東方幻創弾 〜Phantasm memories from Buster.〜 (蒼いなんでも屋)
しおりを挟む

メモリアーカイブ
星羅の人物図鑑


 こちらは本作のイロハをまとめたところとなっています。
 説明的な内容のため、ネタバレが混ざる事も。

 思い出したい時や、あれ?と気になった時にご覧ください。

 ストーリー進行に応じて少しずつアップデートします。





 星羅がメモした内容、という事になっています。
 彼女の主観が99%なので、性格などの間違いはストーリー進行とともに正されたりするかも。
 また「私」は基本星羅の事をさします。


 

《幻想郷の愉快なメンバー》

 

 幻想郷に住む人妖や神様。

 まさに十人十色な性格、容姿、生い立ちが存在、そして個々の固有の「能力」をもつ。

 

 

 

・記憶喪失のなんでも屋

         幻島(げんとう) 星羅(せいら)

 

 私の名前。

 記憶喪失で博麗神社に倒れていたところを、霊夢と魔理沙に助けられ、現在は2人に世話になりながら記憶を取り戻すべく行動中。人里などでなんでも屋を行いつつ、身の回りに起こる機怪絡みの様々な事件に巻き込まれている。

 武器は四角柱型の射撃武器「幻創銃【ライズバスター】」。私の大まかな記憶とスペルカードのデータが記録された「スペルメモリ」を装填することで様々な攻撃を放つ事ができる。

 最近は《外の世界で聞いたことのあるワード》か《一度は幻想郷で見聞したもの・ワード》に反応して、記憶が呼び起こされたりメモリが作成されたりするようになってきた。

 

 霊夢曰く、私の性格は“明るくて前向き、お人好し”。

 魔理沙曰く、“いつも元気いっぱいで一緒にいると楽しい”。

 妖夢曰く、“不思議な力を感じるけれど、何よりも優しい人”。

 咲夜さん曰く、“何事にも誠実で素質に溢れている”。

 鈴仙曰く、“過去から未来に進む心を秘めた強い人間”。

 早苗ちゃん曰く、“誰よりも真っ直ぐに頑張れるひと”。

 

 紅魔館での一件で、【幻想力に触れる程度の能力】を持っている事がわかった。「自身に悪影響を及ぼすあらゆる能力・攻撃・スペルカードを無効化」もしくは「デバフ的効果をバフ化する」、というもの。例えば鈴仙の幻覚を受けない。

 

 

 

・楽園の素敵な巫女

         博麗(はくれい) 霊夢(れいむ)

 

 幻想郷を覆う結界「博麗大結界」を管理する、「博麗の巫女」の現代担当の少女。

 倒れてた私を拾い、居候させた本人。

 実力は高く、今までたくさんの異変を解決してきたらしい。魔理沙とは親友(というか悪友)。

 妖怪にやけに人気なせいで、神社には人間が寄り付かないため、人間からの神社の人気がまったくといっていい程ない。霊夢自身も気にしてはいるみたいだけど、特に行動しようとはしてない。

 お祓い効果のある御札や、お祓い棒という名の大幣(おおぬさ)を使って戦う。

 能力は【空を飛ぶ程度の能力】。あらゆる事象から解放されるのでめちゃくちゃチート。

 

 性格は良くも悪くも素直。よく笑うし、よく毒舌も撒く。

 勘が鋭くて、お陰で色々な事に気づける。

 

 

 

・普通の魔法使い

         霧雨(きりさめ) 魔理沙(まりさ)

 

 魔法の森に住む、魔法使いを自称する少女。幻想郷の巫女、霊夢とは昔からの知り合いで、所謂、悪友。

 同じく博麗神社で気絶していた私を助け、以降何かと気に掛けてくれる。

 霊夢同様かなりの実力者で、彼女とは別口に異変解決をしてきた。魔法使いだから箒に乗って空を飛び、星などの魔法を扱う。

 メイン武器は、香霖さんの作った「ミニ八卦炉」。高出力の星魔法エネルギーを集中させて、巨大なビーム「マスタースパーク」を放ったり、内蔵する火種で普通に温かいのでかいろ代わりに使ったり、文字通り火種にしたり、などなど使い道豊富。

 能力も【魔法を使う程度の能力】で、実は水魔法が適性らしい。

 

 少しずる賢いところもあるけど、基本明るくノリの良い性格。

 語尾に「だぜ」をつける、中性的な口調も特徴。

 

 

 

・半人半霊の庭師

         魂魄(こんぱく) 妖夢(ようむ)

 

 白玉楼の庭師と、幽々子さんの剣術指南役を兼ねる少女。半人半霊という種族で、彼女の周りには半霊という少し大きめの人魂が浮いて回っている。

 家系由来の二振りの剣「楼観剣(ろうかんけん)」「白楼剣(はくろうけん)」を持ち、二刀流で戦う。でも本人曰く「まだ半人前で修行中」。

 でも半人前とは思えない実力がある。能力も【剣術を扱う程度の能力】であり、弾幕のみならず近接戦闘もかなりの強さ。

 スペカの力で、半霊は妖夢そっくりに変身可能。半霊は少しだけ目がキリッとしてて、瞳が赤い。

 

 真面目な性格なんだけど、難しい事はあまり考えないみたい。

 

 私の、初めての記憶共有者。ファンタズムメモリの1人目。

 【大切な誰かを護る刃】の記憶をもらった。

 

 

 

・瀟洒で完璧なメイド

         十六夜(いざよい) 咲夜(さくや)

 

 霧の湖の洋館、紅魔館でレミリアお嬢様に仕えるメイド長。

 紅魔館で唯一の人間であり、とても献身的に働くメイドの鑑。

 家事に洗濯、妖精メイドの管理、おつかいは勿論のこと、異変解決までなんでもこなす器用さをもつ。また、【時間を操る程度の能力】により、自身以外の時間を止めたり遅められる。時間停止中は青い目が赤くなる。

 ナイフの扱いと投擲術に長けており、時間停止中にばら撒いて、相手にはまるで瞬間的に増えているような攻撃をする。

 

 冷静で真面目。仕えるレミリアお嬢様のためならなんでもする。実は陰で、たまには休んだらどうなんだろうとお嬢様や美鈴さんに心配されていたりする。たまに会話が通じない。

 

 2人目のファンタズムメモリ発現者。

 【主に仕えし気高き心】の記憶をもらった。

 

 

 

・地上の月兎

         鈴仙(れいせん)優曇華院(うどんげいん)・イナバ

 

 永遠亭の兎で、自称永琳さんの弟子。

 普段は永琳さんの調合したお薬を人里に売りに出たり、永遠亭全般雑務担当として色々な事を行っている。すごく器用だけどちょっと(いやかなり)大変。

 戦闘時には幻覚と人物固有の波長を操る【波長を操る程度の能力】で相手を狂わせ、優位に立ち回る。弾幕がマジの弾丸。幻覚によってまるで逃げ場がなくなったかのように見せられたり、どこから来るのかわからなくしたりできるらしい。

 

 真面目かつ、苦労人。耳が少ししわしわなのはそういう立場故のストレスらしい。

 一回だけ「うどんげちゃん」て呼んだら怒られたので以後しばらくは「鈴仙ちゃん」と呼んでた(妹紅と被ってたと知ったのはその後の話)。

 

 ファンタズムメモリの解放者3人目。

 【覚悟を決めた曇り無き瞳】の記憶をもらった。

 

 

 

・伝統の幻想ブン屋

         射命丸(しゃめいまる) (あや)

 

 幻想郷一番のスピードを誇る、『風を操る程度の能力』を持つ烏天狗の新聞記者。

 デジタルなのかわからないけどカメラ、それと『文花帖』という名前の手帳を、いつも持っている。

 幻想郷中の事件や記事ネタになりそうな物事目掛けて飛び回っては取材行為を行い、自身の発行する『文々。新聞(ぶんぶんまるしんぶん)』に纏めては配っている。ただし迫力を重視しているのか、たまに誇張表現されているらしい。香霖さんも一応購読者らしい。

 

 真面目で融通の利かない性格。基本は非好戦的で、頭脳明晰。隠し持った実力と判断力は本物。

 やってることのせいで煙たがられる事も多いけれど、頭の回転速度は常人を遥かに上回る。

 霊夢に何かを仄めかした言葉を残したあたり、職業柄、今回の異変の真相に一番迫っているのかも。

 

 4人目のファンタズムメモリ解放者。

 【真実を追い求める神速の風】の記憶をもらった。

 

 

 

・現代っ子の現人神

         東風谷(こちや) 早苗(さなえ)

 

 守矢神社の巫女のような存在、風祝。現人神の末裔で、元々は外の世界の少女らしい。

 二神、神奈子さまと諏訪子さまのもとで信仰集めをしている。

 【奇跡を起こす程度の能力】を持っていて、色んな事象を引き寄せることができる。

 一応神なので実力も高い。霊夢とは同じ巫女なのでライバル関係を自称している。

 

 とても礼儀正しいが、根はやっぱりイマドキ(?)の少女、ぶっ飛んだところがある。

 “幻想郷では常識に囚われてはいけない”という謎の価値観があるみたい。

 

 5人目のファンタズムメモリ解放者。

 【現に囚われぬ無限の奇跡】の記憶をもらった。

 

 

 

・幻想境界に凄む妖怪

         八雲(やくも) (ゆかり)

 

 妖怪の、ひいては幻想郷の賢者と云われる古参な女性(一応少女らしい、実際貫禄とか除けば見た目は少女)。

 【境界を操る程度の能力】によりあらゆるものの「境界」を弄る事が可能で、物体の存在そのものから夢と現実、虚と実までも、彼女にかかれば如何なる様にも変えられる。

 また実力は相当なもので、霊夢や魔理沙も認めている程の強さ。他にも幻想郷の設立にも深く関わっている。

 

 流石に永き時をずっと過ごしてきたからかやや胡散臭いところがあり、一日に12時間は寝ているし冬眠もするが、異変の際には直接霊夢のところへ行く事もある。

 自身の能力で空間同士を繋ぐ異次元空間「スキマ」を開く事ができ、そこを経由すればあらゆる場所に一瞬で辿り着ける。

 式としては藍さんを使役していて、結界管理を任せている。

 

 私達の知らないなにかを知っている様子。

 

 

 

 

・幻想の道具屋

         森近(もりちか) 霖之助(りんのすけ)

 

 魔法の森の入口にある道具屋「香霖堂」の店主。

 やたらと女の子ばかりな幻想郷においては珍しい、男性。

 外の世界から流れついたモノや、幻想郷に落っこちているモノなど、店の品物は殆どが拾いもの。

 中には元から売るつもりがないモノも……。

 

 霊夢は霖之助さん、魔理沙は香霖、私は香霖さんって呼ぶ。

 真面目な性格で基本的にはいい人なんだけど、霊夢いわく「余計な事(うんちく)を話し始めると止まらないから、早々に切り上げなさい」って。

 【道具の用途と名称が判る程度の能力】で、私のライズバスターの存在を当てた。

 

 

 

・彷徨わない亡霊

         西行寺(さいぎょうじ) 幽々子(ゆゆこ)

 

 冥界の白玉楼で幽霊たちを管理する、屋敷の主。

 亡霊であり幽霊ではないので、実体を持つ。

 【死を操る程度の能力】を持ち、幽霊を管理していて、妖夢は彼女に仕えている。よく四季に合わせた扇を持っており、その服も微妙に変わっていたりする。

 

 飄々としててどこか掴めないけれど、なんでも見通すほどの高い洞察力とそれを遠回しに仄めかす言葉遊びに定評があるらしい。まともにその会話についてこれるのは紫さんくらい。

 また大食いなところがある。

 

 昔「春雪異変」を起こし、西行妖に封じられた者を解放しようとしていたことがあるという。

 その後それが「かつて【死に誘う程度の能力】故に自ら封じられた自分の身体」だと気付いていた。

 白玉楼襲撃事件後、過去との禍根をちゃんと絶ち切る事に成功できたみたい。

 

 

 

・七色の人形使い

         アリス・マーガトロイド

 

 魔法の森に住む、後天的な魔法使い。

 種族としての魔法使いで、人形操作と魔法を組み合わせて戦う。

 魔理沙とは犬猿の仲らしいけど、とてもそうには見えない(あくまで個人の感想です)。

 

 やや人見知りな面もあるけど、優しい人。

 異変解決の時にも頼れる存在。

 

 人形をたくさん持っていて、その中でも「上海」と「蓬莱」の二匹(?)はちょっとだけ喋れる他スペカとしても活躍する。

 

 

 

・永遠に紅い幼き月

         レミリア・スカーレット

 

 吸血鬼のお屋敷こと、紅魔館の主。五百年という永き時を生きてきた吸血鬼であり、実妹にフラン様、親友としてパチュリーさんがいる。

 昔孤児となっていた咲夜さんの名付け親、らしい。

 吸血鬼ならではの高い実力と、【運命を操る程度の能力】により、並の妖怪とは比べ物にならない強さをもつ。

 

 性格も偉大さが溢れる……けど、見た目がただの幼女なせいか、わがままで少し子供らしい面もあったりするって、咲夜さんが言ってた。

 

 

 

・悪魔の妹

         フランドール・スカーレット

 

 紅き月レミリアお嬢様の、悪魔な妹様。

 【ありとあらゆるものを破壊する程度の能力】という制御の効かない能力に加え、少々気が()れていたため、495年間もの月日を地下で過ごした。

 紅霧異変のあとは外に出るようになり、館内は勿論、幻想郷のどこかしらでも見かけるようになったとか。

 どんな物体でも、その急所を遠隔で一捻りするだけで触れずに破壊できる。本人曰く「きゅっとしてドカーン」。

 

 レミリアお嬢様の5歳下で、若干幼さと狂喜をのぞかせる面があるけど、籠もってた際の知識なのか頭の回転が早い。

 

 

 

・動かない大図書館

         パチュリー・ノーレッジ

 

 紅魔館地下の大図書館で、四六時中本を読み知識を蓄えている魔法使い。生粋の魔女であり、レミリアお嬢様とは親友らしい。

 こもりきりのせいで体力に難ありだが、扱う魔法は強力。喘息を患っており、時々詠唱しきれない事も。

 とにかく膨大な知識量で、紅魔館を支える。

 

 大人しく物静かな性格。お嬢様の事をレミィと呼ぶ。

 ちょっと面倒くさがりなところも。

 

 

 

華人小娘(ほあれんしゃおにゃん)

         紅 美鈴(ほん めいりん)

 

 紅魔館で門番を担当している、弱点の無い万能な妖怪。

 たまーに昼寝しているけど、その実力は本物。他の面々との関係もとても良く、立派な一員として活躍しているみたい。

 【気を使う程度の能力】で、オーラを纏った格闘技を繰り出せる。

 

 名前の通り中華な格好をしていて、礼儀正しく、とても優しい温厚な性格。

 咲夜さんとの仲も深く、お揃いの三編みをしている。

 私に咲夜さんの過去を教えてくれた。

 

 

 

・大図書館の使い魔

         小悪魔(こあ&ここあ)

 

 その名の通りの名もない小悪魔。

 パチュリーさんの使役する(というか部下に近い)子は二人おり、ロングヘアーでちょこっとだけ身長が高い方をこあ、ショートヘアーでちょこっとだけ身長が低い方をここあと呼んでいる。

 かわいい。これ大事。

 

 

 

・氷の小さな妖精

         チルノ

 

 氷を操る小さな妖精で、普段は霧の湖に住んでいる。

 妖精の割にはその力は強く、霊夢や魔理沙も(一応)気をつけるほど。とはいえ妖精だからかそこまで頭は良くない。

 

 単純な性格も相まってバカとも言われるが、考えるときは考えるし、機転も効く。

 普通に強いので湖に住む妖精達のリーダー的存在。

 

 

 

・小さい身体に大きな心

         大妖精

 

 二つ名は私が付けた仮称。

 

 霧の湖に住む妖精の一人。

 大体はチルノと一緒にいる。

 

 いたずら好きらしいけれど、普段はチルノとは対照的に真面目でしっかりもの。

 

 

 

・宵闇の妖怪

         ルーミア

 

 闇を操る人食い妖怪。

 ……なんだけど、自分で展開する闇で自分も相手も視界が遮られてしまうので逃げやすいとかなんとか。というか霊夢曰く「この世界のルール的に食べられないし、面倒くさいらしいわ」とのこと。真偽のほどは不明。

 

 チルノや他の妖精たちと一緒にいることも多い。

 「そーなのかー」が口癖(??)。

 

 

 

・蓬莱の人の形

         藤原(ふじわらの) 妹紅(もこう)

 

 禁忌の薬である「蓬莱の薬」を飲んで不老不死となった少女。

 長い年月を生きてきたような言葉をよく口にする。

 能力も【老いることも死ぬこともない程度の能力】のため、髪の毛一本さえ残っていれば完全再生するらしい。ただし傷、怪我、精神的痛みまでは流石に回復しない。

 能力とは別に、炎を自在に操ることができ、捨て身の攻撃に全身を炎に包むことも。

 

 若干人間離れしているところはあるけれど、本人はボランティアを自称するだけあって基本的には他人に優しいようだ。

 人の役に立つことが嬉しいみたい。

 ただし輝夜さんとは犬猿の仲通り越して「殺し合い」関係。ふたりとも不老不死だからかこうして「生」を感じるようだ。

 

 

 

・永遠のお姫様

         蓬莱山(ほうらいさん) 輝夜(かぐや)

 

 『竹取物語』の登場人物、かぐや姫その人。

 不老不死の薬「蓬莱の薬」を服用、月から追放された後は紆余曲折経て地上にとどまり、永琳さんとともに幻想郷の迷いの竹林で永遠亭に住む。なので一応、永遠亭の主である。

 【永遠と須臾を操る程度の能力】を持ち、一瞬や永久なる時を自由に見れる……とかどうとか。よくわかんない。

 また竹取物語にも出てくる5つの難題にあった宝物をスペカでも使う。

 

 出自上なのか、語り聞かせることが得意で、人里の子どもたちに昔話をする事も多い。

 温和でとても優しい性格。但し妹紅とは犬猿の仲……どころか、お互い不老不死なのをいいことに「殺し合い」によって「生」を感じる色々と危ない関係。

 

 

 

・月の頭脳

         八意(やごころ) 永琳(えいりん)

 

 元・月の民、現・永遠亭の薬師。

 輝夜さんの教育係を努めていたが色々あって現在は彼女に仕えている。

 【あらゆる薬を作る程度の能力】で、幻想郷で起こる様々な病に特効薬を生み出したり、置き薬を作って鈴仙ちゃんに配らせたりしている。しかも薬代金は後払い可能、さらにいつまでも待ってくれる。めっちゃ親切。

 また、自他共に認める「天才」。流石、月の賢者様。

 

 聡明でとても優しい性格。鈴仙ちゃんの師匠的存在。

 研究熱心で、輝夜に尽くす献身的な人。ちなみに永遠亭の主ではない(主は一応輝夜さん)。

 

 

 

・幸運の素兎

         因幡(いなば) てゐ

 

 (自称)迷いの竹林の所有者。

 永遠亭を隠す代わりに、永琳さんから兎たちに知恵を貰っている。【人間を幸運にする程度の能力】を持っているが、与えた幸運はだいたい竹林脱出で潰えるらしい。

 鈴仙と「兎角同盟」なるものを結んでいて、一応幹部枠らしいけれど、最早形骸化してるとかなんとか。

 また抜きん出て永い年月を生きている様で、まれに妙なカリスマを垣間見せる。

 

 いたずら好きで狡猾なところがある。誰が言ったか“う詐欺”。

 

 一応竹林火災及び兎誘拐事件では、てゐは助けてもらった側なんだけどね。

 

 

 

・山坂と湖の権化

         八坂(やさか) 神奈子(かなこ)

 

 幻想郷の妖怪の山に建つ、外からやってきた神社・守矢神社の神様。

 外の世界で信仰が薄れてきたので存亡の危機に陥ったといい、打開策として早苗ちゃんや諏訪子さまと神社ごと幻想入り、幻想郷で信仰集めをすることにしている。

 人里では表向きの信仰の対象として君臨しており、山の妖怪たちからも迎えられている。

(けん)を創造する程度の能力】を持っている。

 

 フランクな性格で、あまりかしこまられるのは苦手なんだって。

 昔色々あったらしい諏訪子さまとは、今では利害関係的にも仲がすごくいい。

 エネルギー改革に熱心。

 

 

 

・土着神の頂点

         洩矢(もりや) 諏訪子(すわこ)

 

 守矢神社の裏の神様。

 蛇の祟り神、ミシャグジさまを操ることができる。

 なんやかんやあって、神奈子さまと一緒に守矢神社で信仰を集めている。幼い外見とは裏腹に、古来からの経験などからか言動には重みがある。とはいっても普段は神奈子さまに任せているし、いつもの口調はとても呑気なイメージがある。

 神奈子さまとは反対に【(こん)を創造する程度の能力】で大地を操れる。

 

 隠居の身で裏から信仰心を集めている。神奈子さまや早苗ちゃんとはとても仲が良い。つぶらな目玉のついた変わった帽子を被っている。

 

 

 

・超妖怪弾頭

         河城(かわしろ) にとり

 

 妖怪の山の玄武の沢に凄む河童の一人。

 幻想郷の河童は、外の世界から流入したものを転用する技術力に富んでいるが、にとりはその中でもトップクラスの技術力と発明力を持つ。

 発明品が異変や騒動を引き起こすこともあるトラブルメーカー。でも真面目なものも多数作成していて、特に彼女が使うアイテムはほとんどが自作だとか。

 

 人間のことは「盟友」と呼び仲良くしようとするが、ちょっと人見知りなところがあるのと商売人の頭脳が故にあまり上手くいっていない様子。

 

 

 

・番妖哨戒天狗

         犬走(いぬばしり) (もみじ)

 

 妖怪の山をパトロールしている哨戒天狗。狼のケモミミとしっぽ、大きめの剣と丸い盾が特徴。

 【千里先まで見通す程度の能力】、つまり千里眼を持っているため侵入者は見逃さない。でも滅多にそんな者は現れないため暇を持て余しているらしい。現在は機怪に対する特別警戒を敷いているらしいためちょっと気合が入っている。

 苦手なものは射命丸さん。

 

 生真面目な軍人気質。でもとてもいい人。

 事情を知って私の護衛役を買って出てくれた。

 

 

 

・スキマ妖怪の式

         八雲(やくも) (らん)

 

 紫さんの式神。

 九尾の妖怪狐で、普段は眠ってばかりの紫さんに代わって結界管理を行っている。遣いとして各地へ赴いたり、人知れず監視・視察を行って幻想郷の様子を報告したりすることもあるそう。

 九尾なだけあってめちゃくちゃ強いらしいけれど、ふつーに人里で油揚げを買いに出歩いてるとかなんとか。

 

 計算高く、その計算速度は自称「外の世界のスパコンよりも早い」らしい。

 基本的に知的で冷静沈着、紫さんよりも真面目な性格で、自分も式神なのに橙(ちぇん。猫の式神。かわいい)という式神を持っている。

 たまにPONする。あと尻尾がもふもふ。

 

 

 

・片腕有角の仙人

         茨木(いばらき) 華扇(かせん)

 

 妖怪の山のどこかに居を構える仙人様。

 中華風の装いに身を包み、どういうわけか右手は包帯ぐるぐる巻きになっていて、中身が無い。

 動物と会話したり、ありがたい(?)お説教やお節介をよくしていたり、甘いものをたくさん食べていたり、時々博麗神社に顔を出したりしているなど、仙人ながらも割りと独断で自由に行動している様子。右腕の秘密は霊夢は知っているらしいけれど、知られたくないのか語ってくれない。

 実はただの仙人様じゃないことをなんとなく感じているけど、どうなんだろう。

 

 生真面目でしっかり者。説教臭い。仙人だからか博識でもある。

 心優しいぶん、修行となると厳しいことも。

 

 

 

 

 

 

 

《謎の侵略者、機怪(きかい)

 

 幻想郷の侵略を目論む謎のロボット軍団。

 とにかく数が多く、なぜか霊夢や魔理沙、私の事を知っている。

 共通する特徴としては下記の通り。

 

・単眼。レールのような黒いバイザーの奥から覗いている。

・ずんぐりむっくりといった印象の、1〜3等身くらいの外見。

・全員拡張のためのジョイントが各部に備わっている。

 

 

 皆、やられ際に「創造主(マスター)」という言葉を遺す。

 誰の事なんだろ?

 

 

 

量産型機怪(レイダータイプ) 「インベーダー」

 

 普通の機怪で、所謂、雑魚タイプ。最も数が多く、大抵指揮官機かオーダーメイドタイプに5体〜多ければ数十体は付いてくる。

 緑色の兵と、指揮官仕様の赤い兵がある。

 武器はガトリング砲、ミサイルなど。武装を取り替えられるのが強みであるようだ。

 

 どういう訳か霊夢たちを知っている。

 

 

 

近接戦闘特化型機怪(メリーアタッカータイプ) 「ブレイド」

 

 オーダーメイドタイプの機怪で、身の丈以上の大剣を持った近接戦闘タイプ。剣は固く、重そうだが巨体のせいで軽々振り回す。また強固な騎士風のアーマーももつ。

 こいつも霊夢たちを知っているような言動をしている。

 

 半霊に攻撃されるも逆に圧倒したが、助けに来た幽々子さんのスペカを受けて一時退却。

 再び現れた白玉楼襲撃の際に、恐らくそっちが目的だろうと言われる、西行妖の封印を強制的に解除しようとした。

 

 彼の言動を受け、紫さんと霊夢は機怪を一層強く警戒するようになる。

 

 バニッシュの発言により、妖夢と同じく【剣術を扱う程度の能力】を持ち、更に【霊を斬る程度の能力】を持っているため、半霊にやたら優位に戦えた事が判明したが、なぜ妖夢の能力をこいつも持っているのかはわからない。

 

 

 

加速突撃型機怪(アクセルアタックタイプ)  「バニッシュ」

 

 紅魔館と霧の湖を襲った機怪を束ねるオーダーメイドタイプ。

 なんか自信家っぽい。

 

 咲夜さんと同じ、【時間を操る程度の能力】を持ち、あらゆる攻撃を回避するほか【時空を加速させる程度の能力】で異常なスピードにさらなる脅威を乗せている。

 主に両肘のブレードでの突撃を得意とし、加速により早められた斬撃は私や咲夜さん、お嬢様たちをも一度はダウンさせるほどのダメージを負わせてくる。

 最期は私と咲夜さんの【サウザンダガーウェーブ】で動けなくされたあと、スペカの応酬を食らって倒された。

 

 

 なぜ咲夜さんと同じ能力を扱えるのかは不明。

 

 

 

幻術錯乱殲滅型機怪(マジシャンタイプ)  「バーナー」

 

 両腕に巨大な火炎放射器、背中にブースター、そして特殊なカモフラージュシステムを有するオーダーメイドタイプの機怪。

 迷いの竹林破壊のために現れ、兎たちを片っ端から拐っていた。

 

 【波長を操る程度の能力】【炎を操る程度の能力】を持っているようで、自身や他の機怪を視認させぬまま攻撃可能。

 バーニアによってそれなりに機動性は高く、また炎は割と何でも焼き尽くす。

 幻術によってあの妹紅も破り、私達を苦しめたが、最後は私と鈴仙の覚悟が形になったメモリの力で倒された。

 

 

 

拠点殲滅攻略型機怪(フォートレスタイプ)  「アサルト」

 

 ミサイル、小型レーザー、その他様々な火器を全身にまとった超大型オーダーメイドタイプ。

 めちゃくちゃでかく、妖怪の山頂上付近に出現した際は周囲を影に落とすほど。

 

 基本的に浮遊しており、全身の武装によって辺り一面を一気に破壊する典型的な爆撃兵器。一般の雑魚機怪をある程度呼び出せる力を持っているようで、背部コンテナから発進・攻撃させる。

 機怪の体は成してるけれど、デカすぎてもはや浮遊要塞。その上強固なバリアに重ねられた弾幕位相反射バリアを持っており、これによって私達を苦しめた。

 にとりと霊夢によってバリアを破壊されたあと、私と早苗のメモリによって内部破壊され、撃滅された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《未来の幻想郷》

 

 私が遡る前の幻想郷にいた存在たち。

 

 詳細はまだ不明。

 

 

 

・楽園から堕ちた巫女

         博麗(はくれい) 霊夢(れいむ)

 

 突然現れたもうひとりの霊夢。通称、黒霊夢。

 紅かった服は昏く黒塗りになっていて、その目は突き刺すほどに赤い。また、こちらの霊夢を凌ぐ霊力を宿している。

 何故か霊夢と私、そして幻想郷の破壊を目論んでいるみたいで、執拗に狙ってきている。

 

 霊夢が言うには、その言動からは怒りと同時に悲しみも感じられるといい……?

 

 来是曰く、私が遡る前の幻想郷から同じように遡ってきた存在らしい。

 

 

 

・ウラ代わりの本心

         来是(らいせ)

 

 私の裏人格を名乗る存在。

 私や黒いといった、機怪異変にまつわる全てを知っている。

 

 その正体は遡る前の記憶と心を持った“過去の星羅(わたし)”そのもの。

 

 

 

・白銀の魔法使い

         霧雨(きりさめ) 魔理沙(まりさ)

 

 魔理沙が出会ったもうひとりの魔理沙。

 その服は白黒の比率が逆転していて、どこか悲しげな微笑を浮かべている。

 曰く、既に死んだ身らしいが……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 何度も言います。

 ネタバレ有るかも知れない星羅の主観メインの説明文です。
 そのため偏りや間違いがあります(たぶん)。

 いつか修正されるので暖かく見守ってやってくれ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

星羅の幻想郷地理図鑑

 ネタバレ注意!!!!




 旧・星羅の幻想郷図鑑が割と多くなってきたので分割しました。

 幻想郷の地理について星羅がまとめたものです。





 

そもそも幻想郷とは?

 

 ざっくりとした定義的には、紫さん曰く、「非常識、非現実、そして忘れ去られた存在が集まる楽園」。

 日本とは陸続きだが、常識と非常識を隔てる「博麗大結界」によって外の世界……もとい本来の日本からは認識できないらしい。

 人間、妖怪、神様、等々いろんな種族が共存している。

 

 かつては妖怪たちが多く住む場所で、人間社会が広がることで自分たち妖怪の居場所がなくなることを憂いた紫さんをはじめとした大妖怪たちが作った。人間の里にいる人々はその際に元々その地に赴いていた妖怪ハンターたちの名残り兼末裔だという。

 

 何らかの原因で、外の存在が大結界を越えて「幻想入り」することがあり、私はそういったケースの一つらしい。……が、どうやら私の場合人為的な幻想入りとも見られているので真偽は不明。

 

 

 

 

 

 以下、私が行ったことのある、幻想郷の各地についてのまとめ。結構、主観的なので要注意。

 

 

 

 

 

 

 

博麗神社(はくれいじんじゃ)

 

 霊夢が博麗の巫女として住んでいる、幻想郷の東端に位置する神社。

 

 立地的にも人里離れており、霊夢がやたらと妖怪たちの人気を集めがちなこともあって、人間からの信仰(というか人気)はほとんどといっていいほどに無い。

 現在は私の居候の地となっていて、神社の片隅には私の建てた小屋「なんでも屋・せーら」がある。

 

 

 

人間の里

 

 幻想郷の中心地である人間の街。通称、人里。

 といっても文化的には昔のまま、幻想郷らしい独自の発展をしている様子。甘味処や市場、定期的な催し物もある。

 

 なんでも屋として私が多くの頼まれごとを行う場所。

 人間のみならず、友好的な妖怪も数多く住んでいるみたい。

 

 慧音先生の寺子屋がある。

 

 近くには毘沙門天がどーのこーのっていうお寺があるらしい。

 

 

 

魔法の森

 

 里の外れにある、魔力瘴気漂う森。

 魔法使いにとっては魔力の元になるキノコの産地。そのため、魔法使いがよくいるようで、魔理沙の「霧雨魔法店」やアリスの家がある。

 

 入口付近には香霖さんの道具店、香霖堂もある。

 

 

 

霧の(みずうみ)

 

 人里外れにある、深い霧に包まれた湖。

 チルノを中心に、妖精たちが数多く存在し住処にしている。

 また、ほとりには紅魔館が建っている。

 

 プリズムリバー三姉妹という騒霊楽団がいるらしい。

 

 

 

紅魔館(こうまかん)

 

 吸血鬼、レミリアお嬢様が所有する、レンガ造りの真っ赤な洋館。主の生活リズムに合わせ、時計台の鐘は夜に鳴り響く。

 門前には美鈴さんがいる。たまに寝てるので誰が呼んだかザル警備。

 

 しばらく前、建物ごと幻想郷に幻想入りしたらしい。

 地下にはパチュリーさんの大図書館、そして妹様――フラン様の部屋がある。

 咲夜さんの能力で内部空間の拡張がされていて、ただでさえ豪邸な外見なのに中身はそれ以上に広大になっている。

 

 

 

冥界

 

 あの世に行く幽霊たちが、裁かれる前に屯する場所。

 春雪異変後、空に出入り口が開いたままになっている。また幽霊の数に応じて紫さんが拡張を繰り返しているという。

 また、幽霊を管理する幽々子さんのお屋敷、白玉楼が設置されている。

 

 

 

白玉楼(はくぎょくろう)

 

 幽々子さんが幽霊管理をする冥界に建つお屋敷。

 庭師兼剣術指南役に妖夢が共に住む。

 また妖夢と共に多くの幽霊たちが家事全般を行っているらしい。

 

 鮮やかに咲き誇る桜の名所だが、唯一、ある事情を抱えている妖怪桜・西行妖のみ満開にならない。

 

 

 

迷いの竹林

 

 てゐが所有している、ということになっている広大な竹林。

 緩やかに傾斜しているだけでなく、竹林の成長スピードも高く、目印になるものはほぼないため、名前の通り迷いやすく脱出しづらい。てゐや妹紅はここを熟知しているので迷わず行動できる。

 

 奥地には永遠亭が秘匿されていたが、永夜異変後は公開された。

 現在は妹紅が永遠亭までの道案内をしている。

 

 

 

永遠亭(えいえんてい)

 

 迷いの竹林の奥地に建つ、平安を思わせる和風屋敷。

 その風貌には何故か一切の経年劣化を感じさせない。

 

 輝夜さん、永琳さん、てゐ、そして鈴仙が主に住んでいる。妹紅はここには輝夜さんとの「殺し合い」に来る。

 

 永琳さんは月の都仕込みの薬師なので、幻想郷一の薬局兼医療機関となっている(いわば病院)。

 

 

 

妖怪の山

 

 天狗、河童、その他様々な妖怪たちが凄む山。主に幻想郷で「山」というと九割九分ここ。

 人里とは違う、妖怪の社会を築き上げているという。基本的には天狗がトップ。技術面では河童たちが支えている。

 

 山頂には早苗ちゃんたちのいる守矢神社があり、ここと人里近くの麓を結ぶロープウェイが運営されている。近くには地下間欠泉センターが設置されている。

 また、にとりの秘密基地兼機怪対策前線基地が設置され、日夜機怪に対抗するための研究と警戒が行われている。

 山の麓には「聖域の森」と呼ばれる場所があるという。

 

 

 

守矢神社(もりやじんじゃ)

 

 表向きは神奈子さん、その裏で諏訪子さんを祀る、外の世界からやってきた神社。

 外で失いかけていた信仰を立て直すため、妖怪の山頂上にまるごと移転&幻想入りしてきたらしい。

 周りには御柱とよばれるものが立ち並んでいる。

 

 風祝の早苗ちゃんが、ここで信仰を集めるため奮闘中。

 直接的にも間接的にも、神奈子さんが異変の原因を作ることが多いとかなんとか。

 

 

 

玄武の沢

 

 魔法の森近くにある、山と森を分ける滝の流れる沢。

 

 てっきり山だと思ってたら別の場所だった。

 たまたま来たときには、何故か妖怪の山の住人たちが多数いたけど。

 

 

 

夢の世界

 

 夢の支配者、ドレミーさんの空間。

 幻想郷の人々が夢見たものが実体化した世界で、内に秘めた夢=理想の自分自身が生活している。

 ドレミーさんの手によって管理されており、「スイート安眠枕」を使うことで会いに行けるとかなんとか。

 

 噂によると何度か異変の影響で大変なことになってきたらしい。

 

 

 

 




 たまにまだストーリーがそこまでいってないのに書いてあるかもね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

星羅のメモリ図鑑

 星羅が集めたメモリ一覧表です。



 やっぱり星羅の主観的内容。
 後々ストーリー進行によって修正されるかも。


 

 

 

 

 

 

 

 

《スペルメモリ》

 

 綴りは“Spell memory”。

 

 私、星羅の使用するスペルカードの結晶。

 名前の通りメモリカードを模した形をしていて、ライズバスターに装填することで読み取った弾幕やショットを放つ。

 

 どうやら、一枚ごとになにかしらの記憶?を司っているみたい。

 

 

 

________________

 

 

 

 

・SMN-001

 

 弾符 【プラズマチャージショット】

 

 

 雷属性単体攻撃スペルカード。

 電気エネルギーを圧縮した大型のチャージショットを放って、命中時に圧縮していたプラズマを解放することで追加ダメージを与える。

 

 単発だけど弾速に優れ、また高火力。

 とても便利な、私の得意技。

 

 どうやら私の【人格】と【心】を司っているみたい。

 

 

 

・SMN-002

 

 星剣 【バスターソード】

 

 

 光属性単体攻撃スペカ。

 バスターショットのエネルギーをビーム刃として圧縮、銃口から発振させる近距離攻撃技。

 直接切ったり、衝撃波(斬撃?)を放ったりできる。

 

 ぶっちゃけ、弾幕とは言えない。

 しかし相手の弾幕を切り捨てて無効化する「ショットイレイザー」機能を有するため、防御としても優秀。

 名前の割にはでかくない。

 

 

 

・SMN-003

 

 連弾 【スパイラルブラスト】

 

 

 バスターから螺旋状にチャージショットを速射するスペルメモリ。同時にどこからか同じチャージショットを連射する、やっと弾幕と呼べるような攻撃になっている。

 重なり合う螺旋がキレイと好評だとか。

 

 火力はその物量で補う。

 

 

 

・SMN-004

 

 彗星 【メテオストーム】

 

 

 流星群を呼び出して周囲を焼き払うスペルメモリ。

 一発ごとの火力とサイズは折り紙付き。

 落下地点は選べないため主に雑魚機怪の処理に向いている。

 

 どこから降ってくるのか、何の隕石なのかはわからない。

 

 

 

・SMN-005

 

 恒星 【バーニングナックル】

 

 

 火属性攻撃スペカ。

 排熱機構を活かし、炎をまとわせたバスターで直接相手を殴る近接攻撃。

 接触面を急速に溶かして破壊するため機怪にとっては効果抜群。幻想郷のみんなにとっては色々とやばい。(あくまで弾幕ごっこだから大丈夫だけどさ)

 このとき浮遊できる他オートで敵に突っ込める。突撃時に火炎弾をばらまけるので逃げ場を無くすこともできる。

 

 バスターソードが剣で切り裂くのに対して、こっちは肉弾戦。

 

 【怒】の感情を司っている。記録された内容も重い。

 

 

 

・SMN-006

 

 星盾 【バスタードアイギス】

 

 

 防御特化のバリア。

 バスターの銃口から展開し、左右二人ずつ並んでもカバー出来るだけの巨大さを誇り、一部は吸収して弾幕と成す。

 更に射出することで敵を大きく吹き飛ばす巨大な衝撃波となる。

 

 ただバスターの向きに左右されまくるので扱いには一苦労。

 拡大することで防御範囲が拡張されるけれど、その分腕にかかる負担は凄まじくなる。

 

 

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

《ファンタズムメモリ》

 

 綴りは“Phantasm memory”。

 

 名付け親は射命丸さん。

 私と誰か一人との間に築いた絆と記憶が創った結晶。

 形はスペルメモリと同じだけど、ラメが入っていて、ちょっとだけメタリックカラー。

 バスターに装填することで、記憶共有者のスペカを模した必殺技を放つ。

 

 何気にバスターが既に《Phantasmmemory confirmed》って言ってた。

 

 

 

・PMN-589340

 

 断命剣・改 【瞑想永弾斬】

 

 

 妖夢の【大切な誰かを守る刃】の記憶。

 

 森羅万象あらゆるものを両断する一撃を繰り出す。

 救いたいものを斬る場合、有害なもののみを切り捨てて、対象に傷を付けない。

 おかげで幽々子さん救出時に大いに活躍。

 

 また、起動中は意識を集中させることにより、心眼のように相手の居場所を直感的に把握できる。

 

 

 

・PMN-168398

 

 幻符・改 【サウザンダガーウェーブ】

 

 

 咲夜さんの【主に仕えし気高き心】の記憶。

 

 発動の瞬間、目標の時空を歪めて動けなくする。

 その後召喚した千本に及ぶナイフにチャージエネルギーをまとわせ、咲夜さんからもらったナイフをバスターから発射する。

 そして発射したナイフを中心に千本のナイフで敵を撃つ。

 

 

 

・PMN-051051

 

 幻爆・改 【近眼月華花火(マインドフルムーンマイン)

 

 

 鈴仙の【覚悟を決めた曇り無き瞳】の記憶。

 

 発動時一定範囲内の敵を狂気に落とし、現実世界の認識をほぼ不可能にしてから、幻覚による敵への360度全方位集中砲火を放つ。もちろん幻覚なので当たり判定は皆無。

 本命は近眼花火であり、それの火力も数倍に増している。

 

 

 

・PMN-485018

 

 旋風・改 【紅葉旋風砲】

 

 

 射命丸さんの【真実を追い求める神速の風】の記憶。

 

 竜巻に乗せて高密度の弾幕を発射する。

 竜巻を上手く受ければカタパルトのように加速出来る他、敵の姿勢を崩したり弾き飛ばしたり出来る。

 また、持っているだけで飛行能力を授けてくれる。

 

 

 

・PMN-578370

 

 奇術・改 【グレイソーマバスタージ】

 

 

 早苗の【今に囚われない無限の奇跡】の記憶。

 

 願ったことを現実にする。

 敵の中から弾幕を放って防御を貫通したり、瞬間移動で攻撃をかわしたり、グレイソーマタージを確実に当てたりなど、効果は様々。

 限度はあるようで、あくまで「現実的に起こせる範囲内で確率が低いもの」「弊害を無視して起こせる事象」に限るようだ。

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

《ファンタズムメモリ・ダッシュナンバー》

 

 メモリナンバーに「'」がついているファンタズムメモリ。

 通称、ダッシュメモリ

 

 いつの間にかできていることが多い、旅の副産物のような存在。性質上、その気になれば無限に作れそう。

 

 

 

・PMN-561514'

 

 抑制・改 【エゴイスティックブラスト】

 

 こいしちゃんとの邂逅後、いつの間にかできていたダッシュメモリ。

 現在未使用。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一章 〜星羅とメモリと幻想郷〜
000. プロローグ


 投稿初作品です。蒼いなんでも屋といいます。
 初めてなのでとはいいませんが、まだまだ勉強中故に拙い描写 があるかと思いますが、
原作の面白さをできるだけ伝えられたら、と思います。


 まずは最後まで読んで頂けると嬉しいです。








 時系列?
 気にしなくていいです。

 最新作はまだ、という程度で。






 古の時代━━

 まだ妖怪や神の存在が確立され、人々がそれを信じていた時代。

 

 日本のとある辺境の地。

 そこは多くの妖怪が住み着き、それ故人間の寄り付かない場所であった。一方ではその妖怪達を退治する者もまた住み着いた。

 

 何時頃からか、人はその地を“幻想郷(げんそうきょう)”と呼ぶようになった。

 

 やがて時は流れ、500年前。

 人間の勢力拡大に伴い、幻想郷で既にできていた社会バランスが崩される事を憂いた、幻想郷設立に深く関わっている妖怪の賢者「八雲 紫(やくも ゆかり)」は、幻想郷全体を覆うように【幻と実体の境界】を張り、他の妖怪の勢力を取り込み、現実世界から存在を「幻の場所」とする事でそのバランスを保った。

 

 そしてさらに時は流れて、日本が開国し維新が始まった頃になると、非科学的なものは「迷信」として、人々の間から次第に忘れられていった。必然的に幻想郷の事も「幻想」として忘れ去られていき、一部の人間の末裔と、忘れられた妖怪達は、幻想郷に展開された「博麗大結界」の中で生きていく事になる。

 

 そうして幻想郷は都市伝説として細々と語られ、外としても幻想郷としても『存在そのものを拒絶され、忘れ去られた全てのものが辿り着く場所』となっていく。

 

 博麗大結界は幻想郷を外の世界から隔離するため、当初は一部の妖怪から反対があったものの、現在は外とはまた違った文化を築き上げ、人間、妖怪手を取り合って暮らしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幻想郷の東の端にある、博麗神社。

 常識の結界「博麗大結界」を管理する、博麗の巫女が住む場所で、外の世界と幻想郷の境目にあるため、どちらとも取れない立地となっている。

 木々が作った囲いは外との境界とも言われ、たまに外の世界のものが流れ着く事がある。

 そもそもとして妖怪のいるところを通過しないと辿り着けないので、神社なのに参拝客と信仰は皆無に近い。

 また、幻想郷での事件「異変」などで博麗の巫女を気に入った妖怪が(たむろ)する場所となっており、これも信仰の薄い事に拍車をかけている。

 

 

 

 そして、妖怪達にやたらと気に入られているその巫女というのが、

 

 

「……暇」

 

 

 この少女、博麗 霊夢(はくれい れいむ)である。

現在の博麗の巫女にして、現在の幻想郷で最強と言われる存在。

 博麗大結界を管理する少女だ。

 

 といっても基本的に博麗大結界は突然破損したりする事は無く、あっても彼女にはわかるし、そんな事態になれば幻想郷の賢者である紫が黙っていないはずなのである。

 前述の通り参拝客もいないので、境内は(人口密度的に)寂しい。

 そのため普段の彼女は文字通りの暇人なのである。

 

 異変となれば、天性の勘と圧倒的な実力をもって元凶を懲らしめる活躍を見せてくれるが、普段から彼女はアクティブな訳ではなく、むしろ面倒臭がりであるため、自分からあまり信仰を稼ごうとかなにか策を講じようとか考える事はしない。

 

 何故ならその実力は、自分が生まれもった「才能」なのだから。

 

 幻想郷住民は時々、何らかの「能力」を宿して生まれる。

 特に妖怪は多く、その妖怪に因んだものが能力として現れる。

 

 彼女の能力は、【空を飛ぶ程度の能力】

 

 一見なんの変哲もなさそうな能力だが、「あらゆる事象から解放され縛られない」という、俗に言うチートじみた能力なのだ。

 霊夢はこの能力と博麗の巫女故の封印の力により、数多くの異変を解決してきたのである。

 

 霊夢の巫女服は少し変わっている。

袖が独立し、服とスカートに巫女袖がオプション、といった格好なのだ。しかも肩は丸出しである。

 また、霊夢は頭に大きなリボンを、もみあげには同じく紅白のカフスのようなものをそれぞれつけている。

 というかこれがないと「お前誰だ?」と皆が揃って言う(霊夢が思うに)。それくらいの印象を彼女のアクセサリーは発しているのだ。

 

 

 

 

「……ホント、最近は何もないわね」

 

 霊夢はそう呟く。

 どちらかといえば、「何も起きない」のだが。

 

 霊夢はひとつ欠伸をすると、ぼんやり空を眺めた。

 

「……」

 

 因みに結界は見えない。

 外の世界ではキリのない大きな森となっていて、どこまで進んでも幻想郷には入れないが、引き返すと一瞬で帰れる仕組みらしい。最も霊夢は外の世界など行った事が無かったし、実際にそこを通ったという者に会った事もない。

 あくまでも聞いたところによれば、である。

 

 

 ━━この空が幻想、嘘なのだとしたら、私はどうするだろう。

 

 唐突にそんな事を思い浮かべてしまった。

 

「……何言ってるのかしら……」

 

 考えるだけ不吉だし、気にしないでおこう。

 霊夢はそう思い直した。

 

 

 

 

 視線を空に戻すと、視界の隅の方になにやら飛んでくるなにかが写った。

 

 白と黒。

 霊夢は察した。

 

 

「……また来たのね、魔理沙」

 

 霊夢はやれやれと言いたげに外に出た。

 

 

 

 

 

「よっと!待たせたな霊夢、遊びに来たぜ!」

 

「誰も待ってないわよ、魔理沙」

 

 

 

 跨いでいた箒からひらりと飛び降り、境内の参道にスタッと着地。

 弾みでズレた魔女の帽子を親指でクイっと上げると、彼女はニヤリと笑った顔で霊夢を見た。

 

 彼女は霧雨 魔理沙(きりさめ まりさ)

 普通の魔法使いを自称する少女で、霊夢とは幼い頃からの腐れ縁である。

 自称するだけあり、外見は正に「魔法使い」。

 黒メインのワンピースに白いフリルや肩が映える服装で、ウェーブのかかった金髪、左から下げた三編みと、霊夢とはまた違った見た目をしている。彼女の箒は魔法をかけたら勝手に成長し始めたそうで、今は一枚だが小さな葉っぱを生やしている。

 また、魔理沙は語尾に「〜だぜ」とつける事が多い。

 

 霊夢とは別行動で異変解決にいそしむ。

 彼女もまた霊夢と同じくらい多くの異変を解決して来た『異変解決者』のひとりである。

 そのため魔理沙はこっそり霊夢の事を、親友であり、ライバル視もしている。

 才能で元々強い霊夢だが、魔理沙は地道に努力して実力をつけていて、そこもまたふたりの違いなのだ。

 

 彼女の能力は【魔法を使う程度の能力】

 正に彼女にピッタリの能力である。

 

 

 

 そんな魔理沙はよくこうして霊夢に会いに来る。

 

 

 

「よく飽きもしないで毎日来れるわね、アンタ」

 

 霊夢がため息混じりにぼやく。

 それに対して、魔理沙は左手で箒を持つと、言った。

 

「どうせ暇なんだろ、だから遊びに来たぜ」

「……確かに、暇だけどさ。何すんの」

「決まってんだろ?」

 

 そうして、魔理沙は頭の帽子に手を突っ込み、中から小さな八角柱状の物を取り出した。

 

「昨日、メンテナンスしたばっかりのミニ八卦炉だぜ」

 

 ミニ八卦炉。

 魔理沙のマジックアイテムの中でも命並みに大切な物で、外装はヒヒイロカネ製、さらに内部動力炉により攻撃やカイロ代わり、果てはお湯沸かしもこなす、見た目に似合わずかなり万能な装備だ。

 ツヤッツヤなそれを見せびらかして、魔理沙は続けた。

 

「弾幕勝負やろうぜ。負けた方が買った方の分も団子をおごるって事で」

「いや勝負に賭けるものそれなの……?」

 

そう言った霊夢だが、すぐに応じた。

 

「ま、いいわ。腕もなまってたところだし、肩慣らしさせなさいよ。簡単に負けないでね?」

「臨むところ!」

 

 

 スペルカードルール(決闘)

 弾幕ごっことも呼ばれるそれは「弾幕」という、文字通りの弾丸の嵐を扱った遊びである。とは言っても弾幕には殺傷するほどまでの攻撃力はない。それもそのはず、あくまでも遊びの一環なのでそこまで火力を必要としないのだ。

 そんな弾幕ごっこだが、ちょっとした賭け事からそこそこ重要なもの、更には異変での決闘まで、幻想郷の勝負は殆どこれで行うのが主流。

 スペルカードという、美しさを競う特殊な必殺技を出し合い、全部のカードを攻略する、もしくは降参される事で勝ち。

 これにより人間と妖怪の関係も形骸化したとはいえ擬似的に再現可能な上、バランスが崩れるのもしっかり防げるのだ。

 

 実は、それを考案したのは、ある事件を切欠に妖怪達に頼まれた霊夢だったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、行くぜ!」

 

「かかって来なさい!」

 

 

 開幕直後、魔理沙は得意の魔法弾を放って霊夢に浴びせかける。

 まずは様子見のショットで牽制していく。弾幕ごっこの定番だ。

 当然ながら難なくそれを回避し、隙間を縫って霊夢も反撃を放つ。

 

 

 発射したのは『ホーミングアミュレット』

 その名の通りのホーミング攻撃である。

 

「追尾弾なんて相変わらずズルいぜ!」

「ごちゃごちゃ言わない!」

 

愚痴をこぼす魔理沙、追い打ちをかける霊夢。

 

 回避が面倒になってきた魔理沙は、一気に攻勢に移った。

 メンテ完璧というミニ八卦炉を突き出し、叫ぶ。

 

 

「お前のホーミング弾まとめて、ふっ飛ばしてやるぜ!

 

 

恋符!! 【マシンガンスパーク】!!!」

 

 

 直後、小型圧縮された高エネルギー光弾が、その八卦炉の砲口から速射された。

 魔理沙のスペルカードのひとつだ。

 

 正にマシンガンの如き勢いを以て、霊夢のショットを相殺、さらにそのまま弾幕掃射した。

 

 勿論霊夢も負けていない。

 

 

「こっちも行くわよ! 無鏡、【二重大結界】!!」

 

 取り出した御札から、カッと光が放たれ、魔理沙のマシンガンスパークを防ぐ鉄壁の結界を展開した。

 

 結界を維持したまま、霊夢は魔理沙へと突っ込んでいく。

 

 

「おおっ、そっちがその気ならこっちだって手はあるぜ!!」

 

 そう言うと、魔理沙は再びミニ八卦炉を構え直し、砲口にさらなるエネルギーを充填していく。

 

 

 

 

「……行くぜ?

 

 

恋符! 【マスタースパーク】!!!

 

どりぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

 

 

 虹色の光線が視界を覆い尽くす。

 全てを貫通し打ち倒す、魔理沙の必殺の光が、霊夢に襲いかかった。

 

 

 

「……、流石にまずいか」

 

 呟いた霊夢は、すぐさま、新たなスペルカードを発動する。

 光輝く陰陽玉を周囲に展開、大幣(おおぬさ)を振って叫んだ。

 

 

 

「霊符!! 【夢想封印】!!

 

たぁぁぁ!!!」

 

 

 いくつもの巨大な光が放たれ、飛んでゆく。

 誘導を受ける輝く弾幕が魔理沙に降り注ぐ。

 

 

 一筋の光線と無数の光弾が、お互い目指して突き進む。

 

 

 

「うおおおお!!!」

 

 

「はぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 そして。

 

 

 ふたりの必殺技(スペルカード)がぶつかり合い、周囲に眩い閃光が爆ぜた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー負けた負けたー! くやし〜……」

「勝負ついてないじゃない……何が悔しいのよ」

 

 

 神社の草地に寝そべる、霊夢と魔理沙。

 

 結局あの爆発で視界をお互いに奪われてしまい、次の瞬間突っ込んでいたままだった霊夢が魔理沙に激突。

 あまりに不意打ちだったので、そのままふたりして落下してしまったのである。

 

 魔理沙は納得いかない様だが、霊夢はもういいやとでも言いたげに力を抜いた。

 

 

「……ふー、久しぶりにいい汗をかいた気がするわ」

 

言われて、やっと魔理沙も頷く。

 

「だな。最近平和過ぎてこういうの減ったからなぁ」

「ホントよね。まぁ本来それが良いんだけどさ」

 

 

 ふたりは顔を見合わせると、クスッと笑った。

 

 

「じゃあお団子はふたりで割り勘ね」

「へいへい、仕方ないぜ」

 

 

 

 

 そう言いふたりは立ち上がる。

 

 パンパンと服の汚れを払って、人間の里に向かって団子を食べようとした、

 

 

 

 

その時だった。

 

 

 

 

 

「……霊夢、あれ……なんだ?」

 

 

 魔理沙が神社の奥の方、森の中を指さして言った。

 言われて振り向く。

 

「? ……何も見えないけど?」

「いや確かに何か光った! はず!」

「確証無いのね」

「いいから行くぞ! なんか光ったんだぜ! 多分、こっちだ」

 

 魔理沙は森の中にずんずんと進んでいく。

 

 一瞬放っておこうとした霊夢だったが、

 

 

 

 

 

(……なんか、イヤな予感がする。なんだろう、この感じ……?)

 

 

 

 

 ふと感じた寒気に、勘がはたらいた。

 

 

「……わかったわよ、私も行く」

 

霊夢は彼女の後ろをついて行く事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……多分この辺りだったと思うんだけどさ」

「本当になんかあるの?」

 

 

 魔理沙が言うには、何かが反射したような光が森から見えたのだという。

 だいたいの目星は付けていたものの正直見当たらない。

 草木を掻き分け、ふたりはもう少し探してみる事にした。

 

「おかしいな……」

「……怪しくなってきたんだけど」

「見間違いか?いや、そんなハズはないんだが……」

 

などとブツブツ言いながら探していると、

 

 

 

 

「……!」

 

 

 ふと、霊夢の手が止まった。

 

 

 

「ん?どうした霊夢?」

 

 

 魔理沙が駆け寄ると、彼女も言葉を失った。

 

 

「……な、なんだよ……これ……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこには、ぼろぼろのコートを着た、青髪の少女。

 

 ふたりが今まで見た事がない容姿の少女がひとり、

 

その場に横たわっていた━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 そして始まる幻創の物語。

 

 

 

 一度は降ろされた(・・・・・・・・)幕が、再び上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Continue to the next phantasm……

 




 原作とも二次創作ゲームとも違った弾幕の扱い方を模索中。
 こういうところでしか見れない展開を、弾幕でつくれないかな……。
 因みに話の大筋は既に決まってます(当たり前)


 次回、遂に主人公・星羅が目覚めます。
 
 彼女との出合いはふたりに何をもたらすのか?
 乞うご期待です。



訂正
 1マス空け、一部補填をしました


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

001. 流れ星の目覚め

 やっとスタート第一章。

 オリジナル主人公、星羅の登場です。
 彼女との出会いがもたらすものとは?







 

 

 

 

 

……

 

 

…………

 

 

………………?

 

 

 

 

 

 あれ、わた……し……?

 

 

 

 何をやっていたんだっけ……

 

 

 

 

 

 

「……ぅ、ん……?」

 

 

 

 

 

 

 

「おっ?起きたか?」

 

 

 

 少女が目を覚ますと、そこには誰かの顔が眼前に。

 

 

 

「うわぁぁ!?!?」

 

「うおっ、悪い悪い近すぎたな」

 

 

 

 

 

 神社の外で倒れていた少女を、取り敢えず連れて行くことにした霊夢と魔理沙。

 目立った傷は見受けられず、単純に気絶していただけのようだったので、なんとか境内に運び込んで霊夢の部屋のひとつで様子を見ていたのだった。

 

 

 で、看病? していたのは魔理沙。

 霊夢は一応のためにお茶を淹れていた。

 

 

 

 ゆっくりと起き上がる彼女を見て、

 

「……なぁ、大丈夫か? ぶっ倒れていたみたいだけど……何があったんだ?」

 

 魔理沙が尋ねてみる。

 なにもしてこない辺り、敵意は一切無さそうだった。

 

 

 すると。

 

 

「……倒れていた? そうなの?」

 

「……え? 知らないのか?」

「そう……なの? ていうか」

 

困惑を深めるばかりの彼女に、首を傾げた魔理沙。

 

 

 だが、続けて発した言葉は、魔理沙の考えの斜め上に行く事になる。

 

 

 

「……ここ、どこなの?」

 

 

 

「……な!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何も覚えていない?」

「そうみたいだ」

「……」

 

 

 おぼんに三人分のお茶を乗せ、霊夢がやってくると、魔理沙は彼女の事を軽く話した。

 

 聞くところによれば、彼女は一切の記憶を失っているらしい。

 強いて言うならば、名前だけは覚えていた。

 そもそもここが何なのか、なんで自分はここにいるのか、など、根本的な事まで分からないというのだ。

 

 

「それで、アンタ名前は?」

「おい霊夢。こういう時は先に自分から名乗るモンだぜ」

「……わかったわよ」

 

 ひとつ咳払いをして、ふたりは言った。

 

 

 

 

「私は、博麗 霊夢。ここ、博麗神社の巫女よ。まぁ霊夢って呼んでくれていいわ」

 

「私は霧雨 魔理沙! 幻想郷の普通の魔法使いさんだ。魔理沙って呼んでくれよ!」

 

 

 

 

 

「……わぁ」

 

 

 

 まるで憧れの何かを見るような目で、ふたりの自己紹介を聞く少女。

 

「霊夢と、魔理沙……か。うん。覚えた」

 

「……そんな目で見ないでよ……なんか恥ずかしい」

「照れるなよ霊夢ー、カワイイ」

「うっさい!」

 

 

 やり取りを見て少女は思った。

 間違いなく、このふたりは信用できる。

 いや、しないとここから先がなにも見えない。

 

 

 だって。

 出会いを大切にしろと、自分が告げているから。

 

 

 

 

 

「それで、アンタは?」

「そうだった、名前は覚えてるんだろ?」

 

 

 ふたりが視線を向ける。

 

 少女は少し戸惑いながら、こう答えた。

 

 

 

 

「……私、幻島 星羅(げんとう せいら)。その……星羅って、呼んでくれるかな」

 

 

 

 はにかむ彼女に、ふたりは笑って応じた。

 

 

「勿論、いいわよ。よろしくね星羅!」

 

「星羅か。個性的でいい名前じゃねーか! よろしくだぜ!」

 

 

 快く答えてくれたふたりに少し驚いたようだったが、星羅はすぐににっこりと笑顔を浮かべた。

 

 

 

「うん! よろしくね霊夢、魔理沙!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん、なるほど。幻想郷、かぁ」

「本当になんにも知らないのか……」

 

 

 大雑把に霊夢と魔理沙は幻想郷の諸々を話した。

 

 どういうところか、とか。

 弾幕ごっことは何なのか、とか。

 博麗神社は寂しい、とか(魔理沙が勝手に言いふらしたので霊夢に怒られた)。

 

 

「見た感じ、あなたはスペカを持っていないのね」

「弾幕も使えなさそうだぜ」

 

 という会話をして、霊夢が呟いた。

 

 

 

「見た感じ……で思い出したわ。そういえば星羅、アンタの格好……何があったのっていうくらいぼろぼろね」

 

 

 

 

 言われて星羅は自分の格好に目を通した。

 

 

 コートは薄いグレー。

 何故か袖の肘から先が破れたように欠損しており、そこを含んだあちこちの破れ目や切れ目は焦げ跡のように周りが黒ずんでいる。

 

 服は何かの制服? に近しい、Yシャツにスカートだった。

 

 そして目に写ったのは、左手の腕時計。

 

 

 

 デジタル。

 針ではなく数字が時を刻むデジタル腕時計だった。

 

 左側には3つのボタンがあり、何かの英単語が横に並んでいる。

 

 

 気にはなったが、取り敢えずスルーした。

 

 

 

 

 

 

「なんなんだろこの格好。覚えがないや」

「……だよなぁ」

 

 魔理沙が腕を組んで頷く。

 なにせ名前以外の情報がないのだ。手掛かりがないのでは考えようがない。

 

 

 

 すると、

 

 

 

「……ねぇ、何だろこれ」

 

 

 と、コートのポケットをあさった星羅が言った。

 

 

「?」

「なんだ?」

 

 ふたりが顔を寄せる。

 

 何故か少し顔を赤らめて、彼女は続けた。

 

「えーと……これ……」

 

 

 

 

 

 

 取り出したのは、一枚の何かのメモリ。

 

 カセットにもチップにも近い、端子と何かのイラストがついたものだった。

 

 

 正方形に近いカタチで、端子が三分の一ほど、イラストが残りを、その面の中を占めていた。

 

 イラストには、なにやら電気を纏った巨大な光弾が描かれているようだ。

 

 

 

 

 

 

「……なんだぁ? 見たこともないぜ」

「何かの……メモリっぽいわね? 確か河童のところで何度か見た事があるわ」

 

 

 魔理沙も霊夢も、幻想郷では見かけないものだけに、思わず疑問符を浮かべた。

 

 

 

 

 それもそのはず。

 幻想郷では「失われた技術」「忘れ去られた存在」「非科学的事象」しか、普通には入ってこれない。

 

 結界も完璧ではなく、時々一部の場所に外のアイテムが流れ着く事は勿論ある。

 だがこういった、新品かつ未知のメモリカードが、誰かと一緒にやってくる事は今まで無かったのだ。

 

 

 

 

「……お前のメモリ、だろ?」

 

 

 沈黙を破ったのは魔理沙だった。

 

「お前のポケットの中にあったんなら、きっとお前の物だ。ちゃんと持っとけ」

 

 

(……意味もなく幻想入りするなんて、基本的になさそうだからな……)

 

 魔理沙は心の中でそう思った。

 

 

 

 星羅は「わかった」と言ってメモリをコートにしまった。

 

 

 

 それを見た霊夢は尋ねる。

 

 

 

「それで……どうするの?」

「え?」

「アンタ、家とかないじゃない」

「あー……」

 

 

 

 霊夢は少し考え、こう続けた。

 

 

「本当は、幻想入りした人は早く返さなきゃいけないのよ。例外もあるけど……決まり事なの。でも、そんな様子じゃ返したところで可哀想過ぎるわ。だから……

 

記憶が戻るまでの間、ここにいる?」

 

 

 

 珍しい態度に、魔理沙が驚く。

 

 

「いいのか霊夢? 珍しいじゃねえか」

「別にいても邪魔にならないし、放っておいても辛いだろうし。そんな事なら私が面倒見てあげるわ。どうせアンタの家は散らかってるでしょ?」

「う……そう、だな。……星羅はそれでいいんだな?」

 

 

 突然の誘いに、迷った素振りを見せる星羅。

 

 だが、すぐに笑った。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ。遠慮なく、よろしくおねがいさせてもらいます」

 

 

 

「よろしくね。困ったら私に聞いてくれれば答えてあげる」

 

 

 

「私もこまめに来るからな! よろしくだぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時、誰が想像しただろう。

 

 

 

 

 彼女が、これから迫りくる危機に立ち向かう為のカギになろうなど。

 

 

 




 主人公は作者の分身。
 というか実体験を元にストーリーに合わせたキャラになっています。
 星羅をよろしくね。


訂正

 1マス空けをしました


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

002. からくりの幻創銃

 今回は香霖こと、霖之助が初登場。

 ダンマクカグラにて香霖の中の人があの方でびっくりしています。
 ご存知でない方は調べてみるのもいいかも。





 因みに幻想郷の地理については、ウィキペディアさんや東方の本編描写などからまとめています。





「わぁ……!」

 

「綺麗でしょ?」

 

「これが幻想郷だぜ!」

 

 

 

 

 一面に広がる、大いなる自然。

 

 湖、山、里にお寺。

 

 心地よい風と空気が、肌を伝って、気分を明るく健やかなものにさせる。

 

 

 美しき幻想郷の風景が、星羅の目に焼き付いた。

 

 

 

 

 

 

 

_______________

 

 

 遡ること、数十分前。

 

 

 

 

「香霖堂?」

 

 

 星羅はお茶を飲みながら言った。

 

 

 取り敢えず一段落し落ち着く事ができた星羅は、霊夢らにこれからについて話していた。

 

 まずはここに行くべきだ、と魔理沙が挙げた場所。

 それが香霖堂だという。

 

 

「簡単に言えば、色々な珍品を並べてるお店……のようなものよ」

「外のアイテムを拾ってきて並べてる事もあるのさ」

 

 なるほど、と星羅は頷く。

 

「つまりそこに行けば、何か手掛かりがあるかも? て事だね」

「そういう事だぜ」

 

 サムズアップを見せる魔理沙。

 

「まぁ気休め程度にしかならないかも知れないけど……行かないよりはマシさ」

「行くかどうかはアンタ次第だけど……どうする?」

 

 霊夢に聞かれて、星羅は快く答えた。

 

 

「勿論! 行ってみるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「飛べないの!?!?」」

 

「寧ろなんで飛べるのか聞きたい」

 

 

 

 

 

 普通に行くと獣道をゆく事になるため、空を飛んで直接香霖堂まで向かう事になった一行。

 

 ……だったのだが、星羅は飛び方を知らなかった。

 

 

「なんか使えないの? 霊力とか、魔力とかさ」

「なんも無いのか?」

 

 慌てて色々問い出すふたりだが、星羅は首を振った。

 

「ある訳無いじゃん」

 

「だよなぁー……」

「そうよね〜……」

 

 

 うーん、と唸った魔理沙。わざわざ面倒な道をゆくのは気が乗らないし、そもそも非戦闘員な星羅を連れていけるかも怪しい。

 別に守れるだけの実力が無い訳では全く無いのだが、確証もいまいち持てなかった。

 

 と、ふと星羅はそんな彼女の箒に目をやった。

 

 

「ん?」

 

 視線に気付いて魔理沙が疑問符を浮かべると、星羅は言った。

 

 

 

 

「ねぇ! だったら乗せていってよ!」

 

 

 

 ちょっと呆気にとられたふたりは顔を見合わせ、

 

 

 

 

「「……その手があったか!!」」

 

 

 

と、ガッテン顔で星羅を見た。

 

 

「えっへん」

 

 

 星羅は何故かドヤ顔だった。

 

 自分のせいでこんな話になっているのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ___という訳で、冒頭に戻る。

 星羅は魔理沙の後ろで箒に跨がり、幻想郷の美しい景色を満喫していたのである。

 

 

「ねえ空を飛ぶってどーやるの?」

「うーん…………わりぃ、……頑張れ、としか言えないぜ」

「うぇ? そーなの?」

「私は魔法で、アイツは元からできるからな」

「別に最初から飛べた訳じゃないわよ。ある程度練習させられたわ」

「確かお前、亀のじーさんに乗ってなかったか?」

「うっさいわね! もう昔の話よ!」

「へぇ……」

 

 

 

 

 __自分もいつか、飛べるようになるのかな。

 

 ふたりみたいに、自由に……。

 

 

 

 

 そんな事を思い浮かべた星羅であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幻想郷ツアーはまた今度やってあげるという事で、星羅はふたりに連れられてそのまま香霖堂に向かった。

 

 

 香霖堂は魔法の森の入口付近に建つ、道具屋の様な店である。

 店主が幻想郷各地で時々拾ってくる、外から流れ着いた珍品やリサイクル品、果ては心底何に使うのかよく分からないもの、香霖のコレクションでそもそも売る気が無いものまで並んでいる。

 他の場所とは比較的現代っぽい(外の技術っぽい)アイテムが多く、外の世界の何かを参考にする際は霊夢達はよくここにやってくるのだ。

 

 

 最も、その店主__

 

 

 

「いらっしゃい。……って、なんだ魔理沙か」

 

「なんだってなんだよ!」

 

 

__森近 霖之助(もりちか りんのすけ)は、霊夢と魔理沙の昔からの知り合いで、特に何もなくても勝手にふたりがやって来る事が多いのである。

 

 髪は銀髪、背はそこそこ大きく、青色の着物を着ている。幻想郷では珍しく、眼鏡をかけた男でもある。

 

 霖之助__通称、香霖は、真っ先に入ってきた魔理沙に即悪態をつくと、続いて入ってきたふたりに目をやった。

 

「霊夢もいらっしゃい。君も来たのか」

「まぁ色々あって」

「それで、そこの子は?」

 

「あ、幻島 星羅です。幻想入りした身でして……色々あってふたりにお世話になってます。これからよろしくおねがいします」

 

 言われてすんなり応答する星羅。

 しっかり礼までしてきたものだから三人はちょっと驚いた。

 

「あ、あぁ。よろしくね星羅。僕は森近 霖之助。ここの店主さ」

「星羅礼儀正しいな」

「まあね〜」

 

 星羅はえへ、と笑って見せる。

 

 

「……それで、何があったんだい?」

 

 香霖が話題を振ったので、

 

「まぁ、面倒くさい事情があってだな……」

「順を追って説明するわ」

 

霊夢、魔理沙は大まかに伝える事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女説明中…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど……記憶喪失か。これは確かに面倒な事になったな」

 

 香霖は眼鏡を直す仕草をしながら、ふむ、と星羅を見た。

 

 幻想郷の住人でそういう者は滅多に見かけない。

 

 そもそも幻想郷自体忘れられたものが集まる場所。自分から記憶を無くさない限り、つまり人為的以外には失う事は難しい。

 単に記憶喪失の人物を見た事がないってだけかも知れないが。

 彼女がそこらの危険な場所ではなく、博麗神社のすぐ近くに倒れていて良かった。記憶が何ひとつ無い状態でそんな風に放り出されたら危なすぎる。

 

 

「という訳で、霖之助さん、なんか関係ありそうなもの持ってないの?」

「そんな事言われてもなぁ……。まぁ、探してはみるよ。今から探していたら日が暮れるし、時間をくれ」

「わかったわ。何かあったら教えて」

「頼んだぜ香霖」

「おねがいします」

「任せておいてくれ」

 

 全会一致で、決まった。

 やれやれ、これから忙しくなりそうだ、と香霖は心の中でこっそり思った。

 

 

 

 

 

「……ん」

 

 

 

 ふと、香霖は視線を星羅の腕に向けた。

 

 

「……ねぇ、星羅ちゃん」

「はい?」

 

 視線に気付いた霊夢が、腕をとった。

 

「香霖?もしかしてこれ?」

「あぁ」

「……腕時計ですが?」

 

 香霖の方に向けてかざしてみせると、香霖はそれを少し見つめ、

 

 

 

 

「……これは、ただの時計じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

…………これからの脅威に対抗するための、

 

 

 

 

銃だ」

 

 

 

 

 

 

と、衝撃的な事を言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

「なに!?」

 

 霊夢、魔理沙が驚きの表情を浮かべた。

 

 

 そして何より、

 

 

 

 

「……じ、銃……!?」

 

 

持っている本人、星羅が最も驚いていた。

 

 

 

 

 

 

「星羅、君は能力ってわかるかい?」

「え、才能とか実力とか、そういう意味……ですか?」

「うーん、合ってるけど、少し違うかな」

 

 お茶を淹れてきた香霖は、三人にそれをそれぞれ渡しながら、星羅に尋ねていた。

 いまいち質問の意味を掴めていない星羅を見て、ふたりに問いかける。

 

「おい二人とも、何で話してないんだよ」

「え?」

「話したぞ」

「……あー、【空を飛ぶ】とか【魔法を使う】とか、そっちの“能力”ですか?」

「なんだわかってるのか。そう、そっちの“能力”さ」

 

 気を取り直し、香霖は切り出す。

 

 

「僕の能力は、【道具の名前と用途が判る程度の能力】。見ただけでその道具の正体が判る力さ」

 

 

 星羅が外した腕時計を手に取り、香霖は続ける。

 

 

 

 

「その力によれば、君のその腕時計は何かしらすれば銃になる。それも、未知の脅威を滅ぼす程の力を宿したモノに……ね」

 

 

 

 そう言うと、「まぁどうすれば使えるのかまではわからないけどね」と付け加え、その時計をしげしげと眺めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、しばらく皆で時計を見てみたものの、気になるところは特になかった。

 左側ボタンは二個。それぞれ横に『time』、『Alarm』とあった。恐らく時刻調整機能とアラーム設定機能だろう、と香霖は言った。

 

 怪しい箇所を強いて言うならば、右側にある三つのボタン。

 

 このボタンには使い道が書いてなかった。

 

 

「これ実際に使ってみねーとわからないだろ?」

「ちょっと魔理沙、下手に押したら壊れるかも知れないわよ?」

「なんかテキトーにボタン押せばいいだろ? 星羅、ちょっとやってみな」

 

 魔理沙に言われるままに、星羅は時計を手に取って、

 

 

「うーん……こう、かな」

 

 

直感で、右側の三つのボタンを、上から順々に押してみた。

 

 

 

 

 

 

《One…》

 

 

《two…》

 

 

《three…》

 

 

 

 

「…ん?」

 

 

 

 と、その時。

 

 

 

 

《……Buster-on》

 

 

 

 

 響き渡る機械音声と同時に、腕時計は光り輝き四散した。

 

 

 

 

 

「うわぁ!?!?」

 

 

 

 

 光り輝くそれらは無数の小さな薄水色の結晶体に分裂、星羅の右腕へと、渦を巻くように装着されていった。

 

 

 

 

「わわっ」

 

「ま、眩しいぜ……!」

 

 

 その際霊夢と魔理沙の横を駆け抜け、ふたりは光に目を伏せてしまう。

 

 

 

 

「な、なんだぁ〜!?」

 

 

 …香霖が一番驚いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、徐々に“それ”が姿を現してきた。

 

 

 

 結晶同士は互いに合体、腕を覆う大きな銃へと変貌した。

 

 

 現れた四角柱の蒼い銃身に、いくつかの結晶がまとまったウイングが4枚、一面ずつに装着され、ウイングが蓋のように、装着面の排熱ダクトを覆った。

 

 そして、前方に銃口が合体。

 それは先端に向かって絞る円錐形の先っ穂を切ったような形状で、くり抜かれたように、その中に銃口が覗いていた。

 

 何かのスロットと、時計のパネルが出現し、“それ”はついに完全な姿となった。

 

 

 

 

 

 

《Rise-Buster,Ready…!》

 

 

 

 

 

 

 その音声と同時、ブシュー、とつんざくばかりの排熱を伴って。

 

 

 

 

 

 

 

「……………………思い……出した」

 

 

 

「え……?」

 

 

「星羅?」

 

 

「まさか……!」

 

 

 

 

 その言葉と同時、星羅は何かを取り戻した様に顔を上げて。

 

 

 

 

 

 

「……これは、幻創銃。

 

 

 

 

…………【ライズバスター】……!」

 

 

 

 

 

 

 その銃__幻創銃【ライズバスター】は、

 

幻想郷に顕現したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 香霖描きずらくて大変です……
 こいつくらいしか男の子いないんですもん。

 一応これからも時々、要所要所で香霖はでてくる予定です。……多分。

 とうとうライズバスター登場。
 こいつはこれからのカギでっせ!


 次回、ついに!やっと!侵略者現る!
 戦闘シーンを描いていきます!





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

003. 異次元の脅威(インベーダー)

インベーダーとはご存知とは思いますが、「侵略者」の意味です。

という訳で今回はとうとう本作の敵が登場。
ようやっと敵とのバトルが始まります。













 魔法の森入口付近に位置する香霖堂。

 

 そこでは、信じられないような光景が広がっていた。

 

 

 

 

 なにせ、さっきまで腕時計だったものが、一瞬のうちに分解、変形、合体し、腕に取り付いた銃になったのだから。

 

 

 

 霊夢、魔理沙、香霖、そして星羅の四人は、星羅の腕に合体した(ソレ)を前に、呆気にとられていた。

 

 

 

 

 

《Rise-buster,Ready……link up-complete……》

 

 

 

 

 

 どこか無機質な声が、しかし冷淡ではない声が、内に情熱を感じられる声が、響く。

 排熱ダクトからは未だ薄っすらと蒸気が漏れ、それに被さるように取り付けられた4枚のスタビライザーウィングが、水蒸気で結露した事による反射光で光り輝いている。

 そして、ソレの銃口は赤い光で染まっていた。

 

 

 

 星羅はそれを、目を見開いたままじっと見つめ、呟いた。

 

 

 

「…………思い、出した……!」

 

 

 そして、

 

 

 

「これは、幻創銃、ライズバスター。私の……私の為の銃……!!」

 

 

 

と、まるで操られたかのように、自然に言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 

 

「ライズ、バスター?」

「す、すっげぇ」

「これが、未知の脅威に対抗する為の武器、か……」

 

 

 

 

 三者三様の反応を見た星羅は、バスター銃身をさすりながら、

 

 

 

「……なんだけど、使い方はわかんない」

 

 

 

と、「テヘッ」といった顔で霊夢と魔理沙を見た。

 

 

「はぁ!?」

「えええ!?」

「……なんだって〜!?」

 

 

 三人が盛大にずっこけたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……記憶の断片をちょっと思い出しただけ、なのかい?」

「はい……」

「じゃあこれが結局どうすりゃ……その、脅威? に対抗する存在になんのか、わからねえな」

「宝の持ち腐れじゃない」

 

 

 解除方法もわからないので、四人は銃を眺めたりいじったり(といってもスタビライザーくらいしか動かなかったが)、色々試してみたものの、何も進展しなかった。

 

 

「はぁ」

 

 霊夢がため息を吐く。

 

「仕方がないわね。取り敢えず何とか解除して、今日のところはこれ以上詮索しない事にしましょ」

「手掛かりもねーしな」

 

 魔理沙も頷いた。

 

「僕も何かわかったら誰か経由で連絡を入れるよ」

 

 香霖も賛同し、星羅は、

 

「……まだ、何か思い出せそうなのにな」

 

と言いながらも承諾した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 __その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______パキィン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんの前触れも無く、正に唐突に、何かが割れる音がした。

 

 

 

「ん?」

「何だ?」

「……外から、よね」

「物が割れたにしてはうるさいな」

 

 

 何かを感じたのか、霊夢と魔理沙は席を立ち、

 

 

「ちょっくら外を見てくるぜ」

「星羅、アンタは霖之助さんといて!」

 

 

そう言い残しドアを開いて表に出ていった。

 

 

「う、うん」

「一応気をつけてな」

 

 そんなふたりを、星羅と香霖は不安気な表情で見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……な、なによこれ」

 

「どうりでやたらと音がでかい訳だ……!」

 

 

 

 外に出たふたりが見たのは、文字通り、

 

 

 

 

 

“空間が割れた”その裂け目である。

 

 

 

 

 

 裂け目は淀んだ青色をしており、何かのエネルギーが渦巻いていた。

 明らかに奥はこの世界と繋がっていない。

 

 しかもその裂け目から、なにやら赤色の点々が見えてきた。

 

 

 

 

「……俗に言う、次元の裂け目(空間が割れて中から敵が湧いてくる穴)ってやつか」

 

 魔理沙が、箒を握りしめて呟く。

 

「ふーん……それは、面倒な穴、ね」

 

 霊夢も大幣を取り出して答えた。

 

 

 

 

 赤い光は段々と黒い影を伴い、さらに近づくにつれて、くすんだ緑色のボディとして現れた、五体のずんぐりむっくりとして、裂け目から出てきた。

 

 

 

 

[…………]

 

 一体がゴーグルの中の赤い光__もとい、赤い単眼をじいっと動かして周囲を見渡す。

 

 

 しばらくきょろきょろとしていた各々だったが、そのうち先程の一体が言った。

 

 

[間違いナイ。ココは、幻想郷でアル]

 

 

「……!」

「分析しやがったのか?」

 

 霊夢、魔理沙が構えた。

 

[……]

 

 その様子を見た一体が、またじっと見つめ、

 

 

[背ノ高い方……巫女服……リボン………一致、対象ヲ【博麗 霊夢】と確認。

もう一人ノ方……帽子、箒……白黒……一致、対象ヲ【霧雨 魔理沙】と確認]

 

と一発でふたりを言い当ててしまった。

 

「うーわ、ばれてーら」

「何なのよ、コイツら……」

 

 ふたりが嫌な顔をすると、

 

 

 

[……間違いナイな]

 

 

更に裂け目からもう一体、アンテナのついた赤いずんぐりが出現。

 

 その単眼を光らせると、

 

 

[……排除対象ヲ視認、コレより排除行動に移ル]

 

 

 

 

 

 

と指示を飛ばし、緑ずんぐりどもと一斉に両腕を前方に向けた。

 

 

 

「「……はぁ!?」」

 

 

 

 ふたりが狼狽えるのが速いか、ずんぐりどもはその腕をなんと六連装のガトリング砲に変形させた。

 というかそもそも指先諸共砲身になっていた。

 

 

 

[…………撃テ!!!]

 

 

 そのまま、ふたりに向かって一斉射撃。

 

 

 慌てて避けるふたりだが、

 

 

「おい霊夢! 後ろは香霖の店だ!」

「あっ!?」

 

 

 

ばら撒かれたエネルギー弾は、香霖堂に虚しく連続ヒットしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 当然、香霖と星羅としては、なんの前触れもなく、店の壁が吹っ飛んできた。

 

 

「ぎゃー!」

 

 顔を引きつらせる香霖。

 咄嗟に物陰に隠れたお陰で眼鏡は割れなかったが、いくつかコレクションがなぎ倒された。

 

「あー!僕の商品!!」

 

 

 

 星羅は無意識的に掲げた右腕で顔を覆った。

 

「いてっ……!」

 

 

 案の定その右腕に、いくつか破片がぶつかった。

 

 

「……あれ?」

 

 

 だが、この時に星羅は気付く。

 

 

 

 

 

「……痛く、ない……?」

 

 

 

 

 

 破片を食らった筈のライズバスターに、かすり傷一つ付いていない事に。

 

 

 

「そうだ、霊夢、魔理沙……!」

 

 

 そして星羅は吹き飛んだ壁の穴から、外を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう!何なのよ!」

 

 霊夢は展開した陰陽玉と共に弾幕を連射。

 霊夢本人は、火力重視で針状の弾【パスウェイジョンニードル】を発射していた。

 

 それをなんとバリアで弾く赤ずんぐり。

 むしろ反撃の機銃掃射をされてしまう。

 

 しかし当然当たる訳もなく、霊夢は弾丸の嵐を鮮やかに回避していった。

 弾同士の隙間を縫うように、機敏かつトリッキーな動きですれすれを飛んでいく。

 

 弾幕ごっこでは欠かせない技。

 相手の弾幕をすれすれで躱していく【グレイズ】とも呼ばれる芸当である。

 

 

 そんな霊夢をよそにひたすら弾丸をばら撒く赤ずんぐり。

 

 

 

 

 

[……排除……排除……]

 

「……物騒なヤツね!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方の緑ずんぐり五体は魔理沙を狙って動いていた。

 

 四方八方から、バラバラと弾を撒く。

 

 だが、霊夢同様数々の戦いをくぐり抜けてきた魔理沙にとっては敵ではない。

 

 

 

 

「悪いが、私を敵に回した事を早々に後悔させてやるぜ!」

 

 

 

 ミニ八卦炉をジャキっと構え、叫ぶ。

 

「恋符!!【マスタースパーク】!!!」

 

 

 解き放たれた金色の極太レーザーが、ずんぐりのひとりを貫く。

 

 

[ウオッ!?]

 

 

「……ぐぐ、まだまだぁ……!! どりゃあっ!!」

 

 魔理沙は八卦炉を両腕で掴みながら、歯を食いしばり、空中でぐるりと一回転。

 

 

 回転斬りの要領でマスタースパークを横に一周させ、五体まとめて薙ぎ払った。

 

 

[……!!]

 

 ずんぐりどもは声もあげられず、爆散した。

 

 

「よし! 雑魚はなんてことないか。……霊夢!」

 

 残骸を一瞥し、魔理沙は霊夢の方を向いた。

 

 

 

 

 

 

 

[……しぶといナ]

 

「それはこっちのセリフ!」

 

 

 依然として霊夢は赤ずんぐりに手こずっていた。

 結界技でこちらはガードしつつショットを浴びせるのだが、赤ずんぐりはバリアを展開しており、なかなかダメージが通らなかった。

 

 

「霊夢! 大丈夫か?」

 

 魔理沙が駆けつける。

 

「ええ。ちょっと面倒くさい相手よ、コイツ」

「……むぅ」

 

 

 魔理沙も弾幕を発射するが、他のずんぐりとは比較にならない機動力であっさり回避してしまった。

 

[所詮、魔理沙は魔理沙、カ]

 

「んなっ!? 知ったような口を聞くんじゃねぇ!」

 

 サラリと馬鹿にされて憤る魔理沙。

 

「ていうか、お前ら何なんだよ?」

 

 魔理沙が問い出すと、意外にもあっさり答えた。

 

 

 

 

 

 

 

[ワレワレは機械であり、妖怪。

 

 

 ワレワレは【機怪(キカイ)】。コノ世界を滅ぼす者ナリ]

 

 

 

 

 

 

「……そりゃ、私達への今更の宣戦布告って事か」

 

 

 魔理沙が機怪を睨みつけた。

 

 

 

 しかし、その一方で霊夢は今の言葉を受け、少し訝しんでいた。

 

 

 

 

(…………そういえば、何でコイツら、私達の事を……?)

 

 

 

 __初見の筈の自分達を、あたかも初めから知っていたかのような言動で攻撃して来る。

 コイツらがやりたい事は……何?

 

 

 

 

 だが、悩んでいる暇を敵は与えなかった。

 

 

[……ム?]

 

 視線が二人から逸れる。

 

 

「おい? どこ見て……」

 

 魔理沙がつられて視線を向けると、

 

 

 

 

 

 

「……えっ?」

 

 

 

 壁が吹き飛んでがら空きになったそこに、星羅がいた。

 

 その様子に気付き、彼女はハッとする。

 

 

 

 

「しまっ……!?」

 

 

 魔理沙が狙いに気付いた時には、遅かった。

 

 

[……最重要目標ヲ確認! 抹殺スル!!]

 

 

 

 唐突に気が変わったように、赤ずんぐりは叫んだ。

 

 

 

 

「な……!?」

 

 豹変したずんぐりに動揺する魔理沙をよそに、ずんぐりは容赦なくガトリング砲を猛烈な勢いで速射した。

 

 

 

 

「星羅!!!」

 

 

 

 

 

 

 霊夢が手をのばすが、間に合わない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数十発の“死”の凶弾が、星羅へと無慈悲に襲いかかった__

 

 




ノーマル雑魚機怪のイメージは某有名ロボットアニメの緑の量産機と赤い彗星です。
まぁ単眼で指揮官機が赤色っていっていう時点でもうそれっぽい気もしますが。


次回、狙われた星羅の運命はいかに?






目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

004. 蒼光の弾丸

第一章最終回。
星羅は果たしてどうなってしまうのでしょう?


ここからどうやって逆転するのか、しっかり見届けてもらえると嬉しいです。



因みに星羅のバスターには当然元ネタがあります。
もしもわかった方いらっしゃいましたら是非コメントをお願いします。


前置き長くなりすみません。
では本編のスタートです!







 自分の腕時計に備わった三つのボタン。

 

 それを私は、無意識に手を動かして、正しい順序で押した。

 

 

 

 

 どこかで私は、これが正しいってわかってた。

 

 

 

 

 

 

 ライズバスターが装備された時、私の中で何かが変わった。

 

 

 記憶が少しだけ、戻ってきた。

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだ幼い頃、“僕”はヒーローに憧れた。

 

 

 誰よりも強く、何よりも平和を愛し、正義の為に悪と戦う。

 そんなヒーローに、気づけば憧れていた。

 

 

 

 

 

 

 そんな中、特に憧れた存在があった。

 

 

 世界征服を企む悪の人物に立ち向かう、一人の少年ロボット。

 

 

 立ちはだかる敵の力を宿して。

 時に危ない力を宿して。

 

 そのロボットはゆく。

 

 望まぬ戦いのその先に、平和な世界と、理想とする人とロボットとの共存の為に。

 

 

 

 

 

 

 独りぼっちだった“僕”は、そんな「青いロボットヒーロー」に憧れ、いつしかそんな風になりたいと思うようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、それを思い出した“私”は__

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[最重要目標ヲ確認!! 抹殺スル!!]

 

 

 唐突な動きに動揺する魔理沙。

 

 

「……えっ?」

 

 

 赤色の敵がこちらにその銃口を向け、弾丸を連射してきた。

 

 

 

 

「しまっ……!? 星羅っ!!!」

 

 

 

 霊夢の悲痛な叫びが聞こえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 刹那、思考が過る。

 

 

 

 

 __このまま、死ぬの?

 

 

 

 折角助けてもらったのに、何もできないの?

 

 折角取り戻せた自分を失うの?

 

 

 

 

 

 折角……霊夢と魔理沙という、“はじめての友達”ができたのに……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

 

 

 星羅は立ち上がる。

 

 右脚を強く踏みしめ、腕の銃身に、力を込める。

 

 

 

「……駄目だ。

 

 

こんなところで終われない。霊夢と魔理沙に救われた命を……無駄になんか、できるかっ!!!」

 

 

 

 ポケットからガッと取り出したのは、先程のメモリカード。

 

 

 そのイラスト……プラズマが描かれた部位がほのかに光っているように、香霖からは見えた。

 

 

 

「せ、星羅ちゃん……!?」

 

 

 

 

 

 

 そして星羅はメモリを、バスターのスロットに勢いよく挿し込んだ。

 

 

 

「スペルメモリ、セット!」

 

 

 

 ガキン、と音がして、メモリは吸い込まれるように内部へ入った。

 

 

《……Spell-memory,confirmed……Loading》

 

 

 再び響く機械音声。

 

 

 銃口にプラズマのような電磁波が集い始め、星羅の周囲に蒼いエネルギーが漂う。

 

 

 

 

「____はぁぁぁ……っ!!」

 

 

 

 

 

 右腕を前方に向ける。

 

 

 

 徐々に高鳴る光のチャージを、左手でしっかりと支える。

 

 

 

 

 青白いエネルギーが銃口に集中し、光が溶けては現れを繰り返した。

 

 

 

 

 使い方なんて、今更だった。

 

 

 自然にどうすればいいか、わかった。

 

 

 

 

 

 

「……うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、少女は叫ぶ。

 

 

 

 必殺技(スペルカード)の、その名前を。

 

 

 

 

 

 

《Ready,Go!!》

 

 

 

 

 

 

 

「……弾符!!!

 

 

 

プラズマぁ、チャージ、ショットぉぉっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__バッシュゥゥン____

 

 

 

 

 

 

 ____くぐもったような発射音と衝撃が響き渡り、星羅の右腕は反動で真上まで上がっていた。

 

 

 

 縦幅が身の丈程もある、超巨大な青き光弾は、プラズマエネルギーのオーラをまとって、敵のガトリング弾を全て相殺・貫通、そのまま高速で赤ずんぐり__もとい、機怪指揮官機に命中。

 

 

[……な、ナンダト!?]

 

 

 

 さらに命中時に現れた巨大なプラズマ放電球が、覆っていたバリアを粉砕し、更に機怪を数メートル先まで吹っ飛ばした。

 

 

[ウオォ……!?]

 

 

 

 勢いのまま、彼は進行方向にあった木に激突。

 しかしショットの凄まじさはとどまるところを知らず、その当たった木は倒れてしまった。

 

 

[マ、まさか力を取り戻すトハ……!!!]

 

 その言葉を最期に、機怪は粉々に爆散、ガトリング砲のみを遺して完全に消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この出来事、わずか数秒である。

 

 

 

 そこそこな距離が幸いし、また瞬間的にチャージされたお陰で、星羅はスペルメモリを発動出来たのだ。

 

 

 

 とはいえ、それでも初見の敵をイチコロしたのもあって__

 

 

 

「星羅……アンタ、やるじゃない!! すっごく見直したわ!!」

「あのずんぐりむっくりを一撃(ワンパン)でぶっ飛ばすなんて、すげぇぜ!!」

「星羅ちゃん! 君は凄い力を持ってたんだね!!」

「わーわー、押さないでー……」

 

 

 

半壊した香霖堂で、星羅は三人によってたかって褒められていた。

 

 未だにバスターは解除出来ていないが、さっきのメモリは勝手に

 

《Nice busting!》

 

と、スロット部分から排出された。

 

 

「どうやら君のスペルカードは、そのメモリが引き出すみたいだね」

 

 香霖が言った。

 

「スペルメモリ、だっけ。きっとそれは君の記憶を引き出すカギになるんだと思う。……大切にしなさい」

 

「……はい」

 

 

 星羅はメモリ__弾符【プラズマチャージショット】を見つめる。

 そして何かを噛みしめるように、それを強く握った。

 

 

 

 

「……でさぁ!!」

 

 

 すると、香霖はある方向を指さして、

 

 

「僕の店……どうしてくれるのさ!!??」

 

 

 

 

 霊夢がよそを向き、魔理沙が苦笑いする。

 

 星羅も、とほほ、と呟いた。

 

 

 

 

 そう、先程吹き飛んだ壁。

 星羅のチャージショットの煽りを食らって、三倍ぐらいまで広がってしまっただけでなく、周囲が焦げていたのである。

 

 

 

 

 大元の原因は霊夢と魔理沙、二次災害は星羅。

 

 

 三人はめんどくさくなり、しらばっくれて

 

 

「ご、ごめーん霖之助さん……私達、帰るわ〜!」

「悪いな!! 今度お詫びするから!!」

「香霖さんごめんなさい! 私次来たらなんかします〜!」

 

と、すたこらと外へ逃げていった。

 

 

 

 

「ぅおーい! 僕の店〜っ!! かーえーせぇぇ!!」

 

 

 

 彼女達の背中に届いた、絶叫にも似た香霖の悲痛な叫びが、魔法の森にそれなりに響いていた、というのは、後で魔理沙が知った事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にしても星羅、よく頑張ったぜ」

 

 自分の後ろに乗った星羅に、魔理沙は言った。

 

「始めてのバトルがあんな風になるなんて思わなかったが、それでもアレは凄いぜ」

「いやいや、全然だよ。魔理沙だって機怪を五体もやっつけたじゃん」

 

「……私今回まともに敵倒せなかったわねー」

 

 霊夢が羨ましそうに言った。

 

「ま、アンタが少しでも記憶戻したんなら、別に良いわ。手伝わせるからには、ちゃんと全部の記憶を取り戻しなさいよ?」

 

 言われて星羅はハッとする。

 

 

 自分の記憶を取り戻して、記憶の中の“僕”を知らなければならない。

 そんな風に思ったのだ。

 

 

 

 

《Buster-off……》

 

 

 

「わっ」

 

 

 ふとライズバスターが勝手に解除され、光と共に腕時計に戻って左手に装着された。

 

 

 

「それについても、何かしらわかるといいな」

 

 魔理沙がその様子を見て言う。

 

 

 それを受け、星羅は心で呟いた。

 

 

 

 

 

 謎は確かに増えた。

 気になる事もたくさんある。

 

 

 でも、ふたりと一緒ならきっと思い出せる。

 

 

 だって、このふたりは__

 

 

 

「よっし! 霊夢、帰ったら星羅にお手本がてらさっきの二回戦やろうぜ!!」

 

「あのねぇ、博麗の巫女を何だと思っているのよ」

 

「暇人だろ?」

 

「白黒魔法使いが言うな!!」

 

 

 

 

 

 今の私にとっての、大切な友達なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さ、早く帰ろっ!」

 

 

 

 

 星羅は笑ってふたりに言った。

 

 

 ニートだのサボりだの色々言い合っていた霊夢と魔理沙は、彼女の言葉に、自分達の行動がバカバカしくなって、あははっ、と笑い出し、

 

 

 

 

 

「「……勿論!!」」

 

 

 

と、博麗神社へぐんとスピードを上げていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________

 

 

 

 

 こうして、記憶喪失の少女は、楽園の素敵な巫女と普通の魔法使いに出会った。

 

 

 幻想を創り上げてゆく物語は、ここから始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 __丁度、季節は春。

 

 

 桜の花弁が散り、その横に薄っすらと、人魂が飛び回っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Continued to the next phantasm……




次回から第二章スタート。

誰が出てくるかはお楽しみに。

匂わせ気味な事は書いておきましたが……。





次章から話数が増えるかもしれません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二章 〜星羅と妖夢とみょんな春〜
005. 幽明の春


 第二章プロローグ。


 紅魔館組ではなく、白玉楼の二人から先に登場。


 その理由は後々わかってきます。








 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 

 

 

『……ぅん?』

 

 

 

 気が付くと、私は不思議な空間にいた。

 

 

 周りは何かの“目”が覆っていて、360度の視界を埋め尽くしていた。

 

 

 なんと言うべきか……、むらさき……に近いカラーでどこか不気味だった。

 

 

 

 

『来たわね』

 

 

 

 唐突に響く声。

 

 

 振り向くと、そこにはこれまた不思議な女性が、“なにか”に腰掛けてこちらを見ていた。

 

 

 金髪ロングの髪を揺らし、ところどころ束ねてリボンを付けている。ちょうちょ結びされた細い紐の巻き付く帽子に、どことなく修道士を思わせる白いドレスと黒い前掛けを纏い、その微笑みをこちらに向けていた。

 

 そして腰掛け? のような“なにか”、その隙間から別の「目」が、今いるこの空間の目のように覗いていた。

 

 

『突然呼び出して悪いわね』

 

 そう言うと彼女はふわりと空間に浮き、その「隙間」を広げた“なにか”に入り、

 

 

__次の瞬間、

 

 

 

『ようこそ。幻想郷に。ちょっとお話、しましょ?』

 

 

 

__その声は真横から聞こえ、そこにはまたも現れたなにかから顔を覗かせる彼女がいた。

 

 

 

『わぁぁあ!?』

 

『あら、流石に不気味過ぎたかしら?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私は八雲 紫(やくも ゆかり)。この幻想郷では妖怪の賢者なんて呼ばれているわ。普通に、紫でいいわよ』

 

 

 彼女__もとい紫さんはそう名乗った。

 

『あなたのことは霊夢に聞いたわ。幻島 星羅ちゃん……よね』

『あっ、はい。星羅って呼んでもらえれば』

『わかったわ。よろしくね星羅ちゃん』

 

 

 

 私は取り敢えず、紫さんに色々質問する事にした。

 

 

『……あの……ここ、どこなんですか? なんか身体がふわふわしてるような、現実じゃないような』

『まあ、こんなところにいきなり呼ばれてそうならないわけがないわよね』

 

 紫さんは“なにか”をまた開き、言った。

 

『これはスキマ。私の能力で開く次元の裂け目……のようなものよ』

 

 よく見てみると、目のカタチに近いような開き方で、両端には紫さんのと同じ赤いリボンが一つずつついていた。

 

『ここはそのスキマの中。あなたの意識を繋げた状態で連れてきたのよ』

『えっ?』

 

 

 そういえば私、……寝ていたはず。

 と言う事はこれは……

 

『じゃ、じゃあこれってまさか夢ですか?』

『うーん……惜しいわね。正解なんだけど、幻ではないわ』

『えっ』

 

 紫さんは横のスキマを閉じ、別のスキマにまた腰掛けて、

 

 

『あなたの“夢と現実の境界”を(いじ)って、意識だけを移動させた状態……つまり、夢の中に私が入ってきたようなものよ』

 

 

と、言った。

 

 

『と言う事は、私の身体はまだ寝ていて、意識だけが夢の中で紫さんと話してる……って事ですか?』

『そうそう! そういう事よ』

 

 

 

 話によれば、紫さんは【境界を操る程度の能力】を持っていて、ありとあらゆる“ものの境界”を自由に調整できるらしく、例えば「どこかとどこかを繋ぐ」「物質の性質そのものの境界を変える」「湖に映った月を弄って現実の月という扱いにする」「夜を弄って月が出たままの状態にする」「夢の中に入りその人に話しかける」など、割となんでもできるみたい。

 

 

 

 

 

『……それで、話したいことは……?』

『ええ、ちょっと聞いてくれる?』

 

 そう言うと紫さんは、少し真剣な表情で語り出した。

 

 

 

 

 

『さっきも言ったけど、あなたについては霊夢から聞いているわ。幻想入りした……そうね』

『はい』

『本来、勝手に幻想入りされると困るんだけど……理由があれば受け入れるのが私の考え。確かあなたは記憶が無い、って話よね』

『……』

 

 一つひとつ確かめるように話す紫さん。

 やはり、なにかあるのだろうか。

 

 

『……あの、紫さん。何か知っているんですか?』

 

 

 すると、意外な解答が返ってきた。

 

『……ええ、少しだけなら、ね』

 

『えっ!?』

 

 

 

 

『……でも、今は言えないわ。もうすぐ、……朝になってしまう』

 

 そう言うと紫さんはスキマから外の景色を映す。

 

 日が昇り始めていた。

 

『本当はもう少し早くあなたに会いたかったんだけど、うっかり寝てしまって』

『えー……』

 

 自分も腕時計を見てみる。

 時刻は6時10分……確かに、もう朝だ。

 

 

『ごめん、後で霊夢達の前で改めて話してあげる。待っていてちょうだい』

『……わかりました。じゃあ後でよろしくです』

『ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ。ごめんね、たったこれだけにわざわざ呼び出してしまって』

『いえいえ、そんな事はないですよ』

 

 

 すると段々、視界がぼやけてきた。

 多分身体が目覚めようとしてるのだろう。

 

 

 

 

『次は現実で会いましょう。またね、星羅ちゃん』

 

 

 

 

 その言葉と同時、紫さんはスキマに消え、私の視界は真っ白に染まっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……星羅、せーらー」

 

 

 誰かの声に起こされ、星羅は目を覚ました。

 

 

「うーん……?」

「起きなさいよ!!」

「へっへい!」

 

 

 

 ガバっと飛び起きたので、今度は起こしていた者__霊夢にぶつかりかけた。

 

「もう、危ないじゃない」

「霊夢こそ……近いよ」

 

 

「……」

「……」

 

 

 なんか険悪なムードになったところで、外から声が聞こえた。

 

 

 

「……おーい、起きたか?」

 

 魔理沙だ。

 

「うん、このとーり」

「よし、じゃ霊夢、朝飯食べようぜ」

「……わかったわ、用意してくる」

 

 

 

 

 

 

 

 あの日から一週間程。

 

 

 星羅は結局博麗神社にて過ごす事になった。

 一番安全(?)なのと、星羅自身、あのずんぐりむっくり__機怪とやらに狙われているのもある。

 

 そのため二人にはこうして世話になっているのだ。

 

 

 

「え、紫に会った?」

「うん。なにか話したい事があるらしいよ」

「アイツ人の夢の中に勝手に入ってくんなよ……」

 

 三人で食卓を囲み、今朝の夢について話す星羅。

 

 相変わらず何を企んでいるのかわからないのが紫である。

 どうせ話したい事も、やたらと面倒くさい事だったり、胡散臭い内容だったり、あるいは事件の根幹を突く事……かも知れない。

 

 

 だが今までの経験からか、

 

「まぁ、アイツが何言ってこようが、結局あの機怪とかいう連中をぶっ倒せばいいんでしょ。やる事は変わらないわ」

「だな。星羅の記憶もそのうち戻ってくるだろ」

 

 

そう言い霊夢特製味噌汁をすする二人。

 相変わらずの余裕さである。

 

 

 

 

 

 

「……それで、いいのかな……」

 

 

 

 だが当の本人、星羅は言いしれぬ不安に襲われていた事を、二人は知らない。

 

 

 

 

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幻想郷の空には、冥界という死んだ者の魂が行き着く場所へとつながる入口がある。

 冥界は天国や地獄へ向かう幽霊達のたむろする駐屯所のような場所になっていて、度々数が多過ぎて紫の手により拡張される事もある。

 

 そんな冥界には、幽霊達を管理し見守る屋敷が置かれている。

 

 入口から続く長い階段の先に建つ、奈良や平安を思わせる和風の屋敷で、庭の中には太く大きな一本の木が、いくつかの桜を咲かせていた。

 

 その名は白玉楼(はくぎょくろう)

 

 冥界の管理者、西行寺 幽々子(さいぎょうじ ゆゆこ)の住まう場所である。

 

 

 

 

「やっぱりこうしてのんびり過ごせるのは良いものね」

 

 幽々子はそう言いながら、例の桜を眺めていた。

 

 幽々子は亡霊である。

 一応死んだ者なのだが幽霊と違い、体温もあるし、モノに触れる事も出来る。

 そばには、紫の物と同じでリボンの代わりに人魂(ひとだま)マークの入った三角布が付いた淡水色の帽子と、愛用の扇子を置いてある。

 同じく淡水色の、フリルの付いた着物を着ており、髪は桃色である。

 

 

「異変も無いし、幻想郷は平和そのもの。こんな日々が続けば良いのに……」

 

と、ぼんやり桜を眺めていると、

 

 

 

「ゆゆこさま〜!」

 

 

ふと奥の方から声がした。

 

 

「幽々子様、只今戻りました!」

「あら、おかえりなさい妖夢」

 

 その声の主を、幽々子は笑って出迎えた。

 

「買い出し、終わりましたよ」

「お疲れ様。いつも悪いわねぇ」

「いえいえ、それこそいつもの事ですから」

 

 

 彼女は魂魄 妖夢(こんぱく ようむ)。幽々子に仕える、白玉楼の庭師にして剣術指南役の少女だ。

 短く整えたボブカットの髪には黒いリボン付カチューシャを乗せ、緑色の服を着ている。スカートには幽々子同様人魂マークがあしらわれていた。

 背中には二本の刀を鞘ごと背負っており、長い方が『楼観剣(ろうかんけん)』、短い方が『白楼剣(はくろうけん)』である。

 

 

「ところで幽々子様」

 

 妖夢はビニール袋(案の定幻想郷には外から入ってきた外の技術の賜物)を開封して中身の食べ物を取り出しながら、幽々子にある話を振った。

 

 

 

 

「……異変です」

 

「……はい?」

 

「異変が起きました」

 

「……あらぁ……まあ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し遡る。

 

 霊夢たちの活躍で撃退された新たな敵……機怪の事は、幻想郷のブン屋こと、天狗の射命丸 文(しゃめいまる あや)によって瞬く間に広まった。

 

 

「天狗に話しちゃった。幻想郷の危機だし、良いかなって思ってな」

「アンタね……それどうせ新聞のネタが欲しいだけよ」

 

という話を某二名は話しており、某白黒魔法使いがバラしたらしい。

 

 当然ながら『号外』としてばら撒かれ、

 

 

『異界からの侵略者!!どうする幻想郷!』

 

とかいう見出しで紹介される始末。

 

 

 買い出しに人里までやって来ていた妖夢は、彼女を見つけた。

 

 

「号外! ごぉーがい! 異変ですよー!」

 

 

 新聞を配る、彼女__射命丸を。

 

 

 

 

「……号外、ですか?」

「ええ、なにやらロボットの侵略者だそうで。機怪(きかい)って言うらしいですよ。まあ、我らが博麗の巫女様達が倒したらしいですが」

「ふうん……ならば、問題無いのでは?」

 

 新聞を見つめた妖夢の問いに、射命丸はふと顔をしかめて答えた。

 

 

「……この時、もうひとり幻想入りして来た方がいらっしゃるんですよ」

「……えっ?」

 

 

 

 そう言うと、射命丸は妖夢の後ろを覗き、

 

「あ、ほら、あそこ。丁度いらっしゃいますよ」

 

とある一方を指さした。

 

 

 

 

「……あの方は」

 

 

 そこには、ぼろ布コートを着た見慣れぬ少女が、人里でなにか買い物している姿だった。

 

 

「ありがとうございます」

「いいってことよ、また来なさい!」

「はい!」

「星羅、だっけ? いつも元気ねぇ」

「いえいえ、里の皆さんに比べたらそんな事ないですよ〜!」

 

 

 既に馴染んだような会話をする少女を見て、射命丸は言った。

 

 

「彼女は幻島 星羅さん。最近この幻想郷に入ってきたそうです」

 

 メモ帳をめくり、彼女は続けた。

 

「霊夢さんによれば、彼女は記憶喪失で、何故か機怪に対する特攻武器を有していたそうです。またその機怪に狙われている存在だそうで」

「……つまり?」

 

「……あの子を狙って、また現れる可能性があるんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、それは確かに異変ね」

 

 

 幽々子は買ってもらったせんべいを食べながら、今回の出来事についての感想を呟いた。

 

「いつまた現れるかわからない敵……まるで、狩人ね」

「また幽々子様は、遠い言い回しを……」

「あら、今のは割と率直に言ったつもりなんだけど」

「私には次元が違いすぎるんです」

 

 妖夢もせんべいをはむはむと食べながら、続けた。

 

「星羅さん、という方には結局お会い出来なかったんですが、また会いに行きましょうか?」

「そうね、たまには外に出ないとかびちゃうわよね」

「あなた幽霊ですよね?」

 

 

 

 すると、幽々子は妖夢をじっと見つめ、首を傾げた。

 

 

 

「そういえば、妖夢……」

「え? 幽々子様? なにか付いてます?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……妖夢、あなた……

 

 

 

半霊(はんれい)ちゃんは、どこ行ったの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………あああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人はその場で、凍りついたように固まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 魂魄妖夢は、半人半霊(はんじんはんれい)という種族である。

 

 その名の通り、半分が幽霊となっていて、彼女の周りには一つ、大きめの人魂がふわふわと浮いている。

 これは妖夢の身体の一部なのだが、基本的には妖夢本人とは関係なく彼女の周囲を飛んでいる。彼女の意志で自由に動かせるし、独立させる事もある程度出来るようだ。

 半分幽霊という種族故、妖夢は人間と同じ容姿ながらも体温はちょっと低めだったり、半霊も普通の幽霊よりは温かったりする。

 

 スペルカードなどではその半霊が妖夢と同じ姿になったり、妖夢本体と動きを共有(トレース)し一緒に相手をぼこったり、人魂からショットや特攻をさせたりなども可能。

 

 

 

 その“妖夢の半身”である半霊が、いなかった。

 

 

 

 

 

 発見者幽々子も、今更気付いた妖夢も、(幽々子は言う程では無かったけど)さーっと顔が青ざめた。

 

 

 

 

 そして妖夢は、半泣きで叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……異変だぁぁぁあ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 幽々子も

 

 

 

 

 

「……異変よぉーー!!!!」

 

 

 

 

と、どこか腑抜けた声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

 

『……』

 

 

 人里の外れに佇む人影。

 

 

 何かを見つめ、その赤い瞳で凝視する。

 

 

 そして誰にとも無く呟いた。

 

 

 

 

『…………あの人が、幻想入りした者というのか』

 

 

 

 

 視線の先の星羅(幻想入り少女)から目を離さず、彼女は言った。

 

 

 

 

『……ごめん、妖夢(もうひとりの私)。私には、やらなきゃいけない事があるみたいなんだ……』

 

 

 

 

 

 その姿、白玉楼の半身(じぶん)と同じく、しかし瞳は青くなく、赤かった。

 

 

 半霊の妖夢はそっと路地に姿を消し、その時に一枚のカードを落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 妖夢の、半霊と共に技を繰り出す分身攻撃技(トレースアタック)

 

魂魄【幽明求聞持聡明の法(ゆうめいきゅうぶんじそうめいのほう)】だった__

 

 

 

 

 

 

 




 そういえば、妖夢の半霊って独立してんだかしていないんだかはっきりしないなぁ……。


 本編原作でも二次創作でも何とも言えない扱いですよね。

 確かダンカグでは妖夢が二人!?みたいな展開になってた気が……え? パクリ? いえいえ。

 今作では単純に、こういう扱いをさせて頂きます。
 しっかりストーリーに関わるのであしからず。



 さぁ頑張れ妖夢ちゃん! 頑張れ半霊ちゃん!
 食べ尽くせ幽々子さま!(?)

 妖々夢編、楽しんでいただけると幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

006. 立春の憂い事

 唐突ですが、

……にわかってどこまでを指すのでしょうか。

 やっぱり原作未プレイだと「にわか」なのですかね?

 ……ダンカグくらいやろうかな、と思ってます。

 そんな原作未プレイヤローの作者は今日も執筆。
 テスト近いのになーにやってんだボケ。

 ところで妖夢といえば確かこの間の人気投票一位でしたね。
 これからそんな妖夢の活躍を描けるといいのですが。

 みょんみょん。





「皆さーん! 春ですよー!」

 

 

 

 そう言いながら、春風漂わせて、博麗神社に春を告げる妖精がひとり、ふわりと現れた。

 

 彼女はリリーホワイト。文字通り春の訪れを知らせにやってくる存在である。

 幻想郷の人々は彼女を見て、彼女の声で、春を感じる。

 

 逆にいえば……その時くらいしか活躍の出番がない、ちょっと不遇な妖精だったりする。

 

 春の訪れを感知すると姿を現して、冬眠していた生き物達を目覚めさせ、桜などの春の花を満開にし、通った場所を春でいっぱいにする。

 春は興奮しているのでちょっと強いがそれ以外はあまり強く無く、子供達に捕まったりもするとか。ただ彼女が夏から冬の末期まで具体的に何をしているのかはあまり知られていない。

 

 

 

 

 

「……春、か」

 

 それを眺めて、星羅が呟く。

 横には霊夢もいた。

 

 

「アイツはリリーホワイト。春ですよーって言うだけの存在」

「そんな妖精もいるんだね」

 

 ふうん、と星羅が返すと、霊夢は

 

「春といえば、桜かしらね」

 

と、星羅の頭に乗ったあるものを手に取った。

 

 

 桜の花弁(はなびら)

 鮮やかなピンク色に染まり、散った物ながら生きているような印象を与えてくる。

 

 

「えっ乗ってたの? ……なんか恥ずかしい」

「よくある事よ、気にしないで」

 

 

 自分の頭に乗っかっていた事に顔を赤らめる星羅。

 

 

 

 そんな二人の近くを、

 

 

()ですよー、えへへ」

 

 

とリリーホワイトがニコニコしながらさり気なく通過、人里の方へ飛んでいった。

 

 

 

「うぅ……」

「アンタそういうところ変わってるわね」

「えぇ? だってなんか……恥ずかしいよ、やっぱり」

「そこまで恥ずかしがる事はないわよ? まぁ良いわ、それよりも」

 

 霊夢は神社のお賽銭箱を見やった。

 

 

「アンタ……もしかして律儀?」

 

 

 奉納金ケース(?)を取り出すと、そこには一枚の千円札と五百円玉が入っていた。

 まだ朝なのに、である。

 

 星羅は笑って言った。

 

「曲がりなりにも居候の身、これくらいの恩返しはしないとね」

 

 

 

 星羅はあれからしばらく、人里でもお世話になっている。

 魔理沙が大々的に(むしろ大袈裟に)「なんでもするらしいからよろしくなー!」と宣伝したのがきっかけで、個人的にお手伝いしたり、頼まれごとをしたり、(霊夢の)お使いをしたりと、いわゆる「なんでも屋」をしているのである。

 

 星羅はそれにより、成り行きで生活資金を稼いでいる。

 人里のお手伝いは自分からお金をもらっているわけではなく、基本無償でやっている。だが、何故か皆こぞってご褒美としてくれるらしい。

 お陰で香霖からもらったポチ袋はいつもいっぱいである。

 

 そんな彼女は毎朝、必ず少しでも賽銭箱にお金を奉納、毎日お参りを済ませている。

 霊夢は最初は星羅の仕業だとは思わなかったが、一週間も続いたので怪しみだし、今こうして誰の仕業か判明したのだ。

 

 

 

 

「別に私、そこまでしてお金を没収しようなんて思ってないわよ?」

「ううん、いいの。だって」

 

 霊夢の疑問に、星羅はサラッと答えた。

 

 

 

「霊夢は恩人。それに大切な友達だもん。お互い様ってやつだよ」

 

 

 

 その言葉に、霊夢はハッとする。

 

 彼女は何よりも、やはりそういう絆とかを大切にしているのだろうか。

 

 そういったものは、時にかえって危険を招く事もある。当然、誰もが持っていなければならないものでもある。

 特に幻想郷では尚更だ。

 

 

 でも、やっぱり霊夢は素直に嬉しかった。

 

 

「……そうね。……ありがとう、星羅」

 

 

 少しまごつきながら、星羅に思いを伝える。

 

 

「……うん!」

 

 

星羅も笑顔を返し、二人は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇ、今のリリーホワイトの()ですよーって」

 

 

「……」

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おーい! 霊夢ー! 星羅ー!」

 

 

 

 ふと空から声が降ってくる。

 

 見上げると、そこには空飛ぶ物体が。

 

 

「……あれは、魔理沙?」

「もうひとり乗ってるわ」

 

 

 

 降りてきたのを見て駆け寄ると、魔理沙ともうひとりが立っていた。

 

 魔理沙はその子を指して星羅に紹介した。

 

 

「星羅は始めてだな。コイツは妖夢。冥界、白玉楼の剣士だぜ」

 

 

 魔理沙の紹介に、妖夢は頭を下げた。

 

「はじめまして。魂魄 妖夢です。冥界・白玉楼にて庭師兼剣術指南役を務めさせてもらっています」

 

 妖夢は頭を上げると、手を差し伸べる。

 

「魔理沙から話は伺ってます。星羅さん、よろしくおねがいしますね」

 

「こちらこそ、よろしくおねがいします」

 

 二人は握手。

 ただでさえ色白な自分の肌よりも白くなっているのを見て、星羅は、

 

 

「……もしかして、冥界っていうくらいだし……幽霊?」

 

と思わず聞いてしまった。

 

 

「あー……その事なんだが……」

 

 魔理沙が何か言いたげに反応する。

 

「魔理沙? 何か隠してるの?」

 

 霊夢が問いだしてみると、妖夢が代わりに答えた。

 

 

「実は……頼みがあるんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………半霊を失くした!?!?」

 

 

 霊夢は思わず飲んでいたお茶を吹き出しかけた。

 

 

 

 妖夢はあの翌日、つまり今日になって、必死に自分の半霊を探していた。

 そんな様子を魔理沙に見つかり、事情を話して二人で神社にやって来たという。

 星羅が単に「肌が白い」という印象を抱いたのみだったのは、これが原因だ。

 それで妖夢は皆にも手伝って欲しいとの事。

 

 

「……つまりいつもの、半霊ちゃん……は、妖夢の周りをふよふよ漂ってるって事?」

「うん」

 

 妖夢は頷く。

 霊夢も気を取り直して、腕を組んだ。

 

「何も心当たりは無いのね」

「……特には、なにもない」

 

 

 

 

 正に、失踪。

 

 忽然と姿を消したのだ。

 

「うーむ……やばいぜ」

 

 霊夢、魔理沙、妖夢、そして星羅は流石に参った。手掛かりのひとつはあれば、人里や幻想郷の皆の協力で探す事は容易に出来る。だがそれすらも無いのでは、正直万事休すもいいところである。

 

 

 

 

 __そんな四人に、ふと声が響く。

 

 

 

 

「……お困りのようね? 霊夢に魔理沙、妖夢。そして、星羅ちゃん」

 

 

 

「……紫っ!? いつの間に!?」

 

 

 霊夢が振り返るとそこには、スキマに腰掛けるスキマ妖怪こと、紫がいた。

 

 何か知っているような口ぶりと笑顔をしているあたり、所謂「助っ人」としてやって来たようだ。

 

 

 

 

 ……星羅以外の三人が一斉に嫌な顔をしたのは、言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 紫はスキマを閉じるとふわりと床畳に降り立ち、そのまま座った。

 

「星羅について話しに来たら、妖夢の半霊が行方不明って幽々子から聞いてね」

「えっ、幽々子様から?」

「ええ。割と心配していたわよ」

「アンタらそういうとこで通じてんの何とかしなさいよ」

 

 

 言いながら紫は(神社の)お茶を、(勝手に)スキマから持ってきて一口。

 

「まぁ、それよりも聞いてほしい事があるわ。星羅ちゃんについてよ」

「え、何か知ってるのか?」

 

 魔理沙の反応を見て霊夢は呟く。

 

「いつもの事じゃない」

 

 それを受けて、星羅は「紫さんってそういう人なんだ」思った。

 

 あまり純粋に受け取ってしまうとアレなのは、後でわかるが。

 

 

 

 

「霊夢から星羅について聞いたけれど……興味深い事実がわかってきたわ」

「何だよ、それ」

 

 魔理沙の問いに、紫はきっぱりと言った。

 

 

「恐らく……

 

人為的な結界侵入の可能性が高いわ」

 

 

 

 

「「人為的!?」」

 

 霊夢、魔理沙が顔を見合わせる。

 妖夢も困惑した表情をしていた。

 

 紫は続けた。

 

「あの日について、藍に尋ねてみたのよ。そしたらね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 星羅が幻想入りしたあの日。

 

 霊夢からその事を聞いた紫は、自分の式である妖怪、八雲 藍(やくも らん)にある事を尋ねていた。

 

 

「今日、なにか変わった事はあった?」

「変わった事……ですか?」

 

 

 藍は紫が媒体に取り憑かせる事で生まれる、九尾狐の式妖怪。

 紫程ではないもののかなりの実力を持つ他、式でありながらさらに自分の式である化け猫妖怪、(ちぇん)を呼び出す事も出来る。

 

 紫は実は、暇な時もそうでなくても(ただし後者は場合にもよる)、12時間(半日)以上は眠っているのだ。しかも冬眠だってする始末。

 そのため彼女の本来の仕事である、幻想郷の結界管理は藍が代わりに請け負っている。

 

 幻想入りすると大抵結界に何かしらの反応があるらしい。

 勿論ちょっとしたものでは何ともないのだが(外の常識を弾いたり非常識を入れたりするなどの機能が普通に働くため)、人がいきなり、しかも誰かが連れてきたりしない場合は、少し結界が揺らぐ、とか。

 

 

 

「……そういえば、幻想入りの反応がひとつ」

「ふぅん、実は霊夢のところに来たのよ。幻想入りした女のコが……ね」

「そうなのですか? どうりで唐突に」

 

 藍はふむ、と顎に手を当ててしばらく考えると、ハッとしたように顔を上げた。

 

 

「でも先程の反応……なにか変でした」

「え? どういう事なの?」

 

「……こじ開けられたような感じです。

 

まるで、紫様の……スキマ展開能力のように」

 

 

 自分もよくわからないといった表情をして、藍は言った。

 

「……スキマを開くとその空間が歪むんですよ。まぁ紫様が開いたとは思いませんが……」

 

 

 

「………………スキマ……ね」

 

 

 紫はぼそっと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、星羅はその“人為的”な幻想入りをさせられたって事なの?」

「恐らくはそういう事になるわ」

 

 霊夢に対する紫の発言に黙りこくる一同。

 

 彼女の言ったことが正しければ、星羅の記憶も恐らく人為的に消されたのかも知れない、というのが予想ついてしまう。

 はっきり言って、そんな事は非人道的過ぎる。

 本人が許可したならば話は別だが、もしも無断ならば黙っていられない。

 そもそもそんな事幻想入りさせる人の考えが知りたい。

 そんな事を、霊夢は思った。

 

 

 

「……まぁ、兎に角よ。こんな事自分から言っておいてだけれど、星羅が例の侵略者どもに狙われる理由も、記憶喪失の原因もわからない以上はまだ決め付けられないわ。地道に探してみましょう、手掛かりを」

 

 

 紫が言う。

 深く考え過ぎるな、という意味を込めて。

 

 

「……だな」

「そうですね」

「……仕方が無いか」

 

 三人はそれぞれ納得した様子で背伸びをする。

 

 

「……………………………………」

 

 

 __何ひとつ言葉を話さない星羅を除いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、私は戻るわ。なにかわかったら遊びに来るから」

「遊びには来ないでよ」

「ふふ、冗談よ」

 

 霊夢にツッコまれながら、紫はスキマへと消えていった。

 

 スッとスキマが閉まった跡を見ながら、星羅は呟く。

 

 

 

 

 

 

「………………記憶喪失(わからないもの)、か」

 

 

 

 

……と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ、厄介者もいなくなったし。妖夢、アンタの探しもん見つけに行くわよ」

 

 霊夢が区切り付けるように言いながら、大幣を引っ張り出した。

 

「みんなで探したほうが楽じゃないの?」

「霊夢、珍しく乗り気だな」

 

 魔理沙が訝しむと、彼女は答えた。

 

 

「今は異変の真っ最中。行動するのが吉。……私の勘よ」

 

 

「……だな!」

 

 

 

 

 

 

 今は少なくとも、目の前の物事を解決するのみ。

 

 

 そんな霊夢の姿勢に、星羅も何かを思ったようだ。

 

 

 

「……そうだよね! 私も行く!」

 

「そうこなくちゃ。行くわよ妖夢」

 

「はい! よろしくおねがいしますね」

 

「一仕事するか!」

 

 

 

 

 四人は神社を飛び出し、春風の中へと飛び立った。

 

 

 

 

 

 




 幽々子様といえば「大食い(?)」「遠い言い回し」「どこか天然」、あと「普通に強い」。描写が難しい……!

 妖夢も敬語と素の時とで使い分けるのが大変だったりします。ていうか敬語使わない相手って最近減った……?

 次回は幽々子様も登場したら活躍させたいですな。
 妖夢活躍しなかったけど。



 ところで、横書きゆえにセリフと本文を最低一行は開けてます。読みにくいかな、と思いまして。
 いらないよ、という方はコメントおねがいします。
 多かったら詰めます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

007. 半人の隠し事

 半霊に「みょん」と言わせたらアレでしょうか。


 いいや。やっぱり。……イメージ壊れるから、やめとこう……。






 はい。すいません。
 本編始まります。









「おーい、半霊ー?」

 

「いたら返事しろ〜!」

 

「もうひとりの私ー!どこなのー?」

 

「いや質問の仕方よ」

 

 

 

 

 

 半霊が突然妖夢からいなくなったといい、彼女の頼みで霊夢、魔理沙、そして星羅は半霊探しを手伝っていた。

 

 今のところは、機怪出現や大した事件も何ひとつ無く、割と平和だったため探す事自体は楽だった。

 

 

 が、

 

 

 

「……いないんだが??」

 

 

 魔理沙はそう言って、欠伸をしてしまった。

 

 

 

 

 案の定手掛かりなど一つも無く、それどころかそもそもどこにいるのかわからないので探したくても思う様に探せないのだ。

 

「本当に何も心当たりは無いのね? なんか……見つかる気がしなくなってきたんだけど」

「……」

「……? まぁ、無いか……」

 

 

 隠れんぼ、というよりは落ちた針を探し出すレベルの捜索状態。

 何となくいそうな場所を順々に巡ったが、やはりいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アテもなく探していたせいで疲れた四人は、人里の甘味処で大福を食べていた。

 いつも(と言っても一週間)星羅が世話になっているところだ。

 

 まぁだから何だという事で、結局星羅は四人分を奢った。

 貯めておいて良かった、と星羅は始めて思った。

 

 

 

「……」

 

 ぼうっと空を眺める妖夢。

 

「……はぁ」

 

 そしてひとつ、ため息をついた。

 

 自分の探し物……否、“捜”し物のために皆を付き合わせた挙げ句、未だ見つからない事に申し訳無い気持ちになっていたのだ。

 

 それを見て、大福にかじりつきながら魔理沙が言った。

 

「まあそんな落ち込むなって。案外、すげぇ近くにヒントがあったりするかも知れないだろ?」

「……そういうものなのかな」

「……そしたら私達の眼が節穴って事になるんだけど?」

 

 霊夢が皮肉げに言う。

 そして、

 

「どこ行ったんだろ、ほんと。しかもこんな時に」

 

と、呟いた。

 

 今は、撃退したとはいえ、いつまた機怪とやらが現れて、幻想郷や星羅の安全を脅かすかわからない時期。

 異変の真っ最中なのだ。

 そんな時に、今こそ暇とはいっても、こうしてアテなく捜すのは時間の無駄だし、割ときついものだ。

 飛び回って捜すのもあるが、それでは見落としが増えてしまう。

 そのため、手当たり次第、という訳ではないが地道に捜し続けるしかないのだ。

 

 

 

「ねぇ、妖夢」

 

 ふと、星羅が言った。

 

「冥界に行ってみない?」

「……え?」

 

 妖夢が顔を上げると、魔理沙が星羅の意図を理解した。

 

「なるほどな。冥界には幽霊がいっぱいいる。その中に混じって半霊がいるかもって事だろ?」

「確かに、幽霊達なら何か知っているかも知れないし。一理ありそうね」

 

 霊夢も納得といった顔をした。

 

 

「行ってみようよ。ね?」

 

 そう言い、笑う星羅。

 

 そんな星羅の笑顔を見て、妖夢は思った。

 

 

 ……こんな時に、こうしていられるのって、良いな。

 彼女なら、きっと……。

 

 

「……はい! そうする事にします!」

 

 

 妖夢も自然に、微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

少女移動中……

 

 

 

 

 

 

 

 

「この部分いるのか?」

「原作再現風な感じよ」

「へー……」

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわー!! 寒い! 高い! 怖いよぉ……ぅ!」

 

「星羅ってこういうの苦手か……」

 

「良かった仲間だ」

 

「妖夢、そこで安心するな……」

 

 

 

 

 空は夜の様に暗く、ところどころの灯火は妖しげに光っている。

 長く続く階段の先に、屋敷、白玉楼が見える以外は、怪しげな光浴びる花々しか見えなかった。

 そして人魂がふわふわとそこらを飛び回る。

 

 ここは冥界。

 死を迎えた者の集う、停留所。

 

 

 

 そのど真ん中(階段の中程かつ幅的にも真ん中)で、星羅は耐えかねて震えていた。

 

 太陽光が無いからか寒い。

 階段が長すぎて高い。

 そして、周りの人魂、幽霊が不気味過ぎて怖い。

 

 星羅にとって特に怖いものはダメらしい。

 

「よよよ、妖夢も幽霊だっけ……???」

 

……と、完全に混乱している。

 

 当の妖夢は、

 

 

「……」

 

何故か、ぼうっとしていたが。

 

 

 

 

 

 

「これこのまま幽々子に会って平気なの……?」

 

 霊夢が魔理沙に(ささや)くと、魔理沙も不安げな表情をした。

 

「大丈夫じゃねー気がしてきた……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、こういう予想は大抵裏切らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、あなたが星羅ちゃんね! 私は西行寺 幽々子。白玉楼の主よ。気軽に幽々子って呼んでn」

 

 

 

 

 

 

「うーーーーーわーーーーー出たぁぁぁァァァ!!!!」

 

 

「……あら?」

 

 

 なんとか白玉楼に到着、出迎えに幽々子が現れたのだが、やっぱり星羅は彼女の周りにいくつか浮かぶ霊魂にとうとう限界突破。

 文字通りぶっ倒れてしまった。

 

 

「……幽々子、久し振り。コイツこのまま屋敷に放ってくれない?」

「悪いな幽々子、私達は妖夢のツレみたいな感じで来たんだぜ」

「すみません幽々子様、まだ見つからなくて」

 

「……そういう事、ね。良いわ〜、みんな中に入ってちょうだい」

 

 そう言うと、幽々子はよっこらしょと星羅を抱き上げて中へと連れて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「う〜ん……寒い、高い、怖いダス……」

 

 

 

 半寝ぼけ状態の星羅を端に置いておき、霊夢達は幽々子に、なんにも戦果が無かった事を伝えた。

 

「ふぅん、やっぱりいなかったのね」

「はい……すみません」

「別に妖夢が謝る事はなにもないわ」

「いや幽々子、コイツがもっとしっかりしていれば半霊失くす事態になんてならないわよ」

 

 霊夢が言うと、幽々子は驚きの発言をした。

 

 

 

「そんな事無いわ。だって

 

 

 

 

 

 

たまにある事だもの」

 

 

 

 

 

「「「……!?!?」」」

 

 

 霊夢、魔理沙、そして今ので覚醒した星羅も、三人は一斉に困惑した。

 

 

「ど、どういう事なの妖夢?」

「ええっと……実は」

 

 

 妖夢はどこか恥じらいながら、事を話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「け……け……喧嘩ぁぁ!?」」」

 

 

 三人は再びズッコケた。

 

 

 

 なんと自分と半霊の自分とで、たまに喧嘩してどちらかが家出する、という事がある。

 らしい。

 

 オマケにひどいと一週間戻ってこないといい、それが起きるとすぐに反省して探し出す事になる。

 らしい。

 

 

 

「……実は昨日の帰りに、少し喧嘩してしまいまして」

「あら、なんでその事を言ってくれなかったのよ……」

 

 幽々子が尋ねると、

 

 

 

 

「……見てしまったんです。機怪を」

 

 

と、彼女に向かって妖夢は言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれは」

 

 

 買い出しからの帰り道、妖夢は草むらに何かの影を見た。

 

 

『……? 何かいたの?』

 

 半霊が尋ねると、妖夢は背中の楼観剣に手を掛けた。

 

 

「……何かいる。気を付けよう」

 

『見てくるよ』

 

と、半霊は飛び出していった。

 

「え、ちょっと! 勝手に行かないで!!」

 

 

 

『……アイツはこの(半霊の)私が見てくる。あなた(半人の私)は幽々子様をお願い』

「ねぇ!!」

『……いいから!!』

「……!」

 

 

 無理矢理連れ戻そうと、半霊の伸びた尻尾を掴む。

 

『ひゃっ!?』

 

 それに抵抗して半霊は体当たり。

 

「うわっ」

 

 

 その拍子に何かを落とす妖夢。

 半霊はそれを素早く拾い上げ、奥へと飛んで行ってしまった。

 

 

「……! しまった……」

 

 

 

 __どうしよう。

 バレたらきっと叱られるかも知れない。

 でも、余計な心配はかけたくない。

 

 

 

 起き上がった妖夢は、何かを決めたような辛い表情で白玉楼へ飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「申し訳御座いません!!! 本当は気づいていたんです! でも幽々子様に心配をかけたくなくって……!!」

 

 妖夢はその場で土下座をした。

 

 人を騙した事に相応の罪悪感を覚えたのだ。

 そもそも妖夢は真面目な性格、こんな事は不本意だった。

 

 

 

「……」

「……妖夢」

 

 

 

 それを察して霊夢、魔理沙も黙る。

 騙された事は確かにアレだったが、素直に叱れる気になれなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 そして、その様子をしばらく見ていた幽々子は、

 

 

「……ふふ、大丈夫よ。顔を上げなさい」

 

 

と、妖夢の肩に手をおいた。

 

 

「……?」

「私もごめんなさい。こちらも気付いていたのよ。あなたが隠していたのを」

 

 

 妖夢が涙目で幽々子の顔を見る。

 怒っていなかった。

 

「……そうなんですか!?」

 

「だって、大切な妖夢(あなた)をどれだけ見てきたと思うのよ、顔に現れてたわよ」

「えっ……」

「そもそも半霊が無くなったら普通わかるわよ?」

「……ですよね……」

 

 

 やはり適わないや、と妖夢は呟く。

 

 その頭を、幽々子はそっと撫でた。

 

「大丈夫。みんなでしっかり捜せば、きっと見つかるから」

「はい!」

 

 

 

 

「ま、騙された事に関しては、幽々子に免じて許してあげる」

 

 霊夢はそう言い、腕を組んだ。

 

「だから絶対捜し出すのよ。良いわね?」

「もー、霊夢はツンデレだぜ。私はやっぱり気にして無いぜ妖夢!」

「うっさいわね!!」

「やーいつんでれいむー」

「んもー!!」

 

 

 二人のやり取りを見て、心做しか救われる気持ちにされた妖夢。

 幽々子も微笑みながらそれを眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな中、ずっと端っこで何か考えていた者がひとり。

 

 

 

「ねえ妖夢、気になったんだけどさ」

 

 

 

 

 星羅だ。

 

 

 

「え?」

 

「半霊の感覚って……妖夢本人と、共有してるの?」

 

 

 

 言われて、幽々子以外がハッとする。

 その幽々子は、頷いて星羅に聞く。

 

「いいところに気が付いたわね。そう、そのはずよ。でもそれは一定条件下でないと成り立たないわよ」

 

 

「……妖夢、我慢してないで言ってよ。感じるんでしょ? 半霊(もうひとり)の事」

 

 

 

 なんと星羅は観察眼で見抜いたのだ。

 妖夢が恐らく感覚共有をしている事を。

 

「時々、妖夢ぼーっとしてたでしょ。わかるんだから」

「……!」

 

 

 

 妖夢は、少し黙って、そして言った。

 

 

「……うん。使ったんだなって、わかった」

 

 

 

 そして妖夢は幽々子に言った。

 

「幽々子様、私のスペルカードが一枚無いんです」

「まさか?」

 

 

「はい、魂魄【幽明求聞持聡明の法】です」

 

 

 

 半霊と動きを共にする分身技スペカを、妖夢はなくしていた。

 そして今日の間、時々感覚が狂うのだった。

 

 

 

「妖夢、つまりそれって」

 

 霊夢が聞くと、妖夢は頷いた。

 

「うん、多分半霊が持ってる。今、使ってるんだ」

 

 

 

 

 

 だが、魔理沙が呟いた。

 

「……でも、幽明求聞持聡明の法は確かお互いの感覚を揃えて高いシンクロ技を繰り出せるやつだろ?」

 

 努力家にして研究家の魔理沙らしい分析。

 妖夢も頷いて肯定した。

 

「そうだよ。それで?」

 

 

 

「……もしアイツ……半霊がなにかやらかしたら、妖夢。お前の身体はどうなるんだ」

 

 

 

 その発言に全員が凍りつく。

 

 妖夢の話では、半霊は機怪……侵略者を追っている最中なのだ。攻撃を食らってもおかしくない。

 それになにも対処出来ない本人は、かなり危ない事になる。

 

 

 

「妖夢、急ぐわよ。そうでないとアンタが危ない」

「……うん!」

 

 

 

 

 霊夢に言われて、立ち上がろうとする__

 

 

 

 

 

が、時すでに遅し、だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………!!! ああっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 何かに吹き飛ばされたように、妖夢は倒れ込んだ。

 

 

「妖夢!」

 

 

 すかさず幽々子が抱きかかえて支えた。

 

 

「……う……あ」

「……霊夢、まずいわ」

 

 幽々子の言葉に、流石に危機感を覚える一同。

 妖夢は気は失っていなかったが、かなり辛そうだ。

 

 

「……星羅、今すぐ神社に行くわ」

「えっ?」

「紫を呼ぶ。多分そろそろ、半霊の居場所を掴んでいる頃よ」

 

 

 霊夢は走って表に出て、靴を履き飛び立つ。

 

「おい! 急がば回れだぜ!?」

 

 魔理沙も慌てて靴を履いて、箒で飛び出した。

 

 

「幽々子さん、妖夢をお願いします」

「わかったわ」

 

 

 星羅と、妖夢を担いだ幽々子もそれに続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[コイツ……意外にもやるようだナ]

 

 

 

 

 ひとりの機怪が、大剣で“彼女”を指す。

 

 

 

 

 騎士のような風貌をしたずんぐり、【ブレイドタイプ】である。

 

 

『……くっ』

 

[健闘シタと褒めてやろう……ダガ]

 

 ブレイドは、怪しく輝くその剣を高く掲げて、

 

 

[……“幽霊のなり損ない”ニハ、ワレワレは倒せんゾ!!]

 

 

 と、“彼女”へ振り降ろした。

 

 

 

『……黙れ!』

 

 

 “彼女”……半霊は白楼剣を逆手に持ち、大剣を弾き上げた。

 

 

 

『なり損ないだなんて……言うなっ!!!

 

 

 

私は……元から半霊、妖夢(あいつ)とは違うっ!!』

 

 

 

 

 ぼろぼろのまま、半霊妖夢は刀を握りしめて、目の前の敵へ再び斬りかかった__

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 幽々子様みたいに大食いだった時期がありました。

 あったんですがもうむり。


 次回、ついに二人の妖夢が出会います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

008. 薄紫色の舞

 幽々子様と、ゆかりん、こと紫。
 古くからの知り合いで、たまにハイレベルな会話をしてしかもその意図をお互い理解し合える。
 そんな古参2人の活躍回。

 ちょっと原作ネタバレですが、この2人は実は、妖々夢のメインのラスボスとルナティックのラスボスだったりします。
 そこらへんしっかり考えてあるんだよ!


 嘘です偶然です。すみません。




 今回はすこしだけ長いかもしれません。









 半霊の身勝手で喧嘩し別れた事を隠していたのが発覚した妖夢。

 

 

 しかも感覚を(本来は動きも)共有する「魂魄【幽明求聞持聡明の法】」を半霊が使用した事により、妖夢は半霊が食らったダメージで倒れてしまう。

 

 博麗神社に向かい、情報を得ただろう紫を呼び出すべく急ぐ霊夢達。

 

 

 

 一方の半霊は、新手の機怪【ブレイド】タイプ相手に、妖夢が倒れる原因である傷を負わされていた……。

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

少女移動中…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ霊夢」

 

 星羅は飛びながら、前を行く霊夢に尋ねた。

 

「何? 紫ならどうせ勝手に出てくるわよ」

「その紫さんなんだけどさぁ……まだ日付も変わってないのに、どうして紫さんがもう情報をいれたってわかるの?」

 

 霊夢は少しだけ考えると、

 

「勘、よ。カン」

 

とだけ答えた。

 

「ええ!? それって大丈夫なの……?」

「大丈夫だぜ、星羅」

 

 狼狽えていると、横の魔理沙が言った。

 

「霊夢の勘は、だいたい当たるからな」

「そうよ〜星羅」

 

 幽々子も相槌をうつ。

 その腕には、痛みで倒れた妖夢を抱えていた。

 

「しばらく飛んでいれば、彼女の事だし、突然ぬっと現れてくるわ」

「ぬっと……て……そんなワケ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁい、出てきました八雲 紫♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、言ったでしょ?」

 

「な、言ったろ?」

 

「ね?」

 

「……それでいいのか幻想郷」

 

 

 

 言うが早いか、空間を裂いてスキマが開き、紫が文字通りぬっと顔を出した。

 

 

「やっほー」

「アンタ……こんな空中に突然出てこられたらぶつかるわよ」

「平気よ、スキマでずらしてあげればいいもの」

 

 紫はそう霊夢と言葉を交わすと、奥の幽々子に目を向けた。

 

「久し振りね、幽々子。妖夢は大丈夫なの?」

「ええ、ちょっと気を失ってるだけよ紫。すぐにまた眠りから覚めてくれるわ」

 

 言いながら幽々子は、抱える妖夢に視線を移す。

 

 妖夢は先程から、半霊のダメージがかなり大きかったのか気絶してしまっていた。まだぐったりしているが、息は十分あるし、かすかに呻き声を発してもいる。

 

「……うぅ……っ!」

 

だが、流石に辛そうだ。

 

 それを見て、霊夢も紫を急かす。

 

「それで紫、半霊については何かわかった?」

 

 霊夢が問うと、紫はあっさり

 

「ええ勿論、どこにいるかもわかったわ」

 

と言い、もう一つスキマを開いた。

 

 それを指さして、彼女は言う。

 

 

 

「“何もなければ”この先にいるはずよ、ついて来てちょうだい」

 

 

 スキマの中から、空間の目が誘う様にこちらを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うわぁっ!!』

 

 鈍い衝撃とともに、宙に跳ね飛ばされるひとりの少女。

 

 

 

[ハハハハハハ……随分と頑張ったモノだな、取り敢えずホメてやろう]

 

 

その様子を、ふっ飛ばした本人、大剣装備型機怪・ブレイドが嘲笑う。

 

 その目の前には、

 

『……うぅっ……!』

 

地面に叩きつけられ、さらに傷付いた、半霊の妖夢がいた。

 

 

 ブレイドは騎士のような甲冑風の、薄青色のアーマーを纏い、右腕で身の丈(機怪達は皆霊夢くらいのサイズ、指揮官機や特殊タイプは紫くらい)程の大型の実体剣を握っていた。バイザーはナイトらしく、縦にも追加でパーツがあり、隙間からはやはり赤色の眼が覗いていた。

 鋼かプラチナかダイアモンドか、それとも未知の物質なのかはわからないが、それなりに半霊とかちあった割に刀身には傷一つ付いていなかった。しかもアーマーにも、対して傷が付いていない。

 半霊妖夢は全くダメージを与えられていなかったのだ。

 

 

 

『……その装甲……一体、何なの……』

[フン、仮にモ敵に有利な情報ヲ教えるバカがいるかってンダ]

 

 グルンと大剣を肩に乗せ、半霊に一歩、一歩と迫る。

 

[そこらのザコ機怪を、難なく片付けたノハ、流石といったトコロか]

 

 言いながら単眼をスライドさせる。

 

 彼の周囲には、先に倒された何体かの機怪が破壊された残骸が散らばっている。

 

 歩くところにあったそれを邪魔だと言わんばかりに蹴飛ばすと、

 

[まぁ〜、このオレとは比較シテはいけないんだけどサ]

 

と、(つるぎ)にエネルギーを溜め始めた。

 見たことの無い輝きに、半霊はやはりこの幻想郷のものではない事を悟る。

 

『……くっ!』

 

 

 そしてブレイドは、大剣の射程に捉えると、無造作にその剣をもう一度振り上げた。

 

 

[ワレワレがどうしてお前を遥かに凌駕するか……

 

 

このオレ様……ブレイドに勝てたら、教えてやるゼ!!]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いい事聞いたわ〜?」

 

 

 

 刹那、開いたスキマ。

 

 

 そこから高速で飛来する、薄い桃色の、冥府の槍。

 

 

「じゃあ遠慮なく。

 

蝶符【鳳蝶紋(あげはもん)死槍(しそう)】!」

 

[何っ!?]

 

 

 

 

 放たれたそれらに何発か当たり、今度はブレイドが大きく跳ね飛ばされた。

 

[グオォ、な、何ヤツだ……!?]

 

 

 スペルカードにより展開した、桜の描かれた扇状のパネルを背に、幽々子はスキマから飛び出す。

 そのまま着地すると、抱えていた妖夢を降ろしてスペカを解除、半霊に駆け寄った。

 

「……大丈夫? 半霊ちゃん」

 

『…………幽々子、様……』

 

 

 

「はっ」

「よいしょ」

「うわっと……!」

「はぁい出てきましt」

「それはもういいから」

 

 続いてスキマから、既に御札を構えた霊夢、ミニ八卦炉を携えた魔理沙、時計に手を掛けた星羅、そして最後に紫が現れた。

 

 全員を排出しスキマが閉じると、星羅は着地と同時に叫ぶ。

 

 

「バスター……オン!!」

 

 

《One,two,three! Buster-on!!》

 

 

 ボタンを順に連打、ロックが解除されて腕時計が弾け飛ぶ。

 

 バラバラになったそれらは渦を巻きながら、星羅の腕に合体、四角柱の武装ライズバスターを完成させた。

 スタビライザーウィングの下部のダクトから、過熱処理のスチームが、ドシュゥ、と一吹きする。

 

《Risebuster,ready……》

 

「ライズバスター、装着! いくよ霊夢、魔理沙!」

 

「うぉ、煙がすげぇ」

「水蒸気でしょ……ていうかこの勢いには慣れないわ」

 

 バスターを掲げる星羅。

 2人もそれに続いていった。

 

「アレが星羅ちゃんの武器、なのね。幻想郷ではあまり見ないカタチね」

「いいじゃないの紫、勇ましそうで心強いわ〜」

 

 紫、幽々子がそれぞれ感想を述べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぅ」

 

 妖夢が目を覚ます。

 

「あ、私……」

 

 すると彼女の目には、あの星羅が何かの武器を身に着けて立っていたのが映った。

 

「せ、星羅……!?」

 

「妖夢、下がってて。なんとか私達で追い払うから」

「う、うん」

 

 駆け出してゆく3人を見送り、次に目に入ったのは、

 

 

 

「……! 半霊……!」

『……』

 

傷ついたもうひとりの自分……否、半霊だった。

 

 

 

 

 

 

 

「よくも、好き勝手に人をいじめて!! これ以上は好きにさせない!」

「正確には人じゃないけど……兎に角そういう訳だから、アンタにはとっとと退場してもらうわ!」

「ま、そうやすやすと逃さないけどな!」

 

 

 星羅と霊夢、魔理沙はそれぞれ妖夢の前に立ち、バスターと大幣、そしてチャージされていくミニ八卦炉をブレイドへ突き付けた。

 勿論退場させるのではなく、この場で即刻破壊するつもりなのだが。

 

 

[フン、ザコが増えただけヨ。ジャマだ]

 

 ブレイドは鬱陶しそうに大剣を振るう。

 

 霊夢はバックステップで下がると、すかさず叫んだ。

 

 

「夢符、【封魔陣】!!」

 

 

 

 

 展開された札たちがブレイド周辺を取囲み、特殊な結界を作り上げた。

 

[……厶]

 

「まだだ! 恋符! 【マシンガンスパーク】!!!」

 

 

 赤色の輝きに囚われ動きを封じられたところへ、魔理沙のスペカが放たれた。

 

 圧縮された無数の魔力光弾が、ブレイドへと迫りくる。

 

 

 が、

 

[……チッ]

 

彼は軽く舌打ちしたかと思うと、剣を造作なく振り上げた。

 ひときわ強い光を纏わせる。

 

 

 ブレイドは霊夢を睨む様に視線を送ると……

 

 

 

 

 

 

 

 

[所詮は“攻略済み”のザコ……オレの敵ではナイ!!]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシュン、という斬撃音と共に、あっさりと封魔陣を破壊してしまった。

 

 バラバラに砕ける結界。

 

 間髪入れず、その刃でマシンガンスパークを片っ端から両断。身の丈程の大剣とは思えぬ剣さばきで、全ての光弾を散らし切った。

 

 

「……!?」

「おい……ウソだろ!?」

 

 

 霊夢は流石に驚きを隠せない。

 博麗の技をあそこまで容易く破れる者など、幻想郷を探してもせいぜい指折り程度の数しかいないのだ。

 

 なのにあの敵……あの機怪は、数秒の内に破ってしまった。

 

 魔理沙も戦慄する。

 割と出力高めに放ったハズの物をいとも容易く、躱すのではなくわざわざ防がれるなど、滅多にない。

 

[フン、これでオワリか?]

 

 またも嘲笑うブレイドだが、

 

 

 

「どりゃー!!」

 

 

そこへ、星羅がバスターショットを3連射。

 

 だがブレイドは大剣を楯代わりにすると全てを弾いてしまった。

 

 勿論、先程の事を踏まえた攻撃。

 折り込み済みのモノだ。

 

 

「……やっぱり効かない……だったらこれだ!!」

 

 

 星羅はポケットからスペルメモリを取り出すと、素早くバスターに装填した。

 

[……何のツモリだ……?]

 

 

「スペルメモリ! セット!!」

 

《Spell-memory confirmed! ……Loading……》

 

 

 みるみる内に、バスター全体にエネルギーが満ちていく。

 徐々に出力が高まり、腕に熱が溜まっていく。

 

 左手で支えられたバスターを、敵に向かって放つ!

 

 

 

「食らえぇ!!

弾符!! 【プラズマチャージショット】!!!」

 

 

 

 

 ひとしおの反動と共に発射された、雷撃纏う巨大な光弾。

 それはブレイドの元へ高速で直進、命中した。

 

 

[ムダな事を……ン?]

 

 大剣を盾に防ごうとするも、そこへ追撃が走った。

 

 

[う、グァァ!? な、何だとぉ!?]

 

 

 

「あれは」

「プラズマフィールドってヤツか?」

「よし、効いてる効いてる」

 

 霊夢たちがいい意味で驚き、星羅はガッツポーズ。

 

 ブレイドには、凄まじいプラズマによる負荷とダメージが掛かっていた。

 

 プラズマチャージショットはその名の通りプラズマを纏ったチャージ攻撃。命中対象に追加でプラズマフィールドを起こし、大ダメージを与える技だ。

 プラズマフィールドは地形に当たってもしばらく発生するのでトラップにも行動範囲削減にもなる。プラズマ自体行動に負荷をかけてくれるので、かなり強力な技となっている。

 

 因みにこれは星羅の憧れていたヒーローのオマージュ技だったりする事を、あのとき星羅は思い出した。

 

 

 

 

 

 

[く、だがダメージ自体はソコソコのようだな]

 

「……あれ?」

 

 

 ブレイドは立ち上がると、また大剣にエネルギーを充填し始めた。

 どうやらプラズマフィールドはショットよりはダメージが無いらしい。

 

 

「げっ!?」

 

 魔理沙がやばいことを察した直後。

 

 ブレイドはその大剣を、おもむろに3段斬りの要領で振り下ろすと、ほとばしるエネルギーがウェーブ弾として飛んできた。

 

 

 

「うわ!?」

 

 星羅が身構えると、そこへ。

 

 

 

 

「おっと。させないわよ。

 

鏡符、【四重結界】!」

 

 

 スキマから素早く紫が現れて、スペカを発動。

 

 その正方形が重なったような紫色の結界により、ウェーブ弾はかき消された。

 

[小癪な……!]

 

 忌々しげにブレイドが呻った。

 

「紫さん!」

「アンタ美味しいところだけもっていくわねほんと」

「気にしないで。幽々子!」

 

 そして、紫の掛け声と共に、幽々子がスキマから飛び出した。

 

 

 

 

 

「えぇ紫、後は任せて。

 

 

死符……【ギャストリドリーム】!」

 

 

 

 

 いつの間にか両手に握った扇子で、舞うように宙を踊る。

 

 それに合わせて、幽々子の周囲に蝶のような弾幕が舞い、渦を巻いてブレイドへ飛来した。

 

[ナニ?]

 

 咄嗟に剣を振り回すも、蝶の群れはそれをすり抜けていき、やがてブレイドを閉じ込めるように周回し始めた。

 

 

 

「ちょっと早いけど……冥府へのご案内よ」

 

 

 幽々子の扇子が、バシッ、と閉じられた瞬間。

 

 

 蝶の群れは高速で飛び回り、ブレイドを掻き回していった。

 

 

[な、ナンダトォ!?!?]

 

 

 桜の紋様が浮かび、止めの一発が叩き込まれる。

 

 

 ブレイドは為す術もないまま弾き出され、数メートル先に落下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、久々にスペルカード使ったわ」

「幽々子さんすげぇ!」

「やっぱり幽々子はやるわね…」

「だなぁ」

 

 着地する幽々子を、星羅たちは取り囲んだ。

 

 そして倒れたブレイドに視線を向けると、

 

 

[……オノレ、ここまでやるトハ。想定外だったぞ]

 

 大剣を支えに立ち上がっていた。

 

 だがところどころ火花が散っているのを見るに、星羅と幽々子のダメージがかなり蓄積しているようだ。

 

 追撃しようと構える霊夢たちだが、

 

[今回はここまでニしておいてやる。次は……無イと思え]

 

 

突如、何時ぞやの破れ目を大剣を振り降ろしてで作ると、その中へ消えていった。

 

 

「あれは!」

「霊夢……お前も見たな」

「えぇ、あれは……」

 

 霊夢と魔理沙が反応する。

 

 その破れ目は、香霖堂を襲った機怪たちの出現に使われた空間の裂け目と酷似……というか一致していた。

 

 

 

 

 裂け目はブレイドを吸い込むとすぐに消え、霊夢はその裂け目があったところを、少しの間見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 回復した半霊を囲んで、星羅たちは半霊に質問攻めを始めた。

 

 

「もぅ、どうして一人で無茶するの!! 妖夢本人にまで影響したじゃん!!」

『……』

「アンタね、人に迷惑かけておいてなに“自分は悪くない”みたいな顔してるのよ? 迷惑かかったの妖夢だけじゃなくて私達もなのよ!」

『…………』

「しかも駆け付けたら気絶してやがって! お前な、心配させといて勝手に色々やり過ぎだぜ!?」

『………………』

 

 黙秘権を行使する半霊。

 

 

 妖夢はため息をついて、3人に言った。

 

「いいよ、みんな。後は私が話をつける」

「え、でも」

「いいから」

「お、おい……てか押すな」

 

 

 魔理沙を押し退けて、妖夢は半霊の前に出た。

 

 

 

 

 

「……ねぇ、結局あなたは何がしたかったの、半霊(わたし)?」

 

 

 妖夢は視線を半霊にしっかり向け、問いかける。

 

 

 

 

 

『……機怪を未然に倒そうと思っただけ』

 

 

 赤い瞳を逸らして、半霊はやっと口を開いた。

 

 

 

 

『只それだけ。……でも、そんな事わかってたでしょ、半人(わたし)?』

 

 

 

「…………」

 

 

 半霊はそう言うと、その身体をいつもの人魂姿に戻し、大人しくスペルカードを妖夢に返した。

 

「返してくれるんだ」

『身勝手だった事へのお詫び』

 

 妖夢はそれを受け取る。

 半霊は幽々子の方へ飛んでいった。

 

『……ごめんなさい幽々子様、私……』

「もういいわ。わかったから」

 

 そう言い半霊を撫でて、幽々子は周りに声をかける。

 

「今日はもう、ゆっくり休んで。霊夢も、星羅をよろしく」

「アンタに言われなくてもわかってるわよ」

 

 幽々子は霊夢の返事を聞くと、「それじゃ、また明日ね」と、妖夢とその半霊を連れて、空に飛び去っていった。

 

 

 

 

「いいの霊夢? 大して話、聞けなかったけど……」

「……今日はもう疲れた。明日また白玉楼に行って、詳しく聞きましょう」

「……わかった」

 

 

 霊夢は欠伸をひとつすると、魔理沙の方を向き、

 

「ふぅ……魔理沙、あした朝早くうちの神社の前に来て、星羅を乗せてやって。白玉楼に行くわ」

「わかった、翌朝にお前のところな」

 

と、待ち合わせをとりつけ、

 

「じゃあ、紫。また後で」

 

3人はそのまま、神社へと帰って行く事にした。

 

 

「霊夢」

「……何?」

 

 紫が引き止める。

 

 

 

 何か伝えようと仕草を見せる紫だったが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日の機怪の言葉……よく、考えて受け取りなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……それだけ言うと紫はスキマを開き、いなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

「……どういう事?」

 

 星羅が困惑した表情を浮かべる。

 

「まーた紫のヤツは、変な事言いやがって……なぁ、霊夢?」

 

 魔理沙もやれやれと両手をひらひら振った。

 

 

「……霊夢? どうした?」

 

「……別に……」

 

 

 だが、霊夢だけは違った。

 

 心当たりがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

[所詮は“攻略済み”のザコ、オレの敵ではナイ!!]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈今日の言葉、よく考えて受け取りなさい〉

 

 

 

 

 

「……………………、紫……?」

 

 

 霊夢は何も無くなった空間に向かって、思わず呟いていた__

 

 

 

 

 

 




 幽々子様も紫も思ったよりかは活躍しなかったかも。

 まだまだ弾幕描写の研究のしがいがありますね。

 次回は白玉楼探検の予定。
 因みに星羅は怖がりなのは作者のせいです。作者も怖いのダメな人です。
 そんなんで探検できるのか……




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

009. 幽霊の桜

 幽々子にはなかなか重い過去があってびっくり。
 いつか、紫のみ知るその秘密を、彼女も知る時が来るのでしょうか。
 

 ……んな事いいだしたら、他のキャラにもそういうヤツいますよね。

 という訳で謎深まるストーリーをご覧あれ。




 ひとまず半霊を助け出し、彼女を襲っていた騎士型の機怪「ブレイド」を撃退した、星羅たち。

 しかしブレイドはその際に、次元の裂け目で逃げ去ってしまう。

 

 意味深なセリフを残して。

 

 

 その事を紫に「よく考えて受け取りなさい」と言われた霊夢は……

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 博麗神社に帰ってきた一行。

 

 霊夢はひとり縁側に座り、ぼうっと考え事をしていた。

 

 

 

 ーーさっきの紫の言葉が妙に気になる。

 機怪に言われた時には何とも思わなかったのに、紫に指摘されるとやけに現実味を帯びてしまう。

 何故だろう、紫の言葉をここまで鵜呑みにしたのは……久し振りかも知れない。

 

 ブレイド、だったかな。ヤツは言った。

 

[所詮は攻略済みのザコ、オレの敵ではナイ!]

 

と。

 

 事前にわざわざ調べたというならばまだしも、「攻略済み」と言われた。つまり、あのセリフがハッタリなどでは無かった場合、ヤツらは私達と戦うのは初見ではない、という事になってしまう。

 

 ……じゃあ、アイツらの目的は一体何なの?

 幻想郷では類を見ない鋼の身体に、あからさまに近代的な武装、そして……既に調べられた私達の情報を持った連中、機怪は何がしたいの?

 ……考えれば考えるほど、余計な謎が増える。

 

 

 それに、星羅の事も気になる。

 

 私(と魔理沙)が攻撃出来なかった相手を、軽微とはいえ彼女は容易く攻撃してみせた。

 今更だけれども、彼女は弾幕ごっこすらままならない戦闘初心者……そんな彼女があっさりとダメージを与えて、私達ができないのは、普通に考えておかしい。

 また、ヤツらが私達の事を予め調べ尽くしていると仮定したら、その場合ブレイドが星羅のバスターを知らないのはやはりおかしい。

 

 星羅は一体……何者なの?

 

 

 

 

 

 

「……おーい、霊夢? なにぼーっとしているんだ?」

 

 

 やって来た魔理沙の言葉に引き戻された霊夢は、さっきまでの思考を一旦止め、後ろの彼女に答えた。

 

「……いや、何でも無いわ」

「ホントか? 私にはわかるんだぜ」

 

そう言い振り向く魔理沙。

 

 そこには疲れたのか、壁に寄りかかって眠る星羅がいた。

 相変わらずの、スタミナの無さだ。確かこの間……機怪との初戦闘時でも、プラズマチャージショットを一発撃ったあの後、神社で爆睡して翌昼まで起きなかったような……。

 

星羅(コイツ)には黙っておいてやる。……何考えていたんだ?」

「それは……その」

「……どうせコイツと、あの機怪の事だろ?」

 

 魔理沙はお見通しといった表情で言う。

 

「紫があーだこーだ言ってたが、あの話は一旦置いといて……まぁ……私もあんまり疑いたくないんだが……確かに、コイツは何かおかしい。記憶喪失の割に持ってる機怪特攻武器、そしてそれを可能たらしめる謎のメモリ。……コイツにはいつも、謎がつきまとっている」

 

 2人の会話とは裏腹に、星羅は穏やかに眠っていた。

 かすかに、すぅ、すぅ、と寝息が聞こえる。

 

「……こんな優しい、仲間思いなヤツが、少なくとも私たちを裏切るなんて事は……多分、無いと信じたい。だろ、霊夢?」

「えぇ……」

「だったら信じてやろうぜ。コイツに……私たち以外に、帰る場所は多分無いからさ」

「……魔理沙」

「白玉楼とか他の場所があるかも知れない。でもな、コイツにとってはお前も私も、命の恩人だ。コイツが私たちを信じている限り、一緒にあのロボどもと戦う限り……私たちも、コイツを……星羅を、信じてみようぜ」

 

 そう言って、魔理沙は微笑む。

 

 魔理沙はいじわるなところもあるが、なんだかんだでまっすぐな性格だ。こういう時に、それが魔理沙をその気持ちにさせたのだろう。

 

 だが、霊夢には、魔理沙がそこまで星羅を信じていられる訳がいまいち理解出来なかった。

 

 勿論星羅の事を疑っている訳では無いし、敵では無いとも信じたい。でも、怪しいところもあるのが現実、しかも現在進行系で幻想郷は攻められている。

 幻想郷を守る使命がある以上、突然現れた記憶喪失少女をなんの疑いも無く信じる訳にはいかなかった。

 

「……そこまで言える、根拠はあるの?」

 

霊夢のそんな問いに、魔理沙は迷う事なく答えた。

 

 

「記憶が無い、右も左も分からないヤツに誰も手を差し伸べなかったら、そいつはどうなる?」

 

 

 そして、魔理沙は頭の帽子からミニ八卦炉を取り出し、星羅に持たせた。

 

「これで少しは暖かいだろ。春っつってもまだ寒いからな」

 

 

 

「……」

 

 その様子を、ただ霊夢はじっと見つめ、何かを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔理沙はそのまま神社で晩飯も食べたいと言うので、霊夢は3人前のご飯と味噌汁を用意した。

 星羅はご飯の匂いに誘われてゆっくり起きた。

 

 

「……はぁ」

「どうした星羅? ため息なんて」

「うぅん、別に。ちょっとね」

 

 どこか暗い表情の星羅。

 そんな彼女に霊夢は言う。

 

「……アンタね、ご飯の時くらいはしょげてないで明るく食べなさいよ」

「霊夢」

「その方が楽しいし……作った身としても、嬉しい……からさ」

 

 ちょっと照れているような霊夢に、星羅は思わず笑った。

 

 

 

「あはは、霊夢に言われちゃ敵わないや」

 

 

 

「……え?」

「……星羅、今なんて?」

 

 予想外の反応に違和感を覚えた2人。

 だが星羅本人は、

 

「……? 何か言ったっけ」

 

と、首を傾げた。

 

 

「……ま、いいわよもう。それよりも早く食べないと、冷めるわよ」

「うん、じゃあ改めて……うーん、美味い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした! う〜ん、やっぱり霊夢のメシは美味しいよ」

「ならもっともだわ」

「私もごちそうさまだぜ霊夢」

「えぇ、そこ置いといて。後で片付けとく」

「おう。じゃ星羅、また明日な」

「うん、またね」

「星羅、どうせ暇なら手伝って」

「へーい、任せて」

 

 

 

 博麗神社での仕事(なんでも屋雑用)のひとつ、皿洗い。

 お椀が大半だが、星羅は楽しくやっている。

 別にそこに嫌な気持ちは無かった。

 

「霊夢、ひとつ気になったんだけど」

「何?」

「……私、何で機怪に狙われているのかわからないじゃん?」

「そうね。……それで?」

「……どうして、半霊をあそこまで追い詰める必要があったのかな」

「幻想郷侵略のためなら手段を厭わないって事じゃないの」

「……」

 

蛇口を捻って、霊夢は水を止めると、皿たちの水気をきって星羅の分も取って重ね、乾燥台に並べた。

 

「あのブレイドから、少しはヤツらについてわかると、後先すごく助かるんだけどさ。侵略の具体的な目的と、アンタを狙う理由」

「……うまくいくの、そんなに?」

 

星羅の問いに霊夢は少し考え、答える。

 

「幻想郷民なら、ある程度巫女権限でスペカルールに(のっと)った決闘でボコして事情を聞き出す事も出来るけど……ヤツらは異世界の侵略ロボット、そう上手くはいかないでしょうね」

「……だよね」

 

 霊夢は予め持ってきた寝間着(ねまき)を取ると、星羅に渡した。

 昔、魔理沙用に香霖が作ったは良いが彼女が気に入らなかったので保留していたという、星柄の青い寝間着である。この間折角だからと香霖が渡したのだ。

 

「はいこれ、いつもの。明日もどうせ早いから、さっさと寝なさい」

「うん。霊夢もしっかり寝てね」

 

「……おやすみ、星羅」

「おやすみなさい、霊夢」

 

 

 星羅が微笑んで返したので、霊夢もつられてふっと笑った。

 

 

 

 彼女がここにやって来るまで、夜はいつも孤独だった霊夢にとっては、なにか思う事があったのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、若干の曇り空だったものの雨などは降りそうにもなかったので、霊夢、魔理沙、星羅の3人は白玉楼へ再び向かった。

 

 機怪の妨害も無く、一行はすぐに冥界に辿り着き、そのまま階段を飛んでいった(霊夢曰く「面倒臭い」とのことで直接登ってない)。

 

 

「……寒い高い怖い」

「……離れろ〜! 重い〜!!」

 

……当の星羅は怖気づいて魔理沙に抱きついて離れなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃ〜い、ようこそ白玉楼へ」

「今なにかお持ちしますね」

「それよりもこのびびりをなんとかして」

「あばばば……」

「……霊夢、仕方ねぇだろ」

 

 無事(?)白玉楼に着いた一行。

 桜の花弁が舞い散るなか、霊夢たちは屋敷へと入っていった。

 

 

 

 

 

「……で、聞かせてもらおうかしら。半霊」

 

 霊夢が早速話題を切り出した。

 魔理沙も頷いて、

 

「妖夢、頼む」

 

と、妖夢を促した。

 

「では……」

 

 妖夢は立ち上がると、すぅと息を吸い、一息に宣言した。

 

 

「魂魄【幽明求聞持聡明の法】!」

 

 

 たちまち半霊が光り輝いて、妖夢と同じ人の姿へ変化する。

 

「へぇ、半霊って妖夢と違って目が赤いのか」

 

星羅がようやく見分け方を知り感嘆する。

 

 

『……皆さん』

 

 半霊は降り立つと、突然、

 

 

『……この度は……申し訳ございませんでした』

 

と、その場で土下座をした。

 

 

「えっ」

「おい……別に土下座しろなんて私たち言ってないぜ」

 

霊夢と魔理沙があ然とする。

 だが半霊は続けた。

 

『私の身勝手で……こんな事になったんです。本当にごめんなさい』

「半霊ちゃん…」

『やっぱり謝らせてください! 皆さんに迷惑をかけたのは私の責任ですから』

 

しっかりと頭を下げる半霊に、皆は黙った。

 

 

 

「……まったく、妖夢は妖夢なんだね……」

 

 沈黙を破ったのは、星羅だ。

 

「別に土下座しようがなんだろうが、私たちは気にしないよ。だって、もう済んだことじゃん」

『でも』

「だからもう大丈夫だって。顔を上げなよ」

 

半霊の頭をそっと撫でる星羅。確かに暖かな感じがする。

 

『……本当に、すいません』

「いいの。それに半霊のお陰で色々わかった事もあるし」

「そうだな」

「気にしないで、そういうのはもういいからさ」

『……はい』

 

 半霊は微笑んで、頷いた。

 

 

 

「あのー、半霊を撫でられると……ちょっと」

 

 妖夢が顔を赤くして言った。

 

「あ……」

 

 星羅は思い出した。

 

 半人と半霊は感覚をある程度共有していたのを……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ半霊、改めて色々聞かせてもらうわ」

『わかりました』

 

 2人の妖夢は幽々子に撫でられながら、霊夢たちの方を向いて座った。

 

「仲良いんだね」

「見りゃわかるだろ」

 

星羅は魔理沙とそんな事を囁いていた。

 

 

「じゃあまず、一つ目。ブレイドを追いかけて、アンタは何がしたかったの?」

 

 人差し指を立てて、霊夢が問う。

 

 何を思ったか幽々子がそっと外へ出た。

 

「ひとりでやった理由も、できたら聞かせて」

 

『それに関しては単純明快、早めに倒しておいた方が良いかと考えただけです』

「ひとりでやったのは?」

『人目につかない内に、と思いまして。半人(こいつ)が付いてこようとしなかったのでスペカをひったくっただけです』

「……は? ついて来いとかなにも言われなかったけど」

『はぁ?』

「おーい、そこでケンカしないで」

 

 星羅が即刻仲裁。

 霊夢はこの先大丈夫か不安になったが、続ける事にした。

 

「……えっと、次、二つ目。ブレイドについてわかった事、もしくは機怪についてわかった事を出来るだけ教えて」

 

 

 

 

「……星羅ちゃん」

 

 ふと、星羅の横から声がした。

 星羅がそちらを向くと、さっき外に出た幽々子が手招きをしている。

 

「幽々子さん」

「ここは霊夢たちに任せて、私たちはちょっとお散歩しましょ」

「……お散歩?? どうして、今?」

 

首を傾げると、幽々子は笑って言う。

 

気分転換(メンタルケア)も、時には大切よ」

 

「……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 星羅は目の前のモノを見上げて、幽々子に言った。

 

 

「意外と……いや、予想以上に綺麗ですね」

「なんてったって、白玉楼の誇る桜……西行妖(さいぎょうあやかし)だもの」

 

 

 

 幽々子が星羅を連れてやって来たのは、庭に立つ一本の桜の木の前。

 どことない妖気が醸す雰囲気は、何故か星羅を怖がらせはしなかった。星羅の心が落ち着いているだけなのか、単に怖がる気持ちに順応したのか、その理由(ワケ)はわからない。

 そして桜は全てが咲いている訳では無く、ところどころ、(つぼみ)の中に閉じ籠もったまま開かない花があった。

 その名は、西行妖。

 妖と書いて、あやかしと読む。

 

 

「この木はねぇ、簡単に言えば、“絶対に満開にならない木”なのよ」

「へ? 満開に……ならない?」

 

 幽々子の話に興味をもつ星羅。

 知らない事しか無い世界、否、もしかすると忘れてしまったかもしれない世界の話は、全てが新鮮なのだろう。

 

 幽々子は一息おくと、ゆっくり語り始めた。

 

 

 

「……この木にはね、“誰かさん”が眠っているのよ」

「誰かさん……?」

 

「その人が誰なのかは、誰も知らない。

妖夢も、私も、あなたも。

 

その木に封印した、訳もわからない。

幽霊も、亡霊も、妖怪も。

 

そしてそこに、どれだけ眠っているのかも知れない。

過去も、今も、これからも……。

 

 

その“誰かさん”は、桜が満開になった時目覚める。わざわざ何者かに封じられた、その力を持って」

 

 

 

 幽々子の不思議な言い回しに、星羅はポカンとして首を傾げた。

 こういうのには慣れない。そもそもかつて慣れていたのかもわからないけれど、今の星羅には正直その意図を理解出来なかった。

 

 ただひとつ、わかった事。

 それは、この木に眠る人は、幽々子に関係があるのではないか、と。

 

「……幽々子さん」

「ま、復活させようとはもう思っていないわ」

「え、一回やってみたんですか」

「……まぁ、ね。一回だけ……試した事はあるわ」

「……」

「幻想郷中の春を集めて、その木に【春度】を溜めたのよ。桜を満開にさせたくてね。すぐに霊夢と魔理沙がやってきて、妖夢もろともこてんぱんにやられてしまったわ、「勝手に春を盗んで変なことしないで」ってねぇ」

 

 星羅はそれを聞きながら、再び西行妖を見つめた。

 

 ただの桜ではない。

 そこにあるのは……妖気の漂う、“誰かさん”を眠らせた、二度と満開にならない、封印せし幽明の木。

 幽霊が周りを舞い、その白い明かりが幹を照らす木。

 

 同じ木を見ているハズなのに、たったあれだけ聞いただけで……とてもそうだとは思えなかった。

 

 

 

「さ、そろそろ妖夢たちの取り調べも終わっているでしょう、戻りましょうか」

「……はい。ありがとうございました」

「ふふ、気にしなくていいのよ」

 

 

 と、星羅は西行妖をあとにしようとした

 

 

 

 

その刹那だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈……誰?〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ!?」

 

 

 ーー頭にノイズがかかる。

 誰かの声がする。

 私に問いかけてくる。

 

 

〈……アナタは、誰? わたしに、何を求めて見ているの?〉

 

 

「……ぅあっ……!?」

 

 

 

 

 

 星羅は、どさっとその場に崩折れた。

 

「星羅ちゃん? ど、どうしたの?」

 

幽々子がかがんで星羅に声をかけ……

 

 

「! まさか……」

 

 

と、顔を青ざめさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“禁忌(アレ)”に……触れたの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 桜の木かー……

 こんなご時世でなかったら、お花見行きたかったです。皆さんは行きましたか?


※12/21改訂
・脱字を直しました
・一部補填&修正


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

010. 欠けた剣の最期

 ようやっとブレイドとの戦いが終わりそう。
 長かったでしょうか?

 ひとつだけ。
 妖々夢での事の拡大解釈をしています。あまりそういうのは……などの苦手な方は注意。
 それでもしっかり見届けていただけると幸いです。

 何かしらの「二次創作だからできる答え」を示せれば。





 ブレイドの放った言葉に、惑う霊夢。

 魔理沙との対話で、何もわからず、霊夢と魔理沙を信じるしかない状況の星羅をこちらから信じてみよう、と、心に決める。

 

 そして、白玉楼へ赴く一行。

 霊夢らが妖夢と半霊から話を聞く間、星羅は幽々子に西行妖(さいぎょうあやかし)について語られる。

 

 だが星羅は突如どこからか響く声に、気を失ってしまう……

 

 

 

 

 

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーー暗い、くらい空。

 

 

 しかし集まる春の花(・・・)の輝きで、不思議と明るい場所となっている。

 

 

 

 

 ここは……どこ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈妖怪の鍛えた、この楼観剣に……斬れないものは、あんまりない!〉

 

〈……じゃあ、見せてもらおうかしら。その剣の力!〉

 

 

 

 ーー誰かが、戦っている。

 

 片方は二刀流の剣士。

 もう片方は……紅白の巫女。

 

 

 朧気なビジョン(視界)で、よく視えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈辛気臭い春を返して貰うぜ、死人嬢!〉

 

〈なけなしの春をいただくわ、黒い魔!〉

 

 

 

 ーー視界(ビジョン)が移ろう。

 

 映るのは、白黒の魔法使いと、薄紫色の光放つ幽霊……いや、亡霊?

 

 

 

 曖昧にさせるノイズとぼやける映像で、よくわからない。

 

 

 

 

 

 

 

ーーこれは、誰かの……記憶?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈……ゆゆこさま!〉

 

 

 

 

『……え?』

 

 聞き覚えあるような声に振り返る。

 

 

 銀髪のちいさな女の子が、誰かの方へ手を振る。

 

 

 

〈ゆゆこさま、早く早く!〉

〈急がなくてもご飯は無くならないわよ~、妖夢〉

 

 

 

 

 

『……よう、む……? それに……ゆゆこ?』

 

 

 

 2人には私は見えていないのか、真横をすり抜けて歩いていく。

 

 

 そして……私は気付く。

 

 

 

 

 

 

 

 

『……まさか……これは、妖夢(ひと)の記憶……なの?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈……〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 刹那、後ろに視線を感じる。

 

 

 自動で視界が180度回転する。

 まるで一人称視点の映画のように、ソレ(・・)は映し出される。

 

 

 

 

 

 

 そこには、ついさっき見たような桜の木、そして……

 

 

 

 

 

 

 

〈……助けて〉

 

 

 

『……えっ……?』

 

 

 

 

 

 

 

 

〈わたしを……この呪い(因果)を……絶ち切って〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……暗い影を落とす、幽々子さんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はっ!?」

 

 

 

 

 ……気が付いた星羅は、白玉楼の中にいた。

 

 ここのものだろう布団に寝かされている。

 

 

 

「……気が、付いた?」

 

「……妖夢」

 

 

左を向くと、妖夢が座ってこちらを見ている。多分、星羅が起きるのを待って見守っていたのだろう。

 

 星羅はむくっと起き上がる。

 

「大丈夫? どこか傷まない?」

「うん、ケガは……無さそう」

 

軽く背伸びをする星羅。そのまま左右に揺れるーーというか傾くーーあたり、身体については平気なようだ。

 

 

 妖夢は早速、話題を切り出すことにした。

 

 

「……ねぇ、さっきの事だけど」

「……うん」

 

 星羅は間を置いて言う。

 

「……夢を、見た」

「……夢?」

「多分、冥界だと思う場所で、誰かが戦っている夢。あんまり覚えてないけど……」

 

妖夢を見つめる星羅。

 彼女の中の予想は確信へと変わった。

 

「……うん。多分、その中に妖夢がいたよ」

「えっ……私?」

 

少し顔を赤くする妖夢に、彼女は続けた。

 

「でも夢にしては、やたらと現実味があったし……知らないものだらけだった」

「それは記憶が無いから、じゃないの?」

「……どうだろ。そこまではわかんない」

 

 

 そして星羅は、段々思い出してきた夢の話から、鮮明に残ったあの事を話す。

 

「……妖夢。驚かないでくれる?」

「え?」

 

「……小さい頃の……妖夢を見たよ」

 

「……ええぇ!?!?」

 

「だから驚かないでってば」

「ご、ごめん……だってなんか凄く恥ずかしくて」

「……ごめん」

「……それって……まさか」

 

 星羅はあまり触れないことにしたかったが、

 

「……あのね」

 

 ーーここで言わないと、妖夢が可哀想になる。

 

 そう思い、全てを伝えることにした。

 

 

「……幽々子さんと会った」

「? 幽々子様と……会った?」

「正確には…ここの幽々子さんじゃない。あそこの幽々子さん」

 

 指を指す星羅。

 

 そこには西行妖が立っている。

 

「え、西行妖?」

「あそこで……幽々子さんと同じ声が、私に呼びかけてきたの。

 

 

助けて、って」

 

 

「……助けて? ど……どういうこと?」

「そこまではまだ、わからない。でもその幽々子さんは……凄く、悲しそうだった。そして、辛そうだったよ」

 

「つまり……」

「私が観た夢は……多分……

 

妖夢の記憶と、西行妖からの呼び声だと思う」

 

「……私の記憶?」

 

 困惑する妖夢に星羅は言った。

 

「……ごめん、これ以上は……わからない……でもお願い、この事は、まだ2人の秘密にさせて」

「……でも」

「今話したら、間違い無くこの場が混乱する。それに幽々子さんは多分この事を知らない、知ってても隠すと思う」

「……」

「お願い! 申し訳無いんだけど……今は……黙っていてくれる? いつかはその時がくる……話す時が。それまでは……お願い」

 

 それは星羅なりの優しさ、思いやりだった。

 妖夢も既に困惑しているのを承知で、これ以上彼女を惑わせないための事であった。

 

 妖夢は悩んで、最後に言った。

 

 

「……わかった。その時まで……待つよ」

 

「妖夢……」

「今は星羅を信じてみる。それに……」

 

 妖夢は半霊を向いて、そしてまた向き直って、

 

「半霊を助けてもらった、恩がある。それを……返してみせる」

 

と、いつものキリッとした、妖夢らしい表情をしてみせた。

 

 

「ありがとう、妖夢」

「こういう時は、お互い様だもん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ごめん星羅」

 

 

 

 (ふすま)の僅かな隙間から、覗く瞳。

 

 黒い方は霊夢、黄色いのは魔理沙だ。何やら小さく囁いている

 

 

「……(わり)い……聞いちまった」

「えぇ……でも、幽々子には言わないでおくわ」

「だな、霊夢。……星羅……私たちも黙っておいてやる……でも、先に知っておくぞ」

 

 

 全てを聞き終えた2人は、そっと襖を閉じた。

 

 

「面倒な事になりそうね」

 

「……春雪異変の、後始末(つづき)ってか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幽々子はひとり西行妖の前に立っていた。

 

「……」

 

 

 

 ーー星羅の事で、思っていた事が現実となってしまった。

 このままでは……

 

 

「早く、決着をつけなければ」

 

 

と、扇を握った、その時。

 

 

 

 

[……冥界のお嬢さんが、ナニをしている?]

 

 

 

 

空間が崩れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……! 幽々子様!?」

 

 

 何かを感じ取った妖夢が、臨戦態勢を整え立ち上がる。

 

「よ、妖夢?」

「……幽々子様が危ない……!」

 

たっと駆け出して行く妖夢に、ならうように星羅も飛び出した。

 

「おい、妖夢! どこ行く!?」

「幽々子様が危険なの! 二人も来て!」

「わかったわよ、ほら魔理沙!」

「お、おう!」

 

 霊夢も滑空、魔理沙も箒をもって飛び、追い越しざまに星羅を掴んで後ろに乗せた。

 

「よ、よっと!」

「よし乗ったな、行くぞ!」

 

一行は妖夢を先頭に、西行妖へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ」

 

 

 幽々子は、裂け目から飛び出した謎の拘束具に捕まっていた。

 と言っても、両手足を宙に固定する円盤だが、それでも幽々子を捕縛するだけの拘束力と能力無効力がある。

 抵抗するだけ無駄だと思い、幽々子はただ項垂れていた。

 

[無様だな……冥界の主が、コノ程度か]

 

 

ブレイド本人は何もしておらず、また彼(?)に続く雑魚機怪も何もしていない。

 円盤は自律制御なのだ。

 

「……私をこんなところに縛って、どうするつもり」

[フン、どーするもこーするもナイわ。見てれば……その内わかる]

 

 あからさまに余裕を見せるブレイド。

 

 その様子に、幽々子はふっと笑った。

 

[……何がオカシイ?]

 

「まさか私が捕まって、思惑通りに上手く事が運ぶとでも思っているのかしら」

[なんだと?]

 

「ねぇ、妖夢……」

 

幽々子が顔を上げた時だった。

 

 

 

 

「人鬼! 【未来永劫斬】!!

 

 

だりゃぁあ!!」

 

 

 

 四方八方から切り刻む光の刃。

 

 ズザッと着地し、雑魚機怪を数体切り裂いた妖夢だった。

 

[……ナニィ!?]

 

だが驚いている暇などない。

 

 

「彗星!! 【ブレイジングスター】!!! どっせーい!」

 

[ウオォ!?]

 

 まさに彗星の如き速度で、ブレイドを数メートル弾き飛ばすのは魔理沙。

 後ろの星羅は「うおぉすげー!!」と目を丸くしていた。

 

 そして、

 

 

「はぁぁ……っ……霊符……【夢想封印】っ!!!」

 

 

霊夢の必殺が発動、彼女を取り巻いた光球八つ、全てが機怪へ降り注いだ。

 

[ウワァ!!]

[ギャッ]

 

片っ端から吹き飛ぶ機怪たち。まだ何もしていないのに。

 

 勿論、ブレイドも例外ではなく。

 

[く……ググゥ……!]

 

かなりダメージが入りふらついているものの、流石にまだ生きていた。

 

 

[……思っていたよりも……早かったナ]

 

 態勢を立て直し、自慢の大剣を構える。

 

「今度はこの間のようにはいきません」

 

妖夢も楼観剣と白楼剣を引き抜き、両手に握る。星羅たちも各々の武器を構えた。

 

「幽々子をどうするつもりか知らないけど、取り敢えずアンタはさっさと退治させてもらうわ」

「この場で幽霊にしてやるぜ!」

「さぁ……行くぞ!」

 

 

[ソノ自信……いつまで続くか、ミモノだなぁ!!]

 

 

 

 さっきのダメージはどこへやら、ブレイドはその刀身から弾幕を放射状にばらまいた。

 横、縦、斜め、と次々に振るい、スキを与えてこない。

 

「……思っていたよりもやるわね」

「まぁ、折り込み済みだろ」

 

 

 霊夢、魔理沙は持ち前の経験で縦横無尽に回避、ショットやレーザーで反撃をする。

 妖夢も剣で弾幕を切り捨て、斬撃を浴びせる。

 

「幽々子様にこれ以上の事はさせない!」

[……フン]

 

だが当の本人はバリアで無効化してきた。

 

 弾かれる妖夢。

 

「く、またあの光の壁……バリアか」

「うわー……またこりゃ面倒だな」

「星羅、あれ……剥がせる?」

「わかった、やってみる!」

 

 霊夢の指示受け、星羅が飛び出す。

 そしてポケットに手を突っ込んだ。

 

 

「……ん」

 

 

 手先に感じる違和感。

 メモリがいくつか増えた?

 

 星羅は適当に取り出したメモリを見てみる。

 

 出てきたメモリのイラストは、いつものプラズマチャージショット……ではなく、ビームサーベルのような光の刃。

 剣のスペカだろうか。

 よくわからなかったが、今朝の夢、そして妖夢に何か関係あるのかも……とは思った。

 

「まぁいいや、斬ればわかるってね」

 

《Spellmemory confirmed… now loading》

 

 ……効かないことは、恐らくないだろう。

 そう判断し装填、バスターのチャージが始まった。

 

 ダン、と大地を強く蹴る。

 

[そう簡単に、近づけるワケが……]

 

ブレイドはさらに大剣を振るが、

 

[……ナニッ!?]

 

 

その時には既に、目の前にいた。

 

 

 

 

 

 一気に近づき、その力を解き放つ。

 

 一点突破は、カッコつけなきゃ。

 

 

 

 

 

 

「……星剣(せいけん)! 【バスターソード】!!」

 

 

 銃口から伸びたのは、緑色に光るビームの刃。

 

 腕と一体化した、内蔵式ブレード(バスターソード)

 

 星羅はそれを下から弾き上げるように振り上げた。

 

 

「とおっ!!」

 

 

[な、なんだとぉ……!? 我がツルギが、マ、真っ二つだとぉ!?]

 

 

 

 たったのそれだけでーー

 

 

 なんと、ブレイドのバリアは割れ、大剣は横真っ二つにされ、半分先の部位は弾かれていった。

 

 ばっくり折れた大剣に驚きを隠せないブレイド。

 

 

「たぁ!」

 

 

 さらに星羅の一撃受けて、ブレイドはまたも大きく吹っ飛んだ。

 

 

[ヌワァッ……!]

 

「今だ!」

 

 妖夢はこの瞬間を見逃さなかった。

 

 

 両手の刀を強く握り締め、叫ぶ。

 

 

 

「……魂魄っ! 【幽明求聞寺聡明の法】!!!」

 

 

 瞬間、二人になる妖夢。

 勿論片方は半霊。証拠に目が赤い。

 

 

「『はぁぁっ!!』」

 

 

 2倍……否、4倍の斬撃をもろに食らって、その鎧にも傷ができた。

 

[ぐ……まさか、ここまでとは……ココは一旦……]

 

 武器は真っ二つ、胴にも切り傷でボロボロのブレイド。

 またしても逃げようとする。

 

 

『逃がさない!』

「昨日の借りを返してあげる!!」

 

 

妖夢は刀身に、自然ともとれるような光を灯し、一気にブレイドへ突っ込んだ。

 

 

 

「『断命剣…… 【瞑想斬(めいそうざん)】!!!』」

 

 

 

 二人は交差するように、敵の身体を切り裂いて、地に降り立つ。

 

 

 その中から光が溢れ出す。

 

 

 身を斬らず、命を刈り取る、妖夢の得意技(スペルカード)

 それが瞑想斬だ。

 

 

「おぉ……スゴい」

「久し振りに見たぜ」

「相変わらず、ね」

「……妖夢、ありがとう」

 

 4人はそれぞれの反応を見せた。

 

 

 二人の妖夢は、春の光受けて輝くその刀を、静かに鞘に納めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[……フフフ……]

 

 

 

「!?」

 

 

 爆発の光が漏れ始めるなか、ブレイドはなんとその目をこちらに向けてきた。

 

 

[コレで……勝ったと……思うナ]

 

 

 よろよろと立ち上がり、ブレイドは欠けた剣を拾い上げ、何を思ったか、西行妖の方を向いた。

 

「アンタ、何のつもり!?」

 

 霊夢が問い詰めようとしたが、既に手遅れだった。

 

 

少し予定トハ違ったが(・・・・・・・・・・)……マァいい、

 

 

今すぐ……呪いを味わって貰おう!!!]

 

 

「やめなさい!!!」

 

 幽々子の叫びも、虚しく。

 

 

 

 ブレイドはその剣を投げ、木の幹に突き刺した。

 

 

[フハハハ……!!]

 

「この!! 恋符 【マスタースパーク】!!」

 

 

 魔理沙がこれ以上はと、マスパを放つ。

 

 

 

[フハハハ……オレ様は……負けたが、オマエラは……このまま死ぬのだ……ソレまで……せいぜい努力するんだナ…フハハハ、ハーハハハハ……

 

コレが……オレ様の狙いだったのサァ!!! 受け取れ……

 

創造主(・・・)!!!]

 

 

光線命中直前、そう言い遺し、ブレイドは跡形なく消し飛んだ。

 

 

 

 

「……はあ、はあ……おい、幽々子は」

 

 魔理沙が振り向いた時だった。

 

 

 

「どう……なっ……て」

 

 

 

 

 

「うあああああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 ーー刹那、つんざくように叫ぶ声。

 

 

 

 

 

「……うそ!?」

 

 霊夢が目を見開く。

 

「……な、馬鹿な……!?」

 

 魔理沙もあ然としてしまう。

 

「……そんな」

 

 星羅もまた驚きの表情を浮かべ、

 

 

 

「『……幽々子様……!?』」

 

 

 

妖夢も、そして半霊も、愕然として、“その光景(・・・・)”をただ見つめるしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

「………………よう、む……」

 

 

 

 

 西行妖に刺さった剣から、漏れ出す「何か」。

 

 暗い妖気を纏う「何か」は、幽々子を包み、星羅が今まで感じた事のない程のオーラを放っていた。

 

 

 

 

 

 

「…………私、を……

 

 

 

 

 

 

ここで、消してくれる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 呪われた西行妖の妖力に呑まれた幽々子は、暗い影を落として、4人に襲いかかったーー

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回、星羅更に覚醒します。乞うご期待、です。

 全く関係ないですが、メリークリスマスですね!
 皆さんはどうお過ごしですか。
 どのようにするにしても、素敵な一日となる事を願ってます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

011. 妖々夢、時々弾

 妖々夢編(えっ?いつからそうなったの?)のラスト。
 個人的見解で進みましたが、妖々夢の一つの解釈として見届けていただけると幸いですね。


 明けましておめでとうございます。
 今年も何卒宜しくお願いします。



 ではでは〜






 気合入りすぎて一番長いです。







 

 

 

 

 

 

 

 ーーあれは、いつの頃だろう。

 

 私が、あの木の事に気付いたのは。

 

 

 

 もしかしたら、欠けた記憶の奥底で……最初からわかっていたのかも知れない。

 

 でも……

 

 

 

 もう、後戻りはできないーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう……む……

 

 

 

私を……ここで、消してくれる……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 おぞましいオーラの光。

 

 溢れかえる、暗いエネルギー。

 

 そしてーー幽々子の、悲痛とも切実ともとれる、静かな叫び。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい……こりゃとんだサプライズだぜ!?」

 

 

 魔理沙は目の前の光景に、ミニ八卦炉を構えながらも後退った。

 

 

「……幽々子様っ」

『“アレ”は……一体……!?』

 

 妖夢、そして半霊も、目を見開いたまま、信じられないという顔つきでソレを見つめていた。

 

 

 

 

 

 西行妖に突き刺さった、ブレイドの大剣。

 その切り口から溢れ出す、木がこれまで溜めてきた妖気が、幽々子を依り代に、白玉楼中に広がっていた。

 

 幽々子本人の意識は、もう無い。

 

 ……というよりも奪われているに近しい状態だ。

 

 

 ブレイド……もとい機怪たちは、元から西行妖の呪いを目覚めさせるためにここに来たのだろうか。

 霊夢はそう思いながらも、お祓い棒を握り直し、表情を引き締めた。

 

 

「……あのままじゃ、()っといたら白玉楼どころか、冥界中に西行妖の妖気が蔓延してしまう。取り敢えず大人しくさせるわ……魔理沙、手伝って」

「……わかった、なんでもやってやる」

「妖夢は星羅をお願い」

「うん、任せて」

 

 妖夢は半霊を元に戻し、星羅を護衛するように彼女の前に立つ。

 

 

「強力な結界を使って幽々子を止める。魔理沙、アンタはなるべく注意をひいてくれる?」

「なるほど、任せろ」

 

 霊夢が周囲に札を展開したのを見て、魔理沙も飛び出し、

 

「威嚇ってね」

 

と、数本のレーザーを照射した。

 

 

「恋符【ノンディレクショナルレーザー】!!」

 

 

 魔理沙の横に浮く発射装置から放たれる虹色の光線。

 

 それらは交わりあい、離れ合いながら幽々子の周囲を攻撃した。

 

「さて、どうなるかなぁ……」

 

魔理沙は幽々子を注視する。

 

 すると、

 

 

 

「……」

 

 

無言の幽々子は片手を挙げると、その掌から放ったオーラでレーザー全てをかき消してしまった。

 

 

「おいおい! まるごとパーかよ!! 流石にそれはズルいぜ!?」

 

「大丈夫よ魔理沙、お陰でスキが生まれたわ。後は任せて!」

 

 慌てる魔理沙をよそに、霊夢は準備を整え、宣言した。

 

 

「少しの間……大人しくしてなさい!

 

夢符【封魔陣】!!」

 

 

 念押しで強めに込めた霊力による陣が幽々子足元に敷かれ、彼女の動きはかなり鈍り、呪いのオーラもほぼ漏れなくなった。

 

 

「流石は巫女様だな」

「今の内になんとか策を講じましょ」

「あぁ」

 

二人は妖夢らのところへ駆け寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あのオーラは……」

 

 

 時を同じくして、星羅は幽々子の呪いオーラに、既視感(みおぼえ)を抱かずにはいられなかった。

 

「……何か知ってるの」

「……まさか」

 

妖夢に聞かれ、星羅は呟く。

 

 

 

「夢に出てきた暗い幽々子さんと、今の呪われた幽々子さんは……身を包む感じがまるでそっくりなんだよ」

 

 

「……えっ……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのオーラは……

 

 

 何かをしてしまう事への、恐れ。

 

 何かに対する、自分への、哀しみ。

 

 何かをしてしまった事の、辛さ。

 

 

 

 そして……死への、孤独な気持ちだ。

 

 

 

 いつもの幽々子さんからはとても感じなかった感情だ。

 

 でも夢の幽々子さん、そしてあの時話しかけてきた声。あの感じは……間違い無く、今幽々子さんを包むモノだ。

 

 

 そしてなぜかそれを理解出来る……ような気がする。

 

 

 さっき薄っすら記憶に蘇った、そういう「過去の負の思い出」

 

 それをぼんやりと感じていたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 ポケットに入ってた、三枚目のメモリを取り出す。

 

 

 今隣りにいる、彼女の物と同じ刀が描かれた……白銀のメモリ。アクセントになっている黒が映えるメモリ。

 

 もし。

 本当に、彼女の記憶から生まれたのならば。

 

 

 

 

 

 なら……今私に、出来る事は…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

「妖夢、考えがあるの」

 

「え?」

 

「でもこれは賭けに等しいかも……だけど、私に賭けてくれる?」

 

 

「……」

 

 

 星羅はメモリを妖夢にかざす。

 

 メモリのイラストは色付き、桜の花弁の舞う中輝く刀のものへと変わった。

 

 

「……それは」

「……妖夢、聞いてくれる? コレについても」

 

 

 

「………………、わかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、動きは止められたけれど」

 

 合流した霊夢が言う。

 

「どうやって……幽々子を助け出す?」

 

魔理沙が早速進言する。

 

「今のあいつは呪いに乗っ取られた……所謂、傀儡ってヤツだ。しかも幽々子本人はなぜか知らないが死にたがってる……そんな状態で、あいつから呪いだけ切り離すのはキツイんじゃないか」

「そうね……あまりやりたくないけど、最悪の場合幽々子ごと成仏させて消滅に持ち込むしかないわ」

 

 

 唸る2人に、星羅が言った。

 

 

 

「……ねぇ、2人とも。

 

 

ここは私と妖夢で、幽々子さんを助け出したいんだけど」

 

 

 

 予想外の発言に、真っ先に魔理沙が突っ込んだ。

 

「……はぁ!? どういう事だよ、星羅に妖夢」

「……何か作戦があるの?」

 

霊夢も驚いているようだが、すぐに問いだしてくる。

 

 星羅は白銀のメモリを取り出し、

 

 

「コレが……多分、幽々子さんを助けるには不可欠なんだよ」

 

 

と、言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まず、幽々子さんを覆う呪いは西行妖から溢れてる。いくら幽々子さんを助けられても……」

「また呪いに引き込まれるって事、ね」

「そう。だから、オーラの元……西行妖のあの傷口もろとも浄化しないと、幽々子さんは助けられない。だから、2人は木の傷を塞いで幽々子さんのオーラの供給源を断ち切って」

「わかったわ」「任せとけ」

「そしてオーラが薄まったスキを突いて……私と妖夢で、幽々子さんと呪いのオーラを分断してそのまま溢れてる妖気を浄化する。これには妖夢の、白楼剣がいる。さっき聞いたんだけど、これには成仏させる力があるはずだから、それで呪われた幽々子さんを助ける……って事」

「うん、了解したよ」

 

 一通り説明し終わると、魔理沙が言った。

 

「で、そのメモリは何なんだ?」

 

 

 

 

 星羅はメモリを見せて、こう言う。

 

 

 

「……これは、妖夢の記憶から生まれたメモリだよ」

 

 

 

 

 

 

「………………、だろうな」

 

 魔理沙は頷いて、霊夢に首を振って促す。

 

「霊夢」

 

 霊夢は少し申し訳無さそうに、

 

「あのね星羅、私たち……だいたいわかってたのよ、ソレの事」

 

と言った。

 

「えっ……」

 

 

 

 

________________

 

 

 

 襖から妖夢と星羅の会話を聞いた霊夢と魔理沙。

 

 2人はある結論に至った。

 

 

 

「あいつのメモリは、あいつ自身に何かしらの記憶が蘇るか何かしたら生まれるはずだ、と仮定するぞ」

 

魔理沙は人差し指を立てて言う。

 

「んで、それが成り立つなら、今の星羅には妖夢に関連するメモリがあるはずだ」

「どう使うのかはわからないけど、これから必要……って事?」

「そ。つまりは幽々子の身に何かあったら……だろうな」

「……もしかしたら……」

 

 

「「妖夢のメモリが、これからのカギ、か」」

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか本当にあるとは思わなかったが……これならあの時の仮定は正しそうだな」

 

魔理沙はそう言い、メモリを眺める。

 

「にしても妖夢の刀にそっくりなイラストだぜ。やっぱ妖夢のものからできたっぽいな」

「断片的な記憶からメモリを作っていいのかしら」

 

霊夢はそう訝しみつつも、星羅にこういった。

 

「ま……これしか今のアイツ(幽々子)を救う手段が無さそうだし、考えているヒマも無いわ。

 

……やるからには、成功しなさいよ」

 

「……わかった」

 

 星羅はそう答えると、妖夢の方を向いた。

 

 

「……妖夢、行くよ!」

「えぇ。幽々子様を救い出して……呪いを断ち斬る。力を貸して、星羅!」

「もちろん!!」

 

 

 

 4人は各々の武器を構え直し、幽々子に再び向き合う。

 

「……みんな、今からアイツの結界を解くわ。そしたら星羅と妖夢はアイツを、魔理沙は私と一緒に呪いの桜を。だったわね、星羅?」

「うん。幽々子さんは私たちに任せて!」

「幽々子様は必ず助ける。霊夢と魔理沙は西行妖をお願い!」

「へっ、言われなくたってやってやるさ!」

 

 

 

 

 

 ……そして。

 

 

 

 

 

 

「幽々子様……今、助けてみせます!」

 

「……せーの!」

 

 

「「「「はぁぁぁっ!!!!」」」」

 

 

 

 

 

 一斉に駆け出す。

 

 呪われた黒いオーラを打ち破り、幽々子を助け出すために、4人は走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

「封魔陣、解除! 攻撃が来るわ!」

 

 

 霊夢の声と同時に、幽々子を覆う陣が解除され、オーラが再び噴き出した。

 

 黒いオーラが各々を襲うも、一斉に飛んで回避。

 霊夢と魔理沙はそのまま攻撃を掻い潜って西行妖へ向かった。

 

 

「オーラは攻撃で消せないから、躱すしかない!」

「私がカバーするから、回避に専念して!」

「うん!!」

 

星羅は妖夢にサポートされながら、縦横無尽に飛び回って回避行動を取り続けた。

 

 

「……スペルメモリ! 星剣【バスターソード】! これで切り抜けるしかないか……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ふ、吹き飛ばされるぅ〜!?」」

 

 

 

 

 能力無視の呪われた瘴気が、2人を襲う。

 

 

 

 

「ぬぁあ……な、なんだこりゃあ!?」

「……相当根に持ってる呪いねぇ!?」

 

 

 霊夢、魔理沙は木の幹から溢れる呪いのオーラを塞ごうと近づいていたが、あまりにも勢いが強過ぎて、むしろ押し返されていた。

 

「はいこれ結界!」

「おわっ、なんか言ってから張れよ!?」

 

 霊夢は即興で作った、流線型の結界を魔理沙に強引に張り付け(叩きつけ)ると、自分は二重結界を発動してオーラを防いだ。

 

「流石に一筋縄じゃいかなそうね」

「……くそ、どうする?」

「考えてる暇は無さそうなんだけど?」

「わかってる! つってもなぁ……」

 

 

 2人は一瞬考えを巡らせると、同時に結論を出した。

 

 

「「……手伝ってよ、霊夢」魔理沙」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2人は箒にまたがり、西行妖に向き直る。

 

 

「魔理沙、しくじるんじゃないわよ」

「おぉ、任せろ」

 

 

「マスタースパーク、霊力増強版! ファイアーだぜ!!」

 

 

 

 箒の後部に取り付けたミニ八卦炉が点火、同時に霊夢は再び結界を展開した。

 マスパの反動による勢いでオーラを突き抜け、爆進する。

 

「うおおおお、それでもきっつ!!」

「何年分のオーラなのよ!?」

 

阻む呪いを打ち破り、2人はその切り傷に辿り着く。

 

 

「そーれっ!!」

 

 魔理沙は木に刺さったブレイドの遺した剣を思い切り引っこ抜き、自身の弾幕レーザーで焼き切った。

 あっさり破壊できたことから、恐らく星羅の一撃がかなり効いていたのだろうなと、魔理沙はぼんやり思った。

 

 

 そうしたら今度は噴き出す呪いオーラが倍増したので、霊夢は結界に更に力を込めていく。

 

「さぁ、霊夢! 結界もだが、あの穴を塞いでやれ!!」

「わかったわ!! 行くわよ!」

 

 

 

「夢想封印! てやあっ!!」

 

 

 

 虹色に輝く光。

 それらが一つひとつの封印の(たま)となって、西行妖を照らし、オーラをみるみる鎮めてゆく。

 

 

 どんな悪霊、神、妖怪、その他あらゆる「対象」を絶対に封じるのが、霊夢の技であり、特権。

 

 夢想の光は、呪われた気をかき消し、噴き出す穴を文字通り完全に封じた。

 

 

 

 

「よし……星羅! あとは頼んだわよ!」

「その亡霊お嬢さんをさっさと開放してやれ!」

 

 霊夢と魔理沙は振り向き、希望のカギ宿す、期待の新人へ叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 防戦一方な妖夢と、彼女の横からバスターを幽々子に当てないよう乱射する星羅は、段々疲労が貯まってきていた。

 

「これ以上は辛くなってきたよ……?」

 

「幽々子様っ! 聞こえているなら……!!」

 

 

 

 そこへ、転機が訪れた。

 

 

「…………う」

 

 

「! 幽々子様!」

 

 

 暴れる幽々子がやっと、その動きを止めた。

 

 霊夢たちがやったに違いない、またとない機会、絶好のチャンスだ。

 

 

「星羅!」

「……あぁ、幽々子さんを助けるんだ!!」

 

 

 星羅は妖夢のメモリを取り出す。

 

 すると、まるで反応するように、その色が光っだように見えた。

 

 

「……行くぞっ!」

 

 

《Phantasm-memory confirmed……》

 

 

 滑るように装填されるメモリ。

 銃口に宿る、春の桃色と、妖夢を表すような白銀の風。

 

 そして、発振するは全てを切り裂く刃。

 

 

「はぁぁぁっ!」

 

 妖夢は既に構えている。

 

 星羅にも、どう構えてどう動けば良いのか、頭に思い出された。

 

「……妖夢」

「うん。星羅を信じてる。だから……

 

 

星羅も……私を信じて!」

 

 

 

「……わかった!」

 

 

 

 

 2人は固まった幽々子に向かって飛び出す。

 

 

 

 

 

 そして、その技を叫ぶ。

 

 

 

 

《Ready,go!!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラストワード!!!

 

 

 

 

待宵反射衛星斬(まつよいはんしゃえいせいざん)】!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……断命剣……改!!

 

 

 

瞑想永弾斬(めいそうえいだんざん)】っ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無数の弾幕とともに放たれる一閃。

 

 

 

 舞い散る桜を通りざまに両断する一閃。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふたつの斬撃(スペルカード)が亡霊の幽々子の、その過去に囚われた「心」を斬りーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………ようむ……妖夢っ!」

 

 

 

 

「幽々子様!!」

 

 

 

 

 

「星羅も……来て、くれたのね……!」

 

 

 

 

「幽々子さん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「幽々子様…………

 

 

おかえりなさい!」

 

 

 

 

 

「ただいま……妖夢!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その真っ黒な呪いを突き破って、半人半霊の少女は、信じた仲間たちとともに、愛するお嬢様を救い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁああああっ!!」

 

 

 

 

 

 そして、星羅の光刃が、幽々子と呪いのオーラを断ち切り、

 

 

 

 

眩い光とともに、

 

 

舞い散る桜の花弁とともに、

 

 

 

その身を、ついに取り戻すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は本当に、ごめんなさい」

 

 

 幽々子は頭をぺこりと下げて、救い主4人に感謝と詫びの礼を述べた。

 

 

「全く……いつから気づいていたのよ、あと気づいていたなら妖夢(こいつ)に話しときなさいよ」

「そうだぜ。終わった事だからまぁいいけどよ、もしどうにかならなかったらどうするんだよ」

「…………」

 

 

「……あの、幽々子様」

 

 

 妖夢は突然、幽々子にむかって言った。

 

 

 

 

「……私を置いて……死のうだなんて…………考えないでくださいよ……」

 

「……!」

 

「幽々子様……幽々子様のばかぁ……っ!」

 

「妖夢……」

 

 

「うわぁあああん……」

 

 

 そして泣きしゃくりながら幽々子に抱きつく。

 

 

 

 

「……幽々子、説明してくれ。お前が何をしたかったのかを」

 

 

「…………えぇ」

 

 

 

 魔理沙の問いに、幽々子は答え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

___________________

 

 

 

 

 

 

 

 ーー春雪異変の、数ヶ月後。

 

 

 

 

 幽々子は西行妖を通るたび、なにかの声を聞いていた。

 

 

 

 

 

 

〈…………私が……全てを殺した〉

 

 

 

〈私のせいで……皆が居なくなる〉

 

 

 

〈私がいるから……全てが目の前から消え去る〉

 

 

 

 

 

 

 それらは、幽々子が亡霊になる過程で欠け、落とした記憶。

 

 

 【死に誘う程度の能力】

 

 

 それにより周囲から拒絶され、そして死に至らせる。

 

 その哀しき記憶だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつからか、幽々子は西行妖もろとも、この世から消えようと考えるようになった。

 

 幻想郷に、妖夢に、こんな事で不安をかけたくなかったのだ。

 

 

 

 

 自分の過去(のうりょく)で、他人(だれか)をまた失いたくなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして幽々子はいつかはこのような日がくるかもしれないと思ってはいたが、

 

 

「半霊がいなくなる」「星羅がその過去を垣間見る」というきっかけでそれを(強制的に)実行した事に、はじめは抵抗が無かった。

 

 

 

 

 

 

 だが、意識の奥底で、幽々子は見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分のために、戦う少女たちを。

 

 

 

 霊夢を、魔理沙を。

 

 

 妖夢を。

 

 

 そして出会ったばかりにも関わらず、妖夢の大切なひとだから、というだけで、その不思議な「メモリ」を使って自分を助けようとする、星羅を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幽々子は思った。

 

 

 

 

「なんて浅はかな事で、この世を去ろうとしたのだろう」と。

 

「皆を置いて行ける訳がない」と。

 

 

「私は皆とともに、今を生きていいんだ」と。

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして私は妖夢に救われた。過去の哀しみも、今への苦悩も全て救ってくれた。なんて言っても言い切れないほど……感謝しかないわ」

 

 

 幽々子は涙ながらに、妖夢を抱きしめた。

 

「ありがとう、妖夢。あなたは本当に……私の誇りよ」

 

「はい……ありがとうございます……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「良かった……」

 

 

 星羅はそんな2人を眺めながら、あの時見た夢がフラッシュバックしていた。

 

 仲良さそうに笑いながら歩く2人。

 

 今なら断言できる。

 あれは……幽々子さんと、幼い妖夢で間違い無い。

 

 

 昔からの思い出は、時が流れてもずっと、その2人を繋ぐ絆として生き続けているのだ。

 

 

 星羅は妖夢のメモリ、「瞑想永弾斬」を見つめる。

 

 いつもの輝きを取り戻した桜の木の光に反射して、鮮やかな光を放っていた。

 

 

「コレが、冥界の春の、本当の訪れ……かも、ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 西行妖に、ひとり歩み寄る者。

 

 幽々子は桜の木の幹に触れると、振り返って、その「影」に語りかけた。

 

 

「……呪い、打ち勝ってみせたわ」

 

〈……そう〉

 

「でも……ありがとう」

 

〈? “私”はあなた()を殺そうとしたのよ〉

 

「でもおかげで……とても大切な事に、改めて気付かされたわ」

 

 

 幽々子の視線が、白玉楼へ向く。

 

 

 視線に気付いた妖夢がこちらに駆けてくる。

 

 

「とても……とっても大切なものに、ね」

 

〈…………〉

 

「でももう呪いはこりごりだわ」

 

〈大丈夫よ。“私”はもう、あなたのところに現れない。あの子が……過去のしがらみもろとも、私とあなたの繋がりを斬ったから〉

 

「……そうね。“あの子”のおかげ、ね」

 

〈……〉

 

「……」

 

〈……じゃあ、またね〉

 

「ええ、いつかまた、ね」

 

〈それまでは……〉

 

「それまでは……」

 

 

 

 

 

 

 

「どうか、安らかに眠ってね」

〈どうか、幸せに暮らしてね〉

 

 

「〈さようなら、(あなた)〉」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくして、妖夢が幽々子のところに着いた。

 

 すっきりした表情を見て、妖夢は全てを悟った。

 

 

 

「……お別れ、済ませたんですね」

「えぇ、だって自分との会話だもの」

「あは、そうですよね」

「さ、戻って星羅ちゃんを祝福しなきゃ。私を助けてくれた立役者としてね」

「はい! 幽々子様のおかえりなさいパーティもですよ!」

『半霊も頑張りますよ』

「ふふ、美味しいご飯、期待してるわよ〜」

「『もう、幽々子様ったら!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の過去で迷ったが、居場所(帰るべきところ)とご飯の事だけは絶対に彷徨(まよ)わない亡霊と。

 

 実力も相方(・・)とのコンビもまだまだ半人前だが、主人への想いは立派に一人前な半人半霊の剣士。

 

 

 2人は手を繋いで、自分たちのために大いに善戦してくれた少女の元へ歩いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 満足するまで5人は食べまくり、そして霊夢たちは帰る事にした。

 

 

「ありがとう星羅、おかげで幽々子様を救えたよ」

「うぅん、私からもありがとう。妖夢、これからもよろしくね!」

「うん!」

 

 

 星羅と妖夢、2人は固い握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久し振りにたくさんご飯を食べれたわ」

 

 

 霊夢はその帰路をたどりながら、幸せそうな顔でぼやいた。

 

 神社の性質上賽銭のたまらない霊夢はあまりこういうご馳走にありつけないのだ。

 

「お腹いっぱいだわ」

「私も久々にたらふく食ったぜ」

 

魔理沙も頷いて肯定し、後ろの星羅に言う。

 

「にしても星羅、お前今回はお手柄だったな!」

「えへへ、それほどでもないよ〜」

 

「アンタ確かに謎は多いけど、なんか全部いい方向持ってくわね……やっぱ気にし過ぎだったかもね」

 

 照れる星羅に、霊夢が今度は冷やかすように言った。

 

「だったらなんでも屋としての実力を見込んで、これからもっとこき使おうかなぁ〜」

「え?」

「もちろんなんでも屋なんだから、なーんでもやってくれるんでしょ? 何を頼もうかなぁ〜」

「ちょ、ちょっと霊夢! へんなこと言わないでよ!! へんなこと言われてもやらないよ!!!」

「はは、冗談よ冗談!」

「星羅本気になり過ぎだぜ!」

「んもぉー!」

 

 

 あっはっは、と3人は笑う。

 

 

 

 

 辛い戦いの後は、誰かの幸せと笑顔が待っている。

 

 

 なんでも屋も、案外上手くやって行けそうだ。

 

 

 そんな事を星羅は思いながら、2人といつまでも笑い合うのだった。

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、記憶喪失のなんでも屋は、彷徨わない亡霊を縛る呪いを、その従者である半人半霊の剣士とともに救い出し、再び機怪の野望を阻止した。

 

 

 だが、謎も確かに増えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 星羅がゆっくり眠りについた夜。

 

 

 その夜空に浮かぶ月は、紅色に輝く三日月だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Continue to the next phantasm……

 

 




 次回はみんな大好き紅魔館!
 レミリアはカリスマブレイクするのか!?
 めーさく展開はどーなるのか!?
 パッチェさんは「むきゅー」と言うのか!?!?
 乞うご期待!


 すいません調子乗りました。
 多分殆どやらないと思います……。

 でもキャラが増えて賑やかになるとも思います。


 重ねますが新年もよろしくおねがいしますね。




訂正
 一部表現と誤字補填をしました


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三章 〜星羅と咲夜と悪魔のお城〜
012. 幻創の記憶


 新年早々ダンマクカグラにて賭博なイベントを走るなんでも屋です。
 ダンカグは楽しいね。

 今回からは紅魔郷編。

 プロローグ的な内容なのでかなり短めです。



 

 

 

 

 

 

 

 どんな人間や妖怪、幽霊、神にさえ、

 

何かしらの「時間」の概念がある。

 

 

 好きなことをして楽しんだ時間。

 

 大切な誰かとともに過ごした時間。

 

 無駄にしてしまい後悔した時間。

 

 もう振り返りたくないような時間もあれば。

 

 思い出せば元気が出るような時間もある。

 

 

 

 そしてその「時間」は、全て「記憶」とともに、その時間を過ごした者の中に留まり続ける。

 

 忘れてしまい二度と思い出さない記憶も、どれだけの日数を経ても忘れられない鮮明な記憶だってあるだろう。

 

 

 

 

 

 ーー当然、時間は常に進み続ける。

 

 

 だからこそ思い出して懐かしんだり、嘆いたりできる。

 だが時が流れれば、記憶を忘れてしまえば、その時間は記憶とともに永久に失われる事となる。

 

 

 

 

 ーー時間を止められたのなら……

 

 その記憶は、忘れる事は無くなるのだろうか。

 

 

 

 

 

 その記憶を、忘れられる事は無くなるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 ーーその人にとっての一瞬を、“私”とずっと共有できる、のだろうか…………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよ〜……」

 

「おはよ、星羅。珍しく寝起き悪い顔をしているわね」

 

 

 

 

 

 博麗神社の片隅、そこに建てられた小屋。

 

 

 「星羅のなんでも屋」本店。

 

 

 

 

 そこから出てきた星羅は、どこか眠たげで虚ろな表情であった。

 

 

 

「……また、へんてこな夢でも見たの?」

 

 霊夢の問いに無言で肯定する星羅。

 相変わらずのボロコートを羽織り、目をこする。

 

「アンタの夢は正夢になりやすいからなぁ」

 

 はぁ、とため息をつくと、お茶を淹れに奥の方へ一度引っ込んでいった。

 

 

「……」

 

 さっきまで霊夢の座っていた縁側に腰掛けると、星羅はコートの半分欠損した袖に手を通す。

 その生地には、僅かな焦げ跡……擦れ跡ともとれる、細かな傷や穴がついていた。

 

 今更気になって仕方ない、どうしてこのような傷を作ったのかを。そもそも喪失しているとはいえ傷を作る原因が思い当たらない。

 

 

 

 ーー霊夢の言う通り、変な夢を見た。

 

 

 時計台のような場所で、語りかけてくる「誰か」の夢。

 

 感覚的には、三日前の半人半霊騒動において見た、妖夢の記憶(メモリ)に通ずるものがあった気がしていた。

 

 

 自分に関する記憶ならば、スペルメモリのP C S(プラズマチャージショット)の時のように、思い出したという感覚があるはず。

 でも妖夢のメモリも、今朝の夢も、思い出したというよりも「観せられている」という感覚が大きかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………私は、何を観せられているんだろう。

 

 

 

 

 

 

 他人の記憶を観てるなら、その理由は?

 

 

 

 

 

 

 

 

「__ら、せいらー? 星羅?」

 

「……っ?」

 

 霊夢の声に我に返った星羅は、反射的に左を向いた。

 

 霊夢が小さなおぼんにお茶を乗せて持っている。

 

「……アンタ朝だからかぼさっとし過ぎよ」

「……あ、ありがと」

 

一口飲んでみる。

 

「あつあつにしておいたから目が覚めるでしょうね」

「うわっつ!? 先にいってよ!?!?」

 

思っていたよりも熱くて吹きかける。

 

「……っぶねぇ……死ぬかと思ったじゃんか!?」

「ごめんごめん、でもおかげで覚醒した?」

「……うん、まぁそうだけどさ……せめてもう少し早く言ってよぉ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「いただきます」」

 

 白ご飯に味噌汁、焼き鮭。

 博麗神社の朝飯セットだ。

 

 ……言うまでもないがフツーの和食である。

 

「悪いわね、毎度まいど同じご飯で」

「別に。むしろ安定してて良いよ」

「そう、なの?」

「苦手でもないしね。あとシャケ大好き」

「あら」

「お正月にはシャケを食え!」

「はぁ?」

「何でもないです」

 

 

流石に二週間ほど2人での生活を続けてきたので会話もお互い慣れてきた。

 

 星羅も「幻想郷流の会話」(という名の回りくどいユーモア)を知り、霊夢との話も合うようになってきたのである。

 

 ……逆に星羅が無意識(?)で発するネタには霊夢が疑問符を浮かべる始末だが。

 

 

 

 

「それでさ、アンタどんな夢見たのよ」

 

 しばらく食べたところで、霊夢が話を振った。

 

「一応聞かせて、何かしらわかる事があるかも知れないから」

「えっとね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女説明中……。     Now explanationing……

 

 

 

「この演出いる?」

「知らない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど、時計台の中で響く声……ね」

 

 霊夢は心当たりがあるような反応を見せた。

 

「その時計台は紅かった?」

「……多分」

「ナイフはあった?」

「多分」

「声は冷静な感じ?」

「多分」

「霧は出てた?」

「多分」

「多分以外言わないのやめなさいよ!?」

 

「……こほん、でも私の予想は合ってたみたいね……」

 

 霊夢は人差し指を立てて言う。

 

 

 

 

 

「それは……十六夜(いざよい) 咲夜(さくや)の事だわ」

 




 パチュリーってフランのことを妹様呼びして敬語を使う……らしいですがどうなんですかねぇ。
 詳しく調べて考えます。

 紅魔館って真っ赤なお館でいいんですよね??



訂正
 前書きの補填をしました

訂正その2
 一部の表現の改訂、補正をしました


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

013. 葛藤の中で

 前回のお正月シャケネタわかる人はわかる。といいなぁ。


 どうもなんでも屋です。
 新学期なこれからが一番しんどい。頑張ります。




「はい、あなたが用意してほしいって言ってたモノ。作っておいたわ」

 

「おおー、悪いな。コレで戦いやすくなる……かな」

 

「それにしてもどれだけ強いのよ? 私もついていこうかしら?」

 

「お、だったら助かるぜ。どうせならあいつに会ってくか?」

 

「そうね、丁度用事があったのよ」

 

「よし、早速出発だ。行こうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法の森のとある場所。

 

 

 都会な、今風な、しかし外見の割に森に馴染む、そんな家。

 

 

 

 ドアの横に立てかけられた、魔法の箒を、一体の人形(オートマタ)がぼうっと眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ドアが開かれると、その人形はぱっと箒から離れて、ボブカットの金髪少女の肩の方へ飛んだ。

 

 

 

 

「お前、ずっとここにいたのか?」

 

 

 

 

 

 

 

「さ、行きましょうか、上海(しゃんはい)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

 

 

「それは、十六夜咲夜の事だわ」

 

 

 霊夢は星羅の見た夢から、彼女の観せられたものの正体を当てた。

 

 

 時計、紅い館、メイド。

 

 幻想郷において全てが当てはまるのはひとりしかいない。

 

 

「……咲夜、さん?」

「そ。湖のところに、紅魔館(こうまかん)っていう大きな西洋風の館が建ってるのよ。そこにいるメイドの名前よ」

「……メイドさん?」

「クールで吸血鬼に仕えている話の通じないヤツ。会えばまぁわかるだろうけどさ」

 

 メイドかぁ、というような面持ちの星羅。

 古風な幻想郷の面を多く見てきた彼女にとってはなんとなくイメージが湧かなかったのだ。

 

 そもそも自分がメイドにどういうイメージを抱いてきたのかも曖昧だが。

 一瞬、メイドがたくさんいる喫茶店のビジョンが浮かんだのは気の所為だろうか。

 

 

「幻想郷なのに……、メイド?」

「何か変なの?」

「……だって……なんというか西洋式な感じじゃん?」

 

と星羅が疑問をこぼすと、

 

 

 

「幻想郷は全てを受け入れるのよ。……それはそれは、残酷な話ですわ。

 

って、これはもう言ったかしら」

 

 

 

「……うげっ」

「紫さんだ」

 

 と、誰もが面倒くさがる人物が出てきた。

 しかも逆さで。上からスキマを通して。

 

 

「ご飯に髪の毛入るからやめて」

「あら食事中だったのねごめんなさーい」

「紫!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「幻想郷は何でも入って来れるのよ。和とか洋とか関係なく、いかなるものでも……ね」

 

 紫はさり気なくスキマから神社の湯呑みを持ってきてお茶を淹れながら、星羅に説くように話し出した。

 

「非常識はいつでも受け入れられる。常識はいずれ弾かれる。そんな世界なのよ。紅魔館の面々は受け入れられたメンバーだったのよ」

「……そっか、そういう事ならいいや」

 

 納得した様子の星羅。

 霊夢は少し不思議がった。

 

「……? 珍しいわね」

「えっ」

「いや……外来人は大抵、幻想郷の常識にそんなすぐには納得できないのよ」

 

 そういう連中を、霊夢は何人か見た事がある。

 山のてっぺんにやってきた神社の風祝(かぜはふり)とかはその印象が大きかった。

 

「ま、アンタは例外かもしれないけどさ。気にしないで良いわ」

「ふーん」

「あら、霊夢ったら意外にも面倒見の良いのね。紫、関心しちゃったわ」

「うっさい」

 

 母性的な態度を見せる紫を無視し、霊夢は続ける。

 

「それで……アンタの夢、どうせメモリ繋がりでしょ」

 

「流石、勘の鋭い巫女さんだね」

 

 

 と、星羅はメモリの入ったポケットを漁る。

 

 ……だが。

 

「……あれ」

「どうしたのよ」

 

 どうやら違和感(メモリが増えている感覚)が無いらしい。

 

「? ? 何しているのふたりとも」

「どーせ分かってるでしょう紫、とぼけないで」

「……ふふ、そうね」

 

 紫はあれあれと言いながらポケットに手を突っ込む彼女に向き直ると、

 

 

「全部出してみなさい」

 

と言った。

 

「え? ……はい」

「紫、また回りくどいヒントを……」

「あら? 今のは貴女の性格くらいストレートに助言したつもりだけれど」

「あのねぇ……」

 

 

 言われるままに、星羅はメモリを卓上に置いていく。

 

 

 プラズマ光弾のイラストが描かれた蒼色のメモリ、弾符【P C S(プラズマチャージショット)

 ビームサーベルの描かれた赤のメモリ、星剣【B S(バスターソード)

 この間生まれた妖夢とのモノである、黒に銀のメモリ、断命剣・改【瞑想永弾斬】

 

 

 と、星羅は4枚目を取り出した。

 

「あ、コレ……」

 

 

 それは、色もついていないメモリ。

 銀なのだが塗料というより鉄色。灰色にも見える。妖夢のは白銀だが、コレは黒い。

 

 無着色のメモリだ。

 

 

「なにこの不良品」

 

 霊夢がぼやくと、紫はイラストを指差した。

 

「でも色が無いだけみたいよ」

 

 

 そこには丸いアナログ時計が描かれている。

 

「……あ、これは咲夜だわ」

 

霊夢は速攻で納得した、アナログ時計を「持ち歩く」のは彼女しかいない、と思ったようだ。

 

 

 紫もふふ、と笑うと、スキマを開いた。

 

「それじゃ、今日の私の出番はお終いかしらね」

「珍しいわね、そそくさと帰るなんて」

「まぁ、やる事があるのよ」

「そのまま二度とこの作品からの出番なくなればいいのに」

「ひどいわ」

「霊夢メタいよ」

 

 紫はスキマへ片脚を入れ、今一度霊夢を向いた。

 

「そうそう霊夢。ひとつだけ」

「……何?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局機怪については何も分かってない。

 

 

 

 

あのコトバ……少なくとも今は、忘れないことね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう残すと、紫はそのまま、百目覗く空間の中へと、ゆったりと退場していった。

 

 まるで、全てを見通すかのような視線を、霊夢に注いだまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの目、苦手。ヒントをよこすなら、もっと明白にして欲しいわ」

 

 霊夢はため息を吐いて、両手を合わせた。

 

「ごちそうさまでした。アンタも早く食べなさいよ」

「うん」

 

 食器を重ねて霊夢は奥へ歩いていく。

 

 メモリを眺めたまま、星羅は生返事(その場しのぎ)で返した。

 

 

 

 

 ーー機怪、か。

 

 奴らは意味深なセリフと共に、共通するコトバを吐いている。

 

 

 

 

 

 

[創造主]

 

 

 

 

 

 そのコトバの視線は、

 

 

 

 

 

紛れもない私だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鋼鉄の身体の侵略者と、メモリにはやたらと似かよった点が多い。

 

 もし、奴ら言う[創造主]が、私ならば。

 

 

 

 

 

 私はこのメモリで、メモリの観せる夢の人物を守らなければならないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 星羅はさっさと食事を済ませ、霊夢を呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいやーーーっ!!!」

 

 

 

 

 

 爆発と共に吹き飛ぶ破片。

 

 パーツや武装が残余として散らばる。

 

 

「ふぅ、全く。私も越えられないんじゃ、お嬢様への謁見どころか、ここにやってくる資格もありませんよーだ」

 

 

 ぱんぱんと手をはたき、「龍」印の星型バッジのついた帽子を直すと、その残骸の歯車を拾い上げた。

 

「……河童に渡したら、喜ぶかな。

 

咲夜さーん! 処理、完了です」

 

 

 

 緑の中華服を纏った、赤髪の妖怪の門番。

 

 真っ赤な館の扉を背に、紅 美鈴(ほん めいりん)は頼れる上司(メイド長)の名前を呼んだ。

 

 

 

 

 

「……まぁ。流石は門番ね、お疲れ様」

 

 

 唐突に現れる彼女。

 

 白に紺色のメイド服、短く整えた銀髪。

 美鈴とお揃いの三編みをもみあげからたらし、片手に懐中時計を握っている。

 

 

「咲夜さん、時間操作で突然現れるのやめてくださいよ、ビビります」

「これが一番早い移動の仕方なのよ」

 

 

 紅い館のメイド長、十六夜 咲夜(いざよい さくや)は、散らばった侵略者の残骸を、何か言いたげに見つめていた。

 

 

 そして言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お嬢様へ知らせて。

 

ここに、いずれ本格的な侵略者が来る、と」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 紅魔郷より妖々夢を先にしたのは、人がいきなり多すぎると敵がやたら強くないといけなくなるからです。
 だって紅魔館メンツ手練ばっかりなんですもん。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

014. 霧中の真実

 ※爆発しません。


 紅魔館に向かう星羅、そして魔理沙とアリス。
 一方霊夢は何を思うのか。



 ところで最近。
 正月更新ラッシュに今更気付いたのでこれからは気をつけます。ははは……。
 それから、同時並行で物語の一部改訂を進めております。
 今のクオリティに合わせる、とまではいきませんが(暫定的判断ですが)、1マス空けたりルビをふったりしています。

 あのシーンが少しだけわかりやすくなっていたり、語彙が変で難解だったセリフがまともになってたりするので、気になったら探してみてください。




 不思議な夢と共に星羅に与えられた、新たなるメモリ。

 

 無彩色のそれのイラストから、紅魔館のメイド長・咲夜のメモリだと推測する霊夢。

 そんな霊夢に紫は、機怪のコトバをよく考えておきなさいと改めて忠告する。

 

 一方紅魔館では、既に機怪の刺客が現れており、美鈴と咲夜は彼女たちの仕えるお嬢様に報告する事にした。

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

「……はぁ」

 

 

 

 

 

 人間の里。

 

 今朝から重い話で気が滅入りそうだった星羅は、頭を整理するのも兼ねて、気晴らしといってはアレだが散歩をしていた。

 

 

 

 

「おはよ星羅、散歩か?」

 

 

 通りかかった少女に声をかけられた。

 

 言わずもがな、魔理沙だ。

 

 もう一人、魔理沙より少しだけ背の高い少女を伴っている。

 ノースリーブの青いワンピースに、肩にケープのような羽織物を、脚には茶色のブーツをそれぞれ着用している。頭は短く整えられた金髪に赤いリボンがヘアバンド風に巻かれており、腰にはリボンで縛られた一冊の本が下がっていた。

 そして、その肩には2〜3等身ほどの人形が、2体ほど捕まっている。

 

 星羅は「気晴らし」と答えるのはどうかと思い、こう返事をした。

 

「……んまぁ、暇なもんでさ。……あれ、そっちは?」

 

 魔理沙の横の少女に気付くと、魔理沙が答えた。

 

「ああ、お前は初めてだったな。紹介してやるぜ、こいつはな……」

「あなたに紹介されるくらいなら、自分でやるわよ」

 

そう遮って、彼女は自己紹介をした。

 

 

「私はアリス・マーガトロイド、都会派な魔法使いよ。あなたの事は魔理沙から聞いているわ、星羅よね。どうぞよろしく」

 

 

 ぺこりとお辞儀をする、アリス。

 

 すると肩に乗っていた人形たちがふわりと宙を飛び、同じようにぺこりと頭を下げた。

 

「わっ、人形が動いた」

 

星羅が動揺すると、魔理沙が補足した。

 

「こいつの人形はこいつ自身の魔法で動いてるのさ。まぁよーく見れば糸が付いてるがな」

 

 言われて気付く。

 アリスの指先にはリングが付いており、そこから糸が人形に向かって張られている。

 

 なんかどこかでこういう人形劇(スーパーマリオネーション)か何かを見たなぁ、と星羅は微かに既視感(デジャヴ)を覚えた。

 

「すげぇ、あとかわいい」

「あら、ありがとう。ほら二人とも、ちゃんと挨拶しなさい」

 

 ほいと合図すると、人形たちは星羅の近くへ飛び、パタパタと両手を振った。

 

 

「シャンハーイ!」

「ホラーイ!」

「わーすっげぇしゃべるんだー、可愛過ぎる」

 

思わず撫でると嬉しそうに動き回った。

 

「上海と蓬莱よ、覚えてあげてね」

「うん! よろしくね、アリス、二人とも」

 

 

「因みにだがこいつの人形軍団はもっとたくさんいるぜ、しかもサイズもデカいやつがある」

「……人形軍団??」

「そのうち見せてあげるわ」

 

 

「で、二人はこれからどこへ?」

 

 星羅が問うと、アリスが答えた。

 

 

「紅魔館に用事があって、これから行くところなのよ」

「誘ったのは私だけどな」

 

 魔理沙が付け足す。

 

 

「……!」

 

 

 二人の言葉に、思わずはっとする星羅。

 

 

 

『そのメモリ、紅魔館の十六夜咲夜ね』

 

 

 朝の霊夢の言葉が脳裏を過る。

 

 紅魔館に向かう、いい機会かもしれない。

 

 

 

「ねぇ、ついていってもいい?」

 

「「え?」」

 

 

 突然の提案に、あ然とする二人。

 

「お前、紅魔館に行った事ないだろ、なんか用事あるのか?」

「実はかくかくじかじかでね」

「そこは説明しろよ……」

「事情があるの?」

 

 

 

 

 

 

少女説明中……

 

 

 

 

 

「……なるほどな」

 

 魔理沙は納得した。

 霊夢と共にこの間結論に至っているのだ、理解も難しくないのだろう。

 

 一方のアリスは、

 

「……ごめんなさい、よくわからないわ」

 

魔理沙から聞いているとはいえ実感のない身、完全に把握するのは困難らしい。

 

 

「安心しろ、紅魔館に行くついでにゆっくり話してやるさ」

「あなたの説明で、果たしてわかるかしら」

「まぁまぁ」

「よし、じゃあついてこい星羅」

 

 

 魔理沙は先導するように数歩先に進むと、振り返って自信満々に言った。

 

 

 

霧雨魔法店(お前のセンパイ)のなんでも屋、この魔理沙が!

 

吸血鬼のお屋敷に、連れてってやるぜ!!」

 

 

 

「き、吸血鬼〜!?!?」

 

 

 

 予想外の発言に、思わず星羅は天へ叫んだ。

 

 

「まぁそうなるわよね……」

 

 アリスはひとつため息をつくと、先をゆく魔理沙と慌ててついていく星羅の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 霊夢はひとり、神社の賽銭箱の横に座っていた。

 

 どういう訳か魔理沙もやってこない。

 珍しく人妖のひとりも現れない。

 所謂、暇人状態だった。

 

 慣れた事だ、とかつては思ったことだろう。

 

 だが、今は不思議とそのような感情には至れなかった。

 

 

 突然現れて、自分が承諾したとはいえ共同生活(という名の居候)をし始めた少女。

 そんな星羅の存在ひとつで、変わりはしないと思っていた。

 

 たかだか数週間。

 

 それだけで、ひとりきりの時間が寂しくなるなんて、思わないだろうと。

 

 

 しかし、星羅の存在はそれを変えてしまった。

 

 不思議と寂しさがこみ上げて仕方がない。

 

 なぜだろう、魔理沙の時もそうだったが、こんなすぐに心が変わるなんて考えもしなかった。

 ひとりの時間には慣れている。それは変わらぬ事実だが、そこに「早く帰ってこないかな」という感情が加わったのだ。

 

 何か、星羅には不思議なものがあるのだろうか。

 

 そもそも彼女の存在自体謎と不思議の塊でしかないが。

 

 

 自分が(あまり認めたくないけど)多くの人妖を惹き付けるように。

 

 星羅にも、そういうところがあるんだろうか。

 

 

 

 

 

 そして、霊夢を惑わせるものがもう一つ。

 

 機怪が放った言葉たちだ。

 そう、まるで、否、間違い無く自分たちを知っているとしか思えない言動のことである。

 

 

 

 初めて現れた時。

 彼女と魔理沙は敵に視認されるやいなや、名乗ってもいないのに名前を特定された。

 

 ブレイドとの対決時。

 封魔陣を見切って破壊、知っているというような言葉を放ってきた。

 

 そして、妖夢がブレイドにとどめを刺した時も。

 幽々子と西行妖の関係をはじめから見越して、あの現象を起こした。

 

 

 

 

 極めつけは、「スペルメモリの存在」

 

 機怪に対しての特攻効果がつくこと、(暫定だが)他人の記憶から一定条件下でメモリを作れること、星羅の武器はそれを運用する唯一の手段だということ。

 

 星羅が現れて以来、謎が増え続けている。

 機怪たちと星羅には、何かしらの繋がりがあるに違いない。

 

 

 

 星羅が数多の記憶と共に落とした秘密が。

 

 

 

 

 

「……っていってもなぁ」

 

 探す手段はないのよねぇ、と霊夢は呟いた。

 手掛かりは多いが立証する方法や確実な証拠は今の所かなり限定的なものしかない。

 

 

 それに、魔理沙との約束もある。

 

 

「今は……星羅が見せてくれるものに、期待するしかなさそうか」

 

 

 その時が来たならば、その時だ。

 

 そう高を括って、霊夢はお茶をまた一口飲んだ。

 

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

 (きり)(みずうみ)

 

 紅魔館が建つ、霧に包まれた大きな湖である。

 霧はそこまで濃くはないが、あまり遠くまでは見通せない程度には、視界を遮ってくる。

 ここには妖精も多く住んでおり、魔理沙たちは道中何人か見かけた。

 

 

 

 

 

 

「あたいはチルノ! 妖精で、いや幻想郷でさいきょーの、氷の妖精! これからよろしくねー!」

 

 

 

 そして今も、氷の妖精であるチルノに絡まれていた。

 

 青いワンピースに、氷が6つ羽のように背中に浮いている見た目をしていて、水色の髪に同じく青いリボンを着けている。

 態度の割に身長は星羅たちの3分の2程度、こればかりは妖精なので仕方ない。

 

 

「わぁかわいい」

「えっ、かわいい? ま、まぁそういうところも一番だし? えっへん」

「アリス聞いたかこいつチルノをかわいい言ったぞ」

「そういう人もいるんじゃない?」

 

 星羅がチルノの醸すひんやり空気と見た目のかわいさに戯れていると、奥から声がした。

 

 

「チルノちゃーん? どこー?」

「はぐれちゃだめだよ、チルノちゃーん!」

 

「あ! 大ちゃんにルーミアだ! おーい! こっちこっち!」

 

 

「? だいちゃん? るーみあ?」

「星羅、増えるぞ」

「えっえっ??」

 

 

 魔理沙の言葉通り、奥から現れたのは、緑髪の妖精と、金髪に小さな赤リボンの妖怪。

 

 

「わーお」

「ね、魔理沙の言った通りでしょう? バカが増えたわ」

「?」

 

アリスはそれを見て呟き、それに星羅は首を傾げた。

 

 

 緑髪の方はチルノより薄いワンピースを着た、いかにも妖精な羽をもつ、その名もまんま、大妖精。通称、大ちゃんである。あまり強くないが、よくチルノと共に行動している。

 

 もうひとりは黒い服を着た(一応)人食いの妖怪、ルーミア。見た目はアレだがこれでも人を襲う妖怪だ。両腕を横に上げているポーズをよくとっている。

 

 因みにこの3人は昔から一緒にいて、皆身長がだいたい同じくらいでもあり、新参者な星羅以外の幻想郷住民には馴染み深い光景だった。

 

 

 

 チルノのところに来た2人に、魔理沙が挨拶する。

 

「ようお前ら、相変わらず元気そうだな」

「あ、魔理沙さんにアリスさん、こんにちは~」

「魔理沙ー、この子は食べてもいいの?」

「第一声がソレかよ! ダメに決まってんだろ」

「そーなのかー」

 

 ルーミアにツッコミを入れておいて、魔理沙は星羅に向かった。

 

「こいつはルーミア、人食いの妖怪だ。だからってまぁ勝手に襲いはしないと思うがな」

「そーなのかー?」

「お前に言ってるんじゃない! あと私に聞くなよ自分のことだろ!? ……えーっと、こっちは大妖精、チルノとよく一緒にいるやつだな」

「はじめまして、大妖精です。チルノちゃんからは大ちゃんと呼ばれています」

「へぇ、じゃ私も大ちゃんって呼ばせてもらうね。私は星羅、幻島 星羅。よろしくね」

「よろしくねー!」

「よろしくおねがいします、星羅さん!」

「仲間が増えたね大ちゃん!」

「うん、チルノちゃん!」

 

 

 

 

 その後、3人は何処かへ遊びに飛んで行き、魔理沙たち一行は再び紅魔館へと歩みを進めた。

 

 

「妖精ってあんな感じなんだね、かわいい」

「星羅、お前らの博麗神社にも裏っかわに妖精がいるの知ってるか?」

「えっそうなの!?」

「今度霊夢に見せてもらいなさい、多分気乗りしないだろうけど」

 

 

 

 

_________________

 

 

 

少女移動中……

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

「うおおおお!? 真っっっっっっ赤!!!」

 

 

 

 

 

 霧が唐突に晴れ、視界が良好になった途端、星羅は目に飛び込んできた光景に驚いた。

 

 真紅、と呼ぶにふさわしい西洋風の洋館が現れたのだ。

 

 壁で囲われた本館の中央には大きな時計が時刻を刻んでいて、レンガ造りの建物にソレらしさを一層強くしている。

 

 これが噂の紅魔館、吸血鬼の住む館なんだ、と星羅は思った。

 

 

「よし、早速突入だぜ」

 

 

 魔理沙に続いて、星羅とアリスは紅魔館へ再び歩いていった。

 

 

 

 

 

 門の近くにはひとりの女性が立っていた。

 緑の中華服に緑の帽子、赤い髪、左右のもみあげから垂れる三編み。

 そして、

 

 

 

「…………ぐぅ」

 

 

……昼寝。

 

 

 紅魔館の門番、紅美鈴は立ったまま休んでいた。

 

 

 が、魔理沙が近づくと、何事も無かったかのようにすぐ起きた。

 

 

「んあ、起きてたのか?」

 

「寝ていても気でわかりますからね。どうせあなただろうなと思ったらほんとにあなたでしたよ、魔理沙」

 

 

 美鈴は帽子のずれを直し、そう言った。

 

 

 そして、その後ろの少女を見るやいなや、

 

 

 

「あっ! あなたは……!」

 

 

と言ったので、アリスが反応した。

 

「えっ!? 知ってるの?」

 

 

 魔理沙も思わず美鈴を凝視する。

 

 そして本人、星羅もどきっとして美鈴を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………、誰だっけ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……その一言さえなけりゃ良かったのに……。

 

 

 

 

 

 3人は一斉にズッコケた。

 

 




 少しだけギャグをいれてみました。
 シリアスとギャグとのバランスが難しくて……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

015. 紅魔の幼い月

 我らがおぜうの登場だぁ。

 レミリアの二つ名は「永遠に紅い幼き月」らしいです。
 「永遠に幼い紅い月」と勘違いしたりしなかったり。

 詳しくはニコニコ大百科さんを見ると載ってます。



 あと更新が遅くなってすみませんでした。
 冬休みが終わって忙しくって……(汗)




 霧の湖にてチルノら妖精たちに出会った後、紅魔館へやってきた星羅、魔理沙、アリス。

 

 

 門番の美鈴が、星羅の事をどこかで見たような気がするというのだが……

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

「……誰だっけ? どこかで見かけた気がしていたんですが……」

 

 

 美鈴は頭をポリポリと掻きながら、あれぇ、と記憶を辿った。

 

 

 

 魔理沙とアリスは「?」という面持ち、当の星羅は「あなたこそ誰っすか」という顔だった。

 

 

 

 しばらく沈黙が流れたが、美鈴はそれを突然破った。

 

 

「あーーーーっ!!??」

 

 

「うおお、何なんだ今度は」

「うるさいわよ」

 

 マリアリにツッコまれるが、美鈴はスルーして続けた。

 

 

「人里であなたを見ました! なんかしてるのを見ましたよーっ!! 咲夜さんと一緒に、昨日、です!」

 

 ドヤッ。

 

 

 その様子に、

 

「なんだよ……」

「あらそう……」

「びっくりした……」

 

 

 

「「「……はぁ!?」」」

 

 

3人はあ然として美鈴に視線を注ぎ込んだ。

 

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

 昨日、人間の里にて。

 

 

 お嬢のおつかいで買い物をしていた咲夜と美鈴は、里の中である人物を見かけた。

 

 

「ありがとうございましたー! また依頼があればいつでも言ってくださいね!」

「あぁ、また今度頼むぞ!」

「おねーちゃんありがとー!」

「ははっ、またねー! お世話になりました!」

「嬢ちゃん、折角だからコレ持っていきなさいな」

「ええっ、いいんですか?」

「はっはっはっ、若いモンは元気じゃねーと! その服、さっさと新しいのにしなさいよ!」

「あ、ありがとうございます……!! わぁい!」

 

 

「わぁ、見ない顔。その割に馴染んでいらっしゃる」

 

 美鈴は思わず呟いて目を丸くした。

 

 

 

 

 半分袖が欠損したコートを着た少女。

 紺色のポニーテールに星型髪留め、澄んだ青い瞳、引き込まれ

るような笑顔。

 身長は博麗の巫女くらいだろう、そんな少女だった。

 

 少女はお駄賃を遠慮がちながらも貰うと、「ごひいきに〜」と残して、博麗神社のある方へ走っていった。

 

 

 

「なんか不思議な感じがしたような……。気の所為ですかね? 咲夜さん……」

 

 美鈴はやれやれと咲夜を見やった。

 

 すると。

 

「……」

「……咲夜さん? どうしたんです?」

 

「…………気の所為、じゃなさそう……かも、しれない」

 

「えっ?」

「あ、いやなんでもないわ。私たちもさっさと帰って、おゆはん作らないとだわ」

「あっはい!」

 

 

 

 

 美鈴は気がかりな態度に首を傾げながらも、歩き出した咲夜に慌ててついて行った。

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

「……という、ことでして」

 

「ふーん」

「なるほど」

「へぇ」

 

「「「……はぁ!?!?!?」」」

「はいはいもうわかりましたからそのネタはもういいですよ」

 

 

 

 

 美鈴はその後、星羅と軽く自己紹介を交わすと、後ろの門を開いた。

 

 

「改めまして、星羅さん。詳しい事は中で話しましょう、まだ寒いですからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紅魔館。

 

 それは吸血鬼、レミリア・スカーレットとその妹、その従者、親友の魔法使いとその使い魔、門番の妖怪、そして多くの妖精メイドが住む西洋風の大きな洋館である。

 元々は外にあったが、レミリアが吸血鬼である以上世界から忘れられ、その他諸事情が重なり、幻想郷に彼女たちごと移設してきた。

 

 地下設備もろとも幻想入りしたので、地下にはその魔法使いが所有する巨大な大図書館がある。

 

 

 美鈴は3人を連れて入館すると、待っていたかのように現れたメイド……咲夜に星羅を紹介した。

 

 

「咲夜さん、こちらは幻島 星羅さんです。最近有名な、幻想入りしたなんでも屋さんですよ。確かこの間の買い出しの時、人里で見かけた子だと思います」

「……あぁ、そういえば……確かに見たわね。通りで見覚えがあると思ったわ」

「よかった、寝ぼけの夢じゃ無かった」

「何だって?」

「なんでもないです」

 

 咲夜はふむ、と右手を顎のあたりに当てて少しだけ考えを巡らせると、星羅に向き直った。

 

 

「……あなたが、星羅ね」

「あ、はい! よろしくおねがいします」

「私はここ紅魔館のメイド長、十六夜 咲夜ですわ。咲夜と呼んでもらって構わないから、よろしくね」

「はい!」

「取り敢えず……お嬢様に会わせてあげるわ。そこで色々話してくれるかしら」

「わかりました」

「じゃあ美鈴、あとの2人をよろしく」

「ういっす」

 

 

 咲夜は星羅を連れて歩いていく。

 魔理沙はそれを見て、

 

「おい咲夜」

 

と引き留めた。

 

「?」

「私も付いて行っていいか」

「あら、珍しい。パチュリー様の図書館に行くのかとばかり思ってたわ」

「単にここに来るのが初めての星羅を、ほっとけないだけさ」

「魔理沙らしくないわね」

「へっ、まぁ色々あるんだよ」

「ありがとう魔理沙」

「いいんだよ星羅、その代わりひとつ貸しで」

「えー……」

「冗談だよ、さ、行こうぜ」

 

 

 

 魔理沙も加えた3人が去ると、アリスはまだそこにいた美鈴に尋ねた。

 

 

「……パチュリーのところ、行ってもいいかしら」

「あ、どうぞー」

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

「……レミリア、さんかぁ」

「紅魔館の主、最強妖怪吸血鬼。それがレミリアだぜ」

「私はその、レミリアお嬢様に仕えているのよ」

「なるほど」

 

 

 魔理沙と咲夜に様々な質問をしながら、星羅は長い、長い廊下を歩いていた。

 話によれば、咲夜は【時間を操る程度の能力】により、時間停止や遅延、更には空間に作用してそれを広げられるという。紅魔館は彼女の能力により外見以上にかなり広くなっているらしい。

 

 このため、初見ではあまりに広すぎるので星羅は咲夜に渡された地図を見て歩いている。

 

 ……そもそもその地図自体、複雑過ぎて読み解くのすら一苦労だったが……。

 

 

 

 しばらく進むと、いかにもな扉が見えてきた。

 

「着いたわよ。大丈夫だとは思うけど、お嬢様の前ではしっかりね」

「はい」

「星羅なら大丈夫さ、咲夜。こいつやけに礼儀正しいから」

「どこぞの天狗記者じゃないでしょうね」

「ああ、私と霊夢のお墨付きだから心配すんな」

 

 

 咲夜は頷くと、扉をこんこんと軽い音をたてて叩いた。

 

 

 

「お嬢様、お客様ですわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 見ればわかるほどふかふかな椅子、シワひとつないベッド、そして日差しを遮る綺麗なカーテン。

 カーペットはもちろん廊下と同じく紅、また設置されたシャンデリアの光が室内を明るく包んでいた。

 

 そんな部屋で、星羅の前に現れたのは。

 

 

「ごきげんよう、星羅、だったわね。話は咲夜や美鈴から聞いているわ。私はレミリア・スカーレット。永遠に紅い幼き月、吸血鬼よ」

 

 

 僅かに紅く染まった、フリフリとリボンの帽子(ZUN帽)

 同じく薄い紅のドレス。

 そしてーー背中から広がる、蝙蝠の翼。

 

 身長や外見こそただの幼女、しかし放つ威厳は五百年の重み。

 

 不敵な表情に、それが表れていた。

 

 

 幻想郷の吸血鬼、レミリア・スカーレットは、星羅の前で軽く会釈をすると、「取り敢えず座りなさい」と近くの椅子を指した。

 

 

 

 

 

 

 

「噂なら聞いた事があるわ。確か、この幻想郷に入ったばかりなのでしょう?」

「はい、今は霊夢のところで過ごしてます」

 

 レミリアは咲夜の淹れた紅茶を一口飲みながら、星羅の話を聞いていた。

 

「幻想郷に入って、記憶が無かったところを霊夢と魔理沙に助けてもらって、それで今度は謎の敵に襲われて……この間は白玉楼で大変な目に遭いましたよ」

「それはそれは、災難だったわね」

 

 すると、レミリアはすくっと立ち上がり、星羅の横まで来ると、

 

 

「……ところで、ここにわざわざ来た理由は? あなたの境遇を聞くには、遊びに来たなんて言わないわよねぇ?」

 

 

と尋ねてきた。

 

「……えっ?」

「まぁ、大方の予想はついているわ。咲夜に用がある……でしょう?」

「な、……わかるんですか?」

 

 核心を突く一言に星羅が動揺する。

 

 するとレミリアは不敵な笑みを浮かべ、

 

 

 

「あなたがここまで来た、その運命……私には、読めるのよ」

 

 

 

と、マントのような羽根を広げて言い放った。

 

 

 

 

 

 

「……運命が読める、ねぇ。こいつの運命をどこまで読めるのやら」

 

 

 

 その様子を、魔理沙は後ろから眺めて、ボソリと愚痴をこぼした。

 

 

 




うー☆

 なんて言わせるかぁ!!!


 次回はパチュリーさん回の予定。
 こあも出ます! 


 多分……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

016. 知識と日陰の少女

 動かない……動けない?大図書館、パチュリーさんとのお話。

 むきゅー。


 魔理沙とアリスについて行く形で、紅魔館へやって来た星羅は、館内で目当ての人物・咲夜と、紅魔館の主レミリアに会う。

 

 レミリアは星羅の運命に何かを視たようだ。

 

 

 

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 席に座り直したレミリアは、星羅と向き合いこう言った。

 

「私の能力、知りたい?」

「えっと……はい」

 

「【運命を操る程度の能力】よ」

 

「……運命を?」

 

 

 ジェスチャーのように、片手を挙げてみせるレミリア。

 

「未来予知ではないの。でも、その気になって視た相手の直近の運命を、私は読み取る事ができる」

「……」

「勿論人のみならず、割となんでも視れるわ。直近でも先が分かればちょっとしたきっかけを作って、その運命を変える事もできるの」

 

掲げた手を動かして、まるで弄るような仕草をしてみせた。

 

 

「だから貴女がここにやってきた訳も、大方わかるわ」

 

 

 レミリアは一呼吸おくと、咲夜を見た。

 

 

「……咲夜、この子と話してあげなさい」

 

 

「……え?」

 

 

 話の流れ的に自分には話が振られないだろうと、うっかり腹をくくっていた咲夜は、予想外の指名に呆気にとられていた。

 

 

「この子の目的は……咲夜、貴女に会う事よ」

 

 

 レミリアは言いながら、その紅き見透かした目を星羅に注いでいた。

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

「パチュリー! 本借りてくぜー」

 

「はぁ……まったく、相変わらずねぇ。……はぁ、少しは反省しなさいよ……」

 

 

 

 

 地下、大図書館。

 

 そこで、パチュリー・ノーレッジは、ばたばたと魔理沙を追いかけていた。

 

 

「はー、はー……」

 

「おいパチュリー、身体が保ってねえぞ」

 

「はぁ、うるさいわよ、心配するなら……はぁ、返して……!」

 

 魔理沙は、実は走ってない。

 

 箒に乗ってるのではなく、速歩き程度の速さで歩いているだけ。

 

 

 一方パチュリーは、パジャマにも見える紫色の服を盛大に揺らして、走っていた。

 

 ……速度が完全に速歩きだが。

 

 

「はぁ…はぁ……もう、無理……」

「へへーん、じゃあ借りてくぞ」

 

 ギブアップしたパチュリーを横目に、去ろうとする魔理沙。

 

 すると、

 

 

 

「ちょっと待ったぁ!!」

 

 

「ぬおぉ!?」

 

 

 何者かが彼女の前に立ちはだかった。

 

「パチュリー様になんて事を! 許さないぞー!」

「……って、なんだ小悪魔かよ……ほら邪魔だぜ、あと私別にパチュリーを攻撃してないぞ……」

 

 赤髪に悪魔らしい羽根を生やした、司書の小悪魔。

 

 足止めとばかりに、両腕を開いて魔理沙を通せんぼする。

 

 なんとか魔理沙を押し留めんとするも、しかし圧倒的に実力の劣る小悪魔、結局魔理沙に適当にあしらわれてしまった。

 

「あ……ちょ、ちょっと!!」

「よし、今度こそじゃあなー! また借りる本ができたら来るぜ。身体、お大事にー」

 

 扉を開いて、図書館を出て行く魔理沙。

 

 

 

「ま、魔理沙……待ちな……さい……

 

 

……む、むきゅー……」

 

 

 

 

 パチュリーはそんな彼女へ向かってぷるぷると手を伸ばし、か弱い悲鳴ののち、ぱたっと倒れた。

 

 小悪魔はそれに絶叫するのだった……

 

 

「ぱ、パチュリー様ぁー!!!」

 

 

 

 

 因みに魔理沙は泥棒はしたが別にパチュリーを攻撃したわけではない……。

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

「……記憶喪失、ね。まさかそんな話が実在するなんて」

 

 

 咲夜は、改めて星羅から彼女の経緯を聞き、考えるように顎に手を当てた。

 何もわからないまま、霊夢と魔理沙に拾われた事。

 最近世間を騒がす「機怪」に狙われている事。

 そして、幽々子を救い出し、妖夢との繋がりの証を得た事。

 どれも、ただの外来人にはできない芸当だ。

 

「もう一度整理すると……ここに来たばかりのあなたは、どういう訳か他人との記憶をメモリとして共有できる、そして今のそれは私って事、ね」

「はい」

「……正直、信じられないのよね」

 

咲夜はふう、とため息をつく。

 

「そんな事、普通に考えたらありえないし、見ず知らずの相手だもの、いきなりそんな事言われたって困るわ」

「……ですよね」

「……でも」

 

 間を置いて、続ける。

 

 

「……あなたと会うのは、初めてではない気がするのよ」

 

 

「……はい?」

 

 

 

 

 

「おーい、星羅に咲夜ー、何してるんだ?」

 

 下層階から上がってきた魔理沙が、通路のど真ん中で話す2人を見て問いかけてきた。

 抱える本を見て、星羅が質問返しをする。

 

「魔理沙。その本は?」

「パチュリーのだぜ。借りてきた」

「……またあなたは面倒な事を」

 

ドヤ顔の魔理沙に咲夜は呆れるように呟くと、

 

「折角だわ。星羅、ついて来なさい。パチュリー様の大図書館へ案内するわ」

 

と、地下へ向かって歩き出した。

 

 

 戸惑う星羅は、後ろから声をかけられる。

 

「ほら、行ってこいよ」

「魔理沙」

「私は先に戻ってるぜ。なんかわかったら、お前も戻ってきな。大丈夫だって、パチュリーならなんとかしてくれるさ、行けばわかるぜ」

「……うん」

 

 それは彼女なりの気遣いだろうか。

 

 そんな魔理沙に促され、星羅は咲夜のあとを追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

「うー……」

 

 

 パチュリーは椅子に座り、なんとか気をとり直していた。

 

 レミリアの親友であるパチュリーは、彼女の許可を得て紅魔館地下に大図書館を設置している。

 毎日そこに籠もって本を読み漁るため、魔法使いなのだが喘息持ちの虚弱体質、という有様である。

 実際の強さは相当のもので、特に属性攻撃に優れるのだが、喘息のせいで詠唱しきれないことがある。体調が良くないとそもそも戦うことも難しい。そのため運動出来ずに図書館に籠もり、余計に運動不足を促進させてしまっている。

 

 今日はどうやら体調が優れないらしい。

 

 小悪魔が持ってきた飲み物を口にしながら、呟く。

 

「今日は厄日ね……客はやってくるし魔理沙も来るし。何なのよ……しかも人間でしょ? 下手に出ていったら怖がって逃げ帰りそうだからって戻ったら今度はあの泥棒よ。大図書館もろとも結界で覆ってしまおうかしら」

「お客さんを邪険に扱わないでくださいよ。それに咲夜さんならちゃんと対応してくれますって。それに、普通の人間はここに寄り付きませんから」

「……はぁ、分かってるわよ。こあ」

 

 小悪魔……もとい、こあはそんな主人をなだめると、机の本を抱えて仕舞いに向かった。

 

 こあは赤い長髪に司書らしい白黒の服を纏った、パチュリーが自身の使い魔として呼び出した悪魔。

 元々“小”悪魔なので対して強くはないが、パチュリーへの忠誠心はかなりのもの。基本は広大な大図書館でパチュリーの雑務全般を任されているが、たまに咲夜をはじめ他の手伝いをする事もある。

 

 ちなみにここにはもうひとり、小悪魔がいる。

 

 

「パチュリー様! 咲夜さんですよ」

 

 

 さっきのこあよりもほんの少し小さく、髪はショートヘアーの小悪魔。

 

「例の人間さんも一緒です。お話したい事があるって咲夜さん言ってました」

「……はぁ、入れてあげなさい。ここあ」

「はーい」

 

 この子は通称、ここあ。

 こあの後に呼び出された双子の妹(自称)で、同じくパチュリーの大図書館で働く司書として暮らしている。

 髪の毛以外はほとんどこあと同様であるあたり、やはり双子なのだろうか(自称とパチュリーは受け取っている)。

 

 ここあは図書館の扉を開く。

 

 

「失礼します、パチュリー様。こちらは幻島 星羅です」

 

 

 入ってきたのは、いつになく真剣な表情の咲夜と……

 

 

「星羅です! よろしくおねがいします!!」

 

 

……その雰囲気をぶっ壊す星羅だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふうん、なるほど。知らぬ間に幻想入りして、記憶も無くなってて、更には謎の敵に追われてる……ね」

 

 パチュリーは読書用の眼鏡を外し、星羅を見た。

 

「そうね……星羅。これからいくつか質問するわ。あなたはなるべく正直に答えてくれるかしら」

「……はい、わかりました」

「緊張しなくてもいいわ、ただ答えてくれればいいから。まぁ、目の前の魔女(わたし)悪魔(使い魔)を見てそれは無理な話かもしれないけど」

「えっへん」

「悪魔だぞー」

「こら、こあにここあ」

 

 どうしても固まりがちの星羅に、咲夜がとんと肩をつつく。

 

「咲夜さん?」

「大丈夫よ、パチュリー様を信じなさい。わからないことだらけだとは思うけど、まずは信じてくれるかしら? 今は私たちも、あなたを信じるから」

「……そうですね、咲夜さんの言う通りです」

「さっきの雰囲気破壊はどこいったのよ」

 

 パチュリーは軽く毒づくと、人差し指をたてて話し始めた。

 

 

 

「それじゃあまずひとつ。あなた、記憶喪失って言っていたけれど、なんでもいいわ、何か一つでも覚えていた事はあった?」

「……名前だけは、何故か頭に浮かんできました。他は最初は何も覚えて無かったんですけど……バスターを起動したら、またいくつか思い出しました」

「ばすたー?」

 

 

 こあの問いに、星羅は腕時計に手を伸ばし、

 

「……バスター……オン!」

 

《Buster-on!!》

 

一声叫ぶと、慣れた手付きでボタンを押し、ライズバスターを起動した。

 

 弾け飛ぶ腕時計、光り輝く結晶。

 時計だったそれは星羅の右腕に纏わり付き、四角柱の銃身と4枚のスタビライザーを構成、最後に銃口が合体して、腕と一体になった銃を顕現させた。

 

 

《Rise Buster,ready……》

 

「これには、自分と、条件はわかってないけど、特定のだれかの記憶からスペルカード……スペルメモリを生成して、それの弾幕を出力する事が出来るんです」

 

 星羅はバスターを構えたりポーズをとりながら答えた。

 

「……」

 

パチュリーはしばらく沈黙していたが、

 

 

「……な、ななななにそれ!? 魔法? にしては異色過ぎるし……召喚系の技? 星羅……あなた、何したの??」

 

唐突に出現したライズバスターに、取り乱しているようだ。さっきまでの体調不良はどこへやら、立ち上がって顔を突き出していた。

 どうやら知らない事象に驚いたらしい。

 

「パチュリー様?」

「だいじょーぶですか??」

 

 こあとここあが様変わりした主人に慌てる。

 咲夜はそんな3人を横目に、星羅に問う。

 

「……それが、あなたの武器なのね」

「はい。でもなんでコレを持っているのか、実際の使い方はあるのか、そもそもスペルメモリって何なのかも……覚えてない、というか、わからないんです」

「そう……確かにそれは辛いわね、わからない事だらけで大変じゃないの」

「でも霊夢や魔理沙はそこまで気にするなって。具体的な事がわかるまでは自分を信じろって、言ってくれたんです」

「そうなのね。相変わらず、優しいんだから」

 

「……こほん、思わず取り乱したわ……ごめんなさい」

 

 パチュリーがようやく落ち着いたらしく、席に腰掛けた。

 

 ズレた帽子を直して、再び問いかける。

 

 

「じゃ、2つ目よ。これはかなり大事な質問だから、真面目に答えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたの持ってる、能力は何?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………!」

 

 その質問に、星羅は絶句した。

 

 

 急に黙りこくる彼女に、周りは皆「?」と首を傾げた。

 質問者のパチュリーも、どうしたの、と星羅を促す。

 

「星羅? 言えない能力でも抱えているの?」

 

 

 

 

「……そういえば……わからないです」

 

 

 

 

 その言葉に、今度は皆が黙った。

 

 

 そう。

 

 星羅は幻想入りしたあの日以来、未だに自身の能力に目覚めていない……と言うよりも、使っていない。

 気にした事も、能力を使ってみようと思った事も、今まで無かったのだ。

 

 

 

 

「記憶がないから、記憶に関連するのかな、とは思うんですが……わからない、知らないんです」

 

「……」

 

 

 咲夜は顔をしかめた。

 予想はしていたが、手掛かりが少ない。

 手助けしたくても……難度が高すぎる。

 

 そもそも彼女は外来人。しかも、自分と同じただの人間。

 

 万事休すか?

 そう思った時だった。

 

 

「……そう、なるほどね」

 

 パチュリーは何か納得したように頷き、

 

「他にも質問しようと思ってたけど……星羅、あなたも辛いでしょ? だいたいわかったから、あとは私に任せて」

 

「……え? わかったって……何が?」

 

 

きっぱりと、皆に宣言した。

 

 

「……これに当てはまるものを、この大図書館から探すわ」

 

 

 

「……え!? この中から!?!?」

 

「パチュリー様!?」

 

 星羅と咲夜は、心底耳を疑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まさか私まで呼ばれるとは思わなかったけれど、パチェ?」

 

「どうせレミィのことだから、彼女……星羅を助けるつもりが無いならここにいないでしょう?」

 

「ふふ、私はただ、あの人間に興味を抱いただけよ」

 

「だからって私まで呼ばなくても」

 

「美鈴は黙って作業しなさい」

 

「ひえー、咲夜さん〜……!」

 

 

 

 レミリア、パチュリー、咲夜、美鈴、こあとここあ、そして星羅。

 

 皆はパチュリーの頼みで、星羅の立たされた状況を打開するための知恵……本を、探していた。

 

 あまりにも広すぎるので、レミリアや美鈴も呼ばれているのだ。

 

 

 

「絶対見つけてやる……私の、これからの手掛かりを……!」

 

 

 星羅は暗示をかけるように、呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ダンカグでむきゅーと言ってるところをほとんど見た事がないです。レアボイスなんでしょうね(単に出かけさせてないだけ)

 次回、美鈴とのほのぼの回(予定)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

017. 虹色の華人小娘

 門番さん美鈴と星羅のお話。

 めーさく要素あり?
 念の為ご注意を。


 紅魔館の主レミリアに、咲夜との関連性を視たと言われた星羅。

 

 パチュリーはそんな星羅の「幻想入り」「記憶喪失と記憶媒体システム」「能力不詳」というキーワードを元に、大図書館から条件に当てはまる物を皆で探す事にする。

 

 

 のだが……

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ……疲れたわ! 少し休憩させてくれるかしら?」

 

 

 レミリアはあまりにも地道かつ進展のない作業から、一時的に抜けた。

 

「お嬢様……」

「本来の言い出しっぺが休まないでよ……レミィ」

「私はあくまで咲夜との関連性を言っただけよ、パチェ?」

「あのねぇ……はぁ、レミィったら」

 

 パチュリーは少しだけ咎めると、本を再び漁った。

 

「咲夜さーん……私も疲れました」

「美鈴! と言いたいけど流石に本といつまでもにらめっこしていると、目も疲れるわね……」

「ここあ、どう?」

「だめだよお姉ちゃん……本当にあるのかなー」

 

他の面々にも、徐々に疲労が溜まってきている。

 

 

 だがそんな中で、一人だけ真面目に取り組む者がいる。

 

 

「……ちっ(・・)、これじゃないか……くそ(・・)、これでもない……なんだよ(・・・・)……こいつもか……」

 

 

 星羅だ。

 素早く本を見極めてはパラパラと読み、次々に本の山を作っていく。

 

 

「……っ、だめだだめだ、これでもないのかよ(・・・)……あーもう……」

 

 

 だが……

 その一言一言に、どこか、感じ方に抵抗がある。

 

 

「……星羅?」

 

 

その独り言に、咲夜だけは違和感を感じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はあ、みんな一旦止めましょう。言い出しておいてアレだけど、予想以上に効率が悪過ぎて終わらないわ……」

 

 

「はーい」

 

 

 

 

 

 パチュリーの一声で、皆は出していた本を片付けて彼女の机に集まった。

 

 

 

「進展、無し。これじゃ今日中に見つけるは無理だわ」

 

 まぁそのつもりは無いけど、とパチュリーはため息をつく。

 星羅は思わずうつむいた。

 

 パチュリーは本をばばっとめくりながら続けた。

 

「もう少し、絞り出すことが出来れば、具体的な本のテーマも絞れて探しやすくなるんだけど」

「そもそも記憶喪失ですもんねぇ」

 

美鈴の言葉に頷く一同。いくつか上がっているものの、抽象的なものばかりで実際には手掛かりが無いも同然なのだ。

 

「星羅。……悪いけど、今日は一旦諦めてくれるかしら。このまま闇雲に探しても進展がまるで見えないわ」

「パチュリーさん……」

「……まぁ、でも……」

 

 パチュリーは人差し指を立てて言う。

 

 

「なにはともあれ、ダメ元で探しておいてあげるわ」

 

「……えっ」

 

 パチュリーの意外な言葉に、皆は視線をパチュリーに注ぐ。

 

「パチェ? 急にやる気になったの?」

「レミィ、何言ってるのよ」

 

レミリアの方を向くと、

 

 

「私はただ……彼女に興味を持っただけ。そう最初に言ったのはあなたじゃなかった?」

 

 

と、微笑んだ。

 

 

「……ふふ、そうだったわね、パチェ。……星羅、光栄に思いなさい。こういう時はこの私たちに任せておいて構わないわ」

「……は、はい!」

 

 

 パチュリーの笑みとレミリアの励ましを受け、星羅も元気になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

「はーぁ、流石に疲れたわ。咲夜、少し早いけれどお茶にしましょうか」

「わかりましたお嬢様。用意してきますね」

「咲夜、私のもお願い」

「こあも!」

「ここあの分もお願いします!」

「お任せを」

 

 

 

「みなさん、とっても仲がいいんですね」

 

 星羅は前を行くレミリアたちを見て、呟いた。

 

「ええ、そりゃあ勿論ですよ」

 

 美鈴が振り向いて答えてくれた。

 

「個性豊かで、いつもはこんな感じですけど……皆凄い人ばかりですよ」

 

 前を向いて、咲夜を見る。

 

 

「特に咲夜さんは……私の、私たちにとっての大切な人ですから」

「……美鈴さん?」

 

再び星羅に視線を変えると、美鈴は言った。

 

 

「ここじゃあれですから、場所を変えましょうか」

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 美鈴は咲夜に一声かけて、外に出た。

 

 

 

 

「わぁ……」

 

「こう見えて門番だけが私の仕事じゃありませんからね」

 

 

 

 美鈴が連れてきた場所は、館の裏庭にある花壇。

 

 日当たりの良い位置に作られた、ちょっとした憩いの場所である。

 

 

「綺麗だなぁ……」

「暇を見て手入れしているんです。お嬢様のお墨付きですよ」

「へー……すげぇ(語彙力皆無)」

 

 しばらく見とれていた星羅だったが、ふと美鈴にこんな事を聞いた。

 

「そういえば……なんでここに連れてきたんですか」

「あー、そうでしたね」

 

美鈴はわざとらしくぽんと手を叩くと、視線を少し斜め上にやった。

 

 

 

 

「……咲夜さんの話、でしたね」

 

 

 

 

 その目が、星羅にはどこか懐かしむような遠い目をしていたように写った。

 

 

「…美鈴、さん?」

 

 

「実は……咲夜さんって、昔、貧しい孤児だったんですよ」

「ほえ? そうなんですか??」

「ええ。

 

 

 

 

確かそれなりに昔、たまたまこの紅魔館を通りかかった、まだ幼い少女がいまして。

 

レミリアお嬢様が(いろいろ)あって興味を持たれ、名付けたんですよ。

 

 

 

 

十六夜の日に、少女の新たな運命が咲いた夜。

 

だから、十六夜咲夜よ、と仰っていた……はずです」

 

 

 美鈴の目が、やはり懐かしむような視線で空を見ていた。

 

 そんな事があったのか、と星羅は思わず黙ってしまう。

 

 

 

 それ以前に。

 

 美鈴の視線……否、表情がうまく読めなかった。

 

 

 

 

「それからはメイドとしてここで住み込みする事になりまして。数年はお嬢様の頼まれ事や色んな仕事に追われてましたよ」

「……」

「でも、真面目に努力し続けたおかげか、私はもちろん、パチュリー様やお嬢様からも信頼を得て行き、いつの間にか紅魔館のちゃんとした一員になっていましたね。

かけがえのない、大切な仲間として……ね」

 

 

 明後日の方向を見ながら、何かに思いを馳せるような表情をしながら。

 

 美鈴はそう言って、星羅に語り続けた。

 

「咲夜さん、今も勿論ですけど、昔から可愛かったんですよ」

「えっ?」

「昔、私が居眠りしていると、ゆさゆさと私を揺らして『美鈴ー、起きてー!寝ちゃだめだよー!』って言って起こしてくれるんですよ。たまに寝たフリしてそれを楽しんだりしたなぁ……」

「……そうだったんですね」

「あと、いつも私のためにお昼ご飯持ってきてくれたり、時々心配してくれたり。私もいつの間にか、咲夜さんの事を大切な存在だって思うようになったんですよ」

 

 まあ今は流石に厳しいですけどね、と言いながら、美鈴はあははと頭を掻く。

 居眠りについては色々ツッコミ入れたかったが、それよりも、星羅は美鈴の言う咲夜の意外な一面を知って驚いていた。

 

「すげー」

 

「あ、そうだ。星羅さんは確か咲夜さんらしき夢を見たそうですね」

「はい」

「具体的にはどんな夢を?」

 

 星羅はまだ言ってなかったな、と思いながら、美鈴にざっくりと説明した。

 

 

 

 

少女説明中……

 

 

 

 

「はぁはぁなるほど、懐中時計……ですか。そっかぁ……」

 

 

 美鈴は「時計」、つまり咲夜の持つ懐中時計に、何か思う事があるらしい。

 

 

「何か知ってるんですか?」

「そりゃあそうですよ。だって……」

 

 

 一呼吸置いて、美鈴は言った。

 

 

 

 

「その懐中時計……私が感謝を込めて咲夜さんに渡したものですから」

 

 

 

「……え? えええええ!?!?」

 

 

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「めーりん! めーぃりーん! 起きてー!」

 

「ん…あっ……咲夜さん、ごめんなさい」

「もう! レミリアお嬢様に叱られても知らないよ?」

「あはは、これでも気をつけているんですがね」

「本当なの?」

「ははは……あ、そうだ咲夜さん」

「ん?」

「はいこれ、似合うかなと思ってこっそり買ってきました」

「これは……懐中時計? どうして急に」

「咲夜さんがいつも持ってるやつ、ボロボロだったでしょう? いつもお世話になっている、私からのほんの感謝の気持ちですよ」

「わぁ……あ、ありがとう」

「えへへ、喜んていただけるなら幸いですよ。これからも一緒に頑張っていきましょう、咲夜さん」

「うん!」

 

 

「……あ、賄賂したって昼寝はだめだからね」

「うへーい……てか賄賂なんてこんな子がどこで覚えるのやら……」

「パチュリーさまが言ってた」

「えー……」

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

 

「それからは咲夜さん、みるみる内に信頼を勝ち取り、そしてどんどん大きくなっていって……今はあんな感じに」

 

 

 昔、とりわけ咲夜を語る美鈴の顔は、自然とほころび、笑みを浮かべていた。

 

 懐かしさなのか、それとも。

 

 

 そんな美鈴を見ながら、星羅は思った。

 

 

 

 

 

 

 人間ってのは、本当に儚い命なんだなぁ。

 妖怪のみんなには、どれぐらいの長さで写ってるんだろう……。

 

 

 

 美鈴が咲夜に会った頃、既にもうこんな姿……大人の姿だったのだろう。

 

 妖怪は命が人間に比べて遥かに長い。

 そんな事を霊夢が言ってた気がする。

 

 その事を、きっと美鈴、いやこの館の全員は気づいてる。

 

 

 

 

 

 咲夜さんは、人間……唯一の人間だ。

 

 皆との、いつか訪れるだろう別れを……

 

 あの人は、怖くないのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 あれ?

 

 

 

 そんな事を……夢で、言ってなかったっけ……

 

 

 

 

 

 

「……んで咲夜さんったら、顔を真っ赤にしてですね……って、あれ? 星羅さん? 聞いてます?」

「ええ? あっ……ごめんなさい」

「もしかして咲夜さんの事で思う事があったんですね?」

「……わかるんですね」

「その時になったら向こうから仰ってくれますよ、気にしない気にしない」

 

 

 

 心配し過ぎですよ、と美鈴は笑った。

 

 その笑顔に、星羅の悩みは一旦かき消え、それからは美鈴の面白おかしい紅魔館あれこれを聞いていた。

 

 不思議と、とても楽しい気分で居続けられた。

 

 

 

 

 

 

 流石にいつまでも外にいた(上に話し込んでいた)ので、咲夜に美鈴と星羅が叱られたのは言うまでもない……。

 

 

 

 

 




 最近一週間一回ペース(ひどいとそれ以上)ですいません。
 忙しくって……ほんとに。


 多分次にはみなさんお待ちかねのアイツが出る……。

 ……はずなので期待しててくださいね!!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

018. 悪魔の妹

 妹様だーーーー!!!
 うおおおおおお!!!
 全員集合ーー!!



 すみません。

 お待ちかね、フランドール・スカーレット降臨です。



 今回も最後まで読んでいただけると嬉しいです。




 どうでもいいかも知れませんが、ダンカグハーフアニバーサリーおめでとうございます。
 みんなもやろうぜ!!

 ちょうどイベントでもフランが出てくるようなので、偶然って凄いねと思ったり思わなかったり。



 星羅の手がかり。

 

 幻想入り。

 記憶喪失。

 能力不詳。

 

 

 パチュリーは星羅に、わからない事だらけの現状を必ず脱するための本を探し出すと約束する。

 

 

 

 そして美鈴から、咲夜の昔話をされた星羅。

 

 咲夜が内に抱える何かを感じるのだった。

 

 

 

 

 

______________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、またお姉様たちは勝手に楽しそうにしちゃって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地下に響く、ひとりの声。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうせまたろくな事じゃないだろうけど……私を置いて勝手にしてるのは、ちょっと許せないなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 七色の羽広げ、少女は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「折角なんだから……私も混ぜてよ、お姉様?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして間もなく、階段よりこつこつと登る音が木霊したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いわね星羅、こんな夕方まで」

「いいんですよ咲夜さん、押しかけたのは私ですもん」

 

 

 エントランスホールで、咲夜と星羅はすっかり遅くなった時間を嘆いていた。

 

 なんだかんだいろいろあったせいで、お昼もここで食べさせて貰った。

 星羅はとても美味しい食事に感無量だったが、咲夜曰く「ナイフの腕は料理に比例するのよ」と言う事らしい。

 

 

 

「結局、私とあなたの繋がりについては何もわからなかったわね」

「……でも、これで何かはあるっていう確実な証拠は得ましたから」

 

 ポケットから取り出した、色の無いメモリを見て言う。

 

「今は機怪もおとなしいし……ゆっくり探しましょう」

「……そうね、焦っても何も無いか」

 

咲夜も頷く。

 

「また今度ここに来なさい、あるだけの手がかりは探してみるわ」

「はい、ありがとうございます」

 

 

 

 と、二人が別れを告げた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私を置いて、そ〜んなに話を進めているなんて……驚いちゃったわ、咲夜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然の声に振り返る。

 

 

 そこには赤と少し紅い白の服を纏い、レミリアとお揃いの帽子を身に着けた、レミリアと同じくらいの幼女が立っていた。

 

 羽根は、虹色の宝石が一個一色で左右6〜7個ずつくらいでぶら下がっており、星羅には飛べるのか怪しい気がした。

 

 

 

 

 

 だがそれ以上に、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、そっちのあなた……もしかして人間? もしかしなくても、私と遊んでくれるの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

純粋に感じる「狂喜」のオーラに、星羅は思わず表情が引きつった。

 

 

 

 

 

 

「い、妹様!? すみません、いつの間に」

 

「今来たばかりよ」

 

 

 

 

 咲夜から妹様と呼ばれたのを見て、星羅は彼女がレミリアの妹だというのを悟った。

 あの見た目であの呼ばれ方は、間違い無い。

 

 

「そうだ、はじめましてだから名乗っておかなきゃね」

 

 

 あの時レミリアがそうしたように、彼女はお嬢様らしくスカート裾を僅かに持ち上げ、すっと頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

「私はフランドール。フランドール・スカーレットよ。レミリアお姉様の、悪魔な妹。フランでいいから、覚えといて」

 

 

 

 

 

 

「……フラン、ドール……」

 

 

 

 

 姉譲りなのか、それとも純粋な凶気か。

 

 その全てを貫くような視線と微笑みに、星羅は目を離す事を許されなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ」

 

 

 

 打って変わって、紅魔館の外。

 

 アリスは上海と蓬莱を連れて、ひとり帰路を辿っていた。

 

 

「まさか誰にも声掛けされずに出て行くなんて……」

 

 

 図書館にいた……のだが、用事(と言ってもちょっと気になった事を調べただけのこと)を済ませてそそくさと出たのだ。

 そうしたらたまたま、誰も彼女とすれ違わなかったらしい。

 

「妖精メイドにまで会わないなんて、なんなのよ今日は……」

「シャンハーイ?」

「ホラーイ!」

「……そうね、早く帰りましょうか」

 

 人形たちに小突かれて、アリスはまた歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん。それは確かに、面倒な話ね。災難続きって流石にきついわよ、そりゃあ」

 

 

 

 フランは咲夜から事の次第を聞かされて、興味深そうに顎に手をやった。

 

 

 ちょっとだけ頭を巡らせると、顔を上げた。

 

 

 

 

「なんか面白そうだし……いいわ。乗ってあげる。私も手伝うわ」

 

 

 

 

 

 あまりにあっさりと受け入れた事に、星羅と咲夜は驚いた。

 

 

「ふぇ、そんなあっさり??」

「だって最近、すごく退屈だもの。話を聞くあたり、今噂の……機怪、だっけ? あいつらともなんかありそうだし。いい退屈しのぎになると思って」

「お嬢様……一応、事態はかなり重いんですよ? 既に白玉楼は襲われたと聞きますが」

「それくらいわかってるわよ。強敵なら私がひねりつぶすから。それに私は、単に仲間外れなのが気に食わないだけ」

「あ……それはすみませんでした」

「今更気にしてないからいいわよそれくらい」

 

 

 

 そして星羅に近づきながら、フランは言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉様のお墨付きみたいだから、遠慮しとくけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もしもうっかり私の機嫌を損ねても、

 

簡単には壊れないでね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言い残し、フランは再び地下へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 背筋が凍ったように立ちすくむ星羅は、声を絞り出した。

 

 

「……あの子が……フランドール・スカーレット……妹様……なんだ」

「そうよ。レミリアお嬢様の妹、悪魔の妹。私の仕えるもうひとりの主人にして……

 

 

【ありとあらゆるものを破壊する程度の能力】を持つお方よ」

 

 

 

 

 

 

 

「……え、今なんて……!?」

 

 

 

 

 

 

 想定外の発言に、星羅は更に戦慄した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーわかっていたけれど……、この屋敷は特殊(こわ)過ぎる。

 

 

 

 星羅はそんな事を、改めて痛感した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ然とする彼女に、咲夜がねぎらう。

 

 

「まぁ……あまりに下手な事しなければ大丈夫よ。安心して」

 

「咲夜さんがそう言うなら……うぅ、でもやっぱり怖いなぁ」

「取り敢えずまた明日、来なさい。レミリアお嬢様がもう少し話したい事があるそうよ」

「はい、今日はありがとうございました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、星羅は咲夜にバレないように美鈴を起こしておいて、そのまま神社へと歩いて帰った。

 

 進展といえば、咲夜との何かしらの繋がりが真実となった事、取り敢えず紅魔館の面々と接触し協力を得た事、パチュリーが何か役立つ物を探してくれる事、くらい。

 

 

 

 

「……お空を自由に飛びたいなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 星羅は道中たまたま会ったチルノたちに、湖の出口まで案内してもらい、無事に帰れたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その晩。

 

 

 

 

 

 

「お姉様、私よ」

「入ってちょうだい」

 

 

 

 フランはレミリアの部屋へやって来ていた。

 

 

「フラン、急にどうしたの? まさか眠れないの?」

「吸血鬼なのに夜寝るわけないでしょ。それよりもお姉様、ちょっと提案があるんだけど、いいかしら」

「……提案? 珍しいわね、あなたからなんて。良いわよ、言ってみなさい」

 

「聞いて驚かないでね……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女提案中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……へぇ、なるほど。いいわね、やってみましょうか」

 

 

 

 

 レミリアは妹の言葉に大きく頷き、不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 呼ばれた咲夜と美鈴は、何やら自信満々なお嬢様たちに首を傾げていた。

 

 

 

「ご要件とは何でしょうか、お嬢様」

 

「咲夜、美鈴……ちょっと提案があるんだけど」

 

 

 

 そしてその妹と同じように、提案するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってなさい、星羅。

 

 

あなたの霧に隠れた運命……このレミリア・スカーレットと、この紅魔館が暴いて見せるわ!」

 

 

 

 

 

 

 高らかに宣言する彼女の言葉が、紅魔館に木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……と、言う訳で。

 

 

 

星羅。あなたはこれから……

 

 

一週間、メイド(私の部下)として働いてもらうわ」

 

 

 

 

 

 

 

「…………はぁあぁあぁあぁ!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日未明。

 

 

 

 紅魔館にて、少女の呆れたような悲しい叫びが響いた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Continued to the next phantasm…….

 

 

 




 きゅっとして、ドカーン!

 フランは実は頭が良い面もあるので、今回の妹様はそういうシーンも入れていこうかなと。
 次回あたり、そろそろ機怪が湧いて出る頃です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EX1. 先人の見た博麗

※番外編であり、本編の保管。









必ず#18まで読んでからでお願いします。
























 突然の先代巫女話。


 どっちかというと先代巫女を知る者の話。
 あややはともかく華扇は扱いにくいなぁ。



 星羅が、紅い屋敷で色々な人(?)と出会っている頃。

 

 

 

 

 

 

 博麗神社には、ひとりの新聞記者がやってきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどなるほど、星羅さんはズバリ、謎と期待に溢れる有力な新人って事ですね!? やはり私の目に狂いはなかった!! 早苗さんとも話が合いそうですし、いいですねぇ~!!」

 

「……なんかズレてない? そんな事言ってないんだけど?」

 

「いえいえ、これくらいのズバッとした触れ込みじゃないとぱっと見で落ちますよ」

 

「…何が落ちるのよ」

 

 

 

 

 Yシャツに黒スカート、赤い頭襟(ときん)。赤色の靴は天狗の下駄のように一枚板がついて高くなっている。

 腰には紅葉のような扇と、四角いカメラをぶら下げていた。

 セミロング程度に整えられた黒髪から、探究心と好奇心と特ダネに飢えた瞳をらんらんと輝かせている。

 

 

 

 射命丸(しゃめいまる) (あや)

 幻想郷の古参にして、烏天狗の新聞記者。

 

 

 特ダネや事件を目掛けて、幻想郷のあらゆる場所を、その自慢の飛行速度で飛び回り、集めた情報で『文々。新聞(ぶんぶんまるしんぶん)』を発行している。

 ……迫力重視なのか大袈裟に書いたり鋳造したりする事もあるが。

 

 

 当然その取材の目は、博麗 霊夢に向いていた。

 

 

 星羅が白玉楼を救った、というのを聞いたらしい。

 風の噂というのは面倒だ、と霊夢は思った。

 

 

 

 

「あまり変な事を書かないでよ、アイツが困るから」

「勿論配慮はしますって。なにせ、清く正しい射命丸ですからね!」

「清く正しい、ねぇ」

 

 

 霊夢の呆れ顔をよそに、文はペンを走らせてメモを充実させていく。

 かれこれ30分は話した(言わざるを得なかった)からか、満足気な表情である。

 

 

「いやー、お忙しい中ありがとうございましたー、おかげでしばらくはネタに困りませんね!」

「個人情報保護くらいしてやりなさいよ?」

「はいはいわかってますって!それでは!」

 

 

そう言い残し、文はその最速の機動力で神社をあとにした。

 

 

 

 

 

「あ、そうそう!」

 

 

……と思ったらUターンして霊夢の前に浮遊し、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……意外と、一番の驚異(てき)は……自分自身かもしれませんよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、囁いた。

 

 

 

 

 

 

「ちょ!? どういう事なの射命丸っ!?」

 

 

 

 

 しかし霊夢の問も虚しく、文は既に急加速で飛び去っていった後だった。

 

 

 

 

 

「……言うだけ言って帰ったって訳ね……」

 

 

 彼女が消えていった空を見上げて、霊夢はぼやいた。

 

 

 

 

 烏天狗の飛んだ煽りを食ったか、緑に色づいた葉が渦を巻くように舞っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんと、お人好しですねぇ……霊夢さんは」

 

 

 

 

 

 文は空を駆けながら、霊夢との会話を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『星羅の事? ……アイツは、確かに色々迷惑もかけるし謎だらけで困るとこもあるけど……いいやつだわ、基本。どんな相手にも別け隔てなく接するし、私や魔理沙の事もよく手伝ったりしてくれるのよ。あんなやつが、もしかしたらこの幻想郷には少ないのかも、しれないわね。まぁお人好し過ぎるのは困るけど』

『お人好しなのはあなたもでしょうに』

 

 

 

『他人との記憶共有。それがアイツの能力……まぁ断定出来ないけど。すでに妖夢とは絆と記憶を分かち合ってるわ、そして彼女のスペカも発展引用してる。今日はその咲夜仕様っぽいのがあったからアイツを紅魔館に行かせてるわ』

『はぁ、なるほど。……でもいきなり紅魔館に行かせるのはどうなんですか?』

 

 

 

『人間ってアンタと違って短命なのよ。それを知る機会にもなるわ、きっと。幻想郷についてはあの屋敷で知るのが手っ取り早い。百聞は一見に如かずってね』

『……短命、ですか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんとまぁ、ぶ厚い待遇だ」

 

 

 

 文が呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも博麗の巫女って……やるときはやって、いつもはあんな感じ……。案外そういう方がいいのかもしれない。ねぇ……先代さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここにはいない誰かに語りかけるように、文は言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、そこが好きなんですけどね……あなたの霊夢(むすめ)さんの、そういうところが」

 

 

 

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりね、霊夢。ちゃんと巫女やってる?」

 

 

 

 

「……誰かと思えば、仙人様じゃないの」

 

 

 

 

 

 

 

 中華な服、お団子ヘア、右腕の包帯、そして全てを知るかのような瞳。

 

 

 

 

 茨木 華扇(いばらき かせん)は、霊夢に向かってまるで母のように問いかけると、腕を組んだ。

 

 

 

 

 

「何の用? 見ての通り忙しいんだけど」

「お茶を啜っておいて嘘を吐くな!」

「はいはい」

 

 まるで日常茶飯事のような叱り声と返事を交わすと、華扇は話題をふっかけた。

 

 

 

「……あなたのところに、幻想入りした子が来たそうね」

 

 

「はぁ……またそれ? さっき烏天狗にその話したばっかなの」

 

 

 

 何度も言いたくないといった顔で、霊夢は返す。

 

 

「……誰から聞いたの?」

「人里。甘味処でその話をしていた人がたくさんいたから」

「アイツ言いふらしてるの??」

「さぁ」

 

 ため息をつく霊夢。

 この博麗神社は(自分のせいとはいえ)妖怪たちがたくさんやってくるせいで魔理沙くらいしか人が来ない。

 そんな、言わば「妖怪スポット」の神社に住んでるなんていう話をばら撒いて、なぜアイツの人気が落ちないのかわからない。

 

 

「ちゃんと実績残してるからじゃないの?」

 

 そんな彼女の心を読んだように、華扇は言う。

 

「会った事はないからあまり言えないけれど……」

 

と付け加え、彼女は霊夢の隣に座る。

 

 

「ねぇ、少しでいいわ、聞かせてくれる? その子について」

 

「……わかったわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 華扇は霊夢の師に当たる人物だ。

 そして仙人であり、鬼でもある。

 

 謎は多いが、基本的に誰にでも優しい。だが(特に霊夢に対して)怒るとかなりの迫力があり、説教好きなだけでしょ、と霊夢がぼやいた事もある。

 

 能力は不明だが、動物の心を読める、ともいわれている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霊夢はこれまでの事を話し、星羅の謎の事を憂いている事も伝えた。

 

 

 

「……ふぅん、なるほど」

 

 華扇は霊夢の話を受けて、ふむ、と頷いた。

 

 霊夢が続ける。

 

「アイツは本当に謎が多い。多過ぎる。記憶もない、能力もわからない、記憶共有も原理不明、正体もわからない。時々そういうところで、本当に信用していいのかわからなくなる……」

「……」

「得体の知れないやつと一緒にいれば、アンタだって絶対戸惑うでしょ!?」

 

 

 一気にまくし立てた霊夢を見て、華扇は言った。

 

 

 

 

 

 

「大丈夫じゃない? 案外、なんとかなるわよ」

 

 

 

「……はぁ? どうしてそんな事言えるのよ?」

「だって結局はわからないだけの存在、そんなもの信じてみれば認識も変わるわ」

「……でも」

「それにもしもの時はあなたがいるじゃない。博麗の巫女はなんで要るのよ、この世界に」

「うっ……」

「最初に言ったでしょう、『ちゃんと巫女やってる?』って。そんな調子じゃあ、まともに役目を果たせなくなるわよ」

「………………」

 

「あなたが迷えば、あの子……星羅もきっと戸惑い、本来の道を踏み外してしまうわ。

 

人が妖怪にならないための博麗の巫女。

誰かをそうさせないためのあなた。

 

 

誰かに、そう言われなかった?」

 

 

 

 

 別の意味での説教を受け、霊夢ははっとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分が迷えばアイツも戸惑い、道を踏み外してしまう。

 そうならないための博麗の巫女、そうさせないための私。

 

 

 

 

 どれぐらい前だろう……?

 

 

 

 幼い頃……母が言っていた気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、確か私がまだ未熟で、妖怪退治にしくじって母に助けられた時の事だったか−−

 

 

 

 

『おかあさん、わたし…………』

 

『なぁ霊夢、よく聞いておけよ』

 

『……え?』

 

 

『博麗の巫女ってのはな、ただ強いだけじゃあ務まらない。

人間は妖怪になっちゃいけないっていうの、あるだろう? そもそもそんな気持ちにさせちゃいけない、そうならないための博麗の巫女、させないためのこの私だ。そうでなきゃ、あのスキマ妖怪や説教仙人様も安心出来ないさ』

 

『…………』

 

 

『ま、いつかはわかる。さ、帰ろう。私たちの神社に。いつかはお前も必ず、立派な巫女になれる。それまでは絶対に私がついているから、お前はただ高みを目指せ。な?』

 

『……うん!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

 

 

 

「どうしたの? 涙なんて浮かべて」

「……!! な、なんでもないわよ!」

 

 

 ……少し昔を思い出しただけ、なんて、言えない。

 

 

 

 霊夢は袖でズバッと涙を拭くと、残ったお茶を飲み干した。

 

 

 

 

 そんな彼女を、華扇ははにかみを見せて見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「−−あなたの娘は、今こんなにも立派よ……」

 

 

 

 

 

 

 

 霊夢には聞こえない声で呟きながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 番外篇は分けました(知ってる人は知ってる)

 これからこまめに出すつもり。


訂正
 一部表現の追加と脱字の補填をしました
 話の位置を変えました


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四章 〜星羅と咲夜と時の色〜
019. メイドの一歩


 星羅、一日……否、一週間メイド頑張ります!


 という訳で紅魔郷編後半戦。
 機怪あり笑いあり涙あり?
 刮目してくださいね。

 今回はメイドになる回だけなので少し短めかも。




 不思議な時計と、何かに悩む人の声の夢を視た星羅は、霊夢からその声の主がおそらく咲夜だろうと言われる。

 魔理沙とアリスに案内されて紅魔館へ赴いた彼女は、そこでレミリアと咲夜、パチュリー、こあとここあ、美鈴、そしてフランと出会う。

 咲夜の過去の一部を知り、またパチュリーが星羅の手がかりを探す事になり、星羅は翌朝また紅魔館に来ると咲夜と約束するのだった。

 

 

 

 

 

 

 だが、そんな星羅を待っていたのは………………

 

 

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、早速でかけた星羅だったが。

 

 

 

 

 

 

「美鈴さん、こんにちはー」

「あぁ、星羅さん、いらしたんですね。みんな待っていますよ」

 

「……まってる??」

 

 

 美鈴に誘われるままに、紅魔館へ入っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、エントランスでわざわざ全員集合した状態で出迎えられ、昨晩の事と共に咲夜から伝えられたのがこのセリフであった。

 

 

 

 

 

「……という訳で。

 

星羅、あなたにはこれから私のメイド(部下)として、一週間働いてもらうわ」

 

 

 

 

 

「……はぁあぁあぁあぁ!?!?」

 

 

 

 

 

 

 あまりにも腑抜けていて、あまりにも情けなく、そしてあまりにも素っ頓狂な声が自然に口から漏れた。

 

 

 

 

 

 

「そこまで驚く??」

 

 ……逆にレミリアが少し引いている。

 

「……でもね星羅。あなたにはいい機会だと思うわ。咲夜との繋がりも知りたいんでしょう? ならここでしばらく働いてみて、何か手がかりを見つけ出すのが手っ取り早いわ」

「……はぁ」

 

 おぜうに言われちゃ仕方ない。

 半ば諦めの声が混じったトーンで返すと、星羅は咲夜を見た。

 

「……わかりました。なんでも屋にかけてやってみせますよ。それで咲夜さん、私メイド服無いんですけど」

 

「結局やるんだ」

「えらい」

「流石なんでも屋ね」

 

図書館組(パチェこあここあ)が驚く。

 

「そうねぇ、まずはそれからね。お嬢様、少しお時間頂きますわ」

「いいわよ」

 

 咲夜は星羅を伴って奥に進んでいった。

 

 

 

 

「まさかこんなあっさり私の案が通るだなんて思わなかったわよ、お姉様」

 

 今回の原案者、フランが言う。

 レミリアは笑って答えた。

 

 

 

 

「あの子……不思議な運命を視たのよ。その真偽を確かめたくて」

「ふぅん……どうせろくな運命じゃないでしょうけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

「これでどうかしら」

 

 

 

 咲夜は予め仕立てておいたという服を星羅に着せた。

 

 

 時間操作で時を止め、昨晩作り上げたらしい。

 サイズのみ勘。

 

 

 だが伊達にお世話係をやっている身、その服は星羅にぴったりのサイズで仕上がっていた。

 

 

「わぁ……すっげー」

 

 星羅は身に纏ったメイド服をまじまじと見つめ、手足を動かしてみた。

 

 

 咲夜とお揃いの、紺色と白のメイド服。

 そこに、フリフリの付いたエプロンが映える。

 

 そして一番目に付いたのは……

 

 

「あのー、咲夜さん」

「あら、どこかきつかったかしら?」

「いやそーじゃなくってですね……これ……」

 

 

 

 脚に履いたタイツのリングに一本装備した、ナイフ。

 

 咲夜が使っているものの一つらしい。

 銀製の刃が黒地にすごくアクセントになっている。

 

 

 だが星羅にとっては、何かを切る以外に使い道の無さそうなものを持たされているような気分だった。

 

「……このナイフどうしろと?」

「あぁ、それはプレゼントするわ」

「はい??」

「あなたが持っておきなさい。いざという時の……護身用よ」

「護身って……バスターがありますよ、私」

「敵に近づかれたら使えないわよ、あの形。それに万一って事も考えなさい」

「……はぁ、わかりました」

 

 

 星剣【バスターソード】とか、妖夢のメモリとかあるんですけど〜……。

 

 星羅はそう突っ込みたい気持ちをぐっとこらえた。

 一応上司の前だし。

 

「先に言っておくけれど、お嬢様たちに変な事しないでね」

「んな事しませんしそんな事考えたりもしません! 立場ぐらいわきまえますよ!」

「なら結構。さ、お嬢様たちのところに戻りましょ」

 

 

 再び咲夜に連れられ、星羅はだだっ広い屋敷の中を歩いた。

 

 窓から薄く射す陽の光は、メイドになった彼女を祝福するように優しく照らしてくる。

 光が薄くなってるのはレミリアやフランへの配慮だろう。

 

 

 そしてそんな景色が階を跨いでも延々と続くので、星羅は今どこを歩いているのか見当もつかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、素敵! 似合ってるわよ星羅」

 

「案外よく似合うわね……」

 

「「かわいい〜!!」」

 

「おお、ぴったりですね!」

 

「あら、予想してたよりも結構良いんじゃない?」

 

 

 全員から一斉に褒められて星羅は心底動揺した。

 

 −−私そんなにメイド服似合うやつなの??

 

 

 

「えーと……これからお世話になり、かつレミリアお嬢様たちのために尽くす事になりました。よろしくおねがいします」

 

 ぺこりとお辞儀する星羅。

 うんうんと頷き、レミリアは言った。

 

 

「一週間、しっかりと頑張ってちょうだいね。あなたの探すものがついでに見つかる事を祈ってるわ」

 

 

 

 

 マントのように羽広げ、一層大きな声で宣言する。

 

 

 

 

「改めて……ようこそ、紅魔館へ。

 

 

あなたは、新たな私たちの……家族よ」

 

 

 

 

 

「……はい、お嬢様っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それぞれが見守る中、星羅はキッと表情を引き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[……フン、新しいメイドにナッタのか……創造主(マスター)

 

 

 

 

 

 

 そんな様子を見る者がいる。

 

 

 

 蝙蝠とはかけ離れた、先進的な羽を背中に生やした機怪。

 

 それは、気づかれぬ内に窓から視線を移すと、

 

 

 

 

[……まとめて始末シテくれる]

 

 

 

 

と言い残して、まるで消えたかのように(・・・・・・・・・・・)、その場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それによってわずかに歪んだ(・・・)空間は、ただただ元に戻りゆくだけだった。

 

 

 

 

 

 

 




 咲夜メモリ(仮)の正体とは?
 新たな機怪現る!?

 急展開の次回を待て!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

020. 流転の中で

 唐突に東方だけでなく別の小説を書き始めました。
 メインはこっちなのであちらはヤベーイくらい亀更新ですけどね。

 今回は久しぶりに機怪を出しますのでよろしく。


 紅魔館で一週間メイドとして働く事となった星羅。

 果たして、メモリの手掛かりは見つかるのか。

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「星羅、そのお皿はそこに並べて! あとお嬢様の紅茶はそこ! わかった?」

「は、はい!!」

 

 

 

 

 忙しなく動き回る星羅。

 

 咲夜と共に食卓を並べるが、経験差が祟って指示についていくのがやっとだった。

 

 

 

 

 高を括っていた自分と少しでも侮っていた自分と逃げの心を持ちかけていた自分をぶん殴りたいぐらい、星羅は焦っていた。

 忙しいとはこういうことか。

 

 

 ……否、「時間がいくつあっても足りない」といった表現の方が正しいだろう。

 

 

 

「時止めが羨ましいです……」

「気持ちはわかるけど今は集中しなさい」

「わかってますって……!」

 

 せかせかと動く星羅。

 

 

 

「……まぁ」

 

 だが。

 

 不思議と焦っているのにも関わらず、置き方や配置は咲夜が少し目を丸くするほどに的確だった。

 

 指示についていくのがやっとではあるのだが、やる事自体は何故かしっかりとこなしている。

 

 

「……随分綺麗に並べるわね」

「身体が覚えてるというか……なんとなくわかるんです。これはこんなんだ、とか、こいつはここにあるべき物だ、とか」

 

そう言って笑い、星羅は最後の一品をセットした。

 

「ふぅ。終わりましたね」

「……」

 

 

 −−的確過ぎる。

 経験がないはずの彼女が、多少遅れているとはいえ、ここまで私たちの趣に合わせてくるなんて、普通に考えてあり得ない。

 

 

 複雑な感情を抱きながらも、咲夜はひとまず彼女の行為に関心するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、彼女の疑問は膨らみ続ける事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「咲夜さん、これ忘れ物です!」

「あら、ありがとう」

「あとこれレミリアお嬢様からのお使いメモです、後で買い出しいきましょう」

「わかったわ、預かっておくわね」

 

 

 

 

 

「めーりんさーん! 起きてくださいよ〜」

「むにゃ……咲夜さん??」

「星羅です」

「はっ!? せ、星羅さん!? ありがとうございます……お仕事は??」

「取り敢えず咲夜さんに言われた分はもう終わってます」

「は、早いですね……」

「起きてないと叱られますよ?」

「あはは、すみませんね」

 

 

 

 

 

 

「パチュリーさんにお嬢様、お出かけですか」

「ちょっと霊夢のところに行ってくるわ。咲夜によろしく言っておいてくれる?」

「お任せを、お嬢様。お帰りになられたらお茶を淹れますね」

「ふふ、気が利いて助かるわ」

「レミィが見込んだだけの事はあるわね」

「恐縮ですよ。パチュリーさんは?」

「私も霊夢に聞きたいことがあるのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーう星羅!! 遊びn」

「何だ魔理沙か……今忙しいから、悪いけど帰って」

「おいおい、塩対応しないでくれよ」

「ごめん。あぁ、それとパチュリーさんは今いないからね」

「え、なんだよそしたら図書館開いてないのか?」

「だからお帰りくださいませ〜」

「う、わかったよ……って……な、なぁ星羅。なんか馴染み過ぎじゃね? お前」

「そう? ……気の所為さ、多分」

「ならいいけどよ。無理はするなよ」

「ありがと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その他、星羅は慣れない環境の中にも関わらず、まるで熟知しているかのような振る舞いと言動を続けた。

 

 フランのところにご飯を持っていった際には、気を利かせたのか食べやすい並べ方に揃えてあったり、咲夜が指揮統一に手こずる妖精メイドを、何故か手足の様に指揮したり。

 

 その「偶然や必然で言い表せない何か」を持つ星羅に、咲夜はずっと目を瞠っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……時間を止めないで見てきた結果が、これだなんて……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「星羅、少し休憩しましょう」

「え、良いんですか?」

「たまには息抜きしないと身体が持たないわ」

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 咲夜に言われて、部屋のソファに座る二人。

 

 

 咲夜の淹れた紅茶を飲む。

 

「……」

「あら、お気に召さなかったかしら」

「……うぅ」

「まぁ私は気にしないから安心しなさい。お嬢様には言わないでおくから」

「すみません……」

 

 

 麦茶派です。

 星羅は思った。

 

 

「それで星羅、聞きたいことがあるのよ」

「はい?」

 

 咲夜は一呼吸置くと、単刀直入に尋ねた。

 

 

 

「あなた……これまでよりも前に、紅魔館に来たことある?」

 

 

 

「……は??」

「いや、あまりにも馴染みすぎていて……気になったのよ」

 

 呆気にとられた星羅だが、すぐに答えた。

 

「……どうなんでしょうね。私にもわからないです。ただ……」

「ただ?」

 

 

「昨日……咲夜さんとは初めて会った……そんな気がしないのは確かです」

 

「星羅?」

 

 

 星羅は貰った咲夜のナイフに触れる。

 

 今朝貰ったあのときから、違和感無く、寧ろその存在が馴染んでいた。

 

「やたらとしっくりくる感触。何故か感じる懐かしさ。そしてあのとき視た咲夜さんの夢。……多分、私が知らないタイミングできっと会った事があるのかも、しれないです」

「でも私はあなたと会うのは初めてよ」

「……そうなんですよね」

 

 

 星羅の言いたい事は咲夜にもわかる。

 

 何故、他人の記憶に触れられるのか。

 欠けた記憶は何を示すのか。

 

 何一つわからない彼女が、困惑しているのが。

 

 

「……今は気にしないことよ、星羅。パチュリー様も探してくれているわ。少なくとも今は……目の前の物事に、集中しなさい」

「はい」

 

 彼女なりの気遣いに、星羅は頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、星羅は(流石にノーミスとまではいかなかったが)様々な仕事を咲夜と共にこなしていった。

 たまに叱られる事もあったが、初日というのもあり咲夜がフォローしてくれた。

 

 そんな初日が終わり、星羅はあてがわれた部屋のベッドにひとり座り込んでいた。

 

 

 

「……はーぁ、疲れた」

 

 

 

 こんな日々があと六日続く。

 大変だろうけども、やるしかない、やりきるしかない。

 

 

 

 ふと、星羅は自身のもつメモリが気になった。

 だいたいメモリは何かしら自身に進展があると勝手に生成されている。

 妖夢との一件で使ったバスターソードなんかはその例だ。

 

 

「また増えてないかなぁ…………あっ?」

 

 

 半信半疑で適当に取り出したメモリは、案の定、見たこともないものだった。

 

 炎が描かれたメモリ。

 色はオレンジに近い赤……所謂、朱色だった。

 火炎弾でも放つスペカ……もといスペルメモリなのだろうか。

 

「えーと……ばーにんぐ、なっくる??」

 

 裏面にはアルファベットでメモリ名称が刻印されている。

 “Burning Knuckle”……「バーニングナックル」とあった。

 

 

「えっ……まさかの近接スペルカード??」

 

 

 バスターソードの立場は?

 

 星羅は心底思ったが、

 

「……まぁ使ってみるまでは、何とも言えない、か」

 

 

夜中というのも考慮し、大人しく眠る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

−−パリン。

 

 

 

 

「……ん?」

 

 

 

 

 

 星羅を起こしたのは、“何か”が割れる音だった。

 

 

 聴いたことがある。

 

 

 

「……!! まさか……っ!」

 

 

 

 

 星羅はベッドから飛び降りるように起きると、素早く服を着替えて部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「っといけない忘れ物っ!」

 

 

 

 

……取り忘れかけたメモリをがっと掴んで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美鈴!」

 

 

「咲夜さん! 見ての通りです!」

 

 

 

 

 

 いち早く駆けつけた咲夜は、美鈴と、彼女に襲いかかる機怪たちを見るやいなやナイフを乱射。

 彼女から何体か引き離し、美鈴のそばで構える。

 

 

「最近現れないと思ったらこれなのね」

「丁度いい、なまった身体のほぐしになってもらいますよ!」

 

 

 二人は踏み込んで機怪の群れに突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーもう! なんでやねーん!」

 

 

 

 その頃星羅は広すぎる屋敷構造と戦っていた。

 

 

 

 ……言うまでもないが、迷子だ。

 

 

 

 

 

「くそ……どうしよ」

 

 

 

途方に暮れかけた彼女だったが、

 

 

 

「…………!」

 

 

 

ふと、頭に何かが過ぎった。

 

 

 閃いたものに懸けるしかなさそうだ。

 

 

 

 

 半分無意識に、咲夜のメモリを取り出す。

 

 

 

 

 

 すると、不思議なことに玄関までの道のりが自然に浮かんできた。

 

 

 

「なんかよくわからないけど……いいや、急げ」

 

 

 星羅は救われた理由よりも走ることに専念した。

 

 

 

 

 このとき、そのメモリがほのかに輝いていたとは知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 咲夜は、時を操る力を持つ。

 

 

 文字通り自分以外の時間を停止させたり、遅くさせることで上手く回避したりできる。

 

 

 そして時間停止状態の咲夜が、戦いにおける彼女の真骨頂。

 

 

 

「……はぁっ!」

 

 

 ばら撒いたナイフが、数本から一瞬で数十本に増加し、軌道上の機怪に突き刺さる。

 それだけで数体の機怪を破壊した。

 

 

「さっすが咲夜さんですね!」

「いつもの事よ!」

 

 

 時間停止中は咲夜を除く全てのものが止まる。

 それを利用し、ナイフを“設置する”ように展開、時間の再始動と共に弾幕として放つのだ。

 

 基本的にいつでもどんなタイミングでも、時間を止めることができるため、スペルカードルールではある程度制限をかけている……が、それでも強いし、そもそもそんなルールなどお構いなしの、この鉄の塊どもには手加減など不要だ。

 

 

 

「はーっ、せやぁー!」

 

 一方の美鈴は“気”を操る格闘技が得意。

 拳ひとつ、蹴り一回で、次々と機怪を吹き飛ばし爆散させている。

 

「……はぁあっ、どりゃー!!」

 

 

 そして自らのオーラを波導弾として放つ。

 

 

 

「まだまだ! 虹符! 【烈紅真拳】!!!」

 

 

 

 

 さらにオーラの衝撃波を乱射。

 凄まじい勢いで各個撃破していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……とはいえ……」

 

 

 一段落ついた美鈴が、あたりを見回す。

 

 

「数が多過ぎる……咲夜さん!」

 

「えぇ、流石に参ったわね」

 

 咲夜も手こずっているようだ。

 

 

 次から次へと現れる鋼の生命体。

 そもそも減っているのかすら怪しい。

 

 

 

 

 再び囲まれ、二人が構え直した、その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「弾符!! 【プラズマチャージショット】!!」

 

 

 

 

 奥から蒼き雷撃弾が放たれ、数十体の機怪をそれだけで撃破した。

 

 

 

「咲夜さん! 美鈴さん! 大丈夫ですか!」

 

 

 星羅が駆けてくる。腕にはバスターが、発射による白煙を微かに昇らせていた。

 

 

 

 

 

 

「星羅さん遅かったですね!」

「まぁ今のに免じておくわ」

「ではお言葉に甘えて……!」

 

 

 星羅はメモリをばっと見る。

 

 

 

「……あ」

 

 

 だが星羅はその直後冷や汗をかいた。

 

 

 

 

 さっき適当に取ったメモリは……全てではなかった。なんの不運かP-C-S(プラズマチャージショット)ともう一枚だけ。

 

 

 しかも、よりによっていまいち使い方がわからない、B-K(バーニングナックル)だったのだ。

 

 

 

「えーいままよ……ってやつか!!」

 

 

 迷ってる暇は無さそうだ。

 

 

 

 

 

《Spell-memory confirmed……》

 

 

 やはりセットすると、記憶が蘇るように使い方が浮かぶ。

 

 

「……って……えぇ……」

 

 

 だが星羅にとってそれは全く自信がないものだった。

 

 

「……星羅さーん!」

 

「ぼさっとしてないで!」

 

「うっ……はーい!!」

 

 

 

 やっぱり迷ってる暇は無い。

 

 

 

 

 

 

 ぶっつけ本番など日常茶飯事。

 

 星羅は覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおお!」

 

 

 

 飛び出した星羅は、全力で叫ぶ。

 

 

 

 

 

「恒星!! 【バーニングナックル】!!」

 

 

 

 

 

 

 

 刹那、星羅の身体が浮く。

 

 バスターが紅蓮の炎に包まれる。

 

 

 

 

 星羅自身が弾丸のように、機怪のひとり目掛けて突っ込んだ。

 

 

 

 

[!?!?]

 

 

 予想外の行動になすすべなく爆散する機怪。

 

 

 突き出された右腕のバスターは、まさに炎の拳(バーニングナックル)

 

 

 

 

 しかもそのまま星羅は凄まじい速度で次々と鉄の身体たちに穴と火傷を刻みつけていった。

 

 

 

「ラスト〜っ!!」

 

 

 

 

 最後に残った指揮官機も、言葉すら言わせず軽々粉砕。

 

 

 

 ズザザ、と着地した星羅の背後で大爆発した機怪たちが、彼女の身体をくっきりと咲夜たちに刻むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「は、早すぎる」

 

 

 その様子を見た美鈴が、呟く。

 

 

「…………、星羅……」

 

 

 咲夜も、何かを言いたげにそれを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巻き上がった爆煙が晴れた頃、星羅は排熱をするバスターを見つめて、その場にただ立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 バーニングナックルの元ネタは……なんだろう?
 特にないかも知れない。

 強いていうならば、ロックマンX4の特殊武器「ライジングファイア」かも。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

021. 他への干渉

 一週間一話更新が辛くなってきた。
 テストが近いのよ。

 でもやれるだけやります。


 


 という訳で星羅の謎解明回。
 その一部が垣間見えます。





 初体験のメイドとしては不思議なほどに紅魔館に適応する星羅。

 その様子に、咲夜は複雑な感情を抱く。

 

 翌朝、襲いかかってきた機怪を星羅は新たなスペルメモリ、バーニングナックルで撃退する。

 その際、星羅は咲夜のメモリによって紅魔館内での迷子を脱する事ができたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……こあ、ここあ? 見つかった?」

 

「ごめんなさいパチュリー様、まだこれといっていいのは無いです」

 

「それっぽいのはたくさんあるんですけど……これってのが無いですね……」

 

「そう、わかったわ。なるべく急いで、何か進展があったら言って」

 

「「はい」」

 

 

 

 

 

 

 

 パチュリーは眼鏡を外し、天を仰いだ。

 

 

 

 

 

「……ふぅ。こんなにも沢山の本を一気に読み漁るのはいつぶりかしら。

 

 

 

 

 

待ってなさい星羅、七曜の魔女の本気……見せてあげるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あなたの実力。見せてもらったわよ星羅」

 

 

 

 

 

 レミリアは椅子に腰掛けて、星羅に向かって言う。

 

「メモリの力、とは言っていたけれど……確かに、あの鉄の塊たちにはよく効くみたいね」

「原理は私もわからないんですけどね」

 

 咲夜も付け足す。

 

「ですが、星羅の力はメモリに依存している、とも言えます」

「……」

 

 それには星羅も何も言わなかった。

 

 

「……それは自覚しているのね」

「はい」

 

 レミリアの問に即答するあたり本当らしい。

 

「……それと」

 

レミリアは質問を変えた。

 

 

 

「あなたの適応する力……身体が覚えているの?」

 

 

「……多分」

 

 

 自分もわからないと言いたげにゆっくり肯く。

 

 

「……なるほど。わかったわ。質問は以上よ。悪いわね、せっかく勝利したのにこんな話して」

「いえいえ、お嬢様のお言葉、しっかり覚えておくので」

「……私なんか言ったかしら」

 

 

 

 締めくくったレミリアは、咲夜と星羅に遅れた朝ご飯の支度を頼み、ふぅ、とため息をついた。

 

 

「あの子、見込みがありそうとは思ったけれど……あそこまでとは、ね」

 

 誰にも聞こえぬ声で、呟く。

 

 

「……私の視た運命……ひょっとしたら変えられるかも、ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、遅れを取り戻すわよ」

 

 

 咲夜は洗った手を拭きながら言う。

 

「今から時間を止めて下準備だけ終わらせるわ、星羅はその後から頼めるかしら」

「了解です」

 

ビシッと敬礼して返す星羅。

 

「さて、と」

 

 咲夜は懐中時計を取り出し、そのボタンを押し込んだ。

 

 

「……時よ、止まれ! ……なんて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間世界がモノクロに包まれる。

 

 あらゆるものの動き……木々も、雲も、妖精も、全てがただただ静止する。

 

 動いていたものが止まり、時間に縛られていた咲夜だけが動ける空間となった。

 

 

 

 

 

 

「さぁ、さっさと終わらせましょう」

 

 

 

 と、咲夜は軽く気合を入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ところが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………あの」

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「動けるんですけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

「え??」

 

 

 

 

 

「え??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「……なんで???」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モノクロのハズの、咲夜の時間で、星羅のみが色付いていた。

 

 

 何が起こったのかわからないといった顔で、咲夜を見ている。

 

 

 咲夜もまた何故こんなことになっているのかと混乱し始めた。

 

 

 

 

「……さ、咲夜さん??」

 

「……星羅、あなた何かした??」

 

「え、別になんにも……?」

 

 

 

と、星羅は気づく。

 

 

 

「あっ、もしかしたら……」

 

 

 

 

 

 

 

 そう言って、星羅はポケットに手を突っ込む。

 

 心当たりがあるとすればひとつしかない。

 

 

 

 

 

「やっぱり」

 

「……なるほど」

 

 

 

 

 そう。

 星羅と咲夜の、未だ色付かないメモリだ。

 

 まるでこの白黒の世界に抗うように、ほんのりと青色に光っている。

 

 

「……あなた……まさか」

 

 

 咲夜はそれを見て、呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“他人の能力に干渉できる”、能力なの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……えっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早急に仕事を終わらせた二人は、朝食の諸々を片付け、パチュリーの図書館へ向かった。

 

 

 

 

「……なるほど。“メモリが時止めから星羅を護った”ということね」

 

 

 パチュリーはそれだけで推論を述べた。

 

 

「どういうことですか?」

 

咲夜の問に、パチュリーは

 

「……フランのところへ行くわよ」

 

と答えた。

 

 

 

「多分あの子に“実演”してもらう方が、圧倒的に理解できるから」

 

 

 

 

 

 

 

 パチュリーは役目を小悪魔たちに任せ、二人を伴いフランの地下室へ歩んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

 

 その頃……霧の湖。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこでは、戦火が飛び交っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 機怪たちが突如襲いかかってきたらしい。

 

 

 

 

「どりゃー!!」

 

 

 

 

 チルノは自身の強さを活かし、他の妖精たちを逃がしながら機怪を氷漬けにしていた。

 

 チルノは他の妖精よりも少し−−いや、かなり強い。

 妖精だからバカなのは否めないが、それでもその強さは侮れない。特に氷を扱うため割となんでも氷漬けにできることから、怒らせることだけは推奨されない。

 

 そして今彼女は、共に戦う大妖精やルーミアをバックに、スペカを放っていた。

 

 

「くらえ必殺!凍符!【アイシクルフォール】!!」

 

 

 

[ウオ!?]

 

[ギャア!?]

 

 

 温かな空気を、一瞬で冷気の風にする。

 

 弾幕が弾け、凍てつき、流れる。

 

 

 チルノの得意技に、一般機怪どもは為す術もない。

 

 

 

 

「はっはー、どーだ! これ以上凍らせられたくなかったら大人しくここからでていけー!」

 

 

 ぐっと力を込めた、その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[……あぁん?ドノ口が言うんだ、バカ]

 

 

 

 

 

 

「……うわっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、背後を一閃。

 

 

 

 

 

 

[こんな手駒(ザコ)がやられる事など……折り込み済みだ]

 

 

 

 

 

 

 

 さらに後ろで戦っていた、大妖精とルーミアも一太刀食らわされる。

 

 

 

 

「きゃあ!?」

 

 

「な、何今の!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[……所詮、妖精は妖精。いくらチカラをつけようとも、上の存在には敵わないってワケだ]

 

 

 

 

 

 

 

 ギュン、という風が吹く。

 

 

 漂っていた冷気を、無情に弾き飛ばす。

 

 

 

 

 

 そこに現れたのは、巨大なウイングを生やした一体の機怪。

 

 全身が流線型に磨かれ、ところどころに追加バーニアが取り付けられた、オーダーメイドタイプ。

 

 

 

 

 

 

[冥土の土産に、教えてやる。

 

 

 

私はバニッシュ。そうだなぁ……“時空切り裂く悪魔”、とでも名乗っておくか]

 

 

 両腕にエッジの効いた刃を纏う、「悪魔」はそう名乗った。

 

 

 

 

 

 

 

[そうそう、悪いなぁ……そこらの妖精、弱すぎて準備運動にすらならんかったわ]

 

「!!……ま、まさかみんなを!?」

 

 

 チルノは青ざめ、そしてすぐに怒りが込み上がってきた。

 

 せっかく皆のために戦っていたのに、全てこいつが無駄にして、しかも皆がこいつのせいでやられてしまった。

 

 妖精は自然の力でいくらでも復活するとはいえ、全員をやるなんて……酷すぎる。

 

 

「ふ……ふざけんな!!よくもみんなを……!!絶対許さないぞ!!いこう、大ちゃん!ルーミアちゃん!」

 

「……う、うん!!」

「わかった!」

 

 

 三人は次々に弾幕展開。

 

 

 同時にスペカを放った。

 

 

 

「闇符、【ダークサイドオブザムーン】!それー!!」

 

「交換!【チェンジリング】!」

 

「うおおおおお!!凍符!!【パーフェクトフリーズ】!!!」

 

 

 

 

 

 闇が、光が、氷が、倒すべき敵へ降り注ぐ。

 

 

 

 

 

 

 ところが。

 

 

 

 

 

[ケッ、ちょっと強い妖精に、自然が味方の妖精、闇の人食い妖怪……雑魚ばっかだなぁ、こりゃケッサクだ]

 

 

 

 

 微塵も動じない姿勢を見せ、的確に解析を済ませたバニッシュは、

 

 

 

 

 

忽然とその場から消えた。

 

 

 

 

 

 

「えっ……?」

[遅い遅い、ほら!!]

「うわあ!!」

 

 

「な、何がどう……??」

[見えないならその闇捨てとけ…よ!!]

「わぁ!?」

 

 

「く、くそ!?」

[……たかが妖精。驕り高ぶるその態度……要らねぇだろ!!]

「か、かはっ……!!」

 

 

 

 

 なんと異次元のスピードを以ってその弾幕をくぐり抜け、闇の中を突っ切り、氷を弾き、

 

 

三人をあっさりと切り捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地に倒れ込む三人。

 

 致命傷は逃れたがそれでも痛かった。

 

 

「……くそぉ……っ」

 

 

 なおも立ち上がろうとするチルノに、バニッシュは目の前に着地すると、そのビーム刃をしまった。

 

[ま、健闘を称えてこのヘンにしといてやる。“まだ”制圧命令は出てないからなぁ]

 

「な、なんだって!?今なんて言ったの!?」

 

 

 言葉の理解は出来なかったが、流石のチルノでも大体の意味はわかる。

 

 

 

 “まだ”……つまりもう一度、こいつらが来る。

 

 

 

 

 

[じゃあな、雑魚ども。せいぜい、準備くらいはしておけ。

 

私を楽しませる準備を、なぁ……?]

 

 

 

 そして、バニッシュは現れた時空の裂け目に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 その様子を、満身創痍のチルノ、大妖精、ルーミアは、ただ見守る事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 時間止められるようになったら何がしたいですか?


 次回は咲夜さん回です。




 ちなみに大ちゃんのスペカは東方ロストワードに拠りました。
 それしかねーじゃんか……。
 やってないけどロスワありがとう(問題発言)





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

022. 運命の咲いた夜

 咲夜さん回。

 ようやく紅魔郷編もクライマックス。
 大きく物語が動きます。







 咲夜の【時間を操る程度の能力】に干渉して、一緒に動けた星羅。

 パチュリーはそのことに何か考えがあるらしい。

 

 

 

 一方霧の湖では機怪による襲撃が発生。

 

 バニッシュを名乗るオーダーメイドタイプの機怪に、ルーミア、大妖精、そしてチルノの三人は手も足も出ずに満身創痍に追い込まれてしまう。

 

 見逃されたチルノたちだが、その理由をバニッシュは[“まだ”制圧命令は出ていない]と言う。

 

 

 

 その脅威は、再び襲い来ることを告げるのだった……。

 

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フラン、入るわよ」

 

 

 

 

 

 

 パチュリーは地下室の扉を開き、星羅たちと中へ入った。

 

 くまのぬいぐるみを抱えていたフランは、それを放ると、

 

 

「あら、パチュリーに咲夜、それに……星羅、だっけ。揃いも揃って、どうしたの?」

 

と訝しむ素振りを見せた。

 

 星羅は自身の名を覚えてもらえている事が嬉しかったが、そこはひとまずスルーした。

 

 

 パチュリーは早速切り出す。

 

 

 

 

「星羅、フランの能力は知ってるわね」

「えーと、確か妹様は【ありとあらゆるものを破壊する程度の能力】、をお持ちになっていらっしゃるんですよね」

「フルネームで言えて何よりだわ」

「恐縮ですよ妹様」

「それで?私の能力がどうかしたの?パチュリー」

 

 すると彼女は、驚くべき事を言った。

 

 

 

「……ちょっと……星羅を破壊してもらうわ」

 

 

 

 

 

「ぱ、パチュリー様!?どういうことですか!?」

 

 

 咲夜が詰め寄る。

 

 パチュリーは悪びれる素振りもなく続けた。

 

「落ち着きなさい、それに大丈夫よ。私が保証する」

「で、ですが……!」

「フラン……気付いているんじゃないの?」

「……え?」

 

 

 フランは言われた通りに、星羅に手を伸ばしてみる。

 

 

 

「……あれ?な、なんで……!?」

「妹様?」

 

 咲夜が首を傾げると、フランは、

 

 

 

「こいつ……星羅、“目”が無いわ」

 

 

 

と、思わず後退った。

 

 

 

 

 フランの能力は、対象の弱点……彼女云う“目”、を手元に引き寄せ破壊するチカラ。

 

 だが星羅にはそれが無かったのだ。

 

 

 

 

「ほらね。咲夜、あなたのときと同じよ」

「…………」

 

 

 咲夜は信じられないという面持ちで星羅を見つめる。

 

 

 

 

「この子は、自分にとってのデバフ……悪影響を、無効化できるのよ」

 

 

 

 パチュリーはどこからか取り出した本片手に、そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『記憶失いし迷える少年』

 

 

 

 

 

『それは降りかかる災悪を振り払い』

 

 

 

 

 

『他からの能力を弾き、味方に付け』

 

 

 

 

 

 

『この世の巨悪打ち払わん』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「図書館の奥深くに置いてあったこの本に、そうありましたよ。パチュリー様」

 

 

 

 

 振り返ると、そこには追いかけてきたであろうこあとここあがいた。

 

 一冊の古びた本を抱えている。

 

「予想通り、ね。よくやったわ、こあ、ここあ」

「パチュリー様のご名誉にかけて、ですから」

「大変だけどこれくらいなんのなんの、です」

「ふふ、頼もしいわ」

 

 パチュリーはこあたちを労り、そして自身の持つ本を開く。

 

 あるページを開くと、その一部を読んだ。

 

 

 

『危機、迫りし刻。現れるはひとりの救世主』

 

『災悪、迫りし刻。打ち払うはその地象りし記憶』

 

『戦禍、迫りし刻。終わらせるは七色の光』

 

 

 

 

「何のための予言書かわからなかったけど……こういうことなのね」

 

 

 パチュリーは本を閉じると手ぶらのここあに預け、

 

 

 

 

「星羅、恐らくこれがあなたの能力よ」

 

と言った。

 

 

「でもなんて言う名前なんでしょう」

 

 

 咲夜の問に、パチュリーは少し考え、

 

「そうね、名付けるなら……

 

 

 

 

 

 

 

 

【幻想力に触れられる程度の能力】、かしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、いかにもなネーミングを付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「星羅がこの異変を終わらせるカギだというのは明確。後はそれをより裏付けるものが何か必要ね」

 

 

 パチュリーが言うと、フランが抗議した。

 

「そんなの、わかりきった事じゃない」

 

「フラン?」

 

 

 

「機怪をフルボッコに出来る武器。

 

他人の能力に左右されない。

 

他人の記憶を貰える。

 

 

これ以上に裏付ける事がある?」

 

 

 

 フランは人差し指を立てて述べた。

 

 

 

「……ま機怪をフルボッコするのは多分お姉様や私でも簡単だろうけど」

 

と付け足して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのあと、休憩に向かう星羅だったが、そこへ。

 

 

 

 

「星羅、ちょっと良いかしら」

 

 

「お嬢様?」

 

 

レミリアが呼び止めた。

 

 

 

 

 

「パチェとフランから大体聞いたわ。幻想力に触れられる程度の能力、ね。興味深いわ」

「あはは……」

「まぁそれはまた今度の話。星羅、少し頼まれごとをしてくれる?」

 

 レミリアは星羅に、軽く耳打ちする。

 

 

 

「…………ふむふむ…………なるほどなるほどぉ…………はい、任せてください!」

「ありがとう、素直でよろしいわ」

「お嬢様の仰せとあらば、ってやつです」

「ふふ、結構なこと。じゃ、よろしくね」

 

 

 

 

 

 

 

 レミリアは満足気に星羅を送ると、振り返ってフランを見た。

 

 

「で?後は私が集めてくればいいの?」

「えぇ。悪いわね」

「別に。暇つぶしになるし、何より……

 

 

咲夜が居なくなったとき、私も困るから」

 

「……そうね」

「じゃあねお姉様。サクッと集めてくる」

 

 

 フランは足早に加速をつけて飛び立ち、館内を滑るように進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、私以外に時間停止の中を動けるなんて」

 

 

 咲夜はそう言いベンチに座り込んだ。

 

 

「てっきり私だけだと思っていたわ」

「いや、多分咲夜さんだけですよ」

 

 と、星羅は彼女の横に腰掛ける。

 

「メモリがないとなんにもできない。それが私ですから」

「そんなことはないわ、あなただからできることも沢山あるはずよ」

「……咲夜さん」

 

 ふっと笑うと、星羅はふと気になった事を聞いてみた。

 

 

「あの、咲夜さん」

「どうしたの?」

 

 

 

「失礼かも知れませんが……昔、何があったんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……美鈴からある程度、聞いたのね」

 

「はい」

 

 

 咲夜はふぅっと息を吐くと、

 

 

「美鈴が言っていた通りよ。こんな私を、お嬢様は拾ってくださった。何も無かった私を、助けてくださったのよ」

 

と、答えた。

 

 口ぶりから、美鈴が予め話していたのだろう。

 

 

「……十六夜の日。とある森に迷い込んだ私は、いつの間にか真っ赤な屋敷の前に来ていたのよ」

「……」

「そうこうしている内に……あの方たちが現れた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『時間を止められる能力、ね。食べてしまうのには惜しいわ。ねぇ、美鈴』

『はい。そんな人、恐らく世界中探してもいませんよ』

『ふふ……ねぇ、あなた名前はある?』

 

「……」

 

『……そう、なら今決めてあげましょう。そうね……』

 

『お嬢様。今日は十六夜ですよ』

『いいこと言うわね!なら……あなたの名前は、十六夜 咲夜ね』

 

「……!」

 

 

 

『十六夜。あなたの運命が咲いた夜よ。これから私に尽くしなさい、咲夜』

『よろしくおねがいしますね』

 

 

 

「…………はい」

 

 

 

『今はそれでいいわ。さあ、ついていらっしゃい』

 

 

 

 

 

 

『ようこそ。紅魔館へ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの後、私はメイドとして働く事になった。そのうち、妖精を束ねるメイド長になり、お嬢様たちの信頼も固いものになった。……あの日お嬢様が拾ってくださらなければ……きっと、こうはならなかったでしょうね」

 

 

 

 咲夜はそう言って、思いを馳せるように窓の外を見ていた。

 

 

 

 

 

 

「……幸せ、なんですね。咲夜さんって、とっても」

 

 

「……星羅?」

 

 

 振り返ると、星羅は微笑んでいた。

 

 

「だって普通恐ろしい吸血鬼のお屋敷なんて入りませんよ。でも今咲夜さんはとっても幸せそうです。少なくとも、私から見れば」

「星羅……」

「……咲夜さんの悩み。聞かせてくださいよ」

「えっ?」

 

 

 星羅は例のメモリを取り出した。

 

 

 未だ色づかない灰色のメモリ。

 全ては「あの日」視た夢から始まった事だ。

 

 

 

 

 

「……もしかして咲夜さん

 

 

 

 

 

 

その幸せの裏で……

 

 

お嬢様たちと別れるのが……辛いんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、夢で視たこと思い出してきました。夢の中で、咲夜さん、怖がってましたよ。皆から忘れられる事に。

 

 

 

そのうち訪れる“いつか”、それに……怖がってる。そう感じたんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 思い切って、星羅は本音を伝えた。

 

 言わないと手遅れになりそうだったから。

 

 言わないで後悔したくないから。

 

 

 

 人を救える力宿す、メモリが生まれる意味を、知りたいから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………美鈴ったら、ちょっと話し過ぎかしら」

 

 

 

 

 

 すると、咲夜は驚くどころか、くすっと笑った。

 

 だが、その笑みには何処か悲しみの陰りが星羅には見えた。

 

 

「そのとおりよ、星羅。……私は怖いの。皆と別れる、“いつか”の日が」

 

 

 

 

 

 

 

 何度か、咲夜はレミリアに「吸血鬼でもなれば、私達と同じように長生きできる。そうすれば別れる心配もなくなるわ」と言われた事がある。

 

 レミリアとしては彼女なりの気遣いだったのだが、そのたびに咲夜は「大丈夫です」と言っていた。

 

「人間としての誇り、忘れたくないのです。人だからこその気持ちを、忘れたくなくて。お嬢様達にお仕えできるだけでも、私は幸せですわ」

「そう。それがあなたの願いなら、私達はそれを尊重するわ。咲夜は咲夜らしく、生きなさい」

 

 レミリアもそのことをよく理解してくれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが咲夜も心のどこかで、“いつか”の日のことに怯えていた。

 

 

 皆と別れるのが、辛い。悲しい。

 

 

 例え、いずれは訪れてしまうのは解っていたとしても……。

 

 

 

 

 

 

「わかってる。でも考えてしまう。私は……どうしたらいいんだろうって」

 

「……………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 悲しみに浸りかける咲夜を、

 

 

 

 

 

 

 

 

「咲夜。

 

 

 

……そんなこと、簡単じゃない」

 

 

 

 

 

「……お、お嬢様!?」

 

 

 

 

 バーン!と豪快に扉を開いた、レミリアとその御一行だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「咲夜、言っておくけど……あなた以上に私達のために働いてくれる人間は、今までもこれからも、決して現れないわよ」

 

 

 

 

「お姉様の言うとおりよ。咲夜のおかげで毎日楽しめてるものね」

 

 

 

 

「レミィが故人で名前を覚えてる人間はいない。でもあなたが例え居なくなっても……私達は決して忘れたりしないわ」

 

 

 

 

「咲夜さんがいるから毎日楽しい!」

 

「咲夜さんのおかげで毎日が嬉しいです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆、満面の笑みを浮かべている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「咲夜さん!こんな私でも気遣ってくれる人は咲夜さんが一番で初めてです!だから……

 

 

 

不安なら、いつでも言ってくださいよ!

あのとき、そうしてくださったように!」

 

 

 

 

 

 

 美鈴がそう言って笑う。

 

 

 その笑顔に偽りも曇りもない。

 

 

 

 

 

 

 

「……ね?咲夜さん。みんな、あなたが大好きなんですよ」

 

 

 

 星羅はそう言い、灰色のメモリを差し出す。

 

 

 

 

 

 

「きっとこれは、何かが起ころうとしている人を助けるモノ。なんでも屋の私だからできるお手伝い。

 

 

誰かの笑顔を守る、記憶の結晶。

 

 

 

 

 

 

 

 

…………これからも、お嬢様たちと一緒に頑張って……いや、それ以上に努力して行きましょう!!咲夜さん!!

 

 

 

だから…………笑ってください!!心の底から、全力で!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………お嬢様、みんな……星羅……」

 

 

 

 

 咲夜は驚き、そして、

 

 

 

 

「みんな……皆さん、ありがとうございます……!!」

 

 

 

 

 

と、涙を流して、笑顔を浮かべて応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 その手が、メモリを掴む。

 

 

 

 

 

 メモリが部屋中、否、屋敷全体を青く照らす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………これが」

 

 

「咲夜さんとの、メモリ……?」

 

 

 

 

 

 

 皆が固唾をのんで見ている中で、そのメモリは澄んだ紺色のメモリとなっていた。

 

 

 

 

 

「……星羅。ありがとう」

 

 

 咲夜はそのメモリを星羅に返す。

 

 

 

「メイド長として、あなたのような人を……誇りに思うわ」

 

 

「……はいっ!」

 

 

 

 

 そして、星羅はちょっとした種明かしをした。

 

 

 レミリアによれば、咲夜が最近無理していないか不安だったのだが、咲夜に中々暇を与える事ができず、困っていたという。

 

 

 そこで現在咲夜と常に行動している星羅に頼み、いい感じの雰囲気を作ってもらったのである。

 

 

「ごめんなさい咲夜、私達色々頼みすぎてたわ」

「いえいえ、私こそ自分の事をちゃんとできていませんでしたから。余計なご心配をおかけしました」

「何言ってるのよ、お姉様も私達も余計だなんて思ってないわ」

「妹様……」

「みんなあなたを大切にしているのよ」

「「咲夜さ〜ん!」」

「パチュリー様、こあ、ここあ……」

 

 

 嬉しげに眺める星羅に、美鈴が呼びかけた。

 

 

「良かったですね、星羅さん」

「はい。やっぱり家族は、笑っていなきゃですよ」

「あは、いい事言いますね〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、星羅も皆の輪に入ろうとした

 

 

 

 

 

その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「咲夜さーん!!」

 

 

 

 

 何匹かの妖精メイドが駆け込んできた。

 

 

 

 

 

「大変ですぅ!」

 

「霧の湖が!!」

 

「襲われたらしいです!!!」

 

 

 

 

 

 

「……な、なんですって!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 喜びの雰囲気も束の間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 侵略者の牙は、すぐそこまで迫っていたのだ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回、紅魔郷編決戦!

 バニッシュの強さに驚け〜!



 ……弾幕表現頑張ろう!



 乞うご期待です。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

023. 刻割く刃の爪痕

 決戦!紅魔郷編!



 久しぶりのバトル回です。

 スペカ・弾幕パーティーじゃぁ〜!








 ……その前に!

 なんか本作のタイトルが満腹神社様の二次創作アニメーション「幻想万華鏡」の英文字の部分(Memories of phantasm)に似てるって話なのですが。

 ……別になんにも意図してません。
 ていうか最近知りました(一応ファンなのにね)。誤解与えてたらごめんなさい。
 何なら変えようかな……?いや折角「記憶」をテーマにしてるのに「メモリーズ」を抜くのは……??

 とりあえず、このままにしておきます。
 紛らわしいって声が多ければその時はその時で。



 では本編どうぞ〜。





 自身の能力が、悪影響を及ぼす能力を無効化し能力そのものに干渉できる【幻想力に触れられる程度の能力(パチュリー命名)】だと判明した星羅。

 おかげで咲夜の時間停止空間で行動を共にできるようになった。

 

 

 

 そして星羅と咲夜はついに二人のメモリを完成させ、咲夜の悩み解決と共に、その絆を深めた。

 同時に紅魔館のメンバーとも信頼される星羅。

 確実に星羅は人望と記憶を増やしていく。

 

 

 

 しかし喜びも束の間。

 

 

 妖精メイドたちによって、機怪による霧の湖襲撃が一同に知らされたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 

 星羅と咲夜は、レミリアの命令で霊夢、魔理沙、アリス、そして被害者代表としてチルノ達(いつもの三人)を集め、揃って先の襲撃について話していた。

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど。捉えられないほど異次元的な速さで圧倒、しかも全力を見せていない……ね」

 

 

 レミリアはへぇ、とでも言いたげに、チルノ達の話を聞き呟いた。

 

「なら話は早いわ。咲夜なら余裕ね」

「だな。時間さえ止められてしまえばいくら速かろうが関係ないぜ」

 

魔理沙もうんうん、と肯く。

 

「他の機怪も全員でやればどうってことなさそうね」

 

 パチュリーもまた同感だという姿勢だ。

 

 

 

 

 

「…………そう、上手くいくかしら?」

 

 

 

 

 

 と、疑問符を浮かべたのは霊夢だった。

 

 

 

 レミリアが首を傾げる。

 

 

「何、霊夢?まさか咲夜を……」

「んなわけ無いでしょ、確かに咲夜がいないと勝てなさそうなのはわかってる。

 

 

でも、相手は未知の敵なのよ。しかも私や魔理沙、妖夢、果ては幽々子の過去だって知ってる奴らなのよ。何も対策しないバカだとは思えないわ」

 

 

 霊夢の言葉に、皆が唸る。

 

 確かにその通り。

 白玉楼を襲われた時には、あの妖夢が苦戦したのだ。

 しかも一時はさらなる異変に繋がりかねない危機も起こった。

 

 あっさり行けるとは、思えない。

 

 

 

「霊夢の言う通りですわ、お嬢様」

 

 咲夜もまた同様の考えだったらしい。

 

「得体の知れない相手を侮るわけにはいきません」

 

 

レミリアはふぅと息をつき、

 

「……そうね。早まるのは禁物ね。……改めて、少し整理しましょう」

 

 と、チルノを見やった。

 

 

 

「そもそも突然あたいたちの湖にあいつらが襲ってきたんだ!」

「他のみんなを逃していたのに、あの機怪は全員バッサリ斬っていったんだよー」

「チルノちゃんの冷気も効かなくって」

 

「……で、あいつらはまた来るって言ったんだな」

 

 魔理沙が問うと、三人は揃って肯いた。

 

「確か……まだ制圧命令は出てないって、言ってました」

 

 大妖精が付け加える。

 

 

「つまり何の前触れなく襲うだけ襲って、結局予告を残して帰ったってことですね」

 

 美鈴がまとめると、パチュリーは

 

「……力の誇示ってことかしら」

 

とため息混じりに反応した。

 

「わざわざ示すほどなのだから、自信はあるようね」

「まぁいくらなんでもチルノ達を一方的に殴り倒すほどだからな」

 

 魔理沙が肯定する。そして、

 

「アリス、人形から連絡は?」

 

と、横のアリスを見た。

 

 

 アリスには予め機怪出現時にすぐ対応できるように偵察役の人形達を出させている。

 意外にも発案したのは魔理沙だった。

 

「まだ何もないわ。今のうちに作戦でも練っておきましょ」

 

 アリスはそう言って、パチュリーとこあ達が見つけた本を開いた。

 

 

「……この本、驚くくらいに星羅に関連している内容ね」

「そのうち全文を解読するわ」

 

 パチュリーはそう答えた。

 

 

 

 

 

 

「さて、機怪が現れた時の話だけど」

 

 レミリアが切り出す。

 

 

「まず、紅魔館はパチュリーが結界を張って対抗するわ。魔理沙やアリスもいるのだから心配はなさそうね」

「おいおい私は今回裏方かぁ?」

「「あなたが出るとろくな事にならないから駄目よ」」

「うっ……、わかったぜ〜……」

 

 不服そうな魔理沙を魔女二人が制止した。

 

 

「次に門は美鈴ね」

「勿論お任せください!絶対に守りきってみせますから!!」

「えぇ、期待してるわ」

 

 美鈴はぐっと拳に力を込めて応じる。

 

 その様子に満足気に肯いたレミリアは、フランを見やる。

 

「フラン。あなたは隠し玉よ」

「任せて。ぜーんぶ!きゅっとしてドカーン!!だからね♪」

「間違えて私達をやらないでくださいね妹様〜……」

 

 自信満々に宣言するフランに、美鈴は青ざめた。

 

「こあとここあは屋敷内部の妖精メイドを指揮して。……まぁ言うこと聞くかは、わからないけれど」

「「りょーかいですっ!頑張りまーす!!」」

 

 咲夜の追加事項に小悪魔達ははっきりと返事。

 

 そして、

 

 

「……私と星羅、レミリア、そして咲夜で最重要の敵……バニッシュを一気に叩く、ね」

 

「流石、勘が鋭くて助かるわ。霊夢」

 

 

 霊夢が言われずとも残ったメンバーの役目を答えた。

 

「でも、いいの?これじゃあ外に出るのは私達と美鈴しかいないじゃない」

 

 

「そのためのあたいたちだな!?」

 

 

 チルノが珍しく察した。

 

「わからないけど……たぶん、あたいたちが湖からあいつらに攻撃すればいいんだな!」

 

「……あ〜、なるほど」

 

 霊夢は納得、という声をあげた。

 

「いつもそれくらい頭が回ってくれればいいのに」

「えっへん!やっぱあたいはさいきょー!」

「すぐ調子に乗るスピードもさいきょーね」

 

皮肉げに霊夢は呟き、レミリアを見た。

 

「あとは、ヤツらが来るのを待つだけね」

 

 

 レミリアはすくっと立ち上がり、

 

 

「えぇ。みんな、いつでも始められる用意をして頂戴」

 

 

 

と、羽をばっと開いて宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「咲夜さん」

 

 

 

 星羅は、お嬢様のお菓子と例の青いメモリを持って咲夜のところへ来ていた。

 

 

 咲夜はレミリアの紅茶を丁度淹れていた。

 

「ちょっと話したい事があるんです」

 

 すると、レミリアが代わりに促した。

 

「咲夜、行ってあげなさい」

「お嬢様……?」

 

 

 

「恐らく……あなたと星羅がいないと、この戦いは成り立たないわ」

 

 

 

「……どういう、意味ですか?」

 

 困惑する咲夜に、レミリアは続ける。

 

 

「パチェが言っていたわ。星羅が今持ってるそれは、あなたの時間を操る懐中時計と同じオーラ……エネルギーがあるそうよ」

「……すると?」

「つまりあなたの能力がなければ、そのメモリは起動しない。少なくとも……初回くらいは“記憶を共有したパートナー”といないと駄目、そんなことを言ってたのよ」

 

 

 パチュリーはいつの間にそこまで分析していたのか……

 

 星羅と咲夜はちょっと驚かされた。

 

「星羅。確か白玉楼での戦いでも、あなたのその……妖夢のメモリがあったから勝てたんでしょう」

「はい」

「なら、きっと今回も咲夜のが要るわ。私からみんなに言っておくから、フォローは任せておきなさい」

「ありがとうございます、お嬢様」

 

 レミリアは星羅を労うと、「フラン〜」と、奥へ戻っていった。

 

 

「咲夜さん。その……頑張りましょう」

「何言ってるのよ。あなたのおかげで迷いは消えたわ。大丈夫、必ず勝ちましょう」

「はい!」

 

 

 お互いに笑顔を確認しあい、二人はレミリアのあとを追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数時間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……きたきたきたぁ!大ちゃん!ルーミア!みんな!一斉攻撃だぁ〜っ!!」

 

「「「「おおお〜!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 チルノの号令一下、妖精(ルーミアもおまけ)の全力弾幕掃射が、湖に飛来した機怪たちを迎撃した。

 

 

 

「シャンハーイ!!」

 

 

 アリスの人形軍団代表の上海もまた、人形たちを引き連れ、レーザーやら近接突撃やら爆発(というか自爆)やらで徹底抗戦。

 

 

 

 

[……チ、手間取ってるヒマはないのだがな……]

 

 

 

 そこへ本命、バニッシュが飛来。

 

 

[……ヌンっ]

 

 

 

 一振りで妖精と人形の群れに穴を開け、そこを凄まじいスピードで駆け抜けてしまった。

 

 

[ハハハ……おい!足止めは任せたぞ!私はあの屋敷を爆発させてきてやる……!]

 

 指示を受けて、更に湧いて出る機怪たち。

 

 

「ちぇ〜、逃しちゃった!」

 

 チルノは悔しげにつぶやくと、

 

「まぁいいや!こんなやつら、さいきょーのあたいたちでぶっ飛ばしてやる!みんな、いっくよ〜!!」

 

 

と気合を入れ直し、氷のつぶてを乱射するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……来た!」

 

 

 

 紅魔館では、アリスが上海の連絡受けて叫んでいた。

 

 

 

「……レミィ、結界を展開するわ。迎撃よろしく」

 

 

 河童印の無線機に、パチュリーは呟いた。

 

 

 

 

 

 

「……なぁ私いるのかこれ」

 

 

 魔理沙の声が悲しげに響いたのは、二人とも聞いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらレミリア。了解よ、パチェ」

 

 

 

 なにかのモノマネなのか気取った口調で応対したレミリアは無線機を切り、正面を見据えた。

 

 

 

 

 

 

 

 その先には、赤色の閃光迸らせ、バニッシュが近づいてくる。

 

 

 

 

 

 

 

「……さぁ、遠慮はいらないわ。

 

 

 

 

みんな!叩き潰すわよ!!!紅魔館に挑むその根性、試してあげましょう!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レミリアは片手に巨大な真紅の槍。

 

 フランは燃え盛るねじ曲がった槍。

 

 咲夜は片手に時計、片手にナイフ。

 

 美鈴は気合を溜める。

 

 霊夢は周囲に夢想封印を展開し始めた。

 

 

 

 星羅は、予め咲夜のメモリは切り札としてとっておくために、代わりに妖夢のメモリを装填した。

 

《Phantasm memory confirmed》

 

 チャージが始まり、星羅はバスターに力を込めた。

 

 

 

 

[……ほう。揃いも揃って、早速お得意のスペルカードか]

 

 

 

 バニッシュはその光景を見ても動じず、

 

 

[……当ててみろ]

 

 

その場に静止した。

 

 

 

 

「……あら、舐めてるの?」

 

[サァ?それはどっちかな]

 

 

 レミリアは一言煽っておいて、

 

 

 

「……なら、その愚かさを地獄で悔やみなさい!!!」

 

 

 

 その真紅の槍を、その敵へと放った。

 

 

 

 

 

「神槍!!【スピア・ザ・グングニル】!!!」

 

 

 

 

 他のメンバーも同時に、その全力をぶちかます。

 

 

 

「禁忌!【レーヴァテイン】!!」

 

「奇術!!【エターナルミーク】!!」

 

「星気!!【星脈地転弾】っ!!はいやー!!!」

 

「霊符!【夢想封印・集】!!!」

 

 

「妖夢……力を貸してっ!!

 

断命剣・改!【瞑想永弾斬】!!!」

 

 

 

 

 

 

 紅い一筋の光が。

 獄炎の光が。

 無数の白銀の光が。

 虹色の波動が。

 無敵の光が。

 

 

 

 一斉にバニッシュへ、迫りくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[……ハン。経験済み(・・・・)だっての]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大爆発の煙から、バニッシュはなんと無傷で現れた。

 

 

 

 

 

 

 

「!……そんな馬鹿な」

 

 

 

 レミリアはあ然とする。

 

 ほぼ紅魔館の総攻撃、しかも博麗の巫女のおまけ付き。それをやり過ごすなんて……!?

 

 

 

 

 

 

「あああああああっ!!!」

 

 

 

 

 そこへ星羅の、妖夢の力を込めた一撃。

 

 

 

[!?]

 

 

 

 

 するとそれはすんなりとバニッシュにダメージを与え、庭に叩き落とした。

 

 

 

[何!?なぜ……奴らの技は知っていたのに?]

 

 

 本人も良くわからないという状況になっている。

 

 

「星羅、あなただけしか効かなそうね」

 

 レミリアは彼女に駆け寄り、

 

「咲夜のスペカが頼りよ。やっぱりそれで打開するしか手は無いわ」

 

と、咲夜を見た。

 

 

「……ですよね……」

 

 星羅は咲夜のメモリ携え、彼女に向かって走り出す。

 

 

「お嬢様!私と星羅で、時間を止めて追い詰めます。その後一気に!」

「わかったわ!」

 

 

 速いなら、止めてしまう。咲夜の特権。

 

 咲夜は再び、懐中時計のボタンを押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今度は星羅も、時間が止まった中で行動できる。

 さっきは離れていたからか止まってしまった。やはり彼女と一緒でないといけないらしい。

 

 

 

「さぁ星羅、一気に行くわ!」

「はい!!」

 

 

 

 

 

 だっと駆け出す二人−−

 

 

 

だったが……

 

 

 

 

 

 

 

「………………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 いない。

 

 

 

 そこに居るはずのバニッシュが、いない……!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[テメエら、対策しないとでも思ったのか??]

 

 

 

 

 

 気付いた頃には、後ろを斬撃が襲っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はっ!?咲夜!!星羅っ!?」

 

 

 

 レミリアがふと気がつくと、そこには倒れた星羅と咲夜、そしてやはり無傷のバニッシュが。

 

 

 

 

 −−まさか、咲夜の時間停止が解除された−−!?

 

 

 

 レミリアが冷や汗をかいたその時。

 

 

 

 

 

 

[……ハハハ、これだから幻想郷の雑魚は劣等種なんだよ。

 

 

 

 

この私の能力はな……【時間を操る程度の能力】と【時空を加速させる程度の能力】なのさ]

 

 

 

 

 

 

 瞬間全員が戦慄する。

 

 

 時間を操る!?

 それって……咲夜の特権じゃないの……?

 

 

 レミリアの心を読んだかのように、バニッシュは追い打ちをかける。

 

 

[ハッ、そんなに驚いたか?それを言ったらテメエ、白玉楼を襲ったブレイドも【剣術を扱う程度の能力】【霊を斬る程度の能力】だぞ?]

 

「……なんですって!?」

 

 美鈴も驚きを隠せない。

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

 

 このとき、霊夢だけは違和感を覚えた。

 

 同名の能力を、襲った場所にいる者が持ってる気がする……?

 

 

 

 

「咲夜をよくもやってくれたわね!今すぐぶっ壊してあげるわ!」

 

 憤ったフランが、動こうとした

 

 

 

 

のを、バニッシュはそれより早く迫り、レーヴァテインを粉砕した。

 

 

「きゃっ!?」

 

「フラン!」

 

 

 レミリアも動こうとする。

 

 

 

[遅い遅い!!]

 

 しかしバニッシュがそれを許さない。

 

 なんとグングニルをすれ違いざまに破壊しレミリアを蹴飛ばした。

 

 

「ぐぅっ……!」

 

「お嬢様!!」

 

 美鈴も駆け出すが、やはり先回りされ、吹き飛ぶ。

 

 

「う、うわぁ〜っ!!!」

 

 

 

 あっという間に、霊夢以外が倒れてしまった。

 

 

「……ちょっと待ってよ……嘘でしょ……!?」

 

 流石に異次元過ぎる。

 

 霊夢が思わず後退る。

 

 

 いくら霊夢といえど、未知の敵、しかもハイスペック過ぎる相手に一人で挑むのは無謀過ぎる。

 

 

[ほら、どうした博麗の巫女?

 

 

それともこのまま……全てを斬ってやろうか]

 

 

 バニッシュが罵った、その時。

 

 

 

 

 

 

[……月符【サイレントセレナ】!]

 

 

 パチュリーの静かなる宣告。

 

 

「恋符!【マスタースパーク】っ!!」

 

 

 魔理沙の全力の掛け声。

 

 

「紅符!【和蘭人形(おらんだにんぎょう)】!!」

 

 

 そしてアリスの号令。

 

 

 

 

 

 

 

 

 予想外の方向からの光線と、飛来した人形たちの十字光線を食らい、流石に突然で避けきれなかったのかある程度被弾した。

 

 

[グアッ!?]

 

 

 

「へん!不意打ちはよく効くみたいだな」

 

「結界はこあたちがやってるわ」

 

「霊夢、あとは時間を稼ぎましょう」

 

 

 魔理沙、パチュリー、アリスの三人は霊夢に駆け寄り、魔理沙はミニ八卦炉、パチュリーは本、アリスは人形たちを、それぞれ構えた。

 

 

 

「……稼ぐ?」

 

 霊夢が首を傾げると、魔理沙は、

 

 

「ま、作戦ってのがあるんだぜ。見てな」

 

とだけ答えて、バニッシュを見据えた。

 

「……わかったわ。その“作戦”ってのに賭けてみる」

 

 霊夢も何かを察し、幣を構え直した。

 

 

 

 

 

 

 

[ふん、今のはだいぶ効いたぞ。だが……、この私に、何度も同じ手が通用すると思うな!!!]

 

 

 

 

 再び動き出すバニッシュ。

 

 

 

 四人は何かを信じ、無謀とも取れる相手に果敢に挑んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……その時、

 

 

 

 気を失っていた星羅の手が、かすかに動いた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回、今度こそ紅魔郷編最終回です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

024. 十六夜に咲き誇れ

 はい。紅魔郷編最終話。
 やっと終わります。

 まぁまだまだ序盤ですけど。

 これからも見届けて頂けると幸いです。

 指摘、感想などコメントもよろしくね。




 ついに切られた決戦の火蓋。

 

 バニッシュの、時間を超えて来る猛攻を打ち破るには星羅と咲夜、そして二人のメモリが不可欠だろう、とレミリアは語る。

 

 が、バニッシュはなんと、咲夜と同じ【時間を操る程度の能力】を宿し、さらに【時空を加速させる程度の能力】により異次元レベルのスピードを有していたのだ。

 

 その速すぎる攻撃に為す術なくやられてしまうレミリアたち。

 

 そして、真っ先に咲夜と星羅も気絶させられてしまう……。

 

 

 

 

 

 

 

 だが館内から駆けつけた魔理沙たちは、“作戦”がある、としてまだまともに戦える霊夢と共に時間稼ぎに出る。

 

 

 果たして、彼女たち言う“作戦”とは?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方。

 

 

 

 

 

 倒れた星羅に、何かが起ころうとしていた。

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『咲夜さん。

 

 

 

はじめはみんな、お嬢様や妹様だって、みんな初心者……はじめて、なんですよ。

 

 

 

私だってたまに怠けてしまいますが……それでもなぜお嬢様は私を解雇……仕事を辞めさせたりしないと思います?』

 

 

 

 

 

 

 

『……なんで?』

 

 

 

 

 

 

 

『それは、信頼です。

 

 

 

お仕事ってのは、信頼がないと成り立ちませんから。よくわからないようなヤツなんかより、味方だってわかる人と一緒にいたいでしょ?そういうやつです』

 

 

 

 

 

 

『めーりん……』

 

 

 

 

 

 

 

『ふふ、いずれわかります。

 

 

さ、お仕事頑張りましょう!まだまだたくさんありますよ〜!』

 

 

 

 

 

 

『め、めーりんには言われたくないわよ!ていうか信頼とか言うならサボらないで!』

 

 

 

 

 

『ぐっはぁ!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『咲夜〜、そろそろお茶会にしましょう』

 

 

 

 

『わかりましたお嬢様。お菓子はどれにいたしますか?』

 

 

 

 

 

 

『そうね、これとこれ……あ、フランの好きなこれも入れましょう。それと……パチェにこれ、美鈴にも何かあげなくちゃ』

 

 

 

 

 

 

『では持ってきますね』

 

 

 

 

 

『……あ、待って咲夜。

 

 

 

あなたの好きなもの。せっかくだから一つ持ってきなさい』

 

 

 

 

 

『え、良いんですか?』

 

 

 

 

 

 

『当たり前よ。たまにはみんなで、好きなものを共有しましょう。その代わり私たちの好きなお菓子も食べるのよ?』

 

 

 

 

 

 

 

『……はい。では、お言葉に甘えて』

 

 

 

 

 

 

 

 

『フラン〜!プリン食べ放題よ〜!!』

 

 

 

 

 

 

 

『えええ!?やったぁ!私十個食べる!!』

 

 

 

 

 

 

 

『えっ……そ、そんなに食べるんですか……!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

『冗談よ冗談、ふふふ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……パチュリー様、また風邪ひいたんですか』

 

 

 

 

 

 

『けほっ……悪いわね咲夜。私の仕事までやらせてしまって……』

 

 

 

 

 

『いえいえ。それよりもパチュリー様の体調回復のほうが優先ですから』

 

 

 

 

 

 

『……あなたも、無理は避けなさいよ。けほっ、……私みたいに倒れたら元も子もないわ……ごほん……』

 

 

 

 

 

『……ふふ、お気持ちだけ受け取っておきます。あまり喋ると喉によろしくありませんよ』

 

 

 

 

 

 

『けほん……む、むきゅー……』

 

 

 

 

 

 

 

 

『パチュリー様〜!』

 

 

 

『ゼリーもってきました〜!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ、咲夜さん。やっぱり私が思ってた通りですね」

 

 

 

 

 ……星羅……?

 

 

 

 

 

「……そっか、私たち……お嬢様たちを、守れなくて……」

 

 

「まだ……」

 

 

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

「まだ、諦めちゃいけません!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前の少女に、その蒼い瞳に、「諦め」の意志は見えなかった。

 

 もう一度、立ち上がらんとする、強い意志が、そこにはあった。

 

 

 

 

 

「星羅……」

 

 

 

 

 

 

「大丈夫。お嬢様たちはわかってる。私たちならきっと勝てるって。だから……立ち上がりましょう!!咲夜さんっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私たちの信じる!

 

 

 

 

 

私たちが守るべき!!

 

 

 

 

 

 

 

 

私たちに必要なものを!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人で、守って行きませんか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、訴えかける少女は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつの間にか、私が手にしていた、思い出の結晶を受け取るように、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私を受け入れてくれるように、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう私は他人じゃないと、その重荷を背負うと言うように、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その右手を、私に差し出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く……たくましく成長したわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「咲夜さんに比べたらまだまだですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、私はその結晶を彼女に「託した」。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私たちの記憶って……こんなにも、輝いていたのね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「当たり前ですよ。だって…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、咲夜さんが……咲夜さんと、関わった人たちが……

 

 

思い、

 

悩み、

 

笑って、

 

泣いて、

 

楽しんだ、

 

 

 

 

 

 

 

咲夜さんだけの、大切な宝物ですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、少女はメモリを引き継いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「時間停止……改めて、敵に回すと本当に厄介ね。ズルいわ」

 

 

 

 

 

 

 

 霊夢は吐き捨てるように悪態をつくと、ホーミングアミュレットをばら撒いて牽制しつつ、自身は結界を展開して防御に回った。

 

 

 

 

 あくまでも時間稼ぎ。

 

 さとられまいと攻撃をやめないのは、そのためだ。

 

 

 

 

 

 

 

「くらえ!マスタースパーク!!」

 

 

 

 

 

「人形のおまけ付きよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 蓬莱が抱えたミニ八卦炉に、二人分の魔力を込めたマスタースパークをぶっ放す、魔理沙とアリス。

 

 

 

 

 拡散放射で逃げ場を狭める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[だーかーらー、私には効かないと、何度言わせればわかる]

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方バニッシュは苛立ったように言うと、時空操作による瞬間移動と加速により全て避けきり、高速で斬撃を浴びせにかかった。

 

 

 

 それを霊夢は結界で弾き、またアミュレットをばらまく。

 

 

 

 

 

「パチュリー!あとどれくらい耐えてればいいのよ!?」

 

「……そうね、あと三分」

 

 

 

 パチュリーは星羅たちに強固なバリアを展開、紅魔館にもバリアを張って防衛に回っていた。

 

 

 この日のために予め体調を整えておいた、らしい。

 

 

 

「星羅と咲夜が早く起きてくれれば早まるわ」

「前々から思ってたけど運任せだな……!」

 

 魔理沙はそう零し、レーザー照射で牽制しつつ、蓬莱人形から八卦炉を返してもらった。

 

「ホーライ!」

「おう、サンキュな!」

 

 

 魔力をチャージしつつアリスに問う。

 

「アリス!動きをしばれるか!?」

 

「仕方ないわね、やってみるわ!」

 

 

 どこからか集結した人形たちが、まるでミサイルのようにランスを抱えて構えだした。

 

 

 

「悪いけど犠牲になってもらうわ、みんな……!

 

 

魔符!【アーティフルサクリファイス】!!」

 

 

 

 

 

 号令一下、人形たちは文字通り特攻を始めた。

 

 

 

 

 

 

 弾幕と共に花開く爆風。

 

 

 なんと自爆特攻だった。

 

 

 

[ふん]

 

 

 軽々と回避していくバニッシュ。

 

 

しかし、そこへ。

 

 

 

 

「かかったな!!マスタースパークだぜ!!!」

 

 

 

 

 

[なに!?シマッタ!?]

 

 

 

 爆風で行動範囲を抑制したおかげで、マスパは見事命中。

 

 致命傷とはいかずとも、ダメージは通ったらしい。

 

 

 

[グ……おのれ]

 

 

 

一部のバーニアが黒煙をあげている。何機か破壊できたようだ。

 

 

 

[だがこの程度では私の速度は落ちぬぞ!!]

 

 

 しかし流石に加速持ち。

 さほど変わっていないスピードに、霊夢、魔理沙、アリスは翻弄される。

 

 

 警戒したのかスキなく飛び回るため、折角のアーティフルサクリファイスが当たらない。これでは人形たちが、正に犠牲だ。

 

 

[ハハハ、どうしたどうした!?折角私に一撃入れられたのに、もうおしまいか!!]

 

「くっそ!霊夢!夢想封印でなんとかできねぇのかよ!?」

「放ってる暇がないわ!それに発射しても時間操作で躱される!!」

「これ以上は保たないわよ……!」

 

 

 次第に追い詰められていく三人。

 

 

 

 

[……そろそろ終わらせるか]

 

 

 

 

 ふと、バニッシュの姿が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 ……そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[博麗の巫女ォォ!!死ねぇぃ!!!]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まずい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死角からの、閃光のような突撃。

 

 

 

 

「霊夢!!」

 

 

 

 

 霊夢が特大の結界を張った、その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神槍【スピア・ザ・グングニル】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊夢の頬を涼めた真紅の槍が、バニッシュを弾き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[ウォ!?!?ば、バカな!?]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体制を立て直すと、そこには。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いけど、死ぬのはあなたよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放り投げた姿勢から、いつものカリスマあふれる立ち姿となった、レミリアがいた。

 

 

 

 そのそばにはフラン、そして美鈴もいる。

 

 

 

 

 

 

「おい、みんな平気だったのか!?」

 

 

 魔理沙の拍子抜けな声に、フランが答えた。

 

 

「あの程度じゃやられないわよ。演技よ、えんぎ」

 

「……え??」

 

 

「星羅が咲夜と一緒に覚醒するまでの時間稼ぎよ」

 

 

 

 パチュリーが引き継ぐ。

 

「あなたたちには話していなかったけど……予め決めておいたのよ。……後で星羅と咲夜には謝っておかなきゃ」

 

 

 

そして、レミリアに視線を送る。

 

 

 

 

 

 レミリアはふふ、と呟き、呆気にとられていたバニッシュを見やる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「待たせたわね侵入者。

 

 

今から最高の接待をしてあげるわ……

 

 

 

 

 

 

 

 

私の最高のメイドと、最高の新人が、ね!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それに呼応するように、突如星羅たちが光り輝いた。

 

 

 

[ヌォ!?まだ何かあるのか!?]

 

 

 

 予想外の連発に驚きを隠せないバニッシュに、美鈴が言う。

 

 

 

 

 

「いえいえ、

 

 

 

 

これからが本番(・・・・・・・)ですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《Phantasm memory confirmed……》

 

 

 

 

 

 

 響く機械音。

 

 

 

 

 

「皆さん、大変お待たせ致しました」

 

 

 

 

 

 慄然とした声。

 

 

 

 

 

 

「もう……安心ですよ!!」

 

 

 

 

 

 そして、皆の希望。

 

 

 

 

 

 

 

 

 輝きが収束し、バスターを構えた星羅と、それを一緒に支える咲夜が現れた。

 

 

 

 

 

 

「星羅、それに咲夜!!」

 

「もう、ほんと心配かけさせないでよ」

 

「良かった、ふたりとも無事だったのね」

 

 

 

三者三様の反応を見せ、

 

 

 

 

 

「「「……さて、もう心配要らない」」」

 

 

 

 

とバニッシュに向き合った。

 

 

 

 

 

 やる気満々の九人のオーラにのけぞるバニッシュ。

 

 

 

[……くっ、だが私の能力は健在だぞ。どうするんだ?]

 

 

 

 

と、ひとまず加速で錯乱しようとした−−が。

 

 

 

 

 

 

[………………な、ナゼだ!?なぜ動けない!?しかも……能力が使えないだとぉ!?]

 

 

 

 

 

 見ると彼の周囲に時空の歪みがかすかに現れ、彼を固定していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「星羅のメモリの力ですわ」

 

 

 

 

 咲夜がそう言った。

 

 

 

「発動時、攻撃目標の認識以外の一切の行動を止める。時間停止の応用です」

 

 

[な、なんだとぉ!?そんなもん貴様の特権だろう!?]

 

 

激昂する敵に、星羅は告げた。

 

 

 

 

 

 

「その特権を奪った奴に言われても!

 

 

何の説得力もない!!!

 

 

 

 

 

 

行くぞ!!幻符・改!!【サウザンダガーウェーブ】!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宣言と同時に現れる、幾千のナイフたち。

 

 そして星羅のナイフがバスター銃口にセットされ、点播したエネルギーがすべての刃を包み込む。

 

 そのうち、千本は星羅の、残りは咲夜のナイフだ。

 

 

 

 

 

 そして咲夜が指を鳴らすと、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「はああああああ!!!」」

 

 

 

 

一斉に、その白銀の刃たちが、バニッシュへ襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

「フラン!」

「もちろん!」

 

 

 レミリアと、「禁忌【フォーオブアカインド】」で分身したフランも合わせた。

 

 

「「紅魔符!!【ブラッディカタストロフ】!」!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「パチュリー様!!」

「えぇ!」

 

 

 パチュリーと美鈴もまた重ねた。

 

 

「星気!!【星脈地転弾】!!!ほわったーーあ!!!」

「火水木金土符【賢者の石】!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私達も行くわよ!!神技!【八方鬼縛陣】!!」

 

「おうよ!!魔符!!【スターダストレヴァリエ】!!!」

 

「もちろんよ!魔操!【リターンイナニメトネス】!!」

 

 

当然、霊夢たちもうっぷん晴らしにと総攻撃。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[ま、待て待て!?流石にそれは聞いてないぞ!?オイ!!多すぎだろ!?ていうか私速いだけで他はあんま強くないぞ!?]

 

 

 

 慌てふためくが、元を正せば自分で撒いた種。

 

 

 

 

「自業自得。弁解が遅すぎですよ、お客様……!」

 

 

 

 

 星羅の声が彼に届いた瞬間。

 

 

 

 

 

[ウオオオ!!!]

 

 

 

 

 

 弾幕が、あらゆる弾幕が彼を貫き、炉心を星羅と咲夜のチャージショットが撃ち抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

[く…………はっ…?

 

………そうか。

 

 

 

これが……創造主……マスターの…………選択、か…………]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 刹那、バニッシュはあっけなく爆沈。

 

 

 湖へと沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………創造主……マスター?

 

 

 

 

……星羅のこと……?」

 

 

 

 パチュリーはひとり、その爆発の中へ消えた敵を見つめながら、ひとり呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、ようやく紅魔館と湖に平和が戻った。

 

 

 

 あのあと「もう一人前でしょ」という霊夢の一言で、星羅は翌日メイド業務を終えた。

 

 即日では無かったのは「もう少し一緒にさせてもいいだろ」と魔理沙がフォローしたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして翌朝、朝食を終えた一行に、霊夢が迎えにやって来た。

 

 

 

「……なんか、顔つき変わったかしら?」

「そうかな」

「お姉様も言ってたけどふにゃふにゃ顔のままよ」

「こらフラン、変なこと言わないの」

 

 

 レミリアは星羅に向き直り、

 

 

「……短い間だったけど、ご苦労だったわね。あなたのことは覚えておいてあげるわ」

「光栄ですよ、お嬢様」

 

フランも続けた。

 

「お姉様のお墨付きなんだから誇りに思いなさい。ま、今までありがと」

 

パチュリーがこあとここあを伴って近づく。

 

「……また何か気になったら来なさい。できる限り、力になってあげるわ。それと……あなたについても調べておくから、何もなくてもたまには来なさいよ」

「またね、星羅ちゃん!」

「図書館で待ってるよ!」

 

美鈴も、名残惜しそうに頭を掻きながら、

 

「楽しかったですか?私は凄く楽しかったです。それに……紅魔館を守って頂いてありがとうございます。またいつでも来てくださいね!」

 

と、にっこり笑った。

 

 

 

 そして。

 

 

 

「……ありがとう、星羅。おかげで助かったわ」

 

 咲夜は歩み寄って、自身の思いを伝える。

 

「力になれる事があったら、遠慮なく言ってちょうだい。私も紅魔館のみんなと、これからも歩んでいくから」

「……はい。お世話になりました!」

 

 二人は堅く握手を交わし、

 

「頑張ってね。応援しているわ」

「咲夜さんも、手伝える事があれば言ってくださいね」

 

 

と、微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございましたー!!」

 

 

「またいつでも来なさい!歓迎するわ!!」

 

 

 

 

 

 

 レミリア、フラン、パチュリー、こあ、ここあ、美鈴、咲夜、そして沢山の妖精メイドに見送られながら、星羅と霊夢は屋敷をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すっかり馴染んだわね、幻想郷にも」

「まだまだ知らない事が多いけどね」

「慣れてもらう目的もあったのよ」

「……慣れ?」

 

 

 霊夢は数日前の事を話した。

 

 

 

 

 

 

 

 −−曰く、前にレミリアとパチュリーが霊夢の元へ行ったとき。

 

 

『……慣れ、ね』

『そう。習うより慣れろ、よ。経験したほうが早いと思って、あなた達に任せたの』

『任せてちょうだい。吸血鬼を舐めないでよ?』

 

 

なんて会話をしておいたという。

 

 

 

 

 

 

「星羅、あなたの事は未だにわからない事があるけど……やっぱり、今はあなたを信用するわ。それが私なりの答えよ」

「答えって……お嬢様たちへの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『星羅がいまいち信じられない?』

『……信用はしてるつもりでも、不安が拭えなくて』

 

『そうね、まずは自分から相手を思ってみれば?』

『パチュリー?』

『……博麗の巫女として得体の知れない存在に不安視するのは当然よ。だけど、今はあなたはあの子の帰る場所。唯一の家拠り所なのよ。私たちは手伝ってるだけ。……言い方は良くないとは思うけど』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……霊夢」

「ま、ぐだぐだ言ったけど……今は疑って無いわよ。二度も幻想郷の人たちを救ったんだもの、そんなの見せられたら、疑う気持ちなんて無くなるわ」

 

 

 霊夢はそう言い、微笑んだ。

 

 

 

「改めて……一緒に頑張ろ。星羅!」

 

 

 

「…………うん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 快晴の陽の光の元で、二人は肩を合わせて並んで帰ってゆくのだった。

 

 

 霊夢はその中で、すっかりたくましくなった雰囲気を得た彼女に、なんとも言えない気持ちになりつつも、素直に今を喜ぶのだった。

 

 

 

 

 −−きっと、この気持ちは嬉しい気持ちだから。

 

 

 

 二人の笑顔を、太陽は優しく照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お嬢様〜!!」

「あつ、暑い……(泣)」

 

 

 

 吸血鬼お嬢様には心底毒だったが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――Continueed to the next phantasm……

 

 

 

 




 実は各章の最終話だけ、タイトルを「〇〇の☓☓」ていう形にしないんですよ。

 ……バレてた?


 いやーメモリ発動してしまえばこっちのモンっていう展開をやってみました。

 たぶんこれくらい強くないと星羅が埋もれます。

 次回!
 えーりんえーりん!


じゃなくって永夜抄です!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五章 〜星羅と鈴仙と朧月夜〜
025. 不死身のボランティア


 もこたん。


 インはしません。


 ……やっぱりするかも。(しないって!!)






 永夜抄第一話。

 今回から文字のサイズなどの特殊効果も使ってみますね。


 ところで……
 前回までの紅魔郷編のクライマックスが、文章が長すぎたと感じており反省してます。
 ……もう少し分けたり文章力鍛えたいものです。


「……ふーん、これが機怪か。幻想郷のセオリーが効かないなんて、マナーのなってない連中だ」

 

 

 

 

 人里の一角で、少女は呟いた。

 

 

 

 手には焼け焦げた鉄の塊が握られ、地には残余が散らばる。

 全て彼女が燃やし尽くした、所謂、燃えカスだ。

 

 

 

「……こんなもんがここに攻め寄って来たら面倒だな」

 

 そう言って塊ごと残余を拾い上げると、

 

「……こんな黒焦げだけど、河童なら喜ぶかな」

 

と、山へ歩みを進めた。

 

 

 

 

 ふと吹いた風が、小さなリボンをところどころ取り付けた、彼女の白銀の長髪をたゆたわせていた。

 

 

 

 

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから知名度が更に増した星羅は、ある日、神社である人物に取材されていた。

 

 

 

 

「あやや!!これがウワサの、スペルメモリですね!!!」

 

「……これがウワサの新聞記者なの?霊夢」

 

「えぇ、めんどくさいパパラッチ記者よ」

 

 

 

 

 

 

 

 当然それは射命丸 文。

 

 文はやっと出会えたネタの宝庫に、いつも以上に目を輝かせて取材を行っていた。

 

 

 

 なんでも屋としての諸々を聞いた後、やはり文はメモリに惹かれていた。

 

 

 

「これはちょっと質が違いますね」

「これは……妖夢とのメモリです」

「へっ!?よ、妖夢さんの!?」

「あー、それはちょっとかくかくじかじかで……」

 

 

 例の特殊なメモリたちについて、霊夢と星羅はざっくり話した。

 

 

 

「なるほど……『他人との記憶を以て放つ必殺の一撃』、『使用には記憶の持ち主との絆が必要』、ということですか」

「はい」

「確かに見た目もどこかキラキラしてますねぇ」

 

 妖夢との【瞑想永弾斬】、咲夜との【サウザンダガーウェーブ】を両手に眺める文だったが、

 

 

「……あ!いい名前思いつきましたよ!!」

 

と唐突に叫んだ。

 

「名前?どーせろくなものじゃ……」

 

 霊夢が眉をハの字にして訝しんだ時だった。

 

 

 

 

 

 

「聞きたいです!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 星羅は嬉々として文に視線を送っていた。

 

 

 

「……本気?」

「うん」

「流石はなんでも屋さん!物分かりの良い方です!!」

 

 どうやら星羅はとにかく参考にしたいらしい。

 

 「はあ」と霊夢は諦めた。

 

 

 文は咳払いのあと、高らかに発した。

 

 

「それでは発表します!!この系統のメモリ、星羅さんとの絆の証のこのメモリたちは……」

 

 

 

 

 

 

「「ごくり……」」

 

 

 

 星羅はもちろん、なんだかんだ気になった霊夢も文に顔を寄せる。

 

 

 

 

 

 そして文は自信満々に、その名を宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファンタズムメモリ!!!ですっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………は?」

 

 

 

 

 霊夢は何語だよとでもいいたげな表情になった。

 

 

 

「ふぁんたずむ???」

「西洋の言葉で『幻想』だそうですよ」

「ホント?」

 

 文は手帳をパラパラとめくって続ける。

 

「このメモリたちは星羅さんが今まで共に歩んできた大切な友との記憶の結晶なのでしょう?なら、『幻想郷での記録』として機能するこのメモリにはピッタリでしょうに」

 

「……あ、そうなのね……」

 

 

 案外説得力があったものだから霊夢は黙った。

 

 

「いいですね!!ファンタズムメモリ、かぁ。気に入りました!」

「ヨシ!本人の受諾を確認!やったぁ!!」

 

 文はガッツポーズをとってメモをとった。

 

 

『星羅の絆の証、名称決まる!!』

『絆の証、ファンタズムメモリ!!』

 

 

「……ダサっ」

「霊夢さんたらそんなこと言わないでくださいよ〜……」

 

 

 

 

 

 

 その後。

 文は「ネタはホットな内に形にせねば!!」と飛び出していった。

 

 天狗って忙しいんだなー、と星羅はぼんやり思った。

 

 

「ファンタズムメモリ。うんうん、覚えた。なんかしっくりくる」

「アイツにしてはやたら良い感じの名前つけたわね……見直したかも」

 

 霊夢は呟くと、星羅に問いかけた。

 

 

「ところで星羅、新しいコートは気に入ったの?」

 

 

 

 この間の件で咲夜に世話になった星羅。

 

 その際咲夜は、なんと星羅のぼろぼろだったコートをアリスと共に仕立て直し、わざわざ新調してくれたのである。

 

 袖の半分が展開でき、バスターに干渉しないようになっている。更にポケットも内側に増加していた。

 

 

「うん!凄く便利だよ、ホント」

「ちゃんとお礼、言っておきなさいよ」

「もちろん!」

 

 

 

 白銀にも見えるグレーのコート。

 差し色に入れられた黄色や青色が映える。

 

 夏場も良い感じに体温調節ができる袖のおかげで、年中着ていられそうだ。

 

 あとでお礼言わなきゃ、と星羅は改めて思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくコートで盛り上がった二人だが、ふと霊夢が聞いた。

 

 

 

「……で?また、新しいメモリはあったの?」

 

「うん、確かこれと……これ」

 

 

 

 星羅が取り出したのは、二つの新規スペルメモリ。

 

 

 一枚は星が描かれた【メテオストーム】

 

 もう一枚は何やら板のようなものが描かれた【バスタードアイギス】

 

 

 いまいちメモリのみでは使い方がわからないものがあったらしい。

 

 

「……なにこれ、流星群?と…………板?」

「盾でしょ」

「そうなの?」

「知らない」

「どっちなのよ」

 

などと話していたが、ふと霊夢は気付いた。

 

 

「……あれ、星羅。何だっけ……ふぁ……ファミ○ンメモリ?」

「違うよファンタズムメモリだよ!ファ○コンと一緒にしちゃだめ!!」

「それそれ、ファンタズムメモリ。んでさ、それはなかったの?」

「うーんと……」

 

 

 星羅はポケットや小屋中を探してみたが、

 

「……うん。無いわ」

 

とドヤ顔で言った。

 

 

「ドヤることではないわよ、決して……全くもう」

 

 霊夢は仕方ないか、と首を振った。

 

 

 そして気を取り直すようにお茶を啜ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、星羅は人里へ降りた。

 

 

 今日はたまたま依頼もなく平和だったので、散歩がてら見回っていた。

 

 

 すると。

 

 

 

「……ん?」

 

 

 

 

 

 

「お姉さん、ありがとー!またお話聞かせてね!」

「明日も来てくれる?」

 

「えぇ、もちろんよ。また明日、続きを語り聞かせてあげるわ」

 

 

 里の一角に、子どもたちに囲まれた女性がいた。

 

 何か聞かせていたのか、明日も会う約束をしている。

 

 

 だが星羅がなにより驚いたのは――

 

 

「……綺麗だなぁ」

 

 

正に、絵に描いた人物が、そのまま出てきたかのような美しさ。それを、その輝きを纏っていた。

 

 長い黒髪は荘厳な彼女を引き立て、優しい眼差しは美貌に安心を加えてくれる。

 

 

 

 星羅が気がつくと、その人はどこかへいなくなっていた。

 

 

 

 

 

「……」

 

 何故か目に焼き付いて離れない。

 

 絶句したままそこを眺めていると、

 

 

 

 

 

「……お前は、あの姫さんに会うのは初めてだったか」

 

 

 

 

 

と後ろから声をかけられた。

 

 

 

 

 

 

 振り向くと、そこには見覚えのある人物が。

 

 

 

 

「けーね先生!お久しぶりです!!」

 

 

「久しぶりだな、星羅。元気そうで何よりだ」

 

 

 

 特注の帽子、青を帯びた長髪、紺色の服。

 名簿のような本と、なにかの歴史書を抱えている。

 

 

 上白沢(かみしらさわ) 慧音(けいね)、人里で寺子屋を開くハクタクと呼ばれる半妖である。

 

 星羅とは何度か依頼主として関わっており、縁もそれなりにあった。彼女の記憶探しにも協力している。

 

 

 

「あの人を知ってるんですか?」

「まぁ、色々あってな。少し話そうか、久々に会ったわけだし」

 

 

 慧音に誘われた星羅は、近くの甘味処へと歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 慧音は人里で寺子屋をしながら人間社会に溶け込んでいる。

 子供たちにも慕われているが、彼女の授業はどうしてもつまらないのか寝てしまう子が多い。

 

 慧音もそれを自覚はしているが、どうすれば寝ないで熱心に受けてくれるだろうと色々工夫してみるものの上手くいかないようだ。

 証拠に、それの手伝いを頼まれた星羅さえうっかり寝てしまったほど。

 

 しかし彼女はその裏で、【歴史を食べる程度の能力】と、満月の夜に変身するハクタクの力による【歴史を創る程度の能力】を使って、幻想郷の歴史編纂作業を行っている。

 なかったことにしたり、一方的な都合で抹消された記録を復元したりなど行っているが、基本はハクタクの時……つまり、月一の満月の日に纏めて編纂作業をしているので忙しく、その日は気が立っているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほぉ。他人との記憶を元に、自身の力とする……か。聞いたことは無いが、興味深い話だ」

 

 

 星羅の話を受けて、慧音はふむ、とつぶやきながら手元の書物を開いた。

 

「……例の魔法使いが言っていたなら、私もおそらくそれに関する本はしばらく出てこないだろう。でも……独自に調べてみる価値は大いにある。何か分かったら伝えるよ」

「ありがとうございます、先生」

「この間とりあえず助けてもらったからな」

「寝てしまいましたけどね……はは」

「私も授業そのもののスタイルを変えてみる必要があるのかも知れないから、あまり気に病むことはないさ」

 

 ぽんと肩に手を置かれ、星羅はちょっと安心した。

 

 

「それで……あの人は……誰なんですか」

「あぁ、その話だったな。お前も外来人なら聞いたことはあるかも知れない。覚えていれば、だけど」

 

 

 こほん、と咳払いし、慧音は口を開いた。

 

 

 

「あの人は、【永遠と須臾の罪人】、【永遠のお姫様】。その名も………………」

 

 

 

 

 

 

 

「……蓬莱山、輝夜。お前らの言う『竹取物語』のかぐやだ」

 

 

 

 

 

 

 

「……へ?」

 

 

 

「……妹紅?いつの間に」

 

 

 

 

 

 

 二人が顔を上げると、そこには銀髪の少女がみたらし団子をくわえて立っていた。

 片手は赤いもんぺに突っ込み、髪のあちこちに小さな紅白リボンを付けてある。

 

「……よう、お前が星羅、だな?はじめまして、か。話は慧音から聞いてるぞ」

 

 妹紅、と呼ばれた彼女はそう言うと、星羅の目線の高さまでしゃがみ、くわえていた串を抜いた。

 

 

「…………藤原(ふじわらの) 妹紅(もこう)だ、普通に妹紅って呼んでくれ」

 

 

「……あっ、もしかして」

 

 

 星羅は心当たりがあったらしい。

 

 人差し指立てて、答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

もこたんってあんたか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お、おぅ……???」

 

 

 

 

 一瞬白けた、もこたん……もとい妹紅は思わず首を傾げた。

 

 

 

「もこ……たん???」

「人里の子供たちがそう言ってて。聞いたこと無い?」

「……無い」

「そうなの?まぁとにかくそういうわけだから」

 

 

戸惑う妹紅だったが、とりあえず気を取り直して続けた。

 

「……ええと、輝夜の話だろ?だったら永遠亭に行け。そこで直で見たほうがいい」

「あぁ、噂の薬屋さんかぁ。行ったことないからなぁ……」

 

 名前は知っていたようだが、よくわからないと言う星羅。

 

 すると、

 

 

「安心しろ。私が連れてく」

 

 

と妹紅はみたらし団子の最後を食べて言った。

 

 

「あそこはよく迷う場所。お前が行ったらたぶん出れなくなるぞ」

「そうなの?」

「妹紅の言うとおりだ。案内してもらいなさい、星羅」

「……うーん、そうですよね。はい」

 

慧音の後押しもあって星羅はひとまず承諾。

 

 

「頼んだぞ妹紅」

「言われずとも任せとけ、慧音。ボランティア舐めんなよ」

 

二人の会話に、星羅はこっそり「ボランティアだってよ。なんでも屋と似てるかも」とボソリと言っていた。

 

 

 

 

「よし、ごちそうさま。行くか、星羅」

「うん。先生、今日はありがとうございましたー!」

「あぁ、またいつでも訪ねてくれ!」

 

 

 慧音と別れ、星羅は妹紅を追って外へ走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機怪……か。気をつけてな、妹紅、星羅……」

 

 

 

 

 

 

 その背中に、慧音は独り呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 せいら:「もこたんってもこもこだね〜」
 もこたん:「モンペなそれ」
 せ:「これがリアルのもんぺか!!」
 も:「見たことないのか!?」


 もんぺって教科書くらいでしか見たことないです。
 しかもサスペンダーついてるもんぺって……?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

026. 月の頭脳と永遠のお姫様

 永遠亭突入。
 タイトル初めて2倍にした……違和感あったらすみません。





 咲夜の新調した新たなコートをまとった星羅。

 

 

 そんな彼女に、文はこれまで得た特殊なメモリたちを『ファンタズムメモリ』と命名する。

 

 

 

 

 その後、人里で輝夜を目撃した星羅は、慧音との再開を経て、妹紅に永遠亭へ連れて行ってもらうこととなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、一方で永遠亭ではある問題が起こっていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……火事?」

 

 

 

 永遠亭へと至る道を歩きながら、星羅は妹紅に問い返していた。

 

 

 

「あぁ。最近、迷いの竹林で火元不明の火災が後を絶たないんだ」

 

 

 ポケットに手を突っ込み、妹紅はそう返す。

 

 

「てゐによれば、人為的火災なのはわかってるんだが、痕跡もろとも焼き尽くされてるせいで手の打ちようもないんだと」

 

 

 

 

 迷いの竹林は、幻想郷にある広大な竹林である。

 無数の竹に覆われ、日に日に変化し続けるだけでなく、わずかに傾斜しているため方向感覚を奪われてしまう。

 そのため一度迷うと出られないと言われている。

 

 妹紅は昔からここを熟知しているため絶対に迷わない。星羅のみならず、永遠亭へ行く場合の案内人として自ら進んで行動しているのはこれが理由だ。

 

 

 そんな竹林の所有者が、兎の妖怪・因幡(いなば) てゐ。

 幻想郷の古参であり【人間を幸運にする程度の能力】を持ちながら、いたずら好きで嘘つきな兎である。

 

 

 

 

「てゐに会ったら気をつけろ。あいつ言葉巧みに騙すから」

「そうなんだ……」

「大丈夫だとは思うけどな」

 

 

 訳あって浅からぬ縁を持つ彼女にとって、てゐのいたずらは痛いほど思い知らされている。それは輝夜や永遠亭の面々ならば関係なくわかっていること……周知の事実だ。

 

 ため息ひとつつくと、妹紅は話を戻した。

 

 

「……で、あいつが言うには、最近世間を騒がす連中……機怪の仕業だろうって、勝手に憶測立ててんのさ」

「やっぱり機怪か……」

 

 だろうね、と星羅は頷く。

 

「……やっぱり?何か心当たりでもあるのか?ていうか機怪知ってるのか?そういえば慧音がそんなこと言ってたか……?」

 

妹紅が問うと、

 

「まぁ……色々あったの。詳しくは永遠亭に着いたら話すよ」

 

と、ひらひら手を振って流したので、妹紅は

 

「……わかったよ」

 

頭を掻いてそう答えた。

 

 

 

 

 

「この先が迷いの竹林、この奥に永遠亭がある。しっかり付いてこいよ、一度はぐれたら終わりだ」

 

「わかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「上がるぞ」

 

 

 

「こんちは〜……」

 

 

 

 

 

 

 迷いの竹林を抜け、星羅は永遠亭へ着いた。

 

 

 

 永遠亭は竹林の奥深くにある和風の木造建築屋敷である。

 遥かな昔からあるはずなのに、その建物に経年劣化は全く見られない。

 

 

 

 周りには普通のも妖怪も関係なく、兎がうじゃうじゃしていた。

 なんでこんなところにこんなたくさん……?と、星羅は横目に見ながら思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、いらっしゃい。久しぶりね妹紅」

 

 

 

 

 出迎えたのは一人の女性。

 

 赤と紺のツートンカラーに星座が散りばめられた服、赤十字マークのナース帽、銀の三編み。

 若く見えるその外見からは想像できない貫禄と雰囲気が溢れている。

 

 

「よう、永琳。久しぶりだな」

「そっちの子は?」

「こいつは星羅、最近幻想入りした例のやつだ。ほら、名乗りな」

「はじめまして、幻島 星羅といいます。新参者ですがよろしくおねがいします」

 

 ぺこりと頭を下げる星羅。

 

 うん、と頷くと彼女は答えた。

 

 

「私は、八意(やごころ) 永琳(えいりん)。この永遠亭で薬師をしている者よ。よろしくね」

 

 

 優しい笑顔に星羅は惹き込まれた。

 

 

 妹紅が切り出す。

 

「……で、ここに来た用件なんだが。輝夜のヤツはいるか?」

 

「えぇ、さっき帰ってきたわ。また何かするの?」

「や、単にコイツが用があるってだけだ。私は今日は別にいい」

 

 

「……“何かするの”……?」

 

 星羅は永琳から飛び出したワードに耳を疑った。

 

 なにか面倒な事でもあるのだろうか?

 

 

「姫様ならこの奥よ。どうせ暇を持て余してるはずだから」

「は、はい。おじゃましま〜す……」

 

 永琳に案内され、とりあえず星羅は奥へ進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あれ?」

 

 

 

 残った妹紅は、ふと周りを見渡し、

 

 

 

 

 

 

 

「…………鈴仙ちゃん……どこいった?」

 

 

 

 

と、頭をひねった。

 

 

 

 

 

 

「……まぁいいか、どうせ人里で薬配ってんだろうし。私も追うか、あの輝夜が下手なこと吹き込むかも知れないし」

 

 

 

 

 

 そう言うと、妹紅も二人を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話は子供たちからよく聞いているわ。蓬莱山(ほうらいさん) 輝夜(かぐや)よ。あなたは確か外来人だから……『竹取物語』のかぐや姫っていえば、わかるかしら?」

 

 

 

 

 

 

 桃色に和風の装飾が施された、いわゆる「十二単衣」のような装いに、どこかで見たような気がする型の髪、そして人里でも見た、絵に描いたような美貌と優しい笑顔。

 

 

 輝夜はそこにいるだけで輝いているようなオーラを醸しながら、そう語りかけてきた。

 

 

 

 

「……けっ、お前外来人に決まってそれ言うのやめろよ」

 

 

 後ろで柱に寄りかかって腕を組む妹紅が呟く。

 

 

「他にいい例でもある?“いつも妹紅に勝ちまくってるお姫様”って言ったほうが良かったかしら?」

「あぁん!?」

「まぁまぁ、姫様、妹紅」

 

 一触即発になりそうな二人を永琳が止めた。

 

 

 

 

 そんな周りにお構いなしに、星羅は、

 

 

 

 

 

 

 

「……………………竹取、物語…………?」

 

 

 

 

 

 

フリーズしたようにその場でじっとしていた。

 

 

 

 

「……あら?かぐや姫じゃ、わからなかった??」

 

 

 輝夜が首をかしげると、妹紅が

 

 

「……んなわけないだろ?」

 

と流石に異議を唱えた。

 

「あの道具屋の店主が、確か……外では竹取物語は義務教育とかで誰でも必ず学ぶ内容らしいぞ」

「……なるほど」

 

 

 

 

 

 すると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然、星羅はその場にかがんで、頭を抑えた。

 

 

 

 

「んあ!?」

 

「星羅!?」

 

「な、何!?」

 

 

 

 三人は一斉に彼女の近くでしゃがみ、顔色を見る。

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

 

 

 

 

「……そっか、確かこいつ……慧音が言ってたが、こいつは記憶喪失だったんだ!!」

 

 

 妹紅がはっとして二人に言うと、

 

 

「それ先に言いなさいよ!!」

 

 

輝夜がとりあえず言い返して星羅に問う。

 

「星羅!大丈夫!?もしかして……さっきの言葉で……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………っ…………………そうだ。そうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

思い出した…………習ったよ、習いましたよ。それ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………『それを見れば、三寸ばかりなる人、いとうつくしゅうてゐたり』

 

 

 

 

 

『この児のかたち、けうらなること世になく、屋の内は暗き所なく光満ちたり』

 

 

 

 

 

『なよ竹のかぐや姫とつけつ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………竹取物語。作り物、作者未詳。平安時代、十世紀ごろ成立、現存する最古の物語。

 

 

 

合ってますか、かぐや姫(・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すらすらと、竹取物語の一部と、その成り立ちを暗唱した星羅。

 

 

 

 突然の出来事に三人はあ然としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………でも、思い出したのは……それだけじゃなくて。

 

 

 

 

 

昔の……外の……記憶も、ちょっとだけ思い出しました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ええっ!?」」

 

 

 

 

 

 突然の言葉に妹紅と輝夜が発狂。

 

 

 

 

 

 

「……一緒に思い出されたのね?」

 

 

 

 

 永琳はとりあえず落ち着き、そう問いかけた。

 

 

「……でも自分のことじゃ無いみたいで……よく、わからなくて」

 

「たぶん、混乱してるのよ。あなたも落ち着いたら少しは平気になるわ……酷な話だけど」

 

「はい」

 

 

 

 

 立ち上がった星羅は、気丈に笑うと、

 

 

「あのかぐや姫に会えてなんか幸せです!!」

 

 

と、輝夜に言った。

 

 

「……ふふ、その様子なら安心ね」

「やれやれ……」

 

 

 それを見て輝夜も微笑み、妹紅はニヤけながら両手をひらひらと振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 永琳も微笑みながら、ふと顔をしかめ、

 

 

 

 

 

 

 

「……、一応、しっかり見ておく必要がありそうね……」

 

 

 

 

 

と、一人呟くのだった。

 

 

 

 

 




 え?

 どうせうどんげのメモリもらうのになにしてんだって?


 次回でるから勘弁……




 ところで。
 キャラ達の色々な過去話は自分で考えています。
 もちろん原作設定もしっかり考慮し、なるだけ矛盾をなくしています。

 すると他の方の設定とかにも似てしまうのです。
 どうしても似通った内容に近付くのは同じキャラクターなんだから仕方がないです。
 その中でオリジナリティ出すのは結構大変なんですよ。

 なので「これは確信犯」というの以外は、ある程度似ていてもできれば通報しないでください。
 こち他の作品パロディや参考にすることくらいはありますが、他人の東方設定をまるごとパクろうなんて微塵も思っておりません。「流石にこれはヤバい」とかいうのがありましたらコメントください。

 長文失礼。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

027. 地上の月兎

 今アンケートやってるじゃないっすか(執筆時点でのはなし)。

 地霊殿か星蓮船、どっちかって聞いたのですがみなさんおまかせなんすね。任されちった……まぁいっか。


 というわけで永夜抄編三話です。
 やっと本日の主役登場です。やっとかよ。





 妹紅に連れられて永遠亭に赴いた星羅は、輝夜との対話で、一部だが「外の世界にいた頃」の記憶を呼び覚ました。

 

 目覚めた記憶に少しだけ違和感を覚える星羅だが、落ち着いて受け入れればそのうち慣れるだろう、と永琳に言われる。

 

 

 

 その頃。

 

 永遠亭へ、一人の兎が帰ってきていた。

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえり〜。ちょっと遅かったんじゃないの?」

 

 

 

 

 

 一人の兎妖怪が、竹林の入口で少女を出迎えた。

 

 

 迎えられた方は、被っていた笠を外して答えた。

 

 

 

「……ただいま。珍しいわね、てゐ。あんたがここにいるなんて」

「まぁ、流石に今は一大事の最中だからさ。見張りだよ。見張り。このてゐが自分からここにいるんだもの」

「はいはい、自慢は結構よ」

 

 

 笠を外された頭からは、笠で隠れていた少しだけしわしわな兎の耳が現れた。

 

 背中の籠を背負い直し、続ける。

 

 

 

「……お師匠様のところに戻りましょう」

「うん。まったくいたずらもろくにできないしね」

「そもそもしないでほしいわ……」

「長年の性だよ、鈴仙。ご〜めんね」

 

 

 

 

 

 

 元・月の玉兎、鈴仙(れいせん)優曇華院(うどんげいん)・イナバと、竹林を管理する妖怪兎の因幡(いなば) てゐ。

 

 

 

 二人は永遠亭へと駆け出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふむふむ、学校?か……寺子屋みたいなもん……?か。しかも外じゃあ当たり前に学ぶものなんだな、かぐや姫って。いい時代になったもんだな」

 

「となると私、外だと案外有名なのね。幻想郷にいて大丈夫かしら……」

 

「外に伝わってる“かぐや姫”は輝夜(おまえ)ほどいい人じゃねーよ」

 

「なんですって!?それ言ったら、星羅のいう話にはあなたの名前どころか影も形もないでしょう?」

 

「うぐ、それはそうだが……!」

 

 

 

「……仲悪すぎですよ、姫。妹紅も落ち着いて」

 

 

「「あなたが落ち着かないからでしょ!?」だろ!?」

 

 

 

 

 

 

 あのあと、永琳は「少しだけ準備させてちょうだい」と言って、自室__といっても診察室だけど__へ戻っていった。

 

 

 

 

 その間、妹紅と輝夜は星羅の記憶整理を手伝いたいと言い、彼女が断片的に思い出した内容を聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 曰く、外の世界の学校に通っていた事、

 

 そこで竹取物語について学んだ事、

 

 そして、それとは別に、なにか「憧れのヒーロー」みたいなものがいた、事をぼんやり思い出したらしい。

 

 

 

 

「……はぁ。総括させてもらうが……すまん。内容の偏りが過ぎて、イマイチわからないな」

「私もよ。正直、断言できないことばかりね」

「そうっすよね〜…………」

「……こんなん、そりゃあ混乱するわな」

 

 妹紅は腕を組み、嘆く。

 

「でもどうせ面倒な話なんだろうなぁ〜……お前の隠されてる諸事情も」

 

 

 

 

 まるで自分もそうだったとでも言うように、彼女はそう言葉を吐いた。

 輝夜はそれを見て、何を思ったのか目を逸らした。

 

 星羅にはいまいち、その意味がわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ふと、妹紅は外を見た。

 

 

「……ん、星羅」

「どしたの?」

 

「あんなところにうさぎさんがいるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「またかよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこを見ても兎だらけな永遠亭。

 

 

 そんな場所のせいで、星羅はうっかりそう呟いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はじめまして、私は鈴仙・優曇華院・イナバ。端的に言えば永遠亭の雑用係をしてるわ。よろしくおねがいしますね」

 

「私は因幡てゐ。この竹林の持ち主さ。何か困ったら何でも言ってよね」

 

 

 

 

 

 

(……また兎か……)

(またとか言わねーんだよ、そこは)

(立派な私達の仲間なのよ)

(はぁ)

 

 

 

 

 

 そんなことを、ヒソヒソと三人は交わした。

 

 

 

 

 

 妹紅の仲介経て、星羅は鈴仙とてゐを紹介された。

 

 

 

 

 永遠亭中それなりに兎がうようよしていて、竹林でも何度か見かけたので、星羅はどちらかといえば「見飽きたなぁ……」となってしまっていた。

 

 

 鈴仙のロングヘアはぎりぎり足元手前まで広がっていて、頭からは若干しわのよったうさ耳を生やし、外の世界の記憶で垣間見たような、きちっとした制服を着ていた。

 

 一方てゐは丸みを帯びたうさ耳に薄ピンクワンピ、にんじんネックレス(?)を纏っている。

 

 

「あ、そうそう。私の目はあんまり見つめない方が良いですよ?」

 

「えっ、なんで?」

 

 

 鈴仙の言葉に、ボーッとしていた星羅が我に返ると、

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………狂ってしまうから、です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 右手で銃の形を作り、鈴仙はそう言うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 星羅は思いっきり首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 

 

 

 

 

 

 

 

「火事?竹林で!?」

 

 

 

 

 

 霊夢は魔理沙の眼前に迫って問いただした。

 

 

 

「待て待て待て〜い、近い!」

「う……ごめん……」

 

 

 

 

 博麗神社へやってきた魔理沙は、小耳に挟んだ『迷いの竹林火災事件』について、霊夢へ話していたのだ。

 

 

「……で、原因は不明なのね」

「あぁ。どうせ機怪だろうけどな……」

 

 

 魔理沙は言いながら箒にまたがる。

 

「永琳にでも聞きに行くか?手伝いが必要かどうか」

 

 

「……そうね。何か機怪について分かるかも知れないし。行ってみるか……」

 

 

 

 霊夢もため息ひとつついて、幣と御札を掴んで宙へ翔んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再び、永遠亭。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈴仙は右手の銃ポーズをそのままに、星羅へ能力について話していた。

 

 

 

 

「私は【波長を操る程度の能力】を持ってるんです。この能力で、相手の性格を掴んだり、幻覚を見せたり、波長をずらして視認出来なくさせたりするんですよ。それらは私の目を通して発動するので、見つめてると狂ってしまいますよ」

 

 

 軽く目を、赤色に光らせてみる。

 

 

 

「……やめろ、私達も影響くらうじゃないか」

 

 

 

 妹紅が後ろで目を逸らした。

 

 

 

「……だいたいわかった……と思う」

 

 

 

 

 星羅はさっぱりわからなかったが頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 が、星羅は告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まぁ……、たぶん平気だけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?どうして??」

 

 

 鈴仙の問いに、星羅はあっさりと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だって……

 

 

 

 

 

悪影響を及ぼす他人の能力は、私、効かないもん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ!?」

 

 

「はい!?」

 

 

「なんだと!?」

 

 

「はぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突拍子もない、皆の予想の斜め上を行く返答に、周囲四人は(あの輝夜や妹紅さえ)唖然としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んーと、つまり?紅魔んとこのメイドの時間停止中に一緒に動けて?あそこの妹も壊せなくって??そこの魔女によればお前はそういう悪影響は一切効かない【幻想力に触れる程度の能力】なのか……???」

 

 

 

 

 妹紅は眉をぴくぴくと動かしながら必死に理解しようと整理した。

 

 

「……あれ?本当だ……あなたの波長をずらせない?しかもさっきから幻覚見せてるはずなのに……??」

 

「……至って平気だよ?」

 

 

 その横では鈴仙が色々試行錯誤しているが星羅はぼーっと何もないといった顔でそれを眺めていた。

 

 星羅にはやはり効かないらしい。

 

 

「てゐの幸運はどうなのよ」

「うーん、見た感じ与えられそうだけど」

「じゃあなんで私のは効かないのよ??」

 

 

 てゐは【人間に幸運を与える程度の能力】をもつ。

 

 それは普通に与えられそうなのだという。

 

 

 

「……いい影響は受けるけど、悪い影響は受け付けないか良くしてしまうんじゃないかしら」

 

 輝夜がそれらを見て、推測を述べた。

 

 

「姫様?」

「恐らく……彼女にとっての特権なのよ。信じがたいけど、この子はあからさまに特別な存在。しかも話によれば、冥界の半人半霊の剣士と例のメイドのスペカを受け継いでる」

「……要は、こいつならではの最強能力ってことか」

 

 妹紅がやっと納得出来たように頷いて続いた。

 

「ま、こいつは追われてる身なんだろ?だったら信じてやろうぜ。こいつの能力なら異変解決の特効薬になるだろうし」

 

「うーん、波長を使えばちょっとは本性がわかるかなって思ったのですが……仕方ないですね」

 

 鈴仙はふむ、と言いながらいつもの眼に戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「星羅、ちょっといいかしら」

 

 

 

 

 

 ふと、奥から永琳が顔を出した。

 

 

 

 

「試したいことがあるのだけれど」

 

「なんだ?能力なら判明してるぞ?」

 

 

 妹紅が言うと、永琳は首を振って、

 

 

 

 

 

 

 

「実験よ。

 

 

星羅の記憶を引き出すための、ね」

 

 

 

 

 

 

 

と、人差し指を立てて、真剣な表情で告げるのだった。

 

 

 

 

 

 




 鈴仙のスペカってどこか中2臭い良い感じにかっけぇ名前ばかりですよね。

 皆さんお気に入りはありますか?





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

028. 爆炎の罠

 竹林火災。

 妹紅と輝夜が殺し合いしてるとたまに起きるらしいですね。よく燃え広がらないなぁ……?





 ……熱い。

 

 

 

 

 目の前で、全てが燃えていく……。

 

 

 

 

 私は、どうしたらいいの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「設備は整ってるわ、座って」

 

 

 

 

 

「…………いや、いきなりそんなこと言われても困りますよお師匠様」

 

 

 

 

 

 

 永琳の言葉に、鈴仙が真っ先に抗議した。

 

 

 

 

 

 

 永琳が用意したのはなにかの読み込み装置とヘッドギア。

 

 

 心理的な検査でもするのだろうか。

 

 

 

「星羅、突然だけれど、スペルメモリを貸してもらえるかしら?」

「ほえ?何をするんですか、これから」

 

 

 

 星羅の問いに、永琳は顔を引き締めて答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたの記憶を、できる限り取り戻す治療よ。まぁ、治療と言えるかは微妙だけれども」

 

 

 

 

 

 

 

 思ったよりも単刀直入な解答に、皆はハッとした。

 

 

 

 

「そんなことがてきるのか、永琳?」

 

 

 妹紅が訝しむが、

 

 

「……確実に、できるとは限らないわ。それに星羅がやらないなら取りやめるつもりよ」

 

ときっぱり答えた。

 

「……永琳」

「星羅の記憶は現状、断片的なものばかり。少しでもそれらを補完するには取り戻すしかないわ。もちろん……思い出したくないだろう記憶も、酷だけどおそらくは戻ってくることになる」

「代償はそれってことね」

「……だから星羅、あなたがやるかどうか決めなさい。用意はしたけれど、判断は委ねるわ」

 

 

 あくまでも本人の意見を尊重する。

 医師らしい賢明な判断だ。

 

 そんな永琳に、星羅は

 

 

 

 

 

 

「……やってください」

 

 

 

 

やたら低いトーンで、しかしはっきりと。

 

 

 

 

 

 

 

「記憶を呼び戻せるならやってください!!

 

私の本当の姿を知れるならやってください!!

 

 

……私、これ以上……みなさんに、霊夢に、魔理沙に……みんなに迷惑をかけたくないんです!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、いつになく真剣な表情で、そう応じた。

 

 

 

「……いいのか、さっき以上に苦痛になるかも知れないんだぞ」

 

 

 

 妹紅が聞き直すが、星羅は大きく頷いた。

 

 

 

「うん。一瞬の痛みくらい、元に戻れる事に比べたらなんてことないよ」

 

 

 

「……だとよ。お医者さん」

 

 

「…畏まりました。……それじゃあ、集まって」

 

 

 永琳も彼女の意を汲み、頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今からあなたのスペルメモリに記録されているデータを、あなたに移し替えるわ」

「えっ?」

「これらは河童製だけど、稼働試験はしてあるわ。これを使って、メモリに封印されているかもしれないあなたの記憶を引き出すのよ。使うとは思ってなかったけれど……あるものは使いましょう」

「なるほど」

「まぁメモリーカードっていったら、なにかを記録しておくもんらしいし、な」

 

慧音が言ってた、と妹紅は付け加えた。

 

 

 

「鈴仙は助手をお願い。姫様と妹紅は外で待ってて。てゐ、あなたは悪いけどもう少し見回り頼めるかしら」

「はーい」

「わかった」

「わかったわ永琳」

「ちぇ〜、折角戻ったのにー」

 

 

 妹紅、輝夜、てゐは部屋を出ていき、鈴仙は支度を始めた。

 

 

 

「先に行っておくけれど、外傷や手術は一切しないわ。その代わり、始める前に念の為、簡単にテストさせてくれるかしら。もちろん嫌だったらやらないわ」

 

 

「……お願いします。やってください」

 

 

と、星羅は気丈にも答えた。

 

 

「確実に成功させてください。それならテストもなんでもやってください」

 

 

「……星羅」

 

 

 

鈴仙が呟く。

 

 星羅の目には迷いが無かった。

 

 

 永琳はヘッドギアを取り、宣言した。

 

 

 

 

 

 

「……それでは……始めるわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

 

 

『記憶を呼び戻せるならやってください!!私の本当の姿を知れるならやってください!!……私、これ以上……みなさんに、霊夢に、魔理沙に……みんなに迷惑をかけたくないんです!!!』

 

 

 

 

 

「……なんつーか、健気だな。あいつ」

 

 

 

 

 外で永琳のテストを待ちながら、妹紅は呟いた。

 

 横の輝夜が彼女を見る。

 

 

「本当の姿を知って、どうなるのか分かったもんじゃないのに。あいつは自分から知りに行った。なんか……すごいな」

「珍しいわね。あなたがそんなことを言うなんて」

「まぁな……それに」

 

 

 

 妹紅と輝夜は、襖越しに鈴仙を見やった。

 

 

 

 

 

「あいつもなんか感じたようだしな。星羅の特別さを」

「そうね。永く生きてきたのに、世の中まだまだ不思議が多いわね」

「……はっ、そうだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 __ふと、妹紅が顔を上げた。

 

 

 

 

 

 

「……ん?なんか……焦げ臭い気がする」

 

 

 

 

「……火事!?妹紅っ」

 

 

 

 

「はいはい」

 

 

 妹紅は言われるより前に飛び出した。

 

 

 

 

「輝夜、あいつらを頼む」

 

 

 

 

「言われなくても頼まれてやるわよ!」

 

 

 輝夜はそう言い襖を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 竹林を駆けながら、妹紅は思った。

 

 

(…………霊夢や魔理沙に迷惑をかけたくない……か)

 

 

 

 

「……鈴仙ちゃんなら、きっとなんとかしてくれる……そうだろう、輝夜……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その数分前。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずは一枚目。【プラズマチャージショット】、ね」

 

 

 

 

 

 読み込みスロットにメモリをはめてみる。

 

 

 だがなぜか上手く入らない。

 端子が異なるようだ。

 

 

「……テストしておいて正解だったわ、まさか端子から合わないなんて……」

「お師匠様、どうするんですか?」

「私は別に機械いじりできるわけではないし……河童を呼ぼうかしら」

「うーん……」

 

 

 ……えぇ、と星羅は内心焦った。

 

 被るヘッドギアは別に某SF作品みたいなヤバい機能があるとかではなく、単に脳波チェッカーらしい。

 仕組みは(星羅にとっては)わからないが、どうやら測定結果により記憶がどれくらい蘇っているのかをある程度把握できるようだ。

 

 だがテスト結果は「そもそも端子が合わない」。

 

 始まってすらいない実験。

 これでは色々と無駄に終わってしまう。

 

 

 

 自分のためになにかしてくれているのに、黙って見ているわけにはいかない。

 星羅は必死に考え、数分後、やっと一つの結論を導いた。

 

 

「……そうだ!」

「星羅、どうしたの?」

 

鈴仙の問いに、彼女は外しておいた腕時計を掴む。

 

 

「バスターにしか読み込めないなら、バスターから記憶を持ってこれるんじゃないんですか?」

 

 

「……やってみましょうか」

 

 

 永琳は納得したように、コードを持って、そう微笑んだ。

 

 

「ここかしらね」

 

 それっぽいソケットにコードを差し込み、電源を入れる。

 

 

 

 すると例の読み取り装置が動き出し、ピコピコとなにかを計測し始めた。

 

 

 

「……うぅっ……!」

 

 

 同時に星羅にもなにか蘇ってきているのか、微かにうめき声をあげる。

 

 

「大丈夫星羅?無理は絶対しないでよ」

「うん……っ」

 

 鈴仙の言葉に、痛みからなのか顔を歪ませたまま彼女は答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 沈黙の中で、星羅は“何か”を垣間見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霊夢や魔理沙、妖夢、咲夜、鈴仙、文、そしてまだ見ぬ者たち。

 

 それらと楽しそうに話しているのを。

 

 

 

 

 

 みんなと共に空を駆け巡り、

 

 

 

時々弾幕ごっこをしたり、

 

 

 

いろんな場所を巡ったり……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………あれ?

 

 

 

 

 

 

 

 ちょっと待ってよ……?

 

 

 

 

 

 

 

 私……以前にみんなに会ってた、の?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、しばらくの沈黙の後、読み取り装置は停止し、星羅も落ち着いた。

 

 

「一つ目の記憶……何だったのかしら」

 

 永琳が問うと、星羅は

 

 

 

 

 

 

「…………………………私自身についての、記憶でした」

 

 

 

 

と、流石に直ぐには受け入れられなかったような声で、ぽつりと答えた。

 

 

「……でも、やっぱり断片的ですね」

 

 

「えっ?」

 

「……それでも断片的!?」

 

 

 続けて放たれた言葉に、二人は動揺した。

 

 

「……昔から私はこんな感じで、お人好しで、優しくて、みんなと楽しそうにしていた……そんな記憶でした」

「……えっ?みんな、と?」

 

 鈴仙が問う。

 

 

「見間違いじゃなきゃ、霊夢や魔理沙……それに鈴仙もいたよ」

「私も?」

「……つまり、あなたはこの世界にいたってこと?」

「……それでは私達に星羅の記憶がないのはなんででしょうか」

「……それは私にもわからないわ、うどんげ……」

 

 

 

 矛盾。

 

 星羅はすでに多くの幻想郷の仲間たちに会っていたようだ。

 

 

 起こった謎に、二人が悩んでいると……

 

 

 

 

 

 

「みんな、大変よ!!また火事だわ!!」

 

 

 

 

 

輝夜が血相変えて駆け込んできた。

 

 

 

「今は妹紅が先に行ってるわ」

「ならまだ安心ね、うどんげ、あなたも行きなさい」

「え、でも星羅は?」

 

 永琳の判断に問うと、

 

「……今の私達ではどのみち星羅についてはこれ以上分析できないわ。それに……今更だけれども、無理矢理思い出させるのも、医者としても人としても良くないわ」

 

と言って、バスターからコードを引き抜いた。

 

 

「星羅、あれこれ頼んで申し訳ないけれど……うどんげについて行ってもらえるかしら」

 

「……任せてください!!」

 

 

 星羅は快く承諾、鈴仙とともに永遠亭を飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの子、他人事のはずなのに……あんなにも快く……」

 

 

 永琳がふとそう零す。

 

 

 それに対し、輝夜は言った。

 

 

「違うわよ、永琳。言ってたじゃない。

 

 

 

お人好しで、優しいって」

 

 

 

 

 

「……そうね、そうですよね。姫様」

 

 

 

 

 

 

 輝夜の笑みを、永琳は心の中の自身の確信へと繋げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんだ、なんなんだよ……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこまで燃えてる?

 

 

 

 どこが安置なんだ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こいつは……まるで…………!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[……サァ、燃えつきろ。

 

 

 

 

早くワレワレを何とかしないと、本当に焼き尽くされてしまうよ?]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……私は傷付いたてゐを抱えながら、

 

 

 

 

 

不気味に揺らめく炎の中、全てを焼き尽くさんとする「侵略者」に相対していた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 冒頭のセリフは誰のでしょうか!?



 すでに察した方は天才。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

029. 幻視の魔炎

 幻覚、幻聴、その他マボロシを見たことある人〜!


 ……いないで欲しいなぁ。
 いたらいたでちょっと聞きたいてすけれども。
 ちなみに筆者は……見たことないよ。


 そんなこんなで鈴仙奮闘劇開幕!!(ホントかよ)



 成り行きで永遠亭までやってきた星羅と妹紅。

 

 星羅は永琳の手助けでメモリに記録されていた一部の記憶を取り戻したが、その内容は「すでに星羅は幻想郷の少女たちに会っており、その“当時”からお人好しかつ優しい性格だった」こと。

 

 しかし幻想郷において彼女を知っているものは当然ながらいないため、永琳は矛盾点に悩ませられる。

 

 

 

 更に、再び竹林で火災が発生。

 

 一足先に向かっていた妹紅が、目にしたものとは……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……くそ、こんなことならアイツを連れてくるべきだったか」

 

 

 妹紅は竹林を駆け抜けつつ、道中立ちはだかる雑魚機怪をショットで散らしていった。

 

 脇に抱えているのは、傷付いたてゐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『て、てゐ!?お前、まさか一人で!?』

 

『……もこ、う……私……』

 

『くそったれ、あのてゐがこんなボコボコにされるなんて……!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聞けばどうやら、他の兎たちを逃がすため一人で立ち向かっていたらしい。

 未知の軍団相手に一人で引き受けていたら、そりゃあ誰だろうと傷付くだろう。

 

 もっと早く来ればよかった、と今更仕方のない後悔を心の隅に追いやり、妹紅は叫ぶ。

 

 

 

「どけ!!本物の(・・・)炎で燃やされたくなかったらな!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええっ!?と、飛べないの!?」

「あはは……」

「うぅ、だったら絶対見失わないでね!!」

 

 

 

 できるだけ低空飛行する鈴仙と、その後ろを追う星羅。

 

 二人は赤々と燃えるその場所に向かっていた。

 

 

 

 

(……あの炎、ただの炎じゃないわね)

 

 

「星羅、炎がどれくらい燃えてるか、わかる?」

 

「……思っていたよりも燃えてない……?」

 

 

 予想通りの反応に鈴仙は振り返って頷く。

 

「悪影響能力への干渉能力のおかげね」

「……もしかして幻覚の炎があるの!?」

「たぶん、妹紅はそれに惑わされてる。もしかしたらてゐも……急ぎましょう!」

「わかった!」

 

 星羅は駆けながら、左腕の時計に手を伸ばす。

 

 

「バスター、オン!ライズ……バスターぁ!!!」

 

 

 

《Buster,on》

 

 

 

 刹那、光り輝く結晶が伸ばした右手に纏わり付く。

 

 四角柱の銃身を形作り、冷却のための羽が広がる。

 

 

 蒼と白銀に彩られた、幻創銃(ライズバスター)が顕現した。

 

 

 

 

「え、えぇ!?それ何!?」

 

 見たこともない武器に、鈴仙は慌てるが、

 

 

「……とにかく、それがあなたの武器ってことなのね」

 

と、直感的に納得した。

 

「そうだよ、あとで詳しく話すね。……ってあれ?鈴仙ちゃんの武器は?」

 

星羅の問い返しに、彼女は再び指鉄砲を作ると、

 

 

 

 

「……これよ、この“銃弾”」

 

 

 

 

と、片目を瞑って、「バン、てね」と射つ素振りをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「燃えてる〜!?」

 

 

 

 

 

 魔理沙は口をあんぐりと開けて叫んでいた。

 

 

 迷いの竹林が早速燃えていたからだ。

 

 霊夢は眉をひそめ、魔理沙に言う。

 

「急ぐわよ魔理沙、どうやらのっそりしているヒマはなさそうだから」

「……ちぇっ、そうだな!」

 

 

 二人は素早く竹林へ飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 赤々と燃え上がる、戦地へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそ……てゐだけでもなんとかできればなぁ」

 

 

 

 妹紅は右に左に回避をしながら、安全地帯を探していた。

 

 スペカを使うと、抱えているてゐも燃やしてしまう。

 それに下手なところに置いておくと、ただでさえ傷付いているのに狙われたらとんでもない。

 

 ショットで牽制しながら竹林を駆けていると、

 

 

 

 

 

「幻爆!!【近眼花火(マインドスターマイン)】!!」

 

 

 

 

 

 

突如、奥から赤色の弾丸が無数に飛んできた。

 

 

 妹紅はなんなのか一瞬で悟った。

 

 

「うおっと」

 

 ひらりと身を翻し、弾道を開ける。

 

 それらは妹紅の左右を涼めていき、

 

 

[……!]

 

 機怪たちの周囲で赤色の爆発を連鎖させて足止めした。

 

[なんだ、沢山あるヨウニ見える!?]

 

 困惑する彼らを何発か弾丸が貫いた。

 

 

 

「妹紅!」

「星羅、それに鈴仙ちゃん!待ってたぞ」

 

 

 そう。

 星羅と鈴仙がようやくたどり着いたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「て、てゐ!?」

「鈴仙……。ハハ、鈴仙にはこんな姿見せたくなかったなぁ……星羅も、のっけからこんなの見せたら印象アレになるじゃん……」

「何言ってんのよ!そんなことより、大丈夫なの?」

「まぁ生きてるし死にかけてもないよ。ちょっと動けないだけさ」

「とにかく……そういうわけなんだよ、鈴仙ちゃん。星羅もだいたいわかったな」

「うん……」

 

 

 

 近くの岩場に隠れ、鈴仙の能力で見えにくくした後、彼女たちは今の内にと作戦会議を行っていた。

 

 てゐは完全に戦うことが出来ない。

 妹紅もダメージこそないが、逃げ続けたため若干疲労が溜まっていた。

 

 

 

「今の私じゃちょっと足手まといだな……鈴仙ちゃん、星羅となんとかできるか?」

「幻覚を使えばなんとかなりそうかな」

「私も頑張ってみる」

「よし……頼んだぞ、二人とも。私はてゐを連れて永遠亭まで戻るよ」

「わかったわ」

 

 

 

 まとまったところで、妹紅はてゐを背負って立ち上がると、

 

 

 

「……っと、そうだった」

 

 

と振り返って二人を見る。

 

 

 

 

 

 

「あいつら……幻覚使ってくるみたいだな」

「……私以外に、そんなやつがいるなんて……」

「勝てるのか、ほんとに」

「きっと大丈夫だよ。私には効かないし」

「だといいがな……」

 

 

 そう言い、妹紅は走って永遠亭へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、かかってきなさい!!!」

 

 

 

 

 鈴仙は真っ先に飛び出し、

 

 

 

「赤い瞳に、狂い落ちなさい」

 

 

と、目を見開いた。

 

 

 

 

 

 怪しく揺らめく赤色の瞳。

 

 

 それ自体は星羅にも見えた。

 

 

 

「……あれが鈴仙ちゃんの能力……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[ウォッ!?]

 

 

 

 雑魚機怪たちがうろたえ始めた。

 

 

 星羅には何も分からなかったが、実は機怪たちには、

 

 

 

 

「……これを見たあなたたちに、私の幻覚(まやかし)を見破る事は不可能よ」

 

 

 

無数の鈴仙が現れては消え、現れては消えと、機怪たちのセンサーを完全に惑わしていたのである。

 

 

 

 

「散符!【真実の月(インビジブルフルムーン)】!!」

 

 

 

 

 次の瞬間には雑魚どもは消し飛んでいた。

 

 

 

 

 

「……え?えっえっ??何が起こってんの?ほわぃ??」

 

 

 これを受けて、星羅は頭に「?」となっているような言動をしていた。

 彼女にはただ単に、鈴仙が紫色の弾幕をばら撒いたようにしか見えなかったが、何故か機怪たちは見事なほどキレイに当たって散っていったのだ。

 

 

「幻覚で全く別の弾幕を“見せていた”のよ」

 

 しゅたっ、と降り立った鈴仙が答える。

 

「見えていたらある意味面白かったかも、ね」

 

「……不便なこともあるんだなー……」

 

 

 

 鈴仙の技をまともに見れなかったことを、星羅は少し悔やんだ。

 

 

 

 

 

 

と、その時。

 

 

 

 

 

 

「……っ!!星羅伏せて!」

 

「ひゃっ!?」

 

 

 

 鈴仙に押し倒され、地面に投げ出される。

 

 

 そしてその上を、何所からか飛来した炎が掠めていき、近くに命中して爆ぜた。

 

 

 

 

 

[外したか……まぁ良い。今か仕留め直せばいいのダ]

 

 

 

 

 

 響く機械音声。

 

 

 両腕は火炎放射器に換装、真赤なボディは耐熱装甲のように焦げ跡一つなく、燃え盛る炎を背に立つ姿は真紅の破壊者だった。

 

 

 

 

 

 

 

[我が名は“バーナー”。ここを制圧に来た、オーダーメイド機怪だ]

 

 

 

 

 

 

 

 肩から凄まじく排熱の水蒸気を噴出させ、バーナーと名乗る機怪はその単眼で二人を睨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「またなんかやべぇのでたよー……!!」

「こいつが……私達の竹林を……っ!」

 

 

 

 

 立ち上がった二人は、それぞれ構える。

 

 

 

 だがバーナーは動じなかった。

 

 

 

 

 

 

[やる気か?だったら見せてやろう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……全てを落とす、狂った幻影をな]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――刹那、二人の視界を炎が覆い尽くした。

 

 

 

 

 

「!?」

 

「幻覚!……なの!?」

 

 

 

 星羅にも何故か見えている。

 

 

 暑さを感じない……つまりは幻覚だった。

 

 

 

 

「何で……?私にも、見えてる……!?」

 

 

 

 

 

 

 が、

 

 

 

 

 

 

[フハハハ、遅いわ!]

 

 

 

 

 

 

バーナーが続けざまに火炎を放って、周囲を焼き払った。

 

 

 

「やっべ」

 

 

 星羅がぼやく。

 

 本物の炎と幻覚とがわからなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 どこまでが燃えているのか、もう判別出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとまってよ何で私にも見えてるの!?」

 

 

 星羅は慌てるが、そこへ。

 

 

 

[みすみす逃すと思ったカイ?創造主(マスター)

 

 

とバーナーが飛び出してきた。

 

 

 

[ここで消し炭にしてやるゾ!!]

 

「っ!!」

 

 

 両腕の火炎放射器を真っ直ぐ向けて、爆炎を放ってきた。

 

 星羅はとっさに、バスターに適当に取ったメモリをぶち込んだ。

 

 

「使い方知らんけど……おりゃっ!」

 

《Spell-memory confirmed》

 

 

 ……入れると途端に、頭に名前と使い方が飛び込んでくる。

 

 

「……おおっ?……えぇい、一か八かあぁ!!」

 

 

 

 バスターを突き出し、叫ぶ。

 

 

 

 

 

星盾(せいじゅん)!【バスタードアイギス】!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、星羅!?」

 

 

 鈴仙が彼女の方を向くと、そこには。

 

 

 

 

 

[うおぉ!?ナ、なんだこのバリアは……!?]

 

 

 

 

 バスターから巨大な……典型的な五角形の「盾」の形をしたビームシールドが現れ、炎を押しやって発射。

 そのままバーナーを弾いていた。

 

[グワァーッ!!?]

 

 

 勢いのまま大きく吹っ飛んだバーナーは、さっきの岩場に衝突した。

 

 

「……すげー、あのデカブツを」

 

 

鈴仙は思わずぼやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし。

 

 

 

「…………な!?」

 

 

 

 鈴仙はハッとした。

 

 

 

 

 さっきまで形を成していたハズのバーナーの「像」が崩れたのだ。

 

 

 

 

 

 

[……後ろ、ダヨ]

 

 

 

「きゃぁっ!?」

 

 

 

 直後背中を焼く灼熱の火炎弾。

 

 

 鈴仙は地面を擦りむき転がった。

 

 

 

「れ、鈴仙ちゃん!!」

 

 

 

星羅が駆け寄るが、

 

 

 

「フフフ……さっきのシールドは予想外だったが……甘いナ」

 

 

 

持っていたバスタードアイギスの死角……真後ろから、まともに火炎放射を食らってしまった。

 

 

「うわぁーーっ!?」

 

 物理的に身体を焦がす炎に、星羅は叫んだ。

 

 やがて黒煙を僅かに纏い、星羅は炎から弾き出された。

 

 

「星……羅!!」

 

 鈴仙が頭を上げた時には、星羅は大きな音を立てて竹をなぎ倒して吹っ飛んだ。

 

 身体中のところどころに傷跡と火傷が出来ている。

 痛々しすぎるダメージに、鈴仙はバーナーを睨んだ。

 

 

「……よくも、竹林を……星羅を……!」

[……ハハ、逃亡者月兎(おくびょうもの)がよく言うわ。ま、今は“元”だったか?フハハハ……]

「……っ!」

 

 

 煽られ腕に力を込めようとする。

 だが、幾ら立ちたくても、先程の不意打ちと奴の幻覚の影響なのか、身体に力が入らない。

 

 万事休すか……!?

 

 

 

[……アァ、そうだ先に言っとくぞ]

 

 

 と、バーナーは後ろを空けた。

 

 

 そこにいたのは……

 

 

 

「……鈴仙……ちゃん……わりぃ、やられた」

 

 

「妹紅!!……それにてゐっ!!」

 

 

追い打ちをかけるように地に投げ出された妹紅と、捕縛され雑魚機怪たちに抱えられたてゐの姿だった。

 

 

 

[フハハハ……我々の狙う兎はもうすべて囚えた。あとは大いなる目的を果たすため、ここを燃やすだけだな]

 

 

 バーナーはそう言い、後ろを向く。

 顔だけ戻すと、

 

 

 

 

 

 

 

[……明日、午後9時。

 

 

 

それまでに我々を止められなかったら……この竹林を完膚なきまでに全焼させる。

止められたら、貴様らの兎は大人しく返してやろう]

 

 

 

 

 

 

 

 

とだけ言い残し、ブースターを噴かせて、雑魚たちと共にてゐをさらってどこかへ飛び去ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……くそ!!一足遅かったか!?」

 

「……そのようね……」

 

「しっかりしろ!」

 

 

 

 

 しばらくして、霊夢と魔理沙が3人のもとに辿り着いた。

 しかし、既に機怪たちは撤収しており、鈴仙たちは傷ついたまま、その場に倒れていた。

 

 

「おい!星羅!しっかりしろって!!星羅っ!!」

 

 

 一番傷付いていた星羅に魔理沙は駆け寄った。

 肩を叩き、軽く揺さぶると、星羅が目を開けた。

 

 

「……うぅ、ま、魔理沙……?」

「大丈夫か星羅、火傷ができてるぞ!?」

「……つっ……!」

「バカ、無理に動くなよ」

 

 無理に起きようとした彼女を、魔理沙は静止した。

 

 後ろから、鈴仙たちを軽く診た霊夢が呼びかけた。

 

「妹紅や鈴仙も起きたわよ、魔理沙」

「おぉ。霊夢、妹紅たちは立てんのか?」

「……ってよ。どうなのよ、アンタたち」

「……や、大丈夫だ。私は傷付いてもある程度治るし、鈴仙ちゃんもそこまで酷くない」

「でも、霊夢……私達よりも……星羅が!」

「そうね鈴仙……なら魔理沙。二人で星羅を運びましょ」

「だな。行くぞ星羅……なんとなく状況がヤバいのは察してきたぜ」

「……うぅ」

 

 

 

 

 なんとか歩ける鈴仙と妹紅、そして霊夢と魔理沙に肩を貸してもらった星羅。

 5人は永遠亭へと急ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何!?てゐがさらわれた!?」

 

 

 道中、事の全容を聞かされた魔理沙は、思わず後ろの鈴仙を向いてしまった。

 

 背中におぶっていた星羅が呻く。

 

「ちょ、痛い痛い!!……魔理沙ぁっ!」

「あ…悪い星羅」

 

 

 

「あいつら、最近行方不明だった兎たちもさらっているの。何をするつもりなのかはわからないけど……この竹林を焼き尽くすつもりなのは間違いないわ」

 

 鈴仙の返答に、霊夢と魔理沙は顔を見合わせ、

 

 

 

「……なるほど、それはちゃんと退治しないとね」

「あぁ、好き勝手やった挙げ句、人さらい……もとい妖怪さらいだなんて許さねえ」

 

と、戦う意志を固めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目前の火は消えたが、その“火種”は消せなかった。

 

 

 星羅は傷に呻きながら、どうしたらいいのかを頭に浮かべ、

 

 

 

「やっぱり……能力が完全じゃないのかな……」

 

 

 

と、不甲斐ない気持ちに、傷で痛みながらも拳に力を入れていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 くっそ今更ですが
お気に入りのスペルカードとかありましたらコメントおねしゃす!!
 なるだけ参考にします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

030. 狂気の瞳

 鈴仙と星羅のメモリ回。

 うどんげ掘り下げには月の皆さんが関わりがち。
 別の回でやろうか検討中ですが、たぶんやらないかも。

 仄めかすのが筆者の仕事ですから(自分でハードル上げるなよ)。

 今回もお付き合いくださいませ。





 迷いの竹林を焼き尽くさんと現れた火力特化型の機怪、《バーナー》。

 バーナーは炎のみならず、なんと幻覚を操る力も持っていて、鈴仙や星羅を大いに苦しめ、あの妹紅すら追い詰めた挙げ句、てゐが連れ去られてしまう。

 さらにバーナーからは、明日の夜9時までに倒せなければ連れ去ったてゐと兎たちを返さない、と挑戦状を叩きつけられてしまった。

 

 

 この危機に、永遠亭はどうするのか……?

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……予想以上に、深刻ね」

 

 

 

 永琳は悔やんだように呟くと、星羅の腕に包帯を巻いた。

 

 

「ここまでの相手なら、私も出れば良かったわ……ごめんなさいね」

「お師匠様は悪くありません!……私達の実力が及ばなかったから……」

「違うよ、鈴仙ちゃん。永琳もわかってんだろ?……なんせ奴らは見知らぬ敵、しかもスペカルールなんぞガン無視の連中だ。それこそ永琳のような策略を練られる人が前線にいないと、幻術でかき乱してくる奴らには対抗できない」

「……妹紅」

「……とにかく今は休もう。猶予を寄越したんなら、盛大に使ってやらないとな」

 

 

 

 駆けつけた霊夢と魔理沙のおかげでなんとか帰ってきた星羅、鈴仙、そして妹紅。

 しかし、鈴仙は軽傷、星羅は複数箇所に火傷を負った。

 

 何故か能力を無視する幻術に、手も足も出なかった二人。

 対抗策無しでは、あの機怪――バーナーには勝てない。

 そのことは皆重々承知していた。

 

 

「……鈴仙で相殺できない力なんて、妙ね」

 

 霊夢がふと呟いた。

 

「鈴仙なら波長を弄って、認識を消すことができるんでしょ?それでなんとかならなかったの?」

 

 彼女の問いに、鈴仙は救急箱を運びながら答える。

 

「通用するのかしら」

「やってみてないの?」

「……奴らからは波長が曖昧に感じ取れるのよ。だからはっきり捉えられない……からくりだからかしら」

「ふーん……面倒臭いわね……」

 

 

 

 

「んで?てゐはどうすんだよ」

 

 

 

 妹紅の言葉に皆が振り向く。

 

 

「曲がりなりにも、アイツはここの一員なんだろ?もちろん助けるつもりだが、どうやって取り返すんだ」

 

「あの幻術を打破できればいいんだけれど」

 

 鈴仙の言葉に、皆唸る。

 

 鈴仙の幻覚攻撃は、霊夢や魔理沙は対峙した事もあってよく知っていた。

 あの時は純粋に弾幕ごっこだったのもありなんとか見破って突破できたものの、今回はそんな相手ではない。しかも、“てゐの救出”と“竹林火災の未然防止”も同時並行で行わなければならない。

 

 

 

「ちょっと待って妹紅……星羅、まだ話していなかったわよね」

 

「?どうしたんですか、輝夜さん」

 

 

 ふと話し始めた輝夜に、星羅が首を傾げると、

 

 

 

「……戦いに向かう前に、私達についてよく知っておくべきよ」

 

 

 

と、いつになく真剣なトーンでそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしかしたら、機怪が狙っているのは――

 

 

 

月の技術、かもしれないから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 輝夜や妹紅は、星羅に自分達が「蓬莱の薬」を服用して不老不死となっている身だということを伝えた。

 輝夜は薬の作成者は永琳であり、月から逃げてきた身だ、とも。

 妹紅は色々あって成り行きで飲んだ、とも。

 

 そして、鈴仙もまた、月から逃げ出してここへやってきた存在だと知らされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……姫様と妹紅が……不死身……?それに鈴仙ちゃんが、月の出身なの……?」

「だいたいコイツのせいだけどな」

「勝手に飲んだのはあなたでしょ」

「あー、姫様に妹紅落ち着いて」

「……えーと??」

 

 案の定理解が追い付いてない星羅だったが、

 

 

「……うーん、だいたいわかりました」

 

 

とだけ言っておいた。

 

 ふと黙っていた霊夢が問う。

 

「ところで星羅、ふぁ……ふぁ……ファ○コンメモリは?」

 

「ファンタズムメモリ!!」

 

「あーそうそれ、それで……まだ発現していないのかしら?」

 

 

 言われて星羅は、「……あ」と、空いている右手でポケットを探った。

 

 

「ファンタズムメモリってなんだ」

 

 妹紅が疑問を呈すると、即座に魔理沙が応じた。

 

「星羅の特殊なスペルメモリだ。強力無比で、なおかつ“他人との記憶共有によって生み出される”メモリだぜ」

「……え?記憶共有、だって?」

「原理はわからないが……星羅とその共有者とが一定条件下になったらメモリが覚醒して使えるようになり、星羅にはメモリに応じた記憶がもらえる……って感じか?」

「たぶん、だいたい合ってるわよ、魔理沙」

 

 霊夢が肯定、補足した。

 

「それにファンタズムメモリは、いつも機怪たちとの戦いで切り札になってる。発現していないままでは勝てない可能性もあるってことよ」

 

 

 永遠亭の各人はその特異な性質に、ポカンとしながらも肯いて納得していた。

 

 

 

 

 

 

 そんな中で、星羅がメモリを出していくと、

 

 

 

 

「いててて、傷が痛い……あっ、ブランクのメモリ」

 

 

 

と、あのときのような灰色のメモリが発見された。

 

 

「何が描いてあるんだ」

 

 魔理沙が覗き込む。

 

 

「……これは……満月?と、兎……かな」

 

 

 

「………………まさか、私?」

 

 

 

 彼女の答えに、鈴仙ははっとした。

 

「……それ、もしかして私かも知れない……?」

 

「間違い無さそうだな」

 

 妹紅も肯定、輝夜もまた頷いた。

 

 

「……それがあれば、勝てるのね?」

 

 黙っていた永琳も顔を上げた。

 

「やったな、これならいけるじゃんか」

「さすが計り知れない子ね」

 

 輝夜と妹紅も、よしとばかりに言うが、

 

 

 

 

「そう……ですね。……ただ」

 

 

 

星羅は首を振った。

 

 

「……起動するには何かしら条件が要るんです」

 

 

 

「なんだと!?」

 

 妹紅がぬか喜びだったと落胆した。

 

 

 

 

「……鈴仙との絆、でしょ?」

 

 

 

 霊夢の答えに、星羅は無言で肯定し続ける。

 

「ファンタズムメモリは相手との思いが生む力……一人じゃ成り立たないんてす」

 

 

 一日で、運用できる段階まで行けるだろうか。

 それにバーナーは、そもそも完成したとしても勝てる保証は曖昧な相手だ。

 不安がつきまとう。

 

 

 それを感じ取ったのか、

 

 

 

「……お師匠様。後で星羅と、外に行っても良いですか」

 

 

 

鈴仙は唐突にそう問いかけてきた。

 

 

「……二人で少し話したくて」

「鈴仙……わかったわ」

 

 

 永琳はもちろん、と頷き、星羅も、うん、と返した。

 

 

 

「……鈴仙ちゃん……後で休めよ」

 

 

 

 妹紅はそう言って締めくくり、皆明日へ向けての心構えを覚悟するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そっか。月から……逃げてきたんだ」

「えぇ……あのときは、とても怖くて」

 

 

 

 

 竹林の一画にある小さな池の前に、星羅と鈴仙は腰掛けていた。

 

 話題は、鈴仙の過去。

 

 

 

「いいの?そんな話しても……悪い記憶を覚まさせたら迷惑じゃない?」

「うぅん、大丈夫よ。私……もう、吹っ切れてしまったから」

「……吹っ切れた??」

 

 

 苦笑してみせる鈴仙に、星羅はポカンとした表情をする。

 

 

「今はもう、月の兎じゃないわ。

 

地上の兎……鈴仙・優曇華院・イナバよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言うと、鈴仙は過去を話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は月の玉兎だった。

 

月の都の労働力として、雑務から戦闘までなんでもこなすのが玉兎。私はそのうちの一人、“レイセン”だったの」

 

 

 

「労働力?」

 

 

 

「奴隷みたいに聞こえる?その割にはすごく高待遇だったし、気楽なものだったわ」

 

 

 

「そうなんだ……」

 

 

 

 

「今振り返ると、私、ちょっと浮いてたな。

 

 

成績優秀だったけど……ちょっと、協調性に欠けるというか。

 

 

 

 

そんなある日、私は外の世界の人間が月にやってくるって話を聞いた。

噂は玉兎たちみんなにあっという間に広まった。

 

 

 

 

侵略行為じゃないのか、って」

 

 

 

 

「……月……月進出……?」

 

 

 

「今は下手に思い出さなくていいわよ。

 

 

 

 

私はその時、すごく恐怖したの。

 

 

ただただ、怖かった。

侵略戦争が起こることが、戦いが起こることが。

 

 

 

 

 

気付けば私は、月を離れ、地上に降り立っていた。

 

 

仲間であるはずの皆を残して、たった一人、逃亡したの。

 

 

 

 

 

……そうして迷い込んだ幻想郷で、お師匠様や姫様が拾ってくださったのよ。

 

 

 

 

姫様やお師匠様は聞いたことはあった。元々月の民だったのよ。

妹紅は……姫様の残した薬のせいで不死になったひと。

そしててゐはここの管理人を自称してる、兎角同盟の仲間。

 

 

そんな彼女たちと、私は生きていくことになったの」

 

 

「兎角同盟?」

 

 

 

「端的に言えば兎をもっと大切にしなさいって啓発する組織みたいなものよ」

 

 

「なるほど」

 

 

 

 

 

 

 

 星羅はそこまで聞くと、最も疑問に思っていた事を問いだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇ、さっき“吹っ切れた”って……」

 

 

 

 

 

 

 

「そう。

 

 

今はもうそんなこと気にしないことにしたのよ。

 

 

 

永遠亭のみんなとの経験、月の皆との戦い、そして……幻想郷にいる、本当に個性豊かな人々。

それらが、なんというか……私を変えてくれた。

 

 

過去のしがらみに囚われた私から……

 

 

 

 

 

 

 

 

一人の、幻想郷に生きる地上の兎として」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………地上の月兎、てことね」

 

「まぁそういうこと。だからもう気に病んでないし、むしろ誇りに思ってるわ」

 

 

 

 そう言って空を見上げる鈴仙。

 

 その表情に、迷いはなかった。

 

 現在(いま)を生きる喜びが垣間見える、そんな笑顔だった。

 

 

 

 

 

「……過去のしがらみを絶つ、かぁ」

 

 

 

 

 星羅は思わず呟く。

 

 

「……私は過去に囚われてばっかりだな」

 

 

 

 

「大丈夫よ、星羅」

 

 

 そんな彼女に、鈴仙は言った。

 

 

 

 

「過去は、受け入れなくちゃ前に進めないわ。自分を受け入れ、前に進む……決して過去を捨てたわけじゃないわ」

 

「……」

 

「記憶が戻ったら、きっと星羅も……より、私の気持ちがわかるはずよ。……大丈夫。あなたならできるわ、きっとね」

 

「鈴仙……ちゃん」

 

「だって、私の幻覚が通じないんだもの。自信もって」

 

「……理由そこ?」

 

 

 

 二人は笑い、そして空を見上げた。

 

 

 雲に見え隠れした、満月に限りなく近い月があった。

 

 

 

「こーゆーの、朧月っていうんだっけ」

「明日は満月ね」

 

 

「安心して見られるように、頑張ろう!

 

……鈴仙!」

 

 

「……もちろん!!」

 

 

 

 

 

 

二人の決意を、ほんのりと月がより光って照らし出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう星羅、話したらだいぶ心に整理がついたわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そりゃあ、こちらこそだよ。

 

 

 

 

 

 

もちろん、証拠(あかし)もあるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 竹林の一角に秘密基地を構える、バーナーたち。

 

 雑魚たちは忙しなくなにかを準備している。

 

 

 そして、彼らの足元にはてゐをはじめとした妖怪兎たちが縛られている。

 

 

 

 

 

 

「……いくらお前たちがこんなところに基地を作ったところで……どうせ鈴仙や妹紅にバレるよ」

 

 痛みに耐えながらてゐが言うも、バーナーはちらりと見返し、しかしまるで聞く耳を持たない。

 

 

[ほざけ。……朝になったガ……奴らがワレワレの居場所を特定するのは不可能……何故なら……]

 

 

 

 

そう言い、勝ち誇ったように続けるバーナー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……が、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「幻覚で見えないように位相をずらしたから、でしょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[…………ナニ!?な、なぜココが分かった……!?]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこに、慄然とした声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

031. 月光幻影幻創(ルナティックファンタズマ)

 永夜抄編決戦。

 タイトルも鈴仙っぽくアレンジ。恒例の当て字だよ。

 永夜抄編、正直上手く書けなかったなぁ……
 楽しんでもらえていたなら幸いです。

 あとやたら長くなってしまったのと、遅くなってしまい申し訳ございませんでした。


 もっと上手く書けるようになりたい。
 近々リライトするかも知れない。




『ねぇ、聞いた?例の話』

 

 

 

 

 

 その日、玉兎たちの間でとある噂が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うん、聞いた聞いた、アレでしょ?』

 

 

 

 

 

 

 ……なんだろう。

 

 

 

 

 

 普段はそんな噂話など、気にも留めなかったのに。

 

 私は何故か、その日だけはたまたま気になった。

 

 

 

 

 

 

 下手に見られぬように耳だけ傾ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……なんだっけ、地上の人間たちがここに来る、だよね』

 

『そーそー、一部は侵略なんじゃないのって話にもなってるよ』

 

『地上人……まさかここを知ってるの?』

 

『そうとは言い切れないけれど、じゃあ何をしに月まで来るのよ』

 

『さぁ……探検?』

 

『先進した連中がそんな生温いことする?』

 

『それこそ、さあ、だわ。やっぱり侵略なのかしら』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

…………

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………………………………侵略?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゾッと、背筋に悪寒が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『一応綿月姉妹様は警戒をしてはいるみたいだけど……どうだかねー……』

 

『外の世界の連中でしょ?月より遥かに強かったらどうするんだろう』

 

『大丈夫かな、月の都…………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……うそ?

 

 

 

 ……怖い。

 

 そんなことが、これから起こるってことなの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………怖い……

 

 

 

 

 

 

 ただただ、私の中に恐怖が満ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 逃げなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……心の中で、私が呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして私は地上へ逃げ出し、幻想郷に迷い込んだ。

 

 

 

 

 迷い込んで辿り着いた竹林で、お師匠様や姫様、てゐに拾われた。

 その際、お師匠様からは「優曇華院」、姫様からは「イナバ」という名前を授かった。

 

 

 色々な異変を通して、「地上の兎」だと誇れるようになったのは、当時としては先の話だけど。

 

 過去の蟠りもすっかり乗り越え、今では誇れるものになっている。

 

 

 

 確かに仲間を見捨てたかも知れない。

 しかし、みんなはそんな私を受け入れ、認めてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はもう、月の兎じゃないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その自覚が、私を、鈴仙という一人の兎だというのを、誇りにさせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[ば、バカな……ナゼ、ココが分かった!?]

 

 

 

 

 

 

 

 

 驚いてたじろぐバーナー。

 

 周りの機怪たちも、思わず動揺している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこには星羅と鈴仙が、まっすぐ彼らに向かって立っていた。

 

 

 

 

 

 

「星羅の能力よ」

 

「幻覚には落ちるけど位相をずらされても見つけられるもん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遡ること数時間前。

 

 星羅は鈴仙に一枚のメモリを見せていた。

 

 

 

 

 

「……これが、私のファンタズムメモリ……?」

 

 

 

 

 

 薄紫色に染まった、ラメ入りのメモリカード。

 

 月兎と満月にもそれらしい色が付き、完成したことを物語っていた。

 

 鈴仙はそれを見ながら呟く。

 

「……これがあれば、勝てるのかしら」

 

 

「……確証はないけど」

 

星羅は不安気味に答えた。

 

「肝心の機怪……バーナーたちに絶対勝てるという理由にはならないよ。あの幻覚を破れるのかな……」

 

 

「……自信を持ちなさいよ」

 

 

 すると、奥から輝夜が言った。

 

 

「……姫様?」

 

「それは紛れもない、あなた達のメモリ。大切な結晶。できると思えばなんだって出来るわよ。自分を……信じなさい」

 

 

 その笑みに、その言葉に、心做しか星羅は救われる気分になった。

 

 自分を信じる。

 

 妖夢に、レミリアに、そして輝夜に言われた言葉。

 

 そうだ、信じる気持ちが大事だった。

 

 

 鈴仙も強く肯き、星羅に語りかける。

 

「……行きましょう星羅。てゐを取り返して、わたし達月の民を敵に回すとどうなるのか……味わわせてやるんだから」

 

「……うん、行こう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「作戦はこうよ」

 

 

 永琳は言っていた。

 

 

「敵は幻覚を見せて撤退する可能性があるわ。だから、念の為霊夢と魔理沙には先に外で待機してもらうわ」

「なるほど、待ち伏せって事ね」

「任せてくれ」

「それから星羅と鈴仙、あなた達はメモリで敵を暴いて時間稼ぎ。妹紅はスキを見ててゐを救出する。救出を確認次第、二人はバーナーを撃破して」

「おぅ」

「わかりました、お師匠様」

「了解!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おのれ……そこまでして抵抗するノカ……」

 

 

 

 

 バーナーはその目をギラリと光らせた。

 

 

 

[……だが!ワレの幻覚そのものは……この世の下等な生き物どもには見破れまい!!]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤く光った。

 

 

 鈴仙と同じだ。

 

 

 

 

 

 

 刹那、バーナーと雑魚機怪たちがぼやける。

 

 

 

「……また、わからなくなったわ!」

 

 鈴仙が、弾丸をばら撒きながら言った。

 

 なにか認識を阻害するものを使っているのかも知れない。

 

 

「……うわっ!?」

 

 

 そんな二人を、前後左右から機怪たちの砲撃が涼める。

 

 

 

「……星羅!なにか周りを更地にできるスペルカードとか無いの?」

 

「えーと……えぇ……!?」

 

 

 星羅は躱しながらポケットのメモリを漁る。

 

 そういえば星羅のメモリは基本的に一体集中攻撃が多い。

 

 焦る。焦ってしまう。

 

 

「……あっ、これだ!」

 

 

 焦りに焦って、ようやく見つけたのは使っていなかったメモリが一枚。

 

 賭けるしかない。

 

 

 

「おんどりゃー!」

 

 

《Spell memory confirmed……》

 

 

 

 脳内によぎる、スペカの用途。

 

 

「……行ける!!」

 

 

 

 星羅は博打でその技を叫んだ。

 

 

 

「彗星!!【メテオストーム】!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すると星羅の周りに

 

 

 

 

“流星群”が降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「わっ!?」

 

 危うく鈴仙も当たりそうになる。

 

 

 

 

[な、ナニィ!?]

 

 

 

何処からかバーナーの驚愕する声も響いた。

 

 

 

[……!?]

 

[――!]

 

 

 たちまちあちこちの雑魚機怪たちは言葉にならない電子音を鳴らして爆散した。

 

 

 

 

 

 落ちた流星の数、およそ20発。

 

 

 

 まさに掃滅力に長けたスペカだった。

 

 

 

 星羅はメモリを引き抜き、

 

「よし、あとは何処かにいるバーナーを倒せれば……」

 

と周囲を見回した。

 

 

 

[やるではないか……だがしかし、私を見つけられなければドノミチキサマらの負けだぞ!?]

 

 

 当然ながら居場所は掴めない。

 

 鈴仙に向かって言う。

 

 

「鈴仙、ちょっと波長に集中してくれる?」

「えっ?どういうこと??」

「いいから!あいつの場所、もしかしたら見つけられるかも知れないの、現れた瞬間に狂気に叩き落として!」

「わ、わかったわ!」

 

 こくりと頷いた鈴仙は、目を赤くして攻撃姿勢をとった。

 

 

 

「……上手く、いってくれよ……」

 

 

 星羅はポケットから別のメモリを取り出す。

 

 

《Phantasm memory confirmed……》

 

 

 

[フハハ……何をしようとも私には当たらないゾ!!ナゼならキサマらは既に幻覚という狂気に落ちているからダ!!!]

 

 

 周りの雑魚たちを散らされたにも関わらず、バーナーは勝ち誇ったように言ってくる。

 

 

 

 そんな彼を他所に、星羅は意識を集中し、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 ぼんやりと、気配がする。

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 徐々に気配が大きくなる。

 

 

 

 

 

 

「………………!」

 

 

 

 

 ――そこか!!!

 

 

 

 

 

 

「一刀両断!幽冥の光!!!

 

 

断命剣・改!【瞑想永弾斬】!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

[ナ、ナニィ!?何故、またわかった……!?]

 

 

 

 鮮やかな、全てを斬り裂く冥界の剣。

 

 星羅は眼前を、放ったその刃で斬り裂いた。

 

 

 

 斬られて正体を表したバーナーが、大きく吹っ飛ぶ。

 

 

 

 

「!! そこね!!

 

 

喪心!!【喪心創痍(ディスガーダー)】っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 カッと目を見開いた鈴仙もまた、真紅の弾道を見せた狙撃を見舞う。

 

 

[シマッタ……!!?]

 

 

 

 幻覚作用で気付くのが遅れたバーナーの背中に直撃し、鈴仙はその時はじめて彼の波動を認識できた。

 

 

「……これでもうあなたは逃げられないわよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 同時に周囲の景色も元の竹林に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……星羅、今どうやってわかったの?」

 

 

 

 鈴仙の問いに、星羅はメモリを回収して言う。

 

「妖夢の力を使ったの。心眼……ってやつ?彼女の力で、意識を研ぎ澄まして気配を斬った感じ、かな」

「なるほど……私も妖夢にそうやって攻略されたかも……」

 

 

 ちょっと昔を思い出したのか、鈴仙は軽く頭を掻いた。

 

 

 

 そしてその奥で、またバーナーが立ち上がる。

 

 

 

 

[……おのれ……ならばここで確実に焼き尽くしてくれよう!!!]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んお、幻覚が治った……!」

 

 

 

 

 

 

 

 今なら、てゐを安全に捜せそうだ……!

 

 

 

 

 

 隠れていた妹紅は、視界が元に戻るとすぐに動き出した。

 

 

 ――機怪たちは星羅が先に片付けていた、楽に辿り着けそうだ。

 

 

 

 

 少し周囲を探っただけで、すんなりと見つけられた。

 真っ先に気付いたのはてゐだった。

 

 

「……妹紅じゃん!」

 

「よう、助けにきたぞ。ちょっと熱いが我慢してくれ」

 

 

 

 言いながら、妹紅は片手に火を灯した。

 

 

 兎たちを縛っていた縄を次々と焼き切っていく。

 

 兎たちはぴょこぴょこと喜んだ。

 てゐも自由の身になり、その場でぴょんと飛び跳ね妹紅に礼を述べた。

 

 

 

「わーい、ありがと。なんかの形で返すよ、待ってて!」

「……期待しないで待ってる」

 

 

 助けられたヤツの態度かよ、と妹紅は首を振った。

 

 本心なら良いんだが、てゐは正直日頃の行い的に信じられない。

 

 

「……返さなかったらわかってるな」

「流石にお礼くらい脅されなくてもやるってば!!何でも言ってよ!!」

 

 

 ……ま、良いか。そう言うんなら、待っててやろう。

 

 

 妹紅はくすっと笑うと、

 

 

 

「ったく、日頃の行いだぞ……さて、鈴仙ちゃんと星羅を助けるか」

 

 

 

と、再び炎を灯した。

 

 

「てゐ。兎どもを連れて先に戻ってろ」

「言われなくてもそうさせてもらいまーす」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バーナーの幻覚を破ったものの、本体の(文字通りの)火力に、二人は防戦一方だった。

 

 下手に避けて、竹林を燃やすわけにはいかない。

 

 星羅はバスタードアイギスで上手く防ぎつつ、鈴仙に攻撃させて連携をとっていた。

 

 

「……だめだ、激しすぎてファンタズムメモリを入れてる隙がないよ!!」

 

 星羅は盾を振り回しながらいう。

 鈴仙も、

 

「でも、使わないと勝てそうにないわよ……!」

 

 

と言って、鈴仙はちょっと考えた。

 

 

 

「…………待って」

 

「?」

 

 

 

「こうなったら一か八か……やられるその前に、押し切る!!」

 

「えぇ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈴仙の目が、再び赤く光り輝く。

 

 視線を飛ばして、狂気に落とす。

 

 

[!? ……なんのマネだ]

 

 

 バーナーは動き、炎を放ちながら周囲を警戒し始めた。

 

 

 

「もう遅いわよ!!

 

 

 

幻爆!!【近眼花火(マインドスターマイン)】!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 刹那、鈴仙は数発の弾丸を放つ。

 

 赤色の爆風が周囲を覆い、同時に視せる幻の弾丸たちがバーナーの動きを狂わせた。

 

 

 

「ロボットなんだから最適解で動くわよね……!!」

 

[チ、逆手に取られたか……だが!!]

 

 

 バーナーはそれらを見切って上手く回避し、バーニアで飛翔した。

 

 

 

[奢ったな……!!!]

 

 

 

 

 両腕の炎が放たれる、その瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……惜命……【不死身の捨て身】!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如として飛び出したのは、駆けつけた妹紅。

 

 

 そちらに全く警戒していなかったバーナーはもろに当たってしまう。

 

 

[な、ナニ!?……だがその程度の炎など……]

 

 

 

「本場の炎ってやつを……見せてやる!!!!」

 

 

 

 

 

 妹紅はさらに熱を高め、叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「焔符!!

 

自滅火焔大旋風】っ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

[!?]

 

 

 

 

 

 

 

 直後、スペカとは思えない熱量の爆発が巻き起こった。

 

 

 弾幕代わりとでも言うように、炎がばら撒かれる。

 

 

 

 

「……鈴仙、まさか」

 

 星羅はそれらを呆然と見つめていたが、我に返って鈴仙に問うた。

 

 

 

「うん。妹紅が来るのを、見越していたのよ」

 

 

 鈴仙は炎をただ見つめて答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 やがて炎が収まり、妹紅が現れた。

 

 捨て身技を二度も使用したからか、自身の能力で蘇ったらしい。服は再構成されて新品同様のものになっている。

 

 散った炎が鳳凰の羽根のようだった。

 

 

 

「てゐは救出した。既に永琳のところへ行かせてある。……あいつも恐らくは」

 

「……終わった……の?」

 

「鈴仙ちゃん、たぶんな。……勝ったぞ」

 

 

 

 

 と、妹紅が振り返った時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[ウォォォォォォォォォォォォォ!!!!]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……は?」

 

「嘘……でしょ」

 

「……っ!」

 

 

 

 

なんと炎を振り払って、黒焦げのバーナーが、何事も無かったかのように立ち上がって爆炎をばら撒き始めた。

 

 

 あちこちに、飛び火してゆく。

 

 

 

「アイツしつこいな!?まずいまずいまずい!」

「止めなきゃ!!」

 

 

 

 豹変ぶり……否、これは暴走とでも言うべきか。

 

 見境なく、無作為に放火するバーナーに、二人は駆けていく。

 

 

 

 

「……」

 

 

 星羅は鈴仙のメモリを改めて取り出した。

 

 ……今なのか。

 このメモリが、力をくれるのは。

 

 

 

 誰かと共に生きることを、誇りに思う。

 

 

 それを……その思い出を壊そうとする者を打ち倒せる力をくれるのは、今なのか。

 

 

 

 

「…………よし」

 

 

 

 だったら、使おう。

 

 

 眼前の脅威を、打ち払うために。

 仲間たちとの思い出を守るために。

 

 大切な時間を、壊させないために!

 

 

 

 

《Phantasm memory confirmed…………》

 

 

 

 

 

「……鈴仙!行こう!

 

しつこいあいつを終わらせて、みんなを守るんだ!!」

 

 

 鈴仙が振り返る。

 星羅の表情を見る。

 

 

 その目は、誇りに満ちた、覚悟を決めた瞳だった。

 

 

 

 

 私はもう、地上の兎だ――

 

 

 そう、言っていたあの日の自分も、あんな目をしていたのかな。

 

 

 

 

 

 

「……えぇ!!」

 

 

 

 迷いなく、彼女はそう応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈴仙は敵を撃つ指先を向け。

 

 星羅は赤紫に輝く銃口を向け。

 

 

 幻覚の兎の真っ赤な目が、さながら月光のように、希望を示すように竹林中を照らし出した。

 

 

 

 

 

 

 覚悟と、信念の。

 

 幻覚と、幻創の。

 

 

 鈴仙と星羅の一撃を、今、放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「幻爆!」

 

「……改!!」

 

 

「「【近眼月華花火(マインドフルムーンマイン)】!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何発もの近眼花火が火を吹く。

 

 

 それらは幻覚により二つ、四つと倍々に増えていき……

 

 

 

 

 

[ヌオオ!?]

 

 

 バーナーのアイセンサーを埋め尽くす、文字通りの「弾」幕の雨として降り注いだ。

 

 

 

 

「狂い落ちなさい!!」

 

「……ファイアー!!」

 

 

 

 

 

 ――直後。

 

 

 幻覚を操る炎の化身は、皮肉にも同じ幻覚によって逃げ場を失い、

 

 

弾幕が引き起こした真っ赤な爆発をあげて散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その様子を、空から霊夢と魔理沙は見ていた。

 

 

「出番、なかったわね……とほほ」

 

 

 霊夢の残念そうな声に、魔理沙は「別にいいじゃねーか」と言って、視線を戻した。

 

 

 

「…………汚え花火、だな。

 

 

 

 

でも……星羅(あいつ)にとっては、立派な勝利の花火だぜ」

 

 

 

 

「そうね……たまにはこうして見てるだけってのも、良いかも知れないわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 炎とまやかしの機怪はようやく倒れ、林から飛び出して逃げようとした機怪たちは全て魔理沙と霊夢が撃破した。

 

 兎たちも全員無事に救い出されたので、てゐはいつにも増してご機嫌だったという。

 

 

 

 

 

 

「お師匠様……なんです?それ」

 

「消火剤を混ぜ込んだ矢よ。それを連射すればほら、そこらの炎もこの通り」

 

「流石はお師匠様ですね!」

 

 

 

 火事はというと、後から駆けつけた永琳がその“消火剤弓矢”で次々と鎮火、輝夜もここぞとばかりにバケツを持って水をぶち撒けた。

 

 

「妹紅〜、えいっ☆」

 

「どぅぶれらっ!?輝夜!!てめー何しやがる!!」

 

 

 ……といったふうにおふざけも程々だったが。

 

 

「ふふふ〜、折角鈴仙が隙を作ってくれたのに無駄死にしたらしいじゃなーい?」

 

「るっせー!!てめーはそもそも参加すらしてねーだろー!!……ぶわっくしょ!」

 

 

 

「……あんな感じなんだ」

 

 

 それらを横目に、星羅は呟いた。

 

 

「星羅」

 

 呼びかけられて振り返る。

 

 

「ありがとう。なんとか……竹林は守られたわ。それに、おかげでちょっと、あのときの想いを思い出せたわ。……お礼にこれ、受け取ってちょうだい」

 

 

 鈴仙が差し出したのは、いくつかのお団子。

 

 お月見団子だろうか。

 

 

「季節外れだけど……」

 

と取り繕うとする彼女に、星羅は指を振った。

 

 

 

「……なら、こうしよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、今日も月が綺麗だな」

「ふふ、きっとこれも、星羅が頑張ったおかげね」

「姫様も何かすれば良かったではありませんか」

「永琳だって作戦くらいしかしてないじゃない。良いのよ、鈴仙と星羅が頑張ったから、こうして見れるんだから」

 

 

 

 

 今日はたまたま満月だというのを、思い出した星羅。

 

 みんなで、永遠亭でお月見をすることにしたのだ。

 

 

 

「ねぇ、鈴仙」

 

 星羅は隣に座る、鈴仙に言う。

 

 

 

「……季節が巡ったらまた、みんなで見ようよ。お月様」

 

 

 

 えへ、気が早いか、と笑う彼女に、鈴仙はそれをしばらく見つめ、

 

 

 

 

「……もちろんよ。だって月は……

 

 

 

 

良くも悪くも、人を狂わす美しさだもの」

 

 

 

 

と、星羅が鈴仙のものの中で見た、最も綺麗な笑顔を見せた。

 

 

 

 

 

 

「……狂っちゃう」

 

「あっはは、効かないんじゃないの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「って待てぇえぇえ!!??」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何いい感じの雰囲気になってんのよこのバカヤロー!?」

 

「一応私たち主役だぞ!?お前だけ浮き過ぎだぜ!!」

 

「や、メタいよ二人共、それにそんな気持ち微塵もないから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後は鈴仙の月見団子を3人そろって完食した。

 

 

 たまには、と魔理沙も料理を手伝ったのだが、そこで星羅は初めて、魔理沙が料理上手だと知った。

 

 

 

 

 

「いっただきー!」

 

「こら、てゐ!!」

 

 

 ……てゐは傷は何処へやら好き放題やっていたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 平穏が戻ってきた永遠亭を、満月はいつまでも照らし続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Continueed to the next phantasm……

 

 




 ようやっと、終わりました。

 次からはようやっと風神録じゃ。
 あややじゃ、さなえじゃ、ようかいじゃー。

 ……頑張る。







 投稿遅くなり大変申し訳ございませんでした(土下座)。
 しかも長いわりになんか適当なところもあるかも知れないという不安にかられています。

 なるだけ頑張るから温かく見守ってください。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六章 〜星羅とあややと隠れた真実〜
032. 暑中の幻想山


 風神録編始動。
 あやや、にとり、椛、はたて、そして守矢のメンツ。
 雛と秋姉妹はゲスト程度には出すかもしれませんね。





 ……だいたい守矢のせい。





 星羅がやってきて、早くもおよそ4ヶ月が過ぎた。

 

 そう。夏がやってきたのだ。

 

 

 幻想郷の夏は、温暖化という世界規模の問題のせいでほんの少し温度が上がったが、それでも外の世界よりは遥かに涼しい。

 

 だがされど夏、暑いことには変わりはない。

 

 そんな夏場といえば、オカルトじみた怪談話だとか肝試しだとかが、外の世界の影響なのか人里のみならず幻想郷全体レベルで流行る。

 妖怪たちは好機とばかりに人を脅かし、オカルトもの大歓迎のとある少女は歓喜し、人里では怪談話があちこちで語られ子供たちの楽しみの一つになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「れれれれれ霊夢〜……こここ、怖いよぉぅ……」

 

「夜真っ暗なの当たり前でしょう!?」

 

「夏は駄目なの〜!!」

 

「知るか〜!!……はぁ、これが事件を3回も解決させたヤツの言うセリフかしら……」

 

 

 

 

 ……が、そういうものに免疫が欠片もない星羅は、霊夢をはたき起こしていた。

 

 何かが覗いてると言って聞かないらしい。

 

 

「覗きなんて不届き者ねぇ……まぁ予想はつくけど」

 

 霊夢はため息をつくと、外に向かって叫んだ。

 

 

「おーい、そこのパパラッチ天狗!何考えてるのよ!!」

 

 

 

「あやや。バレましたかー」

 

 

 ガサガサと草むらから顔とカメラを出したのは射命丸。

 

 ご丁寧に薄っすらと黒いレースを被っている。

 

 

「バレないとでも思ったの?この覗き魔!!」

「とほほ……、星羅さんのお家を撮影しようかなと思ってたら夜になってました」

「そんなことでか……いつからいたのよ」

「そうですねー、小腹が空くころですかな」

「……15時??」

 

 射命丸は言いながら二人に歩み寄った。

 

 

「そうそう、耳寄りな情報をお持ちしましたよ」

「ガセネタじゃあないわよね」

「清く正しい射命丸に嘘はないですよ」

「それ自体が嘘な気がする」

 

 呟く霊夢を他所に、射命丸は手帖「文花帖」に挟んだ、ある写真を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……と、急に顔をしかめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ。

 

 

誰ですかねぇ……?れ・い・む・さ・ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………なに、これ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこに写っていたのは、霊夢。

 

 

 

 

 

 ――否、「黒い」霊夢だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幻想郷で「山」といったら、ほとんどの場合、妖怪の山を指す。

 

 名前の通り数多くの妖怪たちが凄む山であり、古来から独自の社会を形成している。

 種族などによってある程度の階級分けがなされており、現状は最も強い天狗がそのトップにいる。

 

 正真正銘の獣道だが、四季折々の木々の彩りは見たものに癒しを与える事も多く、また人間でも登りやすくするために頂上から人里周辺までを結ぶロープウェイが運行している。

 

 

 

 そんな獣道の外れにあるのは、河童印の秘密基地。

 

 外からではわかりにくい入口に、小さく「にとり秘密研究所」と書いてある。

 

 

 

 

「……オーバーテクノロジー……どこから来たんだ」

 

 

 

 その秘密の研究所で、とある残骸を見つめて唸る、一人の少女。

 

 緑色の河童印の帽子に、ポケットが無数に付いた青い光学迷彩の服をまとい、椅子の横には巨大なリュックが置かれている。

 

 青いツインテールを帽子の横から飛び出させ、その好奇心に満ちた瞳で、なにやら分析を進めていた。

 

 

 

 

「これを解明できれば……この異変も、解決に向かうかも知れない……それに大きな技術の進展になるっ!!

 

この河城(かわしろ) にとり!機怪の謎を、解き明かしてみせるぞーぉ!!」

 

 

 

 

 先進的技術開発に定評のある河童の中でもトップクラスの技術力を誇る少女、河城 にとり。

 

 目の前の未知の集合体……機怪の残余に興奮を隠せない彼女は、凡人にはとても理解できないような分析器具たちを総動員して研究に没頭するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「偶然、人里の外れで見かけたのですよ。あなたのようでどこか違う、そんな……博麗の巫女(・・・・・)、をね」

 

「……」

 

 

 写真には、曲がり角を行く、霊夢のような「誰か」が写っている。

 巫女の印である紅白の巫女服は、紅いがどこか暗くなっている。

 そう、黒いのだ。

 

 

「もちろん、あなたとは別人だとは思いますよ」

「え?」

「だって、私は曲がりなりにもあなたをずっと見守ってきた身ですからね。モノホンとの見分け程度、造作無いことです」

 

 写真をしまいながら、射命丸は続けた。

 

 

「……ま、彼女もモノホンの可能性があるんですけどね」

 

 

「……は?」

 

 

 

 視線を再度向けてくる霊夢に、彼女は人差し指を立てて言う。

 

 

「言ったでしょ?“モノホンとの見分け程度造作無いことです”、と。

 

 

いわば……

 

もう一人の自分(べつのれいむさん)”ってこと、ですよ」

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと意味分かんないんだけど!?つまりどういうことなのよ、私が二人いるとでも!?」

 

 

 取り乱す霊夢。

 

 射命丸は首を振った。

 

「さぁ、そこまでは。もしかしたら気づかぬうちにあなたが操られているかも知れないし、赤の他人のいたずら、愉快犯の嫌がらせかも知れない。

または……何らかの理由で、どこからかここにやってきた同一人物、っていうのもあり得る話ですよ?」

「……まさかぁ」

「可能性は幾らでも考えられる。それがベールに包まれた事件の真相ですよ」

 

 仮説をずらずらとならべ、文花帖をしまう。

 

 言うだけ言うと、射命丸は翼を広げた。

 

 

「まぁ全て私の仮説、あくまでも推測の域を出ません。

 

そう、今はまだ、全ては謎のままなのですよ。

 

……では、私はこのへんで。何かわかったら、山に来てくださいな。あ、皆には伝えてありますよ?とくに星羅さん、あなたはこの幻想郷のトレンドですから!」

 

 

 

 

 そう言って、夜空に身を踊らせた射命丸は、おやすみなさいとだけ残して、山の方角へと飛翔していったのだった。

 

 

 

 

 

「ったく、ほんっと何なのよアイツ……星羅、さっさと寝るわよ。明日あそこに行くから。行き方は私が連れて行くから安心して」

 

「……あー、うん」

 

 

 

 とりあえず傍観に徹していた星羅は生返事で応えると、射命丸が飛び去った漆黒の夜空を見上げた。

 

 

 

 

 

「……トレンド……か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――翌朝。

 

 

 

 

 

 

 

「ろ、ろろろろろロープウェイ!?!?」

 

 

 

 

 

 

 人里から少しだけ離れた場所にある、河童たちの運営している妖怪の山ロープウェイ乗り場。

 

 

 山の頂上へ伸びる長いロープに、精巧な作りのゴンドラ。

 それらが星羅と霊夢の前に広がっていた。

 

 

「随分前の話だけど、いつの間にか作られてたのよ。ロープウェイ。あそこの神社に登りやすくするために、ね」

 

 

 霊夢は星羅を振り返って言う。

 

 

 星羅はしばらく眺めていたが、

 

 

ふと脳裏をよぎる記憶(ビジョン)に、ハッとした。

 

 

 

 

 

 

「……ロープウェイ……うぅっ……!?」

 

 

「! 何か思い出したの?」

 

 

 霊夢の問に星羅はうなずく。

 

 

「……乗ったことは……無い。けど……、記憶にあるんだ」

「……外の世界の記憶ね」

「うん……ここでの記憶じゃないみたい」

「だろうね。……大丈夫、下手に思い出すのは負担がかかってしまうわ。今は一旦おいておきましょう」

「……うん」

 

 

 永琳たちから、幻想郷での記憶が垣間見えていることを聞かされている霊夢は、話の内容からここでの記憶ではないと直感的に感じていたのだ。

 

 星羅も首を振って気を取り直し、ゴンドラへ向かった。

 

 

 

「人生初のロープウェイ!!星羅、いっきまーす!!」

 

「うんその様子なら平気そうね(汗)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わぁ……すごく高いし、それに……綺麗……」

 

「まぁなんだかんだ山だし。普通に登山するよりは遥かにマシでしょ?」

 

 

 ゆっくりと、ゆらゆらと、しかし確実に進むロープウェイ。

 まるで本当に、空を飛んでいるような感覚になってくる。

 

 

 ゴンドラから見える景色に、星羅は釘付けだった。

 

 夏場の山は木々が生い茂る青々とした綺麗な色を、星羅に見せていた。

 霊夢は見飽きた景色だが、4ヶ月経ったとはいえまだ多くのものが初めての星羅には、十分新しいものである。

 

 霊夢はゴンドラ内のベンチに座りながら言う。

 

 

「さっき乗り場で河童が言ってたけど、だいたい10分程度で着くわ。それまで何か聞きたいことがあれば聞いていいわよ」

 

 星羅は振り向き、同じように座った。

 

「うん」

 

 

 星羅はポケットからいくつかメモリを取り出した。

 

 

 

 咲夜のメモリ。

 妖夢のメモリ。

 そしてついこの間得た、鈴仙のメモリ。

 

 

 

 

「ねぇ、霊夢。なんで私、このメモリたちを集めなきゃいけないんだっけ?」

 

 

 星羅は問いかけた……というよりも、呟いた。

 

「なんでって………………そういえば……なんでだろう……?」

 

 霊夢も言葉に詰まった。

 

 言われてみれば、彼女のメモリは彼女自身の記憶に直結している節があるものの、ファンタズムメモリ――つまり、「他人の記憶」がなぜ彼女に集まるのかは、わかっていなかった。

 

 確実なのは「それが各種事件の攻略のカギであり、必ずそれを作れる存在(パートナー)が各地にいる」こと。

 

 だがなぜわざわざそれらを集めなければならないのか、そしてそれらがなぜ機怪に有効なのかもわかっていない。

 

 まだまだ星羅には謎が多い。

 

 

 

 

 

「私……力に力でやり返しても意味ない気がしてきたんだ」

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたのよ、急に?」

 

 星羅の呟きに霊夢は問う。

 

「他にどうしようもないから、仕方ないじゃないの」

「…………でも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あら、ついに迷い始めたのね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 声に二人が顔をあげると、そこにはスキマに腰掛けたあの妖怪の賢者が、またも意味のわからない笑みを浮かべていた。

 

 そう、久しぶりに現れたのは、紫だった。

 

 

「……紫!?あんた乗車料金は!?」

 

 

 霊夢のツッコミにも、紫はどこ吹く風だ。

 

 

「そんなもの無いわよ。あの霊夢が気にするのね、意外だわ」

「おい!!ていうか意外ってなによ!?」

「まぁまぁナイショにしておいて♪」

「駄目でしょ!!ルールにはアンタ一番厳しいじゃない!!!」

「それは幻想郷規模のルールでしょ?自分(わたし)に優しく他人(ひと)に厳しく、よ。霊夢と何ら変わらないわ」

「うっ……それは……」

 

 

 正論じみた言葉で適当に霊夢をあしらうと、紫はそのまま星羅に向き合った。

 

 

 

「星羅、貴女の考えもよく分かるつもりよ。幻想郷はすべてを受け入れる分……残酷なの」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女は以前、こういったことがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『幻想郷はすべてを受け入れるのよ。それはそれは、なんて残酷なんでしょう』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 賢者として何百年間も見守ってきた紫にとって、そのことは誰よりも深く理解しているのだ。

 

 

 

 

 

「そのメモリがいつか示すハズよ。貴女を真の貴女に導くものが、そのメモリたちだ、と」

「……紫さん……」

「今はまだ納得いかないかも知れない。でもいつか分かるわ。だから今は、目の前の物事に集中しなさい」

 

 

 まるで忠告するようなトーンで言った紫。

 

 星羅は自然と肯いていた。

 

 

 

 

 

「……じゃあね。いい結果を期待しているわ」

 

 

 再びスキマを開く。

 

 紫は去り際、一度霊夢を振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「霊夢、貴女にも一つ言っておくわ」

 

「な……何よ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「真の敵は……己自身(あなた)かも、ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……紫!?」

 

 

 

「ふふふふふふ……」

 

 

 

 

 

 

 霊夢が立ち上がった頃には、スキマはすっと閉じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霊夢は、はぁ、とため息一つ吐くと、またベンチに座った。

 

 

 

「もう、何なのよ……射命丸も、紫も、おんなじことを言ってくる……」

 

 

 

 

 そんな霊夢に、星羅は言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………いつか分かる」

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

 

「いつかは……すべての答えが示される。それまでは……今を進もう、霊夢」

 

 

 

 

 

 

 霊夢に視線を向ける星羅。

 

 

 迷いながらも進もうとする意志が、その瞳に現れていた。

 

 

 

 心做しか、霊夢も同じことを思っていた気がしていた。

 

 

 

 

 

「……そうね。考えていても仕方がない。自分を信じていくか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴンドラはゆっくりと、ゆらゆらと、しかし確実に、頂上へ進んでいた。

 

 

 星羅は外を見る。

 

 

 

 

 

 博麗神社とは違う、それとは遥かに違う荘厳さを醸す神社が見えてきた。

 

 角柱が左右に並んで境内を囲み、太いしめ縄がどっしりとぶら下がる。

 しっかりとした造りの本殿の横には小さな屋台も見えてきた。

 

 

「……守矢神社。まるごと幻想入りしてきた、外来の神社よ」

 

「……守矢、神社……」

 

 

 

 

 二人を乗せた電動の揺り籠は、柱並び立つ神の領域、守矢神社に到着していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 これの執筆中、ダンマクカグラにて丁度守矢のイベントやってたのでタイムリー♪と思いモチベ高く書いてました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

033. 現人神の末裔

 もしも漢字テストで「東風谷」って出たらサービス問題ですな。

 「御柱」とか。






 文から「もう一人の自分がいる」ことを知らされた霊夢。

 

 紫から「今は迷わず前に進む」ことを忠告された星羅。

 

 

 二人はそれぞれの思いを胸に、霊夢のカンを信じて、妖怪の山にある守矢神社へ赴くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

___________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば霊夢」

 

 

 星羅はゴンドラを降りながら問う。

 

「なんでここに来たの?」

「あぁ、話していなかったわね」

 

霊夢も降りながら答えた。

 

「カンよ、なんとなく次はここかなって」

「? どういうこと?」

 

 ピンときていない星羅に、彼女は続けた。

 

 

「今のところアンタのメモリは、“幻想郷で大きな異変を起こした人たちの順”で起きてるのよ」

「……?」

「なんて言えばいいかしら……そうね、“今まで起きた異変の順にメモリが生まれてる”って言えばいいかな?」

「えっ……そうなの??」

 

 星羅はやっと理解したと同時に驚いた。

 

「たぶん……敵は何かを狙っている。それと同時にアンタにも何かある。このことには理由があるとは思うけど、そこまではわかんない」

「……」

「黒い私のことも気になるし、奴ら……機怪の目的もちゃんとわかってない。とりあえずカンに従おうかなって思ったのよ」

「……なるほど」

 

 霊夢のカンはよく当たる。

 

 魔理沙がそんなことを言っていた。

 

 

 未だにちゃんと幻想郷についてわかっていない星羅は、とりあえず彼女のカンに任せることにした。

 

 

 

「……で、永遠亭の次は……ここなの?」

「正確には違うけどたぶんここ」

「どゆこと」

「そのうち話すわ」

「あっそ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 周りを角柱が囲む境内の道をゆく2人。

 しばらく進み、やっと本殿の前まで辿り着くと、

 

「……早苗ー、ちょっと良い?」

 

 

 ちょっと棒読み気味に、霊夢は呼び掛けた。

 

 

 

 

 

 

「はーい\(^o^)/!!」

 

 

 

 

 

 

「……うん???」

「気にしない気にしない」

「うい」

 

 

 

 

 

 

 唐突な返事と元気の良さに星羅は思わず(?)後退った。

 

 霊夢は慣れた顔でスルーしている。

 

 

 

 

 

 奥からやってきたのは、緑髪の……巫女。

 

 ……なのかな?

 

 

 星羅は不思議と、一概に巫女と言えない雰囲気を感じた。

 

 

 頭のカエルの髪飾り、左に垂らした髪に巻き付くヘビの飾り。

 霊夢に似てる作りの、白と青の巫女服。

 腰に刺した幣。

 

 そして、

 

 

 

「こんにちは霊夢さん!守矢神社へようこそ!!参拝ですか?お土産購入ですか??それともそれとも……わ・た・し、ですか!?!?」

 

「全部違うわよバカらしい」

 

 

……ぶっ飛んだ社交性(?)。

 

 

 

 霊夢は軽く受け流すとずかずかと進み少女の方へ近付いた。

 

「もっと真面目な用件なんだけd」

 

「あら、そちらの方は?」

「って聞きなさいよ!!」

 

 そんなことよりも星羅に目が留まった少女が、たっと駆け下りてきた。

 

 霊夢が人差し指を立てて説明しようとする。

 

 

「……あーもう、コイツは……」

 

 

「……あっ!?」

 

 

すると、少女は星羅が身に着けていた服――暑いのでコートは脱いでいるため外の複製のままである――を見て、ハッとした。

 

 

 

「こ、この格好…………外来人ですね!!??やったあ!!」

 

 

 

 

 いわゆるポロシャツを星羅は初期から着ている。

 

 なぜか、長袖だが。

 

 ポロシャツ自体薄着なので、夏場とはいえ初夏なのもあって着ているのだ。

 色は薄水色。

 

 

 

そんな外の服装(よそおい)に何故か喜ぶ少女。

 

 

「……あー、そうだった」

 

 霊夢はため息をつくと、今度こそ真面目に説明し始めた。

 

「あのね早苗、コイツはアンタと同じ外来人……外の世界の住人だった“かも知れない”者よ」

「……かも知れない??」

「記憶が曖昧なのよ。証拠にコイツは今記憶の大部分を欠落してる。最初に覚えていたのは名前だけだったのよ」

 

 言われて、少女はようやく落ち着きを取り戻した。

 

 キリッとした表情に変わる。

 

「……そう、だったんですね。すみません、ついいつもの調子で……」

「もういいわよ、気にしなくて。ほら、自己紹介くらい自分でやりなさい」

「任せてください!!」

 

 ぴしっと背を伸ばし、笑みを向けた。

 

 

「わたしは東風谷(こちや) 早苗(さなえ)。守矢神社の風祝(かぜはふり)にして巫女、現人神(あらひとがみ)でもある、元外の世界出身の人間です!よろしくおねがいします!!」

 

 

 さっきまでの勢いはどこへやら。

 とても礼儀正しい挨拶に、星羅は親近感を覚えた。

 

 

「えっと、私は幻島 星羅です。なんでも屋しながら記憶集めしてます。よろしくね、……えーっと」

「早苗で良いですよ!わたしも星羅さんって呼ばせてもらいますね!」

「……うん、よろしくね早苗ちゃん!」

「まさかまた外来人に会えるなんて思っていませんでした!」

「私も!!いたんだってなったよ」

「こういうの、いわゆる“運命の出会い”ってやつですかね!!」

「うんうんきっとそのとおりだよ!!」

 

「「うおおおー⤴!!」」

 

 流石は同じ外の世界出身。

 あっさり意気投合したのかにこにこと笑い合いながら会話していた。

 

「…………やれやれ」

 

 こんなことなら先に早苗(コイツ)に会わせておくんだったわ、と霊夢は密かに思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早苗はひとまず自身たちについて知ってもらうため、

 

 

「神奈子様!諏訪子様〜!お客様です〜!しかも珍しい外来人ですよ!!噂のなんでも屋さんです!!」

 

と声を上げ、

 

 

「おぉ、外の世界出身の人間か。幻想郷では珍しいから久しぶりに見たよ」

「何いってんの神奈子、私達そのものが外の世界出身でしょうに」

「はは、そうだったな」

 

 

 

 

さっきの霊夢同様、奥から誰か呼び出してきた。

 

 

「またなんか出てきた」

「……一応、コイツらも神様なのよ?」

「その神様をコイツら呼ばわりしてる霊夢も大概でしょ」

「私は例外よ」

 

 霊夢とそう交わすと、星羅は前に向き直る。

 

 そして密かに思った。

 

 

 

 ――神様多すぎ。

 

 

 

 

「やぁ、君が噂のなんでも屋かい」

「あ、ご存知なんですね」

「参拝客がよく話題にしてるんだよ。私や神奈子も一度は会ってみたいなって思ってたんだ!」

 

 

 そう言うと、二人はそれぞれ自己紹介をする。

 

 

「改めて、私の名は、八坂(やさか) 神奈子(かなこ)。この守矢神社の神の一柱、表向きの神様だ」

「そして私は洩矢(もりや) 諏訪子(すわこ)。“ミシャグジさま”って言えばわかるかな?もう一柱の神様だよ」

 

 

 八坂 神奈子。

 

 頭にはちまきのように巻かれたしめ縄、そこに付く紅葉。

 胸には小さな鏡がついていて、紫色の髪と凛々しい表情からは神様らしい威厳がそこはかとなく溢れている。

 

 そして、洩矢 諏訪子。

 

 つばの広い帽子にはカエルのような目玉が二つ。紺色の服をまとっていて、金髪に笑顔が映える。

 長身な神奈子に対して子供くらいのサイズだが、星羅だからこそわかるそのオーラは明らかな神々しさを放っていた。

 

 二人の神はそのオーラにたじたじな星羅の前に佇んでいた。

 

 

「……星羅怖気づいてるじゃない」

 

 霊夢が言うと、神奈子は苦笑した。

 

「はは、すまない。かしこまらなくて良いよ。あまりそういうのは苦手なものでね」

「敬意があれば大丈夫だよ!」

「一言余計だっての」

 

 明らかに疲れた様子の霊夢は星羅に向き直る。

 

「こんな連中だからあんまり気負わなくて大丈夫よ」

「そーなのかー」

「ルーミアに怒られろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妖怪の山に建つ、由緒ある神社、守矢神社。

 

 

 外の世界での信仰が薄れ、自身らの消滅を憂いた神奈子と諏訪子は、風祝である現人神の末裔こと早苗と共に、神社ごと幻想郷へやってきた。

 

 その際、元々信仰が薄かった博麗神社へ早苗が営業停止命令を一方的にしてきたのである。

 

 

 曲がりなりにも幻想郷の最重要神社の巫女、当然この仕打ちに怒った霊夢は妖怪の山へカチコミ。

 

 なんやかんやあって守矢神社の面々をこらしめたが、結局、信仰確保の名目で、博麗神社の中には小さな「守矢神社分社」が置かれてしまったのである。

 

 

 

 この一連の出来事は異変とは呼ばれてないが「妖怪の山小戦争」とか「妖怪の山騒動」などとこっそり呼ばれていたりいなかったり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※ちなみに作者が勝手に付けました

 

「ねぇ星羅ふざけないで」

「なんで私!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり守矢神社って人が集まるんですか?」

「妖怪神社と違って行きやすく、れっきとしたご利益もありますからねぇ!!」

「うちにもご利益一応あるわよ」

「聞いたことないですがね」

「そもそも勝手にやってきたのはそっちじゃないの。それに今は博麗神社は星羅の仮住居なのよ」

「えっ、あの妖怪神社に住んでるの?」

 

 

 話に食いついたのは諏訪子。

 神奈子も目線を向けている。

 

「言うほど、妖怪いませんよ」

「そう……なのか?狛犬がいるらしいぞ」

「……ん?」

 

神奈子が言うと、星羅は怪訝そうな目を霊夢に向けた。

 

「か、神奈子下手なこと言わないd」

「射命丸だったか、彼女によれば貧乏神や三妖精も住んでるというぞ」

「……はい??」

 

 星羅の表情が明らかに変わった。

 

「……霊夢から聞いていないのかい?」

「……全くもって」

「そ、そうか……」

 

 

 

 星羅は音もなく霊夢を振り返った。

 

 その目付きは怒りとも悲しみとも取れる……

 

 

「……」

「えっと……その……」

「……霊夢?」

「は、話してなかったわね……その〜……」

「…………………………霊夢???」

「うっ……」

 

 

……何とも形容し難いものが放たれていた。

 

 

「そーゆー話は、押しかけてるのはこっちだけど先にしておいてよぉぉおぉ!!」

 

「ごめん星羅ぁ〜!!あとあのバカ天狗許さないわよぉぉお!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……妖怪、苦手なのか?」

「単に怖がりなんじゃないの?」

「あはは……」

 

 3人はとほほ、といった表情で、喚き散らす星羅を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、早苗は何かを感じた。

 

 

 

 ――この感じは……!?

 

 

 

 

 

 

 直後、星羅の身体が前に倒れ込んだ。

 

 

 

 

「ッ!!星羅!!」

 

 

 一番近くにいた霊夢が、能力による極小規模ワープ(瞬間移動)で、ぎりぎり抱きかかえて支えた。

 

「星羅!どうしたの!?……まさか!?」

 

 

「……また、頭に……何かが、視えた」

 

 

 

 目を見開き、冷や汗を流す星羅は弱々しくつぶやく。

 霊夢は察したように頷き、支えて立たせた。

 

 

「せ、星羅さん!!」

「……視えた、だって?未来予測でも出来るのか?」

「ちょ、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ神奈子!」

「わかってるが……!」

 

 たっと駆け出す早苗と、神奈子、諏訪子。

 

 

 なんとか立ち上がった星羅は、ポケットに両手を突っ込んだ。

 

 手のひらにばらっと広げたのは、もはやおなじみの必需品、スペルメモリ。

 

 

「これは……メモリーカード?」

 

 唯一こういうものに精通している(正確にはしていた)早苗が真っ先に反応した。

 

 

「……うん。私の記憶が入ってるの」

 

「……えっ?」

 

 

 星羅の答えに、早苗は唖然とした。

 

 

 

 

 そしてメモリの中に、またしても“ブランクメモリ”が、二つ混ざっていた。

 

 無塗装の無機質な灰色のそれらは、一枚はなにか竜巻のようなイラスト、もう一枚は光のようなものがそれぞれあった。

 

 

「星羅、これって」

 

 霊夢の反応にうなずく。

 

「うん。……妖怪の山に、これに対応する人がいる」

「……ここに来て正解だったわね」

 

 

「待て待て、話に追いつけないのだが……」

 

 神奈子が慌てて言うと、霊夢は、はぁ、とため息をついて話し始めた。

 

 

「めんどくさいわね〜……ざっくり言うと、コイツは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女説明中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど……突然博麗神社に現れたと思えば記憶喪失で、しかも謎の敵に追われている存在、と」

「オッケーオッケー、だいたいわかったよ」

 

 

 ニ神は理解したと頷く。

 

 

が、

 

 

 

 

「……ど、どーゆーことでしょう……???」

 

 

 

 

 

なんと早苗は頭に「?」が10個くらい浮かんでいるような反応を見せていた。

 

 

「何よ、説明不足?」

「いやそういう訳ではなくて……」

 

 霊夢は腕を組んだ。

 

「……ま、無理もないわね。記憶喪失で、不思議な力持ってて、謎めいた敵に狙われてるなんて言う話。事実だけ並べてもわからないか」

 

むしろそれが普通の反応だ、と霊夢は言う。

 

「説明しやすくできないものかしら」

「そんなこと言っても……」

 

 

 星羅が呟いた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その願い、私たちに任せてください!!」

 

「君の記憶、見せてあげるよ」

 

 

 

 

「「…………えっ??」」

 

 

 

 

 

 

 

 突然の声に、早苗と星羅は振り向いた。

 

 

 

 

 

 そこにはなにかの記事を抱えた射命丸。

 

 そして、リュックを背負い堂々と仁王立ちする、にとりの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 あややはどこ行ったって?

 待ってなさい()


 執筆中にダンカグのあやもみがボーナス入ってたのでモチベアップしてました


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

034. 千里眼と神速記者の山道記録




 あやもみ




 最近意味を知りました()
 というわけで山道ドライブならぬ山下りです。

 ちなみに筆者は小学校時代の遠足以外で登山したことありません。
 星羅はどうかな?





 守矢神社で早苗、神奈子、諏訪子と邂逅する星羅。

 

 

 その中で再び出現した、ブランクのメモリ。

 それも、二つ。

 

 

 

 

 突然の展開に早苗が困惑する中で、助っ人に現れたのは、射命丸とにとりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと…つまり、“記憶が戻る時にメモリも増える”、“星羅さんはなぜか幻想郷にいた頃の記憶がある”、そして……」

 

「“誰かとの関わり、絆が、星羅さんの新たなるスペルカードとして顕現する”……これが星羅さんの謎であり力です」

 

 

 

 

 ぱたん、と文花帖を閉じて、射命丸は早苗に頷き言った。

 

 

 

 早苗は射命丸の説明にようやく納得し、真剣な表情になった。

 

 さすがは新聞記者、説明に説得力を持たせていた。

 

 

「肝心のメモリに記録されてる内容は、断片的にしか思い出せないけれどね」

 

 星羅が付け足した。

 

「永琳さんにも頼んだそうですね?」

「まぁ、それでも完全には戻ってないです」

 

 射命丸の言葉にそう言うと、星羅は灰色のメモリ――ブランクメモリに視線を向ける。

 

「……2つ」

 

 

 そう、今回は2枚のメモリを解放する必要がある。

 不規則なメモリ生成に振り回されてきたが、よりによってファンタズムメモリが同時に作られるとは思っていなかった。

 

 長くなりそう。

 

 星羅は顔をしかめた。

 

 

 

 

 

 

「やぁ、“盟友”。私の記憶再生装置、その名も【にとりステーション】は役に立ったかい?」

 

 

 ふと語りかけられ、星羅は顔を上げた。

 

 

「盟……友?」

「私は河城 にとり。河童のひとりさ。キミの記憶を取り戻すお手伝いに来たよ」

 

 

 リュックを前に掛けると、にとりはその中から例の記憶再生装置、【にとりステーション】なるものを取り出した。

 

 

「あの薬師から色々聞いたよ。出力に限界があってすべては思い出せなかったそうだね」

「う、うん」

「んで、これはその情報を元に作り直したものさ。その名も、【にとりステーション2】!」

「…………??」

 

 どこからか、ばばーん、という音がする。

 リュックにでもスピーカーが入ってるのだろうか。

 

 

 ……どっかで聞いたことあるなぁ……?

 

 ぼんやりと星羅が思っていると、

 

 

 

 

「……聞いたことあるなぁって顔、しているね」

 

 

 

読んだようににとりが言う。

 

 

「……えっ!?」

 

「そりゃそうだもの。だってにとりステーションの名前は、“外の世界のとあるゲーム機”から名前取ってるもん」

 

 ドヤ顔で彼女は言い放つ。

 

「……外の、世界!?」

 

 目を丸くして星羅は呟く。

 にとりは後ろの早苗に問いかけた。

 

「早苗も一度は聞いたことあるだろう?」

「え?……あ、はい。何度か。もしかして……」

「そう、意図的だよ。無理矢理思い出させるのも苦ではあるけれど……外の世界で有名な言葉を使えば、自然と思い出せるんじゃあないかな、と思ってさ」

 

 

 

 

 話によれば、【にとりステーション】は、たまたま流れ着いた某ゲームハードを拾い、その色々なカセットやディスクを入れ替える機構から生み出した万能読み込み装置なのだという。

 

 バッテリーは幻想郷の様々なエネルギーで賄える他、有害物質を出さないエコなもの。

 何気に医療にも使えるのではと言うことで(半ば無理矢理だが)永遠亭にも一台プレゼントしたのだという。

 

 

「この【にとりステーション2】、一手間改良すれば君のメモリにも対応できるハズだ。君の……スペルメモリ、だったかな?それを貸してくれると助かるよ。どうかな」

「は、はぁ」

 

 

 今回はタダにするから〜、とにとりは願うと、霊夢は一つため息をついた。

 

「まったく、こういうときだけ役に立つのね……どうするの星羅。任せるわよ」

 

「……それじゃ……頼むよ」

 

 

 星羅は答えるとメモリを一枚渡した。

 

 

「おお、ありがとう。これは……炎のスペカかい?」

「恒星【バーニングナックル】。敵を思い切りぶん殴るスペカなの」

「……それ、弾幕なの?」

「あなたが言ったらおしまいですよ」

 

 霊夢のツッコミを、早苗はそう言って流した。

 

「炎か……あくまで予測だけど、“熱意”とか“怒り”とかそういうのを司っていそうな技だね。大事ににお借りするよ」

 

 しっかり受け取ると、にとりはポケットにそれをしまった。

 

「さて、少しの間時間をもらうけど……君たちはどうする?」

 

 にとりの問いに、霊夢は言った。

 

「私はちょっと早苗に話があるわ」

「私……ですか?」

 

早苗はきょとんとして霊夢を向く。

 

「別に説教とかガラじゃないからそんなのではないわよ。まぁ、言いたいことがあるだけ。そこの二神、構わないわね?」

「良いよ、私達も暇を持て余しているし」

「博麗の巫女が言うならねぇ」

「わかりました」

「じゃあちょっとこっち来てくれるかしら」

 

 神奈子らの許可を得て、二人は境内をたっと歩いていった。

 

「……それで、星羅。君は?」

 

 神奈子が言うと、星羅は苦笑いをした。

 

「…………どうしましょ」

「よかったら話し相手にでもなるよ。かしこまられるのは苦手なものでね」

「うーん……」

 

 

 迷っていると、射命丸が肩を叩いた。

 

 

 

 

「でしたら、私がこの山をご案内いたしましょうか?」

 

「「よし決定」」

 

 

「……えぇ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二神にも促された星羅は、射命丸と共に山道を降っていった。

 

 さすがの獣道、中々歩きづらい。

 

 

「とりあえずこの道を進めば沢に出ますよ。そこでちょっとインタビューでもさせてください」

「は、はい」

「そんなかしこまらなくていいですって。なにせ、あの霊夢さんは私より遥かに年下なのに、呼び捨てに常体ですよ」

「……あ、そうか……射命丸さん、天狗でしたっけ」

「そういえばまともに自己紹介してませんでしたね」

「あのとき押しかけてきたからなぁ」

「いつもの癖です、あはは」

 

 

 こほん、と彼女は咳払い。

 

 そして、

 

 

「幻想郷の“清く正しい射命丸”こと、射命丸 文です。妖怪の山の烏天狗でして、『文々。新聞(ぶんぶんまるしんぶん)』を発行する新聞記者です。改めまして、以後、よろしくおねがいします」

 

 

と、にこやかにはきはきと言い切った。

 

 

 

「うぉー」

「あやや、どうしました?」

「いや、何と言うかすごいなぁって」

「?」

「……なんでもないです、たぶんそのうちわかりますよ」

 

 ――射命丸さんのファンタズムメモリができるなら、きっと早くわかるんだろうなぁ。

 

 星羅は心の中でぼやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく歩き、麓まで降りると、滝の流れる小さな沢に出てきた。

 

 

「妖怪たちが多く住む山の中でもトップクラスの住心地。その名も、“玄武の沢”です。あ、ちなみに……正確には山の一部ではなく、魔法の森近くの沢ですね」

「どんだけ降りてきたんだよ……」

「ま、散歩ですよ散歩。それに、運が良かったですねぇ、妖怪が沢山いますよ」

「ん…うおぉ、本当だ」

 

 

 なるほど確かに見てみれば、にとりと同じ光学迷彩スーツや河童印の帽子の格好をした、にとりと同じくらいのサイズの少女たち――否、河童たちが何人か見受けられた。

 

 星羅にはどうしても、彼女たちがへんてこパーツや謎のアイテムを持っているようにしか見えなかったが、たぶん発明品なんだろうなぁ、とはぼんやりと思った。

 

 

 

「あや、あそこにいるのは」

 

 

 射命丸はなにかに目をつけたようだ。

 たっと駆け出してゆく。

 

 

 

「これはこれは哨戒天狗さんではありませんか。休憩中とは暇人ですねー、ネタ集めに忙しい私とは大違いだ」

 

「……射命丸さん……はぁ」

 

 

 明らかにイヤそうな声音で、呼びかけられた天狗は、岩に腰掛けたまま答えた。

 

 犬のような狼のような、いわゆるケモミミに、射命丸と同じような頭巾を被っている。

 ポンポン(にしか星羅には見えない白い毛玉)のついた、なんとなく霊夢のそれを簡略化したような白い服を着ていて、黒地のスカートと隣の岩に立てかけた丸い盾には、紅葉が描かれていた。

 

 

「別に暇ではありませんよ?……機怪対策の特別警戒期間中なのでこれでも気を緩めてませんから」

「そうなんですかねぇ?」

「ところで……そちらの方は?」

「あぁ、諸事情ありまして同行させて頂いているのです。ご紹介します、幻島 星羅さんです」

「どうも、こんにちは。星羅です」

 

 星羅が名乗ると、彼女はすっくと立ち上がり、ぴしっと気を付けの姿勢をとった。

 

 

「妖怪の山、哨戒天狗を務めている白狼天狗の犬走(いぬばしり) (もみじ)です。千里眼を持っています。以後お見知り置きください」

 

 

 ――誰かさんとは違ってかったくるしー……。

 

 星羅は心の中で今度は苦笑すると、会釈を改めて返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、概ねわかりました。随分苦労されているようですね……」

 

 射命丸から事情を伝えられ、頷く椛。

 すると、盾を背負ってまた立ち上がった。

 

 

「では私も護衛役として同行しましょう」

 

「ほえ?」

 

 射命丸が首を傾げた。

 

 

「どうした風の吹き回しですよ、自ら護衛を買って出るとは」

「いきなりこんな場所に飛ばされてまだ数ヶ月でしょう?でしたらそれなりに護衛役がいないとですよ。それに今は……機怪とかいう侵略者が、いつどこで現れるかわからないのですよ?」

「……それは、確かに」

 

 

 言われて射命丸は、しまった、と思った。

 

 今は現在進行系で、明確な“敵”、機怪がいる。

 狙いは彼女、星羅なのだ。

 

 彼女をひとりにするわけにはいかない。

 

「……確かに……味方は多いほうが良さそうですね」

「こんな状況なのにどうして呑気にしていられるんですか?そもそもあなた一人に任せるのもどうかしてます」

「それはなんか傷付く」

 

 

 

 そして椛は前を向く。

 

「犬走 椛、幻想郷と星羅さんを守るための任に就かせていただきます。守り通して見せましょう!!」

 

 そう言って、剣を天に掲げ、椛は星羅に宣誓するのだった。

 

「私そんな大層な身じゃあないよ」

「クセです」

「なんなの天狗ってへんてこなクセしか持ってないの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 沢を3人で歩きながら、星羅は色々な妖怪を見かけた。

 

 

 なんかくるくる回っているゴスロリ調の少女。

 

 ちょっと季節外れな気もする秋の色を纏った姉妹。

 

 新聞作りやその他に走る色んな天狗。

 奇想天外なモノを作っては自慢し合う色んな河童。

 

 

 その中にどこか偉そうな天狗とお付きなのかわからない管狐がいたが、射命丸から「とりあえず無視で」、椛からも「関わるとろくな事無いです」と言われてしまったので、星羅は「?」と思いながらも通り過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 記憶がないからか、全てが新鮮に、斬新に見えた。

 

 見るもの全てが、彼女に感動と喜び、興味を与えた。

 

 

 星羅はひとしきり山の中を巡った。

 

 

「どうでしたか?」

「すごい!!やっぱり大自然は良いですね!」

 

射命丸の問いに、星羅は心からの感想を零した。

 

「色々な妖怪がいるって霊夢からは聞いていたけれど……実際に見てみると全然印象と違って、新鮮でした」

「……そういえば星羅さん」

「…?」

「人間なのに、我々を怖がらないのですか?」

 

 椛が訝しむと、

 

 

「確かに怖いです。でも……

 

 

みんな、とても楽しそうでしたから」

 

 

と、星羅は笑った。

 

 

「楽しそう……?」

 

 

「妖怪だろうと人間だろうと、人生が楽しくないと……生きて行けないですから。

 

確かに今は敵がいる。でも、怯えていたら思うツボ。

仮初でも今ある平和を謳歌しなくちゃ、楽しくないですよ」

 

 

 

「……星羅、さん」

 

 

 記憶が無いながらも、今を精一杯楽しもうとする姿勢。

 

 欠けたものを、無意識ながらも取り戻そうとする心。

 

 

「……人生楽しく、か……なるほど」

 

 そんな彼女に、椛も自然と笑い、頷いた。

 

「ちょっと気負いすぎていたかもしれませんね」

「あはは、笑ってくれた!」

 

 

 

 すると、

 

 

――カシャ、となにか音がする。

 

 

「良い笑顔頂きました☆」

 

「?」

 

 

 射命丸がカメラを星羅に向け、シャッターを切っていたのだ。

 

 撮られた事に気が付き、星羅は顔を真っ赤にした。

 

 

「わっ、ちょっと!!」

「名付けて!“妖怪の山を新人がレビューしてみた”!!新しいトクダネ、いや……新しいトピックスですよ!いい記事になりそうですねぇ〜!!」

「射命丸さぁん!」

「さて、帰りましょう!!」

「切り上げないでぇ〜!!」

 

「……全く、この方ときたら……」

 

 

 カメラを取り合う二人を、椛は呆れ顔になりながらもニヤけて見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 ――妖怪も、笑う。

 みんな笑える。

 

 

 それが幻想郷。

 

 

 

 そんなことを星羅は感じながら、射命丸と椛の速い足を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様。獣道の観光は面白かった?」

「どうでしたか、山下り?」

 

 

 守矢神社へ戻ると、霊夢と早苗が聞いてきたので、

 

 

 

「……めっちゃ、貴重な体験だったよ!」

 

 

 

と、満面の笑みで、星羅は答えた。

 

「なら良かったわ」

「星羅さんも私と同じですね!!」

「?」

「……幻想郷にすぐに慣れるってこと?早苗」

「ハイ!!」

「えっへん」

「まぁ、何かあるみたいだしね」

 

 

 星羅はふと、気が付いたことを問う。

 

「……そういえば……霊夢と早苗ちゃんは、何を話していたの?」

 

 

「……」

「えーと……」

 

 

 二人は気まずそうに顔を見合わせ、

 

 

「……星羅の話」

 

と、霊夢は一言、零した。

 

 

「え、なんでそんなに気まずそうなの??」

 

 星羅が首を傾げると、早苗は言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……星羅さんがここにやってきてからの、

 

 

……“機怪異変”が、星羅さんを中心に起こっている、という話です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 友達にあややと椛が推しのやつがいるので、色々と参考にさせてもらいました。

 椛はかわゆす。
 


訂正

 玄武の沢の描写を変更
 会話を補填


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

035. 記憶の再装填(リロード)

 にとりの技術力すげぇ。


 ここ最近、テストだったので更新止まってしまい、すみませんでした。
 改めて週一投稿頑張ります。


 どシリアス内容。








 

 

 射命丸、椛と共に、星羅は妖怪の山を探検、その自然に触れた。

 

 星羅の前向きな姿勢に、椛は密かに感銘を受け、射命丸も何かを感じたようだ。

 

 

 

 守矢神社へ戻った3人は、霊夢と早苗が、星羅を中心に異変が起きている事に関して話していたことを伝えられる。

 

 

 

 

 

 

 

___________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これを、こうして……こう、かな?よしよし、動く動く」

 

 

 

 神社の片隅で、にとりは例の【にとりステーション2】改修に勤しんでいた。

 

 メモリの読み取りがスムーズになってきた。

 そろそろ星羅に試してあげても良い頃合いだろう。

 

 

「あややや、様になってきましたねー」

 

 そこへ、山下りから戻った射命丸が、挨拶代わりにその様子をカメラに収めた。

 

「ちょっと、勝手に撮るな」

「まぁまぁ。私は異変を追っている身、こういうものもしっかり写真に残さなければ」

「……やれやれ。ちなみに、実用化はまだ先だよ。内部機構も企業秘密ってことで」

「なるほど、企業秘密ですか。追いかけがいがある」

 

 面白そうにメモにペンを走らせる射命丸。

 それを横目に、にとりは電源を切った。

 

 

「これで良し、と」

 

 工具をバッグにしまうと、射命丸が言った。

 

 

「にとりさん。戻る前に……一つ、お聞きしてもいいですかね」

「なんだい?」

 

 

 

「……過去の昏い思い出を蘇らせる事は……本当に必要なんでしょうか」

 

 

 

 にとりは、その言葉に一瞬、動揺する。

 

 

 

 記憶というのは必ずしも良いものばかりではない。

 誰だって辛いこと、苦しかったことが何かしらあるものだ。

 霊夢も魔理沙も射命丸も、にとりさえ、何かしらそういった、心の「負の遺産」とでも呼ぶべき過去はある。

 

 

 “綺麗な記憶だけなら、大した重さじゃない”のだ。

 

 

 

 

 にとりは少し考え、やがて首を振った。

 

 

 

「……いや、必要かどうかは……使用者が決めることだと思う。それをするかは人間……星羅次第さ。使用者の意志を汲むのが、科学の仕事なのさ」

「おおぉ。素晴らしいですけど……、河童が言っても、説得力が乏しいですね」

「はは、そうだね……でもきっと、星羅なら大丈夫だよ。どうやら……頼もしい仲間もいるらしいからさ」

 

 

 にとりは立ち上がり、【N S(にとりステーション)2】を脇に抱えると、帽子のズレを正した。

 

 

 

 

「……ふぅ。

 

 

…………さぁ、実験を始めようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私を中心に、か……」

 

 わかっていたように、星羅はつぶやいた。

 

 

「確かにアイツらは私を狙ってる。だから私がいるところで敵が現れるのも……あながち間違いじゃないと思う」

「……」

 

 その様子を、霊夢は黙って見ていた。

 

「……でも私も、記憶を取り戻さないと、アイツらに狙われる理由がわからない。みんなを巻き込んでるのはわかってる……でも……」

 

 

 狙う目的も理由もはっきりしていない異次元連中から狙われる、記憶喪失の少女。

 今は霊夢たちがいるおかげでなんとかなっているが、下手すれば周りに相当な迷惑をかける可能性も否定できないのだ。

 

 星羅は数ヶ月経ったとはいえ、まだまだ幻想郷には不慣れ。

 

 しかも素性もわからない、外来人なのだ。

 

 

 

 

「……大丈夫ですよ、星羅さん」

 

 

 

 沈黙を破ったのは、早苗だった。

 

 星羅が顔を上げる。

 

 

「……えっ?」

「……私も昔は、幻想郷に来てばかりでわからないことだらけでしたし、なにより……受け入れられるか、皆さんと仲良くできるか。とても不安だったんてす」

「……早苗」

 

 霊夢も思わず彼女を見やる。

 

 同じ外からやってきた身、気持ちがわかるのだろう。

 

 

「でも今は、こうして色んな方々と仲良くさせてもらっていますし、幻想郷の素敵な日々を過ごしています。

 

大丈夫。

みんな、思ってるより優しいですから……

 

常識にとらわれない、素敵な方々ですから。

 

頼ってみてください。たくさんの人々に。

きっとみんな、応えてくれるはずですから」

 

 

 

「……早苗ちゃん……」

 

 

 

 

 星羅は、何が言いたいのかはっきりとまではわからずとも……

 

彼女の言うとおりなんだろうな、と直感で理解していた。

 

 

 きっとこの気持ちもいつかわかる。

 

 今は早苗ちゃんを信じてみよう。

 

 

「うん。わかった。確かにみんな……言うとおり優しいし頼もしかったもん。今は……みんなに支えてもらうよ。

 

いつか支える側になっても、頼られるように、ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく言った、盟友。さすがは霊夢が見込んだ人間だね」

 

 

「あ、河童。いたんだ」

「ひどいなぁ、そもそも帰ってすらいないよ!」

「私、清く正しいしゃm」

「あーあーアンタは呼んでないわよ」

「なんてことでしょーか(泣)」

 

 

 ……と、唐突に割って入ってきたのはにとり。

 小脇には【NS2】を抱えている。

 後ろには射命丸も付いている。

 

 

「にとり?」

 

 星羅が振り向くと、にとりは不敵な笑みを浮かべた。

 やる気と自信に溢れた笑みを。

 

 

 

「待たせたねー、ようやく調整が済んだよ。

 

……試してみるかい?君に秘められた、記憶のロード……いや、リロードを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、にとりの秘密研究所へ!」

「入口に思いっきり書いてあったじゃないの」

「秘密とはいうけど割とウェルカムだからね」

「……秘密ってなんだっけ」

 

 

 

 思わず愚痴を零されるような、にとりの例の秘密研究所へやって来た星羅、霊夢、射命丸、早苗。

 

 施設内はわりかし簡素だが、むき出しの配線やケーブル、なにかの実験用具や設備などが不規則無造作に散らばっていた。

 

 何かを踏まないように注意深く進むと、にとりはある壁のパネルを開いて、ボタンを入力した。

 

「“20070817”っと」

 

「……何かの語呂?」

「さぁ……?」

「並びからして、何かの記念日でしょうか?」

 

 霊夢、早苗と星羅は顔を合わせて呟いた。

 

 少しの間の後、ピコーン、と認証音が響き、ミシミシという音と共に壁だった目の前の“ソレ”がゆっくり持ち上がった。

 

「ほほぉ、隠し部屋ですか?」

「うん。私のメイン研究エリアであり、非常用シェルターさ」

「シェルターも兼ねているんですねー、なるほどぉ」

 

 射命丸の問いに、にとりは歩きながら答えた。

 

 金属製の壁と、さっきまでよりも更に高度な機械群が一行を出迎えた。

 

 

「さて、と。ちょっと準備するから待っててね。すぐ終わるから」

 

 

 にとりは【NS2】を置くと、コードを引っ張って接続、電源を入れた。

 

 

「…………」

 

 その様子を、星羅と早苗は、既視感(デジャヴ)を覚えつつ見ていた。

 射命丸は目を輝かせて写メを取りまくり、霊夢だけは「なにこれ」と言って、眉間にしわを寄せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくして、にとりは本体の用意を終えると、改修されたにとり専用テレビにコードを繋ぎ、更にバッグからなにかのゴーグルとイヤホンを取り出した。

 

 

「よーし。準備完了。あとはこの専用のイヤホンと、このVRゴーグル、【NT(ニト)ゴーグル】を装着してね」

「……またどこかで見たことがあるやつ……?」

「着けたらそこに座ってね」

 

 

 星羅は首を傾げつつも、NTゴーグルとイヤホンを身に着け、椅子に掛けた。

 

 

 にとりはどこからかハンドマイクを取り出すと、こほん、と咳払いし、話し始めた。

 

 

「……始める前に。人の記憶を強引に起こす責任者として伝えておく。

 

今から再生するのは星羅の記憶だ。

 

その中には苦痛になるもの、酷い話もあるかも知れない、でも星羅……それらから決して目を背けちゃいけないよ。とても、とっても辛いことだとは思うけれども、受け入れなければ……成功しない。

 

その覚悟の上で頼むよ」

 

 

 

「わかった。お願い」

 

 

 

 

 星羅は迷いなく、はっきり答えた。

 

 

 早苗ははっとする。

 

(……受け入れようとする心構えが出来てる……。さっきの私の話……意識してくれているのかな……)

 

 

 そんな彼女に、霊夢は言った。

 

 

「心配しないで大丈夫よ、早苗」

「霊夢さん?」

 

「……アイツ、自分から受け入れようとしてる。今は信じましょ」

 

 

その言葉に、早苗は不思議と説得力を覚えた。

 

 

 

「それと巫女の二人、そして天狗。みんなはそこでこのテレビから見てくれ。一応、共有するべきものだと思うから」

「わかったわ」

「はいっ」

「了解です」

 

 

 三人はテレビの見やすいところに移動した。

 

 それを見届けたにとりは宣言する。

 

 

「……さぁ……始めよう。

 

【NS2】、スタート!

ファンタズムメモリ、装っ填!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

本体ボタンを押し込み、予め貰っていたメモリ……【バーニングナックル】を、装填した。

 

 

 

 

 

 

 瞬間、真っ暗だった星羅の視界が光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《スペルメモリの挿入を確認》

 

 

《読み込み中……》

 

 

《読み込みに成功しました》

 

 

《メモリデータの再生を始めます》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メモリナンバー:005

 

 

           ―怒―

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 怒り。

 

 

 

 何度も、何度も感じた負の感情。

 

 

 今までどれだけ頭を過ぎり、どれだけその衝動に突き動かされただろう。

 

 やり場のないその怒りが心を埋め尽くしたこともあった。

 

 

 親、家族、学校、世の中。

 

 色んな事に怒りを覚えた。

 

 

 どうしようもないから、心に降り積もった。

 

 

 

 我を忘れて、取り返しのつかない事態も何度も引き起こした。

 そしてそのたびに、自分へのやるせない感情が昂り、巻き起こり、それで塞ぎ込み――

 

 

 

 

 

 

「死」に心を誘おうとしてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰一人としてこの気持ちを理解してくれない。

 

 いや。

 今更、別に理解してほしいわけでもないし。

 

 理解(わか)ってくれたところで、どうせ怒りが消えるわけではないから。

 

 

 

 世の中は無情だ。

 普段並べる綺麗事は、いざ自分に降りかかると実行出来やしないし、むしろそれを自ら拒絶してしまう。

 

 なのに人間は降りかかるまでは真の意味でその事実を受け入れられない、受け入れない、理解しない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “僕”はそんな無情な人間のエゴ……

 

 

 

 

 

 

いや、吐き捨てたいほど腐った“常識”の被害者だ。

 

 

 

 

 

 

 

 僕は僕を許さない、許せない、許す訳が無い。

 

 人を恨んだりはしたくないし、そんな下らないことをしたところで負の連鎖とやらが始まってそれこそ取り返しがつかなくなる。

 

 だから僕は僕自身を許さない。

 

 

 どうせ誰も理解しないなら――いや、理解なんてことすらしようともしないか。

 

 そんな世の中なら、自分を恨まないで他の誰を呪う?

 

 

 僕の怒りは、いつの間にか、外ではなく、内に向いていた。

 

 

 

 

 

 これが理解される頃には、現実世界はよっぽど平和で舐め腐ったものにでもなってるんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《……データ修復、完了》

 

 

《これ以上のデータはありません》

 

 

《バーチャル空間のシャットアウトを開始……》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「……っ」

「……これは……なんというか……言い方が酷かも知れないけれど、初めに使うメモリを、完全に間違えた……かな……」

「……想像以上でしたね、この……秘められていた“モノ”は」

 

 

 

 

 

 

 霊夢と早苗は黙りこくり、にとりは愕然とし、射命丸さえも言葉が上手く出てこなかった。

 

 

 

 

 

「………………」

 

 

 

 

 当の星羅は、ゴーグルを外し、椅子にもたれかかって、目を見開いていた。

 

 

 

 

 

 

「…………………………これが、私……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

つぶやいた彼女の声音に、感情は込められていなかった。

 

 さっきまでの威勢なんて、たとえ霊夢でも保っていられない。むしろあんなモノを見せられて何も感じない方が狂っている。

 

 

 

 

 内容なんかよりも感じられた「諦め」「自虐」「苦痛」「哀しみ」が、四人を襲っていたのだから仕方ない。

 

 

 

 

 

 

 にとりはやっとの思いでメモリを抜くと、脱力したように自身の作業用椅子にどっかと座り込んだ。

 

「……」

 

 

 しばらくの間の後、星羅に向き直る。

 

 

「……ごめん。星羅。かなり……いや、相当過酷なものを思い出させてしまった……まさかあそこまでとは……」

 

 にとりは姿勢を正して頭を下げた。

 

「……にとりが謝ることは、ないよ」

 

 しかし星羅は気丈に振る舞って言う。

 

 

「……きっとこれも私……なんだと思うから」

「し、しかし……!」

「元はと言えば……」

 

 にとりを遮って彼女は続けた。

 

 

「……元はと言えば、私が頼んだモノでしょ?にとりが謝ることは……ないって。……私もこんなの知らなかった訳だし……全部……こういう内容だとは、限らないから……」

 

 

 言いながら星羅は涙を浮かべる。

 

 

「……だから、みんなが気負うことは……ないよ」

 

 

 

 やはりさっきのデータは、あまりにも自分のものだとは受け入れ難いものなのだ、無理もない。

 

 周りよりも、自分自身の恐ろしい記憶を取り戻した星羅が一番過酷な心境なのは皆感じていた。

 

 

「星羅……でも……」

 

 こんな泣くほどの辛い出来事まで、と言いかけたにとりを、早苗が手を置いて静止した。

 

 

「……早苗?」

 

にとりが思わず彼女を見やる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、そのまま星羅に近付き――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……星羅さん……辛かったんですよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そっと、この上なく優しく、その身を抱いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……早苗……ちゃん……」

「かなり断片的で、過去に何があったのかはわからないですけど……辛い思い出から、あなたを支えることくらいは……出来るかなって、そう思って」

「……でも、早苗ちゃんは」

「不思議です……あなたを支えることが、今の私のやるべきことだって確信が持てるんです。……頼ってみて良いんですって、言ったじゃないですか」

「…………」

「一人で抱え込まないでください。それじゃあいつか、あなたが壊れてしまう……。でも、ここには私達がいます。いつでも頼ってください。いつでも、私は相談に乗ります。力になります。辛い過去に対する支えになります。

 

一人じゃ、ないんですよ、星羅さん……」

 

 

「……うん……ありがとう…………」

 

 

 

 

 堪えられず涙を流す星羅を、早苗はただただ優しく抱きしめていた。

 

 

 

 

 

 にとり、霊夢、射命丸も、それぞれの思いを胸に、二人を見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 その頃。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………!」

 

 

 

 

 

 

 

 一人山を歩いていた椛は、立ち止まり、空を見上げた。

 

 

 

 

 

 背中の剣と盾を構える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その視線の先に――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……妖怪の山、侵入者発見……!ついに来たか……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無数の、鋼の侵略者……機怪が飛来する様があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……妖怪の山へは……星羅さんのところへは、絶対に通しません!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 刀を抜き、盾を構え、椛は飛び上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 次回はいよいよ機怪との戦い……になりそう。

 過去の一端を取り戻した星羅は、どうするのか?





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

036. 飛び出す翼の在り処

 MAX POWER!
 MAX SPEED!




 ……あ、これ違ったわ。
 MAX SPEED!!なのは事実だけど()


 というわけで最強最速烏天狗、射命丸の活躍をご覧あれ。




 

 

 メモリに刻まれた凄惨な記憶に、星羅は愕然とする。

 

 立ち直れなくなりそうになる星羅だったが、早苗の言葉を受け、改めて仲間を頼り信じることを心に決めるのだった。

 

 

 一方、妖怪の山に機怪が襲来。

 

 敢然と立ち向かう椛だったが――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どうやらこのスペルメモリ、順序があるらしい」

 

 

 読み込みを続けてみたにとりは言った。

 

「弾符【プラズマチャージショット】。これが星羅……君の一番初めの記憶、1番メモリだ」

「……やっぱりね」

 

 霊夢が口を開いた。

 

 星羅が振り向く。

 

「えっ?」

「……最初から持っていた唯一のメモリ。メモリが記憶を宿してるんなら、ソレ……1番のメモリがあってこその星羅の人格。それは最低限の“星羅”としての体をなすためのモノだったのよ」

 

 霊夢お得意のカンが冴えた。

 にとりも肯く。

 

「その通りだよ盟友。流石だ。そうなると、記憶の回復はメモリの復元度に比例するようだね」

 

 

 星羅はメモリを並べる。

 

 2番、星剣【バスターソード】。

 4番、流星【メテオストーム】。

 5番、恒星【バーニングナックル】。

 

 3番は未だ欠けている。

 

 続いて、ファンタズムメモリも取り出していく。

 

 

 妖夢の、断命剣・改【瞑想永弾斬】。

 咲夜の、幻符・改【サウザンドダガーウェーブ】。

 鈴仙の、幻爆・改【近眼月華花火(マインドフルムーンマイン)】。

 

 

 各々、“大切な誰かを守る刃”、“主に仕えし気高き心”、“覚悟を決めた曇り無き瞳”、がトリガーとなって誕生している。

 

 

 にとりはそれらを一枚一枚スキャンを行い、そして呟いた。

 

 

「順番に記憶を取り戻すべきだったかな……早まるのは禁物だったね、改めてすまない」

 

 懺悔の念を伝えるにとりに、星羅は首を振って、

 

 

「良いよ。自分から頼んでるし、みんなもいるから」

 

 

今度はきっぱり答えた。

 

 その様子を見て、霊夢は早苗の肩に手を置いた。

 

「霊夢さん?」

「……その、お手柄だったわね。おかげでアイツ、元気になってるわ」

「えっへへ、そりゃあ同じ外からの人間ですから……」

 

 照れたように頭を掻く早苗に、霊夢はふっと笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 と、その時。

 

 

 

 突如としてけたたましいサイレン音が周囲に鳴り響いた。

 

 

「…………!」

 

 

 

 にとりは赤いランプの付いたモニタに目を走らせた。

 

 椅子を蹴るように飛び出し、キーボードに張り付く。

 

 

「……この反応……機怪だ!」

 

「……ついにここに来たのね……!!」

 

 霊夢は即座に御札と大幣を取り出す。

 早苗も同様に幣を手にした。

 

「って、にとり……なんでわかったの?」

 

 霊夢が問うと、にとりはブラインドタッチで解析しながら答えた。

 

 

「前に君たちが初めて破壊した機怪、妹紅が倒した人里に紛れていた偵察機……そして各地を襲撃した、所謂“オーダーメイド”の機怪たち。それらを分析して、固有周波数を突き止めたのさ」

「す、スゴい……でも何言ってるのかさっぱりだわ……」

「霊夢さん、要は機怪ならではのオーラを突き止めたんです」

「なるほど」

「それを元に作った探知機をこの研究所には組み込んである。で、今はその数を調べてるんだけど……」

 

 

 彼女は言いながら解析を進める。

 

 やがて、星羅を振り向いて言った。

 

 

 

「星羅、君はじっとしていてくれる?」

 

 

 星羅は思わず椅子を立つ。

 

「ええっ、なんで!?」

「君が狙いなのはわかりきっているんだ……迂闊に出たら、君の居場所がバレる。ここには一応カムフラージュ機構とレーダー遮断機能が組まれてるから、隠れるならば1番ここが良いんだ」

「安置って事ね…って、最初からカムフラージュ?しておきなさいよ!」

「無茶言わないでよ!エネルギー消費が激しいんだもん!一時間使ったら充電に30分かかるんだよ!」

 

 霊夢の言葉に返しながら、にとりは敵の数と方角を突き止め、振り返る。

 

「霊夢!悪いけれど奴らをなんとか退けてくれ!結構多いぞ……本気を出してきたみたい!」

「最初っからその気よ!そっちが本気ならもってこいだわ」

「霊夢さん、私も行きます!!」

「今回ばかりは手を借りようかしら!」

「頼んだよ2大巫女さん!」

 

 霊夢と早苗は駆け出していく。

 

 

 続こうとする射命丸だったが、

 

 

「……天狗、あんたは残ってくれ」

「……あやや?」

 

にとりに止められた。

 

「なぜ?」

「外には白狼天狗、椛だったか……あの子をはじめ、他の妖怪たちや二人の巫女、それに神様もいる。今は任せよう」

「しかし……」

「聞いてくれ、射命丸 文、あんたには大事な役割があるんだ」

 

 

 にとりは真っ直ぐ射命丸を見つめ、言い放った。

 

 

 

 

「あの時見た“他人”とのメモリ、ファンタズムメモリは2枚だった。この感じからして恐らく……

 

あのメモリたちは、あんたと早苗、二人のメモリだ」

 

 

 

「……わ、私の……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「狗符!【レイビーズバイト】!!」

 

 

 

 

 

 

 左右から、勢いよく噛みつくような弾幕が放たれた。

 

 

 そのまま数体の機怪を木っ端微塵に吹き飛ばす。

 

 

 更に剣で近くの雑魚を斬り捨て、飛び交う敵弾はその丸い盾で弾いた。

 

 

 

「もう、あの烏天狗は何してるんですか!!」

 

 

 

 椛は襲い来る無数の雑魚機怪たちに孤軍奮闘状態で挑んでいた。

 

 元々は哨戒天狗、敵わなそうならさっさと退却するのだが、今回は退却すればこの山がどうなるかわからない連中……“スペルカードルールを一方的に無視する侵略者”なのだ。

 少なくとも他の妖怪たちが来るまでは時間を稼がなければ、山が大変なことになるのは間違い無い。

 

 

 退くわけには、いかない。

 

 

 愚痴りながらも、敵を斬り、倒していく。

 

 

 

 しかし、確実に交わし続けてきたはずの敵の弾丸の一発が、盾で防げない片脚に、

 

 

「っあ!?」

 

とうとう当たってしまった。

 

 

 実弾はかなり堪える。

 当然ながらそこから血が滴った。

 

「……しまっ……!」

 

 だが、傷口を塞ぐ余裕なんてない。

 

 次々と飛来する攻撃をなんとか回避する。

 

 

 ――あまりにも数が多すぎる……!

 

 

「……くっ……!」

 

 

 

 退き際を間違えた。

 

 完全に囲まれ、逃げ場がない。

 

 

 

 哨戒天狗とはいえ実力はあっても、この数はまずい。

 ついでに脚もやられている。

 

 焦る椛に、その侵略者たちは一斉に襲い来る。

 

 

[……]

 

[……]

 

 

 

「……ううう、なんか言えっ!!!」

 

 

 

 無言の敵に椛が叫ぶと、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、泣かせてみましょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

「…………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如、真後ろから、まさに竜巻と言える空気砲がぶっ放された。

 

 

 

 

「どわぁ!?」

 

 

 煽りを食らって椛が吹っ飛ぶ。

 

 

 

[ヌオオ!?]

 

 

 竜巻は周囲の機怪たちを文字通り削り取って破壊した。

 

 

 そのまま奥の機怪らもすんでのところで回避するが、大きく弾き飛ばされた。

 

 ほんとに泣かせた、と椛は心の中で呟く。

 

 

 

「いやぁ……カマシすぎましたかねー。まぁ上出来ですよ、上出来」

 

 

 ばっさぁ、と翼を広げて舞う、射命丸。

 素早く布を椛の傷口にきつく巻き付けた。

 

「あーあ、これはひどい……後でお医者様に見てもらう必要アリですねこれ」

 

 それを見て、椛はため息混じりに言った。

 

 

「あなたって人は……遅かったではありませんか?」

「あはは……まぁ色々ありまして、ね。

 

 

それに今の攻撃、私のではありませんから」

 

 

 

と、振り向く射命丸。

 

 

「……えっ?風を扱うのはあなたの専売特許では?」

「それが、そうではなくなりました」

「はい?」

 

 

 

 椛が不思議がっていると、そこへ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおお!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如飛び出した何かが、宙を駆けた。(・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

「……、あの人、飛べましたっけ……っ!?」

 

 

 椛は信じられない表情でそれを見つめていた。

 

 

 

「いや、飛べませんよ。

 

 

 

 

飛べるようになった(・・・・・・・・・)、だけです」

 

 

 

 

 射命丸は自信たっぷりに、笑って答えた。

 

 

 

 

 

 

 

「……飛べる。

 

今の私は、空を飛べる!

 

 

戦いの空を、飛ぶことができる!!!」

 

 

 

 

 

 陽の光を反射したライズバスターを、敵に向けながら。

 

 飛べるようになったその身に纏う、銀色に映るコートをはためかせながら。

 

 

 

 

 

 星羅は、空という新たなフィールドで、椛と射命丸の前に躍り出るのだった。

 

 

 

 




 千〜分の一秒で駆〜け〜抜〜け〜ろ〜♪



 ブン屋って予測変換で出てこないから変換辞書に追加するか……?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

037. ブン屋の使命

 飛べ!ガンダム!


 ……違ったわ。

 飛べ!星羅!!


 真面目に空を素早く飛び回れたらどんだけ楽ちんなことでしょう?


 ……世界中がそんなことしたら前方不注意接触事故多発ですね()


 最近投稿頻度めっちゃ落ちてます。
 ごめんなさい。
 なるべく良いもの上げるので頑張って書きます。




 にとりに、ファンタズムメモリの次の対応者は自分だと知らされた射命丸。

 

 

 山を襲う機怪の迎撃に向かうも、多勢に無勢で追い詰められる椛の前に彼女は現れた。

 

 

 ……空を飛ぶ、星羅を伴って。

 

 

 その時星羅は、

何を言われ、何を思っていたのか――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遡ること、数十分前。

 

 

 

 

 

 次なるファンタズムメモリ覚醒のカギは自分である――

 

 

 にとりの発言に、硬直する射命丸の姿がそこにあった。

 

 

 

「ここまで来る道中。霊夢から聞いたんだ、今まで星羅に起こってきた出来事を」

 

 にとりはメモリの汚れを拭き取りながら言う。

 

「……彼女が言うには、ファンタズムメモリ各種は最近の大きな異変をなぞるように次々出現しているというんだ。春雪異変が先回しにされたが、紅霧異変、永夜異変の関係者たちにもその直後発生しているから……恐らくは『かつての歴史の破壊』をしようとでもしてるのだろう」

「……歴史を……?一体なぜ?」

 

 

 歴史は不変。

 

 世の理であるそれをわざわざ変えるなど、真実を追い求める射命丸にはいまいち理解し難いものだった。

 

 

「いや、理由は今はいい。それよりも異変を常に追いかけてきた射命丸ならわかるだろう?今起こっている異変の一連の出来事は全て……星羅を中心に起きてる。……だが、星羅は主犯ではなく、寧ろ意味不明な相手に追われる被害者だ。巻き込まれてるとはいえ、私達も異変に関わってる」

「……むぅ」

「んで、かつて久々に起きた3つの大きな異変のあと、発生したのが……守矢神社が起こした妖怪の山での戦い。まぁその間にもいくつかあったけれども、規模的にはまぁだいたい歴史に沿ってる」

「……でも、それならばなぜ私が?妖怪の山での戦いが今の星羅さんのメモリ覚醒のトリガーならば、先に早苗さんなのでは……」

 

 

 言って、射命丸ははっとする。

 

 

「…………そうか」

 

「そう。あの異変より前、君は一騒動起こしただろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 妖怪の山戦争の少し前。

 

 射命丸は自身の新聞のネタ集めに、様々な人妖へ取材を(強引に)行い、弾幕と共に相手を撮影する奇行をしたことがある。

 

 

 高い機動力と正確無比な撮影技術、そして「弾幕を切り取るカメラ」によって数多の人妖たちは見事に写真を撮られたのだった。

 

 異変ではないため騒動自体の名前すらない、射命丸が引き起こしたちょっとした事件だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「奴らが、どこで君や私達がここに住んでるというのを知ったのかはわからないけど……妖怪の山に住まう私達を、恐らくは君もろとも片付けてしまおうという魂胆だろう」

「……なる、ほど……」

 

 

 一気に思考を巡らせた射命丸は、軽く頷いた。

 

 

「……要は、私に力を継承させる出番が回ってきた、ということですか。それがなければ今の幻想郷は守れない、そして私はそのためにここに呼ばれた、と」

 

「その通りだよ」

 

 

 射命丸はにやりと口角を上げると、星羅へ向いた。

 

 

「ならば、共に作りましょうよ星羅さん。スランプ状態な今を打ち破る、逆転の1手……否、逆転の記憶を!」

 

 

 

 

 

 ……しかし。

 

 

 

 

 

 

 

「…………

 

 

 

 

星羅、さん……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 星羅……がいたはずの場所には、

 

 

例のVRゴーグルが、無造作に転がっているのみであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……同じ頃。

 

 

 

 

 

 

 

「霊符!!【夢想封印】っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 椛とは反対の上空で、8つの光球が放たれ射線上の敵を一気に焼き尽くした。

 

 

 そして、避けて散らばった機怪には、赤と青の光が一気に覆っていった。

 

 

 

「逃しませんよー!!

 

奇術!【グレイソーマタージ】!!」

 

 

 

 

 

 星形の輝きが交差するように散り、重なり、散らしてゆく。

 

 

 重なり合う弾幕に、逃げ場はない。

 

 

[!?]

[よ、避けラレナイ…だと!?]

[一旦散れ!離レロ〜!]

 

 数体巻き込まれて爆散していく。

 

 それを受け弾幕射程範囲から散らばった機怪たちを見て、早苗は言う。

 

 

「いやー、霊夢さんと組めば負ける気がしませんね!!」

 

「……もう、調子いいんだから」

 

 お祓い棒を肩に乗せ、霊夢はため息をついた。

 

「これでも数は全然減らせてないわよ。むしろ削ったのか怪しい」

「ええっ!?そんなに!?」

「紅魔館のときも凄く多かったわ。たぶん今回も場所が場所だから数多めの部隊なんでしょ」

「うぅ、小賢しいですねぇ……」

「それアンタが言って良いセリフじゃないわよ」

「幻想郷では常識にとらわれてはなりませんから」

「限度があるわよ」

「ツッコミ入れてくださる霊夢さん最高」

「うっさい」

 

 

だが、駄弁っている暇はそうそう与えてはくれないらしい。

 

[撃て〜!]

 

「!」

「おっと!」

 

 

 

 再び、砲火が二人を襲った。

 態勢を立て直した機怪が迫る。

 

 

「……根本的に諦めさせるしかなさそうね」

 

「ならば全部ぶっ倒して、懲らしめてあげましょう!!」

 

 

 幣をお互い構え直し、二人は鋼の軍団に突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 星羅は、外を眺めていた。

 

 

 見上げるそこには、孤軍奮闘する椛が映る。

 

 多勢に無勢な彼女に、少しでもサポートをしたかった。

 

 

「……バスター……」

 

 

 

 と、腕時計(ライズバスター)へ伸ばした指先が、固まった。

 

 

 

 

 

「…………そうだ。私……飛べない……」

 

 

 

 敵も、戦場も、地上ではない。

 

 

 

 宙を舞い、その中で敵を撃たなければならない。空中戦なのだ。

 

 

 今までだってそうだ、飛べないことが原因で結構不便だったし、霊夢たちにも迷惑をかけてしまっていた。

 射撃武器とはいえ、ライズバスターの射程ではそんなに遠くを狙えない。

 多くのメモリが目覚めてきたが、“空を飛ぶ”ためのメモリはいつまで待っても覚醒しない。そのことが星羅を密かに焦らせていた。

 

 

 

「……今の私じゃ、何も……」

 

 

 

 

 ……まただ。

 また、こうして落ち込んでしまう。

 

 何も出来ない、出来ることがないと思い込んでしまう。

 

 

 

 でも今回ばかりは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「星羅!中に入っててと言ったじゃんか!」

 

 

 

 背後から声がして、振り返ると、にとりが駆け出してきた。

 射命丸も続いている。

 

 

「……にとり、射命丸さん」

「急に、どうしたんだい?まだ君の記憶は不完全なんだ。あれだけの内容を見せておいてどうかとは思うけれども……ちゃんと取り戻さないと、全力が……」

 

「……今はいいよ」

 

 にとりの言葉を星羅は遮った。

 

「それよりも今は……目の前の人を救わなきゃ…」

「だ、だけど」

「椛さんが頑張ってるのに、見殺しにはできない!でも……今は何も出来ない!!」

「そうじゃないんだ星羅、彼女や向こうの霊夢たちは君のために時間稼ぎをしているんだよ!それに皆歴戦メンバーだ!飛べないことはわかっている!だからこそ皆体を張って戦っているんだ!!」

「一人対複数で敵うわけないじゃん!特に椛さん!」

「だから……!」

 

 焦るにとりを、

 

 

 

「…………にとりさん、後は私が」

 

 

と、射命丸は手で制止した。

 

 思わず、にとりも口を閉じた。

 

 

 

 一歩前に出ると、

 

 

 

 

 

 

「…………………一度頭を冷やしてくださいっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、全力で振りかぶって、扇で空を一閃!

 

 

 

 その場で星羅は突風に巻き込まれ吹き飛んだ。

 

 

「のわぁあ!?!?」

 

 

「ちょ、ちょっと射命丸!何を……!?そんなの人間へかましたら危ないって!!」

 

 

 

 ぶっ飛んだ実力行使に、風に耐えながらにとりが非難の声を上げるが、射命丸はさっさと扇をしまい星羅へ近づいた。

 

 

 

「……射命丸、さん?」

 

 

 何が起こったのかさっぱりという顔の彼女へ、射命丸は叫ぶ。

 

 

 

 

「星羅さん!!

 

もっと、頼るのではないのですか!

 

自分にできる事を探すのではないんですか!!

 

全部受け入れて前に進むんではないんですか!!!

 

 

……今のあなたは、すっごく不安定です。一度に色々起こりすぎて、心が落ち着けていません。

だから一旦、頭を冷やして……心を落ち着けて、話を聞いてくれませんか。

 

私個人としての、あなたへの頼みです」

 

 

 

 

 

「…………」

 

「あなたは今多いに悩んでいる。やりたいことと現状に葛藤している……だからこそ外に出たけれども何も出来ないと嘆いている、そうでしょう?」

「……」

「悩むこと、矛盾を自分で生み出してしまうことは、誰だってあります。私にもありますから。……だからこそ、頼れる人に頼って、答えを見つけて前に踏み出す。違いますか?」

 

 

唖然としてそれを聞いていた星羅だったが、

 

 

 

「…………ごめんなさい、射命丸さん。

 

…ごめんなさい……」

 

 

と、やっとの思いで、そう答えた。

 

 

 

「…あなたが泣くことは、ありませんよ」

 

 

手を差し伸べて、射命丸は星羅をゆっくり立ち上がらせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……星羅さん、一つ質問しても?」

 

 

 

 射命丸はふとそう問いかけた。

 

 

「…………なんでしょうか」

 

 星羅が首を傾げると、彼女は言う。

 

 

 

「……星羅さんって。ここでの夢、持ってますかね?」

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

「私、星羅さんをこっそり追い掛けているうちに思ったのですよ。ただただ、目の前で起こってる出来事に振り回されているのではないか、と」

「…えっ」

「その場その場で決意は固めても、現状が変われば揺れ動いてしまう。人間だろうと妖怪だろうと……所詮抱いた目標は三日坊主、揺れやすいのですから」

「……」

「単刀直入に言わせてもらうと……星羅さん、あなたはただ現実に引きずられてるだけだと思います」

「そ、そんなつもりはないです!」

「じゃあ、質問を変えましょうか。ファンタズムメモリ覚醒は確かに現状打破に必須……でもそれは本当のあなたの意志ですか?」

「……っ」

「みんな、あなたを信じて戦っているんです。目の前に迫るやつらを、最も倒せるあなたを。でも……そのためだけに記憶を呼び戻すことが、あなたの心からの願いではないですよね。現に今、目の前の誰かを助けたいという衝動がある。そのための力がないから何も出来ないと思い込んでもいる。……願えば、そんなこと簡単に出来るではありませんか。それに私達はそんなことのために、あんな辛くて苦しい記憶を呼び戻して欲しくはないですよ」

 

 

 的確な言葉に、星羅は詰まる。

 

 

 

「……私……私は……」

 

 

 うつむく彼女の頭に、射命丸はそっと触れた。

 

 

「……無理をしている。そうとしか見えないのです、私には。誰かに押し付けられた使命ばっかり全うしていたらそりゃあそうなりますよ。

だからこそ問うのです。あなたは夢を持ってますか、と。

 

夢や目標がない日々はつまらない。何かを目指すからこそ生き物は進化し強くなる。

 

あなたが記憶を無くした理由も、使命とやらを勝手に押し付けた誰かも、まだ私にはわからない。

 

でも、そんな風に、ただ流される日々よりも、自由に夢に向かって……

 

羽ばたいてみたくは、ありませんか?」

 

 

 

「……!」

 

 

 顔を上げた少女の目は、潤んでいた。

 

 

 

 どこかに常に迷いを抱えながらも、幻想郷を守りたい、みんなを守りたいという願いを確かに持っている、しかし夢が明確にない、矛盾だらけの繊細な少女。

 

 

 そんな少女を……射命丸はどこかで見た気がした。

 

 

「で、でも私……どうすれば……」

 

 

 

「安心してくださいよ、星羅さん。

 

羽なら……ここに、あるじゃあありませんか!」

 

 

 

 射命丸は翼を広げた。

 

 真っ黒く、しかし差し込む太陽の光に反射して輝く、その羽を。

 

 

 

 ひらりと翔んで見せ、彼女は叫ぶように星羅へ言った。

 

 

「さぁ星羅さん!!

一緒に飛び立ちましょう!誰にも縛られない、自由な大空へ!

 

そして、一緒に戦いましょう!その大空を汚す奴らを倒すために!!

 

……その羽を与えるのは、私達の使命ならば。

 

ファンタズムメモリ(あなたの使命)は、それを受け取るためのものではありませんか?」

 

 

 

 

「…………はい!!」

 

 

 星羅はその想いに、強く応えた。

 

 

 

「私も……飛びたいです!あの空を!みんなと一緒に……戦わせてください!!」

 

 

 滑空する射命丸へ、駆け出す。

 

 

 

「一緒に……みんなと、射命丸さんと……一緒に!!」

 

 

 一歩、二歩、三歩、大きく踏み出す。

 

 

 

 

 

 

「だから……力を、お借りしてもいいですか!!

 

もう一回願わせてください!!

 

へったくれた覚悟じゃなくて……もう二度と破らないような覚悟ができる!

そんな力を……貸してください!!」

 

 

 

 

 

「……断る理由など、ありませんよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 宙を跳んだ少女の伸ばした手を、鴉天狗はしっかりと掴んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女から飛び出す、秋色のメモリが輝く。

 

 

 

 

 

 羽ばたきに合わせて、真っ黒なハズの羽が散らばって、メモリの光を受けて照り返していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……行ってこい……盟友!」

 

 

 にとりがそう言って手を振ったのを、星羅は見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

 

 

 

 

 

 

 ……そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今の私なら飛べる!

 

みんなのために……私が、飛ぶんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……えっ……えっと……星羅さんって、飛べたっけ??」

 

「だから、飛べるようになったんですってば。私と……ファンタズムメモリを作って。…あやや、言い方がちょっと悪すぎますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 困惑する椛。

 

 

 それをよそに、射命丸は言った。

 

 

 

 

 

 

 

「願ったんですよ。

 

 

自由に、自分の意志で飛びたい、と」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 身体が自由に空を飛ぶ。

 

 原理はわからないけれども……今なら飛べる。

 

 

 やりたいことを、やれる!!

 

 

 

 

 

 宙で体をひねり、星羅は空を駆けた。

 

 

 

 

[な、何だと!?]

[いつの間にヤツ、飛行能力を……!]

[ええい、撃ち落とせ!]

[ナァ、アイツ飛べたっけ?]

[言ってる場合カっ!撃て〜!]

 

 

 

 敵の一斉射撃にも、星羅は怯まない。

 メモリのおかげか、自然と回避すべき方向が直感的にわかる。

 

「っ!」

 

 ひねって躱し、空中ジャンプをする。

 

 ガシャッ、とバスターを向けて、予め溜めておいた一撃を放つ。

 

 

「だぁーっ!!」

 

 真っ直ぐ飛んでゆくチャージショット。

 

[……!!!]

 

 初めての空中攻撃にも関わらず、星羅は見事に命中させた。

 

「……当てられる……これなら!」

 

 

「……あれが、メモリの……否、星羅さんの力……?あれなら、勝てるってことですか!」

 

 これには思わず椛も目を丸くし、射命丸はその場で拍手した。

 

 

「おおぉ星羅さん、流石ですね!」

「私達も加勢しましょう、射命丸さん!」

「おっと、そうでしたね! ……って、椛、ケガは平気なんですか?」

「これくらいどうってことありませんよ。それに……今の星羅さんを見て、負ける気がしなくなったので!」

「へぇ? あーでも、後でしっかり治してくださいよ?」

「そんなこと指示されずともやりますから!」

「はっは、では参りますかね!」

 

 

 ますますやる気が出たのか、射命丸は先行して羽ばたいて進む。

 それに椛も続き、刀を振るった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 反対側で戦う早苗は、ふと何かを感じて後ろを振り返った。

 

 

「早苗?よそ見してるとピチュるわよ!」

 

 霊夢の問に、彼女はぼそっと、呟いた。

 

 

 

 

 

 

「…………今の風……星羅、さん?」

 

 

 

「?」

 

 

 霊夢は首を傾げる。

 

 

「風って……何かあった?」

「え、霊夢さん何も感じなかったのですか?さっきあっちの方から風が吹いてきましたよ?」

「……何も感じなかったわよ」

 

 わからないという反応に早苗は困惑していたが、

 

 

 

 

 

 

《――早苗ちゃん》

 

 

 

 

 

 

「……っ!?」

 

 

 

 

 と、早苗は一瞬頭によぎったビジョン(星羅)を視た。

 

 

 

「……やっぱり……星羅さんですよ」

 

「……まさかだけど、アンタ……」

 

「そのまさかになりそうですね」

 

 

 二人は同じ結論に至った。

 

 

 

「さっさと倒して合流しましょう」

 

「もちろんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わわっ」

 

 

 最初こそ次々撃ち落としてきた星羅だったが、段々と敵がこちらの動きを読んできた。

 

 既に防戦一方である。

 

 

[ヒルムナ!ヤツはまだ慣れてはいない!]

[取り囲んで落とせ!!]

 

 しかも今回の機怪、やたらと数が多いせいでキリがない。

 

「……だったら、まとめて……!!」

 

 星羅は握っていた射命丸のファンタズムメモリを、バスターにセットしようとする。

 

 

……が、

 

 

 

 

[今だ!!!ウテェ!!]

 

 

 

「えっ」

 

 

 それを狙われ、またも砲火が飛び交う。

 

「やべっ!?」

 

 とっさにポケットから引き抜いたメモリを代わりに刺す。

 

 

《Spell Memory confirmed……》

 

「星盾!!【バスタードアイギス】っ!!」

 

 

 展開したバリアがぎりぎりで弾丸を弾いた。

 

「……くそ、やってるヒマが……」

 

 

 

[後ろダ〜!]

 

 

「!?」

 

 

 

 

 声と射撃音が真後ろから響く。

 

 

 バスタードアイギスは銃口から展開するため、後ろはカバー出来ない。

 

 

 振り向いた時にはもう遅く、目前まで迫っていた。

 

 

「……うわぁ!?」

 

 

 覚悟したその時。

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから、羽ならここにあります……ってば!!」

 

 

 

 

     

ぐい、と背中を掴まれて星羅は真上に引き上げられた。

 

 

 

「たぁあぁ!!」

 

 続けざまに現れた椛が刀を振るう。

 

 

 全弾を叩き斬って落とした。

 

 

「しゃ、射命丸さん!!それに、椛さんまで!」

「あなたはひとりじゃない!いつでも私達がついてますよ!さぁ、ぶちかましてやってください!!」

「敵は引き付けます!あなたは例のスペカを!!」

「……わかりました!」

 

 

 射命丸が手を離し、星羅はまた宙に躍り出る。

 

 

 バスターを正面に向けて、メモリを取り出した。

 

 

「……ぶち抜け!秋色の風よ!!」

 

 

 星羅は再びファンタズムメモリを装填、逃げ惑う機怪らに向けた。

 

 

 

《Phamtasm Memory confirmed……》

 

 

 

 

 

「疾風迅雷――真実の、光!

 

 

 

旋風・改!【紅葉旋風砲(もみじせんぷうほう)】っ!!」

 

 

 

《Ready,go!!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 星羅が反動で吹っ飛ぶ程の、巨大な竜巻。

 

 

 

 ――否、竜巻のような、弾幕が放たれた。

 

 

 

 

 

「うわっ」

 

「おぉ〜、爽快!」

 

 

 椛は弾幕を上手く躱し、射命丸はかつての日のように(・・・・・・・・・)、弾幕と星羅をしっかり写して写真を撮っていた。

 

 

 

 

 

 

「だりゃーーー!!」

 

 

[た、縦ダト!?]

[ウオオ!?]

 

 

 

 星羅は一気に横回転、無能な雑魚たちは呆気なく散ってゆく。

 

 そう。

 

 竜巻を横向きに放っている故、相手からしたら縦回転弾幕が襲いかかっているのだ。

 

 

「おー!!すっげー!!」

 

「……さっきまでの雰囲気、あなた壊しましたよね?」

 

 

 すっかり撮影にハマった射命丸を見て、椛はケガも忘れてため息をついた。

 

 

 そして巻き起こる暴風に、機怪たちの放つ攻撃も散らされていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

 

 

 

 そんなふうに薙ぎ払っていた星羅だったが、

 

 

 

 

 

「…………いない、のかな?」

 

 

 

 

 

 ……完全カスタムメイド機怪(自分のことを創造主って言ってくるやつら)が、いない。

 

 

 

 やたらと数は多いが、全てあっさり片付くほどの雑魚しかいない。

 

 

「……好都合、ってことでいいのかな」

 

 今は気にせず、眼前の敵を討つ。それしかない。

 

 

 星羅は竜巻を巻き起こしながら爆進していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………うわぁ、終わっちまっていますね」

 

 

「って、なんで……浮いてるの、星羅?」

 

 

 

 

 

 早苗と霊夢が駆けつけた頃には、全て片付いていた。

 

 

 そして二人は宙に浮く星羅を見て驚いた。

 

 

「えへへ、射命丸さんと作ったメモリのおかげだよ」

「えっへん!!」

「……なぜあなたが自慢気なのですか」

「椛はいちいち細かいなぁ、そりゃあ誇りに思うでしょうが」

 

 ドヤ顔の射命丸に椛は呆れ顔を見せた。

 

 

「ま、これで順当にメモリが増えてるなら良いわ」

「霊夢さんの言うとおりです。よかったですね、星羅さん」

「うん!」

 

 笑って答える星羅。

 

 

「それに……

 

メモリは、ただの力じゃなくって、私自身なんだって。わかったんだ」

 

「……はぁ?どういうこと?」

 

 霊夢はまたも首を傾げていたが、早苗だけは

 

 

「……」

 

なんとも言えぬ顔つきで、その言葉を受け止めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はっ」

 

 

 

 ふと、何かを察して射命丸が振り向いた。

 

 

 

 

 

 

 遠くからカッと光った“何か”が、真っ直ぐ迫ってくる。

 

 

 

 

 

「……!!」

 

 

 

 星羅が、“ソレ”の正体に気づいた。

 

 

 

 

 

 

「……アレは……」

 

 

 

 

 

早苗もまた、“ソレ”に見覚えがあった。

 

 

 

 

 

 徐々に鮮明になった“ソレ”は………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢想封印、だったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神霊!【夢想封印・瞬】っ!」

 

 

 

 とっさに飛び出した霊夢が、速度重視の小型夢想封印を連射し、全て相殺しきった。

 

 

 

 

 

 

 そして幣を構えて叫ぶ。

 

 

 

 

「誰っ!?出てきなさい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆風を割って現れたのは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……えっ」

 

「まさか……」

 

「本当にいたとは……!?」

 

「……!」

 

 

 

 

 

 

 

「――わた、し……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「違うわ。

 

 

 

アンタなんかと、一緒にしないで。

 

 

 

 

 

 

 

 

私は――博麗 霊夢。

この幻想郷を……破壊する者よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深紅に染まった、殺気溢れる視線を注ぎ、

 

纏うは真っ黒く塗り替えられた巫女服だったもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 もうひとりの霊夢が、紛れもなく黒い(・・)霊夢が、皆の目に写っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

博麗 霊夢(いつわりのわたし)、そして幻島 星羅(うらぎりもの)

 

 

 

 

幻想郷と一緒に―――滅びなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 急展開じゃい。


 本当に遅くなり大変申し訳無いです……。
 忙しいんです。
 次は頑張って早くうpします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

038. 妖かし堕とす、昏い瞳

 この小説作ってる途中で禍霊夢をしりますた。
 先に言っておくと本作の黒い霊夢とは関係ありません()

 あやや編ラスト。
 妖怪の山に現れた彼女の正体とは……?


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 塗りつぶすような黒。

 

 充血かと言わんばかりに深紅に染められた眼。

 

 そして……突き刺すような、貫くような視線と、禍々しく放たれるそのオーラ。

 

 

 

 赤黒い巫女服に身を包んだ、もうひとりの霊夢は、息を呑む星羅らの前に、まさに“降臨”とでも言うかのように佇んていた。

 ――否、今にも攻撃して来そうな気迫はあった。

 

 

 

 

「……霊夢さんのコスプレ……なんかでは無さそうですね」

 

 

 幣を握りしめ、早苗がつぶやく。

 

 

「アレが……前々から射命丸さんが言っていた」

「そのとおり……黒い巫女。黒い……霊夢さんですね」

 

 

 椛は一旦納めていた大剣を抜き直し、射命丸も表情を引き締めた。

 

 

 

 ――そして、

 

 

 

「…………真っ黒な……私……?」

 

 

 

 

 霊夢は、眼前の“自分自身”に、唖然としていた。

 

 

 

 

 

 

「……まさか、こいつらの指揮官は」

 

 星羅がつぶやくと、黒い霊夢は言った。

 

「……えぇ、さっき消し飛ばしたわ。証拠がコレ」

 

 

 おもむろに取り出したのは、炭化した“残余”。

 

 もはや言われなければ機怪だとわからないまでに無残に壊された、ただの屑鉄だった。

 

 それを後ろへ放り投げ、再びその視線を星羅へ向ける。

 

 

「……あなたのせいで私は……私達は……」

 

「……えっ」

 

 

 皆が身構えた直後。

 

 

「……この場で、全員纏めて殺してやる!!!」

 

 

 その深紅の瞳が昏く光り、黒霊夢が動き出した。

 

 

 

 

 目にも留まらぬ速度で御札が展開され放たれる。

 地味にある程度誘導してくるせいで、回避が遅れたら間違い無く当たる。

 

「っく!」

 

 星羅はさっきから発動しっぱなしのバスタードアイギスを振り回して防いだ。

 一方の早苗は弾幕、椛は盾、射命丸は自慢の機動力でそれぞれ回避した。

 

 だが、わざわざ回避行動をせずともそんなものに当たる霊夢ではない。

 星羅からしたら驚異でしかない程に、すれすれを駆け抜けていく。

 

「自分の攻撃に当たるほど鈍ってないわよ! 星羅、下がってて!!」

「で、でも!」

 

 星羅が言い終わらぬ内に、彼女は弾幕を放ちながら後退していく黒霊夢を猛追していった。

 

 

「何が目的かは知らないけど、ご所望なら相手になってやるわよ!」

 

「……うるさい! そんな言葉、二度と吐けないようにしてやる!!」

 

 

 

 

 

「……やれやれ、こういうときに限って、困った巫女だ」

 

 射命丸はそれを見送った後、星羅の背を再び掴んだ。

 

「……あなたも、黙って見ているような人ではないですよね」

「えっ」

 

 

 瞬間、世界がぐんと後ろへ流れ出した。

 

 

「さて、ちょこっと本気を出させてもらいますか!」

 

「おわぁ〜!?」

 

 

 加速した射命丸は、星羅を離さぬようにしながら、二人の霊夢目掛けて羽ばたいた。

 

 

 

 

 

「……早苗さん。先に…皆のところに、行ってください」

 

 

 一連の光景を見ていた早苗に、椛は言った。

 

「えっ? 椛さんは?」

「ついていきたいところは山々なのですが……私は、この通り怪我してますから」

 

 言って視線を落とす椛。

 

 射命丸が巻き付けた布に、かなりの血が滲んでいる。

 かなり無理していたのだろうか。

 

 よく見れば椛の額には、苦痛からか汗が見え隠れしていた。

 

 

「……万全の状態でなきゃ、足手まといです。それに相手の強さは明らかに未知数、しかも博麗の巫女と瓜二つ……偽りが無ければ、凄まじき強さを持っている。そんなのに今の私が挑んでも勝ち負けは明白です」

「しかし、私達がついてますよ! カバーならできます! 数だって多い方が……」

 

 食い下がる早苗に向かって、椛は叫んだ。

 

 

 

「早苗さん! 今守るべき人は私ではなく……星羅さんです!!

 

今は戦うことより……あの人を守らねばならないハズです!!」

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

 

 ……そうだった。

 

 今は何よりも守らなければならない人がいる。

 そのために私がいる。

 

 椛さんは守るべきものを何よりも理解しているからこそ、ここまで言い切れるのだろう。

 

 

 早苗はようやく決心づいた。

 

 

「……わかりました! 星羅さんは、私達に任せてください!!」

 

 

 急発進していく彼女を、椛は見つめて、

 

 

 

「……早苗さん……それに、射命丸さん。後は……頼みます」

 

 

と、力なくつぶやき、ふっと落ちていった――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っと。ギリギリ間に合ったか……大丈夫か?」

 

「哨戒天狗が無理しちゃって。後は私達が引き受けるから、休んでて」

 

 

 

――のを、優しく、しっかりと受け止める者達がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 緑に染まった山の周囲を、赤と黒の閃光が駆け抜け、交差し、火花が散る。

 

 目にも留まらぬ2つの影が、青々とした背景を切り裂いていく。

 

 

 その影を、黒い烏の羽をはためかせて、射命丸は追っていた。

 

 

 時々飛んでくる流れ弾……ならぬ、流れ御札を回避し、時に扇で風を起こして弾き、時に星羅に落としてもらいつつ、見失わない程度の距離を保つ。

 

 

「幻想郷最速をナメないでもらいたい!」

 

 

「霊夢……っ」

 

 星羅が念じるように言うと、射命丸は笑った。

 

「大丈夫。あんなのに霊夢さんが負けるわけないじゃあありませんか。そしてそのために私達が今追っているのですから」

「……射命丸さん」

「それに今は、あなたにも……“翼”がある。信じていれば、答えてくれるのが、ファンタズムメモリでしょう?」

「……はい! もちろんです!」

「いい返事だ、それでこそ星羅さんです。さぁ、更にスピード上げてきますよ〜!!」

 

 

 射命丸は希望を抱えて、前をゆく赤と黒の閃光に向かって突き進んだ。

 

 

 

 ――今我々が諦めてしまえば、この希望は意味を成さないのだから……。

 

 

 そう、彼女は心でぼやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇ! 黒い私!! アンタ何が目的なのよ!」

 

 

 前の黒い自分に問う。

 

 刺すような紅い眼がこちらを向いた。

 

 

「……アンタと、アイツ(星羅)を消すこと」

「そんなことして何になるのよ! ていうか……アンタ本当に“私”なの!?」

「……そうよ、アンタは私、私はアンタ。それは避けられない定めであり運命」

 

 

 まるで一言一句諦めたような声音で答える黒い自分。

 

 

 すると突然調子を変えたように、その眼がカッと開いた。

 

 

 

 

「……でも、

 

 

今ここでアンタを殺せばその運命(さだめ)も無くなるのよ!!!!」

 

 

「意味わからないこと言わないで!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「霊符!!【夢想封印】!!」」

 

 

 

 

 

 

 同じ動き、同じ声音、同じ弾幕、同じ輝き。

 

 

 

 

 ――されど、アイツのものはどこか昏くて、哀しくて……そして、殺意に塗れたものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……死ね!! アンタなんか……平和のぬるま湯に溺れた、アンタなんかっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お互いの輝きが爆ぜて、眩く弾け飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っく!?」

 

 

 

 

 

 目くらましかというレベルの閃光が、視界を覆い尽くす。

 

 

 流石に止まらざるを得なくなり、射命丸は急停止した。

 

 

 

 が、星羅は突然射命丸を振り解くとその光に突っ込んだ。

 

 

「どわっ……って、星羅さん!?」

 

 

 彼女は答えない。

 

 

 

 

 やっとつけた決心が、彼女を強く動かしていた。

 

 

 それを、射命丸は突然感じた。

 

 

 

「……今のあの人なら、大丈夫か」

 

 

 そして、射命丸は扇を取る。

 

 

 

「ならば。

 

それを手助けするのが、今の私の……

 

 

清く正しい私の使命ですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……くっ…!」

 

 

 

 

 

 霊夢は被弾した左肩を押さえて、呻いた。

 

 

 

 さっきの一瞬のスキを突かれ、もう一発追加で放たれた夢想封印に撃たれたのだ。

 

 

 血が、白い袖に滲む。

 

 殺傷能力のあるスペカなど、スペカではない。

 

 

 ただの…………暴力だ。

 

 

 

 

「最初から加減してたの?」

 

 

 冷徹に自分の声――否、もう一人の自分の声が響く。

 

 

「私は初めから殺す気でいたわよ」

「……なぜ、そこまでして私を……」

「気に食わないから。アンタがのうのうと生きてることが。この平和な世界で平和に生きてるアンタが。それだけよ」

 

 

 周囲を飛ぶ御札がこちらに向きを変えた。

 

 

 

「さっさと消えて。

 

 

そうすれば幻想郷も消えてなくなるでしょ」

 

 

 

 その声が、何故か哀しく聞こえた。

 

 

 そして放たれた無数の弾幕。

 

防ごうと結界を張った、その時。

 

 

 

 

 

 

「そうはいきませんよ」

 

 

 

 

 

 真横から凄まじい突風が起こり、黒い霊夢は大きく弾かれた。

 

 

「っ……! ……射命丸……!!」

 

 

「……やはり私をご存知ですか」

 

 

 珍しく本気の目つきをしている射命丸に、霊夢が問う。

 

「遅かったじゃないの」

「星羅さんを抱えていたのでね」

「……アイツを知ってるの?」

「詳しくは後ほど」

「……で、肝心の星羅は?」

 

 

 星羅がいないのを問われると、射命丸は言った。

 

 

 

「……先に準備万端にしてもらいました。

 

 

着実に黒い霊夢さんをぶち抜ける場所で」

 

 

 

「……!?」

 

 

 

 その言葉に黒霊夢が驚いた瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

「連弾!!【スパイラルブラスト】!!!」

 

 

 

 

 

 

 突如後ろからとんでもない数の――“弾幕”が、飛来した。

 

 

 

 

 螺旋を描き、霊夢を掠めたそれらは、その物量で御札を粉微塵に爆破し、ついでに黒霊夢をも攻撃。

 予想外からの攻撃に、黒霊夢も慌てて横に飛んでかわした。

 

 

 

「ようやく、弾幕の本質を理解し始めましたね。星羅さん」

 

 

 

 射命丸が笑う。

 

 

 

 

「……何!?」

「今の弾幕……まさか」

 

 

 二人の霊夢が飛来した方へ向くと、そこには。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……霊夢。

 

助けに来たよ」

 

 

 

 

 

 

 バスターを陽に反射させ構える星羅があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで私を知ってるのかはわかんないけど」

 

 

 星羅は、取り出した秋色のメモリをバスターに装填した。

 

 

 そして、撃つべき相手へその光を向ける。

 

 

 

《Phantasm memory confirmed…》

 

 

「……霊夢を、幻想郷を傷つけるなら」

 

 

 左手でチャージに震える右腕をしっかりと支える。

 

 その目で相手を捉え、強く念じる。

 

 

「その意味わからない真っ黒な思いごと……

 

ここから吹き飛ばしてやる!!」

 

 

 

 

 

 ――疾風迅雷、真実の光。

 

 

 全てを追い抜き、真実を追い求める風となれ。

 

 

 

 

「旋符・改!!【紅葉旋風砲】!!!」

 

 

 

 

 再び、巨大な弾幕旋風が放たれる。

 

 

 そう、“弾幕”の風が。

 

 

 

「くっ……!?」

 

 

 身動きが取れない程の突風が黒霊夢を襲い、旋風が直撃した。

 

 

 

「……なんで……!? 動け、ない……っ!?」

 

 

「はぁあぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 勢いを強め、星羅は叫んだ。

 

 

 

そのまま動くな(・・・・・・・)!!」

 

 

 

 暴風が黒霊夢をこれでもかと巻き込み、凄まじい量の弾幕が竜巻となった。

 

 不可抗力に縛られた黒霊夢はただ食らうことしか出来ず、やがて爆発が起こった。

 

 

 

「うあああっ!!」

 

 

 

 

 

 

「……呆気ないですね」

 

 

 その様を、射命丸はカメラに収めるのだった。

 

 

 

 

 

 

「……星羅、今のは……どうやったのよ」

 

 

 それを見ていた霊夢が、バスターをおろした星羅に問う。

 

 

「……えっ?」

「私の能力は【空を飛ぶ程度の能力】。他者の干渉を受け付けない力なのよ? それを無効化したってこと?」

「えっ??」

「いやだってさっき、アイツの動きを止めてたじゃないの。あれくらい、やろうとすればかわせるものよ」

「……確かに……?」

 

 

 無我夢中で放っていた星羅は、霊夢の言葉に首を傾げた。

 

 

 

 まだ見ぬ力が、私には眠っている……?

 

 

 

「何を仰るんです。私の力だから、ですよ」

 

 横から射命丸がドヤ顔で割って入ってきた。

 

「はぁ? それは絶対ないわね」

「あやや、なんてことを……もしかしたらあり得るかもしれませんよ!?」

「私に限ってアンタのせいで負けることはないわ」

「えええ〜?」

 

と、笑い合う二人を見て、星羅も微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………ふざけんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 霊夢が、振り向く。

 

 

 

 

 

「……何、笑ってるのよ……

 

何が面白いのよ……!!

 

 

 

全てを喪った私の前で……笑うな!!!!」

 

 

 

 

 

 黒い自分が、その真っ赤な目を見開いて叫んでいた。

 

 

 

 

「! 星羅さん! 霊夢さんっ!!」

 

 

 

 何かを察して射命丸が割って入る。

 

 

「ちょっ、射命ま……」

 

 

 霊夢が言い終わらぬうちに、

 

 

 

 

 

 

 

 

「消え失せろっ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

射命丸の身体に、針が数本突き刺さった。

 

 

 庇った代わりに、射命丸は苦痛に顔を歪ませる。

 

 

「うあっ!」

 

 

 霊夢が妖怪退治に用いる専用の針だ。

 

 射命丸のような強力な妖怪だろうと通用する。

 

 

「ぐぅっ……!」

 

「しゃ、射命丸さん!!」

「射命丸!」

 

 

 近付く星羅を、腹を抑え、射命丸は制した。

 

 

「今すぐ離れて!! 早くっ! 狙いはあなたなんですよ!!!」

 

「で、でもそれじゃ射命丸さんが……!」

 

 

 

 

「遅い」

 

 

 

「!!」

 

 

 ――だが、既に星羅の後ろには……

 

 

 

「消し飛んで」

 

 

 

――その殺意を真っ直ぐ向けてきた、黒霊夢が浮かんでいた。

 

 

 

「星羅っ!!!」

 

 

 

 霊夢が何かをしようとした……が、もう間に合わない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「霊符、【夢想封印】……!!!」

 

 

 

 

 至近距離で、冷酷非情な封印の弾が、

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

全弾、無防備な、たった一人の人間を弾き飛ばした。

 

 

 

 

 

 それを目で追っていた黒霊夢は、視線を戻した。

 

 

「……さ、あとはアンタだけよ」

 

 

 

 まるで雑魚を散らしたような声音に、霊夢が叫ぶ。

 

 

 

「アンタ……ただで済むと思ってるの!?」

「そっちこそ、既に左手をやられている身で何を言うつもり」

「……っ……!!」

 

 

 射命丸は負傷、自分も万全でない。

 

 相手もそれなりにダメージは受けているが、それでも相手は自分自身そのもの。

 絶対勝てる保証はない。

 

 しかも相手は容赦なく全てを破壊してくる程に霊力が高まっている。

 

 認めたくはないが……今の霊夢より明らかにあっちのほうが強くなっている。

 

 

 

 

「……大人しく、私の前から消え去って」

 

 

 

 無情な声と共に、再び封印の光が収束し始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……このままじゃ、死んでしまう。

 

 霊夢が戦慄した、その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「御柱、【メテオリックオンバシラ】っ!!!」

 

 

「神具!【洩矢の鉄の輪】!!!」

 

 

 

 

 突然飛来する、巨大六角柱の嵐。

 

 

「何!?」

 

 

 

 油断しきっていた黒霊夢はまたもすれすれでかわす。

 

 

 だが、幾本もの柱の合間を反射(・・)してくる、別のスペカには対応出来なかった。

 

 

「!!! あ、合わせ技!?」

 

 

 かわすのを見越して放たれていた、反射による予測困難な軌道を描く鉄の輪。

 見事に黒霊夢に激突した。

 

 ごいん、という重たい音と共に弾き出される黒霊夢。

 

 

 そこに容赦なく、弾幕と御柱攻撃が重なった。

 

 

「くぅっ……!! そんな馬鹿な……!?」

 

 瞬時に防戦に回され、黒霊夢は思わず焦りをこぼした。

 

 

 

 

 

 その一連の出来事に、霊夢が空を見上げた。

 

 

「……まさか」

 

 

 

 

「すまなかった、博麗の巫女。ちょっと出遅れてしまったよ」

 

「妖怪の避難を優先してたんだー。ま、おかげで美味しいところは持っていけたけどね」

 

 

 いつもの堂々とした神奈子と、飄々とした諏訪子だ。

 自信に満ち溢れながらも、神としての尊厳を保つ独特の笑みを浮かべた、守矢の二神だ。

 

 だが、今回ばかりは、少し霊夢にも凛々しく見えた。

 

 

 

「……もう、どいつもこいつも遅いのよ……」

 

 言いつつも、霊夢は微笑んだ。

 

 

 

「さぁ、形勢逆転だぞ。黒い巫女よ」

「大人しく引き下がってくれたら私達も攻撃しないよ」

 

 

 そう言われ、流石に満身創痍の黒霊夢は、踵を返した。

 

 

 

 

「……わかったわ。……次は全員消してあげる」

 

 

 

 

 それだけ言い残し、彼女は遠くへ飛び去ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「射命丸さん!! あれだけ言っといて、何故あなたが負傷してるんですか!?」

「あやや……不覚……です」

「全くもう……」

 

 

 神社に戻った四人は、先に待っていた椛に合流。

 椛は腹に針をぶっ刺したままの射命丸に速攻突っ込みをいれながらも、さっさと手当を済ませた。

 

「……これでよし、と。……針で良かったですね。幸いにも、数は多かったですが大した傷にはなってませんよ」

「とほほ……申し訳ない」

「謝る必要はありませんよ。どうせこれでお互い様です。私も気をつけるので、あなたもおあいこということで」

「……そうですね、椛」

 

 そう交わす二人の声音には、お互いにお互いを労る思いが込められていた。

 

 

「……そうか。この幻想郷と星羅、そしてお前に、殺意を……」

「アイツの行動原理はだいたいわかったわ。でも……」

「でも?」

「……悲しさが滲み出ていたのは、気の所為かなって」

 

 霊夢は諏訪子に肩に包帯を巻いてもらいつつ、先程まで戦っていたもう一人の自分を語った。

 

 怒りと悲しみが混ざっていたような言動だったという彼女に、神奈子と諏訪子は顔を見合わせ、目を細める。

 

「……真意はまだわかっていない。何故この世界を滅ぼそうとしているのかが。だから今は様子を見よう」

「……」

「そのうち奴から姿を現すハズだ。その時に、問出せばいい」

 

 神奈子は霊夢にそう言いつつも、「……聞き出せるなら、だけどね」と付け加え、ため息をついた。

 

 

 

 

「ねぇ。早苗と星羅は?」

 

 

 ふと、諏訪子が辺りを見渡して言った。

 

 ハッとして、霊夢が顔を上げる。

 

「そういえば……星羅は、アイツに叩きのめされて、どこかに吹き飛んでいったけど……どこに……」

 

 

 射命丸と椛も、顔をしかめた。

 

 

「とりあえず、皆の態勢をを立て直したらすぐに捜そう。たぶん早苗も星羅を捜してくれているだろうから、後で合流だ」

 

 

 神奈子は言って、空を見上げて思った。

 

 

 ……勝ちはしたが、

 

結局残ったのは、謎と不安だけか……。

 

 

 

 

 皆の疲れを労るように、涼し気な風がそよいでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……星羅さん、星羅さん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は弾き出された星羅さんを見つけ、すぐに彼女の落ちていった方向に飛んでいった。

 

 倒れていた彼女を介抱していると、神奈子さまと諏訪子さまが、爆発のあった方向へ飛んでいくのを見た。

 

 霊夢さんたちは二人に任せておこう。

 

 そう判断して、私はなんとか星羅さんが起きるようにと安静な体勢にしていた。

 

 

 すると、その目が開いた。

 

 

「!! 星羅さ……」

 

 

 

 

 

 でも。

 

 

 

 

 ゆっくり開かれた目のうち……

 

 左目は、青……から、緑に、色が代わっていた(・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

「…………君は……早苗?

 

 

……そうか、“僕”は…………“星羅”が代わってくれてたのか」

 

 

 

 

「……あの……星羅、さん?」

 

 

 

 

 

「……ごめん、早苗。

 

 

今は……“僕”のことは、こう呼んでくれる?

星羅(せいら)の裏面……来是(らいせ)って」

 

 

 

 

 

 

 

「来、是……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、何故か私はその名に聞き覚えがあることを自覚して……

 

 

 

 

 

 

 来是となった目の前の人は、懐かしそうな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Continued to the next Phantasm……

 

 

 

 

 

 

 




 闇落ちってロマンあるよね。

 光落ち? ……まぁ期待しててくださいな。



 次回からは早苗編。

 星羅の正体に、元高校生と現役高校生が迫ります。
 そう。あの子の活躍もあるよ。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七章 〜星羅と早苗と繋がる奇跡〜
039. 秘匿された心の裏側


 何故、星羅は記憶を失くしたのか。

 来是とは何者なのか。


 この章からは早苗を中心に、星羅の秘密に迫ります。




 

 

 

 

 

 

 

 

 幻想郷を滅ぼそうとする、黒い霊夢が現れた。

 

 星羅の攻撃に苦戦すれどもそれを受けてなお圧倒的な霊力により彼女を倒してしまう。

 

 神奈子と諏訪子のおかげでなんとか難を逃れた霊夢だったが、彼女は黒い自分の言動に、何故か悲しみを感じ取っていた。

 

 

 

 一方、弾き飛ばされた星羅を助けた早苗。

 

 しかし目覚めた星羅は、左目を緑色に代え、人格も「来是」となっていて……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……覚えてるんですか? 今まで何があったのか……それに守矢神社の場所も、私のことも」

「星羅の記憶を“見れば”分かる。それに“僕”は全て知ってるからね……。とりあえず、守矢神社に着いたら詳しく話すよ」

「……は、はぁ」

「……君こそ、不審には思わないの? 突然、僕っ子になった奴、しかも未だに正体不明の存在だよ」

「何故でしょうね……不思議と、そんな気持ちが湧かないんです」

「へぇ。ま、たぶん僕のせいだけど」

「……はい?」

「や、なんでもないよ。それも、着いたら話すさ」

 

 

 

 山道をすいすいと歩いていく、星羅さん……もとい、来是さん。

 

 その後ろを、私は何とも言えぬ面持ちでついていった。

 

 

 傷が多いにも関わらず、何事もなかったかのように歩いていく来是さんは、

 

「“僕”でいられる時間は短い。早いとこ行かなきゃならないんだ」

 

と行って足を早めた。

 

 まるで使命を全うせねばならない人のように。

 

 

 

 ……そういえば何故この山道をこんなにすいすい進めるのだろう。星羅さんは確かここに来てまだ少ししか経ってないはずだ。

 彼? は……ここへ、“来たことがある”?

 

 

 

「射命丸さんのメモリで飛べば良いのでは?」

 

 そう問うと、彼女(それとも彼?)は

 

「生憎なんだけど……“僕”にはコレは“使えない”みたいなんだ」

 

と返した。

 

「えっ?」

「それに関しても着いたら話すよ。今は先を急ごう」

 

 

 何となく、面倒な事情を抱えていらっしゃるようだ。

 

 私は仕方なく……彼? の後をひたすらに追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく歩くと、彼? は突然振り返って、

 

 

「そういえば……菫子(すみれこ)ちゃんは元気?」

 

とこれも突然問いだしてきた。

 

「えっ、何故菫子さんをご存知で……? 彼女は今はいらっしゃらないですよ」

「そっかー……菫子ちゃんがいると楽なんだけどなぁ、僕らの記憶の説明(ハナシ)

色々あって僕はこの幻想郷の諸々を知ってる。少なくとも……三十人以上は名前と顔を覚えてるつもりだよ」

「……」

 

 

 

 宇佐見(うさみ) 菫子(すみれこ)さん。

 夢を見ている間だけ、幻想郷にやって来ることが出来る、ちょっと変わった外の世界の女子高校生。

 超能力が使えて、オカルトに目がない天才少女。

 私とは年も近い(なんなら昔は高校生だった)し、確か星羅さんも高校生らしき記憶を断片的に思い出していたはずだから、恐らくは学校の概念のない霊夢さんや射命丸さんへの説明役を頼みたかったのだろう。

 

 

 

「あまりここで色々話すと君が混乱してしまうだろうからさ、今はスルーしといて」

「……わ、わかりました……?」

 

 

 とはいえ。

 

 誰もよく知らないのに自身は全てを知っている、そんなこの人を霊夢さんや神奈子さま達に、どう説明すればよいのやら。

 

 

 ……改めてその顔を見る。

 緑に染まった左目と、星羅さんの声で話す“僕”の人格。見た目がほぼ変わっていないことから、段々と変な気分になってくる。

 

 

「……誰だお前って顔だね」

「そりゃあ当たり前じゃないですか」

「当たり前……か」

 

 先が思いやられるが……今はどうこう言っても仕方がなさそうだ。

 

 

 私は大人しく、彼の言葉を信じることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……誰か来た」

 

 

 

 

 

 来是さんの足が止まった。

 

 

 私も足を止め、幣を引き抜いた。

 

 

 

 

 

 

「……待ちなさい。星羅」

 

 

 

 

 

 ……歩いた先で、今一番会いたくない人が現れたから。

 

 

 黒く染め上げられた巫女服と、真っ赤な瞳。

 紛れもない、黒霊夢……、だった。

 

 だがその身は既に、さっきやられたのか、ぼろぼろになっていた。

 

 

 まさか…そんな身体で……私達を狙うためだけに、そのまま来たってこと!?

 

 

 

「……霊夢? いや、君はまさか…」

 

 その目を向ける来是さん。

 

 

 でも、どこか懐かしむ目をしていた、気がした。

 

 

「…………その反応……星羅、じゃない? まさか、記憶が戻ってるの……アンタ」

 

 違和感に気付いたのか黒霊夢が問うと、彼はきっぱり言った。

 

「うん。……今は、ね。君のおかげさ、霊夢(・・・・・・・・・)

 

 

 

「……覚えてるなら……馴れ馴れしく、私に話しかけないでっ!!!」

 

 

 

 既に満身創痍の身体なのに、黒霊夢は宙に浮くと、無数の弾幕を展開した。

 

 

 

 

「その記憶ごと、消し飛ばしてやる――!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっか。今の君は……復讐鬼(僕の知る君じゃない)のか」

 

 

 

 

 すると、来是さんが纏っていた雰囲気が瞬時に変わった。

 

 目付きを鋭くして、左目を光らせたように見えたと思えば、左手を掲げて、星羅さんのその声で……冷徹に発する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……止まれ(・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 その時起こったことを、私は心底信じられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あらゆる弾幕……御札や針、エネルギー弾、全てが静止していたのだ。

 

 それどころか、黒霊夢本人もその場で動きを封じられていた。

 

 

 

「……くっ……!? アンタ、何を……!?」

 

 

 

 引きつった顔で問う黒霊夢に対し、来是さんは言う。

 

 

 

 

 

「忘れたの? 僕の能力を。

 

 

 

 

 

 

 

 

僕の能力は……

 

【宙間物質を操る程度の能力】、だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間。

 

 

 

 

 

 掲げた左手を横に振り払うと、弾幕たちは左右にどかされて(・・・・・・・・)、私達の後ろで弾け飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………えっ…………!?」

 

 

 

 

 いとも容易く障害を取り除いた彼を見て、私は目を見開いて突っ立ってしまっていた。

 

 

 

 宙間物質。

 

 言い換えると……【浮いているもの全て】。

 

 

 

 

 つまり弾幕を放った時点、宙に浮いた時点で……その全てが彼の制御下に置かれてしまう、ということ……?

 

 

 まるで、チート。

 

 まさに、異次元。

 

 弾け飛んだ弾幕の光を受ける来是さんを見て…そう形容するしか無い能力だと、この時思った。

 

 

 

「……今は君に構っている暇はないんだ、堕ちた巫女(霊夢)

 

……帰ってくれ」

 

 

 

 そう言うと……彼は黒霊夢を難なくその場から持ち上げるように手を挙げ、

 

 

「……はっ!」

 

 

「うわぁぁっ!?」

 

 

 ほいっと投げる仕草と共に、どこかへ飛ばしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……な、なんてあっさりとした……」

 

 

 私が言葉に詰まっていると、

 

 

「……ますます、時間が惜しい。走るよ、早苗ちゃん」

 

 

そう言って、彼は飛んでいった方を見向きもせず、駆け出していった。

 

 

 ……一体、彼は何者なんだ……?

 あの霊夢さんと同じ強さを一方的に完封してしまう、あの能力は何なんだろう……??

 

 

 疑問は残るが、たぶん神社に着けば全て教えてくれるはずだ。

 

 私は急いで彼の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい。これでよしっと。無理に動かさないでね」

 

 

 

 諏訪子は霊夢の左肩を軽くぽんと叩いた。

 

「動かすなって言うなら叩かないでよ」

「ごめんごめん。でもその様子なら大丈夫みたいね」

「いや結構痛かったわよ」

 

 霊夢は視線をそこに向ける。

 

 包帯は、肩の動きを阻害しない程度にしっかり巻かれていて、結び目に新しいリボンが付いた。

 

「……そこにおしゃれ求めていいの???」

「だって霊夢の左手真っ白になっちゃうじゃない」

 

 遊び心だよ、と笑う諏訪子。

 霊夢は呆れながらも「ありがと」とだけつぶやいた。

 

 

 

 

「やぁ天狗。お腹は平気かい?」

「思ってたよりも平気でしたよ。……ま、それどころではないですが」

 

 

 一方、神社にはにとりが遅れて帰ってきた。

 射命丸の返事にうなずき、顔をしかめる。

 

 

「わかってる。……真面目な話、星羅の反応が消えたから慌てて戻ってきたんだが」

「あやや、あなたもご存知でしたか」

「我々も見失ってしまったのです。捜すどころではなかったので……」

「……そうか……」

 

 リュックサックを降ろし、何やら探知機らしきものを取り出す。

 

「あや、それはなんですか?」

「さっきメモリのデータをもとに作った、星羅の探知マシンさ。名付けて【星羅探すくん】ってところかな。ライズバスターの反応をキャッチしてくれるスグレモノさ。……今は途絶えてるけど」

「ネーミングセンスの欠片もありませんね」

「こういうのはシンプルイズベストなんだよ、椛ちゃーん」

「……はぁ」

 

 起動こそすれど、反応は何もない。

 

「死んでないとは思うが……」

「早苗さんも戻ってないんです」

「風祝もかい? ……なら彼女が連れて帰ってきてくれることを祈るか」

 

 にとりはそう言うと、探知機のスイッチを操作した。

 

「メモリの反応は……っと」

 

と、モードを切り替えると。

 

 

 

「……あれ、反応が近い……???」

 

 

 と、後ろを振り返った。

 

 

 

 

 

 

「神奈子さまー!諏訪子さまー!!」

 

 

 

 

「さ、早苗っ!? それに……星羅!」

「今まで何してたのよ!」

 

 

 

 

 境内に走ってくる、早苗と星羅であった。

 

 

「星羅! 無事だったの?」

 

 霊夢も慌てて走ってきた。

 

 

……のだが。

 

 

「……あれ? ……星羅、左目……緑色だったっけ……?」

 

 

 

 真っ先にそれに気付いて、足を止める。

 

 

 周りもそれに気付いた。

 

 

 

 

 

「…………まぁ、気付くよね。

 

今は……星羅、じゃないから」

 

 

「……は?」

 

 霊夢が唖然としていると、早苗は言った。

 

 

「皆さん。今の星羅さんは……

 

 

覚醒してるんです。一時的に」

 

 

 

 

 

 

 そして、“彼”は語りだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕の名前は、来是。星羅をひっくり返して、“来た”に正しいの“是”で、来是。

 

名前の由来?

星羅って名乗ったらややこしいから、テキトーに考えただけ。

星羅が記憶を失くす前の人格が勝手に名乗った名前ってことだけ覚えといて。

 

星羅が記憶を取り戻す過程で僕も目覚めた。星羅の本来の人格であり、裏の人格。僕はあいつだし、あいつは僕でもある。

端的に言えば、星羅が取り戻すべきものを知ってる裏人格だよ」

 

 

 そう語った彼――来是は、左目を指さして、

 

「これは中二病とかじゃなくて、僕の意識が現れてる時の副作用みたいなもの……だと思う。実は僕もよくわかっていない事がまだあるからね」

 

と、瞬きしてみせた。

 

 

「……ねぇ。来是……だっけ。正直こっちもよくわからないのだけれど……あの黒い私と関係があるの?」

 

 霊夢が問う。

 周りも全く同意見だったようだ、肯いて彼の反応を待つ。

 

 

「そうだよね、気になるよね。

 

……あいつ……黒い霊夢は……」

 

 

 来是は一つため息をついて、少し間を開けて、あまり言いたくない顔つきで、しかし言わなければならないとわかっているような声音で、やっとその秘密を吐いた。

 

 

 

 

 

「…………“僕の心が星羅だった頃の”霊夢自身だよ」

 

 

 

 

 

「…………!?」

 

 

 

 

 

 

 その言葉に、皆は驚きと混乱の表情を浮かべた。

 

 

 

「……そんなとこだろうと思いましたよ」

 

 ――射命丸を除いて。

 

 

「流石は文さん。頭の回転が速いですね」

「あやや? あなたから下の名前で呼ばれるのは初めてです」

「そのうち星羅も下の名前呼びになりますよ、予言します」

「あやや……」

 

 

 そして、来是は続けた。

 

「文さんが前々から見かけていた黒い霊夢はあいつの事。あいつは……僕が記憶を失くして星羅になったのを知っている。しかも、何故かこの幻想郷に霊夢が二人いる状況を生み出している。

 

何故ならあいつは……”僕が星羅だった時代からこっちに飛んでるから“、だよ」

 

 

「時代から飛んでる? どういうことなの?」

 

 またしても首を傾げる霊夢に、早苗が手を挙げた。

 

 

 

 

「あの……もしかして……

 

星羅さんと来是さんは……”記憶を代償に未来から遡ってきた“のでは、ありませんか?」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 来是は黙った。

 

 

 しかし、皆はそれでハッとして、徐々に納得の表情へ変わった。。

 

 

 

「星羅は過去に一度幻想郷に幻想入りした。それで私達とも一度会って、色々なことをした。しかし、何らかの原因で記憶を引き換えに、過去に遡って来た……。そう考えれば、全ての辻褄が合う。違うかい? ……来是」

 

 にとりが代弁するように、その憶測を述べる。

 

 

「よく考えたら……我々が、こんなにも簡単に星羅と仲良くなっているのは普通おかしい。だが……一度会っていると仮定すれば、その感覚が僅かに残っていて、そのおかげで成り立っている……そう説明できるんだ。違うかい? ……盟友」

 

 

 

「……ふぅ」

 

 

……と、彼はまた一つため息をついて、とうとう肯いた。

 

 

「……その通りだよにとり。そして流石は外の世界の人間だね、早苗ちゃん。……星羅は、過去となった未来(・・・・・・・・)からやって来たんだ」

 

 

 

 その言葉に、皆は黙った。

 

 

 星羅に、どう説明すればいい?

 こんな事を言っても信じるだろうか?

 

 

 

 すると、神奈子が疑問を呈する。

 

「……ちょっと待て。それならタイムトラベルをするような理由は何だ? そんな悲惨な出来事でもあったのか?」

 

 言われてみれば、と諏訪子も続く。

 

「わざわざ記憶を失くしてまでするぐらいの……何か、があったの?」

 

「……それは」

 

 答えようとする来是。

 

 ……が、

 

 

「……っ!」

 

 

 突如その身体がよろめいた。

 

「な、なんですか今度は!?」

 

 椛が慌てると、

 

 

「……駄目だ、時間切れ……みたい」

 

「……えっ?」

 

 突然腕時計を見るやいなやそう言った彼に、早苗が問う。

 

「時間切れって……制限時間があるんですか?」

「……何でかは、わからないけど、どうやら……僕が、星羅の身体を借りて何かをするのには……制限時間が、あるみたいだ」

「ええっ、ちょっとその前に答えなさいよ! ていうかそれもっと早く言いなさい!!」

 

 

 霊夢が慌てて叫ぶが、時既に遅し。

 

 とぎれとぎれの言葉で、彼は皆に伝えた。

 

 

 

 

 

 

「……機怪は……僕が関わっている。あいつらの、本当の狙いは……幻想郷崩壊じゃなくて……

 

 

僕の、記憶の……抹消だ」

 

 

 

 

 

 

「……!!」

「ら、来是さん!」

 

 

 

 

 答えなのか、それとも別の何かを示唆する言葉か。

 

 

 

 その言葉を最後に、彼――否、星羅の身体は、力なく崩折れた。

 

 

「ちょ、ちょっと! 来……いや、今は星羅? とにかく起きなさいよ!」

 

 霊夢の声にも、身体は動かない。

 

 だが微かに息がしていた。

 

「……早苗、とりあえず神社で寝かせておくわよ」

「もちろんです」

 

 早苗は、片手が上手く使えない霊夢をサポートしながら二人がかりで星羅の身体を運んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 ――星羅さんが……未来だった過去からやってきた存在。

 

 でも、それを知っている機怪は何故、彼女を狙う?

 記憶の…抹消って、なんの意味が……?

 

 

 

 

 現状、その答えを知る手段は失ってしまった。

 

 ……わかる日は来るのだろうか。

 

 

 

 力なく、自分と霊夢の腕で眠る星羅を見て、早苗はその表情に複雑な心境を隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そう。黒い私が、そんな容易く……」

「恐らくいつか星羅さんも、あの力を……【宙間物質を操る程度の能力】を、使えるようになると思います」

 

 

 眠る星羅の傍らで、早苗は霊夢にさっきの出来事を伝えた。

 

 

 知らぬ間に起こっている、進んでいる事に、星羅は何と言うだろうか。

 

 

 

 二人の巫女は予想も出来ない将来に、思わず顔を見合わせ、そして再び星羅を見やった。

 

 

 

 

 そのそばには、ポケットから零れ落ちていた、

 

早苗とのものであろう、ブランクのメモリがあった。

 

 

 

 

 

 




 次回は寝ていた星羅のお話。

 そう。
 “寝ていた”、これ次回のヒント。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

040. 夢の支配者

 最近寝付けなくて大変です。

 そりゃあ夜中に執筆してたら寝れないわな。


 ……というわけで、これから地道に投稿頻度を戻していくつもりです。よろしくおねがいします。

 タイトルでお察しの通り、あいつの出番です。










 

 

 

 

 

 

 

 

 

 星羅の過去の人格・来是。

 

 浮いているものを制御下におき、黒霊夢を一捻りしてしまう彼の正体は“星羅が遡る前の人格が独立したもの”であった。

 

 

 しかし来是が表立って話す時間が限られている彼は、

 

“星羅は来是と同一の存在であること”

“黒い霊夢は来是が星羅として存在していた頃の時空から何らかの理由でこの幻想郷に飛んできたこと”

“機怪の狙いは星羅本人よりも、来是としての人格を成す記憶であること”

 

と告げて、その意識を内に戻してしまう。

 

 

 一方、今の今まで眠りについてしまった星羅だったが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 …………

 

 

 

 ………………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 声が響く。

 

 

 

 

 

 

――〈いらっしゃい〉

 

 

 

『……う……』

 

 

 

 

 

――〈ぐっすり眠れた?〉

 

 

 

『…………えっ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄紫と、赤い交差が走る空間。

 

 奥には窓の光だけがにじむ、街のような遊園地のような建物が並んでいた。

 

 どこか儚く、どこか非現実が漂うこの場所の一角で、星羅は目を覚ました。

 

 

 

 

 

 また声が響く。

 

 

〈……おはよう(・・・・)。迷える子羊さん〉

 

 

 

 朧気な視界、目の前にいるのは、やたら不敵な笑みをたたえた少女。

 

 パジャマに近い、黒地に白いポンポンのついた服装、それに周囲に浮かぶ桃色の球体がやたら映えるのは気の所為だろうか。

 頭にはサンタ帽を引き伸ばしたような紅白の長いナイトキャップを被り、青い髪がはみ出ている。

 

 

『……あなたは?』

『私の名前は、ドレミー・スイート。……“夢の世界”の支配者です。以後、お見知り置きを』

『……ドレミー、さん?』

 

 

 ドレミーは宙に浮いていたその身を、ふわりと床に着けた。

 

 それを見て、星羅が自分の居場所に気付く。

 

 

『……って、あれ? このベッド……私、あのとき……?』

『ここは夢の世界よ。あなたの意識は眠ったままなのよ。床に放置するのは流石にアレだったから、用意させて貰ったわ。あと枕も。「スイート安眠枕」っていうのよ。快適でしょう?』

 

 

 桃色の布団をかけられ、謎の安眠枕でベッドに寝かされていたらしく、星羅はそっと布団を直してから降りる。

 

『人のベッドは使ったらしっかり元に直さなきゃ……』

『まぁ、偉いわね』

 

 感心してみせたドレミーに、星羅は首を振った。

 

 

『……褒められるようなことじゃ、ありませんよ』

『……ほう?』

『それくらいの敬意と、感謝はいつでもしなきゃ。人として』

『……そういう心は大切よ。幻想郷の人々はクセしかないから、あなたみたいな人は珍しいのよ』

『はぁ』

 

 

 ドレミーは何かを取り出す仕草をしてから、指を弾いた。

 

『さ、そこに座って』

 

 

 すると、いかにもな「ボワン」という音が響き、椅子が1つ現れた。

 言われるままに、そこに掛ける。

 

『……何でもあるんですか? ここ』

『……私次第ってところね』

『?』

 

 

 ドレミーは後ろを振り返って、続けた。

 

 

『……薄々勘づいているんじゃあない? ここが、非現実だって、ね』

『……』

 

 

 

 

『改めてここは、夢の世界。幻想郷の人々が夢見たものが形になって象られる場所。人々の夢、欲望、なりたいカタチ。それらが“夢の世界の住人”として顕現して世界を造る。それがこの世界よ。それを管理してるのが私……ということね。今は私が新しくあなたのための夢を創って、直接あなたを連れてきている状態よ』

『……はぁ』

『それと、私について言い表すなら……そうね、夢を見せ、夢を創り、夢を食べる……(バク)って言えば、わかる?』

『あー、なるほど…………え?』

『ふふ、似ても似つかないわよねぇ。それはあなたが“現実の概念、外の固定概念”に囚われてるからよ。ここは仮にも幻想郷なのよ。まぁこんな毛玉ポンポンの白黒に言われても説得力ないかもしれませんけどね』

 

 

 星羅はただ頷くしかなかった。

 

 ちなみに動物の獏と妖怪のバクは厳密には別物である。星羅は知る由もなかったが。

 

 

 

『この世界も、まぁ、人を除けば……実はあまり変わらないわ。それに全ての者が視る夢は根幹で繋がっているのよ。見知らぬ人や場所が夢に出てくるのはそれが原因。そういった、根幹の繋がりがこの世界を夢の世界たらしめているの』

『……へぇ』

『私はこの世界を管理している。夢を消したり、新しく創ってあげたりできる。夢同士の根幹の繋がりを悪用されるのを防ぐための監視も、私の仕事ね。毎日変化があるから、これでも大変なのよ』

『……こんな、広大な世界を……たった一人で?』

『えぇ。自分でいうのはアレだけれども、すごいでしょう』

『すげぇー……』

『ふふっ、いい反応ね。好きよ、そういった感情は』

 

 常によくわからない笑みを顔に浮かべているドレミーを見て、星羅は微妙な面持ちになった。

 

 

 

『そうだ。夢の世界の住人の話だけど……例えば……そうねぇ』

 

 と、ドレミーは周囲を見渡して誰かを探す。

 

 星羅がぼうっとしていると、ドレミーは『おっ』と声を上げて、それに指さした。

 

『ほら、アレとか参考になるわよ?』

『……えっ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこには、欠伸をしながら気怠げな表情で歩く霊夢と、元気に飛び回っては彼女の周囲でしきりに何かを話す魔理沙がいた。

 

 

 

 

 遠くて声は聞こえない。

 

 だが様子ははっきりと、その目に映った。

 

 

『……霊夢? それに……魔理沙?』

『夢の世界の二人、ね』

 

 ドレミーが頷く。

 

 だが、星羅は映る景色に妙な違和感を覚える。

 

 

『……本当に、あの二人……なんですか?』

 

『……ふふ、勘が鋭くて助かるわ』

 

 

 また不敵な笑みを浮かべると、ドレミーは言った。

 

 

『……さっきも、言ったでしょう? 欲望や、夢、なりたいカタチが、この世界の住人として顕現すると。あれが、二人の内面を映し出した姿ね』

『……』

『巫女のほうはいつものんびりとしてるわ。毎日大変だから、もしかしたら疲れが溜まっているのかもしれないわよ。それも身体より……精神的な疲れが。あの白黒魔法使いのほうはどこか超人的な言動が多いのよ。そういうものに……魔女とかに、憧れているのかも?』

 

 管理者らしく、すらすらと二人の特徴を述べてみせたドレミー。

 

『この夢の世界には、幻想郷はおろか全ての種族……人妖その他全ての夢世界の人格が生きている。あなたも例外ではないわ』

 

 

 そう言って、左手に何やら分厚い本を取り出した。

 

 途端に顔をしかめて、ドレミーは告げる。

 

 

 

『……あなたの場合は……“そもそも例外な存在”なのだけれども、ね』

 

 

 ドレミーは本を開き、いくらかページをめくった。

 

 

『あなたは特別過ぎる。それはあなた自身も感じているはずよ。突然現れたのにも関わらず、こんなにもこの世界に影響を与えているなんて、普通はおかしな話だものね』

 

 星羅は思わずうつむいた。

 

『…………夢主人公、ってヤツですか』

『……ご名答。思い出していたみたいね。まさにあなたは今、それに限りなく近い存在になっているのよ。あなたが現れたことで、本来現れない敵が幻想郷を攻めて、本来平和に過ごすはずの少女達が戦っている。全ては本来“部外者”だったはずのあなたを中心に世界が動いているからよ』

『……』

『その顔からして……また、思い詰めちゃったんじゃなくって?』

 

 ドレミーの問いに、こくりと頷く。

 

 

 嫌なタイミングに限って、呼び起こされてくる記憶。

 

 そのたびに、自分のせいで事が起こっているのだと突き付けられる。

 

 

 

 

 

 二次創作などにおいて、本来の主人公の活躍を奪う程までに存在感を放つオリジナルの主人公のことを、世間では「夢主人公」、またはとある物語の同人誌によるものから取って「メアリー・スー」などと呼ぶ。

 

 その意味合いとしてよく用いられるのは、“痛い主人公”

 

 突飛した強さや活躍をしたり、理由もなく周囲からちやほやされたり、やたら大きなバックを持っていたりするものを指す。

 

 

 

 

 

 

 星羅は、それに見事なまでに当てはまっていることを、それなりに前から自覚していたのだ。

 

 そして、その言葉を思い出して、改めて感じた。

 

 

 

 

『……私のせいで、この世界は……めちゃくちゃに……っ』

 

 

 

 

 つぶやく星羅に、ドレミーは、

 

 

 

 

 

 

 

『…………なら、あなたが変わればいい。違うかしら?』

 

 

 

 

 

 

 

 

と、投げかけた。

 

 

 

 

 

『…………え?』

『今の自分の姿が嫌なら、変わればいい。世界をめちゃくちゃにしてしまったなら、もう一度正しく変えればいい。自分を変える事も、時には必要よ。……夢のあなたはそれを望んでいるわ』

 

 

 

 そう言って、ドレミーはあるページを見せる。

 

 

 

『……これは、来是。あなたの裏の人格。現にあなたがいる間、あなたの夢世界での存在を成している、本来のあなたよ』

 

 ドレミーがスケッチしたのだろうか。

 星羅にそっくりで、左目が緑色にマーカーされた人物が描かれていた。

 

『……らいせ……? 私の、裏……?』

『まぁ、そろそろ目覚めの時だから、霊夢達にでも聞きなさい。多分、来是が話してくれているはずよ』

『……』

『記憶うんぬんは流石に私の専門外だけれど、私からアドバイスを1つ。

ヒントなら幾らでも転がっているのだから集めてみなさい。何か答えが得られるわよ、きっと』

 

 本を閉じ、どこかにしまうドレミー。

 

 

『……人は簡単に在り方を変えられる生き物よ。あなたにはまだ、迷える時間がある。

 

……望んだ通りに、生きてみなさい。

それが、あなたが心の奥底で願っている“夢”への近道よ。

 

世界を変えたいって願うなら、自分が変わらなきゃ』

 

『……はい』

 

 

 今自分が何をすべきなのか。

 それを改めて認識させられた気がして、星羅は快く頷いた。

 

 

 

 

『……それじゃあ、いっときのお別れね。また何かあったらいつでも来なさい。あと、安眠枕もよろしくね。

 

それじゃあ……おやすみなさい(・・・・・・・)、いい夢を――』

 

 

 

 

 

 意識が落ちる寸前、視界に映ったのは。

 

 三度笑みを浮かべたドレミーと、曖昧な世界の暗く眩しい風景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっはよーーございまーーーーっす!!!」

 

 

 

「うぎゃあぁあぁ!?」

「……もっと穏便な起こし方はなかったの?」

「……ガクッ」

「ほらまた夢の世界に行っちゃうわよ」

「わーわー、ごめんなさいごめんなさい!起きて〜!!」

 

 

 

 

 現に帰った星羅だったが、目が覚めて即刻、早苗のメガホンによるモーニングコールによってまた夢に戻されるところであった。

 

 そして、星羅はあれから丸一日寝ていたこと、なんとか博麗神社まで運んでもらったこと、そして来是のこと、もう一つの能力のことを、霊夢と早苗に聞かされた。

 

 

 丸一日寝ていた故に空っぽのお腹に味噌汁を入れながら、星羅は言った。

 

 

「……そっか。私……そんな過去があったんだね」

「まだ理解が追い付けてないわ、私達も。逆にわかったこともあるけれど」

 

 霊夢は味噌汁のおかわりを注ぎながら、早苗に問う。

 

「早苗。どうするの」

「とりあえず山の皆さんには、最大限の警戒態勢を敷いてもらいました。特に天狗と河童の皆さんが中心になっているようです。それと、射命丸さんには黒霊夢の捜索も頼みました」

「結構根回ししてあるじゃないの」

「あとは都合よくあの人が来ればなぁ」

 

そう言って後ろを向き、鳥居の方を見やる早苗。

 星羅が首を傾げていると、鳥居の奥から誰かがぱたぱたと走ってくるのが見えてきた。

 

 

 

 

「霊夢っち、早苗っち〜! おまたせ〜!!」

 

 

 

 

 白いリボンのつば付き帽子に学生服、なにかの文字が描かれたマント、赤い眼鏡。

 一瞬でそれらを呼び起こすほど既視感のある少女に、星羅はハッとした。

 

 

「……あの子は……?」

 

 

「ふぅ、着いたぁ。あっ、君が星羅ちゃん、だよね。私は宇佐見(うさみ) 菫子(すみれこ)! 初代秘封倶楽部(ひふうくらぶ)会長の天才超能力者よ! よろしくね!」

 

 

 

 ビシッと決めポーズを取る少女――菫子。

 

 

「……!!」

 

 

 その風貌に、星羅は過去の思い出を重ね、

 

 

 

 

「……………………外の世界の、人間……だよね。

 

お願い。聞きたいことが山程あるんだ」

 

 

と言った。

 

 

 

 

 

 ――そして、振り返って彼女にもまた言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……早苗ちゃん。

 

あなたにも……聞きたいことがある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







 菫子ちゃんは星羅と同世代だと思う。多分。
 早苗も合わせてJK三人娘ってところです(おい)。


 また菫子ちゃんの二人称の呼び方ですが全部カタカナだと読みにくいかもしれないため今作ではあえて漢字使います。
 ただもしかしたら「レイムッチ」に戻す可能性もふつーにあるので戻っても悪しからず。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

041. 現し世の言の葉


 早苗と菫子って年代的には同じ位なのかな、と思います。
 多分。


 早苗の過去が実際にどうなっているのか、気になりますね。
 まぁ恐らくしばらくは明かされないと思いますが。

 というわけで始まります。




 

 

 

 全ての過去を知る裏人格・来是が語る星羅の秘密。

 

 その頃星羅は夢の支配者ドレミー・スイートによって軽い手解きを受け、自分が変わることについて考えさせられる。

 

 

 外の世界と“過去になった未来”の幻想郷、そして“今生きている”幻想郷の記憶を有する星羅のために、早苗は菫子を呼び、

そして星羅は“元”現代人と“現在進行系の”現代人に、あることを尋ねるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……二人に、聞きたいことがあるんだ。教えてくれるかな」

 

 

 

 

 

 ちゃぶ台を囲んだ面々を前に、星羅は言う。

 

 

「話は聞いてるよ、星羅っち。なんでも聞いてね」

 

 

 帽子とマントを外した菫子は快く頷いて返した。

 

「あ、でもその前に軽く、自己紹介するわね。改めて、私は宇佐見(うさみ) 菫子(すみれこ)。夢を見ている間、この幻想郷に来ることが出来る外の世界の女子高生よ。あなたのことは霊夢っちから聞いてるわ。よろしくね!」

「うん。よろしくね、菫子ちゃん」

 

 しっかり握手を交わす二人。

 

「……確か早苗も外の世界から来たのよね」

 

 霊夢が早苗を向くと、彼女は頷いた。

 

「はい。星羅さんの持っている外の世界の記憶のフォローも、ある程度できると思います」

「助かるわ。外の世界は非常識だからわからないのよ」

「それは霊夢さんの目線でしょうが」

 

 霊夢は射命丸が書きまとめておいてくれた、今回の事件のメモ帳を片手に言った。

 

 

「とりあえず、菫子のために状況把握から行くわね」

「よろしく、霊夢っち」

「えーっと……まず、星羅は幻想入りしてきた存在で、記憶喪失。何故か機怪に狙われていて、私達は彼女を守りつつ失われている記憶を取り戻す手伝いをしているわけ」

「うんうん、オッケー。それから?」

「それで、昨日妖怪の山に現れた黒い私……俗に言う、黒霊夢。彼女と星羅は、どうやら“別の時間軸の幻想郷から遡ってきた”存在みたいなのよ」

「……えっ? つまり……タイムトラベルしてきた、てこと?」

「そういうことになりますね。ね、霊夢さん」

「えぇ。それと、星羅の記憶を持っている裏の人格――来是ってやつが星羅に眠っているの。黒霊夢の話も“彼”から聞いたわ」

「……“彼”? ……お、男の子!?」

「……さぁ? 口調は星羅とあまり変わらなかった……というか、星羅の口調自体割と中性的だし。星羅の人格との区別の可能性も否めないからわからないわ。

ただ一つ言えることは、来是はこの異変の全てを知っているみたいよ」

「だったら彼に聞くのが手っ取り早いじゃん?」

「それが……どうやら彼が意識を表に出すためには一定条件が必要みたいで、しかも長時間は維持できないんです」

「うーわ何そのご都合展開、面倒ね……」

 

 

 

 赤縁の眼鏡を直しながら、菫子はため息を1つ。

 

「とにかく、今は来是が残した情報と、星羅っちが引き出した記憶を元に色々解読するしかないってことね。わかったわ」

 

 そう言うと、菫子は改めて星羅に向き直った。

 

「それじゃあ、星羅っちの聞きたいことについて答えようかな。できるだけ答えてみせるから、なんでも言ってね?」

 

「う〜ん……じゃあ……」

 

 

 少し考えたあと、星羅が問う。

 

 

 

「…………高校って、何?」

 

 

 

「「……そこからかー」ですかー」

 

 

 割と外の記憶が根本的に欠けていることに、菫子と早苗は嘆いた。

 

 

「……えっと、まず日本の学校は小中高分かれていて、5〜12歳の6年間は小学校、12〜15歳での3年間は中学校、そして今菫子さんも通っている、15〜18歳の3年間を高校で過ごすんです」

「ふむふむ」

「で、すごくざっくり言うと……高校は今まで習ったことを更に深く、高校によってはより専門的分野別に学ぶところなのよ。私の学校は普通のところだけどさ」

「へぇ。なるほどね……だいたいわかった」

 

 星羅は頷き、霊夢もメモを書き足しつつ補足する。

 

「ほら星羅、人里に慧音がいるじゃない。寺子屋の専門分野版ってことよ、たぶん」

「あ〜、だいたいわかった」

「それわかってないでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次。たまに記憶によぎる、“青いロボットヒーロー”って誰だろ」

「青い……ロボット?」

「うん。私のライズバスターみたいに腕が銃になって、敵を倒すの。なんかのゲームだったかな……」

「えぇ……? あ、でも私、なんか聞いたことあるよーな……?」

「あ! それってもしかしてアレですよね?」

「え? 早苗っち知ってるの?」

「はい! たぶん……」

「……はっ! 嫌な予感……」

「? どしたの霊夢っち」

 

「たぶんそれロック○ンです!!」

 

「あ、それだ☆」

「どわー!! 伏せろ伏せろ〜!!」

「え?」

「あっ!? ごめんなさい!!」

「は?」

「聞かなかったことにしてね星羅っち分かった???」

「えっえっ、う、うん……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気を取り直して……次。えっと、私って何歳に見える?」

「女の子なのに年齢の話するんだ」

「へ?」

「……うーん……ま、私とか早苗っちと同じ、高校生くらいじゃない? 高校の記憶もあるんでしょ?」

「だったら16,17歳かぁ。ちなみに霊夢はいくt」

「……あのね星羅。乙女に年齢を聞かないの。わかった??」

「あ〜……大変申し訳ございませんでした」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ私から逆に質問。昔の星羅っち、どんな生徒だったの?」

「うーん……思い出せる限りだと……あんま今と変わってないと思う。正義感高くて、優しいって……よく言われてたような、気がする」

「そうなの?」

「その……来是、だっけ? 来是に聞かなきゃわからないなぁ」

「そっかー。……うーん、まぁ、不完全な記憶だろうし、やっぱナシで。ゴメン、星羅っち〜」

「ううん、気にしてないから」

「はいはい! 私からも質問です! 昔の趣味はなんですか!?」

「早苗……アンタ話聞いてた???」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後もいくつかの質問を通して、菫子と早苗は星羅がどんな存在なのかを大まかに掴んだ。

 

 

「だいぶ星羅っちについてわかってきたわ。他には何か聞きたいことはある?」

「えぇ、うーん……じゃあ……」

 

 星羅は再び少し間を空け、こう聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……外の世界って……、理不尽?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「…………え?」」」

 

 

 

 菫子も、早苗も、手を止めた霊夢も、思わず顔を上げた。

 

 

「……私が集めてる記憶(メモリ)ってさ。暗い話しか、記録されてなくて。…………だから、どうなんだろうって」

 

 真剣な表情に、皆が思わず唸る。

 

 

「……そうだなぁ」

 

 菫子は、険しい表情で答えた。

 

 

「人によるけど……少なくとも、何もかも理不尽ではないとは言えないんじゃない?」

「……」

「私も色々あるけどさ。なんだかんだ楽しめてはいるよ、オカルト探し。それに幻想郷に来れば霊夢っちや魔理沙っちもいるから。なんていうかなぁ……そう、“楽しみ”を探しながら毎日生きてれば……理不尽なんて、へっちゃらなの」

 

 

 

 険しかった顔を笑みに変え、彼女は続ける。

 

 

「……今、思ったんだけどさ。星羅っちも、過去ばっかり見てないで、もうちょい前向きになったらどう?」

「え?」

「例えば……ほら、早苗っち。早苗っちはそうして生きてるらしいじゃん?」

「ハイ! 何せ“幻想郷では常識に囚われてはいけない”ですからね!」

「……?」

「早苗……もう少しわかりやすく言いなさいよ」

「あ、すみません! でも……やりたいことに熱心になってたら、毎日が楽しいんですよ! この幻想郷には、まだまだ知らないこと、驚いたことで溢れてますから。自分にとっての非常識を探してモノにする、そんな日々を送ってます」

「……早苗ちゃん」

「実は私も、ここに来てから色々変わったんだよ。星羅っちも……もっと素直に色々受け入れてみたらどう?」

 

 

 二人の言葉に、星羅は思い出す。

 

 

 

 今まで受け継いできたのは過去の記憶だけではない。

 今の自分が関わり、創ってきたものも沢山あるのだ。

 

 メモリはガワではなく自分自身を構成してる一部……星羅という存在の、一欠片なのだと。

 

 

 

「……そっか。私……囚われてたんだ」

 

 星羅は立ち上がる。

 

 

「……前を見なきゃ、歩けない。進めない。私が前を向かなくちゃ……始まらない! みんなのために、私のために、私が変わらなきゃいけないんだ!!」

「おー、よく言ったじゃん!」

 

 菫子が思わず拍手で褒めた。

 

「私だって知らないことが沢山あるもん。それを見つけていくのが、幻想郷で星羅っちができること、じゃないかな?」

「……うん!」

「それに……」

 

言いながら、早苗を向く菫子。

 

 

「……早苗っちとの“新しい”思い出も、作らなきゃ。でしょ?」

「……!」

 

 

 

 記憶集めは、過去を取り戻すだけじゃない。

 

 自分の新しい未来を切り開くための、基盤――舞台装置を創るようなものなのだ。

 

 

 

 星羅は決心したように強く肯いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、星羅と早苗は、やるべきことのために守矢神社へ飛び立っていた。

 

 

 

「そう言えば星羅さん」

「何?」

「怖くは……ないのですか? 突然知らされた裏人格……来是さんのこと。自分の知らない自分を語る存在のこと……」

「うーん……」

 

早苗の言葉に少しだけ考えた星羅は、こう答えた。

 

 

「……実際に会ってもいないのに、決めつけちゃうのはアレかな、って思ってさ。きっとその人も私の一部。拒絶するかどうかは……全てがわかったその時までわからない。今は受け入れるしかないよ」

 

「…………」

 

少しは吹っ切れたのか、星羅は前を向いて山へと加速していった。

 

 複雑な心境を抱えたまま、早苗はその後を追う。

 

 

「とりあえず今は、早苗ちゃんとの思い出作りに集中しようよ。まだ時間は幾らでもあるんだし、敵が現れたら追い払うだけ。自分で巻き込ませてしまってるんだから、それくらいの……ケジメというか折り合いというか、そういうのは付けたくてさ」

「……なんというか、強いですね。星羅さんは」

「えっ?」

「普通なら、全部が抜け落ちた状態だったら絶望しますよ。何もわからない、何も知らないのに、ただただ狙われる――そんなの恐ろしくてたまらないですから。……でも星羅さんは、いつもそうやって前向きになれるだけ、強いと思います」

「…………強い、か」

 

 

 何か噛み締めるように、星羅はつぶやいた。

 

 

 

「私……もっと強くなれるのかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、

 

 

 

「……アンタすごいわね。話術でも学んでる?」

 

そう霊夢に問われ、菫子は

 

「や、別に。ただまぁ……」

 

少し考え、こう応えた。

 

 

「……私、超能力者だし? 天才のカンよ。なんてね♪」

 

 

 

 陽の光にレンズが反射し、菫子は軽く決めポーズ。

 霊夢はそれに苦笑しつつも「菫子らしいわね」と零した。

 

 

「……それに。早苗っちの能力……【奇跡を起こす程度の能力】じゃん。きっとあの2人なら……起こせるよ。誰もが予測できないほどの、奇跡(ミラクル)を、さ!」

 

 

 奇跡。

 確率の低い事象を引き当てる力。

 良いことも悪いことも、低ければ引き当てられる力。

 

 今の星羅なら、きっととんでもない奇跡を引き寄せるようになるのだろう、早苗とのメモリを覚醒すれば。

 

 

「ふふ、それもそうよね。……あれ、でも早苗の能力って幸運とかそういう奇跡じゃないわよね」

「えっ……あぁ〜なんかそんなこと言ってた気がする……」

「…ま、なんとかなるでしょ。今までだってそうだったんだから。

 

……それに」

 

霊夢は一呼吸置いて続ける。

 

 

「アイツ……星羅は、私達よりも沢山悩んでると思うの」

「……?」

「気が付いたら記憶が消えた状態で、見知らぬ敵に襲われて、理屈もわからない力に助けられて。いろんな人達と関わる中で、アイツも自分のことについて沢山悩んでると思うんだ、私。一緒にいると案外発見があるものね」

「……霊夢っち」

「だからこそアイツは無限の可能性を持ってるとも思う。それに気付いてるから……メモリというものに時に怯えちゃうのよ、たぶん。射命丸(あのてんぐ)が居なかったらと思うと……」

 

 

 

 

 射命丸は言っていた。

 

 

 

 ――星羅さんには無限の可能性、そして進化の可能性があります。私達とは次元が違う程の強さを引き出せる可能性が……。私達の使命はきっと……それを覚醒させることではないでしょうか?

 

 あのとき力を貸した時に確信したんです。星羅さんならば、きっとできると。

 霊夢さんも、薄々勘付いているのでは……?

 

 

 

 

――と。

 

 

 

 

 

「……可能性、か」

 

 

 遠くを見やる。

 

 かすかに星羅と早苗が見える。

 

 

「今はアイツの見せる可能性と、早苗の奇跡を信じましょ」

 

「……うん!」

 

 

 

 行く先わからぬ未来に思いを馳せ、霊夢は2人を追うために歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 蓮子とメリーは出ないかなぁ……。

 出たらゴメン。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

042. 奇跡の価値

 同名のラストワードから取りました。

 早苗さんって霊夢と色々な意味で対比されることが多いよね。そりゃあそうか。



 彼女の過去は色々わからないことだらけなので、こんな感じであってほしいと思って書きました。








 

 

 菫子の登場で、進展する星羅の過去の記憶。

 

 彼女と早苗の言葉を受け、凄惨な過去ばかり見ていないでそれらを糧に前に歩み続けることを誓った星羅は、早苗と共に山へと戻った。

 

 霊夢もまた、そんな星羅が見せる可能性を信じてみると心に決めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君が噂のなんでも屋かい? 私は飯綱丸(いいづなまる) (めぐむ)、天狗たちを率いる大天狗だ。以後、よろしく」

 

「そして私は管巻(くだまき) (つかさ)です。飯綱丸様のお付きをさせてもらっております。お見知りおきを」

 

 

 山に戻った星羅と早苗は、射命丸に連れられて二人に会わされていた。

 

「大天狗様はすごく偉い方なのです! この人の命令は絶対なんですよ〜」

「は、はぁ」

「君のことはこの間山で見かけたわ。射命丸や椛が世話になったね、礼を言う」

「いえいえ、私の方こそ助けられましたから……」

 

 

 

 青を基調とした服装に金の肩当てが映える飯綱丸。

 純白の服とは裏腹になんか胡散臭い雰囲気を醸す狐の典。

 星羅的には「ほんとにこの人達、お偉いさんなのかよ……」と思わず心で呟いてしまうほどだった。

 

 とはいえ飯綱丸からは立場故の威厳があったので、少なくとも本当なんだろうが(狐の方は微妙)。

 

 

「早苗は久しぶりだな。元気だったかい?」

「そりゃあもう! 大天狗さんこそ元気そうで何よりです」

 

 早苗と軽く挨拶を済ませ、

 

「さて。突然だが星羅。君にある相談があってね」

「はい? なんすか」

「見せたいものがある」

 

と、飯綱丸は典からなにやら模造紙を受け取り、バッと広げてみせた。

 

「この間……と言っても数週間前だが、椛が持ってきたんだ。……新型機怪の設計図を」

 

 

 そこには解読不可能な文章で描かれたなにかの機怪の設計図が示されていた。

 

 ざっと見てみる。

 

 

 全身の浮遊ユニット、沢山のミサイル。やたらとセンサーも増加している。

 

 ……ように見える。

 

 

「……重武装なのは、見て取れますけど……」

 

と感想を零すと、飯綱丸は言った。

 

 

「……問題なのはそのサイズでね。これを見てくれ」

 

 よく見ると、射命丸の字でなにやら補足説明が書いてある。

 

 

 

「射命丸によれば、この機怪の推定サイズは……この山の半分くらいはあるらしい」

 

 

 

「…………え??」

 

 

 

 さらっと告げられた事態に星羅は唖然とした。

 

 

「これだけの設備を一度に稼働させるにはサイズが必要だ。そこから逆算したらしい」

「その通りです、飯綱丸様。星羅さんもわかるでしょう?」

「……言われてみればそうですけど……」

「つまりこれはどこかを丸ごと破壊するための、いわゆる拠点攻略用の存在らしい」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!そんなのが襲ってきたらどうやって倒すんですか!?」

「まあまあ落ち着いてくださいな、星羅さん」

 

 典が割って入る。

 

「それを考えるために、機怪をたっくさん倒してきたというあなたをお呼びしたのですよ。機怪を素早く、かつ確実に破壊してきたあなたならばなにかわかると思いまして」

「そんなこと言われても……」

「何でも構わないんだ。何でもいいから聞かせてほしい」

 

飯綱丸も続けた。

 

「君は今まで、3箇所もの重要な場所を守ってきている。この山も一度救ってくれたと聞く。そんな君ならば何かしら思うことはあるのではないか、って思った次第さ。それに奴らに狙われているのだから理由も無く襲われることはないだろう?」

 

「……」

 

 星羅は少し思い返す。

 

 そして、

 

「……そう、いえば」

「?」

 

 

あの時感じた違和感、そしてずっと抱いてきた違和感を回想した。

 

 

 

「この間の襲撃、リーダーがいませんでした」

 

「……何?」

 

「それにあいつら、倒れる直前に……創造主(マスター)って言葉を残すんです。誰のことかは、わからないけれど……」

 

 

 

 

 

「……創造主、ですか?」

 

 

 口を開いたのは、早苗だった。

 

「それって、あの機怪たちの製造者……生みの親がいる、ってことでしょうか?」

「間違いないだろうとは思うが、わざわざ死に際に告げる理由は何だろうか?」

「うーむ、私にもさっぱり」

 

 飯綱丸と射命丸もうなる。

 

 

「ま、とにかくです、飯綱丸様。彼女の証言が確かならば、リーダー格の機怪がこの山へ襲来するのも時間の問題ですよ?」

「そうだな……既に河童達と協力して防衛前線は作っているが、敵の規模がわからない以上油断はならない」

「大丈夫ですよ飯綱丸様〜、割りかし最新兵器も投入してるそうじゃありませんか? それに、空は我々の戦場。わけのわからぬ侵略者に遅れは取りませんって」

 

 典がそう言ってニヤニヤするが、飯綱丸は顔を変えずに星羅へ向き直った。

 

「とにかく……星羅、恐らく次の戦いには君が必要不可欠だ。いつでも戦える用意はしておいてくれ」

「あっ、私も出るんだ」

「や、星羅さんそりゃそうでしょ」

「いやまあ分かってたけどさ、さも当然のように言われて動揺しちゃった。……分かりました」

「頼りにさせてもらおう。君の活躍は射命丸から聞いてるよ」

「えっへーん」

「なんか誇張表現ありそうで怖い」

「んなっ!? なぜバレた!! …あっ」

「何? お前また誇張して伝えてたのか?」

「うぎゃー!!」

 

 射命丸の頭に飯綱丸の三脚がクリーンヒットしたところで、天狗達と典は山を登って行った。

 

 星羅はポケットを漁り、未だブランクメモリのままの早苗のメモリを見つめた。

 

 

「……これが、必要なのかな。だとしたら、何を……」

 

 

「星羅さん」

 

 

 すると、後ろから早苗が肩に触れた。

 

 

「少し、ついてきてくれませんか」

 

「…………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……少し、昔話でもしますね。私がまだ普通の高校生だった頃の話……いや、初めから普通ではなかったかもしれない。そんな頃からのお話です。そんなに重くもないので、聞いていってください」

 

 

 

 

 

 早苗は歩きながら、後ろをついていく星羅に語りだした。

 

 

 

 

「私は……風祝の末裔であり、神奈子さまや諏訪子さまの信仰を集める存在として巫女になりました。

 

高校生として生きる一方で、風祝としていろんな人たちに出会いました。それはもう、沢山の人がいました。……時に怒られたりもしましたが、お二人はとても優しくしてくださったんです。幻想郷移住を本当に決めるまで、まともに信仰を集められなかったにも関わらず……」

 

 

 特別な存在に生まれながらなっていた早苗。

 どれだけ大変だったかは、星羅にも直感で感じられた。

 

 きっと今考えているよりもすごく大変だったのだろうが、とも思う。

 

 でも、何故だろう。

 

 早苗の立場が……何となく、自分にもわかる気がしていた。

 

 

 

「そして、お二人はこの世界にやってきて、信仰心集めを始めた。……でも、真っ先に選んだ相手は間違ってたんですけどね」

 

 

 そう言い苦笑する早苗。

 

 

 前に霊夢が言っていた、妖怪の山での騒動の事だろう。

 魔理沙もいたとはいえ、霊夢は並み居る妖怪を蹴散らし、風祝も、2人の神も打倒してしまったのだから、早苗が鮮明に覚えているのも無理はない。

 

 

 

「でも。

そんな私を、霊夢さんは結局見捨てたりはしなかった。

 

神奈子さまが遠因でやらかした事も難なく片付けてしまうし、どんどん壮大になっていく異変も尽く解決してしまった。

私のことも認めてくれたし、分社を建てた今でも邪魔だからって壊したりはしないし……。

 

そんな心根の優しさに、霊夢さんの人柄に、そしてこの世界の本当に様々な価値観に、私は驚かされ、影響され、学びました。今でも沢山発見があります。

 

始まりや日の長さこそ違えど……星羅さんも、だいたい同じなのではないでしょうか。沢山の人に出会って、影響されてきた日々は……」

 

 

「……?」

 

 

 

 言って、立ち止まる早苗。

 

 

 同時に、急に視界が開けた。

 

 

 

 

 振り返って、一言告げる。

 

 

 

 

 

「初めて外から来ると……ここの途方も無い広さに、ワクワクしたのではありませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

「…………っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思わず、星羅は息を呑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日……博麗神社から見た、どこまでも広がっていそうな幻想郷の景色。

 真っ青な空と、緑の大自然と、ところどころにある人工物が、文字通り「幻想的に」噛み合った景色。

 

 

 

 場所は違ったが、その時と同じように、星羅を包み込む幻想が、視界いっぱいに広がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのときのワクワクが、もう一度込み上げてくる。

 

 

 なくしかけていた思い出が補強される。

 

 

 

 

 そして気付いた。

 

 

 記憶をもらうこと、思い出すことに夢中で……目の前の、瞬間瞬間の思い出を忘れかけていたことに。

 

 

 

 

 

「未来を歩むには、それまでの積み重ねがないと。違いますか、星羅さん?」

 

 

 

 

 早苗は微笑んだ。

 

 

 

「星羅さんなら起こせる奇跡が沢山ある。その数は、この景色よりももっと広いですよ。可能性は、星羅さんが考えただけ生まれるから。

 

星羅さんの使命なんてそれを成す一部にしかなりませんよ、きっと。星羅さんが本当に望むことをやろうと思えば、奇跡はいくらでも生み出せます。

 

これからも沢山影響されまくりましょう。

色んな人に会って、新しい記憶を作りましょう。

 

だって―――

 

あなたが、ここにいる。それだけでも奇跡ですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 差した陽の光が、背景になった大自然を照らして、その緑に早苗が溶け込む。

 

 

「…………」

 

 

 それを見て、星羅の瞳から、一つの涙が伝った。

 

 

 

 

 

 

「……あれ、星羅さん? 大丈夫ですか……!?」

 

 

 

 思わず早苗が尋ねた、その時。

 

 

 

 

 

 

 

 背景の景色が、音を立てて割れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 山へ向かって、霊夢は飛ぶ。

 

 菫子は「そろそろ起きる(現実世界に帰る)わ〜」と言って戻っているため今の霊夢は独りである。

 

 

「……剣……時間……幻影……疾風……そして、奇跡……」

 

 

 霊夢は呟く。

 星羅が手にし、あるいは手に入れようとしている”記憶“を。

 

 

「……星羅が得ている力って、どうして特定の奴ばっかで、なおかつ強い奴らなんだろう」

 

 

 思い返せば、星羅のファンタズムメモリ解放は【ある程度異変の順に沿っている】【その中でもよく事件解決で共闘、あるいは別口に戦っていた】【本人がいる状況下で特定の条件を満たせばそれ以降使い放題】といった特徴がある気がする。

 

 

「……それに、アイツ……どこ行ったのかしら」

 

 

 次に脳裏を過ぎったのは、黒い自分。

 

 来是に追い払われてから姿を見せていない。

 幻想郷は”隔離空間“のため、普通は異次元にでも隠れなければ、かつての某天邪鬼のようにどこかしらで目撃情報が現れ即刻捕まる。

 

 だが、一日経っても何も無い。

 

 焦り過ぎだろうか。

 

 

「……ま、いいや。今は目前のことに集中しなきゃ……?」

 

 と、霊夢が首を振った時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――パリン。

 

 

 

 

「……えっ」

 

 

 

 

 ――パリン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………は? 何あれ……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 山の上空に、一際大きな”裂け目“が現れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




 拠点攻略用兵器って普通にやばいですよね。

 
 めちゃくちゃ久しぶりの投稿ごめんなさい(_ _;)
 こっからの折り返し地点、頑張って書いていきまっせ。




 ……毎週投稿頑張らねば(三日坊主)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

043. 破壊の象徴

 お久しぶりです。



 はい。
 大変申し訳ございませんでした……めっちゃ投稿が遅くなりました。何ヶ月ぶり??? 知らん。

 ……忙しかったんですマジで。許してください。

 これからも不定期にのんびり続けるのでよろしくです……




 ということで超久しぶりの投稿。

 たまにはでっかい敵とも戦わなきゃ。

 でっかい敵はオープニングボス?
 いきなりでかいの来たらすぐフルボッコにされるからね。

 ということで強力なヤツを呼んできました。
 山を落とすなら相応の要塞がなくてはね。







 

 

 

 知らされた拠点攻略用機怪の存在。

 

 妖怪たちが警戒を強める中、星羅は早苗と仲を深め、自分が見つめるべきものについてを想う。

 

 

 そんな二人の頭上で、景色が割れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……河童全員に告ぐっ! 妖怪の山上空に巨大な機怪反応を検知した! 至急、迎撃体制Bに移行して攻めるぞ!」

 

 

 

 にとりはマイクをつかんで叫びながら、左手で分析の指を走らせた。

 

 

 

 ――確か、天狗のお偉いさんが言っていた設計図。

 拠点攻略用、だったか。

 

 どうやら敵……機怪は、だんだん本気になってきたらしい。

 

 

「例の設計図データを共有させる! 各自、山の防衛を最優先に行動! 私も対機怪用の武装を持ってすぐ追うから!」

 

 マイクを切って、にとりは隠し部屋を開き、変わった形のキャノン砲を引っ張り出すのだった。

 

 

「……おっも……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう見る? 大天狗様は」

 

 

「……そうだなぁ。やはりというか、あの規模はある程度想定済みだったが……今来るとは思わなかった。何かを狙ってのことか……とは、感じるけれど」

 

 

「……早苗と星羅が心配だ」

 

 

「大丈夫、既に射命丸を向かわせてある。私達はあの巨大兵器をなんとかすることを考えよう」

 

 

 

 

 

 守矢神社でそう言葉を交わす、神奈子と飯綱丸。

 

 2人の頭上には、空を覆い隠さんばかりの大きさを誇る巨大機怪がゆっくりと降下しつつあった。

 普通ならば思わず圧倒されてしまうだろうが、見た目だけの虚仮威(こけおど)し程度ならば彼女らにはなんてことない。

 

「とりあえずは河童達の攻撃がどの程度通用するかを見極める。場合によっては作戦を根底から変える必要があるわ」

 

 そう言って、飯綱丸はデカブツを睨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早苗ちゃんは先に行ってて」

 

 

 

 眼前の脅威に、星羅は唐突にそんなことを言った。

 

「えっ? ……どうして」

「私が、あいつを食い止めてみる」

「そ、そんな無茶ですよ!あんなでっかいの……ひとりでどうにかさせるつもりですか!?」

「いや」

 

 早苗の言葉に星羅は振り返って答えた。

 

「私がなるべく時間を稼ぐ。早苗ちゃんは、神奈子さまや諏訪子さま、霊夢や魔理沙を連れてきて」

「……星羅さん」

「大丈夫。早苗ちゃんの奇跡があればなんてことないよ。それにあのデカブツ……誰かが引き付けておかなきゃ山がヤバイよ」

「ですが……」

 

「自分に、できることをやる。早苗ちゃんも……できることを、やってほしいの」

 

 星羅はグーサインを見せると、射命丸のメモリを起動し飛び立った。

 

 

「……星羅さん。信じてますから!」

 

 早苗も託された思いを果たすべく、神社へ飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「射命丸さん!」

「早苗さん! 無事でしたか」

 

 程なく、早苗は射命丸に合流。

 星羅が囮として先に戦闘している旨を伝えると、彼女は翼を広げた。

 

「では、仲間集めは私に任せてもらっても良いでしょうか」

「ほへ?」

「ちょっと失礼ですけど、私のほうが断然早く行動できますし。それに早苗さんには、星羅さんとのメモリ発現という大役もあるんですよ」

「……そう、でしたね。……じゃあ、頼みます!」

「頼まれました! 健闘を祈ってます!」

 

 

 早苗は来た道を再度辿り、星羅のいる空へ急いだ。

 

 

 

 

「……あんな、巨大な奴が動き出したら……みんなが危ない。

 

神奈子さま、諏訪子さま。力を……貸してください!」

 

 

 その右手には、力強く幣が握られていた。

 

 

 

 

 

 

_______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[目標・発見  迎撃・開始 スル]

 

 

 

 

「……でっっっか…」

 

 

 

 

 

 バスターを構える星羅だったが、その桁違いのサイズに思わず空中で後退っていた。

 

 だがぼーっとしていたら消されるのは確実だ。

 やられる前に…やる。

 

 

 星羅はメモリを装填し叫んだ。

 

 

 

「いっけー! 連弾!! 【スパイラルブラスト】!!」

 

 

 輝く螺旋状の弾幕を放ち、各部に攻撃を試みる。

 

 

 

 

[……]

 

 

 

 が、機怪側はというと、別段回避する素振りもなく受け切ってしまった。

 傷一つ付いていない。

 

「っ!? ……だったらこれならどうだ!」

 

 負けじと立て続けにメモリを追加、攻撃する。

 

「流星! 【メテオストーム】!! それと、弾符! 【プラズマチャージショット】!!」

 

 

 

[………]

 

 しかし、かわすこともなくやはり無効化されてしまった。

 

 ――ことごとく効かない…マズい。

 

「ここまで効かないなんてっ……」

 

 

[対象の戦闘能力・測定完了 ……

 

 殲滅・開始]

 

 

「!」

 

 

[アサルト・殲滅体勢・移行

目標・創造主 及び 妖怪 ノ 山

 

破壊 スル]

 

 

 おもむろに両腕を上げる機怪……“アサルト”。

 

 その腕のありとあらゆるところから、ミサイルポッドがにゅっと伸びてきた。

 

「いっ!?」

 

 星羅が(バスタードアイギス)を取ろうとした瞬間、とんでもない数の飛翔体が視界を埋め尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「奇術!【グレイソーマタージ 】!!」

 

 

 

 突如飛来した星を描く弾幕に相殺され、爆ぜるミサイル群。

 

 それと同時に、星羅の視界に翠の影が。

 

 

「早苗ちゃん! なんで!?」

 

 

 庇うように幣を構えた早苗は、振り向いて言った。

 

 

「私も戦わせてください! あなたと一緒に……戦いたいんです!

 

私の使命とか定めとかそれ以前に……守るべきものもあるから!

一緒に……戦って、守りましょう!!

 

あと霊夢さん達は射命丸さんに任せてますから安心してください!!」

 

 

 ――彼女の背には……彼女が大切にしている山がある。そして、彼女はその目で私を信じてくれている。

 

 星羅は大きく頷いた。

 

 

「……、わかった。行こう、早苗ちゃんっ!」

「はいっ!!」

 

 

 

「「はぁぁぁあっ!!」」

 

 

 弾幕を展開しながら、2人は巨体へ突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「撃てぇぇ!」

 

 

 

 

 

 

 にとりの号令一下、大量のカッパミサイルが放たれた。最近できた試作品を大急ぎで量産したものだ。

 

 何体か機怪を破壊することには成功したが、まだまだ多い。

 なんなら当のアサルトには全身の機銃で迎撃されてしまった。

 

 

「次は多弾頭でいってみよう」

「了解!」

「次弾装填! 発射ー!」

 

 

 

 次々放たれる中、にとりは言う。

 

 

 

「……こいつを叩き込めれば……ちょっとは、あの人間の助けになるかな!」

 

 引きずるようにして姿を現したのは、巨大な砲身。

 

 深緑と言えるカラーリングに、にとりのマーク、きゅうりのようなハンドル、走行用の大口径タイヤ、同じく大口径の砲口が特徴の大砲だった。

 

 突然の新兵器に河童は驚く。

 

 

「えっ……にとり、それ何?」

「そういや最近なんか作ってたね」

「完成したんだ!」

 

「最近幻想入りしたって言う、外の世界の戦車をちょろまかして作った! この河城にとり特製、必殺砲!!

 

その名も〜、カッパキャノン!!」

 

 

 胸を張って叫んだ彼女、それを聞いてドン引きする河童達、あと空気を読んで一旦大人しくなった機怪。

 

 

「「「もっと名前捻ろよ!!」」」

 

「機怪にも同情されちゃってんぞ!!」

 

 

 周りの河童達から総ツッコミが入ったがにとりはどこ吹く風でセッティングを急いだ。

 

「とにかく、これを当てられれば我らに勝機が見えてくる。それまでお願い、皆で時間を稼いで!」

「はーい!」

「わかってる!」

 

 

 河童の総力を注ぎ込んだ砲弾の衝撃が、山を揺るがしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……仕事が早くて助かるぜ。行動力だけは見習わなきゃならないかもしれないな」

 

 

 その様子を、空から魔理沙は見守りつつ急いで星羅の元へ向かっていた。

 霊夢、そして呼びに来た射命丸も同行している。

 

「あいつらの弾幕が切れちまう前に、私達で片付けてしまおうぜ、霊夢」

「そう上手く行くといいんだけど」

「おや、霊夢さん今日はネガティブですね?」

 

 首を傾げる射命丸に、霊夢は続ける。

 

「あれからだいぶ時間が経ってるのに、早苗のメモリはまだブランク(空っぽ)のまま……今から覚醒させてて、間に合うのかしら」

「大丈夫さ、霊夢! そのために私達がいるんだぜ? いくらでも時間稼ぎしてやろうじゃねーか! それにお前となら何が来たって負けはしないさ!」

 

 憂う霊夢を笑って魔理沙は制した。

 

 その様子に、思わず霊夢もふっと微笑んだ。

 

 

「……そうね。そのために、博麗の巫女が……“異変解決者(わたしたち)”が、いるのよね!」

 

 信じる気持ちが、大切なのだと。

 常にあいつは教えてくれたのだから。

 

 霊夢達はスピードを上げ、そびえ立つような“壁”へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くわよ! 霊符!【夢想封印】!!」

 

「私も行くぜ! 恋符!【マスタースパーク】!!」

 

「ではでは私もついでに1つ……風符!【紅葉旋風】!!」

 

 

 

 

 風が雑魚を弾き飛ばし、そこを貫く光線が邪魔な弾幕を蒸散させる。そうしてできた道を七色の光球が爆進、アサルトへ一気に命中した。

 

 

[……ダメージ 確認]

 

 

 さすがに攻撃が通ったようで、大きく後退する。

 

 

「星羅、早苗! 助けに来てやったわよ」

「霊夢〜! それに魔理沙も!」

「話はだいたい射命丸(コイツ)から聞いたぜ。要はアイツをぶっ飛ばせば良いんだろ? 一気に叩きのめしてやるぜ!」

「そんなわけで、私も助太刀いたしましょう! スクープを間近で掴みがてら、自分達の社会くらい守ってみせます!」

「皆さん、ありがとうございます!」

 

 

 皆で一斉に倒すべき敵を見る。

 

 各々の武器を構えた、その時。

 

 

 

 

 

 

[……ダメージ修復・必要域… 修復開始]

 

 

 

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アサルトの眼球がカッと光って、突如全身にバリアが展開された。

 

 と同時に、瞬く間に損傷した箇所が直っていく。

 

 

「……おいおい待て待て待て!ずるいぞ!」

 

 魔理沙が慌ててマスパを叩き込むも、バリアによって弾かれてしまった。

 

「くっそ!霊夢!お前は駄目なのか!?」

「……」

 

 霊夢は首を振った。

 

「いや、無理ね。あのバリア……前に私の夢想封印を破った奴に似てる力を感じる。また弾かれるだけね」

 

 

霊夢は悔しさを覚えながらも感じていた。

 

 こいつらは、私の夢想封印をかき消す手段を身に着けている、と。

 

 ぐっと拳を握りしめ、魔理沙が憤った声で叫ぶ。

 

「くそ、見てることしかできねーのか…!?」

 

 

 

「……いや、諦めるのは早いです!」

 

 

 ふと、早苗がつぶやく。

 

「……早苗?」

「あのバリアは多分、……修復が終わったタイミングで剥がれます。

 

だったらバリアが無い間に攻めまくって、直せない程のダメージを与えるしかないです!!」

 

 

「「いや脳筋かよ!?」」

 

 レイマリのツッコミが入ったが、射命丸だけは肯いた。

 

「や、その方が案外一番良いかもしれませんよ」

「おいおい烏天狗さんよぉ、頭が回るお前まで脳筋になっちまったのか?」

「いえ。むしろ、火力バカな魔理沙さんこそどういった風の吹き回しです?」

「火力バカって言うな! 弾幕はパワーだってだけだぜ」

「魔理沙、アンタそれを火力バカって言われてるのよ」

「うっ…」

 

 射命丸は星羅を見る。

 

「星羅さんには単発火力重視スペカが多いです。単発ということは着弾点にエネルギーが集中し、そこに追撃を加えやすくなります。なので……」

 

腰に差した天狗団扇を引き抜き、バッと掲げてみせた。

 

「私達の弾幕を星羅さんの攻撃に集中させて一点集中砲火するんですよ。そうすればそこを直している暇なんてなくなります。

 

…ただ、問題点がひとつだけ」

 

 感心していた皆が首を傾げる中、振り返る射命丸に、霊夢が言った。

 

 

「……ほんとにバリアが破れなきゃ意味がない。そういうことでしょ?」

 

 

「えぇ」

 

 

 バリアがすんなり剥がれれば、勝機は大いにある。しかしバリアを展開されたまま攻撃再開されればどうなるかわからない。

 

 

 が、その予想は不運にも的中することとなった。

 

 

 

 

[ダメージレベル 安全域到達

攻撃:再開 目標:妖怪ノ山破壊 攻撃再開スル]

 

 

 

 

「攻めと守りくらいかたほうだけにしなさいよ!!」

 

 

 

 再びミサイルの雨あられ、霊夢達は弾幕を張って対抗する。

 山に落ちそうなものは地上で奮戦する河童達が迎撃しているのだが、うっかり着弾すれば山火事待ったなしなため、撃ち漏らしは厳禁だ。

 

 星羅はバスタードアイギスを展開して防ぎつつ、早苗に問う。

 

「早苗ちゃん! あのバリアなんとかして剥がせない!? 奇跡でどーにかなったりする〜!?」

「流石に無理ですぅ〜! バリア発生器の所在さえ分かれば…!」

 

 

 すると、

 

 

 

「おーーーーーーーい!」

 

 

 

 下から声がした。

 

 皆が視線を地上へ向けると、先程セッティングしていたカッパキャノンの照準を合わせたにとりがいた。

 手を振り、そして口元に手を当ててメガホン状にして叫ぶ。

 

 

「なんとかバリアを剥がしてくれー! 星羅に合わせて、こいつを叩き込む!!」

 

「わかったわにとり、なんとかしてみる!!」

 

 霊夢は頷くと、御札を引き抜いた。

 

「魔理沙、とびきり高い火力を叩き込むわよ」

「やってみるか!」

 

 魔理沙もミニ八卦炉を変形させ、光を収束させる。

 

「星羅さん、早苗さん、ここは私が。お2人はバリアが無くなった瞬間に使ってください」

 

 射命丸が前に出て、星羅と早苗も準備を始めた。

 

 

「胸部に高熱源反応! たぶんそこがシールドジェネレーターだ! やっちゃってくれ、博麗の巫女!」

 

 にとりの声に、霊夢は攻撃で応じた。

 

 

「言われなくたって、やっちゃうわよ! 魔理沙!」

「おうよ! いっくぜぇぇ!!」

 

 

 

「「はぁぁぁぁぁぁっ!!!」」

 

 

 

 

 マスタースパークに付随するかのように夢想封印が周回し、アサルトへ突き刺さる。

 邪魔な弾幕は神速で飛び回る射命丸が叩き落し、活路を開く。

 

「……さて、どれくらい通りますかね…!」

 

 彼女が見守る中、衝撃でアサルトの動きが停止し、バリアにヒビが入り始めた。

 

 

「早苗ぇぇ!! 星羅ぁぁあ!! 今のうちに、でっかいの!!」

 

 

 霊夢の声に、2人も合わせた。

 

「勿論です霊夢さん!!」

「叩き込むよ!!」

 

 

 遂に砕けるバリア。

 そこに、怒涛の弾幕が放たれた。

 

 

「奇跡! 【ミラクルペンタクル】、収束バージョン!!」

 

「連弾! 【スパイラルブラスト】!!」

 

 

 

 同時に、山からは青白い閃光が迸る。

 

 

「放つぜ浪漫!! カッパキャノン、発射ぁー!!!」

 

 

 

「はああああ!!」

「いっけぇぇぇぇぇぇ!!!」

「たぁぁーー!!」

「うぉぉぉぉぉおお!!!」

 

 

 

 あらゆる弾が、閃光が、一点に集い、爆ぜる。

 

 眩い輝きと共に、アサルトから凄まじい爆発が広がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「っしゃあー!!」

 

 魔理沙がガッツポーズを決め、つづけざまに霊夢とハイタッチ。

 

「やっぱり私達最強だな!」

「ま、そういうことにしておいてあげるわ」

「んだよつれないなー」

 

「やりましたね、星羅さん!」

「うん!」

 

 早苗と星羅も頷き合い微笑みを交わす。

 

 

 

 地上ではにとりが砲手座席からひっくり返っていた。

 

「は、反動を何も考えてなかった……いててて」

「そういうところにとりは抜けてるなあ」

「爆発四散しなかっただけマシじゃね?」

 

周りの河童達に引っこ抜かれながら、反動で砲身が消し飛んだカッパキャノンを見つめる。

 

「……とほほ、次は量産化に向けて強度問題を解決しなくちゃなぁ」

「量産化するつもりあったのね」

 

 

 

 そして勝利を確信した顔で、空を見た

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

「……………………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[物質位相制御バリア 作動解除]

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然、山中にさっき放ったすべて(・・・・・・・・・)が降り注いだ。

 

 

 

 

 

「……なっ」

 

 

 霊夢の顔が焦り出す。

 

 

 

「……う、そ、だろ」

 

 

 

魔理沙の顔も一瞬で絶望一色に染まる。

 

 

 

 

「このままじゃ神社が――」

 

 

 

 言うが早いか早苗が動き出した瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ、せ、る、かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山そのものを覆う青い盾がそのすべてを防ぎ、砕けた。

 

 

 

 

 

 閃光が皆の視界を奪い、その直後。

 

 

破片の中を、星羅は漂い、落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 星羅のバスターの隙間から流れる、

 

 

 

負荷による「血」を見てしまった早苗は、

 

 

 

声にならない声を上げて叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 山を覆う影はまだ消えていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ほんっとに遅くなりましたことをお詫びします。

 スキマ時間に書いてるんですけどね……ハハハ……


 次がいつになるか全くわかりません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

044. 星に奇跡を願って

 大変長らくお待たせいたしました。ゆるして。
 数ヶ月空くとかどうなってんじゃい。


 ……リアルが忙しくて、不定期にかさ増しし続けているんです。いつか安定してうpできるようにしたい。


 というわけで早苗編、ようやっと完結です。
 やっと折り返し地点ですよ。




 

 

 

 

 山を滅ぼそうと現れた超巨大機怪・アサルト。

 

 圧倒的な火力とバリア機能、更に高速自動修復機能まで備えた鉄壁の身体に為す術ない星羅達。

 決死の攻撃も、謎の機能によって逆に利用され、山に降り注ぐ。

 

 

 

 絶望的なアサルトの攻撃を、たったひとりで防ぎ切った星羅のバスターからは……

 

 

 

彼女の「血」が、漏れ出していた。

 

 

 

 星羅がダメージを負った中でも、少女達は反撃を試みる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神奈子!! 星羅が!」

 

「何…!?」

 

 

 

 諏訪子に呼ばれて、神社を飛び出し空を見上げた神奈子。

 飯綱丸もそれに続くが、言葉を失った。

 

 

「……なっ…馬鹿な…!? あれだけの攻撃を受けて無傷だなんて……!?」

「…違う……あいつ、みんなの攻撃を“瞬間移動”させて向きを変え、こっちに降らせてきたんだ」

「……つまり、博麗の巫女らの攻撃を自分のものとしてカウンターしたってことか!?」

「そゆこと……私達も行こう。早苗達だけじゃなくて、この山そのものを守るために」

「あぁ諏訪子、私も全く同意見さ。この幻想郷の大地を、好き勝手荒らされる訳にはいかないからね…!」

「……私も行く。大天狗として、山を守る義務くらいは果たそう」

 

 

 

 

 2人の神と大天狗は飛び立つ。

 

 自分達の山を守るために、そしてその山を覆う巨大な敵影を討つために。

 

 

 

 

「飯綱丸様……御武運を。私にも何かできるかなぁ…っと」

 

 それを見ながら、典も動き出そうとする。

 

 

 

「……あー、典。ちょっと頼まれてくれないか」

 

 

と、戻ってきた飯綱丸に呼び止められて、彼女はUターンした。

 

 

「はい、仰せとあらばなんなりと」

 

 

 

 

「天狗と河童、あと山の妖怪を可能な限り集めてほしいんだ。……やりたいことがある」

 

 

「……察しました。おまかせを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……あ……っ」

 

 

「……まさか、腕にダイレクトに反動が行っているとは……」

 

 

 射命丸が星羅の傷を見ながら呟いた。

 切り傷のように右腕に走っていた血は、さっき椛が持ってきた包帯で止血されてはいるものの、じわりと滲んでいた。

 

「早苗、どーにか回復できないの?」

「今やってます……!」

 

 横では早苗が祈祷の姿勢で星羅に力を送っていた。

 

 魔理沙が上を見上げて呟く。

 

「アイツ、流石に力を使いすぎたのか知らねーが…止まったな」

 

 

 上空では、バリアこそ張ったままだが、機能を止めているアサルトが浮遊していた。

 弾幕の位相をずらしたあの攻撃を放つには、相当なエネルギーを食うらしい。

 

 射命丸が言う。

 

「攻撃チャンスといえばチャンスですが……あのバリアを結局破ることはできませんでしたから、どうすればいいのでしょうね……」

「一か八かやってみたのに全く意味を成さなかったものね」

 

 霊夢もそう言いながら、アサルトに突き刺さったように飛び出たバリア発生機を見つめる。

 

「なんとかあの中に入って、直接叩ければ良いのに……」

 

 

 

「……なら、入ってみるかい?」

 

 

 そこへ現れたのはにとり。

 若干土に汚れたままの頬を拭って、星羅へ近付いた。

 

「おぉ、これはひどいや。時間稼ぎが必要だとは思ってたけど」

「にとり……アンタねぇ、そんなこと言ってる場合じゃないのよ。わかってんの?」

「流石にわかってるよ。今すべきことは、奴が動けない内にバリアを破壊して、攻撃が通るようにすること。だろう?」

 

 リュックサックを展開し、にとりは明らかに入らなそうなサイズの巨大な「何か」を取り出した。

 

 

「コイツでアレをぶっ壊す。これにかけるしかない」

 

 

 出てきたのは、光り輝く一対のドリル。

 後部にはロケットブースターが装備されており、単体でもにとりが背負っても飛べるようになっている。

 

「……こんなので壊せるのか?」

 

 魔理沙が訝しむと、射命丸がこう言った。

 

「……先程、私達の攻撃を一点集中させられれば、あれを破壊できるかもしれない、と言いましたよね」

「あぁ」

「このドリルならば……効率よく、かつ素早く、一点に凄まじい馬力の攻撃を継続して当てることができます。一点突破を狙うならば……現状、これが最も最適だと思うのです」

「……なるほど、な」

 

 弾幕では、どうしても弾同士の間隔が開いたり、ある程度バラけてしまったりする。

 しかし、ドリルならば先端部分に出力が集中するため、一点をとことん狙うのにはもってこいなのである。

 

「……穴を掘るのにも、ドリルは効果抜群ですからね」

 

 早苗が頷いた。

 

「ならさっさとそれでぶち抜いてやりましょ」

 

 霊夢も同意し、皆が再び空をみやった時だった。

 

 

 

「……ただ、問題なのは……」

 

と、にとりがやや申し訳無さそうに告げる。

 

 

「コイツの出力が……アレを破るのに足りるかどうかってこと」

 

 

 仮にも全員の攻撃をたやすく防ぎ、なおかつそれらを自身のものとしたあのバリアを突破するためには、奪われる前に破り切るだけのスピードと、さっき以上の大ダメージで突撃する威力が要る。

 

 いつものにとりらしからぬ、自信なさげな表情をしていると、

 

 

「何いってんだよ発明カッパ。

 

私に任せろ」

 

 

 魔理沙が親指で自身を指しながら、ニヒッと笑ってみせた。

 

 

 

「魔理沙……?」

 

 

 

「パワーが足りないんだったら、足せば良いだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よし。ミニ八卦炉のセット完了っと」

 

 

 にとりに背負われたツインドリルに、ミニ八卦炉が取り付けられた。

 

 

「良いかにとり。まずはお前の推進力で敵の弾幕を突破して、ヤツのバリアに突っ込む。激突を確認次第、私が遠隔でミニ八卦炉を起動して、そのまま破ってもらう。そしたらバリア発生器を叩き壊してやれ」

「言われなくてもそのつもりさ。ありがとう魔理沙」

「礼を言うには早すぎるぜ。さ、行ってこい! 霊夢、サポートを頼むぜ!」

「任せて!」

 

 

 

「それじゃあ、行くぞ……!

 

3……2……1……発進!!!」

 

 

 

 すべてを阻む壁に、希望を背負った銀の衝角を唸らせて、にとりは飛び立った。

 

 

 

 

「おおおおおおおおおーー!! 戦機!【飛べ!三平ファイト】ーーーっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれは」

 

 

 

 気を取り戻した星羅が、飛び立ったにとりを見て、起き上がった。

 

 

 

 ――私が壊せなかったバリアを、代わりに……

 

 

 

 

「……私も、行かなきゃ………っぐ…!」

 

 

 言い聞かせるように呟いた彼女は立ち上がろうとして、力の入らない足がもつれて倒れ込んでしまう。

 

 

 

「っ!? ダメです、星羅さん!」

 

 すかさず早苗がそれを抱え、そして止める。

 

「早苗ちゃん…!? でも……!」

「……みんな、星羅さんのために……時間を稼いでくれているんです。だから今は万全を期させてください!」

「……でも…」

 

 

 言いかけて、早苗が何をしているのかに気が付いた。

 

 そして、包帯の巻かれた自分の腕を見る。

 

 

 やがて呟いた。

 

 

「…わかった。

……私と早苗ちゃんは……私達にできることをやる。そういうことなんだね」

 

「……その通りです。大丈夫ですよ、あの霊夢さんや魔理沙さん、そして我らが誇るにとりさんなんですから」

 

 

 

 その場にしゃがみ、そして星羅は空を見上げた。

 

 

 

「みんな…頑張って……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおーーー!!」

 

 

 

 敵機怪軍団の弾幕を、そのドリルで消し飛ばし、時にかわしながらも、にとりはその視線を変えることなく突撃し続けていた。

 

 追随する霊夢のアシストもあり、一発も被弾することなく、にとりはバリア目前まで迫った。

 

 

「にとり! やっちゃって!」

「おうよ巫女さん!」

 

 霊夢に送られて、にとりはブースターを再度ふかして突撃した。

 

 

「どりゃーーー!」

 

 

 激しい火花と軋む音と共に、バリアに突き刺さる。

 回転速度はリミット限界ギリギリだが、ヒビが入る様子もない。

 

「魔理沙ぁぁーっ! 頼む〜!!」

 

 

 

「わかったぜ!!」

 

 

 魔理沙はその場で魔法陣を展開。

 同時に遠隔操作されたミニ八卦炉が変形し、魔砲発射形態に移行していく。

 

 

「……さぁ、ぶっ放すぜ!! マスタースパーク、発射ぁ〜!!」

 

 

 にとりの背中から放たれた虹色の光線が、凄まじい推力となって、彼女をバリアに食い込ませていく。

 同時に放つ星型弾が敵の攻撃を寄せ付けない。

 

「うおおおおおおおおおお!!!」

 

 雄叫びと共に火花が散る中、

 

――パリン、と。

遂にヒビが入り始めた。

 

 

「! ……霊夢!!」

 

 

「任せなさい!」

 

 この機を逃さず、霊夢は夢想封印を発射。

 ヒビの入ったところへ集中砲火する「集」を放った。

 

「いけ、にとりーーっ!!」

 

 

「突貫だぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 リミットを切り、まばゆい光を放って突っ込むにとり。

 夢想封印が着弾すると共に限界まで推力を上げた。

 

 

 

 そして。

 

 

 ガシャァン、と、崩れるような音と共に、バリアが砕け散った。

 

 

 

 

 

「よっしゃぁーーー!!」

 

 

 空中でガッツポーズを決めるにとり。

 

「このまま一気にバリア発生器も……!」

 

 と、方向転換を行おうとする。

 

……が、

 

 

「……あっ! うわぁ!?」

 

 

 ボワン、という爆発とともにドリルユニットが砕け散り、飛行ユニットを失ったにとりは落下していった。

 

「きゃあーー!? 強度不足だったかー!?」

 

「……ったく、締まらねーなお前は…」

 

手足をバタバタさせながら、真っ逆さまに落下するにとりを、飛んできた魔理沙の箒が引っ掛けて救った。

 

「んぐえっ」

「ま、十分だぜ。後は霊夢が、やってくれるさ」

 

 言いながら見上げる魔理沙。

 その先では雑兵を片付けつつ、バリア発生器を攻撃する霊夢がいた。

 

 

「……行かなくていいのかい?」

 

 不思議に思ったにとりが問うが、彼女は笑ってこう返した。

 

 

 

「バリアを割る仕事は果たしたからな。あいつが発生器を壊せばあいつと私で五分五分さ。あいつに出番がなかったらふてくされるだろ?

対等な方が、面白いじゃん」

 

 

「……、そっか」

 

 

 にとりはその表情に何かを見た気がしたが、すぐにハッとして下を見やった。

 

 

 

 

「……人間(星羅)、起きたのか。良かった……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………これで、良し……と」

 

 

 

 早苗は“あること”を終え、その場に座り込んだ。

 

 

「流石に疲れました……でもこれで、アレに勝てることは出来そうです」

「お疲れ様、早苗ちゃん。ありがとう」

 

 労う星羅は、ふと顔を上げた。

 

「……あっ、あれは…」

「ほえ?」

 

 振り向いた早苗は、思わず息を呑んだ。

 

 

「かっ…神奈子さま!? それに諏訪子さまに……大天狗さん!?」

 

「……いや私は名前で呼ばれないんかい」

 

 

 現れたのは神奈子と諏訪子、そして飯綱丸。

 神奈子は新品のしめ縄を背負っている。

 

 

「その様子……2人の準備はいい感じかな」

「はい。あとは星羅さんがどうにか戦えれば……」

「おっけー。じゃあ私達でなんとかするよ」

「えっ?」

 

 諏訪子は星羅に告げる。

 

 

 

「星羅ちゃん。今から私達の力を、ちょっとだけど与えるよ。

傷は流石に治らないけど……身体を動かす分には問題なくなるはず。私達も全力でカバーするから、あなたはあなたが成すべきことを全力でやってね。

 

……わかった?」

 

 

 帽子の視線と共に、彼女は真っ直ぐ見つめてくる。

 

 

 星羅は少しだけ間があったが、すぐに答えた。

 

 

 

 

「……心得ました」

 

 

 

 

「よろしい」

 

 

 飯綱丸はこくりと頷き、そして続けた。

 

 

「……アサルトだったか? 奴は私達の攻撃を一時的に掌握して瞬間移動させ、向きを変えることで奴自身の攻撃に転じさせているようだ。

奴が再起動するのは時間の問題であろうから、これを対策せねばならない。そして君一人に守らせていてはさっきの二の舞になってしまうし、そんなことをさせるわけにも行かない。

 

……だから、先程、典に頼んで山の妖怪全員に協力させることにした。

自分達の住むこの場所を守るという利害の一致でな」

 

 

 最後の言葉で大天狗の影響力にたじろぎながらも、星羅は頷いた。

 

 

「す、すげぇ〜……って、結局どうするつもりなんですか」

 

 

 

「敵が降らせる攻撃は、山の妖怪達と私達が迎撃する。

だから、君達には山を気にせず、全力で奴を破壊することだけに注力してもらう。

という算段さ」

 

 

 

「「おぉ〜!」」

 

 早苗と被って星羅は感嘆した。

 

 

「早苗、やれる?」

「はい、神奈子さま。やってみせます」

「……星羅も、聞かなくても良さそうだけど、やれるね?」

「……任せてください」

「うん。大丈夫そうだな、諏訪子」

「そりゃあ私達の早苗と、早苗が認めた星羅だもん。勝てないわけがないよ」

 

 確かめ合いながらも笑いを取るあたり、神様の余裕さを見せられて、星羅は心の底から敬意を覚えた。

 

 

 

「……早苗ちゃんって、素晴らしい神様と一緒にいたんだね」

 

「えぇ。とっても、とっても素晴らしくって、頼りになる、優しくもお強い神様です」

 

 

 

 笑みが重なり合うその様を、飯綱丸は確かに見届ける。

 

 

「……それじゃ、私は一足先に注意を引いてくる。武運を祈っているよ、星羅!」

 

 

 

 

 黒い翼はためかせて飛翔する彼女を見送り、神奈子と諏訪子が告げた。

 

 

「……じゃ、始めようか」

「君に、私達と、大地の加護を。山を護る、神聖なる力を……!」

 

 

 

 呼び出し、その場に突き刺した小型の御柱が共鳴し、2人を輝きが包み込む。

 

 その光を受けながら、星羅は早苗に手を差し出した。

 まだ動く、左手を。

 

 

 

「……行こう。早苗ちゃん」

「……行きましょう、星羅さん」

 

 

「「私達がやるべき事を、やってみせよう!!」」

 

 

 

 

 

 

「妖怪が作りし、この大地に眠る力よ」

 

「幻想郷を形作りし、神々の力よ!」

 

「我らの大地を護らんとする者に、その力を貸せ!」

 

「そーれー!!!」

 

 

 

 

 二筋の光が星羅と早苗を包み、流れ込む力に2人は目を見開く。

 

 そして、星羅は今までしまっていたアレを取り出した。

 

 

 

 

「早苗ちゃん、そして早苗ちゃんと繋がるすべての人妖の記憶よ……

私に、みんなを護る、奇跡を……ください!!」

 

 

 

 

 

 瞬間、翡翠の輝きが迸った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大天狗様でも、苦戦なさることがあるのですねぇ」

「まぁな。私やお前も、あらゆる人妖は完璧でない。だからこそ皆力や知識をつけて上に立とうとするものさ」

「こんなとこでも説教ですか、案外余裕そうですね」

「そういう射命丸こそ、平気そうではないか」

 

 

 バリア発生器を叩く霊夢を援護する、射命丸と飯綱丸。話しながらも巧みに攻撃を回避し、弾幕掃射で雑兵を片付ける。

 

 だが、おそらくアサルトから生み出されているであろう無限湧きの機怪軍団に、流石に押され気味だった。

 

 

「……巫女は、まだなのか?」

「フラグが立てば、彼女は応えてくれますよ」

 

 

 そう言い切る射命丸が振り返ると、

 

 

 

 

「天狗〜! ぶっ壊したわよー!!」

 

 

…と、キック姿勢の霊夢が爆風から飛び出した。

 

 

「……あれは」

「神技【天覇風神脚】。霊夢さんの数少ない近距離格闘スペカです。脚に霊力を溜めて放つ技ですよ」

「……やはり巫女は中々乱暴だな…」

 

 

 派手に砕け散るバリア発生器を見ながら、思わず飯綱丸はぼやいた。

 

 

 そして、下を見やる。

 

 

 

「…さて、私達の時間稼ぎもそろそろ良いみたいだ。

 

大本命のご登場さ」

 

 

 

 

 

 

 そこには、左腕(・・)にバスターを装備した星羅が、早苗と共に飛び立つ様子が見えていた。

 

 戻った霊夢がそれを見て呟く。

 

 

「……それができるなら、最初っからやってなさいよ……」

 

 

 

 

 

 

 

「いくよ早苗ちゃん。一発で落とすから」

「……任せてください。ファンタズムメモリのビジョンは私にも見えました。奇跡の1つや2つ、この風祝がバンバン起こしてあげます!」

「おっけー、それじゃあ……始めるよ!!」

 

 

 

 星羅は緑色に染まった、輝くメモリをバスターに装填した。

 

 

「ファンタズムメモリ……セット!」

 

 

 

《Phantasm memory confirmed…》

 

 

 

 同時に、早苗が輝きに包まれ、スペカを放つ結界を広げた。

 

 

 

 

 

[……脅威 確認…… 排除]

 

 

 当然黙ってみているアサルトや機怪ではない、バリアが消された恨みと言わんばかりにありったけの弾丸が放たれた。

 

 

 だが、対策は済んである。

 

 

 

「典っ! やれ!」

 

 

 

「お任せを〜。全員、一斉掃射!」

 

 

 飯綱丸の声と共に、典の合図で、山のいたるところからあらゆる種類の弾幕が発射されたのである。

 

 

 

「……妖怪の山防衛前線、ってやつですか」

 

 射命丸が目を見張って呟く。

 

「妖怪も、団結すれば凄まじい強さを誇りますからねぇ」

 

 

 

 あっという間に、機怪が放った攻撃は相殺された。

 同時に何機か雑魚機怪も撃墜され、アサルトは見るからに動揺を見せ始める。

 

 

[……味方機 被害 多数……

位相バリア 再展開……]

 

 

 半透明のバリアが再びアサルトを包む。

 

 

「……なるほど。防御バリアの内側にアレを展開して、絶対に攻撃を受けないようにした、というわけですか」

 

「の、ようだな。だが……」

 

 射命丸と飯綱丸は、下に見える椛に呼びかける。

 

「……椛、典。カラクリは明かされた。後はわかってるな!」

「私も大体察しがつきましたよ。よろしく頼みます!」

 

 

 

 

 

 

「…言われずとも、やってみせますよ!」

 

 力強く頷き、椛は剣を構えた。

 

「私も人肌脱ぎますか。狐ですけど」

 

 典もスペカの用意をする。

 

 

 周囲には、種族の垣根を超えたありとあらゆる山の妖怪達が勢揃いし、上空に向けて弾幕を放つ臨戦態勢を常に保っていた。

 

 

 椛が叫ぶ。

 

 

「目標! 敵大型機怪の、物質位相バリア!!

 

 

 

全員構えっ……撃てぇぇぇー!!!」

 

 

 

 様々な色の弾幕が山のそこかしこから掃射され、雑魚機怪やバリアに命中していく。

 

 バリアによって降り注ぐ形となった攻撃は次に放たれた弾幕が相殺し、山への被害を未然に防ぎつつ、こちらの攻撃を片っ端から当てていく。

 

 

「ありったけの火力! ぶちかますぞー!!」

 

その中にはドリルを壊されたにとりが、どこからか持ち出したありったけの発明品武器を使いまくっているのも見られた。

 

 

 

 対策されるどころかカウンターされて、

 

 

[……何……!?]

 

 

…と、ここに来て、初めてアサルトがそれらしい反応を見せた。

 

 

[……位相バリアの…… 仕様ヲ 突いた……?

 

妖怪 如きが……???]

 

 

 

 

 

 

「ようやく、化けの皮を剥ぎましたね」

 

 

 

 慄然と響く声に視線を向けるアサルト。

 

 

 

 そこには、眩い輝きを伴い、真っ直ぐ眼光を向ける、星羅と早苗の姿が。

 

 

 

「ここに集まった妖怪達は……お前のせいで迷惑被ってんだ!

そんな皆の攻撃まで利用して、山をめちゃくちゃにしようとするだなんて……許せない!!」

 

「私達が今まで築き上げてきた山の秩序を! その中で生きてきた妖怪の命を! それらを危険に晒すならば、この私……守矢の現人神が黙ってはいませんよ!!」

 

 

 

 言っている間に、位相バリアが勝手に消失した。

 どうやら防御力と持続力自体は高くないらしい。

 

 

[……位相バリア 停止……!?]

 

 

「やっと、丸裸になったな」

「これで全力でボッコボコにできるね!!」

「いくぞ射命丸! 落とす!」

「あや、いつにもましてやる気ですねぇ! もちろん私もですけど!」

「魔理沙ー! やるわよー!」

「おう! 山とか星羅とか、諸々傷つけた事はふつーに許せねぇからな!」

 

 

 神奈子が、諏訪子が、飯綱丸が、射命丸が、霊夢が、魔理沙が。

 それぞれのスペカで色とりどりの輝きを放ち、山を彩り、敵を焼く。

 

 

 アサルトからも凄まじい量の弾幕とミサイルが放たれたが、日頃から弾幕勝負に慣れているこちら側には傷一つ付けられない。

 

 

 

 特に、星羅と早苗は、纏う輝きによってあらゆる攻撃がかき消されていた。

 

 

 

[……何故…? 何故… 攻撃が… 通らない…!?]

 

 

 

 

「……うーん、じゃあ答えの代わりに、コイツを食らわせてあげるね。

 

 

殲滅することだけに頼ってる、機械な奴らに言っても、通じない“力”だから!!」

 

 

 

 2人の手に支えられたバスターがアサルトに向けられる。

 

 

「一発逆転……奇跡の光!!」

 

 

 

 収束した輝きが、解き放たれる。

 

 

 

 星羅と早苗の声が重なり、それは宣言された。

 

 

 

 

「「奇術・改!!【グレイソーマバスタージ】!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 直後。

 

 

 

 

 一筋の翡翠の輝きがアサルトを貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、爆ぜた。

 

 

 

 

 

 

 

 

[……ナ……内部からの 致死量級の ダメージ……だと!?

 

 

一体ドウヤッテ…… アサルト の 装甲は……貫けない……筈なのに……!?

 

 

何故…… 何故…… 何故なんだ……!?]

 

 

 

 

 

 

 

 アサルトの内側から、グレイソーマタージの輝きが飛び出しては吹き飛ぶ。

 

 

 そう、内側から、である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「早苗ちゃんの奇跡の力と、私の弾幕制御能力。

これを繋いだんだ」

 

「最初の一撃で敵の装甲を貫き、その一撃にグレイソーマタージを込めることで、内側から解き放つ! ……という、一連の“起こり得ないような事象”を、“奇跡に変換して”、起こしました。

 

これが私達の力です。ありえない事象をあり得るようにして、起こり得ない事実を起こす。よりわかりやすく、より強くした……純粋な奇跡です。

 

……確率やデータでは表せない力を知らない貴方がたには、きっとわからないでしょうけどね」

 

 

 

 

 

 白煙を上げるバスター越しに告げる、星羅と早苗。

 

 

 

 

 爆散寸前、アサルトは告げた。

 

 

 

 

 

 

[……わからない……

 

理解、不能だ……

 

 

 

だが…… アサルトに 理解出来なくとも……

 

 

 

 

マスターには理解出来たのだな]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………え?

 

 

ちょっと…どういう意味――!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然浮上した疑問に、答えは帰ってこなかった。

 

 

 

 

 

 爆炎という花火が、山一帯を鮮やかに照らしたのは、そのわずか数秒後のことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妖怪諸君! 皆のおかげで、山の平和は保たれ、侵略者は去った! 今宵は無礼講で構わない、戦勝会だ! 乾杯!!!」

 

 

 

 

 

 神奈子の元気が良すぎる挨拶と共に、勝利の宴が山中で始まった。

 

 霊夢が酔っ払い、魔理沙が踊って、にとりも何やら様々な機器を無尽蔵に披露していた。

 

 河童達は勝利の花火を打ち上げまくった。

 七色の閃光が山を照らし、各々の笑顔を彩った。

 

 

 椛と射命丸も今宵ばかりは盃を交わした。

 

 

「お疲れ様でした、椛」

「ええ、こちらこそ。……借りができてしまいましたね」

「仇で返さないでくださいよ、非常に面倒くさいですので」

「元から返す気なんてありません」

「うわー、それは流石に傷付きますね〜」

 

 

 一方ではこんな声も。

 

 

「えっ、約束違うじゃないかー!」

「私はただ使ったらどうですかって言っただけですよ〜、嘘は言っておりません〜」

「ぐぬぬ、このメギツネ〜!!」

「何とでも言ってくださいな、この私には効きませんからねぇ」

「くそー!!」

 

 

 ……どうやら先程の戦いでにとりに武器を使いまくるように言ったのは典だったらしい。

 何やらにとりの怒りを買っているようで、彼女に追われながらも典は余裕の表情を崩さなかった。

 

 

「……典、その辺にしておけよ」

「やれやれ、あんたのとこの管狐も困ったものだな」

「有能なのは認めるけどさ、異変以外であんまり周りに迷惑かけ過ぎないでよ」

「はっは、考えておこう」

「「今すぐやって!!」」

 

 

 その様子を、笑いながら見守る飯綱丸と、ツッコむ神奈子、諏訪子であった。

 

 

 

 

 

 そんな喧騒から少し離れた場所で、星羅は早苗にもらったみかんジュースを飲んでいた。

 2人ともお酒はまだ飲めない(早苗は飲むとやばい)ので、そっと2人で離れていたのだ。

 

 打ち上がる花火を眺めながら、早苗が切り出した。

 

 

「……お疲れ様でした、星羅さん」

「……うん。お疲れ様」

 

「……あの」

「ん?」

 

 

「……怪我されてまで、私達のために頑張ってくださったのに……私……」

 

 

 星羅の右腕には、しっかり結ばれた包帯と、お守りが巻かれていた。守矢神社の加護があるというお守りである。

 

 星羅はそれに触れながら、首を振った。

 

「大丈夫だよ、早苗ちゃん。無理をしたのは私だもん」

「でも…」

「それに、早苗ちゃんがいたから、これくらいで済んだんだよ」

 

 星羅はメモリを取り出して続ける。

 

「……奇跡だよ。きっと」

「?」

「早苗ちゃんに会えたのも、みんなで力を合わせて敵を倒せたのも。もっと言えば……霊夢や魔理沙に会えたのも。きっと……小さな奇跡の連続なんだよ」

「……星羅、さん……!」

 

 感極まったのか、早苗は思わず星羅に寄り添った。

 

 

「……早苗ちゃん?」

「すみません……私、嬉しくて……」

「……嬉しいのは私もだよ、早苗ちゃん。だからさ……今日は色々忘れて、思いっきり楽しまなきゃ」

「……そう、ですね。楽しみましょう!」

 

 

 ぐしぐし、と涙を拭って、早苗は笑顔を向けた。

 

 

「……星羅さん。ありがとうございました。これからも……改めて、よろしくお願いします!!!」

 

 

 直後、花火が広がった。

 緑の光に照らされた、彼女の笑みに、星羅も自然と笑っていた。

 

 

「……うん。よろしくね…早苗ちゃん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく……2人で何の話してるのかと思いきや……」

 

と、突然乱入してくる人影が2つ。

 

 だいぶ酔ってる霊夢と魔理沙であった。

 

 

「うっわ、2人ともベロベロだねぇ…」

「わたしゃ嬉しいよ星羅ー、出会えたことが奇跡だなんて言ってくれるなんてぇ〜!」

「嬉しすぎて涙ちょちょ切れちまうぜ〜!!」

「……聞かれてたし…」

 

 がばっと抱きつかれ、星羅は慌てる。

 

「ちょ、酔ってるからってやりすぎはよくないよー!」

「今日は無礼講だぜ〜、楽しまなきゃ損、損!」

「みんな、今日の立役者を待ってるわよ〜」

「うわわぁー! 引っ張らないで〜!」

 

 そのまま、ずるずると宴会会場に連行される星羅。

 

 早苗はその様子を苦笑しながら見ていたが、自分も混ざることにした。

 

 

「じゃ、私も行きますか!」

「おう早苗〜、一緒に楽しみましょ〜」

「お前も今日のヒーローだぜぇ!」

「…え、早苗ちゃん、お酒……」

「大丈夫大丈夫! 奇跡でどーにかなります!」

「そういうもんじゃないよね? ね??」

 

 

 

 

 

 

 花火が山中を彩る中、星羅はしばらく色んな人妖に絡まれ続けることになるのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな山を、遠くから見つめる者がひとり。

 

 

 無数の金色の尾を夜風になびかせ、両腕を組みながら静観する、どこか“主”によく似た姿をしている「式神」。

 

 九尾の狐の妖怪、八雲(やくも) (らん)である。

 

 

 

 

「……これで、彼女が手にした“過去の記憶”は、4つ。

あと“半分”……か」

 

 

 

 眉間にしわを寄せていた藍だったが、しばらくして後ろを振り返った。

 

 

 空間に切れ目が現れ、リボンと共に開眼のように開いた異空間から現れたのは、(ゆかり)であった。

 

 

「……紫様」

「夜遅くまでお疲れ、藍。星羅の様子はどう?」

 

 

 さっきまで寝ていたのか、帽子を直しながら問う紫に、藍は頷きながら答える。

 

 

「今日の戦いで怪我をしたとはいえ……ここまで、4つの記憶を順調に取り戻してきたようです。あと“半分”取り戻せば、彼女は……」

「……その通りね。でも、思っていたよりも(・・・・・・・・)取り戻していくのが早いわ。こっちも急がなくちゃいけなくなりそうね」

「そうなのですか?」

 

彼女の問いには敢えてすぐに答えず、スキマに寄っかかりながら、紫は呟いた。 

 

 

 

 

 

「パラドックスが彼女を襲う前に……やらなきゃならないことがある。

 

藍。黒い博麗の巫女を見つけ次第……私を呼んでちょうだい。すぐ行くわ」

 

 

 

「……はっ。承りました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜空に浮かんでいた2つの影は、風に溶けるように、ふっと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Continued to the next Phantasm…

 

 




 早苗編、完ッ!


 ……長かった(遅くなって大変申し訳無い)。
 以降も超亀更新続くと思いますが、何卒よろしくです……。





5/5追記
 →決め台詞追加。入れ忘れてて大変申し訳ない……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EX2. 無意識の本怖少女


 番外短編。

 オカルトが苦手な星羅の、夏のある一日の出来事です。



 こいしの日に上げようとしたんですが、間に合いませんでした。てへっ。
 なので、地霊殿編の前日譚的立ち位置になりました。
 といっても、これを読まなくてもちゃんと楽しめる内容にはなっています。





 早苗編を読み終わってからお読みになることをおすすめします。










 

 

 

 

 

 

 星羅は、元・高校生という事実が明かされた。

 

 

 そのせいか、彼女の記憶の片隅に、高校にいた頃のビジョンがいくつかあった。

 特に早苗との邂逅後は、イメージがつかなかったものもより鮮明に浮かぶのであった。

 

 

 

 

 そして、欠けていたモノを取り戻す代償の一つに……

 

 

 

 

 

 

「……こっわ……」

 

 

 

 

 

……弱点、苦手なものを呼び覚ましてしまうこと、

 

要はトラウマの再発があるのである。

 

 

 

 

 あれから数日が経ち、山へお礼の挨拶回りをしていた星羅だったが、すっかり遅くなってしまったのである。

 

 今星羅は夜中の小道をひとり歩いている。

 片手にはバスターが光っている。懐中電灯代わりだろう。

 

 しかし星羅の足取りはすごく重い……というか、進んでない。

 

 そう。

 真っ暗闇の中一人で歩くことに、心底ビビっているからだ。

 

 

 

「もーやだ!!早く帰りたいのに……」

 

 

 

 言いながら星羅は文のメモリを取り出し、バスターを起動した。

 

 

「……疾風迅雷、真実の光!……こんな時に使っていいのかなー……?」

 

 

 

 竜巻の風で空中へ発射された星羅は、その勢いのまま博麗神社へ飛んでいった。

 

 一刻も早く、帰りたかったのである。

 

 

 

 

 

 

___________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はー、はー、ようやっと着いた…………」

 

 

 

 

 

 

 博麗神社の鳥居の前に、星羅はへたんと崩折れた。

 流石に道のど真ん中に座るのは気が引けたので端に座っているが。

 

 バスターからメモリを排出させ、解除する。

 

 

「なんでこんな暗いのよ、夏場って……」

 

 

 

 

 ここまでかかることを考えていなかった星羅は、くたくたであった。

 何かごはん食べなきゃなぁ……たぶん霊夢は寝てるだろうけど、とぶつぶつ言いながら、星羅は鳥居を潜ろうとした。

 

 

 

と、その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もっしもーし?」

 

 

 

 

 

 

 

「ひっ!?」

 

 

 

 

 

 

「今、あなたの……後ろにいるの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 背筋が凍りついた。

 

 

 心臓が一瞬止まったかと思った。

 

 

 声にならない叫びを上げた。

 

 

 

 

 

 恐る恐る声のした後ろを振り向くと、そこにはいつの間にやら、ちょっと自分より小さいくらいの少女が立っていた。

 

 

 

 

「……えっ?」

 

 

 

 

 

「えへへ、驚かせちゃったー? わたしは古明地(こめいじ) こいし!よろしくおねがいしまーす」

 

 

 

 

「……えっ?」

 

 

 

 

 星羅の驚愕を塗りつぶした困惑を他所に、こいしと名乗った彼女はずんずかと鳥居をくぐると、星羅の小屋――にとりが改築した「なんでも小屋・せーら」を指さして言った。

 

 

「ねーねー、アレ君のお部屋でしょ? おじゃましてもいいよね?」

 

 

 

「…………えっ??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「家に上げてしまった……霊夢、寝ててくれよ…」

 

 

 

「ひろーい、あかるーい、案外(・・)きれ~い!」

 

 

「……案外って……」

 

 

 

 自分の家にとりあえず入れた星羅だったが、こいしは入ると部屋中をとことこと歩いては、置いてある色んなものを興味津々に観察していた。

 

 そんな彼女を、星羅はぼうっと眺めていた。

 

 

 暗いためさっきは分からなかったが、髪は緑がかった銀髪のセミロングヘアだった。

 ハートボタンと黒フリル袖の黄色い服を纏い、スカートは緑色。頭には黄色いリボンを巻いた鍔付き帽子を被っている。

 

 そしてなにより目立つのは、足のあたりから伸びて彼女を取り巻く……管?のようなもの。

 紫色で、一部はハートの形にうねりながら彼女を取り巻いており、それらは小さな「目」に繋がっていた。

 

 しかしその「目」は、何故か閉じている。

 瞬きどころか、しばらく見ても開くことすらない。

 

 

 

 不思議がって見ていると、

 

 

 

「あ、そうだ。ねーねー、あなたはなんて名前なの?」

 

 

とこいしが唐突にこちらを見てきた。

 

 

「そっか、初対面だもんね。私は幻島 星羅。星羅でいいよ。よろしくね」

「星羅かー、たぶん覚えとくねー」

「たぶん?」

 

 笑みを絶やさぬこいし。

 薄気味悪く思っていると、彼女はサードアイを撫でながらこう言った。

 

 

「わたしさー、無意識だからさぁ。君のこと、覚えてられるかわかんないんだよー」

 

「無意識?」

 

 

 

 イマイチ理解に苦しんでいると、彼女は明後日の方向を向いて続けた。

 

 

「わたし、次に何をするのかがわからないの。

家を抜け出すかもしれないし、何かごはんを食べちゃうかもしれない。突然、星羅ちゃんに突撃するかもしれないからね」

「それは勘弁」

「言われてもな~、無意識だから無理」

「……無意識、って何なの?」

 

 

 

 眉を細めた星羅。

 

 

 すると、こいしは少しかがんで……

 

 

 

 

 

 

 

「……突然、切りかかるかも……ってこと」

 

 

「……っ!?」

 

 

 

 

 

首元に突然、ナイフを当ててきた。

 

 

 

 

 

 背の方を向けていたので切れはしないが、それでも刃物を突きつけられて星羅は酷く焦った。

 

 

 

「……ちょ、どういうことなの!?」

「あは、ごめーん。切らないから安心してー」

 

 

 さっきの気迫(無意識なのでそもそも気配がないが)はどこへやら。

 にへへ、と笑みを浮かべたこいしはナイフをさっとしまい、くるんとその場で一回転。人差し指を立て、こう答えた。

 

 

「わたし、元々……サトリ妖怪って言ってね。心が読めたの」

「……心を、読めるの!?」

「うん。でも、わたし……疲れちゃって」

「……その力に?」

「うん。だから自分で封印したの。コレを」

 

 

 そう言い、紫の瞳を差し出す。

 

 恐る恐る触れると、とても冷たかった。

 まるで、血管に血が流れず冷えてしまった死体のように。

 

 

「……そうしたら、自分も無意識をコントロールできなくなった、ってこと?」

「うん。心を見えないようにしたら、自分の心も見えなくなっちゃったし、周りからも気づかれにくくなっちゃった」

「……」

「でも、今のところは困ってないよ〜。お姉ちゃんも気遣ってくれるし、お空やお燐もたくさん遊んでくれるし」

「……お姉ちゃん?」

「そのうち会えるよ。たぶんね」

 

 

 

 気がつくと自分の手からサードアイは移動しており、こいしも扉の前へ移っていた。

 

 どうやら星羅の能力を以てしても、彼女の気配は感じれないらしい。

 

 

 

 

 

 

「じゃ、そろそろお暇しまーす。勝手にお邪魔してごめんねー! 早く寝ないと、こわーい妖怪に襲われちゃうよ?」

「心配ありがとう。こいしちゃんは?」

 

 

 去ろうとする彼女へ問うと、こんな答えが帰ってきた。

 

 

 

「うーん……さぁ?

ここに戻ってくるかもしれないし、家に帰るかも。

 

次の瞬間の、わたし次第。

どこへ行って何するかなんて決めなくたって、勝手にきままにやるだけだもん。

 

何もかも決めてくと、困ったときに変えられなくて大変だよ。気の向くまま、やりたいことを思いついたときにやる。それで十分。

君だってそうなんじゃないの? 自分のやりたいことをやろうとするなんて、人間も妖怪も関係ないんじゃないかなぁ?」

 

 

 

 これも、きっと無意識に言っているのだろう。

 

 ……でも、どこかそんな気がしなかった。

 

 

 

 突然の深い言葉に呆気にとられていると、彼女は戸を開けて手を振った。

 

 

 

 

「それじゃまたね~、ばいばーい」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 結局、特に何をするまでもなく、こいしは夜闇に消えていった。

 ……否、その夜の空気に溶けるように、その気配を無くしていった。

 

 こいしのせいで、星羅はしばらく寝付けななった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お゛は゛よ゛ー……」

 

「せ、星羅?? どうしたのよ……目にクマできてるわよ」

 

 

 

 結局夜通し眠れなかった星羅は、翌朝霊夢に形容し難い顔を見せてしまった。

 怖いから早く帰ったのに、奇妙な体験をしてしまったのだ。仕方ない。

 

 

 こいしの話をすると、霊夢はまた面倒くさそうな顔をした。

 

「……こいし、ねぇ。アイツ何するかわからないから大変なのよね」

「やっぱしそうなんだ」

「今のところは異変を起こしてないし、むしろ異変に乗っかって唐突にやってくるくらいだからね。アイツのことは未だによくわからないわ。行動原理も、行く先も」

「…無意識、って大変だね」

 

 そう言う星羅に、彼女は少し考えたあと、首を振った。

 

「……案外、そうでもなさそうよ」

「……えっ?」

 

 

 

 

「……たとえ誰にも見つけられなくても、自分が何をするか制御できなくても。

 

アイツには、帰る場所と、待ってる人達がいるからね。……一応」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地底の一角にそびえるお屋敷。

 

 その戸を開く少女。

 

 

 

 

 

「お姉ちゃぁーーーん!! ただいま〜!」

 

 

 

 

 

 そして、それを笑顔で出迎える、姉がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おかえりなさい、こいし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 朝食後、縁側に座る星羅は、1枚のメモリを見つめていた。

 

 

 濃い緑色で、どこかで見たような紫の目が描かれている。

 ラメ入りであるのを察するに、ファンタズムメモリであった。

 

 

 

 

 

「……こいしちゃんの、メモリ……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 使い方はわからない。名前も知らない。

 

 多分、「無意識に」生まれたものなのだろう。

 

 

 

 

 こいしの無意識フリーダムさに、星羅は思わず頭を抱えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「……何に使えばいいの、これ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ファンタズムメモリ出しちった。
 本編に絡むかは不明。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八章 〜星羅と魔理沙と星の夜〜
045. 式神のお告げ


 今回からは「魔理沙編」。
 根幹に迫る章です。黒霊夢も出てきます。

 周りを立たせつつ、しっかり「東方の作品」「二次創作だけど違和感を失くしたモノ」に仕上げるのは大変だ……

 と言っても今回は魔理沙の出番は控えめ。




 

 

 

 

 

 

 妖怪の山襲撃事件からはや2週間の時が流れた。

 

 季節は少しずつ初夏の気温になってきており、雨も増えてきた。

 

 

 

 

 

 

「……そっか。お前もそんなにたくましくなっちまったんだな」

 

 

「やめてよ魔理沙。私なんて全然だよ。皆のおかげ」

 

 

 

 

 博麗神社で、今日もひとときの平穏が続く。

 

……のだが、霊夢は人里で妖怪騒ぎが起きているとのことで外出中、いるのは星羅と魔理沙だけである。

 

 

 ここまでの星羅の様々な出来事を聞いた魔理沙は、腕を組み、うんうんと頷いて感心してみせた。

 

 

「……やっぱりお前、すごいぜ」

「……魔理沙?」

「幽々子のしがらみをぶっ壊し、あの曲者揃いな紅魔館を味方につけ、永遠亭で皆に可愛がられ、妖怪の山の奴らにも気に入られ……ここ数ヶ月で成し遂げられるレベルの話じゃねーぞ」

「そうなの?」

 

 

 言われて、星羅は改めて気付く。

 

 やたらと事がうまく進んでいることに。

 

 

「……なんでだろうね」

「さぁな、私にもわかんね。一つだけ言えるのは、お前の記憶が全て戻ったらわかるんだろうなってことかな」

「……」

 

 

 ポケットにしまったメモリを取り出し、バラッと床に並べる。

 

 スペルメモリの充実はもちろんのこと、ファンタズムメモリも先日、射命丸と早苗の2枚分を……合計5枚を手にした。

 メモリが沢山集まるということは、それだけ星羅の記憶も、戻ってきているということ。ファンタズムメモリの充実は、星羅が幻想郷のあちこちで様々なことを経験し強くなった証だ。

 

 

 だが、魔理沙はそれを見て、一つの疑問を抱いた。

 

 

「…………なぁ星羅」

「どしたの?」

 

 

 

 

 

「…………前から、気になってたんだけど。

ファンタズムメモリってさ、お前の記憶なのか?」

 

 

 

「…………えっ?」

 

 

 

 予想外の問いかけに、星羅は動揺した。

 

 

 

「ファンタズムメモリってさ。お前と絆を結んだ奴との間に生まれた思い出の結晶体……みたいなもんなんだろ。……だけどよ。どこまでがお前の記憶で、どこまでがお前のじゃないんだ?」

「ど、どういうこと魔理沙?」

 

 

 イマイチ理解できていない星羅は問い返す。

 

 

「……つまり、どういうことなの?」

 

 

「……スペルメモリは、お前の記憶だ。

でも、ファンタズムメモリを集める理由って何なんだろうな……ってことだよ」

 

「……!」

 

 

 

 陽の光でラメを輝かせるファンタズムメモリを見ながら、彼女は続けた。

 

 

「お前の記憶を取り戻すんなら、他人と関わらなきゃならない記憶なんて……そいつと接点がなきゃいけない。つまり、前に言ってた“来是がまだ星羅だった頃”の記憶なんだろう。

でもよ。あいつ、早苗の話だとスペルメモリはおろかファンタズムメモリも使えないらしい」

「……そうなの!?」

「あぁ。……だから、ファンタズムメモリは、恐らくだが来是本人の記憶じゃない可能性がある。来是が関わったことのある人物をトリガーに、お前が新しく創り上げるものなのかもしれないってわけさ」

 

 

 何らかの理由で未来からやってきたのが来是である。

 だが、どんな理由にせよ、わざわざ未来からやってきたのであれば、過去を変えるためである場合が多い。

 

 魔理沙の冴えた推察に、素直に星羅は感嘆した。

 

 

「な、なるほど……ということは、ファンタズムメモリは過去を変えるために必要なもの、ってことなのかな?」

「……かもしれないな。…仮に、お前が来是とは違う新しい記憶を創っていくことで、あいつの過去が変わるなら、だけど」

 

 

 ふぅ、と一息ついて、魔理沙は縁側を立った。

 

 

「……ま、どうせそのうちひょっこり来是が現れて、全部教えてくれるんだろうさ。今、あんまり私達がしんみりしてても仕方がねぇ。謎は相変わらず沢山あるけどよ……今はとにかく、どっからともなくやってくる機怪どもをぶっ倒すしかないし」

 

 箒にまたがった彼女は振り返り、星羅に言う。

 

「じゃ、私は一旦お暇するぜ。大変だろうけど、お前も頑張れよ〜、星羅」

「……う、うん。ありがとう、魔理沙」

「落ち込むなって、別にお前は何も悪くねぇだろ? お前が頑張るから、みんなもそんなお前を助けようと頑張るんだ。お前が頑張れない時は私達が支える。早苗も言ってたろ? 一人で何もかも気負う必要はないんだぜ」

「……わかった。私なりに、頑張ってみる」

 

 

 優しく微笑む彼女に、星羅も微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……幻島 星羅、で間違いないかい?」

 

 

「うぇっ?」

 

 

 

 

 しばらくひとりだった星羅だが、突然の来客に顔を上げていた。

 

 

 どこかで見たような服装に、どこかで見たような帽子。しかしその背後には無数の尻尾が艷やかに並び、帽子もよく見ると耳が形になって現れている。

 

 直感で星羅は察した。

 

 

「……もしかしなくても、藍…さん?」

「……え、知ってたのか?」

「話だけは、霊夢から聞いてて。九尾狐のクソ真面目式神を紫さんが連れてるって」

「おっ、おぉ……」

 

 

 苦笑いを浮かべる藍であったが、すぐに真顔に戻って告げる。

 

 

「……改めて、私は八雲 藍。紫様のもとで結界管理と私用雑用を担当している式神だ。よろしく頼むよ、星羅」

「雑用…」

「幻想郷には、そういう奴らが多いから。永遠亭の兎とか、幽々子様のところの半人半霊とか、吸血鬼のメイドとか」

「はぁ……いや、こちらこそよろしくお願い致します」

 

 

 思い当たる人しかいない。というか全員、メモリで繋がった人達だ。

 

 

「……心当たりがあるのかい」

「え、どうして分かったんですか?」

 

 

 心を読んだかのようにそう言ってみせる藍。

 隣に腰掛けると、彼女はこう言った。

 

 

 

「君は今、メモリを集めているそうだね。それも4つ。なんのためなのかはともかく、順調そうで何よりだ」

 

 

「………………」

 

 

 黙る星羅。

 

が、彼女が黙ったのは他でもなかった。

 

 

 

 

 

「……あの、メモリ……たぶんファンタズムのほうだと思うんですけど……もう5枚目ですね」

 

……えっ!? ……本当か!? ……えっ!?」

 

 

 わかりやすいほどまで取り乱す藍。尻尾も揃って逆だっている。

 極力平静を取り戻して藍は答えた。

 

 

「……あ! そうか……天狗のメモリがあったか……完全に忘れていたよ……すまない」

「あなたがたのことだろうから深くは聞きませんけど。監視するならせめてきちっと監視してくださいよ」

「なんて言い方を……」

「だって紫さん、この間料金スルーして突然ロープウェイに乗り込んできたと思ったら、全部知ってそうなムーブかまして、変な事言うだけ言って去ってったんですよ?」

「…………」

 

 

 星羅にジト目で言われてしまい、思わず藍は俯いてしまった。

 

 

「どうしよう……私の中の紫様像が崩れてく……」

「……そんなに?」

「いや思い返してみたら案外そうでもなかったわ」

「あ、そうすか……」

 

 

 ぽん、と手を叩く藍。

 

 ……だが、また俯いてしまった。

 

 

「……そんなことよりどうしよう……紫様に、4枚って言っちゃった……どうしよう……」

「……そんなことだろうと思ってました」

「な、なぜそこまでわかる!?」

「監視していらっしゃったんでしょ? あの胡散臭い紫さんが考えそうなことですよ。謎だらけな私を、あの人の宝物である幻想郷で暮らさせる以上は、自分の手で監視したいはずでしょ」

「……」

「霊夢や魔理沙、他のみんなも言ってましたから」

「……むぅ、なんか申し訳ないな。私の主が……」

 

 

 すっかり幻想郷に馴染んでいるのを感じつつ、藍はぺこりと頭を下げた。

 

 慌てて星羅は首を振る。

 

 

「やめてくださいよ、藍さん。私なんかに頭下げないでくださいよ……」

「いや、これは私のミスだから。それに、君に不信感を持たせてしまった気がして……」

あの人(紫さん)にある程度不信感を抱かない人っていないと思うんですけど」

「言わないでくれ……」

「自覚はあるんだ……」

 

 

 コホン、と咳払いを一つして、藍は仕切り直した。

 

「……改めて。君は今、多くのメモリを集め、自身の記憶を取り戻しながら、未知の敵と戦っているというわけだ」

「そう、ですね。……機怪のこと、どうせわかってるんじゃないんですか?」

「……いや、そうでもないんだ。奴らのことはまだ完全にわかってない。むしろデータ不足、と言っても過言ではないだろう」

「紫さん達でも…わからないことがあるんですね」

 

 

 不思議がる星羅に、藍は遠くを見つめて答えた。

 

 

「紫様は確かに凄まじいお力を持っておられるが……万能ではない。あのお方ひとりでは幻想郷は作れなかったし、霊夢なくして今の幻想郷もないからな」

 

 

 永きに渡って、紫を支えたであろう藍だからこそ言えること。問わなくてもわかるその言葉の重みに、星羅も少し反省した。

 

 

「そっか…紫さんのこと、ちょっと勘違いしていたかも……」

「まぁ、それでも常人やそこらの妖怪達とは比較にならないお力と知恵を持っているからこそ……気味悪がられ、どこか胡散臭さを感じられてしまうんだろうけどな…無理もない」

「……なるほど……」

 

 

 

 

 

 

「……あ、今のは内緒で」

「あっ、はい」

 

 

 

 

 

 

 再び咳払いを1つ。

 立ち上がった彼女は振り返り、星羅を向く。

 

 

「……とにかく。なんだか脇道に逸れまくったから、そろそろ戻ることにするよ。

これからもしばらくは君のことを監視させてもらう。別に悪い意味ではないさ、何かあればすぐに駆けつけるようにしているんだ」

「……結局、そっちからは特に何も教えてくれないんですか」

「すまない、今回は個人的に会いに来ただけなんだ。紫様からある程度伏せておくように言われてて……」

「……そう、ですか」

「大丈夫。時が来たら、全部わかるはずさ。君の記憶がもう少し戻らないと……話せることも話すことができない」

「わかりました」

 

 

 頷く星羅だったが、

 

 

 

「……え、個人的に会いに来た……って、どういう……」

 

 

 

そう問われ、藍は少し答えを躊躇ったが、

 

 

「……言っておくか」

 

 

と、ため息とともに、こう告げた。

 

 

 

「……君は、いつどこで、誰に狙われているか……とてもわからない状況下にある。念の為の確認さ。

博麗神社に来たのも、万が一……機怪どもが潜伏していたらまずいから。

 

それと……君が、しっかりとこの世界に馴染んでいることを、この目で見ておきたかったんだ」

 

 

「……藍、さん……?」

 

 

 

 すると、藍はふっと微笑み、こう続けた。

 

 

「星羅、そんな顔をするな。敵がいない今この時間……一時でも構わないから、平和なこの時間を大切にしてくれ」

「……」

「霊夢や魔理沙は、少しでも君に安心していてほしいのさ。記憶も力も未知数である君が、この世界でちゃんと生きられるために」

 

 

 ふわりと浮く藍。

 去り際、こんな言葉を残して行った。

 

 

 

「……本当は全部説明して、その上で君に生きてもらいたいけれど。

 

 

 

きっと全てを理解した君は、君でいられなくなってしまうだろうから……

 

 

 

例え許可が降りても、私は言えないだろう。

見守ることしかできない私を、許してくれ」

 

 

 

「……藍さん!?」

 

 

 思わず縁側を立った星羅の声も虚しく、藍は九尾をなびかせて飛び去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人残された星羅の頭には、藍と、さっきの魔理沙の言葉が渦巻いていた。

 

 

 

 

 

『きっと全てを理解した君は、君でいられなくなってしまうから』

 

 

 

『お前が来是とは違う新しい記憶を創っていくことで、あいつの過去が変わるなら……だけど』

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 ――私は、どうすればいいんだろう。結局のところ…何を頑張ればいい? 何をすれば、何が起こる?

 

 

 言い表せない感情に包まれ、星羅はただ立ち尽くすしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………。懐かしいな」

 

 

 

 

 

 

 

 魔法の森の一角、木々に包まれた場所に建つ小さな家・霧雨魔法店。

 

 その戸を開ける魔理沙の姿があった。

 

 

 

 

「……どわっ……あー、そういえば片付けてなかったな、私の家」

 

 

 

……だが、その言動はどこか懐かしみを滲ませていた。

 

 

 

 

「足の踏み場が……足場が……無い……はは」

 

 

 

 

 隙間を縫って歩く彼女(・・)

 しかしその表情には、悲しげで、優しげな笑みが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………。

 

でも、この家は……いくらそっくりで、いくら同じようにとっ散らかってても……

 

……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私も……帰りたかったなぁ。我が家に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ゲストに藍しゃまを呼んでみました。
 前回のシリアスムードから一転、ポンコツ藍しゃまも描いてみましたが……ポンコツにさせすぎたかもしれません(汗)





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

046. 白銀の幻影

 ダンカグの完全リメイク、ファンタジアロストの続報が(執筆時点で)来て、大はしゃぎしております。
 忙しいのを忘れちゃう。


 というわけで始まります。


 

 

 藍との邂逅を果たす星羅。

 

 紫と藍が星羅を常に見ていること、「全てを理解した時自分でいられなくなってしまう」ことを告げられる。

 

 

 何をするのが最善か、振り出しに戻ってしまった星羅は――

 

 

 

 

 一方、魔理沙は魔法の森でアリスに会いに向かった。

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど、ね」

 

 

 紅茶を置いたアリスは、魔理沙から聞いたこれまでのことを踏まえ、呟いた。

 

 

「結局、私達はあの子の記憶が全て戻った時に起こることを……何も知らない。敵もいつどこで現れるかわからない。

……その“来是”ってのに、聞かなきゃいけないんでしょ」

 

「そういうことさ」

 

 

 魔理沙もクッキーを掴みながら答える。

 

「進んでいるようで、一進一退なんだ。何かがわかると、別の謎が現れて進めない。あいつの記憶が戻るたび、あいつの謎も増えるし……」

 

 

 何かに翻弄されるかのように、謎に包まれている、今回の異変。

 確かに進んでいるはずの解決も、新たな謎と課題を生んで阻まれる。せっかくの努力も、星羅の苦悩も、その都度消費されるだけのものになってしまう。

 魔理沙は若干の焦りを感じていた。

 

 

「あいつも、わかってるはずだ。この異変における自分の存在の大きさと、あいつが持ってる謎の多さに」

 

 

 魔理沙にとって難しいことを考えるのは苦手ではないが、こうも上手く進まないのはもどかしいものだった。

 

 

「まぁ、言いたいことはわかるわ。私もあれから何体か機怪を倒したり自分なりに調べたりしてみたけど、何も得られなかったもの」

「だろうなぁー」

 

 思わず頭が下に向いてしまう。

 そんな魔理沙の肩を、アリスはぽんと手を乗せ労った。

 

「あなたもなんだかんだ、大変ね」

「悪いなアリス。せっかく手伝ってもらってんのに……」

「良いのよ、これは私が自分でやるって言ったものだもの。どうせ一度首を突っ込んだからには無関係じゃいられなさそうだし」

 

 

 乗りかかった船には、と、苦笑してみせるアリス。

 魔理沙も、「そうだな」と笑って返した。

 

 

 

「……ところで。あなたは星羅のこと、どう思っているの?」

 

「……えっ? んーとなぁ…」

 

 少しだけ悩んだ魔理沙だったが、すぐにこう答えた。

 

 

 

 

「……誰よりも、頑張ってるやつだと思う」

 

 

 

 

「…………、そう」

 

「んだよ、不服そうな顔しやがって」

「別に〜」

「なんなんだよー……」

 

 

 怪訝そうに問い返す魔理沙。

 アリスはため息をつき、

 

 

 

 

「…じゃあ、あなたはあなた自身のこと、

星羅と比べて(・・・・・・)どう思ってる?」

 

 

 

 

と、投げかけた。

 

 

 

 

 

 

 

「……っ、それは……」

 

 

 

 

 答えに詰まる魔理沙。

 

 アリスは「やっぱりね」と呟くと、首を振った。

 

 

「自分のことわかってないのに、他人を見てどうこう言うのはよしなさい」

「うぅ……わかったぜ……」

「落ち込まないの。魔理沙だってたくさん頑張っているじゃないの」

「気持ちだけ受け取っておくぜ」

「あのねぇ……」

 

 

 

「……やめてくれ。なんか、忖度されてるみたいで……悔しい」

 

 

「……悔しいって……!」

 

 

 

 

 

 苦笑いを浮かべ、唐突にそう言った魔理沙。

 

 椅子を立って、帽子を被る。

 

 

「……じゃあ、そろそろ私は家に戻ることにするぜ」

「ちょ……戻ってどうするのよ?」

「もしかしたら、パチュリーから借りたやつの中になんか手掛かりがあるかもしれないだろ? 色々探してみるんだぜ」

「もし見つかったらあっちで頑張ってるパチュリーの努力全部無駄じゃないの?」

「……てへっ☆」

「かわいくない、却下」

「ひでぇ」

「……ま、見つからないと思うわ。ケースがケースだもの、載ってることのほうがたぶんあり得ないわ」

「……だよなぁ。ま、私なりに何ができるかちょっと考えてみるさ。またな、アリス」

「わかったわよ。……何かあったら言うわ」

 

「お前らもご主人を守ってやれよー」

「シャンハーイ?」

「ホラーイ」

「こいつらわかってんのか?」

「大丈夫よ、任せて、って言ってるわ」

「なぜわかるんだ……?」

 

 

 

 上海と蓬莱に見守られ、魔理沙はアリスの家を後にした。

 

 

 

 

「……」

 

 飛んでいく彼女を眺めながら、アリスは呟く。

 

 

 

 

 

「………………、あいつ、無理してないかしら」

 

 

 

 

 

 アリスはなんやかんや魔理沙と付き合いが長い。

 彼女が陰で努力していることも、よく知っている。

 

 至らない点があればすぐに埋めてくる。

 できないこと、弱点だと思われたことは数日すると直ってしまっている。

 そうやって、誰よりも、何よりも真面目に努力を重ねている魔理沙を、アリスは霊夢と共によく見てきた。

 

 

 

 ある日霊夢に尋ねたことがある。

 霊夢は魔理沙の努力を、どう思っているのか? と。

 

 

『……アイツは私みたいに何でもできるわけじゃない。でも、私はアイツみたいにたくさん頑張るってのはできないし、そもそも努力ってのが苦手だし。

……私はアイツには無いものを持ってるとは思ってる。でも……アイツは、私には無いのを持ってるってこと……わかってるのかな』

 

 

 少し、心配そうな顔をして、霊夢は答えた。

 

 

 

 そんな霊夢が認める努力家であるはずの魔理沙が、星羅のことを“誰よりも”頑張ってるやつ、と称した。

 

 魔理沙は――あれだけ努力して、あれだけ頑張れているのに、まだ足りないところがあると思っているのだろうか。

 

 紅魔館の件以降中々関われていないアリスは、あれからの魔理沙を見れていない。

 何か、思うことがあったのかもしれない。

 

 

 

「……バカ…もしも辛いなら、辛いって素直に言いなさいよ」

 

 

 ため息混じりに、アリスはひとり嘆いた。

 

 

 

「…シャンハイ?」

「ホラーイ?」

 

「……! あー…ごめんね上海、蓬莱。大丈夫よ〜、よしよし」

 

 

 

 気を落としていた自分に寄り添う人形達。

 それを見て、アリスはハッとする。

 

 

 そっか、私はひとりじゃない。

 

 幻想郷では、必ず、誰かが誰かを支えているのだ。

 

 

 …あいつにも、一人でずっと頑張っているあいつにも……ひとりじゃないことを、言わなければ。

 

 

 

 

 

「……出かけましょ、みんな。あの努力バカの目を覚まさせるわ」

 

 

 人形達を伴って、アリスは席を立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紫様。ただいま、戻りました」

 

 

 数多の「目」と昏く儚い景色に包まれた、紫の異空間。

 そこでは藍が頭を垂れていた。

 

 

「いつもお疲れ様、藍。なにかあったの?」

「……えーっと……」

「?」

 

 

 垂れていた頭を爆速で上げ、藍は叫ぶ。

 

 

 

「大変申し訳ございませんでしたぁ……!!!」

 

 

「……???」

 

 

 流石の紫も動揺を隠せず、目を見開く。

 

 

「…ど、どうしたのよ藍……?」

「本当に申し訳ございません……私、この間の報告で間違えてまして……」

「……えぇ?」

 

 

「星羅のメモリ……もう、5つ目行ってました……」

 

「な、なんですってー!?」

 

 

 土下座する藍、慌てる紫。

 ツッコミ不在の恐怖である。

 

 

 

 ……が、紫はすぐに元に戻ると、藍の肩に触れた。

 

 

 

「……なーんてね、私が気付いてないと思う?」

「……えっ……お気づきだったのですか!?」

 

 

 扇子で口元を覆い、しかし隠しきれない笑みを浮かべて、紫はいたずらっぽい声音でこう答えた。

 

 

 

 

 

「面白いから黙ってたのよ。藍もカワイイわねぇ」

 

 

 

 

 

「ゆ……ゆ……

 

紫様ぁぁぁぁぁ! あなたって人はぁぁあああ!!」

 

 

 

 

 

 

「ら、藍……? ど、どうしたの……ひぇあああ!?」

 

 

 

 

 しばらくの間、藍の八つ当たり弾幕がスキマ空間に轟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっ、と。我が家に帰還だぜ」

 

 

 慣れた身のこなしで地に降り立った魔理沙は、眼前に見ゆる霧雨魔法店へ足早に近づいていった。

 

 その表情には、少しだけ、焦りと不安が滲む。

 

 

「……私も、星羅に負けてられない。あいつが頑張ってるんだ……私も、私にやれることをやらなくっちゃな」

 

 

 と、扉に触れようとした時だった。

 

 

 

 ノブに触れかけた指が、ぴくっと震えた。

 

 

 

「……ん?」

 

 

 

 

 

 

 ……なんだろう、この感覚。

 誰かの魔力か?

 

 にしては……なんだ、この……馴染みのある感覚。

 

 なんで、私はこの感じを知ってるんだ……?

 

 

 

 

 

 不思議な感覚に包まれた魔理沙は、少しだけ顔をしかめると、いつもより気を遣って扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな魔理沙の視界に飛び込んだのは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっ。お邪魔してるぜ」

 

 

 

 

「…………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 とんがり帽子に白黒の服装、見慣れた箒、癖の付いた金髪。

 しかし、白と黒の比率は逆転して白主体になっており、帽子から覗く瞳はどこか寂しそうな視線を注がせている……そんな少女。

 

 読んでいた本をその場に重ね、ゆっくりと立ち上がり、少女は語りかけた。

 

 

 

 

 

「元気そうだな、この世界の私(・・・・・・)は。懐かしいぜ」

 

 

 

「わ、わわわ、わ……私!?」

 

 

 

 

 

「その通り。私こそ、正真正銘……霧雨魔理沙だぜ」

 

 

 

 

 

 そう。

 少女……否、“白い”魔理沙が、そこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ」

 

 

 ミニ八卦炉を取り出そうとするその手を、白い魔理沙が片手を上げて制した。

 

 

「おいおい、待てよ! 私、まだ何もしてねえだろ。お前を攻撃するつもりはない!」

「……そうなのか?」

 

 

 まだ警戒を解かない魔理沙に、彼女は言う。

 

 

「ここでお前を攻撃したところでなんの利点にもならないし、そもそもそんなつもりはない。単に私は、お前に会いに来ただけなんだ」

 

「……」

 

 

 同じ黄色の瞳が交錯する中、2人はだんだんと距離を詰めていく。

 

 

「……もしかしなくても……大方、“あの”霊夢のことで警戒してるんだろ?」

「まぁ、そうだけど。前例があると、人間ってのは敏感になるもんさ」

「あんなことをすれば、まぁ……仕方ないよな」

 

 

「……お前は、……そっちの私は、違うってのか?」

「あぁ。別に、この世界を壊すつもりなんか微塵たりとてないぜ」

 

 

 白い帽子を外し、彼女はその中から自分の八卦炉を取り出す。

 

 魔理沙の持つものと、全く同じものだった。

 

 それを見て、訝しそうに魔理沙は目を細める。

 

 

「……やっぱり、ミニ八卦炉も、おんなじなんだな」

「マスパも撃てるし、色々な用途に使える。少なくとも、お前にできることは何でもできるし、逆にできないことは無理だ」

 

 

 帽子掛けに引っ掛けながら、白魔理沙は問う。

 

 

「……そろそろ、なんで私がここにいるのかについて話したほうが良さそうか?」

 

「……仮にも私の家だしな」

 

 

 魔理沙も帽子を掛けて、頷いた。

 

 

「……霊夢の気持ちが、ちょっとわかった気がする」

「自分を見てると変な気分になるだろ? 安心しな、私もだ」

「色は逆だけど」

「それについても後で話す。とりあえず座ろうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……にしても。相変わらずとっ散らかってるなぁ、私の家」

 

 

 無造作に積まれた本、様々な形の実験器具、仮止めされたメモ、その他色々な雑貨。

 

 空いていたソファに座り込み、懐かしそうに見渡す白い自分を、隣で魔理沙は眺めていた。

 

 

「……お前、やっぱり……」

「…もしかして、来是から聞いたのか?」

「…! 来是のこと、知ってるのか!? あの黒い霊夢とか、星羅とかと一緒に……未来からやって来たのか?」

 

 

 食い気味になった彼女に白魔理沙は若干うろたえつつも、頷く。

 

 

「ち、近いって…ちゃんと話すから」

「あ、すまん……」

 

 

 軽く咳払いをしたあと、白魔理沙は告げる。

 

 

 

「……改めて。

私は、来是……今は、星羅っていうんだっけ。あいつと一緒に、この世界に……“過去の”幻想郷に飛んできたんだ。

その時に訳あって白くなっちまった。それでこうなってる。

 

なんとか、お前や霊夢、星羅に会おうとしてたんだが、どういうわけかタイミングが全然合わなくてさ。こうしてお前に会うのが随分と遅くなってしまったんだ。

もっと早く会えてれば……色々、伝えられたんだけど」

 

 

「……訳あって、って?」

 

 

 首を傾げた魔理沙だが、その問いに対して、白魔理沙は視線を落とした。

 

 

「…………」

 

「ん? 何か……言い辛い話、なのか? 過去の自分と見分けやすくするため、とかじゃあないのか?」

 

 

「……そんな単純な話じゃない」

 

 

 静かに答えたその声に、魔理沙は目を見開く。

 

 

 

「……言うべきことなのはわかってる。でも……この話をすれば、お前は……“私”は、

 

全力で、星羅を守ろうとすると思う」

 

 

「……な、なんで」

 

 

 

 理解が追いつかない魔理沙に、彼女は更に続ける。

 

 

 

「私達、未来の幻想郷が滅んだのは、奴ら……機怪の侵略行為のせいだ。

そして、その未来を回避するために……私や来是は過去にやってきた。

 

来是は星羅として記憶をなくし、取り戻しながら新しい日々を送ることで過去を変えようとしてる。

 

……でも、私は……それを手伝うことができない。

 

 

それに……この話をしたら……タイムパラドックスが起きる可能性だってある。

少なくとも……そうやすやすと話せないんだ」

 

 

「な、なんでだよ! 霊夢はともかく、同じ私なら話をわかってくれるとか考えなかったのかよ!?」

 

 

 

 驚き、困惑する魔理沙。

 

 

 白魔理沙はしばらく黙ったあと、ゆっくりと答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………。

 

 

 

 

 

 

……このことは、時が来るまで、絶対に、誰にも言わないでくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は……実はもう、死んでいるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………………………嘘だろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんで私が、洗濯しなきゃならないんだよー……」

 

「文句を言わない! これも修行よ」

 

「……私、修行するために神社(ここ)に来た訳じゃありませんよ……華扇さん」

 

「だから、言い訳や文句は後にしなさい!」

 

「うへーい」

 

「返事はしっかりー!」

 

「……はいっ!」

 

 

 

 

 星羅は霊夢に頼まれていた、予備の巫女服と自分の着替えの洗濯を行っていた。

 

 初夏とはいえそこそこの気温、水もあっという間に温くなる。水を使った作業だが汗が出ていた。

 

 流石に一人でやらせるほど霊夢も鬼ではなかったので、どうやったかもその意図も不明だが、どこからかあの茨木 華扇に依頼させ、約束の時間に来させ、一緒にやらせていた。

 華扇にしごかれ、くたくたになりながら、星羅は悲鳴を上げる。

 

 

 

「な、なぜ魔理沙を呼ばなかったんだーっ!!!」

 

「さっきまで魔理沙と一緒にいたんじゃなかったの?」

 

「そうじゃん!? 止めればよかったぁー!!!」

 

 

 

 

 

 

 どうにか全て干し終わったので、2人は片付けに入った。

 

 

「終わったぁー…!」

「お疲れ様、星羅。やればできるじゃないの」

「まぁ……外にいた頃は、記憶が正しければどうやら洗濯手伝ってたみたいなんで」

「偉いわねぇ。親孝行できてて良いじゃないの」

 

 

 その言葉に、一瞬動きが止まる星羅。

 

 華扇は振り返り、そして息を呑んだ。

 

 

「……ここにいる時点で、外の親には親不孝なんですが」

 

「……、ごめんなさいね」

「いいんです。どうせここに来た時点で、忘れられてるんでしょうから」

 

 

 その目に少し、悲しみが陰る。

 

 幻想郷の性質を知った今、星羅も色々と思うところがあったのだろう。

 

 

 

 

「私、今…これから何をすればいいのか、わからなくなったんです。

記憶を集めれば集めるほど、たどればたどるほど……自分の知らないことを、自分の一部だと押し付けられて、苦しめられる。本当にそれでいいのか、って。

そして、そんなことに、周りを巻き込んで、本当にいいのか……って。

 

……みんなが私のために、色々なことをやってくれているのはわかってるんです。

でも……でも、私は、みんなに何をしたんだろう、って。苦しんで、悲しんで、歩みを止めて、それを皆に背中を押されて立ち直って――私はみんなに支えてもらうばかりで、みんなには何も……!」

 

 

 

 

 そんな彼女に、そっと華扇は触れる。

 

 

 

「……星羅、それは違うわ」

「華扇さん……?」

「私があんなこと言っておいて、とは思うだろうけど、聞いて。

あなたの気持ちはわかるわ。でもね……それは違うの。

過去は、確かにあなたの一部よ。けれど、だからって引きずり過ぎるのは良くないこと。過去をしっかり受け入れて、区切りをつけて……前に進んで行かなきゃならない時もある。私だってそうだったんだから」

「……」

 

 

 包帯の右腕を見せる華扇。

 星羅は敢えて聞かなかったが、昔……深い事情があったであろうことを察した。

 

 華扇は、そっと星羅を包み、告げる。

 

 

「たぶん、これからもあなたの記憶集めは続くわ。その度にたくさんの記憶を取り戻して、たくさんの後悔や悲しみを思い出すと思うの。

けれど、それを全て真っ向から受け入れるなんて……人妖問わず、無理な話よ。

時には逃げたっていい……そしていつか、ちゃんと受け入れて、一歩前に踏み出せばいい。それでいいのよ」

 

 

「……」

 

 

「つらい時、悲しい時。すぐ側にいて、いつでも頼れる人が、あなたにはたくさんいるじゃない。困ったときは頼っていいって、言われたんでしょう? 余裕ができたら、答えが見出だせたら。みんなに、その恩を返せば良い。

……あなたなりに、確実に頑張っていきなさい。私も応援するわ」

 

 

「……華扇さん……ありがとうございます……」

 

 

 

 静かに涙する星羅を、華扇は黙って受け止めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 落ち着いた星羅は片付けを再開。

 

 心にひとつ区切り付いたからか、テキパキと片付けを進め、華扇のやることがなくなってしまった。

 

 

「無理はしないのよ〜! そこそこ暑いんだから。熱中症で倒れたら元も子もないわよー」

「わかってますってー!」

 

 

 奥で境内に水を撒く華扇に大声で返しつつ、たらいに溜めた水を運びながら、星羅は呟く。

 

 

「……プールがあればなー、この暑さもどうとでもなるんだけど。まだ死ぬほど暑くないのが幸いかなー。

 

……みんな、私のために色々やってくれてるんだ。私もちゃんと応えなくっちゃ……」

 

 

 

 が、考えることに気を取られてしまい、思わず石ころにつまずいてしまった。

 

 

 

 

「わぎゃっ…とぉー!?」

 

 

 

 

 たらいの落下音と、ぶつかる衝撃音と、水が弾ける音が共鳴した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「星羅、大丈夫!? 色々と凄い音がしたわよ……!?」

 

 

 慌てて駆けつけた華扇に、星羅は顔を上げて答えた。

 

 

 

「だ、大丈夫でーす……っててぇー……水が……」

 

 

 

 幸いにもだったので、神社への大した被害は無かったものの、たらいの水をぶちまけてしまった。地面に吸われ、あるいは太陽で蒸発するだろうから心配はないだろうが。

 とはいえ水が少し自分にもかかってしまったので、完全に無事とは言えない、といった程度である。

 

 

「あ、星羅。あなたのメモリ、落ちてしまってるわ」

「……あぁ、メモリが……」

 

 

 立ち上がって土を払うと、ポケットからメモリが零れ落ちていたのがわかった。

 コケた反動で飛び出したのだろう。

 

 2人で回収していると、ひとつのメモリに目が留まる。

 

 

 

「…………あれ、このメモリ……」

 

「……これは」

 

 

 

 

 色のないメモリ。ブランクメモリだった。

 やはりいつの間にかできている。

 

 

 観察して目を引くのは……星。

 鮮やかな光らしき線も背景に描かれていた。

 

 

 

 

 思い当たる者が一人浮かび、星羅はたらいのことを忘れ、空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

「……魔理沙?」

 

 

 

 

 

 

 地面に溜まった水が陽の光で反射し、まるで星々のように、きらきらと輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 2Pカラーが白い魔理沙なのって、弾幕アクションの時……深秘録と憑依華だったはず。記憶違いだったらごめんなさい。


 今回のゲストは番外編にも出てきた華扇さん。
 予め星羅のことは聞いているのでああいう扱い。
 母性ってすごいね。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

047. 純白の閃光

 魔理沙編ももう3話目。
 白魔理沙の持つその力の一端が明かされます。




 

 

 

 もうひとりの自分、白魔理沙。

 

 彼女もまた、黒霊夢や来是同様、過去を変えるために未来からやってきた存在だった。

 

 

 白い理由について、彼女は衝撃的な事実を伝える。

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 魔法の森、上空。

 

 

 霧雨魔法店を見つめる一人の影。

 

 

 

 

「……っ」

 

 

 睨みつけるように目を細め、彼女は地に降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……こんな世界(幻想郷)なんて……もう、いらない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……死んでる、って……未来の幻想郷で、私……死ぬのか!?!?」

 

 

 

 

 驚きと困惑、焦りが混じった声音で、魔理沙は思わず叫んでいた。

 

 

 

 

 

「……信じられないだろ? 本当なんだ。……それを変えるために、ここへ来たんだけどな」

 

 

 

 隣の白魔理沙はただ頷く。

 

 彼女は、既にこの世にはいない幻影なのだというのである。

 

 

 よく見ると、ほんの僅かに彼女の周りをノイズらしきものが覆っており、本来曲がりなりにも「普通の人間」である魔理沙ではないことを表していた。

 

 

 

 

「……ウソ、だろ……私……なんで……!?」

 

 

 大きく混乱する彼女に、口を開いた。

 

 

 

「……霊夢を守って、死んだ」

 

「………………えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……機怪によって殺されそうな霊夢を……私が庇った。

 

庇って、最後の力で奴らに決定打を叩き込んで……幻想郷はギリギリ崩壊を免れたんだ。

 

……紫と、霊夢……そして、来是以外の命と引き換えに。当然その“命”には……私も含まれてる」

 

 

 

 

 

 

 衝撃的な真実に次ぐ真実に、魔理沙は身体が震えた。

 

 

「……」

 

「最期に見た、あいつの……今にも泣き崩れてしまいそうな顔を……とても、鮮明に覚えてる」

 

 

 その手をぐっと握りしめ、彼女はひとつひとつ、零していった。

 

 

「……もっと霊夢に並べていれば、もっと私がちゃんとしていれば。もっと……強ければ。

そんな後悔をしながらも……霊夢を守れた誇らしさは、あの時たしかにあった」

 

 

 

「……そう、なんだな」

 

 

 

 魔理沙は不思議と否定はできなかった。

 

 

 

 

「……たぶん、魔理沙(わたし)霊夢(あいつ)も……お互いが目の前で死にそうな時、庇ってしまう。なぜだか…そんな気がする」

 

 

 言い切れない魔理沙だったが、なぜだか確信はどこかにあった。

 

 

「なんでなんだろう……私は、あいつを……」

 

 

「……」

 

 

 白魔理沙は目を閉じ、呟く。

 

 

「……その気持ちの理由、知りたいか?」

「えっ? 知ってるのか?」

 

 

 俯いていた顔が上がった。

 

 

 ……が、

 

 

 

 

「……うーん……やっぱりやーめた」

 

 

 

「はぁ!?」

 

 

 

白魔理沙はにんまりとした笑みを浮かべて答えた。

 

 

「私ってひねくれてるからな。そう簡単には教えてやらないぜ」

「な、なんなんだよー……!」

 

 

 脱力する魔理沙を見て、白魔理沙はケラケラと笑った。

 

 

 しばらくして、こほん、と咳払いをつく。

 

 

 

 

「本題に戻るぞ。

……全てが滅んだ結末を変えるために、今際の紫は来是を過去に戻すことを決めた。あいつがやってきた頃まで。

時空の境界を一時的に破壊して――過去まで、来是を送るために。

追っ手である機怪に悟られぬように、記憶を一旦無くさせて、名前も“星羅”にした。

……ま、意味は……あんまり無かったみたいだけどな」

 

 

 今までひっそりと見ていたのだろうか、ここまでの出来事を知っているような口ぶりをしたが、魔理沙はそれは聞かなかった。

 

 ……それよりも。

 

 

「……私達が、あいつと面識があるような気がしていたのも……機怪が、私達のことを知ってるのも……星羅が、機怪に対して特効になる武器を持ってるのも……」

「あぁ。全て、“今は過去になった”未来で、一度起きたからなんだ」

 

 

 

 そこまで答えられ、魔理沙はふと1つの疑問がよぎった。

 

 

 

「……ん……ちょっと待て……」

「…どうした? 聞きたいことがあるなら今のうちだぜ?」

 

 

 

 

「…お前……白い私は、どうして……死んでるのに、ここにいるんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………、ちょっと、やらなくちゃならないことがあって」

 

 

 

「……やらなくちゃならないこと?」

 

 

 

 

 

 魔理沙が聞き返そうとした、その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………っ!」

 

 

――白魔理沙が振り返って立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

「……伏せろ!」

 

「……んなっ!?」

 

 

 

 

 

 

 直後。

 家の一部が盛大に消し飛び、霧雨魔法店は派手な爆発をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの爆発……!」

 

 

 

 

 霧雨魔法店へ向かうアリスは、その方角から立ち昇る爆炎を見て、一瞬青ざめた。

 

 

 

「……実験の失敗なら、いいんだけど……!」

 

 

 

 

 念のため、アリスはその足を速めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 夢想封印の輝きに照らされながら、黒霊夢が降り立つ。

 

 黒煙をあげる霧雨魔法店へ近づく。

 

 

 

「…………!」

 

 

 その足が止まった。

 

 

 

 

「……よう。久しぶりじゃねーか」

 

 

 

 そこには魔法陣を展開し無傷でこちらを見つめる白魔理沙と、何が起こったのかようやく理解した魔理沙がいた。

 

 真っ赤な視線を、白魔理沙はその目に受け止める。

 

 

「……へっ。……変わっちまったな、霊夢」

 

「……変わった? ……それはアンタのほうでしょ?」

 

 

 キッと睨みつける黒霊夢。

 

 体勢を立て直した魔理沙が叫んだ。

 

 

「……おい! お前が星羅の言ってた、黒霊夢ってのか! ……私の家を吹っ飛ばしておいて、なんのつもりだ!?」

「……これから殺すのに、答えるわけがないでしょ」

「な、何だと!?」

 

「……いや、待ってくれ。今から話す」

「…!」

 

 白い自分に制され、思わず視線を向ける魔理沙。

 

 ひとりでに飛来した帽子から八卦炉を取り出し、彼女は告げた。

 

 

「……下がってろ、私。あいつはお前じゃ止められない」

「……ど、どういう意味だよ!? 確かに、霊夢達はやられたらしいけど……!」

「今、あいつに私達の邪魔をさせるわけにはいかないんだ。任せてくれ」

「……くっ! 言ったからにはどうにかしてみせろよ…!」

 

 

 霊夢や星羅から聞いた、相手の……黒霊夢の、底知れぬ強さ。言葉だけだったが、それ自体は魔理沙も分かっていた。

 

 ひとまず奥へ退避し、白い自分が構えるのを見つめる。

 

 

 

 一歩前に出た白魔理沙は、黒霊夢に向かって告げた。

 

 

 

 

 

 

 

「……霊夢。

お前の、くだらない八つ当たりを止めに来たぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……八つ当たり……? ……まさか!?」

 

 

 

 

 魔理沙は何かを察したが、その時には黒霊夢は動いていた。

 

 

 

 

 

 

「……いま、さら……遅いのよっ!!」

 

 

 

 

 逆鱗に触れたように、赤い眼光が白魔理沙を突き刺す。

 彼女は一度に凄まじい量の弾幕を放った。

 

 それを、白魔理沙は展開した魔法陣を以て、無言で受け止めた。

 

 

 爆散する弾幕越しに、彼女は続ける。

 

 

「お前とどんだけ長く、一緒にいたと思ってる。……効かねーよ」

「……うるさい!!!」

 

 

 黒霊夢は再び、その昏い虹を纏う。

 

 

「……霊符!!【夢想封印】っ!!!」

 

 

 

 しかし、白魔理沙は動じなかった。

 

 

 

「……妖器【ダークスパーク】! 虹符【スターダストレヴァリエ】!!」

 

 

 

 黒き閃光が幾本の星々に包まれ、放たれる。

 ものの数秒で全てを相殺した。

 

 

 

「……なっ……霊夢の夢想封印を、全部封殺した!?」

 

 

 

 

 自分のスペカで対等に戦う自分を見て、魔理沙が驚愕する。

 絶対の力を持つ夢想封印ばかりはかわせないと思っていたのだ、無理もない。

 

 

 

「夢符……【封魔陣】!!」

 

 

 立て続けに札を放ち、白魔理沙の周囲を覆う黒霊夢。

 

 しかし、彼女は動じない。

 

 

 

「……星符! 【サテライトイリュージョン】!!」

 

「……何!?」

 

 

 8つの輝く魔法の光球が展開され、動きを封じようとする札を全て弾き飛ばす。

 

 

 

「まだまだ! 彗星! 【ブレイジングスター】!!!」

 

 

 

 そのまま光を纏って高速突撃。

 

 結界越しに、黒霊夢を吹き飛ばした。

 

 

「……くぅっ!?」

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 その光景を、信じられないという思いで、魔理沙は見つめていた。

 

 

 

 ……互角以上に戦えてる……なんでだろう?

 

 私は霊夢といつも一進一退なのに、こいつは……もうひとりの私は、どうして私のよく知る霊夢以上に強いハズの黒霊夢相手に戦えているんだ?

 

 

 ……何か、からくりでもあるのか?

 

 

 

 

 

「ああああああっ!!!」

 

 

 

 なりふり構わず突っ込んでくる黒霊夢。

 

 空を切る大幣が、凄まじい速度で振るわれる。

 

 

 

「……」

 

 

 

 それを、最低限の回避でいなし続ける白魔理沙。

 まるでどこから飛んでくるかがわかっているように。

 

 

 かざした手のひらが重なり、光が迸る。

 

 

 

「「!!」」

 

 

 お互いに放った弾幕が至近距離で爆ぜ、距離を置く。

 後退しつつも、牽制し合う。

 

 

 

「私の邪魔をしないで! わかるでしょ魔理沙!? アンタだって……私と同じ立場になったら、絶対こうする!!」

 

「あぁ、そうだな。……だが、例え私だろうがお前だろうが……お互いにお互いを止めようとするさ」

 

 

 

 手のひらに魔法陣を形成し、再び振るわれた幣を受け止める。

 

 

 

「…なっ」

 

 

「……だから私はお前を止めるために、わざわざこの世界にやってきたんだ!!」

 

 

 

 ――反対の手には、ミニ八卦炉が握られていた。

 

 

 

「……!?」

 

 

 

 

 

 

「食らえ。

 

 

恋符【マスタースパーク】!!!」

 

 

 

 

 

 恋色の光が一閃。

 

 

 防御したとはいえ、黒霊夢を大きく弾き飛ばした。

 

 

 

「……うわぁあっ!?」

 

 

 

 

 森を抉る土煙が一直線に発生し、衝撃で巻き起こった突風が、白魔理沙をなびかせる。

 

 帽子を抑えながら、彼女は吹き飛ばした方へと歩き出していく。

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 魔理沙は、それを見つめ、そして呟いた。

 

 

 

 

 

 

「……霊夢に、マスパを……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ……っ……はぁ……」

 

 

 

 

 不意を突かれた黒霊夢。

 

 

 そこへ、白魔理沙が八卦炉を構えたまま近付いた。

 

 

 

 

 

「……霊夢。お前、自分のためだけに世界をめちゃくちゃにするようなやつじゃなかっただろ。

 

……異変解決者が、異変起こしてどうする?」

 

 

 

「……っ……」

 

 

 

 

 黒霊夢は、逃げるように背を向け、答えた。

 

 

 

 

 

「……アンタにはわからないわよ……

 

一度アンタを失った……あの時の、私の気持ちなんか」

 

 

 

「……霊夢……!」

 

 

 

 

 森の奥へ消えていくその背を、白魔理沙は追わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……わかってるからこそ……わざわざ……会いに、来たんだろ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……代わりに、震えるような声を出して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………行っちゃったのか?」

 

 

 

 

 

 

 黒い自分……いや、過去の自分に尋ねられ、白魔理沙は振り返った。

 

 

 その目には、自分が映る。

 目の前の自分にそっくりな自分が。

 亡霊と化した、白い「私」が。

 

 

 

 そこに映る自分は、悲しげだった。

 

 

 

 

 

 彼女は八卦炉を取り出して、告げた。

 

 

 

「……なぁ。お前のその力は、どこから来てるんだ?」

 

 

 

 

「……わざわざ、聞く?」

 

 

 意外そうな顔をして、白魔理沙は答える。

 

 

 

「同じ私なら、察しが付くって思ったんだけどな」

「……すまん、わかんないぜ」

「……無理もないか」

 

 

 

 ふぅ、とため息をついて、彼女は言った。

 

 

 

「……宿題」

 

「……は?」

「明日、また来る。それまでに、自分なりの解答を用意しておくこと。良いな?」

「…ちょ、なんでだよ!? 教えてくれよ……!?」

 

 

 目を見開き慌てる魔理沙に、彼女は続けた。

 

 

 

「努力は私“達”の専売特許だろ? 同じ私なら、絶対気づくはずさ。頑張って見つけてくれ」

「お前なぁ……!」

 

 

 

 

「……流石にノーヒントじゃつらいか?

じゃあこの魔理沙さまが一つだけヒントをやるよ」

 

 

 

 白魔理沙は指を立て、そして告げる。

 

 

 

「……星羅に会ってこい。

……あいつがきっと、カギを持ってる。私の力の理由も、あいつにあるはずさ」

 

 

 

 

 

「……星羅に?」

 

「ま、頑張れよ。こう見えて……私もあんまりゆっくりしてられないみたいだからな。同じ魔理沙同士……必ず気付いてくれるって、信じてるぜ」

 

 

 

 

 直後、白い光が彼女を包む。

 

 

 

 

「……じゃあな」

 

 

 

「…………ちょっ、待てって!!」

 

 

 

 

 転移魔法なのか、それとも亡霊の成せることなのか。

 

 白魔理沙は突如白い光を発して、歪むようにその場から消えた。

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 いなくなった後の、残った光を、魔理沙は呆然と見つめていた。

 

 

 

 

 

 空を見上げ、呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やっぱり私って、ひねくれてるぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何を当たり前なことを言ってるの?」

 

 

 凛とした声に振り返ると、アリスがそこにいた。

 

 上海も蓬莱も連れている。

 

 

「あ、アリス……!」

 

 

 

 親指で後方を指し、彼女は言った。

 

 

 

「……中々派手にぶっ飛んだわね、あなたの家。何があったのか説明してくれる?」

 

 

「……あぁ。……いいぜ」

 

 

 

 

 ……後で、アリスも連れて……博麗神社に行くか。

 

 

 

 魔理沙は迷いを振り払うように首を振って、損壊した自宅へ向かおうとした。

 

 

 

 

 だが、再びあの言葉が頭をよぎる。

 

 

 

 

 

 

『一つだけヒントをやるよ。星羅に会ってこい。……あいつがきっと、カギを持ってる。私の力の理由も、あいつにあるはずさ』

 

『ま、頑張れよ。こう見えて……私もあんまりゆっくりしてられないみたいだからな。同じ魔理沙同士、必ず気付いてくれるって信じてるぜ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そういえば、アリスにも言われたっけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あなたは星羅と比べて、あなた自身のこと、どう思ってるの?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は、星羅と……どう向き合ってるんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……りさ? 魔理沙ー?」

 

 

 

 上海と蓬莱にほっぺをつままれ、魔理沙は我に返った。

 

 

 

 

「シャンハーイ?」

「ホラーイ」

「……あ、ごめん。……ちょっと考えごとしてた」

「らしくないわね。……なんとなく、察しはつくけど」

 

 

 

 

 

 

 そう言い、彼女を進ませるように、崩れた壁へ駆け出していくアリス。

 

 

 魔理沙も、今度こそ区切りをつけ、その後を追っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 今回星羅の出番がありませんでした。やっちまったぜ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

048. 星の導き

 悩める魔理沙ちゃんの回。

 ただ明るいだけじゃない、頑張り屋で努力家で繊細な一面も持ってる彼女を描けたらいいな。





 

 

 黒霊夢と相対する白魔理沙。

 

 2人の時間軸の幻想郷は機怪によって滅ぼされたこと、

 白魔理沙はなんとか終止符を打つのと引き換えにいなくなったこと、

 来是は星羅として未来から過去へ飛ばされたこと、

 黒霊夢が何らかの理由で“八つ当たりのために”この世界を滅ぼそうとしていること……が、判明する。

 

 圧倒的戦力差をもろともせず逆に圧倒する白魔理沙に疑問を抱く魔理沙だったが、その答えは自分で探すよう言われてしまう。

 曰く、『星羅に会うこと』がカギらしいが……?

 

 

 追ってきたアリスに事情を説明した魔理沙は、吹き飛ばされた家の一部を直しながら、今後を語っていた。

 

 

 

_______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……もうひとりの、魔理沙……ね。白い事以外はあなたと同じで、だけど強い……か」

「アリスも見ただろ? 森を一閃する、凄まじい威力のマスパを」

「ええ。正直、森を薙ぎ払うくらいなら私でもできなくはないけど……その威力で霊夢を吹き飛ばせるかって言われると……」

「あぁ。だから、私はあいつに聞いたんだよ。その力はどっから来るんだ、ってな。……はぐらかしやがった」

「魔理沙ならやりかねないわね。ていうか、常習犯じゃない」

「お前までそんな事言うのかよ……」

 

 

 

 申し訳程度にこしらえた仮組みの屋根の下で、机を囲んで2人は座っていた。

 

 白魔理沙があの時、魔法障壁を展開していたおかげか、外壁が破壊された以外に一切の被害はなかった。

 仮にも霊夢の夢想封印、威力も射程も言うまでもない程のもの……それを、外壁が崩れた程度まで抑えるなど、相当な魔力がないと無理な話だ。

 

 

 白魔理沙から釘を刺された「白魔理沙が死んでいる事実」だけは話さなかったが、それ以外の事はほぼそのまんま伝えた。

 

「……過去を変えて、滅びの未来を止める。要約するとそんな感じなのね」

「あぁ。そのために……人格をリセットした来是は星羅としてこの世界に顕現したってわけだな」

「……本人の意志、なのかしら」

「たぶんな。……相当な覚悟がないと、人格の再構築なんてやらねえよ」

 

 

 2人は顔を見合わせ、同じことを思った。

 

――星羅に、会わなければ。

 

 

「……どの道、行かなきゃでしょう?」

 

「思ったことは同じらしいな。だったら、善は急げだぜ」

 

 

 

半壊した自宅をそのまま置いて、アリスを後ろに乗せた魔理沙は博麗神社へと進路を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……魔理沙の、ファンタズムメモリ?」

 

 

 妖怪退治から帰った霊夢は、星羅に1枚のメモリを見せられていた。

 

 

 色のない、ブランク状態。

 しかし、魔理沙のものだとわかりやすく示すように、星が描かれている。

 

 

「……このタイミングで、魔理沙なの?」

「それは私も思った。霊夢の話だと確か……次は、地底がどうのこうのって」

「えぇ。……何かあるのかしら」

 

 訝しがる霊夢を、華扇が諭した。

 

 

「……黒い霊夢の事、知ってるでしょう」

「何よ急に……なんなら襲われたわよ」

 

 

 

「…………もし。

黒いあなたと、過去の魔理沙が、かつての星羅……来是にとっても特別な存在だった。

……としたら、どう?」

 

 

 

 霊夢の目が見開かれた。

 

 

 

「……華扇?」

 

「霊夢と魔理沙は、初めて星羅と会った存在。メモリというのは記憶を反映するもの。

……もしも、来是もまた同じだとしたら? ファンタズムメモリが、過去を変えつつも来是の道程を辿るための指標だとしたら? 過去の霊夢達が、来是にとって何よりも大切な存在だったなら? ……そう考えると、最も一緒にいて、なおかつ恩人でもあるはずの貴女達のメモリが特殊だとしても、違和感はないわ」

 

 

 

「私達が特殊……か」

 

 

 霊夢は顔をしかめる。

 薄々勘づいてはいたが、改めて意識すると複雑だ。

 

 星羅にとって自分達が必要なのはわかっている。

 裏で眠る来是にとっても。

 

 しかし、未来からやってきた黒い自分は……逆にそれを拒絶し、私達を攻撃し、果てにはまるごと消し去ろうとしている。

 何があってあそこまでキレてるのかはわからないが……「何かあった」ことで、豹変していることは間違いない。

 

 星羅と共にいることで……もしも同じ道を辿る事になったら。

 

 そんな不安が過り始めた。

 

 

 

 

 

「…よう。帰ったんだな、霊夢」

 

「……魔理沙」

 

 

 そこへ、聞き慣れた声が響く。

 

 振り返ると、魔理沙がアリスを伴って降りてきたところだった。

 箒を立てかけ、星羅の元へ近づく。

 

 

「その様子。何かあったんだな。私の方でも色々あったんだ。

……今朝の続きっちゃ何だが、意見交換しようぜ」

 

「……わかった」

 

 

 星羅はこくりと頷き、華扇と霊夢にも目線を送った。

 

 

「……私はそろそろお暇するわ。役目も終えたし、霊夢や星羅に言いたいことも言えたもの」

「やった」

「……何か言った? 霊夢」

「なんでもない」

「星羅、頑張ってね。私の方でもできるだけ情報を集めてみるから」

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 華扇と交代する形で2人を加えた博麗神社。

 

 ちゃぶ台を囲み、お互いに起きた近況を話し合う。

 

 

 

 

「……私のメモリか」

 

 

 右手でつまみ、まじまじと自身のブランクメモリを見つめる魔理沙。

 自分のものができて嬉しいような、また星羅が苦しみかねないかという心配のような、複雑な感情が湧き上がってきた。

 

 

「これが、メモリ……改めて見ると、無機質なはずなのにどこか儚げで、綺麗ね」

 

 

 アリスもいくつかのスペルメモリを手にとっては、珍しい物を見る目で物色していた。

 

「こんな小さなカードで、あれだけの技を出せるのね。不思議」

「まぁ私達にも原理は不明だけどね」

 

 霊夢が皮肉げに言う。

 

「スペカだけじゃなくて、星羅の記憶も入ってるんだもの。どうやって人間の記憶をこんなカードに入れたのか、そもそもスペカと一緒になってるのは何故なのか……ある意味星羅以上に謎なのよね」

「へぇ」

 

 羨ましそうに見ていた上海と蓬莱に渡してあげながら、アリスは魔理沙に話を振った。

 

「で、魔理沙? こっちも話すことあるでしょ」

「おっと、そうだったな」

 

 魔理沙は自分のブランクメモリを返し、その話を切り出した。

 

 

 

「……霊夢、あれから黒霊夢には会ったか?」

「いや。全く」

 

 

 

 

「……白い私に会ったぜ」

 

 

 

 

「……はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……黒い私に、白い魔理沙。そして、来是。みんな、過去からやって来て、この世界で何かを成そうとしている……か」

 

 

 

 話を聞き、霊夢は目を細めて呟く。

 

 

「……知らぬ間に好き勝手されるのは、正直困るんだけどなぁ」

「ま、あっちからすれば過去改変だが、こっちからすればやってることはただの荒らしみたいなもんだからな……」

 

 魔理沙も頷く。

 

 しっかりと理由を話すこと無く暴れ回る黒霊夢。

 制限のせいであまりこちらに顕現できない、しかし今回の最重要人物、来是。

 謎の振る舞いを見せ、黒霊夢を止めようとしているらしい、白魔理沙。

 

 常に星羅と共にある来是はともかく、黒霊夢と白魔理沙はいつの間にか現代にやってきて、それでいて独自の行動をしている。

 あちらはすべてを知っているのに対し、こちらは未だにほとんどの情報を知らされていないのだ。

 

 

 

「とにかく」

 

 

 アリスが言う。

 

 

「今は……黒い霊夢に気をつけつつ、白魔理沙から情報を引き出す他ないわね」

「ついでに、あいつに会うまでにあいつの力の源を掴まなきゃならないからな……」

 

 

 魔理沙が付け加えた。

 

 

「私、ちょっと人里に行ってみようかな」

「珍しいなアリス」

「なんとなくよ。機怪についての情報収集。あいつらのことを追えば、おのずと何かわかるかもしれないじゃない。魔理沙だと面倒事になりそうだからね。素材も買わなくちゃいけないし」

「本命そっちのくせに……まぁいいわ、私もついてく。暇だし」

「さっきの発言ブーメランしていい?」

「え、霊夢また人里に行くの?」

「たまには動きたくなるもんなのよ」

 

 

 

 そう言い立ち上がる霊夢とアリス。

 

 戸を閉める直前、アリスは一瞬、魔理沙に視線を送った。

 

 

 

「……」

 

 

「……! ……わかった」

 

 

 何かを察し、こくりと頷く魔理沙。

 何をしたのかわかっていない星羅はただ首を傾げるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「星羅。私がここに来たのには、別の理由があるんだ」

 

「……え?」

 

 

 座り直した魔理沙は、静かに話し始めた。

 

 

「……白魔理沙の、あの力。黒霊夢さえも翻弄し圧倒できる、あいつのあの力。それの秘密を知るためにここに来たんだ」

「力?」

 

 星羅が首を傾げると、魔理沙は言った。

 

 

「殺意むき出しの霊夢の攻撃を全部無効化するばかりか……まるで全部わかってるみたいな動きと、無敵なはずの霊夢の防御を貫くマスパを撃つ力を、兼ね備えてたんだぜ」

「……霊夢の力を、無効化……!? ……たまたまじゃ、ないの?」

「んなわけないだろ。でなかったら、あそこまで行動の読めた反撃には転じられないって、自分がよくわかってる」

「……そうなの?」

 

 

 彼女は、ミニ八卦炉を取り出した。

 

 

 

「……霊夢の力は、正直私なんかよりも遥かに上だ。なにせ、この幻想郷そのもののバランスを保つためにいるんだからな。……でも、そんな霊夢の力を……真っ向から打ち破る術を、白い私は持ってた。その謎がわかれば、私達も黒霊夢に対抗できる」

 

 

 握りしめるその手が、震えていた。

 

 

「……」

「それは、お前に聞けばわかるって言われた。だから、一緒に解き明かして欲しいんだ」

 

 

 星羅に向き直り、告げる。

 

 

「頼む、黒霊夢もぶっ倒せるような力を……見つける手伝いをして欲しい」

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 沈黙が流れる。

 

 

 

「……………………」

 

 

 

 更に、沈黙が流れる。

 

 

 

 

 

「……星羅? おーい」

 

 

 魔理沙が心配そうに聞くと、うつむいていた顔が唐突に上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………無理」

 

 

 

 返されたその言葉は魔理沙の予想を遥かに飛び越えた。

 

 

 

「……な…なんでだよ!?」

 

「魔理沙、たぶん……わかってないと思うよ。白魔理沙の持ってる力の意味」

 

 

 

 ため息混じりに続ける。

 

 

「……あのさ。たぶん白魔理沙って…黒霊夢を倒したいんじゃなくて、止めたいんじゃないの?」

「!?」

「だって……あの時戦った黒霊夢、苦しそうだったもん。悲しそうだったんだもん。……辛そうだったんだもん。そんな黒霊夢を、きっと助けたいんじゃないかな」

「……」

 

 

 更にこう付け加えた。

 

 

 

 

 

「……気付いてないだけで、たぶん……魔理沙は持ってるよ。その力」

 

 

 

 

 

 

「…そう、なのか?」

 

 

 

 魔理沙は今一度、八卦炉に目をやる。

 

 

 

 

 

 

「……………………、まさか」

 

 

 

 

 

 長い、長い沈黙の後、彼女は立ち上がった。

 

 

 

「どこに行くの?」

 

「……もうちょい、考えてみる。私の持ってる、力ってのを」

 

 

 

 

 何かに気付いたような、堂々とした足取りで、彼女は神社をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで良いんだ、魔理沙」

 

 

 

 星羅が、一人呟く。

 

 

 

 

 

 

「……君は、君らしく進んでくれれば、それで良いんだ。悩まないでほしい。

 

 

だって…まだ、霧雨魔理沙として、幻想郷に生きてるんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 ……否、その瞳は来是のものであった。

 

 

 いつの間にか切り替わった意識が、魔理沙を導いていたのである。

 

 

 

 

 

「……さて、魔理沙にもアドバイスできたし……星羅に身体を渡そっかな」

 

 

 

 そう言うと、その身体はちゃぶ台にうつ伏せになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……う……あれ?

 

みんなは……どこに……魔理沙? さっきの質問は??? えっ……えっ??」

 

 

 

 

 

 

 目覚めた星羅が、誰もいなくなった神社に困惑してしまっていたことは、後で3人が知ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 久々の来是。
 まだ彼?の真意は不明です。
 いつになったら星羅と邂逅するのか? ご期待ください。


 そろそろ、現在の主役がいつの間にか魔理沙になっている事に気付くはず。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。