ソードアート・オンライン ~PotetoEdition~ (水名(仮))
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日常(プロローグ)
ある日のコミュニティでの会話


takomika

遂にSAO発売されましたね~

 

意識

されたね

 

Y_kiruyan

たみさんやるの?

 

takomika

勿論ですよ

β時代からやってますし(観光主体でしたけれども…)

 

ポテト

てっきりたみさんのことだから戦闘メインにしているものだと

 

takomika

私を何だと思っているんですか()

 

jinjin

でも間違っていないでしょw

 

takomika

確かに… 最初は戦闘メインにしようとしたんですけれども背景がとてもゲームとは思えなくて…

細部まで作りこまれていますし

 

ひまねこ

だね~

本当に細部のグラフィックとかもきれいだったし

 

takomika

ひま猫さんもそう思いますよね?

 

ひまねこ

観光もいいけど戦闘とかもよかったよね

 

takomika

ファンタジー系なのに魔法がないっていうのが斬新でしたね~

 

ひまねこ

ソードスキルを発動させて戦うのが良かった

 

めらおりん

前評判聞いただけでも楽しみ

 

廻道わかな

確かに色々と評価も高かったって聞くし一回やってみて損はないかも

 

テオロング

そういえばSNSでも買えた買えなかったとかやってたね

 

tama_bukuro

へ~

 

caramele

じゃあ買えた俺らは勝ち組ということで

 

いしちに

↑買えなかった人代表

 

caramele

やーい負け組w

 

いしちに

(´;ω;`)

 

takomika

でもすぐに再販とかされると思いますしそこまで差はないんじゃないですか?

 

朱猫

いわれてみればそうかも?

 

ポテト

因みに買えた人どれぐらいいる?

 

朱猫

 

ポテト明太子味

 

意識

 

めらおりん

 

テオロング

 

caramele

 

jinjin

 

Y_kiruyan

 

廻道わかな

 

puressyu

 

テツロン

 

rion

 

tama_bukuro

 

ポテト

多いね~

 

ひまねこ

ここだけ確率バグってるんじゃ?

 

テツロン

俺は買ったっていうより貰った?っていう感じだけど

 

takomika

運いいですね

 

朱猫

そういったらたみちゃんだって運いいんじゃない?

βテストに当たったんだし

 

tama_bukuro

そういえばそうだ

 

takomika

確かに…

 

ひまねこ

千人だからね

あれで全部の運を使い果たしたといってもいいかも

 

takomika

確実に今年の運は使い果たしたと思います

 

ポテト

そうだね~

 

takomika

ところで当日どこに集まりますか?

 

ひまねこ

黒鉄宮に集まる?

 

テオロング

どこだ

 

takomika

最初に出てくる広場の奥にある黒い屋根の建物です

 

めらおりん

わかった~

 

朱猫

少しだけ遅れるかもだから先行っておいて

 

ポテト

はーい

 

takomika

きっと皆さん感動するはずですよ

 

テオロング

そこまで言うんだったら期待しとく

 

takomika

ポテトさん放送とかしますか?

 

ポテト

好感触だったらやろうかな?

 

Y_kiruyan

ポテトのVR放送⁉

 

caramele

初のポテトのVR放送

 

puressyu

楽しみ

 

ポテト

幸い機材は揃っているし

 

意識

そういえばここ最近でVR関連の実況も増えてきたからね~

 

ポテト

波には乗っておこうと思って機材だけそろえた感じだけど

 

ひまねこ

そういえば某R氏もやってたね

 

朱猫

やってたね

 

takomika

(p.-)(ρ.-)(p.-)(ρ.-)ねむねむ

 

tama_bukuro

そういえばもうこんな時間だ

 

Y_kiruyan

ではまた正式サービス開始日にかな?

 

caramele

ノシ

 

ポテト

寝る人はおやすみ~

 

takomika

(つ∀-)オヤスミー

 

rion

 

意識

乙カレー

 

 

 

 




初めましての人は初めまして水名(仮)です

某コミュニティアプリ風にやってみましたけれどもいかがでしたか?

プロローグはこれを含めて全3話ぐらいを予定してやっていきたいと思っております

次回はタコミカの現実での話になっています

それではまた次回で~


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タコミカの日常

前回言っていた通りタコミカ(水明 千秋(すいめいちあき))の現実での日常です

時系列としてはSAOが始まる前の最後の平日のお話になっています

それではどうぞ


今日は少しだけ早めの起床になった

 

でも、いつも通りにまだ眠たい体に鞭を打ち二度寝しないようにベッドから起き、目覚まし代わりにしているスマートフォンを起動させ目覚ましの設定を切っておく

 

そしてパジャマ姿のまま自分の部屋を出て階段を降り、リビングに顔を出した

 

「おはよ~ 春にぃ」

「あれ? おはよう千秋 朝ごはんはまだできてないから座っておいてくれ」

「わかった~」

 

この人は春にぃもとい"水明 照春(すいめい てりはる)"水明家の長男で現在は会社を経営するために必要なことを勉強していて将来は商業系の会社を経営したいとのこと

因みにお父さんとお母さんは基本的に朝が早く夜も遅いため基本的に家事は兄弟姉妹分担している

ご飯は基本春にぃが作っている(お母さんがいるときはお母さんが作ってくれる)

 

しばらく待っているとまた一人二階から降りてくる音が聞こえる

 

「おはよう! おねぇちゃん!」

「おはよ~ ふゆぅ」

 

この子は"水明 冬華(すいめい とうか)"(私はふゆぅって呼んでる) この水明家の末っ子で来年中学生のまだまだ甘えたい盛りの女の子(私はそう思ってる)

私と違いアウトドア派である

 

何気なくテレビをつけると朝からSAO特集をやってた! かなり人気だね…

私がテレビに釘付けになっていると…

 

「おねぇちゃんまた…」

「だって楽しみだもん」

「千秋は今年受験生なんだからほどほどにしておきなよ?」

「わかってるよ」

 

βテストが終わってからというものいつもSAOのことばっかりになっているためふゆぅからまたという言葉が出てきて、春にぃからも受験生だからほどほどにという言葉が出てくるが、もう何回言われたかも分かっていない

 

でも実際すごいんだって…

 

「でも兄貴の言う通りほどほどにしとかないと痛い目みるぞ?」

「あ おはよ 夏にぃ」

「おはよ~ 夏にぃ」

「ちょうどいいタイミングだな夏輝 今ちょうど朝ごはんができたぞ~」

 

この人は私のもう一人の兄で"水明 夏輝(すいめい なつき)" 私とふゆぅは夏にぃと呼んでいる

将来はお父さんの病院を継ぐために大学の医学部を目指して勉強している

 

「本当にいいタイミングだったな」

「「はーい」」

 

そんなこんなで私たちは朝食を食べ私たちは制服に着替えたり歯を磨いたり等の学校に行くための準備を済ませた

 

 

 

 

「じゃぁ いってきまーす」

「「「いってらっしゃい」」」

 

因みになんで私が一番最初に出るかというと少しだけ通っている中学校が遠いのと時間に余裕を持っておきたいためである

私は学校へと歩みを進めた

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

教室につくといつも通りに話しかけてくる声が聞こえてきた

 

「おはよう 千秋!」

「おはよ~ 紗月」

 

彼女の名前は"五十嵐 紗月(いがらし さつき)"小学校時代からの友人でかなり男勝りな性格で、彼女のことは親友だと思っている

 

「おはよ 千秋ちゃん」

「おはよ 雛」

 

彼女は"実月 雛(みつき ひな)"中学校時代からの付き合いだけれども短い期間で打ち解けることができたと思っている 性格はどちらかというと温和な方である

 

「今日は放課後どうする?」

「あ~… 今日はいこっかな?」

「久々だな!」

「SAOにハマってたりしたから…」

「あー 言ってたねそんなこと」

 

この三人でよく買い物とかに行ったり、ゲームセンターに行ったりするけど最近はお小遣いを使いすぎてしまったり私がSAOにはまったりしてなかなか行けなかった

 

「でもお前ってホント運いいよな~ βテストに当たるなんて 俺なんて初回ロットにもあたらなかったんだぞ」

「私も応募したけど両方外れちゃったからね~」

「でもしばらくしたら再版されると思うけどね」

「そこまで待てねぇよ!」

「それを私に言われても…」

 

そんなことを私に言われても私にはどうすることもできない

 

「それはそれとして、もうすぐだっけ?」

「6日だから そうだね~」

「まじか! もうすぐそこじゃん!」

「私は先に楽しませてもらうことにしよっと」

「買ったらすぐに追いつくからな!」

「そんなに対抗しなくても… 私たちも買えたら追いかけるよ」

「うん 楽しみにしとくよ」

 

そんな会話をしていると学校のチャイムがなり先生がやってきてそこからはいつも通りに授業が始まった

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

そして放課後…

予定通り私たちは買い物を楽しんだ後、ゲーセンに寄って音ゲーを何回かやった後友人と別れ、家へと帰宅した

 

 

「ただいま~」

「「おかえり~」」

 

家に着くと春にぃとふゆぅがおやつを食べていた

 

「今日は何?」

「りんご」

「食べるんだったら手洗いとかしてきなよ」

「はーい」

 

早速手を洗ってきてりんごを食べた 美味しい!

 

「今日は因みに夕食は何にする予定?」

「グラタンにしようと思ってるけど…」

「出来たら呼んで~」

「はーい」

 

そして私は二階の自分の部屋へと行き部屋着に着替え、勉強をした

 

それからしばらくたち春にぃからご飯ができたという声が聞こえたため1階へと降りた

予告通り今日はグラタンだった

 

「「「「いただきます」」」」

「いつも通りだけれど美味しいよ」

「それ褒めてる…?」

「褒めてるってば 将来いい主夫になれるよ」

「主夫って… 千秋もたまには料理してみたら?」

「春にぃがいないときはふゆぅと一緒に料理してるよ」

「そうだよ~ たまにおねぇちゃんと一緒につくってるよ?」

「そうか? ならいいけども…」

 

そんな何気ない事を話していると

 

「ただいま~」

「あ お帰り~ お母さん」

「おかえり母さん」

 

この人は私たちのお母さんで"水明 楓(すいめい かえで)"大手のファッションブランドの会社に勤めており、こうやって早く帰ってくることは稀である

 

「今日はグラタン?」

「そうだけど… 今日は早かったね?」

「仕事が早く終わったから今日は早上がりしたのよ」

「なるほど」

「今母さんの分作るね」

「えぇ お願いしていいかしら?」

「わかった」

 

そんなことを話して春にぃはお母さんの分のグラタンを準備するためキッチンへと向かっていった

 

 

~~~~~~~

 

 

そしてお母さんが戻ってきてしばらくすると春にぃがお母さんの分のグラタンを持ってきて食事が再開した

 

しばらく食べ進めているとお母さんが話しかけてきた

 

「そういえば千秋あなたちゃんと勉強はやってる?」

「もちろん!」

「夏輝は?」

「無論やってるよ」

「そう? ならいいのよ その調子でね? ところでみんな明日と明後日はどうするの?」

「僕は家にいるつもり」

「俺はちょっと病院に見学にいってみようかな」

「私も明日と明後日は家にいるよ」

「私は土曜日は友達と一緒に原宿に行くよ~」

「お母さんはどうするの?」

「久々に家で休もうかしらね」

「わかった」

 

土日の予定を話しながら食事を進めていった

 

「「「「「ごちそうさまでした」」」」」

「今日は私が洗うよ」

「じゃぁ頼んでもいいか?」

「任せといて」

「いつも悪いわね」

「いいのいいのこれぐらいはやるから」

「じゃぁお願いね?」

「はーい」

 

今日は私が皿を洗い、ふゆぅがお風呂に入っている間自分の部屋で小説を読んでいた

 

 

 

 

〔コンコン〕

 

 

「おねぇちゃん お風呂空いたよ~」

「はーい」

 

しばらくするとふゆぅが呼びに来たため今日はここまでにしておいて栞を挟み、お風呂に入ることにした

 

 

 

~~~~~~~

 

 

 

お風呂から上がりパジャマに着替え、夏にぃにお風呂が開いたことを伝え、昨日やっていたRPGをすることにした

 

「今日はどこまで行こうかな…?」

 

そんなことをつぶやきながら私はゲームを始めた

 

 

~~~~~~~

 

 

 

気が付いたらもう23時を過ぎていた

 

「キリもいいしここで終わろっと」

 

セーブをして、パソコンをシャットダウンし今日は寝ることにした

寝る前に水分補給をしてついでにお母さんに「おやすみ」と言って、自分の部屋のベッドに入りスマートフォンで目覚ましの設定を行なった

 

「楽しみだな… SAO」

 

そんなことをつぶやきながら眠りについた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この頃の私はまさかあんな事が起こるなんて夢にも思っていなかった…

 

 

 




次回はアインクラッド編の人物設定をやってから本編に行きたいと思っております

今回出たキャラに関しては本格的な出番になったら設定を書きたいと思います

それではまた次回に


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人物設定(アインクラッド編)

アインクラッド編の登場人物の紹介です

元々自分用にしていたものを改良したので多少見にくい+頻繁に更新するかもしれないですがそこらへんはご了承ください




水明 千秋(すいめい ちあき)/Takomika(タコミカ)

 

本作の主人公 限りなく黒に近い茶髪で後ろ髪は長髪、前髪はちょうど真ん中でおでこが見えるように分けている 黒目の女性

SAO開始時は15歳

身長は156cm程度でスタイルもかなりいい(らしい)

顔はおっとり系でアスナ並みの美人と言われている(本人は気にしていない)

元βテスターだが観光重視であんまり戦闘は行っていない しかしそれなりのレベルは維持していた(5層のボス戦には参加した)

両親と兄二人と妹一人で暮らしている

性格は良くも悪くもマイペースでだれにでも親しく接するが嫌いな人は嫌い

基本的に家族や親しい間柄の人たち以外にはだれに対しても敬語

武器は両手剣だが第25層のフロアボス戦からは両手斧も使うようになる

結構な戦闘狂

みんな(オリキャラ勢)からはたみと呼ばれている

一人称は「私」

 

 

 

火崎 透(ひざき とおる)/Teolong(テオロング)

 

本作のメインパートナー

髪は黒髪で黒目の男性(髪型は右目が隠れる程度)

顔はかなりイケメン

SAO開始時は14歳

身長は165cm程度

両親と兄で暮らしている

性格は多少他人に対して厳しいが親しい人物には結構なれなれしい

武器は片手直剣

みんな(オリキャラ勢)からはテオと呼ばれている

一人称は「俺」

 

 

 

砂芽 豊(じゃが ゆたか)/Poteto(ポテト)

 

黒髪、黒目の男性

SAO開始時は21歳

身長は173cm程度

顔はイケメンの部類に入る

現在は都内で一人暮らし中でゲーム実況をやっている(登録者数はまだ少ない)

性格は基本的には温和で丁寧

武器は両手槍

一人称は「俺」

 

 

 

白沢 彰人(しらさわ あきひと)/Meraorin(めらおりん)

 

白髪で短髪、琥珀色っぽい目

SAO開始時は16歳

身長は168cm程度

顔は少し童顔に近い

両親と暮らしている

性格は少しだけ天然が入っている

武器は両手槍でトップクラスの実力

みんな(オリキャラ勢)からはめらと呼ばれている

一人称は「僕」

 

 

 

日暮 萩涼(ひぐれ しゅうすけ)/Himaruneko(ひまねこ)

 

茶髪で黒っぽい色の目の男性

SAO開始時は14歳

身長は160cm程度

顔はキリト並みぐらい

両親と姉で暮らしている

元βテスターで9層までのboss戦には全部参加しており、尚且つ料理スキル2,3割と1~4層までのmobのドロップするアイテムをほぼ全て割把握している(5~10層は5,6割しか把握していない)

性格は困っている人はほっておけないタイプ

武器は片手直剣+盾

一人称は「俺」

 

 

 

矢崎 亮(やざき りょう)/Kiruyan(きるやん)

 

茶髪で黒目の男性

SAO開始時は13歳

身長は155㎝程度

顔はまだ童顔

性格はまだ子供っぽい部分もあるがかなりしっかりしている

両親と暮らしている

武器は盾

みんな(オリキャラ勢)からはやる気君と呼ばれている

一人称は「僕」

 

 

 

柴崎 孝(しばざき こう)/Ishiki(意識)

 

黒髪黒目の男性

SAO開始時は14歳

身長は163cm

顔はキリトより男性寄り

両親と双子の弟と一緒に暮らしている

性格はかなり冷たく腹黒だがかなり勘が鋭い

武器は短剣で瞬発力重視

一人称は「俺」

 

 

 

朱下 空(しゅもと そら)/Syuneko(朱猫)

 

少し薄めの黒髪の短髪で黒目(性別は不詳)

SAO開始時は14歳

身長は170cm程度

顔はキリトよりもかなり女性寄り(その為よく女性に間違われる)

両親と兄で暮らしている

性格は基本冷たいが少しだけ柔和

武器は短剣でこっちはスピード重視

一人称は「私」

 

 

 

梅宮 牡丹(うめみや ぼたん)/Rion(リオン)

 

茶髪で黒目っぽい女性(髪型はショート)

SAO開始時は20代

身長は165㎝程度

顔はタコミカやアスナほどではないがかなりの美人

茅場の後輩で茅場のことは先輩として慕っているがいつか超えたいとも思っている(比嘉みたいな感じ)

現在一人暮らし

性格は少し冷淡で頭も切れる

武器は片手直剣

一人称は「私」

 

 

 

上月 遼河(こうずき りょうが)/《Caramele(キャラメレ)

 

ほんの少しだけ赤っぽい黒髪で黒目の男性

SAO開始時は23歳

身長は168cm程度

顔は人によってはイケメン

現在は一人暮らし

性格は少し難ありだが大人としての自覚はある

武器は鞭と投剣

一人称は「俺」

 

 

 

玉田 宗久(たまだ むねひさ)/Tamabukuro(たまぶくろ)

 

黒髪黒目の男性

SAO開始時は15歳

身長は163㎝程度

顔はかなりイケメン(かもしれない)

両親と暮らしている

性格は少し温和

武器は片手直剣

みんな(オリキャラ勢)からはたまさんと呼ばれている

一人称は「僕」

 

 

 

石元 仁(いしもと じん)/jinjin(じんじん)

 

ベージュ色の髪に黒目の男性

SAO開始時は14歳

身長は175cm程度

顔は少しイケメン

母親と弟の三人暮らし

性格はかなり女好きだが芯は通す

武器はメイス+盾

一人称は「俺」

 

 

 

和月 太子(わづき たいし)/Tarakon(たらこ)

 

茶髪に茶色の瞳の男性

SAO開始時は14歳

身長は161㎝程度

顔は中の上ぐらい

性格は争いごとは好まないが売られた喧嘩は買う

武器は片手直剣

一人称は「僕」

 

 

 

白結 実(しらゆい みのる)/Pressyu(プレッシュ)

 

茶色の髪に黄金色の瞳の男性

SAO開始時は15歳

身長は164cm程度

顔は結構整っている

全寮制の学校に通っているため一人暮らし

性格はふざける部分もあるが案外しっかりしている

武器は片手斧

一人称は「俺」

 

 

 

白狐 佐久治(はっこ さくじ)/Mawarimichi(廻道)

 

白髪に黒目の男性

SAO開始時は20歳

身長は170cm程度

顔はかなりイケメンだが狐のお面で顔を隠している

現状一人暮らし

性格は大人としてかなり信頼できるがどこか少しだけ天然が入っている

作業廚()

武器は刀

一人称は「私」

 

 

 

鉄華 治(てつか おさむ)/Teturon(テツロン)

 

黒髪黒目の男性

SAO開始時は28歳

身長は174cm程度

顔は並みぐらい

上京してきてから一人暮らし

性格はかなり人として完成されているが少しふざけるのが好き

ナーヴギアは上司からもらった

武器は素手(体術)

タコミカからはエルさんと呼ばれている

一人称は「俺」

 

 

 




いよいよ次回から本編に入ります

それではまた次回に


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はじまり(アインクラッド編 第1層)
1話:Welcome To Sword Art Online


遂に本編開始です

結構大変でしたけれどもできました~

それでは本編どうぞ

P.S.:ソードアート・オンラインの映画見に行きましたけれどももう本当にすごいの一言に尽きますね~


遂に待ちに待ったこの日がやってきた

 

βテスト終了からここまでとても長く感じたけれども遂に【ソードアート・オンライン】の正式サービスの開始日がやってきた

 

そんな感じでかなり気分よく昼食を食べたりチャットをしていたりと色々と準備をしていたら12時58分になっていた

 

「もうそろそろ準備しないと…」

 

早速ベッドに寝転がりナーヴギアを被り1時になるのを待った

 

 

3…

 

 

2…

 

 

1…!

 

そして1時になると同時に私はゲーム開始の合言葉を唱えた

 

 

『リンクスタート!』

 

 

 

 

 

 

 

□■□■□■□■

 

Welcome To

Sword Art Online!

 

□■□■□■□■

 

 

 

 

 

 

IDやパスワード等々の設定を終え、私は見慣れた街に戻ってきた

やっぱりβテストより人は多いけれども…

 

「お~ 変わってない!」

 

<はじまりの街>に戻ってきて最初の第一声がこれになってしまったけれどもそんなことはどうでもいい

 

最初は武器屋に向かおうとしていたけれども黒鉄宮で待ち合わせをしていたことを思い出しすぐに黒鉄宮のほうへと進路を変更した

 

 

~~~~~~

 

 

「まだ来てないかな?」

 

人が多少いるだけで肝心なポテトさんたちはまだ来てないみたいだった

 

「こっちこっち!」

「ひま猫さん! めらさん!」

 

と思ったけれども見逃していただけでひま猫さんとめらさんもといめらおりんさんはもう来ていたみたい

 

「ポテトさんたちはまだですか?」

「今着いているのは僕たちだけだね」

「へぇ~」

 

今回はとりあえずポテトさん、ておさん、めらさん、ひま猫さん、やる気君と私の6人で周るということになっている

 

「めらさん今回は男性にしたんですね」

「そそ 結構似合っているでしょ?」

「確かに結構似合ってますね」

「初めに見たときはちょっと驚いたけれどね」

 

ちなみに私のアバターは緑髪に緑色の目で身長は160cm程度で胸は控えめにしている(動きづらいこの上ないため)

ひま猫さんはオレンジ色の短髪に水色の目で身長は大体私のアバターと同じぐらい…?の男性アバターで

めらさんは白色の髪に琥珀色って言ったっけ…?そんな感じの色合いの目に身長は170cmぐらいの男性アバターになっている

 

 

そんな話をしていると

 

「お待たせ~」

「もしかしてポテトさんとておさんですか?」

「そう! よくわかったね」

「そうだよ~」

「お二方はスキンを元にされているので分かりやすかったですよ」

 

2人のアバターはポテトさんの方は黒髪に青目で身長は大体170cmの男性で

ておさんの方は赤髪に右目が隠れており、見えている方の目は青色の目をしていて身長はポテトさんのアバターと大体同じの男性になっている

 

「そう?」

「確かにわかりやすかったね」

「あとはやる気君だけかな?」

「そうですね~」

 

 

でもポテトさんたちが来てから10分ぐらい経ったけれどもやる気君は来なかった

 

「遅くない…?」

「何かあったんですかね?」

「もしかして間違えてフィールドに出ちゃったとか?」

「探しに行く?」

「もう少しだけ待ってみません?」

「確かにたみさんの言う通りに待ってみるのもありかも」

「じゃぁ少しだけ待ってみましょう」

「了解~」

 

そして1分後ぐらいにやる気君がやってきた

 

「すみません! 遅れました!」

「もしかして迷子?」

「アバター作るのに時間がかかって…」

「なるほど」

 

そう言っているやる気君のアバターは茶髪に赤と青のオッドアイに身長は私より少し低いぐらいの男性である

 

「じゃぁ全員揃ったんで行きますか」

「はーい」

 

そんなこんなで私たちは黒鉄宮を出発し、途中で初期費用で武器等を買いフィールドに出た

 

 

~~~~~~

 

 

 

戦闘練習も兼ねてフィールドで狩りを行っていた、私とひま猫さんは早々にベータ時代の感覚を取り戻しポテトさん達にソードスキルについて教えていた

 

「ぐおっ」

「大丈夫ですか?」

「大丈夫大丈夫 気にしないで」

 

ポテトさんが【フレンジー・ボア】に背中を突き飛ばされたため私は声をかけるが本人は大丈夫と答えた

 

「たみさん 何かソードスキルのコツとかってあります?」

「コツって言われましても 私は発動に3日近くかかりましたからね…」

「何かヒントだけでも」

「無理に体制を変えようとせず流れのままに…ですかね?」

 

私だって動画とか見て地道に練習してやっとできるようになったからね…

 

「流れのままに…」

 

ポテトさんがそう呟くと何か槍がライトエフェクトをまとったような…?

 

「せい!」

 

そういうとポテトさんの前にいた【フレンジー・ボア】が≪シャフト≫の一撃を喰らいポリゴン状になって消滅した…

 

「あ できた…」

「嘘…」

 

えぇ…? こうもあっさりやられるとなんか萎える…

 

向こう側ではめらさんがひま猫さんから教わったと思われるスキルのブーストをやっていた

 

なんかもうやだ(´;ω;`)

 

「あー たみちゃん? 教えてほしいことがあるんだけど」

「何ですか?」

「スイッチについてなんだけれども…」

 

やや萎えた感じでておさん返すとスイッチについて聞いてきた そういえばまだ教えてなかった

 

「あぁ スイッチっていうのは敵の持っている武器などにわざと強攻撃などを当てて相手の体勢を崩してから前衛と後衛を交代することですね ソードスキルには必ず硬直時間が存在するんですけれどもそれをカバーするためにやることだったはずです」

 

合っているかはわからないけれどもスイッチの説明をておさんにしておく

 

「その間に立て直したり回復したりするの?」

「そうですね 簡単に言えばスイッチして回復することがPOTローテですね」

「なるほど 流石β出身者…」

「こういうのはひま猫さんのほうが詳しいと思いますけれどもね~」

「詳しく聞くときにはひま猫に聞いてみるよ」

「そうしてもらえるとありがたいです」

 

ぶっちゃけそこらへんはひま猫さんの方が詳しいと思うしひま猫さんに聞いてほしい…

 

 

 

 

それから私も狩りに加わったりやる気君がボアを盾で殴り倒したりめらさんがひま猫さんとスイッチの練習をしたりそれに加わるようにポテトさんもスイッチの練習をしたりとそうこうやっているうちにいつの間にか辺りはすっかり夕方になっていた

 

 

 

今は夕焼けを見ながら黄昏ている

 

「それにしても本当にたみさんの言うことがわかるよね」

「ですよね 本当に…」

「確かに 今なら気持ちがわかるよ これは言葉を失うね…」

「ところで今日はどうしますか?」

「折角だしやろっかな?」

「お~ 待ってました!」

「じゃぁ今日のところは解散ですかね?」

「そうだね~ ちなみにみんなはどうする?」

「どうせだしこのまま続けようと思います」

「俺も続けよっかな?」

「僕もかな~」

「僕はいったん落ちよっかな?」

「俺はもう少しだけ続けるつもり」

「じゃぁ解散ということで~」

「お疲れ様でした~」

「おつおつ」

「お疲れ~」

「乙~」

「お疲れ」

「おつかれ~」

 

私ももうそろそろ狩りを再開しよっかなと思ったとき…

 

 

 

「あれ…? ()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

…え…? ログアウトボタンってオプションのところになかったっけ?

 

そう思って確認してみるけれども確かにポテトさんの言う通りログアウトボタンがなかった

 

「ログアウトボタンがない…」

「え? たみさんも?」

「こっちもない」

「僕のもなくなってる…」

「あれぇ…? β時代にはあったはずだけれども…」

「確かになくなってる…」

 

みんなないの?

 

「GMにはコールしてるの?」

「さっきからコールしているんだけど返事がなくて…」

「珍しい 確かアーガスって顧客第一じゃなかったっけ?」

「問い合わせが殺到しているのかも?」

「ですかね…」

 

私たちがログアウトできない問題について話し合っていると…

 

 

 

 

ゴーン ゴーン ゴーン

 

 

 

そんな鐘の音が聞こえてきた…

 

 

 

それから間をあけず私たちの体は青白い光に包まれて転移された

 

 

 




スイッチやPOTローテの説明については自分の独自解釈ですので間違っていたらすみません…

次回はついに真の始まりです

それではまた次回に


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2話:真の始まり

結構頑張りました(色々と)

それではどうぞ


気が付いた時には私たちは<はじまりの街>へと転移していた

 

少し見失ったけれどもすぐにポテトさんたちを発見できた

 

「みなさん!」

「たみさん! 良かった 無事だったんだ」

「何が一体どうなっているの?」

「私もわかっていないです…」

「というかこれ全プレイヤーが集められてるんじゃ?」

 

めらさんがそういうのも無理もないほど多いプレイヤーが集められているしこうしている間にも次々とテレポートされてきている

 

「何が起こっているの?」

「ログアウトできないことへのお詫びとか?」

「だったらいったん全員ログアウトさせるのが先決じゃない?」

「ですよね…」

 

ポテトさんが言ったことも一理あるし実際、「これでログアウトできるのか?」や「早くしてくれよ!」といったような声が聞こえてきている

 

でもそれだったら普通にログアウトさせるのがベストだと思うし…

 

そんな時誰かが「お…おい! 上を見ろ!」と言ったため私たちは自然と上を見た

 

そうすると深紅色のあれは市松模様って言ったっけ…? そんな感じの模様が夕焼けの空を埋め尽くし、そこから赤い液体が流れてきてローブをまとった人型を形成した

そのローブ自体はβテストで何回も見たことあるが出てきたそれはとにかく大きく顔や袖の中は暗闇が広がっているだけだった まるでローブと手袋だけを形成したみたいに…

 

「あれGM?」

「なんで顔無いの…?」

 

周りの人たちも不思議に思っているらしい… でもそれよりもさっきから嫌な予感しかしていない、まるでこれから()()()()()()()()()()()()みたいな

 

 

『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』

 

確かにあのローブはGMという証ということはわかるけれども… それだったら私たちというべきなんじゃ…?と場違いなことを考えている間にもそれは話を続けた

 

『私の名前は茅場晶彦 現在この世界をコントロールできる唯一の人間である』

 

茅場晶彦って確か…

 

「茅場晶彦って確か SAOの開発者だったよね?」

「そうだけれども…」

 

『諸君らは既にメインメニューからログアウトボタンが消失していることに気付いていると思うが、これはシステムの不具合ではなくこのソードアート・オンライン本来の仕様である 繰り返す これはゲームの不具合ではなく、このゲームの本来の仕様である』

 

え…?

 

「これが仕様…? じゃぁ…」

 

『プレイヤー諸君はこの城の頂を極めるまでこのゲームから自発的にログアウトすることはできない…また外部の人間の手によるナーヴギアの停止、あるいは解除も在り得ない もし仮にそれが試みられた場合…』

 

少しの間を置き…私の予感は的中することになる

 

『ナーヴギアの発するマイクロウェーブが諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』

 

…。 つまり死ぬっていうこと…?

 

「どういうこと?」

「つまり茅場は外部で外すような操作があった場合は着用している人物を殺す そういいたいんだと思う」

「でもそれって可能なの?」

「確か重量の3割はバッテリーセルって説明書に書いてあったからたとえ電源を抜いても問題ないはずだし、それに加えてナーヴギアの原理は電子レンジと同じだって誰かが言ってたような気が…」

「あー 可能なのかぁ」

 

ポテトさんの疑問になぜかめらさんが解説してくれた

 

『具体的には10分間の外部電源切断、2時間のネットワーク回線切断、ナーヴギアのロック解除もしくは分解、破壊の試み 以上のいずれかの条件に当てはまった場合、脳破壊シークエンスが実行される』

 

『この条件は既に当局やマスコミを通じて公表されている しかし、現時点でプレイヤーの家族、友人等が警告を無視しナーヴギアの強制解除を試みた例が少なからずあり、その結果…』

 

一呼吸置き…

 

『残念ながら既に213人のプレイヤーがこのアインクラッド及び現実世界から永久的に退場(ログアウト)している』

 

嘘… もう213人も…?

 

「嘘だろ…」

 

ておさんがそう呟いたような気がした

 

『諸君らが向こう側に置いてきた肉体の心配をする必要はない 現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアがこの状況を重く受け止め、繰り返し報道している 諸君のナーヴギアが強引に外される恐れは限りなく低くなっている 今後、諸君らの現実の体はナーヴギアを装着し2時間の猶予時間のうちに病院やそれらに準ずる施設へと搬送され、厳重な介護体制の下に置かれるはずだ、諸君には安心してゲーム攻略に励んでほしい』

 

茅場がそう言い終わったと同時ぐらいにどこかから「ゲーム攻略しろだと!? ログアウト不可のこの状態で呑気に遊べっていうのか!?」という怒号が聞こえてきた 強く同感だと思った

 

そんな声が聞こえたのか

 

『しかし十分に注意してもらいたい 諸君らにとって、ソードアート・オンラインはもはやただのゲームではなくもう一つの現実というべき存在だ 今後このゲーム内においてあらゆる蘇生手段は機能しない ヒットポイントが0になった瞬間に諸君のアバターは永久に消滅し、それと同時に…諸君らの脳はナーヴギアによって破壊される』

 

え…? 今なんて…? HPが0になったら現実でも死ぬの…? それってまるで…

 

「まるでデスゲームじゃん… それって…」

 

私の思っていたことをひま猫さんが代弁してくれた

でもそれじゃぁ全員圏内に引きこもるし… 何か解放される手段がある?

 

『諸君がこのゲームから解放される手段はたった一つだけ存在する 先に述べた通りこのアインクラッド最上部である第100層にたどり着き、そこで待つ最終ボスを撃破すればよい その瞬間に生き残った全プレイヤーが安全にログアウトされることを保証しよう』

 

「クリア… 100層? できるの? そんなこと…」

「因みにたみさんたちは何層まで?」

「えーっと… 確か…」

「9層までのボスは倒したから 10層までは…」

「何回もリスポーンしての話ですけれども」

「まじか~…」

 

うん… みんなの言いたいことはわかる… 100層に行くまでに一回でも死んだらそこで終わり そんなの鬼畜以外の何物でもないしこのゲームはRPGのため上の層に上がるにつれて敵やボスも強くなっていく

 

でも落胆の声はまだ聞こえてこない… まだほぼ全員が演出なのか実際に起こっていることなのかわかりかねているらしい そんな私たちの思考を読んだのか否か茅場は続けた

 

『では最後に諸君にとってこれが現実であるという証拠を見せよう 諸君らのアイテムストレージに私からのささやかなプレゼントを用意しておいた 確認してくれたまえ』

 

私はすぐにアイテムストレージを確認した 全員同じようにアイテムストレージを確認していた すると見慣れないアイテムがあった

 

名前は〖手鏡〗と書いてあった

 

私はそれをオブジェクト化し鏡の中をのぞいたがとくに何もなかった 正確には私のアバターの顔が映るだけだった

 

「何こっ…!」

「わっ!?」

 

何これって言おうとしたら突如としてポテトさんが白い光に包まれた 次の瞬間には私もとい全員がポテトさんみたいに白い光に包まれた

 

その光は数秒で収まりさっきまでの景色が… いや少しだけ低くなってる…? 何か嫌な予感がして周りを見てみたがさっきもほんの少しだけ景色が高く、否 私が縮んでいた… ふと足元を見てみたらさっきまで控えめにしていた胸が大きくなっていた

 

「えーっと… もしかしてたみさん…?」

「そうですけれども… ポテトさん?」

「そうですね」

 

あれ…? 目の色以外変わってなくない? ふと見まわしてみたらておさんやめらさん、やる気君も髪の色や目の色が変わっただけであんまり変わっていなかった…

 

ふと鏡を見てみたらリアルの私の顔が映っていた

 

「そういえばひま猫さんは?」

「ここです」

 

そこには茶髪で黒っぽい色の目の男性がいた

 

「もしかしてあなたがひま猫さんですか?」

「そうだけれども… たみさん女性だったんだ…」

「そうですよ~ 驚きました?」

「驚いたけれども… でもなんで俺たち以外は変わってないの…?」

「そういえば確かに… 皆さんあんまり変わってないですね」

「いや~ あんまり変える必要ないかなって…」

「同じく」

「右に同じく」

「色々と悩んだけれどもやっぱりさっきのがしっくりくるかなって」

 

えぇ… なんか微妙 でもなんで?

 

「でも皆さんよく元の姿を再現できましたね」

「そこは元の自分の顔をスキャンして、それをベースに作っていったからね 茅場も同じ方法で元の顔の再現をしたんだと思うよ」

「なるほど~ でも身長は?」

「ナーヴギアのセットアップステージにキャリブレーション?っていうのあったでしょ」

「あー! 確かにありましたね!」

 

すっかり忘れてた… そういえばそんなのあったや

 

「でもなんでこんなことを?」

 

ポテトさんがそんなことを言ったため私は黙って茅場のほうを指さした

 

『諸君は今 なぜ? と思っているだろう なぜ私は ソードアート・オンライン及びナーヴギア開発者である茅場晶彦はこのようなことをしたのか? これは大規模なテロなのか?あるいは身代金目的の誘拐なのか?とそう思っているだろう』

 

場違いにもほどがあるがなぜか私には語っている茅場の声が私には夢を語る子供の声みたいに聞こえた

 

『私の目的はそのどちらでもない それどころか今の私は何の目的や理由を持っていない なぜならこの状況こそが私の最終的な目標だからだ この世界を作り出しそれを鑑賞するためにのみ私はナーヴギアをSAOを造った そして今、すべては達成せしめられた』

 

そして…

 

『…以上でソードアート・オンラインの正式サービスのチュートリアルを終了する …プレイヤー諸君の…健闘を祈る』

 

それだけを言い残し茅場は出てきた手順とは逆の手順で姿を消した…

 

そして空には始まる前の夕焼けだけが残った

 

 

しばらくするとここに至ってようやく全員が今の状態を理解したのか…

 

「嘘だろ…なんだよこれ! 嘘だろ!」

「ふざけんなよ! 出せよ! ここから出せ!」

「ふざけんな茅場! 戻ってこい!」

「こんなの困る! この後約束があるのよ!」

「ざけんな! 明日からどうすりゃいいんだよ!」

「嫌ぁぁ! 帰して! 帰してよぉぉ!」

「出してくれよ! 明日プレゼンなんだぞ! クビになったらどう責任取ってくれんだよ!」

 

悲鳴や怒号、罵声などといった声が広場全体を包んでいた

 

今、私はどんな顔をしているだろうか? それすらもわからず私はどうしたらいいのかがわからずその場に立ち尽くしてしまった

 

「…みさん! たみさん! こっち!」

 

ふと誰かが私のことを呼びながら手を引っ張ったような気がした

 

「ついてきて!」

 

言われるがまま私はついて行った

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「とりあえず状況確認を」

「えっと…? まず茅場の言ったことは本当だと思う」

「それを踏まえてこれからどうするかっていうところだね」

「じゃぁ僕から提案いいかな?」

「何かいい案があるんですか? めらさん」

「僕はこの街から出るのがいいと思う」

「それには俺も賛成だけど出るのは明日でも大丈夫かな…?」

「どうして?」

「今日は少し色々とありすぎて疲れたのとたみちゃんがこの状況じゃ…」

「あー 了解」

「近くの宿屋ってどこでしたっけ?」

「僕が知ってるから案内するよ」

「じゃぁ 案内してもらってもいいかな?」

「了解! ではいざ!」

 

今日はひとまず宿屋に行くということが決まって私はておさんに引っ張られて宿屋に着き、それぞれ部屋を確保した

 

「えーっと じゃあ たみさんまた明日に」

 

 

〔パタン〕

 

私は一人部屋に通されポテトさんがそういうと扉を閉めた

 

 

私は何もやる気が起きずそのままベッドに寝転がった

 

ふと顔を拭うと水滴で濡れているのがわかった 多分涙だと思う

 

あの日常はもう戻ってこない… そう思うと涙があふれてきた

 

 

 

 

 

 

そして泣き終わると私は一つの決意を抱いた

 

 

 

 

 

『何年かかっても絶対にあっちの世界に帰る』と

 

 

 

 

 

その日は眠るに寝れず結局寝たのは2時を過ぎたあたりだった

 

 

 

 

 




茅場のセリフが案外大変でした…

因みに茅場の説明が終わった後のセリフは一部オリキャラのセリフが混ざっています

それではまた次回に


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3話:森の秘薬と鼠の情報屋

タイトルでわかると思いますがここから原作キャラが出てきます

それではどうぞ~




私たちは茅場の宣言の翌日から早速<はじまりの街>を出て、ひま猫さんや私の情報を頼りにしてレベリングを行っていた

 

人というものは決意したら早いもので今は<ホルンカの村>を拠点にしている

 

ちなみに私は顔バレしないように深緑のフードを被っているが、一人でいるとよく声をかけられる…

はっきり言ってめんどくさい でもこのSAOでは男女比率が極めて偏っているため声をかけたくなる気持ちは少しだけわかるけれども…

 

 

 

そんなこんなでこのゲームが始まってそろそろ1週間ぐらいたったある日…

 

 

私とひま猫さんはポテトさんたちと別行動をしてあるクエストを受けることにした

 

「ここですか?」

「この民家だったはず」

「私 先受けますね」

「了解」

 

そういうと私は先に民家に入っていった

 

 

〔キィ…〕

 

 

「こんにちは~」

「こんにちは 旅の剣士さん お疲れでしょう、食事を差し上げたいのだけれども今は何もないの 出せるのは 一杯のお水だけのもの」

「じゃぁそれでいいですよ」

 

そうして水を飲み干すと扉の向こう側から「コンコン」という子供が咳き込む声が聞こえてきた

 

そうするとおかみさんの頭上にクエスチョンマークが出てきたためすかさず私は「何かお困りですか?」と声をかけた

 

「旅の剣士さん、実はうちの娘がですね…」

 

 

おかみさんの話をまとめるとおかみさんの娘さんが重い病気にかかってしまい、もう市販の薬は効かずもう〖リトルネペントの胚珠〗というアイテムで作る薬を飲ませるしかないため それが必要とのことでもし持ってきたら先祖から伝わるという剣を差し上げるといった内容である (実際はもっと丁寧)

 

おかみさんが話し終えたため私は「任せてください」というとクエストログが更新された

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

私が民家から出てくるとひま猫さんもクエストを受けに民家へと入っていき、しばらくたったら出てきた

 

「じゃ たみさん 行きますよ~」

「了解~」

 

 

~~~~~~

 

 

大体30分ぐらい狩ったかな…? それぐらいで花付きが出てきた! それも二体!

 

「お! 出た出た! ラッキー!」

「案外早めに出ましたね~」

 

その後は特に問題なく花付きを狩り〖リトルネペントの胚珠〗を手に入れることができた

 

 

~~~~~~

 

 

私たちは<ホルンカの村>のおかみさんの民家へともどり〖リトルネペントの胚珠〗を渡し、〖アニールブレード〗を受け取りそそくさと民家を後にした

 

 

~~~~~~

 

 

 

クエストを受けた時と同じようにしてひま猫さんが〖アニールブレード〗を受け取ってきた

 

「あ お帰りなさい」

「お帰りなさいって…」

「手に入れられましたね~」

「だね~」

 

ひま猫さんと〖アニールブレード〗を持ちながら少しだけ雑談していると…

 

「〖アニールブレード〗を持っているっていうことはもうあのクエストは終わったっていうことだナ?」

「ぴゃぁ!?」

「うわ!?」

 

反射的に咄嗟に臨戦態勢になった

 

「わわッ! 待った待っタ! 俺っちだヨ!」

「もしかしてですけれども… アルゴさんですか?」

「よくわかったナ~」

「ビックリした… 後ろから声かけるのはやめろって言っただろ…」

「ひとまず二人とも武器を下ろしてくレ」

 

アルゴさんに言われてひとまず武器を下ろすことにした

 

 

「そういえば例のあれ できたのか?」

「キー坊や他のテスターたちが手伝ってくれたおかげでできたゾ」

「キー坊ってもしかしてキリトのことか?」

「そうだヨ~」

「キリトさんってどんな人ですか?」

「簡単に言ったらβテスターの中でもトップクラスのプレイヤーだったんだ」

「あ! 確かに5層にもLAかっさらって行ってた人いましたね」

「そそ そいつがキリトだよ」

 

キリトさんについて話をしているとアルゴさんは一冊の冊子を取り出した

 

「何ですか? それ?」

「攻略本って言ったらいいかな? 有志のβテスターたちの情報のタマモノっていう感じだ」

「おひとついくらですか?」

「500コルだヨ」

「じゃぁ6冊くださいな」

「毎度あリ~」

「ここで読んでみても大丈夫ですか?」

「いいゾ 是非βテスターとしての感想を聞かしてくレ…」

 

アルゴさんの攻略本には町の情報やモンスターの情報、ドロップアイテムやソードスキル発動のコツまで事細かに書かれていて尚且つ図解付きで分かりやすかった

でもひま猫さんは足りない部分が結構あるといっていたけれども… それでもポテトさんたちに渡すには十分な内容だと思った

 

「結構わかりやすかったです」

「ターちゃんは素直でいい子だナ~ それに比べてヒー坊ハ…」

「どうせ作るんだったらβ時代の情報でもいいから徹底的に空いている部分とか埋めておいた方がいいと思う その方が死亡率とかも低くなるし…」

「言ってることは最もだけれどナ… まぁお金も貰っているし頑張って改善するヨ」

「頑張ってくださいね」

「ターちゃんにそう言われちゃったらオネーサン頑張るしかないナ~」

「それではアルゴさん 何かあったら連絡しますね~」

「じゃぁナ~」

 

 

私たちはアルゴさんをフレンド登録してから別れ、ポテトさんたちと合流した

 

 

「たみさんとひま猫さんお帰りなさい」

「ただいまです」

「お帰り~」

「これ渡しておきますね」

「何ですか? この冊子」

「アルゴさんのガイドブックです」

「アルゴさんって誰?」

「情報屋だよ」

「なるほど」

「私たちフレンド登録しましたので何か欲しい情報とかあったら言ってくださいね 連絡しますので」

「はいよ~」

 

そうして今日はひとまず解散することにした

 

 

それとておさんに〖アニールブレード〗を渡しておいた

 

 

~~~~~~

 

 

その夜 私とひま猫さんは私の部屋で今後の予定について話し合っていた

 

「明日はどうしますか? もう少しだけ次の街方面にレベリング範囲を広げてみますか?」

「どうだろ… 少し危ないかも…」

「まだ危ないですかね」

「少なくとも全員7LVぐらいは欲しいかも…」

「となると しばらくはクエストを受けつつレベリングですかね?」

「そうなるね」

「了解です それではおやすみなさい~」

「おやすみ~」

 

そういうとひま猫さんは自分の宿屋の部屋へと戻っていった…

 

 




アルゴさんの口調がこれで合っているのか不安になりますね…

ひま猫さんはこの話の前、アルゴさんと少しだけ会っていますがフレンド登録はしていなかったという設定です


次回は少し違うキャラの視点になります

それではまた次回に


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4話:☆その頃二人は

今回は前回言っていた通り初の別キャラ視点のお話になります

今回からキャラの視点が切り替わる場合はSIDE:〇〇(〇〇にキャラの名前)が付くようになります (プログレッシブ編はそこまでないかもしれないですが)

それではどうぞ~

P.S.:お気に入り登録ありがとうございます! これからもマイペースですが頑張っていこうと思っています



SIDE:意識

 

 

 

このデスゲームが始まって2週間目になろうかというある日…

 

俺たちはクエストを終えて<はじまりの街>の噴水に腰かけて休憩をしていた

 

「お疲れ~ 朱猫」

「お疲れ 意識」

「これからどうする?」

「あー どうする…?」

 

〔ぐぅぅぅ…〕

 

朱猫とこれからどうするかについて話し合っていると朱猫から空腹を訴える音が

 

「あっ…」

 

そういえばもうお昼か…

 

「取り敢えずお昼にしようか…」

「うぅ…」

 

そういって俺は持っておいたパンをストレージから取り出した

 

「ほい」

「わっと… お前投げるなよ」

「悪い悪い さて、食べるか」

「「いただきまー…」」

 

〔ガリッ〕

 

…ガリッ?

 

よく見るとパンが乾いており、食べれない代物になっていた ゲームなのに理不尽…

 

「まじか お昼が…」

「しゃーない」

 

そういうと俺はひそかに拾っておいたりんごっぽい果物を取り出して食べようとすると…

 

「あ! お前何一人で勝手に食べようとしてるんだ 寄越せ!」

「おい! やめろ! 押すな!」

「「あっ」」

 

朱猫と果実の取り合いをしていると… 果実が落ち、消滅した…

 

「おい! どうしてくれんだ! 今日のお昼なんだぞ!」

「お前が一人で食べようとするのが悪い!」

「そもそもお前が取ろうとしなければ…!」

「ふふっ」

 

朱猫と言い争っているとどこからか笑い声が聞こえてきた

 

「笑ってごめんなさい 君たちが楽しそうだったからつい…」

「えーっと… 君って確かいつもここにいるよね? 一人なの?」

「ううん 本当は高校の同級生と一緒なんだけれど今は一人なの」

「そうだったんだ~ あ! 自己紹介まだだったよね? 私は朱猫でこれは意識」

「これってお前…」

「私はサチ よろしくね」

 

その子はサチというらしい

 

「そういえばお昼まだだよね? よかったらこれ食べて」

「これ何?」

「みんなにサンドイッチ作ったんだけれどみんな、なかなか帰ってこないから…」

「おー ありがと! じゃぁ早速いただきます!」

「あ! ずるい! 私も!」

「やっぱり君たちって面白いね」

 

そうして俺たちはサチの作ったサンドイッチを完食した

 

「「ごちそうさまでした!」」

「美味しかった~」

「口にあったみたいで良かったよ」

「すっごいうまかった~」

 

ひとまずフレンド登録だけお互いしておき、しばらくゆっくりしていたがふとサチが口を開いた

 

「ねぇ 二人とも 『隠しログアウトスポット』って知ってる?」

「何それ?」

「私も詳しくは知らないんだけれども… そんなことをダッカーが話してたような気がするから… あっ ダッカーはさっき話してた高校の同級生のうちの一人なんだけれどもね?」

「うん それで…?」

「ダッカーが言うには 西の森の奥の洞窟にあって入った人は出てきていないんだって」

「それって単に中にいるモンスターにやられているだけじゃ…「あの! 西の森ってどこですか!」」

 

サチと『隠しログアウトスポット』について話していると突然フードを被った女性が話に乱入してきた

 

「えーっと… 西門から歩いて一時間ぐらい…」

「ありがとうございます それでは」

「おーい 確か西の森って3LVぐらいいるはずだぞ? そんなに急がなくても地道にレベルを上げてからでも…」

「ダメなんです! それじゃぁ…」

「何か予定が?」

 

朱猫がそう聞くとそのフードさん(仮)は答えた

 

「今日 高校の模試があって…」

 

…高校の模試…? あーそれはそれは大変でございますね~

 

「そっか 頑張れよ~」

「意識…お前絶対それ馬鹿にしてるだろ…」

「そうだよ? 意識… 高校の受験ってどれだけ練習しても足りないんだよ?」

「すみません…フードさんうちの連れが… でもこいつの言う通りやめておいた方がいいと思いますけれども…」

「ご忠告ありがとうございます では私はこれで」

 

朱猫がそう忠告するとフードさんは去っていった…

 

「ね…ねぇ二人とも あれ不味くないかな…? NPCの人に道聞いてるし…」

「はぁ しゃーねぇ… 噂の検証とサンドイッチのお礼も兼ねて行くか」

「もし行くんだったら二人とも死なないでね?」

「勿論!」

 

噂の真偽を確かめるためにそういって俺たちはフードさんに付いて行くことにした

 

 

~~~~~~

 

 

「どこまで行くんだ…?」

「しっ! 静かに!」

 

しばらく朱猫と一緒にフードさんに付いて行くとサチが言っていた例の洞窟を見つけた

 

そこへフードさんが入ってしばらくすると…

 

「「え?」」

 

ものすごい勢いで例のフードさんが吹っ飛ばされた!?

 

「おい! これやばいぞ!」

「わかってる!」

 

俺たちは武器を手にし、すぐにフードさんが吹っ飛ばされた洞窟に駆け寄った

 

「なにこっ…!」

「明らかにこれ序盤で出ていい奴じゃないよね!?」

 

そこにいたのは明らかに序盤で出てきていいようなタイプのボスじゃなかった

 

「どうするんだよ!?」

「倒すか?」

「馬鹿言え! 無理に決まってんだろ! だがもし仮にこいつとほかのプレイヤーが鉢合わせなんてしたら…!」

 

どうする…? ここで倒すか? 俺たちだけで一人をかばった状態で? そんなの自殺行為に等しいし…

そんなことを考えていると…

 

「「え?」」

 

そいつが見事に真っ二つになって消滅した…

 

「終わったぞ」

「お疲れサン まったく…オレっちの名を語ってデマ拡散とはいい度胸してるナ~」

「情報屋も大変だな」

「ビギナーさん達 生きてるカ? 生きてるナ! ヨカッタヨカッタ!」

 

あー… もしかして俺ら必要なかった…?

 

「俺らは無傷だからこいつにPOTを飲ませてやってくれ」

「わかったヨ」

「じゃぁ 俺は帰るよ デマ拡散の犯人をとっちめるのは自分でやってくれ オレンジ化は嫌だ」

 

俺たちがフードさんの回復を優先させるように伝えている間に剣士の方は帰っていった…

 

「あーっと… 情報屋がここにいるっていうことはやっぱり?」

「ごめんナ そういうのはないんダ」

 

それが聞ければ十分だ あの情報がデマだということが分かったため俺たちも帰ることにした

 

「じゃぁ俺らも帰るから」

「パーティ組んでるんじゃないのカ?」

「たまたま通りかかっただけだ」

「お礼にしては少ないかもだけれどこの情報、知人に伝えとくよ」

「じゃぁお願いしてもいいかイ?」

「任せとけ」

 

俺たちが『隠しログアウトスポット』の件をサチに伝えておくということを情報屋に伝えると俺たちもその場を後にした

 

 

~~~~~~

 

 

「ということがあったんだ」

「じゃぁやっぱり…」

「嘘だったみたい」

「そっか… やっぱりそんなおいしい話はないよね…」

 

やっぱり『隠しログアウトスポット』の件は嘘だったということを話した

 

「うん ありがとう 二人とも私からもみんなに伝えておくね?」

「そうしてもらえるとありがたいな」

 

サチが高校の同級生たちにも話しておくと言ったので朱猫がお願いしていると…

 

「君たちは素晴らしいな しっかり他の人に自分たちが得た情報を伝えてしている」

「この人が前に言ってたダッカー?」

「ううん 知らない人だよ」

 

えっ じゃぁこいつ誰?

 

「おっと これは失礼! 俺の名前はディアベル 以後よろしく頼むよ!」

「宜しく…」

 

こいつはディアベルというらしい、そしてディアベルは話を続けた

 

「この世界では情報があるのとないのとでは生死を分けるほどとても重要なんだ だからこれからもそうやって情報を広めていってもらえるとありがたい!」

「ところでディアベルさんは何でここに?」

「俺たちは今フロアボスに挑戦するメンバーを集めているところなんだ もし君たち、もしくは君たちの友人でも構わない その意思があるんだったらトールバーナに来てほしいと伝えてくれ! それじゃぁ!」

 

朱猫がなぜここにいるのかについて聞くとディアベルはフロアボスに挑戦するつもりだということを言い、ディアベルは去っていった

 

「どうする?朱猫」

「どうしよっか?」

「二人とも…フロアボスを倒しに行くの?」

「考え中かな…」

「もしフロアボスを倒しに行くんだったら絶対に生きて帰ってきてね」

「わかった」

 

保証はできないが、もし仮に行くんだとしたらとりあえず俺たちは生きて帰るつもりだ

 

ふと時間を見たらそろそろ夜が近い時間帯になっていた…

 

「じゃぁ俺らもそろそろ帰るわ~」

「うん じゃぁね!」

「またね~ サチ!」

 

 

そう言うと俺たちはサチと別れて宿屋へと帰っていった

 

 

 




今回の話はインテグラル・ファクターの話をもとにしていますが隠しログアウトスポットの話も入っています

一応違和感のないようにしたつもりですが…いかがでしたでしょうか?

それではまた次回に


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5話:第1層フロアボス攻略会議

そろそろ第1層編も終盤に入ります

それではどうぞ


このゲームが始まってから既に1ヵ月が経過しようとしていた頃…

 

私たちは本格的に拠点を迷宮区に一番近い<トールバーナ>に移し、迷宮区でレベリングをしていた

 

 

~~~~~~

 

 

現在私たちは2人1組でそこまで離れずに狩りをやっていた

 

 

 

「ポテトさん! スイッチ!」

「了解!」

 

私は〖グラス・ブレード〗を使い≪カスケード≫で敵の攻撃を跳ね上げ、すかさずポテトさんとスイッチした

 

「はぁ! せい!」

 

ポテトさんは〖ルイン・スピア〗を用いた≪スイフト≫と通常攻撃で敵を倒した

 

「っと… これで全部かな?」

「今のところはそうですね~」

 

そう言い、武器をしまうと近くでレベリングをしている4人の下へ移動し、観察した

 

まずやる気君が〖コボルト・バックラー〗を用いた≪パッシング≫で攻撃し、スイッチしてからておさんが≪スラント≫で攻撃、反撃してきたところを回避し≪ホリゾンタル≫で反撃し、残りHPがわずかになったところでやる気君がとどめをさした

 

少しだけ離れたところではひま猫さんが敵の攻撃を〖ヘキサゴン・シールド〗で防ぎ≪スラント≫で攻撃しその後武器を跳ね上げめらさんとスイッチし、めらさんが〖リーフ・スピア〗で≪シャフト≫を発動させ敵を倒していた

 

「お疲れ様です」

「お疲れ~」

「取り敢えず意識さん達と合流する?」

「そうだね 合流しようか」

 

因みに意識さん達とは3日前ぐらいに合流し、そこから行動を共にしている

 

ひとまず意識さん達と合流することにした

 

 

~~~~~~

 

 

私たちが合流するとちょうど戦い終わったところらしく、〖ラッチ・ダガー〗と〖ワスプ・ダガー〗をそれぞれしまっていた

 

「お疲れ様です 意識さん 朱猫さん」

「おつかれ~」

「おつかれ! たみちゃん!」

「たみさんも呼びに来たし 今日はここらへんで切り上げて攻略会議に行こっか」

「そうだね~」

 

私は意識さんと朱猫さんに労いの言葉をかけ、私たちは<トールバーナ>に戻ることにした

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

<トールバーナ>の攻略会議が行われる会場に着くと結構人が集まっていた

 

「結構集まってますね~」

「フルレイドには少しだけ足りないけれどもね」

「でも死ぬ危険もあるのにここまで集まったのはすごいと思うよ?」

「皆さん空いてるところに座ってくださいな」

「「「「「「「はーい」」」」」」」

 

私たちが話をしているとポテトさんに座るように催促された

 

 

そして座ってしばらくすると青髪の如何にも騎士っぽい人が中央に出てきた

 

そして数分ぐらい経った後その人が手を叩き注目させた

 

 

「はーい! それじゃぁそろそろ始めさせてもらいま~す! 今日は俺の呼びかけに応じてくれてありがとう! 俺はディアベル! 職業は気持ち的に…騎士(ナイト)やってます!」

 

そんな冗談を言ったからか周りからは「ジョブシステムなんてねーだろ!」とか「ほんとは勇者っていいてーんだろ!」や「かっこいいぞ~ 勇者様!」という声が聞こえてきた

 

そんな声を制止させ、ディアベルさんは話を続けた

 

「さて! ここにいるみんなは現状のSAOでのトッププレイヤーといってもいいと思う! だからみんなに集まってもらった理由ももう言わなくてもわかるよな!」

 

そこからディアベルさんは顔を真剣にし、言った

 

「今日! 俺たちのパーティが迷宮区の最上階のボス部屋を発見した! つまり明日か明後日にはボスに挑めるということだ! ここまで1ヵ月…1ヵ月もかかったけれども遂に2層に到達できるということだ! そしていつかこのデスゲームもクリアできるということをみんなに伝えなければならない! それが最前線で戦える俺たちの義務なんだ! そうだろう! みんな!」

 

ディアベルさんの意見には強く同意したため私は拍手をした 周りの人たちも拍手や口笛などで同意している

そんな彼らを制止させてディアベルさんは続けた

 

「ありがとう! みんな! じゃぁ早速だけど…「ちょお待ってんか! ナイトはん!」」

 

そこにドスの効いた声でイガ頭の人が待ったをかけた そしてその人はディアベルさんのいるところまで降りて行った

 

「その前にこれだけは言わせてもらわんとあかんなぁ」

「何だい? 意見は大歓迎だけれどもその前に名乗ってもらえるかな?」

「ワイはキバオウってもんや」

 

その人は名前を言うと私たちの方を指さしながら言った

 

「こんなかに5人か10人程度今まで死んでいった2000人に詫び入れなあかん奴らがおるはずや!」

「キバオウさん 君の言う奴らって 元βテスターのことかい?」

「決まっとるやろ! β上がりの奴らはこのクソゲーが始まったその日にほとんど<はじまりの街>からいなくなりおった! 奴らはうまい狩場やらぼろいクエストを独占してそのあともずっと知らんぷりや! こんなかにもおるはずやで! そんな奴らが! そいつらに土下座させてため込んだアイテムや金を吐き出してもらわんとパーティメンバーとして受け入れられん!」

 

…確かにキバオウさんの言うことには一理あるかもしれないけれども…それが何になるんだろ?

 

そんなことを思っていると

 

「発言いいか」

 

私の身長の1.2倍ぐらいはありそうな色黒の人が出てきた

 

「俺の名前はエギルだ つまりキバオウさんの言いたいことは元βテスターが面倒を見なかったからビギナーが沢山死んだ、その責任を取って謝罪及び賠償をしろ そう言いたいんだな?」

「せ…せや!」

「そういうがキバオウさん アイテムや金はともかくとして情報ならあったと思うぞ?」

 

エギルさんがそういうとエギルさんはアルゴさんのガイドブックを取り出した

 

「このガイドブック あんたも知ってるだろ? キバオウさん 道具屋で無料配布されているからな」

 

あれ…無料…? あー増刷用の資金にされたのか…

 

「あぁ 知っとるで? それがどうしたんや!」

「俺たちが次の街に着くとそこの道具屋にはこのガイドブックが置いてあった… 妙だとは思わないか?」

「それがどないしたっちゅうんや!」

「このガイドブックを作ったのは元βテスターたち以外にはありえないということだ」

 

そう言うとエギルさんは私たちに向いて

 

「いいか! 情報はあった なのにたくさんのプレイヤーが死んだ それは彼らがMMOのプロだったからこそだと俺は思う! 彼らがほかのタイトルと同じようにこのSAOを見て、引くべきタイミングを見誤ったからだと俺は考えている その反省をどう次に生かすのか それがこの場で議論されるものだと俺は思っていたんだがな」

「キバオウさんの言いたいこともわかるよ でも今は前を見るべきじゃないかな? 彼らが力を貸してくれるんだったら心強いこの上ないからね」

「ここはあんさんに従ごうたるわ! せやけど これが終わったら白黒はっきりさせてもらうで!」

 

エギルさんとディアベルさんがキバオウさんの言ったことをやんわりと反論するとキバオウさんは一言だけ言ってから席へと戻っていった

 

「もしも他に元βテスターの人とは戦えないっていう人がいたら抜けてもらって構わないよ 攻略前に足並みを崩したくはないからね」

 

ひとまず、みんなこのことは置いてもらえるみたいだった

 

「じゃぁ そろそろ本題に「「ディアベルさん! これ!」」

 

ディアベルさんが本題について話そうとしたときまたそれを止める声が…

その人がディアベルさんのところまでやってくると一冊の本を手渡した

 

「これは…?」

「例のガイドブックの最新版がさっき入荷して…」

 

ディアベルさんがアルゴさんの攻略本の内容を確認すると

 

「これは…! ボスの名前、HP、使うソードスキルに取り巻きの情報まで… 流石情報屋だ…」

 

どうやらボスの情報が載っているらしい…

 

「いけるな… ここで危険な偵察戦を省けるのは大きい…!」

「そのようだな」

 

確かにボスの情報があるのとないのとでは戦況も大きく変わるそんなことを思っていると

 

「あぁん? ちょうまてや!」

 

またキバオウさんが出てきた…

 

「やっぱりや! 裏表紙みてみい! やっぱりあの情報屋誰がβテスターか知っとるな! いや…あの情報屋自身がベータ上がりに違いないで!」

 

キバオウさんがそんなことを言ってそれに続くように

 

「そうだ! βテスターの情報を鵜吞みにするのか!?」

「大切な情報だけ省いて、俺たちを罠にはめて美味しいところだけを持っていくこともできるはずだ!」

「もしこれがβテストの情報ならβテスター自身が先頭に立って確認するべきじゃないのか?」

 

もういい加減に我慢の限界なので私は言ってやることにした

 

「ちょっと… たみさん? 何処へ?」

 

大丈夫…私ならできる

 

「今は…」

 

 

 

「今は感謝以外の何が必要なんですか?」

 

そういったけれども…彼らからは違う反応が返ってきた

 

「女の子だ…」

「可愛いかな…?」

「スタイル良さそう…」

「でも所詮ネトゲ廃人だし期待するだけ…」

 

やっぱりというか…私の頭からつま先まで見てくる始末で出るべきじゃなかったかもと思った…

 

その通りだ!

 

ディアベルさんのそんな大声に驚いたのは内緒の話

 

「今はただこの情報に感謝しよう! もし情報に漏れがあったとしても死者はゼロにする! 騎士の誇りにかけて!」

 

そんなことをディアベルさんが言っているとておさんがやってきた

 

「たみちゃん! 戻るぞ!」

「は… はい!」

 

ておさんが私だけに聞こえる音量で話してから戻ろうとしたので私も戻ろうとすると全員がこっちを向き ディアベルさんが…

 

「お誂え向きに… お姫様もいるようだしね」

 

と言った なんというか…すっごく顔が熱くなったような気がした

 

「遅くなったけれども 早速、実務の話をしよう! まずは6人のパーティを組んでみてくれ!」

 

…うん? 確か私たちって8人じゃなかったっけ? だれか二人が別のところに行かないと…

 

そんなことを考えながらひとまずポテトさん達のところに戻ってきた

 

「お帰り お姫様」

「おー お姫様が戻ってきたぞ」

「お帰りなさいませ たみお姫様」

「えーっと… おかえりなさいませお姫様?」

 

ポテトさん達がずっとお姫さまっていうので顔がさらに熱くなってきた…

 

「あぅぅ…」

「お姫様大丈夫ですか?」

 

あまりにしつこいので…

 

ひとまずお姫様呼び禁止!

 

と言った

 

 

~~~~~~

 

 

「で…どうしますか?」

「うーん… 公平にじゃんけんで決める?」

「じゃぁ私抜けましょうか?」

「え? 何で?」

「私が抜けたほうが早いかと」

「たみさんがそれでいいんだったらいいけど…」

 

そんなわけで私が抜けることにしてじゃんけんの結果、ておさんも一旦抜けることになった

 

「で… どのパーティに入りますか?」

「そういってもほとんど決まってそうかも…」

「あそこに2人組がいますね」

「たみちゃん声かけてきて」

「何で私なんです?」

「いや… 俺が行っても入れてもらえるかどうか…」

「じゃぁ 行ってきますね」

「頼むわ」

 

私とておさんが話をしているとちょうど2人組を発見したため、私はその2人組のところに行くことにした

 

 

「あの~? すみません… もしかして2人だけですか? もしよかったらでいいんですけれどもパーティ組みませんか?」

「! あ…あぁ! いいぞ! あんたもいいよな!?」

「足を引っ張らなければ…」

 

剣士さん(仮)の方は快く受け入れてくれたけれども、フードさん(仮)の方は冷たい感じがした

パーティを組んでみたところキリトとアスナと言うらしい

何処かでキリトという名前聞いたことがあるような…?

 

 

組み終わってしばらくしたらディアベルさんの説明が再開した

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

ディアベルさんの説明が終わり、剣士さんがディアベルさんと会話をしていた

 

「本当に申し訳ない! 取り巻きのコボルド専門で納得していただいてもいいだろうか…?」

 

直角はありそうな角度でディアベルさんが私たちに頼み込んできた

 

「フルレイド組める人数は集まっていないんだし…仕方ないさ」

「そういってもらえると助かるよ!」

「取り巻きを倒すのだって立派なサポートさ あんたらが戦っている間全力でサポートさせてもらうよ」

「ボスの方は任せてくれ! でも…」

 

そういうとディアベルさんは私たちの方を見ながら

 

「もう立派な騎士はついているみたいだけれども、お姫様の護衛は騎士として羨ましい限りだね」

「はは…」

 

また顔が熱くなってきたような気がした…

 

 

 

そんなこんなで第1回のフロアボス攻略会議はお開きになった

 

 

 




今回出てきたオリジナル武器とオリジナルソードスキルの紹介です

武器紹介

〖グラス・ブレード〗
両手剣に属しており、クエストの報酬
タコミカの使用している武器で1層から2層終盤までの実力

〖ルイン・スピア〗
両手槍に属しており、【ストーンエレメント】のレアドロップ
ポテトの使用している武器で1層から2層終盤までの実力

〖コボルド・バックラー〗
盾に属しており、その名の通り【ルインコボルド】のレアドロップ
きるやんの使用している武器?で1層から2層序盤までの実力

〖ヘキサゴン・シールド〗
盾に属しており、クエストの報酬
ひま猫が装備しており、1層から2層中盤までの実力

〖リーフ・スピア〗
両手槍に属していているがかなり軽い、【ラージネペント】のレアドロップ
めらおりんの使用している武器で1層から2層中盤までの実力

〖ラッチ・ダガー〗
短剣に属しており、クエストの報酬
意識の使用している武器で1層から2層までの実力

〖ワスプ・ダガー〗
短剣に属している毒武器で、【フォレストワスプ】のレアドロップ
朱猫の使用している武器で1層でしか使えない実力


ソードスキル紹介

≪スイフト≫
両手槍単発直線突き ≪スイフト・ランジ≫には劣るがそれでも速いスピード


ボス戦には1話を挟んでから行きたいと思います

それではまた次回に


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6話:お風呂!?

皆さん長らくお待たせいたしました…

例のやつです

それではどうぞ~




「お…おい 参加しないのか?」

「…どこが重要な役割よ 戦力外だったらはっきりとそういいなさいよ…」

 

解散した後合同練習に参加せず帰ろうとするフードさんを止めようとする剣士さん…

取り敢えずここで会ったのも何かの縁なので助け舟は出してみることにした

 

「仕方ないですよ… スイッチでPOTローテしようにも時間も人数も足りないですし…」

「ね…ねぇ? 何の話…?」

「え? 何がですか?」

「その スイッチとか POTローテとか…」

 

私が助け舟を出すとフードさんは質問してきた…

 

うん? あれ? パーティ組んでるんじゃ?

 

「お前パーティ組んでるんだろ…? 教えてないのか?」

「教えるも何も今日会ったばっかりだし…」

 

ておさんがそう言うと剣士さんが答えた

 

なるほど… じゃぁ説明しなきゃ…

 

「じゃぁ説明が必要ですよね? どこでするおつもりですか?」

「その辺の酒場とか「嫌」」

 

わぁ 即答! でも考えてみたら確かにそうかも

 

「確かに私も賛同しかねますね… 誰かに見られるかもですし」

「じゃぁ NPCハウスは…誰か入ってくるかもしれないな…」

「他にないのか?」

「そうだ! 宿の部屋なら「あなたは女の子と一緒の宿に入って何をなさるおつもりですか?」だよな…」

 

ておさんが質問するとなんと剣士さんは宿屋の部屋を提案してきた… 流石にその発想はおかしいと思うし、今日会ったような人ならなおさら…

 

「大体この世界の宿屋なんてどれも似たようなものじゃない… 6畳1間にベッドとテーブルに椅子があるだけでそれで50コルも取られるって 睡眠だけは本物だからもう少しいい部屋で寝たいわ」

 

確かにフードさんの言う通りかも… 結構お金もたまってきてるしもうそろそろいい部屋で寝泊まりしたい…

 

「そうか? 探せばもっと他にあるだろ? まぁ多少値は張るかもしれないけれどさ」

「探すって言ってもこの街に宿屋って3軒ぐらいしかなかったはずですよ?」

「そうか?ってああ…あんたら『INN』の看板が出ているところにしかチェックインしてないのか…」

「この層で『INN』以外に泊まれるところってありましたっけ?」

「この世界の低層フロアでは『INN』は最安値でとりあえず寝泊りできるっていう意味なんだ」

 

私がそう言うと剣士さんはこの世界での『INN』の意味を教えてくれた なるほど~

 

「例えば俺の借りている部屋だと農家の2階で1泊80コルと少しだけ割高だけれど2部屋あってミルク飲み放題のおまけつき ベッドもでかいし眺めもいいし おまけにお風呂までついて…「「待って」」」

「!?」

 

今聞き捨てならない言葉が聞こえたような…?

私は思わずその剣士さんに向かって壁ドンをフードさんは肩を掴んでいた

 

「あなた 今なんて言ったの…?」

「み…ミルク飲み放題…?」

「その次です」

「ベッドがでかくて眺めもいい?」

「そのあと」

「風呂つき…?」

 

私達が剣士さんを問い詰めるとやっぱり聞き間違いじゃなかったことが分かった!

 

「あなたの部屋1晩80コルって言ったわよね?」

「い…言いました」

「その宿あと何部屋空いてるの? 場所はどこ? 私も…」

 

そういうとフードさんはふと私の方を見た

 

「いえ、私たちも借りるから案内して」

「あー…さっき俺 農家の2階を借りてるって言ったよな」

「言いましたね」

「それって丸ごと借りてるっていう意味なんだ 故に空き部屋はゼロ 因みに1階に空き部屋はなかった」

「「えっ…」」

 

剣士さんは無情にもそう宣言したため軽く絶望しかけたけど何とか立て直す

 

「その部屋…」

「俺はもう十分に満喫したし 誰かに代わってあげるのもやぶさかじゃないんだけれども 実は借り部屋システムの最大日数…つまり10日分宿代を前払いしててさ あれってキャンセル不可なんだよね…」

「「なっ…」」

 

 

再び絶望しかけたけれども何とか立て直す… もうこうなったら最終手段に出るしかない!

フードさんも同じ結論にたどり着いたみたいで二人で相槌を打つ

 

 

「「…あなたのところでお風呂貸して!」」

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「ど…どうぞ」

「ありがと」

「お邪魔します…」

 

そして私たちはお風呂…もとい剣士さんの泊っている部屋に着いた(ておさんは先に帰った…)

 

「何これ…!? 広っ…!? これで私の部屋とたった30コル差!? 安すぎでしょ…!」

「こういう部屋を見つけるのが結構重要なシステム外スキルっていうことさ」

 

フードさんがそう言うと剣士さんが答えた 勉強になる…

 

「えーっと… 見ればわかると思うけれどもそこがお風呂場だから…」

「はーい」

「一応念のために言っておくけれどもお風呂って言っても現実世界のまんまじゃないぞ 液体環境はナーヴギアも苦手らしくてな…あんまり過度な期待はするなよ」

「お湯があればそれ以上は何も望まないわ」

 

そういえば先にどっちから入るか決めてなかったので決めることにした

 

「先にどっちから入りますか?」

「あなたから先にいいわよ」

 

え? 本当に?

 

「いいんですか…? じゃぁお言葉に甘えて…」

 

お風呂は私が先に入っていいことになった

 

~~~~~~

 

 

「すごい…」

 

そうして入ったバスルームは本当にすごかった 私の家の浴室みたいな大きさで北半分にはカーペットが敷かれていて南半分には石を磨いたタイル敷きで大部分を浴槽が占めている…

 

「そういえばここって鍵かかるのかな…」

 

そう思ってドアを調べてみたけれどもそういったのは何もなかった 元々複数人で泊まる予定とかされてないし当たり前か…

 

「じゃぁ早速…」

 

そう言うとメニューを開き武器防具全解除ボタンを押すと今まで着ていた装備が外れ、残ったのは部屋着だけになり、そこからさらに武器防具全解除ボタンが衣類全解除というボタンになっているためそれを押し、残ったのは下着だけになった… そして衣類全解除というボタンが下着全解除というボタンになっているためそれを押すと完全に衣類を全解除できた

 

「少しだけ寒いな…」

 

気温もそのままの季節通りになっているため少しだけ肌寒い 早くお風呂に入ろっと

 

私は向こうでやっていた通りにかけ湯をし、湯船へと身を沈めた…

 

「はぁぁぁ~…」

 

確かに剣士さんの言っていた通り多少の違いはあるけど概ね同じといってもいい

 

そんなこんなで私は約1ヵ月ぶりのお風呂を心行くまで満喫した…

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

しばらくして浴槽から上がり、私が装備を着用しようとメニューを開こうとすると…

 

〔ガチャ〕

 

「「あ…」」

 

…え?

 

「ターちゃんってそんな顔してたんだナ…」

 

入ってきたアルゴさんと目が合った… その三秒後ぐらいに

 

〇×△※!?

 

私は声にならない悲鳴を上げメニューから何かを取り出しそれを思いっきり投げ、アルゴさんを部屋の外に出しドアを思いきり閉めた

 

 

 

…それが盾で剣士さんに直撃したことに関しては反省している

 

 

 




本当はパーティ練習の話もやろうとは思ったんですけれども話がまとまらなかったためやめにしました…

美人二人に言い寄られるキリトさんやばいですね(白目)

それではまた次回に


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7話:第1層フロアボス "君主"戦

遂にボス戦です 戦闘描写がうまくできるかどうかはわかりませんがやっていきます

それではどうぞ

P.S.:UAが通算1000を突破したのとお気に入り登録 本当にありがとうございます!


攻略会議の翌々日 遂に私たちは第1層のボスに挑む…

 

「おはようございます~」

「おはよう 二人とも」

「おはよ 剣士さん フードさん」

「おはよう」

 

 

そこからは会話が続かなかった

なぜかというと色々と気まずいからである… 主に一昨日の夜のことで

 

しばらく無言でいると…

 

「おい」

 

キバオウさんが声をかけてきた

 

「ええか 今日はずっと後ろに引っ込んどれよ 自分らはワイらのパーティのサポート役なんやからな」

 

キバオウさんが睨みながら私たちに対して言った

 

「大人しく ワイらが討ち漏らしたコボルドの相手だけしとれや」

 

それだけを言うとキバオウさんは自分の班のところへと戻っていった

 

「何あれ…」

「さぁ? ソロプレイヤーは調子に乗るなっていうことかな…」

「感じ悪いですね」

 

剣士さん達とキバオウさんについて話していると噴水の方から手を叩く音がした

 

 

「みんな! いきなりだけれどありがとう! たった今! 全プレイヤー46人が集まってくれた!」

 

どうやら全員が集まったみたいだった

 

「今だから言うけれど 実は俺 誰か一人でも欠けたら今日は中止にしようと思ってたよ! でもそんな心配はみんなへの侮辱だったな! 俺、すごく嬉しいよ! こんな最高のレイドが組めて… まぁ フルレイドには少し足りないけどさ!」

 

ふと後ろを見てみるとポテトさん率いるF隊がそこにはいた

 

小さく手を振ると向こうも気づいたようで返してくれた

 

そしてディアベルさんが皆を制止させると言った

 

「みんな! もう俺からいうことは1つだけだ!」

 

 

「勝とうぜ!」

おー!

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

しばらくフィールドを歩いていると不意にフードさんが口を開いた

 

「ねぇ あなたたちは他のMMOっていうの?をやってたんでしょう?」

「あ…ああ、まあな」

「他のゲームもこんな感じなの? 何というか…遠足みたいな…」

「ハハ…確かに遠足は良かったな」

 

それを言うと剣士さんは続けた

 

「でも残念だけどVR形式じゃないゲームでは移動にキーボードやらコントローラー操作が必要だったからな チャット欄に打ち込む暇なんてまずなかったよ」

「確かに打ち込むのが早かったらまだ大丈夫かもしれないですけれどもね」

「なるほど」

「まぁボイスチャット対応しているゲームやそういったコミュニケーション用のアプリなんかもあったけれど俺はやってなかったからな」

 

剣士さんと私がそう返すとフードさんは納得したのか少し黙っていた… しばらくするとフードさんが何を思ったのか

 

「本物はどんなのかしら…」

「本物って?」

「仮にこういうファンタジー世界があったとして そこを冒険する剣士とか魔法使いとかの一団が恐ろしい怪物の親玉を倒しに行くとして 道中彼らはどんなことを話すのか、それとも無言なのか…そういう話」

 

フードさんが何か言ったため私が返すとフードさんが詳しく質問し、少しだけ間をおいてから剣士さんは口を開いた

 

「死か栄光への道行きか… それを日常として生きている人たちは多分…晩御飯を食べにレストランへ行く時と同じなんじゃないかな? 喋りたいことがあれば喋るし、なければ喋らない このボス討伐レイドもいつかそんな風になると思うよ ボスへの挑戦を日常にできればね」

「ふ…ふふ」

 

剣士さんがそんなことを話すとフードさんが笑った

 

「笑って御免なさい…でも変なことを言うんだもの この世界は究極の非日常なのに、その中で日常だなんて」

「確かにそうだな でも今日で丸4週間目だよ 仮に今日ボスが倒せたとしてもその上にはまだ99層もある 俺は2~3年ぐらいはかかると予想しているな それだけ続けば非日常も日常になるさ」

「…強いのねあなた達は 私には到底無理だわ この世界で何年も生き続けるのは 今日の戦闘で死ぬよりもずっと怖く思えるから…」

 

 

未来がどうなっているかなんて誰にも分らない…でも私は何年かかろうと絶対に生き延びる…そう誓ったから

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

道中特に問題なくボス部屋の前に到着した

 

するとキリトさんが私たちに声をかけてきた

 

因みになんで私が剣士さんの名前を知っているのかというと途中で自己紹介したからである(フードさんはしなかったけれども…)

 

「3人とも、少しいいか」

 

その声で私たちはキリトさんの方へと向いた

 

「あぶれ組の俺たちが担当する【ルインコボルド・センチネル】はボスの取り巻き扱いだけれど十分強敵だ、俺かタコミカのソードスキルで奴らの長柄斧を跳ね上げるから、俺が跳ね上げた場合はフェンサーさんが、タコミカが跳ね上げた場合はテオが飛び込んで喉元を突いてくれ」

「「「了解」」」

 

ボス戦の動きを確認していると準備が整ったみたいだ

 

そしてディアベルさんが「行くぞ!」という掛け声と共にボス前の大扉を開いた

 

 

ディアベルさんが中に入り数歩進むと 暗かったボス部屋も明るくなり、玉座に座っているボスのシルエットが見えた

 

ボス部屋にレイド全員が入るとボスが勢いよく玉座から飛び上がり空中で一回転してから先頭であるディアベルさんの前方20mぐらいに着地した 名前は【イルファング・ザ・コボルドロード】 外見は全体的に赤黒っぽい色で青灰色の毛皮をまとい骨で作ったと思われる斧とバックラーを持っており、身長は軽く3mは越えてそうだった

 

そしてボスが雄たけびを上げると私たちが担当予定の【ルインコボルド・センチネル】が3体ポップし突撃してきた

 

ディアベルさんも負けじと「攻撃開始!」と声をあげるとレイド全員が声をあげ突撃していき、第1層フロアボス戦が幕を挙げた

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

私たちは当初の予定通りE隊が討ち漏らした取り巻きの相手をしていた

 

「スイッチ!」

「了解!」

 

私が長柄斧を≪カスケード≫で跳ね上げたためておさんがすかさず【ルインコボルド・センチネル】の喉元に≪レイジスパイク≫を撃ち込み消滅させた

 

「グッジョブです」

「そっちもね」

 

結構いい感じだけれどもこうもうまくいきすぎると逆に心配になる…

 

私とておさんが話をしているとキバオウさんがキリトさんと何かを話しているのが見えた

 

 

そして「おおっ!」という声が聞こえたためそっちを向くと"君主"が武器を投げ捨てるのが見えた ボスのHPバーを見てみるともう最後の1本に入っていた

 

するとディアベルさんが

 

「C隊前へ! 俺も出る!」

 

という指示を出した

 

 

「なぁ タコミカ?」

 

その時キリトさんが声をかけてきた

 

「どうされましたか?」

「〖湾刀(タルワール)〗ってどんなのか知ってるか?」

「どうって…」

 

確かサーベルみたいな武器だったよね?

 

「確かサーベルみたいなやつじゃありませんでしたっけ?」

「お前はあれがサーベルみたいに見えるか?」

 

え…? キリトさんがそういったためふとボスの武器を見てみると…

 

あの形どこかで… あれって確か… 日本刀…?

 

「おい待て… あれって〖野太刀(ノダチ)〗じゃ…!?」

 

偶然に近くにいたひま猫さんがそう呟いた…

 

「なんだと!?」

 

キリトさんがそう言うと同時に私はボスの元へと一直線に駆け出していた

 

駄目だ! 全員全力で後ろに飛べぇぇ!!

 

キリトさんが全力で呼びかけたがディアベルさん含むC隊は対処ができず ボスの使う刀のソードスキルを受け、私は咄嗟に武器でガードしたため無事だったがC隊の人たち他、ボスの周りにいた人たちはスタンを受けてしまった

 

そして追撃がディアベルさんに…

 

「間に合えぇぇぇ!」

 

本当にギリギリのタイミングで私は≪サイクロン≫を〖野太刀(ノダチ)〗に撃ち込み相殺した

その時の風圧でフードが外れた気がするけれどもそんなことは気にしていられない!

 

私はそのまま武器を盾にして耐えていた

 

「うぐぐ…」

 

ボスの攻撃を受け続けていたけれども徐々に押されてきてる…

 

「たみさん!」

 

もう限界…!

 

「スイッチ!」

「了解!」

 

もう限界かもしれないと思ったときにキリトさんからスイッチの指示があって私はとっさに≪カスケード≫を〖野太刀(ノダチ)〗に撃ち込みキリトさんとスイッチし、ておさんと共にディアベルさんを安全地帯に移動させた

 

 

 

「はぁはぁ… ケホッケホッ…」

「たみちゃん…大丈夫…?」

「大丈夫です…」

 

安全地帯で私の背中を朱猫さんがさすっている間ひま猫さんがディアベルさんを回復させながら聞いた

 

「ディアベル… なぜあの場面で突撃を…?」

「ひま猫さん… 君も元βテスターだったらわかるはずだ…」

「もしかして… ラストアタックボーナス…?」

 

ひま猫さんがそう言うとディアベルさんは小さく…でも確かに頷いた

 

「だから俺やキリトの武器を買い取ろうと」

「元βテスターとしての責任を果たすため、そしてみんなを導くためにはどうしても必要だったんだ…!」

「ディアベル…」

「だからと言って自分の身を危険に晒すのは間違ってるな」

「返す言葉もないよ…」

 

ひま猫さんがそう言うとディアベルさんが答え、ておさんが冷静に言うとディアベルさんが分が悪そうに返した

 

ふとボスの方を見るとキリトさんとフードの外れたフードさんでボスの攻撃を防いでいるといたけれどもリーダーが倒されたという状況かほぼ全員がパニックになっており、新しく出てきた取り巻きはポテトさん、めらさん、意識さんとB隊の人たち(やる気君もこっちに入っている)が対処していた

 

少し休憩したら気分も良くなったためボスの元へ行くことにした

 

「…私もうそろそろ行きますね」

「え!? もう少し休んでた方が…」

「朱猫さん、ひま猫さん! ディアベルさんをお願いします!」

「えぇ!? わかったけれども…」

「じゃぁ俺も行くよ」

「お願いします」

 

それだけを朱猫さんとひま猫さんに言うと私とておさんは再びボスの元へと走り出した

 

 




というわけで、ディアベル生存ルートに入りました

この小説ではひま猫さんの武器も買い取ろうとしています

キリがいいので今回はここまでにして次で第1層編は終了させます

それではまた次回に


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8話:ビーター

タイトルは何番煎じぐらいかも分からないものですが他にしっくりくるものがなかったので許してください…

それではどうぞ




ボスの元へと向かっている途中キリトさんの読みが外れ、キリトさんがかなり吹っ飛ばされてしまい、よそ見をしたフードさんに【イルファング・ザ・コボルドロード】の攻撃が迫る…

 

そんな時にエギルさんがボスを大きくノックバックさせ、ポテトさんもそれに加わった

 

「これ以上あんたらに無茶されたら俺らの出番がないからな」

「お二方がPOTを飲み終えるまでは耐えられますので」

「…頼む」

 

そこから私たちも加勢し、ボスへの攻撃を再開した

 

「ボスを後ろまで囲むと全体攻撃が来るぞ! 技の軌道は俺が言うから正面のやつが受けてくれ! さっきみたいに無理にソードスキルで相殺しなくても盾や武器でしっかりガードすればそこまで大きいダメージにはならない!」

「応!」

 

キリトさんが指示を出してエギルさんがそれに答えた

 

 

~~~~~~

 

 

それが五分ぐらい続き、ボスの最後のHPゲージが3割ぐらいを切ったときやる気君が足を縺れさせてしまった

 

「あっ!」

 

そして立ち止まったのが不運にもボスの真後ろだった

 

「早く動け!」

 

キリトさんがそう声をかけたがもう遅く、ボスはひときわ獰猛に吠え高くジャンプし刀のソードスキル発動のモーションを取っていた

 

そんな時にキリトさんが短く吼え、壁側から飛び出してから≪ソニックリープ≫を発動させて目標を上空もといボスへと向けた

 

「届けぇ…っ!」

 

クリティカルヒットを出したのか"君主"の体は空中で傾き、地面へと叩きつけられた

その衝撃で転倒(タンブル)状態になっていた

 

 

華麗にキリトさんが着地を決めると

 

「全員 全力で攻撃しろ! 囲んでも大丈夫だ!」

 

と叫んだ

 

「了解! 全員フルアタック!」

 

そうポテトさんが言うと全員が渾身のソードスキルをボスへと叩き込んだ

 

 

全員がソードスキルを叩きこみ、ボスのHPもあと数パーセントあるかないかぐらいになった

でもこれだけ削り切れれば十分!

 

私たちはあとは2人に託すことにした

 

そんな時ボスが立ち上がろうとしていた…

 

「2人とも! あとはお願いします!」

 

私がそう言うと2人はボスに向かっていった

 

「アスナ! 最後の攻撃 一緒に頼む!」

「了解!」

 

そしてアスナさんが≪リニアー≫を放ち、そしてキリトさんが≪バーチカル・アーク≫を放ってボスのHPを削り切った

 

その直後"君主"は細く高い雄たけびを上げ、その体をガラス片へと変え四散させた

 

私たちは少しだけ警戒していたが…

 

 

Congratulations!

 

 

そんな言葉が空中に出てきたためそこで私はようやく武器を背中へと戻した

 

その直後にボス部屋は大きな歓声に包まれた

 

「やった! 勝った!」

「どうだ見たか! 茅場!」

「よっしゃー!」

「とうとうやったぞ!」

 

そんな声が聞こえて本当に終わったんだと私は思った

 

こうして私たちの初のフロアボス攻略は成功で幕を下ろした

 

 

私たちはキリトさんへと声をかけに行くことにした

 

「お疲れ様」

「お疲れ様です~」

「お疲れ!」

「あ…あぁ…」

 

アスナさんと私とておさんがそう声をかけるとキリトさんは少しだけ恥ずかしそうに返した

 

「見事な指揮…そして見事な剣技だった コングラチュレーション! この勝利はあんたのもんだ」

「流石ですね あなたがいなければ前線が崩壊していたかもですね…」

「キリトさん そしてタコミカさん ありがとう、ボスを倒してくれて…そして俺を助けてくれて 俺の出る幕はなかったようだな…」

 

そこからエギルさん、ポテトさん、ディアベルさんが声をかけるとキリトさんは「いや…」と呟いた

 

そして意識さんが「立てるか? MVP」と言いながら手を差し出してキリトさんがそれを掴もうと手を伸ばした時…

 

 

なんでだよ!

 

という声が聞こえてきた

 

「なんで… なんでディアベルさんを見殺しにしかけたんだ!」

「お前な…」

 

ひま猫さんがそういうもその人は聞く耳を持たなかった

 

「だってそうだろ!? そいつはボスの使うソードスキルを知ってたじゃないか! その情報を最初っから伝えていたら ディアベルさんが死にかけることも! 俺たちが危険な目に遭うこともなかったはずだ!」

 

その人はキリトさんを指さしながらいい… さらに私へと指をさしながら言った…

 

「それによくよく考えたらその女だって可笑しい! 攻略会議の時から元βテスターの肩を持つようなことを言っていたし、あんな立ち回り方は元βテスターでもない限りできるわけがない!」

 

え…?

 

「そういえば確かに…」

「言われてみれば…」

「攻略本にも載ってなかったのに」

 

そんな中、彼らの声に便乗するように一人の男が言った

 

「俺…オレ 知ってるぜ! こいつらは元βテスターなんだ! だからボスの使うソードスキルを知ってたんだ! 知ってて隠してたんだ!」

 

その人は私たちの近くまで来ると私たちを指さしながら言った

 

「でもさ…よく考えてみろ? もし彼らが仮に元βテスターだとしたら その情報は一昨日配布された攻略本の情報と同じなんじゃないか? そしてボスの使うソードスキルを知ってたのはずっと上の層でそのソードスキルを使う奴と戦ったからじゃないのか?」

「そ…それは…」

 

意識さんが冷静に反論するとその人は押し黙ったが最初に叫んだ人が続けた

 

「あの攻略本自体嘘だったんだ! あのアルゴっていう情報屋も元βテスターなんだから本当のことなんて最初っから教えるつもりがなかったんだ!」

「おいお前…」

「あなたね…」

「やめてくれ… みんな… 違うんだ 彼らは…」

「お前… いい加減にしろよ…」

 

流石に我慢の限界だったのかエギルさんとアスナさん、ディアベルさんとておさんが前に出てこようとしたがキリトさんがそれを制した

 

「冗談だろ? 俺をこんな素人と一緒にしないでくれよ」

 

キリトさんが私に顔を向けながらそう言いさらに続けた

 

「困るなぁお前らも そう庇われたら仲間だと思われるだろ?」

「キリトさん…」

「これだから温室育ち共は… でも多少予定は狂ったが本来の目的は達成できたしそれに関しては感謝してるよ」

 

キリトさんはもしかして… 私がそう思っている間もさらに続ける

 

「お前らもお前らだよ いいか? よく思い出せよ βテストはとんでもない倍率だったんだぞ? 当選した千人のうち本物のゲーマーが何人いたと思う? ほとんどがレベリングのやり方も知らないような初心者だったよ はっきり言って今のあんたらのほうがまだましさ だが俺はそんな奴らとは違う 俺は他の誰も到達できなかった層まで登った ボスの使う刀スキルを知ってたのはそいつの言う通りずっと上の層で刀スキルを使う敵と散々戦ったからだ 他にも色々知ってるぜ それこそ、そのアルゴとかいう情報屋なんて問題にならないレベルでな!」

「な…なんだよそれ…そんなのもうβテスターどころじゃないじゃねぇか! もうチートだろ…チーターだろ! そんなの!」

 

キリトさんがそう言い終わると最初に叫んだ人がそう言った

 

そしてそれに便乗するように「そうだ!」、「チーターだ!」、「ベータのチーターだ!」という言葉が周囲から湧きあがった

 

その中でキリトさんは「このビーター野郎が!」という言葉に反応した

 

「ビーター…いい呼び方だなそれ… そうだ! 俺はビーターだ! これからは元テスターごときと一緒にしないでくれよ」

 

キリトさんはそう言いメニューを操作し恐らくボスのラストアタックボーナスだと思われる黒いコートを装備した

 

「折角だし2層の転移門は俺がアクティベートしといてやるよ この上の出口から転移門のある主街区までは少し距離があるからついてくるんだったら初見の敵に殺される覚悟はしておけよ」

 

そう言うとキリトさんは2層側の扉から出て行った…

 

 

しばらくするとアスナさんが2層側の扉から行こうとしたのでエギルさんやディアベルさん、ひま猫さんとポテトさん それからキバオウさんも伝言を頼もうとしたので私もお願いした

 

それぞれ…

エギルさんは「次のボス戦も一緒にやろう」と伝え、

ディアベルさんは「済まなかった この借りは絶対に返す」と伝え、

ひま猫さんは「俺もあんな素人連中と一緒にしないでくれ」と伝え、

ポテトさんは「困ったときにはいつでも言ってください 相談にはのれないかもしれないですけれども話ぐらいだったら聞きます」と伝え、

キバオウさんは「今日助けてもろうたことには感謝しとるけど自分らのことはやっぱり認められん ワイはワイのやり方でクリアを目指す」と伝え、

そして私は「何から何まで本当にありがとうございます 私はいつでもキリトさんの味方ですからね」とアスナさんに伝えた

 

 

 

そして全員がボス部屋からいなくなった頃、ポテトさん達に「先に戻っておいてください」と伝え、私は2層側の扉から第2層へと足を踏み入れた

 

 

 




今回で第1層編を終えることができてよかったです

次回からは第2層編へと行きます

それではまた次回に


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紅の策士と伝説の勇者達 (アインクラッド編 第2層)
1話:見慣れた景色と『エクストラスキル』


今回から第2層編へと入っていきます

ここから5層まではプログレッシブ基準で行きます

それではどうぞ

P.S.:お気に入り登録ありがとうございます! これからもマイペースですが見ていただけると幸いです


フロアボスの部屋の出口からしばらく階段を歩いていくと2層への扉があり、それを開けるとそこにはテーブル状の岩山が連なっており、その山の上部分には草が生い茂っていた…

 

アインクラッドの外周開口部から青い空が見えており、その景色も相まって私は思わず声が出ていた

 

「綺麗…」

 

しばらくは第1層とはまた違った景色を楽しんでいた

 

 

そして存分に景色を堪能したので第2層の主街区である<ウルバス>へと行くことにした

 

 

~~~~~~

 

 

しばらく道なりに歩き、数回敵を倒すと第2層の主街区である<ウルバス>へと到着した

 

既にキリトさんが転移門をアクティベートしたのか人がかなりいた

 

 

今日はもう自由行動ということになったので少し必要品を買い、噂に聞いた『エクストラスキル』を取りに行こうと<ウルバス>を出ようとすると…

 

「もしかしてたみか?」

 

そう呼びかける女性の声が聞こえた

 

私のことをたみと呼ぶのは前のゲームからの付き合いの人だけだけれど今までそれに該当する女性には会ったことはない… 私は思い切って声をかけてきた人に話しかけることにした

 

「そうですけれどもあなたは…?」

「リオンと言えばわかるかな?」

 

リオンって… あのリオンさん…?

 

話しかけてきた人の方を向くとキリトさんに似た赤いケープを着た茶髪の女性がそこには居た

 

その一言で私は理解したため一応確認のために声をかけた

 

「リオンさんって 茶髪に赤い目のスキンのリオンさんですか?」

「そのリオンだと言ったら?」

 

やっぱり記憶の通りだった!

 

リオンさんとの再会を懐かしんでいるとリオンさんが質問をしてきた

 

「もしかしてたみは『エクストラスキル』を取りに行くつもりか?」

「そうですけれども… もしかして『エクストラスキル』のことを知ってるんですか?」

「そうだな」

「場所を教えてくれませんか?」

「知らないのか?」

「私も噂に聞いただけですので…」

「わかった だが私もよく知っているわけではない そのため仮に間違っていても責任は負わないつもりだからそこはよろしく頼む」

「勿論です」

 

こうして私たちは『エクストラスキル』を取りに行くために<ウルバス>を出発した

 

道中リオンさんが

 

「そういえば言い忘れていたけど 第1層フロアボスの討伐おめでとう」

 

と言ったため私は「ありがとうございます」と言った

 

 

~~~~~~

 

 

そこから私たちはリオンさん先導の元、岩壁をよじ登ったり、小さな洞窟を潜ったり地下水流を滑ったりしてようやく例の『エクストラスキル』が入手可能なクエストを受けられる場所に到達した

 

「疲れました…」

「本番はまだだが?」

 

そのまま寝てしまいたい気持ちを何とか抑え周りを見てみると岩の前に見覚えのある人がいた

 

近づいて確認してみるとやっぱりキリトさんだった… だけど顔にはアルゴさんに似たヒゲのペイントがしてあった

 

「あっ」

「さ…先ほどはありがとうございます…っ」

「お前…どうしてここに?」

「わ…私も例の…スキルを…ふふ…っ」

 

何とか笑いをこらえながらそう答えた

 

「お前今笑っただろ」

「すみませんっ…ふふふ…」

 

仮に今にらめっこをしたら秒で負ける自信がある

 

「仕方ないだろ… このクエストを受けたらこのヒゲを描かれたんだから…」

 

キリトさんは若干落ち込みながらそう言った

 

「お前もやるつもりだったらそこの小屋にいるNPCに話しかけなよ」

「わかりました」

 

私はそう言うとキリトさんが指をさした小屋へと向かっていった

 

 

私は例の小屋にたどり着き、中をのぞいてみたら座禅を組んだおじさんが見えた

 

私はクエストを受けるため小屋の中へと入り、そのおじさんの前に立った

 

「入門希望者か?」

「はい そうです」

「修行の道は長く険しいぞ」

「わかってます」

 

そして私がクエストを受領するとそのおじさんはキリトさんのいる岩の隣の岩へと私を案内し、その岩を叩き言った

 

「汝の修業は唯1つ 拳のみでこの岩を割るのだ それを為し遂げた暁には我が技のすべてを汝に授けよう」

 

この説明を聞いている間私は軽く岩を叩いてみた… うん無理!

 

「待ってください 拳だけでこの岩を割るんですか…?」

 

私はこう質問した

 

「そうだが?」

「わかりました やります…! やらせてください!」

「よかろう 汝のその意思しかと受け入れた」

 

でも私は覚悟を決め やることにした

 

「この岩を割るまで山を下りることは禁ずる 汝にはその証を立ててもらうぞ」

 

そういうとおじさんは何かを取り出し私の顔に何か描いた

 

「その証はこの修業を終えるまで消えることはない 信じておるぞ我が弟子よ!」

 

それだけを言うとおじさんはまた小屋の中へと戻っていった

 

ふと泉へと向かい水面を見てみると私の顔にもアルゴさんに似たヒゲが書いてあった

 

「受けることができたみたいだな じゃぁ頑張ろうか タミえもんッ…」

「はい…」

 

私はポテトさんに「しばらくクエストを受けるため狩りには行けないです」とメッセージだけ送り私は岩を割ることにした

 

それといつの間にかリオンさんがいなくなっていた

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

その翌日にひま猫さんがやってきて『エクストラスキル』を入手するためにクエストを受けた

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

そして私がクエストを受けてから2日半ほどたった時…

 

「… せいっ!」

 

そう言いながら一点に集中して岩を殴ったり蹴ったりしていると…

 

〔ガラッ〕

 

ヒビが大きくなっていって遂に岩を割ることができた

 

「あっ… やった…!」

「えっ!?」

「嘘だろ!?」

 

私が二人より早く割ることができた理由は多分私がSTRに多く振っているからだと思っている…多分…

 

それから間を開けずクエストをクリアのログが出てきて ふと泉の水面を見てみるとヒゲのペイントがなくなっていた

 

 

スキル一覧を確認してみると『体術』の名前があった

 

「これが『エクストラスキル』…」

「おめでとう 先にクリアされちゃったな」

「もしかしてたみさんって怪り…」

 

ひま猫さんが何か言い切る前に私はひま猫さんの口を押さえ顔の笑っていない笑みを浮かべた…するとひま猫さんは黙って首を全力で横に振った

 

 

 

 

そして私はニ人より先に主街区へと戻り、お風呂付の宿屋で休んだ

 

 

 




というわけで第2層編最初のお話でした

タコミカ怪力説浮上…?

※ひま猫は『体術』を取ったがセットしたとは一言も言っていない

それではまた次回に~


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2話:フィールドボス前とプレイヤー鍛冶屋さん

やっぱり数字に表れるとモチベーションも上がりますね

それではどうぞ




私が『体術』を手に入れた翌日… 私はフィールドボスである【ブルバス・カウ】討伐のために集合場所に来ていた

 

因みにポテトさん達はクエストのためここにはおらず実質この世界に来てから初めてのソロでのボス戦になっていた

 

私は1層の件からディアベル2号(リンド)さんのことは信頼していないためどこのパーティにも入っていない

 

ボス討伐のため装備の確認をしていると… キバオウさんが私の方にやってきて声をかけてきた

 

「ジブン ポテトはんらとパーティ組んどったんやろ? どないしたんや」

「ポテトさん達はクエスト中のため参加しないと先ほど連絡がありましたよ」

「なるほどな こっちもちょうど5人のパーティがおってな 話通すこともできるけど、どないするんや?」

「提案はありがたいですけれども いいです…」

「そうか」

 

キバオウさんはそう言うとアスナさんの方へと向かっていき声をかけた

 

「ジブンは相方どうしたんや? 2層に来てからもよう見かけへんけど…」

「知らないわよ そもそも 私もあの人も基本的にソロなの 勘違いしないで」

「ほんなら ちょうど5人のパーティがおるし話通しとこか?」

「さっきも言ったでしょ 私はソロだって」

「さようか」

 

キバオウさんがそう言い、遠ざかってから私はアスナさんに声をかけた

 

「えーっと… アスナさんでしたっけ?」

「あなたは確か… ボス戦でパーティを組んだ… タコミカさん…?」

「そうですそうです キバオウさんの話を聞いていたんですけれどもアスナさんもソロなんですよね? だったら私と一緒に取り巻きを狩りませんか?」

「えぇ 大丈夫ですよ 1人より2人のほうが効率もいいですし」

 

ダメ元での相談だったけれどもアスナさんは快く了承してくれた

 

「それとタコミカさん もしよかったらでいいんですけれども…」

 

そう言うとアスナさんは茂みへと向かっていき… そこに手を突っ込んで何か黒いもの…否 キリトさんを引きずり出した

 

「えっ!? なんで!?」

「この人も加えても構いませんか?」

「大丈夫ですよ」

『ビーター!?』

 

引きずり出されたキリトさんは驚いていたがアスナさんがキリトさんをパーティに入れていいか聞いてきたため私は反対する理由もない為快く了解したがやっぱり周りはざわついた

 

「というわけで蜂担当追加ね」

 

そうアスナさんはディアベル2号(リンド)さんに伝えた

 

「あなたたちがしっかりやっている間はボスには手は出さないから安心して」

「好きにすればええんちゃうか?」

「…余計な事はするなよ」

 

アスナさんはそう言うとキバオウさんは普通に、ディアベル2号(リンド)さんは舌打ちをしながら言った

 

「やっぱり小心者の俺としてはこのムシロは少し厳しいかな~なんて…」

「見くびらないで 最初っから仲間だと思われたくなければこうして引きずり出したりなんてしないわ」

「…お見通しか」

「あなたがSAOのプロなら私は女子校育ちの心理戦のプロよ 顔色を見るぐらいだったら朝飯前だわ」

「それに… 私言いましたよね? 私はいつでもキリトさんの味方ですからねって だからいつでも私を頼ってもいいんですよ?」

「…ありがとな 2人とも…」

 

私たちがそう返すとキリトさんは小さい声でお礼を言った

 

「それでタコミカさんもだけれど今までどこに…「平均レベルはこっちの方が上なんや! 四の五の言わずアタッカーはワシ等に任せい!」」

いいや! ディアベルさんの志を継ぐ俺たち[ドラゴンナイツ]が先頭に立つ!

何がドラゴンや! さぶイボ立つわ! 男やったら虎やろ! 虎!

 

何かキバオウさんとディアベル2号(リンド)さんが言い争っている… というかキバオウさんって絶対関西出身だよね…?と関係ないことを考えている間も2人は続けている…

 

「とにかく! 格好だけディアベルはんと同じにしたからとゆうて 勝手に後継者気取りはやめてもらおうやないか ディアベルはんの志を正しく受け継いでいるんはワイら[アインクラッド解放隊]や!」

「名前に見合うほどの実力があるとは到底思えないがな…」

なんやと!

 

何やっているのやら…

 

「あの人たち3層に着いたらあの名前でギルドを作るみたいよ?」

「勘弁だな…」

「えぇ…」

 

本当に…? 確かにわかりやすいけど ネーミングセンス皆無じゃん…

 

「あなた前に言ったわよね? ギルドに入るべきだって」

「うーん… 彼らんとこならともかくなぁ…」

「彼ら?」

「斧タンクの彼と両手槍使いの彼 そういえば彼らとディアベルも今日は来てないんだな?」

「ディアベルさんは一層のボス戦の後キバオウさんとリンドさんに指揮を任せて前線から降りたみたい エギルさんは何かトラブルがあってこられないって連絡があって… ポテトさんは確か…」

「クエストを優先したいためフィールドボスは倒しておいてくださいと連絡がありましたよ」

「心細いなぁ… それで代わりに来たのがあのパーティか」

「見ない顔ですね? どこかですれ違ったかもしれないですけれども私は人の顔とか覚えるのは得意じゃないですので…」

「俺もだな… でもあんな装備を揃えられる奴らが今までどこにいたんだ?」

「そうね レベルはそこまで高くはないんだけれども装備が良いのよね 実レベル+3ぐらいの効果はあると思うわ 前線で見かけるようになったのは最近だけれど 結構いいタンクになるんじゃないかしら?」

 

キリトさんがエギルさんとポテトさん、それからディアベルさんの所在について聞くとアスナさんがエギルさんとディアベルさんの所在について答え、私がポテトさんの所在について答えてから アスナさんが新しく来た人たちのことを答えた

 

最近なら知らなくても無理ないかな…? 昨日まで少し世間?から離れてたからね

 

「あれか? 彼らにも愉快な名前があるのか…?」

 

キリトさんがそう聞くとアスナさんが答えた

 

「レ…[伝説の勇者たち(レジェンド・ブレイブス)]…」

「ブフッ」

 

アスナさんがギルド名を言うとキリトさんは吹き出してしまった… さっきの[ドラゴンナイツ]や[アインクラッド解放隊]よりはネーミングセンスがありそうだけれどもね…

 

「メンバーは ベオウルフさんにクーフーリンさんに… あとリーダー格がもう一人…」

「わかった よくわかりました! レベルにそぐわない装備の豪華さにも納得した! 要は形から入っていくタイプなんだな!」

 

アスナさんがメンバーの名前を1人ずつ言っているとキリトさんが笑いながら言った

 

「いた! あの人がリーダーのオルランドさん」

 

しばらくアスナさんが周りを見渡しているといたみたいでその人を見ながら名前を言った

 

アスナさんの視線の先にはかなり熱血そうな人がいた

 

「見事である! これで5回連続強化成功ではないか! 流石SAO初のプレイヤー鍛冶屋であるな! 3度に1度は失敗するNPC鍛冶屋とはレベルが違うわ! 貴卿 名は何と申す? 次もよろしく頼むぞ!」

「へぇ~ 流石リーダー キャラ出来上がってるな…」

 

私もキリトさんの言う通りオルランドさんのキャラは出来上がっているな~と思った

 

そして再びオルランドさんの方を見るとオルランドさんが話しかけていたプレイヤー鍛冶屋さんが握手をしながら答えていた

 

「ありがとうございます… ネズハと言います ご贔屓に…」

 

あとで私も強化を頼んでみようかな…? そう思っていると「次俺な!」「俺も俺も!」「お…俺も頼む!」という声が聞こえ、さっきのネズハさんにプレイヤー達が押しかけていた

 

「へ~ 鍛冶屋がこんな前線に… でもよく考えてみたら上客捕まえるチャンスだから危険があっても出張りもするか…」

「そうですね~」

「野郎ども! そろそろ始めるで!」

「やっとね」

 

キリトさんと私が話をしているとキバオウさんの声が聞こえてきた

 

「行きましょうか」

「だな 今日も頼りにしてるぜ2人とも」

「えぇ」

「勘違いしないで あなたと組んでるのは一時的な…」

 

私が声をかけるとキリトさんは頼りにしているという趣旨の声をかけたため私は返し、アスナさんは何かを言いかけたけれども剣を見ているキリトさんを見て、その先を言うのをやめた

 

「…ほら 急がないと遅れるわよ」

「お…おう?」

「キリトさん…人の話はしっかり聞きましょうよ…」

「えぇ!?」

 

キリトさんがそんな態度なので私は釘をさしておいた

 

 

そして行こうとしたときキリトさんがネズハさんに声をかけた

 

「鍛冶屋のお兄さんは参加しないのか?」

「僕は戦闘は苦手でして… すみません…皆さん命がけで戦っているのに…」

「何言ってるんだ 鍛冶屋だって立派な戦力さ また俺の剣も頼むよ!」

 

そうキリトさんが言うと私たちはボスの元へと向かっていった

 

 

その途中ふと私がネズハさんを見ると暗い顔をしていた…

 

 




文脈からもわかると思いますがタコミカのリンドに対する印象はかなり悪いです

それではまた次回に


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3話:フィールドボス戦それからケーキ

今回キリトが原作やコミカライズ版より少し不遇です

それではどうぞ




フィールドボス戦が始まってから私たちはボスの取り巻きの【ウィンドワスプ】を狩っていた

 

そして私たちはそこで【ウィンドワスプ】を狩った数が最下位だった人が〖トレンブル・ショートケーキ〗を奢るという勝負を行っていた

 

そこで私は2体まとめて倒したり『体術』を練習がてら使ったりしてかなりの数を倒していた

 

「これで…20体目!」

「お前サバ読んでるんじゃないのか?」

「言いがかりは良くないですよ キリトさん」

 

私が今まで狩った数を言ったらキリトさんがなぜか言いがかりをつけてきたがしっかりと数えているため問題ないはずある

 

「私も見てるわよ? 確かに変な技は使ってたけどタコミカさんはちゃんと20体倒してたわ」

「そ…そうだったのか…」

「因みにアスナさんは何体倒しましたか?」

「私は18体ね」

 

アスナさんもしっかりと数えていたみたいで20体ということをキリトさんへ教え、私がアスナさんが倒した数を尋ねると18体だという答えが返ってきた

 

「わかりましたか?」

「ごめん…」

「あとで勝負のケーキとは別のケーキ奢ってもらいますからね」

「嘘だろ!? やめてください! 言いがかりをつけたのは悪かったから!」

 

キリトさんがそう言ったがそんなことでやめる私ではない

 

~~~~~~

 

しばらく蜂を狩っていると突然ボスの牛が雄たけびを上げ暴れだした

 

「2人とも! 勝負はいったんお預けだ! 牛行くぞ!」

「了解!」

「もう!」

 

私たちがボスの牛に近づくとひときわ大きな声が聞こえてきた

 

「ならん! 持ちこたえろ! 今こそ我ら伝説の勇者達(レジェンド・ブレイブス)の力を見せつけるときぞ!」

 

そしてキリトさんとアスナさんが足を切りつけ、私も足に攻撃してオルランドさんとスイッチした

 

GJ(グッジョブ)! スイッチだ!」

「かたじけない!」

 

そして追いかけてきた牛から逃げつつアスナさんが話した

 

「攻略本には弱点は額のコブって書いてあったけれど…」

 

そう言って私は後ろにいる牛を少しだけ見た…

 

「…届きますかね…? あれ?」

「あんなの届かないわよ!?」

 

そう言えるほどにボスの牛が大きいのである

 

「本来は投剣スキルで狙うんだろうけれども…あんな趣味スキルなんて鍛えていないからな… しょうがない ()()試すか…」

()()って?」

 

キリトさんが言ったあれについてアスナさんが尋ねるとキリトさんは指示を出した

 

「突進中の頭には絶対手を出すな! 回避できなくなるぞ! だから代わりに前足を狙ってダウンさせる! アスナは左を、タコミカは右を頼む! チャンスは通り過ぎる一瞬だけだ! 細剣ならクリティカルは必須! 膝関節を狙え!」

「「了解!」」

 

そう返すと私たちは準備をした

 

「…今だ!」

 

そうキリトさんが言うと私たちは言われたとおりに攻撃をした

私の方は成功したけれども…

 

「ブレた!? ごめんなさい!」

 

どうやらアスナさんの方は失敗してしまったみたいでダウンまでには至らなかった

 

「大丈夫! 十分削れた! あとは…!」

 

そうキリトさんが言うと… キリトさんが飛び上がり空中で≪レイジスパイク≫を発動させた… あの技、確か体術の応用の空中ソードスキルだったっけ?

 

「成功っ!」

「なにそれっ!?」

「どうだ? 空中ソードスキル 簡単そうに見えて結構タイミングがシビアなんだぜ?」

「また私の知らないスキルを…」

 

キリトさんがそれを成功させ自慢しているとアスナさんがそう呟いた

 

「LAボーナスゲット! へぇ… これは…」

 

〔ガキンッ〕

 

キリトさんがリザルトを確認していると取り巻きである蜂の一体がキリトさんの剣を弾き飛ばした

 

「あれま?」

「ああぁ!?」

「ちょっと!? アスナさん!?」

 

そんな剣を追いかけようとアスナさんが走り出し、そんなアスナさんを追いかけるために急いで蜂を倒し、私も走り出した 確か私の記憶が正しければそっちには!?

 

「危ないですって!」

「あぁっ!?」

 

私がアスナさんを掴みアスナさんが手を伸ばしたが結局キリトさんの剣は回収することができずそのまま谷底へと落ちていった…

 

「あああぁぁ!!」

「あらら… 落ちちゃった?」

「あららじゃないわよ!? どうするの!?」

「別にスナッチされたわけじゃないからな…」

「もしかしてキリトさんあれを使うおつもりで?」

「そういうこと タコミカも知ってるのか?」

「実際に使ったことはないですけど名前ぐらいは…」

 

別に剣を落としても『所持アイテム全オブジェクト化』を使えば回収できるはずだし…

 

キリトさんと話をしているとアスナさんが…

 

「何を使うのよ?」

「大丈夫 ある裏ワザを使えば回収できるよ でもここでやるのは危険だからこの先の<タラン>にある例のレストランでやろう」

「どうやって回収するつもりなのかはわからないけれども… ついでだしケーキでも食べながら話してもらいましょうか? 色々と…ね?」

 

そう言いキリトさんがこの先の<タラン>で色々と説明することになった

 

因みに勝負の結果はキリトさんの敗北のためキリトさんは2つケーキを奢ることになりましたとさ

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

<タラン>にある例のレストラン内で早速キリトさんは『所持アイテム全オブジェクト化』のためにウィンドウを操作していた

 

「これをこうやって… こうして… それでこうやってから… そんでポチっとな」

 

そうするとキリトさんが持っていたアイテムが全部外に出てきた

 

「あったあった! ほら」

 

キリトさんがその中を探していると崖下に落ちたはずの〖アニールブレード〗を掴んで見せてきた

 

アスナさんは訳が分からないといったような顔をしていたのでキリトさんが説明した…

 

 

~~~~~~

 

 

そこから『所持アイテム全オブジェクト化』の説明をしたり、そこから派生して鍛冶屋で使っている武器を素材に新しい武器を作れるということを話したりしていると、例のケーキがやってきた

 

「お待たせいたしました 〖トレンブル・ショートケーキ〗2皿になります」

 

そうNPCの料理人が言うと私とアスナさんの前に置いた

 

「お前もそれ頼んだのか!?」

「そうですよ?」

「すごーい! アルゴさんの攻略本に一度試してみる価値があるって書いてあったから楽しみにしてたんだ~」

「現実で食べたら絶対カロリーの暴力ですけれどもね~ こういうのを気にせず食べられるのがVRの醍醐味ですよね」

「ね!」

 

それはとても大きく、1個で恐らく1ホールぐらいあるのではないかというほどの大きさだった こんなの現実で食べたら絶対太るからね…

 

「こんなの全然ショートじゃないだろ…」

「知らないの? ショートケーキのショートって短いっていう意味じゃないのよ?」

「確かサクサクした生地を使っていたからでしたっけ?」

 

確かそういったショートケーキは1回だけお父さんが買ってきたような気がするし、その時にショートケーキの由来を聞いたような気がするけれども何せ私が小学校2年生ぐらいの時だったと思うので曖昧にしか思い出せなかった

 

「大まかにはそうだけれども詳しくはショートニングを使ったサクサクした歯ざわりのケーキっていう意味ね アメリカとかだと土台がビスケット生地のことが多いみたい 日本だとスポンジ生地を使うから本来の意味は失われているんだけれどもね」

「へぇ~」

 

アスナさんがショートケーキの詳細な由来を話してくれたけれどキリトさんはある程度流しながら聞いていた

 

「どう切り分けましょうか?」

「10分の1をキリトさんに‥?」

「ま…待て! あからさまに不公平だろ! せめて半分…」

「仕方ないですね… 私からは5分の1ぐらいあげますよ…」

「私も5分の1ぐらいだったらあげるわよ」

 

 

結局私たちはそれぞれ5分の1ずつをキリトさんにあげた

 

 

~~~~~~

 

 

そしてお会計を済ませ私は外に出た

 

「美味しかった…」

「βの時よりおいしかったですね」

「はっきり言ってβ時代より旨かったな…」

 

アスナさんと私、それからキリトさんもケーキについての感想を言っていると

 

自分のHPバーの隣に見覚えのないマークがあった

 

「キリトさん? この幸運判定ボーナスってβの時にはありましたっけ?」

「いや? なかったよ」

「何しますか? 今から狩りにでも行きますか?」

「継続時間が15分しかないし…そもそも町周辺に大したアイテムをドロップする敵なんていないぞ?」

「「うーん…」」

 

私たちがこのバフの使い道について考えているとアスナさんが声をかけてきた

 

「ねぇ 2人とも? 付き合ってくれる…?」

「勿論…って え?」

「この子の強化に!」

 

アスナさんがそう言うとキリトさんはズッコケた… 何考えているんだろこの人

 

 

そうして私たちはネズハさんを見つけ、走りながら向かった

 

「いた!」

「そんなに走らなくても間に合いますから…」

「善は急げって言うでしょ! ほら2人とも走って!」

 

 

そしてネズハさんの元へと到着した

 

「こんばんは!」

「!? こ…こんばんは… あなたは…!」

 

アスナさんが急にやってきたからネズハさんもびっくりしてるし…

 

「私が何か!?」

「い…いえ… 何でもありません… お買い物ですか? 武器のメンテナンスですか? 細剣でしたら結構いいのがありますよ」

「武器の強化をお願いします! 〖ウィンドフルーレ〗+4を+5に! 種類は正確さ(アキュラシー)で! 素材は持ち込みで上限数まで用意してます!」

「大丈夫 そんなに早口じゃなくても間に合うから」

 

アスナさんはかなり早口でネズハさんに用件を伝えた

 

「は…はい すごいですねこんなに沢山…」

 

そうしてアスナさんはネズハさんに武器を渡した

 

「確かに では始めます」

 

そして武器の強化が始まった

 

〔カァン! カァン!〕

 

「強化試行上限回数まではあと何回残ってるんだ?」

「あと2回ね +6にするんだったら失敗はできないわ」

「添加剤は上限まであるから成功率は95%か…」

「やれることはやったと思いますしあとは天に祈る…だけですね」

「やれることはやった…ね?」

 

私たちがそう言うとアスナさんは私とキリトさんの手を握ってきた(キリトさんは右手の薬指と小指だけだけれども)

 

「ア…アスナさん?」

「あなた達の幸運もちょっと貸して?」

「え…? いいですけれども…」

 

これ…意味あるのかな…? まぁ気持ち程度ということで…

 

「まぁ…でも…失敗しても壊れるわけじゃないし… 確かに+3になるのは痛いけれども…」

「流石にそんなことあるワケが…」

 

キリトさんとアスナさんは万が一失敗したときのことについて話し合っていたが今まで壊れたという話は私は聞いたことはないし、起こることがないと思っていた

 

〔ポキン…〕

 

アスナさんの剣が目の前で壊れるまでは…

 

 




勝負の結果は 1位:アスナ 2位:タコミカ 3位:キリト になります

この小説ではキリトはケーキ2つ分の代金を支払っているためかなりお財布が軽くなっていますが次回以降で何とか取り戻しています

それではまた次回に


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4話:強化詐欺捜査開始

今回の話ではタコミカは少し暴力的です

それでは本編どうぞ


しばらく私たちは何が起こったのか理解できなかったがネズハさんが先に土下座をしたことでキリトさんも動き始めた

 

「すみませんっ…! 本当に申し訳ありません!」

「ちょ…ちょっと待ってくれ! こんなの絶対あり得ない! 説明してくれ!」

「2人とも少し落ち着いてください!」

 

私がそう言ってしばらくすると2人とも落ち着いたみたいで無言の状態が続いたため、状況確認も兼ねて1人ずつ説明してもらうことになった

 

「まず キリトさんからお願いします」

「俺はβテスト出身なんだけれども強化失敗のペナルティは最悪でも-1されるだけだ これは俺も何回も経験しているからまず間違いないと思う 今回の件で言うと〖ウィンド・フルーレ〗+4が+3になるだけで済むはずなんだ」

 

キリトさんがβの話を持ち出すなんて珍しい… そう思っているとネズハさんが口を開いた

 

「正式サービス版で新しいペナルティが追加されたのかもしれないです… 前にも1度だけ同じようなことが起こって… 確率はかなり低いのかもしれませんが…」

「そうか…」

 

キリトさんがアスナさんの方を見てそう言うとネズハさんはさらに続けた

 

「本当に何とお詫びしたらいいか… せめて同じ武器をお返ししますと言いたいんですけれども〖ウィンド・フルーレ〗も〖ガーズ・レイピア〗も置いてなくて… せめて〖アイアン・レイピア〗を…」

「いいよ… こっちで何とかできると思うし…」

 

ネズハさんがウィンドウを操作し〖アイアン・レイピア〗を取り出そうとするとキリトさんがそれを制した

 

「ではせめて 手数料の返還だけでも…」

「それも大丈夫 あんたは一生懸命やってくれただろ? 偶々ごくわずかな確率を引き当ててしまっただけなんだから あんまり自分を責めないでくれ」

「本当にすみません…」

 

ネズハさんがせめて手数料だけでも変換しようとしたがそれもキリトさんに止められた

 

 

その間もアスナさんは無気力な顔をしていた…

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

それから私はキリトさん主導のもとアスナさんを引っ張って宿屋へと着いた

 

「主武装を失った状態で圏外に行くのは危険だ 今日はここで休んでくれ 剣は明日、別のものを探す タコミカ お前はアスナに付いていてくれ 人がいたほうが彼女も安心すると思うし…」

「わかりました」

 

キリトさんがそう言うと私はアスナさんを宿屋の部屋の中へと案内した

 

「あのさ… これは自惚れかもしれないけどさ… 置いて行ったりしないから」

 

それだけを言うとキリトさんは扉を閉めた

 

 

~~~~~~

 

 

そこから私は何も喋らず、かといって部屋から出ていくことはせず、ベッドで寝転んでいるアスナさんの近くにいた

 

〔バンッ!〕

 

そんな時扉を勢いよく開く音がした

 

「誰!?」

 

この時の私は気が動転していたためドアを開けられるのは1人しかいないことをすっかり忘れていた

 

「持ってるアイテムを… 全部出せ…!」

 

そんな声が聞こえ 私は思わず戦闘態勢を取り(武器は装備しなかったが)、侵入者に対して攻撃を仕掛けた

 

「せい!」

「ぐべらっ!」

 

私は≪閃打≫を侵入者に撃ち込んで大きくノックバックさせさらに追撃した

 

「この! この!」

「いてっ! いたっ! タコミカ! やめろ! タコミカ! 俺だ! キリトだ!」

 

そんな時キリトさんの顔がはっきりと見えた

 

「キリトさん!? すみません!」

「とにかく話はあとだ! 時間がない! アスナ! ウィンドウを可視モードに!」

「はいっ!」

 

私がキリトさんに謝るとキリトさんはすぐにアスナさんの元へと駆け寄り指示を出した

 

「あと1分だ! 急げ! ストレージボタン! セッティングボタン!…」

 

そこから色々と指示をしていき…

 

「何か出た! イエス オア…「勿論 イエース!!」」

 

あれ…? この手順って確か…

 

「何これ…? 『コンプリート・オール・アイテム・オブジェクタイズ』…?」

 

やっぱりそうだよね…? 『所持アイテム全オブジェクト化』だこれ!

 

「コンプリートって… どこからどこまで…?」

「何から…何まで ありとあらゆるもの…全部!」

「あぁぁ!!!」

 

そんなことを言っているとふと私の頭の上に何か降ってきた…

 

ふと頭の上に手を当ててみると下着があった… すぐに私はそれをアイテムの山の中に戻した

 

「失礼!」

 

そしてアイテムがすべて出終わるとキリトさんはアイテムの山の中を漁り始めた

 

「ね…ねぇ…? 君ってもしかして死にたいの…? 殺されたい人なの…?」

「違う!」

 

さすがにそれは怒るよね… 私でも怒るもん

 

そうしているとキリトさんは何かを引っ張り出した

 

「嘘…」

 

それはロストしたはずの〖ウィンド・フルーレ〗だった

 

キリトさんはこれをするために『所持アイテム全オブジェクト化』を… でもそれとこれとは話が別だ

 

「…キリトさん…」

「どうした? タコミカ」

「ひとまず 歯ぁ食いしばれ」

「え?」

 

私はキリトさんのお腹に≪閃打≫を撃ち込んだ

 

 

~~~~~~

 

 

そこからキリトさんを追い出し 私は部屋着へと着替え、アスナさんと話していた アスナさんは頭からすっぽりと布団を被り武器を抱えたけど

 

「武器戻ってきて良かったですね」

「えぇ… タコミカさんもありがとうございます」

「私はほとんど何もしなかったけどね」

「でも私を守ろうとしてくださったんですよね?」

「あの場には私しかいなかったんで…」

 

〔コンコン〕

 

しばらくするとドアをノックする音がした

 

「誰…!」

「俺です… キリトです… 入っていいですか…」

 

アスナさんがそう聞くとどうやらキリトさんみたいだった

 

「御夕食を買ってきたので 冷める前にいかがでしょうか…!」

「入って」

 

〔キィ…〕

 

「お…お邪魔します…」

 

どうやら夕食を買ってきたみたいでアスナさんから許可が出ると入ってきた

 

「タコミカさんの分も買ってきましたので…」

「何ですか? これ」

「<タラン(ここ)>の名物らしくてですね… 名前は〖タラン饅頭〗というらしいです」

「中身は何ですか?」

「俺はお肉だと考えています…」

 

私がこれは何かについて聞くとキリトさんは近くにあった机の上に置きながら丁寧な口調でを教えてくれた

 

私とアスナさんが1つずつテーブルに置いてある〖タラン饅頭〗を取り、食べると…

 

うにゃぁ!?

ふにゅ!?

 

中から温かいものが勢いよく出てきた

 

「!? クリーム!? 待ってろ! 今拭くものを…!」

 

〔ガタ…〕

 

キリトさんが拭くものを取り出そうとするとアルゴさんとておさんが部屋の前にいた…

 

「キー坊… アーちゃんだけじゃなくターちゃんにも手を出しやがったナ!」

「キリト君…少し表に出ようか?」

「ちが…これは誤解だ! というかテオ! お前は武器を叩くのをやめてくれ! 心臓に悪いから!」

 

アルゴさんはキリトさんに怒鳴って、ておさんは剣を取り出して手のひらに打ち付けながら言った

 

 

~~~~~~

 

 

そこから私たちは顔を拭き キリトさんが誤解を解き、アルゴさんが部屋着に着替えて(勿論キリトさんとておさんを部屋の外に追い出してから)アスナさんと同じベッドに入った

 

「今日は災難だったネ~ アーちゃん… オネーサンが来たからもう安心だヨ~」

 

そう言いながらアルゴさんがアスナさんの頭をなでるとアスナさんはアルゴさんに抱き着いてきたためキリトさんに向けてVサインを送った…

 

「それで? そっちの収穫はどうだったんだ?」

「エ?」

「御自慢の隠蔽(ハイディング)で尾行してきたんだろ?」

「お前どうでもいいけどその貧乏ゆすりやめろよ…」

 

キリトさんはアルゴさんに収穫を聞いてきた 貧乏ゆすりをしながら…

 

「あの後すぐに店じまいをしてコソコソ誰かと会っていたヨ」

「相手は!?」

「全身フーデッドマントに身を隠した4人組ダ」

 

どうやらネズハさんは誰かと会っていたみたいだった

 

「何かを受け渡そうとしていたケド 何かあったみたいでえらく慌てていたナ… その後は三々五々 鍛冶屋クンは安宿に直行だっタ 今日はそれ以上の収穫は無かったヨ」

「その慌てていたのって 午後8時の鐘の後じゃなかったか?」

「アァ そういえば鐘の直後だったヨ」

 

キリトさんが質問をし、アルゴさんは答えた

 

そのすぐ後にキリトさんはさらにアルゴさんに質問した

 

「相手は4人で間違いないか? 5人じゃなくて?」

「4人だったヨ 5人だったら何かあるのカ?」

「いや…ちょっと勘が外れただけだ ありがとう お疲れさん」

「イヤイヤ…勿論 剣がだまし取られていたことが分かった以上引き下がるつもりは無いヨ 彼の背後関係は徹底的に洗わせて貰ウ そういった仕事は任せてくれたまエ…」

 

キリトさんが相手は本当に4人だったのかについて聞くとアルゴさんは確実に4人だったと答えた…

 

「…ただ どうすル? 一時的にとはいえアーちゃんの剣が騙し取られたのは事実ダ これ以上被害が出る前に公表するべきじゃないのカ? オレッちの流通経路(ルート)を使えば1日で追い込めるヨ」

「いえ…ここは慎重に行くべきだと思います アスナさんの剣がなくなって強化詐欺がバレたことはネズハさん達も気付いたはずです しばらくは控えるかと…」

「そうだな それに今、下手に追い込んだりしたらもっと厄介な事態になるかもしれないし…」

「どういう事ダ?」

 

私がここは慎重に行こうと提案するとておさんが同意してくれた アルゴさんが質問するとキリトさんがておさんの言いたいことを代弁してくれた

 

「これまでに騙し取った武器をどうしているか… それ次第になるが 隠し持っているんだったらまだしも、その武器を換金していようものなら…」

「その武器は永遠に失われることになるナ そうなれば武器を盗られたプレイヤーの怒りを鎮めるのはほぼ不可能ダ 彼らが満足するような懲罰(ペナルティ)システムはこのSAOには無いからナ…」

「いや…ひとつだけあるだろ? 事態が公になってさえいればそれこそ誰だって思いつくようなものが…」

「「「『PK』…」」」

 

アルゴさんがキリトさんの言葉を続けて言い終わるとておさんが1つだけあるといい私たちはPKのことを言った

 

「何の話…? PKって何…?」

「プレイヤーキル つまりはプレイヤーがプレイヤーを殺すこと 今回の件を例にするとネズハさんの処刑です」

「今のSAOでそんなことしたら… 人殺しに…」

「そうだ だから俺たちはそれを阻止しなければならない」

「そのためにもまずは真相を知る必要があるんダ 強化詐欺のトリックに動機… 盗られた武器の行方モ」

「そして取り返しのつく形で償わせる」

「彼が罪を認めるんだったらまだ幾分にもやりようはあるからな」

 

確かにアスナさんに言ったように言葉で言うのは簡単かもしれないけれども今のSAOでそんなことをしたらただの人殺しである

だからこそまずアルゴさんの言った通りに真実を知り、そしてキリトさんやておさんの言ったようにやり直せる形で償わせるのがベストかもしれない

 

そう考えているとアスナさんが口を開いた

 

「でも私…あの人が好き好んであんなことをやってるとは思えないの」

「確かに実直で気弱な人そうだったけど 彼が犯人というのは紛れもない事実だ それとも何か情状酌量の余地があると言いたいのか?」

 

キリトさんがそう聞くとアスナさんが小さく頷いた

 

「もしかしたらだけれど前にどこかで会ったような気がするの 顔は見えなかったけど…」

 

そう言うとアスナさんは起き上がりウィンドウを操作した

 

「アルゴさん 調査のついででいいのでこれを調べてもらえますか?」

 

そう言うとアスナさんは投擲用のナイフを取り出した

 

 




テオロングさんがなぜアルゴさんと一緒にいたのかと言うと少しだけ彼女の仕事を手伝っていたからです

それではまた次回に


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5話:迷宮区での狩りと強化詐欺の手口

強化詐欺編はこれを含め2話ぐらいかなと考えています

それではどうぞ

P.S.:2件のお気に入り登録ありがとうございます!



その翌日、私たちはキリトさんとアスナさんと別れ、アルゴさんが調査を終えるまで私たちは迷宮区でポテトさん達と狩りを行っていた(リオンさんは別件で欠席)

 

「全員、デバフには気をつけて!」

『了解!』

 

ひま猫さんがそう言うと全員了承して【トーラス・リングハーラー】へと向かっていった

 

【トーラス・リングハーラー】はひま猫さんが言うには迷宮区の中でもかなりの強敵だが短剣に属する武器をドロップするため私たちは狩りを行っていた

 

まず私がヘイトを受け付けるために最初に≪サイクロン≫で攻撃し、そのあとひま猫さんが≪ホリゾンタル・アーク≫で背中側から攻撃し、ておさんが≪バーチカル・アーク》で攻撃、ポテトさんが≪ロスラッシュ≫で数秒間だけスタンにしてからめらさんに声をかけた

 

「めらさん!スイッチ!」

「了解!」

 

そう言うとめらさんは≪ソル・スパイク≫でダメージを与えるとめらさんに攻撃してきたためすかさずやる気君が〖カウ・ガーダー〗でガードし、そのまま≪パッシング≫で攻撃してやる気君にヘイトが向いたため朱猫さんと意識さんが≪ケイナイン≫で攻撃するとそのまま【トーラス・リングハーラー】は四散した

 

「朱猫さん、意識さん ドロップしましたか?」

「私の方にドロップしたよ!」

 

どうやら朱猫さんの方に〖サークル・ダガー〗がドロップしたみたいだった

 

「おめでとうございます~」

「ありがとう!」

 

因みにこれで7体目だったりするため割と運がいい

 

 

しばらく雑談していると誰かの足音が聞こえてきた

 

「聞き覚えのある声だと思ったらお前らか!」

「あっ! キリトさん! アスナさんも!」

「こんにちは 皆さん」

「こんにちは~」

 

足音の正体はキリトさんとアスナさんだった

 

「お2方はお昼まだですよね? 近くの安全地帯でご一緒しませんか?」

「いいのか?」

「食事は人数が多いほうが楽しいですし大丈夫ですよ!」

「じゃぁお言葉に甘えさしていただこうかしら?」

「是非!」

 

結構いい時間のため私たちはお昼にすることにしてついでにキリトさんとアスナさんも誘った

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

そうして私たちはお昼を食べ終わり、キリトさんとアスナさんと一緒に行動していた

 

「ひま猫お前 料理スキルなんて取ったのか…」

「うまかっただろ?」

「確かにうまかったけど… あんな趣味スキル取ってるのお前ぐらいだぞ…?」

「料理スキルも立派な支援系のスキルのうちの1つだ」

「その持論はおかしいと思うけどな…」

 

ひま猫さんとキリトさんが話をしていると吹き抜けになっている部分の下の方の階層から戦っている音が聞こえてきた

 

覗いてみるとフィールドボス戦で見た人たちが戦っていた

 

「あれって確か… [伝説の勇者たち(レジェンド・ブレイブス)]でしたっけ?」

「そそ ボス戦ではなかなかいい動きしてたよ」

「名前負けしていることに違いはないと思うけど?」

「はは…」

 

私が彼らについて言うとキリトさんは褒め、アスナさんは名前負けしているといった

 

「そういえばボス戦で見てない人がいますね…」

「確か盾持ちのハンマー使いの人がギルガメッシュさんで革装備のダガー使いの人がエンキドゥさんだったかと」

「へ~」

 

ポテトさんから残りのメンバーの名前を聞くとオルランドさんの声が聞こえてきた

 

フォーメーション "Z"! 攻撃(アタック)

 

そう言うとブレイブスの人たちは一斉に突撃した

 

「へぇ~ ふざけてるけど結構いい連携してるわね…」

「そうですね~ 確かに…」

 

アスナさんがそう言うとポテトさんが返した

 

「やっぱり妙だ…」

「妙って何が?」

「もしかしてキリトは装備の質とプレイスキルがかみ合っていないということを言いたいのか?」

「そう 朱猫の言う通りRPGっていうのは普通レベルと装備の質っていうのは比例するものなんだ 強ければその分経験値やお金を効率よく稼げるしな でも彼らは見たところ…レベルもスキルも中の上といったところだ それなのに装備だけは攻略組の中でも最上級 おかしいと思わないか?」

「そういわれてみれば確かに…」

 

朱猫さんがキリトさんが妙だと思った点を具体的に指摘すると肯定してより細かく説明してくれて、やる気君は納得した

 

「つまりあの人たちはあなたも知らないような高効率な財源を確保してると言いたいの?」

「それって…」

「あなたまさか! あの人たちが強化詐欺に関わっているって疑っているの!?」

「流石に短絡的かもしれないけどな… でも強化詐欺が始まった時期と彼らが前線に出てきた時期がぴったりと一致するんだ」

「えっ? 何の話? 強化詐欺って…」

 

つまりアスナさんが言うにはキリトさんはブレイブスの人たちが強化詐欺にかかわっているかも知れないと言いたくてさらにキリトさんが言うには時期がぴったりと一致するという そんな話をしているとやる気君が疑問に思ったのか話しかけてきた

 

「もしかしたらの話ですよ 今は調査中ですので分かったらまた話します」

「わかった…」

 

そこで私がまた後日話すということを言ったらやる気君は渋々ながら了承してくれた

 

「彼らの事、調べてみる必要がありそうね アルゴさんに連絡を… 違う…? もしかしたら… キリト君 見て」

 

アスナさんがそう言ったためまた彼らの方を見てみるとかなりいい連携をしていた…

 

「あの人たち 本当いい連携しているわ リーダーがいいのかしら?」

「さっきの仕返しか? 悪かったな…」

「そうじゃなくて… よく考えて あの装備と腕でどうして今まで前線にいなかったんだと思う?」

「そうか! レベルと不釣り合いに装備が良いんじゃなくて 腕も装備もいいのにレベルだけが低かったんだ!」

「そう それが違和感の正体… 本質はそこにあると思うわ…」

 

キリトさんとアスナさんがそう言うとアルゴさんにメッセージを送信した

 

「一番下まで追いつかれたか 俺達もそろそろ行こう 今日はあと1フロアだけ付き合ってほしいんだ」

「どうして?」

「実はさ もうすぐで片手直剣のスキル熟練度がもうすぐで100なんだよ」

「えっ!? もうそんなに!?」

スキルMOD(強化オプション)は何にする予定なんだ?」

 

キリトさんがあと1フロアだけ付き合ってほしいというとアスナさんがどうしてと聞いたためキリトさんはスキル熟練度がもうすぐで100に達すると言った

 

普通にすごいと思う… 私の両手剣の熟練度は91ぐらいだったはずなのに…

 

そしてひま猫さんがスキルMOD(強化オプション)は何にするのかについて聞くとキリトさんは答えた

 

「『クリティカル率上昇』かなぁ 熟練度50の時は『ソードスキル冷却(クール)時間短縮』で取れなかったし… あとはつい昨日、フィールドボス戦後に事故で武器を飛ばされた身としては『クイックチェンジ』もありかと」

「何それ?」

「色々と便利だよ? 例えば武器を落としたり盗られたりしたときに予備の武器を装備しておけばワンタッチで装備できるし…」

「へぇ…」

 

アスナさんが『クイックチェンジ』について聞くとキリトさんが説明した

 

「じゃぁ… 同じ種類の武器を持っていたら前に持っていた武器と同じものを装備可能なんてこともできるから戦闘の幅が広がりますね…」

「そういうこと」

「…うん?」

「あっ…!」

「あ…」

「「「「あ~!!」」」」

 

ポテトさんがふとそう言った… これでトリックが分かった!

 

「えっ?」

「でも職人クラスが一朝一夕で取れるようなスキルじゃないぞ?」

「多分 その問題クリアできるかも…確証はないけど… アルゴさんの返答次第で…」

 

そうアスナさんが言うと噂をすれば何とやら… メッセージが来た

 

 

そして町へと戻り 私達はポテトさん達と別れ、ある作戦を立てるとそれを決行することにした

 

 




今回出てきたオリジナルソードスキルとオリジナル武器の紹介です

≪ロスラッシュ≫
両手槍単発攻撃 ダメージは皆無に等しいが相手にとても低い確率で数秒だけスタンを与えることができる

≪ソル・スパイク≫
両手槍2連突き この時点ではめらおりんが扱える最高スキル


ここから武器の紹介になります

〖カウ・ガーダー〗
盾に属しており、【カウ・ライダー】のレアドロップ
2層から3層中盤まで使える実力

〖サークル・ダガー〗
短剣に属しており、本文にある通り【トーラス・リングハーラー】のレアドロップ
2層から3層終盤まで使える実力


今回はちょっとキリがいいのでここまでにします



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6話:強化詐欺の真相

今回で強化詐欺編は完結させます

それではどうぞ

P.S.:最近寒いですのでお体にはお気をつけてくださいね



私たちは今、ネズハさんの露店の後ろにある宿屋の一室にいる

 

ここにはキリトさんはいない なぜかというとあることをするために私たちとは別行動をしているからである

 

「もうそろそろ来るゾ」

「了解です」

 

アルゴさんにそう言われたため私はネズハさんの方へと集中した

 

「まだ開いているか?」

「はい…大丈夫です! メンテですか? それとも…」

「強化を頼む」

「強化ですか…」

「何か問題でも?」

「い…いえ! 大丈夫です!」

 

因みに今のキリトさんはいつもの黒い服装ではなく鎧をしっかりと着こんでいる

 

そしてキリトさんはネズハさんに強化をお願いした

 

「種類は速さ(クイックネス)素材は料金込みで90%で頼む」

「それだと料金は2700コルですね」

 

私はしっかりと見逃さないようにさらに集中した

 

「アニールの+6の試行2回残しですか… 内訳は鋭さ(シャープネス)+3に丈夫さ(デュラビリティ)+3 使い手は限られてきますけれどすごい剣ですね… この上更に速さ(クイックネス)を強化すれば…」

 

そして

 

「では… 始めます…」

 

強化もとい…強化詐欺が始まった…

 

「強化素材を炉に入れた時のライトエフェクトには確かに見入っちゃうかもしれないけド 見逃しちゃだめだヨ 3人共…」

「わかってます」

 

アルゴさんが言うとアスナさんが返した

 

「…! 皆さん! 今!」

「すり替わったナ」

 

そうして注意してみているとすり替わるのが見えた

 

〔カァン! カァン!〕

 

「随分と心のこもっているナ…」

「そうですね… 思えば私の〖ウィンドフルーレ〗の時もそうでした 必要な回数さえ叩けば叩き方なんて関係ないのに… あの時は強化成功を祈っているのだと思っていたのだけれども違ったのね… 心の底から悼んでいるからなんだわ 詐欺の成功のために犠牲になる剣の事を…」

「すり替えられたあの剣は試行回数残り0回のエンド品… そのエンド品の強化は確実に失敗します」

「そしてその失敗時のペナルティは…」

 

アルゴさんとアスナさん、それから私とておさん話していると…

 

〔パリィン!〕

 

〖アニール・ブレード〗のエンド品が砕けた

 

「すみません…! 本当に…すみませんでした!」

 

ネズハさんが土下座しながら額を何度も地面に打ち付けた

 

「いや… 謝る必要はないよ」

「でも… え?」

 

キリトさんがこちらを向いたため私達は窓を開け、私は頷いた

 

「わかってみると… 案外単純なトリックだったな」

「あなたは!? あの時の…!」

 

キリトさんが元の装備に戻すとネズハさんはとても驚いていた

 

「騙すような真似をしたのは悪かったな 『クイックチェンジ』」

 

そう言いながらウィンドウを操作すると〖アニール・ブレード〗がキリトさんの元へと戻ってきた

 

「あんたはこのスキルMOD(強化オプション)を使って預かった武器と自身のストレージにある同種のエンド品をすり替えた そして俺は今、同じ手口を使って君のストレージから現在装備中の武器を取り返した まさかこんなに早く、しかも非戦闘職である鍛冶屋が武器スキルMODを取得しているなんて思わないよな… しかもメニューウィンドウを商品の隙間に隠して、MODのエフェクトは炉の光と音で掻き消すというカモフラージュまでして 天才的だな… さて、署までご同行願おうか?」

 

キリトさんが手口を解説するとネズハさんを私たちのいる部屋へと連れて行った

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

キリトさんはネズハさんを椅子へと座らせ、尋問していた…

 

ネズハさんが言うには詐欺をして稼いだ金額のほとんどは豪遊等をしてほとんど残っていないらしい

でもそれじゃぁ安宿に泊まってた意味は…?

 

「つまり君は攻略組の人たちが言葉通り命を懸けて鍛えた武器を私利私欲で浪費したと…?」

「何とお詫びをすれば…」

 

キリトさんがどこか怒りを帯びた声で言うとネズハさんは俯いたまま話した

 

「やっぱり変よ!」

 

アスナさんが少し大きな声でそう言い

 

そしてネズハさんが疑問に思って顔を上げるとアスナさんは何かを取り出しながら話した

 

「これ… フィールドで偶然会ったソードマンの忘れ物」

 

アスナさんが取り出したのは昨日見せてもらった投剣だった

 

「アルゴさんに調べてもらったけれども、プレイヤーメイドでどこのお店にも並んだ形跡がなかったわ つまり持ち主イコール製作者 今のSAOでこれを作れるのはアインクラッド唯一のプレイヤー鍛冶屋であるあなた以外にあり得ないわ!」

「戦闘職のソードマンなら『クイックチェンジ』を取得していてもおかしくないナ」

 

アスナさんがそう言いながらネズハさんに指を指すとアルゴさんが続けた

 

「確かに前あなたに会ったときそれなりにいい装備で身を固めていたけれど私の見立てだと被害額と計算が合わない…」

「だからそれは… 先ほども…」

「アルゴさんが言うにはあなたは安宿で寝泊まりしているらしいじゃないですか…?」

「えっ…!?」

 

アスナさんが疑問をぶつけるとネズハさんがしらを切ろうとしたため私もアルゴさんから聞いた話を質問してみた

 

「君は現状SAOでの唯一のプレイヤー鍛冶として市場を独占している それに加えて強化詐欺まで働いている そうすると計算が全く合わないんだ そして俺たちは今 こう疑っている 君は荒稼ぎした金を誰かに貢いでいるんじゃないかって…」

「な…何の根拠があって!」

 

キリトさんが私たちの考えていた仮説をネズハさんにぶつけるとネズハさんは目に見えて焦り始めた

 

「根拠…か… あるにはあるぞ "Nazha(ナーザ)"君?」

 

ておさんがそう言うとネズハさんは絶句した

 

哪吒(ナタク)っていう呼び方で覚えててすっかり忘れてたよ… これが君の名前だろ?」

「中国の小説の封神演義に登場する少年の神だナ 宝具と呼ばれる多様な武器を操り、2つの輪に乗って空を飛ぶらしいヨ? すごいネ~ こういうのってなんていうんだっケ…?」

「シャルルマーニュ伝説の"ローラン(オルランド)"や現代の西洋風ファンタジーの先駆けともいえる"ベオウルフ"にも引けを取らない堂々たる…」

 

ておさんが補足をするとアルゴさんが哪吒(ナタク)について説明し、そしてキリトさんが続けると私たちは同時にその言葉を口にした

 

『[伝説の勇者たち(レジェンド・ブレイブス)]』

 

そう言うとネズハさんは項垂れた

 

「やっぱり… 君が彼らのために装備資金を稼いでいたんだな… だからこそ急速に台頭してこれた」

 

キリトさんが言うとおもむろに立ちあがり大声で話し始めた

 

「正直に話してくれ! なぜ君だけがこんな不正を働くリスクを背負ったんだ!? 何か見返りを約束したのか? なぜ君たちはこんなことができたんだ!?」

「キリトさん今大事なのはそこじゃ…「いや! 大問題だ!」」

 

私が話がそれていると思い話したがキリトさんはそのまま続けた

 

「このままいけば彼らは攻略組のトップもぶっちぎるほど強くなる! 詐欺をも厭わない集団がだ! そんな奴らが圏外で襲撃されても返り討ちにすればいいと思うようになったら…!」

「待ってキリト君 多分… 違うんじゃないかしら…?」

 

アスナさんがそんなキリトさんを止めるとおもむろにテーブルに置いてあった投剣を手に取り持ち手の方をネズハさんの方に向けた

 

「取って」

 

アスナさんがそう言うとナーザさんは手に取ろうとしたが取れなかった…

 

「やっぱりあなた片目が…」

「見えないわけじゃないんです ただナーヴギアを通すと遠近感が…」

「FNCか!」

 

アスナさんが片目が見えないのかと聞くとネズハさんは答えた するとキリトさんはネズハさんの症状に心当たりがあるみたいで症状名を答えた

 

「F…?」

「FNCです 民間のナーヴギアだと偶に発生するんです フルダイブ・ノン・コンフォーミングの略称で、脳とフルダイブ機器の間に生じる接続障害のことを指して 最悪の場合だとダイブできないということもありますね」

 

アスナさんが質問しようとしたため私がFNCについて答え、さらに私はネズハさんの場合について答えた

 

「ネズハさんの場合だと恐らく両眼視機能不全… つまりは奥行きを判断できないんだと… この症状はSAOでは致命的と言ってもいいですね ログインは諦めるべきでしたけれども…」

「いや…気持ちはわかるよ ゲーマーだったらSAOを見ずに死ねないからな… 待てよ… じゃぁ彼らはそんな君の弱みに付け込んで汚い仕事を要求した…?」

違う!彼らはそんなこと…!」

 

キリトさんはそう言いながら椅子の背もたれにもたれながら話すとネズハさんは大声で話した

 

「多分だけれど逆なんじゃないかしら?」

「逆?」

「きっと彼らはこの人を見捨てなかったのよ」

 

アスナさんはそう答えた… もしそれが本当だとしたら私達にはできないようなことを彼らはやったということになる…

 

「SAO開始当初フロントランナー達がリソースを奪い合っていた頃 彼らはハンデを抱えた仲間のリカバーを優先して行動していたんだと思う これは想像になっちゃうんだけれどあなたの投剣スキル、2層でも通用できるレベルに上げるのは大変だったんじゃないかしら?」

「…そうか… 1層前半の非効率な狩場に足止めされれば出遅れるのも当然だよな… それが本当だったらすごいよ 俺には絶対真似できない…」

「どう? 間違ってるかしら?」

 

アスナさんが話している間ずっとネズハさんは俯いたままだった

 

「…おっしゃる通りです… 僕は[レジェンド・ブレイブス]の… 仲間の情けに縋り付いてみんなの夢を台無しにしたんです…!」

 

そう言うネズハさんの気持ちは痛いほどに分かった

 

「[レジェンド・ブレイブス]はもう何年も前から活動してきたチームです こう見えて結構いろんなゲームのランカー常連やってて… 本当に最高のチームでした SAOが発売された時にはそれはもう盛り上がりましたよ アインクラッドでテッペン取るんだ! 本物の勇者になるんだ! って…」

 

ネズハさんが話しながらおもむろに立ち上がり叫びながら言った

 

なのにっ! 僕のNFC判定のせいですべてが狂ってしまった!

 

そしてネズハさんは声を震わせながら続けて言った

 

「あの日以来 散々みんなを修行に付き合わせてしまいました… そりゃぁ不満を漏らす仲間もいましたよ… でもリーダー(オルランドさん)だけは決して僕を見捨てようとはしなかった!」

 

 

「結局… どんなに熟練度を上げても投剣スキルが使い物にならないことに気づいて僕が戦闘職を諦めたころには攻略組との差はもう取り返しがつかないほどまでに広がっていました…」

 

ネズハさんがそう言うと震えた声で話し始めた

 

「そんなときです あいつが…あの"黒ポンチョの男"が声をかけてきたのは…」

「"黒ポンチョの男"…?」

 

キリトさんが黒ポンチョの男について聞くとネズハさんはその男について答えた

 

「名前は分からなかったんですけれども… 急に僕たちの話に割り込んできて さっきの詐欺のやり方だけ話してどこかへ行ってしまって… それ以来一度も会っていません それでも詐欺ですから最初はみんな否定的でしたけれど そいつの話を聞いているうちになぜかできるような気がしてきて… 最後は僕もお恥ずかしい話ですけれど、このままみんなのお荷物になるぐらいだったら詐欺の主犯になってお金を稼ぐ方がずっとましだと思ってしまって…」

 

確かに私も同じ状況ならそんなうまい話があればついやってしまうかもしれない…

そう私が思っているとキリトさんがネズハさんに質問した

 

「そいつは何か見返りを求めたのか?」

「いえ…そう言ったものは何も… お金とかはいらないって言って去っていきました…」

 

え? じゃぁその男は何が目的なの…?

 

そう言うとネズハさんは窓のほうまで行き窓を開けた

 

「でも… 僕が強化詐欺を初めて行った日…すり替えられたエンド品が砕けたときのお客さんの顔を見て、ようやく分かりました… これはやってはいけないことなんだって…そこで剣を返してすべてを打ち明けられたらよかったんですけれど… 僕にはそんな勇気もなくて… せめてこの1回でやめようと思って、ひとまずギルドのたまり場に行ったんです…そうしたらみんな喜んでくれて… それで僕はもうどうしたらいいのかわからなくなってしまって…」

 

確かにやってはいけないことだけれどもみんなに褒められたら私も続けてしまうかもしれない…

 

そう思っているとネズハさんはバルコニーへと出た…

 

「だから… だからどうか… これで…!」

 

そしてそれだけを言うとネズハさんは飛び降りた!?

 

 

~~~~~~

 

 

私は咄嗟にネズハさんの足を掴みそんな私をアスナさんが掴みキリトさんとておさんでアスナさんをしっかりと固定していた

 

「うぐぐっ…!」

「は…放してください!」

「嫌です! 大切な人たちに迷惑をかけたくないっていう気持ちは分かりますし 実際途中から自分自身に置き換えて考えていましたよ!」

「だったら何でですか!」

あなたの今やろうとしていることはそんな仲間たちの…オルランドさんの気持ちを裏切るようなことだからですよ!

「っ…!」

 

私がネズハさんを説得している間も徐々にだけど下に落ちていっている…

 

「もう駄目…!」

 

そう言うと急に体が宙に浮き部屋の中へと投げられた

 

「痛たた…」

「うぅぅ…あぁぁぁぁぁ…!」

「キリトさん…あとお願いします…」

 

その時に強く打ったのかまだ少し痛むけど… 私はひとまずあとはキリトさんにお願いすることにした

 

「ネズハ…君の投剣スキルはなかなかのものだと聞く たとえ遠近感が取れなくてもシステムアシストの効く投擲武器なら…「そんなことは分かってます!」」

 

キリトさんがネズハさんの投剣スキルについて話すとネズハさんは大声で言った

 

でもあんなもの実戦では何の役にも立ちませんよ! 弾数が無限でもない限り!

「確かにな 君の言う通りそんなチートみたいな武器は存在しない でも戻ってくるものならある」

 

キリトさんはそう言うと昨日のフィールドボスのLAである〖チャクラム〗を取り出した

 

「フィールドボスのLAである〖チャクラム〗だ」

 

ネズハさんが〖チャクラム〗に手を伸ばそうとするとキリトさんはそれを取り上げた

 

「但し! これを扱うにはとある『エクストラスキル』が必要になる ネズハ スキルスロットに空きはあるか?」

「ありません…」

「では質問を変えようか 伝説の勇者殿…」

 

キリトさんがネズハさんにスキルスロットに空きはあるのかについて質問をするとないと答えたためキリトさんは改めて質問をした

 

「鍛冶スキルを捨てる覚悟はあるか?」

 

 

 




今回はいつもに比べかなり長くなりましたが強化詐欺編は終えられました

それではまた次回に~


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7話:噂話…?

あと少しで第2層編は終えられそうです

それではどうぞ


強化詐欺が終結した翌日、ネズハさんは『体術』を取るために、私たちはその付き添いのために長い道のりを歩いていた(今回はアルゴさんの護衛のため、めらさんも一緒である)

 

しばらく無言で歩いているとネズハさんが口を開いた

 

「キリトさん… アスナさんとはいつからお付き合いされているんですか?」

付き合ってません!

 

アスナさんは否定しているけれど端から見てるともう付き合っているようにしか見えないんだよね…

 

「す…すみません! SAOでは数少ない女性プレイヤーの話題が鉄板でして! お耳に届くとは思わず…」

「ちょっと待て! そんな噂が立っているのか!?」

「噂どころかもう常識ですよ! キリトさんとアスナさんっていつも一緒じゃないですか! 同じ宿屋に出入りする瞬間だって大勢のプレイヤーに何回も見られてるんですよ?」

 

それはネズハさんの話した通り噂になってもおかしくないわ…

 

「まぁ あれですね… お似合いって言う奴ですね~」

「だよなぁ」

「タコミカ!? テオまで!?」

 

少しだけ私とておさんがからかうことにしたらネズハさんが…

 

「そうおっしゃられているタコミカさんもですよ?」

「え?」

「毎晩メンバーと良からぬことをしてるっていう噂ですし…」

「えっ」

 

おい誰だその噂流した奴出てこい

 

「他にもありますよ! 例えば、これはある情報通の話なんですけれども ある夜キリトさんの部屋を訪ねると浴槽から一糸まとわぬタコミカさんの姿が…!」

 

情報通… あの場にいた情報通ってもうアルゴさんしかいないじゃん…

 

私がアルゴさんの方を睨むと当の本人は口笛を吹きながらそっぽを向いていた…

 

「アルゴさん…」

「な…何かナ?」

「あとでお話しましょうか?」

「勘弁ヲ!?」

 

とりあえずアルゴさんとはあとでじっくりお話しすることにした

 

「そしてそこで目撃されたスリーサイズがプレミアム価格で取引されているとか!」

 

お話しする内容追加で

 

「アルゴさん…?」

「だってサ! 仕方ないだロ!? アーちゃんもターちゃんも超が付くほど大人気で有名人なんだかラ!」

 

私が怒気を帯びながら名前を言うとアルゴさんが言い逃れをしようとしていた

 

「そうですよ! お二方とも壊滅寸前のボス攻略隊に颯爽と現れてタコミカさんはボスの攻撃すらものともせず危機的状況になっていたナイトを救出したと聞きますし! アスナさんもアスナさんでボスに攻撃を与えている様はさながら流星のようだったと!」

「へ…へぇ…」

 

ネズハさんが若干早口で言い終わるとキリトさんは困惑した様子で相槌を打った

 

「へぇ じゃないゾ? キー坊 そんな娘たちを独占してるんダ 自覚あんのカ?」

「それに噂になってるのはアルゴさんもですよ?」

「へ?」

「キリトさんが前線から帰ってくるたびに密会しているとか…」

「ゲッ…」

「その話詳しくお願いします」

 

アルゴさんがキリトさんに忠告するとネズハさんは今度はアルゴさんのことについて話し始めたので私はその話を詳しく聞くことにした

 

「なんでもアルゴさんがキリトさんに抱き着くところを見たという人が…」

「えッ!?」

「実はアルゴさんって隠れファンが多いんですよ 情報屋という渋い職業とのギャップでしょうかね? また顔のヒゲのペイントもポイントが高いみたいですよ」

 

あーあー キリトさん… そう思っているとさらに続けた

 

「あと… 最近噂になり始めたんですけれどもね? リオンさんっていう人なんですけれども…」

 

え? リオンさんまで!?

 

「赤いコートに茶髪で片手直剣使いという点以外はすべてが謎に包まれているミステリアスな女性で 情報屋を通しても名前と顔と装備以外の情報が得られないみたいで… そういう雰囲気が好きな人にはもう刺さりまくりらしくて 噂では既にファンクラブもできているらしいですよ?」

 

確かに…ミステリアスという点では同意するけれどもうファンクラブができているのはある意味で驚いた

 

「キリトさんなら何か知っているんじゃないですか?」

「えっ…!? ま…まぁ 知らなくはないけれど…」

 

キリトさんがそう言いながら目線を逸らすとネズハさんが頭を押さえながら言った

 

「あっ…すみません… 僕そう言うのに気が回らなくって…」

「違うからな!? 2股でも3股でもないからな!?」

 

あーあー リオンさんまで…

 

「大丈夫です… わかってますから…」

「わかってないだろ!?」

「大丈夫大丈夫 キリトはそういう体質なんだから」

「違うからな!? メラ!」

 

とうとうめらさんまでからかい始めて私たちはしばらく道中を楽しんだ…

 

 

~~~~~~

 

 

そして私たちは『体術』が取れる場所までやってきた

 

そこでひま猫さんから催促のメッセージが来たことによって約束のことを思い出したため、私は急いで帰ることにした…

 

 

 

ネズハさんの他になぜかアスナさんとておさんとめらさんが例のクエストを受けることになったことはキリトさんから後日聞いた…

 

 




次回からフロアボス戦に突入します

それではまた次回に


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8話:第2層フロアボス "大佐"と"将軍"戦

今回からいよいよ第2層のフロアボス戦に入ります

それではどうぞ~

P.S.:最近追記が多いですがお気に入り登録2件ありがとうございます!


それから3日経ち… 私たちは2層のフロアボスへと挑むことになった

 

攻略組がボス部屋前に全員到着したところでディアベル2号(リンド)さんが自分に注目させて話し始めた

 

「はい! みんな注目ー! 俺は[ドラゴンナイツ]のリンドだ! 1番最初にボス部屋に到達したパーティの代表として第2層フロアボス討伐レイドのリーダーを務めることになった! フルレイドには少し足りないけどそれでも多くの人たちが集まってくれたことを大いに感謝している! みんな! よろしく!」

 

それを聞くと不貞腐れながらキバオウさんが言った

 

「まだギルド結成なんてできへんやろ… たった3時間早く着いたぐらいで偉そうに…」

「先に着いた方が指揮を執る… そういう約束だったはずだが?」

 

ディアベル2号(リンド)さんがそうキバオウさんに嫌味ぽく言うが一番最初に着いたのはキリトさんである

でもキリトさんは指揮できるようなタイプではないためディアベル2号(リンド)さんに指揮権を渡したとキリトさんから聞いた

 

因みに私たちは7人のため第1層の時と同じく私が抜けた

 

そして私はキリトさんの近くにいるとエギルさんが声をかけてきた

 

「おいおい どうした? お姫様と姫騎士様達とパーティ組んだって聞いたが…実家に帰りますっていう書き置きを見た旦那みたいな顔してるぞ?」

「パーティじゃない あくまで一時的な協力関係だ」

 

キリトさんが無愛想に返した

 

「それよりも第1層のボス戦以来だな その時は世話になったよ」

 

そしてキリトさんはエギルさんに向かってお礼を言っていた

 

「それはこっちのセリフさ どうだ? こっちは4人なんだが2人ともこっちに入らねぇか?」

「え? そりゃぁありがたいけど…」

「『ビーター』だからって? そんな風に非難しているのはごく一部のやつらだけさ 現に芋の兄ちゃんたちはあんたについて褒めていたぞ?」

 

エギルさんがそう言ったためキリトさんと私はポテトさん達の方を見ると全員頷いてくれた

 

「じゃぁお言葉に甘えて」

 

そう言いキリトさんはエギルさんと握手した

 

「それで姫騎士様はどうするんだ? どうせまた人数が多かったから自分から抜けたんだろ?」

「じゃぁ私もいいですか?」

「あぁ あんたらがいてくれれば心強い」

 

私もエギルさんと握手をしてエギルさんのパーティに入れてもらうことになった

 

ふと気が付いたらポテトさん達も近くまで来ていた

 

「それで… H隊の役回りは?」

「取り巻き担当だと… ボス担当はA~E隊のキバオウ派閥とリンド派閥で独占されてる」

「取り巻きって… まさか【ナト・ザ・カーネルトーラス】のことか!? あれは中ボスクラスだぞ!? それを1隊でなんて… 残りの2隊は?」

「そこの芋の兄ちゃんたちと彼らさ」

 

エギルさんとキリトさんがH隊の役回りについて確認しているとエギルさんは[レジェンド・ブレイブス]の人たちの方を見たため、私も[レジェンド・ブレイブス]の人たちの方を見るとディアベル2号(リンド)さんに向かって抗議をしているところだったがオルランドさんがこちらに気づいてこっちにやってきた

 

「"ナト大佐"担当のF隊とH隊とは卿らの事であろう? 差し支えなければ卿らに加勢したい」

「オルランドさん! 何言ってるんですか! そんなんじゃいつまでたっても…!」

「愚か者! そんなことをいちいち気にしていては伝説の勇者の名が泣くぞ!」

「でも俺らはただでさえ出遅れているのに…」

「焦らずともよい まだ98層もあるではないか… 真の勇者が誰かいずれ分かる日が来よう」

 

オルランドさんがそう話すとメンバーの一人が抗議したがやんわりと抑えた

 

「では宜しく頼む お初にお目にかかるがエギル殿とポテト殿… でよかったかな?」

「そうですね よろしくお願いしますオルランドさん」

「あぁ 宜しく頼むオルランドさん」

 

オルランドさんが挨拶するとポテトさんとエギルさんが返した

 

「そして黒衣の剣士殿に姫騎士殿! 先だってのフィールドボス戦では天晴な武者振りであった! 特に黒衣の剣士殿に関しては既に二つ名で呼ばれているのも頷けるな 由来は承知しておらぬが確かビー…「黒ずくめ(ブラッキー) 俺たちはそう呼んでいる」…成程」

「ブラッキーっ…」

 

オルランドさんがビーターと言おうとしたときエギルさんがそう言ったためオルランドさんは察して言わなかった

 

その近くで意識さんが小さくツボっていた…

 

「皆の衆! ご安心召されい! 我ら[レジェンド・ブレイブス]が参戦したからには"大佐"であろうと"将軍"であろうと 我が宝剣デュランダルの錆にしてくれようぞ!」

「それ唯の〖スタウト・ブランド〗だよな?」

「こら 本人はそのつもりなんだからそういうことは言わないの」

 

オルランドさんが剣を掲げながら言うと意識さんと朱猫さんが小声で話しているのが聞こえた

 

そして全員の準備が済んだところでディアベル2号(リンド)さんが全員に聞こえるように大声で話した

 

「よし 全員調整は済んだな? 今こそ開けよう! 俺たちの勝利へのとび…「待て」リオンさんか…どうした」

 

そこにリオンさんが待ったをかけた

 

「今回の作戦、あまりにも攻略本の内容を前提にしすぎていないか? 第1層でボスが使う武器が違ったように今回もそういった変更ありきで作戦を立てるのが前提だと思うが」

「も…勿論だ 第1層の過ちを繰り返すつもりは無い」

「なら撤退の基準を決めるべきだと私は考えている 今回の挑戦では事前の情報との相違が確認できた時点で撤退、後作戦を練り直す ということを強く勧めるが…」

「提案感謝する」

 

リオンさんが具体的な撤退基準を決めるとディアベル2号(リンド)さんがそれで行こうと言った

 

では今こそ開け! 勝…ちょい 待ってんか!」今度は何だ!?」

 

そしてディアベル2号(リンド)さんが扉を開こうとしたとき今度はキバオウさんが待ったをかけた

 

「確かにリオンはんの言う通り攻略本だよりは危険や ゆうたら悪いがあれはボス部屋に入ったことのない情報屋が書いたもんやろ? せやから少なくともこの場に一人ボスをその目で見たやつがおるはずや そいつに話を聞かん手はないわな」

 

キバオウさんがそう言うとキリトさんの方へ目を向けた

 

それに応じるようにキリトさんが話し始めた

 

「少なくともβ版では雑魚トーラスと攻撃パターンは同じだった ソードスキルもその延長線だと考えていいと思う ただデバフ攻撃を二重に喰らうのだけは避けてくれ スタン状態の時にスタン攻撃を喰らうと麻痺状態になる そうなったプレイヤーは…」

「二発目は絶対に回避 それを最優先にすればええんやな ほな行こか」

 

聞き終わるとキバオウさんは扉に手を置き扉を開けた

 

「あっ! 何を勝手に! リーダーは俺だぞ! 全員突撃!」

 

ディアベル2号(リンド)さんがそう言うと私たちはボス部屋へと入っていった

 

 

そして私たちがボス部屋に入るとボス部屋全体に明かりが灯り、2つの巨大な影が照らされた… そこにいたのは全身が真っ青で両手に大型のハンマーを持った牛男の【ナト・ザ・カーネルトーラス】とその2倍ぐらい大きくこちらは深紅色で腰回りに金色の布を巻いてはいるがやっぱり上半身は裸で肩にかけている鎖と両手に持っているハンマーが黄金色である【バラン・ザ・ジェネラルトーラス】がそこにはいた…

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「パターンB! 三連撃来るぞ!」

 

キリトさんがそう言うとエギルさん達がその三連撃を防いだ

 

「今だ!」

 

そう言い、私とキリトさんが突撃して攻撃をした

 

そしてナト大佐の攻撃が来ようとしたとき…

 

「来るぞ! アスナ!」

「アスナさんって今はいないんじゃありませんでしたっけ!?」

「あっ…! と…とにかく回避!」

 

ひとまず私たちは回避した…

 

「ディレイ入った! G隊スイッチ!」

「G隊! 突撃~!」

 

そうキリトさんが言ってG隊 もとい[レジェンド・ブレイブス]はナト大佐へと突撃していった

 

スイッチした後エギルさんが笑いながらポーションを渡してきた

 

「背中が寂しそうだな? やっぱり相棒なしじゃキツイか?」

「あんなわからずや知らないね! 俺はソロが信条なんだ」

「そうかい? ほらよ」

「ありがとうございます」

 

私達は回復しながらエギルさんを見ると斧が一層で使っているモノじゃなくなっていることに気が付いた あれって店に売られてたよね…?

 

それにキリトさんも気づいたようで指摘していた

 

「あんたこそあのレアもののでかい斧どうしたんだ? そんな店売りのやつで…」

「色々あってな でもパフォーマンスを落とすつもりは無いから安心してくれ」

「そういう心配をしているわけじゃ…」

 

エギルさんはもしかして強化詐欺にあったんじゃ?という疑問が浮かんできたため言うべきか否かについて悩んでいると"大佐"のHPゲージが一本消滅するのが見えた

 

「こっちも負けてられないな? ブラッキーさん」

「あぁ… でも問題は俺達じゃない本隊の方だ」

 

キリトさんがそう言ったため本隊の方を見てみると結構ボロボロの状態だった…

 

回避ッ…!

 

ディアベル2号(リンド)さんが指示を出したが大抵の人達は回避が間に合わなかった…

 

「大丈夫か? あれ…」

「恐らく大丈夫じゃないかと…」

 

エギルさんと私が言うとキリトさんが何かを迷っている様子だった

 

「私も一旦撤退するべきだと考えています… でもここから叫んでも余計混乱させるだけですしリンドさんに伝えるのがベストだと …こっちは5人でも行けますからキリトさん撤退の提案をしてきてくれますか?」

「だ…大丈夫なのか?」

「おう! 問題ねぇ! あんたが少しだけ離れる間なら俺達だけで回せる!」

「頼む! すぐ戻る!」

 

私はキリトさんが思っていると思われることを話しエギルさんからも許可が出たためキリトさんはディアベル2号(リンド)さんの方へと走っていった

 

そしてポテトさん達とスイッチすると私たちも"大佐"へと向かっていった…

 

 

~~~~~~

 

 

しばらくするとキリトさんが戻ってきたため私はどうだったのか聞いた

 

「どうでしたか!?」

「あと1人麻痺者が出たら撤退するって! でも今のペースだったら押し切れそうだったよ!」

「じゃぁ早くナト大佐を片付けて本隊と合流しましょう!」

「了解!」

 

キリトさんと話して私たちは早々に"大佐"を撃破することにした

 

 

私たちはしばらく戦い[レジェンド・ブレイブス]にスイッチした

 

 

そして休憩しながら[レジェンド・ブレイブス]の戦い方をしばらく見ていた

 

「あと一息であるっ! 行くぞ! 必殺のフォーメーションエックス! かかれぇい!」

 

ナト大佐のHPゲージがイエローになり"大佐"と"将軍"は雄たけびを上げた

 

「暴走モード突入か… どっちもβと同じだな… どうやらこの層のボス戦に変更点はないらしいな この調子なら!」

 

キリトさんがそう言うと意識さんが質問してきた

 

「なぁ ブラッキー? 1つ質問いいか? 確か1層のボスって"君主"だったよな?」

「いきなりなんだよ?」

 

キリトさんが言い返すとボス部屋の中央から突如として音が聞こえたためそちらを見るとそこにあった敷石が反時計回りにスライドし始めていた…

 

「それがどうして2層では"将軍"に格下げされているのかっていう質問をしようとしていたわけだがどうやらその質問をする必要はなくなったらしい…」

 

そこから床がせり上がり、やがて3段のステージを作り出しその背景が歪んで一つの巨大な影をつくり出した…

 

黒い全身に"将軍"よりも体格が大きく腰回りは黒光りするチェーンに覆われていてねじれたヒゲを腰辺りまで下げ、角は6本で頭部の中央には王冠を被っている その名前は…

 

「「【アルテリオス・ザ・トーラスキング】…!」」

 

 

キリトさんとひま猫さんが同時にそう言ったためこのボスそのものがβテストからの変更点だということが分かった…

 

 




第2層編はあと2話ぐらいだと予想しています

リオンは根回しが非常にうまいとだけ言っておきます

それではまた次回に


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9話:真の2層フロアボス "王"戦

フロアボス戦は今回で終わらせるつもりです

それではどうぞ




見たことも聞いたこともないボスが出てきた…!? そんな中でも【アルテリオス・ザ・トーラスキング】は徐々に本隊の方へと近づいて行っていた

 

「本隊の退路が…! ジーザス! 挟み撃ちだ!」

「ぼ…僕たちであのボスの足止めを…!」

「本隊と"王"とはまだ距離がある! 優先順位を間違えるな! まず敵の数を減らす! まずは取り巻きの"大佐"からだ! F・G・H隊 全員フルアタック! 防御不要! 回避不要! 要するにごり押し!

おおおおぉぉぉ!!!

 

エギルさんとやる気君が"王"の方に加勢しようとしたがキリトさんがまずは"大佐"の方から倒すと指示したため私たちは全力で"大佐"を倒しにかかった

 

そして"大佐"を倒すと私たちは消滅すら確認せずに全力で"王"の元へと急いだ

 

「次! "王"が本隊の反応圏に入る前に…!」

 

すると"王"が息を吸い込み始めた… 私の知識が正しければあの動作は…!

 

「あれは… 遠距離攻撃(ブレス)だ!」

 

キリトさんが言う通り"王"はブレス攻撃をしてきた!

 

それを見て私たちが止まりかけるとキリトさんから怒号が飛んだ

 

「止まるな! F隊とH隊は麻痺者を安全圏へ! パワータイプだったら1人で2人ぐらい搔っ攫え! 根性見せろ!」

 

そこからさらにキリトさんから指示が入った

 

「G隊はこっちだ! 俺たちで"将軍"を討ち取る! ひま猫も来い!」

「りょ…了解!」

 

そこからG隊+キリトさんとひま猫さんは"将軍"を討ち取ることになってポテトさん達と私達で麻痺者を安全圏へと運ぶことになった

 

 

私達が麻痺者を運んでいるときに"将軍"の相手をしていたキリトさん達の背後で再び"王"はブレス攻撃の準備をしていた…

 

 

そしてブレス攻撃を放とうとした時"王"の口が無理やり閉じられた

 

 

"王"の攻撃を中断したのはアスナさんだった…

 

それに怒ったのか持っていたハンマーや手でアスナさんを押しつぶそうと攻撃してきた

 

その時ディアベル2号(リンド)さんは私の真横で叫んだ

 

「無茶だ! たった1人でボスのタゲを取り続けるなんて…!」

 

確かに今回ばかりは同意せざるを得ない… こんな芸当ができるのは他でもないアスナさんだけだろう アスナさんのスピードあっての現状だと思う…

 

そう考えているとキリトさんの大声が聞こえてきた

 

よそ見をするな! 来るぞ! 全員ブロック!

 

キリトさんの指示でG隊+キリトさんとひま猫さんは防御をした

 

私がディアベル2号(リンド)さんと彼の隊の人を安全圏へと退避させ、POTを飲ませていると

 

今! そんなことを言っていられる場合か!

 

というキリトさんの大声が再び聞こえてきた

 

一刻も早く退避を終わらせなければ… 私はそれだけを考えていた

 

 

嫌な予感がしたためアスナさんの方を見ると、アスナさんが"王"の攻撃で吹っ飛ばされるのが見えた

 

 

アスナさんがよろよろと立ち上がると既にボスはブレス攻撃のモーションに入っていた

 

そして"王"はブレス攻撃を放った…

 

 

 

それをキリトさんが間一髪救出したが少しだけ範囲外には届かず、2人とも麻痺状態になってしまった

 

それを見た私は咄嗟に飛び出していた…

 

 

そして2人に近づき、倒れている2人を叩きつぶそうとハンマーを振り下す寸前で私が武器でガードした

 

「タコミカ!?」

「タコミカさん!?」

「うぐぐっ…!」

「止せ! タコミカ! お前の武器じゃ防ぎきれないぞ!」

 

そんなことわかってる! わかってるけど!

 

「だからと言ってお二方を見捨てるという選択肢は私にはありませんよ!」

 

それに少しだけイラついたのか"王"は私ごと押しつぶそうとさらに力を強めた

 

「あうぅぅ…」

 

そんな時に≪レイジ・スパイク≫と≪シャフト≫の攻撃がハンマーをはじき返した

 

「遅くなった!」

「ごめん! たみ!」

 

突如として現れたておさんとめらさんが私にそう言うと私はとりあえず安全圏へ退避するという選択肢を選んだ

 

「話はあとです! 取り敢えずお二方を安全圏へ…」

 

私が言いかけたとき"王"はブレス攻撃のモーションに入っていた このままじゃ…2人は確実に死ぬ…

 

 

私はこの状況を回避できる策は何かないかと思考を巡らせているとひときわ大きな声が聞こえてきた

 

放せ! 放すのだ!

 

声のした方を見てみるとオルランドさんが彼の仲間に止められていようともこちらへと来ようとしていた

 

 

「無茶でも無謀でも結構! 戦友達や姫君の盾となり斃れるは騎士の本懐…! 真の勇者ならば! 今往かんとしてなんとする!

オルランドさんのおっしゃる通りです!

 

そう誰かが言ったとき"王"の攻撃が突如としてキャンセルされた

 

「あれは…! 〖チャクラム〗!?」

 

ということは…!

 

「遅いぞ…」

 

ておさんがそう言うと

 

「すみません! 遅くなりました!」

 

とネズハさんが返し、そしてさらに続けた

 

「タコミカさん達はお2人を安全圏へ! "王"は俺が引き受けます!」

 

それを言うとネズハさんは"王"へと向かっていった

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

2人を安全圏へと運び、離れたところで私達も休憩していた

 

「"将軍"討ち取ったり! 残るは"王"1匹ぞ!」

 

私達が休んでいる間に残りは"王"だけになった

 

その間私はめらさんから説明をしてもらっていた

 

「成程… あの場所にボスの情報があったんですね…」

「そういうこと それで事態が一刻を争うっていうのがわかって僕たちが先に行ったというわけ 結局先に到着したのはスピードが速いアスナだったけれど…」

「へぇ~」

 

ふとキリトさんの方を見るとアルゴさんもキリトさんに説明しているところだった

 

 

そんな時にディアベル2号(リンド)さんの指示が入った

 

ブレスのパターンに入ったぞ! 頼む! あんたが頼りだ!

「はいっ!」

 

ネズハさんは返事をすると〖チャクラム〗を投げ、"王"の王冠へとヒットさせ、"王"はダウン状態へと入った

 

よし! ディレイ10秒! かかれ!

 

ディアベル2号(リンド)さんの指示で待機していた人たちが攻撃を再開した

 

「現状戦線を維持してるのは彼らか… そう思うと色々と惜しいな…」

 

ておさんはふと"王"と戦っている[レジェンド・ブレイブス]の方を見ながら言った

 

G隊後退! B隊突撃!

 

ディアベル2号(リンド)さんがそう言うがB隊の人たちはまだ回復しきれていない様子だったためG隊に引き続きお願いしていた

 

 

私達が休憩している途中アスナさんから「やだ!」という声が聞こえてきた… 何話しているんだろ…

 

 

しばらくしていると最後のHPゲージも赤くなり暴走モードに入った

 

最後の1弾も赤くなったぞ! "大佐"や"将軍"同様猛攻に備えろ!

 

ディアベル2号(リンド)さんがそう指示を飛ばすとエギルさんもこちらに声を飛ばした

 

おいお前ら! いつまでものんびりしてねぇで手を貸してくれ!

「じゃ… 行きますか!」

「了解!」

 

私とておさんがそう言うとボスの方へと向かっていった

 

 

私達がボスに向かっている途中ボスの攻撃がネズハさんに迫っていたがそれを[レジェンド・ブレイブス]が防いでいたが、オルランドさんの盾がもうボロボロになっていた

 

そんな時まだ回復が済んでいないエギルさん達が防御に加わった

 

エギルさん達が何か言うとオルランドさんも大声を出した

 

ならば結構! 押し返すぞ!

応!!!

 

そんな勢いに負けたのか"王"が体勢を崩した

 

ブラッキー殿!

やっちまえ!

 

そこでキリトさん達と合流した

 

「…とさ… 覚えてるか? 2人とも?」

「「勿論!」」

 

キリトさんがそう言うと私とアスナさんはフードを外した… すると…

 

待ってました!

 

全体からとても大きな歓声が上がった

 

 

そんな声をものともせず私たちは飛び上がり空中でアスナさんは≪シューティングスター≫をキリトさんとておさんは≪ソニックリープ≫を私は≪スラスバイト≫を放ち、その攻撃はまず王冠を砕き次に"王"本体も爆散させた…

 

 

そして見事に着地すると

 

Congratulations!

 

という言葉が空中に出現した

 

 

 

 




今回出てきたオリジナルソードスキル紹介

≪スラスバイト≫
両手剣突進技 ≪ソニックリープ≫や≪シューティングスター≫同様上方に突進可能


次回でいよいよ2層編は完結です

それではまた次回に


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10話:ここからのスタート

今回で第2層編は完結です

それではどうぞ




第1層の時と同じくその言葉が出るとしばらく静かだったが

 

「みんな生きてる! 完全勝利だ!」

 

リンドさんのその言葉をきっかけとしてボス部屋は一気に歓声に包まれた

 

 

「お疲れ」

「お疲れ様」

「おつ」

「お疲れ様です」

 

私達が同時に労いの言葉を言うと私達は笑い、そして静かに拳を合わせた

 

そんな私たちに向かってくる影が3つあった

 

「お疲れ様です! キリトさん! アスナさん! テオロングさん! タコミカさん! 最後本当に息ピッタリでしたね!」

 

1人目は今回のMVPであるネズハさん

 

「お疲れ~ いや~… ほんと…流石としか言えないね」

 

2人目はめらさん

 

「メラ坊の言う通りだヨ… 4人とも息ピッタリすぎだロ…」

 

そしてアルゴさん

 

キリトさんの前に向かったネズハさんはキリトさんの手を掴み大げさに振っていた

 

「止してくれ…」

 

キリトさんは照れながらネズハさんに言った

 

「本当にすごかったのはあなたよ? ぶっつけ本番であそこまで扱えるなんて見直したわ」

「ほとんどシステムアシストの力ですけれどもね…」

 

アスナさんがネズハさんを褒めるとネズハさんは照れながら話した

 

そして[レジェンド・ブレイブス]の人たちのいるほうを見て

 

「それでも やっと僕もずっとなりたかったものになれました ありがとうございました 僕の背中を押してくださって… これでもう…」

 

ネズハさんはキリトさんの方へと向き直角はありそうな角度でお礼を言ってきた

 

そんな時エギルさんと複数のプレイヤーたちが集まってきた

 

「おつかれ」

「おう! コングラチュレーション! …だけで済ませたかったが…」

 

エギルさんは最初こそ1層のボス戦後と同じく穏やかな感じだったが急に顔を真剣にした

 

 

そしてネズハさんの方へと向くと質問をした

 

「あんた 少し前まで鍛冶屋をやっていたよな?」

「…はい」

 

それにネズハさんも覚悟を決めた様子で答えた

 

「何で戦闘職に転向したんだ? 鍛冶屋っていうのはそんなに儲かるのか?」

 

エギルさんがそう言うと集まったプレイヤーのうちの1人が

 

「あんた知らないだろ あんたに強化を依頼された剣が破壊されてから俺たちがどんだけ苦労したか」

「止せ 別に今更恨み言を言いたいわけじゃない ただどうもみんな俺と同じ経験をしていて 俺と同じ懸念を持っているみたいでな…」

 

それをエギルさんが止め、エギルさんが続けた

 

「聞いてくれ! みんな! この〖チャクラム〗は…「いいんです キリトさん」」

 

キリトさんがかばおうとしたがネズハさんが止めた

 

「皆さんのおっしゃる通りです 僕が皆さんの武器をエンド品にすり替えて騙し取りました」

 

ネズハさんは土下座しながら謝罪した

 

「それを金に替えたのか?」

「はい 全て替えました」

「金での弁償は可能か?」

「いえ 出来ません… お金は全部残らず高級レストランでの飲み食いや高級宿屋で使ってしまいました」

 

そんなエギルさんとネズハさんのやり取りを聞いていた恐らく被害者の一人がネズハさんに掴みかかった

 

「お前! わかってんのか! 大切に育ててた剣なくして俺たちがどんなに辛い思いをしたのか!」

「俺も もう前線にいられないかもって思ってよぉ…でも仲間が頑張ってくれてよぉ… 強化素材集め手伝ってくれて… 迷惑かけまくってよぉ…」

「わかってんのか!? お前が俺達みんなからどれだけのもんを奪ったのか! それを‥俺たちの大事な武器を奪ったお金で… うまいもん食っただと!? 高い宿屋に泊まっただと!? 挙句自分はレア武器を手に入れてボス戦でヒーロー気取りかよ!?」

「やっちゃだめだけどよぉ… 俺は今すぐあんたを叩き切りたくて仕方ねぇんだよ…」

「覚悟の上です 恨みません どうか皆さんのお気のすむまで…」

 

ネズハさんはそんな彼らの言葉を受け止めていた

 

 

そんな時

 

「待たれよ」

 

オルランドさんから声がかかった

 

「貴卿らが手を汚すには及ばん」

 

そう言うと[レジェンド・ブレイブス]の人たちは武器を持ったままネズハさんの元まで行くと…

 

 

「この者は我らの… いや… こいつは俺たちの仲間です 俺たちがこいつに強化詐欺をやらせていました」

 

武器を置き、兜を脱いでからネズハさんと同じように土下座した…

 

 

「えーっと… 一つだけ提案があるんですけれどいいですか?」

 

そんな時ポテトさんが手をあげて発言した

 

「今[レジェンド・ブレイブス]の人たちの装備はこの中でもかなりの最上級品だと思います だからもしそれを売ったら被害に遭った人たちの被害額を超えるんじゃないですかね?」

「確かに…金額的な問題はそれで解決できるな… 提案感謝する」

 

そしてディアベル2号(リンド)さんは被害に遭った人たちと[レジェンド・ブレイブス]の人たちにそのことを話すと双方が納得してくれたみたいだった

 

これで丸く収まりそう… そう思ったとき

 

 

そいつらが奪ったのは金や時間だけじゃねえぞ!

 

第1層でも出てきた奴がまた出てきた

 

「確かに金はそいつの言う通りそいつらの装備を売ればいいし 時間も大した問題じゃねぇ! でもなぁ! 死んだ人間は帰ってこねぇんだよ!」

 

え…? 人が死んだ?

 

「俺…オレ 知ってるぜ! そいつらに武器を騙し取られたプレイヤーは他にもいて、その中の一人が店売りの安物で狩りに出て 今まで倒せてたMOBに殺されたんだ! それが! 金だけで償えるはずないよなぁ!?」

「人が死んだ…?」

「それじゃぁまるで…間接的な…ピ…」

「それってもうPKじゃねぇか!」

 

誰かがその単語を言った瞬間に静まり返った

 

「おい!さすがにその理論はやべーだろ! 1層の時とはワケがちげーんだぞ!」

「でも今回は犯人もいて罪も認めてるっていうことは…」

 

そう誰かが言ったときに奴が一言言った

 

「責任取れよ 詐欺師共」

 

その一言で一気に広がった

 

そうだ! 責任取れ!

死んだ奴に謝ってこい!

PK集団ならそれらしく終われ!

 

やがてその言葉は「殺せ」という一つの結論に至った

 

詐欺師野郎どもを殺せ!

死んで詫びろ!

命で償え!

 

そして[レジェンド・ブレイブス]の公開処刑が始まろうとしていた時

 

 

ガンッ!

 

 

誰かが武器を叩きつける音が響いたため、全員がその方向を見るとリオンさんがいた

 

そしてリオンさんはそんな目を気にせず最初に発言した奴の元へと向かっていった…

 

「さて? 君に1つ質問いいかな? 確かジョー君と言ったかな…?」

「な…なんだよ?」

「その死んだ奴の名前は分かるか? 彼らがターゲットにするぐらいだ、それなりにレベルは高いはずだろう? たとえ私が知らなくてもリンドかキバオウならわかると思うが… どうだ?」

「確かにリオンはんの言う通りやな… のぉジョー? この場で出したんや ワイらが知ってて当然やわな?」

「いや…俺も噂で聞いた程度なので詳しくは…」

「なんやと!? おどれその程度で…!」

 

リオンさんがジョーに質問するとキバオウさんが便乗して質問したが答えられなかったため頭をグリグリされていた

 

その光景を見たのかプレイヤーたちの怒りはすっかり冷めていた

 

そしてリオンさんはプレイヤーたちの方に向いた

 

「さて… 君たちは確証もない噂程度で人を殺すのか? 君たちに1つ質問をしようではないか…このまま彼らを殺すか それとも彼らにはこれ以上危害を加えずあとはこのまま任せるか 好きに選べ」

 

リオンさんのその言葉にしばらく無言が続いたがふとアルゴさんが口を開いた

 

「任せるつもりだったらオレッチに任せてもらっていいかい?」

「あぁ 無論そのつもりだ 調査過程と結果はリンドとキバオウに伝えてくれ」

「ワカッタ」

「コホン! では調査の結果がわかるまではこの問題は俺達が預かる! それでいいな!?」

「よろしく頼む… そのうえで出来るだけの償いをしたい」

 

 

~~~~~~

 

 

そこからとんとん拍子に話が進みボス部屋はオークション会場へと変わった

 

「さぁさぁ お立合イ! こちらの商品+0の店売りで5万コルの逸品ダ それが最大強化の+6! デバフ耐性の高さはさっきのボス戦でご覧の通リ! オレッちの見立てでは第4層ボスまで通用するネ!」

「ほならまずは5万スタートやな!」

 

私は特に欲しいものはないため離れているとリンドさんとエギルさんとキリトさんが話しているのが見えた

 

 

しばらく話しているとエギルさんが「彼女らも相当性格が悪いな! HAHAHA!」と言ったためキリトさんはアスナさんの方向を向いた…

 

するとアスナさんとリオンさんが答えた

 

「政治の基本は根回しと演出ね」

「あとは情報通も抑えておくと完璧だ」

 

そしてアルゴさんも加わり3人してお嬢様口調で笑い始めた

 

「お前らも知ってたのか!?」

 

そうキリトさんが言いながら私たちの方向へ向いた

 

結論から言うと全部知ってました☆

 

「おほほほほ」

「ふはははは」

「図ったな!?」

 

私とておさんも笑っておいた

 

だってキリトさんすぐ顔に出るんですもん…

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

そして私たちはリンドさんの伝言通り3層へと続く階段を上っていたけど…

私、高いところ駄目なんです…

 

なので私は一番後ろを壁伝いでついて行った

 

時折強風が吹くため1回叫びそうになりましたもん…

 

 

 

しばらくすると3層への扉が見えた その時アスナさんとておさんがキリトさんを追いかけて走り出したため私も泣く泣く走り始めた

 

 

そんな中私は[レジェンド・ブレイブス]が新たなスタートを切れるように心から祈っていた

 

 




この1件でタコミカはリンドのことを見直しています

タコミカは高いところが駄目です(え? 前まで問題なく行動していた…? あれは実はタコミカは怖かったでしょうね☆)

次回から3層編に入ります~

では次回に


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森とエルフと時折紅茶(アインクラッド編 第3層)
1話:森エルフと黒エルフ


今回から3層編に入ります

それではどうぞ

P.S.:2件のお気に入り登録ありがとうございます! これからもマイペースですが応援していただけるとありがたいです


私達は主街区へと向かうため第3層を歩いていた… この層のテーマはいわゆる⁅森⁆であるが第1層の<ホルンカの村>周辺の森や2層南エリアにある森とは桁が違うほど広いのである 小さい樹ですら寿命はおよそ100年近くはあるんじゃないかと思うほど大きい

 

私は第1層や第2層とはまた違った景色を楽しんでいた…

 

因みに今は知っている人だけなのでフードは被っていない

 

しばらく歩き道が分岐点に差し掛かったときふとキリトさんが口を開いた

 

「この道を右に行くとすぐ主街区に着く 左に行くとしばらく森が続いて抜けると次の村に到着する 本来ならすぐにでも転移門のアクティベートをするために主街区へと行くべきなんだろうけど… 俺としてはその役目はリンド隊かキバオウ隊に任せたい」

「どうして?」

「理由は人目に付きたくないっていうのもあるけれど左の森で先にやりたいことがあるんだ でもそれは両方とも俺の個人的な俺の個人的な要件なわけで…」

 

キリトさんが道の先に何があるのかについて説明すると転移門のアクティベートはリンドさん達かキバオウさん達に任せたいというため、アスナさんが理由を聞くと両方ともキリトさんの個人的な理由だったためアスナさんは機嫌が悪くなり始めた

 

「それで?」

「もしアスナたちが先に主街区へと行きたいんだったらここで解散ということになりますけれども… もし俺の用事にお付き合いいただけるのでしたら問題はございませんが…」

「別に 私たちは元々一時的なパーティですし? ここで解散しても全く問題じゃないわ」

「はい…」

「でもあなたがそう言うんだったら先に済ませておいた方がお得っていうことよね? なら私も一緒に行くわ タコミカさん達もついて行くでしょうし」

「え!? 私達も…?」

「違うの?」

「確かについていくつもりでしたけれど…」

「なら決まりね」

 

アスナさんがキリトさんにどうしたいのかについて聞くと別に付き添うなら問題はないと言い、私たちが行くなら行くと言った 別に問題はなかったけど… なんか巻き込まれてる感が…

 

 

 

そうして分かれ道を左に進み5分ほどたった時キリトさんがここらへんで出てくるMOBの説明を始めた

 

「ここら辺に出てくる敵は強さ的には2層の迷宮区にいる奴らと大差ない ほとんどが動物型か植物型だからソードスキルも使わない ただ、全MOBに共通する行動パターンとして少しずつ森の奥へと引き込んでこようとする 相手が隙を見せたからと言って追撃していると勝ったときには道を見失っているということがよくあるんだ」

 

私も同じことをやってよく迷子になってたな… とβ時代のことを思い出しているとておさんが口を開いた

 

「でも マップタブを見れば歩いたところはマッピングされるんじゃなかったか?」

「そう思うだろ?」

 

そう言うとキリトさんはマップを可視モードにしてから見せた

 

「全体的に薄くなってるな…」

「この辺のエリアは通称{迷い霧の森}といわれていてマップも見づらいし、時々濃い霧がかかるからまじで迷うんだ だから原則としてこの道とパーティからは離れないでくれ たとえそれが戦闘中でもな」

「わ…分かった」

 

キリトさんが具体的にこのエリアの説明をするとておさんが納得していた

 

「じゃぁあなたに実演してもらいましょうかね?」

「へ?」

「後ろに何かいるわよ?」

 

アスナさんがそう言うと枯れ木もとい【トレント・サンプリング】がキリトさんの方を数秒間見てから地面から根っこを引き抜きキリトさんの方へと向かっていった

 

 

~~~~~~

 

 

そこから3分ぐらい経ち【トレント・サンプリング】はその体をポリゴン状へと変え、消滅した

 

「お…お見事」

 

キリトさんの言う通りこれぐらいの強さだったら大した問題ではなさそう…?

 

私達がハイタッチを終えるとアスナさんが突然叫びだした

 

「あっ! 苗木(サンプリング)っていうことはこれからたくさんニ酸化炭素を吸収してくれるはずなのに… こんなの全然エコじゃないわ」

「? アインクラッドに温暖化問題ってありましたっけ?」

「初耳だな…」

 

私がアインクラッドに温暖化問題があったかについて話すとキリトさんは初耳だと言った 私も忘れそうになるけどここゲームの中だからそう言うのはないけどな…

 

「でも焼いたり腐ったりしてCO²に戻ってるわけじゃないからむしろ温暖化防止に貢献してる…! そうだわ! 環境のためにももっと(トレント)を狩るのよ! それもなるべく大きいのを!」

「アスナさ~ん 行きますよ~」

 

アスナさんは続けていたため私はもうそろそろ行くとアスナさんへ声掛けをした

 

 

~~~~~~

 

 

「それで…? いつ着くのかしら?」

「もうすぐだよ… 多分…」

 

そこからしばらく歩きアスナさんが声をかけるとキリトさんは多分もうすぐだと言った

 

「あのねぇ… あなたは今日に向けて準備万端だったのかもしれないけど! 私は三日三晩あの場所で岩割リクエストをやらされてたの! ずっとあの場所で野宿だったのよ!? そこから急いでボス部屋へ駆けつけて! その上死にかけて! とにかく今日こそはお風呂に入りたいの! 分かる!?」

「お…お風呂はあったと思うよ…」

「本当でしょうね…?」

 

そんなキリトさんの受け答えが腹に立ったのかアスナさんが怒りを爆発させた そこでキリトさんはお風呂について答えるとアスナさんは収まった

 

 

するとキリトさんはあたりをきょろきょろし始めた

 

「なぁ 3人とも耳に自信はある?」

「何か聞こえるかっていう話ですか?」

「端的に言えばそうだな」

「え? そもそも私たちはナーヴギアを通して音を聞いてるんだから耳の良し悪しなんて関係ないでしょ?」

「そうだけど…」

 

キリトさんは私たちの耳が良いかについて聞いてきたので私は何か聞こえるかの話かと聞くとキリトさんはそうだと答えたがアスナさんは耳の良し悪しについては関係ないと言ったためキリトさんはアスナさんの方を向いたら… アスナさんは耳を澄ませていた…

 

「それを言うんだったらそのポーズはどうかと思うけど…」

「言わないであげろよ…」

 

キリトさんとておさんがそう言ったため少しだけ私は2人を小突いておいた

 

「耳がご自慢のアスナさんにはまた今度うさ耳装備をプレゼントしましょう」

「…あるんですか…?」

「多分…? MMORPGだもの」

 

キリトさんがまたそんなことを言ったため私は呆れながら聞くと多分あると答えた

 

 

〔キィン キン〕

 

そうしているとそこまで遠くない場所から金属のぶつかる音…多分これは武器がぶつかる音かな…?が聞こえてきた

 

「皆さん! あっちから何か聞こえます!」

「お! ナイス!」

 

私がそう言い音の聞こえたほうへ指を指すとみんなが近くの物陰から様子を伺った

 

すると金髪の男性と紫髪の女性が戦っているのが見えた… それもただの男性と女性ではなく、耳が長い…つまり…

 

「ねぇ あれってもしかして…!」

「そう! エルフだ!」

「特殊メイクしたハリウッドの俳優じゃなくて…!?」

 

そして小声でアスナさんとキリトさんが受け答えをした

 

「いよいよゲームっぽくなってきましたね!」

 

私がそう言うと3人に呆れられた様子で見られた… え? なんで?

 

「因みに男性の方が(フォレスト)エルフで女性の方が(ダーク)エルフだ」

「両方の頭上にエクスクラメーションマークがついていてしかも戦ってるっていうことは…」

「察しがいいなテオ どっちか片方しか受けられないっていうことだ」

 

気を取り直してキリトさんが男性の方が(フォレスト)エルフで女性の方が(ダーク)エルフという説明をするとておさんは!マークがついていることに気づきそれが戦っているという点に注目するとキリトさんが代弁して答えた

 

「そしてこのクエストは今までの単発ものやちょっとしたシリーズものではなくSAO初の大型クエストだ そしてこのクエが終わるのは9層だ」

「きゅ…!?」

 

キリトさんがこのクエが終わるのが9層ということを言うとアスナさんが大声を出そうとしていたのでキリトさんは急いでアスナさんの口をふさいだ

 

「因みに途中で失敗すると受けなおし不可 当然対立ルートへの変更も不可 ここで選んだ道を9層まで走り続けることになる」

「あなたそういうことはもっと早く言いなさいよ… それはそうと対立ルートって?」

「2人のうちどちらかに加勢するんだ 俺はいいから3人が決めていいよ 白いほうが森エルフでもう一方が黒エルフ… どっちがいい?」

 

キリトさんがエルフクエストの概要を話すとアスナさんが質問した すると私たちが決めていいということになったため私は黒エルフの方に加勢することにした 森エルフの方はやったからね

 

「片方を選んだとして…もう片方はどうするの?」

「そりゃぁ… 倒すよ?」

 

そうキリトさんが言うとアスナさんは少し悩んでから

 

「決めた ダークエルフのお姉さんで キリト君がやったんだったら安心だからね」

「あれ? 俺どっちやったか言ったっけ?」

「分からないとでも?」

 

黒エルフの方に加勢することにしたらしい… キリトさん黒エルフの方をやってたんだ…

 

「それはそうとタコミカさんとテオ君はどうするの?」

「私も黒エルフの方で」

「俺もだな~ だってその方が新鮮味があるし」

「うん? 私がβ時代に森エルフの方やったって言いましたっけ?」

「だってたみちゃん緑好きでしょ」

「…そうですね…」

 

確かにね… 緑色は好きですよ… でもこうもあっさり見破られるとね…

 

「タコミカさんあのお姉さんの方倒したんですか!?」

「何といいますか… すみません…」

 

気まずくなったためとりあえず謝った

 

「黒エルフに味方するのはいいんだけれどさ 彼らは7層クラスのエリートMOBなんだ だからあの森エルフには絶対に勝てない だから全員攻撃せず回避や防御に専念してくれ」

「勝てない!? 死にたくないわよ!? 私!」

 

少しだけ無言でいるとキリトさんが説明してくれたがアスナさんは絶対に勝てないという部分に驚いていた それを読んでいたようにキリトさんが続けた

 

「そこに関しては大丈夫 こっちのHPが半分以下になると加勢した方が奥の手を使ってくれるから」

「奥の手っていうことはできれば使いたくない理由があるのよね?」

「あぁ… 自爆攻撃で相打ちになる」

 

キリトさんが言った奥の手の部分をアスナさんが指摘するとキリトさんが理由を話した

 

「…そんなの嫌だわ」

「気持ちはわかるけど これから先、同じことは何度も目にすることになるから割り切った方がいい 所詮これはMMOなんだ」

 

確かにキリトさんの言う通り割り切った方が楽ではあるし、私も嫌だったけれどもそこはもう慣れる他ない…

 

「…要するに私たちが強ければ助けられるのよね?」

 

そうアスナさんが言うと剣を抜きエルフクエストの開始地点へと向かっていった

 

 




タコミカは森エルフ側でエルフクエストをやっていますがそこまで内容を覚えているわけではありませんし途中で失敗しています

次回は戦闘回になると思います

それでは次回に


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2話:エルフクエスト開始

今年最後の投稿です

それではどうぞ~


私達がエルフの人達が戦っているところに飛び出すと

 

「人族がここで何をしている!」

 

と森エルフの男性が

 

「邪魔立て無用! 今すぐこの場から立ち去れ!」

 

と黒エルフの女性が喋った するとアスナさんが

 

「日本語喋った!」

 

と驚いたため

 

「違う! 驚くところそこじゃない!」

 

と私は素で受け答えしてしまった…

 

「森エルフ側に剣を向ける… つまり敵対行動をすれば戦闘開始だ」

 

とキリトさんが言ったためアスナさんと私たちは同時に森エルフの男性に剣を向けると

 

「…愚かな 人族が黒エルフごときに加勢するか…」

「人族にも話が分かる者がいるということだ 我が方より奪いし〖秘鍵(ひけん)〗我々へと返してもらうぞ!」

「…いいだろう」

「来るぞ ガードに専念だからな?」

 

黒エルフの女性が協力に関してお礼を言うと森エルフの男性が臨戦態勢へと入ったためキリトさんが警告をした

 

「ならば5匹まとめて我が剣の錆にしてくれる!」

 

そう言いながら森エルフの男性は剣を高く掲げた

 

「ほら見てみろよ… 強そうだろ? やっぱりガードに専念した方が…」

「うるさいわよ! もう決めたのよ! 片方だけでも助ける…って」

 

キリトさんとアスナさんが話している間にその森エルフは攻撃を仕掛けてきた…()()

 

え? なんで!? もしかして私が裏切ったの知ってる!?

 

「あぶっ!?」

 

そう考えながらも私は咄嗟にガードした

 

「剣の錆になるのはそっちよ! 覚悟しなさい! このDV男!」

 

そう言いながらアスナさんは≪リニアー≫で攻撃した というかここゲームだからDVとか関係ないと思うんだけれどな…

 

そんなことを考えていると森エルフの男はアスナさんの方向を向き、盾で受け流してそのまま攻撃した

 

「…ほら だから言っただろ…」

「ちょっと戸惑っただけよ 盾持ちの敵は初めてだから」

「そういえばプレイヤー以外に出てきてないな… 盾持ちは」

「ひま猫君相手に練習しとけばよかったわ」

「やめてください」

 

アスナさんとキリトさんが盾持ちの相手は初めてだと言い、アスナさんはひま猫さん相手に練習しとけばよかったと言ったので咄嗟に私はやめてと言った

 

「冗談よ それで? 盾持ちの攻略方法は?」

「私分かりますよ 盾ごとぶっ壊せb「違う! この脳筋が!」」

 

そしてアスナさんが盾持ちの攻略方法を聞いてきたので私が答えようとしたらキリトさんが大声で否定した

 

「はぁ… お前はずっと盾破壊してきたのかよ?」

「そうですよ」

「まじか…」

「確かに俺が見た限りでは盾をぶっ壊したり跳ね上げたりしてたな…」

「えぇ… じゃぁヒント 盾は遮蔽物と考えろ」

 

キリトさんがずっとそうしてきたのかと聞いたため私はそうだと答え、ておさんが補足をしたら少し顔を引きつっていたがキリトさんは気を取り直してアスナさんにヒントを出した

 

「それって当然じゃ… なるほど 大体わかったわ」

 

アスナさんが大体わかったと言うと森エルフの男性の方へと突撃して行き剣を構えたため森エルフの男性も盾を構えたがアスナさんは盾で身を隠し死角から攻撃した

 

しかし森エルフのHPはまるで減っていなかった

 

「やっぱり7層クラスのエリートMOB相手じゃ〖ウィンド・フルーレ〗は軽いか!」

 

そうキリトさんが言うと私たちは加勢に向かったが森エルフの男性はアスナさんに攻撃しようとしていた

 

そこへ背後から黒エルフの女性が攻撃をしたため私も≪サイクロン≫で攻撃し、ておさんも攻撃したが森エルフの男性のHPは少ししか減っていなかった

 

すると黒エルフの女性と目が合ったような気がした

 

「分かった! 分かったよ! 倒せばいいんだろ! 倒せば! 俺だけのけ者は嫌だからな!」

 

キリトさんがそう言うとキリトさんも森エルフの男性に攻撃を始めた

 

「やるな! 人族のつがい共!」

()()「「「つがいじゃない!」」」」

 

黒エルフの女性がそう言ったため私達は否定したが私だけ頭に()()を付けてしまったため全員が私の方を見た

私はそっと視線を逸らした

 

 

~~~~~~

 

 

そしてしばらく経ち… 私たちは森エルフの男性を倒すことができた… 奥の手を使わずに

 

「不覚…!」

「すげぇ… ほんとに倒しちまったよ…」

 

キリトさんはとても驚いていた… 私も驚いてる…

 

「言っておくけどこれから先 俺はどうなるか分からないからな」

「もっと素直に喜びなさいよ」

「いやぁ… ここまでぶっちぎりにβの時の経験を超えたのは初めてなんでね これはこれで血が騒ぐけど」

 

キリトさんとアスナさんが会話していると森エルフの男性が何かを取り出した

 

「実に不覚だ… 人族に敗北しただけではなく()()()に手柄を渡すことになるとは…!」

「それは…!」

 

黒エルフの女性は止めようとしたが森エルフの男性はそれを天高く掲げると何かがそれを掴んだ それと同時に森エルフの男性は消滅した

 

「えっ!?」

「何!?」

「今のは鷹か…!?」

「あいつは…!」

 

私達が鷹だと認識するとそいつはさっきとは別の森エルフの男性の掌に受け取ったものを落とした

 

「【|森エルフの鷹使い《フォレストエルフ・ファルコナー】か!?」

 

キリトさんがそう言うと鷹使いは口を開いた

 

「やれやれ… なぜ騎士という輩は私に功績を譲るのを嫌うのでしょうかねぇ? ですが黒エルフの大事な〖秘鍵〗とやらはワタシがこの通り」

 

鷹使いはそう言うと回収した〖秘鍵〗と思われるものを私たちに見せてきた

 

「しかもこいつもエリートMOB! 鷹がでかい!」

「今注目するところはそこじゃないと思うぞ…?」

 

キリトさんが別のところに注目するとておさんからツッコミが入った でも実際鷹は大きいけど…

 

「そうか… 貴様が鷹使いか…!」

 

すると黒エルフの女性は明らかに今までとは違う雰囲気を身にまといながら言った

 

「はて… どこかでお会いしましたかね…? 敵ではありますが一度あなたのような方を見たら忘れないんですけれどもね」

「新手!?」

 

鷹使いがそう言うと森エルフ側の兵がぞろぞろと出てきたためキリトさんが警戒するとそれを気にすることなく鷹使いは続けた

 

「ただ… しいて思い当たる点があるとすれば… 秘鍵を奪ったとき殺した薬師がそんな顔をしていたような」

 

鷹使いがそう言うと黒エルフの女性は攻撃を仕掛けたが鷹使いは回避した それをきっかけとして森エルフ側の兵たちが私達に攻撃を始めた

 

「おっと危ない すみませんね あの時もそうでしたが 私は一番弱い獲物から狩ると決めてましてね」

 

そう鷹使いが言うとアスナさんの後ろに鷹が飛んできた

 

「アスナさん! 後ろ!」

「え!?」

 

私が敵の攻撃を防ぎながらアスナさんに呼びかけたがアスナさんは鷹に右手を掴まれて宙に持ち上げられていたそこに鷹使いが攻撃しようとした時…

 

「全く そなたはいつも大切なものを奪っていくな… よかろう 護る」

「アスナ!」

 

黒エルフの女性がそう言うとその隣を何かが通り過ぎた、そしてアスナさんに鷹使いが攻撃しようとした時その何かが鷹を攻撃し、寸前でアスナさんが解放された

 

「ありがとう 義姉さん」

「今度は何!?」

「そうか! 森エルフが鷹使いなら 黒エルフは…!」

 

キリトさんが何か分かった様子で言うと鷹使いに攻撃しようとしている黒エルフの姿と鷹の羽を何本か咥えた狼の姿がそこにはあった

 

狼使い!(ウルフハンドラー)!」

 

キリトさんがそう言うと

 

我が妻の仇! 覚悟しろ! 鷹使い!」

 

黒エルフの狼使いさんは大声を出しながら鷹使いに攻撃した

 

あれ? 私達ってエルフクエスト受けてたよね…?

 

私のそんな気持ちはつゆ知らず、鷹使いは狼使いさんの攻撃を防ぎ少し後退した

 

「妻? 仇!? 何が始まったの!?」

「さっきので終わりじゃないのか!?」

「私もわかりませんよ!?」

「俺もさっぱりだ!」

 

アスナさんとておさんがそう言ったけど私もキリトさんもこの情報は皆無のため知らないとだけ言った

 

そんな中黒エルフの女性は続けた

 

「喜べ 我が義弟よ 悲願は今日果たせるぞ…!」

 

そう言うと黒エルフの女性と狼使いは鷹使いへ突撃して行った

 

「誰か説明してよ! もう訳わからないわよ!」

「諦めろ 俺たちはもう巻き込まれたんだ! 彼らの物語に…!」

 

アスナさんが説明を求めたがキリトさんもわかっていない様子だった

 

説明を求められても私も多分アスナさんと同じ気持ちだからね!?

 

 

そこからしばらく戦っていたがやっぱり鷹使いは必要以上にアスナさんを狙ってくる…

 

「邪魔だ! 下がっていろ人族の女!」

「だって仕方ないじゃない! あの目つきのいやらしいエルフの人が私ばっかり狙ってくるんだから! 仇討ちだか何だか知らないけど 勝手にヘイト稼いでタゲ貰いなさいよ!」

「おいおい… アスナ それじゃぁNPCに通じない…「ならせいぜい囮として活躍しろ」」

「ひど!」

 

狼使いさんがアスナさんのことを邪魔だというとアスナさんが怒りながらタゲとかヘイトとかプレイヤーにしか通じないような言葉を言ったためキリトさんは通じないと言ったが狼使いさんは普通に返した

 

そして狼使いさんはアスナさんの方を見ると言った

 

「冗談だ 俺が護ってやる」

「お荷物扱いは勘弁よ!」

「えーっと…」

「許せ 他意はない」

 

狼使いさんは護ると言ったがアスナさんは反発したがキリトさんが困惑している様子だったのでの黒エルフの女性は勘違いしないように付け加えた

 

「ぴゅぃ…!?」

「雑兵を減らして退路を確保する! 一気にかかるぞ!」

「「了解!」」

「あんたら本当にNPCか!?」

 

急に来たため私は少しびっくりしたが黒エルフの女性が指示を出したためておさんと私は了承したがキリトさんは本当にNPCか聞いていた

 

 

~~~~~~

 

 

そこからしばらく戦っていたが急に鷹使いが大声で話し始めた

 

「あー やめやめ! 獣臭くて興ざめしましたよ また今度にしませんか?」

「我々が貴様をここで逃がすとでも思っているのか?」

「あなたたちはそうかもしれないですけど私たちはそちらにもう用はないんですよ 現に〖秘鍵〗はこちらにありますし…ねぇ?」

 

鷹使いがそう言うとさっきの〖秘鍵〗を取り出した

 

「なぁ? たみちゃん? さっきからあいつが持ってるあれって何だ?」

「〖秘鍵(ひけん)〗ですね 文字通りこのエルフクエスト全体におけるキーアイテムですよ」

「森エルフ側は何であれを奪おうとしてるんだ?」

「どうしてだったかな… 確か聖堂の解放…?だったと思います 私もうろ覚えですので詳しくは…」

「なるほど」

 

ておさんが〖秘鍵〗について質問してきたため軽く答えると森エルフはなぜあれを奪うのかについて質問したため私はうろ覚えだけどそう答えた

 

〔パチン〕

 

そんな時に鷹使いが指を弾いたためそちらの方を向いた

 

「ここで質問です 貴方達の大事なこれをこうしたら?」

 

そう言うと鷹使いは〖秘鍵〗を宙に投げ、鷹がそれをキャッチした

 

「どうします? このままでは我々の野営地まで飛んでいきますよ? 使命と私怨 どちらをお選びになりますか?」

「こいつ!」

 

鷹使いが質問すると狼使いさんは少し戸惑っていた…

 

 

「させない!」

 

アスナさんがそう言うと鷹を追いかけて走り出した

 

「アスナ!?」

 

そして木を走りながら登るとアスナさんは木から飛び、鷹に向かって≪パラレル・スティング≫を放ち〖秘鍵〗を回収したが鷹がアスナさんを掴みそのまま自分もろとも地面へ叩きつけようと急降下した

 

「急いでください!」

「分かってる!」

 

私とておさんもアスナさんの元へ向かおうとするが森エルフの兵たちが邪魔してなかなか先へ進めない…

 

もう飛び越えていこうとしていたその時、狼使いさんが森エルフの兵士たちを数人吹っ飛ばしていた

 

「そこを退け!」

 

 

そして狼さんは鷹へと飛びかかり狼使いさんはアスナさんをキャッチした

 

キャッチされたアスナさんがお礼を言おうとした時…

 

 

背後から鷹使いが狼使いさんを持っていた剣で貫いた

 

その反動でアスナさんを地面に落としてしまった

 

「実に愚かですね… たかが人族の小娘1人のために恋焦がれたワタシに背を向けるなんて…」

 

私は一瞬何が起こったのかが理解できなかったがすぐに理解し近くの森エルフの兵の首を撥ね飛ばして消滅させてから急いで鷹使いの元へと向かった

 

「早く…それを持って逃げろ…!」

 

狼使いさんがアスナさんにそう言ったがアスナさんは目の前で起こったことが衝撃的過ぎたのか動けずにいた

 

そして鷹使いが狼使いさんに刺していた剣を引き抜くと

 

おおおおぉぉぉっ!!

 

狼使いさんも応戦しようと剣を鞘から抜こうとし、狼さんも鷹使いの後ろから襲い掛かったが

 

やめてぇええ!

 

アスナさんの叫びも虚しく狼さんは鷹に抑えられ、狼使いさんは鷹使いに切り裂かれた

 

 

そこに黒エルフの女性が鷹使いに切りかかったが剣で防がれ、キリトさんが死角から一発切った

 

私とておさんは鷹に切りかかったがておさんの攻撃は飛んで躱され、私が跳んで放った攻撃は少しだけ羽を掠めただけだった

 

そして私達は鷹使いに追撃しようとしたが鷹使いはそれを躱し身軽な動きで木の枝の上へと着地した

 

「うちの1個分隊が全滅ですか… 敵ながら見事ですね… それにひきかえ…」

 

鷹使いがそう言うと叫んだ

 

どうしてこううちの奴らは役立たずばっかりなんですかねぇ!?

 

私たちは急に鷹使いが大声を出したためビックリした…

 

「まぁ… 済んだことですし仕方ないですか 厄介なのを一匹片付けたことですし」

「待て! ここで逃がしてなるものか!」

「私が取りに来るまで〖秘鍵〗はそちらに預けておきます ですが仇討ちごっこの方は他をあたってください 何せ…」

 

鷹使いはそう言うと鷹へと飛び移り、鷹の足を掴んだ

 

「そちらと違って ワタシはあなたに用事はございませんので」

 

それだけを言うと鷹使いは飛び去って行き、その間ずっと黒エルフの女性はずっと鷹使いに向かって叫んでいた…

 

 

 

 




タコミカは意外と脳筋ですがこの話からは少し戦術を変えています

因みにこの時点での強さ順は キリト>>>>タコミカ>>テオロング≧アスナ です
※タコミカとテオロングのレベルは同じですがプレイヤースキルと知識等の差でタコミカの方が上です

それではよいお年を


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3話:司令官への報告

1日遅いですけどあけましておめでとうございます!

それではどうぞ




鷹使いが去った後そこに残されたのは私達と黒エルフの女性と横たわる狼使いさんと狼さんだけとなった

 

狼は狼使いさんを心配して小さく鳴いており、ておさんが狼さんの頭をそっと撫でている

 

そしてアスナさんの膝の上に頭をのせ横たわる狼使いさんは黒エルフの女性に手を取られながら話しかけていた

 

「義…姉さん…」

「安心しろ 〖秘鍵〗は確かに取り返した そして奴は私が必ず討つ… だから…「今度は… 間に合いましたよ… 義姉さん…」」

「あぁ… よく頑張ったな… だから安心して会いに逝け…」

 

黒エルフの女性がそう言うと狼使いさんは静かに消滅した…

 

「かなうならそなたたちも憶えていてくれないか… 私の無二の戦友であり 我が黒エルフ(リュースラ)一の狼使いであり 亡き妹の最愛の男であった…」

 

そう黒エルフの女性は言うと狼さんは遠吠えをしていた そして私は黙祷した

 

「…〖秘鍵〗を… その包みを渡してもらえるか?」

「は…はいっ!」

 

黒エルフの女性がそう言うとアスナさんは包みもとい〖秘鍵〗を渡した

 

 

そして少し間をおいて黒エルフの女性は続けた

 

「これでひとまず聖堂は守られた ありがとう そなたたちのおかげだ」

 

それだけを言うと黒エルフの女性は立ち上がろうとしたがよろけてしまいすかさずキリトさんとアスナさんが手を貸そうとしたが黒エルフの女性に制された

 

「改めて礼を言わせてくれ 人族の剣士たちよ 我らが司令官より褒章があろう 野営地までご同行願えるか?」

 

黒エルフの女性が言うとクエスチョンマークが現れたため問題なく進行しているということは分かるけど…

 

でもここまで来て降りるつもりは無い それはアスナさんとておさんも同じだったようで

 

「まさかここで降りようなんて考えてないよね キリト君 降りられるわけないじゃない…」

「どうせ渡りかかった船だ 俺は最後まで行く」

 

そう2人は言ったため私達も

 

「…だよな」

「私も降りるつもりは無いですよ」

 

と言った

 

 

そしてアスナさんが黒エルフの女性に向くとお辞儀をしながら

 

「じゃぁお言葉に甘えます」

 

と言ったが

 

「アスナこういうのはYESかNOかはっきりとわかるように…「結構 我々の野営地はこの森を南に抜けた先だ ついて来てくれ」」

 

キリトさんがその応答じゃ反応しないと思い言ったが黒エルフの女性は普通に返したためキリトさんは驚いていた

 

 

そして私たちのパーティのHPバーに新しい名前とHPバーが追加された

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

そして野営地につくと私たちは司令官さんから褒章を受け取り、司令官さんのいるテントを後にした

 

「では次の任務もよろしく頼む …そう言えばまだ名前を聞いていなかったな」

「あぁ 俺がキリトでこっちがアスナ こいつがテオロングでその隣にいるのがタコミカだ」

「ふむ… キリトにアスナにテオロングにタコミカ… 発音はこれで合っているか?」

「ばっちりです」

 

黒エルフの女性はまだ自己紹介をしていなかったことを言うとキリトさんが簡単に私たちの自己紹介をした

 

「人族の名は複雑なのだな 宜しい」

 

そう黒エルフの女性が言うと 姿勢を正し左手の拳を右の胸に当て自己紹介をした

 

「私はキズメル リュースラ王国近衛騎士団がひとつ エンジュ騎士団の末席に名を連ねる者だ 以後よろしく頼む」

 

その黒エルフの女性はキズメルさんと言うらしく、自己紹介を終えると

 

「「「「よろしくお願いします!」」」」

 

私達はお辞儀をしながら言った

 

「うむ ではまずそなたらの天幕へと案内しよう 少々手狭ではあるが2組程度だったら問題ない」

「「「「ありがとうございまー…!?」」」」

 

えーっとつまり… ておさん達と一緒っていうこと…?

 

 

~~~~~~

 

 

そしてキズメルさんに連れられ天幕へと来た…

 

「まさか 今夜はここで…?」

「ということになるな…?」

「ダメだわ! そんなの野宿より危険よ!」

「失敬な…」

 

アスナさん達がそう言っている間私たちはずっと無言だった…

 

あまりに突拍子すぎて何を話したらいいか分からない… むしろいつも通りの二人が羨ましいぐらいである

 

「すまないが客人用の天幕を用意するほどの余裕はなくてな ここは私が使っている天幕だ」

「そ…そうだったんですね…」

「よかった~!」

 

キズメルさんがそう言うと私は納得してアスナさんは喜んでいた

 

「因みに夜警の際は十分な時間戻らないから安心してくれ」

「え!?」

「「いやいや… そういうのは本当に気を使わなくて大丈夫ですから」」

「陣中故大したもてなしはできぬがこの天幕は好きに使ってくれて構わない 食堂に行けばいつでも食事が可能だし簡易的ではあるが湯浴み用の天幕もある」

 

キズメルさんが夜は十分な時間戻らないと言うとキリトさんとアスナさんは2人して否定していたがキズメルさんがお風呂があるというとアスナさんは反応した

 

「お風呂もあるんですか!?」

「当然だろう 我々を獣や蛮族と同じにされては困る 野営地と言えど常に湯浴み用の天幕は用意してある」

「…一つだけね」

「それってどういうこと…?」

 

キズメルさんがそう言うとキリトさんが1つだけということを伝えるとアスナさんは説明を求めた

 

「混浴だ それどころか天幕だから鍵も扉もない」

「えぇ!?」

「でも入り口は俺が見張っておくから安心してくれ」

「あなた前科あるでしょ!? テオ君見張っておいて!」

「お…俺!? まぁ…確かにその方がいいか…」

「何でテオは良くて俺はダメなんだよ!?」

「タコミカさんのお風呂覗いたでしょ!」

「… あぁ そう言えばそんなこともあったな~」

「アスナさん余計な事言わないで下さいよ!?」

 

キリトさんが混浴で鍵も扉もないことを伝えるとアスナさんは驚いていたがキリトさんが見張るということを言うとアスナさんに怒られてそこからはてんやわんやだった…

 

「クスクス…」

 

ふとキズメルさんの笑い声が聞こえたため私たちはそちらを見た

 

「失敬 人族のつがいにも様々な形があるのだなと思ってな… 許せ…ふふっ…」

「だから俺らはそう言うのじゃないし そもそもSAOには結婚システムが実装されて…」

「ふふ… そう言うことにしておこう」

 

キズメルさんは笑いながら言うとキリトさんが夢もないようなことを言い出したためキズメルさんが話を中断した

 

「駄目! やっぱり2人は外で寝て! 野営セット持ってるんでしょ! ゲットアウト!」

「えぇ… 嘘ぉ…」

「まぁそうなるよな」

「流石に12月ですし外は寒いですって…」

 

アスナさんが2人を追い出そうとしたため私は2人のことをフォローすることにした

 

 




実はこの頃からタコミカはておのことがほんの少しだけ気になっています

それではまた次回に


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4話:野営地のお風呂

皆様お待たせしました…

二回目の例の奴です

それではどうぞ




私達はキズメルさんの言っていた湯浴み用の天幕へとたどり着いた…

 

中をのぞいてみると1層や2層のにあったお風呂よりかなり大きく余裕で4人ぐらいは入れそうな大きさの湯船に床には簀子があり、ブラシやタオル等が置いてある棚、さらには鏡まであった

 

「すごい…結構広い!」

 

アスナさんがそう言うと外に座っているキリトさんとておさんに向けていった

 

「しっかり見張っててよ?」

「へ~い」

「今のはテオ君に言ったのよ でも仮にもし覗いたりしたら…」

「分かってますって… そうゆうことをしたらどうなるかぐらいは そう言うのはキリトに言ってください」

「なんで俺なんだよ!?」

「前科あるのに…?」

「…はい」

「じゃぁ行きましょうか? タコミカさん」

「はーい」

 

そうして私とアスナさんはお風呂に入るために天幕へと入っていった

 

 

天幕に入り、アスナさんは後方を確認してからメニューを操作して装備を全解除したため私もメニューを操作し装備を全解除した するとアスナさんが私の髪を触ってきた

 

「どうしたんですか?」

「タコミカさんの髪って結構サラサラですよね…」

「そうですかね…?」

「いつもお風呂に入る時ってどうされてるんですか?」

「向こうじゃタオルとかを巻いてましたけど今はポニーテールにしてますね」

 

アスナさんが私がお風呂に入る時髪はどうしているのかについて聞いてきたので私は向こうではタオルを巻いてたけどこっちではポニーテールにしているということを話すとアスナさんは手を叩いて提案してきた

 

「今日は私が纏めていいですか?」

「髪型はメニューから変更できますよ…?」

「それじゃぁ意味ないじゃないですか! 良いからそこに座ってください!」

「えぇ… 分かりましたよ…」

 

私がメニューから髪形を変えられるというとアスナさんは意味がないと言ってきた… 仕方なく私は鏡の前にある椅子に座った

 

そしてアスナさんはメニューから櫛を取り出すと私の髪をとき始めた

 

 

「よし! 出来ましたよ!」

 

そうアスナさんが言ったためふと鏡を見てみるとアスナさんと同じ髪型になっていた

 

「おぉ… 凄い…」

「でしょ! あっ… すみません…」

「別にいいですよ 気にしてないですし」

 

私が凄いと言うとついアスナさんは敬語が取れてしまい謝罪したが私は別に気にしてないので大丈夫だと言った

 

 

 

しばらくしてからアスナさんがお風呂の方に向かおうとすると外からキリトさんとておさんとキズメルさんの声が聞こえてきた

 

「ちょっと待ってくれ! 今はアスナとタコミカが入ってて!」

「だからどうしたというのだ」

「先に食事に行きません?」

「私は先に風呂に入る主義でな 入るぞ」

 

そう言うとキズメルさんは私たちのいる天幕へと入ってきたためアスナさんは叫んだ

 

その向こうではキリトさんの両眼をておさんが強く抑えてておさん自身は両目を強く瞑っていた

 

「ちょ! おま! やめろ! 痛い!」

「我慢しろ! 俺まで連帯責任取らされるんだから!」

いやあぁぁぁぁ!

「アスナさん! キズメルさんです!」

 

私がそう言うとアスナさんは落ち着いたみたいだった

 

「あっ… キズメルさんでしたか」

「さん付けは不要だ タコミカお前もだ」

「努力します…」

「では 失礼するぞ」

 

アスナさんがキズメルさんのことをさん付けで呼ぶとさん付けは不要だと私共々言われた 私がなるべく頑張るということを言うとキズメルさんのマントの留め具の葉っぱの飾りが光り始めた

 

そしてそこに装備が吸い込まれていった…

 

「どうゆう仕組みなんだろ…」

「気にしたら駄目だと思うわ」

 

私は独り言のつもりだったがアスナさんに聞こえていたらしい…

 

 

そして私は葉っぱの飾りから目を離すとキズメルさんが目に入った… うん 何というか… やっぱりNPCなんだなという感じがしました スタイル良すぎない…?

 

私達は早々に目を離し、それを紛らわせるようにアスナさんがかけ湯をせずにお風呂に入ろうとしたため私は止めた

 

「ちょっと待ってください かけ湯をせずにはいるつもりで…?」

「え? そうだけど…」

「タコミカの言う通りだ ちゃんとかけ湯をしろ」

「かけ湯ってそんなに大事なんですか?」

「こういった公共の浴場とかではマナーですよ それに急にお風呂に入ると急な血圧上昇につながって普段から血圧の高い方ですと脳出血とかに繋がる危険性があるんです」

「え!? そうなの…!?」

「詳しいな… タコミカは薬師の知識も豊富なのか?」

「親が医師で兄も医師を目指しているのでよくそういった本で少し読んだことが…」

「へぇ~ タコミカさんってお兄さんがいたんですね」

「2人いますね」

 

私は話をしながらかけ湯をし、それに続いてアスナさんとキズメルさんもかけ湯をしてから湯船へと浸かった

 

 

 

私たちがくつろぎながらお風呂に浸かっているとアスナさんをキズメルさんが見ているのが分かった

 

アスナさんもそれに気づいたようで声をかけた

 

「あの… 何か…?」

「少し妹のことを思い出していた あの子も湯浴みが好きでな」

「妹さんって… 狼使いさんのお嫁さんだったっていう…?」

「あぁ 見かけによらず気の強い妻と腕に似ず少年のような夫でな そぐわぬようで良い夫婦だったよ…」

 

キズメルさんは妹さんのことを話し始めたため私は黙って聞いていた

 

 

少ししてキズメルさんがふと思い出したように聞いてきた

 

「キリトとは組んで長いのか?」

「いえ 数週間程度です」

「私も同じぐらいです」

「そうか ではテオロングとはどうなのだ?」

「出会ったのは同じぐらいですけれどキリト君より組んでる時間は短いと思います」

「私は1ヵ月と数週間ぐらいですね」

「道理で息ピッタリなわけだ しかし…キリトとはいまいち合っていない様子だった…」

「はい…」

「キリトに関してはアスナの方が息が合っていた様子だったな だがどちらかと言えばキリトの方がアスナに合わせているという印象を受けたがな」

 

キリトさんやておさんと組んで長いのかについて聞いてきたため私はキリトさんとは第1層のフロアボスからなので数週間程度だと言いておさんに関してはゲームが始まってからなので1ヵ月と数週間だと答え、アスナさんはキリトさんとは私達と同じぐらいでておさんとはそれよりも短いと答えるとキズメルさんは私に言ってからアスナさんに言った

 

するとアスナさんが肩までお湯につかった

 

「…自覚はある…か 分かっているならそれでよい そなたたちが存分に無茶をできるのは常に傍らで見守る者がいてこそだ その献身を軽んじることのないようにな」

「ごめんなさい 私が出しゃばったばっかりに…」

違う! そうではない!

 

キズメルさんが大声を出し、アスナさんの方へと詰め寄ったため私はびっくりした

 

「そなたたちは最善を尽くし〖秘鍵〗を取り戻してくれた! 我々にとってはそれで十分だ! 私が言いたいのはそう言うことではない!」

 

キズメルさんは少し声のボリュームを下げてから言った

 

「…人族も苦しい戦いを強いられていると聞く 背中を預けられる相手と友人は大切にな そしてできることならなるべく早く素直になっておくことだ」

 

そしてキズメルさんは元の位置に戻った

 

「すまない… 余計なお世話だったな」

 

キズメルさんがそう言うとアスナさんが口を開いた

 

「…善処します」

「私も肝に銘じておきます」

「そうか」

 

私もアスナさんに続けて言うとキズメルさんは嬉しそうに言った

 

 

「キリト! テオロング! 入っていいそうだぞ」

「え!? それってどういう…!?」

「え? え!?」

「そう言う意味じゃないです!」

「それとこれとは話が別です!」

 

キズメルさんはふと大声でキリトさんとておさんを呼んだためアスナさんと私は止めたがふと狼さんの鳴く声とキリトさんの声が聞こえてきた

 

「違…お前じゃないって! 待…!」

 

そして狼さんが入ってきた

 

「「わー」」

「きゃぁ!?」

「ぴぎゅっ!?」

 

今度は2人ともしっかり両目を手で押さえて棒読みで叫んでいたが私たちは悲鳴を上げてしまった

 

 

そうしている間に狼さんは棚からブラシを咥え、私たちの前に落とした

 

「もしかして洗ってほしいんですかね…?」

「ティルネルには何度も風呂は不要だと言っていたのだがな…」

 

私が狼さんの言いたいことを代弁するとキズメルさんは頭を押さえながら言った

 

「そう言うことなら私やっていいですか?」

「いいと思いますよ」

「じゃぁ お言葉に甘えて!」

 

アスナさんがやりたそうにしていたので私が譲るとアスナさんがブラシを持って狼さんを洗い始めた

 

 

そして洗い終わると狼さんは体を拭かずに外に出ていき外で体を振ったと思う音とキリトさんの悲鳴に近い声とておさんの少しだけ懐かしんでいるような声が聞こえてきた

 

その様子を想像して私は少しだけ笑ってしまった

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

しばらくしてお風呂からあがるとキリトさんが濡れているせいか震えていて、ておさんも寝袋に包まっていた

 

「戻ってきたぞ キリト」

「お疲れ様です お風呂空きましたよ」

「門番お疲れ様2人共、寒かったでしょ」

「いえいえ… 労いの言葉なぞ必要ございません… ワタクシメは狼にも劣る存在ですので…」

 

ておさんと私たちがキリトさんに声をかけたがすっかりキリトさんはすっかり落ち込んでいる様子だった

 

「私もタコミカさんみたいに天幕で寝ていいって言ったら機嫌直してくれる?」

「まじですか…?」

「2言はないわ」

 

そこにアスナさんが天幕で寝ていいと言ったらキリトさんは私たちの方を向いたためアスナさんは正式に許可した

 

恥ずかしくなったのかアスナさんはキリトさんを押して湯浴みの天幕へ向かった

 

「ほら早く! 2人ともお風呂に入ってきなさい! 私たちお腹ペコペコなのよ」

「え!? 待って!? 押さないで!」

「私たちは待っててあげるから!」

 

その後キリトさんがお風呂に落とされる音と「せめて装備解除ぐらいはさせて!?」という声が聞こえてきたため私とておさんはお互い顔を見合わせた

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

キリトさんとておさんがお風呂に入った後私たちは隣にある食堂の天幕へと行き夕食を食べ、キズメルの天幕へと戻った

 

 




この話からタコミカとアスナの距離感が一気に狭まっていきます

最後タコミカからさん呼びが外れているのはキズメルと親しくなったと考えてください

それではまた次回に


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5話:その夜の事

今回は少しだけ衝撃的な事実が判明します

と言ってもあくまででも設定の補足といった感じです

それではどうぞ

P.S.:お気に入り登録が10人突破しました! 本当にありがとうございます!


キズメルの天幕に着くとキリトさんは剣を無造作に置き、寝転がった

 

それをアスナさんが端の方まで蹴り、空間を作った

 

「あなたの場所はそこで テオ君はこっちね」

「あっ… はい」

 

アスナさんがキリトさんの隣を指を指しながら言うとておさんは返事し、寝転がった

 

「で ここに国境があると思ってちょうだい」

 

アスナさんがそう言うと足で線を引いたけど正直わかりづらい…

 

「テオ君は分かってると思うけど もしこの線を超えたら…」

「分かってるよ! まだ命は惜しいからな!」

 

アスナさんが剣を抜こうとしたのでキリトさんは咄嗟に言った

 

「それでタコミカさんはこっちね」

 

そう言うとアスナさんはキズメルさんの隣を手で案内したため、そこに私は足を伸ばして座った

 

そんな私達を見てキリトさんが

 

「やっぱり俺外で寝たほうがいいんじゃないか…?」

 

と言ったため

 

「私達がいいって言ってるんだから…」

 

アスナさんはそう言ったが途中でキリトさんの目線は違う方を向いているということに気が付いた

 

キリトさんが見ている方を見るとキズメルさんも寝る用の服へと着替えていた

 

そんなキズメルに見とれているキリトさんを見てアスナさんは

 

「勝手にすれば!?」

 

と言いながら布団にくるまった

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

そして私が眠りについてからしばらくして唐突に目が覚めたため起きるとキズメルがいないことに気が付いた

 

「あれ…? キズメル…?」

 

私は寝ているアスナさんやておさん、キリトさんを起こさないようにそっと天幕を出ると狼さんがそこにいた

 

 

「こんばんは 狼さん」

 

私がそう言うと狼さんは頭を後ろから前へと振った

 

「もしかしてついて来いって言いたいの?」

 

そんな私の声が聞こえたのか狼さんは歩き始めた

 

 

~~~~~~

 

 

狼さんに連れられてしばらく歩くと月明かりに照らされていて、剣が沢山地面に突き刺さっている場所へと着いた

 

錆びているものがあったり、植物が生えているものもあることからかなり昔からこの剣達は昔からあるということが分かった

 

そしてそこに一本だけ生えている木の傍にキズメルが座っていた

 

私が近づくとキズメルは気づいたみたいで声をかけてきた

 

「タコミカ… どうした? 明日は早いしここには何もないぞ?」

「少し夜風に当たりたくて… キズメルこそここで何してるんですか?」

「少し黄昏ていただけさ すぐ戻る」

 

私はここで何をしているのか聞くとキズメルは少し黄昏ていたと答えた

 

「少しだけ話をしてもいいか?」

「どうしたんです?」

「最近私は不思議な夢を見るのだ」

「どんなです?」

「そなたが私に剣を向け、戦っているという夢だ」

「え!?」

「だが格好や髪色も今とだいぶ違っていたから別人なのだろうな…」

「因みにですけれども髪色は何色でしたか?」

「そう言えば明るい緑色だったな 髪型はそなたと同じであったが」

「へ… へぇ…」

 

それってβ時代の… 私は何か話題を変えなきゃと思い、辺りを見回していると私はキズメルが何かを持っているのに気づき質問した

 

「そう言えば何持っているんですか?」

「月涙草のワインだ 妹が好んで飲んでいたよ タコミカも飲んでみるか?」

「そうですね では少し…」

 

私はキズメルさんから渡された月涙草のワインを飲んだ…

 

 

 

するとなんか頭がくらくらしてきた…

 

「タコミカ? 急にフラフラしてどうした?」

「ら…らいりょうぶれふ…(だ…大丈夫です…)」

 

そう言うと私はお酒をキズメルへ返した

 

「顔が赤いぞ? もしかして酔っているのか?」

「酔ってないれふよ? きふめう…(酔ってないですよ? キズメル…)」

 

なんか体も熱くなってきたため私は帰ることにした…

 

「れは わらひはそろそろ帰りまふね(では 私はそろそろ帰りますね)」

「本当に大丈夫なのか…?」

 

私は途中で何回か転びながらもふらふらと帰っていった

 

 

 

その途中にておさんと出会った

 

「いないと思ったら外にいたのか… どうしたんだ? 顔が赤いけど…」

「きふめうにおあけもらったらあらまがふわふわして… えへへ…

(キズメルにお酒貰ったら頭がふわふわして… えへへ…)」

「肩貸そうか…?」

「おんぶ!」

「ぶっ!? 流石にそれは…」

「だめ…?」

「分かった! でも今の俺の筋力パラメータじゃ無理だから手を繋ぐだけな!」

「ぶー…」

 

私は文句を言いながらもておさんと手を繋ぎながらキズメルの天幕へと戻っていった

 

 

 

着いた時にはキリトさんとアスナさんは眠っていたため私は起こさないように且つ泥のように眠った…

 

 

 




今回はかなり短めですけれどもここまでです

タコミカはアルコールにかなり弱いです

少量のお酒で酔うという設定はかなりありがちですけれども入れてみたかったんです…

それではまた次回に


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6話:毒蜘蛛討伐の道中

タコミカの二日酔いは雰囲気(という設定)です

それではどうぞ




私は鈍い頭痛で目を覚ました

 

酔いは多分冷めたけど これ二日酔いだ…

 

頭を押さえながら起きて横を見るとアスナさんが準備をしているところだった…

 

「おはよう タコミカ」

 

あれ…? まだ午前2時半ぐらいだよね…?

 

「おはようございます… まだ2時半ですけど…?」

「色々と準備しないとでしょ?」

「確かにそうですね…」

「さっきから頭を押さえてるけどどうしたの?」

「頭が痛くて…」

「原因は分かってるの?」

「多分二日酔いかと…」

「昨日何飲んだのよ…」

 

私はアスナさんと話しながら準備をしていると違和感に気づいた…

 

「そう言えば昨日まで私に敬語使ってませんでしたっけ…?」

「昨日色々考えてやめにしたのよ よく考えたら歳は同じぐらいなんじゃないかって思って… だからタコミカも敬語はなしにしていいわよ?」

「と言われてもこれ口癖みたいなものですからね…」

「もしかしてタコミカはどこかのお嬢様だったりするの?」

「広い意味で言えばそうかもしれないですけど… どうなんでしょう…?」

 

そこから少しだけ無言が続いたが先に折れたのは私の方だった

 

「分かりました なるべく努力します その代わりお願いがあるんだけど…」

「何…?」

「私はこの世界で初めて同じ性別で同じ年…だと思う人に会ったのはアスナだったから… その… 友達になってくれますか?」

 

私がそう言うとアスナがビックリしたためやっぱり忘れてと言おうとしたら

 

「いいわよ」

「ですよね… 流石に…え?」

「だから いいっていったのよ これからよろしくね」

 

と言った…

 

それについて私が色々と考えているとておさんが起きた

 

「おはようございます ておさん」

「お…おはよう…」

 

そう言うとておさんは私から目を逸らした…

 

「どうしたんですか?」

「なんでもない… ほんと何でもないから…」

 

? 明らかに避けてるような気がする… 昨日何かしたっけ…?

 

私が昨日のことを思い出そうとするが昨日お酒を飲んでから記憶が飛んでしまってる… しばらく熟孝しているとておさんも準備を終えたみたいでしっかりと装備していた そこから少しするとキリトさんが戻ってきた そして続くようにキズメルも戻ってきた

 

しかしキリトさんはキズメルと一緒に戻ってきたため私は聞いてみた

 

「あれ? キリトさん今までどこに行っていたんですか?」

「ちょっとだけ散歩にな…」

「本当に散歩…?」

「本当だって…」

 

アスナも疑問に思ったみたいでキリトさんに対してキズメルと何かあったのではないかと思い質問したが何もないと答えた

 

そしてキリトさんはメニューを操作して武器とコートを装備すると私達は野営地を後にした

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

そして私たちが再び{迷い霧の森}に入ると昼間とはまた違い、巨木から差し込む月明かりが時折低く流れる霧を照らしており、それがまた幻想的だった

 

私たちがしばらく歩いているとキリトさんが不意に聞いてきた

 

「解毒ポーションいくつあるんだ?」

「急にどうしたんですか?」

「ここら辺に出てくる【シケット・スパイダー】はそこまで強いっていうわけじゃないけど有毒の牙を持ってるから万が一に備えてだよ」

「えーっと… 私はポーチに4個、インベントリには20個ありますよ」

 

私が理由を聞くとキリトさんは今回のクエストでは毒蜘蛛と戦うため万が一のために聞いてきたらしいので私はポーチとストレージを開いて答えた

 

「へ~ 結構多いな」

「念には念をと思いまして」

「確かにそうだな 因みにアスナとテオはどれぐらい持っているんだ?」

「私はポーチに3個 ストレージには16個ね」

「俺も同じぐらいだな」

「これだけあれば大丈夫そうですかね…?」

「少なくとも今回のクエストでは敵の多さにもよるけど十分だな」

 

私が念のためにそれだけ持っているというとキリトさんは納得してアスナとておさんにポーションの在庫を確認して2人から数を聞くと私は十分そうかと聞くとキリトさんは少なくとも今回のクエストは十分そうだと言った

 

「そう言えばキズメルはポーション持ってる?」

「私もいくつかは持ち合わせているが基本的には不要だ 私にはこの指輪があるからな」

 

私が質問するとキズメルは人差し指に嵌めた緑色の宝石が付いた指輪を私たちに見せた

 

「それは…?」

「この指輪は私が近衛騎士に拝命された折に、剣と共に女王陛下に賜った品だ 10分に一度解毒のまじないが使える」

「すっ…!」

 

キズメルが指輪について説明するとキリトさんは声を上げた

 

そしてキズメルは咳払いをしてから言った

 

「そのような顔をされてもこれを譲るわけにはいかない 第一、この指輪は我らリュースラの民の血にわずかながら残っている魔力をまじないの源にしているため人族には使えぬ代物だ…恐らくは」

「別に欲しいなんてちっとも思っていないさ キズメルに解毒の手段があるんだったらそれでいいんだ」

 

私は恐らくという部分に引っ掛かりを覚えたがキリトさんは解毒の手段があるんだったらそれでいいと答えた… でも多分欲しがってるよね…?

 

そんな私の心中を察したのかアスナが微笑みながら話した

 

「そうよね キリト君も一応男の子なんだから 女の子に指輪をねだるなんてありえないわよね」

「勿論ですとも…って…それだと逆は許されるみたいな言い方じゃないか…?」

「別にそうとは言ってないじゃない! そもそも私がいつあなたに指輪をねだったのよ!」

「俺は一言もアスナのことだなんて言ってないだろ!?」

 

キリトさんとアスナが睨みながら言い合いをしていると上と前と後ろから恐らく蜘蛛の足音が聞こえてきた

 

「2人共… 夫婦げんかしてる暇じゃないです! 多分上と前と後ろから蜘蛛の足音が聞こえますよ!」

「「誰が夫婦だ!」よ!」

「アスナたちは前を頼む! タコミカ達は後ろを! 私は上を討つ!」

「「「「了解!」」」」

 

私がからかいも交えて注意するとキリトさんとアスナは息ピッタリに反論し、キズメルが指示を出したため私達は返事をした

 

 

~~~~~~

 

 

そしてておさんがスイッチし、私が2体まとめて【シケット・スパイダー】を半分に切断して消滅させると向こうも終わったみたいで剣をしまっていた

 

「お疲れ様です」

「お疲れ」

 

私たちがお互い労いの言葉をかけるとキリトさん達もハイタッチをしていたがキリトさんは何かを考えていたみたいだったのかアスナが注意していた

 

「あなたさっき少しだけ上の空になってたでしょ 何考えてたのよ?」

「えーっと…」

「キリトさん油断大敵ですよ?」

「そうだぞキリト いかなる弱敵も侮れば危地を招くぞ」

 

キリトさんが何か言おうか戸惑っていたため私とキズメルも注意をしておいた

 

「どうした? 俺らには話せない内容か?」

「そうじゃないけど…」

「だったら話しなさいよ」

「…2人とも蜘蛛とか蜂とか平気なんだなって思って…」

 

ておさんがさらに追撃してキリトさんが困惑しているとアスナが一撃を加えたためキリトさんは白状して考えていたことを話した

 

「…あれだけ大きければ虫も獣も変わらないでしょ」

「それにあの蜘蛛ちょっと可愛くなかったですか?」

「「「え?」」」

 

アスナさんが呆れながらそう言い、私があの蜘蛛はちょっと可愛かったと思っていたことを言うと3人共聞き返していた…

 

「な…成程… 結構なことだ あの子も実態のある怪物なら虫であろうとウーズであろうと恐れることはなかった さて、行こうか 奴らの現れた先に巣があるはずだ」

 

なんかキズメルも少しだけ戸惑っているような気がしたが気を取り直してアスナの頭を撫でながらそう言った

 

「でもいいの? キズメル ほんとに蜘蛛討伐して」

「いいんだよ そう言うクエストなんだから…」

「案ずるな そなたたちのおかげで〖秘鍵〗は我らの手にあるのだ 森エルフはいずれまたこちらに攻めてくる だからその前にこの森の不確定要素は排除しておくのだ」

「でもそれっておかしくない? 蜘蛛たちが私たちの邪魔になるんだったら退治しておかないとだけど逆に森エルフ側の妨げにもなると思うの だったら防衛に利用するのも一つの手だと思うんだけれど…」

「確かに… 森エルフ側にも同じことが言えるんだったら蜘蛛と戦ってるときに背後から奇襲をかけて少しでも人数を減らすのも一つの手かも…」

「成程… 2人とも策略家だな…」

「女子高育ちって怖い… 発想がもう戦争だよ…」

 

アスナがほんとに蜘蛛を倒していいのかについて聞いたところキリトさんが夢のないことを言い、キズメルさんが不確定な要素は排除しておくと言うとアスナはそれを利用するのもありだと言い、私も背後から奇襲をかけるのもありだというとキズメルは策略家だと言い、キリトさんは発想がもう戦争だと言った… 私は共学なんだけどな…

 

「もしかしたらあれかも魔法か何かで蜘蛛を操って黒エルフをおびき出そうとしているのかも… きっとそうだわ! 蜘蛛退治でこちらの戦力を削いでから奇襲を仕掛けるのかも…」

「もし仮にそうでないとしてもこちらの戦力を強敵退治で分割して手薄になってる野営地を襲撃するとかもできそう…」

「キリト テオロング 人族の女には軍師の心得があるのか?」

「そうかも」

「彼女たち限定だと思う…」

 

更にアスナと私が続けているとキズメルはキリトさんとておさんに対して質問していたけどキリトさんはそうかもと言い、ておさんは私たち限定かもと言った

 

「2人とも頼もしいが心配には及ばない 黒エルフも森エルフも魔法が使えぬ故に都合よく蜘蛛共を操ることなどできぬのだ」

「あれ? でも野営地には魔法がかかっていて簡単には見つからないようになってるって言わなかったっけ?」

「森沈みのまじないだな あれは到底魔法とは呼べぬ代物だ あれは言うなれば古の偉大な魔法の残り香だよ 我々は大地から切り離された時にあらゆる魔法を失ってしまった それは人族も同じであろう?」

「そっか… ちょっと残念だな… 魔法も見てみたかったんだけど」

 

キズメルとアスナのやり取りの中でこの世界にもしっかり設定があるんだなと思った

 

「キリト君どうしたの?」

「いや…何でもないよ」

 

そしておそらくキリトさんも同じようなことを考えていたんだなと私は思った

 

 




タコミカは案外戦闘系の策略を練るのは得意な方です(それを人に指示できるかと言えば答えはNOである)

それではまた次回に


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7話:女王蜘蛛の巣穴

タコミカは結構虫は好きな方です(蚊と蝉は別)

それではどうぞ


私達は【シケット・スパイダー】や【コピス・スパイダー】を倒し、その都度方向を調整していきやがて前方に小さな丘を発見した

 

「ここが言ってた毒蜘蛛の巣ですか?」

「そう 因みにここには2回来ることになる」

「もう1回ここに来いって言われても来れる気がしないです…」

「そうだな…」

 

私とキリトさんがここに2回目来れる気がしないことを話しているとキズメルが口を開いた

 

「狼でもいれば早かったかもしれないがな…」

「そう言えばあの子は来なかったのね?」

「奴は特に忠実な狼だったよ 新しい主を受け容れるには時間がかかるだろう」

「そうか…」

 

アスナがそう言うとキズメルは狼さんのことについて話し、それを聞いたておさんは短く返事した

 

「…調べに行くぞ 司令に蜘蛛の巣穴を発見したと報告するには確たる証拠が必要だからな」

 

キズメルさんがそう言うと私達は毒蜘蛛の巣へと入っていった

 

 

中は非常に暗く、松明なしでは壁にぶつかると私は思う…

 

 

そして戦闘も無く、しばらく歩いていると私の耳に小さく何かの金属音が聞こえてきた

 

「キリトさん? ここってインスタンスでしたっけ?」

「パブリックの方だけど… どうしたんだ?」

「私たちが3層に来てからどれぐらい経ちましたっけ…?」

「えーっと…1回寝たから大体14時間ぐらいね それがどうしたの?」

「遠くから小さいですけど金属音が…」

「あぁ…あいつらか…」

「あいつら?」

 

私がキリトさんにここがインスタンスマップか質問するとパブリックだと答え、私たちが3層に来てからどれぐらい経ったか質問すると大体14時間だと答えると私に対して質問してきたため私が答えるとキリトさんが音の正体が分かったみたいだったためておさんは質問したがその時キズメルが立ち止まった

 

「キリト アスナ テオロング タコミカ どうやら私たち以外にも来訪者がいるようだ]

「多分プレ…人族の剣士だと思う ただちょっと彼らとは顔を合わせたくはない」

「奇遇だな 私もだ」

 

キズメルが言うとキリトさんが音の正体を話して顔を合わせたくないと話すとキズメルが私もだと言った

 

「この様子だと近いな 松明を消せ」

「あそこに良い感じの窪みがあるぞ」

「ならばしばらくあそこに隠れてやり過ごそう」

「やり過ごすって… 照らされたら終わりじゃ…?」

「心配には及ばぬ 我々森の民には色々手妻があるのだ」

 

そしてキズメルが松明を消すように言うとておさんがちょうどいい感じの窪みを発見し、キズメルがそこに隠れようと提案したが私が松明で照らされたら見つかると言うとキズメルは秘策があると言うと私達をマントで覆うように隠した

 

「手狭だが少しじっとしていてくれ」

「重い…」

「皆さん苦しいです…」

 

私はと言うとちょうど壁側になりそこに3人分の体重がかかったため苦しかった…

 

「何やってるんだキズメル! マントなんかで身を隠せるわけが… 隠蔽率95%!?」

 

キリトさんは別のところに驚いていた… そして気を取り直してさっきの話の続きを始めた

 

「で さっきの話の続きになるけどここは主街区で受けられる重要なクエストで来ることになる場所なんだ」

「その重要なクエストって…」

「お察しの通り 『ギルド結成クエスト』だ そしてそれを心待ちにしていた奴らと言えば…?」

「来るぞ 静かに」

 

アスナもわかったみたいでキリトさんが答えを言おうとするとキズメルに注意された

 

 

なんでや!

 

その時キバオウさんの大声が聞こえてきた

 

「何で片っ端から宝箱が開けられとるんや!」

 

キバオウさんはそう言い、怒りながら奥へと歩いて行きそれに続くように彼のメンバーも奥へと行ったが最後尾を歩いていた1人だけ消えた松明を屈んで拾い、周囲を見渡して私たちの方を向いたが

 

「何しとんねん! はよ行くぞ!」

「へーい」

 

キバオウさんが遠くから呼ぶとその人は返事し、拾った松明を投げ捨てると奥へと向かっていった

 

 

~~~~~~

 

 

「「「「はぁーーーー」」」」

 

そこからしばらくして私達はやっと解放された

 

「なんかモンスター相手よりも緊張した…」

「同感だな…」

「やっと解放された…」

「見つかってたらどうなってたことやら…」

 

各々感想を言っているとキズメルが聞いてきた

 

「先ほどの小隊の中に知り合いでもいたのか?」

「平たく言えばそうだけどあんまり友好的とは言えないかな…」

「ほう? この城に暮らす人族の剣士は長らく和平を保っていると聞いているが…」

「別にお互い剣を向けるほどじゃないよ 必要なら協力もするし ただ少し相容れない部分もあるっていうところだ」

「成程 私が所属するエンジュ騎士団と王都の警備のビャクダン騎士団のようなものか」

 

キリトさんが答え、キズメルがさらに質問するとキリトさんは協力もするけど相容れないと答えるとキズメルは自分の所属している騎士団に例えた

 

「へぇ~ 他にもあるの?」

「あとは重装備のカラタチ騎士団があるな そちらともあまり仲がいいとは言えないな…」

「じゃぁ 入れてもらうならエンジュ騎士団ね」

「私も入れてもらうとしたらエンジュ騎士団がいいかな…?」

 

アスナがキズメルに他にも騎士団があるのかについて聞くと他にはカラタチ騎士団があると言い、アスナがもし入れてもらうんだったらエンジュ騎士団がいいと言ったため私も仮に入れてもらうんだったらエンジュ騎士団がいいと言った

 

「なぁキリト お前も同じこと思ったか…?」

「多分な」

「「森エルフが滅ぶ…」」

 

ておさんとキリトさんが小声でそう言った気がした

 

「2人共 気持ちはありがたいが人族が女王陛下から騎士の剣を授けられたという前例はないのだ だがそなたらの勲功を鑑みれば謁見ぐらいは叶うかもしれん その時はせめて名誉騎士号を賜れるよう申し添えておこう」

「ほんと!? 私頑張るわ!」

「私も頑張ります!」

「何でお前もちょっとやる気なんだよ…」

「私がどう頑張ろうと勝手じゃないですか…」

 

キズメルが私たちの功績次第では女王陛下に謁見できるかもしれないと言い、その時に推薦してくれると言ったためアスナと私が頑張ると言うとキリトさんが私に対してのみ呆れたため私は文句を言った

 

~~~~~~

 

そして私たちが2つ残った部屋のうち、キバオウさんの向かった階段部屋とは違う部屋を調べるとそこには蜘蛛がいたが私たちの敵ではなかった

 

蜘蛛を倒し、部屋を調べているとアスナが葉っぱで出来た銀飾りを発見した

 

「ねぇ… これって…」

「我々の偵察兵のものだ…」

 

アスナがキズメルに見つけた銀飾りを見せるとキズメルはその持ち主が分かったみたいでしばらく無言だったが少ししてから口を開いた

 

「この徽章そなたから司令に手渡してはくれぬか? 恐らくこれは司令の肉親の…」

「…わかった」

 

アスナがキズメルに銀飾りを手渡そうとするがキズメルはアスナが司令官さんに手渡しておいてと言ったためアスナは分かったと言い銀飾りをポーチにしまった

 

~~~~~~

 

私たちが部屋の外に出ようとするとさっきの人たちの叫び声と走っている足音が聞こえてきた

 

「あいつ階段上ってくんのかよ!?」

「とにかく入り口まで戻れ!」

「あんなデカい蜘蛛居るなんて聞いてへんぞ! どうなっとるんや!」

 

その時キリトさんが咄嗟に私達に振り向いてきた

 

「どうす…「どうするんですかキリトさん!?」」

「キリト君どうするの!?」

「ここはお前に任せる!」

「私もキリトに任せよう」

「…る…」

 

全員がキリトさんに任せるという対応をしたためキリトさんは少し考えてから結論を出した

 

「パーティが通り過ぎたらあの蜘蛛を奥の部屋に引き付けて戦おう 奥の部屋の大きさなら十分戦えるはずだ」

「了解です」

「分かったわ」

「オッケー!」

「了解した」

「こっちだ!」

 

キリトさんが戦うという結論を出し、全員了解したためキリトさんと私達は足音の聞こえたほうへ向かった

 

「十字路だ! 出口はどっちだったか!?」

「真っ直ぐや! さっき通ったやろ!」

 

キリトさんの言っていた奥の部屋でしばらく待機し、パーティが通り過ぎ蜘蛛が視界に入った時キリトさんが合図を出した

 

「…今だ!」

 

私達が攻撃し、タゲ取りに成功してそのままさっきまでいた奥の部屋へと向かった

 

「いいか? ケツから出す網に気をつけろ! 身体のどこに触れても動きが阻害されるから触れてしまったらすぐに声を上げて動ける奴がカバーしてくれ! 良いか? ケツだぞ!」

「中々心得ているな キリト 承知した!」

「分かりました!」

「了解!」

「分かったけどもっと良い言い方なかったの!?」

「ケツに良いも悪いもあるか! いくぞ!」

 

キリトさんが説明をし、私たちが了解するとアスナは少しだけ文句を言っていたがキリトさんの合図で私達は巨大蜘蛛もとい【ネフィラ・レジーナ】へと攻撃を開始した

 

~~~~~~

 

途中、キリトさんから脚の攻撃について説明してもらい、全員が単発系統のソードスキルを撃ち込み、私が何回目かのソードスキルを撃ち込むと【ネフィラ・レジーナ】は四散消滅した

 

そして私にLA獲得のメッセージが流れたため確認してみると〖ネフィラレッグ〗というアイテムが追加されており、私は早速装備した

 

「おめでとう LA取られちゃったな…」

「黒色だったらキリトさんにあげてたんですけどね」

「俺はいらないよ…」

 

キリトさんが話しかけたため私は黒色だったらあげていたというと言うとキリトさんはいらないと言った

 

そして私達は静かにハイタッチをした

 

キリトさんは静かにのジェスチャーをした後、部屋の入口へと向かったが特に足音とかは聞こえてこなかった

 

「どうやらキバオウ達には気づかれなかったみたいだな 戻ってくる前に外に出よう」

「そうね そう言えばさっきのボス蜘蛛って復活するまで何分ぐらいかかるの?」

 

キリトさんがキバオウさん達が戻ってくる前に外に出ようと提案するとアスナは賛成したがふとあの蜘蛛は何分後に復活するのかと聞いてきたためキリトさんは答えようとしたがそれより先にキズメルが答えた

 

「あの大きさなら洞窟内に満ちる霊力によって少なくとも3時間はかかるだろう」

「それだけかかるのだったらキバオウさん達も安心してクエストを進められそうね」

「なんだかあいつらの知らないところで手助けしたみたいで癪だけどな…」

 

アスナさんがキバオウさん達が安全にクエストを進められるというとておさんはなんだか癪だと言った

 

「"善い行いは森が悪しき行いは虫が見ている"と言うではないか きっとそなた達には聖大樹の恵みがあろう」

「因みにそれは人族の間では"情けは人の為ならず"って言うのよ?」

「ほう"巡り巡って我が身に還ってくる"か… 悪くない言葉だ 覚えておこう」

 

キズメルとアスナがそうやり取りをしているとておさんが足元にある何かを拾った

 

「何だこれ…? 〖女王蜘蛛の毒牙〗…?」

「お! ナイス! それはクエストアイテムだ!」

「じゃぁ俺が持っとくぞ」

 

ておさんがタップしてアイテム名を言うとキリトさんがよくやったと言い、そしてておさんはストレージにしまった

 

「それでどうするのだ? キリト この機に奥も探索するか?」

「用事も済んだし野営地に戻ろう」

「私も賛成 早くこれを家族の元に返してあげたいし」

「…ありがとう では帰ろうか」

「うん」

 

キズメルが奥も探索するのかとキリトさんに聞くと野営地に戻ろうと言い、アスナも賛成するとキズメルはお礼を言い、アスナも返事したため私達は黒エルフの野営地へ戻ることにした

 

 

 




オリジナル防具(アクセサリ)紹介

〖ネフィラレッグ〗
鈍い紫色でもこもこしたアームカバー こう見えて装備するとSTRが0.1追加され、毒に対してわずか少しだけ耐性が付く


次回は武器更新のお時間です

それではまた次回に


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8話:この世界で生きる意味

今回は武器更新の回です

それではどうぞ~

P.S.:投票ありがとうございます これからも応援していただけると幸いです!


私達は特に何事もなく黒エルフの野営地へと戻ってきた

 

「では報告の件よろしく頼む… 私の我儘だが肉親の死を報告する立場にはどうしてもなりたくなくてな…」

「分かったわ 報告は私たちがしっかり行っておくから」

 

そうして私達は一旦キズメルと別れ、司令官さんに巣穴で見つけた微章を渡すとクエストが次のステップになったためておさんが〖女王蜘蛛の毒牙〗を渡すと問題なく進み、この章のクエストはクリアとなった

 

そのクエストの報酬で私は〖月の髪留め〗を貰い、ついでに第3章のクエストを受けて私達は外に出た

 

「どうする? もういつでもキズメルをパーティに戻せるけど…」

「しばらくは一人にしてあげたいかな… 先にやりたいこともあるし」

「何かあったっけ…?」

「武器作成をやっておきたくて」

「あ! 私もやっておきたいかも」

 

キリトさんがいつでもキズメルをパーティに戻せると言ったがアスナはもう少し1人にしてあげたいと言い、同時に武器作成をやっておきたいと言ったため私もそれに便乗して武器作成をやっておくことにした

 

~~~~~~

 

そして鍛冶屋に着くと私達は驚いた 何と鍛冶屋さんが昨日戦った森エルフの男性の色違いだったからである

 

こういった色違いはゲームにはおなじみだけどまさかここで出てくるとは思わなかった…

 

「…フン」

「ね…ねぇ? ほんとに大丈夫でしょうね? この人私達に恨みとかありそうな顔してるけど…?」

「大丈夫だよ… 武器制作にペナルティはない…はずだから」

 

アスナも気が付いたようでキリトさんに質問していたがキリトさんは多分大丈夫だと言った

 

「この剣をインゴットに戻してください」

 

アスナは悩んでから覚悟を決め、〖ウィンド・フルーレ〗をベルトから外して鍛冶屋さんに手渡した

 

鍛冶屋さんが〖ウィンド・フルーレ〗を受け取ると鞘から抜き、後ろの炉にそっと載せ しばらくすると剣が輝き始めた

 

やがて剣は閃光を放ち、インゴットへと姿を変えた

 

そしてアスナはそのインゴットを素材に武器作成をお願いした

 

インゴットが眩く輝き始めた時アスナは

 

「3人共 バフ頂戴」

 

と言ったため私の左手とキリトさんの右手の薬指と小指を繋いだがておさんの繋ぐ場所がなくなったため私の右手を繋いだ

 

 

しばらくすると鍛冶屋さんが熱せられたインゴットを叩き始めた それが10回…20回…30回と続き、40回叩いたところで叩くのをやめた

すると純白に輝くインゴットはゆっくりと形を変え、白銀に輝くレイピアができた

 

 

鍛冶屋さんがそのレイピアを手に取ると「…いい剣だ」と言い、後方にある無数の鞘から明るい灰色の鞘を取り出し、その鞘にレイピアを収めた

 

私たちが手を放し、アスナがそのレイピアを受け取るとお辞儀をしながら

 

「ありがとうございます」

 

と言った

 

少しだけ移動しながらレイピアを眺めていたアスナがそのレイピアをベルトに吊るそうとするとキリトさんが止めた

 

「どうしたのよ?」

「ちょっとその剣見せてくれるか?」

 

アスナが若干不満そうに聞くとキリトさんがその剣を見せてほしいとのこと

 

「まさか欲しいとか言い出さないですよね?」

「少しプロパティを確認するだけだよ」

 

私が少し呆れながら聞くとキリトさんはちょっとだけプロパティを確認したいと言った

 

そしてアスナがレイピアのプロパティを開くとキリトさんは確認した

 

「成程… 名前は〖シルバリック・レイピア〗で残り試行回数は15か…15!?」

 

プロパティを確認していたキリトさんは突然大声をあげた

 

「15回!? っていうことは…」

「あぁ 超強くなるぞ」

「どのぐらいだ?」

「俺やテオの〖アニール・ブレード〗やタコミカの〖グラス・ブレード〗なんかよりも確実に強くなる」

「へぇ…?」

 

私たちがそうやり取りをしているとアスナが笑い始めてそこから全員笑い始めた そしてひとしきり笑い終えた後にキリトさんが言った

 

「一先ず主武器の更新おめでとう 〖ウィンド・フルーレ〗は確かにその剣の中で生きてる…と俺は思う」

「ありがとう 私もそう思うわ この子とならまだやっていけるって気がするもん」

「そっか…」

 

アスナがキリトさんの言ったことに同意するとキリトさんは小さくそう言った

 

 

少しだけ無言が続いたが不意にアスナが口を開いた

 

「…正直に言ってしまうとまだ大きな希望は持ててないわ、百層への道のりはあまりにも遠すぎるから…最初は私も折れかけてたのかもしれない タコミカとテオ君は知らないかもしれないけど私はあの攻略会議に参加する前は〖アイアンレイピア〗を何本も買って迷宮区に何日も潜って、そして行けるところまで行ったら死のうと考えていたの それこそ切れ味が悪くなって途中で捨ててた〖アイアンレイピア〗みたいに…」

 

私達はアスナの話を黙って聞いていた

 

「でもキリト君と出会って、攻略会議でタコミカ達に出会って そしてキリト君が〖ウィンドフルーレ〗に会わせてくれてから少しずつだけど何かが変わってきた気がするの ゲームクリアとか現実世界に帰るとかじゃなくて1日1日を生き抜く希望を持とうって そこから武器も防具も大切にして、いろいろ勉強もして… そして自分自身に必要なメンテもしていこうと思えるようになってきたの」

「自分自身のメンテか…」

 

アスナの話を聞いている時にも私はこの世界で出会った人たちのことを考えていた

 

今から1ヵ月と数日前に茅場からデスゲームのことを告げられた時、私は絶望していたのかもしれない…

 

そんな中でも色々な人たちがいたから私は今までやってこれたのかもしれないと思った

 

その人たちがいなかったら今頃私はこの世界の重圧に押しつぶされて、でも帰らなきゃいけなくてどうしたらいいのかが分からなくなっていたのかも…

 

「だからもっとみんなも自分自身のことを大切にしてね? 辛かったり苦しかったりするときはポテトさんが言ってたように1人で抱え込まずに誰かに相談してみるのもありだと思うわ」

「もし言ったらどうなるんですか?」

「キリト君だったら熱々の〖タラン饅頭〗ぐらいだったら奢ってあげるわよ」

「さいですか…」

 

アスナが誰かに相談してみることが大切だと言うとキリトさんが言ったらどうなるのかを質問するとアスナは〖タラン饅頭〗ぐらいだったら奢ると言ったためキリトさんはそうかと言った

 

「じゃぁいつかよろしく それでここからが本題なんだけど…」

「まだ本題じゃなかったの!?」

「そうだけど…」

 

そしてキリトさんがここからが本題だと言うとアスナはまだ本題じゃなかったのと驚いていたためキリトさんはそうだと言った

 

「繰り返すようで悪いけどこの〖シルバリック・レイピア〗は3層ではありえないぐらい強い だからちょっと強化するだけでタコミカの使っている〖グラス・ブレード〗+4よりも一撃で与えられるダメージが強力になる それ自体は寧ろいいことなんだけど問題はなぜここまで強い剣ができたのかについてだ」

「あの鍛冶屋さん見た目はあれだけど腕はいいんじゃないの? だから頼めばいつでもこのレベルの武器を作ってくれるんじゃないかしら? 見た目はあれだけど」

「それはないんじゃないか? 3層に来てから結構戦闘したけどMOBの強さ自体はβ時代と大体同じだったよ なのに手に入れられる武器だけが倍以上も強くなってたらバランス崩壊もいいところだ」

「なら主街区の鍛冶屋さんはβ時代と変わってなくてあの鍛冶屋さんだけが強い武器を作れるようになってる…とかですかね? 見た目はあれですけど」

「この野営地はエルフクエストを受けていれば誰でも来られるから主街区と大差ないと思うんだけどな…」

「何だか釈然としないな… でも強い武器が作れてゲームバランスが崩れるのはいいことじゃないのか? 逆は勘弁だけど」

「まぁ言ってしまえばテオの言う通りなんだけどな…」

 

キリトさんがさっきのレイピアが異常に強かったことについて話し始めるとアスナはあの鍛冶屋さんの腕がいいからなのではないかと言ったがキリトさんがそれはないと言ったため私が主街区の鍛冶屋さんは変わってなくてあの鍛冶屋さんだけが変わってるのではないかと言うとキリトさんはここは主街区とあまり変わらないと言った…

 

それに対してておさんは強い武器が作れるんだったらそれでいいと言ったためキリトさんはそれに同意した ぶっちゃけここにはただゲームをやるためにいるわけじゃないからね…

 

 

しばらく私たちが考えているとアスナが口を開いた

 

「じゃぁ検証しましょう!」

「検証…?」

「タコミカが武器の作成をお願いすればいいのよ もうそろそろ武器更新したいって言ってたでしょ?」

「あ! そっか! それだったら一石二鳥だもんね!」

 

キリトさんが質問するとアスナはあの鍛冶屋さんに武器作成をお願いすればいいというと私は検証もできるし武器更新もできるため一石二鳥だと答えた

 

私は気を取り直してさっきの鍛冶屋さんのところまで行き、まずは武器をインゴットに戻すことにした

 

私は背中から鞘ごと〖グラス・ブレード〗+4を外すと私は鍛冶屋さんにお願いした

 

「この剣をインゴットに戻してください」

 

鍛冶屋さんは何も言わずに私の〖グラス・ブレード〗+4を受け取ると鞘から取り出し、後ろの炉にそっと載せ てしばらくすると剣が輝き始めてインゴットになった

 

私が鍛冶屋さんからそのインゴットを受け取りちょっとだけ名前を確認してみるとどうやら〖リーフインゴット〗というらしい

 

そしてその〖リーフインゴット〗を心材として両手剣を作成することにした

 

 

「3人共 お願いします」

 

ぶっちゃけこの手を繋ぐ動作はいらないんだけどね… さっきのお返しにアスナとておさんの手を握った(キリトさんは場所がなくなったためておさんと繋いでた)

 

そして鍛冶屋さんが先ほどのように熱せられたインゴットを叩き始めた… そして42回叩くとインゴットが姿をゆっくりと変え、刀身がうっすらと緑色に輝くの両手剣になった その剣を鍛冶屋さんが手に取ると

 

「…いい剣だ」

 

と言った後、後方にある無数の鞘から濃いベージュの鞘を取り出してその両手剣を収めるとパチンと言う音を出して綺麗に収まった

 

その両手剣を受け取ると私は

 

「ありがとうございます」

 

と言いながらお辞儀をし、その両手剣を受け取った

 

 

「さてと… ここからが本番だな プロパティを開いてくれ」

「了解です」

 

私はプロパティを開き、可視モードにしてからキリトさんに見せた

 

「えーっと…? 名前は〖フォレスト・ブレイド〗で残り試行回数は14!?」

「やっぱりあの鍛冶屋が…なのか?」

「そうとも言えないわね… 検証したタコミカには悪いけどこういったデータは100回ぐらい剣を作ってもらって異常に強い武器ができる確率を調べないといけないし… 1回や2回作ったぐらいじゃしっかりとしたデータは取れないわ」

「あー… 確かにそうかも…」

 

キリトさんとておさんはやっぱりあの鍛冶屋さんが特殊だと思ったらしかったがアスナは前回と今回が偶々だったかもしれないと言い、もっと調査しないと意味がないと言ったため私は納得した

 

 

そこから私達は集めた素材や、キリトさんが手に入れたバラン将軍のLAの牛印のプランクを使ったりして武器の強化を行って私とアスナは+5に、キリトさんとておさんは+8にした

 

 

武器の強化も終わり、残ったのはあの鍛冶屋さんの腕前の謎だけになった…

 

「うーん… 残りはあの鍛冶屋さんの腕前の謎だけになりましたね…」

「せめてシステムの異常かどうかだけでも調べられたらいいんだけど…」

「誰かに聞いてみるとか?」

「聞くって誰に?」

「キズメル」

「「「あっ…」」」

 

私とアスナがあの鍛冶屋さんの腕前の謎を調べられたらいいなと言うとキリトさんが誰かに聞いてみると言う選択肢を言ったておさんが質問するとキリトさんはキズメルに聞こうと答えたため、私達はその手があったかと思い私達はキズメルのいる天幕へと向かった

 

 




今回出てきたオリジナルアクセサリー、武器紹介

アクセサリー紹介

〖月の髪留め〗
月の形の銀細工が付いた髪留め VITが0.2上がる


武器紹介

〖フォレスト・ブレイド〗
刀身がうっすらと緑色に輝くの両手剣


〖フォレスト・ブレイド〗の残り試行回数いくつにしようか悩みました…

それではまた次回に


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9話:大樹の街

UAが3000突破しました! 本当にありがとうございます!

それではどうぞ




私達は商業エリアを後にし、メインストリートを横切ると兵舎エリア内のキズメルの天幕へと到達した

 

そしてキリトさんが天幕の入口で話した

 

「こんにちは キリトだけど入っていいかな?」

「入ってくれ ちょうど朝ご飯ができたところだ」

 

すると間を開けずキズメルから返事が来たため私達は天幕へと入っていった

 

そこにいたキズメルはいつもの騎士姿ではなくガウン姿だった

 

そしてキリトさんはそんなキズメルから視線を逸らしながら言った

 

「食事中に悪いな… ちょっとキズメルに聞きたいことがあって」

「成程 なら食事をしながら話そうか 準備をするから少し待っていてくれ」

「ありがとう」

「じゃぁ遠慮なく」

「はーい」

「了解~」

 

キズメルが食べながら話そうと言うと鍋の蓋を取りかき混ぜ始めたため私達は承認した

 

「あんまり見ているとハラスメントコードが発動するわよ」

「え? あれって触ったりしただけじゃなかったっけ?」

 

アスナが低い声でそう言うとキリトさんは接触だけじゃなかったかと聞いた、その後キリトさんはしまったという顔をしたが…

 

「ほら 発動しちゃうわよ? 5…4…3…」

「え? え?」

 

キリトさんが戸惑っている間にもアスナはカウントを続けている

 

「2…1…0 コード発動」

「ぐふっ!?」

 

そしてカウントが0になるとアスナはキリトさんの右脇腹を思いっきり手で突いた

 

「相変わらず仲が良いことだな」

「ですね」

「そうだな」

 

キズメルがそう言ったので私とておさんは便乗した

 

 

しばらくすると準備ができたみたいでキズメルさんは私達に白いスープのようなものを渡してきた

 

「「「「いただきます」」」」

 

それを食べてみるとなんだか温かく、懐かしいような味がした

 

「美味しい…」

「まさかオートミールがここで食べられるなんて思わなかったわ」

「おーとみーる…ってこういうものなのか…?」

「食感は違うけど風味は完璧ね」

「ほう 人族の中にも〖乳粥〗を朝に食べる者もいるのか それは知らなかったな…」

 

私が感想を言うとアスナはおーとみーる?が食べられるとは思わなかったらしくキリトさんがそのおーとみーるについて聞いてみるとアスナは食感は違うけど風味は完璧だと言った キズメルは人間の中にもこれを食べる人がいると言うことについて話していた、そしてキズメルは「いつか…」と言ったがその先は言わなかった

 

「それでキリト あのこと聞かなくていいのか?」

「あぁ そうだった」

 

私は〖乳粥〗を食べ終わり、私達はキズメルにあの鍛冶屋さんのことを質問した

 

そして返ってきた答えは腕は確かだがかなりの気まぐれらしく、大変な業物を打つこともあるが頭ごなしの命令や不心得な命令をするとなまくらしか打たないとのことらしい

 

即ちアスナの〖シルバリック・レイピア〗や私の〖フォレスト・ブレイド〗はキズメルの言うところの大変な業物ということになる

 

でも実質的に検証は不可能だと言うことも分かってしまった

 

私が色々と考えているとキリトさんは〖乳粥〗を食べ終わりキズメルにお礼を言っていた

 

「ごちそうさま お粥もおいしかったし話も参考になったよ」

「ごちそうさまでした お粥美味しかったです キズメル」

「私もとてもおいしかった ありがとうキズメル」

「ごちそうさま 色々とありがとう」

「気に入ってもらえたようで良かったよ 明日の朝はもう少し多く作ることにしよう」

 

私とアスナとておさんもキズメルにお礼を言い全員木のお皿と木のスプーンをキズメルに返した

 

「それでこれからどうする? もう少し野営地で準備するか? それとも任務に出発するのか?」

「そうしたいところだけど 俺たちは一度人族の街に戻るよ」

 

キズメルがこれからどうするかについて聞くとキリトさんは攻略会議のために1回主街区に戻ると伝えた

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

私達が黒エルフの野営地を出て、しばらく歩いているとようやく見覚えのあるあたりへと戻ってきた

 

「やっと見覚えのあるあたりに戻ってこれましたね~」

「そうだな」

「道中は苦労することもなかったな…」

「そうね」

 

道中の敵はすべて私かアスナが1~2回攻撃するだけで面白いように倒せたためそこまで苦労せずたどり着くことができた

 

そこから少し歩き、エルフクエストの開始地点を通ろうとした時…

 

〔キィン キン〕

 

武器同士がぶつかり合う音が聞こえてきた

 

「これって…」

「恐らく武器同士がぶつかる音だな」

「様子だけでも見に行きますか?」

「そうしようか」

 

そこで私達は少し様子を見に行くことにした

 

~~~~~~

 

私達は少し離れたところから様子を伺っていた

 

そこにはエルフクエストをやっているリンドさん達の姿があった よく見てみると気のせいかもしれないがキバオウさん達の中にいたフードを被った人らしき人もいた(フードの種類は別で武器も片手直剣だけど)

 

「てっきりあいつらの事だからギルドクエストの方をやってると思ってたんだがな…」

「もう終わったとかかもな」

「その可能性が一番高いよな」

 

キリトさんがリンドさんがエルフクエストをやっていることに関して驚いていたがておさんがもう終わった後かもと言ったらキリトさんはそうかもと答えた

 

しばらく見ていたがふとアスナとキリトさんがあることに気が付いた

 

「ねぇ あの人たち…!」

「あぁ 森エルフ側でやってる」

 

アスナたちの言う通りリンドさん達は森エルフ側でやっていた

 

「あんなきれいな人に剣を向けるなんて…」

 

アスナはそう言うと立ち上がり、剣に手をかけ突撃しようとしたがキリトさんに止められた

 

「何するつもりだ! やめろ!」

「何って栄えあるエンジュ騎士団の見習い騎士として助太刀に…」

「PKダメ! それとこれとは話が別!」

「冗談よ」

「冗談に聞こえなかったんだけど!?」

 

アスナが助太刀に入ろうとしたため私も全力で止めるとアスナが冗談と言ったが私には少なくともそうは聞こえなかった

 

「ちょい待って 黒エルフ側見てみろ」

「「「え?」」」

 

ておさんがそう言うと私達は黒エルフ側を見た… すると黒エルフ側は女性(キズメル)ではなくではなく男性だった

 

「普通RPGって同じクエストをやったら同じNPCが出てくるはずだよな…?」

「そのはずだけど…」

「またβ時代の情報に騙されたパターン…?」

「そうかも…」

 

ておさんがキリトさんに確認するとそのはずだと答え、アスナが呆れた目で質問するとキリトさんはそうかもと答えた

 

「まぁ 今回は良いことにするわ 嬉しかったし」

「嬉しい…?」

「別の人がこのクエストを始めてももうキズメルは出てこないんでしょ? それってつまりもうキズメルは私達だけっていうことじゃない? でしょ?」

「…かもな」

 

でも今回は許してもらえることになったためキリトさんが理由を聞くとアスナはキズメルはもう私達がエルフクエストをやってるときにしか出てこないからと言ったためキリトさんは同意した

 

 

しばらく見ていたがもう戦闘が終わりそうなため私達は行くことにした

 

その間キリトさんはずっと例のフードを被った人の方を見ていたけど…

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

私達がしばらく道なりに歩くと第3層主街区の<ズムフト>に到着した(私とアスナは顔ばれ防止のためフードを被っている)

 

この時間帯は人が少ないはずだがなぜか今回は人が多く、さらに全員が私達に注目していた…

 

「なんかやけにこっち見てない…?」

「誰かさん達が有名人だからね 今更それ意味ないんじゃないか?」

「だからって取ったらもっと注目されませんか?」

「変わらないと思うが…?」

 

キリトさんとておさんは今更フードなんて意味ないと言ったが絶対必要だと思う(特にアスナは)

 

すると周りから声が聞こえてきた

 

「あれが噂の攻略組四天王…」

「2層のボスもあいつらが倒したらしい…」

「噂によればフードを被ってる2人の素顔はむっちゃ可愛いらしいぞ?」

「強い上に可愛いって最強じゃね!?」

「あの黒い奴はえげつなく強いらしいぞ…」

「俺もあれぐらい強ければなぁ」

「お前じゃ無理だっての だってもう1人の男の方もかなり強いらしいし…」

 

私達って相当噂になってるのか…

 

 

しばらく歩き、巨大樹の前にたどり着いた時メッセージが届いているのに気が付いた

 

そして差出人を見るとポテトさんからのメッセージだった

 

「あ! ポテトさんからメッセージが…」

「じゃぁいったん解散か?」

「そうだな また攻略会議で」

「じゃぁまた会いましょう」

 

私がポテトさんからメッセージが届いた趣旨を伝えるとキリトさんとアスナはそのまま巨大樹の中へと入っていった

 

 

「で? 中身はなんて書いてあるんだ?」

「読みますね?」

 

キリトさんとアスナと別れて少し経った時にておさんがどんなメッセージが来たのかについて聞いてきたため私は読んでみることにした

 

「えーっと…? 「こんにちはたみさん 突然で申し訳ないけど伝えたいことが2つあるため<ズムフト>にある巨大樹内のカフェに集合をお願いします」…とのことです」

「結局俺達も巨大樹に入るのか…」

「そうですね カフェは何階だったかな…」

 

私達は巨大樹内にあるカフェに向かうため巨大樹を登っていった

 

 




次回は少しオリジナルのお話になります

それではまた次回に


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10話:ギルド結成

今回はオリジナルでギルドの名前決めの話です

カフェの名前は良いのが思いつきませんでした…

それではどうぞ




私達は巨大樹内の階段をしばらく上り、メッセージを確認しながら7階のとあるカフェにたどり着いた

 

「ここか?」

「お店の名前もここで合っているみたいですね」

 

そのカフェの名前は{ゼルコバ}というらしい… 直訳すると欅っていう意味になるかな…?

 

 

そして私達が扉を開けて入るとNPCの店員さんに迎えられた

 

「いらっしゃいませ 空いているお席へどうぞ」

 

辺りをきょろきょろとしているとポテトさんが小さく手を振ってくれたためその近くへと向かうことにした

 

 

私達がポテトさん達の近くに座り しばらくすると店員さんが来たため私は〖トレントサンデー〗を頼み、ておさんは〖フォレストティー〗を頼んだ

 

「昨日ぶりですね たみさんとテオさん」

「ですね」

「お久しぶりです」

 

私達は軽く挨拶を済ませ、早速本題に入ることにした

 

「それでメッセージにあった伝えたいことって何ですか?」

「まず1つ目はキャラメレさんと合流しました!」

「お~!」

 

ポテトさんがそう言うと少しだけ赤っぽい黒髪で黒目の男性が手を挙げた

 

「ども キャラメレです」

「改めてよろしくお願いしますね」

「よろしく~ で たみちゃん? この後って時間ある?」

「どうしたんですか?」

「ちょっとやd「えい」グブッ!」

 

私はキャラメレさんと握手をするとキャラメレさんが何か言おうとしたが多分ろくなことじゃないので頭にチョップしておいた

 

「前置きはこれぐらいにしておいて 本題に入りますね」

「俺は本題じゃないのか…」

「キャラメレさんも重要ですけれど、こっちはもっと重要です」

「それが2つ目ですか?」

「そうですね」

 

ポテトさんがいったん話を区切るとキャラメレさんが少しだけ落ち込んでいたがポテトさんがフォローし、本題に入ろうと話をすると私はもしかしたらメッセージにあったことだと思い質問するとポテトさんはそうだと言った

 

「この度ギルドを立ち上げることを決めました!」

「お~ それでギルドの名前は決めたんですか?」

「…まだ決めてません!」

「えぇ…」

 

ポテトさんはなんとギルドを立ち上げるそうなので名前を聞くとまだ決めていないと返ってきた

 

その時に店員さんから〖トレントサンデー〗と〖フォレストティー〗が運ばれてきた

 

「おー 大きい!」

「いい香りがするな」

 

私は〖トレントサンデー〗を食べながら話を続けた

 

「早く決めないとだめですよ…」

「分かってるんだけど…ねぇ…」

 

私達が考えているとポテトさんが案を出した

 

「もういっそのことそのままで[ポテト団]っていうのは「却下で」ですよね…」

 

流石にその名前はない まぁ一応私もギルド名は思いついたけど…

 

「一応私思いつきましたけれども…」

「言ってみてくださいな」

「[フレンチ・フライズ]っていうのはどうですかね?」

「あー でもそれだったら[フリッツ・フリット]でもいいかなとは僕も思ったんだけどな」

「それだったらわかりやすく[フライド・ポテト]でいいと思うけどね?」

 

ポテトさんが言ってみてと言うと私は思いついた名前の案を言って、めらさんが名前の案を言うとひま猫さんも名前の案を出した

 

私達が3つの名前のうちどの名前にしようかと考えているとリオンさんが1つ提案をした

 

「こういったのは多数決で決めるべきだと私は考えるが… どうだ?」

「それには俺も賛成だな」

「じゃぁ多数決になるのかな…?」

 

意識さんと朱猫さんもリオンさんの案に賛成したため多数決で決めることになった

 

「ルールとしては1人1回手を挙げる…ですかね?」

「そうなるのかな? じゃぁまずたみさんの案がいい人」

 

私が1人1回手を挙げるというルールを決めると早速ポテトさんは集計を取り始めた

 

私の案に手を挙げた人はやる気君とキャラメレさんで

 

「2人だね じゃぁめらさんの案がいい人」

 

めらさんの案に手を挙げた人は私とておさん、めらさん、意識さん、朱猫さん、リオンさんだった

 

「6人… もう確定だけど最後にひま猫さんの案がいい人~」

 

ひま猫さんの案に手を挙げた人はポテトさんとひま猫さんになった

 

「2人ね~ じゃぁめらさんの案の[フリッツ・フリット]に決定かな?」

「なのかな?」

 

というわけでギルド名は[フリッツ・フリット]に決まった はっきり言ってしまうと私もこっちの方がなんかかっこいいと思った

 

アスナに言ったらそのまんま過ぎるとか言われそうだけど…

 

「それで話は通しているんですか?」

「話?」

「リンドさんとイガオウさんにですよ」

「キバオウじゃないのか…?」

「あっ…」

 

リオンさんに指摘されてシンプルに間違えていることに気が付いた だって髪型が特徴的なんですもん…

 

「それでどうなんですか?」

「一応私が話を通しておいたぞ」

「流石 お早いですね~」

「両方共片方よりではないなら許可すると言っていたよ」

「へ…へぇ…」

 

リオンさんの話では中立なら許可するっていうことかな…? ふと私はギルドクエストをいつ開始するのかについてポテトさんに聞いてみた

 

「そう言えばギルドクエストっていつ開始される予定なんですか?」

「攻略会議が終わり次第かな…と思ってます」

「了解です」

 

ポテトさんは午後5時からの攻略会議が終わり次第と言った

 

「話は変わるんですけどたみさんとテオさん今までどこにいたんです?」

「少しクエストをやってましたよ」

「あ~ エルフクエストね」

「エルフクエスト?」

 

急にポテトさんは今までどこにいたのかについて聞いてきたためクエストをやっていたと言うとひま猫さんはエルフエストの事だと察して言うとポテトさんは質問したため、ひま猫さんはエルフクエストの概要を説明し始めた

 

そしてひま猫さんが説明し終わるとポテトさんは話し始めた

 

「成程… 一度失敗すると受けなおし不可っていうのは相当厳しいですね… しかもそれが9層まで続く…」

「その分見返りも大きいけどね」

「ハイリスクハイリターンっていうやつか…」

「もしやりたいなら受けたい人が受けるという形にしましょうか」

「それがベストですね」

 

ひま猫さんがその分見返りも大きいと言うことを説明すると意識さんはハイリスクハイリターンだと言いポテトさんはやりたい人がいれば勝手にやってという方式を採用して私も賛同した

 

「それでこれからどうしましょうか?」

「ギルドクエストやエルフクエストじゃないクエストを何人かに分かれてやっていきましょうか」

「了解です」

 

 

ある程度話は終わったので私達はお会計を済ませてカフェを出ると攻略会議が始まる時間まで何人かに分かれてクエストをやることにした 因みにこれで私とておさんとめらさんのレベルは1上がった

 

 

 




因みに言っておくとギルドクエストの内容は詳しくやりません(自分が調べた限りでは内容が詳しく書かれていないので)

それではまた次回に


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11話:3層第1回攻略会議

前回の話にもありましたがここではまだギルドは結成していません

それではどうぞ


やれるだけクエストをやっておき、私達は攻略会議が始まる前に会場へと到着した

 

周りを見渡しているとキリトさんとアスナ、エギルさん達も会議に来ていた

 

 

そこから少し時間が流れ、リンドさんとキバオウさんが挨拶を済ませると攻略会議が始まった

 

まずリンドさんの隊とキバオウさんの隊が本格的なギルドになったこと、次にそのギルドの頭文字が発表された 因みにリンドさんの隊の[ドラゴンナイツ]がDKBでキバオウさんの隊の[アインクラッド解放隊]がALSである

 

そしてリンドさんは声をあげた

 

「ギルドメンバーを募集するにあたり、できるだけ広く門戸を開きたい そのため当面はレベル10に達していることを参加条件としたい」

「ほんならうちはレベル9や!」

 

それに便乗してキバオウさんもこの場にいる人(と言ってもほとんどが[ドラゴンナイツ]か[アインクラッド解放隊]なので おそらくキリトさんやアスナ、エギルさん達の事だと思う)に対して募集をかけた

 

「この会議に参加していて尚且つどちらのギルドにも参加していない人たちは全員その条件を満たしているはずだから参加の意思を示してくれれば喜んで受け入れたい ただ…1つだけ 特定の人に関しては条件を付けさせてもらう これはキバオウさんとも話し合って決めたことだ」

 

リンドさんはそう言うとキリトさんに視線を向けた

 

「キリトさん」

 

やっぱりとは思っていたけどキリトさんが名指しされた キリトさんも分かっていたみたいで返した

 

「あぁ…」

「それとアスナさん」

 

リンドさんは更にアスナの名前も呼んだ

 

「君たち2人のギルドへの参加を認めるにはレベル以外にもう1つ条件がある それはALSとDKBに1人ずつ加入してもらうことだ」

「1人ずつ?」

 

リンドさんがキリトさんとアスナのギルドの参加を認めるには1人ずつ加入することを条件とした キリトさんが質問するとリンドさんは理由を説明し始めた

 

「先日のフロアボス戦を見ても明らかなようにキリトさんとアスナさんの実力は我々トッププレイヤー集団の中でも突出していると言ってもいいと思っている それ自体は別に問題はない ただ、今後のことを考えてしまうと2人共が片方のギルドに参加するという事態は非常に宜しくない 現状では一応対等と言ってもいい2ギルドのバランスが崩れてしまう …これが理不尽な要求であることについては十分に承知はしているがどうか理解してもらいたい」

 

リンドさんには申し訳ないけどキリトさんとアスナがそちらに入るとは私は思ってない 現に両ギルドメンバーと思わしき人たちはざわついているし、エギルさんに至っては何言ってんだこいつみたいな反応をしてるし…

 

「えーっと… 評価していると言ってもらって申し訳ないけど俺はギルドに加入するつもりは無い… という答えはある程度予測してたんじゃないか?」

 

キリトさんがそんな中でやんわりと断るとリンドさんは続けた

 

「了解した 因みにこの状況でギルドに入らないという選択をした理由を聞いてもいいかな」

「別に大した理由じゃないよ ただ俺の性には合わないっていうだけさ」

「つまりキリトさん あんたは今のところはギルドに参加するつもりも率いるつもりもないと言うことでいいのかな?」

「そう思ってもらっていいよ しっかりとしたギルドメンバーになれる気もしないのにギルドを率いるなんて俺には重圧すぎる…」

 

キリトさんはギルドは性に合わないと言うとリンドさんはキリトさんがギルドに参加するつもりも率いるつもりもないのかと言うとキリトさんはそうだと言った

 

私達的にはキリトさんがギルドを率いてもいいと思っているんだけどね…

 

ふとアスナの方を見てみると少し遠くからでもわかるぐらいに怒っている感じがした

 

私が会場にいる人たちを見ているとリンドさんは口を開いた

 

「あんたはギルドにかかわるつもりは無いと言うことでいいんだな キリトさん」

「それでいいよ 無論ボス戦には参加させてもらう…つもりだけど」

「了解した こちらから確認したいことは以上になる ボス戦に関しては次の会議で話し合うつもりだ」

 

続けてエギルさん達にも確認したが彼らは断った

 

そして私達にリンドさんが確認をした

 

「ポテトさん達に関しては3層の攻略に取り掛かる前にリオンさんからギルドを立ち上げるという申し出があった それに関しては双方で話し合い、許可を出している しかし…「勿論ボス戦等の判断はALSとDKBが決めてもらって構わない そこに関しては先ほどメンバー全員で話し合い確認もしているし、私達はあくまで中立というスタンスだ 協力の要請があれば協力はさせてもらうさ」…了解した」

 

そこに関初を入れずリオンさんがリンドさんの質問したいことの答えを言ったためリンドさんは一言を言うしかないという状況になった

 

「俺からは以上だ ではそろそろ次の議題に入ろう ここからの進行はキバオウさんに任せたい」

 

リンドさんが指名するとキバオウさんは待ってましたと言わんばかりに前に出てきた

 

「ええか! 3層のクリア目標は1週間や! あと4日で迷宮区までたどり着いて残りの2日でフロアボスを倒す! そのために必要なんは人数や! いつまででも40人程度でやってたら埒が明かへん、せやからワイらと一緒にこんクソゲーと戦おうっちゅう奴らを積極的に増やしていかんとあかんのや!」

 

キバオウさんが熱弁をすると主にALS側から「そうだそうだ!」という声が聞こえてきた

 

私はアスナの様子が気になったためポテトさん達に一言言ってからキリトさん達の方へと向かった

 

「キリトさん アスナ こっちで聞いても大丈夫かな…?」

「いいけど…」

 

私がこっちで会議を聞いてもいいかと聞くとキリトさんは許可してくれたがアスナは無言のままだったため私はアスナに声をかけた

 

「えーっと… アスナ…?」

「2人共止めても無駄よ あの人の発言には何度も辟易とさせられたけど今回ばかりは一言言わないと気が済まないわ」

「今回って言うとギルドに入るんだったら別々のギルドにっていうやつ?」

「ギルドに入るとか入らないとか、誰かと一緒にいるとかいないとか それは私自身が決めることだわ…百歩譲って押し付けるようにあれこれ言うんだったら我慢するけど、あの人は心の底で自分が他人を導かなきゃって思い込んでいるのよ 相手に厳しく命令することが最終的には相手のためになるって信じてるのよ そしてそういった自分の行いを指導者としての自己犠牲とさえ思っているんだわ」

 

アスナがそう言うとキリトさんが質問すると更にアスナは続けた

確かにアスナの言う通り、リンドさんには悪いけど今のリンドさんにはそんな感じがした

 

そんな時にキバオウさんの話が終わりそうになっていた

 

「…無さそうやな ならこの会議はこれで終いや ほんなら最後に全員で一発気合い入れんで!」

 

キバオウさんが会議を終え、右拳を上に揚げるとリンドさんは渋々立ち上がった

 

その時にアスナが上体を前に傾け突進する準備をしていた

 

一週間で三層突破するで!

おー!

 

キバオウさんがそう言うとこの場にいるほぼ全員が大声を出した

 

そしてキリトさんはアスナを止めるとアスナはキリトさんの方を向いた

 

「止めないで」

「いや 止める」

「今更あの人に…ううん、ギルドの人達全員に嫌われたってかまわないわ 私はギルドに入る気なんて全くないから あんなことを言われて押し黙るぐらいだったら、<はじまりの街>に戻った方がましだわ」

 

アスナがそう言うとキリトさんは首を横に振った

 

「彼らと対立しちゃ駄目だ アスナ」

 

そこからしばらく無言が続いたがキリトさんが口を開いた

 

「もし俺が仮に今日死んだら2人共どうするんだ…?」

「何も変わらないわ ただこのまま走り続けるだけ」

「私も戦います いつか帰れるその時まで…」

 

本音を言ったら2人共死んでほしくはないけどもし仮にそうなってしまったら私もただ走るだけだ

 

私が話して少しするとアスナは話した

 

「私が死んだらあなたこそどうするの?」

「俺は…」

 

キリトさんが何か言いかけて黙ったが、しばらくすると口を開いた

 

「俺は君に…君達には死んでほしくない だから今は我慢してほしい 彼や彼のギルドが俺たちの命を助けることだってこの先きっとあるはずなんだ 彼に助けられるぐらいならとか、そんなことは考えないでくれ」

「…なら今は我慢しておくわ」

 

アスナはキリトさんの言葉を聞くと少し動揺したが答えた

 

 

~~~~~~

 

 

会議が終わり、エギルさん達挨拶を済ませてポテトさん達にしばらく主街区を離れると伝えるとておさんを連れてキリトさんとアスナについて行った

 

そして主街区を離れ、圏外の森をしばらく歩くとキリトさんが唐突に足を止めた

 

「いるんだろ キズメル」

「えっ!?」

 

キリトさんがそう言うとアスナは周りを見渡した しばらくするとキリトさんが向いている方向とは真逆の方からキズメルの声が聞こえた

 

「気付いていたか」

「気付くも何も…」

 

キリトさんはキズメルに話しかけるとそこからは何から話せばいいのかについて悩んでいる様子だったがふとアスナは驚きながら質問した

 

「キズメル!? いつから私たちのそばに…?」

 

そう質問すると少しだけ顔を赤くしながら続けた

 

「もしかして 宿屋のお部屋から…?」

「宿屋…? もしかしてキリトさんと…?」

「あっ! ち…違うの! 流れで!」

 

私が宿屋にキリトさんと泊まったのかと聞くとアスナは更に顔を赤くして否定した

 

「いや、そなたたちを見かけたのはあの街の集会場からだよ 野営地から転移のまじないで近くの森まで飛んだのが夕刻になってからだったからな」

 

しかしキズメルは私達を見かけたのは会議からだと言った…あれ? ということはキズメルは姿を隠していたとはいえ圏内に入ってきたっていうことだよね…? 何のために?

 

キリトさんもそう考えたみたいでキズメルに質問した

 

「えぇっと… どうしてまた人族の街まで…?」

「任務だからな」

「任務?」

「そうだ 私が今司令から与えられている任務はそなたらの世話と護衛だ 今朝に野営地を出てからなかなか戻ってこないので少し様子を見てこようと思ったまでだ」

「さいですか… でも大丈夫なのか? あんな町の奥まで入ったりして もしハイ…隠れ身のまじないが破れたりしたら…」

 

キズメルが主街区に来たのは任務のためだったらしくキリトさんはそうかと言ったがキリトさんはキズメルのハイドがバレた場合は大変なことになると思ったため心配していたがキズメルは得意げな顔をしてマントに触れながら話した

 

「この〖朧夜の外套〗のまじないは陽の光と月の光が入れ替わる夕刻と夜明け前に最も強くなる そのためちょっとやそっと体に触れたぐらいでは簡単には破れんさ」

「へ…へぇ~ 成程…」

 

キリトさんが右手を眺めながら話すとアスナは少し不穏な顔つきになりながら呟いた

 

「触れられた…?」

「うむ キリトもこう見えて中々…「中々のものだな! このマントは!」」

 

キズメルが返そうとするとキリトさんはキズメルのマントを見ながら少し大声で言った

 

「…あーぁ」

「たみちゃんも察したか…」

 

私とておさんは小声でそう話した

ここまでくるともうめらさんの言う通りそういう体質なのかもしれない

 

そしてキリトさんは私達に向き直ると私達に訊ねた

 

「俺はこのまま野営地に戻ろうと思うんだけど 3人共それでいいか?」

「さっきの話はあとで聞くとして 私はいいわよ 折角キズメルが迎えに来てくれたんだし」

「私もいいですよ 元々そういう予定でしたし」

「え? そうなのか? …まぁいいけど」

 

私達は特に問題ないので了承した

 

するとアスナは追加で何か言いたげそうだったので聞いてみた

 

「アスナ? 何か他に言いたそうだけど…」

「えっ? えーっと… タコミカ達には悪いけど私はもういっそのことボス戦までこのまま野営地を拠点にしたいなって思ったんだけど…どうかな」

「私は大丈夫だよ」

「そうだな 攻略の進み具合はアルゴやエギル、ポテトから連絡があると思うし補給面も商店があるから問題ないだろうけど…でもいいのか? あの宿の景色随分と気に入ってたみたいだけど」

「景色なんて1回見ればそれで満足よ それより今はギルドの人たちの近くにいたくない気分なの」

「そっか…」

 

アスナがこのまま野営地を拠点にしたいと言ったので私は快く了解し、キリトさんも問題ないと言ったが本当にいいのか聞くとアスナはギルドの人たちの近くにいたくないと言ったためキリトさんは小さく頷いた

 

キリトさんはキズメルに向き直り、質問した

 

「キズメル 今夜から多分一週間ぐらい天幕に止めてもらっても大丈夫かな」

「構わないさ 自分の家だと思ってくれれば私も嬉しい それぞれの務めを果たすまで共に暮らそう」

「あぁ ありがとう」

 

キズメルが優しい笑みを浮かべながら言うとキリトさんはお礼を言い、私達も頷いた

 

 

キズメルが使った転移のまじないは残念ながら一方通行のため私達は野営地まで歩いて帰ることになった

 

 




基本的にはタコミカも自由主義です

それではまた次回に


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12話:不穏な気配

人物紹介って一番閲覧数が多くなるものなんですかね…?

それではどうぞ




全体会議より2日後…

私達は主街区から離れ、第2章『毒蜘蛛討伐』に続き、第3章『手向けの花』、そして第4章の『緊急指令』をクリアし、現在は第5章の『消えた兵士』をやっていた…

 

そして今は森エルフの兵士たちと交戦していたがキリトさんは何か考え事をしていたようで剣を抜刀していなかった

 

そんなキリトさんの後ろから森エルフの兵士たちが攻撃してきたため、私とアスナとキズメルで倒した…

 

「おー お見事」

 

流石にその様子のキリトさんが不満だったのかアスナはキリトさんに怒りながら話しかけていた

 

「貴方ねぇ… せめて剣ぐらいは抜きなさいよ!」

「んー…」

「お前なぁ…」

「どうしたキリト 悩み事でもあるのか?」

 

キリトさんは曖昧な返事で返したため流石にておさんも少し怒っていそうだった キズメルが悩みでもあるのかと聞くとキリトさんは気が付いたように返事した

 

「…えっ? いや…別に大したことじゃないよ」

「相談してみるのもありだと思いますよ」

「そうよ 最近分かってきたけどあなたあれでしょ 1人であれこれ考えすぎて勝手に落ちていくタイプね」

「そんなことは…あるかも…」

 

私とアスナがそう言うとキリトさんは同意して考えていたことを話し始めた

 

「えぇっと… 3人共強くて頼もしいなーって…」

「で? それのどこが悩みなんだよ」

 

ておさんが本当はどうなんだと聞くとキリトさんは答えた

 

「いや だから…その… えーっと… つまりだな お嫁さんにするんだったら3人のうちだれかなーって…」

 

真剣に悩んだ私がバカみたいだった

ておさんもそう思ったみたいで呆れた顔でキリトさんを見て、ため息をついた

 

「はぁ…」

 

するとアスナは大きく息を吸い込んでから

 

バッカじゃないの!?

 

と言い、キズメルは真剣な表情で

 

「すまないキリト それには女王陛下の許しを賜らねばならない」

 

と言ったため私は

 

「確かにキリトさんのことは味方ですとは言いましたけどキリトさんはそんな風に思っていたんですね…」

 

と言った

 

 

しばらく気まずい雰囲気が流れたがておさんが話題を切り替えた

 

「そんなことより彼を野営地に連れて行こうぜ?」

「それもそうね」

 

アスナがそう言い救助した黒エルフの男性を連れて行こうとした時私はふと森エルフ側のクエストのことをふと思い出した

 

「あれ…? 確か森エルフ側にこれと対称になるようなクエストがあった「お前の気のせいじゃないのか? けがもしてるみたいだし早く野営地に戻ろう」うーん…?」

 

キリトさんが私の言葉を遮るとその黒エルフの男性を野営地へと連れて行った…

 

怪しいような…?

 

 

~~~~~~

 

 

私達が野営地へ着くと狼さんは連れ帰ってきた黒エルフの男性に向かって吠え始めた

 

「こら! ダメでしょ! ハウス!」

「やっぱり一回調べてみるのもありなんじゃ…? 動物の出すサインって案外馬鹿にできないぞ?」

「俺はそう言うのは信じないたちなんでね ほら、行くぞ」

 

アスナは狼さんに向かって注意し、ておさんはやっぱり一回調べてみるのもありなのではと言ったがキリトさんは無視して司令官に報告へと向かった

 

 

その後、私の予感は当たることになった…

 

 

やっぱりあの黒エルフの男性は偽物でまんまと〖秘鍵〗は奪取されたが私たちの猛追に遭って四散し、〖秘鍵〗は回収できたがその流れの中で鷹の声が聞こえたためそちらを見てみると森エルフの野営地らしきものを見つけた

 

「きっとあそこに鷹使いが! 早く行こう!」

「準備してからな」

「まずは〖秘鍵〗を持ち帰らなければ」

「あとからでも遅くないはずだよ」

「先に報告だけしようか…?」

 

アスナが行こうと言ったが私達は先に戻ろうと言うことで一致したためひとまず野営地に戻り、第5章を完了… したところで一時的に中断した

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

翌日 私達はフィールドボス戦という名目の2大ギルドの牽制戦が行われた…

結果は死者こそ出なかったものの散々と言っていい内容だった

 

因みにLAはいつものごとくキリトさんが取っていった

 

そんな中私はポテトさんと話していた

 

私はポテトさんのHPゲージの隣にベイクドポテトっぽいギルドマークがあることに気が付いて質問した

 

「ギルド無事できたんですね」

「そうなんです あとでもいいですけど入りますか?」

「どうしましょうかね…?」

「任せますよ」

「じゃぁ今はやめときますね」

「了解」

 

私がポテトさんとの話を終えるとキャラメレさんが話しかけてきた

 

「お疲れ~」

「お疲れ様です」

「これからどうするの? たみちゃんは」

「また野営地に戻りますよ」

「ほうほう」

 

キャラメレさんは頷きながら納得していたがふと顔を真剣にして聞いてきた

 

「そう言えば知ってる?」

「どうしたんですか?」

「ALSとDKBさぁ? どうやら進めてるらしいんだよね… 例のエルフクエスト」

「それがどうかしたんですか?」

「おかしいと思わない? 攻略最優先の奴らだよ? それが言ったら悪いけどこんなサブクエストに時間を割くなんてさ?」

「確かに…」

「アルゴちゃんから聞いたんだけど今はどっちも第5章を終えたところなんだってさ」

「へ~」

「だから鉢合わせにだけは気を付けてね~」

「はーい」

 

キャラメレさんはそう言うとリオンさん達のいるほうへ戻っていったため私達も野営地へ戻ることにした

 

 

~~~~~~

 

 

そして野営地に戻ってきたため私達は先にお風呂に入りあがってくるとキリトさんがお風呂に入ると言ったため、私達は食堂にてキリトさんがお風呂からあがるのを待っていた

 

しかしキリトさんは3分であがると言っていたが10分を過ぎてもあがってこなかった

 

「遅い…」

「そうですね…」

「あいつ3分ぐらいであがってくるって言ってなかったっけ…?」

 

キズメルもいなかったため私達は先に食べるか否かを悩んでいた

 

「私ちょっと聞きに行ってくるね」

「わかった」

 

そう言いアスナは食堂を後にした

 

 

数分後アスナが戻ってきたため私は聞いてみた

 

「どうだった?」

「あと2分であがるそうだから何か注文しておきましょう?」

「了解~」

 

アスナがあと2分であがってくると言ったため私達は料理を注文した

 

そしてキリトさんがやってきて、キズメルも来たため私達は食事にすることにした

 

食事を終えると野営地に戻り、眠ることにした…

 

 

~~~~~~

 

 

しばらく私達は寝ていたがておさんに起こされ、私達はておさんに連れられた場所でアルゴさんと合流した

 

はっきり言ってまだ眠たい…

 

そしてアルゴさんはなぜか興奮した状況だったけど…

 

「凄イ! 【黒エルフの近衛騎士(ダークエルヴン・ロイヤルガード)】ダ! テオ坊! これほんとにパーティメンバーになっているのカ!? オレッチ大感激だヨ!」

「テオ君こんな夜中にどこ行くのー?」

「眠たいです…」

 

私とアスナが目を擦りながら話すとアルゴさんは急に怯え始めた

 

「あっ怖イ! パーティメンバーじゃないオレッチにはエリートMOBの威圧半端なイ! すみませン! 命だけハ!」

「興奮してるとこ悪いけど時間がない 手短にお願いしてもいいか?」

 

ておさんがそう言うとアルゴさんは咳払いをし、お辞儀をしながら自己紹介を始めた

 

「お初にお目にかかりまス リュースラ王国の近衛騎士キズメル殿 アルゴと申しまス 以後お見知りおきヲ… 本日は人族の剣士キリトより敵拠点への潜入の支援を言付っておりまス」

「お力添え感謝する!」

 

キズメルが騎士式の敬礼をするとアルゴさんは話を続けた

 

「いえいエ… これも情報屋の仕事ですのデ… お気になさらず二」

「少し気になったのだがその情報屋は具体的にどのようなことをする生業なのだ?」

「お教えすることはできますガ… お金…つまりコルはお持ちでないと思いますシ… どうでしょウ? 代わりに第4層以降の各騎士団の配置をお教え願えますカ?」

「成程 そう言った商いか… 面白い」

 

キズメルとアルゴさんが情報屋について話しているとアルゴさんは私の肩に手を置くと追加で話した

 

「あとキリト(キー坊)アスナ(アーちゃん)テオロング(テオ坊)タコミカ(ターちゃん)のオネーサンなんぞもやっておりまス」

 

キズメルさんは少し呆気にとられたが少し笑うとまだ眠たそうなアスナの頭に手をのせ話した

 

「奇遇だな 私もだ」

 

 

 

~~~~~

 

 

 

そして私達は昨日見つけた森エルフの野営地の近くの木の枝に登った

 

ておさんは遠ざかっていく2つの人影を見ながら言った

 

「よし あっちはうまくやってくれたようだな」

「え? 何? キリト君見つかったの?」

「そのキリトの厚意だ この機を逃すわけにはいかぬぞ」

「まさか今からですか!?」

「そのまさかだヨ」

 

私が今から潜入するのかと聞くとアルゴさんはそうだと言った…

 

「しかし… キー坊も遠回しだナー」

「ははっ 全くだ」

「そうだな~」

 

アルゴさんがキリトさんは遠回しだと言うとキズメルとておさんは同意したが何のことかはさっぱり分からない

 

「では行くぞ! これより敵本陣に吶喊を仕掛ける!」

「「「「違う! 潜入!」」」」

 

キズメルさんが吶喊を仕掛けると言ったため私達は否定した

 

 




キャラメレは基本的に女性プレイヤーに対してはちゃん付けです

それではまた次回に


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13話:『襲撃』

タイトル名は『夜警』と『潜入』の2つを掛け合わせたタイトルにしようと考えたんですがなかなかまとまらずこのタイトルになりました

それではどうぞ




私達は木の枝から森エルフの野営地内へと着地し、すぐ近くのテントに身を隠した

 

そこから様子をうかがうとリンドさんをはじめとしたDKBの人たちがいた

 

ておさんが様子を伺っているとアスナはキズメルに話し始めた

 

「キズメル… 警備兵の中に人族がいるけど戦闘は避けてほしいの たとえ刃を交えることになっても…命だけは奪わないで お願い…」

「妙なことを言う 森エルフ(彼ら)に加勢するならば黒エルフ(我々)に刃を向けるのと同じ いかにアスナ 同じ人族といえそれでは道理は通らぬぞ」

「そうよね… でもそれはあなたたちも同じなのよね… 私達もこの世界の道理に従わないといけないのかも… それでも上を目指すには必ず彼らの力が必要になる だからここで失うわけにはいかないの」

 

アスナがキズメルにプレイヤーとの戦闘は避けてほしいと言ったがキズメルは聞けないと言ったためアスナは諦めかけていたが真剣な表情でお願いしていたため私もお願いすることにした

 

「…私からもお願いしてもいいですか 確かに戦場ではそんな道理は通らないかもしれない… でもより多くの人を導けるのは彼らしかいないのも事実です だからようやく見えた希望の象徴を今、失うわけにはいかないんです」

「…昔 狼の群れに襲われた時 妹に仔狼の助命をせがまれて難儀したことがあってな… 昔からその目には弱い」

 

するとキズメルは渋々承諾してくれたみたいだった

 

「わかった なるべく人族との交戦は避けよう」

「…ありがとう キズメル」

「ありがとう…」

 

私達がお礼を言うとキズメルはておさんに状況はどうかと聞いた

 

「テオロング 状況はどうだ?」

「特に気付いてる様子はないかな?」

「了解した では元の作戦通り隠密行動になるな ひとまず2手に分かれるぞ 指揮官級の天幕は旗付きだから遠目でもわかるな?」

「あの2つの天幕のうちどちらかに〖命令書〗があるんですよね?」

「その可能性が高い」

「2手に分かれると言ってもどう分かれるんだ…?」

「アルゴ殿 アスナは闇夜に紛れるすべに長けているとは言い難い 助けてくれぬか?」

「ンー… 本来、護衛任務は専門外なんだけド…」

「オネーサンなのだろう?」

「そう言われちゃぁネ… 分かっタ じゃぁテオ坊とターちゃんのことはお願いしてもいいですかイ?」

「ああ 善処しよう」

 

そして私達は2手に分かれ、行動を開始した

 

~~~~~~

 

私達はアスナとアルゴさんが行った方とは別の旗付きの天幕の近くに到達した

 

「見張りがいますね…」

「森エルフだな」

「2人共 あの場所からどうやって見張りを引き剝がす?」

「任せてください!」

 

私がそう言うと私は石を遠くに投げた

 

すると見張りは物音を立てたほうへと向かった

 

「ですよね?」

「合格だ」

「覗いてみようか?」

 

私達が中をのぞくとどうやら倉庫みたいだった…

 

「あれ…?」

「倉庫だな…」

「成程 囮か」

 

私が中に入り、槍と盾を見つけてストレージにしまい、笛を手に取ると…

 

敵襲! 敵襲っ!

「え!? もう見つかった!?」

「多分違うと思う…って何持ってきてんだよ」

「あったのでつい… そう言えばキズメルは…?」

「あれ… さっきまでいたんだけどな…?」

 

敵の襲撃を知らせる大声が聞こえたため私は急いで天幕の外に出るとておさんは違うとったがておさんは私の方を見ると呆れていたため手を見るとさっき手に取った笛を持ってきてしまっていた…

それとキズメルがいないのに気づき、ておさんに質問したが分からないと答えた

 

私達が声が聞こえたほうを見てみるとDKBの人たちと森エルフの兵士たちが迎撃の準備をしているのが見えた

 

アインクラッド解放隊! 突撃ぃ!

 

相手はキバオウさん率いるALSだった…!? まさかキャラメレさんの言ってたことって…!

 

 

そんな時アスナたちの行った天幕の方から大声が聞こえてきた

 

鷹使い殿! 鷹使い殿はおられるか!

 

そちらの方を見てみると鷹が〖命令書〗らしきものを掴んで飛んでいるのが見えた

 

「どっち優先で行きますか!?」

「そりゃぁ…「ええ加減にせえよ! ワレェ! さっさとどかんかいな!」」

ここは俺たちの拠点だ! お前らが帰れ!

そんなん知らんがな! そっちがクエスト諦めりゃええ話やろ!

それで迷宮区やボスの情報を独占するつもりだろ!

ああん!? それはこっちのセリフや! そっちこそこのクエの報酬にボスの情報が含まれることを隠しとったやろ!

お前らみたいなやつと一緒にするな!

なんやと!?

 

何やってるんだか… 私がリンドさんとキバオウさんの口喧嘩を呆れて聞いているとておさんが話しかけてきた

 

「取り敢えず鷹使い優先だ! あいつさえ倒せばこのクエストは終わる!」

「了解! そのためにもまずキズメルと合流しなきゃですね!」

「おっけぃ! じゃぁ行くぞ!」

 

そして私達はひとまずキズメルと合流することにした

 

 

しばらく走っているとキズメルと鷹使いが戦っているのが見えた

 

「いた!」

「お! ナイス!」

 

私達が様子を伺っているとキズメルと鷹使いは何かを話し始めたが内容までは聞こえなかった…

 

 

そしてキズメルが鷹使いに指を指すとアスナが思いっきり鷹使いをこちらに吹っ飛ばして来た!?

 

「あっぶ!?」

「あぶな!?」

 

私達が緊急回避をすると鷹使いは思いっきり天幕に突っ込んだ

 

「来るぞ!」

「了解!」

 

そして私達は崩れた天幕に隠れ、様子を伺った

すると森エルフの兵士たちが近づいてきた

 

「鷹使い殿…!」

「ご無事…!?」

「今です!」

 

私が合図を出し無防備に鷹使いに近づいてきた森エルフの兵士たちに攻撃を仕掛け、最初に近づいてきた2人を消滅させた

 

鷹使いは起き上がりこちらに気が付いた様子で話した

 

「やれやれ… こんな不意討ちにあっさりとやられるとは…私もあまり人のことは言えませんが しかし2度目はありませんよ」

 

新手は2人倒して残りは8体… 半分担当になりそうかな…?

 

「アスナ! そっち4体お願い!」

「分かったわ!」

 

私はアスナに指示を出すとアスナは分かったという返事を出した

 

「さてと… 行けるか? たみ」

「勿論!」

 

私とておさんはそう言って頷くと

 

「まずは…」

「撤退!」

 

撤退した… 私の予想通り森エルフの兵のうち、4人がこちらに向かってきたため私達は近くにあった天幕に入り、出た

 

「よし! あとは…」

 

ただ出ただけではなく天幕の柱を切ってから外に出た

 

「敵を分断 後、撃破!」

「ですね!」

 

私とておさんは天幕の外にいた森エルフの兵士2体を倒してから潰れた天幕から這い出てきた残りの2体を倒した

 

ふとアスナとキズメルの方を見ると同じ戦法を取っていた

 

「よし! こっちは終わった!」

「あとはアスナ達の助太刀ですね!」

「了解!」

 

私とておさんはそう言うと2人の元へ向かっていった…

 

~~~~~~

 

私達がアスナたちの方へ向かっているとアスナの声が聞こえてきた

 

振り返らないで!鷹と〖命令書〗は私達が引き受ける! だからあなたは…」

 

そして私達はアスナと鷹の近くまでついた

 

貴方は自分の為すべきことを全力で為しなさい!

 

そこに私が鷹に向かって≪サイクロン≫を撃ち込んだ

 

「タコミカ!」

「ごめん! 遅くなった!」

「じゃぁやるか!」

 

私達がアスナと合流すると鷹使いは口を開いた

 

「随分と威勢が宜しいですが 大丈夫ですかぁ? 人族に背中を任せて 不安で仇討ちどころではないでしょうに… 今だったらまだ降参してもいいんですよ? どうです? 先ほども言いましたが「侮るな…! 我が背中を任せられる彼らこそ人族の中でも選りすぐりの剣士達だ! 我が迷いは既に絶った!」」

 

そう言うとキズメルは大声で続けた

 

今はただ我が名を刻め鷹使い! リュースラ王国先遣隊筆頭騎士キズメルが貴様の首貰い受ける!

 

そして私達は鷹へと向かい、キズメルは鷹使いへと向かっていった

 

 




この小説では旗付きの天幕のうち1つはカモフラージュということになっています

タコミカが途中で手に入れた笛は物語に関係ないアイテムです

それではまた次回に


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14話:因縁の終結

今回でこの『潜入』の話は終わります

それではどうぞ


私達は鷹に総攻撃を仕掛けていたが一向に〖命令書〗を放してくれなかった…

 

そんな中、鷹は空高く飛んだためアスナは空中ソードスキルで鷹を撃ち落とした

 

 

一旦ておさんとは別行動をとり、私は鷹の落下予想地点に向かうとそこではリンドさんとキバオウさんがまだ揉めていた

 

DKB(こちら側)は今夜あんたらがここを通ることを阻む用意ができているぞ!」

ALS(ワイら)も一歩も引かんぞ! こっちはどこかのパーティがここを襲撃するっちゅう情報を得とるんや! 先を越されるわけにはいかんねん!」

あの!

 

私が2人に声をかけると全員が同時にこっちを向いた

 

なんだ!

なんや!

 

ふと私が上を見ると鷹が落ちてきていたため急いで伝えることにした

 

上! 避けて!

 

私がそう言うと2人は同時に上を見て、慌てて回避した

その直後に鷹を下にしてアスナが落ちてきた

 

「あれ? アスナさんだ」

「何でここに?」

「タコミカさんグッジョブ!」

「何だこの鳥でか!」

 

しばらくすると両ギルドの人達は騒然とした

 

気絶している鷹の足からアスナが〖命令書〗を外そうとするがなかなか外れない様子だったため私も手伝うことにしたが2人がかりでも外れなかった…

 

「手伝いましょうか…?」

「俺こう見えて筋力パラメータには自信あるんっすよ!」

「起きないよな…これ?」

 

そんな私達の様子を見ると両ギルドの人たちが手伝いに来てくれた…

 

 

そしてしばらく奮闘していると〖命令書〗を鷹の足から外すことができた

 

「取れた! ありがとうございます」

「どうも…」

『どういたしまして!』

 

私とアスナがお礼を言うと助けに来てくれた人たちは返してくれた

 

するとキバオウさんはこちらに注目した

 

「んん…? あーっ!!

 

そしてキバオウさんが急に大声を出したため私達はビックリした

 

「ジブンが持っとるそれ〖命令書〗やろ!? 会議ではギルドに入る気も作る気もないって言いながら裏ではこそこそとエルフクエ進め取ったんか!? しかもワイらと同じ黒エルフ側で!」

「どっちのギルドにも関与しないとは言ったけどクエストはやらないとは言ってないわよ」

「やかましいわ! また自分らだけ抜け駆けしてボス戦を有利に進めようっていう魂胆やろ!」

「何でそこでボス戦が出てくるんですか!?」

「しらばっくれんなや! クエストの報酬に3層後半の攻略情報があるっちゅうことは分かっとんのや!」

「はぁ? それ何処情報よ?」

 

話を聞くとキバオウさんはどうやら攻略情報のためにエルフクエストを進めていたみたいだけど私達はそんな情報は知らないし聞いたことがない

 

私はふとキバオウさんのすぐ後ろの天幕の反対側で戦闘が行われているのが音で分かった

アスナも分かったみたいでキバオウさんに知らせようとした

 

「ちょっとそこどいて!」

「どかん!」

「後ろ!」

「気を逸らそうとしても無駄や!」

 

アスナと私が知らせようとしてもキバオウさんは聞く耳を持たなかった…

 

「大人しゅう〖命令書〗を…〔ドゴォッ何事や!?

 

そしてキバオウさんの後ろの天幕をキズメルが切り裂きながらこちらに鷹使いと戦闘をしながら向かってきたため私とアスナは即座に回避した

 

「なんや今の!」

 

キバオウさんは回避しきれなかったのか転倒しながら大声を出した

 

「美人の方は私達の味方で女王陛下の近衛騎士よ」

「じぶん等どんなクエやっとんねん!?」

「ただのエルフクエストですよ…」

 

アスナはキズメルのことを紹介するとキバオウさんは驚きながら質問してきたため私はエルフクエストだと答えた

 

「な…なんだよあれ… 黒エルフも森エルフも両方共とんでもないエリートクラスだぞ!」

「見ろよあのカーソル…俺らとのレベル差いくつあるんだよ!?」

「最初のクエストのレベルの比じゃねぇぞ!」

「どうすんだよ… 一応俺らも加勢するか…?」

「馬鹿言え! あんなん喰らったら死ぬぞ!」

「一応 黒エルフ有利そうだしほっとけって…」

 

ALSの人たちが口々に騒いでいた

 

「鷹使い殿を援護するのだ!」

 

そんな中で司令と思われる人が森エルフの兵士たちに指示を出した

 

「ど…どうします? 一応俺ら森エルフ側ですけど…」

「分かってる!」

「何なんっすかあれ! カーソル真っ黒っすよ!?」

「四の五の言うな! 任務なんだからやるしか…」

 

DKBの人達も迫ってくるキズメルに応戦しようとしていた…

 

キズメル!

 

アスナが咄嗟に叫ぶと、キズメルはDKBの人達をうまく避けて森エルフの兵士たちのみを倒した

 

「おー! 凄い!」

「キズメル…ありがとう」

 

私はそれに対して驚き、アスナはキズメルにお礼を言った

 

「近くで見ると可愛かったな…」

「褐色もいいよな…」

「めっちゃいい匂いしたな」

「した… すっげーした…」

 

DKBの人達がキズメルに対する感想を言っていた…

 

「なぁ お前ら 森エルフ側でやろうって言ったの誰だっけ?」

 

リンドさんがそう言うとDKBの人達は森エルフ側を勧めた誰かに対して怒りを向けていた…

 

 

私はそんな彼らの様子を見て呆れていた

 

 

~~~~~~

 

 

そして鷹との戦闘はアスナがとどめをさしたことにより終了し、私達は残りの森エルフの兵たちに剣を向けた

 

 

遠くではアルゴさんとておさんが事情をALSとDKBに説明していたが不意にジョーの声が聞こえてきた

 

信用できるか! 第2層のボス戦の時もβテスターの連中は情報を隠してたじゃないか!

 

私は奴について考えていたがアルゴさんが何か言うとまたあの声が聞こえてきた

 

その誰かっていうのがあんたを含めて信用できねぇんだよ!

 

そう奴が言うとキバオウさんは奴の首をホールドして抑えつけ、話を聞いていた

 

 

そこからしばらくすると話を聞いていた全員が立ち上がり、森エルフ側に対して武器を向けた

 

最後に一枚!

かませてもらうで!

「どういうことだ! リンド殿!?」

「悪いな 森エルフの隊長殿… これより我々DKB…いや、SAO攻略組は義により黒エルフのお姉さんに助太刀いたす!

 

リンドさんとキバオウさんはそう言うと森エルフの隊長さんは戸惑った様子で質問した するとリンドさんはDKBとALSはキズメルに助太刀すると言った…

 

男って単純だなって思いました。

 

~~~~~~

 

そこからは破竹の勢いで森エルフを殲滅していき、残りは鷹使いだけとなった

 

「鷹使いよ 何か言い遺す言葉はあるか」

「…馬鹿な この私が黒エルフの女風情に…! クソがぁぁぁぁぁぁ!!

 

そんな中私とアスナは静かに見守っていた…

 

そしていつの間にかやってきたキリトさんの方を向くとリオンさんと見知らぬ男性がそこにはいたが…

 

ふざけるな!

 

突如大声を出したキズメルに驚いてそちらを向くと鷹使いが折れた剣を差し出し、命乞いをしているのが見えた

 

今更… 命乞いだと…!?

 

でも私の目にはそれが形だけのものに見えた

 

「貴様はそれで自らの奉ずる白の聖大樹に! 貴様を庇って散っていった同族に! 祖霊に! どのように顔向けするつもりなのだ!? 慚愧の念は感じぬのか!? …このような者に妹は…! 義弟は…!」

 

しばらく緊張状態が続いたがキズメルは鷹使いに向けた剣を下ろした

 

「…わかった よかろう リュースラの騎士は降り首を取らぬ 往け」

 

キズメルはそう言うと鷹使いに背中を向け、剣を鞘に納めた…

その直後に鷹使いが背後から隠していた短剣でキズメルを刺そうとしたがそれを予見していたかのようにキズメルは言った

 

「貴様など狼にくれてやる」

 

すると狼さんが鷹使いの首に嚙みつき消滅させ、遠吠えをした…

 

 

 

私達がその様子を見ているとキズメルはこっちに来て、アスナを抱きしめた

 

「終わったよ… ティルネル…」

「おつかれさま… 姉さん」

 

アスナはキズメルを抱き返し、私はそれを静かに見守っていた

 

 

 

そしてしばらくそれが続き、私達がキリトさんとておさんの方へ向かうと…

 

「ふふっ… どうしてなかなか 人族というやつは」

「あはは…」

 

キバオウさん達とリンドさん達は掲げた剣でアーチをつくっていたためキズメルは少し笑い、私とアスナは苦笑いした

 

 

こうしてこのエルフクエストの章は幕を下ろし、同時にキズメルの因縁にも終止符を打った

 

 




3層編は次でラストになると思います

それではまた次回に


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15話:別れ

今回で3層編は終わります

それではどうぞ


私達がエルフクエストの第6章『潜入』を終えるのと同時に2大ギルドはエルフクエストから身を引き、以降エルフクエストは私達5人+1匹でやることになった

 

その過程でボス戦に有利な情報が出たらアルゴさんを通して報告するということになり、クエストを終えた翌日より2大ギルドの人達は迷宮区攻略に行き、私達はエルフクエストをやっていた

 

 

そんな中、私達は第7章『蝶採集』で巨大な蝶を相手にしていたのだが…

 

「でかっ! ほっそ! きもっ!」

 

アスナはそんなことを言っていた… 蜘蛛の時は大丈夫だったよね…?

 

「なにその口… 気持ち悪いよ~…」

「蜘蛛の時は大丈夫だったじゃん…」

 

アスナさんが追加で気持ち悪いと言うとキリトさんが私の思っていることと同じことを言った…

 

「きもいよね!? 2人共!」

「言われてみればそうだな」

「おい 森の民だろ…」

「前にこんなに大きければ虫も獣も同じって言ってなかったっけ…?」

「それはそれ! これはこれよ!」

 

アスナが私達に同意を求めてきたためキズメルが同意するとキリトさんにツッコミを入れられて私が前にアスナが言ってたことを言うとアスナは言い訳をした

 

 

そこから私とキズメルとアスナはパンを食べながら2人を応援した

 

「はんはれ~ へおはん~(頑張れ~ ておさん~)」

「人族のパンはうまいな」

「ひりほふん ふぁんふぁ~(キリト君 ガンバ~)」

「はぁ!?」

「お前らも戦え!」

 

2人ともそんな私達を見てかなり怒ってたけど無事に巨大な蝶を倒していた

 

その後にパンをあげたら許してもらえた

 

 

~~~~~~

 

 

そして報告を済ませて続く第8章の『西の霊樹』では持ち帰ってきた〖命令書〗を解読し、野営地への襲撃を行うことが分かったため第4層へ〖秘鍵〗を輸送するということになったがこういったクエストではありがちだが【アンノウン・マローダー】から襲撃を受けた… 襲撃者のうち3人は倒せたが最後の1人が隠し持っていた煙玉を使い、その隙に〖秘鍵〗を奪われてしまった…

 

「何回目!? 学習してよ!」

「えーっと… すみません…」

 

アスナがキリトさん達を正座させて説教をしていたがておさんは口を開いた

 

「大丈夫だろ? こっちにはチート級の助っ人がいる」

 

ておさんが狼さんの頭を撫でると狼さんは吠えた

 

 

ておさんの読み通り第9章の『追跡』は狼さんのおかげでかなり早く終わり、私達は盗賊のアジトらしきものを発見し、ついにこの層でのエルフクエストの最終章の『秘鍵奪取』が開始した

 

そこに入り地下1階にいる巨大なウデムシみたいなやつを倒して一旦私達は野営地に戻り、休むことにした

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

その翌日の早朝から補給を終え、例のアジトの地下2階を攻略していくと最深部でとうとうあの盗賊のアジトを発見した

 

窓から中を覗いてみると黒エルフとも森エルフとも違うエルフの姿が見えた

 

表示された名前は【フォールン・エルフ・ウォーリア】… それを見た時キズメルに緊張が走った気がした

 

その後何度か戦闘をすると遂に最深部に到達した

 

そこにいたボスの名前は【フォールン・エルフ・コマンダー】だった

 

 

結論から言うと私達の敵ではなかった… アスナがとどめをさすと呪詛のようなセリフと共に溶けて消えた

 

そして私達は〖秘鍵〗を遂に奪還してこれで第3層のエルフクエストは完結した…のもつかの間、キズメルは私達に告げてきた

 

「アスナ、タコミカ、テオロング そしてキリト」

 

私達の名前を言うとキズメルは覚悟を決めたように言った

 

「フォールンどもと森エルフが手を組んでいると知れた以上この〖秘鍵〗は一刻も早く上の層の砦に届けなければならなくなった またいつ奴らが襲ってくるか分からない… そのため私が運ぶ必要がある」

「それって…」

 

それはつまりキズメルと離れると言うことになる…

アスナも察したようでほんの少し固い笑みを浮かべて話した

 

「じゃぁ 私達も送るよ また襲撃があったら大変だから」

「ありがとうアスナ とても嬉しいよ」

 

キズメルがそう言うと私達はキズメルを霊樹へと送っていった

 

 

~~~~~~

 

 

道中は特に襲撃はなく霊樹へと到達した

 

「私達も一緒にっていうのは流石に無理なんだよね…」

「すまない 霊樹の門はリュースラの民しか通れぬのだ」

 

アスナはこの門は私達も通れるのかと質問したがキズメルは否定した

 

そしてキズメルは暗い表情で呟いた

 

「出来ることなら本当は私も天柱の塔に同行して共に戦いたいのだ…だがこの任務だけはどうしてもやらねばいかぬのだ… だが私はそなたたちのことも心配で…」

「キズメル 大丈夫だよ 私達がどのぐらい強いか知ってるでしょ?」

「タコミカの言う通りだ 今更俺たちが3層のフロア…守護獣にやられるわけがないって」

「無論 そなたらは強い 私がおらずとも守護獣程度だったら容易く倒せると信じている!」

 

だから私はキズメルのことを励まし、キリトさんもそれに便乗するとキズメルは顔を上げて話し、キリトさんとアスナの肩を掴んだ

 

「だから お願いだ キリト アスナ 互いを護れ テオロング タコミカ そなたたちもだ」

 

キズメルがそう言うと私達は黙って頷いた

 

半身(いもうと)を失ってからの私は復讐を口実に死に場所を探していた… だがそなたたちに出会い、私は救われたのだ… 亡き妹が導き、義弟が紡いだそなた達との絆に私はいつしか生きる目的を見出していた だからお願いだ… 互いを護りあってくれ 私はもう何も失いたくはない」

 

キズメルは泣きそうな表情で言うと私とアスナはキズメルを抱きしめた

 

 

そして私達はキズメルを見送った

 

「…また会えるよね?」

「あぁ きっと会えるさ」

「そのためにも私達はフロアボスを倒さないとですね」

「そうだな…」

 

私達はそう言うと霊樹を後にした

 

 

最後に私達は野営地へ訪れ、キリトさんはレザーブーツをアスナはケープをておさんは赤色のイアリングを、そして私はポーチを3層のエルフクエストクリア報酬として受け取った

 

 

司令官さんが最後にフロアボス戦のアドバイスをしてくれたのとキリトさんに紹介状を渡したため私達はお礼を言ってから野営地を後にした

 

 

~~~~~~

 

 

そして夕方に開かれた会議でそのことを伝えると、またしてもジョーの発言で荒れかけたがキバオウさんの一喝で静まった

 

そしてリンドさんが解毒ポーションを集合時間までに買い揃えておくことと明日の朝9時に主街区の北門に集合ということを会議に参加している全員に伝えると会議は終了になった

 

会議の後、ポテトさんとやる気君にエルフクエストで入手した槍と盾を渡して置いた

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

その翌日の12月21日午後1時12分 フロアボスである【ネリウス・ジ・イビルトレント】は攻略組によって撃破された

 

犠牲者は第1層と第2層の時同様0人

 

因みにLAは私がゲットした

 

一応リンドさんとキバオウさんに相談したが一部を除いて(主にジョーとか言う奴)全員が私が持っていていいと言うことで一致したため私がありがたく貰うことにした

 

 

そして私達は先に行ったキリトさん達の後に続いて第4層への階段を上っていた

 

「フロアボスのLA取ったのってキリト以外じゃたみちゃんが初めてじゃないか?」

「ですね~ キリトさん結構残念そうでしたね」

「そうだな」

 

私とておさんは冗談交じりにそう話し合っていた

 

 

今日3層が突破されたがまだまだ先は長い…

 

残りは97層 あとどれぐらいかかるかは分からないがきっと退屈しないものになると私は予感していた

 

 




ボス戦がない…?

だって原作やコミカライズ版でもオールカットされたんですもん仕方ない

それではまた次回に


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流るる鉄に身を任せ(アインクラッド編 第4層)
1話:βと違う景色


今回から第4層編に入っていきます!

それではどうぞ~


私が螺旋階段の終点である第4層への扉に着くと扉の前には先に行ったはずのキリトさんとアスナがいた

 

「何してるの?」

「ほら! あなたがもたもたしてるからタコミカ達来ちゃったじゃない!」

「俺そんなに固まってたのか…?」

「どうしたんだ? キリト 何かトラブル発生か?」

「いや…そうじゃないけど…」

 

私が何をしているのか聞くとアスナはキリトさんに対して腹を立てていたためキリトさんは戸惑っていたがておさんが原因を聞くとキリトさんは扉の方を見ながら話した…

 

「扉がどうかしたんですか?」

「タコミカは知ってるだろうけどβ版じゃ枯れた谷を彷徨う旅人のレリーフだったんだけど…」

「今じゃボートを漕ぐ人のレリーフですね…」

「百聞一見! 行ってみましょ!」

「ちょっと! アスナさん!?」

 

私が扉に何かあるのかについて質問するとキリトさんはβ版とレリーフが違うと言ったため私も見てみると確かに違っていた…

 

その時アスナが見てみたほうが早いと言い扉を開けるとキリトさんは止めに入ったが扉を開けるほうが早かった

 

 

アスナが扉を開けるとそこにはβと違う景色が広がっていた…

 

谷底だったところは水で満たされており、所々から滝が流れていた

 

「すっご~い!」

「綺麗~!」

 

アスナと私が感想を言うとキリトさんとておさんもやってきた

 

「おぉ… これは中々…」

「早くアルゴに連絡しないとな…」

「タコミカ達が来る前に私がもう連絡したわよ」

「さいですか…」

 

ておさんは素直に感想を言い、キリトさんはアルゴさんに連絡しようとメニューを開こうとするとアスナがもう済ませたと言ったためキリトさんは中止した

 

「だから早いところ主街区に行って転移門をアクティベートしないとね だからキリト君道案内宜しく!」

「そうしたいのはやまやまなんだけどさ… この下なんだ… 俺が知ってる道は」

 

アスナがキリトさんに道案内を頼むとキリトさんは水の底を指さしながら言った…

 

…え? つまり道は水の底ということ…?

 

「つまり道が沈んでるっていうこと…?」

「扉のレリーフが違ってた時から嫌な予感はしてたんだけどな そういうことだと思う」

 

アスナも私と同じことを思ったらしくキリトさんに質問していたがキリトさんはそういうことだと言った

 

「あの崖の上はどうなってるの?」

「分からないが正解かな…」

「システムの障害があるの?」

「単純に岩壁が脆いの…」

「あれ? タコミカって高いところ駄目よね…?」

「克服しようと思ったんだけどかえって悪化しました…」

 

アスナがふと崖の上を指さしながらキリトさんに質問するとキリトさんが分からないと答えたためアスナは何かシステム的な障害で行けないのかと聞くと私は単純に岩壁が脆いと伝えた…

 

するとアスナは疑問に思ったのか質問したため私は理由を答えた

 

あれで基本的に2階以上が駄目になってしまった…

 

「下が水だからって試すのは危険ね…」

「だから俺たちに残された道は1つだけだ この川をどうにかして泳ぐ」

 

アスナが岩壁を登るのは危険だと言うとキリトさんはこの川を泳ぐしかないと言った

 

「3人共水着は持ってる…?」

「え? 水着なんて持ってないけどどうしたのよ突然…」

「いや! SAOで泳いだことがあるのかについて聞きたかっただけなんだ!」

「キリト… お前誤解を招く発言やめろよ…」

 

キリトさんがふとそんなことを言ったためアスナは咄嗟に身を隠しながら言うとキリトさんはSAOで泳いだことがあるのかについて聞きたかったみたいだったけどておさんの言う通りそんな言い方では誤解しか生まない

 

「SAOの水泳って現実世界と大分違ってて泳げるようになるには結構練習がいるし泳げるようになったとしても溺れる危険がないわけじゃない」

「因みに溺れるとどうなるの…?」

「頭まで水に沈んでしばらくするとHPが減り始めてそのまま水の中に居続けると…」

「「「「死ぬ」」」」

「ご名答」

「当然」

 

キリトさんが若干早口でそう言うとアスナが溺れるとどうなるのかについて質問するとキリトさんはHPが減り続けると言い その先は全員で同時に口を開いた

 

「ならこうしましょうか キリト君はこのまま主街区まで行って転移門をアクティベート! そして私達は泳ぐ練習をするからパーティはここで解散!」

「ちょっと待ってくれ!」

 

アスナは手を叩いて提案するとキリトさんはアスナの手を掴んで止めた…

 

「「あっ…」」

 

しばらく2人は良い感じの雰囲気になったため私達は邪魔になると思い、出てきた扉から帰ろうとした

 

「じゃぁ私たちお邪魔みたいなので帰りますね」

「主街区の転移門開いたらメッセージで伝えてくれ」

「「待って待って! 別にそんなんじゃないから!」」

 

私とておさんがそう言って帰ろうとすると2人は必死に止めた

 

 

 

「で… 話を戻すけど俺なんか納得いかないんだよね…」

「と言いますと?」

「β版からの変更点がある場合って必ずどこかに何かヒントがあっただろ?」

「そうね」

「もっと上の層ならまだしもこんな序盤に茅場が初見殺しを仕掛けるなんて考えにくいんだ」

「確かに…」

 

キリトさんが納得いかないと言ったため私は理由を聞くとキリトさんはβからの変更点には必ずヒントがあると言ったためアスナは同意するとキリトさんは序盤に茅場が初見殺しを仕掛けるなんて考えにくいと言うとておさんはそうかもと言った

 

「必ずこの島のどこかに… ん? んん?」

「どうしたのよ?」

「あれだ!」

 

キリトさんが周りを見回してみると何かを見つけたみたいでアスナが声をかけるとキリトさんはそれに向かって一直線に走り始めた

 

 

それを私達が追いかけると1本の樹の前に到着した

 

「ほら あそこ!」

「お~ ドーナツみたいな実がなってますね~」

「別に俺らお腹空いてないぞ?」

 

キリトさんが木の実を指さすとそこにはドーナツみたいな形の色とりどりな木の実が実っていたがておさんの言う通り別にお腹が空いているわけではない…

 

「まぁ見てなって…」

 

キリトさんがそう言って樹を揺らそうとするがびくともしなかった…

 

「貸せって… 俺が取ってくる 軽業スキル持ってるし」

「お前そんなの入れたのか…」

「案外役に立つ場面あるぞ? 例えば今とか」

「そうね じゃぁ4つお願いできるかしら?」

「了解」

 

それにしびれを切らしたておさんが木の実を取ってくると言ったがキリトさんは呆れた表情でておさんに聞くとておさんは案外軽業スキルは便利だと言い、アスナが人数分お願いするとておさんは樹に登った

 

 

そしてておさんはドーナツ状の実を4つ取ると地面へと投げ、キリトさんがそれをキャッチした

 

「それでどうするの? 食べるの?」

「まぁ見てなって」

 

アスナが木の実をどうするのかについて聞くと、キリトさんはコバルトブルーの木の実を持ってヘタの部分を口に咥えて息を吹き込んだ

 

すると木の実が大きく膨らんだ

 

「もしかしてこれって浮き輪…?」

「お前らもやってみろよ」

 

アスナが浮き輪みたいだと言うとキリトさんはそう言い、私にはライム色の実をておさんには濃いマゼンダ色の実を、アスナには淡いレモン色の実を投げた

 

 

私はさっきキリトさんがやったみたいに思いっきり実に息を吹き込むと大きく膨らんだ

 

「出来ました!」

「よし! これで行けるな!」

「これで安全に泳げるっていうこと?」

「俺の考えではそうだな」

 

周りを見てみるとどうやらておさんとアスナもできたみたいでアスナはキリトさんに質問するとキリトさんは自分の考えではそうだと答えた

 

「それじゃぁ行きましょうか」

「ですね~」

「ちょっと待った!」

「どうしたんだよ…?」

 

そして私達が準備を終え、泳ごうとするとキリトさんが止めに入ったためておさんはどうしたのかと聞いた

 

「一番重要なことを伝えるのを忘れてた」

「どうしたんですか?」

「ちょっとこれを装備して水につけてみてくれ」

 

キリトさんが重要なことを伝え忘れていたと言ったため私は何かと聞いてみるとキリトさんはメニューから何かを取り出し、それを私に向かって投げた

 

「…手袋ですか?」

「革製の手袋だ 百聞一見だろ? やってみてくれ」

「これで何がわかるのよ…?」

 

私が手袋を受け取るとキリトさんは装備して水につけて欲しいと言い、アスナは少し疑問に思っていたのかそう言うと私はキリトさんから受け取った手袋を装備して水につけた…

 

すると手袋は水を含んで重くなった

 

「あ! 重くなった…!」

「因みに素材によって水の吸水率や抵抗も変わってくる」

「そこまで作りこんでいるんですね…」

 

キリトさんは私の感想を聞くと素材によって吸水率等も変わってくると言ったためよく作りこまれているなと思った

 

「つまり今の装備のまま泳ぐと危険ってことよね?」

「そう言うこと」

「じゃぁ装備を外さないとだけど… 具体的にはどこまで外せばいいんだ…?」

 

アスナが自分の装備を見ながら言うとキリトさんは同意した そしてておさんがどこまで装備を外せばいいのかとキリトさんに質問した

 

するとキリトさんはアスナを例に挙げて説明し始めた

 

「基本的には重いもの全般だな アスナを例に説明するとまずフーデッドケープは外さないとだしレイピアとブレストプレートは絶対だ ブーツとグローブもだし、ベストも外しておかないとな 意外とレザースカートも重たいし… チュニックは…」

「そこまで外したら全部なくなるじゃないの!」

 

キリトさんがチュニックまで外そうかどうか悩んでいるとアスナは怒りながら浮き輪をキリトさんに向かってぶつけた

 

「そこまで言うんだったらあなたもその黒いやつとか黒いのとか黒いやつとかぜーんぶ外すんでしょうね!」

「アスナ… 全部黒いの…」

「うるさい!」

 

アスナはキリトさんに指を指しながら言ったがキリトさんの装備はほぼ全部黒色なのでそこにツッコミを入れるとアスナは私に対しても怒った

 

「…まぁ チュニックぐらいだったら大丈夫そうかしら?」

「恐らく問題ないと思うけど… テオとタコミカは何を外せばいいか分かったか?」

「恐らくは…?」

「大体」

「じゃぁ行きましょうか」

 

キリトさんがアスナに浮き輪を投げ返してしばらくすると怒りが収まったみたいでキリトさんに質問した するとキリトさんはチュニックだったら問題ないと返して私達に何を外せばいいか分かったかと聞いてきたため恐らく分かったと返した

 

そしてアスナが行こうと言ったため私達は再び島の南の川岸まで向かった

 




テオロングが軽業スキルを取っている理由は単純にプレイスタイルに合っているためです(タコミカは攻撃を防御するスタイルだがテオロングは回避するスタイル)

それではまた次回に


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2話:いざ水泳!

水です… あとは分かりますね?

それではどうぞ~




島の南の川岸に私達が着くと、私達が出てきた四阿を確認すると私とアスナはチュニックと下着を残してあとはストレージにしまった

 

「これで大丈夫かな…?」

「それで大丈夫だと思うわ」

 

私達はそう言うとておさんとキリトさんの方を向いた

 

「そっちは終わりましたか~?」

「終わったぞ~」

 

ておさんは黒色のシャツと藍色のトランクス姿になっていて キリトさんは暗い赤色のトランクスのみの姿になっていた

 

そしてキリトさんが後ろを向くと…

 

「ぷっ…ぷぷっ…! あっはははは!」

「ぶっ! くっくっ… ははははは!」

 

アスナとておさんは口を押えて笑い始めた

 

一体何事かと思って私もキリトさんの方を向いてみるとキリトさんのトランクスの後ろに大きく黄金の牛印のプリントがされていたため思わず私も笑ってしまった

 

「ふふ… ふふっくくく…!」

「お前らまで笑うなよ… 先に脱ぐんでしょうねって言ったのはそっちじゃないか」

「だってそれはいくら何でも反則でしょっ…」

「確かに派手な色だけど… どこが反則なんだよ?」

「後ろ見てみろよっ…」

 

私達が笑ったためキリトさんは少ししょんぼりしながら言うとアスナは笑いながら反則だと言ったため、キリトさんが理由を聞くとておさんはキリトさんに後ろの部分を見てと言ったためキリトさんは後ろの部分を水面に映し出して見てみると大声を出した

 

なんじゃこりゃぁ!?

 

しばらくキリトさんが落ち込んでいるとアスナはようやく笑いが収まったのかキリトさんに質問をした

 

「あなたそれ何処で手に入れたの? NPCショップじゃそんな柄売ってないでしょ? もしかして自分でカスタマイズしたとか?」

「…買ってないしカスタマイズもしてないよ」

「じゃぁあれか? フロアボスのLAか?」

「そう これはバラン将軍のLAなんだけどまさかケツにこんな罠があるとは…」

 

キリトさんは買ったりカスタマイズしていないと言うとておさんはフロアボスのLAかと聞くとキリトさんは正解と言い、後ろの部分に罠があると思わなかったと言った

 

「LAっていうことは何か特殊効果があるの?」

「STRがそこそこ上がるのと病気や呪い系のデバフに対してちょこっと耐性が上がるんだ」

「ふーん… 君がLAを持っていくのは面白くないけどそのパンツだけは別ね」

 

アスナがキリトさんのトランクスには何か効果があるのかと聞くとSTRがそこそこ上がるのと病気や呪い系のデバフの耐性が上がると言う答えが返ってくるとアスナは頷き、冗談交じりにそう言った

 

「STRが上がるっていうのは魅力的ですけど男物の下着は穿きたくないですね…」

「タコミカがLAを取っていたらちゃんと女物になってたんじゃないかな… 牛印はあったと思うけど…」

 

私がSTRが上がるのは魅力的だけど男物のパンツは穿きたくないと言うとキリトさんは何を思ったのか私がLAを取っていたらしっかり女物になっていたかもと言った…

 

何処からどう見てもセクハラ発言なので私はキリトさんに向かって浮き輪を投げた

 

~~~~~~

 

そしてキリトさんは水の温度を測るために手を入れた

 

「どうだ…?」

「確かに冷たいけど我慢できないほどじゃないな」

「アインクラッドはフロアによっては季節が現実と同じ層もありますからこういうのはありがたいですね」

「あくまでβ時代はだけどな」

「じゃぁそろそろ行きましょうか」

 

ておさんが様子を伺うとキリトさんは問題ないと言ったため私がフロアによっては季節が現実と同じ層もあるからありがたいと言うとキリトさんは同意し、アスナが行こうと言ったため私達は水に入ることにした

 

「まずは俺から入ってみるよ」

 

そうキリトさんが言うとキリトさんはゆっくりと水の中に入り少し動くと「大丈夫そうだ」と言ったため、私達は順番に入ることにした

 

「うわぁ! なんだか懐かしい感じ!」

「でもどうせだったら海で泳ぎたかったかも…」

「もしかしたら海もあるかもよ? 主街区に着いたら水着作ってあげよっか?」

「今はスキルスロットに空きはないけど後々裁縫スキルはとる予定はしてるし… でもどうせだったらお願いしよっかな?」

「じゃぁ俺もいいか…? 出来れば牛印のない奴で…」

「それだったら熊印か猫印か蛙印から選ばせてあげるわよ」

「考えとくよ… では行きますか…」

 

アスナが懐かしいと言ったが私はできれば海で泳ぎたかったと言うとアスナは海もあるかもと言って水着を作ってあげると提案があったため私はせっかくなのでお願いすることにした

 

するとキリトさんもお願いしたのでアスナは熊印か猫印か蛙印付きから選ばせてあげると言うとキリトさんは考えておくと言い、行こうと言った

 

 

私達がバタ足をしながら移動しているとアスナから声が聞こえてきた

 

「なんか変な感じ…」

「水の肌触りとか抵抗感とかが現実と違うだろ? そのせいで浮き輪なしで泳ごうと思ったら練習が必須なんだ まぁこれでもβ時代より大分改善していると思うんだけどな」

「そっか… これは確かに練習が必要ね…」

「1時間も泳げば慣れるけどな」

 

キリトさんがSAOでの水泳について説明するとアスナは泳ぎには練習が必要ということに同意してキリトさんは一時間ぐらい泳げば慣れると言った

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

そんな感じに私達がしばらく雑談をしていると出口が近づいてきた

 

「もう出口か」

「案外早かったな」

「地形そのものはβ時代とあんまり変わってなかったな… そこの岩とか見覚えがあるし」

「あくまで水だけが追加されたっていう感じでしたね」

「そうだな」

 

キリトさんが出口がもう近いと言うとておさんは案外早かったと言い、キリトさんは地形自体はβ時代と変わっていないと言ったため私はあくまででも地形では水が追加されただけだったと言うとキリトさんはそれに同意した

 

ゴォォォォォ…

 

そして出口が近づくととても大きな音が流れてきたためアスナは質問した

 

「さっきからすごい音がするけどこの先って何があるの?」

「確か大きい道になってたはず…」

 

キリトさんが大きい道になってたはずと答えたがそこにあったのは滝で

 

「おわっ!」

「きゃっ!」

「うおっ!」

「みゃっ!」

 

私達は綺麗に落下した

 

 

「みんな! 落ち着いて脚から着水するんだ!」

「もう時間が…!」

 

キリトさんが落ち着いて脚から落下するように言ったがもう時間が無く、私達は着水した…

 

 

~~~~~~

 

 

「「「「ぷはっ! 」」」」

「あ~…死ぬかと思った…」

「涸れ谷の時は高低差とかは気にしてなかったから盲点だったな…」

「でもアトラクションみたいで楽しかったな」

「私はもう二度とやりたくないです…」

 

そう言って私達が笑っていると何かがポップする音が聞こえた…

 

「ねぇ キリト君…? モンスターってどのぐらいでポップするのかしら…?」

「えーっと 確かフロアボス討伐後大体30分ぐらいだけど…」

「30分ってもう過ぎてるよな…?」

「さっきは魚1匹もいませんでしたし気のせいじゃないですか…?」

 

アスナがキリトさんにどのぐらいでMOBがPOPするのか聞くとキリトさんはフロアボス討伐から大体30分後ぐらいだと答えたがておさんがもう30分は過ぎてると言ったため私は気のせいじゃないのかと答えると全員ゆっくり後ろを向いた…

 

すると不吉な背ビレがこっちに向かって泳いできた

 

「全員 ここから先は後ろを向かずに全力で泳ぐぞ」

「「「了解」」」

 

キリトさんがそう言うと私達は全力で泳ぎ始めた

 

 

そこからキリトさん先導で全力で泳いでいた

 

「見えた! あそこだ!」

「了解!」

 

キリトさんが主街区に続く砂浜を見ながら言うとアスナは返事をした

 

ふと後ろを見るとあの不吉な背びれがさっきよりも近づいていた

 

「ラスト! 右ターン用意!」

「応!」

 

キリトさんが右ターン用意の指示を出すとておさんは返事をした

 

いっけぇぇぇぇ!

 

キリトさんが叫ぶと私達は残りの距離を一気に跳んで水から出ると走り始めたが私は途中で足がもつれ、ておさんに重なるようにして転んでしまった

 

「きゃぁ!?」

「わっ!?」

 

そして後ろを振り返ってみると私達を追いかけてきたそれが飛び上がって地面に落ちた

 

後ろを見て、私達を追いかけてきたそれを見ると立派な背ビレをもったおたまじゃくしのような何かだった…

 

それが起き上がろうと跳ねるが背ビレが重たいのかなかなか起き上がれずにいた

 

「えぇ…」

「なんじゃそりゃ…」

 

少し離れたところでそれを見ていたアスナとキリトさんがそう言うとそれは波にさらわれて再び水の中へと戻っていった

 

 

しばらく微妙な空気が続いたがふとアスナが気が付いたのか私達に声をかけた

 

「2人とも大丈夫!?」

「大丈夫です… 後頭部に柔らかい感覚があるけど」

「テオ君それ以上動かないほうがいいわよ…」

 

ておさんが後頭部に何か柔らかい感覚があると言うとアスナは私達を見ながら動かないでと言ったため私はておさんのいる下の方を向いた…

 

するとちょうど私の胸がておさんの後頭部に当たっているという形になっていた…

 

いやぁぁぁ!

 

私は悲鳴を上げるとその場から逃げるように走り始めた

 

 




次回はアインクラッド編だとかなり後半の方に出る人物が出てきます(IFをやってる方だったら多分わかるかな…?)

それではまた次回に


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3話:水の都と女性プレイヤーの鍛冶屋さん

タイトルと前回のあとがきでもうほとんどわかると思います

それではどうぞ


しばらくして私達は装備をし直し、主街区に続くアーチへと向かっていった

 

「…酷い目に遭った…」

「でもあのアーチをくぐれば主街区だから…」

「本当でしょうね…?」

「茅場が場所を変更してなきゃな」

 

私がさっきまでの事の感想を述べるとキリトさんは石造りのアーチを指さしながら言って、アスナは少し疑っている目で言うとキリトさんは保険をかけた

 

 

私達がアーチをくぐるとそこにはヴェネツィアみたいな風景があった

 

「わぁ! 綺麗な街!」

「βじゃ味気ないと思っていたがこうなる予定だったのか!」

 

アスナが感激して言うとキリトさんも感心したように言った

 

「ゴンドラがこんなにいっぱい…! ヴェネツィアみたい!」

「好きなのか?」

「前々から行ってみたいと思ってたの!」

「それは良かった」

「ほら3人とも早く!」

 

アスナが私の思ったことと同じことを言い、キリトさんはヴェネツィアが好きなのかと聞くとアスナは前々から行ってみたかったと答えたためキリトさんはそれは良かったと答えた

 

そしてアスナが私達を急かしたため私達はゴンドラの近くへと向かった

 

 

「どれがいいかな~…」

「あれとかは?」

「あ! いいかも!」

 

アスナがどのゴンドラが良いかを悩んでいると私はアイボリーホワイトのゴンドラを見つけたためそのゴンドラを指さしながら言うとアスナは気に入ってくれたみたいだった

 

「<ロービア>へようこそ! どこまで行っても50コルだよ!」

「転移門広場までお願いします」

「あいよっ!」

 

キリトさんがNPCの船頭さんに転移門広場までお願いするとNPCの船頭さんは帽子の鍔を弾きながら答えた

 

~~~~~~

 

「この船は街の外っていけるんですか?」

「わりぃがそいつはできねぇな 俺っちの仕事場はこの<ロービア>の街だけだからよ」

「じゃぁ他の船だったら街の外に出られるんですか?」

「すまねぇが その質問には答えられねぇな」

 

キリトさんが船頭さんに質問すると船頭さんはこの船では街の外に出られないと答えたためキリトさんが他の船なら街の外に行けるのかと再び質問すると船頭さんは答えられないと言った

 

「あっ! 着いたみたい」

 

アスナがそう言ったため見てみるともう船着き場が近くなっていた

 

「お待ちどうさま! また乗ってくれよ!」

「「「「ありがとうございました」」」」

「楽しかった~」

「そうだね~」

「また帰りも乗ろうね!」

「そうだな! ほかに移動手段ないしな!」

 

船頭さんが手慣れた手つきでボートを船着き場につけると私達はお礼を言った

 

アスナと私が感想を言い、アスナはまた乗ろうと言ったためキリトさんは何故か若干大声で言った…

 

 

 

そして私達が転移門をアクティベートするとリンドさんとキバオウさんが開いたと同時にやってきた

 

「よっしゃぁ! ワイが一番乗りや!」

「いいや! 同時だ!」

 

リンドさんとキバオウさんがそう言うと全速力で走り始めた

 

「アクティベートご苦労様 あとは俺たちに任せてくれ!」

「今度こそワイらが最速で攻略すんで!」

 

2人はそう言うと走り去っていった…

 

「相変わらずだな… あの2人は」

「まぁ… 熱心なのは悪いことじゃないと思いますし…」

「そうね… 行き過ぎるとあれだけど…」

「あんなんでもしっかりギルドリーダーやってるんだからな…」

 

私達がそれぞれ感想を述べているとアルゴさんとエギルさんとポテトさんがやってきた

 

「よう! お疲れ様」

「皆さん転移門のアクティベートお疲れ様です」

「ヨッ! 随分と時間がかかったナ? キー坊」

「まぁ… 色々あってな…」

 

エギルさんとポテトさんは私達を労う言葉をかけ、アルゴさんはキリトさんに対して質問するとキリトさんは少しはぶらかして答えた

 

「アーちゃんと何かあったのかナ~?」

「ないって… こっちにはテオとタコミカもいるんだぞ…」

「案外たみさんにも手を出してたりして…」

「え!?」

 

アルゴさんが冗談っぽくアスナと何かあったのかと聞くとキリトさんは私達もいるのにそんなことはしないと答えるとポテトさんは冗談で私にも手を出しているのではと答えたためキリトさんは驚いていた

 

 

「そんなことより! 最近は街びらきでやってくる生産職のプレイヤーも増えてきたしさ 彼らとそれから俺らのためにもガンガン攻略しないとな」

「そうね」

 

キリトさんが話題を変えるように最近生産職のプレイヤーが増えたためガンガン攻略した方が彼らのためになると言うとアスナはそれに同意した

 

「同感だ だがそのためにもそろそろ休憩を入れないとな」

「フロアボスからぶっ通しみたいですし… 働きすぎはダメですよ?」

「そうだな」

 

エギルさんがキリトさんの肩を持ちながら同感だと言うと休憩を進めてきた ポテトさんも休憩を進めてきたのでキリトさんは同意した

 

「俺は休憩するけど 3人もそれでいいか?」

「私は良いわよ」

「俺もいいぞ」

「私はまだいけますよ」

 

キリトさんが私達に休憩をすることを伝えるとアスナとておさんは賛成し、私はまだいけると言った

 

「たみさんちょっと休まないとだめですよ?」

「心配しなくても街中にいますって… 私は昨日にしっかり休んだのでまだ眠たくないだけですよ」

「タコミカってもしかして水泳の授業の後は眠たくならないタイプなの?」

「そうなの 逆に目が冴えるタイプで」

「まぁ 街にいるんだったらいっか…」

 

するとポテトさんに注意されたため私は街中にいると言い、まだ眠たくないと追加で言うとアスナは水泳の授業の後は眠たくならないタイプなのかと聞いたため私はそうだと答えたらておさんは街中にいるなら問題ないかと言った

 

「じゃぁ俺らはお言葉に甘えて休んでくるよ 18時に集合で」

「行ってらっしゃーい」

 

そしてキリトさん達は宿屋に向かったため、私はそれを見送った

 

「じゃぁ俺達も行きますけど無理だけは禁物ですよ?」

「分かってますって」

 

しばらくしてポテトさん達も離れていった…

 

~~~~~~

 

と言っても特に街中でやることもないため適当にぶらついているとベンチに俯いた状態で座っている茶髪のショートで毛先が外側にはねている女性プレイヤーを発見した…

 

「どうしようかしら… 聞いてた話と違うわよ…」

「どうかしたんですか?」

「えっ!? もしかしてさっきの聞こえてた…?」

「結構大きめの声でしたので…」

 

その人が大きい声で独り言を言っていたので私が近くに行き、どうかしたのかと質問するとその人は驚いた様子で私にさっきの声が聞こえたのかと聞いてきたため私は聞こえたと言った…

 

「もしかして悩み事ですか? 宜しければ相談に乗りますけど…」

「少し悩みとは違うかもだけど聞いてくれる…?」

「いいですよ でもその前に自己紹介がまだでしたよね? 私はタコミカって言います」

「あたしはリズベットよ よろしくね」

 

私が相談に乗ると言うとその人はすんなりと受け入れてくれたためその人の話を聞くことにした

 

その前に自己紹介がまだだったのでお互い自己紹介を済ませた

 

「それで何かトラブル発生ですか?」

「まぁ言ってしまえばそうね… 実は今オーダーメイドの武器の製作を依頼されてて… どうせだったら今日開通した4層の素材を使ってみたいっていうのもあったからβテスターの知人から4層の情報を聞いてみたら涸れ谷だっていうのを聞いてて あたしもそのていで準備してたんだけどいざ来てみたら真逆って言ってもいいぐらい地形も違ってたから…」

「私も違っててビックリしましたよ」

「でしょ! まぁ渡りかかった船だし出たとこ勝負するしかないわね…」

「ってちょっと待ってください」

「どうしたのよ?」

 

リズベットさんの話を簡潔にまとめると知人から聞いていた第4層の地形と今の第4層の地形が違っていたから悩んでいたらしい…

 

私も初めて来たときに驚いたと言うとリズベットさんもそれに同調し、もういっそのことぶっつけ本番で行こうと言った その時私はリズベットさんの言ったことを思い出し止めに入った

 

「今オーダーメイドって言いましたよね…?」

「言ったわよ?」

「っていうことはもしかして鍛冶屋なんですか?」

「まだ序盤だからレベルは低いけど将来的にはトップクラスの鍛冶屋になる予定よ!」

「すごいです!」

「そのためにも今は地道にスキル上げ中だけどね」

 

私がオーダーメイドという部分に注目するとリズベットさんはそう言ったと言ったため私はもしかして鍛冶屋なのかと聞くとリズベットさんはそうだと答えたので私が褒めるとリズベットさんはまだスキル上げ中だと答えた

 

「でも鍛冶屋って本当にすごいんですよ 例を挙げるとするなら…

 

~~~~~~

 

っていうわけなんでリズベットさんはもっと鍛冶屋に誇りを持ってもいいと思うんですよ!」

「う…うん… そこまで熱弁されるとなんだか照れるわね… でも鍛冶屋の価値を分かってくれる人がいて嬉しいわ 攻略組の人達の中にはちょっと横柄っていうか冷たい人も偶にいるから…」

「それ誰ですか! 私ちょっと言ってきますよ!」

 

私が鍛冶屋について10分ぐらい熱弁するとリズベットさんは照れながらもお礼を言ってくれたが攻略組の中には冷たい人もいると言ったため私はちょっとその人にケンカを売りに行こうと名前を聞いた

 

「いいわよ… 無駄なトラブルは避けたいし… それよりタコミカってもしかして攻略組だったりする?」

「そうですよ 実際今まですべてのボス戦には参加してますし」

「へぇ… やっぱりね… 実を言うと一目見た時からあんたが攻略組かもしれないっていうのは分かっていたのよ」

「どのへんで分かったんですか?」

「一番は装備の質がそこら辺のプレイヤーとは段違いだったからかしらね」

「成程… 流石ですね…」

 

それをリズベットさんがやんわりと断ると私が攻略組かどうかを聞いてきたためそうだと答えるとやっぱりと答えたため私はどのへんで分かったのかを聞くとリズベットさんは装備の質で分かったと言ったため私は流石だと答えた

 

「そこでお願いがあるんだけど…」

「えーっと… 私はそのお願いには答えられないかもです… すみません」

「そうなのね… 残念」

「今日は少しだけ休みたいので…」

「なら仕方ないわね」

「あれ? いいんですか?」

「攻略組にも休暇は必要でしょ それより話を聞いてくれてありがとうね」

「いいんですよ 私も楽しかったですし」

「もしよかったらあたしとフレンド交換しない?」

「是非!」

 

そしてリズベットさんがお願いしようとしてきたため私は内容を大体察して断った…罪悪感がかなりあったけど…

 

でもリズベットさんはあんまり気にしていない様子だったので本当にいいのかと聞くと攻略組にも休みは必要だと言って、お礼も言ってくれたため私は素直に楽しかったと返した

 

最後にリズベットさんがフレンド交換しようと言ったため私はチャンスだと思い是非と言った

 

 

「まぁ素材回収についてはどこか適当なパーティに入れてもらうわ」

「ではリズベットさん またどこかで~」

「リズでいいわよ それと敬語も堅苦しいからなしで」

「次会うまでには努力します…」

「それじゃぁ 次会うときには私も実力を上げておくから武器や防具が欲しくなったら言いなさいよ?」

 

リズベットさんは素材回収についてはどこかのパーティに入れてもらうと言い、ベンチから立つと私は別れの挨拶を言ったがリズベットさんはあだ名で呼んでほしいと言い、敬語もなしでいいと言ったため私は次会うときまでには直すと伝えた

 

そしてリズベットさん改めリズは私に武器や防具が欲しくなったら言ってと伝えその場を後にした

 

 

私も待ち合わせのため私はメニューを見ながらキリトさん達が止まっていると思われる宿屋へと向かった

 

 




タコミカは水泳の後は眠たくならず逆に目が冴えるタイプです(バスや電車等でも眠たくならないタイプ)

それと一度語りだしたら止まらないタイプでもあります

というわけでこの小説で初めてリズベットを出しました(次回の登場はかなり先になると思います…)

それではまた次回に~


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4話:晩御飯とクエスト情報

タコミカは焼き魚はあまり好きではありません(中でも子持ちししゃもが一番嫌い)

ですが切り身は普通に食べます

それではどうぞ~




私が宿屋の中にある喫茶店で待っているとておさんがやってきた

 

「よく俺たちが泊っているところがわかったな」

「勘ですけれどね…」

 

本当はフレンドのオプションで今どこにいるのかということを確認してからやってきたんだけどておさんの質問に対して私は勘だと言った

 

 

そこから数分ぐらいするとアスナが慌てた様子でやってきた

 

「ごめん! 2人共待った!?」

「ううん 私達も今来たとこ」

 

アスナは私達に待ったのかを聞いてきたため私達はそんなに待ってないと答えた

 

 

そして私達が話をしながら待っているとキリトさんが慌ててやってきた

 

「3人共悪い! 寝過ごしちゃって慌てて飛び出してきた!」

「大丈夫よ 私も今来たところだから」

 

キリトさんが謝罪をしながらそう言うとアスナは気にしてないと答えた

 

「先に晩御飯にしますか?」

「お! いいな それ!」

「いいわよ でも今回は一番遅かったキリト君のおごりね」

 

私が3人に対して先に晩御飯にしようかと言うとキリトさんはいいアイデアだと答え、アスナもいいと答えたがキリトさんが一番遅かったためキリトさんのおごりだと言った

 

「ここで食べてもいいけど… 一回外に出るか?」

「そうですね どうせだったら外で食べましょうか」

 

ておさんが外に出ようかと言ったので私達はそれに賛成した

 

~~~~~~

 

私達は宿屋の外に出て商業エリアに行こうとしたけど商業エリア行のゴンドラが大行列だったので諦め、転移門の東側にある洋風の屋台のところまでやってきた

 

「屋台が5、6軒ありますね」

「晩御飯になりそうなものを売ってるのは3軒だけか… どれにする?」

 

私が屋台は5、6軒あると言うとておさんはその中で晩御飯になりそうなのは3軒だけみたいだと言い私達にどれにするのかと聞いてきた

 

見てみると魚のフライと温野菜のセット、シーフードピザっぽいもの、焼いた魚と香草類を平たいパンで挟んだもの…確かパニーニって言ったっけ?があった

 

「俺はパニーニにしようと思ってるけどアスナはどうする?」

「私も同じのでいいかな タコミカ達はどうするの?」

「私は魚のフライと温野菜のセットにしよっかな」

「じゃぁ俺はシーフードピザで」

「分かった じゃぁ買ってくるよ」

 

私達がそれぞれ何が食べたいか言うと、キリトさんは買いに行ってくれた

 

 

そして全部買ってキリトさんが私達のいるベンチへと戻ってきた

 

「お待たせ」

「ありがとう」

「ありがとうございます」

「さんきゅ」

「悪いナ キー坊」

 

私達がキリトさんにお礼を言うとふと私達の後ろから声が聞こえてきた

 

「アルゴさんこんばんは」

「こんばんはダナ」

 

少しだけ驚いたが私がアルゴさんに対して挨拶をするとアルゴさんは返してくれた

 

「相変わらず見事な隠蔽スキルだな だけどこれはアスナ達のだ」

「分かってるっテ でもナ~」

 

キリトさんがアルゴさんから私達の晩御飯を隠しながら言うとアルゴさんは分かってると言ったが続けた

 

「折角キー坊たちが寝ている間に速攻で情報を集めてきたのにナ」

「うっ…」

「だからご飯ぐらいは奢ってくれてもいいんだけどナ~?」

「分かったよ! 何買ってくればいいんだ!?」

 

アルゴさんがキリトさんをチラッと見ながら言うとキリトさんは何も言い返せないみたいでアルゴさんのオーダーを聞いてきた

 

「おいらはチーズマシマシのピザが食べたいナ~」

 

アルゴさんがそう言うと私に持っていたものを渡してダッシュでシーフードピザの屋台へと向かっていった

 

「無理なお願いして申し訳ありませんでした!」

 

キリトさんがきれいな角度でお辞儀をしながらアルゴさんにピザを渡すとアルゴさんは「分かれば良いんだヨ」と答えた

 

「キリト君の扱い上手いですね」

「処世術だヨ」

 

それに対してアスナはキリトさんの扱い方がうまいと言うとアルゴさんは笑いながら言った

 

 

そして私達はそれぞれのものを食べていた

 

「うまいな」

「本当!」

「ですね!」

「だな~」

 

私達がそう言うとアルゴさんはピザを食べながら何かを取り出した

 

「本当だったらもう少し取ってたけどチーズマシマシに免じて通常価格にしておいてあげるヨ 500コルダ」

「悪いな」

 

アルゴさんは沢山あるうちの1つの羊皮紙のスクロールを取り出すとキリトさんはお金を手渡し、トレードでその羊皮紙のスクロールを受け取った

 

「何の情報をお願いしたの?」

「これだよ」

 

アスナが質問するとキリトさんは羊皮紙のスクロールを開いて私達に見せた

 

すると主街区と思われる街の全体図に所々!マークがついているのが見えた

 

「これってクエストNPCの位置ですか?」

「そう」

 

私が!マークはもしかしてクエストNPCかと聞くとキリトさんはそうだと答えた

 

「でもそんなの自分で街を歩いてみればいいんじゃないのか?」

「そうだよナ そもそもキー坊はβ時代に全部やってるだロ?」

「俺の記憶と今のNPCの位置を照らし合わせたかったんだ」

 

ておさんがそんなのは自分で歩けば済むことじゃないのかと言うとアルゴさんも同意した

 

 

そしてキリトさんは独り言を呟きながらMAPを確認していると突然大声を出した

 

あった!

「え?」

「俺の予想通り β時代にはなかったクエストが1つだけある」

 

アスナがキリトさんの方を見るとキリトさんは街の北西にある!マークを指さしながら私達に見せた

 

「あ! そっか! β時代にはなかったっていうことは…」

「ここにこのフロア攻略の鍵がある」

 

私が途中まで言うとキリトさんは私の言いたいことを言ってくれた

 

「ゴンドラを使えばそう遠くない距離だ! 早く行こう! アルゴ! 情報がそろったらまた連絡するよ!」

「ジャアナ~ またのご利用待ってるヨ」

 

キリトさんはまるで遠足に行く子供みたいに目を輝かせながらゴンドラ乗り場の方を指さし、アルゴさんに別れを告げた

 

 

私達がキリトさんの指したほうを見ると大勢のプレイヤーたちがゴンドラ乗り場に並んでいた…

 

「行くって言っても結構並んでるぞ…?」

「そうだった… 街びらきでやってくる観光プレイヤーたちのことを予想してなかった…」

「軽く1時間は並びそうだけど…?」

 

ておさんがその点を指摘するとキリトさんは頭を抱えて言った…

 

そしてアスナは軽く1時間は並びそうだと答えるとキリトさんは少し考え始めた

 

「うーん… あっ! そうか! その手があった!」

 

するとキリトさんは何かひらめいたようでおもむろにダッシュでゴンドラ乗り場とは反対の方にある岸壁へと向かっていった… ものすごく嫌な予感しかしない

 

「私なんか嫌な予感がするんだけど…」

「私もさっきから嫌な予感はしてる…」

 

アスナも私と同じことを思ったみたいで私達はそれぞれ口にし、ゴンドラ乗り場に戻ろうとしたらキリトさんに止められた

 

「いいからいいから」

「よくない!」

「大丈夫だって」

「やるんだったらお前ひとりでやれよ!」

 

キリトさんとアスナとておさんが言い合いをしていると左右から10人乗りのゴンドラがやってきた…

 

「よし 5秒前からカウントするからな」

「キリトさん人の話を聞いてくださいよ…」

「5…4…3…」

 

私はキリトさんに説得するけど全く聞いていない…

 

そんな中でもキリトさんはカウントを始めた

 

「あぁもう! 分かったわよ! やればいいんでしょ!?」

「もうどうにでもなれ…」

「もういいですよ…」

「2…1…!」

 

私達はもう諦めてゴンドラに跳び移ることにした

 

今だ!

 

そしてキリトさんの合図で私達は一斉にゴンドラへと跳んだ

 

 

やっぱりというかその様子を見ていた人たちはざわついていた

 

 

私達はまず左から近づいてくるゴンドラへと飛び乗るとそのゴンドラは大きく揺れ、乗っていた人たちは驚きの声をあげたため私は「すみません!」と言うと次のゴンドラへと跳んだ

 

次のゴンドラの人達は私達に気が付いているようで歓声を上げたり口笛を吹いていた

 

そんな人たちを横目に私達はゴンドラを駆け抜け対岸へと跳んだ

 

 

私達は無事に着地できたがキリトさんだけ少しだけ届かず壁へまるでカートゥーンアニメのように音を立て全身が貼り付いたが辛うじて岸壁のカドに指を引っかけた

 

「キリトさん…自分の力量ぐらい分かりましょうよ…」

 

私がキリトさんを引き上げようと岸壁へと近づくとキリトさんがこちらを見て声を出した

 

「えーっと…タコミカ… この角度的に危ないっていうか…見えるっていうか…」

「え?」

 

キリトさんからそう聞くと周囲から歓声が上がったため私はキリトさんの言ってる意味が分かった

 

私はスカートを手で押さえ、右足を上げた

 

「早く上がってきてくださいな」

「早急に」

 

キリトさんはそう言うと素早く這い上がってきた

 

 




タコミカは魚より肉が好きです

それではまた次回に


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5話:β時代になかったクエスト

今回はクエスト受注回です

それではどうぞ




そこから私達はゴンドラに乗ると下町エリアを抜け、細い水路を通ると目的の場所へと到達した

 

目的地である民家は水路に大きな扉が付いているという点を除けば他の家とさほど変わらない古びた家だった

 

「本当にここですか?」

「あぁ MAPを見てもここで合っているはずだ」

 

私が一応キリトさんにここで合っているのかと言うとキリトさんはMAPを確認しながら答えた

 

「アルゴさん よくこんな所見つけたわね…」

「だよな~」

「ちょっと! マナーが悪いわよ!」

 

アスナがアルゴさんに感心しているとキリトさんは近くにあった窓から中の様子を覗きながら言ったためアスナは注意した

 

「お! いたいた 入ってみよう」

 

キリトさんが何かを見つけたみたいで窓から離れると玄関へと向かっていった

 

 

〔コンコン〕

 

そしてキリトさんがドアをノックすると中から不愛想な返事が返ってきた

 

「鍵はかかっとらん 用があるなら勝手に入れ」

 

しばらくするとキリトさんは扉を開け、中に入ったため私達もあとに続いた

 

 

 

私達が中に入るとそこにいたのは今にも壊れそうなロッキングチェアに腰を掛け、右手に酒瓶を持ちながら飲んでおり、左手にはパイプを持ったお爺さんだった

 

額の禿げ上がった蓬髪と乱れた髭は白く、肌の焼け具合とタンクトップから見える逞しい筋肉がまたいい味を出していた

 

 

キリトさんが恐る恐るそのお爺さんに話しかけた

 

「あの… 何かお困りですか?」

「なにも困っとらん」

 

しかしお爺さんはそこで会話を切ってしまった

 

「これで駄目って言うことは自分でキーワードを探し出すしかないのか…」

「キーワードを探すっつったってこの部屋結構広いぞ?」

 

ておさんの言う通りこの部屋はかなり広い…

 

私達が何か良さげな物はないかと探しているとアスナが口を開いた

 

「もういっそのこと片っ端から聞いてみる?」

「やめたほうがいいと思う」

「どうして?」

 

私がそれはやめたほうがいいと言うとアスナは質問してきた

 

「こういったクエストは何回も選択肢を間違えるとペナルティを科されることもあるの それが時間経過で解除されるんだったらいいけどもし追加のクエストを科される場合だったら…」

「確かにそれは面倒ね…」

 

私が理由を言うとアスナは分かったみたいだった

 

「うーん… アルゴさんだったらこういうのもわかるのかしらね…?」

「多分な」

「じゃぁアルゴさんに今聞けば…」

 

アスナはアルゴさんに聞いたら分かるのではと言うとキリトさんは多分と言ったのでアスナは開いてアルゴさんに連絡しようとメッセージを開くとキリトさんに止められた

 

そしてキリトさんは真剣な表情でアスナに言った

 

「アルゴに弱みを見せたら相場の何倍もの金額をふっかけてくるぞ」

 

アスナは少しきょとんとしていたがすぐに反応した

 

「そ…そうなの?」

「あぁ だからここは俺達だけで解決しよう ヒントは必ずあるはずなんだ」

 

キリトさんがそう言ったため私達はこの部屋をくまなく探すことにした

 

 

しばらく探しているとアスナが年季の入った本を見つけた

 

「3人共 少しだけこれを見てほしいんだけど…」

「何? この本」

「そこの本棚で見つけて」

 

私がこの本は何かと質問するとアスナは本棚を指さしながら答えた

 

キリトさんがアスナからその本を受け取ると中を読み始めた

 

「劣化がひどくて大部分は読めないけどmとか㎏とか書いてあるな… 何かの大きさと重さか…?」

「アインクラッドがメートル法を採用しているんだったらそうだと思うわ」

「あのデカい剥製と言いあのお爺さんは漁師なのか…?」

「いや…まだそうだと決めつけるのは早いと思う」

 

キリトさんとアスナの会話と壁に飾ってあるとても大きな魚の剥製からておさんはあのお爺さんが漁師なのではないかと思ったらしいがそう決めつけるのは早いとキリトさんに言われた

 

「何か他に証拠があるはずなんだ… もっと確信的な…」

 

キリトさんはそう言うと再びヒントを探し始めた

 

 

私もそれに倣ってまた探し始めた時、地面に置いてある本の近くに何かが落ちているのが見えたためそれを拾い上げた

 

「何でしょう…? これ」

「何か見つけたの?」

 

それはかなり錆びており細長いって言うことぐらいしかわからなかったためアスナに渡した

 

「あー これ釘ね」

「それって釘なのか?」

 

アスナがじっくり見てからこれは釘だと言うとキリトさんはこれは釘なのかと聞いていた

 

「具体的にこの釘はどんな用途で使うんだ?」

「この釘は普通の釘より抜けにくくて主に木製の建造物を造るのに使うのよ 例を挙げるとそれこそ古い建築とか木造の船なんかにも使われるわね」

 

ておさんがこの釘について聞くとアスナは具体的に説明し始めた

 

その中で私はふと疑問に思ったので質問してみた

 

「その釘ってゴンドラにも使うかな…?」

「そうね ゴンドラなんかにも使われることがある…「「「それだ!」」」」

 

アスナがこの釘はゴンドラなんかにも使われると言うと全員声を合わせて大声を出した

 

そして代表してアスナがお爺さんに聞いてみた

 

「お爺さん! 私達に船を作ってください!」

「駄目じゃ」

「なんで!?」

「まだ何か足りないのか…?」

 

しかしお爺さんは断ったためアスナは驚いており、キリトさんは何かが足りないのかと言った

 

「ワシはもう船大工を辞めた…」

「そこを何とか…!」

「いや… 正確には()()()()()()()んじゃ」

()()()()()()()…?」

 

お爺さんは船大工をやめたと言ったのでアスナは必死にお願いしたがまだ続きがあったみたいで()()()()()()()と言ったため私は質問した

 

「水運ギルドの奴らに船づくりに必要な素材を独占されてしまったからな… ギルドに所属しない職人には資材は手に入らんのじゃ」

「水運ギルドには掛け合ったんですか?」

「勿論じゃ だが奴らはゴロツキ共をたんまりと雇っておってな… そこからはまぁお察しの通りじゃ」

 

お爺さんがそう答えるとておさんが質問したがお爺さんはもう掛け合ったが話が通じなかったと答えた…

 

私達がお爺さんの話を聞くとキリトさんはお爺さんに訊ねた

 

「じゃぁ… 俺たちが船づくりに必要な材料を揃えられたら船を造ってくれますか?」

 

お爺さんはキリトさんの言葉を聞いていたが…

 

「良かろう 船造り自体は禁止されてないからの じゃが一筋縄ではいかんぞ?」

「分かってます 覚悟の上です」

 

ふとお爺さんがそう言ったのでキリトさんは覚悟を決めて承知するとクエストを受諾できたみたいだった

 

「まずは街の南東にある{熊の森}へ行き、〖熊の脂〗を採ってこい」

「{熊の森}か…」

「SAOの熊って強いの?」

 

お爺さんはまず最初に{熊の森}へ行き、〖熊の脂〗を採ってこいと言ったのでキリトさんが呟くとアスナはこの世界の熊は強いのかとキリトさんに質問した

 

「いや そこまで強くないけど…」

「けど?」

「ヌシがいるらしいんだ」

「ヌシ…?」

 

キリトさんは熊はそこまでだと言ったがまだ続きがあるみたいでアスナがその部分を聞くとキリトさんはヌシがいるらしいと言ったのでておさんがヌシについて聞いていた

 

「俺も見たことないから詳しくは知らないんだけどな」

「タコミカは見たことないの?」

「私も見たことないね…」

「ただβ時代の噂によれば1パーティでも勝てなかったらしい…」

「それは中々の強さね…」

 

キリトさんも詳しくは知らないらしいためアスナは私にも聞いてきたが私もヌシなんて見たことない

 

そんな中キリトさんはβの噂によれば1パーティでも勝てなかったと言うとアスナは想像したのかそんなことを言った

 

「〖ヌシの脂〗があれば最高の船が造れるんじゃが… そこまで高望みはせんよ」

「ってさ… どうする?」

「決まってるじゃない」

 

ふとお爺さんが〖ヌシの脂〗があれば最高の船が造れると言ったのでキリトさんは私達に聞いてみるとアスナは少し笑いながら言うと答えた

 

最高のゴンドラを造りましょう!

 

そして私達はお爺さんから情報を聞いてから早速街を出ると{熊の森}へと向かった

 

 

 




次回は戦闘回になるかな…?

それではまた次回に


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6話:最高の一艇のために

今回のタイトルは原作を読んでる人だったらわかると思います

それではどうぞ

追記:UA4000突破しました! 本当にありがとうございます!


私達は{熊の森}で途中何回か熊を倒していた

 

「はぁ… 見つからないなぁ…」

 

私達は{熊の森}に行く前にお爺さんからヌシについての話を聞いてみるとどうやら4本の爪跡が縄張りの証らしいけどそれらしきものは今までにはなかった

 

「もう暗くなってきたし明日探すっていうのは…ないよなぁ…」

 

キリトさんがヌシ探しを明日にしようと提案している途中でアスナがキリトさんを睨んだので途中で言うのを諦めた

 

「話ではヌシって相当大きいんでしょ? 下ばっかり見てないでもっと上の方を探しなさいよ」

「あぁ…」

 

アスナがキリトさんにもっと上の方を探せと言うとキリトさんは返事をした

 

 

そして私達がしばらく探しながら歩いていると…

 

あぁぁっ!

「どうしたの!? キリト君!?」

 

キリトさんが突如として大声を上げたため私達がそちらの方を見てみるとキリトさんが()()水溜りにハマっていた

 

「またハマった…」

「またなの!?」

 

キリトさんがまたハマったと言うとアスナは驚きと呆れが混じった声を出した

 

「今回はかなり深いらしい…」

「全く… 手を貸せ…」

 

キリトさんがどうでもいいことを言うとておさんが引き上げようと手を出した

 

「というか3人は何でハマらないんだよ…」

「日頃の行いじゃない?」

「というかハマるのはお前が熟考してるからじゃないのか…?」

「案外ハマらないものですよ…」

「テオが一理あるかもしれないな…」

 

キリトさんが私達はなぜハマらないのかと聞くと私達はそれぞれ返した

 

その中でもておさんの意見に同意していた

 

「はぁ… せっかく乾きかけてたのに…」

「風邪はひかないけど 早いとこ見つけて帰りましょう」

 

キリトさんがまた濡れた服を持ち上げながら言うとアスナは早く見つけて帰ろうと言った

 

するとふとキリトさんはアスナに質問した

 

「なぁ…アスナ どうしてそこまで最高の船にこだわるんだ?」

「どういうこと?」

「確かに気持ちは分かるけど武器と違って船はこの層を抜けると使うことはない」

「そうね…」

「そうだとわかっていても最高にこだわる理由が知りたいんだ」

 

どうやらキリトさんはアスナが最高の船にこだわる理由が知りたいらしい

 

 

「ねぇ3人共 あのお爺さんのことどう思った?」

 

アスナは私達に唐突に質問してきた

 

「うーん… 仕事をしない飲んだくれのお爺さん…?」

「俺は昔は凄腕だったけどギルドの件をきっかけに引退したお爺さんかな…?」

「私もておさんと同じような感じかな…」

 

私達はあのお爺さんの感想を述べた

 

「まぁそうね… でも私は少し違うの」

「どういうこと?」

「私はあのお爺さんはあんな態度だけどクエストが受注できた時の顔は船が好きで好きで仕方ない人の顔だった きっと最も船を造りたがっているのは他でもないあのお爺さん自身だと思ったのよ」

 

するとアスナは少し違うと述べたので私はどういうことかと言うとアスナは理由を説明し始めた

 

そして私達に向くと

 

「だから私は最高の船を造らせてあげたいの」

 

アスナはあのお爺さんに最高の船を造らせてあげたいと言った

 

そしてその熱意が伝わったのかキリトさんは口を開いた

 

「…そっか ならここから先は一切妥協しないからな」

「私達もやるよ」

「あぁ」

「こっちのセリフよ でも3人共ありがとう」

 

それに倣って私達もやると言うとアスナはお礼を言いながら拳を出したため私達は拳を合わせた

 

「さぁ! 行くわよ!」

「ちょっと待ってくれ」

 

私達が改めてヌシ探しに行こうとしたらキリトさんが少し待ってと言った

 

「何か匂うもの持ってない?」

「はぁ!?」

 

キリトさんがそんなことを聞いたためアスナは怒った…

 

「やる気を出したと思ったらなんて失礼なことを言うのよ!」

「流石に今回は看過できませんよ…」

「あっ… いや! そういう意味じゃなくて匂いの強い食材系のアイテムを持っていないか?」

「前も言ったけどはじめっからそういえよ…」

 

アスナが怒りながら、私は呆れてキリトさんに対して言うとどうやらにおいの強い食材系のアイテムが欲しかったらしい…

 

ておさんが最初っからそう言えと言ったので私は心の中で同意した

 

「テオ君の言う通りよ あなた語弊を生むような言い方が多いわ」

「なるべく言い方に関して努力します…」

 

アスナもキリトさんに注意するとキリトさんは努力すると言った

 

 

「それで…何かあったか?」

「私は布系統とか武器の素材が多いですね」

「俺は食材自体持ってないな…」

「そうね… あっ! 1つだけあったわ」

 

改めてキリトさんが何かないかと私達に聞いたが私とておさんはそもそも食材を持っておらずアスナも無さそうかと思ったが1つだけあったらしくメニューを操作して素焼きの瓶を取り出した

 

「あっ! それって『逆襲の雌牛』の!」

「おー! 懐かしいな!」

 

私達はその小瓶に見覚えがあった… 私とておさんが第1層の頃を思い出しているとキリトさんも見覚えがあるらしく反応していた

 

「あの後アスナもやったんだな あのクエス〔ビュン〕」

 

キリトさんが何かを言いかけたがアスナによって近くの樹に壁ドンされたため中断せざるを得なかった

 

私とておさんはその様子を見てビックリした… まだ樹から煙が出てるし…

 

「それでキリト君 使うの? 使わないの?」

「よ…喜んで使わせていただきます!」

 

アスナが黒い笑顔を浮かべながら言ったためキリトさんは即答してアスナから瓶を受け取った

 

 

「それでそれをどうするのよ?」

「聞いたことがあるかもだけど 熊って犬より鼻が利くんだ」

「なんか聞いたことあるな 確か3キロぐらい離れてても匂いがわかるって」

 

アスナがそれをどうするのかと聞くとキリトさんは熊が犬より鼻が利くと話すとておさんは聞いたことがあると言った

 

「ということはクリームの匂いでおびきだす作戦か?」

「そう 甘い匂いもかなり反応するらしいからな」

「へ~」

 

そしてておさんがクリームでおびきだすのかと聞くとキリトさんはそうだと答え、風向きを確認した

 

「向こうから風が吹いてるからこのあたりの樹に塗れば…」

 

キリトさんがそう言いクリームの瓶の蓋をタップすると消滅した…

 

「あぁ… 最後だったなんて…」

 

するとアスナはその場にへたり込んでしまった

 

「ご…ごめん! あとでなんでも奢るから!」

「本当になんでも…?」

「良識内で頼みます…」

 

それに対してキリトさんが謝りなんでも奢ると言うとアスナは顔を上げて本当になんでも奢るのかと聞くとキリトさんは良識の範囲内でお願いしますと答えた

 

そんな2人のやり取りを見ている間にふと上を見ると爪痕があった…

 

「あ… あれヌシの爪痕じゃないですか?」

「ほんとだ」

「じゃぁここに塗っておけば…」

 

私がそれを指さしながら言うとておさんが反応し、キリトさんが爪痕のあった樹にクリームを塗った

 

そんな時アスナが質問した

 

「あんなところを引っ掻く熊って何…?」

「そりゃぁ立ち上がると8メートル程度ある熊だろ」

「それ答えになってな…」

 

キリトさんがそう言ったので私は答えになってないと言おうとすると突然思い地響きが聞こえてきた…

 

そのため私達がそちらの方をゆっくりと向くと灰色の毛皮に狂暴そうな目と牙に巨大な爪におまけに黒く鋭い…角が生えている熊っぽい巨獣が出てきた

 

「あれって熊ですかね?」

「熊じゃないと思う」

 

私がキリトさんに質問するとキリトさんは熊じゃないと答えた… うん あれは熊じゃない

 

深紅色のカーソルが出てきたので名前を見てみると【マグナテリウム】とあった…

 

「あの図体ならそんなに素早く動けないはずだ だから常に間に樹を挟んで突進できないようにするんだ」

「「「了解!」」」

 

キリトさんが推測すると私達はそれに応じた

 

 

少し様子を見ていると【マグナテリウム】は低くうなり始めて息を吸い始めた…

 

「まずい! 逃げるぞ!」

「え!? なんで?」

「ブレスです!」

「わ…分かった!」

 

キリトさんと私がそう言うとアスナも分かったみたいで私達の後を着いて走った

 

「あの水溜りだ!」

「お! ナイス! あそこに飛び込め!」

 

ておさんが泉を指さすとキリトさんはそこに飛び込むように指示を出し、私達はそこに飛び込んだ

 

そして私が泉に飛び込むと水上が明るく光って水温が上がった気がした

 

 

しばらく経つとキリトさんが上に指を指したため私達は様子を見てみることにした…

 

少し水面から顔を出して様子を見ると辺り一面が焼け野原になっていた

 

「うわぁ…」

「あれは喰らったらやばかったな…」

 

アスナとキリトさんが感想を述べていると【マグナテリウム】が硬直しているのが見えた

 

「よし! 硬直している今のうちに…!」

 

そうキリトさんが言うと私達はすぐに水溜りからあがった

 

「…で どうするの?」

「今倒さないにしてももう少し情報が欲しいな…」

 

アスナがどうするのかとキリトさんに聞くとキリトさんはもう少し情報が欲しいと言った

 

そしてキリトさんは少し考えると何かをひらめいたみたいで手のひらを叩いた

 

「ちょっと全員集まってくれ 作戦会議だ」

「なんですか?」

 

~~~~~~

 

私達はキリトさんの話を聞くとそれを実行することにした

 

「危なくなったら街まで逃げる! それでいい?」

「了解! じゃぁ行くぞ!」

こっちだ! デカブツ!

 

アスナが危なくなったら街まで逃げることを条件に作戦を開始した

 

まずておさんが大声を出し、【マグナテリウム】を誘導した

 

そしてまたブレスを放とうとした時キリトさんがすぐに股を潜り【マグナテリウム】のしっぽに攻撃するとかなり効いているみたいだった

 

予想通り!

 

そんな時【マグナテリウム】がておさんに向かって突進し始めた

 

あっ! テオ! 避けろ!

「うおっ!?」

 

キリトさんがておさんに向かって叫ぶとておさんはギリギリのところで回避したため【マグナテリウム】は思いっ切り樹に激突した

 

「あっぶな…」

「大丈夫か!?」

「ギリギリな」

 

ておさんとキリトさんがそんなことを話していると私は【マグナテリウム】の激突した樹が折れて、回収できそうだった

 

「あっ! 丸太回収を…!」

「私行ってくるね」

 

そしてアスナが丸太を回収して戻ってきた

 

「どうだった?」

「ちゃんと拾えてストレージにも入ったわ」

「キリトさんの読み通りでしたね」

 

私がどうだったかというとアスナはしっかりと回収できたみたいだったのでキリトさんの読み通りだったと答えた

 

 

~~~~~~

 

 

そこから私達は【マグナテリウム】を樹に突進するように誘導して〖銘木の芯材〗を必要数回収できた…と思うのであとは【マグナテリウム】を倒すことにした

 

「あとはヌシ熊だけだけど… 連続して同じ泉は使えないよ?」

「あっちに泉が近い距離に4つ集まっているところがあったわ 順番に使えばブレスを回避し続けられるかも」

「いつ見つけたの…」

 

私があとはヌシ熊だけだと言うとアスナは遠くを指さしながら言ったので私は素で聞き返した

 

 

そんな時にふとキリトさんから声がかかった

 

「ヌシ熊と戦うのは良いんだけどさ これだけは約束してくれるか? 俺が逃げろって言ったら反論せずに即座に逃げるって」

「分かったわ」

「分かりました」

 

キリトさんが真剣な表情で逃げろと言ったら反論せずに逃げてほしいと言ったため私達はその真剣さをくみ取り了承した

 

「じゃぁ行くぞ! タイミングはその都度指示するから!」

「「「了解!」」」

 

キリトさんが行くぞと言ったため私達もそう言って突撃して行った…

 

 




タコミカは将来的には裁縫スキルを取得予定です

それではまた次回に


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7話:いざゴンドラ造り!

テオロングはデザインやファッションにはあまり気は使っていません

それではどうぞ




私達はボロボロになってお爺さんの元へと戻ってきた

 

「どうした? そんなボロボロになって… さてはヌシ熊にやられたな? 若いのぅ! たった4人で勝てるわけなかろうに!」

 

私達はメニューを操作してゴンドラ造りに必要な素材をオブジェクト化した

 

「なぁに恥じることはない! 今まで多くのヤツらがあいつに屠られておる! 生きて帰ってきただけでも幸運じゃ…なんじゃと…!?」

 

お爺さんもオブジェクト化したアイテム群に気づいたようで大変驚いていた

 

「この匂い… 間違いない… ヌシ熊の脂じゃ… 毛皮に爪に材木に至るまで… 全て最高級品じゃわい…!」

「お爺さん これで素材は足りますか?」

「あぁ… おぬしらの熱意… 十分に伝わったわい… よかろう…」

 

お爺さんがそれらを手に取り品質を確認しているとアスナがこれで素材は足りるかと聞くとお爺さんは体を震わせながら答えた

 

そしてお爺さんが自分の親指で自分を指さしながら自信満々に言った

 

「この老いぼれが全身全霊をかけておぬしらに最高の船を用意してやるわい!」

「「「「よろしくお願いします!」」」」

 

私達はそれに対して全力で答えた

 

 

「またこいつを握る日が来るとはな…」

 

お爺さんはそう言いながら準備を進めていった

 

 

「では造りたい船の仕様を決めてくれ」

 

そしてお爺さんはそう言うとメニューウィンドウが出てきた…

 

「嘘… これって…」

「ほんとに…?」

「「最高じゃない!」」

 

アスナと私はメニューを見ると同時に声を出した

 

「決められることが多くて迷うわ!」

「どれにしよっか? これもいいかも…」

「それもいいわね! あぁ…どうしようかしら…」

 

私達が話し合っているとキリトさんが声をかけてきた

 

「テオともさっき話し合ったけど仕様は2人に任せるよ」

「「いいの!?」」

 

キリトさんとておさんは仕様は私達に任せると言ったため私達は思わず聞き返した

 

「じゃぁ遠慮なく! 船体は白がいいけどただの白っていうのも味気ないし…」

「パールホワイトもいいけど真珠色もいいよね…」

「私はアイボリーを基調にするっていうのもいいと思ったけど…」

「アイボリーか~ 良いかも! メインの差し色はどうする?」

「緑もいいけど… どの緑にするかよね…」

 

私達が案を出し合って最後に船の名前を決めようという段階になった時にアスナがキリトさんとておさんに向かって話しかけた

 

「ねぇ 2人共 これだけは決めておきたいんだけど…」

「どうしたんだ?」

「船の名前についてだけど…」

「ネーミングに自信はないしアスナに任せるよ」

「俺もだな…」

「もう…」

 

ておさんがどうしたのかと聞くとアスナは船の名前についてだと答えたけど2人共アスナに任せると言ったためアスナは呆れていた

 

「パーティの共有なんだからもっと真面目に… でも私ふと思い浮かんできた名前があるの」

「へぇ… どんなの?」

「海外とかだと船の名前に女性の名前を付けることがあるっていうのを思い出して… キズメルの妹さんの名前を付けたらどうかなって思ったんだけど…」

 

アスナがふと思い浮かんだ名前があると言ったのでキリトさんが聞くとアスナはキズメルの妹さんの名前を付けたらどうかと私達に聞いてきた

 

「いいんじゃないか? 確か…ティルネルさんだったか?」

「でも…キズメル怒らないかな? 妹さんの名前を勝手に使って」

「まさか きっとキズメルだったら喜んでくれると思うよ」

 

ておさんが妹さんの名前を確認するとアスナはキズメルが怒らないかと不安に思っていたためキリトさんはキズメルだったら喜んでくれると言った

 

 

そしてアスナがティルネルさんの名前の綴りを1文字ずつ入れていってすべて入れ終わったときに私達を手招いた

 

「綴りってこれで合ってるかな…?」

「合ってるはずだよ」

 

アスナがキリトさんに綴りはこれで合っているかと聞くとキリトさんは頷いた

 

「ならこれで完成ね!」

「ちょっと待ってくれ」

「どうしたの?」

「まだ未記入の項目がある」

 

アスナが決定のボタンを押そうとするとキリトさんは止めに入ったためアスナはどうしたのかと聞くとキリトさんはまだ未記入の項目があると言い、その部分に指を指した

 

「あぁ…オプション装備のメニューね でもその欄私とタコミカが確認したけど何も出てこなかったわよ?」

「念のために俺も確認させてくれ」

 

アスナがそこには何も出てこなかったと言うとキリトさんは確認させてと言ったためアスナはキリトさんにウィンドウの操作を変わった

 

「えーっと…? 〖炎獣の衝角〗?」

「それってあのヌシ熊の…?」

「衝角って昔のガレー船についてたツノのことよね? それが何でゴンドラに…?」

「つけられるっていうことは必要になるっていうことじゃないのか…?」

 

私達が疑問に思っているとキリトさんがておさんの疑問に注目して話した

 

「必要なのかどうかは分からないけどな でも俺が操作を変わってから出てきたっていうことは素材を持っていないと出てこないオプションみたいだし…」

「いっそのことお爺さんに聞いてみたらどうですか?」

「確かに聞いてみるのもありかもな…」

 

キリトさんが悩んでいたため私はいっそのことお爺さんに聞いてみたらどうかとキリトさんに提案してみた

 

「あの… ロモロさんオプションの衝角って必要ですか?」

「街中で乗るだけならそんなもんは必要ないわい …じゃが 街の外へ漕ぎ出すつもりなら必要になるかも知れんな まぁ付けるかどうかはおぬしらの好きにすればええ」

 

実際にキリトさんがお爺さん改めロモロさんに聞いてみると街の外まで漕ぐつもりだったら必要になるかもと言ったが最終的には私達に任せると言った

 

 

ロモロさんの話を聞いて私達はしばらく顔を見合わせていたがふとアスナが口を開いた

 

「…アイテムを持ってるのはキリト君なんだしキリト君が決めていいわよ」

「いいのか?」

「他の事は私達が決めさせてもらったし 1つぐらいだったら譲るわ」

 

キリトさんがいいのかと聞き返すとアスナは1つぐらいは譲ってあげると返した

 

「…俺としては折角のゴンドラに武器を付けるのはどうかと思うけど 付けなかったせいでモンスターによって沈んじゃったら元も子もないしヌシ熊からドロップしたのも何かの縁かも知れないからここは付けておこうか」

「ですね」

「それに衝角は喫水線の下に取り付けるだろうから普段は見えないはずだしな」

「そうね」

 

少し悩んだキリトさんはどうやら取り付けることに決めたらしいため私達は賛成し、それに付け加えるようにしてキリトさんは普段は衝角は見えないだろうと言い添えるとアスナも同意した

 

「じゃぁ衝角アリにしてっと…」

 

キリトさんが衝角の設定をアリにすると私達を呼んで全員で決定ボタンを押した

 

すると机の上に広げてあった羊皮紙に設計図が描かれていった

 

それをロモロさんが物々しい動作で持ち上げると頷いて言った

 

「それではワシはこれから下の工房に籠るでな 完成したら呼んでやるから大人しく待っとれ」

「はーい」

 

ロモロさんはそう言うと工房へと向かうため道具置き場へと向かっていった…

 

どうやら道具置き場はエレベーターになっていたらしく、私が返事をしてしばらくすると重い振動がした

 

 

そしてキリトさんが伸びをしながら言った

 

「今日は長い一日だったな~」

「船ってどれぐらいで完成するのかしら…?」

「現実じゃぁ何ヵ月もかかるんだろうけどこっちじゃぁ長くても1日…短くて3時間から5時間ぐらいなんじゃないか?」

 

アスナがどのぐらいで船ができるのかとキリトさんに聞くとキリトさんは長くて1日、短くて3~5時間ぐらいじゃないのかと答えた

 

「じゃぁ宿に戻るのは二度手間か…?」

「そうですね」

 

ておさんがそれを聞いて宿まで戻るのは二度手間かと聞いたため私はそうだと言った

 

「俺はその辺の床で寝るから2人は揺り椅子使ってテオは机使えよ」

「でも…」

「こっちは気にしないでくれ 迷宮区で野営することも考えれば屋根があるだけ十分だしどこでも寝られるのは俺のシステム外スキルだから」

 

するとキリトさんは床で寝て私達は揺り椅子を使ってておさんは机を使ってくれと言ったのでアスナは何か反論しようとしたらキリトさんは大丈夫だと答えた

 

「確かに揺り椅子は詰めれば2人は行けるでしょうけど…「じゃぁおやすみ!」」

「ちょっと!?」

 

アスナが何かを言おうとしたがておさんが机の上に寝転がったため私達は顔を見合わせた

 

「…分かったわ じゃぁ私達はお言葉に甘えて先に休ませてもらうわね」

 

アスナは諦めた様子で先に休ませてもらうと言うとレイピアをストレージへとしまい、揺り椅子へと向かっていったので私も両手剣をストレージにしまうと揺り椅子へと向かって行ってアスナの隣に座った

 

 

そして私達は揺り椅子の揺れ加減が良かったのかそのまま眠りについた…

 

 

 




タコミカはファッションについては結構しっかりしています(プロローグでもあったように親がファッション関連の仕事をやっているのと個人的にも好きなため)

それではまた次回に


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8話:いざ出航!

最近スランプ気味なのかな…

それではどうぞ




私はしばらく眠っていたがふとアスナの「ほりゅん!?」という声で起きた

 

「さっきの音…このウィンドウ…? 何なの…?これ…?」

「クエストログが進行したんだよ… あれ…?」

 

どうやらアスナには何かの音とウィンドウが見えているらしい… そのことをキリトさんに対して質問するとキリトさんはクエストが進行したんじゃないかと言ったが直後に違和感を抱いたらしく考えていた

 

「じゃぁ消していいのね?」

「ま…待った! ストップ!ストォォップ!!

「ど…どうしたのよ!?」

 

アスナがウィンドウのちょうど×マークがあると思われる場所に人差し指を伸ばそうとするとキリトさんが大声を上げて止めたためアスナは驚いて右手を引っ込めた

 

キリトさんの大声に驚いたのかておさんも飛び起きた

 

「それ押さないでくれ!」

「え? えーっと…?」

 

キリトさんが必死に言うとアスナはそんなキリトさんを見てからウィンドウに注目した

 

「…ハラスメント防止コードによる強制転移の発動って…」

 

どうやらキリトさんはアスナに対して何か良からぬことをしたらしい

 

「貴方 私が寝ている間に何したのよ!?」

「何もしてないよ! ただ起こそうとしただけだ!」

「ただ起こそうとしただけで防止コードが発動するわけないじゃない!」

「大体アスナがすぐに起きないのが悪いんだろ!」

「というか起こすんだったら先にテオ君起こしなさいよ!」

「もうやったさ! でもなかなか起きないから先にアスナを起こしたんだよ!」

 

2人が不毛な言い合いをしていたので私は少しだけ疑問に思った部分をキリトさんに質問してみた

 

「キリトさんのおっしゃる通りならなんか防止コードの発動の順番が変じゃありませんか?」

「というと?」

「確かハラスメント防止コードって不適切な接触するとまず手が弾かれてそちらに警告が出てそこからさらにしつこく続けるとようやく強制転移が発動…じゃありませんでしたっけ?」

「言われてみればそうだったような…」

 

私が防止コードの発動の順番が変だと言うとキリトさんは聞いてきたので私が自分の記憶を辿りながらハラスメント防止コードの説明をするとキリトさんはそうだったかもしれないと答えた

 

「…もしタコミカの言うとおりだったら先に貴方に警告が出るはずよね?」

「それが出なかったんだよ…手も弾かれなかったし…だからそのまま起こそうと肩を揺らしてたらいきなりアスナが跳び起きたんだよ」

「ふーん…?」

 

アスナがもし私の言う通りだったらキリトさんに警告メッセージが出るはずだと言うとキリトさんは出なかったのでそのまま起こそうとしたら起きたと言ったためアスナは納得していた

 

 

そしてじっくりと考えたアスナは肩をすくめて言った

 

「コードを発動させますか以外には何も書かれていないわね… ひとまずノーを押せばいいのね?」

「お願いします…」

「はい 押したわよ」

 

キリトさんがそう言ったのでアスナはノーを押したらしく、キリトさんは安堵の息を吐いた

 

そんなキリトさんを見たアスナは呆れた様子だったけどおもむろに揺り椅子から立ち上がった

 

「このことはあとでアルゴさんに相談するとして…あなた寝なかったの?」

「いや…まぁ 少しはウトウトしてたけど…」

「どこで?」

「そこの丸椅子で」

「へぇ…」

 

キリトさんは少しウトウトしていたと言うとアスナはどこでと質問したのでキリトさんは揺り椅子の近くにあった丸椅子を見ながら言ったのでアスナは納得した

 

「それで… どうしてハラスメント防止コードが出るまで頑張って私を起こそうとしたの?」

「船が完成したからだよ…」

 

アスナが話題を戻してキリトさんに聞くとキリトさんが船が出来上がったのでアスナを起こそうとしたと言うとアスナはすごい勢いで自分のクエストログを確認し、目を輝かせた

 

「それを早く言いなさいよね!」

「言ったもん… 最初に…」

 

アスナが早く言えと言ったらキリトさん少しいじけながら言った…

 

私とておさんも体を起こすとアスナはおもむろに玄関に向かいかけたがすぐに方向転換した

 

「そういえばログには工房に行けって書いてあるけどここが工房じゃないのね」

「そういやそうだな じっちゃんが戻ってくる様子もないし…」

「さっきエレベーターが動く音がしませんでしたっけ?」

 

アスナがログを見ながら言うとキリトさんもロモロさんが戻ってくる気配がないと言ったため私がエレベーターが動く音がしたと言うとておさんは道具部屋の方の扉を開けた

 

「3人共 こっちっぽいぞ」

 

ておさんがそう言ったため私達は道具部屋に入っていった… するといかにも引いてください的なレバーがあったので私がそれを引くと大きな振動に続いて道具部屋全体が下降していった

 

そして揺れが収まったのでアスナは扉を開けた

 

「わぁ…!」

「おぉ…!」

 

扉を開けたそこには小さな工場みたいな空間があった

 

空間全体が石張りで巨大な作業台や木製のホイスト機などもあるが私達が一番注目したのは中央にあるプールもといドックだった

 

それは済んだ水で満たされており、幅5メートルほどの水路が正面の大扉まで延びている…恐らく街の水路に出るのだろう

 

するとアスナはゴンドラの元へ走り出したため私達もゴンドラの元へと向かった

 

そこにあったゴンドラは船体はアイボリーホワイトで船縁や船首飾りはフォレストグリーンで塗られていた

 

船の座席含む内部は一番悩んだけど話し合ってブラウン系統にした

 

私達がしばらく船体に流麗な書体で記されている《Tilnel》という船名をしばらく眺めているとキリトさんはロモロさんに向いた

 

「いい船を造ってくださってありがとうございます ロモロさん」

「ワシも久々に満足のいく船ができたわい」

 

ロモロさんは満足げにそう言うと「じゃが!」と言い、付け加えた

 

「この老いぼれの尻を叩いて働かせたんじゃ! 簡単に沈めたら承知せんからな!」

「沈めませんよ! この船の素材を集めるの大変だったんですから!」

 

アスナは瞳をキラキラさせながらロモロさんに対して言った

 

「大切に乗ります! ありがとう お爺ちゃん!」

 

アスナがロモロさんに対してお礼を言うとロモロさんはまんざらでもなさそうに鼻を鳴らし、後ろに少し下がった

 

「今からその船はお前さん達のものじゃ 今から水門を開けてやるからどこへでも漕ぎだすが良かろう!」

「はい!」

 

ロモロさんがそう言ったのでアスナは返事をするとゴンドラに飛び移ったため私達もゴンドラに乗り、そしてキリトさんがゴンドラに乗ろうとするとふと足を止めた

 

「ちょっと待った…待ってください この船の船頭さんってどこにいるんですか?」

「船頭? そんなもんおりゃせんよ」

 

キリトさんが船頭はどこにいるのかと聞いたがロモロさんはいないと答えた

 

「じゃぁどうやって動かせば…?」

「決まっておろう お前さんがそこに立って漕ぐんじゃよ」

「え!?」

 

キリトさんがじゃぁどう動かせばいいのかと聞くとロモロさんはオールをキリトさんに投げた

 

キリトさんが説明を聞いている間、私はアスナと話をしていた

 

「因みにゴンドラの船頭さんは男性の場合はゴンドリエーレっていって女性の場合はゴンドリエーラっていうのよ?」

「へ~」

 

そうしているとキリトさんが説明を聞き終わったのか船に乗った

 

するとアスナがキリトさんに向かって笑顔で言った

 

「安全運転よろしくね! ゴンドリエーレさん!」

「は…はい…」

 

キリトさんが困ったように返事を返すとロモロさんはレバーの前に向かった

 

「準備はええか? 開けるぞ?」

「行くぞ! 3人共! しっかり掴まってろよ!」

「はーい」

 

ロモロさんが水門を開けるためにレバーに手をかけそれを引き、キリトさんが私達に対して声をかけるとアスナから緊張感ゼロな返事が返ってきた

 

そして水門が開き切ったところでキリトさんが深呼吸をすると

 

ティルネル号発進!

 

そう叫び、(かい)を前に倒して進み始めた

 

それも束の間ゴンドラが左に傾き始めた

 

「キリト君 左! 左に寄ってる!」

「えっ!? 左?」

 

アスナが咄嗟に叫びキリトさんが反応して慌てて舵を左に切ったので船はますます左に寄った

 

「逆です! 右に!」

「み…右?」

 

私の呼びかけでキリトさんはすぐさま右に舵を切ったがドックの壁に少し擦ってしまった

 

「大丈夫なのか…?」

「大丈夫…じゃないと思う…」

 

ておさんが大丈夫なのかと聞いたらキリトさんは不安そうな声で大丈夫じゃないと答えた…

 

しばらく様子を見ていたがようやくまっすぐ進み始めたためアスナと私は手を振りながらロモロさんに挨拶をした

 

「お爺ちゃん また来ますねー!」

「ロモロさんお元気で~!」

 

そしてキリトさんが櫂を倒して右に曲がり、思いっきり漕いだ

 

朝靄をかき分けながらゴンドラが加速するとアスナは両手を広げて叫んだ

 

「気持ち良いね~! このまま街の外まで行ってみようよ!」

「いきなり外はどうかな… ちょっとだけ練習をしたいかなーなんて…ほら船を出来て早々沈めたらロモロさんに大目玉喰らいそうだし…」

 

キリトさんがもう少し練習したいと言うとアスナは少し不満そうにキリトさんの方を向いたがしぶしぶ了承した

 

「分かったわよ… じゃぁ街の水路を適当に走ってよ」

「アイアイサ~」

 

キリトさんが返事をしたのも束の間、前から船影が見えてきたためキリトさんは咄嗟に櫂を右に傾けたがやっぱり反応が遅く、わずか左数センチのところを大型船がすり抜けていった

 

「あぶねぇぞ! 気ぃつけろ!」

 

と大型船の船頭さんに怒られてしまった…

 

「船が大きいからってあんなに怒鳴ることはないじゃないの」

 

アスナが怒りながら言うとキリトさんがそれをなだめた

 

「まぁまぁ… きっと船が接近しすぎるとああ言うように設定されてるんだよ」

「じゃぁ ぶつけてたりしてたらもっと言われてたな…」

「多分な…」

 

ておさんがもし船をぶつけたりしたらもっと言われてたかもと言うとキリトさんはそれに賛同した

 

その直後に私達のゴンドラと同じぐらいのサイズの小型船が凄いスピードで左側を追い抜いて行った

 

「邪魔だ! のろのろ走ってんじゃねぇぞ!」

 

そのゴンドラの船頭さんはそう言い残すと朝靄の中へと消えていった…

 

「何今の! キリト君! あのゴンドラ追いかけて!」

「無理だよ… あんなスピードで走ったら絶対に曲がれない…」

 

それにアスナは憤慨したがキリトさんはゴンドラを追いかけることを却下した

 

いや…待てよ…?

 

キリトさんが櫂を慎重に動かしながらそう呟いた

 

 

しばらくするとキリトさんは唐突にクエストウィンドウを開いた

 

そしてその内容を確認するとゴンドラを180度旋回させ、私達に向けて言った

 

 

「悪い3人共! 1回じっちゃんのところに戻る!」

 

そこからキリトさんはすごい勢いで櫂を漕ぎ始めた

 

 




この小説ではアイボリーホワイトはアスナの案でフォレストグリーンはタコミカの案です

それではまた次回に


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9話:揉め事×揉め事=…?

そろそろ小説のストックがなくなりそう…

それではどうぞ




ロモロさんの元へ戻り話を聞いた後、私達は再び水路に漕ぎ出していた

 

「なんだかはっきりしない話だったわね…」

「だよなぁ でもクエストは続いてるからな…」

 

アスナとキリトさんはそう言うとアスナはあくびをしたのでそれにつられて私もあくびをし、それにつられたのかキリトさんもあくびをした

 

「そういえばお前って寝てなかったな…」

「そういうテオは眠くないのか?」

「熟睡だったからな どうする? いったん宿屋に戻るか?」

「そうだな 中途半端な情報をアルゴに流すわけにもいかないし… 調査を続けるためにもいったん戻ろうか」

 

それに対してておさんはキリトさんに思い出したように言うとキリトさんはておさんに質問するとておさんは熟睡だったと答えた

 

加えてておさんはいったん宿屋に戻るかとを提案するとキリトさんはそれに賛成した

 

「2人もそれでいいか?」

「いいわよ」

「大丈夫ですよ」

 

キリトさんはアスナと私にそれでいいかと聞いたため私達は大丈夫だと答えた

 

 

そこからしばらく船に揺られていると前に大きな岸壁が見えてきた

 

そしてキリトさんは正面にある船着き場の桟橋の1つにバックで何とか横付けするとアスナは「お疲れ様」とキリトさんを労いながら立ち上がると今気づいたかのように言った

 

「…ねぇ? ティルネル号ってストレージに入れられないんでしょ? 降りるときはどうするの?」

「取説によればアンカーを沈めるか舫い綱をビットに掛けておけば船はそこから動かなくなるって書いてあるな 固定状態を解除できるのは所有者だけだから盗まれる心配はしなくていいと思う…多分…」

「そこは断言してよ…」

 

キリトさんがウィンドウを確認しながら言ったが、最後に曖昧になったためアスナは少し不満顔になりながらも頷いた

 

アスナは船首に巻いてあったロープを手に取るとキリトさんに聞いた

 

「舫い綱ってこれかな?」

「だと思う」

「じゃぁビットってあれのこと?」

「かな?」

「じゃぁ私がやってもいいかな?」

 

キリトさんがそうだと思うと答えるとアスナは桟橋の先に立つ太く短い柱を指さした

 

キリトさんがそうなんじゃないのかと答えると私に対して停泊したいと言ってきた

 

「いいよ」

「ありがと」

 

特に反対する理由もないため私がいいよと言うとアスナは短くお礼を言うや否や身軽に桟橋に飛び乗り、舫い綱の先にある輪っかを柱にかけると位置ロックされましたという旨のログが出てきたため私達は船を降りた

 

「なぁ アスナとタコミカは白と緑の組み合わせが好きなのか?」

 

ふとティルネル号を見たキリトさんは私達に対して質問してきた

 

「うーん… 個人的な組み合わせで言えば白と赤の組み合わせが好きかな」

「私は色の組み合わせで言えば暖色系と寒色系の組み合わせが好きかな…」

 

アスナが個人的な組み合わせで言えば白と赤の組み合わせが好きと答えたため、私は暖色系と寒色系の組み合わせが好きだと答えた

 

「安全とか衛生とかのシンボルマークって白地に緑色の十字でしょ? 薬師だったティルネルさんの名前をもらおうって思った時に自然にそのカラーリングが浮かんできたの…まぁそのカラーリングが通じるのは日本だけらしいしどんな白色と緑色にするかは決まってなかったけどね」

「そうか…」

 

アスナがティルネル号の配色の由来について話すとキリトさんはそう呟いた

 

「そろそろ宿屋に戻ろうか」

「そうだな」

 

もう朝日が差し込んできていたのでておさんはそろそろ宿屋に戻ろうと言うとキリトさんはそれに賛同した

 

キリトさんが大あくびをするとアスナもあくびをし、それにつられて私もあくびをした

 

「ふにゃ… 何時集合にしますか…?」

「10… やっぱり11時でお願いします」

「了解です」

 

私はキリトさんに対して眠たい目を擦りながら何時集合にするかと聞くとキリトさんは11時集合でと答えたので私は返した

 

 

宿屋に着くと私はチェックインをし、それぞれ別の部屋に入って私はベッドにそのまま倒れこむようにして眠った

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

そして目を覚ました時にはもう10時50分になっていたため急いで宿屋の1階へと向かった

 

そこにはもうアスナとておさんがいた

 

「おはようございます 2人共」

「おはようタコミカ」

「もうお昼だけどな…」

 

私達が挨拶を済ませるとキリトさんもやってきたのでご飯を食べるべく昨日向かった転移門広場の洋風の屋台のところにやってきた

 

すると何か騒がしい声が聞こえてきた

 

アスナも気が付いたみたいで呟いていた

 

「何かしら…?」

「俺は昨日タコミカが食べてた魚のフライ定食にしようと思ってるけど…」

「違うわよ あっち」

 

キリトさんは何にしようかと思っていたみたいだったのでアスナはキリトさんの後頭部を掴み、右に回転させた

 

「一応見に行ってみる?」

「そうだな」

 

アスナが様子を見に行こうかというとキリトさんはそれに同意し、私達は転移門広場の西側へと向かった

 

そこでは岸壁に詰めかけた人だかりが見えたけどこの先には船着き場しかないはず…

 

「なんだか私、嫌な予感がするんだけど…」

 

アスナがふとそう言ったためキリトさんは頷き私達はスピードを上げた

 

 

そして人垣の右端から様子を見るとやっぱりと言うかそこにはティルネル号があったがプレイヤーたちの注目を集めてるのはあからさまに見覚えのある2つの集団だった

 

2つの集団の先頭ではキバオウさんとリンドさんが言い争っていた

 

「相変わらず話の分からんニーチャンやな! ええか、この船を先に見つけたんはワシら[アインクラッド解放隊]や! ならこっちが先に調べるんは当然やろ!」

「先に見つけたと言うが責任者のあんたが来たのは俺より2分も遅かったじゃないか こちらはもう調査を始めていたんだ、言いがかりをつけるのはやめてもらおうか」

「なんやと!? そっちこそ難癖付けんのやめぇや! ワシらの見張りを無理やりどかしておいてようそんなこと言えたもんやな!」

「ここは圏内だ だから他人を無理矢理動かすことが出来ないことはあんたも十分わかってるはずだ! 言いがかりも甚だしいぞ!」

 

どうしよ…と私が考えているとアスナが口を開いた

 

「こういう時私なんて言ったらいいのか分からないわ…」

「素直な感想でいいんじゃないか?」

「うへぇ…」

 

キリトさんがアドバイスするとアスナは素直に感想を呟いた

 

「そろそろどうするか決めないとな…」

「どうするって 具体的には?」

「2つの案が一応あるにはあるんだ」

「どんな?」

 

キリトさんがどうしようか悩んでいるとておさんがキリトさんに対して質問したためキリトさんは一応2つの案を考えていると言ったためアスナはそれに対して質問した

 

「まず1つ目 このまま広場に戻って昼食を食べてほとぼりが冷めるのを待ってこっそり船を動かす」

「2つ目は何ですか?」

「2つ目はあの場所に割って入って造船クエストの内容を説明して納得していただく」

 

キリトさんは2つの案を説明したがどちらもあまり現実的じゃないと思った

 

「どっちもあまり現実的じゃないですね…」

「どうしてだ?」

「あんな様子じゃぁほとぼりも冷めないと思いますし説明したところで手伝えって言われるかもですし…」

「確かにあり得るかも…」

 

その為私がそう言うとキリトさんは質問したため私は理由を説明するとアスナは確かにあり得るかもと言った

 

「それに私気になることがあるの」

「気になること?」

 

アスナは気になることがあると言うとキリトさんが質問したのでアスナはティルネル号の方を見ながら話した

 

「あの船は今のところは移動不可(イモービル)オブジェクトのはずだけど破壊不能(イモータル)オブジェクトなのかなって」

「確かに…移動不可(イモービル)オブジェクトだからと言って破壊不能(イモータル)オブジェクトとは限らないからね…」

「そこはもう一度マニュアルを見ないと確信は持てないな…」

 

あの船が移動不可オブジェクトだから破壊不能オブジェクトなのかとアスナが質問したので私はそうとは限らないと言うとキリトさんも一度マニュアルを見ないと分からないと述べた

 

「ならあの人たちが叩いてみようとか言い出さないうちに船を動かしたほうがいいわね」

「ってことは3つ目の案の強行突破…?」

「悪目立ちするのは嫌だけどお互い時間を無駄遣いしないし良いと思うけど」

「了解 それじゃぁ俺たちは先に船に乗って出航の準備するからアスナはロープを柱から外してくれ」

 

それを聞いたアスナは船を動かそうと言ったのでキリトさんは強行突破するのかと聞くとアスナはそれがお互いのためになると言ったのでキリトさんはそう言い、私達はそれぞれ頷くとタイミングを合わせて船着き場へと飛び降りた

 

「すみません そこ失礼しまーす!」

 

キリトさんがそう言いながら[アインクラッド解放隊]と[ドラゴンナイツ・ブリケード]の間を通ると私達もその後に続いた

 

そして私達が船に飛び乗り、キリトさんが櫂を立てている間にアスナはロープを柱から外し船に飛び乗るとキリトさんは櫂を思いっきり漕いだ

 

するとリンドさんの声が聞こえてきた

 

「お…おい! お前たち その船どうやって…」

「造船クエストの詳細は現在調査中だからしばらく待っててくれ! 終わったら攻略本に載せるから!」

「待たんかい! ちゅうかまたお前らかい!」

 

キリトさんがあとで攻略本に載せると大声で話すとキバオウさんは両手を振り回して喚いたのでキリトさんは左手で手刀を切り、敬意を示すと一気にスピードを上げた

 

 




この小説ではティルネル号はしっかり四人乗りです

それではまた次回に


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10話:怪しげな取引

実は今回タイトルは前回のタイトルにしようと思っていたんですが案外長くなったので今回にまわしました

それではどうぞ


船を漕ぎだした私達は商業エリアへと向うと腹ごしらえと補給を終え、アルゴさんに何通かに分けてメッセージを送ると商業エリアを隈なく探索し、4時半ごろにそれらしい大型船を見つけた

 

私達はそれを気づかれないように追いかけてメイン水路を全く使わずに商業エリアを抜け南の水門から街の外に出ると細い天然水路を走り大きな滝を抜けると水没したダンジョンへとたどり着いた

 

 

 

~~~~~~

 

 

そこから約6時間ほど探索し、大蟹を何回か倒してもう少しで中枢部にたどり着きそうな時にまた扉を発見した

 

「右側に扉があるよ」

「どうせまた行き止まりかもだけど…」

「でも行き止まりにも宝箱ありましたよね」

「中身は錆びついた武器やら鎧やらだけどな」

 

私達が話をしているとアスナは「ストップ」と言い、素早く左手を突き出したためキリトさんは船を制止させた

 

「どうした?」

「この先に広い空間があるみたい それでそこから大勢の話声っぽいものが聞こえるわ」

 

キリトさんがどうしたのかと聞くとアスナは前に乗り出して様子を確認すると大まかな様子を私達に話した

 

「人の? それとも蟹の?」

「蟹って話しましたっけ?」

「喋る蟹もいるかもよ?」

 

それを聞いたキリトさんが冗談を言ったので私は呆れながらキリトさんに聞くとキリトさんは更に続けた

 

「ゆっくり近づいてくれ」

「分かった」

 

ておさんが私とキリトさんの話を無視して近づいてと言ったのでキリトさんは慎重に櫂を倒した

 

そしてその広い空間の入口ギリギリにティルネル号を停泊させると船首から様子を覗いた

 

すると私達の追いかけていた大型船を発見し、船に乗っていた水夫達が船に積んであった荷物を下ろして運んでいるのが見えた

 

「さっき船に乗ってた人たちが何かを運んでますね…」

「見て それだけじゃないみたい」

 

私がその様子を話すとアスナは取引相手と思わしき人たちを指さした

 

そこにいたのは第3層でも見たフォールンエルフだった

 

キリトさんもそれに気が付いたようで囁いていた

 

「あいつら…フォールンだ…」

「キリトさん キリトさん」

「どうした? タコミカ」

 

そこに私はβ時代どうだったのかを再確認するためキリトさんに質問した

 

「β時代ではここでフォールンに会わなかったんですか?」

「あぁ そもそもβじゃ涸れ谷だったし このダンジョンそのものがなかったよ」

 

キリトさんはそもそもこのダンジョンがなかったと言った

 

「ということはこのクエストはキャンペーン・クエストの一環? それとも単発物?」

「分からない βの時何回もフォールンエルフとは戦ったけどこうやって人間と協力してるのは見たことないよ」

「いやな感じね… 仮にあの水夫達が例の水運ギルドの人達だとしたら水運ギルドそのものがフォールンエルフたちと手を組んでるっていうことよね」

 

アスナがこのクエストについて質問するとキリトさんはこういう場面は今まで見たことがないと言ったためアスナは感想を述べた

 

 

少し私達が悩んでいるとておさんは「とにかく調べてみよう」と言ったので私達はそれに賛成した

 

そうこうしているうちに水夫達は最後の木箱を運び終えるとフォールンエルフから革袋を受け取り中身を確認すると満足げに頷いた

 

「…あの袋の中身は分かるわ」

「まぁ 現ナマだろうな… 恐らく2万コルぐらい…?」

「襲って奪おうって考えてないわよね?」

「まさか だって強そうだし」

 

アスナとキリトさんはその様子の水夫たちを見てそんなことを話していた…

 

そんな中4人の水夫達が船へと乗り込みそのうち2人が櫂を動かすと船が前進し、こちらに向かってやってきた

 

「こっちに向かってきた!」

「さっきの扉まで戻るぞ!」

 

アスナがそう言うとキリトさんはバックをしてさっき素通りした扉のところまで戻ってきた

 

「アスナ! 舫い綱を!」

 

キリトさんがそう言うとアスナは舫い綱をキリトさんに向かって投げるとすぐに柱へと結び、私達は急いで扉へと入った

 

扉の先は倉庫になっており、多種多様なものが置かれていた

 

「ねぇ 私達はここに隠れるとしても外にあるティルネル号はどうするの!?」

「何とか見つからないように祈るしか…!」

 

そんな中私はかなり大きめの布を見つけた

 

「皆さん! これで隠すっていうのは!?」

「そんなボロ布で隠せるわけが…ってこの説明文!」

 

ておさんにそう言われたので私も咄嗟に説明文を確認してみると周囲を水で囲まれた場所でのみこの布で覆ったものを見えなくすると書かれてあった

 

「タコミカ! パス!」

 

キリトさんがそう言ったのでキリトさんに〖アルギロの薄布〗を渡し、キリトさんは急いでティルネル号にその布を掛けに行って戻ってきた

 

「先にこの部屋を探索しておけばここまで慌てずに済んだのよね…」

「こういう寄り道も案外悪くないだろ?」

「しっ! 来るわ!」

 

アスナが少し後悔してたのでキリトさんはニヤりとしながら言ったがアスナに脇腹を小突かれていた

 

扉の隙間から外の様子を確認していると例の船がやってきたが隠されているティルネル号に気づく様子はなくそのまま通り過ぎていった…

 

 

「はーぁ… 私このスニーキング系っていうの? こういったクエスト嫌い…」

「同感…」

 

アスナはこういったスニーキング系のクエストは嫌いだと言ったので私もそれに同意した

 

「VRMMOだと緊張感がさらに増すな…タコミカがあの布に気づいていなかったら見つかってたよ」

 

キリトさんがそう言うとアスナはキリトさんに対してどうするのか聞いた

 

「どうするの? このままあの船追いかける?」

「多分<ロービア>に戻るだけだと思うし…」

 

そう言いながらキリトさんはクエストウィンドウを確認すると私達に言った

 

「やっぱりあの木箱の中身を調べる必要がありそうだ」

「そうなるわよね… つまりあのフォールンエルフがうじゃうじゃいそうな階段の先に忍び込むってわけね」

「じゃぁ継続っていうことになるけど3人共大丈夫か? もう場所も分かってるし疲れてるならいったん街に戻って続きは明日にするけど…」

 

アスナが少しだけ諦めた様子で言うとキリトさんは私達にいったん街に戻るかと聞いてきたが私は首を横に振った

 

「まだ大丈夫ですよ」

「心配ありがとう でも私も大丈夫よ」

「俺も大丈夫だ またここに来る道中で戦闘は避けたいしな…」

 

私達がまだ続けると言うとキリトさんは頷いた

 

「そうだな それじゃもうひと踏ん張りしますか…!」

 

そして私達が外に出るとキリトさんは手探りで〖アルギロの薄布〗を外した

 

「やっぱり耐久値が1割近く削れてるな… 低層フロア入手にしては便利すぎると思ったけど…」

 

キリトさんはそう言いながら自動的に畳まれた〖アルギロの薄布〗をラゲッジスペースに置きながら言うと舫い綱を外したアスナは腑に落ちなそうな顔をしながらキリトさんに質問した

 

「でも私達の後にこのクエストをやる人たちはどうするのかしら?」

「宝箱に入ってなかったようだし誰かがこのクエストをするたびに出現するんじゃないか?」

 

アスナの質問に対してキリトさんは誰かがこのクエストに挑むたびに出てくるんじゃないかと答えた

 

「うまくできれば荒稼ぎできそうだな 俺たちはそれ1枚で何とかやるしかないけど」

「あの階段前でも使う必要がありそうですから長居はできないですね」

「そうだな じゃぁ行くか」

 

ておさんはうまくできれば大量に入手できそうだと言ったがひとまず入手した1枚で何とかやるしかないと言うと私は階段前でも使う必要があると言った

 

キリトさんはそれに同意するとキリトさんは船を進めた

 

 

そして先ほどの空間にたどり着き、様子を確認したがモンスターの気配もフォールンエルフの気配も無さそうだった

 

キリトさんは慎重かつ急いで船着き場に着くと〖アルギロの薄布〗を再びティルネル号へと掛けた

 

「よし 急ぐぞ」

 

周囲を確認したキリトさんがそう言ったので私は装備ウィンドウを開き、3層のフロアボスのLAである〖バーク・ケープ〗へと変更した

 

ふとアスナを見てみるとアスナも3層のエルフクエストの報酬の菫色のケープへ変えていた

 

「そういえば2人共そんなの持ってたな そういえばなんで今まで装備しなかったんだ?」

「私はただ単純に目立ちたくないからですよ…」

「私のケープはやたら耐久値が低いし私の今の裁縫スキルのレベルじゃ直せないのよ」

 

するとキリトさんが何で今まで装備してなかったのかを聞いてきたので私はただ単純に目立ちたくないと答え、アスナは耐久が低いのと自分じゃ直せないと答えた

 

「NPCのテイラーも無理だったのか?」

「3層最後の村で試したら直せないって言われてね… まだ4層では試してないから直せる可能性はあるかもだけど」

 

キリトさんがNPCのテイラーはどうだったのかと聞くとアスナは3層では無理だったけど4層では直せるかもと答えた

 

「そういう時に自分で修理できたら便利だよね… 私も裁縫スキルは取りたいけどスキルスロットに空きがないから…」

 

私達が小声でそんな会話をしながら進んでいくとやがて頑丈そうな扉の前にたどり着いた

 

 




今回登場したオリジナル防具の紹介

〖バーク・ケープ〗
3層のフロアボスのLAの黄土色のフーデッドケープ
隠蔽にボーナスが付き、下手な鎧より防御は高いがタコミカ自身これ以上目立ちたくないため必要時以外は装備しない

それではまた次回に


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11話:堕ちし者達(フォールンエルフ)の将軍

個人的にもステルスミッションはあまり得意ではないです

それではどうぞ


鉄扉を少し開けて中の様子を確認すると薄暗い通路が20メートルほど延び、突き当りで左右に分かれていて通路の途中ではこちらに背を向けて歩いているフォールンエルフの番人がいた

 

そしてその番人が通路を右に曲がったので私達は扉を少しだけ開け、静かに中に滑り込みドアを閉めると足音を立てずにダッシュをした

 

フォールンエルフの番人が向かった右の通路を覗くと足音を鳴らしながらこちらに背を向けて歩いている番人の姿が見えたが通路の先は行き止まりなので確実にこちらに戻ってくるだろうと予想した

 

次に左の通路を見ると少し先で右に曲がっていたが右側が先がないと分かった以上こっちに進むほかない

 

キリトさんもそう思ったのか私達に指で合図をしたため私達は再び足音を立てず走り出した

 

 

私達が左の通路の角を曲がったのと番人の足音が止まったのはほぼ同じだったが何とか見つからなかったみたいだった

 

私達が飛び込んだ通路は直線に延びており、左右には木製の扉があった

 

「長丁場になりそうだけど1つずつ調べてみる他ないな…」

 

キリトさんがそう言ったため私達は1つずつ扉を開けて確認し始めた

 

~~~~~~

 

結論から言うと全部ハズレだった…

 

そして通路の先で下に向かう階段を見つけるとキリトさんは呟いた

 

「先はまだまだ長そうだな…」

 

私が目を擦るとアスナはその様子を見てたのか私に話しかけてきた

 

「眠たいの?」

「ハッキリ言っちゃうと眠い…」

「あと少しだけ頑張って この先で木箱が見つかる予感がするわ」

 

私が眠たいと言うとアスナは私の肩を叩いて先へと向かったので私達は後に続いた

 

 

 

そして長い階段を下りた先には上の階とは打って変って巨大な倉庫になっていた

 

正面には大きな扉があったが重装備なフォールンエルフの衛兵2人に守られており、左右の壁際には木箱が積まれていた

 

「ホントにあった…」

 

私達は階段部屋の壁際に身を潜めているとキリトさんが囁いた

 

「でもこのまま入ると絶対見つかるよな…」

「左右の木箱の影まで行ければいいんですけどね…」

 

ておさんがこのままは言ったら見つかると言ったので私は左右どちらかの木箱の影までいければそこから接近できるかもと付け加えた

 

「戦えば倒せるかもしれないけどあのデカい扉の先が気になるな… さっきから妙な音がする気がするし」

「何とかしてあの衛兵の気を逸らせないかしら…?」

 

キリトさんは戦えば倒せるかもと言ったが何かが扉の先から来るかもしれないと言ったのでアスナは木箱を先に調べることにしたらしく何とかあの衛兵の気を逸らせないかとキリトさんに聞いていた

 

「ちょっとやってみるか」

 

それに対してキリトさんは足元にあった小石を持ち上げると右側の木箱のうちの1つを狙って小石を投げた

 

〔かたん〕

 

音が鳴ると衛兵たちはそちらに注目したのですぐさま私達は左側の木箱の山の影に忍び足で出せる最大速度で移動した

 

私達がほとんど革や布装備だけだったと言うこともあってか何とか気づかれずに済んだみたいだった

 

「ふー… 危なかったな」

「そうだな… じゃぁ木箱の中身を調べてみようか」

 

キリトさんとておさんが最小の声の大きさでそう言うと私達は木箱の中身を調べてみることにした

 

 

キリトさんとアスナは上に何も積まれていない木箱を見つけ、その近くに行ったので私とておさんもキリトさん達とは別の上に何も積まれていない木箱の近くに向かった

 

「開けるぞ」

 

ておさんが私に合図をしたので私が黙って頷くとておさんは慎重に蓋を開けると中を覗いた…

 

「えーっと… これどういうことですかね?」

「さぁ…?」

 

しかし木箱の中身は空だった すでに持ち出された後なのかな…

 

キリトさん達も同じだったらしく私達に向かって首を横に振っていた

 

「大金払ってましたよね…?」

「そうだよな? もう中身が持ち出された後なのかもだけど」

 

私とておさんが考察をしていた時、突然大扉が開く音がして7~8人程度が中に入ってきたような足音がした

 

「木箱の中に!」

「了解!」

 

ておさんが咄嗟にそう言ったので私達は木箱の中に入ると蓋を閉めた

 

「狭い…」

「狭ッ…!」

 

中は箱の大きさからは考えられないほど狭かった

 

蓋を少し押し開けてその隙間から外の様子を確認すると先ほどの足音の正体と思わしきフォールンエルフたちが見えた

 

先頭に立っていたのは職人っぽい感じで顔の上半分を仮面で覆っており、手には皮手袋をはめて大型のハンマーを持った大男のフォールンエルフだった

 

咄嗟にカーソルに表示された名前を見てみると【エドゥー:フォールン・エルヴン・フォアマン】と表示されていた

 

フォアマンには確か親方っていう意味があったよね… つまり手に持ってるのは工具かな…?

 

私がそう考えているとその親方は立ち止まり、後ろに続いていた人達に向かって言った

 

「本日の荷揚げで予定の量は全て揃いました」

「うむ 一先ずご苦労であった」

 

冷たい美声でそう言ったのはいかにもエルフという感じの瘦身長躯の男性だった

 

その男性に注目すると今まで見てきたフォールンエルフの中では見たことがない金属と革の複合鎧を身に着け、背中には深紅色のマントを流して黒い覆面をしているがその覆面の額には2本の角が伸びていた

 

「だが組み上げは少し遅れているようだな」

 

その男性が続けると親方は低頭して言った

 

「申し訳ございません閣下 遅れは3日後に解消する予定です」

「では予定通り 5日後にはすべて完成すると思ってよいのだな?」

 

私は興味本位でその閣下と呼ばれた男性に注目してカーソルを出現させた…

 

出てきたカーソルの色はクリムゾンダークだった つまり私の15レベルを大きく上回っていると言うことになる…

 

そして名前に注目すると将軍(ジェネラル)という名前が出てきた

 

私がそんなことを思っていると親方は将軍の先ほどの質問に対して答えた

 

「はっ! 我が命に代えても必ずや成し遂げます ノルツァー閣下!」

「良かろう 頼むぞ エドゥー」

 

ノルツァーと呼ばれた将軍はエドゥーと呼ばれた親方の肩を叩くと私達のいる木箱へと向かってきた…!?

 

そのため私は静かにかつ急いで蓋を閉めた

 

そしてこちらに近づいてきた足音はしばらくすると止まった

 

「…それにしても実に滑稽な話だな 遥か古に聖大樹の恩寵を絶たれた我々が今もこうしてエルフ族の禁忌に縛られているとはな」

 

ノルツァーと思わしき声が聞こえてきた後、さっきのエドゥーとはまた別の女性の声が聞こえてきた

 

「はっ… 下らぬ禁忌さえなければこうして資材を手に入れるために薄汚い人族共と取引せずに済んだのですが…」

「言っても詮無いことだ、カイサラ 今は金貨なぞ幾らでもくれてやればよい 我らがすべての〖秘鍵〗を手に入れ、聖堂の扉が開かれた暁には人族に残された最大の魔法さえも跡形もなく消え去るのだからな」

「その通りです閣下 大願成就の時は刻一刻と迫っております」

「うむ まずは特務隊司令官が取り零した第一の〖秘鍵〗を急ぎ奪還せねばならん 5日後すべての準備が整い次第、作戦を決行する 諸君らの活躍大いに期待しているぞ」

はっ!

 

ノルツァーがそのカイサラと呼ばれた人に対して何か重要そうなことを話すとカイサラはノルツァーの言ったことを全肯定した

 

そしてノルツァーは今から5日後に〖秘鍵〗奪取の作戦を決行すると言うとその場にいたフォールンエルフたちの声が力強く響いた

 

 

無数の足音が遠ざかっていき大扉が閉まる音がしてしばらくたった時に私は木箱の蓋を少しだけ開けて外の様子を確認した

 

「…行ったみたいですね もう出てきて大丈夫かと」

「お…おう…」

 

私達は静かに木箱の外に出て少し経つとキリトさんとアスナも外に出てきた

 

「さっきの人たちが言ってた資材が何なのかについてここを出る前に調べないと… 多分まだ調べてない箱の中に…」

「それはそうかもしれないけど… もしかしたら…」

 

アスナが他の箱を調べてみようと言ったがキリトさんは何かを言いかけてそのまま考え込んだ

 

「なぁ あのエドゥーっていうおっさんの職業…?のフォアマンって何かわかるか?」

「私は親方と解釈してますけど他にも工場長や職人頭っていう意味があるみたいですよ」

 

キリトさんがフォアマンの意味について聞いてきたので私はフォアマンの意味について答えた

 

するとキリトさんはしばらく考えた後何かが分かったように木箱を凝視した

 

「何か分かったの? キリト君」

「あぁ でも話が長くなりそうだからいったんここを出よう またあいつらが戻ってくるかもしれないしな」

「その時は違う箱に隠れますから」

 

アスナが疑問に思ってキリトさんの腕を小突くとキリトさんは一旦考えることをやめ、いったんここを出ようと言ったのでアスナは仮に彼らが戻ってきた場合は別々の箱に隠れると言った

 

やっぱり何かあったんだね…

 

そう私が考えている間にキリトさんは入ってきたとき同様に小石を木箱に向かって投げ、衛兵の気を逸らしているうちに倉庫から脱出して1階に戻ってきたが油断してしまい入り口近くの番兵には見つかってしまったが仲間を呼ばれる前に何とか倒した

 

そしてティルネル号に戻ってくるとキリトさんはティルネル号から〖アルギロの薄布〗を外し、丁寧に畳んでストレージへとしまって急いで出航した

 

道中で何回か蟹やら亀やらと戦ってようやくダンジョンの外に出ることが出来た

 

そのタイミングでクエスト更新のサウンドが鳴ったため私達はクエストウィンドウを開いた

 

そこには『手に入れた情報を然るべき相手に伝えろ』と書いてあった

 

アスナもクエストウィンドウを見ていたみたいで質問してきた

 

「然るべき相手ってロモロさんの事かな?」

「うーん… どうだろう… 今までじっちゃんのことは船匠って書いてあったような…」

「じゃぁ水運ギルドのお偉いさんか?」

「もっと話がややこしくなりませんか? そもそも水運ギルドは黒の可能性が高いですし…」

 

キリトさんが違うかもと言ったのでておさんは水運ギルドのお偉いさんかと聞いたため私は話がややこしくなると言った

 

「じゃぁ誰なの?」

「それはあとで考えるとしていったん宿屋に戻ろうぜ」

 

アスナはちょっと不機嫌そうにじゃぁ誰に伝えるのかと聞いてきたがキリトさんはいったん宿屋に戻ろうと提案すると少々不満そうだが渋々了承したが思いついたように付け加えた

 

「あ そうだ! 宿屋の場所変えない? 転移門広場のところも悪くないけどまた変な騒ぎに巻き込まれるのは嫌だわ」

「そうだな じゃぁ目立たなそうなところで探すか 青組と緑組にも早いとこ造船クエストの情報を渡してやらないといけないし」

 

アスナが宿屋の場所を変えたいと言ったためキリトさんはそれに同意し、少しだけ考え事をしてから「どこまで情報を出すかはアルゴとも要相談だな…」と呟いた

 

 

そして<ロービア>に着くと南西エリアにある小体な宿屋を新しい拠点に決め、すぐにそこで部屋を借りてその部屋にたどり着くとそのままベッドに倒れこんだ

 

 

 




え? あれは無いのかですって…?

ご想像にお任せします

それではまた次回に


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12話:第4層フィールドボス"双頭の古代亀"戦

フローターサンダルってかなり楽しそうですよね…(AGI極振りが必須になるけど)

それではどうぞ~




翌日の12月24日土曜日午後3時 私達はフィールドボスの【バイセプス・アーケロン】戦のためにティルネル号に乗り込んだ

 

そんな時船の側面を叩く音が聞こえてきたためそちらを見てみると朱猫さんがいた

 

「よう 朱猫…って… 何でここにいるんだよ!?」

「やっほ キリト 実は面白いものを見つけてね」

「面白いものですか?」

 

キリトさんは突然朱猫さんが来たため驚いていたがそんなことを気にせずに朱猫さんがティルネル号に乗り込むと面白いものを見つけたと言ったので私は朱猫さんに質問した

 

すると朱猫さんは足を上げてフローターのついたサンダルを私達に見せた

 

「アルゴに教えてもらってね~ やってみたら案外楽しくて」

「そんなの売ってたのかよ!? だったらわざわざ船造らなくても良かったじゃないか…」

「ところがこれ装備するのにAGI物凄く必要だし服装も軽量化が必要なんだよ」

 

朱猫さんがアルゴさんに教えてもらったと言うとキリトさんはなぜか落ち込んだが朱猫さんが言うには素早さと軽量化がかなり必要で「実際私のAGIでギリギリだったし…」と付け加えた

 

「にしては今までと同じように見えるけど…?」

「同じだね~ 私の場合はいつも軽めの装備だし」

 

アスナが今までと同じのように見えると言うと朱猫さんはそうだと言った

 

「まぁ 流石にこの状態で戦闘は不可能だからその時は船に乗るけど」

「成程」

 

朱猫さんが流石にフローターサンダルでの戦闘は無理だと言うとキリトさんは納得した

 

 

しばらくすると銅鑼が鳴ったので朱猫さんは「じゃぁまた後で!」と言うと例のサンダルで水面を走ってポテトさん達の船へと戻っていった

 

因みにその船の船首両側にはcreepと描かれていた 多分名前はあれから取ったと思うけどそれだと別の意味にならない…?

 

そして私が銅鑼の音の方に注目すると丁度リンドさんが右手を掲げて銅鑼を止めさせているところだった

 

「時間だ! それではこれより第4層フィールドボス【バイセプス・アーケロン】戦を開始する! 船を使ってのボス戦は全員が初めてだと思うが恐れる必要はない! 雑魚戦でも経験した通りモンスターの攻撃はほとんど船が緩和してくれるからな!」

 

確かにリンドさんの船の耐久力は高そうだけど…

 

「事前の会議の通りボスの行動パターンは単純だ! 2つの頭の向きにさえ注目していれば突進攻撃を喰らうことはない! 回避のタイミングはこの船の銅鑼で知らせるから聞き逃さないでくれ!」

 

ぶっちゃけるとその情報手に入れたの私達なんだけどな…

 

まぁうだうだ言っても仕方ないのでここはセオリー通りエギルさん達やポテトさん達と共に側面からの攻撃に専念しよっと

 

私がそう考えているとそろそろ移動を開始するみたいだった

 

「では移動を開始する! ボスが出たら打合せ通りに包囲する! ドラゴンナイツ艦隊…発進!」

 

リンドさんがそう言いながら右手を挙げ、それを前に下ろすとDKBの旗艦と左右の2隻が発進したのですかさずキバオウさんも声をあげた

 

「しゃぁ! ワシらも行くで! 解放隊全艦発進や!」

 

それを聞いたALSの旗艦の操舵手が「アイアイサー!」と言い、櫂を漕ぎだすと左右の僚船もそれに続いた

 

「はー… それじゃぁこっちも行きますか…」

 

キリトさんが意気の上がらない声を出すといつの間にか隣にやってきていたエギルさんがにやりと笑いながらこちらに拳を突き出してきた

 

「俺達も連中に負けてないってとこ見せてやろうぜ!」

 

エギルさんのパーティメンバーの人達もそれに同調するように「おう!」と言うとポテトさん達もそれに同意するように拳を高く挙げたので私達も深く頷いた

 

キリトさんは微妙な角度でエギルさんと拳を合わせながら「おー」と声を出した

 

 

~~~~~~

 

 

情報通り【バイセプス・アーケロン】は嚙みつきとヒレでの水面叩き、突進攻撃以外には目立った攻撃はしてこなかった

 

突進攻撃に関してはリンドさんが銅鑼で警告をして、仮に間に合わず転覆した場合も30秒程度で復元するため大した問題はなかった

 

ボスのHPは半分を切っており、あと20分ぐらいで討伐できそうだった

 

 

私達は移動した双頭亀を追いかけるため(キリトさんが)船を動かすとレイピアを持ったアスナが振り向いた

 

「ねぇ βの時のフィールドボスは何だったの?」

「亀は亀だったけどゾウガメみたいなやつだったよ あんまり苦労した記憶はないけど」

「じゃぁやっぱり4層が水浸しになったのは予定通りっていうことかしら?」

「だと思う 玄関は最初っから2階にあったし」

 

アスナはβ時代のフィールドボスは何だったのかと聞くとキリトさんはゾウガメみたいなやつだったと答えた

 

それを聞いたアスナは4層が水浸しになったのは予定通りなのかと聞いてきたので私はそうだと思うと言った

 

その時にすぐ傍をものすごい勢いでALSの船が通過し、ティルネル号は大きく揺れた

 

「流石のビーター様も今回ばかりはLA取れねーかもな!」

 

しかも追い越しざまにそう言って

 

「ちょっと! 危ないじゃないですか!」

「フォーメーション決めたのはそっちじゃないの!」

「まぁまぁ2人共… ずっとサイドにいれば船はノーダメージで済むんだからさ」

 

私とアスナは憤慨して追い越した船に対して文句を言ったがキリトさんはそれを宥めた

 

そして再び左側面に到着するとアスナは≪パラレル・スティング≫を私は≪カタラクト≫をておさんは≪バーチカル・アーク≫を放った

 

「キリト君! もうすぐでゲージ赤くなるよ!」

「分かった!」

 

キリトさんは何か考え事をしているように見えたがアスナがゲージが赤くなると伝えると船を少し後ろに後退させたがメインアタッカーの4隻の船は亀の前面に張り付いたままより一層攻撃を激しくさせた

 

そしてHPバーが残り1割を切った時エギルさんが亀の甲羅越しに叫んだ

 

おい! 全員離れろ!

 

十分な全体像は見えなかったが2本の首と前と後ろのヒレと尻尾を甲羅に巻き付けるようにしていたのが見え、次にフロアボスが何をするのかが分かった…

 

キリトさんもそれに気づいたらしく叫んでいた

 

やばい! 回転するぞ!

 

でもエギルさんとキリトさんの声を聞いてもALSとDKBの人達は撤退しようとせず、HPを削り切ろうとしたが防御が上がっているのかなかなか削り切れなかった

 

「キリト君! このままじゃ!」

 

アスナが鋭い声をあげるとキリトさんは何かを覚悟したように頷いた

 

「3人共しっかり掴まってろ!」

 

キリトさんは私達にそう言うとおもむろに船を全族力で前進させ始めた

 

そして【バイセプス・アーケロン】の横っ腹に突撃する寸前

 

知ったことか! 俺だってこのポジションは譲る気はないからな!

 

とキリトさんが叫んだため私は何のことかと一瞬考えたがティルネル号のついている衝角がフィールドボスに突き刺さり、その直後に爆散したため私はすぐに考えるのをやめた

 

 

そして私達が武器を鞘に納めるとアスナがさっきキリトさんが叫んだ内容が気になったのかキリトさんを奇妙な目つきで見た

 

「…わ…悪い… いきなり突進しちゃったけどボスが不味そうな攻撃をしようとしてたから…」

「それは別にいいんだけど… さっき言ってたこのポジションって何のこと?」

「そりゃぁ勿論船頭…じゃなかった ゴンドリエーレのポジションだよ」

 

キリトさんもそれに気が付いたのか焦りながらそう言ったがどうやらアスナが聞きたいのはさっきキリトさんが言っていたことだったらしい

 

アスナの質問に対してキリトさんはゴンドリエーレのポジションのことだと答えた… ほんとかな…?

 

そんな私の考えを知ってか知らずかキリトさんはそそくさと船を進め、不機嫌なDKBとALSの前を通ってエギルさん達とポテトさん達に手を振って私達は次の村の<ウスコ>へ向かうことにした

 

 

途中で朱猫さんと同じ方法でやってきたアルゴさんを船に乗せ、キリトさんは次の村に向かうためゴンドラの速度を上げた

 

 




フローターサンダルの要求AGIはこの時点での朱猫で本当にギリギリです

それではまた次回に


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13話:打ち上げと雪

水上村って結構風情ありますよね(船酔いする人には地獄かもですけど)

それではどうぞ


<ウスコ>は何かのテレビの番組で見たような水上にある村で船を持っていないとまず来ることが出来ない(フローターサンダルは除く)

 

そこにある唯一のレストランで私達は少し早いが打ち上げを行っていた

 

「は~… これでやっと4層も半分攻略か…」

「やっとっていうけど2層や3層の時よりもかなりハイペースよ?」

「確かに… まだ3日ぐらいしかたってないよね?」

 

やけに露出度の高いウエイトレスさんが運んできた料理を食べながらキリトさんはこれでやっと4層が半分攻略されたと言うとアスナは2層や3層に比べかなりハイペースだと指摘したため私も4層に来てからのことを振り返ってまだ3日しかたってないと言うとキリトさんは「え?」と反応を返した

 

「そうだっけ…?」

「だって4層に来たのが21日だろ? それで今日が24日だから…」

「あっ… ホントだ…」

 

キリトさんがそうだったかと聞いてきたのでておさんが4層に来た日付と今日の日付を言うとキリトさんは納得したみたいだった

 

「オイオイ… まだボケるような年じゃないだロ… キー坊」

「分からないぞ? もしかしたらリアルじゃ定年いってるかもだぜ?」

「じゃぁキー爺って呼ばないとナ」

「すみません 冗談です」

 

アルゴさんがキリトさんに対してツッコミを入れるとキリトさんはにやりと笑いながらそんなことを言ったためアルゴさんは冗談交じりにキリトさんの呼び方を変更すると伝えるとキリトさんは少し焦りながら反省した

 

そしてキリトさんは運ばれてきた果実水を飲むとこの後の予定について話した

 

「もうしばらくしたらALSとDKBも追いついてくると思うしこの後はこの村のクエストを受けて簡単なクエストは進めておこうか…」

 

それを聞いたキリトさんを除く私達は顔を見合わせた…

 

「エギルさん達とポテトさん達はどうかは分からないけどALSとDKBの人達は今日は主街区に戻るらしいわよ?」

「だから今日はそこまで焦らなくても大丈夫だゾ? キー坊」

「へ? 主街区に? 今日は何かあったか?」

 

アスナとアルゴさんがそう言うとキリトさんは頭にクエスチョンマークが出てきそうな顔をしていたため私達はもう一度顔を見合わせた

 

「キリト君 やっぱり誘われていなかったのね…」

「みたいだね…」

「誘われるって何に?」

 

アスナが予想通り誘われていなかったことを言ったので私はそれに同意するとキリトさんは何のことかと聞いてきた

 

「がっかりする必要は無いゾ? キー坊」

「こうやって俺たちもいるし」

「がっかりするって何に…?」

 

アルゴさんとておさんが励ましたがキリトさんは何のことかさっぱり分からない様子だった

 

「さっき今日何日だって言ったか覚えてるか?」

「24だろ? そこまでボケてはいないぞ?」

「じゃぁ何月のだ?」

「12月だろ? …まさか…! クリスマス何とかって言う奴か…!?」

 

ておさんがキリトさんに対して質問していくとキリトさんもようやく分かったみたいで愕然としていた

 

「じゃぁあいつらがやけにフィールドボス戦を急いでたのはそのためか!?」

「多分…」

 

キリトさんが2大ギルドの人達がやけにフィールドボス戦を急いでいたことを思い出したようで私達に聞いてきたため私は気の毒そうな顔で多分そうだと答えた

 

「今夜2つのギルド合同でクリスマス壮行会っていうのがあるんだって…」

「な…な…なんじゃそりゃぁあああ!!

 

アスナが今夜主街区でクリスマス壮行会があると言うことを伝えるとキリトさんは叫んだ

 

 

私達がクリスマス壮行会に至った経緯を話すとキリトさんは少し落ち着いたようで果実水をちびちびと飲みながら話した

 

「まぁ彼らが共同でイベントをやろうっていうのはこちらとしても喜ばしいけどさ…壮行会って確か試合とか新天地とかに行く人を送り出す的な意味だったような気がするんだよな… 送り出される側がそう言ったイベントを開催するのは少し図々しいと言うか…」

「一応キリト君を誘おうっていう声もあったみたいだけどALSの一部のメンバーから「何でいつもLAを持っていく奴にただで飲み食いさせなきゃいけないんだ」っていう声があったみたいで結局誘わないっていう結論になったんだって」

 

アスナが気の毒さ半分面白さ半分で経緯を話すとキリトさんが疑問に思ったのかアスナに質問した

 

「因みにその話誰から聞いたんだ?」

「DKBのシヴァタさんからね フィールドボス攻略会議の時に あとでキリト君に謝っておいてとも言ってたわ」

「ふ~ん…」

 

アスナがシヴァタさんから聞いたと話すとキリトさんは拗ねた様子で返事を返した

 

「そう言えばタコミカ達はどこで知ったんだ?」

「私はALSに知り合いがいるっていう人からですね そこからポテトさん達に」

「ふ~~ん…」

 

キリトさんは私達は壮行会があることをどこで知ったのかと聞いてきたのでリズから聞いてそこからポテトさん達にも伝えたというとキリトさんは不機嫌そうな返事を返した

 

「私とタコミカ、テオ君だけなら来てもいいって他の人達からも沢山インスタント・メッセージは来てたんだけど…」

「ふ~~~ん…」

 

アスナが私達だけならパーティに参加してもいいというメッセージが来ていたと伝えるとキリトさんはますます不機嫌になった

 

「因みにエギルさん達はクエストを消化しなければいけないらしいから壮行会は不参加らしいしポテトさん達も自由参加という形にするらしいからそんなに拗ねなくてもいいのよ?」

「す…拗ねてない! 俺はソロプレイヤーだから関係ないもんね!」

 

そしてアスナがエギルさん達は不参加でポテトさん達は自由参加だと伝え、キリトさんをフォーローするとキリトさんはやけっぱちにそう発言した

 

「ふ~~~~ん… 君ってソロのつもりだったんだ?」

「あっ! いや! そういう意味じゃなくって! ほら! テオとかもいるし!」

「フフッ 冗談よ」

 

キリトさんの発言を受けてアスナは少しだけ不機嫌にキリトさんに返すとキリトさんは弁解したのでアスナは笑いながら冗談だと伝えた

 

それを見ていたアルゴさんはからかうような笑いをしてチラッとキリトさんの方を見た

 

「なんだよ?」

「何でもないヨ ごちそーさマ さてと…オイラはそろそろ主街区に戻るヨ」

 

それについてキリトさんが聞いたがアルゴさんは答えず、椅子から立ち上がった

 

「え? もう戻るのか?」

「ある程度知りたい情報は知れたし壮行会の方も覗いておきたいシ じゃぁナ~ アーちゃん ターちゃん テオ坊 そしてキー坊」

 

キリトさんがもう戻るのかとアルゴさんに聞くとアルゴさんは壮行会も覗いておきたいと言い、私達に別れの挨拶をした

 

そして私達の元を離れようとした時立ち止まった

 

「おっト! 忘れてタ メリークリスマス」

「メリークリスマス アルゴさん 気を付けてね」

「メリークリスマスです アルゴさん」

「メリクリ アルゴ」

「め…メリクマ」

 

私達にメリークリスマスと言ったのでそれぞれアルゴさんに返した

 

キリトさんのメリークリスマスの略し方が少し変だった気がするけど気にしないでおこう

 

 

「本当はアルゴさんこそ真っ先に壮行会に招待されるべきなのにね」

「本当にね それこそ特別待遇で」

 

アルゴさんの出て行ったレストランの出口を見ながらアスナがそう呟いたので私はそれに同意した

 

 

「さてと… これからどうす…」

 

キリトさんが果実水を飲み終え、私達にこれからどうするのかと質問しようとしたらしいが途中でやめてしまった

 

「その前に… 行きたいんだったら俺は構わない…ですよ?」

 

キリトさんがそう言ったので私達はキョトンとした

 

「つまり…その… クリスマス壮行会 アスナ達は誘われたんだから気兼ねしてるつもりだったら俺は大丈夫ですよ… という…」

「なんだそんなこと」

 

キリトさんがクリスマス壮行会に行きたいんだったら別に行ってもいいと言うとアスナはキリトさんの申し出をバッサリと切り捨てた

 

「こっちこそお気遣いなく 私最初っから行くつもりなかったから 大げさなパーティは好きじゃないし」

「さ…さいですか… タコミカ達はどうするんだ?」

「私も行かないつもりですよ 年末にも大きいパーティはあると思いますし」

「俺もだな 仮に船を出してしまったらキリト達はここにいることになるし…」

 

アスナが壮行会には行かないとキリトさんに伝えると今度は私達は壮行会に行くのかと聞いたが私達は行かないとキリトさんに伝えた

 

別に私達は2人っきりにしてもいいと思うんだけどね

 

「えぇ…っと…じゃぁここでやってみます? クリスマスパーティ的なこと…」

「いいわよ別に… 私、何も用意してないし…それにこんな南の島っぽいところでやったって雰囲気出ないわ」

 

それを聞いてかキリトさんはここでクリスマスパーティをやろうと提案したがアスナはそっぽを向いて断った

 

その時小さな白い粒っぽいものが空から降ってきた

 

「えっ… 嘘…」

 

アスナもそれに気づいたようで声を上げていた

 

やがてそれが1つまた1つと増え、やがて数えきれないほどの雪が降ってきた

 

「雪だな…」

 

ておさんがそう呟くとたちまち干草の屋根が白く染まっていきNPCの子供たちも歓声を上げながらはしゃぎまわっている

 

「何よ…もう… 折角クリスマスの事とか考えないように主街区からも逃げてきたのに… こんなのずるいわ…」

「考えないようにしてたって確か…二層の迷宮区を攻略してた頃にクリスマスに雪降るかもって言ってなかったっけ?」

「そんなことよく覚えてるわね…」

 

アスナは空を見ながら呟くとキリトさんはこめかみを押さえながら2層のことを思い出したためアスナは恥ずかしそうに口を尖らせた

 

長くなると思ったので2人が話している間に私はておさんを連れ出して消耗品の補充とクエストを受注しておいた

 

 

~~~~~~

 

 

そしてしばらくして戻ると丁度2人も席を立ったところだった

 

「2人共何処に行ってたの?」

「ちょっと消耗品の補充に」

 

アスナが今までどこに行っていたのかと聞いてきたので私は消耗品の補充に行っていたと答えた

 

「2人共! 行くぞ!」

「行くってどこに?」

「着いたら分かるよ」

 

キリトさんがどこかに行くと言ったのでておさんはどこに行くのかと聞くとキリトさんは着いたら分かると言った

 

私達はお会計を済ませるとUターンするようにレストランを出て、村の端にある船着き場に着くとそこに停泊させてあるティルネル号に乗り込み、漕ぎ始めた

 

 




案外リズの再登場(名前のみ)早かったなって思います…

それではまた次回に


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14話:ヨフェル城へ

中世の城って風情ありますよね~(前回もこんな話をしたような…?)

それではどうぞ~

追記:50話突破しました!(だからと言って特に何もしませんが)




しばらく船を進めると第4層の迷宮区タワーが見えてきた

 

「まさかとは思うけどあそこに行くつもりは無いわよね?」

「違う違う 目的地はこっち」

 

アスナは迷宮区タワーに行くと思ったらしくキリトさんに質問したがキリトさんは南東方向に舵を切った

 

そして1時間ほど右へ左へと船を進めると白い壁が見えてきた

 

「ちょっと! 行き止まりよ!?」

「大丈夫! あそこが目的地だ!」

 

アスナがキリトさんの方を向いて叫ぶがキリトさんはより一層強く漕ぎ始め、周囲の景色は霧へと変わっていった

 

「でも先が見えないしもし先に壁があったりしたら…」

「平気平気 ただの霧だから」

 

アスナが不安そうにキリトさんに聞くとキリトさんはただの霧だと言ったがその直後に「いや ただのじゃないな…」と付け加えた

 

そしてティルネル号は濃霧の中に突入した

 

これって確かマップ切り替えの…?

 

「この霧ってもしかして…!」

 

アスナも分かったみたいでアスナのそんな声が聞こえた瞬間、さっきまでの霧が嘘のように晴れた

 

そこにあったのはフィールドボスと戦った湖より広い湖でそれに加え、降りしきる雪が水面の大部分を白く染めていた

 

しばらくその景色をしばらく見ていたが櫂を立てて船を泊めていたキリトさんが櫂を上げ、また船を漕ぎ始めた

 

 

しばらく白銀の世界を進んでいると前方に巨大なシルエットが見えてきた

 

そこからさらに進むと如何にも中世っぽい城…もとい砦が見えてきた

 

先ほどから降っている雪と同調するように白い大屋根には高さの違う尖塔が伸び、その先端には野営地でも見た漆黒で三角の旗が掲げられており その旗には角笛と曲刀が交差された紋章が描かれていた

 

「あの旗ってダークエルフの…!?」

 

アスナもその旗を覚えていたみたいで声に出していた

 

「綺麗…」

 

少しずつ近づいてくるダークエルフの砦を見ながらアスナはそう呟いた

 

「現実で見たどんなお城よりもずっと綺麗」

「それって某鼠のテーマパーク? それともヨーロッパあたりの本物?」

「さぁ? どうかしら?」

 

アスナが今までに見た城よりきれいだと言うとキリトさんはどの城なのかと質問したがアスナは少し笑ってはぐらかした

 

 

そして正面から伸びる大桟橋の空いている場所にティルネル号を停泊させ、慣れたようにアスナがキリトさんに向かって舫い綱を投げるとキリトさんは青銅製の係留所に舫い綱を結んだ

 

船から降りて大桟橋の中央ぐらいまで歩くと再び城を見上げた

 

まだ正門からは離れてはいるもののそれでも大きく、無数にある(ひさし)に積もった雪をオレンジ色の窓明かりが照らしているのも相まってかなり幻想的だった

 

私がその景色に見とれていると隣から声が聞こえてきた

 

「…ありがとう キリト君 とっても素敵なプレゼントね」

「私からもありがとうございます」

「ま…まぁそう言ってもらえるとここまで漕いだ甲斐があると言いますか…何といいますか…」

 

アスナがキリトさんの方を向いてお礼を言ったので私もキリトさんの方を向いてお礼を言うとキリトさんは頬を指で搔きながら少しだけ恥ずかしそうにしていたが私達の方をちらりと見るとニッっと少しだけ笑った

 

「でも実はプレゼントはまだ半分なんだよな」

「え? それってどういう…?」

 

キリトさんがそう言ったのでアスナはどういう意味か聞こうとしたがキリトさんがアスナの背中を押して先を急がせたため私達もキリトさん達を追いかけた

 

しばらく桟橋を進むと巨大な正門が見えてきた

 

正門に5メートルぐらいまで近づくと左右にいる斧槍を持ったダークエルフの衛兵に止められた

 

「止まれ!」

「ここは人族の立ち入ってよい場所ではない!」

 

そしてその衛兵たちは斧槍を高く交差させるとキリトさんがベルトポーチからスクロールもとい紹介状を取り出し、それを高く掲げた

 

「俺の名前はキリト! 城主にお目通り願いたい!」

 

紹介状を見た衛兵たちは斧槍を垂直に戻すと正門は大きな音を立てながら左右に開いた

 

「わぁ…!」

 

そして私達が中に入るとそこにあったのは一面の銀世界だったがさらにそれがランプに照らされており、それがまるで絵画のような幻想的な雰囲気を出していた

 

 

私達はその景色に見とれていたが後ろの正門が閉じ始めたのをきっかけとしてまだ足跡のついていない雪の積もった前庭を通り抜け、奥に見える大扉へと向かった

 

 

大扉の前へと到着して中へと入るとそこには赤い絨毯が敷かれ、中央に大理石の噴水がある巨大なロビーもといエントランスがあった

 

奥には大階段があり、左右にも広い通路があるのも相まって私は昔に家族でイギリス旅行に行ったときに泊まった高級ホテルのエントランスもこんな感じだったなと思っていた

 

どこからか聞こえてくるバイオリンの音色に合わせるようにして歩くのは見慣れたダークエルフのNPCだったが3層の時とは違い、武装している人の数は少ない

 

「プレイヤーは…いないみたいね…」

 

アスナは周りを見渡してそう言ったがすぐに納得したように頷いた

 

「それはそうね 湖に入る時に通った霧でインスタンスに切り替わったんでしょう?」

「ご明察 ここじゃぁ他のプレイヤーに出会わないからどんだけ騒ごうが自由だ」

「さ…騒がないわよこんなところで… それより早く色々と見回ろうよ」

 

アスナがさっき通った霧でインスタンスマップに切り替わったことをキリトさんに確認するとキリトさんはそうだと言った

 

その為ここでどんなことをしようと構わないと言ったがアスナは口を尖らせながらそんなことはしないと言ったがすぐに顔を綻ばせてキリトさんのコートの右袖を引っ張った

 

「それもそうだな でも最初の行き先は決まってるんだ」

 

キリトさんは「こっちだ」と言うと右の通路を進んでいったので私達はキリトさんの後を追った

 

~~~~~~

 

道中でこの城の名前が{ヨフェル城}ということと上から見たらコの字型になっているという事をキリトさんから聞いたり何人かの兵士たちとすれ違いながら通路をしばらく歩き、左に曲がって正面に見えてきた小さい扉をキリトさんは開けた

 

そこは前庭ほどではないが神秘的な場所だったが小さい黒い花をつける茨の生垣が迷路のようになっているため先を見ることはできない

 

青白いランタンを頼りに雪の積もった石畳を進んでいるとうっすら誰かの足跡があった

 

私達は顔を見合わせ、足跡を追いかけて茨の迷路を抜けるとそこには立派な針葉樹が周囲にある美しい庭園があり、木の周囲にはレンガを積んで作られた花壇と青銅製と思わしきベンチが交互に置いてあった

 

木から伸びる枝が雪を遮るせいで庭園の入口から先には足跡はなかったが立ち尽くすキリトさんとアスナの視線の先のベンチに腰かけている華奢な人影を見たことで私は思わず一歩前に出ていた

 

するとその人影は私達に気が付いたのかベンチから勢いよく立ち上がり、花壇を飛び越えて目の前に着地した

 

「キリト! アスナ! テオロング! タコミカ!」

 

その人は私達の名前を言うと私達を強く抱きしめた

 

温かくも強い抱きしめに耐えているとキリトさんは懐かしい名前を言った

 

「久しぶり、キズメル」

 

 




タコミカは小さい頃に案外海外旅行に行ってます

それではまた次回に~


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15話:再開

まだ寒いですね…

それではどうぞ




それからキリトさんとておさんは解放されたが私とアスナはそこからしばらく抱き合い続けた

 

そしてようやく体を放すとアスナは右手の人差し指で目尻を拭って混じり気のない笑顔を浮かべた

 

「またすぐに会えるって信じてたけど…こうして会えて本当に嬉しい」

 

アスナのその言葉にキズメルも笑顔で頷いた

 

「私もだ 霊樹を通ってこの城に来てからずっとお前たちのことを考えていた気がするよ」

 

先ほどまでは気が付かなかったがキズメルは3層の時とは違い、武装はしておらず代わりに濃い紫色のロングドレスを着ていた

 

私がキズメルを見ていると視線をキリトさんに移し、笑顔のまま質問した

 

「それにしても4人共 よく私がここにいるとわかったな この城は初めてのはずだろう?」

「あ…あぁ… なんとなく…かな」

 

キリトさんのなんとなくという返事を聞くとキズメルは笑みを深め、頭上に枝葉を広げる大きな針葉樹を見上げた

 

「このジュニパーの樹からは妹が好きだった精油が取れるんだ そのせいかついこの場所に来てしまってな…」

「へぇ…」

 

キズメルがこの樹について説明してくれたため私もジュニパーの樹を見上げてみながら香りをかぐと清涼感のある木の香りを感じられた

 

「これジュニパー…セイヨウネズの樹なのね」

「セイヨウネズって確か盆栽にあったような…?」

 

アスナも香りをかいだのかこの樹は私達の世界ではセイヨウネズだと言うとておさんはその名前に聞き覚えがあるみたいで盆栽に確かあったはずだと呟いた

 

「そうね 園芸用とかもあるけど薬やお酒の香り付けにも使われることもあるわね」

「ほう そうなのか いつか試してみたいな… 何はともあれ4人共よく来てくれた 天柱の塔の守護獣を首尾よく突破できたのだな」

 

アスナがておさんの呟いたことに捕捉するように薬やお酒の香り付けにも使われると説明するとキズメルは感心しながらいつか試してみたいと言った

 

そして私達に向き直ると私達に労いの言葉をかけた

 

「だから言ったでしょ? 私達なら大丈夫だって」

「それもあるけど野営地の司令官が毒に気を付けろと教えてくれたおかげが大きいかな」

 

それに対して私は3層で別れるときの言葉を思い出したがそれに対してキリトさんは野営地の司令官さんがアドバイスをしてくれたおかげだと言った

 

「うむ 彼は信頼に当たる人物だ 私も早く3層に留まっている先遣部隊と合流したいのだがな…」

 

キズメルはそう言うと自分の着ているドレスを見下ろして眉をひそめたがすぐに笑顔を取り戻してアスナの背中を軽く叩いた

 

「さぁ 城の中に戻ろうか ここまで漕いで来たのなら腹が空いただろう?」

「えぇ とっても」

 

キズメルはそろそろ城の中へ戻ろうと言うとアスナはそれに答え、並んで歩き始めたため私達もそれに続いた

 

 

~~~~~~

 

 

しばらくキズメルの後を追いかけて行くと大食堂にたどり着いた

 

扉を開けるとおいしそうな香りと賑やかな談笑に加え静かな雰囲気の弦楽器の音色が流れていた

 

「すごい…! 映画のセットみたい!」

 

開いている場所はないかと辺りを見回しているとふとアスナが声を上げた

 

「なんか某魔法学校の食堂みたいだな」

「テオ君も知ってるの?」

「親がよく見てたからそれで」

 

ておさんが某魔法学校の食堂みたいだと言うとアスナが知っているのかと聞いたのでておさんは親がよく見ていたと答えた

 

「奥のあの場所が開いていますね」

「あそこにしようか」

 

そんな中私がきっちり並べられたテーブルの奥の方に開いている場所を見つけたためそこを指すとキズメルもそれに賛同してくれた

 

 

私達が奥のテーブルに向かっている途中多くいるレザーアーマーの兵士たちとは違うローブを被った人たちがふと気になったためキズメルに小声で聞いてみるとキズメルは小声で答えてくれた

 

「ねぇ キズメル? あの人たちは?」

「あぁ 彼らは9層の王城から派遣されてきた神官達だ 彼らは聖大樹に仕えているのだがそれ故なのかプライドが高い者が多くてな… あまり関わらぬ方がいい」

 

彼らは聖大樹に仕える神官らしいけどプライドが高い人が多いからあまり関わらないほうが良いらしい

 

私がキズメルの話を聞くと今度はアスナが小声でキズメルに質問していた

 

「あの子たちは?」

「あの子たちは城主の子どもたちだ みんないい子だよ…」

 

2人の視線の先を見てみると数人のダークエルフの子どもたちが遊んでいるのが見えた

 

私が子どもたちの様子を見ているとキズメルが声をかけてきた

 

「タコミカもあの子たちが気になるのか?」

「気にならないって言ったら嘘になるかな…」

 

キズメルが気になるのかと聞いてきたため私は少しだけ気になると答えた

 

「タコミカはそちらに関しては無頓着だと思っていたが子を設けたいと思っていたのだな」

「え?」

 

あれ? なんか勘違いされてる?

 

「キリトとアスナは分かっていたがテオロングとタコミカも番いであったな」

「「「「だから番いじゃない!」」」」

 

そんな私達の反応を気にすることなくキズメルは席につきながら続けた

 

「番いが子を欲することは自然なことだ 恥じる必要は無いぞ?」

 

キズメルが私達をフォローするようにそう言ったけど私達は料理が来るまで終始無言だった…

 

 

 

しばらくすると運ばれてきた料理はスープと前菜から始まるコース料理でしかもメインは鶏のローストだったので私達は驚いた

 

「これって…」

「どうした? 何か苦手なものでもあったか?」

「いや 違うんだ」

「人族の文化で今日はクリスマスイブっていう日で丁度その日に食べる料理と似てたの」

 

それに対してキズメルは何か苦手な食べ物でもあったのかと聞いてきたのでキリトさんが否定し、アスナが私達が驚いた理由を説明した

 

「そのくりすます…?とはどんな日なのだ?」

「どんなって言われると…」

「家族や大切な人たちと一緒に過ごす日…かな?」

 

するとキズメルはクリスマスについて聞いてきたためアスナは少しクリスマスについてどう言おうか悩んでいたため私は当たり障りのない回答をした

 

家族と祝う…か…

 

私の言葉を聞いたキズメルは呟きながら中身の入ったグラスを持つと月の見える窓の方を見て少し笑うと

 

「ティルネルと義弟に…乾杯」

 

月に向かってグラスを掲げた

 

 

~~~~~~

 

 

「ごちそうさまでした」

「美味しかったです」

「コース料理自体あんまり食べないけどこういうのもいいな」

「だな β時代とは比べ物にならないほど旨かったよ」

 

デザートの果物(ケーキはなかった)を全員が食べ終えたタイミングで私達はそれぞれ感想を言った

 

「ありがとうキズメル とっても素敵な晩餐だったわ」

「礼を言うのは私の方だ 久々に食事を楽しめたよ」

 

アスナがキズメルにお礼を言うとキズメルは私達に対してお礼を言った

 

「それでは部屋まで案内しよう 丁度部屋が1つ余っていたところだ」

 

キズメルが開いている部屋に案内してくれるらしいので私達はそれに甘えることにした

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

そして案内してくれたのは城の東翼側の4階にあるホテルのスイートルームっぽい部屋だった

 

共用の居間に左右にそれぞれ寝室があり、4人ぐらいだったら問題なさそうだった

 

「城に逗留している間はこの部屋を自由に使ってくれ」

 

そうキズメルに促され、部屋に入った

 

「わぁ…! 素敵な部屋…!」

 

するとアスナが大声を上げ、奥の窓に向かって行ったがようやくそこで左右の扉に気が付いたのか交互にその扉を眺めると微妙な顔でキリトさんの方を見た

 

恐らく違う部屋にしてほしいと思ってるのかな…

 

とはいえ流石に他の部屋にしてくれとは言えないし…

 

そうしているうちにキズメルは口を開いた

 

「それでは私は左隣の部屋にいるから用があるなら遠慮せず言ってくれ 今夜はゆっくり休むといい」

 

キズメルはそう言うと私達を残して扉を閉め、遠ざかっていった

 

 

残された私達はしばらく無言でお互いを見ていた

 

「…まぁこういう事はこれが初めてっていうわけじゃないし…」

 

少しするとアスナがそう言ったのでキリトさんはそれに便乗するように頷いた

 

「攻略を最優先にするなら避けられないと思うし… だから…その…」

「そうね でもこれだけは言っておくわ」

 

キリトさんが少し焦っているように見えたのは気のせいではないはず…?

 

でもアスナがキリトさんに向き直ったことによってキリトさんは首を傾げた

 

「キズメルとこうして再会できたことがあなたのクリスマスプレゼントだったんでしょう? それについては本当に嬉しかった ありがとう」

「私からもありがとうございます」

 

アスナがキズメルと再会できたことに対してお礼を言ったので私もすかさずお礼を言った

 

「あぁ… どういたしまして…って俺が言うのもあれだけど…」

 

するとキリトさんは照れながら答えた

 

「再会できたのは俺も嬉しいけどなんかキズメル雰囲気が違ったよな…」

「確かにテオ君の言うとおりね あのドレスも好きで着てるっていう感じじゃないし…」

「剣も鎧も装備してなかったからな この城に留まっているのは意に染まぬ状況っていう事なのかな…」

 

確かに3人の言う通りキズメルの様子は何かおかしかったような気がする…早くこの場所を去りたいというか…そんな感じがした

 

キリトさんも同じようなことを考えているのかキズメルのいるであろう部屋の方を見ていた

 

「まぁ 明日時間があれば聞けばいっか ねぇ キリト君」

 

アスナは一旦キズメルのことは後回しにするみたいでキリトさんに声をかけたがキリトさんの反応はなかった

 

「ちょっと… ちょっと、キリト君」

「え? あっ…ごめん 何だっけ?」

「まだ何も言ってないわよ」

 

そこからさらにキリトさんに声をかけるとキリトさんはようやく気が付いたみたいで反応した

 

「あなたはどっちの寝室使いたいとかってある?」

「ないけど… テオには聞いたのか?」

「さっき聞いたわ そうしたらどっちでもいいって」

 

どうやらどっちの寝室を使いたいのかという相談だったらしいがキリトさんとておさんはどっちでもいいらしい

 

「じゃぁ私達はこっち使わせてもらうけどいいかしら」

「ど…どうぞ…」

 

アスナは東側の扉を指さしながら言うとキリトさんは了解してくれた

 

そっちはさっき見てみたけどバスルームとクローゼットがあるからね

 

「でも確か城の3階に超大きいバスルームがあったと思うけど…」

「超…?」

「うん 超」

 

キリトさんが思い出したように3階に大きいバスルームがあったかもと言うとアスナとキリトさんはどこかでやったようなやり取りをした

 

「男湯と女湯って分かれてる?」

「うーん… どうだったかな…」

 

アスナが男湯と女湯は分かれているのかと聞くとキリトさんは考え始めた

 

「なんだか嫌な予感がするけどとりあえず行ってみましょ」

「行ってみましょって俺も行くのか?」

「だって私達場所知らないもの」

 

アスナがとりあえず行ってみようというとキリトさんは自分も行くのかと質問したのでアスナは場所を知らないと言ったのでキリトさんは頷いた

 

そして私達はスイートルームを後にして大浴場に向かうことにした

 

 

 




話の途中に出てきた某魔法学校…もうわかりますね

それではまた次回に


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16話:大浴場!

最近銭湯とか行ってないや…

それではどうぞ

追記:UA5000突破ありがとうございます!


キリトさんに着いて行き、3層の西翼の奥に行くとアーチを境目として赤い絨毯から大理石のタイル変わっていた

 

そのアーチをくぐり、道なりに進むと左側の壁に再びアーチ状の入口があって奥からエコーのかかった水音が聞こえてきた…

 

なんか嫌な予感がしたためアーチをくぐってみるとそこには豪華な脱衣所があった…

 

「お風呂…分かれていないみたいね」

「そうだね」

 

嫌な予感が的中したため私は半ば諦めの状態でそう言った

 

「ま…まぁ 俺たちは部屋のお風呂使うから2人はここを使えばいいよ それじゃぁまた後で…「待って!」」

 

そんな私達の様子を見てキリトさんとておさんは部屋に帰ろうとしたがアスナがキリトさんの腕を掴んでそれを止めた

 

「私達だけだと誰か来たら…!」

「誰かって…俺とテオ以外はNPCしかいないぞ?」

「NPCにも男の人はいるでしょ!」

「だからと言って通さないわけにはいかないだろ?」

「それは…そうだけど…」

 

アスナは誰かが来るかもしれないと思ったらしくそのことをキリトさんに伝えたがキリトさんは自分たち以外はNPCしかいないと言ったがアスナはNPCにも男性はいると反論したがキリトさんは正論を言ったためアスナは少し落ち込みながら何かを考え始めた

 

「うー…あっ! そうだ!」

 

しばらく唸っていたが突然何かを思いついたみたいで籐椅子に座るとメニューウィンドウを操作して色とりどりの布地と裁縫道具の入った小箱をオブジェクト化した

 

布地の山の中から無地純白の布地を、小箱から裁ちばさみを取り出すと作業を始めた

 

ハサミをタップして開いたウィンドウから作りたいアイテムを選択するとハサミを布にあてると勢いよく断ち切った

 

すると布が発光し、全く同じ形の2枚布パーツになった

 

その2枚の布パーツをぴったりと重ねると今度は小箱から銀色の針を取り出し、縁をかがり始めた

 

そして手慣れた手つきで縫い合わせを終えると再び発光し始め、平面的な形から衣服のような立体的な厚みが出てきた

 

アスナが持ち上げて出来を確認したそれはどこからどう見てもワンピースタイプの水着だった

 

「できた! 我ながらいい出来ね!」

 

満足そうな様子のアスナに恐る恐るキリトさんが質問した

 

「もしかして水着を着てお風呂に…?」

「別に問題はないはずよ? それとも私が水着を着てお風呂に入ったら何か不都合なことが?」

「ありません…」

 

キリトさんの質問に対してアスナは不機嫌そうに返すとキリトさんは首を横に振った

 

そこからチラッとキリトさんの方を見ると不穏な笑みを浮かべてからすぐにすまし顔になった

 

「そういえばキリト君にお返ししてなかったわね」

「えっ!? いや お気遣いなく 別に形のあるものをプレゼントしたわけじゃないから…」

「ううん 店売りのものより何倍も嬉しかったわ だからしっかりとお返しはしないといけないじゃない?」

 

アスナは何かキリトさんに対してお返しがしたいようだったけどキリトさんはお返しはいらないと言ったがアスナはこういうのはしっかりとお礼がしたいタイプのようで「折角のクリスマス・イブなんだし」と付け加えた

 

「ま…まぁ くれるって言うんだったら有難く…」

「折角だしタコミカ達の分も作るわね?」

「ありがと! でも特に何にも用意してないけど…」

「別にお返しとかはいいからね?」

 

キリトさんは少し警戒しながら答えた

 

そしてアスナは私達の方を見ると私達の分も作ってくれるみたいだったけどお返し等は特に用意してないということを伝えたがそういうのは別にいいと答えてくれた

 

 

 

そこからしばらくすると出来たみたいで私達にそれぞれ水着を渡してきた

 

「はい! メリークリスマス!」

 

私にくれた水着はオレンジと若草色のワンショルダータイプのビキニだった

 

「お~ 可愛い!」

「ふふっ ありがと」

 

私が素直な感想を言うとアスナは笑顔で返してくれた

 

チラッとておさんとキリトさんの水着を見てみるとておさんのは藍色のサーフトランクス、キリトさんのは黒色のサーフパンツみたいだった

 

でもキリトさんの海パンには裏にフレイムオレンジのクマ型のアップリケがあった…

 

なんじゃこりゃぁあああ!!

 

キリトさんもそれに気が付いたみたいで大声を上げていた

 

ふとアスナの方を見てみると口を押えて笑っていた

 

 

私達はそんなキリトさんを放置してアスナが作ってくれた水着に着替えると脱衣所の奥にある曇りガラスの扉の元まで向かい、扉を開けると私達は思わず声を出していた

 

「わぁ…!」

「凄い…」

 

 

浴室は透明感のあるアイボリーホワイトのタイルが床に敷き詰められて、その奥にあるのは湖を囲んでいた岩を加工したと思われる細かい横縞の入ったエボニーブラック色の浴槽だったがそのサイズがあからさまに大きくちょっとしたプールみたいだった

 

壁にある黄金色の吐湯口からはお湯が絶えず注がれていて、溢れたお湯は浴槽の縁を超えて床タイルに流れていた

 

しかも浴槽に面している壁は全面ガラス張りで舞い散る雪と湖が一望できた

 

ふと見まわしてみたが先客はいなさそうだった

 

「お先に!」

 

そう叫んだアスナはダッシュで大浴場へと向かって行ったので私も歩いて行こうとすると凄い勢いで黒い影が私を追い越していって浴槽手前で立ち止まったアスナを飛び越えてそのまま大浴場に盛大な水柱を上げてダイブした

 

2人とも危ないって…

 

~~~~~~

 

案の定アスナは不機嫌だったが数分後にようやく機嫌を取り戻したみたいで私達は雑談をしながらお風呂を楽しんでいた

 

その時後方の方で扉が開く音がした

 

「だ…誰か入ってきた…?」

 

そう言ったアスナは素早く口元までお湯に沈んだ

 

ふと入口の方を見てみると立ち込める湯気で詳しくは分からないがほっそりとした影がこちらに近づいてくるのが分かった

 

そして黄色いカラー・カーソルが出現した時、聞き覚えのある女性の声が聞こえてきた

 

「キリトにアスナ それとテオロングとタコミカもここにいたのか」

 

なーんだ キズメルか… うん!? キズメル!?

 

キズメルの声が聞こえたておさんは自ら潜り、アスナも咄嗟にキリトさんの頭を掴むとお湯に沈めて自分はキズメルを一緒に脱衣所の方へと戻っていった…

 

 

 

しばらくすると2人は脱衣所から戻ってきたがキズメルは紫色のビキニを着ていた

 

多分アスナはキズメルを説得して水着を着させたのかな

 

私がそう考えているうちにキズメルはいつの間にかお湯から顔を出していたキリトさんの隣まで来ると浴槽の縁に腰を掛けた

 

「キリトとテオロング、それからタコミカも下着…いや、水着を着ているのか 人族には不思議な習慣があるのだな」

「ま…まぁね…」

「あぁ…」

「そ…そう!」

 

キズメルがそう聞いてきたので私達は短く答えた

 

するとキズメルは口元に淡い笑みを浮かべるとキリトさんの方を向いた

 

「しかし 野営地の風呂天幕では確か…「いやぁ! それにしてもでっかい風呂だなぁ!」」

 

キズメルはキリトさんに対して何かを言おうとしたがキリトさんが話の途中で遮った

 

アスナがそんなキリトさんを怪しい目線で見ているがキリトさんはそんなことを気にせず続ける

 

「4層の城でここまで凄いんだったら女王様がいる9層のお城のお風呂はさぞかし豪華なんだろうなぁ!」

「勿論だとも この城より遥かに高いところにあって9層全体を一望できる それは豪勢なものだよ」

 

キズメルが頷くとアスナは風景を想像しているのか目をキラキラとさせたがその様子を見ていたキズメルが少し気の毒そうな表情をつくった

 

「しかしその浴場を使えるのは貴族の文官達と女王陛下によって叙任された上位の騎士だけなのだ だから人族であるそなた達が立ち入ることは難しいだろうな…」

「そうなんだ… でもこのお風呂も十分素敵だわ それこそこのお城でずっと暮らしてもいいって思えるぐらい」

「確かにそうかもね 食事も美味しかったし部屋も良かったし…」

 

アスナがこの城でずっと暮らしたいかもと言ったので私もそれに便乗していいかもと答えた

 

「この城を気に入ってくれたのは嬉しいが…あまり長居しないほうが良い」

 

そんな私達の声が聞こえたのかキズメルは俯きながら答えた

 

「えっ? どうして…?」

「ここまで来たお前たちなら知っているとは思うがこの{ヨフェル城}は四方を湖水と崖に囲まれた難攻不落の城だ 古の頃からゴブリンやオークはおろか、森エルフの大軍にさえ攻め入られたことはないと聞く」

 

アスナがキズメルの方を向いて理由を聞くとキズメルはそう答え、一旦言葉を区切ったところにキリトさんが質問した

 

「でも難攻不落なのは良いことなんじゃないのか? 3層で苦労して取り戻した〖翡翠の秘鍵〗も今はこの城に保管されているんだろ?」

「うむ… だがそれ故にこの城の駐屯部隊は弛み切っている 森エルフを何度も撃退したとはいえ陸に砦を構えている彼らはあまり船を持っていないからな 一方的な有利にものをいわせた勝利では意味がないさ …その上 神官共に至っては音が耳障りだから城内で金属の鎧は身に着けるな等と言い出す始末だ あのような連中がのさばっていては城の空気が緩むのも当然だな…」

 

キリトさんの質問にキズメルは答えながら続けた

 

「それでキズメルはずっとドレスを着てたのね」

「似合っていなかっただろう?」

「そんなことないわよ でも自分がしたい恰好をするのが一番ね」

「私達もフルプレートアーマーとか着てたら注意されてたのかな…?」

「恐らくはな 試す必要は無いが」

「えぇ そうね」

 

私達がそんな会話をしていると…

 

あっ!

 

突然キリトさんが叫んだため

 

「どうしたんだよ?」

 

ておさんがキリトさんにどうしたんだと聞くとキリトさんはアスナに質問した

 

「なぁ アスナ 今日って24日だったよな!?」

「そうに決まってるでしょ クリスマス・イブなんだし」

 

アスナからそう聞くと今度はキズメルの方を向いた

 

「大変だ キズメル! 3日後にほぼ間違いなく森エルフの軍がこの城に攻めてくる!」

 

キリトさんがそう言うとキズメルは軽く眉をひそめながらキリトさんに対して言った

 

「さっきも言ったが彼らはあまり船を持っていないし上の層から霊樹の門を使って運んでくることもできない ましてや泳いで来ようと彼らが考えていたとしても上陸前にこちらに蹴散らされるだけだ」

「それが…」

「もしかして あの箱を使ってフォールンエルフ達が造ろうとしてたのって…!」

「何だと!? この層でフォールン共を見たのか!?」

 

それに対してキリトさんがフォールンエルフの件を説明しようとしていたので私はキリトさんに確認しようとするとキズメルは私達に対して質問してきたので私達は頷いて水運ギルドの件を順番に説明していった

 

~~~~~~

 

そして10分ぐらいかけ説明し終えるとクエスト進行の効果音が鳴って私はレベル16に上がったが喜ぶ暇なくキズメルが立ち上がって私達に鋭い声で叫んだ

 

「こうしてはいられん! 4人共!一緒に来てくれ!」

「構わないけど… どこに行くの?」

「この城の城主のヨフィリス閣下の所にだ」

 

キズメルがそう言ったので私達はお風呂を出ると大急ぎで着替え、大浴場を後にした

 

 




あからさまに書くペースが落ちてるけど4層編を終えるまではこの投稿ペースを続けたいです…

それではまた次回に


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17話:ヨフィリス子爵

もう3月なのにまだ寒いってどういうことですかね?

それではどうぞ




キズメルに連れていかれたのは中央階段を5階まで上ってすぐ右にある武装した衛兵が2人いる大扉の前だった

 

先導するキズメルの顔パスで難なく通り抜け、扉を開けるとそこは巨大な執務室だったが窓は全てカーテンが閉められていて結構暗かった

 

絨毯につまずかないように細心の注意を払いながら部屋を横切ると奥にある重厚な机の前で立ち止まった

 

横幅3メートルぐらいはありそうなそれの奥に目を凝らすけど人影しか見えない…ランプが置かれており、書きかけの書類とインク壺を照らしてはいるもののなぜか奥までは照らされてはいない…

 

それでもその人影を見ているとやがてカラー・カーソルが出てきた

 

そのカーソルには【ヨフィリス:ダークエルヴン・ヴァイカウント】と表示された

 

ヴァイカウントって確か子爵っていう意味だったよね…?

 

 

私がそう考えている間にダークエルフ式の敬礼を終えたキズメルは口を開いた

 

「城主ヨフィリス閣下、執務中に失礼致します 急ぎ報告すべき事柄があり まかりこしました」

 

少しすると暗がりから男性か女性か若者か老人か分からない声が返ってきた

 

「その報告とやらの前になぜ人族を4人も伴っているのですか 騎士キズメル?」

「は…」

 

キズメルが頭を下げたタイミングでキリトさんが一歩前に出るとキズメルと同じように敬礼をしてベルトポーチから紹介状を取り出すと机の上に差し出した

 

すると暗がりから伸びてきたほっそりとした左手が紹介状を取るとそれを広げた

 

「…ふむ 3層の秘鍵の回収に貢献した者たちですか… それでは湖の魚の餌にするわけにもいきませんね…」

 

紹介状に目を通していたのかしばらくするとそんな冗談なのか本気なのか分からない心臓に悪いことを言うと紹介状をデスクの引き出しに仕舞ったがその代わりに何やら小さいものを4つキリトさんに渡した

 

「それを身に着けていれば今後リュースラの衛兵に咎められることはないでしょう 無論お前たちが我々を裏切らない限りは、ですが」

 

さらりと私達にプレッシャーをかけるような発言をするとキリトさんは深々とお辞儀をしてから私達の元まで戻ってきた

 

そしてキリトさんは私達にヨフィリス閣下から受け取ったものを渡してきた

 

それは華奢な銀製の指輪で印章部分にはダークエルフの紋章である角笛と曲刀が交差した紋章が刻まれていた

 

私はそれをポーチに入れるとヨフィリス閣下とキズメルの会話に耳を澄ませた

 

「それでキズメルよ 報告とは如何なるものですか?」

「はっ 人族の剣士キリトとアスナ、テオロングとタコミカにより伝えられた情報なのですが この4層に我らが仇敵、フォールンエルフの将軍ノルツァーが降りてきています」

 

キズメルの話を聞いたヨフィリス閣下は暗がりから伸ばしたままの右手の指先でデスクを鋭く叩いた

 

「…ほう それは確かに聞き捨てならないですね」

 

私はその反応に少し震えたけどヨフィリス閣下はさらに続けた

 

「あの悪党が今度はどのような悪巧みを?」

「それが…どうやらフォールン共は本格的に森エルフと手を組んだようです」

 

キズメルはそう前置きをすると私達から聞いた内容を適切に要約しつつ話した

 

 

「…成程 フォールン共が建造している船の数は分かりますか?」

 

ヨフィリス閣下はそうキズメルに聞くとキズメルはキリトさんの方を向いたためキリトさんは咄嗟に返事をすると少ししてから答えた

 

「…10人乗りの船を最低でも10隻は造ると思われます」

 

キリトさんの言葉を聞くとヨフィリス閣下は再びデスクを右手の指先で叩いた

 

「ふむ… この城に配置されている船は10人乗りが8隻 それを超える数の船が攻めてくる、というわけですか」

「閣下 城の兵士たちの精強ぶりを疑うわけではありませんが 念のため第1の秘鍵とこの4層に保管されている第2の秘鍵を共に上層へ移されてはいかがでしょうか?」

 

キズメルの提案にはヨフィリス閣下はすぐには答えずしばらくしてから静かな声で答えた

 

「…確かに騎士キズメルの意見には一理あります 万が一にも秘鍵を再度奪われるわけにはいきませんから しかし本来我々リュースラの民の役目は決して6本の秘鍵が1ヵ所に集まらぬよう6つの層に分けて守り続けること第1と第2の秘鍵を上に送れば5層に3つの秘鍵が集まってしまう その状況は宜しくないですね」

 

その言葉にはキズメルも黙って頷くしかなかった

 

しばらく無言が続いたがふとアスナが口を開いた

 

「あの、城主様 6本の秘鍵が1ヵ所に集まると何が起こるんですか?」

 

アスナの質問に私も少し驚いたが確かに知りたいところではある…

 

「アスナ それは…」

 

そのアスナの質問に対してキズメルは振り向いて少し慌てた様子で言いかけたがヨフィリス閣下が手を伸ばしてそれを遮った

 

「よい、キズメル 私から説明しましょう…とはいえ その問いには答えられないのです、人族の剣士よ なぜなら『大地切断』以前より続くヨフィリス子爵家当主たるこの私ですら秘鍵の伝承をほんの一部しか知らないのですから 全てを知っておられるのは我らが女王陛下ただお一人…いや…」

 

そこで一旦ヨフィリス閣下は言葉を区切ると沈鬱な吐息を漏らした

 

「ことによっては女王陛下でさえも本当の真実はご存じないのかもしれません」

「ヨフィリス閣下…」

 

硬い声を出したキズメルに謝罪するようにヨフィリス閣下は右手を軽く持ち上げた

 

「すまない 失言でした …人族の剣士よ 私が教えられるのはこれだけです 我らリュースラの民は6つの秘鍵が全て集まり聖堂の扉が開かれる時、この浮遊城アインクラッドに壊滅的な破局が訪れると伝えられています 一方で千古の昔より争い続けてきた森エルフ…カレス・オーの民達は伝承を別の形で解釈しています 聖堂が開かれた時、アインクラッドの全ての層は再び大地に帰還しエルフは大いなる魔法の力を取り戻せるのだ…と」

 

それを聞いた私達は思わず驚きの声を出していた

 

 

いろんな考えが私の頭をグルグルとまわっていた時アスナはキリトさんに小声で話しかけていた

 

「ねぇ キリト君 確かフォールンエルフの将軍の…ノルツァーだったっけ? その人も聖堂に関して何か言ってなかった…?」

「言われてみればそうだったような…」

 

そう言われたキリトさんは少し考えると思い出したのかヨフィリス閣下のいる方向に向かって発言した

 

「あの…城主様 ノルツァー将軍はこうも言っていました フォールンエルフが全ての秘鍵を手に入れて聖堂を開いた時、人族の最大の魔法が消え失せる…と…」

「人族の魔法…?」

 

キリトさんの発言を訝しむ声で繰り返したヨフィリス閣下はデスクの上に乗せていた右手をひっくり返すとキズメルに訊ねた

 

「キズメル 人族の魔法について心当たりはありますか?」

「はっ エルフ族には遠く及ばないまでも人族には幾つか古のまじないが残されていると聞きます 私が知っているのは装備や道具等を薄い書物の中に納める『幻書の術』と遠く離れた場所に瞬時に書信を届ける『遠書の術』ぐらいのものですが…」

 

確かにこの世界でプレイヤーが使える魔法っぽいものと言われたらそれぐらいしか思いつかないような気がする…かな? どちらも他のゲームでもあるメニューとチャットだと思ってたけど

 

「ふむ 確かに便利そうではありますが…」

 

そう言ったヨフィリス閣下は考える際の癖なのか再びデスクを指先で叩き始めた

 

「あのノルツァーがその程度のまじないを使えないようにするために森エルフと手を組んだとは考えにくいですね…」

 

エルフ族にとってはその程度なのかもしれないけどメニューが開けないようになるだけでも結構致命的なんだけどな…

 

その数秒後 何事もなかったかのように落ち着いた口調でヨフィリス閣下は話し始めた

 

「…ともあれ この層にある〖瑠璃の秘鍵〗は回収しておいたほうが良いでしょう ですが、森エルフの襲撃に備えるためにも兵士はここに残しておかねばいけません …人族の剣士よ 騎士キズメルの協力し第2の秘鍵回収の任に当たってくれませんか?」

 

その問いかけと共に暗闇の奥にクエストNPCの証の金色のエクスクラメーションマークが出現したため私達は顔を見合わせるとほぼ同時に頷いた

 

「はい 手伝わせて頂きます」

 

キリトさんがそう答えるとクエスチョンマークに変化した

 

ヨフィリス閣下に深々と一礼をしたキズメルは私達の方を向くと笑みを浮かべた

 

「重要で危険な任務だがもう一度お前たちと共に戦えるのは嬉しいよ 改めてよろしく頼む アスナ タコミカ キリト テオロング」

「よろしくね! キズメル!」

「うん!」

「こっちこそ!」

「宜しく!」

 

私達がそう叫ぶとキズメルが私達のパーティに加わった

 

~~~~~~

 

ヨフィリス閣下の居室を退室し、扉の傍にいる衛兵の視界から外れた瞬間にキリトさんは大きく伸びをした

 

「う~ん… 緊張したなぁ…」

「ふふ 無理もない 城主閣下は黒エルフの中でも最も長く生きておられる方々の1人だからな 実は私も少し緊張していたよ」

「なんだ キズメルもなのか… そういえばキズメルって何歳なんだっけ?」

 

キリトさんが不意にそんなことを言ったので私はキリトさんの足を強めに踏んでアスナはキリトさんの脇腹を肘で突き、キズメルは軽く咳払いをした

 

「お前… 女性に年齢を聞くなって教わらなかったのか?」

「お…俺はただ好奇心で…」

 

私達の攻撃?を受けてダメージを受けているキリトさんに対してておさんは呆れながら注意した

 

好奇心でも聞いて良いことと悪いことがあるのだけど…

 

「キリト 悪気がないのは分かるがテオロングの言う通りだ エルフ族の間でも他の者に面と向かって年齢を訊ねるのは不作法となっている」

「す…すみません…」

「まぁ ヨフィリス閣下に比べたらまだまだ若輩とだけ言っておこう」

「りょ…了解しました …にしても立派な城主様がいるのに城の兵士たちが弛んでいたり神官とやらが偉そうにしているのはちょっと不思議だな…」

 

キリトさんキズメルの話を聞いている間にキリトさんも立ち上がったので私達は小声で話をしながら進んでいき、ちょうど階段に差し掛かった時にキリトさんはヨフィリス閣下について質問するとキズメルは難しい顔になった

 

「うむ… それには理由があるのだ ヨフィリス閣下はとある難しい病を患っておられる その為明るい光の下にお出でになることが出来ないのだよ もう長いことお部屋に閉じこもりっぱなしで城にいるほとんどの兵士はお顔すら拝したことさえないはずだ…」

「病気? エルフ族なのに?」

「エルフ族は長寿とはいえ、病気とは無縁というわけではないさ …神官共は閣下の目が届かないのを良いことに我が物顔で威張り散らしている いざ戦となれば何の役にも立たぬのにな 困ったものだ…」

 

キズメルの話を聞いているうちに4階の自室の前で立ち止まってキズメルは軽くかぶりを振って口調と表情を切り替えた

 

「ともあれ 4人とも、重要な情報を届けてくれたことに感謝するよ 今夜はもう遅いから明日の朝から任務に取り掛かるとしようか 4人とも 夜更かしせずしっかり寝るのだぞ?」

「そうするよ」

「おやすみなさい キズメル」

「おやすみ キズメル」

「分かったよ」

 

私達が挨拶を返すと微笑みながら頷き、部屋へと入っていったのと同時に左上に増えたHPバーもキズメル分だけ消滅した

 

私達は廊下を移動して隣のスイートルームに戻った

 

 




タコミカの閣下呼びは深い意味はありません

それではまた次回に


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18話:それぞれのクリスマスと第2の秘鍵回収

UA5000記念何やろっかな…

それではどうぞ




メニューを開いて時間を確認してみると夜の10時を過ぎていた

 

窓を見てみるとまだ雪は降っていて窓から見える前庭の立ち木はすっかり真っ白だった

 

私達はしばらく居間の真ん中で立ってその様子を見ていた

 

ふとキリトさんは何かを思いついたかのように左手の人差し指にはめてある指輪のプロパティを開いた

 

「名前は〖シギル・オブ・リュースラ〗か マジック効果は…お AGIに+1とスキル熟練度の上昇にちょびっとボーナスか 結構いい効果だな…」

「ふーん…」

「結構いい効果ですね」

 

貰った指輪の説明を聞いた私は早速ポーチから指輪を取り出すと右手の人差し指にはめた

 

少し指輪をはめた手を見ているとアスナが慌てて指輪をはめている指を変更しているのが見えた

 

その様子を見ていたキリトさんがアスナに対して質問した

 

「どうかしたのか?」

「な…何でもない!」

 

アスナの反応に対してキリトさんはこくこくと頷いた

 

「えぇっと…俺はそろそろ寝るけど…その前に1つだけ教えてほしいことがあるんだ」

「な…何?」

「さっき城主様の名前についていたビスカウント…?って何か知ってます…?」

 

アスナはキリトさんの質問を聞いたとたんに微妙な顔をしてから長い溜息をついた

 

「ヴァイカウント」

「え?」

「だから Viscountって書いてヴァイカウントって読むのよ 意味は子爵ね」

「な…成程… 因みに子爵ってどれぐらい偉いんだ?」

「一般的には順番で言えば公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の順番で偉いから 子爵は上から4番目」

 

アスナがViscountの正しい呼び方と意味を言うとキリトさんはどのぐらい偉いのかと返したためアスナは子爵は4番目ぐらいだと言って「ダークエルフの貴族制度がどうなっているのかは知らないけど」と付け加えた

 

「りょ…了解… 解説どうも… それじゃぁ明日は少し早いけど朝の6時にここで集合でいいかな…?」

「大丈夫です」

 

キリトさんはアスナに対してお礼を言うと明日は朝の6時に居間に集合と提案したので私は頷き、アスナとておさんも黙って頷いた

 

「じゃぁそういう事で…オヤスミ…」

「キリト君」

「ハッ…はい!」

 

キリトさんはそそくさと寝室に向かおうとしたがアスナがそれを呼び止めたためキリトさんは驚いた様子で振り向いた

 

「それからタコミカとテオ君も…お風呂に行く前にも言ったけど今日は本当にありがとう 現実世界で過ごしたクリスマス・イヴよりずっと楽しくって素敵だった」

 

それから私達の名前も呼んだのでアスナの方を向くとアスナは今日のことについてお礼を言っていた

 

その数秒後にキリトさんが1つ質問してきた

 

「向こうじゃどんなクリスマスだったんだ?」

「うーん…」

 

キリトさんの質問にアスナは分厚い絨毯をブーツのつま先でグリグリしながら答えた

 

「毎年家族でクリスマスパーティをするから家にいなさいって言われてるけど結局母親も父親も遅くまで帰ってこなくって1人でケーキ食べて終わり…っていう感じかな…」

「そっか… タコミカ達はどうだったんだ?」

 

そう言ったアスナに対してキリトさんは相槌を打つとキリトさんは今度は私達に対して同じように質問してきた

 

「私はここ最近は兄妹のみでクリスマスパーティでしたね… 一番上の兄がいつもケーキを作ってくれて 昔は家族全員で外食とかにも行きましたけどここ数年ぐらいはお父さんもお母さんも忙しくて…」

「そう考えたら俺はまとも…なのかな…? 家族と家で買ってきたチキンとケーキを食べるだけだけど…」

 

私達がそう答えるとておさんはキリトさんに向かって「お前はどうなんだよ? 俺らが答えたのにお前だけ答えないのは不公平じゃないか?」と言ったのでキリトさんは少しだけ焦っていた

 

「お…俺もテオと同じような感じだったよ」

 

キリトさんがそう答えたが肝心のておさんは少しだけ疑っているような様子だったのでキリトさんは話題を変えるようとしていた

 

「…ま…まぁ 楽しんでもらえたんだったらよかったよ どうせだったらケーキも用意できたらよかったんだけどな」

 

不明瞭な声でキリトさんはそう言うとアスナの口元の笑みが少しだけ明瞭になったような気がした

 

「そうね でもそれはまた来年に取っておくわ」

「そうだな…」

「じゃぁ私もそろそろ寝るわね お休みなさい」

「お休み」

「うん お休み」

「あぁ」

 

私達が挨拶を済ませるとアスナはキリトさんとておさんの方の寝室とは反対の方の寝室に入っていった

 

「それじゃぁ私もそろそろ寝ますね おやすみなさい~」

「あぁ お休み」

「お休み~」

 

それに続いて私も挨拶を済ませるとアスナと同じ寝室へと向かって行った

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

ふと目が覚めたのでベッドから起き上がって辺りを見回してみたがアスナはいなかった

 

「あれ…?」

 

もしかしたら居間にいるかもと思ってそっと居間の扉を開けるとソファにアスナとキリトさんが寝てた…

 

「やっぱりこっちにいたんだ」

 

私はそんな2人を横目に私は外に向かうために部屋の扉をそっと開けるとそこから早歩きでエントランスへと向かった

 

 

エントランスへと向かうと大扉を開けると雪はまだ降っていて、一面の銀世界が広がっていた

 

「お~ 凄い!」

 

 

しばらくその景色を見ていると誰かが私に声をかけてきた

 

「ここにいたのか」

「あっ! すぐに戻るつもりだったんですけどね…」

 

ておさんに声をかけられたので私はすぐに戻るつもりはしていたと答えた

 

 

そこからは少しだけ無言で空を見ていたがふと口を開いた

 

「あの ておさん」

「どうした?」

「本当に私達はこのゲームをクリアできますよね…?」

 

私の質問に対してておさんは答えなかったけど誰も答えなんて知らないし分からないから…

 

それに加えて私が弱音を吐くのはこれが初めてだなと心の中で少し思った

 

「どうだろうな… でもきっと毎日積み重ねていったらクリアできると俺は考えてるよ」

 

ておさんがそう言ったため私は少し無言になって話題を変えることにした

 

「…少し辛気臭い話になっちゃいましたね 戻りましょうか」

「…そうだな」

 

私が戻ろうというとておさんはそれに同意した

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

そこから部屋に戻って眠り、翌日の25日とその次の日である26日は〖瑠璃の秘鍵〗の回収のためのクエストをこなしているうちにあっという間に過ぎてしまった

 

難易度は優しくはなかったけど私達のレベルが1ずつ上がったのとキズメルが頼もしかったこともあってか2日目の夕食前には〖瑠璃の秘鍵〗を回収してヨフェル城へと戻ってくることが出来た

 

そしてヨフィリス閣下にクエスト報告を済ませ、部屋を出ると廊下の西の突き当りにある大窓から真っ赤な光が差し込んでおり、キリトさんはその光を浴びながら大きく伸びをしていた

 

「っと…どうにか予定通りに第2の秘鍵は回収できたな 城主様が椅子の後ろの小部屋にしまってたけど第1の秘鍵もあの場所にあるのかな…」

 

キリトさんは独り言のつもりだったらしく小声っぽかったがそんなキリトさんの疑問に答えたのは久々にドレスから鎧に着替えたキズメルだった

 

「その通りだ つまり森エルフ達に城の5階まで攻め上がられたら2つの秘鍵を奪われてしまう可能性が高い ヨフィリス閣下はレイピアの名手でなれど、ご病身の閣下に御自ら戦って頂くわけにはいかぬからな…」

「大丈夫よ 5階どころか桟橋にも上げないから」

 

キズメルの言葉に答えたのはこの2日間かなり奮闘していたアスナだった

 

「敵の船が10隻来ようと20隻来ようと全部沈めてやるわ!」

「それは頼もしいな」

 

好戦的なアスナにキズメルは笑いながら背中をぽんと叩くとキリトさんの方に眼を向けた

 

「キリト アスナ テオロング タコミカ たった2日で封印の迷宮から〖瑠璃の秘鍵〗を回収できたのは勿論お前たち自身の力もあるが、お前たちの船の性能に依るところも大きい そして何より私が嬉しいのはあの美しい船に妹の名前をつけてくれたことだ…」

 

キズメルは一旦言葉を区切ると近くの北向きの窓へと向かって行った

 

「…妹は幼いころから水遊びが好きだった 9層にある都ではよく一緒に遊覧用の小舟に乗ったものさ ティルネル号を見ているとその思い出が甦ってくる気がするよ…」

 

昔を懐かしむような声で話したキズメルの右隣にそっと寄り添ったので私もアスナの隣に向かった

 

 

少ししてキリトさんはキズメルの左隣に向かうと軽く咳払いをし、口を開いた

 

「あのさ キズメル ひとつお願いがあるんだ」

「私にできることならば何でも言ってくれ」

「ええっと… 俺たちの幻書の術は船みたいに大きいものは収納できない、だからといって船を担いで天柱の塔を登るわけにはいかないから次の5層に行く時はティルネル号をこの4層のどこかに置いて行かなきゃいけないんだ」

 

キリトさんは私達が昨夜にじっくり話し合ったことを話すとキズメルは黙って聞いていたが今度はアスナが話しかけた

 

「だからね キズメル 私達が5層に上る前にティルネル号をあなたに預けておきたいの このヨフェル城の桟橋に泊めておいてくれるだけでいいから…」

 

ぶっちゃけ言うとかなり怪しい部分ではある 3層の徽章も「そなたから指令に渡しておいてくれ」と言われ、アスナに渡してたし一昨日アスナがキズメルに渡してた紫色の水着も脱衣所で返却されたし…

 

私達がキズメルの返答を待っているとキズメルは鎧の音を鳴らして窓の方を向いた

 

そしてしばらくすると静かに、しかし情感を含んだ声が流れた

 

「…勿論…勿論だとも お前たちの船は私が責任をもって預かろう だが1つだけ約束してくれるか?」

「何 キズメル?」

「またいつかこの城に来て 私をティルネル号に乗せてほしい」

 

キズメルのお願いを聞いた私達は声を合わせて「勿論!」と叫んだ

 

 




もうそろそろ長かった4層編も終わりそうかな…?

それではまた次回に


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19話:防衛戦

今回は久々の戦闘回です

それではどうぞ

追記:お気に入り登録20人突破しました! 本当にありがとうございます!m(_ _)m


12月27日にフォールンエルフの将軍が言っていた5日後という言葉の通りに正午に攻めてきたが3時間ぐらい前にダークエルフの斥候兵から情報が届いていたので前色々と用意できたのこちらは準備万端だったが流石にキリトさんの予想の10隻を超えて16隻来た時には驚いたけど…

 

そんなこんなで今は森エルフの兵士たちと交戦して何隻かは沈めたと思うが恐らくこちらが圧倒的に不利だろうと思っている

 

「キズメル! 今残っている船の数を教えてくれ!」

 

先ほどから頑張って櫂を漕いでいるキリトさんはキズメルに対して何隻残っているのかと質問するとキズメルはすぐに答えた

 

「味方が6隻 敵が12隻だ!」

「うげ…」

 

最初は8隻だったはずだからもう2隻も沈んでいるんだ…

 

森エルフ側の船は木箱を分解して組んだだけあってスピードや小回り等では劣っているものの頑丈さはかなり高い

 

それに加えてキズメルが予想した通り黒エルフ側の兵士たちの練度や士気が森エルフ側に劣っていることが周囲を見ると分かる

 

現に斬られて水に落とされる兵士の数は黒エルフの方が多い

 

勇敢なるカレス・オーの兵士たちよ!

 

緑色の地に金色の盾と直剣を染め抜いた旗を掲げる旗艦の真ん中に立つ指揮官っぽい大柄の森エルフの騎士が湖全体に響きそうな大声を出した

 

卑劣なダークエルフどもを湖の藻屑へと変えてやれ! 奴らは人族と手を組み我らの城を攻め落とすための船を造っていたのだ! 幸いその企みは破れ船は我らのものになった! この機を絶対に逃してはならぬ!

 

一瞬貴様を湖の藻屑にしてやろうかと思いました。

 

「キリト君! 気づかれたよ!」

 

というアスナの声で狙っていた森エルフの漕主がこちらに向かって右ターンしようとしていたということが分かったのでキリトさんは進路を左に振ると急に右旋回をし、櫂を全力で漕いだ

 

敵船から2本の槍攻撃があったので1本目はアスナがレイピアで目にもとまらぬスピードで払い、2本目は私が槍の穂と柄の間の部分を掴んでそのまま勢いよく引っ張り、槍使いの兵士ごと水に落とした

 

その直後にティルネル号の衝角が敵の船の右後部を貫き衝撃が来た

 

私は何とか耐えたがアスナが前方につんのめりになりそうなのをキズメルが素早く引き戻した

 

そしてその敵船が爆発し、これで残り11隻となったがそのうちの3隻が主戦場となっている湖の北側から迂回して西側から城の大桟橋へと近づいていた

 

「不味いな…」

 

キズメルがその様子を見て呟いたのと同時に船を横に並べてフォレストエルフの船の進行を防いでいるダークエルフ船隊の中心に陣取る指揮官がこちらにシミターを振りかざしながら怒鳴った

 

そこの小舟! ぐずぐずしてないで敵の別動隊を止めろ!

「何よ! その言い方!」

 

アスナが憤慨するのも無理はない…

 

あの指揮官は戦いの準備中にも散々偉そうなことを言ってきたからね… でもここで進行を許してしまったらヨフィリス閣下や城にいる子どもたち、城で防衛している兵士たちが危ないので渋々従うしかない

 

「くそっ…やるしかないか…!」

 

キリトさんも私の思っていることと似たようなことを考えているのかそう唸りながら櫂を動かしていた

 

幸い3隻ともこちらに気づいておらず、今突っ込めばどれか1隻は沈めることが出来そう

 

私的には真ん中に突っ込んでから左右の船を動かせないようにするのがベストだと思った

 

そんな私の考えをくみ取ったのかキズメルは振り向いてキリトさんに指示を出した

 

「構わん! キリト 真ん中の船に突っ込め!」

「り…了解!」

 

キリトさんがそう返すと微調整をしながら中央の船に突っ込むために徐々にスピードを上げていった

 

そのことは船の後ろにいる槍兵も気づいてはいるけど進行を止めるつもりは無いみたいだった

 

いっけぇ!

 

キリトさんはそう叫びながら最後の一漕ぎをすると敵兵もまずいと思ったのか攻撃してきたが先ほど同様アスナが防ぎ、ティルネル号の衝角が敵船の船尾を突き破った

 

そして4隻目を轟沈させたのも束の間、左右の敵船に挟み込まれた

 

キズメルのHPバーの下にあるティルネル号の耐久力がじわじわと削られている… それに加え、船尾の槍兵もこちらに向かって攻撃をしてきてる このままではティルネル号が壊れるのも時間の問題だった

 

その時キズメルが落ち着いた声で私達に指示を出した

 

「キリトとアスナは右の船の、テオロングとタコミカは左の船の漕手を落とせ!」

「え!?」

 

キリトさんはキズメルの指示に対して少し困惑したような声を出していたがすぐに「了解!」と返した

 

私はておさんに素早く合図を出すと左側の船に飛び込んだ

 

早速槍兵が攻撃を仕掛けてくるがかわして≪トーレント≫を打ち込んで船外に落とした

 

ておさんも≪ホリゾンタル≫で槍兵を船外へと落としていた

 

「別に全員倒してもいいんだよな?」

「支障はないはずですけど…」

 

そんな会話を交えつつ次々と森エルフの兵士たちを船外へと落としていった

 

 

そして本来の目的である漕手のところへと向かうとこちらに気が付いたのかなんと漕手は手に持っていた櫂で攻撃してきた

 

「危な!」

 

勿論素早く回避して櫂を掴むと叩き割った それに困惑している隙に≪水月≫を叩きこむと悲鳴を上げながら船外へと落ちた

 

 

ふとておさんの方を見てみると最後の一人を相手にしているのが見えた

 

そして≪閃打≫で叩き落とすのを見届けるとすぐにティルネル号へと戻った

 

 

ティルネル号に戻ると先にキリトさん達は戻ってきていたみたいですぐに出発できる準備をしていた

 

少し水面の方を見てみると森エルフの兵士たちは泳ぎながら北の方へと向かっているのが見えた

 

チラッと右側の船を見てみると5~6人残ってはいるものの漕手はしっかりと落とした様子で櫂も破壊されていたため動かすことはできない様子だった

 

これで敵は8隻 味方は6隻のはず…

 

「よし…また衝角戦が始まる前に敵の旗艦を沈めるぞ!」

 

抑えた声でキリトさんがそう言いながらティルネル号を右に回頭させた

 

大桟橋から数百メートル離れた水上の主戦場ではお互いの船が6隻ずつ船縁を密着させながら東西方向に長い列を作って白兵戦をしており、森エルフ側の残り2隻は船列の後方に陣取っていた

 

ダークエルフ側が劣勢なのは見ても分かったが少しだけなら耐えてくれそうかな?

 

「4人とも あれで行くぞ」

 

そんな時キリトさんが声をかけてきた

 

キリトさんの言ったあれとはアスナが直してくれた〖アルギロの薄布〗を船ごと被り、水に囲まれた場所だと見えなくなるという特性を生かしてゆっくりと近づいて奇襲をかけるという戦法の事である

 

現に最初もその手を使ったのでちょっと怪しい部分ではあるけど…

 

そうしている間にティルネル号全体は〖アルギロの薄布〗に覆われたが薄布という名前の通りうっすらと外の様子が見えているのでキリトさんはそれを頼りに慎重にかつ急いで敵の旗艦に近づいた

 

 

しかし突然として森エルフの指揮官が突如として左腰に納めていた鞘からロングソードを抜き、それを天高く掲げた

 

「やばっ…!」

「気付かれたか…!?」

 

キリトさんとておさんがそう言ったので私はいつでも戦闘ができるように背中の鞘に納めていた〖フォレスト・ブレイド〗をいつでも抜けるように柄に手をかけたがどうやらこっちに気づいたみたいではないみたいだった

 

今だ! 1号船、2号船 突撃開始! 5号船、6号船 道を開けろ!

 

そして掲げたロングソードを振り下ろすと森エルフ側の6隻のうちの真ん中2隻が左右に分かれた

 

そこにあったのは無防備な状態の黒エルフの旗艦を含む2隻だった

 

「不味い…!」

 

キリトさんは急いで〖アルギロの薄布〗を外すと丸めて船尾へと突っ込んだがそうしている間にも森エルフ側の旗艦を含む2隻はスピードを上げてその隙間に突撃して行く…

 

「待ちなさい!」

 

アスナがそう叫んでいる間にもキリトさんは全力で漕いでいるがそこまでは20メートル以上あり、恐らく間に合いそうにない

 

「これは間に合いそうにないな…」

 

キズメルがそう言った直後、森エルフ側の旗艦についている衝角が黒エルフ側の優美な船体中央を轟音と共に貫いた それに遅れて2号船も別の黒エルフの船に激突してその船体に大きな穴を開け、2隻はたちまち沈没していった

 

「おのれぇぇっっ!」

 

怨嗟の念の声を上げながら黒エルフ側の指揮官も湖水に呑まれていった

 

ちょっとだけ水面を見てみると黒エルフの兵士たちは森エルフの兵士たちとは違い、どこかに泳いでいくことはなくその場で立ち泳ぎしているが再び戦闘に参加するということはないらしい

 

 

敵ながら見事なタイミングで黒エルフ側の船を2隻撃破した森エルフの指揮官はそこで止まることなく再び剣を天に掲げた

 

1号船、2号船 前進! 両船の兵士は上陸準備開始せよ!

「げっ…」

 

キリトさんは唸り声を漏らしながら全力で櫂を漕いではいるもののこのままでは敵の2隻の船の方が先に城の大桟橋に着きそうな気がした

 

「くそっ! こっちもあの隙間を通るぞ!」

 

そんなキリトさんの声が聞こえたのか一時的に退避していた森エルフの船が再び元の位置に戻ろうとしており、徐々に隙間が狭くなっていく…

 

いっけぇぇ!

 

キリトさんは叫びながら全力で漕ぎ、ティルネル号の舳先を突っ込ませた

 

直後、ガリッと嫌な音がしてティルネル号の耐久力も大きく削れたが何とか10人乗りの大型船を左右に押しのけて通ることが出来た

 

「抜けたわ!」

「あと少しです!」

「頑張れ! キリト」

 

私達の声に呼応するようにキリトさんは再加速したが追いつけるかどうかは微妙なところだと思ってる…

 

 

そんな私の感が的中して残り20メートルぐらいのところで2隻の敵船が大桟橋に接舷し、次々と桟橋に飛び移って一塊で城門へと突撃して行く 城門には一応6人の兵士がいるにはいるが20人という数ではまず勝てる気がしないし仮に城門を閉じたとしても少しだけ時間はかかるかもしれないけど突破できないわけではない

 

「キズメル! 城にいる神官たちは加勢してくれないの!? いろんなまじないが使えるんでしょ!?」

「残念だがそれはない… 神官共は一度も戦闘を経験したことがない官吏に過ぎないからな 今頃は地下の隠し部屋に隠れているだろうな…」

「そんな…」

 

アスナが城にいる神官は加勢してくれるのかとキズメルに聞いたがキズメルはそれはないと答えた

 

それと入れ替わるように必死に櫂を漕いでいるキリトさんがキズメルに質問した

 

「城主様と子どもたちは地下に隠れているのか!?」

「それは解らん… 何せこのヨフェル城の門は破られたことは古来一度もないからな 子爵閣下がどのような判断を下されるかは私にも見当がつかぬ」

「そ…そうか…」

 

キリトさんがキズメルの答えに対して反応を返して少しすると大桟橋へと到着しそうな時キリトさんが私達の名前を呼んだ

 

「アスナ! キズメル! タコミカ! テオ! 森エルフの兵士たちの前に割り込むぞ!」

「解ったわ!」

「そなたに任せる!」

「了解です!」

「おう!」

 

キリトさんの言葉に対して私達が返事を返すと森エルフの兵士たちの傍を追い越し、急ブレーキをかけると私達はすぐに桟橋に飛び移った

 

そして私達が武器を抜いた時キリトさんは私達に対して声をかけてきた

 

「4人とも! 5分でいい! ここで頑張ってくれ!」

「キリト君はどうするの!?」

 

心配そうな声で話しかけたアスナに対しキリトさんは頷いた

 

「大丈夫 ちょっと援軍を呼びに行くだけだから でも無理はしないでくれ 危ないと思ったらすぐに引いてくれ!」

 

キリトさんはそれだけを言うと城門の方へと向かって行った

 

 

「いくぞ 3人とも!」

「えぇ!」

「キリトさんが戻るまではここは通しません!」

「来い!」

 

私達はそう言うとこちらに向かってくる森エルフの兵士たちとの戦闘を開始した

 

 




あと数話ぐらいで第4層編は終わりそうかな…?

それではまた次回に


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20話:防衛戦の終結

タイトルが思いつかない…

それではどうぞ




しばらく奮戦し、敵も何体かは倒したがこちらも危うい…と思ったとき、森エルフの兵士たちのうちの一人がアスナの近くをすり抜けようとしていた

 

しかし攻撃を受け、水に落ちたため攻撃を受けた方向を見ると今までいなかったキリトさんがいた

 

「悪い! ちょっと遅れた!」

「こっちは大丈夫! でも船が…」

 

アスナが主戦場の方を向きながら話したので私も攻撃を剣で受けながらそちらの方向を見るとゴンドラは無事だけど船の上にいる黒エルフの兵士がもう各船3~4人ぐらいしかおらず、このままだと追加で50人ほどの森エルフの軍勢が押し寄せてくる…

 

「キリト君 そっちはどうだったの!?」

 

アスナがキリトさんに対して聞くとキリトさんは一瞬迷ったような顔をしたが直後に後方で雄風にも似た声が響き渡った

 

私はリュースラの騎士にしてヨフェル城主! レーシュレン・ゼド・ヨフィリス!

 

途端にキズメルは鋭い呼気を漏らしたが振り返らずに戦いを続ける

 

その後、レイピアを抜刀する音が聞こえ再びヨフィリス閣下は大声を出した

 

リュースラの兵士たちよ! 私は長きにわたる不在を詫び、そなたらに希う! この戦いには王国の未来が懸かっている! 女王陛下の為! 家族や友の為! 今一度立ち上がり 私と共に戦ってくれ!

 

瞬間戦場は静寂に包まれた…

 

直後フロアの奥底から湧き上がってくるような圧倒的な声量の雄たけびに包まれた

 

船上にいる兵士たちは勿論、水上にいる兵士たちも剣や拳を突き上げて叫んでいてその様子が凪いだ湖に波紋として現れ、それらは融合して大きな波になると同心円状へと広がっていく…

 

突然勇ましい効果音が聞こえてきたので咄嗟にHPバーを見てみると私たち全員のHPバーに幾つかのバフが追加されていた

 

ATK上昇にDIF上昇にノックバック効果上昇に更に幸運判定ボーナスまで付いていた

 

形勢逆転を狙うなら今しかない!

 

「反撃開始と行こうか!」

「了解!」

 

ておさんの言葉に私は返すと≪サイクロン≫を発動させ、近くにいた2人の森エルフの兵士を湖へと落とした

 

キリトさんやておさん アスナやキズメルも目の前の敵を吹き飛ばして前線を押し上げた

 

怯むな! 城主一人増えたところで我らの優勢は変わらぬ! このまま押し切れ!

 

そう叫んだのは後ろで控えている森エルフ側の指揮官だった 大振りのロングソードを抜き、前方へと振り下ろすと敵兵6人が横に並び、全く同じ動作で剣を上段に構えた 恐らく≪バーチカル≫を発動させるつもりとは思う

 

私達が応戦しようとした時ヨフィリス閣下から声…もとい命令が聞こえてきた

 

左右に避けなさい!

 

その為私達はすぐに桟橋の縁ぎりぎりに避けた

 

目の前の兵士たちはそんな私達の様子を気にせず技を発動させようとしたがそれは決まらなかった

 

後方から純白に輝く巨大な槍がすさまじいスピードで飛翔して私達が作った隙間を本当にギリギリで通過すると6人の兵士たちに眩い閃光と衝撃波の中で接触して宙高く舞い上がらせた

 

そしてしばらくすると左右の水面にそれぞれ3人ずつ落ちた

 

光が収まるとそこには体を限界まで前傾させ、レイピアを真っ直ぐ突き出した状態で静止するヨフィリス閣下がいた

 

「今の…ソードスキルなの!?」

 

アスナが驚くのも無理はない 私だって驚いてる

 

あのソードスキルは確か公式サイトで見たけど…細剣の最上位スキルの≪フラッシング・ペネトレイター≫だった気がする

 

でも上位のスキルになればなるほど硬直時間が長いので今攻撃されてしまえばかなり不味い 現に敵の指揮官が憤怒の表情を向けていた

 

「行くぞ! アスナ!」

 

キリトさんもそれに気が付いたのかアスナに呼びかけると走り出したので私達も走り出した

 

ひざまついたままのヨフィリス閣下を追い越してキリトさんはヨフィリス閣下を討ち取るため走り出してきた指揮官を迎え撃った アスナは同じく向かってきた副官を私達は兵士たちを相手にした

 

どうやら私とておさんが相手にしている兵士は今まで相手にしてきた兵士たちより少し強めらしいということが少し戦って分かった

 

鍔迫り合いになったところを≪水月≫で敵の体勢を崩し、そこに≪トーレント≫を打ち込んで湖に落とすことで私の戦いは終わりを告げることになった

 

ておさんも≪レイジスパイク≫を敵に撃ち込んで敵を湖に落としていた

 

ふとキリトさんの方を見てみると敵の攻撃をいつも私がやっているように剣を真横に倒しその剣の先を左手で支える通称2H(ツーハンド)ブロックをやっていた

 

攻撃を受けきったキリトさんは≪ホリゾンタル・スクエア≫を放った

 

「いっ…けぇ!!」

 

そして討ち取るとその様子を聞いた副官がキリトさんの方を向くと「指揮官殿が討ち取られた!? くそっ! 総員撤退しろ!」と言い、乗ってきた船に乗ると森エルフの軍団は総員撤退していった

 

そこでバフの効果が切れたことによってこの戦いが終わったと改めて実感できた

 

副官と戦っていたアスナがこちらに向かって走ってきた

 

「キリト君!」

「アスナ! 無事か!?」

「こっちは途中で撤退してくれたから大丈夫だけど…」

 

アスナが晴れない表情でキリトさんの持っている〖アニールブレード〗を見ていたので私も見てみるとキリトさんの持っている〖アニールブレード〗が真っ二つに折れていた

 

「あぁ… そろそろ寿命だったからな… むしろよくここまで頑張ってくれたよ ありがとな…」

 

キリトさんが〖アニールブレード〗に対して感謝を述べていると私達に気が付いたようで声をかけてきた

 

「タコミカとテオも無事だったか」

「何とかですけど」

「それよりその剣どうするんだ?」

「まぁ… 何とかするさ」

 

キリトさんに対して私は返事をして、ておさんは折れた剣について質問するとキリトさんは何とかすると答えた

 

私達が会話をしているうちに湖で立ち泳ぎしていたダークエルフの兵士たちはほとんど大桟橋へと戻ってきていた

 

そしてキズメルがキリトさんに話しかけた

 

「見事な戦いだったぞ キリト」

「…これでよかったのかな…」

 

キズメルの言葉にキリトさんは視線を落として呟くとキズメルはキリトさんの傍まで寄ってキリトさんの左肩を勢いよく叩いた

 

「もっと誇れ フォレストエルフの襲撃があることを伝え、劣勢だった戦局を立て直し敵の指揮官を1対1で退けたのはお前だぞ キリト そして何より城に保管してある2つの秘鍵は無事守られた これ以上何を望むというのだ」

 

キズメルに対してキリトさんは無言でうなずくとその動作がきっかけとなったのかクエストクリアを知らせるウィンドウが表示された

 

私はそのウィンドウを消すとておさんに声をかけた

 

「ておさん メッセージ受信してきますね」

「りょ」

 

ておさんが短く返すと同じくキリトさんに対して声をかけたアスナと合流してティルネル号へと向かった

 

「今回はどっちが漕ぐ?」

「今回は私が漕ごうかな?」

「じゃぁお願いするわね」

 

ここはダンジョンと同じく外部からのインスタンス・メッセージが届かないので、ここで寝泊まりしている間は1日3回外に出てメッセージを受信するようにしているが今回は丁度襲撃と重なってしまったのでまだメッセージを受け取れていなかった

 

そしてティルネル号の櫂を握ると若干ゆっくりと漕ぎ始めた

 

~~~~~~

 

マップ切り替えの目印である濃霧を抜けると同時に大量のメッセージを受信した

 

「なんかいっぱいメッセージが来てる…」

「中身確認してみたら?」

「そうだね…」

 

アスナにそう言われたので確認してみると差出人はポテトさんやらひま猫さんやらやる気君やら様々な人から来てた…

 

中身を確認するとそこにはフロアボス攻略レイドが出発したということが書かれていた

 

メッセージが届いた時間を確認してみると55分前だった

 

「い…今すぐ戻るよ!」

「どうしたの? そんなに慌てて…」

「55分前にフロアボス攻略レイドが出発したって!」

「え!?」

「詳しいことは戻りながら説明するから!」

「解ったわ!」

 

私はすぐにUターンすると全力で櫂を漕ぎ始めた

 

 




4層編は次回でラストになると思います

それではまた次回に


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21話:第4層フロアボス"海馬"戦

今回で第4層編は終わります

それではどうぞ~




アスナに所々端折りながらメッセージの内容を伝えていると大桟橋にたどり着いたのでアンカーを下ろすと大桟橋に飛び移り、キリトさんとておさんの前に大急ぎで向かった

 

「丁度良い所に! 2つだぞ! 2つ!」

 

キリトさんがそう声をかけてくるが今はそんな場合ではない

 

「やけに真剣そうだけど…どうしたんだ?」

「しばらく前に出発しちゃったらしいのよ!」

 

ておさんが只事ではない私達の様子を汲み取って聞いてきたのでアスナが話すとようやくこちらの様子が分かったのかキリトさんが聞いてきた

 

「出発したって…何が?」

「フロアボス攻略レイドがですよ!」

「なっ!?」

 

それに対して私が答えるとキリトさんは驚いていた

 

「いやでも今朝の情報じゃボス攻略が始まるのはどんなに早くても明日の午後からだって…」

「それが思ったよりも早くボス部屋を見つけたみたいで…何なら偵察戦も終わっているみたいでして…こうなったら最寄りの村で補給と休憩だけして午後一番でボス戦やったろうやないかい! っていう意見が出たらしく…」

「誰がその意見を出したかは言わなくていいぞ 分かるから」

 

キリトさんは今朝届いたメッセージの内容を思い出して話したので私は届いたメッセージの内容を伝えるとキリトさんは唸りながらウィンドウを開いた 恐らくフロアマップを確認しているのだろう

 

「レイドが出発した正確な時間は分かるか!?」

「今から55分前です!」

「ならもう塔は上ってるかもな… ここのフロアボスは彼らに任せるしかないか…」

「そうかもね…」

 

キリトさんがレイドが出発した時間を聞いてきたので私が答えるとキリトさんは諦めた感じにそう言ったのでアスナも返した

 

まぁ戦力強化を急ピッチで進めているALSとDKBだったら初見でもある程度は何とかなるし 万が一でもエギルさん達やひま猫さん、めらさんたちがいるから特に問題はないかな…

 

私がそう考えているとキズメルが声をかけてきた

 

「キリト アスナ テオロング タコミカ 天柱の塔の守護獣に挑むのか?」

「あーうん でも俺達じゃなくて他の仲間たちがもう塔を上り始めてるみたいで…」

 

キリトさんが答えるとキズメルの顔に翳りが見えた

 

「そうか… お前たちが信頼する者たちなら問題ないと思うが… 確かこの層の守護獣は…」

 

そこで言葉を区切ったキズメルに代わってヨフィリス閣下が答えた

 

「私達は伝承でしか知りませんが この4層の塔に潜む守護獣は何やら奇怪な力を持つと聞いております」

「奇怪な力?」

 

キリトさんが小さく首をかしげながらヨフィリス閣下が言ったことを繰り返すと少し間を置いて続けた

 

「この層の守護獣はヒッポカンプと呼ばれている前半分が馬、後ろ半分が魚の怪物です そしてどんな乾いた土地にさえ泉を湧き出させ、たちまち海に変えてしまうとか…」

 

そう告げたヨフィリス閣下は更に付け加えた

 

「守護獣と戦う者は水に浮くまじないが必要だと言い伝えられています」

「なっ‥‥!」

 

私達は思わず息を吞んでしまった

 

ヨフィリス閣下の言葉をそのままの意味として解釈するのなら今回のフロアボスはフロアボス部屋全体を水没させる技を使うということになる

 

流石に対策はできるだろうけどボス戦が長引けば長引くほどレイドが不利になるということは明らかだった

 

「は…早くこのことを知らせないと…!」

「駄目だ! 迷宮区にいるプレイヤーにはメッセージは届かない!」

 

急いでティルネル号へと向かおうとしているアスナをキリトさんが止めた

 

「じゃぁどうするの!?」

「俺たちが直接行って扉を開けるしかない …もしかしたら攻略レイドの半分ぐらいは〖浮き輪の実〗を持っているかもしれないからそれで凌いでいるうちに俺たちがボス部屋まで行って 扉を外から開ける他ない!」

 

確かにキリトさんの案が一番確実かつ早い方法な気がする

 

私達は黙って頷くとアスナも覚悟を決めた様子で頷き、キズメルの方を向いた

 

「ごめんねキズメル 私達行かなきゃ… また必ず戻ってくるから!」

 

アスナの言葉を聞いたキズメルは肩をすくめると驚きのことを言った

 

「こういう時 人族の間では『水臭い』というのだろう? もちろん私もいくさ」

「「「「えっ!?」」」」

 

私達は同時に驚愕の声を出したが今回はここで終わらなかった

 

「では私も同行しましょう」

「「「「ええぇぇぇ!?」」」」

 

何と今回はヨフィリス閣下まで来ることとなったので私達は絶叫した

 

 

~~~~~~

 

 

流石にティルネル号に私達とキズメル、ヨフィリス閣下とその護衛と思しき2人の兵士は乗り切れないので迷宮区には黒エルフのゴンドラで向かうことになった

 

兵士さんが操るゴンドラは凄いスピードで進んでいき、偶に現れる水生モンスターを船についている衝角で粉砕していった

 

そして分岐点まで戻ってくると迷わず迷宮区の方へと向かった

 

渓谷の終点から船を降りるとそこは陸路だったがそこもあっという間に駆け抜け、迷宮区の根元にたどり着いた

 

入り口にはアルゴさんと見たことのない男性がおり、キリトさんはアルゴさんにマップデータをもらっていた 流石にヨフィリス閣下のカラーカーソルを見たアルゴさんは顔を真っ青にしていたが気丈に「一緒に行くヨ!」と言ってくれた

 

タワーに入ってからも敵はほとんどおらず、偶にMOBに遭遇してもヨフィリス閣下が瞬殺してくれていた

 

その道中でその男性と会話しているとたまさんだと言うことが分かった

 

どうやらアルゴさんの仕事を手伝っていたらしい

 

再開の間も惜しんで凄い勢いでボス部屋前にたどり着くとボス部屋へと続く扉は固く閉ざされていたが扉の隙間からは水が滲み出ていた

 

「キリト君!」

 

アスナの叫び声にキリトさんは頷くと私達を後ろに下がらせアスナと共に扉の輪っかに手を掛けると全力で引っ張った

 

でもそこまで力を入れる必要は無かったのかキリトさんとアスナが引いた瞬間に凄い勢いで開いた

 

「おわっ!」

 

その時に野太い叫び声が聞こえたのでその方向を見ると大量の水と共に流れてきたエギルさんがいた

 

エギルさんは通路に腹ばいになったままキリトさんを見上げるとニヤリと笑みを浮かべた

 

「よう 来てくれたか」

「やっぱり水没していたのか!?」

 

キリトさんが手を貸してエギルさんを立ち上がらせている間にも次々とプレイヤーたちが流れてくるが幸いボス部屋前にある半円状のホールを囲むように置かれた柵に引っ掛かり水だけが柵の隙間から流れていく

 

「まぁな 攻略本とボスの見た目が違う時点でヤベェんじゃないかってオレは言ったし白髪の兄ちゃんももう少し情報を集めるべきっていう意見を出してたんだけどな…」

 

やれやれと首を横に振るエギルさんに対してキリトさんがいる方とは反対側の扉の前にいるアスナから質問が飛んできた

 

「エギルさん! 犠牲者は!?」

「安心してくれ まだ1人も出てねぇよ 往還階段の所にある浮き輪の実を樹に生っている分全部取ってた欲張りな奴がいてな… そいつが全員分の浮き輪を出してくれたんだ そのおかげで水死は免れてな おまけに朱猫がフローターサンダルに履き替えてボスのタゲを取ってくれたおかげで俺たちは扉を開けることに集中できたんだが、どうやら内側からは絶対に開かない仕組みだったらしいな」

「そうか…」

 

本来だったら浮き輪の実を全部取った人に対して怒るところだけど今はその人には感謝しなきゃいけない あと朱猫さんにも

 

エギルさんの会話を聞いているうちにどうやらボス部屋を満たしていた水は全て流れ出たみたいでホールには40人近い浮き輪をつけたプレイヤーが折り重なり、呻き声を上げている

 

私はキリトさんの後ろからチラッとボス部屋の様子を覗いてみた

 

中は1層のボス部屋みたいな長方形型の部屋だが壁も床も灰色の花崗岩製で灯りは何本かある柱の先端から発せられる不気味な青い光のみだった

 

そして濡れた床の中央にはヨフィリス閣下が教えてくれた通り前半分が馬、後ろ半分が魚のいわゆるヒッポカンプがいたが馬の前足は蹄の代わりに鉤爪の生えた水かきがついていて鬣は触手になってうねうねしていた

 

カラー・カーソルに表示された名前は【ウィスゲー・ザ・ヒッポカンプ】と表示されていた

 

湿ったようないななきを出すボスのHPバーを見てみると6段あるうちの1段がほぼ削り切られていた

 

どうしましょうかとキリトさんに言おうとした時折り重なったプレイヤーたちの天辺からキバオウさんの声が聞こえてきた

 

「なんや ジブンら 来るんやったらもっと早く来んかい!」

 

キバオウさんに続いてプレイヤーたちの山の下から苦しそうな声が聞こえてきた

 

「早く上の連中をどかしてくれ! キバオウさん! それとどいた者からポーション飲んでおけよ!」

「まだやる気なんか リンドはん」

「当たり前だ! 攻撃パターンは分かってきたんだ それに折角苦労してゲージ1本削ったんだ! この機会を無駄にできるか!」

「偉そうなこと言うやないか ワイが浮き輪の実を出さへんかったら今頃全員ドザエモンやったぞ!」

「共有財産をガメてただけじゃないか! お前こそ偉そうなこと言えた口じゃないだろ!」

 

リンドさんとキバオウさんが言い合いを始めてしまったことを皮切りとして他のレイドメンバーも言い合いを始めそうになったがヨフィリス閣下が出てきたことで全員が押し黙った

 

そしてヨフィリス閣下はぐるりと一同を見回してから言った

 

「人族の剣士たちよ 戦うのなら今すぐに立ち上がりなさい そうでないのなら静かにしていなさい どちらにせよあの守護獣は剣士キリト、剣士アスナ、剣士テオロング、剣士タコミカ 以上の者との盟約により私が屠ります」

 

ヨフィリス閣下はそう言うと左腰のレイピアを音高く抜くと真っ直ぐ掲げた

 

「リュースラの騎士ヨフィリスの名において命じます! 立てる者は立ち、我に従いなさい!」

 

剣尖から同心円状のオーラが広がり、そのオーラに触れると再び4種類のバフがHPバーに現れた

 

レイドメンバー全員が立ち上がり、武器を高く掲げるのにそこまで時間はかからなかった

 

 

結局あのボスの特殊攻撃の≪ウォーター・インフロウ≫の対処方法はいたってシンプルで外側から扉から水が染み出してきたタイミングで開ければ良かった

 

なので外側でアルゴさんとたまさんに待機してもらってそのタイミングで扉を開けることによって無力化に成功できた

 

最もヨフィリス閣下は水面も問題なく走って攻撃をしていたので必要なかったかもだけど…

 

 

そんなこんなで2022年12月27日午後2時32分に第4層フロアボス【ウィスゲー・ザ・ヒッポカンプ】は討伐された

 

最後にヨフィリス閣下はキリトさんにLAを譲るというおまけ付きで

 

 

私とておさんはいつものごとくアクティベートを任されたキリトさんとアスナについて行こうかどうか迷ったが今回はパスしてポテトさん達と共にドロップ品分配に参加した

 

因みに今回の功労者の1人の朱猫さんは結構多めに貰っていた

 

 




次回から第5層編と行きたいですが1話だけUA5000記念としてタコミカ達の装備設定を入れたいと思います

それではまた次回に~


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絆紡いで挑むは(アインクラッド編 第5層)
1話:瞬きと崖のレストラン


今回から第5層編に入っていきます

今回は第5層開放日の話です

それではどうぞ~


キリトさん達が第5層に向かってからしばらくした後、私達も第5層へと向かった

 

迷宮区の出口から第2層や第3層、第4層同様少し歩くと第5層の主街区である<カルルイン>へと到着した

 

この5層のテーマは⁅遺跡⁆でその象徴である主街区の<カルルイン>という町はβ時代同様遺跡を再利用した街と言ったような感じで所々崩れかけている部分もあるが街の中心部では革や布の天幕が道の両脇に張り巡らせられているのと人も行きかっているので活気がある

 

その人たちの中にはプレイヤーの姿もあったので既にキリトさんとアスナが転移門をアクティベートさせた後だということが分かった

 

「そういえばここってどこから圏内なのかわかりにくいですよね… β時代からこんな感じだったんですか?」

 

ふとポテトさんが私達に向かってどこからが圏内なのかわかりにくいと言ってきた

 

確かに前の層までは大きなアーチがあったりして結構わかりやすかったが<カルルイン>はそのアーチがないためどこからが圏内なのかわかりにくい

 

「そうですね… 一応β時代には目印を立ててた人もいたんですけれども目印にしたアイテムは時間経過で消えちゃいますからね」

「自分自身が気を付けるしかないってこと」

 

私がそう言うとひま猫さんは私の言葉に捕捉するように話すとポテトさんは納得したように頷いた

 

「それで…今はどこに向かってるんですか? ひま猫さん」

「ついてくれば分かるよ」

 

因みに今はひま猫さん先導でどこかに向かっている最中である

 

そして路地裏を5分ほど歩き、途中木戸やらアーチやらをくぐっていくと行く手に暖かい色合いの光が見えてきた

 

そこから少し進むと両側にランタンがぶら下がっている木製の扉が見えてきた

 

「お店…?」

 

更に近づき黒っぽい板材を薄板状に切り出されたと思しき看板を見てみると{Tavern Inn BLINK&BRINK}という店の名前と思しき物がチョークで書かれていた

 

その下にはメニューと思しき物 そして一番下には日本語で『注意! お店に駆け込まないでください!』と書かれてあった

 

「確か…Lの方は瞬きでRが縁っていう意味でしたっけ?」

「そうだな 縁は他の英語でも表せるがそこは言葉遊びだろう」

「へ~」

 

私の問いに対してリオンさんが答えた

 

「今更だけどひま猫はここに向かってたのか」

「正確にはここで食べられるもの目当てだけど」

 

意識さんとひま猫さんの会話を横目に扉に付いている鋳鉄のリングを握り、引っ張ると同時に扉の向こう側から冷たい風が吹き寄せてきたがすぐに止んだので私が中を覗くと四角いテラスがあった

 

正面と右側が鉄製の手すりで左側がお目当てのレストランの建物みたいだった

 

そして私が扉を潜り、テラスに向かうと全員後に続いた

 

「これって空だよね…?」

「空だね」

 

テラスから空を見ながら朱猫さんがひま猫さんに対して聞くと見たまんまの答えが返ってきた

 

「確かにこれは縁ですね…」

 

私も店の名前を思い出しながらテラスから空を見て話すとておさんがひま猫さんに質問した

 

「因みにここから飛び降りたらどうなるんだ?」

「どうなるって…普通に死ぬよ?」

「え?」

「え?」

 

ひま猫さんの答えに対してておさんは思わず聞き返すとひま猫さんも同じく聞き返した

 

「小ネタだけどβ時代では開店と同時に扉から全力ダッシュで左のお店に入ろうとして途中で曲がり切れずにテラスから落下したプレイヤーもいるからそこは注意しといてね」

「成程… 外の看板ってそういう…」

 

木を取り直してひま猫さんが注意点を言うとたまさんは納得していた

 

「さてと… 少し早いですが夕食にしましょうか」

「そうですね」

 

ポテトさんがそう言ったので時間を見てみると18時を過ぎていたので私達はレストランに入った

 

流石に11人全員は同じ席に座れないので4人と4人と3人に分かれて座ることにした

 

「何にしましょうかね…」

 

私はメニューを見ながら何にしようかと考えながら呟いた

 

「こっちにも回してほしいんだけど…」

「あっ… すみません…」

 

同じテーブルに座っているめらさんに催促されたので私はメニュー表をテーブルに寝かせて4人で見ることにした

 

「このバフ付きメニューっていうのがひま猫の言ってたやつかな?」

「そうかと」

 

めらさんは〖ブルーブルーベリータルト〗という名前を指さしながら聞いてきたので私は多分そうじゃないのかと答えた

 

 

「私は決まりました」

「俺も決まったかな」

「僕も決まったよ」

「店員さん呼ぶか?」

「じゃぁお願いします」

「すみませーん」

 

私達は決まったみたいなのでキャラメレさんが店員を呼ぶと黒のドレスエプロンを着た女性NPCのウェイトレスさんが足早にやってきて一礼をしてからテーブルにお冷のグラスを置いた

 

「ご注文はお決まりでしょうか?」

「はい 〖ディアブロステーキ〗と〖シュブル・リーフと10種チーズのサラダ〗、それと食後に〖ブルーブルーベリータルト〗と〖リメインミルフィーユ〗、それから〖スタットプディング〗と〖ランプベリーサバラン〗をください ステーキの焼き加減はレアで」

 

私がメニューを言い終え、メニュー表を持ち上げてておさんに渡すと3人は少し驚いていたけどすぐに切り替えて次はておさんが注文した

 

「俺は〖ポロポロ鳥のロースト、丸パンつき〗と〖あつあつグラタンスープ〗、それから食後に〖ブルーブルーベリータルト〗を」

「同じやつをもう一つずつで」

 

ておさんはめらさんにメニュー表を渡そうとしたがめらさんは右手を軽く上げて断るとておさんが頼んだものと全く同じものを注文した

 

「じゃぁ俺は〖ディアブロステーキ〗焼き加減はミディアムで、〖あつあつグラタンスープ〗、それと〖フィックルワイン〗のボトル1つと食後に〖ブルーブルーベリータルト〗をお願いします」

 

ておさんからメニューを受け取ったキャラメレさんが注文を言い終えるとウェイトレスさんは完璧に復唱してから立ち去った

 

「たみちゃんデザート頼みすぎじゃない…?」

「お会計別ですし問題ないですよ?」

「いやそういう問題じゃ…」

 

私とキャラメレさんが話している間にさっき頼んだ料理がもう運ばれてきたので私達は料理をそれぞれ受け取るとそれぞれ食べるために準備を始めた

 

そしてキャラメレさんがウェイトレスさんからワインボトルを受け取ると手慣れた手つきで開けると私達にワインをいるかどうか聞いてきた

 

「ワインいる人~」

「お願いするよ」

「じゃぁ僕も~」

「たみちゃんはいる?」

「私はいらないです」

 

私達の反応を聞いたキャラメレさんはワイングラスにワインを注ぎ始めたが2つ目のワイングラスに注ぎ始めた時にさっきのワイングラスに注いだワインとは色が変わってることに気が付いた

 

「あれ? 色が変わってません?」

「ん? あれ ほんとだ」

 

キャラメレさんもそれに気が付いたようで注ぎながら返し、3つ目のワイングラスに注いだ時もさらに色が変わった

 

「あ~ だからフィックルだったんだ~」

「どういう事?」

「フィックルっていうのは気まぐれっていう意味なんですよ」

「へ~」

 

それに対して私はようやくなぜフィックルというのかが分かったので思わず声に出すとておさんはどういうことかと聞いてきたので私が意味を説明するとておさんは納得していた

 

「で どれにする?」

「じゃぁ俺は赤にするよ」

「僕は白にしよっかな」

「ほいよ」

「どうも~」

「ありがと」

 

キャラメレさんはておさんに赤のスパークリングワインをめらさんに白のワインを手渡した

 

「では少し… 白の甘口だ これ」

 

めらさんは早速手渡されたワインを飲むと感想を言った

 

「そろそろいただきましょうか」

「そうだな」

 

そして私がそう言うとておさんは同意して私達は食事を始めた

 

 

~~~~~~

 

 

やや適当に頼んだ料理だったけど結構おいしかったと私は思っている

 

〖シュブル・リーフと10種チーズのサラダ〗は葉っぱ自体が仄かにマヨネーズっぽい風味がしたし〖ディアブロステーキ〗はステーキ自体がちょっと辛かったけど…

 

めらさんが丁度ワインを飲み終えたタイミングでデザートがやってきたので早速〖ブルーブルーベリータルト〗を頂くことにした

 

一口大の大きさにカットして口に運んでみると爽やかなベリーの甘酸っぱさと濃厚なカスタードクリーム、それからサクサクのタルト生地が絶妙に合っており、私は思わず声が出てしまってた

 

「美味しい!」

 

そこからは一切れがあっという間になくなってしまった

 

その時ふとHPバーに見慣れない目のマークのアイコンが付いたのが見えたので思わずコーヒーと思われるものを飲んでいるひま猫さんの方を見てみるとテラスの方を指さしたのでテラスに行ってみるが暗視の効果が付いたわけではないらしい…

 

他のスイーツを残していたのもあったので席に戻ろうとすると近くで何かが光っているのが見えたので拾ってみると銀貨なのは銀貨だけど見慣れた100コル銀貨ではないようだった

 

その銀貨に書かれていた紋章は簡略化された浮遊城ではなく横に並ぶ2本の樹で、裏返しても見たことのない紋章があるだけだった

 

 

さっきまでは見えなかったよね…っていう事はこれがバフの効果なのかな?

 

早速ひま猫さんに聞いてみることにした

 

「もしかしてひま猫さんがここに来たのってこのバフの為ですか?」

「そそ この〖ブルーブルーベリータルト〗を食べると『遺物発見ボーナス』っていうバフが付いて上手く探すことが出来たら大金を稼げるっていう寸法」

「成程…」

「β時代は大盛況でタルトがすぐに完売したから人の少ない今のうちに食べて拾っておこうっていう魂胆よ」

「ほぇ~」

 

ひま猫さんの話を少し受け流しているとひま猫さんは続けた

 

「因みに運がいいと稀に宝石やらアクセサリーも拾えるよ」

「本当ですか! それ!」

「う…うん…」

 

私はひま猫さんの言葉を聞くと思わず大声で聞き返したのでひま猫さんは少し困惑していた

 

「食べたらすぐ行きましょう!」

「そ…ソウダネ」

 

私が多少興奮しながら言うとひま猫さんはちょっとだけ引きながら答えた

 

 

その後は席に戻りかなり早く他のデザートを食べ終えると丁度全員食事が終わったみたいなのですぐさま会計を済ませると大急ぎで広場へと向かった

 

 

因みにほかのデザートも結構おいしかった

 

 




タコミカはβ時代では遺物拾いの事は全く知りませんでした(あくまででも観光メインにしてたのと5層ではフロアボス戦にも参加したので)

それではまた次回に


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2話:遺物拾いとギルドミーティング

映画版プログレッシブ 冥き夕闇のスケルツォのキービジュアル公開されましたね~

それではどうぞ




ひま猫さんの案内で私達は数多くある人気のない遺跡へとたどり着くと直ぐに遺物拾いを始めた

 

最初こそなかなかの頻度で見つけられたもののバフの効果が残り20分になったあたりからはほとんど見つけられなくなっていたので同じく見つけられない様子のておさんと情報交換がてら雑談していた

 

「なかなか見つからないですね…」

「まぁね… それでもキリトだったらやってそうだな」

「在り得そうなのがまた… それこそ「町が混む前に根こそぎ拾いまくるぞ!」って言いながらやってそうですよね…」

「あはは わかる」

 

私がキリトさんの口調を真似ながら言うとておさんは笑っていた

 

「因みにておさんはどれぐらい集まりましたか?」

「俺は銅貨10枚 銀貨3枚 小さい宝石1つにあと指輪だな そっちは?」

「私は銅貨8枚 銀貨6枚 金貨1枚 中ぐらいの大きさの宝石とネックレスですね」

 

私とておさんが集めた遺物の数を話し合っているとておさんの足元で何かが光っているのを見つけた

 

「少し足元良いですか?」

「また見つけたのか?」

 

私が声をかけるとておさんはすぐに足をどかしてくれたので拾い上げてみると指輪みたいだった

 

「指輪…?」

「みたいですね…」

 

鑑定してみないことには使えるかどうかは分からないのでひとまず他のものと同じようにポーチに入れておくことにした

 

「というかたみちゃんレストランではあんなに張り切ってたのに今は完全に熱が冷めきってるね」

「なかなか見つからないですからね… 結構落ち着きました」

 

そう言い、他のメンバーの様子を見てみると私達のように会話をしていたり、遺物を探していたりと様々だったがほとんどが会話をしているような様子だった

 

その様子を見て私はあと少しだけ頑張って探してみようと思ったので私はておさんに話しかけた

 

「もう少しだけ頑張ってみますか?」

「もうここらへんのは全部拾われたんじゃないか?」

「さっきみたいに足元とかにあるかもですよ」

 

私がさっきの指輪を例に挙げてておさんに提案してみるとておさんは少し考えた後

 

「それもそうだな じゃぁバフの効果が切れるまで頑張ってみるか!」

「ですね!」

 

どうやらやる気になってくれたみたいなので私達は再び遺物を探し始めた

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

それからいくつか拾い、最後に辺りを見回すと同時にバフが切れたので私達はポテトさん達と合流した

 

「お疲れ様です」

「お疲れ~」

「これで全員集まったかな?」

「…8…10…11… 全員いますね」

 

私達が最後だったらしくめらさんがポテトさんに声をかけるとポテトさんは人数を数え、全員いることを確認していた

 

「じゃぁ鑑定しに行きましょうか」

「そうですね またひま猫さんだよりになりますけれどもお願いしますね」

「分かった」

 

そして鑑定の為に再び私達はひま猫さんについて行くことにした

 

 

 

しばらくひま猫さんについて行き、NPCの鑑定所に持っていくと私達はそれぞれ鑑定をしてもらった

 

因みに最終的に私が拾ったものは銅貨9枚、銀貨6枚、金貨1枚、中ぐらいの大きさの宝石1つ、小さめだけど綺麗な宝石1つ、指輪とネックレスだった

 

ネックレスと指輪は何か効果が付いてそうかな? もし使えそうな効果だったらつけてみようと考えている間に鑑定が終わったみたいなので受け取りに向かった

 

 

指輪の効果は沈黙耐性+0.5%、ネックレスの効果は釣りスキル熟練度+3と使えるのかどうかわからないものだったので近くの道具屋で全部売ってしまうことにした

 

合計金額は3080コルとなった

 

1時間頑張った結果としては結構いい方かな…?

 

 

私が鑑定所に戻ると何やらひま猫さんとやる気君が話していた

 

「これは確かにハマる人が出てくるのも分かるかも」

「そうだよな β時代にもレベリングを放棄して遺物拾い専門になった人もいたらしいからな そういう人たちのことは"ヒロワー"って呼ばれてたよ」

「やっぱりそういう人ってどこでも出てくる運命なのかな…」

 

2人の会話を聞いているともう全員鑑定が終わった様子だったので私はポテトさんに声をかけることにした

 

「全員鑑定終わりました?」

「終わったよ~」

「これからどうしますか?」

「そろそろいい時間だし宿屋に行く予定してるよ」

 

ポテトさんがそう言ったのでふと時間を見てみるとすっかり午後8時を過ぎていた…

 

「確かに結構いい時間ですね」

「今日はボス戦もあったからね 休息は大事」

「そうですね 後はまた明日に回しましょう」

 

私があとはまた明日に回そうと言うとポテトさんは賛同するように頷いて全員に宿屋に向かうということを話すと私達は宿屋へと向かった

 

 

~~~~~~

 

 

思ったより近くにあった宿屋にチェックインした私達はそのまま解散する流れかと思ったがリオンさんが話し合いをしておきたいということなので宿屋のロビーにある休憩所っぽいところでちょっとだけ話し合うことにした

 

「それでリオンさん 何について話し合うんですか?」

「これからについてだな」

「それって明日でよくありませんか…?」

「明日になれば話し合うこと自体を忘れる可能性があるかもしれないからな…」

「成程…」

 

確かに忘れそうかも…

 

「それでこれからの事って何ですか?」

「今はそこまで…いや…このままだと危ないかもしれないな…」

「どういうことですか?」

「これから先、必ず敵が強くなるという点に関しては共通認識でいいと思っている それに加えてたみとテオは知っていると思うが厄介な存在も現れた」

 

厄介な存在…第3層でキリトさんが相手にしたという例のフードの男の事かな…

 

「それってもしかして…」

「まだ直接的な被害は出ていないがそのうち出るかもしれない… そのためそちらに関しても練習しておく必要があるかもしれない」

「話が飛躍しすぎててついて行けない…」

「簡単に説明するとこれからはPvPを想定して練習する必要があるかもしれないということだ」

「どういう?」

 

やる気君が訳が分からなそうな顔をしていたのでリオンさんが第3層であったこと(あわや惨事になりかけたこと)について伝えた

 

「正直に言って信じられないけど…確かにみんな僕たちみたいに脱出したいっていう考えじゃないからね…仮に襲われた時の為に自衛の手段は必要かも」

「確かにね 今ここにいる全員が全員僕とかみたいにPvPができるわけじゃないけど練習したらそれなりにはカバーできるかもしれないからね 僕は賛成」

 

勿論プレイヤーを殺すことには反対だけど自分が殺されないためにもやる気君やめらさんの言う通りリオンさんの案には賛成かな

 

「これからはPvPを想定した練習も行う 異存はないか?」

「正直無駄な努力で終わってほしいのは終わってほしいですけどね… 備えあれば患いなしって言いますし」

 

リオンさんが私達にそう聞いてきたので私達は頷き、ポテトさんは少し真剣な表情で答えた

 

「それでは早速明日から開始とする これで私からの話は以上だ 各自解散してくれて構わない」

 

リオンさんから話は以上とされたので私は宿屋の部屋に戻るとお風呂に入り、就寝に着いた

 

 




金額の内訳は金貨類は原作そのままで中ぐらいの宝石が460コル 綺麗な宝石が520コル ネックレスが410コル 指輪が500コルになってます

それではまた次回に


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3話:地下墓地での狩り

今回は戦闘あるかな…

それではどうぞ




翌日の午前中はリオンさんの言っていた通り人気のない場所でPvPを想定したデュエルを一通りやった後、一旦昼食休憩にすることにした

 

因みに本日の昼食はひま猫さんが作ってくれた肉と葉野菜が挟まれたサンドイッチっぽいもので味の方は結構美味しい

 

「美味しいですね」

「そうだな」

「流石ひま猫さんですね~」

 

私はておさんと話している中でここに来るまでにALSとDKBの人達を見かけなかったことを思い出したのでそのことをておさんに聞いてみることにした

 

「そういえばここに来る途中ALSの人達やDKBの人達見かけませんでしたね」

「そういえばそうかも…?」

「どこにいるんですかね…?」

 

私の疑問を解消したのはひま猫さんだった

 

「多分下じゃない?」

「下?」

「この<カルルイン>の地下2階からはダンジョンになってるんだ それに地下1階でも遺物拾いができるからそっちにいると思うよ」

「あ~ そういえばそんな構造だった気が…」

 

ひま猫さんからこの<カルルイン>は地下があってALSとDKBの人達はそこにいるかもと言ったので私はβ時代のことを思い出しながら納得した

 

「この街って地下あるんだな」

「私も初めて知った時は驚きましたよ」

 

ひま猫さんの話を聞いたておさんは驚いていたので私もそれに同意するように言った

 

「午後からはそっちに向かう感じでしょうかね…?」

「多分そうじゃない?」

 

私が午後からは地下に行くのかと聞くとひま猫さんは適当そうに返した

 

 

そんな話をしているとどうやら全員食べ終わったみたいでポテトさんが私達を呼んだので私達は少し離れたポテトさん達の所へと向かった

 

 

「ポテトさん 午後からどうしますか?」

「どうしよっか… さっきちょこっと聞こえてきたけど地下に行ってみる?」

「任せますよ」

 

私達の話が聞こえたらしくポテトさんが地下に行ってみようと提案したので私はポテトさんに任せることにした

 

「じゃぁ行ってみましょうか!」

「はーい」

 

少し考えた結果ポテトさんは行ってみることにしたらしいので私達はそれに同行することにした

 

~~~~~~

 

ちょっと迷ったけれど何とか地下への入口へとたどり着いた

 

「ちょっと迷いましたね…」

「だってこの街迷宮っぽいんだもの…」

 

確かにひま猫さんの言う通りこの街はちょっと迷いやすい…

 

「さてと 地下へ下りますか」

「だな」

 

気を取り直して私達は地下へと向かう階段を下りて行った

 

 

階段を下りた先の広間では数十人がそれぞれ集まってミーティングをしたりしていてその中には仮眠をとっている人もいた

 

「思ったより人いるね」

「ですね~ 結構いますね」

 

意識さんが思ったより人が多いと言ったので私もそれに同意した

 

「どうする? レベリングするにしても流石に全員で行動するっていうわけにも行けないし…」

「じゃぁ4人ずつぐらいに分かれる?」

「そうだね 僕もそれがいいと思う」

 

めらさんが流石に全員で行動する訳にはいかないというと朱猫さんは4人ずつぐらいに分かれようと提案した

 

それにやる気君も賛成したので4人ずつぐらいに分かれることになった

 

~~~~~~

 

「じゃぁよろしくね~」

「よろしくお願いしますね」

「よろしくお願いします!」

「よろしく~」

 

結果として私は朱猫さんとやる気君、ておさんと組むことになった

 

「じゃぁ早速行きますか?」

「だね じゃぁ出発!」

 

そして私達はそのまま地下2階へと下りて行った

 

 

階段を下りた先の小部屋を抜け、長い通路にある扉のうちの一つを開けて中に入ったところで私は敵の説明をしておかなければいけないことを忘れていたので歩きながら説明しておくことにした

 

「皆さん1つだけいいですか?」

「どうしたの?」

 

朱猫さんが私の顔を見ながら聞いてきたので私は一呼吸置くと話を続けた

 

「この場所には地下3階からですけれど【スライ・シュルーマン】が湧きます」

「シュルーマンって確か第1層や第2層にいた鼠みたいなやつだよね?」

「そうですね でもこの層にいる【スライ・シュルーマン】は他のとは違って強奪スキルを持ってるんです だから絶対武器を手放さないでください」

「りょ…了解…」

 

私の真剣な様子が伝わったのかやる気君は少し緊張した様子で答えた

 

私も1回だけだけど盗られたからね… その時はまだ店売りの武器で強化回数0回だったからよかったけれど用心するに越したことはない

 

「で…いつまでやる?」

「そうですね… 今が午後1時ぐらいですから…午後6時ぐらいでしょうかね…?」

「ぐらいかな~? あとは自由でいいって言ってたし」

「あんまり遅いとポテトさん達も心配するからね」

 

話を切り替えていつまで狩りをするのか決めた私達は武器を鞘から抜くと早速目の前にいた【ロトゥン・マミー】へと向かって行った

 

 

「このぐらいなら問題なさそう…かな?」

 

そこまで時間をかけず【ロトゥン・マミー】を倒した私達は先ほどの部屋を後にしてさっきぐらいの敵の強さなら問題なさそうということを考えていた

 

「ですかね~ この地下2階部分では毒攻撃が厄介な【モールディ・マミー】とアストラル系の【モーンフル・レイス】さえ注意しとけば大丈夫ですし」

「成程 因みにアストラル系ってなんで注意しとかなきゃいけないの?」

「姿が見えないときは攻撃が通らないんです」

「それは確かに厄介そう…」

 

私が厄介な敵について説明すると朱猫さんはなぜアストラル系は注意しないといけないのかについて聞いてきたので私が理由を説明すると朱猫さんは納得していた

 

「でも攻撃の時には必ず実体化しますし そこまで難しくはないですよ」

「へ~」

「ここで主に出てくるのってそのアストラル系とアンデッド系?」

「恐らく2階部分はそうだったと」

 

それに対してフォローするように攻撃時には必ず実体化することを伝えると頷いていた

 

そして適当な扉を開けると納骨堂らしい場所があった

 

「どうする? 入る?」

「どうしましょうか…」

 

入るか否かの相談をしていると石製の棺桶が開く音がしたので私はすぐに扉を閉めた

 

「ここには何もいなかった いいですね?」

「そうだな 引き続き探索しようか」

「僕も賛成」

「えぇ…」

 

 

その後も扉を開けては敵を倒しを繰り返しているとようやく下へと向かう階段を発見した

 

「やっと見つけた…」

「ここまで長かった…」

 

3時間ぐらいかかって見つけた階段を下りていき、地下3階へとたどり着いた

 

「先ほども言いましたがここから【スライ・シュルーマン】に注意です」

「おっけ」

 

念には念を入れて私はもう一度注意喚起をすると前へ進んでいった

 

 

現在私達はさっきより少し歩いて見つけた【ブルー・スライム】を相手にしていた

 

「朱猫さんスイッチ!」

「任せて!」

 

私は朱猫さんに合図を出し、朱猫さんが≪ケイナイン≫をうっすらと分かるコアに打ち込むと【ブルー・スライム】はポリゴン状になって消滅した

 

「お疲れ様です」

「お疲れ~」

 

朱猫さんに労いの言葉をかけ、ドロップ品を確認してみると〖スライム・ジェル〗というのがあった… 何に使うんだろこれ?

 

その疑問を置いといてウィンドウを閉じてておさんたちの方を見てみると丁度倒したところみたいだった

 

「2人ともお疲れ様です」

「あっ! お疲れ~」

「お疲れ」

 

私が話しかけると2人は気が付いたようで私の方を向いた

 

「たみさん達も終わったみたいですね」

「先ほどのスライム少し強くありませんでしたか?」

「俺が知ってるスライムより強かった…」

「確かにそうですね」

 

ておさんがさっきのスライムが強かったと呟いたので私は少し笑いながら少し賛同しておいた

 

「でも核を攻撃すればいいってアドバイスは貰ったから何とかなったよ」

「私のアドバイスが役立ったようで何よりです」

 

でもておさんは事前に私のアドバイスのおかげで何とかなったと言ったので私は素直に返した

 

「そろそろ行きますか?」

「そうだね~ 行こっか」

 

少しだけ休憩してからておさん達に声をかけ、再び出発することにした

 

 

~~~~~~

 

 

ある程度は見て回り途中何度か戦闘があったものの用心していた【スライ・シュルーマン】には数回しか戦闘にならず気が付いたら予定していた午後6時を過ぎていたので私達は街に戻ることにした

 

「そういえばておさん武器更新しないんですか?」

「ん~… 確かにもうそろそろ武器は変えたいけどこの剣も大分手に馴染んでるからな~」

 

その帰り道で私はておさんに武器更新しないのかと聞いてみた

 

「でもそろそろ〖アニールブレード〗ではきついと思いますよ…?」

「武器を変えるにしても手に馴染むというか… 軽さと重さのバランスがちょうどいいものじゃないとな…」

「確かにそこら辺のバランスは大事だと思いますけれどもね」

 

確かにておさんの言う通り手に馴染むような武器がベストだとは思うけど だからといって〖アニールブレード〗だとそろそろきつくなってくると思うし…

 

「あとでちょっと武器屋に寄ってみますか?」

「そうだな… ちょっとだけ見てみるのもありかもな」

 

そこで私は街に戻ったら武器屋に寄ってみようと提案するとておさんは少し悩んだけど同意してくれた

 

「たみちゃん達武器屋に行くの?」

「さっき決めましたけど 朱猫さんも行くんですか?」

「もうそろそろ怪しくなってきたから行こうかって考えてて」

「朱猫さんも何気に2層からその武器ですからね~」

 

私達の話を聞いていた朱猫さんも武器屋に行くことにしたらしい

 

「やる気君はどうしますか?」

「あ~… 僕はまだ大丈夫かな」

「了解~」

 

ついでなのでやる気君も武器屋に行くかと聞いたがやる気君はまだいいと言ったので武器屋には3人で行くことした

 

~~~~~

 

帰りはそこまで時間がかからずに街まで戻ってこれたのでそこでやる気君と別れ、私達は武器屋へと向かった

 

 

結局武器屋でておさんは〖ストーンアイアンブレード〗を朱猫さんは〖リメインダガー〗を購入した

 

「まぁこれで第5層中は持つ…かな…?」

「そうですね~」

 

店売りは確かに性能が低いけどひとまず5層中は持つかな…?

 

「これからどうしよっか?」

 

朱猫さんにそう言われたので時間を確認してみるとすっかり午後7時を回っていた

 

「そろそろ夜ごはんにしますか?」

「だね それでどこで食べる?」

 

私達が夕食をどこで食べようかと考えているとておさんから提案があった

 

「特に決めてないんだったら俺が決めても大丈夫か?」

「どこにするんですか?」

「4層の屋台のところにしようと」

「あ! それいいかもですね!」

 

私がどこにするのかと聞くとておさんは4層にあった屋台にしようと言ったので私は賛同した

 

「屋台って?」

「行きながら説明しますからとりあえず転移門に向かいますよ」

「わ…わかった…」

 

私達の会話に朱猫さんがちょっと疑問を持ったらしく聞いてきたが私は行きながら説明すると言うとちょっと不安そうだったけど了承してくれた

 

 

そして私達は第4層に向かうために転移門へと向かって行った

 

 




今回出たオリジナル武器の紹介

〖ストーンアイアンブレード〗
刀身はやや灰色に輝く片手剣
店売りなので性能は低め

〖リメインダガー〗
少しだけ曲がった形の短剣
店売りなので性能はお察し

次回から恐らく原作筋に戻ると思います

それではまた次回に~


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4話:偶然の再開

タコミカとテオロングは完全に第4層のエルフクエストの報酬のことをすっかり忘れています

それではどうぞ


第4層に戻ってきた私達は早速朱猫さんに説明しつつ、屋台を探した

 

第4層が解放されてからしばらく経ってはいたもののまだ観光客はずいぶんと多かった

 

「え~っと… 確か転移門広場にあったはず…」

 

私が少し辺りを見回すと例の屋台を無事に発見した

 

「あった!」

 

そう言って屋台のところへ向かうために走り始めるとておさんと朱猫さんも私の後に続いた

 

 

そこで私と朱猫さんはパニーニをておさんはまたシーフードピザを買うと近くのベンチに座り、早速食べることにした

 

 

私の記憶が正しければパニーニはまだ食べていなかったはずだけど思っていたよりもおいしかった

 

「パニーニも美味しいですね」

「だよね~ 確かにこれはテオがおすすめするのも分かる」

「肝心なておさんはピザを食べてますけれどもね…」

「美味しいからな ぶっちゃけこれ目当てだし」

 

 

そして食べ終わるとこれからどうしようかという流れになった

 

「これからどうしましょうか?」

「どうしよっか…」

「ん?」

「何か見つけたんですか?」

 

そんな中ておさんが何かを見つけたみたいな声を出したので私は何か見つけたのかとておさんに質問した

 

「いやぁ… あそこに見覚えのある人が…」

「あれって… エギルさんですよね?」

 

ておさんの視線の先を見てみるとどこかで見たカーペットを広げて商売をしているエギルさんが見えた

 

「行ってみますか?」

「行ってみよっか 運が良ければ何か良いアイテムとかあるかもしれないし」

「だな 可能性は低めだけど」

 

少し相談して私達はエギルさんの所へと行ってみることにした

 

「こんばんは エギルさん」

「おぉ 誰かと思えばお前らか」

「こんばんは エギル」

「よっす」

 

私が声をかけるとエギルさんは気づいたようで返し、朱猫さんとておさんも挨拶をした

 

「エギルさんはここで商売をしてるんですか?」

「まぁな ある検証も兼ねてここで夕方から露店を開いてる」

「検証?」

「ここで取引すんのとNPCのショップで売るのとどっちが稼げるかっつう検証をな 折角こいつがあるのに有効活用しねぇともったいねぇだろ?」

 

私と朱猫さんが質問するとエギルさんがカーペットを軽く叩きながら答えた

 

今思い出したけどこのカーペットって確かネズハさんが使ってたやつだったね

 

「で 進捗はどうよ?」

「今のところは物によるっていう感じだな ゴンドラの素材なんかは割と強気な値段でも行けるが食材とかはそこまで売れてないな」

「へぇ…」

「本気で商人をやろうと思うなら様々な情報収集と宣伝が大事という結論になった」

「成程… 確かに宣伝は大事ですよね…」

 

ておさんが売れ行きについて聞くとエギルさんは顎髭を人差し指でさすりながら答え、2人の会話を聞いた私は頷きながら言った

 

「そこら辺は現実と同じだな」

「そうですね 色々な申請が不要な分現実より始めるのは簡単ですけども」

「そうだが信頼が第一っつう部分は変わらんぞ?」

「客商売は信頼あってこそですもんね」

 

私とエギルさんが会話を続けていると朱猫さんが会話に割って入った

 

「えーっと… エギル 話してる途中で悪いんだけど商品見せてもらってもいい?」

「おう ゴンドラ用の素材はねぇが食材系や非戦闘系のブーストアクセならあるから見ていってくれ」

 

朱猫さんがエギルさんに商品を見せてほしいと頼むとエギルさんは直ぐに私達に商品を見せてくれた

 

 

~~~~~~

 

 

エギルさんが見せてくれたものの中には様々なものがあったがその中で私は裁縫スキルブーストの指輪を購入し、朱猫さんはひま猫さんに料理をしてもらうために食材アイテムを数点購入した

 

「やっぱりこういうのって良いですね」

「ね いつか私も料理スキル取ってみよっかな…」

「そういえばお前ら 何で第4層にいるんだ? 真っ先に第5層の攻略始めてただろ?」

 

私と朱猫さんが話しているとエギルさんが質問してきた

 

「夕食を食べるためにちょっと寄っただけだよ そんで食べ終わった時にエギルを見かけたからあわよくば何か買おうと」

「成程な」

 

エギルさんの質問にておさんが答えるとエギルさんは納得した様子だった

 

 

2人の会話を聞きながら時計を確認してみるとすっかり午後9時半になっていた

 

「これからどうしましょうか?」

「どうしよっか~ 第5層に戻る?」

「だな もう今日は遅いからな」

 

その為私は朱猫さんとておさんにどうしようかと聞いてみると2人からは今日はもう第5層に戻って休もうと言う答えが返ってきたので私達といつの間にかカーペットを丸めて店じまいをしていたエギルさんは転移門に向かっているとその転移門から誰かが出てくるのが見えた

 

それ自体は特に珍しいことではないがその出てきた人達が驚きでアスナとキリトさんだった

 

何というか偶然ってすごいなって思いました。

 

 

エギルさんも2人に気づいた様子で声をかけていた

 

「よぉ 2人も来たのか」

 

エギルさんに声をかけられた2人はこちらに向いた

 

「うっす」

「こんばんは エギルさん」

「おう」

 

雑に挨拶をしたキリトさんとは対照的にアスナは一礼をしてから挨拶を済ませた

 

「やっほ~ キリト アスナ」

「こんばんは2人とも」

「よっ!」

 

エギルさんに続いて私達も挨拶すると2人は驚いた様子だったがキリトさんが朱猫さんに対して質問していた

 

「朱猫!? 何でここに!?」

「何でって… 夕食食べに来たついでにエギルに会ったから…」

 

そんなキリトさんの質問に朱猫さんは少し驚くとちょっとだけ間を開けてから答えた

 

そして朱猫さんに続いて今度は私が2人に対して質問した

 

「そういえばお2人はどうしてここに? 明らかに夕食には遅い時間ですよ?」

「子爵様に報酬アイテムを貰いに来たんだけど… お前らは違うのか?」

「え?」

 

報酬…? なんの?

 

「ほら… お城の…」

あ~! すっかり忘れてた!

 

アスナに言われて第4層のエルフクエストの報酬を受け取っていなかったことを思い出した

 

どうしましょうておさん ゴンドラありませんよ

どうしようって言われても… 朱猫達のゴンドラがこの主街区にあるか聞くほかないだろ…

 

何か会話をしているエギルさんとキリトさんを横目に私達は小声でゴンドラがないためどうやってヨフェル城まで行くかを相談していた

 

朱猫さん朱猫さん

「ん? どうしたの? たみちゃん」

「ゴンドラって主街区にありますか?」

「あ~… 多分ゴンドラ迷宮区のところだ…」

「え… どうしよ…」

 

そんな時に朱猫さんがいたことを思い出しゴンドラを貸してもらうよう頼んだが朱猫さんはゴンドラを迷宮区の所に置いてきたと答えたので私は本格的にどうしようと悩んだ

 

その時エギルさんが声をかけてきた

 

「ついでだ お前らも俺達の船に乗ってけ」

 

~~~~~~

 

エギルさん達の船ピークォッド号に向かってる途中、キリトさんにどういうことかと聞いてみるとどうやら事情を聴いたエギルさんが仲間に許可を取ったところ許可が下りたらしく船を貸してくれることになったらしい

 

転移門広場の東桟橋でエギルさんが舫い綱を外してくれた中型ゴンドラに乗り込んだ私達はエギルさんと朱猫さんに別れを告げメイン水路を南に進み始めた

 

 

少し進んだところで櫂を漕いでいるキリトさんがさっきのことについてコメントした

 

「いやぁ… やっぱり持つべきものは気前のいい知り合いだなぁ…」

「次会ったときにちゃんとお礼言いなさいよ 手土産げつきで」

「それって4人で割り勘でいいんだよな…?」

 

キリトさんが心配そうに返したがアスナは微笑しながら進路方向に向き直った

 

私が空(と言っても上を見ても第5層の底しか見えないけど)を見ている間に<ロービア>の南門を抜け、フィールドを蛇行する川へと出た

 

 

そしてフィールドボスと戦った中央カルデラ湖を抜けてさらに南に進む

 

途中何回か戦闘はあったもののほとんどソードスキル一発で倒し、<ウスコ>のある三日月湖を素通りして渓谷地帯へと向かった

 

船を岸壁に擦らないように渓谷地帯を漕ぐこと数十分、ようやくマップ切り替えの目印である白い霧が見えてきた

 

その白い霧を通過すると目的地のヨフェル城がある湖へと到着した

 

そのままキリトさんはゴンドラを漕いで水面を進みヨフェル城の桟橋にゆっくりと接舷させた

 

但しいつものようにゴンドラの舫い綱を駐留柱にかけてしまうとこのゴンドラの持ち主であるエギルさん達以外外せなくなってしまうためそのまま桟橋へと飛び移ることにした

 

私達の乗ってきたピークォッド号の隣にはアイボリーホワイトとフォレストグリーンの船体のティルネル号が係留している

 

それを見た私達は小さく頷き合うと城門の方へと向かって行った

 

 

前に来た時と同じく城門はしっかりと閉じられており斧槍を携えた衛兵がしっかりと守っている

 

しかしキリトさんが左手の指にはめている〖シギル・オブ・リュースラ〗を掲げると衛兵が敬礼をして城門も重々しく開いた

 

城の正面玄関を通過して大階段を上り、5階に到着すると右側に見えるがっしりとした扉へと向かった

 

キリトさんがノックをすると直ぐに中から聞き覚えのある声で「入りなさい」と返事が返ってきたのでキリトさんはアスナに視線を送ると扉を引き開けた

 

初めてこの部屋に訪れたときは全体的にかなり暗かったが今ではヨフィリス閣下の顔が確認できるほど明るかった

 

私達の姿を確認したヨフィリス閣下はその顔に微笑みを浮かべると私達の名前を呼んだ

 

「キリト アスナ テオロング タコミカ 戻ってきたのですね」

「はい えぇっと…城主様と約束しましたから…」

 

流石に正直に報酬を受け取りに来たとは言えないのでキリトさんは少し歯切れが悪く答え、私達はキリトさんの言葉の後に一礼した

 

「夜遅くにお邪魔してすみません 城主様」

「構いませんよ この城を守ってくれたそなた達であればいつでも歓迎です さあ こちらにどうぞ」

 

ヨフィリス閣下に手招かれた私達は机の前まで移動した

 

少し辺りを見わしたアスナはヨフィリス閣下に質問した

 

「あの… キズメルはどこに?」

 

その質問を聞いたヨフィリス子爵は短くかぶりを振ると答えた

 

「残念ながら彼女はもうこの城にはいません」

「「えっ…!?」」

 

アスナとキリトさんは同時に声を上げた

 

私も少し驚いたけど声を上げるほどではなかった

 

ヨフィリス閣下はデスクの上で両手を組み合わせると落ち着いた声で説明し始めた

 

「騎士キズメルは神官団の指示により〖翡翠の秘鍵〗と〖瑠璃の秘鍵〗を第5層の砦へと運ぶ人に着きました 今頃はもう到着しているはずです」

「そうだったんですね…」

 

失望を抑えながらアスナが言うとヨフィリス閣下は頷きつつも口許を綻ばせながら続けた

 

「キズメルもそなたたちに会いたがっているでしょう 機会があれば砦に行ってみなさい その印章(シギル)があれば門は開くはずです」

「はい! 必ず!」

「なるべく早く行ってみます」

「ありがとうございます!」

「どうもありがとうございます」

 

私達がお礼を言うとヨフィリス閣下は再び微笑み右手で部屋の壁際を指さしたのでそっちを見てみるとしっかりとした造りのチェストが置かれていた

 

「そなた達には我が城を守ってくれた謝礼と褒賞を渡していませんでしたね 改めてあの箱から好きなものを2つずつ持っていくといいでしょう」

 

それを聞いたキリトさんは露骨にほっとした顔をし、アスナがそんな様子のキリトさんを肘で小突こうとしたがその前に私達の視界にクエスト報酬の選択ダイアログが表示された

 

私はその中からネックレスとブーツを貰い、その日はそのままヨフェル城に泊まることにした




タコミカは結構中古アクセサリーは好きです

それではまた次回に


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5話:さぁクエストを!

タイトルが思いつかない…(n回目)

それではどうぞ


翌日の朝食はヨフェル城でご馳走になって私達は乗ってきたピークォッド号に乗って主街区へと戻った

 

 

昨日と変わらず観光客が多い中央広場を横切って転移門を使って第5層主街区の<カルルイン>へと到着した

 

しかしそこで待っていたのはβ時代にもあった雨だった

 

「雨…?」

「雨だな…こりゃ」

 

服や髪が張り付くし動きづらくなるため私は雨はあまり好きではない…

 

「外にいるのもあれなので取り敢えず建物の中に入りましょう」

「それもそうね」

 

私がどこか建物に入ろうと提案するとアスナはそれに同意した

 

辺りを見回したがこの悪天候もあってか午前8時にもかかわらず人影は少なかった

 

「といっても朝食はもう食べたし武器も更新したばかりだし道具屋も特に用事ないしな…」

「屋根があるところならどこでもいいわよ!」

 

考えてる様子のキリトさんに対しアスナは少し苛立ちつつ言うとキリトさんは更に考えてから前髪から水滴をたらしつつ頷いた

 

「それじゃあ 昨日受けたクエスト消化するか」

「この雨の中で?」

「大丈夫 屋根はあるよ」

 

キリトさんの言葉を聞いたアスナは小走りで駆け出したので私達は一先ず追いかけることにした

 

所々にある水溜りをパシャパシャと音を立てながら踏みつつアスナを追いかけると昨日私達が来た地下墓地への入口へと到着した

 

そしてその入り口に入るとやっと雨に降られる感覚がなくなったのでショートケープやスカートについた水滴をある程度払った

 

私達は来たことがあるがアスナはきたことはないのかキリトさんに聞いていた

 

「ここは?」

 

キリトさんはコートに着いた水滴をバサバサと払いながらアスナの質問に答えていた

 

「昨日言っていた地下墓地の入口だよ」

「ここに目的のクエストがあるわけ?」

「そりゃぁもう沢山あるよ」

 

キリトさんは濡れた前髪を掻き揚げるとメニューを開き、可視モードにするとクエストタブの受注済みリストを私達に見せた

 

「この『迷子のジェニー』っていうやつは女の子のペットの仔犬か仔猫だかを探すクエストで『悪趣味な収集家』っていうのは特定の遺物を拾い集めるクエストだし『三十年の嘆き』は地下墓地のどこかで彷徨ってる悪霊を…「にえっ!」」

 

キリトさんがクエストの内容を説明している途中でアスナは奇妙な声を上げてキリトさんの口を右手で塞いだ

 

その様子にキリトさんはびっくりして何かを言おうとしたがアスナは睨みつけてキリトさんを黙らせるとゆっくりと手を離した

 

私達はその様子を黙ってみる他なかった…

 

キリトさんはそこから黙っていたが少しすると恐る恐る口を開いた

 

「…今のにえっ…って何…?」

「ロシア語でノーっていう意味よ」

「何がノーなんだ?」

「それは…えーっと… クエストのネタバレ禁止っていう意味よ」

 

キリトさんの質問に対してアスナは付け焼刃の回答をしたがどうやらキリトさんは納得したみたいで大いに頷いていた

 

「言われてみればそうだな フロア攻略に関するクエストならまだしも単発もののクエストなら事前情報はなしでやりたいよな…うん じゃぁこれからやるクエストは基本的に説明も口出しもしないからアスナが先導していいよ」

 

キリトさんは真面目にそう言うとアスナは軽く咳払いをしてから下り階段をチラッと見た

 

「そ…そう… ならそうさせてもらうわね タコミカ達も準備いい?」

「勿論!」

「いつでも」

 

アスナがこっちを向いて準備は良いかと聞いてきたので私達は軽く頷いて返した

 

「じゃぁ行くわよ!」

「おう!」

 

そして私達は階段を下っていった

 

~~~~~~

 

階段を下りた先の広場では昨日と同じような光景が広がっていた

 

「ここって安地部屋なの?」

 

アスナがキリトさんに対して小声で尋ねるとキリトさんは少し不思議そうな顔をしながら返した

 

「それどころかまだ圏内だよ 表示出てないだろ?」

「あ…そっか…」

 

それを聞いたアスナは肩の力を抜くと辺りを見回し始めるとその感想を言った

 

「みんな遺物を拾いに来たのね」

「そうだろうな ここは拾いつくして周りの地下墓地を探索している頃じゃないかな…」

 

そう言ったキリトさんはふと厳しい顔になったのでアスナはキリトさんの方を向いて首をかしげた

 

「どうしたの?」

「あー… いや…」

 

キリトさんはそう呟くと肩をすくめて続けた

 

「前にも言ったけどβの時はこの地下1階は圏内になっててモンスターも危険なトラップもない その噂が広がってるからこうして下の層のプレイヤー達が遺物拾いに来てるんだろうけど…」

「何か問題があるのか?」

「…いや 考えすぎだな… さぁ 俺達も行こうぜ」

 

キリトさんが途中考え事を始めたのでておさんが聞くとキリトさんは気を取り直して前を歩き始めたのも束の間戦闘をアスナに交代し、広間の北側を進み始めた

 

通路に入ると篝火で明るかった広間とは異なって暗くなり、それに加え所々で水が滴り落ちる音がする

 

その中でアスナはキリトさんに話題を投げかけた

 

「それにしてもアインクラッドでも雨って降るのね」

「今までも何回か降ってなかったっけ?」

「うーん… 覚えてないわね クリスマスに雪は降ったけど…」

 

キリトさんの返しに対してアスナは思い出しているのか少し唸ると答えた

 

「そっか まぁ確かにレアなのはレアだな 今までのVRMMOだと雨や嵐とかは当たり前にあったけどVRMMOの雨は不快すぎるんだ」

「視界が悪くなる 装備が水を含んで重くなる 服や髪は濡れて気持ち悪くなる 寒い冷たい エトセトラ…」

「へ…へぇ…」

 

キリトさんの説明に続けて私が経験談を話すとアスナは少し引き気味で納得したみたいだった

 

「βの初期だともう少し頻繁に降ってたけどタコミカみたいな苦情が多くて減ったんだ」

「そんな経緯があったのね でもちょっと残念 部屋の中から見る雨好きだったんだけどな…」

 

 

そんな会話を交えつつメインの通路から脇道に入り、幅30㎝ぐらいの通路を通り高さが60cmぐらいしかないトンネルみたいな道をくぐったり(流石にキリトさん先導で次にておさんが入ったけど)していると何やら礼拝堂っぽい場所に辿り着いた

 

横長の椅子が何列か並んでおり、奥の壁際には半壊している怪しげな石像が立っている

 

光源は床に何ヵ所かある蠟燭だけなので部屋の端の方は暗く、他のプレイヤーの姿もない

 

それに嫌な予感を覚えたのかアスナはキリトさんに訊ねていた

 

「ここ どのクエストの場所?」

「ネタバレしていいのか…?」

「タイトルぐらいは教えなさいよ」

「分かったよ じゃぁ… ここは『三十年の嘆き』でーす」

 

改めて『三十年の嘆き』のクエストウィンドウを開いて確認すると依頼主は中年の男性で最近この街に引っ越してきたが引っ越してきた新居で何やら怪奇現象が起きるというので調べてみようと言うのがこのクエストの内容である

 

因みに補足としてその家の地下室を調べてみたが特に何もなかったのでもっと下(この礼拝堂)を調べることにした

 

「じゃぁこの礼拝堂があのおじさんの家の真下っていう事?」

「マップを切り替えてみればわかるよ」

 

キリトさんにそう言われてアスナがマップ切り替えを始めたので私も確認がてらついでにマップ切り替えをしてみると確かにこことクエストNPCの場所がぴったりと一致している

 

「…成程 ここにラップ音…じゃなくて謎の振動の原因があるわけね」

 

そう言いながらアスナは部屋を一通り見回すと私に聞いてきた

 

「因みにタコミカはこのクエストのこと知ってるの?」

「さぁ? どうでしょう?」

 

私もキリトさん同様今回は見守るという形にすることにしたのでそのことをにっこりとしながらアスナに伝えると「むむむ…」と言いながら考え始め、しばらくすると何か思いついたのか声を出しながら顔を上げた

 

「ねぇ あのおじさん家がガタガタするのって午前2時ごろって言ってたわよね?」

「言ってたな」

 

アスナの質問に対してキリトさんは頷いた

 

「なら その原因を調べるには私達も午前2時にここに来ないといけないんじゃないの?」

「いい読みだな それが正規の攻略法だしこういう時限式のイベントがあるクエストは結構多い」

「褒めてくれるのは良いけどまだ朝の9時にもなってなかったわよね? 今から真夜中の2時までここで待つわけにもいかないでしょ…?」

 

アスナは呆れながら聞くとキリトさんは演技っぽく指を振った

 

「まぁ俺はそれでもいいけどこの手の単発系のクエストには大体抜け道が用意されていることが多いんだ 俺の読みが正しければそろそろ…お! 来た来た」

 

そう言いながらキリトさんはアスナの背中を押そうとしたがアスナはそれをパシッと振り払って聞き返した

 

「何が来たの?」

 

すると後ろの方から〔ずるぺたん ずるぺたん〕という奇妙な足音が聞こえてきた

 

その足音を聞いたアスナは素早くキリトさんの後方へと回り込んだ

 

私達も足音が聞こえてきた出入り口の方を見ると子供のように小柄だけど両足は体格に比べて異様に大きく、両腕も長いNPCが現れた

 

顔は濃い灰色のフードをしているため分からず左手には汚れた頭陀袋をぶら下げ、右手には長い蝋燭を掲げている

 

そのNPCの様子を見ていると礼拝堂を横切ると床に幾つかある蝋燭の山のうちの一つに歩み寄り、しゃがむと頭陀袋から新しい蝋燭を取り出し小さくなって今にも消えそうな蝋燭から火を移して床に立てた

 

この男性(多分)がヒントだと思ったのかアスナは決心したようにキリトさんの背後から出ると別の蝋燭の山に向かおうとしている男性に話しかけた

 

「こ…こんにちは」

 

アスナが挨拶をするとその男性はぎこちない動きでアスナに顔を向けた

 

「えーっと… ここの蝋燭はあなたが補充しているんですか?

 

アスナがそう聞くとその男性は無言で頷いたのでアスナは質問を重ねた

 

「真夜中にここでおかしなもの見ませんでしたか?」

 

アスナの質問からしばらくするとその男性はしわがれた声で答えた

 

「おれ 夜中は ここ来ない 朝 蝋燭つける 昼 減った蝋燭足す 夜 蝋燭消して寝る」

 

その男性はそれだけを言うと再び歩き始め、先ほどの手順で最後の蝋燭の山に蝋燭を足すと礼拝堂から出ていった

 

そこからしばらくアスナは考えていたが不意に顔を上げ、キリトさんの方を向くと蝋燭の山のうちの一つに向かうとその蝋燭の山の火を吹き消した

 

すると4分の1ほど暗くなった

 

「キリト君はそっちの蝋燭を! タコミカとテオ君はキリト君とは別の蝋燭の火を消して!」

 

そしてアスナが指示を出したので私達はその指示に従ってそれぞれ別の蝋燭の山の火を消した

 




タコミカは案外怖いものは平気です(脅かし系が苦手)

それではまた次回に


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6話:続 さぁクエストを!

今回は前回の続きなのでタイトルは捻ってないです

それではどうぞ


そこから次々と蝋燭の火を消していき、キリトさんが最後の蝋燭の火を消すと礼拝堂はほぼ完全に暗闇に包まれた

 

少しだけアスナを見守っていると床の中央がぼんやりとした青白い光で明るくなった

 

「ありがと…」

 

アスナは誰かが灯りを出してくれたのだと思ったのか顔を上げたがすぐに違和感に気が付いたのか辺りを見回し、床の中央に向いた

 

その光を見ていると〔オオオォォォ…〕という木枯らしのような音が礼拝堂全体を揺らした後 床から青白く透き通った枯れ枝のように細い手が姿を現した

 

無論それで止まるわけがなく、再び怨嗟に満ちた声が響いたと思えば腕から肩、そして頭が床から湧き上がってくる

 

ほつれた長髪にがりがりに痩せた体で女性ということは分かるが両目があるべきところには赤い鬼火がちろちろと輝き、口からは鋭そうな牙がはみ出ている

 

それは明らかに幽霊だった

 

たっぷりと時間をかけて全身を現した幽霊は鉤爪の生えた両手を振りかざすと甲高い声を迸らせた

 

ヒオオオォォォ…!

 

その途端に礼拝堂全体が激しく揺れ始めた 長椅子は次々と倒れ、壁や天井から石のかけらがこぼれ落ちていく

 

私とておさんは何の問題もなく揺れに耐えることが出来たがアスナはそれに耐えることが出来ずにそのまま倒れそうになっていたがいつの間にか移動していたキリトさんがアスナを支えた

 

「あれ? ホーンテッド・アパートっぽくて面白くなかったか…?」

 

キリトさんがそう言うがアスナは反応しなかったのでキリトさんは心配して声をかけた

 

「大丈夫か?」

 

それにもアスナは反応しなかった(正確には口がうまく動いていない様子だった)のでキリトさんはそんなアスナの様子を察したのかアスナを抱え上げると壁際まで移動させた

 

その間も礼拝堂の振動は激しさを増していったがやがて少しずつではあるが振動は小さくなっていきそれに伴って幽霊の声も徐々に小さくなっていった

 

礼拝堂は再び静寂を取り戻したが肝心の幽霊はキリトさん達の方へ近づいて行った

 

そしてアスナがその幽霊の姿を見たのか

 

いやあああああ―――!!

 

という先ほどの幽霊にも負けないような悲鳴を上げ、キリトさんに全力でしがみつくと顔をキリトさんのコートに押し付けていた

 

 

そこからさらに数十秒ほど経過したが未だにアスナはキリトさんにしがみついていたのでキリトさんはアスナに恐る恐るという感じで声をかけた

 

「あの…アスナさん…」

 

アスナはキリトさんのコートにしっかり顔を押し付けながら掠れ声でキリトさんに問いかけていた

 

「お…お化けどっか行った…?」

「いや…まだそこにいるけど…」

やぁ――――――!

 

またしてもアスナは絶叫するとキリトさんのコートに顔を押し付けたまま小刻みに首を横に振りながら子供のように喚いた

 

「早くどっかやって! 今すぐ追い払ってよ!」

「クエスト進めないと…」

「なら早く進めて!」

 

それを聞いたキリトさんはクエストを進めるためにアスナから離れようとするがアスナはキリトさんのコートをしっかりつかんで引き戻した

 

「駄目! このまま!」

「い…いや…クエスト進めるには近くに行かないと…」

 

その様子を見ていた私達はキリトさん達の近くまで向かった

 

「えーっと…私達もいるんだけどな…」

「そうだった… えーっと…タコミカはこのクエストやったことはあるのか?」

「一応は…」

 

私が気まずそうな顔をしながらキリトさんを見るとキリトさんは気まずい感情と助かったという感情が混ざったような顔をしながら私に対してこのクエストをやったことがあるのかと聞いてきたので私は覚えている範囲でこのクエストのことを思い出しつつ答えた

 

「後頼めるか…?」

「出来る限りやってみます」

 

私の返答を聞いたキリトさんはクエストを進められるかと聞いてきたので私は出来る範囲でやってみると言った

 

「あの…幽霊さん あなたは何でここにいるんですか?」

 

私が幽霊さんに聞いてしばらくすると木枯らしのような声で答えた

 

「‥‥ここから‥‥出られないから‥‥」

「どうして出ることが出来ないんですか?」

「‥‥ここに‥‥閉じ込められたから‥‥」

 

そこから私の憶えていたパターンが合っていたのかどうかは分からないが特に問題なく会話は続いた

 

その会話の中で彼女がここに閉じ込められたのは30年前のことで閉じ込めたのは当時婚約を約束していた男性であるという事 そしてその男性に対する恨みによってここから出られないということが分かった

 

そのことを私達に伝えると幽霊さんは一先ず姿を消した

 

私の様子を見ていたキリトさんは未だにキリトさんのコートに摑まったままのアスナに遠慮がちな声で話しかけた

 

「あの~…アスナさん…?」

「幽霊…どっかいった?」

「取り敢えずはタコミカがクエストを進めてくれたよ」

「…もう出てこない…?」

「う…うん まぁ…恐らくは」

 

そこから気まずそうな空気が流れたがふとキリトさんが口を開いた

 

「えーっと…その…悪かったな…アストラル系苦手なの気が付かなくて…」

「アストラル?」

「あぁ モンスターの種類だよ コボルドやゴブリンが亜人系 蜂や蜘蛛が昆虫系 ゴーレムやガーゴイルがエンチャント系 という感じに 今出てきたレイスやスペクターとかの実体が薄いお化けみたいなのがアストラル系でスケルトンやグールなどのゾンビみたいに実体があるのがアンデッド系」

「ふーん…」

 

キリトさんの解説を聞いているとアスナは落ち着いてきたのか体を起し、素早く周囲を確認してから床に片肘を着いた状態のキリトさんから一歩離れ、腰に両手を当てながらキリトさんに向かってきっぱりと宣言した

 

「…今のはいきなり出てきてビックリしただけだからね!」

「は…はい」

「そりゃあ お化け…じゃなかった アストラル系はあんまり得意じゃないけど… 女の子なら普通そうじゃない?」

 

アスナの言葉を聞いたキリトさんはちらっとこっちを見たので私は幽霊と問題なく話せた理由を説明することにした

 

「私は実態があるっていう事を初めから知ってたから対処できただけですよ」

「成程…」

 

ぶっちゃけると私はジャンプスケア系*1が苦手なだけでお化けは普通にいけるからね

 

私が説明するとキリトさんは納得したように頷きながら再びアスナの方を向いた

 

「だからこのことは速やかに忘れて今後話題にしないように!」

「は…はい…」

 

アスナにそう言われたキリトさんはコクコクコクと3回ほど頷き立ち上がると私の方に近づこうとしたが何かを察したのかアスナが一睨みして若干大声で言った

 

「それと! 下らない悪戯も禁止!」

「はぁぃ…」

 

そう言われたキリトさんは叱られた子供のような返事をすると方向転換をして蝋燭の山のうちの一つに向かい、火をつけ始めた

 

その様子を見て、アスナは少しだけ笑い始めた

 

「どうしたの?」

「何でもないわ タコミカ達も蝋燭の火をつけてくれる?」

「はーい」

 

それに対して私がどうしたのかと聞くと何でもないと答え、私達にも蝋燭の火をつけてほしいと言ったので私は返事を返すとておさんにも同じように指示を出して蝋燭の火をつけに向かった

 

その後幽霊さんが出たあたりを探すと金のペンダントを発見したのでそれを鑑定してもらうために一旦街へと戻ることにした

 

~~~~~~

 

街に戻った私達は早速拾った金のペンダントを鑑定してもらうことにした

 

そのペンダントはどうやら遺物ではなく<カルルイン>の街の豪商一族のものだと聞かされたので私達はその屋敷へと向かって行った

 

屋敷の門番と一悶着はあったが一族の領袖だという50がらみの男性と何とか面会することが出来た

 

そして地下墓地でペンダントを拾ったことを伝えると領袖は過去のの罪を涙ながらに告白した

 

 

曰く、30年前に付き合っていた娘が邪魔になったので遺物拾いに誘うふりをしてあの礼拝堂に閉じ込めたとの事

 

礼拝堂で見つけたペンダントはその時に引きちぎられたのだという…

 

 

それを聞いたアスナはその男性に攻撃しようとしていたがキリトさんがそれを制止

 

アスナは不満な顔をしながらもその男性と共に再び礼拝堂へと向かった

 

 

そして礼拝堂のろうそくの火を消すと再び幽霊さんが現れ、男性が頭を地面に擦りつけて謝罪すると呪縛が解けたのか幽霊さんはふっと姿を消した

 

 

男性を屋敷まで送って幾らかの報酬を受け取り部屋を後にして最後に部屋の外に出たておさんが扉を閉めた途端、その部屋から強烈なガタガタという音と男性の悲鳴が聞こえてきて再び扉が開かれた時にはその男性の姿はどこにもなかった

 

 

気を取り直して屋敷の外へと出て中央広場へと向かっている途中、アスナはキリトさんに話しかけていた

 

「なんだか子供の教育に悪いクエストだったわね…」

「ん? あぁ そうだな 一応ナーヴギアは13歳以下使用禁止だったしSAOにも15歳以上推奨のCEROレーティングもあった気がするから本当の子どもはいない…と思うけどな」

「レーティングで思い出したけどきるやん君って何歳なのかしら… 小学校高学年ぐらいかしら…?」

「何歳なんでしょう…?」

 

そう言えばやる気君って何歳なんだろ…小学校高学年~中学1年生ぐらいかな…? そう考えているとアスナは話題を切り替えるように声を出した

 

「さてと 次のクエストも早く終わらせちゃいましょ 一応確認だけど仔犬のやつは幽霊とかでないわよね?」

 

アスナはキリトさんに聞くとキリトさんは待ってましたと言わんばかりにニヤニヤしながら答えた

 

「もしかしたら犬の幽霊は出るかもしれないけどな」

 

そう答えたキリトさんに対してアスナは思いっ切りグーで殴っていた

 

 

 

残りの地下墓地でのクエストは幽霊とかは特に現れずクリアし、残りの街で受けられるクエストも消化して、私とておさんとアスナは17Lvにキリトさんは18Lvに上がった

 

そしてレストラン兼宿屋の{ブリンク&ブリンク}に夕食を食べるために向かっている途中キリトさんに対してアスナは不満をぶつけていた

 

「ねぇ… 私達のレベルがあなたに追いつく気配全然ないんだけど」

「え?」

「だって私達よりあなたの方が次のレベルに必要な経験値って多いはずよね? それなのにそっちの方がいつまでたっても1レベル上ってどういう事なの…?」

「あ あぁ…」

 

キリトさんはどう言おうかといった顔をして頬を指で掻きながらしばらく考えると答えた

 

「えーっと SAOには獲得経験値のパーティボーナスは存在してなくて、モンスターを複数人で倒すとそいつが持っている経験値が分割されるっていう方式なんだけどそれが均等な分割じゃなくてな 与えたダメージと与えたデバフ、ターゲットされた時間なんかで等分されるらしくて だから現状、俺たちの戦闘パターンだと俺がタゲを取ってる時間が多いから…」

「成程ね…」

 

キリトさんが説明するとアスナは不服ながらも頷いていた

 

今のスタイルだとモンスターとエンカウントしたと同時にキリトさんが攻撃を入れてそこから私達が攻撃していくという形でその間はずっとモンスターのタゲはずっとキリトさんが取りっぱなしなので必然的に獲得経験値はキリトさんが多くなるというのがキリトさんの言いたいことかな?

 

「むぅ~~…」

 

それを分かっているが素直に納得できていないアスナは不満そうに口を尖らせているとキリトさんがフォローっぽいことを言った

 

「でも そろそろレベルが1つ違うぐらいだったら大した差じゃなくなってきてるし 安全マージンは十分なんだからそこまで気にしなくても…」

「むむーむ…」

 

アスナは口を尖らせながら頷いた

 

 

そうしているとレストランに辿り着いたので私達は中へと入っていった

*1
脅かし系のホラー




最近投稿頻度が上がってきたな…

それではまた次回に


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7話:行方知れずの鼠

GWなのに全然小説が進んでない…

それではどうぞ~


{ブリンク&ブリンク}は第5層開通から3日目にもかかわらず初日同様私たち以外のプレイヤーの姿はなかった

 

初日は当然誰もいないのが当たり前だけど…

 

キリトさんも妙に思ったのかメニューを見ながら眉を寄せていた

 

「あれ~…?」

「どうしたの?」

「いや…例のタルトまだ売り切れていないんだよな… てっきり今日あたり開店前から行列ができると思っていたんだけどなぁ」

「へぇ… 地下墓地に遺物拾いの人達結構いたのにね あの人たちはみんな視覚ボーナスなしでやってたのかしら…」

「そうなるな… 一部の人達はこのタルトのことを知ってるかもしれないけど…」

 

キリトさんとアスナが揃って首をかしげているとウェイトレスさんが注文を取りに来たのでそれぞれオーダーを済ませた

 

 

しばらくするとオーダーしたものがやってきたので〖フィックルワイン〗をキリトさんが注ぎ(私は果実水を別で注文した)グラスを「お疲れ様」と言うと軽く合わせるとそれぞれ口をつけた

 

半分ほど赤のスパークリングワインを飲んだキリトさんが泡の立っているフルートグラスを覗き込みながら言った

 

「味は好きだけど赤のスパークリングワインって現実にもあるのかな…」

「ちゃんとあるわよ? イタリアのランブルスコとか オーストラリアのシラーズとか」

「へぇ~ アスナ先生は物知りだなぁ…」

 

アスナの解説にキリトさんが目を丸くしながら答えるとアスナは「いえそれほどでも」と答えたがふと俯いて付け加えた

 

「こんな知識 この世界じゃ役に立たないし…」

「そんなことないよ」

「え?」

 

キリトさんの言葉にアスナが顔を上げるとキリトさんは真顔で続けた

 

「クエストにしても謎解きにしても現実世界の知識や経験が多少なりとも必要になってくるからさ …それに何というかアインクラッドって一見するとファンタジー世界だけど完全な異世界っていうわけじゃない 俺達やNPCは日本語で話しているし、プレイヤーの対人関係は現代日本の価値観で成り立ってる ここじゃ『向こう』のことはタブーになってるけど完全に切り離せるものじゃないと俺は思うよ…」

「…うん…」

 

それにアスナが頷くとなんだか気まずい雰囲気になったのでキリトさんは話題を変えるように再びメニューを覗いた

 

「うーん… それにしてもまだ売ってると食べたくなるな ブルブルタルト バフはともかくとして味も結構おいしいし」

「それには私も同意するわ」

「何というか ベリーの甘酸っぱさとカスタードの濃厚さがちょうどいいんですよね~」

「スイーツはあんまり好みじゃないけどこれはいけるんだよな…」

 

キリトさんが〖ブルーブルーベリータルト〗の味を褒めたのでアスナと私とておさんも同意するように頷いた

 

「…でもどうして売り切れていないのかしら…? 遺物拾いするにはまさにうってつけなのに」

「アルゴが攻略本に書かなかったのか?」

「その前にさっき寄った道具屋で攻略本自体見かけませんでしたよ…?」

「確かに言われてみれば… 遅くてもその層解放翌日の夜までには攻略本第1号があったよな…」

 

そこからなぜ売り切れていなかったのかの考察に入っていくがさっきの道具屋に攻略本自体がなかったことを思い出して話すとておさんが私の言葉に付け加えるように話した

 

「色々とあいつにも都合はあるんだろうけど念のためにメッセ飛ばしとくか」

 

少し考えたキリトさんは右手に持っていたフォークを置き、ウィンドウを開くと素早くタイプして数秒後眉をしかめた

 

「届かないな…」

「他のフロアにいるんじゃないの?」

 

アスナがもっとも可能性が高い予想を立てるとキリトさんは一瞬目を泳がせると「今のはフレンドメッセージだから…」と答えた

 

それに対してアスナは「ふうぅ~~~~~ん?」と引っ張り気味に返すとキリトさんは慌てたように先ほどの言葉に付け加えた

 

「いや その… アルゴからはよく情報を買うし こっちからも提供するし… だから登録しとくと便利だということで…」

「別に何も言ってないわよ」

 

アスナは微笑みながら返したが直ぐに思考を切り替えて考え始めた

 

一応私達もアルゴさんとはフレンド交換してるんだけどな

 

「っていう事はアルゴさんどこかのダンジョンに潜ってるのかしら…」

 

アスナの新しい推測を聞いたキリトさんは真剣そうな顔で頷いた

 

「そう…だろうな でも初回の攻略本の発行を後回しにするほどの情報がここのダンジョンにあったかな…」

「ここのダンジョンって…?」

「あぁ…」

 

キリトさんはそう呟くとテラスの床に視線を移すと続けた

 

「俺たちが今日探索した地下墓地1階は圏内であそこまではメッセージも届くんだけど2階からはダンジョン扱いになってるからメッセージは届かないんだ」

「そうなんだ… 因みに地下何階まであるの?」

「3階まで ひま猫さんに聞いたし実際に確かめたから間違いないと思うよ」

 

キリトさんが地下墓地について解説するとアスナが地下墓地が地下何階まであるか聞いてきたので私は思い出している様子のキリトさんに代わって答えた

 

「タコミカの説明に付け加えると最深部にはエリアボスがいて そいつを倒すと次の街への近道のトンネルが通れるようになる」

「へぇ なら単なるサブダンジョンじゃないわね 攻略に必須な場所ならアルゴさんが情報を集めるのも可笑しくないと思うけど…」

 

キリトさんが私の言葉に続けるようにして最深部の説明をするとアスナはもしかしたら地下墓地にいるかもしれないという予想を立てた

 

アスナの意見に顔を数㎝程度上下させたキリトさんは同意するように言った

 

「そうかもしれないな… 町と直結してるダンジョンだから第5層の攻略本第1号でしっかり載せておこうと思って情報を集めてるんだろうな」

「きっとアルゴの事だからそのうちひょこっと顔出すんじゃないか? 今までみたいに」

「まぁ テオの言う通りだな …さてと、早く食べようぜ」

 

少しだけ静かになったがておさんは私達の気を紛らわせるためにアルゴさんについて心配する必要は無いと言うとキリトさんもニヤリと笑みを浮かべウィンドウを消すと再びフォークを手に取った

 

 

~~~~~~

 

 

結局〖ブルーブルーベリータルト〗はしっかりと頂き、今日は{ブリンク&ブリンク}に宿を取ることにした

 

廊下で明日の集合時間を確認し、そのまま流れるように解散した

 

 

装備フィギュアを開いて部屋着を装備した私はベッドに寝転がると溜まったメッセージボックスを開いた キリトさんとアスナと行動していることは朱猫さんを通じて知っているだろうと信じてギルメンにはそのていでメッセージを送り返した

 

 

その後は少しゴロゴロした後、場所を確認してから宿屋の2階にある大浴場へと向うことにした

 

ついでなのでアスナも誘おうとアスナの部屋の扉をノックしてみたが返事がない

 

もしかしてと思ってキリトさんの部屋の扉もノックするがやっぱり返事がない…

 

念のためにておさんの部屋の扉をノックしてみるとこっちはちゃんと返事があった

 

「どちら様ですか?」

「私です たみです」

「どうしたの?」

「それが…アスナとキリトさんの部屋の扉をノックしてみたんですけれども返事がなくて…」

 

私がそう言うとておさんが出てきてくれた(部屋着ではあるが)

 

「取り敢えず中に入って」

「お邪魔しま~す」

 

そうして部屋の中に入った私はどこにいるのかという推測を立てた(もう大体わかってるけど)

 

「やっぱりアルゴさん探しに行ったんですかね?」

「それしかないんじゃない?」

 

私は少し考えをまとめた後考えたことを話した

 

「探しに行きますか?」

「探しに行くか?」

 

どうやらておさんも同じことを考えたらしくほぼ同時に口を開いていた

 

「息ピッタリでしたね」

「だな… じゃぁ準備しようか」

 

 

そしてすぐに準備を終えた(着替えは勿論自室でした)私達は早速地下墓地へと向かって行った

 

 

~~~~~~

 

 

中央の遺跡から入った地下墓地の広場には数人はいたもののその中にアスナやキリトさんの姿はなかったので、私達は広場の南の扉を押し開けるとそのまま奥へと進むことにした

 

地下2階へと下る階段の近くには〖この先圏外注意〗という立札が立っていた

 

前に来たときはこんなのあったかなという下らないような考えを無視して私達も地下2階へと下りて行った

 

 

最下層である地下3階へ向かうルートは知っていたので最短距離で地下3階へと下る階段へと到着した私達はそのまま地下3階へと下りて行った

 

 

3人は地下3階にいるはずだけどどこにいるのかというのが分からないのでここからは完全に手さぐりになりそうかな…?

 

そう考えた私達はとりあえず進む

 

 

ある程度進み、十字路に差し掛かったところで2人の走るような足音が聞こえてきた

 

「誰か来ますね」

「十字路から様子見るか?」

 

ておさんが十字路から様子を見ようかと言ったがそこから数秒もたたないうちに大量のモンスターの騒音っぽいものも聞こえてきた…

 

「やばいかもですね」

「早くどこかに!」

 

私達は恐らく2人の走っているプレイヤー達の進路方向じゃない右の方に曲がると急いで壁にへばりつくようにして身を隠した

 

直後に2人の黒マントを被った人物が何やら喋りながら私達の前を走り抜け、その後に大量の【スライ・シュルーマン】がその2人を追いかけるようにして私達の前を通過していった

 

喋っている内容は分からなかったが黒マントの2人の声どこかで聞いたような気がする…

 

 

私がそう考えているうちに足音も【スライ・シュルーマン】の音も聞こえてこなくなったので私達は壁から身を離すと十字路へと戻った

 

「何というか… 凄かったですね」

「あはは…」

 

私が語彙力が低下した感想を言うとておさんは苦笑いしていた

 

「どうしましょうか? 追いかけますか?」

「んー… 確かMOBは階段上れなかったと思うしここに来れるんだったらある程度安全マージンも取ってるはずだから放っておいても大丈夫…と思うけど…」

「むむ… 言われてみればそれもそうですね… では引き続き探しましょうか」

 

話し合って私達はアスナとキリトさん、それから本来の目的のアルゴさんを探すことを優先した

 

~~~~~~

 

そこから少し歩いた小部屋でアスナとキリトさんを見つけたには見つけたのだが…

 

「どうします? これ」

「どうするって言われてもなー…」

 

2人が無言で寄り添っていたので私達はどうしようか困っていた

 

 

結局私達は2人が落ち着いて離れるまで待ってから合流した その時にさっきのを見たかを聞かれたが私達は声を揃えて「「ミテナイデス」」と答えた

 

 

そこから1時間と立たずに本来の目的であるアルゴさんを発見することが出来た




次回はそこまで期間を開けずに更新できるといいな…

それではまた次回に


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8話:<シヤ―ヤ>の村のお風呂

例の奴(n回目)です

それではどうぞ~


今日は12月31日 いわゆる大晦日に当たる日だが私は<シヤ―ヤ>というエルフの村でお風呂に入っている

 

<シヤ―ヤ>村はいわゆる圏外村というやつでアンチクリミナル・コードが機能していない

 

ではなぜこのようなことが出来るのかと言うとこの村自体がインスタンスマップ…つまりヨフェル城などと同じように外部?から隔離されたマップだからである

 

このお風呂に入っているのは私だけではなくアスナとアルゴさんも入っている

 

アスナは勿論のことながらアルゴさんも装備を全解除してお風呂に入ってはいるが頬の鼠のような髭のマークだけは何故か取れていない…

 

 

何気なしに私は浮かんでいるバナナの葉を束ねたっぽいものを浮かべたり沈めたりしながらくつろいでいるとアスナがぽつりと呟いた

 

「フォレストエルフの村の方はどうなのかな…」

「フォレストエルフの方はお風呂は狭いけどご飯が超凄かった」

 

私がそう答えるとアスナは私の方を向いて言った

 

「ダークエルフのご飯も十分凄いと思うけど…?」

「なんて言うんだろ… どこかの三ツ星レストラン並みの料理が出てきてね 結構おいしかったよ」

「そう言う割にはあんまり顔に出てないゾ?」

 

アルゴさんにそう言われたので私は気を逸らすようにかなりくつろいでいるアルゴさんに返した

 

口が裂けても慣れてるなんて言えないし…

 

「そうですかね…? まぁこのお風呂がそれだけよかったっていう事ですよ」

「その点にはオレっちも同感ダナ~ これを体感したらもう戻れないヨ… パーティに入れてくれてありがとナ 2人とも」

 

アルゴさんがお礼を言うとアスナはかぶりを振ってからアルゴさんにお礼を言った

 

「ううん 私達もアルゴさんにはしっかりとお礼を言いたかったから ありがとう 地下墓地のボスの行動パターン割り出しの為に丸1日キャンプしてくれて」

「別に気にしなくていいヨ オレっちこそ悪かったナ アーちゃんやターちゃん、キー坊やテオ坊に心配かけちまって しかもオレっちを探しに来たときに危険な目に遭ったんダロ?」

 

アスナがチラッとアルゴさんの方を見るとお見通しと言わんばかりに笑っていたのでアスナは鼻の下まで沈むとぶくぶくとお湯を鳴らして誤魔化した

 

 

アルゴさんが丸1日もキャンプしていた理由はエリアボスがβ時代と外見も名前も違っていたことが原因である

 

最初こそボスの姿を確認したら直ぐに帰って攻略本第1号を出すつもりだったらしいけどいざ確認してみたら全くの別物だったのでどうせならデータを取っていこうとしたらしかったがこれが思ったより難しく、気が付いたら丸1日が経過していたという

 

ボスモンスターは巨大で包帯が所々に巻かれたゾンビで斬、突、貫通に耐性を持っていて中々強敵だがボス部屋の所々にあるレバーを操作してパズルを解くと部屋に日光が差し込んできて(無論日光なので昼間限定)ボスの弱体化が可能…とのこと

 

アルゴさんが苦労したのはこのパズルで後半はほぼ意地でやっていたらしい

 

そのおかげで昨日の30日のお昼に攻略組の選抜メンバーでそこまで苦労せずに倒せたがやっぱりというかなんというかALSとDKBの対抗が凄まじかった キャラメレさんと意識さんは途中何回かキレかけたと言ってたし…

 

そしていかに私達がアルゴさんの情報に―――アルゴさんに依存しているかが分かった

 

 

お湯に映る自分の顔を見ながら考えているとアスナがアルゴさんを遠慮がちにでも真剣そうに呼んだ

 

「あの… アルゴさん…」

「どうしたんだイ? アーちゃん」

 

アルゴさんはアスナの真剣な感じを察したのかくつろぐのをやめて体を垂直に戻した

 

「地下墓地のボスをスムーズに倒せたのはアルゴさんが頑張ってくれたおかげだし そのことにはとても感謝してるんだけど…初見のボスを相手にソロでデータを取るのは少し危険すぎると思うの」

 

それに対してアルゴさんは淡い笑みを浮かべたまま続きを促していたのでアスナは続けた

 

「私も昔は1人で迷宮区にもぐったりしてたから人のことは言えないんだけど…でもアルゴさんの情報は私達みたいな攻略プレイヤーだけじゃなくて後から<はじまりの街>を出たミドルプレイヤーの人たちにとっても凄い助けになってる もし仮にアルゴさんに何かあったら攻略そのものが止まっちゃうくらいに… だから…ううん…私はアルゴさんが一人で無茶しちゃうんじゃないかって心配なの… その…友達として…」

 

アスナがそう言うとアルゴさんはにかっと笑うとここがお風呂場だからかやけに響く声でお礼を言った

 

「ありがと アーちゃん」

 

そして真っ直ぐにアスナを見詰め、アルゴさんにしてはややスローな口調で続けた

 

「オイラの事 心配してくれるのはとても嬉しいヨ 正直オイラも一昨日のはちょっとやりすぎたって思ってるシ …でもオイラにはどうしても体を張って情報を取り続けなきゃいけない責任があるんダ」

「それって情報屋として?」

「まぁそれもちょっとだけあるかナ でも違うヨ」

 

アルゴさんは小さな水滴を散らしてかぶりを振るとアスナの質問に答えた

 

「元βテスターとして、だヨ」

 

それを聞いたアスナは息を呑んだが、直ぐに返した

 

「…そうなんだとしても アルゴさんが独りで危険な役目を背負わなければいけないという理由にはならないわ 同じ元βテスターのキリト君やタコミカ、ヒマ猫君だってフロアボスの攻略戦にはいつも攻略集団のレイドに参加してるんだし…アルゴさんもせめて偵察のサポートメンバーぐらいは出してもらってもいいと思うけど…」

「そのコ―リャクシュ―ダンっていう呼び方ちょっとまどろっこしいよナ オレっち的にはフロントランナーの方がかっこいいと思うけどナ~」

 

一旦間を置くようにニシシと笑ったアルゴさんは目の前に漂ってきたバナナっぽい果物を指でつつきながらアスナに問い返していた

 

「んー… アーちゃんがそうやって心配してくれるのはオイラが非戦闘タイプのビルドだからダロ?」

「え…えぇ…まぁ…」

 

アスナは途惑いつつも頷いた

 

確かにアルゴさんはクローと防具は装備しているものの朱猫さんのようなAGI極に振っていると思う点が多く情報屋特化ビルドだと勝手に考えている

 

その為攻撃方法の少ない普通のモンスターだったらまだしも攻撃方法の多いボスモンスターだと危険が多い…

 

そんな考えをアスナもしていてアルゴさんがその考えを見抜いたようにもう一度ニシッと笑うと近くに遭ったハーブの束を無言で掴んでアスナに向かって投げた

 

それをアスナがキャッチするとアルゴさんは先ほどのバナナっぽい果物を握り、勢いよく立ち上がった

 

「論より証拠っていうやつだナ ちょっとやってみよっカ アーちゃん」

 

そう言って御影石製と思しきお風呂のサイドに立ったアルゴさんをアスナは唖然としながら眺めていた

 

「やるって…何を?」

「そりゃぁモチロン…デュエルはちょっと大げさかナ チャンバラだヨ」

 

右手で器用にバナナっぽい果物をくるくると回しながら広大な洗い場へと歩いて行った

 

アルゴさんの話を要約するとアルゴさんはバナナっぽい果物でアスナはハーブの束で模擬戦っぽいことをやってみようという話だった

 

お風呂場なのでお互い完全無防備状態で始まると思ったとき、アスナがアルゴさんに訊ねた

 

「あ…あの…水着着ていい…?」

 

するとアルゴさんはキョトンとしてから自身の体を見下ろすと軽く頬を膨らませた

 

「あのナー オイラがこのミニマルボディっぷりを晒してんの二 そのプロポーションのアーちゃんが恥ずかしがるってどーいう事ダ!」

「そういう問題じゃないです!」

「ま いいけどサ…」

 

良いんだ… でもじゃぁどうするんだろ…?

 

「それで…アルゴさんにも水着を着てほしいんだけど…」

「オイラ水着なんて持ってないゾ?」

「じゃぁ…今作るから!」

 

アスナはそう言うと手早くアルゴさんの水着を作り、いよいよチャンバラ…?の開始となった

 

 

アスナが着用しているのは4層で作った白のワンピース型の水着でアルゴさんが着用してるのはアルゴさんの要望の黄色のタンキニとなっている

 

因みに私は2人の邪魔にならないようにお風呂の端の方に移動している

 

「えーっと…今更だけどどういうルールなのかな…?」

「ターちゃんに審判やってもらって先にベシッとやった方の勝ちということにしよっカ」

「りょ…了解…」

 

私に振らないで… というか擬音じゃわからない…

 

私のそんな考えなどお構いなしにアルゴさんがこっちを向いたので私は仕方なく開始の合図を出した

 

「じゃぁ…開始で…」

 

私が合図を出すと2人は臨戦態勢になった

 

「ほんじゃマ… いつでもどうゾ?」

 

しばらく対人戦特有の膠着状態が続いたが先に動いたのはアスナだった

 

「行きます…!」

 

宣言と同時にアスナは右足を前に踏み出したがアルゴさんは姿を消した…というよりとてつもない速さで移動した

 

直後に黄色い残像がアスナの左脇を掠めて後方へと抜けていった

 

それにアスナは咄嗟に反応し歯噛みをしながら思い切りジャンプすると空中で反転して着地と同時に両足をスライドさせて距離を取るとハーブの束を掲げて身構えた

 

その反対側では左手を腰に当てて右手でバナナを人差し指の先でグルグルと回しているアルゴさんの姿があった

 

「いやぁ あの速度に反応するとはさすがアーちゃんダ あの一発で決めるつもりだったけど今のはベシッじゃなくてピシッだったからナ~」

「じゃぁ続行ね?」

 

大丈夫かな… 目で追えるかな…

 

アスナの問いかけに対してアルゴさんはニシッと笑ってみせた

 

 

そこからはまた膠着が続いているもののアスナがじりじりとアスナはアルゴさんを警戒しつつ浴槽の方へとスライドしていきやがて右足の指1本を浴槽の縁へ引っかけ、なおかつそれを悟られないようにポーズを保っている

 

これは洗い場と浴槽の境目が分かりづらいこのお風呂だからこそできる芸当だと言えるかな?

 

やがて天井にたまった水滴が地面に落ちてきたタイミングでアルゴさんが仕掛けた

 

今度は横からではなく正面から真っ直ぐに突っ込んできた アスナは迎撃するそぶりを見せるがアルゴさんはハーブの束の先端をかいくぐってアスナの懐に潜り込もうとしたがアルゴさんが大きく傾いた

 

「しまッ!?」

 

そして沈没寸前のアルゴさんに向かってアスナは一撃を入れようとしたがアルゴさんは不自然に動いていた

 

なんと水面を走ったのだ…

 

理論上は可能かもしれないがそれを実際にやってのけたのはアルゴさんが初めてかもしれない

 

豪快な水しぶきを上げながら4歩ぐらい走ると流石に限界が来たのか頭から水に突っ込み、少しするとぷかりと浮かんできた

 

「ニャハハハ!」

 

お湯から頭だけを出したアルゴさんが愉快そうに笑うと体勢を崩したのか浴槽の縁にしりもちをついているアスナも笑い始めた

 

私もそんな二人の様子がおかしく見えて思わず笑い始めた

 

 

大体10秒ぐらい笑った後2人はほぼ同時に立ち上がり今度は普通にお風呂の中を歩いてアルゴさんはアスナの元へと向かった

 

そして洗い場に上がると右手に持っていたバナナを浴槽に投げ入れて大きく伸びをした

 

「ン~ いやぁ…楽しかったナ~ お互いピシッが一発ずつだからチャンバラは引き分けっていう事でいいカ?」

「え…えぇ… 勿論」

 

何だか釈然としないな… でもまぁいっか

 

アスナも納得して頷きハーブの束を浴槽へと戻した

 

アスナはしばらく水面に広がる波紋を眺めていたが顔を上げるとアルゴさんに訊ねた

 

「さっき水面を走ったのって何かのスキルなの?」

「ン~…」

 

アルゴさんは濡れた髪の先をくるくるとするとアスナの質問に答えた

 

「ホントだったら情報料貰うトコなんだけどまぁいっカ 結論から言うと努力のタマモノだヨ 4層の川でオイラ〖フローター・サンダル〗使ってたロ?」

「えぇ」

「アレ中々楽しくてナ あちこち走り回ってたんだケド ある時うっかり装備し忘れたまま水に足を踏み出しちゃったんだよナ 当然沈んだけどその時に1歩だけ水面を歩けたんだヨ…ほら子供のころプールとかで1回だけやったことあるだロ? 右足が沈む前に左足を前に出せば水に沈まずに走れるという理論」

 

そうそうそれそれ… テレビで見たのを1回だけやろうとしてたや でも確か水槽に片栗粉か何かを大量に入れたらやりやすくなるんだったっけ?

 

「…やったような気もするけど…」

「アレをできるかもって思ったら試さずにはいられなくてサ その日以降川とか風呂とかで練習してどうにか4歩までなら行けるようになったというワケ まぁいわゆるシステム外スキルっていうやつだナ」

「へ…へ~」

 

それに対してアスナは微妙な反応を返しつつアルゴさんに質問した

 

「それ 私にもできるかしら…」

「どうだろうナ? オレっちができたからシステム上は可能なんだろーケド… 実際にはオイラみたいな小柄なアバターで尚且つAGI極じゃないと厳しいかもナー ターちゃんには劣るかもだけどアーちゃんの立派なボティじゃ中々…」

「別に立派じゃないです!」

 

アルゴさんの言葉に対して私も思わず胸を隠すように腕を体の前に回した…

 

その様子を見ていたのかアルゴさんは「シシシ」と笑いウィンドウを操作して水着を脱ぐとアスナにトレードウィンドウを飛ばした

 

「水着ありがと、返すヨ」

「ううん 情報代替わりに貰っておいて」

「いいのかイ? じゃぁありがたく貰っとくヨ」

 

アスナがそれを断ったのでアルゴさんもトレードを中止したのでアスナも白い水着を脱いだ

 

 

そこからはまたお風呂でくつろいでいたがふとアスナが横にいるアルゴさんに質問した

 

「アルゴさんはデュエルの経験多いの?」

 

アルゴさんはそれに対して首を横に振った

 

「そーでもないナ 正式サービスが始まってからはさっぱりダ」

「それにしては結構戦闘慣れしてたけど…」

「そーカ? 寧ろ即興であんなことが出来るアーちゃんの方がよっぽど戦闘慣れしてるって思うナ おネーさんまんまと引っ掛かったヨ」

 

アルゴさんの先ほどの作戦の評価を聞いたアスナは思わず首を縮めていた

 

「あれは…その…夢中で咄嗟に…」

「文句を言いたいわけじゃないサ とてもうまい手だったから誉めてるだけだヨ もしアーちゃんさえよかったらオイラもその手使わせてもらってもいいかナ?」

「も…勿論 どうぞどうぞ」

「ニシシ ありがと んじゃ情報料払わないとナ」

 

にかっと笑ったアルゴさんはアスナが何かを言い出す前に口を開いた

 

「アーちゃんはデュエルが怖いのカ?」

 

そう聞かれたアスナは頷いた

 

「…うん… 怖いっていってもこの層に来てからキリト君と一回だけデュエルしただけなんだけど… いや…正確に言えばデュエルを始めることすらできなかった カウントダウンが終わって剣を向け合った時に体が動かなくなっちゃって…」

 

アスナは自身の体を抱き、当時の心境を伝えるようにして続けた

 

「別にキリト君が怖かったっていう事じゃないの 彼は真剣だったけど決して攻撃的とかじゃなかった 対人戦のコツを教えてって頼んだのは私の方だしデュエルも初撃決着だったのにすごく怖くて… このまま続けるのは絶対嫌だって思っちゃって…」

 

そう言い終わるとアスナは口を水面に沈めるとぶくぶくとし始めた

 

「…その気持ちは分からなくもないけどナ さっきのチャンバラごっこと本物のデュエルはやっぱり違うヨ 初撃決着とはいえHPが減ることに変わりはないからナ」

 

アルゴさんの言葉にアスナが頷くと顔を上げ、アルゴさんの方を向いた

 

「…ちょっとだけ話を戻すけど… アルゴさんがソロで偵察できるのはさっき見せてくれたとてつもない素早さがあるからよね? どんな攻撃も回避できるっていう自信があるから危険なダンジョンにもソロで潜れる… デュエルで私に伝えたかったのはそういうことなんでしょう?」

「そう言われちゃうと自惚れ感が強いけどナ」

 

アルゴさんは少し苦笑いすると肩をすくめて続けた

 

「でもまぁ 確かにアーちゃんの言う通りいざという時は逃げれば何とかなると思ってる節はあるヨ これからはちゃんと足元にも気を付けるけどナ」

 

アルゴさんはそう言うとウィンクしたので今度はアスナが苦笑いした、しかし直ぐに表情に戻すと真剣な口調でアルゴさんに質問した

 

「でも AGI一極型はHPが少ないし頑丈な防具も装備できないでしょ? もし何かの拍子にモンスターの重攻撃を喰らったとかトラップにはまって動けなくなったらって考えたことは無いの?」

「そりゃぁ有るヨ」

 

今までとは少し違うような透き通ったような笑みを浮かべたアルゴさんは言った

 

「オイラもHPが減るのは怖いサ 今のアインクラッドじゃ死んでも蘇生できないからナ… 生き延びることだけを考えたらそれこそターちゃんみたいにSTR極にするべきだろうナ …いや いっそ<はじまりの街>から出ないほうが利口かも知れなイ でもオイラにとっては生き延びることより今やってることの方が少しだけ優先度が高いのサ」

「それは…元βテスターだから?」

「それもあるけどそれだけじゃないヨ」

 

アルゴさんはニヤっと笑いもう一度ウィンクした

 

「ホントだったらこれ以上は別料金を頂くところだけド 最高の風呂に誘ってくれたお礼にもう一つだけタダで教えるヨ」

「う…うん」

「さっきアーちゃんはオイラが独りで危険な偵察戦をする必要はない、同じ元βテスターのキー坊達だって攻略集団に参加してるんだからって言ってたロ?」

 

アルゴさんの言葉にアスナが無言で頷くとアルゴさんは右手の人差し指を立て、それを左右に振った

 

「でもな、キー坊が完全なソロをやってないのは単純に危険性が減るからだけじゃないと思うゾ」

「じゃぁ何…?」

「決まってるだロ」

 

そしてアルゴさんは人差し指でアスナの鎖骨辺りを軽くついて

 

「アーちゃん達がいるから、だヨ」

 

ニッっと笑った




キリが良い所が分からなくて長くなってしまいました…

それではまた次回に


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9話:誰ガ為ノ作戦か

今回のタイトルは誰ガ為ノ世界という曲が元ネタになってます(深い意味はありません)

それではどうぞ


しばらくお風呂でくつろいだ後、私とアスナはておさんとキリトさんにお風呂が空いたことを伝えるために2人の元へと向かった(アルゴさんは先に<マナナレナ>の村に戻った)

 

2人がいると思しき<シヤ―ヤ>の村の真ん中にある小高い丘に予想通りいたのでアスナが声をかけた

 

「キリト君 テオ君 お風呂空いたよ~」

 

アスナが声をかけると2人は後ろを振り向いた

 

そして私達が頂上に辿り着くと隣に座った

 

キリトさんは丘の近くにある大浴場をちらりと見るとアルゴさんがいないことに気が付いたのかアスナに訊ねていた

 

「そういえばアルゴは?」

「一旦<マナナレナ>の村に戻るって キー坊とテオ坊によろしくナって言ってた」

「そっか」

 

キリトさんがそう答えた直後、アルゴさんのHPバーが私の視界から消滅した

 

今思い返すとアルゴさんのこの村の滞在時間はほとんどお風呂に入ってたかも

 

「随分と長風呂だったけど何話してたんだ?」

 

キリトさんは何気なく訊ねたつもりなのかもしれないけど… えぇ…

 

「お…女の子同士の会話を知りたがるんじゃないわよ」

「え? じゃぁ()()()()()()()()()()()()()()()()()()タコミカがガールズトーク的なことを…?」

「だから詮索するなって言ってるでしょ! 大体()()()()()ってどういう意味よ!?」

「わ…悪い…でもなんか以外で…」

 

もはやここまで来ると悪気があるのではないかと疑わざるを得ない

 

「言っとくけどね いわゆるガールズトークなんてしてませんからね!」

「ここではっきりさせときますけど私だって向こうでは料理のひとつやふたつはしてましたし、裁縫でぬいぐるみ等も作ってますからね!」

 

私達がそう言うとキリトさんは特に私の発言に対して驚いたような様子を見せていた

 

頬を膨らませつつ時間を確認すると正午を少し過ぎたあたりだった

 

アスナも時間を確認したのか2人に催促をしていた

 

「もうお昼なのね… キリト君とテオ君もお風呂に入るんだったら早くしたほうが良いわよ」

「いや 俺は今度でいいよ」

「そうだな 俺も夜でいいかな それよりこっちもそろそろ動かないと…」

 

ておさんはそう言い北にある迷宮区タワーの方を見たので私達も同じ方向を眺めた

 

「テオ君の言うとおりね… でも本気なのかな… ALSだけでフロアボス討伐に挑戦するなんて」

「おいおい… アスナが掴んできた情報なんだろ?」

「それはそうなんだけど…」

 

苦笑いするキリトさんにアスナは軽く首を傾けた

 

私達がアルゴさんの元へと向かっている途中、アスナは偶然にも【スライ・シュルーマン】から逃げていた2人組の男たちの話を聞いたという

 

そしてその話というのがキバオウさん率いる[アインクラッド解放隊]が今夜<カルルイン>の街で開かれる予定のカウントダウン・パーティをバックレてフロアボスの討伐を狙うというものだった

 

正午現在ALSとDKBは<マナナレナ>の村にいる、この村はフロアのちょうど真ん中あたりにあり、地上から<カルルイン>に戻ると半日かかるのだがエリアボスを倒したことによって解放された地下トンネルを使うと2時間程度で往復ができる

 

その為2大ギルド共に夕方には<カルルイン>に戻って色々と準備をして午後9時からカウントダウン・パーティの開始…とインスタンス・メッセージで大量に来てた()

 

しかしALSの主力が<カルルイン>に戻らずそのままフロアボスに挑み第6層到達を狙う…しかもそれがギルドの総意ではなくモルテの属するPK集団に煽動された結果との事

 

どのように対処するべきかは昨晩アルゴさんと共に話し合いをした

 

元々このパーティはDKBのハフナーさんやシヴァタさんという比較的ALSに対してそこまで敵対心のない幹部メンバーの人たちとALSの同じような人たちの共同よって企画されたということを聞いたような気がする

 

もしパーティが成功すれば直ぐにとはいかずとも関係はある程度融和になってくれると思うがそれが中止となれば今まで通り…もしかしたらそれ以上に関係が悪くなってしまうかもしれない

 

まぁ理想としてはキバオウさんがフロアボス討伐作戦を取りやめてくれることだが…

 

私が色々と考えているとアスナがふと呟いた

 

「キズメルが一緒にいてくれればね…」

「なにゆえキズメル…?」

 

キリトさんが瞬きをしながら訪ねると自信満々に答えた

 

「決まってるじゃない 私達とキズメルで先にフロアボスを倒しちゃうのよ そうしたらALSが抜け駆けを狙う理由もなくなるじゃない?」

「…突拍子のないアイデアかもしれないけど案外まともそうだな…」

 

それにておさんが同意するように頷いたがキリトさんは首を左右に振りながら否定した

 

「いやいや いくらキズメルが強くても無理だよ」

 

キズメルとはこの<シヤ―ヤ>の村に着いた時に再開できたものの第5層のエルフクエストは第3層や第4層に比べてかなりあっさりとしており、いくつかの連続クエストをクリアの後にフォールンエルフの将校と戦って終わりとなった

 

そしてキズメルは第6層へと行ってしまった

 

「…第4層のピッポカンプだって攻略集団のフルレイドにキズメルとヨフィリス子爵が加わってようやく勝てたんだぞ それに今回は第5層っていう区切りのフロアだから今までより少し強いボスが出てくるはずなんだ」

「ふぅん… βの時はどんなボスだったの?」

「古代遺跡の番人っていう設定の巨大なゴーレムだったよ ただ地下墓地のエリアボスがβ時代と何もかも変わってたからな… 一回ボスの姿を見てみるまでは何とも言えないな…」

「そうよね…というかそもそも…」

 

アスナは難しい顔で迷宮区タワーの方を見ると自問するように呟いた

 

「ALSはボスクエやってないんでしょ? それなのにアルゴさんの攻略本を持たずにぶっつけ本番でフロアボスに挑戦するなんて… その自信はいったいどこから出てきたのかしら…」

「言われてみれば…」

 

確かにアスナの言う通りその自信はどこから湧いてくるのだろう… ボスクエは基本的に経験値等も少ないのに

 

「うーん ALSのメンバーで詳しい話を聞かせてくれそうなやつはいないものか…」

 

キリトさんの唸り声を聞いたアスナは難しい顔をすると言った

 

「無理じゃないかしら 今の攻略集団の大元は第1層でディアベルさんが集めたレイドパーティでしょ? そのディアベルさんが第1層のボス戦の後、自らは前線を引いてその後をリンドさんが継いでDKBを立ち上げたわけよね でもリンドさんの指揮重視のやり方に反発したキバオウさんはDKBに加わらずに自分で仲間を集めて連帯重視のALSを立ち上げた… そういう背景があるからDKBメンバーには自分たちが攻略集団の主軸だっていう考えがあるしALSにはDKBから攻略の主導権を奪い取るべきだという悲願があるのよ」

「成程…政党で例えると与党と野党みたいなもんか…」

 

アスナの流れるような説明に対してキリトさんは納得して頷いたがアスナの憂い顔はまだ消えない

 

「実際の勢力差は僅かだけどね そういう意味ではALSはかなり頑張っていると思うわ で、問題は私とタコミカ、キリト君とテオ君も言わばディアベル組出身ってことなのよ ALSからはあの4人はDKB寄りだと思われているみたい」

「そうなんだ…」

「えぇ!? 俺たちがDKB寄りってそんな馬鹿な…」

 

私は微妙に納得したがキリトさんはしばらく唖然としていたが小さくかぶりを振った

 

「いやいや だって そんなこと言ったらリーダーのキバオウだって最初はディアベル組だったじゃないか しかもあいつディアベルのことをかなり尊敬してたみたいだし…」

 

そういえば第1層のフロアボスの攻略会議からまだ1ヵ月になってないんだった… ここ数ヵ月で起こったことが多すぎてもうずいぶんと昔の事のように感じられる

 

私がそのように考えているとアスナがキリトさんの質問に答えていた

 

「だからこそ…だと思うの キバオウさんはディアベルさんを尊敬していたから今のリンドさんがディアベルさんの存在を利用しているように見えるんじゃないかしら」

「そうかもな… キバオウは最初の攻略会議の時からβテスターへの不満を訴えていた デスゲームになったSAOで通常のMMOみたいに一部のプレイヤーがリソースを独占するという状況があいつにとっては許せない状況なんだろうな そういう意味ではDKBの幹部メンバーとそれ以外の一般プレイヤーの待遇ははっきり違うから相容れないのは当然か…」

「うん…」

 

確かにキバオウさんの考えは理想的かもしれないけどSAOはMMOであるためどうしてもリソースが一部のプレイヤーに集中してしまう状況になってしまう…

 

そんな私の考えに同意するようにキリトさんはアスナの膝辺りに手を伸ばしながら言った

 

「確かにキバオウの情報やアイテム、得たものを公平に分け合うべきっていう考えには一理あるよ デスゲームになってしまったこの世界で一番大切なのはプレイヤーの命だからそれを最大限保護するのは当然だと思う でもボス戦のような極限状態では自分の命と他人の命を平等に扱うのはまず無理だ だからまずは自分を守って、次に身近なプレイヤーを守る みんながそうやっていくしかない…だからアスナ、タコミカとテオも自分を守ることに最大限努力してほしい 高性能な防具を装備することを含めて」

「…うん」

 

キリトさんの言葉を聞いたアスナは素直に返事をすると軽く咳払いをした

 

「キリト君の言いたいことは解ったわ だからそんなに押さえなくてもいいのよ 私もこのブーツ気に入ってるし 誰かにあげる気なんて更々ないわ」

「そうか…」

 

そこでようやくキリトさんはアスナの膝小僧をしっかりと掴んでいることに気が付いたのか咄嗟に叫んでいた

 

うおぁ!

 

そして素早く右手をコートの懐に引っ込めると慌ててアスナに謝罪した

 

「ご、ごごごめん! 別にその 足に触ろうとしたわけじゃなくブーツをですね…」

「ブーツを…どうするつもりだったの?」

「ブーツを触ろうと…」

「同じことじゃないの!」

 

アスナの指摘は確かにごもっともである

 

しかしアスナはそれ以上はキリトさんに追求せず会話の流れを戻した

 

「…とにかく ALSにとっては私達も是正するべき対象っていうことよ そういう訳だからそう簡単に内部情報を打ち明けてくれる人なんて… ちょっと待って…」

 

アスナは眉を顰めるとキリトさんに確認した

 

「今夜のカウントダウン・パーティ 企画したのってDKBの人達だけじゃないのよね?」

「確かにな… 主導したのはDKBのシヴァタ達だけど目的が2大ギルドの親睦だからALS側にも協力してるメンバーがいるって話だったような…」

「じゃぁそのALS側の人だったら詳しい話を聞かせてくれるんじゃないかしら だってせっかく企画したパーティが抜け駆けボス攻略作戦で台無しになりつつあるわけでしょ? いくら同じギルドだとしても内心ではよく思ってるはずがないわ」

 

アスナの言葉にキリトさんは少しだけ間を置いてから意味を理解したように軽く膝を叩いた

 

「成程… もし抜け駆け作戦が強硬派のごり押しで決まったんだったら、穏便派のパーティ企画者は意見を封殺されたような形だからな 色々と言いたいこともあるんだろうけど…」

「けど…?」

「俺の考えすぎかもしれないけど パーティも作戦の一部っていう可能性もなくは無いぞ DKBに年越しパーティの共同開催を持ちかけて主街区に足止めしておいたら作戦の成功率は飛躍的に上がるからな… もしそうだとしたらALS側の企画者に接触しても話を聞かせてくれるはずがない、それどころか逆に警戒されて事態が悪化するかもしれない…」

 

キリトさんの仮説に私達は言葉が出ずしばらく地面の芝生をプチプチとちぎる他なかった

 

そして数十秒ほど続けたところでその沈黙を破るようにアスナが言った

 

「…私はALSがそこまでするとは考えたくない 地下墓地の地下3階にいたモルテじゃないほうの黒マントは間違いなくALSに入り込んでるスパイよ あいつの扇動で強硬派が一時的に優勢になってるんだとしても DKBとの融和を考えてるプレイヤーも一定数いるはずだわ」

 

正直なところどちらの意見も正しいと言える

 

キリトさんの考えてる仮説も正しいと言えば正しいと言えるが個人的にはアスナの仮説を信じたいと思っている

 

まぁ理由としては私の感情だけど…

 

しばらく考えていると芝生プチプチをやめたておさんがふと呟いた

 

「…考えても仕方ないしひとまず話だけでも聞きに行こうか」

 

ておさんの呟いた言葉が聞こえたのかキリトさんはておさんの言葉を続けるようにして言った

 

「そうだな… ALS単独でのボス討伐作戦は危険すぎるし仮に成功してもDKBとの間に深い溝を残す もし止められる可能性があるんだったら テオの言う通り考えるより先に行動した方がいいな それにこのまま何もしなかったらもしディアベルが復帰してもうまく攻略組をまとめられないかもしれないからな…」

「…そうだね」

 

アスナは頷くと仄かに笑顔を浮かべ何かを呟いた気がするが肝心の何を呟いたかまではわからなかった

 

そしてキリトさんは立ち上がると両手をポンと叩いた

 

「よし それじゃぁ 昼食がてら<マナナレナ>の村まで行くか!」

「ですね でも肝心のALS側の企画者ってどうやって調べるんですか?」

 

続いて私も立ち上がるとスカートを軽く払いながらキリトさんに聞いた

 

「アルゴに調べてもらう手もあるけどあいつは今ボスクエにかかりっきりだからここは正攻法で行こう」

 

キリトさんの方法を聞いた私達は早速<マナナレナ>の村に行くことにした




タコミカのゲーム以外の趣味は読書と裁縫です

それではまた次回に


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10話:鉱山跡の村

タコミカは第5層についてはレベリングもしていたのでちょっとだけ詳しいです

それではどうぞ


<シヤ―ヤ>は水と緑が豊富で如何にもエルフの村といった感じだったが<マナナレナ>は鉱山跡に築かれた埃っぽい村で村の入り口からすり鉢状に低くなる大穴の側面にお店が並んでいる

 

一番下には坑道ダンジョンがあって、そこでは鉱物系と化石系の素材や遺物も拾えるけれどそれは今回の目的ではない

 

私達は村で一番大きなレストランを目指して螺旋状の道を降っていった

 

このまま螺旋状の道を降りて行っても辿り着くけど所々にある階段を使ってショートカットをしていくと斜面の中腹にある目的地へと辿り着いた

 

今はお昼時なのでレストランから漂う肉の焼ける匂いに釣られそうになるが我慢して窓から中の様子を伺うと予想通りDKBの人達がかなり多く居り、ガラス越しでもジョッキをぶつける音や乾杯の掛け声、賑やかな笑い声も相まってかなり楽しそうだった

 

「…リンドさんがあんなに笑ってるの初めて見たかも…」

「確かに…」

 

アスナがリンドさんの様子を見たのか小さく呟いたので私もリンドさんを見つけてみてみると確かに他のDKBの人と楽しそうに笑っていた

 

「笑い続ける呪いにでもかかったのかな」

 

キリトさんがそう言った途端ておさんが突然キリトさんの肩に手を回した

 

「目的違うよな? キリト君?」

「あっはい すみません」

 

キリトさんは気を取り直して店内を見回しているとシヴァタさんを見つけたのか「いた!」と呟いて素早くウィンドウを開いてシヴァタさんにインスタンス・メッセージを送った

 

キリトさんのメッセージを見たカウンターに座っているシヴァタさんはこちらに自然な感じで振り向くとあからさまに難しい顔をしたが他のメンバーに声をかけるとカウンターを離れ、外に出てきた

 

その時には私達は窓から離れて隣の建物の影に身を隠していたのでシヴァタさん以外の人に気づかれるということはなかった

 

「ついて来い」

 

シヴァタさんはすれ違いざまにそう呟いたので私達は十分に距離を取りつつシヴァタさんの後をつける

 

そしてシヴァタさんは村の坂道を数十メートル上った先にある空き家に入ったので私達も周囲に他にプレイヤーがいないかを確認した後、私達も同じ空き家に入って薄暗い内部へと進んだ

 

しんがりであるておさんがドアを閉めた途端シヴァタさんの明らかに苛立っている声が前方から飛んできた

 

「何が目的だ!?」

 

奥の壁に寄りかかって腕を組んでいるシヴァタさんは見るからに怒っているような眉だったのでアスナがキリトさんの背中を突いて耳元で囁いていた

 

「ちょっと…どういうメッセージ送ったのよ」

「いや…ただカウントダウン・パーティを一緒に企画したALS側のギルメンを教えてほしいとだけ…」

「ホントにそれだけか? 他にろくでもないメッセ送ってないか?」

「送ってないよ… 多分…」

 

すると私達の会話が聞こえたのかシヴァタさんは怒りから困惑しているような眉になった

 

「…お前たち 俺とあいつのことを知ってて接触してきたんじゃないのか?」

「あいつって誰ですか? 今夜あるパーティがDKBとALSの共同開催っていう事は知ってますけどそれ以外は…」

 

私はシヴァタさんが言ったあいつに関して質問するとシヴァタさんはしまったというような表情を見せ、視線を泳がせていたが何かをごまかすかのように2、3度咳払いをした

 

その反応にアスナは何かピンときたみたいで「成程ね…」と呟くとフードを外し手前に出ると落ち着いた口調で話しかけた

 

「大丈夫よシヴァタさん 私達はただパーティが企画された経緯を知りたいだけなの それさえ教えてくれたら他のことは詮索しないし、ここでのことは誰にも話さないわ」

 

アスナの言葉でシヴァタさんはだいぶ落ち着きを取り戻したみたいだがまだ懐疑的な視線で私達を見ると唸るような声を出した

 

「そんな口約束を信じられると思っているのか?」

「私達もパーティが無事に開催されてほしいって思っているのよ …これは私の推測だけどALS側の企画者から芳しくないメッセージが送られてきてるんじゃないかしら?」

「ど…どうしてそれを…?」

 

シヴァタさんが驚いたように眼を見開くとアスナはずいっと一歩前進した

 

「問題解決に協力するわ だから詳しい話を聞かせてもらえる? 出来ればALSの人も一緒に」

 

シヴァタさんはしばらく苦悩していたが低い声で念押しした

 

「…本当に約束は守ってもらえるんだろうな?」

「えぇ 剣に誓うわ」

 

アスナの返事が効果てきめんだったのか何かを決心したように頷きウィンドウを開いてメッセージを打ち始めた

 

その間にキリトさんはアスナに問いかけていた

 

「今の一体何がどうなっているんだ?」

 

それにアスナは得意げな顔をして答えた

 

「直ぐにわかるわよ」

 

 

約3分後、私達の元にやってきたのは全身を鎧で身を包んでおり、結構小柄なプレイヤーだった

 

頭にもしっかりアーメットを被っており、街中にもかかわらずバイザーをきっちり下ろしているので顔は分からない

 

そしてそのフルプレートさん(仮)はバイザー越しに私達を睨むとシヴァタさんに向き直った

 

「シバ これはいったいどういう事だ」

 

フルプレートさんの第一声はクローズドヘルム特有の金属質エフェクトを帯びているので男性か女性かは分からないがあだ名呼びからも結構親しい間柄なのではないかということが分かった

 

それとまだそうだと断定したわけではないが身長の低さからフルプレートさんは女性なのではないかと考えた

 

シヴァタさんは短髪頭を掻き、そのフルプレートさんに弁解するようにして言った

 

「無理に呼び出したのは悪かった でもそこの4人がパーティに協力してくれるらしい それに…どうもフェンサーの方は気づいているみたいだ」

 

シヴァタさんの言葉を聞いたフルプレートさんは各所の関節部分をガシャっと鳴らして身動ぎするとやや高い所にあるアスナの顔を見上げて聞いた

 

「…本当か? なぜ気付いた?」

 

それにアスナは余裕たっぷりに微笑を浮かべつつ答えた

 

「シヴァタさんの態度を見てたら解るわよ だって見え見えだもの」

 

フルプレートさんはしばらく沈黙していたがやがてシヴァタさんの方に向いた

 

「だから シバは色々顔に出しすぎてるって言っただろう」

「し…仕方ないだろ ナーヴギアが勝手に読み取って表情を変えてるんだから」

「ならお前も密閉式のヘルメットを被れ」

「む…無茶言わないでくれよ…」

 

シヴァタさんとフルプレートさんのやり取りを見ているうちになんとなくだが2人の間柄を察してきたような気がする…

 

しかしキリトさんはいまいちわかっていないのかアスナに聞いていた

 

「なぁ…いったい何が…」

 

アスナはそれに答えずキリトさんに向かって薄ら笑いを浮かべると一歩前に出てフルプレートさんに話しかけた

 

「本当に他意はないのよ 私達も今夜のパーティは楽しみにしてるしALS側で問題が起こっていることも知ってる それを解決するために話を聞かせてほしいだけなの」

 

アスナの言葉に数秒ほど悩んだフルプレートさんは意を決したようにゆっくり頷くといかついガントレットをつけた右手を持ち上げウィンドウを開くと装備フィギアの頭装備部分に指を当て、すっとフリックした

 

アーメットが外れた中にはオレンジ系色っぽい髪を眉の上で切りそろえた可愛らしい女の子の顔があった

 

そして先ほどまでのメタリックな声とは異なり、可愛らしい声で話し始めた

 

「信じます 私アスナさんの事…そしてタコミカさんとテオロングさんの事も尊敬してますから それに私もシバと一生懸命準備したパーティ成功させたいし」

 

それを聞いたシヴァタさんはほわわんという効果音が似合いそうな表情を浮かべた

 

キリトさんはそこでようやく2人の関係が分かったのか

 

なんでや!

 

頭を抱えて叫んでいた

 

~~~~~~

 

フルプレートさん改め、リーテンさんは鎧を着たまま古びた椅子のうちの一つに腰かけ、シヴァタさんは隣に、キリトさんとアスナはその反対側に座り、私とておさんは古びたテーブルの短い辺の所に椅子を持ってきてそこに座った

 

キリトさんは古びたテーブルに身を乗り出すとリーテンさんに質問を投げかけた

 

「えーっと…リーテンさんはいつからALSに…?」

「12月22日です」

 

リーテンさんは微動だにせず即座に答えた

 

「っていう事は4層開放の翌日か… ALSには志願で…?」

「いえ スカウトされたんです これのせいで」

 

リーテンさんは再び即座に答えると自分の着ている鎧を見下ろした

 

確かにリーテンさんが装備しているフルプレートアーマーは店で売っているのを見たことがない

 

もしかしたらモンスタードロップかも知れないが私はモンスターのドロップ品をすべて知っているわけではないのでそこはキリトさんかひま猫さんに聞く他ないが…その必要は無くなった というのもリーテンさんが話してくれたからである

 

「この鎧はプレイヤーメイドです…と言っても勿論自分で作ったわけじゃないですけれども」

「ま…まじですか… ということは鉄鉱石を何千個も掘ったわけですよね? いったい何日かかったんですか…?」

 

キリトさんは驚いたのかリーテンさんに対して敬語で尋ねるとリーテンさんははにかんだような顔で軽く首を振った

 

「キリトさんが私に対して敬語使う必要はないですよ 攻略集団の大先輩ですから」

「は…はぁ…」

 

それに対してシヴァタさんは何かの感情が漏れ出しているような表情で頷いていた

 

「それでいいだろ 俺とあんたはため口同士なんだからリッちゃ…リーテンに対してですます口調で話されても妙な感じになるだけだ」

「じゃ…じゃぁそうさせてもらうけれど…」

 

シヴァタさんはリーテンさんのことをあだ名で呼ぼうとしていたが寸前?で名前呼びに変えて続けた

 

まぁリーテンさんとシヴァタさんがお互いをあだ名で呼んでいることに関しては話に関係ないので割愛するとして

 

「で…さっきの話に戻すけど…」

 

キリトさんが先ほどの話に話題を戻すとリーテンさんは一瞬唇を引き結ぶと重々しい口調で話し始めた

 

「あの これはシバにしか言ってないことなのでここだけの話にしてもらいたいんですけれども…」

「勿論よ 最初からそういう約束だもの」

「右に同じくです」

 

アスナと私が即座に答えるとキリトさんとておさんも同意するように頷いた

 

リーテンさんが頷き返すと説明を再開した

 

「…私が<はじまりの街>を出たのは1ヵ月ぐらい前の事です 勿論VRMMOは初めてでしたけれどそれまでにネットゲームは色々とやってきたのでただクリアを待つだけじゃなくて自分も攻略集団に加わりたいと思ってたんです シバやアスナさん、タコミカさん達に比べたら随分と遅いスタートですけれど正式サービス開始直後に重金属装備スキルを取ってしまったので防具を揃えるのが大変で…」

「ということは最初からタンク志望だったの?」

 

アスナの質問に対してリーテンさんは迷うことなく答えた

 

「はい これまでのゲームでも大体タンク役をやっていたので…<はじまりの街>周辺でイノシシとかを狩って何とか店売りの〖カッパー・メイル〗を手に入れて、これでやっと上を目指せると思ったんですけれど 今度は私を入れてくれるパーティがなかなか見つからなくて こういう状況だから仕方ないと言ってしまえばそれまでなんですけれど、女のタンクなんて信用できないって何度も言われまして」

「性別なんて戦闘には何の関係もないのにね」

 

憤慨したようにアスナが言い、それに同意するようにして私が頷くとリーテンさんはまぶしそうに目を細めた

 

「私もそう言い返せれば良かったんですけれど…こうなったらタンクソロで最前線まで行ってやるって意地になっちゃって防具作成用の鉱石を掘りながらレベリングを…」

「確かにタンクはSTRが高いからストレージ容量にも余裕はあるんだろうけれど それでもよく千個以上も掘ったなぁ…」

 

キリトさんは大いに感心しながらコメントを挟んだがなぜかリーテンさんは視線を伏せてしまった

 

しかし隣のシヴァタさんが「言いたくなければ言わなくてもいいぞ」と囁きかけるとリーテンさんは頭を左右に振って話を続けた

 

「確かにこの鎧を作るのに使った鉄鉱石は私一人で集めました 先ほどキリトさんの言った通り千五百個以上掘ったと思います …人に自慢できる話じゃ全然ありませんけれどもね」

「それってどういう意味なの?」

 

アスナの優しい声に促されたリーテンさんは一拍置いてから話し始めた




今回はここでキリがいいのでここまでにしておきます

それではまた次回に


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11話:鉱山跡の村での話し合い

タイトル…思いつかぬ…(´・ω・`)

それではどうぞ~


「…二層の<マロメ>の近くでレベリングをしている時でした 小さな谷の奥で岩肌に鉄の鉱脈を見つけたのでメイスをツルハシに持ち替えていつものように掘り始めたんです 普通の鉱脈だったら鉱石を7~8個ぐらい掘ったらその鉱脈は枯れてたんですけど、そこは掘っても掘っても枯れなくて… 最初は当たりの鉱脈かなって思って喜んでいたんです でも次第に怖くなってきて…百個を超えたあたりでようやく気付きました これっていわゆる…」

「無限湧きバグ…?」

 

キリトさんリーテンさんの話を聞いていてどういうことなのかを理解したのか呆然と呟いた

 

それにアスナは首を傾げていたのでキリトさんは補足するように説明する

 

「モンスターやアイテムが正常な数を超えて出現し続けるプログラムの異常のことだよ SAOでバグが起こったっていう話は聞かなかったけど起こる時は起こるものなんだな…」

「へぇ~… つまり同じところで鉄鉱石を掘り放題っていう事よね? そんな宝くじの1等が当たったみたいなこともあるのね」

 

無邪気なアスナのコメントに私達は思わず苦笑いをして 代表してておさんがアスナに対してキリトさんの解説に付け加えた

 

「そう単純な問題でもないんだ バグを利用するのはいわゆるグリッジと言われてて 1人用のゲームならその人個人がどう思うかの問題だけなんだけどMMOみたいに複数人でやるようなゲームでは運営にバレるとデータを巻き戻されたり最悪アカウントが停止なんていう事もありうる」

「じゃぁリーテンさんは鉱石を諦めた…っていう訳じゃないのよね? 鎧がそこにあるんだから」

 

アスナの言葉にリーテンさんは首を縦に振って肯定した

 

「はい… 迷いながらも私はツルハシを止められませんでした 鉄鉱石が無限に取れるならアイアンどころかスチール装備を全身分作れる… その考えで頭がいっぱいになっちゃって…」

「無理ないよ 俺もそんなところを見つけちゃったら同じような考えになるよ」

 

キリトさんがそう言うとシヴァタさんも「勿論俺も掘るぞ」という謎の対抗を見せてきたのでアスナは呆れたがキリトさんは気にせずそのまま続けて質問した

 

「えっと… 一応確認だけどその無限湧きポイントはそのまま?」

「いえ…」

 

リーテンさんは首を横に振って否定した

 

「大体30分ぐらい掘り続けてたんですけれど突然岩肌のテクスチャが崩れたみたいになって… すぐに戻ったんですが その後はもう掘っても鉱石は出なくなりました」

「運営がバグに気づいて修正したのか? いやでも運営といってもな…」

 

キリトさんが首を捻って考えているとシヴァタさんは肩をすくめた

 

「バグが治ったんだったらそういう事じゃないのか?」

「といっても今、SAOはアーガスのスタッフですら手出しできない状態だからな… もしバグを修正できるとしたら管理者権限を持ってる茅場晶彦ただ1人だけで…」

「じゃぁ茅場が修正したんだろ」

 

シヴァタさんの言葉にキリトさんは「そうなのかもな」と頷くと逸れていた話を本筋に戻した

 

「つまりリーテンさんのフルプレートアーマーはその時の鉄鉱石で作ったわけか…でもよく千個以上も1人で運べたなぁ… 鉱石の腐るまでの時間は長めだったはずだけどそれにしても大変だったんじゃないか?」

 

キリトさんは鉱石を運ぶまでにかかった苦労を想像しながらリーテンさんに聞いていたがリーテンさんは再びかぶりを振った

 

「いえ… それですけど私1人で運んだわけじゃないです もし仮に運べても宿の保管箱には入りきらない量ですし…」

「あぁ…いわれてみれば確かにそうだな…」

 

宿屋には備え付けのストレージがありそこは滞在中なら自由に利用できるが流石に鉄鉱石千個は入りきらない大きさである

 

重たい鉱石系の素材の保管方法はだれもが悩むと個人的には思う

 

「それなら持ち運びできる溶鉱炉を採掘現場まで持っていって そこで片っ端から溶かしちゃうのは? インゴットにすれば結構持てるよね それが無理でも直接鍛冶屋NPCに持ち込んで順番に溶かしていけば…」

 

アスナが思いついた2つのアイデアをキリトさんは理由を述べつつダメ出しした

 

「残念だけど持ち運び可能なポータブル・フォージは武器防具の製作と強化ができるだけで鉱石の精錬は固定型の大型炉じゃないとできないんだ 鍛冶屋に持ち込むのはありだけど他のプレイヤーに見られると面倒なことになりそうだな 生産職でもないプレイヤーが繰り返し大量の鉱石を鍛冶屋に持ち込んでいるのを見たら街の外に鉱石を山積みにしてることを知らせるようなものだからなぁ…」

「私もそれが怖くて…丁度2層で鍛冶屋の強化詐欺事件があったという噂が流れていた頃でしたから、やばい人たちに後をつけられてたらどうしようって…」

 

リーテンさんが話した内容はシヴァタさんにとっても初めて聞く内容だったらしかったが彼女を案ずるような顔で語りかけた

 

「リッちゃん その事件は裏にいろんな事情があって詳しいことは言えないんだけど 強化詐欺をやってた連中も本当の悪人ってわけじゃなかったんだ それに全員が被害者に謝って弁償もしたからもうもう悪い奴らはいなくなったんだよ」

「そうだったんだ ありがとうシバ…教えてくれて」

 

お~ お熱いことお熱いこと

 

そんな2人の様子を私はしばらく温かい目で見ていたがキリトさんが話を本筋へと戻した

 

「…なら 結局鉱石はどうやって…?」

 

リーテンさんは正面を向くと説明を再開した

 

「はい…ええっと…実際の運搬手段もですけれども私には鉱石を使ってもいいのかという迷いもあったんです タンクとしては喉から手が出るほど欲しいですけど明らかにバグだというのは分かってたのとグリッジで手に入れた装備を使っていいのか、運営にばれてBANされたらどうしようっていう恐怖で動けなくなっちゃって… それで1層で知り合って、装備のメンテをしてもらった友人に思い切って相談してみたんです」

「メンテを? じゃぁその友人は鍛冶屋なのか?」

 

キリトさんが質問するとリーテンさんはこくりと頷いた

 

「ええ まぁ鍛冶屋と言っても武器と防具の作成スキルを少しずつ修行しているだけでお店は開いていないんですが…その子も女の子なんで仲良くなってメンテとかちょっとした作成とかを頼むようになったんです」

「へぇ… 女の子の鍛冶屋か…」

 

女の子の鍛冶屋…? 確かどこかで… もしかしてリズかな…?

 

もしかしたら違うかもだけどリズのことを思い出しているとリーテンさんは続けた

 

「フレンド・メッセージで鉄鉱石のことを相談したら直ぐに返事がきて… SAO以前のネットゲームの経験はそこまでないって言ってたんですがその時はもう一刀両断っていう感じで」

 

そこまで言うとリーテンさんは淡い笑みを浮かべた

 

「迷ってる場合じゃないでしょ この世界で一番大切なのは生き延びること、次にこのゲームをクリアすることなんだからバグでもなんでも利用して強くなんなさいよ、って それに もしBANされるとしてもそれはここから出られるってことなんだから怖がることなんて何もないでしょ、って…私全くその通りだと思って 鉱石を運ぶのもその子に手伝ってもらって 幸い他の人には気付かれずに<マロメ>の村の鍛冶屋で全部〖スチール・インゴット〗にできたんです」

 

やっぱりリズの事だった

 

私の疑念が1つ解消されたところでアスナがリーテンさんに対して問いかけていた

 

「じゃぁそのフルプレートアーマーはNPCじゃなくてそのお友達の鍛冶屋さんが作ったの?」

 

それに対してリーテンさんは誇らしそうに頷いた

 

「そうです! 熟練度がギリギリで彼女はNPCに頼んだほうが良いって言ってたんですけれど私はどうしてもって頼み込んで…何度も失敗してはインゴットに戻してまた叩いてを繰り返して、一晩かけて体と脚、籠手と靴、兜の五箇所をしっかりと作ってくれたんです」

「へぇ… いい友達でいい鍛冶屋だな…」

 

キリトさんがリズについて褒めるとリーテンさんは明瞭な笑みを浮かべた

 

 

そこからはリズの作ってくれたスチールアーマー装備に身を固め、第3層のトレント相手に狩りをしていたところをALSにスカウトされてどうしようかと迷っていたリーテンさんは今度もリズの勧めでギルドに加わって、第4層攻略中にシヴァタさんと出会ってからはなんやかんやあって今の関係になったとのこと

 

そして人目を忍んで密会を重ねるうちにギルド同士の融和を考えるようになって手始めに今回のカウントダウン・パーティを企画したという

 

意外にもDKB側はリンドさんが乗り気でパーティも楽しみにしているらしいが問題はALS側だ

 

私達はキリトさんが取り出したライム水をほぼ同時に飲むと本題へと入った

 

「えぇ…っと まずリーテンさんはALS側に起こっている問題についてシヴァタにどこまで話しているんだ?」

 

キリトさんの質問に先に反応したのはシヴァタさんだった

 

「それだよリッちゃん 昨日ちょっと問題が起こったけど何とかするってメッセ送ってきてからそれっきりだろ? 俺どうなったのか心配で…」

「ごめんね シバ…」

 

リーテンさんはシヴァタさんに謝罪したがその顔には板挟みの苦悩が滲んでいる

 

ALSのフロアボス抜け駆け作戦はギルド全体に口止めがされているのだろうと思う

 

リーテンさんはギルドメンバーとしてそれを守らなければいけない一方でパーティの実行者もやっているのでその心情はある程度察することが出来てしまう…

 

「何か問題が起こったなら何で相談してくれないんだ リッちゃん 確かに俺はDKBのメンバーだけどそれ以前に同じSAOのプレイヤーじゃないか それに気づかせてくれたのは他でもないリッちゃんなのに…」

 

シヴァタさんがリーテンさんの肩に手を置いて説得を試みるがリーテンさんは俯いたままだった

 

キリトさんは一瞬私達にアイコンタクトを取ると軽く咳払いをして口を開いた

 

「リーテンさんが詳しいことを答えられないんだったら俺が説明するよ シヴァタ、どうか落ち着いて聞いてほしい…今夜ALSの主力はカウントダウン・パーティをすっぽかして 単独でフロアボスを討伐しようとしているんだ」

 

キリトさんの言葉に驚いた様子を見せたのはシヴァタさんだけではなくリーテンさんもだった

 

危うく椅子から落ちそうになっていたが鎧をガシャリと鳴らして何とか踏みとどまっていた

 

そしてリーテンさんは目を大きく見開いてキリトさんに聞いていた

 

「キ…キリトさんがどうしてそれを…!?」

「悪い…情報元はまだ明かせない でもALSから情報が漏れたわけでも情報屋から情報を買ったわけでもないから安心してほしい」

「そう…ですか… いえ、いいんです キリトさんほどの人であれば情報収集能力もトップレベルでしょうから…」

「それは買いかぶりすぎだよ」

 

キリトさんは私達と顔を見合わせながら苦笑いをすると続けた

 

「俺は攻略集団のはぐれものだしいつも好き勝手にやらせてもらってるからALSやDKBにどうこう言えるような立場じゃないってことは解ってる でも…俺やアスナ、テオやタコミカもこれ以上2大ギルドに反目してほしくないって本気で思ってるんだ 適度なライバル関係なら攻略の原動力になるからいいんだけど…今回の抜け駆けは明らかにやりすぎだ 成功したらDKBとの確執は修復不能なものになるし、万が一失敗したら最悪ALSが壊滅する恐れすらある 何せ区切りの5層ボスにギルド単独で挑もうとしてるんだからな…」

 

キリトさんが口を閉じると考えるように頭を抱えてたシヴァタさんが呻くように言った

 

「だがどうしてそんなことに…? 確かにキバオウはガサツな男だがこんな無謀な作戦を立てるほど馬鹿じゃないはずだ 単独でフロアボスに挑むことがどれだけ危険かあいつも分かっているだろうに…」

 

シヴァタさんの言う通りキバオウさんはこんな作戦を立てるとは考えにくい

 

キバオウさんがこの作戦を立てた意味を知ろうと私達は全員リーテンさんの方を向いていた

 

しばらくリーテンさんは唇を噛んでいたが意を決したように頷くと話し始めた

 

「…キリトさん達がそこまでご存じなら私の知ってることをお話しします」

 

リーテンさんはライム水を飲むと背筋を伸ばし、ゆっくりと話し始めた

 




タコミカはカップルはそっと見守る主義です

それではまた次回に


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12話:話し合いの結果

今回の話をやるためだけにタコミカに第5層フロアボス戦に参加したという設定を入れました

それではどうぞ

追記:UA7000突破しました! 本当にありがとうございます!


「ALSはメンバーの平等性を重要視しているので会議は原則全員参加なんですけど問題のボス攻略作戦が決まった会議は十数人の古参メンバーしか呼ばれなくて…まだまだ下っ端の私は勿論その場にはいませんでした なのでこれは私のグループリーダーに聞いた話ですけれども…」

 

そこでリーテンさんは一呼吸置いた

 

「その会議が行われたのは3日前の28日の夜の事です 古参メンバーの誰かが元βテスターから重要な情報を持ってきたらしいんです それがかなりセンシティブな話でキバオウさんも仕方なく古参メンバーのみの会議で話し合ったんです」

 

元βテスターを毛嫌いしているキバオウさんがそんな情報を鵜呑みにするのかな…?

 

私がそう思っている間もリーテンさんは続ける

 

「それでその情報というのが第5層のボスがものすごく重要な…それをALSが手に入れるかDKBが手に入れるかで今後の攻略の流れが大幅に変わってしまうほどのレアアイテムがドロップするという話でした うちの班長や何人かの幹部メンバーはそれほど重要なアイテムならボス戦前にDKBに共同管理を申し出るべきだと主張したんです パーティの席上でならDKBも話を聞いてくれるだろうって」

 

私はβ時代の記憶を辿り、そんなレアアイテムがあったかな…と考え始めた

 

「でも問題のレアアイテムは原理上共同管理が不可能らしくてそれならいっそのことパーティ開催中に単独でボスを倒してそのレアアイテムを確実にゲットしようって意見が出て…そうしないとALSがDKBに吸収されるかもって話になって…最終的にキバオウさんもボス攻略作戦を承認せざるを得なかったみたいです …これが私の知っていることの全てです」

 

リーテンさんが話し終えるとシヴァタさんはリーテンさんの方に体ごと向くと掠れた声で問い質した

 

「ごめん シバ 私もボス攻略のことを知らされたのは今朝になってからで詳しいことを教えてくださいと班長に頼んだんだけどこれ以上は言えないって… 班長は私たちが企画しているパーティのことは応援してくれてたんだけど すまないって頭まで下げられたら新入りの私には何も言えなくて でもそれでも何とかしたくて班の人達とも話し合って、こうなったらキバオウさんに直談判しようって言ってたところにシバからメッセが届いたの」

「…そうだったのか…」

 

深く息を吐いたシヴァタさんは改まったように顔を上げるとキリトさんに真剣な表情でごぐりと喉を動かすと掠れた声を押し出すように聞いた

 

「なぁ元βテスターのあんたなら知ってるだろ? 5層ボスがドロップするっていう重要なアイテムっていったい何なんだ?」

「いや…えぇ…?」

 

キリトさんは腕を組んで首を傾げると考え始めた

 

「5層のボスから超レアアイテム…? ボス戦には参加したけど確かラストアタックは両手剣だったような… そりゃぁボスドロップだし性能は高かったはずだったけれど…でもギルド間のバランスを崩すようなスペックじゃなかった気がするし…それに武器だったら共同管理もできるはず…」

 

そしてキリトさんは首の角度を元に戻して瞳を閉じるとじっくりと考え始めた

 

あのボス戦には私も参加した 5層のボスは遺跡と同じ素材でできたゴーレムだったはず

 

ゴーレムなので勿論防御力が高くそれに加えて区切りのボスなので確か元βテスターの1割ぐらいが参加したっけ?

 

結局は1割近い人数のごり押しによって倒せて何個かのアイテムが幸運な人たちにドロップした

 

確かその中にボスドロップなのにやたら性能が低いポールアームがドロップした人がいたような…

 

周りの人は笑ってたけどその人は怒りながら投げ捨てて私がそれを記念として拾った

 

その数日後にふと気になって性能を調べてみたら一時的に大騒動となったあれは確か…

 

「フラッグ…」

 

私の呟きが聞こえたのか全員が私の方を向いた

 

「フラッグ? 旗がどうかしたの? タコミカ」

 

アスナの言葉を聞いたとたんキリトさんが私の呟いた言葉の意味を理解したのかキリトさんが大声を上げて椅子を勢い良く倒しながら立ち上がった

 

「あ…あぁっ! 確かにあれはヤバイ!」

「おいどうしたんだよキリト!? いきなり立ち上がったりして… それにタコミカの言ったフラッグって何かのフラグっていう事か!?」

 

同じように立ち上がったシヴァタさんもキリトさんに向かって叫んでいた

 

それにキリトさんは小刻みに首を振り私の呟きに捕捉するように説明する

 

「いや…フラグじゃなくてそのまんま旗の事だ」

「? 旗がどうしてレアアイテムなんだ?」

「ただの旗じゃない ギルドフラッグだ そいつを立てると半径15だか20メートル以内にいるギルドメンバーの全員に全ステータス上昇のバフがかかるんだ」

 

キリトさんの説明を聞いたシヴァタさんは目を見開いていた

 

「な…なんだと…?」

 

 

~~~~~~

 

 

「それにしても驚いたよ まさかタコミカが例のラッキーガールだったなんて」

「笑い事じゃないですよ… あの後あのプレイヤーからその旗を返せって言われたり必要に後をつけられたりしましたし挙句の果てにはデュエルを申し込まれたこともあるんですから…」

 

一旦シヴァタさん達と別れた私達はアルゴさんを呼び出し、集合場所である<マナナレナ>の村にある穴場の喫茶店でジャンボロールケーキを食べながらアルゴさんを待っていた

 

私とキリトさんがβ時代のことで話し合っていると隣に座っているアスナが真剣な表情で呟いた

 

「…結局あの2人付き合ってるのかしら」

「え?」

 

突然聞かれたので驚いたのかキリトさんは思わず聞き返していたがアスナは表情を崩さずにもう一度キリトさんに聞いた

 

「だから シヴァタさんとリーテンさんよ 馴れ初めとかその後の経緯とか…肝心なところをはぐらかされちゃったから」

「あぁ 確かに…」

 

アスナはそう言った話題に興味があるのかキリトさんに聞くとキリトさんはロールケーキを一口大に切りながら答えた

 

「でもあの真面目そうな陸上部員がリッちゃんって呼ぶぐらいだし付き合ってるんじゃないか?」

「シヴァタさんって陸上部員なんですか?」

「いや? 俺の勝手な想像」

「ちょっと! 少し信じちゃったじゃないの!」

 

私が質問するとキリトさんは適当に言ったと答えた…

 

それにアスナは少し怒っていたがロールケーキを頬張ると元に戻った

 

そしてキリトさんはアスナの質問で気になる部分があったのか聞いていた

 

「…でも この世界で付き合ってるって具体的にはどういう状況なんだ?」

「どういうって…あっちと一緒でしょ」

「けどさ…あっち側と同じようなことはできないと思うんだけどな…」

「え? あっ…そっか…例の防止コード…」

 

アスナは少し周囲を見回すと声を潜めながら言った

 

アスナが声を潜める理由は何となくわかる いつどこでだれが聞いてるか分からないからね…

 

「…確かにその…相手に触ったりとかはできないかもしれないけど…それが無くてもお付き合いはできるでしょ」

「あっはい そうっすね でも例の防止コードはいまいち発動条件が分からないんだよな… 俺の時もこっちに警告とかショックとかなしでいきなりアスナに強制転移ウィンドウが出てたし…一度しっかり検証したほうが良いんじゃないかな…」

「ならあの時イエスを押してたら貴重なデータが取れてたのにね」

「やめてください ホント…」

 

キリトさんがふるふると首を横に振るとアスナは軽くもう一睨みしてから考え始めた

 

「でもそういえば この間は転移ウィンドウすら出なかったわね」

「この間って?」

「ほら地下ダンジョンであいつらが逃げて行った後の…」

 

あ~ あれね~…

 

私が温かい視線を向けているとロールケーキを切っていたキリトさんが顔を上げたが目が合う直前にアスナは顔を少し赤くしてそっぽを向いてしまった

 

「あぁ…ナルホド…」

 

でも確かあの時は第4層の時より密着してなかったっけ?

 

「うーん… 肩はアウトで頭はセーフ…なのかな?」

「でも触られる方が嫌だと感じれば頭も肩も同じよ 大体キリト君あの時、左手で私の肩触ってたし」

「あっ…そ…そうでしたか… うーん…謎だなぁ… 4層の時はアスナが寝てたからそれのせいなのかな…」

「それはないでしょ 寝てるプレイヤーにウィンドウを出しても操作できないんだから意味ないじゃない」

「ごもっとも… あ そうだ 今度シヴァタに訊いてみるとか」

「訊くって何を?」

 

キョトンとしているアスナにキリトさんは自信満々そうに答えた

 

「ほら あの陸上部員がリーテンに物理的接触を試みれば必然的に防止コードの発動条件が分かるだろ?」

 

この人はホント…

 

アスナは持っていたフォークでソードスキルを発動させていてておさんはキリトさんの頭を勢い良く叩いた いい音が鳴った

 

「絶対だめだからね! そんなデリカシーのない質問! 陸上部員どうこうはともかくリーテンさんに対して失礼でしょ!」

「それは失礼極まりないぞ 特に女性に対しては」

「わ…悪かった… それとアスナさん… もう言いませんからそれ引っ込めて…」

 

アスナがフォークを引っ込めるとキリトさんは息を吐いて背中を椅子の背もたれに預けた

 

「んん~ 後は相手によって発動条件が変化するとしか思えないんだけどなあ…」

「どういうこと?」

「つまりそれまで全くコンタクトがない…つまり初対面のプレイヤー同士の場合が最もコードが発動しやすくて、関係が深まるにつれて発動条件が引き上げられていく…っていう説さ その場合もプレイヤー同士の精神的距離感をどうやってパラメータ化するのかは見当もつかないけどな…」

 

ふと私は隣に視線を向けると顔全体が真っ赤になりかけていた

 

それを見たキリトさんは席を立とうとしたがそこでドアベルが陽気な音を響かせてお店の扉が開いた

 

そっちの方を見てみると入ってきたのは私達がよく知る人であった

 

「おいっす」

 

3本髭を頬にペイントしている情報屋はやや疲れたような挨拶をするとアスナとキリトさんの近くに椅子を持ってきてそこに座った




タコミカのβ時代の二つ名であるラッキーガールは結構有名になってます

それではまた次回に


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13話:鼠への報告

今年の11月6日楽しみですね~

それではどうぞ


アルゴさんはNPCのマスターに3倍厚切りロールケーキを注文するとはふーと息を長く吐き出した

 

「オレっちを無理やり呼び出したんだからボスクエより大事な話なんだろーナ? キー坊」

「勿論だよ」

 

アルゴさんは不服そうにキリトさんに問いかけるとキリトさんは自信満々そうに答えた

 

「ALSが抜け駆け作戦を計画した理由が大体分かったよ」

 

するとアルゴさんの顔に生気が戻ってきた

 

「それはホントカ? オイラの情報網にも引っかかってないっていうのに中々やるじゃないカ」

「それがちょっと意外なんだよな…」

「何がダ?」

「アルゴなら知ってそうなんだけど…ほらβ時代に5層ボスからヤバイアイテムがドロップしたっていう話に心当たりないか?」

「ヤバイアイテム…?」

 

そう呟いてしばらくアルゴさんは考え込んでいたがやがて降参と言わんばかりに両手を軽く持ち上げた

 

「悔しいけど思い出せないヨ でもちょっと言い訳をするとオレっちβの時は情報屋なんてやってなかったからナ ついでにフロントランナーでもなかったカラ 5層ボスにも参加してないシ…」

「ありゃ そうなのか じゃぁもったいぶらずに言うけど…ALSが狙ってるのは『ギルドフラッグ』だ」

「『ギルドフラッグ』? 旗カ? 何でそんなものヲ?」

「確かに武器としては攻撃力は最低のロングスピアだ でもこうやって…」

 

キリトさんはそう言いながら持っていたフォークをテーブルに立てた

 

「装備したプレイヤーが地面に突き立ててるとその周囲…確か半径15メートルぐらいだったと思うけどその範囲内のギルドプレイヤー全員にATF、DEF、耐デバフ上昇のバフがかかるんだ」

 

改めて聞くとヤバイ効果だな… そりゃぁ喉から手が出るほど欲しいわけだ…

 

「なん…ダト…?」

 

シヴァタさんと同じような反応をしたアルゴさんはキリトさんが立てているフォークを指さしながら立て続けにキリトさんに質問をした

 

「そ…その旗竿を持っているプレイヤーは移動可能なのカ? バフの効果時間ハ? 人数に上限は無いのカ?」

 

アルゴさんの質問ラッシュにキリトさんは1つずつ答えていった

 

「まず最初の質問の答えだけど半分イエスだ こうやって旗を地面から離せばバフは消えるけど移動してまた立てればすぐにバフがかかる」

「フム…」

「2つ目の質問の答えは旗を立てている限りずっと」

「フムム…」

「3つ目の質問の答えは範囲内でさえあれば多分上限はない」

「フムムム…」

 

腕組みして唸るアルゴさんの元に私達のロールケーキより3倍ぐらい分厚く切られたロールケーキが運ばれてきた 私もこっちにしたらよかったな…

 

それをアルゴさんは4分の1ほど切り取って一口で頬張った

 

「…成程、確かにそれは激ヤバだナ キー坊よ」

「だよな… 確かにこれは彼らの気持ちもわかるよ」

「彼ら?」

 

アルゴさんが聞き返すとキリトさんは私の方を見ながら話し始めた

 

「β時代タコミカが他のプレイヤーが投げ捨てたその『ギルドフラッグ』を偶然拾ったんだ 当時はだれも見向きもしなかったんだけど数日後にその真価が分かったら手のひら返しでタコミカに対して主にギルドに所属してるやつらが是非売ってくれってせがんでいたんだよ …中には無理やり奪おうとデュエルを仕掛けたやつもいたけど…」

 

キリトさんの言ってることは本当のことでフラッグを手に入れてからは1日に何人もトレードを申し込まれたり、中にはデュエルを仕掛けられたりもしたな…勿論返り討ちにしたけど そこからは基本ソロだったな~

 

私が当時のことを思い出しているとアルゴさんが声をかけてきた

 

「そうだったのカ… 確かにスペックは魅力的だけどそれで奪い取ろうという考えに至るのは間違ってるナ」

「まぁ デュエルを仕掛けた人に関しては返り討ちにしましたけどね」

「あハハ…」

 

アルゴさんの言葉に少し暗い雰囲気になったが私が場を和ませるように黒い笑みを浮かべるとアルゴさんは苦笑いしていた

 

「話題を戻すケド フラッグのスペック面もそうだけどプレイヤーへのメンタル面への影響がやばそうだナ… もし仮にALSがフラッグを手に入れて、それを実際に使った場合 ALSのメンバーは士気が上がってDKBのメンバーは逆に下がるゾ 逆もまた然り…今のギルド間のバランスを崩すには十分すぎる代物ダナ」

「その情報を知ったキバオウが真っ先にフラッグを手に入れるためにボス討伐作戦に踏み切ったとしても可笑しくないよな…」

「確かに…DKBに対して平均レベルで劣ってるALSが『ギルドフラッグ』を手に入れたら人数の差でALSが最強になるのはまず間違いないし…」

 

キリトさんの呟きにておさんは同意するように話すとコーヒーを飲んで一息ついた

 

「…なんかずいぶんと静かだけどどーしたんダ? アーちゃん」

「…え? …あっ! いえ、何でも!」

 

ふとアルゴさんは今まで静かだったアスナに声をかけるとアスナは意識が戻ったかのように慌ててケーキを食べ始めた

 

その様子を見ていたアルゴさんは何回か瞬きをした後、少し落ち込んだような様子で続けた

 

「しっかし あのイガ頭一体どこからそんな情報を仕入れてきたのかネェ… オイラの知らない情報を先に摑まれたのは結構ショックだヨ…」

「そりゃぁタコミカの話は結構有名だったし、元βテスターは俺ら以外にもいるだろうから…」

 

キリトさんの仮説にアルゴさんはニッと笑うと素直に頷いた

 

「まっ それもそーだナ 今は情報の出所よりこれからどうするべきかダ こんなガチヤバなアイテムがドロップするならALSを直接説得っていうのは無理かもナ」

「あの…少し考えたんだけど…」

 

ケーキを食べ終えたアスナがセットの紅茶を飲んでから発言する

 

「いっその事『ギルドフラッグ』の情報をDKBにも共有してしまうのはどうなの? ALSが無茶な作戦を実行しようとしているのはフラッグがどうしても欲しいっていうよりDKBに取られるのが怖いからでしょ? だからリンドさんに公平な分配方法を提案してもらえば…」

「…うん…悪くないアイデア…だと思う…」

 

アスナの提案にキリトさんは頷いた

 

「なんだかんだ言ってもリンドは話せばわかるやつだしALSとの話し合い自体には持っていくことはできるかもしれない ただフラッグを共同管理したりましてや分割するなんて不可能なんだよな… 一旦旗にギルド名を登録してしまえばそれを変更できるとは思えないし、もちろん旗と旗竿に分けて持ち合うなんてことも無理だから 結局じゃんけんかサイコロ…もしくは5対5の団体デュエルで勝った方が獲得する…みたいな落としどころしかない気がする…」

「…その提案をキバオウさんが受け入れる…とは思えないわね…」

 

アスナのつぶやきに対して私達は首を縦に振った

 

リソースを平等に分配すべきというALS、もといキバオウさんの信念も間違っていないし 深い知識と高い戦闘力を持つDKB、もといリンドさんの信念も間違っていない だからこそこの問題がここまでややこしくなっていると私は考えている

 

いっその事ディアベルさんが最前線に戻ってきてくれればすべて解決するかもしれないけど一人の人間にすべてを押し付けるのは間違っているし…

 

私が色々な考えを交錯させているとキリトさんが私達の顔を見ると言った

 

「…ボスを倒そう」

 

その唐突な宣言に私達はしばらく何も言おうとしなかったがアルゴさんは空中にホバリングさせていたフォークをロールケーキの残りに突き刺すと一口で頬張った

 

頬袋を膨らませてながら食べている様子が頬のひげのペイントも相まってげっ歯類みたく見えてきた…

 

口の中のケーキがなくなってからアルゴさんは問い返した

 

「それはこの5人でっていう事カ?」

「いやいやまさか」

「β時代100人近くで挑んでようやく倒せたぐらいだからそりゃぁな…」

 

キリトさんがそれを否定するとておさんがそれに補足するように呆れたような声でキリトさんの言ったことに同意し、ちょっと前に同じような提案をしたアスナがそのことを覚えているのか怪訝な顔をキリトさんに向けた

 

「じゃぁ誰に頼むの?」

「えーっと…」

 

キリトさんは指で数えながらこの作戦に参加してくれそうな人たちを順に挙げていった

 

「まずエギル軍団の4人だろ? それにネズハに…あとはポテト軍団の…何人だったっけ…?」

「私達を除いたら9人ですね」

「それでも19人か…」

「ボスを討伐するんだったらせめてフルレイドぐらいは欲しいですけれどもね…」

 

私達が唸っているとキリトさんが咳払いをしてアルゴさんに訊ねた

 

「えーっと… アルゴさん、誰か心当たりは…」

「無理言うなヨ」

 

流石に今回はアルゴさんも呆れ顔で肩をすくめた

 

「そりゃぁフロントランナー入りを目指して頑張ってる連中はチェックしてるケド、有望株だからこそ今回みたいな危険なミッションには誘えないヨ 何のためにオイラが下層で攻略本を無料配布してると思ってるんダ?」

「そうだよな… せめてこの人数なら4パーティ24人ぐらいは欲しいよなぁ…」

「いやいや 4パーティでも十分厳しいわよ」

 

アスナが右手を顔の前でぱたぱたと動かして否定する

 

「4層のボスも攻略集団のフルレイドにキズメルとヨフィリス子爵がいてようやく勝てたって言ったのは他でもないキリト君じゃない 5層のボスがあの海馬より強いのなら24人いたとしてもどうにもならないんじゃないの?」

「確かに数字的なステータスだけを見たら区切りの5層ボスは一際強敵なはずなんだ…それこそ6層ボスに近いステータスを持ってると思う でもステータスだけがボスの強さじゃない もし仮にβ版からボスが変更されていなかったら24人のレイドでも十分に勝機はある …まぁそこはボスクエの情報とボス部屋の偵察次第だけど」

 

アスナにキリトさんは説明するように話すとキリトさんは自分の発言で思い出したのかアルゴさんにボスクエのことを聞いていた

 

「そうだ ボスクエの情報どんな感じだった!?」

「おいおい キー坊 オイラが情報屋っていう事忘れてないカ?」

 

アルゴさんにそう言われキリトさんがトレードウィンドウを準備するがその前にアルゴさんはニヤりと笑ってボス情報をまとめたと思しき冊子を取り出した

 

「毎度アリ…と言いたいとこだったケド さっきのフラッグの件でチャラにしとくヨ…結論から言うとボスがゴーレムなのは変わってなさそうダ 詳しいことはその冊子を見てくレ」

 

アルゴさんは冊子をキリトさんに渡した

 

成程…第5層は『大地切断』以前は王国の工業都市で… ボスのゴーレムは本当に強力な魔石を使って作られた戦闘兵器か…

 

キリトさんは冊子を見ながら呟いているとアルゴさんは紅茶を一気に飲み干した

 

「…ただ 今までのフロアボスもβ時代と姿形は同じでも何かしらの変更点があっただロ? 2層の牛ボスはボス自体が1体増えていたシ…」

「そこは偵察で確かめるしかないだろうな…あとはボス部屋からの脱出方法をしっかり確認しておけば…」

 

そこでアスナが待ったをかけた

 

「待って! さっきゴーレムボスなら24人でも何とかって言ってたけど まだ5人も足りないのよ? それにエギルさん達やネズハ、ポテトさん達も手伝ってくれるかどうかは分からないし…」

「アニキ軍団やポテト軍団に断られたらもうお手上げだよ その時はリンドに『ギルドフラッグ』の件を説明してキバオウとの話し合いで平和的な解決に至ることを祈るしかない 足りない5人については…」

 

そこでキリトさんは一呼吸置くと、提案を口にした

 

「シヴァタとリーテンに頼もう」

え…えぇ!?

 

キリトさんの提案にアスナは目を丸くして驚いていた

 

「そ…そんなの無理に決まってるじゃない! あの2人、DKBとALSのメンバーなのよ!?」

「だからこそさ 2人が同じギルド同士ならこんなギルドを裏切るような作戦に手を貸してくれるはずはないけど…違うギルド同士だからこそ可能性はあると思う」

 

キリトさんの仮説を聞いたアルゴさんは「ほほー?」と言いながらにんまりとした

 

「リーテンってのは最近ALSに入ったフルプレっ子だロ? あの子とDKBのシヴァタがねぇ…? そいつはオレっちも知らなかったナ~」

「ちょっと 駄目よアルゴさん その情報を売ったりしたら」

「ニャハハ 解ってるサ でも確かにキー坊の言う通り2人がそういう仲なら協力してくれるかもナ 愛の力はギルドの規律より強し、だからナ!」

 

アルゴさんに似合わないようなコメントに私達はちょっとだけ驚いたがキリトさんが気を取り直して続ける

 

「と…とにかく シヴァタ達がそれぞれ1人ずつ仲間を連れてくればそれで4人加わる 幸いあの2人はパーティの実行委員だからもうすぐ<カルルイン>に移動することになってる だからそのタイミングで村を出て迷宮区に直行すればボス攻略への参加を知られずに済む…んじゃないかな…」

「そこは断言しなさいよね…それであと1人はどうするの? それもリーテンさんかシヴァタさんに頼むの?」

 

あと1人をどうするのかと聞かれたキリトさんは私の方を向いた

 

「何とかなるか…?」

「えぇ… そこはしっかりと考えておきましょうよ… まぁこれはちょっとした賭けになりますけどね…運が良ければ一人ぐらいはいけるかもです」

「わ…悪い…」

「でももし仮に来なくても文句は言わないで下さいよ…?」

「そこは解ってる」

 

私が念押しするとキリトさんは真剣な表情で頷いた

 

「もう一人はタコミカ達が連れてくるってことでいいのね?」

「それで大丈夫だよ」

 

そしてアスナの確認にも頷くとキリトさんに「これだけは確認しておきたいんだけど」と先に断りを入れてからキッパリと言った

 

「もし仮にリーテンさんとシヴァタさんが手を貸してくれたとして、それがギルドにばれて除籍処分とかになっちゃった時 2人をどうフォローするつもりなの? そこをハッキリとしてもらわないと2人をこの作戦に引き入れるのには賛成できないわ」

 

アスナは揺るぎない視線でキリトさんを見るとキリトさんは覚悟を決めた様子で意見を出した

 

「…エギルのパーティは丁度4人だからあそこに頼んでみる それが駄目だったら タンクを欲しがっていたポテトにも相談してみるよ …それも駄目だったら俺たちのパーティに誘う」

 

キリトさんがそう言うとアスナは微笑みながら頷いた




他の4人はロールケーキのセットを注文しましたがテオロングはコーヒーのみを注文しました

それではまた次回に


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14話:説得と仲間集め

セリフの描写って難しい…

それではどうぞ


キリトさんは早速メッセージを送り、その十数秒後返信が来たのか私達に対して言った

 

「俺 主街区でネズハに会ってくる アスナはエギルとリーテンとシヴァタに、タコミカとテオはポテト達に連絡してくれないか」

「タコミカ達は分かるけど…何で私が?」

「俺より説得スキル高いだろ?」

「え? そうだっけ…ってそんなスキルないじゃない!」

 

アスナは不貞腐れながらもホロキーボードを叩き始めたので私もホロキーボードを叩いてポテトさんにメッセージを送った

 

その隣でアルゴさんがにやりと笑った

 

「キー坊 オイラは何をすれば良イ?」

「アルゴは消耗品の買い出しを頼む 金に糸目は付けないから高いポーションを出来るだけ買っておいてくれ」

 

キリトさんはそう言うとアルゴさんにトレードを飛ばしてお金を送金し、喫茶店を飛び出した

 

「毎度アリ」

 

そのウィンドウには少ない額が書いてあった…

 

 

キリトさんが出発してから数秒後、私の元にも返信が来た

 

どうやら幸運なことにポテトさん達は<マナナレナ>の村の近くにいるらしいので私達も喫茶店を飛び出すと坂道を時々ショートカットしつつ村の入口を目指した

 

 

~~~~~~

 

 

村の周辺のフィールドで一旦ておさんと別れて探すことにしてポテトさんを探していると、急に視界が暗くなったので咄嗟に〖フォレスト・ブレイド〗を抜刀するとこれまで聞いたことのない男性の声が聞こえてきた

 

「わわっ… 驚かせたのは悪かったから…武器をしまってよ たみちゃん」

「誰ですか…?」

 

β時代でのフラッグの話をさっきまでしていたこともあって警戒していた私はその高身長で鎧をつけた男性に対して武器を向けながら聞いた

 

その時ポテトさんとておさんがこちらに向かってきた

 

「だから悪戯はやめておいたほうが良いって忠告したんですけれどもね… じんじんさん…」

「えっ!?」

 

嘘!? ホントに?

 

~~~~~~

 

警戒が解けた私はじんじんさんに謝罪した(本人は自分が悪かったというのもあってすぐに許していたけど…)

 

「本当にすみません… じんじんさん…」

「別にいいよ~ こっちも悪かったし」

 

そんなこんなで今はフィールドの安全地帯にメンバー全員(私達を除くと10人)を集めてアルゴさんと話した内容を重要な部分以外は在る程度省きつつ説明した

 

 

~~~~~~

 

 

その反応としては元βテスターのひま猫さんとリオンさん以外は驚いていた

 

「…にしてもそんなすごいものが第5層で出るんだね…」

「でもディアベルがいない今、『ギルドフラッグ』は争いの道具にしかならないからね~…」

 

やる気君がフラッグの凄さに驚いている一方でめらさんは冷静に考えていた

 

「それで…勿論その作戦に参加するのは俺達だけじゃないんだよね?」

「勿論です 合計で24人の予定です」

「キリトの事だからそこら辺は大丈夫なんだろうけど…その人数だと心配だなぁ…」

 

キャラメレさんが私に参加人数について確認してきたので私がこの作戦の参加人数を話したが朱猫さんは心配があるみたいだった

 

「そんな簡単に信頼していいのかな…? 勿論 たみちゃんの言ってることを疑っているわけではないけど…」

 

まぁ確かにじんじんさんの言うことも理解はできる いきなり死ぬかもしれない作戦に協力してと言われても信頼して参加できるわけがない…

 

「じんじんさんの仰ることは最もです …でも今はただ信じてとしか…」

 

私が必死に言葉を探しているとておさんが口を開いた

 

「この作戦はもしかしたらSAOの未来を左右するかもしれない作戦なんだ ALSとDKBどちらか片方がフラッグを手にしたら攻略が大幅に遅れて最悪攻略が止まるということも普通にあり得る だからこの作戦に失敗は許されない…だから お願いします 俺達に力を貸して下さい」

「お願いします」

 

ておさんはそう言うと頭を下げたため私も頭を下げた

 

私達の真剣さがじんじんさんに伝わったのか深い溜息を吐くと

 

「解った解った そこまで真剣にお願いされたらやめるっていえないよ」

 

じんじんさんの言葉をきっかけとして

 

「このまま2大ギルドが共倒れしても目覚めが悪いだけだからな…」

「まぁ僕は元々参加予定だったけどね」

「2人の真剣さは伝わった 私も協力しよう」

 

意識さん、たまさん、リオンさんが声を上げた

 

 

「では皆さん! 今回の作戦成功させましょう!」

オー!

 

そしてここぞというタイミングで私が声をかけると全員の掛け声が合わさった

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

私達は急ぎ目でアスナに伝えられた<マナナレナ>の村から少しだけ離れた森の空地へと向かった(私達がいた方とは真逆)

 

私達が到着したときにはキリトさんとネズハさん以外のメンバーが集まっていた

 

集合場所にはエギルさん達とシヴァタさんとリーテンさんの他にDKB側の人が1人、ALS側の人が1人がいた

 

ALS側の人は知らないけどDKB側の人はどこかで見たような気がする…

 

 

キリトさん達をしばらく待ちながらアスナと談笑しているとキリトさんとネズハさんがこちらに向かって走ってくるのが見えた

 

キリトさんはシヴァタさん達の元へと向かいネズハさんは私達の元へとやってきた

 

「アスナさん タコミカさん お久しぶりです」

「お久しぶりです えーっと…ナーザさん」

「ネズハでいいですよ タコミカさん 仲間からもまだネズオって呼ばれてますし」

「そうですか? ならそう呼ばせてもらいますけども…」

 

私がネズハさんに挨拶を済ませると今度はアスナに挨拶しに向かった

 

「そういえば他の[レジェンド・ブレイブス]の人達は来なかったのね」

「キリトさんにも聞かれましたけど無理言って…「おい ブラッキーさんよ」」

 

ネズハさんが[レジェンド・ブレイブス]の人達が来なかった理由を話そうとした時、キリトさんのあだ名を呼んでいたのでそちらを見るとすごい剣幕でDKB側の人がキリトさんのコートの襟首を掴んでいた

 

「これだけ大勢に危ない橋を渡らせんだ 今回の件に1つでも嘘があったらぶっ飛ばすからな」

 

キリトさんはその剣幕に押されたのかコクコクと黙って頷いていたが直ぐにシヴァタさんが苦笑いしながらDKB側の人の肩を掴んで後ろに引き戻していた

 

「ハフ 今回は寧ろ俺達サイドから出た話だ キリトが提供したのは『ギルドフラッグ』の話だけでそれが嘘だとは思えない そんな嘘をついてもこいつには何のメリットもないからな」

「…まぁそりゃぁそうかもだけどよ けどならどうしてこいつがこんなヤバイ作戦を立てんだ? ALSがそのフラッグとやらを手に入れるのを防ぐ理由がこいつにあるのかよ?」

「ちょっと待った」

 

シヴァタさんとハフと呼ばれたDKBメンバーの人の会話に割り込むようにしてキリトさんは右手を挙げた

 

「言っておくけどこの作戦はALSが『ギルドフラッグ』を入手するのを阻止することが目的じゃないぞ ドロップしたフラッグはDKBにも渡すわけにもいかない どっちか一方がフラッグを入手したらもう一方のギルドは崩壊するかもしれないからな」

 

キリトさんがそう言うとその人はシヴァタさんからある程度聞かされていたのかしかめっ面で押し黙った

 

その人に今度はキリトさんの方から質問が飛んできた

 

「ハフナーさんこそいいのか? この作戦に参加して 手伝ってくれるのは凄くありがたいけど、サブリーダーのあんたがある意味じゃギルドを裏切ることになるんだぞ?」

 

サブリーダー!? 道理でどこかで見たことあるわけだ…

 

キリトさんの質問を聞いたハフナーさんは腕を組むと唸り声で答えた

 

「そりゃ俺だって不本意さ けど攻略第一だからな… このクソゲーをクリアするにはALSとDKB、両方必要なんだ リンドさんやギルドを裏切ることになっても下の層にいる何千人のプレイヤーを裏切るわけにはいかねぇ あんたらもそう思ったからここに来たんだろ?」

 

ハフナーさんはそう言うと後ろにいるリーテンさんともう一人のALS側の人に顔を向けた

 

それに応じるようにALS側の髭ダンディな30代ぐらいの男性は口許を引き結んで頷いた

 

「まぁ そういうことです ALS(うち)の抜け駆け作戦は一部の強行派が煽った結果の暴走みたいなものだ キバオウさんもそこは理解してるけどギルドが分裂するのを防ぐために作戦を承認せざるを得なかった しかし仮にフラッグを入手できてもただでさえ危ういDKBとの信頼関係が崩れてしまったら何の意味もない」

 

落ち着いた口調で言ったその人はキリトさんに歩み寄ると手を差し伸べた

 

「申し遅れました ボス戦で何回か顔は合わせてると思いますがALSでリクルート班の班長をやっているオコタンです よろしく キリトさん」

「ど…どうも…よろしく…」

 

キリトさんがオコタンさんと握手するとオコタンさんに1つ訊ねた

 

「リクルート班…ということはリーテンさんをスカウトしたのって…」

「えぇ 私です」

 

それを聞いたキリトさんは納得して頷くと一歩下がった

 

そのキリトさんに今度はハフナーさんが声をかけていた

 

「ブラッキーさんよ 俺とオコさんはきっちり動機を話したぞ あんたもどうしてこの作戦を計画したのか…動く前にまずはそこを話してくれよ」

「えぇ…?」

 

私もその答えが知りたいと思いキリトさんの近くに向かったらほぼ全員が同じことを思ったのかキリトさんの近くに来ていた

 

その様子を見たキリトさんは逃げ場がないと考えたのか咳払いをすると口を開いた

 

「それについては俺もハフナーさんやオコタンさんと…いや 多分ここに集まってくれたみんなと同じだよ 最前線で戦い続けてるALSとDKBは攻略集団の両輪だ しっかり車軸でつながってないと集団は前に進まないし、どちらか片方が欠けたらその場から動けなくなる その事態を防ぐにはALSより先にボスを倒すしかない…そう思ったから今回みんなに協力を要請したんだ」

 

今回の計画立案の本当の理由を知っている私とアスナとておさん以外の人達はキリトさんの言葉に納得してくれたようだった

 

ハフナーさんも難しい顔をしながらも納得して一歩下がった時、初めて会った時のようにアーメットのバイザーをしっかりと下ろした状態のリーテンさんがガシャッと右手を挙げて質問した

 

「あの キリトさん 前々から訊いてみたいと思っていたんですが…そんなに攻略集団のことを考えているのにどうしてギルドに入らないんですか? キリトさんほどの人ならどちらのギルドに入ってもすぐにパーティリーダーぐらいにはなれると思うんですけれど…」

 

新人が故にビーターの件を知らなそうなリーテンさんの質問に同じくビーターの件を知らなそうなたまさんとじんじんさんは「確かに…」や「言われてみれば」と呟いていた

 

その質問にキリトさんはそれらしい答えを出した

 

「それはだな リンドとキバオウが俺とアスナが別々じゃないとギルドに入れないと言ったからだ」

 

キリトさんの答えを聞いた途端周囲はざわっ…となった後

 

アスナが顔を真っ赤にして「き…急に何言いだすのよ!」と喚いて、リーテンさんは「流石です…感動しました!」と叫び、エギルさんは「はっはっはっ」とアルゴさんは「ニャッハッハッ」と大声で笑って意識さんは悪巧みをしているような笑みを浮かべていて、キャラメレさんとじんじんさんはジェラってた*1

 

キリトさんはそれを否定する機会を完全に逃した

*1
嫉妬の眼差し




ポテト組(オリキャラ勢)のレベルはこんな感じです

レベル18:めらおりん
レベル17:タコミカ、テオロング
レベル16:ひま猫、意識、朱猫
レベル15:ポテト、きるやん、きゃらめれ、たまぶくろ
レベル14:じんじん
不明:リオン

それではまた次回に


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15話:第5層フロアボスへの道中

5層編ももうそろそろ終盤に入ってくるかな…?

それではどうぞ


アルゴさんが買い集めてくれたポーション類を均等に分配したり、余っている防具を能力が向上する余地のある人に貸し出したりと準備をし終えると時刻は丁度午後3時となっていた

 

オコタンさんによればALSが迷宮区タワーを目指す時間は午後6時の予定なので今から出発しても十分にボスまで討伐できるような時間だけど急いだほうが良いことには変わりない

 

その為道案内はアルゴさんに任せて、私達は最後尾を走ることにした

 

 

キリトさんはメモパッドに何か描きながら唸っていた

 

「う~むむ…」

 

森の間を抜ける小道は舗装されていて足音が響くがそれでもアスナはキリトさんの声が聞こえたのかアスナがキリトさんに顔を寄せていた

 

「何がう~むむなの?」

「いや…」

 

キリトさんはメモパッドを可視化すると私達に見せた

 

「迷宮区に着くまでにフォーメーションを決めないといけないんだけどさ、解ってたけどDPSが多いんだよな…」

「DPSって?」

「ダメージディーラー つまりアタッカーの事だよ このリストだと俺とアスナ、タコミカ、テオ、メラ、ヒマ猫、エギル、ハフナー、キャラメレ、たま、ウルフギャング、ローバッカ、ナイジャン、リオンと半数以上がアタッカーなんだ」

 

キリトさんの言ったことに何か引っかかりを覚えたのか少し考えるとキリトさんに質問した

 

「メラさんって両手槍使ってなかったっけ? それなのにアタッカーなの?」

「確かにあいつは両手槍使ってるけどあいつ自身が両手槍使いの中では例外的な戦い方をしてるんだ だからここではアタッカーに入れてる」

 

キリトさんがそう説明するとアスナは納得したように頷いた

 

「それで続けるけど 純粋なタンクはシヴァタとリーテン、きるやんとじんじんしかいない 残ってる意識と朱猫、ポテト、オコタン、ネズハ、アルゴがCCかな…」

「CCって?」

 

アスナの質問に今度は私が答えた

 

「クラウドコントロールの略称 簡単に言えばモンスターの群れをコントロールする人かな? 他のゲームだとメイジとかに多いけど魔法がないSAOだとデバフ付きのソードスキルでモンスターの弱体化をしたり足止めする役割だね」

「確かに長物武器のソードスキルってデバフを掛けられるソードスキルが多いもんね」

 

頷いたアスナが器用に走りながら腕組みをし、先ほどのキリトさんのように「う~むむ…」という声を出す

 

「…4パーティなんだからシヴァタさんとリーテンさん、きるやん君とじんじんさんにそれぞれのパーティのタンクをお願いして 後はDPSとCCを均等に割り振るしかないんじゃないの?」

「まぁそれが妥当だよな ただボスゴーレムは両手足の直接攻撃しかないがその分威力がヤバイんだ… 通常攻撃はまだしもスキル付きの攻撃は盾一枚じゃブロックしきれない それだけは回避しなきゃいけないんだけど、シヴァタやきるやんはとにかくとして…」

「ギルドに入ったばかりのリーテンさんや今日初めてフロアボス戦に参加するじんじんさんにそんなきつい役回りを任せるのは少し不安ね…」

 

キリトさんとアスナは同時にうーむと唸り、キリトさんは腕組みをしながらリストを睨んでいた

 

正直これをいつもやってるキバオウさんやリンドさんは凄いと思う

 

 

そうこうしているうちに枯れ木の森を抜け、前方に長大な石壁が見えてきた

 

勿論石壁の内側にあるのは街ではなく超巨大な迷路で迷宮区タワーに向かうにはここを抜けていかないといけない

 

勿論迷路の内部ではモンスターも湧くので普通に迷路を抜けようとするのは至難の業だが幾つかのクエストをこなすとショートカットができるし、今回はアルゴさんがいる

 

キリトさんは腕組を解いてスピードを上げると一気にアルゴさんの元へと向かった

 

 

その後、アルゴさんは進路方向を右へと取って石壁に沿うようにして進んだので私達も先ほどと同様アルゴさんの後を追うように進んだ

 

第5層迷宮区はフロアの北東の隅にあり、それを取り囲んでいる石壁の両端は丁度フロアの外周部に面している

 

アルゴさんが目指したのは南東側の端だった

 

勿論というかなんというか道を外れたのでフィールドMOBと何回か接敵してしまい、目的地に到着したのは午後3時45分になってしまった

 

「お疲れサマ とりあえずフィールドの移動はここで終わりだヨ~」

 

アルゴさんの言葉に一同は足を止めた

 

正面には20メートルぐらいはありそうな石壁があり、西側と南側には草も生えていない灰色の荒野が広がっていてその奥には先ほど抜けてきた枯れ木の森が見えていてそれらを傾き始めた冬の日差しがモノトーンに染め上げている

 

東側にはどこまでも広がる空が一望できるがくすんだブルーグレー色の空がなんとなく不吉で目を見張るもほどのものではない

 

私は改めて石壁の方に向き直ったが入り口的なものはここにはない

 

「えーっと…これってどこから入るんだ?」

 

キリトさんが私の疑問を代弁するようにライム水を飲んでいるアルゴさんに質問した

 

するとアルゴさんはグイっと口許を拭うと不敵な笑みを浮かべ、マントの内側から何やら光るものを取り出した よく見てみるとそれは15センチほどの大きさの巨大な鍵だった

 

「それ…ボスクエでゲットしたのか?」

「そーいうコト」

 

アルゴさんは鍵に結ばれている革紐を指でクルクルと回しながら石壁に歩み寄ると風化したブロックに顔を近づけて何かを探し始め、ある隙間に鍵を突っ込んでガチャリと回した

 

すると秘密の通路が現れ…っていうのは私の妄想で実際は石壁が震え、幾つかのブロックが奥に少し引っ込んで…それで終わりだった

 

「なぁ アルゴ…隠し扉は…?」

「ないヨ そんなの」

 

キリトさんの疑問にアルゴさんは淡白に答えると鍵を再びしまい、ブロックが引っ込んでできた窪みに手を掛けるとそのままヒョイヒョイっと登っていった…

 

嘘でしょ? 嘘だと言って…

 

3メートルほど登ったところでエギルさんがアルゴさんに慌てたように声をかけた

 

「おいおい…まさかとは思うがそこを登るのか…?」

 

それにアルゴさんは片手足を引っかけた状態で器用に振り向き、にんまりと笑った

 

「オヤ? フロントランナー一のタフガイさんは高いところが苦手なのかナ?」

「そういう訳じゃねぇけど…これ、落ちたらただじゃ済まないだろ」

 

確かに苦手云々は一旦置いておいてエギルさんの言うことは最もだと思う

 

頂上近くから落ちたら地面は普通に砂利交じりの裸地のため最悪、高所落下で死ぬ可能性もある

 

そう考えているとアルゴさんがウィンクをした

 

「しょーがないナー 特別だゾ」

 

そしてウィンドウを操作すると何やら巨大な物体を次々とオブジェクト化させた

 

それは巨大なクッションみたいなもので梯子の真下にどっさりと積み上げるとアルゴさんがその上から落下した

 

ばっほーんという音が響くがアルゴさんはダメージを受けた様子はない

 

デモンストレーションを終えたアルゴさんは直ぐに立ち上がると近くまで来ていたキリトさんに流し目をした

 

「オイラは最後にこのクッションを回収するから最初はキー坊に譲ってあげるヨ」

「え? お…俺? 別にいいけど…」

 

少ししてからキリトさんはクッションの山を踏み越えて石壁を登っていった

 

 

そして登り終えると下にいる私達に向かって呼びかけた

 

「そこまで難しくない! 落ち着いて登れば大丈夫だ!」

「よ…よっしゃ じゃぁ次は俺が行くぜ!」

 

 

そう叫び返したハフナーさんを皮切りとして次々に登っていってとうとう私の番になってしまった…

 

「落ち着いて 大丈夫だから」

「わ…分かった…」

 

私はアスナに諭されて石壁を登っていった

 

他の人よりは時間がかかったけど何とか頂上へと辿り着いた… 正直もうやりたくない

 

 

しんがりのアルゴさんも登り終え、全員で軽くハイタッチをすると北に向き直った

 

「…確かにこの迷路を真面目にクリアすんのは大ごとじゃなぁ…」

 

そう呟いたのはエギル軍団のウルフギャングさんだった

 

主武器は私やハフナーさんと同じだけど上半身は逞しい筋肉に張り付くように装備している革装備だけなのも相まってどこか歴戦の傭兵的な雰囲気を醸し出している

 

確かにウルフギャングさんの言う通り石壁の上から見下ろす巨大迷路はたとえ地図があっても突破するのは難しそうだった… 多分だけど迷路の構造もβと変わってるだろうし…

 

「ALSはここを夜に…しかもぶっつけ本番でクリアするつもりなのか?」

 

驚きと呆れを含んだ表情でシヴァタさんはオコタンさんに訊ねていた

 

それにオコタンさんは細い口髭に苦笑いを含ませながら頷く

 

「お恥ずかしいですがそのつもりみたいでして… ただ、元βテスターから謎解きのギミックの情報は得ているようで、スケジュール表では1時間で突破する予定になってました」

 

その言葉に思わず私はキリトさんとアスナ、ておさんと顔を見合わせた

 

オコタンさんの言ったβテスターというのは十中八九あの黒マントのどっちかだろう そしてもう片方がALSに紛れ込んでいるスパイの可能性が高い…まぁこの話は今は置いておくとして

 

 

キリトさんに諭されて石壁の上を一列になって移動し、迷宮区タワーとの接合部に設けられた小さな望楼で小休憩を取ることになった

 

ここからはしっかり準備を整えないといけないからね

 

「皆さん これ、よかったらどうぞ」

 

そう言ってふとアスナが取り出したのは例の喫茶店の巨大ロールケーキだった

 

ひま猫さんは知ってた様子だったがほとんどの人が初見のようで釘付けになっていた

 

 

私の分のロールケーキはあっという間になくなったので周りを見回してみた

 

隣にいるておさん以外ではポテトさんとやる気君、キャラメレさんはエギル軍団と一緒に談話しており、意識さんと朱猫さん、リオンさんはどうやらハフナーさんと会話している様子だった

 

めらさんとひま猫さんはネズハさんとオコタンさんと会話をしており、たまさんとじんじんさんはメニューを操作しながら何かを話している

 

リーテンさんとシヴァタさんは…うん…まぁ…仲睦まじそうにしていた

 

キリトさんとアスナはいつもの2人と言ったような感じだった

 

その中で私はまだておさんにこの作戦の説得の件でお礼を言ってなかったなと思い、今のうちにお礼を言うことにした

 

「あの… ておさん 説得の件…ありがとうございます」

 

私のお礼を聞いたておさんは頬を指で掻きながら

 

「あぁ 別に気にしないでもいいよ それと…今回みたいな件の時はたみちゃんはもっと俺に頼ってくれてもいいんだぞ じゃないと俺がいる意味がないだろ?」

「…そうですね… 覚えてたらそうさせてもらいます」

 

私の返事に恥ずかしくなったのかておさんは顔を少しだけ赤くして気を紛らわせるように私の頭を撫でたが不思議と嫌な感覚はなかった

 

 

そこから少し経った後でキリトさんのは立ち上がった

 

「それじゃぁみんな 一応編成考えたから聞いてくれ」

 

そして私達がキリトさんの近くに集まると編成を発表した

 

「A隊がハフナー、シヴァタ、オコタン、きるやん、リーテン、じんじん B隊は俺、アスナ、ヒマ猫、エギル、ネズハ、アルゴ C隊はタコミカ、テオ、意識、朱猫、ローバッカ、ナイジャン D隊はメラ、ウルフギャング、ポテト、キャラメレ、たま、リオン この分け方で行こうと思うんだけどどうかな」

 

キリトさんが班分けを発表すると予想が違ったようで少しざわついていたがシヴァタさんがその空気を引き締めるようにキリトさんに訊ねた

 

「つまりA隊にタンクを集めて 後は均等に分配したっていう感じか?」

「そんな感じだ」

「セオリーとは違うな… タンクを均等に分配しなかったのはなぜだ?」

「そうするにはタンクが少し足りないんだ タンクはシヴァタとリーテン、きるやんとじんじんだけだからそれぞれ違うパーティにするとPOTローテが間に合わない可能性があるんだ それならいっそDEFの高い奴を1つのパーティに集めてそこにタゲを集中させた方がHP管理がしやすいと思う 勿論タンク部隊の負担は増えるけど…」

 

キリトさんの最後らへんの言葉を聞いたシヴァタさんは軽くかぶりを振ると、「それはいいんだが」と前置きをしてからキリトさんに問いかけた

 

「しかし…タンクを固めると広範囲の同時攻撃には対応できないぞ そこは大丈夫なのか?」

「βの話になるけど第5層ボスのゴーレムはブレス等のエリア攻撃はしてこない 基本は両手のパンチ、両足のストンプ、しかも左右別々のタイミングだからヘイト管理さえしっかりできればワンパーティでも防御し続けることは可能だと思う」

 

キリトさんは納得して頷いているシヴァタさんから視線を外してこちらに視線を移すと説明を続けた

 

「勿論最初に俺らがボスをじっくり偵察して想定外の攻撃パターンがないか確かめる 実際に戦闘が始まってからもボスのHPバーが替わるタイミングでは必ず部屋の外に退避できるよう準備をして未知の攻撃パターンに備える フルレイドの半分の人数だけど勝算は十分にあるし、無論犠牲者を1人も出すつもりは無い ―――シヴァタとリーテンが企画してくれたパーティを成功させるためにも、そして2023年を希望ある年にするためにも! みんな…頑張ろう!」

 

キリトさんが後半は激励とも取れる演説を終えるとエギルさんは

 

おっしゃぁ! やったろうぜ!!

 

と拳を突き上げて叫んだので私達もそれに便乗して拳を上げると

 

おー!

 

と叫んだ

 

2022年12月31日午後4時15分 私達は鋼鉄の扉を開いて迷宮区タワーへと足を踏み入れた




班分けの大変さが身に沁みました…

それではまた次回に


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16話:第5層フロアボス"虚像 "戦 前編

今回から5層編のメイン?のフロアボス戦に入っていきます

それではどうぞ


道中はパーティの練習をしつつ先を急いでいた

 

どのパーティも即席にしては連携が凄まじく順調に進んでいっていたので私はB隊の近くまで行くとアスナがキリトさんの左腕を突いているところだった

 

「どうしたんだ? アスナ」

「なんだか周り…それっぽくなってきたわよ」

 

確かにアスナの言う通り通路の装飾が多くなってきたような気がする…

 

時間を見てみても午後7時過ぎで登った階段の数から考えてももうそろそろボス部屋についても良い頃合いだとは思っている

 

「やれやれ… やっとボス部屋か 流石に迷宮区を一気に突破すんのは楽じゃねぇなぁ…」

 

エギルさんはスキンヘッドの後頭部に手をあてがいそんな感想を呟くとキリトさんはエギルさんににやりと笑いかけた

 

「いやいや… 5、6層あたりはまだ部屋も少ないし、構造も単純なんだぜ? それに比べると10層の迷宮区なんかとんでもなくデカくて複雑でβの時は3日かけてもボス部屋にすらたどり着けなかったよ」

「あ~…確かに大変だった…」

 

キリトさんの言葉に同意するようにひま猫さんは頷いていた

 

「一応俺たちはβテスト最終日にボス部屋に向かってはいたんだけど途中でヘビザムライが使う刀のソードスキルで麻痺を喰らっちゃって… それでやられなかったのは良かったけど今度はタイムリミットが迫ってて…≪レイジスパイク≫も発動させて少しでもボス部屋に近づこうとはしたんだけど結局ボス部屋に辿り着いたのはキリトだけだったよ 俺もあともう少しのところまではいったんだけど…」

「それはかなり惜しかったですね…」

「俺よりも前に行ったのはキリトと鎌使いの大男のプレイヤーだけだったよ」

 

ひま猫さんが言ったその鎌使いのプレイヤーについて聞こうとした時少し前にいるA隊から声が飛んできた

 

「おい! あれを見ろ!」

 

その言葉につられて背伸びをしながら前を見てみるとこれまでのような大扉ではなく通路いっぱいに広がる上へと上がるための階段がそこにはあった

 

「気を付けて進んでくれ!」

 

キリトさんがA隊に呼びかけるとハフナーさんから「おう!」という返事があった

 

数十秒間左右と後方を確認しながら歩いたが特に変わった様子はなく、大階段の手前で立ち止まっているA隊と合流した

 

「横に隙間はなかった」

 

キリトさんの言葉にハフナーさんが頷いた

 

「つまりここを上るしかないってことか… 因みに座標はタワーの大体中央だ」

「うーん… 上った先に通路と扉があるのか… それともいきなりボス部屋なのか…」

「βの時は違ったのか?」

 

ハフナーさんと話しているキリトさんの背後からシヴァタさんが話しかけるとキリトさんは振り向いて頷いた

 

「あぁ βの時は今までと同じように扉があって、それを開けるとボス戦だった まぁここまでの構造も大分変ってたからこの変更もあんまり意味がないものなのかもしれないけど…」

 

そう言いながらキリトさんは正面に向き直ると階段の上の暗い空間を見上げていた

 

キリトさんがしばらく暗い空間を見上げているといつの間にかキリトさんの右隣にやってきていたアルゴさんが左手にカンテラを掲げながら言った

 

「ま 行ってみるしかないだロ」

「そ…そうだな んじゃぁ いきなりボス部屋だった時を想定して、まずは予定通り俺が1人で偵察してくるよ」

 

そしてキリトさんは全員に指示するため後ろに振り向こうとしたがアルゴさんがいつになく真剣な声を出した

 

「待っタ ここはオレっちに任せてクレ」

「え…?」

「この階段がちょっと気になるんだよナ もしかしたら階段がせりあがって入り口を塞ぐトラップかもしれなイ もしそうなったとしてもオイラの素早さなら完全に閉まる前に脱出できル」

 

そう言いつつアルゴさんはつま先でこんこんと石段を蹴る

 

よくよく石段を見てみると壁にもあるルーン文字っぽいものが段の側面にも浮き出ており、いかにも何かありそうな感じがした

 

キリトさんもそれを感じ取ったのかアルゴさんに声をかけていた

 

「…なら2人で行こう これは譲れない」

「エェ~?」

「そんな顔をしてもダメ! アルゴや朱猫ほどじゃないけど俺だってスピード型なんだからな 階段が動き出したら脱出するぐらいのことはできるよ」

「…チェ しょーがないナァ…」

 

キリトさんの提案にアルゴさんは口を突き出しながらも承諾した

 

そしてシヴァタさん達に階段を見張っているように指示を出し、進み出てきたアスナに声をかけるとアルゴさんとキリトさんは階段を上っていった

 

 

~~~~~~

 

 

しばらく2人を待っていると…

 

ゴゴゴゴゴゴ

 

地響きの音が聞こえてきた

 

「戦闘中ですかね?」

「と思います でもキリトさんがおっしゃってた通りお二方が戻ってくるまで待ちましょう」

 

まぁポテトさんの言う通り戦闘中だろう その証拠にさっきからあからさまに金属音っぽい音は聞こえてきてたし…

 

私も行きたいのは山々だけどそれを押さえて2人が戻ってくるまで待機しようと提案したが

 

「上で戦ってるかもしれねぇのに呑気に待ってられるか!」

「ちょっと!? ハフナーさん!?」

 

ハフナーさんはそれを無視して階段を上って行ってしまったので私達はハフナーさんの後を追いかける他なくなった

 

 

 

「おい! 大丈夫か!?」

 

階段を勢いよく駆け上がりながらハフナーさんがそう叫んだ

 

階段を上がった先にあったのは今までのボス部屋のように大きな広間でボスはまだ出ていない様子だった…?

 

「なんだ…まだボスは出てない――「回避! 回避だ!!」」

 

シヴァタさんが安堵しようとしたがキリトさんが全力でこちらに指示を飛ばしたので私達は咄嗟にその場から大きく飛び退いた

 

しかし20人余りの人数が全員バラバラの方向に飛んだのでシヴァタさんとローバッカさん、たまさんが交錯し、バランスを崩してその場に倒れこんでしまった

 

その直後、轟音が響いて床からは巨大な両手が生えてきて、天井からは巨大な両足が降ってきた

 

右手と思しき方は空気を握りつぶすように指を勢いよく閉じ、両足は地面を思いきり地面を踏んだ

 

そして左手が倒れこんだ3人をまとめて掴むとそのまま空中高くへと運んでいった

 

「ぬおあ!?」

「うおッ!」

「のわっ!?」

 

3人の叫び声を5本の指が勢いよく閉じてかき消す

 

流石に男性3人を掴んでいることもあってか指の隙間から手や足がはみ出してはいるが脱出できるような隙間は無さそう…

 

それでも徐々にHPバーが減ってきていたので私はどうすればいいのかと悩んでいた

 

その間にもリーテンさんとハフナーさん、ポテトさんが武器を取って3人を掴んでいる腕に攻撃しようとしていた

 

私も悩んだ結果腕に攻撃しようと武器を手にした時

 

「腕にパラレル!」

 

という指示が飛んだと同時にアスナが≪パラレル・スティング≫を発動させ、腕を攻撃しつつあったリーテンさんやハフナーさん、ポテトさんを追い越して超高速の2連撃を腕に命中させた

 

攻撃が腕にヒットすると同時に天井から大きな咆哮に似たような音が聞こえてきて拳が開いてシヴァタさんとローバッカさん、たまさんを解放し、リーテンさんとハフナーさんとポテトさんがそれぞれキャッチする

 

10メートルぐらいの高さから落ちたので流石に無事とはいかず、6人共少々ダメージを受けた様子だったが普通に落下するよりは絶対ましだ

 

 

空振りした右腕と両足は既に引っ込んでおり、さっき避けるときに見た予測円が階段のすぐ近くにいるネズハさんの足元にあり、天井を見てみると2つの予測円がネズハさんの近くにいるオコタンさんとナイジャンさんの真上にあたる位置に出現していた

 

「もう退避は無理ダ!」

 

キリトさんの隣でフードが外れた状態のアルゴさんがそう叫んだ

 

「全員最寄りの壁際まで走れ!」

 

キリトさんがそう指示を出すと同時に私達は壁際まで走った その直後に階段のすぐ近くの予測円から手が突き出てきてその近くでは両足が激しく地面を踏みつけた

 

「壁際まで行ったら床のラインを踏まないように静止するんだ!」

 

再びキリトさんから指示が飛んできたので足元を見てみると模様だと思っていた床の青いラインが不規則に視認できない程速いスピードで変動していたが徐々に減速していきやがて視認できるほどのスピードになっていき…それが止まったところでキリトさんがまた指示を出した

 

「ここだ! 全員ラインを避けて止まれ!」

 

その指示で私はラインを丁度跨ぐようにして制止した

 

なんか前にやった指定された色の所に向かうミニゲームみたいだなと不謹慎にも思っているとネズハさんが片足立ちの状態で手をぶんぶんと振りながらバランスを取っているのが見えた

 

理由はFNCだろう…恐らく自分とラインの距離感が分からずにああやってバランスを取っているものだと思われる

 

「今そっちに行くからあと少しだけ頑張ってくれ!」

 

私との距離が10メートルぐらい離れているキリトさんが声をかけ、ラインをうまくよけながらネズハさんの元へと向かうがそんな不安定な状態がいつまでも続くわけがなくキリトさんがネズハさんの元へ向かう前にネズハさんはバランスを崩して床に倒れこむ…その直前にリオンさんがネズハさんを支えた

 

「オーケー そのまま真下に足を下ろせ」

「は…はい!」

 

リオンさんの助けもあってネズハさんは特に問題なく体勢を安定させることが出来たところでキリトさんが大声で話し始めた

 

「ダメージを受けたやつはPOTを飲みながら聞いてくれ! どうやらさっきの腕と足が今回のフロアボスみたいだ!」

 

キリトさんがそう言うとハフナーさんはPOTを飲みながら目を見開いて驚いていた

 

「床に青いラインが見えるだろ! それを踏むと床と天井のラインがランダムに動き始めてラインを踏んだやつの足元か頭上にターゲットサークルが出る! 床の場合は腕が生えてきて掴み攻撃をしてきて、天井の場合は足が出てきて踏みつけ攻撃をしてくる!」

「っつうことはこうやって線をまたいでいる間は腕も足も攻撃してこないのか!?」

 

キリトさんの出した情報を呑み込んだのかエギルさんが遠くから怒声でキリトさんに聞くとキリトさんは頷いて答えた

 

「そういうことだ! 最大腕が2本、足が2本、同時攻撃してくる! 腕に摑まれるとさっきみたいに10メートルぐらい持ち上げられてHPと防具の耐久度に同時にダメージを受ける! だが片手武器の二連撃クラスのソードスキルを当てると掴まれたやつを解放できる!」

 

私達が頷いてからキリトさんは続けた

 

「足はまだ攻撃を受けてないから分からないけど多分腕よりダメージは大きいと思う! あと2層のバラン将軍みたいに踏んだところから衝撃波が広がるからそれに足を取られると転ぶかもしれない!」

 

再び私達が頷くとキリトさんは少し沈黙したが

 

「えーっと 俺からの注意点は以上だ!」

 

キリトさんのその叫びに私達は虚を突かれたように沈黙していたが少し離れたところからアスナがキリトさんに質問した

 

「じゃぁこのままでいてもボスは攻撃できないけどこっちも攻撃できないんじゃない?」

「そう…だと思うけど幸か不幸かフルレイドじゃないから今の状態を維持できてると思う」

 

キリトさんがそう言った直後、天井中央部のラインだけが動き出した…と言ってもこっちは何もできないので天井を見ていると重低音を響かせながら天井が複雑な形に出っ張り始めた

 

それはやがて3メートルぐらいはありそうな左右対称で巨大な顔へと形を変え、漆黒の目の奥にぼっと音を立てて青白い光の輪が現れ、額の中央には紋様が浮き出てきた

 

私達が声もなく見上げていると巨大な顔の上部に6本のHPバーが現れたが1本目のHPバーがわずかに短かいような気がする

 

そして最後にボスの名前が白々と輝くフォントで表示された

 

名前は【フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス】…β時代とはまるっきり違っていた

 

そんな私の考えを読んだのかその顔は瞳のない両目が動き、角ばった口を大きく開き、額の青い紋章を鮮やかな赤へと変色させた




ひま猫が話していたシーンはプログレッシブの劇場版を見た方だったらすぐにわかると思います

それではまた次回に


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17話:第5層フロアボス"虚像 "戦 中編

本当は後編にしようと思ったんですけど思ったよりも長くなったので中編にしました

それではどうぞ


何かが来る予感はしたが防ぐ余裕がなく、【フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス】は迷宮区全体を震わせるような雄たけびを上げた

 

それに私達は大小よろめいたが幸いラインを踏んだ人はいなかった しかしその咆哮でHPバーの下に防御力低下のバフアイコンが付き、更にそれまで静止していた青いラインが再び動き出した

 

その中でキリトさんは大声を出して私達に指示を出した

 

「散開してラインの動きをしっかり見るんだ! 極力避けて仮に踏んでしまった場合は天井と床をそれぞれ確認してサークルが出ていた場合は大きく回避! もしも余裕があれば手足に攻撃してくれ!」

 

キリトさんの指示にすかさず私達は力強く返事をした

 

そしてキリトさんはネズハさんにさっきより声のボリュームを落として指示を出していた

 

「壁際はラインの隙間が大きいから避けやすい! 動きが止まったら顔のおでこにある紋章をチャクラムで狙ってみてくれ!」

「りょ…了解です!」

 

ネズハさんは頷くと最寄りの壁際まで走っていった

 

少しすると目まぐるしく動いていたラインが徐々に減速を始めてきたところでキリトさんは私とておさん、アスナとアルゴさんを呼んだ

 

「アスナ! アルゴ! タコミカ! テオ! 今からわざとラインを踏むからソードスキルで攻撃の準備をしてくれ!」

「解ったわ!」

「おいサ!」

「了解です!」

「はいよ!」

「…行くぞ!」

 

私達が返事を返すとキリトさんは速度がゆっくりになってきていたラインのうちのひとつを踏んだ

 

するとそのラインが反応してキリトさんの足元に予測円を描き、それが固定されたところで飛びのいた

 

直後に黒い腕が出てきてそれを取り囲むように5方向からそれぞれ私は≪カラタクト≫をアスナは≪パラレル・スティング≫をキリトさんとておさんは≪バーチカル・アーク≫をアルゴさんは技名はちょっとわからないがクローの3連撃ソードスキルを繰り出した

 

私達の攻撃を受けた腕は苦しそうに身動ぎし、天井の方から怒りのような声が聞こえてきたので見上げるとHPバーの一本目が明らかに減少していた

 

腕が床に沈み、再びラインが動き始めてふと自分のHPバーを見てみたがまだ防御力低下のバフアイコンは消えていなかった

 

HPバーを確認するときにちらっと見えたボスの顔は再び口を大きく開こうとしていて額の紋章も赤くなっている

 

咆哮なので防げないが一応防御の体勢を取った、しかしボスが吠えるより一瞬早く銀色の光がボスの額を攻撃した

 

攻撃が額に当たると赤かった紋章が青色に戻り、顔は怯んだように少し引っ込んだ

 

そして急なカーブを描いたチャクラムはネズハさんの元へと戻っていく

 

β時代から結構変わってはいたものの額の弱点だけは変わっていない様子だった

 

その直後にラインが静止したので先ほど同様キリトさんがラインを踏むと今度は天井に予測円が出てきて足が降ってきたがやることはさっきと同じで、足を回避してタイミングを合わせてソードスキルを打ち込む

 

そして天井に戻っていく足を見ているとハフナーさんの声が聞こえてきた

 

「大体解った! 今度は俺達もやってみる!」

 

ハフナーさんとは別の所からエギルさんとオコタンさんの声が聞こえてきた

 

「こっちもやってみるぜ!」

「我々もやってみます!」

 

更に別の所からポテトさんの声が聞こえてきた

 

「こちらもやってみます!」

 

それらを聞いたキリトさんはありったけの大声で返した

 

「あぁ! 思いっきりぶちかませ!」

 

静止する瞬間にわざとラインを踏んで、両手両足の攻撃をかわしソードスキルを打ち込んで時々ある咆哮はネズハさんのチャクラムで無力化してもらう

 

即席のレイドメンバーだけどきっちりとその流れをパターン化し3回目ぐらいからは危なげなく一連の動きをこなせるようになってた

 

 

両手足への同時攻撃の威力はすさまじくあっという間に1本目、2本目、3本目とHPバーが削れていって4本目に突入しても特に変更点は無かった

 

勿論このまま変更点はないとは思ってないけどもう1本ぐらいは削れそうだと思いつつ何回目かの≪カラタクト≫を発動させた瞬間ネズハさんが驚きながら叫んだ

 

「皆さん! 壁が!」

 

その声に応じるように壁を見てみると先ほどまで無地だった壁に床と天井からラインが伸びていき、やがてそれが繋がった

 

「…A隊 B隊 C隊 D隊の順に階段へ撤退!」

 

キリトさんがそう指示を出したがハフナーさんは納得していない様子だった

 

「だが…!」

 

咄嗟に叫びかけたハフナーさんのマントをシヴァタさんが無言で引っ張るとシヴァタさんは不服そうに頷いて中央の階段へと向かって行く

 

私はボスが雄たけびを上げようとしていないかどうか確認しようと天井を見た…しかしそこにはボスのHPバーと名前があるだけで肝心なボスの顔がなかった

 

「キリトさん! ボスの顔が…!」

 

それをキリトさんに呼びかけながら天井に指を指すとキリトさんは驚いた表情で天井を見ると辺りを探し始めた

 

「シバ 駄目っ!」

 

その直後に金属兜のエフェクトを貫きそうなリーテンさんの悲鳴が聞こえてきたのでその場所に目を向けると階段があったはずの場所に黒々と盛り上がるボスの顔とそのボスの口に腰辺りを咥えこまれているシヴァタさんの姿があった

 

どうしてあんなところに…!? あまりにも急な状況に私は軽くパニックになっているとやる気君がリーテンさん達と一緒になってボスの口からシヴァタさんを引っ張り出そうとしながらこちらに顔だけ向けた

 

「階段が急に口に…!」

 

唯一の出入り口である階段が使えないとなると戻って体制を整えることが出来ない…

 

シヴァタさんの装備している重装鎧が身代わりみたいになっているので今はまだHPが減っていないがもしこれが壊されれば大ダメージは免れることが出来ないだろう

 

「畜生 またかよ…!」

 

シヴァタさんは若干毒づきながらも両手でボスの口を押し開けようとしており、リーテンさん達もそれに協力しているがボスの口が開くような気配はない

 

その反対側ではエギルさんが両手斧をボスに何度も打ち下ろしてはいるが怯んでいる気配がなく、斧の刃を平然と跳ね返している

 

腕や足同様ソードスキルを打ち込めばダメージを与えられるかもしれないけどシヴァタさんを巻き込んでしまう可能性があるため使うのをためらっているのだろう

 

私達もそこに駆け付けたかったが床ではまだラインが動き続けているので行きたくてもいけない状態になっている…

 

私がどうしようかと考えているとキリトさんから声が聞こえてきた

 

「くそっ… さっきから顔や腕が生えたり消えたり… このボスはいったいどうなっているんだ…!」

 

キリトさんは歯噛みをしながら絞り出すような声でそう言うとキリトさんの近くのアスナが何かを分かったような顔をした

 

「【フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス】…成程… そういう意味だったのね」

 

そして私達に顔を向けると意味を説明し始めた

 

「ヴェイカントは虚ろなという意味でコロッサスが巨像…虚ろな巨像…多分だけどそれはこの部屋自体を指してる つまりこの部屋自体が第5層のフロアボスなんだわ」

 

アスナの説明でなぜ体が繋がっていないのにあのボスは腕やら足やらを生やし、それを動かせるのかがようやく理解できた

 

同時にボスの強さを再確認することとなった この部屋全体がボスならどこからでも腕やら足を生やすことが出来る…恐らくあのラインのある範囲がボスが自由に操作することが出来る範囲なのだろう…と言ってももう部屋全体がその範囲なのだけれども…

 

「いくら魔法のゴーレムだからってこんなの…!」

 

キリトさんもようやくこのフロアボスの異常性を理解したのか呻き声を出した

 

それに重なるようにシヴァタさんの焦るような叫び声が聞こえてきた

 

「駄目だ! 全然外れない!」

 

すかさずハフナーさんとリーテンさんが励ますがその声には恐れているような色が含まれている

 

「諦めるな! シヴァタ!」

「シバ! 今助けるから!」

「もう限界だ…鎧が壊れる! リッちゃん、口から手を放せ!」

 

シヴァタさんは覚悟を決めたようにリーテンさんに言ったがリーテンさんは激しくかぶりを振った

 

「嫌だ! 絶対…絶対に諦めない!」

 

リーテンさんの言う通り最後まで諦めるわけにはいかない

 

キリトさんもそう思ったのか顔の近くにいるエギルさんに指示を飛ばした

 

「エギル! ソードスキルで額にある紋章に攻撃してくれ!」

 

しかしエギルさんは首を横に振った

 

「駄目だ! こいつ…紋章がねぇんだ!」

「なっ…!?」

 

嘘…!? 紋章がないって…

 

もし仮にそうだとしたら攻撃を与えることが出来ないのではないか

 

そう考えていた私の思考をシヴァタさんの鎧が発する金属質な嫌な音が無理やりかき消す

 

 

いや…まず最優先にするべきなのは救出だ

 

青いラインが減速し始める中、私はシヴァタさんの救出のためにボスの顔へと走り始めた

 

しかしそれより早くシヴァタさんの鎧が鮮やかなダメージ光を発してひび割れる

 

私がもはやここまでなのかと思ったその時

 

「シバを…殺させてたまるかああああああああ!

 

リーテンさんがボスの四角い顎に飛び乗ると躊躇なくボスの口へと飛び込んだ

 

その直後、シヴァタさんの鎧は砕け、ボスの歯がシヴァタさんに食い込んだがリーテンさんのスチールアーマーが強烈な衝撃音と激しい火花を散らしながらそのままボスの口が閉じるのを阻止した

 

「なっ…リッちゃん!? どうして…!」

 

シヴァタさんがリーテンさんの肩を掴みながら叫ぶとリーテンさんは両手でボスの口を押し開けようとしながら答えた

 

「だって私はタンクだから! 守るのが仕事だから…!」

 

リーテンさんの言葉に私はハッとした、リーテンさんが諦めていないのに私が諦めかけてどうする

 

私は私にできることを…!

 

私はボスの顔の近くに来るとエギルさん同様攻撃し始めた

 

無駄だと分かっていてもやらないよりはましだ!

 

 

顔に何回か攻撃をしているとキリトさんが私達に向かって叫んできた

 

「皆、何とかしてラインを避けてくれ! それが無理そうならボスの顔に登れ!」

 

そこで一旦攻撃を中断して私を含む重装備系の人は顔に登り、それ以外は散開して床に集中した

 

「アスナ! アルゴ! それにネズハはラインを踏んで腕と足を出してくれ! そのどこかに紋章がある可能性が高い! 見つけたらそれを全員で攻撃!」

「了解!」

「解っタ!」

「やってみます!」

 

キリトさんの指示に3人は同時に応答すると腰を落としていつでもラインが止まってもいいよう身構えていた

 

そしてラインが静止すると同時に4人はラインを踏み、予測円が出たタイミングで大きく避けた




タコミカは極限状態の時は考えるより先に行動する派です

それではまた次回に


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18話:第5層フロアボス"虚像 "戦 後編

今回で第5層フロアボス編は終わります

それではどうぞ

追記:お気に入り登録30人突破しました! 本当にありがとうございます!


するとほぼ同時にボスの両手足が現れたので私達もボスの顔から降りて攻撃を再開しようとしたところで

 

ありましたあああぁ!

 

ネズハさんが半ば裏返ったような声で叫んでいた

 

ネズハさんの方を見てみると左足の膝裏辺りを指さしていたが足のストンプ攻撃の後の衝撃波にやられたのか倒れている状態だった

 

肝心の左足は攻撃を終えて天井へと戻っていく途中で届きそうになかったが

 

「逃がすかっ…!」

 

キリトさんが走りながら剣を構え、≪ソニックリープ≫をその足に向かって放とうとしたがその前に黒い影がキリトさんに近づいた

 

「頭を下げロ! キー坊!」

 

キリトさんに指示を出したアルゴさんは反射的に上体を丸めたキリトさんを踏み台にして飛び上がった

 

そして頂点に達したとき、右手に装備したクローに紫色のライトエフェクトをまとわせ、アルゴさんの体が縦に高速回転しながらまるで弾丸のように加速してソードスキルをボスの足に向かって放った

 

その様はアルゴさんの頬にある髭のペイントも相まってアルゴさんの普段の二つ名である鼠とは真逆のネコ科の肉食獣っぽかった

 

アルゴさんの攻撃を受けたボスは口を大きく開いて叫んでいて、その衝撃でリーテンさんとシヴァタさんは舞い上がって、仲良く落下した

 

2人を吐き出した【フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス】の顔は床に沈み、その後には下りの階段が元通りにある

 

そこから一呼吸おいて周囲の人たちが歓声を上げた 特にハフナーさんは感極まったようにシヴァタさんに飛びかかり、リーテンさんはオコタンさんに手を貸してもらいながら立ち上がっていた

 

これにて一件落着…じゃなかった! まだボスがいるんだった!

 

私が何かに引っ張られるように天井を見上げるとボスの顔は再び天井に出現しており、奇妙な笑い声を響かせていた

 

「皆! 喜ぶのはボスを倒してからにしてくれ!」

 

キリトさんは剣を振りかざしながら叫んだ

 

「変化したパターンも大体わかったからもう少し戦闘を続けてみよう! ただしシヴァタは階段を下りてHPを回復してくれ!」

 

その指示を聞いたシヴァタさんは装備フィギアを開きながら大声で言った

 

「悪いがその指示は拒否させてもらう! ボスを倒すまであの階段は絶対に下りない!」

「でも鎧が…」

「万が一の時にも対応できるよう予備ぐらいは持ってきてる! まだいけるさ!」

 

そう言ったシヴァタさんは別の鎧を装備した

 

「…解った でも無茶だけはしないでくれ!」

 

キリトさんがそう言うとシヴァタさんはポーションを飲みながらキリトさんに向かって親指を立てた

 

私達の繊維が戻ったのを確認したかのようにボスは再び奇妙な笑い声をあげると床のラインが動き始めた

 

そこからの戦闘は先ほどのようにパターン安定とはいかずとも何とか危険な状態にはならずに進んでいっている

 

やっぱりボスの顔が床に移動したときは紋章もどこかに移動するみたいでデバフボイスのキャンセルが間に合わないことが結構あって最初に受けた防御力低下のほかにも視覚明度ダウン、聴覚ダウン、平衡感覚ダウンなどVRゲームならではのデバフも結構受けたと思う

 

まぁそんな感覚異常系のデバフを受けた人たちが何回か腕に掴まれたり足に踏まれたりするのは避けられなかったが即席のレイドメンバーたちは見事なコンビネーションでその人たちのフォローに回っていた

 

そしてボスのHPバーは30分ぐらいかけて4本目、5本目と削られて行き、ようやく最後の1本になった

 

すると天井の顔は今までで最大のボリュームで怒声を上げると両目のリングを赤く染め上げた

 

キリトさんはパターンが変わるのを見越して私達に叫んだ

 

「またパターンが変わるぞ! POTが足りないやつは返事してくれ!」

「ちょっと危ねぇ!」

「ワシもじゃ!」

「こっちにも欲しい!」

 

ハフナーさんとウルフギャングさん、キャラメレさんが叫ぶとキリトさんはポーション入りのバッグを3つ実体化させ、3人に渡す

 

その間も私は床の青いラインを見ていたがこれまでとは違う動きを見せていた

 

床の中央部の階段に広がるラインから壁に向かって縮み始め、そのまま壁を這い上がると天井中央にあるボスの顔に集まり始めた

 

私達が身構えていると青い光を鬣のように蠢かせているボスの顔が下に迫り出した

 

ラインが4本の太い束になってその先端に予測円が出現し、真下にいたプレイヤーは回避したが出てきた両腕と両足の動きは今までに比べるとかなり遅かった

 

じわじわと出てくる両腕と両足は肘や膝が現れてもそのまま湧出し続けてやがて肩や腰まで出てきて体がそれに続くように天井から出てくる

 

そして先ほどを上回るボリュームの雄たけびを上げて【フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス】は人型のゴーレムになって天井から分離した

 

「後退っ!!」

 

キリトさんは咄嗟に叫んだがそれより前に全員がボス部屋の南側にダッシュした

 

その直後に激しい轟音と衝撃と共にボスが着地する

 

体長が10メートル以上はありそうな巨体の表面には先ほどまで床にあった青いラインがびっしりと刻まれている

 

それらが顔から順番に真紅へと染まっていくとボスは再び咆哮を響かせ、ハンマーのように先太りになった腕を振り上げた

 

「ボスが人型になったら最初の作戦通りに戦えるぞ! A隊がブロック B、C、D隊がそれぞれローテーションでアタック! ヘイト管理を最優先にしてくれ!」

「わ…解った!」

 

ボスの気迫に押された私達の様子を見てキリトさんが咄嗟に叫ぶとA隊のハフナーさんが答え、ボスを取り囲むように陣形を整えるとそれぞれ武器を構えるとキリトさんが大声を出した

 

「ラスト1本! 全力で行くぞ!」

『応!!』

 

私達の声に反応したかのようにボスは右足を前に踏み出した

 

それにすかさずリーテンさんとシヴァタさんが前に出て左手で盾を掲げ、右腕をほぼ同じ動きで振り上げるとぐっと左手を突き出すと盾が銀色に輝いて大音響を発した

 

確か盾スキルの≪スレットフル・ロアー≫という挑発技だったかな…?

 

ボスのタイプによっては効かないボスもいるが幸い【フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス】には効いたようで怒声を轟かせながらスピードを上げた

 

ひと声上げたボスは右拳を天井すれすれまで高く上げると2人に向かって叩きつけ、それを2人は掲げた盾で受け止めようと試みる

 

直後、大量の光芒と衝撃音をまき散らして盾とボスの拳が激突する

 

並んで立っている2人はタンクだからかノーダメージだったが流石にそのまま踏みとどまることはできずに2メートル近くノックバックした

 

攻撃を終えて一瞬動きの止まったボスの右腕にすかさずハフナーさんが≪カラタクト≫を発動させボスの6本目のHPゲージを3%ほど削る

 

「よし…俺達も行くぞ!」

 

キリトさんが合図を出すとアスナがそれに応じ、ボスの左足のふくらはぎ辺りにキリトさんは≪バーチカル・アーク≫を叩きこみ、硬直時間が終わるや否やアスナにスイッチしてすぐさま後退した

 

そして代わりに出てきたアスナはキリトさん同様ボスの左足のふくらはぎ辺りに≪ダイアゴナル・スティング≫を打ち込んだ

 

キリトさんとアスナが攻撃している方とは反対側の右足を見てみるとエギルさんとひま猫さんが攻撃しており、地道ではあるけどダメージを重ねていった

 

両足を攻撃されたボスは仰け反りながら吼えたので多少警戒したが幸いタゲが移ることはなかった

 

先ほどもボス戦だったけどようやくボス戦らしくなってきたなと私は考えていた

 

 

しばらくすると私達に順番が回ってきたので私達はボスの左足に向かうとふくらはぎ辺り私は≪カラタクト≫をておさんは≪バーチカル・アーク≫を叩きこんだ

 

 

人型状態の【フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス】は両拳の単純な殴り攻撃から両足の連続ストンプ攻撃、厄介なデバフ付きの咆哮、両目から発せられるレーザー攻撃を経て最終段階へと狂乱モードに変化した

 

時々タンクをリーテンさんとシヴァタさん、やる気君とじんじんさんと2人ずつの交代で務めてくれたので私達は攻撃に専念することが出来た

 

 

そしてラストのHPバーも赤くなり両腕を竜巻のように振り回すボスの攻撃をA隊の6人が一塊になって耐え凌ぎながらシヴァタさんはキリトさんの方を向くと大声を出した

 

「キリト! LAはくれてやる! その代わり派手に決めてくれ!」

「了解! じゃぁ遠慮なく貰っておくぜ!」

 

それにキリトさんは得意げに叫び返すと片手剣を右肩に載せ、全力でボスへと走っていった

 

外周沿いを走っていたキリトさんだったがそのままのスピードでなんと壁を走り始め、防御に専念しているA隊の斜め左をほぼ真横にすり抜けていき、ボスの近くで思いっ切りジャンプした

 

勿論その様子を見たA隊の何人かは驚いており、そちらに顔を向けている

 

ボスがキリトさんの存在に気づいてそちらに顔を向け、凄まじい咆哮を挙げていたがキリトさんもそれに負けないように大声で叫ぶ

 

「これで…終わりだあああぁ!!」

 

キリトさんは剣を左脇に構えると≪ホリゾンタル・スクエア≫を発動させた

 

ボスの額の紋章にプロペラのように1回、2回、3回、4回と刻み込まれると紋章がボスの額から剥離し、そのまま光の粒となって消えた

 

そしてリング状の両眼が不規則に点滅し、全身に走る赤いラインが先ほどより眩く輝き炎にも似たような閃光を幾筋も立ち上らせると…第5層のフロアボスである【フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス】はこれまでより一際大きなエフェクトを上げて爆散した

 

 

そこからはボスの消滅エフェクトが消えても誰一人声を上げようとしなかったが不意に床が〔ゴゴゴ…〕という音とともに揺れ始めた

 

最初は何事かと思ったがふと天井の方を見てみると石でできた巨大な螺旋階段が現れた

 

「…お…終わった…」

 

それを見て誰かが呟いたことをきっかけとしてレイドパーティのメンバーたちは歓声を爆発させた




タコミカがソードスキルをある程度知っている理由はホームページを見たからです

それではまた次回に


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19話:(フラッグ)の行方

なんか最近伸びがいい気がする…

それではどうぞ


私達は剣を床に突き立ててそれを支えにして立とうとしているキリトさんの元へと駆け寄って、アスナはキリトさんに手を差し出した

 

「お疲れ様 キリト君」

 

キリトさんはアスナの手を握ると引っ張ってもらって立ち上がると軽く拳をぶつけあった

 

「お疲れ様です」

「お疲れ」

 

私達もアスナに続いて声をかけると軽くハイタッチをした

 

その直後に後方の方でひときわ大きな歓声が上がったのでそちらを見てみるとシヴァタさんがリーテンさんを高々と持ち上げて両手で支えながらグルグルと回転している

 

私がそんな2人の仲睦まじい様子を温かい目で見守っているとキリトさんが呟いた

 

「…あれじゃあ明日にはアインクラッド中で噂になっているんじゃないか?」

 

そう呟いたキリトさんに対してアスナは首を横に振る

 

「ここにそんな無責任なうわさを流す人はいないわよ アルゴさんだって2人の情報を売ったりしないだろうし」

 

アスナの言葉にいつの間にか近くに来ていたアルゴさんは「ま…まぁナ!」と少しだけ慌てながら答えたような気がした…

 

そこにネズハさんも加わって6人でひとしきり笑った後、改めて握手を交わす

 

「とてもリーダーっぽかったですよ キリトさん いっそのことこのままみんなをリクルートして新ギルドを立ち上げちゃったらどうですか?」

 

ネズハさんは無邪気な笑顔で結構大胆な提案をするとキリトさんは全力で首を振った

 

「いやいやいや 冗談じゃないよ 大体君だって誘われたら困るだろ? それにポテト達だってギルド立ち上げてるし…」

「そんなことないですよ むしろキリトさんのお誘いならブレイブスのみんなで加入しますよ!」

 

ネズハさんは顔の前で拳を握りながら答え、その反応に困った顔をしたキリトさんは近くまで来ていたポテトさんに視線を向けた

 

「ん~ キリトさんのお誘いなら併合もありかな? このまま新ギルド立ち上げやっちゃいますか?」

「そんなことしないって もし仮にやったらハフナーに『やっぱりそういうつもりだったのか』って怒られるよ…」

 

キリトさんの視線に気が付いたポテトさんはまんざらでもなさそうな顔で答えたのでキリトさんは若干早口で否定したが直後に何かを考え始めた

 

 

その様子に気が付いたのかアスナが声をかけた

 

「ちょっと 大丈夫? キリト君 お腹でも痛いの?」

 

いつもなら突っ込みを入れそうだが今回は私達を順番に見て、ポテトさんを近くに寄せると小声で話した

 

「えぇっと… ギルドフラッグドロップしたか?」

 

私はアイテム欄を見てみたが肝心のギルドフラッグは無かったので首を横に振る

 

アスナやアルゴさん、ておさん、ネズハさん、ポテトさんも首を横に振る

 

その後アスナが視線でキリトさんに訊ねるがキリトさんはかぶりを振った

 

「いや…俺にもドロップしてない…」

「ふーん…じゃぁあっちの誰かに…」

 

アスナがそこまで口にしたところで何かに気が付いて、それに続いて私とアルゴさんも気が付いたのでそれぞれ小声で呟いた

 

あっ…そっか…

確かにシステム上いけますね…

オレっちとしたことが… この可能性を考えてなかったヨ…

 

それを聞いたネズハさんとポテトさん、ておさんもハッとした顔になったがネズハさんは直ぐに微笑を浮かべ、いつもより小さい声で言った

 

「大丈夫ですよ 心を一つにして戦った仲間ですもん しっかり申告してくれますよ」

「ここにキリトさんの考えているような人はいないと思いますよ」

「…あぁ そうだな」

 

キリトさんはそう答えると振り向いて意を決したようにシヴァタさん達の方へと歩き始めた

 

キリトさんが近づいたところでシヴァタさんはようやくリーテンさんを降ろして振り向いてニヤリと笑うと「やったな! キリト!」と声をかけ右手を持ち上げたのでキリトさんも笑顔を浮かべ、勢い良くハイタッチした

 

その音で他のメンバーの人達も集まってきたのでキリトさんは全員の顔を見ながら話し始める

 

「まずはお疲れ様…それとありがとう みんなのおかげでボスを倒すことが出来た 色々予想外な展開…というかぶっつけ本番になっちゃったけど、間違いなく今までで最強のボス相手に全員最高の戦いをしてくれたと思う」

 

そこでキリトさんは一旦口を閉じるとハフナーさんが両手を腰に当てながら意外とも思えることを口にした

 

「俺がこんなこと言っちゃうと立場的に不味いんだけど…ギミック満載のあのボスを犠牲ゼロで倒せたのは24人というフルレイドの半分のパーティだったからっていうのもちょっとはあるかもな もしこれがフルレイド48人だったら全員が床のラインを避け続けるのは無理だったと思う」

 

そこで自分の言葉で何かに気づいたのかオコタンさんに視線を向けた

 

「あー オコさん もしかしてALSが主力だけでボス討伐を計画したのって攻略法を掴んでいたからなのか?」

 

ハフナーさんの質問にオコタンさんは持ち上げた両手を水平に動かしながら答えた

 

「いえいえ 本当に偶然だと思いますよ それに…これはオフレコでお願いしますけどALSの主力だけでは犠牲ゼロでのボスの討伐は難しかったと思いますうちはビルドの指示とかはしないのでしんどいわりに経験値効率が良くない純粋なタンクが古参メンバーにはいないんですよ…」

「確かに純粋なタンクがいないと今回のボス戦は犠牲ゼロでは済まないね…その純粋なタンクの俺が言うのもあれだけど」

「性格は純粋とは程遠いけどな」

何をぉ!?

 

それにじんじんさんはオコタンさんに同意するように言うとキャラメレさんが茶々を入れたのでじんじんさんはキャラメレさんに向かって大声を出した

 

2人が言い争ってる様が面白かったのかエギルさん達は声を出して笑っていた

 

 

話がひと段落着いたところでシヴァタさんはウィンドウを開いて軽く頷くとキリトさんを見る

 

「もう8時半か そろそろそのALSの主力が追いついてくる頃かもしれないな キリト ここからどうやって戻るのかは考えているのか?」

 

不意に訪ねられたキリトさんは慌てた様子で答えた

 

「あ…あぁ うん このまま迷宮区を降りて戻るとALSと鉢合わせする可能性が高いからそこの階段を上って第6層の主街区に行って そこの転移門から<カルルイン>に戻ろうと思う それに…折角ボスを倒したんだ 誰よりも早く第6層を見たいだろ?」

「それもそうだな! 俺、わくわくしてきたぞ!」

 

ハフナーさんのハイテンションに再び笑いが広がりかけたがキリトさんが右手を挙げて静止させる

 

「さっきシヴァタが言った通りあまり時間が無いから急いで第6層に上りたいところだけど…その前に1つ済ませなきゃいけないことがある」

 

キリトさんが真剣な表情でそう言うとレイドメンバーにも真剣さが戻る

 

キリトさんは手ぶりで私達を呼んだので私達もキリトさんの所へと向かう

 

そして私達の顔を順番に見ると言った

 

「―――この作戦の本来の目的…ギルドフラッグがドロップした人は、今申告してほしい」

「おお そういえばそういう目的だったな すっかり忘れてたぜ」

 

エギルさんは自身のスキンヘッドを一撫ですると違うと言わんばかりに両手を広げた

 

エギルさんのお仲間さん達も肩をすくめたり小さくかぶりを振り、ALSの2人とDKBの2人も同じように反応する

 

それに続いてめらさんたちも首を横に振ったり肩をすくめたりしていたが一人だけ違う反応を示した

 

「それらしいものだったら私にドロップした」

「本当か!?」

 

キリトさんの驚きの声を横目にリオンさんはウィンドウを操作して一つのアイテムをオブジェクト化した

 

光の粒子を散らしながら現れたのは全長が3メートルぐらいありそうな長槍だった 上部には純白の三角旗(バナー)が取り付けられていて鏡のように磨き上げられた柄にゆるく巻き付けられている

 

それを見た誰かが「おぉ…」という嘆声をもらす

 

私も久々に見るが穂先や石突、柄の装飾やバナーの優雅な縁取り、布地の質感、そして何より存在そのものが今までのアイテムとは一線を画す

 

それを地面に突き立てたリオンさんはフラッグの説明を始めた

 

「このギルドフラッグ…正式名称は〖フラッグ・オブ・ヴァラー〗、これは事前情報の通りステータス効果は最弱だが旗をこのように突き立てている間は半径15メートル以内のこの旗に登録したギルドと同じギルドのメンバーに強力なバフを付与する 旗にギルドを登録する場合はプロパティの下部にある認証ボタンをギルドリーダーの資格を持つ者が押せば良い…が一度登録すると二度と変更不能になる」

 

リオンさんの〖フラッグ・オブ・ヴァラー〗の説明にほぼ全員頷く

 

「前置きはこれぐらいにして… 問題はこれを誰が持つかだ そもそもこの作戦の本来の目的がALSがこれを入手するのを阻止するという名目だ よってALSがこれを持ち帰るわけにはいかない DKBも然り 中立のギルドが持つというのも一つの手だが何かの拍子にギルド名を登録してしまう可能性も捨てきれない… そうなれば目も当てられないような結果が待っているだろうな…」

「となるト…一番安全なのはソロプレイヤーのストレージダナ オイラが預かってもいいんだケド 立場上これ以上に敵を作るのは好ましくないんだよナ… どうしたものカ…」

 

リオンさんとアルゴさんが悩んでいるとハフナーさんが意見を出した

 

「こいつに預ければいいんじゃないのか?」

 

ハフナーさんがそう言いながらキリトさんに親指を指すとキリトさんは驚いた表情をしていた

 

「えっ!?」

「それもそうだな ギルドに属してないしこの役目に一番適任じゃないか?」

「存在自体が激ヤバなアイテムだからナ~ 悪いけどキー坊 頼めるカ?」

「解ったよ…但し預かるだけだからな」

 

それに続いてエギルさんとアルゴさんもハフナーさんのアイデアに同意するとキリトさんは渋々了承した

 

「…正直に言うと私は反対だが他に代案も思いつかない…解った ここはキリトに預けよう …しかしこれだけは呑んでくれるか?」

「なんだ?」

「私とフレンド登録をしてほしい …別に他意はない フレンド登録すればフレンドメッセージで違う層にいてもメッセージを送れるだろう?」

「成程な… リオンの言いたいことは解ったよ 先に登録するからその後にそれを渡してくれ」

 

そしてキリトさんはウィンドウを操作してリオンさんとフレンド交換を済ませるとリオンさんから〖フラッグ・オブ・ヴァラー〗を受け取った

 

「もうそろそろ行かないとやばいんじゃないか?」

「それもそうだな」

 

キリトさんが旗を受け取ったところでシヴァタさんが時計を見ながら言って意識さんはそれに同意すると螺旋階段へと向かって行った

 

それに続くように私達も螺旋階段を上ったがキリトさんは登ってこなかったので広間にいるキリトさんに向かって声をかける

 

「キリトさん行かないんですか?」

「直ぐに追いかけるから先に行っててくれ!」

 

キリトさんにそう返されたので私達はそのまま螺旋階段を上っていった




後第5層編は1話ぐらいかな…?

それではまた次回に


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20話:作戦最後の仕事

今回で第5層編は完結です!

ここまでご覧いただき本当にありがとうございます!

それではどうぞ


私とアスナとておさんは今、螺旋階段を下っている

 

何故かって? まぁアスナが「ちょっとキリト君を迎えに行ってくる」っていったのでそのついでっていうところかな…?

 

肝心の本人はオコタンさんのプレイヤーネームの由来と私がなぜたみと呼ばれているのかをキリトさんに教えに行くために下りていると言ってるけどね

 

ぶっちゃけ私もキリトさんのことは心配だったし…そのまま私達と一緒に来てもALSは訳が分からないという状態の為説明してくれる人が最低1人は必要だろう それも中立の人物が

 

そして広間に戻ると予想通りキリトさんがいて、そのキリトさんも私達に気が付いたのか立ち上がりながらこちらに体を向けた

 

「…どうしたんだ? 第6層に行かなかったのか?」

 

キリトさんの質問にアスナは肩をすくめ、キリトさんに歩み寄りながら話しかけた

 

「階段を上ってる途中で面白い話を聞いたからキリト君にも教えてあげようと思って」

「へ…? どんな話…?」

 

アスナはキリトさんの隣まで行くと人差し指を立てる

 

「オコタンさんのプレイヤーネームの由来 何だと思う?」

「え? そりゃぁ確かに気になるけど…あまり怒りっぽいっていう感じの人でもなさそうだし… なんだろ…炬燵が好きだから?」

「ぶぶー」

 

アスナは両手の人差し指をクロスさせて不正解を示すとにんまりと笑って言った

 

「北海道の支笏湖に注いでる川の名前なんだって その近くの出身らしくて思い出の場所みたいよ」

「へ…へぇ… そっか確かにコタンってアイヌ語っぽいもんな…」

 

アスナの答えを聞いたキリトさんは納得したように頷いた

 

「それともう一つ! タコミカが何でポテトさん達からはたみって呼ばれているか分かる? キリト君」

「あー… そういえば考えたことなかったな…もしかして略称…?」

 

キリトさんは顎に手を当てるがさほど真剣には考えずに答えるとアスナは人差し指を頬にあて、答えた

 

「ん~… 半分正解半分外れってとこね」

「どういうことだ?」

 

キリトさんはアスナの方を見るとアスナは私の方を見ながら答える

 

「前のゲームで使ってたプレイヤーネームがたみだったんだって それでたみって方の呼び名がポテトさん達に定着したらしいの でもタコミカ自身は略称で考えてたらしくて」

「成程な… それでポテト達はその呼び方で呼んでるのか… それでその2つを教えるために戻ってきたんじゃないよな?」

「そんなわけないでしょ」

 

キリトさんが念のために私達が戻ってきた理由を訊ねるとアスナはさっき自分が言ったことを否定して口を閉じた

 

「…キリト君は1人でALSの攻略隊の人達に説明するために残ったんでしょ?」

 

アスナがそう聞くとキリトさんは首を微妙な角度に曲げながら言った

 

「いや…そうともいえるような…いえないような…」

「どうせ主街区に戻っても暇だから付き合ってあげるわよ」

「え…」

 

アスナがあっさり答えるとキリトさんは困惑したような表情でこちらを見た

 

「タコミカ達も同じか?」

「そうですね~ フラッグのことについては必ず説明が必要だと思いますし」

「それに俺らはあまり敵対されてないはずだからそれほど険悪にならずに話が進むと思うぞ?」

 

私達の答えを聞いたキリトさんは諦めたように溜息をつくと私達に向けていった

 

「ありがとな3人共… でもあまり挑発するのは無しでお願いします」

「解ってるわよ…それぐらい」

 

キリトさんが私達に感謝と要望を伝えるとアスナは小声で答えた

 

 

そこから私達は壁際によると他愛もない話をしつつ待っていると床の下り階段から数人の足音が聞こえてきたため私達は部屋の中央へと移動した

 

その直後に広間に三人のALSの人達が入ってきたと同時に三角のフォーメーションを組んで入ってきたのでキリトさんは声をかけた

 

「おつかれ」

 

するとその3人は驚いた顔で揃ってキリトさんの方を見ると先頭の人が剣を下ろしながらやや裏返った声を出す

 

「ブ…ブラッキー!? なぜここに…!? というかボスは!?」

「あー すまん 倒した」

 

しばらくその3人は黙っていたが先頭の人がため息をつきながら首を横に振り、後ろの2人のうちの1人が達観したような口調で呟いた

 

「なんとなくそんな気がしたんだよな 俺…」

 

~~~~~~

 

その3人の人達にキバオウさん達を呼びに行ってもらい、私達とキバオウさんを含む総勢24人のALSの人達は下り階段を挟んで向かい合った

 

キバオウさんは胸の前で両腕を組み瞼と口を閉じて沈黙しているが後ろのALSの人達は後ろで何かひそひそと言っている

 

そんな中、キリトさんはアスナに囁いた

 

「なぁ あの中でキバオウ以外に名前わかるやつっているか?」

「えーっと… キバオウさんの右隣にいる三又槍の人が北海いくらさん、左にいる曲刀の人がメロンマスクさん、その左のショートスピアの人が…シンケンシュペックさんだったかな…」

「3人共食べ物の名前じゃなくてよかったよ…」

「同感… ただでさえ腹減ってんのに…」

 

2人の気持ちは分からなくもない…途中でロールケーキを食べたとはいえ流石にお腹が空いた…

 

でも確かシンケンシュペックって…ハムの事だったよね?

 

「確かシンケンシュペックってハムの事じゃなかったっけ…?」

「そうね 正確に言えばオーストラリアのスモークハムのことね スパイスが効いてておいしいわよ」

「…帰ったら速攻飯にしようぜ」

 

キリトさんの提案に私達が乗るより先に

 

「―――何はともあれ!」

 

キバオウさんがカッっと両目を見開いて腕組みをしたまま叫んだ

 

「ボスを倒したんは紛れもない事実や それに関してはお疲れさんと言っとくわ ただ幾つか説明してもらわんとワイらも納得して帰れへんぞ!」

「解ってる これから出来る限り説明するつもりだ」

 

キリトさんの言葉を聞いたキバオウさんは右手を伸ばすと勢いよく人差し指を立てた

 

「まず1つ目! まさかあんたらだけでボスを倒したわけやないやろ メンバーはどこから集めたんや?」

「悪い それは言えない」

 

キリトさんがそう答えるとキバオウさんの眉毛が一瞬震えたような気がしたが気を取り直して2本目の指を立てる

 

「2つ目! ワシらがここに来る直前にボスを倒したんはどう考えても偶然じゃないやろ 情報はどこから仕入れたんや?」

「すまん それも言えない」

 

またしてもキバオウさんの眉が震えたような気がするし後ろのALSの人達は半分ぐらいは憤っている しかしもう半分は呆れや諦めの表情をしている

 

憤っている人たちの中から「真面目に答えろ!」という言葉が出てきたがキバオウさんは左手を上げて黙らせると3本目の指を立てた

 

「今までの質問ははっきり言えばできれば回答が欲しいっていう程度やったけどこれだけは絶対に答えてもらうで …フロアボスからギルドフラッグっちゅうアイテムがドロップしたはずや それはどうした?」

 

その質問にキリトさんは黙ったが少しすると頷いた

 

「あぁ ドロップしたよ」

 

キリトさんが答えるとALSの人達は大きくどよめき、それを横目にキリトさんはウィンドウを操作して〖フラッグ・オブ・ヴァラー〗を取り出すと先ほどリオンさんがやったように地面に突き立て、説明する

 

「これがギルドフラッグだ 効果は事前に知ってるとは思うけどこうやって立てている間は半径15メートルのギルドメンバーに4種類のバフがかかる ボス戦に有効なアイテムに間違いはないけど一度ギルド名を登録したらもう二度と変更はできない」

 

キリトさんが簡単に説明を終えるとALSの人達はまたしてもどよめく 中には旗の所にALSのマークがあるのを想像しているであろう人もいたが、キバオウさんはフンと鼻を鳴らすと本題に切り込んできた

 

「流石は天下のビーター様やな しっかりゲットしたっちゅう訳か それで…ギルドにそっぽ向いとるあんたがそれをどうするつもりや?」

 

キリトさんは大きく息を吸い、ギルドフラッグを持ち上げると〔カアァァン!〕と音高く地面に再び突き立てる

 

「このフラッグをキバオウさん あんたに委ねるつもりがないわけじゃない しかしそれには条件が2つある」

「なんや ゆうてみい」

「2つと言っても片方がクリアされれば渡すつもりだ まず1つ目が今後倒されるボスからこれと同じアイテムがドロップした場合 その時は一つをALSの もう一つをDKBの所有とし、持っていないほうのギルドにこれを譲渡する」

 

キリトさんが1つ目の条件を提示すると後方から「そんなのいつになるんだよ」や「それまでの時間が無駄だろ」と言ったような声が聞こえてきたがキバオウさんは無言で頷いてキリトさんに続きを促す

 

「2つ目はALSとDKBが合併して新ギルドが発足した時だ その時はこれを無条件で即座に譲渡する」

 

キリトさんが2つ目の条件を言うと重苦しい静寂が続いたが数秒後、怒りが爆発したようにALSの人達が叫ぶ

 

「出来るわけねぇだろ! そんなの!」

「あいつらにも言ってみろよ! 頭おかしいんじゃねぇかって言われるぞ!」

「あんなエリート面したやつらと合併なんて冗談じゃねぇ!」

 

20人程度の人達の怒りをキリトさんは受け止めていたが一際甲高い絶叫が喧騒を貫いた

 

「俺…オレ 知ってるぜ! そいつらはなっからフラッグを渡す気なんてねぇんだ! 無理難題をふっかけてフラッグをそのままパクって自分たちのギルドを作るつもりなんだ!」

 

私は…いや、私達はその声に聞き覚えがあった

 

第1層のボス戦後の時は私達のことを元βテスターだと暴露し、第2層のボス戦後の時は強化詐欺で死者が出たと出鱈目を言い、第3層の時にはアルゴさんに糾弾してた

 

人垣を割って出てきたのは確かダガー使いのジョーだった 第2層でリオンさんに逆に糾弾されたからか頭には目と口の部分に穴が開いた布袋を被っていたが

 

ジョーは鉤爪のように曲げた人差し指を私達に向けると続ける

 

「こいつらの言うことなんて聞く必要ねーっすよ キバさん! こいつら4人しかいねーんだ! フラッグを取り返す方法なんて幾らでもありますよ!」

 

ジョーがそう言うとキバオウさんはどすの効いた低い声で口を開いた

 

「それは力ずくっちゅう意味か ジョー」

「その通りっすよ! こっちは4パーティもいるんだ たった4人ぐらいどうとでも…「このドアホウ!」」

 

キバオウさんは一喝するとジョーの胸ぐらを掴んで頭突きをするような勢いで怒鳴る

 

「確かにジブンが持ってきたフラッグの情報は正確やった けどな なんぼ重要なアイテムやからと言ってそれを手に入れるために同じプレイヤーに武器を向けたら、ワシらはただの犯罪者集団や! 何のためにALSが存在しとるんかもっぺんよく考えェ!

 

キバオウさんはそうジョーを怒鳴るとドスンと音を立てて突き放し、キリトさんの方に向き直るとしかめっ面ながらも小さく頭を下げた

 

「つまらん話聞かせてすまんかったな さっきの条件やけど…DKBに対しても同じと考えてええんやな?」

「あぁ… もちろんだ」

「なら 一先ずフラッグはあんたに預けとくわ 正直、合併は望み薄いけどな」

 

キバオウさんの宣言に他のメンバーも大なり小なり納得したように黙り、ジョーもこちらを一睨みしてから隊列に戻っていった

 

再び腕を組んだキバオウさんは胸を反らせ

 

「ほな帰るわ! お疲れさん!」

 

律儀に挨拶をすると下り階段に足を向けたがキリトさんが慌てて止める

 

「第6層主街区の転移門、もうアクティベートされてるはずだから<カルルイン>に戻るつもりならそっちの方が早いぞ」

「ほうか」

 

キリトさんの言葉を聞いたキバオウさんはUターンすると上りの螺旋階段へと向かって行き、その後にALSの人達も螺旋階段を上っていった

 

そして足音が聞こえなくなるとキリトさんは緊張の糸が切れたように大きく息を吐いた

 

「は~… 取り敢えず考えた中では一番ましな結果になったな… 後でDKBにも話を通さなきゃだけど」

 

そこで私はアスナの雰囲気が暗いことに気が付いたのでておさんを連れてこの場を後にすることにした

 

「そうですね~ じゃぁ私達は帰りますね」

「え? もう少し休んでからでも…」

「ポテトさんにカウントダウン・パーティの準備手伝ってって言われてますし早く戻らないとじゃないですか」

「そんなこと言われてたっけ?」

「ほらほら 帰りますよ~」

「えっちょ!?」

 

私はておさんの腕を引っ張って螺旋階段へと向かっていく

 

途中で振り返ると挨拶をした

 

「では2人共 お疲れ様でした~ よいお年を!」

「あぁ お疲れ!」

「タコミカとテオ君もお疲れ様」

 

そのまま螺旋階段を上がっていき私達は広間を後にした

 

 

~~~~~~

 

 

第6層主街区の<スタキオン>へと向かった私達は直ぐに転移門を使って<カルルイン>へと戻るとポテトさん達と合流し、リーテンさん達と共にパーティの準備へと取り掛かる

 

準備を終え、リーテンさん達パーティの実行委員会からお礼として転移門からほど近いがそこまで人通りのない場所へと案内してくれた

 

そしてこちらの準備も終え、私達[フリッツ・フリット]は沢山の食事の置かれたテーブルを取り囲むと食事をしながら転移門方向を見る

 

じゅーう! きゅーう! はーち! なーな! ろーく!

 

<カルルイン>の街は千人を超えそうな人たちのコールに溢れていた

 

ごー! よーん! さーん!

 

特に打ち合わせとかはないけど声は自然とピッタリ揃っている

 

にー! いーち!

 

その時転移門の方から何本かの光の筋が上空目掛けて上がっていき…

 

ゼロ!

 

という声と共に空には大量の花火が開いた

 

それと同時に私達は持っていたグラスを景気のいい音を鳴らしながら打ち付け

 

あけましておめでとう!

 

声を揃え、中身を飲んだ

 

「いや~ 皆さん! 改めてあけましておめでとうごさいます! こうして皆さん無事で年を越せたこと! 本当に嬉しいと思います!」

 

そして一呼吸置くとポテトさんが祝辞を述べる

 

「そうですね…改めて2022年は凄く濃い年でしたね… 主に11月からですけれど」

 

私がそれに続いてそう言うとほぼ全員頷く そしてやる気君が呟くように言った

 

「確かに凄かったよね… 色々と」

 

このSAOが始まってから早いもので約2ヵ月経った まだまだ先は遠いけど確かに一歩ずつ前に進んでいるような気はする しかし私達は今ここで確実に生きている

 

私がぼんやりと転移門の方を眺めているとこれまでで最大の数の光の筋が上空へと上がっていき、衝撃音が響いて花火が夜空を埋め尽くした

 

街中から再び歓声が響き、それが落ち着くとポテトさんが〔パン!〕と手を叩く

 

「さて! 話もこれぐらいにして皆さん! 食べましょう!」

「そうだな 今日ぐらいは騒ごう!」

 

リオンさんも羽目を外したように言うと私達は食事を再開した




これにてプログレッシブ編は一旦終了となります

次回からはいよいよ時系列順…と行きたいですがその前に閑話を2話程度挟みたいと思います

それではまた次回に


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プログレッシブ編 閑話
プログレッシブ編の装備一覧


今回はUAが5000を超えたということでプログレッシブ編での装備を書いておきます
(随時更新していきます)

オリジナル防具や武器多めですが良ければどうぞ




タコミカの装備一覧

 

武器

グラス・ブレード(第1層~第3層黒エルフの野営地まで)→フォレスト・ブレイド(第3層黒エルフの野営地~)

 

防具

パンプキンのチュニック

革の胸当て

マラカイトグリーンのスカート

檜皮色のブーツ

 

装飾品

リーフケープ(深緑色のフード付きのショートケープ)

ネフィラレッグ(鈍い紫色でもこもこしたアームカバー)

月の髪留め(月の形の銀細工が付いた髪留め)

 

 

テオロングの装備一覧

 

武器

アニールブレード(第1層~第5層序盤まで)→ストーンアイアンブレード(第5層序盤~)

 

防具

藍色のシャツ

灰色のズボン

鉄黒のシューズ

 

装飾品

黒色の革製の手袋(指抜きのグローブみたいな形)

 

ポテトの装備一覧

 

武器

ルイン・スピア(第1層~第3層ボス戦前まで)→フォッシル・スピア(第3層ボス戦前~)

 

防具

パーチメントのシャツ

鉄の胸当て

鈍色のズボン(群青色の線の装飾付き)

アイボリーブラックのシューズ

 

めらおりんの装備一覧

 

武器

リーフ・スピア(第1層~第4層前半まで)→ハンディング・スピア(第4層前半~)

 

防具

練色のシャツ

深川鼠のズボン

 

ひまねこの装備一覧

 

武器

アニールブレード(第1層~第3層前半まで)→ウィローソード(第3層前半~)

 

防具

ヘキサゴン・シールド(第1層~第3層前半まで)→トーレットガード(第3層前半~)

オレンジのシャツ

鉄の胸当て

濃藍のズボン

鉛色のシューズ

 

きるやんの装備一覧

 

武器

コボルド・バックラー(第1層~第2層中盤まで)→カウ・ガーダー(第2層中盤~第3層ボス戦前まで)→フォッシル・シールド(第3層ボス戦前~)

 

防具

マラカイトグリーンのシャツ

墨色のズボン

グラスグリーンのシューズ

 

装飾品

緑色のバンダナ(お店で見つけたものを少しアレンジしている)

 

意識の装備一覧

 

武器

ラッチ・ダガー(第1層~第3層前半まで)→スプルース・ダガー(第3層前半~)

 

防具

黒色のシャツ

鉄の胸当て

紫紺のズボン

マルベリーのシューズ

 

装飾品

紫色のベスト

 

朱猫の装備一覧

 

武器

ワスプ・ダガー(第1層~第2層後半まで)→サークル・ダガー(第2層後半~第5層序盤まで)→〖リメインダガー〗(第5層序盤~)

 

防具

ネイビーブルーのシャツ

漆黒のズボン

金茶のブーツ

 

装飾品

瑠璃色のベスト(フローターサンダルを使う際は脱いでいる)

 

リオンの装備一覧

 

武器

アニールブレード(第1層~)

 

防具

ガーネットのシャツ

黒色のズボン

ノワールのシューズ

 

装飾品

コートオブカージナル(カージナルレッドのコート)

 

キャラメレの装備一覧

 

武器

ヴァイン・ウィップ(第3層~)

 

防具

ベニゴアのシャツ

キャラメルのズボン

赤銅色のシューズ

 

 

たまぶくろの装備一覧

 

武器

ウィドーブレード(第4層~)

 

防具

オレンジ色のシャツ

灰色のズボン

オリーブのシューズ

 

 

じんじんの装備一覧

 

武器

ロバー・メイス(第5層~)

 

防具

スクエアシールド(第5層~)

アイロン・アーマー(第5層~)




次回から5層編に入りますが少し投稿頻度が落ちます

それではまた次回に


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☆仕事の手伝いとフローターサンダル

この話の時系列は4層編9話~11話ぐらいまでの間の話です

それではどうぞ


SIDE:朱猫

 

 

 

この第4層が解放された次の日、私は転移門広場にあるベンチに座るといつも通り意識とどこに行こうかという相談をしていた

 

「意識 今日はどこ行く?」

「そうだな… 今日は狩りかクエストか…」

 

意識は徐々に声を小さくしながら顎に手を当てると考え込む

 

 

しばらくするとどっちにするのか決めたのか「よし」と呟くとこちらに向いた

 

「狩りにしよう」

「了解 今から出る?」

 

私が聞きなおすと意識は今の時刻の確認のためウィンドウを開き、頷く

 

「今が11時36分だから 昼食食べたら行こうか」

「じゃぁ商業区に行かないとだけど…」

 

そう言いながらゴンドラ乗り場の方に眼を向けると今はお昼時より少し時間は早いけどそれでも多くの人が並んでいる

 

「うわぁ… どうする…?」

「どうするって言われてもなぁ… 並ぶしかないだろ」

 

私がため息をつきながら立とうとすると意識ではない誰かが私の頬を指で突いたのでそちらを見てみると「ニヤリ」とまるで悪戯成功と言わんばかりに笑っているアルゴの姿があった

 

「アルゴ? 何でここに?」

「ホントに偶然だヨ 丁度お昼時だし何にしようかと考えてる時にいし坊とシュネっちの姿が見えたからちょっと声を掛けようと思ってナ」

「へ~」

 

意識がアルゴに返すとアルゴはゴンドラ乗り場の方に眼を向け、その後私達の方を向く

 

「成程ナ 昼食食べるために並ぶのが億劫なのカ」

「億劫って程じゃないけど…時間取られるな~って」

 

アルゴの言葉に私はそう返すとアルゴは軽く何回か頷くと意外なことを言った

 

「オイラの知ってる店でよかったら紹介しよっカ?」

「「えっ!?」」

 

どうでもいいけど声揃ったな…

 

ふと我に返った意識は怪しむような視線をアルゴに向ける

 

「アルゴの事だからタダっていう訳じゃないよな…?」

「ニャハハ! やっぱりいし坊はそうでなくちゃナ~ じゃぁ案内するから着いて来てくレ」

 

そう言われて私達は(意識は渋々)アルゴの後に着いて行った

 

~~~~~~

 

着いた場所は現実で言うところの純喫茶のようにお洒落なお店だが入り組んだところにあるので私たち以外に人はまばらで私達は空いていたテーブル席で食べることにした

 

第4層は水が多いということもあって魚料理が多い、勿論このお店も例外ではなくメニューに書いてある数ある魚料理の中から私はアクアパッツァを頼み、意識はムニエルをアルゴはトマトと白身魚っぽいもののスープを注文していた

 

 

そして注文したものが来たので私達は食べ進めながらアルゴの要求を聞くことにした

 

「それで…何をしてほしいんだ?」

「簡単に言えば調査だナ」

「調査?」

 

アルゴが言ったことを思わずオウム返しする

 

「詳しく言えばこの街周辺のエネミーの調査だナ 姿形、大きさ、強さ、ドロップ品等々…」

「多いな… でももうやるしかないんだろ?」

「ニシシ そういうことダ 話が早くて助かるヨ」

 

アルゴから詳しいことを聞き、食事を食べ終わると会計を済ませると早速フィールドへと向かった

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

そして3時間ぐらいかけて6種類のエネミーの調査を終えた

 

「お疲レ いやぁホント助かったヨ~」

「疲れた…」

 

意識の言う通り結構疲れた…

 

「一先ずこれで終わり? アルゴ」

「終わりだヨ ありがとナ」

 

アルゴは私達に対してお礼を言いながらウィンドウを操作していると、急に「そうだったそうだっタ すっかり忘れるところだっタ」と言ってウィンドウを閉じると私達の方(正確には私の方)を向いた

 

「折角手伝ってくれたのにお礼をしてなかったヨ」

「え? あのレストランを紹介してもらってその見返りが調査の手伝いじゃなかったっけ?」

「まぁナ でもそれじゃぁちょっと不平等ダロ?」

「俺的には別に不平等には感じてなかったけどなぁ…」

「オネーサンの好意は素直に受け取っとくべきだゾ」

 

アルゴは「ニシシ」と笑いながら言うと私に羊皮紙のスクロールを投げ渡してきたのでタップして開いてみると第4層主街区の地図が描かれていたが一か所にバツ印が付けられている

 

「これは…?」

「シュネっちのステータスだったら扱えると思うヨ」

「何のこと?」

「それは行ってみてからのお楽しみということデ」

 

私達が首を傾げているとアルゴは「じゃぁナ~」と言うと手を振り、去っていった…

 

風邪のように去っていったアルゴをしばらく眺めていたがそのままでいても仕方ないので取り敢えずバツ印の所へと向かってみることにした

 

 

~~~~~~

 

 

ついた場所は水の都である<ロービア>には珍しい行燈が置かれているお店だった

 

「行燈…?」

「どういうことだろ?」

 

この層では風変わりなお店の前で私達はしばらく顔を見合わせていたが埒が明かないと思ったので私は扉に近づくと扉を開ける

 

 

中はこれまた和風っぽい感じの武具屋で様々な武器やらが壁に掛けられている

 

私達はお店の中に入ると店内を物色し始めた

 

 

しばらく物色しているとある一つの商品が目についた

 

それはまるで忍者が使う水蜘蛛のようなサンダルで名前は〖フローターサンダル〗というらしい

 

タップして値段を見てみると結構いい値段だった…

 

恐らくアルゴの言ってたものはこれのことだろう

 

「アルゴが言ってたのってこれの事かな?」

「恐らくな 買えなくはない値段してるな…」

 

 

しばらく迷ったが結局一つだけ買うことにした

 

 

そして店の外に出ると早速ウィンドウを操作してプロパティを開くと意識にも見えるよう可視モードにした

 

「えーっと 何々…? やっぱりこれ装備すると水の上を歩けるのか 要求AGIが…うっわほんとにギリギリだ…」

 

要求AGIを見てみるとほんとに私のステータスギリギリだったがそれ以上に受けられる恩恵が大きい 特にこの第4層では

 

「俺は装備できないけど水の上を歩けるっていうのは大きいな」

「だよね これからも水が多い層はあるだろうし そう考えると安かったかも」

 

しばらく〖フローターサンダル〗のプロパティを見ていると少し試してみたくなってきた

 

そんな私の表情を読み取ったのか意識が言った

 

「どこか人目が付かないとこで試してみるか?」

「そうしよっか」

 

私は意識の提案に頷くと街の人通りが少ないとこかつ水路のある所へと向かった

 

~~~~~~

 

周囲にゴンドラが通ってないことを確認すると早速〖フローターサンダル〗を装備して念のためベストを装備解除し、ゆっくりと水路へと降りた

 

しばらくはローラースケートの練習の時のように壁を伝って歩いていたけど少しすると壁伝いじゃなくても水の上を歩けるようになった

 

 

思っていたよりも楽しいやこれ

 

私が水の上を走って楽しんでいると私が水路に降りたところに腰かけている意識が声をかけてきた

 

「どんな感じだ?」

「すっごく楽しい!」

 

それに対して私は語彙力が低下した返事を返すと意識は少しだけ苦笑いする

 

 

そこからまた水の上を走って楽しんでいたが辺りが夕暮れになってきていたのに気が付いて陸地へと戻った

 

「あー 楽しかった~」

「そっか」

 

私の感想に意識はあまり興味無さそうに答える

 

「意識暇だったでしょ?」

「そりゃぁね 途中でお使い系のクエスト受けようと思ったぐらいだからな…」

 

私が楽しんでいる間暇だったかと聞くと意識は素直に答えた

 

「暇させたのは悪かったよ その代わりと言っては何だけど今日どこで夕食にするかは意識が決めていいから」

「そうか? じゃぁ…」

 

意識が歩きながらどこにしようかと悩んでいる様を横目に私は歩き始めた




アルゴのオリキャラ勢の呼び方

タコミカ→ターちゃん
テオロング→テオ坊
ポテト→ポテト
ひま猫→ひー坊
メラオリン→メラ坊
きるやん→きる坊
意識→いし坊
朱猫→シュネっち
リオン→リオン
キャラメレ→キャラメレ
たまぶくろ→たま坊
じんじん→じん坊

それではまた次回に


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☆盾の剣士と南瓜

この話は最前線が第11層のお話になります

それではどうぞ~


SIDE:きるやん

 

 

僕は今第2層の主街区である<ウルバス>へと戻ってきていた

 

何故かというとひま猫さんに第2層の{南瓜荒野}という場所に生っているザクロっぽい実を数個ほど取ってきてほしいと頼まれたからである(勿論ひま猫さんから料理を作ってもらうという交渉)

 

因みに{南瓜荒野}は西の平原を抜けた先にある荒れ地エリアのわずかな場所にあるらしい(特に何かレアアイテムを落とすモンスターもいないのでよく見落とされるとのこと)

 

主街区を足早に抜け、地図を確認する

 

「えーっと… ここを曲がって…? 荒れ地エリアを左側に行けばいいのかな…?」

 

ひま猫さんからもらった地図と現在位置を照らし合わせながら一先ず荒れ地エリアへと進む

 

~~~~~~

 

道中では勿論モンスターが出てくるが今更相手ではなく1~2回盾もしくは体術で攻撃するだけで倒せる

 

そうして何回か戦闘しながら走っていると巨大な南瓜が見えてきた

 

「あそこかな?」

 

辿り着いた場所は3~5メートルはありそうな巨大な南瓜と通常サイズの南瓜が大量にあり、枯れ樹も所々にある場所だった

 

先程のようにひま猫さんからもらった地図と現在位置を照らし合わせるとほぼほぼ一致した

 

「ここで合ってるみたい」

 

そう呟くと早速ザクロっぽい実を探すことに決めた

 

その中で目的のものを探していると{南瓜荒野}の中で一番高い樹に目的のザクロっぽい実が複数個生っているのが見えたがかなり高い所に生ってる…

 

そのため樹の近くにある巨大な南瓜に登って実を取る

 

どうやら名前は〖クナット・フルーツ〗というらしい

 

一先ず〖クナット・フルーツ〗3個は普通に取れたのでストレージにしまい、4個目も回収しようと手を伸ばして掴んだが直後にバランスを崩して巨大南瓜から落ちてしまった

 

「わわっ!?」

 

それによって少しだけHPバーが減ってしまい、持っていた実も手放してしまったが幸いというかその実は消滅せずに数メートルほど離れたところに落ちていた

 

「良かった…」

 

僕はそれを回収しようと近くに向かい拾い上げようとするがその前に別の何かが〖クナット・フルーツ〗を拾った

 

それは丁度ジャック・オー・ランタンのようにくりぬかれた南瓜を被っており緑色の右手にはショートスピアを持っている一頭身のエネミーだった

 

恐らくここでのみ湧くタイプのエネミーだろう

 

カーソルは敵を示す赤色で名前は【パンプキン・スピアソルジャー】と書いてあった

 

そいつは特に僕に対して攻撃するわけでもなくただただじっと拾った〖クナット・フルーツ〗を見つめている

 

珍しいなと思いつつその様子を見ているとなんとそいつは持っていた〖クナット・フルーツ〗を食べた

 

「えっ!? ちょっと!?」

 

突然の行動に僕は声を上げるがそんな声などお構いなしにそいつは実を完食した…

 

 

それに対して呆れ半分で視線を向け、残りの実をどうやって取ろうかと考えていると僕の耳にウィンドウが開いた音が鳴ったのでウィンドウに目を向けると〘パンプキン・スピアソルジャー をテイムしました 名前を入力してください〙と書かれてた…

 

 

一瞬意味が解らなかったがこれは一時期有名になったテイムイベントだということを理解し素っ頓狂声を上げた

 

嘘ぉおお!?

 

かなり大きい声だったがそれによってモンスターが寄ってくるということはなかった(もしそうなっても第2層に出てくるモンスターだったら問題ないけど…)

 

 

といってもこのままだと何も進展しないので取り敢えず名前を考える

 

「名前何がいいだろ… パプキン…は…そのまますぎるか… パズ…やめておこっと…」

 

 

色々と考えているうちにある一つの名前が思い浮かんだ

 

確か南瓜ってラテン語でククルビタって言ったっけ?でもそのままだと長いし…ククルでいいかな?

 

名前の所にククルと入れ、決定ボタンを押すと先程まで赤色だったカーソルが黄色に変わった

 

「にしても本当に驚くよ… 実を取りに来たつもりがまさかモンスターをテイムするなんて…」

 

でも本来の目的の実も3つは回収できたのでいいかな?

 

予想外なことはあったけどこれ以上ここで用事もないので僕はこの辺で帰ることにした

 

~~~~~~

 

そして最前線である11層の主街区<タフト>にある僕たちが泊っている宿へと戻ってくるとひま猫さんに〖ヒース・フルーツ〗を渡しに向かう

 

「これでよかった?」

「そうそうこれこれ ありがと」

 

トレードで〖クナット・フルーツ〗をひま猫さんに渡すと合っていたようで頷いていた

 

そしてウィンドウを閉じると僕の方を向いた(と言っても注目してるのは僕の後ろにいるククルだけど)

 

「ところでさっきから後ろにいる【パンプキン・スピアソルジャー】って…もしかしてテイムしたの?」

「だと思う」

 

そもそもモンスターをテイムしたという前例がたった1件しかないのでそう答えるしかない…

 

「前例が少ないから分からないってこと?」

「なのかなぁ?」

「なのかなぁって…」

 

ひま猫さんが理由を訊ねるが僕は首を傾げたためひま猫さんは若干呆れたような表情を見せる

 

 

しばらく2人で考えていたがこのままだとずっと平行線だと思ったのかひま猫さんは切り上げた

 

「この辺はあとでアルゴに聞くか」

「そうだねアルゴさんだったらわかるかもね さぁ僕は頼まれたもの持ってきたよ?」

「解ってるって じゃぁ作るから待ってて」

「はーい」

 

ひま猫さんに料理を作るように催促するとひま猫さんは料理場を借りに向かった

 

少し待っているとひま猫さんはタルトを持ってきたので雑談を交えながら美味しく頂いた

 

 

因みに<ウルバス>にククルを連れて帰るところを見られていたのか翌日には南瓜使いという2つ名が広まっていた




今回出てきたアイテム紹介

〖クナット・フルーツ〗
ザクロみたいな見た目で味はココナッツに近い
Eランク食材


テイムモンスター紹介

ククル(【パンプキン・スピアソルジャー】)

通常攻撃

持っているショートスピアで攻撃する といってもダメージはほぼ皆無(出来るとしたらタゲ取り)

バフ掛け

主人に対して防御力上昇2のバフをかける


次回は黒猫団編へと行きたいですがその前に1話挟みます

それではまた次回に


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翌日の出来事

この話は第1層編の2話目の翌日の話、即ちデスゲーム開始宣言の翌日です

ちょっとだけ劇場版プログレッシブ 星無き夜のアリアの要素が入るかな?

それではどうぞ


目を開けると木製の天井が目に入った

 

ふと時間を見てみると8時20分で慌てて身体を起こすが昨日のことを思い出して何とも言えない気持ちになった

 

 

〔コンコン〕

 

しばらく俯いていると扉をノックする音が聞こえてきたので私は落ち込んだ気持ちを抑えて返事を返す

 

「どちら様ですか?」

「ポテトです 昨夜はよく眠れましたか?」

「お陰様で」

 

私がそう答えると安堵の溜息が聞こえてきた

 

「それは良かったです えぇっと… もう出れるのでしたら下のレストランに降りてきてください これからのことを話し合いたいので」

「分かりました 少し待っててください」

 

ポテトさんにそう伝えると私はベッドから立ち上がり、ウィンドウを開いて装備を整えたり髪型のセットをし直すとドアを開いた

 

~~~~~~

 

階段を下りて待ち合わせ場所のレストランへと向かう途中、軽く欠伸をして目を擦る

 

「おはようございます 皆さん」

「あっ! たみさん! 良かった その様子だともう大丈夫みたいだね」

「すみません ご心配をおかけしました…」

「いいって あの後じゃそうなるのも可笑しくないから」

 

私の姿を見たやる気君が勢いよく立ち上がったので私は申し訳ない気持ちになり、謝罪したがめらさんが代表するような形で首を横に振る

 

 

私は空いてる席に腰かけると部屋で聞いた話題を口にした

 

「早速ですけれどこれからどう動きますか?」

「それだけどまずは朝食食べてからにしない…?」

「朝食まだなんですか?」

「そうだね~ 言っちゃえば俺達もさっき起きたばっかりだから…」

 

そうだったんだ なら仕方ないね

 

「じゃぁ先に朝食にしましょうか」

「そうだね」

 

一先ず私達は朝食を先に取ることにして、私は丸パンと牛乳と何かのフルーツを切ったものを頼んだ(意外と高くて後悔した)

 

 

~~~~~~

 

 

食事を終えた私達はどうしようかということを話し合っていた

 

「うーん… 僕は昨日も言ったけど早めに街を出ることに賛成だな~」

「それに関しては俺も同意見 いずれ覚悟を決めてモンスターを狩る人が多くなってくると思う そうしたら絶対<はじまりの街>周辺の敵はまともに手が付けられない状況になる だからその前に次の街を拠点にした方が経験値を稼げる」

「私もひま猫さんと同じくめらさんに賛成です 理由もほとんどひま猫さんに言われちゃったんですけれどMMOの本質はリソースの奪い合いですから」

 

私がそう言うと全員頷き、ておさんがポテトさんに訊いた

 

「じゃぁ早速<はじまりの街>を出る?」

「うーん… そうしましょうかね」

 

じっくりと考えたポテトさんがテーブルに手をついて立ち上がったので私達も立ち上がり、宿屋の外へと出た

 

 

 

街の外に出る為、ひま猫さんを先頭に路地をしばらく歩いていると、そういえば冷蔵庫のプリンを食べるのをすっかり忘れていたことを今になって思い出し、思わず声を上げてしまった

 

あー!!

「えっ!? ど…どうしたの!?」

 

つい大声が出てしまったことに気が付いた時にはもう遅く、やる気君が私の叫び声に驚いて振り向くとそれに続いて全員が私へと振り向いたので私は咄嗟に両手を口に当て、首を左右に振って謝る

 

「あっ! いや 何でもないです! 驚かせてすみません…」

「お…おう…」

 

全員呆れたような視線を私に向けながらも前を向き、気を取り直して私達は再び歩き始めた

 

 

しばらく歩くと道具屋が見えてきたのでひま猫さんはそこで歩みを止める

 

「ここでポーション等を絶対に補充お願いします」

「りょ~」

 

私達はポーションを十二分に買って、他に必要なものを買い揃えるとお店の外へと出た

 

 

 

未だに喧騒が広がる転移門広場を通り過ぎ、街の外へと続く大通りを早足で抜け、昨日は特に気にすることなく通過した門の前まで来るとひま猫さんが止まってマップを開いて私達に見せる

 

「今から<ホルンカの村>に行くけど正直に言って例え最短かつ戦闘なしでいけたとしても着くのは昼ぐらいになると思う だからどうせ時間がかかるなら昨日のおさらいやレベリングも兼ねて行こう」

「そうですね 昨日は色々ありすぎたので軽くおさらいしましょう」

 

ひま猫さんの提案にポテトさんが賛成したので私達も頷くと早速門を潜った

 

 

 

<はじまりの街>周辺の【フレンジー・ボア】を狩りつつ昨日のおさらいをしていると栗色っていったっけ? そんな感じの髪色でロングハーフアップの女性プレイヤーと紫色っぽい髪色でポニーテールの女性プレイヤーが狩りをしているのが遠巻きに見えた

 

昨日のを見せられて絶滅危惧種だと勝手に思っていた女性プレイヤーが2人もいることに驚きながらも彼女たちの様子を見ていると後ろの方から声が聞こえてきた

 

「たみさーん そろそろ行きますよ~」

「はーい」

 

私はまた彼女達に会えたらいいなと思いつつ、振り返るとそのままポテトさん達の元へ小走りで戻った

 

 

~~~~~~

 

 

途中で何回か【フレンジー・ボア】や【イエロー・ワスプ】等を狩りながら移動していると視界に森が入ってきたところでひま猫さんが後ろを向いて私達に話しかけてきた

 

「この森を抜ければ次の街に着くのであとひと踏ん張りですよ」

「ここまででβと特段変わったことはありませんでしたね」

 

私はβ時代のことを思い出しつつ現時点でβ時代と特段変わったことが無かったことを口にする

 

「まぁね このままβから変更点が無かったら案外楽に進めるかも」

 

ひま猫さんはそう言うと前を向き再び進み始めた

 

~~~~~~

 

予想通り結構な時間森の中を歩き、ふと時間を確認してみると12時を過ぎていたので、少し休憩しようかと話し合っていた頃やる気君が何かを発見したようで私達を呼んだ

 

「あれってカブトムシだよね? ひま猫さん たみさん あの敵知ってる?」

 

やる気君が指差した方向を見てみると確かに茶色の巨大なカブトムシがそこにいた 名前は【フォレスト・ビートル】というらしいがあんな敵はβ時代には見たことがないので私達は素直に首を横に振った

 

「知らないかな」

「私もですね」

 

カラー・カーソルもマゼンダ色だったので下手に触れないほうが良いと思ってその場を後にしようとしたが…

 

「ねぇ なんかあのカブトムシなんかこっち見てない?」

 

めらさんがそういうので振り向くと例の巨大なカブトムシと目が合った

 

普通のカブトムシだったら可愛い程度で済むのだろうけどそれが2メートルぐらいの大きさだったら話は別だ

 

それは数歩後ろに下がったと思ったらこちらに向けて突撃してきた!?

 

「ひっ…!」

 

私は本当にギリギリで回避すると【フォレスト・ビートル】は樹に激突し、頭を左右に振ってこちらに向いた

 

「絶対タゲこっちに向いてますよね…!?」

「どうすんだ!?」

「ど…どうするっていわれても…!」

 

そんな慌てている私達の様子を無視して私の方を向くと角で攻撃したので咄嗟に〖スチールブレード〗でブロックした

 

「むぐっ!」

 

角の攻撃は防ぐことが出来たが両手剣はそろそろ限界が近そうに嫌な音を立てている

 

「うぐぐっ…!」

 

もう少しだけ耐えてくれという私の願いも叶わず〖スチールブレード〗は真っ二つに折れ、その機会を狙っていたと言わんばかりに角で私を突き飛ばした

 

「あがっ!?」

「たみさん!」

 

勢い良く吹っ飛ばされて背後にあった樹に叩きつけられ、HPが一気に減って残り3割ぐらいになる

 

その後地面に落ちた私はふらふらと立ち上がるがもうすぐ目の前まで【フォレスト・ビートル】が迫っていた…

 

後ずさろうとするが直ぐに背中が樹に当たる

 

「い…いやっ…!」

 

咄嗟に出た声が敵に聞こえるわけもなく、再び角の攻撃が来ようとしていたので思わず目を瞑ったが攻撃が来ることはなかった

 

それに疑問を持ち、思わず目を開けると【フォレスト・ビートル】は別の方向を向いていた

 

 

気になってそちらを向いてみるとやる気君が何かしらのヘイト管理系のソードスキルを使ったようで硬直しているのが見えた

 

冷静になって見てみると【フォレスト・ビートル】の動きはそこまで素早くなくやる気君が走って離れるとあっという間に距離が空き、その様子を茫然と見ていた私の腕を誰かが引っ張る形でその場を後にした

 

 

~~~~~~

 

 

少し落ち着いてきたところで当初の目的地である<ホルンカの村>へと到着し、圏内に入ったという表示を確認した途端に安堵したように全員一息ついた

 

「し…死ぬかと思った…」

「全員いますか…?」

 

やる気君が膝に手を当てながら呟くとひま猫さんは辺りを見回し、全員いることを確認したのか軽く頷いた

 

「…よし いるみたいだね」

 

それに続くようにポテトさんが話し始める

 

「一応目的の場所にはついたけど…これからどうします?」

「どうしよ… というかたみさん大丈夫?」

 

ひま猫さんはふとこちらを向くと全員が私の方を注目したのに気が付いて首を大きく横に振る

 

「えっ? あっ 大丈夫ですよ 武器は予備でもう1本買ってますので」

 

慌ててメニューを操作して予備の〖スチールブレード〗を取り出すとひま猫さんは心配そうに更に続ける

 

「いや…武器じゃなくて…まぁそっちもだけどメンタルの方」

「そっちも大丈夫ですよ 走ってるうちに落ち着きました」

 

本当はちょっとだけ大丈夫じゃないけど、これ以上心配させるわけにはいかないので大丈夫なように装うとひま猫さんは少しだけ疑ってるような視線を向けるがしばらくすると渋々納得したように頷いた

 

「そう…? ならこのまま今後の動きを説明するけど…」

 

ひま猫さんはそう前置きをおいてから続ける

 

「まぁ全員知ってるとは思うけど経験値を稼ぐにはクエストを片っ端からこなすのが最善なんです だから当面はクエストに掛かりきりになるけどそれでいいですかね?」

「このゲームに関してはひま猫さんとたみさんの方が詳しいと思いますんでお二方に任せますよ」

「そうだね マップとかクエスト内容とかは2人の方が絶対詳しいし僕も任せるよ」

 

ひま猫さんが今後の流れの説明を終えるとポテトさんは私達に任せると言い、それに続いてめらさんも任せると言ってておさんとやる気君も同意するように頷いた

 

「じゃぁ早速ですけどクエスト受けに行きましょう」

 

ひま猫さんは辺りを見回してクエストを受けに行こうと提案したがさっきからお腹が空きっぱなしなので私は待ったをかけた

 

「そういえば昼食って食べてないですよね…?」

「あっ… すっかり忘れてた」

 

えぇ… 昼食忘れるって…

 

私の中で上がったひま猫さんの好感度がちょっとだけ下がったところでポテトさんが案を出した

 

「じゃぁまずはお昼にしましょう」

「その後でクエストですね」

「僕もお腹空いたよ~…」

 

ポテトさんの案に私とやる気君は同意し、まずは食事ができるところを探すことから始めることになった

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

昼食を食べた後、クエストを1つだけやったら予想以上に時間がかかりすっかり夜遅くなってしまったので本日は解散する流れになり、今は昨日と同じく1人部屋でベッドに横になった

 

しかし今日のことを思い出してしまい中々寝付けずにいた

 

瞼を閉じたり、ベッドから起き上がって窓から外の景色を見たりしても中々寝ることが出来ないため、諦めて部屋の外に出て階段を降り、宿屋の1階にある待合スペース的な場所にある椅子へと腰掛ける

 

しばらく椅子にただ座っているとひま猫さんが降りてくるのが見えた

 

「あれ? ひま猫さんどうしたんですか?」

「たみさんこそどうしたの? やっぱり眠れない?」

「ま…まぁそんなところです」

 

ひま猫さんはこちらに近づいて、私の座っている所より2人分ぐらいの距離を開けて座ると話しかけてきたので、私は苦笑いを浮かべながら返す

 

そこからは会話が続かず気まずい空気が流れたが、ひま猫さんがふと口を開いた

 

「そうだ たみさんこれ」

「? 何ですか?」

 

そしてメニューを操作してあるものをオブジェクト化してこちらに投げ渡してきた

 

広げてみるとそれは深緑色のフード付きのショートケープだったので、なぜこんなものをという疑問が出てきた

 

「このショートケープは?」

「ほら これから人が増えてくると思うし…それを着ておいた方が動きやすいと思って」

「確かに女性プレイヤーは少ないですしね…」

 

私が訳を聞くとひま猫さんから最もな回答が返ってきたので、頷いてしばらくそのショートケープを眺めていた

 

ひとしきり眺めてストレージにしまい、お礼を言おうとひま猫さんの方を見たが、当の本人の姿がなくなっていた

 

「あ…あれ…? ひま猫さん?」

 

椅子から立ち上がって辺りを見回していると、ひま猫さんがわずかに湯気の出ている木製のカップを2つ持ってこちらに向かってきているのが見えた

 

「どこに行ってたんですか? あとそれは?」

「ちょっとホットミルクを入れてきた なんか夜に飲むとよく眠れるってどこかで見たから」

「確かに私もどこかで見たような気がしますけど… よく手に入りましたね…」

「牛乳さえ手に入ったら案外直ぐだったよ」

 

ひま猫さんからホットミルクを受け取り、軽く口に含むと心地良い温かさが口の中に広がる

 

「…ホットミルクってこんなに美味しかったんだ…」

「確かにじんわりと広がる温かさだね」

 

僅かに呟くようにして言ったが、しっかりとひま猫さんには聞こえていたらしく私と同じく感想を口にしていた

 

 

飲み終わりしばらく余韻に浸ってから、ひま猫さんの方を向いて改めてお礼を言う為に口を開いた

 

「えっと… 今日は色々とありがとうございます」

「気にしないでいいよ それより明日から忙しくなるからもう大丈夫そうだったら早めに寝たほうが良いかな」

「そうですね じゃぁそうします じゃぁおやすみなさい」

「うん おやすみ」

 

ひま猫さんに勧められたのもあって、私は寝るために自分の宿屋の部屋へと戻ることにした

 

 

ベッドに横になると、先程ホットミルクを飲んだこともあってか昨日とは違って、直ぐに眠りにつくことが出来た




オリジナルMOB紹介

【フォレスト・ビートル】
<ホルンカの村>周辺の森に出る茶色の巨大なカブトムシ レアMOB 適正レベルは7
周辺のMOBの中でも防御力がトップクラスだが突進時以外の移動速度はそこまで早くない


書き終わった後に気が付いたけどこの時系列で行くと少しだけ矛盾が出てくるな…それに関してはあんまり気にしない方向で…(汗)

これからミトもちょっとずつではあるものの出していこうかな…?

それではまた次回に


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至る道の道中で(赤鼻のトナカイから心の温度+αまで)
1話:第25層攻略後の話


今回は月夜の黒猫団編への繋ぎのようなお話です

それではどうぞ


このSAOが始まってから約5ヵ月過ぎ、現在の最前線は第26層である

 

前の層である第25層はいわゆるクオーターポイントと言われており難易度が前の層の比じゃなく道中でも犠牲が出る始末だった、そしてこの層の攻略後に攻略組自体が大きく変わった

 

まず第一にフロアボス戦でキバオウさん率いるALSの主戦力の半数以上が壊滅という被害を受け、キバオウさんはその責任を取るために前線から降りた(リーテンさんとオコタンさんは私達と仲がいいという理由でレイドからは外されたので無事だった)

 

その代わりと言ってはあれだが[血盟騎士団](KoB)が本格的に攻略に加わるということになった

 

[血盟騎士団]自体は第12層のフロアボス攻略の時からちょくちょく参加してるけど本格的に加わったのは25層のフロアボス攻略が初めてである

 

因みに[血盟騎士団]を率いているヒースクリフさんは一言で表すなら凄い人である 武器は片手剣と盾だけど意識さんやリオンさんのような冷静な判断力と指示能力、めらさんのような純粋な強さ どれをとってもこれからには必ず必要な人だということが私にでもわかる

 

そんなヒースクリフさん直々に[血盟騎士団]に誘われたが私はギルドがあるので断った しかし特に落胆する様子もなくただ「そうか タコミカ君の戦力には目を見張るものがあったのだがな… 仕方あるまい」と答えた

 

 

話がそれたが次に変わったこととしてはキリトさんとアスナがコンビを解消した

 

理由はアスナが先ほど言ってた[血盟騎士団]に誘われたからである

 

そのことについてめらさんがキリトさんに聞いたがキリトさんはただ「アスナは俺と違ってこれからの攻略に必ず必要な人材になると思ったからヒースクリフに誘われたのはいい機会だったんだ」と答えたらしい

 

 

その次にやる気君が前線から降りた

 

これに関しては本人は前々から決めていたらしく第25層のフロアボス戦を最後に生産職に回りたいと言っていたのでそこまで驚かなかったけど…

 

 

そして最後…これが一番私に関わることかな?

 

25層フロアボス攻略が終わった後、ておさんを呼びだしていわゆる逆告白っていうのをやって見事にオッケーを貰った

 

自分で言うのもあれだけどここに至ったのには理由が2つあって

 

1つ目が第25層のフロアボス戦の時に第3層でのキズメルの「できることならなるべく早くに素直になっておくことだ」という言葉を思い出したからである

 

それで私は後悔しないように行動しようと考えを改めた

 

そして2つ目は最初の方にもいったALSに甚大な被害が出たことである

 

犠牲者の中には私が今まで普通に話してた人も含まれていてあれでやっぱりこの世界はいつ誰が死んでもおかしくないということを再認識した

 

でも告白して付き合うことになったと言っても急に変わるということはなく、休日に今までより少し多くておさんと過ごすようになったという点しか関わってないけど…

 

そのことは勿論ギルド全員に伝え、ほとんどのメンバーは普通に祝ってくれた

 

ひま猫さんは手作りの料理を振舞ってくれて、めらさんはお揃いのイヤリングを私たちにプレゼントしてくれた

 

一部(キャラメレさん、じんじんさん、プレッシュさん)はておさんに対して嫉妬の様子を隠さず突っかかっていた(と言ってもプロレスか何かの技をかける程度)

 

 

そのことはどこから漏れたのか第26層の1回目の会議の時には攻略組の人達のほとんどに知れ渡っていた…

 

 

~~~~~~

 

 

そして今は第26層のフロアボス攻略レイドへの参加の為に集合場所である迷宮区に一番近い町にめらさんと待機している

 

今回のフロアボス攻略に参加するのが私とめらさんの2人だけな理由はておさんは普通にレベリングで意識さんと朱猫さんとリオンさんは本格的にオレンジギルドの捜査を始めたからである(それ以外のメンバーは今回はお休み)

 

因みに私の装備は全体的に緑を基調としたエルフの狩人のような装備である(私お手製)

 

「めらさんめらさん 今回のフロアボスってなんでしたっけ?」

 

緊張をほぐすために私は近くにいるめらさんに声をかけた

 

めらさんの装備は全体的にアイボリーホワイトを基調としたシャツにバーガンディーのズボン、チョコレート色のマントを羽織った装備だ(こっちも私作)

 

私の声を聴いためらさんは若干呆れたような様子で返す

 

「今回のフロアボスは【スカーフ・ザ・ネクロマンスルーキー】だよ… 前にも全体で確認したでしょ」

「そうでしたっけ?」

 

私が首を傾げながら返すとめらさんはますます呆れた様子になった

 

そんな私達に話しかけてきた人がいた

 

「よ お前らも参加するのか」

「お~ キリトじゃん 久々」

「こんにちはキリトさん 今日も相変わらず黒いですね」

「黒は俺のトレードカラーだからな」

 

言っといてなんだけどそれほどキリトさんの恰好はそこまで黒くないや… コートの肩の部分らへんには月のマークもあるし

 

「それでどうしたんだ? パーティに入れてくれっていう話だったら無理だぞ?」

「あ~違う違う 偶々だよ ホントに偶々」

「そうなんですね」

 

キリトさんがここに来たのは本当に偶然だと聞き、私はそれに答えると茶色のブーツを鳴らして座っていたベンチから立ち上がった

 

丁度そのタイミングで今回の攻略指揮を執っているアスナからそろそろ出発するという声がかかったのでウィンドウを開いて最終確認をする

 

そのすぐ後にめらさんがキリトさんに向かって声をかけた

 

「今回はLAは譲らないよ?」

「宣戦布告か? こっちも譲る気はないからな?」

 

そんな2人の会話を聞きつつ確認を終え、ウィンドウを閉じると私達はレイドメンバーの後に続いて迷宮区へと向かって行く

 

 

 

そうして迷宮区をすんなりと突破して最上階にあるボス部屋に入り、ボス戦が始まって約45分でフロアボスである【スカーフ・ザ・ネクロマンスルーキー】を撃破することが出来た

 

結局LAは今回もキリトさんが持っていってた




今回出てきたボス紹介

【スカーフ・ザ・ネクロマンスルーキー】:(元ネタ Minecraft Hypixel Skyblockより)

白髪の男性型の小型(身長は約2m)な第26層のフロアボス 紫色のコートと深緋色のスカーフを装備している

情報によると死者蘇生魔法のエリートらしい

第1形態:4体のアンデッド系の手下と共に戦う(手下はそれぞれが中ボスクラス)
第2形態(HPバーを2本削り切る):第一形態より激しく短剣でソードスキルを放ったり範囲系の魔法を使ってくる
第3形態(残りHPバー1本):短剣をしまい、両手槍に持ち替えて激しいラッシュを繰り出してくる

LAボーナス:〖レッドスカーフ〗(シノンのマフラーのような形で色は深緋色)

アンデッド系のMOBから受けるダメージを最大で2%減らしてくれる


装備に関してはまた別で書こうと思っています

次回からいよいよ月夜の黒猫団編へと入ります

それではまた次回に


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2話:☆[月夜の黒猫団]

皆さんお待たせいたしました いよいよ今回から月夜の黒猫団編へと入ります

月夜の黒猫団編は基本的にメラオリンサイドで話を進めていきたいと思います

それではどうぞ~


SIDE:メラオリン

 

 

 

2023年4月8日 第11層主街区<タフト>にて…

 

「我ら[月夜の黒猫団]に…乾杯!」

「「「「乾杯!」」」」

 

全体的に黄色い装備の男性プレイヤーの掛け声でギルドメンバーグラスをぶつけるとその人らはこちらを向いた

 

「そして! 命の恩人の…キリトさんとメラオリンさんとひま猫さんに…乾杯!」

「「「「乾杯!」」」」

「「「か…乾杯…」」」

 

僕たちはその勢いに押し切られグラスを前に出す

 

そして乾杯を終えると口々にお礼を言ってくる

 

 

こうやって丁重にもてなされているのにはしっかりと理由があり、それは数時間前に遡る

 

 

~~~~~~

 

 

僕が第11層の迷宮区にいたのは両手槍のスキル熟練度を上げるためである(最前線で上げるよりこっちの方が上げやすい)

 

もうすぐで熟練度が600になるので次のフロアボス戦までに上げておきたいという本当に個人的な理由でここまで降りてきた(勿論この行為は褒められたものではないので誰にも見られないように周囲に細心の注意は払って)

 

その道中でこっちは武器の素材集めをしていたキリトに偶然出会い、更に料理素材を集めていたひま猫とも合流した

 

 

そしてそれぞれの目的を達成して帰っている途中にモンスターの群れに追われながら撤退している彼らに遭遇した

 

僕の彼らの第一印象ははっきり言ってバランスが悪いパーティということである

 

前衛はメイスと盾を装備した男性であとは短剣使いに棍使い、それと両手槍使いが2人

 

仮にメイス使いのHPが減っても交代できるようなメンバーがおらず後退は必然であろう

 

彼らのHPバーを見てみるとまぁこのまま何もなければ普通に脱出できるような残りHPであったので僕はそのままにしておこうと思ったがキリトとひま猫は違ったらしく隠れていた脇道から飛び出してリーダーと思わしき棍使いに声をかけていた

 

「少しの間前、支えますよ」

 

ひま猫が声をかけると棍使いは少し迷ったが直ぐに頷いていた

 

「すみません お願いします やばくなったら逃げて構いませんから」

 

頷き返すとひま猫はメイス使いにスイッチの指示を出すと同時にモンスターの群れに無理やり割り込んだ

 

相手は散々僕が屠ってきた武装したゴブリンの集団である

 

ひま猫とキリトは問題なくソードスキルを用いて倒してゆくが武装ゴブリンのうちの一体を討ち漏らしてしまい彼らに襲い掛かる

 

そこで僕はようやく脇道から飛び出して両手槍の通常攻撃でそのゴブリンを倒す

 

「油断大敵だよ」

「っ…すみません!」

 

僕の少しだけ嫌味を含んだ物言いにメイス使いは素直に謝罪した

 

 

そこからは時々ポーションで回復したメイス使いとひま猫とキリトがスイッチを繰り返して討ち漏らした奴を僕が対処するという形を取り、ものの数分でゴブリンの群れを全て倒した

 

途端、5人は盛大な歓声をあげてハイタッチを次々に交わし勝利を祝う

 

そして僕たちの方を向くと代表でリーダー格の男性がお礼を言ってきた

 

「本当にありがとうございます 恩着せがましいんですけどもしよかったら出口まで護衛お願いしてもいいですか?」

「あ~ 僕たちも帰るところだったし良いよ」

「ありがとうございます!」

 

僕がそう言うとリーダー格の男性はお辞儀をした

 

 

道中特に問題なく迷宮区を抜けるとお礼がしたいと言われ、そのまま彼らが拠点にしているという宿屋へと向かって行った

 

 

~~~~~~

 

 

そして今に至るという訳である

 

改めて自己紹介を終え、場も落ち着いてくると僕の近くにいた[月夜の黒猫団]のリーダーのケイタは僕に対して小声で申し訳なさそうに聞いてきた

 

「あの~…メラオリンさん つかぬことをお伺いしますがレベルっていくつぐらいなんですか?」

 

本来レベルを聞くのはマナー違反なんだけどな… まぁいっか

 

「もうすぐで41かな 因みにキリトは40でひま猫は39」

「まじですか!? 僕たちはレベル20ぐらいなのに… もしかして攻略組だったりしますか!?」

「そうだけど…」

 

僕たちが攻略組だと言うとキリトが思わずこっちを見るがケイタはそんなのお構いなしに質問をしてきた

 

「じゃぁどうしてこんな下層にいるんですか?」

「僕はスキル熟練度上げの為だけど… ねぇケイタ 敬語はやめにしない? 年も近いみたいだし 何より同じプレイヤーだろ? それと僕のことはメラでいいよ」

「そう…そっか じゃぁさ メラ 急に申し訳ないんだけど俺たちのギルドのコーチをしてくれないか? 勿論キリトとひま猫も一緒に 僕たち将来的には攻略組に加わりたいって思ってるんだけど今のままだと前衛ができるのがメイス使いのテツオしかいないからバランスが悪くて…サチ ちょっとこっちに来てくれ」

 

テツオはサチと呼ばれた黒髪で小柄な女性を近くまで呼び寄せた

 

グラスを持ったままやってきたサチは軽く僕に会釈するとケイタはサチの頭に手を置きながら話を続ける

 

「こいつ もう一人の槍使いのササマルに比べて両手槍のスキル熟練度が低くてさ、今のうちに盾持ちの片手剣に転向させようと思ってるんだけど中々修業が出来ないのと立ち回りがよくわからなくて ちょっとコーチしてくれないか?」

「何よ 人を味噌っかすみたいに…」

 

ケイタの言葉を聞いたサチは頬を膨らませてケイタの方を向く

 

「だってさ 私ずっと敵から遠い位置で攻撃してればよかったじゃん それを急に前に出てきて接近戦やれって言われてもおっかないよ」

「盾の陰に隠れてりゃいいんだよ」

「全く… お前は昔っから怖がりだなぁ」

「むぅ~…」

 

彼らの様子を見ていたが本当に仲が良さそうだった

 

しかしそれとこれとは話が別である 前衛…タンクは特に危険が大きい、ましてや今日の戦い方を見ているとサチはどう考えても前衛ができるような性格ではない

 

でも今日が偶々かもしれないし攻略組が3人もいれば普通にやっていれば万が一は起こらないと思うから彼らのレベルアップの為にも付き合ってあげよう

 

「解った でも僕たちが向いてないって思ったらすぐに中断させるよ? それでいい?」

「それでいいよ これからよろしく!」

 

ケイタがそう答えると他のメンバーも口々に僕たちを歓迎してくれた

 

攻略組は26層を超えてから明らかにペースダウンしてるけど[ドラゴンナイツ]改め[聖竜連合]や[血盟騎士団]、そして僕たちのギルドの[フリッツ・フリット]がいれば大丈夫だろう

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

次の日から僕たちは本格的に[月夜の黒猫団]へのコーチを始めた

 

とはいってもアドバイスや動き方などを教えるのに限っている

 

 

最初の問題だったサチの盾持ち片手剣への移行だけど中止になった

 

僕の懸念していた通りやっぱりサチは性格上盾持ち片手剣には向いていない

 

それを他のメンバーにも実例を挙げながら説明すると納得してくれた様子だった

 

現状肝心な問題のパーティバランスに関してはしばらくの間ひま猫が前衛で防御に徹底することで代理を務めることとなった

 

 

それ以外にもいろいろと問題は浮上してきたのだがそれも難なくこなしている

 

そんなこんなで約一ヵ月が過ぎ、彼らのレベルは初めにあった時より見違えるほど上がっていた

 

それに比例してプレイヤーレベルと装備レベルも上げていき当面は体力が減るとパターンが変更する敵に慣れるという目標の元頑張っている

 

 

そして今はひま猫の作ってくれた弁当を食べながらキリトとケイタと共にいる

 

因みにこの弁当だけど黒猫団からはかなり好評であるし本人も嬉しがっていた

 

ひま猫は他のメンバーたちと一緒にいる はっきり言って彼の馴染み具合は凄まじい

 

「攻略組第28層突破か… 凄いな…」

 

ケイタは寝転がりながらこの世界の新聞であるウィークリーアルゴを見ている

 

1ヵ月でたった2層しか進んでいないのは少し問題かもしれないけど…

 

僕がサンドイッチを食べていると不意にケイタが話しかけてきた

 

「なぁキリトとメラ 攻略組として聞きたいんだけど 僕たちと攻略組の差って何だろう?」

 

その質問に僕は少し考えると答える

 

「レベルやプレイヤースキルもそうだし時間もそうだな… あとケイタは指揮能力か?」

「嫌味か?」

「ごめんって でも間違ってはいないだろ?」

「そりゃぁそうだけどさ… 僕が言いたいのはもっと根本的なとこだよ」

 

この1ヵ月間で僕も黒猫団に大分馴染んできたと思う 現にケイタとはこうやって冗談を言えるような仲にもなったし

 

ケイタの言葉に今度はキリトが答える

 

「じゃぁ情報力かな 攻略組の連中は効率的に経験値を稼ぐ方法やどうやったら強い武器が手に入るかも知ってるしな」

「それもあるけどさ 僕は意志力だと思ってるんだよ」

「と言うと?」

 

僕が聞くとケイタは体を起き上がらせて遠くを見ながら話し始めた

 

「仲間を…全プレイヤーを守ろうっていう意志の強さっていうのかな そういう力があるからこそ彼らは最前線で戦い続けるんだと思っているんだ 僕らは今はまだ守ってもらう立場だけどさ気持ちでは彼らにも負けてないつもりだよ 勿論 仲間の安全が第一だ でもいつかはキリトやメラ達と最前線で肩を並べて戦いたいって思ってる」

「そっか…そうだな」

 

ケイタの考えにキリトが返事を返すとケイタは照れながら頭を掻き、先程まで上にいた黒猫団のメンバーたちがこちらまで降りてきた

 

「よっ! リーダーカッコいい!」

「俺達が[聖竜連合]や[血盟騎士団]、[フリッツ・フリット]と肩を並べるってか?」

「なんだよ 目標は高く持ったほうが良いだろ? 取り敢えず午後からビシバシ行くぞ!」

「え~ 今でさえキツイのに…」

「攻略組と比べたらあんなの比じゃないぞ? 本気で攻略組目指すんだったらもっと頑張らないと」

 

僕はそんな彼らの様子を見て攻略組は一部(たみやポテト、ひま猫など)を除き、そこまで他人のことを考えているような人たちではないと思った

 

~~~~~~

 

今夜は[月夜の黒猫団]がホームにしている宿屋に泊まる日だが今日はケイタに言われて全員が同じ部屋に集まっていた

 

「えー みんなに報告がある 今回の狩りで20万コルが貯まりました!」

『お~!』

 

ケイタの報告に僕たちはそろって声を上げた

 

「そろそろ俺達のギルドホームも視野に入ってきたな!」

「ギルドホームを持つのも大切だけどそろそろサチの装備を更新する頃合いじゃないか?」

「わ…私はいいよ…」

「遠慮すんなって 装備の更新は大切なことだからさ」

「ひま猫がそういうなら…」

 

なんか最近ひま猫とサチの距離が近いような気がする…確かにサチが危ない場面をひま猫は何回も助けてるけど… これが噂に聞く吊り橋効果っていうやつ?

 

~~~~~~

 

そして全員が寝静まった頃、僕はいつものように宿屋を抜け出した

 

その途中で同じように抜け出してきたキリトとひま猫に合流し今日も経験値を稼ぐために第28層へと向かって行った




原作からの変更点

サチが両手槍を伸ばす方向へと変更(メラオリンが早々にサチの性格を見抜いて盾持ち片手剣への転向を中止させたため)

[月夜の黒猫団]の大幅な強化(攻略組が3人もいればそりゃぁね)

それではまた次回に


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3話:☆言葉

シンプルですけどこのタイトルが一番だと思いました

それではどうぞ


SIDE:メラオリン

 

 

 

第28層に着いた僕達はすぐさま{狼ヶ原}へと向かう

 

ここにいる【ブラッディ・ウルフ】は簡単に言えば経験値効率が良く、昼は経験値を稼ぎに来るプレイヤーが非常に多い

 

その為比較的人が少ない夜の時間帯に僕たちは経験値を稼ぎに来ているのだが今回は2パーティほど見知った顔がここに来ていた

 

「クラインとタコミカ…?」

 

キリトが呟いた通りそこにいたのはクライン率いる[風林火山]とたみとテオ、意識と朱猫に廻道とじんじんのパーティだった

 

 

しばらく戦いを見ているとクラインとたみはこちらに気が付いて手を振ったのでこちらも振り返す

 

そしてひと段落着いたところでこちらに近づいてきた

 

「キリトにひま猫にメラ! 最近最前線で見かけねぇって思ったらこんな夜中にレベル上げかよ!」

「ちょくちょくメッセージはくれてましたけど直接会うのは第26層のフロアボス戦以来ですね」

 

相変わらずフレンドリーに話しかけてくれる2人に対して僕は返す

 

「まぁね久しぶり 2人共 ところで何でたみは[風林火山]と一緒に狩りをしてるの?」

 

僕の質問に対して答えたのはたみではなくクラインだった

 

「偶然な そうですよね タコミカさん」

「クラインさんの言う通り本当に偶然ですよ 最初はクラインさん達[風林火山]が狩りをしていたのでその後で狩りをやろうと思ってたんですけれどもクラインさんがよかったらご一緒にどうですかと言ってくれたのでお言葉に甘えて一緒に狩りをやってるんです」

「クラインの誘いか…」

 

たみから詳しい理由を聞いたひま猫が呆れたような表情をする

 

クラインはたみと話すときにはなぜか口調がバグる…理由は何となくわかるけど

 

「それでどうするんですか? 私達はもう十分狩ったので譲りますけれども…」

「じゃぁ次狩るよ」

「了解です」

 

そしてたみ達が次の順番を譲ってくれたので僕たちはただひたすら【ブラッディ・ウルフ】を狩った

 

 

~~~~~~

 

 

しばらく狩った後、[月夜の黒猫団]が拠点にしている宿屋がある第11層へと戻ってくると同時にメッセージが届いた

 

メッセージを開いてみると差出人はケイタで内容はサチが外出したっきり帰ってこないので見かけたら連絡してほしいという内容だった

 

「サチが行方不明らしい」

「え!? それホント!?」

 

ひま猫が驚いていたのでウィンドウを可視モードにして2人にも見せると2人はそろって驚いていた

 

「僕はケイタ達の方に行くからキリトとひま猫でサチを探してくれないか?」

「解った! メラだったら大丈夫かもしれないけど十分に気をつけろよ!」

「了解!」

 

僕は迷宮区に向かうと2人に伝えるとキリトは頷いた

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

SIDE:ひま猫

 

 

 

メラは迷宮区に向かって行ったので俺とキリトはサチを手分けして探すことにした

 

キリトと別れた後、主街区を探すことになった俺は迷わずウィンドウを開いてスキル一覧の所から索敵スキルの上位スキルである追跡スキルをオンにする

 

すると今まで見えなかった薄緑色の足跡があったのでそれを辿る

 

その足跡は俺の予想に反して主街区の外れにある水路へと消えていたのでそこへ向かうと最近手に入れた隠蔽スキル効果のあるマントを羽織って水路の近くに座っているサチの姿があった

 

「いた…」

 

俺の声を聴いたサチは少し驚きながら呟いた

 

「ひま猫…どうしてここが…?」

「ちょっとずるだけど追跡スキルっていうのを使ってね」

「…そっか 流石だね」

 

僕の正直な答えを聞いたサチはかすかに笑うとマントに付いているフードを被った

 

「みんな心配してるよ? 俺も一緒に謝ってあげるからさ 一緒に帰ろ?」

 

俺のかけた言葉にサチは答えずそのまま数分経過し、聞こえなかったのかと思ってもう一度声を掛けようとするとサチが口を開いた

 

「ねぇ ひま猫 一緒に逃げよう?」

「逃げるって…もしかしてみんなから?」

 

サチの唐突な発言に俺は驚きながらも返す

 

「そうだね…でももっと単純にこの世界から SAOから…」

「それって…心中のお誘い?」

 

俺は恐る恐るサチに聞くとサチは小さく笑って水面を見る

 

「それもいいかもね…ごめん 忘れて そもそもそんな勇気があったらこうやって主街区にいないもんね …それよりいつまででも立ってないで座ったら?」

 

サチに諭されて俺はサチから少し離れたところに座る

 

そして俺が座って少しするとサチがぽつりと呟いた

 

「…私…死ぬのが怖い 怖くて夜もあまり眠れないの」

 

突然の告白に俺が驚いている間もサチは続ける

 

「ねぇ 何でこんなことになっちゃったの? 何でゲームなのに出られないの? 何でゲームなのに本当に死ななくちゃいけないの? こんなことに何の意味があるの…?」

 

サチの言葉に俺は言葉が詰まったが俺が思ったことを正直にぶつけるのが一番だと思いそれを口に出した

 

「怖いなら怖いでいいと思うよ 実際俺も死ぬのは怖いし」

「え…?」

 

俺の言葉にサチは思わず俺の方を向いた

 

「死の恐怖なんてそう簡単に消せるようなものじゃない 実際攻略組の中にもそんな人は普通にいるし」

「だったら何で…?」

 

サチがそんな疑問を口にする無理はない… 俺はその疑問を予想していたように答える

 

「仲間が信じてくれてるから…かな? 俺はそれで頑張れてる サチにもいるでしょ? 黒猫団のみんなが」

「…こんな私でも信じてくれてるのかな…」

「だと思うよ じゃなきゃ必死にサチを探してくれないよ」

 

俺がそう言うとフードに若干隠れてて分からないがサチの表情はほんの少しだけ明るくなったような気がした

 

 

~~~~~~

 

 

しばらくした後、俺はケイタ達とキリト達にメッセージを送りサチと共に宿へと戻った

 

そしてサチは早々に部屋で休ませて俺はケイタ達が返ってくるのを待ってサチは主街区にいたことと本人は先に休ませたことを伝えた

 

ケイタ達は心配より先にサチが無事に見つかったことに関して安堵していた

 

 

その翌日の夜からサチが俺の部屋にやってきて最初はサチが眠るまで傍にいるぐらいの事しかしなかったけど3日ぐらいから一緒に眠ることになった

 

彼女曰く俺が近くにいると安心して眠れるのだという

 

俺の存在が彼女を癒せるのであれば俺としては本当にただ純粋に嬉しい限りである

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

SIDE:メラオリン

 

 

 

サチが行方不明になったという騒動から約1ヵ月、僕たちもコーチを続けそれの副産物としてお金もどんどんと溜まっていき遂にギルドホームが買える金額が貯まった

 

ケイタはそのお金を持って僕たちもお世話になったギルド向けの一軒家を売り出している不動産仲介プレイヤーに会うため<はじまりの街>へと向かって行った

 

それを見送った僕たちはしばらく転移門を眺めていたがふとテツオが1つの提案をした

 

「なぁ ケイタが帰ってくるまでに少し稼ごうよ」

「新しい家具を揃えてびっくりさせようっていう魂胆か?」

 

ダッカーがテツオの目論見を見通したように言う

 

「いいね やろうよ!」

「どうせだったら上の階層で稼ごうぜ」

 

それにサチが賛同しササマルが上の階層で稼ごうと提案する

 

「それには賛成だけど具体的にはどこらへんで稼ぐつもり?」

「えーっと…27層ぐらい…?」

 

ひま猫がササマルにどのへんで稼ぐのかと聞くと27層ぐらいだと答えた

 

「27層かぁ… 正直言って危険じゃない? この層からトラップが凶悪なものに変わってくるし…」

「俺たちのレベルなら大丈夫だって!」

「前科があるのに?」

「それを言うなよ~…」

 

それに対して僕は正直に危険だと言うがダッカーが大丈夫だと言うので僕は2週間前ほどにトラップに引っ掛かったことを言うとダッカーはしょんぼりした

 

その僕たちのやり取りに他のメンバーは笑ってた

 

「でもいいんじゃないか? 俺達がいれば罠解除はできるし 変に宝箱を開けたりしなければピンチになることも絶対とは言えないけどかなり低いと思うから」

「そうかもしれないけどさ…」

 

ひま猫が前向きに黒猫団のみんなに賛同するがキリトは僕と同じで少し渋っている様子だった

 

「じゃぁこうしよう 誰か1人でもピンチになったらお金稼ぎは即中止! それでいいな?」

「それで大丈夫だよ」

 

そんな様子にひま猫がある一つの提案をするとテツオは了承した

 

「じゃぁ早速 レッツゴー!」

『おー!』

 

ひま猫は今度は黒猫団全体に掛け声をかけると全員掛け声を合わせる

 

 

4人が転移門へと向かって行ったのでその様子を見ていると不意にひま猫から声がかかった

 

「今回は今まで以上に十分に警戒するぞ」

「解ってる もしピンチになったら彼らだけでも逃がすぞ」

「ピンチになる状況にならないことを祈るけどね…」

 

それに僕とキリトは返すと黒猫団の後に続いた

 

 

~~~~~~

 

 

第27層迷宮区 ここは今までの迷宮区と同じでかなり入り組んでおり、それに加え凶悪なトラップがある始末である

 

その為攻略組も匙を投げ、マッピングを途中で断念した

 

しかし敵自体は特に問題はなく道中は特に苦戦することなく進んでいった

 

「だから言ったろ? 俺達なら大丈夫だって」

「そういう油断や慢心が死につながるって散々教えたけどなぁ…」

 

ダッカーの軽口に僕は呆れながらも言う

 

「ん?」

「どうした?」

 

しばらく駄弁っているとダッカーが何かに気が付いたみたいだったのでひま猫が声をかける

 

「ここの壁…何か変じゃないか?」

「言われてみれば確かに…」

 

ダッカーが模様のある壁を指さしたので僕は咄嗟に見てみると確かにいかにも何かありそうだった

 

「じゃぁ僕が触ってみる」

 

その為僕はダッカーを下がらせてその壁に触れてみるとギミックが動き始め、扉が現れた

 

「隠し扉…? 何でこんなところに?」

「なぁ 開けてみてくれないか?」

 

キリトが不思議そうに呟くがササマルは早く扉を開けてくれとせがむ

 

そして扉を開いてみると中央にあからさまに不自然に宝箱が置かれただけの部屋があった

 

「お! ラッキー! トレジャーボックスじゃん!」

 

その部屋にダッカーが入ろうとするので僕は首根っこを掴んで静止する

 

「言ったそばからお前は! 罠かもしれないという可能性を考えろ! ひま猫! 確認!」

「あっ…はい!」

 

制止させたダッカーに叱ると同時にひま猫に確認に行くように伝えるとひま猫は一瞬びくっとしたが直ぐに部屋の中へと入っていった

 

しばらくすると鍵開けスキルを使ったと思うひま猫がこちらを向いて首を横に振った

 

「あっぶねぇ…」

「あっぶねぇじゃないぞダッカー お前はあれをろくに確認せずに開けようとしたんだぞ…」

 

もしあれを開けていたらと想像したのかダッカーは顔を青くしながら呟くが僕は呆れた顔でダッカーに向かって言う

 

「確かに不用心だったな…」

「次からは気をつけろって言ってもまた同じことやりそうだなぁ…」

 

本人は反省してるみたいだけど僕は前例もあるからまた次も同じことをやりそうだと考えていた

 

時間もいい感じになったのでそこでお金稼ぎは終了となって僕たちは帰ることにした

 

 

~~~~~~

 

 

僕たちが宿屋に到着してから10分ぐらいでケイタが戻ってきたのでギルドホームは買えたのかと訊ねると無事に買えたとの事

 

その日はギルドホームに今日稼いできたお金で買ってきた家具を粗方設置するとそのままギルドホーム購入記念パーティを開催してお開きとなった

 

パーティの途中でダッカーが罠にかかりそうになったということをついうっかり話すとケイタはダッカーに対して怒鳴りそうになったので僕とひま猫、それからテツオが慌てて静止した

 

~~~~~~

 

その翌日僕とキリトは黒猫団を後にすることになった

 

理由はもう僕たちが教えることは何もないこととひま猫が正式に[月夜の黒猫団]に加入することになったからだ(決して見限ったわけではない)

 

この事は昨日のパーティの後で話し合って決めた

 

そして今は黒猫団が転移門のところまで見送りに来ている

 

「俺たちはもうそろそろ行くよ」

「ひま猫 黒猫団のみんなの事頼むよ?」

「任せて!」

 

僕とキリトはひま猫と拳を合わせる

 

「僕の無理なお願い聞いてくれてありがとう 2人に教わったことを生かして絶対攻略組に追いついてみせるよ」

「キリト メラ またいつでも来てくれよ 歓迎するからさ!」

「2人と会えてすごく嬉しかった それとメラ ありがとう」

「たまにはメッセージとかくれよ? じゃないとこっちが寂しいからな!」

「俺達、絶対追いつくから2人も死ぬなよ!」

 

続いて黒猫団のみんなが声をかけてきたので僕たちも返す

 

「おう! 待ってるぞ! みんな!」

「ダッカー! もう罠には引っかかるなよ! でももし罠に引っかかりそうになったら殴ってでも止めてくれ?」

「解ってるって! というか最後不穏だぞ!」

 

僕はダッカーに対して皮肉交じりに挨拶を交わすとダッカーは冷や汗をかいていた

 

 

そんな彼らを楽しそうに見ながら僕とキリトは最前線へと戻っていった




メラがダッカーを事前に止めたので黒猫団生存ルートに入りました

次回は時系列順なのでホープフルチャントの話になります

それではまた次回に


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4話:☆希望を唱う策士 前編

このお話はリオンサイドのお話になります

それではどうぞ


SIDE:リオン

 

 

 

この世界で彼女に初めて出会ったのは第39層でのことだった

 

第39層は言ってしまえば特に何もなく、しいて上げてば王道のファンタジーと言ったような感じでフロアボスも古風なデザインの中型のドラゴンだった(たみ等の一部メンバーは王道のファンタジーということで少しテンションが上がっていたが)

 

だが私にとってはお気に入りの層のひとつに入っており偶に散歩することもある

 

その日もいつも通り主街区の<ノルフレト>であてもなく適当に街を散歩していた

 

そうは言っても時刻は午前2時をとうに過ぎており、プレイヤーの姿はほとんどない

 

そろそろギルドホームに戻らないとポテト達が心配すると思い転移門広場へと急ぐ

 

 

やがて広場が見えてくるとNPCとプレイヤーが合わせて5,6人ほど集まっているのが見えた

 

しかし私は不思議な光景に気が付く

 

プレイヤーのカラーカーソルが一か所に固まっていたからである

 

そのまま円形の広場に入るとNPC楽団のスローテンポな管楽器の演奏が耳に聞こえてくる

 

どうやら彼らはNPC楽団の前に集まって演奏を聴いているらしい

 

NPCの通行人がいる分にはまだわかるがプレイヤーまでいるのは珍しい…

 

基本的に彼らが奏でる演奏は2~3曲しかなく普通だったら一週間程度で飽きてしまう

 

何が彼らをNPC楽団に釘付けにさせているのかを知るため私は更に近づく

 

小さな人垣に加わった時、その理由が分かった 管楽器の演奏に交じって囁くような歌声が聞こえてきた

 

何かに引っ張られるようにそちらを見るとそこにはNPC楽団と並んで立ち、両手を胸にあてて歌っている女性プレイヤーの姿があった

 

白いフードを目深に被っており口許しか見えないがそこから聞こえる歌声は限界まで抑えたような歌声だがこのSAOで聞いたどんな音楽よりも美しいと言える

 

まるで子守唄のようなその歌は彼女が考えた歌詞なのだろう

 

ふと横を見てみるとグリーンカーソルのプレイヤーのみならずイエローカーソルのNPCまでこの歌に聞き入るように目を瞑り、体を揺らしている

 

私もそれに続くように瞼を閉じると済んだ歌声に耳を傾けた

 

 

しばらく聞き入っていた歌が終わり瞼を開けるとペコリと一礼をした女性プレイヤーが足早にステージから降りていく

 

その時一瞬だけ私の方を見たかと思えば私の元へと足早に向かってきて腕をつかんだ

 

そしてそのまま引きずられるようにして転移門へと向かって行き、そのまま彼女と一緒に転移した

 

~~~~~~

 

転移した先で再び腕を掴まれると路地裏へと連れていかれた

 

そして立ち止まり彼女は私の腕を離すとこちらに向いた

 

「そろそろ私を連れてきた理由を説明してもらってもいいんじゃないのか?」

「あぁ ごめんなさい… 説明不足でしたよね…」

 

彼女はそう言いながらフードを外した…その時の私は心底驚いたと思う

 

「こっちでは初めましてになりますね 梅宮さん」

 

まさか重村教授のご息女がこの世界にいるとは夢にも思わなかったからだ

 

~~~~~~

 

私達は軽くこちらの世界での自己紹介を済ませると路地裏にあるベンチに腰掛けた

 

「じゃぁ今はそのポテトさんっていう人のギルドにいるんですね」

「そうだな 結構楽しくやっているよ ところでそっちはソロなのか?」

「昔はエー、じゃなかった…ノー君と一緒にいたんだけど今はノー君が[血盟騎士団]に入っちゃったからそうなっちゃうのかなぁ…?」

「KoBか… そういえばたみも誘われたって言ってたな…」

 

私が呟くように言うと少し引っかかりを覚えたのかユナは聞いてきた

 

「たみって誰ですか?」

「私達のギルドにいる女性プレイヤーのことだよ こちらではタコミカという名前だがな」

「あっ! 攻略本に載ってた人の名前だ! そんな人とも知り合いなんて凄いですね! うめみ…リオンさん」

「この世界では第2層からの縁だからな」

 

一瞬ユナは私の現実での名前を言いかけたので目を細めると慌てて訂正する

 

 

しばらく私はユナと話していたがふと時間を見てみると午前3時を既に回っていたので話を切り上げる

 

「すまないユナ 私も名残惜しいがそろそろ戻ることにするよ」

「…そうですよね 私もすみません急にこんなところに連れてきちゃって」

「別に構わないさ 私も久々に話せて嬉しかったからな ではまた機会があれば歌を聞かせてくれ」

「勿論! あっ! そうだ! フレンド交換しません? またこうやって会うのは不便ですし」

「構わないよ むしろこっちから頼もうと思っていた限りだ」

 

そしてユナとフレンド交換をすると今度こそ私はギルドホームへと戻っていった

 

 

~~~~~~

 

 

そして明くる日私はユナのメッセージを受け取ると第36層へと足を運び、大勢の聴衆から少し離れたところでユナの歌声に聞き入っていた

 

大勢のプレイヤーの前で歌う彼女は昨日とは違い、白色の羽根付き帽子と青いワンピースに姿を変えていた

 

 

その翌日にはギルドメンバーの全員でユナの元へと足を運んだ

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

2023年10月18日 第40層主街区の<ジェイレウム>

 

ここの西門広場にあるカフェで私は優雅に休日を楽しんでいた

 

この日は第40層のフロアボスである【ブラッケン・ザ・プリズンワーデン】の討伐に攻略組の選抜メンバーが向かって行った

 

これに[フリッツ・フリット]から選抜されたのはたみとメラの2人だけである

 

なので私とキャラメレ、廻道とテツロンのポテトを除く大人組はこうやって突然にできた休日を楽しんでいる(2人以外の未成年組とポテトはまたそれぞれ違った休日を楽しんでいる)

 

そしてキャラメレは紅茶を一気に飲むと愚痴るように言った

 

「なんで俺をレイドから外すんだよ… ディアベルとアスナちゃんは見る目ねぇなぁ!」

「でも仕方ないよ… 攻略組は100人近くいるし まして今回選ばれたたみさんとメラさんは攻略組の中でもトップの実力だから…」

 

キャラメレはお酒を呑んだ時のようにディアベルとアスナに対して愚痴を吐くが廻道はそれを「まあまあ」と言いながら宥める

 

因みにディアベルに関してだが実は最前線が30層辺りの時に攻略組に戻ってきた

 

私がディアベルに戻ってきた理由を聞くと「キリトさんとタコミカさんに恩を返せると思ったからこうやって戻ってきた」と答えた

 

勿論当初は非難とかもあったもののヒースクリフには劣るがほぼ伝説になりかけている青髪の騎士(ナイト)が戻ってきたこともあって今はそれは落ち着いている

 

 

「まぁこの悔しさをバネにして俺達大人組が頑張っていかないと いつまででもキリトとか未成年達に任せていられないだろ?」

「そりゃ当たり前だ じゃぁこの後憂さ晴らしも兼ねてレベリングやろう!」

「憂さ晴らしはともかくとしてそうだな キャラメレの言う通り一通りティータイムを楽しんだら レベル上げを頑張ろうか」

 

テツロンが心意気を話すとキャラメレはそれに当たり前だと答えその勢いのままこれからの予定を決めた

 

それに私は反論せずキャラメレの案を採用し、フォークを手に取るとチーズケーキをそのまま食べ…

 

だ…誰か! 頼む…! 助けてくれ!

 

る直前に西門から一人のプレイヤーの叫び声が聞こえきた

 

その叫び声に私達は反射的にそちらを見ると全身を革装備で固めているが所々がボロボロに破損している曲刀使いの男性プレイヤーの姿があった

 

よく見てみると男性の背中にはどこかで見たことのあるデザインのショートスピアが刺さったままだった

 

「おいおい 大丈夫か!?」

 

近くにいたプレイヤーが駆け寄ると男性プレイヤーからショートスピアを抜く

 

その時にショートスピアの出所の答えが分かった あれはこの層のダンジョンに出現する拷問吏(トーメンター)が使っていた武器だ

 

それが分かった私達はこの焦りは不要なものだったとして再びティータイムに戻ろうとしたがその曲刀使いは自分のことなどお構いなしに声を上げる

 

「な…仲間が5人 フィールドダンジョンに閉じ込められて モンスターの大群に追いかけ回されてるんだ! そう長くは持たない…誰か 頼む! 一緒に助けに行ってくれ!」

 

主街区の名前の通りこの40層のテーマは⁅牢獄⁆ この層のダンジョンには厄介な閉じ込めトラップがあり、攻略組はかなり手こずった

 

しかし解決策がないわけではなくほとんどが同じ空間内に解除できるギミックがありそれを操作することで罠を解除できるが同時にモンスターも湧くため必然的に解除できるのはモンスターを倒した後になる

 

これは私の仮説になるがこの曲刀使いは罠の解除に失敗し自分だけ脱出してきたのだろう

 

私は詳しい話を聞くためその男性の元へと駆け寄ったがその前に茶色のレザーアーマーを着た男性プレイヤーがベルトポーチから〖ハイポーション〗を手渡しながら訊ねた

 

「〖転移結晶〗は!? この層で戦えるんだったら最低でも1つは持ってるだろ!?」

 

彼の質問に曲刀使いは首を横に振る

 

「駄目なんだ…! 湧いたモンスターの中に沈黙デバフをかけてくる奴がいてクリスタルが使えなくなったんだ! 俺もようやくさっきデバフが解けたばかりで…!」

 

その言葉に再び周囲に緊張が走るが臆せず私は曲刀使いに声をかける

 

「咳止めポーションは持っていなかったのか?」

 

私の問いに曲刀使いは呻く

 

「…咳止めはだれも持ってない… まさか沈黙デバフをかけてくるモンスターがいるとは思わなくて…!」

 

最前線に出るんだったらせめて無料配布の攻略本に目を通せ! と言いたくなったがここでそんなことを言っても時間の無駄だ

 

曲刀使いの言う言葉が本当ならば今すぐにでも行かなければ閉じ込められている5人が危ない

 

茶色のレザーアーマーを着た男性プレイヤーもそう思ったのか[風林火山]の選抜漏れしたであろう2人のメンバーに声をかけると今度は私達に声をかけてきた

 

「なぁ あんたたちも攻略組だろ 一緒に行ってくれるか?」

 

彼の質問に私達は迷わず頷く

 

それに続いてさらに5、6人の勇敢な男性プレイヤー達が「俺も行くぞ!」と名乗りを上げる

 

そして彼はHPが回復した曲刀使いを助け起こしながら立ち上がるとウィンドウを開いて装備フィギュアを素早く操作する

 

すると先程まで来ていた茶色のレザーアーマーが白地に赤の差し色が入った[血盟騎士団]の装備へと変わった

 

それを見ていたプレイヤーたちは大きくどよめき口々に「KoBだ!」「これなら行ける!」と言っていた

 

そんな声を受け彼は一歩前進すると隣にいるユナに声をかける

 

「ユナ 君はここで待っていてくれ 大丈夫 すぐに戻ってくるよ」

 

しかしユナは首を横に振った

 

「私も行く」

「えっ…」

 

彼の言葉を待たずにユナは右手でウィンドウを操作すると白いケープの下で装備変更エフェクトの光が輝き、それが消えると同時にケープを脱ぐ

 

中から現れたのはこの前より明らかに装備のレベルが上がっており、左手には白いリュートを持っており右手にはダガーを装備している

 

そして帽子の鍔を跳ね上げながら毅然(きぜん)と言い放つ

 

「私 剣は使えないけど歌でならみんなを援護できる 絶対に足手まといにはならない」

「歌…?」

 

ユナの言葉を繰り返した[風林火山]のメンバーのうち1人が何かに気が付いたように叫ぶ

 

「まさか 最近噂になってる吟唱(チャント)スキルか!?」

 

吟唱(チャント)スキルは簡単に言えば歌で他のプレイヤーにバフを掛けられるというスキルで歌う歌によって効果が変わってくると本人から聞いた

 

ユナが[風林火山]のメンバーの言葉に頷くとほぼ全員が歓声を上げ、曲刀使いもまるで救いの女神を見ているような視線を向け「頼む! 助けてくれ!」と叫んだ

 

 

そこからは急ピッチでパーティを組み、[血盟騎士団]の彼もといノーチラスが指揮を執り、私はもしもの時の指揮役を任された




タコミカが攻略本に載っているのは主にファッション関連です

それではまた次回に


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5話:☆希望を唱う策士 後編

リオンはほんの少しだけディアベルをリスペクトしています

それではどうぞ

P.S.:劇場版ソードアート・オンライン プログレッシブ 冥き夕闇のスケルツォ の公開日が9月10日に決まりましたね~ 今から楽しみです


SIDE:リオン

 

 

 

ノーチラスによって即席で組まれた私を含む救助隊14人は西門から圏外へと出た

 

第40層のフィールドは大部分が寒々しい荒野で切り立った岩壁が迷路のような地形になっておりに視界を阻む

 

先を行く曲刀使いを追いかけるユナとノーチラスの背中を私達も追いかける

 

 

やがて半ば崩れたような形のシルエットが見えてきた

 

そこで曲刀使いは振り返り叫ぶ

 

「もう少しだ!」

「急ぎましょう!」

 

ユナは叫び返すと私達は更にスピードを上げた

 

~~~~~~

 

曲刀使いの仲間が閉じ込められているというフィールドダンジョンは主街区の<ジェイレウム>にかなり似通った監獄の遺跡である

 

しかし中にいるのはNPCではなくモンスターで目的の場所であるダンジョンの中央に向かっている最中にも2回ほど交戦したが流石最前線プレイヤーというべきか特に問題なく、西門を出てから約8分ほどでダンジョンの中央部へと辿り着いた

 

広い通路の突き当りは頑丈そうな鉄格子に閉ざされており奥からはプレイヤーの叫び声やモンスターの咆哮、武器がぶつかるような金属音…つまり戦闘音が聞こえてくる

 

「良かった… まだ生きてる!」

 

曲刀使いは叫び、鉄格子に飛びつくとその隣からノーチラスも覗き込む

 

 

しばらく奥の様子を見ていたノーチラスが曲刀使いに向かって叫んだ

 

「この鉄格子の開閉装置はどこにあるんだ!?」

 

それを聞いた曲刀使いは奥を指しながら答えた

 

「あのボスの奥にそれらしいレバーがある! …でも恐らくレバーに近づけばボスが動き出す 俺は鉄格子が閉まるギリギリで何とか脱出できたんだ」

 

つまり現状こちらからは何もできないと…

 

曲刀使いの言葉を聞いたねじり鉢巻きを巻いている[風林火山]のメンバーが唸った

 

「つまり 俺らが救援に入るには中のやつらがレバーを操作してこの鉄格子を開かないといけないわけか…」

 

続いてもう一人の[風林火山]のメンバーの痩せぎすな刺股使いも口を開く

 

「でもそいつは掛けじゃないか? 多分格子が開いてるのは2、30秒ってとこだろ ボスが動き始めたら全員が脱出するのは相当難しいぜ」

 

2人の言う通り一旦ボスを攻性化(アグロ)させてしまったら状況コントロールはかなり難しくなる

 

下手に全員を脱出させようと思えば今閉じ込められているプレイヤーたちの二の舞になりかねない…

 

ならいっその事…

 

「だったらボスを倒したほうが早いだろうな」

 

私の言葉に周囲のプレイヤー達がざわめくがノーチラスが続ける

 

「僕もリオンさんの案に賛成だ 下手に急いで全員を脱出させるよりボスを倒してゆっくり脱出させる方が確実に脱出させられる」

「で…でも俺達ボスと戦ったことなんて…」

 

周囲のプレイヤーからそんな声が上がったがノーチラスは振り向いて懸命に語りかける

 

「大丈夫 ボスのタゲは僕と[風林火山]の2人、それから[フリッツ・フリット]の4人が取る 主街区にほど近いフィールド・ダンジョンのボスだしそこまでレベルも高くない おまけに中の人達を足せば19人いるんだから レベルが40…いや35以上あれば充分いけるはずだ」

 

ノーチラスの言葉に曲刀使いの必死な声が重なる

 

「頼む…! ダチを助けてくれ! 危なくなったら逃げて構わねぇから!」

「…だ…だけど…」

 

ここまで来てくれた勇敢なプレイヤー達は中々最後の1歩が踏み出せないらしい

 

その時これまで成り行きを見守っていただけだったユナが曲刀使いに呼びかけた

 

「あの 中の人達を近くまで呼べますか?」

「え? あ…あぁ…」

 

ユナの言葉に頷くと鉄格子を両手で握り、大きく息を吸い込んだ

 

おーい! 助けに来たぞ! こっちまで来れるか!?

 

すると閉じ込められている5人が拷問吏と戦いながらもじりじりとこちら側に寄ってきてくれた

 

近くで見てみると彼らの消耗具合が目に見えて明らかとなった

 

全員がHPバーの残りが7割を下回っており動きにも精彩さがない

 

しかしこちら側に呼んで彼女は何をするつもりなのだろうか?

 

そんな私の疑問を横目にユナは持っていた小ぶりなリュートをかき鳴らし、それに重なるように高らかに歌い始めた

 

 

始めは拷問吏と戦っていた彼らもユナの突然の行動に戸惑っていたが徐々にまるで歌から活力を貰ったように戦う勢いを取り戻していった 剣や斧が閃き、モンスターのHPが目に見えて減る

 

 

彼女の歌声には不思議と吟唱(チャント)スキル以外の力が感じられた…まるで全てのプレイヤーを勇気づけ、導けるような…そんな力が

 

ユナが歌っている時間は30秒ほどだったが私にはその十倍ぐらいの時間聞いていたように感じられた

 

そしてリュートで最後の和音をかき鳴らすと同時に私達のHPバーに鮮やかな黄色に輝くバフが点灯する

 

「おおっ!」という歓声が鉄格子の向こう側から聞こえたためそちらを見てみると先程まで減っていたHPが徐々に回復していた

 

リュートを下ろしたユナが叫ぶ

 

HoT(リジェネ)効果は1分間続くわ! 雑魚を片付けて壁のレバーを操作して!」

「おう!」

 

雄たけびで応じた彼らは次々にソードスキルを発動させ次々と拷問吏を倒す 即座に広場の中央で新たなモンスターが湧くエフェクトが出るが臆することなくそのままボスに向かって突撃して行く

 

10メートルラインに近づいた時ボスが反応して雄たけびを上げ、凶悪そうな斧を振りかざす

 

頭を鋼鉄のマスクで覆ったその姿はワーダーチーフ系のモンスターに違いはないだろう

 

突進する5人のうち4人はそのボスの注意を引き、残りの1人がレバーに飛びついてぶら下がるようにして引き下げる

 

〔ゴゴォン!〕と重々しい音が鳴ったと思うと目の前の鉄格子が持ち上がり始めた

 

半分ほど上がった時点で待ちきれないとばかりに曲刀使いが鉄格子をくぐったので私達もそれに続く

 

全員が中に入ると私はいつかの青髪の騎士(ナイト)のように剣を振りかざす

 

「戦闘開始!」

「おう!」

 

それに続いてノーチラスも剣を掲げるとボスに向かって行った

 

ボスとの距離が縮まると鉄仮面を被ったボスの頭上にHPバーと名前が表示された

 

名前は【フィーラル・ワーダーチーフ】…私の予想通りワーダーチーフ系だ

 

 

ボスのタゲを取っている4人の後ろからノーチラスが叫ぶ

 

「タゲを引き受ける!」

 

それに合わせ左右に分かれた中央を突っ切ってノーチラスは≪レイジスパイク≫を発動させ、ボスの左膝を抉る

 

ボスが怒りの咆哮を挙げ、攻撃してきたノーチラスに両手斧を振り下ろすが彼はそれをタイミングよく回避する

 

すると斧が地面に深々と刺さりボスの動きが一瞬止まった その時間を利用してノーチラスは仲間と合流した曲刀使いに指示を出す

 

「ボスは僕たちが対処するから取り巻きを頼む!」

「わ…解った!」

 

曲刀使い達が新しく湧いた拷問吏の相手をするために走り出したと同時に後方で鉄格子が閉まる

 

やっぱりボスを倒すほうが現実的だな…

 

 

私はそう思いながら私は側面からボスに攻撃を仕掛けることにした

 

~~~~~~

 

戦っている最中私はボスの体の大きさに比べ部屋がやけに大きいことに薄っすらと気が付き始めていた

 

何かあるのではないか… そう考えている間にボスのHPバーが2本目に突入し、それが残り5割を切った

 

「よし…あと少しだ! みんな 頑張ろう!」

 

ノーチラスの掛け声に全員応じる

 

ボスの攻撃を躱し、ノーチラスが≪スネークバイト≫を打ち込むと【フィーラル・ワーダーチーフ】のHPバーは黄色からオレンジへと変化する

 

そこで[風林火山]の刺股使いがノーチラスに向けて叫ぶ

 

「赤で攻撃パターンが変わるかもしれねぇ! いったん離れるか!?」

「いや… ワーダーチーフ系にパターン変化はなかったはずだ!」

 

それに答えるとノーチラスは盾を構えてボスの蹴り攻撃をガードする そしてボスが体勢を崩した瞬間左右のアタッカーがソードスキルを叩きこむとHPバーがさらに減少しレッドゾーンに突入した

 

念のためノーチラスは盾を構えて防いでいたが特に何もないと判断し声を張り上げた

 

「ラスト! 集中していくぞ!」

 

しかしその直後、私の悪い予感が当たったように重々しい金属の音が何重にも響き渡った…

 

 

今まで開いていなかった壁の鉄格子が全て上にスライドし、暗い通路から次々と小型のモンスターが広場に降りてくる 姿は取り巻きの拷問吏と同系列だが持っている武器がまるで包丁のような大鉈である

 

その数は15、6体…元からいたのも合わせると20体になってしまいとてもではないが曲刀使い達に対処できるような数ではなくなった

 

それだけだったら隊を分ければ済む話だったがボスから目を逸らしてしまったのがいけなかった

 

全員回…

 

廻道の声が聞こえた直後、【フィーラル・ワーダーチーフ】は大斧を両手で持ちまるで砲丸投げのように体を一回転させる

 

私はそれを剣のガードで防ごうとしたが咄嗟に不味いと思い軽業スキルで避けた

 

 

ノーチラスと[風林火山]の2人は体勢を崩されるだけで済んでいたがユナと私以外の側面アタッカーが斧の直撃を受けてしまって幸い死者はいないものの攻撃を喰らった全員が麻痺のデバフを受けてしまった

 

私は腰のポーチを探り、出てきた2つの〖治療ポーション〗を左右にいたテツロンとキャラメレに渡す

 

 

一度状況が悪い方向へと転がればそれが坂道のように転がり続ける

 

つまり何が言いたいかと言うと…

 

ポーチに入れていたはずの〖浄化結晶〗は無いことに気が付いて そこで今朝、フロアボス討伐に行った2人に渡してしまったことを思い出した

 

その間にも範囲攻撃の硬直から回復したボスがゆっくりと体を起こしつつある…

 

さらにそれに追い打ちをかけるように叫び声が響いてきた

 

「うわあっ… 駄目だ…!」

「沈黙を喰らっ…!」

 

曲刀使いのパーティが先ほど出てきた取り巻きに完全に包囲されていた

 

一応壁を背にしてはいるものの槍と鉈の連続的な攻撃には対処できなかったのだろう HPがものすごい勢いで減少している

 

…完全に積みともいえるような状況になってしまった

 

彼らのHPが完全に削り切られれば次はこちらの番だ そしてその時はもう間近に迫っている

 

 

一応私だけなら〖転移結晶〗で脱出できなくもないが…それだけは絶対にやってはいけない

 

考えろ…この状況を打破する方法を…全員が生還できる方法を…!

 

 

私が思考を巡らせていたその時、ユナが叫んだ

 

「エー君 リオンさん お願い ボスを倒して…みんなを助けて!」

「ユナ!? 何を…!」

 

私の声を聞かずユナはダガーをリュートに持ち替えると包囲されている6人目掛けて走り始めた

 

「む…無理だ! やめろ! ユナ!」

 

ノーチラスはユナを必死に呼び留めようとする

 

1体1体は大したことはない取り巻きだがそれが20体いるといくら攻略組であろうと無事では済まない

 

 

その時、ユナがリュートをかき鳴らしながら歌い始めた

 

全員にリジェネ効果をかけた時よりも更に勇ましく、それでいて明るい まるで太陽の光のような歌…

 

始めはバフをかけるのかと思ったが取り巻き達の様子を見て直ぐに違うと気が付いた

 

これは…ヘイトを自分に向けさせるための歌だ

 

 

まさかユナは自分を…!? それだけは絶対に… たとえ私が犠牲になろうと彼女だけは死なせない!

 

 

 

私は考えるより先に取り巻きである拷問吏の元へと向かって行くと滅茶苦茶に拷問吏達へと攻撃を開始した

 

通常攻撃で貫いたりこのボス戦で使わなかった上位のソードスキルを使ったりもしながら次々と撃破していく

 

今はただ…彼女を…!

 

~~~~~~

 

そこからどれぐらいの時間がたっただろうか?

 

 

私の視界の端でボスが膨大な音と光を振りまいて爆散した…

 

それを確認すると同時に一気に疲労が来たように剣を支えとして立膝になった、若干過呼吸気味になりながらも辺りを見回すと地面に倒れているユナとそれに駆け寄っているノーチラスの姿があった

 

良かった…本当に…

 

 

ユナが無事なのを見て若干頭が落ち着いてきてしばらく休憩しているとこちらに向けられている視線に気が付いた

 

その視線の元を見てみるとキャラメレと廻道、テツロンの姿があった

 

「えーっと… ひとまずお疲れ様…かな…?」

 

廻道が労いの言葉をかけてきたので私は息を整えようとしながら返す

 

「はぁ… はぁ… お疲れ…」

 

やっぱり慣れないことはするものじゃないな…と思っていると 今度は頭が痛み始めた

 

「えーっと… ホントに大丈夫?」

「だ… 大丈夫だ…」

「いやそれ大丈夫じゃないじゃん」

 

キャラメレが改めて大丈夫かと聞いてきたので私は大丈夫だと答えると少し呆れたような声を出した

 

「とりあえず今日はもうギルドホームで休もうか」

「そうだ…な…」

 

テツロンの言葉に賛同すると私は帰る前に少しだけ休憩することにした

 

 

しばらくダンジョンの床に座って休んでいるとノーチラスとユナがこちらに寄ってきた

 

「リオンさん ユナを助けていただいて本当にありがとうございます」

「あ~ 気にしないでくれ 私も必死だったから」

 

ノーチラスは私にお辞儀をしてきたので私は少しだけ適当に返す

 

「あの… リオンさん… 今日はごめんなさい… あの時は私が何とかしなきゃって思って… でもエー君に言われて気が付いたの 私の命は私だけのものじゃないって」

「そうだな 次からはああいうことはやめてくれ 毎回やられると私の命が持たない」

 

続いてユナが謝ってきたので私は冗談を交えながらも少しだけ怒る

 

 

そこから少しだけ休むと私は立ち上がってボス部屋を出ようとするがそれをノーチラスが止める

 

「あの! リオンさん! どうしたらそこまで強くなれるんですか」

 

その質問に私はこう答えた

 

「私の主観だが守ろうという意志とありのままの自分を信じることかな」

「ありのままの自分を信じること…」

 

ノーチラスは私の言ったことを呟いている間に私はボス部屋を後にした

 

 

 

結局ギルドホームに戻ってからは頭痛と倦怠感でその日はずっと休んだ

 

~~~~~~

 

 

その数日後

 

私の言葉で何かを掴んだのかボス戦の翌日にフレンド交換をしたノーチラスから[血盟騎士団]の一軍に戻れたという報告があった

 

それとユナからメッセージがあってノーチラスの紹介でユナが[血盟騎士団]の補助要員としてギルドに加入することとなったらしい

 

確かに吟唱(チャント)スキルは強力だから当然と言えば当然になってしまうが




知的なキャラが考えるのをやめて大切な人を全力で守るのって良いですよね(唐突な自分語り)

地味にノーチラスがNFCをほぼ自力で克服してるや…


次は一気に飛んで黒の剣士編になります

それではまた次回に


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6話:☆竜使いの少女

この話では原作と違いキリトは出てきません

個人的にこの話が今一番書きたかった

それではどうぞ


SIDE:朱猫

 

 

 

2024年2月23日 第35層 {迷いの森}

 

私達はある人物からの依頼で木の上から望遠鏡を覗きながら目的の赤髪の女性(ターゲット)を探していた

 

「そっちはどうだ? 意識」

「いないな~ そっちは?」

「こっちもダメだ」

 

しばらく望遠鏡を覗きながら探していると…

 

「いた!」

「本当か!?」

 

私はその人のいる方角を指差しながら意識に言う

 

 

しばらく様子を見ていたがその人物は頭にふわふわしてそうな竜を乗せているツインテールの少女と何やら揉めている様子だった

 

 

そうこうしているとツインテールの少女が怒った様子でパーティから離れていった…

 

「意識! お前は引き続き赤髪の女を見張っててくれ! 私はツインテの女の子を追う!」

「了解!」

 

意識にそう告げると私はツインテールの女の子を追うことにした

 

 

~~~~~~

 

 

そうかっこよく言ったはいいものの… 完全に見失ってしまった

 

「あ~ も~! どこに行ったのさ~…」

 

 

その時【ドランク・エイプ】の雄たけびが聞こえてきた

 

「! あっちか!」

 

私は【ドランク・エイプ】雄たけびが聞こえた方向へAGI極振りのステータスを生かして全力で走る

 

ピナぁ!

 

そして少女の叫び声が聞こえてきた方向へと急ぎ、とうとう発見した

 

「いた! お願い 間に合って!」

 

私は呟きながら≪ラピッドバイト≫を発動させて3体いた【ドランク・エイプ】を一気に全滅させる

 

 

「ふー… 何とか間に合った…かな…?」

 

軽く呟くとその少女の方を見てみるがさっきまでいたふわふわしてそうな竜がいなくなっている

 

「あたしを独りにしないでよ…ピナ…」

 

少女は何かを抱えてうずくまって泣いている…恐らく少女が持っているのは…

 

「ごめんね… 私がもうちょっと早かったら…その子も…」

 

助けられたかもしれないのに… と言う前に少女は震えた声で私に向かって言う

 

「いいえ…あたしが馬鹿だったんです… 1人で森を抜けらるなんて思いあがって… あの…助けてくれてありがとうございました…」

 

ちょっと不謹慎かもしれないけど抱えてるそれって… 私は少女に遠慮がちに聞いてみる

 

「ねぇ? その羽根ちょっと見せてくれる?」

 

私がそう言うとその少女は羽根をタップした すると半透明のウィンドウが表示されそこには〖ピナの心〗と表示されていた

 

それを見た少女は再び泣き出してしまった

 

「わわ…ごめんごめん…別に泣かすつもりは無かったの」

 

私は少女の力になってあげたいと思って記憶を全力で探る

 

そして昔やる気君から聞いた話をその少女に教えることにした

 

「これは友達から聞いた話だけどね? 心アイテムさえあればまだ蘇生できるかもしれないの」

「え?」

 

私の言葉を聞いた少女は慌てて顔を上げたので私は続ける

 

「私もあんまり詳しいことは知らないんだけど 47層の{思い出の丘}っていう場所に使い魔蘇生できるっていう花のアイテムがあるらしいの」

「本当ですか!?」

 

彼女にとっては藁にも縋る様な思いだったのだろうが直ぐに顔が暗くなる

 

「47層…」

 

確かに装備だけ見てみてもとても10層も上の層に行けるようなレベルじゃなさそうだ

 

「うーん… 私が行ってきてもいいんだけどね… 肝心な本人がいかないと花が咲かないらしいんだ…」

 

私の言葉に少女は少し微笑むと言った

 

「いえ…情報だけでも本当にありがたいです 頑張ってレベルを上げたらいつかは…」

「そうもいかなくてね… 使い魔は死んでから3日以内に蘇生しないと二度と蘇生不可能になっちゃうの…」

「そんな…!」

 

少女は思わず叫ぶ

 

酷だけどレベルはもうどうしようもない 今から頑張ってレベルを上げても3日ではせいぜい3レベルぐらい上げるのが限界だろう

 

 

でも逆に言えばそれ以外だったらまだ何とかなる

 

例を挙げると装備などである

 

私は立膝のまま少女にトレードウィンドウを飛ばし、私が昔使っていた〖イーボン・ダガー〗と〖シルバースレッド・アーマー〗、〖ムーン・ブレザー〗、〖フェアリー・ブーツ〗、〖フロリット・ベルト〗とあと装飾品数点をトレードウィンドウに飛ばす

 

「あの…」

 

少女は申し訳ないと思ったのか口を開くが残念ながら拒否権はない

 

「この装備があればざっと5レベルぐらいは底上げできると思うし私達も一緒に行けば…多分何とかなると思う」

「何で…そこまでしてくれるんですか?」

 

少女が警戒するのもなんとなくわかる 甘い話には裏があるなんていうのが基本のこの世界だ 実際私も何回かはそういった経験はある

 

でも今回は私も完全善意ではないんだよね…でも正直に理由をいう訳にもいかないし…他に理由があるとすれば…

 

私は今も最前線で戦っている女性プレイヤー…たみの姿を思い浮かべながら答えた

 

「彼女ならそうすると思ったからかな…?」

「彼女…?」

「うん 私の…戦友にして友人」

 

私がそう言うと少女は笑い始めた…えぇ…

 

「フフフフ…アハハハ…」

「なんで笑うのさ…」

「ごめんなさい…つい…」

 

それに私は若干落ち込みながら答えると少女は目尻を拭いトレードウィンドウを操作する

 

「あの…こんなんじゃ全然足りないと思うんですけれど…」

「あ~ 大丈夫大丈夫 お金はいらないよ 使い古しだから」

 

私はそれをキャンセルさせOKボタンを押す

 

「本当に何から何まですみません 自己紹介がまだでしたよね あたし シリカって言います」

 

少女改めシリカは自己紹介をすると手を差し出してきたので私も自己紹介をする

 

「私は朱猫 よろしくね」

 

そして私も手を差し出して握手を交わした

 

 

~~~~~~

 

 

私達は第35層の主街区の<ミーシェ>へと辿り着くと意識へこれまでのことを書いたメッセージを飛ばした

 

すると直ぐにこの街にいると返信が届き、その数分後に意識と合流した

 

「あの…朱猫さん…この人は?」

「あぁ これは意識 第1層からの腐れ縁っていうやつ」

「お前な… もっと他に紹介あったろ」

 

意識の大雑把な紹介にシリカは笑い その隙に意識に追跡結果はどうだったのかを聞く

 

「で? そっちはどうだった?」

「んー… 一応ここについてからは目立った様子はなし」

「そっか」

 

そこから意識は少しだけ離れたところで歩く(本人曰く因縁つけられたら面倒だからとの事)

 

大通りから転移門広場に入ると早速私達に声がかかった

 

「おっ! シリカちゃん発見!」

「ずいぶん遅かったね 心配したんだよ?」

「あ…あの…」

「今度パーティ組まない? 好きなところ連れて行ってあげるからさ!」

「知り合い?」

「え…えぇ…」

 

声をかけてきた2人の男性について聞くとシリカは困惑しながらも答えた

 

なんか危ない香りがするなぁ

 

「あ…あの… お気持ちはありがたいんですけれどしばらくこの人達とパーティを組むことにしたんで…」

 

シリカはそう言うと私の腕を掴んだ

 

すると声をかけてきた2人の男性は私の方を見た

 

「へぇ~ 女の子と組むことにしたんだ~ あんたも俺達とパーティ組まない? 好きなところ連れてってあげるよ?」

 

えぇ… 私が女顔なのはわかってるけどそれにしたって節操なさすぎない? まぁ変に女の子に絡むよりはいっか

 

「じゃぁお願いしようかなぁ? 私達これから47層に行くんだけどボディガードしてくれるの?」

「「えっ!?」」

 

私は笑顔を作りながら冗談交じりに言うと声をかけてきた男性たちはそそくさと引いていった

 

「すみません…迷惑かけちゃって…」

「別にいいよ それにしてもシリカちゃんって結構人気あるんだね」

「そんなことないです マスコット代わりに置いておきたいだけですよ きっと それなのにあたし いい気になっちゃって…竜使いなんて呼ばれ始めて舞い上がってたんですよ…それであんなことに…」

 

そう呟いていたシリカの目には涙が浮かんでいた

 

「大丈夫 必ず間に合うから」

 

私はそんな彼女を優しくなでた

 

するとシリカは涙を拭い私に微笑み、チラッと横にある建物を見た

 

「ところで朱猫さん それから意識さんも ホームってどこにあるんですか?」

「ん~ ホームは25層だけど…」

「今から戻るのはめんどいし今日はここに泊まるよ」

「そうですか!」

 

私達がここに泊まると言うと嬉しかったのかシリカは両手をポンと叩く

 

「実はですね ここのチーズケーキが結構美味しくておすすめなんですよ!」

「それホント!? 是非とも食べてみたいな~」

 

シリカが私の袖を引っ張りながらその建物に入ろうとするとそれを呼び止めるように隣の建物から出てきた目的の赤髪の女性(ターゲット)…ロザリアは声をかけてきた

 

「あら シリカじゃない」

「ど…どうも…」

「へぇ~ 森から脱出できたのね 良かったじゃない」

 

ロザリアは続けて口の端を歪めるようにして笑うと言った

 

「でも今更戻ってきてももう遅いわよ ついさっきアイテムの分配は終わっちゃったから」

「いらないって言ったはずです! 私急ぎますから」

 

シリカは早く会話を切り上げようとしたが彼女はまだシリカを開放するつもりは無いらしい

 

目ざとくシリカを見ると嘲笑うような笑みを浮かべる

 

「あら あのトカゲどうしちゃったの?」

 

何処に行ったのかは彼女も知っているはずなのにわざとらしく言葉を続ける

 

「…もしかしてぇ?」

「えぇ 死にました でも絶対に生き返らせます!」

 

シリカがロザリアを睨みつけると先程まで嘲っていた様子だった彼女の目がわずかに見開かれた

 

「へぇ… っていうコトは{思い出の丘}に行くつもりなんだ でもあんたのレベルで攻略できるの?」

「できるよ」

 

そこでシリカの顔が少し暗くなったのですかさず私が言う

 

するとロザリアは如何にも品定めするような目で私を見る

 

「あんたもその子に誑し込まれた口…っていう訳じゃ無さそうね 見たところ女みたいだし」

「見た目で判断しないほうが良いよ」

 

流石に少しだけ頭に来たので私も言い返す

 

「ふぅん… まぁいいわ せいぜい頑張りなさい」

 

すると明らかに怒ったように眉をひそめたが直ぐにその言葉を私に投げかけ、去って行った

 

 

その後私達が話をしている間どこかに行っていた意識が戻ってきた

 

「終わった?」

「意識!? 今までどこに!?」

「ちょっとね それであいつと話してみた感想は?」

「やっぱり黒だと思う」

「そっか」

 

私は意識にロザリアと話してみた感想を言うとシリカのおすすめの宿屋兼レストランへと向かった




朱猫の性別は設定にもありますがあくまででも不詳です

それではまた次回に


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7話:☆食事と花の都

基本的にオリキャラ勢が着ている金属製以外の装備は基本的にタコミカ製作です

それではどうぞ


SIDE:朱猫

 

 

 

宿屋に入るとまずはチェックインを済ませ、それからレストランで食事をとる為に空いている席を探す

 

意識はカウンター上のメニューを操作してたけど私は特に気にせずにそのまま腰掛ける

 

私の向かい側の席にシリカは座ると恐らく先程のことを謝ろうと口を開きかけたが私は軽く手を挙げてそれを制止させる

 

「まずは食事にしよっか」

 

私がそう言うと同時にウェイトレスが何やら湯気の立っているマグカップを3つ持ってきて私達の前に置く 中を覗いてみると何やら緑色の液体が入っていた

 

意識の方をちらりと見てみるとどうぞと言わんばかりな顔をしていたのでひとまずパーティ結成を祝って3人で乾杯し、一口飲む

 

するとマスカット特有のフォクシー香が口いっぱいに広がった

 

「美味しい…」

 

私がそう呟くとそれに続いてシリカは意識に訊ねる

 

「あの…意識さん これは?」

 

それを聞いた意識はにやりと笑って答えた

 

「実はNPCレストランにはボトルの持ち込みができるんだ それでそれを使って〖エメラルド・リース〗の持ち込みをしたっていうワケ 因みにそのカップ一杯で最大守備力が1上昇するよ」

「そ…そんな貴重な物…」

「いいのいいの うちの酒豪たちに飲まれるよりはこうして飲んでくれた方が俺も嬉しいからさ」

 

意識が冗談を言うとシリカは笑いながら再びカップに口をつける

 

 

やがてカップが空になって、食事が来たので食べてその余韻に浸っているとふとシリカがぽつりと呟いた

 

「何であんな意地悪言うんだろ…」

 

それに私は口を開く

 

「ねぇ シリカってもしかしてMMOはSAOが?」

「はい 初めてです」

「そっか じゃぁ覚えとくといいよ オンラインゲームは長時間プレイしていると人格が変わる人が少なくない 進んで善人を演じる人もいれば悪人を演じる人もいる まぁ私は昔はそれも一つのプレイスタイルとして見ていたんだけどね…」

 

私はそこで一旦区切ると真剣な表情になる

 

「でもSAO(ここ)は違う そりゃぁみんなで協力っていうのは現実的じゃないけどさ やっぱり人どこまででも恐ろしいって思うよ それがまだ攻略に向けられているんだったら良かったけど… それを他のプレイヤーに向ける奴が多すぎる」

 

私は少し俯くとさらに続ける

 

「私はこの世界で好き好んで犯罪に手を染める奴はもう救いようのない奴なんだと考えてる」

 

そこで顔を上げると私は少し気配に押されたような表情をしているシリカの顔が見えたため私は今までの明るい表情に戻すと「まぁでも」と笑いながら続ける

 

「私も人のことはあんまり言えないけどね… 人助けなんてあんまりしないし」

「朱猫さん…」

 

私が自虐的にそう呟くと意識はこちらを心配そうに見る

 

しばらく重い空気が流れたが突然シリカは私の手を両手で包んだ

 

「朱猫さんはきっといい人ですよ だって見ず知らずのあたしを助けてくれましたし それにそんな朱猫さんと一緒にいる意識さんもあたしはまだよく知らないけどきっといい人だって思いますよ」

 

突然のことに私達は少し驚いたが直ぐに腕の力を抜く

 

「そっか… ありがと シリカ」

 

私が素直に感想を言うと急にシリカの顔が赤く染まっていって慌てて私の手を離した

 

「どうし…」

 

そう言いかけた途中でなんとなく察してしまい 気まずくなって俯く

 

「すみませ~ん! デザートまだ来てないんですけど~!」

 

シリカはそんな空気を紛らわせようと店員を呼ぶ

 

 

ふと意識の方を向くと物凄くいい顔をしていた

 

「やっちまったな」

 

私はこの時の意識をすごく殴りたくなった

 

 

~~~~~~

 

 

その後デザートのチーズケーキを食べ(すっごく美味しかった)、私達はそれぞれの部屋で休むことにした(シリカは1人部屋で私と意識はいつも通り2人部屋)

 

私は落葉色のマフラーと空色に黄色のラインが入ったベストを外しベッドに横になってくつろぎつつ同じく紺藤のマフラーを脱いでベッドの上で胡坐をかいている意識に聞いた

 

「それで…どうだろ」

「どうって?」

「明日奴らが来るかどうかだよ」

「来るんじゃない?」

 

私が明日奴らが来るかについて聞くと意識は来ると答えたため理由を聞く

 

「理由は?」

「明日取りに行く予定の〖プネウマの花〗は一部の所に高価で取引されているからな あいつらが金を稼ぐんだったらこんなうまい話に飛びつかないわけないよ」

「成程」

「言っとくけどまだ仮説だからな? ホントに来るかどうかはわからんぞ?」

 

意識があくまでさっき言ったことは仮説だと付け加えると扉からノックする音が聞こえてきたので返事をしながら扉へと近づく

 

「どちら様ですか?」

「シリカです」

「あぁ! どうぞ~」

 

するとシリカの声が返ってきたため私は扉を開けた

 

「お邪魔します…」

 

そして部屋着であろう可愛らしいチュニックを着たシリカが私達の部屋に入ってきて扉を閉める

 

「どうしたの?」

「あのー…47層の説明をまだ聞いてなかったなって思って!」

「そういえば すっかり忘れてた どうする? 下に降りる?」

「いえ…貴重な情報ですし… 誰かに聞かれたら不味いと思うのでここでお願いしてもいいですか?」

「それもそっか 解った じゃぁ少し待ってて」

 

私達はシリカをベッドに腰かけさせるとテーブルと椅子を少し動かして簡易的な話し合いの場を作る

 

そして私はウィンドウを開いてギルドの共有タブから〖ミラージュ・スフィア〗を取り出し、それをテーブルの上に置くとシリカが聞いてきた

 

「朱猫さん それは何ですか?」

「〖ミラージュ・スフィア〗っていう 簡単に言えば立体的なマップって感じかな」

 

私がそれを慣れた様子で手早く操作しているとシリカが「綺麗…」と呟いていた

 

そして第47層に合わせるとOKボタンを押す

 

すると第47層部分が拡大したのでそれを使って説明を始める

 

「ここが第47層の主街区の<フローリア>でこっちが{思い出の丘} それで{思い出の丘}に行くにはここの道を通らないといけないんだけど…」

 

そこまで言ったところで部屋の外から音が聞こえてきたため意識に無言で合図する

 

「朱猫さ」

 

そして私はシリカに静かにするように合図をし、それと同時に意識が勢い良く扉を開ける

 

誰だ!

 

しかし私の耳には誰かが勢いよく階段を駆け下りる音しか聞こえず、意識は苦虫を嚙み潰したような顔をしていたので私とシリカは意識の後ろから顔を出す

 

「聞かれてたみたいだ」

「そうだね…」

「でも ノックなしだとドア越しの声は聞こえないんじゃ…?」

「聞き耳スキルが高いとその限りじゃないの と言っても大雑把にしか聞こえないけどね」

 

シリカの質問に答えながら私はシリカの背中を押して部屋に戻らせる その後意識が部屋の扉を閉めると椅子に座って考え始めた

 

「でもなんで立ち聞きなんて…」

「多分 すぐにわかると思うよ 意識 メッセ送っといて」

「解ってる」

 

私は意識に依頼人にメッセージを送るように声をかけると机の上に置きっぱなしにしていた〖ミラージュ・スフィア〗をギルドの共有タブに戻し椅子と机をもとの場所に片付け始めた

 

「一先ずメッセージは送った」

「了解 シリカ そろそろ…」

 

私がシリカに部屋に戻るように声を掛けようとするがシリカは私のベッドで眠ってしまっていた

 

「どうしよっか…」

「俺に聞かないでくれ…」

 

結局私は机に突っ伏して寝ることにした

 

 

~~~~~~

 

 

「…猫さん…朱猫さん起きてください」

「う…ううん…?」

 

誰かに私の名前を呼ばれた気がして目を開け、辺りを見回してみると私が昨日あげた装備を着ているシリカの姿があった

 

「おはようシリカ 朝早いね」

「おはようございます もう朝8時ですよ それはそうと昨日はすみません…ベッドを占領しちゃって…」

「いいよ別に この世界じゃどんな体勢で寝ても筋肉痛にならないから」

 

私は直ぐに椅子から立ち上がり、大きく欠伸をする

 

そして辺りを見回すとシリカに訊ねた

 

「そういえば意識はどこ?」

「意識さんだったらもう下にいると思いますよ?」

 

あいつ早起きだな…と思いつつ私は装備しなおすと私達は意識の待っている一階へと降りていった

 

 

 

~~~~~~

 

 

宿屋の隣の道具屋でポーション類を補充すると私達は転移門広場へと向かって行った

 

そして転移門に立つと3人一緒に掛け声を合わせる

 

「「「転移! <フローリア>!」」」

 

 

 

一瞬の転移感覚の後、エフェクト光が薄れた私達の目に様々な色彩の乱舞が飛び込んでくる

 

「うわぁ…! 凄い…!」

 

その光景を見たシリカが目を輝かせながら歓声を上げていた

 

第47層の主街区の転移門広場は無数の花があふれかえっており、広場を細い通路が十字に貫いていてそれ以外の場所は煉瓦が積まれた花壇になっていてそこには様々な草花が咲いている

 

「この第47層は通称⁅フラワーガーデン⁆って呼ばれてて主街区の<フローリア>だけじゃなく層全体が花だらけなんだ」

「そうなんですね! いつかここにホーム買ってみたいなぁ…

 

私がこの層の説明をするとシリカは私に笑いかけるとそっと呟き、近くの花壇の前でしゃがみ込んだ

 

辺りを見回すとほとんどが男女のカップルで全員しっかり手を繋いだり腕を組んだりしているのを見て私は自然と彼女たち(たみとテオ)がそうしているのを想像する

 

しかし気持ちを切り替えて私はカップルたちの方を見ているシリカに声をかける

 

「そろそろ行くよ~」

「は…はい!」

 

私の呼びかけに応じてこちらに戻ってきているシリカの顔はなぜか赤かったような気がした

 

~~~~~~

 

雑談をしながら歩いているといつの間にか主街区の南門まで辿り着いていたので私の隣にいるシリカに声をかけた

 

「さてと ここからいよいよ冒険開始になるんだけど…」

「はい」

 

シリカは真剣な表情で頷く

 

「シリカのレベルとその装備があればここのモンスターに苦戦はしないと思う でも…」

 

そう言いながら私はベルトに付けてあるポーチから〖転移結晶〗を取り出してシリカに渡す

 

「フィールドでは万が一が起こるかもしれない だから私か意識が逃げろって言ったらどこの層でもいいからそれを使って飛んで」

「でも…」

「私も意識もシリカが思ってるより強いから大丈夫だよ それに私達も〖転移結晶〗を持ってるから」

 

私はシリカを安心させるような声で大丈夫だと言うと二っと笑い圏外の方へと向いた

 

「じゃぁ行こうか!」

「レッツゴー!」

「はい!」

 

掛け声をかけると私達は圏外へと走り始めた




オリジナルアイテム紹介

〖エメラルド・リース〗

話にもあるがカップ一杯で最大守備が1上がる緑色のお酒

味はすっきりとした白ワイン


次回で黒の剣士(この小説ではキリトは出てこないけど…)編は最後です

それではまた次回に


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8話:☆"紫染の犯罪者殺し(オレンジキラー)"と"蒼の彗星"

二つ名って憧れますよね(再び唐突な自分語り)

それではどうぞ


SIDE:朱猫

 

 

 

フィールドに出てから数分間はエンカウントせずに調子良く進んでいたのだが…

 

「ぎゃあぁぁぁ!? 何これ!? 気持ち悪いー!? いやぁあああ!! こっちに来ないでぇええ!」

 

早速最初のエンカウントにシリカが引っかかってしまった

 

それは簡単に言えば歩く植物のようなモンスターである

 

人によっては大丈夫かもしれないがほとんどの人が生理的嫌悪を催させるような外見で、かくいうシリカも完全にパニックになっている…

 

「いやあぁぁぁ!」

 

シリカはほとんど目を瞑り、短剣をぶんぶんと振り回している

 

見ていられなくなって私は軽くアドバイスをする

 

「シリカ~! 落ち着いて! 大丈夫! そいつは花の下の所の白くなってる部分を狙えばすぐに倒せるよ!」

「だ…だって気持ち悪いんですぅ…!」

「これで怖がってたらこの先厳しいよ~? この先には食虫植物みたいなやつもいるし何だったら触手が無数に生えたやつも…「きえぇええ!?」」

 

流石にちょっとからかいすぎたかな…

 

少しだけ反省して助けに行こうとした時二本の触手が伸びてソードスキルの硬直時間中のシリカの両脚にグルグルと巻き付いてシリカを持ち上げた

 

「「あっ」」

「え!?」

 

逆さまの状態で宙吊りになったシリカのスカートが重力に従ってずるずると下がっていく

 

咄嗟に私達は顔を背けた

 

「わわわ!?」

 

シリカは自分で何とかしようとしていたが何とかできず、最終的に私達に助けを求めた

 

「朱猫さん! 意識さん! 助けて! 見ないで助けて!!」

「それはちょっと無理な相談だ…」

「右に同じく…」

 

それはちょっと無理な注文かな…

 

しばらくシリカの叫び声が聞こえてきていたがシリカは覚悟を決めたのか怒りながら叫んだ

 

「このっ! いい加減に…しろ!」

 

そこで再びソードスキルの音が聞こえ、その後にモンスターが消滅する音が聞こえたため私達はシリカの方を向くと丁度着地しているところだった

 

シリカは間髪入れずに振り向くと訊いてきた

 

「見ました…?」

「努力は…しました」

「ミテナイデス」

 

~~~~~~

 

何回か戦闘はあったものの特に問題なく赤レンガの道を進むと小川にかかった橋が見えてきてそれを超えると一際高い丘が見えてきた

 

「あれが{思い出の丘}だよ」

「見たところ分かれ道は無さそうですね」

「ただ登るだけだから道に迷うっていう事はないけれどさっきに比べるとモンスターの量が多いらしいから気を引き締めて行こう」

「はい!」

 

私が確認も兼ねて言うとシリカは左右を確認して私達に伝えた所で、意識が注意を促したのでシリカは返事を返した

 

 

その後は意識が注意した通りモンスターが複数体セットで出てきたがこの冒険自体がシリカのレベリングも兼ねているので1体を除いて撃破する

 

幾度かのモンスター達の襲撃を退け、私達はついに丘の頂上へと辿り着いた

 

「うわぁ…!」

「これは…中々…!」

 

シリカが歓声を上げるのも分かる

 

そこは一言で表すなら空中の花畑で周囲を樹に取り囲まれ、ぽっかり空いた空間一面に美しい花々が咲き誇っている

 

「とうとう着いたな」

 

しんがりの意識が短剣を腰に付けている鞘に納めながら言う

 

「ここにその花が…?」

「そうだよ~ 真ん中に岩があってその天辺に…」

 

私が言い終わらないうちにシリカは真ん中に向かって走り出したが…

 

「ない… ないよ! 朱猫さん! 意識さん!」

 

追いついてきた私達に振り返ると叫んでいた

 

それに私達は岩の方を見てみる

 

「え? そんなことは… あぁ 見てみて」

 

少しだけタイムラグがあったのか私達が岩の天辺を見てみると芽が伸びているところだったのでシリカを呼ぶ

 

「あ…」

 

そこからはまるでタイムラプスのように芽が伸びて大きな純白な蕾を結ぶと徐々に先端が綻んで――シャランと鈴のような音を鳴らして開かれ、光の粒子が宙を舞った

 

私達はしばらく白い花を眺めていて、しばらく眺めた後シリカは私を見上げたので私はシリカを見ると軽く頷く

 

シリカは頷き返すとゆっくり絹糸のように細い茎に触れるとそれは氷のように溶け、残ったのはシリカの手元にある光る白い花だけとなった

 

「これで…ピナを生き返らせられるんですね…」

「うん その花の中にある雫を掛けてあげればいいよ でもここだと強いモンスターが多いから街に戻ってからのほうが良いと思うな だからもうちょっとだけ我慢してね」

「はい!」

 

シリカは私に頷くとウィンドウに花を収め、格納されたのを確認してからウィンドウを閉じた

 

~~~~~~

 

幸いというべきか嵐の前の静けさというべきか帰りではモンスターとほとんど遭遇せずに丘の麓へと到着する

 

そして小川に架かる橋に差し掛かると索敵スキルに反応があったためシリカの肩に手を掛けて止め、意識に橋の向こう側にある木立を見ながら合図を出す

 

意識は私の合図に頷くと前に出る

 

シリカは私の方を見るが私は橋の向こう側に茂っている木立を見据えていた

 

そして意識がそこに向けて声を発する

 

「そこの奴… いるのは解ってるぞ 出て来いよ 何だったら俺の方から行こうか?」

「え…?」

 

シリカも意識の言葉に慌てて橋の向こう側の木立を見る

 

緊迫した状態が数秒続いたがその状態を打ち破るように木の葉ががさりと動いて中から人影が出てきた

 

 

その人影は予想通り目的(ターゲット)のロザリアだった

 

しかしそんなことを知らないシリカは驚いており、声を出していた

 

「ロザリアさん…!? 何でこんなところに!?」

 

驚いた様子のシリカの問いには答えずに意識を見ると唇の片側を吊り上げて笑う

 

「中々高い索敵スキルね剣士サン達 少し侮ってたかしら?」

 

そこでようやくシリカに気づいたように視線を移す

 

「おめでとう シリカちゃん その様子だと首尾よく〖プネウマの花〗を入手できたみたいね」

 

唐突な言葉にシリカは嫌な予感を感じたのか数歩後に下がる 直後その予想を裏切らない言葉をロザリアが言った

 

「じゃぁ 早速その花を渡してちょうだい」

「な…何を言ってるんですか…?」

 

数歩下がったシリカに代わって意識がロザリアに向かって口を開く

 

「そうはいかないな ロザリアさん いや…ここは犯罪者ギルド(オレンジギルド)[タイタンズハンド]のリーダーさん と言った方が良いか?」

 

意識が口許を吊り上げながら言うとロザリアの眉がピクリと動き、唇から笑みが消えた

 

 

犯罪者ギルド(オレンジギルド)はその名の通り犯罪を主にしているプレイヤーギルドのことを指し、そのギルドに入っているプレイヤーはカラー・カーソルの色がオレンジの割合が多いがグリーンのプレイヤーもいるのはいる

 

そういう人は主に囮役や圏内へのアイテム補充係になることが多い

 

目の前にいるロザリアのカーソルもグリーンでシリカはそれに疑問を持ったのか私に声を掛けてきた

 

「え? でも…ロザリアさんはグリーンじゃ…」

犯罪者ギルド(オレンジギルド)って言っても全員がオレンジカーソルっていう訳じゃないの グリーンのメンバーが囮になって オレンジカーソルの仲間が待ち伏せているところまで誘導する 結構有名な手口だよ 昨日私達の会話を盗聴してたのも恐らく彼女らの仲間だ」

「そ…そんな… じゃぁここ2週間一緒のパーティにいたのは…」

 

私の話を聞いたシリカは驚愕し、ロザリアに眼をやる

 

するとロザリアは毒々しい笑みを浮かべた

 

「そうよぉ あのパーティの実力を評価するのと同時に冒険でお金が貯まっておいしくなるのを待ってたの ホントなら今日にでもヤッちゃう予定だったんだけど~」

 

ロザリアはまるで獲物を狙う蛇のように舌なめずりをしながらシリカを見る

 

「一番楽しみな獲物だったあんたが抜けちゃうからどうしよっかって思ってたら なんかレアアイテムの〖プネウマの花〗を取りに行くっていうじゃない? あれって今が旬だからとてもいい相場で取引できるのよ やっぱり情報収集って大事よね~」

 

そこで言葉を切ると私達の方に向く

 

「でもそこの剣士さん達 そこまで解っててその子に付き合うなんて馬鹿? それともほんとに体で誑し込まれちゃったの?」

 

それに意識はあくまででも冷静に答えた

 

「んや? どっちでもない むしろ俺達があんたを探してたんだからな ロザリアさん?」

「どういうことかしら?」

「あんた10日ほど前に38層で[シルバーフラグス]って名前のギルド襲ったろ メンバー4人が殺されリーダーだけが命からがら逃げのびた」

「…あぁ… あの貧乏な連中ね」

 

意識の問いにロザリアは興味無さそうに頷く

 

「それでそのリーダーだった奴は最前線で朝から晩まで泣きながら仇討ちしてくれるやつを探してたよ」

 

意識はどこか怒りを含んだような声で言う

 

「まぁ 依頼を受けたのはそいつだけどその時にあいつはあんたらを殺してくれとは一言も言わなかった… ホントは殺したいほど憎いはずなのにな あんたらの事を生きて{黒鉄宮}の牢獄に入れてくれって言ってたよ あんたに彼の気持ちが判るか?」

「解んないわよ」

「まぁ そうだよな じゃなきゃこんなことしてないもんな」

 

意識が私を見ながら言うとロザリアはめんどくさそうに答え、意識も先ほどより怒りを含んだような声で同意する

 

「何よ マジになっちゃって ここで人を殺したって本当にその人が死ぬっていう確証もないし そんなんで現実で罪になるわけないじゃない 第一現実に戻れるっていう保証もないのにさ、正義とか法律とか 馬鹿みたいじゃない? アタシそういう奴が一番嫌い この世界に妙なルールを持ち込む奴がね」

 

ロザリアの目が凶悪そうに意識を睨む

 

「それで? あんたらはその死に損ないの言うことを真に受けてここまでのこのことやってきたっていう訳ね 暇な人だね~ まぁあんたらのまいた餌にまんまと釣られちゃったのは認めるけどさ …たった3人でこの人数相手にどうにかなると思ってんの?」

 

ロザリアが嗜虐的な笑みを浮かべながら指を鳴らすと橋の向こう側にある両側の木立から次々とオレンジカーソルのプレイヤーが出てきた

 

その数は10人 もしも気付かずにそのまま行っていれば囲まれていたと思う

 

木立から出てきたうちの1人だけはグリーンカーソルで恐らく昨日盗聴していたのは彼だろう

 

新しく登場した盗賊プレイヤー達は全員奪った金で買ったと思われる銀のアクセサリ類やサブ武器をジャラジャラとぶら下げている

 

男たちはにやにやとしながら私達に粘つくような視線を投げかけてくる それにシリカは耐えかねたのか私の背後に身を隠すと意識に対して声をかけた

 

「意識さん 人数が多すぎます! 脱出しないと…! 朱猫さんからも何か言ってくださいよ!」

「平気平気 あれぐらいだったら問題じゃない 朱猫 シリカを頼む」

「りょーかい」

 

意識はシリカに穏やかな声で言うと私にも声をかけ、武器をクイックチェンジで〖ソードブレイカー〗に持ち替えると武器を鞘にしまい、そのまま男たちに向かって歩き始めた

 

シリカは不安に思ったのか咄嗟に意識を呼び止める

 

「意識さん!」

 

シリカの声が響いた瞬間 オレンジプレイヤーのうちの1人が不意に呟いた

 

「意識…?」

 

その男は笑みを消すと記憶を探るように視線を意識へと向けた

 

「その装備… 紫色のマフラー… もしかして"紫染の犯罪者殺し(オレンジキラー)"…!?」

 

そして思い出したのか男は顔面を蒼白にして数歩下がる

 

「ま…不味いっすよ ロザリアさん…こいつ…オレンジ相手には一切容赦しないって噂の…攻略組だ!」

「ってことはその近くにいる空色のベストを着てる女は…"蒼の彗星"かよ!? こいつ攻略組随一の速さって噂になってる!」

 

最初に叫んだ男がロザリアに意識のことを伝えると別の男が私のことも思い出したようで声に出すと他のメンバーの顔が一様に強張った… 一応私は女顔っていうだけなんだけどな…

 

「へぇ~ よく知ってるやつもいるじゃん じゃぁこの後どうなるかは判るよな?」

 

意識が男たちの反応を楽しむように声を出すと黒い笑みを浮かべながらそのまま近づく

 

ロザリアも数秒ほどは放心状態だったが我に返ったように男たちに対して甲高い声で喚く

 

「こ…攻略組がこんなところにいるわけないじゃない! 名前を騙ってビビらせようっていうコスプレ野郎に決まってる それに本当に"紫染の犯罪者殺し(オレンジキラー)"だったとしてもこの人数でかかればいくらあいつでもただじゃ済まないわよ!」

 

その声に勢いづいたように先頭の両手斧使いの男も叫ぶ

 

「そ…そうだ! 攻略組ならアイテムとか金とかたんまり持ってるよな! おいしい獲物じゃねぇかよ!」

 

やめときゃいいものをその男の言葉を聞いた他の男たちも口々に同調するような声を出すと一斉の抜刀した

 

「朱猫さんも意識さんを止めてくださいよ!」

「あー 大丈夫だよ… それより今はあいつらの事を心配してあげたら…?」

 

シリカが私を揺さぶりながら叫ぶが私は微塵も心配せず、逆に男たちの方を心配していた

 

今も意識は武器を取っていなかったのでロザリアとグリーンカーソルを除く男たちはチャンスだと思って我先にと言わんばかりに走り始め、半円状に取り囲むと奇声を上げながら一斉に持っていた武器で切りかかった

 

 

その直後、金属の嫌な音を上げて武器の先端が宙を舞って地面に突き刺さるとそのまま男たちの持っていた武器が消滅した

 

「は…?」

「え…?」

「だからやめとけって…」

 

意識は〖ソードブレイカー〗を抜刀した状態で手に持って、男たちに対して黒い笑みを向けていた

 

恐らくいつものように武器破壊をやったのだろう

 

「で? 何だったか? 俺を殺すんじゃなかったのか? 武器もなしに? 勇敢だなぁ」

 

意識の煽り言葉に威圧されたように男たちはその顔を驚愕から恐怖に変えるとそのまま道を開けるように後ずさった

 

「チッ」

 

ロザリアはそんな様子の男たちを見捨て、ポーチから〖転移結晶〗を取り出すがそれを意識が見逃すはずもなく高速でロザリアのところまで行くと首元に〖ソードブレイカー〗をあてがった

 

「ヒッ!?」

「おっと 動くなよ? 首が飛んでもいいなら動いてもいいけど」

 

意識はロザリアの手から〖転移結晶〗を奪うとそのまま男たちの元へと連れて行った

 

「どうする気だよ! 放せよ畜生!」

 

無言のまま意識はロザリアの首から〖ソードブレイカー〗を放すと男たちの元へ突き飛ばし、腰のポーチから〖転移結晶〗よりさらに濃い青色の結晶…〖回廊結晶〗を取り出した

 

「これは俺らの依頼主が全財産をはたいて買った〖回廊結晶〗だ これの出口は黒鉄宮の監獄エリアに設定されてる これでお前らには今から牢獄(ジェイル)に飛んでもらう なに 後は軍の連中が可愛がってくれるさ」

 

それにロザリアは地面に座り込んだまま押し黙っていたが数秒後、強気な笑いを浮かべると言った

 

「もし嫌だと言ったら?」

「そんな選択肢があるとでも?」

 

意識は〖ソードブレイカー〗を抜刀するとその先をロザリアに向けながら答え、次に男たちにも〖ソードブレイカー〗の先を順に向ける

 

「お前らに対しても同じだ もし逃げようとしたら解ってるな? そのまま自分の足で入るか俺に強引に入れられるか 好きに選べ」

 

意識の怒気を含んだ言葉に男たちは完全に抵抗する気力をなくし項垂れるのを見て意識は〖ソードブレイカー〗を鞘に納め〖回廊結晶〗を手に持って叫んだ

 

「コリドー・オープン!」

 

瞬時に〖回廊結晶〗が砕け、その前の空間に青い光の渦が出現する

 

「畜生…!」

 

最初に意識に襲い掛かろうとした男が肩を落としながらその渦の中に飛び込み、それに続いて他のオレンジプレイヤー達もある者は意識に毒づきながらまたある者は無言で渦の中へと消えていきグリーンカーソルの男も意識に急かされて渦の中へと入っていき残りはロザリアだけとなった

 

ロザリアはあれだけのことをやられても強気に地面に胡坐をかいて動こうとしなかった

 

そして強気な視線で意識を見上げている

 

「やりたきゃやってみなよ グリーンのあたしを傷つけたら今度はあんたがオレンジに…」

 

ロザリアが言い終わらないうちに意識はロザリアの襟首を掴み上げた

 

「俺は1日2日ぐらいだったらオレンジになったって構わないんだぞ」

 

そしてそのままロザリアを青い光の渦のところまで連れて行く

 

「ねぇ! ちょっと! やめてよ! 許してよ! そうだ! あんたアタシと組まない? あんたの腕があれば…「いい加減黙れよ」」

 

ロザリアが醜く命乞いをするが意識はこれまで見たことがないほどの怒気を含ませた声で一蹴するとそのまま渦の中へと放り込んだ

 

その直後に光の渦が閉じて先ほどまでの喧騒が嘘かのような静寂が訪れた

 

 

 

意識は手を軽くはたくとようやく私達もいることに気が付いた様子でこちらを見た

 

「あっと… シリカ… 色々とごめん 怖かったよな シリカを囮にするような真似をしたのは悪かった…もし言ったら怖がらせると思って」

 

シリカは私の体から顔を出すと首を横に振る

 

「え~っと… 街まで送るよ シリカ 歩ける?」

「すみません… 足が動かないんです…」

 

その後は静寂が流れたが私がシリカに街まで送ると言うとシリカは私の体から動かずに声を出した

 

シリカはひとまず私がおぶって街まで帰ることにした

 

 

~~~~~~

 

 

第35層の風見鶏亭に戻るまではほとんど会話がなく、2階のシリカの部屋に向かってベッドにシリカを座らせ、意識が部屋を出ようとしたところでようやくシリカは震えた声で口を開いた

 

「意識さん 朱猫さん 行っちゃうんですね」

「流石に5日も開けちゃったからね… そろそろ戻らないと」

「そう…ですよね…」

 

私達が戻ると伝えるとシリカは俯いたので私が頭を優しく撫でるとシリカは私の顔を見上げた

 

「シリカは強いよ 噂を鵜呑みにせず自分の感じたものを信じてる それにこれで別にお別れっていう訳じゃないよ? フレンド交換すればまたいつでも会えるし 何だったらこのゲームがクリアされても私達の関係は消えるわけじゃない シリカの事を紹介したらきっとみんな仲良くしてくれるよ…一部要注意人物はいるけど…」

「私も朱猫さんと意識さんのギルドの人達に会ってみたいです!」

 

私がシリカに優しく声を掛けるとシリカは元気に頷いた

 

「さてと… 話が逸れちゃったけど そろそろピナちゃんを呼び戻してあげよっか!」

「はい!」

 

シリカはウィンドウを開いて操作すると〖ピナの心〗をオブジェクト化し、その次に〖プネウマの花〗もオブジェクト化させる

 

そして〖プネウマの花〗を手に取ると私を見上げた

 

「意識 花にたまってる雫を心に振りかければいいんだっけ?」

「ん? あぁ そうだってさっきやる気に聞いた」

「との事 じゃぁ早速!」

「解りました!」

 

シリカが〖プネウマの花〗を傾けて〖ピナの心〗に雫をかけると青く光り始め、光が収まるとふわふわした小型の青い竜が姿を現した




意識と朱猫の2つ名が厨二っぽくなってしまった…

それと結構長くなりましたがキリが良い所までいけたので良かったです


次回から圏内事件編になります

久々に主人公が主役です(?)

それではまた次回に


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9話:黒と白の対立

久々のタコミカが主役です

それではどうぞ


2024年3月6日 第56層 <パ二>にあるとある場所にて攻略組はフィールドボスを倒すためにアスナが主導して作戦を立てていた

 

因みに私達のギルドは前線から降りたやる気君と脱退したひま猫さん以外は全員参加している(と言ってもひま猫さんは[月夜の黒猫団]として参加はしているのだが)

 

私がテーブルに広げられた地図を確認しているとテーブルを強く叩く音が聞こえた

 

「フィールドボスを村の中に誘い込みます」

 

アスナの言葉に少なからずどよめきが広がる… 彼らの気持ちは分かるし私もアスナの作戦には反対だが反論しようにも代案がない

 

私がどうしよう的な視線をディアベルさんに向けるとディアベルさんは困っているような表情を私に向ける

 

すると咄嗟にキリトさんが反論した

 

「ちょ…ちょっと待ってくれ! そんなことしたら村の人達が…!」

「それも作戦のうちです フィールドボスがNPCを殺している間にボスを攻撃して倒します」

 

アスナはNPCの人達を度外視したような反論をするがキリトさんは更に怒りの声を上げる

 

「NPCは岩や樹みたいなオブジェクトじゃない! 彼らは…「生きている…そうおっしゃるつもりですか」!」

 

この頃アスナとキリトさんは衝突している…が今回ばかりはキリトさんの味方をしたい

 

「あれは単なるオブジェクトです 殺されてもまたリポップするのだから」

「俺はその考えに従えない」

「今回の作戦は私 [血盟騎士団]副団長のアスナが指揮を執ります なので私の作戦には従ってもらいます」

 

どっちも引きそうにない…そう考えているとリオンさんから声が上がった

 

関係ないが今のリオンさんはまるで看守のような服装をしている(これも無論私製作)

 

「一つだけ言いか副団長さん」

「何ですか?」

「今回のボスの件 あんたはどこまで掴んでいるんだ?」

「一通りは」

 

アスナが冷淡にリオンさんの質問に返すとリオンさんは反論する

 

「そうか…ならなぜこの強硬作戦で行こうと思った?」

「え?」

「こういったボスに近い村では必ずボスを弱体化できるようなヒントがあっただろ? それは見つけたのか?」

「いえ…そういったものは…」

 

そこでリオンさんは確信に変わったのかアスナに告げる

 

「NPCに攻撃している最中にボスを攻撃するという案は下手をすればこちらにも危害が及ぶ可能性がある そのような作戦を私はお勧めはできない」

「なら代案を出してください!」

 

リオンさんがそう言うとアスナは大声を出してリオンさんに代案を出すように言った

 

「それらしいことを話すNPCがいる場所は大雑把ではあるが掴めた」

「それで…?」

「…詳しい調査はまだだ」

 

リオンさぁん… そこまで言ったんだったら最後まで頑張ってよぉ…

 

「詳しい調査も終えていないのに今この場で発言しないでください! とにかく 今回は私の作戦で行かせていただきます」

「…なぁ副団長さん 何をそんなに焦っている? 私としては村の調査が完全に終わってからでも遅くはないと思うのだが」

「リオンさん それは今は関係ないでしょう」

 

頼むから2人共これ以上衝突しないでぇ…

 

私は今にも衝突しそうな2人の出す空気に耐えかねて多数決を取るという案を出してしまった

 

「ストップ! じゃぁ こうしましょう! 多数決で決めます! アスナさんの案に賛成の方はこちらに! リオンさんの言う通り村を全部探索してからでも構わないという方はこちらに集まってください!」

 

私は今回の発言を後悔した これは…真っ二つになる…

 

 

予想通り攻略組は真っ二つになってしまった… アスナの案に賛成という人は主に大型ギルドの人達でリオンさんの案に賛成という人たちは主にソロや少数ギルドの人達だった

 

アスナの案に賛成という人たちの中で一部の人達(ディアベルさんやノーチラスさん、リーテンさんやシヴァタさん等)はリオンさんの言う通り、村を調査してからでも遅くないんじゃないかという顔をしていたが立場上はアスナの案に賛成しなくてはならなくて渋々アスナの方に集まているという姿が私の眼に映った

 

私は申し訳なさそうに村の調査優先組に声をかける

 

「皆さんすみません… 私がこんな提案したばっかりに…」

「それを言うなら私が原因だ たみは険悪な雰囲気を何とかしようとしてくれたのだろう?」

「いや… 元を辿れば俺がアスナに噛みついたことが原因だし…」

「でもこうなっちゃった以上はどうにかしないとこれからの攻略に響きますよ…」

 

私が落ち込みながら言うとリオンさんとキリトさんが私に対して謝り、ポテトさんがアスナの案に賛成の人達を見ながら呟くと口々に私は悪くないと言ってくれた…

 

やめてみなさんその言葉は私にとても良く効く

 

しかし私は気持ちを切り替えると私は事の不始末をしようと案を出した

 

「半々ですね… じゃぁお互いの代表1人同士のデュエルで決めましょう」

 

 

~~~~~~

 

 

アスナ側から選ばれたのは予想通りアスナで私達側から選ばれたのはキリトさんだった

 

因みにキリトさんが出た理由は珍しく自分から立候補したからである

 

それ自体に文句はないけど… 私はただアスナとリオンさんを止めようとしてただけなんだけどな…

 

そうして今は2人のデュエル1分前になったので離れた所から様子を見守ることにした

 

 

私が先ほどのアスナとリオンさんの言い争いを思い出しながらため息をついているとておさんが声をかけてきた

 

「心労な様子だね… そりゃそうか…」

「あはは…」

 

私はそれに穏やかに笑って返したが内心かなり穏やかではない

 

「まぁここから先はキリトに任せよう 俺らができることはもう何もない」

「そうですね… 個人的にはキリトさんに勝ってほしいですけど…」

「アスナには負けてほしくないってか?」

 

ておさんが私の言葉の先を見透かしたように言ったので私は黙って頷く

 

 

私達が話し合っていると2人のデュエルが始まった

 

先に仕掛けたのはアスナで確か≪スター・スプラッシュ≫って言ったっけ? それをキリトさんに向けて放つ

 

キリトさんは何とか回避したが一部に掠ってしまいダメージを受ける

 

その後もアスナの猛攻は続くが一向にキリトさんは反撃する素振りすら見せなかった

 

 

キリトさんのHPゲージが2割を下回った時、アスナが痺れを切らしたのかキリトさんに対して何か言っていたがここからは聞こえなかった

 

 

しかしキリトさんの言ったことに対してここからでも見えるほどアスナは怒り、それに比例するように攻撃の速度も上がってはいたが精度は先ほどに比べ格段に落ちておりキリトさんはそれ以上ダメージを受けなかった

 

しばらくはアスナの猛攻を回避し続けていたキリトさんだったが一気に勝負を仕掛けた

 

2本目の剣をいつの間にか装備しておりアスナがそれに気が付いて剣を抜刀したところをレイピアで落とそうとしたがキリトさんは2本目の剣を抜かずにそのまま右手に持っていた剣でバランスを崩したアスナのレイピアを弾き、そのままクリティカル攻撃をアスナに加えて決着をつけた

 

私は決着がついたことに喜んだのと同時に座り込んだままのアスナへと駆け寄った

 

 

「大丈夫…? アスナ…」

「えぇ 大丈夫 デュエルの結果はそちらの勝利ですので約束通りリオンさんの案でいきます」

「そうだな… 村の調査と言ってもあまり時間を掛けるつもりは無い 1日ほど待ってくれれば 結果を出そう」

 

いつの間にか私達の近くに来ていたリオンさんがそう告げるとその日はそれで解散となった

 

 

~~~~~~

 

 

翌日、宣言通りリオンさんがボスの弱体化情報を掴んできた

 

どうやら楽器スキルを持っているプレイヤーがボスの察知範囲ギリギリからとある歌を歌いながら演奏することでボスを眠らせることが出来るという

 

なのでリオンさんは[血盟騎士団]に入団したユナさんにそれを頼み、しっかりと護衛をつけた上(リオンさんが珍しく護衛に立候補した)でその歌を歌うとあれだけ苦戦したボスをあっさりと眠らせることが出来、そこからは眠っているボスにひたすら攻撃するという消化試合だった

 

その後は打ち上げをし、私達は迷宮区へと攻略を進めた




タコミカは基本的に中立を保ちたいですがこの話の前と直後は概ねこんな感じの為ストレスマッハですね☆

それではまた次回に


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10話:安息の日のはずが…

今回は前半はちょっとだけいちゃつき要素があると思います

それではどうぞ


2024年4月11日 59層<ダナク>

 

私は狩りに一緒に行くためにておさんを探していた

 

「全く… どこに行ったんですかね…?」

 

そう呟きながらも探していると転移門の近くの芝生にある木の陰で昼寝をしているキリトさんを見かけたのでちょっとだけ声をかけてみようと近づくと索敵スキルにある接近警報をセットしていたのかキリトさんが目を開けた

 

「ん? あぁ タコミカか」

「キリトさん ておさん見かけませんでしたか?」

「テオならそこにいるぞ?」

「本当ですか?」

 

キリトさんが視線を向けた方向に顔を向けると確かにキリトさんのいる樹の反対側にておさんがいた

 

「ておさん 狩りに一緒に行きません?」

「悪い パス」

「即答ですね」

「今日は昼寝するって決めた」

「そうですか…」

 

ておさんの返答を聞いた私はておさんの近くに座ると蜘蛛を模した頭装備を外すと隣に座った

 

確かに今日は日差しが温かいな…

 

「あれ? 狩りに行くんじゃないのか?」

「ておさんが休むんだったら私も今日は休みますよ」

 

[フリッツ・フリット]は安全マージンさえ保っていれば基本的には自由なのでこうやって自分の気分で休息をとることもできる(ちなみに私のレベルは78)

 

一応ポテトさんにメッセージを送っていると前よりは少しだけ落ち着いた様子のアスナがやってきて再び目を閉じていたキリトさんに声をかけていた

 

「何してるの」

 

少し不機嫌な様子のアスナを気にすることなくキリトさんは軽くあしらう

 

「なんだ… あんたか」

「攻略組のみんなが必死に迷宮区に挑んでいるのになんであんたはこんなところで昼寝してるのよ」

「おんなじことをあいつらにも言えよ」

 

!? 唐突にキリトさんはアスナを私達に振った

 

キリトさんに言われて私達の方を見たアスナは呆れと苛つきが混ざったような顔をした

 

「何でタコミカ達まで休んでいるのよ…」

「私達のギルドは自由が売りなの 私のレベルは78なんだから文句は言わないでね」

「あのねぇ…レベル云々の問題じゃなくて 攻略組のみんなの気持ちを考えたことはあるの!?」

 

アスナは私を怒ったが私はそれを躱すようにして言った

 

「根の詰めすぎは良くないってリオンさんに言われたばっかりじゃなかったっけ?」

「そうだけど… それとこれとは…」

 

まだ言い訳をしようとするアスナに不意にキリトさんから声が聞こえてきた

 

「今日はアインクラッドで最高の季節の更に最高の天候だ こんな日に迷宮区に潜ったらもったいないだろ?」

「貴方も解ってるの!? こうやって一日無駄にした分 現実の時間が失われていくのよ!?」

「だからって急いでも空回りするぞ?」

「テオの言う通り 俺らが今生きているのはこのアインクラッドだ」

 

アスナはキリトさんの方を見るとアスナは怒ったがておさんがアスナに向かって言うとそれに続くようにキリトさんが言う

 

「ほら… 日差しも風も…気持ちいいだろ?」

「天気なんて毎日一緒じゃない」

「あんたもこうやって横になってみればわかるよ」

 

キリトさんの言葉の何がアスナをそうさせたのかは分からないがアスナは横になると1分とかからずに寝始めた

 

「寝ちゃったよ…」

「疲れてたみたい」

 

私は少しておさんの隣を離れるとアスナの元まで向かい、ブランケットを取り出すとアスナにかけると軽くアスナの頭を撫で、私はておさんの元へと戻った

 

 

~~~~~~

 

 

ておさんが寝たので私はお店の休憩時間のやる気君と他愛もないメッセージをやり取りしているとキリトさんが起きた

 

「あれ…? このブランケットってタコミカのか?」

「そうですよ」

「そっか… 優しいんだな…タコミカは」

「私はただ親友に無理をしてほしくないだけですよ」

 

キリトさんは寝ているアスナにしばらく優しい視線を向けていたので私も寝ることにした

 

「そうだキリトさん」

「どうした?」

「私も寝ますからあとお願いしますね」

「え!?」

 

私もここ最近は働きづめでウトウトとしていたためあとはキリトさんに任せることにして私も寝ることにした

 

私は欠伸をすると寝ているておさんの肩に体を預けるようにして眠りについた

 

 

~~~~~~

 

 

私が目を開けたときにはておさんに膝枕をされており、なぜかておさんの着ている紺色のコートの左袖を掴んでいた

 

ておさんを見上げると空はすっかり茜色に染まっており、寝ていたておさんもすっかり起きていた

 

私は軽く欠伸をすると、声をかける

 

「おはようございます ておさん」

「おはよう よく眠れた?」

「結構よく眠れましたよ」

 

ておさんと雑談をしてキリトさんにお礼を言おうとキリトさんの方を見てみるとアスナがキリトさんに向かって抜刀しかけながらご飯一回を奢ると提案しているというまぁまぁカオスな状況だった

 

「第57層の主街区にNPCレストランにしては結構いける店があるからそこにしようぜ」

「…いいわ それにタコミカも起きたみたいだし一緒に行きましょう」

「? なんで?」

「なんでも とにかく私がそういう気分なの」

 

私はアスナからブランケットを受け取るとそのままアスナは大きく伸びをした

 

~~~~~~

 

第57層の主街区の<マーテン>は最前線よりわずか2つ下の階層の大きな町ということもあって攻略組の拠点的な街兼有名な観光地にもなっている

 

その為、このような夕食時ともなれば上の層で狩りをしていた最前線プレイヤー達や下の層から食事を食べに来たプレイヤー達で大いに賑わうことになる

 

第59層の転移門から<マーテン>へと移動した私達は並んで歩くアスナとキリトさんの後ろからキリトさんお勧めの店へと向かうことにした

 

すれ違う人たちの何人かは私を見て驚いているような様子を見せた

 

前にじんじんさんから聞いた話だけど何でも私のファンクラブなるものが存在するらしくそうやって注目されるのは私としても少しだけ嬉しい気もしなくはないがそれが毎日続くと気疲れぐらいはする

 

そこから5分ほど歩くとキリトさんが足を止めたのでそのお店を見てみるとやや大きめのレストランだった

 

「ここ?」

 

アスナがキリトさんに訊ねるとキリトさんは頷いた

 

「そう 俺のお薦めは肉より魚だ」

 

店に入るとアスナは奥まった窓際の席を目指したため私達もそれに続く

 

そして席に座ると店員NPCがやってきたので私達はコースメニューを注文することにした(私はキリトさんのお薦めを無視して肉を注文した)

 

速攻で届いた果実水に唇をつけていると周囲のプレイヤーたちが口々にアスナの2つ名である"閃光"や私の2つ名である"彩姫(あやひめ)"という声が聞こえてくる

 

この"彩姫(あやひめ)"という2つ名は恐らく戦闘、非戦闘問わず見た目装備の種類の多さとこれまで私が全てのフロアボス戦に参加してきているという実績、それに対する強い憧れが込められているのだと私は考えている

 

私がグラスの中の果実水を見ながら料理が来るのを待っているとアスナが口を開いた

 

「まぁ… なんていうか…今日はありがと…」

「えっ!?」

 

キリトさんは驚いたがアスナは気にせずにもう一度お礼を言った

 

「ありがとうって言ったの ガードしてくれて」

「あぁ… いや… ど、どういたしまして…」

 

キリトさんは不意にそう言われたので緊張したのか少し噛んでしまっていたがアスナはそんなキリトさんの様子を見ると軽く笑い、椅子の背もたれに体を預けた

 

そして私の方を見ると声をかけてきた

 

「それとタコミカもありがと ブランケット貸してくれて」

「別にいいよ そのままだと体冷やしちゃうし」

 

別にブランケットはあっても無くてもどっちでもいいけどそう答えておく

 

「なんだかあんなに寝たのは久々かも…」

「いつもはあんなに寝てないの?」

「うん… 普段は3時間ぐらいで目が覚めちゃうから…」

 

私は毎日6~8時間ぐらい寝てるのに… そう思っているとておさんが訊ねる

 

「それって前みたいにアラームで起きてるんじゃなくて?」

「うん 不眠症って程じゃないんだけど… なんだか悪い夢を見ちゃって…」

「そうか…」

 

ておさんはそこで気まずくなったのか言葉を区切る

 

アスナの言うことは何となくだけど分かる気がする 私もSAOが始まった次の日に死にかけてそこから約1ヵ月ほどは悪夢で起こされるということが多かった

 

その時はどうしたんだっけな…確かひま猫さんにホットミルク作ってもらったっけ…?

 

「あっちじゃホットミルクを飲んだりとか軽いストレッチをするといいらしいけど… それがこっちにも当てはまるとは限らないし…」

「うん… そういうのはやってるんだけど中々良くならなくって…」

 

やってたんだ… 私が「むむむ…」と言いながら考えているとキリトさんが口を開いた

 

「あ~ その…なんだ… 俺がどうこう言うべきではないのかもしれないけどまた今日みたいに昼寝をしたらいいんじゃないのか?」

 

キリトさんの言葉にアスナは驚いていたが軽く微笑むと頷いた

 

「…そうね また今日みたいな気象設定の時にはお願いしようかしら」

 

2人の雰囲気がいい感じになったところでNPCがサラダを持ってきたので私達は早速食べることにした

 

私達がサラダを食べているとキリトさんが呟くように言った

 

「そういえばここでは栄養とか関係ないのになんで生野菜とか食べてるんだろうな」

 

キリトさん…急に我に返るのはやめて…

 

「え~ 美味しいじゃない」

「キリトさん そういうことを言うのは野暮っていう奴ですよ」

 

私達がそれに反論するとておさんも口を開く

 

「まぁキリトの気持ちは分からなくもないな… せめて()()()ドレッシングがあればいいんだけれど…」

「ておさんが()()()っていう部分を強調したことについては置いておくとして 確かに調味料が欲しいですね…」

 

私がておさんの言ったことに同意するとアスナも続けて言う

 

「あー それは凄く思うわ」

「そうだよな… 主にあっちにあった調味料が欲しいよな」

「例えば?」

 

キリトさんも私達に同意するとておさんがどんな調味料が欲しいかと訊いていた

 

「ん~ そうだな… 例えばソースとかか?」

「そうね 私はケチャップとかマヨネーズとかが欲しいわね」

「私はめんつゆが無性に欲しいかな…」

「あ~ 全部わかる… 俺は七味とかデスソースとかが欲しいわ…」

 

ておさんの七味とかデスソースとかが欲しいっていうのはちょっとわからないがておさんの意見は大いにわかる

 

「でもやっぱりあれが欲しいですね」

「あれ…? あぁ…そうね」

『醤油!』

 

私が一番欲しい調味料のことを言うと3人は解ったようで同時に叫ぶと私達は笑い始めた

 

その直後…

 

きゃぁあああああ!

 

外から女性の悲鳴が聞こえてきた




テオロングは某カレー屋さんの10辛を普通に食べられるほど辛い物が好きです(何だったら更に香辛料を持ち込んでかける)

それではまた次回に


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11話:圏内事件発生

今回から本格的に圏内事件編に入っていきます

それではどうぞ


その悲鳴に私達は咄嗟に椅子から立ち上がるとアスナが先ほどとは打って変わり鋭い声で囁いた

 

「店の外からだわ!」

 

この中で一番素早いであろうアスナが店の外へと向かったため私達も慌てて追いかける

 

 

表に出ると再び絹を裂くような悲鳴が聞こえてきた…恐らくこの先の広場からだろう

 

私達は顔を見合わせて頷くと全力でそこへと向かう

 

そして悲鳴が聞こえてきた円形の広場に飛び込むようにして辿り着く

 

 

そこで目にした光景に私は思わず目を見開き口に手を当ててしまう

 

広場の北側にある石造りの教会の2階中央の飾り窓から1本のロープが垂れており、その環になっている先端にフルアーマーの男性プレイヤーがぶら下がっていた

 

この世界では窒息で死ぬということはないため広場に集まっているプレイヤーたちの悲鳴の原因はそれではないだろう

 

恐らくその原因は男性プレイヤーの胸に深々と突き刺さっている1本の黒いショートスピアであると私は確信した

 

男性はそのショートスピアの柄を両手で掴み、何かを言っているように口を動かしていた その間にもショートスピアが突き刺さっている部分からは赤いダメージエフェクトがまるで血のように明滅を繰り返している…つまり今この瞬間にも男性は貫通属性ダメージを受けているのだと思われる

 

男性に突き刺さっているショートスピアをよく見てみると穂先の部分に無数の逆棘があるのが見え、恐らく男性に刺さっている部分にも逆棘があるのだろう

 

早く抜け!

 

キリトさんがその男性に対して叫ぶと男性はその槍をのろのろとした動きで抜こうとする

 

しかし食い込んだ槍は容易に動こうとしなかった 恐らく先程も述べた通り逆棘が付いているのと死の恐怖でうまく抜けないのだろう

 

でもジャンプして男性の手助けをしようにも男性は地面から最低でも10メートルは離れてる…

 

そう考えている間にも男性のHPが危険な状況かもしれない

 

私がどうしようかと考えを巡らせているとアスナの鋭い叫び声が聞こえてきた

 

「キリト君は下で待機! タコミカは教会から誰か出てこないか監視! テオ君は周りの人たちの中に怪しい人がいないか探して!」

 

私達にそう指示を出すとアスナは教会の入口を目指して駆け出していった

 

多分2階まで行って上でロープを切るつもりなのだろう

 

「了解!」

「解った!」

「任せろ!」

 

私達はアスナに対して叫び返すとそれぞれ行動を開始した

 

 

だが私が教会の入口へと向かっている途中でガラスが砕け散るような音がしたためそちらに目を向けると男性がおらず代わりに無数のポリゴン片が四散しているのが見えた

 

支えるものがなくなったロープは壁にくたりとぶつかり、男性を突き刺していたショートスピアは真下の地面の石畳に重い金属音を響かせて突き立った

 

無数のプレイヤーたちの悲鳴が聞こえる中私はあと数メートルだった教会の入口へと行くと入口を塞ぐようにして立つ

 

その直後にプレイヤーたちのざわめきを圧するようなておさんの大声が響いてきた

 

全員! デュエルのウィナー表示を探してくれ!

 

しかし発見の声は無く男性が消滅してから15秒が経った

 

なら教会の中にいるのかと思っているとアスナが問題の2階の中央の窓から顔を出した

 

「アスナ! そっちはどうだ!」

 

キリトさんの問いかけにアスナは顔を蒼白にしながら首を横に振る

 

「駄目! デュエルのウィナー表示もないし誰もいなかったわ!」

 

 

キリトさんは次に私に対して叫んだ

 

「タコミカは!?」

「こっちも誰も出てきてないです!」

「どこにいる…?」

 

それに私は首を横に振るとキリトさんは呻いた

 

 

そして…

 

「30秒… タイムリミットだ…」

 

ておさんが無情に時間切れを告げた

 

~~~~~~

 

ひとまず現場保存の為ておさんがこの件を見ていたプレイヤー達にこの場から離れないように告げて足止めをし、私はそのまま教会の入口に立っていた

 

 

しばらくするとキリトさんとアスナが出てきたため私はどうだったのかを聞く

 

「中はどうでしたか?」

「中には誰もいなかった 因みに隠蔽(ハイディング)で隠れてる可能性も無し」

「そうですか…」

 

私はキリトさんの収穫なしという言葉にやや俯くともう一つ質問をした

 

「回収したショートスピアやロープに何か特徴はありましたか?」

「いいや ショートスピアは見た目以外は特に特徴は無いよ ロープは普通にNPCショップに売ってそうなものだ 詳しいことは誰かに鑑定してもらわないとだけど…」

 

私はそれに頷くとこれからどうするのかと聞く

 

「それで…これからどうするんですか?」

「俺らはこのままこの件を解決するよ」

「そうですね… もし仮に圏内PK技なるものを誰かが発見したのだとしたら街の外だけじゃなく中も危険になりますからね…」

「そういうこと タコミカ達はどうするの?」

 

アスナにそう聞かれたため私は蜘蛛を模した頭装備を軽く触れると口を開いた

 

「勿論私達も協力しますよ その…見てしまいましたし…」

 

私が少しだけ俯くとておさんが私の肩に手を置いてキリトさんとアスナに告げた

 

「俺もだな この事件は最後まで解決しないと多分後悔する」

「ということは2人も協力してくれるのね?」

「邪魔かな…?」

「そうじゃないわ むしろ人手は多いほうが良いし」

「じゃあ お願いしますね」

「あぁ!」

 

私達は改めてキリトさんとアスナに握手を交わした

 

~~~~~~

 

そのまま広場へと向かい、そしてキリトさんが足止めをしていたプレイヤー達に呼びかける

 

「すまない! さっきの件を最初から見ていた人がいたら返事をしてくれ!」

 

キリトさんが呼びかけた数秒後、おずおずという感じで1人の女性プレイヤーが人垣から出てきた

 

顔に見覚えは無く武装も恐らくNPCが売っているであろう剣で中層からの観光プレイヤーと思わせる

 

 

彼女にアスナが優しく声をかける

 

「ごめんね 怖い思いをしたばかりなのに あなた お名前は?」

「あ…あの 私ヨルコって言います」

 

その声に私達は聞き覚えがあり、私はておさんと顔を見合わせる

 

キリトさんも分かったのかヨルコさんに声をかけた

 

「もしかして最初の悲鳴も…君が?」

「あっ… はい」

 

ヨルコさんは濃紺色の緩やかなウェーブがかった髪を揺らしながら頷く

 

不意にダークブルーの瞳の純朴そうな大きな瞳に薄い涙が浮かぶ

 

「私… さっきの殺された人と… 友人だったんです 今日は一緒にご飯を食べに来て でもこの広場ではぐれちゃって探してたんです…そうしたら…」

 

それ以上は言葉にならなく口許を両手で覆う

 

ヨルコさんの震える肩をアスナが優しく押して教会の内部へと案内したので私達はそれに続く

 

 

そして何列にも並ぶ長椅子の1つに腰かけさせると自分も隣に座った

 

キリトさんとておさんはやや離れた場所に立ち、私はアスナに近い所に座るとヨルコさんが泣き止むのを待った

 

アスナが背中をさすっているとやがて泣き止んで消え入りそうな声で「すみません…」と言った

 

「ううん いいの ヨルコさんが泣き止むまで待つから 落ち着いたらゆっくり話して?」

「はい… でももう大丈夫…ですから」

 

ヨルコさんはアスナの手から身体を起こすとこくりと頷く

 

「あの人… 名前はカインズって言うんですけれど 昔 同じギルドにいたことがあって…今でも偶にパーティを組んだり食事をしたりしてたんです…それで今日もこの街まで晩御飯を食べに来て…」

 

一度ギュっと眼をつぶってから震える声で続ける

 

「…でも結構人が多くて 広場で見失っちゃったんです それで辺りを見回して探してたらいきなりこの教会から人…カインズが落ちてきて 宙吊りに…しかも胸に…槍が…」

「その時に誰か見なかった?」

 

アスナの問いにヨルコさんは一瞬黙ったがゆっくりと首を縦に動かした

 

「はい…一瞬…本当に一瞬なんですけれどもカインズの後ろに誰かが立っていた…ような気がしました…」

 

私はその人はとてつもなく素早い人だという印象を抱く

 

でも私達の知らないような常識を覆すアイテムやスキルが存在するのかという疑問を抱いた…もし仮にそのようなものがあれば…

 

一瞬恐ろしくなり私は身を震わせる

 

アスナも私と同じような反応をしたが直ぐに顔を上げるとヨルコさんに訊ねた

 

「その人影に見覚えはあった?」

 

アスナの質問にヨルコさんはしばらく考えていたが数秒後、分からないと言わんばかりに首を横に振った

 

それに対して今度はキリトさんがかなり穏やかな声で質問した

 

「えぇっと… その…嫌なことを聞くようだけど…カインズさんが誰かに狙われることに関して心当たりとかあるかな…?」

 

その質問にヨルコさんは目に見えて身体を硬くしたが今度も首を横に振るとキリトさんは「そっか ごめん」とお詫びを入れた

 

恨みの路線の犯行じゃないのかな? 勿論ヨルコさんが知らないだけということも普通にあり得るけど…

 

でもオレンジプレイヤーに犯人を絞るにしても何百人いるか分からない ましてやその予兆のあるプレイヤーも入れると途方もない時間がかかる

 

どうやら全員同じ結論に至ったようでアスナとておさんは軽く溜息をついていた

 

~~~~~~

 

1人で下層まで戻るのが怖いというヨルコさんを最寄りの宿まで送ってひとまず転移門広場まで戻った

 

事件から30分ぐらい経過しているので流石に人の数は少なくなっているがそれでも20人余りの攻略組の人達が残っていたため私達は現状の報告と今後警戒するように伝えると全員真剣な表情で頷いてくれた

 

「分かったよ 情報屋の新聞にも載せてくれるようお願いしておく」

 

大手のギルドに属している方が代表して応じたのを皮切りとしてその場は解散となった

 

「さて…次はどうする…?」

 

キリトさんがアスナに訊くとアスナは直ぐに答えた

 

「手持ちの情報を整理しましょう 特にあのロープとスピアを」

「あ~ そうだね 製作者が判ればそこから犯人が分かるかもしれないからね」

 

私がそう言うとアスナは頷く

 

「成程 動機が駄目なら物証か」

「そうとなると鑑定スキルがいるよな… お前は上げて…るわけないか」

 

ておさんが頷きながら言うとキリトさんが続け、アスナに訊ねた

 

「当然君もね…というか…」

 

アスナはキリトさんのお前呼びに眉をしかめるとキリトさんに向く

 

「そのお前っていう呼び方やめてくれない?」

「じゃぁ…あなた? 副団長様? 閃光様?」

 

アスナはキリトさんを睨むとプイっと顔を背ける

 

「普通にアスナでいいわよ タコミカやテオ君もそう呼んでるんだし」

「わ…解った…」

 

キリトさんは今度は素直に頷くと慌てて話題を戻す

 

「で…さっきの続きだけど…フレンドにあては?」

「う~ん… 友達で武器屋やってる子がいるんだけど今は一番忙しい時間帯だと思うし今は無理かな…タコミカはどう?」

 

アスナが首を横に振りながら言ったので時間を確認してみるとまだ午後7時を過ぎた辺りだった

 

「わ…私? あ~やる気君もリズと同じで今は忙しい時間帯だと思うし駄目かな…」

 

今は夕食時真っただ中だから絶対に頼めないからね…

 

「きるもダメか…じゃぁ熟練度がちょっと不安だけどあいつに頼むか」

 

キリトさんは私の言葉に少し考えるとウィンドウを開きメッセージを打ち始める

 

「あいつって…もしかしてエギルか? でもあいつもやる気と同じで今は忙しいと思うぞ?」

「知るか」

 

ておさんがそれを止めるがキリトさんはエギルさんに無慈悲にメッセージを送信した




きるやんは屋台形式のお店を開いています(そこら辺についてはまた話で書こうと思っています)

それではまた次回に


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12話:捜査は足で その1

実は<アルゲード>みたいな煩雑具合って結構好きなんですよね(隙自分語り)

それではどうぞ


第50層の主街区である<アルゲード>はかなりごちゃついておりハッキリ言って地図を見ながら歩いたとしても迷う自信がある

 

でもその代わりというか物件の値段がかなり安いらしくて、キャラメレさんとじんじんさんはここにプレイヤーホームを持っていると聞いた

 

エキゾチックなBGMと呼び込みの掛け声に屋台からいい香りが漂ってくる中をキリトさんの先導で進んでいく

 

その途中で美味しそうな串焼き肉を見かけたアスナがそれを4本買うと1本を私に手渡してきた

 

「いいの?」

「いいの」

 

私達が串焼き肉を食べながら歩いているとキリトさんが立ち止まり、振り向くと怒った様子だった

 

「おい急ごうぜ…って 何買い食いしてるんだよ!」

 

それに私達は悪びれる様子無く一口齧るとアスナが答えた

 

「だってさっきはサラダだけ食べて飛び出してきちゃったし…うん 意外と美味しいわねこれ」

 

もぐもぐと食べながらアスナは2本の串をキリトさんとておさんに差し出した

 

「くれるのか?」

「だって最初っからそういう約束だったでしょ ほらテオ君も」

「あっ… どうも…」

 

頭を下げつつ2人が串焼き肉を受け取るとエギルさんのお店を目指した

 

因みに串焼き肉はエスニック風な味付けで美味しかったと言っておく

 

 

 

エギルさんのお店に到着したのは全員が串焼き肉を食べ終わった頃だった

 

音もなく消滅した串を見て私は便利だな…と思っているとキリトさんがお店の扉を開いた

 

「うーっす 来たぞ~」

「客じゃねぇ奴にいらっしゃいませとは言わん」

「悪い…エギル…」

 

エギルさんがむくれ声でそう言うとておさんは申し訳なさそうな声を出しながらエギルさんのお店に入ったので私達もお店に入る

 

「すまねぇが今日はこれで閉店だ」

 

「えー」というお客さんの納得いってない声ににエギルさんは逞しい体を縮めながら謝罪するとお客さんを全員お店の外に追い出し、メニューを操作して閉店作業を行う

 

陳列棚が自動で収納され、表の鎧戸が音を立てて閉まったところでようやくエギルさんは私達の方を向いた

 

「あのなぁ キリトよ 商売人っていうのは1に信用 2に信用 3,4が無くて 5に荒稼ぎ…」

 

そこまで言ったところで私達の方(正確にはアスナの方)を見ると髭を震わせながら棒立ちになると急に2人をカウンターに引っ張り込んで何かを相談し始めたので私達は苦笑いする他なかった

 

~~~~~~

 

「圏内でHPが0になっただと? ホントにデュエルじゃないのか?」

 

エギルさんに用意してもらった椅子に腰かけ、同じく用意してもらったテーブルを取り囲むと今回の一件をエギルさんに話した

 

「あの状況で全員がウィナー表示を見つけられなかったっていうのはあり得ないし今はそう考えるしかない」

「もし仮にデュエルだったとしても夕食を食べに来たプレイヤーがしかも完全決着モードのデュエルなんて受けるわけがないしな」

「直前までヨルコさんと歩いていたんだったら睡眠PKっていう線は無いからね」

 

エギルさんに用意してもらったお茶を飲んだアスナがておさんとキリトさんの言ったことに捕捉する

 

「突発的なデュエルにしてはやり口が複雑なんです だから私達はこれが計画的な犯行だと思ったんですよ」

 

私はそう言うとキリトさんに合図を出す

 

合図に応じたキリトさんはウィンドウを操作して1つのアイテムを出した

 

「そこで…こいつだ」

 

キリトさんが取り出した現場で使われたロープは片方の先端が解けているがもう片方の先端は大きな輪っかのままである

 

エギルさんはその輪っかを目の前に持ってくると嫌な顔をし、鼻を鳴らすとロープをタップして出てきたポップアップウィンドウを操作していく

 

私達が鑑定をやろうとしても失敗するだけだけど鑑定スキルを持っているエギルさんがやると多分…

 

そう思っていると鑑定結果が出たみたいで太い声で解説し始めた

 

「…残念だがこのロープはプレイヤーメイドじゃなくてNPCショップで売っている汎用品だ ランクも高くないし耐久度も半分近く減っているな」

 

エギルさんの解説に私はあの光景を思い出して頷いた

 

「それはそうですね… 重装備のプレイヤーを吊るしていたらかなり負荷がかかりますからね」

 

私がそう言うと全員納得した様子で頷く

 

「まぁロープにはそれほど期待していなかったさ 次が本命だ」

 

そしてキリトさんは先ほどロープを取り出してから開きっぱなしだったウィンドウを操作すると黒く輝くショートスピアを実体化させた

 

それは先ほど見た時よりもより一層重い雰囲気を放っているように思える

 

確かに性能としては私達の主武器よりも明らかに下だろうけどこれは実際に使われた本物の凶器というものだ

 

 

キリトさんは慎重にそれをエギルさんに渡すとエギルさんは先程のように鑑定し始めた

 

改めてエギルさんの手元にあるショートスピア見てみると最初に見たときのように全体が同じ素材の黒い金属でできており全長は恐らく1メートル半ほどあろうと思われ石突の部分は輪っかになっており、ボロボロの赤黒いリボンが結ばれている

 

それだけでも何か禍々しいものを感じるがしかし何より注目するべきは穂の部分にある無数の逆棘だろう

 

これがあることによって抜きづらくなるのはこっちも同じで抜くには高い筋力パラメータが必要になるのは勿論の事、プレイヤーの精神的な部分も必要になってくる

 

正直に言って死の間際にいつも通りの力を発揮できる人は限られてくるのでカインズさんがこれを抜けなかったのも解る

 

私がそう考えているとエギルさんの声が聞こえてきた

 

「プレイヤーメイドだ」

「本当か!?」

 

エギルさんの声にほぼ同時に私達は身を乗り出すとキリトさんが叫ぶ

 

このショートスピアがプレイヤーメイドなら作り手から犯人を追えるかもしれない… アスナもそう思ったのかエギルさんに向かって切迫した声で尋ねる

 

「誰ですか! 作成者は」

 

エギルさんはシステムウィンドウを見下ろしながら答えた

 

「グリムロック…綴りはGrimlock 聞いたことがない名前だ 少なくとも一線級の刀匠じゃねぇな まぁ自分用の武器を鍛えるために鍛冶スキルを取ってるやつはいないわけじゃないが…」

 

商人をやっているエギルさんが知らない鍛冶屋を私達が知るわけがなく部屋には沈黙が流れたが直ぐにアスナが硬い声で言った

 

「でも探し出すことはできるはずよ このクラスの武器が作れるようになるレベルに上がるまで全くソロプレイを続けてるとは思えない 中層の街で聞きこめばグリムロックさんとパーティを組んだことがある人はきっと見つかると思うわ」

「そうだな こいつみたいにソロや極々限られたやつとしか組まないような馬鹿がそうそういるとは思えんからな」

「あはは…」

 

エギルさんが深く頷くとアスナとエギルさんはキリトさんの方を向いたので私は苦笑いするとておさんと共にキリトさんの方を向いた

 

「お…俺だってその限られたやつ以外とでもパーティを組むぞ」

「それはボス戦の時だろ ノーカンだ」

 

思わずキリトさんは反論するがておさんが冷静に言うと押し黙った

 

「まぁ正直 グリムロックさんを見つけてもあまりお話はしたくはないけどね…」

 

確かにアスナの言う通りこの武器を作ったグリムロックさんは事前にこの武器をある程度は何に使うかを予想していたと思われる

 

このような貫通属性武器はモンスター相手には効果が薄く仮に刺したとしても直ぐに抜いて投げ捨ててしまう

 

その為この槍はそもそも対人を前提として作られたものであることが解る

 

良識のある鍛冶屋さんだったらそもそもこの依頼を断るだろう(武器に愛着を持っている人なら尚更)

 

なのでこの槍を製作したグリムロックさんは倫理観の薄い人―――もしくはレッドギルドに内通している人なのではないのかと予想できる

 

私が考えているとキリトさんが呟いた

 

「…少なくとも話を聞くのにタダっていう訳にはいかなそうだな もし情報料を要求されたら…」

 

その呟きに対してエギルさんは首を横に振り私達はキリトさんの方を向き、アスナが一瞥した

 

「4人で折半しましょ」

「解ったよ」

「そうですね… やるって言いましたし」

「だな 乗り掛かった船だしな」

 

それに対して私達が覚悟を決めるとキリトさんはエギルさんに質問した

 

「最後に手掛かりにはならないと思うけど一応武器の固有名も教えてくれるか?」

 

エギルさんはウィンドウを見ながら答える

 

「えーっと… 〖ギルティソーン〗となっているな…直訳で罪の茨っていうところか?」

「ふーん…」

 

武器の名前はゲームシステムがランダムに命名しているとリズから聞いたことがあるためこの名前に深い意味が込められているわけではないが

 

「罪の…荊…」

 

その名前には何か寒々とした印象を感じた

 

 

~~~~~~

 

 

私達はエギルさんと共に{黒鉄宮}にある生命の碑へグリムロックさんの名前があるかどうか(ついでにカインズさんの名前に線が引かれているかどうかも)確認するために<アルゲード>からアインクラッド第1層の主街区の<はじまりの街>へと向かった

 

ここに来るのは随分と久々になるが空を見上げても今でもまるで昨日のことのようにはじまりの日のことを思い出す

 

しかし夜ということやあの時から<はじまりの街>からは人が減っているということを差し引いてもプレイヤーの姿がほとんど見当たらない

 

少し小耳に挟んだ話ではあるが現状は下層の自治もやっている[アインクラッド解放隊]が巨大化した組織である[アインクラッド解放軍]が夜間の外出を禁止したという噂がありそれがプレイヤーが少ないという理由になっていると思ったりもした

 

それが私の思い過ごしで合ったらよかったが重装備を着込んで緑色のマントを羽織っている軍のプレイヤーが徘徊しているのを見る限り本当の事であると確信した

 

 

私達が{黒鉄宮}に向かっている間にも徘徊している軍の人達が凄い勢いで駆け寄ってきたがアスナの冷たい視線を浴びると直ぐに撤退していった

 

「こりゃ <アルゲード>が賑わうのも解るな… 物価が高いのに…」

 

キリトさんが一連の流れを見て呟くとエギルさんが補足するように言った

 

「これは噂程度の話になるがな 何でも軍は近々プレイヤーへの徴税を始めるらしい」

「えっ!? 税金!? どうやって集めるんです!?」

「あくまででも噂だから俺も詳しいことは知らねぇが… モンスターのドロップから自動的に天引きされたりしてな」

「お前の店の売り上げも差し押さえられたりな」

 

私達は会話を続けていたが{黒鉄宮}に入ると同時に黙る

 

この場所はβ時代にはリスポーンする場所だったが今では生存者を確認できる生命の碑が置いてあり、黒光りする鉄柱と鉄板のみで造られていることも相まって冷たい空気に満たされているように感じた

 

気を取り直して私達は青みがかった無人の広場を足早に歩く

 

そして左右数十メートルに続く生命の碑へと辿り着くと私とておさんとエギルさんはKのブロックを眺め始めた

 

綴りはKains ということは事前にヨルコさんから教えてもらい、メモもしたので探すのはそう時間はかからない…はず

 

メモを参照しながら探していると… 確かにその名前に線が引かれていた つまり死亡しているということである

 

「ありました…が死んでますね…」

「あぁ… みたい…だな」

 

そのことをGのブロックを探して生きていることを確認したのか一息ついているキリトさんとアスナの元へと向かった

 

「カインズさんは確かに死んでいますね… 死亡時刻はサクラ(4)の月の22日 18時27分… ちょうど私達がレストランから出た直後…ですね」

「日付も時間も合ってるわね」

 

私の言葉にアスナは呟くと瞼を閉じて俯き黙祷を始めたので私もそれに続いて黙祷をする

 

~~~~~~

 

全ての用事を終えた私達は足早に{黒鉄宮}から出るとグリムロックさんを探すのは明日にしようということになり、転移門へたどり着くと明日からは参加しないことになったエギルさんが一足先に転移門から帰っていき、アスナも一旦ギルドホームに戻ると言った

 

「明日は第57層の転移門前に朝9時に集合にしましょう ちゃんと遅れないで来るのよ」

「アスナこそ遅れないでね」

 

私が笑みを浮かべながら言うとアスナがこっちを睨みながら「タコミカ!」と怒鳴ったような気がしたが無視し、転移門から自分のホームがある第34層へと向かった




本当は間違えてCのブロックを探すという流れにしようとも思ったんですけど難しいと思い断念しました

サラッと煽るタコミカ氏ぇ…

それではまた次回に


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13話:捜査は足で その2

タコミカは身内が危険な目に合うと血の気が多くなります

それではどうぞ


「「DDAに囲まれて槍をパクられた!?」」

 

翌日、予定通りの時間にやってきたキリトさんとておさんがやってきて近くのカフェテラスで朝食兼情報整理しようということになったがキリトさんとておさんが昨夜私達と別れた後、シュミットさん率いるDDAのメンバーに囲まれて〖ギルティソーン〗を半ば強引に奪われたということを聞いた

 

でも私はシュミットさんのことは覚えていないので訊ねる

 

「で…シュミットさんって誰でしたっけ?」

「ほら…でっかいランス使いの…」

「そうそう 高校の馬上槍部主将って感じの」

「そんな部活は聞いたことないけどな」

 

そのことを聞いた私は思わず思ったことを口に出していた

 

「…よし DDAの本部にカチコミに行きましょう」

「物騒だな!?」

「大丈夫ですって 先にやったのはあちらですし いざとなれば権力(ディアベルさん)もありますから」

「そういうのを権力の乱用って言うんだぞ」

 

私は6割ほど冗談のつもりで言ったがておさんに軽くおでこを叩かれたので私は両手でおでこを押さえる

 

「でも俺が感じたのはあれはDDA全体が…じゃなくてシュミット本人がっていう感じだったな」

「…ってことはシュミットさんが犯人?」

「その可能性は無いと思うぞ もし仮にあいつが犯人だったらこんな自分が犯人ですっていう行動は起こさないだろうし… あの槍は寧ろ何かのメッセージのように感じられた」

 

キリトさんが昨夜の件をシュミットさん個人が起こしたことだという考察をしているとアスナはシュミットさんが犯人なのではないかと考えたらしくそれを口にしていたがておさんがそれを否定する

 

「そうだね… あの殺し方に加えて武器の名前が罪の荊…単なるPKのパフォーマンスっていうよりも、公開処刑って考えたほうが自然よね…」

「つまり動機は復讐…いや 制裁っていうところかな 過去にあのカインズ氏が過去に何かしら罪を犯して 今回の件はその罰だと 犯人はそうアピールしてるんじゃないか?」

 

アスナとておさんが今回の事件の動機についての考察を立てていく

 

「となるとシュミットは寧ろ狙われる側…昔にカインズと一緒に何かしらして 共犯であるカインズさんが殺されたからあわてて行動した…といった感じか」

「その何かが判れば自然と犯人も洗い出せそうですね …でもこれがすべて犯人の演出っていうことも在り得ますし先入観は持たないようにしましょう」

「特にヨルコさんに話を聞くときには…だな」

 

キリトさんの言葉に私達は同時に頷く

 

この後10時からはここの近くの宿屋に泊まっているヨルコさんに話を聞くことになっている

 

因みに今日は完全にオフなので私は若緑の長袖のシャツにベージュのカーディガンを羽織って紺色のショートパンツにブーツは黒柿色のものを履いている

 

今日はておさんに服装を褒めてもらったので若干上機嫌ということを付け加えておく

 

 

今は黒パンと野菜スープというわりかし質素な朝食を食べているがはっきり言って美味しくなく、これだったら自分で作ってきた方がまだましだったとさえ思った(因みに私の料理スキル熟練度は720ある)

 

しかし食べ終わってアスナの方を見ているキリトさんを除いた2人は普通に食べているので私の味覚がおかしいだけなのかなと思ったので思わず隣のアスナに聞いた

 

「それって美味しい…?」

「あんまり美味しくない…」

 

良かった…私の味覚がおかしいだけなのかなと…

 

アスナはスプーンでかき混ぜていたポタージュっぽいものを脇に押しやると軽く咳ばらいをし、口調を改めた

 

「昨夜私ちょっとだけあの黒い槍が発生させてた貫通属性ダメージについて考えてたんだけど…」

「うん」

「例えば圏外で貫通属性武器を刺されてそのまま圏内に移動したら継続ダメージはどうなるのか知ってる?」

 

そういえばそんなこと考えたことなかったや… どうなるんだろ…

 

キリトさんもどうやら知らないらしく首を傾げていた

 

「俺も知らないな… でも毒や火傷などの状態異常系の持続ダメージは圏内に入ると消えるから貫通属性ダメージについても同じなんじゃないか?」

「そうだとしたら刺さっている武器はどうなるんだ? 自動で抜けるのか…?」

「なんかそれはそれで怖くないですか? ておさん…」

 

ておさんの発言に私は咄嗟に突っ込む

 

そこから少しするとキリトさんが何かを思い立ったかのように発言した

 

「…よし まだ時間はあるし実験してみるか」

「実験って…?」

「百聞一見」

 

キリトさんはそう言うとマップを確認し始めた

 

~~~~~~

 

しとしとと降る霧雨をかき分けて一番近い場所にある主街区の外へと出る門の近くまでやってきた

 

そして門の外へと出ると視界には«OUTER FIELD»の警告が表示される

 

圏外に出たからと言ってすぐにモンスターが襲ってくるわけではないがそれでもかなり緊張する

 

服は私服だが腰にはいつものレイピアを装備したアスナが前髪についた水滴を煩わしそうに払いながらキリトさんに訊ねていた

 

「で…実験ってどうやってするつもりなの?」

「これを使う」

 

キリトさんが取り出したのはたまにキリトさんが扱っている〖スローイング・ピック〗だった

 

この世界唯一の投擲武器には私の知っている限りでは4種類あり、キャラメレさんが使っているダガータイプのものと今キリトさんが手に持っているピックタイプのもの、ネズハさんが使っていたチャクラムタイプのものとブーメランタイプのものがある

 

ダガーはレイピアや槍などのいわゆる刺突タイプに属しており、チャクラムやブーメランは剣などの斬撃タイプ、キリトさんの持っているピックは貫通タイプになる

 

その為検証にはうってつけではある

 

キリトさんは左手のグローブを外すと手の甲を広げると右手に持っていたピックを振り上げそれを振り下ろす…

 

「ちょっと待って!」

 

前にアスナが鋭い声を上げてキリトさんの手を止めさせるとアイテムウィンドウを開いて〖治癒結晶〗を取り出すとキリトさんは苦笑いした

 

「大げさだなぁ… 第一、こんなピックが刺さったぐらいじゃちょっとしかHPは減らないって」

「バカ! 圏外じゃ何が起こるか分からないのよ!? 早くパーティを組んでHP見せて!」

 

アスナはまるで弟を叱るように怒るとその勢いのままキリトさんにパーティ要請を飛ばした

 

キリトさんはその勢いに押されてそのままパーティを組むと緊張した面持ちで〖治癒結晶〗を持っているアスナをキリトさんはまじまじと眺めていた

 

「何…?」

 

アスナもキリトさんの視線に気が付いてキリトさんに訊ねるとキリトさんは慌てた様子で答えた

 

「いや…なんつうか… そこまで心配してくれるとは思わなくて…」

 

キリトさんがそう答えるとアスナは頬を真っ赤にして怒鳴った

 

「別にそんなんじゃ…! いや そうだけど…やるんだったらさっさとやってよ!」

 

アスナに怒られたキリトさんは慌ててピックを構える

 

「じゃぁ…いきます…」

 

キリトさんは≪シングルシュート≫を自分の左手目掛けて放つとしばらく様子を見ていたが

 

「…早く圏内に入ってよ!」

 

と強張る声でアスナが言いながらキリトさんの背中を押したのでキリトさんは頷くとピックを見ながら圏内へと向かった

 

«INNER ARER»の表示が浮かんでからもしばらくはキリトさんの左手を見ていたが5秒ごとに赤いエフェクトが出ていること以外は特に変わった様子はなかった

 

「…HPの減少は止まったわね…」

 

アスナの呟きにキリトさんは肯定するように頷く

 

「武器は刺さったままだけど継続ダメージは停止…か」

「感覚はどうだ?」

「残ってる これは…武器を体に突き刺したまま圏内をうろつく人が出ないようにするためかな…」

「今のキリトさんみたいに?」

 

私がさっきの2人のやり取りをからかうように言うとキリトさんは首を縮めたがすぐさまピックを一気に引き抜いたが仮想世界独特の鈍い痛みを感じたのか顔をしかめて、その後も残留感をなくそうと手をフーフーと吹きながら呟く

 

「ダメージは確かに止まった… だったらどうしてカインズは死んだんだ…? あの武器の特性か…? それとも何か未知のスキルか…ってうわっ!?」

 

考察していたキリトさんの左手を唐突にアスナが両手で掴むと胸の前に引き寄せて思い切り握ったのでキリトさんは驚いていた

 

「ちょ…おまっ…な…なっ‥」

 

数秒間はそのままの状態だったが手を放すとキリトさんに向けて言った

 

「これで残留感はなくなったでしょ」

「あっ…うん…ど…どうも…」

 

何というか…気まずくなりました。

 

~~~~~~

 

その後、ヨルコさんが泊っている宿屋へ向かうと10時きっちりにヨルコさんが宿屋から出てきた

 

昨夜はあまり眠れなかったのか何度も瞬きを繰り返しながらもお辞儀をしたので私達もすかさず一礼する

 

「悪いな…友達がなくなったばかりだっていうのに…」

「いえ…いいんです」

 

ヨルコさんはブルーブラックの髪を揺らしながら軽くかぶりを振る

 

「私も早く犯人が見つかってほしいですし…」

 

そう言いながらアスナに視線を移した途端ヨルコさんは目を丸くした

 

「わぁ! 凄いですね! その服全部アシュレイさんのお店のワンメイク品でしょう! 全身揃ってるの初めて見ました!」

 

ヨルコさんは若干興奮しながらアスナに詰め寄るがキリトさんはその名前を知らないのか訊ねていた

 

「それって誰…?」

 

ふとておさんの方を見てみるとこっちも知らないような様子だった

 

「ご存じないんですか!?」

 

ヨルコさんは2人のことを駄目な人を見るような目で見るとアシュレイさんについて解説し始めた

 

「アシュレイさんはアインクラッドで最初に裁縫スキルをカンストさせたカリスマお針子さんですよ! 彼女に服を作ってもらうには最高級のレア生地素材を持参しないといけないんです!」

「へ…へぇ~…」

 

始めにアシュレイさんに会った時はまだまだ下積みっていったような感じでよく意見交流とかしてたなぁ…

 

最近はめっきりになっちゃったけど久々に服を作ってもらうのもありかもと考えているとておさんが私に質問してきた

 

「たみの服もその…アシュレイさんが?」

「違いますよ これは私お手製です」

 

私が軽くかぶりを振りながら答えると私をヨルコさんがまじまじと見ているのに気が付いた

 

「あの…昨日からそうなんじゃないかって思ってましたけどタコミカさんですよね?」

「そうですけれど…どうしたんですか?」

 

私がそうだと答えるとヨルコさんは手を合わせて目をキラキラとさせながら私に詰め寄ってきた

 

「やっぱり! いつも特集見てます! 私は補色を使ったコーデ集がとても好きで今日は違うんですけれどそれをよく参考にコーディネートしてるんです! 勿論他の記事なんかも拝見させていただいてるんですけどどれも参考になるものばっかりで!」

「あっと… どうもです…」

 

その気迫に押された私は思わずたじろぐ

 

「そういえばタコミカさんってアシュレイさんの一番弟子っていう噂があるんですがそれって本当ですか?」

「え!? その噂って誰が…?」

「アシュレイさん本人が話しているのを聞いたっていう人からです!」

 

まぢで…? でもアシュレイさんが言ってたんだったらそうなんじゃないかなぁ…?

 

「本人が言ってたんだったらそうなんじゃないですかね…?」

「やっぱり! 実は私もそうなんじゃないかって思ってたんですよ!」

 

うーん… 変な噂にならなきゃいいけど…

 

「えっと… この事は…」

「解ってますって 内密にしておきますよ」

 

一応念のためヨルコさんに口止めをするとヨルコさんは快く頷く

 

「あの… そろそろ…」

「あっ… そうでしたね すみません」

 

流石に結構長話をしていたのでておさんがヨルコさんを催促させ、私達は昨日のレストランへと向かうことになった




タコミカの裁縫スキルはカンスト済みです

それではまた次回に


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14話:捜査は足で その3

劇場版ソードアートオンライン プログレッシブ 冥き夕闇のスケルッツオのPV公開されましたね~

それではどうぞ


中途半端な時間なだけあってレストランには他のプレイヤーはいなかったが内容が内容なので一番奥の席に座ることにした

 

ヨルコさんはもう朝食は食べたらしいので私達はお茶を注文して早速届いたところで本題に入る

 

「本題に入る前に報告なんだけど…昨晩{黒鉄宮}にある生命の碑を確認してきた カインズさんは確かにあの時間に亡くなってた」

 

キリトさんの報告を聞いたヨルコさんは短く息を吸い込んで瞑目してから頷く

 

「そうですか… わざわざ遠いところまで行っていただいてありがとうございます」

「ううん いいの それに私達も確認したい名前があったから」

 

アスナはさっと首を横に振ってからまず一つ目の質問を投げかけた

 

「ねぇ ヨルコさん この名前に聞き覚えはある? 1人目は多分鍛冶屋のグリムロック そして2人目は槍使いの…シュミット」

 

俯いていたヨルコさんがピクリと反応し、ゆっくりとだが肯定を示す

 

「…はい 知ってます 2人共私とカインズが所属していたギルドの元メンバーです」

 

ヨルコさんのか細い声に私達はちらっと視線を見交わす

 

ここまでは私たちの想像通り… となるとやはりそのギルドで過去に何かの事件があったのだろう それがもしかすると今回の事件のきっかけかもしれない

 

私の考えに呼応するように今度はキリトさんが質問した

 

「ヨルコさん 答えにくいとは思うんだけど…事件解決のために本当のことを聞かせてほしいんだ 俺達は今回の事件の動機を復讐もしくは制裁だと考えてる カインズさんはそのギルドで起こったことによって犯人の恨みを買い、報復されたんじゃないかと… 昨日も同じことを訊いたけどもう一回よく考えてほしい 何か心当たりとか…思い当たることってない…?」

 

今度はヨルコさんからすぐに答えは返ってこなかった

 

ヨルコさんは俯いたまま沈黙を長い間貫いたが震える手でカップを持ち、それを飲むとようやく頷いた

 

「…はい…あります 昨日お話しできなくてすみません… あまり思い出したくなくて早く忘れたい話でしたし無関係だと思いたかったこともあって…すぐには言葉にできませんでした でもお話します あの出来事のせいで私達のギルドは消滅したんです」

 

 

ギルドの名前は[黄金林檎]で別に攻略組は目指しておらず、構成人数は8人という小規模なギルドらしい

 

その事件が起こったのは半年ぐらい前の事らしく、いつものように中層のダンジョンに潜った時のことでそこで今まで見たことのないモンスターと遭遇したという

 

それを偶然倒すと指輪がドロップしたがその指輪の効果がなんと敏捷を20も上げるという今まで聞いたことのないものだったらしく、その指輪を売ってしまうか使うかで意見が分かれて当然揉めたが結局多数決になったらしい

 

結果は5対3で指輪を売却することになりギルドリーダーがオークショニアに委託するために大きな町に1泊する予定で出かけたが翌日の待ち合わせ時刻になってもギルドリーダーが帰ってこず、嫌な予感がしたので生命の碑を調べに行ったところ…亡くなっていたことがわかったらしい

 

指輪を持ったまま圏外に出るとは考えにくく、ヨルコさん達もギルドリーダーがPKされたのだという考えに至ったがその時間のアリバイを証明できる人が誰もおらず[黄金林檎]の残りのメンバーの7人は互いが互いを疑うという疑心暗鬼状態になりギルドの崩壊までは時間がかからなかったという

 

…嫌な話ではあるものの崩壊の兆しすらなかったギルドがレアアイテム1つで崩壊するいうのはそこまで珍しい話でもないがそのような噂を聞かないのは当人たちが口にしていないからであろう

 

余談だが私達のギルドではそれを避けるために基本的にアイテムはドロップした人のものでそれが欲しい場合は各自で交渉というルールを設けている

 

 

沈鬱な表情で俯くヨルコさんにキリトさんは乾いた口調で訊ねる

 

「一つ教えてほしい 売却に反対した3人の名前は…?」

 

ヨルコさんは数秒間黙っていたが意を決したように顔を上げるとはっきりと答えた

 

「カインズ シュミット…それと私です」

 

その回答はキリトさんにとっては意外だったのか無言で両眼を瞬かせており、ヨルコさんはそんなキリトさんに向かってやや自嘲な声で続けた

 

「ただ…反対の理由はその2人と私とで少し違くて、カインズとシュミットは[黄金林檎]でフォアードをやってたので自分で使いたいから そして私は…当時カインズと付き合い始めたばかりだったからです ギルド全体よりも彼への気兼ねを優先しちゃったんです …ホント馬鹿ですよね」

 

口をつぐんでテーブルに視線を落としたヨルコさんにアスナは柔らかい語調で訊ねる

 

「ヨルコさん もしかしてあなたはカインズさんとギルドの解散後もずっとお付き合いを…?」

 

ヨルコさんは俯いたまま首を小さく横に振る

 

「いえ…ギルドが解散するのと同時に自然消滅しちゃいました たまに会って少し近況報告するぐらいで…やっぱり一緒に長くいると『指輪事件』のことを思い出しちゃいますから 昨日もそんな感じでご飯だけの予定だったんですけれど…その前にあんなことに…」

「そう… でもショックなのには変わりないわよね ごめんなさい 辛いこと色々と訊いちゃって…」

 

ヨルコさんは再び短くかぶりを振る

 

「…いいんです それでグリムロックなんですけれども…彼は[黄金林檎]のサブリーダーで 同時にギルドリーダーの旦那さんでもあったんです…勿論SAO(ここ)でのですけど」

「っていうことはリーダーさんは女性の方?」

「はい とっても強い…と言っても中層でですけれども 強い片手剣士で美人で頭もよくて…私は凄くあこがれていました それだけに今でも信じることが出来ないんです あのリーダーが睡眠PKという粗雑な方法で殺されてしまうなんて…」

「それはグリムロックさんも相当ショックでしたよね… 結婚までするほど好きだったのに…」

 

私の呟きにヨルコさんは身を震わせ、続ける

 

「はい それまではいつもニコニコしている優しい鍛冶屋さんだったんですけど…事件直後からは人が変わったように荒んでしまって…ギルドが解散した後はだれとも連絡を取らなくなって今はどこにいるかもわからないんです」

「そうか…辛い質問ばかりで悪いけど最後にこれだけ教えてほしい 昨日の事件…カインズさんを殺したのはグリムロックさんという可能性はあると思うか? 実はカインズさんの胸に刺さっていた黒い槍を鑑定したら作成者がグリムロックさん当人だったんだ」

 

キリトさんの質問は半年前の『指輪事件』の犯人がカインズさんである可能性はあるかと訊ねているに等しく、勿論ヨルコさんは長く躊躇っていたが意を決したように小さな動きで首を縦に振った

 

「可能性は…なくはないと思います でも カインズも私もリーダーをPKして指輪を奪ったりなんてしていません…身の潔白を証明するものは何もないですけど… もし昨日の事件の犯人がグリムロックさんならあの人は指輪売却に反対した3人…カインズとシュミット、それから私のことを殺すつもりなのかもしれません」

 

~~~~~~

 

私達はヨルコさんをもとの宿屋まで送り届けた後、数日分の食料を渡して部屋から出ないように忠告をしておいた

 

せめてもの配慮として宿屋で最も広いスイートルームに移動してもらって1週間分の料金も先払いし、更に暇つぶし用として第6層に売っていたパズルを数種類プレゼントした

 

しかし事件は早く解決するに越したことはないため私達はなるべく早く解決すると伝えると宿屋を後にした

 

 

「…本当は第55層にある[血盟騎士団]の本部に移ってもらった方が安心なんだけどね…」

 

確かにあの城みたいな場所なら命を狙われるということはないだろう

 

キリトさんとておさんもそう思ったのか頷く

 

「まぁな… でも本人がどうしても嫌だって言うんだったら無理強いはできないよ」

 

でも保護してもらうには『指輪事件』のことを全部話してもらう必要がある その為ヨルコさんはアスナの提案を断った

 

 

転移門広場に戻ると同時に街に午前11時の鐘の音が響く

 

雨はようやく上がってはいたものの今度は濃い霧が出始めてきていた

 

「さて…これから…」

 

キリトさんは何かを言いかけたが突然黙り込んだためアスナはキリトさんの方を向くと首を傾げた

 

それを見計らったかのようにキリトさんはわざとらしく咳ばらいをすると口を開いた

 

「おほん いやぁ えーっと その…よ…よく似合ってると思いますよ それ」

 

今じゃなくない…? そういうのって会った時に言うもんじゃないの…?

 

アスナはあからさまに怒ったような顔をすると右手の人差し指をキリトさんに突きつけながら唸り声を出す

 

「う~!! そういうのは タコミカ達みたいに最初に会った時に言いなさいよ!」

 

アスナはそう怒ると「着替えてくる!」と言って近くの無人家屋へと向かって行った

 

でも私の前を通った時に耳まで赤くなっていたのを見たので満更でもなかったのだなと思う

 

 

いつもの赤と白の服装に着替えたアスナは長い髪を背中に払いながら戻ってきた

 

「それで… これからどうするの?」

「え あっ…は はい 選択肢としては… その1 中層でグリムロックの名前を手当たり次第に聞き込んで居場所を探す その2 [黄金林檎]の他のメンバーを訪ねてヨルコさんの話の裏を取る その3 カインズ殺害の詳しい手口を考察する…ってところかな」

「うむむ…」

 

私達はどれが良いかと考える

 

「その1の案は4人じゃ効率が悪すぎるわね 現在の推測通りグリムロックが犯人だとしたら積極的に身を隠すでしょうし」

「そうだね 聞き込みだけで今の居場所を判断するのは難しいと思う」

 

アスナは第1の案を仮説を立てて否定したので私は頷く

 

「その2は他のメンバーも当事者なんだから裏の取りようがないというか…」

「どういうことだ?」

「仮にヨルコさんの話と矛盾する話が聞けたとするじゃない でもハッキリ言って部外者の私達にどっちの話が真実かどうかを判断するのは無理ってことよ かえって混乱するだけだわ」

「言われてみれば…」

 

続いて第2の案も否定するとキリトさんが首を傾げたためアスナが理由を説明すると納得したように頷いた

 

「だとしたら消去法でその3か…」

 

ておさんが呟いたことに私達は目を見交わして頷く

 

ヨルコさんには悪いけどあくまででも私達は半年前の『指輪事件』を解決したいのではなく昨日起こった『圏内事件』の手口を紐解きたいだけなのである

 

現時点で分かっているのは圏外の貫通属性ダメージは圏内に持ち込めないという点だけで、他に何が出来て何ができないのかを考察する必要がある

 

「でもな… もうちょっとSAOのシステムについて詳しい奴の協力が欲しいな…」

 

キリトさんが呟くとアスナは眉をひそめた

 

「そういっても無闇やたらに情報をばらまいたらヨルコさんに悪いわ 絶対に信頼できて尚且つ私たち以上にSAOのシステムに詳しい人物なんて…あっ」

 

アスナは何かを思いついたように手のひらを拳で軽く叩いた

 

「リオンさんはどうかな?」

 

確かにリオンさんはSAOについて私達よりは詳しそうな感じだし悪くはないかな?

 

「リオンか… 確かに悪くはないな」

 

キリトさんもアスナの意見に同意するように言うと私の方を向いたので私は察したようにウィンドウを開く

 

「ちょっとメッセージ送ってみますね」

「頼む」

 

私がメッセージを送ると直ぐに返信が来たがそこに書いてあったのは × だけだったがなんとなく意味を察してかぶりを振る

 

「駄目だったみたいね… となると他の人を探さないと…」

「それだけどさ あいつを呼べばいいんじゃないか?」

「あいつって誰だよ?」

「ヒースクリフだよ」

 

キリトさんの言った名前に私達はしばらくの間フリーズした




圏内事件編思ったよりも長くなりそう…

それではまた次回に


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15話:捜査は足で その4

タコミカがヒースクリフと初めて話したのは第12層という設定です(SAOIF要素)

それではどうぞ


アスナがヒースクリフさんにメッセージを送ってから30分後、ヒースクリフさんは本当に<アルゲード>にやってきたのでかなり驚いた

 

流石にヒースクリフさんに会うのに私服は駄目だと思い、現状オンの日に着ている蜘蛛を模した装備に着替えた(因みにこれはインナーは私製作だがヘルメットと胸装備、それと下半身装備と手脚の装備は金属の為リズ製作)

 

ヒースクリフさんが転移門から出てきてその姿を見たプレイヤー達は激しくざわめいていた

 

服装は第12層が最前線の時に初めて会った時のように暗赤色のローブで雰囲気も相まって私はSAOにはいないはずの魔導士のように思えた

 

現状、最強のギルドである[血盟騎士団]のギルドリーダーで尚且つ自身も"神聖剣"という2つ名を持つほど強い剣士であるヒースクリフさんは私達を見るとピクリと眉を動かすと滑るようにしてこちらに近づいてくる

 

アスナはヒースクリフさんに音が立ちそうなほどの動作で敬礼をすると急ぎこむように弁解をし始めた

 

「突然のお呼び立て誠に申し訳ありません 団長! この馬…この方がどうしてもと言ってきかないものですので…」

 

気持ちは分かる 私も同じ立場なら馬鹿と言いたくもなる

 

「何、構わないよ 丁度昼食にしようと思っていたところだ かの"黒の剣士"のキリト君にご馳走してもらえる機会などそうそうあるとは思えないからな 夕方からは装備部との打ち合わせが入っているがそれまでなら付き合える」

 

あれ? 意外と乗り気…? ヒースクリフさんってこんな人だったっけ…

 

私がヒースクリフさんに対する印象を改めているとキリトさんは肩をすくめる

 

「あんたにはここのボス戦で十分にタゲを取ってもらった礼をしていなかったからな そのついでに少し興味深い話を聞かせてやるよ」

「キリト君がそう言うのなら期待しても良いだろうな それに"彩姫(あやひめ)"のタコミカ君と"紺の剣士"のテオロング君も一緒だと殊更興味がある」

 

ヒースクリフさん自身が興味を持つなんて珍しいと思いつつ私達はキリトさんの後について行った

 

ておさんの2つ名の"紺の剣士"はキリトさんと同じくコートの色から来ている(因みにておさんの好きな色は赤色)

 

 

相変わらず迷宮のような路地を右へ左へと進んだ先に薄暗いお店が現れた

 

「…帰りもちゃんと案内してよね 私広場まで戻れる気がしないよ」

「噂じゃこの街には道に迷った挙句〖転移結晶〗持っていなくて延々と彷徨ってるプレイヤーがもう何十人も居るらしいぜ?」

 

冗談でもそういうこと言うのやめて…

 

私は少しだけ怖くなってておさんのいるところまで下がる

 

ヒースクリフさんが空気を読んだのか読んでいないのか分からないような注釈を添えた

 

「道端にいるNPCに10コルを支払えば転移門広場まで案内してくれる しかしその金額すらも持っていない場合は…」

 

ヒースクリフさんは両手をひょいっと上げるとそのまま店の中へと入っていった

 

それに続いて何とも言えない表情になったアスナも入っていったので私達もあとに続く

 

 

狭い店内には全く人は居らずテーブル席に座るとキリトさんは人数分の〖アルゲードソバ〗を注文するとグラスに入った氷水を飲む

 

アスナがより一層微妙な顔をして呟く

 

「なんか残念会みたいな雰囲気になってきたんだけど…」

「気のせい気のせい それよりも忙しい団長殿の為にもさっさと本題に入ろうぜ」

 

昨日の『圏内事件』のあらましをアスナが簡略且つ的確にヒースクリフさんに伝えている間もヒースクリフさんの表情はほとんど変わることはなかったが唯一カインズさんの死の場面で眉がピクリと動いた気がした

 

「…そういう訳で団長のお知恵を拝借できればと思いまして…」

 

アスナがそう締めくくるとヒースクリフさんは氷水を飲み、「ふむ」と呟く

 

「ではまずキリト君の推理から聞こうではないか 君はこの『圏内事件』の手口をどう考えているのかな?」

 

話を振られたキリトさんは頬杖から顔を離すと右手の指を3本立てた

 

「まぁ大まかには3通りだな まず1つ目は正当なデュエルによるもの 2つ目は既知の手段の組み合わせによるシステム上の抜け道 そして3つ目が…アンチクリミナルコードを無効化するような未知のスキルやアイテムの存在」

「ふむ… 3つ目の可能性は除外してもよいだろう」

 

即座にキリトさんの挙げた3つ目の可能性を否定したヒースクリフさんを私達は思わず凝視してしまったがておさんが我に返ったように言った

 

「理由は?」

「想像したまえ もし仮に君たちがこのゲームの開発者ならそのような武器やスキルを設定するかね?」

「…成程…」

「まぁしないかな」

 

ておさんの質問にヒースクリフさんは逆に私達に問いかけてきてておさんは納得したように頷き、キリトさんは腕を組みながら答えた

 

「何故そう思う?」

「そりゃぁ…フェアじゃないからな 認めるのはちょっと業腹だがSAOのルールは基本的に公平さ(フェアネス)を貫いている」

「俺もキリトと同じだな」

 

2人の理由を聞いたヒースクリフさんはまるでその答えが来るのを知っていたかのような反応を示したがキリトさんが付け加えるようにして片頬の笑みを浮かべながら言う

 

「ただ1つ あんたのユニークスキルの"神聖剣"を除いては、だけどな」

 

それに対してヒースクリフさんはまるで意趣返しかのように無言で同じ意味のような微笑をキリトさんに返してきた

 

そんな応酬をし続ける2人を順に見やったアスナはため息交じりに首を横に振ると言葉を挟む

 

「どちらにせよ 今の段階で3つ目の可能性を考えるのは時間の無駄ね 確認の仕様がないわ…だから仮説その1のデュエル云々から検討しましょう」

「よかろう …しかし やけにこの店は料理が出てくるのが遅くはないか?」

 

眉をひそめながらカウンターの奥を見やるヒースクリフさんに対してキリトさんは肩をすくめる

 

「俺の知る限りだとこの店のマスターがアインクラッド一やる気のないNPCだと思うね そこを含めて楽しめよ 現実っぽいだろ?」

 

キリトさんはそう言いながらヒースクリフさんのコップに氷水を溢れんばかりに注ぐとそのついでに空になっていた私とておさんのコップにも溢れそうなぐらい注いでくれたのでお礼を言う

 

「…圏内でプレイヤーが死んだらそれはデュエルの結果というのがまぁ常識だよな でもまぁこれは断言してもいいけどカインズが死んだときにはウィナー表示はどこにもなかった そんなデュエルが存在するのか…?」

 

ふと私はデュエルのウィナー表示位置について疑問に思ったのでキリトさんに訊ねる

 

「そういえばキリトさん 今まで特に気にしたことはなかったんですけれどもデュエルのウィナー表示の出る位置に何かルールってあるんですか?」

「え? うーん…」

 

私の質問にキリトさんは少し戸惑った様子だったがその質問にヒースクリフさんは即座に答えた

 

「決闘者2人の丁度中間の位置 あるいは決闘者2人が10メートル以上離れている場合は両者の至近に2枚のウィンドウが表示される」

「よく知ってるなそんなルール…ということはカインズから遠くても5メートル弱の所にウィナー表示が出たはずだな」

 

キリトさんの言ったように確かによくそんなの知ってるな…と思っている間にもキリトさんは続ける

 

「周囲のオープンスペースにウィナー表示は出なかった これは確実だ あれだけ目撃者がいたんだからな 後はカインズの背後の教会に出たパターンだけどそれならあの時点で犯人は教会内にいたはずで、カインズが死ぬ前に飛び込んだアスナと鉢合わせしていなければおかしいしうまく隠れていたとしてアスナが通り過ぎた時に入口に向かったとしても入口を張ってたタコミカに捕まる」

「隅々探したつもりだしそもそも教会の中にもウィナー表示なんてなかったよ」

 

アスナが付け加えたので私も付け加えるように頷くとキリトさんが「むむむ…」と唸ると

 

「デュエルじゃなかったのか? やっぱり…」

 

そう呟くと無人の店に暗い影が落ちたような気がした

 

「…選択間違ってないかな? このお店…」

 

アスナがそんな空気を切り替えるように氷水を飲み干すとテーブルに音が鳴るほど勢いよくコップを置き、それにすかさずキリトさんが氷水を溢れんばかりに注ぐとアスナは微妙な顔でキリトさんにお礼を言った

 

そして指を2本立てる

 

「ということは残る可能性は2つ目のシステム上の抜け道だけってことね…私どうしても引っかかるのよ」

「何が?」

「貫通継続ダメージ」

 

アスナはそう言うとテーブルの上に何故か置いてある爪楊枝を1本手に取るとまるで≪リニアー≫を発動するような動きで爪楊枝使って空気を貫く(戦闘時のようにスピードは速くないけど)

 

「あの槍はただ単純に見せしめのためだけじゃない気がするの 圏内PKの実現のためにどうしても必要だった…そう思えるのよ」

「あぁ それは俺も思ってる」

 

キリトさんは軽く頷いたが直ぐにかぶりを振る

 

「でもそれはさっきヨルコさんに会う前に試したじゃないか たとえ圏外で貫通武器を刺しても圏内に移動すればダメージは止まる」

 

あの場面を思い出しながら考えていると結晶を使った場合はHPの減少は止まらないんじゃないかという妙案を思いついたので発言する

 

「だったら〖回廊結晶〗はどうですか? 予めあの教会の小部屋に出口を設定しておいて圏外からテレポートしてきたら…「残念だがその場合でもHPの減少は止まるとも」むむむ…」

 

いい案だと思ったんだけどな…

 

「徒歩だろうと〖回廊結晶〗や〖転移結晶〗によるテレポートだろうとあるいは誰かに放り投げられようとも圏内に入った時点でアンチクリミナルコードは例外なく適用される」

 

? 陸だから駄目なのかな…? だったら空中は行けるのかな…? そう思った私は再び口を開く

 

「空中から圏内に入ったらどうなんでしょうか?」

「と言うと?」

「実際にやるのは難しいとは思いますけど〖回廊結晶〗の出口を空中に設定しておいて先ほど話したように圏外から入ったらどうでしょう?」

 

我ながらいいアイデアだと思ったのも束の間、ヒースクリフさんが束ねられた長髪をふわりと横に揺らして否定する

 

「実際にできるかどうかに関わらず不可能だろう アンチクリミナルコードは街区の境目から垂直に延び、空の蓋…つまり次の層の底まで続く円柱状の空間だ その3次元座標に移動した瞬間コードによってその者は保護される つまり仮にタコミカ君の案が実際にできたとしても貫通属性ダメージは止まるだろう」

『へぇ~』

 

ヒースクリフさんの解説に私達は異口同音に感嘆する

 

もしこの場にリオンさんを呼んでいたらここまで聞けただろうか… いや ここまで詳しくは聞けなかっただろう

 

…知ったところであんまり使う機会は無さそうだけど

 

 

となるとカインズさんのHPは圏内にいたあの時点で止まっていなければならない それなのに止まらなかったということはダメージの発生源は凶器である〖ギルティソーン〗以外の()()ということになる―――何か仕掛けがあるとしたらそこしかないだろう

 

ておさんもゆっくりと口を開く

 

「生命の碑にはカインズの死亡時刻と共に死因も明記されていた …貫通属性攻撃…と そしてカインズが消滅した後はあの黒いショートスピアのみが現場に残っていた」

「そうね 他の武器が使われたとは考えにくいわ」

 

アスナの呟きに私達は頷く




キリがいいので今回はここまでです

それではまた次回に


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16話:捜査は足で その5

タコミカは攻略組の中で一撃の攻撃力はトップクラスに入ってます

それではどうぞ

P.S.SAOアニメ放送10周年おめでとうございます!


そこからしばらく考えていたキリトさんが発言した

 

「物凄い威力のクリティカル・ヒットを喰らった時にはHPバーはどうなるんだ?」

 

アスナはそれに対して今更それを聞くのかというような目をキリトさんを見やりながら答える

 

「それはごっそり減ると思うわよ」

「その減り方はどうなんだ? SAOは一瞬でごっそり減るわけじゃなくて右端からスライドして減っていくだろ つまり被弾からHPが実際に減るまでの間にはわずかながらタイムラグがあるわけだ」

 

つまりキリトさんが言いたいのって圏外でダメージを与えてそのタイムラグをうまく利用して圏内でHPが減ったように見せるっていうことかな?

 

私以外もキリトさんの言いたいことになんとなく気が付いたようだったがヒースクリフさんだけは無表情だったので内心はどうなのかはわからなかったけど…

 

「例えば…だ 圏外に於いてカインズのHPを槍の一撃でゼロまで持っていく あいつは装備を見てもタンクだからHPの総量はかなりの数字だっただろう バーが左端…つまり削り切るのに…そうだな 5秒ぐらいはかかるだろうな その間に急いでカインズを回廊で教会まで送って窓からぶら下げれば…」

「ちょ…ちょっと待ってよ」

 

キリトさんの憶測をアスナが遮る

 

「攻略組じゃなかったにせよ カインズさんは中層では上の方のプレイヤーだったでしょ そんな人のHPを単発のソードスキルで削り切るなんて この場で一番攻撃力が高いタコミカだったとしても不可能だわ!」

「まぁ そうだろうな」

 

それに対してキリトさんは軽く頷く

 

「例えタコミカが両手斧を装備した状態でソードスキルを放ったとしてもたった一撃でHPを全部削り切るっていうのは不可能だろう でもSAOには何千人ものプレイヤーがいるんだ 攻略組に所属してない…つまり俺たちが全く知らない、尚且つレベルがはるかに上のプレイヤーが存在する可能性はある」

「つまりあの槍でカインズさんを殺したのがグリムロックさん本人なのか依頼されたレッドプレイヤーなのかは分からないけどその人はフル装備状態のタンクプレイヤーを一撃で殺せるほどの実力を持ってるって言いたいの…?」

 

キリトさんの推測は今までの中では一番現実的そうかな…? でもそんなプレイヤーが居たら…

 

私が嫌な想定をしているとヒースクリフさんが口を開いた

 

「手法としては不可能ではない 確かにキリト君の推測通り 圏外に於いて対象プレイヤーのHPを一撃で消失せしめ、予め開いておいた回廊(コリドー)によって即座に圏内にテレポートさせれば見かけ上は『圏内PK』を演出できる」

 

もしかしてキリトさんの案が正解?

 

一瞬そう考えたがヒースクリフさんは「だが」と付け加えた

 

「…無論君達なら知っているとは思うが、貫通武器の特性というのは1にリーチ、2に装甲貫通力だ その為単純な武器の威力だと打撃武器や斬撃武器に劣る 重量級の大型のランスならまだしもショートスピアなら尚更だ」

 

すっかり忘れてたけど使われた武器はあの大した威力のないショートスピアだったや

 

ヒースクリフさんは指摘されたことによって不貞腐れたように唇を尖らせていたキリトさんにかすかな笑みを浮かべるとさらに続ける

 

「決して高級品ではないショートスピアでボリュームゾーンのタンクプレイヤーを一撃死させようと思ったら…そうだな これは私の見立てになるがざっとレベル100に達している必要になるだろう」

ひゃくぅ!?

 

ヒースクリフさん以外の声が揃い、思わず目を見開く

 

しばらくその状態が続いたが一番最初に我に返ったアスナが咄嗟に首を横にぷるぷると振る

 

「い…いるわけないわよそんな人! 今まで私達がどれだけ激しいレベリングをしてきたか忘れたわけじゃないでしょ!? レベル100なんて最前線の迷宮区に24時間籠り続けても絶対に無理だわ」

「私もそう思うね」

「た…確かに… ヒースクリフさんを除いた攻略組の中でトップと噂されてるめらさんですらレベル83なのに…」

「同感…」

 

本当にめらさんはどこでレベリングしてるんだろうと思うほどレベルが高いけどそれ以上にレベリングをしている人を私は知らない

 

それにヒースクリフさんとアスナに否定されては私程度ではぐうの音も出ない

 

しかしキリトさんは諦め悪く言い返す

 

「…プ…プレイヤーのステータス由来じゃなく、スキル由来ってセンも在り得るぞ 例えば、さ…じゃなかった 2人目の『ユニークスキル』使いが現れた…とか」

 

突拍子もないけどそれが一番ありそうなセンかなぁ?

 

そう思っているとヒースクリフさんが暗赤色のローブの肩を揺らしてかすかに笑う

 

「もしそのようなプレイヤーが存在するなら真っ先に私がKoBに勧誘しているよ」

 

突如としてヒースクリフさんがそう言ったためキリトさんはそこでこの推測を引っ張ることを断念して椅子の背もたれに腰かけた

 

「うーん… 行けると思ったんだけどなぁ… 後は…」

 

キリトさんが何かを言いかけたところで店主さんが料理を持ってきた

 

「…おまち」

 

やる気が無さそうな声と共にNPCの店主さんは四角いお盆から4つ白いどんぶりをテーブルに移すと直ぐに厨房へと戻っていく

 

今までの店員NPCみたいに清潔感があり、礼儀正しいという感じが無かったので私はその店員さんを見ているともう一つのどんぶりを持ってきてテーブルに置くと先ほど同様厨房へと戻っていった

 

どんぶりの中身を見てみると薄い色のスープのラーメンみたいな物が中に入っていた

 

キリトさんから割りばしを受け取るとそれを割って少し様子を見ているとアスナが低い声でキリトさんに訊ねる

 

「何これ…? ラーメン…?」

「のような何かだ」

 

そう言うとキリトさんはそのラーメンの様な何かを食べ始めたので私もそれに続いて食べることにした

 

 

味は…まぁうん…美味しくはないんだけど不味くもない…どこかで食べたような気がするんだけどそれとは何かが足りないような微妙な味がした

 

 

数分後、ラーメンの様な何かを食べ終わったキリトさんがヒースクリフさんを見やった

 

「で…団長殿は何か閃いたことはあるか?」

 

スープまで飲み干したヒースクリフさんはまるでそのラーメンの様な何かに恨みでもあるのかと言わんばかりにどんぶりの底を凝視していた

 

「…これはラーメンではない 断じて違う」

「うん 俺もそう思う」

 

しかしヒースクリフさんは気持ちを切り替えて答えた

 

「ではこの偽ラーメンの分だけ答えよう」

 

顔を上げて割り箸をどんぶりの上に置いてヒースクリフさんが続ける

 

「…現時点の材料だけで何が起こったのかを断定することはできない だがこれだけは言える …この事件に関して絶対確実と言えるのは君達がその目で見、その耳で聞いた第一情報のみだ」

「? どういうことだ?」

 

つまりヒースクリフさんが言いたいのは自分が見たり聞いたりしたことのみ信じろっていうことなのかな?

 

しかしキリトさんは意味が分かりづらいようでヒースクリフさんに訊ねると真鍮色の瞳で私達を順番に見ると言った

 

「つまり…アインクラッド(ここ)に於いて直接見聞きしたものは全てコードに置換可能なデジタルデータであるということだよ そこに幻覚や幻聴が入り込む余地などない 逆に言えばデジタルデータではないあらゆる情報には常に嘘や欺瞞が含まれている可能性がある この殺人…『圏内事件』を追いかけるのであれば、眼と耳…つまるところ己の脳が直接受け取った情報のみを信じることだ」

 

そして「ご馳走様キリト君」と最後に言い添えるとヒースクリフさんは立ち上がった

 

それに続いて私達も店長さんに挨拶をすると店の外へと出た

 

前に立っているヒースクリフさんが「何故このような店が存在するのだ…」と呟いたのは多分気のせいではないはず

 

 

ヒースクリフさんが消えていった<アルゲード>の街並みの方を見ているとキリトさんが訊ねた

 

「お前…さっきの意味わかったか?」

「…うん」

 

アスナはヒースクリフさんの言葉の訳を話し始めた

 

「あれだわ つまりさっき食べたのは醤油抜きの東京風醤油ラーメン だからあんなに侘しい味がしたのよ!」

「え?」

 

あぁ! それだ! だからどこかで食べたような感じがしたんだ!

 

違和感の正体がわかった私は感嘆の声を出しながら手のひらを拳で叩いた

 

「それだ! 違和感の正体がわかった!」

「でしょ! よし 決めたわ 私絶対この世界で醤油を作ってみせる じゃないとこの不満感は絶対に消えない気がするの!」

「…そうか… 頑張って…」

 

キリトさんとておさんも頷いたがておさんが突如として大声を出した

 

違うそうじゃない!

「ど…どうしたのテオ君?」

「確かに醤油も欲しいけど今はそっちじゃない ヒースクリフの言い回しの解説の方だよ」

「あぁ そっちね」

 

ておさんの言葉にアスナはしっかりと頷く

 

「あれはつまり伝聞の二次情報を信じるなってことを言いたいんだと思う 今回の件で当てはめれば動機面…つまり[黄金林檎]の『指輪事件』の方を」

「えっ!?」

 

アスナの解説にキリトさんは思わずうなり声をだしていた

 

「ヨルコさんを疑えっていうのか!? そりゃぁまぁ証拠なんてない話であるけれど…さっきアスナも今更裏付けは取れないから疑っても意味がないって言ってたじゃないか」

 

キリトさんがそう言うとアスナはぱちくりと瞬きをしてから視線を逸らして数回軽く頷いた

 

「ま…まぁ それはそうなんだけどね でも団長の言う通りPK手段を断定するにはまだ判断材料が足りないと思うの こうなったらもう一人の関係者にも話を聞きに行ってみましょ 『指輪事件』のことをいきなり出せば何かぽろっと話すかもしれないし」

「へ? 誰?」

「君達から槍をかっぱらって行った人よ」

 

アスナがシュミットさんに話を聞きに行こうと提案したので私達はDDAの本部にカチコミをしに向かうことになった




この小説での強さ順

ヒースクリフ>>>>メラオリン>キリト>>タコミカ>アスナ>>テオロング

これはあくまででも参考までにですのでご了承ください


それではまた次回に


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17話:捜査は足で その6

この小説ではDDAが積極的に情報の開示を行っています

それではどうぞ


まさに少数精鋭と言った感じの[血盟騎士団]と比較するとこちらは攻略組最大人数の[聖竜連合]がここ第56層にギルド本部(ホーム)を構えたのはつい先日のことでその時には[フリッツ・フリット]の全員が披露パーティに呼んでもらったのはまだ記憶に新しい

 

その時はキリトさん達も来ていたがメンバーの人達には目もくれずテーブルに並べられている料理を片っ端から口に運んでいたけど…

 

プレッシュさんから聞いた話だがキリトさん達はその後3日ぐらいは何も食べることが出来なかったらしい(まぁ言ってしまえば自業自得)

 

 

現に[聖竜連合]のギルド本部に向かっている途中にもキリトさんは噯気をもらしていた

 

すたすたと赤レンガの道を歩いて行くと第55層にある[血盟騎士団]のギルド本部よりもさらに大きい城のような[聖竜連合]の本部が見えてきた

 

最初に来た時と変わらず頂点に銀の地に青いドラゴンを描いたギルドフラッグがなびく白亜の尖塔群を見上げているとキリトさんがぼやいた

 

「しっかし いくら天下のDDA様と言ってもよくこんな物件を買うだけの余裕があるよなぁ…」

「人数が多いからその分収入も多いんじゃないのか? それでそれをこつこつと貯めてっつう感じじゃ?」

「それが自然か あのディアベルがリーダーやってるんだし あいつはファーミングスポットの秘匿なんてしないしな」

 

キリトさんの言う通り[聖竜連合]の現リーダーのディアベルさんはフィールド等の情報の開示を積極的に行っており、それが中層プレイヤーと手助けになっているとアルゴさんが言っていたような気がする

 

シュミットさんを呼びに行くのは全員で行ってもいいんだけど逆に警戒されそうなので顔が利く私とアスナが行くことにした

 

「じゃぁちょっとアスナと一緒にシュミットさん呼んできますね」

「頼むから変な真似だけはしないでくれよ…?」

「解ってますって じゃぁそこらへんで待っててくださいな」

 

そう言い残して私達は城門へと歩み寄っていくと門番のように立っている2人の重装備の槍使いのプレイヤーのうちの右にいる方にまずはアスナが声をかけた

 

「こんにちは 私[血盟騎士団]のアスナですけれど」

 

声をかけられた門番さんは一瞬上体を仰け反らさせて軽い声を出す

 

「あっ ども! こんちゃッス! お疲れ様っす それにタコミカさんまで どうしたんすか? こんなとこまで」

 

その声に駆け寄ってきたもう一人の方に私は笑顔で訊ねた

 

「少しだけシュミットさんに用事がありまして 連絡してもらえますか?」

 

すると男性たちはお互いに顔を見合わせる

 

「あの人は今は前線の迷宮区じゃないですかね?」

「あ でも 朝飯の時に今日は頭痛がするから休むって言ってたような… 今は自分の部屋かもしれないから呼んでみるっすね」

「お願いします」

 

私がそう言うと門番のうちの1人が手早くメッセージを打つと送信した

 

その30秒後ぐらいに返信が来たようでウィンドウを確認したが文面を見た途端困ったように眉をひそめた

 

「やっぱ今日は休みみたいっすけど… でも先に用件だけ聞けとか言ってるんっすよ」

 

それにアスナは短く考えると言った

 

「じゃぁ 『指輪事件』のことでお話が と伝えてください」

 

効果は抜群でシュミットさんがものすごい勢いで城門まで来ると同時に「場所を変えてくれ」とだけ言って足早に丘を降り始めたので私達もそれに続く

 

その後しれっとキリトさん達も合流してシュミットさんは重そうなフルプレートアーマーをものともせず前傾姿勢で高速移動していたが坂道を下りきって市街地に入ったところでようやく足を止めると鎧を鳴らしながら振り向くとキリトさんに詰問してきた

 

「誰から聞いたんだ」

「へ?」

 

キリトさんは一瞬意味が解らなかったのか聞き返したが直ぐに意味を理解したように答えた

 

「ギルド[黄金林檎]の元メンバーから」

「名前は」

「ヨルコさん」

 

キリトさんが答えるとシュミットさんは一瞬放心したように視線を上に向けると長く息を吐いた

 

私は今の反応は安堵であると考えるならばヨルコさんのことを売却反対派であると知っているのであろう

 

つまりシュミットさんも私達の推測と同様に『圏内事件』の犯人を売却派による売却反対派への復讐であるという仮説に辿り着いたのだろう

 

その為仮病まで使って安全なギルド本部に籠っていたと

 

しかしシュミットさんが昨日の事件の犯人であるという可能性もゼロではなく、『指輪事件』がカインズさんとの共犯で口封じのために殺害したということもあり得る

 

そう考えているとキリトさんは別のことについて質問していた

 

「シュミットさん 昨日、あんたがかっぱらっていった槍を作ったグリムロック氏は今どこにいるか知っているか?」

「し…知らん!」

 

シュミットさんは叫びながら首を激しく横に振る

 

「ギルドが解散してからは一度も連絡を取ってなかった だから生きているかどうかもわからなかったんだ!」

 

早口で言いながらまるでどこかから攻撃が跳んでこないかと警戒するように視界を辺りに巡らせる

 

そんな様子のシュミットさんにアスナは優しい声で訊ねた

 

「あのね シュミットさん 私達は『指輪事件』の犯人を捜してる訳じゃないの ただ昨日の事件の犯人を…言ってしまえばその手口を突き止めたいだけなのよ 今までのように圏内の安全を保つために」

 

僅かな間を置いて一層真剣味を加えて続ける

 

「…残念だけど現状で一番怪しいのはあの槍を鍛えた…そしてギルドリーダーの結婚相手でもあったグリムロックさんなの 勿論誰かがそう見せかけようとしている可能性も捨てきれないけど…それを判断するためにも直接彼に話を聞いてみたいんです 今の居場所か連絡方法に心当たりがあったら教えてくれませんか?」

 

アスナはシュミットさんの目を見つめながら話したがシュミットさんはそのまま横を向き、口を結んだので駄目かと思ったその時

 

「…居場所は本当に分からないが」

 

細々とではあるが話し始めた

 

「当時グリムロックが豪く気に入っていたNPCレストランがある ほとんど毎日のように行っていたからもしかしたら今でも行ってるかもしれない」

「本当か!?」

 

キリトさんはシュミットさんの発言に反射的に反応すると訊ねた

 

「ならそのお店の名前を…」

「教えてもいいが1つ条件がある」

 

キリトさんの言葉をシュミットさんが途中で遮った

 

「…彼女に…ヨルコに会わせてくれ」

 

~~~~~~

 

一先ずシュミットさんの条件は一旦保留にし、シュミットさんを近くの道具屋で待たせて私達は手短に話し合う

 

「危険はないわよね…?」

「う…うーん…」

 

一昨日までだったら確実に即答できていたけど今は何とも言えない節がある

 

もし仮に昨日みたいに謎の圏内PKが発生してしまったら次の犠牲が出てしまう…

 

でもそれを発動させるにしても何ステップか踏む必要かあるかもしれないので怪しい素振りを見せた時点で取り押さえれば事足りるはずだ

 

 

キリトさんも私と似たような考えに至ったのか口を開く

 

「俺たちが眼を離さなければPKのチャンスは無いはずだ …でもそれが目的じゃないとするとシュミットは何で今更ヨルコさんに会わせろなんて言いだすんだろ?」

 

キリトさんが軽く両手を広げるとアスナは大きく首を傾げる

 

「さぁ… でも実はシュミットさんはヨルコさんに片思いしてた…とかじゃないわよね うん違うわね」

「え? マジで?」

 

キリトさんは面白半分でシュミットさんに聞きに行こうとしていたがアスナがコートの襟を引っ張って静止した

 

「違うって言ってるでしょ! …とにかく危険性がないんだったらあとはヨルコさん次第ね メッセージ飛ばして確認してみるわ」

「は…はい お願いします」

 

アスナはウィンドウを開くと素早くホロキーボードを打ち、ヨルコさんにフレンド・メッセージを送った

 

ヨルコさんからは直ぐに反応が返ってきたようで開いたままのウィンドウを一瞥すると頷く

 

「OKだって …少し不安は残るけど案内しましょう 場所はヨルコさんの泊っている宿屋でいいわよね」

「あぁ 彼女を外に出すのはまだ危険だからな」

 

キリトさんはそれに同意すると道具屋で待っているシュミットさんに向けてOKマークを作るとシュミットさんは安堵した表情になった

 

 

~~~~~~

 

第57層の主街区へと移動したときにはすっかり辺りは夕焼けに包まれており、広場にも昨日のような活気が溢れていたが昨日事件のあった教会の前だけは閑散としていた

 

そこを通り過ぎて歩くこと数分、ヨルコさんの泊っている宿屋へと到着してその部屋の前までやってくるとキリトさんがノックすると直ぐにか細い声が返ってきたのでキリトさんがドアノブを引くとカチッと音を立てて開く

 

部屋の中央に向かい合わせに置かれたソファの片側に腰かけていたヨルコさんは私達の姿を確認するなりすっと立ち上がって軽く一礼をする

 

そこから張り詰めたような空気になったがキリトさんが口を開く

 

「えっと… まず確認だけど2人共武器は装備しないこと そしてウィンドウを開かないこと これを守ってほしい 不快かもしれないけどよろしく頼む」

「…はい」

「解ってる」

 

ヨルコさんは消え入りそうな声でシュミットさんは苛立ちの滲む声で応じたのを確認するとキリトさんは部屋に入り、私達はそれに続いた

 

ヨルコさんとシュミットさんはしばらく無言で視線を見交わしていたが最初に口を開いたのはヨルコさんだった

 

「…久々ね シュミット」

 

薄く微笑んだヨルコさんに対してシュミットさんは一度唇を噛んでから掠れ声で答える

 

「…あぁ もう二度と会わないと思っていたけどな …座っていいか」

 

ヨルコさんが頷くとシュミットさんは鎧を鳴らしながらヨルコさんの向かいのソファに歩み寄るとそこに腰かけた

 

それを確認したキリトさんは扉を閉め、向かい合って座る2人のシュミットさん側の東に立ち、アスナはその反対側にておさんはヨルコさん側の東側に、そして私はその反対側に立った

 

部屋の南側の窓は開け放たれており、そこからは街の喧騒が聞こえてくる

 

その喧噪を聞き流しているとヨルコさんがぽつりと呟いた

 

「シュミットって今は[聖竜連合]にいるんだってね 凄いよね 攻略組の中でもトップギルドだよね」

 

それに対してシュミットさんはそれに低い声で答えた

 

「どういう意味だ 不自然だとでも言いたいのか」

 

シュミットさんの明らかに棘のある答えにヨルコさんは動じなかった

 

「まさか ギルドが解散した後物凄く頑張ったんだろうなって思っただけよ 私やカインズはレベル上げを挫折して諦めたのに凄いよね」

 

肩にかかる髪をそっと払うと再び微笑んだ

 

ヨルコさんは一見すると冷静に見えるがかなり着込んでいるのが外見からでもわかるため内心では不安があるのであろう

 

こちらは不安を隠そうともしないシュミットさんは鎧を鳴らしながら身を乗り出す

 

「俺のことはどうでもいい! それより訊きたいのはカインズの事だ」

 

シュミットさんは声をトーンを押し殺したものに変えて続ける

 

「何で今更カインズが殺されるんだ!? あいつが指輪を奪ったのか? リーダーを殺したのはあいつだったのか!?」

 

今のシュミットさんの言葉はシュミットさん自体が『指輪事件』にも『圏内事件』にもかかわっていないことを示唆されるがこの様子自体が嘘という可能性も捨てきれない

 

低い叫びを聞いたヨルコさんの表情がここに来て初めて変わり、シュミットさんを睨みつけた

 

「そんな訳ない 私もカインズもリーダーの事は心から尊敬していたわ 指輪の売却に反対したのはお金(コル)に換えて無駄遣いしちゃうよりギルドの戦力として有効活用するべきだと考えたからよ リーダーも本当はそうしたかったはずだわ」

「それは… 俺だって同じだったさ 忘れるなよ 俺だって売却に反対したんだ 大体指輪を奪う動機があるのは反対派だけじゃない 売却派…つまり(コル)が欲しかった奴らの中にこそ売り上げを独占したい奴がいたかもしれないじゃないか!」

 

シュミットさんはガントレットを嵌めた右手で膝を叩くと頭を抱え込む

 

「なのに… 今更グリムロックはどうしてカインズを… 売却に反対した3人を全員殺す気でいるのか? 俺やお前も狙われているのか!?」

 

怯えている様子のシュミットさんに対して再び冷静さを取り戻したヨルコさんがぽつりと言葉を投げかけた

 

「まだグリムロックがカインズを殺したって決まったわけじゃないわ 彼に槍を作ってもらった他のメンバーかもしれないしもしかしたら…」

 

ヨルコさんは虚ろな表情でソファの前にある低いテーブルを見やると呟く

 

「殺されたリーダー自身の復讐なんじゃない? 圏内で人を殺すなんて普通のプレイヤーにはできないんだもの」

「なっ‥‥‥」

 

シュミットさんは目を見開いてパクパクと口を動かす

 

 

そしてこの場の雰囲気に似合わず微笑んでいるヨルコさんを呆然と見やって言った

 

「だってお前さっきカインズが指輪を奪うわけがないって…」

 

それにヨルコさんは直ぐには答えずおもむろに音もなく立ち上がると一歩右に動き、両手を体の後ろで握ると私達に顔を向けたまま窓へと向かって後ろ歩きをしていく

 

スリッパの足音に合わせ、ヨルコさんは何かに憑りつかれた様に話す

 

「私昨夜寝ないで考えたの 結局のところリーダーを殺したのはメンバー全員でもあるのよ あの指輪がドロップした時、投票なんかしないでリーダーに任せればよかったんだわ ううんいっその事リーダーが装備してもらえばよかったのよ 剣士として一番実力があったのはリーダーだったし、指輪の効果を生かせたのは彼女だわ なのに私達は全員自分の欲を捨てきれずに誰もそれを言い出せなかった いつかGAを攻略組に、なんて言いながらホントはギルドじゃなくて自分を強化したかったのよ」

 

言い終わると同時にヨルコさんは窓枠に腰かけるともう一言だけ付け加えた

 

「ただ一人…グリムロックさんだけはリーダーに任せると言ったわ あの人だけは私欲を捨ててギルド全体のことを考えていた だからあの人には欲を捨てられなかった私たち全員に復讐する権利があるんだわ」

 

しんと沈黙が満ちる中風が吹く音だけが聞こえる

 

やがてシュミットさんが鎧をカチャカチャと小さく鳴らしながら細かく震え、まるでうわごとのように呟く

 

「…冗談じゃない…冗談じゃないぞ! …何を今更半年も経ってから…!」

 

上体を勢い良く上げるとヨルコさんに向けて叫ぶ

 

「お前はそれでいいのかよ ヨルコ! 今まで死に物狂いに生きてきたのにこんな訳が分からない方法で殺されていいのか!?」

 

全員の視線がヨルコさんに集まる中、どこか儚げな雰囲気を纏うその人はしばらく言葉を探すように視線を彷徨わせていた

 

やがて唇を動かして何かを言いかけた時―――

 

〔トン〕と乾いた音が部屋に響いたと思ったらヨルコさんは眼と口を見開き、続いてその体が大きく揺れよろめくように振り返って窓枠に手をつく

 

その時に風が吹いて彼女の髪が風になびいた時、私達は信じられないものを見た

 

背中に黒々とした短剣の刀身が刺さっていた

 

私達がそれを見たのも束の間、ヨルコさんの身体が大きく揺れて窓の奥へと傾いた

 

それと同時に私は駆け出し、窓から身を乗り出して手を伸ばしヨルコさんを掴もうとしたがわずかにショールが指先を掠っただけでそのまま地面へと落下していった

 

ヨルコさん!

 

そして石畳に墜落すると青いエフェクトに包まれてささやかな破壊音と共にポリゴンの欠片が拡散し…その場にはヨルコさんに刺さっていた漆黒のダガーのみが残った




ちょっと長くなってしまった…

それではまた次回に


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18話:捜査は足で その7

最近暑いですね…

それではどうぞ


その一連の流れにある種の恐怖を抱き、それを避けようと視線を上げると丁度この窓と同じぐらいの高さの屋根の上にひっそりと立つ人影が見えた

 

それを見たであろうキリトさんが私を押しのけて窓枠を乗り出すようにしてその人影を睨みつける

 

「野郎…!」

 

そして窓枠に足を掛けると振り向かずに私達に向けて叫ぶ

 

「3人共! 後頼む!」

 

それだけを伝えると窓から向かいの建物の屋根へと跳んだ

 

屋根へと着地すると同時にアスナが切迫した声を出す

 

「駄目よ! キリト君!」

 

しかしキリトさんはそれを無視して剣を背中の鞘から抜くとそのまま人影を追いかけ始めた

 

そこから先は建物が邪魔になって窓からは様子が見えなかった…

 

 

~~~~~~

 

 

数分後、ドアをノックして戻ってきたキリトさんに対してレイピアを抜刀していたアスナは怒りと安堵が混ざったような表情を向けると押し殺したような声で叫ぶ

 

「ばかっ! 無茶しないでよ!」

 

確かにあれはちょっと危険だったと思う

 

そしてアスナは気持ちを切り替えるように長く息を吐くと声量を落として続ける

 

「それで… どうだったの?」

 

キリトさんは首を横に振った

 

「テレポートで逃げられた 顔も声も、性別も判らなかった …まぁあれがグリムロックなら男だろうけど」

 

そうキリトさんは言ったもののSAOにいるプレイヤーの内8割ぐらいは男性の為、これだけでは絞り込めない

 

「違う…」

 

その特に理由のない言葉に反応したのは怯えたように体を丸くして鎧を小刻みに鳴らしながら震えているシュミットさんだった

 

「違うって何がだ?」

 

ておさんはそう訊ねたもののシュミットさんはそちらを見ることなくより一層顔を俯けながら呻く

 

「あれは…あの屋根の上にいた黒ローブはグリムロックじゃない 彼はもっと背が高かった それに…それに」

 

続いてシュミットさんが発した言葉に私達は思わず息を呑む

 

「あのフード付きのローブはGAのリーダーのものだ 彼女が街に出るときはいつもあんな地味な恰好をしていた そうだ…あの日指輪を売りに行った時だってあの恰好をしてた! あれは…さっきのあれは間違いなく彼女だ 俺たち全員に復讐しに来たんだ あれはリーダーの幽霊だ」

 

そう言い終わると不意にタガが外れたように笑い始めた

 

「幽霊だったら圏内でPKするぐらい楽勝だよな いっそのことSAOのラスボスもリーダーに倒してもらえばいいんだ 最初っからHPが無ければもう死なないんだから」

 

ヒステリックに笑っているシュミットさんの目の前のテーブルに向かってキリトさんは持っていたダガーを放り投げた

 

〔ごとん〕と鈍い音を立ててテーブルにダガーが置かれると同時にシュミットさんは笑いを止め、それを凝視すると…

 

「ひっ…」

 

小さく悲鳴を上げ、上体を仰け反らせるシュミットさんにキリトさんは抑えた声で話し始めた

 

「幽霊じゃない そのダガーは実際にそこに存在するオブジェクトだ SAOのサーバーに書き込まれた何行かのプログラムコードだよ あんたのストレージに入ったままのショートスピアと同じだ それでも信じられないというのなら持って行って調べるといい」

い…いらない! 槍も返す!

 

シュミットさんは絶叫するとウィンドウを開いて何回か操作ミスをしながらも〖ギルティソーン〗を取り出すと近くにいたておさんに半ば強引に渡した

 

そして再び俯いて頭を抱えたシュミットさんにアスナは穏やかな声をかける

 

「…シュミットさん 私も幽霊じゃないと思うわ だってもしアインクラッドに幽霊が出るんだったら[黄金林檎]のリーダーさんだけじゃないわ 今までに死んでしまった約3400人全員が同じぐらい無念だったはずだわ そうでしょう?」

 

まぁ確かに… アスナの言う通り ここで死んでしまったら死んでも死にきれないだろう…かくいう私もあの場で死んでいたら化けて出てくる自信がある…まぁ達観している人だったらそんな運命でも受け入れるだろうけど

 

しかしシュミットさんは項垂れたまま首を横に振る

 

「あんたらは彼女を…グリセルダを知らないからそんなことが言えるんだ あの人はいつも毅然としててすごく強かった…それでいて不正や横領にはとんでもなく厳しかったんだ あんた以上だよ アスナさん だからもし自分を罠に嵌めて殺した奴がいればたとえ幽霊になってでも裁きに来るだろうさ…」

 

重苦しい空気が部屋を満たし、街の喧騒も今はここを避けているようだった

 

そんな中でキリトさんは静寂を破るように口を開く

 

「あんたがそう思いたいんだったら、好きにすればいいさ だが俺は信じない この2件の『圏内事件』には絶対的なロジックが存在するはずだ 俺はそれを絶対に突き止める …あんたにも約束通り協力してもらうぞ」

「…協力…?」

「あんた言ってたよな グリムロックの行きつけの店を教えるって 今となってはそれが唯一の手掛かりだ 何日張り込むことになっても絶対に見つける」

 

キリトさんの言う通り今はそれぐらいしか手掛かりがない… 藁にも縋るという奴だがシュミットさんに断られてしまったら完全にとはいかずともほぼ積みと言ってもいい

 

しかしそんな私の心配は杞憂だったのかシュミットさんは重々しくはあるが立ち上がると壁際に備え付けられているライティングディスクに歩み寄ると備え付けの羊皮紙にこちらも備え付けの羽ペンを使ってみせの場所と名前を書き始めた

 

その様子を見ていたキリトさんは思いついたような声を出すとシュミットさんに声をかけた

 

「ついでに元[黄金林檎]のメンバー全員の名前を書いておいてくれるか? 後でもう一度生命の碑に確認しに行くから」

 

シュミットさんは頷くと置きかけたペンを握り直してメンバーの名前を書き始めた

 

そして書き終わった羊皮紙を片手に持ちながら戻ってくると羊皮紙をキリトさんに渡しながら口を開く

 

「…攻略組として本当に情けないが 俺はしばらくフィールドに出る気にはなれない ボス攻略レイドは俺抜きで編成してくれ それと…」

 

シュミットさんは虚ろな表情で呟いた

 

「…俺をDDAの本部まで送ってくれ」

 

~~~~~

 

シュミットさんを護衛するように第57層の転移門から第56層にあるDDAの本部まで送る間、私達は周囲の暗闇に細心の注意を払い例の人が現れたらいつでも攻撃できるように臨戦態勢でいた

 

DDAの本部まで送ってもシュミットさんは安堵の表情を見せずに建物へと小走りで入っていった

 

それを見た私は一息を着くとしばらく顔を見合わせる

 

「…悔しいね…ヨルコさんの事…」

 

そう呟いたアスナに私とておさんはしっかりと頷き、キリトさんも「そうだな」とかすれた声で応じた

 

正直に言ってあのシーンはカインズさんの時よりも衝撃が凄かった

 

あの場面を思い出しているとキリトさんが口を開く

 

「今まではテオのように乗り掛かった船っていう気持ちもあったんだが…もうそんなこと思ってちゃだめだよな 彼女の為にも絶対にこの事件を解決しないと ―――俺はこれから直ぐにシュミットに教えてもらったレストランに張り込もうと思ってる 3人はどうする?」

 

そして私達に訊ねてきたので私達は答える

 

「勿論私も行くわ 一緒に最後まで突き止める」

「私も行きます 『指輪事件』と『圏内事件』の真相を知りたいですから」

「あぁ 俺も同感だ カインズさんの時はキリトの言った通り乗り掛かった船っていう感じだったが今はただ真相が知りたい」

 

私達の言葉を聞いたキリトさんは一瞬黙ったが直ぐに言った

 

「…そっか じゃぁよろしく頼む」

 

キリトさんの返答を聞くや否やアスナは踵を返すと転移門へと向かって行ったので私達もその後を追いかける

 

 

~~~~~~

 

 

シュミットさんが教えてくれたお店は第20層の下町にある酒場で曲がりくねった小道にひっそりと佇んでいる雰囲気からはシュミットさんが言ってたように毎日食べたくなるようなお店とは到底思えない

 

…好みは人それぞれなので私達がとやかく言うべき問題ではないけど…

 

一旦近くの物陰に身を潜め、周囲を確認すると例の酒場を見渡せる位置に宿屋があることに気が付いて人通りが途切れた時を狙ってその宿屋に入り、通りに面した2階の部屋を借りると通りが見える窓際に椅子を持ってきて監視する態勢を整える

 

準備を整え、さぁ始めようとなった時にアスナが「ねぇ」と眉を寄せる

 

「…張り込むのは良いけどよくよく考えたら私達グリムロックさんの顔知らないわよね…?」

 

言われてみればそうだ 私達グリムロックさんの顔知らなかった…

 

「あぁ だから最初はここにシュミットを連れてこようと思ったんだけどあの様子じゃ無理そうだったからな… 一応俺はフード越しだけどグリムロックらしきプレイヤーを至近距離で見てる だからそれっぽいプレイヤーが現れたらちょっと無茶かもしれないけどデュエル申請をする」

「それが一番手っ取り早いか…」

「え~…」

 

ておさんの言う通りキリトさんの案が一番手っ取り早いかもしれない

 

名前が表示されないSAOではプレイヤーにフォーカスしたときの情報はカラー・カーソルとHPバーとギルドマークの情報しか表示されない

 

名前さえわかってしまったらそれこそインスタント・メッセージで嫌がらせ行為を行うことが出来てしまうので当然と言えるが今回の場合は手間がかかってしまう

 

その為初対面の人の名前を知ろうと思ったらデュエルを申請するのが手っ取り早い

 

デュエルの申請方法はメニューからデュエルボタンを押して選択モードにしてから指先で対象のカラー・カーソルを選択すると『○○に1v1のデュエルを申請しました』(○○には相手の名前)がメッセージとして表示されるためそれで名前がわかるという寸法である

 

しかしそれと同時に相手にも自分の名前が表示されるので自分の名前を明かさずに相手の名前だけを知るということはできないしそもそもこの行為はマナー違反である

 

それに加え、相手がデュエル申請を受理する可能性もあるのでアスナは乗り気ではないのだろうがアスナもこれ以外に方法がないことを知ってるので唇を結んで厳しい表情で頷くと言葉を発した

 

「…でもグリムロックさんと話すときは私達も行くからね」

 

なんか巻き込まれてる感が否めないがあえて口にはしないでおく

 

 

ふと時刻を確認すると6時40分という丁度夕食時で例の酒場もスイングドアが頻繁に揺れている

 

酒場に出入りしている人たちの中から怪しい人がいないか見ているとアスナが何かの包みをキリトさんに「ほら」と言いながら差し出しているのが見えた

 

「…くれるのか?」

「それ以外に何があるの? 見せびらかしてるとでも?」

「い、いえ… それじゃぁ…遠慮なく…」

 

それをキリトさんに渡すと同じような包みを3つオブジェクト化し、そのうちの2つを私に渡してきた

 

「お~ ありがと~」

「耐久値がもうすぐ切れるから急いで食べるのよ」

「あっはい」

 

アスナから受け取った包みのうちの1つをておさんに渡すと早速包みを開ける

 

包み紙の中から出てきたのは野菜やロースト肉が挟まれたバゲットサンドだった

 

しかしそれを一旦置いてウィンドウを開き、操作して水入り瓶をオブジェクト化すると早速バゲットサンドを食べ始める

 

それはシンプルだけど適度にピリッとした辛さがあってかなり美味しかった(少なくとも今日食べた中では一番美味しい)

 

まだ食べてる私をよそに食べ終わったキリトさんがこちらもまだ食べているアスナに対してお礼のついでに訊ねていた

 

「ご馳走様 美味しかったよ それにしてもいつの間に弁当なんて仕入れたんだ?」

「耐久値がもうすぐ切れるって言ったでしょ こんなこともあろうと朝から用意してたのよ」

「へぇ…流石攻略担当責任者様だなぁ… そこまで頭が回らなかったよ 因みにこれどこの店の?」

 

キリトさんの質問にアスナは小さく肩をすくめた

 

…売ってない

「へ?」

「お店のじゃない」

 

これ手作りなんだ 後でレシピ教えてもらおっと

 

そう思いながら私が食べ進めている間、キリトさんは放心状態だったが軽くパニック状態になりながら言った

 

「えぇっと…その… 何といいますか…ガツガツ食べちゃってもったいなかったな~ いっそのことオークションにかければ大儲けだったのになぁ~ あはははは…」

 

ホントこの人… KY過ぎない…?

 

予想通りアスナはキリトさんの座る椅子を蹴飛ばしキリトさんは怯えたような表情になった

 

 

 

そんなこんなで私も食べ終わり、すでに食べ終わっていたておさんを横目に水を飲むと丁度瓶が空になったようで机の上に置くと瓶はポリゴン状になって消滅した

 

こういうのはつくづく便利だなぁと思っているとキリトさんがこちらを見ていることに気が付いた

 

「? どうしたん「しっ!」」

 

数秒間その状態が続いたと思ったら次に羊皮紙と空き瓶が消滅した場所を交互に見比べ、唐突にキリトさんが声を大にして叫んだ

 

ああっ!?

 

それと同時に椅子を蹴立てながら立ち上がったので思わずそちらを見る

 

「そうか… そうだったのか!」

 

急に何か分かったような声を出したのでたのでておさんは戸惑ったようにキリトさんに訊ねた

 

「ど…どうしたんだよ急に」

「そうよ 1人で納得してないで私達にもわかるように言いなさいよ」

 

アスナも同じような雰囲気でそう言ったのでキリトさんはぎゅっと両目を瞑ると話し始めた

 

「俺は…俺達は何も見えていなかった 見ているつもりで違うものを見ていたんだ 『圏内殺人』…そんなものを実現する武器も、ロジックも、最初っから存在していなかったんだ!」




この小説ではちょっとだけ死者数が抑えられています

それと今回は水入り瓶が消滅するのが謎を解くカギになりました

それではまた次回に


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19話:事件の真相

最近伸びてきて本当に嬉しいです

それではどうぞ


生きてるですって!?

 

キリトさんの解説を聞いたアスナは思わず叫んでいた

 

それもそうでキリトさんの解説は今までの推理を根本的に覆すものだったからだ

 

しかしあくまででもキリトさんは落ち着いた口調で話す

 

「あぁ 生きてる ヨルコさんもカインズ氏もな」

「でも…だって…だって」

 

アスナは浅い呼吸を何回か繰り返すと膝の上で両手を握り合わせ、かすれ声で反論した

 

「だって…私達昨夜確かに見たじゃない 黒い槍に貫かれてカインズさんが…()()所を」

「違う」

 

キリトさんはかぶりを振る

 

「俺たちが見たのはカインズ氏のアバターが大量のポリゴン片を振り撒きながら青い光を放って()()()()現象だけだよ」

「だからそれがこの世界での()でしょう?」

 

キリトさんは人差し指を伸ばすと顔の前に掲げた

 

「覚えているか? 昨日、教会の窓から吊るされたカインズ氏が空中の一点を凝視していたのを」

 

私達はキリトさんの言葉に頷くと代表してておさんが言った

 

「だからそれは自分のHPバーを見てたんだろ?」

「俺も最初はそう思ってた でも違ったんだ 彼が本当に見ていたのはHPバーじゃなくて自分の着こんだ鎧の耐久値だったんだ」

「耐久値?」

「あぁ 今日の朝、ヨルコさんに会う前に貫通ダメージが圏内でどうなるか実験したとき俺は左手のグローブを外したろ? あの実験の結果の通り圏内ではプレイヤーのHPは減らない でもオブジェクトの耐久値は減るんだ…さっき俺達が食べてたバゲットサンドのように 勿論装備は食べ物みたいに街中では消滅しないけどそれは損傷を受けていない場合だ いいか あの時カインズのアーマーは槍に貫通されていた つまりあの時槍が削っていたのはカインズのHPじゃなく鎧の耐久値だったんだ」

 

キリトさんがそこまで言うと眉を寄せていたアスナがハッとしたように眼を見開いた

 

「じゃぁあの時砕けて飛び散ったのはカインズさんのアバターじゃなく…」

「そうだ 彼の着ていた鎧だけだったんだよ そもそも最初っから妙だと思っていたんだ 食事に来ただけなのになんであんなに武装をする必要があるんだろうかって… あれはポリゴンの爆散エフェクトを出来るだけ派手にするためだったんだ そして鎧が壊れる瞬間を狙って…」

「カインズさんは結晶でテレポートしたと…」

 

キリトさんの言葉に続けるようにして私は呟くとあの場面を思い出しながら目をつむる

 

「…そして発生するのはプレイヤーの死亡時に発するエフェクトに限りなく近い…でも全く別のエフェクトですね」

「うん 恐らく実際のカインズ氏の行動は圏外であの槍を鎧ごと自分の胸に突き刺し〖回廊結晶〗であの教会の2階へ移動、そして自分の首にロープを掛けて鎧が破壊される直前に窓から飛び降り、鎧破壊のタイミングに合わせて〖転移結晶〗でテレポート…こんな感じだろうな」

「成程ね…」

 

ゆっくりと頷いたアスナは長い息を吐いた

 

「じゃぁ夕方のヨルコさんも同じトリックを使ったってことね…よかった…生きてるのね…」

 

アスナは安堵したが直ぐに唇を噛む

 

「で、でも 確かに彼女やたらと厚着をしてたけどダガーはいつ刺したの? 圏内じゃコードに阻まれて体に触れることすらできないはずだわ」

「最初っから刺さってたんだ」

 

アスナの疑問にキリトさんは即答した

 

「よく思い出してみてくれ 彼女、俺たちが部屋に入った時からずっと背中を見せようとしなかっただろ? これから部屋を訪れるっていうメッセージを受け取ってから大急ぎで圏外まで行って背中にダガーを刺してから帰りはマントかローブを羽織って宿屋に戻ったんだろう あの髪型だしソファにピッタリ座られたらあんなちっぽけなダガーの柄なんて全部隠れるよ そして服の耐久が減っていくのを確認しながら会話を続け、タイミングを見計らって後ろ向きに窓まで歩いて壁を蹴るかなんかしてそれっぽい効果音を出してから後ろを向く そうしたら俺たちの目にはダガーが今飛んできて刺さったようにしか見えない」

「そして自分は窓の外に落下した…あれは転移コマンドを私達に聞かれないようにする為だったのね…ってことはキリト君が追いかけた黒いローブの人は…」

「十中八九グリムロックじゃない カインズだ」

 

キリトさんが断定するとアスナは視線を宙に向け、短く嘆息を洩らした

 

「あれは犯人どころか被害者だったっていう訳ね… …? でもちょっと待って」

 

しかしふとアスナは疑問に思ったのか声に出していた

 

「私達昨晩わざわざ{黒鉄宮}にまで行って生命の碑を確認しに行ったじゃない それでカインズさんの名前には横線が引かれてたことを確認したでしょ 死亡時間もピッタリだったし死因だって貫通属性攻撃だったわ」

「そのカインズさんの名前の表記憶えてる?」

 

キリトさんにそう言われたアスナは「うーん…」と呟くと思い出し始めたので私が代わりに答える

 

「確か K,a,i,n,s だったと…まさか!?」

 

答えている途中である一つの可能性が頭によぎったので私は思わず声に出す

 

「あぁ そのまさかだ」

 

キリトさんはそう言いながら羊皮紙を私に渡してきたのでそれを受け取ると私とアスナとておさんは覗き込むようにして見た

 

「C,a,y,n,z… これがほんとのカインズさんの綴りだったんですね~」

「1文字ぐらいだったらシュミットの勘違いという線もあったけど流石に3文字も違ったらそれもないからな つまりヨルコさんが嘘の綴りを教えたんだ Kの方のカインズ氏の死亡表記をCの方のカインズ氏だと俺達に誤認させるように」

「え…? じゃ…じゃぁ…」

 

ふとアスナの顔が強張り、声のトーンも低くなる

 

「あの時…私達が教会前の広場でCのカインズさんの偽装死を目撃した瞬間、同時にアインクラッドのどこかでKのカインズさんも貫通属性攻撃で死んだっていうの? 偶然…っていうことはないわよね? …まさか…」

「いやいや 違うよ むしろ今回の事件はKのカインズ氏の方に合わせて起こしたんだ」

「どういうこと?」

 

アスナの仮説にキリトさんは軽く笑いながら大きく右手を振ったためアスナは訊ねた

 

「いいか? 生命の碑の死亡時間にはこう書かれてた サクラの月の22日18時27分…アインクラッドにサクラの月 つまり4月の22日が来たのは昨日で2回目なんだよ」

「あっ…」

 

キリトさんの説明にアスナはしばらく絶句し、力ない笑みを浮かべる

 

「…なんてことなの…私考えもしなかったわ 去年なのね 去年の同じ日、同じ時間にKのカインズさんはこの件とは無関係に亡くなっていたのね…」

「そういうこと それが今回の事件の始まりっていうところかな」

 

キリトさんはそこで一旦区切ると深呼吸をした

 

「…恐らくヨルコさんとカインズ氏は早いタイミングで同じくカインズと読める見知らぬ人が去年の4月に死亡していることに気が付いたんだろう 始めは単に話のタネにしてたぐらいだったんだろうけどある時どっちかは判らないがこの偶然を使えば死亡を偽装できるんじゃないかと思いついた しかも対モンスターとの戦闘死じゃない…圏内殺人という恐るべき演出を付け加えて」

「…確かに私達完璧に騙されちゃったもんね 同じ読み方のできる他人の死亡記録、貫通継続ダメージによる圏内での装備破壊、その後のタイミングを見計らった転移…この3つを重ねて実行したことで圏内でのPKを限りなく真実に見せかけたんだわ…そしてその目的は…」

 

アスナは囁くようにして続きを口にする

 

「『指輪事件』の犯人を追い詰めて炙り出すこと 自分たちが犯人だと疑われる立場だということを逆手にとって、ヨルコさんとカインズさんの2人は自らの殺人事件を演出して、幻の()()()を作り出した 犯罪禁止コードをすり抜けて圏内殺人をしてのける恐ろしい死神を…そしてそれに駆られたのが‥‥」

「シュミット…と」

 

アスナの言葉に続くようにしてておさんが言う

 

「多分…最初からある程度は疑っていたんだろうな …シュミットは言ってしまえばあれだけど中層ギルドの[黄金林檎]から一気に攻略組でもトップの[聖竜連合]に加入した やっぱりこれは異質なことではあるよ よほど急送なレベルアップかそれこそ急激な武器更新がないと…」

「ディアベルさん曰くDDAの加入条件は厳しいって言ってましたからね… 『指輪事件』の真実に関わってる可能性は非常に高いと思います」

「ってことはシュミットさんが『指輪事件』の犯人? …あの人がグリセルダさんを殺して指輪を奪ったの?」

 

確かにアスナの言う通り可能性としては考えられるけど先ほどまでのシュミットさんの様子を見ているとそれは考えにくいと思う

 

キリトさんも同じようなことを思ったのか首を横に振っていた

 

「判らない… 疑い得る材料はあるけど…あいつに()()()の気配があるかと言われると確信は持てないな… 現時点では無関係じゃないと言うことは充分いえるけど…」

 

キリトさんの呟きに私達は同意するように頷くと椅子の背もたれに腰かけ、窓から街の上空を見上げる

 

「…どちらにせよ シュミットさんは極限まで追い詰められてるわ 復讐者の存在を完全に信じ切って圏内…ひいてはギルドホームにある自分の部屋ですら安全と思わないでしょうね… これから彼はどう動くのかしら…」

「もし仮に『指輪事件』に共犯者がいるんだったらそいつに連絡するだろうな ヨルコさんとカインズ氏もそれを狙ってるんだろう ただ、シュミットにも共犯者の今の居場所が判らない場合は…うーん…俺がもしシュミットだったら…」

 

キリトさんは少し考えると口を開いた

 

「…もしグリセルダさんのお墓があったらそこに行って許しを乞うよ」

 

SAOではシステム上遺体は残らないので彼らに縁があった場所に使っていた武器などを立て、そこをお墓にするという習慣がある

 

「そうね 私もそうするわ KoBの本部にも今までのボス戦で亡くなった人達のお墓があるからね… …そっかきっとヨルコさんとカインズさんも今そこに…グリセルダさんのお墓にいるんだわ…そしてそこにシュミットさんが現れるのを待ってる…」

 

アスナは穏やかな笑みを浮かべながら話したがふと口をつぐんで表情を陰らせたのでキリトさんが疑問に思ったのか訪ねていた

 

「どうした?」

「ううん ただちょっとね もしそのグリセルダさんのお墓が圏外にあったらって思ってね… シュミットさんがそこに許しを乞いに行ったとして…ヨルコさんとカインズさんはただ許すのかな? まさかとは思うけど今度こそ本当に復讐しようとしないかしら…?」

 

アスナの言う通り、2人が復讐に走るという可能性も少なからずある この『圏内事件』を演出するのに最低限かかった出費は〖転移結晶〗2つと〖回廊結晶〗1つ…武器や防具の費用も合わせれば2人のレベルからすれば相当な出費だろう そこまでの出費をしてただ謝罪を引き出すだけで彼らが満足するのだろうか…?

 

「あ…いや…そうか」

 

キリトさんは何か分かったらしく首を横に振った

 

「いや 彼らが復讐に走ることは無いよ」

「何で言い切れる?」

「タコミカとアスナはヨルコさんとフレンド登録したままだろ? 向こうから登録解除されたって表示は見てないよな?」

 

言われてみればそんなメッセージは受け取ってないかな

 

「見てないですね」

「そうね 私達第2の事件のことをすっかり信じ切っちゃってたからそのまま自動解除されたものだと思ってたけど生きてるならフレンド登録も継続してるはずだわ」

 

私が合図をするとアスナが代表してウィンドウを開き、手早く操作すると軽く頷いた

 

「確かに登録されたままになってるわ …もっと早く見てればこのからくりに気づけたのになぁ… …そうなると何でヨルコさんは私とタコミカとのフレンド登録を受け入れたのかしら…? ここから計画が破綻することも有り得るわよね?」

 

キリトさんは瞳を閉じて少し考えてから口を開く

 

「恐らく…俺達を結果として騙してしまうことへの謝罪という意味ともう1つ 俺達を信じてくれたんだろうな フレンド登録から生きていることに気が付いてもそこから彼らの真の意図を推測してシュミットをおびき出す邪魔はしないとね アスナ ヨルコさんを位置追跡してみてくれ」

 

キリトさんはそこで瞼を開けるとアスナの方を向いたので頷きウィンドウを叩いた

 

「…今は19層の主街区から少し離れた丘の上にいるわね… じゃぁここが…」

「あぁ [黄金林檎]のリーダー、グリセルダさんのお墓があるところだろうな そこにカインズさんとシュミットもいるはずだ もしそこでシュミットが死ねば、俺たちにはヨルコさんが殺したんだと判ってしまう だから殺すまではしないだろう」

「なら逆はどうだ…? 『指輪事件』に関わってたことを知られたシュミットが口封じのために2人を始末するということはないか?」

 

突拍子に出たておさんの意見にキリトさんは少し考えて首を横に振った

 

「いや…その場合も俺達に露見しちゃうし、そもそもあの人は犯罪者(オレンジ)どころか殺人者(レッド)になって攻略組から総スカンを喰らって追放されるのが目に見えてるし彼はそれには耐えられないと思う だからお互いに相手を殺すという心配はしなくても大丈夫 …後のことは当事者である彼らに任せよう この事件での俺らの役回りはもう終わったんだ まんまとヨルコさんの目論見通りに動いちゃったけど…でも俺は嫌な気分じゃないよ」

「そうですね」

 

キリトさんの言葉に私は笑みを浮かべながら頷くとアスナもしばらく考えた後、うんと頷いた

 

 

 

 

彼らの身に本物の殺人者(レッド)の脅威が迫っているとも知らず…




長かった圏内事件編もあと少しかもです

それではまた次回に


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20話:☆事件の真実

今回はテオロング視点で話が進みます

それではどうぞ

P.S.:100話突入しました!


SIDE:テオロング

 

 

 

俺は現在、第19層で全速力で馬を走らせていた

 

何故このようなことになったのかと言うとキリトとアスナさんのふとした会話がきっかけである

 

話をしている中で半年前の『指輪事件』の真犯人がグリセルダさんの愛人だったグリムロックという仮説が組みあがった

 

それと同時にそのグリムロックが真実を闇に葬り去るために3人を始末しようとしているという仮説も出てきた

 

あくまででも仮説であるが本当だったら一大事の為一応攻略組に連絡を通した後、たみとアスナさんはグリムロックの確保に、そして俺達はヨルコさん達の保護に別れて急いでヨルコさん達の所へと向かうことになった

 

 

乗馬感覚を思い出しながら馬を走らせていると6つのカラー・カーソルが見えてきた

 

内訳は緑3、犯罪者(オレンジ)3 つまりヨルコさん達は無事である…不味い状況には変わりないが

 

「緑3 犯罪者(オレンジ)3だ! どうする? このまま突っ込むか!?」

「あぁ! 頼む!」

「了解! 舌噛むなよ!」

 

俺はキリトに注意をかけると何度か跳ばしながら頂上へと辿り着く

 

その直後に手綱を目一杯引いて馬を制止させると後ろに乗っていたキリトが落馬した

 

「いてっ!」

「あ…わ…悪い…」

 

咄嗟にキリトに謝り、馬から降りると倒れているシュミットに向く

 

「ふー… ギリギリセーフ…かな? 費用はDDA持ちで頼むわ」

 

ここまで乗せてくれた馬に「ありがとな」と呟いてから馬の尻を軽く叩いてレンタル解除させ、走り去っていく馬を横目にキリトは3人いる犯罪者(オレンジ)の内の先頭にいる奴に声を掛ける

 

「よぉ PoH 久々だな 相変わらず悪趣味な恰好してんのか」

「てめぇにだけは言われたくねぇな」

 

PoHは隠しきれない殺意を孕んだ声で答えると大きく一歩を踏み出した袋頭のオレンジ…ジョニー・ブラックが相変わらず癇に障るような高音で喚く

 

「この野郎…! 余裕かましてんじゃねぇぞ! 状況判ってんのか!?」

 

俺達に毒ナイフを向けている奴を左手で制し、PoHは中華包丁の様な武器の背で肩をとんとんと叩く

 

「こいつの言う通りだぜ キリトにテオロングよ 颯爽と登場したのは良いけどな いくら貴様らでもたった2人で3人を守りながら俺らを相手にできると思ってんのか?」

「まぁ無理だな」

 

PoHの言葉にキリトは平然と返し、「だが」と続けた

 

「対毒POTは飲んでるし〖回復結晶〗もありったけ持ってきてるから10分ぐらいは耐えてやるよ それだけあれば援軍が駆け付けるのには充分だからな いくらお前らでも攻略組30人を相手にするのは厳しいんじゃないか?」

 

先程の意趣返しをされたPoHはフードの奥で軽く舌打ちをしたのが聞こえてきた

 

「…Suck」

 

そして短く罵った後、PoHは右手に持っている武器を持ち上げると俺達に向け、低く吐き捨てた

 

「…"黒の剣士" そして"紺の剣士"… 貴様らは必ず地に這わせてやる 大切なお仲間の血の海の上でな… 期待しておけよ」

 

器用に中華包丁を指で回し、腰のホルスターに納めると手下2人に合図をして悠然と丘を降っていった

 

ジョニー・ブラックの方は先ほどの言葉が効いたのか足早に降りていったがぼろ布に髑髏のマスクをしたオレンジ…ザザは数歩進んだところで振り向き、俺達に囁く

 

「恰好 付けやがって 今度は俺が お前らを馬で 追い回してやる」

「なら頑張って練習しろよ あれ言うほど簡単じゃねぇぞ」

 

俺がそう言うとザザは低い呼吸を漏らし、2人の後を追いかけるように丘を降っていった

 

 

 

3つのオレンジカーソルが闇夜に消えるのを確認した俺は大きく息を吐いた

 

「あ゛~ 緊張した~…」

「だな… よりにもよってまさかラフコフだったとは…」

 

キリトと言葉を交わしつつも俺はウィンドウを開き、こちらに向かってきているポテトさん達に「ラフコフは逃げた」と手早くメッセージを送る

 

そしてキリトはシュミットに解毒ポーションを手渡すとヨルコさん達に声をかける

 

「また会えて嬉しいよヨルコさん それに…初めましてになるかな? カインズさん」

「全部終わったら改めてお詫びに伺うつもりだったんです…と言っても信じてもらえないでしょうけど…」

 

ヨルコさんは俺たちの方を見るや否や申し訳なさそうな顔をしたので俺は咄嗟に首を横に振る

 

「信じますよ それに元々俺たちがこの事件に関わることはイレギュラーでしたし… お詫びなんていいですよ」

 

俺の返事に申し訳なさそうな顔をしたヨルコさんの横で黒いローブを脱いだ男性…カインズさんが頭を下げた

 

「初めまして…ではないですよキリトさん あの時一度だけ目が合いましたね」

 

カインズさんの言葉にキリトはようやく思い出したように口を開く

 

「そういえばそうだったか あんたが死ぬ…じゃなかった 転移する寸前にだろ?」

「えぇ あの時 この人にはこの偽装死のカラクリを見抜かれてしまうかもしれないって何となく思ったんです」

「それは買いかぶりだ さっきまで完璧に騙されてたよ」

 

キリトはそう言いながら苦笑いすると空気がわずかに緩んだがシュミットが鎧を鳴らしながら上体を起こすと再び引き締まった空気になった

 

「キリトにテオロングよ 助けてくれたことには感謝するが…なんで判ったんだ あの3人がここに来るって」

 

その質問に俺は少し考えると答える

 

「可能性の1つとして考えたんだ 圏外に集まるこのタイミングを狙うとな まぁ実際それがラフコフの…しかもトップと幹部2人だとは思ってもみなかったし」

 

実際ラフコフが来るということが事前にわかっていたらもっと準備を万端にしていたと思う

 

そして俺に代わるようにしてキリトが『圏内事件』を計画した2人も知らない陰の部分について出来る限り静かに語り始めた

 

「…可笑しいって思ったのはつい30分ほど前だ… カインズさん ヨルコさん あんたたちは今回使った武器をどうやって手に入れた?」

 

キリトに訊ねられた2人はお互い見合わせると代表してヨルコさんが答えた

 

「…『圏内事件』を偽装するという私達の計画のためにはどうしても継続ダメージに特化した貫通属性の武器が必要でした でもそこらじゅうの武器屋を探してもそんな武器は見つからなくて…と言ってもそんな武器を作ってもらうよう鍛冶屋さんにオーダーすれば武器に銘が残ってしまいます そしてその人に訊けばオーダーしたのが被害者であるはずの私達だと直ぐにわかってしまいますし」

「だから僕たちはやむを得ず、ギルド解散以降会ってなかったあの人に…リーダーの旦那さんだったグリムロックさんに連絡したんです 僕たちの計画を説明して必要な貫通武器を作ってもらうために 居場所は判らなかったけど幸いフレンド登録だけは残っていたので…」

 

やはりと思いつつ俺はカインズさんの話に聞き入る

 

「グリムロックさんは初めは気が進まないようでした 返ってきたメッセージにはもう彼女を安らかに眠らせてあげたいって書かれていました でも僕らが一生懸命にお願いしたらやっとあの2つの…正確には3つの武器を作ってくれたんです 届いたのは僕じゃないほうのカインズさんの死亡日時のほんの3日前の事でした」

 

カインズさんとヨルコさんはグリムロックさんのことを奥さんが殺された被害者だと信じているようだ

 

その台詞を聞いたキリトは大きく息を吸い込むとそんな彼らを深く気付つけるであろう言葉を無理やり押し出すように話し始めた

 

「…残念だけど グリムロックがあんたたちの計画に反対したのはグリセルダさんの為じゃない 『圏内事件』なんて派手な事件を演出し、大勢の人の注目を集めたらいずれ誰かに気付かれると思ったからだ 結婚によるストレージ共通化が離婚ではなく死別で解消された時…その中身がどうなるかを」

「え…?」

 

ヨルコさんは意味が解らないと言わんばかりに首を傾げる

 

まぁ無理もないだろう… 元々SAOには女性が少なく、更に結婚するにまで至るプレイヤーですら稀なのに それに加え、離婚するプレイヤー達はもっと少ないしそれが死別となれば尚更だ

 

キリトやアスナさんならともかく、一応付き合っている間柄である俺とたみですら指輪はグリセルダさんを殺害した犯人の元にドロップしたと信じて疑わなかったのだから

 

「いいか… グリセルダさんのストレージは同時にグリムロックのものでもあった だから例えグリセルダさんを殺したところで指輪は奪うことが出来ないんだ 彼女が死んだ瞬間に指輪はグリムロックの元に転送されるのだから… シュミット…お前は計画の片棒を担いだ報酬を金貨で受け取ったんだろう?」

 

キリトの質問に地面に胡坐をかいているシュミットは呆然としながらも首を縦に振った

 

「そんな大金を手に入れるには今度こそ本当に指輪を売らないといけなかったはずだ でもそれができるのは指輪を手に入れたグリムロックだけだし、彼はシュミットが計画の共犯者だと知っていた それはつまり…」

「グリムロックが…あいつがあのメモの差出人…そしてグリセルダを圏外まで運び出して殺した実行犯だったのか…?」

 

ひび割れた声でシュミットが呻くがキリトは少し考えると否定した

 

「いや 直接手は汚しはしなかっただろう 宿屋で寝ているグリセルダさんをポータルで運び出す際に彼女が目を醒ますリスクもあっただろうからな その時顔でも見られたらもう取り返しがつかない 多分実際に実行するのは汚れ仕事専門のレッドに依頼したんだろう だからといってグリムロックの罪が減るという訳じゃないけどな…」

 

それにシュミットは何も言おうとせずただ虚ろに宙を見つめるだけだった

 

まるで魂が抜けたような表情はカインズさんとヨルコさんもしていたが数秒後我に返ったヨルコさんはダークブルーの髪を揺らしながらかぶりを振り、徐々に激しさを増すと信じられないと言いそうな声色でキリトに向かって叫んでいた

 

「そんな…嘘です そんなことが! あの2人はいつも一緒でした…グリムロックさんはいつもリーダーの後ろでニコニコしてて…それにあの人が真犯人だったらどうして私達の計画に協力してくれたんですか!? あの人の協力が無ければ私達は何もできず『指輪事件』が再び掘り返されることもなかったはずです 違いますか?」

「あんたたちは今回の計画を全てグリムロックに話したんだよな?」

 

キリトの突然の問いかけにヨルコさんは一度口を結ぶと小さく頷く

 

「…つまり彼は計画が成功したら最後はどうなるのかを最初から分かっていた 罪悪感に駆られたシュミットがグリセルダさんのお墓の前で懺悔し、そこで死者に扮したヨルコさんとカインズさんがさらに問い詰めるというこの事件の最終章まで… ならそれを利用して今度こそ『指輪事件』を永久に闇に葬り去ることは可能だ 共犯者であるシュミット、そして解決を目指すヨルコさんとカインズさん その3人が集まるこのタイミングを狙って…まとめて消してしまえばいい」

「そうか…だからあの3人が…」

 

虚ろな表情で呟くシュミットを横目にキリトは続ける

 

「その通りだ [笑う棺桶(ラフィン・コフィン)]のトップとその幹部が現れたのは偶然じゃない グリムロックが情報を流したからだ この場所にDDAの幹部メンバーという大物がしかも仲間なしで来ている…とね 恐らくグリセルダさんの殺害を依頼したときからパイプがあったんだろう」

「…そんな…」

 

膝から崩れ落ちそうになったヨルコさんをカインズさんが支えたがその顔色は月明かりの下でも判るほど蒼白になっている

 

カインズさんの肩に掴まりながらヨルコさんが一切の艶を失った声で囁くようにして口を開く

 

「でもなんで…グリムロックさんが私達を殺そうと…? そもそもなんで結婚相手を殺してまで指輪を奪わなくちゃいけないんですか…?」

「俺にも動機までは推測はできない でも『指輪事件』の時はアリバイの為にギルドの拠点から出なかった彼も今回ばかりは見届けるはずさ 3人が始末され、2つの事件がようやく永久に闇に葬られるのをね だから…後のことは本人から直接聞こうか」

 

そう言い終わるとキリトは足音が聞こえてきた丘の西側斜面に視線を向けたので俺もそちらを見ると

 

武器を持ったたみとアスナさんに連れられたグリムロック氏が姿を現した




次で圏内事件編はラストになると思います

それではまた次回に


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21話:すれ違いの愛

今回で圏内事件編は完結になります

それではどうぞ

P.S.:UA10000突破しました! 本当に皆様ありがとうございます!


私とアスナに連れてこられたグリムロックさんはキリトさんとておさんから3メートルほどの所で立ち止まるとまずシュミットさんを続いてカインズさんとヨルコさんを見て、最後に苔むした小さなお墓を見てから口を開いた

 

「やぁ…久々だね 皆」

 

この場の雰囲気に似つかわしくない低く落ち着いた声の数秒後、ヨルコさんが応じた

 

「グリムロックさん… あなたは本当に…」

 

事前にキリトさんかておさんから説明を聞いたのだろう、ひどく動揺したような様子でヨルコさんはグリムロックさんに訊ねていた

 

その問いかけにグリムロックさんは直ぐには答えず、私達が武器を収めてキリトさんとておさんの元へと向かうのを確認するとようやく微笑が滲んだままの唇を動かす

 

「…誤解だよ 私はただ事の顛末を見届ける責任があろうと思い この場に来ていただけだよ そこのお姉さん方の脅迫に素直に従ったのも変な誤解を生まないようにしたかったからだ」

嘘よ!

 

グリムロックさんの詭弁に反論したのはアスナだった

 

「あなたブッシュの中で隠蔽(ハイディング)してたじゃない! タコミカが看破(リピール)しなければ動く気も微塵もなかったはずよ!」

「仕方がないでしょう 私はただのしがない鍛冶屋だよ 見ての通り丸腰なのにあの恐ろしいオレンジ達の前に飛び出せなかったからと言ってなぜ責められなければいけないのかな?」

 

グリムロックさんはあくまででも穏やかに言い返し、皮手袋に包まれた両手を軽く広げる

 

確かに一応筋は通るけど…どうしてもその雰囲気故に彼がラフコフをこの場に呼んだとしか思えない

 

アスナは再度言い返そうとするがキリトさんに制止させられる

 

「初めまして グリムロックさん 俺はキリトっつう…ただの部外者だけどあんたの言う通り、この場にあんたがいたことと[笑う棺桶(ラフィン・コフィン)]の襲撃を結びつけるものは何もない 奴らに訊いたところで素直に答えてくれる訳ないしな」

 

キリトさんは「でも」と言い言葉を続ける

 

「去年の秋のギルド[黄金林檎]の解散の原因になった『指輪事件』にはあんたは必ず関わっている‥いや主導している なぜならグリセルダさんを殺したのが誰かに関わらず指輪はストレージを共有していたあんたの手元に残ったはずだ その事実を明らかにせず指輪を秘かに換金し、半額をシュミットに渡した これは犯人にしか取り得ない行動だ 故に今回の『圏内事件』に関わった動機もただ1つ…関係者の口を封じ過去を闇に葬り去ることだ 違うか?」

 

キリトさんの言葉を聞いたグリムロックさんの顔に強い陰影が浮かぶがやがて口許が奇妙に歪み、わずかに温度が下がった印象のある声が流れる

 

「成程…面白い推理だね探偵君 …だが残念ながらその推理には1つだけ穴がある」

「何?」

 

反射的に問い返したキリトさんをちらりと見るとグリムロックさんは黒い手袋をはめた右手で頭にかぶっている鍔帽子を引き下げる

 

「確かに君の推理通り、当時私とグリセルダのストレージは共有化されていた だから彼女が殺された時、そのストレージにあった全アイテムは私の手元に残った …しかし」

 

グリムロックさんは抑揚の薄い声でその先を口にした

 

「もしあの指輪がストレージに格納されていなかったとしたら? つまり既にオブジェクト化して彼女が装備していたとしたら…?」

「あっ…」

 

確かに盲点だった…

 

装備しているアイテムはそのプレイヤーが死亡すると無条件でそこにドロップする その為もしもグリセルダさんが例の指輪を装備していた場合、その指輪はグリムロックさんの手元には残らず殺人者の手に渡ることになる

 

動揺した私達の反応に好機を感じたのかグリムロックさんの口角が少し上がるのが見えたが直ぐにその表情が消え、額に右手の指先を当てながら悼むように首を動かす

 

「…彼女…グリセルダはスピードタイプの剣士だった あの指輪の効果である凄まじい敏捷補正を売却する前に少しだけ体感したくなったとしても可笑しくないだろう? いいかな 彼女が殺された時、確かに彼女との共有のストレージに格納されていたアイテムはすべて私の手元に残った しかしそこにはあの指輪は存在しなかった そういうことだよ 探偵君」

 

現状でグリムロックさんの主張を論破するような材料が存在せず、もしそれがあるとするならグリセルダさんを殺したラフコフのメンバーだろう…まぁ話を聞くのは無理だろうけど…

 

黙り込んだままの私達に向け、グリムロックさんは帽子の鍔を軽く持ち上げるとぐるりと見まわして慇懃に一礼をする

 

「では私はこれで失礼させてもらうよ グリセルダ殺害の首謀者が見つからなかったのは本当に残念だがシュミット君の懺悔だけでも彼女の魂を一時は安らげてくれるだろう」

 

そしてグリムロックさんがこの場を去ろうとした時、ヨルコさんが短くも烈しさを秘めた声を投げかけた

 

「待ってください…いや、待ちなさい グリムロック」

 

その声に足を止めたグリムロックさんはわずかに顔をこちらに向け、厭わしそうな視線をヨルコさんに向ける

 

「まだ何かあるのかな? 無根拠且つ感情的な糾弾なら遠慮してくれ、私にとってもここは神聖な場所なのだから」

 

滑らか且つ傲然に言い放った彼に対し、ヨルコさんは一歩踏み出すと両手を胸の前に持ち上げて一瞬底に視線を落とすと再び正面を向いて強靭な光を目に浮かべながらグリムロックさんに言葉を浴びせた

 

「グリムロック、あなたこう言ったわよね リーダーは問題の指輪を装備していた だから転送されず殺人者に奪われたのだと でもね…それは有り得ないのよ」

「どんな根拠で?」

 

ゆっくりとに向き直ったグリムロックさんに対してヨルコさんは先ほど同様苛烈な声で続ける

 

「ドロップしたあの指輪をどうするか、ギルド全員で話し合った時の事 あなたも覚えているでしょう? そこで私、カインズ、それにシュミットはギルドの戦力にする方がいいと言って反対したわ その席でカインズが本当は自分が装備したかったはずなのにリーダーを立ててこう言ったわ ―――[黄金林檎]で一番強いのはリーダーだ だからリーダーが装備したらいい と」

 

ヨルコさんの隣でカインズさんがややばつが悪そうな顔をしたがヨルコさんはそれを気にせず身振りを交えながら続ける

 

「それに対してリーダーがなんて答えたのかは今でも鮮明に思い出せるわ あの人は笑いながらこう言った ―――SAOでは指輪アイテムは片手に1つずつしか装備できない 右手のギルドリーダーの印章(シギル) そして…左手の結婚指輪は外せないから私には使えない いい? あの人が片方の内どちらかを外してレア指輪をこっそり試すなんて真似はできるはずがないのよ!」

 

鋭い声が響くとヨルコさん以外の私達は小さく息を呑んだ

 

確かにヨルコさんの言う通り指輪アイテムは片手に1つずつしか装備できないので既に2つを装備していたら新しく指輪は装備できない

 

でもそれだけだと心無い気がするがどちらかを解除すればいいだけなので弱い気がする…

 

そんな私の思ったことをグリムロックさんは代弁するように低く呟く

 

「何を言うかと思えば… ()()()()()()()? それを言うならまずこう言ってもらえるかな グリセルダと結婚していた私が彼女を殺すはずがない…と 君の言っていることは根拠のない糾弾そのものだ」

「いいえ」

 

それに対しヨルコさんは囁くように答え、首を大きく横に振った

 

「根拠だったらあるわ …リーダーを殺した実行犯は殺害現場となったフィールドに不要だと判断したアイテムをそのまま放置していった そしてそれを発見したプレイヤーが幸いリーダーの名前を知っていて、遺品をギルドホームまで届けてくれた だから私達はここを…この墓標をリーダーのお墓にすると決めた時、彼女の使っていた剣を根元に置いて、耐久度が減少して消滅するのに任せた …でも それだけじゃないの みんなには内緒にしてたけど…私はもう一つだけ 遺品をここに埋めたの」

 

そう言うや否やヨルコさんは振り向いて直ぐ近くの墓標の裏に跪くとそこの地面の土を素手で掘り始めた

 

私達がその様子を見ているとやがてヨルコさんは銀色に輝く小さな箱を持って立ち上がるとそれを右手に乗せて差し出した

 

「それってもしかして…〖永久保存クリケット〗…!?」

 

アスナが小さく叫んだそれはマスタークラスの細工師のみが作ることが出来るということを聞いたことがある耐久度無限という恐るべき保存箱である

 

この中に入れたものはたとえフィールド上に放置しようと消滅することはなく存在し続けるがその大きさは最大でも10センチ四方の為入れられるとしたら指輪やイアリング程度のものだろう

 

ヨルコさんがそれの蓋を左手で持ち上げると中には白い絹布の上に鎮座している2つの指輪があった

 

その片方の銀製で大型の見覚えのあるが平らになっている天頂部には林檎の彫刻がされている指輪…ギルド印章(シギル)をヨルコさんが持ち上げると口を開く

 

「これはリーダーがいつも右手の中指に装備していた[黄金林檎]の印章(シギル)よ 同じものを私も持っているから見比べればすぐに解るわ」

 

それを箱の中に戻してもう一方の黄金に煌めく細身のリングを取り出した

 

「そしてこれが―――彼女がいつでも左手の薬指に嵌めていた あなたとの結婚指輪よ グリムロック! 内側にはしっかり貴方の名前が刻んであるわ! …この2つの指輪がここにあるということはつまり、リーダーがポータルで圏外に連れ出されて殺されたその瞬間、両手にこれらを装備していたという揺るぎない証拠よ! 違う!? 違うなら何か反論してみせなさいよ!!」

 

最後の方は涙交じりの絶叫でヨルコさんは大粒の涙を零しながらも金色の結婚指輪を真っ直ぐグリムロックに突きつけた

 

しばらく口を開く者は現れず、私達はただ対峙している2人の様子を見守っていた

 

グリムロックさんは口許を小さく歪ませたまま10秒以上も凍り付いていたがやがて唇の端が細かく震え、きつく結ばれる

 

「その指輪… 確か葬式の日に君は私に訊いたね ヨルコ グリセルダの結婚指輪を持っていたいかと そして私は剣と同じく消滅するのに任せると答えた あの時私が欲しいと言っていれば…」

 

深く俯いたグリムロックさんは帽子の広い鍔で顔を隠し、まるで糸が切れたかのように膝をついた

 

ヨルコさんは金色の結婚指輪を箱に戻すと蓋を閉め、胸の前に掻き抱くと天を振り仰ぎ濡れる顔を歪ませて鋭さの消えた声で囁いた

 

「…なんで…なんでなの グリムロック どうしてリーダーを…奥さんを殺してまで指輪を奪ってお金にする必要があったの…?」

「金…? 金だって…?」

 

グリムロックさんは膝立ちのまま掠れた声で「く、く」と笑う

 

左手を振りウィンドウを操作するとやや大きめの革袋をオブジェクト化した

 

それを無造作に投げるようにして地面に置くと鈍い音の後、澄んだ金属音がいくつも重なるようにして鳴る

 

私はその中身が相当な額のコル金貨であると直ぐに解った…恐らく指輪を打ったときに発生したお金のシュミットさんに渡さなかった分だろうと予想できるがそれにしてはあまりにも減っていないと思った

 

「これはあの指輪を処分したときに発生した金の半分だ あの時から金貨1枚だって使っちゃいないさ」

「え…?」

 

戸惑った様子のヨルコさんを見上げると次に私達を順番に見まわしたグリムロックさんは乾いた声で言った

 

「金の為などではない 私は…どうしても彼女を殺さねばならなかった …彼女がまだ私の妻でいる間に」

 

グリムロックさんは丸眼鏡を小さな墓標に向けると直ぐに視線を外して続ける

 

「グリセルダとグリムロック 頭の音が一緒なのは単なる偶然ではない 私と彼女はSAO以前にプレイしていたネットゲームでも常に同様の名前を使っていた そしてシステム的に可能ならば必ず夫婦だった… なぜなら…なぜなら 彼女は現実でも私の妻だったからだ」

 

私はグリムロックさんの発言に思わず息を呑んだ

 

「私にとっては一切の不満もない理想的な妻だったよ 可愛らしく、それでいて従順でただの1度も夫婦喧嘩もしたことがなかった …だが…この世界に囚われたのち…彼女は変わってしまった…」

 

グリムロックさんは帽子に隠れた顔を左右に振ると低く息を吐く

 

「強要されたデスゲームに怯え、疎み、怖れたのは私だけだった 一体彼女のどこにそんな才能があったのか… 戦闘能力においても、状況判断力においてもグリセルダ…いや ユウコは私よりもはるかに上回っていた それだけではない 彼女は私の反対を押し切ってギルドを立ち上げ、メンバーを募り、鍛え始めた 彼女は現実にいた時よりも遥かに生き生きとし…充実した様子で… その様子を傍らで見ながら私は確信したのだ 私の愛したユウコは消えてしまったのだと… 例えゲームがクリアされ現実に戻れる日が来たとしても前の大人しく従順な妻だったユウコはもう永遠に戻ってこないのだと」

 

長衣の肩が小刻みに震え、囁くような声で続ける

 

「…私の畏れが君たちに理解できるだろうか…? もし現実世界に戻った時…ユウコに離婚を切り出されでもしたら…そんな屈辱に私は耐えることが出来ない …ならばいっそ私が彼女の夫でいる間に、合法的に殺人が可能なこの世界にいる間に ユウコを永遠の思い出に封じてしまいたいと思った私を…誰が攻められるだろうか…?」

 

長く、それでいておぞましい自白が途切れた後も誰も言葉を発しなかった

 

 

しかしておさんが唐突にその沈黙を破るようにしてグリムロックさんに向かって怒りの表情を向け、怒鳴った

 

ふざけんな! たったそれだけの理由で…あんたは奥さんを殺したのかよ!?」

 

そして殴りかかろうとしたので私は全力で止める

 

幸い私の方が筋力パラメータは上なので止めることが出来、私に抑えられて少ししたら頭が冷えたのか大人しくなった

 

まぁ気持ちは解らなくもないけど今ここで彼を殴ったとしても何の解決にもならない

 

 

そんなておさんと私のやり取りをよそにグリムロックさんは囁きかける

 

「それだけの理由…? 違うな 十分すぎる理由だ 君達にもいつか解るよ 愛情を手に入れ、そしてそれが失われようとした時にね」

 

その言葉に私はておさんを離すと軽く俯きながら口を開く

 

「そんな愛情なら私は最初からいらない…そもそもそれは愛情じゃない それはただの所有欲だ!

 

最後はグリムロックさんの顔をしっかりと見据えて叫んだ

 

そんな私の叫び声に呼応するようにアスナが静かに告げた

 

「彼女の言う通りよ もし仮に違うと言うのならその左手の手袋を外してみせなさい グリセルダさんが死ぬ時まで絶対に外そうとしなかった指輪をあなたは既に処分してしまっているのでしょう?」

 

グリムロックさんは右手で左手を掴み、放そうとしなかった…つまりそれが意味することは…

 

 

そこから再び沈黙が訪れたが今回その沈黙を破ったのはここまで黙っていたシュミットさんだった

 

「…4人共 この男の処遇は俺達に任せてくれないか 元GAのメンバーとして絶対に私刑にかけたりはしない だが必ず罪は償わせる」

 

その声にはもう怯えた様子はなく、鎧を鳴らしながら立ち上がるとキリトさんは小さく頷いた

 

「解った 任せるよ」

 

シュミットさんは無言で頷き返すとグリムロックさんの右肩を掴んで立ち上がらせ、しっかりと確保すると「世話になったな」と言い残して丘を降っていった

 

それに続いて小箱を埋め戻したヨルコさんとカインズさんも続き、私達の横で立ち止まると深く一礼をし、ちらりと眼を見交わすとヨルコさんが口を開いた

 

「アスナさん タコミカさん キリトさん テオロングさん 本当に何とお詫びを…そして何とお礼を言ったら良いか…皆さんが駆け付けてくれなければ 私達は殺されていたでしょうし…『指輪事件』の真実も暴くことが出来なかったと思います」

「いや… あれは最後に、あの2つの指輪のことを思い出したヨルコさんのおかげだよ 見事な最終弁論だった 現実に戻ったら検事か弁護士になるといいよ」

 

キリトさんの言葉にヨルコさんはクスリと笑うと肩をすくめる

 

「いえ… 言っても信じてもらえないかもしれないですけど あの時リーダーの声が聞こえた気がしたんです ―――指輪のことを思い出して って」

「…そっか…」

 

ヨルコさんはもう一度深々とお辞儀をするとシュミットさんの後に続いて丘を下りて行った

 

私達はその場に立ったまま静かに見守り続けた

 

 

やがて4つのカラーカーソルが主街区方面に消えていくのを見届け、しばらくするとアスナとキリトさんが話をしているのが見えた しかし内容までは聞こえなかったが結構いい感じだったので私は安心する

 

「何というか…喧嘩するほどっていう奴ですかね」

「まぁ そうだな~ 昨日までのあれは何だったのかって思うほどだな」

 

2人のことを茶化しつつも私はふと気になったことをておさんに訊ねた

 

「ておさん…もし仮にですよ? 結婚した相手に隠れた裏の一面って言うんですか…? それが見つかった時…あなただったらどうしますか?」

 

私がそう訊ねるとておさんは「う~ん…」と腕組をしてしばらく考えると答えた

 

「嬉しい って思っちゃ変か?」

「どういう意味ですか?」

「いやさ 相手がそういった一面も見せられるほど自分のことを信じてくれているって思ったらさ… 嬉しいじゃん?」

「…フッフフフ…」

 

ておさんの答えを聞いた私は思わず笑ってしまう …やっぱりておさんはておさんだな…

 

「なんで笑うのさ…」

「ごめんなさい… でもやっぱり私の眼は間違っていなかったなって思いまして…」

 

私が目元の涙をぬぐいながら言い、キリトさんとアスナに合流しようと思った時、ねじくれた枯れ木の根元にポツンとある、苔むした小さな墓標の所に薄い金色に輝き、半ば透き通っている女性プレイヤーの姿があった

 

ておさんもそれに気が付いたのか視線が釘付けになっていた

 

そしてもう一度そちらに視線を向けると先程の女性プレイヤーの姿はなかった…

 

 

しばらく私達は立ち尽くしていたが気持ちを切り替えるようにしてアスナが微笑みながら言った

 

「…さてと 前線から2日も離れちゃったから明日から頑張らないと…」

「…そうだな 今週中に今の層は突破したいな」

「そうですね グリセルダさんの為にも今は前に進みましょう」

「あぁ そうだな そして見守っててください…グリセルダさん」

 

私達の声がグリセルダさんに届いたのかどうかはわからないけどきっと届いたのだと信じたい

 

そして私達は昇ってきた朝日を背にして小さな丘を降ると主街区に向けて歩き始めた




タコミカはちょっとだけロマンチストです


次回から心の温度編へと入ります

それではまた次回に


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22話:昔馴染みの鍛冶屋さん

今回は前半タコミカサイドで後半はたまぶくろサイドになります

それと久々に彼女が登場します(まぁ皆さんご存じとは思いますが)

それではどうぞ


第48層主街区<リンダース>

 

 

ここでは私の親友の1人が鍛冶屋を経営している

 

今日も武器のメンテナンスをしてもらおうと水車が目印のお店へと向かう

 

 

そしてそのお店…リズベット武具店へと到着すると一応裏口の方を確認しておく

 

理由は簡単で閃光様が偶に裏口から入ろうとするからである

 

何度も注意はしているものの全然表から入ろうとしない…

 

私の予想通り彼女が裏口から入ろうとしていたので私は後方から彼女を掴んで止める

 

「わっ!?」

「アスナ… 何度も言ってるんだけど? 何でいっつも裏口から入ろうとするのさ…」

「だってこっちからの方が直ぐにリズに会えるし…」

「もしリズが武器を作ってるところだったらどうするの…」

「うぅ…」

 

ちょっと気まずい雰囲気になったが私は特に気にすることなく彼女を連れてお店の表から入るといつも通りNPCの店員さんが出迎えてくれた

 

私はいつも通りその店員さんにリズを呼んでもらうようにお願いすると奥からエプロンドレスを着たピンク髪のリズが姿を現した

 

「いらっしゃい アスナ タコミカ」

「おはよ リズ」

「やっほ~ リズ」

 

軽く挨拶を済ませるとリズが用事を聞いてきた

 

「…で 今日も武器のメンテ?」

「うん お願いできる?」

「あ 私もお願い」

 

私が背中から鞘ごと両手剣を外してカウンターに置くとアスナも腰からレイピアを鞘ごと外し、カウンターに置いた

 

リズはまず私の両手剣を手に取るとわずかに刀剣を取り出して吟味すると鞘にしまい、続いてアスナのレイピアを手に取ると同様に吟味して鞘にしまった

 

「タコミカの方は確かに必要だけどアスナの方は研ぐにはまだ早いんじゃない?」

「そうだけどピカピカにしておきたいのよ」

「ふぅん…?」

 

リズはそう呟くとアスナを頭からつま先まで見やる

 

「なぁんか怪しいなぁ? それによくよく考えたら今日は平日じゃない? タコミカはあれだけどアスナが休むなんて珍しいじゃない」

「ちょっと? それはどういう意味?」

「あんたって基本自由人っていうところがあるじゃない」

「むむむ… まぁ間違っちゃいないけどさ…」

 

私は頬を膨らませながらも答える

 

「それで…アスナはどうなの? 確か63層の攻略が行き詰ってるって言ってたじゃない?」

「んー 今日はオフにしてもらったのよ ちょっと人と会う約束ができたから…」

「へぇぇ?」

 

アスナがどこか照れたような笑みを浮かべながら答えるとリズはカウンター越しにアスナに詰め寄る

 

「詳しく聞かせなさいよ だれと会うのよ」

「ひ…秘密!」

 

アスナが顔を赤くしながらそっぽを向くと代わりに私に対して訪ねてきた

 

「タコミカ あんたは知ってるでしょ 誰なのよ?」

「知ってるよ~ え~っとねぇ…」

駄目ぇ!「むぐっ!」」

 

私が発言しようとすると大慌てでアスナが私の口を塞ぐ

 

その様子を見ていたリズが腕組みをしながら頷くと言った

 

「成程ねぇ… あんたこの頃妙に明るくなったと思ったらとうとう男ができたかぁ」

「ベ…別にそんなんじゃないわよ!」

 

アスナはますます顔を赤くして否定するが軽く咳払いをするとリズを横目で見ながら呟いた

 

「私…そんなに変わったかな…?」

「そりゃあね タコミカに紹介してもらったときは本当に"攻略の鬼"っていう感じでさ ちょっと張り詰めすぎなんじゃないかって思ったときもあるけど 春先から少しずつ変わってきたよ 大体平日に休むなんて前のあんただったら想像すらできなかったよ」

「そ…そっか …やっぱり影響受けてるのかな…」

「…誰なのよ? アタシの知ってる人?」

「知らないと思うけど…どうだろ…」

「今度連れてきなさいよ」

「本当に全然そんなのじゃないの まだ全然…その…一方通行だし…」

「へぇ~!」

 

確かにキリトさんへのアプローチはアスナが一方的にやっているという感じがする

 

SAOで5本の指に入るほどの美人である彼女のアプローチに気付かないキリトさんにも少し問題はあるけど…

 

「なんだかね~ 変な人なの」

 

アスナはうっとりとした表情で宙を見ながら言う 口元には微笑が浮かんでおり、まるで夢見る乙女のような感じがした

 

「掴みどころがないっていうか… マイペースっていうか… でもその割には強いし…」

「あんたより強いの?」

「もう 全然 デュエルしても1分も持たないよ」

「ほほう? それはかなり限られてきますなぁ…」

 

リズが手を当てながら考え始めるとアスナが慌てて両手を振った

 

「想像しなくっていいって!」

「まぁ そのうち会わせてもらえることを期待しますか でもそう言うことならウチの宣伝よろしく!」

「しっかりしてるねホント 紹介はしておくけどね」

 

アスナがそう言うと鐘の音が聞こえてきた

 

「…あ やば 早く研磨お願い!」

「はいはい 直ぐに研ぐからちょっと待ってて」

 

 

リズが私達の武器を工房に持って行き、少しすると再び私達の武器を持って帰ってきた

 

私達はそれぞれ自分の武器を受け取ると100コル銀貨を1枚ずつリズへと手渡した

 

「毎度!」

「じゃぁ 私 急ぐからこれで」

 

アスナは腰にレイピアを吊ると入口へと急いで向かって行った

 

そんな彼女に対してリズは小さく呟いた

 

その内容は私達には聞こえなかったがアスナは足を止める

 

「どうしたの?」

「ううん 何でもない うまく彼とやりなさいよ?」

「も~! だからそんなのじゃないって! じゃぁね」

 

アスナはそう言うと今度こそお店から飛び出していった

 

 

アスナがお店から飛び出して行ってからしばらくすると私に声をかけてきた

 

「で…あんたは行かなくていいの?」

「もうそろそろ行くよ?」

「そう じゃぁあたしも工房に籠るとしますか」

「そっか 頑張ってね」

 

私は応援の言葉をリズにかけると店を後にしようと背中に両手剣を吊り、扉へと向かう

 

「タコミカ」

 

その途中でリズに呼び止められたので思わず振り返る

 

「何? リズ」

「あんたも彼氏とうまくやりなさいよ?」

「へ!?」

 

完全に不意打ちだったので思わず顔が熱くなる

 

あんまり話題には出さなかったつもりなのに…

 

 

そして私はお店を後にしながら女性は恋をするとより美しくなるという言葉を頭のどこかに思い浮かべていた

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

SIDE:たまぶくろ

 

 

 

ある日、リズにいつも通り武器を研いでもらおうと<リンダース>に訪れた僕は何やら迷った様子のキリトを発見した

 

「何やってるんだ?」

 

僕がそう声をかけるとあちらも気が付いたようでこちらに寄ってきた

 

「丁度良い所に! なぁ たま リズベット武具店の場所分かるか?」

「分かるけど… 訊かなかったのか?」

「ついさっきうっかり聞き忘れてることを思い出して…」

 

頬を掻きながらそう答えたキリトに対して僕はため息をつきつつも口を開いた

 

「はぁ… じゃぁ一緒に行く? 丁度僕も用事があったし」

「いいのか? 悪いな」

 

そしてキリトを連れて僕はリズベット武具店へと向かった

 

道中でふとキリトに訊ねた

 

「そういえば…何でまたリズベット武具店に?」

「アスナに紹介されたんだよ」

「成程… 因みに武器のメンテ?」

「いや 新しい武器が欲しいんだよ」

「どうしてだ? お前既に武器持ってるだろ? しかも魔剣クラスのものを」

「えっと… ほら 万が一折れたりしたら大変だろ? だから予備用のものを持っておきたくて」

 

キリトは何故か視線を泳がせながら俺の質問に答えているとリズベット武具店が見えてきた

 

「見えてきた あの水車が目印だよ」

「おぉ! 有難う」

 

改めてリズベット武具店を見てみると店先のポーチにある揺り椅子で寝ている女店主の姿が見えた

 

「寝てる…のか?」

「ちょっと起こすわ」

 

キリトにそう告げ、僕はリズの元まで向かうとそっと肩を揺らしながら穏やかな声で起こす

 

「リズ~ お客さんだぞ~」

 

何回か肩を揺らしているとリズが目を開け、その直後まるでばね仕掛けの玩具のように飛び上がりながら起きた

 

「えっ!? は…はい! ごめんなさい!」

「わわっ!?」

 

僕はその様子を唖然とした顔で見てしまう

 

「あれ…?」

 

辺りを見回した彼女は僕を確認すると咳ばらいをした

 

「いらっしゃい たま 今日はどうしたの?」

「武器を研いでほしいのと…お客さんを案内してきた」

「ど…どうも…」

 

僕はキリトの方を向くとキリトは軽くお辞儀をした

 

 

リズは改めて僕たちを店内へと案内し、キリトを片手剣の棚へと案内する

 

「片手剣はこちらの棚になりますね」

 

しかしキリトは困った様子で微笑みながら言った

 

「あ、えっと… オーダーメイドをお願いしたいんだけど…」

 

それにリズは営業的口調で申し訳なさそうに言った

 

「只今少し金属の相場が上がっておりまして… 多少お高くなってしまうと思うのですが…」

 

それに対してキリトは平然と言い放つ

 

「あ~ それに関しては心配しないで 今作れる最高峰のものを作って欲しいんだ」

「と言われましても… 具体的にどのぐらいを目標としているかを出していただけないことには…」

 

キリトはそれに対して軽く頷く

 

「それもそうだな じゃぁ…」

 

そして背中に背負っている剣を細い剣帯ごと外すとリズに差し出した

 

「この剣と同等以上の性能…ってことでどうかな」

 

リズはそれを受け取ると危うく落としそうになるが何とか耐え、恐る恐るという感じに刀身を抜き出してほとんど漆黒に近い刃を確認するとそれを指先でクリックして性能を確認する

 

その剣をキリトに返すとカウンターまで向かい、店の正面奥に掛けていた1本のロングソードを外してカウンターに置くと鞘から抜く

 

「これが今うちにある最高峰の武器よ 多分 その剣に劣ることはないと思うわ」

 

キリトはその剣を持ち上げて何回か降るがどうやら微妙だったらしく首を傾げていた

 

「少し軽いかな?」

「…使ったインゴットがスピード系のものだから…」

「うーん…」

 

どうしてもしっくりこないと言わんばかりな顔をしながらも何回か降っていたがやがてリズに視線を向けた

 

「ちょっと試してもいいか?」

「? 試すって?」

「耐久力をさ」

「おい馬鹿 やめろ」

 

僕は咄嗟に止めようとするがキリトは聞かず、左手に持ったままの魔剣を抜くとカウンターの上に横たえるとその前に立ち、右手に握った赤い剣を振りかぶる直前でリズはキリトを止めた

 

「ちょっとちょっと! そんなことしたらあんたの剣が折れちゃうわよ!」

「折れるようじゃダメなんだ もし仮に俺の剣が折れた場合はその時さ」

「な…」

「ま…待て! 今ならまだ間に合うから…!」

 

僕は最悪の事態を予想したので止めようとするがキリトは完全に無視してソードスキルを放った

 

「せいっ!」

 

物凄い速さで振り下ろされ、剣と剣同士が眩い光を放ちながら物凄い衝撃音を立てる…

 

その瞬間、リズの作った剣の方が真っ二つに折れた

 

…だから僕はあれほどやめろと…

 

うぎゃああああ!?

 

一連の流れを見ていたリズは悲鳴を上げるとキリトの右手にしがみつき、残った剣の下半分をもぎ取ると必死に眺めまわすが…

 

「…修復…不可…」

 

どうやらもう手遅れだったらしくがっくりと肩を落としていた

 

その直後に追い打ちをかけるようにして剣がポリゴン片になり消滅した

 

数秒間の沈黙を経てゆっくりとリズは顔を上げる

 

「な…な…」

 

そしてキリトの胸ぐらを掴むと怒鳴りつけるように叫ぶ

 

何すんのよこのーっ!? 折れちゃったじゃないの!

 

キリトはその気迫に押されたのか顔を引きつらせながら答えた」

 

「ご…ごめん! まさか当てたほうが折れるとは思わなくって…!」

 

やめろやめろ 煽るな煽るな

 

「それはつまり 私の作った剣が予想以上にやわかったっていうワケ!?」

「えー あー まぁ… うむ そうだ」

「開き直りやがった!」

 

僕は思わず叫ぶとリズは掴んでいた服を離し、今度は自身の腰に手を当てて胸を反らせる

 

「言っておきますけどね! 材料さえあればあんたのその剣なんてぽきぽき折れる様な武器はいくらでも鍛えられるんですからね!」

「…ほぉ? それは是非ともお願いしたいねぇ この剣がぽきぽき折れる奴をね」

 

キリトはカウンターに置いてあった自身の剣を鞘に納めるがもう取り返しがつかないところまで来てるし2人のことをただ見ていることしかできない僕の心情を理解してほしい

 

「そこまで言ったからには全部付き合ってもらうわよ! 金属を取りに行くところから何もかもをね!」

「…そりゃぁ構わないけどさ 俺だけで行った方が良いんじゃないか? 足手まといは御免だぜ」

「むき~っ!!」

 

只今ストレスマッハなんですがそれは…

 

リズはまるで駄々をこねる子どものようにバタバタと両腕を振りながら抗弁する

 

「馬鹿にしないで欲しいわ! これでもマスターメイサ―も兼ねてるんですからね!」

「ほほ~う」

 

キリトはリズの抗弁を聞くと口笛を吹いた… 完全に遊んでるな…

 

「そう言うことなら腕前を見せてもらおうかな ―――一先ずさっきの剣の代金を…」

「要らないわよ! その代わりあんたの剣より強いのが出来たら うんとふんだくってやるんだから!」

「どうぞ ご自由に ―――俺の名前はキリト 剣ができるまでの間、ひとまずよろしく」

 

キリトに対してリズは腕を組みながら顔をふいっと背けながら言った

 

「よろしく キリト」

「うわ いきなり呼び捨てかよ まぁいいけどさ よろしく()()()()()

「むか!」

 

やめろ一応パーティ組むんだから険悪になるな

 

でも僕はこれ以上の長居は不要だと思いゆっくりと店の出口の方へと向かおうとした

 

「じゃぁ… 僕はこの辺で…また武器の研磨は日を改めて…ということで」

 

しかしそんな僕の両肩を2つの手がしっかりと掴んだ

 

「どこに行くつもりかしら? たま まさかこいつと一緒に行けなんて言わないわよねぇ?」

「そうだぞ まさか俺達を置いて帰ろうなんて思っていないよな?」

「…アッハイ…」

 

こうして僕もキリトの武器用の素材を入手しに無理やり行くことになった

 

…因みに武器の研磨は普通にやってくれた




リズベット武具店の常連(オリキャラ勢)

タコミカ、テオロング、意識、朱猫、たまぶくろ

テオロングと意識と朱猫はタコミカの紹介で常連になりました


それではまた次回に


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23話:☆白竜の山

夏も本格的になってきましたね…

それではどうぞ


SIDE:たまぶくろ

 

 

 

キリトの武器の素材にするのは第55層の小さな村の西側に住み着いている白竜がドロップするというレア金属にすることに決め、リズベット武具店を後にすると早速転移門から第55層主街区の<グランザム>へと飛ぶ

 

途中、転移門の近くの屋台からホットドッグのようなものを買い食いし、その余韻が残らないうちに第55層の北側にある例の村へと辿り着いた

 

道中の敵は特に問題ではなかったがこの層のテーマが⁅氷雪地帯⁆であったことをすっかり忘れており、僕とリズは小さな村の圏内に入った瞬間揃って盛大なくしゃみをした

 

「「へっくしっ!」」

 

他の層では初夏の為、厚手の服は持ってきておらずストレージにあった薄手の服を何枚か重ね着してはいるものの、寒さを完全には防ぐことはできない

 

隣でガタガタと寒さに震えているリズに対して呆れながらキリトが聞いてきた

 

「…たまみたいに余分な服とか持ってないのか?」

「…ない」

 

するとキリトはウィンドウを操作し、大きな黒革のマントをオブジェクト化させるとリズの頭に向けて放り投げた

 

「…あんたは平気なの?」

「精神力の問題だよ」

 

リズはキリトの言葉に苛つきながらもそのマントの魅力には抗えなかったのかそのままマントにいそいそと包まった

 

「さてと…長老の家はどれかな…?」

 

キリトの声に僕たちは小さな村を見回すと中央広場の向こうにひときわ高い屋根の家が見えた

 

「あれだよね」

「あれね」

 

僕とリズはお互いに頷き合うとその家に向けて歩き始めた

 

 

その数分後、予想通りそこは村長の家で話を聞くことが出来たのだが…話がとてつもなく長く、全部聞き終わった頃には辺りはすっかり夕焼けに包まれていた

 

へとへとになって長老の家から転がるようにして出るとそこにあったのは家々を覆う雪が夕陽を浴びて橙色に染められている景色でその様は本当に美しかった

 

「まさかフラグ立てるのにここまで時間がかかるとはな…」

「どうする? また明日出直す?」

 

僕がキリトに訊ねるとキリトは考える

 

「う~ん… でもドラゴンは夜行性って聞いたからなぁ それに山ってあれだろ?」

 

そう言いながらキリトは村からそう離れていない白く切り立った峰を指差す

 

SAOではその構造的に絶対に標高100メートルを超える場所はないのであの山の登頂にもそう時間はかからないものだと推測できる

 

「そうね どうせなら行ってしまいましょうか あんたが泣きべそかくところ早く見たいし」

「そっちこそ俺の華麗な剣さばきに腰を抜かすなよ」

「「ぐぬぬぬ…」」

「やめろ2人共 喧嘩するな」

 

2人が口喧嘩をし始めたので僕は2人の頭をそろって叩いた

 

 

遠くから見る分には過酷そうに見えた山もいざ登ってみるとそれほど苦労もせずに登ることが出来た

 

道中で出てきた敵の中で一番強かったと思うのは時間帯のせいもあるのか【フロストボーン】という氷製のスケルトンだったがこれはスケルトン系に有効な打属性武器を扱うリズが気持ち良い音で蹴散らしていった

 

そうして雪道を登ること数十分、一際切り立った氷壁を回り込んだ先に有ったのが山頂だった

 

上を見ると第56層の底がすぐそこまで近づいており、辺りを見回してみるとそこかしこに巨大なクリスタルの柱が伸びていて、沈んでいく夕焼けの光がクリスタルに乱反射して七色に光る様はまさに幻想的の一言に尽きる

 

僕がポーチの〖転移結晶〗と〖治癒結晶〗を確認しているとリズが歓声を出した

 

「わぁ…!」

 

そして駆け出そうとしたがキリトに襟首を掴まれていた

 

「むぐっ! …何するのよ!」

「〖転移結晶〗準備しておけよ」

 

その顔は先ほどまでと違い真剣だったためリズは素直に頷き、〖転移結晶〗をオブジェクト化するとエプロンのポケットに入れていた

 

「それと、ここから先は俺一人でやる たま お前はドラゴンが出たらリズと一緒にその辺のクリスタルの陰に隠れてくれ」

「了解」

「…なによ 2人して…私だってそこそこレベルが高いんだから手伝うわよ」

「キリトだったら大丈夫だ だから大人しく従ってくれ」

 

僕が真剣な表情でそう言うと通じたのかリズはもう一度黙って頷く

 

 

気を取り直してざっと周りを見たがドラゴンは居らず、その代わり水晶柱に囲まれた大穴を発見した

 

「うわぁ…」

 

その大穴は直径10メートルぐらいはありそうで壁面は氷に覆われて輝いており、垂直に不覚伸びていて底は闇に覆われている為確認できない

 

「底が見えないな…」

「確かにこりゃぁ深いな…」

 

試しにキリトがその辺の水晶の欠片を持って、その穴に向けて落とすがきらりと光って直ぐに見えなくなり、そのまま何の音も戻ってこなかった

 

「…落ちるなよ?」

「落ちないわよ!」

 

キリトの冗談にリズが唇を尖らせて反論した瞬間、沈んでいく夕日で藍色に染め上げられている空気を切り裂くようにして猛禽類の様な高い雄たけびが山頂全体に響いた

 

「たま 来たぞ! そこの柱の陰に!」

「解った! 無理だけはすんなよ!」

 

キリトは有無を言わせないような口調で手頃な大きな水晶柱を指したため僕はリズの腕を掴んでそこへ大急ぎで向かう

 

そんなキリトの背中に向けてリズはまくしたてるように言った

 

「えぇっと… 左右の鉤爪と氷ブレスと突風攻撃に気を付けて!」

 

リズの言葉を聞いたキリトは背中を向けたまま気障(キザ)に親指を立てた

 

そして彼が背中の剣を鞘から抜くと同時に氷のように輝く鱗を持った巨大な白竜が姿を現す

 

その巨体に比例するように巨大な翼を緩やかにはばたかせ、宙にホバリングしている様は恐怖というよりもどこか美しさを感じさせる

 

その様子を水晶柱の影からリズと共に見ていると白竜がその顎門(アギト)を開き――硬質なサウンドエフェクトと共に白く輝く氷のブレスを吐き出した

 

ブレスよ! 避けて!

 

リズが思わずそう叫んでいたがキリトは動かず、右手に持った剣を縦にかざすようにして突き出すと剣を風車のように回転させ始めた

 

白竜が放った氷のブレスを剣の回転で作ったシールドで防ぐが流石にすべては防ぐことが出来ず少しだけHPバーが減ったが直ぐにバトルヒーリングスキルで回復する

 

そしてブレスが途切れたタイミングを見計らってキリトが爆発じみた雪煙を立て、飛び上がりドラゴンの頭上に迫るような高さまで到達すると空中で連続的に技を放つ

 

僕の目にも負えないスピードで攻撃を白竜に当ててゆく、それに応じるように白竜も両手の鉤爪で攻撃するがキリトの方が圧倒的に手数が多い

 

次にキリトが着地したときには白竜のHPは3割以上減少していた

 

再び白竜はキリトに向かってブレスを吐くが今度はダッシュで回避し、再度ジャンプ

 

重低音を響かせつつ単発の強攻撃を次々と叩き込むその度に白竜のHPが大幅に減って行って遂にレッドゾーンにまで到達した

 

あと少しで倒しきるといったところでリズが柱の陰から一歩踏み出した

 

バカ! まだ出るな!!

「何よ もう終わりじゃ…」

早く戻れ!

 

僕が大声で叫ぶが時すでに遅く、リズの姿を確認した白竜は一際高く舞い上がると両側の翼を大きく広げ突風を起こした

 

僕は地面に片手剣を突き立て、何か言おうとしているキリトの姿が見えたがあまりにも唐突な出来事だったため瞬時には理解できず、理解した頃には既にキリトの姿は雪煙に包まれており咄嗟に片手剣を地面に突き立てようと思ったが先に突風攻撃が襲い掛かる

 

さほどダメージはない攻撃で慌てず着地体勢を取ったが雪煙が途切れた先には地面がなく、山頂に在った大穴の上に運悪く飛ばされたのだと気が付く

 

僕は辺りを見回し、同じように飛ばされていたリズの手を咄嗟に掴み、そのままグイっとこちらに引き寄せて背中に手を回して固定する

 

掴まって!

 

その声が聞こえてきたのかリズも両手を僕の身体に回し、2人で抱き合ったまま落下していく

 

しかしこのままだと地面に激突したときに2人共間違いなく死ぬため何とか頭を巡らせて、ある日ふと何気なく見た刀を壁に突き立ててそれで地面に激突するのを防ぐと言う場面を思い出してそれを実行することにした

 

背中から剣を抜刀すると≪レイジスパイク≫を発動させ、近くの壁にそのまま剣を思いっきり突き立てる

 

火花が盛大に飛び散り、物凄い音が鳴って落下の勢いが鈍るが止まるまでにはいかない

 

 

ふと下を見てみると雪の積もった底が見えてきた…恐らく衝突まであと数秒もない というところで僕の身体にしがみついたままのリズがより一層強くしがみついた

 

そこで僕は手を剣から離し両手でしっかりとリズを抱くと体を半回転させて自分が下になるようにする

 

 

その後、衝撃と轟音が響く

 

眼を開くと至近距離のリズと視線が合う

 

そこで僕は先ほどのことを思い出して咄嗟にリズから手を離すと凄い勢いでその場から離れた

 

「ご…ごめん! 思わずああしちゃったけど怪我無い!?」

 

リズは一瞬キョトンとしたが直ぐに頷くと声を出した

 

「え…えぇ…大丈夫だけど…あんたこそ…その…大丈夫なの?」

 

そう言われてふと自分のHPバーを見てみると2桁台までHPが減っていた

 

「なんとか… かなり危なかったけど」

 

思わず冷や汗をかきながらも腰のポーチから〖ハイポーション〗を2本取り出すと1本をリズに渡す

 

「一応飲んどいて」

「うん…」

 

そして栓を抜き、〖ハイポーション〗を飲み干すとみるみるHPが回復していく

 

同じく〖ハイポーション〗を飲み干したリズから声が聞こえてきた

 

「あ…あの…ありがと…助けてくれて…」

「別にいいよ …でも次はここからどうやって出るか考えないと…」

 

僕は返事を返すと上空を見上げるとリズも同様に上空を見上げ、口を開く

 

「そういえばあいつはどうしてるのかしら」

「キリトか… 多分あいつだったら大丈夫だろ それよりも今は僕らだ」

「え? 〖転移結晶〗を使えばいいんじゃないの?」

 

そう言いながらリズはエプロンのポケットから〖転移結晶〗を取り出して僕に示してくるが僕は否定した

 

「多分だけど使えない ここは元々プレイヤーを落とすためのトラップだと思うからそれで脱出できるほど簡単じゃないはず」

「や…やってみないと判らないじゃない!」

 

そう言いながらリズは青い結晶を掲げながら大声を出した

 

「転移! <リンダース>!」

 

しかしその叫び声は虚しく氷壁に反射するのみで結晶は反応しなかった

 

「なんとなくだけどそんな気はしてたからね…」

 

がっくりと項垂れるリズの頭を優しく撫でながら僕は楽観的な言葉をかける

 

「キリトが何とかしてくれるだろうけどまぁそれ以外にも脱出方法はあるかもだし探してみよう」

「じっとするつもりは無いの?」

「早く脱出したいしこの状況はいわゆるイレギュラーだからさ きっと他の方法があるはずなんだ」

 

僕はその案を考えながら落ちている自分の剣を拾いに行き、鞘にしまう

 

 

しばらく考えると、とある案が浮かんだが直ぐに取り消す

 

「一応壁を上るっていう案が思いついたけど…現実的じゃないね」

「そうね それをやろうとするのはよっぽどの無謀か馬鹿な奴ね」

 

一応できそうなやつは1人思いつくけど…

 

 

2人して「うーむむ…」と呻き声を出して考えていると辺りはすっかり闇に包まれていた

 

「こうなった以上は野宿かな~… 幸いここにモンスターは出ないみたいだし」

「そうね…」

「じゃぁそうと決まればさっそく…」

 

そう呟くと僕はウィンドウを操作して野営セットをオブジェクト化し始めた




この小説でキリトが飛ばされたリズへと飛び込まなかった理由は白竜が起こした雪煙が原作以上に激しく、気が付いた時には2人共の姿がなかったからです

それではまた次回に


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24話:☆心の温度

今回は原作やアニメと同じタイトルですがこれしか思いつかなかったんです許してくだs(ry

それと今回はある伏線を回収します

それではどうぞ


SIDE:たまぶくろ

 

 

 

僕が野営セットをオブジェクト化し終わるとリズは呆れた様子で訊ねてきた

 

「あんたいっつもこんなもの持ち歩いてるの?」

「まぁね ダンジョンで夜を超すことも少なくないし」

 

リズの質問に答えながらランプをタップして火を灯すとその上に小さな鍋を置き、慣れた手つきでその辺の雪をすくうと鍋に入れ、次に取り出した食材の内、根野菜っぽいものを取り出したナイフで切って(と言っても軽くナイフで食材に触れるだけだけど)鍋に入れ、次にお肉を切り、ハーブっぽいものを袋から取り出すと鍋に入れる

 

そして蓋をして鍋をダブルクリックすると料理の待ち時間のウィンドウが出てきた

 

少し待つと料理が出来た効果音が鳴ったため鍋を持ち上げると中身を2つのカップに注ぎ、片方をリズに渡す

 

「料理スキルはこの間30を超えたばかりだからあんまり期待はしないでよ?」

「あ…ありがと…」

 

リズは僕から具入りのスープを受け取るとお腹が空いていたのか直ぐに飲み始めた

 

趣味程度にスキルはとったけど案外役に立つものだと思いつつ僕も同じように飲み始める

 

「なんかさ…こうしてるとあんたと初めて会った時のこと思い出すわね…」

「ん…? あぁ…確かに…」

 

僕とリズが初めて出会ったのは最前線が3層の時とかなり前からの付き合いである

 

きっかけは僕がそろそろ武器を新調しようと思っていた時に偶然武器を売っているリズに出会って、彼女がオーダーメイドはできないかという無茶なお願いを受け入れてくれたということから付き合いが始まった

 

最初は3層の素材で武器を作ろうとしたがその途中で第3層のフロアボスが倒されたという報告を聞き、急遽第4層の素材で作ろうと思い立ち、それを伝えると本人も乗り気だったようで快く了承してくれた

 

そんなこんなでリズは4層で手に入れた金属を使って当時の僕の武器だった〖ウィドーブレード〗を作り上げてくれた

 

それを初めて手にした時、それまで使っていたどんな片手剣よりも手に馴染んだ気がした

 

その後代金を支払い、お礼も兼ねて第4層にあった屋台でご馳走した

 

恐らくリズはそのことを言っているのだと思う

 

…その後いったん解散し、情報屋の手伝いをしていたところでたみさんやキリト等と共にフロアボスの討伐に向かった時には大いに役立った

 

 

僕が過去のことを思い出しているとリズが口を開く

 

「ねぇ 聞かせてくれない? あの後の事とか最前線の事とか」

「あんまりおもしろい話じゃないけど…それでもいいなら …っと すっかり忘れるところだった」

 

僕はリズから空になったカップを回収しランプ以外の道具と一緒にウィンドウにほりこむと続けてウィンドウを操作し、野営用のベッドロールを2つ取り出した

 

「耐熱性能は折り紙付きだから雪の上でも寝ることが出来るよ」

 

そのうち1つをリズに向かって投げると自分の分のベッドロールを広げる

 

リズも同様に広げると呆れたような声で訊いてきた

 

「あんた よくこんなの2つも持ち歩いてるわね…」

「何かと使う機会多いからさ 予備は持っておいて損はないと思って」

 

僕は答えると武装を解除して自分のベッドロールに潜るとそれに倣ってリズも同様にベッドロールに入る

 

 

ランプを間に挟んで1メートルぐらいの間隔を開け、横たわっていると気まずい雰囲気が流れるがリズがその空気を紛らわせるように言った

 

「ねぇ さっきの話 してくれる?」

「あ…あぁ…」

 

僕は昔のことを思い出しながら話し始めた

 

―――当時のギルドの全員で第5層のフロアボスを倒しに行った事、やけに硬いボスを交代で仮眠しながら攻撃し続けた事、レアアイテム分配の為に100人近い人数でダイスロール大会をした事、トラップに引っ掛かってまるで映画の様な大脱出劇をした事、ある日空を見たら大量の竜がこちらに向けて急速に落下してきた事等々…

 

 

僕が思い出話をしているとリズがこちらを見ていることに気付き、思わず見返す

 

「ねぇ…たま…1つ聞いていい?」

「どうした? 急に改まって…」

「何であの時…あたしを助けたの? 助かる保証もなかったのに…」

 

理由か…さして理由はないんだよな…でもしいて言うなら…

 

「リズが大切だから…かな」

「…そう…」

 

自分でもクサいセリフだなと考えつつも嘘偽りのない僕の本心を答えるとリズは小さく呟いた

 

 

しばらく見つめ合っているとリズが不意に言葉を出した

 

「ねぇ…手…握ってくれる…?」

 

そう言ってベッドロールから右手を出してこちらに差し出してきたので思わず目を見張ったがやがて「解った」と呟いておずおずと自分の左手を差し出す

 

指先が触れ合ったときに思わずお互い手を引っ込めたが、改めて手を伸ばすと指を絡めるようにして手を握った

 

その時に彼女の手から感じた温かさはこの世界に来てから今まで感じたことのないものだったが僕はこの暖かさを心のどこかでずっと求めていたような気がする

 

僕はその温もりを感じながら瞼を閉じ、そのまま眠りについた

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

翌朝、目を覚ますとリズの手をベッドロールに戻し自分の分のベッドロールをしまうと代わりにポットとカップ、それから花とハーブを取り出して昨日同様雪をすくい、そこに花とハーブを数個ずつ入れる

 

いわゆる花茶というものを作っているとその爽やかな香りでリズが目を醒ましたので声を掛ける

 

「おはよう リズ」

「…おはよ」

 

そこからしばらくすると花茶が出来たのでカップに注ぎ、ベッドロールから起きてこちらにやってきたリズに昨日のように1つのカップを手渡す

 

僕がお茶を飲んでいるとリズが体をくっつけてきて、一瞬お互いの目が合ったが僕たちは直ぐに視線を逸らし、しばらくはお茶を飲む音のみが響いた

 

「ねぇ…」

「なに?」

「このままここから出られなかったらどうするの?」

「そりゃぁ…ここで暮らす他ないよ」

 

僕があっさりした感じで答えるとリズは軽く笑いながら肘で突いてきた

 

「やけにあっさりしてるわね 昨日までの威勢はどうしたのよ …でも それも案外悪くないかもね」

 

そう呟くとリズは僕の肩に頭を預けてきたので僕は動かなかったが片づけをしないといけないので少ししたら「ちょっとごめん」と声を掛け、その場から立つ

 

そして野営セットをストレージにしまってリズの元へ戻ろうとした時、中央で何かが小さく光るのが見えた

 

「なんだろ? あれ」

 

思わず駆け寄るとそんな僕の様子を見たのかリズも後を着いてきていた

 

「どうしたの?」

「何かがここで光った気がしたんだけど…」

「雪が反射したんじゃ…?」

 

リズの意見も一理はあると思うがそれとは明らかに光り方が違う 僕は膝をつき、その場所の雪をどかし始めた

 

しばらく掘っていると先程よりも大きい銀色の輝きが目に入った

 

「あっ!?」

 

それを掘り出し、両手でそっと掴んで立ち上がるとリズも興味津々と言った感じで僕の手を覗き込んだ

 

それは白銀に透き通る物体で大きさは僕の両手からわずかにはみ出すぐらいだった

 

リズがそれをタップしてみるとポップアップウィンドウが浮かび上がり…〖クリスタライト・インゴット〗と出た

 

「これって…」

「多分目的のものだと思う」

 

なんか釈然としないがこれで目的は達成した

 

「でもなんでこんなところに…」

「うーん…」

 

僕がそのインゴットを右手で持ちながら考えていると ドラゴンは水晶を齧り、腹の中で精錬する という話を思い出した

 

「成程…」

「ちょっと! 自分だけ納得してないで私にも教えなさいよ!」

 

そう訊ねてきたリズに僕は忠告をする

 

「知ったらきっと後悔するよ?」

「そんな脅しは良いからさっさと教えなさいよ」

 

僕は忠告したからね…?

 

僕はしばらくするとゆっくりと口を開いた

 

「この穴はトラップじゃなくて白竜の巣だったんだ」

「えーっと… それがどうしたのよ?」

「つまりこれはドラゴンの排泄物…ということになる」

「ぎえっ…」

 

僕の説明を聞いたリズは思わず顔を引きつらせたのでそれをアイテム欄に素早く格納した

 

 

そして話題を切り替えるようにして口を開いた

 

「まぁ何はともあれこれで目的達成だよ 後は…」

「ここから出るだけね…」

 

2人して上を見上げるとため息をついた

 

「ひとまずキリトがロープを持ってくることに期待するかな…」

「そうね… でもこんな時にドラゴンみたいに空を飛べたらな~って思う…」

 

そう言いかけたところでリズは口をぽかんと開けたまま絶句した

 

「どうしたの? リズ」

 

思わず僕はリズの顔を覗き込む

 

「ねぇ ここドラゴンの巣って言ったわよね」

「言った」

「ドラゴンが夜行性で朝になったっていうことはそろそろここに戻ってくるんじゃ…」

 

そうして押し黙ったリズとしばらく見つめ合ってから再び上を見上げたその瞬間…

 

はるか上空の大穴の入口から滲むようにして黒い影が生まれ、それが徐々に大きくなっていき、やがて2枚の翼に長い尾、鋭い鉤爪のついた四肢がくっきりと分かるほどになった

 

「き…」

 

そして一歩後ずさるがどこにも逃げ場なんてなく…

 

「来たっ―――!」

 

リズが叫ぶとそれぞれ武器を抜いた

 

自身の巣に戻ってきた白竜は僕たちの姿を確認すると甲高く鳴いて地表すれすれに静止した

 

縦長の瞳孔を持つ赤い瞳には明らかな敵意が見えるがそこで僕はリズが言った先ほどの言葉を思い出し「成程」と呟くとリズがこちらを向いていた

 

「どうしたのよ?」

 

その問いには答えずにリズの方を向くと武器をしまい、リズに駆け寄って彼女の左手を取る

 

「少しお手を拝借」

「え!?」

 

そしてぐっと自分に引き寄せるとそのまま彼女を担ぎ上げる

 

「ちょっと!? 何を…!? うわっ!!」

「キリト… 少しだけお前の技借りるぞ!」

 

猛烈な勢いで壁に向かってダッシュし、壁に激突する寸前で大きく飛びあがってそのまま壁を走り始め、そのままグルグルと壁を走り続けた

 

そして白竜が僕たちを見失い、無防備な背中が見えたところでそこに向かって跳び、剣を抜くと背中に突き刺した

 

その途端、白竜が甲高い叫び声をあげ、凄まじいスピードで急上昇を開始した

 

「リズ! 振り落とされるなよ!」

 

その声を聞いたリズはより一層僕にしがみつく

 

そして周囲の氷壁を照らす光が次第に眩しくなっていき、風を切る音も微妙に変わり…白い輝きが爆発して穴の外へと飛び出していた

 

その後も上昇し続け、タイミングを見計らって白竜の背中から剣を抜くと僕たちの体は宙へと飛ばされる

 

 

ふと目を開くと55層のフロア全体が眼下に広がっており、そのすべてが朝焼けに輝いている様はまさに絶景の一言に尽き、思わず僕は声を上げていた

 

「おぉ…」

 

隣のリズを見てみるとこちらを見ながら笑顔で何か叫んでいた

 

たまー! アタシねぇ!

何~?

 

僕は思わず聞き返したがその部分だけ風によってかき消された為、訊き返す

 

何だって~? 聞こえないよー!

何でもな~い!!

 

そう答えたリズは首に抱き着くと笑い声をあげた

 

 

やがて地表が見えてきたため着地体勢を取ると大きな音を立てて雪が舞い、かき分けながら徐々に減速していき山頂の端で停止した

 

「ふー…」

 

そこで一息つき、リズを地面に降ろすとリズも首に回していた腕をほどいてくれた

 

剣を背中の鞘に戻すと巣へと戻っていく白竜を見届け、リズの方を向き言った

 

「さてと… 帰りますか」

「そうね」

「結晶使う?」

「…ううん 歩いて帰ろ」

 

リズは微笑みながら答えたため僕たちは主街区に向けて歩き始めた

 

~~~~~~

 

そして主街区である<グランザム>に到着すると昨日と同じホットドッグのようなものを食べているキリトを発見

 

当然リズは怒ったがキリトはホットドッグのようなものを食べたら出発するつもりだったらしく大慌てでそう伝えると一瞬キョトンとしたが直ぐに吹き出して笑い始め、「確かにあんたは変な奴だけど悪い奴じゃないからいいわ 許してあげる」と言うと転移門に向かって歩き始めたので僕たちもあとに続いた

 

 

そしてリズベット武具店に戻ってくると早速キリトの片手剣を作るために工房へと向かうとリズにインゴットを取り出して渡し、リズは充分に温まった炉にインゴットを入れる

 

「先に言っとくけど出来上がりは完全にランダムだからあまり過度な期待はしないでよ?」

「何 失敗したらまた取りに行けばいいさ …今度はロープ持参で」

「できるだけ長い奴をな」

 

僕が昨日のことを思い出しながら呟くとリズも思い出したのか笑いを洩らしていた

 

 

リズが赤く熱されたインゴットを取り出すと鍛冶用のハンマーで〔カン、カン〕と心地よい音色を奏でながら叩き始める

 

それを繰り返すこと約200回の音が響いた時、インゴットが一際眩い白光を放つと輝きながらその姿を変え始めた

 

まず前後に薄く伸び、次いで鍔と思しき部分が盛り上がってゆく

 

「おぉ…」

 

低い声で感嘆の声を洩らしたキリトが椅子から立ち上がると今まさに出来上がってゆく剣に近づいたので僕も思わず寄る

 

そして僕たちが見守る中、ついに1本の剣が姿を現した

それは片手直剣にしてはやや華奢で刀身もレイピアのように細いがとても美しい

 

素材にした〖クリスタライト・インゴット〗の見た目を少し受け継いでいるのかほんの少しだけ透き通っているように見え、刃の色は眩いほど白く、柄はやや青色を帯びた銀色である

 

 

しばらくその剣を見ていたがリズが剣を持ち上げ、右手の指でクリックし、出てきたポップアップウィンドウを覗き込む

 

「えーっと 名前は〖ダークリパルサー〗ね あたしが初耳ってことは多分情報屋の武器名鑑には乗ってないと思うわ ―――試してみて」

 

リズが〖ダークリパルサー〗をキリトに手渡すとメニューを開き、装備すると何度か素振りをすると頷いた

 

「いい剣だよ 有難う」

「ホント!? よし!」

 

キリトが〖ダークリパルサー〗を褒めるとリズは右手でガッツポーズをしてキリトの右拳と打ち合わせていた

 

 

そして思い出したようにキリトはリズに言った

 

「この剣の鞘がいるよな… 見繕ってくれる?」

「そうね 解ったわ」

 

リズは黒革仕上げの鞘を取り出し、キリトに手渡す

 

キリトはぱちりと音を鳴らして〖ダークリパルサー〗を鞘に納めるとウィンドウを開いてそれを格納すると気持ちを改めるように腰に手を当てた

 

「さてと… これで目的達成だな 剣の代金払うよ 幾らだ?」

「あー えっとね…」

 

リズはそこで一瞬溜めるとこちらを見て言った

 

「お金は要らないわ …もうたまに払ってもらったから」

「えっ!? そうなのか?」

 

一瞬お金なんていつ払ったっけと思ったが瞬時に大穴に落ちてからの出来事を思い出して頷く

 

「うん 払った」

「まじか ホント悪いな… じゃぁ今度何か奢らせてくれよ」

「じゃぁ楽しみに待っとくよ」

 

僕がキリトに対してそう言いリズの方を向こうとした時…

 

「「リズ!」」

 

工房の扉が勢いよく開け放たれ、2人の人物が中に入ってきた

 

そのうちの1人はリズに体当たりするような勢いで抱き着いた

 

「あ…アスナ…」

「心配したよ! メッセージは届かないし、マップ追跡はできないし…」

 

そしてそれに続くようにたみさんが口を開く

 

「常連の人に聞いても知らないって言うし…一体昨夜はどこにいたのさ! リズ! …それにたまさんも!」

 

泣きそうな顔でリズと僕に対して怒った

 

「ご…ごめん2人共…たまが行方不明になった原因はあたしにあるの」

「どういう事?」

「昨夜たまと一緒にダンジョンに足止めを喰らっちゃったの」

「なんでリズとたまさんが?」

「まぁ元を辿れば俺が原因なんだ…」

 

そこでキリトが声を上げると2人はそちらを向いてフリーズしたがアスナが声を上げた

 

き…キリト君!?

 

キリトは軽く咳ばらいをすると右手を少し上げた

 

「や…やぁ…アスナとタコミカ…久しぶり…でもないか アスナの方は2日ぶり?」

「う…うん …びっくりした そっか早速来たんだ 言ってくれれば私も一緒に行ったのに…」

 

そこで仲睦まじそうに話すキリトとアスナさんの様子をリズは疑問に思ったのかアスナさんに訊ねた

 

「もしかして…2人とも知り合い?」

「あー あぁ 攻略組同士だから それで」

 

そうキリトが答えるとアスナに対して悪い笑みを浮かべた

 

「成程 その人がアスナの思い人っていう訳ね」

「だからそんなのじゃ…!」

「はいはい わかってるから まぁでもあんたのハートを射止めるのもなんとなくわかるかな 確かに変だけどいい人っていうのはちょっとパーティを組んだだけでもなんとなくわかったし」

「キリトさんが何かしたんですか?」

「聞いてくれる? この人ったら店に来て早々店一番の剣をいきなりへし折ってくれたのよ!?」

「ええ!? ご…ごめん…」

「別にアスナが謝ることないって」

 

リズはそう言ったがたみさんは黒い笑顔をキリトに向けた

 

「き~り~と~さ~ん~?」

「あ…あれはただあの剣が折れるとは思わず…つい…」

「弁解無用! そこに正座!」

「は…はい…」

 

そんなこんなで今日も平和な時間が流れていく




第4層編でリズが言っていたオーダーメイドの依頼主がたまぶくろでした

次回からはいよいよ74層編へと参りたい…ですが 時系列でこの間の出来事を何か一つお忘れでは…?

次回からは多分シリアスになると思います

それではまた次回に


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25話:笑う影

心の温度編までと書いたのにラフコフ編もやるという…

今回はラフコフ討伐戦編の繋ぎのお話になります

それではどうぞ

P.S.:お気に入り登録者数が40人を突破しました! 本当にありがとうございます


2024年7月下旬

 

その日もいつものようにギルドのパーティ(メンバーは私とておさん、めらさんに廻道さん、キャラメレさんとポテトさん)で狩りを行って今は街に戻るところだった

 

そして街に戻ろうと歩いていると急に先頭を歩いていためらさんがストップの合図を出したので私は何事かと思い、前を見てみると1人の黒いローブを着た大柄の男性がそこに立っていた

 

咄嗟にカーソルの色を見てみるとオレンジを示していたので単に挨拶に来たわけではないと思い全員臨戦態勢を取る

 

「…何の用?」

「ほう… これはこれは… 会えて嬉しいよ"白き槍"に"彩姫" それから"紺の剣士"とその仲間達…」

 

"白き槍"というのはめらさんの2つ名のことでその特徴的な髪色から来ていると思われる

 

私達とその大柄の黒いローブのオレンジプレイヤーはお互いに膠着状態だったが先にめらさんがしびれを切らして声を出した

 

「成程… つまり僕たちと戦おうって話?」

「話が早くて助かるよ… お前たちのことはブロから優先的に消しておけという命令でな…」

「へぇ随分と自信満々だね… でも6v1ってキツイんじゃない?」

 

キャラメレさんが大柄の黒いローブのオレンジプレイヤーを睨みながら言うが大柄の男性は涼しげに言い放つ

 

「あぁ… 確かに俺だけだったらキツイな だがもし複数人で来ているとしたら?」

 

そう大柄の男性が呟くと陰からぞろぞろと黒いローブを着たオレンジカーソルのプレイヤーが出てくる

 

…その中には見知った顔もいくつかあった

 

「来てみたら わかる とは よく 言ったものだ まさか お前と 戦えるとはな "白き槍"!」

「そいつらによ この前、楽しみの邪魔されたからな キッチリお礼をしないとなぁ!?」

「あはは~ お2人さん血の気多いですね~ まぁ かくいう私もその1人ですけど」

 

エストック使いのザザに毒ナイフ使いのジョニー・ブラック、そして片手斧使いのモルテ… これだけで黒いローブを着た面々が殺人(レッド)ギルドの[笑う棺桶(ラフィン・コフィン)]のメンバーだという事が分かった

 

「それにしてもよく許可しましたね~ ヘッドが彼らを殺すことを」

「俺もブロの許可には驚いたが彼なりに何か考えがあってのことだろう」

「それで…どうやって殺すんだ? あいつら もし何も考えてないんだったら俺に任せてくれよサブヘッド! まず麻痺らせてからタゲったモブ共の群れの中に放り込みたいからよ」

「"白き槍"以外 だったら 後は 好きに しろ」

 

緊張感が無いように見えておぞましいやり取りをしている彼らを見ながら私達はこの状況を打破するための作戦を彼らに聞こえないように小声で話す

 

「え~っと… 皆さん この状況を打破するためのアイテム持ってますか?」

「全員〖転移結晶〗は持ってると思いますがそれを使わせてくれるほど悠長に待ってくれるとは思えないです」

「何本かの〖スローイングダガー〗は持ってるけどそれだけだったら意味ないな…」

「僕も〖転移結晶〗以外で持ってるかっていえばってところだね」

「俺もメラと同じくだな…」

「私は一応煙幕は持ってます」

 

廻道さんが煙幕を持っていると言ったことで私達はそちらに顔を向けた

 

「煙幕を持ってると言っても1個だけですからね?」

「それで十分です使うタイミングは…」

 

 

そこから急ピッチでポテトさんが作戦を立てていき、準備が整ったところで前を向いた

 

それを見てサブヘッドと呼ばれた人物は冷淡に私達に向けていった

 

「作戦会議は終わったか? では行くぞ! 同胞達よ!」

 

そして合図を出すとラフコフのメンバーたちはこちらに向かってきたので戦いやすいように少しだけ離れる

 

 

私の下に向かってきたのは()()()()サブヘッドと呼ばれた人物で私は早速、私の両手剣より数倍はありそうな両手剣での攻撃を避ける

 

「ほぅ… これを受けず避けるか… だがそうでなくては」

 

しかしあくまででも予想していたように話し、次々と攻撃をしてくるので私は剣を盾のようにして防御する

 

「うぐぐ…」

「先ほどから防御ばかりじゃないか 先ほどまでの威勢はどうした?」

「えぇ… だって攻撃するつもりはありませんから」

「随分と 余裕だな」

 

その後も相手の攻撃を防いでいると相手は何かを見抜いたように攻撃を中止した

 

「成程… タイミングを見計らって脱出しようという魂胆か」

「さぁ? どうでしょう?」

 

私は作戦を見抜かれたことに心の内で舌打ちをしつつそれを顔に出さないようにする

 

「あくまででも白を切るつもりか… ならば目標を変えようか」

 

そう呟くとジョニー・ブラックと戦っているておさんへと目標を見据えそちらへ突撃する

 

「しまっ…!」

 

それに気づき、止めようとするが止められずそのまま向かって行く…

 

その時、彼の腕に向かって〖スローイングダガー〗が投げられたが男は咄嗟に回避してダガーが投げられた方を向いた

 

「敵前逃亡とは情けねぇなぁ」

「キャラメレさん!? あれ? もう倒したんですか?」

「まぁね~ 俺が相手したのは雑魚3人だけだったし 今は武器を回収してロープで縛ってるよ」

「ほう… 奴らは捨て駒前提だったがまさかここまであっさりやられるとはな」

「あんなんで俺を止められると思ったら大間違いよ」

 

しばらくキャラメレさんと男は睨み合っていたが先に仕掛けたのはキャラメレさんだった

 

「シッ!」

「フン」

 

キャラメレさんの連続的な鞭攻撃を男は難なく防御していき、隙を見て攻撃する

 

キャラメレさんもそれを避けていたものの避けきれずに掠ってダメージを受けるときもあった

 

「ちょっとキツイな… こりゃぁ…」

「どうしましょう…? 私も加勢したほうが良いですか?」

「いいや 加勢されるとかえってきつくなるかも」

「了解です」

 

そこからまたキャラメレさんと男性は膠着状態だったが今度は男性の方から仕掛けてきた

 

「ハァ!」

 

キャラメレさんはそれをぎりぎりで回避すると鞭で応戦した

 

男性はそれを回避すると待ってましたと言わんばかりにキャラメレさんがニヤリと笑い〖スローイングダガー〗を顔目掛けて投げた

 

 

男性はギリギリで回避したがその影響でフードの部分が裂かれ、隠れていた部分が露になった

 

髪は白髪交じりで顔はまさにイケオジといったような素顔だった

 

「少しはやるではないか… 名はなんという?」

「敵に名前教えるほど悠長ではないのでね!」

 

そう言って攻撃を仕掛けるが避けられてしまう

 

「血気盛んなのは良いことだが貴様は幾つかマナーというものを学ぶべきだろう」

「はっ! 言ってろ!」

「残念だよ」

 

男は両手剣を構えなおすと再びキャラメレさんに攻撃を仕掛けてきたがキャラメレさんは鞭で両手剣を強打し、叫ぶ

 

今だ! 廻道!!

 

その合図で3人のオレンジを相手にしていた廻道さんは相手をしていたオレンジの武器を刀で跳ね上げ、懐から煙幕玉を取り出すと地面に思いっ切り叩きつけた

 

 

辺りが煙に包まれたところで私達は死に物狂いで逃亡した

 

 

~~~~~~

 

 

そのまま近くの主街区まで走ると6人共しっかりといることを確認し、大きく息を吐いた

 

「は~… ちょっと予定が狂っちゃいましたけど何とかうまくいきましたね~…」

「まぁ言ってしまえば僕がザザを相手にすることとたみが大柄の彼を相手にすることは確実だったから ある程度は戦況をコントロールできたけどあそこでたみが相手にしてた彼がテオの方へと向かったことは予想外だったけど」

「正直言って俺と廻道は雑魚担当だったからかなり楽だったよ」

「えぇ 煙幕の合図を出すのをキャラメレさんに任せて正解でしたよ」

 

私達が立てた作戦はザザをめらさん ジョニー・ブラックをておさん 白髪交じりの男性を私が担当し、キャラメレさんかポテトさんの内モルテを相手にしていない方がタイミングを見計らって廻道さんに煙幕使用の合図を出す…というものである

 

「咄嗟にしては悪くない作戦だったな」

「これからは閃光弾か煙幕弾持ちあるこっかな…?」

「それがいいかもね… 今回はたまたま私が煙幕弾を持ち歩いていたから命拾いしたけどいつも持ち歩いてるっていう訳じゃないから」

 

私は「まぁそうですね」と呟くと第54層にあるギルドホームへと一旦戻り、今回の襲撃をすぐさま攻略組全体へと報告した

 

 

…この日からそう時間がかからずにラフコフのアジトが発見されたということを耳にした




オリキャラ紹介(敵陣営)

ドゥクス(dux)/???

白髪交じりの男性で顔はまさにイケオジといったような感じの男性
身長は196cm程度(タコミカ予測)
ラフコフのサブリーダーを務めており、参謀も兼ねている
PoHのことをブロと言っているが…?


この小説のザザはメラオリンに異様なまでに執着しています(攻略組+突属性武器使いの為)

それではまた次回に


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26話:[笑う棺桶(ラフィン・コフィン)]討伐戦作戦会議

この話の構成地味に難しい…

それではどうぞ

P.S.:投票ありがとうございます<(_ _)> 今後ともSAOPEをよろしくお願いいたします


2024年8月某日 某層にあるとある会議室にて

 

アスナは前に立ち、自身に注目させると副団長モード(オンの状態を私が勝手にそう呼んでいる)で話し始めた

 

「皆さん 本日は私達[血盟騎士団]の急な呼びかけにも関わらず集まっていただいたこと 心から感謝いたします まず前提としてこの作戦自体は攻略上必須ではないですので参加を強制するつもりはありません」

 

アスナは私達を見回しながら続ける

 

「ですのでこの作戦に不参加だとしても私達は糾弾することは絶対にいたしませんし、必要でしたらここでご退席いただいても構いません」

 

しばらく待ったがここに来た人は誰も退席しなかった

 

「…ありがとうございます それではこれより[笑う棺桶(ラフィン・コフィン)]討伐戦作戦会議を始めさせていただきたいと思います」

 

アスナは一礼すると脇に控えているアルゴさんとリオンさんの方を向いた

 

「続きはアルゴさんとリオンさん よろしくお願いします」

「解ったヨ アーちゃん」

「了解した」

 

アルゴさんはキャスター付きのボードを押しながら、リオンさんは羊皮紙のメモを持ちながら前に出た

 

「先日遂に私達は彼らの…[笑う棺桶(ラフィン・コフィン)]のアジトを発見した」

 

リオンさんの言葉に歓声と取れるような声が上がったがリオンさんはそれを制止させると続ける

 

「前にあるこちらの地図を見てほしい これがその彼らのアジトと思しき場所の洞窟だ」

 

リオンさんはキャスター付きのボードに注目させると赤い丸を棒の先端で示す

 

「この層の攻略は最短ルートで済ませた上これといった観光地やクエストもないため完全に穴場になっていた その為彼らにとっては絶好の場所だった」

「基本的にプレイヤーはこういった何のクエストもないところには立ち入らないからナ もし仮にうっかりここに立ち入った奴がいたとしても彼らに口封じされただろウ 発見が遅れるのは仕方のないことダ」

 

そう言い終わったアルゴさんは「ただ…少し気になることがあってナ…」と呟くようにして言うと続ける

 

「このアジトの場所は匿名のラフコフメンバーの1人が密告したんだけド…あまりにもアジトの情報がリークされたタイミングが良すぎるんダ…まるで攻略組にアジトの情報をリークすること自体が作戦のうちの1つかのよう二…」

 

確かに…私達が襲撃されてから半月もたってない気がするし… 確か8ヵ月も探して見つけられなかったアジトを急にリークするなんてまるで私達を誘っているようにしか思えない

 

そう思っているとアスナが口を開いた

 

「その話に関しては私とディアベルさん、それからリオンさんと話し合って既に承知の上です 勿論罠であることも視野に入れて」

 

 

「その上で私達はこの作戦を立てアジトに踏み込むことを決意し、準備を整えてきました しかし罠であることも視野に入る以上皆さんも決して油断はしないでください」

 

私もその言葉に気を引き締めるとアスナは続ける

 

「続いて要注意人物の説明に移りたいと思います …ディアベルさん お願いします」

「はい それじゃぁ皆 このフリップに注目してくれ」

 

ディアベルさんがアルゴさんに合図するとアルゴさんはキャスター付きのボードのボードを回転させ、顔写真が載った面にした

 

まずは骸骨の仮面をしており、赤い目のプレイヤーの写真を指す

 

「まず…"赤目"のザザ 幹部メンバーということもあり、彼の実力は攻略組にも引けを取らず、彼らにしては珍しく毒武器を使ったと言う証言がないが油断は禁物だ 主武器はエストックを扱う」

 

次に袋頭のプレイヤーの写真を指した

 

「次に…"毒ナイフ使い"のジョニー・ブラック 彼も幹部メンバーだがその2つ名の通り毒ナイフを使う為、彼からの攻撃は絶対に喰らわないようにしてくれ」

 

その次に黒いフードを被ったプレイヤーの写真を指す

 

「フードを被っているプレイヤー…"斧使い"のモルテ 彼が主に扱うのは片手斧だが同時に片手直剣も使い分ける その為しっかり持っている武器を確認しつつ対処してほしい」

 

その次に白髪交じりのプレイヤーの写真を指した

 

「白髪交じりで大柄のプレイヤー…"影の策士"のドゥクス 彼は他のメンバーからサブヘッドと呼ばれており、実力は後に紹介するPoHと同格と思われる 主武器は両手剣だが体術も扱うという証言もある為接近戦は十分に警戒してくれ」

 

そして最後にモルテと同じように黒いローブをしているがどこかおぞましいイメージがする男性の写真を指す

 

「最後にラフコフのリーダーである PoH 主武器は短剣だが彼の実力はトッププレイヤーに引けを取らない その為、彼と戦う際は今まで上げた他の誰よりも警戒し、可能ならば絶対に単独での交戦は避けてくれ」

 

ディアベルさんは話し終わると私達の方を向いた

 

「以上で要注意人物の説明の説明を終了する 何か質問がある人は発言してくれ」

 

しばらく誰も発言しなかったがふとエルさんが手を挙げた

 

「要注意人物とはちょっと関係ないがいいか? ラフコフの連中はPoHのカリスマ性に引き込まれて他人はおろか自身すら顧みないやつらなんだろ? まぁこの作戦の前提は捕縛だけどもしも投降せずに攻撃してきた場合はどうするつもりなんだ?」

 

エルさんの言葉にディアベルさんは少し間を置き、発言した

 

「…その場合は…自身や他人を守るために彼らとの交戦も視野に入れてくれ」

 

ディアベルさんの言葉に重い空気が流れたがその空気を切り替えるようにディアベルさんは軽く手を叩いて注目させる

 

「他に質問はないかな …ないなら最終確認に移りたいと思う」

 

ディアベルさんがしばらく待ったが誰も手を挙げなかったため続けて話す

 

「無いみたいだね それじゃぁアスナさん 後はお願いするよ」

「了解しました」

 

そしてディアベルさんが下がるとアスナが変わるようにして再度前に出てくる

 

「この作戦に参加する方は本日午前3時、第55層主街区の転移門前に集合をお願いします」

 

そして一呼吸置いたアスナは静かに言った

 

「…彼らの行動は1プレイヤーとして…そして1人の人間として到底容認できるものではありません 実際彼らによって多くの命が奪われてきました その為私達は無念にも散っていった彼らの為にも必ずこの戦いに必ず勝たないといけません 皆さん、最善を尽くしましょう!」

 

その激励と共にこの場にいる人たちは大声を上げたので私もそれに便乗するようにして声を上げた

 

 

~~~~~~

 

 

会議が終わり、私達[フリッツ・フリット]は空いている部屋で作戦の最終確認を行っていた

 

「えーっと 確認だけど 今回の作戦に参加するのはポテト、リオンさん、たみさん、テオロングさん、意識さん、朱猫さん、キャラメレさん、テツロンさん 計8人で全員ですかね?」

 

ポテトさんの確認を兼ねた質問に私達は無言で頷いた

 

「解りました まずディアベルさんも言ってた要注意人物の一人のザザは絶対にメラさんが担当することになると思います」

「解ってる あいつは僕が相手をするよ」

「それと意識さんと朱猫さんは麻痺武器の準備をお願いします」

「了解」

「了解です」

 

ポテトさんに朱猫さんと意識さんは返事を返す

 

そしてポテトさんは大まかな作戦の流れをリオンさんに訊ねる

 

「この作戦のメラさん以外の流れは基本的に幹部メンバー以外を無力化させつつ鎮圧っていう流れになりますかね」

「流れとしてはそんな感じだ…が あくまででも私達が幹部メンバー担当ではないことを考慮しての案だからこれは頭の片隅にとどめる程度にしておいてくれ」

 

リオンさんの言葉に再び無言で頷く

 

「では最後にですけど… 基本的にこの作戦は彼らの捕縛メインで動いていますが…やむを得ないという時は彼らの殺害も視野に入れてください …無論皆さんにはその選択はしてほしくはありませんが皆さんを失いたくもありません …これは俺の我儘ですけれども全員生きてこの作戦を終わらせましょう」

 

それに私達は大きく頷き、その場は一旦解散した

 

 

 

そこから色々と準備を済ませていると作戦開始時刻が近づいていたので、私は転移門へと急ぐ

 

「そろそろ第55層へ行かないと…」

「たみ!」

 

そんな私を呼び止める声が聞こえてきたので振り向くとそこにはておさんがいた

 

「どうしたんですか? そろそろ行かないと…」

「なぁ… 言ったところで聞かないとは思うけど… 今回の作戦 俺達は参加しないことにしないか?」

 

 

「もしかして 怖いんですか…?」

「正直に言ってしまえば怖いよ もし仮にたみが死んでしまったら…って思ったら…」

 

その言葉の後に私はテオさんの目をしっかりと見てから口を開く

 

「それを言ってしまったら私だって同じですよ でも私もこれ以上ラフコフの被害を増やしたくないって思ってますから参加しますよ」

 

そして右手全体でておさんの頬に優しく触れながら続ける

 

「それに… 私はあなたのパートナーですよ? パートナーを信じてくださいよ」

「…っ…! あぁ… そうだな…」

 

私の言葉にておさんはハッとしたように頷くとしばらくそのままでいたが、気持ちを切り替えて2人で転移門へと向かって行った




次回はいよいよラフコフ戦になります

戦闘描写行けるかな…

それではまた次回に


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27話:笑う死戦 前編

今回は視点がころころと変わります

それではどうぞ


ラフコフのアジトへと到着した私達はまず出入口を塞ぎ、準備を万全にしてから彼らが根城にしている洞窟内へと入っていく

 

しばらく歩いていると先頭を歩くディアベルさんが振り向いて声を上げた

 

「今回の作戦はあくまででも捕縛が目的だ でも彼らはレッドプレイヤー…和解の余地なしだと判断したら一切躊躇せず交戦してくれ それと…この場所はいわば彼らの独壇場だ その為周囲には十分警戒しておいてほしい」

 

その言葉により一層空気が引き締められるのを確認したディアベルさんは「じゃぁ行こうか」と言って前に向き直り、再び進み始める

 

 

そこからしばらく進んだところで殺気を感じて咄嗟に上を向き、武器を抜くのと同時にリオンさんが叫んだ

 

来るぞ! 全員構えろ!!

 

リオンさんが叫ぶと何人ものオレンジプレイヤー達が襲い掛かってきたので他の人達も遅れて武器を手にする

 

不意は突かれたが幸か不幸か警戒していたおかげで直ぐに体制を立て直し、各自交戦状態に持ち込んだ

 

そして私もこちらへと向かってきた一人のプレイヤーと交戦する

 

「死ねやぁ!」

「せいっ!」

 

振り下ろしてきた武器を〖ディプリーション・ブレード〗で防ぎ、≪風廻≫で防いでいた武器を蹴り飛ばして無防備になった腹にパンチを入れる(ソードスキルは発動しないように細心の注意は払って)

 

「ぐえっ!」

 

するとそのままダウンしたためポーチに入れていたロープを取り出してきつく縛る

 

そしてその場を後にしようとした時、ふと背後から声が聞こえてきた

 

「いや~ 探しましたよ "彩姫"さぁん」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

SIDE:朱猫

 

 

 

ラフコフが奇襲を仕掛けてきてからは意識と連携して〖雷毒剣〗を使い、目に付いたラフコフの面子を片っ端から無力化していった

 

「てめぇ…!」

「麻痺毒を扱えるのがそちらだけの特権だとは思わないことだね」

 

フード越しにこちらを睨みつけてくるのをよそに私は武器を取り上げるとロープを取り出して念のため縛り上げる

 

「サンキューな! 朱猫ちゃん!」

 

そう言ってくる野武士面のサムライに軽く手を振り、再び駆け出そうとした時、咄嗟に殺気を感じ取って急いで振り向くと目の前まで迫ってきていたダガーを回避する

 

「おいおい… あの至近距離を避けるって反射神経半端ねぇな」

 

ダガーが飛んできた方向を睨みつけると袋頭のプレイヤー…ジョニー・ブラックがこちらにゆっくりと向かってきていた

 

「ジョニー・ブラック…!」

「俺も幸運だよな まさか"蒼い彗星"サマに会えるとはなぁ」

「私は会いたくはなかったけどね」

「そうつれねぇこと言うなって てめぇを麻痺らせたらたっぷり可愛がってやるからよ」

 

如何にも路地裏にいそうな不良みたいなことを言いつつ奴は器用に毒ナイフを指でクルクルと回すと早速仕掛けてきた

 

「おらっ!」

 

それを回避して攻撃しようとするがこちらの攻撃も回避される

 

「やっ!」

「おっと あぶねぇあぶねぇ 一発喰らえばアウトだからなぁ… やりにくいったらありゃしねぇ」

 

お互いに距離を取るとこの乱戦状態には似つかわしくない膠着状態へと突入した

 

ふと視線を逸らすと()()()()()が見えたので奴にばれないように短く合図を出す

 

それが終わり、奴に考える時間を与えない為奴に向けて走り出すとあちらも同じようにこちらに向けて走り出した

 

そうしてお互いに攻撃をしようとしたが互いの短剣がぶつかり、思いっきり鍔迫り合いになる

 

しかし奴の方が筋力は上なのか徐々に押されていく

 

「ぐぐぐ…」

 

そして一気に押し込まれたので私はバランスを崩したが咄嗟に軽業スキルを使用して回避するとジョニー・ブラックが私のいたところにナイフを突き出しているのが見えた

 

「てめぇ! 避けてんじゃねーよ!」

「あれは避けるでしょ 普通」

 

奴は攻撃が当たらなかったことに苛つきながらこちらを見たので私は呆れながら答える

 

「でもそのままよけ続けてもいずれ体力切れんじゃねぇか? 筋力は俺の方が上みてぇだしこのままだといずれ攻撃が当たるぜ?」

「まぁそうね ()()()()()()()いずれ攻撃が当たるかな」

「あん? てめぇそれはどういう…」

 

私がそう言うと()()()()()()()の部分が引っかかったのか私に訊ねてきたがその前に()()()()()が奴に向けて攻撃を仕掛けた

 

こちらに気を取られてくれたおかげで攻撃はしっかり入り、奴は麻痺でダウンしてくれた

 

「てめぇ… 気を取られてる隙に背後から攻撃とか卑怯だぞ…!」

「この手を散々使ってきたお前にだけは言われたくないな ジョニー・ブラック」

 

意識はため息をつきながらこちらを睨んでくる奴に向けて言い放った

 

「おお! 私が言うのもあれだけどあのサインでよくわかったな!」

「多分あれ俺以外にはわからんぞ…」

 

意識は苦笑いしながらも私と拳を打ち付けると麻痺の効果中のジョニー・ブラックから毒ナイフを取り上げ、ロープで先ほどよりきつく縛り上げた

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

SIDE:メラオリン

 

 

 

僕は向かってくるラフコフの面子を槍でいなしつつザザを探していると正面から≪リニアー≫の攻撃が飛んできたのでうまく避ける

 

「見つけたぞ "白き槍"!」

「やっぱりというか予想通り僕の所に仕掛けに来てくれて助かったよ ザザ」

「この前は 逃げられた からな リベンジマッチと 行こうか…!」

「あぁ! 今度はしっかりお前を牢屋に入れてやる!」

 

そして奴のエストックと僕の〖ウィスケル・スピア〗が互いにソードスキルを放って武器同士がぶつかって大きい音を立てる

 

「やはり 一筋縄では 行かないか だが そうでなくてはな!」

 

僕はザザの言葉を無視し、次の手を見極める

 

 

奴の放つソードスキルをこちらもソードスキルで相殺しているとザザは次第に距離を詰めてきた

 

「流石だな では この攻撃は 避けられるか?」

 

そう言うと奴はエストックを握り直し、≪クルーシフィクション≫を放ってきた

 

その攻撃にまずは縦の攻撃を槍で防ぎ、その後横の攻撃を槍を横に傾けて槍の柄に当てるように防ぐ

 

「流石に ≪クルーシフィクション≫は 防ぎやすかったか なら これならば どうだ…!」

 

そして奴は≪ニュートロン≫を放ってきたため僕は≪スプレッティング≫で応戦する

 

「はぁ!」

 

お互いにソードスキルを相殺しつつ最後の一撃がザザに入りそうになるが直前で硬直時間が解け、回避される

 

「今のは 危なかった」

「あー… 惜しかったな」

 

そして武器をお互い構えなおすとザザの近くの地面に狙いを定めた…その時

 

 

うわあぁぁぁ!?

 

誰かの悲鳴の後、破壊音が2度聞こえてきたためそちらに思わず視線を向けると一人の黒いローブを着たラフコフのメンバーがHPゲージはレッドだがそんなことはお構いなしに近くのプレイヤーに襲い掛かっていた

 

「っ!?」

「あちらは うまくやっている ようだな」

 

ザザの言葉に僕は思わずそちらに振り向き、叫ぶようにして言葉を発した

 

「正気か!?」

「例えHPが レッドゾーンに入っても 俺達は 退かない さぁ 戦おうか」

 

そのザザの呟きにどこか悍ましいものを感じつつも平常心を保ち、先ほど同様ザザの近くの地面に狙いを定めつつも視線はザザに向ける

 

「…行くぞ!」

 

奴がそう言うと≪スター・スプラッシュ≫を放ってきたが僕はそれを無視して≪ショッティング・アサルト≫を放って槍を地面に突き立てた

 

「なっ!?」

 

僕の突然の行動に奴は驚いていたが僕は槍を垂直に立て、そのままの勢いでそれを支柱にするように自分の体を回転させ、ザザの後頭部に向けて蹴りを放った

 

「かはっ…! バカ…な…」

 

それがクリーンヒットしたのかザザはそのまま沈んだので僕はエストックを取り上げ、奴を拘束した

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

SIDE:キリト

 

 

 

俺は〖エリュシデータ〗でドゥクスの大振りな攻撃を防ぎつつ反撃の機会を狙っていた

 

「先ほどから押されていないか? "黒の剣士"よ」

「くそっ…!」

 

先程から戦ってはいるもののこれといった隙が全く見当たらない

 

一瞬()()()()()を使おうとも考えさせられたほどで流石はPoHと同等の実力だと言われてただけはあるなと敵ながら純粋な戦闘スキルは称賛に値する

 

「ブロから殺すなとは言われてはいたが… 誤って殺してしまいそうだ」

「ぐっ!」

 

しかしこのまま防いでいても平行線であるのでどこかで仕掛けなければならない

 

そう思った瞬間ドゥクスの扱っている両手剣の腹が見えたためそこに≪バーチカル≫を打ち込んで弾く

 

「おぉ…!」

「行ける…!」

 

そうしてそのまま攻撃しようとした時にふと奴がにやりと口許を歪めた気がしたので咄嗟に距離を取る

 

その時に見えたのは俺が元々いた場所に奴が≪エンブレイサー≫を放とうとしている所だった

 

「今のを避けるか…」

 

そう呟きながらソードスキル発動をキャンセルすると再び両手剣で攻撃してきたがそれを突然乱入者が弾いた

 

「大丈夫か キリト」

 

攻略組では唯一と言ってもいい体術を主軸に戦うプレイヤー…テツロンが俺に振り向くと声を掛けてきた

 

「あ…あぁ…」

 

それに軽く頷くと〖エリュシデータ〗を構えなおす

 

「颯爽とした登場だな」

「これ以上 年下に無理させるわけにはいかないんでな 俺も本気でいかせてもらう」

「ほう…? ならばこちらも手加減は無しにしよう」

 

奴がそう言うと今までより研ぎ澄まされた気迫を纏う

 

 

俺達はそれに呼応するようにして臨戦態勢を取ると奴は早速こちらに向かってきたので、俺は迎撃の体勢を取る

 

そして俺に向かって両手剣を振り下ろしてきたタイミングで剣を側面に撃ち込んで相殺するとテツロンがすかさず攻撃を仕掛けるがまるでその攻撃が来ることがわかっていたように回避する

 

 

そこからしばらくは攻防を繰り返していたが突然としてドゥクスは「そろそろ時間か…」と呟くと〖回廊結晶〗を懐から取り出し、「コリドー・オープン」と叫んだ

 

「ま…待て!」

「案外悪くなかったよ ではまた会おう"黒の剣士" "体術使い"」

 

そう言うと青い光の渦の中へと消えていった

 

「くそっ!」

 

俺は苦虫を噛み潰したように呟き奴に続いて青い光の渦の中に入ろうとしたがテツロンに止められる

 

思わず振り向くとテツロンは黙って首を横に振った

 

「この先には何があるか分からない …一先ず他の連中の援護に回ろう」

「…解った」

 

俺は頷くと渦が閉じるのを見届け、次の目標へと走り出した




今回出てきたオリジナル武器とオリジナルソードスキル紹介

オリジナル武器

〖ディプリーション・ブレード〗
両手剣に属しており、鈍い青黒い色の刀身をしている武器

〖雷毒剣〗
短剣に属しており、まるで稲妻のようにジグザグした形の麻痺毒武器

〖ウィスケル・スピア〗
両手槍に属している全体が鈍い灰色に輝く武器


オリジナルソードスキル

≪風廻≫
体術のソードスキルで横方向に2連撃の回し蹴り

≪スプレッティング≫
両手槍のソードスキルで上の2回、真ん中2回、下2回突く6連撃

≪ショッティング・アサルト≫
両手槍突撃ソードスキル クールタイムは短い

次回は少しだけ(朱猫の戦闘開始ぐらいまで)時間を遡ります

それでは次回に


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28話:笑う死戦 後編

今回はタコミカとリオンの戦闘になるかな…?

それではどうぞ


「いや~ 探しましたよ "彩姫"さぁん」

 

その声に思わず振り返ると黒いポンチョを着た男…モルテが立っていた

 

「にしても先ほどの戦い見事でしたね~ 不意打ちなのに普通のメンバーの攻撃すら当たらないなんて流石"フロアボスキラー"って言ったところですかね~?」

「何が言いたいんですか?」

「あなたも薄々気付いてるんじゃないですかぁ? 自分が()()()()ってことに」

「どういう…?」

 

その言葉に一瞬戸惑ったがそれがいけなかった

 

「敵の前で隙を見せるなんて甘ちゃんですね~ 隙アリです」

 

そう言って私に片手斧で攻撃してきたので咄嗟に回避するが少しだけ被弾してしまう

 

「っ…!」

「あはは! やっぱり瞬発力凄いですね~ でもその様子だと脇腹にちょっと入っちゃったって様子ですか~? でもまだまだ終わりじゃないですよ~」

 

相変わらず掴みどころのない声で言うとさらに攻撃を仕掛けてきた

 

「ショウッ!」

 

それを両手剣で防ぐとバックステップで後ろに下がる

 

「なんかこうしてると3層でキリトさんとデュエルした時を思い出しますね~ あの時は色々と刺激的でしたよ~ まぁ 今はあの時よりも刺激的ですけどね~ 実際命のやり取りをしてるわけですし? そう思いますよね~? タコミカさぁん」

 

その言葉を無視して私は攻撃を入れに行くがそれは軽々と避けられてしまう

 

「無視ですか~ でも案外そういうの好きですよ~? 私 こうやって反撃できるんで?」

 

無防備になった私にモルテは攻撃を加えようとしたが咄嗟に地面を転がって避ける

 

「え~ これを避けるってどんな反射神経してるんっすか~ まぁ 直ぐに終わっちゃこっちとしてもつまらないですからね~ 頑張ってくださいよ~? "彩姫"さんがどこまで避けられるかどうか」

 

 

その言葉の後、攻撃しようとしては回避されを繰り返していたが

 

「はぁッ!」

 

掛け声と共に攻撃がモルテに入るとモルテのHPが3割ほど削れた

 

それに私はあからさまにこれはおかしいと思った 抗戦するのなら防御を固めるはず…でもそれが無いということは最初っから…!?

 

そんな私の考えを見抜いたようにモルテが口を開いた

 

「ははっ 気づいちゃいましたか~? 今回の作戦自体()()()()が目的なんですよ~ おっと…つい喋りすぎちゃいましたね~ 仲間には喋りすぎだって言われるんですけどこればっかりは癖なんで仕方ないですね~」

 

こんなの私がまともにソードスキルなんて放ったら…!

 

私は咄嗟に距離を取るがモルテは先ほどと何ら変わらずに攻めてくる

 

「どうしました? 先ほどまでの勢いがなくなっちゃいましたよ~? もしかして()()()()()()のが怖いんですか~?」

 

思わず防戦一方になってしまうがモルテは片手斧で攻撃を続ける

 

「いい加減自分に正直になっちゃった方が楽ですよ~? 現に先ほどまでの貴方今までにないぐらい楽しそうだったじゃないですか~?」

 

…違う

 

「それに…今まですべてのフロアボス戦に参加するなんて真似 "黒の剣士"にもできなかったのに 貴方は出来ちゃってるじゃないですか~? それって私達と同じ命のやり取りに対して快楽を抱いてるっていう確たる証拠ですよ~?」

 

違…う…?

 

「もし違うって言うんだったら何か反論してみてくださいよ~?」

 

…私は…

 

私はただ…現実(あっち)に帰りたいだけで…

現実(あっち)に帰れるって保障はあるんですかぁ? 何の保証もないってのにフロアボスに挑み続けるって私から言わせてもらってもいかれてる以外の言葉が見つかりませんよ? いい加減認めたらどうです~? 自分が一度スイッチが入ったら相手が死ぬか自分が死ぬかするまで止まらない人間ってことを」

「あ…あぁ…」

 

モルテの言葉に私は完全に心を折られてしまった

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

SIDE:リオン

 

 

 

今、私は麻痺毒付きのピックを使い、ラフコフのメンバーを拘束していっている

 

そしてアスナと戦っているラフコフメンバーに対しても麻痺毒付きのピックを投げる

 

「ぐっ…!」

 

ラフコフメンバーが地面に倒れこむとアスナが声を掛けてきた

 

「ありがとうございます リオンさん!」

「礼は後だ! 直ぐにそいつの拘束を!」

「解りました!」

 

彼女ならわかっているとは思うが念のために声を掛け苦戦しているメンバーがいないか探しているとラフコフメンバーを縛っているディアベルとDDAのタンクメンバーと合流した

 

「そっちは無事の様だな」

「あぁ 俺なら大丈夫って言いたいところだけどね…」

「ジリ貧か?」

「結晶類はまだ大丈夫だけど精神面でね」

 

確かに本来あの様な気迫は連続で受けるものではないので精神面がかなり消耗する 実際隣にいるDDAのタンクメンバーは少し消耗してる様子だ

 

「離脱するか?」

「いや 俺は最後まで残るつもりだよ 離脱させるなら彼にしてくれ」

「お…俺ならまだいけるっすよ! ディアベルさん!」

「そうか… なら無理と油断は禁物だ」

「了解っす! リオンさん!」

 

そうして再び駆け出そうとした時、()()()()()()()()()()()()()()()()()()を感じたので思わずそちらを見るとこの作戦で一番遭遇したくなかった相手がそこにはいた

 

「Wow… これはこれは… "青髪の騎士(ナイト)"様に"紅の策士"様じゃねぇか」

「最悪…」

 

私が思わずそう呟くとディアベルはすぐさまタンクの彼に指示を飛ばした

 

「今すぐにこの場から逃げるんだ」

「えっ… でも…」

「早く!」

「わ‥分かりました! 気を付けてください! ディアベルさん! リオンさん!」

 

ディアベルが有無を言わせぬ気迫でそう言うとタンクメンバーは交戦中のキャラメレの元へと向かって行った

 

「仲間を逃がすなんて随分と余裕じゃねぇか」

「そうだな 私達が負けるということは考えてないんでな 彼には苦戦してそうな奴の所に向かってもらったよ」

「…そうかよ じゃぁまずはてめぇらから血祭りにあげてやるよ …It's Show Time」

 

PoHは〖友切包丁(メイトチョッパー)〗を天に掲げながら言うと掛け声と共にこちらへと向かってきた

 

そして〖友切包丁〗を私に向かって振り下ろしてきたがディアベルがすかさず盾で防ぐ

 

「流石はナイト様だな? だがいつまでそれが持つか見ものだなぁ」

「この場にいる人たちは誰も死なせやしない…! 騎士の誇りにかけて!」

「ほう…? ならその誇りとやらを守ってみろよ!」

 

ディアベルが盾で武器を弾き、体勢を崩すがPoHはすかさず距離を取る

 

再度私に向けて突撃してきたので私は片手剣で防ぎ、そこをディアベルが攻撃を仕掛けようとするがPoHは距離を取ったため空振りに終わった

 

そしてPoHは何かを見るとふと呟いた

 

「そろそろだな…」

「何が…」

 

私はそう呟くとどこからか声が聞こえてきた

 

「大人しく投降しろ!」

「止せ! これ以上は死ぬぞ!」

 

思わずそちらを見ると数人の討伐隊メンバーが1人の黒いポンチョを着たラフコフメンバーを追い詰めており、そのラフコフメンバーはHPがレッドゾーンに突入していた

 

しかしそのラフコフメンバーはそんなことなどお構いなしに近くにいた1人のメンバーに対して攻撃し、続けざまにその近くにいたもう1人にも攻撃をしているのが見えた

 

うわあぁぁぁ!?

 

そのメンバーの断末魔の後、2人のメンバーが消滅するのが見えたため思わずPoHを睨む

 

「貴様…! どこまで腐れば気が済む!?」

「このマッチを組むのには相当長い時間をかけたからなぁ 攻略組という最強とラフコフという最凶が真正面からぶつかり合う… こんな最高なカードを組まないほうがどうかしてるだろ!」

 

奴はまるでこの時を待ってましたと言わんばかりに顔を手で押さえながら高笑いすると辺りを見回し、ある一点に視線を向ける

 

「それに… もうすぐ大物を狩れそうだしなぁ?」

「それはどういう…?」

 

私も思わずそちらに視線を向けると思わず目を見開く

 

そこにいたのは()()()()()()()()()()()()()()だった

 

「「っ!?」」

「あいつがうまく揺さぶってくれたみてぇだな」

 

思わず彼女に駆け寄ろうとしたがPoHがそれを塞ぐ

 

「おっと 行かせねぇよ」

「ぐっ…」

 

ならばせめて隙を作ろうと攻撃を仕掛ける

 

「はっ!」

「どうした? さっきよりも攻撃が単調になってきているぞ?」

 

どうやら自分が思っているよりもかなり焦っているらしい…

 

そう思っているとディアベルが声を掛けてきたので攻撃を防ぎながら耳を傾ける

 

「リオンさん 俺が時間を稼ぐ だからリオンさんはタコミカさんの元へ向かってくれ」

「だが…」

「俺も機会を見て離脱するからさ だから手遅れになる前に…!」

「…頼む!」

 

私はPoHの攻撃を弾くとディアベルと交代し、盾でPoHの連撃を防ぐ彼を背に彼女の元へと駆け出した

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

いつの間にか何人ものラフコフメンバーに囲まれていたので何とか立ち上がろうとするが先ほどの言葉を思い出してしまい再び膝をついてしまう

 

「私が思った以上に効果抜群だったみたいですね~ ではタコミカさん これでお別れです」

 

その言葉と共にたラフコフのメンバーが一斉に私に攻撃してきた

 

左上にある自分のHPが大幅に削れていくのをどこか他人事のように眺めていると突然私に攻撃していたラフコフメンバーの内の2人が突然何かに攻撃された

 

彼らがそちらを見た為私もそちらを見てみるとておさんがそこに立っていた

 

私の姿を確認したておさんは安堵したような表情をし、そしてラフコフメンバーへと視線を向けると早速攻撃を仕掛ける

 

そして私が今まで見たことがないほどの速さで次々と戦闘不能にしていくが最初に攻撃を受けたうちの1人が私に切りかかろうとした

 

しかし直前でておさんの攻撃を受けてその男はポリゴン状になって消滅した

 

それを見たておさんは少したじろいだが軽くかぶりを振って持ち直し、剣を鞘に納めるとモルテの方へと向かって行く

 

まず≪閃打≫を打ち込み、次に≪水月≫を入れるとモルテは片手斧で反撃してきたがすかさず腕を掴み、そのまま背負い投げを決める

 

 

そして武器を取り上げ、モルテを縄で縛ると私の元へと向かってきて私の頭を軽く撫でるがそれにどう反応したらいいのかがわからず俯いてしまう

 

いつの間にか近くに来ていたリオンさんの肩を借りて立ち上がるが私はその場で立ち尽くす他無かった…

 

 

この討伐戦で攻略組側から6人がラフコフ側からは16人が死亡したと聞かされた

 

 

しかし死亡者の中にも捕縛者の中にもドゥクスとPoH 以上2名の名前はなかった




実はディアベルとPoHを戦わせる予定は当初はありませんでした

女の子を曇らせるのは楽しいですね(畜生)

長く続いた道中編もあと1話になるかな…?

それではまた次回に


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29話:傷跡と癒し

今回はラフコフ編の後日談的な話とタコミカとテオロングの関係を進展させる話を兼ねています

それではどうぞ

P.S.:劇場版プログレッシブ 冥き夕闇のスケルツォの新ビジュアルかっこよすぎない…?


あの戦いが終わってから3日経ったが私の気分は晴れなくて今日も陰鬱な気分で目を醒ました

 

身体を起こそうとするとあの日のことを思い出してしまいその都度頭から布団を被ってしまう

 

 

ふと時計を見ると10時を過ぎており、大量のメッセージが届いていた

 

 

届いたメッセージ群を消化し終わるとお腹が空いたので仕方なくベッドから起き上がり、リビングまで向かうと朝食の準備を始める(と言っても簡単な物だけど)

 

そして食べ終えると特に何をするというワケでもなくただ椅子の上で蹲った

 

 

そこからどれぐらい経っただろうか誰かが玄関の扉をノックする音が聞こえた為そちらへ向かって扉を開けるとそこには私服姿のておさんが立っていた

 

「あっ… ど…どうも…」

「えっと… 入ってもいいかな?」

「はい… どうぞ…」

「お邪魔します…」

 

リビングのテーブルまで案内すると椅子に腰かけさせて私はその反対側に座る

 

最初はお互いに無言であったがしばらくしてから私は口を開く

 

「それで…今日はどうしたんですか?」

「まずは報告 やっぱりあの戦いで精神をやられた人が相当多かったらしくて1週間ぐらいは攻略は休みにするってさ」

「…そうなんですね…」

 

ておさんの報告に俯きながら答えると彼は私の顔を覗き込むようにして言葉を発する

 

「…それと…偶には外に出てみたら? みんな心配してるよ…」

「それは…解ってますけど… いまいち気分が乗らなくて…」

「なら無理強いはしないけど …もう3日も外に出てないみたいだからさ」

 

そこから再び沈黙がその場を包んだので私はこの空気を何とかしなければと思い、ておさんに訊ねた

 

「そういえばポテトさん達はどうしてるんですか?」

「あぁ ポテトさんは主にさっき言ってた精神をやられた人達のカウンセリング? っていうのかな…言ってしまえば話を聞いたりしてるよ リオンさんとディアベル、アスナさんは事後処理でここ最近はまともに寝てないって言ってた 他は釣りに行ったりとかリズの素材集め手伝ったりとか…レベリングしてるやつもいたな…」

「そうなんですね」

 

私はそう呟くようにして言い、ふと時間を確認するといつの間にか12時を回っていたので軽く手を叩いて提案する

 

「そういえばもうお昼ですね ておさん お昼どうするかは決めてますか?」

「まだだけど…」

「じゃぁ私が作りますよ」

「え? 急だし何で!?」

「暗い雰囲気が続いちゃいましたし 折角家に来てくださったのに何もしないのは失礼ですからね」

「そういうのは別に良いんだけどな…」

「私がやりたいんですから そこで待っててくださいね」

「解ったよ…」

 

料理をご馳走したいと提案するとておさんは最初こそ断ったが無理やり押し進めると諦めて大人しくなった

 

 

そしてキッチンまで向かうと早速準備を始める

 

~~~~~~

 

調理を済ませ、冷やし中華のようなものをテーブルへと持っていく

 

「できましたよ~」

「それってもしかして冷やし中華?」

「のような何かです 味は全くの別物ですのであしからず」

 

そう言いながら冷やし中華のような何かを目の前に置き、箸を渡すとておさんは早速食べ始めたが私はまだ食べずにておさんを見ながら考えた

 

 

私があの場面で戦意を喪失しなければ彼は人を殺さずに済んだかもしれない…

 

そもそもそれ以前に私がSAOに誘ったりしなかったらこんなデスゲームにすら巻き込まれずに済んだかも…それは元βテスターのひま猫さん以外にも当てはまるけど…

 

作戦が始まる前に私はておさんに信じろって言ったのに… こんな結果に…

 

それが顔に出ていたのかておさんはこちらを覗いていた

 

「どうかしたのか?」

「え? い…いえ! 何でもないですよ! 私も食べないと…」

 

ておさんにどうかしたのかと聞かれたので私は首を大きく横に振るとその勢いのまま手を合わせ、冷やし中華っぽいものを食べ始めた

 

~~~~~~

 

「「ご馳走様でした」」

 

私達は食べ終わると立ち上がり、手早く後片付けをする

 

 

そうして後片付けを終えて再び椅子に腰かけてからしばらくたったところで急にておさんが私に訊いてきた

 

「そういえばさっき何考えてたんだ?」

「えっ!? な…何でもないですよ?」

 

その問いに私は咄嗟にかぶりを振る

 

「でもさっきからずっと辛そうにしてるけれども?」

 

ておさんは全てを見通したように私の眼を見てくるのでそこでいろんな気持ちが溢れてきてしまう

 

自分に対する不甲斐なさとておさんに対する懺悔、前々から感じていた罪悪感やあの時モルテに言い返せなかった悔しさなどが次々に出てくる

 

「ごめんなさっ… 私…わたし… あなたに信じてって言ったのに…っ… あなたに取り返しのつかないことっ…それに私が2年前ああ言わなければておさん達は…! ごめんなさい…っ! ごめんなさい…! ごめっ…ざいっ…!」

 

私は必死に謝るがておさんは椅子から立ち上がると私のところまで向かい、私を優しく抱きしめると頭を撫でた

 

「…今まで気づけなくてごめん… 辛かったよな… もう1人で背負う必要は無いから…」

 

ておさんはそこから私が泣き止むまでずっと優しく頭を撫で続けた

 

 

ある程度気持ちが落ち着いてきたところでておさんは私の両手を握りながら優しい口調で話し始める

 

「確かに俺はあの時1人殺した それはもう変えることはできない事実だ 勿論他に選択肢はあったかもしれない でもな 俺はあの時の自分の選択を後悔していないよ それに俺達はたみのことを恨んだことは1ミリもないよ 寧ろ感謝しかない 嘘だと思うなら今から訊こうか?」

「あっ… それは良いです…」

 

少しだけ場が和んだような気がするがておさんは変わらず続ける

 

「まぁちょっとだけ残念に思うのは前々に俺達に相談してほしかったってことかな そこだけは心に留めといて」

「は…はい…」

 

ておさんの言葉に私は反省して俯く

 

「それと たとえ約束を破ってしまったとしてもしっかりと反省して次に生かせばそれでいいと思うぞ? 約束なんて守れる方が少ないからな …これは俺の持論だけど」

「ふふっ…」

「だからなんで…まぁいいっか」

 

ておさんが私の眼を真っ直ぐ見ながら言ったがなぜか急に笑いがこみあげてしまい思わず笑うとておさんは少しだけ落ち込んだが直ぐに穏やかな表情で私を見た

 

 

そして私の手からゆっくりと手を離すと向かいに座り直し、しばらくしてから私に声をかける

 

「…もう大丈夫そう?」

「お陰様で明日から顔を出せそうです 本当にありがとうございます ておさん」

「そっか じゃぁ俺はそろそろ帰るから」

 

私は思わず椅子から立ち上がったておさんの手を掴んだ

 

「待って!」

「えっ!? な…何!?」

 

ておさんを止めたのは良いもののその先を全くと言っていいほど考えていなかったが覚悟を決めるように頷くとこの先の展開を考えて顔が熱くなりながらもなんとか言葉を出す

 

「え…えと… 今日は…ておさんとずっと一緒にいたい…じゃ駄目… ですかね…?」

「! あ… きょ…今日は…特に予定はないし…ベ…別にいいですよ…?」

 

私がそう言い終わってもじもじとしているとておさんがなんとなく意味を察したみたいで顔を少し赤くしつつ頬を掻きながら答えた

 

~~~~~~

 

そこからは他愛のない雑談(お互いの身の上話等)をしながら時間を潰し、夕食を済ませるとお風呂に入って寝室へと向かう

 

そして私は自分のベッドに寝転がるとておさんに向かってここに来るようにと示唆するようにして隣を叩く

 

しばらくベッドを叩いているとておさんはベッドに腰かけ、眼を泳がせながらもこちらに向いた

 

「覚悟はしてたんだけどいざその時が来るとやっぱり緊張するな…」

「確かに私もちょっと緊張してますけどそれ以上に嬉しさって言うんですかね? そっちの方が大きいです」

 

その後ちょっとだけお互い無言になったがておさんは気を紛らわせるようにして言った

 

「そういえば一つだけ気になったんだけどさ… えぇっと… その…SAO(ここ)で出来るの?」

「…私も知り合いから聞いたんですけれどもね? オプションメニューの所のとても深いところに倫理コード解除設定っていうのがあるらしくて…」

「まじで?」

「みたいです」

 

…そうじゃなくって! 私はしびれを切らして体を起こすと彼の背後から思いっきり抱き着いた

 

「えっ!? あ…あのっ…!? た…たみちゃん…!?」

「…今日はあなたをもっと近くで感じたい …駄目…かな…?」

「…解った」

 

ておさんは呟くようにして言うと私を剥がし、立ち上がると振り返ったので私は疑問に思って少しだけ首を傾げたが彼は私の身体をそのまま押し倒した

 

彼の顔が間近に見えるところで私はそっと目を瞑りておさんに優しい声で囁く

 

「いいですよ あなたの温もりをもっと近くで感じさせてください」

 

そしてお互いにゆっくりと口づけを交わした

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

翌日

 

目を醒ました私は隣で寝ているておさんを起こさないように慎重に起きるとリビングへと向かい、早速朝食の用意を始める

 

昨夜のことを思い出しながら朝食の準備をしていると欠伸をしながらておさんがリビングへと入ってきた

 

「おはよう たみ」

「おはようございます ておさん」

 

挨拶を済ませるとできた料理をテーブルへと持っていき、椅子に座るがておさんは部屋の入口に立ったままだったので声を掛ける

 

「ておさん 朝食出来ましたよ?」

「お…おう!」

 

私に声を掛けられて我に返ったておさんは慌てて私の向かい側に座ると朝食を食べ始めたので私も同じく食べ始めた

 

 

 

そして朝食を食べ終わると昨日と同じく後片付けをし、お互い向き合って座る

 

しばらくは双方ともに何を言い出したら分からずに口を結んでいたが空気を変えるようにして私は言葉を発した

 

「どうしますか? もう出ますか?」

「ん~… そうだな 出よっか」

 

私達はそう決めて家から出ると手を繋いで54層にある[フリッツ・フリット]のギルドホームへと向かって行く

 

 

…ギルドホームに着いた私達はまず私のことを心配したという声を聞かされて、それが収まると今度は私達の関係を素直に祝う声やておさんに対して嫉妬するような声で包まれたので私は思わず笑いが零れた




今までの2人は友達のような付き合いの関係でしたがこれからは傍から見ても付き合っていると判るような関係になります(結婚はまだ)

プログレッシブ編の閑話1話と道中編の閑話を1話挟んでからいよいよアインクラッド編終盤(74層~75層編)へと入っていきます(投稿期間は少し開くかもです)

それではまた次回に


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道中編 閑話
☆フライドポテト再現計画


今回はラフコフ編の息抜きも兼ねてますのでちょっとコミカル路線になります

時系列としては道中編の8話から10話辺りのお話になります

タイトル回収()

それではどうぞ


SIDE:ポテト

 

 

 

「えーっと… まず細切りにしてからお湯で茹でて…」

 

俺はギルドホームにあるキッチンで超が付くほど好物である某ファストフード店のフライドポテトを再現しようと試みている

 

ぶっちゃけこの為だけに料理スキルを取ったと言っても過言ではないが何回も失敗して遂に先日熟練度が600を突破した

 

「ポテトさんまたやってるんですか…」

 

たみさんにまたやってる的な眼で見られるがこればっかりは譲れない

 

「俺にとってはこれは攻略よりも重要なんですよ」

「あはは…」

 

彼女の苦笑いをよそにお湯から細切りした〖スノー・ベイク〗をお湯からザルにあげると少しだけ粗熱を取り、氷で冷やす

 

これがあるのとないのとでは出来上がりに雲泥の差ができる

 

しばらく冷やした後、〖スノー・ベイク〗をスプーンとフォークをうまく使って軽く混ぜて再度氷で冷やす

 

「何してるの?」

 

そこでいつの間にかギルドホームに来ていたたらこさんがこちらを見ながら声を掛けてきた

 

「またフライドポテトの再現を…」

「またか…」

 

たらこさんも呆れたような視線で見てくる中、〖サン・オイル〗を熱して揚げる準備をする

 

 

「そろそろ仕上げに入りますよ~」

 

一応2人にそう声を掛けると〖スノー・ベイク〗を入れて蓋をするとダブルクリックをし、タイマーをセットする

 

 

そこから1分経ったところでタイマーが鳴ったので蓋を開け、油をしっかりと切ってから取り出して冷めないうちに無色の〖ジュエル・ソルト〗を細かく砕いたものを振り掛け再びよく混ぜる

 

器に盛りなおしてテーブルへと運ぶと椅子に座り、2人に対して声を掛けた

 

「たみさん たらこさん 出来ましたので感想聞かせてください」

「「はーい」」

 

3人で一斉にできたフライドポテトもどきを口にした

 

味は普通にいけるが某ファストフード店のフライドポテトには何かが足りないような気がする

 

「これ美味しいですよ」

「普通にフライドポテトだこれ」

 

俺の視点から見ると2人の評価はかなり高そうだが個人的には納得していない

 

 

「食感良し味良し… 後は何が足りないんだろう…」

 

空になった器の底を見つめながら呟く

 

「うーん… 揚げる時間とかはどうですか?」

「揚げる時間か… 成程… ちょっと試してみましょうか」

 

そういえば油を変えてから揚げる時間変えてなかった

 

たみさんの提案に対してやってみる価値はあると思い再びキッチンへと向かうことにした

 

 

~~~~~~

 

 

揚げる時間を1分30秒にしてみたが先ほどよりも少し油っぽくなってしまったので次は30秒にしてみたところ今度は少しだけ生っぽくなり、45秒でやってみたところ最初にやった時よりも少し理想のものに近づいた

 

「これでも普通においしいですけどね」

「たみさんもそう思うよね?」

「でも何かが違うんですよね…」

 

先程のように食べながらも首を傾げながら何が足りないのかを考える

 

「うーん…」

 

じっくり考えているといつの間にかやってきていたテオさんから思いもよらない提案が出てきた

 

「材料を変えてみるのは?」

「材料…ってことは今使ってる〖スノー・ベイク〗を変えると言いたいんですか?」

「そそ 試しにこれを」

 

そう言いながらテオさんはメニューを操作するとタロイモのような見た目だが橙色をしている何かをオブジェクト化するとたみさんがテオさんに対して訊いた

 

「なんですか? これ」

「40層で手に入る〖メリック・タロリー〗っていうアイテム これでもC級食材らしいよ」

「へ~ でもなんかジャガイモっぽい見た目じゃないものを使うのはちょっと…っていう感じはしますけどね…」

「ほら物は試しっていうじゃない? やってみたら?」

「…そうですね 試しにやってみましょうか」

 

たらこさんの言葉で意を決し、〖メリック・タロリー〗を手に取るとキッチンへと向かう

 

 

~~~~~~

 

 

先ほどの手順で作り、器に盛るとテーブルへと運ぶ

 

そして早速口にすると今まで作ったフライドポテトの中で一番某ファストフード店のフライドポテトに近かった

 

「! 今までで一番近いかも!」

「違いが判らないですけどね… まぁ美味しいのは美味しいですけど」

「まぁね~」

 

あっという間に今作った分は無くなったのでテオさんに対して〖メリック・タロリー〗の情報を詳しく聞くことにした

 

「テオさん これって第40層で取れるって聞きましたけど具体的にはどこで取れるんですか?」

「あぁ えーっと…確か【ジェイル・イーター】っていう敵からのドロップ品だったと思う」

「成程… そうなんですね…」

「場所は…」

 

 

テオさんの詳しい説明を次々にメモしていく

 

 

「…ありがとうございます 参考になりました」

「一応 何個かはあるから渡しておきますよ」

 

テオさんは何十個かの〖メリック・タロリー〗をトレードで飛ばしてきたので素で驚いた

 

「いいんですか?」

「俺は料理スキル持ってないですし こんなにも使い切れないので…」

「じゃぁ ありがたく…」

 

〖メリック・タロリー〗を貰うと内心でガッツポーズをしながらも冷静に軽く咳払いをしながら3人に向かって訊ねる

 

「そういえば皆さんもうお昼は過ぎましたけど午後からはどうするんですか?」

「僕は最前線に行こうと思ってるよ」

「成程 たみさんとテオさんはどうするつもりですか?」

 

俺が2人に対して聞くと2人は顔を見合わせながら考え始めた

 

「久々にリズのお店のヘルプに行こうかな…? 手が空いてたら手伝ってほしいってメッセージは来てたし」

「じゃぁ俺はたらこと一緒に攻略しようかな」

「了解です」

「ポテトさんはどうするんですか?」

「俺は今日はギルドホームにいようと思います」

 

2人の予定を聞くとたみさんが俺の予定を聞いてきたのでホームにいると話すと納得したように頷く

 

「そうですか では私そろそろ行きますね~」

「じゃぁ俺らもそろそろ行くか」

「あいよ それでは~」

 

そして時間を確認したたみさんは足早に去っていき、それに続いてテオさんとたらこさんもその場を後にした

 

「はいはーい 頑張ってくださいね」

 

彼らを見送ってしばらくしてから今日使った道具等の後片付けを始めた

 

 

後片付けをある程度終え、椅子に腰かけてのんびりしているとやる気君がやってきた

 

「やる気君いらっしゃい それからククルさんも」

「どうもです」

 

やる気君は軽く頭を下げ俺に対して挨拶をしてくる

 

「今日はどうしたんです? お昼休憩?」

「それもあるけど少し相談がありまして」

「じゃぁちょっと待っててくださいね 今作りますから」

「あぁ… すみません… じゃぁお言葉に甘えて」

 

やる気君に声を掛け、立ち上がると再び昼食を作る準備を始める

 

 

そして出来上がったフライドポテトをテーブルまで持っていく

 

「おぉ~ もしかしてこれって…」

「そうです まぁ試しに一口」

 

恐る恐ると言った感じにやる気君はそれを口にすると驚いたような反応を示す

 

「凄い! まじであのフライドポテトじゃん!」

「実は先ほどほぼ完成したばっかりなんですよ」

「へぇ~!」

 

それからは黙々といった感じで食べ進め、ある程度落ち着いたところで先ほどの話題を振った

 

「それで…相談って何です?」

「実はそろそろ新しい商品を出したいって思ってて… でもそれも解消しました」

「? と言うと?」

 

やる気君は一息置いてから口を開いた

 

「このフライドポテトをお店で出したいんですけど… どうですかね?」

 

それに対して少し考えたがやる気君のお店の売り上げの1~2割程度はこちらに納めてもらっているので頷く

 

「いいですよ 売り上げの一部はこちらに納めてもらっているのでこれでよかったら…」

「ありがとうございます! 早速ですけどレシピとか教えてもらってもいいです?」

「メモがメッセージにあるからそれでもいい?」

「それで大丈夫です」

 

早速レシピの覚え書きをある程度見やすいようにまとめ、ついでにトレードで材料をやる気君に送るとしっかり届いたみたいで少し困惑していた

 

「えと 本当にありがとうございます 特許料と材料料払いますね」

「そういうのは良いって… それにいくら何でもそんなに一人で食べきれないし」

 

やる気君がお礼を言ってお金を払おうとしたので俺は遠慮する

 

「じゃぁせめて全力で売りますので早速行きますね」

「うん 頑張って」

 

そして立ち上がって扉の方へと向かったので彼を見送りながら軽く手を振る

 

 

 

 

 

その後やる気君が頑張ったのかあのフライドポテトはちょっとしたブームになったと噂で聞いた




オリジナルアイテム紹介

〖スノー・ベイク〗
第55層にいる【アイスロック・バグ】のドロップ品で見た目は青色の芋
D級食材

〖サン・オイル〗
第47層にいる【サン・シュレッド】のドロップ品で植物製の油
C級食材

〖ジュエル・ソルト〗
第27層の鉱山によくある塩
味は塩をベースに色によって異なる(無色は塩味のみ)
E級食材

〖メリック・タロリー〗
第40層にいる【ジェイル・イーター】のドロップ品で見た目は橙色のタロイモ
C級食材


某M印のファストフード店のポテトのレシピで検索すると結構再現レシピ出てくるんですね…

それではまた次回に


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道中編+74~75層編の装備一覧

UA10000突破記念として装備の一覧を書いておきます

プログレ編の装備一覧同様オリジナル装備が多いですがそれでも宜しければどうぞ

(装備時期は一部を除いておおよその時期になっております)


タコミカの装備一覧

 

武器

 

両手剣

グリオス・ブレード(鈍い黄色に輝く両手剣):月夜の黒猫団編~

メープル・ブレード(鮮やかな赤色に輝く両手剣):圏内事件編~

ディプリーション・ブレード(鈍い青黒い色の刀身を持つ両手剣):心の温度編~

 

両手斧

ゴルオン・アクス(青白い斧刃を持ち、ヘッドの形がN状になっている両手斧):月夜の黒猫団編~

ケラスス・アクス(仄かに淡いピンク色をしておりヘッドの形が桜の花の形になっている両手斧):圏内事件編~

ルナール・カエルム(鈍い黄色の斧刃を持っていて三日月のような形のヘッドになっている両手斧):心の温度編~

 

体装備

フォレスト・ハンディング(緑を基調としたエルフの狩人のような装備):第26層~

ホワイト・スピンディ:(全体的にもこもことしている白色の装備):第33層~

アサシン・ロワー(女盗賊が着ているような深緑色のベストと紺色のショートパンツの装備):第40層~

シルバー・アーミス(銀色で軽金属で出来た鎧だが見た目に反してかなり軽く動きやすい):第51層~

スパイダー・アーマー(蜘蛛をモチーフとした胸部分と下半身部分が金属の装備):第58層~

ヴァルキリー・アーマー(ヴァルキリーをモチーフとした装備):第64層~

タランチュル・アーマー(スパイダー・アーマーのリメイクのような装備):第70層~

 

頭装備

ウィングハット(淡い緑色の羽根帽子):第26層~

ブルーマフ(青色を基調とした耳当て):第33層~

アサシン・バンダナ(濃いめの緑色のバンダナ):第40層~

シルバー・メット(銀色の軽金属で出来た兜、これも軽い):第51層~

スパイダー・メット(蜘蛛をモチーフとしたヘルメット):第58層~

ヴァルキリー・バイザー(ヴァルキリーがよくつけているような銀で出来た頭飾り):第64層~

タランチュル・メット(スパイダー・メットよりしっかりしたヘルメット装備):第70層~

 

腕装備(手装備)

ハンティングガントレット(見た目は木製の籠手):第26層~

ブルーグローブ(青紫色の手袋):第33層~

アサシン・グローブ(黒色の手袋):第40層~

シルバーガントレット(銀色の軽金属で出来た籠手):第51層~

スパイダー・アーム(黒い軽金属で出来た蜘蛛を模した腕装備):第58層~

ヴァルキリー・ガントレット(銀で出来た煌びやかな籠手):第64層~

タランチュル・アーム(スパイダー・アームよりも少しだけ装飾がしてある腕装備):第70層~

 

靴(脚装備)

ハイディング・ブーツ(茶色のロングブーツ):第26層~

スノーブーツ(青色がベースのもこもこしたブーツ):第33層~

アサシン・ブーツ(黒色に所々緑色のアクセントがあるブーツ):第40層~

シルバー・ブーツ(銀色の軽金属で出来た脚装備):第51層~

スパイダー・レッグ(黒い軽金属で出来た蜘蛛の脚をモチーフにした脚装備):第58層~

ヴァルキリー・ブーツ(銀で出来ており煌びやかな装飾が付いている脚装備):第64層~

タランチュル・レッグ(タランチュル・アームと同じく少し装飾が加えられている脚装備):第70層~

 

装飾品

 

ルーレルイアリング(赤色の宝石が付いているイアリング 最大HPが10上がる)

エスラルドリング(緑色の宝石が付いている銀色の指輪 DIFが1上がる)

 

 

テオロングの装備一覧

 

武器

 

ブラッド・ソード(血のように赤いが特に特殊効果のない片手直剣):月夜の黒猫団編~

ホーク・ソード(鍔に鷹の装飾がされている片手直剣):圏内事件編~

サフィアス・ソード(刀身の中央に青く輝く宝石が埋め込まれている片手直剣):心の温度編~

 

防具

 

灰色のシャツ

黒色のズボン

魔法金属製の胸当て

灰色のブーツ

 

装飾品

 

濃い灰色のベルト

ルビーの付いているイアリング(最大HPが15上がる)

ブロンズリング(AGIが2上がる)

フルムーン・コート(紺色無地のコート):第26層~

 

 

ポテトの装備一覧

 

武器

 

セーリアス・スピア(全体的に青色っぽい両手槍):月夜の黒猫団編~

フォステス・ヴェール(僅かに緑色に輝いているように見える両手槍):圏内事件編~

エンシェント・ルイン(灰色の柄に黄土色の蔦が巻き付いたような装飾がされている両手槍):心の温度編~

 

体装備

 

BG・フォーム(某バーガーキ〇グの制服モチーフの装備):月夜の黒猫団編~

MS・フォーム(某モ〇バーガーの制服モチーフの装備):圏内事件編~

KFC・フォーム(某ケン〇ッキーの制服モチーフの装備):心の温度編~

 

頭装備

 

BGキャップ:月夜の黒猫団編~

MSバイザー:圏内事件編~

KFCキャップ:心の温度編~

 

 

ブラックシューズ

 

装飾品

 

黒色のベルト

ギルドシギル

 

 

メラオリンの装備一覧

 

武器

 

フィール・スピア(黄土色の柄の両手槍):月夜の黒猫団編~

アンクル・スピア(仄かに赤色に輝いている両手槍):圏内事件編~

ウィスケル・スピア(全体が鈍い灰色に輝く両手槍):心の温度編~

 

防具

 

アイボリーホワイトを基調としたシャツ

バーガンディー色のズボン

焦げ茶色のブーツ

 

装飾品

 

黄土色のベルト

青色に輝く宝石が付いている指輪

チョコレート色のマント:月夜の黒猫団編~第30層まで

 

 

ひま猫の装備一覧

 

武器

 

ケルドゥブレード(僅かに紺色に鈍く光る片手直剣):月夜の黒猫団編~

レイオニックソード(紅唐色の片手剣):圏内事件編~

サニライズ・オリオス(僅かに橙色に輝く片手直剣):心の温度編~

 

 

スノーリア・シールド(氷の結晶のような形をした盾):月夜の黒猫団編~

フォリッシュ・シールド(まるで鏡のように磨かれた銀のベースに様々な装飾が付いた盾):圏内事件編~

ルーナ・ガード(濃い紺色で長方形の盾):心の温度編~

 

防具

 

焦茶色のシャツ

藍色のズボン

金属製の胸当て

茶色のブーツ

 

装飾品

 

黒色のベルト

銀色の宝石の付いているイアリング

 

 

きるやんの装備一覧

 

 

ブランジュ・ガード(長方形で中央に赤い宝石が埋め込まれている大型の盾):月夜の黒猫団編~

ゴーレオン・ガード(ゴーレムのドロップ品を素材とした下の方が尖った形の大型の盾):圏内事件編~

アンスタバル・ガード(不思議な形だがしっかりと防げる大型の盾):心の温度編~

 

防具

 

緑色のシャツ

青色のズボン

灰色の靴

 

 

意識の装備一覧

 

武器

 

メディオン・ダガー(僅かに水色に輝く短剣):月夜の黒猫団編~

リッパー・ダガー(2つの刃が付いた形の短剣):黒の剣士編~

ポイゾナス・スケーリー(光を当てる角度によって紫色や緑色に輝く短剣):心の温度編~

 

防具

 

灰色のシャツ

黒色のズボン

濃い紫色のブーツ

 

マフラー(スカーフ)

 

紺藤のマフラー:黒の剣士編~

濃い紫色のマフラー:心の温度編~

 

装飾品

 

紫色のベスト

灰色のベルト

紫色の宝石があしらわれているイアリング

濃い紫色のグラス

 

 

朱猫の装備一覧

 

武器

 

ルナ・ダガー(三日月のような形の刀身を持つ短剣):月夜の黒猫団編~

イーボン・ダガー:第45層~

タキオン・ダガー(プリズムみたいな刀身に光の粒子が舞っている短剣):黒の剣士編~

エフロート・ブレジオン(燃え盛る炎のような色と刀身を持つ短剣):心の温度編~

 

体装備

 

ウィステリア・アーマー:(全体的に藤色の装備):月夜の黒猫団編~

シルバースレッド・アーマー(朱猫装備時は下部分はズボン):第44層~

ファリアス・アーマー(上部分は紺色に下部分は鼠色の装備):黒の剣士編~

サフィアス・アーマー(上部分は濃い青色に下部分が黒色の装備):心の温度編~

 

 

橙色のブーツ

 

マフラー(スカーフ)

 

落葉色のマフラー:黒の剣士編~

赤色のマフラー:圏内事件編~

紅色のマフラー:心の温度編~

 

ベスト

 

空色に黄色のラインが入ったベスト:黒の剣士編~

青色に黄色のラインが入ったベスト:圏内事件編~

濃い青色に黄色のラインが入っているベスト:心の温度編~

 

装飾品

 

蒼に近い灰色のベルト

黄色に輝く宝石が付いたイアリング

白色の手袋

 

 

リオンの装備一覧

 

武器

 

アルヘッド・ブレード(僅かに薄い紫色に輝く片手直剣):月夜の黒猫団編~

ディスティオン・ソード(2対の刀身に柄に近い所に赤い宝石が装着されている片手直剣):圏内事件編~

スカーレット・ホワイト(白色の刀身に赤色の線が入れられている片手直剣):心の温度編~

 

防具

 

黒色のシャツ

灰色のズボン

焦げ茶色のブーツ

魔法金属製の胸当て

↓ ↑

ワーデン装備一式(看守のような装備):圏内事件編前後

 

装飾品

 

茶色のベルト

紅色のコート

赤い宝石のイアリング

白色の宝石がはめ込まれた指輪

 

 

キャラメレの装備一覧

 

武器

 

トリプタ・ヴェリス(3叉に分かれた黒い鞭):月夜の黒猫団編~

ワイルド・ウィップ(暗い緑色の鞭):圏内事件編~

チェイン・バスター(銀色に輝く金属製の鞭):心の温度編~

 

防具

 

遠州茶色のシャツ

葡萄茶色のズボン

赤銅色の靴

 

装飾品

 

赤褐色のベルト

銅色の指輪

青銅の飾りが付いたイアリング

 

 

たまぶくろの装備一覧

 

武器

 

サン・クレーバー(僅かに橙色に輝いている刀身が少しだけ他の剣に比べて大きい片手直剣):月夜の黒猫団編~

ヒート・ソード(赤色に輝く片手直剣):圏内事件編~

フリージ・セーバー(青色で全体的に透き通っている片手直剣):心の温度編直後~

 

防具

 

橙色のシャツ

黒色のズボン

濃い青色の靴

 

装飾品

 

鮮やかな緑色の宝石が付いているイアリング

黄色い宝石の指輪

 

 

じんじんの装備一覧

 

武器

 

クラッシュ・スパイク(派手なスパイクの付いた片手棍):月夜の黒猫団編~

スラップ・ハンマー(頭の部分がネイルハンマーのような片手棍):圏内事件編~

ビッグ・ホーン(まるで巨大な生物の角をそのまま使ったような形のハンマー):心の温度編~

 

 

チェック・ガード(チェスの盤面のようなモノクロが描かれている大型盾):月夜の黒猫団編~

ドリップ・シールド(雫を逆さまにしたような形の大型盾):圏内事件編~

ワイルド・ファング(上下に何かの生物の牙のような装飾がされている大型盾):心の温度編~

 

 

パイライト・アーマー(真鍮色に輝く鎧):月夜の黒猫団編~

クオーツ・アーマー(うっすらと白色に輝く鎧):圏内事件編~

ミスリル・アーマー(僅かに青色に輝くが基本的には銀色の鎧):心の温度編~

 

装飾品

 

緑色の宝石があしらわれたイアリング

 

 

たらこの装備一覧

 

武器

 

クリンジ・ソード(紫に近い桃色に輝く片手直剣):月夜の黒猫団編~

ディジー・ブレード(黄色から先端に近づくにつれ白色になっている刀身を持つ片手直剣):圏内事件編~

ツイスト・リバーシ(黒色と白色の刀身が捩れる様にして交差している片手直剣):心の温度編~

 

防具

 

クリーム色のシャツ

鶯茶色のズボン

練色の靴

 

装飾品

 

革のベルト

何かの牙が2つ着いている腕輪

 

 

プレッシュの装備一覧

 

武器

 

パンデラー・アクス(斧頭がギザギザとした形の片手斧):月夜の黒猫団編~

ゼライン・ピッケル(煌びやかな装飾がされているピッケルに似た片手斧):圏内事件編~

フォレスト・チッパー(蔦の生えた茶色の柄に黒色に輝く斧頭を持つ片手斧):心の温度編~

 

防具

 

胡粉色のシャツ

墨色のズボン

梅幸茶色の靴

 

装飾品

 

緑色のベレー帽っぽい帽子

赤色の宝石のペンダント

 

 

廻道の装備一覧

 

武器

 

アカトンボ(僅かに赤色に輝く刀身を持つ刀):月夜の黒猫団編~

シラユキ(白色の刀身を持つ刀):圏内事件編~

ライキリ(見た目は現実の雷切と同じ):心の温度編~

 

体装備

 

オータム・ファール(紅葉が描かれている香色の着物);月夜の黒猫団編~

スノー・スカイ(雪が描かれている薄めの青色の着物):圏内事件編~

サンダー・スタップ(稲妻のような絵柄が描かれている黄色の着物):心の温度編~

 

装飾品

 

狐の面

黒色に赤い鼻緒を持つ下駄

朽葉色の着物用の帯

 

 

テツロンの装備一覧

 

防具

 

ドゥシー・ハオリ(道着に限りなく近い服)

白色の靴

 

装飾品

 

黒色の手袋

黒色の帯




かなりUA10000記念が遅くなってしまった…

それではまた次回に


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生と死の終曲(アインクラッド編 第74~75層)
1話:あれから約2年


今回からアインクラッド編の終章(74~75層編)へと入っていきます!

それではどうぞ


第74層迷宮区

 

「たみさん スイッチ!」

「了解です!」

 

ポテトさんが迷宮区にいる敵の【モシー・バグ】の身体を使ったのしかかり攻撃を両手槍で弾き、私に対してスイッチの指示を出したのですかさず前に出て、≪アバランシュ≫を発動させて攻撃を加える

 

ソードスキル発動後にある硬直状態の私に対して攻撃を加えようと、体を鞭のようにしならせてソードスキルを発動させようとしたが、その前にキャラメレさんが≪クロススパン≫を発動させて攻撃を中断させた

 

「プレッシュ! スイッチだ!」

「はいよ! だあっ!」

 

転倒した隙を逃さずキャラメレさんはプレッシュさんにスイッチし、それに対してプレッシュさんは≪ロックフォール≫を発動させ、【モシー・バグ】の身体を砕くようにして攻撃を入れたがギリギリ耐えて起き上がろうとしていたのでプレッシュさんは振り向いた

 

「エル! スイッチ!」

「任せろ!」

 

エルさんはすかさず≪閃打≫を発動させて、【モシー・バグ】に叩き込むとHPバーが消し飛び、その直後ポリゴン片となって四散した

 

 

リザルト画面を確認した私は武器を鞘に納めて、今日パーティを組んでいるポテトさん、キャラメレさん、プレッシュさん、エルさん、それとておさんとハイタッチを交わす

 

「お疲れ様です」

「お疲れ様です~」

「お疲れ~ たみちゃ」

「お疲れ~」

「お疲れ様」

「お疲れ」

 

ひと段落着いたところで時間を見てみると、もうすぐで午後3時になるところだったので私は帰るかどうかを訊ねることにした

 

「もうすぐ午後3時ですしそろそろ帰りますか?」

「そうだね~ それにそろそろ帰らないと夕食に間に合わなくなっちゃいますし…」

「じゃぁ早く帰ろっか 皆もそれでいい?」

「こっちは大丈夫」

「右に同じく」

「問題ない」

 

それに全員同意したので、今日の攻略はここで終わりにすることになった

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

迷宮区から出て、しばらく歩いたところで私は口を開く

 

「私はこれからエギルさんのお店に行こうと思ってますけどどうします?」

「エギルさんの所ですか… たみさんが行くんでしたらついでに売りたいものもありますし一緒に行きますよ」

「じゃぁ俺も行くよ」

「俺はパス」

「こっちもやめとく」

「俺も他に用事があるから行くのはやめとく」

「了解です」

 

ポテトさんとておさんが一緒に来ることになり、道中は特に何事もなく74層の主街区<カームデット>へと戻ってこれた

 

「じゃぁ今日はここで解散ですかね?」

「になりますかね?」

「俺の家は<アルゲード>にあるし50層には一緒に行くよ」

「了解です ではプレッシュさん エルさん お疲れ様でした」

「うん お疲れ」

「お疲れ様」

 

プレッシュさんとエルさんに別れを告げて、私達は転移門から50層の主街区<アルゲード>へと向かった

 

 

 

自分のホームに戻るキャラメレさんと別れ、相変わらず煩雑な街を数分ほど進んでいくと、エギルさんのお店が見えてきた

 

そして扉を開けるといかつい商人と黒いコートの剣士が商談をしている所だったが、こちらを見ると2人共軽く返してくれた

 

「よぉ お前らも売りに来たのか?」

「そんなところです ついでに何か良いものがあれば買おうと… ところでキリトさんはなぜここに?」

「実はな? こいつ〖ラグー・ラビットの肉〗を手に入れたらしくて…」

 

最後に入ったポテトさんが扉を閉めるとキリトさんは先頭の私に訊ねてきたので私は返し、逆になぜここにいるのかを質問すると、キリトさんの代わりにエギルさんがキリトさんを指差しながらキリトさんが〖ラグー・ラビットの肉〗を手に入れたと言った…

 

「「「…えぇ!? 〖ラグー・ラビットの肉〗!?」」」

 

少し私達はフリーズしたが直ぐに驚きの声を上げ、ポテトさんが若干テンパりながらもキリトさんに訊く

 

「それって確かS級の食材ですよね? 何が一体どうなって手に入ったんです…?」

「帰りに偶然【ラグー・ラビット】に遭遇して これまた偶然に狩れたっていうワケ」

「な…ナルホド…」

 

キリトさんの強運にポテトさんが納得したように頷く

 

「それで… それを売るつもりだったのか?」

「あぁ そのつもりだったんだが…」

 

少し考え始めたポテトさんに代わるようにして、ておさんがキリトさんに対してエギルさんのお店に来た理由を訊くと、キリトさんは何かを考えているような顔をしながら私の方に向く

 

「なぁ タコミカ お前料理スキル上げてるって前に言ってただろ? 今どれぐらいある?」

「私はもうすぐで900ぐらいですから多分キリトさんやテオさんよりは成功確率は高いと思いますけど失敗しないとは言い切れないです…」

「そうか…」

 

私もS級食材を食べたいのは山々だが、失敗してしまったら目も当てられないような状況になってしまう せめて私より料理スキル熟練度が高い人がいれば…

 

 

そう思っているとエギルさんのお店の扉が開く音がした

 

「元気そうね タコミカ」

 

声を掛けられたので振り返ると栗色のロングハーフアップで真紅と純白に彩られた騎士服を着ており、私よりも少しだけ背が高い女性プレイヤー…アスナがそこに立っていた

 

その背後には先日彼女本人から聞いていた護衛のプレイヤーが2人いる

 

私から視線を逸らすとキリトさんとておさんに声を掛けた

 

「それとキリト君にテオ君も元気そうね」

「久々だな」

「珍しいな アスナ こんな吹き溜まりみたいな場所に顔を出すなんて」

 

テオさんは普通に返したが、キリトさんはエギルさんのお店を卑下しながら返す… うん 普通に失礼だね エギルさんも眉をひそめてるし…

 

「もうすぐボス戦だからタコミカに会いに来たのよ」

 

と本人は唇を尖らせながら言ってるけどキリトさんに会いに来たのが本心というのは私は見抜いている

 

「エギルさんとポテトさんもお久しぶりです」

「えぇ お久しぶりです アスナさん」

 

アスナはエギルさんとポテトさんにも声を掛けたのでポテトさんが返す

 

そしてキリトさんは意を決したようにアスナに訊いた

 

「…なぁ アスナ 今料理スキルってどれぐらいあるんだ?」

 

キリトさんの質問に対して、アスナは不敵な笑みを滲ませながら答える

 

「先週完全取得(コンプリート)したわ」

「なぬっ!?」

 

この人絶対アホかって思った 顔から確信できる

 

私がキリトさんを呆れながら見ていると、キリトさんはメニューを操作し始めた

 

「…その腕を見込んで1つ頼みがある」

 

そしてアスナに対して手招きをして呼び寄せるとウィンドウを見せたので、アスナは訝し気にウィンドウを覗き込み、そこに表示されているアイテムを見て驚いたのか眼を丸くしていた

 

「嘘!? これって〖ラグー・ラビットの肉〗!?」

「取引だ こいつを料理してくれたら1口食わせてやる」

 

キリトさんの提案が気に入らなかったのか、言い終わらないうちにアスナはキリトさんの胸ぐらを掴むと、そのまま自分の顔に引き寄せる

 

「は・ん・ぶ・ん!」

「わ…解った…」

「やった!」

 

予想しなかった不意打ちにキリトさんが咄嗟に頷くと、アスナは大喜びしたように笑顔で左手を握っていた

 

その様子を温かく見守っていると、アスナがこっちを見ていることに気が付く

 

「う? どうしたの?」

「よかったらタコミカとテオ君も一緒にどうかな?」

「いやいや 普通に悪いって 折角2人きりなのに邪魔しちゃ それに私達までご馳走になったら1人当たりの量も減るし…」

「細かいことは良いの! 折角の美味しいものなんだしみんなで食べたほういいって」

「解ったよ…」

 

アスナは私達も一緒にどうかと誘ったので私は2人の邪魔をしたら悪いと思い、首を横に振って断ろうとしたが、強引に押されてしまったので少し考えて、渋々了承した

 

「というワケだから取引中止だ 悪いな」

「それは良いけどよ… 俺らってダチだろ? な? だったら俺にも一口くれたって…」

「味の感想は後日800字以内にまとめて文章で提出してやるよ」

「そ…そりゃねぇぜ…」

「ど…どんまいですエギルさん」

 

キリトさんはエギルさんに対して無慈悲に告げると、エギルさんはがっくりと肩を落とし、ポテトさんがそれを慰める

 

そんな彼らを放置して、店の外に出たキリトさんのコートの裾をアスナが引っ張って止めた

 

「でも 料理するにしてもどこでするつもりなの?」

「えっと…」

 

この人そこら辺考えてなかったな?

 

一応私の家という手もあるけど、私の家は元々1人で住む用に家具などを置いているので4人は流石に無理だ

 

そんな私の考えを見抜いたようにアスナは呆れながらも口を開く

 

「どうせキリト君やテオ君の部屋にはろくな道具は置いてないだろうし、前にタコミカの家に遊びに行ったことはあるけど流石に4人となると無理だと思うわ だから今回だけ、食材に免じて私の部屋を提供してあげるわ」

「まじですか?」

「まじよ 私の部屋だったら4人ぐらいは大丈夫だわ」

 

アスナの思い切った提案にておさんは思わず声を出していたが、アスナは平然と返す

 

そして背後の護衛2人に向くと声をかける

 

「今日はこのまま<セルムブルグ>に転移するので護衛はここまでで結構です お疲れ様」

 

アスナがそう伝えた途端、初めから不機嫌そうだった長髪を後ろで束ねた痩せている方の護衛の人が声を荒らげた

 

「アスナ様! こんなスラム街に足をお運びになるだけならまだしも、ご友人であるタコミカ様はともかくとして、こんな素性の知れぬ奴らをご自宅に伴うなど…言語道断です!」

 

その護衛の人の物言いに多少苛ついたが、アスナはうんざりとした表情を浮かべていた

 

「こっちのテオロング君はギルド[フリッツ・フリット]に所属してるから素性が知れないなんて有り得ないわ それにこの黒ずくめのヒトは素性はともかくとして腕は確かよ たぶんあなたより10はレベルが上じゃないかしら クラディール」

 

そんな表情ながらもておさんとキリトさんの紹介を軽く終えたが、クラディールと呼ばれた男性は憎々し気な視線をキリトさんに向ける

 

「私がこんな奴に劣るだと…? そうか! その黒ずくめの服装…貴様"ビーター"だな!?」

「あぁ そうだ」

 

何か合点がいったように顔を歪ませ、叫んだ言葉にキリトさんは無表情で返す

 

「アスナ様 こいつら自分さえよけりゃいい連中ですよ! こんな奴に関わると碌なことがないんだ! タコミカ様からも何か言ってやってくださいよ!」

 

それに対してアスナは不快そうに眉を顰め、私も彼に対して嫌悪感を覚え始めてきた

 

いつの間にか周囲に結構人が集まっており、周囲の人達からはアスナのことや私のことが聞こえてくる

 

アスナもそれに気が付いたようで、興奮の度合いが増しているクラディールに対して言い放った

 

「兎に角 今日はここで帰りなさい 副団長として命令します」

 

そしてキリトさんの腕を掴むと、そのまま転移門広場の方へと引っ張り始める

 

「お…おい いいのかよ?」

「いいんです!」

 

事態の収拾に動き始めたポテトさんを残して、私達は2人の後を追いかけて人混みに紛れるようにして歩き始めた




オリジナルMOBの紹介

【モシー・バグ】

74層迷宮区にいる苔の生えた石造りの芋虫型MOB
身体を使った攻撃を得意とする


オリジナルソードスキルの紹介

≪クロススパン≫

鞭のソードスキル
簡単に言えばド〇クエで言うところの双竜打ち 但しこっちはバランス崩壊していない

≪ロックフォール≫

片手斧のソードスキル
勢いよく飛びあがってその勢いで斧を振り下ろし、攻撃をするソードスキル


それでは次回に


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2話:いざS級食材実食!

実際ラグー・ラビットの肉ってかなり美味しそうですよね…

それではどうぞ


第61層の主街区の<セルムブルグ>はそのままでも街全体がまるで1つの芸術品のように美しいが、私達が来た時間帯は丁度日没だったので、湖に外周部から夕陽が差し込んでオレンジ色の光が反射しており、それがより一層美しさを際立たせる

 

第61層が最前線ぐらいの時ににここに家を買おうと検討したこともあったが、メゾネットタイプの家で今の私の家の値段の2倍したため断念した

 

今回がアスナの家に行くのは初めての為、アスナを先頭にしてしばらく歩いているとキリトさんがいきなり伸びをした

 

「うーん 人は少ないし開放感があっていいなぁ」

「なら君もここに引っ越せば?」

「お金が圧倒的に足りません」

 

キリトさんは肩をすくめて答えると、真剣な表情になったが遠慮気味にアスナに対して訊ねる

 

「それより…良かったのか? さっきの護衛」

「…」

 

キリトさんが先ほどのことを持ち出すとアスナは俯き、ブーツのかかとを地面でとんとんと鳴らし始めた

 

「…要らないって言ったんだけどね…ギルドの方針だからって参謀の人達に押し切られちゃって… 実際1人の時に嫌なことがあったのは事実だけど…」

 

彼女はその後もやや沈んだ声で続ける

 

「昔は団長が1人ずつ声をかけて作った小規模ギルドだったのよ でも人数がどんどん増えてきてメンバーも何回か入れ替わったりして…最強ギルドなんて言われ始めた頃から何かがおかしくなってきちゃった」

 

そこで言葉を切ると体半分振り向いて、キリトさんのことをどこか縋るような瞳で見たような気がした

 

何か言わないとと思ったけど何も思いつかずにしばらく全員無言だったが、アスナはキリトさんから視線を逸らすと、場の空気を切り替えるように歯切れの良い声を出した

 

「まぁ 大したことじゃないから気にしなくて良し! 早く行かないと日が暮れちゃうわよ」

 

そして前に向き直ると再び歩き始めたので、私は心配になりながらもその後に続いた

 

 

~~~~~~

 

 

アスナの家はメゾットタイプの家の3階で、私はアスナに続いてそのまま進もうとするが、キリトさんとておさんは建物の前で立ち止まった

 

「しかし…いいのか? その…」

「なによ 君が持ち掛けた話じゃない ここまで来たのに帰るってわけにもいかないでしょ」

「それもそっか…」

 

そう言ったアスナはそのまま階段を登っていったので私はその後に続く

 

そして3階に辿り着いて自分のホームの扉を開けて入ったので私も扉をくぐる

 

「お邪魔しま~す おお~!」

 

部屋に入ると、広いリビングダイニングと隣のキッチンには、恐らく最上級のプレイヤーメイド品であろう明るい色の木製家具が設えられており、モスグリーン色のクロス類が統一して装飾されている

 

私の家の場合は使えて、多少お洒落な家具であればそれでいいと言う感じなのでこの部屋と比べると結構差がある

 

「お…お邪魔します…」

 

私が部屋に入ってから少しすると、キリトさんとておさんも部屋に入ってきてその場に立ち尽くしていた

 

そして部屋をひとしきり眺めたキリトさんはアスナに対して訊ねていた

 

「なぁ… これいくらかかってるんだ…?」

「ん~ 部屋と内装合わせて400万ぐらいかな? じゃぁ私達は着替えてくるから2人共そこら辺でくつろいでてね」

 

アスナは2人に対してそう告げると、リビング奥の扉に向かったので私も着替えるために同じように扉へと向かう

 

まぁ着替えと言ってもメニューを操作すればすぐなんだけど、着衣変更前後の数秒ぐらいは下着姿になってしまうので、私は人前で着替えはしない(極々一部を除く)

 

私がメニューを操作して、千歳緑色のパーカーっぽい服(下は紺色のショートパンツ)に着替えると、アスナは既に着替え終わっていたみたいで簡素な白いチュニックに膝上丈のスカートの見たまんま私服姿になっていた

 

私がそろそろ行こうと言おうとしたとき、アスナが私に近づいてパーカーっぽい服のフード部分に触りながら話しかけてきた

 

「ねぇタコミカ」

「ん? なに?」

「それってパーカー?」

「みたいな何かだけど 一応そうかな」

 

私が答えると、アスナは納得したように頷く

 

「へぇ~… このパーカーの型紙とかって持ってるの?」

「型紙はないけど もし良かったら今度作って持ってくるよ」

「いいの? じゃぁお願いしてもいいかな」

「勿論!」

 

アスナはしばらく私のパーカーみたいな服をしばらく触ったりして確かめると、どうやら自分で作ってみたくなったみたいで型紙はあるかと訊ねたが、残念ながら私は型紙は取っていないが作り方は覚えているのでまた作ってくると言ったら、とても喜んでいた

 

 

リビングダイニングに戻ると、ておさんはコート等を解除していたがキリトさんは先ほどの恰好のままであったので、アスナはそんなキリトさんに視線を投げかける

 

「ところでキリト君はいつまでそんな恰好してるのよ?」

「お…おう」

 

アスナに言われて、キリトさんは慌ててコートなどの武装を外し、立ち上がると再びメニューを操作して今度は〖ラグー・ラビットの肉〗を近くのテーブルにオブジェクト化した

 

「これが噂のS級食材…」

「〖ラグー・ラビットの肉〗ですね… 見てるだけでも美味しそう…」

「で… どんな料理にするつもりなの?」

「ここはシェフのお任せで頼む」

「それじゃぁシチューにしましょうか 煮込む(ラグー)って言うぐらいだからね」

 

そしてアスナは〖ラグー・ラビットの肉〗をキッチンに持っていくと、早速色々と準備をし始める

 

「本当は色々と手順があるんだけどSAOの料理は簡略化されすぎててつまらないわ」

 

アスナは料理の過程に関して愚痴を言いながらも具材を入れた鍋をオーブンに入れて、タイマーをセットする

 

「さてと…シチューはこれでオッケーだから待ってる間に付け合わせでも作っちゃいましょうか 付け合わせはタコミカが作ってくれる?」

「了解~」

 

アスナから何個か食材を受け取った私はアスナと交代で台所に立つと、先ほどアスナがやっていたように包丁で手早く食材を切っていき、皿に盛り付ける

 

 

そして色々と準備を終え、席に着くと3人共いただきますを言うのももどかしそうにスプーンを手に取り、シチューを食べ始めたが私は一応手を合わせてからスプーンを手に取って、シチューを食べ始めた(親からは食事の挨拶に関してはとても厳しくされてきたので)

 

気になるシチューの味はやはりと言うかとても美味しく、私も3人と同じく黙々と食べ進める

 

 

瞬く間にシチューは無くなり、味の余韻に浸りながら先ほどまでシチューが入っていた皿を眺めていると、アスナは深く溜息をついた

 

「あぁ… S級食材なんて2年も経つのに初めて食べたわ… 今まで頑張って生き残っててよかったぁ…」

「そうだね~… S級食材食べたのは初めてだけど言葉にできない程美味しいよ…」

 

私はアスナの言葉に同意して、カップに入った不思議な香りのお茶を啜る

 

 

時折、カップを持ってお茶を啜りながらカップの中身をぼんやりと眺めていると、ふとアスナが呟く

 

「不思議ね… なんだか最近、この世界で生まれて今までずっと暮らしてきたようなそんな感覚になる時があるわ…」

「…俺も最近はあっちのことを思い出さない日が多くなってきたよ 俺だけじゃない…この頃はクリアだ脱出だって血眼になってるやつも少なくなってきた気がする」

「攻略のペース自体も落ちてきてますよね…今最前線で戦ってるのって500人いるかいないかですよね?」

「まぁたみの言う通りだな 最前線の人数が減ってきたのは危険度のせいもあるだろうけど…みんな馴染んできてるんだろうな… この世界に…」

 

確かにキリトさんの言う通り、最近はこのゲームが始まった時のようにクリアに必死になってる人が少なくなってきたような気がする

 

かくいう私も最近はクリアしたいという気持ちが薄れてきているような気がする… でも…

 

「それでも 私はあっちに帰りたい だって最初にそう決心したから」

「そうね 私もあっちでやり残したこと沢山あるし」

 

私に続けてアスナも微笑みを見せながら言うと、キリトさんは素直に頷いた

 

「そうだな 俺らが頑張らないとサポートしてくれてる職人クラスのプレーヤーたちに申し訳が立たないもんな…」

「まぁキリトの言ってることもある程度は分かるけど、それ以上にクリアしないとリアルで会えないからな」

 

ておさんもキリトさんの言ったことに同意すると、カップのお茶を一気に飲み下し、肘をテーブルにつくと私のことを見つめてきたので、何か用があると思いテオさんに訊ねる

 

「ど…どうしたんですか…?」

「いやぁ… 何となく」

「む~…」

 

しかし特に用はないと答えたので、私は唇を尖らせて顔を背けると私達のやり取りを見ていたアスナが口許を押さえて笑い始めた

 

「ふふっ… タコミカとテオ君ってここ最近は本当に付き合ってるって感じが傍から見ても解るようになってきたわよね」

「えっ!? そ…そう…?」

「そうそう テオ君と話してるときはより一段と可愛くなってるもん」

「あうぅ…」

 

アスナの指摘に思わず顔が熱くなる

 

「それに比べて"黒の剣士"サマは…」

「俺は良いんだよ ソロなんだから…」

「折角のMMOなんだから俺ら以外にももっと友達作くれって」

 

その隣ではておさんがキリトさんをディスって私とアスナも笑っていたが、やがてアスナが真剣な声色でキリトさんに話しかける

 

「キリト君はギルドに入るつもりは無いの?」

「え…?」

「元βテスターが集団に馴染みにくいのは解ってる でもね」

 

アスナは更に真剣になって続ける

 

「70層を超えた辺りからモンスターの動きにイレギュラー性が増してきた気がするの」

 

確かにアスナの言う通り、その辺りからモンスターの動きが複雑化してきたような気がする

 

「ソロだと想定外のことに対処できないことがあるわ いつでも緊急脱出できるとは限らない パーティを組んでたら安全性が段違いだと思うの」

「忠告はありがたく受け取っておくけど… 安全マージンは十分取ってるし そもそもパーティメンバーは俺の場合だと助けっていうより邪魔になることの方が多いから…」

「ふーん?」

 

キリトさんが余計な一言を言ったのでアスナはナイフを構えると、キリトさんは両手を挙げた

 

「…解ったよ あんたは例外だ」

「そう」

 

私達はどうなのかと訊こうとしてキリトさんに視線を向けると、キリトさんは軽く頷いた

 

それを確認したアスナは手に取ったナイフを器用に指の上でクルクルと回すと、ある1つの提案を出す

 

「なら しばらく私達とパーティを組みなさい パーティでのあなたの実力を知りたいし あと今週のラッキーカラーは黒だから」

「はぁ!? なんだそりゃ!?」

 

キリトさんは思わず叫び、次々に反対材料を出してゆく

 

「そんなこと言ったってお前…ギルドはどうすんだよ」

「うちは別にレベル上げのノルマとかはないし」

「じゃ…じゃぁあの護衛は…」

「置いてくる」

「タコミカやテオの都合だって…」

「明日は大丈夫ですよ」

 

アスナと私に次々と反対材料を潰されていき、せめてもの時間稼ぎにカップを口に持っていったが、空だったのか飲めず、次の瞬間にはアスナがキリトさんのカップを奪ってポットから湯気の立つお茶を注ぐ

 

しばらく葛藤した後、キリトさんは絶対に口にしてはいけない言葉を口にしてしまった

 

「…最前線は危ないぞ」

「あっ 馬鹿」

「へ?」

 

ておさんが静止したときにはもう遅く、アスナが持っていたナイフで≪リニアー≫を発動させ、ナイフがキリトさんの目前まで迫ったのでキリトさんは大慌てでコクコクと頷いた

 

「わ…解った じゃぁ明日朝九時 74層主街区の転移門前で待ってる」

 

それを聞いたアスナは「ふふん」と強気な笑みで答える

 

 

キリトさんは流石にこれ以上女の子の部屋にいるのは不味いと思ったのか、そそくさと暇を告げたのでておさんもそれに続いた、その為私もお暇しようと思ったが、見送りの為に階段を降りている最中にアスナから「どうせなら私の家に泊まって行ったら?」と言われたので、階段を降りながら考え、折角なのでお言葉に甘えることにした

 

建物の階段を降り切ったところまで来ると、アスナは軽く頭を動かして言った

 

「今日はまぁ… 一応お礼を言っておくわ ご馳走様」

「こっちこそまた頼む…って言いたいところだけど今日みたいな幸運は二度とないだろうな…」

「あら 普通の食材だって腕次第では今日のシチュー並みに美味しくなるわよ?」

 

そして上を見たので私達も思わず上を見たが、夜のとばりに包まれた空には当然星の光などはなく、あるのは上の層の底だけである

 

上を見上げながらもておさんが不意に呟いた

 

「なぁ この世界の状況をどこかで見てるであろう茅場は今の状況に満足してるのかな…」

 

その問いかけにはだれも答えることが出来ず、ただただ上を見上げるのみだった

 

 

現在の最前線は第74層 未だに解放の日は判らないけど、確実に進んでいるということだけは解る




結構悩みましたがタコミカがアスナの家に泊まるルートにしました

それではまた次回に


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3話:"黒の剣士"対クラディール

UA10000記念はしばしお待ちを…

それではどうぞ


寝ていた私の身体が揺らされながらどこかから声がかかる

 

「…きて…起きて…タコミカ…」

「むむむ…後五分…」

 

その声を避けるようにして私は寝返りを打つと、頬をつんつんとされる

 

「起きなさい タコミカ」

「う…うーん…?」

 

そこで体を起こし、まだ眠たい目を擦りながら辺りを見回すと部屋着姿のアスナが目に入ったので、昨日夜遅くまで喋っていて寝落ちしたのだということがわかった

 

「おはよ アスナ」

「おはよう タコミカ」

 

大きく欠伸をして、時間を確認すると8時前だったのでベッドから降り、先にリビングへと向かったアスナの後を追うようにリビングへと向かう

 

 

そしてアスナの用意した朝食を食べると完全に目が覚めた

 

「えーっと… もう出発する準備は済んでるの?」

「タコミカを起こす前にもう済ませたわ」

「さ…さいですか…」

 

食事を食べ終わり、後始末を済ませた後で、アスナに攻略の準備は終わっているのかと聞くと、もう準備は済ませてあると答えたのでなんか申し訳なくなった

 

 

おしゃべりをしているといつの間にか約束の時間まであと少しになっていたので私は攻略用の服に着替え、先に外に出る扉を開けると、アスナの護衛の1人であるクラディールが扉の前に立っていた為、大慌てで扉を閉めるとまだ着替えている最中のアスナの元へと急いで向かう

 

一連の流れを知らないアスナが慌てた様子の私を見て、疑問に思ったのか訊ねてきた

 

「どうしたの?」

「え あ えと…扉…えと…クラ…」

「クラ? 一体なんだっていうのよ…」

 

私の答えになっていない答えに首を傾げながらも、アスナも外に出る扉を開けた

 

「お迎えに上がりました アスナ様」

 

そしてクラディールの姿を確認するや否や、私の腕を掴んだ

 

「走るよ! タコミカ!」

「え!? ちょっと!?」

 

そして途中で何回か追いかけてきたクラディールを撒こうと、わざと遠回りしながら転移門広場へと向かうと、その勢いのまま転移門へ飛び込んだ

 

 

~~~~~~

 

 

転移門で飛んだ先の<カームデット>で2つの人影にぶつかりそうになった為、思わず叫ぶ

 

「きゃああああ!」

「よ…避けてください!」

 

その叫びも虚しく私は2人いた人の内、私は片方にアスナはもう片方に派手にぶつかって、そのまま何メートルか地面を転がる

 

混濁する意識の中で、ぼんやりと間近にておさんの顔が見えたので、思わず横にテオさんの身体をずらして慌てて立ち上がる

 

「お…おおお おはようございます…」

「お…おはよう…」

 

ておさんもすぐに立ち上がって、顔を赤くしながら顔を私から逸らす

 

そこでハッとして、アスナの方を見るとキリトさんが思いっきり吹っ飛ばされているのが見え、思わずアスナの方を見ると、ぺたんと座り込み、腕を胸の前で交差させていた

 

キリトさんはなぜか右手を開いたり閉じたりすると、強張った笑顔をアスナに向けるとアスナはより一層殺気を含んだ目でキリトさんを睨む

 

その様子を少し遠くから見ていると、転移門が青く光ったので思わずておさんの背後に隠れ、そのまま転移門の方へ徐々に押してゆく

 

「えっ? ど…どうした…?」

 

転移門から出てきたのはやっぱりクラディールだった

 

ゲートから出たクラディールはキリトさんとキリトさんを盾にしているアスナの方を見ると眉間と鼻筋に刻まれた皺をより一層深くさせ、憤った様子で口を開く

 

「アスナ様! 勝手なことをされてもらっては困ります…! さぁ ギルドホームに戻りましょう」

「嫌よ! 今日は活動日じゃないでしょう!? …大体なんで朝から私の家の前に張り込んでるのよ!?」

 

クラディールに対してアスナはキレ気味に言い返した

 

「こんなこともあろうと思いまして1ヵ月ぐらい前からずっと<セルムブルグ>にて監視の任務についておりました」

 

本人は自信満々そうに言っているが、それはただのストーカーだし、ハッキリ言って気持ち悪い

 

「それ… 絶対団長の指示じゃないわよね…?」

「私の任務はアスナ様の護衛です! それにはご自宅の監視も…」

「含まれないわよ! バカ!」

 

うん これは怒ってもいい 私も同じ事されたら流石に怒る

 

しかしクラディールは聞き入れず、乱暴にキリトさんを押しのけ、アスナの腕を掴む

 

「勝手なことを仰らないでください さぁ ギルドホームに戻りますよ」

 

流石にこれ以上は看過出来ない為、私はておさんの陰から出ると、クラディールの進路に立ちふさがろうと動いたが、その前にキリトさんがアスナを掴んでいるクラディールの右手首を思いっきり握っていた

 

「悪いな お前さんとこの副団長さんは今日は俺達の貸し切りなんだ」

「貴様…!」

 

クラディールは顔をゆがめ、キリトさんの手を振りほどくと軋むような声で唸るが、その顔にはどこか常軌を逸したものを感じる

 

「アスナの安全は俺らが責任持つよ 別に今日、ボス戦をやろうってわけじゃない 本部にはあんた1人で行ってくれ」

「ふざけるな! 貴様のような雑魚プレイヤーにアスナ様の護衛が務まるかぁ! 私は栄光ある[血盟騎士団]の…」

「あんたよりはまともに務まるさ」

 

その一言でクラディールの怒りは頂点に達したのか、キリトさんに対して敵意をむき出しにしていた

 

「そこまでデカい口を叩くからには、それを証明する覚悟があるんだろうな…」

 

クラディールは震える右手でメニューを素早く操作すると、キリトさんは何かの…話の流れからデュエル申請だろうを受け取ったみたいで、隣のアスナと小声で話し合っていた

 

そして軽く頷きキリトさんはウィンドウを操作し終えると、空中でデュエル開始60秒のカウントダウンが始まった

 

「ご覧くださいアスナ様! 私以外に護衛が務まる者などいないということを証明してみせましょう!」

 

2人のやり取りをどう捉えたのかクラディールは芝居がかった様な動きで腰から両手剣を引き抜き、音を立てて構える

 

やっぱり[血盟騎士団]に所属しているだけあって、見た目こそクラディールの使っている武器の方が見栄えは良いが、私の今使っている〖ディプリーション・ブレード〗の方が確実に性能は上だろう

 

キリトさんとクラディールはおおよそ5メートルぐらいの距離を取り向き合って、デュエルの開始を待っている間にも続々とギャラリーがやってくる

 

「ソロのキリトと[血盟騎士団]のメンバーがデュエルだとよ!」

「見ものだなぁ!」

 

ギャラリーの内の1人が大声で叫び、それに乗っかる形で別の誰かが叫ぶと歓声がドッと湧き出す

 

本来デュエルというのは仲の良い者同士で行われるもので、先ほどまでの険悪なムードを知らない人たちは口笛を鳴らしたり、ヤジを飛ばしたりしてデュエルを盛り上げている

 

 

その間にもカウントは進んでいき、2人は武器を構えたので私達も少し離れた場所で見守る

 

どうやらクラディールは剣を中段でやや担ぎ目に構えて、腰を低く落としていた…あれは間違いなく≪アバランシュ≫を発動させるつもりだろう

 

対するキリトさんは剣を下段に構えて緩めに立っている

 

…勿論双方ともにそれがフェイントだということも考えられるが、まぁキリトさんなら大丈夫だろう

 

カウントが一桁台になり、場に緊張が満ちていく

 

 

そしてカウントがゼロになり、DUEL‼ という文字が閃光を伴って弾けると同時に、キリトさんが地面を蹴って駆け出し、そのほんの一瞬後にクラディールも動き始めた

 

クラディールは私の予想通り、≪アバランシュ≫を発動させて、キリトさんに迫るがキリトさんはクラディールの動きを予想していたように≪ソニックリープ≫を発動させる

 

技の威力だけで見たら≪アバランシュ≫の方が確実に上であるし、実際クラディールは勝利を確信したように狂喜の色を顔に浮かべているが、キリトさんはクラディールの扱う両手剣の側面に≪ソニックリープ≫を打ち込んだ

 

凄まじい量の火花と耳をつんざくような金属音を立てて、クラディールの剣が真っ二つに折れ、キリトさんとクラディールはお互いの位置を入れ替えて着地する

 

その後、丁度2人の中間の位置にクラディールの武器の剣先が突き刺さり、直後にその剣先とクラディールの手元に残った下半分が無数のポリゴン片になって消滅した

 

しばらくの間、沈黙が広がったが、キリトさんが立ち上がって剣を左右に切り払うと歓声が沸き上がった

 

誰かが「すげぇ… 今の狙ったのか…?」と言ったのを聞きながら、私達はキリトさんの様子を見る

 

キリトさんは剣を右手に下げたまま、蹲っているクラディールにゆっくりと歩み寄ると、わざと音を立てながら剣を鞘にしまう

 

「武器を変えて仕切りなおすなら付き合うけど… もういいんじゃないかな」

 

クラディールはキリトさんの方を向くことなく、怒りを抑えるようにして全身を震わせていたがやがて「アイ・リザイン」と発した

 

直後に開始と同じ場所に、デュエルの終了とキリトさんが勝ったことを示す文字列がフラッシュすると、再び場が歓声に包まれる

 

クラディールはよろよろと立ち上がると、ギャラリーに向かって八つ当たりするようにして喚く

 

見せもんじゃねぇぞ! 散れ! 散れ!

 

その様子に大人げないと思いつつ、呆れながら見ていると今度はキリトさんの方を向いた

 

「貴様だけは絶対に…絶対に殺すぞ…」

 

この時のクラディールの目にはどこか常軌を逸したものを感じざるを得なく、思わずておさんの陰に隠れるが、アスナはキリトさんの傍らに歩み出ると冷淡な声でクラディールに対して告げる

 

「クラディール [血盟騎士団]副団長として命じます 本日をもって護衛役を解任、司令があるまでギルド本部にて待機 以上」

「な…なんだと…この…!」

 

クラディールはぶつぶつと何かを呟きながら、キリトさん達を見据えた

 

実際、犯罪防止コードに阻まれることを承知の上で突撃することも考えられたので、ておさんは背中から下げている剣の柄に手を掛け、いつでもクラディールを止められるように備えていたが、結局クラディールは何とか自制し、マントの内側から〖転移結晶〗を取り出して、握りつぶさんばかりに握りしめながらとぼとぼと転移門まで歩くと「転移…<グランザム>」と呟いて去っていった

 

クラディールは青い光に包まれて転移するその瞬間まで、キリトさん達に向かって激しい憎悪の視線を向けていた

 

 

青い光が消えた後の広場は、後味が悪い空気に包まれ、ギャラリーの人達もクラディールの毒気に当てられたような顔をしていたが、やがて何事もなかったかのように去っていった

 

最後まで残された私達は立ち尽くしているキリトさん達の様子を確認しようと駆け寄る

 

「お疲れ キリト」

「あ…あぁ…」

 

ておさんはキリトさんに対して気さくに声を掛けたが、そこから会話は続かず無言に包まれたが、アスナがキリトさんから一歩離れ、先ほどの冷たい雰囲気が嘘のような声で囁いた

 

「ごめんなさい…嫌なことに巻き込んじゃって… 特にタコミカは怖かったでしょ…?」

「いやいや… それを言うんだったらアスナの方が格段に恐ろしい思いしたでしょ…」

 

私は咄嗟に首を横に振って、アスナを心配する

 

ハッキリ言って今朝のと1ヵ月間ずっと家の前に張り込まれていたのとでは、天と地ほどの差がある

 

「…お…俺も大丈夫だけどさ…そっちこそ平気なのか?」

 

キリトさんもアスナを心配するように顔をアスナに向けたが、当人は気丈に、だが弱々しい笑みを浮かべた

 

「えぇ… 今のギルドの空気は攻略を最優先にしてメンバーに規律を押し付けた私にも責任はあるし…」

「それは…仕方ないと言うか… むしろアスナが居なかったら攻略の最前線も今よりもっと下だったと思うよ …まぁ攻略組のはぐれものみたいな奴が何言ってんだって話だけど…」

 

そんなアスナに対してキリトさんが纏めれば気にしなくていいと言いたいんだなと思い、私達もキリトさんのあとに続いて口を開く

 

「要は少しは息抜きしないと潰れちゃうよ って言いたいんだと思う」

「俺もたみの言う通りに少しは息抜きしたって誰にも文句言われる筋合いはない…と思うかな…」

 

アスナはそれに対して唖然としたような表情で何回か瞬きを繰り返すと、苦笑いではあるが張りつめていた表情を緩めた

 

「まぁ… 一先ずありがとうと言っておくわ 3人共 じゃぁお言葉に甘えて今日は楽させてもらおうかしら それじゃ男性陣前衛(フォア―ド)よろしく!」

 

そして勢いよく振り返ると迷宮区の方へと向かって歩き始めた

 

「お…おいちょっと待て! 前衛(フォア―ド)は普通交代だろ!」

「明日は私達がやってあげるから! ほら! タコミカ早く!」

「うん!」

 

私はアスナの様子が良くなったことに対して心の底から嬉しく思いながら、先を行く彼女を追いかけ始めた




流石のタコミカもクラディールには悪い印象しかありません

それではまた次回に


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4話:フロアボスとの遭遇

劇場版プログレッシブ 冥き夕闇のスケルッツオ公開延期になってしまいましたね…(´・ω・`)(まぁ仕方ないと言えば仕方ないけど…)

それではどうぞ


流石に攻略組トップクラスと言っても過言ではないキリトさんとアスナがいるので、迷宮区はスムーズに進んでいき、今は最上部近くで【デモニッシュ・サーバント】という、簡単に言えば骸骨の盾持ち剣士を相手にしている

 

骸骨系は打属性が有効なので、私はクイックチェンジで両手斧の〖ルナール・カエルム〗に持ち替え、いつでも行けるように構えながらアスナの対モンスター戦闘を見ていた

 

彼女は【デモニッシュ・サーバント】の繰り出す≪バーチカル・スクエア≫を華麗なステップで避け、わずかに見せた隙を逃さず、アスナは中段に次々と入れてすべて命中させる

 

レイピアの1撃の威力はそこまでだけど、アスナはそれを手数でカバーしている

 

中段に3連撃をヒットさせた後、上向きにガードしていた敵の下半身に素早く切り払い攻撃を往復させ、剣先を斜めに跳ね上げると、純白のエフェクト光を撒き散らしながら上段に2度突きの強攻撃を浴びせた

 

そしてアスナの十八番である≪スター・スプラッシュ≫を一寸の狂いもなく、的確に【デモニッシュ・サーバント】に当ててゆく

 

「キリト君 スイッチ行くよ!」

「りょ…了解!」

 

アスナはキリトさんに対し、スイッチの指示を出すと、単発の強力なスキルを当てる

 

それは盾で防がれるが、そこにすかさずキリトさんが攻撃を入れ、アスナは後方に下がる

 

アスナが十分に距離を取ったのを確認すると、キリトさんは≪バーチカル・スクエア≫を放つ

 

すると4連撃は面白いように敵にヒットしてHPを大きく削った

 

敵も黙って攻撃を受け続けるというワケがなく、キリトさんに攻撃するがキリトさんの持つ武器で弾かれる

 

そして斜め切り下ろしの強攻撃から、手首を返し同じ軌道で切り上げる

 

次は上段から来ると上段に盾を構えていた敵の思惑を外すように、キリトさんは左肩口からタックルをかまし、敵の体勢を大きく崩して右水平切りを放つ

 

間髪入れずに今度は右の肩側から再びタックルをした

 

これは≪メテオブレイク≫という体術スキルの応用技である

 

 

ここまでの攻撃で敵は既に瀕死状態になっており、キリトさんは止めとして7連撃の最後の上段水平切りを繰り出した

 

エフェクト光の円弧を描きながら、剣は【デモニッシュ・サーバント】の首に吸い込まれて行き、首を斬り飛ばした

 

頭蓋骨が宙を舞うのと同時に、残された体の方は糸が切れたように崩れ落ち、無数のポリゴン片へと変わった

 

この戦闘は見ているだけだったけど、立ち回り方などは結構勉強になる

 

アスナが剣を鞘に納めたキリトさんを労いに行ったので、私達もすかさず労いに行った

 

 

~~~~~~

 

 

戦闘は4回ぐらいあったが、全く問題なく進んでいる

 

辺りを見回すとオブジェクトや雰囲気も重くなってきていたので、マップを開き、見てみると空白部分が残りわずかになっていた

 

「大分奥まで進んできましたけど…そろそろですかね?」

「多分な」

 

私の呟きにキリトさんが答えた矢先、突き当りに灰青色の巨大な2枚扉が見えてきた

 

その扉の近くまで行き見上げてみると、近くの円柱と同じような怪物のレリーフがしっかりと刻まれており、何とも言えないような威圧感がある

 

私達は一旦顔を見合わせてから改めて扉を見る

 

「ねぇ…これって…」

「そうだろうな…」

 

アスナはキリトさんのコートの袖を掴みながら言った

 

「どうする…? 一応覗いとく?」

「…ボスモンスターはその守護する部屋からは出ないから、扉を開けて少し中の様子を覗くぐらいだったら大丈夫…のはず…」

 

キリトさん…そこは言い切って…

 

私は思わず不安になってキリトさんの方を見る

 

「一応全員〖転移結晶〗をいつでも使えるように準備しといてくれ」

「了解」

 

キリトさんの言葉にておさんが頷いて、〖転移結晶〗を取り出したので私も腰につけている複数個のポーチの中で結晶類を入れているポーチから〖転移結晶〗を取り出す

 

全員が〖転移結晶〗を持ったのを確認したキリトさんは頷いて、扉に手を掛けた

 

「いいな… 開けるぞ…」

 

キリトさんが扉を少し押すと、大扉はその見た目に反してスムーズに動いていき、完全に開き切ったところで〔ズシン〕という音を立てて止まる

 

肝心な扉の先は暗闇で、いくら凝視してもその闇の先は見ることが出来ない

 

しばらくボス部屋らしき暗い部屋を見ていると突如として、入口に近い壁にある2つの燭台に青白い炎が灯る

 

突然のことだったので思わずビックリし再びボス部屋に視線を移すと、先ほど灯った燭台より少し離れた1対の燭台に青白い炎が灯る

 

それが繰り返されていき、あっという間にボス部屋全体が明るくなり、今まで姿が見えなかったフロアボスの姿がはっきりと確認できるようになった

 

見上げると、山羊のような頭に深い青色の肌、それから盛り上がった筋肉、下半身は恐らく動物のものでおまけにしっぽが蛇でその姿はまるで悪魔そのものである

 

悪魔型の敵はゲームではよくあるけどこのSAOでは初めてで、実際にこうやって遭遇してみると何か本能的な恐怖が駆り立てられるような気がする

 

その恐怖を押さえてボスを見てみると、【ザ・グリームアイズ】と表示された

 

直訳すると輝く目‥‥かな?

 

【ザ・グリームアイズ】はその青く輝く目で私達を確認すると、いきなり部屋全体に轟く様な雄たけびを上げ、巨大な剣を右手に持って真っ直ぐこちらにものすごい勢いで走ってきた

 

うわあぁぁぁぁ!!

いやあぁぁぁぁ!!

 

キリトさんとアスナは同時に大声を上げると、こちらも物凄い勢いで走っていき、思わず隣を見たときにはておさんもいなくて完全に私は出遅れた形になってしまった

 

「ま…まっ ぶっ!」

 

私もすかさず走り出そうとしたが途中で転んでしまう

 

後ろを振り返るともうそこまで【ザ・グリームアイズ】が迫っていたので、すぐに起き上がり再び走り始める

 

待ってよ! みんなぁ…!

 

そして私を置いて行った彼らを追いかけ始めた

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

近くの安全地帯にやっとの思いで辿り着くと、膝に手をついて息を整える

 

「はぁ…はぁ… ケホッケホッ…」

 

そして息を整えたところで3人に対して怒る

 

「ちょっと3人共! 私を置いて行かないで下さいよ!」

「いや…だってキリトが逃げたから…」

「お前だって逃げてただろ!」

「ふふふっ…」

 

それにておさんは慌ててキリトさんに責任転嫁すると、キリトさんはておさんに対して怒り、その様子を見ているとなんだかおかしくなってきて、思わず笑い始めてしまう

 

そしてひとしきり笑い終えると、ておさんの隣に座り、真剣な表情で呟くようにして言った

 

「…今回のフロアボスは絶対苦戦しますよね…」

 

私の呟きを聞いた3人も表情を引き締めると私の言葉に続けるようにして、【ザ・グリームアイズ】との戦闘について考え始める

 

「そうだな… パッと見では武装はあの大型剣1つだけだけど特殊攻撃はあるだろうな」

「前衛にタンク職を集めてどんどんスイッチしていくしかないね」

「最低でも盾装備の奴が10人ぐらいは欲しいな… でも当面はパターンを割り出してその対策を立てていくの繰り返しになるかな」

「盾装備…ねぇ?」

 

ておさんの言葉に反応したアスナが、意味ありげにキリトさんに視線を向ける

 

「なんだよ…?」

「キリト君何か隠してるでしょ」

「いきなり何言って…」

「だって普通、片手剣の最大のメリットって盾を持てることじゃない? ひま猫君だってそうしてるのに…キリト君が盾持ってるのは今まで見たことがない 私の場合はレイピアのスピードが落ちるからだし…」

 

アスナがキリトさんが盾を持っていないことに対して不審に思い、訝しむ視線を向けながらキリトさんに訊ねるとキリトさんは慌て始めた

 

「いやいや… それを言ったらテオだって盾持ってないぞ?」

「テオ君が盾を持ってないのは前々からのスタイルだって前に本人が言ってたから…でもキリト君はそうじゃないでしょ? …怪しいなぁ…」

 

流石にこれ以上は看過できないので、アスナに対して注意する

 

「アスナ それ以上はマナー違反だよ」

「…それもそうね」

 

すると本人はあっさりと引いたので、私は思わずきょとんとしてしまう

 

「さてと 遅くなっちゃったけどお昼にしましょうか」

 

そしてアスナは話題を切り替えるようにして手を叩き、お昼にしようと提案した

 

「て…手作りですか…?」

「そうよ ちゃんと手袋を外してから食べてね」

「お…おう!」

 

アスナはメニューを操作すると白革の手袋を外して、小ぶりなバスケットを取り出し、ふたを開けると1つの紙包みを手袋を外したキリトさんに渡した

 

「ほら タコミカとテオ君も」

「ありがと~」

 

アスナは再びバスケットから2つの紙包みを取り出すと、私に渡したのでそのうちの1つをておさんに渡す

 

私はアームカバーを外し、包みを開けてみると焼いた肉や野菜が挟まれたサンドイッチが中にあった

 

手を合わせると早速口にした

 

「え…? これって…」

 

その味付けはまさしく醤油マヨだったので懐かしくなり、思わず声に出てしまう(普通にサンドイッチ自体の味も美味しい)

 

「旨いな…」

「ホント旨い…」

 

キリトさんとておさんも素直な感想を口にして食べ進めるので、私も同じく食べ進める

 

 

そして最後の1口を食べ終えると一息ついた

 

「ふ~… ごちそうさまでした」

「美味しかった?」

「うん とっても」

「気になったんだけどさ あの味どうやって…?」

 

満足している私の様子を見てアスナが味の感想を聞いてきたので、私は素直に答える

 

それに続いてキリトさんがやっぱり醤油マヨをどうやって再現したのかが気になったようで、アスナに対して訊ねた

 

するとアスナは大量のウィンドウを開いて見せてきた その中には私も見たことがある食材の名前もあった

 

「すご…」

「1年の修業と研究の成果よ アインクラッドで手に入る約100種類の調味料が味覚再生エンジンに与えるパラメータを全部解析してこれを作ったの」

 

そしてバスケットから1つの小瓶を取り出す

 

「これが〖グログアの種〗と〖シュブルの葉〗と〖カリム水〗」

 

その中身を私達の差し出した手に垂らすと、それを口にする

 

「マヨネーズだ…」

 

するとマヨネーズの味がした

 

「それでこっちが〖アビルパ豆〗と〖サグの葉〗と〖ウーラフィッシュの骨〗」

 

アスナは取り出した小瓶をしまい、代わりに別の液体が入った小瓶を取り出すと、先ほど同様私達の手に垂らす

 

それを飲むと醤油の味がした!

 

「…! 醤油だ!」

「さっきのサンドイッチのソースはこれで作ったのよ」

「…凄い…完璧だ! これ売り出したらすっごく儲かるぞ!」

 

私ですら照り焼きソースを再現しようとしてそれに近いもの止まりだったのに、再現となればこればっかりはキリトさんの言う通り、爆発的ヒットになるに違いない

 

「そ…そうかな…」

 

アスナもまんざらではないようで照れたような笑みを浮かべるが、キリトさんはハッとしてアスナに向き直る

 

「…いや やっぱり駄目だ」

「どうして…?」

「俺の分がなくなったら困る」

 

それに対して私達はズッコケそうになるが何とか持ちこたえる

 

「…意地汚いなぁ… もう… 気が向いたらまた作ってきてあげるわよ…

 

なんかいい感じじゃない? 2人

 

私達はここが安全地帯とはいえ、危険なところだということをすっかり忘れ、2人のことを温かく見守っていると下層側の入口からプレイヤーの一団が入ってくる足音や鎧の音が聞こえてきた




オリジナル武器紹介

〖ルナール・カエルム〗
鈍い黄色の斧刃を持っていて三日月のような形のヘッドを持つ両手斧


オリキャラ勢のキリトとアスナの大雑把な印象

タコミカ

キリト:強い 鈍感 β仲間
アスナ:親友 憧れ

テオロング

キリト:相棒 いじりがいがある
アスナ:たみの親友 一目置いている

ポテト

キリト:期待 大切な友人
アスナ:一目置いている 大切な友人

ひま猫

キリト:友人 β仲間
アスナ:美しい

メラオリン

キリト:弟的存在
アスナ:攻略組をまとめる存在

きるやん

キリト:強い 常連客
アスナ:言葉に表せない程の尊敬

意識

キリト:悪友 いじりがいがある
アスナ:純粋無垢

朱猫

キリト:憧れ 友人 どこか落ち着く
アスナ:可愛い

リオン

キリト:英雄の卵 護るべき存在
アスナ:別角度の意見

キャラメレ

キリト:いじりがいがある
アスナ:ファン

たまぶくろ

キリト:どこか抜けているがやる時はやる男
アスナ:リズの親友 可愛い

じんじん

キリト:いじりがいがある友人
アスナ:ファン

たらこ

キリト:自由人 強い
アスナ:学級委員長

プレッシュ

キリト:友人 馬が合う
アスナ:ファン

廻道

キリト:クラインの友人 強い
アスナ:神々しい

テツロン

キリト:近所の悪ガキ いとこ的存在
アスナ:いいところのお嬢様


それではまた次回に


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5話:"軍"との遭遇

ここ最近時間が過ぎるのがとても速い気がする…

それではどうぞ


思わずそちらの方を見てみると、良く見知ったサムライ集団と、私達のギルドのリーダーとそのメンバーのみんな(めらさん、意識さん、朱猫さん、じんじんさん、廻道さん)だった

 

「おぉ! キリトにテオ! しばらくだな!」

「よっ! クライン」

「まだ生きてたか クライン」

 

サムライ集団改め、[風林火山]のリーダーであるクラインさんがキリトさんとておさんの姿を確認するや否や、声を掛けるとておさんは気さくに返すがキリトさんは悪態をつきながら返す

 

「テオはともかくとして相変わらず愛想のねぇ奴だな… 今日は珍しくテオやタコミカさん以外にも連れがいんのか…」

 

そして私達に視線を向けると固まった

 

「あーっと… ボス戦で顔合わせてると思うけどこの悪趣味なバンダナをしてるのがギルド[風林火山]のリーダーのクラインで、こっちが…まぁ何度も顔合わせてるから紹介する意味はないけど[フリッツ・フリット]のリーダーのポテト それでこっちが[血盟騎士団]のアスナ」

 

それに対してアスナはちょこんと頭を下げ、ポテトさんもそれに倣って頭を下げたがクラインさんはいまだに固まったままであったので、キリトさんはクラインさんの目の前で手を動かす

 

「おい なんとか言えって ラグってんのか?」

 

キリトさんが肘でクラインさんの脇腹を突くとようやく動き、凄い勢いで最敬礼気味に頭を下げる

 

「こ、こんにちは! くくクライン 24歳独身恋人募集ちゅ…」

 

どさくさに紛れて妙なことを口走ったクラインさんに対して、キリトさんは強めに腹パンした

 

 

すると後ろにいたクラインさんのギルドのメンバー+じんじんさんが全員駆け寄ってきて、我先にと自己紹介を始めた為、ポテトさん達は苦笑いしていた

 

キリトさんはそんな彼らを体全体で押さえながら振り返る

 

「ま…まぁ悪い奴らじゃないからさ リーダーの顔はともかくとして」

 

そう言ったキリトさんの足をクラインさんが思いっきり踏みつける

 

「へへっ お返しだ」

「おまっ…」

 

2人のやり取りを見ていたアスナが思わずと言った感じで、笑い始めたので私もつられて笑ってしまう

 

それに2人はいったん中断するとこちらを見て、キリトさんの腕を掴んで引き寄せるとさっきの少し籠ったような声でキリトさんに聞いた

 

「どっ…どういうことだよ キリト!?」

 

クラインさんの質問に対してキリトさんは回答に戸惑った様子を見せたが、キリトさんの代わりにアスナがキリトさんの隣まで行くと良く通る声で発言した

 

「こんにちは しばらくこの人たちと組むことになったのでよろしく」

 

それを聞いたクラインさん達が表情を落胆と憤怒の間でころころと変え、やがてクラインさんがさっき十分の視線をキリトさんに向ける

 

「キリト てんめぇ…!」

 

そしてキリトさんに詰め寄った時、やたらと規則正しい足音が聞こえてきて、朱猫さんが突如として声を上げた

 

「皆! "軍"だ!」

 

その声にハッとなって入り口を凝視すると1人の重装備のプレイヤーを先頭として、規則正しく並んでいるプレイヤーの集団が安全地帯に入ってきた

 

クラインさんが仲間の人達に指示を出して下がらせ、ポテトさんもそれに続いて意識さん達を後ろに下がらせる

 

"軍"の部隊のリーダーと思しき男性はそこまで疲れているようには見えないが、他の人達はヘルメット越しにでも疲れているのが目に見えてわかる

 

そして私達とはちょうど反対側の端に制止すると、リーダーと思しき男性は「休め」と指示を出した

 

途端に後ろにいた人たちは倒れるようにして盛大な音を立てながら座り込んだが、リーダーと思しき男性はそんな彼らに目もくれず真っ直ぐこちらに向かってきた

 

よくよく見てみるとリーダーと思しき男性は他の人達とは異なって、装備が若干豪華で胸部分には浮遊城を模したと思しき紋章が描かれている

 

男性は先頭にいたキリトさんの前で立ち止まると、口を開いた

 

「私はアインクラッド解放隊所属 コーバッツ中佐だ」

「俺はキリト ソロだ」

 

キリトさんが名乗ると軽く頷き、横柄な態度で訊いてくる

 

「君たちは既にこの先を攻略しているのか?」

「…一応 ボス部屋手前まではマッピングしてある」

「ふむ ではそのデータを提供して貰いたい」

 

当然と言わんばかりに発せられた言葉に対し、私は憤りを覚え始めてきた もしかしたら高値が付くであろう物をいきなり寄越せと言われれば、特別な場合を除いて誰でも怒ると思う

 

現にクラインさんは怒りを露わにしており、ポテトさんも少し不機嫌な顔をしている

 

「て…提供しろだと!? てめぇマッピングの苦労が解って言ってんのか!?」

「流石にちょっと図々しすぎません…?」

 

2人の言葉に対しコーバッツは大声を張り上げる

 

「我々は諸君ら一般プレイヤーを解放するために戦っているのだ!」

 

唯我独尊と言った感じでなおも続ける

 

「故に諸君らが協力するのは当然の義務である!」

 

ここで完全に"軍"に対する印象が完全に変わったと思う

 

「そんなこと誰も頼んでないし そもそも貴方達は見たところここに来るには弱すぎる」

 

私がそう言うとコーバッツは明らかに憤った声色で私に向かって大声を発した

 

「貴様! 我々を愚弄するつもりか!? 次の発言次第ではただでは済まさんぞ!」

「止せ! タコミカ! 相手にするな!」

 

流石に不味いと思ったのかキリトさんが止めに入るようにして前に出ると、ウィンドウを操作し始めた

 

「どうせ街に戻ったら公開するつもりだったんだ 構わないさ」

「おいおい…キリトよ… それは人が良すぎるぜ」

「マップデータで商売するつもりは無いよ」

 

そしてマップデータを取り出すとコーバッツに手渡すと「協力感謝する」とは言ったが、感謝する気など微塵も感じない抑揚で言い放ち、後ろを向いた

 

そんな彼に向かって、ておさんが冷静に声を掛ける

 

「どうするつもりかは知らないが、ボスに挑む気ならやめといたほうが身のためだぞ」

 

それに対してコーバッツはわずかに振り向く

 

「…それは私が判断する」

「さっきちょっとボス部屋覗いてきたけど生半可な人数でどうにかなる相手じゃない! 仲間もかなり消耗してるじゃないか!」

「…私の部下はこの程度で音を上げるような軟弱者ではない!」

 

キリトさんの警告にコーバッツは部下という部分を強調しながら、苛立ったように言うが肝心の部下と呼ばれた人たちはそれに同意していない

 

「貴様等! 休憩は終わりだ! さっさと立て!」

 

コーバッツの大声に"軍"の人達はのろのろと立ち上がり、来たとき同様2列縦隊に整列し、コーバッツがその先頭に立つと片手を上げてサッと下ろす

 

すると武器を一斉に構え、行進を始めた

 

コーバッツ()()()"軍"の人達の事を心配しながら、彼らが向かった上層部へと続く出口を見ているとクラインさんが気遣わしそうな声を出した

 

「…大丈夫なのかよ あの連中…」

「ああは言いましたけど心配ですね…」

 

ポテトさんも上層部へと続く出口を見ながら呟くようにして言う

 

「いくら何でもぶっつけ本番で挑んだりはしないとは思うけど…」

「なんかあのコーバッツってやつ危なっかしいからね…」

 

アスナと朱猫さんも心配そうに彼らの向かった方を見る

 

「…一応様子だけでも見に行くか…?」

 

キリトさんがそう言うとクラインさんのギルドのメンバーさん達とめらさん、廻道さんも相次いで肯定したのでキリトさんは「どっちがお人好しなのやら…」と苦笑いしていた

 

意識さんとじんじんさんはため息をつきながらも、手早くメニューを確認して歩き始めたので私もておさんの隣まで向かうと、上層部へと続く出口に向かって歩き始めた

 

少し歩き、振り向くとキリトさんがクラインさんのバンダナの尻尾を思いっきり引っ張っているのが見えたので何事かと思い、思わずておさんのコートの袖を引っ張る

 

「何を言ってるんだ! お前は!」

「だ、だってよぉ…」

 

クラインさんは首を傾げ、顎の無精ひげを擦りながらもどこか嬉しそうに呟いた

 

「おめぇがいつも組んでるテオや意識、タコミカさんや朱猫ちゃん以外とパーティを組むなんて 美人の色香に惑ったとしても大した進歩だからよぉ…」

「ま…惑ってない!」

 

キリトさんはクラインさんに対し、そう言い返したものの私達が思わずニヤニヤしているのを見たのかそっぽを向いた

 

止めと言わんばかりにアスナが「はい 任されました」と言ったので、キリトさんはずかずかとブーツの底を鳴らしながら安全地帯を後にした




今回は少し短めですけどキリがいいのでここまでにしておきます

この小説では案外ボッチじゃないキリト君()

次回はいよいよあの回です

それではまた次回に


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6話:"青眼の悪魔"戦

今回は【ザ・グリームアイズ】戦です!

それではどうぞ


迷宮区の最上階で【リザードマンロード】の群れと接敵した私達は手こずりながらも、何とか交戦していた

 

安全圏を出てから約30分経つが、"軍"のパーティに追いつくことはなかった

 

「この先ってボス部屋だけなんだろ? だったらアイテムでもう帰っちまったとかじゃね?」

「だといいですけど…ねっ!」

 

クラインさんが冗談交じりにそう言って、ポテトさんは【リザードマンロード】の攻撃を弾きながらクラインさんの言ったことに同意した

 

ぶっちゃけそうじゃないということは薄々解っている為、内心はかなり焦りながら交戦していると…

 

うわあぁぁぁぁぁ…!

 

突如として誰かの悲鳴が聞こえてきた

 

「今のって…!」

「野郎…! やりやがったな!」

 

朱猫さんと意識さん、キリトさんとアスナは思わず顔を見合わせると、朱猫さんは純粋に驚き、意識さんはコーバッツに対して毒づいていた

 

しかし4人共何かを迷っている様子だったので、私は声を出した

 

「朱猫さん! 意識さん! キリトさん! アスナ! 行って! 後で必ず追いつくから!」

「解った じゃぁ先行くね!」

 

そして朱猫さん達は敏捷パラメータをフルに生かして、ボス部屋に向かって駆け出していった

 

残された私達はボス部屋に向かう為、【リザードマンロード】を大急ぎで狩ることにした

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

SIDE:朱猫

 

 

ボス部屋に続くであろう大扉は既に大きく開かれており、内部からはボスの咆哮や金属音、それから悲鳴が聞こえてくる

 

既にキリト達を大きく引き離しているが更にスピードを上げ、ボス部屋の前で急ブレーキをかける

 

ブーツの底から物凄い火花を出しながらボス部屋の入口ぎりぎりで止まると、そのままボス部屋の中を覗き込むようにして半身を乗り入れた

 

「ねぇ! だいじょ…!」

 

扉の内部は――――地獄絵図と言っても過言ではなかった

 

床一面に青い炎が吹き上げており、青い肌の山羊頭の巨体…【ザ・グリームアイズ】がこちらを背にして屹立している

 

まだHPバーは3割も削られておらず、部屋の奥では"軍"の人達が逃げまどっている

 

私がこうして見ている間にもHPバーが残り僅かの人が1人いたので咄嗟に大声を出す

 

「何してるの! 早く〖転移結晶〗か〖回廊結晶〗、それが無かったら〖回復結晶〗使って!」

 

私の声を聞いた内の1人がこちらに向けて叫ぶ

 

「さっきからやってるけど駄目なんだ! どれも使えない!」

「嘘…」

 

彼の言う通りならこのボス部屋は結晶無効化空間ということになる…今までそんな仕掛けボス部屋にはなかったのに…!

 

私が考えている間に意識が到着した

 

「状況はどうだ!?」

 

私は首を左右に振ると状況は芳しくないことを説明する

 

「それが…このボス部屋結晶無効化空間らしくて…!」

「まじかよ…!」

 

そして再びボス部屋を確認してみると、先ほどいたHPが残りわずかな人がいなくなっていた

 

「…っ!」

 

思わず目を逸らすとがそれで状況が良くなることは絶対にないので、何とか持ちこたえると思考を巡らせて何かないかと考える

 

そこから少し間を開けて、キリトとアスナがボス部屋に辿り着いた

 

「朱猫! 意識! 状況は!?」

「俺もさっき朱猫から聞いたところだけど、どうやら結晶無効化空間らしい…それに咄嗟に数えてみたがさっきより2人足りない」

「なっ…!」

「何てこと…!」

 

2人に対して意識が説明すると2人は思わず息を呑んだ

 

私達は全員スピード型なのでむやみやたらに助けに入れないどころか下手すれば、全滅の可能性すらある

 

そう考えていると1人のプレイヤーが剣を高く掲げ、怒号を上げた

 

「我々解放軍に撤退の2文字は在り得ない! 戦え! 戦うんだ!」

「野郎…!」

 

コーバッツの声に意識は明らかに怒りの色を帯びた声を出していた

 

その時、ようやくたみちゃん達が追いついてきた

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「おい! どうなってんだ!」

「状況は!?」

「あのバカがやりやがった 脱出させようにも連中がいるのは入り口とは真逆、おまけにボス部屋は結晶無効化空間 ハッキリ言って奴らを脱出させるのは諦めたほうが良い」

 

クラインさんとポテトさんの質問に意識さんがあくまでも冷静に、尚且つ手短に説明すると、クラインさんの顔が歪み、ポテトさんの表情も暗くなる

 

「意識の言うことは一理あるけどよぉ… 何とかできねぇのか?」

「確かに意識さんの意見は最もですけど… だからって見捨てるのは…」

 

私達が躊躇っている間にもコーバッツの声が響いてきた

 

「全員…突撃!」

 

床に倒れている2人を除く8人を4人ずつの横列に並べて、コーバッツがその中心に立ち突進を始めた

 

止せ!

 

ておさんが叫ぶが届かず、【ザ・グリームアイズ】は地響きを伴う雄たけびと共に、青白いブレスを巻き散らす

 

青白いブレスをもろに受けた"軍"の人達のHPバーを咄嗟に見るがブレス自体のダメージはそこまで高くはないらしい、しかし勢いが激しいらしく、突撃の勢いはブレス攻撃で緩む

 

そこにすかさず巨剣を突き立て、1人がすくい上げるようにして切り飛ばすと、その人は悪魔の頭上を越えて私達の目の前の床に落下してきた

 

「だ…大丈夫ですか! しっかりしてください!」

 

廻道さんが声を掛けるが、既にその人…コーバッツのHPバーは消滅しており、自身に何が起こったか理解できないといった表情でゆっくりと口を動かした

 

―――有り得ない

 

そう言った直後、コーバッツは不快な効果音と共に無数のポリゴン片になって消滅した

 

「そんな…っ!」

 

あっけない消滅に対して、アスナが短い悲鳴を上げる

 

リーダーを失った"軍"の人達はたちまち瓦解し、恐怖に駆られたのか喚き声を上げながら逃げ惑う

 

既に全員のHPが半分以下になっており、このままだと全滅するのも時間の問題だ

 

私はどうにかできないかと必死に考えるが、その間にもまた1人悪魔の魔の手にかかろうとしていた

 

「駄目…駄目よ…もう…」

 

その時、絞り出すような声が聞こえてきた為、咄嗟に彼女の腕を掴もうとしたが一瞬遅く、絶叫と共に武器を抜刀し、駆け出した

 

ダメェェェェェェ!!

 

そこで私はアスナに向け、咄嗟に叫ぶ

 

「「アスナ!」」

 

私が叫んだのとほぼ同時にキリトさんも叫ぶと、【ザ・グリームアイズ】に向けて駆け出した

 

「たみ! キリト!」

「たみちゃん!」

「たみさん! 皆さん! 覚悟を決めて行きますよ!」

「もうどうにでもなりやがれ!」

 

ておさんと朱猫さんも続いてボス部屋へと突撃し、ポテトさん、じんじんさん、めらさん、廻道さんとクラインさん達もそれに付随する

 

「くっそ! こうなったら行ってやるよ!」

 

残された意識さんも、やむなしと言った感じでボス部屋に飛び込んだ

 

 

アスナの捨て身の攻撃は不意を突く形でヒットしたが、HPはほとんど減っていない

 

【ザ・グリームアイズ】は怒りの叫びと共に振り向くと、猛烈な勢いでアスナに向かって大剣を振り下ろした

 

アスナは咄嗟にステップで回避したものの、完全には回避しきれず攻撃の余波を受けて倒れこんでしまう

 

そこに容赦なく悪魔の攻撃が降り注ぐ

 

「アスナ!」

 

その直前にキリトさんが振り下ろされる大剣に対して、攻撃を当てて攻撃軌道を逸らし、アスナからわずかに離れた地面に大きな衝撃と共に、地面を抉るようにして突き刺さった

 

「下がれ!」

 

キリトさんがそう叫ぶと、アスナは素早い動きで後退し、キリトさんが代わりに【ザ・グリームアイズ】の攻撃を剣で受ける

 

そこからは私達が入る隙すらない、激しい連撃をキリトさんはパリィやステップなどで躱すが、ボスの使う攻撃自体が私達の扱う両手大剣より少しカスタマイズされている為、時折掠める刃によってじわじわとキリトさんのHPが減って行く

 

このままだとジリ貧なので思わず、"軍"の人達を退避させているクラインさん達とポテトさん達にあとどれぐらいで全員退避できるのかを訊ねる

 

「あとどれぐらいかかりそうですか!?」

「すまねぇ! もうしばらくかかりそうだ!」

 

その時、敵の1撃がキリトさんに入り、HPバーがぐっと減少する

 

キリトさんの装備は私から見ても、じんじんさんの様な(タンク)仕様ではないのでこれ以上は耐えられない、かといってじんじんさんにスイッチしようにも今は"軍"の人達を退避中なので難しい

 

そう思ったとき、キリトさんがこちらに向けて叫んだ

 

「テオ! タコミカ! 意識! 朱猫! 頼む! 10秒でいいから時間を稼いでくれ!」

「1分だ! それぐらい稼ぐ! 何か策があんだろ!? それだけあれば十分にお前も準備できるだろ!」

「解った! じゃぁ俺が合図したら俺に代わってくれ!」

 

それに対し、意識さんが1分稼ぐと言ったのでキリトさんは頷くと右手の剣で悪魔の攻撃を弾き、無理やりブレイクポイントを作るとそのまま床に転がるようにして後ろに下がった

 

間髪入れず意識さんが飛び込み、短剣で応戦する

 

そして入れ替わるような形で朱猫さん、ておさんとボスに飛び込んでいき、私も両手斧でボスと対峙する

 

「いいぞ!」

 

そして被弾しながらも何度か打ち合ったところでキリトさんから合図があったので、無言で頷き攻撃を躱すと【ザ・グリームアイズ】の武器の側面に思いっ切り攻撃を当てて、ブレイクポイントを作る

 

「せいっ!」

 

物凄い火花が散り、私と悪魔は互いにノックバックして、間合いが出来たところですかさずキリトさんは叫び、前に出た

 

「スイッチ!」

 

硬直から回復した悪魔は大剣を大きく振りかぶるが、キリトさんは右手の剣ではじき返し、間髪入れずに左手を背中に回し、新しい剣の柄を握りそのままボスの胴体に1撃与える

 

ボスのHPバーが目に見えて減少すると、悪魔は憤怒の叫びを洩らしながら再び上段からの切り下ろし攻撃を行ってきたが、キリトさんは()()()()()2()()()()を交差させて攻撃を受け止めると、押し返す

 

悪魔の体勢が崩れたところにキリトさんはラッシュを開始した

 

今まで見たことがないソードスキルを放ちながら、キリトさんはとてつもないスピードで剣を振るい続ける

 

「なんだ あのスキルは…!」

 

途中何回か攻撃が阻まれるが、お構いなしにキリトさんはただひたすらに【ザ・グリームアイズ】に対し、徐々に剣をふるう速度を上げながら攻撃を放ち続ける

 

 

「…はぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 

そしてキリトさんが雄たけびを上げながら突き攻撃すると同時に、悪魔も咆哮を上げながらキリトさんに向かって大剣で攻撃をしようとしていた

 

しかし、その攻撃はキリトさんに当たることはなく、逆にキリトさんの攻撃が【ザ・グリームアイズ】の胸を貫いていた

 

キリトさんのその攻撃がとどめとなったのか【ザ・グリームアイズ】は全身を硬直させ、膨大な青いポリゴンの欠片となって爆散した

 

部屋中にきらきらと輝く光の粒が降り注ぐ中、部屋の中央に Congratulations! という文字が表示される

 

その中でキリトさんはただ茫然と立っていたが、突如として床に声もなく倒れた

 

「キリト君!?」

 

咄嗟にアスナが叫び、キリトさんに駆け寄った




かなり難しかったけど何とか書き終えた…

それではまた次回に


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7話:エクストラスキル『二刀流』

今回はちょっと短めかな…?

それではどうぞ


「キリト君! キリト君ってば!」

 

アスナが必死に呼びかけると、顔をしかめながらも上体を起こした

 

キリトさんが倒れていたのはほんの数秒だけど、キリトさんの様子を見て私も安堵する

 

「いてて…」

 

未だに青い光の残滓が待っている中、キリトさんは辺りを見回し、キリトさんの近くに座り込んだアスナに訊ねた

 

「どれぐらい俺、気絶してた…?」

 

アスナは今にも泣きだしそうな表情で答える

 

「ほんの数秒よ…バカッ…! 無茶して…!」

 

叫ぶと同時にキリトさんの首に凄い勢いでしがみついた

 

「…あんまり締め付けると俺のHPがなくなるぞ」

 

キリトさんは場を和ませようとしたんだろうけど、こちらがどれだけ心配したことか…

 

アスナがそんな私の怒りを代弁するように、真剣に怒った表情でキリトさんの口に〖ハイ・ポーション〗を突っ込む

 

そしてキリトさんがすべて飲み終えたのを確認すると、キリトさんの肩に額を当てた

 

そんなキリトさんとアスナに対して、ポテトさんは近くまで向かうと遠慮がちな声で話しかけた

 

「…現時点で残ってる"軍"の人達の回復は済ませましたけど…」

 

ポテトさんはそこから先を言うのを躊躇っていると、クラインさんがキリトさん達に歩み寄ってきて、続けるようにして口を開いた

 

「…コーバッツとあと2人が死んだ」

 

キリトさんはその報告に少し俯く

 

「…そうか ボス戦で犠牲が出たのは67層以来だな…」

「こんなのが攻略って言えるかよ… あのバカ野郎が… 死んじまったら何にもなんねぇだろうがよ…!」

 

クラインさんの言う通り、少なくとも今回のボス戦は攻略とは言えない…

 

少し陰鬱な空気が広がったが、クラインさんは首を横に振って大きく息を吐くと、気持ちを切り替えるようにしてキリトさんに訊ねた

 

「そりゃあそうと おめぇさっきの何だよ!?」

「…言わなきゃダメか…?」

「あたりめぇだ! 今まで見たことねぇぞあんなの!」

 

確かにこの世界で剣が2本使えるようになるというスキルは今まで見たことがない

 

クラインさんの質問でほぼ全員がキリトさんが話すのを待っていると、キリトさんは意を決したように口を開いた

 

「…エクストラスキルだよ 『二刀流』」

 

キリトさんの言葉に「おぉ…」と言うどよめきが流れ、クラインさんが興味を持ったように急き込むように再び訊ねる

 

「しゅ…出現条件は!?」

「解ってたらもう公開してるよ」

 

キリトさんが首を横に振ると、クラインさんは「まぁ そうだろうな…」と唸る

 

ほとんどのエクストラスキルは最低でも10人以上は取得しており、取得方法も知られているが、ヒースクリフさんの持つ『神聖剣』と先ほどの『二刀流』だけは、他に取得した人が出たという話は聞いていない

 

「ったく…水くせぇなぁキリト そんなすげぇ裏ワザ黙ってるなんてよ」

「スキルの出現方法が判ってたら隠したりしなかったさ でも…さっぱり心当たりすらないんだ」

 

ぼやくクラインさんに対してキリトさんは肩をすくめると、指で頬を掻きながら、ぼそぼそと続ける

 

「それに…こんなスキル持ってるって知られたらって思ってな…」

「ネットゲーマーは嫉妬深いからなぁ… 俺は人間ができてるからともかくとして、そりゃあ妬み嫉みはあるだろうなあ…」

「自分で言いますかね…それ まぁ間違ってはいないですけど…」

 

ポテトさんの言う通り、クラインさんは人ができている

 

女性に対しての部分を除けば本当に信頼できる大人の1人だと思う

 

 

私がクラインさんをぼんやりと眺めながらそう思っていると「それに…」と呟き、キリトさんにしっかりと抱き着いたままのアスナを見やり、にやにやと笑いながら言う

 

「ま 苦労も修行の内だ 頑張り給え若者よ」

「…勝手なことを…」

 

そして腰をかがめ、肩をポンと叩くと続いて"軍"の人達の方へと向かって行った

 

「お前たち 本部までは戻れるか?」

 

クラインさんの言葉にまだ10代と思わしき男性は無言で頷く

 

「よし もう既に廻道がある程度伝えてると思うけど 今一度お前たちの口から今日のことをしっかりと上に伝えてくれ そしてもう二度とこんな無謀な真似をしないようにな」

「はい …あ えぇっと… その…今日は有難うございました」

「礼ならあいつらに言ってくれ」

 

クラインさんがキリトさんと私達に向けて親指を振ると、"軍"の人達はよろよろとではあるが立ち上がり、まずは座り込んだままのキリトさんとアスナに向けて深々と頭を下げ、次いで私達に向けてお辞儀をした

 

そしてボス部屋を後にして回廊に出たところで、次々と〖転移結晶〗を使ってテレポートしていった

 

青い光が収まったところでクラインさんは両手を腰に当てた

 

「俺達はこれからこのまま75層の転移門をアクティベートしに行くけどお前はどうするんだ? 今日の立役者だしお前がやるか?」

「いや 任せるよ 俺はもうへとへとだ」

「そうか …気をつけて帰れよ」

 

クラインさんは頷いて、お仲間さん達に合図を出して上層へと続く大扉の方へと歩いて行ったので、私達もクラインさん達の後に続くように上層へと続く大扉の方へと歩き始めた

 

大扉の前でクラインさんは立ち止まると、キリトさんに背を向けたまま話し始めた

 

「その… キリトよ おめぇがどんな理由でボス部屋に飛び込んだのかは聞かねぇが… "軍"の連中を助けに飛び込んだ時な…」

「なんだよ…?」

「俺は…なんつうか…嬉しかったよ …そんだけだ じゃぁな」

 

クラインさんは相変わらずキリトさんに対して背を向けたまま手を振ると、そのまま大扉を開けてその先へと足を踏み込んだ

 

それに続いて私達もキリトさんとアスナを残して第75層へと向かって行った

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

そして75層を解放した翌日の新聞は74層が突破されたことと、やはりと言うかキリトさんの『二刀流』のことが大々的に載っていた(多少着色はされてるけど)

 

それとなぜかキリトさんとヒースクリフさんがデュエルするという話をアスナがフレンド・メッセージで送ってきたときは本当に驚いた




廻道はALFのリーダー、サブリーダーと繋がりがあります

それではまた次回に


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8話:『二刀流』対『神聖剣』

タイトルがネタ切れ感が凄い…(今更感)

それではどうぞ


キリトさんとヒースクリフさんのデュエルが行われる日…

 

私達も観戦しようと、先日開通したばかりの第75層主街区である<コリニア>へとやってきた

 

転移門広場はとても賑わっており、広場の前にそびえたつ巨大なコロシアムで2人のデュエルが行われるので、多くの人がコロシアムに向かっている

 

「〖火吹きコーン〗10コル! 10コルだよ!」

「〖黒エール〗冷えてるよ~!」

「〖バブルサイダー〗いかがっすか~!」

「〖ボア肉の串焼き〗1本8コル! 1本8コルで売ってるよ!」

 

コロシアムの入口では商人プレイヤー達の屋台が所狭しと並んでおり、長蛇の列をなしている

 

勿論やる気君もこのイベントに乗らないわけがなく、ポテトさんとエルさん、意識さんと朱猫さんがヘルプに入って並んでる人たちにフライドポテトっぽいものをメインに売っている

 

私は〖ボア肉の串焼き〗を早速5本ぐらい買って、始まるまでの暇つぶしがてら、食べながら適当に歩いていると、本日の主役であるキリトさんとアスナが話しているのが見えた

 

「…層辺りの広い田舎に隠れて畑を耕そう」

「私はそれでも別に構わないけど…」

 

声が聞こえるほど近づいたが2人共私に気が付いていない様子だったので、アスナの言葉に続けるようにして話しかける

 

「そんなことしたらすっごい悪名が付きますよ~」

「うおっ!? …ってなんだ タコミカか…驚かすなよ」

「こんにちはです」

 

私が急に話しかけたので驚いたキリトさんとアスナに対し、挨拶をすると辺りを見回しながら話す

 

「それにしてもかなりたくさん人がいますね~」

「くそ… タコミカもまるで他人事のように言いやがって…」

「実際他人事ですし」

「うぐっ…!」

 

キリトさんがぼやくようにして言った愚痴をひらりと躱すようにして返すと、何でこんな大ごとになったのかをアスナに対して訪ねた

 

「でもなんでこんなことになっちゃったの?」

「実は…

~~~~~~

…ということなの」

 

アスナから、どうしてこんな大ごとになったのかを大雑把に説明してもらった、私の頭に思い浮かんだのはまぁ挑発に乗ったキリトさんが悪い デュエルの申し込みを受けたんだから逃げるなんて言ったら駄目だと思う

 

「キリトさんはヒースクリフさんの挑発に乗ったんですから逃げるなんて言ったら駄目ですよ」

「だ…だって まさかこんな大ごとになってるなんて思ってもみなかったんだぞ…」

「でもタコミカの言う通り、自分で蒔いた種だからね …あ ダイゼンさん」

 

私達が話をしていると、KoBの制服を着ているぽっちゃり系の男性がお腹を揺らしながら、こちらに向かってきた

 

「いや~ おおきにおおきに!」

 

そして満面の笑みを浮かべながらキリトさんに声を掛ける

 

「キリトはんのおかげでえらい儲けさせてもらってます! あれですなぁ! 月1ペースでやってもらいますと[血盟騎士団](うち)の財布も大助かりするんですがね!」

「誰がやるか!」

 

ダイゼンさんの提案にキリトさんは大声を出して拒否する

 

「さ 控室はこっちですわ ついてきてください」

「じゃぁ頑張ってくださいね キリトさん」

 

そんなキリトさんを無視してダイゼンさんは歩き始めたので、脱力した様子でついて行くキリトさんと同じくダイゼンさんについて行ったアスナに対し、私は激励の言葉を掛けると、コロシアムの入口へと歩き始めた

 

 

~~~~~~

 

 

「結構いい場所取れましたね」

「ね まさか最前列が取れるなんて思ってもみなかったよ」

 

円状のコロシアムの観客席はかなり埋まっていたが、運よく最前列に全員座ることが出来た

 

「ておさんは今回どっちが勝つと思います?」

「うーん… 身内びいきするわけじゃないけど やっぱりキリトかな~ たみは?」

「私もキリトさんが勝つと思います」

 

私とておさんは2人が出てくるまでどっちが勝つかを予想していた

 

「やっぱりたみさんとテオさんもキリトさん予想なんですね」

「あれ? ポテトさん フライドポテト類売り切ったんですか?」

「お陰様で先ほど完売です」

 

凄いなイベントパワー… 確かにこれは月1でやって欲しいかも…

 

私が余計なことを考えているとやる気君が声を掛けてきた

 

「僕はヒースクリフさん予想かな」

「どうしてです?」

「やっぱり攻防一体っていう響き なんかかっこいいじゃん? 無論キリトさんが劣るってことを言いたいんじゃないけど…」

「僕もヒースクリフかな 剣技自体は67層のフロアボスの時にも見たけどハッキリ言ってあれは体に馴染んでると言って過言じゃないと思う」

 

私とやる気君の会話に、自然な感じでめらさんが入ってきたのでそこからは3人でだれが勝つかを予想していた

 

 

しばらくするとキリトさんが闘技場に入ったので、観客席のボルテージが一気に上がる

 

[月夜の黒猫団]のように普通の応援をしている人もいれば、クラインさんやエギルさんのように少々物騒な応援をしてる人もいる

 

そして闘技場の中央らへんで立ち止まると、今度は反対側からヒースクリフさんが出てきたので、再び観客席の声援が一際高まった

 

ヒースクリフさんも闘技場の中央まで向かうと立ち止まり、何かを話してから10メートル程度の距離まで下がると、右手を振って出したメニューを操作した

 

60秒のカウントダウンが始まると、キリトさんは背中から2本の剣を同時に抜き、ヒースクリフさんも盾から剣を抜いて構える

 

ヒースクリフさんの構える様は無理な力がかかってるようには見えず、メラさんの言ってた通りまるで体に馴染んでいるように見える

 

カウントダウンの間は2人共ウィンドウを見ず、カウントがゼロになり DUEL! の文字が閃くのと同時にキリトさんが先に仕掛けた

 

右手に持った剣を左斜め下から叩きつけるがそれは十字盾で防がれ、激しい火花が散るがどうやら右はフェイクだったようで、左の剣がわずかに遅れて盾の内側に滑り込む

 

しかし、攻撃が届く寸前で長剣で防がれ、円環状のライトエフェクトが弾けると、キリトさんは技の余勢で距離を取ってヒースクリフさんに向き直る

 

すると今度はヒースクリフさんが盾を構え、突撃してきた

 

キリトさんは盾の陰に隠れるために右へと回避するが、何とヒースクリフさんは盾で攻撃した

 

キリトさんのHPがわずかに減った どうやらあの盾にも攻撃判定があるらしい…

 

「実際に見てみるとやっぱりチートじみてますね…」

「そうだよね… 『二刀流』の方が手数では上かと思ってたけど『神聖剣』も同じぐらいの手数だ…」

 

私とておさんが話している間にも闘技場の中央では、2人の攻防が続いているのが見える

 

しばらく見ていると、ヒースクリフさんがソードスキルを放ったが、そのソードスキルはキリトさん持ち前の反応速度だけで防ぎ切られ、技の後の硬直時間にすかさずキリトさんは≪ヴォーパル・ストライク≫を放つ

 

キリトさんの放ったソードスキルはヒースクリフさんの十字盾を突き抜けたが、わずかに頬を掠めるだけで決着には至らない

 

 

2人は一旦間合いを開け、少しの間双方ともに膠着状態に陥ったが、今度は2人同時に動いた

 

そこからは再びお互いに攻撃の応酬が続き、キリトさんの剣は盾で防がれ、ヒースクリフさんの攻撃はキリトさんの剣に弾かれる

 

2人の周囲では様々な色の光が絶え間なく飛び散り、攻防の激しさも相まって思わず見入ってしまう

 

時折、お互いの弱攻撃がヒットし、HPバーがじわじわと削られていく

 

それに伴ってキリトさんのスピードも上がっていき、攻撃の激しさも増していく

 

2人のHPバーは更に減少を続け、とうとう5割間近まで減った

 

そろそろ決着がつきそうかな…? そう思っているとキリトさんが遂にソードスキルを発動させ、決着をつけに動いた

 

ヒースクリフさんはすかさず十字盾でガードするが、一撃、二撃と攻撃がヒットするたびに徐々に遅れ始め、遂にヒースクリフさんの体勢が大きく崩れ、盾が右に大きく振れる

 

そのタイミングを逃さず、キリトさんはまだソードスキルの続く左手に持つ剣をヒースクリフさんに突きつけようと動いた

 

その剣はヒースクリフさんの体へと吸い込まれていったので、私はキリトさんの勝利を信じて疑わなかった

 

 

―――しかしその時、ヒースクリフさんが一瞬ブレたかのように見えた次の瞬間には、キリトさんの剣は何故か右に大きく振れたはずの盾によって防がれて、大技を防がれて硬直時間が課されたキリトさんに対し、ヒースクリフさんは的確に単発の付き攻撃を与えるとキリトさんはその場に倒れこんだ

 

デュエル終了のメッセージとヒースクリフさんの勝利を示すウィンドウが表示されると、観客席からの歓声がドッと沸くようにして上がった

 

キリトさんに駆け寄ったアスナがキリトさんを助け起こすのを横目に、私は先ほどの場面の不審な点について考えていた

 

その時、やる気君が声を掛けてきた

 

「キリトさん負けちゃったね~…」

「えぇ… そうですね…」

「どうしたの? たみ」

 

私が考えているとておさんが声を掛けてきた

 

「…なんか最後のヒースクリフさんの動き…変じゃありませんでしたか?」

「? どこが?」

「なんて言ったら分からないですけど…なんだか一瞬、ヒースクリフさんがブレたような気が…」

 

私の言葉に首を傾げているておさんに対して感じたことをそのまま伝えるが、いまいち伝わっていないようだった

 

そこにめらさんが話に加わってくる

 

「やっぱりたみもそう思う…?」

「…ってことはめらさんも見たんですか?」

「見たっていうか…リオンと話してたっていうか…」

 

違和感を感じたのは私だけじゃなかったんだ…

 

「それで… 何か分かりましたか?」

「うーん… 結論から言っちゃうと何もわからなかったよ」

「そうですか…」

 

リオンさんなら何か掴んでいるかもと思ったけど、何もわからなかったらしい

 

 

嵐のような歓声の中、ゆっくりと闘技場から去っていくヒースクリフさんを見ながら、私は何とも言えないような感情を抱いていた

 

 

…すっかり忘れていたけど、これでキリトさんが[血盟騎士団]に入らなければいけなくなった…のかな?

 

そんなことを思いつつ、私達はギルドホームへと戻っていった




今回登場したオリジナルアイテムの紹介

〖バブルサイダー〗
簡単に言えば甘めの炭酸にタピオカのような食感の食材が入った飲み物

次回からは朝露の少女編になります(血盟騎士団の件ではタコミカ達は絡まない為)

それではまた次回に


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9話:訪問=トラブル発生?

今回から朝露の少女編へと入っていきます

それではどうぞ


キリトさんとヒースクリフさんのデュエルから数日後…

 

経緯はわからないけど、キリトさんとアスナが結婚したということを直接2人からメッセージで受け取った

 

そこで私達は慎ましくではあるものの結婚式をサプライズで開いて、2人の結婚を心から祝福した

 

 

 

それから早くも1週間が経ち、改めて2人の結婚を祝う為、代表して私とておさんが1週間前には用意できなかった皆が用意した結婚祝いの品を持って、2人の新居がある第22層へとやってきた(勿論アポなしで)

 

第22層はハッキリ言って湖と森以外には何もない層である

 

この層はフィールドにMOBが湧かず、ボスも前の層に比べてかなり弱かったのでわずか3日で攻略された

 

それでいて効率の良い狩場やクエストなんかも皆無、おまけに絶景スポットや観光地なんかも無しの為、人は少ないが個人的にはこの層のような落ち着いた雰囲気も結構好きである

 

 

私が考え事をしているうちに目的のログハウスが見えてきた

 

「えーっと… あれかな…?」

「ですかね?」

 

そして家の前に着くとドアをノックした

 

少しそのままで待っているとドアが開かれ、中からアスナが出てきた

 

「はーい どちら様… タコミカ!? テオ君まで!」

「こんにちは~」

「よっす」

 

アスナは私達の姿を確認するなりとても驚いた様子だった

 

「ビックリした… 来るなら来るって連絡してよ!」

「だって色々と準備してもらうのは悪いし、今日は皆から預かってるものを渡したら帰る予定だったから…」

 

アポなしできた私達に対してアスナは注意したので、私はアポなしで来た理由を伝えた

 

「誰が来たんだ…? ってテオにタコミカか!?」

「あ キリトさん こんにちは」

「お キリト」

 

しばらくするとキリトさんが顔を出したので、すかさず挨拶をかわす

 

「今日は何しに来たんだ?」

「さっきアスナにも話したけど皆から預かってるものを渡しに来ました」

「成程 実は俺達も相談したいことがあってな…とりあえず中に入ってくれ」

「「お邪魔します…」」

 

そしてキリトさんにもアスナと同じ説明をすると、中に入るように言われたので家の中に入る

 

少し進むと8歳ぐらいの女の子がソファに座っているのが見えた

 

?????

 

私は意味が分からずフリーズしたが、状況を理解して2人に対して捲し立てるようにして質問を投げかける

 

「え? え? 子供!? なんで? なんでです!? 2人の子どもですか!? この世界では結婚したら子供ができるんですか!? いやでも グリセルダさんとグリムロックさんの時は子供がいるようには見えなかったような…? まさか… 2人共一線を越えたんですか? 夫婦の営みってやつですか!?」

「た…たみ!? い…いったん落ち着け! 2人共驚いてるだろ!」

 

ておさんが混乱している私を強制的に落ち着かせる

 

 

若干落ち着いた私は改めて2人に対して質問を投げかけた

 

「でもなんで女の子がここにいるんですか?」

「昨日…

 

~~~~~~

 

…というワケでとりあえずうちで面倒を見てるってことだ」

「成程…」

 

キリトさんの話を簡単にまとめると今、アスナが相手している女の子―――どうやらユイちゃんというらしい は森にいたところを2人が発見し、一旦保護したとの事

 

「そうだったんですね…てっきり私はここでは子供が急成長するものだと…」

「そんな訳ないだろ… というかこれからどうするんだ?」

 

私の発言にておさんがツッコミを入れると、キリトさんにこれからどうするのかを訊ねた

 

「俺らはこれから<はじまりの街>に向かおうって思ってる」

「<はじまりの街>って確か"軍"のテリトリーだったはずですけど…」

 

キリトさんは<はじまりの街>に行くと言ったので、私はすかさず"軍"のテリトリーということを思い出して話す

 

「まぁ俺らが警戒しとけば大丈夫か」

「そうですね …勝手に決めちゃいましたけど良かったですか? キリトさん」

「あぁ 人探しとなると人手は多いほうが良いからな」

 

私とておさんは勝手に2人について行くことを決めちゃったけど、どうやらキリトさんはそれでよかったみたい

 

「それじゃぁそろそろ行きますか?」

「そうね それじゃぁいこっかユイちゃん」

「うん パパ、抱っこ」

 

私がアスナに対して顔を向けるとアスナは頷き、ユイちゃんに声を掛ける

 

そしてキリトさんのところまで走ってきて両手を伸ばすと、キリトさんは苦笑いを浮かべながらもユイちゃんの体を抱え上げた

 

 

家を出る前にすっかり渡すタイミングを見失っていた結婚祝いの品をアスナに渡し、手早くウィンドウを確認するとアスナに続いてドアへと歩き始めた

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

数ヵ月ぶりに<はじまりの街>へと降りたつが、やはり上を見上げると、まるで昨日のことのように2年前のことを思い出して、何とも言えないような複雑な気持ちになる

 

そんな感情を振り払うように首を小さく横に振ると、キリトさんに抱っこされたままのユイちゃんの顔を覗き込みながら聞く

 

「ユイちゃん 何か見覚えのあるものってあるかな?」

「ユイ わかんない…」

 

ユイちゃんは私の質問に首を横に振る

 

因みにここに来るまでの道中で私とておさんもユイちゃんに自己紹介はしたんだけど、言いにくいのか私のことはねぇね ておさんのことをにぃに と呼んでいる

 

「まぁ <はじまりの街>は恐ろしいほど広いからな しばらく歩いていればそのうち思い出すかもしれないさ 一先ず中央市場に行ってみようぜ」

「そうだね」

 

それに対してキリトさんはさほど気にすることはなく、ユイちゃんの頭を一撫ですると頷き合い、南にある大通りに向かって歩き始めた

 

 

しばらく歩いていると、不意にアスナが私達に対して訊ねてきた

 

「ねぇ 3人共?」

「ん?」

「ここって今プレイヤー何人ぐらいいるの?」

「うーん… 生き残ってるプレイヤーが約6300人で"軍"のメンバーも含めると3割ぐらいがここに残ってるらしいから、おおよそ2000人弱ってところか…?」

「その割には人が少ないって思わない…?」

 

言われてみれば確かに数人とすれ違ったぐらいで、その数人も転移門広場に向かうか、その出口に向かうかの2種類だったような気がする

 

「確かに… マーケットの方に集まってるのか…?」

 

ておさんも疑問に思ってたみたいでふと呟いていた

 

 

しかし、大通りをしばらく歩き、店や屋台が立ち並ぶ市場エリアに差し掛かっても街は閑散としており、店員NPCの客を呼び込む声が虚しく通りに響いている

 

誰かいないかと探していると、通りの中央にある大きな樹の下に座り込む男性を見つけた

 

「あの人に訊いてみましょうか」

「そうしましょう」

 

私達はその男性に話を聞いてみることにして、早速アスナが声を掛けた

 

「すみません」

 

男性は高い樹を見上げながら、面倒くさそうに口を開く

 

「なんだよ」

「あの… この近くで訊ね人の窓口になっているような場所ってありますか?」

 

そこでようやく男性はアスナに視線を向け、遠慮すらない目つきでアスナの顔を眺めまわす

 

「なんだ あんたらよそ者か」

「え…えぇ あの…この子の保護者を探してるんですけど…」

 

アスナはキリトさんの腕の中でウトウトしているユイちゃんを示す

 

それを見た男性はチラッとユイちゃんを見ると、多少目を丸くして驚いていたが、直ぐに視線を再び樹の上部分へと移した

 

「…迷子か 珍しいな …東七区の川べりにある教会にガキのプレイヤーがいっぱい集まってるから行ってみな」

「あ…有難う…」

 

まさか初めに声を掛けた人から有益な情報を得ることが出来るとは思わず、呆気にとられたがアスナはその人に感謝するようにしてペコリと頭を下げた

 

そしてついでにアスナは追加でもう一つ質問を投げかける

 

「あのー… 一体ここで何をしているんですか…? それにどうしてこんなに人がいないんです?」

 

その質問に男性は渋顔を作りながらも、満更でもなさそうに答えた

 

「企業秘密って言いたいところだが、よそ者ならいいか ほら 見えるだろ? あの枝」

 

男性が伸ばした指の先を目で追うと、すっかり紅葉した葉が付いている枝が見えたが、その葉の影に幾つか黄色い果実が生っているのが見える

 

「勿論この街路樹は破壊不能オブジェクトだから登っても実はおろか葉っぱ1枚すら取れないけどな」

 

私達がその生っている実を見ている間にも男性は続ける

 

「1日に何回かあの実が落ちるんだよ… ほんの数分で腐って消えちまうけどそれを逃さず拾えば、NPCに結構良い値で売れるんだよ 食ってもうまいしな」

「へぇぇ~」

 

アスナは男性の話に興味があるのか頷いていた

 

そこで私はアスナに続けるようにして男性に対して、実の売値を聞いてみることにした

 

「因みにいくらぐらいで売れるんですか?」

「…これはここだけの話にしておいて欲しいんだが…1個5コルだ」

 

男性は得意げに話していたが、私は思わず絶句した

 

苦労に対する成果が見合っておらず、それぐらいだったら街の外にいるボアを何体か倒したほうが稼げる

 

「あ…あの… 聞いておいてなんですけどそれじゃぁ割に合わないっていうか…フィールドでMOBを何体か倒したほうがもっと稼げますよ…?」

 

私がそう言った途端、男性はまるで頭のおかしな人を見るような視線を私に向けてくる

 

「本気で言ってんのかよ それ フィールドでモンスターと戦ったりしたら…死んじまうかもしれねぇだろ」

 

その言葉を聞いた時、私達と<はじまりの街>に住んでいる人たちの常識はまるで別世界のようになっているのだということを理解した

 

多分どっちが正解というものはないと思うけど…

 

私の複雑な心情などそっちのけで男性は続ける

 

「それで…人がいない理由だったか? 別にいないっていう訳じゃないぜ 皆宿屋の部屋に閉じこもってるだけさ 昼間は"軍"の徴税部隊に出くわすかもしれねぇからな」

「ちょ…徴税…? それはいったい?」

「要はカツアゲさ 気をつけろよ あいつらはよそ者だからって容赦しねぇぜ おっと 1個落ちそうだ…話はここまでだ」

 

男性は話を切ると、再び樹の枝を真剣な眼差しで睨み始めた

 

私とアスナは男性に対し一礼すると、後ろを振り返った

 

そこには戦闘中のような眼差しで、黄色い実を見つめているキリトさんの姿があった

 

「やめなよもう!」

「だ…だってさ… 気になるじゃん」

「ユイちゃんが真似したらどうするんですか!」

 

アスナはキリトさんの襟首を掴み、そのままずるずると引きずって歩き始め、私はすっかり眠ったユイちゃんをておさんから受け取ると(恐らくキリトさんから預けられたのだろう)、キリトさんに向かって怒った

 

「あ…あぁ… うまそうなのに…」

 

未練たらたらな様子のキリトさんの耳をアスナは無理やり引っ張って振り向かせる

 

「それより…東七区ってどの辺? 教会で若いプレイヤーが暮らしてるみたいだから行ってみようよ」

「…はぁい」

 

そしてアスナにユイちゃんを預け、マップを確認しながら歩き始めたキリトさんの後に続いた

 

 

 

相変わらず人の少ない広い道を南東に向かって数十分歩くと、色づいた広葉樹が多くある広大な庭園のようなエリアへ差し掛かった

 

「えーっと… マップではこの辺が東七区なんだけど… その教会っていうのはどこだろう?」

「あれじゃねぇか?」

 

ておさんは未知の右手に広がる、林の向こう側の一際高い尖塔を視線で示した

 

視線の方を見てみると、確かに青灰色の塔の天辺に、十字に円を組み合わせた金属製のアンクが輝いているのが見える

 

間違いなく教会の印だ

 

SAOでは各街に1つはある施設で、中では某RPGの様にセーブはできないものの、呪いの解呪や対アンデッド用に武器に祝福を行うことが出来る他、コルを継続的に収めることで宿屋の様に部屋を借りることもできる

 

気を取り直して教会に向かって歩いていると前を行く2人が何かを話しているのが見え、ユイちゃんを抱いているのも相まって本当の家族のように見えた

 

ゆくゆくは私も結婚して…あの2人みたいな家庭を作るのかな…

 

私はておさんをチラッと見ると、そんな淡い希望を抱きながら教会へと向かって行った




オリキャラ勢の結婚祝いの品一覧

タコミカ
エプロンとキリトとアスナの人形

テオロング
屋外用のテーブルと椅子

ポテト
ガラスドーム入りの造花

ひま猫
ケチャップを完全再現した調味料

メラオリン
黒と赤のマグカップ

きるやん
食材アイテム

意識
まな板と包丁

朱猫
フライパンと鍋

リオン
フォトフレーム

キャラメレ
フレンジー・ボアの置物

たまぶくろ
ネックレス(リズベット製作)

じんじん
食器類

たらこ
キャンドル

プレッシュ
タオル

廻道
2つの手鞠(黒色と赤色)

テツロン
紅茶ギフト


それではまた次回に


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10話:教会への訪問

劇場版プログレッシブ 冥き夕闇のスケルッツオの主題歌カッコいいですね~

それではどうぞ


教会に辿り着いた私達は正面の2枚の扉の内、片方を押し開けて中を覗く

 

「あのー どなたかいませんかー?」

 

アスナが上半身だけを差し入れ、呼びかけるが誰も出てくる様子はなかった

 

「誰もいないのかな…」

「返事がないってことはそういうことじゃない?」

 

私とアスナが首を傾げると、キリトさんが低めの声で否定した

 

「いや…人はいるよ 右に3人 左に4人…2階にも何人か」

「…索敵スキルって高いと壁の向こう側の人数までわかるのか…?」

「正確には980からだけどな 何かと便利だから3人共あげなよ」

「嫌よ 修行が地味すぎてそこに到達するまでに発狂しちゃうわ …それはそうと何で隠れてるのかな…」

 

そうアスナは呟くと教会の敷地内へと入っていったので、私達も教会内部へと足を踏み入れた

 

中はしんと静まり返っていたものの、キリトさんの言った通り何人かの気配をわずかに感じる

 

「あの~ すみません 人を探しているんですけれども!」

 

アスナが今度は先ほどより少し大きな声で呼びかけると、右手のドアがわずかに開き、中からか細い声が聞こえてきた

 

「…"軍"の人達じゃないんですか…?」

「違いますよ 上の層から来たんです」

 

アスナが優しい口調で答えると、中からおっとりした感じだが黒縁の眼鏡をかけた目には、怯えの色をはらんでいる女性が姿を現した

 

簡素な濃紺色のプレーンドレスを身にまとっており、手には鞘に納められた小さな短剣を持っている

 

「本当に…"軍"の徴税隊じゃないんですね…?」

 

アスナは安心させるように女性に対して微笑むと、頷く

 

「えぇ 私達は人を探していて、先ほど上から来たばかりなんです だから"軍"とは何の関係もないですよ」

 

そう言い終わった途端…

 

「上から!? ってことは本物の剣士なのか!?」

 

少年のような叫び声と共に、女性の背後の扉が大きな音を立てて開かれ、中から数人の人影がばらばらと走り出してきた

 

思わず呆気に取られて声なく見守る中で、眼鏡の女性の両脇に先ほど飛び出してきた人影がずらりと並ぶ

 

見たところ12~14歳ぐらいの子どもたちが、興味津々と言ったような様子でこちらを眺めまわしてくる

 

「こら あなたたち! 部屋に隠れてなさいって言ったじゃない!」

 

女性は慌てたように子どもたちを押し戻そうとするが、従う子は誰一人としていない

 

しかし直ぐに一番最初に飛び出してきた、赤毛の紙を逆立てた男の子が落胆の声を上げた

 

「なんだよ 剣の1本も持ってないじゃん なぁ あんた 上から来たんだろ? 武器は持ってないのかよ?」

 

途中からキリトさんに向けて話していた

 

「いや… なくはないけど…」

 

キリトさんが目を白黒とさせながら答えると、再び子供たちは眼を輝かせ、口々に見せて、見せてと要求してくる

 

「こらっ 初対面の人にそんなこと言っちゃダメでしょう …すみません 普段お客さんなんてなかなか来ないものですから…」

 

私達に対して謝罪するように頭を下げる女性に対して、アスナは慌てて言った

 

「い…いえ 構いませんよ ねぇ キリト君 幾つか武器がアイテムストレージに入れっぱなしになってたと思うから見せてあげてくれる?」

「お…おう」

 

アスナの提案にキリトさんは頷き、ウィンドウを開いて操作し始める

 

たちまち10個ほどの武器アイテムが傍らにある長机に積みあがっていき、キリトさんがウィンドウを閉じると子供たちは歓声を上げて、周囲に群がり剣やらメイスやらを手にとっては「重ーい」や「かっこいい!」などと言った声を出している

 

「本当にすみません…」

 

眼鏡の女性は困ったように首を振りつつ、喜ぶ子供たちの様子に笑顔を浮かべながら言った

 

「…あの こちらへどうぞ 今お茶を入れますので…」

 

私達は礼拝堂の右にある小部屋に案内され、用意してくださった熱いお茶を一口飲んで一息つく

 

「それで…人を探してらっしゃるということでしたけど…」

 

私から見て右の椅子に腰かけた眼鏡の女性は、小さく首を傾けながら言った

 

「あ はい えぇっと… 私はアスナ、この人はキリトで、そちらがタコミカ、その正面にいるのがテオロングといいます」

「あっ すみません 名前も言わず…私はサーシャです」

 

お互いに自己紹介をすると頭を下げる

 

「それでこの子がユイっていいます」

 

アスナは膝の上で眠っている、ユイちゃんの髪を撫でながら続ける

 

「この子 22層の森の中で迷子になってたんです …その…記憶をなくしてるみたいで…」

「まぁ…」

 

サーシャさんの瞳が眼鏡の奥で、いっぱいに開かれる

 

「装備も服以外には何もなく、上層で暮らしてたとは思えなくて… それで<はじまりの街>に保護者とか…この子のことを知ってる人がいるんじゃないかって思って、探しに来たんです それで、こちらの教会で子どもたちが集まって暮らしてると聞いたものですから…」

「そうだったんですか…」

 

サーシャさんはカップを両手で包み込むと、視線をテーブルに落とす

 

「…この教会には今、小学生から中学生ぐらいの子どもたちが20人くらい暮らしています 多分、現在この街にいる子どもプレイヤーのほぼ全員だと思います このゲームが始まった時…」

 

そこで声が細くなるが、はっきりとした口調でサーシャさんは話し始める

 

「それくらいの子ども達のほとんどは、パニックを起こして遅かれ早かれ精神的に問題を来しました 勿論、ゲームに適応して街を出て行った子もいますが、それは例外的なことだと考えてます」

 

まぁうん…確かに教会にいる子たちと、同年代と思われるやる気君は最初に私達と合流してなくても、そのうち街を出て行きそうだな…

 

私がそう思ってる間にも、サーシャさんは続ける

 

「当然ですよね まだまだ親に甘えたい盛りの時に、いきなりここから出られない、もしかしたら二度と現実に戻れない、なんて言われたんですから… そんな子ども達は大抵虚脱状態になって、中には何人か…そのまま回線切断してしまった子もいたようです」

 

サーシャさんの口許が固く強張るが、彼女は続けた

 

「私、ゲームが始まって1ヵ月くらいは、ゲームクリアを目指そうと思ってフィールドでレベル上げをしてたんですけど…ある日、そんな子ども達の内の1人を街角で見かけて、どうしても放っておけなくて、連れてきて宿屋で一緒に暮らし始めたんです それでそんな子ども達がまだ他にもいると思ったらいてもたってもいられなくなって、街中を回っては独りぼっちの子どもに声を掛けるようなことを始めて 気が付いたらこんなことになっていたんです だからなんだか…皆さんみたいに、上層で戦ってる方もいるのに私がドロップアウトしたのが申し訳なくて」

「そんな…そんなこと…」

 

アスナは首を振りながら何か言おうとしたが、何を言ったらいいのかがわからないと言った感じを出している

 

かといって私達も何を言ったらいいのかが分からない

 

しかしキリトさんが、重い空気を切り開くようにして言った

 

「そんなことないです サーシャさんは立派に戦ってる…俺なんかよりずっと」

「ありがとうございます でも義務感でやってるわけじゃないんですよ 子ども達と暮らすのはとても楽しいです」

 

ニコリと笑うと、サーシャさんは眠ったままのユイちゃんを心配そうに見つめる

 

「だから…私達は2年間ずっと、毎日1エリアずつ全ての建物を見回って、困ってる子がいないか調べてるんです なのでそんな小さい子が残されていれば、絶対気が付いたはずです 残念ですけど…<はじまりの街>で暮らしていた子じゃないと思います」

「そうですか…」

 

アスナは俯いてユイちゃんを抱きしめたが、気持ちを切り替えるようにサーシャさんの顔を見た

 

「あの 立ち入ったことを聞くようですけど、毎日の生活費とかってどうしてるんですか?」

 

確かにそれは少し気になるかも… 教会の小部屋を1日借りるだけでも、確か100コルとか必要になったはずだけど…

 

「あ それは私以外にもここを守ろうとしてくれている年長の子が何人かいて、彼らは街の外ぐらいでしたら大丈夫なレベルになってるんです それ以外にも支援してくださる方もいてくださって…なので食事代ぐらいでしたら何とかなっています …それでもあまり贅沢はできないですけどね…」

「へぇ… そうなんですね 先程、街で聞いた話ではフィールドに出て狩りをするのは自殺行為だって言ってたので…」

 

私が呟くようにして言うと、サーシャさんはこくりと頷いた

 

「基本的に<はじまりの街>残ってるプレイヤーは全員そういった考えだと思います 私はそれが悪いとは思ってません、死ぬかもしれないと考えれば仕方のないことかもしれないですが… ですので私達は相対的に他の街の人よりも稼いでいるということになるんです でも…そのせいで最近目をつけられてしまって…」

「誰に…です?」

 

サーシャさんの穏やかな目が一瞬厳しくなったので、ておさんがその人物を聞こうとした時…

 

「先生! サーシャ先生! 大変だ!」

 

部屋の扉が開かれ、数人の子ども達がなだれ込むようにして部屋に入ってきた

 

「こら お客様に失礼じゃないの!」

「それどころじゃないよ!!」

 

先程の赤毛の男の子が、眼に涙を浮かべながら叫んだので只事ではないと感じ、真剣な表情で話を聞く

 

「ギン兄ぃ達が、"軍"の奴らに掴まっちゃったんだ!」

「場所は!?」

 

サーシャさんもまるで別人のように毅然とした態度で立ち上がると、男の子に訊ねた

 

「東五区の道具屋の空地 "軍"が10人ぐらいでブロックしてる コッタだけが逃げられて知らせてくれたんだ」

「解った すぐ行くわ ―――すみませんが…」

 

そこで私達の方を向き、頭を軽く下げた

 

「私は子ども達を助けに行かなければいけません なのでお話は後程…」

「先生! 俺達も行くよ!」

 

赤毛の男の子が叫ぶと、その後ろにいる子ども達も口々に同意するように声を上げると、男の子はキリトさんの傍まで駆け寄り、必死な形相を浮かべながら言った

 

「なぁ兄ちゃん! さっきの武器、貸してくれよ! あれがありゃあ"軍"の奴らもすぐ逃げ出すよ!」

「いけません!」

 

その男の子に対して、サーシャさんは叱責する

 

「あなたたちはここで待っていなさい!」

 

その時、今まで成り行きを見守っていたキリトさんが、子ども達を宥めるようにして右手を挙げた

 

すると不思議と子ども達はぴたりと口をつぐんだ

 

「―――残念だけど」

 

落ち着いた口調でキリトさんは話し始める

 

「あの武器は必要なパラメータが高すぎて君達じゃ装備できない だから俺達が助けに行くよ こう見えてもこのお姉ちゃん達は無茶苦茶強いんだぞ?」

 

そう言うと私達に対してちらりと視線を向けたので、私達は大きく頷き返し、代表してアスナが立ち上がってサーシャさんに向くと、口を開いた

 

「私達にお手伝いさせてください 少しでも人数は多いほうが良いはずです」

「―――ありがとうございます それでは、お気持ちに甘えさせていただきます」

 

サーシャさんは深く一礼をすると、眼鏡をグッと押し上げた

 

「それじゃぁすみませんけど、走ります!」

 

そう告げると、サーシャさんは一直線に部屋の外に向かい、教会から飛び出したので、私達もその後に続いた




索敵スキルの修業ってどんなのなんでしょうね…

それではまた次回に


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11話:ココロ

今回のタイトルあまりいいのが思いつかなかった…

それではどうぞ


木立の合間を縫って第六区の市街地へと入り、裏通りに入るとNPCショップや民家の庭を突っ切って進んでショートカットしていく

 

しばらく進んでいると、前方の細い通路を塞ぐ10人ぐらいの"軍"の一団が目に入った

 

躊躇せずに路地裏に駆け込んだサーシャさんが足を止めると、それに気づいた"軍"のプレイヤー達が振り向き、下衆な笑みを浮かべた

 

「おっ 保母さんの登場だぜ」

「…子ども達を返してください」

 

サーシャさんは硬い声を出したが、男たちは全く動じていない様子だった

 

「人聞きの悪いことを言うなって ちょっと社会常識ってやつを教えたらすぐに開放してやるよ」

「そうそう 市民には納税の義務があるからな」

 

そう言い終わると、男たちは甲高い笑い声を上げた

 

サーシャさんも我慢の限界が近いのか、硬く握られた拳を震わせている

 

「ギン! ケイン! ミナ! そこにいるの!?」

 

しかしサーシャさんは怒りを抑え、男たちの向こう側にいるであろう子どもたちに呼びかけると、少女の声が返ってきた

 

「先生! 先生…助けて!」

「お金なんていいから、全部渡してしまいなさい!」

「それが駄目なんだ…先生…!」

 

サーシャさんは子ども達に対して叫ぶと、今度は少年の声が返ってくる

 

「くひひっ」

 

道を塞ぐ男達のうちの1人が、ひきつるような笑いを吐き出した

 

「あんたら 随分と税金を滞納してるからなぁ… 金だけじゃ足りないよなぁ」

「装備も置いてってもらわないとなぁ~? 防具も全部…何もかもな」

 

男たちの下卑た笑いを見て、私は彼らを絶対に逃がさないと決心した

 

「そこを…そこをどきなさい…! さもないと…」

「さもないと何だい? せんせい? あんたが代わりに税金を払うかい?」

 

にやにやと笑う男たちはその場を動こうとしないが、私達にとっては特に問題はない

 

アスナも私と同じことをやろうとしているようで、私達を見ると言った

 

「行こう 3人共」

「あぁ」

「了解」

「オーケー」

 

頷き合うと、思いっきり地面を蹴った

 

そして呆然としているサーシャさんと"軍"の男達の頭上を軽々と飛び越え、四方を壁に取り囲まれた空地へと着地した

 

空地の片隅には10代前半ぐらいの男の子2人と女の子1人が固まるようにして身を寄せ合っており、防具は既に除装されていて、インナーのみの姿だった

 

アスナはその子たちに対して歩み寄ると、安心させるような優しい口調で微笑みながら言った

 

「もう大丈夫よ 装備を戻して」

 

子ども達は眼を丸くしていたが、直ぐに頷いて足元にある防具を拾い上げると、ウィンドウを操作し始める

 

「おい…おいおいおい!」

 

その時、ようやく我に返った"軍"の男の内の1人が喚き声を上げた

 

「なんなんだお前らは!」

「我々の任務を妨害するのか!」

「まぁ待て…」

 

それを皮切りとして次々に声を上げるが、一際重装備の男が押し止めると、前に出てくる 恐らくリーダーだろう

 

「あんたら見ない顔だが…解放軍に楯突く意味が解ってるだろうなぁ? 何だったら本部でじっくり話聞いてもいいんだぜ」

 

リーダーと思わしき男は腰から剣を引き抜くと、わざとらしい動きで刀身を手のひらにに打ち付けながら歩み寄ってくる

 

剣の輝きから恐らく、まだ一度も修理等をしていないのだろうということが判る

 

「それとも いくか? 圏外? あぁ!?」

 

そこで我慢の限界だったのか、アスナがキリトさんに囁いた

 

「…キリト君 ユイちゃんをお願い」

 

そしてキリトさんにユイちゃんを預けると、いつの間にか実体化させた細剣を手に持って前に出たので、私もておさんに対して呼びかける

 

「ておさん 子ども達お願いできますか?」

「問題ないよ まぁ 止めても無駄だろうから止めないけど…やりすぎないでね?」

「解ってますよ」

 

そうは言ったものの、今回ばかりは徹底的にやるつもりだ

 

私は助走をつけて再び"軍"の男達の頭上を飛び越えると、サーシャさんの前に降り立った

 

サーシャさんは再び呆気に取られていたが、直ぐに我に返り、若干大声で話しかけてくる

 

「あの…! タコミカさん! 子ども達は無事なんですか!?」

「はい 先ほど装備は元に戻しました それと…少し後ろに下がっててもらえますか?」

「わ…判りました…」

 

サーシャさんを後ろに下がらせたところで、私はウィンドウを操作して〖ルナール・カエルム〗を装備し、いつでも行けるように準備を整える

 

すると、轟音と共にリーダーの男性が吹っ飛んできた

 

「安心して 圏内ではどんなに攻撃を受けてもダメージはないわ 軽いノックバックが発生するぐらいよ」

 

細剣を抜刀したアスナは揺るぎない歩調で、リーダーの男に歩み寄る

 

「でも 圏内戦闘は恐怖を刻み込む」

 

そこでようやくリーダーの男はアスナの意図を悟ったように悲鳴を上げた

 

「や…やめっ…てばっ!」

 

アスナの剣技によって再びリーダーの男は地面に打ち倒される

 

「お…お前ら…! 見てないで何とかしろっ…!」

 

その言葉によって、他の"軍"の男達も武器を抜くが、アスナがレイピアの先を向けると悲鳴を上げて逃げ出した

 

しかし私は逃がすつもりは微塵も無い

 

「どこに行かれるおつもりですか?」

 

私は逃げてきた男たちに対して、容赦なくソードスキルを浴びせると、悲鳴を上げながら面白いように吹っ飛んだ

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

数分後…空き地には無数の男達が転がっていた

 

私は武器を収めると、その中の1人を胸ぐらを掴んで無理やり起こす

 

「起きてくださーい まだ終わってませんよ~?」

「う…うわあぁぁぁ…!?」

 

男は私の顔を見るなり悲鳴を上げる

 

「でもそうですね… 私もそろそろ飽きてきましたし… 誠意ってのを見せてもらったら見逃してもいいですよ」

 

私がそんな提案を出して、男が言いそうなことを先回りして詳しく話す

 

「どんなのかって…? 簡単ですよ 先ほど子ども達に言ってたことをあなたたちが実践するんです 防具から何から何まで全部置いてって下さいな …まさかできないとかじゃないですよねぇ…?」

 

私が笑みを浮かべながら、胸ぐらを掴んだまま男を壁に打ち付けると、男は悲鳴を上げながらウィンドウを操作し始めた

 

「わ…わかった! わかったから! 頼む! これ以上はやめてくれ!」

 

男は装備を全解除して、全てのアイテムをオブジェクト化するとインナー姿のまま、悲鳴を上げながら走り去っていった

 

 

私は手をはたくと大きく息をついた

 

そこで全員が唖然としたように私の方を見ているのに気が付いて、誤魔化すように口許を押さえながら笑う

 

「お…おほほほほ…」

 

しかし、子ども達の反応は私の思っていたのと真逆の反応だった

 

「すげぇ…すっげぇよ姉ちゃん達! 俺 あんなの初めて見たよ!」

「な? 言ったろ? この姉ちゃん達は無茶苦茶強いって」

 

ニヤニヤ笑いながらユイちゃんを抱えている、キリトさんが進み出てきた

 

困惑していると、アスナと私に子供たちがわっと歓声を上げて一斉に飛びついてきた

 

サーシャさんも胸の前で両手を握りしめながら、泣き笑いのような表情をしている

 

私がそんな子供たちに対して、絶対に真似しないように注意を促そうとした時…

 

「みんなの…みんなの、こころが」

 

その声にハッとなってそちらに視線を向けると、キリトさんの腕の中でユイちゃんが宙に向かって右手を伸ばしていた

 

「みんなのこころ…が…」

「ユイ! どうしたんだ、ユイ!」

 

キリトさんが呼びかけると、ユイちゃんは2、3度瞬きをするときょとんとした表情を浮かべる

 

アスナは慌てて、キリトさんに駆け寄るとユイちゃんの手を握った

 

「ユイちゃん…何か思い出したの…!?」

「わたし…わたし…」

 

ユイちゃんは眉を寄せ、俯く

 

「わたし…ここには…いなかった…ずっと…ずっとひとりで、くらいところにいた…」

 

そして何かを思い出そうと、顔をしかめ唇を噛むと、突然…

 

「うあ…あ…ああぁぁぁ!」

「っ…!?」

 

高い悲鳴が迸り、〔ザ ザッ〕というノイズじみた不快な音が私の耳に響いてきたので、思わず悲鳴を上げながら目を閉じ、耳を塞いでしまう

 

「ゆ…ユイちゃん!」

「ママ…こわい…ママ!!」

 

少ししてから恐る恐る目を開くと、突如起きた怪現象は収まっており、ユイちゃんは気を失ったのか、体の力が抜けた様子でアスナに抱かれていた

 

「なんだよ…今の…」

 

静寂に包まれた空き地に、キリトさんの呟きが低く流れた




書いてて思ったけどもうこれどっちが恐喝してるのか判らないですね…(でも相手が相手なので後悔はしてないです)


今回はちょっと短めですけど、キリがいいのでここまでにしておきます

それではまた次回に


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12話:"軍"の内情

この小説のキバオウはIFの性格に近いです(いわゆるツンデレキバオウ)

それではどうぞ


「ミナ! パン1つ取って!」

「ほら よそ見してるとこぼすよ!」

「あーっ! 先生! ジンが目玉焼き取った!」

「かわりにニンジンやったろ!」

 

「これは…凄いな…」

「そうだね…」

「まるで戦場だ…」

「あはは…」

 

私達は目の前で繰り広げられている朝食風景に、ただ呆然と呟いていた

 

 

<はじまりの街>の東七区にある教会1階の広間 巨大なテーブル2つに所狭しと並べられた大皿に入った卵やソーセージ、野菜サラダなどを二十数人の子ども達が盛大に騒ぎながら食べている

 

「でも…凄く楽しそうですね」

 

そこから少し離れた丸テーブルに座った私たちは、談笑しながらカップに入ったお茶を飲んでいる

 

「毎日こうなんです いくら静かにと言ってもなかなか聞いてくれなくて」

 

サーシャさんはそうは言っているものの、子どもたちを見るサーシャさんの目は心底いとおしそうに細められている

 

「子供、好きなんですね」

 

アスナの言葉にサーシャさんは照れたように笑う

 

「私 向こうでは、大学で教職課程を取ってたんです ほら、長いこと学級崩壊とか問題になってたじゃないですか だから、私が子ども達を導いてあげるんだーって燃えてて でもあの子達と暮らし始めたら、何もかも見たり聞いたりしたのとは大違いで… 寧ろ私の方が頼って、支えられている部分のほうが大きいと思います でも、それでいいと言うか… それが自然なことだと思えるんです」

「なんとなくですけど、解ります」

 

サーシャさんの言葉にアスナは頷き、隣で真剣にスプーンを口に運ぶユイちゃんの頭を撫でる

 

 

…昨日、謎の発作を起こし気を失ったユイちゃんだったが、幸い数分で何事もなく目を醒ました

 

しかし、ユイちゃんを長距離移動させたり、転移ゲートを使う気にはなれず、サーシャさんの熱心な誘いも相まって、教会の空き部屋を借りることになった

 

今朝からはユイちゃんの調子もいいようで、一先ずは安心したのだが根本的なことはまだ何も解決していない

 

記憶は戻っておらず、<はじまりの街>で暮らしていた様子や、保護者と暮らしていた様子も無し、おまけに幼児退行の原因すら掴めていない …これ以上何をすればいいのかがわからない

 

―――でも何か必ずあるはず…

 

 

私がカップに入っている紅茶を見つめながら考えていると、ておさんがカップを置き、サーシャさんに対して訊ねていた

 

「サーシャさん」

「はい?」

「…"軍"のことなんですが…俺が知ってる限りだと若干強引なことはあれど、治安維持に関しては熱心だったはずです でも…昨日の奴等ははっきり言って下衆だった …いつからあんな感じなんですか?」

 

その質問にサーシャさんは口許を引き締め、答える

 

「方針が変更されたと感じ始めたのは、半年ぐらい前ですね… 徴税と称して恐喝紛いの事を始めた人達と、それを逆に取り締まろうとする人達もいて "軍"のメンバー同士で対立している場面を何度も見てきました 噂では上のほうで何やら権力争いがあったみたいで…」

「うーん… なんせ今でも1000人以上のメンバーがいる大所帯だからなぁ… 一枚岩ではないだろうけど… でも昨日みたいなことが日常的に行われてるんだとしたら放置はできないよな… アスナ」

「何?」

 

キリトさんが腕を組みながら、そう言うとアスナに視線を向けた

 

「あいつはこの状況知ってるのか?」

 

キリトさんに訊ねられると、アスナは笑顔を噛み殺しながら言った

 

「多分知ってる…んじゃないかな… 団長は"軍"の動きにも詳しいし でも何というか、あの人 ハイレベルの攻略プレイヤー以外には興味が無さそうなんだよね… キリト君のこととか、タコミカのこと、テオ君のこと、[フリッツ・フリット]のこととかは昔からあれこれ聞かれたけど、殺人ギルド[ラフィン・コフィン]討伐の時なんて、任せる の一言だけだったし… だから"軍"をどうこうする為に攻略組を動かしたりはしないと思う」

「あの人仮にも最強ギルドのリーダーでしょ… まぁらしいと言えばらしいですけど… でも私達だけだとやれることに限界があるからね…」

 

私の言葉に顔をしかめながら、お茶を啜ろうとしたキリトさんが不意に顔を上げると、教会の入口の方を見た

 

「誰か来るぞ… これは…3人か…?」

「またお客様かしら…」

 

サーシャさんの呟きに重なるようにして、ノックする音が響いてきた

 

 

サーシャさんが入り口に向かうために椅子から立ち上がると、念のためにキリトさんもついて行こうと立ち上がったので私も立ち上がった

 

それに続いて、アスナとておさんも立ち上がろうとしたが、キリトさんと私が制し、武器を装備して入口へと向かった

 

 

サーシャさんが入口の扉を恐る恐るといった感じに開けると、久々に見るイガ頭の男と、銀髪でポニーテールの怜悧という言葉が似合いそうな女性と、何故か廻道さんがそこにはいた

 

わたしとキリトさんが驚いていると、キバオウさんは挨拶をしてきた

 

「じゃますんで」

「邪魔するなら帰ってください」

「あいよー…って こっちは用があるから来とんねん!」

 

昔に大阪旅行に行ってとある劇を見てから、ずっとやりたかったネタ*1をキバオウさんにやったところで、気持ちを切り替えてキバオウさんに訊ねた

 

「それで…何の用ですか? 昨日の件で抗議ですか? まぁ流石に私もやりすぎたっていうのは思ってたんで話は聞きますけど…」

「いや その逆や」

「逆…?」

 

キリトさんがキバオウさんの言葉に首を傾げると、今度は銀髪の女性が続けるようにして口を開く

 

「昨日の件に関しては、寧ろよくやってくれたと言いたいぐらいでして」

「成程… えぇっと…」

「すみません 自己紹介がまだでしたね 私はユリエールと申します ギルドALFに所属しております」

「ALF…?」

「[アインクラッド解放軍]の略称や まぁユリエールはんのように略称名で言うやつは多いけどな」

 

私達は軽く頷くと、それだけではないだろうと考えて、訊ねることにした

 

「それで… ただお礼を言いに来ただけじゃないですよね?」

 

私がそう言うと、ユリエールさんは真剣な表情でこちらを見る

 

「はい 実は折り入って頼みがありまして…」

 

 

~~~~~~

 

 

私達が3人を教会の内部へと案内すると、子ども達は警戒したが、サーシャさんが子ども達に笑い掛けながら「みんな この方々は大丈夫よ 食事を続けて」と言うと、全員肩の力を抜き何事もなかったかのように喧騒な食事風景に戻った

 

そして私達とユリエールさんが改めて自己紹介を終えると、詳しい事情を聞くことにした

 

~~~~~~

 

3人の話をまとめると、元々シンカーさんがギルドリーダーを務めていたMTDにキバオウさん率いるALSの残りのメンバーが加入、そして"軍"もとい[アインクラッド解放軍]通称ALFへと看板を改めたとのこと

 

ALFの目的は全員で強くなるギルドで初めの方はうまく行っていたらしいが、グリゴリアという男が"軍"のNO.3になったことでそれが急変、公認の方針として犯罪者撲滅を掲げたまでは良かったんだけど、自身の息のかかった配下を重要な役職に就かせることで実質的なサブリーダーに、更には数の暴力で効率の良い狩場を独占したことでギルドの収益は急増し、その地位を確たるものにしたとの事

 

それで調子に乗ったグリゴリア派の人間は、昨日のような徴税と称した恐喝紛いのことまでし始めたらしい

 

 

一通り話し終えた3人は一息つき、お茶を飲んで続けた

 

「ですが…グリゴリア派にも弱みはありました それは、資材の貯蓄だけにうつつを抜かし、ゲーム攻略を蔑ろにし続けてきたことです それでは本末転倒だろうという声が末端からではありますが徐々に上がってきて… それが無視できなくなったのか、彼は自身の配下の中でもハイレベルであった十数人を最前線のボス攻略に送り出したんです」

 

私達はそこではっとなって、思わず顔を見合わせた… 間違いなく第74層のコーバッツの件だろう

 

 

その場面にいた廻道さんが私達の言葉を代弁するようにして言った

 

「皆さんが思ってる通り、コーバッツの件だ 結果は…まぁもう言わなくても解ってるはず」

「…パーティは敗走、リーダーと2人が死亡という最悪の結果になり、彼はその無謀さを強く糾弾されたのです あと少しで彼をギルドから追放できるというところまで行ったのですが…」

 

そこでユリエールさんは鼻梁に皺を寄せ、唇を噛みながら続ける

 

「3日前…とうとう追い詰められた彼はシンカーを罠に嵌めるという強硬手段に出たんです 出口をダンジョンの奥深くに設定した〖回廊結晶〗を使って、逆にシンカーを放逐してしまったんです」

 

その言葉に私達は驚き、一足早く我に返ったておさんがユリエールさんに対して訊ねた

 

「シンカーは武装していなかったのか…?」

「はい… その時の彼はグリゴリアの言った「俺が悪かった もうギルドから抜ける だから丸腰で今後どうするか話し合おう」という言葉を鵜呑みにしてしまって、非武装で… とても1人ではダンジョン最深部のモンスター群を突破して戻るというのは不可能な状況でした 〖転移結晶〗も持っていなかったみたいで…」

「3日も前に…!? …それで…シンカーさんは…?」

 

反射的に訪ねたアスナにユリエールさんは小さく頷く

 

「幸い 生命の碑にある彼の名前は無事なので、安全地帯までは辿り着けたようです ただ… 場所がかなりのハイレベルダンジョンの奥なので身動きが取れないようで…ご存じの通りダンジョンにはメッセージは送れませんし、中からはギルドストレージにアクセスできないので、〖転移結晶〗を届けることもできません …彼は良い人すぎたんです…」

「おまけにあいつやその部下がワシらに対して常に目を光らせてるから下手に動くこともできんし、解放軍の助力も当てにならん… そん時にそいつのことを思い出したんや」

 

キバオウさんは廻道さんの方を向きながら言うと、ユリエールさんは改まった顔でこちらを見ながら口を開いた

 

「最初は元MTDのメンバーであった廻道さんに依頼をしようと思っていたんですけれど…そこに恐ろしく強い4人組が現れたと聞きまして 貴方達がいれば心強いと思い、いてもたってもいられずこうしてお願いしに来た次第です キリトさん アスナさん タコミカさん テオロングさん」

 

ユリエールさんは深々と頭を下げながら言った

 

「お会いしたばかりで厚顔きわまるとお思いでしょうが…どうか、一緒にシンカー救出に行って下さいませんか」

「ワイからもホンマ頼むわ…」

 

それに続いてキバオウさんと廻道さんも頭を下げたので、私は意を決して頷いた

 

「わかりました 引き受け――「待った」」

 

そこにておさんが待ったをかけたので、思わずそちらを見る

 

「なんで止めるんですか 仲間が信じられないと言いたいんですか?」

「そうじゃないけど… だからといって感情で動くのは駄目だ それに廻道だって騙されているという可能性だって捨てきれない 最低でも裏を取ってからじゃないと俺は行くことには同意できない …解ってくれ」

「でも…!「いえ 当然のことだと思います」」

 

私はておさんに反論しようとしたが、それをユリエールさんの言葉が遮る

 

「テオロングさんの仰る通り、見ず知らずの人間に急にこんなことをお願いされたら、警戒するのは当然だと思います でも、生命の碑のシンカーの名前にいつ横線が刻まれると考えると、もう気が気ではなくて…」

 

私が再びておさんを見ると、彼も若干迷っているような顔を浮かべている

 

でもああは言ったけど、ておさんの言うことも一理あるし、実際それで危うい目にも遭っている

 

私がどうしようかと考えていると、今まで沈黙していたユイちゃんがカップから顔を上げると、こちらを見ながら言った

 

「だいじょうぶだよ その人、うそついてないよ」

「ユイちゃん そんなこと判るの…?」

 

アスナは呆気にとられ、ユイちゃんの顔を覗き込むようにして問いかけると、ユイちゃんはしっかりとした動作で頷く

 

「うん うまく…言えないけど、わかる…」

 

その言葉を聞いたキリトさんは、ユイちゃんの頭を少し雑な感じで撫でると、アスナを見てニヤっと笑った

 

「疑って後悔するより信じて後悔しようぜ 行こう 攻略組でもトップクラスの実力を持った奴が4人もいるんだ 何とかなるって」

「相変わらず呑気な人ねぇ…」

 

そんなキリトさんに呆れながらアスナは首を横に振ると、ユイちゃんの髪に触れる

 

「ごめんね ユイちゃん お友達探し、また明日になっちゃうけど許してね」

 

アスナの囁きの意味を理解したのかどうかはわからないが、ユイちゃんは大きな笑みと共にこくりと頷いた

 

そしてユイちゃんのつややかな黒髪を一撫ですると、ユリエールさんに向き直り微笑みながら答えた

 

「…微力ですけど、お手伝いさせていただきます 大事な人を助けたいって気持ち、私にもよく解りますから」

 

それを聞いたユリエールさんは眼に涙を溜めながら、深々とお辞儀をした

 

「ありがとう…ありがとうございます…」

「…おおきにな」

「それはシンカーさんを救出してからにしましょう」

 

キバオウさんも素っ気なくではあるもののお礼を言うと、アスナはもう一度笑いかける

 

今まで成り行きをただ見守っていたサーシャさんが、ぽんと両手を打ち合わせた

 

「そういうことなら、しっかり食べて行って下さいね! まだまだありますから、ユリエールさん達もどうぞ!」

 

サーシャさんの提案で、私達は食事をご馳走になることになった

*1
吉本新喜劇のネタ(関東圏在住の方は解りづらいかも…)




オリキャラ紹介

グリゴリア(grigoria)/???

常にローブで顔を隠しており、素顔は見えない男性
"軍"の実質的なサブリーダーで"軍"の腐敗の原因だが、かなり狡猾
この小説でのシンカーの件の犯人


タコミカは感情優先、テオロングは理屈優先で動いています

それではまた次回に


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13話:真実に迫る

朝露の少女編はこの話を入れてあと2話ぐらいになりそうかな…?

それではどうぞ


話し合った結果、廻道さんはサーシャさんと共に教会へと残ることになり、キバオウさんも無闇に動くことが出来ないので、比較的自由に動けるユリエールさん先導で足早に問題のダンジョンへと向かうことになった

 

その為、約2日ぶりに攻略用の装備に着替え、ユリエールさんの後を着いて行っている

 

それと教会を出るときに、アスナはユイちゃんをサーシャさんに預けようとしたのだが、ユイちゃんは行くと言って聞かず、やむを得ず連れてきた 勿論危なくなったら脱出するけど…

 

「あ そういえば肝心なこと聞き忘れてたな」

 

キリトさんは呟くと、前を歩いているユリエールさんに話しかけた

 

「問題のダンジョンってのはどこにあるんだ?」

 

返ってきた答えは実に単純だった

 

「ここです」

「ここって…?」

 

アスナは思わず首を傾げる

 

「この<はじまりの街>の中心地の地下に、結構大きいダンジョンがあるんです …恐らくシンカーはその1晩奥に…」

「まじかよ」

 

キリトさんは呻くようにして言った

 

「βの時にはそんなダンジョン影も形もなかったぞ…」

「ダンジョンの入口は{黒鉄宮}―――つまり"軍"の本拠地の地下にあるんです 恐らく攻略の進み度合いによって解放されるタイプのダンジョンなんでしょうね、発見されたのはグリゴリアが実質的な実権を握ってからで、彼はそこを自分たちだけで独占しようと画策していた様子でして 長らくシンカーや私にも秘密で…」

「成程な 未踏破ダンジョンにはレアアイテムがあるケースが多いからな さぞかし儲かっただろう」

「それがそうでもなかったようでして」

 

ユリエールさんの声色がわずかに痛快といったような感じを帯び始める

 

「基部フロアの…さらに一番最初の街の地下にあるにしては、そのダンジョンの難易度が恐ろしく高くて…基本のモンスターだけでも60層クラスのレベルがありました グリゴリア自身が率いた先遣隊は散々モンスターに追いかけまわされて、命からがら転移脱出する羽目になったそうです 使いまくったクリスタルのせいで大損だったとか」

「あはは 成程」

 

ておさんの笑い声にユリエールさんは笑顔で応じたが、直ぐに沈んだ表情を見せた

 

「でも今は、そのことがシンカーの救出を難しくしています 奴の使った〖回廊結晶〗は、モンスターに追われながら相当奥まで入り込んだところでマークしたものらしくて…シンカーがいるのはそのマークからさらに奥の所です レベル的には1対1なら私でも何とか対処できるのですが、連戦はとてもじゃないですけど無理です …失礼ですが皆さんは…」

「あぁ まぁそのぐらいだったら…」

「何とかなると思います」

 

キリトさんの言葉を引き継いだアスナは軽く頷いた

 

第60層にあるダンジョンを攻略するのに必須なレベルは70だけど、私は既に89レベルになっており、ておさんも88なので問題ないと思い、肩の力を抜く

 

キリトさんとアスナも同様の雰囲気を出していたが、ユリエールさんは気がかりそうな表情のまま続けた

 

「それと…もう1つ気がかりなことがありまして、先遣隊に参加していたプレイヤーから何とか聞き出したのですが、ダンジョンの奥で何やら巨大な影…ボス級のモンスターを見かけたと…」

 

その言葉に私達は思わず顔を見合わせる

 

「ボスの強さも60層程度なのかしら… あそこのボスってどんなのだったっけ?」

「確か石造りの鎧武者でそこまで苦労した記憶はなかったよ」

「あーあれか~ 確かに10層の【カガチ・ザ・サムライロード】の攻撃パターンに似たり寄ったりな感じだったから苦戦した記憶はないな…」

 

アスナはもう一度、ユリエールさんに向かって頷く

 

「まぁそれも何とかなると思います」

「そうですか、良かった!」

 

そこで安心したように口許を緩めたユリエールさんは、私達のことをどこか眩しいものを見るように目を細めながら続ける

 

「そっかぁ… 皆さんはずっとボス戦を経験なさっているんですね… すみません、貴重な時間をわざわざ割いていただいて…」

「いえ、今は休暇中ですから」

 

ユリエールさんの言葉に、アスナは慌てて手を横に振る

 

 

そうこうしているうちに、目の前に{黒鉄宮}が見えてきて、少し歩くと正門が近づいてくる

 

このまま建物の中に入れば生命の碑が安置されている場所へと行けるのだが、ユリエールさんは建物の中には入らず、裏手に回った

 

そこには、高い城壁とそれを取り囲む深い堀があるだけで、私たち以外に人はいない

 

数分歩き続けた後、ユリエールさんが立ち止まったのは、道から水面近くまで階段が下った場所だった

 

中を覗き込んでみると、階段の先の右側に何やら暗い通路が続いていそうな感じだった

 

「ここから、宮殿の下水道に入り、ダンジョンの入口を目指します 少し暗くて狭いんですが…」

 

ユリエールさんはそこで言葉を区切ると、キリトさんの腕の中にいるユイちゃんに視線を向けた

 

恐らくユリエールさんは、ユイちゃんをダンジョンに伴うことに不安を抱いているのだろう

 

しかし、ユイちゃんは自信満々そうに答えた

 

「ユイ 怖くないよ!」

 

その様子を見たアスナは、思わずといった感じで笑みを洩らすと、ユリエールさんに対して安心させるように言った

 

「大丈夫ですよ この子、見た目以上にしっかりしてますから」

「うむ きっと将来は立派な剣士になるな」

 

キリトさんの発言に、アスナはキリトさんと目を見交し笑うと、ユリエールさんが大きく1回頷いた

 

「では行きましょう!」

 

 

~~~~~~

 

 

「うおおぉぉぉぉ!」

 

やはりというか60層クラスのダンジョンにいる敵では

 

「りゃぁぁぁぁぁ!」

 

ユニークスキル持ちのキリトさんの相手ではなく、ある種の蹂躙のような状況になっていた

 

それに加え、ユイちゃんが「パパ~ がんばれ~!」とキリトさんに向かって応援するので、緊張感はかすかにしかない

 

ぶっちゃけ私達要らなかったような…?

 

 

「なんだかすみません…任せっぱなしで…」

 

ダンジョンに入ってから数十分経つが、今まですべてキリトさんが相手をしているので流石にユリエールさんは申し訳なくなったのか、肩をすくめながら謝るとアスナは苦笑いした

 

「あれはもう病気なので、やらせとけばいいんですよ」

「そうそう 思う存分勝手にやらせとけばそのうち戻ってきますって」

「なんだよ ひどいな2人共」

 

アスナとておさんが話していると、敵の集団を蹴散らしてきたキリトさんが戻ってきて、内容を聞いていたのか口を尖らせた

 

「じゃぁ、私かタコミカかテオ君と代わる?」

「も…もうちょっとだけ…」

 

キリトさんはアスナに問いかけられると、小さく呟いたので、私達は顔を見合わせ、思わず笑ってしまう

 

 

ユリエールさんは左手を振ってマップを表示させると、シンカーさんの現在地を示すであろう光点を指で示す

 

光点までのマップデータは無いようで、空白だが全体の距離で見るとあと3割ぐらいのところまで進んできている

 

「シンカーの位置はここ数日動いていないので、恐らく安全エリアにいるのだと思います そこまで到達できれば、あとは結晶で脱出できますので… すみませんがもう少しだけお願いできますか?」

 

ユリエールさんに頭を下げられたので、キリトさんは慌てて手を振った

 

「い…いや こっちも好きでやってるし… アイテムも出るから…」

「へぇ~ 何か出たの?」

「おう!」

 

アスナが興味津々といった様子でキリトさんに訊き返すと、キリトさんはメニューを操作し始めた

 

「なんか嫌な予感がするのは俺だけか…?」

 

私も嫌な予感は地味に感じてる

 

そんな私達の嫌な予感は的中し、キリトさんの手の中に〔どちゃっ〕という音を立てて赤黒い肉塊がオブジェクト化した

 

名状し難いその質感に私はキリトさんから数歩後ずさるようにして離れ、アスナも顔を引き攣らせる

 

「な…ナニソレ…?」

「〖スカベンジトードの肉〗! ゲテモノほど旨いっていうだろ? 後で調理してくれよ」

絶、対、嫌!

 

アスナはキリトさんからそれを奪い取ると、思いっきり明後日の方向に投げ捨てた

 

「あっ! ああぁぁぁぁ…」

 

地面に当たり、ポリゴン状になって消滅するとともに、情けない顔で悲痛な声を上げた

 

「それなら…!」

 

しかしキリトさんはめげずに、ウィンドウを操作すると大量の〖スカベンジトードの肉〗をオブジェクト化するとこちらを向き、腕一杯に抱えたそれを私へと差し出してくる…?

 

「じゃぁタコミカ! お前が調理しろ!」

 

私は有無を言わず、全力でその場を逃亡した

 

「あっ 待て! 逃げるな!」

 

キリトさんは逃亡した私を追いかけようとしたが、ておさんに強めに止められた

 

「やめろ! お前は!」

「絶対旨いから! ほら、カエルの肉って鶏肉みたいな味がするっていうだろ!?」

「味は美味しくても見た目が駄目なんだよ! 判れ!」

 

キリトさんとておさんが〖スカベンジトードの肉〗の押し付け合いをしながら押し問答をしていると、ユリエールさんが我慢出来ないと言った感じにお腹を押さえ、笑いを洩らした

 

その時、ユイちゃんが叫んだ

 

「笑った!」

 

その声に私達は思わず、嬉しそうなユイちゃんを見た

 

「お姉ちゃん、初めて笑った!」

 

それをきっかけとして、アスナがユイちゃんを抱え、2人は押し問答をやめる

 

「さぁ、先に進みましょう!」

 

そうしてアスナが声を出すと、さらに奥に向かうために歩き始めた

 

 

~~~~~~

 

 

このダンジョンは水生生物がメインかと思われたが、階段を下っていくほどにそれがゴーストやゾンビなどのアンデッド系統へと変化していったが、やはりキリトさんの相手ではなく徐々にシンカーさんとの距離を詰めていき、遂に目の前に温かい光の洩れる通路が目に入った

 

「あっ 安全地帯よ!」

 

アスナがそう言うと、キリトさんも索敵スキルで確認したのか頷く

 

「奥にプレイヤーが1人いるな… カーソルはグリーンだ」

「シンカー!」

 

2人の会話を聞いたユリエールさんがもう我慢できないといった感じに1度叫ぶと、走り始めたので私達も慌てて走り始める

 

明かりを目指して数秒ほど走ると、前方に大きな十字路とその先に光の溢れる小部屋が見えてきた

 

小部屋の入口には1人の男性が立っており、逆光で顔はよく見えないがこちらに気が付いたのか、こちらに向かって両手を激しく振っている

 

「ユリエ―――ル!」

 

男性が大声で叫ぶと、ユリエールさんも左手を振って、走る速度を速める

 

「シンカ―――!」

 

涙交じりの声に重なるようにして男性の絶叫が聞こえてきた

 

「来ちゃ駄目だ――っ! その通路には…っ!」

 

それを聞いた私達は走る速度を緩めたが、ユリエールさんには聞こえていないのか、そのまま一直線に小部屋へと向かって行く

 

その時、部屋の前にある十字路の右側の死角部分に、不意に黄色いカーソルが出現した

 

すかさず名前を確認すると、【The Fatal-scythe】…名前に定冠詞があるので間違いなくボスであろう

 

「ダメ―――っ! ユリエールさん 戻って!!」

 

アスナが絶叫すると、黄色いカーソルが左に動き、十字路へと近づいてくる

 

このままだと数秒もしないうちにユリエールさんに出合い頭に衝突するだろう

 

「キリト!」

「解ってる!」

 

2人もそれが判っているのか、ておさんがキリトさんに合図を出すと同時に、キリトさんは俊敏パラメータのあらん限りに走り、背後からユリエールさんの体を抱えると剣を床石に突き立てた

 

凄まじい金属音と大量の火花を立て、十字路の本当に手前で停止した2人の前を巨大な影が横切っていく

 

黄色いカーソルが左の通路に入ってから10メートルぐらい進んだところで、停止したので思わず武器を手に取る

 

キリトさんもユリエールさんの体から手を離すと、床に刺さっている剣を抜いて左の通路に飛び込んでいったので、私達もその後を追いかけた

 

「この子と一緒に安全地帯まで退避をお願いします!」

 

アスナが短く叫び、ユイちゃんをユリエールさんに預け、ユリエールさんが安全圏に退避するのを視界の端で見届けると、私は黄色いカーソルを表示させていた【ザ・フェイタルサイス】へと向いた




いよいよアインクラッド編も終盤に近付いてきたな…

それではまた次回に


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14話:MHCP001 -Yui-

今回で朝露の少女編を終わらせたい…

それではどうぞ


【ザ・フェイタルサイス】はボロボロの黒いローブを纏っており、フードの奥と袖口からは密度の濃い闇が纏わりついて蠢いている

 

顔の奥では生々しい血管の浮き出た眼球がはまっており、私達を見下ろす

 

右手には長大な黒い大鎌を握っており、その様はまさに死神というのが正しいだろう

 

私はユリエールさんから聞いていた話と、今までの敵の強さから60層クラスのボスだろうと思い、ヘイトを引き付ける為に両手斧に持ち替え、ソードスキルを放とうと思った瞬間、キリトさんが掠れた声を上げた

 

「3人共 今すぐ安全エリアにいる3人を連れて〖転移結晶〗で脱出しろ」

「えっ…?」

「こいつヤバイ 俺の識別スキルでもデータが見えない 多分強さは90層クラスの奴だ…」

 

え…? う…嘘…? 何でここに90層クラスが…?

 

私が戸惑っている間にも、死神は徐々に私達に近づいてくる

 

「俺が時間を稼ぐから早く逃げろ!」

「キ…キリト君も一緒に…」

「俺も後から行く! 早く!」

 

確かにキリトさんの速度なら攻撃を回避し、安全地帯にまで行くことは恐らくできるだろうけど…

 

でももし私達が脱出した後、キリトさんが現れなかったら…

 

アスナもそう思ったのか、覚悟を決めた様子で私の顔を見たので、私も覚悟を決め、頷くとアスナはユリエールさんに向かい大声で叫んだ

 

「ユリエールさん、ユイを頼みます! 3人で脱出してください!」

「いけない…そんな…」

「早く!」

 

その時、ゆらりと鎌を振りかぶった死神が、ローブの裾から瘴気のようなものを撒き散らしながら、恐ろしい勢いで突撃してきた

 

私が思わず両手斧を体の前で構えると、そこに片手剣が合わさったので、驚いて後ろをちらりと見ると、ておさんが後ろに立っていた

 

そして死神は私達に対し、鎌を振り下ろしてきて、赤い閃光と衝撃が走る

 

2回の強い衝撃の後、私は床に強く叩きつけられ、そのまま床に転がる

 

一瞬何が起こったのか理解できなかったが、ぼんやりとする視界で辺りを見回すと全員が床に伏しており、直ぐに左上のHPバーを見てみたが全員のHPが半分を切っており、イエロー表示になっていた 恐らく次は耐えられないだろう

 

何とか立ち上がろうとしたが、体が動かない…

 

その時、小さな足音が聞こえてきて、そちらに視線を向けると、なぜか安全地帯にいたユイちゃんが死神に向かって歩いているのが見えた

 

そして死神の前で立ち止まると、そのまま恐れなど微塵も感じていない様子で死神を見据える

 

「バカッ! 早く逃げろ!」

 

キリトさんが必死に上体を起こそうとしながら叫ぶが、死神は再び鎌を振りかぶりつつある

 

もしもあれをユイちゃんが受けてしまったら確実にHPが全損する

 

「大丈夫だよ パパ ママ にぃに ねぇね」

 

ユイちゃんがそう言うと共に、まるで見えない羽根で羽ばたいたかのようにふわりと宙に浮き、地面から2mの高さまで浮かび上がると、そこでぴたりと静止し、右手を宙に掲げた

 

「ダメッ…! ユイちゃん! 逃げて!」

 

アスナの絶叫をかき消すかのように死神は宙に浮くユイちゃんに向けて大鎌を振り下ろしたが、その切っ先がユイちゃんに触れる寸前に、鮮やかな紫色の障壁に阻まれ、大音量と共に弾かれた

 

そしてユイちゃんに表示されたシステムタグに私は驚愕を隠せなかった

 

「システム的…不死…!?」

 

そこには Immortal Object という、絶対にプレイヤーが持つはずのない属性が記されていたからだ

 

攻撃が当たらないことに対して、【ザ・フェイタルサイス】はまるで戸惑っているように眼球をぐるぐると動かす

 

その様子を気にせず、私はユイちゃんに注目していると、〔ゴウッ!〕という響きと共に、ユイちゃんの右腕を中心として紅蓮の炎が巻き起こる

 

炎は一瞬拡散した後直ぐに凝縮し、細長い形にまとまり始め、みるみるうちにそれは焔色に輝く刀剣へと形を変え、どんどん伸びていく

 

ユイちゃんの右手に出現した巨大な剣は既にユイちゃんの身長を超えており、溶解する前の金属のような特徴的な輝きで通路を照らす

 

剣が出している炎にあおられ、ユイちゃんが身に着けていた冬服が一瞬にして燃え落ち、その下から白いワンピースが現れるが、不思議とそのワンピースは炎の影響を受ける様子が見られない

 

そしてユイちゃんはその剣を音を立て、一回転させると躊躇せず死神へと振り下ろした

 

死神はすかさず鎌を横に掲げ、防御の姿勢を取る

 

激しい炎を上げている刀身と、大鎌の柄が真正面から衝突し、一瞬両者の動きが止まるが、ユイちゃんの火焔剣が動き始め、じわじわと鎌の柄に刀剣の刃が食い込んでいく

 

やがて、爆音と共に死神の鎌が真っ二つに断ち切られ、その勢いのまま炎の柱と化した巨大な剣がボスの顔の中央へと叩きつけられた

 

その時、大火球が出現し、その眩さに思わず腕で目を覆った

 

 

かすかにボスの断末魔が聞こえ、少ししてから腕を離すと既に死神の姿はなく、通路のそこかしこに小さな残り火がぱちぱちと音を立てながら揺らめいており、その中央にユイちゃんが俯いて立ち尽くしていた

 

床に突き刺さった剣が、出現した時と同じように炎を発しながら溶け崩れ、消滅した

 

私はようやくよろよろとではあるが斧を支えにしながら立ち上がり、ユイちゃんへと歩み寄った

 

「ユイ…ちゃん…」

 

同じく歩み寄ったアスナが声を掛けると、ユイちゃんは音もなく振り向く

 

その口許は微笑んでいたが、目には涙が溜まっている

 

そして私達を見上げたまま静かに言った

 

「パパ…ママ…にぃに…ねぇね… ぜんぶ、思い出したよ…」

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

通路の先にあった小部屋には中央につるつる磨かれた黒い長方体があるのみで、他には何もない正方形の形をしていた

 

私達はそこに腰かけるユイちゃんを無言のまま見つめている

 

因みに、シンカーさんとユリエールさんには先に脱出してもらったので、ここにいるのは5人だけだ

 

先程記憶が戻ったと話してから、ユイちゃんは数分間沈黙を続けているが、その表情はどこか悲しそうで私達は話しかけるのを躊躇っていたが、意を決したようにアスナが訊ねた

 

「ユイちゃん… 本当に思い出したの…? 今までの事…」

 

ユイちゃんはその質問に答えず、なお俯いていたが、やがてこくりと頷き、泣き笑いのような表情のまま小さく唇を開いた

 

「はい… 全部お話しいたします キリトさん アスナさん テオロングさん タコミカさん」

 

その丁寧な言葉に私達は小さく息を呑むことしかできず、直ぐに小部屋は静寂に包まれる

 

静寂に包まれる小部屋の中で、ユイちゃんはゆっくりと話し始めた

 

「『ソードアート・オンライン』と呼ばれるこの世界は、ある1つの巨大なシステムによって管理されています そのシステムの名は『カーディナル』 それがこの世界のバランスを自らの判断によって制御しているのです 『カーディナル』は元々、人間のメンテナンスを必要としない存在として設計されました 2つのコアプログラムが相互的にエラー訂正を行い、そこから更に無数の下位プログラム群によって世界の全てを調整する… モンスターやNPCのAI、アイテムや通貨の出現バランス、何もかもが『カーディナル』指揮下のプログラム群に操作されています ―――しかし1つだけ人の手に委ねなければならないものがありました プレイヤーの精神性に由来するトラブル、それだけは同じ人間ではなければ解決できない…その為に数十人規模のスタッフが用意される、はずでした」

「GM…」

 

ユイちゃんの話を聞いたキリトさんがぽつりと呟く

 

「ユイ、つまり君はゲームマスターなのか…? アーガスのスタッフ…?」

 

ユイちゃんは数秒間沈黙した後、首を横に振る

 

「…『カーディナル』の開発者達は、プレイヤーのメンタルケアすらもシステムに委ねようと、あるプログラムを試作しました ナーヴギアの特性を利用してプレイヤーの感情を詳細にモニタリングし、問題を抱えたプレイヤーの元へ訪れて話を聞く… メンタルヘルス・カウンセリングプログラム、MHCP試作1号、コードネーム Yui …それが私です」

「プログラム…? AIだって言うの…?」

 

アスナが掠れた声で問いかけると、ユイちゃんは悲しそうな笑顔のままこくりと頷いた

 

「プレイヤーに違和感を与えないよう、私には感情模倣機能が与えられています ―――偽物なんです、この涙も全部…ごめんなさい…アスナさん」

 

ユイちゃんの両眼から涙がこぼれ、光の粒子となって蒸発する

 

アスナはそっと一歩ユイちゃんに歩み寄って、手を差し伸べるが、ユイちゃんはかすかに首を横に振る

 

それでも信じられなさそうな様子のアスナは、声を絞り出すようにしてユイちゃんに訊ねた

 

「で…でも、記憶がなかったのは…? AIにそんなことが起こるの…?」

「…2年前、正式サービスが始まった日…」

 

ユイちゃんは瞳を伏せ、続ける

 

「何が起きたのかは私も詳しくは解らないのですが、『カーディナル』が予定にない命令を私に下したのです それはプレイヤーに対する一切の干渉禁止… 具体的な接触が許されない状況で、私はやむなくプレイヤーのメンタル状態のモニタリングだけを続けました」

 

恐らくユイちゃんはあの日のことを思い出しているのだろう 顔に沈痛な表情を浮かべながら唇を動かす

 

「状況は―――最悪と言っていいものでした… ほとんどのプレイヤーは恐怖、絶望、怒りといった負の感情に常に支配され、時として狂気に陥る人もいました …本来であれば直ぐにでもそのプレイヤーの元へと赴き、話を聞き、問題を解決しなければならない…しかし、こちらからプレイヤーに接触することはできない… 義務だけがあり、権利のない矛盾した状況の中で私は徐々にエラーを蓄積させ、崩壊していきました…」

 

銀糸を震わせるようなユイちゃんの細い声に、私達はただ聞くことしかできない

 

「ある日、いつものようにモニターしていると、他のプレイヤーとは大きく異なるメンタルパラメータを持つ2人のプレイヤーに気付きました その脳波パターンはそれまで見たことがないものでした  喜び…安らぎ…でもそれだけじゃない… この感情は何だろう… そう思って私はその2人のモニターを続けました 会話や行動に触れる度、私の中で不思議な欲求が生まれました そんなルーチンは無かったのですが… あの2人の傍に行きたい…直接、私と話をして欲しい… 少しでも近くにいたくて、私は毎日、2人が暮らすプレイヤーホームから一番近いコンソールで実体化し、彷徨いました その頃の私はかなり壊れてしまっていたのだと思います…」

「それが、あの22層の森なの…?」

 

アスナが聞くと、ユイちゃんはゆっくりと頷いた

 

「はい キリトさん…アスナさん…私、ずっと…お二方に会いたかった… あの森でお二方の姿を見た時…凄く嬉しかった… 可笑しいですよね…そんなこと、思えるはずないのに… 私は、ただのプログラムなのに…」

 

ユイちゃんは涙をいっぱいに溢れさせ、口をつぐむ

 

アスナは視線をユイちゃんに合わせて、囁くようにして話しかける

 

「ユイちゃん…あなたは本物の知性を持っているんだね…」

 

ユイちゃんは首をわずかに傾け、答える

 

「わたしには…解りません… わたしが、どうなってしまったのか…」

 

その時、キリトさんが一歩歩み出て、ユイちゃんに向かって優しい口調で話しかけた

 

「ユイはもう、システムに操られるだけのプログラムじゃない だから、自分の望みを言葉にできるはずだよ ユイの望みは何だい?」

「わたし…わたしは…」

 

キリトさんがそう言ったのをきっかけとして、ユイちゃんはその細い腕をキリトさんとアスナに向けて伸ばした

 

「ずっと…ずっと一緒にいたいです…パパ…ママ…お兄ちゃん…お姉ちゃん…!」

 

アスナは溢れる涙を拭いもせず、ユイちゃんの体をぎゅっと抱きしめ、私達も近くまで向かうとユイちゃんの頭をそっと撫でた

 

「ずっと一緒だよ、ユイちゃん」

 

それに少し遅れ、キリトさんもユイちゃんとアスナを包み込むようにして抱きしめる

 

「あぁ… ユイは俺達の子供だ あの森の家で、いつまでも一緒に暮らそう…」

 

 

―――しかし、ユイちゃんは首を横に振った

 

「もう…遅いんです」

 

その言葉にておさんが訊ねる

 

「もう遅いって…何が…?」

「私が記憶を取り戻したのは…この石に接触したせいなんです」

 

ユイちゃんは今現在座っている黒い石に触れる

 

「これは、ただの装飾オブジェクトじゃなく、GMがシステムに緊急アクセスするために設置されたコンソールなんです」

 

すると、黒い石に突如として数本の光の線が走り、〔ぶん…〕と音を立てて、ホロキーボードが浮かび上がる

 

「先ほどの【ザ・フェイタルサイス】はここにプレイヤーを近づけないように『カーディナル』の手によって配置されたものだと思います 私はこのコンソールからシステムへとアクセスし、〖オブジェクトイレイサー〗を呼び出してモンスターを消去しました その時に『カーディナル』のエラー訂正能力によって、破損した言語機能を修復できたのですが…それは同時に、今まで放置されていた私に『カーディナル』が注目してしまったということでもあります 今、コアシステムが私のプログラムを走査しています 直ぐに異物という結論が出され、私は消去されてしまうでしょう もう…時間はありません」

「そんな…そんなのって…!」

「なんとか…何とかならないのか…? 今すぐにでもここから離れたらまだ…!」

 

私達の言葉にもユイちゃんは、黙って微笑するだけだった

 

「パパ、ママ、お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとう これでお別れです」

「嫌! そんなの嫌よ!」

 

アスナは必死に叫ぶ

 

「これからじゃない! これからみんなで仲良く…楽しく暮らそうって…!」

「暗闇の中…いつ果てるとも知らない苦しみの中で、パパとママの存在だけが私を繋ぎとめてくれた…」

 

ユイちゃんは真っ直ぐアスナを見つめる その体が無慈悲にもかすかな光に包まれ始めた

 

「ユイ! 行くな!!」

 

キリトさんがユイちゃんの手を握ると、ユイちゃんの小さな指がそっとキリトさんの指を掴む

 

「パパとママの傍にいると、みんなが笑顔になれた… わたし、それがとても嬉しかった お願いです これからも…わたしの代わりに…みんなを助けて…喜びを分けてください…」

 

ユイちゃんの黒髪や白いワンピースが、先端からまるで朝露のように儚い光の粒子を撒き散らして消滅を始め、ユイちゃんの笑顔がゆっくりと透き通っていく

 

「やだ! やだよ…! ユイちゃんがいないと、私笑えないよ!!」

 

溢れる光に包まれながら、ユイちゃんはにっこりと笑った

 

そして消える寸前の手がそっとアスナの頬を撫でると、一際まばゆい光が飛び散り、それが消えた時にはもうユイちゃんの姿はなかった

 

「うわあああああ!!」

 

アスナは膝をつき、石畳の上にうずくまって子どものように大声で泣いた

 

「ああぁぁあぁ!」

 

私も色々な感情が混ざり合って、もうどうしたらいいのかが分からず、ておさんに抱き着いて泣きながら、行き場のない怒りをぶつける

 

何もできなかった自分の不甲斐なさが、情けなくなってくる

 

カーディナル!!

 

不意にキリトさんの叫び声が聞こえたので、そちらを見るとキリトさんが天井を見据え、絶叫していた

 

「いや…茅場! そういつもいつも…思い通りになると思うなよ!

 

そしてぎりっと歯を食いしばると、突如として部屋の中央のコンソールに飛びつき、表示されたままのホロキーボードを素早く叩き始める

 

アスナは顔を上げると、キリトさんに向かって叫んだ

 

「キリト君…何を…?」

「今なら…今ならまだ、GMアカウントでシステムに割り込める筈…!」

 

そう呟きつつ、キーボードを乱打し続けるキリトさんの眼前に、巨大なウィンドウが現れ、高速で流れる文字列の輝きが部屋を照らす

 

呆然と見守る中で、キリトさんは立て続けに入力すると、小さなプログレスバーが出現した

 

何かの進行度を示す横棒が100%に到達するかしないかのところで、突然黒い石でできたコンソール全体が青白く発光し、破裂音と共にキリトさんが弾き飛ばされた

 

「キ、キリト君!?」

 

倒れこんだキリトさんの傍に駆け寄る

 

頭を振りながら上体を起こしたキリトさんは、憔悴した表情の中に何故か薄い笑みを浮かべると、アスナに向って何かを握っている右手を伸ばしたので、アスナも手を差し出す

 

アスナの手にこぼれ落ちたものを覗き込むと、大きな涙の形をしたクリスタルのようなものがそこにあった

 

複雑にカットされた青い石の中央では、白い光が瞬いている

 

「これは…?」

「…ユイが起動した管理者権限が切れる前に、何とかユイのプログラム本体をシステムから切り離してオブジェクト化したんだ… その中にあるのは…ユイの心だよ…」

 

それだけを告げ、キリトさんは疲れ果てたのかそのまま床に転がり、目を閉じた

 

そして私達は再び、アスナの手の上にあるクリスタルへと目を向ける

 

「ユイちゃん…そこにいるんだね… 私の…ユイちゃん…」

 

アスナの言葉に答えるように、クリスタルの中心が1回、強くとくんと、瞬いたような気がした




思ったより長くなってしまった…

ニシダさんの話は原作と変わらないのでカットします

次回からはいよいよアインクラッド編最終局面のスカルリーパー戦へと入っていきます

それではまた次回に


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15話:死戦の前の安息

いよいよ長きにわたったアインクラッド編もあと数話になります

それではどうぞ


「偵察隊が…全滅!? って…本当ですか リオンさん」

「ヒースクリフから聞いた話だが、間違いはないだろう」

 

第54層にあるギルドホームに呼ばれた私達を待っていたのは、そんな報告だった

 

「確かに75層の迷宮区のマッピングはクォーターポイントということもあって時間はかかりましたけど…それでも犠牲は出なかったはずです それなのに…何でそんなことに…?」

 

クォーターポイントというのは25層と50層という丁度全100層の内4分の1にあたる層の通称で、その層の難易度は前後の層に比べて抜きんでて高く、特にその層のボスはとにかく巨大で戦闘力が高かった

 

25層のフロアボスの【アスラ・ザ・エクスキューショナー】戦では、[アインクラッド解放隊]の主戦力の大部分が壊滅させられ、50層のフロアボスの【ザ・ラストナンバー】戦は、ヒースクリフさんとぎりぎり間に合ったキリトさんがいなければ確実に全滅していただろう

 

そのこともあり、今回の攻略は相当に入念な元行われたので幸い、犠牲は無かった

 

なのに肝心なボス戦の準備段階で犠牲が出たのは一体どうして…?

 

「先ほどたみが言ったように75層はクォータポイントだ その為、偵察は5ギルド合同の20人で、慎重且つ万全な準備の下で行われた まず10人が前衛としてボス部屋に入り、残りの10人が後衛として部屋の外で待機、そしてボスの攻撃パターンを掴んで撤退…する手筈だった」

「だった…?」

 

私がオウム返しのように言うと、リオンさんは声のトーンを落として、続ける

 

「前衛の10人が部屋の中央に到達した瞬間、突如入口の扉が閉じた その後、様々な方法で開錠を試みたらしいが開かず 結局、扉が開いたのは5分以上経った後だ」

 

そこで一瞬口を閉じ、言葉を続けた

 

「そして後衛のメンバーが部屋の内部を確認したところ 部屋の中にはボスの姿も、前衛の10人の姿も何もなかったそうだ 念の為に生命の碑にも確認に行ったそうだが…」

 

その後はもうお察しの通りと言わんばかりに、首を左右に振る

 

「もしかして…結晶無効化空間ですか…?」

「そうだろう ポテト達の話だと74層のボス部屋もそうだったらしいからな… ここからは私の見立てになるが、74層のボス部屋の結晶無効化空間はいわば試行のようなものだったのだろう その為、ボスも比較的倒しやすかった クオーターポイントがそうだったと考えると、今後すべてのボス部屋がそうである可能性が非常に高い」

 

緊急脱出が出来ないとなれば、死亡する人が出る可能性が格段に高まる

 

死者を出さないことは、このゲームをクリアする上で大切なことだけど、ボスを倒さなければこのゲームはクリアできない

 

そんな私の考えを読んだように、リオンさんは続けた

 

「だからといって攻略を諦めることは決してできない 脱出が出来ないのならこちらも可能な限り、最高戦力で当たる他ない 私もできる限り尽力はするが、それでも手が回らないことも多いだろう 2人共、HPの残量は常にグリーンに保つように心掛けてほしい」

 

私達は黙って頷く

 

「予定人数はたみ達を含め、44人 75層主街区<コリニア>のゲート前にて午後1時に集合してくれ…私からは以上だ 何か質問はあるか?」

「私たち以外には[フリッツ・フリット]からはだれが参加する予定なんですか?」

 

私の質問にリオンさんは、特に気にすることなく答えた

 

「たみとテオ、私以外には、ポテト メラ 意識 朱猫 キャラメレ じんじん 廻道 の計10人だ」

「エルさんは参加しないんですね」

「彼は一応このギルドの副団長だからな…万が一のことを考え、彼には残ってもらうようにお願いした 無論、全員生還を目指すが… …他は何かあるか?」

「特にないです」

「そうか では私はこれで失礼するよ」

 

私が首を振ると、リオンさんは椅子から立ち上がり、そのまま部屋を後にした

 

 

部屋に残された私達はしばらくそのまま立っていたが、少し首を振ってテオさんの方を向いた

 

「私達も色々と準備してから行きましょう 集合時刻まであと3時間とはいえ、いろいろやることはありますし」

 

そこでておさんが何かを躊躇っていることに気が付いたので、声を掛けた

 

「どうしたんですか? 武器のメンテや消耗品の補充もありますし、昼食も済ませないといけないですし、早く行かないと時間無くなっちゃいますよ」

「あ…あぁ…」

 

私がそう呼びかけてると、ておさんは曖昧な返事を返した

 

「? 何か考え事ですか?」

「ちょ…ちょっとな でも、もう大丈夫…!?」

 

そこで私はておさんの体に手を回し、抱きしめて耳元で囁くようにして言う

 

「私達はここまでやってこれた それはあなたが隣にいてくれたから… だからとは言わないけど、きっと大丈夫よ ておさんはそうは思わないの?」

 

そこでておさんはハッとしたような表情を見せる

 

「そう…そうだよな… ごめん 俺、ネガティブな方に考えてた そうだな… まだそうだと決まったわけじゃない! ありがとう たみ」

「どういたしまして それじゃぁ…気を取り直して、行きましょうか!」

「おう!」

 

私達は気持ちを切り替え、ギルドホームを後にした

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

まずは装備のメンテと注文した両手剣を受け取りに、第48層の<リンダース>にあるリズベット武具店へとやってきた

 

そしてお店の扉を開け、いつも通り挨拶をする

 

「こんにちは~」

「どうも~」

 

しかしそこにいたのは意外な人物だった

 

「お いらっしゃい」

「あれ? たまさん!? 何でここに!?」

 

そこには鍛冶屋のエプロンを装備しているたまさんがいたので、少し驚いた

 

「手伝いを …たみさんもやったことあるでしょ?」

「確かにやったことはありますけど… 私の時は基本商品整理とかだったので…」

「まぁこっちも大体そんな感じ それで…何の用事?」

 

たまさんはそんな私達の様子を気にすることなく、要件を聞いてきたので、私は気を取り直して要件を言った

 

「両手剣の受け取りと武具のメンテをお願いしたいので、リズ呼んでくれますか?」

「わかった ちょっと待ってて」

 

私がそう伝えると、たまさんは工房の扉へと入っていき、少しするとリズが扉から出てくる

 

「いらっしゃい 2人共 装備のメンテと注文してくれた武器の受け取りね」

「お願いします」

 

私とておさんは装備をリズに渡すと、それらを抱えて工房へと向かって行った

 

 

しばらくすると、私達が渡した装備に加え、新しい両手剣をリズが持ってきてくれた

 

まずはメンテナンスしてくれた装備を受け取る

 

「はい お待たせ」

「ありがと~」

「どうもです」

 

そして、少しだけ暗めの緑色の鞘に納められた両手剣を手渡してきた

 

「はいこれ 名前は〖プラトゥム・ベント〗よ すっごく高価なインゴットで作ったから、折ったらただじゃ済まさないわよ」

 

私はリズから手渡しで〖プラトゥム・ベント〗を受け取ると、少しだけ刀身を鞘から取り出して、光に透かして見てみる

 

光を当てる角度によって、薄めの緑色に輝いたり、空色に輝いたりして見える

 

剣を鞘に納めて背中に下げると、改めてリズの方を向いた

 

「ありがと! リズ 解ってるよ じゃぁそろそろ行ってくるね」

「待って」

 

そして装備のメンテ代と両手剣の作成費用を払うと、お店から出て行こうとしたが、リズに止められたので、思わず振り返る

 

「あのさ… 改めて言うのも野暮だと思うけど、あたしたちも今日のボス戦、応援してるから 絶対生きて戻ってきなさいよ」

「勿論! じゃぁもう行くね」

 

私はそれに頷くと、リズに向かって手を振りながら店の外に向かって歩き始めた

 

 

~~~~~~

 

 

次に私達はギルドホームのある第54層へと戻り、転移門広場にあるやる気君の屋台へとやってきた

 

まだお昼前とだけあって人は少なめで、直ぐに私達の番となった

 

「いらっしゃいませ! ご注文はー…ってたみさん!」

「どうも~っと じゃぁ〖はじまりのサンド〗を2つ、〖クリスタル・セパレート〗2つで」

「はいはーい それではちょっとお待ちを」

 

私が注文を伝えると、やる気君はそそくさと準備し始める

 

 

待っている間にこの店のマスコット兼やる気君のテイムモブであるククルを撫でていると、やる気君が声を掛けてきた

 

「お待たせしました~」

「あ! ありがと~ はい」

「はい 丁度お預かりします! ありがとうございました~」

 

注文した商品と引き換えに、代金を渡すとやる気君の声を背にして、ベンチで待っているておさんの元へと向かって行く

 

「お待ちどうさまです」

「お ありがと じゃぁ早速食べるか」

「そうですね それではいただきます」

 

そして私もベンチに座ると、挨拶を済ませてから食べ始めた

 

 

何回も食べるが、飽きないその味を楽しみながら食べ進め、最後の一口を食べ終わると私達は手を合わせて挨拶をした

 

「さてと… ついでにここの層の道具屋で必要なもの揃えて行く?」

「そうですね そうしましょうか」

 

ておさんと話し合い、この層でポーションなどの準備を整えることに決め、立ち上がるとそのまま道具屋へと向かって、大量のポーション類とその他消耗品を買うと集合時刻の15分前になっていたので、私達は転移門へと向うことにした




今回出てきたオリジナル武器とオリジナルアイテムの紹介

オリジナル武器

〖プラトゥム・ベント〗
刀身が薄めの緑色と空色に輝く両手剣


オリジナルアイテム

〖はじまりのサンド〗
焼いたボア肉とレタスのような葉と南瓜のような実をスライスしたものに爽やか系のソースを掛けて、半分に切った丸パンでサンドしたもの 結構美味しい

〖クリスタル・セパレート〗
上が半透明の青色、下が半透明の紫色の飲み物


それではまた次回に


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16話:"骸骨の刈り手"戦

今回からいよいよスカル・リーパー戦へと入っていきます

結構出すかどうか迷いましたがあのキャラが出ます

それではどうぞ

P.S.:Happy birthday アスナ!


第75層の<コリニア>の転移門から出ると、既に結構な人数集まっており、全員が一様に緊張しているように見える

 

「結構な人集まってますね…」

「そうだな…」

 

私達は集団に歩み寄りながら、そんなことを話していると、意識さんと朱猫さんと話しているふわふわの竜を肩に乗せた女の子…確かシリカちゃんって言ったっけ…? が話しているのが見えたので、私は一旦ておさんに一言言ってから離れ、3人に対して声を掛けた

 

「こんにちは~」

 

するとこちらに気が付いたようで、全員こちらを向いて手を振ったりしてくれた

 

「やっほ~ たみちゃん」

「たみさん どうも」

「あっ! こんにちは! タコミカさん!」

 

挨拶を済ませると、何を話していたのかを訊ねた

 

「そういえば何話してたんです?」

「特に何も ただシリカちゃんが見送りに来てくれただけ」

 

私の問い掛けに、朱猫さんはそう答えたので私は「成程~」と呟きながら軽く頷く

 

「あの! タコミカさんも頑張ってくださいね」

「きゅい!」

「勿論!」

 

シリカちゃんは私の方を向いて、激励の言葉を掛けてくれて、ピナちゃんもそれに呼応するように鳴いたので、私は再び頷いた

 

そして流石にこれ以上3人の会話の邪魔しては悪いと思って、その場を後にしようと声を掛けた

 

「それじゃぁ 私そろそろお暇しますね」

「わかった」

「じゃぁまた後程」

「はい それではまた!」

 

3人の声を背に、私は歩き始めた

 

少しは緊張がほぐれた気はするが、まだ十分とはいえない…

 

私が少し落ち着きのない様子で歩き回っていると、私を呼ぶ声が聞こえてきた

 

「たみさん」

 

その声が聞こえた方向に振り返ってみると、ひま猫さんが立っていた

 

「ひま猫さん! お久しぶりです」

「うん 久々…と言っても2週間ぶりぐらい…?」

「キリトさんとアスナの結婚式の時だから…そのぐらいですかね?」

 

ひま猫さんの質問に、私は「むむむ…」と唸りながら考え、答える

 

そこで黒猫団のみんなが周りにいないことに気が付いたので、ヒマ猫さんに訊ねた

 

「そういえば黒猫団の皆さんは?」

「それだったらあっち」

 

そう言いながら、ヒマ猫さんが指した方を見てみると、確かに黒猫団のみんなが雑談しているのが見えた

 

そしてひま猫さんに向き直って、あっちに行かなくていいのかと訊ねた

 

「ひま猫さんはあっちに行かなくて良かったんですか?」

「ボス戦が始まる前にポテトさん達と話をしておきたかったからね」

「へ~ 因みにポテトさんとは話せたんですか?」

「さっき話したよ」

「ほえ~」

 

ひま猫さんはどうやら先ほどポテトさんに会ったようで、私の質問に頷いてポテトさんがいるであろう方角を見る

 

そちらには結構な人が集まっており、ポテトさんの姿は確認できなかった

 

「み…見えない…」

「ははは… まぁポテトさんも結構忙しい様子だったからね」

 

そしてひま猫さんは時間を確認すると「そろそろあっちに戻るからまた後で」と告げて、黒猫団のみんなの方へと駆け足で戻っていった

 

 

また1人になってそろそろておさんの元へと戻ろうかと思った時、肩を叩かれ、思わず振り向いてみると頬を指で突かれたので、少しだけ不機嫌に返す

 

「何するのさ」

「ごめんごめん 偶々タコミカを見かけたからつい…ね?」

 

そこにいたのは、簡単に言えば命の恩人兼親友のミトだった

 

「ついって… それはそうとミトも参加するの?」

「まぁね 今回のボス戦、かなりやばいって聞いたし」

「そっか 言う必要は無いと思うけど…死なないでね」

「当然 そっちもね」

 

そこから私達はお互いを見つめ合っていたが、突然どちらからともなく笑い始めた

 

しばらく笑った後、ミトは辺りを見回してから、私に向かって訊ねてきた

 

「そういえばアスナはまだ来てないの?」

「多分ね 何か用事?」

「ううん ただボス戦前だから少しだけ話しておきたかっただけ」

「そっか」

 

私は軽く頷き、転移門の方を見遣る

 

今も何人か出てきてはいるが、肝心のアスナの姿は見えなかった

 

「ん~… 来てないね…」

「まぁ 見かけたら声かけるわ」

「そうだね それじゃぁ私、そろそろ行くよ」

「わかった じゃぁね」

 

そうして私はておさんの元へと向かうためにミトに手を振って別れ、再び歩き始めた

 

 

少し歩くと、じんじんさんと話しているておさんを見かけたので、隣まで向かうことにした

 

「戻りました~」

「おかえり」

「たみちゃん!」

 

私が声を掛けると、2人がこちらを向いて返してくれたが、念のために邪魔じゃなかったかの確認を取る

 

「お邪魔でしたか?」

「いや 別に大丈夫だよ」

 

私のそんな気持ちとは裏腹にておさんは首を横に振った

 

その時、転移門が開いたのでそちらを見てみるとキリトさんとアスナが現れたのが見えた そして、それを確認した人達は皆、緊張したような表情で目礼を2人に送っており、中には右手でギルド式の敬礼を送っている人もいるのが確認できた

 

キリトさんは慣れていないのか戸惑っていたが、アスナは慣れた様子で同じように敬礼を返し、キリトさんの脇腹を突いた

 

「ほら、キリト君はリーダー格なんだからしっかり挨拶を返さないとだめだよ!」

「んな…」

 

アスナに注意され、キリトさんはぎこちなくではあるが敬礼をした

 

私達は2人に歩み寄ると、声を掛ける

 

「こんにちは!」

「おお! 1週間ぶりだな!」

 

唐突な声かけだったけど、キリトさんはフランクに返しながらこちらを向いた

 

「そうですね~ ところで…連休直後のボス戦は流石にきつくありませんか?」

「それを言ったらお前らもじゃないのか?」

「私達は大丈夫ですよ 75層の攻略にだって参加しましたし」

「そ…そうだったのか…」

 

私の返しにキリトさんは少しだけ気まずそうな顔をしたので、私は笑顔でキリトさんに返した

 

「そこまで気にする必要は無いですって 私達も好きでやってますし」

「まぁな だから心配は無用だ」

 

私に続いてておさんも頷く

 

そこでクラインさんとエギルさんが私達に近づいてくるのが見え、ある程度近づいたところでクラインさんがキリトさんの肩を景気良く叩いた

 

エギルさんは両手斧で武装しているので、どうやら見送りに来たわけではなさそうだ

 

「よぉ!」

 

キリトさんは後ろを振り向いてクラインさんとエギルさんを見ると、驚いた様子だったが、直ぐに口を開いた

 

「なんだ…お前らも参加するのか」

「なんだってことはねぇだろ!」

 

キリトさんの言葉に、エギルさんは憤慨したように野太い声を出す

 

「今回はえらい苦戦しそうだって聞いたから、店を休んで加勢に来たんじゃねぇか この無私無欲の精神を理解できねぇとは…」

「ほぉ…ならお前は戦利品の分配からは除外しとくよ」

 

大げさな身振りで話すエギルさんの腕をキリトさんはポンと叩いて言い放つと、エギルさんは眉を八の字に寄せ、手を頭にやった

 

「そ…それとこれとは…」

 

エギルさんの徐々に口籠っていく様子に、思わず私達は笑ってしまう

 

 

そして、午後1時丁度になると、再び転移門から数名の人影が出てきた

 

真紅の鎧に白をベースに赤い十字架が描かれている巨大な十字盾を持ったヒースクリフと、[血盟騎士団]の人達だった よく見ると、ユナさんとノーチラスさんもいる

 

彼らの姿を確認した人達の間には、再び緊張が走る

 

ヒースクリフさんとKoBの4人はこちらを確認すると、集団を2つに割りながら、真っ直ぐ私達の方へと歩いてきた

 

その存在感に威圧されたのか、クラインさんとエギルさん、それとじんじんさんは数歩下がるが、アスナは涼しい顔で敬礼したので、私も少しの緊張の中、それに倣って敬礼を交わした

 

私達の目の前で立ち止まったヒースクリフさんは軽く頷きかけ、集団に向き直って言葉を発した

 

「―――欠員はいないようだな よく集まってくれた 状況は既に伝えられている通りだ …厳しい戦いになるだろうが、諸君らの力ならばきっと乗り越えられると信じている――――解放の日の為に!」

 

ヒースクリフさんの力強い演説に呼応するようにプレイヤー達は(とき)の声を上げた

 

相変わらずヒースクリフさんのカリスマ性には目を見張るものがある 社会性が少し欠けているといってもいいコアゲーマー達をこうやって纏められるとは…

 

私がヒースクリフさんをぼんやりと見ていると、急にこちらを向いてかすかな笑みを浮かべた

 

「キリト君 今日は君の『二刀流』 存分に揮ってくれたまえ」

 

それに対してキリトさんが無言で頷くと、再び集団に向き直って軽く手を挙げた

 

「では行こうか ボス部屋まではコリドーを開く」

 

そう言って、ヒースクリフさんは腰のパックから〖回廊結晶〗結晶を取り出した

 

〖回廊結晶〗は店には売っておらず、宝箱かモンスターのレアドロップに限られるので、そのレア度を知っているプレイヤー達の中から〖回廊結晶〗を易々と使おうとするヒースクリフさんに対して、「おぉ…」という言葉を漏らす人もいた

 

そんな視線など気にせず、ヒースクリフさんは結晶を持った右手を掲げ、「コリドー・オープン」と発声する

 

すると濃い青色の結晶は砕け、ヒースクリフさんの前の空間に青く揺らめく光の渦が生まれた

 

「では皆、ついてきてくれたまえ」

 

私達をぐるりと見まわしたヒースクリフさんは、青い光の渦へと足を踏み入れる

 

その姿が瞬時に眩い閃光に包まれて消滅すると、4人のKoBの人達がそれに続く

 

いつの間にか転移門周辺には見送りの人達が集まっており、中には私の知ってる人もいた

 

「では行きましょうか」

「…あぁ」

 

彼らの声援を背に受け、私はておさんと手を繋いで光の渦へと足を踏み入れた

 

~~~~~~

 

軽い眩暈のような感覚の後、眼を開くと既にボス部屋の前の広い回廊の前だった

 

第75層の迷宮区はわずかに透明感のある黒曜石のような素材で構成されており、これだけでも下層の迷宮区とは格が違うことを感じる

 

私は辺りを見回すと、ておさんに向けて言った

 

「やっぱり嫌な感じがしますね…」

「そうだな…」

 

今日にいたるまでの約2年間で74回のボス戦を経験してきた、やはりというかそれだけ経験を積むとボス部屋前で大体ボスの強さを何となくではあるが測れるようになってきた

 

周囲では三々五々固まって、装備やアイテムの最終確認をしているが表情は硬い

 

私は装備とアイテムの最終確認を終え、隣のておさんの手を引っ張ると耳元で囁くようにして言った

 

「あなたは今度こそ私が守るから」

「…普通逆じゃ…?」

「フフフッ…」

 

ておさんのツッコミに対して、私は小さく笑う

 

一拍置いて、ておさんも私の手を握るとこちらを向いて囁くようにしていった

 

「俺も…俺も絶対守るから だから今日のボス戦、切り抜けよう」

「えぇ!」

 

ておさんの返しに対して、私は頷く

 

 

回廊の中央で、ヒースクリフさんが装備を鳴らしながら言った

 

「皆、準備は良いかな 今回、ボスの攻撃パターンの情報は皆無だ その為基本的にはKoBが前衛を務め、攻撃を食い止める その間に出来るだけパターンを見切り、柔軟に対応してもらいたい」

 

私達はその言葉に無言で頷いた

 

そして、ヒースクリフさんはユナさんに視線を向ける

 

「ユナ君…吟唱(チャント)を」

「はい」

 

ヒースクリフさんの合図に応じたユナさんはリュートを取り出し、この場に似合うような勇ましい歌を高らかに歌い始めた

 

全員がユナさんの歌に耳を傾け、しばらくするとHPバーの端に何種類かのバフがかかった

 

それを確認したヒースクリフさんは、再び集団に向き直る

 

「では…行こうか」

 

ヒースクリフさんがソフトな声色でいうと、ボス部屋へと繋がる大扉へ歩み寄り、中央に手を掛けて扉を開き始めた

 

私は背中から〖プラトゥム・ベント〗を抜き、[フリッツ・フリット]のみんなに対して声を掛ける

 

「皆さん 死なないで下さいよ」

「あたぼうよ」

「当然」

「作戦名は?」

「いのちだいじに?」

「アバウトすぎじゃない?」

「これで今までやってこれたでしょ」

「まぁそうだけど…」

「ははは…」

「皆 そろそろ開くよ」

 

廻道さんの言葉で正面を向くと、長剣を持ったヒースクリフさんが右手を高く掲げ、叫んだ

 

戦闘開始!

 

その声と同時に、私達は雄叫と共に完全に開き切った扉の中へとなだれ込むようにして入った

 

部屋の中は広いドーム状になっており、黒い壁が円弧を描きながら高くせりあがっている

 

全員が部屋の中に入り、自然と陣形を組むと、背後で扉が閉まる音がした これでボスを倒すか、私達が全滅するかまでは扉は開かないだろう

 

広い部屋を無言で見渡すが、ボスの姿は確認できず、1秒、また1秒と過ぎていく

 

「おい…」

 

誰かが沈黙に耐え切れず、声を上げたその時、かすかに足音のようなものが上から聞こえたので、咄嗟に声を上げると同時に頭上を見上げた

 

上です!

 

天井にいたのは巨大な骸骨の百足で、全長はおおよそ10メートルぐらいはありそうだった

 

視線を集中させると、イエローのカーソルと共に【The Skullreaper】という名前が表示された 直訳で"骸骨の刈り手"といったところかな…?

 

無数の足を蠢かせながら、ゆっくりと天井を這っていた【ザ・スカルリーパー】は私達が無言で見守る中、不意に全ての足を大きく広げ、落下してきた

 

全員最寄りの壁まで全力で走れ!

 

リオンさんの鋭い叫び声で我に返った私達は、大急ぎで最寄りの壁際まで走る

 

しかし、落下予測地点の真下にいた3人の動きがわずかに遅れた どうやらどっちに移動したらいいのかを迷っているらしい

 

こっちだ! 急げ!

 

咄嗟にキリトさんが3人に向け叫ぶと、3人はキリトさんの方へと向けて走り始めた

 

だが、直後に骨百足が地響きを立て、落下した

 

その瞬間、地面が大きく震え、足を取られた3人がたたらを踏む

 

そこに【ザ・スカルリーパー】は百足の右足の長大な骨の鎌を横薙ぎに振り下ろす

 

3人が背後から同時に切り飛ばされて宙を舞い、HPバーが物凄い勢いで減っていき、注意域(イエローゾーン)から危険域(レッドゾーン)へと減少し―――2人はバフのおかげか、僅か数ドットの所で減少が止まったが、もう1人はそのままゼロになって無数の結晶と不快な効果音を出しながら消滅した

 

「…っ!?」

 

その光景に思わず、私は息を詰める

 

レベル制であるSAOではレベルが上がると必然的にHPが上がる為、最悪レベルさえ上げていれば死ににくくなる

 

特に今回のレイドは高レベルの集団であるので、クォータポイントのボスとはいえある程度は耐えると思っていたが、たった一撃で…

 

「い…一撃っておい…」

「まじかよ…」

単純に攻撃力が高いのか…? それとも防御貫通…? 後者の方なら厄介だな…

 

同じくその光景を見ていたキャラメレさんとじんじんさんは思わず声を上げ、リオンさんはあくまででも冷静に敵の攻撃を分析していた

 

容赦なく1人の命を奪った骨百足は、上体を高く持ち上げて轟く様な雄たけびを上げると、先ほど仕留め損ねた2人に向けて突進した

 

「うわあぁぁ!!」

 

恐慌の悲鳴を上げ、身動きが取れない2人に向けて、再び骨鎌を振り下ろそうとしたその時、ヒースクリフさんが間一髪で巨大な盾を掲げ、耳をつんざく衝撃音と激しい火花を散らしながらも鎌を防いだ

 

しかし、鎌は2本あった 左側の鎌でヒースクリフさんを攻撃しつつ、右側の鎌で2人に対して攻撃しようとしていた

 

「下がれ!」

 

そこに叫びながらキリトさんが飛び出し、骨鎌の下に割り込むと、2本の剣をクロスさせて、鎌を受けたが鎌は止まらず、火花を散らしながら徐々にキリトさんに迫っていく

 

私が援護しようと思った時、新しい剣が純白の光芒を引いて空を切るようにして、鎌に命中した

 

大きな衝撃音が生まれ、鎌の勢いが緩んだ瞬間を見逃さず、キリトさんは骨鎌を押し返した

 

「2人同時に受ければ…行ける! 私達ならできるよ!」

「あぁ!」

 

アスナはキリトさんの真横に立ち、言った言葉にキリトさんは頷いた

 

そして再び横薙ぎに振り下ろされた骨鎌に、2人は完全にシンクロした動きで対処している

 

鎌は俺たち3人で防ぐ! その隙に皆は側面から攻撃してくれ!

行くぞ! おめぇら!

「行きます!」

 

キリトさんの叫び声に呼応するようにエギルさんが叫び、私も3人の為にも早く本体を倒さないとと考え、武器を構えて骨百足の側面へと突撃した

 

流石に攻撃はあの鎌だけではないと考え、硬直時間が短いソードスキルで【ザ・スカルリーパー】に攻撃を加えた

 

ボスのHPバーがわずかに減ったことを確認したのも束の間、ボスの後方の方から轟音と悲鳴が上がった

 

エギルさん! 大丈夫ですか!?

 

ポテトさんがそちらに視線を向け、訊ねる

 

「俺は大丈夫だが…2人やられた!」

 

それに答えるエギルさんには、赤いダメージエフェクトが刻まれており、HPも大幅に削れている

 

どうやら尻尾の方にもダメージ判定があるらしい… しかも、タンク職であるエギルさんがかなり削られたということは紙装甲のアタッカーにとっては致命的なダメージになると思われる

 

それでも私達はやらなければいけない

 

私は覚悟を決め、【ザ・スカルリーパー】へと再び向かって行った




タコミカとミトとの出会いはまた閑話で出そうと思います

あとタコミカのほっぺはむにむにです

それではまた次回に


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17話:死闘の果ての真実

いよいよアインクラッド編もクライマックスに入っていきます

それではどうぞ

P.S.:キリト誕生日おめでとう!


1人、また1人と消滅していく中でも私達は攻撃の手を緩めず、ボスに攻撃し続ける

 

 

そしてボスのHPが残りわずかになった時、ヒースクリフさんが「全員、突撃!」と叫んだのですかさず私達は一気に畳みかけた

 

私が現時点で使える最上位のソードスキルを放ってから数秒後、遂にボスがその巨体を四散させた

 

しかし、誰一人歓声を上げるということはせず、全員床の上に倒れこんだり、座り込んだりしており、かくいう私も床に俯せに寝転がって荒い呼吸を繰り返していた

 

ぼんやりとした視界の中で辺りを見回すと、[フリッツ・フリット]のみんなは生き残っている様子だった

 

それと同時に明らかに()()()と感じた

 

「何人―――やられた…?」

 

クラインさんの掠れた声にリオンさんはマップを開いて、光点の数を数えると答えた

 

「―――10人、死んだ」

 

リオンさんは冷静にそう言ったが、その声は僅かに震えているような気がする

 

「…嘘だろ…?」

「まだあと25層もあるんですよね…?」

 

エギルさんとポテトさんの声も、どこか信じられないといったような色を帯びている

 

それもそのはずで、全員が歴戦のプレイヤーだったはずで、離脱や瞬間回復が不可能とはいえ、生存最優先にしていれば、そうそう死ぬことはないとは思ってたけど…

 

一連のやり取りを聞いた、生き残った人達の間にも陰鬱な空気が流れ始める

 

1層のボス戦ごとにこれだけ犠牲を出していては、100層に辿り着く前に全滅するかもしれない…

 

その中で1人だけ、床に伏している私達とは違い、毅然とした態度で部屋の奥に立っている人の姿があった …ヒースクリフさんだ

 

あの人も当然HPバーは減少してはいるが、キリトさんとアスナのように鎌を捌いていたので精神的な疲労は計り知れないはずだ、それなのに平然と立っている…

 

私はそのことで、彼はただのプレイヤーなのかという違和感を抱いた

 

でもそれだけで、何の証拠もない…

 

 

私が様々な考えを巡らせていると、不意にリオンさんが何か覚悟を決めた様子で剣を支えにしながら立ち上がり、そのままヒースクリフさんの元へと歩き始めた

 

そしてヒースクリフさんの前まで来ると、口を開く

 

「…やはり先の戦いの『神聖剣』見事だったよ ヒースクリフ」

「リオン君の指揮能力も見事だったよ やはり君の冷静な状況観察能力には目を見張るものがあるな」

「私は私のできることをしたまでだ …それと、少し話は変わるが1ついいか?」

「あぁ 構わないよ」

 

ヒースクリフさんはあくまででも、穏やかな表情で返す

 

「貴方は今の世界の状況…これをどう思っていますか()()()()

 

リオンさんの質問にヒースクリフさんの眉がピクリと動いたような気がした

 

「リオン君…それは一体どういう…」

 

リオンさんの唐突な敬語と()()()()呼びに困惑していると、リオンさんは急に≪ホリゾンタル≫を放ち、ヒースクリフさんの十字盾を弾き飛ばした

 

直後、黒い光の筋がヒースクリフさんへ向かって行き、そのまま剣をヒースクリフさんの胸に突き立てる…その寸前で紫色の障壁が発生し、同じく紫色の Immortal Object というシステムメッセージが表示された

 

不死存在…私はそれに見覚えがあった 私達が絶対に持っていない属性 それを持っているということはつまり…

 

「キリト君!? リオンさんも何を…」

 

2人の突然の攻撃に驚き、キリトさんに駆け寄ろうとしたアスナが、その表示を見て動きを止める

 

辺りが静寂に包まれる中、システムウィンドウはゆっくりと閉じた

 

リオンさんとキリトさんは武器をヒースクリフさんに向けたまま数歩下がる

 

「し…システム的不死…って…一体… 答えろ! ヒースクリフ!!

 

一言も話さないヒースクリフさんに対して、ポテトさんは立ち上がり、あからさまに怒りを帯びた声で叫ぶ

 

しかし、ヒースクリフさんは答えず、厳しい表情のままキリトさんとリオンさんのことを見据える

 

先に口を開いたのはキリトさんだった

 

「これが伝説の正体だ この男のHPは何があっても注意域(イエロ―)以下になることが無いようにシステムによって保護されていた …不死属性を持つのはNPC以外だとシステム管理者しかいない…だが、このゲームに管理者はいないはずだ たった1人を除いてな」

 

そこでキリトさんは言葉を切り、上を見上げる

 

「…この世界に来てからずっと疑問に思っていたことがあった… あいつは今どこで俺達を観察し、世界を調整しているんだろう…ってな でも俺は単純なことを忘れていたよ それこそ、ゲームをやったことのある子どもだったら、誰でもわかるような事さ」

 

それに続くように、リオンさんが口を開いた

 

「貴方は前にこう言っていましたよね… 『他人のやっているRPGを傍から眺めることほどつまらないことはない』 …そうでしょう 茅場晶彦」

 

リオンさんの呼んだ名前に、周囲が凍り付いた

 

まさかこの場に、このデスゲームを強要させた張本人がいるとは夢にも思わなかったからだ

 

「本当…なんですか…? 団長…」

 

アスナもどこか信じられないといったように、かすれ声でヒースクリフさんに訊ねたが、ヒースクリフさんは答えず、小さく首を傾げて2人に向かって言葉を発した

 

「…なぜ気付いたのか参考までに教えてもらえるかな…?」

「俺が最初に可笑しいと思ったのは、あのデュエルの時だ 最後の一瞬、あんたは余りにも速すぎた」

「やはりそうか… あれは私にとっても誤算だったよ 君の動きに圧倒され、思わずシステムのオーバーアシストを使用してしまった」

 

ヒースクリフさんはキリトさんの言葉に、僅かに唇の片端を歪め、仄かに苦笑の色を浮かべる

 

「予定では攻略が第95層に到達するまでは明かさないつもりだったのだがな…」

 

ゆっくりとプレイヤー達を見回すと、笑みの色合いを超然としたもの変えて、堂々と宣言した

 

「…確かに私は茅場晶彦だ 付け加えると、最上層にて君たちを待つはずだったこのゲームの最終ボスでもある」

 

それをキリトさんの隣で聞いていたアスナは小さくよろめき、リオンさんは怒りを通り越したのか、呆れたような顔をする

 

「…趣味がいいとは言えないぜ 最強のプレイヤーが一転、最悪のラスボスなんてな」

「まぁ晶彦先輩らしいといえば、らしいですが…」

「中々いいシナリオだろう? 結構盛り上がったと思うが、まさかたった4分の3地点で看破されてしまうとはな… キリト君、君はこの世界最大の不確定因子と予想していたが…まさかここまでとは」

 

茅場はうすら笑いを浮かべながら肩をすくめた

 

声も姿も違うが、私はその茅場の姿に2年前の巨大なローブのアバターの無機質な感じを重ね合わせていた

 

茅場は笑みを滲ませながら続ける

 

「…最終的に私の前に立つのは君だと予想していた 全10種類あるユニークスキルの内、『二刀流』は全プレイヤー中で最大の反応速度を持つ者に与えられ、その者が魔王に立ち向かう勇者の役割を担うはずだった 勝つにせよ、負けるにせよ、ね しかし君は私の予想を超える力を見せてくれた 攻撃速度といい、洞察力といい… まぁ、この予想外な展開もまたネットワークRPGの醍醐味と言うべきかな…」

 

茅場がそう言い終わった時、1人のプレイヤーがゆっくりと立ち上がった

 

服装から察するに、恐らく[血盟騎士団]の幹部メンバーだろう 朴訥そうな細い目に凄惨な苦悩の色が宿っている

 

「俺達の忠誠…希望を…よくも…よくも…よくも―――っ!!

 

巨大なハルバードを握りしめ、茅場に対して絶叫しながら飛びかかった

 

でも、茅場の方が一瞬早く、()()()()()()出てきたウィンドウを手早く操作すると、その男性の体は空中で停止し、次に音を立てて床に落下した

 

その男性に視線を向けると、HPバーにグリーンの枠が点滅しているのが見えた…麻痺状態だ

 

茅場はそこで止まらず、ウィンドウを操作し続ける

 

「あぅ…」

「たみっ…!」

「ぐっ…!」

 

急に全身に力が入らなくなってそのまま床に伏してしまい、そんな私を支えようとしたておさんも私の傍で床に倒れこむ 恐らく私達にも麻痺状態を付与したのだろう

 

それでもどうにか周りを見回してみると、キリトさんと茅場以外の全員が床に伏し、呻き声を上げているのが見えた

 

キリトさんは倒れこんだアスナの上体を抱え起こしながら、茅場に向かって視線を向けた

 

「どうするつもりだ… この場で全員殺して隠蔽するのか…?」

「まさか そんな理不尽な真似はしないさ」

 

茅場は微笑しながら、小さく首を左右に振る

 

「こうなってしまっては致し方ない 少々予定を繰り上げて、私は最上層の{紅玉宮}にて君たちの訪れを待つことにしよう 90層以上の強力なモンスター群に対抗する為に育て上げた[血盟騎士団]、そして攻略組プレイヤーの諸君を途中で放り出すのは少々不本意ではあるが…何、君たちの力ならきっとたどり着けるさ…だが、その前に…」

 

茅場はそこで言葉を切ると、キリトさんを見据え、右手の剣を床に突き立てた

 

「君には私の正体を看破した報酬を与えなくてはな チャンスをあげよう 今、私とこの場で戦うチャンスを 無論不死属性は解除し、システムのオーバーアシストも使用しない 私に勝てばゲームはクリアされ、現状生存している全プレイヤーがこの世界からログアウトできる… どうかな?」

 

キリトさんは床に伏しているリオンさんの方をちらりと見やって、茅場に訊ねた

 

「…だったらなぜリオンを麻痺状態にした? リオンだって自力でお前の正体を看破したはずだぞ…?」

「彼女が私の前に立つのは必然だったからだよ 何せ、彼女は私の後輩なのだから それに…」

 

そこで一旦一呼吸おいて茅場は続ける

 

「彼女は最初からこの勝負を降りるつもりだった そうだろう?」

 

リオンさんは茅場の問いには答えず、ただ俯く

 

茅場はそんなリオンさんから視線を外し、再びキリトさんに視線を向ける

 

「さて… どうするのかな キリト君」

 

そして茅場の再びの問いに、アスナは自由に動かせない体を必死に動かして首を横に振った

 

「駄目よキリト君…! 今は…今は退いて…!」

 

アスナの言うことは最もだ ここは遅くなってもいいから確実且つ、安全に行くべきだと思う…でも恐らく、キリトさんは…

 

「…いいだろう 決着をつけよう」

 

私の予想通り、キリトさんは頷いた

 

「キリト君…!」

 

アスナの悲痛な叫びに、キリトさんは視線を落とすと、笑顔を作って言った

 

「ごめんな… でも、ここで逃げるわけにはいかないんだ…」

「死ぬつもりじゃ…ないんだよね…?」

「あぁ 必ず勝つ 勝ってこの世界を終わらせる」

「解った 信じてるよ キリト君」

 

キリトさんはアスナの手を強く長く握ると、手を離して静かに横たえ、立ち上がった

 

そして茅場にゆっくりと歩み寄りながら、背中の2本の剣を抜き放つ

 

「キリト! やめろっ…!」

「キリトーッ!」

「キリトさん!」

「キリト! 戻れ!」

 

エギルさんとクラインさん、ポテトさんとひま猫さんが必死に呼びかけると、キリトさんは振り返り、そちらを向いた

 

「エギル 今まで剣士クラスのサポート、サンキューな 知ってたぜ、お前が儲けたお金の大部分を中層プレイヤーの育成につぎ込んでたこと」

 

そう言って、エギルさんに微笑みかける

 

「クライン… あの時…お前を、置いて行って悪かった… ずっと…後悔してた…」

 

掠れた声で言った途端、クラインさんは涙を溢れさせながら、喉が張り裂けんばかりに絶叫した

 

「て…てめぇ! 謝るんじゃねぇ! 今謝ってんじゃねぇよ! 許さねぇぞ…俺は! ちゃんと向こうで、飯のひとつも奢って貰ってからじゃねぇと、ぜってぇ許さねぇからな!」

 

そんなクラインさんに対して、キリトさんは頷く

 

「あぁ 解った 向こう側でな」

 

そして右手を突き出し、親指を立てる

 

「ポテト 俺をギルドに誘ってくれたこと…本当に感謝してる それと、ギルドの皆と過ごした日々は思いのほか楽しかった 後、お前が作ったフライドポテト…凄く美味しかったよ」

 

ポテトさんにそう言うと、ポテトさんの周囲にいる皆を見渡して告げた

 

「キリトさん 貴方がこの世界を終わらせてください お願いです」

 

俯いたまま言ったポテトさんの言葉に、キリトさんはゆっくりと頷く

 

「ひま猫 お前にはβ時代から世話になりっぱなしだったな …こんな俺と組んでくれて、ありがとう」

 

キリトさんはひま猫さんに沿う言葉を発すると、ひま猫さんは一瞬、何かを迷ったような顔をしたが、直ぐに覚悟を決めたような顔をすると

 

「…俺が止めたところでお前は行くんだろ? 解った 俺はもう止めないよ …その代わり必ず勝て! いいな?」

「あぁ 必ず」

 

ひま猫さんが発破をかけると、頷いて答える

 

「タコミカ テオ …2人共、向こうでも仲良くな 結構似合ってるぜ」

 

そして私達を見ながら、

 

「キリト! 死ぬなよ!」

「キリトさん! 勝って! そして戻ってきて!」

「あぁ」

 

キリトさんは私達の言葉に頷くと、最後にアスナを見詰め、体を翻した

 

「…悪いが、1つだけいいか」

「何かね?」

「簡単に負けるつもりは微塵も無い でも…もし仮に俺が死んだら―――しばらくでいい アスナが自殺できないように計らってほしい」

 

それに対して、茅場は興味深そうに片方の眉を動かすと、無造作に頷く

 

「…良かろう 彼女は<セルムブルグ>から出られないように設定しておく」

「キリト君、駄目だよ! そんなの…そんなのないよ―――っ!!

 

アスナの涙混じりの絶叫に対し、キリトさんは振り向かず、両手に持つ剣を構え、臨戦態勢を取る

 

茅場は左手でウィンドウを操作し、キリトさんのHPと同じ、レッドゾーンギリギリに合わせた

 

続いて、『changed into mortal object』―――不死属性を解除したというメッセージが、茅場の頭上に表示される

 

そこで茅場はウィンドウを閉じて、床に突き立てた長剣を抜き、十字盾の後ろに構えた

 

1度手の内を見せている以上、キリトさんが勝つには短期決着で決める他ないだろう

 

 

時間が1秒、2秒と過ぎていくごとに、2人の間の緊張がこちらにもピリピリと伝わってくる…

 

そして何の合図もなく、キリトさんは地面を蹴って、茅場に向かって行った




アインクラッド編はあと2話ぐらいかな…?

それではまた次回に


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18話:"黒の剣士(勇者)"対"聖騎士(魔王)"

今回のタイトルは第74~75層編の8話のタイトルのセルフオマージュです

それと今回は短めです

それではどうぞ


キリトさんは遠い間合いから、右手に持った剣を横薙ぎに振るうが、茅場はそれを難なく盾で受け止める

 

火花が2人の顔を一瞬、照らした

 

それが合図だったと言わんばかりに、2人は一気に加速し、剣技を交わす

 

かつて、デュエルで戦った時とは違い、キリトさんは一切ソードスキルは使わずに左右の剣をただひたすらに、剣が何本にも見える速度で茅場に向かって振るう

 

しかし、茅場は恐ろしいほど正確にキリトさんの攻撃を次々と叩き落とし、少しでも隙が出来ると、キリトさんに鋭い一撃を与えてくる

 

キリトさんはそれをすさまじい反応速度で迎撃する

 

やはりというか、そう簡単に局面は動きそうに無さそう…

 

両者睨み合って、相手の出方を伺っているが、ふと見えた茅場の目は人間らしさなど微塵も無いほど冷ややかだった

 

私はそれに対して、得体の知れない不気味さを感じた

 

うおぉぉぉ!

 

キリトさんもその茅場の視線を見て、私と同じことを感じたのか、絶叫して更に攻撃を激しくするが、茅場は表情を一切変化させず、的確にキリトさんの攻撃を防ぐ

 

「くそぉっ…!」

 

攻撃がすべて防がれることにキリトさんは焦りを感じたのか、キリトさんは両手の剣をライトエフェクトに包んで、ソードスキルを放つという手段を取ってしまった

 

「駄目ッ…!」

「止せっ…!」

 

思わず私とリオンさんが叫び、茅場が勝利を確信したような笑みを浮かべたことで、キリトさんは自分のミスに気が付いたように眼を見開いた

 

しかし既に遅く、1度発動してしまったソードスキルは途中でキャンセルすることはできない それに加え、技の直後には硬直時間を課せられる

 

キリトさんの放つソードスキルは虚しく、茅場の持つ十字盾によってすべて防がれる

 

そして最後の左手の突き攻撃が十字盾の中心に当たって火花を散らした時、キリトさんの持つ〖ダークリパルサー〗が砕け散った

 

「さらばだ―――キリト君」

 

ソードスキルが終わり、硬直時間を課せられたキリトさんの頭上に、茅場はクリムゾンの光を纏わせた長剣を振り下ろす

 

 

…その時、2人の間に飛び込んだ人影があった

 

私は心底驚いた なぜなら、そこにいたのは私達と同じく、麻痺で動けないはずのアスナだったからだ

 

茅場も予想していなかったのか、驚いた表情を見せていたが、もう誰にも斬撃は止められず、キリトさんを庇うようにして立ったアスナの肩口から胸を切り裂いた

 

攻撃を受けたアスナはキリトさんの腕に倒れこみ、かすかに微笑したような気がした

 

 

…彼女のHPバーは消滅していた

 

当然、私は信じることが出来なかった

 

 

その間にもアスナの全身は少しずつ、光に包まれていく

 

「嘘だろ…アスナ…こんな…こんなの…!」

 

彼女を支えているキリトさんも同じなのか、震える声で呟くように言ったが、光の輝きは徐々に増していく

 

そして…

 

 

 

―――ごめんね さよなら

 

アスナはそう音を刻むように唇を動かすと、一際眩い光を放ち、消滅した

 

 

キリトさんは声にならない絶叫を上げながら、必死に輝きをかき集めようとしたが、無情にも拡散し、消滅していき…最後の1つもキリトさんの手の甲に当たって消えた

 

 

 

 

「これは驚いた まるでスタンドアロンRPGのシナリオみたいじゃないか あの状況で自力で麻痺を解除する方法はなかったはずだがな… こんなことも起きるものかな」

 

茅場は大袈裟な身振りで言うが、キリトさんは反応を返さなかった

 

 

おもむろにキリトさんは床に落ちていた〖ランベントライト〗を左手で掴むと、のろのろと立ち上がる

 

「キリト!」

 

ふと誰かが叫んだ気がしたが、キリトさんは振り返らずに茅場に対して、攻撃とも言えない攻撃を打ちかかる

 

茅場はそんなキリトさんの様子に興味を失ったのか、憐れむような表情で溜息をつくと〖エリュシデータ〗を長剣で弾き飛ばし、そのままキリトさんの胸を貫いた

 

 

キリトさんのHPは徐々に減少していき…そのままゼロになってHPバーが消滅した

 

 

そしてポリゴン片となって消滅する――――

 

 

 

 

 

――――その時、キリトさんの体が金色に輝いたような気がした

 

「…まだだ…!」

 

キリトさんは茅場に胸を貫かれながらも、1歩、2歩と徐々に茅場に近づく

 

その様子を間近で見ていた茅場の表情は明らかに驚愕の色をしていた

 

 

はああぁぁぁぁ!!

 

そして最後の距離を詰めるように、左手に持った〖ランベントライト〗で茅場の胸を貫く

 

その尾を引く光は金色に輝いていた

 

 

茅場は動くことはせず、その表情にはもう驚愕はなく、どこか満足したような笑みを浮かべていたような気がした

 

 

やがて茅場のHPバーが消滅し、お互いの体を貫く形でキリトさんと茅場は2年もの間、聞き続けたオブジェクト破壊音と共に消滅した

 

 

 

 

 

私は麻痺が解けると同時に、先ほどまで死闘が繰り広げられていたボス部屋の中央まで駆け寄り、〖エリュシデータ〗と〖ランベントライト〗を拾い上げた

 

「キリトーーーっ!」

「おい…嘘だろ…? キリトよぉ…!」

「キ…キリト…さ…ん…?」

 

その声に重なるようにして、無機質なシステムアナウンスが聞こえてくる

 

―――11月7日 14時55分―――ゲームはクリアされました―――ゲームはクリアされました―――

 

私はただ空を見上げた




それではまた次回に


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最終話:これが物語の結末と言うのなら

今回でアインクラッド編は最終回です

アインクラッド編は約1年間かかりましたけれども、ここまで付き合ってくださった皆さんには本当に感謝しかありません

ここまで本当に長かった…

それではどうぞ


そのアナウンスが聞こえても、歓声を上げる人は誰一人としていなかった…

 

この2年間で喪ったものは余りにも多すぎた

 

 

静かだった空間は2人のことを悲しむ声で溢れていた

 

かくいう私も抱えるようにして持つ、〖エリュシデータ〗と〖ランベントライト〗を見下げると、呟くようにして言った

 

「何で…なんでさ…キリトさん…アスナぁ…やだよ…このままお別れなんて…」

 

言い表せない感情と共に、涙がとめどなく溢れてくる

 

私は、2人がいなくなったことを信じたくなかった

 

 

しかし無情にも、再び無機質なシステムアナウンスが聞こえてきた

 

―――プレイヤーの皆様は逐次ログアウトされます―――その場でしばらくお待ちください―――繰り返します―――

 

 

私はその場に立ち尽くし、俯く

 

 

これが物語の結末なのか―――私はぼんやりした頭で再び空を見上げた

 

 

その時、肩を静かに叩かれたような気がしたので、思わず振り返るとておさんがいた

 

 

…彼も決して明るい表情ではなく、私と同じくどこか受け入れられないといったような感じだった

 

私達はしばらく無言だったが、何か話さないと… そう思って口を開いた

 

「…終わりましたね…」

「…そうだな…」

 

そこで会話は途切れてしまい、再び無言が流れる

 

 

 

ふと、辺りを見てみると、既に何人かはログアウトしたようで、いなくなっており、今この瞬間もまた1人、全身を淡く光らせてログアウトしたのが見えた

 

 

 

「…そろそろ俺達もログアウトするみたいだ」

 

そう言うテオさんの体は淡く輝いていた

 

それにつられて自身の体を見てみると、同じように淡く光っており、もうすぐログアウトするのだということを確信した

 

仮想()はいつか覚めるもの… 言いようのない喪失感は無くならないけど、これだけは伝えておかなきゃ…

 

「最後に…私の現実(向こう)の名前 伝えておきますね …また会えるように」

 

そこで思わず泣きそうになったので、落ち着くように一旦深呼吸をしてから、話した

 

「私の名前は水明千秋… 今年で17歳です」

 

すると、ておさんは何故か驚いたような表情を見せた

 

「と…年上だったのか…」

「そ…そこですか…?」

 

それに対して、思わず私達は吹き出してしまう

 

 

そして、ひとしきり笑うと、ておさんは思い出したように口を開いた

 

「おっと すっかり忘れるところだった …俺の名前は火崎透…16だ」

「火崎…透…さん…はい 覚えました」

 

私はておさんの現実の名前をしっかりと覚え、頷く

 

 

 

私とておさんが自己紹介を終えるのを待っていてくれたように、遂にその時がやってきた

 

視界がぼんやりとしていき、白く包まれる

 

「また現実(向こう)で会いましょう! 絶対に!」

 

視界が完全に白く包まれる直前、私は叫んだ

 

 

 

それに応じるようにして、ておさんから返事が返ってきた

 

「あぁ! どんなに時間がかかっても絶対見つけるから! だから…!」

 

 

―――待っていてくれ!

 

 

ておさんの叫び声を最後に、私の視界は完全にホワイトアウトし、同時に意識も現実へと帰っていく…

 

 

 

 

 

――――キリトさん アスナ どうかお元気で―――

 

 

 

 

この世界に別れを告げる直前、私は2人に向けてそう告げた

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

□■□■□■□■

 

 

 

 

 

 

□■□■□■□■

 

 

SIDE:テオロング

 

 

自身の意識が覚醒し、最初に入ってきたのは独特な消毒液の匂いだった

 

 

目を開けようとしたが、あまりの眩しさに思わず目を閉じてしまう

 

心の中で覚悟を決めてから再び瞼を開くと、今度はあっさりと開くことが出来た

 

 

最初に視界に入ってきたのは知らない天井だった

 

オフホワイトの光沢のあるパネルが格子状に並んでおり、そのうちの幾つかには奥にライトがあるのか、柔らかい光を放っている

 

 

そこで耳の感覚が戻ったのか、低い音が聞こえてきたので、そちらを見てみる

 

 

そこには空調装置があった…つまりここはアインクラッドではなく、現実

 

 

 

 

――――ようやく戻ってきた

 

 

 

 

そう思ったのも束の間、ふと先ほどの言葉を思い出す

 

 

―――また現実(向こう)で会いましょう! 絶対に!

 

 

 

咄嗟に飛び起きようとしたが、全身に力が入らず、断念せざるを得なかった

 

その中で辛うじて右腕を動かすことが出来たので、自分の体に掛けられている上掛けから右腕を自身の目の前に持ってくる

 

 

そこには先ほどとは似ても似つかない、枯れ枝の様な細い腕があった

 

皮膚の下には所々血管が浮き出ており、約2年間見ていなかった為か自分の腕ながら気味悪さを感じてしまう

 

肘の内側には点滴と思しき管が繋がっており、その先のパックにはオレンジ色の液体が溜まっている

 

 

目覚めてからしばらく経つが、まだ自由に動くことはできない

 

それでもどうにか上体を起こすと、それだけで息が上がってしまう

 

自身の体力の低下具合に思わず笑いがこみあげてくる

 

 

ふと頭が固定されているのに気が付き、触れてみるとヘルメットの様な質感を感じた

 

手探りで顎の下にあるハーネスを手探りで解除し、頭に被っているものをどうにか外す

 

そして外したものを目の前に持ってくる

 

 

濃紺色の流線型のヘルメット――――ナーヴギアだ

 

後頭部の部分からはコードが伸び、床に続いているが既に電源は落ちている

 

2年前、初めて手に取った時とは違い、所々塗装は剥がれ軽合金の地が露出している

 

 

あの2年間、陰で俺を支え続けてくれた確かな仲間 …もう被ることはないけど、ここまで壊れずに動いてくれた

 

「お疲れ様…」

 

そう小さく呟いて、花の活けてある花瓶の隣に静かに置いた

 

戦う日々は終わったが、その前にやらなければいけないことがある

 

 

ドアの方を見据えた時、遠くの方で慌ただしく動く足音や叫び声、大勢の話し声、キャスターの転がる音が聞こえてくる

 

 

千秋がこの病院にいるかどうかは分からないが、それでも行く

 

 

薄い上掛けをはぎ取ると、腕と比例するようにやせ細った全身に繋がれたコードをなんとか外していく

 

突然甲高い機械音が鳴り響いたが、気にすることなく次々とコードを外す

 

 

そしてようやくすべてのコードを外し終えると、床に足をつけ、立ち上がろうと試みる

 

少し体は持ち上がったが、直ぐに膝に力が入らなくなり、思わず倒れこみそうになってしまう

 

しかし何とか点滴の支柱に掴まり、立ち上がる

 

 

それだけの動作で息が上がり、体の節々が痛いが、絶対に彼女に会うまでは諦めない

 

その決意を示すように点滴の支柱を握りしめ、ドアに向かってゆっくりと歩き始めた




次回からフェアリィ・ダンス編に入っていきます

現実で視点がテオロングになったのにはしっかり理由があります

それではまた次回に


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フェアリィ・ダンス編
人物設定(フェアリィ・ダンス編)


フェアリィ・ダンス編の登場人物の設定です

アインクラッド編の人物設定より見やすくなったと思います

※アインクラッド編の人物紹介同様、加筆修正する可能性があります


火崎 透(ひざき とおる)/Teolong(テオロング)

 

年齢:16歳

身長:175cm程度

ALOの種族:火妖精族(サラマンダー)

 

フェアリィ・ダンス編の主人公

髪型はSAO編と同じように右目が隠れているが、髪色は少しだけ暗めの赤色

ALOにダイブしたのは何となくで惰性でフィレイスと共に世界樹を目指していたのだが、エギルが送ってきた写真にタコミカの後ろ姿が移りこんでいたことをきっかけとして、本気で世界樹を目指すことを決めた

 

扱う武器は片手直剣

 

 

柴崎 孝(しばざき こう)/Ishiki(意識)

 

年齢:16歳

身長:170cm程度

ALOの種族:闇妖精族(インプ)

 

髪型は所々はねている短髪で、髪色は紫

元々SAO事件の件もあり、VR系のゲームからは離れていたが、エギルから連絡を受けてALOにダイブすることを決めた

実質的な2人目の主人公()

 

扱う武器は弓と短剣

 

 

朱下 空(しゅもと そら)/Syuneko(朱猫)

 

年齢:16歳

身長:173cm程度

ALOの種族:猫妖精族(ケットシー)

 

髪型はショートのウェーブで髪色は青色

意識と同じくSAO事件でVR系のゲームからは少し距離を置いていたが、エギルからの知らせを受け、ALOにダイブすることを決意する

 

扱う武器は短剣

 

 

水明 千秋(すいめい ちあき)/Takomika(タコミカ)

 

年齢:17歳

身長:158cm程度

ALOの種族:―

 

髪型は腰辺りまで伸びたロングで限りなく黒に近い茶色の髪色をしている

未帰還者のうちの1人だが、エギルの送った写真にて後ろ姿が確認された

服装はアスナのドレスに近いが、色は黒色で右耳に赤色のイアリングをしている

 

 

???/Firaith(フィレイス)

 

年齢:?

身長:アバターは176cm程度

ALOの種族:火妖精族(サラマンダー)

 

現在、テオロングと共に世界樹を目指している女性プレイヤー

最近の火妖精族(サラマンダー)の過激な活動に嫌気がさして領地を出た

性格は結構男勝りな部分が多い

 

扱う武器は両手斧

 

 

???/Chishiki(知識)

 

年齢:?

身長:アバターは172cm程度

ALOの種族:風妖精族(シルフ)

 

髪型はわずかに所々はねている短髪で、髪色は浅緑色

 

普段はどこのパーティにも参加しておらずソロだが、最近はリーファ達(シグルド達)のパーティに参加している

風妖精族(シルフ)の中で5本の指に入るほどの実力の持ち主だと噂されている

性格は基本的には温厚だが、怒らせると怖いタイプ

 

扱う武器は短剣と魔法




本当はフェアリィ・ダンス編が始まる前に出せたらよかったんですけど遅くなってしまった…



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1話:戻ってきた日常と戻らない彼女

今回からフェアリィ・ダンス編へと突入します!

フェアリィ・ダンス編は基本的にはテオロング目線で行きますのでよろしくお願いします

それではどうぞ~


俺はいつもの目覚ましで起き、布団から起き上がると大きく伸びをした

 

 

 

 

 

キリトがヒースクリフを倒しSAO(あの世界)を終わらせてから早いものでもう2ヵ月経っていた

 

 

 

―――あの後、結局看護師さんに見つかってしまい、半ば強制的に病室へと戻らされた

 

その1時間後ぐらいに総務省SAO事件対策本部の人がやってきて、様々なことを根掘り葉掘り聞かれたので俺は対価として、あちらで知り合った人たちの居場所(主にたみ)の居場所を聞きたかったが、さすがに断られた

 

 

断られることは薄々とだが判っていたので、妥協して連絡先を条件として交渉した

 

…結論から言えば、それも駄目だったけど

 

 

そんなこんなで手元に残ったのは結局ナーヴギアのみとなった

 

 

一応コミュニティアプリのたみ宛てのDMにメッセージを送ったりもしたが、全く音沙汰なし

 

 

 

 

完全に手詰まりだと思った時、キリトこと桐ケ谷和人から電話がかかってきた

 

 

 

 

最初、俺は夢でも見ているのかと思ったが、実際に会ってみたら正しく(まさしく)あの世界で出会ったキリト本人であった

 

再開したときには、少し泣きそうになった…しかしその余韻に浸る間もなく、そこでアスナこと結城明日奈と、たみこと水明千秋がいまだに目覚めていないということを知った

 

始めは何かの冗談だと思ったが彼女がこんな冗談をやるとは考えにくいし、何より和人の顔がずっと暗いままだったことからすべてが真実だということが分かった

 

彼女の意識がどこにあるのかは分からないが俺は彼女との約束を守るつもりだ

 

 

因みに彼女たちの入院している病院は埼玉県の所沢市にある

 

その病院はなんとたみの父親である水明 悠仁(すいめい ひさひと)氏が経営している…らしい

 

 

 

俺はパジャマ替わりにしているジャージから着替えると、兄貴の待つリビングへと向かう

 

「おはよう兄貴」

「おう! 透! 遅かったな 今日はどうすんだ?」

「悪い… パスで」

 

この人は俺の兄で名前は火崎 隆司(ひざき りゅうじ) 今は大学に通っている

 

兄貴はこうやって時々俺をランニングに誘ってくれるが、今日はあまり乗り気ではないため断った

 

「そうか… 別に気にすんな 朝ごはん出来てるぞ」

「お! サンキュー!」

 

今日はご飯とみそ汁、それからサケの切り身の如何にもな感じの和食だ

 

和食はあの世界に基本的には無かったので、今でも懐かしいような気持ちになる

 

 

 

そして俺は食事を終えると家を出ることにした

 

「今日も行くのか?」

「まぁな…」

「俺も今日は大学だから鍵持って行けよ」

「了解」

 

 

兄貴がそう言った為、俺は家の鍵と肩掛けタイプのバッグを持って、その病院へと行くことにした

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

そこから電車やバスを何回か乗り継いでようやくその病院へと到着した

 

距離が距離なので、あまり頻繁に来ることはできないが、それでも来れるときには来るようにしている

 

 

守衛さんに挨拶をして病院へと入ると受付で通行パスを発行してもらい、エレベーターに乗り最上階へと向かう

 

ここは長期の入院者が多い階層ということを彼女の兄である水明 照春さんから聞いているため人影は少なかったが俺は一刻も早く彼女の元へと向かいたいという気持ちを抑えて歩いて病室まで向かう

 

何回か病室の前を通り過ぎると«水明千秋 様»と書かれた鈍く輝くネームプレートがある病室へと辿り着いた

 

そのネームプレートのすぐ下にあるスリットに受付でもらった通行パスを首から外してスライドさせると薄いグリーンに塗装されている扉がスライドする

 

 

一足部屋に踏み込むと涼しげな花の香りが鼻に入ってくる

 

ホテルの部屋かと見間違うほどの病室は俺が初めて来たときは驚いた

 

部屋の中央には色とりどりの生け花が飾られている

 

広い病室の奥はカーテンで仕切られており、俺はそこに近づく

 

俺はかすかな希望を持ちつつそのカーテンを引く

 

 

そこにあったのは俺が病院にいた頃に使っていたようなジェル素材の最新型のフル介護ベッドに窓から差し込む光を受けて淡く輝く白い肌掛けをして―――今も眠っている彼女の姿だった

 

和人に連れてこられて初めて来たときはもしかしたら彼女は意識のない自分の姿を見られるのを嫌がるかもしれないと思ったがその心配を飛ばすかのように彼女の姿は儚くありつつも美しかった

 

窓から差し込む光によって茶色に輝く髪がクッションの四方に流れており、肌も透き通るほどの色をしているが適度に手入れされているのか病的なほどではなく、頬は少し赤みがかっている

 

体重も俺と比べるとそこまで落ちていないように見え、病院着から覗く鎖骨のラインは間違いなくあの世界の彼女と同一人物なのだと思わせる

 

まるで眠っているだけのようにも思え、今にも長い睫毛を震わせて目が開きゆっくりと上体を起こして

――今日も来てくれたんですね 透さん

と言いそうだが頭には濃紺のヘッドギアが正常に作動しておりその素振りを見せない

 

ナーヴギアは今も正常に通信が成功している証である3つのインジケーターLEDが青く輝いており、それが時折星のように点滅する

 

彼女は今もSAOではないどこかの仮想世界に囚われている

 

俺は昔に彼女がそうしてくれたように右手で彼女の頬に優しく触れると暖かなぬくもりを感じられる

 

それに俺は涙が出そうになるが何とか堪えて小さく彼女の名前を呟く

 

「千秋…」

 

 

気が付いたら時刻は午後1時を過ぎていたため俺は病室を後にすることにした

 

「じゃぁ…そろそろ帰るな? またできるだけ日にちを開けずに来るから」

 

俺がたみに話しかけて立ち上がりドアの方を向くとそのドアが開いて2人の人物が中に入ってきた

 

「あ! こんにちは! 透さん! 今日も来てくれたんですね」

「冬華 あんまり騒いじゃ… あら火崎君 今日も来てくれたのね」

 

その人物は1人が黒髪の短髪で彼女の妹である水明冬華ちゃんでもう一人が彼女のような茶髪だが髪はサイドテールにしている水明楓さんだった

 

因みに水明楓さんはとても大手のファッションブランドである⁽ラフリーソイ₎に勤めており、ファッション関連のことをあまり知らない俺でさえその名前を知っていたので彼女から聞いた時には結構驚いた しかも現在は副社長との事…

 

俺は軽くお辞儀をすると口を開く

 

「お邪魔してます 楓さん」

「そんなにかしこまらくても大丈夫よ それにこの子だって火崎君が来てくれて嬉しがってるわ きっと」

 

楓さんはそう言うと彼女の髪を優しく撫でた

 

「それはそうと今から帰るところだったのにそれを止めて悪かったわね…」

「いえ… お気になさらず…」

 

それから楓さんは俺が帰ろうとしているところだったことに気が付いて謝罪したが俺は別に気にしていないためそれを止める

 

 

俺と楓さんが話をしていると冬華ちゃんは千秋のベッドの傍にある花瓶の中の花を入れ替え終わったようで、古い花を新聞紙に包んでいるのが見えた

 

…今度花でも持ってこようかな

 

予想外のこともあったが今度こそ病室を後にすることにした

 

「では そろそろお暇しますね」

「えぇ また会えたら嬉しいわ」

「また来てくださいね」

 

俺は2人の声を受けながら病室を後にした

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

帰りで適当にお昼を済ませ、自宅に帰ると本日はログインしないという趣旨をALO(あちら)で出会い、現在はこうやってチャットまでする仲になったフィレイスに送る

 

フィレイスはALOでは火妖精族(サラマンダー)を選んでいるが俺と同じく脱領者(レネゲイド)として一緒に世界樹を目指している女性プレイヤーである

 

 

世界樹に向かおうと思ったきっかけは何となくである

 

なので世界樹には最初、俺一人で行こうとしていたのだが、サラマンダー領を出る直前に彼女が話しかけてきた

 

俺は彼女の提案を断ろうとも考えたが、ALOについては全く無知なのと目的地が同じということもあって、お願いすることにした

 

 

 

因みに俺は元々、SAO事件(あの件)もあってこの手のゲームは二度とするまいと思ってはいたのだが、やっぱり俺も生粋のゲーマーなのだろう 結局は購入してしまって今に至るが、予想以上に楽しい

 

ALOへのダイブにはナーヴギアを使っている為か、一部を除いたスキル熟練度がSAOのものを引き継いでいたり、アイテムや武具類が文字化けしており、オブジェクト化できない(見つかったら不正判定されかねないのでやむを得ず破棄したが)と不審な点は幾つかみられたが…

 

 

まぁそんなこんなで今は<ルグルー>と呼ばれている鉱山都市にいる

 

 

フィレイスに訊いたところ、<ルグルー>のある{ルグルー回廊}を抜けて、真っ直ぐ行けば世界樹もとい央都<アルン>に辿り着けるらしい

 

その為、俺はそこまで急いで世界樹に辿り着くつもりではなかった

 

 

 

 

 

―――翌日、エギルからあるメッセージが届くまでは…




最近忙しくて全然書けてなかった…

それではまた次回に


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2話:届いた手掛かり

本当は11月6日に何かしたかったけど忙しくてできなかった…(´・ω・`)

それではどうぞ


そのメッセージは俺が朝食を食べ、着替え終わった時に届いた

 

結構急いだのだろう、件名は『Look at this』という非常に短いもので、本文も一切なかった

 

その代わりに1枚の写真が添付されていた

 

 

そこには、極限まで引き延ばされ、ドットが粗くなっているが、見慣れない白いドレスのような衣装を着た栗色の髪の女性―――アスナが映っていた

 

 

…それだけでも驚きなのだが、その写真を再び見てみると、黒っぽい色で腰辺りまで延びている髪の女性の後ろ姿が移りこんでいた

 

 

何の確証もないが、今の俺はそう思わずにはいられなかった

 

「たみ…!?」

 

俺はそれなりに急ぎ、エギルに対して電話を掛けた

 

 

電話を掛けてから、そう時間がかからずにバリストンボイスの男性が電話に出た

 

「やっぱりお前も掛けてきたか」

「お前もってことは…」

「ご想像通りだ」

「成程」

 

エギルの反応からして、電話を掛けたのはキリトだろう

 

「それで…早速で悪いがあの写真は何だ?」

「長い話になる 台東区御徒町にあるダイシー・カフェに来れるか?」

「解った 直ぐに向かう」

「あぁ 待ってるぞ」

 

そこで電話を切り、コートとバッグを取ると部屋から出て、兄貴に一言告げてから家を出た

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

自転車をしばらく走らせると、2つのサイコロを模った看板が見えてきた

 

 

店の前に自転車を停め、木製のドアを開くと〔カラン〕という乾いたベルの音が鳴る

 

「らっしゃい」

 

その音で禿頭の店主が顔を上げ、カウンターに座っていた3人もこちらを向く

 

事前に聞いていたキリトと、何故か意識と朱猫がいた

 

「テオも来たのか」

「よぉ」

「やっほ テオ」

「えっと… キリトは解るが… 意識と朱猫までいるなんて聞いてないぞ」

 

俺が目をぱちくりとさせていると、朱猫は不服そうな視線を俺に向ける

 

「何? いちゃ悪いの?」

「いや…そういう訳じゃないけど…」

「まぁまぁ いいじゃねぇか」

 

それに対して、エギルは諫めるような声で俺達に言った

 

 

改めてカウンターの空いている席に座ると、コーヒーを注文した

 

 

朱猫がホットココアを飲み、一息ついたところでエギルに対して話しかけた

 

「…それで…全員揃ったところで早速本題に入るけど… エギル あの送ってくれた写真は一体?」

 

その質問に店主は直ぐには答えず、カウンターの下に手をやって、あるソフトを取り出し、キリトに向かってカウンターを滑らせるように渡し、キリトはそれを受け止める

 

そのソフトを覗き込むようにしてみると、これまた驚きだった

 

「こ…これって…!」

「知ってるのか!?」

「知ってるというか…やってるというか…」

「まじか!?」

 

俺がそう言うと、キリト達は驚いていた

 

 

「えぇっと… これはどういったゲーム?」

「簡単に言えばVRMMO 名前はアルヴヘイム・オンライン―――直訳で妖精の国って言うらしい」

「妖精ってことはほのぼの系?」

「その真逆だ PK推奨 どスキル制 プレイヤースキルで強さが決まる」

 

エギルが俺の説明に付け加えるようにして言うと、3人は再び驚いていた

 

「それはえらくきつそうだな… それで、どスキル制ってのは?」

「いわゆるレベルという概念は存在しない 各種スキルは反復仕様で上昇するのみで決してHPは上がらない 戦闘自体もプレイヤーの運動能力依存 簡単に言えば魔法と遠距離武器アリ、ソードスキルなしのSAOってところだな 因みにグラフィックなんかもSAOに迫るスペックだ」

「へぇ…そりゃあ凄いな…」

 

キリトの質問に今度は俺が答えると、3人共頷きキリトの持つソフトのパッケージを見る

 

「それでPK推奨っていうのは?」

「ゲームを始めるときに最初のキャラメイクがあるんだが、違う種族ならキルありなんだとよ」

「結構マニアックなゲームじゃねぇか それじゃぁ人気ないだろ」

 

意識が眉を顰めながら呟くと、エギルは口元に笑みを浮かべる

 

「それが今大人気なんだと そのゲーム 理由は飛べるからだそうだ」

「飛べる…?」

「フライト・エンジンを搭載してて、慣れればコントローラーなしで自由に飛び回れる 因みに俺は自由に飛べるのに約1週間ぐらいかかった」

 

俺がそう言うと3人共異口同音に「へぇ~」と言う

 

「飛べるって言うのは凄いね そりゃぁ人気が出るわけだ…」

「今までのVRゲームは何かを操って飛ぶっていう感じだったからな…」

 

朱猫の呟きにキリトも思わずといった感じに呟く

 

「どうやって羽根を操るんだ?」

「実際にやってみたらわかると思うけど相当むずいぞ 一応初心者に対する救済として、スティックタイプのコントローラーを操って飛ぶ方法もあるけど」

 

…と本題から逸れてしまった

 

俺は出されたコーヒーを一口飲むと同時にキリトもコーヒーを飲んだようで、エギルに向き直る

 

「―――何となくこのゲームについては解った それで、本題に戻るがあの写真は何だ」

 

エギルは再びカウンターの下から1枚の写真を取り出して、俺たちの目の前に置いた

 

「どう思う」

 

エギルにそう聞かれ、俺達はしばらくその写真を凝視してから答える

 

「似てる…と思う…アスナとたみちゃんに」

「そうだよな…」

「やっぱりお前らもそう思うか ゲーム内のスクリーンショットを拡大したものだから解像度は低いけどな…」

「なぁ エギル 教えてくれ この写真は一体何処で撮られたんだ」

 

キリトの質問にエギルはキリトの手からソフトを取って、裏返しにして置き、世界の俯瞰図の中央にある1本の樹を指でこつんと叩く

 

「世界樹、と言うんだとさ」

「現状、プレイヤーの目標地だったよな 確か樹の上にある城に最初に辿り着いた種族がアルフという上位種族とやらになれるらしい」

 

俺は前にフィレイスから聞いた話を何となく思い出しながら、話す

 

「辿り着くって、飛べばいいじゃないのか?」

「なんでも滞空時間ってのがあって、無限には飛べないらしい この樹の一番下の枝にも到達できない だが、どこの世界にも一定数、馬鹿な事をやる奴ってのはいるもんで、体格順に5人が肩車して、多段ロケット方式で世界樹の枝を目指したんだ」

「まぁ何というか、馬鹿と天才は紙一重っていう奴だな」

 

意識が苦笑いしながらも、彼らの事を称賛する

 

「あぁ 見事に目論見は成功、枝にかなり近づいたそうだ 到達こそ出来なかったが、到達高度の記念として写真を何枚も撮った その中の1枚に、奇妙なものが映りこんでいたらしい 枝からぶら下がる、巨大な鳥籠がな」

「鳥籠…」

 

確かに写真を見ていると、何となくそんな雰囲気を感じる…

 

「そいつをぎりぎりまで引き伸ばしたのがそいつってわけだ」

「でもこれって仮にも正式にサービスが提供されてるゲームなんだろ? 何でアスナとタコミカが…」

 

キリトはもう一度ALOのパッケージを持ち上げ、下部に視線を向けた途端、何かあったと言わんばかりの顔をした

 

「どうしたの? キリト なんか顔怖いよ?」

「いや…何でもない それよりエギル もっと他の写真はないのか? アスナとタコミカ以外の『SAO未帰還者』がこのアルヴヘイム・オンラインで同じように幽閉されていた、みたいな」

 

キリトは朱猫の言葉に我に返ったのか、顔をエギルへと向け、質問したが、肝心の店主は眉丘に皺をよせて首を左右に振った

 

「いや…そんな話は聞いてねぇな… というかそんな写真があったらもう確定だろ お前らじゃなくて警察に話をしてるさ」

「ま、そらそうか…」

 

エギルの言葉に、意識は知ってたと言わんばかりの声色で返す

 

 

その中でキリトは迷うことなく、エギルを見上げた

 

「エギル このソフト持って行ってもいいか?」

「構わんが…行くのか?」

「勿論だ この目で実際に確かめる」

 

その返答にエギルは一瞬気遣わし気な顔をしたが、それを気にすることなくキリトはにやりと頬を動かして答えた

 

「死んでもいいゲームなんて温すぎるぜ ―――アミュスフィア買わないとな…」

「…因みにそれナーヴギアでも動くぞ」

「それは助かるな」

 

俺はキリトの言葉に呆れ半分、覚悟半分で答えるとキリトは肩をすくめる

 

それに対して、今度はエギルがにやりと頬を動かす

 

「もう一度あれを被る勇気があるなら…だけどな」

「もう何度も被ってるさ」

「お前ログアウトできなかったらどうするつもりだったんだよ…」

 

まぁ俺もキリトと同じように、何かたみから連絡が着ていないかと何度もナーヴギアを被っている為、人のことは言えないが…

 

 

そしてキリトはおもむろに席を立ちあがり、カウンターにポケットから出したコインを置いた

 

「じゃぁ俺は帰るよ ご馳走様 また何か情報があったら連絡してくれ」

「情報料はツケといてやる ―――必ず2人を助け出せよ そうしなきゃ俺達のSAO事件は終わらねぇ」

「そうだね 2人を助け出したらいつかここでオフやろ!」

「おう!」

 

エギルに対して、朱猫がそう言うと、店主は俺達に対して親指を立てた

 

 

俺達もカウンターにコインを置くと、キリトに続くようにして店を後にした

 

 

 

 

 

店を出て、早速朱猫が口を開いた

 

「さてと…ソフトと本体買わないとね」

「近くの家電量販店どこだったかな…」

「ちょ…ちょっと待ってくれ」

 

それに応じるように、意識はスマホで近くの家電量販店を検索し始めたが、キリトがストップをかけた

 

「どうしたの? キリト」

「その…俺が言うのもあれだけど…怖くないのか…?」

 

朱猫はその質問に直ぐには答えず俯いたが、やがて一言ずつ絞り出すようにして答えた

 

「そりゃぁ…怖いよ? でも、このまま何もできないほうが怖いし、もう二度と誰も失いたくはない …ううん、もっと単純にキリトの力になりたいし、たみちゃんとアスナを助けたい だから私達も行くよ」

「…そっか ありがとな」

 

それに対して、キリトは案外素直にお礼を伝えた

 

 

そして一呼吸置き、俺達に向けて言った

 

「じゃぁお前ら 絶対にアスナとタコミカを助けるぞ」

「「「おう!」」」

 

それに対して、俺達は拳を打ちあわせると連絡先を交換し、真っ直ぐに家へと帰っていった




フェアリィ・ダンス編の人物設定は次の話更新後ぐらいに出したいと思ってます

それではまた次回に


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3話:☆決意を抱き

主人公はテオロングと言いつつ意識サイドをやるという…

それではどうぞ


SIDE:意識

 

 

キリト達と別れ、近くの家電量販店でアミュスフィアとアルヴヘイム・オンラインを買った俺は部屋に戻ると早速、アミュスフィアの初期設定を済ませ、ALOのパッケージからROMカードを取り出し、アミュスフィアのスロットにカードをセットした

 

直ぐに主インジケーターが点灯から点滅へと変わったのを確認すると、ベッドに横たわりアミュスフィアを目の前に持ってくる

 

正直に言ってしまうと、まだ不安は拭い切れない …だがこの真新しい機械が俺に力を貸してくれると信じ、自身の頭に装着した

 

そして俺は2年前のあのとき同様、仮想世界へと繋ぐ言葉を口に出す

 

『リンク・スタート!』

 

 

 

 

□■□■□■□■

 

 

 

 

再び目を開けると、そこは暗闇に包まれたアカウント情報登録ステージで、頭上にはアルヴヘイム・オンラインのロゴが映っている

 

直後に女性のウェルカムメッセージが響き渡る

 

その音声ガイドに従い、アカウントとキャラクター設定を開始した

 

まずはIDとパスワードの入力を求められたので、丁度胸の高さ辺りに出現したホロキーボードに特に考えることなくSAOでも使っていたIDとパスワードを入力する

 

その次にキャラクターネームの入力を要求されたので、こちらもまた特に考えずに《Ishiki》と入力、性別は無論男で

 

次いで、アナウンスはキャラクターの作成を促してきた(と言っても選択できるのは種族のみで、アバターは完全ランダムらしいが俺には特に関係ない)

 

事前のテオの説明と帰りに軽くスマホで開いたALOのホームページの説明通り、妖精をモチーフとした九種族の中から選択できるらしい

 

それぞれの種族の得手不得手の説明をある程度聞き流しながらどれにするかを迷っていたが、闇妖精族(インプ)の見た目が気に入ったので、闇妖精族(インプ)を選択し、OKボタンを押した

 

 

それで全ての初期設定が完了したのか、「幸運を祈ります」というアナウンスの後、俺は光の渦に包まれた

 

どうやらアナウンスによると、それぞれの領地からスタートするらしい―――確か闇妖精族(インプ)は高山地帯スタートだった気が…

 

床の感覚が消え、落下していくのを気にすることなく、結構世界樹までは遠そうだなとぼんやり考えていると、段々と闇妖精族(インプ)領が近くなってきた

 

 

 

 

 

 

 

 

―――その時、いきなりすべての画面がフリーズし、ノイズがそこかしこを這い回る

 

 

え? バグった…?

 

 

俺がそう思ったのも束の間、再び落下感と共に漆黒へと落ち始めた

 

 

これ…もしかしなくてもやばくない?

 

 

ゲーム開始早々こんなことになるなんて運営案件だと思いつつ、俺はただ降下するほかなかった

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

「ぐえっ!」

 

永遠に思えた落下の後、俺は顔面から地面へと激突した

 

「いてて…」

 

顔を擦りながら起き上がり、辺りを見回してみるとそこは高山地帯とは似ても似つかわない、深い森の中だった

 

「どこだここ…」

 

ただ1つ分かるのは、ここはあからさまに闇妖精族(インプ)領ではない…その時、嫌な予感がした

 

「ま…まさかな…」

 

慌てて右手を何回か振ってもメニューが出てこず少し焦りそうになったが、直ぐに左手でやることを思い出して、左手を振るとメニューが現れた

 

それはSAOのデザインと全く変わりなかった為、若干慌ててシステムの所を開くと今回はしっかりログアウトのボタンがあった

 

ログアウトボタンを押してみると、ログアウト云々の警告文が出てきた

 

どうやら俺の心配は杞憂だったようだ

 

そこでほっと一息ついたところで、改めて現在地を確認しようとしたところで俺は驚いた

 

何と空のはずのスキル欄が埋まっていたからである

 

 

並んでいたのは、『短剣』に始まり、『軽業』、『体術』といったSAOで取ったであろうスキルだった おまけにそのほとんどが800~900台で中には1000に到達し、マスター表示がされているものもある

 

MMOでこんな数字が初期というのは絶対にありえない

 

「さっきのと言い、本格的に大丈夫かよ…このゲーム…」

 

そんなことを呟きつつ、改めてスキル欄に眼を通すと、なぜかスキルの熟練度に見覚えがあった

 

『短剣』1000…『軽業』982…『体術』891…

 

これ…SAOでのスキルじゃ…!?

 

まぁ幾つかは欠損しているが、そこは共通していないと仮定すれば辻褄が合う

 

でも何故…? 確かSAOは今は無きアーガスがサービスを運営しており、ALOはレクトが運営しているはずだ

 

セーブデータが勝手に移行した…? …いや、それはないはずだ 使っているハードも違うし…

 

だったら…

 

「ここはソードアート・オンライン…?」

 

俺のそんな突拍子もない呟きは風の音にかき消された

 

 

 

頭を振り、もう一度ウィンドウに視線を戻すと気持ちを切り替え、今度はアイテム欄を開いてみた

 

「うわ…」

 

しかしほぼ全てが文字化けしており、何が何かは分からない状況だった

 

こういう時、ALOに詳しい奴に聞ければいいんだけどなぁ…

 

 

その時…

 

「わあああああ…」

 

男の悲鳴が聞こえてきたので、俺は一先ず様子だけでも見てみようとウィンドウを閉じると、悲鳴が聞こえたほうに向けて走り出した

 

 

~~~~~~

 

 

恐らく現場であろう場所に辿り着いた俺を待っていたのは、金髪でポニーテールの女と赤の人魂のような物体(確かリメインライトって言ったはず)とそれを見て唖然とした様子の宙に浮いているリーダー格と思しき男とその手下と思しき男、そしてその元凶であろう黒い男だった

 

俺が樹の影からその様子を見ていると、手下と思しき男が黒い男に切られ、傷口から炎のようなものが噴出し、消滅する

 

 

黒い男はのんびりとした動作で体を起こすと、リーダー格と思しき男を見据え、剣を肩に担ぎ口を開く

 

「どうする? あんたも戦うか?」

 

その緊張感なんて皆無な言葉に、リーダー格の男は苦笑いしたような気配で首を横に振る

 

「いや やめとくよ もうすぐで魔法スキルが900なんだ死亡罰則(デスぺナ)が惜しい」

 

正直な人だこと

 

「正直だな」

 

黒い男も俺と同じことを思ったのか、短く笑いながら言うと、黒い男は金髪の女性に視線を向ける

 

「そちらのお姉さん的にはどう? 彼と戦いたいんだったら止めないけど」

「あたしもいいわ でも、次会った時はきっちり勝つわよ サラマンダーさん」

「正直、君とはタイマンで勝てる気はしないけどな」

 

それだけを言い残し、サラマンダーの男は翅を広げて飛び去って行った

 

 

そこからしばらくは動きが無かったが、2つのリメインライトが消えたのをきっかけとして、金髪の女性は男の顔を見ながら口を開いた

 

「…それで、あたしはどうしたらいいのかしら? お礼を言ったらいいの? 逃げればいいの? それとも…戦う?」

 

それに対して男は剣を左右に振ってから背中の鞘に納め、言った

 

「うーん 俺的には正義の騎士が悪漢からお姫様を助けた って場面なんだけどなぁ」

 

そして男は片頬をニヤリと吊り上げて言った

 

「感激したお姫様は涙ながらに抱き着いてくる的な…」

 

そこで俺は思わず、ズッコケてしまった

 

「何…って… 闇妖精族(インプ)!?」

 

俺が頭をさすりながら起き上がると、金髪の女性は俺に対し、剣を向けてきたので慌てて両手を上げた

 

「違う違う! 俺は戦うつもりは無い! ただちょっと…」

「ちょっと…?」

 

そこで先ほどの件を話すかどうかに関して迷った

 

多分だけど正直に話しても、信じてもらえないだろう

 

「えーっと…あそこに見える世界樹に行きたくて…」

 

なので一部、嘘を織り交ぜて話した

 

「ふーん… でもその割にはそこの影妖精族(スプリガン)同様初期装備みたいだけど…?」

「早く世界樹に行きたくて…ろくに装備も買わずに飛び出してきたんだ」

「ここまで来るのに確か火妖精族(サラマンダー)領のある砂漠地帯を超えないといけないはずなんだけど…それはどうしたの?」

「えぇっと…エネミーが見えたら全力ダッシュで逃げてました」

 

 

我ながら酷い言い訳だなこりゃぁ…

 

予想通り、金髪の女性は俺に対して懐疑的な視線を向けていたが、こちらに敵意が無いのが判ったのか、溜息をつくと、剣を鞘に納めて話し始めた

 

「運がいいのかただの馬鹿か…まぁ多分後者の方ね ついでに聞くけどそっちの影妖精族(スプリガン)さんも同じ?」

「同じ…って言いたいけど俺は単純に道に迷って…」

「ま…迷ったぁ!?」

 

黒い男の言葉に対して、金髪の女性は素っ頓狂な声を上げ、吹き出した

 

「君達ちょっと変すぎない? 闇妖精族(インプ)さんはほぼ初期装備で世界樹目指してて影妖精族(スプリガン)さんは迷ったって!!」

 

金髪の女性はけらけらと笑い、ひとしきり笑った後で何かを思い出したように言った

 

「ちょっと遅くなっちゃったけど助けてくれてありがとう影妖精族(スプリガン)さん 改めて あたしはリーファって言うの」

「…俺はキリトだ」

「俺は意識 まぁよろしく」

 

自己紹介を済ませると、早速キリトが俺の肩を掴んできて、小声で話しかけてきた

 

「なぁ意識」

「どうした?」

「お前ホントに闇妖精族(インプ)領から出発したのか?」

「無論嘘に決まってんだろ 怪しまれないための辻褄合わせだ」

「そ…そうだったのか… よかった…あれ経験したの俺だけじゃなかったのか…」

「あれ…? あぁ…あれか…」

 

キリトの安堵したように言った言葉に俺もあの体験を思い出し、安心していた

 

「つかお前アバターそこまで変わってないのな…」

「そういうお前は結構変わってるな …まぁアバターはランダム生成だからそっちが普通なんだろうけど」

 

何はともあれ、まずはキリトと会えたことに安堵していると、キリトの胸ポケットが少し動いた気がしたので思い切って訊ねることに決めた

 

「そういえばお前胸ポケットに何か入れているのか? さっき動いたぞ」

「えっ!? いや…それは…」

 

俺がそう言うと、何やら光るものがキリトの胸ポケットから飛び出した

 

「やっと出てこれました! 私を放っておくなんて酷いですよ パパ!」

「あっ! こら 勝手に出てくるなって」

 

キリトの胸ポケットから出てきた、小さな妖精はキリトの顔の周りを一通り飛び回り、そのまま肩に座った

 

「ねぇ それって プライベート・ピクシーってやつ? 実物は初めて見るなぁ…」

 

するとその様子を見ていたリーファはプライベート・ピクシーとやらをまじまじと見ていた

 

「あ、私は…「そう! それ!」」

「でも確か手に入れる方法ってプレオープンの販促キャンペーンの抽選配布限定じゃなかったっけ?」

「俺結構くじ運良いんだ だからそれで」

「ふーん…」

 

リーファはキリトに対し、訝しい視線を向けていたがある程度合点がいったのか、頷くと口を開いた

 

「成程 昔にアカウントだけ作って始めたのはつい最近ってことね」

「そうそう 因みにこの子はユイ」

 

あれ? ユイって名前…どこかで聞いたことがあるような…?

 

膨れっ面のユイを横目に、リーファは俺達を見ながら続ける

 

「そういえば君達ってこの後どうするのか決めてるの?」

「うーん… 一応あと1人いるんだけど…そいつと合流する以外には決めてないかな~…」

「そう じゃぁ…お礼に1杯奢らせてくれない? 勿論意識君も一緒に」

 

俺はこの世界に関しての少しでも情報が欲しい為、リーファの提案は非常に有り難かった

 

「俺は良いけど…意識もいいか?」

「勿論だ 色々と聞きたかったからな」

 

なのでその提案を断る理由はないので、即座に返す

 

「色々って?」

「基本的には世界樹への詳しい行き方だな …それ以外にもあるけど」

「いいわよ あたしこう見えて結構古参なの …じゃぁ少し遠くなっちゃうけど北にある中立の村まで飛びましょう」

「あれ? <スイルベーン>って街の方が近いんじゃないのか?」

 

キリトの質問に俺は思わず呆れた

 

「お前ホントに何も知らないのかよ… あのな、あそこは風妖精族(シルフ)領だぞ」

「それの何が問題なんだ?」

「<スイルベーン>の中じゃ俺達は風妖精族(シルフ)を攻撃できないけど逆はありなんだ」

「でも全員が全員襲ってくるわけじゃないだろ? …それにリーファさんだっているんだしさ 風妖精族(シルフ)の国って綺麗そうなんだから一回見てみたいんだよ」

 

ホント呑気な奴だなぁ…

 

まぁだからこそ俺もなんか嫌いになれないけどな

 

「…リーファでいいわよ 本当…可笑しな人ね まぁそう言うのはあたしは構わないわよ…命の保証まではできないけど」

 

リーファはキリトの言葉に肩をすくめると、背中から翅らしきものを出現させた

 

「じゃぁ <スイルベーン>まで飛ぶよ そろそろ賑わってくる時間帯だわ」

 

しかし、俺達は随意飛行のやり方を知らない為、首を傾げる

 

「あれ リーファはコントローラーなしで飛べるの?」

「まあね 君たちは?」

「ちょっと前にこいつの使い方を知った所だからなぁ…」

「俺も大体似たような感じ」

 

リーファの質問にキリトは左手を動かす仕草をしたので、俺もそれに合わせて頷く

 

まだ一回も飛んでないけど

 

「そっか 随意飛行はコツがいるからね 出来る人は直ぐにできるんだけど…まぁ試してみよ 2人共、コントローラーを出さずに後ろ向いてみて」

「あ、あぁ」

「解った」

 

かくして、リーファ先生による随意飛行レッスンが始まった




この小説では初期スポーン位置がシルフ領近くになった原因は同じIPからの接続による混線という設定を採用しています

それではまた次回に


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4話:☆風の街

今回も前回に引き続き意識サイドの話になります

それではどうぞ


SIDE:意識

 

 

俺もキリトもかなり筋が良かったのか、10分ほどのレクチャーを受けるとどうにかではあるが自由に飛べるようになった

 

「おぉ…これは…中々いいな!」

「こりゃぁマニアックでも人気が出るわけだ…」

 

旋回などを繰り返しながら、俺達は各々感想を述べる

 

「でしょ!」

 

それを聞いたリーファも笑いながら返してきた

 

「何というか…感動的だな… このままずっと飛んでいたいよ…」

「同感…これは一度知ったらやめられないな…」

「うんうん!」

 

この感覚を知ってしまったらもう従来の飛行系のVRゲームじゃ満足できない

 

「あー! 皆さんずるいです! 私も!」

 

俺達が平行飛行に入ると、ユイもキリトとリーファの間に陣取って飛び始めた

 

「慣れてきたら背筋と肩甲骨の動きを極力小さくできるように練習するといいよ あんまり大きく動かしてると、空中戦闘(エアレイド)の時うまく戦えないから …それじゃぁこのまま<スイルベーン>まで行こっか ついてきて!」

 

そしてリーファはターンして方向を見定めると、そちらに向かって巡行に入った

 

 

 

しばらくは俺達のことを思って速度を控えめにしていたのだが、キリトはリーファの真横まで追いつく

 

「もっと速度上げてもいいぜ」

「ほほう」

 

キリトが言い放った言葉に対し、リーファはにやりと笑い、緩やかに加速し始める

 

 

 

2人はどんどん加速していくので、俺もやむを得ず2人の速度に比例するようにして速度を上げた

 

~~~~~~

 

しばらく飛んでいると、町が見えてきた

 

街を行き交うプレイヤー達の姿がはっきりと分かるようになってきた頃、キリトは風切り音に負けないぐらいの声量で言った

 

「お 見えてきたな!」

「中央の塔の根元に着地するわよ! …って…」

 

そこでリーファはあることに気が付いたのか、笑顔のまま固まった

 

「君達…ランディングのやり方…解る…?」

 

あっ…

 

「…解りません」

「…同じく」

「えーっと…」

 

既に視界の大部分が塔の壁で占められている

 

「…ごめん もう遅いや 幸運を祈るよ」

 

リーファは苦笑いしながら一人だけ急減速に入り、広場に向けて降下し始める

 

 

「嘘だろ!?」

 

俺は叫び、慌てて何かできないかとイメージを巡らせていると突如として閃き、それを実行すると翅を目いっぱいに広げながら急減速に入ると、塔にぶつかるギリギリで停止した

 

「あっ…悪い俺出来た」

「そんな馬鹿な!?」

 

しかしキリトはできなかったみたいで、絶叫しながら塔の壁に思いっ切り音を立てて激突した

 

合掌

 

 

 

 

「うぅ…酷いよリーファ…飛行恐怖症になるよ…」

 

その後、キリトは塔の根元にある花壇に座り込み、リーファに対して恨みがましい顔をしながら言った

 

「目が回りました~…」

 

キリトの肩に座るユイも頭をフラフラとさせている

 

それに対してリーファは両手を腰に当て、笑いを押し殺しながら口を開いた

 

「君が調子に乗りすぎなんだよ~ それにしてもよく生きてたね あれは絶対死んだって思ったよ」

「うわ ひでぇや…」

 

項垂れるキリトに対し、リーファは宥めるようにして言った

 

「まぁまぁ 回復はしてあげるからさ」

 

リーファは右手をキリトにかざし、呪文のスペルのようなものを唱えると、青く光る雫がキリトにかかり、HPがたちまち回復していく

 

「おぉ… これが魔法…」

 

一連の流れを見ていた俺は思わず感嘆の声を上げると、リーファは俺の方を向いて続けた

 

「高位の回復魔法は水妖精族(ウンディーネ)じゃないと使えないけどね 必須スペルだから覚えておいたほうが良いよ」

「へぇー…」

 

リーファの説明に聞き入っていると、俺に対して声を掛けてきた

 

「それにしても意識君、ヒントもなしによくできたね 思わず驚いちゃったよ」

「まぁあれは咄嗟にできたってだけだからな… また同じことをやれって言われても無理だ」

「あはは…」

 

大きく伸びをすると、改めて辺りを見回し、呟くようにして言った

 

「それで…ここが<スイルベーン>か」

「予想通り綺麗な街だな~」

「そうでしょ!」

 

やはり<スイルベーン>は風妖精族(シルフ)のホームタウンと書かれてあったこともあって、全体的に緑色且つ塔同士が複雑な空中回廊で繋がっている

 

そんな街の風景を眺めていると、不意に俺達に声が掛かる

 

「リーファ! 戻ってたのか」

「リーファちゃん! 無事だった!?」

 

そちらに視線を向けると、手をぶんぶんと振っている黄緑色の髪色の風妖精族(シルフ)と浅緑色の髪色の風妖精族(シルフ)がこちらに向かってきていた

 

「知識さん! あ、レコンも まぁどうにかね」

「流石風妖精族(シルフ)でも5本の指に入る実力者だ とにかく無事でよかった」

「ある程度は知識さんが倒したとはいえ、あれだけの人数の火妖精族(サラマンダー)から逃げ延びるとは流石リーファちゃん…って…」

 

そこで黄緑色の髪色の風妖精族(シルフ)は俺達に気が付き、口を開いたまま固まった

 

「な…何でここに影妖精族(スプリガン)闇妖精族(インプ)が!?」

 

そして咄嗟に飛びのき、腰のダガーに手を掛けようとしたが、慌ててリーファが静止した

 

「いいのよレコン この人達は助けてくれたから」

「へ? そうなの?」

 

呆気に取られている黄緑色の髪色の風妖精族(シルフ)を指差し、リーファは紹介し始めた

 

「こいつはレコン あたしの仲間なんだけど、君達と出会うちょっと前に火妖精族(サラマンダー)にやられちゃってね」

 

そして次に浅緑色の髪色の風妖精族(シルフ)を手のひら全体で示し、紹介する

 

「それでこちらが知識さん 普段はどこのパーティにも入ってないんだけど、ここ最近は私達のパーティで活動してるの 因みにかなりの実力者よ」

「どうも~」

 

軽く2人の紹介が終わったので、俺達も自己紹介を始める

 

「よろしく、俺はキリトだ」

「俺は意識 まぁこれからご贔屓に」

「あっ、これはご親切にどうも…」

 

俺達が右手を差し出すと、レコンはそれを握り頭を下げる

 

「ってそうじゃなくて!」

 

しかし、思い出したように飛びのく

 

「大丈夫なの!? リーファちゃん! その人たちスパイとかじゃない!?」

「まぁ意識君の方はともかくとして、キリト君の方はスパイにしてはちょっと天然入りすぎてるもん」

「確かにそれは否めないな」

「うわ ひでぇな 2人共」

 

俺とリーファがそう言ったのをきっかけとして、キリトも加えて3人で笑い始めたが知識の咳払いが聞こえたので、そちらを向いた

 

「リーファ シグルド達は先に水仙館で席を取っているからアイテムの分配はそこでやると言っていたよ」

「あ そっか うーん…」

 

リーファはそれに対して悩んでいたが、その末にレコンに対して言った

 

「あたし、今日の配分はやめておくわ スキルに合ったアイテムも無かったからね あんたに預けるからあたし抜きで分けといて」

「了解~」

「リーファちゃんは来ないの?」

「うん この人達に奢る約束してるから」

 

するとレコンは先ほどとは、全く意味合いの異なる警戒を含めた視線で俺達のことを見る

 

「ちょっと! 妙な勘繰りしないでよね!」

 

そのことをうっすらと感じ取った様子のリーファはレコンのつま先をブーツで蹴り、ウィンドウを操作する

 

「次の狩りの時間とか決まったらメールしといて 行けたら参加するからさ じゃぁお疲れ!」

「おー お疲れ~」

「あ リーファちゃん…」

 

そして半ば強引に話を切ると、俺達の袖を引っ張って歩き始めた

 

 

 

 

「さっきのレコンって子はリーファの彼氏か?」

「愛人?」

「コイビトさんなんですか?」

ハァ!?

 

俺達が異口同音に訊ねると、リーファは思わず石畳に足を引っかけて転びそうになったが、何とか立て直した

 

「ち…違うわよ! 単なるパーティメンバーよ!」

「にしては結構仲良かったような…?」

「リアルでも知り合いって言うか…学校の同級生だから でも本当にただそれだけよ」

「へぇ… クラスメイトと一緒にMMORPGやってるのか いいな」

 

リーファの言葉にキリトはしみじみとした口調で言う

 

「あー…でも色々と弊害もあるよ 例えば宿題のこと思い出しちゃったり…」

「ははは 成程」

 

その様な会話をしながら、裏路地をしばらく歩いていると、小ぢんまりとしたお店が見えてきた―――リーファによると、ここはスズラン亭というらしく、デザートの種類が豊富とのこと

 

 

リーファに続いて店の中に入ると、プレイヤーの姿はだれもおらず、ほぼ貸し切り状態だった

 

その中で奥の窓際の適当な席に腰かける

 

「代金はあたしが持つから好きなの頼んでいいわよ」

「じゃぁお言葉に甘えて…」

「あ でもあんまり食べ過ぎるとログアウトしてからが辛いわよ」

 

俺はメニューに眼を通し、ちょっと迷ったがティラミスを注文した

 

 

 

それぞれの注文したデザートが届き、同じく注文した香草のワインをグラスに注ぐ

 

「それじゃぁ改めて 助けてくれてありがとう」

 

そしてグラスを合わせ、一気にその中身を飲み干す

 

 

一息ついたところで、キリトははにかむように笑いながら言った

 

「いや…まぁ成り行きだったし… にしてもえらく好戦的な連中だったな 集団PK(ああいうの)ってよくあるのか?」

「うーん… 元々火妖精族(サラマンダー)風妖精族(シルフ)は仲は悪いのは確かなんだけどね 領地が隣合ってるから中立の狩場じゃよく出くわすし、勢力も長いこと拮抗してたから でもああいった組織的なPKが出るようになったのはここ最近だよ 多分近いうちに世界樹攻略を狙ってるんじゃないかな…」

「その世界樹について詳しく教えて欲しいんだ」

「そういえば意識君が言ってたね でも何で?」

「世界樹の上に行きたいんだよ」

「意識君も同じ?」

「あぁ」

 

リーファは少々呆れたような表情で俺達の顔を見たが、真剣さが伝わったのか説明を始めた

 

「…それは多分すべてのプレイヤーが思ってるよ っていうかそれがこのALOってゲームのグランド・クエストなのよ」

「と言うと?」

「滑空制限があるのは知ってるでしょ? どんな種族でも連続して飛べるのは10分が限界なの でも、世界樹の上にある空中都市に最初に到達して、『妖精王オベイロン』に謁見した種族は全員アルフという高位種族に生まれ変わる そうすれば滑空制限はなくなって、いつまででも自由に空を飛ぶことが出来る…」

「…なるほどな…」

 

アルフ…確かテオの話の中でも出てきたな…

 

「そりゃぁ確かに魅力的だな 世界樹の上に行く方法は解ってるのか?」

「世界樹の内側、根元の所は大きなドームになってるの その頂上に入口があって、そこから内部を登っていくんだけど、そのドームを守ってるガーディアン軍団が物凄い強さなのよ 今まで色々な種族が何度も挑んでるんだけどみんな呆気なく全滅 火妖精族(サラマンダー)は現状最大勢力だからね なりふり構わずお金をためて、装備とアイテムを整えて次こそはって思ってるんじゃないかな」

「そのガーディアンってのはそんなに強いのか?」

「もう無茶苦茶よ! だって考えてみてよ ALOってオープンしてから既に1年が経つのよ? 1年経ってもクリアできないクエストがあると思う?」

「それは…確かに…」

「実は去年の秋頃に大手のALOの情報サイトが署名を集めて、レクトプログレスにバランス改善要求を出したんだ」

「へぇ 結果は?」

「お決まりみたいな回答よ 当ゲームは適切なバランス調整の基に~って 最近は今のやり方じゃ世界樹攻略はできないって意見も多いわ」

 

俺は2人の会話を半分ぐらい聞き流しながら聞いていたが、リーファが言った言葉に思わず反応し、口を開く

 

「何かキーになるクエストを見落としている…もしくは単一の種族では絶対にクリアできない…とかか?」

 

するとリーファはババロアを口許に運ぼうとしていた手を止め、俺の顔を見た

 

「へぇ… 意識君結構いいカンしてるじゃない クエストの見落としの方は、今躍起になって探してるみたいだけど、後者の方だったら無理ね…」

「無理?」

「だって矛盾してるじゃない 最初に到達した種族しかクリアできないクエストを他の種族と協力して攻略しよう…なんて」

「…じゃぁ事実上世界樹を登るのは…不可能ってことか…?」

「…あたしはそう思う そりゃぁ、クエストは他にも沢山あるし、生産スキル上げるとかの楽しみ方もあるけど…でも諦めきれないよね 一旦飛ぶことの楽しさを知ってしまうと… たとえ何年かかっても…」

それじゃぁ遅すぎるんだ!

 

不意にキリトが押し殺した声で叫んだので、そちらを見ると眉間に深い皺を刻み、口許が震えるほど歯を食い縛ったキリトの姿があった

 

「キリト 逸る気持ちは解るが一旦落ち着いてくれ ここで叫んだとしても何も変わらないだろ?」

「…悪い…」

 

俺はできるだけ優しめの口調でキリトに向けて言うと、多少落ち着いたようでふっと力が抜けるように席に座った

 

そしてキリトに代わって話を続ける

 

「実は俺達ある人物を探してるんだ その為に世界樹の上にどうしても行きたくて」

「どういうこと…?」

「悪いけど詳しくは言えない でも、どうしてもその人物に今すぐ会いたいんだ」

 

そしてキリトと目配せすると、席を立ちあがる

 

「ありがとうリーファ 色々教えてもらって助かったよ この世界で最初に会ったのが君でよかった」

「ご馳走様リーファ このお礼は必ずする」

 

そして席を離れようとした時、リーファが止めに入った

 

「ちょ…ちょっと待って もしかして世界樹には君達と後から来る1人だけで行くつもり?」

「あぁ この眼で確かめないと…」

「それにこれ以上世話になるわけには…」

 

俺がこれ以上世話になるわけにはいかない そう言うよりも先に、リーファが口を開いた

 

「なら あたしが連れて行ってあげる―――世界樹に」

「え!?」

 

リーファの言葉に俺は思わず拒否から入ってしまう

 

「いや…さっきも言ったけどこれ以上世話になるのは…」

「いいの! もう決めたから」

 

そう言った後、時間差でリーファの顔が赤くなり、それを隠すように顔を背ける

 

そしてある程度落ち着いたところで、リーファは俺達に訊ねてきた

 

「あの、2人共 明日も入れる?」

「あ、う…うん」

「行けるよ」

「じゃぁ明日午後3時にここでね あたし、もう落ちないといけないから あ、ログアウトは上の宿屋を使ってね じゃぁ、またね!」

 

言葉を挟む余裕もなく、リーファがそう言うと左手を振って、ウィンドウを出した

 

「あ 少し待ってくれ」

 

キリトの呼びかけにリーファは顔を上げる

 

「…ありがとう」

 

それに対してリーファは笑顔でこくりと頷くとボタンを押し、光に包まれて姿を消した

 

 

~~~~~~

 

 

「どうしたんだろう…彼女…」

 

俺達はしばらくリーファのいた場所を見ていたが、ふとキリトが呟きそれに続いて、いつの間にかキリトの方に座っていたユイが首を傾げる

 

「さぁ… 今の私にはメンタルモニター機能がないので…」

「うーん… まぁ戦力が多いに越したことはないし、道案内してくれるって言うんだから、ありがたく好意を受け取っとっとけ な?」

「それもそうだな…」

「マップなら私にもわかりますけど、意識さんの言う通りですね でも…」

 

そこで俺とユイはキリトに向き、異口同音に言った

 

「浮気しちゃだめですよ パパ」

「そうだぞ パパ」

「しないしない! つか、意識! お前はパパ呼びやめろ!」

 

首を勢い良く振るキリトの様子を見て、俺達は思わず笑いがこみあげてくる

 

「くそっ…2人してからかいやがって…」

 

キリトはまだ残りがあったワインボトルの中身を直接飲んだ

 

 

 

その後、まだ残ってたティラミスを一口で食べ、カウンターまで向かうと2階にある宿屋の部屋でログアウトするためにチェックインを済ませた

 

そして階段の手前で振り返り、キリトに向けて言った

 

「あ、俺そろそろ落ちるから 後は父と娘の時間にしてやるよ」

「お…おう…」

「じゃぁお疲れぃ!」

 

キリトの返事を聞かず、階段を上がると指定された部屋のドアを開ける

 

中はシンプルにベッドとテーブルが1つずつあるだけであった

 

俺は武装解除し、ベッドに寝転がるとメニューを操作してログアウトボタンを押した




思ったよりも長くなってしまった…

それではまた次回に


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5話:☆籠の中の小鳥達

今回は前章の主人公のタコミカサイドのお話です

最初の部分重たいかもです

それではどうぞ


SIDE:タコミカ

 

 

 

気が付くと私は広い平原にいた

 

 

そこを当てもなく彷徨いながら歩いていると、遠くの方にぼんやりではあるが見覚えのある人影が見えた

 

もしかしてと考え、思わず走って向かうと、やっぱりておさんだった

 

「ておさん! 良かった…やっぱり来てくれた…!」

 

そして抱き着こうと歩み寄った直後、突如視界がブラックアウトした

 

「えっ…」

 

 

辺りを見回してみたが、周囲は闇が広がるのみ

 

「ておさん! ておさん!! 誰か!」

 

思わず叫ぶが、自分の声が反響するだけで返事はなかった

 

 

必死に不安を抑え、出口を探して歩く

 

 

しかし、いくら歩いても出口が見えてこない…

 

 

 

それでもしばらく歩いていると、ふと何処からか聞き覚えがあるような声が聞こえてきた

 

―――どうして

 

「誰かいるんですか!?」

 

咄嗟に返すが、返事はなかった

 

 

それでも声が聞こえた方向を見ていると、再び声が聞こえてきた

 

―――どうして…私達を巻き込んだの…?

 

え…?

 

―――私達はあなたに誘われてあの世界に来ただけなのに

 

多分この声の主が言ってるのは、SAOの件(あのこと)だろう…

 

「私だってああなるなんて…っ!」

 

そのことに関して、私が否定しようとした時、先ほどの声とは別の声が聞こえてきた

 

―――お前は俺らの人生を奪ったんだ

―――貴方は幸せになる資格なんてない

―――これ以上迷惑を掛けないでくれよ 頼むから!

 

私は…ただ…!

 

―――ただ…? どの口が言ってんだよ

 

ふとておさんのものと思しき声が聞こえてきたので、思わず振り返るとそこにはておさんが立っていた

 

「ておさん!? いつからそこに…?」

 

私がておさんと再会できたことについて、嬉しさ半分、驚き半分でいる間もておさんは続ける

 

―――お前があんなこと言わなければ俺らが巻き込まれることもなかっただろ

 

ておさんに言われた言葉に対して、私は何も反論が出来なくなる

 

「…ごめんなさい…」

 

―――謝って済む問題じゃないよ

―――どうやって責任を取るつもりなの!?

―――お前さえいなければ!

―――あいつの代わりにお前が死ねば良かったんだ!

―――もう元の日常には戻れないんだぞ!

―――この過去はもう変えられない!

―――許さない…!

―――ずっと信じてたのに!

 

「…ごめんなさい…ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」

 

私は耳を塞ぐようにして蹲り、呪文のように謝り続けた

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

「…ミカ… タコミカ…!」

「うぅ…?」

 

聞き覚えのある声が聞こえてきて私は目を覚ます

 

 

上体を起こし、眼にたまった水滴を拭ってから返した

 

「…おはよう アスナ」

「随分と魘されてたみたいだったけど大丈夫なの…?」

「えっ? そうなの?」

「その様子だと全く気が付いていないみたいね…」

 

う~ん? そんなに魘されてたのかな…

 

「そんなに魘されてたの?」

「こっちに声が聞こえてくるぐらいには…」

 

 

「ごめん…」

「別に怒ってるっていう訳じゃないのよ ただ少しだけ心配になっただけだから」

「そうじゃなくて… 私は…」

 

先程の夢で精神面的に不安定になっていたのか、それ以上言葉を続けることが出来ず目から涙が溢れてくる

 

「大丈夫よ 私がいるから…」

 

両手で顔を擦っている私を優しく抱きしめながらアスナは呟いた

 

 

…確実にアスナの方が辛いはずなのに慰めてくれる、それなのに何もできない自分が嫌になる

 

~~~~~~

 

「落ち着いた?」

「お陰様で」

 

しばらくした後、アスナは私から腕を離すと少しだけ離れ、ベッドに腰かける

 

「そういえば今日で60日目だっけ…?」

「多分ね」

 

私達がこの世界に閉じ込められてから、そんなにも時間が立っていたことに驚きが出てくる(これは私の体内時計換算なので合っているかどうかはわからないが)

 

 

あの時、SAO(あの世界)に別れを告げ、いよいよ現実に帰れると思った矢先、周囲が暗闇に包まれ―――気が付いた時にはこの籠の中に倒れていた

 

もし仮にここに閉じ込められたのが私1人だけだったら、いつか全てを諦めていたかもしれない

 

だけど、不謹慎かもしれないがアスナがいてくれたから何とかまだ頑張れる

 

 

でも、この小さい鳥籠の中でやれるようなことはもうほとんどやったと思う

 

ここに来てから数日ぐらい経った頃に籠の隙間から外に出ようと思ったけど、システム的に保護されているのか出ることが出来ず、ならばと置いてあるクッション類を外に投げ、私達のことを知らせようと思ったが、そちらも外に出すことは叶わなかった

 

でも、私は絶対に諦めない―――無事にアスナを脱出させるまでは

 

 

ゴシック調のベッドの天蓋を支える壁にある鏡を見ながら、今日も自分を励ます

 

そこに映る姿は昔とは微妙に異なり、顔のつくりこそ変わっていないものの、髪は太ももぐらいまで伸び、耳はエルフのように先が尖っていて、その右耳には赤い宝石のイアリングが付いている

 

身にまとうのは心もとないぐらい薄い、黒いドレスで胸元には血のように真っ赤なリボンが付いている

 

それに加え、背中からは不思議な虫のような羽が生えている

 

おまけに素足なので、今も大理石製のタイルの冷たさがしんしんと伝わってくる…

 

 

 

 

 

私は鏡に映る自分の姿を見ながら胸元のリボンをそっと撫でていた時、ふと私が今一番嫌悪している声が響いてきた

 

「その表情が一番美しいよ、ティターニア」

 

そちらを振り返ると、1人の金髪で長身の男性がいた

 

「泣き出す寸前のその表情がね ―――凍らせて、飾っておきたいぐらいだよ」

「なら そうすればいいでしょう」

 

その顔は造り物の様に整っている(実際、作り物だけど)が、口許に浮かべるすべてを蔑むような微笑がすべてを台無しにしている

 

私は直ぐに目を逸らし鏡越しにそいつのことを監視し始め、アスナも抑揚のない声で返す

 

「貴方なら何でも思いのままでしょう ―――システム管理者なんだから」

「またそんなつれないことを言う 僕が今まで君に対して無理やり手を出したことがあるかい? ティターニア」

「こんな場所に閉じ込めておいてよく言うわ …それとその変な呼び方で呼ぶのはやめて 私はアスナよ―――須郷さん」

 

須郷は不愉快そうに唇を歪めると、吐き捨てるようにして言った

 

「興ざめだなぁ この世界では僕は妖精王オベイロン、君は女王ティターニア プレイヤー達が羨望の眼差しで見上げるアルヴヘイムの支配者… それでいいじゃないか 一体いつになったら僕の伴侶として心を開いてくれるんだい?」

「無駄よ いつまで経っても貴方にあげるのは軽蔑と嫌悪だけ」

「やれやれ… 気の強いこと…」

 

奴は片頬を吊り上げて笑うと、私の方を向き、そのままゆっくりとこちらに向かって歩き始めた

 

「やっぱり君を手折るには…彼女を使うしかないのかなぁ…?」

 

充分に近づいたところで、私は須郷に対して反射的に右ストレートを入れようとしたが腕を掴まれ、そのまま腕を持ち上げられる形になった

 

左手を使うことはできたが、そんなことをしたらこいつは何をするか分からない…それが私に向くんだったらまだいいけど、アスナに向いたらと思ってしまうとこれ以上は抵抗できなかった

 

 

まるで須郷は抵抗するにできない私の反応を愉しむように、開いている手で胸元のリボンの端をじわじわと引っ張り始めた

 

羞恥と恐怖から思わず私は目を強く閉じてしまう

 

「やめなさい 須郷」

 

直後、アスナの静かだが確実に怒りを含んだ声が聞こえてくると、須郷は喉の奥をククッと鳴らして胸元のリボンから手を離した

 

須郷から解放された私は床にへたり込み、今まで止めていた息を取り返すかのように浅い呼吸を繰り返す

 

「冗談さ 彼女に手はかけないよ なにせ…君がお世話になってる病院の院長の娘さんだからね それにもうすぐ君達の方から僕を求めてくる」

 

直ぐにアスナがこちらに向かってきて、私の背中をさすりながら須郷を睨む

 

「気は確か?」

「ふふ そんな口が利けるのも今だけさ じきに君達の感情は僕の意のままになるんだから」

 

私は須郷の言っていることの意味が分からず、思わず顔を上げる

 

奴はにやにやとした笑いを鳥籠の外に巡らせた

 

「見えるだろう? この広大な世界では今も数万という数のプレイヤーがゲームを楽しんでいる しかし、彼らは知りやしないのさ フルダイブ技術が何も娯楽の為だけに存在しているのではないという事実を!」

 

私達が口を噤んで聞いている間も須郷は続ける

 

「このゲームはただの副産物だ フルダイブ用インタフェースマシン…つまりナーヴギアやアミュスフィアは電子パルスのフォーカスを脳の感覚野に限定し、照射して仮想の環境信号を与えているわけだが―――仮にその枷を取り払ったらどうなるか」

 

そうして見開かれた須郷の目に宿る狂気的な輝きに、私は本能的な恐怖を感じ取った

 

「―――それはね 脳の感覚処理以外の機能…すなわち感情、思考、記憶までも操作できる可能性があるということだよ!」

 

須郷の発した常軌を逸した言葉に私達は絶句するほかなかったが、それでも何とか絞り出すように声を出した

 

「そんな…そんなこと許されるはずが…!」

「誰が許さないんだい? それに既に色々な国で研究が進められている でもね、この研究にはどうしても人間の被験者が必要なんだよ 自分が今何を考えているのかをきちんとコトバで説明してもらわないといけないからね」

 

甲高い笑いを洩らしながら、奴はせかせかとした様子で鳥籠の中を歩き回る

 

「脳の高次機能には個体差が多い だからどうしても多くの被験者が必要になる だがおいそれと人体実験なんてできやしない ―――ところがねぇ…ある日ニュースを見ていたら…いるじゃないか 格好の研究素材が1万人もさぁ!?」

 

奴の言わんとしていることを想像してしまい、思わず背中に悪寒が走る

 

「―――茅場先輩は天才だが大馬鹿者さ あれだけの器を用意しておきながら、たかがゲーム世界を創造するだけで満足するなんてね SAOサーバー自体に手を付けることは叶わなかったが、プレイヤー達が解放された瞬間に、その一部を僕の世界に拉致出来る様にルーターに細工することは容易いことだったよ」

 

須郷は手でグラスを持っているかのような形を作り、見えない美酒を味わうかのように舌を這わせて続けた

 

「いやぁ…クリアされる日を今か今かと首を長くして待った甲斐があったよ 流石に全員とはいかなかったが、結果として300人もの被験者を確保できた 現実ならどんな施設でも確保できない人数さ 本当に仮想世界様様じゃないか!」

 

奴はまるで妄執の熱に突き動かされるように、言葉を捲し立て続ける

 

「300人の旧SAOプレイヤー諸君の献身的な働きのおかげで研究はこの2ヵ月間で大いに進歩したよ 人間の記憶に新規オブジェクトを埋め込み、それに対する情動を誘導する技術は大体完成した 魂の操作―――実に素晴らしい!」

 

須郷のやっていることは人クローン技術や死者蘇生と並ぶ、絶対に人が触れてはいけない領域―――そういうことは私でも何となくだが分かる

 

「そんな…そんな研究…お父さんが許すはずがない!」

「無論あのオジサンは何も知らないよ 研究は私以下極少数で秘密裏に行われている…そうでなければ商品にできないからね」

「商品…?」

 

私は須郷の言ったことに反応し、思わず聞き返す

 

「アメリカの某企業が涎を垂らして研究終了を待っている 精々高値で売りつけるさ―――いつかはレクトごとね」

 

奴の言葉に私は無言を貫く

 

「僕はもうすぐ結城家の人間になる まずは養子からだが、やがては名実共に正式にレクトの後継者となる 君の配偶者としてね だからその為にもここで予行演習しておくのは悪くないと思うけどねぇ」

 

それに対して、アスナは小さく、しかし確かにはっきりと首を横に振った

 

「そんなこと、絶対にさせない いつか現実に戻ったら真っ先に貴方の悪行を暴いてやるわ」

「やれやれ…まだ解っていないようだね ここまで実験のことを話してあげたのは君達が直ぐに何もかも忘れてしまうからだよ 後に残るのは僕への…」

 

そこで須郷は言葉を切り、不意に左手を振ってウィンドウを開いた

 

「今行く 指示を待て」

 

それだけをウィンドウに向かって言うと、再び私達に不快な笑みを向けた

 

「―――という訳で、君達が僕を盲目的に愛し、服従する日が近いということが判ってくれたかな? しかし僕も君達の脳を早期の実験に供するのは望んでいない 次に会うときはもう少し従順であることを願うよ」

 

奴は猫撫で声で言うと、私達の髪を一撫ですると身を翻して、足早にドアへと歩いて行った

 

 

やがて籠のようなドアの開閉音が響き、再び静寂が周囲を包んだ

 

 

その中で須郷が最後に言った言葉が頭の中にしばらく残り続けた




他の人が気にしないと言っていても、自分は気にしてしまう タコミカはそういったタイプです

それではまた次回に


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6話:回廊を往く火妖精族(サラマンダー)2人

やっと主人公サイドをやるという…

それではどうぞ

P.S.:あけましておめでとうございます! 今年も何卒よろしくお願いします


エギルの店で別れた後、キリト達とチャットで相談し合って俺は当初の予定通り、一先ずフィレイスと共に先に央都<アルン>へと向かうことに決めた

 

 

フィレイスに対して、少し世界樹へと急ぐこと、そして<アルン>でキリト達と合流をすることになったことを伝えた(たみ達のことは伏せて)

 

そして午後7時に<アルン>側の門の近くで待ち合わせすることになったので、俺はその時間に間に合うようにALOへとダイブした

 

 

□■□■□■□■

 

 

宿屋から出て消耗品等の準備を済ませていると、約束の時間の5分前になっていたので、急いで<アルン>側の門へと向かった

 

午後7時を少しだけ過ぎてもなお待っていると、フィレイスが少々小走りでやってきた

 

「悪い! 少し遅れた!」

「大丈夫 気にしてないよ」

 

手を合わせながら頭を下げたフィレイスに対して、俺は首を横に振る

 

「…」

 

すると何故かフィレイスは無言になってしまったので、何事かと思って訊ねた

 

「? どうした?」

「気付いたけどなんかそのセリフ、デートの待ち合わせのテンプレみたいじゃね?」

「…あっ」

 

確かにこのセリフデートの待ち合わせの時のセリフだな…

 

そのことに気付いた俺は多少慌てながらもあくまででも冷静に、話題を切り替えることにした

 

「それで…どうする? 俺は準備が出来てるからいつでも行けるけど」

「そ…そうだな 俺も準備自体は昨日のうちに済ませたから出発するか」

 

どうやらフィレイスも準備を済ませていたみたいなので、俺達は門の外へと歩き始めた

 

 

~~~~~~

 

 

「そういえばテオは魔法を使わないのか?」

 

しばらく歩いていると不意にフィレイスがそんなことを訊ねてきた

 

「なんで急にそんなことを聞くんだ?」

「いや… そういえばここに来るまで使っているのを見たことないなと思って」

 

確かに今まで使ったことないな…

 

薄っすらとそう思っていると、フィレイスが人差し指を立ててとある提案をしてきた

 

「回復魔法や攻撃力増加魔法なんかは使えるから、もし魔法のスペルを知らないだけなら教えるぞ?」

「うーん… 前にやってたゲームが魔法なかったからなぁ… 今の戦闘スタイルが安定してるんだ」

「そうか? 魔法が無いゲーム…まさかな…

 

フィレイスが小声で言った言葉に少し焦ったが、気のせいだと思いあまり気にしないことにした

 

話題を買えるようにフィレイスは軽く咳払いをすると、俺に話しかけてきた

 

「まぁこの話は置いておくとして、今日中に回廊の外にある中立村まで進んでおきたいから急ぐぞ~」

「了解!」

 

そしてフィレイスが走り始めたので俺もその後に続き、走り始めた

 

 

 

しばらくの間、洞窟のカーブを右に曲がったり、左に曲がったりしていると少しだけ開けた場所へと出る

 

それと同時に大量の黄色のカラー・カーソルが見えてきた

 

因みにALOでは黄色がエネミーの印となっているらしい(道中でフィレイスから聞いた)

 

 

俺は咄嗟にどうするのかをフィレイスに訊ねた

 

「この先エネミーが大量にいるけどどうするんだ?」

「あーっと… 多分オークだろうし適当に処理していくか」

 

すると、フィレイスは若干視線を逸らしながら答えた

 

さては考えてなかったな…?

 

 

俺が疑わしい視線を向けていると、フィレイスはその視線を避けるようにしてオークの群れに対し、突撃して行った

 

 

 

 

「お! 外が見えてきたな!」

「よし! 速度上げるぞ!」

 

適度にオーク他を倒しながら道なりに走りながら進んでいると、遠くに回廊の出口と思われる白い光が見えてきたので、俺達は更に速度を上げて出口へと向かって行く

 

 

 

大分出口に近づいた時、突然フィレイスが片頬を吊り上げて言った

 

「飛ぶぞ!」

「へ?」

 

一瞬意味が解らなかったが、視界が真っ白に塗りつぶされ、ようやく目が慣れてきた頃には断崖絶壁が目前に迫っていたので、俺は先程フィレイスが言ったことを思い出し、崖のギリギリで思いっ切り跳躍する

 

 

 

そして跳躍が頂点に達した所で翅を広げ、滑空体勢へと入った

 

「いや~… びっくりした…」

 

しばらく飛んだ後、俺は後ろを振り向きながら呟き、次いで少しだけ前を飛んでいるフィレイスを睨みつける

 

「全く… 崖あるんだったら事前に予告ぐらいしてくれ!」

「ハッハッハッ 悪い悪い! でも多少のスリルがあった方が楽しいだろ?」

 

しかしフィレイスは全く悪びれる素振りすらなく、高笑いで返した

 

 

ある程度落ち着いてきたところで、改めて前方を見てみると眼下には平原が広がり、所々にある湖から河が流れ、それを目で追っていくと…

 

「いよいよ見えてきたな…世界樹…」

「あぁ…久々に見るが圧巻だな…」

「行ったことあるのか?」

「あぁ 前の世界樹攻略挑戦の時に必死に志願して参加させてもらった …クリアはできなかったけど」

 

 

枝が雲海まで伸びている世界樹(それ)はまだかなり遠くにあるはずなのに大きく、手を伸ばせば届きそうな気がする

 

あの頂上に彼女が―――たみがいる

 

 

逸る気持ちを抑え、俺はここに来るには{竜の谷}もあったなということを思い出して、隣を飛んでいるフィレイスの方を向いて話しかける

 

「そういえば今更だけどわざわざ{ルグルー回廊}を通らずとも{竜の谷}からもこの{アルン高原}に来れたんじゃないのか? そっちの方が火妖精族(サラマンダー)領からも近かっただろ」

「そうだけど… あー… ほら 火妖精族(サラマンダー)に鉢合わせしたくなかったんだよ 今鉢合わせしたら物凄く面倒なことになる 特にジンさんが…」

「成程 …ジンさん?」

「ユージン将軍 火妖精族(サラマンダー)領主モーティマーさんの実の弟で全プレイヤー中最強の実力を持つという噂だ」

「確かにそんな奴に目をつけられたら厄介だな… 領主と繋がってるということは下手すれば実質火妖精族(サラマンダー)全体を敵に回すこともあり得るな…」

「まぁそういうことだ 近々また世界樹攻略目指すって噂だし」

 

あれ? じゃぁなんでこいつ領地を抜けたんだ?

 

「じゃぁなんで領地を抜けたんだ?」

 

俺がそう問いかけるとフィレイスは俯きながら答えた

 

「…その為の資金の集め方がちょっとな 気に入らないって言ったらあれだけど…問題だったんだ」

「問題?」

「領地が隣り合っている 風妖精族(シルフ)を手当たり次第に組織的に狩るって方法だよ …確かにこのゲームでのPvPは推奨で実際俺も何回か抵抗してきた風妖精族(シルフ)を倒したことは少なくないし、なりふり構ってる場合じゃないのは解ってる でも無抵抗の奴を狩るっていうのだけはどうしても認めることはできなかったんだ」

 

俺は火妖精族(サラマンダー)の内情に関してはよくわからないが、隣を飛んでいるフィレイスからは何か強い意志のようなものを感じた

 

「だから領地を抜けたと」

「まぁそういう事だ お前がちょうどいいタイミングで領地を出ようとしてくれてよかったよ」

 

 

 

少しだけ重くなってしまった空気を変えるようにして、フィレイスが冗談交じりに俺に向かって笑いかけてきた

 

「さてと… そろそろ… お! 見えてきた見えてきた」

 

そして正面を向くと、何かを見つけたようで安堵したような声を出したので、俺もそちらを向くと、先ほどの<ルグルー>よりはかなり狭い中立村が見えてきた

 

俺達はその村に徐々に降下しながら近づいて行く

 

「ここが道中で言ってた所か?」

「そうそう ここは前回も寄ったからな」

「前回の村じゃないと駄目なのか?」

「別に駄目って言う訳じゃないけどな… この{アルン高原}には村に擬態したエネミーがいるんだよ」

「え? 村に…?」

「そうそう だから昔、休憩地点に使った村を使ってるってこと」

 

フィレイスの言葉を少しイメージしてしまって、思わず冷や汗が出る

 

「俺は今、お前がいてくれて本当に良かったと思ってる」

「褒めても何も出ないぞ?」

 

そんな会話をしていると、村の入口に辿り付いた

 

「着いた~ お疲れさん!」

「お疲れ~」

 

 

フィレイスの案内の元、歩いていると宿屋に到着したので店に入ってチェックインを済ませると、部屋のある2階へと上がる

 

「明日は何時ぐらいにする?」

「そうだな… 19時…いや、やっぱり20時に宿屋の1階で頼むわ」

「解った」

 

そして今日は部屋の前で解散することになり、結構いい時間になっていたこともあって俺はそのままログアウトした




やっぱりオリジナルの話って難しいですね…

それではまた次回に


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7話:☆向かうは世界樹

今回から再び意識サイドになります

何だかんだで前回の投稿から約1ヶ月掛かってしまいました…

それではどうぞ


SIDE:意識

 

 

翌日、俺達は軽く情報交換を済ませる

 

そこで朱猫がもう<スイルベーン>に着いたということらしいので、朱猫にスズラン亭で待ち合わせするということを伝えた

 

 

リーファと約束した時間まで、昼食を取ったり弟と他愛のない話したりして時間をつぶした

 

 

 

□■□■□■□■

 

 

 

約束の時間の数分前ぐらいにALOにログインした俺はベッドから起き上がり窓を見てみると、現実とは違い空は暗闇に包まれている

 

しばらく外の景色を眺めた後、窓から離れると部屋を出て1階へと下りる

 

 

一階に降りた俺の目に最初に映ったのは、丁度リーファが宿屋にの扉を開けて入ってきたところだった

 

入ってきて辺りを見回したリーファは俺の姿を確認すると、少し驚いたような声色で話しかけてくる

 

「意識君早いね」

「リーファこそ早いんじゃないか? 約束の時間より少し早いぞ?」

「ちょっと色々と買ってたからね 意識君も武器や防具を買ったほうが良いんじゃない?」

 

リーファに言われて、自身の服装を見てみると確かに初期装備状態だった

 

「確かに でもキリトが来るまでは待つよ まとめて買いに行ったほうが良いだろ?」

「そうね じゃぁキリト君が来るまで待ちましょうか」

 

適当なテーブルに腰かけて待っていると、1人のフード付きローブを被ったプレイヤーが店へと入ってきた

 

 

そのプレイヤーは俺達の元までやってくると、恐る恐るといった感じでリーファに対して訊ねる

 

「あの~… すみません… ここってスズラン亭で合っていますか…?」

「えぇ 合ってるけど…」

 

リーファがそう告げると、安堵した様子の聞き覚えのある声が響いてきた

 

「よかった~… 合ってた~ ここまで長かったぁ~!」

 

思わずと言った感じで、椅子の背もたれに体を預けるプレイヤーに対し、俺はここに来る前にした情報交換の内容を思い出して訊ねる

 

「もしかして朱猫か?」

 

そう聞くと、そのプレイヤーはフードの部分を外して答えた

 

「うん そうそう よくわかったね」

 

頷きながら答える朱猫の髪型は、現実と同じように先端がウェーブがかっているショートだが現実と違い青髪で、何よりも決定的に違うところは猫耳が付いているところだろう

 

「お前猫妖精族(ケットシー)にしたのか」

「見た目が気に入ってね 風妖精族(シルフ)領で待ち合わせするって聞いたときは安心したよ」

「確か 風妖精族(シルフ)領と猫妖精族(ケットシー)領は隣り合っていたからな」

「そそ 多分意識は闇妖精(インプ)選ぶだろうな~っていうのは薄々解ってたから、そこまでかかると思って落胆してた矢先に 風妖精族(シルフ)領集合ってなったから」

「それは良かったな」

「うん 良かった」

 

 

そこでふとリーファの方に視線を向けると、予想通り俺達の会話に完全に置いてけぼり状態だったが、我に返ったように首を左右に振ると朱猫に対して口を開いた

 

「えぇっと… もしかして君が昨日意識君達が言ってた後から来るっていう?」

「そ 自己紹介がまだだったよね 私は朱猫 よろしくね」

「う…うん…」

 

朱猫が差し出した右手をリーファが握り返したところで、キリトがログインしてきた

 

キリトは俺達の姿を確認すると、少し驚いたような目をした

 

「お 3人共もう集まってたのか 早いな」

「さっき集まったところだけどね」

 

キリトに対してリーファが答え、次いで俺達に対して訊ねる

 

「それで…どうする? 全員集まったから武器と防具買いに行く?」

「そうだな 俺もこの剣をどうにかしたいし」

「じゃあ行きましょうか」

 

リーファが席を立ちあがったので、俺達も立ち上がろうとした時、リーファが徐に「あ すっかり忘れてた」と呟き、俺達の方に顔を向けてきた

 

「君達お金持ってる? なかったら貸すけど」

「このユルドって言うのがそう?」

「そうだけど…もしかして持ってない?」

「い、いや 持ってる というか結構ある」

 

少々焦った様子のキリトの言葉に思わず俺もメニューを開いて所持金を確認してみると、相当な金額があった

 

「そう 意識君たちは?」

「俺も問題ない」

「私も大丈夫」

「なら早速行こっか」

 

そしてリーファは店の外に向かって歩き始めたので、俺も店の外に向かおうとしたが、キリトに肩を叩かれて止められた

 

なぁ 意識 朱猫 お前らも初期金額じゃないのか?

なんかめっちゃ持ってる

多分SAO時代のものを引き継いでるんだと思うけど…

 

俺達が話し込んでいると、付いてこないことを不審に思ったのか、リーファが振り向いて口を開く

 

「3人共何してるの? 行くよ?」

「悪い 今行く …行くぞ ユイ」

 

リーファに声を掛けられたキリトは慌てた様子で体のあちこちを見回し、最後に胸ポケットを覗き込むと眠たそうに目を擦るユイが大きく欠伸をしながら胸ポケットから出てきた

 

 

~~~~~~

 

 

途中でユイに言われ、バグったアイテム類を削除しながら歩いていると、リーファの行きつけの武具屋に辿り着いた

 

そこで俺達は防具一式と武器(俺は短剣と弓)を購入し、早速装備しておいた(朱猫は猫妖精族(ケットシー)領を出る前に装備を整えていた為、リーファと一緒に待っていた)

 

 

装備選びで一番時間がかかったのはキリトで、剣を試し振りしては「もっと重い奴」と店員に言ってを繰り返し、結局自身の背丈ほどの大きさの黒光りするロングソードに決めた時には、既に空は朝の光に包まれていた

 

そんな一連の流れを見ていたリーファはキリトに対し、呆れた様子で訊ねる

 

「そんな剣ホントに振れるの~?」

「問題ない」

 

それにキリトは特に気にすることなく答え、武器の代金を払いロングソードを背中に吊るが、今にも鞘の先端が地面に擦りそうになっている

 

 

その様子が可笑しく思えたのか、リーファは笑いそうになったが、何とかそれを押し殺して言った

 

「ま そう言うことなら準備完了だね! これからしばらくの間宜しく!」

 

そう言って差し出された右手をキリトは照れたように笑いながら握り返した

 

「こちらこそヨロシク」

 

そして俺達にも手を差し出してきたので、キリトに倣い握り返す

 

「改めてよろしく頼む」

「うん よろしくね」

 

ひとしきり終わったところで、キリトの胸ポケットからユイが飛び出して俺たちの周りを一周すると、キリトの肩に座り、拳を天に突き上げた

 

「皆さん頑張りましょう! 目指せ世界樹!」

 

 

~~~~~~

 

 

リーファを先頭に歩くこと数分、前方に昨日もやってきた翡翠色に輝く塔が見えてきた

 

ふとキリトの方を見ると、昨日のことを思い出したのか嫌そうな顔を浮かべている

 

そんな彼の肩をリーファが笑いを抑えたような顔をしながら、肘で突いて訊ねた

 

「出発前にブレーキングの練習しとく?」

「いいよ 今後は安全運転することに決めたから」

 

それにキリトは憮然とした表情で答える

 

「ねぇリーファ?」

 

不意に朱猫は先を行くリーファに対して、声を掛けた

 

「どうしたの?」

「何で塔に行くの? 何か用事でもあったっけ?」

「長距離を飛ぶときには塔の天辺から出発するのよ 高度が稼げるから」

「成程ね」

 

リーファの回答に朱猫が納得したように頷くと、リーファはキリトの背中を押しながら再び歩き始めた

 

「さ 急ご! 夜までには森を抜けときたいし」

「俺達は全くこの辺りには詳しくないから道案内は頼むよ」

「任せなさい!」

 

キリトが改めてリーファに道案内をお願いすると、リーファは自信満々そうに胸をトンと1回叩き、ふと何か思い立ったように塔の奥の方を眺めた

 

リーファに倣って、そちらを見てみたが館のような建物があるだけで特に何も無かった

 

「どうかしたのか?」

「ううん 何でもない」

 

思わず首を傾げるとリーファは首を横に振って、正面扉へと向かって行ったので俺達もあとに続いた

 

 

塔の内部は円形のロビーになっており、周囲には様々なショップがロビーを囲むようにして並んでいる

 

ロビーの中央ではファンタジー特有?の謎原理で動いているエレベーターが2基設置されており、定期的にプレイヤー達が乗降している

 

「あれに乗ろ!」

 

エレベーターを見ていると、丁度右側のエレベーターが降りてきたのでリーファはキリトの腕を引っ張ってエレベーターに駆け込もうとした

 

その時、不意に傍らから数人が現れた為、俺達は咄嗟に急ブレーキをかけて何とか立ち止まった

 

「ちょっと! 危ないじゃ…」

 

それに対してリーファは反射的に文句を言いかけたが、どうやら知り合いだったみたいで押し黙った

 

そこにいたのは高身長で波打った濃緑色の髪を肩の下まで垂らし、額には銀のバンドを巻き、体にはやや厚めの銀の鎧に身を包み、腰に大ぶりのロングソードを装備している男性プレイヤーだった

 

 

男の表情から察するにこれは面倒なことになりそうだなと、他人事の様に思っているとリーファはその男をこれ以上刺激しないようにと笑みを浮かべながら口を開いた

 

「こんにちは シグルド」

「パーティから抜ける気なのか、リーファ」

 

シグルドと呼ばれた男の質問にリーファはこくりと頷く

 

「うん…まぁね お金も大分貯まってきたからしばらくのんびりしようと思って」

「勝手だな 他のメンバーが迷惑するとは思わないのか」

「勝手…!? 抜けたくなった時はいつでも抜けていいっていう条件だったでしょ!?」

「だが既にお前は俺のパーティの一員として名が通っている そのお前が特に理由なく抜けて他のパーティにでも入ったりしたら、こちらの顔に傷がつくことになる」

 

怒りと苛立ちを滲ませているシグルドの気迫に押されたのか、リーファは押し黙っていたが、不意にキリトが呟いた

 

「仲間はアイテムじゃないぜ」

「え?」

 

キリトの発した言葉に思わず、俺達はキリトの方を見る

 

「…なんだと?」

 

先程よりさらに苛立っているシグルドに臆することなく、キリトはリーファの前に割って入ると気丈夫に向き合う

 

「他のプレイヤーを自分の装備みたいにロックしておくことはできないって言ったんだよ」

 

それに便乗するというワケではないが、俺達もシグルドの傍若無人さには少し苛立っていた為、俺達もシグルドの方を向くとストレートに言い放つ

 

「そいつの言う通りだ MMOは他のプレイヤーの行動を制限する為にあるんじゃない 個人の意思を尊重しろ」

「束縛する男は嫌われるよ?」

「きっ…貴様等っ…!」

 

俺達の言葉が効いたのか、シグルドの顔は怒りで瞬時に真っ赤に染まる

 

「屑漁り共が付け上がるな! リーファ! お前もこいつ等の相手をしているんじゃない! どうせ領地を追放された脱領者(レネゲイド)だろうが!」

 

剣の柄に手を掛け、今にも抜刀しそうな勢いで捲し立てるシグルドに対し、リーファは叫び返す

 

「失礼なこと言わないで! キリト君と意識君、朱猫さんは私の新しいパーティメンバーよ!」

「なん…だと…」

 

シグルドは額に青筋を立てながらも、驚愕を滲ませていた

 

「リーファ…領地を捨てるつもりなのか」

 

それに対してリーファはハッとしたが、直ぐに覚悟を決めたように頷く

 

「えぇ…そうよ あたし ここを出るわ」

 

リーファの一言にシグルドは食い縛った歯を僅かに剥き出しにし、剣を鞘から抜くと燃えるような目で俺達のことを強く睨む

 

「…子虫が這い回るぐらいなら捨て置こうと思っていたが、泥棒の真似事とは調子に乗りすぎたな のこのこと他種族の領地まで入ってくるからには切られても文句はないだろうな…?」

 

芝居がかったシグルドの言葉に対し、俺は攻撃できないと解ってはいるものの、反射的に腰の短剣の柄に手を掛ける

 

 

まさに一触即発といった雰囲気だったが、背後にいたシグルドの取り巻きが小声で彼に対して話しかけた

 

「シ…シグさん ヤバイっすよ…こんな人目があるところで無抵抗の…しかも猫妖精族(ケットシー)をキルったりしたら…!」

 

その言葉につられて辺りを見回してみると、確かに周囲にはかなり人が集まっていた

 

しばらくは俺達を睨んでいたが、流石に奴もこんな大勢の中で騒ぎを起こすのは不味いと思ったのか剣を鞘に納めた

 

「精々外では逃げ隠れることだな」

 

俺達に対して、そんな捨て台詞を吐くとリーファに視線を向けた

 

「リーファ …今俺を裏切れば、近いうちに必ず後悔するぞ」

「留まって後悔するよりはマシだわ」

「戻りたくなった時の為に泣いて土下座する練習でもしておくことだな」

 

それだけを言ってシグルドは身を翻して塔の出口へと向かって行った

 

シグルドの取り巻きプレイヤー2人はリーファに対して何かを言いたげにしていたが、結局言わずにシグルドの後を追いかけていった

 

 

そして彼らの姿が見えなくなったところでリーファは大きく息を吐き出し、俺達の方を向いた

 

「ごめんね 変なことに巻き込んじゃって…」

「いや…俺も火に油を注ぐ様な真似をしちゃったし… でも、いいのか? 領地を捨てるって…」

「あー…」

 

キリトの質問にリーファは答えず、無言でキリトの背中を押しながらエレベーターへと向かって歩き始めたので、俺達もその後に続いた

 

 

丁度来たエレベーターに乗り込んで最上階行のボタンを押してから数十秒後、エレベーターが静止して扉が開くと白い朝陽と心地よい風が流れ込んでくる

 

先に出たリーファに続き、エレベーターの外に出ると限りなく広がる大空がどこまででも広がっている

 

「凄い…いい眺めだね…」

「まるで空に手が届きそうだ…」

 

朱猫とキリトが目に憧憬のような色を浮かべながら、空を仰ぎ見る

 

「でしょ この空を見てるとさ、ちっちゃく思えるよね いろんなことが」

 

リーファに対し、俺が気遣わし気な視線を投げかけていることに気が付いたのか、リーファは笑顔を返して続けた

 

「…いいきっかけだったよ いつかはここを出ようと思っていたの でも一人じゃ怖くて、なかなか決心がつかなかったんだけど…」

「そっか …でもなんだか 喧嘩別れっぽい感じになっちゃったけど…」

「気にしなくていいって どちらにせよあの様子じゃ穏便には抜けられなかったと思うし」

 

その先は半ば独り言のような感じだった

 

「なんでああやって、縛ったり縛られたりしたがるのかな… 折角翅があるのに…」

 

それに答えたのは、キリトのジャケットの襟の下からひょっこりと顔を出したユイだった

 

「複雑ですよね 人間は」

 

ユイはそれだけを言って、しゃらんと鈴のような音を立てて飛び立つとキリトの肩に座り、腕を組んで首を傾げる

 

「人を求める心を、あんな風にややこしく表現する心理は私には理解できません」

「まぁ人間っていうのはユイが思ってるよりずっと難しい生き物なんだよ 同じ人間ですら理解できないことがあるからな」

 

ユイの言葉に俺は優しめの口調で伝えたが、ユイはどうにも納得していない様子だった

 

「でももっと単純に表現できる方法はあるはずですよ? 例えば…」

 

そう言うと、突然ユイはキリトの頬に手を添え、屈みこんでキスをした

 

「こうですね とても単純明快です」

 

その様子に呆気にとられたが直ぐにこのことをどこで話そうかということを考え、思わず笑みをこぼす

 

ふと視線を逸らすと、リーファと朱猫は目を丸くし、キリトは苦笑いしていたが、我に返ったリーファがキリトに向かって訊ねる

 

「…ねぇ プライベートピクシーってみんなこうなの?」

「こいつは特に変なんだよ」

 

キリトはユイの襟首を摘まみ、自分のジャケットの胸ポケットに放り込む

 

「そ…そうなんだ… 人を求める心…か…」

 

リーファはユイの言っていた言葉を繰り返しながら、屈めていた腰を伸ばすと、何か言った気がするが肝心な内容は聞き取ることが出来なかった

 

キリトも疑問に思ったのか、リーファに訊ねる

 

「何か言ったか?」

「ううん 何でもないよ …さ、そろそろ出発しよっか…って思ったけどちょっと待って」

「? どうしたの?」

 

雲もすっかり消え、さぁ出発といったところでリーファが待ったをかけたので、朱猫が首を傾げるとリーファは展望台の中央まで歩き、とある石碑に触れた

 

「これに触っといてくれる?」

「これ何?」

「ロケーターストーン これに触れとくと万が一道中でやられちゃってもここから再開できるから」

「成程 解ったよ」

 

リーファに倣って順にロケーターストーンに触れると、リーファは4枚の翅を広げた

 

「準備は良い?」

「あぁ」

「俺はいつでも」

「私も大丈夫」

 

俺達もリーファと同じように翅を広げ、頷いたのを確認すると、リーファは飛び立…

 

「リーファちゃん!」

 

つ直前で、エレベーターから転がるようにして出てきた人物に呼び止められたので、リーファは離陸を中断した

 

「あ レコン」

「酷いよ! 僕に一言声を掛けてから出発してもいいじゃない」

「ごめん すっかり忘れてた」

 

レコンはガクリと肩を落としたが、直ぐに顔を上げると真剣な表情で言った

 

「リーファちゃん パーティ抜けたんだって?」

「あー…うん 半分ぐらいその場の勢いだけどね そういえばあんたはどうすんの?」

「決まってるじゃない この剣はリーファちゃんにだけ捧げてるんだから」

「え~ 別に要らない」

 

リーファの無慈悲な一言にレコンは再び肩を落とすが、再度顔を上げる

 

「ま、まぁそういう訳だから僕も当然付いて行くよ…って言いたいけどちょっと気になることがあるんだよね」

「気になること?」

「まだ確証はないんだけど…ちょっと調べたいことがあるから僕はもう少しシグルドのパーティに残るよ」

 

レコンは真剣な様子でそう告げると、俺達に向いた

 

「キリトさん 意識さん それと猫妖精族(ケットシー)さん 彼女、トラブルに飛び込んでいく癖がありますんで気を付けてくださいね」

「あ、あぁ 解った」

「了解」

「解ったよ」

 

それに対し、俺達はどこかでからかえるかと想像しつつ頷く

 

「―――それから 言っておきますけど彼女は僕のンギャ!

 

それに続いて何かを口走ろうとしたレコンの足をリーファは思いっ切り踏んづけた

 

「余計なことは言わなくていいの! しばらくは中立域にいると思うから、何かあったらメッセでね!」

 

そして早口でまくし立てるようにして言うと、リーファは羽を広げてふわりと宙に浮かび上がると、名残惜しそうにしているレコンに大きく右手を振る

 

「…あたしがいなくても、ちゃんと随意飛行の練習するのよ それと、あんまり火妖精族(サラマンダー)領に近づいたら駄目だよ! じゃぁね!」

「り…リーファちゃんも元気でね! 直ぐに追いかけるから!」

 

涙を滲ませながら叫ぶレコンを気にすることなく、くるりと向きを変えたリーファはそのまま滑空を始めた

 

報われないかもしれないが、頑張れ レコン君

 

そう思いながら俺達もリーファの後を追いかけ、ふわりと宙に飛び上がり、滑空を始める

 

 

先を行っていたリーファとキリトを追いかけていると、いつの間にか<スイルベーン>を抜けて森の縁へと差し掛かっていた

 

リーファは<スイルベーン>の方を名残惜しそうに見ていたが、割り切ったように再び前を向いた

 

「―――さ 急ごう! 1回の飛行であの湖まで行くよ!」

 

視線の先に目的の湖が映ると、リーファはそこへと向かって加速していったので、俺達もその後を追いかけるように翅を鳴らし、加速した




気が付いたら結構長くなってしまった…

それではまた次回に


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8話:☆見えた希望

最近忙しいのとモチベが出ない…

それではどうぞ

P.S.:お気に入り登録者数50人達成しました! 本当にありがとうございます! 何時になるかはわかりませんが何かできたらなと思っております

更に追記:評価10有難うございます! これからも投稿頻度は遅いかもしれませんが応援していただけると幸いです!


SIDE:タコミカ

 

 

今、緑色のトーガを着崩した須郷はベッドの上に体を横たえ、顔を背けるアスナの左手を取って肌を撫でまわしている

 

その気になればいつでも襲えるというこの状況を楽しんでいるのか、須郷はいつにも増して粘つくような笑みを浮かべている

 

それを見るのが嫌で私も先ほどまでは顔を背けていたが、先ほど背中を触られてからは拒絶したいけど目を離さないようにしている

 

先程ここにやって来るや否や、ベッドに横たわり、隣に来いと言った時には無論断ろうとしたけど、アスナが不本意ながらといった感じに従ったのでやむを得ず私も従った

 

 

しばらくアスナの腕を撫で回していたが、何も反応を返さないことにしびれを切らしたのか、須郷はアスナの体から手を離すと、そのまま仰向けになる

 

「やれやれ… 頑なな女だねぇ 君も どうせ偽物の体じゃないか 何も傷つきやしないよ 一日中こんな何もない所にいて退屈するだろう? ちょっとは楽しもうって気にならないもんかねぇ」

「…貴方には分からないわ 体が生身か仮想かなんて関係ない 少なくとも私達にとってはね」

「心が汚れるとでも言いたいのかね」

 

須郷は喉の奥で「くくっ」と笑う

 

「どうせ僕の地位が確立するまでは君達を外に出すつもりは無い だから今のうちに楽しんだ方が賢明だと思うけどね 君もそう思うだろう?」

 

そう言って私の方に顔を向けてきたので、私は無言でそっぽを向く

 

「やれやれ… 折角あるものは有効的に使わないと勿体ないと思うけどね あのシステムはかなり奥が深いよ 知ってた?」

「興味ないわ …それにいつまでもここにいるつもりは無い きっと助けが来る」

「…へぇ? 誰だい? それは …もしかして()()()()()()かな?」

 

思いがけず出たその名前に私は反応し、須郷の話を聞き逃さないように先ほど以上に注目する

 

その反応を見たのか否か、須郷はニヤニヤと笑みをこぼしながら上体を起こし、勢いよく喋り始めた

 

「彼…確かキリガヤ君とか言ったかな? 先日会ったよ 向こう側でね」

 

ふとアスナを見てみると、彼女もまた私と同じように須郷をしっかりと見据えていたが私の視線に気が付いたのか、ちらりと私に視線を向けると小さく、しかし確実に頷いた

 

「いやぁ… あの貧弱な子供がSAOをクリアした英雄だなんてとても信じれなかったよ それとも筋金入りのゲーマーっていうのは皆ああなのかい?」

 

奴はアスナの方を向き、嬉々とした表情で捲し立てるようにして話を続ける

 

「彼と会ったの、どこだと思う? …君の病室だよ! 君の本当の体のある、ね 寝ている君の前で、来週この子と結婚するんだ、と言ってやった時の彼の顔! 君達にも見せてあげたいほど実に傑作だった! 思わず大笑いしてしまいそうだったよ」

 

須郷は妙な笑い声を切れ切れに発しながら、体を捩じるようにして私達を見る

 

「じゃぁ君達はあんなガキが助けに来るって信じてるわけだ! 賭けてもいいね あのガキにもう一度ナーヴギアを被る勇気なんてありゃしないさ! 大体どこにいるかすら分かる筈がないのに …そうだ 彼に結婚式の招待状を送らなきゃなぁ きっと来るよ 君のウエディングドレス姿を見にね そのぐらいのおこぼれはあげてやらないとね 英雄君に!」

 

アスナがゆっくりと俯き、鏡に向いてすすり泣くふりをしている様子に満足したのか、奴はベッドから降りて立ち上がる

 

「あの時は監視カメラを切っていたから動画を撮ることは出来ていなかったが、次に機会があればしょぼくれた彼の姿を撮ることを試みてみるよ ではしばしの別れだ 明後日まで寂しいかもしれないが、心待ちにしておいてくれたまえ」

 

そう告げると最後に1回、「ククッ」と笑い、須郷は身を翻してドアへと歩いて行った

 

須郷の愚かさについてはアスナからかなり聞かされていたが、ここまでとは思ってみてもいなかった

 

―――キリトさんが生きているのならば、この状況を静観しているはずがない 必ずこの場所を見つけ出し、須郷に対して相応の報いを受けさせるだろう

 

―――だからといって、ただ待つ訳にはいかない 今、私にできることを1つでも多く見つけ、実行しよう

 

私の中の決意は奴の言葉によって確たるものに変わったが、それを顔には出さずに須郷を見据える

 

扉の前までたどり着いた須郷はちらりとこちらを振り返るが、私達の様子を確認すると、直ぐに扉の隣にある金属板を操作し始めた

 

須郷の手元は遠近エフェクトの影響でまるで靄がかかったように見ることはできないが、()()()()()()()()

 

奴が扉の隣にある金属板を操作している間、私はアスナが鏡越しにどこを見ているかを悟られないように須郷の操作している金属板をじっと見る

 

 

仮想世界に触れて日が浅い奴は、鏡の作りが現実と全く違うということに気付いていない

 

現実の鏡は後ろに銀の膜が貼っており、それが光を反射することで物が映るという仕組みだが、仮想世界の鏡は高解像度のピクセルが用いられて、映るべきものが映っている

 

なので遠近エフェクトの影響が及んでおらず、遠くのものもはっきりと見ることが出来る

 

このアイデア自体はだいぶ前に思いついたけど、今まで試す機会がなかった

 

私は1回で暗証番号を覚えるという真似は到底できないので、ここはアスナに任せる他ない

 

 

そうこうしているうちに暗証番号を入れ終わったのかドアが開き、それを奴がくぐってしばらくするとドアはガシャリと音を立てて閉まる

 

そして枝の上の道を歩いて行き、やがて蝶のような翅の後ろ姿が見えなくなったところで、ちらりとアスナの方を見ると、趣旨を理解していたようで私に向けて言った

 

「…大丈夫 番号は覚えたわ」

「うん ありがと 私には到底できないからね…」

 

素直にアスナに対し、お礼を言うと拳を握って呟く

 

「後はチャンスを待つだけ、あと少しで…!」

 

あと少しでここからアスナを出せるかもしれない そう思いながらふとアスナを見ると何やら寂しそうな雰囲気だったので、思わず声を掛ける

 

「どうしたの?」

「ううん 何でもない それよりも今は休まないとでしょ?」

「う…うん…」

 

私はを首振って笑顔を作ったアスナの様子に不安を感じながらも、ベッドに横たわってただひたすらに時間が経過するのを待ち続けた




今回はちょっと短めですがここで終わっておきます

それではまた次回に


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9話:☆飛ぶ 休む 語る

今回は朱猫サイドで話を進めます

それではどうぞ


SIDE:朱猫

 

 

私とキリトが前衛、意識とリーファが後衛で何回か戦闘をこなしながら順調に進んでいたが、丁度山岳地帯に入った辺りで翅の光が薄れてきた

 

リーファの話によるとどうやら飛翔力というものの限界らしく、山の裾にある草原の端へと降下した

 

そして地面へと着地すると、背筋を伸ばすようにして軽く腕をクロスさせる

 

現実にはない器官のはずなのに、不思議と翅の根元らへんが運動した後かの様に疲労感が出てくる

 

周りを見回すと、3人共それぞれの方法で体をほぐしていた

 

「ふふ 疲れた?」

「まだまだ行けるよ」

「右に同じく」

「こっちもまだ行けるよ」

「へぇ 私も負けてられないわね …と言いたいところだけどしばらく空の旅はお預けよ」

 

リーファの言葉に思わず首を傾げながら、リーファの方を見る

 

「? 何で?」

「あの山 見えるでしょ?」

 

リーファが指差した方向を見てみると、頂点が冠雪するほどに高い山々が見える

 

「あの山脈が飛行限界高度より高いせいで、山を越えるには洞窟を通らないといけないの 風妖精族(シルフ)領から<アルン>へと向かう道中で一番の難所…らしいわ あたしもここからは初めてだから」

「成程な 因みに洞窟って結構長いのか?」

「かなりね 一応途中に中立の鉱山都市があって休めるらしいけど… 3人共 今日はまだ時間大丈夫?」

 

リーファの問い掛けに応じるように、キリトは左手を振ってメニューを開くと、時間を確認したのか頷く

 

「リアルじゃ夜の7時か 俺は当分平気だよ」

「俺も大丈夫だ」

「私もまだまだ大丈夫」

「そう じゃぁここで一旦ローテアウトしよっか」

「ろ…ろーて…って何?」

 

キリトがローテアウトについて訊ねるとリーファは頷き、答える

 

「交代でログアウトして休憩することだよ 中立地帯は即落ちが出来ないから、かわりばんこに落ちるの そして、残った人が空っぽのアバターを守るのよ」

「成程、了解 じゃぁお先にどうぞ リーファ」

「じゃぁお言葉に甘えて 20分ほどよろしく!」

 

そう言って、リーファはウィンドウを出すと、ログアウトボタンを押した

 

すると片膝立ち状態で固まった

 

それをぼんやりと眺めていると、腕を指で突かれたのでそちらを見るとキリトが話しかけてきた

 

「お前も行って来いよ 朱猫」

「いいの?」

「2人もいれば何かあってもまぁ何とかなるだろうし」

「うーん… ま それもそっか じゃぁ2人ともよろしく」

 

キリトに諭されたので私もログアウト休憩することに決め、メニューを開きログアウトボタンを押した

 

 

 

□■□■□■□■

 

 

 

目を開けてアミュスフィアを外すと、ベッドから起き上がり自室を後にする

 

 

キッチンに辿り着くと、冷蔵庫から冷凍のパスタを取り出し、皿にのせて電子レンジに入れる

 

因みに今日は両親と兄は仕事で遅いので、適当に済ませても問題はない

 

そして出来たパスタを食べ終えると、シャワーを浴びて自室へと戻り、再びアミュスフィアを被ってALOへとダイブした

 

 

 

□■□■□■□■

 

 

 

ALOへと戻った私が見たのは、寝転びながら緑色のストローの様なものを口に咥えているキリトと、同じく寝転んでいるがストローの様なものを咥えていない意識の姿だった

 

「ただいま 敵とか出なかった?」

「おー おかえり」

「おかえり 出てこなかったよ」

 

私の質問にキリトと意識は私の方を向き、キリトは口からストローの様なものを離す

 

「キリト それ何?」

「<スイルベーン>の特産らしい お前もどうだ?」

「じゃ…じゃぁ貰おっかな…」

 

私がそう言うと、キリトはメニューを操作し口に咥えていたものと同じものを取り出して投げ渡してきた

 

物は試しというので、試しにキリトがやっていたように端を口に咥えてみるとミントの様な味がした為、思わずストローの様な物を吐き出し、むせてしまう

 

「ゲホッケホッケホッ…うぇ…これ駄目なやつだ…」

「そうか? 俺は結構好きだけどな」

「そういえばお前SAOでもミント系の味のもの避けてたな」

「ああいうのは好きじゃないからね… 因みにこれどこで?」

「雑貨屋 消耗品類を買うついでに買い込んできた」

「昔から思ってたけど、よく未知のものに手を出せるよね…」

 

私はキリトに呆れながらも会話を続ける

 

「お待たせ! なんか楽しそうだね 何話してるの?」

 

しばらくするとリーファの声が聞こえてきた為、そちらを見るとリーファが戻ってきていた

 

「おかえり ちょっとね そういえばリーファこれ知ってる? <スイルベーン>の特産らしくてキリトが買ってきたんだけど…」

 

そう言って、手に持っていたミント風味のストローっぽいものを見せたが、リーファは首を振る

 

「知らなかったわよ…そんなのがあるなんて」

「NPC店員は<スイルベーン>の特産だって言ってたけどなぁ…」

 

キリトはリーファに対しそう告げ、例のミント風味のストローっぽいものを投げた

 

それをリーファは左手で受け止め、端を咥える

 

「じゃぁ次は俺らが落ちるよ」

「後はよろしく」

「てらー」

「うん 行ってらっしゃい」

 

そしてキリトと意識はメニューを操作し、ログアウトをすると自動的に残ったアバターが待機姿勢をとる

 

 

ぼんやりと空を眺めながら2人が戻ってくるのを待っていると、突然リーファが驚いたような声を上げたのでそちらを見る

 

「わぁ! …あなたご主人様がいなくても動けるの?」

 

するとユイちゃんは当然といったような表情で、手を腰に当てる

 

「当然です! わたしはわたしですから! それとご主人様じゃなくてパパですよ」

「ずっと気になってたんだけど…何であなたはキリト君のことをパパって呼ぶの? もしかして…彼がそう呼ぶように設定した?」

「…パパはわたしを助けてくれたんです そして俺達の子供だ、ってそう言ってくれたんです だからパパです」

「…そう ってことはママもいるはずよね…?」

 

そしてリーファはこちらに視線を向けてきたので、笑いながら首を横に振る

 

「違う違う 私はユイちゃんのママじゃないよ」

「朱猫さんはママじゃないですよ」

「そ…そう…」

 

私に続いてユイちゃんも否定したので、リーファは不服そうながらも納得したように頷く

 

そもそもの話、私は女顔ってだけだからね

 

 

そこからちょっとだけ無言が続いたが、ふと私はリーファに対して少しだけ気になっていたことを口に出した

 

「リーファはキリトの事、好きなの?」

「え!?」

「反応を見てると何となくだけど、キリトのことが好きなのかな~って思ったんだけど…違う?」

「ベ…別に私は…「どうかしたのか? リーファ」うわぁぁ!?

 

リーファがつい大声を出したタイミングで、丁度キリトが戻ってきて話しかけてきたのでリーファは驚いて叫んだ

 

「あ おかえり キリト」

「2人共何話してたんだ?」

「秘密」

「?????」

 

私がキリトに声を掛けると、リーファと私を交互に見て先ほどの会話の内容が気になったのか、きょとんとした顔で私に訊ねてきたが、私はリーファのプライバシーを守るために黙秘した

 

「ず…随分と早かったね ご飯とかは大丈夫なの?」

「あぁ 家族が作り置きしてくれてたんだ」

 

私達が話しているとある程度落ち着いたのか、リーファはキリトに対して訊ねると、キリトは笑って頷く

 

「そう じゃぁ意識君が戻ってくるまでちょっと待ちましょうか」

 

それに対して、リーファはそう言うと再び腰を下ろした

 

 

そこから数十秒ぐらい経ったところで、意識が戻ってきたので早速出発しようとしたが、キリトと意識が今まで飛んできた森の方向を向いた為、どうしたのかと訊ねようと思ったが直ぐに私も誰かがこちらを見ているような気がして、思わずキリトや意識と同じように今まで飛んできた森に視線を向ける

 

「…? どうしたの?」

「なんか誰かがこっちを見ていたような気がしたんだけど…」

「ユイ 近くにプレイヤーは?」

「いえ プレイヤーの反応はありません」

 

ユイちゃんは小さい首を横に振るが、なんかどうにも納得できない

 

「見ていたような気が、って… この世界にもその…第6感的なものあるの?」

 

リーファが不審に思って訊ねると、キリトは右手で自分の顎らへんを撫でながら答えた

 

「それが案外馬鹿に出来ないんだよな… 例えば誰かがこっちを見ている場合、そいつに渡すデータを得るためにシステムが俺達のことを『参照』するんだけど、そのデータの流れを脳が感じてるんじゃないか…という説がある」

「…は…はぁ…」

 

キリトの説明に対して、リーファはいまいちわかっていないというような声を出す

 

私もかつて、SAO時代にこの第6感についてキリトから似たような説明をしてもらったような気がするが、今でも良く分かってない

 

「でもユイでも分からないんだったら誰も居ないんだろうしなぁ…」

「うーん… もしかしたらトレーサーが付いているのかもしれないけど…」

「トレーサー? 何だい そりゃぁ」

 

キリトの発言に対する、リーファの呟きにキリトは聞き返すと、リーファは答えた

 

「追跡魔法よ 大体は小さい使い魔の様な姿で、効果を発動すると術者に対象の位置を教えるの」

「へぇ… 結構便利だな それは解除できないの?」

「トレーサー本体を見つければ出来るけど、術者の魔法スキルの熟練度が高くなるにつれて、対象との間に取れる距離も増えるから、こんなフィールドだとまず無理ね」

「そうか… まぁ、気のせいって可能性もゼロじゃないしな とりあえず先急ごうぜ」

 

そう言って私達は頷き合うと、地面を蹴って浮かび上がり、視線の先に見える白い山脈へと向かって行った




朱猫はハッカ等のミント系の味があんまり好きではないです

それではまた次回に


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