把握する。距離は1㎞ぐらいか。

 

「(ホタルちゃんのお守りの効果を期待するしかないか。)待っていろよリディ、迎えに行く!」

 

リディ君は変形を繰り返しながら下にいるMSに攻撃を仕掛けているようだ。センスを感じるが、機体を酷使しすぎだ。あれではMSが壊れる。

 

「リディ!聞こえるか!?ブラウンは無事だ!今はウィルバーとともに撤退している、私たちも後退するんだ!」

 

《こいつ…こいつ……!》

 

「集中しすぎて聞こえていないのか……!」

 

熱くなりすぎて周りを見ていない。その結果、リディ機は右足を撃ち抜かれた。

 

《うわああああ!》

 

リディ機は脚を撃ち抜かれてまともに姿勢制御を出来ないはずなのだが、見事に山の斜面に不時着した。武装は壊れていないのか、ビームの帯が多数発生する。しかし、敵のドライセン3機はそれを避けつつビームトマホークを構えて接近する。

 

《来るな!来るなぁぁぁあああ!》

 

「落ち着け!リディ!」

 

ギャプランもビームを撃って牽制するが、ドライセンはトライブレードをこちらに放ってきた。

 

「猪口才な!」

 

ほとんどをビームライフルで墜とすが、無理なものは変形してビームサーベルでぶった切って進む。

トライブレードをほとんど減速なしで墜としたためか、3機とも私を標的に変更したようだ。

 

「ジェットストリームアタックの再現か……。いい加減古いんだよ!!」

 

ビームライフルを連射するが、大気圏中だからビームが減衰した影響か、それともドライセンの装甲が厚いためかビームがほとんど効かない。

 

「腹をくくって接近戦するしかない……と思っていたのか!」

 

接触する直前に両腕についているバインダーを反転させ、搭載されているスラスターを思い切り吹かす。そのことによって振り切ったことで硬直した一番前のドライセンにビームサーベルを投げつける。この距離なら減衰も関係なく、ドライセンの装甲を破り、ジェネレーターを貫通して爆発した。

2機目は、右から来たのを右腕のムーバブルシールドで受け止め、左腕のビームライフルを連射して撃破。

3機目は、左から来たのを左腕のシールドのスラスター側を押し付け噴射。そのことによって姿勢を崩したのをビームサーベルでコックピットを焼き尽くす。

 

《す…すごい……》

 

「他の敵機は撤退を開始をしている模様。追撃の必要性はなしと判断、撤退する」

 

モニターとディスプレイを見て判断する。すると、リディ君が申し訳なさそうな声で話しかけてきた。

 

《教官……申し訳ありません。自分のせいで……》

 

「わかっているのならあとはわかるな?今回のことをレポートで提出だ!」

 

《了解であります……》

 

変形し、リディ機周辺を旋回する。旋回し、安全を確認したあとにムーバブルシールドにあるグリップを展開してリディ機の前まで移動する。リディはグリップの意味を理解し、スラスターを使って浮かび上がってグリップをつかんだ。ガゴン!と音を響かせ、Zプラスを載せたギャプランは士官学校に進路をとった。

 

「リディ君、さっきの動きを見て確信した。君には良いセンスがある。だが、熱くなるな。冷静でいれば君は良いパイロットになれる」

 

《はい、教官……》

 

「ま、今回生き残れたのはこのお守りのおかげかな」

 

そう言ってお守りをなでる。そしたら、お守りが紫に光ったように見えた。

 

《は?》

 

「ふっ……なんでもない」

 

あとはこいつらを使い物になるまで育て上げるだけだ。

 

 

つづく



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試験稼働

リディ達Aチームの初フライトから5カ月ぐらいだろうか。ということは、この士官学校の卒業試験がすぐそこまで迫っていることだ。この士官学校の特殊さはそこで、航空科は約半年ほどしか訓練を受けないのだ。と言っても、基本的なことは航空科に入る前に受けていることなので問題はない。

 

そして今日は、生徒と教官と2人で卒業試験後の配備先について話し合うのだ。成績が良かったら、希望先に行けるように頑張るし、悪かったら……そいつの運に任せるしかない。残る生徒はあと1人、リディ君だ。あいつは他の奴らから『親の七光り』とか言われているが成績はかなりいい。この調子ならどこにへだっていけるだろう。

 

コンコン

 

「入れ」

 

ドアがノックされ、反射的に答える。中に入ってきたのは予想通りリディ君だ。しかし、その顔はいつもよりどんよりしている。

 

「まあ…座って話をしよう。そこの椅子に腰かけてくれ」

 

そういいながら淹れた緑茶を差し出す。リディ君はそれを少し飲み、顔を一瞬しかめてから口を開いた。

 

「カイト教官……お…自分の配属先ですが、『ロンド・ベル』にしたいのです」

 

「それはなぜかな」

 

「自分の夢はパイロットになることでした。MSではなく、航空機のです。しかし、現在の航空機はどれも似たり寄ったり、だからここのMS航空科を選んだんです。それでもここ卒業して地上や宇宙軍に入ったら父の影がちらついてしまう。だから外郭部隊である『ロンド・ベル』に入りたいのです」

 

「リディ君、私は君の気持ちはわからない。が、それを気にしない人物にならなければ君は『成長』出来ないぞ」

 

「?」

 

「つまりだ。『マーセナス家』というのは今後どこまでも付きまとう。だが、それでも自分に出来ることを全力で成し遂げればみんな君のことを『親の七光り』とか言ったりしないさ」

 

「は、はぁ」

 

「さて、難しい話はこれで終わり!ロンド・ベルに入りたいんだったか?その件は私がしっかりやっておこう。君は来週の卒業試験を頑張り給え。あと、緑茶のお替りいるか?」

 

「い、いえ入りません。それに話はこれで終わったので退室します。失礼しました!」

 

『緑茶』という単語を聞いた途端にリディ君は立ち上がって退室した。緑茶うまいのに…もったいない……。

 

 

 

 

 

翌週、ついに卒業試験が始まった。だが、私はこれに参加することができなかった。担当教科がないわけではない、新型MSの試験運用が決まったのだ。機体名は『アンクシャ』。リゼルと同じ開発コンセプトで、『リゼル大気圏内バージョン』と言っても差し支えないだろう。しかし……地上で大規模な戦闘が起きる可能性が極めて低いこの状況でなぜこの機体を開発したのか疑問に思う。

 

「中尉、準備ができました。ご搭乗を」

 

「了解した」

 

ともかく、久しぶりの任務だ。いつになくテンションが上がる。機体のチェックをしながらそう思った。

 

「中尉、整備兵が引きました。発進準備完了」

 

「了解、カイト・マツムラ。アンクシャの試験を開始する」

 

今回は基本的に地球を1周するだけだ。その過程で戦闘を確認したらそれに介入と言ったところだ。この機体はカタログスペックでは地球を余裕で1周出来るほどではあるが、念のために2つ中継地点が設定されている。トリントン基地とダカール基地だ。すでに話は通してあり、補充パーツは運ばれているはずだ。

 

アンクシャを変形させ、基地から飛び立ってデータ収集用のベースジャバーと合流する。

 

《中尉、ルートですが、『ウィンドリバー山脈』にいる武装集団を殲滅してからトリントン基地に向かってください》

 

「了解」

 

 

 

 

最高速度を出し1時間で山脈に到着する。例の武装集団はすぐに見つかった。山間にある平地にセンサーが反応したのだ。そこにはMSが9機ほど、そのうち3機が遠距離攻撃に対応した装備をしている。

そのさらに先にネモの2個小隊が来ている。会敵まで約1分。

 

「ベースジャバーは上空で待機。私は友軍の援護に回る。私の存在は向こうは知っているな?」

 

《了解しました》

 

「アンクシャ、武装勢力を鎮圧する」

 

アンクシャを加速させる。その時には戦闘光が観測され始めていた。

 

 

 

 

 

先に気づいたのはギャンだった。しかし、データベースとは形が違う。肩や頭部が異なっているのだ。だが、さらに目を引くのはバックパックに繋がれているガトリングだろう。

 

「気づかれたか!だが……!」

 

両腕に装備されているビームライフルを撃つ。しかし、それをギャンは避け、ガトリングで応戦してきた。

 

「当たるかよ!」

 

ギャンの相手ばかりをしているわけにもいかない。そう思い他の機体を狙って撃とうとする。しかし、ギャンがそれを許さない。敵の機体が味方機(ネモ)を包囲していく。いくら敵が旧式とはいえ、数の差は影響するからな。

 

「こっちはガンダリウムを纏っているんだ。怯えることはない。……突っ切る!」

 

ギャンの張る弾幕を突っ切ろうとする。すると、ギャンのガトリングからはメガ粒子の弾丸が放出されてきた。しかし、空を高速で動けるアンクシャには全く命中しなかった。

 

《数が情報より多いぞ!どうなっているんだ!?》

 

「そこか!こちらシャイアン基地所属カイト中尉だ。貴隊を援護する!」

 

《援軍か!?助かる!》

 

ネモの舞台を包囲している敵戦力は、MSが7機。内訳はザクⅡ改が3、鹵獲されたのかジムⅢが1、ガルスJが1、ザクタンクが1、陸戦型ゲルルグが1だ。その中のザクタンクにはスナイパーライフルが肩に装備されている。

 

そして、友軍はネモが6機、その内2機がバズーカ持ちだ。しかし、1機が左腕を損傷している。

 

「空と地上、双方からの攻撃をくらえ!」

 

そう言ってビームライフルを連射する。地上のネモも、損傷した機体を援護する形で撃つ。

 

この攻撃で1機のザクⅡ改と脚の遅いザクタンクが撃破された。これで残りはギャンを含め6。これで戦力比は約1:1。確実とは言えないが、これで少しは楽になった。

 

《ハーミアⅠから各機へ通達。ハーミアⅤ、ⅥはハーミアⅢを援護しながら撤退。Ⅱ、Ⅳは俺とともに打って出る。いいな!申し訳ないがカイト中尉は上空から援護をしてくれ》

 

『了解』

 

返事をしつつ敵機に牽制弾を撃つ。すると、森の中からメガ粒子弾と実体弾の混合した弾幕が張られた。

 

「……すまないハーミアⅠ。今弾幕を張ってきたヤツは結構強敵だ。そいつの相手をする」

 

《…了解した。だが出来る限り早くしてくれよ》

 

「わかっている!」

 

弾幕を避けつつ言うが、どうする。あの機体は見た目と違ってかなりの高機動型だ。弾幕を避けつつ接近戦を仕掛けるか?NOだ。実体弾だけならまだしも、メガ粒子弾を吐き出してる時点でやばい。ガンダリウムと言えど、ビームの耐久性は通常よりマシ程度だ。

 

「しょうがない。このまま銃撃戦で制させてもらう!」

 

ビームライフルを連射するが、ギャンは避けようとせず、シールドで防ぎ、さらにはシールドに格納されていたミサイルを放ってきた。それに加え、ガルスJがザクタンクから回収したのか同型の狙撃ライフルで支援してくる。

ガルスJの攻撃を避けつつミサイルの迎撃をする。しかし―――――

 

「―――――攪乱幕だと!?」

 

ミサイルの中に攪乱幕弾が混じっていたのだ。そのせいでビーム兵器が扱えなくなった。それに伴い、ギャンとガルスJが接近してくる。おそらくこちらがビーム兵器を主体としていることに気が付いたのだろう。

 

「だが、接近戦をやろうってことはだ。そっちのガトリングは弾切れってことだろ!!」

 

ギャンが手に持ったヒートトマホークを構える。それと同時にアンクシャは膝のニークラッシャーからビームサーベルを取り出す。だが、攪乱幕の影響でサーベルを形が安定しない。それを見てか、ギャンのパイロットがオープンチャンネルで話しかけてきた。

 

《いくら新型だろうが…この『ギャンバルカン』に勝てると思っていたのか!しかもその出力の安定しないビームサーベルでだ!!》

 

ギイン!と音が鳴りつばぜり合いになる。ギャンのパイロットが言った通り出力が安定せずアンクシャは押され気味になっている。背後からはガルスJが接近してくる。

 

「確かにこのビームサーベルじゃあな……。だが!こいつを引き抜いたのはただの時間稼ぎ。本命はこっちだァ!」

 

そう言って膝のニークラッシャーをギャンのコックピットに突き刺す。そのまま振り返ってギャンをガルスJに投げつける。

 

《ナニィ!?》

 

「テメーらはこれで最後だな」

 

攪乱幕の効果が消えたことを確認してビームをギャンに撃つ。ピクリとも動かないギャンに命中しガルスJを巻き込んで爆発した。

 

「これで残るは隊長機のゲルググだけか」

 

次の照準をゲルググに合わせる。そして、ゲルググは逃げることも叶わないと悟ったのかコックピットから出て投降の意思を伝えた。

 

 

 

戦闘が終結し30分ほど経ったときに、装甲車が来た。これで基地にいるヤツらの逮捕劇が始まる。しかし、それに私は参加しない。アンクシャのテストに加え、MSでは敵に投降を促しても反感をくらうだけだからだ。しかし、逃がさないための見張りぐらいはできた。あとは彼らに任せよう。

 

「戦闘データは採れたか?」

 

《ばっちりですよ。しかし、細かいことは設備の整ったとこでやらないといけませんね》

 

「そうか。……そちらの部隊も無事だな」

 

《ああ。一時はどうなるかと思ったが助かった。ありがとう》

 

「任務を果たしただけです。ではお互い頑張りましょう」

 

《そうだな。あんたも頑張れよ!》

 

「ええ!」

 

次に目指すのはトリントン基地。海を渡っていくことになるが敵に会うことはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに!?拿捕したパイロットを釈放ですと!それに乗機であったMSもだと!?一体どういうことだ?!」

 

ここはシャイアン基地司令室、そこにはいつもマイケル大佐がいるのだが、そこには驚きと焦りが顔に浮かんでいた。その原因はモニターに映っている尉官のセリフだった。

 

《ですから、そちらの基地が検分したMS及びそのパイロットを引き渡せということです。これは参謀本部の命令です。断ることはできませんよ》

 

「だからなぜだと聞いている!これは上官の質問に答えろ!」

 

《えっと……『そちらより高精度で取り調べを行うため』だそうです》

 

「だったらそいつをこちらに回すように上申しろ!ダカールに引き渡すんだったら好都合だ。そちらにこの基地所属のMS、ベースジャバーが通る予定だ。そいつらに機材を渡すんだ!」

 

《一応申告しときますが期待しないでください》

 

モニターが消え、司令室を静寂が支配する。そのなかでマイケル大佐は1人姦計を巡らせていた。

 

「(なぜ今になって引き渡しを要求してきた。これまでいつでも通達できたはずだ。来週末にはようやく取り付けられた『RX-0』の評価試験……これが目的か?手早く強化人間を手に入れるためにこんなことを?それだったらカイト中尉を選ぶこともできたはずだ。これはお情けと捉えるべきか?ええい……。だったら…)」

 

モニターを先ほどの尉官に繋ぎ直す。

 

《何かほかに言うことが?》

 

「さっきのことだがやはり取り消しといてくれ。引き渡しは確か明日だったね。準備させよう」

 

《え?あ…はぁr{ブツッ}》

 

相手が返事をする前に通信を切る。やはりさっきの怒りはまだ消えていないようだ。

 

「(そっちがあいつを使うと言うならば好都合だ。『アレ』はこの半年ろくに動いてはいない。それを数日で元に戻すのは不可能!どんな薬を使おうともな。あとはカイト中尉のことだけだな。死ぬんじゃないぞ……!そうすれば連邦が民間にへいこらしなければいけない状況は終わる!)」

 

 

 

つづく




この主人公は以前強化人間でだったはずだがって書いたけどそれは日常生活で、戦闘だとメッチャエグイようだ。


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絡んだ意思

この回自分でも何がやりたいのか分からなくなっきた・・・


トリントン基地、それはシドニー湾にある湾岸基地と街を挟んだ砂漠側にもう一つある基地で構成されている。そこは戦略的価値が低く、戦闘がほとんど起きないためにMSはジムⅡなどの旧式ばかり。もっとも、それはトリントン基地に限ったことではないのだが。

 

現在、オーストラリア大陸より東に10㎞地点。もうそろそろトリントン湾岸基地から通信が入るはずだ。先の戦闘で翼を一部損傷してしまっている。念のためにもパーツ交換を早くしたい。

 

《ザー…ザザー……s近中のMS及びベースジャバー。こちらトリントン・コントロール、所属と目的を明らかにされたし》

 

「(繋がった!)トリントン・コントロール、こちらシャイアン基地所属のカイト・マツムラ中尉。現在新型MSの試験稼働任務を遂行中。作戦コードを送る」

 

《……作戦コード受領。任務照会…確認した。進入中のMS及びベースジャバー。最終進入コースへ誘導する》

 

「了解した」

 

トリントン基地からの誘導に従い機体を着地させる。

やることはまずはシールド・バインダーの交換。これはオプション装備なのでただ交換するだけだからすぐに終わる。次に脚部の翼だ。こいつは装甲を一部変えるだけだがそれでも20分ほど時間がかかる。20分と言ったらかなり長いと思うかもしれないが、MS内に食料などを詰めることを考えたらそこまで時間はないだろう。

しかし、今日はこの湾岸基地で一泊する予定だ。さすがにぶっ通しでやるには長旅すぎる。

 

「さて、部屋は格納庫があるブロックの奥だな……遠いな、エレカでも借りとこうか」

 

 

 

 

翌日、私は食堂で朝食をとった後、ある一つの格納庫に来ていた。理由は特にない。強いて言うならば、とてつもない熱意に導かれたと言うべきか。

その格納庫には、『バイアラン』と呼ばれる曰く付きのMSが2機あった。手前のバイアランの前にあるリフトには、整備兵の男が1人で作業をしていた。

 

「あの!ここで何をしておられるのですか!?」

 

あそこにいる男はただの整備兵であるはずなのに思わず敬語を使ってしまった。それほどの貫録をあの男は持ち合わせている。……うまく隠しているようだが。

 

「ちょっとした技術試験計画をしております。……申し遅れました。この計画を主導しているディエス・ロビンです」

 

「カイト・マツムラ中尉です。よろしく」

 

手を差し出し握手をするが、ディエスさんの手はかなりタコができている。このタコの配置はMSの操縦桿と大体同じ……。

 

「中尉はどんな用件でこんな『僻地』に?」

 

「とある新型MSの試運転で来たんですよ。あと1時間ほどしたら今度はダカールに飛びます」

 

「今度はダカール……。長時間、長距離の運用に耐えうるかといった感じで?」

 

「……!!そうですね。途中で戦闘データを採ったりしますが主だったモノはそうでしょう」

 

結構鋭いな。こんな少ない情報で導き出されるものなのか?

 

「ディエスさん……この試験計画はどういったものなんですか」

 

「廃棄予定の旧式非可変MSの滞空能力向上計画、しかし、これは研究機関からもたらされた新技術ではなく今まであった技術で改良を施すと言ったものです。目の前にある1号機で改修の検証、奥の2号機にそれを反映させる。つまり2号機が完成版と言ったところです」

 

そしてディエスさんは「しかしトリントン基地からしか資金が回ってこないんでいつもギリギリですよ」と言った。

 

「……だったら…」

 

「?」

 

「だったら何か連絡ください。自分にできることなら全力を尽くしますよ」

 

「……!ありがとう!」

 

その後たわいもない話をして格納庫、そしてトリントン基地を後にした。

 

 

 

 

 

現在1432。ダカールまではあと3時間ほどで、この砂漠を超えればたどり着ける。今はダカール警備隊所属のアッシマーとともに行動している。

 

《中尉、後方8㎞地点で所属不明機を確認、偵察のため離脱します》

 

「了解した。誘導に感謝する」

 

2機のアッシマーが反転して後方に向かっていく。それにしてもダカール警備隊のカラーリングは特徴的だ。連邦政府のマーキングカラーが採用されているのだ。

 

「代り映えしない風景だな……。防眩フィルターがかかっているとはいえまぶしいし、シャイアンの風景が懐かしい」

 

これがいわいる蓴羹鱸膾(じゅんこうろかい)ってやつか。

 

「はあ……。早く任務を終わらs{キイイイン!}プレッシャーが近づいてくる……。おい!後方からなんか来ていないか!?今すぐ確かめろ!」

 

《了解!………後方から所属不明機が高速で接近中!先ほどアッシマーが向かった方向です!》

 

「この状況だと警備隊の連中はやられた可能性が高いか……。ベースジャバーは高度をとって警備隊の方に迎え、もしかしたら生きているかもしれん」

 

《了解!》

 

「さて、所属不明機とご対面ってね」

 

機体を反転させ、先ほど感じたプレッシャーの方向に向かう。すると、ものの数秒で敵機を視認できた。そして、なぜ通常のMSより早く接近できたのを理解した。ギャプランだ、しかも背面には巨大なブースターが接続されている。

 

ギャプランを視認したとたん、ギャプランはブースターユニットをパージし、アンクシャに特攻させた。

 

「マジかよ……!あんなものを背負うってことは遠くから来たってことだろ?それをパージするとは……なっ!」

 

ドオオォォン!

 

アンクシャが回避行動する前にギャプランがブースターユニットを撃って爆発させ、それに巻き込ませようとするが、アンクシャは一気に加速させてその有効範囲から逃れつつビームサーベルで切りかかった。青黒いギャプランもサーベルを抜き取って応戦する。

 

「カラーが若干変わっているがあいつと変わらないんだろ?だったら何が目的で私をつけ狙う!答えろっ!」

 

《………》

 

敵のパイロットは何も答えない。その代わりに両腕のムーバブルシールドにあるスラスターを吹かしてアンクシャの姿勢を崩しながら距離をとり、MA形態に変形して突進する。

 

「私が以前使った戦法か……。だが……使う相手を間違ったな!」

 

《なにっ……!?》

 

「外した!?」

 

アンクシャはすぐに体勢を立て直し、上下逆さまになりつつビームサーベルを振るう。しかし、ギャプランが下に少し移動したためにその攻撃はギャプランの肩装甲をほんの少し焼いたに過ぎなかった。

 

「逃がすかよ!!」

 

アンクシャをMA形態に変形させて追撃するが、追いつけない。元々の比推力に差があるのだ。

 

「追いつけないか……。だが、そいつが強いのは直線だけ。曲がる時がチャンス!」

 

ビームライフルを撃ち続けその時を待つ。

 

「焦るな……いつかは方向転換するんだ。そうしなければあいつは私を墜とすことはできん」

 

ついにその時が来た。ギャプランが減速し、機体を反転した。だがそれはチャンスではなかった。

 

ヤツはわかっていたのだ。この機体の弱点を。

 

ギャプランは反転した後、フルスロットルで突っ込んできたのだ。アンクシャはギャプランが減速したことで距離を詰めたために回避しきれなかった。シールドでガードしたが、アンクシャは強い衝撃とともに吹き飛ばされた。

 

「うぉおおおお!!」

 

そのままギャプランはバインダーのスラスターで方向転換してビームサーベルを振るう。それを回避したが、ビームライフルの砲口が切られてしまった。返す刀でコックピットを突き刺そうとした瞬間、光があふれ―――――

 

 

―――――私は敵のパイロットを視た。

 

 

 

 

 

―――――人形。私は自分の意志で動けない人形。

 

なんだ、なんなんだこれは。アタマ…いや、心と言うべきか。そこに相手のココロと形容すべきモノが入ってくる。

 

『じゃあ次はこれを投与します。そうすれば性能が1割上がる試算です』

 

『アレは『UC計画』のための大切な試験体なんだぞ。使い捨てとはいえ、かなりの金がかかっているんだ、結果はしっかり出してもらわないと困る』

 

『わかっています!』

 

なるほど……。敵のパイロットも強化人間ってヤツなのか。おそらくはだが、ヤツは戦災孤児ってやつだから適当なところから連れてこられて強化されたんだろう。

 

『所長、連邦主体で計画を進めようとしている一派の強化人間の試験運用が始まりました』

 

『ここで強化したヤツか……。ヤスハを向かわせろ。ヤツらを戦わせてデータを採取するんだ。ヤスハが負けそうになったらミサイルをぶち込んでも構わん』

 

『了解です!』

 

――――――あそこで初めてあなたと戦った。あなたの機体は武装がたいしたことなかったのに負けた。経験も機体も、システムで覆せると思っていたのに。

 

あの時か、初めて会ったのは……。あの時は結構やばかった。試験した機体でなければきっと負けていただろう。

 

『負けたか……。まあいい。あのシステムが起動できただけで良いとしよう』

 

――――――その後はずっと各地の残党を倒しながら再戦の時を待っていた。あなたに勝つことが自分の価値を表すと思っていたから。

 

『ヤスハ、よかったな。君が戦いたいと思っていたやつがわかったぞ。ギアナ高地だ。君のわがままに付き合ったんだ。結果は出してもらうぞ』

 

『……はい、わかってます』

 

――――――そしてその時が来た。あの時のあなたは以前より弱い機体だった。あれじゃあ勝っても意味はない。でも、勝たなくてはいけない。そうじゃなきゃ消されることもあり得るから。ヘタしたらもっとひどいことも。

 

………。

 

――――――でも負けた。コンビを組んでいたとか、先に武装を破壊されたとかでもない。もっと根本的なところで負けたのだと思う。

 

そのあとはマイケル大佐に監視されてはいたが安全ではあったんだろ?なんでそんなものに乗っているんだ。

 

―――――参謀…いえ、ビスト財団から圧力がかかったんでしょう。所詮は一将校、できることも少ない。それに、また乗ることにしたのは自分の意志であなたと戦いたかったから。初めてだった。自分の意志で何かを成し遂げたいって思ったのは。ある意味これは『恋』なのかもしれない。

 

表現にセンチメンタリズムを感じるな。あと言うならばそのアピールはもっとほかの方面にしてもらいたかった。

 

――――――そして勝った。機体の性能差もあったけど、ついに勝つことができた。

 

その勝利が評価されないにもかかわずにもか。

 

―――――――それでもいい。対等な条件で勝ちたかったけど、それはあり得ない。もう、時間がないから。

 

時間がない?一体どういうことだ。まさか……

 

―――――――私の体がって意味じゃない。次の週に評価試験がある。それにあなたも参加することになっている。でもそれにあなたを何としても参加させたくない人たちもいたから私も協力することにした。しなければ、移動中に『不慮の事故』が起きるかもしれないから。

 

そうか、そのことが聞けて良かったよ。でも、こうして話したからには私も『デルタガンダム』で君と戦いたかったよ。

 

――――――そうね。それだけが心残りかもしれない。それじゃあ……さようなら!!

 

 

 

 

 

 

「……ハッ!」

 

《さようなら!!》

 

意識が肉体に戻った。しかし、状況はさっきと変わってない。それでも、私自身はさっきより落ち着いている。

 

ドババババ!

 

頭部バルカンを撃ってサーベルを持ったマニピュレーターを破壊し、蹴り飛ばした。

 

「ハァ…ハァ…ハァ……。まだやるか?こっちは遠距離攻撃はできんが接近戦に持ち込めば勝利はあるんだぜ。それに対して君のギャプランはビームライフルを撃ちながら逃げ回っても航続距離が短いからジリ貧になる。もう一回聞くぞ、どうする?」

 

《……さっきの言葉にウソはないですね?》

 

「ああ。……いや、さっき君の言った評価試験で勝負をつけよう。さっきの口ぶりからしたら同型機なんだろ?おそらくは装備を換えたやつで」

 

《……少しあなたを見くびっていたかもしれませんね。この場を引きます。ではその日に結着をつけましょう》

 

そう言ってどこかに飛んで行った。飛んだ方向を検索しても該当しそうな場所はなかった。

 

《中尉、カイト中尉!警備隊の方々が生存していましたよ!》

 

「そうか、よかったな」

 

顔をベースジャバーに向けると、その背には2機の半壊したアッシマーが乗っていた。どうやらヤスハは私以外にはそこまで興味はないらしい。

 

ピピピピ!

 

《カイト中尉、聞こえているか?》

 

「はっ、マイケル大佐」

 

いきなり大佐からレーザー通信が送られてきた。このタイミングで来られるとさっきのヤスハのことが脳裏にちらつく。

 

《最終的な目的地なのだが……『ガルダ』に向かってもらう。宇宙で評価試験があってそれを中尉に任せたいのだ》

 

「私に異論はないのですが1つ、お願いしたいことがあるのです」

 

《ほう……?》

 

「デルタガンダムを用意してほしいのです。道中何が起きるのかわかりません。ですから自衛のためにデルタガンダムの使用の許可を」

 

《……わかった。今すぐに準備しよう。座標は今送る》

 

送られてきたデータを確認し、通信を切る。データには明日、大西洋の某所にガルダが通過すると書かれていた。それに遅れるとさすがにやばいか……。

 

「ともかく、ダカールに急ぐか。機体バランスがかなり悪い」

 

その時なんとなく見た『お守り』は虹色に輝いて見えた。

 

 

 

つづく




ニュータイプ関連の描写が難しすぎる……。


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解放

翌日、ダカールを出発して5時間経ち、ようやくガルダが見えてきた。しかしこの距離からもかなりでかいことがわかる。武装も多く、輸送機ではなく空中要塞といっても差し支えない様相だ。

 

「こちらシャイアン基地所属のカイト中尉、着艦の許可願う」

 

《こちらガルダ、コード確認。許可します。ビーコンに従ってください》

 

「了解した」

 

ガルダからの通信が切れる。同時にガルダの後部ハッチが開いた。

 

ビーコンに従い着艦する。中にはシャトルがあり、シャトルの中央にあるコンテナにデルタガンダムが格納されている。スケジュールでは30分後で打ち上げることになっており、私は中のデルタガンダムに搭乗した状態でいることになっている。

 

「収容確認、これにて試験を終了する。終わり」

 

フライトレコーダーに音声が収録されていることを確認し、リフトに乗ってアンクシャから降りる。その足でシャトルに乗り、キャプテンに挨拶をしてからデルタガンダムに搭乗した。

 

 

 

 

 

《カウントダウン開始、各員はシートに座って待機》

 

《24…23…22――――――――》

 

30分後、シャトルはガルダのハイドハッチに吊り下げられ、カウントダウンが始まった。

 

「(ノーマルスーツとリニアシートの接続再確認、どこにも異常はない。大丈夫だ、問題ない)」

 

《5,4,3,2,1……》

 

《発進!》

 

キャプテンの掛け声とともに背部にGがかかる。MSに乗っている時よりマシとはいえ、覚悟も何にもないときにかかるのはあまり気分のいいものではない。

 

8分ぐらいたち、何事もなく周回軌道に上がる。体が地球での環境に慣れきっているせいか違和感を感じるが、『オアシス』にたどり着くまでに慣らすしかない。

 

ゴオオン

 

コンテナが持ち上がり、ハッチが開く。モニターには暗い宇宙が映し出されている。そのことでようやく帰ってきたことを実感する。

 

オートで武装を手に取りながらキャプテンに通信を開いた。

 

「キャプテン、輸送ありがとうございます。今後の航海の無事を祈っていますよ」

 

《そうか、中尉殿。ではこちらも貴官の無事を祈っとくとしよう》

 

キャプテンの嫌味を聞き、デルタガンダムが宇宙に飛び出す。すると、ものの数分で通信が切れてしまった。

 

「全く、いくら最短距離だからと言って、慣れない宇宙でデブリ群に突っ込まなくてはいけないのだろうが…ねっ」

 

宇宙にはいろんなデブリがある。岩やMS、コロニーの破片とかだ。だからだろうか、MSの残骸を敵と間違うのは。

 

最初に見たのはギラ・ドーガの頭部だった。

 

「敵!?こんな時にか!」

 

とっさにMS形態に変形し、距離をとってロングメガバスターを構える。そこでようやくデブリと認識したのであった。

 

「なんだ…デブリか……。疲れているのかな、私は……。……無理もないか。休みもなく宇宙に飛ばされたんだからな……」

 

ピピピピ!

 

感傷に浸っている時だった。センサーの鳴った方向に目を向けるとそこには大量のミサイルがデルタガンダムを狙っていた。今度のは幻覚ではない。

 

「チッ……!最近私はよく狙われるなぁ!」

 

デルタガンダムに装備されている火器と言う火器をミサイルの迎撃に使う。そのおかげで、デルタガンダムはダメージを負わずに済んだ。しかし、ミサイルの爆炎によって視界が遮られてしまった。

 

「何も見えない……。煙から出てあたりを見るしかないか」

 

そう呟いて煙幕の中から出た瞬間にビームがデルタガンダムを襲った。それをすぐさま避け、ビームの飛来した方向にビームを撃ち返す。

 

「当たらんか。いや、落ち着くんだ私。私だって強化されてニュータイプ能力とやらがあるはずなんだ。感覚を研ぎ澄ますんだ……」

 

キイイイン!

 

ビームを避けながら気を集中する。すると、遠くから敵の意志が見えた……気がした。

 

「この直感を信じろ!私!」

 

そう言ってビームを放つ。数秒後、遠くで爆発の光が見えた。

 

「やったか!?……いや、プレッシャーは消えていない」

 

それは直感だった。だが、それを証明するかのようにミサイルのシャワーがデルタガンダムを再び襲う。

 

「さっきで大体の位置を掴んだ。今度は外さん!」

 

変形し、ビームを撃ってミサイルを破壊しながら敵機に接近する。そうして弾幕を突っ切ると、敵機の姿が見えてきた……が。

 

「『リゼル』…だと!?」

 

そう、リゼルだ。カラーリングがあのギャプランと同じなのでパイロットがヤスハであろうことがわかるが、問題は武装だ。バックパックが私と試験した時と全く違う。ディスプレイには『ディフェンサーaユニット』と表示されている。

 

「なるほど……あれがアイツの言っていたオプションの1つと言うわけか……。だが!そのコンテナの大きさだともうミサイルは使い切っただろ!!」

 

MS形態に戻し、ビームサーベルを手に取る。するとリゼルは、手を腕にではなく背部にやった。そこから出てきたのはハイパービームサーベルだった。そのまま両機は接近し、つばぜり合いになった。

 

「なんと…!そんなモンも装備しているのかよ、ホントに量産機か疑っちゃうね」

 

不利なのはどう見ても私だ。そう判断した私はリゼルから距離をとり、ビームライフルを連射する。それをリゼルはミサイルコンテナをパージしつつデブリ帯に突っ込む。

 

コンテナをパージしたとはいえ、時限式で爆発するよう設定している可能性を考え、別ルートでデブリ帯に突入する。デブリ帯に入ったところで案の定ミサイルコンテナの爆発を観測した。

 

デブリでセンサーが役に立たなくても、感覚でヤスハがどこにいるかわかる。だがそれも、相手に言えることだった。

デブリに背をつけた瞬間、そのデブリが真っ二つに切断されたのだ。デブリの反対側にいることはわかっていたが、横から出てきたところにビームを浴びせようと考えていたためにデブリを切るという可能性を考えていなかった。一瞬早く気付いたために避けることができたが、もうデブリに隠れることをやめたほうがよさそうだ。

 

「全く…それはそんなことまでできるのかよ。量産機だからって正直なめてたかも……なっ!」

 

ミサイルコンテナをパージしたことはまだしも、カメラアイが血に染まったかのように紅いためにカタログスペックはあまり期待できない。

 

「ヤスハ…君はあともう少しで始まる評価試験まで待てないと言うのか?それとも、そこまでしてデルタガンダムと戦いたかったのか?」

 

《……………》

 

ヤスハがそういう性格ではないことを知ったために軍の回線で話しかけるが、返事はなかった。オープンチャンネルも同様だった。もしかしなくても『システム』とやらに乗っ取られているのだろう。アイツにはMSに乗っている時の記憶がほとんどなかったからな。

 

「やれやれ、だんまりか。まあいい。教官として、システムに乗っ取られるような軟な精神を鍛えてやろう……!」

 

ロングメガバスターとシールドを捨て、ビームサーベルを二刀構える。対するリゼルはハイパー・ビーム・サーベル1基を両手で構える。

独特の緊張が両者に漂う。その緊張を破り、最初に仕掛けたのはリゼルだった。

 

「相手が来ないなら自分から仕掛けてくるか」

 

サーベルを最大出力にして受け止める。そうまでしても出力の差は埋められないのか、徐々に食い込んでくる。

 

「だが所詮はシステム、攻めが甘いんだよ!」

 

ハイパー・ビーム・サーベルを受け止めたのとは別のビームサーベルで切りかかる。それをリゼルはバルカンで迎撃しようとする。それを感じ取った私はすぐさま手を引っ込め、さらにはリゼルから距離をとった。

 

「なぜだろうな…あんた(HADES)のしようとしていることが『わかる』」

 

その言葉通りに、リゼルがビームキャノンを撃っても、その弾道が『わかり』それを容易く避ける。

それにいらだったのか、リゼルが突っ込んでくる。

 

「ま、『わかる』からと言って攻略できるわけではないんだがな」

 

突っ込んできたリゼルを逆手に持ったビームサーベルで対応する。もう片方のビームサーベルで再度突こうとする。それをリゼルは右にそれることで避ける。ついでにビームキャノンをこちらに向けている。それを見て取った私は反射的に突き出した方のビームサーベルで切り裂いた。

 

「おお、危ない危ない」

 

リゼルは瞬時に離れ、WR形態に変形してデルタガンダムから離れようとする。

 

ヤツのバックパックはスラスターだらけ、おまけにシステムが発動している。おかげで逃げられたら追いつくのも一苦労だ。逃がすつもりはないが。

 

このデルタガンダムは軽いのだ。ビームサーベルだけを持った状態ならば、ヤツの動きを読めばすぐに追いつける。

 

「次は右か……」

 

デブリを踏み台にしつつリゼルを追いかける。その成果がすぐに表られた。ヤツの目の前に出ることに成功したのだ。

 

切りかかると、リゼルはすぐさま変形してハイパー・ビーム・サーベルを手に取る。

 

ギイイイイ!

 

高速で動いてそのスピードを殺さずに攻めてきたリゼル。リゼルの進行方向にやっと入りすぐに向きを変えたデルタガンダム。どちらが優勢かは誰にでもわかる。リゼルだ。そのままデルタガンダムは吹き飛ばされた。

だが、私は進路上に入った途端、スラスターを吹かすのをやめた。それは関節のためだ。関節が折れてしまってはビーム・サーベルを振るうことができない。そのためにあえて吹き飛ばされた。ディスプレイを見ると関節のダメージが蓄積されていることを確認する。

 

「(やはりヤスハから反応はない。そろそろ決着をつけないと『オアシス』にたどり着けなくなる。仕掛けるか……)」

 

そう考えていた時だった。聞こえたのだ。ヤスハの声が。

 

―――――誰か…止めて……。この子を……!

 

「ようやく目覚めたか。眠りすぎだ」

 

――――――この感覚……カイトさん……?お願い!この子は私の意志で動かせない。システムが発動している限り。

 

「本当に無理なのか?手段はあるが、できればそれをしたくないのでね」

 

システムが発動している限り……か。やっぱりあそこを壊す必要があるか。

 

リゼルがもう1本のハイパー・ビーム・サーベルを取り出して攻める。これに対して私は受け流しながらデブリの中を飛び回ることを選択した。関節が心配だが、それ以上に推進剤を消費したくない一心だった。

 

――――――私はこの子の人形…パーツでしかない。私にコントロールする術はない。じゃなかったら体のコントロールを奪われません。

 

「……しょうがない。あんまり期待すんなよ?考えていることは結構難しいんだからな」

 

――――――お願いします。少なくとも、この機体が破壊されればそれで良いから。

 

「怪我しないように気をつけろよ……!」

 

リゼルに接近してつばぜり合いになる。やっぱり出力に差がある。これぐらいしか方法はないだろう。それは―――――自爆である。

 

自爆と言ってもデルタガンダムがするわけではない。ビームサーベルをオーバーロードさせて爆発させるのだ。使えるかわからないが、臨時の閃光弾にもなる。その分戦闘力がなくなるから避けたいのだが。

 

リゼルのもう1本のハイパー・ビーム・サーベルで攻撃しないうちに離れる。もちろん1基のビームサーベルを置いてきた。その直後、爆破の光が現れる。すぐさま手の止まったリゼルに攻撃する。まずは武器の持った両手を切り裂く。次に、バルカンを撃ち続ける頭部だ。そこを突き刺し、胴体から引きちぎった。

すると、血のような色だった肩のセンサーが、C型を示す緑色に戻っていった。

 

「大丈夫か?できる限り丁寧にやったんだが」

 

《ゲホッ……ゲホッ……大丈夫ですよ。あなたが知っているとおり体は丈夫ですから》

 

「あんま無理はしないほうが……っておい!どこ行く気だ!?」

 

《機体が勝手に……!?私でも解除できない!?》

 

「オートか……。失敗しても成功しても組みこんでいたんだろうか」

 

《そんな悠長に分析してないで……!》

 

「こっちだって追いかけたいの山々なんだ」

 

しかし、追いかけることができない。遅くなったとはいえ、MSを追いかけるには推進剤を使わなければならない。今は『オアシス』と合流することが最優先。そのためには無駄な使用は避けなければならない。

 

「どうする?……やはり私は軍人だ。軍規を破ったりはできない。こう考えている間にもヤツは離れていく。あきらめるか……」

 

あのシステムから解放で来たんだ、それで十分じゃないか。それで無理やり納得させる。

 

その後、通ったルートをトレースして装備を回収し、2時間後に『オアシス』と合流した。

 

 

つづく




次で第二部終了です。

ここでアンケートを取ります。
最終回の次に、番外編をしようと思うのですが、アンクシャのプロトタイプの話と
ジェガンの他のオプションの話どちらがいいですか?
活動報告にコメントお願いします。
感想お待ちしています。


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One of Seventy Two

『オアシス』で輸送されて数時間。ヤスハ等による追撃もなしに順調に『アイリッシュ級バエル』と合流できた。現在は、私や試験に使う積み荷などを運び出す作業をしており、私は一足早くバエルに乗船している。

 

乗船し今向かっているのは、艦長室……ではなく将官がいる貴賓室だ。そこには今回の評価試験の視察に来ておられる方々がいらっしゃり、そこで辞令を受け取るのだ。

 

「(ここか……。){ピ!}こちら、カイト・マツムラ中尉、入室の許可を」

 

《ほう…君が……。よろしい、入り給え》

 

「は、失礼します」

 

扉が開き、中に入る。部屋の中には、恰幅のある男性と、理知的であることを匂わせる男性がいた。ちなみに、恰幅のあるほうが中将、理知的なのが准将だ。

 

「改めまして、カイト・マツムラ中尉です。今回のMS評価試験にパイロットとしての要請に応じ

参りました」

 

「私はロイ・キャンベル中将だ。立ち話もなんだ、椅子に座り給え」

 

「は、はぁ……」

 

中将に勧められるがままに椅子に座らされる。

 

「中尉、君の働きはマイケル君から聞かされているよ。なんとテストパイロットとしてかなり腕利きのようだね」

 

「そこは小官にはわかりません。小官は己に出来ることを全力で為しただけですから」

 

「君がそう思っていても我々は君を評価するよ」

 

「…ありがとうございます」

 

そういったお世辞はいいから早く要件を言ってほしい。試験までの時間はないのだろうから。

 

「そんな君に我々はあるMSを動かしてほしい。これだ」

 

そう言って資料を渡される。「拝見しても?」と事前に聞き、承諾を得てからそれを見る。

 

「『フェネ…クス……』?」

 

資料の一番上にはそう書かれていた。その下へ読み進めていくと、その詳細な事が書かれていた。

 

『 RX-0 フェネクス

 

来たるU.C.100年の連邦宇宙軍再編計画のフラッグシップ機。

ムーバブルフレームにサイコフレームが使われている。そのことにより追従性が従来機をはるかに凌ぐためにインテンション・オートマチック・システムを搭載。思考によって機体を動かすことを可能としている。

 

武装

ビームマグナム:通常のビームライフルの4倍の威力を有する。腕部、またはバックパックに装備可能。Eパックは腰のリアアーマーに装備。

ビームサーベル:両腕、バックパックに計4基搭載されている

ハイパー・バズーカ:独自規格の実態バズーカ。砲身にはグレネードランチャーやミサイルランチャーが装備可能。弾倉はリアアーマーに装備。

60㎜バルカン砲:連邦規格のバルカン。5発に1発の割合で曳光弾が仕込まれているため途中で軌道修正が可能。

シールド:中央にIフィールドバリアを発生させることができ、実体弾やビームに対応可能。

 

アームド・アーマーシリーズ

ハイパー・ビーム・ジャベリン:アームド・アーマーシリーズのプロトタイプ。先端に斧状のビーム刃と槍状のビーム刃を発生させる。2つに折りたたむことでシールド裏に装備可能。

DE:ビーム・キャノンとスラスターが一体化したシールド用の増加ユニット。スラスター自体に推力偏向装置を組みこんでいるため装備したままで姿勢制御可能にする。

BS:内蔵されたセンサーユニットから得られた空間データをサイコミュで伝達し、そのデータを2枚のフィン型ビーム偏光機と連動させ、高精度の予測照準が可能。一撃の威力はビームマグナムより低いものの、大気圏内でガンダリウム合金を切断するほどの高い収束率と長い照射時間を誇る。

VN:サイコフレームの強靱性を利用した超振動破壊兵器。通常は前腕を覆うナックル状の打撃武器として機能し、変形後は獣の顎を思わせる4本のクローが上下に展開される。ガンダリウム合金製装甲を内部フレームごと粉砕する威力を持つ。外装にはビームコーティングが施されており、シールドとしての機能も併せ持つ。

 

 

「カイト中尉、現時刻をもって『フェネクス』のテストパイロットに任命、及び2日後に行われる合同評価試験に本機に同乗して参加することを命ずる」

 

「ハッ、拝領いたしました!」

 

資料をテーブルの上に置き、立ち上がって敬礼する。

 

「中尉、長旅だったろうから今日は休むといい。明日は中尉が試運転をして体になじませて備えるんだ。いいな?」

 

「了解、失礼しました」

 

資料を手に取り退室する。今日はほどほどに休むが、資料は目に焼き付けるほど読み込ませてもらう。

 

 

 

 

 

2日後、試験当日。

 

ついに試験か……。機体は万全に仕上がっているし、サイコミュも私に同調している。専用のパイロットスーツにも不備はない。

気を落ち着かせるためにミッションを再確認する。

 

「ネオ・ジオン残党軍、通称『袖付き』の新型MSの試験を強襲、これを殲滅させる。敵は複数だが、『フェネクス』の性能なら覆らせることも可能…か」

 

簡単に言ってくれるが、確かにカタログスペックだけを見るならいけそうな気もする。あとは新型とやらの性能だけか……。ちなみに今回使用する武装は、ビームサーベル、ビームマグナム、アームド・アーマーDE、ハイパー・ビーム・ジャベリンだ。アームド・アーマーDEは背部に翼のように2枚装備になっている。

 

《0-3、カタパルトへ》

 

どうやら時間のようだ。オペレーターの諭され、フェネクスをカタパルトまで移動させる。そこで、中将から通信が入った。

 

《カイト中尉、聞こえるかね》

 

「は、聞こえています」

 

《今回の試験は軍の威信がかかっているんだ。絶対に負けることは許されんぞ》

 

「了解しております」

 

《いいか?絶対だからな!》

 

そう言って中将殿からの通信が切れた。かなり焦っているように感じられたが……。

 

「まあいい。フェネクス、カイト・マツムラ、出る!」

 

ペダルを踏み、バエルから発艦する。昨日操縦したが、やはりこの機体はかなりのじゃじゃ馬だ。

 

前方には、『バンシィ』と5機の敵MSがいた。敵機には袖飾りが施されているから噂の『袖付き』というヤツだろう。その内4機が『ギラ・ズール』と表示され、残る1機は『バウ』のようなシルエットだ。しかし、姿はやや華美な印象を受け、ところところバウにはないモノがある。いわゆるマイナーチェンジと言うヤツか。

 

敵機を視認して数秒後、バンシィが右手に装備したアームド・アーマーVNでギラ・ズールを粉砕した。

 

―――――後れを取るな!

 

―――――行け、フェネクス。相手は生きた標的だ。バンシィの分も食い尽くして、ビスト財団の鼻を明かしてやれ。

 

サイコミュを通じて将官どもの声がアタマに響く。そういわれなくてもこっちはそうするつもりだ。

 

フェネクスは左手に持ったビームマグナムをバンシィに接近するギラ・ズールの間に撃ちこむ。ヤスハに対する牽制を含めてだ。バンシィはマグナムが来ることを察知してか距離を多くとったがために無傷だったが、ギラズールはビームの前に止まりその至近弾にやられた。

 

「掠めただけでこの威力か」

 

そう呟き、別の方にマグナムを向ける。いくらセンサーが役立たない暗礁宙域とはいえ、サイコミュが敵の意志を感じ取ってくれる。

 

「そこっ!」

 

マグナム弾がいくつものデブリを食い破ってギラ・ズールが隠れるデブリに進む。そして、ギラ・ズールは己に死神が襲い掛かっていることに気づかずに爆散した。

バンシィのほうに顔を向けると、バンシィは切りかかるギラ・ズールの頭部をつかみ、0距離でビームマグナムを撃っていた。

 

「これで2:2か……{キイイイン!}そこか!」

 

背後からプレッシャーを感じ、上方に飛ぶ。すると、さっきまでいた場所に一条のビームがそこを通った。

 

「そこにいたか……。当たれ!」

 

ビームマグナムをプレッシャーに向けて撃つ。すると、2機の燐光を散らす戦闘機が左右からフェネクスを襲う。

 

「戦闘機…?いや、バウの分離した状態か!」

 

両腕にアームド・アーマーDEをセットして迎撃する。原型機より早いためか、メガ粒子弾が当たらない。

 

「後ろに回られた!?だが……!」

 

アームド・アーマーDEとビームマグナムを背部にやり、ジャベリンを構え直し、下から掬い上げるように切りかかる。それに対しバウは、シールドに装備されているビームアックスで受け止める。

 

「全く……ジオンにも腕が立つヤツがまだいるのかよ」

 

しかし、フェネクスのパワーは凄まじく、バウのシールドを弾く。返す刀で切りかかると、バウはまた分離してジャベリンを避けた。その直後、マグナム弾が襲い掛かる。シールドを前面にやりIフィールドバリアで防ぐが、その勢いに負けて吹き飛ばされる。

 

「これはさっきのお返しかな?だとしたら……いや、だとしなくてもやりすぎだぜ」

 

そう言いつつディスプレイに目を走らせ、損傷がないことを確認してからスラスターを焚かせる。

 

「そういやあのバウからたまに出るあの燐光……まさかサイコフレームを搭載しているのか?」

 

可能性がなくもない。そう思いつつマグナムを撃つ。バウはそれを避けてビーライフル下にあるグレネードランチャーで迎撃。弾種は散弾、高速で動く鉄球がフェネクスに襲い掛かる。

 

カカカン

 

「この距離で!?だが、散弾ではなァ!」

 

頭部に命中したものの大した損傷もなく、フェネクスはさらに速度を上げて接近し、ジャベリンを投げつける。投擲したジャベリンは、リバウにあたることなく通り過ぎていき――――――バンシィを襲った。

 

バンシィは慌ててアームド・アーマーVNでジャベリンを弾き飛ばす。しかし、勢いづいたジャベリンの衝撃を殺しきることができず、バンシィは姿勢を崩した。

これを好機とみなしたリバウはバンシィに襲い掛かる。その瞬間、バンシィは『変身』した。

 

 

 

 

バウとの戦闘中にフェネクスから2度目の妨害が入った。なんとジャベリンを投擲してきたのだ。その攻撃をアームド・アーマーVNで防いだものの、体勢を崩してしまった。それを好機と切りかかるバウが接近し、バンシィは姿を変えた。

 

その影響はコックピットまで及び、シートの形も変形する。何が起きたかはわからない。でも直感的に本来の力が引き出されたというのがわかった。

 

「これなら……!!」

 

すぐそこまでに迫ってきているバウに体当たりを仕掛ける。その圧倒的なスピードで仕掛けたためにバウは分離することもままならずに直撃する。

 

意識は残っていたのか、バウは分離して離脱を図る。そうはさせないとスラスターを吹かせようとした瞬間、目の前をビームが横切った。

 

「またですか!」

 

そう叫んでフェネクスの方を見ると、フェネクスも変身して『ガンダム』になっていた。でも問題はそこじゃない。問題なのは『明確な殺意を持って私に襲い掛かることだった』。

 

「な…!?カイトさん!?何やってるんですか!敵は私じゃありません、敵は向こうのジオン残党です!」

 

通信機に怒鳴っても反応がない。それもそうだ。彼の意識と呼べるものがほとんど感じ取れなかったんだから。

 

「まさか……!」

 

システムに意識を乗っ取られている。それしか思いつかなかった。確かに、最初に呪詛のようなものが聞こえた。でもそれは『ぺイルライダー』のモノと……!

 

まさか()()()()()?それなら納得ができる。でもそれなら戻す方法は……。

 

「本当に、面倒な方ですね。あなたは!!」

 

フェネクスは目の前まで迫ってきていて、左腕のビームトンファーを発振してつばぜり合いになる。すぐさまフェネクスは左腕のビームトンファーを構えるが、それをアームド・アーマーVNで掴んで抑える。

 

「これで攻撃は…{ガン!!}キャッ」

 

コックピットに強い衝撃が走る。フェネクスが膝蹴りをかましてきたのだ。その影響でできた隙をフェネクスは逃さず、ビームサーベルを切り落とす。

 

そこで私は賭けに出た。アームド・アーマーVNで掴んでいる腕を放し全速力で後ろに下がったのだ。

 

ジジ…ジ……

 

私は賭けに勝った。胸部を多少切られたものの、何とか生きている。フェネクスはまだ追ってこなく、私はカイトの母艦であったはずのバエルを探そうと周り見る。すると、特異な事に気が付いた。

 

「なに…この赤いのは……?」

 

今フェネクスがいるところから赤黒いモノがシミのように周囲に拡がっていく。まるで何かを逃がさないための牢獄みたいに。

 

ピピピピ!

 

「なに!?」

 

センサーが反応し、その場から離れる。すると、そこに複数個所からビームが来た。フェネクスがいた場所を見るが、そこにはまだフェネクスが立って……いや、何かが違う。

 

「なに…この違和感……」

 

ビームが飛んできた方を見る。そこで違和感の正体を知る。アームド・アーマーDEだ。それがビームを放ったんだ。しかし、それ以上に驚くことが発生する。()()()のだ。意思があるように動く。その兵器を名前を私は知っている。

 

「ファンネル……」

 

でもアームド・アーマーDEにそのような効果はないはず。これが『ガンダム』の力なの……?

ここでようやくフェネクスが動き出す。2基のファンネルを従えて。

 

「ここで私が負けるわけにはいかないの!!」

 

ビームマグナムを撃つ。しかし、撃ったビームをシールドが防ぐために意味がない。やはり勝負は接近戦で決めるしかない。そう思って右腕のビームトンファーを発振させ切りかかる。しかし、これすらもシールドのIフィールドが防ぐ。

 

「なんでIフィールドがビームサーベルを防げるの!?{ガン}きゃっ!?」

 

横から衝撃が入る。フェネクスの蹴りをまともくらったらしい。身体に力が入らない。そのせいでバンシィを動かすことができず、フェネクスのパンチを避けられずにいる。

 

ガン…ガン…ガン…ガン…ガン…ガン―――――

 

何度…殴られたんだろう……。3回目から数えていない…。この衝撃に耐えられず意識が闇に落ちていった……。

 

「カイト…さ………」

 

 

 

 

バンシィが『ガンダム』に変身し、バウに攻撃を仕掛けた瞬間。この機体にも異変が訪れた。

 

――――――コロセ…コロセ……敵意ヲ向ケルヤツ全部……!

 

「なんだこいつは…!黙れ、しゃべるな」

 

――――――コロセコロセコロセコロセコロセ………

 

「ウオオオオオオオオオオ!!」

 

わかっている!俺に敵意を向けるやつすべてが敵だッ!

 

ビームマグナムをあの2機に向けて撃つ。結果としては2機とも避けたが、バウの方に敵意はそこまでない。なら先にバンシィをやる!

 

バックパックからビームサーベルを抜き取ってバンシィに切りかかる。それをバンシィはビームトンファーで防ぐ。すぐに左腕のビームトンファーで突こうとするが、アームド・アーマーVNを左腕を抑えられてしまった。

 

「小賢しいんだよ!!」

 

何も攻撃手段は武装だけじゃない。膝をコックピットにたたきつけ、その衝撃で動けないうちにトンファーのサーベル部分を焼き切る。そのままコックピットも焼こうとしたら、バンシィは右手のアームド・アーマーVNを放し、後退した。そのせいで胸部装甲を一部焼いただけで仕留められなかった。

 

また攻めようとしたがやめた。また同じことになったら面倒くさいからだ。だったら……。

 

「行け―――――」

 

多方向から攻めればいい。この機体にそういった装備はない。アームド・アーマーDEをそう使うだけだ。もちろん、アームド・アーマーDEにもそういった機能は搭載されていない。ただの増加ユニットだ。しかし、これにはサイコフレームが使われている。つまり、サイコミュ装置としての働きもしているのだ。それにサイコミュ・ジャックを仕掛ければファンネルとして使用できる。

 

「―――――ファンネル!」

 

ファンネルと呼ばれたシールドが、マウントラッチから離れていく。俺が指定した場所に到着したのを確認して、ビームを撃たせる。

 

それを避けたバンシィだが、これ以上攻撃させずにフェネクスの周囲に漂うように指示する。バンシィが接近戦を仕掛けると予想したからだ。

予想通り、バンシィはビームを撃ちながら接近してくる。ビームをシールドでガードしながらフェネクスもバンシィに近づく。バンシィがビームトンファーで突こうし、それもシールドで時間を稼ごうとする。しかし、ここで予想外の事が起きた。シールドのIフィールドがビーム刃を防いだのだ。

バンシィもこれに驚き一瞬動きが鈍る。それを見逃さずに横から蹴りを加える。そしてバンシィの動きは止まった。しかし、敵意は消えていない。

 

「だったら……!」

 

ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン

 

殴った。敵意が消えるまで殴った。敵意が消えたのを認識すると、他に敵意を出すものを探し…ミツケタ。

 

―――――こっちに来るぞ!

 

―――――げ、迎撃だ!いや、撤退しろ!

 

「貴様らで最後だ!」

 

ファンネルで砲台を破壊し、ブリッジにいるやつらに近づく。ヤツらは怯えきっている。だがそんなことはどうでもいい。うるさいんだ。

 

「ココから消えろーーーーー!!」

 

ブリッジを殴る。原型をとどめないほどに殴る。やがて、静かになった。

 

 

 

「これでも何も聞こえない……。とても…静かだ……」

 

 

ジオン残党狩り編 完




はい第二部終了です。どうでもいいことですが、母艦のバエルですが、
これは「ソロモン72柱」のトップ、バエル(地位は王)から採ってみました。


お気に入り400人突破したので、その記念に番外編を書こうと思います。
アンケートの内容は活動報告内の「アンケート1」に記載しております。
興味ありましたら、アンケートに参加してください。
期限は7/31です。ご協力をお願いします。


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番外編 『袖付き』

U.C.93年に勃発した戦争、俗にいう「シャアの反乱」を生き抜いたエンドラ隊はU.C.94年の某日、新たなネオ・ジオンを名乗るレウルーラと接触した。
これを好機と物資(特に人員)がギリギリだったエンドラ隊は補給を要請するが、レウルーラからの返信は、ある強奪作戦への参加の命令だった。



《……大尉、部下を連れて撤退を、自分は殿を務めます》

 

これは……夢か?しかもあの時のか……。

 

「少尉!」

 

《ザミュ大尉、あなたの機体は損傷しています。それにあの機体のパイロットですよ。だから……!》

 

この時の相棒(ドライセン)は右腕がやられていてこれ以上の戦闘は困難だった。それでも作戦上敵陣の深くまでいたあいつら(カイト率いるギラ・ドーガ隊)を迎えに行った。

 

「……くっ……!ギラ・ドーガの坊主どもついてこい!」

 

《しかし、ザミュ大尉!隊長が……!》

 

「お前らがいるとあいつも撤退できないんだ!いいから撤退するぞ!」

 

《……了解》

 

作戦は成功した。その直後に、連邦の援軍によりカイトの隊のギラ・ドーガが1機やられた。それによってカイトは激昂、味方を仕留めた敵を追いかけて行った。カイトの言い分は間違ってなかったと思うし、殿は必要だった。なんせ俺もそうだが残りのギラ・ドーガも損傷ないし戦闘継続不可能な状態だったからな。

 

「エンドラ聞こえるか!?着艦準備に入ってくれ!」

 

《了解!……大尉、カイト君は?》

 

「あいつは殿をやっている。そのうち戻ってくる」

 

しかしアイツは戻ってこなかった。レウルーラから離れてその宙域に戻ってもあったのはカイトが乗っていたバウの残骸だけだった。脱出ポッドは作動していたから生きていると思いたいが……絶望的だ。宇宙で作動しても見つけてもらえる可能性はゼロに等しいからだ。

 

《大尉……》

 

「なんだ?」

 

《カイト君が死んだのは……あなたのせいではないですか?」

 

その瞬間、俺の視界は紅く染まった。

 

「!!ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」

 

夢か……。息が荒い。水でも飲みに行こう。

 

 

 

 

ガコン

 

「ん…{ゴク…ゴク…}はぁ」

 

あの時のことをまだ見るということは、まだあのことを気にしているということか。それもそうか。アイツは初めての部下で、弟分だったからな。

 

「ザミュ?珍しいね、君がこんな時間に起きてるなんて」

 

「ジェトロか…、ちょいと嫌な夢を見てしまったんでな」

 

「夢?」

 

「ああ、アイツが死んだときの夢をな……」

 

ジェトロが気まずそうな顔をしている。徹夜明けのはずだからこんな話を聞かせないほうが良かったかもな。

 

「気にするな。過ぎたことだしな」

 

「でも死んだって決まったわけじゃないだろ?」

 

「そうだ。だが生きてるって保証もない。生きていたとしても連邦に捕らえられている」

 

だからその気まずい顔をするなって。こんな話をするから気まずくなるんだ。話題を変えよう。

 

「そ、そういえばだ。俺のドライセンの改修は済んだのか?」

 

露骨な話題そらしだが、これ以上暗くなりたくない。それに、これも重要なやつ…かもしれない。

 

「え?あ、うん。終わってるよ。でも変な要求だったよ。『袖飾り』を付けろなんてさ」

 

「シャア大佐が行方不明になってしまったんだ。それに伴って失った求心力を高めようという魂胆なんだろうさ」

 

「だろうけど……まあいいか。それよりも君は大丈夫なのかい?()()()()()|で行くなんて」

 

「その話か…。艦長にも言われたよ『お前正気か?』ってね」

 

「……」

 

艦長のモノマネは受けなかったか……。まあいい、話を続けよう。

 

「しょうがないだろ?『エンドラ』の戦力は俺とテルス、あとはギラ・ドーガの坊主一人だけだ。ここで俺が離れるだけでも危険なんだ。誰かを連れて行くわけにはいかんだろ」

 

「それは…そうだけど……」

 

「それに知ってるだろ?俺は単独プレーのほうが得意だってよ。ジェトロ機付長殿?」

 

「ちょ、茶化さn「さて、チョード眠気が出てきたから寝るわ。明日も早いからな」ザミュー!!」

 

「はははは!」

 

 

 

 

 

翌日、出撃まであと少し。俺はドライセンをカタパルトにセットし、機体の最終チェックをしていた。

 

「ジェトロ、機体に不備は本当にないんだろうなあ」

 

「問題ないよ。何度もチェックしてる。注意してほしいのは君が冷静さを失わないことだよ」

 

「……それは昨日のことの仕返しか?」

 

「どうとでも思えばいい」

 

「この文句は帰ったらにしてやる」

 

「その前に僕は部屋で寝ているよ」

 

そう言ってジェトロはドライセンから離れていく。時計を見ると、出撃時刻になっていた。

 

「さて、一働きしてこようかね」

 

《ザミュ君》

 

「何でしょう艦長」

 

《相手はレウルーラ所属とはいえ指揮系統があの時からかなり変わっている。友軍とはいえ注意しろ。あと、必ず帰ってこい》

 

「……了解!ドライセン、出るぞ!」

 

ハッチが開き、ドライセンが出撃する。前方を見ると、ギラ・ドーガの部隊がいた。

……専用カラーの機体が2機いるな。赤と紫。だが『大佐』と呼ばれていたから赤い方か?そう思っていたら赤いギラ・ドーガから通信が入った。

 

《『エンドラⅡ』所属のザミュ大尉で間違いないな》

 

「問題ないです」

 

《1機のみの訳は艦長から聞いている。協力に感謝する》

 

「小官は軍人です。命令ならばそれに従うだけです」

 

《ふっ…心強いな》

 

「大佐、自分はどの小隊に加われば?」

 

《そうだな。ザミュ大尉には基本的には1人で動いてもらう。いざとなったら危険になった部隊の援護をしろ》

 

「了解」

 

大佐……。声は確かにシャア大佐だが……実力はどうか。見極めさせてもらう。

 

 

 

 

《聞こえるか小僧ども》

 

《はっ!》

 

もうすぐ連邦の部隊に接触するタイミングで通信が入ってきた。すぐさま紫のギラ・ドーガから返事が来たが……若い。カイトと同じ年代なのか?……いや、もうすぐ戦闘が始まる。余計な事は頭からしぼり出そう。

 

《会敵予想時刻T-600、まもなくだ。目標はクラップ級巡洋艦『ウンカイ』と『ラー・デルス』。『ラー・デルス』は護衛で、本丸は『ウンカイ』だ。こいつが大切な荷物を運んでる》

 

《は》

 

《貴様たちは『ラー・デルス』の方に回れ。護衛のMSを引き付けておけばいい。その間に俺たちが『ウンカイ』に取り付き荷物を奪取する。欲をかいて母艦を沈めようなどと考えるなよ。我が軍のMSは貴重だからな。貴様たちがどうなろうと知ったこっちゃないが、貴重な機体を破壊されては困る》

 

『貴様たち』というのは紫のヤツの部隊か?主な援護はこちらに向けるべきか。だが若いのにこの作戦に参加するということは戦力として期待できると見るべきか。それとも数合わせと見るべきか。

 

《了解です。敵護衛部隊を殲滅した後、本隊と合流ということでよろしいですね?》

 

《なに?》

 

《我々はフル・フロンタル親衛隊です。フロンタル大佐と行動を共にして、その身をお守りする義務がある。大佐が『ウンカイ』に斬り込まれるのであれば――――》

 

《抜かせ。てめぇのけつも拭けん小僧ッ子どもがそう簡単に敵を殲滅できるものかよ。貴様らの大佐は俺たちがお守りしてやる。余計な口叩くな》

 

《……》

 

《大体、大佐が本当に噂通りのお人ならばお守りなんぞ必要ない。貴様たちも確かめたいだろう?シャアの再来の実力ってやつをな》

 

《まさか…!そのために我々を引き離して――――――》

 

《思い上がるな!貴様らお稚児さん部隊を引き連れてきてやったのは大佐のお顔を立てるためだ。戦場をうろちょろして、俺たちの邪魔をするなと言っている》

 

俺はいつ返事をしたらいいんだ?口を挟みこむ雰囲気じゃないしな。

 

《……》

 

《それに、そう気張らんでも作戦はすぐに片が付くようになっている。そういう段取りだ》

 

《……どういう意味です?》

 

《戦後の戦争は持つ持たれつってことだ。……気にするな。せいぜい祈っているんだな。貴様たちの大佐が馬脚を表さんようにな》

 

……出来レースってわけか。だが、ヤツらが反撃してきた時のことを考えていたほうがいいと思うけどな。いつ何が起きるかわからないからな。どんな増援がくるかわからないしな……。

 

「話はそれで終了だな?それと、俺も了解した。『ウンカイ』と『ラー・デルス』の間でどちらの援護にも行けるようにする」

 

《了解した。そんな気遣いは無駄になると思うがな》

 

「無駄に済めばそれでいいさ」

 

《ふん。会敵時刻T-300。各員、現状のコースを維持。以後、無線は封鎖される》

 

 

 

『ウンカイ』近傍に爆発光……。始まったな。?…いや、向こうは乱戦のように見える。まさかとは思うが……なってしまったか……!

 

《撃ってきた!あの特務機は本気だぞ!》

 

《全体、特務のジェガンだ!ヤツに攻撃を集中しろ!》

 

《話が違うじゃねえか!敵機は上がってこないはずじゃ……うわっ!?》

 

《やられた!トクミンのギラ・ドーガだ!》

 

「全く……。アンジェロ中尉、君はこのまま『ラー・デルス』を引き付けていてくれ。俺は向こうのヤツらをまとめ上げる」

 

《は》

 

『ウンカイ』に向けてドライセンを急行させる。やる気のないジェガンを墜とす必要はない。必要があるのはギラ・ドーガ隊のヤツらが言った特務だけだ。先方は穏便に済ませたいから艦砲は上がらないはず。

 

「てめぇら何やってる!早く『ウンカイ』に取り付け!母艦を盾にしちまえばあいつは何もできないはずだ」

 

《そんなことはわかっている!》

 

通信で連邦兵が何か言っているが……やる気があるのはMS隊だけだな。戦艦からは何も来ない。

 

《敵の増援がまた来る!ヤツら裏切りやがったんだ!》

 

「新手は到着するまで時間がかかる。それまでに『ウンカイ』に取り付ければいい!俺が特務機を抑える。そのスキに!」

 

《……了解した》

 

クラップ級の搭載MS数は6。ラー・デルスから来るのは3。つまりウンカイ周辺の敵機は9になる。それに対して俺たちの戦力はギラ・ドーガが2、俺のドライセンが1。親衛隊とやらはラー・デルスを牽制している。

 

「大佐がどこにいるかは知らないが…、友軍を墜とさせるわけにはいかん!」

 

ほかのジェガンの出足が遅い。そう判断して特務機に攻撃を仕掛ける。

 

ドライセンが牽制にとビームを連射する。それを特務機は避け、お返しにとばかりにバズーカを撃ってきた。

バズーカの弾をトマホークで切り裂き、ランサーと接合して特務機に接近戦を仕掛ける。特務機はビームサーベルを取り出し応戦する。

 

機体の形状から遠距離支援機だと思っていたが、格闘戦もできるらしい。それに、俺と戦いながら友軍を説得するなんてな。チラリとギラ・ドーガ隊を見るが、若干押されているか?さっきより冷静だし何とかなると思うが……。

 

「それ以上敵を作らないでもらいたいな…!」

 

《抜かせ!ネオ・ジオンに荷物を渡すな。あれが連中に渡れば、戦力のバランスシートが狂う!また戦争が起きるぞ!》

 

《それほどのものならば、ぜひ手に入れねばな》

 

ようやく来たな、フル・フロンタル。こいつ(特務機)の相手をやめて、奪取に移ったほうがいい。

 

膝蹴りを食らわせ、よろめいたところでダミーバルーンを放出する。すぐさま離脱して『ウンカイ』に向かう。

 

《ザミュ大尉、よく部隊をまとめてくれた。各員はそのまま道を切り開け》

 

《りょ、了解、大佐》

 

《アンジェロ、私が『ウンカイ』に取り付く。援護しろ》

 

《は?は!親衛隊、援護いたします!》

 

フロンタル大佐が来た途端にに僚機の動きが変わった。迷いがないっていうのか?恐れがなく、一気にまとまった感じだな。

 

「ここは俺が抑える。お前らもフロンタル大佐についていき物資の奪取をしてくるんだ」

 

《わかった。任せたぞ》

 

そう言ってさっきまで悪態ついていたギラ・ドーガのパイロットも『ウンカイ』に向かっていった。

敵のジェガンの数が減っている。といっても2機程度だが。しかし数が減っているのはいいことだ。襲われる可能性が減るってことだからな。

 

「さて、多対一には慣れているんでな。一気にやらせてもらう!」

 

トライブレードを射出して接近してくるジェガンの前を通過させる。そのことにより停止したジェガンにビームのシャワーを浴びせる。残り9機。すぐに狙いを変え、ギラ・ドーガに夢中になって背を向けているジェガンに接近し切り裂く。アンジェロ機も墜としたからあと7機。

 

《よし!取りついたぞ!》

 

『ウンカイ』を見ると、フロンタル大佐のギラ・ドーガが取り付くのが見えた。すぐにジェガンが俺を狙ってきたからそれどころではなかったが。

襲ってきたジェガンはビームライフルをトライブレードに斬られ後退するが、ギラ・ドーガが放った銃弾が命中し爆発。残り6機。

 

「残り6機……。増援がなければ30分もあれば殲滅できるか……?」

 

その時、『ウンカイ』から1機のMSが発艦した。機体色は真っ白。常識的に考えるとあれが例の荷物…実験機か。

 

《私の機体は置いてゆく。『レウルーラ』に戻るぞ》

 

『了解》。デッキにある荷物を忘れんなよ」

 

《わかっている!》

 

声をかけた時にはすでに残りの物資を運んでいた。……その行動力を最初から発揮してもらいたかった。

 

《その前にあれを片づけねばならんか》

 

そう言ってフロンタル大佐は奪取したばかりの機体をまるで手足のように扱い、残存勢力を瞬く間に殲滅した。

 

 

 

《ザミュ大尉、確か貴官の部隊が補給を申請していたな》

 

「はい。しております」

 

連邦の部隊を殲滅し、その帰路でいきなりフロンタル大佐から通信が入った。ここで粗相を犯すわけにはいかない。ある意味で部隊の命運を分けるのだから。

 

《補給は後日、『パラオ』で受けてもらう。いいな?》

 

「りょ、了解です。大佐」

 

フロンタル大佐の言葉はいたくシンプルなものであった。補給を受けられる。その事実に歓喜しつつも前に出さずに返事をする。それっきり通信は入らなかったがまあいい。当初の目的を達成できたんだ。あとで祝い酒でも飲みに行こう。

 

 

後日、パラオで配属されたのは、パイロットが1人、整備兵が1人だった。

 

 

 




全裸さんの区長とかって難しい……。

次回本編入ります。



(それよりも積みプラ消費したい……)


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信頼を得るには
大脱走


ゴーーーン

 

「うっ……」

 

私を目覚めさせたのは、鈍い痛みだった。頭の傷を確認しようとヘルメットを外そうとして気づく。ここは宇宙だと。

 

「なっ!?なんで外にいるんだ!?私はフェネクスに乗っていたはず!!」

 

混乱していたが、だんだんと落ち着きを取り戻し、あたりを見回してどこにいるか確かめる。幸いにも、ぶつかったのは『バエル』の甲板だったようで、カタパルトデッキが開きっぱなしになっているのが見える。

最初にするべきことは酸素のあるパイロットスーツを換えることだろう。次はヤスハの捜索といったところだろうか。そう判断してMSデッキに向かう。

 

カタパルトデッキから進入し、MSデッキに入る。中には全くMSがなく、デルタガンダムだけが存在していた。

 

「デルタ…お前は残っていたのか……。しかし人の気配がしない……放棄されたのか?」

 

機材には人が使用した形跡が残っている。放棄されて間もないのだろうか。……考察は後にして着替えて来よう。

 

 

 

 

いつものパイロットスーツに着替えデルタガンダムに乗り込む。ちなみにだが、乗り込む直前に簡易的だが爆弾が仕掛けられているか確認している。

 

ウィー…ン

 

「融合炉の起動確認。OSへの工作の形跡なし。機体状況オールグリーン。…よし、ヤスハ待ってろよ」

 

デルタガンダムを歩かせて外に出る。外は相変わらずデブリが多い。ビームマグナムによってきれいに穴が開いたのもあるが。また、それによって熱探知ができない。

 

「どうする…。熱探知ができない。目視もデブリが多いうえに元々の機体色が黒だ。発見できる気がしない。……気?いや、まだ探すことができる。バンシィはサイコマシーンだ。サイコフレームには感応波を増大させる性質があると聞く。不自然にでかい気を探し当てるんだ」

 

サイコミュの感度を最大にして集中するんだ。以前の彼女の感覚は覚えている。その気が前以上の大きさになっていればいい。

 

「…………見つけた」

 

コンピューターに今感じ取った場所を重点的に探させる。すると、すぐにバンシィの場所が特定できた。直ちにそこに向かわせる。

 

「あそこか」

 

バンシィと相対速度を合わせ、バンシィのコックピットをこじ開ける。バンシィからヤスハを引きずり出し、コックピットの補助席に括り付ける。空気が充填されたのを確認すると、ヤスハのヘルメットを外した。ヤスハは激しく呼吸をし、若干だが意識を取り戻した。

 

「ヤスハ…大丈夫か?」

 

「ゲホッゲホッ……ハァ…大丈夫です。少し息苦しいけど……何とか」

 

「そうか。まぁ取りあえず艦に戻って逃げる準備をするぞ。どこかに行きたいところでもあるか?」

 

「後で答えます。今はちょっと寝かせて」

 

「りょーかい」

 

 

 

 

デルタガンダムをゆっくり動かして艦に戻る。ハンガーにデルタガンダムを収納し、推進剤の補充を行うとともにヤスハを起こしす。

 

「ヤスハ、起きろ。『バエル』に着いたぞ。少し着替えてこい」

 

「ん……ハッ!今どこ!?」

 

「だから『バエル』と言った。さっさと着替えてこい」

 

「…はい」

 

「ヘルメット忘れんなよ。外は真空だからな」

 

「わかってます!」

 

ヤスハがヘルメットをかぶったことを確認してコックピットを開ける。ヤスハがコックピットから出ていく。

 

「さて、私も自分のすべきことをしますかね」

 

 

 

何十分後、私は食料品や日用品をゲタに詰め込んだ。さらにゲタの両面にはデルタガンダムの予備パーツが積んであるコンテナを括り付けてある。ちなみにゲタの左右にプロペラントタンクを追加で装備している。

 

「これで出発の準備は整ったな。ヤスハ、ゲタの操縦はできるな?戦闘になったらデブリで身を隠してくれ。もしなかったら《見捨てて早くコロニーに行け、だよね?》…そうだ」

 

《敵に会うことはそうそうありませんよ》

 

「そうかねぇ。……じゃあ行くぞ。行先は『インダストリアル7』だ。そこで新たにシャトルとか買ってどこかに逃亡する」

 

《シャトル買うお金あるんですか?》

 

「テストパイロットってのは危険手当ががっぽりでるんだよ。口座が閉められない内に引き出すぞ」

 

《そうなんですか。ではブースター点火まで3…2…1…点火!》

 

ゴォオオオオオ

 

ゲタはどんどん加速していき、デルタガンダムはコンテナにつかまり振り落とされないようにする。そしてゲタは数十分で暗礁宙域を抜け出した。

 

「ヤスハ、センサーの感度を最大にしろ。敵がいたらそいつを迂回していくぞ。…いや、もう遅いか」

 

《え…?》

 

「プレッシャーがこっちに来ているが数はわからん。特定してくれ」

 

《ホントだ……。前方にジオン系MSが3。その後ろに母艦らしき艦艇あり、エンドラ級です》

 

「らしいな」

 

モニターに前方を拡大したウィンドウが出現していく。機種はドライセン、ギラ・ドーガ、バウが各1機。後ろのエンドラ級は主砲がこちらに向いていていつでも撃てると言った雰囲気を醸し出している。そして何よりも特徴的なのは『袖』を巻いていることだ。

 

「さて、どう撒く……?」

 

 

 

 

 

先日、ある指令が私の所属しているエンドラ隊に飛んできた。某暗礁宙域に行き、連邦の新型MSの調査をしろと言ってきたのだ。事件の発端は、先日とある部隊がその宙域に訓練のために訪れていたところ、連邦の新型MSと遭遇、交戦をするが部隊は壊滅。生き残ったMSが帰還したためにこの事件が発覚した。

 

「全く……俺らは警察じゃあねーのになんでこんな仕事が来るんだか」

 

この人はザミュ大尉。MS隊の隊長であの『第二次ネオ・ジオン戦争』に参加して生きて帰ってこれた古強者だ。この人から学べるものはかなり多い。

 

「しかしザミュ大尉、帰ってこれたパイロットが『ガンダム』にやられたから調査に行くのではないのでしょうか」

 

「セルジか……。俺はこの任務がやりたくないわけじゃない。問題は戦力の乏しいこの部隊でやるのがおかしいと言ったことだ」

 

エンドラ隊には艦載機が6機ある。しかしパイロットが4人しかいないために1個中隊ほどの戦力がないのだ。艦載機は我々ネオ・ジオンの中でも比較的恵まれているほうだが人員不足のために使われることもなくほこりをかぶっている状態だ。

 

「ですがパラオから艦隊を待っていたら敵に逃げられてしまいます」

 

「そんなことはわかっている。俺たちがやるべきことは『倒す』ことじゃなく『情報を集める』ことだ。それを忘れんなよ」

 

「はい!」

 

《第2戦闘配備発令。各自持ち場につけ。繰り返す第2―――――》

 

戦闘配備?暗礁宙域手前で?何が起きたかわからないが指示に従わないと。パイロットスーツに着替えて乗機であるギラ・ドーガに乗り込む。すると、ザミュ大尉から通信が来た。

 

《セルジ、今ゲタを履いたMSが1機こちらに向かっているらしい。こちらに気づいているかは不明だがゲタにコンテナが括り付けてあるようだ。鹵獲してパイロットを尋問する。いいな?》

 

「はっ」

 

《振り分けは俺とセルジ、それにサキが「ちょっと待ってください」なんだ?」

 

「サキって…彼女はそもそもメカニックですよ!?戦闘機動に耐えられるとは思えません!」

 

サキは、私の同期でこのギラ・ドーガの機付長だ。これで彼女がいなかったのは説明できるが、サキがMSに乗ることにはつながらない。何を考えているんだ!?

 

《サキはパイロットとしての訓練も一応受けている。それに後方で支援砲撃をしていればいい。話をつづけるぞ?テルスとジョンソンは直援に回る。以上だ。質問は?》

 

『……』

 

《ないな?なら作戦会議は終わりだ。出番まで待機》

 

『了解』

 

 

 

 

しかしその待機時間はすぐに終わった。所属不明機が本艦の防衛ラインを突破したのだ。そのまま無視するわけにもいかず出撃、戦闘が始まったわけではないものの緊張が私を襲う。おそらくはサキもそうだろう。

 

ちなみに、機体の装備は、ザミュ大尉のドライセンはバズーカとヒートサーベルを持ち、私のギラ・ドーガは基本装備一式のみでサキが搭乗するバウは特殊なビームライフルを装備して超長距離射撃にも対応している。

 

《サキはここで狙撃できるように待機。セルジは俺とともに来い。武器を構えることを忘れんなよ》

 

『了解』

 

バウが止まり、ビームライフルを接近中のMSに向ける。これで多少なりとも威嚇になるかな…?

 

《接近中のMSに告げる。直ちに武装解除し、停船せよ。繰り返す。直ちに武装解除し、停船せよ。しない場合そちらに危害を加える場合がある。よく考えるんだ》

 

ウィンドウが表示され、所属不明機の姿が露わになる。そしてその姿に私は驚愕した。なんとそのMSは金色だったのだ。なぜ戦場で目立つ色を機体色にしているのか。アタマがどうかしている。そんな風にしか思えない。

そんなことを考えていると、相手からの返信が来た。

 

《申し訳ないがこちらには時間があまりなくてだな。ここらで立ち止まる暇はないのだよ》

 

《つまり止まる気はないと?》

 

《そうなるわけだが……そちらに対して危害を加えない。それを保障しよう。信用しないと思うが》

 

「それはそうだろう!敵か味方かわからないやつにそんなことを言われても信用できるはずがない!」

 

《落ち着けセルジ少尉!申し訳ないな。だが少尉の言っていることも確かだ。なに、ちょっと聞きたいことがあるだけだ。それに答えてくれればいい》

 

ザミュ大尉はなぜここまで冷静でいられるのだろうか。金色はスピードを緩めて慣性航行をしているが着実に『エンドラⅡ』に向かっているというのに。

 

《答えられるかどうかは保証できないぞ》

 

《それならそれでいいさ。まず1つ目、なぜ暗礁宙域から来た?》

 

《恥ずかしいことにとある組織から脱走してね。その目を避けるために通っただけだ》

 

《2つ目、ココを抜ける途中で交戦中の場面に出くわさなかったか?》

 

《……いや、ないな。そんなことがあったら敵認定されて追撃されるのがオチだ》

 

ん?今変な間がなかったか?ラグなのだろうか……。

 

《……そうか。引き留めて悪かったな。もう行っていいぞ》

 

《ああ。こっちも急ぎなんだ。早めに終わって助かったよ》

 

そう言って金色のMSはベースジャバーの追加プロペラントタンクを点火した。その瞬間、ザミュ大尉は叫んだ。

 

《サキ!ベースジャバーを撃ち落とせ!》

 

『!?』

 

《は、はい!》

 

サキが返事をしてビームを放つ。それと同時にドライセンのバズーカが火を噴いた。するとベースジャバーはビームを避け、金色のMSがバズーカ弾をバルカンで迎撃しつつ背面撃ちの要領でバウのビームライフルを狙撃した。

 

「ザミュ大尉!なぜ発砲するんです!?」

 

《その通りだぜ!そっちの要求にこたえただろ!?何が不満なんだ!》

 

《こちらの入手した情報によるとネオ・ジオンを襲ったMSは『ガンダムタイプ』、しかも金色なんだそうだ。画像データが不自然に消去されてパイロットの証言のみの情報だから不安なんだがそちらのMSはその両方に合致していてな。連行するぞ》

 

《マジかよ……!》

 

《セルジ!俺が接近戦を仕掛ける。援護しろ。その間にサキは後退するんだ》

 

『了解!』

 

ザミュ大尉に命令されてすぐに行動に移す。ギラ・ドーガとドライセンから放たれるビームが金色のMSの退路を断つ。すると、金色のMSはビームサーベルを抜き取ってドライセンとつばぜり合いになる。

 

《こいつは俺が抑える。今のうちにベースジャバーを拿捕しろ!》

 

「了解!」

 

ズドォン

 

いきなり機体のバランスが崩れて回転しだす。アポジモーターを使ってバランスを安定させてディスプレイを見ると、右足を撃ち抜かれていた。

 

「ザミュ大尉が抑えているはず!いったいどうやって脚を!?」

 

《セルジ!?うおおお!?》

 

私がザミュ大尉の方を向くと、ドライセンの周囲にダミーバルーンがあるのを見、金色のMSが変形して私の方に向かってくるのを最後に、目の前が真っ暗になった。

 

ブッピガン!

 

 

 

 

 

「まず1機……。残りをどう扱うか」

 

変形を解き、シールドに突き刺さっているギラ・ドーガ(の頭部)を蹴り飛ばす。敵は直掩含めて4機。それに加えて無傷の戦艦が1隻。勝つのは明らかに無理。ただでさえインダストリアル7にたどり着けるかわからないのに戦うのはバカすぎる。ここは……。

 

「威嚇射撃をして素早くこの宙域から出るのが最善!」

 

再びデルタガンダムを変形させてゲタに追いつく。

 

「ヤスハ、抜けられそうか?」

 

《あなたがしっかりエスコートしてくれるなら》

 

「そうかい……!?」

 

返事をしようとした瞬間に戦艦の主砲が火を噴いた。何とかよけたものの、ギラ・ドーガを捨てたのは失敗だったかもしれない。

 

「さて、先にどちらをつぶそうか……」

 

《迷っているならMSを墜としてください。大まかな動きしかできない主砲より小回りの利くMSの方が厄介ですから》

 

「あいよ!」

 

ディスプレイを見て素早く敵の位置、武装を把握する。まずドライセン。ドライセンはビームランサーを装備していてる以外に差異はない。次にギラ・ドーガ。先ほどのヤツとは違い砲撃仕様になっている。最後に先ほど後退したバウ。さっきとは違いノーマルのビームライフルを装備しているが、こちらに近づく素振を見せない。

 

「まずはギラ・ドーガからか!」

 

見た限り大砲の残弾は少なそうだがなかなか撃ってこない。だったら破壊して撃てなくさせる……!

 

「当たれ!」

 

そう叫んで放たれたビームは吸い込まれるように大砲まで進み、命中する直前に何かに阻まれた。

 

「なに!?」

 

《おまえがやりそうなことは大体わかるんだよ。なぜかは知らんがな》

 

後ろを見ると、ドライセンがダミーバルーンの森を抜け、腕のビームキャノンを構えていた。ほかのMSも陣形を組み直して主砲を撃てる状態にし、ゲタやデルタガンダムがどこに避けてもどのMSに当たるようにしていることに気づく。

 

《これは降参です。投降しましょう。いいですね?》

 

「ああ。投降する。投降する身として傲慢かもしれんがゲタのパイロットはケガをしている。そいつに治療してやってくれ。頼む」

 

武装をパージしてコックピットから出る。正気を疑うかもしれないが、こうしないと信用しないだろう。その思いが通じたのか、向こうからはこう帰ってきた。

 

《わかった。憲兵付きにはなるが診察をしよう。だが君は独房いる。あとそのまま連行されるんだ。いいな?》

 

「オーケー」

 

さて、これがどう転ぶか。いい方向に向かってくれよ?カミサマがいるってんならよ。

 

つづく




第3章開幕。


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決断 前編

今回は非常に短いです。


《隊長!『RX-0』2機収容完了しましたァ!》

「うむ、B,C班!艦の中に何かあったか!?」

 

2機のユニコーン(タイプ)が評価試験を行った宙域。そこには茶色いノーマルスーツを着た集団がいた。その者たちの名前は『ECOAS(エコーズ)』。参謀本部直属の特殊工作部隊である。任される任務は後ろめたいものが多く、同じ連邦軍内部でも嫌悪感を持たれている。

 

《こちらB班。現在ハンガーにいますが生き残った乗組員の言った『MSN―001』が確認できず。さらにベースジャバーが1機消えています》

《C班、食堂やロッカー室にて荒らされた形跡あり。目標が持ち去った可能性アリ》

「B班はC班に合流、そのまま探索せよ」

『了解』

「目標はMSとSFSを奪って逃走、近くにあるのは『インダストリアル7』か……」

 

自動化が進みブリッジ要員が少ない艦橋で隊長である男は独りごちる。それが聞こえたのか、前の操舵席からが返事が来る。

 

「でもそれでも結構ギリギリ…常識的に考えると無理の班中ですよ?どこのだれかと合流しているんじゃあないですかねぇ」

「この短時間で?目標の友好関係をみてもそんなことは無理だな。それに、近くで救難信号は確認されていない。どこかでデブリの仲間入りの線もなくはないが戦歴を見るとそんな単純なミスも低い

。だとすれば燃料が足りなくてどこかをさまよっているのが一番可能性が高いか」

「隊長、ルナツーからレーザー通信が来ています」

「…つなげろ」

 

ピヨォン、と音が鳴りモニターにその男―――――マイケル大佐の顔が映される。

 

《中佐、作戦の状況はどうかな?》

「『RX-0』2機とも回収し、現在はパイロットの捜索を行っています」

《パイロット……まさか1人も見つかっていないのか!?》

「『バンシィ』はコックピット付近がちぎれていたそうなのでそこから漂流した可能性があるのですが、『フェネクス』はほぼ無傷、乗艦とともに配備された『デルタガンダム』が消えていたそうです」

《そうか……。宇宙の藻屑になっていればいいがカイトのことだ。悪運が強いから生きている可能性がある。見つけ次第処分しろ》

「了解しました。通信終わり」

 

やっかいな任務についてしまった。それがこの男の感想であった。最初はMSとそのパイロットを回収するだけの楽な任務と思っていたが、現場に到着し、部下の報告を聞くだけでその思いは薄れていった。回収したMSの色、武装どこをとっても『普通』じゃないからだ。

だからと言って諦めるわけにはいかない。その男には長年その道を歩んだ誇りと自信があるからだ。そして男は決断を下した。

 

「ジョージ、ルナツーに1週間以内にこの宙域およびその周辺宙域を通過したヤツらの聞き込みをさせろ。それともしゲリラに渡ったらアレだ。ジェガンの補給の要請も忘れるな」

「了解!……隊長、どちらに」

「ひと段落着いたんだ。トイレぐらい行かせろ」

 

 

 

 

 

 

数時間後 エンドラⅡ MSデッキ

 

「じゃあザミュ、お休み」

「おう、当直お疲れさん。しっかり休んでろ」

 

テルスがドライセンから降り、自室に戻る。それを見送ってザミュは隣のドライセンに乗り込んだ。当直といっても、MSであたりの哨戒に出るか、搭乗して待機するだけだ。しかし今は、先の戦闘でドライセンの脚部の装甲が斬られ、その箇所を交換しているのだ。

 

「おーいたいた。ジェトロ、俺のドライセンはどんな感じだ?」

「ザミュ…。斬られたのは装甲だけだからね。一応中の確認もするけど早めに終わるよ。それで?君はそんなことを聞きに来たわけではないだろ?『彼』のことかい?」

 

伊達に長年つるんでいたわけではなく、ジェトロにはザミュの聞きたいことがわかっていた。

 

「ああ。それでどう思う?本当にあいつだと思うか?」

「僕は君ほど一緒だったわけじゃないからね。そーゆーのは君の方がわかるんじゃないの」

「そうなんだがな……。俺的にはアレは『カイト』本人だと思ってる」

「……取り調べでも『カイト』って名乗ってなかった?」

「そうじゃない。俺がお前に聞いていることから察しろ。『機付長』じゃなくって『技術者』として聞いているんだ」

 

そう、ジェトロは機付長になる前は強化人間関連の技術者だったのだ。実はテルスも強化人間でジェトロが担当したのだが、自我が安定しなかったために別パイロットの人格を植え付けられている。(余談だが、元々畑違いのためにまともにメンテができるのがテルスのときに使用したドライセンのみで、そのためにカイトからもほとんど話しかけられなかった)

 

「わかっているよ。『強化』されたんじゃないかってことでしょ?」

「そうだ。で?」

「僕から言えるのは『可能性はある』だよ」

「ハァ?」

「まだ尋問は終わってないし、医務室を使わせてもらえるかわからない。それに、『酸素欠乏症』等の病気の可能性もある。もしかしたら他人の空似かも。だから『可能性はある』としか僕は言えないよ」

「そうかい。任務が終わったら大尉命令で使わせるよう言ってみるさ。あ」

「なに?」

「あの金ぴかから戦闘データを吸い出しといてくれ。機動が一致するかもしれない」

「それはスポッターに言って」

「……あいよ」

 

 

 

 

同時刻 エンドラⅡ 独房

 

いま私は自分の記憶を疑っている。なぜならというほどでもないが、この艦の空気に身に覚えがあるのだ。無論、私の『記憶』にはジオンの艦に乗ったことはないし、体験した場所もない。

それに加えて艦の構造がわかるのだ。この独房から食堂まで行ける自信がある。設計図はもちろん鹵獲したなどの情報は知らない。そんな中で思い当たる節は『強化』された事一つのみ。以前の自分はどんな奴だったのか知りたい。そのためにはオーガスタ研究所に行かなくてはならない。

 

「ま、今はそれどころじゃないだけどな」

 

独房は旧世紀のように鉄格子がはめ込まれているわけではなく外側から鍵がかかる個室のようなものだ。今の格好は整備兵の作業着でサングラスを掛けている。腰のホルスターには拳銃の代わりにお守りがある。どうあがいても抜け出すことは不可能だろう。外部からの救援を待つか、外に出してもらえるのを待つかの二択だ。

 

「次の尋問で最後って言ってるしそれを信じるしかねぇな」

 

尋問についてはある程度こたえているが、比較評価試験についてはぐらかしている。さすがにその情報を言ってしまったらバランスが崩れてしまうからな。たぶん回収艇が来ているはずだが。

 

「さて、休めるときに休む。そんなわけでもうひと眠り行きますか」

 

私の感覚では捕虜の飯の時間も次の尋問もまだまだ先だからな。

 

 

 

 

数時間後 某宙域 ECOASside

 

エコーズの母艦『サラブレッド』は補給と『RX-0』の引き渡しを行っていた。補給内容はジェガン6機。なぜなら、2時間ほど前に彼らはとある証言を入手したからだ。それはある商船が、ジオンの艦が金色の何かと戦っているのを見たとのことだった。

 

「隊長、先ほどの件に関しての報告です!現在その艦艇の目撃証言から想定航行ルートを割り出しましたァ!」

「よくやった!補給と引き渡しが済み次第出発、その艦を襲撃する!」

「了解!」

 

 

 

つづく




エコーズのテンションが高い……。でもそんな部隊が一つぐらいあってもいいよね!


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決断 中編

サラブレッド エコーズside

 

『サラブレッド』の甲板からロト2機が発艦、一定距離まで離れたのちにダミー隕石を纏った。

 

「ロト、2機とも発艦。ダミー隕石を纏って件のジオン艦に接近。MS隊は現在各々の配置位置で待機中です」

「作戦を確認する。まずロト2機がダミー隕石を纏って敵艦に接近、取り付く。それを確認したジェガンが敵のエンジン、メガ粒子砲の破壊、目標をクリアしたのちロトは脱出、ジェガンはその援護。もし敵機が発艦した場合はそれの対処もだ。OK?」

『OK』

 

男は作戦を確認しつつもある懸念があった。それは乗り込む人員に限界があるとはいえ、小隊の人数を2人でよかったものかと。相手は強化人間。常人の反射速度を超えて反撃されたら、と。

 

(いや、俺たちは訓練されているんだ。それに場数も踏んでいる。たかが1人に負けるはずはない。部下を信じて待つのみか……)

 

 

エンドラⅡ カイトside

 

ウィーーン

 

目の前の扉が開く。カイトの視線の先にはヤスハがいる。目をつぶってはいるが死んでいるわけではないと自らに言いつけ、奥から出てきた医師の姿を見る。

 

「ああすまないね。呼んでおいて遅れるとは」

「治療してもらってる身なので何も言いませんよ。それに無償ですし。それで話とは?」

「おおそうだった。それでヤスハ…ちゃん?の容体だけどね。腕を骨折、肋骨にヒビが入っていたんだけどね。まあ命にかかわるほどでもないしこの程度なら放置でいいよ。あとは君が無茶な操縦をしなければ、ね」

「ありがとう…ございます。あとは私の聴収が終わり次第引き取りますので」

「いいよいいよ。ゆっくり待つさ。医者としてはダメなんだろうけど誰もケガしなくて暇なんだよ。話し相手がいないってのはね」

「そ、そうですか。ではまた後で」

 

先生にお辞儀をし、兵士に小銃を向けられながら医務室から出る。出た先にもやはり兵士がいて小銃を突きつけてる。豪華な護衛を伴って独房に向かおうとした瞬間、カイトはほんのちょっとのプレッシャーを感じ取った。

 

(うっ……。プレッシャー……?いったいどこから……?私に向けて?)

「おら、なに立ち止まっている。いけ」

「ちょっと立ちくらみがしただけだろ?そう気張るなよ」

「……{カチャ}」

「おおこわ」

 

さすがのカイトも何の装備もなく小銃持ちの相手とは戦いたくはなく、素直に独房に歩いて行った。

 

 

 

ロト エコーズside

 

エンドラⅡまであと5㎞を切った。ロト内部ではアサルトライフルを装備したエコーズ隊員がセーフティを解除していた。

 

「残り5㎞。偽装を解除して敵艦に張り付きます」

了解(ラジャー)

 

パンッ

 

バルーンがはじけ、ロトは敵艦に向かって加速、エンドラⅡは主砲を放つ間もなくロトの接近を許した。ロトはビームバーナーで隔壁を焼き切り、カタパルトデッキから侵入した。

 

「カタパルトデッキから侵入、上陸部隊は艦のコンピューターをハッキングして目標の位置を探れ」

了解(ラジャー)。グリーンリーダーから各員へ。グリーン4、5がハッキング。それ以外が援護。目標の存在を確認次第1から8が退路の確保、9から16が小隊単位でクリアに向かえ》

了解(ラジャー)

「GO!GO!GO!」

 

ロトの後部ハッチから白兵装備をした隊員が次々と降りていく。状況を理解したエンドラⅡの整備兵がブリッジに報告をしようとした瞬間に撃ち殺された。それを目撃した者から逃げ出し、それにつられて逃げ出すものが現れる。

 

「ブルーリーダーからレッドリーダーへ。『じゃがいもは食べられた』」

《レッドリーダーからブルーリーダーへ。了解した。食中毒を起こす》

 

数秒後、爆発音とともに艦に衝撃が訪れる。それがさらにエンドラ隊に混乱を呼び起こす。

 

《グリーン4から各員へ。目標の所在位置を確認した。データを送る》

《確認した。俺と10が向かう。11から16は攪乱を》

了解(ラジャー)

 

 

独房 カイトside

 

カイトは独房に入った時に艦の異常な揺れを感じ取った。それをカイトは、先ほど感じ取ったプレッシャーが引き起こしたのだと結論付けた。

 

「おい!今どんな状況だ!?」

「今確認している!ブリッジ、今の振動はなんなんです!?………え!?襲撃!?了解です!直ちに向かいます!」

(襲撃……?このタイミングだと……私を追ってきたととらえるべきか。撃沈せずに侵入してきたのがそれを証明するか……)

「あんたはココから出るなよ?出たくても無理だろうがな!」

「うっせ、さっさと鎮圧して来い」

「わかっている!」

 

護衛2人が走っていくのを見てカイトは思案していた。通常の連邦軍(もしくは海賊)がここまで鮮やかにジオンの艦に侵入できるのかと。

 

(さっきのヤツらの反応を見るとかなりの数の兵士が侵入したらしいな。そんなことができる兵器は私が知る限り『ロト』のみ。ロトを扱うことができる部隊はかなり限られてくる。教導隊(アグレッサー)と『エコーズ』だけだ。教導隊が侵入する任務を受ける可能性は極めて低い。どう悩んでもエコーズという答えしか出ないな……。嫌な予感がする……)

 

パンパン ドババババババババババ

 

カイトが思案していたら、乾いた音が聞こえてきた。それはカイトのいる独房に近づいてきている。

 

(こっちに来ている。迷いもなくまっすぐにだ。これはもしかするともしかするかもしれないぞ)

 

そして、扉の向こう側から指示が来た。

 

「扉の近くにいるなら離れているんだ。扉を爆破して開ける」

「おい、ちょっと待「3、2――――――」ええいままよ」

 

カウントダウンが聞こえてきたあたりにカイトは諦めて独房の端に跳ぶ。その瞬間、扉が勢いよくカイトのいたところに吹き飛んだ。

 

「あぶねえなァ。もうちょっと中の人を気遣ってもいいじゃないかな?」

「カイト・マツムラ中尉ですね?」

「無視かよ。だがその質問の答えはイエスだ。それで?私の救出にでも来てくれたのかな?」

「いえ、あなたを―――――始末しに来ました」

 

カチャ

 

ライフルを向けられた後のカイトの行動は素早かった。まず作業着を素早く脱いで1人のエコーズ隊員に投げ、それに目を奪われたもう片方の隊員のライフルの向きをで変えつつ裏拳を叩き込む。ふらついたところでナイフを奪い取って首を切り、そのままライフルを奪って作業着を取り払ったばかりのエコーズ隊員に向かって鉛玉をぶち込んだ。

 

ドババババババ

 

「うおお!」

「ふぅ……。まず2人。ロトに乗れるのが8人前後だったはずだから最低でもあと6人いるのか。それに外にもMSがいるっぽいし厄介なことになったな」

 

そう言って作業着を手に取って着ようとして――――断念した。なぜなら、脱ぐために無理やり引きはがしたことに加え、エコーズ隊員がナイフを使って作業着を取り払ったことでボロボロになったからだ。強化人間とはいえ、若干オシャレを気にする年頃。味気ない作業着とはいえボロボロになったものを着ることに抵抗もあるのだ。

着るものはないかと周囲を見るカイト。あるのはボロボロの作業着にエコーズの死体。硬いベットに申し訳程度の毛布。カイトは決断した。―――――エコーズのを奪おうと。

 

「こんなもでいいか」

 

偶然、体格が同じのエコーズ隊員のノーマルスーツを奪い着替える。

 

(ちょいと汗臭いが我慢するしかないか……)

 

ヘルメットをかぶり、トレードマーク(と思ってる)サングラスを防弾チョッキに掛け、ライフルを手にとったところで思い出す。

 

「おっと。これ(死体)を隠すのを忘れていた」

 

エコーズ隊員の死体を独房の中に入れて占める。これで準備良しと思い走り出す。

 

「ヤスハ、無事でいてくれよ……!」

 

 

 

 

エンドラⅡ 自室 ザミュside

 

眠っていたザミュを起こしたのはブリッジからの通信であった。不機嫌さを露わにしていたザミュだが、映っていたのが艦長だったためにすぐに引き締まった顔にする。

 

「艦長、人が寝ているときに起こすとは何事ですか」

《済まない大尉。しかし事が重大なのだ》

「重大……?」

《そうだ。艦内にエコーズが侵入してきた。狙いはおそらく連行したアイツだろう》

「艦長がおっしゃりたいのはアイツの始末と…?」

 

ザミュが怒りを少し表に出して聞くが、艦長はそれを受け流して要件を言う。

 

《そうではない。艦の周りにハチが現れて刺されてしまったんだ。だから少し駆除してもらうとね》

「要件はわかりましたが…侵入された分はどうするつもりで?」

《次の任務で使うはずの海兵隊を使うさ。それに侵入されたのはMSデッキだ。1個小隊を護衛につけよう》

「了解、送る小隊を自分の部屋ではなく医務室にしといてくださいよ?」

《?君がそう言うならそうしよう。オペレーター―――――》

「通信終わり」

 

そう言って通信を切る。次にザミュがしたのは武器の装備であった。この状況ではパイロットスーツを着る時間がないと判断したためであった。拳銃の残弾を確認し部屋から鏡を出して通路の安全を確認する。

 

(敵はいないし発砲音が聞こえない……いや、かなり遠くだがするな。こちらに近づく様子はなさそうだが急ぐに越したことはない。行こう)

 

一瞬、ザミュの脳裏にジェトロの姿が浮かび、すぐに消す。ジェトロは生きている。そう信じて、ザミュは医務室に向かって走り出した。

 

 

 

医務室 カイトside

 

医務室に入り、先ほどヤスハがいたベッドを見る。しかし、そこには誰もいなく部屋の反対側にある薬品庫から音が聞こえてきた。

 

「誰だ」

 

短くそう言い、武器をライフルから拳銃に持ち替え、音をたてないようにして扉の横につく。そして、扉を開けると途端に銃弾が飛び出してきた。

 

「撃つな、私だ!」

「君は……さっきの?」

「そうだ。格好はこれだが敵じゃない。銃を下ろしてくれセンセー。ヤスハの状態がわからないだろ?」

「……そうだったね。済まなかった。この状況だからね。先手は打てる時に打っておかないと」

 

同意だがそれで殺されてはたまらない。そう思いながら中に入る。中は薬品庫のため両脇の棚に薬品がかなり多く置いてある。そしてその先には車輪付きのベッドで寝ているヤスハがいた。

 

「運よくここには誰も来ていないからね。僕もヤスハ君も死なずにすんだよ。それに、海兵隊にザミュ大尉がここを起点にMSデッキに向かうらしいよ?」

「そうか、ならそれに便乗してMSを回収、外にもいるであろう敵機と母艦を壊すとしましょうか」

 

バンバン! ドババババババ!

 

その時、銃声が聞こえてきた。しかもその銃声は医務室に近づいてきている。

 

「先生?」

「わかっているよ。ベッドを盾にしておとなしくしているよ」

「OKそれでいい」

 

医師の言葉を聞き、カイトは行動に移る。ヤスハを担ぎ、ベッドを倒してその奥にヤスハをゆっくり下ろす。

 

「ヤスハを頼んだ」

 

それだけを言い、薬品室を出る。そこでカイトがしたのは鏡を置くことだった。なぜなら、鏡を置くことによって比較的安全に敵の確認ができるからだ。

 

(見えるのは2人……。さっきのヤツらも2人組だったから2人1組で行動しているのか?だったら好都合。2人なら対処できる。……ん?アレは…)

 

カイトが鏡を見ていると、鏡で見えているエコーズ隊員は何かを投げた。それは医務室の前でバシュッと音を鳴らしカイトの視界を白で塗りつぶした。

 

(やはりスモークグレネードか!ということは近づいてナイフで仕留めてくるハズ……!)

 

カイトの予想通りエコーズは拳銃を使うことをせずナイフを抜き取ってカイトを仕留めようとしていた。

 

「……」

「想定済みなんだよ!」

 

そう言って拳銃をエコーズ隊員のヘルメットに押し付け発砲する。1発だけではなく3発撃ち、確実に仕留めに行った。その銃声に反応し、もう1人のエコーズ隊員が拳銃を引き抜こうとしたが、背後から近づいた何者かに首の骨を折られて絶命した。

 

「やっぱりこっちに来ていたかカイト」

 

煙が晴れ、カイトが声のした方に顔を向ける。そこにしたり顔の男が立っていた。

 

「確かあんたは―――――ザミュ大尉…だったか?」

 

 

 

つづく




全部3人称にしてみましたが違和感しかないな。どうしよう……。


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決断 後編

医務室 カイトside

 

「確かあんたは……ザミュ大尉、だったか?」

 

エコーズ隊員を倒した男―――ザミュに対して放った第一声はコレだった。カイトは、誰か1人医務室に向かっているのがわかっていたが、個人を特定するほどの余裕も知り合いもなかったための発言だった。

 

「そうだ。あと来るのは俺だけじゃないぜ。1個小隊分ここに来るからな」

「ほ~、で?やるのはMSデッキの奪還か?」

「それだけじゃない。外にいるハチも駆除しなk「待て、何か来る」

 

ザミュが続けて言おうとしたとき、カイトは4つの敵意が接近してくるのを感じた。2人は物陰に隠れてライフルを構える。すると、数十秒後に白兵装備をした兵士(恰好からしてジオン臭い)が入って来た。

 

「アキ・ヤマト、ただいま参上!あれ?ザミュ大尉殿がいない?距離的にもすでにいると思ったんだけどなあ!」

 

ほかにも何か言い続ける。しかし、そのどれもが声が大きく、ついにザミュの怒りが限界に達し、物影から出てきた。

 

軍曹(アキ)!静かにすることはできないのか!?敵が攻めてきてるんだぞ!」

(うるせぇ……)

 

カイトはそう思いながらも物影が出る。その途端、アキ以下4人の小隊は一舜固まった後、ライフルを構えた。

 

「ザミュ大尉殿!後ろにエコーズが!」

「エコーズ?あ、ちょっと待て!そいつは違う!味方だ!エコーズの装備を奪っただけだ!」

「そうだ、少なくとも敵じゃない。疑わしいと思うなら武器も置こう」

 

そう言って、ライフル以下武装一式とヘルメットを床に置き、壁際まで下がる。すると、アキは気の抜けた声を上げた。

 

「へ?」

「お前も何やってんだ!時間がないんだ!早く装備しなおせ!」

「ハイハイ」

「ザミュ大尉殿、これはいったい…?」

「だからこいつは敵じゃないと言っただろうが。本人は味方でもないと言っているがな」

「はぁ……」

 

そんなやり取りを見ながらカイトは武装を装備しなおす。その際に残りの弾数を数えた。

 

(ライフルが120、ハンドが42、半端モノが3か…。無理に戦わなかったら行けるか?)

「軍曹、今回の任務は俺とこいつをMSまで送り届けることだ。そしてMSに乗った後は他の小隊と合流して残りのヤツらを始末しろ」

「了解です!では早速行きましょう!」

「ああ、そうだな。護衛は任せるからな」

「任せてください!この程度の任務はすぐに完遂して見えるのであります!」

(不安だ……)

 

カイトは一抹の不安を抱えながら医務室を後にするのだった。

 

 

MSデッキ エコーズside

 

上陸作戦開始から30分経とうとしていた。つまり、エコーズがこの艦に止まっていられるであろう限界時間が刻一刻と迫っているのだ。カイトを始末しに行った2人の兵からの通信が途絶えてから約10分。新たに送っても途中で通信が途絶え、MSデッキにいる兵にも負傷する者が増えてきた。そして、ブルーリーダーは撤退するという判断をした。

 

「ブルーリーダーからグリーン分隊へ。作戦は失敗した。繰り返す。作戦は失敗した。撤退する。グリーン分隊各員は直ちにロトに搭乗せよ」

《……了解(ラジャー)。聞こえたな?グリーン分隊はロトに戻るぞ》

了解(ラジャー)

 

心なしか、声が小さいがグリーン分隊はロトに乗り込んでいく。その最中にふと、ブルーリーダーは通路からエコーズの格好をした人物が来るのを目撃した。

 

「そこ!なにやっているんだ!撤退の命令を出している。さっさとロトに乗れ!」

 

しかし、その人物から返答は帰ってこなかった。それ以前に通信すら繋がらなかった。そして、その人物が金色の可変機―――――デルタガンダムに向かっているのに気づき、攻撃命令を出した。

 

「おい、今MSに向かっている奴にマシン・キャノンを放て」

「は?あっ了解」

 

操縦士である男もブルーリーダーの意味(敵に奪われたこと)を理解し、マシン・キャノンを掃射する。だがなかなか命中せず、足にかすったところでデルタガンダムに乗り込まれたのを見て操縦士の男はすぐさま武装をミサイル・コンテナに切り替え発射する。

ミサイルは吸い込まれるようにデルタガンダムに向かっていき命中する。

 

「やったか……?」

「やっていなくても撤退することが優先だ。乗員の回収は?」

「通信が途絶えた者を除き全員の搭乗を確認」

「よし、ブルー2の準備が完了次第帰投する。周囲の監視を厳となせ」

「了解、ブルー2に通達しm……リーダー!!」

「なんd…なに!?」

 

ブルーリーダーの視線の先にはデルタガンダムがいた。装甲が一部剥がれているものの運用に差し支えのないレベルのものだ。そして、デルタガンダムが何の支障もなく稼働していることはロトに搭乗している者に動揺を与えるには十分なものであった。

 

「小型ミサイルだったからか!?だが死ぬわけには……!!」

「動く前に仕留める!」

 

ロトはミサイル・コンテナの上に装備されているビームバーナーを起動させてデルタガンダムに攻撃を仕掛ける。だが、デルタガンダムの動きはロトのパイロットの想像以上に早かった。デルタガンダムはビームバーナーのサブアーマーを掴み、そのまま折り、バルカンで肩を撃ってへし折ったのだ。

 

ガシッ ボキッ バララララララ ドォオン

 

「………ッ!」

 

ガンッ ボッボッボッボッ ドォン ドカン ボン ドォオン

 

ロトは左腕のミサイルを放とうとしたが、トリガーを押す直前にデルタガンダムはシールドを振り上げて左腕を切断。その衝撃で誤作動が発生し左腕は回転しながらミサイルを発射した。4発のミサイルは天井など4つの方向にバラバラに飛んで行ったが、その方向に別のロトが含まれていた。もう1機のロトは直前に気づき回避行動をするも、右腕のミサイル・コンテナに被弾してしまい誘爆した。

 

「なんだと!?ブルーリーダーから666部隊各員へ!デルタが動いた!目標は生き……!」

 

次の瞬間にブルーリーダーが見たモノは、金色の物体であった。

 

 

 

 

MSデッキ ザミュside

 

《こちらカイト、ザミュ大尉?侵入したロトを2機とも屠った。だが中のヤツが生きているかもしれない。注意してくれ》

「了解した。カイトは先に外に出てうるさいハチを叩いてくれ。こちらは生き残りがいないか確認してから援護に向かう」

《わかったが早めに来てくれると助かる。『ECOAS』の連中は錬度が異常に高いからな。もしかするともしかするかもしれない》

「善処する。当分の間頑張ってくれ」

《了解、通信終わり》

 

通信が切れ、デルタガンダムが宇宙に出ていく。それを見送ったザミュは、ライフルを構えなおしてMSデッキの飛び降りる。すると、ザミュが通ったのとは別の通路から数人の海兵隊が出てきた。そのうちの一人がザミュに通信を送ってくる。

 

《ザミュ大尉、ご無事でしたか》

「軍曹のおかげでな。で、アポー。何かあったのか?」

《ええ、艦に侵入した不届き者の殲滅が完了しました。あとはMSデッキに生き残りがいないか確認するだけです」

「上出来だ。見ての通りだが兵員輸送車をあいつが倒してくれてな。その残骸から生き残りがいないか確認する。手伝ってくれ」

「ご命令とあらば」

 

ザミュとアポーは会話を打ち切り、破壊されたロトの消火活動を眺める。2機あるが、1機は両腕が切断されてコックピットに当たる部分に大きな穴が開いていた。もう1機には片腕は残っているがこんがり焼かれており、消火班はこのロトの消火をしている。生き残りがあるとしたら腕なしか。

 

「両腕がない奴は悲惨ですね。戦闘記録は見てはいないのですが金色の塗料がついている。シールドで殴ったのでしょうか」

「さあな。だがシールドで殴ったってことは押しつぶされたってことだろ?恐ろしいな……」

「ええ……」

『生き残りがいたぞ!』

「!いくぞ」

「イエッサー」

 

ザミュとアポーがロトに近づくと、血まみれエコーズが武器を捨て投降している様子が見えた。

 

「あ、ザミュ大尉殿!兵員輸送車の含めて3人の生存、投降を確認しました!」

「そうか、じゃあ後は任せたぞ。俺はドライセンに乗ってあいつの援護に向かう。……テルスとジョンソン、それにセルジはどうした?」

「それに関しては自分が。テルス少尉は現在こちらに向かっています。セルジ少尉はエコーズとの銃撃戦で腕部を負傷、現在は応急処置を施したうえでギラ・ドーガに搭乗しています」

「そうか。ん?ジョンソンは?」

「それが……MSデッキ奪還中に頭を撃たれて……殉職しました」

「……わかった。セルジを艦の直掩で待機させろ。あとテルスは搭乗次第俺に続けと言っておいてくれ。……ああ、後先生も呼んどいてくれ。カイトの太ももが撃たれていた。帰ってきたら治療させなきゃならん」

「イエッサー、大尉」

 

ザミュはドライセンに乗り込み起動させる。

 

「(武装はビーム・キャノンとヒートサーベルだけか……。バズーカを取り出す時間もないか。しょうがないな。このまま出るしかない)ザミュ、ドライセンで出る」

《セルジ、ギラ・ドーガで出ます!》

「セルジ少尉、お前は艦の直掩だ。必要になったら呼ぶ」

《了解です大尉》

 

宇宙に出てモノアイをせわしなく動かし周囲を探索するドライセン。すると、デブリの陰に隠れながらも爆発の光を発見した。

 

「そこか!」

 

 

 

デルタガンダム カイトside

 

「了解、通信終わり」

 

通信を切ったカイトは、まず機体のダメージを確認した。先ほどのロトの攻撃で内部が壊れている可能性があるからだ。

 

「センサーがちょいとやられているが大事ってわけでもないか……。なら問題ない。このままたたく!」

 

太ももの傷をテーピングして傷口をふさぐ。そしてペダルを踏み、デルタガンダムが宇宙に出た。カイトは神経を研ぎ澄ませて気配を探る。そして、カイトは自身を狙っている冷たいモノを感じ取った。

 

「そこッ!」

 

ロングメガバスターから一条のビームが放たれる。ビームはまっすぐ進み、カイトの感じ取った場所に到達する。しかし、そこには何もなく小さな爆発と砂が舞っただけだった。

 

「外したか…。まあいい。すべてを相手する必要はない。じっくりと確実に墜とすだけだ」

 

WR形態に変形してほかに感じ取った場所に急行する。

 

「よし捉えた。……あのジェガン、カスタマイズされているのか?」

 

敵のジェガンを発見する。しかし、その姿は少し変わっていた。シルエットを崩さない程度だが、カスタマイズを施されていたのだ。頭部はエコーズおなじみのバイザー、右手には長い得物『TBS(ツイン・ビーム・スピア)』、左腕にはリゼル用シールド、腰にはリゼル用ビームライフル、肩と足にスタークジェガン用アーマーが備えられていた。カラーリングは追加装甲含めすべて岩盤と同じエコ―ズカラーになっている。

 

「仕掛ける!」

 

シールドから直接ビームサーベルを発振して横に薙ぎ払う。それをジェガンはTBSを振り上げるようにして受け止める。その瞬間、左右にあるデブリからジェガンが現れる。

 

「しまった!こいつ囮だったか!」

 

デルタガンダムを後ろに引かせ、ビームをよける。TBS持ちが追撃してくるが、それを振り切り別のデブリに隠れる。

 

「くそっ、なんで殺気を感じ取れなかったんだ。いつもならすでに気づいているだろ!それにセンサーも気づく距離だ!」

 

今のカイトは、ロトのマシンキャノンで足を撃たれてなかなか集中できていなかった。

 

「バカみたいに突っ込んで、引っかかって、今は逃走か?ふざけんな。こんなところで終わるつもりはないんだよ!!」

 

デルタガンダムはデブリから出てあえてその姿を現す。数秒後、いくつかの光線がデルタガンダムに接近するが、それを巧みにかわしその根源に近づいて切りかかる。

ジェガンは素早くシールドで防御するが、手で持つ時よりも強力に発振しているビームサーベルの前には無力で、バターのようにスライスされたのちにシールドを蹴って距離を取られ、ビームをその身に受けた。

 

「残り5機!…落ち着け、集中しろ……。自分の感覚を信じればできるはずなんだ」

 

血が抜けたのか、徐々に冷静になっていくカイト。その脳は遠方から1機、近距離から2機やってくるのを感じ取っていた。

 

「他の3機は来ないのか…?」

 

怪しみながら近づいてくる2機のジェガンを相手する。2機のジェガンは、デルタガンダムに近接戦を挑もうとせず、ただ一定の距離をとってデルタガンダムにビームを撃っていた。デルタガンダムはその正確な射撃でなかなか近づくことができていなかった。

 

「2丁持ちが厄介だな。確実に当てようとしている。しかも避けたとしてもそれが牽制となって逃げ場をなくす。だがこれは遅延でもある。なにを狙っている?スナイパーでもいるのか?」

 

疑問に思いつつもジェガンがしつこく、変形ができずに離れることができない。そして、ついにビームサーベルを発振して接近戦を仕掛けた。しかし、それがエコーズ側の作戦だったのだ。そのことをカイトはすぐに思い知らされた。

 

「しつこい!」

 

ビームサーベルを振り下ろす。それを1機のジェガンがシールドで防御する。その瞬間、デルタガンダム内に警報が鳴り響いた。警報にすぐさま反応し、一瞬感じ取った殺気の方向にシールドを向ける。その直後にシールドにビームが突き刺さった。しかし、ビームを放ったのは1機だけではなかった。多方向からさらに2条のビームが来たのだ。それを紙一重でかわすとビームサーベルを握ったジェガンが切りかかって来た。

 

ジジジジ

 

「全くなんて日だ!ここまでハードな戦闘は初めてだぜ!」

 

つばぜり合いになりながらもバルカンを撃ってメインカメラを割る。さらにペダルを踏んで加速した。元々の推力が桁違いのためにジェガンはたやすく押される。しかし、その間にも2丁持ちがデルタガンダムの背後に回り、ビームライフルを撃とうとしていた。

 

「1機に手間をかけすぎた!だが……!」

 

しかし、その手にあるモノからビームが放たれることがなかった。なぜなら、ザミュのドライセンがそれを妨害したからだ。

 

《済まなかったな。すこし調査に時間がかかった》

「いや、グッドなタイミングだ。しかしまだ3機と母艦がある」

《そうだった。素早く鉄屑に変えて戻ろう》

 

そうだな、と返してジェガンから距離をとる。そのままロングメガバスターを数発撃ち墜とす。ドライセンの方を見ると、少し手間取っているように見える。

 

「ザミュ大尉、そいつを頼んだ。先にスナイパー1機と敵艦を墜として来る」

《はぁ!?ちょっとm――――{ブツッ}》

 

最低限のことを言ってカイトはデルタガンダムを手を出さず、傍観に徹している気配のするところに方向に向けて加速する。そのことに気づいたのか、戦艦も含めビームの射線がデルタガンダムに比重が置かれてきた。

 

「だが甘い!」

 

敵が狙いを定める前にデルタガンダムの姿は射線上にはなく、逆にサラブレッドのメガ粒子砲が撃ち抜かれた。そこで次に来たのはミサイルのシャワーだった。

 

「メガ粒子の次はミサイルか!…だが熱量が普通のより低いのが混じってる。まさか……!」

 

カイトが思案したときにすでに遅く、デルタガンダムを変形させてミサイルを迎撃した。そして、熱量が低いヤツが吐き出したのは火薬の花ではなく、無数の鉄球でもなく、霧状のビーム攪乱幕だった。ビーム兵器が主体のデルタガンダムにとってこれはかなりの痛手だ。

 

「攪乱幕!?やはりそういうことか!」

 

ミサイルの第二波が来る前に変形してさらに接近する。次の弾頭は散弾だった。そのせいで無数の鉄球がデルタガンダムに降り注ぐ。

 

「損害は…装甲が多少へこんだ程度か。ならまだいけるか」

 

50㎞、45㎞とデブリの間をとおりながら距離は縮めていく。そのおかげで攪乱幕の効果範囲から逃れるがその瞬間には新たに攪乱幕が張られていた。

 

「次抜けたら狙い撃つ……!」

 

大何波目かのミサイルを抜けついに攪乱幕の効果範囲から抜け出す。WR形態を解き、MS形態に変形してブリッジを撃ちぬこうとする。しかし、サラブレッドの抵抗は強く、機銃の弾が飛んでくる。

それを、カイトはダミーバルーンをすべて放つことで対処した。バルーン自体も金色のため本物はわかりずらいためだ。

そして、ロックオンマーカーがサラブレッドに固定された。

 

「狙い撃つ!」

 

ロングメガバスターから放たれたビームは吸い込まれるようにサラブレッドのブリッジに命中した。そのまま火薬庫やエンジンに飛び火したのか艦全体が連鎖的に爆発していった。

 

「よし、残りを片付けよう」

 

WRに変形して残りがいる宙域に戻る。途中で妨害はなく、ビームの束がいくつか見える。ドライセンか?

 

「もう1機ドライセンがいる…。友軍なのだろうが…あと1機はどこにいる?」

{ピピピピ!}

「上からか!」

 

上からのビームをよける。しかし、それだけでは終わらずにデルタガンダムに迫る。

 

「こいつ…!リゼル用の……あいつか!」

 

ビームが途切れた瞬間を狙ってビームを放つ。ビームはジェガン本体には当たらずビームライフルにあたった。しかし、攻撃はそれだけでは終わらず、デルタガンダムはビームサーベルを引き抜いて近接攻撃を仕掛けた。ジェガンはTBSを持って対応する。

 

「さっきと同じ対応か…。それなら!」

 

右腕を引き、シールドの先端をジェガンの胸部に当てる。ジェガンは下がろうとしたもののすでに遅く、シールドのビームガンが火を噴いた。威力の低いビームだが、何発も当たることでコックピットを貫通した。

 

「ザミュとかいうやつも…終わっているな」

 

敵機が殲滅されたのを確認してエンドラ級に戻るデルタガンダム。そこで待ち受けていたのはあの医師とヤスハだった。

 

「先生!どうしたんです?それにヤスハも」

「君のその足だよ。ザミュ大尉が君の治療をしてくれと言ってきてね」

「ああ、そのことか。だがそれよりもザミュ大尉はどこにいる?けっこー大事な話があるんだが」

 

そういいながらMSデッキの奥にドライセンを発見する。カイトは床をけってドライセンにコックピットに張り付く。それと同時にコックピットハッチが開く。

 

「うお!どうしたこんなところに来て」

「ザミュ大尉、あんたは結構偉いんだよな?」

「あ、ああそれなりにはな」

「だったらお願いがある。ヤスハ含めて亡命を希望する」

 

 

 

つづく




半端モノとはナイフ型消音拳銃のことです。


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ガンダム強奪

亡命を希望したカイト。しかし『袖付き』には非戦闘員を養うほどの余裕はなかった。
そこでカイトは『袖付き』に入ることを決意する。
そしてすぐに新しい『袖付き』のパイロットに任務が舞い込んだ。


 

大型輸送機の格納庫、そこにはギラ・ドーガと1機の戦闘機があった。そして、その戦闘機―――『コア・ファイターⅡ』―――のコックピットにカイトはいた。

 

「海賊に渡った新型MSの奪取か…」

《緊張してるんスか、()()?》

「まあな。まさかただのパイロットに基地潜入ミッションが来るとは思わなかったよ。まったく素晴らしい組織だよ。ネオ・ジオンってのは」

 

グリプス戦役で破壊された要塞―――『ゼダンの門(ア・バオア・クー)』の破片の一つに海賊に住み着いた。そこまでは良かった。しかし、問題なのはその次だ。その海賊が襲った商船にサイコフレームを搭載したMSが積んであったというのだ。今回の任務はそのMSおよびサイコフレームの奪取だ。

 

《皮肉はよしてくださいカイト少尉。そろそろポイントに到着するッス。準備を》

「あいよ」

 

コンソールをいじり自身にあった設定に変えていくカイト。サキと話していた通信に新たな影が入って来た。

 

《カイト少尉、本当にあの作戦でいいのですか?自分は心配です……》

「私が一人で潜入することか?しょうがないだろ、先の戦いで海兵隊が減ったんだ。その責任をとれってことだろ?」

《そうですが…》

「なに、協力者はすでに潜入している。私がついたら潜入したら向こうで混乱が起きる。その最中に新型MSを奪取、君たちが回収して逃走するだけの簡単な仕事だ」

《その潜入するのが難しいんじゃ…。それに補充パーツの奪取も忘れていますよ》

「発信器を設置して宇宙に捨てればいいだけだろ?そしてそいつはガランシェール隊が回収する手筈だ。よし、準備は終わった。ハッチを開けてくれ」

《了解ッス》

 

その言葉と同時に天井に相当する壁が開き、宇宙を見せる。カイトはコア・ファイターⅡのブースト・ポッドを巧みに使い外に出た。

 

「さて、セルジ少尉。2人しかいないからと言って若い衝動に身を任せるなよ?」

《な、何を言ってるんですか!?下品ですよ!》

「ふっ…。カイト、任務を開始する」

 

軽口をたたくとともに任務の開始を宣言する。宣言と共にスラスターに火が灯り、宇宙戦闘機は加速した。

 

 

 

 

ゼダンの門の破片。そこに1機のMSいや、よく見るとその下もう1機のMSが飛んでいた。

 

「こちらトラヴィス。異常なし」

《了解、上に伝える。……父さん》

「なんだヴィンセント?実際に問題は一つも起きてないだろ?」

 

灰色の可変機―――ZⅡのパイロット、トラヴィス・カークランドは上に映る青いギラ・ドーガのパイロット―――ヴィンセント・グライスナーに答えた。

 

()()()()()()()()

「今日にはやるさ。お前も知ってるだろ?あれは厳重に保管されている。見張りがいなくなる瞬間を狙うんだ。それは嬢ちゃんがやってくれる。さて、もうそろそろ交代の時間だ。戻るぞ」

《ええ、戻ろう》

ppppp!

『!?』

 

計器が鳴り、迫りくるものの正体を見極める前に加速してその場から離れる。さっきまでZⅡがあった場所に一条のビームが流れた。

 

「まだ来るぞ!構えろ!」

《ハァ!》

 

ヴィンセントは言われる前にすでに操作してビームライフルを構えて発砲していた。接近する黒い影にビームは掠り、煙を出しながら黒い影はゼダンの門の破片に墜落しついには爆発した。

 

《なんだ…今のは……?》

「デブリに交じってた戦闘機が何かの拍子に…って言いたいところだがヤツは攻撃してきた。潜入目的か?」

《だとしても死んでるよ。あの爆発じゃあ生存は不可能だ》

「ああ…だが一応このことを報告しておくか……」

 

トラヴィスは一末の不安を抱きながらもMSデッキにMSを誘導した。

 

 

「あ、危なかった……!」

 

コア・ファイターⅡの墜落地点からそこまで離れていない岩陰にカイトはいた。彼は、掠った時点ですでに脱出の準備を終わらせ、2機のMSを通過した数秒後に脱出したために生き残ったのだ。勢いを消すためにジェットパックの燃料を使い切るまで吹かしたのだが。

 

「さすがにあの爆発から生き延びているとは思われないだろうが……早めに連絡をした方がいいか」

 

素早くヘルメット内の通信機を起動させて指定された周波数に切り替える。すると、すぐに反応がった。

 

《ようやく着いたようですね。こちらで確認しましたよ、金棒殿》

「申し訳ない。ここまで派手にやられるとは思ってなかった。動きにくくなっただろうがもう少しだけ働いてもらう」

《それが仕事ですので。ではわたくしが得た情報を送ります。いま目を通してください》

 

ポーチから小型のパッドを取り出しメールを確認する。メールには基地の見取り図、兵員の大まかな情報、最近の出来事が書かれていた。これだけあれば任務をこなせるだろう。

 

「これから侵入することになっているのだが……『仕掛け』は終わっているのか?」

《問題ありません。ボタンをぽちっと押せば今すぐにでも発動します》

「わかった。必要になったらまた連絡する」

 

そう言って通信を切る。岩陰から出たカイトは旧ジオン軍でも秘密のハッチを目指し、そこから侵入した。

 

 

新型MSがあるMSハッチの見張りの交代時間がやってくる。交代の瞬間を狙って新型MSを奪うことにしていたヴィンセント一行は、例のMSハッチに向かっていた。その途中、ニュータイプの女性アンネローゼが何かを感じ取った。

 

「……!隊長、今、誰かがこの要塞に入っていくのを感じました」

「…以前感じ取ったやつとは別なのか?」

「以前感じ取ったやつよりも気配が強い。たぶん…今のヤツはニュータイプかそれに近いヤツ。目的は―――」

「俺たちと同じ…か」

「たぶん」

 

このタイミングで来たってことはさっきの戦闘機のパイロットが来たとしか考えられない。ヴィンセントがそう考えたとき、あたりからガスが湧き出て来た。

 

「なにこれ!?」

「催涙ガスか?!アンネローゼ!格納庫に急ぐぞ!」

「了解隊長!」

 

 

潜入したカイト。彼は余計な時間を使わずにまっすぐMSデッキに向かっていた。

 

(今の位置からだと遠いな。ガスを使って一気に行ったほうがいいか…)

「ニンジャ、聞こえるかニンジャ」

《何でしょう金棒殿》

「仕掛けを発動してくれ。後は何とかする。あ、ああ後外に出て脱出の援護を頼む。それと連絡もな」

《わかりました。外で待っています。…ニンッ》

「ああ、頼む。……ニン?」

 

まあいい。先に進もう。カイトはライフルを構えてそう思った。

通路の直線状に敵兵が現れる。相手はカイトの存在に気づいていないようだったが、カイトにはどうでもよかった。カイトの頭の中にあるのは邪魔になる存在は消し、素早く任務を完遂することだったからだ。だから彼は敵兵が現れた瞬間引き金を引いた。

 

バララララララッ!

 

敵兵が凶弾に倒れる。それと同時に視界が白で覆い尽くされた。仕掛けが発動したのだ。事前の情報で催涙ガスが流れると知っていたカイトだが、ノーマルスーツを来ているカイトには関係がなくそのまま突き進む。

 

(ココを右。分岐点が1…2…3…左。……!)

「ごほっごほっ。あぁ?は!?誰だお前!」

「地獄からの使者…とでも言っておこうか」

「ぐはっ」

 

通路を曲がったりし、途中で会う者を容赦なく叩きのめし、時には銃撃戦になりながらも格納庫に進む。そうすることによってものの十数分でMSデッキにたどり着いた。

 

「ココか。さて、ここでもたもたせずに入りましょうか」

 

カチッ ピ…ピ…ピ…ピ…ドォオン

 

カイトはプラスチック爆弾を仕掛けて内部に入る。するとそこには、2機のガンダム(タイプ)と、周辺に予備パーツが入っていると思われるコンテナがあった。

 

「あの情報が確かなら一番小さなコンテナにサイコフレームが積んでいるんだが……お、これだ」

隊長! ハッチが破壊されている!?

「……発信器起動確認。これより脱出を開始する」

 

カイトはコンテナを飛び越え、まっすぐMSに向かう。しかしカイトを行かせないために銃弾が飛んでくる。

 

「そこのヤツ動くな!」

パンパン!

「止まったら銃弾が当たるじゃねえか!」

パン…カシュ…ジジジジ

 

カイトはアンカーガンを使ってさらに加速する。それによって素早くMSに乗り込み起動させた。

 

「機動は全部オフで教育型コンピュータで私の動きを覚えさせる。それ以外は……グッド!そして名前は……量産型νガンダム?武装は後で見ればいい。さあ出発だ!」

 

全てのコンテナを宇宙に捨てて格納庫から飛び出す量産型νガンダム。続いて出てくるもう1機の量産型νガンダムだが、それは別の方にとんでいった。その代わりに攻撃してきたのは灰色のZⅡであった。

 

《テメェにその機体は渡せねえな!このまま宙の藻屑となっちまいな!》

「なってたまるか!なにか武器は……右腕のスプレーガンと2本のビームサーベル。そして左肩のフィン・ファンネル?放熱板かと思っていたが違うのか…。じゃあさっきのνガンダムはなにを装備していたんだ?」

《無視すんア!》

《させません!》

《!?》

 

ZⅡがメガビームライフルを構えた瞬間、νガンダムとZⅡの間を何かが横切った。その『何か』はやがて、ブーメランのように投げたMSの元に戻っていった。そのMSは―――

 

《―――黒い…ジェガン?》

《ニンッ!このアヤメの黒いうちは依頼主をやらせはしません!》

《うわさに聞く『ニンジャ』ってやつか。そして2対1……いくら『ガンダム』でも不利か……。ヴィンセントたちが来るまでなんとか持ちこたえてみせますか!》

「おじいちゃん無理すんじゃないよ。年寄りは年寄りらしくおとなしくしてな!」

《まだそんな年じゃない!》

 

ビームサーベルを構えて切りかかるが、ZⅡはWRに変形して逃れた。その後、再びMSに変形してビームを放つ。その間にも敵の数が増えていくのをカイトは感じ取った。

 

「……気配が増えてきている。ニンジャ、追手が増える前にトンズラするぞ」

《援護します》

「戦う前に逃げることを優先しろ。数の差が圧倒的すぎる」

 

そう告げ、ゼダンの門(残骸)から背を向けて逃走を図る。しかし、敵はそこまで甘くはなかった。ZⅡはその推力を生かしてカイトたちの進路上に先回りしたのだ。

 

《その機体は渡せないって言っただろ?》

「それは困る。この機体は我が軍にとって重要な役割を持つ予定だからな」

《どこの軍か、詳しく聞かせてもらおうじゃないか》

「断る!」

《金棒殿!後ろ!》

《父さん!》

 

その声と共に後ろからビームがやって来た。後ろに目を向けると、そこには青いギラ・ドーガと先ほどのνガンダムがいた。

 

「なに!?もう来たのか!」

《ヴィンセント!遅いぞ!ひと眠りしそうだったじゃねえか》

《ごめん父さん!海賊側のMSの破壊に手間取ってたんだ》

《その代わりこの機体に慣れてきたからね!》

「3対2…ちょっと不利かな?」

《『ちょっと』?『かなり』の間違いじゃないかな?》

「さて、どうだろな!」

 

スプレーガンでZⅡなどを牽制しつつ一番旧式であるギラ・ドーガに攻撃を仕掛ける。ギラ・ドーガはビームアックスで受け止めるもすぐに後退してビームマシンガンを掃射して来た。ビームをよけ、ジェガンと背中合わせになる。

 

「ええい!敵もわざわざ私に合わせはしないか!」

《2機とも近接特化型ですからね。距離を取られれば一方的に攻撃できますから》

「ヤツはいつ来るんだ?」

《いえ、遠くから狙撃するとおっしゃってましたが?》

「狙撃だって?確かに装備の指示は私が出したが……こいつらの存在は計算外だったな。裏目に出てしまった」

《どうします?投降をするふりをして狙撃させますか?》

「いや、それはダメだ。リスクがある。そうだな……ココは1発、賭けに出てみるか?もう1機νガンダムがいるだろ?あいつを半壊にして人質に取る。そうすればこの窮地を抜け出せるぞ」

《して誰がその役目を?まさかアヤメですか?サイコミュとのやりあいは経験がありませんぞ》

「……なら私がやろう。ニンジャはどのくらいあの2機を抑えられるか?」

《愚問ですね。2機程度ならどれだけ速かろうが対処はできます》

「じゃあ行くぞ。3…2…1…GO!」

 

動き出すと同時にフィン・ファンネルを射出する。フィン・ファンネルは一定距離まで離れた後変形しコの形になった。

 

「ファンネルを使った経験はないんだがな……。やるしかあるまい。いけッ!フィン・ファンネル!」

 

νガンダムにあった5基のフィン・ファンネルは全てギラ・ドーガとZⅡに向かった。

 

《なんだあの形のファンネル!初めての(タイプ)だぞ!》

《アンネローゼの時よりも圧倒的に早い……!》

《だったら私も…!行って!『インコム』!》

 

掛け声と共にνガンダムのバックパックから2基のひも付き円柱が放出された。それは通常のインコムとは違い、『リレー・インコム』と呼ばれる中継器が存在しなかった。それが意味することは、どこにもとどまらず、自由に攻撃できることを意味する。

 

「インコムか。資料で読んだことはあるが対峙するのは初めてだ。しかも改良型なのか?中継器がないぞ?シルヴァ・バレトの腕に近いのか…。準サイコミュの新兵器……わくわくするな」

 

既存の兵器の改良型。それでも元テストパイロットとしての血が騒ぐ。カイトはすぐに弱点を見つけてやろうと思った。

 

 

「なかなかやりますね!」

《嬢ちゃんとは年季が違うんだよ!それにしてもなんだ!?腕の大剣を持っていてその機動性!》

《しかもシールドの代わりにもなる。結構厄介な相手だ》

 

νガンダム同士の戦場から少し離れた宙域。そこではフィン・ファンネル&近接強化型ジェガンVSギラ・ドーガ&ZⅡの戦いが行われていた。フィン・ファンネルが機動力の高いZⅡを牽制し、その間にギラ・ドーガに攻撃するといった感じで戦っている。

 

(サイコミュにも限界があるはず。それが訪れる前に決着をつけなくては)

《ファンネルがしつこいな!破壊しようにも嬢ちゃんの邪魔が入る》

《でもファンネルにも推進剤の限界がある。それまで堪え切れれば俺たちの勝ちだ》

「らちが明かない!ならっ!」

 

大剣をブーメラン状に組み換え、ギラ・ドーガに向かって投げる。ギラ・ドーガはたやすく避けるが、ジェガンはすでに2本のビームサーベルで切りかかっていた。ギラ・ドーガはシールドで防御することで対応した。

 

《なかなかいい攻撃だったが……その程度じゃ俺は倒せん!》

「なにもアヤメはあなたを『これ』で倒そうと思ったわけじゃありませんよ?ただ単純に、足止めしたかっただけです」

《なに…?どういうk{ドォン}ッ!?》

 

突然ギラ・ドーガの頭が爆発した。その衝撃によってヴィンセントの頭に一瞬の空白が生まれた。動きが止まったことを見逃さずに脚を切り落としてから後退した。同時に偶然か、推進剤が切れてフィン・ファンネルの動きが止まった。

 

《ヴィンセント!遠くからの狙撃だ!かなり遠いがギラ・ドーガの姿が見えた》

「これで2対2。フェアプレーの精神で行きましょう」

 

 

3つの光線が別方向からカイトのνガンダムを襲っていた。カイトのνガンダムは時折ビームサーベルでビームを防ぐが、そのことによってビームサーベルの耐久値が限界を超え、1本破壊してしまった。予備の1本を使用しているが、限界は近づいていた。

 

「そろそろ終わらせないとな……。{キィン!}フィン・ファンネルが動かない。推進剤が切れたのか?だったら……集中できる!」

《えっ!?動きが変わった!?きゃっ!》

 

ビームが途切れた瞬間にカイトのνガンダムがビームを放つ。アンネローゼのνガンダムはシールドで防御するが、そのすきにカイトはインコムを破壊した。

 

「接近すれば!」

《離れなきゃ……間に合わない!?》

 

限界ギリギリの速度を出して距離を詰め、ビームサーベルを振り下ろす。敵のνガンダムは再びシールドで受け止めるが、カイトの攻撃はこれでは終わらなかった。開いた右手を敵のνガンダムのバックパック部のサーベルラックに伸ばして掴んだのだ。サーベルラックから直接ビーム刃を形成して腕を引く。それによって敵のνガンダムはバックパックと共に左肩を切断された。

 

「まだまだ!」

 

それだけにとどまらず、右手のビームサーベルを斜めから突き当て頭部と肩を溶解させた。

 

「敵の無力化に成功。これから連行する」

《私がこうもたやすく…!?》

 

カイトはアンネローゼの言葉を無視し、アヤメたちの戦場に向かった。

 

 

アヤメたちの戦いは終局を迎えていた。優勢なのはトラヴィス側だった。WR形態のZⅡの背中に半壊のギラ・ドーガを乗せ、2機分の推力で縦横無尽に駆け回っていたからだ。高速で動き回るためにセルジはなかなか攻撃できず、様々な方向からビームが飛び、アヤメのジェガンは地道ながらもダメージを受けていた。

 

「向こうの戦闘が収まった?わっ!」

《よそ見とは随分と余裕じゃねぇか嬢ちゃん!》

「接近できれば……!」

 

腰にビームがあたり、グレネードが誘爆する。それによって脚がちぎれる。もうだめか……。そう思ったとき、カイトの声が響いた。

 

《そこの2機とまれ!さもなくばこのパイロットを殺すぞ!》

《なっ!?アンネローゼが負けた!?》

《止まって武装解除しろ!そうすれば彼女も開放する!》

《その話は本当なのか?》

《交渉事ではウソはつかない。それが信用を得る方法だと私は思っている》

《人質を取っている時点で信用できないと思うんだがなぁ》

《そうしなければ止まらないだろう?》

 

《それで条件は?》とカイトの言葉を無視してヴィンセントは話を進める。カイトは《無視かよ……》とつぶやいてから条件を話した。

 

《まず①こちらが安全だと判断する距離までの移動

②そちらが1㎜も動かないこと

③そちらが攻撃しないこと。その代わりこちらも攻撃しない

そうすれば彼女を解放する》

《信用していいんだな?》

《してもらわなちゃ困る》

《わかった。飲もう。ただし約束は守れよ》

 

《ああ》とだけ返し、時折後ろを振り返って確認しながら後退する。そして、デブリ帯に入ったところで大破状態のνガンダムを置き、信号弾を撃った。

 

《任務…完了》

 

つづく




ジェガン近接強化型

ニンジャが駆るジェガンの改造機。両肩に大型の実体刃があり、連結することでブーメランとしての使用ができる。サイドにグレネードラック、腰に2本のビームサーベルが装備されている。
また、大型のブレードを装備するにあたって推力の大幅アップがなされている。


量産型νガンダム

基本スペックは「CCA-MSV」を参照してください。
カイト機はフィン・ファンネルを装備したタイプで右腕にビームスプレーガン、バックパックと腰にビームサーベルが1本ずつ。
アンネローゼ機がインコム装備で右腕にビームスプレーガンとビームライフル、左腕にシールド、バックパックに2本と腰に1本である。


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寂れた巨岩の中で

《残り10分ほどで接弦が完了します。乗員は衝撃に備えてください》

 

かねてより計画していたサイコフレーム搭載機奪取作戦を完了させたエンドラⅡ隊。彼らは成功の報告、および補給等を踏まえてネオ・ジオンの新たな拠点である『パラオ』に到着しようとしていた。

パラオに着こうとしているこの瞬間、カイトは厨房でビーフシチューを作っていた。

 

「後10分か…。後は寝かせるだけだ。早めに火を消しておこう」

「カイト少尉!ようやく見つけましたよ。何しているんですかここで!」

 

コンロのスイッチに手をかけた時にカウンターの向こうから声がかかった。セルジ少尉だ。階級は同じ少尉だが、先の作戦ではカイトが指揮をしていた。

 

「見てわからないのか?料理をしている」

「そうじゃないですよ!なんでここで料理をしているのかって聞いているのです!」

「料理をするならここしかあるまい。自室のものはあまりよくないからな。味見してみるか?」

「…結構です」

 

小皿に掬ってセルジに差し向けるが、彼は丁寧に断った。「残念だ」と言い、カイトはカウンターにある席に座った。

 

「わざわざ私を探しに来たには理由があるのだろう?どうしたんだ?」

「ああそうでした。あの『サイコフレーム搭載MS奪取作戦』の報告を改めて聞きたいそうなんです」

「誰が?」

「わからないんですか!?()()『フル・フロンタル』大佐ですよ」

「ああ。そういえば『シャアの再来』と呼ばれている方か」

 

カイトは連邦からきた身であるためネオ・ジオンの話は噂話程度でしか知らないのだ。

 

「で、その大佐殿から呼ばれているの誰だ?まさか私だけか?」

「いえ、作戦に従事したパイロットの私と、奪取したMSを解析しているサキが同行します」

「わかった。離艦許可が出たらすぐに向かおう。トップを待たせるのは失礼だからな」

「カイト少尉!どこへ!?」

「機付長のところへだ。あの『ガンダム』の性能を指揮官であった私も知っておかなくてはと思ってね。セルジ少尉はハッチで待機だ」

「ハッ」

 

食堂からカイトが出て、セルジ一人になった。その視線の先には先ほどカイトが置いていった小皿がある。

 

「…うまい」

 

 

「サキ!」

「カイト少尉ちょうどいいところに!」

「?どういうことだ」

「少尉殿のMSなんですが…パラオに帰還したことで改修を受けられそうなんですよ。ですので一応その許可を得ようかと思いまして」

「改修の内容によるな。計画書があるのだろう?それを見せろ」

「ハイっす」

 

渡されたPADの文字を一字たりとも見逃さないといった気迫で見ていくカイト。最後まで見て、大きな変化があるわけでないことを知ると、最後のほうにサインを描いた。

 

「これでいいだろう」

「どうもッス。ああそういえば少尉はなぜここに?」

「奪取したMSの詳細を聞こうと思ってな」

「ああ…それはその…」

 

途端に先の歯切れが悪くなる。カイトは自分の階級などからの規制に引っかかっているのではないかという可能性に至った。

 

「先の作戦の報告だが、機体の解析結果を君()報告することになっている。だから今私が知っても問題ないと思うが」

「あると思うんですが……」

「で、データが入っているのはどれだ?」

「こちらッス……」

 

しぶしぶと差し出されたPADを受け取り各項目を見ていく。スペックはデルタガンダムより低いものの、武器の豊富さという意味での汎用性は量産型νガンダムのほうが上であった。

 

「よし。スペックは大体わかった。あとはフロンタル大佐に報告するだけだ。行くぞ」

「え?え?」

「君が伝えるといったろう。来い」

 

戸惑うサキの腕をつかみ格納庫から出る。セルジと合流して艦を出てから思い出す。パラオに来たの初めてだったと。

 

 

「ここ『パラオ』は見ての通り資源衛星を改造して造られたネオ・ジオンの新たな拠点です。少数ですが新型機も配備されていますよ」

「2年前の戦いで敗走したんだ。資金面は大丈夫なのか?」

「いえ、ごく少数のスポンサーしかいません。ですからいつも必死ですよ。無駄撃ちはできません」

「ここは資源衛星を改造したって言ったな。元々住んでいた住民はどうしたんだ?」

「そこは大丈夫です。ジオン寄りの住民しかいませんでしたから。それにパラオ出身の兵もいます。…落とされた男の大半は出稼ぎに行っていますが」

 

パラオ内部、軍所有地でセルジから説明を受けていた。司令部へ移動しているうちに機械的なものから華美で有機的なものへと変化していった。カイトだけでなくセルジやサキも驚いていた。

 

「……派手だな。資金に余裕はないと聞いたんだがな」

「……私も初めて見ました。場所は知っていても来るのは初めてなんです。ここです」

 

近衛兵に敬礼を返して中に入る。やはり部屋内部もこれでもかというほどに華美に装飾されていた。

 

「カイト、セルジ両少尉、及びサキ機付長ただいま出頭いたしました」

「カイト少尉、先の作戦はご苦労であった。奪取したMSの詳細な情報が聞きたい」

「サキ、データパッドをフロンタル大佐へ」

「は、ハイっ!」

 

若干裏返った声を出し、恥ずかしさのあまり赤くなった顔でデータパッドを差し出す。フロンタルはデータパッドを一瞥し「ふむ……」というと、サキに向かって問いだした。

 

「サキ機付長、君は『RX―94』が実際に量産されると思うか?」

「い、いえコスト面からすると少数部隊での運用はともかく軍全体への配備はありえないと思われます。ガンダリウムやサイコフレームは元々高価で、地球圏規模であった『グリプス戦役』時ならともかく、現在の連邦のMSは量が多くこれ以上の増産の可能性は低いかと」

「ではカイト少尉、報告だと貴官は奪取の際に『RX―94』に搭乗したと書かれている。パイロットである少尉はどう思った」

「は。小官がまず思ったのは扱いやすさです。サイコミュによって自身の行動が反映され思った通りの軌道で動かせるのは大きな利点です。それに元々のスペックがジェガンとは全く違います。しかし、最近の連邦のMSの意向は『オプションで状況に対応させる』といったもののためサキ機付長が述べたように大規模な量産の可能性は低いかと」

「そうか、君たちが生身で体験した情報だ、信じるとしよう。エンドラⅡ隊の動向は後に伝える。下がれ」

『は!』

 

カイト一行は再び敬礼をして部屋から出る。そしてカイトは小さくため息をついた。

 

「ふぅ…。横にいた男の視線がきつかったな。何者なんだ?」

「あそこにいた大尉は『アンジェロ・ザウパー』といってフル・フロンタル親衛隊の隊長なんスすよ」

「あの若さで大尉で隊長…?ジオンは実力制とはよく言われるがここまでとはな。前例はきりがないが今では状況が違う。連邦もMSを使う時代だ。簡単にその地位に行けるはずないと思うがな」

「少尉…?」

「なに、どうこうしようってわけではないさ。ただ純粋に気になっただけだ。低年齢層でできている親衛隊の隊長がどんな人間かがね」

 

 

しばらく歩いていると軍用地から抜け、高台で民家が見える場所に出た。砂埃があり、空気も環境も悪い。

 

「ここはなんだ?」

「居住区画です。将兵やその家族、元々ここに住んでいた労働者たちの家があります。階層によってはバーなどもありますね」

「ほう。しかしここは暗いな。それに空気が悪い」

「それは…ここでは軍にものが優先的に使われて市民に還元する余裕がないんですよ」

「そうか?電力ぐらいは旧式のMSの融合炉を使えば何とかなると思うけどな」

 

セルジはその発想はなかったという顔をしていた。

 

「豚とかの肉類は無理でも野菜とかは出稼ぎの連中に頼んで肥料や種を頼めばいけそうな感じはするな。この状況に適している食い物といえばイモ類だな」

 

カイトの口からはパラオの復興プランがいくつも出てきた。その内容は、炭鉱をあきらめて鉱物加工に転化したほうがいいとか、宇宙世紀当初にできたものならその歴史的価値を生かしてみたらいいなど産業に関してだった。

聞いているうちに急がないと遅れることを思い出したセルジはカイトの言葉を遮った。

 

「カイト少尉!そろそろ行きましょう。カイト少尉の部屋はすでに用意されてますから場所を確認してもらわなくては」

「む、そうか。ならば急がねば」

 

セルジに先導されて進むうちにネオンの光が多い場所に降りてきた。ネオンの光に眉をひそめながら進みセルジはあるアパートの前に止まった。

 

「カイト少尉ここです」

「ほう。ネオンがまぶしいことを除けばいい物件じゃないか」

「ここの2階です」

 

セルジが管理人と話をして鍵を受け取り、2階に上がる。部屋は階段のすぐそばにあった。鍵を開け、何かに入ると部屋の中には冷蔵庫やちょっとした台所、あとは少しの段ボールと机、ベッドのみだった。

 

「意外と殺風景だな。ホコリもたまってる」

「……掃除でもするんスか?」

「当り前だろう。ここに来ることが少なくても部屋の清潔感はできるだけ保っていてほしいからな。幸いにも雑巾は3枚ある。着替えたら始めるぞ」

 

『カイト』の私服に着替え雑巾を濡らす。少しもったいないと思いながらも床に膝をつけて拭く。相当たまっていたのか、ちょっと拭いただけで床が別の色になる。

 

「ハァ…。これならヤスハちゃんも呼べばよかったかも……」

「いや、ようやく骨折が治ったんだ。ヤスハには『アームレイカー式』の操作を覚えてもらわなくては困る」

「レバーとアームレイカーはそんなにも違うのですか?」

「ああ。アームレイカー式は操作性はレバー式と比べて格段にいいものだが形状的に衝撃で手が離れやすい。ネオ・ジオンだとカバーを付けているがあれでも完璧にとは言い難い。慣れたらアームレイカー式のほうがいいと思うがな」

 

3人でやったおかげか、会話が終わった時には床はホコリのなくきれいになっていた。

 

「助かった。職務外だというのにすまなかった。お礼として料理をふるまわせてくれ」

「ですが食材はありませんよ?」

「エンドラⅡでビーフシチューを作ってある。寝かしてたから味もかなり良くなっているはずだ」

「だったらヤスハちゃんも呼びましょう!大勢で食べたらもっとうまくなりますよ!」

「そうだといいな」

 

 

つづく



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デブリに潜むモノ

 

 

パラオ到着から1週間ほど経過した。特にやることもなく筋トレなどに費やしているうちにデルタガンダムは最終調整に入り、OS面が終わり次第乗ることもできるらしい。

だが、カイトが格納庫にいるのはそれを聞くのが本来の目的ではない。とある試作機のテストパイロットになってほしいからという。

 

「で、どうして出戻りの私がこの機体のテストパイロットなんだ?いくら『ネオ・ジオン』といえど優秀な人材はいるだろう?例えるならばアンジェロ・ザウパー大尉とか」

「たぶんッスよ?怒らないで下さいよ?その出戻りだからじゃないスか、ね。新たな戦力として組み込むにも時間がかかることですし、この時期なら消えてもらっても問題はない。むしろ新品のMSが手に入っておつり来るくらいかな…と」

「……まあしょうがないか。だったら私の実力を見せつけてやるしかあるまい」

 

渡されたマニュアルに再び目を通す。機体、コンセプト共にカイトの苦手分野の小型端末の操作、長距離からの砲撃、得意の接近戦用は申し訳程度のビーム・ホーク1本のみ。実戦でなくてよかったとため息をついた。

 

「操縦はともかく、問題は有線式メガ・ビーム砲だな。ある意味腕が4本あるようなもんだ。システムがある程度やってくれるとはいえ、直感的に操作できないというのはつらいものがある」

「そこはまあ…少尉の腕の見せ所ですよ!今回の試験はあくまでもシミュレーションを用いた動作の確認ですから」

「気休めでもうれしいよ。機体の整備は完璧だな?」

「はい!ねじ一本緩んでいないのは確認済みです!」

「わかった。予定通り30分後に出るぞ」

 

 

 

『YAMS―130 クラーケ・ズール』は一年戦争時に開発されたという『サイコミュ試験型ザク』の開発コンセプトを今現在の技術で再現昇華するという目的で生産された機体だ。だが元となった機体と違うのは、既存パーツを改良するのではなく、新たに外骨格を追加して新機能を搭載させることだろう。

化け物(クラーケン)の名を与えられた兵器は、まもなく(宇宙)を泳ぐ。

 

 

「こちらカイト、予定ポイントに到着した。指示を頼む」

《了解ッス。ではディスプレイを操作してシミュレーションモードを選択してください。その中に、『003』と書かれたものがあるはずッス。それにしてください。内容は実際やってのお楽しみです!》

「お楽しみねえ…」

 

言われたとおりに『003』のファイルを選ぶ。すると、いきなりコックピット内にロックオンされたという警告音が鳴った。

 

「いきなりか…!?」

 

回避運動を考えず機体をフルスロットルで真上に動かす。押し付ける、というよりかはたたきつけると表現したほうが正しいと思えるほどの衝撃が襲う。

 

「ウッ…!さすがはMAだ。デルタのWR(ウェイブライダー)、いやそれ以上のスピードが出せるのか。だが、本能に突き動かされているようだな。意思がない」

 

機体を反転させ敵の姿を視認する。コンピューターが『ジムⅢ』と判断する。おそらく現在最も連邦の宇宙軍で採用されているMSだからだろう。だが、その背後にはジェガンの姿もあった。

 

「今の連邦の編成を再現している…?だとしたら母艦もあると考えたほうがいいのかな?」

 

手に持ったマシンガンを撃つだけでなく、この機体独自の兵器『有線式メガ・ビーム砲』を射出する。時折目を計器に向けながら操作する。MB砲はカイトの意思通りに動きジェガンたちを翻弄する。

ジムⅢはMG砲が自分に向いていないことに気付きビームライフルを連射して接近する。

 

「ほう…。この機体、思ったより小回りがきくのだな。だったら!!」

 

ビーム・ホークに持ち替えてジムⅢに突撃する。ジムⅢはライフルからシールドに変えるものの、圧倒的な質量差からジムⅢは吹き飛ばされる。そこを追撃してビーム・ホークでとどめを刺す。

 

「このスピードこの威力!意外と好みかもしれないな」

 

MG砲を呼び戻し、マシンガンでけん制する。けん制しているとはいえ、2機のジェガンが踏み込んでこないことにカイトは違和感を覚える。

 

「なぜ来ない?ふつうは数の利から攻撃を仕掛けるはず。そして当てる気のない弾の目的はまさか……!」

 

カイトの嫌な予感が命中する。2機のジェガンの間から何かが飛び出す。弾だと気づいた時には回避運動を行っていた。先ほどまでいた場所に散弾がまちきらされる。さらに6発ものミサイルが放たれていた。気がつくと、スターク・ジェガンが1機と下からジェガン4機の合計5機がカイトに襲い掛かる絶望的状況になっていた。

 

「なるほど。確かにこれは楽しいなあっ!!」

 

 

サキのいるモニター室。そこにある画面にはコックピット内のカメラ、機体から送信されてくる細かい情報が映し出されていた。

 

「送られてくるデータはどれも想定の数値内。MG砲もちゃんと機能しているから今のところは心配しなくてもいいとして…母艦を落とさなきゃ無限湧きする『003』にしたのはまずかったかな~?」

「調子はどうかな?」

「はい。クラーケ・ズールの方も異常なく、カイト少尉はようやく()()がわかってきたのか処理のスピードが速くなってきてるッスね。さすがに5機に囲まれているので墜とされるかもしれない…ス……?」

 

調子を聞かれ答えていくうちに声に聞き覚えがあるのに気づく。ギギギ…と聞こえそうなほどゆっくり声をした方向に顔を向けると、そこにはフル・フロンタル大佐がいた。

サキはすぐさま立ち上がり謝りだす。

 

「す、すみません大佐!その、気づかなくて、えと…」

「気にするなサキ機付長。私は技術屋とはそういうものだと認識している」

「あ、あの…」

「ふむ、さすがはあの戦争を経験した者というべきか。同時に5機もの相手をしていて機体にかすり傷すらつけさせないとは」

「た、大佐どこに!?」

「私はただ興味があって見に来たにすぎんよ。デスクワークは息が詰まるからな」

 

それだけ言うとフロンタル大佐はモニター室を出て行った。そしてサキは、パイロットにはなにがかおかしい人しかいないことを再認識していた。

 

 

 

 

ただ1機のMAがその軌跡を描いている宇宙。だが、フィルターにかければそこにはさらに5本の軌跡と緑やピンクで華やかになっていた。その一筋を描くクラーケ・ズールのパイロットであるカイトは、コックピット内で独りごちていた。

 

「5対1のこの状況…。切り抜けるには自分に有利な環境に整えなくては。そのためにはやはりこの機体の性能をフルに生かさなくてはならんか」

 

解決策を即座に実行する。それは、無理やりでも1対1の状況にする先ほどのジムⅢと同じ戦法だった。しかし、MG砲を撃ったとしても都合よく1対1になれるとは限らない。

 

「だから最低でも2対1にする。そうすりゃスピードで何とかなる!」

 

MG砲をチャージせずに連射する。目論見通り3と2に分かれる。当然、狙うのは2機編成の方だ。

2本の腕にそれぞれ別の武器を持たせる。クラーケ・ズール(海の狩人)は近くにいたジェガン(獲物)に狙いを定める。ジェガンはシールドを前面に押し出して防御体制をとってビーム弾から身を守るが、ジェガンを襲うのは弾丸だけではない。ジェガンの死角からパイルモードのビーム・ホークが飛び出てくる。ジェガンは反応する間もなくコックピットを焼かれ沈黙した。間髪入れずに銃口をもう1機のジェガンに向ける。ビーム弾がたまたまシールドに内蔵されているミサイルにあたり誘爆する。腕が消失し、戦闘能力がなくなったことを確認すると用はないとばかしにその場から離脱した。

 

「これで3機目つまり最初に出てきたやつらの分は倒したというわけなんだが…!?奥からさらに3機!?合流されたら面倒なことこの上ない。だが合流される前に瞬殺することもできない。…合流?そういえば奴らはどこから出てきているんだ?システムならセンサーの範囲内からポンと出てきてもいいはず。…まさか」

 

コンピューターに新たに出てきた3機の航路を逆算させる。出された答えの座標にスコープを向けると、母艦の存在が確認できた。

 

「あそこが拠点なら真っ先につぶさなきゃいかんってことか。…っ!邪魔するな!」

 

不用意に接近してきたジェガンにグレネードをプレゼントする。その喜びを表すかのような爆発を無視し、フルスロットルで機体を敵母艦に向かわせる。そのスピードはスターク・ジェガンですら置いてかれるほどだ。

 

「チャージ完了まであと3…2…1…当たれ!」

 

MG砲から伸びる一筋の線は敵艦をかすめるだけに終わった。次にフルチャージが済むのはスタークジェガンに追いつかれる直前だ。

 

「だから長距離射撃は嫌いなんだ」

 

一旦敵艦を墜とすのは中断し、邪魔になるMSの排除にかかる。先に目を付けたのはジェガンだった。MG砲を飛ばしあえてシールドに当てて態勢を崩させる。そして、態勢を直させまいとビーム・マシンガンを撃つ。ビーム弾に当たることによって発生する衝撃がジェガンの操縦を狂わせる。クラーケ・ズールは同時にグレネードを撃ち、沈黙させた。

爆発の中スタークジェガンは飛び出てくる。全速力でその手にはビームサーベルがあった。いまさら取り出そうとしても遅いだろう。取った時には貫かれている。

 

 

 

 

「だが、まるで全然!俺を墜とすにはほど遠いんだよョッ!!」

 

MG砲から放たれる極太のビームがスタークジェガンを下から貫いた。腕と同じくらいの太さを持つビームはスタークジェガンを消し炭にし、存在していたとわかるものは手に持っていたビームサーベルだった。

 

「さて邪魔者は消えた。あとはじっくりと狙いを定めて…!?」

 

警告が鳴る。とっさに回避運動しその場から離れる。クラーケ・ズールの横を通り過ぎたのは敵艦の主砲だった。出撃した機体がすべて墜ちたため遠慮なく撃てるのだろう。

 

「時間稼ぎされても困る。さっさと墜とすか」

 

カイトは狙いを定め引き金を引いた。

 

 

 

「お疲れ様です少尉。どうです?面白かったッスか?」

「ああ。まさか全滅させなきゃ終わらないとは思わなかったよ。サキ機付長?」

「いやあ他にも面白そうなのはほかにもあったんスよ?今までの少尉の戦闘データと戦わせるとか」

「ほう?どうせあと数日はコイツに付き合わなくてはならないんだ。明日はその方向でいかせてもらおうかなぁ…?」

「あははは…。データの整理しなくてはいけないんでお先に失礼いたします」

 

そそくさと去っていくサキから目線を格納庫の奥に向ける。

同じ開発・改造というカテゴリのおかげか、クラーケ・ズールと同じ格納庫でデルタガンダムが黄金の輝きを放ちたたずんでいた。大まかなシルエットは以前とあまり変化はないが、追加の固定武装を施すなどの強化などされている。

 

「デルタのロールアウトまであと少し。ヤスハの治療も終わる。忙しくなるな…」

 

つづく



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光の裏で

 

 

 

地球の明け方、MSはこの美しい太陽の光を受けて輝いているようにも見えた。

そして、そのオーガスタ研究所を護衛しているMSを観察している者がいた。

それは迷彩服に身を包み、敵に気付かれないように行動する『ネオ・ジオン』の兵士だった。

兵士に通信が入る。

 

《そっちはどうだ?ワックス》

「キャプテン、情報がだいたい揃いました」

《わかった前線基地に帰投しよう。これでコマンダーに土産話ができる。サイア通信終わり》

「聞こえたな!撤収するぞ!」

 

行動を共にしていた兵士が待ってました!と声を上げた。ようやくこの不快な湿気から逃れることができるのだ。

 

 

オーガスタ研究所から北西数十キロの山間にカイトたちはいた。

今回の目的はオーガスタ研究所から情報を奪い取ること。今現在オーガスタはMSのテストを主に活動しているが、カイトたちの存在によりいまだに強化人間の実験をしていることがわかっている。それをメディアに公開すれば人権団体が黙っていない。これを機にジオン側に立ってくれるものがいるかもしれない。それを狙っているのだ。

 

「ま、それだけじゃあないかもしれないがな」

「少尉?どうかしました?」

「いや、それよりもサキ、今の私は()()()()だ。間違えるな」

 

そう、今のカイトの階級は特務中尉だった。だが、この作戦が終われば元に戻る。この作戦の指揮官に必要だから階級が上がっているに過ぎないのだ。

 

「そういえばサキ、セルジ少尉はどこにいる?」

「まだシミュレーターを起動させていたと思うっスけど」

「そろそろ偵察部隊が戻ってくる。情報をまとめ次第会議を始める。ヤスハにもそう伝えといてくれ」

「了解っス!」

 

偵察部隊の帰投から数十分後、MSパイロット・陸上部隊に召集命令がかかっていた。しかし、そこにセルジの姿はまだない。

 

「すいません。シミュレーターに没頭していて遅れてしまいました」

「遅いぞ」

「言い訳のしようがありません」

「気をつけろ。よし、全員集まったな。これより作戦会議を始めるとしよう」

 

カイトはサキに合図をしてマップを表示させる。

 

「先ほど戻った偵察部隊からの情報なんだが、MSが常に4機研究所を囲むように護衛している。しかしこの警備網が緩くなる時がある。それは2200だ。この時MSパイロットが交代する。よって交代要員がMSに乗る前で気が緩む2130に攻撃を開始する。なにか質問のあるものは?」

 

1人手を挙げる者がいた。強襲部隊の隊長でもあるサイアであった。

 

「して、どう攻撃をするのですか?」

「いい質問だ。まず私のMSでヤスハのMSで研究所まで運び、その後戦闘。その間セルジは後方からランゲ・ブルーノ砲で援護だ。MSを沈黙させたあとに君たちが研究所を襲撃、データを奪って撤収。襲撃の合図は追って通達する。ほかには?」

 

手を挙げる者はいない。

 

「わかった。では解散。各自装備を確認してくれ」

『イエッサー!』

 

兵士たちが会議室から出ていく。残ったのはカイトとサキ、セルジとヤスハだった。

 

「セルジ少尉、地球の重力には慣れてきたか?」

「中尉、まあ多少は…。今回の作戦では後方支援がメインですので中尉の邪魔にはなりません」

「そうか。サキちょっと待ってくれ」

 

セルジとの会話が終わり、サキに話しかける。

 

「なんすか?何か問題でも?」

「今回の装備だが…改造が終わって少ししか経ってない。少し不安だ。調整手伝ってくれないか?」

「ああ…()()は相当デカいっすからねえ。善は急げッス!すぐ行きましょう!」

「待て!」

 

サキが先に会議室を出ていき、それを追ってカイトも出て行った。

セルジはそれを見てため息をついた。

 

「ヤスハ少尉、そろそろ昼時ですし食堂行きますか?」

「確かにいい時間ですね。行きましょうかセルジ少尉」

 

 

21時23分。強襲部隊は所定の位置に到着した。

 

「武器チェック」

『武器チェック!』

 

兵士たちは安全装置を外した。

 

「コマンダーに準備が終わったことを伝えろ」

「イエッサーキャプテン」

 

強襲部隊の準備が整ったことはセルジの搭乗するギラ・ドーガを中継してカイトたちに伝わった。

 

「わかった。こちらも出撃しよう。ヤスハ、そちらも準備はいいな?」

《ばっちりです》

「よし、では作戦開始だ!」

 

デルタガンダムの目に火が灯った。すぐにWR形態に変形する。ヤスハが乗るギラ・ドーガがデルタガンダムに飛び乗った。

 

「うっ。行くぞ!」

《はい!》

 

デルタガンダムが雲よりも高く飛んだ。オーガスタ研究所は距離的にそこまで離れていないため、すぐに到着した。ギラ・ドーガがバーニアを使ってゆっくり飛び降りる。デルタガンダムも急降下した。

 

《CT-1、上空から何かが接近s――――》

「CT-3どうした!?何が来ている!?」

 

CT-1がCT-3のMSを見ると、頭部と脚部にビームが撃ち込まれているのがわかった。CT-3が立っていた場所から逆算すると、敵のいる場所は《ピピピピピッ!》

 

「遅い!」

 

「こい…ッ!」

 

CT-1がデルタガンダムを認識した時、CT-1の頭が撃ち抜かれていた。頭がやられた程度ではMSはまだ動ける。事実、CT-1のMSは攻撃者に反撃しようとしていた。デルタガンダムはMS形態に変形して追撃する。シールドに装着されたシールドエッジがCT-1の腕に刺さった。さらに腹部に大腿部ビームカノンを撃つ。CT-1は完全に沈黙した。

 

「重いがいい武器だな」

 

「CT-1がやられた!?ほかにm」

 

デルタガンダムに気取られている間にギラ・ドーガの放ったシュツルム・ファウストがあたり爆散する。

最後に残ったCT-4が管制室に連絡する。

 

「こちらCT-4!管制室聞こえますか!敵襲にあっている!数は2!ギラ・ドーガとガンダムタイプの2機です!他機がやられた!応援を頼む!」

《CT-4、こちら管制室。こちらも敵機を確認した。応援を出す。どうか耐えてくれ》

「耐えてくれだって!?無茶言うなよ!敵はもう目の前…!」

 

CT-4もやられ、見張りがいなくなった。その様子をサイアたちも見ていた。

 

「野郎ども!合図が来た!ゴーゴーゴー!」

 

研究所はカイトらのMSに意識を向けている。浮足立っている今がチャンスだ。強襲部隊は走り出した。

 

「誰だ貴様ら!止ま―――」

 

警備兵の制止が言い終わる前に警備兵が撃ち殺される。

サイアは部隊を3つに分けるように指示を出した。データの奪取をする班、撹乱する班、状況に合わせてバックアップする班の3つだ。

サイア率いる奪取部隊が研究所内に入っていった。

研究所の中は言うほど狭くはないが、班が展開できるほど広いというわけでもない。それでもバリケードがまだ張られていないだけマシではあるのだが。人は研究者然としたものが多い。自衛用の拳銃を持っている者もいるが、戦闘訓練を受けていないのか撃ってもなかなか当たらない。

 

「意外とすんなりいけたな」

「気を抜くな。態勢を整えられたら数で劣る俺たちは一瞬で蒸発するぞ」

「イ、イエッサー」

「キャプテン!敵が来ます!」

「ほら見ろ、本当の闘いはこれからだ!」

 

「敵の動きはどうなっている」

「MSが2機、現在戦車の相手をしています。また、森の奥にも支援している砲撃タイプの『ギラ・ドーガ』を確認」

「そっちはいい。先ずは金色のガンダムをどうにかするんだ。近隣の基地からの応答は!?」

「通達を受け、今準備をしているとのこと。あと1時間できます」

「遅い!何をやっているんだ軍の連中は!?侵入している奴らは!?」

「現在警備隊が対応しています!」

 

指揮管制室、そこではカイトら『袖付き』の対応が急務だった。護衛のMSが瞬く間にやられて、待機しているMSも砲撃タイプによって格納庫ごと破壊されてしまった。出すとしたら『公式には存在しないMS』しか残っていない。

 

「司令官!地下のMSの準備が終わったようです!」

「今すぐに出せ!何としても『アレ』を護るんだ!護り切れなかったらわれらの首は飛ぶぞォオ!」

 

カイトは何かを感じた。地下からだ。戦車の砲弾を防ぎながら気配がどこから来ているのか探していた。

 

「ヤスハ、何か感じたか?」

《いいえ、どうかしましたか?》

「何か嫌な予感がした。何か知っているような感じがする」

《ならそのカンはアタリでしょうね。ジェガンD型です。嫌というほど見てきました》

「……」

 

知っているのはこいつらじゃない。見た目の話ではないんだ。この感じ…。

 

「くそっ。考えさせてくれるほどやさしくはないか!」

 

ジェガンのみで構成されたチームがデルタガンダムを襲う。

デルタガンダムはバーニアを吹かして上空に逃げ込んだ。囲まれないためだ。

 

「敵の数は6…。この隠し方といえただの研究所にしてはMS多すぎないか?」

 

敵が持っているのはビームライフルが2、ジムライフルが3のバズーカが1だ。狙うとしたらバズーカ持ちだ。ビーム・実弾は装甲でなんとかなるがバズーカはだめだ。一発でも当たったら即お陀仏だ。

 

「セルジ少尉どこにいる?敵が新たに現れた。援護してくれ」

《了解です中尉》

 

 返事からしてからすぐに砲弾が来た。ジェガンに当たりはしなかったが、十分な牽制にはなっている。

 

「ヤスハ、今のうちに後退する。ジェガンをおびき寄せるんだ」

《わかりましたが、強襲部隊はどうするんですか?》

「彼らには彼らのやり方がある。せいぜい邪魔にならないようにな」

 

「隊長、奴ら後退していきます。追跡しますか?」

 

「2チームに分かれよう。1チームが追跡、もう1チームがここに残り防衛に徹しろ」

 

『了解』

 

 Bライフルとバズーカを持ったジェガンが追跡チームになった。

 追跡するとなるとデルタガンダムは不利だ。月の光に照らされてよく映えるからだ。

 ビームの弾幕がデルタガンダムを襲う。

 

「甘いな!」

 

 ビームの弾丸を避け続け、反撃のビームを放った。

 しかし、相手の練度は高く、難なくシールドで防いだ。

 

《カイト中尉、ここからどうするんですか?このままではジリ貧ですよ》

「わかっている!ここは無理やり突破するしかないか…!援護を!」

《りょーかい》

 

 WRからMSに変形して突撃した。ギラ・ドーガがそれを援護する。ジェガンがギラ・ドーガの対応で足止めされる。砲弾がジェガンのシールドに当たり壊れ、爆炎が周囲を覆った。

 煙をかき分け、デルタガンダムは直観に従い突進した。ジェガンとぶつかり衝撃が走る。

敵を視認したカイトはシールドエッジを起動させた。シールドエッジが加熱して赤くなる。

 ジェガンが体勢を整える前にシールドエッジを突き出した。ジェガンの胸部装甲が焼け立たれ、ジェガンから光が消える。

 

「1機倒した。ヤスハ、各個撃破だ」

《わかりました》

 

 煙から抜け出したジェガンがギラ・ドーガと戦っている。見た限りヤスハの優勢だ。

 戦いを見ていたらビームが飛んできた。

 

「おっと、見とれている場合じゃないな」

 

 ジェガンがビームサーベルに持ち替えて突撃した。デルタガンダムはビームカノンからビームサーベルを取り出す。

 ジェガンがBサーベルを振り下ろす。デルタガンダムはつばぜり合いには持ち込まず、手を回転させてジェガンの腕を切り裂いた。そのまま胸部を突き刺した。ヤスハの方を見ると、ヤスハもジェガンを倒していた。

 

「司令、追撃に出たチームが殲滅されました」

「なに!?『アレ』を出せ!最後の手段だ!『03』を出して敵を壊滅させるんだ!」

「しかし司令!『03』の使用許可が下りていません!「私が出す!でなければこんなことは言わない。パイロットを招集しろ!早く」…了解です司令」

 

《中尉!ランゲ・ブルーノ砲の弾数が少なくなってきました。急いでください》

「それを私に言うな!キャプテン!今どうしている!」

 

「コマンダー!今我々は機密データを奪取したところです。これから脱出します」

《急いでくれ。セルジ少尉の支援がなくなりそうなんだ》

「イエッサー。サイア通信終了。聞いたな?脱出を急ぐぞ」

 

 サイアはカイトとは別のところに通信を開いた。

 

「ワックス、聞こえるか?」

《聞こえますキャプテン。どうしました?》

「データを手に入れた。バックアップを頼みたい」

《了解しましたキャプテン。ワックス通信終わり》

 

 サイアは通信を切り、小銃を持ち直した。

 

「よし行くぞ野郎ども!」

 

「司令、パイロットが『03』に到着しました」

「今すぐ出撃させろ。今!すぐにだ!」

「了解。『03』出撃を許可します。敵は3機、ギラ・ドーガが2機にガンダムタイプが1機です」

《了解。『03』出撃します》

 

《中尉、新たな敵影を確認しました》

「こちらも確認した。だがあの機体は…!」

 

 カイトは驚愕した。あの機体―――フェネクスがこの地球にいたことに。

 

「あの野郎生きていやがったか」

《カイト…》

「私が相手する。ヤスハはセルジと共にジェガンの遊び相手をしていてくれ」

《わかりました》

 

 シールドを外し、両手にBサーベルを持たせる。フェネクスはビームマグナムを撃ってきた。ビームカノンで反撃しながら通信機に手を伸ばした。

 

「ビームマグナムだ!威力が無駄に高いぞ!かすめただけでもやられる!流れ弾に気をつけろ!」

『了解』

 

 フェネクスが最後の5発目を撃った。余裕たっぷりとって避け、スラスターの向きを変えた。

 ヤスハはガンダムたちが研究所から離れていくのを見てセルジに通信をかけた。

 

「セルジ少尉、どこにいますか?」

《ランゲ・ブルーノ砲の弾が切れて今、武器をビーム・マシンガンに持ち替えて研究所に向かっています。もうすぐ着きます》

「分かりました。では私がおびき寄せておきます。そこをついてください」

《了解です。セルジ終わり》

 

 ギラ・ドーガがマシンガンを撃ちながら後退する。ジェガン全機が追いかける。ギラ・ドーガは巧みに弾丸を避けながら反撃していた。

 

《あのギラ・ドーガちょこまかと》

《どうします?》

《陣形を崩すな。確実に1機ずつ倒すんだ》

《ラジャー》

 

「ちゃんと釣れてますね。セルジ君が来てくれれば何とかできるんですが」

《すみません、遅れました》

「いいえ、グッドタイミングです。合図をしたらシュツルム・ファウストをすべて撃ってください」

《ぜ、全部ですか!?》

「はい、全部です」

《りょ、了解しました》

 

 ジェガンの1機がジムライフルの弾倉を入れ替える。それを見たヤスハがセルジに手を振った。

 

「撃ってください」

《了解》

 

 残ったシュツルム・ファウスト全部、計7発がジェガンたちを襲う。ジェガンは手遅れだと思いながらもバルカンやBライフルを撃った。そのおかげか、命中弾がなかったが、周囲を爆炎が覆った。

 

「外れましたか。でもいいです。セルジ少尉、私が突っ込みます。援護お願いします」

《了解!》

 

 Bマシンガンからビームホークに持ち替えてジェガンの群れに飛び込んだ。

 ビームホークを振るう。ジェガンはシールドで抑える。この対応は正しくもあり、間違いでもあった。

 

「ここでシールドを使えば、もう防ぐ術はないですよね?」

 

 ジェガンの腹にBマシンガンを当てた。Bマシンガンの下部にあるグレネード・ランチャーが火を噴いた。ジェガンがまた1機機能停止した。

 

「1度引いて、またトライしましょうか」

《ヤスハ!今どんな状況だ!?》

「中尉!今、ジェガンを1機倒して残り2機です。増援が来る気配はありません」

《急いで片づけてくれ!性能は向こうの方が上だ。長くなるとこっちが危険になる!》

「わかりました。セルジ少尉聞こえてましたか?急ぎましょう!」

《了解!善処します!》

 

ビームカノンが一基潰され、中距離での対応も覚束なくなってきたカイト。そろそろもう一アクション加えたいところだ。幸いなのはアームドアーマーが装備されていないことだろう。でなければすでに勝負が決まっていたといっても過言でもない。

フェネクスがBサーベルを大振りで攻撃してきた。デルタガンダムはBサーベルを交差して防いだ。フェネクスがもう一本のBサーベルを突き出す。デルタガンダムはバルカンで迎撃した。バルカンがBサーベルにあたり爆発する。

デルタガンダムは蹴りを加えて距離を取った。フェネクスは少しだけふらついてデルタガンダムを追いかける。

背後からペレット状のビームが飛んでくる。ヤスハだ。彼女がやってきたんだ。

 

「意外と早いな。そんなにジェガンが詰まらなかったのか?」

《いえ、中尉が危なそうなのでやってきたんです》

「なに!?じゃあセルジ少尉は!?」

《もちろん一人で対処していますよ》

 

「ヤスハ少尉!この貸しはちゃんと返してもらいますからね!?」

 

「少尉の実力を疑っているわけではない。むしろもっと強くなると思ってはいるのだが…まだ経験が少ない。早く戻らねば」

《カイト、フェネクスが!》

 

フェネクスの動きが変だ。もがいているようにも見える。装甲が開いていくとともに動きが落ち着いてき…フェネクスは『ガンダム』となった。

 

「ははっ…。最悪の状況になった」

《なってしまってはしょうがないです》

「それはそうなんだが…。来るぞ!」

 

 フェネクスが行動を再開した。さっきより段違いの速さだ。

 ヤスハのギラ・ドーガは後ろに下がり、デルタガンダムは前に出た。

 フェネクスがビームサーベルを抜き取らず殴りかかってきた。デルタガンダムはBサーベルで切ろうとするが、フェネクスはBトンファーではじき返されてしまい、さらに蹴り倒された。フェネクスがBサーベルを突きつける。

 

「1発は1発ってわけか…。ヤスハ!」

《わかってますって!》

 

 ギラ・ドーガがグレネード・ランチャーを撃つ。いくらサイコフレーム製といえど無事では済まない。フェネクスがグレネードを切り裂いた。これしかチャンスはない。

 デルタガンダムはスラスターを全開に立ち上がった。バランスを崩したフェネクスもスラスターを使って距離をとった。

 逃げるフェネクスを追いかけようとしたが、それをヤスハが止めた。

 

《待ってください!私たちの任務はデータの奪取部隊の護衛、フェネクスの相手ではありません!研究所に戻るべきです!セルジ少尉が心配なのでは?カイト!》

「…ああ、そうだな。だが!中尉をつけろ」

《すみませんでした。中尉殿》

 

 研究所に戻ると、セルジは未だジェガンと追いかけっこしていた。デルタガンダムはBライフルを持ちジェガンに狙いをつけた。

 何本ものビームがジェガンに当たった。しかし、どれも決定打とはならず手足を撃ちぬいた。

 

「地上だとこんなものか。セルジ少尉、無事か?」

《なんとか…》

《中尉、フェネクスがまた来ます!》

 

 フェネクスがビームマグナムの弾倉を補充して戻って来た。自信ありげにBマグナムを向けてくる。

 

「研究所から離れろ!部隊に被害が出るぞ!」

《了解!》

 

 飛び上がりBライフルの引き金を何度も引いた。フェネクスは細かく軌道を変えて避け、Bマグナムを撃った。

 Bマグナムの軌道はデルタガンダムとは的外れであったが、その大きな効果範囲がデルタガンダムの行動を制限していた。

 フェネクスがBサーベルを持って切りかかる。デルタガンダムはフェネクスの腕を掴んで抑えた。しかし、長くは持たなかった。フェネクスが振り払い、左フックをかました。

 

「う…っ。こいつ…!」

 

 デルタガンダムは右ストレートでフェネクスを殴った。シールドエッジを搭載するためにさらに強化された右腕にフェネクスはたじろいだ。

 デルタガンダムがBサーベルを抜き取ろうとしたら、森の奥から信号弾が上がった。あの色は強襲部隊が作戦を成功した証だ。デルタガンダムは後ろに下がった。

 

《中尉!》

「わかっている!」

 

 しかし、フェネクスが動いているならば下手に戻ることができない。こいつの戦闘力は恐ろしいほど高い。

 

「先に戻れ」

《中尉!?》

「フェネクスを倒してから行く」

《そんなこと言ってないで早く戻りましょう!?あの信号が上がったってことは帰りの便の準備も始まっているんですよ!》

「分かっている!だがあいつから逃げることは不可能だぞ!」

 

 Bマグナムのカートリッジを取り換え、その銃口はデルタガンダムに向けていた。

 

「どうやら彼は私にご執心らしい。早く!」

《…了解》

 

 ヤスハ達はしぶしぶと撤退していく。

 デルタガンダムはBライフルを撃った。フェネクスはビームを避け、Bマグナムをしまい、Bサーベルを取り出した。

 2機のガンダムがつばぜり合いになった。だが、パワーはフェネクスに分があった。

 デルタガンダムが押しのけれる。スラスターを使って距離を取った。

 突如、フェネクスの動きがおかしくなった。再びもがくような動作を始めたのだ。

 

「今のうちだな」

 

 シールドを拾いWRに変形した。すぐにヤスハ達に追いついた。

 

《意外と早いお帰りですね》

「だろ?どうだ?乗ってくか?」

《危ない!》

「なに!?」

 

 背後からBマグナムから放たれた巨大なビームがデルタガンダムに迫っていた。スラスターを切ってMSに変形しなおし、シールドを構えた。落下していく中で巨大なビームはデルタガンダムの真上を通った。ビームに押し出されて制御が効かない。二射目はもうそこだ。

 

《…!》

「ヤスハ!」

 

 ヤスハのギラ・ドーガがデルタガンダムの脚を掴んで引っ張った。相対的にギラ・ドーガが上に昇った。ギラ・ドーガの体をビームが貫いた。爆発が起きる。デルタガンダムは地面に叩きつけられた。

 

「ヤスハ!ヤスハぁああああ!」

《少尉ーーー!!》

 

 フェネクスをにらむ。フェネクスは立ったままだ。動く気配がない。今しかチャンスはない。動こうすると、デルタガンダムの肩をセルジのギラ・ドーガが掴んだ。

 

《輸送船に戻りましょう。アイツが動かないなら好都合です》

「だがあいつは!ヤスハの命を奪った!その報復をするんだ!」

《ヤスハ少尉なら、任務を優先します。中尉、冷静になってください》

「…っ!」

 

 カイトは歯を噛み締め、操縦桿を握りしめた。

 

「撤退する…!」

《了解です》

 

 輸送船にたどり着くころには、出発できる状態にまで整っていた。MSを固定すればすぐに出れる。

 

《カイト中尉!ヤスハ少尉は?》

「ヤスハは…」

 

 サキは声で悟った。これ以上は聞かず、格納庫へ誘導した。

 

                  ☆

 

 帰りは不気味と思うほど順調だった。そしていま、作戦の詳細を報告するためにフロンタル大佐のもとへ来ていた。

 

「―――以上で、本作戦の説明を終わらせていただきます」

「ご苦労だった。ヤスハ少尉のことは残念だった。カイト特務中尉、もう下がっていい。頭の中を整理したいだろう」

「は、失礼しました」

 

カイトと入れ替わるように、サイアが入っていった。だがカイトにとってそんなことはどうでもいい。『仲間』が消えてしまったこと悲しみの方が大きい。この悲しみは消えることはないだろう。頭の中でそう思いながらカイトは自分の住居へ戻っていった。

 

 

 

 

 

「大佐、オーガスタ研究所に存在した機体との交戦データです。やはり連邦は新たなサイコミュ兵器を開発しておりました」

「やはりか」

「そして、一部ですがそのMSのサイコミュのデータを回収することに成功しました」

 

フロンタルが受け取ったデータは、現在ネオ・ジオンが造り上げようとしている兵器に大きく反映されることになる。

 

 

つづく




更新がだいぶ遅れて申し訳ありませんでした。
久しぶりなので口調がおかしくなっているかもしれません。
ご指摘よろしくお願いします。


デルタガンダム(袖付き改修機)
戦闘能力を向上させるためにZプラスに装備されていた『大腿部ビームカノン』を追加されている。
また、搭乗者のシールドの扱いが非常に悪いため、『シールドを守るための武装』としてシールドエッジを装備。ゼー・ズールのヒートナイフと同じ技術が使われておりエネルギー効率がいい。エネルギーはビームサーベルが装備されていた場所から供給されており、代わりにビームサーベルは大腿部ビームカノンに移植された。
外見上は上記の武装が追加されたほか、腕に袖が巻かれている。


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