———今年は冷夏になるんじゃないかという話、あれはいったいどこに行ったのだろうか?
「・・・暑い・・・。」
時刻は深夜2時を回った頃。数十分前に目を覚ましたわたしは、もう何回目かもわからないその言葉をつぶやく。・・・熱帯夜だ。今夜は。
寝る前には確かにクーラーをつけたのだが、タイマー設定の時間が過ぎ、今は機能を停止している。・・・もっかい付け直そうか。いやそれだと電気代が・・・。
「・・・・・。」
ふと、横で寝ているスカイさんのほうを見る。
・・・彼女は涼しい顔ですやすやと寝ていた。その表情は、まさにこの部屋の温度とは対照的だ。・・・今そんなこと言ってもしょうがないけど。
「・・・クーラー、付け直すか・・・」
リモコンは確か、机の上に置いておいたような・・・。
「・・・ん。」
机に向かうべく、ベッドを降りる。・・・訂正しよう、降りようとしたのだ。
「・・・スカイさん?」
隣で寝ている彼女は、ベッドから降りようとしたわたしの右足をぎゅっとつかんで、離そうとしない。
「・・・一緒に、いて。」
「・・・部屋、・・・暑いですよ?」
「それでもいいの。・・・いなくならないで。」
寝ぼけているのか寝言なのか、やや舌足らずな口調で、彼女はそう答える。
・・・この状態の彼女には、弱い。
「・・・はいはい。」
わたしはそうつぶやくと、再びベッドへと戻っていく。
ベッドに入るや否や、彼女は優しく、こちらを抱きしめてくる。・・・寂しいのだろうか。クーラーをつけなおす、たった数秒間なのに?
どうしたんですか、と質問をするも、スカイさんは返してくれない。・・・再び眠りに落ちたのだろうか。
「・・・スカイさん」
わたしはそうつぶやくと、こちらからスカイさんを抱きしめ返す。
・・・スカイさんの体温が伝わってきて、暑さでくらくらする。・・・でも、こっちの暑さは、嫌いじゃない・・・。
「・・・んっ・・・?」
しばらくの間まどろんでわたしだったが、部屋の中から聞こえてきた物音に、ふと目を覚ます。
「・・・あっ、ごめん。起こしちゃった?」
重い瞼を開けると、ベッドの横には、隣で寝ていたはずの彼女の姿が。
「・・・どうしたんですか?」
「いや・・・暑いからさ、クーラー付け直そうと思って・・・
・・・リモコンどこにあったっけ?」
いかにも眠そうな目をこすり、スカイさんがそう返す。
「確か、机の上にあるはず・・・あっ、わたしがやります。」
「んっ・・・ありがと。」
ベッドから降りて、机の上に放置していたクーラーのリモコンを手に取る。
・・・電気代が気になるが、最近のクーラーは省エネらしいのでその話を信じよう。
「それじゃぁ今度こそ、おやすみ~・・・。」
クーラーが動き出したのを確認すると、わたし達は再び、ベッドへと戻っていく。
部屋はもう間もなく涼しくなるだろう。熱帯夜とはおさらばなのだ。
だけど・・・なんだか物足りないような気がする。
「・・・あの、スカイさん、」
「なぁに?フラワー。」
「・・・もう一度、・・・抱きしめて、くれませんか・・・?」
「・・・もちろん。」
彼女はそう返すと、さっきと同じように、もう一度優しく抱きしめてくれる。
わたしは彼女をぎゅっと抱きしめ返すと、再び、まどろみへと落ちていった・・・。
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