日の光と共に歩む (菖蒲湯)
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ルフレキ短編

ルフレキ支援S後の話
なんでも読める人向け
プライベッターに上げていたものの加筆修正版
いい夫婦の日ということで上げます


 「未来」のクロムの娘ルキナは、ギムレー復活を阻止する為にクロムたち自警団と合流した。共に行動している内にルキナはクロムの相棒であるルフレと想い結ばれた。今回もいつものように哨戒中ではあったが、特段屍兵や山賊がいるようでは無く、地形の把握だけで任務が完了していた。

 

昨晩から降っていた雨が夕暮れに止み、ルキナは雨水が滴る木の葉と地上に消えゆく赤橙の夕日に思わず見とれた。ルキナがいたギムレーに支配された「未来」ではこのような静かな自然の美しさはとうに失われ、たとえ存在しても屍兵が闊歩する世界で「美しさ」を感じる心の余裕は無かった。

ギムレーが放った屍兵との戦い以外に気を回し続けていたからだ。森の高台から見る夕日はルキナの心に光を射した。

 戦い続きの中訪れた自然が見せる光景にルキナは心奪われ、無意識に太陽の方へ近づいていた。そこは木々生い茂る高台であり、切り立った崖のような場所も点在している。

ルキナが崖の方へ近づくことに気が付いたルフレは危険を指摘しようとルキナに近づく。

「ルキナ、それ以上行くと危ないよ。こっちにおいで。綺麗な夕日だけどね」

「っはい、ルフレさ…」

ルフレの言葉に我に返ったルキナは足を動かしたが、昨晩からの雨で地盤が緩くなっていたらしく、ルフレに答える間もなく足元の土が崩れ、ルキナの体は宙に浮いた。

「ルキナっ!」

脱兎以上の速さでルキナのもとに駆け寄って宙に浮くルキナの腕を伸ばして掴むルフレだったが、バランスが悪くルキナと共にルフレは崖から滑り落ちた。

落ちる、と思った瞬間ルフレはルキナを抱きかかえるようにして落下の衝撃から庇う。斜面を滑り落ちる間ルキナが傷を負わないよう咄嗟の判断だった。

 永遠に続くような落下は地面にぶつかり唐突に終わりを告げた。

お互い乱れる呼吸で自身の状態を瞬時に確認したが、すぐに相手の状況を心配した。

「ルフレさん!大丈夫ですか?!お怪我は!私をかばって…」

「大丈夫…大丈夫だから。そんなに心配しないで、背中と腰を打った程度だよ。それよりもルキナが無事で良かったよ。本当に、君に何かあったら…僕は…」

「それは私も同じです!ルフレさんに何かあれば私は!そもそも私があそこに行かなければ…こんなことには!」

ルフレは自責の念に駆られ取り乱すルキナの頬に手を当て目を見据え言う。

「そんなに自分を責めないで、ルキナ。ちゃんと周りを確認していなかった僕にも非はあるさ。それにお互い無事で何よりじゃないか。それよりも…」

ルフレが崖の上を見上げると、近くにいたクロムや自警団の仲間が駆け寄り崖の上から見下ろしており、クロムが真っ先に叫んだ。

「ルフレ!ルキナ大丈夫か!二人とも怪我はないか!」

ルフレはクロムに向かって無事を知らせるように両手振りながら答える。

「クロムー僕たちは大丈夫だよー!きみの方こそ端は危ないから離れて」

ルキナもクロムを見上げ答える。

「私もルフレさんに守って頂いたので怪我はありません。ご心配をおかけしました、お父様」

クロムは二人に怪我がなかったことを安堵した後、少し呆れた顔で

「全く。ルキナが危ないと思ったらルフレが飛び出して二人とも転落する姿を見て肝が冷えたぞ。だが怪我が無くて何よりだ。危険な行動を取った説教は後で俺の天幕でするとして、その場所から戻れそうか?」

クロムの”説教”の言葉を聞いて一瞬顔をこわばらせたルフレだったけれども、すぐ周囲の状況を確認し

「落ちて来た崖を登るのは危なすぎるし、天馬を連れてきていないから今すぐは戻れないな。

だからここの崖を迂回して拠点まで戻ることにするよ。山中を通っても明日の昼前までには戻れると思うし」

クロムはルフレの言葉に納得はするが、もう少しで日が落ちることを心配した。

「お前たち!もう夜になるんだぞ!野営の準備も無しに大丈夫か?」

心配するクロムにルフレは腰につけた袋を叩いて見せながら答える。

「携帯食は持ってるし、水もまだ十分にあるよ。二人でも一晩くらい大丈夫さ」

クロムは心配はしながらもルフレの言葉を受け入れ崖から離れ仲間を連れ引き返した。

クロムが引き返したのを見てからルフレはルキナに振り返り、申し訳なさそうに

「ごめん。勝手に決めてしまって。今はこうするのが一番かなと思ったんだけど…」

ルキナは頭を振ってルフレの言葉に答える。

「いえ!私は大丈夫です。こうなってしまったのは私の責任ですし…。それに野宿には慣れています」

未だ自身を責め続けているルキナに、ルフレは落ち着いて言った。

「ルキナ、僕は何とも思っていないよ。誰かの命が奪われるようなことではないのだから。

それに今一番辛いのは君を笑顔が見れないことかな」

ルキナはルフレの最後の一言にはっとなったが、ルフレは続けて今度は少し照れるように、目を逸らして

「実は久しぶりにルキナと二人きりになれて嬉しかったりして…」

そう言われてルキナは顔が熱を持ったのを感じた。責任を感じ続けるのもルフレの負担になることがわかり、機転を利かせてくれ、二人きりの時間ができたことに考えを移した。

ルフレはいつも通りのルキナに戻ったのを感じると、二人で野宿に適した場所を探すことにした。

二人は早速、森を歩きながら久しぶりの二人きりの会話を楽しんでいた。

 

 野宿ができそうな場所を見つけられたのは日が落ちる寸前のころだった。

周りを整え火を付けた焚火が落ち着くと、ルフレは袋から取り出した干し肉とパンを二つに分けて一つをルキナに渡した。

「あの…これはルフレさんの食料では?それを私が頂いてしまっては…」

「それはルキナの分。クロムと会話してた時に食料はあるといっただろう?でも熊肉の燻製が口に合えばいいけれど…」

逆に申し訳なさそうにしているルフレに、ルキナはありがたく礼を言い熊肉の燻製を口にした。癖のある味だったが、ほんのりと木の香りが肉の臭みを消して食欲をそそる。

「美味しいです。癖はありますが木の香りで臭みが消えて香ばしい良い味を出しています」

”美味しい”というルキナの言葉を聞いてルフレの表情がぱっと明るくなった。

「美味しかった?!あぁ、なら良かった。頑張って作ったかいがあったよ、有難うルキナ」

ルキナは驚いて手元の肉を見る。これがルフレの手作り?恋人の手作り?

「ルフレさんが…これを…作ったのですか?」

驚いているルキナを見てルフレは自慢げに答えた。

「あぁ、そうだよ。まず熊を仕留めて、それから肉を捌いて、塩と香辛料に漬け込んで…じっくり時間をかけて作ったんだ。初めてだから心配だったけど良かったよ、ルキナに美味しいと言って貰えて」

恋人の手作りを食べる者と作った者、幸せな空間がそこにあった。

燻製肉を食べ終わった後も恋人たちは燃える炎を前に、静かに語りあった。

 

 このあと一つの問題が出てきた。寝ずの番をどちらが行うか、二人は大いに揉めた。

ルフレは男であり野宿の提案者が行うのが妥当と主張し、ルキナは自分の方が野宿に慣れていると主張した。最終的に二人で交代して火の番をする事になった。

 最初はルフレが火の番をすることになった。薪の印まで炎が来たら交代という約束をしたので、ルフレは静かに炎を見つめることにした。

(ルキナ…「未来」から来たクロムの娘…。まさか僕が誰か個人に想いを寄せるなんて考えてもみなかったけど、今は彼女無しでは生きられない。クロムとは不思議な関係になってしまったけど、彼の半身という立場は変わらない…変わるとすればあの夢だ。何かいいことがあった日に限って見るあの夢。忘れるなと言わんばかりに出てくる…そう簡単に忘れられる内容じゃない、僕がクロムを殺す、その感触まで。もし…もしあれが「未来」なのだとしたらルキナの敵は僕なのだろうか…もしそうだとしたら僕は)

パチンと焚火の音がルフレを現実へ吹き戻した。約束の位置に炎は燃えている。

(…今はとりあえず寝よう…)

ルフレはルキナを起こし、今考えていたこと心に押し込め眠りについた。

 

 火の番はルキナに交代した。最初に比べると炎は小さくなっている。

ルキナは眠りについているルフレを見つめていた。

(お父様が半身と認める、ルフレさん…私の時代で聞いていた通り戦術に秀でて、魔術を巧みに使いこなせる人。「過去」へ飛ぶと決めてから、この時代に干渉するのは最小限と決めていたはずなのにまさか恋仲になるなんて…思いもしませんでした。恋をすることは素晴らしいことだとこの時代でしりましたが…私の使命は「ギムレー」復活を止めること。その為にはお父様を殺した裏切り者を見つけ出し、始末しなければ。ただ…その裏切り者に最も近い存在が…ルフレさん…なぜなのでしょう…そう思って仕方がありません…でももし本当にルフレさんだとしたら?私はルフレさんを殺すことができるのでしょうか…)

 考え淀むルキナに朝焼けの光が射した。出発の時間がやってきた。

ルキナは眠っていたルフレを起こす。日の光があれば森も歩きやすくなり、早く拠点に戻ることができる。もし昼までに戻れなければクロムからの説教が長くなってしまう。

「おはようございます。ルフレさん起きてください。日が昇りましたよ、お昼までに戻らないとお父様に怒られますよ」

「うぅ…ん、ルキナおはよう。クロムに怒られるのは…まずいな。直ぐ支度するよ」

 

 軽食を済ましお互い忘れ物がないことを確認し、ルフレはルキナに向かって手を差し出した。

「じゃあ、いこうかルキナ」

「はい!ルフレさん」

二人は手を繋ぎながら歩き出した。心中ではそれぞれが夜に抱いたことを反芻していた。

(もしあの夢が事実で、ルキナに殺される日が来るかもしれない…でも)

(ルフレさんがお父様を殺した人物なら、ルフレに剣を向けることになるでしょう…でも)

((でも今だけはこの愛を抱き続けていこう))

今だけはお互い密かに結ばれていようと思いながら歩きだした。

 

日の光が二人を等しく照らしている。

 




微甘なルフレキ。こんな状況あったらな~と思い形にしたものです。
11月22日に間に合うようにあげましたが、もう少し修正したい気もあります。
ルフルキで書きたいネタはまだまだあるので、短編シリーズで書いていきたいです。
ここまで読んでくださりありがとうございます。


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