Fate/repeat night (神代リナ)
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設定集
《溶氷の皇女》ルート設定集


ネタバレ祭りなので最新話まで見てから見ることを推奨します。

最新話が更新され、情報が出て来るたびにこちらも更新します。

とりあえず今日はサーヴァント一覧だけ書いておきます。


1/1 マスター一覧追加

1/13 マスター一覧更新

1/16 神剣の加護、神剣作成スキルの説明追加



《サーヴァント一覧》

 

キャスター(アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァ)

 

マスター:神塚麗華

願い:受肉

 

ロシア革命で家族諸共処刑された悲劇の皇女。その際に銃殺されたからか銃に嫌悪感がある。本来なら幻霊程度になるはずだったが、死ぬ直前にヴィイと契約したことでサーヴァントとなった。悪戯好きであるため、もし彼女の信頼を勝ち取った暁にはマスターは彼女にかなり振り回されるだろう。

 

スキル

陣地作成(EX)

彼女がサーヴァントとして召喚されている間は、一時的に周囲数メートルが「ロシア皇帝の陣地」として機能する。他スキルと重なることで、その陣地は更に拡大していく。

 

妖精契約(A)

ロシアの大地に住む妖精ヴィイとの契約。本来、妖精は不可視の存在であるがロマノフ王朝と契約したヴィイは特例で第三者にも視認され、能力も行使できる。

 

透視の魔眼(D)

バロールを祖とし、直死の魔眼とは別系統の退化を辿った魔眼。アナスタシアの力ではなく、ヴィイの能力。あらゆる結界を打破し、時には城塞の弱点すら見つけ出す。ロシアのツァーリはヴィイよりこの能力を授かることで攻城戦において極めて有利に戦ったという。

 

絶凍のカリスマ(B)

ロシア皇帝の血を引く者のみ伝わる特殊なカリスマ。

 

シュヴィブジック(B)

アナスタシアのかつてのニックネーム(意味は小さな悪魔)であり、同時にヴィイの能力の一つ。あらゆる小さな不可能を可能にする。相手が持っている物をこちらの手元に移動させる、小さく大地が割れて相手を蹴躓かせるなど「イタズラ」レベルの奇跡を可能とする。割とトンデモレベルの能力であるが、有効範囲は狭く、加えて何かを殺傷レベルで傷つける、破壊するなどは不可能など、実戦向きではない。

ちなみに、セイバーが剣を落としたのはアナスタシアがこのスキルを使ったためである。

 

ステータス

筋力:D

耐久:D

俊敏:C

魔力:B

幸運:C

宝具:C

 

宝具

不明

 

 

セイバー(真名不明)

 

マスター:橘一樹

願い:???

 

円卓関連の騎士と思われるサーヴァント。

剣の腕はそれなりだが、他のセイバーのサーヴァントよりステータスが高いかと言われると微妙。

直接戦闘をそこまで得意としない英霊なのかも知れない。

このルートでは7騎士が揃った第一夜に脱落する。

 

ステータス

筋力:B

耐久:B

俊敏:C

魔力:C

幸運:B

宝具:B+

 

 

 

アーチャー(真名不明)

 

マスター:???

願い:???

 

強力な狙撃能力を持つ近代以降の出自のサーヴァント。旧式のスナイパーライフルを愛用している。

容姿は軍服を着ている男性。

 

ステータス

筋力:C

耐久:C

俊敏:A

魔力:D

幸運:B

宝具:D+

 

 

 

ランサー(真名不明)

 

マスター:ベルタ・フォン・アインホルン

願い:???

 

アインホルン家の現当主、ベルタ・フォン・アインホルンに召喚されたサーヴァント。円卓関連の英霊で、とある聖槍の保有者である。

容姿は金髪の麗人。馬も連れて来ている。

 

ステータス

筋力:A

耐久:A

俊敏:A

魔力:A

幸運:C

宝具:A++

 

 

 

ライダー(真名不明)

 

マスター:???

願い:???

 

情報不足。

 

 

アサシン(真名不明)

 

マスター:???

願い:???

 

フォーリナーに襲われていた少女の助ける声に応えて召喚されたサーヴァント。フォーリナーに対するカウンター召喚でもある。

銃を所持している事から近代以降のサーヴァントであることが予測されている。

容姿は白髪の男性。

 

ステータス

筋力:D

耐久:C

俊敏:A+

魔力:D

幸運:E(EX)

宝具:B++

 

*本来は召喚不可だがフォーリナーの召喚により召喚可能に

 

 

 

バーサーカー(真名不明)

 

マスター:???

願い:???

 

神塚麗華を最初に襲って来たサーヴァント。

見た目は黒い軍服に身を包んだ美しい女性。

ナチスドイツ関係者だと予想される。

日本人に対して差別的な発言をしているため、強い選民思想の持ち主である事が分かる。

 

 

ステータス

筋力:C

耐久:D+

俊敏:B

魔力:C

幸運:C

宝具:A

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???(真名不明)

 

マスター:???

願い:???

 

本来ならマスターを必要としないはずのエクストラクラスのサーヴァント。この聖杯戦争は何かがおかしい。

 

 

 

???(真名不明)

 

マスター:???

願い:???

 

今か今かと自身が呼ばれるのを待ってるエクストラクラスのサーヴァント。

 

 

 

フォーリナー(真名不明)

 

マスター:天野教会の神父(本名不明)

願い:???

 

よく天野教会にいる黒いスーツに身を包んだ男性。

外見からして年齢は40歳ほど?

夜に何かに使うために魔術回路を持った人を襲っているらしい。

 

 

 

 

 

 

《マスター一覧》

 

神塚麗華(主人公)

年齢:17

身長:161cm

性別:女性

体重:56kg

職業:高校生

起源:■■/剣

契約サーヴァント:キャスター

聖杯への願い:なし

 

2000年以上続く日本を代表する大魔術師の一族の一つである神塚家の現当主である。しかしながら、彼女自身は魔術回路は19本と少なく一回の戦闘での使用可能な魔術の回数は少ない。ただし、魔術回路の質は非常に高く、さらに本人の覚えている魔術の知識自体は多いため使える魔術の種類自体は多い。また、魔術師としては異端ながら現代兵器の使用も厭わない。あと、剣術もそこそこ嗜んでいる。

 

マスタースキル

 

八百万の加護C-

神道を代々信仰している家系故に保有している。Bランク以下の自身の精神に悪影響を及ぼすスキル、魔術を無効化する。

 

■■E

■■■■■■を祖先とする一族の末裔、それが彼女である。

 

■■A(■■)

 

神剣の加護EX

身体に埋め込まれている神剣のエッセンスによる加護。致命傷レベルの傷であっても完璧に治してしまう強力な治癒能力を得る。

 

神剣作成EX

身体に埋め込まれている神剣のエッセンスを元に、神剣天之尾羽張を作成する能力。

 

 

橘一樹

 

年齢:35

身長:175cm

性別:男

体重:68kg

職業:セカンドオーナー

契約サーヴァント:セイバー

願い:根源到達

 

天野市のセカンドオーナーの家系である橘家7代目当主。由緒正しい魔術師の家系であり、真っ当な魔術師らしい性格をしている。また、橘家は神塚家の分家の一つである。魔術回路の本数も多く、使える魔術の数も多い。魔術属性は風。ただし、肝心なところでドジをする致命的な弱点がある。

10年前に外来の魔術師と協力して本来のセカンドオーナーである神塚家が弱体化した際にセカンドオーナーの座を奪ったため、神塚家及びその分家からは敵視している。

 

 

徒花零慈

 

年齢:37

身長:185cm

性別:男

体重:73kg

職業:傭兵(魔術使い)

契約サーヴァント:セイバー

願い:聖杯に興味無し

 

魔術師界隈でかなり忌み嫌われている魔術使い。救いようのない屑。容姿の美しい魔術師を凌辱している時が一番生を感じるとは本人談。魔術の腕はそこそこ優れているが、現代兵器を使うことも厭わない。魔術属性は火。神塚麗華に勝つための力を得るために死徒になった。

 



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第零話 プロローグ


挟む位置ミスってましたすみません


 人気のない路地裏で、二人の魔術師が対峙している。

 

 一人は長い、黒髪を持つ美しい青色の目を持つ少女。

 もう一人は白髪の、光を失った目を持つ男。

 

「……ここが神塚の土地と知って、私に敵対するか。外来の魔術師よ」

 

 少女は男に問う。

 

「あぁ、その通りだ、神塚麗華。私は一族の願いを叶えるためにお前を殺さなければならないのだ」

 

 その問いに男はそう答えると、血濡れた巨大なバスターソードの柄を右手で握りしめる。

 一体、その魔剣は何人の人を食らったのだろうか? 

 

「話し合いの余地無し、か。なら仕方ない」

 

 その男の返しを聞くと、神塚麗華と呼ばれた少女もまた青色の着物の帯に差していた刀を抜刀した。

 

 お互い、武器を構えての睨み合い。

 いつまでも続くかと思われたその拮抗。

 それを破ったのは男の方だった。

 

「アァ、アァァァァァッッ!!」

 

 狂人の如き雄叫びを上げながら男は少女へと疾走する。

 男と少女の間には10m以上の距離差があった。

 しかしながら、魔術的な身体強化を使用している男はその距離を数秒で詰めてくる。

 

 恐らく、一般人がこれを見ていたら彼がテレポートしたかのように見えたことだろう。

 

 音を置き去りにするほどの速度で距離を詰めてきた男はバスターソードの射程圏内に少女が入ったのを確認するとバスターソードを高速で振り下ろし、少女を真っ二つに切り裂かんとする。

 

 そんな、神速とも言っても過言でも無い斬撃を少女は刀で受け流す。

 相手の神速の斬撃を、神業の技術で受け流したのである。

 刀の刃とバスターソードの刃が擦れ合い、火花が散る。

 

 そして、少女を斬るはずだったバスターソードはコンクリートの地面を叩き割るにとどまる。

 

 空中にはあまりに強い力でバスターソードの刀身を叩きつけられたことで割れたコンクリートの欠片が舞っていたが……

 

Anfang(セット)……魔を穿て! 蟇目の儀(ひきめのぎ)!」

 

 少女がそう叫ぶと、神聖に光り輝く魔力の矢によって空中のコンクリート片は消し飛ばされ、そのままの勢いで男の身体に直撃する。

 

 男は防御魔術でも使ったのかその身体を貫かれるのは防いだが、その衝撃は殺せずに男は勢いよく吹き飛ばされ、30m先のコンクリートの壁にめり込む。

 

 コンクリートの壁にめり込んでいる時点で、普通の人は死んでいるだろうが、男は浅くはない傷を負ったがまだ動く。

 

 コンクリートの壁から出てきた男は、額から流れている血を拭い、身につけていた黒色のローブを脱ぎ捨てる。

 

「俺は……俺は……まだ、死ねない。聖杯……聖杯ぃぃぃぃ!」

 

 男は再びバスターソードを握り直す。

 しかし、男は動かない。

 否、動けない。

 

「そっちから来ないなら……」

 

 そう少女が呟くと、彼女の姿が消える。

 

「……どこに行った?」

 

 そう男が言って少し、前に歩くと

 

「こっちから行くよ」

 

 男の後ろに少女が居た。

 そのまま、少女は男の心臓部に刀を突き刺そうとするが、男は無理矢理身体を捻り回避する。

 

 少女の持つ刀は男の頬の部分を軽く斬るにとどまった。

 少量の朱色が宙を舞う。

 

 男は距離を取ろうと、ガンドを撃ちまくって少女を牽制しながら後ろに下がる。

 しかし、少女は器用にガンドを避けながら、高速で男に再び接近する。

 

 そして、再び少女は刀で男の心臓を貫かんとする。

 それを男はバスターソードで迎撃をする。

 刀とバスターソードが衝突し、キィィィンと甲高い金属音が鳴り響く。

 

「っ……!!」

 

「まだ、まだ、死ねんよ!」

 

「いや、貴女はここで……死になさい!」

 

 少女は男を蹴り飛ばして、一旦距離を取る。

 再び男はガンドを撃ちながら後退する。

 少女は、今度は刀を持ってない方でリボルバーハンドガンを持ち、それを男に向けて発砲しながら接近する。

 

 この銃の弾丸は普通の鉛玉ではない。

 この銃のシリンダーに装填されている銃弾には火属性魔術の術式が仕込んであり、この弾丸が着弾すると術式が起動し炎上するため、実質的な焼夷弾となっている。

 

 銃弾が男の周りに着弾し、燃え始める。

 この炎によって、男は逃げ道が封じられる。

 その事に焦り始めた男は、ついに後退するのをやめる。

 

 そして、接近してくる少女を迎撃するために男も少女の方へと疾走する。

 

 ……交差する二つの刃。

 男と少女は互いに通り過ぎた所で止まる。

 

 3秒間ほどの硬直。

 それを破ったのは

 

 カランカランという音を立てて、地面へと落ちたへし折れた刀の刀身と

 

「ゴフッ」

 

 腹を切り裂かれ、吐血し地面へと崩れ落ちる男だった。

 

「神塚……麗華、覚えておけ。いつか、この、天野の地に聖杯が……降臨する」

 

 そう少女に言うと、男は息絶えた。

 

「聖杯、か」

 

 そう呟くと少女は路地裏を去って行った。

 これは聖杯戦争が始まる1週間前の事だった。

 



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第一話 運命の夜

オリジナル聖杯戦争が書きたくなったので書いてみました。


 それは私の命を容易に奪えるものだった。

 心臓を撃ち抜かんと発射された銃弾。

 躱そうとする試みは無意味だろう。

 それが音速で飛来する銃弾である以上、もはやそれは間に合わない。

 

 だが。

 この身を貫こうとする銃弾は、

 この身を救おうとする氷の盾に弾かれた。

 

 夜風が吹く。

 

 その風は冷気を伴っていて少々冷たい。

 

 私の召喚に応じた少女は全体的にどこか儚げな雰囲気を持っていた。

 

 彼女の髪は長い銀髪であり、白雪の如き綺麗さであった。

 右目は前髪で隠れており、それがまた彼女の魅力をさらに引き立てている。

 

 ばさっ、という音を立てて彼女のドレスが靡く。

 

 その服は現代の庶民が着るようなものではないように思える。

 華やかなドレス、それは貴族や王と呼ばれるような高貴な人が着るものであるように見える。

 

 されど彼女の敵に向ける視線はそのような華やかとは程遠い、殺意を含んでいて凍てついた夜気の如く冷たい。

 

 ただ、この氷の皇女はそんな視線を向けていても尚美しいと思える美しさを持っていた。

 

「サーバント、キャスター。召喚の求めに応じ、ここに参上したわ。貴女がわたくしのマスターかしら?」

 

 夜を弾く声で、彼女は言った。

 

「……えぇ、私が貴女のマスターよ」

 

「そう、なら契約は成立ね」

 

 そう、契約は完了した。

 彼女がこの身を主と選んだように。

 きっと自分も、彼女の助けになると誓ったのだ。

 

 月光はなお冴え冴えと闇を照らし。

 庭は皇女の姿に倣うよう、かつての静けさを取り戻す。

 

 時間は止まっていた。

 おそらくは一秒すらなかった光景。

 

 されど。

 その姿ならば、たとえ地獄に堕ちようと、鮮明に思い返す事が出来るだろう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん」

 

 瞼を開くと、優しげな日の光が目に入って来る。

 首を少し曲げて時計を見ると時刻は7時34分。

 

 うーん、そろそろ起きるか。

 

 私は寝起き特有の重く感じる体を起こす。

 そして、クローゼットを開けて寝巻きから高校の制服に着替える。

 うぅ、まだ眠い。

 

 瞼が下がりかかってる目を擦りながら自分の部屋を出て、下の階に降りて、歯磨きをして顔を洗う。

 

 ……よしっ、目が覚めた。

 やっぱ眠い時は顔を洗うに限る。

 

 その後、髪を解かす。

 それが終わると、今日の朝ご飯何にしようかなぁなんて考えながら居間に入る。

 

「お姉ちゃん、おはよー。先にご飯食べちゃった」

 

「別に良いよ。私が起きるのが遅かっただけだから」

 

 ちょうど私の妹が食器を片付けている所だった。

 一緒に朝ご飯を食べたかったけど……まぁ仕方ないか。

 

 私は自分の朝ご飯-バターを塗っただけのシンプルなトーストーを用意する。シンプルイズベスト。

 

「あれ? 今日から修学旅行だっけか?」

 

 片付けを終え、居間を去ろうとする妹に尋ねる。

 

「うん、日光に2泊3日泊まる予定だよ」

 

「そっか。最近、色々な事故とか多いから気をつけてね」

 

 実際に、今トーストを齧りながら見てるテレビのニュースでも昨日起きたガス漏れ事故の報道を取り扱っている。最近、ほんとに事故や事件が多い。妹が心配だ。

 

「心配しすぎだよ。じゃあ、行ってきまーす」

 

「ん、行ってらっしゃい」

 

 私も早く登校しないと。

 トーストを食べ終わったので、お皿を軽く洗って乾かせる場所に置いておく。

 

 最後に、自室に戻りカバンを取りに行く。

 一応、教科書とか課題とかを忘れてないか中身を確認……よし、忘れ物なし。

 

 そして、一階に降りて家を出ようと玄関のドアを開けようとした時

 

「イタッ……何だこれ?」

 

 左手の甲に少し痛みを感じる。

 確認してみると十字剣の形をした痣のようなものが左手の甲にあった。

 とりあえず害は無さそうだ。

 

 ……これ、何処かで見たような。

 

 まぁ良いや、このまま登校しよう。

 一応、魔術的な呪いとかじゃないか明日師匠に聞いておこう。

 

 今度こそ私はドアを開けて、登校する。

 

 空を見ると、雲ひとつない澄んだ青い空だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 本日七回目の時を告げる鐘の音が校内に鳴り響く。

 この鐘は最終下校時刻を知らせるものだ。

 ということは現在の時刻は17時30分くらいだろう。

 

 部活の作業も良いとこまで終わったし、今日は帰ろう。

 

 私は今日の部活動として書いたロシア革命についてのレポートをクリアファイルに入れて、カバンにしまう。

 

「麗華、もう帰るの?」

 

「うん、一応最終下校時刻だし」

 

「そっか。私はまだ作業したいから……じゃ、また明日」

 

「じゃあね、萌」

 

 同じ歴史研究部の部員である友人の高原萌(たかはらもえ)と少し話をしてから部室を出る。

 

 そのまま、校門を通り過ぎてから数分過ぎた頃に後ろから何かの気配を感じた。

 この気配は……霊体? 

 

 悪霊でも居るのかと後ろを振り向くとそこには……街灯の灯りに照らされている黒い軍服を着ている金髪の若く美しい女性が立っていた。

 そして、その軍服の左胸部分には鉄十字勲章がある。

 

 もちろんここら辺に住んでいる日本人では無いだろうし、軍服を着ていてしかも1930年代ものの、真ん中に小さな鉤十字(ハーケンクロイツ)が彫られている鉄十字勲章を身につけている霊体の気配のする外国人がマトモな人間なわけがない。

 

 この人、まさか……いやでもあの儀式は……

 

「おい、そこの小娘。貴様は聖杯に選ばれたマスターだな?」

 

 その女性は私の左手の甲を見ながらそう言う。

 

「聖……-杯? マス……ター……? そんなバカな話が……だって聖杯戦争は終わったはずでしょ?」

 

「劣等種らしい察しの悪さだな。まぁ見た感じ、巻き込まれたマスターだから混乱するのも致し方ない、か」

 

 もはや、この女性の言っていることなんて耳に入ってこない。だって冬木の聖杯戦争は、20年前に大聖杯が解体されて終わったはずだ。しかもここは冬木市では無い。天野市だ。でもこの左手の痣のようなもの、どこかで見たと思ったらこれは聖杯戦争に関連する聖痕、令呪にとても似ている。まさか、大聖杯解体の時に誰かが術式を解析でも……

 

「考えてるところ悪いが……お前が敵マスターというならば、ここで死んで貰おうか」

 

 邪悪な笑みを浮かべながらそう言うと、彼女は小型なハンドガンを懐から取り出して私に銃口を向ける。

 

 ……これが本当に聖杯戦争というのならば、私に銃口を向けている彼女はかつて何らかの偉業を成し遂げた英雄が死後、人々に祀り上げられ英霊化した者、サーヴァントと呼ばれる使い魔なのだろう。基本的に、魔術師ではサーバントを倒すことは出来ない。

 

 サーヴァントはサーヴァントをもって制する。

 それが聖杯戦争での対サーバント戦の常識だ。

 

 ……私の家の庭の隅に昨日の鍛錬で使った魔法陣がある。

 あそこに行って、サーヴァント召喚の詠唱をすればこの窮地を乗り越えられるかもしれない。

 

「では、さらばだ。使い魔無きマスターよ」

 

 そう言って彼女はハンドガンのトリガーを引き、発砲する。

 何もしなければ、その銃弾は私の心臓に風穴を開けていたことだろう。

 

 しかし……

 

Körperliche Stärkung(身体強化)

 

 そう私が唱えると、私の身体は本来あり得ないほど早く横に避ける。

 そして、銃弾は私の心臓を貫くこと無く暗闇へと消えていった。

 

「ちっ、次は外さんぞ」

 

 彼女は再びハンドガンの引き金を引こうとするが……

 

Rauchschutz(煙幕)

 

 魔術で私の周りに煙を焚き、彼女の視界を封じる。

 初歩的な魔術ではあるが、銃を使うサーヴァントにこれは致命的だろう。

 

「おのれぇ! 黄色い猿の分際でアーリア人たる私の邪魔をするか!」

 

 今のうちに我が家に逃げ込もう。

 サーヴァントさえ召喚出来ればなんとかなるだろうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ」

 

 全力で走ってきた結果、無事に庭にある魔法陣の元に辿り着いた。

 

 その英霊と縁のある触媒を使うことで強力なサーヴァントを確定で召喚出来らしいが……私は生憎そのような物は持って無いので触媒無しで召喚するしかない。

 

「…… 素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。

 降り立つ風には壁を。

 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

 

 閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。

 繰り返すつどに五度。

 ただ、満たされる刻を破却する。

 

 ────告げる。

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 

 誓いを此処に。

 我は常世総すべての善と成る者、

 我は常世総ての悪を敷しく者。

 

 汝、三大の言霊を纏う七天」

 

 この詠唱を詠む私の声と夜風に吹かれて揺れる庭に生えている草の音しかしない、いっそ神聖さすら感じる静かな常闇の空間に、突如銃声が鳴り響く。

 

 さっきのように避けることも出来たが、詠唱を破棄する方が致命的だと判断し、銃弾を避けずに詠唱を続けた。

 

「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」

 

 それは私の命を容易に奪えるものだった。

 心臓を撃ち抜かんと発射された銃弾。

 今から躱そうとする試みは無意味だろう。

 それが音速で飛来する銃弾である以上、もはやそれは間に合わない。

 

 だが。

 この身を貫こうとする銃弾は、

 この身を救おうとする氷の盾に弾かれた。

 

 夜風が吹く。

 

 その風は冷気を伴っていて少々冷たい。

 

 私の召喚に応じた少女は全体的にどこか儚げな雰囲気を持っていた。

 

 彼女の髪は長い銀髪であり、白雪の如き綺麗さであった。

 右目は前髪で隠れており、それがまた彼女の魅力をさらに引き立てている。

 

 ばさっ、という音を立てて彼女の服が靡く。

 

 その服は現代の庶民が着るようなものではないように思える。

 華やかなドレス、それは貴族や王と呼ばれるような高貴な人が着るようなものであるように見える。

 

 されど彼女の敵に向ける視線はそのような華やかとは程遠い、凍てついた夜気の如く冷たい。

 

 ただ、この氷の皇女はそんな視線を向けていても尚美しいと思える美しさを持っていた。

 

「サーヴァント、キャスター。召喚の求めに応じ、ここに参上したわ。貴女がわたくしのマスターかしら?」




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第二話 夜の終わり

「……サーヴァントを召喚したか、小娘」

 

 キャスターを見ながら苦虫を噛み潰したような顔をして彼女は呟く。

 魔力量的に限界なので出来ればこのまま帰って欲しいのだが……

 

《キャスター、敵サーヴァントの撃退は出来る? 一応、ここ一帯に張ってある結界で敵は弱体化しているはずだけど》

 

 私が念話でそう聞くと、私の庭の地面全てが凍りつく。

 そう、キャスターを中心として付近の温度が急激に下がったのだ。

 この寒さの中では並大抵の生き物はすぐさま生命活動を停止してしまうだろう。

 この凍土の世界の(あるじ)であるキャスターはさながら氷の女王のようだ。

 

 そんな絶死の環境で生き延びたものは二人。

 一人は私。恐らくキャスターが私の周りには冷気が行かないようにしてくれているのだろう。

 もう一人は敵サーヴァントである金髪の女性。

 彼女はサーヴァントであり、この程度で凍死するような柔な構造はしていない。

 

「マスター、凍死したくなければあのサーヴァントを(わたくし)が撃退するまで動かないで下さい」

 

 とキャスターが言う。

 私とて素敵な氷のオブジェになるのはごめんなので、大人しくキャスターの忠告に従うとしよう。

 

「……なるほど。半径5mほどの土地を自分の陣地にしたか。劣等種たるスラヴ人にしては良くやる。だが、このチンケな冬将軍擬きで何が出来る?」

 

 そう言うと彼女は拳銃をキャスターに向ける。

 しかし……

 

「……!」

 

 その銃を撃つことなく、何かの気配でも察して身体を捻る。

 すると、彼女が先程まで居た所にまるでクリスタルの如き透明な氷の杭が生えて来た。

 もし彼女が躱さなければ、今頃身体をズタズタにされていただろう。

 

「……貴女の言うチンケな陣地でもこの程度は出来るわ。見たところ、貴女ここの結界の影響を受けて身体能力が下がってると思うのだけど……どこまで躱せるかしら?」

 

「貴様ァァァ! 劣等人種のくせに私をバカにするか! ……いいだろう。貴様を強制収容所にぶち込んで、ありとあらゆる苦痛を与えてやろう」

 

 敵サーヴァントの魔力反応が……まさか、宝具か⁉︎

 

「キャスター!」

 

「えぇ、分かってるわ。何が来ても一発は防いでみせる……!」

 

 しかし、その強大な魔力反応は宝具を発動する前に突如として霧散する。

 一体何が……

 

「たかが一日限りの同盟者のくせに大きく出たな、アインホルン……チッ、いい気になるなよ」

 

 ふきげんそうな表情を浮かべながら、そう呟いて彼女は私の視界から消えた。

 恐らく霊体化したのだろう。

 何はともあれ退いてくれて助かった。

 

「マスター、あのサーヴァントとは別に敵のサーヴァントの反応が500m先くらいにあるわ。わざと魔力を垂れ流して敵を誘き寄せようとしてるのね。どうしますか?」

 

 私の召喚したサーヴァントはキャスター。

 ならば取る行動は一つ。

 

「無視するよ。そもそも、貴女キャスターだから正々堂々戦うの苦手でしょ?」

 

「賢明な判断ね。もし、貴女がわたくしを突っ込ませようとしたら契約を切っていたわ」

 

 このサーヴァント、私のこと試したな。

 ……まぁ、パスを通じて流れてくる魔力量が少ないだろうからなぁ。

 聖杯戦争に勝てるか不安に思われるのも仕方ないか。

 実際、私も不安だし。

 

「キャスター、他に気になる反応は?」

 

「無いわ」

 

 とりあえず、今日はもう戦闘が起きることは無さそうだ。

 にしても、聖杯戦争についての知識が欲しい。

 ……昔、師匠から軽く聞いた分の知識しかないから圧倒的に知識が足りない。

 基本的な知識だけじゃ無く、冬木の聖杯戦争の推移とかもあれば戦略も立てやすいんだけど。

 

「そっか。じゃあ、とりあえず私の家に入ろっか。色々話し合いたいこともあるし」

 

「……えぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャスター、お待たせ」

 

 私は鞄を自室に置き、制服から普段着に着替えて居間へと入る。

 そこには椅子に座る白いドレスを着ている美しい銀髪を持つ少女が居た。

 瞳は薄い青色で、片目が前髪で隠れている。

 

 ……先ほど、かなり暗い場所で見ても彼女は美しく見えたが、改めて明るい所で見ると更に魅力的なのが分かる。

 

「そんなに待ってないから大丈夫よ。ところで……その服、わたくしの国では見たことが無い服ね。この国独自のものかしら?」

 

「あぁ、この服のこと。この服は着物って言ってね、日本の伝統的な服だよ。……まぁ、日頃から着物を着ている人はほとんど居ないだろうけど」

 

 そう、私はこの紫を基調としている着物がお気に入りで普段はこれを着ている。

 変わった服装なのは自覚しているが、好きなのだから仕方ない。

 

「もったいないわね、そんないい服を着ないなんて」

 

「まぁ、時の流れってやつだよ。さて、聖杯戦争についての話でもしようか。今後の方針とかね。あ、お茶でも飲む?」

 

「……せっかくだし、貰おうかしら」

 

「オッケー。じゃあ、ちょっとお茶淹れてくるねー。まぁインスタントだけど」

 

 私はそのまま椅子に座ること無く、お茶を淹れるために台所に行く。

 電気ケトルに水を入れ、お湯が沸くのを待っているとふとキャスターが口を開いた。

 

「マスター、貴女はどうして聖杯戦争に参加したのかしら?」

 

「私は……ただ、巻き込まれただけだよ。だから、特に理由があった訳じゃない」

 

「じゃあ、マスター権を放棄して教会に保護してもらうのですか?」

 

 ……少し、先ほどまでよりキャスターの声が硬くなった気がする。

 

「いや、それはしない。確かに私は別に聖杯が欲しくて参加した訳じゃない。だから、本来なら教会に保護してもらうのがいいんだろうけど……それじゃあ、キャスターの願いが叶わなくなっちゃう。それはキャスターに悪いでしょ。あのサーヴァントから守って貰うだけキャスターを使っておいて危機が去ったらキャスターとの縁を切るなんて」

 

 そこそこ長く喋っていたらしい。いつの間にかお湯が沸けていた。

 私はインスタントの紅茶の粉の入った2つのマグカップにお湯を注ぎ、そのマグカップを居間へと持って行く。

 

 そして、そのうちの一つをキャスターの前に置く。

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとう……あら、まぁまぁ美味しいじゃない。インスタントの紅茶って聖杯から得た知識だとあまり美味しそうには思えなかったけど……」

 

「これ、インスタントの中では一番美味しいやつだからね。一番安いのとか買うとまぁ……あんまり美味しくない」

 

「インスタントも茶葉も美味しいものは美味しいってことね。……話しが脱線したわね。じゃあ、マスターはわたくしのためだけにこの聖杯戦争に参加するのかしら?」

 

「まぁ流石にそれだけでは無いけどね。まぁこれは大したことじゃないよ。で、そう言うキャスターは聖杯で願いを叶えるために現界したんでしょ? どんな願いを叶えたいの?」

 

 これはとても大切なことだ。

 私は先程も言ったように、出来る限りキャスターの願いを叶えたい。

 でも、願いによっては……神塚家の役割に反するのならば……

 

「わたくしは別に大した願いは無いのだけれども……そうね、受肉したいわ。わたくしは生前、まだ若いうちに死んでしまったからもう少し長く生きてみたい」

 

「……そっか。じゃあ、その願いを叶えるためにも聖杯戦争に勝たないとね」

 

「えぇ」

 

 うん、その願いなら問題は無い。

 是非、キャスターのその願いを叶えさせてあげたい。

 

「じゃあ、今から戦略でも……」

 

「マスター、今日はもう休んだ方が良いと思いますよ」

 

「いや、大丈夫だよ」

 

「……絶対大丈夫じゃないわよ。酷い顔色よ」

 

「……そっか。じゃあ、キャスターの言う通りにしようかな」

 

 実を言うとかなり無理をして、今起きている。

 ただでさえ、私の魔力保有量は少ないのに今日は色々と魔力を使った。

 

 身体強化に煙幕、そしてキャスターの召喚。

 もう魔力はすっからかん。そのせいか疲労感がハンパじゃない。

 だから今日はキャスターの言う通りに寝るとしよう。

 

「……あっ」

 

 2階に自室に向かおうと立ち上がったら、急に目眩がして倒れそうになったが

 

「大丈夫?」

 

 頭をテーブルにぶつける寸前でキャスターが私の身体を受け止めてくれた。

 

「ごめん、大丈夫じゃないかも」

 

「肩を貸します。この家の2階に貴女の部屋があるのよね?」

 

「そうだよ。2階の右側の部屋が私の部屋……」

 

 私はキャスターの肩を借りて、いつもよりゆっくり階段を登る。

 そして、ようやく私の部屋の前へと辿り着く。

 

「キャスター、ありがとう」

 

「どういたしまして……ねぇマスター、貴女の名前はなんて言うの?」

 

 あぁ、そういえば言ってなかったっけ? 

 

「私は神塚麗華。……そういえば、私も貴女の真名聞いてないや。貴女の真名は?」

 

「わたくしの真名は……秘密です」

 

「え? なんでさ」

 

「貴女……魔術師としては弱いでしょ?」

 

「うっ」

 

「だから、敵の暗示とかにかかったらわたくしの事を話してしまうかもしれないでしょう? だから、秘密です」

 

「なるほど……それは妥当な判断だね」

 

 まぁこれは仕方ない。

 魔術師として私が弱いのは事実なのだから。

 

「じゃあお休み、キャスター。キャスターは左側の部屋を好きに使っていいよ」

 

「わたくし達、サーヴァントは霊体化出来るから部屋は必要無いわ」

 

「あっ、そっか」

 

「でも……偶には生前の真似も悪くないかも。マスターの好意に甘えて部屋を使わせて貰うわ。ではお休みなさい、レイカ」

 

「あっ……」

 

 私の名前……。

 少しは信頼を築けた……って事でいいのかな。

 

 私は自室に入り、ベットに潜り込む。

 そして、2分もたたないうちに私の意識は闇へと消えていった。

 

 



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溶氷の皇女
第三話 御三家


 〜キャスター召喚の2ヶ月前〜

 

 ……徐々に落ち葉が目立ち始めてきた9月。

 とある屋敷の庭で一人の女性が庭に魔法陣を書いている。

 

「……よしっ、これで魔法陣は描き終わったわね。あとは魔法陣に聖遺物を置いてっと……」

 

 そう言うと彼女は魔法陣の中央部分に何かのカケラを置く。

 そして……

 

「…… 告げる。

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 誓いを此処に。

 我は常世総すべての善と成る者、

 我は常世総ての悪を敷しく者。

 汝 三大の言霊を纏う七天

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」

 

 詠唱が終わった瞬間、眩しい光が彼女の視界を襲う。

 そして、光が無くなり目を開くと……

 

 彼女の目の前には馬に跨っている金髪の騎士が居た。

 鎧を身につけており、その手には聖槍が握られている。

 

「サーヴァント、ランサー。召喚に従い参上しました。問おう、貴女が私のマスターか?」

 

 この聖槍を持っている英霊は1人しか居ない……勝てる! 

 この英霊がセイバーで来ないのは意外だったが、逸話を考えればまぁランサークラスの適正もあるだろう。

 

「そうよ、私が貴女のマスターよ。これからよろしくね、ランサー」

 

 この英霊はイギリス出身のサーヴァントだが、聖杯戦争の開催地である日本でも十分知名度はあるはずだ。

 

 アインツベルン……我らアインホルンの好敵手よ、今度こそ私達のあるべき地位を取り戻させてもらうぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ……サーヴァント、セイバー。召喚に従って参上した。お前がオレのマスターか?」

 

 魔法陣の真ん中には金髪の不機嫌そうな顔をしている青年騎士が立っている。

 

 触媒を使わずにサーヴァント召喚を行ったが、かの騎士を召喚出来るとは……幸先が良いな。しかも、最優のクラスのセイバーと来た。

 

「あぁ、俺がお前のマスターだ。早速、戦略を立てるぞ」

 

 さぁ、橘家の願い……根源到達を今度こそ成し遂げるとしようか。

 俺は十分に勝ち抜けるはずだ。

 

 魔術師の男は、天野市の地図を机に広げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サーヴァント、バーサーカー。召喚に応じて参上してやったぞ……貴様が私のマスターか?」

 

 魔法陣の中央にはかの帝国の軍服を着た金髪の女性が立っていた。

 彼女からは圧倒的なカリスマを持っており、心の弱い人ならすぐに頭を垂れてしまいそうだ。

 

「はい、私が貴女様のマスターでございます……総統閣下」

 

「どうやら礼儀は弁えているようだな。では、優等種族の格の違いってやつを劣等種に見せつけてやるぞ、我がマスター」

 

「えぇ、仰せのままに」

 

 ここに最恐のマスターとサーヴァントの組み合わせが誕生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天野市にあるとある教会。

 今回の聖杯戦争の監督役が居る教会だ。

 

 その中には、その監督役の神父とその横にスーツを着た男が立っていた。

 

「神父よ、キャスターのマスターが分かったぞ」

 

「ほう、仕事が早いじゃないか。で、誰なんだ?」

 

「神塚麗華……という者だ」

 

「ほう、神塚、神塚麗華と言ったか?」

 

「あぁ、そうだ」

 

 二人は邪悪な笑みを浮かべている。

 

「ハハッ、ハハハハハハッ。神塚の娘よ、この聖杯戦争に勝たねば汝らの願いは叶わんぞ! だが……喜べ、少女よ。お前の願いはようやく叶う」



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第四話 準備万端(前編)

そういえば、この小説オリジナルサーヴァントの真名当てをしている方はいますかね?まぁ、次話で多分一人は真名が出ます。あと、感想で真名予想を投稿するのは構いません。返信はしませんけど。


 ……雪の降る絶凍の地。

 

 草の1本も生えてないその地で、血を大量に流してその地面を真紅に染めている一人の少女がいた。

 その髪は……白髪だ。

 

 彼女の周りには、銃を持った兵士がいる。

 恐らく、彼らが彼女を殺したのだろう。

 

 寒い、苦しい、冷たい、辛い……どうして、どうして(わたくし)がこんな目に……何をしたっていうの? ねぇ、(わたくし)はそんなに悪いことをしたの? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……目が覚める。

 

 ……うん、私が今いる場所は決して雪の降っている場所では無い。

 いつもの、私の自室のベッドの中だ。

 

 さっきまでのは……夢? にしてはやけにリアルだったし、あの少女はキャスターと瓜二つだった。もしかしてあれは……キャスターの記憶? 

 

 サーヴァントとマスターはパスが繋がっているはず……だから、キャスターの記憶を見ることもあり得る、か。

 

 私は自分の左手の甲にある令呪を、キャスターとの唯一の繋がりを見つめていた。

 

「……キャスター、か」

 

 彼女は果たして、令呪がなくなっても私の味方になってくれるだろうか? 

 

「アホらしい」

 

 雑念を払い、私は起き上がり下の階へと降りる。

 そして、洗面台へと辿り着く。

 

 鏡を見ると、寝癖が付いているせいで前髪が少し跳ねている着物を着ている黒髪の少女の姿が映っている。

 

 うん、これは私だ。そこは良い。

 

 そして、鏡の中の私の左肩には……何やら人形が乗っていた。

 

「何これ」

 

 この人形、確かキャスターが大事そうに持ってたヤツだよね? 

 なんで私の肩に? 

 

「あら、ヴィイ。(わたくし)の所に居ないと思っていたらこんな所に居たのね。あとレイカ、おはようございます」

 

 そう言うと、キャスターは私の肩にいる人形、ヴィイを回収した。

 

「おはよう、キャスター。ところでこの人形は何なの?」

 

「この子はヴィイ。(わたくし)と契約している妖精です」

 

「妖精……? 人形ではなく?」

 

「えぇ、そうよ。瞼を開いたら、ヴィイが妖精ってことがよく分かります。それに瞼を開いたヴィイはとても可愛らしいのよ」

 

「へぇ、それは楽しみだなぁ」

 

 ヴィイ、ヴィイか。何か聞き覚えがある。

 確か、スラヴの方の……

 後で暇があったら、スラヴ神話関連の本でも読み返してみよう。

 

「キャスター、朝ご飯食べる? 簡単なものだけど」

 

 歯磨きを終えた私はキッチンで朝ご飯を作る……と言ってもバターを塗ったトーストと目玉焼きだけだが。

 

「せっかくだし、頂くわ」

 

「ん、分かった……はい、どうぞ」

 

 キャスターの分を彼女の前に置くと、私も自分の分をテーブルに置いて席に着く。

 ちなみに、キャスターには箸ではなく、フォークを渡しておいた。

「いただきます」

 

「えっと……」

 

 ん? あぁ、キャスターはどう見ても日本人じゃないから食事の前にいただきますって言う習慣も知らないか。そんな知識、聖杯も教えてくれないだろうし。

 

「キャスター、日本では食事に携わってくれた人への感謝と食材への感謝を込めて、食事をする前にいただきます、食事が終わった後にご馳走様って言う習慣があるんだ」

 

「なるほど……では、いただきます」

 

 そうして、私とキャスターは朝ご飯を食べ始める。

 

「味、どうかな? まぁ、そもそも簡単な調理しかしてないけど……」

 

 そう私はキャスターに聞いてみた。

 やはり、どんなに簡単な料理でも他人に振る舞う時は感想が気になるものだ。

 

「トーストも目玉焼きもいい焼き加減だと思うわ」

 

「それは良かった」

 

「ところでレイカ、今日の予定はどうなさいますか?」

 

 トーストを齧りながらも、キャスターは真剣な顔つきで聞いてくる。

 今日の予定か……まぁ、大体決まってるけどさ。

 

「まず、朝ご飯を食べ終わったら私の魔術の師匠の元に行く。そこで、聖杯戦争についての資料と私の武装になり得るものを買う」

 

 聖杯戦争の資料は今後の戦略を得る上で重要だ。

 そして、私の武装については……まだサーヴァント相手にマスターが逆立ちしても勝てないのはもちろん私も承知だ。

 

 理想としては、敵マスターを屠れる、欲を言えばサーヴァントの一撃を防げる物が欲しい。

 

「なるほど。その後は?」

 

「それが終わったら、今後の戦略を私とキャスターで相談。夜になったら偵察も兼ねてこの街を歩き回る。これでどう?」

 

「分かりました。(わたくし)もそれで良いと思うわ」

 

「そっか……じゃあ」

 

 予定を話し終えたところで、私とキャスターは朝ご飯をちょうど食べ終わった。

 

「「ご馳走様」」

 

 キャスターからお皿を回収して、私のと重ねて流しに置いておく。

 ……洗うのは後でで良いや。

 

 さて、師匠の元に行くとしよう。

 ちなみに学校については、聖杯戦争の間に学校に行くのは流石に自殺行為じみてる気がしたので休むことにした。

 

 理由は入院ということにした。

 え? 疑われないかって? 

 

 大丈夫、先生には悪いけどあのメールを開いたら暗示魔術が発動するようになってるから。

 

「ねぇ、レイカ。その……出来ればでよろしいのですが……」

 

「ん?」

 

「実体化したままこの町を歩いてみたい……です」

 

 あぁ、英霊からしたら現代の町って未知の空間な訳だ。

 まぁそれは実体化したまま歩きたくもなるよね。

 

「うん、良いよ」

 

「本当? ありがとう、レイカ」

 

「それは良いんだけどさ……」

 

「?」

 

「それなら、服をどうにかしないとね」

 

「……このドレスじゃ、ダメかしら」

 

「ダメだね。目立ちすぎる」

 

 今時、町をそんないいドレスを着て歩いている人なんていないからなぁ……

 私の着物は、あまり着られなくなったとはいえ日本の伝統的な服だから良いけど……そのドレスはなぁ。

 

 ……お母さんの部屋から良い感じの服を探してみよう。

 

 




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第五話 準備万端(後編)

思ったより進まなかったせいでオリジナルサーヴァントの真名までいけなかった。楽しみにしてた方はすみません


「ねぇ、レイカ。このたい焼きっていう食べ物、美味しいわね」

 

「それは良かった。私のお気に入りなんだよね、それ」

 

 たい焼きを頬張りながら歩くキャスターと話しながら私は師匠の住んでいる場所へと歩く。

 

 ちなみに服に関しては、キャスターが気に入った水色のワンピースを着せている。……冬にワンピースって普通は寒くない? あぁ、サーヴァントだからかな? でも、寒さに慣れてる感じがしてたから本当に寒くないのかな? 

 

「ねぇキャスター、本当に寒くないの?」

 

「寒くないわよ。このくらいの寒さなんて、(わたくし)の祖国の冬の寒さに比べたら可愛いくらいね」

 

 キャスターの祖国、恐るべし。

 そういえば、夢? の中でキャスターは寒そうな所に居たっけ。

 あそこがキャスターの祖国なのかしら? 

 

「キャスター、ここの角で曲がるよ」

 

 人通りの多かった大通りから少し外れると途端に人通りが減る。

 

「そこのアパートの103号室が師匠の住んでる部屋だよ」

 

「こんな所に魔術師が住んでいるの?」

 

「そうだよ。しかも、師匠は結構いい所の家柄だったはず」

 

 私たちの目の前にはぼろぼろのアパートが聳えたっている。

 壁にはツル植物の葉っぱが生えており、鬱蒼としている。

 そんな外見をしているので全体的に幽霊屋敷感がある。

 

「103……ここね」

 

「そうだよ。じゃ、ノックするね」

 

 コン、コン、コンと103号室の扉を3階ノックする。

 103号室の扉のすぐ横にインターホンがあるが、決してそれを押してはならない。

 

「ん、麗華ちゃんか」

 

 ノックしてから10秒ほどすると、ボサボサの髪をしている男性が出てきた。髪色は黒髪だが、目の色とその高い身長が彼が日本人ではないことを教えてくれる。

 

「シャーロットさん、お久しぶりです」

 

「うん、久しぶり。で、そちらの女性は? 君の友達にしてはやけに魔力量が多い」

 

 彼は少し警戒しながら、キャスターの方を見る。

 

「サーヴァント、キャスター。そういえば貴方に伝わるってレイカは言ってたけど」

 

「サーヴァント、キャスター……か。なるほど、いやはやまさか麗華君がマスターになるとは。……そして、この地で聖杯戦争が開催されるとは。ひとまず、家に上がってくれ。立ち話もあれだろうし」

 

 私たちが彼の家に入ると、そこには見た目からしたら明らかに広すぎる内装が広がっていた。

 

「これは……」

 

「僕は少々協会に追われている身でね。奴らの力が比較的弱いこの極東の地でも工房に幻覚くらいかけとかないと不安になるって訳さ」

 

 そう、あのアパートは強力な幻覚を見せる魔術による幻覚であり、本来の彼の家はそもそも一軒家である。

 

 キャスターはかなり驚いているようだ。

 私も初見は驚いたものだ。

 懐かしいな……シャーロットさんに初めて会った頃が。

 

「にしても、かなり驚いた様子をしているが君はキャスターのサーヴァントだろう? なら、このくらいを見破ることは容易いだろうに」

 

(わたくし)自身はほとんど魔術を使えないわ。せいぜい、出来てイタズラ程度のこと。魔術を使えるのは(わたくし)が契約しているもののおかげよ」

 

「ふぅん、なるほどね。にしても、僕にそんなに話して良かったのかな? もし、僕もマスターだったら……」

 

「それはないわ。貴方に令呪がないことは確認済みですから」

 

「ほう、どうやって確認したのかな? レイカの後ろにいる君からは見えづらいはずだけど」

 

 あぁ、シャーロットさんに令呪がないか確認するためにシャーロットさんの近くにヴィイを浮かしてるのか。

 

 にしてもシャーロットさん、あんなに近くにヴィイがいるのに気づいてないみたい。

 私とキャスター以外には見えないのかな? 

 

「さぁ、座ってくれ。お茶はもう少しで妻が持ってくるはず……っと。もう来たみたいだ」

 

「麗華ちゃん、久しぶりね。元気にしてた?」

 

 居間に入り、椅子に座るとすぐに若い女性が緑茶をテーブルに並べていく。

 

「はい、元気です。蒼華さんも元気そうで何よりです」

 

「ふふっ、ありがとうね。そして、そこの貴女は初めましてね。お名前は?」

 

「……キャスターと言います。訳あって本名は話せません」

 

「あらあら、という事は貴女は魔術関連の人ね。私はそこら辺は全く分からないからなんとも言えないのだけど……二人共ゆっくりしていってね」

 

 そう言うと彼女は居間を出て行った。

 

「じゃあ、話しをしようか。麗華ちゃん、一応聞くが……聖杯戦争がこの天野市で始まったのは事実かい?」

 

「はい、既にキャスター以外にも一騎のサーヴァントを確認しているので間違いないかと」

 

「そうか。いや、まさか天野市で聖杯戦争が始まるとは予想だにしてなかった。今ですら信じられないくらいだ。目の前にキャスターのサーヴァントが間違いなくいるのに。まぁ、いい。いい加減に僕も現実を見るとしよう。で、麗華ちゃんがキャスターを召喚したのはいつかな?」

 

「昨日の夜です」

 

「……降りる気はないんだね」

 

「はい。ここで私が降りたら、キャスターの願いが叶わないですから。それに神塚の使命のためにも聖杯を確保しなければなりませんし」

 

 そう言うと、シャーロットさんは少し悲しそうな顔をした。

 

「なるほど、確かに誰かが聖杯に日本滅べと願うかもしれないからね。ならば、聖杯を日本の守護者たる神塚の当主が聖杯戦争に勝利した方が確実だ」

 

「日本の守護者?」

 

 キャスターが首を傾げる。

 

「キャスターには言ってなかったね。私の家、神塚家は代々日本を守護してきた魔術師の家系なんだ。まぁ、日本を守護するって言っても魔術的脅威からって頭に付くけれども」

 

「……国を守護する家系、ね」

 

「キャスター?」

 

 一瞬、キャスターが暗い顔をする。

 何か思うところでもあったのだろうか? 

 

「ねぇ、麗華ちゃん。……その、こう言うのはなんだけど、さ。神塚の魔術回路は1945年以降、急速に退化していてもはや日本を守護できるような状態じゃない。実際、天野市のセカンドオーナーも神塚から橘に変わった。それに、多分もう君たちの役割は終わっている。だから、君が日本守護の使命を果たす必要は……そんな魔術回路で国の脅威になり得る存在と戦うなんて……それじゃまるでカミカゼみたいじゃないか」

 

 ……うん、知ってる。

 私は日本を護るような特殊な能力は持ち合わせていない。

 魔術回路だって、19本しかない。

 

 それでもさ、それでも……

 

「私はお父様と約束したから。それに……この想いだけは誰にも負けないから……だから私は、聖杯戦争から降りないよ」

 

「そっか……うん、分かった。じゃあ、君の話を聞こうか。要件はなんだい? 僕のところに来たって事は何か聞きたいことや欲しいものがあるんだろう?」

 

「……第一次から第五次聖杯戦争の戦況の推移の記録されている資料があったら欲しいです。今後の戦略を立てるのに役立つと思うので。あと、こちらはもし良ければなんですがサーヴァントの攻撃を一撃だけで良いので防げるような武器が欲しいです」

 

「なるほど……資料の方は僕の部屋にあったはずだ、武器の方は……流石にサーヴァントの攻撃を防げるようなものはないかなぁ」

 

「そうですか。まぁ、資料だけでも十分ありがたいので」

 

「ただ、サーヴァントを牽制出来るような武器ならある。それを譲ろう」

 

「ありがとうございます」

 

「うん、じゃあすぐに持ってくるからちょっと待ってて」

 

 そう言うとシャーロットさんは居間を出て行った。

 

「……ねぇ、レイカ」

 

「どうしたの、キャスター?」

 

「少し聞きたいことがあるのだけど……良いかしら?」

 

「もちろん」

 

「もしも貴女が護っていた者達に裏切られて、殺されたら貴女はどう思う?」

 

 要するに私が日本人に殺されたらどう思う? ってことか。

 そうだね……

 

「仕方ないなって……私が日本人に殺されたって事はそれは私が、神塚が必要されなくなったってことでしょ? だから多分、私は仕方ないなって思うだろうね」

 

「歪んでる……」

 

「歪んでるわよ、そんなの! だって……だって、それじゃあ」

 

「麗華ちゃん、持って来たよ」

 

 キャスターが何かを言おうとした所でシャーロットさんが戻って来た。

 

「キャスター、続きは後でいいかな?」

 

「……えぇ」

 

「じゃあ、まずはこれが資料の方だ」

 

 というとシャーロットさんはテーブルの上に分厚い本が6冊入っている紙袋を置く。

 

「そして……これが武器だ」

 

 そう言うと、鞘に刀身が収められている長い刃物を手渡す。これは……

 

「刀……ですか」

 

「あぁ、正確には霊刀だがね。この刀は霊体に干渉する特殊な力を持っている。だから……」

 

「サーヴァントに効く……」

 

「そうだ。だけど、これはあくまで牽制用か防御用だ。いくら武器が強くても、君の身体能力じゃあサーヴァントには基本敵わない」

 

「分かりました」

 

「帯に差して家に帰ると良い。一般人には見えないから安心していいよ。鞘に幻覚魔術を付与しておいたからね」

 

「わざわざそこまで……重ねてありがとうございます」

 

 早速、腰に霊刀を差して見る……うん、ちょうどいい感じ。

 

「で、お金はいくらほど払えば……」

 

 魔術の世界は基本、等価交換。今回は沢山の物を貰ったし、ちゃんとお金を払わないと。

 

「あぁ、いらないよ。弟子が聖杯戦争に参加するって言うんだ。このぐらい師匠がやるのは当然だろ」

 

「本当にいいのでしょうか?」

 

「あぁ。ただ、代わりに……必ず生き残ってくれ。それが対価だ」

 

「……分かりました。必ず、勝利します」

 

「うん、それでいい。そしてキャスター君、僕の弟子を頼んだよ」

 

「……えぇ、必ずレイカを守るわ」

 

「そうかそうか。それは心強い」

 

「では、シャーロットさん。私たちはこの辺で」

 

「あぁ、困ったことがあったらいつでも来なさい」

 

「分かりました。その時はまた、よろしくお願いします」

 

 そう言って私たちが居間から去ろうとすると、シャーロットさんが口を開く。

 

「今更だが、最後に。麗華ちゃん、聖杯戦争とは何か簡単に言ってみて」

 

「……聖杯戦争。それは聖杯より選ばれし7人のマスターとそのマスターに従う7騎のサーヴァントによる殺し合い。最後に生き残った一組だけが聖杯で願いを叶えることが出来る。と、こんな感じですかね?」

 

「うん、大体そんなものだ。ちゃんと覚えているみたいで良かったよ。あと、これはアドバイスだ。自分のサーヴァントのステータスをよく見て戦略を練りなさい。ちなみに自分のサーヴァントのステータスはサーヴァントとのパスを強くイメージすれば見れるはずだ。じゃあ今度こそさようなら。武運を祈っているよ」

 

 そうして私たちはシャーロットさんの家を去った。

 

 

 




次話は金曜日か土曜日に投稿します。


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第六話 戦略

 あの後、家に帰ってからしばらく経った。

 さて、そろそろ今夜からの方針をたてるとしよう。

 

「キャスター、聖杯戦争の戦略を考えよう」

 

「分かったわ」

 

 私はテーブルの上に天野市全体の地図を広げる。

 

「そう言えば……シャーロットさんの家で何か言おうとしてたけど何を言おうとしてたの?」

 

「アレのことはもういいわ。忘れて」

 

「ん、分かった……じゃあ、話を戻そうか」

 

 私はこの家から少し離れた所を赤色のペンで丸く囲む。

 

「ここが天野市のセカンドオーナー、橘一樹(たちばなかずき)が住んでいる場所だよ。まぁ、多分彼はこの聖杯戦争に参加しているでしょうね」

 

「その……カズキって人の実力はどのくらいなの?」

 

 橘一樹の実力か……

 うーん、あんまり会ったことがないからなぁ。あんまり情報が無いなぁ。

 

「えーっとね、時計塔に通っていたことがあって、風属性魔術を使うってことしか知らないんだよね」

 

 場所が分かっている数少ない魔術師ってこともあって積極的に対策を考えたいんだけどね……私があまり魔術師としてのステータスが高くないせいで情報がほぼないんだよね。

 

「カズキはこの土地のセカンドオーナーなのだから多分、この聖杯戦争の開催に関わっているでしょうし、三騎士のいずれかを召喚している可能性が高いわね」

 

 とキャスターが言う。

 

 うんうん、まぁそうだろうね。キャスターの言う通りだろう。

 

「そうだね。そしてこの郊外にある大きな屋敷はドイツの魔術師、アインホルン一族の別荘だね。で、今ここにアインホルンの人が居るのかどうか探るために使い魔を放ってみたら……使い魔が迎撃された」

 

「つまり、誰かが居るってことね」

 

「そう。そしてアインホルンは錬金術を生業とする一族なの。つまり……」

 

 かつて、冬木の聖杯戦争で聖杯作成を担当したアインツベルンもまた錬金術を得意とする一族だったらしい。

 

「聖杯を作り得る存在……ってことね」

 

「そういうこと。そして、冬木の聖杯戦争での御三家に橘とアインホルンが当てはまるってことだね」

 

 大方、遠坂の枠が橘、アインツベルンの枠がアインホルンってところだろうか。

 

「確か、冬木の聖杯戦争において彼ら御三家は他の魔術師より早くにサーヴァントを召喚出来るのよね?」

 

 そんな事も知ってるのか。

 聖杯も結構知識をくれるんだね。

 

「らしいね。そして、多分冬木の聖杯戦争の模倣であるこの地の聖杯戦争もそのルールは同じだろうから……もう、彼らはサーヴァントを召喚しているだろうね」

 

 私達が知りうるこの聖杯戦争の参加者は彼らのみである。

 つまり、今後しばらくの間は彼らと……昨日の夜に遭遇したサーヴァントを最も警戒するべきだろう。

 

「……だから、今日からしばらくの間は橘とアインホルンの屋敷を偵察しよう」

 

「分かったわ。それでいきましょう。それはそうとレイカ、昨日の夜に襲って来たサーヴァントの真名って分からないかしら?」

 

 あー、あのサーヴァントか。

 真名は流石に分からないけど……あのサーヴァントの出身地とどの時代の英霊かかなら分かる。そして、真名候補なら分かるかも。

 

「流石に真名は分からないんだけど、あのサーヴァントがどの地、どの時代出身かなら分かるよ。一応、そこから真名候補は何人か出せるけどまぁこれは参考程度ってとこかな」

 

「一応、教えて欲しいのだけど」

 

「元からそのつもりだよ。……まず、あのサーヴァントは鉄十字勲章を付けていたからドイツ出身なのは間違いないね」

 

「ドイツ……ね」

 

 ……キャスターは何かドイツに因縁でもあるのだろうか? 

 

「そして、あの鉄十字の中心にはハーケンクロイツのマークが刻まれていた。そう、ナチス第三帝国のシンボルであるハーケンクロイツが」

 

「ナチス第三帝国…… (わたくし)の死後に現れたドイツ帝国の成れの果て……」

 

 ……キャスターはドイツ帝国が存在していた時代の英霊なんだ。ふーん、結構最近の英霊なんだ。

 

「で、あのデザインの鉄十字勲章は1939年から1945年の間のみ使われたもの。つまり、あのサーヴァントはナチス第三帝国で名をあげた英霊って事だね。ここから導き出される真名候補だけど……ヒトラーとかゲッペルスとかロンメルとかハイドリヒとか……まぁここら辺かな? ただ、今あげた人達も含むナチス第三帝国でサーヴァントになれるほど活躍した人って全員男性だったはずだけど……まぁここはもう分からない。今分かるのはこんな感じかな?」

 

「聞いといてあれだけ…… (わたくし)はあまり分からないわ。ごめんなさい」

 

「別に構わないよ」

 

 そういえば、キャスターってなんか偵察に有利になる能力とか持ってないかな。

 そしたら今日からの偵察も楽になるんだけど。

 

 ……ステータス、見てみようかな。

 

「……ねぇ、キャスター。ちょっと君のステータスを見てもいい?」

 

「勿論いいわよ。というか別にわざわざ(わたくし)に許可なんてとらなくていいわよ。貴女がマスターなんだから」

 

「まぁ、そうなんだけどさぁ。なんか、こっそりステータスを見るって覗きみたいで嫌じゃん」

 

「はぁ……そういうものですか」

 

「そういうもの。じゃ、早速見てみるね」

 

 えっと……確か……

 パスを意識するんだよね……

 

 こうかな? 

 

 ん、なんか見えた。

 これがサーヴァントのステータスか。

 なんかゲームみたい。

 

 所々、読めないな。

 キャスターが真名を隠そうとしてるからかな? 

 それとも私が未熟だから? 

 まぁどっちでもいいか。

 

 うーん、偵察に使えそうなスキルは無いなぁ。

 まぁ、キャスターだしなぁ。偵察系のスキル持ってるならアサシンだろうし、仕方ないか。

 うん? 陣地作成EX……EX⁈

 




情報解放

キャスター/真名:■■■■■■
マスター/神塚麗華

スキル
陣地作成(EX)
彼女がサーヴァントとして召喚されている間は、一時的に周囲数メートルが「■■■■■の陣地」として機能する。他スキルと重なることで、その陣地は更に拡大していく。

妖精契約(A)
■■■の大地に住む妖精ヴィイとの契約。本来、妖精は不可視の存在であるが■■■■王朝と契約したヴィイは特例で第三者にも視認され、能力も行使できる。

透視の魔眼(D)
バロールを祖とし、直死の魔眼とは別系統の退化を辿った魔眼。■■■■■■の力ではなく、ヴィイの能力。あらゆる結界を打破し、時には城塞の弱点すら見つけ出す。■■■の■■■■はヴィイよりこの能力を授かることで攻城戦において極めて有利に戦ったという。

■■■■■■■(B)
詳細不明

■■■■■■■■(B)
詳細不明

ステータス
筋力:D
耐久:D
俊敏:C
魔力:B
幸運:C
宝具:C



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第七話 偵察行動

やっとサーヴァント同士の戦闘シーンに入りました(尚、本当に入っただけ)
あと、この作品のセイバーに関しては……容姿と性格は公式から出てるけどステータスとかスキルとかは出てないから実質オリ鯖ですね(違う


 ……夜風が吹く中、橘邸を見張るためにその近くにあるビルの屋上に私とキャスターは立っていた。

 

「レイカ、イツキとそのサーヴァントが家から出ます」

 

「ん、じゃあ私たちも移動しようか」

 

 日が沈んだ頃からキャスターの持つ、いや正確に言うとキャスターの契約しているヴィイの持つ透視の魔眼で橘一樹を見張っていたが、どうやら彼らは移動するらしい。

 

 ならば、彼らを見張る私たちも追わなければならない。

 

「彼らの行く場所は分かる?」

 

「うーん、行き先かぁ」

 

 聖杯戦争中にサーヴァントを連れて外に出るということは十中八九、戦闘をしに行くのだろう。

 

 で、彼はセカンドオーナーだ。

 だから、なるべく目立たない場所で戦闘をするはずだ。

 ここら辺で、戦闘をしても比較的目立たない場所といえば……

 

「……海辺のコンテナ置き場、かな」

 

 あそこなら夜に人も大していないし、住宅街からも離れてるから軽い人払いの結界を貼るだけで十分神秘の秘匿は出来るだろう。

 

「そう……ならこっちに来て、レイカ」

 

「? 分かった……ってなんで?」

 

 キャスターがこっちに来いと言ったから近づいたらお姫様抱っこされた。

 なんでさ。

 

「ショートカットのためよ。(わたくし)はサーヴァントだから階段を降りずにここから下に落ちた方が早いでしょう? どうせ、物理的ダメージで傷一つ付かないのだから。でも、レイカはそんなことは出来ない。貴女は生身の人間ですからね。なら、(わたくし)が貴女を抱えて落ちれば良いのよ」

 

「え、今からこのまま落ちるの? この屋上から地面まで?」

 

「えぇ」

 

「嘘でしょ……ねぇキャスター、考え直s」

 

「行くわよ。えい」

 

「キャァァァァァァァァァァ!!」

 

 ……結局、私たちは無事に地面へと降り立った。

 死ぬかと思ったわ。

 

「はぁ、じゃあ橘一樹を追いましょうか。キャスター、見失ってないよね?」

 

「安心しなさい。ちゃんと補足出来てるわ……こっちね」

 

 私はキャスターの後ろをついて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果として、私の予想は大的中。

 橘一樹は天野市のコンテナ置き場付近で足を止めた。

 そして、今まで霊体化していたサーヴァントを現界させる。

 その様子を私たちは一般的なサーヴァントの索敵範囲外のコンテナの影から隠れて見ていた。

 

「セイバー」

 

「あ? どうした、マスター?」

 

 セイバーと呼ばれた金髪の騎士のサーヴァントは自身のマスターである黒髪の青年の呼びかけに答える。

 

「来るぞ、ちゃんと防げよ」

 

「来るって……あぁ、くそ。そういう事か」

 

 彼らがその会話を終えた瞬間、彼らの正面から閃光の如き速さで槍を構えた何者かが突っ込んで来た。

 

 そして、その槍はセイバーのマスターを貫くと思われたが……

 その槍はセイバーの剣によって防がれた。

 槍を防いでいるセイバーの剣からは嫌な軋む音がしている。

 

「なるほどな、聖杯戦争ってのはこんな事もあんのかよクソッ」

 

 セイバーはそう悪態をつく。

 

「貴方は……なるほど。久しぶりですね、セイバー。だが、此度の私はサーヴァントの身だ。私情は抜きで卿を倒させてもらう」

 

「あぁそいつは俺も同じだ、ランサー!」

 

 そう叫ぶと、セイバーはランサーの槍を弾き、反撃に出る。

 

 これが此度の聖杯戦争の初戦闘。

 まだ、誰も知らない。

 この聖杯戦争がとっくに狂ったものになっていると。




サーヴァント情報開示

セイバー/真名:???

スキル
不明

宝具
不明

ステータス
筋力:B
耐久:B
俊敏:C
魔力:C
幸運:B
宝具:B+


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第八話 神塚の意地

土曜日更新出来んかったわ。すまんの


「ハァァァッ!」

 

「オラァ! チッ、キリがねぇ」

 

 数十回にも及ぶ回数、槍と剣がぶつかり合う。

 もはや神速の域に達した英霊の剣と槍の衝突はぶつかり合う度に大気を揺らし、火花を散らす。

 

 そんな戦いを影から覗き見ながら、私たちも動き出そうとしていた。

 

「キャスター、今から橘一樹に仕掛けるよ」

 

 今、サーヴァント達は自分達の戦いに夢中で、私たちのような伏兵を気にしている素振りはない。

 

 そして、この場に姿を表している唯一のマスターである橘一樹もまた同様である。

 

 ならば、マスター殺しをするしかあるまい。

 それに、彼は最優のクラスであるセイバーのマスターだ。

 ここで落とせればかなり大きい。

 

「それは良いけど…… (わたくし)が仕掛けるの?」

 

「いや、橘一樹は私が仕留める。キャスターは私の妨害をしてくるであろうセイバーとランサーの足止めをして。例えば……彼の足元を凍らせたりしてさ。貴女の陣地作成スキルなら」

 

 キャスターの陣地作成スキルは少々変わっていて、彼女の陣地作成スキルは彼女が存在している場所を中心として、半径数メートルの地を彼女の陣地にするというものだ。

 だから、普通のキャスターの陣地作成のようにマスターの工房を要塞化することには向いてないが、咄嗟の遭遇戦には強い。

 ただし、あくまで攻撃手段は他のキャスター同様魔術によるもので、近距離戦が強いとかは特にないので、三騎士相手に殴り込みに行っても普通に負ける。

 

 遭遇戦には強いが自身から積極的に戦いに挑むのは弱いという難しい性能である。しかも、遭遇戦に強いと言っても他のキャスターに比べたら程度である。

 

 だから、戦闘をするかしないかの判断をするにはかなり頭を使わなければならない。

 

「分かったわ。でも、彼は魔術師としては貴女より強いわよ? どうするの?」

 

 そんな事はもちろん分かってる。

 だから、魔術師としての禁忌と神塚の切り札を使ってその実力差を埋めるとしよう。

 

「魔術師としてはあれだけどさ……これを使うんだよ」

 

 そう言って、私は懐から拳銃、44マグナムリボルバー(M29)を取り出す。

 

「銃……ね」

 

 キャスターは露骨に嫌そうな顔をして私の拳銃を見る。

 

「……私は魔術師としては下の上くらいのステータスしかないけど日本に害を及ぼす外来の魔術師を相手取らなきゃいけないからこういう現代兵器とか平気に使うからまぁ……悪いけど我慢して欲しいな」

 

「はぁ……仕方ないですね。でも、ただの拳銃じゃ防御魔術に防がれるのがオチよ」

 

「もちろん、そこに関しても抜かりはない。神塚は魔術の腕はかなり衰えてるけど得意分野……神秘殺しの分野はまだ衰えてないよ。この銃弾には魔術的防御を貫通する術式が刻まれているんだ。流石にサーバントの魔術的防御は貫けないけどマスターの方は問題なく貫通出来る」

 

 そう言いながら、私はM29のシリンダーから弾丸を一発だけ取り出し、キャスターに見せる。

 

「……不思議な術式ね、これ。まぁ、良いわ。30秒くらいセイバーとランサーを動けないようにしておくから貴女は確実にあのマスターを仕留めなさい」

 

「任せて。じゃあ、やるよ」

 

 私はコンテナの影から出て、橘一樹の直線上に立ち、銃を構える。

 まだ、彼らは気づいていない。好都合だ。

 

Anfang(セット)……」

 

 私は魔弾の術式を起動するための詠唱を始める。

 

「我、日ノ本の国を守護する者なり……不遜ながら神塚家24代当主たる神塚麗華が国産みの神に願う」

 

 私が握っているM29に魔力が集まり始める。

 ……流石に気づかれたか。

 

「ッ!! セイバー、伏兵だ! 俺を狙ってる」

 

「ちょっと待ってろ! 今助けに……なッ⁉︎」

 

 セイバーは彼のマスターの危機を救おうと助けに行こうとするが、足が凍りついていて足を動かせない。

 

「キャスターのサーヴァントか、クソが! マスター、とりあえず自分の身は自分で守れ! アイツが構えてるのは拳銃だ。そのくらい魔術でなんとかなるだろ」

 

「あ、あぁ。Gott, beschütze uns(神よ、我らを守りたまえ)

 

「……フッ」

 

 思わず笑みを浮かべてしまう。

 

 あぁ、その防御魔術は強力なのだろう。

 

 かの唯一神の偉大なる加護の如く頑強なのだろう……

 

 だが、ここは日本だ。

 日本において、八百万の神々の加護を受けている神塚に貫けぬ魔術はないと知れ、(裏切り者)! 

 

「伊邪那岐神よ、我にいかなる朝敵をも貫く(つるぎ)を授け給え!」

 

 詠唱終了。

 私は引き金を引く。

 

「お前はもう、死んでいる」

 

 夜のコンテナ置き場に銃声が響き渡る。




今作の主人公、JKのくせして実は衛宮切嗣みたいな奴だった件。
良かったらお気に入りとか評価とか感想とかよろしく


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第九話 狙撃手の一撃

初評価あざっす。
もうちょっとクオリティ上がるように頑張ります。


 セイバー、ランサー、キャスターの3騎を遠くから見ている者達がいた。

 

「アーチャー、キャスターのマスターに動きがある」

 

「あぁ、分かってるぜマスター。ありゃあ、セイバーのマスターは死ぬわな。序盤でセイバーが脱落するなんてラッキーだな」

 

 アーチャーと呼ばれた軍服を着ている男はスナイパーライフルを構えており、その横にいるマスターと呼ばれたスーツを着ている男は双眼鏡で敵を観測している。

 

 二人の姿はまるで狙撃手と観測手のチームのようである。

 

「だが、油断してはいけないぞ。ひょっとしたらこの場から逃げ延びて、適当な野良魔術師と契約する可能性もある」

 

「確かにその可能性もあるわな。ただまぁ、キャスターと……どう動くか分からないランサー次第ではこの場で確実に最優のクラスはご退場するだろうよ。期待してるぜ、お二人さん」

 

 彼らは暗闇からひっそりと、ただし鋭い目線で戦場を観察している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銃弾は防御魔術を予定通りに貫通し、橘一樹の心臓に大きな風穴を開ける。そして、力を保てなくなった彼の身体は重力に従って地面へと倒れる。

 

 心臓から流れ出てくる大量の血で、アスファルトの地面を真紅に染める。

 彼はもうすぐ死ぬだろう。

 

「マスター! クソッ、しっかりしろ」

 

 セイバーは氷を砕き、彼の元へと駆け寄る。

 だが、もう遅い。

 彼の死は既に確定した。

 

 ランサーは何やら念話でマスターと話しているようで、今すぐセイバー陣営か私たちキャスター陣営と戦闘する気はないらしい

 

「セイ……バー……ハハッ、まさかこんな序盤で……敗退する事になるとはなぁ」

 

「もう喋るな、バカ。急いでお前の家に帰ればまだ……」

 

「見れば……分かるだろ。俺はもう……ガハッ」

 

「マスター!!」

 

 彼は大量の血を口から吐き、それ以降二度と目を開ける事はなかった。

 そして、彼の手の甲からマスターの証である令呪が消える。

 依代を失った以上、すぐ主人と同じようにセイバーもこの世から消えるだろう。

 

「……さようなら、橘一樹」

 

 私はそう呟き、この場からそっと去ろうとした。

 しかし……

 

「おい、キャスターのマスター」

 

「⁈」

 

 消滅しかかっているセイバーが私の方へと突撃してくる。

 

「せめてマスターの仇は取らせてもらうぞ」

 

 ありえないほどの速さで距離を詰めてきたセイバーは彼の手に握られている西洋剣で私の首を断ち切ろうとする。

 

「あら、(わたくし)のことはお忘れかしら」

 

 しかし、その剣はキャスターの持つ氷の剣で防がれる。

 ……キャスターの氷の魔術、中々汎用性がある。

 

「チッ、魔術師風情が剣士の真似とはな。まぁ良い、今の俺でもお前の貧弱な剣程度へし折ってやる!」

 

 そう言うと、セイバーはより力を込めて自身の剣でキャスターの氷の剣を押す。

 

 このままだとキャスターの氷の剣はへし折れて、キャスターは切り捨てられる事だろう。

 しかし……

 

「あぁ、めんどくせぇ!」

 

 キャスターは自身の氷の剣の表面を少し溶かして滑りやすくする。

 するとセイバーの剣は勢いよく滑り、セイバーは体勢を崩す。

 

 その隙にキャスターはセイバーから距離を取り、さらにセイバーに向けて空気中の水蒸気を凍らせて即席で作った氷の短剣3本をセイバーに向けて射出。さらに氷の剣をセイバーに向けてぶん投げる。

 

「ふーん、流石は最優のクラスと言ったところね」

 

 キャスターの攻撃は確実にセイバーに当たるはずだった。

 しかし、彼は崩れた体勢にも関わらず、身体を無理矢理捻り、なんとか全ての攻撃を躱したのだ。

 

「次はこっちの番だ……!」

 

 再び彼はキャスターに接近しようと疾走する。

 あまりの力にアスファルトの一部が砕け散り、辺りに飛び散る。

 

「凍りつきなさい」

 

 キャスターは自身の陣地となっている周囲の地面を凍らせて、セイバーを足止めしようとするが……

 

「ハッ、そいつはもう食らわねぇよ」

 

 セイバーは跳躍することでキャスターの攻撃を避け、更にキャスターに接近する。

 そして、キャスターを切り捨てんと彼は剣を大きく振り上げ……

 

「終わりだ、キャスターァァァァァァァァァァ!」

 

 剣を勢いよく振り下げるが……

 

 カランカランカラン

 

 そんな音を立てて、彼の剣は手から滑り落ちる。

 そう、まるで()()()()にあったかのように。

 

「ふふっ、(わたくし)って悪戯っ子なのよ、セイバー」

 

「はぁ……マジかよ」

 

 そう言い終わると、キャスターは一瞬浮かべた笑みを消して、冷たい目線をセイバーに向ける。

 

「じゃあ、死になさい」

 

 キャスターは一瞬で作り出した氷の槍でセイバーの心臓を穿つ。

 霊核を貫かれたセイバーは今度こそ消滅する。

 

「ガッ……まったく……今回の聖杯戦争は……中々、クソだったぜ……」

 

「……ランサー、あなたいつでも私たちを殺せたのに……律儀な騎士様なのね」

 

 私はセイバーの消滅を確認すると、後ろを向いてそう言う。

 そう、私たちの後方にはランサーが居たのだ。

 

「……マスターからの命令だ。セイバーを見殺しにしろと」

 

「なるほどね」

 

 確かに、最弱のクラスであるキャスターよりもセイバーを確実に始末した方が良いって訳か。

 

「じゃあセイバーも消滅したし、今から私たちと戦う?」

 

 私はランサーにそう聞いてみる。

 

「……いや私も多少とはいえ消耗しましたし、今夜はここまでにさせていただきます」

 

 そう言ってランサーは霊体化し、どこかへと去って行った。

 

「……キャスター、私たちも帰ろうか」

 

「そうね、そうしましょう」

 

 橘一樹の死体やこのコンテナ置き場の破損の処理は恐らく天野市の教会にいるであろうこの聖杯戦争の監督役に任せよう。

 

 私はそんなことを考えながらM29を懐にしまってこの場を去ろうとした時、凄まじい悪寒を感じた。

 

 とっさに視力を強化し、周りを見てみると……コンテナ置き場から数百メートルほど離れた所にある高層ビルの屋上にスコープの反射光を見つけた。

 

 狙撃手か……狙いは……

 

「キャスター!!」

 

「えっ? ……レイカ?」

 

 私はキャスターを思いっきり突き飛ばす。

 次の瞬間、私の左肩に強烈な痛みを感じた。

 

 そのまま私は地面へと頭から突っ込む。

 立つ気力も湧かない。

 

「あ……キャスター……良かっ……」

 

 キャスターが無事なことを確認した私は意識を手放した。

 

 




ランサー/真名:???

ステータス
筋力:A
耐久:A
俊敏:A
魔力:A
幸運:C
宝具:A++


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第十話 歪みのトリガー

ちなみにこのルートは橘一樹にとってのバットエンドなので、彼にはそうそうに退場していただきました。まぁ、今後書く予定である別ルートではもう少し活躍します、多分。


 走れ、走れ、走れ

 殺されたくなければ走れ

 食われたくなければ走れ

 苗床になりたくなければ走れ

 

 本能が私にそう語りかけてくる。

()()はダメだ。

()()は人では……いや、この世界のモノじゃない。

 この世界にあっちゃいけないモノだ。

 

「あっ……」

 

 しかし、走り続けていて体力が限界を迎えて地面に倒れ込んでしまう。

 早く、早く立ち上がらないと。

 

「……おやおや、もう鬼ごっこは終わりかね?」

 

 しかし、アレの姿が見えた瞬間、恐怖で身体が固まる。

 動け、動け、動け動け動け。

 そう念じたが、足が小刻みに震えるだけだった。

 

「では、大人しく素材になって貰おうか」

 

「あぁ……あぁ……」

 

 ヤツの手がこちらに近づく。

 やけに時の流れがゆっくりに感じる。

 死ぬ前だからかな? 

 

 ……イヤだ。

 こんな……こんな所で……こんな理不尽に……

 

「……るか」

 

「おや?」

 

「こんな所で、死んでたまるかぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 そう叫んだ瞬間、私の視界は眩しい光によって何も見えなくなる。

 すぐに光は収まり、徐々に視界が元に戻って来た。

 

「……まさか、僕が聖杯戦争に召喚されるとはね」

 

 私の目の前には一人の男性が私を守るようにして立っていた。

 髪は白髪で、右手には銃が握られている。

 

「サーヴァント、アサシン。召喚に応じて参上した。さぁ、今度はどんな汚れ仕事だい?」

 

 こうして、七騎()()()のサーヴァントの召喚が終了した。

 残った枠はあと二つ。

 この聖杯戦争の歪みはまもなく表に出てくる事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……視界に広がっているのは草原だった。

 その草原の地面には幾つもの錆びている剣が刺さっている。

 

 それらは錆びているが尚もその神秘が中から漏れ出している。

 当然だ。

 これらの剣は錆びているが、それは使い手が未だ自身の中身に気づかないからである。

 彼女が自身の中身に気付けば、剣は本来の姿にすぐさま戻るだろう……

 

 (わたくし)はここが何処なのかを知るために適当に少し歩いてみた。

 しばらく歩くとこの草原の中心地が見えて来た。

 

 そこにはまるで芸術品の如き美しさを持つ翡翠色の剣が地に刺さっていた。

 そして、その剣の前には着物を着ている、見知った彼女の姿があった。

 ただし、その身長は(わたくし)の知っているより低かった。

 

 しばらくの間、彼女を見ていると彼女は剣を地面から抜き取ろうとその剣の柄を両手で握りしめる。

 

「……貴女はその剣を抜く意味が分かっているの?」

 

 (わたくし)は思わず彼女にそう尋ねる。

 

「えぇ、分かってる」

 

 彼女は迷いなく肯定する。

 

「仮にその最後が報われなくても……貴女はその道を進むの?」

 

「うん」

 

「どうして?」

 

「お父さんと約束したから……あぁ、でもそれ以上に……」

 

 彼女は最後に一言、私にだけに聞こえるくらい小さな声で呟いた。

 

 (わたくし)は一つだけ、分かった事がある。

 

 そんな理由で茨の道を歩むなんて、彼女はとてつもないバカだ。

 でも……

 その理由は、少なくとも(わたくし)には美しく見えた。




マスター情報開示

神塚麗華(主人公)
年齢:17
身長:161cm
性別:女性
体重:56kg
職業:高校生
起源:■■/剣
聖杯への願い:なし

2000年以上続く日本を代表する大魔術師の一族の一つである神塚家の現当主である。しかしながら、彼女自身は魔術回路は19本と少なく一回の戦闘での使用可能な魔術の回数は少ない。ただし、魔術回路の質は非常に高く、さらに本人の覚えている魔術の知識自体は多いため使える魔術の種類自体は多い。また、魔術師としては異端ながら現代兵器の使用も厭わない。あと、剣術もそこそこ嗜んでいる。

マスタースキル

八百万の加護C-
神道を代々信仰している家系故に保有している。Bランク以下の自身の精神に悪影響を及ぼすスキル、魔術を無効化する。

■■E
■■■■■■を祖先とする一族の末裔、それが彼女である。

■■A(■■)

■■■■■EX

■■■■EX


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第十一話 起床

少し、キャスターの過去を少し弄らせてもらいました
え? キャスターの真名知らんって?
嘘つけfgoやってりゃあ絶対分かるだろ


 ……朝日がステンドグラスから入って来て、どこか神聖さを感じる教会の中に2人の男がいた。

 一人は神父で十字架の目の前に立っていた。

 そしてもう一人はスーツを着た男で、何やら教会の椅子に座って小説の原稿を書いていた。

 

「なぁ()()()()()()、今何を書いている?」

 

 そう神父は彼に聞く。

 そして、フォーリナーと呼ばれたサーヴァントはこう答える。

 

「ふむ、今書いているのは……とある島国の少女がその身体を剣にして、我が子孫達を打倒する話だ」

 

「……ほう。まさか、貴様はあの護国の魔術師に倒されたいのか?」

 

「……あぁ。元人間だからな私も。今の歪んだ私に見せてほしいのだよ……例え人間の力が私達と比べると矮小なものだとしても……」

 

 少しの間を置いてこう言う。

 

「その想いは……外なる神をも打倒しうると」

 

 つい昨日の夜、私のエサになるはずの少女がサーヴァントを召喚したしな、と苦笑しながらフォーリナーは付け加えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 憎い

 

 憎い

 

 憎い

 

 ……憎いのならば

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺してしまえ

 

 (わたくし)の方を偉大なる妖精がこちらを見ている。

 もう……全てが遅すぎた。

 彼が今、来たところで(わたくし)は生き残ることも、周りにいる憎たらしい野蛮な兵士を皆殺しにしてやることも出来ない。

 

 今まで頑張って保っていた意識が切れかけて来た。

 少し、ヴィイが憎い。

 

 今まで、一度も(わたくし)の目の前に出てこなかったくせに

 別に(わたくし)を守ってくれなかったのに

 

 なんで今更……

 

 だけど……

 最後の最後に彼が出て来たのがほんの……ほんのちょっとだけ救われた気がして……

 

 気づいたら彼の方に手を伸ばしていた。

 

「ふふっ、後……数秒だけ、だけど……よろしくね……」

 

 彼の頭に(わたくし)の指先に触れる。

 ここにヴィイと(わたくし)の間に契約は成立した。

 

 そこで(わたくし)の意識が暗転し始める。

 

「あっ……」

 

 だが完全に暗転しきるまでの一瞬の間に……

 ふとあの日、無謀にも革命軍に抵抗するためにクレムリンを出て行ったあの宮廷魔術師の姿がヴィイに重なる。

 

 あの人のくれた十字架、一応役に立ったなぁ。

 あの人は……どうなったのかな。

 

 そんな僅かな疑問だけ残して、(わたくし)の意識は完全に暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 私の意識は覚醒する。

 まず第一に私の視界に入るのはよく知った自分の部屋の天井。

「見知らぬ天井だ」なんてことはなかった。

 

 そして、少し身体を動かし横向きにすると私のベッドの端に頭を置いて寝ているキャスターの寝顔が見える。

 良かった。彼女は無事だった。

 ちゃんと守れたんだ。

 

 恐らく、あそこで倒れた私をここまで運んで手当とかをしてくれたんだろう。そして、疲れてそのまま寝落ちした、と。

 まぁこんなところだろう。

 

「ありがとう、キャスター」

 

 私はそう呟く。

 

 ……にしても、良い寝顔してる。

 可愛い。

 

 そして、私は普段ならしない奇行に走る。

 

 そっと、私は手をキャスターの頰に近づけ……

 頰を軽くムニムニと摘んでみた。

 

 うわぁ、凄いモチモチ。

 クッソ、なんか負けた気がする……

 

 同じ女として敗北感を抱きつつも私がキャスターの頰を堪能していると……

 

「……何してるの?」

 

 ……どうやらはキャスター(眠り姫)もうお目覚めのようだった。

 

 




ちなみに今回の話で出てきた宮廷魔術師はfgoで出てくる何処かのクリプターとは1ミリも関係ありません。期待した方、すみません


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第十二話 ■■の加護

お気に入りとUAが順調に増えてて嬉しい。登録者の皆様、ありがとうございます。


「……なるほど。目の前に(わたくし)の顔があったからつい頰を触ってみた、と」

 

「キャスター、あれは上品な肌を私の目の前に晒した貴女が悪い。私はそう思う」

 

「ちょっとレイカ、貴女無茶苦茶ね……まぁ良いわ。で、体調はどうかしら?」

 

 我ながら酷い責任転嫁である。

 んで、体調ね……

 

 私は起き上がり、ベッドから降りる。

 ……そういえば、服が着物から高校の制服に変わってる。

 これ、キャスターが服まで変えてくれたのかな? 

 

 とりあえず、服を脱いで昨夜撃ち抜かれた左肩を見てみる。

 ……傷跡一つない。

 凄い……キャスターが治癒魔術でも使ったのかな? 

 試しに腕を回してみるが痛みもない。

 健康体そのものだ。

 

 ふと、視線を私の机に向けてみる。

 すると、私の机には血で汚れたピンセットと包帯、そしてアルコール消毒液に……私の身体から摘出されたと思われる銃弾が置いてあった。

 

「キャスター、貴女が私の治療をしたの?」

 

「えぇ、そうよ。あと、服も一応変えておいたわ。ただ、服に関してはとりあえず近くにあった制服を着せといたけど」

 

「十分よ、ありがとう。にしても、貴女が治癒魔術を使えるなんてね。てっきりその手の魔術は使えないのかと思ってた」

 

「あぁ、それについてなのだけど……あくまで(わたくし)がしたのは弾丸の摘出までよ」

 

「あれ? じゃあなんで傷跡が……?」

 

「銃弾を摘出した後、すぐに傷口が薄く光り出して……その光の輝きが消えた時には傷は治っていたわね」

 

 光り出した? 

 魔術刻印による治癒かな? 

 いや、にしては綺麗すぎる。

 魔術刻印はあくまで私を死なないようにするだけ。決して傷跡が残らないようになんか配慮してくれるような物ではない。

 

「……自分の身体のことだけど全く分からないわ」

 

「まあでも、別に害がある訳じゃないからとりあえず良いんじゃない?」

 

 ……キャスターの言ってることも最もだね。

 メリットはあるけどデメリットは無いんだからそこまで気にしなくても良いだろう。

 

「にしても、良く弾丸の摘出なんか出来たね。キャスターって見た感じ良い所のお嬢様でしょ? 弾丸の摘出なんて出来る風には見えないけど……」

 

「生前、負傷した兵士を訪問しに病院に行ったことがあるの。そこで弾丸摘出の場面に出くわしたからたまたま手順を覚えてたのよ。まさか、この経験が死後に役立つとは思わなかったわ」

 

 と、キャスターは少々自慢げに言う。

 

 にしても、負傷兵の見舞い、か。

 そして、今まで出て来た情報と組み合わせると……うん。

 キャスターの真名、分かったかもしれない。

 

「ふーん、なるほどね。改めて礼を言うわ。ありがとう、アナスタシア大公女様?」

 

「……正解よ。良く分かったわね、(わたくし)の真名」

 

「結構、分かりにくかったわよ。まさか、ロマノフの契約精霊がまさか第四皇女の貴女と契約してたなんて誰が想像するかっての。ただまぁ……-今まで貴女がちょくちょく漏らしていた情報と……夢で見た貴女の過去、それらを組み合わせていったらここに辿り着いた……ってわけ」

 

(わたくし)の過去、見たのね」

 

「えぇ、気に障ったらごめんなさい」

 

「別に構わないわ」

 

「そう、なら良かった。……まぁとりあえず居間に行かない、キャスター?」

 

「そうしましょう」

 

 そうして私たちは居間まで降りて来たのだが……

 

「あ、麗華おはよー。ちょっと訳あって貴女の家にお邪魔してるわ」

 

 そこには良く見知った少女の姿があった。

 彼女の名前は高原萌(たかはらもえ)

 私の同級生にして友人である。

 

「……どうして貴女がここにいるのよ」

 

 はぁ、頭が痛くなってきた。




-真名解凍-
キャスター
  ↓
アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァ


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第十三話 最凶同盟

「……どうして貴女がここにいるのよ」

 

 私は目の前の短い茶髪の少女、高原萌にそう言う。

 

「えーっと、それは……その……話すと少し長くなるよ?」

 

「長く、ね。良いわよ、話してみて」

 

「昨日の夜、外を歩いてたらたまたま麗華を見つけたんだ。学校休んでるくせに何やってんのかな? って思って着いて行ったら……麗華とそこの……えっと、誰だっけ?」

 

 萌はキャスターの方を見る。

 

「……(わたくし)はキャスターって呼んでくれれば良いわ」

 

「うん、そこのキャスターさんが知らない男の人と殺し合いをしてるのを見てしまったんだ。それで、これ見ちゃいけない奴だ、と思った私は何も見なかったことにして帰ろうとしたら……黒いスーツを着た男の人に追いかけられたの」

 

「黒いスーツを着た男……教会の連中でもないし……魔術師?」

 

「いや、今思うとサーヴァント? ってヤツだと思う。アイツからは人じゃない感じ……いや、この世界にいちゃいけないって感じがしたから。多分、人ならざるサーヴァントなんじゃないかな?」

 

 この世界にいちゃいけない……か。

 そんな雰囲気を出してるサーヴァントなんているかな? 

 うーん、まぁ世界は広いからそう言うサーヴァントもいるか。

 

「まぁ、アイツの正体考察は置いといて……そして、アイツに私は追い込まれて……」

 

「たまたま僕を召喚したって訳だ。そうして、一般人だった僕のマスターは聖杯戦争に巻き込まれた」

 

 一人の男が突如として現れて、そう言う。

 あれは……サーヴァント! 

 キャスターの方を見てみると、あの白髪の俺を睨みつけていた。

 

「このアサシンの言う通り、私はこうして今まで何の関わりもなかった魔術の世界に入った。でも、右も左も分からないからどうしたら良いかな? と思った時にふと麗華が殺し合いをしてたのを思い出した。もしかして、麗華も聖杯戦争の参加者なのかも、と思って貴女の家のインターホンを押して見たの。そうしたらキャスターさんが出てきて……まぁその後何やかんやあってキャスターさんに麗華が起きるまでここで待ってても良いって言われたの」

 

 ……なるほど、なるほど。

 

「キャスター、萌の言う通り貴女が萌達を中に入れたの?」

 

「えぇそうよ。貴女のお友達、敵対する意思が無さそうだし。それに……アサシン陣営と同盟を結べるのは良いと思ったのよ。少し、アサシンは気に食わないけど」

 

「キャスター、あの事は悪かった。ただら僕も突然サーヴァントが出てくるとは思わなくてつい癖が出たんだ、故意じゃない。だから、そろそろ睨むのをやめてくれないか」

 

「はぁ……えぇ、それは分かってます。……こんなに引きずるなんて今回は(わたくし)も大人気なかったわ」

 

 そう言うとキャスターはアサシンのサーヴァントを睨むのをやめた。

 はて、二人の間に何かあったのだろうか? 

 

 それにしても敵対の意思は無い、か。

 キャスターが言うなら本当に彼女達には無いんだろ。

 でも、そうなるとサーヴァントとマスター両方に聖杯への願いは無いってことか。

 

「なるほどね。今回は良いけど、もし私の意識がある時はちゃんと確認とってよ?」

 

「勿論、レイカに意識があるなら許可は取るわ。安心して」

 

 なら良いけど。

 

「ねぇ萌、一応確認するけど貴女は聖杯への願いは無いのよね?」

 

「うん、私そもそも巻き込まれただけだし。急になんでも願いが叶うって言われても困ると言うか何というか……」

 

 うん、萌は嘘をついてない。

 あとはアサシンの方だ。

 

「アサシン、貴方も願いはないのね?」

 

「あぁ、僕はこの聖杯戦争で召喚された異常存在を殺すために召喚されただけだ。別に聖杯に願いを叶えてもらうためじゃない。それに、僕の願いは聖杯では叶えられない。だから、君達と争う気はない。あぁ、聖杯降臨なら安心するといい。僕が消えなくても魂の数は足りる」

 

 魂の数は足りる? 

 異常存在? 

 何のこと……? 

 

 まぁそこら辺は後で聞こう。

 今は大事なものだけ片付けよう。

 

「萌、聖杯戦争の説明は誰かから受けた?」

 

「うん、受けたよ。アサシンとキャスターさんから」

 

「……貴女は聖杯を要らないって言ったでしょ? だったら、教会に保護してもらうのは考えなかったの」

 

「……私はこの戦いからは降りない。とある理由があるから」

 

 とある理由? 

 

「えっと、とある理由って言うのは?」

 

「あんまり言いたくない。けど、麗華に害は無いから。そこは安心して」

 

 そっか。

 じゃあ、わざわざ無理に聞き出す事もあるまい。

 そう思い至ると、私は一枚の紙を懐から取り出し、少々内容を書き足してから萌に渡す。

 

「セルフ・ギアス・スクロール……なるほど」

 

 と、アサシンが呟く。

 あのサーヴァント、魔術の世界の事も知ってるのか。

 

「えっと、これは何?」

 

 萌は一般人だからこの紙のことを知らなくて当然だろう。

 

「セルフ・ギアス・スクロールって言う契約書ね。まぁ魔術的な仕掛けのある契約書だと思って」

 

「魔術的な仕掛け……? その仕掛けってなんなのさ」

 

「契約内容を違えると死ぬ呪いみたいな感じ」

 

「つまり、ここの名前を書く所に私の名前を書いたら……内容を守らないと私は……」

 

「死ぬね」

 

 少し、嘘をついた。

 このセルフ・ギアス・スクロールはあくまで魔術刻印がある相手同士にしか機能しない。

 要するに、魔術師でもなんでもない萌には効果がない。

 

 しかし、萌はそれを知らない。

 だから、本当に死ぬと思って恐れている。

 現に、今萌の顔は真っ青だ。

 

 ただ、アサシンはこれが嘘であることを知っているはずだが……

 

「……」

 

 指摘をしない。

 なるほど、私と同盟を組んだ方が良いから黙ってるのか。

 中々、いい性格をしてる暗殺者だこと。

 

 ちなみに、セルフ・ギアス・スクロールの内容は

 

《神塚麗華は永遠に高原萌に対して如何なる攻撃及び妨害も行わない。その代わりに高原萌も神塚麗華に如何なる攻撃及び攻撃を行なってはならない》

 

 というものだ。

 

 要するに事実上の不可侵である。

 ちなみに永遠だと聖杯が降臨しないはずだと思うかもしれないが、アサシンが先程魂の数は足りると言っていたので永遠にした。

 

 あったばかりのサーヴァントの言う事を信じるのはいけない気がするが、嘘をついている素振りはないし、そもそも嘘をついた所で彼にメリットが無い。

 

「萌、もし私と同盟を組む意思があるならサインして。そうじゃないなら、私たちは敵。今すぐ、攻撃させてもらう。さぁ、どうする?」

 

「……はい、これで良い?」

 

 ……ちゃんと高原萌と書いてある。

 うん、問題はない。

 

「本当に、私と同盟を組んで良かったの?」

 

「もちろん! だって私、何も分からないもん。だったら、麗華と同盟を結んだ方が心強いよ」

 

「そっか。にしても、キャスター陣営とアサシン陣営の同盟か。中々、敵からしたら面倒な同盟だね」

 




明日、今更ながらプロローグを投稿します。


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第十四話 その瞳の先に

 ……俺の目の前には美しい少女がいる。

 その少女の艶めかしく、長い黒髪が自由に靡く。

 その少女の海の如く深い青い瞳はしっかりと討ち滅ぼす敵を見ている。

 俺は、その美しい瞳を最も良い位置で見られる敵に少し嫉妬した。

 "あぁ、俺もその瞳で睨まれたい"

 そんな気持ちで心はいっぱいだった。

 

 そして、彼女の右手に握られている刀が舞う。

 その人を殺すことのみに特化したその剣術には一切の無駄が無く

 機能美のみを追求したものだった。

 しかしながら、俺からしたらそこらの見せるための剣術なんか目にないほどの"美"がそこにあった。

 

 そして彼女の刀が敵の心臓を一撃で貫き、返り血で濡れた。

 やることを終えた彼女は俺たちの方を振り返る。

 彼女の至るところは血濡れており、身につけている着物は少しはだけていた。

 しかし、その程度で彼女の美は侵されない。

 あぁ、女神の如き美とはまさに彼女にこそふさわしい。

 

「藤乃神父、終わりました。にしても、まさか聖堂教会と組むことにはなりませんでしたけど。ところでそちらの方は……」

 

「あぁ、私の知り合いでね。彼は魔術師専門の始末屋だ。もし、君がしくじった時のために保険として連れて来たんだが……必要なかったな」

 

 彼らは何か話しているが、私の耳には届かない。

 あぁ、彼女が欲しい。

 彼女を俺のものにしたい。

 彼女を俺の所有物にした上で、あの神聖不可侵な身体を汚し尽くしたい。

 

 そんな思いに浸っていたら、どうやら解散するらしい。

 俺を通り過ぎる際に、神父は俺にこう耳打ちした。

 

「彼女が欲しいなら、一年後に天野教会に来い」

 

 ははっ、ハハハハハハッ。

 一年後に俺の願いは叶うのか。

 星の如く人の手には届かないこの願いが。

 

 あぁ、一年、一年か。

 とても短い/あまりにも長い

 

 そんな矛盾した思いを抱いた。

 今まで、多くの魔術師の女を力で組み伏せ、汚して来た。

 だが、あれらを犯している時に得られる快楽はあくまで使い捨てであり

 あの女共を自分の物にしたい、とは思ったことは一度もない。

 

「あぁ、楽しみだぁ」

 

 今の俺の顔は、きっと獲物を見つけた時の獣のような顔をしていることだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、あれから一年が経った。

 とても、とても、待ち遠しかった。

 もう一秒たりとも待てない、我慢の限界だ。

 

 令呪も神父から三画もらったし、ライダーのサーヴァントもちゃんと召喚出来た。これで、資格は得た。彼女を、神塚麗華を得る資格を。

 

 だが、天野市の神塚家の屋敷には彼女の気配を感じなかった。

 なんで、どうして

 

「ふざけるな、ふざけるなぁぁぁぁ!」

 

 思わず叫んだ。

 こんな、こんなことが許されるのか? 

 彼女は、まさか聖杯に選ばれなかったのか? 

 

 否、否! 

 そんなはずはない。

 あの女が選ばれないはずはない。

 確かに彼女は真っ当な魔術師としては弱い。

 何故なら、彼女の魔術回路の数が純粋に少ないからだ。

 

 だが、だが! 

 それがどうした。

 その程度で彼女の評価が落ちるもんか。

 彼女に術など要らない。

 あの女に必要なのは一振りの刀だけだ。

 それさえあれば、あれは輝く。

 

 それに、彼女はこの国の守護者であろう? 

 ならば、この聖杯戦争に参加するというのが道理というもの。

 

 だから、だから、彼女は参加しているはずだ。

 ここじゃないだけで。

 

 その後、天野市中を探し続けた。

 そして、ついに。

 なんの変哲もない一軒家。

 そこに彼女は居た。

 

「神塚……麗華ァァァ」

 

 唇の端が吊り上がる。

 見つけた、ようやく見つけた。

 

「ライダー、行け」

 

 さぁ、俺の聖杯戦争の開幕だ。



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第十五話 迎撃戦開始

「……レイカ、外に何か居るわ」

 

 萌との同盟が成立してから一時間ほどたった頃にキャスターがそう言う。

 

「……サーヴァント?」

 

「サーヴァントに近しい反応が3つ、サーヴァントの反応が1つという所ね」

 

 サーヴァント一騎はまだ分かるけど……サーヴァントに近しい反応? 

 なんじゃそりゃ……また面倒臭そうな……

 ていうか、まだ昼間だよ? 

 神秘の秘匿はどこに消えたの? 

 

「……まったく、何処のバカよ。昼間に人の拠点に戦闘ふっかけて来るのは」

 

「だが、そこまでバカでも無さそうだ。……この辺りから根こそぎ生物反応が消えている。恐らく人払いの結界でも貼ったんだろう。最低限の秘匿をする気はありそうだ」

 

 とアサシンが言う。

 まぁ、確かに秘匿はする気はあるのだろう。

 とはいえ、だったら夜にやれよ感が凄い。

 

「キャスター、そいつらに動きはある?」

 

「……1mmたりとも動いてない。出て来い、ってことじゃない?」

 

 なるほど、なるほど。

 わざわざ、そいつらの思惑通りここから出てきてやる義理も何もないが……

 

「どうするの、麗華?」

 

 萌が聞いてくる。

 どうするかは決まっている。

 心底、相手の思惑通りに動きたくはないが夜まで待てないような狂人が何をやらかすか分からない以上、速やかに撃破するしかあるまい。

 

「そいつらの望み通り、迎撃する。あ、萌は二階の私の部屋にでも篭ってて」

 

 萌はあくまで聖杯戦争に巻き込まれただけの一般人。

 戦闘に参加したところで敵マスターに殺されるのがオチだし、何より……なるべく一般人を神秘に関わらせてはいけない。さもないと、彼女は平穏を取り戻せなくなる。

 

「で、でも、私だってマスターってやつだし、一応外に出た方が……」

 

「はぁ、貴女が外に出たところで敵魔術師に瞬殺するだけ。悪いことは言わないから隠れておきなさい」

 

 む、すんなり言うこと聞くと思ってたから意外だ。一般人なんてこんな血生臭い戦いに参加したくないと思うと予想したのだけど……。

 現実味がなくておかしくなってる? 

 それとも……私には言えない目的地とやらに関係がある? 

 

 まぁ、どちらにしろ彼女には隠れてもらうが。

 ……まだ、彼女は納得していないらしい。

 言いたくはないけど……

 

「あのね萌、こうあんまり言いたくはないけど……」

 

「マスター、君に戦場に出られると正直足手まといだ。僕はサーヴァントとの戦いをしている最中に君のお守りをするほどの余裕はないだろうし、それはキャスターと神塚麗華も同じだ」

 

「そ、そっか。うん、私じゃ役に立たないよね。じゃあ麗華、部屋借りるね。……みんな、生きて帰って来てね」

 

 と言い、萌は二階へと上がって行った。

 アサシンの奴、私が言おうとしたこと全部、言っちゃった……。

 

「アサシン、ありがとう」

 

「礼を言われる覚えはない。僕はあくまで君たちの仲が拗れて戦闘に支障が出るのが嫌だっただけだ」

 

 ……冷徹な殺人マシーンみたいな印象を受けるアサシンだが、ひょっとしたら本当は優しいのかな? 

 

 まぁ、それはいい。

 最後に装備の確認をする。

 

 服は……今回は昨日の狙撃で主力魔術礼装だったあの着物は損傷があるから今回は簡易的な礼装化を施している制服を着ている。

 礼装に問題は……無し。

 にしても、この制服の魔術礼装化はあくまで登下校中に魔術師に襲われた時の保険として施したのに……まさか、魔術師と全力で殺りあう時に使う羽目になるとは。ちょっと防御力が不安。

 

 武器は、M29と霊刀。

 どちらも、問題ない。

 

 よし、じゃあ行こうか。

 

「キャスター、アサシン、行くよ」

 

 そうして、私たちは居間を出て、玄関の扉を開ける。

 ……私たちを出迎えてくれたのは、昔の船乗りの格好をした男と真っ黒な制服に身を包んでいるナチの武装親衛隊と思わられる男が三人、そして

 

「神塚麗華ぁぁぁ……ついに、ついに俺の前に……」

 

 狂気を孕んだ目でこちらを見ている、見覚えのある魔術師だった。



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第十六話 野生本能Ⅰ

今回は魔術師側の戦闘シーン。次はサーヴァント側書きます。
あと、お気に入り15人いったらリア友にこの作品の表紙絵を描いてもらいますやったね


 ……彼女があの夜、弾丸から(わたくし)の身を守った時、(わたくし)はまず嬉しさを感じた。

 だって、あの処刑された日の願いが届いたみたいに思えたのだもの。

 でも少しすると、怒りが湧いて来た。

 あの弾丸は確かに(わたくし)に命中していただろう。

 しかし、あれは致命傷にはなり得なかった。

 所詮、丸一日休めば治る程度の傷にしかならなかった。

 でも、彼女は(わたくし)を庇った。

 どうして、自分の身体を大事にしないのか? 

 

 (わたくし)とレイカの関係はあくまでマスター(主人)サーヴァント(使い魔)の一時的なものにしか過ぎない。

 でもどうしてか……彼女のことが不安だ。

 別に(わたくし)が気にする必要も意味もない。

 

 ……とりあえず、この戦闘が終わったらなんであの時(わたくし)を庇ったのか聞いてみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼が私を見る目は狂気的だった。

 まるで、カルト宗教の狂信者が教祖を見ている。

 そんなような目だ。

 

 さらに彼の瞳が血のような赤色だからより狂気さが増す……

 彼の瞳は赤色だったっけ? 

 確か……前、チラッと見た時は普通に黒だった気がする。

 

 そして、歯の一部が牙みたいになっている。

 まさかコイツ……! 

 

「……落ちたものね、徒花零慈。魔術師殺しとしての活動をしてないと思ってたら、まさか死徒になってたとはね」

 

「致し方ないことなんだよ、神塚麗華。君を俺のものにするにはこうするしかなかったのだよ」

 

 徒花零慈がニタァッと笑う。

 ……背筋が凍るような思いをする。

 コイツ……コイツは生かしとくのはこの国にとって害だ。

 

 私はM29を構える。

 腰に差している霊刀はまだ抜かない。

 するとヤツは露骨に嫌な顔をする。

 

「……お前が、お前が銃なんてものを使うのか」

 

「別に貴方だって使うでしょう、魔術師殺し」

 

「……俺は良いんだ。でも、でも、お前には使って欲しくなかったなぁ! ライダー、お前はそこの武装親衛隊とサーヴァントの相手をしろ!」

 

 そう叫ぶと彼は機関銃を巨大なケースから取り出し、乱射する。

 あれ、航空機とかに搭載してあるヤツでしょ。デタラメね、人外は! 

 

Körperliche Stärkung(身体強化)!」

 

 私は身体強化をして疾走し、銃弾を躱す。

 標的の消えた銃弾は、そこら中の塀や壁を蜂の巣にする。

 私の身体に当たっていたら、今頃私の上半身と下半身は綺麗にさよならしていただろう。

 

 走りながら、こちらも反撃として44マグナム弾を三発撃ち込む。

 全弾、奴の頭に当たり、風穴を開けるが直ぐに再生する。

 

「ちっ、私は代行者じゃないってのに」

 

 とりあえず、残りの三発も撃ち込んでからこの辺りで一番分厚いコンクリートブロックの壁を盾にして、一旦リロードする。

 

 コンクリートブロックは大口径の機関銃弾によって少しずつヒビが入っていくがあと15秒は耐えてくれそうだ。

 5秒でリロードを終えて、特殊弾頭を装填する。

 軽やかな金属音を歌のように奏でながら薬莢が地面に転がる。

 

 あと、残り10秒くらいの間は少しだけ気を抜いて休む。

 少し、離れた頃で派手な戦闘音が聞こえる。

 どうやら、キャスター達も戦闘状態に突入したらしい。

 

 残り2秒。

 気を再び引き締める。

 1……

 すぐに疾走できるようにする。

 ……0! 

 

 コンクリートブロックがついに崩れ落ち、かつて私がいた場所に銃弾の雨が降り注ぐ。

 しかし、私には当たらない。

 

 さぁ、反撃だ。

 

「邪悪なる敵を貫け……シルヴァーバレット!」

 

 白銀の閃光が、ヤツの心臓を貫いた。



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第十七話 新大陸の開拓者と黒服の猟犬

 とある家の屋根から戦いを見守っている女がいた。

 彼女は神塚麗華を初めて襲った金髪の女性だった。

 

「まったく、まさか戦力を貸し出すハメになるとはなぁ」

 

 拳銃を手で弄びながらそう呟く。

 ただまぁ、十分な見返りはあったから別段構わないが。

 自分のマスターの手の甲に追加されているだろうもう一画の令呪を頭に思い浮かべながらそんなことを思う。

 

「まさか、こんな所で会うとは思いませんでした、バーサーカー」

 

 いつの間にか、彼女の横には槍を構えた金髪の麗人が立っていた。

 

「騎士王か。お前が何の用だ?」

 

「貴女の同じですよ。彼らの戦闘の偵察です」

 

「なるほどな、だがならば何故その槍をこちらに向けている?」

 

 口の端を上げながら、彼女はそう言う。

 

「偵察中、致し方ない事情があれば戦闘も許すとマスターから許可を貰っています。そして、今は偵察中に敵に合ってしまったという状況。これなら戦闘になっても仕方ないと言うもの……実を言えば一度貴女と戦って見たかったのです、総統閣下殿」

 

「はっ、なるほど。ならば第二次アシカ作戦と洒落込もうではないか」

 

 彼女は拳銃(ワルサーPPK)を構える。

 ここに、語られる事のないもう一つの戦闘が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (わたくし)の目の前には船乗りの格好をした男と3人の黒い制服を来た小銃を持つ兵士が居た。

 

「……貴方、誰ですか? (わたくし)に銃を向けるなんて無礼だわ」

 

「おう、俺はライダーのクラスで召喚されたサーヴァントなんだが……すまねぇな。なるべく上物のお宝(奴隷)は傷をつけないで売った方が高値で売れるんだが……あんた、結構暴れそうだし、まぁ仕方ないわな。っう訳で、頼むぜあんた達」

 

 そう、黒い制服の兵士たちに言う。

 

「「「了解」」」

 

 新たな主人に従順に返事をする兵士たち。

 ……いや、ライダーに従順なのではなくて、前の主人の命令(総統命令)に従順なのだろうが。

 

「あら、貴方自身は戦わないの?」

 

「あー、使えるものはなんでも使う。これが俺の方針なものでね。自分が危険を侵さずに利益を得られるならそれに越したことはないだろ? てことで、俺は遠くから指揮を取るからこれでさよならだ」

 

 笑顔でライダーの奴、帰って行ったわね……

 さて、残った小銃を持っている三人の兵士をどうにかしないと。

 コイツら、さりげなく一騎一騎がサーヴァント並みの霊基を持っている。

 油断は禁物だ。

 

 にしても、コイツらがサーヴァントって気はしないし、誰かのスキルで召喚された幻霊か何かなのかしら? 

 まぁ、コイツらの正体は今は置いておくとしよう。

 

 彼らが銃の照準を(わたくし)一人に定める。

 そして、その内の一人の兵士が小銃の引き金を引こうとするが……

 

「……アサシン、援護は任せたわ」

 

「闇討ちは僕の得意分野だ、任せてくれ」

 

 その兵士は気配遮断を解いたアサシンの拳銃(M950A)の一斉射を喰らい、引き金を引く事なく穴だらけとなり消滅する。

 (わたくし)よりアサシンが脅威だと判断した残った兵士たちはアサシンを先に倒そうとしたが、アサシンは既に気配遮断状態になっており、補足出来ない。

 

「あら、(わたくし)は無視かしら?」

 

 (わたくし)は兵士たちに向けて、複数の氷の槍を射出する。

 当然、兵士たちは躱そうとするが……

 

「なっ!?」

 

 足が凍りついていて避けれず、呆気なく氷の槍は兵士たちの霊核を貫く。そして、兵士たちは消滅し、黒い制服の兵士集団は壊滅した。

 

「……思ったより、呆気なかったわね」

 

 そう呟き、(わたくし)はレイカの方へと行こうとすると

 

「キャスター、まだ居るぞ! 油断するな!」

 

「あっ……」

 

 あの夜のように、(わたくし)の方へと一発銃弾が近づいてくる。

 だが、今回は(わたくし)を守ってくれる人は居ない。

 

「ッ……なめないで!」

 

 氷で即席の壁を作り、なんとか防ぐ。

 

「……囲まれたか」

 

 アサシンの呟きを聞いて、辺りを見回してみると。

 

「何……これ?」

 

 遠くの屋根には複数の狙撃手の姿が。

 そして、路地裏から二十人ほどの兵士が次々と出てくる。

 

 ……デタラメにも程があるわよ。

 

 

 



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第十八話 野生本能Ⅱ

穢れを貫きし銀弾は確実に徒花零慈の心臓を貫く。

 

「アガッ……ア、アァァァァァァッッ!!」

 

吸血鬼に対して強力な特効効果のある純銀性の弾丸は毒となり、彼の身体を内部からボロボロにしていく。

 

彼の身体中から流れ出る血液により、地面を真っ赤に染め上げていく。

 

「ガッ、アッ……」

 

彼は顔から地面に崩れ落ちる。

バシャン、と血の池に。

彼は最後の力を振り絞って立ちあがろうと腕に力をこめるが、純粋に力が足りないのと血で滑るからか少し身体が持ち上がっては再び血の池に落ちるのを繰り返している。

 

……哀れだ。

これ以上、敗者を辱める必要もあるまい。

 

私はM29をホルスターに戻し、霊刀を鞘から抜き、彼へと近づく。

一歩……二歩、三歩……そしてついに彼の目の前へと辿り着く。

 

「……ア……ァ」

 

もはや徒花零慈は虫の息のように見えるが、油断してはいけない。

この状態からでも、逆転しかねないのが死徒というものだ。

心臓を貫いた上で、首を討ち取っておかないと不安で仕方ない。

 

私は霊刀を振り上げる。

 

今回は呆気なかったな

 

なんて思いながら、彼の首を切り飛ばそうと霊刀を振り下ろすと……

 

「……は?」

 

私の身体は宙に浮いていた。

そう、霊刀の刀身は徒花零慈の首に届く前に、何かにぶつかり、その衝撃で私は吹き飛ばされた訳だ。

 

私の身体は私の家の四軒隣りの家の壁をぶち破り、その家の居間に転がった。

 

「ッ……!」

 

肺に空気が入らない。

まずは姿勢をどうにかして、呼吸をしないと。

 

「……ッ!……ガハッッ、ッハァ……ハァ」

 

なんとか立ち上がり、酸素を肺は取り込み始めた。

……左手が逝ったらしい。

だが、右手は動く。なら、なんとかなるだろう。

 

私は右手で霊刀を強く握り締める。

あぁ、身体中が痛い。休みたい。

でも、まぁ彼が休ませてくれるはずもなく……

 

「油断したな、神塚麗華」

 

そう言いながら、彼は私の前に現れる。

もはや、弱っている様子はない。

嵌められたか、チッ。

先ほど持っていた機関銃は既に持っておらず、代わりに彼の左手には巨大な血塗れのバスターソードを握り締められていた。

 

……あのバスターソード、見覚えがある。

確か、以前私に戦いを挑んできたあの外来の魔術師が同じものを持っていたはずだ。

 

「……そのバスターソード、見覚えがあるわ。なんなのそれ?」

 

「あぁ、これか。これは徒花家の本家にあたるとある西洋の魔術師の家系が生み出した、殺した敵の魂をストックしておける魔剣だよ。人間だった頃は俺にとってなんの役にも立たなかったが、今ならかなり役立つな。例えばぁ、お前の銀弾による俺の魂へのダメージをどこの誰かも分からない奴の魂に肩代わりさせたりな」

 

サーヴァント達の援護もまだ受けられない状況でコイツの蓄えた魂を殺し尽くさなきゃいけない訳か。

なるほど、これはめんどくさい戦いになりそうだ。

 

……コイツ相手に私は勝てるのだろうか?

 

そんな疑問が私の脳裏を掠める。

いや、勝てるかじゃない……勝たなきゃいけないんだ。

護国の魔術師として。

 

霊刀の先を徒花零慈に向けて、そのまま全力で突撃する。

まだ、身体強化は続いている。

 

霊刀の刀身とバスターソードの刀身が交わる。

 

「ッ、ハァァァァ!」

 

「フッ、軽いな」

 

私の霊刀の刀身は軽く弾かれる。

 

「……チッ!」

 

「どうした、護国の魔術師。お前の実力は、その程度かァァァァァァァァァァ!」

 

「なめるなぁ!」

 

私は身体強化にほぼ全魔力を費やし、全力でバスターソードの迎撃をする。

再び私たちの剣の刃が激突する。

 

激しい力によって打ち付けられた刃から火花が散る。




マスター情報更新

徒花零慈

年齢:37
身長:185cm
性別:男
体重:73kg
職業:傭兵(魔術使い)
願い:聖杯に興味無し

魔術師界隈でかなり忌み嫌われている魔術使い。救いようのない屑。容姿の美しい魔術師を凌辱している時が一番生を感じるとは本人談。魔術の腕はそこそこ優れているが、現代兵器を使うことも厭わない。魔術属性は火。神塚麗華に勝つための力を得るために死徒になった。


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第十九話 野生本能Ⅲ

……一撃目、二撃目、三撃目。

 

何度も何度も、私たちは刃を交える。

しかし、どちらも傷を付けないで終わる。

 

「どうした、神塚麗華……貴様の実力はその程度か!」

 

「あんまり……舐めてると……痛い目に、合うわよ!」

 

十撃目、私は遂に徒花零慈の剣を大きく弾くことに成功する。

これはチャンス!

 

「はぁぁぁぁ!」

 

霊刀の刃が彼の首を断ち切る。

普通ならこれで彼は死ぬのだろう。

 

だが

 

「ふん、これで二つ目か。まだまだ余裕だな」

 

この一撃は彼のストックしている数多の魂の一つを削ったに過ぎない。

彼の魂本体は一ミリたりとも傷ついていない。

 

彼の首から上が瞬時に蘇生する。

そして、彼は再び何事もなかったかのように剣を振いはじめる。

 

「速度が鈍って来ているぞ、神塚麗華ぁぁぁぁ!」

 

「しまっ!!」

 

彼の今までよりも早い斬撃を迎撃していたら、私の霊刀が吹き飛ばされる。

私の手元にある武器は……M29のみ。

ただ、M29を構えるまでの間に私が真っ二つに切られる方が早いだろうから実質この距離じゃ使えない。

 

なら、どうする。

ここは……

 

「遠つ御祖の神、笑ほほえみ給え!」

 

結界魔術で防ぐしかない!

私の心臓を貫こうとしていたバスターソードの先が結界にあたる。

 

「……! この程度の結界如きぃ!」

 

結界を破壊せんと徒花零慈が力を入れるが、今のところ結界にはヒビ一つ入らない。

なんとかなったか、と私が安堵しかけた時

 

 

パキン。

パキン。

パキン

 

……結界にヒビが……不味い!

 

「ッッッ! ハアァァァァァァッッ!」

 

結界が破られないように全力で魔力を込める。

しかし……

 

パキン。

パキン。

 

ヒビは広がっていき……

 

パリンッ。

 

遂に魔力が持たなくなり、結界が破れた。

 

「ァ……」

 

私の心臓部にバスターソードが突き刺さる。

そんな様子を何処か他人事のように眺めていた。

 

バスターソードが私の身体から引き抜かれる。

 

ドボドボドボといった感じで勢いよく私の身体から血が流れ出ていく。

身体が冷たくなっていく。

その血が誰かの家の部屋の床を真紅に染めていく。

 

寒い、寒い、さむい。

あたたかいばしょ、どこかな?

わたしはあたたかいところにいこうとして。

 

「ぁ……」

 

足に力が入らず、そのまま地面に私の身体は崩れ落ちる。

からだがかたまっていく。

 

いやだ、いやだ。

でも……ねむくなってきたなぁ。

ねちゃっても……いっか。

 

そう思いながら……私は()()を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……終わった、終わった。

 

俺は遂に神塚麗華を打倒した。

神塚家歴代最高傑作を正面から撃ち破った。

橘とは違い、正面から実力で、だ。

 

最初に胸に抱いたのはやはり高揚感だった。

しかし、それはすぐに虚しさに変わった。

あぁ、彼女との戦いはもう終わったんだと

そう考えると少し虚しくなる。

 

でもまぁ、自分のものになるんだから良いだろう。

そう自分に言い聞かせて、彼女の血を吸うべくゆっくりと余裕を持って地に伏している彼女の元へと歩む。

 

ふと、脳裏にある疑問が掠り、歩みをとめる。

 

「そう言えば……なんで彼女は一族の最高傑作と呼ばれていたのだろうか?」

 

彼女は確かに強い、強いがそれは総合的な戦闘能力の話だ。

彼女は魔術師としてはお世辞にも優秀とは言えない。

 

何故なら魔術回路数も、魔力量も少ないからだ。

 

そんな彼女を日本有数の大魔術師の一族たる神塚が最高傑作と呼ぶだろうか。

 

「……全拘束、限定解除」

 

そんな機械音声じみた抑揚のない声が聞こえた。

まさかと思い、思考を辞め彼女の方を見る。

 

「お前は……誰だ……?」

 

思わずそんな疑問が口から漏れた。

 

彼女が、神塚麗華が私の目の前に立っていた。

 

それは良い。

 

彼女ならそれくらいはあるかもしれない。

 

彼女の身体には傷一つ残っていなかった。

 

これもまだ良い。

 

治癒魔術でもかけたのかもしれない。

 

だが、その雰囲気はなんだ?

さっきまでのとはまるで別人。

 

というか、この雰囲気は人のものか?

そんな疑問すら出てくる。

 

彼女の()()()()がこちらを見る。

思わず畏怖の念を抱く。

 

「……我が名は神塚麗華。それくらい分かるだろう?」

 

……違う、違う。

断じてお前は神塚麗華などではない。

 

コイツは……コイツは早く殺さないと。

本能がそう叫ぶ。

 

その本能に従い、彼女へバスターソードを振り下ろす。

 

トレース(神剣作成)……」

 

あと少しで、彼女を切り伏せられる。

そう安堵した瞬間……

 

オン(開始)

 

いつの間にか、彼女の手に握られていた翡翠色の剣によって俺の剣が砕け散っていた。




モチベーション維持にも繋がるので、もし良ければ評価やお気に入り登録の方をお願いします。


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第二十話 リベンジ

お気に入りが15人になりました。読んでくださっている皆様、ありがとうございます。今後もよろしくお願いします。


「キャスター、僕はスナイパーをやる。突撃兵を君に任せても良いかい?」

 

 アサシンが(わたくし)にそう言う。

 なるほど、確かに暗殺者である彼は正面切って多数の地上の突撃兵を相手取るよりは屋根上の狙撃手を後ろから奇襲する方が良いだろう。

 問題は…… (わたくし)もまたキャスターという正面切っての戦いに向いていないクラスであることだ。

 

 だが……あの黒服の奴ら、霊基こそ英霊並みだが身体能力自体は普通の歩兵程度しかない。

 なら、(わたくし)でもなんとかなるだろう。

 それに……

 

「えぇ、分かったわ。地上の兵士は任せて」

 

 ここでスナイパーを放置すればもしかすると、レイカが狙撃される恐れもある。

 

「そうか」

 

 そう言うとアサシンは気配を消し、狙撃手達がまとまっている地点へと行ってしまった。

 

「……武装親衛隊、前進!」

 

 上級兵士と見られる兵士がそう叫ぶと、一斉に(わたくし)へと小銃を発砲する。

 ダダダダダとアサルトライフル(STG44)サブマシンガン(MP40)、それに機関銃(MG42)の銃口からマズルフラッシュが輝き、大量の銃弾が(わたくし)に向かってくる。

 

 ……生前の(わたくし)なら、数秒後にはなす術もなく蜂の巣にされて見るも無惨な死体へと変わっていただろう。

 

 しかし、今はこの子(ヴィイ)がいる! 

 

「ヴィイ、吹雪を!」

 

 ふと、もし失敗したらという想像が脳裏をよぎって、つい怖くなって目を瞑りそうになる。

 先ほどの想像通り、あの時と同じように……

 銃弾を目の前にするとどうも弱気になってだめだ。

 

 ダメよ、(わたくし)。もう、(わたくし)ただの皇女(守られる側)じゃなくて、サーヴァント(戦う側)なのだから。

 

 そう自分を鼓舞して、くだらない妄想を振り払う。

 

 (わたくし)を中心として氷の混ざっている強力な竜巻を起こす。

 すると、正確に(わたくし)の方へと飛んできていた銃弾は竜巻の強風によって弾道がずれ、あらぬ方向へと飛んでいく。

 

 そしてまた、前方の方に突出していた兵士の一部は竜巻の強風によって勢い付いた氷に身体をズタズタにされて絶命し、粒子となって消滅した。

 

 敵兵士(野蛮人)達から貰った銃弾のお返しとして、(わたくし)

 氷の槍を大量に射出する。

 5人の兵士が槍に貫かれて即死、10人の兵士が負傷する。

 

 残り負傷兵が10人。

 このままなら押し切れる! 

 

「貴方達、ドイツ兵でしょう? (WWⅠ)は貴方達に私達(ロシア帝国)は痛い目を合わされたけど、今はまるで逆ね。フフッ、いい気味だわ」

 

 余裕が出てきたからか、(わたくし)はそう言う。

 しかし、その慢心が良くなかった。

 

 彼らが再び何かを撃とうとしている。

 まぁ、どうせまた銃弾だろうから氷の盾で防げるだろう。

 そう判断し、(わたくし)は辺りの水分を凍らせ地面から氷の壁を生やし、氷の盾をつくる。

 

 しかし……

 

「パンツァーファウスト!」

 

「え?」

 

 彼らが使用したのは携帯式対戦車擲弾発射器、パンツァーファウスト。

 銃弾に対しての防御を想定した壁をパンツァーファウストの弾頭は食い破り、(わたくし)の目の前で炸裂する。



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第二十一話 神剣解放

「……ガハッ」

 

血反吐を吐いて、倒れる徒花零慈。

なんだ、大したことなかったな。

なんて無感情に思った。

 

やはり、機能制限というのは大きいのだろうか?

それとも……昔のわたし(殺戮人形)今の私(人間)では何か違うのか?

 

まぁ、殺戮人形の頃の残り滓程度のわたしじゃ考えても意味ないか。

それは私の仕事だろう。

とりあえず、わたしは敵を殺しまくれば良い。

 

さて、キャスターの方の援護にでも行こうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

瞼を開くと、空が見えた。 

 

あぁ、そうか。

確かよく分からない弾頭に氷の盾が破られたんだ。

 

そして、それが爆発して……吹き飛ばされて横たわっているという訳か。

 

「ッッ! 痛い、わね」

 

身体を起こすとあらゆる箇所が痛い。

ドレスも所々破れている。

ボロボロになっちゃったわね。

 

黒服の兵士達が(わたくし)に近寄ってくる。

……ここでやられてたまるもんですか!

 

「……凍りなさい」

 

油断している兵士三人を凍らせてからその氷の彫像を破壊する。

あと七人……!

なんとかやらないと……

 

銃弾が再び(わたくし)に降り注ぐ。

また、先程と同じように氷の盾を展開する。

ただ、魔力量があまり無く荒い盾を速攻で作っただけなので、先程まで防げていたただの小銃弾が当たるごとにヒビが入り始める。

 

このままだと割れてしまう。

……宝具を使う?

 

確かに(わたくし)は防御系宝具を持ってはいる。

ただ、今の魔力量では宝具展開は現界の維持に支障が出てしまう。

なら、宝具使用はまだすべきではない。

 

「クッ……アァァァァァァッッ!!」

 

使える魔力を全てこの氷の盾に回す。

 

お願い。

 

バキッ。

 

もってちょうだい……!

 

バキバキッ

 

パリンッ

 

……氷の盾が割れる。

 

銃弾が(わたくし)に向かって飛んでくる。

あぁ、また(わたくし)、銃殺されるのね。

 

……ごめんなさい、レイカ。

 

もう、目を開きたくなくて瞼を閉じる。

 

ほら、(わたくし)を殺すなら早くしなさいよ。

 

早く。

 

早く。

 

早く。

 

……

 

…………? おかしい。

まだ、(わたくし)は生きている。

銃弾に貫かれた痛みも感じない。

 

恐る恐る、瞼を開ける。

 

すると……

 

「キャスター、大丈夫?」

 

あぁ……

 

あの夜、(わたくし)を助けてくれた人が見える。

 

「レイカ……えぇ、なんとか大丈夫よ」

 

翡翠色の剣で銃弾を全て叩き落としている。

……こんなに身体能力、高かったかしら?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……どうやらキャスターはピンチだったようだ。

間に合ってよかった。

間に合わなかったら、彼女(今の私)に殺されかねないからね。

わたしとしてはキャスターなんぞどうでも良いんだけど。

だって、守る対象(日本人)じゃないし。

 

黒服の兵士が放つ銃弾を弾きながらそう思う。

 

さてさて、いい加減この鬱陶しいゴミどもをさっさと消し飛ばそう。

 

「キャスター、3秒くらい銃弾を弾いてくれない?」

 

出来る限り、彼女の知る神塚麗華と同じ口調でわたしはそう言う。

 

「3秒くらいなら……なんとかなるわ」

 

「んじゃ、よろしく」

 

薄めの氷の盾が私たちの前に展開される。

 

深呼吸をして、自身の身体を落ち着かせる。

よし……。

 

魔術回路、全五十九本起動。

……うち四十本は今までしばらく使って無かったから本調子とは程遠い。

仕方ない、コイツの出力を落とすことにしよう。

 

剣を振り上げる。

 

「…………神を斬り殺し(あまの)

 

これは我ら神塚の祖先神から授かりし、神剣の究極の一撃。

 

勝利の剣(おはばり)!!」

 

私たちの視界は青白い閃光で塗り潰された。



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第二十二話 元通り

 ……青い閃光が徐々に弱まっていく。

 光が消えたので目を開くとちゃんと敵は全て殲滅されている。

 

 やはり、わたしの愛剣(天之尾羽張)は頼りになるなぁ。

 

「……その剣、何? 人が持ってて良いものには見えないのだけれど」

 

 キャスターがわたしの持っている剣を指差してそう言う。

 

「これは……天之尾羽張(あまのおはばり)。わたし達神塚の人間が継承している神剣だよ。まぁ、継承しているのはあくまで原型(エッセンス)だけなんだけどね」

 

 ちなみに、わたし達神塚の人間の身体の7割は天之尾羽張を作り、使用するための機能に割かれている。

 だからまぁ、わたし達は感情とかが無かったり薄かったりするわけだ。

 そう考えると、感情を持つことを許されている今の私は結構幸せ者なのではないだろうか? 

 

 ……うん、考えるのやーめた。

 まったく、このリミッター全解除状態で余計なことを考えるとすぐに頭が痛くなる。

 

 さてさて、やる事も終わったし元に戻りましょ。

 じゃあ、あとは頑張りなさいな……今の私(幸せな私)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レ……イカ……レイカ……ねぇ、聞いてる?」

 

「ん……へぇっ? どうしたのさキャスター? そんな大声出して」

 

 何を言っているか分からないかもしれないが、聞いてくれ。

 気づいたら辺りの建物という建物が倒壊していて、アスファルトの地面に10mくらいの割れ目が出来ていた。

 

 なんだこの世紀末世界。

 訳が分からんぞ。

 しかも、なんかキャスターに問い詰められているみたいだし。

 

「どうしたのさ? 、じゃないわよ! そのよく分からない、いかにもヤバそうな天之尾羽張とかいう剣の説明を早くしなさい! 神剣って何よ、神剣って……そんなの人間が持ってはいけないものでしょう」

 

「はぁ、その剣ってどの剣よ? 私の持ってた霊刀ならどっかに吹き飛ばされて無くなっちゃったし……って、なんじゃこりゃぁ!」

 

 いつの間にか、私の手には翡翠色の剣が握られていた。

 こんな剣、初めて見るなぁ。

 でも、なんだろう。初めて見る剣のはずなのにこの剣が視界に入っているだけで妙に安心する。

 

 不思議だなぁ。

 

「なんで貴女がそんなに驚いているのよ……貴女が自分で作ったものでしょうに」

 

「……え? こんな明らかに神性を感じる凄そうな剣を私が作った? そんなまさか」

 

「そんなまさか、があったのよ、実際に。……まさか、貴女覚えてないの?」

 

「うん、まったく。そもそも私の記憶、徒花零慈と戦っている所までしかないんだけど」

 

「嘘……そんな前から記憶がないの? 一体、どういうことなの……?」

 

 私が一番知りたい。

 

 そう言えば、徒花零慈はどうなったのだろうか? 

 ……まぁ死んだのかな? それをやったのは……私、なんだろうな。

 

「……あっ」

 

 突如として、例の剣が光の粒子となって崩壊し、消え去った。

 

「消えた……わね」

 

 はぁ。まったく、何があったのやらか。

 




スキル(神塚麗華)解凍

■■■■■EX→神剣の加護EX

■■■■EX→神剣作成EX


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第二十三話 裏舞台

ちなみに、表紙絵の依頼はキチンとしておきました。送られてくるまでまぁ気長にお待ちください。


……東京のとある場所。

 

そこにある何故かほとんどの人が寄り付かない建物の薄暗い部屋に三人の男と一人の少女が話し合いをしていた。

 

「ふんっ、まさか聖堂教会の連中が我々に泣きついてくるとはな。猫の手も借りたい……いや、異教徒の手も借りたいと言った所か」

 

と高そうなスーツを着ている青年が皮肉げにそう言い捨てる。

 

「まぁまぁ、そう言うものでもない。それだけ聖杯戦争とは被害が出るものなのじゃよ」

 

その青年をかなり歳を取ったと思われる、黒い和服を着ている老人が宥める。

 

「まぁ、天堂(てんどう)の御長老がそう言ってることだしさー。どうせ、支援要請は受けるんでしょう? 結論も実質出てるようなもんだし、もう私帰っても良い?」

 

と赤いドレスに身を包んだ少女が言い放つ。

 

「お前は気楽で良いな、夢想(むそう)

 

と先程の青年が苦笑しながら少女に言う。

 

「いやぁ、私たちが管理してる土地には問題児が多いもんでね。平和()な君たち後藤とは違って」

 

「なんだと、テメェ……そこまで言うんなら俺の魔術なんて効くわけはねぇよなぁ!」

 

「はっ、当たり前でしょ。夢想の名が穢れるから、アンタみたいな田舎魔術師の攻撃なんて喰らうわけないでしょ。良いわ、本当の魔術ってヤツを見せてあげる……!」

 

両者の周囲は膨大な魔力の渦によって、空間の一部が僅かながら歪む。

大魔術が飛び交う大惨事になるかと思われたが……。

 

「やめろ、御長老に迷惑がかかる。やるなら外でやれ」

 

今まで椅子に座っているだけで沈黙を保っていたコートを着ている男がそう言う。

 

「……まぁ、良いわ。ここは引いてあげる」

 

と夢想と呼ばれた少女はそう言い、椅子に座り直す。

 

「たかだか天堂の腰巾着が俺たちに意見するのか?」

 

「……」

 

「チッ、まぁ良い」

 

そして、後藤と呼ばれた青年も椅子に座る。

元の状態に戻った所で老人は口を開く。

 

「若いもんは威勢が良くて良いのぅ。昔を思い出すわい……まあ、それは良い。さて、聖堂教会の支援要請を我々極東神秘連盟が受けるのに反対するものは居るか?」

 

……誰一人として、喋る者も手を挙げる者も居なかった。

 

「ふむ、ならば後で、支援する旨の内容を聖堂教会に連絡しておこう。さて、次の議論に行こう。こちらが本命だ……現天野市のセカンドオーナーの橘家当主を討ち取った神塚を天野のセカンドオーナーに再任命するかどうか……皆はどう思う?」

 

「後藤家当主として俺は賛成だ。だって麗華の奴、憎き橘を討ち取ったんだろ? なら、問題ないさ」

 

「夢想家当主として私も賛成です。麗華ちゃんには借りもあるし……ね?」

 

「私は御長老の判断に従います」

 

「ふむ、ワシは賛成じゃ。ならば、決まりじゃ。天野の聖杯戦争が終わり次第、神塚家を天野市セカンドオーナーに任命する」




今回の話の内容は三ルート完結後のアフターストーリーに関わってきます


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第二十四話 観戦者

 ……私は麗華の部屋から、一人安全なところにいる。

 なんか、悔しいな。

 みんなは命をかけて戦ってるのに。

 

 まぁ、心の奥底では分かってる。

 私なんかが外に出て行っても迷惑にしかならない。

 私はここにこもって、アサシンを現界させるための楔としての役割だけを果すのが身分相応というヤツだろう。

 

《マスター、敵の掃討が完了した。君のお友達の方も敵を倒したようだし、任務終了だ。さて、次はどうする?》

 

《……とりあえず、帰還して》

 

《了解》

 

 アサシンとの念話での会話が終わる。

 

「はぁ……嫌になっちゃうなぁ」

 

「辛気臭い顔してるわねぇ、萌」

 

「うわぁ! ……ってなんだ、麗華か」

 

「なんだとは何さ、なんだとは。あ、戦闘は無事勝利で終わったよ」

 

 麗華が帰って来た。

 彼女も疲れているだろうに、そんな気配さえ出さない。

 やっぱ凄いなぁ、麗華は。

 

 まるで、聖人の如き優しさ。

 他人をさも当然のように救う。

 他人を救う余裕のある人間というのはほとんどいないってに。

 

 でもさ、彼女も人間だからさ。

 その裏では疲弊しているのだ。

 

 だからこそ……

 私は彼女を助けたいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キャスター陣営の拠点がよく見える高層ビルの屋上。

 そこに俺たちは陣取り、ライダー陣営とキャスター陣営の戦いを観察していた。

 

「……良かったのか、アーチャー?」

 

 俺は隣にいるスナイパー、アーチャーに話しかける。

 

「何がだ?」

 

「あのアサシンを見逃したことだ。ヤツ、確実にこちらに気づいてたぞ。ひょっとしたら、後からここに来るかもだ」

 

 そう、俺が言うとアーチャーは笑いながらこう返した。

 

「あー、その心配はいらねぇよ。ヤツは俺と似てるタイプだ。敵にむやみやたらと突っ込んでくるタイプじゃねぇ。相手のことをじっくり観察してから、絶対にやれる! って時に一発で仕留めるってタイプな」

 

 まぁ、歴戦の兵士たるアーチャーが言うならばそうなんだろう。

 さて、ライダー陣営とキャスター陣営の戦いも終わったしここら辺が引き時だろう。

 俺は双眼鏡を下ろして、しまう。

 

「アーチャー、拠点に帰還するぞ」

 

「りょーかいっと」

 

 アーチャーと俺は屋上から出て、ビルのエレベーターに乗る。

 1と表記されたボタンを押してから閉を押す。

 

 エレベーターが地上に着くまでの暇な時間。

 しばらくの間、沈黙が場を支配するがアーチャーが口を開く。

 

「なぁ、マスター。あんたの願いはまだ変わらないのか?」

 

「……変わらんよ。俺は女王陛下に忠誠を誓った身。連合王国のために聖杯を使わねばなるまい」

 

「一つだけ忠告だ。あの大戦で真っ先に死んでいったのは……あんたみたいな愛国者だったよ」

 

 アーチャーがそう言い終わった時、ちょうどエレベーターのドアが開いた。

 



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第二十五話 拠点探し

UAは順調に増えてるけどお気に入りが増えねー。
あ、あと最近あんまり面白い場面ないかもだけど次話で戦闘シーン入るから許して


 ……さて、とりあえずライダー陣営のマスターは討ち取ったし、ワラワラと湧いて来てたナチスの武装親衛隊員も倒した。

 それは良い。特に犠牲も出さずに脅威を撃退出来たんだ。

 それは喜ぶべきだろう。

 だが……

 

「はぁ……」

 

「どうしたのよ、レイカ? ため息なんてついて」

 

「君のマスターもため息も吐きたくなるさ。こちらがこの戦いで得たものはサーヴァントに捨てられたイカれたマスターと恐らくバーサーカーがいる限り無限に湧くであろう武装親衛隊員の首だけだ」

 

「要するに、こっちはバーサーカーの最強能力の情報以外特に何も得てないけど、向こうはそこそこ有用な情報を得た……ってことね。なるほど……だからこんなに」

 

「悪かったわね、暗い顔をしてて」

 

 アサシンとキャスターの言う通りである。

 私がテンション激落ちなのは正しくそこが原因である。

 しかも、唯一得られたバーサーカーの能力も正直知ったからと言ってじゃあ対策出来るかというと……まぁ無理。

 

 別に武装親衛隊員を呼べる能力、それは強力な能力かつ弱点が無い。

 まぁ、この能力があることを知れば警戒することは出来るが……そこ止まり。

 

 こちらの手札をかなり晒した対価にしてはちょっと、いやまぁまぁしょっぱい。

 

 挙げ句の果てには私の握ってた剣の謎も未だに解決していない。

 あぁ、リビングの机に積み重なっている本の山を見て、さらにテンションが落ちる。

 

「ま、まぁ、ほらとりあえず敵を撃退出来たんだし、良かったじゃん。元気だして、麗華」

 

 うん、まぁ萌の言う通りか。

 ここでウジウジしててもしょうがない。

 とりあえず、次の問題について話そうか。

 

「ま、それもそうだね。よしっ、とりあえず四人で今後の話しをしようか……まずは拠点についてだね……」

 

「拠点? ここの家じゃないの?」

 

「……キャスター、私の家の周りは今どうなってると思う」

 

「それは……あぁ、そう言うこと」

 

 納得してもらえて何より。

 

 まず、わざわざ神塚の屋敷ではない家を拠点として使っていた。

 旧セカンドオーナーという本来なら拠点がバレるのが確定である私の拠点が分からなくなるのはとんでもないアドバンテージであった。

 しかし、今やどっかの誰かのせいでほぼ全ての陣営にバレてしまったことだろう。

 それは良くない。

 

 次に私に地方自治体から強制退去命令が出された。

 うん、これは仕方ないよ。

 だって、先程の戦闘の余波のせいで家から一歩出たらさながら世紀末世界である。

 

 そんな訳で私は拠点を変えなければならない。

 

「……萌は帰れば良いだけだね」

 

「うん。私とアサシンは私のアパートに帰るよ。お世話になりました」

 

 というわけで拠点で悩むのは私とキャスターだけだ。

 

 ……当てがない。

 流石に今すぐ家買うとか出来ないし……うーん。

 

「ビジネスホテルかなぁ」

 

「ビジネスホテルは良い判断だ。僕もおすすめする」

 

「キャスター、ちょっと住み心地が悪くなるけど大丈夫?」

 

「えぇ、それが必要なことなら仕方ないわ」

 

 まぁ、キャスターも同意してくれたし、アサシンのお墨付きも貰ったし拠点に関してはこれで良いか。

 

 じゃあ、次は……

 

「じゃあ拠点はとりあえず解決したってことで……次の問題は」

 

「次、私たちが倒す陣営について、だ」




次話から週一投稿になります。(毎週水曜日投稿)


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第二十六話 女王陛下のネズミ

ひ、久しぶりにお気に入りが増えてる……ありがたい……


……いつも通り任務を終えて、俺が何年も前から使っている拠点、まぁ拠点と言ってもただの天野市にあるアパートの一室だが、に帰って来るとアーチャーが真剣な顔をして自身のリー・エンフィールド(相棒)をバラしてメンテナンスをしていた。

 

珍しいな、今の時間はいつも銃に触れてないだろうに。

 

「やたら精が出るじゃないか、アーチャー。一体どんな風の吹き回しだ?」

 

「……いや何、ちょっとした感でな。今日の夜、この戦いにおける俺の命運が決まる気がしてな」

 

「ほう。で、そんな命運を決める戦いの相手は誰だと思う?」

 

「……キャスター陣営とアサシン陣営のタッグ、多分こいつらと今日ぶつかる。キャスターのマスターは恐らく俺を優先的に倒そうとするはずだ。もう二度と、他人との戦闘中に肩をぶち抜かれたくねーだろうからな」

 

キャスターのマスター、神塚麗華……か。

この聖杯戦争に参加しそうなヤツを調査していた時、彼女の情報も見た。

 

幼くして、この国を守護する神塚の当主になった少女。

なんとなく自分と似ている気がした……連合王国に、女王陛下に絶対的な忠誠を誓っている自分と。

 

「ハッ、お前もガチの顔になってるじゃねぇか。……やっぱり、同じ愛国者として負けられないってか?」

 

「……あぁ。彼女に負ける、それすなわち女王陛下の顔に泥を塗ることになる。負けられないさ、絶対に」

 

「……俺には分からねぇな。あの時代、あの国出身の俺には。大国生まれの人たちは愛国心を持てるなんて羨ましいことで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私たちの新たな拠点となった、天野駅近くのビジネスホテルの一室。

そこで私は、小さめの机に広げた地図と睨めっこしていた。

 

「……連絡、遅いわね」

 

「……来た」

 

私のスマホから着信音がなり響く。

 

「……萌、どうだった?」

 

「A地点、敵影無し。次行って来るよ」

 

「えぇ、よろしく。気をつけてね」

 

通話終了。

 

A地点……秋風タワーズホテルはハズレらしい。

萌のサーヴァントであるアサシンがそう判断したなら間違いないだろう。

彼、スナイパー探しとか得意っぽいし。

 

私はそんな事を思いながら、地図上の秋風タワーホテルの位置にバツ印を付ける。

 

……あの後、どの陣営と次に戦うかを話し合った結果、アーチャー陣営と戦うことに決定した。

 

遠距離からライフル銃で正確に相手を狙い撃ち出来る高度な狙撃能力は脅威でしかない。

他の陣営と戦っている時に狙撃されたら迷惑極まりないし。

 

で、この天野市で狙撃に適した場所といえば高層ビルの屋上。

あそこからなら、街を一望出来るし、夜にあそこに来る人はほとんど居ないし、狙撃スポットとしてここを使わない訳はないだろう。

 

という訳で、現在偵察能力に優れているアサシンとそのマスターである萌に天野市中のビルを調べてもらっている。

 

私たちは、昨日のライダー陣営との戦いでのキャスターの損耗具合を鑑みて、アーチャーを発見するまで待機……まぁ一応司令部の役割をしている。

 

さて、今の時間は19時……今日中までに見つかればいいけど。



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第二十七話 ガリポリの暗殺者Ⅰ

はい、アーチャーの真名はタイトルで分かりますね()


「……やっぱりな」

 

天野市のとあるビルの屋上から、俺はライフル銃(リー・エンフィールド)に装着しているスコープを覗きながらそう呟く。

スコープに写っているのは、ここから1km離れた別の高層ビルの屋上を警戒しながらまるで何かを……いや、誰かを探しているかのように歩き回っている男女のペアだ。

 

男の方は知っている。

アイツはアサシンのサーヴァントだ。

という事はあの少女はアサシンのサーヴァントであろう。

 

……彼らの同盟相手と思わられるキャスターのサーヴァントとそのマスターは近くにはいない。

どこかに隠れているのだろうか?

まぁいい。じきに姿を現すだろう。

 

やはり、俺の感は正しかったという訳だ。

喜ぶべきなのか、悲しむべきなのやら。

 

まぁそれはいい。

 

この戦いは、彼らに近づかれたら俺の負け、彼らが近づく前に彼らを始末出来れば俺の勝ち。

世界大戦とは違い、分かりやすくて結構。

さぁ、戦闘開始だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……麗華、C地点はハズレだね。次は……D地点、最後のビルだね」

 

萌から連絡が来る。

次が最後のビルだ……恐らくそこにアーチャーとそのマスターがいるはずだ。

 

「……萌、そこからD地点は見えるよね?」

 

「うん、見えるよ」

 

……もし、D地点にアーチャーとそのマスターが居るなら間違いなく、C地点の屋上にいるならもう既に萌達に気づいているはず。

とりあえず、狙撃されないように萌を下がらせるか。

 

「……萌、あなたが狙撃されるかもしれないからD地点の屋上から見えないところに行って」

 

「もうそうしてる。私だって頭に風穴を開けられたくないからね」

 

「それは良かった。あとは……」

 

アーチャー達が逃げないように牽制をする必要がある。

……アサシン一人にD地点のビルに突撃させるか?

それはリスクが高いかもしれない。

ひょっとしたら、ビル内にトラップが仕掛けられているかもしれない。

これは聖杯戦争、他の人が住んでいるビルだから仕掛けなんてないと判断するのは良くないだろう。

屋上へ続いている階段にクレイモアを設置することぐらい平気でやってのけるかもしれないし……まったく聖杯戦争はイカれてる。

 

あと、取れる選択肢はアサシンにアーチャーと狙撃戦をすること、だが……。

それこそリスクが高い、というか高すぎる。

 

かといってアーチャーに対して何もしなければ、私とキャスターがD地点に着く頃には何処かにトンズラしてしまうだろう。

 

うーん、どうしたものか。

 

「神塚麗華、聞こえるか?」

 

電話からアサシンの声が聞こえる。

 

「君たちがこちらに来る前に僕があのビルに突入する。安心してくれ、策はある。少なくとも、君たちが来るまでヤツらを足止めするくらいなら問題ない」




次話は20日に投稿します


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第二十八話 ガリポリの暗殺者Ⅱ

1日遅れました、すみません。
あと、投稿頻度を不定期にさせていただきます(失踪ではないです)


 夜の静寂と暗闇が支配する街の路地裏。

 そこを頭を低くしながら、走る男が一人いた。

 男の手には長年、戦場を共にしてきた愛銃の一つが握られていた。

 

「……にしても、サーヴァントというのは便利なものだ」

 

 生前は狙撃手を目の前にして、真っ直ぐそちらへ突撃なんて事は出来なかった。

 当たり前だ、そんな事をすれば即頭を抜かれて終わり。

 そんなバカみたいなことをするヤツは、新兵か自殺志願者くらいなものだろう。

 

 だが、今の自分はアサシンのクラスのサーヴァント。

 そう、アサシンのクラスのサーヴァントは便利なもので気配遮断と呼ばれる固有スキルを持っている。

 コイツは攻撃態勢に移行しない限り、敵に発見されにくくなるというまさしく僕にふさわしい能力だ。

 しかも、僕の気配遮断のランクはA+。

 敵がどんな優れた狙撃手だろうが、発見されることはほぼないだろう。

 

 実際、敵の狙撃地点から射線の通っているこの路地裏を堂々と走っても、銃弾の一発も飛んでこない。

 

「ここか」

 

 そして、ついに目的のビルの入り口まで辿り着く。

 

 まず、ビルに近づいて分かったことがある。

 それはこのビルの全体に大規模な魔術がかけられているという事だ。

 ライフル銃を使う時代のサーヴァントが魔術を使えるとも思えないから、やったのは、マスターの方だろう。

 この感じは……睡眠と防音の効果がある魔術だろう。

 だが、自分はサーヴァント。

 その程度なら問題ない。

 

 というか、それはこちらとしてもありがたい。

 力技が使えるから、面倒な鍵開けをする必要がなくなった。

 懐からプラスチック爆弾を取り出し、それを管理者用入り口のドアに取り付ける。

 

 自分が爆発に巻き込まれるなんていう間抜けなミスを犯さないように、十分に距離を取ってから……爆弾の遠隔スイッチを押す。

 

 すると、派手な爆発音がしてドアは木端微塵に吹き飛ばされた。

 さて、これからは彼らが仕掛けた罠だらけの階段を登らなければならない。

 エレベーター? そんな絶対に罠が仕掛けられていて、逃げ場のないものを使うわけがない。

 

「さて、お手並み拝見といこうか、名も知らぬスナイパーさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、アーチャー」

 

 俺のマスターが俺を呼ぶ。

 分かってるよ、どうせあの爆発音だろう? 

 

「大丈夫だ。それより、マスター。ちと、お前さんには荷が重い頼みをして良いか?」

 

 まず、十中八九今突入したのはキャスター陣営ではない。それと同盟を組んでいる相手、アサシン陣営だ。キャスター陣営が爆弾なんて持ってないのは確認済みだからな。

 

 だから、俺はまだこの狙撃ポイントから離れるわけにはいかない。敵の主力はキャスター陣営。そいつらを狙撃して、倒す又は足止めをしなければならないからだ。

 

 つまり、俺に侵入者を撃退する余力はないから……。

 

「今、侵入してきたヤツ……アサシンの足止めをして欲しい」



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