欲望の獣 (魔女っ子アルト姫)
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欲望の力。

強い身体に憧れた、強い人に憧れた、屈強な背中に憧れた。

 

父に憧れた、母に憧れた、兄に憧れた、姉に憧れた、弟に憧れた、妹に憧れた、従兄弟に憧れた、従姉妹に憧れた。

 

誰かに憧れた、他人に憧れた、世界に憧れた―――自分に絶望した。

 

 

脈々と受け継がれていった家系の血筋、その中に刻まれていく生物の力、それらが極限に凝縮された者こそが―――自分。無数の獣、虫の力を発現する事が出来る力はキメラなどと呼ばれつつも差別される事も疎まれる事も無く将来が期待されていた。一族の中でも最高峰の個性を身に着けた少年、明るい未来が待っていると思われるのだが―――彼の肉体が個性について行けなかった。

 

「っ―――ゴホッガハァッ!!」

「お、おい大丈夫か!?救急車だ救急車ぁ!!」

 

一族全ての個性全てを一つに集めたかのような個性。血の集約の果てに生まれた個性は全ての力を発揮する事は出来るが、その力が余りにも強力すぎてしまった。何処まで行けるのか、それを試そうとした時に血反吐を吐いて倒れこんでしまうという事態が起きてしまった。個性を使おうとすれば一気に力が解放されてしまい肉体が崩壊する。

 

「お子さんは個性を使おうとすればそれが一気に解き放たれてしまうのでしょう。個性を限界まで張り詰められた風船と考えてください、使用すると内部の空気が一気に外に飛び出してしまうのです」

「そ、そんなっ……!?だ、だってこの子はヒーローになりたいって……!!」

「とんでもない!!御覧になった筈です、唯個性を使おうとしただけでこれなんです。ヒーローなんて以ての外です!!」

 

呆気無く彼の夢は奪われた。夢を目指すどころかその身に宿す力を使う事も許されない。その日から彼は部屋から出られなくなった。個性の暴発が何時起こるかも解らぬ故に家に繋ぎ止めておくしかなくなったのだ。

 

「……」

 

個性に耐えられない身体、そしてそれを鍛えようにも何時暴発するかも解らぬ為に器を鍛える事も許されぬ己に絶望した。家族が、親戚が、一族が誰もが彼の味方をし慰めようとした。だが何も意味を成さぬまま……8年が経過した時の事―――彼の元を一人の男が訪れた。

 

「やぁっ君の夢は何かな、聞いてもいいだろうか」

「俺の夢……」

「そう、夢だよ」

 

不思議な問いかけに自らの手を見た。同年代から見ても細く小さい手、背だけは一族の影響か高いが痩せてしまっている身体が酷く恨めしかった。この身体さえ確りしていれば自分は……いや違う、もっと根本的な所を間違っていると思い夢を振り返る。ヒーローに……いや違う。

 

「俺の夢はっ……夢はっ……個性を使いたいっ……!!自由に使いたいっ……父さんみたいに、母さんみたいに……皆と同じ風になりたい……!!!」

 

大粒の涙を流しながらの懇願、ヒーローになりたいなんてよりも根本的な願い。個性を使いたい、家族の皆のようになりたい……それが一番の願いだった。それを聞いた男は満面の笑みを浮かべながら言った。

 

「そうそれだよっ!!それこそが君の夢、ひいては胸に秘め続けた欲望だよ!!」

「欲望……?」

「そうっ欲望!!君は絶望の中に居続けた、だが生きる力をっ欲望を持ち続けた!!素晴らしぃッ!!!

「ッ!?」

 

突然の大声に身を震わせるが、直後に彼は御付の女性が持ってきた箱を開けた。そこにはHappy Birthdayという文字と共にデコレーションされたとても豪勢なケーキともう一つ―――コインでも入りそうなスロットが3つほどある長方形の箱のような物があった。

 

「まずは祝わせてくれ………新しい君の誕生だ!!おめでとう!!そしてこれは君が持つに相応しく、君の欲望を満たす究極のアイテム!!これさえあれば君は欲望を叶えられる、そして次の欲望を持つ事が出来る!!」

「欲望を持てる……これさえっあれば……」

 

目の前にあるアイテム、何か解らないが異常なまでの自信に満ちあふれる言葉と不思議な魔力のような物に引きつけられるかのように手が伸びる。そして手に取った、凝視続ける中で腰に押し当てろと言わんばかりのボディランゲージをする男に従うように腰へと押し当てるとそれは一気に変形していく。自動的に腰へと装着され何かのスキャナーとコインケースのような物が出現した。何が何だかと言わんばかりの自分を男は更に大声で祝った。

 

素晴らしぃッ!!新しい欲望の誕生だぁ!ハッピバァァァァァァスデイ!!!

 

 

「欲望こそ生きるエネルギー、素晴らしぃっ!!いやはや全くだったね」

 

すっかり口癖になってしまった言葉を繰り返しながら道を歩む。何もかもを羨みながらも何も望んでいなかった自分の空白は無くなっていた。いやその空白から湧き出した欲望が新しい物を求めたと言ったほうがいいかもしれない。正しく欲望が新たな欲望を生み出していきそれを求めてエネルギーを生み出していく。無力というよりも、何も思わずいた自分。それが今では……欲望を満たそうとしている(新しい物を欲しがっている)

 

「セイヤァッ!!」

 

そう呟きながらも背後から迫ってきた機械の人形を両腕の鋭い爪が切り裂いた。果物を切る包丁、紙を切る鋏を思わせるような鮮やかで滑らかな切れ味。鋼鉄をそんな風に切り裂く彼の姿が周囲の建物のガラスへと移り込むが、それは紛れもなく異形であった。

 

人型ではあるが全身は黒で統一されているが、頭部はまるで赤く翼を広げた鳥のように見え、上半身は黄色く鋭い爪があり、下半身は緑色のラインが伸びつつ発達している。そして何よりも―――胸部にある円形のプレートにはそれぞれの特徴が動物の姿となって映し出されており、タカ、トラ、バッタとその身に宿している動物を象徴しているかのようだった。

 

「さてもう少しポイントを稼ぐ……ああいや、コンボは駄目だったんだったな……」

 

思わず手が伸びそうになった緑色のメダル二種。今使っているメダルと組み合わせるとコンボと呼ばれる状態になり自分の最大出力となるのだが……それは一族から厳しく制限されている。それは個性が普通に使えるようになってからも変わらない規則だった。こればかりは致し方ないと肩を落とすが、ならば―――地道に稼ぐかと思ったが直後に彼はそれを破る。何故ならば―――

 

「俺は君を助けたいと思った、それが俺の欲望だから!!」

 

 

 

「全く以て素晴らしぃッ!!!間違いなく彼は合格するだろうね」

『素晴らしくない!!』

 

メダルを渡した男はモニターに映っている見事な戦いぶりを鑑賞し称賛するのだが、直後に通話から反論の声が溢れかえった。確かにこの成績ならば確実に合格はするだろうが、その為に決まりを破ってコンボを発動させた事は問題すぎる。結局その影響で倒れてしまったのだから家族からすれば褒められる事ではなかった。

 

「何時まで過保護でいるつもりなのかね?何時までもコンボが使えないのでは意味がない、その解決を含めた雄英受験だった筈だが」

『そ、それはそうだけど……だからって一番負担の大きいあれを使う事ないでしょうが!!?』

「いやいやあの場ではあれが適切だったよ、あれこそ正確な選択だよ。フフフッ……君達の個性を徹底的に解析した末に完成したあのドライバーとメダルッ!!それを使いこなした末にどんな欲望を見つけるのかっ私はそれが見たくて見たくてしょうがないんだよ!!!改めて―――ハッピバァァァァァァスデイ!!

 

モニターの傍には彼へと送る手筈になっている思いを込めたデコレーションが施された大きなバースデーケーキが置かれている。

 

Happy Birthday

獣王(ししおう) 翔纏(しょうま)



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欲望の形。

送られてきたバースデーケーキ、相変わらずの大きさに辟易しながらも感謝しながらも絶品のケーキを食べ切った翌日―――彼の姿は合格した高校、ヒーロー科最難関と言われる雄英へと足を踏み入れた。合格出来た事は兎に角嬉しかったし家族どころか親戚中からの喜びのメッセージと贈り物で埋もれる程度には量が凄まじかった。そして最早恒例行事と言えるバースデーケーキ消化に勤しんだりしていた。

 

「その内糖尿病とかにならないか心配になってきたな……」

 

頻繁に美味しいケーキが食べられる事は嬉しく思うべきだろうが、それ以上に頻度が多すぎるので健康状態に不安を抱くようになってきたこの頃。まだ若いので大丈夫だとは思うが……そんな事を想いながらも前へと進んでいく事にする。流石超エリート校、極めて綺麗だという感想を浮かべつつも自分の教室を探してみる。

 

「入試の時も思ったけど広いよなぁ……」

 

日本でも屈指の敷地面積を誇る雄英高校は多種多様な演習施設も存在している。入試の際に使用した広い試験会場ですらその一つ、校舎でもその広さは極めて広い。入学資料には専用の地図アプリのダウンロードの勧めなどがあったので確りとそれに従って落としておいてよかったと思いつつ探していると漸く教室を見つける事が出来た、早めに家を出たので時間を使えたが15分は彷徨っていた。

 

「此処かっよし……行こ」

 

早めに来ていただけに教室には一人を除いて生徒はいなかった、その生徒も自分が入って来るのを見ると此方へと歩いてきた。何処かというかカクついているような動きをしている、個性関係だろうか。

 

「ムッ君とは初見だな!!ボ……失礼、俺は私立聡明中学出身の飯田天哉という、宜しく頼む」

「あっこれはご丁寧にどうも、獣王 翔纏です」

「獣王とはまさか、あの獣王か!?トップヒーローのキング・ビーストやゴッド・ビーストと言ったあの獣王!?」

「あっうん、それ俺の父さんと兄貴だよ」

 

シレっと答えるが眼鏡を掛けた真面目一徹!!と言わんばかりの飯田は驚愕しきっていた、獣王家はヒーロー一家としても名が轟いている。特に父と兄はトップヒーローとして活躍し続けているので知っているのならば驚いても可笑しくはないだろう。その驚きから漸く再起動した飯田は咳払いしつつも先程の自分の醜態を隠そうと話をズラす。

 

「し、しかしまさか獣王家の方も来るとは……流石雄英だ、全国から精鋭が集まるに違いない!!」

「そうかもね、どんな学校生活になるかちょっと楽しみかな。そう言えば飯田君、だっけ。もしかしてだけどインゲニウムさんの……」

「そうっ俺の兄はターボヒーロー・インゲニウムさ!」

 

自分の兄だって負けていないぞ!と言わんばかりに胸を張って嬉々としてインゲニウムの事を話し出す飯田の姿に自分と同じように兄を誇りに思っているんだなと共感しつつ、話を聞いていく。興味深く面白い話を聞けていたのだが……如何にも不良で御座います、といった態度の男子が机の上に足を置くと飯田は眼鏡を輝かせながら注意しに行ってしまった。

 

「机に足を掛けるのはやめないか!雄英の先輩たちや机の製作者の方々に失礼だろう!?」

「あ゛あ゛!!?ンだテメェ文句あんのか!!?どこ中だこの端役!!」

「ぼ……俺は私立聡明中学出身、飯田 天哉だ」

「聡明ぃ~?糞エリートじゃねえか、ぶっ殺し甲斐がありそうだなオイィ!!」

「ぶっ殺し甲斐?!君の物言いはなんて酷いんだ……まるでヴィランだ、本当にヒーロー志望なのか!?」

 

何とも騒々しい、我が道を行き自分に絶対的な自信を持っており気に入らなければぶっ飛ばすと言わんばかりの自尊心。そして規律を重んじて正しく誠実であろうとする飯田とは相性は酷く悪いだろう、これから彼が何をしようと飯田は注意をし、逆に煩いと一蹴されながら罵倒する未来が一瞬で見える。兎も角自分の席に着く事にした。その後、飯田は自分の席周辺に来た生徒に真面目にあいさつ回りをし続けていた。そして間もなく8時半になろうとした時にやって来た緑髪の少年の元へと駆け寄っていった。

 

「(友達、とかかな)」

 

そんな事を想っていたのだが、直後にそんな思考を吹き飛ばされた。

 

「お友達ごっこがしたいなら余所へ行け。ここは……ヒーロー科だぞ」

 

余りにもズボラすぎる風貌をした男が寝袋から顔を出しながら忠告めいた事を呟いていた、警告なのだろうか……しかし高校にいる人間としても相応しくない恰好では説得力が余りにもないと言わざるを得ない。

 

「ハイ、静かになるまで八秒かかりました。時間は有限。君達は合理性に欠けるね」

 

その男は自分が担任である相澤 消太であると伝える。それに思わず先生で担任!?と驚きの反応が出来るがそれを切り捨てるかのように新しい言葉を飛ばす。それは酷く簡単な指示だった、体操服に着替えてグラウンドに出ろというものだった。

 

「質問宜しいでしょうか!?」

「却下、指示に従え」

 

飯田の問いかけも一蹴。教室に残ったのは教壇に置かれた全員分の体操服、突然すぎる事だが今はそれに従うしかないので皆は手を伸ばしながら更衣室へと移動していく。

 

「獣王君、君はどう思う」

「何とも言えないかな、でも今は従うしかないでしょ。もしかしたらこれだって試練かもしれないよ」

「っそうか、最高峰故にこの段階から始めるという事か!?」

 

と若干適当な言葉に感銘を受けてしまったのか、本気にしてしまったのかやる気を出した飯田を見つつ、着替えてグラウンドへと到着。そしてグラウンドで告げられた次の指示は……個性把握テストを行う、という趣旨のものだった。

 

「テ、テストっていきなりですか!?あの、入学式とかガイダンスは!?」

「ヒーローを目指すならそんな悠長な行事、出る時間ないよ。雄英は自由な校風が売り文句。それは先生達もまた然り」

 

先に述べた通り雄英は自由な校風が売り、常軌を逸した授業も教師によっては平然と行われる。そしてそれがいきなり自分たちに適応されるという事に皆戸惑っているが、ヒーローが立ち向かう災害やヴィランだって何も待ってくれる事はない。こんな事で戸惑って如何すると言わんばかりに、自分達の動揺なんて知らんと無視するかの如く、相澤が翔纏を見た。

 

「個性禁止の体力テストをお前ら中学にやってんだろ。平均を成す人間の定義が崩れてなおそれを作り続けるのは非合理的、まあこれは文部科学省の怠慢だから今は良い。今年の実技入試首席は獣王、お前だったな。ソフトボール投げの記録は」

「えっと……54メートルです」

「んじゃ今度は個性使ってやってみろ」

 

唐突な指名に驚くが翔纏の口角は持ち上がっていた。なんだか良く分からないが兎に角やればいいのだ、単純な事でしかないと解釈をしつつも円の中へと入る。クラス中の視線が集まる中で常に持ち歩き続けているものを取り出した。その名もオーズドライバー。

 

「何だあれ、個性補助アイテムか?」

「僕と同じだねっまあ優美さは僕の勝ちだけど☆」

「そうか?」

 

個性によってはアイテムの使用もやむを得ない、というのは当たり前に近い。寧ろ使わなければ生命活動に支障を来す場合もあるので珍しくもないし正当な権利として認められている、翔纏の場合は制御の為にこのドライバーともう一つ、手の中にあるメダルを使わなければならない。

 

その手に持つのは三つのメダル、左右のスロットに赤と緑のメダルを、そして最後に中央に黄色のメダルを入れ込みバックルを斜めへとずらす。右腰にあるスキャナーを手に取った。その途端に周囲に響き渡る鼓動にも回転率が上がっていくエンジンにも聞こえてくる音、それが一体何を意味するのかと思考されるよりも先にそれでスロットに収められたメダルの上を滑らせるように―――素早くスキャンさせた。

 

キンッ!

キンッ!

キンッ!

 

「変身っ!!!」

 

それとほぼ同時に翔纏の周囲を無数のメダルの光が取り巻いていく、オーラのメダルが巡っていく中で装填されたメダルと全く同じメダルが一枚に重なり合う。それは一つとなりながら翔纏の身体へと重なる、それを受けた肉体は個性を発動させて一気に変化を齎していきながらその姿を露わにする。

 

タカ!

トラ!

バッタ!

 

タ・ト・バ!バ!タ・ト・バ!!!

 

『へ、変身したぁ!?』

 

光に包まれた末に現れた翔纏の肉体は頭部、腕、脚それぞれに動物の特徴を宿した姿へと変貌していた。頭部はタカ、腕部はトラ、脚部はバッタ。その三種類に分けられつつもその特性と特徴を発揮する事が出来るようになっている。これこそが翔纏の個性使用形態とも言うべき彼のヒーローとしての姿、そして彼が手に入れた欲望の力。

 

「歌は気にしないでね♪」




オーズのコンボはぶっちゃけ全部好き。

S.I,Cのアレンジの利きまくった造形も大好き。


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欲望の意味。

急激に姿を変化させた翔纏。個性は言うなれば異形型に属するがそれは単純な個性発動ではない、何故ならば異形型の多くは生まれた時から常に個性が発動しているが、翔纏のそれは意図的に発動させてから起動する。それを鋭い視線で見つめる相澤、ある意味彼がこのクラスで最も厳しく見ているのが翔纏。ソフトボールをその手に握り込みながら振り被る―――のだが同時の脚に緑色の閃光が走っていた。

 

「フッ―――!!」

 

曲げられた脚に蓄積されていく力が解き放たれた時に爆風染みた衝撃波と共に翔纏の姿は掻き消えてしまった。

 

「えっえっ!!?ど、何処に行ったん!?」

「あいつ何処に行ったんだよ!?」

「皆さん上です!!」

 

突然消えてしまった翔纏を皆が目を凝らす中、一つの声が視線を空へと集めた。そこには50メートルを超える程の高さにまで跳躍していた翔纏の姿があった、たった一度の跳躍で小さく見えてしまう程の高さまで飛び跳ねたのである。その光景に相澤も少しばかり驚きながらも個性から考えれば当然かもしれないと冷静にそれを見続けていた。

 

「個性から考えれば当然か……バッタの面目躍如って所か」

 

「セイヤァァァァァッッ!!!」

 

そして響き渡る雄叫び、それと共に放たれていくボールは流星のように空気を切り裂きながら空を駆けていく。そして翔纏はそのまま重力に引かれるように落下して見事に着地した。とんでもない跳躍力に周囲から視線を集めるがそれにはピースサインを返していくと相澤が手元の端末を見せながら言った。

 

「まず自分の最大限を知る。それがヒーローの筋を形成する合理的手段だ」

 

そこにあったのは翔纏が投げたボールの飛距離、彼自身の筋力によって投げられた距離は54メートルだったのにも拘らず個性を使用した末の結果はなんと1764メートル、1.764キロである。跳躍して高度を稼ぎながらぶん投げるという手段を取ったからこそ出せる記録だが、クラスの皆は興奮で満ち溢れていた。何故ならば今日まで彼らは学校などで個性などを使用して記録を作る事が出来なかったから、故に目の前でそれが出来ると証明されたので高揚している。

 

「何これすっごい面白そうぉ!!」

「いきなりキロ越えとかマジかよおい!?というかどういう個性だよ!?」

「個性思いっきり使えるんだっ流石ヒーロー科!!」

 

高揚と興奮が同時に押し寄せてきている、これまで抑え込んできた不満もあるだろうが最高の場で自分の実力を知れるという嬉しさもある事だろう。故に皆のテンションが上がり続けている時にそれに冷や水が掛けられる。

 

「……面白そうか。ヒーローになるための三年間、君らはそんな腹積もりで過ごすつもりでいるのか。ならこのテストで最下位だった生徒は除籍する」

『ええええええっっっ!!?』

「改めて言おう、ようこそ雄英へ。此処はヒーローを目指す最高峰、並大抵の覚悟や才覚では淘汰される世界へ―――さあ嫌なら死ぬ気で結果を出せ」

 

明確な脅し、入学初日に除籍されるなんて絶対に嫌だと皆が思う。あの憧れの雄英に入ってヒーローになる為の第一歩を踏み出そうとしたのに、踏み出す前に淘汰されるなんて……それだけは絶対に避けなければと皆が気合を入れ直す、それは翔纏も同じく。次に行われるテストにも気合を入れる。

 

 

最初の種目は50m走。翔纏は走る前に一瞬、ベルトの左側にある箱(オーメダルネスト)に触れるのだが考えていた事を打ち切ってそのまま走る事にした。人数も20人いるが、それぞれの個性の最大に活かす為にか一人ずつ走らされる事になった事は幸運だった。何故ならば―――

 

「ハァッ!!」

 

ハンドボール投げと同じように地面を一気に蹴る事でスタートダッシュを決めながらそのまま疾走した。その時の衝撃は隣で誰かを一緒に走る物の妨害にもなってしまうから、そして見事なスタートダッシュと共に駆け抜けて行った結果その記録は3秒ジャスト。

 

「凄いじゃないか!!俺は走りには自信があったのだが、クッ俺もまだまだという事か……!!」

 

自分が自身があった分野で負けたのにも拘らず爽やかな笑みで此方を称賛してくる飯田に思わず好感を抱く、こんな風に気持ちいい人物になれた良いなぁと自分でも思う。そして続くのは握力の測定、だがその時に翔纏はある事を決意しながらベルトからトラメダルを抜いて新たなメダルを手に取って中央部に入れた。

 

「何をしているんだ獣王君?」

「まあ見てて、俺の個性って結構凄い自信あるからさ」

 

と語る翔纏の口ぶりに注目が集まった、そしてその中心部で翔纏は改めてオースキャナーでメダルを読み込んだ。

 

キンッ!

キンッ!

キンッ!

 

タカ!

ゴリラ!

バッタ!

 

 

個性発動時のような光に包まれるが、次の瞬間には翔纏の腕部が全く違うものへと変貌していた。黄色の虎の腕などではなく灰色に輝く巨大なガントレットを装着している、胸に打ち据えるようにしながらも重低音を響かせる姿はまるでゴリラのドラミングを思わせる。

 

「姿が変わった!?いや腕だけが別の動物に変わったのか!?」

「凄い凄いどんな仕組みになってんの!?それアイテムの力なの!?それともあれっ個性の力なの!?」

「ケロッ是非知りたいわ」

 

注目と好奇心を一気に受ける翔纏、初めての経験に近いそれに少しばかりに気分が良くなるのを感じつつも相澤の方をちらりと見ると小さく頷いていたので話すぐらいならば許可するという事なのだろう。許可も得られたので少々時間を頂戴して話をさせて貰う事にした。

 

「まあ俺の個性といえば個性だけど、このドライバーとメダルがあるからこそこれだけの力を引き出せるんだ」

「つまるところどういう個性なの?!見た所だとタカ、トラ、バッタって言う全く違う動物の力を使えてるし今度はゴリラ……どれだけの動物の力を使えるのか!?」

 

と緑髪の少年こと緑谷は酷く興味津々と言わんばかりに早口になりながらもやや問い詰めるような勢いで迫ってきた。だが内容自体は皆が気になっている事なので特に気にされずにそれに同調するように話話して欲しいと言わんばかりの空気に満ちていた。

 

「俺は個性が強すぎてそのまま使おうとすると身体が持たないからアイテムで制御しているんだ」

「えっじゃあ動物自体は獣王君の個性って事なの!?」

「ああそうだよ、でも余りにも動物の力が入り乱れてるから……そのまま使えないんだ、使おうとしたら命が危ないから」

 

そう語る翔纏の声色は酷く軽くそこまでの危機感は感じない、それは本当なのかと問われてしまうのも致し方ない。

 

「それじゃあそのメダルとドライバー無しで個性を使おうとしたらどうなっちゃうのかしら?」

「えっとそうだね……昔個性が暴発した時は……」

『した時は?』

「まず尋常じゃない量の吐血をしたね」

 

その言葉で思わず思わず全員が真顔になった、それは相澤も同じであった。個性制御には必要という事は知っていたが、具体的にそれなしで使った場合どうなるかは把握していなかった。それを知る為にも聞き耳を立てていたが……話された内容は予想を超えていた。

 

「それでもう激痛と一緒に身体が壊れて行った」

「うわっ……」

「それで壊れた部分から動物の組織が俺の身体を突き破ってきた。鷹の翼やらゴリラの腕やらバッタの足に虎の爪とか……色んな物が壊れた部分から次々と」

『もういいから!!?』

 

想像以上にとんでもない事を聞いてしまったと言わんばかりの顔になってしまう一同。個性の中には害になってしまう事があるが、翔纏の場合はそれが余りにも顕著だった。個性に耐えられるような身体を作ろうして少しずつ鍛えようとしたら起きてしまった個性の暴発、その時に自分はこの世の生き物とは思えないほど混沌としたキメラになっていたと聞いている。

 

「そ、それは大変ね……でもそれがあれば制御できるの?」

「うん出来るよ。メダルは俺が宿してる動物と同じなんだけど、このメダルで身体に発現させる動物を固定化させてるんだ。加えて負担の分散と安定した制御の為に発現個所を頭、腕、脚に限定する事で個性を制御してるんだ」

 

これこそが翔纏の個性、そして手に入れた欲望の実態。だが翔纏は今のこれに不満を覚えた事などはない、満足した上で新たな欲望を手にしている。そしてこれからも―――欲望を力に変え続けて行く。



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欲望の変化。

自らの個性の秘密とアイテムの役目を話した翔纏、テストの内容によってはメダルを変えて動物の力を切り替える事で様々な条件下でも力を発揮する事が出来る事を証明しつつもその力強さを見せ付けて行く。握力ではゴリラの力がいかんなく発揮され―――

 

「フンッ!!」

 

―――バキャッ!!

 

「ああっ!!?すいません先生壊しちゃいました!?え、えっと弁償って御幾らですかね……?」

「安心しろ、個性によって器具が壊れるなんてよくある事で予備は幾らでもある。結果は測定可能領域の1トンを超えて尚か……無限って事にしておく」

『無限ってそれもう測定してないに等しいんですけど!?』

 

ゴリラの握力、というよりもゴリラが如く握力というのが相応しく一瞬で握力測定器具を破壊してしまう程のパワーだった。続く立ち幅跳びではバッタの跳躍力をいかんなく発揮して測定範囲を跳び越えてしまう。前に跳ぶだけでも50メートルを簡単にしまうのだから立ち幅跳びの砂場を越えるなんて簡単すぎる事。それじゃ反復横跳びでも同じ事。

 

「バッバッタの力ってそんなに万能なん!?」

「大きく跳ぶと自分の数十倍の距離を飛べるから飛蝗って結構凄いんだよ?飛蝗の脚にはレジリンってのがあってそれはバネみたいに力を蓄えられるんだよ」

「それが人間サイズで行われていると考えると獣王君の跳躍力にも説得力があるな……」

 

翔纏としても脚に使うメダルとしてはバッタが一番使いやすいと思っており、ジャンプにダッシュに隙が無い。走る事に関してはもっと上のメダルもあるのだが逆に力があり過ぎて最強であって万能ではないので使い勝手は宜しくない。そして出来ない事も同時に確りと存在しており、平凡な記録が出るテストも存在していた。

 

「あんまり伸びない~」

「獣王君もそこまで万能という訳じゃないんだな」

「上半身下半身じゃなくて腕と足だからね、その差だね。広げてみようか、グロい事になるかもしれないけど」

『いや率先的に披露しようとしないで!?』

 

長座体前屈や上体起こしなどでは自力だけで乗り切っている、あくまで能力が発現しているのが腕や脚というのが問題になっている。が、こうでもしないと制御不能に陥って大変な事になるので致し方ないのである。

 

「まあ手がないわけでもないけど……」

「(それが、入試で見せたあれか……)」

 

入学試験において獣王 翔纏は首席で入学するに相応しい成績を叩き出した。それは試験における仮想敵を倒しただけ手に入るポイントを集めだけではなく、ヒーローがヒーロー足らしめる行為、英雄的行動である人命救助なども行っていたからである。だがその規模が余りにも膨大だった、そして―――緑谷 出久と同じく唯一試験の邪魔をする0ポイントを撃破した生徒でもある。

 

「にしてもお前のメダルってカラフルだな~」

「色によって種類分けしてるんだよ、分かりやすいでしょ」

 

その時のメダルの色は緑色、昆虫の特徴を発現させつつも絶大な力を発揮した。一騎当千、この言葉が適応できるほどの力を見せ付けた。正しくは違うかもしれないが……。だがそれ故に恐ろしくもある、今の翔纏の姿は全身を拘束具で固められたような状態という事に。

 

「はぁぁぁっっ……セイヤァァァァァッッ!!!」

『ロケットパンチだぁぁぁぁぁっっ!!!!』

 

そして改めてのソフトボール投げ、此処でも翔纏は皆が驚く事をやってのける。同じようにバッタのジャンプを見せるのかと思いきや、思いっきり踏ん張りながらも力強い咆哮と共にボールをガントレットであるゴリバゴーンを射出し殴り付けるようにしてぶっ飛ばすという力技を披露。その結果飛距離はなんと7817メートルを記録した。

 

「お前っロケットパンチまで打てるとかスーパーロボットかよ!?」

「すげぇパワーをヒシヒシ感じたぜおい!!もしかしてもっと強いパワー出せたりするんじゃねえの!?」

「正しく荒ぶる神がごとし……」

「いやぁそれ程でも」

 

と男子から鼻息を荒くしつつも大興奮の好評を貰えた、何時の時代も男子はロケットパンチという物に心を擽られるのである。そして戻ってきたゴリバゴーンを腕に収めつつも元の姿、基本フォームとしているタカ、トラ、バッタの組み合わせへと戻る。

 

「しかし獣王君、そのドライバーは凄い音、いや歌だな」

「分かりやすさ重視だよ、焦ってる時なんてメダルの入れ間違いも起こるかもしれないから音で俺が認識する為。これなら間違えていれてもそれに気付けるし戦法を間違える事も無い、だから俺の安全にも繋がるんだよ」

「成程っ!!それ程までに合理的な理由があったのか……!!」

 

メダルによって制御されている自分の個性、だが逆に言えばメダルが無ければ個性の発動さえも儘ならない。その為に言われている言葉もある

 

 

―――遠慮する事無くガンガン使いたまえ!!使えば使う程に君の個性は肉体と同調していき、何時か辿り着く明日にはメダルなしで個性が使えるようになる!!

 

 

本当にそんな明日が来るのかと不安に思うし疑問に思うが、そうなったら本当に楽しそうだと思ってしまう。次の自分の欲望はメダルなしで個性の制御を成し遂げて思いっきり動き回る事にしようと思う中で、爆発的な空気が自分の身体を包んだ。そこには指を腫らしながらも歯を食いしばって痛みに耐えながらも相澤に向けてまだやれると宣言している緑谷の姿があった。

 

「あれが、緑谷君の本当の力か……0ポイントヴィランを倒したのも納得の力だな」

「えっ緑谷君もなの?」

「何っまさかその物言い、獣王君もか!?」

 

話を聞く限り、緑谷のそれは超パワーによる一撃粉砕らしい。自分のそれとは大きく異なるがそれでも同じように倒したのは事実であるらしい、だがそのパワーの影響か彼の指は内出血を起こし腫れている。自分のように個性の制御が出来ない類なのかと思うと同時に翔纏は笑みを作った。

 

「獣王君?」

素晴らしぃッ!!!

『ッ!!?』

 

と突然の大声を張り上げた翔纏に周囲の皆が驚愕した、そして前に出ながら緑谷の元へと歩き出し手を差し出した。

 

「え、えっと獣王君……?」

「いや本当に素晴らしい!!それだけの超パワー、肉体すら滅ぼしかねない出力!!恐らく使えるように肉体が成長するまで身体がリミッターを掛けて使えなかったんじゃない?」

「えっえっとそ、そうなんだ!!ずっと無個性だと思ってんだけど、ある時に雄英行くぞ!!って一念発起して鍛えまくったらなんか使えようになったんだよね!!?」

「ほほうっ!!」

 

目を輝かせながらその話に興味津々と言わんばかりの翔纏に緑谷は冷や汗をかきまくっていた。特別な事情があるので個性について話す事は出来ない、なのでこれも真実であって真実ではない。だがそれでもかまわないと言わんばかりに翔纏は祝福した。

 

「そう、それだよ!!緑谷君、君は夢を忘れずにいたからこそ今此処にいるんだ!!夢、ひいては欲望が君を此処に導いたんだよ!!」

「よっ欲望……?」

そうっ欲望だよ!!欲望こそ生きるエネルギー、素晴らしぃっ!!故に祝福しようっハッピィバァァアスディ!!今日が君の雄英での生誕祭だよ!!

「あっ有難う御座いますっ!!?」

『人格がっ変わった!?』

 

そう思われても致し方ないレベルの変貌、目の前の緑谷もその勢いに押し切られて思わずお礼の言葉を返してしまう程だった。

 

「あっごめん緑谷君、俺このドライバーをくれた人の事尊敬しててつい同じ言い回ししちゃった」

「い、いやいいよなんか凄い僕嬉しかったし……有難う獣王君」

「翔纏でいいよ、それじゃあ緑谷君の家に俺名義でケーキ送らせて貰うね」

「それ本当の誕生日になりかねないんですけど!?」

 

「チッ!!」

 

そんなやり取りを見つつもひとりの生徒、爆豪が舌打ちをした。彼は緑谷の幼馴染で昔から良く知っている身、故に無個性であった筈の彼が個性を使える事は可笑しいと問い詰めるつもりだったのに削がれてしまった。そして自分よりも好成績を叩き出す翔纏が気に入らなかった。

 

「1500メートル走か……良しこれなら使えるな!!」

 

キンッ!

キンッ!

キンッ!

 

タカ!

トラ!

チーター!

 

 

最後のテストとなった1500メートル走。そこで翔纏はバッタのメダルからチーターのメダルへとチェンジした。緑色の脚から黄色のチーターを思わせる脚へと変化させて1500メートルへと望むのだが、その隣には個性の創造によって作り出したバイクに跨っている女子、八百万 百がいた。個性ならば問題はないと相澤が一蹴する中で余裕な顔をしている、如何やらバイクならば楽勝とでも思っているのだろう。ならば……

 

「はいっスタート」

「―――振り切るぜ!!」

「えっえええっ!!?」

 

思わず驚愕の声がアクセルを回したと同時に響き渡った。何故ならばアクセルを回し一気に速度を上げた筈のバイクを振り切るように加速していく翔纏の姿がそこにあったのだから。脹脛辺りから放熱を行いながらもとんでもない速度で駆け抜けていく姿に八百万は驚かずにはいられなかった。そしてそれに全く追い付く何処か迫る事も出来ないまま翔纏はゴールする。

 

「ふんにゅううううううぅぅぅぅぅぅっっっっ!!!良し止まった!!」

「おい獣王、お前今のなんだ」

 

ゴールを切る前に腕部のツメ、トラクローを展開して地面へと突き刺した翔纏は一気に減速しそのまま勢いを殺しきれないままゴールした。そんな姿に思わず相澤が声をかけてしまった。

 

「ブレーキです」

「……普通に止まれないのか」

「無理ですブレーキ必須です。言っておきますけどこれでもトップスピードには程遠いですから」

「……マジか」

「マジです」

 

そんな圧倒的な速度を見せ付けた翔纏、それでまた注目を集めるのだが相澤が個性把握テストの結果発表を行われるのだがその際に放たれた言葉は思わず全員が驚愕してしまった。

 

「あっ因みに除籍は嘘だから、君たちの最大限を引き出す合理的虚偽」

『……はぁっ~!?』

 

このテストで最下位を取ったものは除籍されると脅しを掛けられていたのだが相澤はあっさりと嘘だと白状した。確かにそんな脅しを掛けられたら全力で臨もうと必死になるだろう、合理的と言えば合理的だが……何とも人が悪い。因みに翔纏は2位、平凡な記録だった上体起こしや長座体前屈が足を引っ張っていた模様。

 

「まあいいさ、上を目指せる。それもまた欲望だ―――生きるエネルギー、素晴らしぃ!!」

『口癖なのかそれ』




翔纏はドライバーをくれた人、某会長の事を心から尊敬しつつ憧れているからか同じような言い方や言い回しを多用する。特に素晴らしぃ!は口癖。

因みに元祖、オーズのチーターレッグの最高速度は100mを0.222秒、なんとマッハ1.32である。アクセルのトライアルフォームよりも速いどころかドライブのフォーミュラフォームの100mを0.2秒とほぼ同等という凄まじさ。


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欲望の歩み。

メダル。欲望。ドライバー。この三つが今の自分を構成する物である。

 

どれ一つが欠けてもならない、欠かしてはならない物ばかり。それ程までに今の自分はどうしようもないほどに欠陥品なのだ。

 

だが自分はそれでいいと心から思っている、欠陥がある、何かが欠けている、満ちていない状態―――だからこそ満たそうとする欲望が生まれるのだ。そう欲望こそが生きるエネルギー、エネルギーがあるからこそ次を求め欠けた何かを満たそうとする。そして満たせば満たされて行く感触を覚えて次へ次へと手を伸ばし続けて行くのが性。

 

「素晴らしぃっ……やっぱり欲望って素晴らしぃ……」

『そう、欲望とは素晴らしく途轍もない物なのだよ!!即ち―――』

『「欲望こそが生きるエネルギー!!」』

 

「翔纏が元気になってくれたのは良いんだけどあそこまで尊敬しなくてもなぁ……お父さんの事全然憧れてくれないのは寂しいなぁ……」

「諦めろ親父、翔纏が個性を使えるようになったのは会長のお陰なんだから」

「私としては如何でも良いわよ、だってあんなに素敵な笑顔を見せてくれるようになったんだし」

「俺もそう思う」

 

と家族からすれば少々複雑な思いを抱かれていたりするのだが翔纏は全く気にする事も無く自分にドライバーを与えてくれた事を感謝しつつも尊敬と憧れを向け続けている。そんな翔纏も無事に雄英に入学し個性把握テストを乗り越えた翌日、家を出ようとした時の事だった。

 

「おはようございます翔纏さん」

「あっおはようございます」

 

家を出た時に自分を待っていたスーツ姿の女性がいた、里中 エリカ。翔纏が尊敬する人物の秘書をしており無個性であるらしいが……そのハイスペックぶりにはプロヒーローですら舌を巻く程。

 

「今日は如何したんですか、こんな朝早く」

「実は以前から開発していた物が完成しましてお渡しにきました」

「えっもしかして……」

「いえ其方ではなく、これです」

 

期待を込めた視線に申し訳なさそうにしつつも手招きをされた先へと付いていくとそこには一台の自動販売機が置かれていた、こんな所に―――自分の家の塀に置かれていただろうか……と首を傾げる中で里中が自販機の中央部のスイッチを押すと自販機は変形していき一台の大型バイクへと変貌した。

 

「おおっ!!すっげぇっカッコいい~!!」

「鴻上会長からのプレゼントのライドベンダーです、雄英の入学祝だと」

「あっだから会長さん俺に免許取れって……」

「そういう事です」

 

個性社会では個性の関係性を踏まえて十分な適性と成績次第では未成年でも免許の取得が可能、それを利用して翔纏は中学3年の夏休みを利用してバイクの免許を取得していた。その時にも尊敬する人である、鴻上ファウンデーションの会長を務める鴻上会長から私から素晴らしい贈り物をさせて貰おう!その時を楽しみにしておけと言われたがまさかこんな素敵なプレゼントだとは思わなかった。

 

「このライドベンダー自体が翔纏さんのサポートアイテムとしても機能致しますので、セルメダルなどについてはお忘れないように。此方がキーです」

「有難う御座います里中さんっ!!あっそうだ雄英にバイク登校の届出さないとな……」

「此方で手続してますのでご安心ください」

「手早いですね、流石里中さん……よっ有能美人秘書!!」

「有難う御座います」

 

それでは早速……エンジンを稼働させてアクセルを回す、前輪が浮き上がってしまうが上手く抑えつけながら翔纏は雄英へと出発していくのであった。里中はそれを見送りつつ会長へと電話を掛ける。

 

「会長、翔纏さんへのライドベンダーの譲渡終了しました」

『ご苦労里中君。では本社に戻って来てくれたまえ』

 

 

「う~ん最高、貯めて買おうって思ってたから棚から牡丹餅とはこの事だな」

 

徒歩と電車を使って1時間ほどかけて行く通学時間が一気に縮まった。これは色んな意味で嬉しい、気分上々で雄英に到着した翔纏。里中のサポートアイテムとしても機能するという話もあるのでもしかしたらこれから色々と使えるかもしれないと思うと足取りも軽くなり授業にも身が入るという物、超難関校と言われる雄英の授業はきっと相澤の個性把握テストのように辛い物である筈―――

 

「んじゃこの中で間違っている英文はどれだ?」

『普通だ……凄い普通の授業だ……』

 

教科ごとにプロヒーローが担当していること以外は全く以て普通の授業だった、逆に相澤がどんだけ自由という校風を盾にして自分なりのやり方を推し進めているんだという事が理解できてしまった。そんな授業も午後の授業、即ちヒーローになる為の重要授業、ヒーロー基礎学の時間がやって来た。

 

「わぁあたぁあしぃぃがっ……普通にドアから来たぁっっ!!!」

 

大きな声とともに教室へと入ってきたのは平和の象徴と呼ばれ、現代における大英雄、皆が憧れる№1ヒーローのオールマイトだった。世界が認める程の超ビッグネーム。オールマイトがデビューしてからというもの日本の犯罪発生率はどんどん下がり、世界最低レベルを保持し続けているほどの影響を誇る。そんなヒーローが雄英にて教鞭を取るというのだから余計に入試は激しかったのかもしれない。

 

「さてでは早速行こうか!!私が受け持つ授業、それはヒーロー基礎学!!少年少女たちが目指すヒーローとしての土台、素地を作る為に様々な基礎訓練を行う科目だ!!正にヒーローになる為には必須とも言える!!単位数も多いから気を付けたまえ!!そぉして早速今日はこれ、コンバット!!即ち戦闘訓練!!!」

 

その手に持ったプレートには「BATTLE」と書かれている。いきなり始まるそれに、好戦的且つ野心家な生徒達はメラメラと炎を燃やす。それと同時にオールマイトが指を鳴らすと教室の壁が稼動をし始めていく。そこに納められているのは各自が入学前に雄英へと向けて提出した書類を基に専属の会社が制作してくれた戦闘服コスチューム。

 

「着替えたら各自、グラウンドβに集合するように。遅刻はなしで頼むぞ」

『ハイッ!!』

 

各自は勢いよく自分のコスチュームが入った収納ケースを手に取ると我先にと更衣室へと向かっていった。そこにあるのは自分が思い描いた自らがヒーローである姿を象徴すると言ってもいい戦闘服、それをプロが自分たちの為に制作してくれるなど興奮して致し方ない、なんて素敵なシステムだろうか。

 

「―――形から入るってことも大切なことだぜ少年少女諸君、そして自覚するのさ!!今日から自分は"ヒーローなんだ"と!!!」

 

皆が着替える中、翔纏はあっという間に着替え終わったのか早く到着していた。ジーンズにTシャツに黒いジャケット。コスチューム、というよりも私服に近いそれに思わず疑問に思ったオールマイトが問いかけた。

 

「おやっ獣王少年は申請しなかったのかい?」

「俺が個性使うにはドライバーとメダルさえあればいいのでコスチュームは使いません。というか発動させたらコスチュームが意味を成さないのでこんなのに」

「あ~成程そっち系のタイプなんだね」

 

個性によってコスチュームの着用が出来ないというのはよくある話、発動すると全く別の姿に変貌する際にコスチュームを飲み込んで機能を果たせないというのはオールマイトもよく目にした事も多くある。

 

「ところで獣王少年、君の個性は随分と制御されているらしいね。出来れば緑谷少年に制御のコツとかを教えてあげられないかな」

「あ~……確かに把握テストでも指壊してましたもんね。でも俺の場合はアイテムによる制御だし……んじゃ俺が特訓とかに付き合うとかでもいいですか?」

「大丈夫だよそれでも、寧ろナイス提案!!」

 

これで少しでも緑谷の個性制御に目途が付けば良いなと言葉を漏らすオールマイトに翔纏はそれだけ緑谷に目を掛けているという事なのだろうか、と首を傾げた。それとも教師として指を壊すような事を見過ごすわけにはいかないからという事なのだろうか。

 

「ところで獣王少年、ジャケットの胸に付けてるそれって何なの?」

「あっこれですか?」

 

制服の上に羽織っている黒いジャケットには何やら複数の筒が装着されている、まるで擲弾兵のような姿だ。その内の一つを引き抜くと赤い缶のような物だった、自販機で購入出来るものと同じようにプルタブ*1に指を掛けて開けるとそれは忽ち展開して赤い鳥型のロボットへと変形した。

 

「おおっ?!」

「俺のサポートをしてくれる缶型の小型ドロイドのカンドロイドです。これは飛行索敵型のタカちゃんです」

「可愛いなぁ、しかも中々に速いから情報集中にもうってつけだ。もしかして他にも?」

「ええっ勿論」

 

と翔纏はクラスの皆が来るまでの間、鴻上ファウンデーション製のカンドロイドをオールマイトへと紹介して過ごしていた。

*1
正しくはステイオンタブ。



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欲望の鍛錬。

カンドロイドと戯れている間に皆がやって来た、その身に自らが理想とするヒーローの姿を写し出しながらもやってきた。まだ生徒でありながらもそこにあるのは確かなヒーローへの渇望と目標、正しくこの瞬間には翔纏が最も好む物に満ち溢れている―――そう欲望に。

 

「始めようか有精卵共!!戦闘訓練の時間だ!!!」

 

オールマイトの言葉を皮切りに授業が本格的に開始される事になった。これから行われるのは屋内における戦闘訓練。昨今凶悪なヴィランの出現率は屋内が高い上にそのまま戦闘になるケースが多いので屋内戦が重視されている。室内では思い掛けない物が勝負の成否を分ける事がある上に、空間も壁や天井で覆われている為個性によって得手不得手が出て来てしまう。そこを今の内にハッキリさせて訓練を積んでおく必要がある。今回の訓練では屋内というだけではなく条件を決め、そこにヒーローチームとヴィランチームという二つに分ける事となった。

 

1-A戦闘訓練:室内対人訓練。核兵器の奪取及び防衛。尚、核兵器は本物として扱う事。

 

ヒーローチーム:制限時間内にヴィランチームが守っている『核兵器』の確保、又はヴィランチームの確保。

 

 

ヴィランチーム:制限時間までに核兵器を守りぬく、又はヒーローチームを全員確保。

 

 

「それではくじ引きだっ!!一人一枚ずつ引いて、そのくじに書いているアルファベットと同じ物を持っている人とチームだ!!」

「適当なのですか!?」

「プロはその場で即席のチームを組む事が多いからそこから来てるんだと思うよ飯田君」

「成程、そのような意図が……!!」

 

真面目な飯田がちょくちょく質問しながら進んでいくオールマイトの授業、さて一体どのような組み合わせになるのかとドキドキしながらくじを引いてみる。誰と一緒なのかと紙と視線を巡らせてみると―――自分とチームを組んでくれる相手が見つかった。

 

「ウチと一緒みたいだね、一緒に頑張ろうね」

「宜しくね。改めて獣王 翔纏だよ」

「宜しく獣王、ウチは耳郎 響香」

 

耳たぶの辺りからコードのような物が伸びている女子生徒、耳郎 響香とチームを組む事になった。話をしてみるとプラグになった耳たぶを挿すことで自身の心音を爆音の衝撃波として放ったり遠くの音を拾う事が出来る個性との事。コスチュームもそれらと併用する事で強力に出来るようになっているとの事。

 

「それじゃあこれ、持っててね」

「何これ、缶?」

「それ俺のサポートアイテム、ちょっと開けてみて」

「うん」

 

手渡されたカンドロイド、それを起動させてみるとタカちゃんは彼女の周囲を飛び回り始めた。

 

「えっ何これ超かわいいんだけど!?」

「タカカンドロイドのタカちゃん、索敵はお任せな子だよ」

「凄いじゃん!もしかして他にも種類あるの!?」

「うんあるよ~こっちがね」

「お~い獣王少年に耳郎少女、仲がいいのはこれからの訓練でも大事な事だけど今度はチーム対戦発表だぞ~」

 

注意されてしまったので一旦其方に集中する事にする、どんな相手と戦う事になるのかと思っている中で発表される対戦カード。その相手は―――切島と瀬呂のヴィランチーム、必然的に此方がヒーローチームになる事になる。

 

「あの二人か……獣王、あの二人の個性って覚えてる?」

「切島君が硬化で瀬呂君が肘辺りからセロテープ射出、う~ん防御と移動と妨害が揃い踏みとか純粋に面倒」

「だよね……」

 

率直な感想がそれだった。硬化の個性によって抜群な防御力を発揮する切島とセロテープを放ちそれで移動も出来るし妨害も出来る瀬呂の組み合わせは素直に脅威。シンプルな組み合わせだがそれ故に厄介さが際立っている所がある。

 

「ねぇっ獣王、アンタの個性ってまだまだ幅があるんでしょ。対応出来る奴に変身出来たりしないの?」

「出来るよ?」

「即答!?」

 

それだけ自分の個性の幅は広い、最大戦力を除外したとしても対応可能な組み合わせは存在する。既にその目安も付けてある。

 

「でもそれだとちょっと索敵が不安かな」

「それなら大丈夫だよ、ウチがカバーするから。チームなんだから助け合ってなんぼでしょ」

「確かに―――ヒーローは助け合いでしょって事だね」

「そういうこと」

 

と拳をぶつけ合ってから握手をする、分かりやすい上に自分に出来る事をしっかりと見極められている耳郎に好印象を持つ。これは中々にいい相手とチームを組む事が出来た。

 

「よしっ頑張りますかぁ~」

「うんっそれにしても前座が凄すぎてなんかウチたちのはあんまり注目され無さそうだよね」

 

そんな愚痴を零してしまう耳郎の気持ちは酷く分かる。自分達の前の訓練であったヒーローチーム、緑谷 出久・麗日 お茶子 VS ヴィランチーム、爆豪 勝己・飯田 天哉の第一戦。ヒーローチーム、轟 焦凍・障子 目蔵 VS ヴィランチーム、尾白 猿夫・葉隠 透。この二つの戦いは間違いなく今日の訓練のツートップだった。

 

方や死力を尽くした激闘を演じた緑谷と爆豪の戦い、一瞬でビル一つを凍結させてヴィランを無力化した上で核を確保した轟。これ以上の驚きをどうやって出せというのか。その為か幾ら自分達が頑張ってもそれが評価されそうにない為か僅かにブー垂れているのだろう、そんな耳郎に翔纏はドライバーを装着しながらも元気出してと肩を叩く。

 

「自分の価値は誰かに決められるもんじゃないよ、自分で決めるもんだよ」

「自分の価値って……自分で決めて良いもんなの?」

「商品の値段と同じだよ、どんな物でも利益と手間を考えて決める。それなら自分の価値を自分で決めてもいい筈だよ」

「―――良いねその考え」

 

と不敵な笑みを浮かべた耳郎、不満げな表情は消え去って明確な自信で溢れかえっていた。

 

「本気出して戦うなら負ける気もしないでしょ、負ける気しない俺達が組めば足し算ぶっ飛ばして掛け算だよ」

「ははっそれじゃあ翔纏も確りとガチでやってよね」

「お任せ、最大は出せないけど最高戦力は出すよ」

『獣王少年に耳郎少女、もう直ぐ始めるけど準備はいいかい?』

 

通信機になっているイヤーカフスから聞こえてくるオールマイトの声、間もなく準備時間も終了する。その警告だろう、だったら早めに変身してしまおうとメダルを装填する。

 

「ええっいいですよ―――それじゃあ耳郎さん、行こうか」

「やってやろうじゃん」

キンッ!

キンッ!

キンッ!

「その意気、それじゃ―――変身!!」

 

「よし瀬呂頼むぜ!!」

「おうよっ!!」

 

核兵器を安置する部屋の中、切島の声と共に瀬呂は笑みを零しながらも部屋中にテープを伸ばしていく。部屋中に張り巡らされるテープの網、粘着性もあり耐久性もある為に下手に突破しようとしても絡めとられて動けなくなる。例え翔纏がどんな姿で来た所で確実に捉えられるという確信があった。何時でも来い……と待ち構えている時に扉を含む一帯の壁が消し飛んだ。

 

「「ッ!!?」」

 

思わず構えを取った、そして瀬呂はテープを発射して拘束を試みる。見事に絡めとって取ったっ!!と思ったがテープが直後に力に耐えきれなくなったかのように千切れ飛んだ。土煙の奥から姿を現したのは―――個性把握テストでみたような生易しい物ではなく、両腕が肥大化しまるで本当のゴリラのようになっている翔纏。そしてそれは初めて見る組み合わせの姿でもあった。

 

クワガタ!

ゴリラ!

チーター!

 

その組み合わせはこう呼ばれている。ガタゴリーターと。その隣には肩にタカちゃんを乗せて何処か得意げな顔をしつつも寄り掛かるように耳郎がおり、不敵な笑みと共に警告を発した。

 

「大人しくしてくれれば痛い目には合わずに済むよ」

「投降なんざするかよ!!やるぜ瀬呂!!」

「おうっ今度はグルグル巻きにしてやる!」

「やってみろ……!!」




翔纏、割かし容赦なしな亜種形態、ガタゴリーターでのエントリーです。


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欲望の戦い。

「翔纏の今の頭って初めて見る奴だな!!」

「形状からして……クワガタ、だろうか」

「前に色でも分かれてるって言ったわ、バッタが緑色だからあれも昆虫だと思うからきっとクワガタで正解だと思うわ」

 

待機中の他の生徒達はオールマイトと共にビル内部を見られるモニターの前にてその戦いを見つつ分析などをしていた。耳郎がビルにプラグを差し込み音を探知、加えてタカカンドロイドによる索敵を行う事で情報の確実性を高めてそこへ姿を変えた翔纏が耳郎を抱えて素早く移動して殴り込みをかける。時間も全くかかっておらず酷く鮮やかな手腕だと言わざるを得ない、がそれ以上にオールマイトは別の部分に驚いていた。

 

「(獣王少年の今の脚、チーターメダルのチーターレッグ。圧倒的なスピードだけではなく消音までもが可能とは……何処まで万能なのだ)」

 

音声は都合上、オールマイトのみが確認出来る物となっているがビル内部を駆け抜けていく翔纏の足音は全く聞こえてこなかった。ほぼ無音、聞こえるのは走った際に起きる空気の流れ程度の音。単純な戦闘力の高さだけではなく隠密性も高いと来ている、手元の資料には各種メダルによって発揮される能力の一覧があるが、確かにこれは最強格の力だと納得してしまう。

 

「(さて見せて貰うよ獣王少年、獣の王と呼ばれる一族随一の力とやらを)」

 

 

ゴォォンッ!!

 

何度も何度もぶつかり合い響き渡る重低音、部屋に木霊する音に切島は武者震いを何度も起こし瀬呂はその音に喉を鳴らし、耳郎はその音に頼もしさを覚えていた。拳をぶつけ合わせ続けるそれはドラミングにも聞こえヴィラン側への威嚇にも取れる。

 

「核が欲しければまず俺達を倒してみな!このテープの網を越えられるならな!!」

「なら突破しよう」

 

その時だった、翔纏の頭部のクワガタヘッドに緑色の閃光が溢れ始めていた。凄まじい放電を行いながらもそれを前方へと飛ばす為に大きく身体を振った。それによって溢れ出した電撃が部屋中に設置されていたテープへと襲い掛かっていきその一つを焼き切断していく。張り巡らされていたそれは一瞬で意味を失ってしまっていたが、その直後に飛び出した影があった。

 

「ウォォォォォッ烈怒頑斗裂屠(レッドガントレット)!!!」

 

無力化されたとはいえ無駄にはならない、と言わんばかりの強襲。罠を全て破壊し放電を収めた今ならば行けると踏んだ攻撃、腕を硬化させながら渾身の一撃を放つが予知されていたかのように拳を構えた翔纏がその巨大な腕でパンチを繰り出し、切島の一撃と激突する。硬化した切島の一撃が勝つと思われたが―――

 

「ッッッってぇっ!!?」

「マジか!?」

 

硬くもありながらも勢いも付けた渾身の一撃をあっさりと返り討ちにした翔纏の一撃。一方的に競り勝ちながらも逆に切島の防御を貫通する一撃となった事実は瀬呂に衝撃を与えた、だがそれに囚われる隙も与えないと言わんばかりに即座に一歩前に出ながら切島の腕を掴みながら背負い投げで床に叩きつける。

 

「ガハァッ!!」

「隙あり!!」

「アバババババッッ!!?」

 

叩きつけられたショックで一瞬呼吸を忘れそうになり、同時に硬化の解除と発動が困難になる。そこへ耳郎がプラグを突き出して自らの心臓の音を直接切島へと送り込んで、音の衝撃で切島の意識を喪失させてその腕に確保テープを巻きつける。

 

『切島少年確保!!』

「マジかよ一瞬で!?」

 

切島の硬化をものともしない一撃にも驚くが手際の良さに驚かされている、耳郎のイヤホン=ジャックの一撃は相手を傷付け過ぎずに確保するには適切。だが対象が硬すぎると刺さる事はないので翔纏が切島が硬化を使えなくする所まで追いこんだ。

 

「さあっアンタ一人だね瀬呂、続ける?」

「い、いやぁ俺としては切島の仇を取ってやるぜって言いたい所なんだけど……無理ゲーだろこれ……」

 

笑顔で続行か終了かの選択を迫ってくる耳郎、その背後では両腕を打ち鳴らして戦闘続行体勢を維持し続けている翔纏。きっと続けるという言葉を言った途端に超スピードで駆け寄りながら電撃かあの巨腕での攻撃が待っているに違いない。二重の警告、飴と鞭とでも言うべきだろうか。だが男として自分の個性を無駄にしない為に突撃した切島を裏切る行為なんて―――

 

「出来ねぇよなぁ!!続行だぁぁ!!!」

 

 

「はいっという訳で戦闘好評を始めるぞ」

「何も出来なくてマジですいませんでした」

「いや気にすんなよっ俺の仇の為に身体張ってくれたんだろ、お前も熱いな瀬呂!!」

 

決死の覚悟を決めて続行を決めた瀬呂だったがその直後、突進してきた翔纏の右ストレートがクリティカルヒットして壁をぶち抜いて隣の部屋に転がされてノックアウト。返答から僅か1秒、正しく速オチ2コマに相応しい光景に耳郎は笑いを抑えきれずに大爆笑していた。結果、瀬呂は現在切島に土下座して詫びるという事態になっている。

 

「き、切島ぁ……お前優しい奴だったんだなぁ……」

 

本気で申し訳なく思っている瀬呂だが、肝心の切島については何とも思っていない所か勝ち目も薄く降参するのが妥当なのに自分の為に最後まで戦おうとしてくれた事に感謝を込めてサムズアップを向ける程のナイスガイっぷりを見せ付け、思わず瀬呂は涙するのであった。

 

「さて今回のMVPだが……獣王少年と瀬呂少年だ!!」

「俺ぇぇぇぇぇ!!?」

 

何故自分が選ばれたのか全く理解出来ずに大声を上げてしまった瀬呂、最後情けなくやられてしまったのに如何して!?と言いたげな彼に対してオールマイトは誰かその理由が分かるかな?と振ると八百万が手を上げた。

 

「まず獣王さんですが自らの個性の特性を最大限に生かしていたからだと思います、頭部の電撃だけではなく高威力の腕部に高い速度の脚部の組み合わせも凄まじかったです。瀬呂さんについてですが……恐らくになってしまいますが、最後まで立ち向かおうとしたからではないでしょうか」

「そう大正解!!」

 

オールマイト曰く、経験上一番厄介な相手というのは何があっても向かってくるヴィラン。それが此方が狙っているモノを守っているヴィランならば猶更、いざという時はそれを使った強硬手段も取る事もあるので非常に厄介。

 

「だからこそ続行の意志を見せた瞬間に踏み込んだ獣王少年もナイス判断だったぞ!!あれならば妙な動きもされる前に確保出来るからね」

「有難う御座います」

 

胸を満たすもの、自分の力が正当に評価されている事が嬉しかった。無意識に拳に力が籠った、そしてまた次を望んでいる。それを求めて手を伸ばす前に―――

 

「獣王、今回はアンタのお陰だね。組めたのがアンタで良かったよ」

「此方こそ。耳郎さんの索敵能力があったこそだよ」

「兎も角ホラッ」

「はいっ」

 

手を差し伸べてくる彼女のそれに応えて握手に応じた、互いに互いの健闘を称える光景にオールマイトは頷きながら青春青春!!と喜ばしく思っている一方―――

 

「「女子と満面の笑みで握手するとかふざけんなよあいつぅぅぅ!!」」

 

と一部男子から妬みを買ってしまっていた。




ガタゴリーター。

クワガタ、ゴリラ、チーターのコアメダルで変身出来る亜種形態。電撃と広範囲の視覚と聴覚のクワガタ、パワーのゴリラ、隠密も出来る高速移動のチーターが揃っている為、仮面ライダーオーズでは最強の亜種形態と名高い組み合わせ。


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欲望の偵察。

「んっ?」

 

戦闘訓練の翌日の事、ライドベンダーに乗り今日もバイク通学を楽しんでいる時に何やら正門辺りが酷く騒がしくなっているのが見えた。生徒の嵐というだけではなくその周りに何やらカメラやらマイクやらを担いでいる人々が屯していた。それを見て即座に解せた、あれはマスコミかと。翔纏も有名なヒーロー一族の一人なのでマスコミに追いかけられた事もある、がその最中に個性の暴発が起りそうになったので一族が激怒して追いかけてきたマスコミを訴えようとしたのは良い思い出である。因みに示談で済んだ。

 

「おはよっ獣王、アンタもマスコミのせいで入れない口?」

「おはよう獣王ちゃん。バイク通学なのね、とってもカッコいいわ」

「ああっ耳郎さんおはよう、今着いたところだよ。蛙吹さんもおはよう」

「梅雨ちゃんと呼んで」

 

と後ろからやって来たクラスメイト二人もあの波を越えなければいけない事に若干辟易している。ヒーローは良くも悪くもメディアに支えられているような物、メディアが活躍を報道し自らの力を誇示して名前を売る。マスコミとヒーローは切っても切れない間で結ばれているような物、だがこれはこれで迷惑なのは変わりない。

 

「それなら俺と一緒に行かない、自転車バイクの登校口なら通れるよ」

「あっ成程その手があったね」

「ケロッナイスアイディア、ご一緒させて貰うわね獣王ちゃん」

 

という訳で二人は翔纏と共に自転車通学生徒向けの通路を使用して何の問題も無く内部へと入っていった、二人にお礼を言われつつも気にしなくていいと返しつつライドベンダーを止めてともに教室に向かうのだが矢張りマスコミの影響が強いのか、まだ来ていない生徒が多数だった。しかし時間が経てば皆やって来る、相澤が来るHR前には無事に席に着く事が出来ていた。そしてやって来るとヒーロー基礎学での感想を一通り述べるとある事を決めると呟いた。

 

「学級委員長を決めて貰う」

『学校っぽいの来た~……』

 

初日の合理的虚偽による除籍警告で完全に警戒していた皆はやる事を聞かされ改めてホッとしたのか息を吐きながらも学校らしいのが来たと何処か嬉しそうにしている。本来学級委員長は先生の助手的な雑務をするイメージがあるのだが、ヒーロー科においてはトップヒーローに必要な集団を導くという素地を鍛える事が出来る。故に皆が立候補していく。それは当然翔纏も同じ。

 

「皆静粛に!!!"一"が"多"を導く大変な仕事、それをただやりたいからと、簡単に決めて良い筈がない。だからこそ信頼得るリーダーを決める為、投票を行うべきだ!!」

 

と飯田が立派で正論とも言える事を唱える、確かに正しい事だ。事なのだが……

 

『そう言いながら聳え立ってるじゃねぇか!!』

 

正論を口にする傍らで真っ直ぐと直線と思える程に素晴らしい腕の伸ばし方をしている飯田。本人も委員長はやりたいらしい、だが時間内に決めろと言った相澤は時間かかるなら多数決でいいから決めろと急かすので飯田の案が採用されるのであった。そしてその結果―――一番票を集めたのは緑谷の3票、次点で八百万の2票であった。

 

「(自分の一票のみ、まあ妥当だよな)」

 

落選したとはいえ対して気にする事は無く、その後の授業に集中していた翔纏。そのまま昼休みとなったのだが、その日は姉が弁当を用意してくれたので教室でそれを広げていた。

 

「あらっ獣王ちゃんはお弁当なの?」

「偶々ね、姉さんが作ってくれたんだよ」

「あっお姉さん要るんだね、折角だからウチらも一緒に良い?」

「どうぞ」

 

同じように弁当を用意していた梅雨ちゃんと耳郎と一緒に食べる事になった。この事でまた一部男子からやっかみを受ける事になったのだが、それはまた別の話。

 

「獣王ちゃんにはお姉さんが居るのね」

「姉さんだけじゃなくて兄貴も弟も妹もいるさ」

「結構な大家族なんだね、まあ獣王家って言ったら凄い一族だしね」

 

単純なヒーロー一家というだけではなく常にトップヒーローの一角を担い続ける名門中の名門、数ある異形型の中でもトップの多彩さを誇る。そして翔纏はその最高峰とされている。

 

「やっぱり凄い厳しかったりすんの、ほらっノブリス・オブリージュ……だっけ」

「いや別に。兄貴とか姉さんとか帰り際にコンビニの鶏唐揚げ棒咥えながら帰ってきたりよくしてたし」

「思っていた以上に庶民的……なのね、もっとこう……何ていうのかしら、貴族とかそんな感じのを想像してたわ」

「いやそんな事ないよ、寧ろみんなフリーダムというか……自由というか」

 

兎に角賑やかで騒がしいのが特徴だと思っている、静かでいる時なんて数えられるほど。一族は基本的に日本中を飛び回って活動をしている上に時には海外にも行ったりもする。それ故か帰って来た時にはその土地のお土産を大量に持って来り方言になって居たり、民族衣装を着ていたりと色々とカオスな事になっている。

 

「でもなんだかとっても楽しそうね」

「確かに、なんか音楽活動しててもネタに困る事は無さそう」

「それはあるだろうね、昨日の夕ご飯なんて名古屋(味噌カツ)で一昨日は北海道(イカめし)、その前は青森(新巻鮭)でその前は山梨(ほうとう)で……あれその前なんだったけな」

 

これ程までにスラスラと出てくるほどに獣王一族の食事はバラエティに富んでいる、今のは日本ばかりだったがタイミングによってはイタリアからフランス、ロシアに来てからメキシコと世界中を移動する事になる。そんな話が二人には興味津々なのかもっと獣王家の事を教えて欲しいとせがまれる、折角なので知りたがっているであろうヒーロー活動をしている家族について話そうとした時の事―――警報が鳴り響いた。

 

「な、何っ!?」

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外に避難して下さい』

「避難警報、なんだか大変そうだけど何処に行けばいいのかしら……」

 

そう、まだ雄英に入学して一週間も経過していない。避難訓練などもしてないので何処に行くのが正解なのかも全く分からない。クラスには自分達だけな事もあって耳郎は不安を面に出して狼狽える、梅雨ちゃんは比較的に落ち着いているようだがそれでも不安そうにしている。それを見た翔纏は二人に落ち着けと促しながら懐からカンドロイドを出した。

 

「まずは状況を確認しよう、これを使おう」

「それってカンドロイド……でもタカちゃんだけってあれなんか緑色のは初めてみる……」

「獣王ちゃんのサポートアイテムよね」

「ああ、念のために持ってるんだよっと」

 

そう言いつつもカンドロイドを起動させる、一つはタカちゃんだがもう一方は展開するとまるでウサギのようにも見えるがバッタの形へと変形した。

 

「あっこっちはバッタ!?」

「そう、バッタカンドロイドのバックン」

「可愛いわっ……!!」

「ありがと、それじゃあタカちゃんにバックンお願いね」

 

タカちゃんはバックンを一つその嘴で加えていくと窓の外へと飛び出していった、それを見送った後にもう一匹のバックンの顔辺りにある小型モニターが雄英の現在を映し出し始め、3人はそれを覗き込んだ。

 

「あっ凄い!!あっちは通信機になるんだ」

「そっライブカメラみたいな機能があるんだ」

「可愛いだけじゃなくて凄いのね」

 

そして空中から中継される映像にあるものが飛び込んでくる、そこには大勢のマスコミが敷地内へと侵入してプレゼント・マイクと相澤が何やら対応している姿であった。そして次に正門のセキュリティが発動しているが破壊されている光景が映し出される。

 

「つまりこれって……マスコミが勝手に侵入したせいって事?」

「そう言う事になると思うわ、お騒がせねぇ……」

「個性まで使って雄英の侵入って……ヴィラン扱いされても可笑しくないのによくやるよね―――ヴィラン……?」

 

その時、翔纏はある考えが脳裏を過ったのであった。マスコミはネタを欲しがっている、だからと言って此処までの事をするのだろうか。下手すればヴィラン扱いされて全国から非難が殺到するのに……もしも、これがマスコミではなくヴィランによるものだとしたら―――そんな不安が脳裏を過る中、脅威は確かに迫り来ていた。



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欲望の連鎖。

不穏な考えが巡り続ける中で一日は終わり、また新しい一日が始まっていく。それが繰り返される中でのヒーロー基礎学、今回の内容発表を相澤が行った。

 

「今回のヒーロー基礎学は俺ともう一人も含めての三人体制で教える事になった。そして今日の授業内容は災害水難なんでもござれの人命救助(レスキュー)訓練。今回は色々と場所が制限されるだろう。ゆえにコスチュームは各々の判断で着るか考える様に」

 

伝える事を伝えたからさっさと行動しろと言わんばかりに相澤は20分後にバスに集合と最後に言い残して教室から出ていった。今までの事を考えれば遅れたら即刻除籍すると言われかねないと皆思っている為かテキパキと動きながら集合場所へと向かっていく。それは翔纏も同じ、早急に準備を整えて集合バスに向かうのであった。そこでは

 

「バスの席順でスムーズにいくよう番号順に二列で並ぼう!!」

 

と笛を吹きながら張り切って先導している飯田の姿があった。マスコミのセキュリティ突破騒動があった日、緑谷は自らの委員長職を飯田へと譲渡した。セキュリティ突破による警報によって食堂で起こったパニックを飯田が身体を張って鎮めたからとの事。実際先導するのはあんなタイプの人間の方が優れているのかもしれないと皆が思う。

 

「こういうタイプだったか……!!」

 

がそのやる気も空回り、これからに期待と言わざるを得ない。やや賑やかすぎるバスはA組を授業の舞台へと連れて行った。巨大なドーム状の施設でその入り口には一人のヒーローが待っていた、宇宙服のようなコスチュームを纏っている宇宙ヒーロー・13号。そんなヒーローに伴われて入ったドームの中は―――

 

『USJかよ!!?』

「水難事故、土砂災害、火事、etc……此処はあらゆる災害の演習を可能にした僕が作ったこの場所――嘘の災害や事故ルーム――略して“USJ”!!」

『本当にUSJだった……!?』

 

色々と危ないネーミングだと冷や冷やする。そんな中でこれからの訓練で何を見出して欲しいのか、個性という力の危険性、それを活かせばどれだけの人を救える事かを説きながらこの授業ではそれを人を助ける為に使う事を学んでほしいという強い思い。それらを感じた所で授業に入ろうとした時の事―――それは現れてしまった。

 

USJ全体の照明が一瞬消え、不気味な雰囲気が生み出されていく中で相澤は悪寒を感じ噴水広場に反射的に顔を向けた。そこには黒い靄のような何かが空中で不気味に渦巻きその中心からは悪意と殺意が漏れていた。噴水前の空間が奇妙なほどに捻じ曲がり広がっていく光景に素早く指示を飛ばしながらゴーグルを装着し、13号も動き出す。

 

「皆さん避難します!!これは訓練ではありません!!」

 

その問いかけで皆現実として受け止めきれていなかった生徒達も緊急事態だという事を飲み込む事が出来たのか、その指示に従い始める。相澤は自らの得物である捕縛布を握り締めながらも飛び出すタイミングを見計らう。此処まで進入するヴィランだ、恐らく先日のマスコミの一件もあれらの手があったのだろう。ならば油断せずに行くしかない。

 

「13号、生徒を頼むぞ。俺は時間を稼ぐ」

「相澤先生っ!!イレイザー・ヘッドの戦闘スタイルは個性を消してから捕縛!一対一ならまだしもあの数との正面戦闘は危険すぎます!!」

「一芸だけじゃヒーローは務まらん」

 

ヒーローマニアでもある緑谷、彼は相澤のヒーローネームであるイレイザーヘッドの事も当然知っていてその戦闘スタイルを熟知している為に心配をするが、それを一蹴しながら相澤は敵陣へと突っ込んで行く。自らの個性、抹消にて相手の個性を消す事でペースを乱しつつもかく乱、捕縛布を巧みに使って別のヴィランへとぶつけるなどして上手く集団を乱していく。その隙に13号に連れられてUSJからの脱出を試みるのだが―――

 

「逃しませんよ、13号と生徒の皆様方」

 

自分達の向かう先、出口を封鎖し立ち塞がる霧のような姿をしているヴィラン、他のヴィランをここに連れてくる役目も担っている黒い霧のヴィランは慇懃無礼な口調をしながらも明確な敵意と悪意を向けてくる。それらから守るように13号が一歩前に出る。

 

「はじめまして生徒の皆様方。我々はヴィラン連合。この度、ヒーローの巣窟であり未来のヒーロー候補生の方々が多くいる雄英高校へとお邪魔致しましたのは他でもない。我々の目的、それは平和の象徴と謳われております№1ヒーローであるオールマイトに息絶えて頂く為でございます」

「オールマイトを……随分な事を言いますね」

「大胆不敵でしょう、不敵、正しく我々ヴィランの特権です」

 

思わず皆の意識が一瞬死んだ。オールマイトを殺す為に態々雄英に乗り込んできたというのだろうか、オールマイトを目的として事件を起こすだけでも狂っているとさえ思えるのにオールマイトだけではなく多くのプロヒーローが教師として在中している雄英高校に乗り込んでくるなんて正気の沙汰ではない。ヴィランの瞳に嘘が滲んでいない、本気で殺すつもりで来ている。そして直後―――

 

「そして生徒の皆様が金の卵という事も承知しておりますので―――散らさせて頂き嬲り殺しにさせて頂きます」

 

今度は黒い霧が伸びて自分達を包み込んでいく。身体が何処かに飛ばされているかのような感覚を味わうが直ぐにそれは明らかになった。

 

「水っ!!?」

 

眼下に広がるのは一面の水、13号の話にあった水難事故を想定した救助訓練で使われるエリアだと推測する。そして此処に送り込まれたならばヴィランがいるかもしれないと即座にドライバーを装着して変身を行おうとするのだが―――身体に何かが巻き付いて思いっきり引っ張られた。

 

「うおおっ!!?」

「獣王ちゃん、大丈夫かしら?」

「梅雨ちゃんか!?」

 

視界の端に一隻の(ボート)、その上から舌を伸ばして自分を水没前に助けてくれたのは梅雨ちゃんだった。そのままゆっくりと船へと連れてこられるとそこには緑谷や峰田もいた。ここは恐らく13号の説明で言われていた水難ゾーン、そこに転移させられてしまったのだろう。兎も角互いの無事を喜びつつも大変な事態になってしまった。

 

「でも、此処で先生を待つしかねぇだろ!?それにオールマイトだけじゃなくて此処には多くの先生が要るんだぜ!?」

「そうねっ兎も角今は耐える事に専念した方が良いかもしれないわ、オールマイトが目的って言ってた事も気になるけど今は自分達の事を最優先するべきね」

「そうだねっ……僕達だって危機的な状況に居るのは確かなんだし……!!」

 

緑谷の言葉に釣られて視線を外へと向ける、ボートの周辺の水中には多くのヴィランが既に待機していた。しかもご丁寧に水場で力を発揮出来るタイプの個性持ちばかりだ。極めて計画的な犯行だと言わざるを得ない、此処で待ち続けているのも危険だと思う中で翔纏は立ち上がりながらボートの外へと視線を向けていた。

 

「よしっならヴィランは俺が何とかする。その代わり後の事は任せる」

「なっ何言ってるの獣王君!?あれだけの数を一人で何とかするって言うの!?」

「お前正気かよ!?って言うか馬鹿だろ!?あんだけの数のヴィランを如何やって倒すって言うんだよぉ!!」

 

思わず緑谷と峰田は無謀な事を言う翔纏を必死に引き留めようとする、だがそれでも全く意志を変えない。それを見た梅雨ちゃんも説得に加わろうと思ったのだが、口からでたそれは寧ろ質問だった。

 

「獣王ちゃん、絶対に大丈夫なのよね?」

「蛙吹……梅雨ちゃん何を言ってるの!?」

「獣王ちゃんの個性を思い出して、もしかして水棲系の動物にもなれるんじゃないかしら」

 

そう、翔纏の個性は様々な動物への変化。その中にもしも水中活動が出来る物があるならば……その質問に関して頷く。

 

「その後って言うのは如何すれば良いのかしら」

「俺がこれからしようとしているのは俺の奥の手、身体に相当な負担が掛かるから多分その後動けなくなるって事」

「翔纏君、でも危険すぎるよ!!」

「だな。でもやらなきゃいけない、あの時ああしていたら……何て後悔だけはしたくない」

 

そう言いながらオーメダルネストから三枚のメダルを手にする、それは青いメダル。それを一枚一枚丁寧に装填していく。そして三枚の色が一致した時、一際大きい音が鳴る。

 

「無茶だぞお前っ!出来っこねぇよぉ!!」

「俺は諦めるなんてしない、もう―――あんな思いはしたくない!!」

 

強い決意を胸に秘めながらオースキャナーをその手に握りしめる。家族に口酸っぱく言われてきた言葉が脳裏で反復する中で鴻上会長の言葉が自分の背中を強く押す。

 

『君が思う通りにすればいい!!君の欲望に従えばいいのさ!!』

「―――ええ従います、俺は俺がしたい事を、俺の欲望のままに!!

キンッ!

キンッ!

キンッ!

「変身!!!」

 

シャチ!

ウナギ!

タコ!

 

シャッシャッシャウタ! シャッシャッシャウタ!!

 

その時、緑谷達が目にしたのは今まで翔纏がなっていたメダルの組み合わせがバラバラな物などではなく統一されたメダルで行った変身。それを一つにした時に発動する姿は正しく切り札。その姿は水棲系メダルを3枚使用した事で至る事が出来る連鎖(コンボ)、その名もシャウタコンボ。その変身が遂げられた時、翔纏は―――

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」

 

全身から溢れんばかりのエネルギーを放出しながら周辺一帯が揺れ動く程の咆哮を上げた。コンボによるそれは個性の力を限定しながらも100%引き出される状態、満ち溢れる力に声を上げた次の瞬間、翔纏は高らかに跳躍しながらも水の中へと飛び込んでいった。

 

「自分から俺達のフィールドに飛び込んでくるたぁ大馬鹿野郎だな!!」

「血祭りに上げろぉ!!」

 

と勇んで突撃してくるヴィラン達、自分達の有利なフィールドに飛び込んでくる馬鹿な子供だとサメの個性を持つ者が飛び掛かり噛み千切ろうとした時―――その身体をすり抜けてしまった。

 

「なっなにっ!?オババアバババッ!!?」

 

瞬時にその身体へと取りつく翔纏はその腕に握られている純白の鞭をヴィランの首へと巻きつけ思いっ切り握り込むと電流が迸った。一瞬で意識を奪われたヴィランは水面へと向かって浮かび上がっていく。

 

「クソガキぃぃぃ!!」

 

次々と迫ってくるヴィラン、水を鋭利な刃物へと変える個性、魚の個性で加速してくるヴィランと多種多様な相手が迫る中でも翔纏は能力を発動させながら相手に突撃していく。

 

「だ、大丈夫かよ獣王の奴……」

「大丈夫よ獣王ちゃんは強いもの」

「で、でも……あっ!?」

 

ボートで待機し続けていた緑谷達は翔纏の身を案じていた、自分達にも何かできないかと考えている時に水面に次々と何かが迫ってきた。

 

「ひぃぃっヴィランか!?」

「そう、みたいだけど……様子が変よ」

 

怯える峰田だが直ぐに別の意味で怯えた。何故ならば水面に意識を失ったヴィラン達が次々と浮かび上がってくるのだから、一体水中では何が起こっているのかと疑問に思う中でヴィランが自ら飛び出していくのを追うように水柱が飛び出した。それは自らの意志を持っているかのようにそのヴィランを追いかけて行く。

 

「な、なんだあれどうなってんだ!?」

「もしかしてあれ獣王君!?」

 

その時に緑谷は見た、水柱の先頭辺りに黄色い目のような物があるのを。それは的確に水面を滑るようにして逃走を図ろうとしているヴィランを追いかけて行く。

 

「くそくそくそっ!!?なんだよこんなバケモンがいるなんて聞いてないぞ!?なんで銛も爪も刃も効かねぇだ!?」

「逃がすかぁぁぁ!!!」

 

スキャニングチャージ!!

 

もう一度オースキャナーでメダルをスキャンする事で解放される力、そのエネルギーを使い更に高々と跳躍しながらもその手に持つ鞭でヴィランを拘束しながら渾身の力を込めて自分の方へと引き寄せる。そしてそのまま脚部の能力を開放、6本の蛸の脚を生み出しそれをドリルのように高速回転させながらヴィランへと突撃していく。

 

「セイヤァァァァア!!!!」

「グアアアアアア!!!」

 

渾身の一撃を受けたヴィランは吹き飛ばされて水面を水切りするかのように跳ねながらも陸地へと到達し、そのままめり込んで動けなくなってしまった。それを見届けた翔纏は着水し、全身に押し寄せてくる疲労に蝕まれながらも何とか緑谷達のいるボートまで辿り着く事が出来たが、その途中で力尽きてしまう。だがそれを梅雨ちゃんによって助け出される。

 

「凄かったわ獣王ちゃん、後は私達に任せてね」

「ごめんっちょっときついわやっぱり……」




最初のコンボはシャウタにしました!!次につなげる為にもこれが一番かなぁっと思いまして。後出久君の見せ場も考えてますのでお楽しみに。


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連鎖し続ける欲望。

「これでっ終わりだよ!!」

「いってぇっ……でもまあもう襲われないって思えば安い、よなぁ……」

 

水面に浮いている気絶しているヴィラン、それらを一箇所に集めながら峰田の個性であるもぎもぎによってくっつける。本人以外は取る事も容易ではなく驚異の接着力を誇るそれを用いてヴィラン同士をくっつけて例え起きたとしても動けないようにして水難ゾーンの中央辺りに浮かべておく。緑谷が調べた所、ヴィランの大半が魚系統の個性持ちだったので問題なく、そうでない物はそんなヴィランの上に転がしておいたので大丈夫だろう。

 

「獣王、おい大丈夫かよ」

「わりぃっ……くっそ疲れた……やっぱりコンボは負担がでけぇな……」

「大丈夫よ私が付いてるわ獣王ちゃん」

 

水難ゾーンの水辺、脱力してしまっている翔纏は梅雨ちゃんに支えられるように座り込んでしまっている。酷く荒い息を漏らしながら必死に呼吸をしている。それに思わず緑谷が尋ねる。

 

「ねぇっ獣王君。さっきの姿、そんなに消耗しちゃうの?」

「ああ……あの状態、シャウタって言うんだが……あれはコンボ状態なんだ」

「コンボってなんかゲームみてぇだな……」

 

峰田の言葉を肯定しつつも使っていた三枚のメダルを見せ付けながら翔纏は説明する。翔纏のメダルは基本的に三種類に分かれており、それぞれに決められた動物が割り振られているがその種類は統一されている。鳥系、猫系、昆虫系、水棲系、重量系と別けられておりこれらがそれぞれ頭、腕、脚に割り振られている形になる。そして同じ種類の系統を揃えると強力な能力を発揮出来るようになる。

 

「さっきのシャウタの場合、だと液状化だな……」

「液状化って……それ一つだけでも凄い個性級だよ!?」

「そんだけ俺の個性はやばいんだよ、この力だってドライバーに組み込まれてシステムと俺の個性が共鳴してできた副産物みたいなもんだからな……」

「凄くても相当負担は凄そうね」

 

当初はこの仕様は外される予定だったが、鴻上会長の考えでそのまま搭載されるままとなった。負担は大きいだろうが、何方にしろコンボを使う状況は危険な状態に違いないので速攻でケリをつける為と一族を説得したとの事。

 

「あと少し休めば動けるようにはなるから、悪い……ちょっと……」

「ケ、ケロッ!!?」

「ああっ獣王テメェ!!」

 

そのまま完全に脱力しきってしまったのか梅雨ちゃんに倒れこむようになってしまい、そのまま意識を失うように瞳を閉じてしまった。峰田も助けて貰った身なので強く言えず、歯軋りをして彼女の胸に抱かれる翔纏を血の涙を流しながら見つめていた。梅雨ちゃんは最初こそ驚いたが優しく受け入れるように翔纏を抱きしめる。

 

「如何しようかしら緑谷ちゃん、早く合流を目指すべきなのかしら」

「う~ん……でも途中でヴィランと遭遇するかもしれないし、何とも言えないね……せめて回復するのを待つべきだと思う」

「だっだよなっ!!先生が助けに来るまで待とうぜ!?」

 

このまま下手に動けば翔纏も危険に晒すと判断してこの場での待機を決定するのだが―――直後に凄まじい音と生々しい音が耳に届いてしまった。其方を見てしまった、そこにあったのは……脳が剥き出しになっている巨漢のヴィランによって地面が抉れるほど強く組み伏せられている相澤の姿であった。それだけではない、全身の各所に手のような物を付けたヴィランもいる。

 

「み、緑谷っ……!!」

「落ちっ、着いて……ゆっくり、ゆっくり水の中に身を潜めよう……!!」

「分かった、わっ……獣王ちゃん、ごめんなさい」

 

動けなくなっている翔纏を伴って水の中に身を潜める、翔纏の顔が水につからないように細心の注意を払いながら梅雨ちゃんが抱えるのを緑谷は確認しつつそっと状況を見る。相澤を拘束している巨漢のヴィラン、それは今相澤に見られたのにも拘らず変わらずの怪力を発揮している。という事は……あれは素の力であり個性は別の物であると予測が立てられてしまい最悪の予想が浮かび上がってしまった。

 

「みっ緑谷……先生が……!!」

「駄目よ緑谷ちゃん、今飛び出したら私達まで……それは先生が一番望まない筈だわ……!」

「分かってる、分かってるけどこんなのって……!!」

 

分かっている、けど見過ごせというのかこの状況を。目の間で苦しんでいる人がいるのに何も出来ずにただじっとし続けているなんて……耐えがたい苦痛、だが彼女の言う事は正しい。プロヒーローでもある相澤は経験も豊富なのにそれが敗れている、ならば自分達が倒せる訳もない。だからと言って、このまま……だがその時だった。

 

「もう少し、欲しいな」

 

ギロリと手を付けたヴィランが此方を見た。自分達を転移させたヴィランが何かを報告したかと思った直後だった。そしてゆっくりと此方へと向かってきた。相澤をその場に投げ捨てるようにしながら向かってくる。今すぐにでも逃げなければと思うが―――

 

「バ、バレてッ―――!!?」

「ケ、ケロォッ……!!」

「か、身体が動かねぇ……!!」

 

バレてしまった、逃げないとまずいと分かった瞬間に叩きつけられた混じりけが無い純粋な殺意と敵意が全身を貫いた。本能を直撃するかのようなそれらは彼らの原始的な部分を刺激した、全身が動かなくなり思考が凍り付いてしまうほどの圧倒的な恐怖が身体を縛り付ける。このままでは確実にやられる、何とかしなければと考える中で翔纏がそんな言葉を送った。

 

「緑、谷……気を、引けっ……」

「獣王君!?」

「獣王ちゃん!?」

「俺が、何とかする……だから意識を反らせ……」

「ど、どうやってだよ……」

 

震え続ける声に身体、こんな状況で何を如何したらそんな事が出来るというんだと峰田が抗議する中で翔纏は言う。

 

「緑谷、お前のっパワーなら……姿を隠せるような事を……半端じゃだめだ、全力で……」

「で、でもそれって緑谷ちゃんの身体が……」

「頼むっ緑谷……一か八かの手段でしかないが、もうそれを試すのが今だ……!!一発でいい、その一撃を俺にくれ……!!!」

 

苦しみながらも必死に声を出す翔纏を出久は見つめる、本当に何とか出来るのだろうか、この状況を打破できるのかと疑問と恐怖が入り乱れて思考を鈍らせる。そんな中でもヴィランは迫ってくる、此方の事情なんてお構いなしに。恐怖が増してくる今を打破するために、質問する。

 

「一発で良いんだよね……!?」

「十分だ……」

「分かった、僕の腕を君に賭ける!!!」

 

迫りくるヴィラン、恐怖が沸き上がり続ける中で叫ぶ、それが如何したと。怖いからなんだ、それを跳ね除ける術を知っているじゃないか、方法は一つしかないんだ。最後の手段を試す時が今だというのならば自分はそれに従おう、全身全霊を込めた最高の一撃を今放つ。その時、全身を縛る恐怖の鎖が千切れ飛ぶ、途端に溢れ出すのは欲望の、勇気の力だ。それを今腕に込めて一撃を放つ!!!

 

SMASHHHHHHHHHH!!!!

 

全力で眼前の地面を殴りつける、その瞬間に地面は砕け散りながら爆風染みた衝撃波を生み出し、そこら一帯を包み込むような土煙と水柱を打ち上げた。水煙と土煙が入り乱れる光景を見続けるヴィランは狡猾に笑う。

 

「恐怖で可笑しくなったかぁ……自爆しやがった」

「死柄木弔、しかし凄まじい力です、警戒はした方が良いのでは」

「だったら脳無に行かせればいいだけの話だ、これなら問題ねぇ」

 

死柄木と言われた手を付けたヴィランは足を止め、脳無と呼称された脳が剥き出しの巨漢ヴィランに目の前を指さしながら行けという指示を出す。それを受けた脳無は訓練された猟犬のように命令に忠実に前へと進み始めた。煙の奥にいる生徒を殺す為に、主の殺意に応えるかのように―――だがその時聞こえて来たのだ。何か、甲高い音が、そして響き渡る力強い音が。

 

ライオン!

トラ!

チーター!

 

そして土煙を突き破るかのように眩い光が放たれていく、その光は全ての障害を取り払うかのように輝きながらも脳無へと炸裂した。光は熱線となって収束されていき脳無の全身を焼いていく。黒い身体も良く光を吸収してくれている為か良く燃える、だが直後に筋肉を膨張させたかのように炎が弾けた。肌が焦げてこそいるが未だ健在、そして脳無の瞳が映したのは―――

 

ラ・タ・ラ・タ! トラーター!!

 

「先生の仇―――取らせて貰う!!」

 

光を放つ灼熱のコンボ、ラトラーターとなった翔纏。今、コンボの力が解放されようとしている。




シャウタに連続してラトラーターも登場。実はサゴーゾと迷ってました。でもいざって時は相澤先生を確保して退却も選択できるからこっちかなっと思いました。

尚、現在の翔纏は既に満身創痍。


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連鎖の代償。

「ンだ、ありゃ……?」

 

死柄木が目にしたのは煙の中から飛び出した一人の戦士、黒い身体に浮き上がるかのように飛び出している黄色い部位。頭、腕、脚の三か所に分かれているがそれらは個として確立されている。手の甲から伸びている鋭利な爪、強靭な足、そして大きく立派な鬣を蓄える頭部。そして向けられてくる闘気と敵意は明確にして強すぎる。

 

「おい黒霧、プロヒーローでこんなのいたか」

「……いえ覚えがありません。アングラ系……でもなさそうですし」

「生徒って事か……脳無殺せ」

 

淡々とした殺害指示、それに従うように脳無は腕を差し向けるが一歩先に翔纏が前に出た。そして腕部のツメ、トラクローを展開しながら腕を振るう。そして一拍の後に脳無の右腕が地面にボトリと落ちた。

 

「はっ……?」

「ほうっ……」

 

死柄木と黒霧の反応は両極端。一方はそれを理解出来ず、一方はその一瞬の出来事を完璧に見抜いて感心の息を漏らしてしまった。地面に転がった太い脳無の腕、それが告げる真実に気付ける差が明確に分けられた。そして脳無は振り返りながら自分の腕を切り落とした相手を見た。そして直後に―――一気に加速して巨腕を振り下ろした。爆風と共に地面が砕け散る、それを見た死柄木は確実に死んだなと笑う、しかし―――

 

「セイヤァッ!!!」

「ッ!!」

 

背後からトラクローが襲いかかり残っていた腕と足を一本ずつ切断する。僅かな攻防、それだけで脳無を圧倒するような力を見せ付ける翔纏だが警戒を身に纏い続けていた。何故ならば切り落とした筈の腕と足が再生し始めているからである。

 

「再生系の個性……」

「あっそうさそうだよ!!ああっちょっと驚かせてくれたけどよ、こいつは再生とショック吸収を備えてる。対オールマイト用に連れて来たんだお前如きが敵う訳がねぇんだよ!!」

「再生と、ショック吸収」

 

死柄木の言葉を反復する、個性は基本的に一人に一つというのが当たり前。だが翔纏は驚かない、自分とて他人から見たら複数の個性を持っているように見えるのだから。個性は世代交代をするごとに混合されて強くなる事がある、自分などは正しくそれの実例なのだから。だがその二つは酷く厄介だと言うしかない、トラクローで切り裂いても再生され、蹴りつけても吸収される。防御系としては最上の組み合わせだ。

 

「ならっ―――試してやる!!」

 

脚に力を籠める、すると脹脛から蒸気が噴き出し力が溜まっていく事を示し始める。そしてそれらを爆発させるように加速しながら瞬時に距離を詰めて脳無の頭部へと膝蹴りと回し蹴りを炸裂させる。身体を仰け反らせるだけで確かに対したダメージは無いように見える、ならばと言わんばかりにクローを振るい脳無の腕の肘から先を貰う。

 

「無駄って事がまだ分からないのか?」

「これっならどうだぁぁぁ!!!」

 

両腕は封じた。ならばこれが出来ると脳無の肩をがっしりと掴むとその胸部へと脚を置く。そのまま―――チーターの脚力を全開にして脳無の身体を走るかのような超高速の連続蹴り(リボルスピンキック)を繰り出す。チーターの最高速度、それで相手の身体を蹴りながら抉り続けるという攻撃。

 

「ハァァァァァァッッッッ!!!!」

「ッッ―――!!」

 

速すぎる動き、超連続して脚が脳無の身体へと当たり続けて行く。二つしかない脚が無数に見える程の超高速。そんな速度を生み出す健脚の攻撃を受け続ける脳無は一体どうなってしまうのだろうか。

 

「如何した脳無!!そんな奴さっさとひねりつぶせ!!」

「し、死柄木弔……脳無の、脳無の腕を見てください」

「ああん!?ンなもん治って……ねぇっ!?」

 

黒霧に言われて視線を向けた先には肘から先の再生が酷く緩慢な速度でしか行えていない姿があった。瞬時に傷を塞ぐ再生が機能していないのか、違う。胸部の傷を再生させるのに集中させている。

 

「脳無の再生を上回る攻撃ってフザけんなチートか!!」

「ハァァァァァッハアッ!!!」

 

一際強く、脳無の身体を抉る。周囲に細胞が飛び散っていく中で飛び退く翔纏。リボルスピンキックを受け続けた脳無は膝をつきながらも傷の再生を行おうとするがその速度は明らかに遅くなっている。幾ら個性といえど人間の機能、限界は当然存在してそれは確実に訪れてしまう。それが今、そして好機も今!!オースキャナーでドライバーのメダルを再スキャンする。

 

スキャニングチャージ!!

 

その時、翔纏の身体にも大幅な変化が齎される。頭部の鬣(ライオネルフラッシャー)は更に大きく長くなり後頭部を覆い尽くす程に増大し、トラアームは肘から先を変貌させ腕その物が巨大な虎の腕のようになった。そして脚部は更に大きく発達していく。勇気、力、王権の象徴を現すライオンの頭部。大型肉食獣最強の一角、トラ最大の武器である前脚。そして地上最速の脚力を持つチーターの後脚。それらの能力を最大限にまで開放したその姿は正しく百獣の王に相応しい。

 

「ウォォォォォォォッッ!!!」

 

雄叫びと共に目の前に黄色の光のリングが出現、そこへ突進していく翔纏。そしてそれを一つ潜るごとにその身は光を強く宿していく。そしてそれらのエネルギーを全て両腕へと回しながら脳無へと向かって行く。再生が終わらない脳無は最後のあがきと言わんばかりに突撃して迎え撃とうとするのだが余りにも速度が違い過ぎた。

 

「セイヤアアアアアアアアァァァァァァァァッッッッ!!!!」

 

百獣の王の雄叫びと共に莫大なエネルギーを蓄えた両腕が振るわれる、その爪は交差するように脳無の身体を切り刻むとそのエネルギーに耐えきれなくなったかのように大爆発した。爆炎の中からゆっくりと倒れこんだ脳無、深い深い切り傷に火傷、それは一切再生する事も無く動く事も無かった。

 

「嘘だろあの脳無が倒された……!?ぁぁぁっァァァああああふざけるなよぉお前ぇ!!なんだ、なんだよぉくそチート野郎がぁぁぁぁ!!!」

「死柄木弔、今直ぐ引きましょう!!脳無無しではオールマイトは倒せません、間もなく雄英の教師陣が来る可能性も……!!」

「くそぉぉぉお!!!」

 

罵詈雑言を漏らしながら、此方を見る翔纏へと怒りをぶつけながらも死柄木は黒霧の中へと消えていく、同時に黒霧の姿も掻き消えて行く。程なくして訪れる静寂、それに木霊するのは翔纏の息遣いのみ。それを打ち破るかのように水難ゾーンから上がってきたクラスメイト達が駆け寄ってきた。

 

「おい獣王~!!!お前どんだけやべぇんだよぉ!!ヴィランを退けちまうなんて!!」

「本当に凄かったわ獣王ちゃん、本当にっ本当に!!」

「獣王君本当にありがとう!!」

 

自分を囲むように駆けよって来た三人の無事な姿に思わず翔纏は息を吐いた。無我夢中だったが巻き込む事なんてしていなくて本当に良かったと安心してしまった。自分は守り切った、戦い切った。

 

「相澤先生を……」

「あっそうだそうだった!!相澤先生の事忘れてたぁ!!」

「み、峰田君手伝って応急処置するから!!!」

「それは緑谷ちゃんもよ!!」

「いや僕は今のところ痛くは―――っていってぇぇぇ!!?」

「緑谷お前何がしてんだよ!?」

 

一瞬で騒がしくなった空間に翔纏は思わず笑みを零してしまった、そうだ相澤先生の手当てをして合流しないと―――身体に力が入らない、脚が砕けたように崩れ膝をつきそのまま倒れこんだ。

 

「獣王ちゃん!?」

「お、おい獣王如何したんだよ!!?」

「獣王君確り!!」

 

直後に変身が強制解除されて元の姿へと戻ってしまった。身体にこびり付く異常な疲労と途轍もない痛み、それによって混濁する意識の中で翔纏は理解した。これが連鎖(コンボ)の代償だと。連続してコンボを使った事で限界を超えてしまったと分かった、だがそれ以上何も出来る事も無く意識を手放した。

 

 

 

 

 

「くそくそくそっ!!!」

『随分と荒れているね弔』

「当然だろう……!!先生、アンタがくれた脳無がオールマイトどころか唯の生徒に倒されたんだぞ!!』

『へえっ……詳しく聞かせてくれるかい……その子の個性―――実に興味深い』




翔纏はオリジナルのオーズと違って能力開放という事が出来ます。個性の力を更に引き出す事で元となった生物の特徴やパワーを更に発揮出来る技です。

S.I.Cのオーズの能力開放した感じです。あれいいですよね。


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家族の欲望。

「んんっ……」

 

重たい瞼を開ける、自分は眠っていたいや瞼を閉じていたのかという意識すらなく如何してそんな事をしたのかすら分からない。力なく開かれた瞳が映すのは初めて見る天井、天井を意識してみた事はないが多分初めてだと思う。

 

「……知らない天井だ……」

 

おもむろに出た言葉が自分の心情を示していた。兎も角自分は如何してしまったのだろうか、身体を引き起こしたが全身が引き裂かれるような激痛が走った。

 

「ガァッ……そうか、俺はコンボを……」

「目が覚めたかいって何身体を起こしてるんだい!?早く横になりんしゃい!!」

 

身体を起こして抱きしめている翔纏を見て驚いた医務室付きの看護教諭、リカバリーガール。個性社会でも珍しい治癒系の個性持ち、翔纏の身体を安定させる為にベットの角度を付けて一先ずそれで安定させる事にした。

 

「それにしても……よくもこんなに早く起きられるもんさね、あたしから見てもアンタは重傷だったのに……」

「……」

 

少しずつ、痛みによって意識がクリアになっていき記憶が蘇っていく。自分はUSJで脳無と戦っていた、シャウタコンボで疲弊していた直後に最も負担が大きいラトラーターになるという家族が聞いたら大パニックになるであろう組み合わせを実行した。そしてなんとか倒す事が出来た後に倒れたのだ、それを漸く思い出せた。

 

「それで起きて早々悪いんだけどねぇ……頼まれてほしい事があるんだよ」

「頼まれてほしい事、ですか。何ですかね、USJ内に残ったヴィラン掃討、とかですか。やりますけど」

「んなもん生徒に頼む訳ないさね……結構物騒な子だね」

「いえまだあの脳無みたいな奴がいないとも限らないと思って……だから倒した俺がって流れかと」

「う~ん……これを本気で言ってるのかね、だとしたら相当な天然、いや馬鹿だね……」

「結構失礼ですねリカバリーガール」

 

若干ムッとするのだが直後に諭すように言われてしまった。仮にそんな存在が居たとしてもオールマイトを中心にした雄英の最高戦力チームを編成して行うから生徒にやらせるなんて事はあり得ない、加えて満身創痍で激痛も走り続けている翔纏に頼むなんてありえない。

 

「頼みたい事ってのはね……アンタの親御さんの説得さね」

「……へっ?」

 

 

「翔纏ぁぁぁぁぁっっっ!!!」

「翔ちゃぁぁぁんっっっ!!!」

 

数分後、医務室に飛び込んできたのは自分の両親であった。顔には焦燥と恐怖、不安が極まったような感情を浮かび上がらせたまま迫ってきた。そして自分を強く強く抱きしめてくるのだが……

 

「あだだだだだだだだだだっっ!!!??死ぬ死ぬ死ぬ親父と母さんに殺されるぅ!!」

「はっすまん翔纏!!?」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい本当にごめんなさい!!」

 

コンボの影響で大ダメージを受けている翔纏に両親の愛は酷く重く痛かった。本気で殺されると思う程に痛かった、リカバリーガールが鎮痛剤を投与してくれなければ気絶するほどの激痛だった。そんな事をしてしまった両親は土下座して謝罪してくる、子供に土下座する親というのはあまり見たくないからか翔纏はやめてくれと言った。

 

「全く……トップヒーローがなんて情けない」

「「面目ねぇ……」」

 

軽くお説教された両親はリカバリーガールにぺこぺこと頭を下げ続けている。何故ならば両親も雄英のOB故に面識があるし結構な頻度でお世話になっていたという話、リカバリーガール曰く、両親はライバルのような関係で常に演習場の使用許可を求め続けて何方が強いかを競っていた問題児扱いだったらしい。

 

「せ、先生その事は翔ちゃんには……!!」

「そうですっ俺は翔纏の憧れとして立派な姿で……」

「大丈夫親父には一ミリも憧れてねぇから」

「な、なんですとぉ!!?ちょ、超ショック……」

 

へなへなと座り込んでショックを受ける男こそ、キング・ビーストというトップヒーローをやっている獣王 猛。ライオンの鬣のような金髪が特徴的な屈強な巨漢なのだが……翔纏からすれば全く尊敬する気の起きない過保護な親馬鹿親父である。

 

「お母さんは尊敬してくれてるわよね、ねっ?そうよね翔ちゃん!?」

「あ~ま~……う~ん……それなりかな」

「そっそれなりなのね……でも猛さんには勝ったわね!!」

 

余り尊敬されていない事に一瞬落ち込みそうになりながらも()には勝っている事に喜んでガッツポーズを取る女性、父と同じようにトップヒーローの一人であるマジカル・ビーストの獣王 幻。スタイル抜群で腰まで届く程に長い赤い髪がトレードマーク、しかし同じく過保護な親馬鹿。

 

「それでリカバリーガール先生、うちの親馬鹿夫婦が如何したんですか」

「「親馬鹿夫婦……」」

「結構ドストレートに物を言う子だね、親にもそう言える胆力は嫌いじゃないよ。簡単な話さね、お前さんのいう親馬鹿夫婦がアンタを家に連れて帰るって聞かなくてね」

 

その言葉だけで大分状況は察する事が出来た、翔纏は鈍くはないし名門の家の出なので相応の教養を叩きこまれている。そして自分の家族の事を加味して両親が乗り込んできた理由も察しが付く。

 

「雄英の管理と生徒の安全体制の不満、ヴィランに侵入されたのにも拘らず直ぐに急行する事も出来なかった事と俺がヴィランと戦った事を追求してるって所ですか」

「大正解さね。特にお前さんがコンボだったかね、それを使った事が豪く不満らしい」

 

言いたい事は分かる、理由も理解出来る、だがそれを雄英のせいにするのはあんまりな話でもある。どうやって転移系個性の対策をしろというのか。

 

「俺は雄英を辞める気もないしコンボを使った事も後悔してない、寧ろ緑谷の腕をあんなにさせちまったことが一番後悔してる」

「それなら大丈夫だよ、あの子の腕はあたしが治癒させてあるよ」

 

それを聞いて一安心。あの状況ではそれしかなかった、だがそれでも分かっていて激痛の中に飛び込ませてしまったのが自分。それなのに彼は自分を信じて実行してくれた事が何よりも嬉しかったしそれに報いる為に自分は全力で戦った。だが矢張りそんな行いをさせてしまった事だけが心残りだった。

 

「で、でもそんな事をさせてしまったのは雄英側に問題が……」

「尊敬しねぇどころか嫌いになるぞ」

「「すいませんでした!!」」

「だから簡単に親が子供に土下座するんじゃないよアンタら……それでもトップヒーローかい……」

 

そんなに子供に嫌われるのが嫌なのかと思うがそれ程までに猛と幻は翔纏を愛しているのである。翔纏が一族の中で随一の個性を持っているなんて関係ない、息子だからそれだけの理由しか存在しない。愛する息子に嫌われる事は何よりも避けたい事なのである。

 

「というか過保護すぎなんだよ二人は……少しは俺を信頼してくれてもいいじゃないか」

「信頼してるわよぉ……でも、でもお母さんたちは翔ちゃんの個性暴発の場面を何度も見てるからその……」

 

母の心配は良く分かる。鴻上会長からドライバーとメダルを貰うまでに幾度も個性の暴発は起きて来た、その都度自分は死に掛けた。過保護になってしまっているのもそこから来てしまっている、大切にされているのは悪い気はしないし寧ろ愛されているという自覚もある……だけど

 

「俺はヒーローになりたいんだよ、だから何時までも親父と母さんにおんぶに抱っこでいたくない」

「それは分かるが……だけどお前は一族の皆が陥った事ない程に……」

「それも分かってる。だからさ―――体育祭で俺は証明する」

 

その手があったかとリカバリーガールも納得したような顔をした。雄英の体育祭はスポーツの祭典と呼ばれたオリンピックに代わり日本全国を熱狂させるほどの人気を誇っており、雄英生からすれば自らの実力を見せる事でプロからのスカウトを、プロからは新しい人材発掘に利用されている。

 

「そこで俺の姿を見ててくれないか、今の俺の力を―――自分達の息子が強いんだって所を見ててよ」

「翔纏……そうか、そうだな。翔纏も男の子だもんな」

「猛さんっ良いんですか!?」

「会長にも言われただろ、俺達一族は過保護が過ぎるって」

 

幻は不満な所があるのかそれに異を唱えたい。親としては不安があるし譲りたくない部分がある、だが過保護である事は否定出来ないし息子が此処まで言うのだから尊重したいという気持ちがあるのも事実。

 

「……分かりました、一先ずこの話は持ち帰ってお爺様たちにも聞いていただきましょう」

「それには賛成」

 

両親の説得は成功、と言っていいのだろう。兎も角次の目標は雄英体育祭で獣王家が納得が行く結果を出すという事になる。難しいかもしれないがやるしかない、その為には―――矢張りコンボに慣れて負担軽減を試みるしかない。新たな欲望を胸にした翔纏は瞳に炎を宿す。

 

「それじゃあ……翔ちゃんは連れて帰っても良いんですか!?」

「いや、納得したんじゃなかったのかい?」

「そうじゃなくて純粋に帰宅させても良いんですか!?」

「「ああそっちか……」」

 

検査の後、安静にするという条件付きで家に連行気味に帰宅。その間、母に抱きしめられ続けていた翔纏であった。




ギャングオルカの逆パターン。


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滾る欲望。

「獣王お前大丈夫って何だそのデカい箱?」

「ああ、バースデイケーキ」

『今日誕生日だったの!?』

 

 

『コンボを連続使用したそうじゃないか―――素晴らしぃッ!!ハッピバァァァァァァスデイ!!!

「という訳ですので此方会長からのケーキで御座います」

「あっはいっどうも……というか登校中に渡してくれなくても……」

「すいませんこの時間しか来れませんでして」

 

 

「という事があってね、俺の尊敬する人が俺がコンボの連続使用の記念日って事でケーキをくれたの」

「か、変わった人だな……」

「でもさっ態々ケーキを作ってくれて送ってくれてるんだろ?ケーキって結構作るの手間で大変だし毎回だとしたら本当に良い人だぞ」

「うんっお陰でお菓子関連に関して舌が肥えて困る」

 

USJの一件にて臨時休校となってた雄英も無事に再開され、身体も癒す事が出来た翔纏も登校するのだが……その途中で里中からケーキを渡されたので雄英まで持って来てしまった。毎回毎回ケーキワンホールを送ってくる会長も会長である、ケーキは美味しいが。

 

「そうじゃなくてお前身体もう大丈夫なのか!?」

「そうよっ獣王ちゃん、あの後倒れて凄く心配してたのよ」

「ああ大丈夫。単純な頑張り過ぎだから、流石にコンボの連続使用は身体に負担掛かるからね……せめてラトラーターじゃなくてサゴーゾにするべきだったかな……」

「やっぱりあの金色の姿(コンボ)って青の姿より負担が掛かるんだね……」

「うん、めっさキツい」

 

単純な変身の負担で考えればラトラーターのワントップ、固有能力を併用するのであればガタキリバのワントップになるのだが……常にエネルギーを放出しているようなラトラーターは身体に尋常じゃない負担が掛かってしまう。ほんの僅かな時間ならばまだしもシャウタの直後にあれはやり過ぎだと父と母からもきつく言われた。

 

「ケロッ……私達を守る為にそんな事をしてくれたのね……」

「それしか手段がなかったからね、まあ気にしないで。俺としてもコンボには慣れなきゃいけないと思ってるからさっ……」

 

少しばかり顔を暗くする梅雨ちゃんに気にしないでと声を掛けながら何時までもケーキを放置する訳には行かないと中身を空けてみると、そこには普段よりでかいケーキがあった。

 

「うぉっ何だこのケーキ!?青いぞ!!?」

「なんかアメリカのお菓子みてぇな感じだな……」

「ああこりゃバタフライピーティー*1を使って色を付けてるんだな、こっちは柑橘系で黄色を表現してる……これ作った人超一流だな」

「分かるのか砂藤?」

「おうよ。俺ってば個性の関係でお菓子作りが趣味だからな」

 

ケーキを見た砂藤が使われている素材を見事に言い当てる、彼の個性は砂糖を摂取する事でパワーアップするシュガードープ。その関係でお菓子作りが趣味であるとの事、そんな彼からしても会長のケーキは素晴らしいとの事。そしてケーキは折角なのでクラスの皆で分けて食べる事になった。

 

「(もしかして会長ってこの事を予期してこのサイズにしたのか……?)」

 

「皆おはよう」

『相澤先生復帰早!?』

「大した怪我じゃない、婆さんが大袈裟だから包帯を巻いてるだけだ。気にするな」

 

ケーキを食べ終わった頃、HRの時間となったので箱を片付けて皆が席に着いた時に教室に全身包帯だらけのミイラ男が入ってきた。が、それはなんと相澤先生であった。脳無との戦闘でそれ程までの傷を負ったという事なのだろう……それなのに即座に復帰するのは大丈夫なのだろうかという疑問を振り切るように相澤は矢継ぎ早に本題に入る。

 

「先日の件で色々言いたい事があるとは思うがそんな暇がない。新しい戦いが迫っている、覚悟しておけ」

 

そんな言葉に思わず一同は身体に力を入れてしまう。先日のUSJでのヴィラン襲撃、それがまだ続いているのかと皆に緊張が走っていく。誰もが自分達に危機が及ぶのではと緊張感を持っていた、そして相澤の口から語られる言葉に―――

 

「雄英体育祭が迫っている」

『クソ学校っぽいの来たあああ!!!』

 

大声をあげて歓喜する。どうやら危険ではなかったらしい。この言葉にクラス全員が少なからず興奮していた。雄英の体育祭と言えば学校規模のイベントというわけではない一大イベントなのだから。

 

「開催に否定的な意見もあるが、開催はする。雄英の管理体制や屈しない姿勢を見せつけるいいチャンスでもある。警備やらは例年の数倍、オールマイトが現役ヒーローに声をかけてくれている―――特に獣王一族の方々が警備に率先的に協力して頂ける事になった。生徒諸君は安心して体育祭に挑んでくれ」

 

一斉に翔纏へと向けられる視線、相澤の物言いからして体育祭の開催には獣王一族の力がかなり役に立っているようなだった。実際問題として獣王一族の多くが警備に参加する事で開催に反対派であった人間を捻じ伏せる事が出来たのは事実。と言われても翔纏はこの事を全く知らなかった。

 

「獣王君、君のご家族が体育祭の為に御尽力してくださっているというのは事実なのか!?」

「そうなんじゃないかな、俺知らなかったし」

「知らされていなかったのか!?」

 

飯田に質問をされてもそれ以上の言葉を出す事は出来ない、こんな形で関わって来るなんて知らなかった。というよりも翔纏からすれば体の良い見張りのようにしか思えない。

 

「俺の両親は過保護だから体裁の良い警備を受けつつ見に来るつもりなのかもな……」

「過保護なのか、だがそれだけご両親に大切にされているという事じゃないか!!」

「いやまあそうなんですけど……」

 

体育の開催は喜ばしいがこれは同時に自分にとってチャンスでありピンチでもある。警備をしながら自分の品定めをするつもりだと翔纏は思っている、何処まで出来てそれを維持出来るのか、そして何処まで伸ばす事が出来るのかを体育祭で見られる事になる。そして場合によっては……最悪の事も考えられる、故に手を抜く事は出来ないし自分の強化もしなければならない。

 

「……」

「獣王君、如何かしたか?」

「いや、唯―――ちょっと燃えて来た」

「うむっ矢張り雄英体育祭には滾る物があるものだな!!!」

*1
ハーブの一種。天然の染料として用いられる。お茶やお菓子などに使う事で綺麗な青い色を楽しむ事が出来る。




「警備とは良い考えだったなぁ」
「俺達は一族の規模もデカいしヒーローとしても名が売れすぎてるからな、皆で翔纏を応援するにはこれしかないと思ってね!!」
「流石お父様、翔纏に尊敬されてないから頑張ったんですね」
「グフッ!!」

悲報、翔纏の考え全部ハズレ。


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欲望の憎悪。

「な、何この人の数!?」

「すっごい人だね!」

「何だよ出れねぇじゃねぇか!?」

 

ヴィラン事件の事は広まっており廊下には大勢の生徒が詰めている。野次馬目的なのか、それとも体育祭に向けての敵情視察なのか……それは定かではないがこれでは通れない。これでは約束している相手を待たせてしまう、出来れば直ぐにでも出たいのだが……。

 

「あっ彼じゃないか!?獣王君!!」

「あの子のお陰で体育祭が開催に向けて傾いたってマジなのか?」

 

ああそっちもなのかと翔纏は頬を掻く。確かに獣王一族が今回の開催に当たって協力している、それで反対勢力を捻じ伏せたのは事実らしい。なので間接的に自分が開催に大きく貢献した……と言えるのかもしれない。兎も角自分も早く行きたいので一言……

 

「あのぉ……これから体育祭に向けて色々準備したんで退いて貰ってもいいですかね、それに俺はもう既に体育祭は始まってる(・・・・・・・・・・・)と思ってますから」

 

その一言で何か我に返ったかのようにごった返していた廊下に十二分に人が通れるほどにスペースが出来て行った。まだ残っている生徒こそいるが通る事は出来る。その中で一人、真っ直ぐ此方を見つめてくる一人の生徒がいた、少々目つきが悪いがそれで逆に悪い笑みが似合っている気がする。

 

「―――もう始まってるか……確かにな。勝ちたいなアンタに」

 

そう言い残して去っていく男子生徒、名前ぐらいは聞きたかったなぁと思う翔纏を邪魔だと言わんばかりに肩をぶつけながら先に帰っていく爆豪。一度強く自分を睨みつけながら去っていく、如何にも彼とはうまくやっていけるヴィジョンが浮かばない。兎も角時間は有限、翔纏は自らのやりたい事の為に帰宅の途へと着くする事にした。

 

「なあっ獣王、ちょっといいか」

「んっえっと……轟君、でいいんだよね」

 

ライドベンダーのエンジンを回そうと思った時に呼び止められた、それを行ったのはクラスメイトの轟であった。接点はハッキリ言ってない、筈なのだが……。

 

「俺になんか用?」

「少し話したい、時間良いか」

「まあいいけど……」

「悪い」

 

キーを抜いてからその後に続く事にした。雄英内にある適当なベンチに案内されて腰掛けると轟は口を開いた。

 

「お前、あの獣王一族なんだってな」

「まあそうだけど、それが如何かした?」

「……いや」

 

直ぐに口を閉ざして何も喋らなくなってしまう轟、一体何をしたいのか分からない。口下手なのかそれとも自分に話しにくい内容なのか、それならば自分が歩み寄ってみる事にした。

 

「轟君の氷って凄いよね、あんなに凄いのは俺見た事ないよ」

「そうか、獣王ならあの位出来るんじゃねぇのか」

「いやウチは動物特化個性みたいな一族だからああいうのは出来ないよ」

「そうなのか……お前見てたら皆出来ると思ってた」

「いやそれは俺が可笑しいだけ」

 

冗談っぽく言ってみると首を傾げつつも話に乗ってきた、会話が得意ではないというだけで普通に会話してくれることが分かって翔纏は一安心する。それからも暫くの間は話を続けてしまった。

 

「そんなに過保護ってどんだけ個性の制御が利かなかったんだよ」

「何時暴発するか分かんないから常に安静を保たなきゃいけなかったよ。健診行く時に運悪くマスコミに囲まれた時はその刺激で個性暴発して死に掛けたよ」

「難儀だな、というかそのマスコミも酷いな」

「一族全員で訴えたらしい、んで一応示談にはなったらしい―――まあ最近調べたらそのマスコミの会社潰れてたけど」

「マジか」

「マジだ」

「「フフッ」」

 

思わず顔を見合わせて言葉を呟いてしまった、それがどこかおかしくて笑ってしまった。最初の堅苦しさも大分無くなって随分と気軽に話せるようになっていた、気付けばお互いの事を名前で呼び合うようにもなっていた。

 

「それで焦凍は俺に結局何の用があったんだ?」

「っ……いや、この流れで聞くのは翔纏に悪い」

「気にするなって遠慮なく言ってくれよ」

「……本当に良いのか?」

 

何やら慎重になってしまっている焦凍に翔纏は気にする事はないと胸を叩いた。どんな話が来ようとも受け止めて―――

 

「その……お前の家って個性婚してないよ、な……?」

「ふえっ?」

 

思いがけない内容だったのか翔纏は間抜けな声を上げつつ変な顔になっていた。呆然としてしまっている彼に焦凍は矢張り聞くべきじゃなかった……と後悔しつつも頭を下げて来た、心からの後悔と謝罪のそれを受けるうちに我に返ったのか取り敢えず頭を上げて貰うように懇願する。

 

「え、ええっと何でそんな事を聞いてきたのか分からないけど……俺の両親は恋愛結婚だったらしいよ、雄英のOBでリカバリーガール先生辺りに聞けば分かる。お見合いもあった筈だけど基本恋愛結婚だって聞いたよ」

「そうなのか……いや本当にごめん、翔纏だけじゃなくて一族を傷付けちまった……」

「いや傷ついたというか……何でそんな事聞いたのよ」

 

個性は世代を重ねるごとに強くなる、正確に言えば親となる両者の個性が混ざり合う事で二つが一つになる事がある。強い個性を子供に継がせる、個性と個性を掛け合わせる為の結婚、それが個性婚と呼ばれる物。倫理的な問題もあるそれを今此処で聞くとは思わなかった、何故聞いたのかを尋ねると―――焦凍自身がその個性婚によって生まれたからであった。

 

「あのエンデヴァーが……マジか」

「俺はあいつが望むオールマイトを超える存在、最高傑作として―――!!」

「ああ駄目だって!!そんなに握りしめたら血が出るぞ!?」

「……悪い」

 

焦凍の父親、フレイムヒーロー・エンデヴァー。№2ヒーローとして長年君臨するトップヒーローの最高峰、だがそのエンデヴァーは自らではオールマイトを超えられないと悟りその夢を子供に託そうとした……だがそのやり方は余りにも問題があり過ぎる。個性を使うと身体に熱が籠り身体機能が低下する点を解決するのに都合の良い個性を持っている事だけを理由に今の奥さん、冷さんと結婚した。

 

「それでもしかして俺も……って思ったのか」

「……ああ、だけど俺の勘違いだった」

 

単純な心配だったのだろう、もしかして自分と同じなのかもしれない。それならば同じことを共有する事で助ける事が出来るかもっという親切心だったらしい。獣王一族は完全な偶然の結果でこうなっているので焦凍の心配は外れる事になった。

 

「それで焦凍は如何したんだ、話を聞いててエンデヴァーが大嫌いなのは分かるけど」

「俺は母さんの側だけで天辺を取る、あいつを―――否定する!!」

 

その時の焦凍の顔は酷く歪んでいた、憎悪に狂った復讐者という言葉が似合うそれに翔纏は思わず言葉を失った。焦凍の顔の火傷痕も、エンデヴァーのせいでお母さんが精神的に不安定になったせいだと聞いた。ならば焦凍が持つ憎悪は測りしれないだろう、止めてあげたい―――だがそれは焦凍の問題であった、自分にそれを止める資格はない。それに―――今、その欲望(憎悪)を無くしてしまうのはいけない。

 

「そっか。だったらさ焦凍、俺と特訓しないか」

「特訓?翔纏と?」

「ああ、俺はコンボの負担を軽減したいんだけどその相手をして欲しいんだよ。それにさ―――氷だけで天辺を取るのは今のエンデヴァーと同じでかなり難しいぞ」

「ッ!!」

 

そう言われて気付いた、確かに今自分がやろうとしているはエンデヴァーと全く同じ事だと気づいた。一番憎んでいる男と全く同じ道を歩もうとしているのかと歯が砕けそうな程に力を籠めると肩を叩かれる。

 

「だからさっ色々と試してみれば良いんだよ、氷で何が出来るのかを徹底的に」

「徹底的に試す」

「そう、エンデヴァーは諦めてるんだよ。だったら焦凍は諦めなければいいんだよ、俺も手伝う」

「良いのか」

 

思わず戸惑ったような声で、縋る様に尋ねてしまった。本当に頼って良いのか、手伝って貰ってしまっていいのかと迷いが出てしまう。今まで友達らしい友達も居らず如何したらいいのか分からないと言いたげな焦凍の手を翔纏は握った。

 

「当然、友達のやりたい事を―――欲望を応援しないほど薄情じゃないさ。それに欲望は生きるエネルギー、素晴らしぃ!!って俺が尊敬する人も言ってるし」

「―――それじゃあ、頼む」

「応!!」

 

差し出された手を強く握り返す、焦凍は心から嬉しさが沸き上がってきた気がした。誰かに自分の目標を、欲望を吐露したのは初めてだしそれを認めて手伝ってくれるなんて思いもしなかったからか冷たい身体の奥が熱くなった。たった一人で上を目指すのではなく誰かの力を借りる……それに焦凍はワクワクしていた。

 

「それじゃあ早速明日から特訓開始だな」

「ああ頼む、お前のコンボ……だったか、それについても詳しく教えてくれ」

「勿論」

 

改めてライドベンダーのエンジンを掛けた翔纏はそのまま焦凍を家まで送っていく事にした。そして別れる時

 

「んじゃまた明日な」

「っ……ああ、また明日」

 

不器用だが笑みを見せてくれた焦凍が少し眩しく見えた。

 

「そう、今は駄目。今はその欲望のままでいい、自分でそれをどう変えられるか……その欲望がどんな風に変わるのかが楽しみだな」




「姉さん、俺……友達出来た」
「ほっ本当!?」
「ああっ……今度、連れてきてもいいかな」
「うんうんいいよいいよ、何時でも連れて来てもいいよ!!」
「(来てくれっかな……)」

友達が出来て内心で結構ウキウキな焦凍君であった。


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次なる欲望。

雄英演習場、トレーニングの台所ランド通称TDL。

 

体育祭が迫る中、演習場を生徒が使用して個性強化を図る事は珍しい事ではない。雄英の敷地内ならば大規模な個性使用も認められるし出来ない事も多い。故に此処で特訓をする者は多い―――だが、その中でもTDLでは最も激しい特訓が行われ続けていた。

 

「ッ―――!!」

「ウオオオオオオオオオオッッ!!!」

 

激しい閃光が迫りくる氷河を砕くように融解させるが次々へと新しいものが迫ってくる、その勢いはまるで津波を連想させる程のスピードと規模。そして時間が経つ程に氷の密度と勢いが増していくのに呼応して閃光の強さも増していく。

 

「まだまだ、上げる!!!」

 

更にギアを上げる、アンダースローのような動作と共に地面から飛び出していく氷柱。氷河を掻き分けて飛び出していく氷柱によって流れは複雑化して閃光の効き目が一定ではなくなっていく。

 

「負けるかぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

閃光が一際強くなった、パワーアップしたそれに対抗するような意地の張り合いに近いそれだが増していく光。そして直後に光と氷が限界に達したかのような猛烈な爆風が巻き起こり双方が消し飛んでしまい、それを行っていた両者―――翔纏と焦凍は地面に倒れこんでしまった。

 

「ハァハァハァッ……すげぇな翔纏、そのコンボえっと……ラタトラー……」

「ラトラーター」

「そうっそれだ」

 

思わず称賛の言葉を送らずにいられなかった焦凍は素直な気持ちを向けた、その先では変身を解除して疲労を溜息にして外に吐き出している翔纏がいた。お互いの個性強化訓練、即ち限界突破を目的にした特訓。その激しさは日に日に増していき監督役としてそれを見ている教師のセメントスも驚かずにはいられなかった。

 

「特訓開始三日目……漸くラトラーターの負担にも少し慣れたぞぉ……でもきっちぃ……」

「俺も多少強くなった気はするが……まだ敵わねぇな」

「いやっ轟君も凄くなってるからね……?」

 

思わず口を挟まずにはいられないセメントス。焦凍の個性、半冷半燃。右で凍らせて左で燃やす、だが焦凍は炎を使う気はなく氷だけの個性となっている。しかしその強さは三日前と比べて明確に大きくなっている。それは氷を融かすだけの熱量を持つ光を放射するラトラーターの固有能力、熱線放射(ライオディアス)。それと激突し続ける事で出力を上げて続けている。

 

「にしてもこんままでいいのか、唯氷のパワーを上げるだけで俺はあいつを超えられるのか……?」

「ならっどうするべきだと思う?」

「……今、俺にない物を俺の物にする」

「その欲望、正解」

 

悪い顔をしながらも肯定する、ハッキリ言って焦凍の個性はとんでもない力押しなのである。親の資質を受け継いでいる為か個性の出力が尋常じゃない程に高い。シンプルな力押し。ビル一つを丸ごと凍結させる力、それだけで大抵の相手を倒す事も出来るがヒーローではそれでは不足。ヒーローはヴィランを倒すのではなく確保し人を救う存在。それが力押し一辺倒では不味いので焦凍の選択(欲望)は正しい。

 

「最後にやってた地面からの氷柱、あれを伸ばしてみたらどうかな。不意も突けるからかなり汎用性は高い」

「そうか……良し練習してみる」

 

早速氷柱の練習に入る友達を見つつ少し休息に入る、負担に慣れてきたとはいえそれでも休みは必要になる。そんな自分にセメントスがスポーツドリンクを差し出してくれた。

 

「有難う御座います先生」

「いや俺も見てて結構楽しいよ、しかし焦凍君の成長振りも著しいけど君も凄いね」

「俺は唯コンボに身体を慣らしているだけですよ」

 

過保護な家族がいる家ではコンボの使用は基本的に禁止され続けてきた、そしてたった一人で出来る事は限られるので自分の慣れも焦凍の協力があるからこそ出来る事。その時、天井に何かがぶっ刺さった。無数の大小様々な太さの氷柱が地面から生えており、その前には無表情に見えるがキラついている顔をしている焦凍が自慢気に立っていた。

 

「翔纏如何だろ、氷柱ってこんな感じで良いのか」

「……流石の力というかなんというか……もう氷柱の出し方マスターしてるっぽい」

「修得、早すぎませんかね」

「まだなんだ」

 

何処がだよっと言いたいのをセメントスと共に抑え込みながら課題を見つけたらしいので聞いてみる事にした。

 

「氷柱だけを作ろうとしたけど駄目だった、だから一旦地面を凍らせてからそこから氷柱を生み出す事にしたんだ」

「まだまだ力押しで納得いかないと」

「ああ。セメントス先生、如何思います?」

「そうだね……」

 

プロヒーローとして経験も豊富なセメントスに意見を求める、それに対して真剣な眼差しで氷柱―――ではなく氷柱が生えている氷の大地を見つめた。

 

「氷柱を生やすだけが目的なら氷が厚すぎるね、もっと薄くした方が消耗も少なく済む。多人数を拘束しつつ攻撃するなら今のままでもいいかもしれないけど、目指すのが持っていない精密性ならピンポイントを目指すべきだね」

「薄く、ピンポイント……」

「そうそう、俺がこれから手本を見せてあげよう」

 

そう言いながら地面に手を置いたセメントス。すると床のセメントがまるで生きているかのように脈動して焦凍が行ったように無数の棘が飛び出した。しかもそのどれもが極めて細い、そして最後に壁や天井にもセメントを這わせるとその全ての方向から棘を伸ばしてその切っ先を中央で揃えるという神業を披露した。寸分の違いも無く、中央部で棘が揃う光景に焦凍は喉を鳴らす。

 

「すげぇっ……!!」

「俺の場合は個性の関係でセメントがある場所じゃないと出来ない、だけど轟君は自分で氷を出せるから様々な場所でこれが出来る。練習あるのみ、だよ」

「―――はいっ!!」

 

それでは……とセメントを戻そうとするのをあと少し見せて欲しいと止める焦凍、その光景を必死に目に焼き付けて自分が目指すべき物としてコントロール特訓を頑張る事を決める。

 

「翔纏、どうすればいいと思う」

「え~っと……んじゃまずは覆うじゃなくて氷の道を作ってそこに氷柱を作るのは如何かな。それなら精密性を鍛えられるんじゃないか」

「成程……!!」

 

意見を出し合いながらの検討、その結果を見てからの試行錯誤、失敗の悔しさと成功の嬉しさの一喜一憂。それを身を持って体験している翔纏と焦凍に思わずセメントスは笑みを作ってしまった。なんて素晴らしい関係なんだろうか。

 

「うんうんっこれぞ青春だねぇ……」

「ええっもう……ああいう青臭さ大好物!!」

「ハハハッ確かに好ましく―――ってぇミッドナイト何時の間にぃ!!?」

 

唐突に登場したのは同じく教員のミッドナイト、同僚としてあまり言うべきではないのだろうが……正直、彼女のコスチューム姿は青少年の教育に悪い。18禁ヒーローとも言われる程の姿、ヒーローというか最早SM嬢……これでもコスチュームは変えているのだから困った物である。

 

「それで如何したんですか」

「体育祭の主審として副審に確認したい事があったのよ、そしたらンもう大好物な光景に興奮しちゃって……!!」

「あのミッドナイト、本当に抑えてくださいね……?」

 

「氷の道―――ぐぬぅ……難しいな」

「まあ今までが面での発動だったからな、それをいきなり線にしたら難しいさ」

「もっもう一回だ、次こそ成功させるから見ててくれっ……!!」

「分かってる」

 

「セメントス、これからの監督役私に変わってくれないかしら。多分これからもあの青春続くわよね、もっと見ていたいわ」

「自重してください。後俺でないと轟くんの手本出来ませんから無理です」




熱線放射:ラトラーターコンボの固有能力。全身から放つ熱線、ライオディアスを放つ事が出来る。その威力は焦凍の全力の氷を融かす程の熱量を持つ。



仮面ライダーオーズでは初登場時、川の水を瞬時に蒸発させるというMAP兵器めいた威力を見せ付けながら水棲系グリードのメズールに大ダメージを与えた。

過去のオーズ、800年前のオーズはこの能力で進軍の障害となる湖を蒸発させて進軍スピードを上げるという荒業を行った事らしい。


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欲望の熱狂。

遂に訪れた体育祭当日。開催までの時間を各自が使って今日まで備えてきた。その結果が今日明らかにされようとしている。

 

雄英の体育祭には通常の体育祭とは比べ物にならない規模の人間が集ってくる、正しくオリンピックに代わるイベントとして純粋に楽しむ為に、それを成立させる為の警備に、未来のヒーローへのスカウトと全てがバラバラ。全てを含めたならば数千では効かなくなるような人数だ。事件を受けてヴィランへの警戒を強める為に、雄英が様々なヒーローに呼びかけを行った結果として多くのヒーローが警備として参加してくれている。当然獣王一族もその中に含まれている。正しく過去最大の大規模、その中で行われるのだから生徒たちの緊張も一入だろう。

 

「その時は此処をこうして回り込んで、ザクっと」

「ザクっと。ここで放射しつつ距離を詰めると見せかけしてドンは駄目なのか?」

「いやいやいやそれだと無駄に相手に警戒させるだけで逆に長引くだけ」

「そっか」

 

控室、本来は間もなく迫る体育祭に緊張し呼吸を乱して震える者と武者震いを起こし戦意を高める者と別れるのだが……A組の翔纏と焦凍はノートを広げながら何やら話し込み続けていた。

 

「獣王ちゃんと轟ちゃん、何をお話しているの?」

「大した事じゃないよ、今日まで一緒に特訓してたからその延長線で戦術研究」

「お前ら最近ずっと一緒だと思ったら一緒にやってたのかよ特訓!?」

「ああ」

「切磋琢磨していたのだな、獣王君と轟君は!!」

 

非常に健全で正しい時間を過ごしていたと感心する飯田だが、それ以外ではあの二人が特訓していたとすればどれだけ強くなっているのだろうか……と戦々恐々としているものが大多数だった。

 

「体育祭に向けてそんなに特訓していたのね」

「俺はそうだけど、焦凍は体育祭に向けてというか……なあ」

「ああ、俺は俺の欲望の為だ」

「よっ欲望って轟、アンタ獣王の口癖移ってない?」

 

言われて気付いたらしい焦凍だが余り気にしていないらしい、今日まで共に訓練をしたからというだけではなく友人となったからだろうか。それとも欲望が力になるという事に実感を得ているからだろうか。

 

「轟君の欲望って……一体何なの?」

「大した事じゃねぇ」

 

翔纏からあまり話さない方が良いと言われたからか、適当に濁しを入れておく。実際問題堂々と話すような物でもない、下手にマスコミに聞かれてしまうととんでもない事になりかねない。焦凍も認めたくはないがエンデヴァーがヒーロー界を支えている存在なのは認めている、その力が今無くなるとヴィランが大活性化する恐れがある。その一助はしたくない。

 

『全開にして刮目しろオーディエンス!群がれマスメディア!今年もおまえらが大好きな高校生たちの青春暴れ馬…雄英体育祭が始まディエビバディアァユウレディ!!?』

 

解説席から聞こえてくるプレゼント・マイクの声、それが知らしめるのは開始の合図。起爆剤となり観客たちの熱狂を増していく。同時に出場生徒の間に一気に緊張が走って行く。マイクの言葉と共に入場が行われるが矢張りと言わんばかりに視線と歓声が集中しているのはA組だ。まだ未熟な身でありながらヴィランに襲撃されながらも生き延びたクラスに注目が集まるのは必然。大観衆が声援を上げて出迎えてくる。それをプレゼント・マイクの気合の篭った実況が更に加速させていく。それらの勢いに飲まれそうになる生徒、物ともしない生徒に分かれる中で全1年が集結した時、一人の教師が鞭の音と共に声を張り上げた。

 

「選手宣誓!!」

 

1年の部の主審を務めるミッドナイトが選手宣誓の開始を宣言する、18禁ヒーローの登場に会場の男衆が沸き立つ。何時の時代もエロは強いという奴だろうか、そもそも18禁が高校の教師でいいのだろうかという疑問もわく。因みに担当科目は近代ヒーロー美術史、コスチュームの歴史などを身を持って教えている。

 

「選手代表、獣王 翔纏!!」

「はいっ」

 

今年の入試首席だった翔纏に宣誓の役目が回ってきた、一応事前に話はあった。相澤曰く無難で良い、ミッドナイト曰く熱い物が良い、曰く曰く……教員室で聞いた時様々な意見を貰ったが取り敢えず確りその務めを果たす事だけを考える事にする。壇上に上がると生徒だけではない、観客に警備の視線までもが突き刺さってくる。しかし―――気を落ち着けてマイクに向けて言葉を放つ。

 

「宣誓―――ッ!!我ら此処に集うのは誇りある雄英の生徒。この場に立つ以上、我らは等しく同じ土俵、同じスタート、そして等しくライバルである。身体一つの我を張って、己以外の全てを相手をする覚悟を持って此処に立つ!!それが挑戦するという行いの全て。そして我らが目指すが常に高み、それが我らの夢、即ち欲望!!!我らが欲望の全てを、今此処で見せつけるものこそが我々雄英生の夢―――欲望!!それこそが今を生きるエネルギー、その素晴らしさをご照覧あれ!!!」

 

何処までも我を通し、何処まで高みへと走り切り、何処までも胸を張る。己の心情、欲望こそが全てという事を隠さずに言い切った翔纏、宣誓としては型破りで聞いた事も無い言い方だが―――密度が高く、純度の高いエネルギーに満ち溢れているそれに誰もが聞きほれ、それは拍手へと変わり、次第に熱狂へと変貌する。

 

『カァァァァァァッ!!!欲望かぁっ!!そうだ、確かにそうだ!!!そうだ、欲望は生きる源だぁ!!!雄英生一同、欲望全開で行けぇやぁぁ!!!』

「ンもう最っっっ高よ獣王君!!そう言うの超好みっ!!!さあこの熱さを残したまま第一競技行くわよぉ!!!」

 

熱を逃がさぬように即座に開始される体育祭、そして行われる第一種目の説明。最初は―――障害物競走。

 

「第一種目はいわゆる予選、毎年ここで多くの者がティアドリンク!!さて運命の第一種目は一学年の全クラスによる総当たりレース、コースはこのスタジアムの外周で距離は約4㎞よ!!コースを守れば何でもあり!!個性を全開にしちゃってOKよ!!!」

 

障害物競走。会場の周りをぐるりと一周すると言えば聞こえはいいがどんな障害物が待っているかは分からない。そしてスタートのゲート前には凄まじい人数がすし詰めのようになっておりスタートしたとしても本当に走れるのかと思うほどである。誰もが自分に有利な場所へと陣取ろうと動き出していく。矢張り皆スタート地点ギリギリの場所へと進んでいくので満員電車状態と化していく。その中で、鳴り響く開始のゴング。

 

「スタァァアアアトォォオオッッッ!!!!」

 

遂一気に全員がゲートから走りだそうと前へと進む、誰よりも先にこのスタジアムから出る為に。スタートは宛ら満員電車状態―――と言いたい所なのだが、誰もスタジアムの出口であるゲートに辿り着けていないのである。

 

『おいおいもうスタートは鳴ってるって……うおおおおおおっっっ!!!?』

「何だこれ動けねぇ!?」

「こ、氷!?足が氷に覆われてる!?」

 

思わず煽りをしようと思ったマイクだがそれに気づいた。なんと前へと進もうとしていた生徒ほぼ全ての足が氷に覆われ動きが取れなくなっている、それだけではなくゲートには無数に伸びた氷柱がスタートを邪魔するかのように生えていた。それを一足先に突破するように駆けるのは―――焦凍だった。

 

「悪い。先行くぞ」

『先頭で飛び出したのはA組の轟だぁぁぁぁぁ!!!早速独走状態かぁ!!?』

『よく見ろ、後ろから来てる』

 

ほぼ強制的に解説席に座らされている相澤、それが指摘したようにゲートを突破して焦凍の隣に立った者がいた。それは包まれていた光から飛び出しながらアイススケートのように地面を部分的に凍らせながら滑っていく彼と並走していた翔纏。

 

タ・ト・バ!バ!タ・ト・バ!!!

 

「特訓、生きたな!!」

「感謝してる―――だから翔纏」

「ああ焦凍」

「「勝負だ!!!」」



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入り乱れる欲望。

スタジアムの大型モニターに映り込む先頭を走る焦凍と翔纏。それを見つめる一つの炎、身体に炎を纏いながら文字通りの熱い視線を送り続ける男……焦凍の父親にして№2ヒーロー フレイムヒーロー・エンデヴァー。焦凍がこの世で最も憎悪し嫌う男。

 

彼が焦凍に望む事は唯一つだけ、オールマイトを超える事。その為に下らない拘りを捨てて現実を見るべきだと思い続けている。だが……

 

「焦凍、なんだその顔は」

 

『おっとっ来たかっ!!んじゃ焦凍お先に失礼!!』

『逃がすと思ってるのか、翔纏!!』

 

背後から迫ってくる他の生徒達、矢張りヴィランの襲撃を潜り抜けた同じクラスメイト達は氷の障害を即座に突破してくる。対応の早さが数段速い、それは経験から来るものだと分かるがそれよりも気になるのは翔纏の存在だった。

 

獣王 翔纏。獣王一族の出にして一族でも随一の個性だと以前チームアップをした時にキング・ビーストから聞かされた。酷い親馬鹿だと思いながらもある事を考えていた、それだけの強い個性ならば取り入れたいという欲望が渦巻き始めていた……だがそれよりも先に気になっていた事があった。焦凍と翔纏は競い合っているのに心から楽しそうに見える。

 

―――見た事も無い楽しそうな笑み、自分には向ける事はないであろう顔。

 

「(何故、イラつく……!!)」

 

 

『さあ障害物競走第一関門のロボインフェルノ!!!を既に半分越えてるぞ獣王と轟の奴ぅ!!』

 

第一関門、それは入試でも出された仮想ヴィランとなるロボットによる障害。人間より一回り大きいのが主だが……中には十数メートルの巨大ロボヴィランまで準備されている。そんな関門を先頭の二人は―――

 

「セイヤアアアアアァァァァァァッ!!!」

「喰らえっ!!!」

 

真正面から装甲をぶち抜いて蹴り破って突破する、装甲の隙間を狙って細い氷柱を伸ばして内部を凍結させるなどの手段を用いて突破している。先頭を走り続けている二人、正しく無双をしつつ激進しているがそれも長く続く訳ではない。

 

「このままいかせる訳がねぇだろうがぁぁぁっクソがぁぁぁぁぁ!!!」

「遂に来たか!!」

「なら上げるだけ……!!」

 

爆豪を始めとする後続が上がってきている、何時までも自分達で独走という訳には行かない。だがそれはそれで面白い、競い合って来る相手がいる、その相手に勝ちたいという欲望が力となる。それを焦凍は知ったのか笑みを零しながら更に速度を上げて行く。

 

「翔纏っ!!」

「何っセイヤァッ!!」

「先失礼」

「あっちょ俺今意趣返しされた!?って言うか意味あってる意趣返し!?」

 

迫って来ていたロボヴィランを回し蹴りで仕留めている内に先に行かれてしまった、それを追いかけるようにバッタの跳躍力を利用して追いかける。そしてこの瞬間に翔纏はある事を感じ続けている、今この時瞬間が本当に楽しいと。特訓とはまた違う高揚感と楽しさが身を包んでいる。

 

「俺だって負けないぜっ―――焦凍ぉ!!」

 

『さあぁ先頭がいよいよ第二の関門へと差し掛かったぞぉ!!!落ちれば即アウト、それが嫌なら這いずりなっ!!!ザ・フォォォオオオオオル!!!!』

 

 

第二の関門として姿を現したのは巨大な峡谷のように大口を開けている、地の底へと向かっているような真っ暗闇。切り立った崖のような足場とそれらへと架けられているロープの橋だった。綱渡りの要領で渡っていく事で奥へと進んで行けという事になる。焦凍はロープの上を凍らせる事で滑るように迅速に移動していく、それに対する翔纏は―――

 

「セイヤアアアアアアアァァァァァッッ!!!」

『獣王此処でとんでもねぇ大ジャンプぅぅぅぅ!!すげぇあいつの個性どうなってんだぁ!?』

 

限界までパワーをチャージする事で大ジャンプ、足場足場をロープで渡らずに直接跳んでいく。そして到着した時に焦凍に追いつく事が出来た、互いが再び拮抗した姿を見て思わず、口角を持ち上げながら一気に加速していく。お前には負けないぞっという意地のぶつかり合い、二人としてはもう体育祭という意識は薄くなっていた。純粋に競う事を楽しんでいる。そして遂に最後の関門へと辿り着く。

 

『さぁあラストの障害だぁああ!!そこらは一面地雷原!!名付けて怒りのアフガン!!!もし踏んでも安心しな、競技用だから威力は控えめ、だが音と爆発は派手だから失禁しねぇように気を付けな!!!』

 

「地雷ってやり過ぎでしょうがぁ!!高校で使っていい道具じゃないでしょう!!?っつうか武器ぃ!!」

 

思わず声を張り上げてしまった。そんなツッコミに多くの生徒や観客も同意した、目の前には明らかに地面の色が異なっている部分が大量にある。そこに地雷が埋まっていますという事なのだろうが……だが此処も跳び越えてしまえば―――と思った直後に周辺の茂みからガトリング砲のような物が一斉に出て来て此方を向いたので焦凍と共に硬直。

 

『いい忘れてたけど跳び越えてなんて思うなよぉ!!!空を行こうとするなら覚悟しな、そこには殺傷力皆無の競技用ミニガンによる鉄壁の対空網が敷かれてるぜぇぇえ!!』

「やり過ぎでしょうがぁ!!?態々ミニガン用意するか普通、完全に武器というか兵装じゃねぇか!?アヴェンジャー*1よりマシだから勘弁しろってかぁ!!?」

「ドウドウ、落ち着け翔纏」

「俺はウマじゃねぇ!!」

 

そんな叫びを放つ翔纏は正しい、というか正しく皆が思う総意。だからこそ殺傷力などについては徹底的に排除されているので問題はないとされている……らしい。だからと言って地雷やミニガンを用意するだろうか普通……校風が自由だから許されるのだろうか。兎も角行くしかないと覚悟を決めて前へと進む。

 

「うぉっ……とととっ!?くっそぉ!!」

「結構、きつい……!!」

 

今まで独走し続けていたツートップ、地雷を避ける為に慎重に成らざるを得ずゆっくりとしてしか進めない。焦凍は地面を凍らせるという選択肢もあるが、それは翔纏と後続にも足場を作る事になるので避けている。故に慎重に進み続ける―――のだが

 

「追い付いたぞクソ共がぁぁぁぁぁ!!!」

「ボンバーヴィランが来たぁぁぁ!!?」

「誰がヴィランがこの動物野郎あぁぁぁ!!!」

 

此処で遂に爆豪が二人を完全に射程に捉えた、此処まで距離を詰められたらもう抜かれるしかないかもしれないと翔纏は思う。何故ならば爆豪は爆破を推進力にして宙を飛ぶ、それもミニガンの対空網に掛からないように地面スレスレを飛んでいる。これではもう抜かれるしかない……と思った時である。

 

「させるかよっ爆豪……!!」

「なっ!!?ちぃっ!!」

 

爆豪の顔目掛けて地面から氷柱が伸びた、それを咄嗟に回避するが次々と伸びてくるそれに邪魔されて上手く前に進む事が出来ない。それを行っている焦凍は細い細い氷の道を爆豪のルート上に伸ばしてそこから氷柱を作り出している。

 

「翔纏との特訓で得た技だ、味わってみろよ……!!」

「ッソがぁぁぁっ!!!」

 

歯軋りをしながらも前に進めぬ事へと苛立ちを露わにしながらも何とか氷柱を回避して前へと進む事を諦めない爆豪、前に進み続けて行く焦凍と翔纏。そして漸く前へと出る事が出来た―――と思ったその時だった。背後から凄まじい爆発と共に何かが眼前へと吹き飛んできた。

 

「「っ緑谷ぁ!?」」

 

ロボヴィランの装甲を上手く使用して身体を保護しつつ、爆風は凄い地雷を使って自らを遠くへと飛ばして一気に前へと躍り出られてしまった。転がりながらも何とか走り出す彼を見ながらも焦凍と翔纏は更に笑みを強めながら―――全力で駆けだした。

 

「良いじゃん今の、良いじゃんか今のすげぇじゃん緑谷!!」

「っ―――負けるかよぉ!!!」

「もう絶対に取り返せない、だから死守するんだぁぁぁぁぁ!!!」

 

更に加速し猛追する二人、必死に走る緑谷。この三人にトップが絞られる、誰もが熱狂し誰が一位になるのか見届けようと必死になった。そして一番最初にゴールを踏んだのはっ……!!!

 

『この結果を誰が予想できたぁぁぁ!!!??第一種目を1位で通過したのは、なんと大方の予想である獣王&轟を裏切ったスーパーダークホース!!!緑谷 出久だぁぁぁあああああ!!!!2位は獣王、3位が轟だぁぁぁぁ!!!!』

 

「逃げ、切られたかぁ……!!」

「くそっ……!!」

 

爆風で距離を稼いだ彼、そしてスピードに乗り切れずにいた自分達。それが大きな差を生んだ、そして焦凍はこれまで氷をかなり使っていた。特に氷の道はまだ未熟であるためかなり身体を冷やしてしまい、それが影響して僅かに速度が落ちてしまって3位という結果になってしまった。握り込んだ拳と強く噛み締める歯、悔しい、本当に悔しい……!!

 

「いやぁ……凄いな緑谷!!まさかあそこから逆転なんて思いもしなかったよ、正しくお前の勝利を望む欲望の勝利だ。君の欲望のエネルギーは素晴らしぃ!!!」

「あっ有難う獣王君、僕っ……頑張るから。獣王君にも轟君にも負けない!!」

「俺だって負けないぜ」

「―――っ……俺だって負けるつもりはない」

 

僅かに痛むそれを抑えながら、焦凍はリベンジを誓う―――だがそれは何故か緑谷へと向いており、それに彼は気付いていなかった。

*1
30mmの弾丸を使用するガトリング砲。ドイツが誇る撃墜王、ルーデル閣下が設計に携わった機体、A-10に搭載されている事で有名。




さあっ盛り上がってまいりました。

色んな意味で。


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騎馬戦で望む欲。

『さあ此処でトップ3を改めてご紹介だぁ!!第一位はまさかのダークホースの緑谷 出久ぅぅぅっ!!!大本命、先頭を走り続けていた二人をまさかの奇策!!雄英が準備していた地雷を自分の加速に使いやがったぁ!!超パワー個性だが、結構なクレバーボーイ!!』

『緑谷は運もあった。元々ミニガンは飛行可能個性への牽制用。飛行を牽制し地上を行く奴が妨害させる為の物だからな、そしてそれはミニガンの威力を知っていれば必然的に避ける。獣王が避けたからこその順位だな』

 

まさかまさかの大勝利、翔纏と焦凍を追い抜いての大健闘を見せ付けた緑谷。そして意外と解説役をやる相澤に司会のマイクはご満悦。

 

『第二位は大本命の片割れ、獣王 翔纏ぁ!!あの獣王一族からの刺客ぅ!!その一族に相応しい数多の動物がその身体に宿っている個性持ちぃ!!だが結構苦労しているらしいぜっその辺りは解説如何ぞぉ!!』

『個性によっては制御の為にアイテムの使用が許可、義務付けられている者もいる、青山もそうだが獣王はそれが顕著。制御しなければ個性は暴走する、故に獣王もアイテムの使用は許可されている』

『っという訳だぜっご理解したか疑問に思ったそこのリスナー!!』

 

第二位は翔纏。この後の種目の事も考えて姿はタトバコンボ、この後の状況によっては変更するかもしれないが基本的にはこれで通すつもりでいる。

 

『そしてそして第三位!!轟 焦凍ぉ!!氷による妨害、移動、攻撃何でもござれだなこいつぅ!!終盤までの獣王とのデッドヒートは燃えたぜぇ!!こっからも期待させて貰うからなぁぁクールボーイ!!』

『力押しな部分が目立つ奴だったが、随分と繊細さと精密性を身に着けてる。今の轟は強いぞ』

 

三位の焦凍。翔纏との特訓が相当に生きているのか、精密性を身に着け始めている。氷の道はまだ練習が必要だが十分に脅威。それは爆豪相手に証明している。それらが君臨するトップ3、それを睨む他の者達。それが如何影響するのか、それがもろに来るのが第二種目―――騎馬戦。

 

障害物競走の順位ごとにポイントが振り分けられる、そしてそのポイントを合計した数字を表示した鉢巻を騎手が装着しそのポイントを奪い合い、制限時間終了時に上位4チームが通過するというシステム。組む人数、相手によって合計もポイントも変わってくる。そしてその肝心のポイントは42位に5ポイント、上位に行く毎に5ポイントずつポイントが与えられていく。

 

「つまり俺は205で焦凍は200か」

「だな」

「そして一位のポイントは―――1000万!!!」

 

ミッドナイトが高らかに宣言したそれにほぼ全ての視線が釘付けになる。誰もが狙う鉢巻という事になり、それを確保し守り抜けば勝ち抜けは確実になる。思わず硬直し圧倒的なアウェーとなった緑谷は一位というプレッシャーを体験していた。そして始まるチームの編成タイム―――

 

「翔纏」

「ああいいよ」

『早っ!?』

 

あっという間に決定した二位と三位の同盟に周囲は戦々恐々とする。蹴落とすのではなく結託し上を目指す事を選択したという事なのかと周囲が思うのだが……二人はそんな事は考えてない。

 

「ちなみになんで俺選んだ?」

「友達だから、迷惑だったか」

「ハハッそりゃ最高の理由だな、ありがと」

 

焦凍としては雄英で最も付き合いがあって個性も把握して息も合わせられるのが翔纏、だからこそ選択した。それだけでしかない。

 

「いっその事俺と焦凍だけって言うのもありだと思うけど、如何する?」

「俺も考えてた、俺だけなら足をチーターにして加速できるよな」

「まあ他の人がいても出来るけど、一人の方が速度は上がる……けどそれだと別の問題が出てくる」

 

速度で言えば二人だけで良い、速度を加減すれば十分にトラクロー無しでブレーキも可能。だがそれでいいのだろうか、人数を増やせばその分使える個性が増えて選択肢も増える。翔纏はそれをメダルでカバー出来るが人数的な不利はカバーしきれない。

 

「流石にガタキリバを切る訳には行かないし……」

「あれは負担デカすぎるだろ、やめとけ。途中で倒れたらまずい」

「だな」

 

一応手段はあるが勝ち進む前提ならば遠慮しておきたい、最強のコンボであるが故にあれは使う場面を厳選したいというのが翔纏の本音。

 

「だから切れる最強は切るつもりで行く、焦凍お前は如何する」

「決まってる―――氷だけで攻める、取れる最善を掴み続けながらな」

「じゃあっ―――そうしますか」

 

チーム、ではなくコンビ結成。二人だけ、小回りは利くがその分ポイントは少ないし出来る事も限られるがそれでもそれを選択する。この二人にとってはそれが最良であり最善であり最強。チームが決まった事を翔纏はミッドナイトへと報告しに行くのだがその時に焦凍は思わず自分の手を見た。無意識に握りしめたその手を。

 

「消えてる……さっきの、なんだったんだ……?」

 

首を傾げ疑問に思う。自分は強い物を抱いていた、緑谷へのリベンジというそれを激しく思っていた。だがそれは何でだろう、もうどうでも良い事なのだろうか。自分で自分が分からないが、兎も角鉢巻きを貰ってきた翔纏からそれを受け取って首にかけておく。

 

「さてと……やったりますか焦凍」

「ああっ……下は任せるぞ翔纏」

「「見せ付ける……俺達の力を!!」」

 

焦凍と翔纏のタッグ、いざっ騎馬戦へっ!!




敢えての二人で行きます。


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欲望の騎馬戦。

『さあもう直ぐチーム組みの15分が経過するんぞぉ!!』

 

キンッ!

キンッ!

キンッ!

 

クワガタ!

クジャク!

チーター!

 

『おっおおおおっ!?獣王此処で姿を変えたぞっ!?って言うかお前虫まで行けんのかよ!?』

『もうバッタの跳躍見せてたろ』

 

半分呆れている相澤、その視線の先ではタトバコンボから別の亜種形態へとチェンジした翔纏がいる。クワガタの頭部にクジャクの腕とチーターの脚。その名もガタジャーター。

 

「にしても良いのか」

「ああ、寧ろ世話を掛けねぇように俺が気を付ける」

「分かった。寒くなったら言えよ」

 

電撃と広域知覚のクワガタ、高速移動のチーター、そして円盤状の手甲武器・タジャスピナーを備えているクジャク。索敵に移動、そして防御と隙が無いようにメダルを選択した翔纏と氷による攻撃と妨害を行う焦凍のコンビ。二人と酷く身軽だが強力な個性を持つ二人が組む事で手数などをカバーしあう、がそれ以上に二人だけなので息を合わせる事が容易なのも一番のメリットと言えるだろう。

 

「やっぱり他は基本的に4人での騎馬か」

「スタンダードな形に落ち着いてるって感じだな」

 

騎馬戦という形式を活かす為と個性の組み合わせによる戦略を考慮して基本的に他のチームは4人ベース型。人数も多く同時に出来る事も多い、2人や3人の騎馬もいるが矢張り気になるのは自分達の持ち点数。自分達は405点、上回る点数持ちはかなり多い―――だが

 

「「負ける気がしねぇ」」

 

『さあいよいよ始まっぞぉ!!血で血を洗う仁義も情けもねぇ雄英大合戦、大戦国時代!!残虐ファイトの幕が今上がるぜぇ!!さあ狼煙が今―――上がったぁぁぁぁ!!!』

 

第二種目、騎馬戦の開始のゴングが鳴った。そしてそれと同時に―――

 

「さあっスタートダッシュを決めるぞ、確り掴まっとけよ焦凍。じゃないと―――全てっ振り切るぞ!!」

 

開始と同時に駆け出した翔纏、その凄まじい加速に身体を持って行かれそうになるのを抑えながらも前を見る。他を寄せ付けない超スピード、そして目の前にいたB

組の鱗チームへと飛び掛かった。

 

「焦凍ぉ!!」

「応っ!!」

 

加速してからの跳躍、それにこちらにはまだ気づいていない。チーターレッグの面目躍如と言った所だろう、超スピードと隠密性の同居。そのまま背後から通り過ぎる時に焦凍はその頭に掛かっていた鉢巻きへと確りと指を掛けて解きながらもしっかりと握り込んだ。

 

「うおっ凄い風!?鱗氏、大丈夫でありますか!?」

「だ、大丈夫―――ッてぇ宍田大変だ鉢巻きがないぃ!!?」

「何ですとぉ!?」

 

「よしっ取れた!!」

「上々っ!!」

 

『A組の大本命コンビの獣王と轟ぃなんととんでもねぇ超スピードで一気に鉢巻一個ゲットぉ!!?っつうか獣王お前のその個性どうなってんだぁ!!?』

『少しは資料確認しろ』

 

というツッコミが聞こえてくる中で二人はガッツポーズ。チーターレッグでの高速移動は優れている、がそれは騎手である焦凍にも襲いかかってくる。なので如何に自分達がポイントを稼げるのかは焦凍頼みになる、今の速度で良いのかそれとも調整するべきなのかを試すつもりだったが―――その辺りは№2に鍛えられた焦凍、何の問題も無かった。

 

「確り巻いたな、さあ次行くぜ!!」

「ああっ―――翔纏右だ!!」

「ッ!!」

 

その言葉で右を見た、正確には右後方。其方から長い舌が迫ってきた、そんな事が出来るのは一人しかいない。咄嗟に地面を蹴って回避する。

 

「悪いっちょっと油断してた!!」

「気にするな」

 

クワガタへッドの視覚は背後にまで及ぶのに気付けなかった、作戦が成功した事で心が緩んでしまっていた。もうこんな事はないようにしなければならない、自分が緩んだ時―――焦凍は欲望を遂げられなくなる、そう思うのだと心に刻む。

 

「流石ね、今のタイミングで避けるなんて」

「やっぱり梅雨ちゃんか!!っというか障子君の背中に乗ってんのあれ!?」

「障子の対策と個性を上手く使ってやがるな……翔纏、引けっ!」

「ああっそれじゃあお互い頑張ろう!!」

 

そう言いながら加速して去っていく、去る姿を見せたが梅雨ちゃんは深追いしてこない。矢張り冷静だと感心しつつも獲物を探す。時に突然鳴り響いた第六感の警報アラート、咄嗟に跳び上がると直後に地面の様子が変化していく。着地した時にそれは一気に露わになった、地面が異常な程に柔らかくなっている。

 

「うおおっくそっ!!」

「B組の奴か!!」

 

焦凍が見る先にはB組の鉄哲チームが見える、その前騎馬の骨抜が自らの個性で地面を柔らかくしてしまった。幾ら健脚のチーターでも走る地面がこの様子では力を発揮出来ない―――と高を括っている、だがそれを此方を甘く見過ぎている。

 

「やって来る!!」

「わりぃっちょっといてぇぞ!!」

「なっ!?」

 

その時、思わず鉄哲は驚愕した。焦凍は翔纏の肩に手を当てるとそのまま一気に凍らせていく、その氷は地面へと到達し柔らかくなっていた地面を硬い物へと変貌させていくと同時に周囲のチームへの牽制となっていく。

 

「正気かあいつ!!騎馬まで凍らせやがった!!」

「俺をっ舐めるなぁぁぁ!!」

 

腕のタジャスピナーが唸りを上げて熱を発し始めて行く、凍て付いていた氷は溶け始めて十二分に動けるようになった。そして氷を踏みしめながらも焦凍と共に―――眼前の鉄哲チームを睨みつけた。

 

「随分と舐めたことしてくれるじゃねぇかっ……!!」

「お代は鉢巻って事で勘弁してやる!!」

「簡単に取れると――――って如何した!?」

「あ、足が氷に取られて動けねぇ……!!」

「い、何時の間に!!?」

 

相手の動きを封じながら確実に鉢巻を確保、仕返し成功とそれを巻きなおした時―――上から何かが爆音と共に迫ってきた。

 

「半分野郎ォォォォッッ!!」

「爆豪っ……やっぱり来やがったか!!」

「任せろっハッ!!」

 

爆破を推進力にして空を駆ける爆豪、ありなのかとも思うが主審ミッドナイトの判定はアリ。個性によるものだし問題はない、但しそのまま地面に降りてからの行動は出来ず、一旦騎馬を組みなおすという条件付き。そんな爆豪へとタジャスピナーから火炎弾を発射する。

 

「当たるかぁ!!」

「くっそ速いなあいつ!!」

「任せろ、警戒を頼む!!」

 

牽制を続ける翔纏に警戒を頼みつつ焦凍は手を開いて其処に冷気を集中させる、手の中にある空気が凝結し氷へと変貌しそれを握り込みながらも更に凍結。そしてあっという間に氷の刃を生み出してしまって爆破の盾にしながら爆豪を迎え撃つ。

 

「させるかよっ爆豪!!」

「半分野郎ぉ!!」

「焦凍っちょっと身体反らせ!!」

 

咄嗟に翔纏の身体を足で挟むようにしながらも肩を掴んだまま身体を後ろへと反らせる、その直後―――クワガタヘッドから電撃を溢れ出させて爆豪を攻撃する。

 

「クソがぁっ!!訓練の時の奴か!!」

 

放電範囲が徐々に広がっていく事を悟ると即座に自分の騎馬へと撤退する爆豪、引き際を見る目もあって本当に油断が出来ない相手だと思いながら焦凍が体勢を直す。

 

「悪いっいきなりすぎた」

「いやいい、さあどんどん行こうぜ翔纏」

「フッああ行こうぜ焦凍」

 

『轟&獣王!!抜群のコンビネーションで快進撃ぃ!!突然の行動にも対応、なんだお前ら親友同士かこの野郎!!』

『あそこまで相手の言葉に疑いも持たずに即座に行動に移せる、騎馬戦において一番やばいのは間違いなくあのチームだな』

 

その言葉通り、翔纏と焦凍の快進撃は止まらない。大本命コンビの名前の通り―――彼らは余裕の勝利で騎馬戦で上位4位に入った。そしてそれにより―――最終種目 ガチバトルトーナメントへの切符を手にするのであった。

 

「やったな翔纏」

「ああ、俺達の勝利だ」

 

笑みを零しながら腕をぶつけ合って互いの健闘を称える二人、晴れやかな笑みを浮かべる焦凍と満面の笑みの翔纏。だが次のトーナメントでは―――この二人が激突するかもしれないのである。



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轟の欲望。

正しく圧倒的な勝利、圧勝。結果からすれば順位は3位、圧勝ではないと言われればそうだろうがこの二人に限ってはそうとは言えないのである。

 

 

 

轟 焦凍。獣王 翔纏。

 

 

 

騎馬戦においてタッグチームを組んだ二人、本来は複数人(3~4人)の騎馬にて望むはずのそれに二人で参戦。それ自体は他にもいたが、攻撃、防御、移動、妨害をこの二人だけで完璧にこなし切った。終盤は警戒されていた為かほぼ常にマークされていたので鉢巻を積極的に取りには行かずカウンターメインに変更したが逆にそれは近づかなければ攻撃されない証明にもなった。その結果、この二人は鉢巻を取られる事はなかった。故の圧勝。

 

「翔ちゃぁぁぁぁあああんっっっ!!」

「翔纏ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」

「ゲボバァァッ!!」

 

焦凍と翔纏は始まったレクレーションの時間を利用して休憩と食事にしようと思っていた、がそこへ何やら走り込んでくるような音が聞こえてきたのでそちらを見てみると……猛と幻が全速力で駆け抜けながら飛び掛かるが如くに抱き着いてきた。鍛え抜かれたトップヒーロー二人が全速力で跳び付きながら抱き着いてくる、それを当然受け止めきれる訳も無く翔纏は押し倒されてしまった。それを隣で見てしまった焦凍は言葉を失った。

 

「ンもう翔ちゃんってば大活躍でお母さんってば鼻が高いわ!!近くのプロヒーローから是非スカウトさせてくれって声が続出しちゃってもう嬉しくなっちゃって!!ってあらっ翔ちゃん?翔ちゃん如何したの?」

「―――(良い感じに両親のタックルが入った上に、乗られていて呼吸できない)」

「まっまずい障害物競走と騎馬戦での疲れか!?」

「いや二人が上に乗ってるからだと思いますけど……」

「「ハッそれか!?」」

 

焦凍の指摘を受けて漸く気付いたのか二人は翔纏の上から退いた、それで漸く翔纏もまともな呼吸が出来るようになり酷く咽せながらも平静を取り戻す事が出来た。

 

「USJ後の一件からまだそんなに経ってないのに親に殺されかけるとか如何言う事なんだってばよ……」

「翔纏お前、俺以上にっ……!?」

「違う違う……俺の場合は両親が過保護で親馬鹿なだけ。それが暴走しただけ」

 

焦凍も焦凍で中々に天然なのか、翔纏の殺されかけたという言葉に過剰に反応しそうになった誤解を解きつつも何やら目を輝かせている両親へと紹介する事にした。

 

「あ~……親父、母さん紹介するよ。最近家で話してた友達の轟 焦凍君です、俺がコンボに慣れる為の訓練の協力もしてくれてました」

「あらっあらあらあらっやっぱり貴方がそうなのね―――冷さんの息子さん!!」

「えっ……あ、あの母さんを知ってるんですか……?」

 

幻が放った言葉に思わず焦凍は思考がフリーズする。此処で母の名前が出るなんて思いもしなかったのだろう、如何して……と目が彷徨う彼に優しく微笑みかける。

 

「前に私が病院にいるお友達をお見舞いに行ったの、その時に偶然にお会いしてお友達になったのよ」

「そ、そうなんですか……母さんの……」

「ええっ……会いたがってたわ、お話したいって」

 

その言葉に思わず身体が震えてしまった、5歳のあの時にエンデヴァーに強制的に入院させられてしまってから一度も顔を見た事も無い母。そんな母が会いたがっていると言われて如何したらいいのか分からなくなってしまった。会いたい、でも会っていいのだろうか、火傷したこの顔を見て母は傷つくんじゃないかと様々な思いが交錯する。だがそれを止めたのは友が背中を叩いた痛み。

 

「翔纏……」

「欲望に素直になれ、後悔なんてしてから考えろ」

「でも、俺はっ……」

 

顔を伏せて今にも泣きそうになる焦凍、本当に如何したらいいのか分からない。不安でたまらない、会いたくて堪らない、母が合いたいと思ってくれているならば猶更。だが自分を見て母がまた……自分を責めてしまうかもしれないと思うと怖くて怖くて……。

 

「お前のお母さんは会いたいって言ってるんだ、それは純粋だと思うぞ―――ただ自分の息子に会いたいってシンプルな欲望」

「俺に……」

「不安なら俺も病院までは付き合ってやる、如何する」

 

そう問いかけられて焦凍は震える手を見つめた。右と左、母と父。震える右手と握り込まれた左手、酷く対照的だ。それを一度収めて―――前を見た。

 

「俺っ―――会いに行きます、体育祭終わったらっ母さんの所にっ……来てくれるか翔纏」

「あいよ。その代わり何時か紹介しろよ、お前の友達の翔纏君ですって」

 

屈託の無い翔纏の笑み、本当に何で此処まで自分を助けてくれるのだろうか、本格的な付き合いを持ち始めてまだそんなに時間は経っていないのに翔纏は何回自分を強く支えてくれたのだろうか。何度目か分からないが心からの感謝をこめて有難うと、返すと翔纏は唯笑みで応えた。

 

「さてっお話は良いわね、それじゃあもっと翔ちゃんとのお話を聞かせてね。雄英だとどんな感じで過ごしてるのかしら」

「えっと……割と天然な感じで……」

「ちょっと待って!?焦凍お前に天然云々言われたくねぇ!!」

「なんでだ?」

「マジで分かってない……だと……!?」

 

そんなやり取りを見た猛と幻は本当にこの二人は気心が知れた友人になれたのだなと確信する。友達となってからまだ日が浅い、だけどここまでの絆を築けているのはそれだけ信頼を互いに置いていて信じているから。

 

「良かったわ、実は心配だったのよ翔ちゃんにお友達が出来るか」

「えっ」

「多分聞いてると思うが翔纏は個性の関係でずっと家に居たんだ」

「はい、暴発すると危険だからって」

 

個性の関係で家での安静状態を強いられ続けていた、何時暴発するか分からないから。そしてそれを解除するドライバーを得たとしてもまだまだ外には出られない、過保護というのもあるがそれ以上に何年も運動もしていなかったが故に身体を動かして慣らすのと身体作りをしなければいけなかったから、故に雄英に入るまでは基本的に自宅学習ばかり。友人なんて雄英に入ってからが初めて。

 

「だから焦凍君、これからもウチの翔ちゃんと仲良くして頂戴ね」

「こっちからお願いしたいです。俺も翔纏には助けられっぱなしですから」

「ハハハッそれこそ友人という関係だよ、いやあ健全な関係を築けているようで何より!!」

 

もっと話を聞きたい、と翔纏への愛が全面的に出る翔纏の両親にやや面を喰らう。だが翔纏の両親らしいなと思えていた、そのまま話をするだろうと思っていたのだが猛は何やら振り向いた。そして幻は懐の携帯を取り出した。

 

「あらあらあらぁっ……ごめんなさい翔ちゃん、ちょっと失礼しても良いかしら。事務所から電話入ってきちゃったわ、んもう今日の為にどれだけ根回しを―――」

「おい母さん今何つった」

「ゴホンッ!!まあ翔纏と焦凍君、ちょっと私達は席を外させて貰うね。すまない」

「ああいえ仕事ならしょうがないでしょうし……」

「まあしょうがないか……んじゃなんか飯探すか」

「ああ」

 

焦凍は丁寧に頭を下げてから翔纏の後に続いていく、幻はごめんなさいね~っと手を振り猛は悪いな~と頭を軽く下げた。そして二人の姿が完全に見えなくなってから振り向いて通路の曲がり角の向こう側へと目を向けた。

 

「……お話があるなら姿を見せてくださいます?其方もそのつもりなのでしょう」

「此方としても色々と話したい事があったから実に丁度いいと思っていた―――エンデヴァー」

 

現れたのは№2ヒーロー エンデヴァー。息子の友人の父親、だがその表情はとてもそんな立場での登場ではない。ならば此方も相応の姿で迎え撃つのみ、キング・ビースト、マジカル・ビースト、トップヒーローとしてヴィランと戦う気概を持ってエンデヴァーへと挑む。

 

「息子さん、翔纏君との事で話がある」

「へぇっ……話ですか」

「内容次第、ですね」

 

そこに居たのは翔纏の知る過保護で過ぎた親馬鹿な両親ではなく―――獣王一族が誇る英雄として、立っていた。

 

 

「有難う翔纏」

「んっ何が?」

 

唐突なお礼に翔纏は首を傾げる事しか出来なかった、何に対しての事なのか全く分からない。

 

「母さんの見舞い、一緒に行ってくれる事……」

「何だそれか、気にするなって」

「いや俺にとっては大事だ」

 

ずっと胸に突き刺さり続けていたしこりのような楔、それが母の事だった。あと一歩の勇気を出せずに燻っていた自分の背中を叩いて前に進ませてくれる切っ掛けをくれたのは翔纏、その事に感謝している。幾らしてもしきれない程に……そんな思いを向けられて少々気恥ずかし気にしながらも……笑う。

 

「だったらよっ―――ガチバトルトーナメントじゃ、手加減無しだぜ」

「―――ああっ当然だ。俺が勝つ」

「上等だ」

 

獰猛な獣のような笑みを浮かべながらもその言葉を待っていたと言わんばかりの翔纏、当たり前の事を聞くなよっと言いたげな焦凍であった。

 

「さてそれじゃあトーナメントに備えて飯だ飯!!」

「ああ、如何する出店で済ませるか?」

「それも一興だなっというか俺ああいうの初めてなんだよ早く行こうぜ!!」

「おっおい引っ張るなよ!」

 

祭りのようなで店に憧れていたのか目を輝かせながらも焦凍の手を取って走り出す、それに慌てながらも合わせるように駆け出していく焦凍。何か言いたくなったが、手の暖かさと翔纏の笑みを見て自分も笑みを作りながら隣に出て走り出していく。

 

「(―――やっぱり、なんか翔纏と居ると安心出来るな……)」

「あっ二人ともこれからご飯?」

「おうっ緑谷も来るか?」

「……」

「ごめん僕レクレーションにも出るから」

「そっかって焦凍、何で仏頂面になってんのよ」

「……なんでもねえよ」




ちょっと焦凍君、距離感、分かってない感じ。


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獣と轟の欲望。

「こうして話すのは初か」

「でしょうね、生来獣は炎を嫌うものですから」

「こうして話すのは以前の偶然のチームアップでしたから」

 

壁に寄り掛かりジュースを口にしながらも一切目線を合わせない猛、外見だけは美しい笑みを取り繕いながら此方を見つめる幻。

 

「それでお話とは一体何でしょうか、天下のエンデヴァーが私達に何を話すというのでしょうかね」

「随分と喧嘩腰で話を進めてくれるじゃないか、別段貴様ら獣王一族と事を構えようという考えなど毛頭ないわ」

「ではどのようなお話で」

「獣王 翔纏、お前達が以前馬鹿に持ち上げていた息子についてだ―――あの個性、あれは何だ」

 

矢張りその話題かと警戒をし続ける、内容は幾つか予想していたがそれらの類のものだと思っていた。

 

「何かと言われてもあれが翔ちゃんの個性よ、としか言いようがないわ」

「そんな曖昧な言葉で引き下がるとでも思っているのか」

「思ってない、だが教える必要性がないとも思ってますよ」

 

この先分かる事でもあるだろうが教えてやる義理も無い、翔纏の大切なお友達の父親ではあるがそれでしかない。自分達は轟一家とはまともなコネクションを築いている訳でもないし良好な関係にある訳でもない。冷の事を考慮してもいいが、あれは獣王ではなく幻個人の交友関係でしかない。だが―――ある程度の餌はやる事にする。

 

「翔ちゃんの使ってるドライバー、アイテムを作ってくれたのは鴻上ファウンデーションとだけ答えておきます」

「ッ!!あの鴻上がっ、欲望馬鹿が作っただと!?」

「欲望馬鹿って……まあ間違ってないのが何ともまた」

 

鴻上ファウンデーションの規模は正しく世界規模、日本国内に限定してもその規模は全国区で、あらゆる分野でトップクラスのシェアを誇る企業。だがっヒーロー関連では直々に会長の審査が入りその御眼鏡に適わなければ専用サポートアイテムは手に入らない。その基準が欲望たった一つ、あの会長らしいと言えばらしい。そしてエンデヴァーはその審査に落ちている。

 

「翔ちゃんってば会長のお気に入りなのよ、ドライバーもメダルも私達一族が全面協力した上で完成した代物だけどそれを渡すと決めたのも私達の欲望と翔ちゃん自身の欲望を会長が認めてくれたからよ」

「……まあいい、奴が関わっているならば個性の件は納得せざるを得ないだろう」

 

何せたった一代で鴻上ファウンデーションという巨大企業を設立運営する程の化物でありエンデヴァーにそこまで言わせる程に鴻上会長こと、鴻上 光生は海千山千の怪人物。そんな会長のお気に入りならばどんな事になっていようが納得するしかない、ある種の不条理の庇護下に収まっている事になっているのである。

 

「では単刀直入に言う―――俺の娘、轟 冬美を獣王 翔纏の相手にして貰いたい」

「「却下」」

 

通常であるならば驚愕やら沈黙やらの反応をするべき所である筈なのに猛と幻はまさかの即答での拒絶である。これには流石のエンデヴァーも目を丸くして逆に沈黙せざるを得ないっというか驚いて言葉を失った。これは自分の目的に気付いているのか、それとも既にほかに―――

 

「まだ早すぎるわっ翔ちゃんにお嫁さんなんて早すぎます!!」

「そうだっまだ翔纏には早すぎる!!せめて成人するまでは恋人は早い!!」

「……お前ら、その内に息子から本気で嫌われるぞ」

 

自分が言える台詞ではないだろうがそんな事を言ってしまうエンデヴァー。真剣に考えてしまった自分が馬鹿みたいだ、これは思っていた以上の親馬鹿としか言いようがない。

 

「話だけで構わん、だが口実として此方も使わせて貰いたい」

「獣王一族の名前を利用したいと」

「ああ」

 

その言葉だけで何を狙っているのか分かる、エンデヴァーの娘という事ならばそれを狙って様々な家からの申し出もあるだろう。それを遠ざける為に獣王一族の名前を使いたいという事だろう。数多くあるヒーロー一家の中でも一族という程に大規模かつその規模に見合うだけの格がある獣王家、その一族との話があるという事ならば遠ざける事は容易という物だろう、だが……真意は別な所にあるのだろう。

 

「その話に真実味を持たせる為に数回会わせろ、とでも」

「察しが良いな」

「考えておこう、家を利用しようとすり寄ってくる馬鹿の面倒さ加減は理解している」

「感謝する」

「焦凍君にもその優しさを向けられないのは哀れね」

 

その言葉に先程まで比較的柔らかかった表情が一気に強張っていく、ヴィランを相手取るフレイムヒーロー・エンデヴァーへと変貌していく。寧ろこの漢からすればこれが本性なのだろう。

 

「自分の夢を子供に託す……いや押し付けるね、そこまでしてオールマイトを超えたい?」

「当然だろう……!!俺がどれだけそれを想いながら生きてきたと思っている……!?」

「ンなもん知るか。アンタの内情なんざぁ俺に取っちゃどうでも良いんだよ」

 

凭れ掛かるのを止めながら幻の隣に立つ猛、その瞳は何処までも鋭い王の瞳。

 

「だが、あの子は今となっちゃ俺の大切な息子の友達だ。息子の友達は既に俺が守るべきものだ、焦凍君は翔纏の笑みを作り翔纏は焦凍君の笑みを作る。それならば俺は彼を守る。例えそれが実の親からでもな」

「あいつは最高傑作だ、俺をも超える逸材、あいつにはオールマイトを超える義務がある……!!」

 

そう言いながら笑うエンデヴァーは邪悪だった、恐らく彼がオールマイトを超えようとしたそれは純粋な物だった筈だ。負けない、自分はお前に負けないと言った物だったかもしれない。だが追いかけると共に明白になっていく余りにも深く大きな溝、それでも超えようとする度に見せ付けられる差……そして何時しか唯々超える事に固執し遂に……それは醜悪な形になってしまったんだろう。

 

「ならこうしましょう、最終種目ガチバトルトーナメント。その第二回戦―――そこで翔纏は焦凍君と戦う、そこで仮に焦凍君が翔纏に勝てれば……冬美さん、でしたか……その婚約を考えてあげても良いでしょう」

「その言葉っ忘れるなよ」

「勝てればの話よ、言っておくけどウチの翔ちゃんは―――強いわよ、一族の中でもトップクラスにね」

 

 

その頃、その自慢の息子の翔纏は……

 

「―――ッッッッ!!!!??ひょっひょうとぉぉぉっっ……みじゅ、みじゅちょぉらい……」

「最初からハズレ引いたのか、ほらっ」

 

屋台で購入したロシアンたこ焼きを焦凍と仲良く食べようとしていきなり大外れを引いて、涙目になっていた。



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試合前の欲望。

「マジで辛すぎる……水を飲んだら余計に喉にまで押し寄せて来て……もう本気で炎を吐くかと思った……」

「吐いてたぞ、炎」

「えっ」

 

ロシアンたこ焼きで大ハズレを引いてしまった翔纏、後で屋台の人に聞いてみたら中には唐辛子とワサビとカラシ、止めと言わんばかりにデスソースが配合されている超激辛仕様だと聞かされてもう二度と買わない事を誓うのであった。

 

「まさか屋台がこんなに危ない物だったなんて……アニメとかニュースでやってた縁日もこんな感じの地獄なのか……!?」

「多分それはないと思うぞ」

 

若干呆れている焦凍だが同時に思い知る、翔纏は自分が思っている以上の存在なのだと。巨大な獣王一族の子というだけではなく個性の影響でドライバーを手に入れるまでまともに外にも出られなかったのも影響して世間知らずな所がある。これでも大分マシになっている部類。

 

「にしてもガチバトルトーナメント……第二回戦で当たるとは思わなかったよ」

「ああ」

 

最終種目、それはガチバトルトーナメント。毎年最終種目は1対1のバトル形式で昨年はスポーツチャンバラだったらしい。そして今年は場外アウトのガチバトル、大怪我や致死に至る攻撃は原則禁止だがそれ以外は基本的にOK。例え怪我をしてもリカバリーガールの治療が待っているから問題ないとの事。

 

「俺はまさかのいきなりの激突だからなぁ……漫画みたいに決勝戦で対決とかやってみたかった」

「漫画だとそうなのか」

「うん。超燃えるよ、勝ち上がった先での頂上決戦って」

「確かに……それが良かったな」

「だよね……」

 

と何だか別のベクトルで落ち込んでいる二人だが、この二人は一回戦の第二試合で早々に激突する事が決まっている。その時に思わず周囲は驚きの声で溢れた、他にも強い奴が互いを潰しあうと喜んでいた声もあったが……何方が勝つのかという興味を抱く者も多かった。

 

「訓練だと結構ぶつかりあったけどそれも結局手合わせでしかなかったもんな」

「あくまでも個性を鍛える事が目的だったからな」

 

だが実際問題早々に戦える事を二人はそれ程残念がっていない。戦う相手が決まっている上にダメージや疲れを残さずベストコンディションで挑めるという点では嬉しい、あそこで疲れていなかれば……と考える隙が無くなり全力でぶつかり合う事が出来るから寧ろ感謝するべきなのかもしれない。

 

「負ける気はねぇぞ」

「こっちも同じだよ、何ならまだ見せてないコンボで焦凍の本気でも引き出そうか」

「そりゃ有難いな、もっと俺が強くなれるって事だろ」

 

何時になく獰猛な笑みを見せ合う二人、既に友人としてではなくライバルとしての意識に切り替わっている。特に翔纏は口角を大きく持ち上げながら牙を剥き出しにするかのような顔をしてしまっている、獣の一族は伊達ではないという事なのだろうか。

 

「んじゃ俺はこれで―――また後でな」

「ああ」

 

そう言いながら去っていく翔纏。親しい相手が今度はライバルとして自分に立ちはだかる、それに酷く心が踊ってしまっている自分に少しだけ戸惑うがそれ以上に本気で翔纏と戦える事に狂喜してしまっている。疼く身体と沸き立つ精神、それを必死に抑えつけようとするが如何にも武者震いが止まらない。燃え上がる様に興奮する身体、不意に左腕から炎が漏れている事に気付いて殴り付けてしまった。

 

「すっこんでろ……!!」

 

彼にとって自分の炎は忌むべき物、しかしこれでもよくなっている方で以前は翔纏のタジャスピナーの火炎弾にも嫌悪感を示していた。それをされて翔纏は悲しそうな顔をして落ち込んでしまったので慌てて謝りもした焦凍は、自分が嫌悪しているのはエンデヴァーの炎と改めた。だからこそ自分の炎に此処までの事をするのだが……

 

「翔纏との勝負に勝てばあいつだって……いや翔纏との勝負でそんなこと持ち出したくないな」

 

自分の事情は自分の事情、それに巻き込んで考えるなんて失礼に当たる。唯翔纏との全力の戦いを楽しむ事だけを考える事にする事にする、控室で待機する。そして間もなく自分達の時間が迫っている中でその前にトイレを済ませようと向かっていると翔纏を見かけて声を掛けようとするのだが―――

 

「お疲れさん緑谷って指大丈夫かそれ……?」

「だっ大丈夫だよ有難う……」

 

先客がいた、緑谷である。先程終わった第一回戦の第一試合、彼の相手は普通科の心操という生徒。その戦いで相手の個性:洗脳を受けるが、それを破って勝利した緑谷だがその代償は指二本の負傷だった。

 

「相変わらずリスキーパワーだな……俺のドライバーみたいにアイテム制御考えた方が良いんじゃないか?」

「大丈夫だよっ……少しずつだけど制御出来つつあるから」

「ならいいけどさ……友達が毎回毎回身体を切り崩しながら戦うのは結構見てて辛いんだぞ?」

 

友達、その言葉を聞くと胸騒ぎがする。如何してだろう、何でこんな風にざわめきを覚えるのか。何かを不安に思っているのか……分からない、聞けば分かるのだろうか。

 

「僕も何とかしようと思ってるんだけど……5%位が今は限界かな」

「5%……いやあのパワーのそれなら十分なのかもしれないのか……あっそうだっ俺と特訓してみないか?」

「えっいいの!?」

 

「ッ―――!?」

 

それを聞いた時、突然訳の分からない感情に襲われる。自分でも理解不能なそれに苦しみそこに留まっていられずにそのまま走り去る、兎に角その場から離れたかった。焦凍の胸の内に沸き上がる言い表せない不安が身を焦がしていく。

 

 

「―――んっ?」

「如何したの獣王君」

「ああいや、なんか焦凍の気配を感じたような……まあいいや、今焦凍と一緒に特訓してるんだけど焦凍の許可さえ取れれば一緒にやろうよ。実はオールマイトにも良ければ一緒にやってくれって言われててさ」

「うっうん是非お願いしたい!!っていたたたたッ!!?」

「あっゴメン早く医務室に行けって!!」

「うっうんごめんね!!獣王君も轟君との試合頑張って!」

 

頭を下げながら医務室へと向かっていく緑谷を見送る翔纏、第二回戦開始まであと10分と言う所だろうか。今は試合間の準備時間のような物、今のうちに出場口に移動する。

 

「あれっ君って心操君だよね、廊下に来てた」

「……ああ。覚えててくれたか」

 

出場口の前まで辿り着くとそこには緑谷の対戦相手だった心操が居た。何か自分に用があるのだろうかと、と首を傾げていると何やら顔を背けながら恥ずかしそうな声で言った。

 

「……偉そうにアンタに勝ちたいとか言いながら負けちまった……悪かった」

「―――えっ態々それを謝りに来てくれたの?」

 

意外な事に素直に質問してしまった、心操は酷く恥ずかしそうに頷いた。気にしなくていいというか態々謝りに来る辺り律儀というかそれだけ本気だったというか……何とも面白い人だと素直に翔纏は好感を覚えてしまった。

 

「ねぇっ心操君、ちょっとした提案ていうかお願いがあるんだけどいいかな」

「詫び……って訳じゃないけど言ってくれ」

「それはさっ―――」

 

それに被せられるように聞こえてくるマイクのマイクパフォーマンス、だが翔纏と心操は確りと会話出来ているのかそれを聞いている心操は酷く驚いているようだった。何かを問いただすかのように矢継ぎ早に質問を飛ばし続けるが翔纏はそれに笑顔で応えて行く。そして―――

 

「なんで俺にこの話を……?」

「単純だよ―――さっき、如何してヒーローになりたいか聞いたよね。俺はその欲望が気に入った、とても大きくて透明な欲望を。だからだよ」

「……少し、考えさせてくれ」

「勿論。それじゃあ俺試合あるから」

 

そう言いながら翔纏は持っていたオーズドライバーを装着し―――遂に試合へと足を踏み入れた。




なんか痴情のもつれみたいな事になっとる……!!

尚そっち系ではないです……いや筈……あ、あれだよ焦凍初めての友達だからちょっと依存してるだけだよ!!……だよね……?


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翔纏と焦凍、激突の欲望。

『さあ緑谷対心操の戦いも中々に熱かったなぁ!だっがっ!!!テメェらがみてぇはこの試合だろう!!!さあぁとっとと始めちまおうぜ俺も待ちきれねぇよ!!』

 

マイクの言葉に同意するかのように会場は熱狂していく、緑谷と心操の戦いなどさらに温度を上げる為の前段階でしかないと言わんばかりのヒートアップ。太陽の光の下へと姿を現すこれから死闘を演じるであろう二人を熱狂が迎え入れる。

 

『大本命コンビのご登場だぁぁぁ!!!A組 轟 焦凍ぉ!!!同じくA組 獣王 翔纏ぁ!!!どっちが勝つのか全く予想もつかねぇしどんな戦いになるのかも予想できない!!分かるのは唯一つ、この対決は誰もが待ち望んだ最大級の物になる事は確定的に明らかって事だぁ!!!』

 

熱狂を更なる熱へと導いていくマイクの実況が耳を劈くように響く中で既に自分達の世界に入ろうとしていた翔纏、実況なんて如何でも良くて唯のBGMにしかならない。唯焦凍との戦いに挑むだけでしかない―――と思っていた、そう思えると思っていたのに焦凍の顔色は優れなかった。何かを必死に食いしばるように堪えている姿に心配が過った。

 

「如何したの焦凍?なんか、顔色が……」

「……」

 

何も答えない、唯鋭い瞳を自分へと向けてくる。それに込められている感情は怒りに近い何か、自分が何かしてしまったのか。だが全く身に覚えがない、焦凍と別れるまで怒らせるような事をした覚えはないし此処まで姿を見てもいない―――もしかして緑谷との会話に感じた気配は本当に彼だったのだろうか。

 

「焦凍、もしかして緑谷と話してる時に―――」

「うるさいっ……他の奴の名前を出すな……今は俺とお前だけの舞台だろうがっ……!!」

 

益々様子が可笑しくなる焦凍に主審ミッドナイトも気付いた、体調が悪いのかと尋ねるがそれに対して今すぐにでも飛び掛かりそうな姿勢で応えられてしまう。これ以上は辛抱堪らないのだろうかと思いつつも試合の開始を急ぐ。

 

「獣王君、試合開始は貴方の個性発動に合わせるから変身しちゃっていいわよ」

「あっ……はい、分かりました」

 

自分と焦凍だけの舞台、確かにそうだろうが……それが如何関係している、何故緑谷の名前を出した事に怒っているのか。何も分からないままメダルをセットする、兎に角試合に集中するのか最善。

 

キンッ!

キンッ!

キンッ!

 

「変身っ!!!」

 

タカ!

トラ!

バッタ!

 

タ・ト・バ!バ!タ・ト・バ!!!

 

変身の完了、それによっていよいよ始まるのかと観客席が騒がしくなる。これから戦いが始まるのだと、それはミッドナイトも同じく。待ち侘びた時だと言わんばかりに開始の合図を出した。直後―――翔纏へとビルを容易く飲み込めるであろう巨大な氷塊の雪崩が迫っていく。

 

「セイヤァァッ!!!」

 

それを瞬時に脚に力をためて跳躍、その勢いのまま後ろ回し蹴りを放ち一息に砕く。太陽に照らされる氷の奥へと抜けると氷柱が無数に飛び出して壁のように此方を突き刺そうとするような勢いで迫ってくる。それにトラクローを展開してそれを切断して対応する、がっ翔纏は如何にも強い違和感を感じずにはいられなかった。余りにも力押しすぎる。

 

「なあ焦凍、お前っ……何のつもりなんだ」

 

自分との特訓前に戻ってしまっているような戦い方、個性による力押しばかり。何がしたくて何が目的なのか全く分からない、自分との時間を否定するかのようなそれに翔纏自身も怒りを感じてしまった。

 

「俺の我儘だ、俺がそうしたいからそうしている……そう言う欲望だ、ああそうだ今は俺とお前だけだ……!!」

「お前がそのつもりならっ俺はそうする、ああそうだ―――お前がそうさせたんだ」

 

翔纏はドライバーからメダルを抜いた、それは全く別の姿へと変化を告げる。そして手に取ったのは―――灰色のメダル群、それを装填しオースキャナーでスキャンする。

 

キンッ!

キンッ!

キンッ!

 

サイ!

ゴリラ!

ゾウ!

 

サッゴーゾ……サッゴーゾッ!!!

 

その身に宿すのはサイ、ゴリラ、ゾウという超重量系の動物ばかり。陸の重戦車とも呼ばれるサイの強靭な角、森の賢人とも謳われるゴリラの腕、陸上最大の哺乳類のゾウの脚。それらを全て併せ持つその存在感は圧巻の一言。

 

『此処で獣王新しい姿に変化したぞぉ!!メダルの色を揃えた、これがコンボって奴だなぁ!!!』

『使用したのはサイ、ゴリラ、ゾウ……どれも酷く重い上にパワーのある動物ばかりだな。文字通りのパワー特化型の姿という訳か、轟の個性に対応するためにパワーで押すつもりか』

 

唯々重く、唯々強い、それを体現するかのような姿に誰もが言葉を失う。唯一それを見て声を漏らすのは焦凍一人のみ。

 

「ああそうだ、俺を見ろ、俺だけをっ……見ろぉ!!!」

 

地面へと手を置くと一気に大地は氷に侵食されていく、それは翔纏の身体にも到達するがそんな氷が如何したと言わんばかりに一歩一歩を踏みしめながら近づいていく。直後、四方から巨大な氷柱が伸びるとまるで生きているかのように動きながら中心にいる相手を押し潰さんと迫る。

 

「フンッ!!ムヴゥン!!」

『マァジかっ!!?』

 

マイクの驚愕は会場の反応のその物、最早ビルのような太さのそれを裏拳で打ち砕きながら左右から迫るそれを腕を立てるような打撃で粉砕して最後は重々しい回し蹴りで根元から圧し折った。大地へと降ろされた脚が響かせる音は重々しく鐘を打ち鳴らしているのかと思う程。そしてそれは焦凍へと向き直ると―――腕を打ち鳴らした。A組の皆は知っていた、あれはゴリラのメダルを使っている時にするルーティーン、それが意味する次の一手は大きな物だと。

 

「ォォォォォォオオオオッ!!!ォオオッ!!オオオオオオオオオオッッッッ!!!!」

 

雄叫びが辺り一帯に木霊して震える大気、重いゴオォォンという音と共に打ち鳴らされるドラミング。怒り狂ったゴリラのそれを思わせるような行動に何を意味するのかと皆が思う中でミッドナイトはそれを感じ取った、バトルフィールド全体が激しく揺れていて徐々にそれは大きくなっている。焦凍も思わず立っていられずに膝を突くながら地面に手を付こうとする―――のだが

 

「なっ!!?」

 

焦凍の身体は重力を無視するかのように浮かび上がっていく、氷も次々と浮かび上がっていくというとんでもない光景が広がって行く。

 

『おいおいおいおい何が起こってんだぁぁぁぁ!!?轟が浮いてるぞぉ!!?』

『まさか……あの姿は重力を操れるのか……!?』

『重力操作だぁぁぁ!!?なんだそれどんだけすげぇんだよもう一人で出来ていい範疇越えてんだろぉ!!?』

 

マイクの驚愕の言葉など無視するかのようにドラミングをし続ける翔纏、無重力状態となり身動きを完全に封じられた焦凍。だが直後に一気に大地へと叩きつけられる、今度は地面に身体が埋まるほどの高重力の井戸に叩き落とされてしまった。重力を我が物とする重戦車、それがサゴーゾコンボ。そしてその本領を発揮する。

 

スキャニングチャージ!!

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!」

 

能力が解放されていく。サイヘッドの角はより大きく鋭角に強靭な物へ、ゴリラアームは更に巨大に屈強に、ゾウレッグはそれらを支える為に大きくなりながらもゾウそのものが脚となったような圧倒的な存在感を放つ。能力開放した姿は最早スーパーロボットの領域に足を突っ込んでいると言っても過言ではない姿。そんな姿となりながらも重量を感じさせない程に軽やかに跳び上がる、そしてそのまま着地すると同時に無数の光の輪が展開されて重力の井戸で拘束され続けている焦凍を捕縛する。

 

「ぐっ……!!」

 

だがそれだけではない、今度はサゴーゾ自体が超重力を発する天体のように自らの身体が引っ張られていく。必死に抵抗を試みるが全く出来ない、同時にその時に見た。翔纏の角が凄まじい輝きを纏い、両腕にエネルギーが集められている事を。あれを一気にぶつけるつもりだと理解するが抵抗も出来ない、このままあれを喰らうのか……!?と嘗てない程の危機感を感じる焦凍。

 

「これでっ終わりだぁ……!!」

「っ―――終わり……?」

 

腰を落とし腕を引く翔纏の言葉に血の気が引いた、終わり、もう終わりなのか。もう終わり……!?

 

「嫌だっ……俺は、こんな所で、まだ一緒にっ……オオオオッッ!!!」

「オオオオオオオッセイヤアアアアアァァァァァァァ!!!!」

 

射程内へと入った焦凍へと頭突きと両腕のパンチ、必殺のサゴーゾインパクトが炸裂する。

 

「焦凍ぉおおおおおおお!!!」

 

思わず、観客席でそれを見続けていたエンデヴァーが叫んだ。息子の勝利を信じて疑わず、それを見届けようと思っていた男の初めての叫びかもしれない、息子の危機への叫び。自分でもそれに驚きながらも大声で叫ぶ。焦凍は吹き飛ばされる―――が場外になる直前に氷壁が焦凍の身体を受け止める。氷壁に埋まってしまっているがそれでも場外にはなっていない、そして焦凍は―――

 

「ッッ―――ガハッゴハァッ……!!!」

 

苦し気な息と共に胃液を吐き出してしまった、とんでもない重圧の一撃を受けて呼吸が正常ではなく狂っている。それを必死に整えようとする中で視界の奥では能力開放を解いた翔纏が此方をジッ……と静かに見つめ続けていた。そして彼は柔らかな声でいった。

 

「本当に凄いよ焦凍、あの瞬間に氷柱を生やして角をズラして外すなんて」

 

そう言いながらも目の前の氷柱を圧し折る翔纏、それはやられたと言わんばかりの行動とせめてもの仕返しなのだろう。そう、焦凍はあの状況で氷柱を生み出して致命的な一撃になりかねないサイヘッドの角をズラしたのである。それでも腕の一撃は受けてしまっているがそれでも威力は本来の物よりもかなり低くなっている、故に焦凍は今も立てている。

 

「焦凍―――漸く俺の知ってる顔になったな」

「っ……」

「お前さっきの顔じゃあ会いたい人の所には行けなかったけどさ、今なら胸張っていけるよ」

 

言われてハッとしまった、自分は先程まで何を想って何をしようとしていたのか。それをして母の所に行けるのか、いや行けるわけがない。それを翔纏が目を覚まさせてくれた、のだろう……。

 

「お前に何があったのか俺は知らない、だからこれだけは言わせて貰うよ―――全力で来いよ親友」

「―――っ親友……」

 

親友。その言葉を聞いた時、胸の中にあった思いは溶け落ちた。ドロドロとしていた物は無くなって、風が吹き始めた。そして同時に焦凍の身体が、変わっていく。霜が降り始めようとしていた体が一気に熱く、燃え滾るかのような熱を帯びて行く。同時に何もかもを凍て付かせる冷気を纏い始める、初めてこの時焦凍は―――自らが憎悪していた自らの炎を自らの意志で解き放った。

 

「―――ああ悪かった、妙な事を考えちまってた……殴られてスッキリした」

「そりゃ良かったよ」

「だからっ俺ももう拘りを捨てる―――お前の全力に報いる為に俺も全力で行くぞ親友!!!」

 

その時、焦凍は笑っていた。心からの笑みを浮かべていた、家族の誰も見た事がないような清々しい笑みを翔纏へと向けていた。それを受ける翔纏もそれに応える為に赤いメダルを三枚その手に取った。

 

「ああ来い、俺も全力だ!!刮目しろ、これが俺の最高の姿だ!!!」

 

キンッ!

キンッ!

キンッ!

 

タカ!

クジャク!

コンドル!

 

 

 

to be continued……




重力操作:サゴーゾコンボの固有能力。胸をドラミングする事で任意の場所の重力を操作し、無重力や高重力状態を作り出す。サゴーゾコンボ自体は重量系コンボ故に動きは鈍いがこの固有能力で十二分にカバーする事が出来るという相当凶悪な能力。

過去のオーズ、800年前のオーズはこの能力で巨大な地割れを引き起こして敵軍を奈落の底に叩き落とすというとんでもない事を行っている。


寸止め、このコンボ初披露時もCM挟んでたからね。仕方ないね。

その代わりにサゴーゾをねじ込みました。


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炎の欲望と氷炎の欲望。

キンッ!

キンッ!

キンッ!

 

タカ!

クジャク!

コンドル!

 

タ~ジャ~ドル~!!

 

「ハァッ!!」

 

高らかに上げられる鳥の鳴き声、それとともに巻き上げられて行く美しい真紅の炎が翔纏を包み込んでいく。その炎の奥でその身体を炎に染めあげていく。権威の象徴ともされるタカヘッドは顔を覆うようなバイザーが展開されたタカヘッド・ブレイブへと変化しその奥にて鋭い瞳が輝く。真紅に染め上げられた肉体は神秘的で息を呑む美しさを纏う、そして最も特徴的なのが胸部のオーラングサークル。本来はそれぞれの動物が模られる筈だが、三つを合わせたそれは不死鳥を思わせるものとなった。これこそが翔纏が最高の姿だと言わしめる形態、タジャドルコンボ。

 

「これがっ……最高の姿、確かにこりゃ凄い……ああっだからこそ俺も全力で応える!!」

 

眼前のタジャドルの美しさ、真紅の炎の奥から姿を現す翔纏は虹色の光を放つかのように輝く。それだけではなく強い力を感じる、それを目の当たりにしても尚焦凍が感じるのは唯々高揚感のみでありそれに突き動かれて最大級の氷の津波とその氷の中から突き出す氷の槍を放つ。直後、タジャドルは背中から無数の翼、クジャクフェザーを展開した。

 

「ォォォッ……ハァァッ!!」

 

優雅に腕を広げるのと同調して翼も大きく広げられて行く、そして腕を突き出すのと同時に翼は一気に放出されていき迫りくる氷へと射出されていく。一つ一つがエネルギーを帯びており氷を容易く溶かし、砕きながらその奥の焦凍の周辺に炸裂する。

 

「ォォォォォッ!!」

 

タジャスピナーを構え走り込んでくる翔纏、それに対して地面からは氷の矢、左腕からは使用してこなかったが故に微調整が出来ないので火力重視の火炎を放射する。氷の矢へと向けて火炎弾を放ち迎撃しつつも炎については全く意に返さない、全く意味がないと言わんばかりに炎を突っ切る姿に焦凍は笑みを強めながらその手に氷の剣を作り出して握りしめながらタジャスピナーでの打撃を受け止める。が、氷の剣は直ぐに溶け始めるが直ぐに再生を開始する。

 

「溶けるなら凍らせる、常に冷やし続ける!!」

「ならっ更に溶かす!!」

 

連打連打連打、連斬連斬連斬。無数にぶつかり合い続ける攻め手と攻め手。翔纏がタジャスピナーにエネルギーを集める事で高熱を帯びさせたまま殴り付けて溶かす、溶かされれば焦凍はその刃を更に凍らせて更に歪な刃を形成して斬り付ける、そして冷やし続ける焦凍の身体も冷えるがそれを炎の熱で相殺する事で身体機能の低下を防ぎ続けている。

 

「フッハァァッ!!」

「ぉぉぉ!!」

 

 

「思ってた以上に凄いわねぇ焦凍君、炎の方は扱ってこなかったから精密さはないけどそれを踏まえた使い方でカバーしてる」

「翔纏のコンボもまさかあそこまでなんてなぁ……」

「ええっそう思う―――ねぇっエンデヴァーさん」

 

近くに居るエンデヴァーへと思わせぶりな視線を投げかけてやる、そこには漸く念願が叶ったと言ってもいい筈の男が表情を曇らせている姿がある。頑なに自分の炎を使わないと決意していた息子が漸く下らない子供のような反抗を止めたのに、その表情は暗い。

 

「おおっ咄嗟に地面からの氷柱……見事に顎に決めた」

「でも翔ちゃんも読んでたのかジャンプしてダメージを最小限に……あらあらあらっ二人とも楽しそうにしちゃって」

 

微笑ましそうな顔をする幻、その瞳の先にあるのは雄英体育祭の最終種目としてはあまり見られない類の笑み。友人同士で本気で楽しんでいる顔に母親としては喜ばしい限り、互いの打つ手は知っている、例えそれが知らない姿(コンボ)だろうと察しは付く。だがその速度は自分の予想を上回っておりそれに驚嘆し笑顔する、翔纏は知っている筈の攻撃を激しい攻防の隙間に差し込めるほどに練度をこの戦いで上げた焦凍を称賛する。互いに互いをリスペクトしあっている。

 

「焦凍っお前……何だその顔は、俺は知らんぞそんな顔はっ……!!」

 

息子の成長を喜ぶよりも、大人への階段を昇った事を認めるよりも先にエンデヴァーは動揺し悔しがった。自分の知らない息子の表情を、それを引き出す存在である翔纏に悔しがった。如何して自分はあの笑顔を引き出せないのか。

 

「親として子供にしてあげるような事をしてないだけでは?」

 

全く以てその通りだ、唯自分の目的を継がせる為の最高傑作と呼ぶ訓練を強要し続けてきた自分は笑顔を与えるような事などしていないのだから当然だ。分かっている、自分は笑顔など望まぬし目的以外は興味ない……そう思っている筈なのに、どうしてこうも―――あの笑顔で胸を締め付けられるのか……。

 

「翔ちゃんってば親友が出来てあんなに嬉しそうにしちゃって……コンボだって身体に負担掛かるのにあそこまで」

「ちょっと過保護すぎたかなぁ……いやでも可愛い息子を可愛いと思って何が悪い」

「ええっその通り♪」

 

自分の対極にいると言ってもいい獣王夫婦の言葉が胸に刺さってくる。何を間違えたのか、自分のオールマイトを超えたいという思いが間違っているとでも言うのか、自分では叶えられぬ夢を子供に託すことの何が悪い、その為に策を弄する事の何が悪いのか。翔纏の相手に冬美を押すのもその一環だ、あの個性は正しく汎用性の塊、あの個性を取り入れたい。

 

「一つ言っておくわよエンデヴァー、翔ちゃんの個性は決して羨まれる物じゃない。私達は―――いっその事、翔ちゃんが無個性なら良かったって何度も思ったわ」

「何だと……?」

 

エンデヴァーからすれば信じられない言葉に思わず声を荒げた。あそこまで完璧な個性を何故望まない、何故無い方がいいと言うのか。

 

「褒めるべきは個性なんかじゃねぇんだよ、翔纏の欲望だ。あれが運命を変えた、正しく奇跡の力だ」

 

その言葉と共に翔纏が空へと舞った、背中から出現させた6つの翼(クジャクウィング)を羽ばたかせながら大空へと舞い上がった。そして腰のオースキャナーを取る姿を見た時に二人は静かに告げる。

 

「次で決まるわね」

「最後の激突だ」

 

 

天高く舞い上がった翔纏を見上げながら焦凍は感じ取った、次の一撃が雌雄を決する事になる。ならば取る手段は一つしかない、もう自分の中では勝敗なんて如何でも良くてあるのは唯全力でぶつかり合う事しかない。その果ては感情は無くその経過にしか興味がない、手段の為ならば目的など投げ捨てられるという心境にある彼はフィールド全体を氷で包み込んだ。

 

『轟ぃ此処でバトルフィールドを氷で包み込んだ!!宛らスケートリンクみたいに真っ平な場が整ったがどうするつもりだ!!?』

「スゥ……ハァッ……お前が呼んでるんだ、もう考えてる暇なんてないよなぁ!!」

 

そのまま氷の上を滑り始める、フィールドを限界まで使いながら回り出した焦凍に観客は何をするのかと声を上げるが途端に焦凍が加速する。身体を半身にしながらも左半身から炎を放出してそれを推進力にしてどんどん速度を上げて行く。身体を傾けてフィールドを駆け巡る、その姿を見る翔纏は笑いながらメダルをスキャンする。

 

スキャニングチャージ!!

 

「ォォォッ!!」

 

バク転するかのように宙返りしながらも能力が解放されていく、クジャクウィングは更に大きくなりながらも金色の光を帯び始める、そしてコンドルレッグは膝から先が猛禽類を思わせるような強靭な物へと変貌する、だがその足先は嘴にも爪にも思えるような形へとなった。そしてそのまま一気に落下するように降下していくと大気との摩擦で炎が生じて両脚が爆炎を纏う。

 

「行くぞぉっ翔纏ぁぁぁぁぁ!!!!」

 

焦凍が叫ぶ。十二分に速度は付いた、直後に凍て付いた大地が変化してまるでコースのように変形していく。それの上を疾走する焦凍、そしてコースの終着点は天へと向けられたカタパルト。更に炎を噴射して速度を限界突破させて自らも空へと飛び出していく。そして膨大な冷気と炎をそれぞれの脚に纏わせると翔纏へと向けて放つ。

 

「ハァァァァァァァッッ!!!」

「オオオオォォォォッッ!!!ダアアアァァァァァァァァ!!!!」

 

翔纏の真紅の爆炎を纏った必殺の一撃、焦凍の灼熱と極寒を纏った一撃が空中で激突する。何方も一歩も引く事も無く更に力を強め続けて行く、周囲へと拡散する膨大な衝撃波と風圧はプロですら言葉を失う程。その中央部に座する二人は絶叫を上げながらもぶつかり続けて行く。

 

「まだまだっ俺はこんなもんじゃねええええ!!!」

 

更に焦凍は炎を放出する、下から更に押し上げていく。空から迫る翔纏に対抗するにはそれしかない、体勢が崩れそうになるのを必死に堪えながらも続けるそれに遂に翔纏も圧され始めようとしたその時だった。

 

「ォォォォォォオオオオオオッッッセイヤァァァァァアアアアアアアアアア!!!!!」

 

翼をはためかせその場で一気に回転し始めた、空気の渦が爆炎へと吸い込まれていき更に炎が勢いを得て燃え上がっていく。それは焦凍の炎さえ飲み込みながら遂に極寒の蹴りを押し込んだ。そして―――全てが込められた一撃を真正面から撃ち破りながら焦凍を捉えながらそのままバトルフィールドへと落下した。

 

「―――凄かったぜ焦凍、流石だな親友」

「―――有難う翔纏……そっちも流石だ親友」

 

凍て付いた大地に倒れこんだ焦凍の傍に立つ翔纏、その光景に主審ミッドナイトは全てを察した。そして―――誰もが待っていた声を上げた。

 

「轟君戦闘不能!!!獣王君の勝ち!!!!」

 

戦いの終わりの声と共に上がる鬨の声、だがそれは翔纏の勝利を祝うものではなく焦凍の健闘を称えた物でもあった。この勝負における本当の勝者は両者なのだから。それらを浴びる二人、何処までも満足気な顔を浮かべながら立ちあがると―――握手を結んだ。




超音速飛行:タジャドルコンボの固有能力。他のコンボの固有能力と比較すると見劣りするかもしれないが、この飛翔能力を生かした高い機動力と豊富な武装を活用した距離を問わないヒット&アウェイ戦法がタジャドルコンボの真骨頂と言える。

過去のオーズ、800年前のオーズはこの能力を使用して、攻撃が届かない遥か上空から攻撃を仕掛けて敵を焼き尽くし、村1つを焼き払って滅ぼすと言った事を行った。


うんっ―――やっぱりタジャドルコンボが一番好きです。寧ろこのコンボが嫌いな人はいないだろうと思う。オーズ最終回のロストブレイズは神。


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次の欲望。

「大丈夫か焦凍ってやった俺が言える台詞じゃねぇよな……」

「いや大丈夫だ」

「全然大丈夫じゃないさね」

 

激闘の末に勝利を勝ち取った翔纏は焦凍を自らの手で医務室へと連れて行った、全力を出し尽くした者としての礼儀と感じての行いに拍手の喝采を浴びながらも到達した医務室でリカバリーガールの治療を受けるのだが……焦凍はかなり深いダメージを受けており、大丈夫だと答える焦凍のそれは強がりにしか聞こえないとリカバリーガールは素直になれと口を酸っぱくする。

 

「やれやれっ……お前さん個性の限界を突破し続けたみたいだね、左半身が火傷しちまってる。自分の個性で自分を焼いちまったんだ、そっちは治癒させてやれば直ぐに治るけど問題はこっちだね」

 

そう言いながら露わになっている焦凍の胸元を軽く触る。本当に軽く触れただけ、羽毛が乗ったかのような強さだったのに身体を大きく揺らすように反応してしまっている、そこにはまるで抉られたかのような傷跡が残ってしまっていた。治癒を施してやるが……完全に治癒はせずに傷跡は胸の中央に残り続けている。

 

「これは幾ら治癒させても残り続けるね、最後の激突で抉られちまったようだよ」

「そうですか、良かった」

「何が良いもんかい!!傷跡が残って良い事なんて一つもないよ」

「俺にとっては良い事です」

 

憤慨するリカバリーガールの言葉を捻じ伏せるようにしながら焦凍は治癒して貰った事で消えなかった傷跡を触りながら笑った。

 

「これは俺にとっては始まり……これがある限り俺は今日を忘れない、今日の気持ちと一緒に歩ける」

「やれやれまるで恋する乙女みたいな顔してるよお前さん」

「俺が……確かに俺が女だったら翔纏に惚れてたと思う」

 

らしくない台詞に思わず翔纏は目を丸くした、そんな言葉を言いつつも翔纏を見る。

 

「ああっ絶対に惚れるな」

「光栄だね」

 

そんな笑みを作っていたのかと自分でも驚くが、何となく理解できてしまう。翔纏には何となくだが惹かれてしまう魅力がある、それもきっとトップヒーローには必要不可欠な素質なのだろう。

 

「しかしアンタも随分と無茶をしたもんさね、アンタのコンボって奴は随分と身体に負担を掛けるんだろう?」

「ええ、焦凍に協力して貰って慣れたつもりですけど……割と今疲れてます。流石にサゴーゾにタジャドルはやり過ぎた……」

 

倒れこむような音を立てながら椅子に座り込んでしまう翔纏。流石にコンボ使用直後に倒れこむような事はなくなったがそれでも身体に掛かる負担は消える事はない、後はこの負担とどうやって付き合って行きながらコンボの運用を考えるのかがネックになる。

 

「やれやれっベッド使っていいから横になってもいいよ、次の試合前位になったら起こしてあげるよ」

「すんませんっ……実はちょっと辛かったので……」

 

ヨロヨロと立ち上がってベッドへと向かった翔纏だが、手を置いた瞬間に崩れ落ちるかのように突っ伏してしまった。焦凍は慌てて駆け寄るが静かに寝息を立てているのを聞いて少しホッとしつつ寝かせてやる。

 

「あんだけ凄い戦いをしたって言うのに寝顔だけは子供だねぇ……」

「すいませんリカバリーガール、翔纏をお願いしてもいいですか」

「そりゃ構わないけど、お前さんも休まないといけないんだけどね」

「いえ俺は―――翔纏のご両親の相手をしてきます、外にいるみたいですし」

「ああっ……頼むよ」

 

外に出てみると案の定、猛と幻がスタンバイしていた。声を上げて抱き着こうとするのだが、寸前で焦凍である事に気付いて急ブレーキをかける二人。

 

「っとぉっ!!?ごめんなさい焦凍君、あの翔ちゃんはまだ中かしら?」

「翔纏なら寝てます、コンボの連続使用で疲れたからって」

「そ、そんなに疲れてるのか……!?ああもうだからコンボは駄目だってあれほど……!!」

「えとえっとこんな時にすべきことは……そうよっ疲労回復効果のあるドリンクとか軽食の確保じゃないかしら!?」

「それだっ!!!」

「いや、静かに寝かせてやってください」

 

焦凍でも分かる程に獣王家の愛は大きい、まあ子供の為にこれ程までに動こうとするのはかなりの美徳であるだろうし少しばかり羨ましいとさえ思える。

 

「そうそうっ焦凍君も本当に凄かったわよ、おばさんったら年甲斐も無くはしゃいじゃったわよ」

「おじさんも激しく同意」

「有難う御座います、だけど俺をあそこまで引っ張っていってくれたのは翔纏です」

 

そんな風に息子を褒められる二人は嬉しく思う、初めて出来た友達に此処まで思われる翔纏は本当に幸せ物だろう。これからも翔纏と仲良くして欲しい者だと思わざるを得ない。

 

「それに俺……馬鹿な事思ってたのを正して貰いましたし」

「馬鹿な事?」

「俺も初めての親友って言うか友達で……翔纏が他の奴と話してて一緒に特訓しようと誘ってるのを聞いてすげぇ嫉妬したっていうか……もう誘って貰えないんじゃないかって勝手に不安になって……」

 

それを聞いて二人は納得した、寧ろある意味正常な反応かもしれない。自分にとって初めて且つ唯一と言っても友達が自分の知らない所で他の友達を作って自分との時間を無くそうとしている……と思って不安になるのは致し方ないだろう。

 

「大丈夫よ翔ちゃんが焦凍君を誘わないなんてありえないわよ、だって私の子供だもん」

「そうそうっ優しいあの子が君を一人にするなんてありえないさ。なんだったら君も翔纏と一緒に新しい友達を作ればいい」

「―――そうか、友達を作ればいいのか」

 

心の何処かで翔纏が友達ならば他はいらないような思考を持っていたのか、その言葉は不意打ちに近い何かだったが酷く納得できた。他に友達……誰となればいいんだろうかと考えを巡らせていると此方へと迫ってくる足音が聞こえて来た。それは燃え滾るような音を伴っていたので直ぐに誰かは分かった、エンデヴァーだ。

 

「何だ、負けた俺に対して嫌味でも言いに来たのか」

「焦凍……お前は何故笑っていた。あの死闘の中で何故笑っていた、何故敗北して笑う」

 

思わぬ言葉、何故笑っていたのかを問うエンデヴァーに焦凍は首を傾げる。何故そんな事を聞くのか、訳が分からないが理由を述べる。

 

「俺にとってもう勝つとか負けるとか如何でも良かったんだよ。唯翔纏との力比べが楽しかった」

「楽しかった、だと……ふざけるな真面目に答えろ焦凍!!」

「真面目に答えてる」

 

エンデヴァーからすれば理解出来ない、敗北によって得られるのは楽しさなどではなく屈辱や自らの実力不足による敗北感。オールマイトの背中を追い続けたが故に焦凍の感情を理解出来ない、しかし真面目に答えている焦凍に困惑している。

 

「お前が望んでる通りにこれからは炎も使う、それでお前は満足なんだろ。すいません俺はこれで失礼します」

「ああっそれじゃあね」

「今度はウチにいらっしゃいな、歓迎するから」

「はいっそれじゃあ」

 

自分ではなく翔纏の両親(猛と幻)へと頭を下げた息子(焦凍)、隣を抜けて去っていく姿は何処か大きくなっているが遥か遠くにいるような感じがした。自分の中にある焦凍ではない今の息子、そんな息子へと変えた翔纏へとエンデヴァーはやりきれない怒りを抱いてしまった。




コンボに大分身体は慣れた、でも疲れる物は疲れる。


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欲望への警告。

「んんっ~……」

 

医務室のベッドを借りて短い休息を終えた翔纏。まだ身体の何処かにダルさこそ感じるが気にならない程度には回復している、これも焦凍がコンボ慣れに付き合ってくれたお陰だと思いつつも足を進めていく。もうすぐ自分の番が回ってくる、次の対戦相手は緑谷。身体を壊しかねない程の超パワーを秘める個性、あれをまともに受ければ幾ら自分でもただでは済まない―――だとしても幾らでもやりようはあるのだが。

 

「仮に勝ったと仮定して……残りは2試合か、出来ればコンボは控えたいけど状況によってはそう言ってられないからなぁ……」

「その通りだよ翔纏君!!」

「うわぁっ!!?」

 

唐突に響いてきた低い声にひっくり返ってしまう翔纏、背後から聞こえてきた声に振り返るとそこにはなんと鴻上会長が里中を連れながら立って居た。

 

「会長っ!!?お、驚かせないでくださいよ……ああもう心臓にわりぃ……」

「いやはや済まない済まない、我々もこの体育祭にはVIPとして招待されていたのだよ。そして君の戦いぶりを見て祝う為に来たのだよ」

「それなら前以て言ってくれたらよかったのに……」

 

マイペースに豪快な笑いを浮かべる鴻上、だがそれでもこの人が自分の活躍を見てくれているというのは嬉しい限り。尊敬し自分に生きる力を再認識させてくれた会長には幾ら感謝してもしきれない程。そんな会長は懐から小さな箱を取り出した。

 

「そんな君へプレゼントだ」

「プレゼント、ですか」

「獣王一家の動物の個性は多種多様、君に渡したメダルはまだ一部でしかないのだよ。そしてこれが先日完成したばかりの君の力を新たに引き出すメダルだ」

「新しいっメダル……!?というかまだあったんですか俺の個性って先が」

「うむっ全くもって君の個性は素晴らしぃ!!」

 

翔纏の個性は獣王一族の極地と言っていい程に一族が保有していた個性全てが集約されている、それは最早翔纏自身が宿しているのは地球という青い惑星が紡いできた歴史そのものを身体の内に秘めていると言っていい程に先が見えずに強大。

 

「正しく君の身体に刻まれているのは生命の記憶、生命が持つ欲望という進化の力、君の中に渦巻く欲望は凄まじい」

「俺の中の欲望―――」

「私はあらゆる欲望を肯定する、故にこれだけは伝えておこうと思ってね。君の個性は太古から続く力だ、それを君はメダルによってその身に纏う。だからこそ気を付けたまえ、欲望が君を喰らうのか君が欲望を喰らうのかの勝負だという事をね」

「―――分かりました」

 

何処か飄々として掴み所がない鴻上がこの時ばかりは酷く真剣かつ神妙な言葉を使いながらの警告を発した。それは純粋にお気に入りである翔纏の身を案じているのか、それとも純粋に欲望を喰らう事で制御するのかそれとも暴走して喰われるかの終着点を見たいだけなのか……何も分からないが話したい事としたい事を終えたと言わんばかりに去っていく会長を見送りながら翔纏は箱の中にあるメダルを見る。

 

「喰うか喰われるかのミッションか……だったらこのメダルもその一部か……だったら一からのスタート、変わる事なんて恐れない。俺は俺だ」

 

そんな思いを確固とした意志として胸に刻み込みながら渡されたメダルを掌の上で転がし、出場口から出てバトルフィールドへと足を進めて行く。どうやらすでに緑谷は待機していたらしく待たせてしまったらしい。

 

「悪いな緑谷、少し来客があったもんでな」

「大丈夫だよ気にしないから」

「その代わり―――お前にはこの力で相手をする、初めてのコンボだが人生はギャンブルってな!!」

 

そう言いながら鴻上会長から貰ったメダルを早速ドライバーへとセットした、このメダルが何の動物でどんなコンボなのかは全く分からないがそんな事は如何でも良い。早くこのメダルを使ってみたいという欲が自分を操るかのように動かしている、だから早速変身する。

 

「変身!!」

 

キンッ!

キンッ!

キンッ!

 

コブラ!

カメ!

ワニ!

 

ブラカ~ワニッ!!

 

新たに渡されたメダル、それは爬虫類系のメダル。翔纏の中に流れる爬虫類の力を目覚めさせ制御するメダル。頭部は死と再生のシンボルとされ、毒蛇の代名詞とも言えるコブラ、腕部はその生命力故に長寿の生き物であるカメ、脚部は神聖な動物としても崇められる事があり死を与える回転を扱うワニ。それらを一つの身に宿すブラカワニコンボとなった。

 

『おっとぉ此処で獣王又もやコンボを発動だ!!っていうかなんだありゃインド人みてぇだなおい!?』

『まだ隠し玉があったのか……』

『獣王だけあってインドの王子様ってか!?』

 

色々と好き勝手言われてるが翔纏はこのコンボを発動してその特殊能力にすぐさま気付く事が出来た、拳を強く握りながら感触を確かめているとミッドナイトと緑谷が何やら視線を向けてくる。

 

「えっと獣王君、貴方の意志を尊重するつもりだけどそのコンボって連発しちゃって大丈夫なのかしら……?」

「USJでも大変そうだったのに、大丈夫なの!?」

「ああ大丈夫です、如何やらこのコンボはそう言う奴みたいですから―――元気いっぱいですよ」

 

心配ご無用と言わんばかりにその場でバク転からのブレイクダンスを見せ付ける翔纏、USJでの疲弊ぶりを知っている緑谷からすれば驚きであった。焦凍との特訓をしている事は聞いたがそれがそこまでの効果を現すのだろうかと思うが、これはブラカワニの能力によるもの。

 

「緑谷、俺の心配をするぐらいなら自分の心配をしたらどうだ。今の俺はお前のスーパーパワーでも倒せないかもしれないぞ」

「っ……凄い自信だね」

「ああっ今なら行ける気がする、どんな道でもな」

 

全身に漲ってくる力と活力、コンボを使っているとは思えないような感覚にアドレナリンが沸騰してくる。もう加速がついて止まれない様な気がしてならない、だから今すぐに戦い始めてこれを発散したいと願っている。そしてその願いが聞き届けられたのか―――ミッドナイトは試合の開始を宣言する。

 

「行くぞぉっ緑谷ぁぁぁ!!」

「行くよっ獣王君!!」

 

 

 

『君の言う通りだよ、彼ほど君のいう存在にふさわしい者はいないだろうね』

 

―――フフフッ……そうか、やっぱりそうか……だったら応援しないとね……欲望に、ある意味での個性の究極系に取り込まれないようにね。




超再生能力:ブラカワニコンボの固有能力。ブラカワニの全身にはソーマ・ヴェノムと呼ばれる生体強化物質が全身に流れており、あらゆる傷やダメージ、更には疲労までも瞬時に再生・回復する。また、毒に熱、電気などにも強い耐性を持つ。

オーズの劇場版、将軍と21のコアメダルにて登場し、映画のラストでは再生能力をフル活用する事でオールコンボ集結という夢の光景が実現した。
因みにソーマとはインド神話に登場する神酒の事、神々や人間は霊薬として飲用されたとされる。


という訳でブラカワニ登場。結構好きなんですよねこのコンボ。というかこのコンボのデザインが賛否両論だと聞いて驚き。


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爬虫類系の欲望。

「(獣王君のコンボはどれも強力なはず、きっとあれも相当な力を秘めてるに違いない……!!考えるんだ、それが僕に取れる最大の手!)」

 

緑谷はUSJにて二度翔纏のコンボの力を傍で目の当たりにした。一つはシャウタ、もう一つはラトラーター。その何方も途轍もない力を発揮してヴィランを一蹴出来てしまう程のパワーを秘めている。故にあのブラカワニもそのような力を秘めているに違いないと警戒しながら動きの一つ一つに注意を配りながら戦う事を選択する事にした。

 

「ゥゥッ……!!」

 

両腕を前に出すようにして構える、ボクシングのようなスタイルを取る翔纏。矢張りあの姿の最大の武器は亀の甲羅のような装備を付けているあの腕だという自分の推測は間違っていないらしい。使われたメダルもコブラにカメとワニ、翔纏の個性が動物の個性を宿すならば自分の考えは間違っていない筈……と自分から攻める。このままでは埒が明かない、ならばある程度の危険を承知で情報を引き出すしかない。

 

『緑谷が仕掛けたぁ!!』

「イメージっ……レンジの中の卵が爆発する、イメージィッ!!」

「―――っ!!」

『獣王も突っ込んだぁ!!』

 

右腕に赤い光がラインのように走っていく緑谷へと向けて翔纏が駆け出していく、彼の超パワーは知っている。だが自分の力が何処までの物なんて分からないが躊躇する理由もないし最悪の場合あの超パワー連発で終わる可能性まである。ならば―――

 

「ハァッ!!ッダァッ!!」

「うっ!!はぁぁ!!」

 

力を開放しようとする寸前に殴り込んでくる翔纏、重々しい打撃を叩き込み続けてくる。カメアームに装備されている甲羅状のシールド、ゴウラガードナーは相当に重い為打撃力を増幅させている。

 

「―――SMASH!!」

「フンッ!!」

 

受け続ける打撃の中で緑谷は遂に個性を発動させた、自分の身体を傷付けるリスキーパワーを制御した肉体許容上限の5%での一撃。それでもかなりの威力を誇る筈だが、それは的確にエネルギーを纏ったゴウラガードナーで防御されてしまう。

 

「防がれっ……うわぁっ!?」

「良いパンチだ……もっと打って来い!!」

 

確かにかなりの威力、まともに喰らえば危険だろうがそれならばまともに受けなければいいだけの話でしかない。カウンターの一撃を受けて吹き飛ばされるが何とかうまく着地して体勢を立て直すが……早くも自分の手札の一つが無くなってしまった。

 

「(何て防御力なんだ……5%じゃあのシールドを突破出来ないっだったら連続で浴びせ掛ける!!)」

 

諦める事はしない、通じないなら通じるように工夫を加えるだけでしかない。未だ5%での使用にはまだ慣れない―――だから連続で使用する。

 

「ハァッ!!SMASH!!!」

 

地面を強く蹴って跳躍、バネのように飛び跳ねた緑谷は一気に距離を詰めながらもその勢いのまま翔纏へと回し蹴りをお見舞いする。全体重を乗せた一撃は流石の翔纏も後退りしながらも盾がズレる、そして其処を見逃さないと言わんばかりに再び跳躍してがら空きになった翔纏のどてっぱらに頭突きを繰り出した。

 

『クリンヒットぉ!!緑谷渾身の連続攻撃が獣王の防御を突破したぞぉ!!』

『幾ら防御に優れていても体重が乗ったそれは技術もいる、ダメージ自体は完璧に防げているが弾かれたな』

 

「参ったな、直ぐに攻略されたか……」

 

ブラカワニコンボをまだまだ使いこなせていないのもあるがそれ以上に緑谷の学習能力には目を見張る。通じないならば次の要素を絡ませ戦略を練る、そしてそれをすぐに実行する行動力もある、味方なら頼もしいが敵にすると途端に厄介になるパターンだ。それなら―――此方も次の手を出すまでだと、腰へと手を伸ばしてそこにある何かを手に取った。

 

「緑谷、まだこのコンボは分からない事だらけだ。だから―――お前で実験させて貰う」

『何だ何だっ獣王の奴なんか笛みたいなの持ってるぞ?あれOKな裁定か?』

「個性によって出現させている感じなので許可します!!』

 

ミッドナイトのお墨付きも貰いながらも手にした笛、ブラーンギーを構える。それに警戒心を抱く緑谷、一体何が起きるのか。

 

「さてっ行こうか」

 

笛を吹き始める翔纏、不思議な音色が響き渡る中でコブラヘッドの瞳が妖しく輝くと後頭部辺りから何かが伸び始めた。それは舌を激しく動かしながら威嚇の声を上げ緑谷を鋭く睨みつけているコブラ。

 

「ヘ、ヘビッ!?」

 

音色に操られるが如く、コブラはどんどんその身体を伸ばしていき敵対者である緑谷へと迫っていく。空中を駆けるかのように伸びてくるコブラに出久は気押されながらも噛みつこうと迫ってくるそれを何とかギリギリの所で回避するが即座に切り返したコブラはその身体を鞭のように撓らせながら胸部を打ち据えた。

 

「な、なんてパワーなんだ……!!うわぁっ!!?」

 

再び迫ってきたコブラに声を上げて逃げてしまう、コブラは何度も何度も自分に噛みつこうとしてきている。しかも地面に炸裂した時に紫色の光が灯っていた、まさか毒まであるのかという予測も出来てしまったので必要以上に避けてしまう。

 

「やるしか、ないっ!!」

―――シャアアアア!!

「SMASH!!!」

 

今までにない速度で迫ってくるコブラに対して緑谷は加減をする事を止めながら個性を発動、そしてデコピンのように指を構えながらコブラへと空気を弾いた。空気と言ってもそれは爆弾と相違ない威力を持ってコブラを捉えた、コブラは大ダメージを受けたように動きを止める。それを見た翔纏はすぐさまブラーンギーを吹くのをやめてコブラを収める。

 

「ぐっぁぁぁっ……!!後ッ9発……!!」

 

激痛に耐えながらも睨みつける緑谷、その鬼気迫った表情に喉を鳴らしてしまう。もうこれから緑谷は個性の加減をやめるだろう、ブラーンギーを使われたら自分が一方的に不利になる、だから大火力で一気に攻め落とそうとする。そうだと言わんばかりに緑谷は無事な指を新たな弾丸にするように構えている。

 

「そこまでするか……素晴らしぃ!!お前の勝利へと渇望、欲望、正しくエネルギーそのものだよっ!!これだから欲望とは素晴らしぃ!!!だが欲望で俺が負ける訳には行かない、勝負だ緑谷ぁ!!!」

 

真正面から突撃する翔纏、避ける事で激痛と指の消費を促す消耗戦という選択も無くはないがあんな欲望を見せられてそんなつまらない選択をする程野暮ではない。

 

「ゥゥゥッっ――――SMAAAAASH!!!」

 

此処で切り札を切ると言わんばかりに激痛に耐えながらも連続で空気を弾いた、同時に指が染まっていくがそんな事など気にしなかった。そして弾かれた爆弾のような空気弾、それが迫ってくる中で翔纏は脚へとエネルギーを集めた。ワニの脚、それがどんな意味なのか思い知らせてやる……!!と思いながらも迫ってくる攻撃へと向けて連続で回し蹴りを放つ。

 

「セェイッ!!!ハァッデェイヤ!!」

 

放たれてくる空気弾、それを蹴る際にエネルギーのワニの口のような物が同時に喰らいつく。真横と上下からのインパクトに空気弾は耐えきる事が出来ずに完全に蹴り砕かれる。それを見た緑谷はならばと言わんばかりに腕を引こうとするがそれよりも先に翔纏が動く。

 

「させるかよ!!」

 

スキャニングチャージ!!

 

指の次は腕での一撃、流石にそれは規模が違い過ぎるので防御も出来ないし相殺も出来ないだろう。だったらやられる前にやる!!と言わんばかりに駆け出した翔纏はそのままの勢いで地面をスライディング。だがスピードはどんどん増していきながらも光のリングを潜っていく。それを緑谷は捉えようとするが―――まるでヘビのように蛇行する為に全く狙いが付けられない。カウンターしかないッ!!と理解するが遅すぎた。

 

「セイヤァァァァァァァ!!!!」

 

跳び上がった翔纏はそのまま緑谷へと蹴り込んだ、同時に翔纏の両脚は巨大なワニの顎のように変貌し思いっきり喰らいついた。そしてそのままデスロールを思わせるような高速回転を行いながら緑谷を投げ飛ばしてしまう。抵抗する事も出来ずに投げ飛ばされた緑谷は地面を抉るように吹き飛ばされてしまった。

 

「緑谷君場外!!獣王君の勝ち!!!」

 

勝利を刻みつけた翔纏は変身を解除しながら緑谷の下へと行くが身体に全く疲れがない事に気付いた、ブラカワニはそれ程までに負担が軽いという訳でもない。タトバでも疲労感はある、恐らくブラカワニの固有能力は回復にあると理解しながらも倒れこんだ緑谷へと手を貸す。

 

「凄いねっ……獣王、君は……」

「翔纏でいいよ、俺のコンボ慣れみたいに緑谷のそれだってきっと慣れるさ。ほら医務室まで連れてくよ」

 

そう言いながら傷だらけになった彼を担ぎ上げながら医務室へと向かうが、その時にミッドナイトが超好みぃ!!と叫んでいたりした。

 

 

 

『矢張り、私の理想に彼は必要不可欠な存在……究極系はそのまま終わらせるべき―――』

 

―――フフフッもっと先を見てみたい気もするが……確かにそうだねぇ……。

 

『獣王 翔纏……君に、良き終末を』




さて、本格的に出してないのがガタキリバぐらいになったぞ……。いやまだ未来系コンボもあるけどさ……う~ん……ブレンチシェイドに拘り過ぎかな。


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俊足の欲望。

「さてとっ―――次は飯田か」

 

緑谷を医務室へと運び終わった翔纏。改めてブラカワニの能力で身体は全く問題ない所か完全に回復している事に気付いて喜んでいる所に次の対戦相手の決定がスピーカーから聞こえて来た。相手は同じくヒーロー一家の飯田、焦凍と似ているが違うので同じように戦うのは難しい。何より飯田の長所は機動力なのだから。

 

「インゲニウムさんと同じ個性のエンジンか……まあだとしたら俺の取る手段は決まり切っているんだよな」

 

相手がそのつもりなら相手をするつもりだと言わんばかりにドライバーへとメダルを今のうちにセットしておく。そしてトイレを済ませてから入場口へと向かうとそこには焦凍が待機していた。

 

「焦凍、もう良いのか」

「問題ない。リカバリーガールには安静にしろとは言われたけどな」

 

自分が起きた時には既に医務室から居なかった焦凍、一応大丈夫だという事だけは聞いていたが……それでもこうして元気な姿を見て改めてそれを実感出来る。

 

「緑谷と話した、俺はあいつを特訓に入れてもいいと思う」

「あっ話したのか」

「ああ、友達になっていいかって聞いたら驚かれたけどな。そんなに俺って言いそうにないのか?」

「まあそんな感じだった」

 

態度を改めた方がいいのかなと……と少し考える焦凍。そんな親友に笑いながらもそろそろ出場時間になってきたのかマイクのパフォーマンスが激しくなってきている。

 

「んじゃ行って来るわ」

「ああ。俺に勝ったんだから決勝までは行けよ」

「そこは優勝しろで良いんだよ」

 

ハイタッチを交わしながら日の光の下へと歩み出した翔纏、バトルフィールドへと足を踏み入れると同時に此方を見つめてくる飯田。

 

『さあトーナメントも遂に準決勝だぁ!!此処で激突するのはA組の飯田と獣王!!どっちも有名なヒーロー一家、これは期待しちまってもいいんじゃねぇかぁ!!?』

 

派手なパフォーマンスだと言わざるを得ない、確かに自分達に共通している事だしメディア云々が喜びそうな話題性でもあるから会場を盛り上げる事が使命である司会役としては正解とも言える選択なのかもしれないだろう。そんな言葉を聞きながらも翔纏はオースキャナーを手にする。

 

「悪いな飯田、少し時間貰うぞ」

「構わないとも!!俺は全力の君と戦って勝つつもりだ、寧ろそうしてくれるのは俺にとっては光栄の極みさ」

「有難うそれじゃあ――変身!!」

 

キンッ!

キンッ!

キンッ!

 

ライオン!

トラ!

チーター!

 

ラ・タ・ラ・タ! トラーター!!

 

変身したのは灼熱コンボのラトラーター、態々コンボを使う事も無いかもとも思ったが飯田の誠意に応えるのもあるが一族に対して懸念し続けているコンボを此処まで扱えているというアピールも含めている。両親には十分出来ているだろうが、それ以外は分からないので使っておく。

 

「その姿……そうか、緑谷君が言ってた例のヴィランを倒した姿か!!」

「ああっ言っておくがこいつは強いぞ―――さあ始めようじゃねぇか飯田ぁ!!」

「元より全力で望むだけだ!!」

 

互いに戦意上々、戦闘準備は既に終わっている。そして告げられる開始の合図に互いに地を蹴った。

 

『おっとぉっ両者同時に走り出したぁっつうかはえええええええ!!!』

 

最初っからエンジンのギアをほぼ全開にしながら最高速度へと加速していく飯田とチーターの脚力を見せ付けるかのような翔纏、他の追随を許さない速度の二人の戦闘は何方が先に仕掛けるのかの我慢比べから開始される。

 

『獣王のスピードは騎馬戦で実証済み。だが飯田も速度は自分の領域、これは速度だけではなくてスタミナの勝負でもあるな』

 

お互いに相手の背後を取る為に走り続ける状況、先に仕掛けるか相手を待つかを思考しながらのそれ。

 

「くっなんて速さだっ……!!」

 

飯田はほぼ全力での疾走をし続けている。翔纏との距離は変わらない、寧ろあちら側が自分の速度に合わせているのだろう、まだ持久戦を続ける事は出来るがこのままでは悪戯に自分の体力を切り崩すだけでしかない。ならば自分からやるしかない。

 

「藪を突く!!」

『飯田が仕掛けたぁ!!』

 

常に自分の真反対を走り続ける翔纏へと身体を向けて一気に向かって行く、速度を保ったまま蹴り込もうとした時だった。翔纏も此方へと走り込んでくる、カウンター狙いかと身構えるが直後に眩いばかりの光が視界を焼く。

 

「ぐっ視界がっ!!?」

 

翔纏の動作を見て次の行動を判断しようと思っていたのが裏目に出た。視界を焼く程の閃光によって目が眩んでしまい一時的に世界が白で染まってしまった。それでも身体に刻み込んできた経験が危険信号を放つ、咄嗟にローリングしながらその場から離れると何かが蹴り砕かれるような音が響いた。

 

『飯田ぁっ閃光で目をやられたのにも関わらず獣王のドロップを回避ぃ!!』

「くっ……よし見えっ―――来る!!」

 

だがその閃光を振り解く事に成功した飯田は続く追撃のトラクローを回避する、アッパーのように振るわれた一撃は飯田の髪を軽く掠らせる程度に留まった。

 

「思ったよりやるな飯田、揺さぶりを掛けたつもりだったけど」

「これでも俺は夜間での走行訓練も積んでいる、それには対向車のライトに馴れる事もやっていた」

「成程……それじゃあもうこれは無意味だな。それじゃあ―――こっからはマジで行く」

 

スキャニングチャージ!!

 

 

小細工の効果は低め、だとしたら真っ向勝負を仕掛けてやる。と言わんばかりに発動される能力開放、ライオン、トラ、チーター全ての特徴を表面化させた百獣の王、獣王の名前に相応しい姿へと変身した翔纏は鬣を振り回しながら肉食獣の唸り声を上げ巨大な腕を構えた―――直後に姿が掻き消える。

 

「消えっいや後ろっ違う、此処だぁっレシプロバーストォ!!!」

 

瞬時に消える程のスピード、ならばそのスピードで何をするのか。自分ならどうするかと思えば相手の虚を突く事。背後からと思わせる事もするだろう、ならばやるのは自分の感覚を頼りにして翔纏が攻め込んでくるであろう角度へと向けてトルクの回転数を操作して爆発的な加速を伴いながら蹴りを繰り出した。確かな手応えと共に脚は翔纏を捉えた。

 

「っいないっ!!?」

「セイヤァァァァッッ!!!」

「真上っ!!?」

 

飯田が蹴り抜いた瞬間、確かにそこに翔纏がいたのだ。しかしそれが命中するまでの僅かな時間に跳躍しそれを回避した。そして跳躍と同時に展開されたリングを潜りながら両腕へとエネルギーを収束させながら流星となりながら急降下しながら大地を砕く一撃を放った。爆発のような衝撃波が周囲に拡散する中で、飯田はその嵐に呑まれながらも何とか着地する。そしてまだ残っている時間を活用する為に走り出そうとするが―――

 

「飯田君場外!!」

「なっ……しまった!!」

 

あの爆風と衝撃波によって場外へと弾き飛ばされてしまった事を悟った飯田は悔しげに拳を握った後に深く息を吸い、胸の中にあるものを一緒に吐き出すと変身を解除してダルそうにしている翔纏の元へと行く。

 

「負けたよ獣王君。まだあんな速度を出せるなんて驚きだよ」

「俺からしたらあれは速度を殺しきれないから取った苦肉の策だよ、飯田も良く俺が来る角度が分かったなぁ……」

「兄さんと手合わせした時に同じ事をして来たのさ、それが役に立ったんだよ」

「マジか、流石インゲニウムさん……」

「兎も角俺は君を応援する、俺の代わりに決勝頑張ってくれ!!」

 

飯田の熱い激励を受けて翔纏は決勝を頑張る事を改めて決意しながら控室へと戻るのだが―――その途中、爆豪が迫ってきて宣言した。

 

「おい動物野郎、決勝には俺が行く。だからテメェも全力で来やがれ、半分野郎が戦ったあの姿で来やがれ」

「タジャドルで?」

「舐めプなんかしたらブッ殺す!!最初っから全力で来やがれ!!!そしてテメェを捻じ伏せて俺がトップに立ってやる!!」

 

決勝に自分が上がるという宣言と共に自分に勝つという二重の宣言、どうしようもない程の完璧主義者な爆豪に翔纏は笑みを浮かべた。

 

「良いだろう、だがタジャドルは使わない」

「あ"あ"っ!!?舐めプ宣言かテメェ!!!」

「違うよ、タジャドルは俺にとって最高であって最強じゃない。だから―――お前には最強で挑む、それがお前の望みだろ」

「―――分かってるじゃねぇか」

 

不敵な笑みを浮かべる爆豪はそのまま去っていく、恐らく爆豪が決勝に上がってくるだろうという翔纏の認識は間違っていなかった。この後、爆豪が勝利を手にして決勝へと駒を進めるのを耳にして翔纏は三枚のメダルを見つめながら改めての決意を固める。

 

「見せてやるよ、最強のコンボを」




最強コンボ、投入決定。


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最強連鎖の欲望

『さあさあ遂にやってきやがったぜ雄英体育祭、ガチバトルトーナメント決勝戦ンンンンンンッッッ!!!!』

 

熱狂的な声があちこちから噴火のように噴き出していく、今日此処で一年最強の座が決まると言っても過言ではない。その決定戦の座に辿り着いたのは何方もA組の生徒、既に雌雄を決する両者はバトルフィールドへと立ちながら今か今かとその時を待ち続けている。

 

『此処まで多彩且つ圧倒的な力で勝ち上がってきたスーパーボーイ!!ヒーロー科ッ獣王 翔纏ッ!!!』

 

『誰よりも勝利を渇望、そして絶対的且つ完全勝利を望むエクスプロージョンボーイ!!ヒーロー科ッ爆豪 勝己ぃぃい!!!』

 

紹介をするだけで更に熱が上がる中でミッドナイトは互いの健闘を祈りつつも変身してから始めるという言葉を掛けられる、それに頷きながらメダルを装填していく。これこそが爆豪に宣言した最強のコンボ、コンボに慣れてきている今ならかなりの所まで行ける筈だしブラカワニで回復するという手も切れる。万端だっと思いながらオースキャナーを手に取る。

 

「さあ行くぞっこれが俺の最強のコンボ―――変身!!」

 

キンッ!

キンッ!

キンッ!

 

クワガタ!

カマキリ!

バッタ!

 

ガータガタガタキリッバ!!ガタキリバ!!

 

 

これまで何度も使われてきた昆虫系のメダル、それが遂にコンボで発動される。昆虫の中でも双角の王とも言われる一種たるクワガタ、相手の強さを問わずに戦いを挑む勇敢な戦士とも言われるカマキリ、群れを成せば現代でも重大な厄災をも引き起こす強靭な足を持つバッタ。それらを身体に纏うのが今の翔纏の姿、現状変身可能な中で最強と言えるだろうガタキリバコンボ。

 

『おっとぉ獣王っ自ら最強コンボと言わしめる姿を切ったぁぁ!!!それはまさかの昆虫だぁ!!』

『昆虫か……仮に人間サイズなら確かに一強とも言える力を発揮するな』

 

「それがテメェの言う最強か……ムシじゃねぇか」

「あんまりムシを舐めるなよ、その恐ろしさをこれからたっぷり教え込んでやる」

「やってみやがれぇ!!!」

 

遂に始まる最終決戦。開始の合図とともに爆豪は両手から爆破を行い加速しながら勢いよく蹴り込んでいく。がっ急に制動を掛けて引く、何故なら翔纏がその手にあるカマキリの鎌のような剣を構えながらバッタさながらの跳躍で迫ってきてくるからだ。

 

「ハァッ!!ダァァ!!」

「チィッ!!死ねぇ!!」

 

素早く振るわれるカマキリソード、振るわれた際に悲鳴を上げる空気からこの剣の鋭さと威力を察知して絶対に喰らってはいけない事を認識した爆豪は決して近づきすぎず離れすぎない事を心掛けながらの爆破にて攻撃を仕掛けようとする。だがその爆破を素早く察知しながらもバッタレッグの小ジャンプで距離を保ちながら回避するという芸当をし続ける翔纏。だが、それが爆豪を苛立たせる。

 

「その程度で最強だぁっ!!!?ザケんな殺すぞぉォ!!!クソがぁ!!」

「グッ!!」

 

一撃を回避しながらも両手を合わせながらの爆破を行う、だがそれも咄嗟に後方に跳ばれて回避される。確かにガタキリバコンボは強い。中距離は電撃、近距離はカマキリソード、そして高機動を備えるバッタレッグという近中距離に置いて此処まで使い勝手がいいコンボはないと爆豪でも思うが、これが最強だと言われたら肩透かしでしかない。これなら轟戦の姿(タジャドル)の方が余程強い。

 

「だったら味合わせてやる、こいつの強さを―――さあっショータイムだ!!」

 

脚を揃えてからカマキリソードを構え、地面をつま先で軽く蹴りながら改めて突撃する。爆豪は誰が二度とその剣の間合いで戦うかと言わんばかりに爆破が届くギリギリの距離を既に見極めているのか片手の爆破を機動に回しながら片手の爆破で攻撃する体術で凌ぐのだが―――

 

「死ねぇっ!!!」

「「さてっ殺せるかな?」」

「あ"あ"っ!!?」

 

攻撃を捌いて回避した翔纏の声がダブって聞こえて来た、幻聴かと振り返るとその光景に目を疑った。そこには同じガタキリバコンボの翔纏がもう一人存在していたのだから。

 

『ななななっ何だこりゃぁぁ!!?獣王がもう一人ぃ!?何が如何なってんだ!?』

『これまでのコンボは何かしらの特殊能力があった、つまり……成程な、確かに最強のコンボだな』

『おいおいイレイザー分かったのか!?教えてプリーズ仕事しろ解説!!』

『無理矢理押し付けたんだろうが』

 

「クソがぁっだがな、テメェが二人になろうが俺には敵わねぇんだよぉ!!」

 

と再度突進する爆豪は身体を回転させながら爆破の角度を瞬時に判断しながら攻めるという自らのセンスの高さを見せ付ける。それに対して翔纏は別々の角度、常に死角からの攻撃を狙い続けて行く。単純だが常に全方位に意識を分散させる事で爆豪の疲労も狙える、そして同時に互いが互いを庇い合いながら攻撃し、最強のコンボの真骨頂を見せる。

 

「「さぁて、二人かな?」」

 

―――ハァッ!!

 

「なっ!?」

 

その時更にもう一人の翔纏が出現して電撃を放出する、それに焦りながら後方へと爆転しながら飛び退いた爆豪は更に増えた翔纏に目を疑った。その場に立つ三人の翔纏、それらは互いにカバーしあえるように心掛けながら同時に切りかかってくる。それに舌打ちしながらも前転から爆破で進路を変えて回避していくが、三人目が電撃で攻撃してきてダメージ覚悟でそれを無理矢理突破して空中で状況を確かめつつも息を整える。

 

「クソがぁっ!!死ねぇぇ!!!」

「「「もう一人いたりして」」」

 

悪態を吐きながらも両手を合わせ、爆風が全て翔纏らへと向かうようにしながら連続で爆発を引き起こす。雪崩のように迫りくる爆風の嵐に対して登場する4人目の翔纏は電撃を纏ったカマキリソードを竜巻を作り出すように回転して爆風を完全に切り裂いてしまいながら脚を揃えたポーズを取った。

 

「俺もいるよ」

 

『つまり、今の獣王のガタキリバコンボの最大の強みは分身出来るって事だろう。たった一人であろうが分身によって数の暴力を仕掛けられる、確かに合理的に考えれば最強のコンボだ』

『おいおいおいおいおい一人ムービー大戦ってかぁ!!?』

『しかも……見る限り、分身系の個性にありがちな弱点が見当たらないな……最強コンボだな』

 

「「「「流石相澤先生、目敏いですね」」」」

 

『息ピッタリかよお前ら!!?』

『そりゃ全員獣王だからだろ』

 

これこそがガタキリバ最大の強み。完全な統率が取れた連携、そしてたった一人で軍勢を揃えられるという点が翔纏がガタキリバが最強だと言わしめる理由。何よりガタキリバ自身もこの能力を使わなくても普通に強いのも特徴。

 

「さあ如何かな」

「爆豪、これが御所望の」

「最強コンボ」

「ガタキリバだ」

「「「「これに勝てるかな?」」」」

 

4人が一直線に揃いながらワザとズラした後に揃えて喋る。それを見て爆豪は確かにこれが最強だという理由を察するのであった、たった一人で多数に対応出来て相手が一人なら逆に数の優位を揃える事が出来る。これは最強だと彼自身も思うがだからこそこれを倒す意味があると両手から更に爆発を引き起こす。

 

「勝つに決まってるんだろうクソがぁっ!!俺が取るのは完全な優勝だ、今のテメェに勝つからこそ意味があんだよ!!」

「「「「ならっ―――勝ってみろよ」」」」

「勝つに決まってんだろっクソがぁぁ!!!」

 

空中高く飛び上がりながらも突撃していく爆豪、それに対して翔纏たちは二人が電撃を同時に放ち対応する。その電撃を紙一重で回避しつつも懐に飛び込もうとする爆豪だが跳び上がった翔纏が背後を取って回し蹴りを喰らわせて真下へと蹴り飛ばすとそこには最後の一人の翔纏が電撃を纏った一撃を腹部へと叩きこむ。

 

「ガァッ……ッッッそがぁぁぁぁ!!!」

 

まだまだ戦意は削がれていないがそれでも実力差が開きすぎている、それだけではない。相手は実力が全く損なわれてない翔纏が4人いる状態、完璧すぎる連携に陣形を組み完全な集で襲いかかってくる。だったらもう取る手段は一つでしかない―――集団ごと吹き飛ばすしかない。立ち上がりながら両手に全神経を集めながら最大の爆破を繰り出そうとした時―――爆豪は見た。

 

スキャニングチャージ!!

 

『セイヤァァァァァァァァ!!!!』

 

自分目掛けて一斉に飛び掛かってくる翔纏たち、だがそれは4人どころの騒ぎではない。自分の視界を埋め尽くすほどになりながら青碧の閃光を纏いながら突撃してくる翔纏の群。昆虫の最大の強みである群体、それがガタキリバの最大の力だと悟りながら爆豪は鼻を鳴らしながら笑う。

 

「今は認めてやる、だけど次は―――それごとブッ殺す」

 

翔纏たちの必殺技、ガタキリバキックがバトルフィールドへと炸裂し、大爆発を起こす。そしてその爆風が消えた時、そこには倒れこんだ爆豪と変身を解除しながらも思わず座り込んでしまった翔纏の姿があった。

 

「爆豪君戦闘不能!!獣王の勝ち!!!」

 

ミッドナイトの判定が下りたが翔纏には聞こえなかった。何故ならば―――

 

「4人に、絞ったけど……やっぱりこのコンボ、きつすぎぃぃっ……」

 

ガタキリバコンボの代償とも言える超が付く程の疲労に動けなくなっていた。




分身生成:ガタキリバコンボの固有能力。分身体の名称はブレンチシェイド、最大で50体まで分身可能。分身体一人一人が翔纏という肉体と意思を持っており、分身能力にありがちなスペック低下は存在せずフルスペックで戦闘可能。つまり、最大で50倍の強さを発揮する。
但し、分身が受けた疲労やダメージは最終的に本体に還元されてしまう。自分以外の分身を自覚するので精神的な負担も分身するだけ増す、その負担は測り知れない。正しく最強コンボに相応しい力を発揮するが心身とも酷使する能力である為、最強ではあるが最悪でもあるので翔纏も軽々しく使えないコンボである。

皆さん大好きガタキリバでした。というかみんな好きじゃねガタキリバ。まあ私も大好きだけど。
今回は負担も考えつつも爆豪との爆破範囲とバトルフィールドを考慮して戦い易い4人だけでした。まあ4人だからウィザードのドラゴタイマーネタブッ込んだんですけどね。

この位の人数なら……なんとか許容出来るかな……。


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体育祭後の欲望。

「ゼェゼェゼェゼェッ……」

「翔纏大丈夫か」

「じぇっじぇんじぇん……!!」

「呂律回ってねぇぞ」

 

倒れこむように椅子に腰かけている翔纏、本来なら彼は表彰式に出なければいけないのだが……ガタキリバコンボの固有能力、分身生成の反動に苦しんでいた。単純に自分自身の分身を作り出し最終的にそれらを受けた疲労やダメージと共に再統合してしまう能力、それから受ける反動は尋常な物などではない。

 

「凄い疲れたし頭がガンガンするぅ……変身解く前にブラカワニ使えばよかった……」

「今は駄目なのか」

「駄目……個性が疲弊しきっててドライバーの安全機構が働いてて……電源すら入らない……」

 

最終的に最大人数まで分身こそしたが、それはあくまで爆豪へのとどめとして瞬間的に使用しただけ。それだけならば良いのだが……3人分の負担は確りと掛かっている、それだけでもこれだけのダメージが来るゆえにガタキリバは簡単に使えない。

 

「どんだけやばいんだよガタキリバ」

「今回は、3人で済ませたから良かったけど……これが最大活用してたら最悪の場合、自分が自分を見失ってただろうね」

「……やばいな」

「でしょ」

 

正直翔纏は確りと元に戻れた事に対した強い安堵感を覚えている、いざという時はこれを迷う事も無く使う覚悟は固めているのだが……コンボ慣れしている影響で解除直後に気絶する事が無くなった事はある意味考え物だと素直に思ってしまっている。

 

「ブラカワニの回復能力があれば疲労はカバー出来るだろうけど……流石に意識の再統合は無理だろうなぁ……」

「ガタキリバ、使うのやめた方がよくねぇか」

「ああいや固有能力抜きにすれば行ける、でも使うとキツい」

 

そんな事を焦凍と共に話していると控室の扉が開け放たれた、そこには―――

 

「優勝おめでとうっ翔纏君!!君の活躍とコンボ制覇のお祝いに来たぞっ!!ハッピーバースデイ!!!」

「か、会長……態々有難う御座います……」

 

鴻上が里中を連れながらお祝いへと駆けつけてきた。相変わらずの声のボリュームとテンションの高さは身体に響くのだが、尊敬する人が態々来てくれたのだからこの上ない位に嬉しい。

 

「翔纏と同じ言い回し……もしかしてお前が言ってた尊敬する人か」

「ああっ紹介するよ焦凍、俺が尊敬する大恩人の鴻上さんだ。知らないかな、鴻上ファウンデーションの会長さん」

「鴻上ファウンデーション……って確か親父がコスチューム開発断られたってキレたな」

 

昔に鴻上ファウンデーションに依頼をしたが断られてよくキレていたのはよく覚えている、何せあのエンデヴァーに屈辱を味合わせてくれたのだから。その時も欲望が如何たらと言っていた気がする。今なら分かる、欲望関係で拒否されたのだろう。

 

「轟 焦凍君だね。翔纏君から話は聞いているよ、自分が気に入る欲望を持っている人物だとね」

「そう言われて喜んでいいのか、分かりませんけど……まあ確かに欲望は持ってます」

素晴らしぃ!!!欲望こそが生きるエネルギーだよ!!翔纏君が気に入るのだからきっと君の欲望は素晴らしいのだろう、その気があるなら我が社で君のサポートアイテムを用意してもいいが如何するかね?」

 

まさかの申し出に一瞬ポカンとして翔纏の方を向いてしまう、如何しようと助けを求めるような顔だが折角の厚意だから貰っておけという事で焦凍は鴻上ファウンデーションでサポートアイテムを作って貰う事になるのであった。

 

「それで会長、如何して此処へ?」

「君の優勝を祝う事と君を無事に自宅へと送る為だよ、君は優勝した事でマスコミから的にされているといってもいい。なので私と共に雄英を出ないかと誘いに来たのだよ」

「表彰式もすっぽかしちゃったからなぁ……余計に騒がれてそうだ」

 

悪気があった訳ではないが、マスコミからすれば欲しかった絵が取れなかったのだからどうしても翔纏へのインタビューなどは絶対に敢行したい筈。ならば間違いなく雄英から出る翔纏は狙い撃ちにされる事は間違いなし。

 

「猛さんと幻さんはお車を回してます」

「流石にガッカリしたかね、ご両親が直ぐに来なかった事は」

「いえ全く。あの二人より会長が来てくれた事の方が嬉しいですよ俺」

「それはそれで如何なんだよ翔纏」

 

親友の中では両親よりも目の前の鴻上会長の方が色々と優先順位が高いのだろうという事実に焦凍は呆れる。

 

「どうせだ、轟君も我々と一緒に行かないかね」

「あっそうだね、どうせなら俺の家まで行こうよ」

「でもいいのか?」

「問題ないだろう。寧ろ翔纏君の友人という事ならば一族から大歓迎される筈さ」

 

焦凍はその厚意に甘える事にして鴻上会長達と共に通路を行く事にした。VIP専用の路という事もあってマスコミなどの張り込みも一切無し、安心して道を行く事が出来る事に翔纏は素直に安堵しているとある事を思い出す。

 

「あっライドベンダー置きっぱなしになっちゃう」

「ああそれなら―――」

 

―――問題ないわよ翔纏。

 

そんな事を気にしていると前から一人の女性が木の影から姿を現した。青を基調としたワンピースにショートパンツ、黒タイツを纏ったモデルのような美しい女性が慈しむような表情を作りながら翔纏を出迎えた。それは翔纏の姉でもありプロヒーローのアクアティック・ビーストヒーローのメズール、獣王 愛水。

 

「ねっ姉さん、来てたの……!?」

「当然でしょう。愛しの弟の晴れ舞台だもの、姉として見に来るのは当然でしょ?ライドベンダーはこっちで回収したから安心なさい。それで貴方が翔纏のお友達の轟君ね?」

「はい、翔纏には何時も仲良くして貰ってます」

「あらっそれは翔纏の方よ、翔纏ったらご飯の時に楽しそうに友達の貴方の話ばかりするのよ」

「ちょっちょっと姉さん!!」

 

微笑ましそうに家での翔纏の事を話すのだが、翔纏からすればあまり話して欲しくはない事だったので慌てて止めに入ろうとするのだが……ガタキリバの負担でまだ激しく動けない為に膝をついてしまう。そんな弟に愛水はクスクスと笑いながらも優しく頭を撫でてから抱き上げる。

 

「ちょっ!?姉さん降ろしてよ……恥ずかしいからやめてよっ本当に降ろして!!?」

「駄目よっ貴方はまだ動けないんだからお姉ちゃんに甘えなさい♪」

 

焦凍からすれば翔纏が姉に大切にされている事は自分が姉である冬美と仲が良い事と同じだとしか思わず、寧ろ両親への扱いが雑なので家族仲が良い事が見えて安心出来た。だが肝心の翔纏からすれば、親友に自分が姉にお姫様抱っこされながら頬擦りされている所を見られている。まともに動けないので反抗も出来ないので生殺しもいい所である。

 

「仲良いんだな、俺も姉さんとは良いぞ」

「フフフッ前に抱っこして上げた時より重くなってるわね、確り成長してくれてるようでお姉ちゃんは嬉しいわっよしよし♪」

「いやはやっ良いご家族を持てて良かったな翔纏君!!」

「うううっなんて羞恥プレイなんだぁ……穴があったら入りたい……いやむしろ埋めて欲しい……」

 

この後、翔纏の願いは聞き入れられる事も無く抱っこされたまま猛と幻が持ってきた車に乗る事になったのだが……そこでは姉に加えて両親にまで抱き着かれる事になってしまい更なる羞恥を味わう事になった。

 

「ううっ……お願いだ焦凍、忘れてくれぇ……」

「なんでだ、良いだろ愛されてて」

「そうじゃないんだよぉ……」




という訳でメズール登場。グリードをヴィランでの登場も考えましたけど、メダルが翔纏の完全な制御用のサポートアイテムである事を考えて無理だと判断してご家族として登場。

メズールがグリードで一番好きです。うんっ大好きさっ♪ゆかなさんだしエロいし母性溢れてるし最高だよね!!!人間態の時も好きです。というか人間態演じてらっしゃった矢作 穂香さんは放映当時まさか14才のリアルJC。えっそれであのエロさ表現してたの?やばくね?

多分、特撮の女幹部だとメズールとメレの二強だわ私の中だと。

というか翔纏の姉なのに、なんか母親の幻より母親してる感がやばい。これがメズールの力か……!?


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轟家との欲望。

体育祭の振替休日。翔纏の姿はとある病院の中にあった、目的は当然―――焦凍のお母さんのお見舞いの付き添い。

 

「俺は此処までだな、頑張れよ焦凍」

「有難うな翔纏……行ってくる」

 

面会の手続きを済ませて病室の前まで付き添った翔纏はそのまま後を任せた。此処からは紛れもない家族の時間、それでも焦凍の意志で廊下で待つ事にした。壁に寄り掛かりながら焦凍を待つ。

 

「どんな気持ちだろうな」

 

自分の両親というか家族全員に溺愛されて育ったような自分には正直分からない、家族に疎まれた事も無ければ喧嘩をした事すらほぼない。だけどそれでも今回のお見舞いは焦凍にとって凄い勇気を出した行為である事は分かっているつもりでいる。そんな勇気を肯定し応援するために今自分は此処にいる、それが報われると信じて。

 

それから時間が経過するが静かに待ち続ける。10分、20分、30分と経過する中で病室の扉が開けられてそこから焦凍が顔を覗かせた。

 

「翔纏。母さんがお前と話したいらしい」

「えっ俺と?」

 

突然かかったお呼びに応えるように焦凍に手招きされて病室へと入っていく。そこに居たのはベッドから身体を起こしながら此方を儚げな笑みを浮かべている女性、焦凍のお母さんの轟 冷。此方を見て笑いながら頭を下げて来た。

 

「初めまして轟 冷です。焦凍と仲良くしてくれているみたいで……」

「獣王 翔纏です、いや俺も焦凍とは友達というかなんというか……」

「そこは親友で良いだろ」

「ハッキリ言うわね本当に君は」

 

本当に焦凍の天然は……と呆れていると冷は微笑ましそうな笑みを浮かべた、それは翔纏にとっては見慣れた類の物。心からの嬉しさの笑みだと分かる。

 

「今日焦凍が来てくれた事は本当に、嬉しかったんです。その切っ掛けを作ってくれたのが幻さんと翔纏君だと聞いて心から嬉しかったんです。この子にはそんな風に頼れるお友達が本当に出来たんだなぁ……って。親友って言える程に大切なお友達が」

「改めてそう言われると照れますね……」

「これからも焦凍と仲良くしてあげてください」

「此方こそ、仲良くさせて貰います」

 

そのような会話をした翔纏。冷の体力を考えてこの日はこれにて引き上げる事になった。

 

「良かったな、お母さん喜んでくれたじゃないか」

「ああ来てよかった」

 

表情を分かりやすく変える事はないがそれでも心なしか嬉しそうにしている事が見て取れる、矢張り今日来れた事は様々な意味で焦凍にとっては良い事になったのだろう。心の中にあった楔へのケジメ、心の整理、これからの路を歩む上で絶対に必要だった。

 

「それじゃあ……これからどうしようか」

「なあっ翔纏、お前さえ良ければ俺の家に来ないか?」

「えっ焦凍んち?」

「ああ、姉さんに紹介したい」

 

何故だろうか、ワクワクしているように見える。先日獣王家に焦凍を招いたからそのお返しのつもりなのだろうか、是非とも家に来て欲しいオーラが滲み出ている。

 

「でも突然お邪魔して邪魔にならないかな……ほらっウチは色々と特殊だったけど」

「大丈夫だ、翔纏の事は前から話してたし会いてぇって言ってた」

「ああじゃあ……お邪魔にならないなら」

「こっちだ」

 

即座に切り替えて案内を始める焦凍、なんだか嬉しそうに振られている尻尾が見えるような気がしてならない。取り敢えずその背中を追いかけていく事にした、足取りも軽く歩いて行く姿を追いながらしばらく歩くと到着したそこは見事な立派な日本家屋。自分の家は西洋建築なので何処か新鮮な気分になる。

 

「如何しようどうしようやっぱり私も今からでも行くべきかな……あっ……しょっ焦凍お帰りそのお母さん如何だっ……えっお客さん!?」

 

玄関を開けるとそこには白髪が少しだけ混ざっている赤い髪をしている冷に似ている女性が玄関で何やらうろうろしていた。そんな女性は焦凍の帰宅に驚いたような声を上げるが直後に後ろに連れてきている翔纏に気付くと更に驚いてしまった。

 

「ただいま。姉さん友達連れて来た」

「えっお友達!!?焦凍がっ!!?もっもしかして翔纏君!!?」

「ああ、俺の親友の翔纏」

 

何処か胸を張るようにしながら後ろにいる親友(翔纏)を見せ付ける、それを見て聞いて弟が話してくれた初めての友達だと理解してぱぁっと光を散らすような笑みを浮かべる。

 

「翔纏、俺の姉さんの冬美姉さんだ」

「獣王 翔纏です。突然来ちゃってすいません」

「ううん何時でも大歓迎よっ!!初めまして轟 冬美です、さあさあ入って入って!!直ぐにお茶とか用意するからね!」

「ああいえ本当にお構いなく……」

 

冬美は焦凍が初めての友達を連れて来たのが心から嬉しいのか遠慮の言葉を意に介さずに客間へと通しながら台所へとお茶菓子の準備をしに行ってしまった。

 

「お待たせ、コーラとかジュースないからお茶になっちゃうけど大丈夫かしら」

「あっ大丈夫です」

「良かったっこっちはお茶に合う最中よ」

 

出される緑茶に最中、そしてそのまま焦凍の隣に座ってニコニコとし続ける冬美。

 

「もうお友達を連れてくるなら早く言ってくれたらもっと確りしたおもてなし出来たのに」

「ごめん。でも連れて来たかったから」

「全然大丈夫よ」

 

と仲良さげなやり取りをする二人に姉弟なんだなぁという事を実感する、焦凍からお姉さんがいるという事は聞いていたし仲も良い事も知っていた。矢張り他の家の姉弟もこんな感じなんだなと思う中で自分の家族のそれがかなり過剰な事も思い知る。

 

「姉さん俺より喜んでないか」

「だってだって焦凍がお友達を連れて来たのよ?それを喜ばない姉がいない訳ないじゃない!!」

「……確かに翔纏の姉さんもすげぇ喜んでたな」

「翔纏君にもお姉さんが?」

「ええ、先日の体育祭の帰りに」

 

それから翔纏は冬美を交えた状態で雑談に興じる事となった。翔纏にとっても初めての友達の家への訪問ゆえに気分も高めだった、唯話をするだけだったがそれだけでも酷く楽しい時間を過ごす事が出来た。気付けば昼過ぎになってしまう程に話し込んでしまっていた。

 

「あらっいけないもうお昼の時間じゃない!!お昼の支度しないと」

「あっそれじゃあ俺そろそろ帰りますよ」

「折角だから食べていってちょうだい翔纏君」

「いやそこまでお世話になるのは……」

「いいからいいから!!さぁって腕を振るうわよ~♪」

 

と嬉しそうに台所に向かって行く冬美を見送る二人。そんな姉の様子を見続けていた焦凍は笑いながら言った。

 

「姉さんの料理は美味いから食っていってくれ、気に入るぞ」

「う~ん……初めてなのにそこまでお世話になっていいものか……」

「俺と姉さんが良いって言うんだ、大丈夫だろ」

 

結局、翔纏は押しに負けてしまい昼食を御馳走になるのであった。

 

「冬美さんって綺麗な人だな……ちょっと羨ましいかも」

「そうか、姉さんに言っとく」

「いやなんでだよ!?そこは秘めておけよ!!?」

「多分姉さん喜ぶだろうし……俺も愛水さんの事綺麗って言ったら普通に喜んでたぞ」

「そうでしょうけど少しは秘めておこうと思わない!?」




ヒロイン如何するかな……。

今のところ翔纏と関りを持った候補は……ジロちゃんに梅雨ちゃん、そして今回の冬美さんか……。


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欲望の名付け。

「翔ちゃん焦凍君の家に遊びに行ったんですって?」

「行ったよ。でも話したっけそれ」

 

体育祭の振替休日明け、再び今日から授業が再開する日となった日の朝食の席にて愛水と幻と共に食事をしている時に唐突にそんな話を振られた。

 

「昨日小耳に挟んだのよ、翔ちゃんが焦凍君の家に向かってたって」

「何処で聞いたのよそれ……」

「翔纏も立派になったわねぇ……お姉ちゃんってば嬉しいわ……」

「なっ泣くほどじゃないでしょ姉さん……って母さんもかよ!!?」

 

大きくなった翔纏に感動を覚えてついつい泣いてしまった二人に困惑しつつも何だか気恥しくなって味噌汁を飲み干すと用意していた鞄を持つ。まだ朝早いがそれでも早く行く事にしている翔纏からすれば通学時間に入っている。少しのんびりしすぎたらしい。

 

「ぁぁっ……んっなんだ翔纏もう行くのか……?」

 

靴を履いている時に声を掛けられる、振り返るとそこには寝起きなのか寝巻のままだが朝っぱらからその口にアイスを咥えている兄の姿があった。

 

「うん今行く所……だよっと。そっちは相変わらずアイスな訳、しかも朝っぱらから」

「俺の勝手だ、おい外は雨だぞ確りフード被れ」

 

酷くラフな姿且つ自分勝手な物言いと乱雑な動作で羽織った雨具のフードを頭に被せてくれる辺り、獣王一族に共通していると言ってもいい優しさを振りかざしてくれている。エリアルビースト・ヒーローのアンク、それが翔纏の兄である鳥命のヒーローネームであった。

 

「体育祭、悪くなかったぞ。だけど最後に何でガタキリバなんだよ」

「いやだって爆豪が最強のコンボで来いって言うから」

「ちっタジャドルは最強じゃねぇってか」

 

と露骨に機嫌を悪くする兄、兄や姉にも言える事だが彼らは翔纏のコンボに関連するようにそれぞれ特定の得意分野を受け持つように特定の動物系統の個性を有している。鳥命ならば鳥でコンボで言うならばタジャドル、愛水は水棲でコンボはシャウタと言ったように。そしてそれぞれ自分の個性に該当するコンボに誇りのような物を持っている節がある。

 

「だって単純に考えればそうだって分かるじゃん」

「フンッ単純な戦闘力だけ比較しても意味ねぇだろうが、その後の負担も踏まえたらある種最弱だろうが」

「いやまあそうだけど……けど、俺にとっては最強はガタキリバでタジャドルは最高だから」

「っ……ふんっそうか勝手にしろ」

 

不機嫌を取り繕うとしているがあからさまに機嫌が良くなっている。同じくガタキリバを誇りとする別の兄とは折り合いが悪く頻繁に言い争いや喧嘩を繰り返している、きっと自分が出掛けた後に自分が最高のコンボだと煽るのだろうなぁ……予期するが、もう恒例行事みたいなものなので敢えて止める事はしないでおく。

 

「んじゃまあ……行ってくる」

「おう行って来い。これからも俺のメダルを使えよ」

「普段から使ってるよ」

 

そんな事を言いながらも外に出ると雨が降り注いでいた、普段通りにライドベンダーのエンジンをかけて雄英へと向けて出発する。

 

「―――あれフード被んなくてもメットするから別に良かったんじゃ?」

 

割かし如何でも良い事を考えながらも道を走らせていく中、時々視線を受けたような気がしながらも雄英に到着する。

 

「あっもしかして……」

 

ライドベンダーを停め、視線のアタリを付けながらも教室へと入ると未だ体育祭の興奮の余韻が冷めやらぬと言わんばかりの空気に矢張りかと思いながら席に着く。

 

「よっ表彰辞退!!」

「皆残念がってたぜ」

「やめてくんないそれ、こっちだって好きで辞退した訳じゃないんだけど。あのコンボ(ガタキリバ)の負担はそんだけやばいんだよ」

「へへっそうだ翔纏は声掛けられたか?」

 

矢張りと言うべきか、雄英の体育祭は全国的に絶大な人気を誇るので自分達の顔はあの一日で一気に売れたと言ってもいい。特にトーナメント出場者なんてそれが顕著であり、登校中に声援を浴びせられるなんて当然に等しい。

 

「いや全然」

「えっ何で!?お前優勝者だろ!!?」

「まあある意味当然じゃない、だって獣王ってバイク登校じゃん」

 

耳郎の言葉に頷く、だが途中で視線を受けた事は伝えておく。

 

「やっぱりねっまあバイクに乗っている相手を下手に止める訳にはいかないしねぇ」

「そうねっ獣王ちゃんは優勝者だけど話しかけられなかったのも納得ね」

 

プロヒーローの両親や兄や姉を持つ身としては将来的にプロになった時の為にそれらに対する対処法などは教えて貰っている、寧ろプロになれば必然的に必要となる技術ではあるのでかなり重点的に教えられた。加えてマスコミの対処はかなり詰め込まれている。いざという時は法的に追い詰める為に……という意味合いが強いが。

 

「翔纏っまた姉さんが遊びに来てくれって言ってた」

「ああ、また行かせて貰うよ」

「今度は確りとした茶菓子を用意するってさ」

「いやそこまでしなくても……」

 

如何やら冬美にもかなり気に入られているらしい。その事を再認識するとHRの時間が迫ったので皆は席へと着いた、そしてその直後に相澤が入って来る

 

「ヒーロー情報学はちょっと特別だ」

『特別?』

 

ヒーロー情報学、ヒーローに関連する法律や事務を学ぶ授業。免許制になっている個性使用に関する免除ケースやサイドキックとしての活動に関する詳細事項などなど様々なことを学んで行く。他のヒーロー学とは異なり苦手とする生徒も多いが、プロになるにはやらなければいけない事でもある。

 

「コードネーム、いわゆるヒーローネームの考案だ」

『膨らむヤツきたあああああ!!!』

 

ヒーローネーム、ヒーローとしての自らを示す名前を決めるという事。オールマイトを始めとしたそれらはヒーローの象徴ともいえる物。

 

「ヒーローネームの考案、それをするのも先日話したプロからのドラフト指名に密接に関係してくる。指名が本格化するのは経験を積んで即戦力と判断される2年や3年から……つまり今回来た指名は将来性を評価した興味に近い物だと思っておけ。卒業までにその興味が削がれたら、一方的にキャンセルなんてことはよくある。勝手だと思うだろうがこれをハードルと思え」

 

幾ら体育祭で素晴らしい力を見せたと言ってもまだまだ経験も足りない者を採用などはしない、これから力を付けていかなければ今の評価など簡単に引っくり返る。今回の指名を保持し続ける、それも一つの目標にも成り得る。そして相澤は手に持ったリモコンを押してある結果を黒板に表示した。

 

「その指名結果がこれだ、例年はもっとバラけるんだが今年は偏ってるなある意味で」

 

黒板に示されている指名数は矢張りと言うべきか体育祭のトーナメントの結果を反映したものだという事が良く分かる。翔纏、爆豪、焦凍の三名が飛び抜けてプロヒーローからの目を引いたからか、2000を突破する指名をそれぞれが獲得している。だが、爆豪よりも焦凍の方が指名数で言えば多く翔纏との差も少ない。

 

「あれっ轟の方が爆豪より多いんだ」

「どうせ親の話題ありきだろ」

 

気に入らなそうにしている焦凍、当人からすれば喜ばしい事かもしれないが自分の実力だけではなくエンデヴァーの影響があると考えると如何にも複雑な気がした。そしてそれは翔纏も同じだが、矢張りコンボの負担が気掛かりとなっているプロも多いのかもしれない。

 

そしてこれらの指名を出したヒーローの元へ出向きヒーローの活動を体験するという。A組はUSJにて実戦でのヴィランとの空気を感じてしまっているが、本来はこの体験で得る筈の物だった。プロの活動を自らの身体を持って体験し、より実りある訓練をするため。そしてその為のヒーローネームの考案をするという事。仮にもプロヒーローの元に行く事になる、それはつまり将来的な自分の立場のテストケースにもなる。

 

「つまりはこれらを使って職場体験をさせてもらうって事だ。そこでヒーローネームを決めるって流れだ、適当なもんは―――」

「付けたら地獄を見ちゃうよ!!この時の名が世に認知されてそのままプロ名になってる人は多いからね!!!」

『ミッドナイトォ!!!』

 

教室に参上したのは18禁ヒーロー事ミッドナイト、相澤曰くそっちのセンスはかなりいいらしいのでその査定の為に来て貰ったとの事。後はミッドナイトに任せて寝袋に入って眠ってしまった。

 

「自分にとってのヒーロー……」

 

それを頭に置いて決めるコードネーム、それは人によって違うだろうが翔纏にとっては一族が浮かぶがそれ以上にヒーローであるのは会長かもしれない。脳内では何時もの会長の素晴らしぃ!!!コールがリフレインし続けている。そしてそれに関連して自分のメダルとドライバーの事を思い浮かべる、3枚のメダル。そしてそれが導く名前―――

 

「はいっ獣王君!!」

 

発表形式が取られる事になったのか、皆が尻込みをしているのか手が上がらない中で翔纏が真っ先に手を上げた。同時に集まる視線、優勝をもぎ取った翔纏のヒーローネームは皆が気になる所なのだろう。

 

「それじゃあ発表お願いね、やっぱりビースト系なのかしら」

「俺のヒーローネームは―――オーズ」

 

ボードに大きく書かれたコードネーム。三つのOが重なったように書かれたその上に刻まれた名前、それがオーズ。

 

「オーズ……獣王一族の何々ビーストヒーローっていうのも想像してたけど随分違うのね、それでどんな意味を込めたのかしら」

「……ちょっと恥ずかしいですけど、俺にとって個性は正直言って嬉しい物じゃなかったんです。寧ろ疎ましい物だった」

 

憧れた、強い身体に憧れた、強い人に憧れた、屈強な背中に憧れた。個性がそれを許さなかった故に憧れて、恋焦がれてしまった。そしてどうしても個性が嫌だった。一族から受け継いだもののせいで自分が欲しかったものを手に入れる事が出来なかった。

 

「だけどある人がそれを変えてくれました、俺の欲望を満たしてまた次の欲望に目を向ける力をくれた。だから俺はその欲望の連鎖を他の人に与えてあげたい、あの人が俺にしてくれたコンボを他に、そして俺がした事をまた他の人が他の人にして欲しい」

 

目指すのは良心の連鎖、それが人を、国を越えて無限に繋がっていく事。助け合いの輪の連鎖。

 

オーバー(OVER)インフィニティ()……俺が名前に込めたのはそんな事なんです、だから俺の名前は―――オーズ(OOO)です」



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体験希望の欲望

ヒーローネームも決定した一同、そこからは彼らの問題へと切り替わっていく。指名を受けた物は指名先から自分が行く職場体験先を決めて相澤に申し込んでおく必要がある。複数の指名がある場合はその選定に急がなければならない、何せその受付期限は二日後なのだから。指名がない者は事前に雄英が受け入れ可能なヒーロー事務所から選んでそこを申し込む運びになる。しかし、多くの指名を受けている者はある意味で地獄を見る羽目になる。

 

「翔纏、お前体験先は如何するんだ」

「ああっウチの事務所」

「やっぱりか」

 

と言いたい所なのだが翔纏の場合は既に決まっている。前々から職場体験では指名を出すから来てねっという話を散々されていたのでそこに行く事にしている。

 

「やっぱり獣王はビーストヒーロー事務所なんだな」

「まあね、来なかったら全力で泣くからって言われたら行くしかないから、主に姉さんと母さんが」

「だろうな」

 

焦凍はそれを聞いて確かに泣くだろうなぁと思いながら昼食の蕎麦を啜る。姉の愛水も幻もそうだが、獣王一族は基本的に翔纏も溺愛している。なので言葉に出していないが、実際はそこには従姉妹も含まれているのだろう。

 

「それで焦凍は如何するんだ、来てるんだろエンデヴァーの事務所から」

「ああっ来てる」

 

大盛の辛口タジンカレーを涼しい顔で食べる翔纏、翔纏がビーストヒーロー事務所へと行く事は決めているが代わりに親友は如何するのだろうかと思っていた。そして案の定来ていたエンデヴァーの指名。それを受けるかどうか焦凍はやや悩んでいるとの事。

 

「俺は正直あいつを許す気はない、ヒーローとしてのあいつを見るのは俺の炎にも応用出来るかもしれないからありだと思ってる」

「でも正直な所その気ではないと」

「ああ、癪に障る」

 

お母さんとは和解してこれからもちょくちょく顔を見せる事を決めているが、矢張りエンデヴァーとは全く進展していないのは致し方ないのかもしれない。それだけ根が深いのだから簡単に解決する訳もない。

 

「俺もビーストヒーロー事務所から指名が来てる、そっち行ってもいいか」

「あれそっちにも出してたんだ」

「ああっ来てた」

 

そう言いながら持ってきたのか指名先が載っている紙を見せてくる、そこには確かにビーストヒーロー事務所の名前が刻まれている。別に同じ所を生徒が複数指名しても事務所側が受け入れの姿勢を見せれば問題なく職場体験は実施される、なので焦凍が此方を希望すれば問題はないだろう。

 

「俺は構わないよ、来てくれたら嬉しいし」

「そうか……でもそれだけで決めるのは……拙いかもな」

 

今回の物は自分の未来に直結する可能性が高い、それを親友の家の事務所に行くという理由だけで決めてしまうのはまずい。

 

「翔纏、炎を使うヒーローっているか?」

「俺の兄さんがいるよ」

「じゃあ行く」

「あらやだ即決したわ」

 

という訳で焦凍もビーストヒーロー事務所へと行く事に決めて、放課後には希望票を相澤へと出しに行くのだった。

 

「おっと、悪い飯田」

「いやっ此方こそ済まない」

 

途中、飯田とすれ違いになりながらも提出すると相澤はそれを見て一度此方を見た。

 

「同じ事務所か……友達同士仲良くって訳じゃないだろうな」

「まあ親友同士って言うのはありますけど、焦凍が選んだのは別の理由みたいです」

「言ってみろ」

「決め手はエリアルヒーロー・アンクです」

 

翔纏の兄の鳥命、エリアルビースト・ヒーロー・アンク。鳥の個性を持ちそれらを操るだけではなく、炎を操る事でも知られている。それ故か単純な鳥の個性ではなく不死鳥や朱雀と例えられる事が多い。タジャドルもアンクを模している。

 

「炎をメインに据えるんじゃなくて炎を補助、サブとして使うヒーロー。今の俺にとってはまだ炎はサブが良い所ですから」

「成程な……今のお前としては理想的という訳か」

「はい、親父以外のヒーローの在り方も確りと見たいんです」

 

焦凍が決め手としたのはアンクの戦闘スタイルだけではない、多種多様なヒーロー社会を見たいというのもある。唯一つの物事を見るのではなく幅広い事がらを体験して前に進む糧にする目的がある。その意味では様々な動物の個性をその身に宿し、多様性と汎用性という意味ではずば抜けているビーストヒーロー事務所はうってつけの体験先。

 

「それに体育祭で翔纏との戦いでやった最後の技……あれを煮詰める為にも飛行出来るヒーローを参考にしたいんです」

「最後のあれか」

「氷と炎の同時攻撃……あれはタジャドルじゃなかったらやばかったね実際」

 

仮に相手に直撃した場合、炎の超高温と氷の超低温が相手に襲いかかる事になる。それによって例え防御したとしても、冷やして温める、温めて冷やすのループコンボで絶大な効果が見込める。

 

「そう言った意味での希望もあると……良いだろう、申請はしておく。帰っていいぞ」

 

その言葉を受け取ってから焦凍と共に帰路に付く事にする。

 

「だけどさぁっ……エンデヴァーになんか言われるんじゃない、大丈夫かな」

 

焦凍がビーストヒーロー事務所を希望するのは構わない、彼が決めた事なのだから口を出す事ではないのは分かるのだが……矢張り考えてしまうのはエンデヴァーからの干渉である。エンデヴァーからすれば焦凍は自分が求めた最高傑作、自分が望む道を走らせたいと思いその為に自分のヒーローとしての姿を見せ付けたいと考える筈。

 

「受理されればこっちのもんだ」

「結構図太いね……でもなんか絶対やって来るよ、取り敢えず焦凍に詰め寄るのは確実だと思われる」

 

それは焦凍も予想出来る事、あの男ならば確実に自分に詰め寄って来て直ぐにでも変更の手続きをしろだとか何故自分の事務所を選ばないのかとか言って来るに決まっている。だがそれはエンデヴァーの都合で自分の都合ではない、無視する事を既に決め込んでいる。

 

「取り敢えず……職場体験始まるまでウチに泊まる?」

「友達に家に泊まる……やってみたいがそれはそれであいつが翔纏の家に来て迷惑になるだけだと思う」

「根本的な解決じゃないからなぁ……う~ん……」

 

エンデヴァーがビーストヒーロー事務所に来る事に対して納得する事がベストなのだが、きっと簡単には認めないだろう。何とかならないだろうか……と頭を捻る。そして、翔纏に電流走る。

 

「あっそうだ良い事考えた!!」

「名案か」

「ああ多分これならいける、まあ母さんたち次第になるだろうけど―――ちょっと聞いてみる」

 

電話をかけ始める翔纏、少し待つと何やら騒がしくなってくる翔纏の携帯。そして直ぐ翔纏の声色は明るくなって最後には通話相手であろう人に愛してるという言葉と共に通話を切った。

 

「何とかなったよ焦凍!!」

「それで結局何をやったんだ?」

「ビーストヒーロー事務所とエンデヴァー事務所のチームアップ申請だよ」

 

それを聞いて焦凍も確かにその手があったか、という顔をする。何かしらの事件に対してチームを組む事にすればエンデヴァーも此方に顔を出す事になるのでエンデヴァーもきっと飲む事だろう。

 

「今保須市でのヒーロー殺し、それに関して出すって母さんが言ってた。それならきっとエンデヴァーも飲むだろうってさ」

「ヒーロー殺し……そう言えばニュースでインゲニウムが」

「俺も思ってた……飯田、大丈夫かな」

 

職員室を出る際にすれ違いになった飯田。その時に彼には珍しい短い言葉での謝罪、クソが付く程に真面目な彼は何かあってはかなり誠実な謝罪と態度を示すがあの時はかなり簡潔だった。そして何やら影を思わせる表情……そこから感じた欲望は―――濁っていた。そしてその欲望への嗅覚は、的を射ている事になってしまった。



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職場体験への欲望。

職場体験初日、A組の姿は雄英から最寄りの駅にあった。此処から各自の職場体験先へと出発していく。担任の相澤から簡単な挨拶と体験先に迷惑を掛けすぎない事や本来公共の場などで着用が許されないコスチュームなどは絶対に落とすなと厳命される。コスチュームを落とす間抜けなどいないとは思いたいが、盗まれる可能性もあるので確りと持っておくのに越した事は無い。

 

「んじゃ行くか焦凍」

「ああ」

 

此処から電車で一本の距離にあるので新幹線などを使用する他の皆と比べてもそこまで事務所は遠くない。早速電車へと乗り込んで事務所の最寄り駅へと向かう事にする。

 

「んでエンデヴァーは如何だった」

「喚いてたな、まあチームアップの話もあるから渋々感が強かったな」

「まあだろうなぁ……」

 

エンデヴァーがその事実を知ったのは先日、それまでは北海道に現れた凶悪ヴィランの捕縛の為のチームアップ要請に応えていたらしく焦凍が自分の事務所に来なかったについて戻って来て早々に怒鳴り込んできたとの事。

 

「詰め寄られたが―――逆にあいつの腕を凍らせてやった」

「気分は如何だった?」

「最高だったな」

 

怒鳴り込みながら自分の所に来なかったのかと迫ってくる親父の腕を掴んで逆に凍らせて、自分の意思を表示して黙らせたという焦凍。余りにも硬い意志と気迫にエンデヴァーは驚いていた顔を見て焦凍は心底気分が良かったとの事。

 

「まあ実際のチームアップは数日してからだし……それまではウチで鍛える事になるってさ」

「ああ分かった、それでお兄さんの許可は取れたのか」

「二つ返事でOK貰ったよ」

 

焦凍の目的でもあるヒーロー・アンクからの手解き、それを受けられるかどうかは当人の気分次第になるのだが……弟の頼みという事もあって二つ返事で了承を得る事が出来た。惜しむらくは弟の指導でなかった事だけが不満だったらしいが……その辺りは時間が空いたら自分も参加するという事で折り合いをつける事にした。

 

「おせぇぞ」

「いってぇっ!?えっ何でいるの!?」

 

改札を出てこれから向かおうとした時に頭を引っ叩かれた、顔を上げるとそこにはアイスを咥えながら若干苛ついている鳥命がそこにいた。迎えに来るなんて話は一切聞いていなかったので完全な不意打ち、というか約束もしていないのに遅いというのも理不尽。

 

「というかなんで兄さんが迎えに……一番そんなタイプじゃないくせに……」

「暇だっただけだ」

「あっそ……えっと焦凍、俺の兄さんでヒーロー・アンクだよ」

「お前か、俺の手ほどきを受けたいっていう奴は」

「っ……はい」

 

アイスを咥えながらだが酷く鋭利で冷たい眼光に一瞬呼吸を忘れそうになる。蛇に睨まれた蛙どころではない感覚を味わった焦凍、ジロジロと全身を一頻り見終えると鼻を鳴らしながら食べ終わったアイスの棒をゴミ箱へと投げ捨てる。

 

「悪くはないな、行くぞ」

「なんか悪い、兄さんが……」

「いや、あいつよりよっぽどいい」

 

一先ずは事務所に行かなければならないと車に乗り込む、そして15分ほど走らせると検問所のような物が見えて来た。そこへと向かうと鳥命は身分証を取り出して確認させるとゲートが開けられてその奥の広大な敷地へと入れるようになった。雄英にも負けず劣らずの広い敷地、その奥にある建物こそがビーストヒーロー事務所。

 

「此処が事務所の敷地……なのか」

「事務所の敷地というよりかは獣王一族の敷地だ、此処は事務所以外にも様々な物を兼ねてる」

 

車を止めながらも告げる鳥命。確かにここに事務所がある、が正確に言えば事務所がある敷地でしかない。他にも様々な物が存在している、というよりも此処で個性に関する事が成されていると言ってもいい。

 

「俺も個性の練習の為に此処には沢山来てたからね」

「そうなのか」

「ああ。動物関係の個性となると規模が大きくなりやすいんだよ、うちの一族なんてそれが特に顕著だよ」

 

改めて言われた焦凍は納得する。動物によってそれぞれ活躍しやすい場、鍛錬しやすい場、動き易い場が存在する。空、陸、水、簡単に分けても三つだが特性によっては更に分岐する。それに合わせた施設もあるので兎に角敷地は広く、その広いスペースを活用した環境が整備されている。

 

「そして同時に此処なら様々な環境に対する備えも出来る、焦凍的にはこれはプラスでしょ」

「確かにな……」

「その気があるのは良い事だが、先ずは事務所の連中への挨拶だ」

 

連れられて入った事務所の中では事務員や所属しているヒーロー達が慌ただしく動いている、連絡を受けて出動するヒーローや事件を解決して報告の為に戻ってきたなど様々。それを目の当たりにした焦凍は改めてみるヒーローの忙しさを興味深そうに見ている。

 

「思った以上に人がいるんだな」

「基本的に中核は獣王一族だけどね、流石にサイドキックとかは違うよ。何人ぐらいいるんだっけ」

「知らん」

「でしょうね、兄さんならそうだよね」

 

そんな風に呆れていると翔纏は唐突に背後から抱き着かれた。何事かと思ったが焦るほどでもなかった、何故ならば―――

 

「いらっしゃい翔ちゃん~♪」

 

この事務所にいる人達とは顔見知りどころか家族なのだから。

 

「あらっ焦凍君もいらっしゃい、っていけないわね、ヒーローネームで呼ばないといけないのよね」

「俺はオーズ」

「俺はショートです、まだ決めてませんから」

「了解したわそれじゃあ早速―――職場体験と参りましょうか!!」

 

いよいよ開始される事となる職場体験、これから一体どんな事が待っているのか。不安と期待が入り乱れる中で―――一つの影が動こうとしていた。

 

『君の欲望を加速させる事としましょう―――良き終末を迎える為に』



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焦凍の成長欲。

「セイヤァッ!!」

「ハァッ!!」

 

ビーストヒーロー事務所管轄、個性修練場。唯々広く単純な戦闘を行うための広大な敷地で激突しあっているのはタトバコンボのオーズとショート、雄英でも行っていた個性の限界突破修練をプロヒーローの管轄下で行っている。

 

「翔纏突っ込みが甘いぞ!!」

「簡単に言うなよなぁ!!」

「おいショートお前はお前で炎の扱いが雑だ、氷と炎は別もんだ。同じイメージで扱おうとすんな」

「くっ……はいっ!!」

 

職場体験という割にはプロヒーローに見て貰っているように見えるが、事務所ではプロヒーロー同士の鍛錬も職務の内。なのでアンクが二人の修練を見る事自体は全く問題はない、そもそもがこの為に来ているのだからやらなければ意味なんてなくなってしまう。

 

「ハァッ!!」

「喰らえっ!!」

 

地面へと突き立てられた両腕、すると地面から無数の氷柱と火柱が噴き出しながら跳躍した翔纏へと襲い掛かっていく。それは真っ直ぐと翔纏へと向かって行く―――がその途中でそれぞれの柱が激突すると水蒸気爆発が引き起こされた。低温と高温の激突によって巻き起こったそれは翔纏に襲いかかり、地面へと叩き落とした。そこへ焦凍は地面を滑りながら飛び込んでいく。

 

「せぇぇぇいっっ!!」

「グッ!!」

 

地面を凍らせながらその上を滑って加速し、その勢いを使いながら全体重を乗せた膝蹴りを翔纏へと叩きこむ。咄嗟に組まれた腕に防がれるが、防御されなければまともにその一撃と氷結によって大ダメージは必須だった。凍て付き始めた腕を大きく開きながら接近してきた焦凍を腕の力だけで投げ飛ばして体勢を立て直す。

 

「おい翔纏、お前も何時までも負担の軽いタトバに甘えてんじゃねぇ。他のコンボ使ってどんどん慣れてけ」

「分かってるよっ……!!んじゃ焦凍―――リベンジでもするか!!」

「ああっ今度こそ勝つ!!」

 

そう言いながら翔纏はタトバコンボからタジャドルコンボへとチェンジする。兄の言う事は尤もだし何時までも楽なコンボでは自分の個性が伸びる事はない―――とそれらしい事を考えているが、兄の真意は自分のメダルを使えだろう。いや、他の兄姉弟がいたら確実に自分のコンボを使えと叫ぶだろう。なので此処はこの場にいる兄のメダルにしておく事にする。

 

「さあ雄英体育祭の再現だ!!」

「今度は俺が勝つ!!」

「やってみやがれ!!」

 

 

「美味いなこの蕎麦」

「ああっ本当に美味い」

 

激闘をし続けていた二人も昼食時になれば戦いの手を休めて食事に勤しむ。事務所の食堂で共に食事を取っている、今回は焦凍の好みに合わせて蕎麦にしている。蕎麦好きの焦凍からしても味が良いのか絶賛している。

 

「本当に美味いな。家でも冬美姉さんがよく二八蕎麦*1打ってくれるけどそれより断然美味い。姉さんの蕎麦が不味いと言ってる訳じゃないが」

「分かってるよ、此処の蕎麦はウチのと同じだった筈だ。二八蕎麦じゃない筈だ、確か母さんが見つけた独自配合」

「そうなのか」

「このそばの味を知ってから、そばアレルギーじゃなくて良かったと心から思ってるよ」

「だな」

 

年末年始は基本的にこの蕎麦で年を越す、凄い時には一族総出で蕎麦の大食い大会になってとんでもない騒ぎになる。余りにも凄すぎて自分がガタキリバに変身して手伝いをしようかと思う程に壮絶な年越しになった事もあった。因みにその時は全力で止められた。

 

「しかし、お前の兄さんの指導は結構キツいな」

「まあねっ……遠慮とかしないでズバズバ言うタイプだし」

「でもその分指摘は的確だ、それに認める処は確り認めてるしな」

 

口が悪いだけで指導は的確なアンク、そのお陰もあってか焦凍の炎のコントロールは成長の兆しが見え始めている。氷と同じように精密性を上げようとしていたのだが、固体として質量を持つ氷とプラズマである炎は全く感覚が異なる。それを同一のもので制御しようなんて事が間違っているという指摘を受けてより集中した制御を心掛けるようにしている。

 

「一先ず、放射は出来るんだから今度は火球にして飛ばすのを目標にする?」

「ありだな」

「それじゃあ……炎と氷があるんだから目指すはメドローアだな!!」

「メドローア……なんか必殺技っぽいけど何なんだそれ」

 

如何やら焦凍は余りゲームや漫画は嗜まないタイプなようである意味で炎と氷の究極系とも言えるそれについては全く知らなかった。なので折角なので教えてみると酷く興味深そうに聞き耳を立てながらも両手を強く握りしめていた。

 

「炎と氷を純粋な対消滅エネルギーにして放つ……かなり難しそうだが、目指す価値はあるな」

「というかある意味、体育祭で激突した時のあれがそうだよね」

 

焦凍が必殺技として検討している氷炎一体の必殺技、名前はタジャドルのプロミネンスドロップに肖ってアブソリュートドロップにしたとの事。それ自体も絶対零度の右足と絶対熱の左足の同時攻撃、これも一種のメドローアに近い性質と言えるかもしれない。

 

「まずはそっちを煮詰めてみる?飛ばすのは難易度高いだろうし」

「ああ、出来る事を一つ一つこなすのが先だな」

 

―――随分と面白そうな話をしているな。

 

後ろを見てみるとそこには一人の男が此方を好奇の目で見つめていた、緑色の服を着こなした茶髪の男に焦凍は誰だと思うが翔纏は若干嫌な顔をした。

 

「ゲッ……閃兄……」

「よぉっ翔纏、俺のコンボのお陰で体育祭には勝てたらしいな、感謝しろよ」

 

そこに立つのは翔纏の兄であるインセクトビースト・ヒーロー・ウヴァ。昆虫の個性を持っており、アンクが炎を操るならばウヴァは電撃攻撃を得意としている。そしてアンクがタジャドルを自分のコンボというように、彼もガタキリバを自身のコンボと呼んで誇りにしている。

 

「いやまあそうだろうけどさ……前から言ってるけど俺のコンボとみんなの個性は大分違うから」

「ンな事は関係ない。重要なのはお前が、俺達兄弟の個性を使っているような事だからな。あいつらも同じ事を言うぞ」

「でしょうね……容易に想像出来るよ」

 

そんなやり取りをしている二人を見つつ焦凍は此方を見た閃蟲に頭を下げる。

 

「お前か……翔纏のダチっていうのは。フンッあいつと同じ炎って言うのは気に喰わんが……まあいいだろう、お前はお前であいつとは別だ」

「ハァッ……」

「ああ、閃兄は鳥命兄さんと仲が良くないんだよ。お互い敵視してるっていうかなんて言うか……」

「ああ成程」

 

閃蟲の言うあいつとは紛れもなく鳥命の事、折り合いが悪く基本的に喧嘩をする。そして互いに自分の方が強いという意見を絶対に曲げない上に、自分がどちらのコンボを大切にしているかでも競い合っている。

 

「翔纏、お前はもっとガタキリバを使え。一々分身などせんでも戦力にはなるだろう」

「いやまあそうだけど使うなら使うでフルスペックで使いたいじゃん」

「だからお前は半人前なんだ、使える物は適切な状況と力で使うのが当然だ。お前は一般道で高速道路並で爆走する馬鹿か、合わせれば良いんだよ」

 

そんな事を言い残してその場を去っていく。口は悪いが兄として弟を確りと気にしているいい人だと焦凍は思うのであった。

 

「ああそうだ、猫殖が帰って来てる。重踏と一緒に相手してやれ」

「分かったよ」

「誰の事だ?」

「俺の弟だよ、今度紹介する」

*1
小麦粉を2、そば粉を8の割合で作る蕎麦




皆大好きウヴァさん登場。やっぱり名前が一番苦労する。

後、他のご家族も近々登場。名前から察せれると思うけど、弟さんです。


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予想外の欲求。

「保須行きが決まったぞ、俺とウヴァ、メズールが同伴する。本当なら俺一人で十分だが……」

「そりゃまた……随分な戦力を向けるんだね。大袈裟すぎる気もするけど」

 

食事を取っている最中にデザートのアイスを頬張りながらアンクとして立っている兄がそう告げる、焦凍がこの事務所に来る条件でもあるエンデヴァー事務所とのチームアップ、それを果たす為に保須入りをする日取りが決定した。自分達は保須入りするプロヒーローについていく事になるのだが……そのメンバーはアンク、ウヴァ、メズールの3名。かなりの大戦力に翔纏は驚かずにはいられない。

 

「でもどうして三人?」

「単純な話だ、ヒーロー殺しを確実に捕る為だ」

 

他の者は出張などで既に空けてしまっている、今動けるプロヒーローの中で実力が高いのは単純にこの三人になり、それを差し向けるにも理由が存在する。保須市で今多くのヒーローの関心を集めるその根源……それがヒーロー殺し、ヴィランネーム・ステイン。これまでに17人を殺害、23人を再起不能に追い込んでいる凶悪ヴィラン。

 

「チャンスがあれば確実に仕留める、その為には相応の戦力がいる」

「まあ確かに……ある意味適任かも」

 

最大戦力の三人を纏めて投入するのもかなり思い切っている、この場合逆に翔纏と焦凍が邪魔になりそうな気もするのだがこの二人の場合は能力がサイドキックを上回っているので問題はない。というよりもステインを狩るというよりもステインから確実に守る為に出張ると言った方が正しいのかもしれない。

 

「……」

「焦凍今から気張るなって」

「……分かってる、悪い」

 

ついつい力を込めて手を握り込んでしまっている焦凍、保須市に入ればそこではエンデヴァー事務所とのチームアップがまっている。それだけが焦凍にとっては嫌な出来事だったが、ビーストヒーロー事務所での日々の代償という事ならば飲み込んでやると我慢するつもり。

 

「こう思ったら如何よ、自分は此処まで強くなったって」

「そりゃアリだな。お前はエンデヴァーが気に居られねぇ、だったらそのエンデヴァーを自分の積んだ努力で否定してやれ。やりてぇようにやっちまうのが一番だ」

「―――それ良いな、天才か」

 

二人の意見を聞いて前向きに思考を切り替える。確かにエンデヴァーと顔を合わせる事になってチームアップに託けて自分の鍛錬をしようと思ったりするのではという予想は出来る、ならばそれを裏切ってやればいいだけの事。自分のやりたいようにやるのが一番、そうだと思いながらも保須市入りへの気持ちを固めていく。そして―――遂にビーストヒーロー事務所は保須市入りを果たした。

 

「待っていたぞ、焦凍」

 

合流場所のビルの一室、そこに待機していた№2ヒーローのエンデヴァー。彼の事務所からは彼だけ、他のサイドキックなどはついてこれないと判断したのか単身で乗り込んできた。だが矢張りというべきかその瞳は焦凍のみ見つめていて此方は一切気にされていない。

 

「俺の事務所ではない場所に行くとはな……そいつに誑かされおって」

『あ"ぁ″っ?』

「「あっやべっ」」

 

思わず翔纏と焦凍は二人揃って避難した、猛と幻については目の当たりにしているので理解しているが……まさか一族全体がそうなっている事を忘れていたのかもしれない。翔纏への言葉の刃に敏感に反応した三人は個性を発動させてヒーローとして活動する際の姿へと変貌した。

 

「おいっ口の利き方に気を付けろ」

「今此処で殺されるか」

「私達の前でそういう事を言うって事は―――そういう事よ」

 

その姿はどれも翔纏が見せたコンボと共通していた、それらこそがアンク、ウヴァ、メズールとしての真の姿とも言える。各部にそれぞれが宿す動物の特徴を現しその力を行使する。状況によって更に多くの動物を組み合わせる事で力を引き出す―――それが獣王一族のビーストヒーロー最大の特徴。

 

「兄さんたち落ち着いて、喧嘩に来た訳じゃないでしょ」

「邪魔するな、これは喧嘩じゃねぇ」

「そうだチームアップするに相応しいかどうかの査定をしたいだけだ……!!」

「ええそうよ……実力も人格も相応しくも無い奴と組む気なんてサラサラ無いわ……!!」

 

「いい加減にしないと獣王一族全員から総攻撃受けるぞ、皆翔纏の事を大切に思ってるんだからな」

「……らしいな、これは流石に予想外だが……済まなかったな翔纏君」

「いえ大丈夫です」

 

必死に兄と姉を食い止めている翔纏、そんな姿を見たエンデヴァーは胸の内にあった怒りよりも先に思った以上に苦労している事に気付いて素直に謝罪した。三人は謝罪が成されたので一先ず怒りを収める事にした。

 

「一先ずチームアップの理由は唯一つ、ヒーロー殺しの確保だ」

 

落ち着いたところで真剣な方向に話を持っていく事にした。一番の目的は矢張りヒーロー殺しの確保だが、保須市の安全の確保もヒーローとしては見逃す事が出来ない事柄でもある。特にここ最近は保須市に不安が充満するようになっており、些細なトラブルが絶えないようになってきている。

 

「その回復もヒーローの役目か……」

「そう言う事。ただヴィランを倒すだけじゃなくてそこに居る人達に安心感を与えるのも役目」

 

何処か艶めかしい手付きで頭を撫でてくる姉、人々の心の隙間を狙うヴィランが居るのであればヴィランを確保するのではなく、根本的な人々の心の隙間を埋めるのもヒーローとしての仕事の内。がっそんな時にエンデヴァーが語りかけた。

 

「ならば翔纏君、先ずはこのエンデヴァーと来い。№2の在り方を目に焼き付けるがいい」

「―――何っ」

 

思わず、焦凍も声を上げてしまった。てっきり自分に着いて来いと言って来ると思っていたがまさかの翔纏へと狙いが定められていた。一体何のつもりなのか……それに反発する兄達よりも先に翔纏は了承した。

 

「分かりました。それと俺のヒーローネームはオーズです」

「そうか。ならばオーズ、貴様がその名に相応しいかどうかをこのエンデヴァーが見極めてやる。エンデヴァーの名のもとに個性使用を許可する、俺と並んでみせろ」

「―――望む所」




―――ああっドクター、準備は良いかな?

『些か時間が掛かりましたが……完成はしました。不安定ではありますがね』

―――十分だ、さあ欲望を加速させよう。君が望む先へと導く為に。

『この飽和しきった世界を、究極へと導く為に―――獣王 翔纏、良き終末を』


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獄炎の欲望。

スキャニングチャージ!

 

「セイヤァァァァァッッッッ!!!」

 

発動されたスキャニングチャージ、それによって解放された能力をフル活用しながら跳び上がる。同時に展開されていくタトバコンボに使われているメダルに呼応する色のリング。それを潜り抜けながらも紅い光の翼を広げ加速、そして三つのリングを潜り抜けた先にいるヴィランへと全エネルギーを収束させた一撃、タトバキックを炸裂させた。

 

「グボバァッ!!」

 

痛烈な一打、それがヴィランネーム・ダーブリュを吹き飛ばした。空へと舞ったパンパンに詰まったバッグ、それは着地しながらもキャッチする。地面を抉るように吹き飛ばされてしまったダーブリュは意識を喪失したのか白目になって動かなくなった所を、地獄の炎を纏うエンデヴァーは確保する。

 

「確保した、よくやった―――オーズ」

「いえっこの位楽勝です」

 

保須市は今不安定になっている。その原因こそがヒーロー殺し・ステインなのだがその余波は他のヴィランの活性化にも繋がってしまっている。その対処を行ったのはパトロール中のエンデヴァーとその付き添いであったオーズこと、翔纏であった。エンデヴァーから常時個性発動許可を与えられてほぼサイドキックとしての扱いを受けている翔纏はエンデヴァーの炎を物ともせずに銀行強盗を行ったヴィランの確保の決定打を担った。

 

「オーズ、お前の動きは悪くはない。だがあの最後の必殺技……あれは不可欠か」

「残念ながら、出来なくも無いんですがそうすると個性が一気に不安定になってバランスを崩しちゃいますから」

「そうか。ならば致し方ないか」

 

ヴィランを警察に引き渡しパトロールを続行する。矢張りエンデヴァーは№2ヒーローとして名が轟いている、周囲から声が聞こえてくるがその威圧感からかサインを求めようと言う人もいない。それはオーズとなっている翔纏にも言えている、それについては翔纏はラッキー程度に思っている。

 

「オーズ今度はバイク強盗だ!!貴様が追い掛けろ!!」

「はいっ!!」

 

キンッ!

キンッ!

キンッ!

 

タカ!

トラ!

チーター!

 

「あっ兄貴なんか追いかけてきますぅ!!!」

「待てぇぇぇぇっっ!!!」

 

素早くチーターメダルへとチェンジして100キロを超えるバイクを追走していくオーズをエンデヴァーは見つめながらも、自分も別ルートで追い込みをかける。その最中にある事を考える。

 

「この位……楽勝か」

 

先程のヴィラン、タトバキックで仕留めたヴィランの個性はタングステン。金属としては最高レベルの耐熱性能を誇る個性、例えエンデヴァーの炎だろうがお構いなしに活動を可能とする個性。奪った現金の事も考えて炎は使わずにいた時にオーズに任せてみた。そしてオーズは―――

 

『セイヤァァァァァッッッッ!!!!』

 

そのタングステンの防御を破って撃破した。それだけの威力を見せ付けるオーズのタトバコンボ、それはコンボの中では一番弱い部類に入ると聞いた。その分負担が少ない上にバランスも良く使い勝手が良いと言われたがそれでも十分な力を発揮していた。

 

 

―――翔ちゃんが無個性なら良かったって何度も思ったわ。

 

―――褒めるべきは個性なんかじゃねぇんだよ。

 

 

「あれほどの個性をっ無い方が良かっただと……!?あり得ん、ふざけた事を抜かすな……あれこそ、俺が望む最高の個性の終着点の一つだ……!!」

 

唯々オールマイトを超える事だけを考えて鍛錬を続け、策を講じ、実践しその身に技術を蓄積し磨き続けて来た。だがそれでも足りない、自分の個性ではどうしても№1の頂を掴む事が出来ない、オールマイトを超える事が出来ない……。だからこそ望んだのだ、新たな可能性を、自分を超える個性を……!!

 

「捕まえました!!」

「手早いな」

「速さには自信ありますから!!ああでも道路すいませんでした……」

「大丈夫だよこの位」

 

強盗をしたヴィランを確保していたオーズの姿はまた変わっていた。腕の部分がウナギメダルへと変わっていてその鞭で確保した事が伺える。そして恐らくチーターレッグのスピードを殺す為にトラクローでブレーキングしたであろう道路に付いた跡を警察官に謝罪していた。警官からは直ぐに元に戻るから気にしないでと言われてホッと胸を撫で下ろした。

 

「凄まじいな、その個性」

「有難う御座います」

 

オーズはエンデヴァーと共に居ながら正直意外だと思った事が多かった、焦凍からの話の影響もあるだろうがイメージに反して指示は的確且つ判断も素早い。認めるべきモノは認める、それは自分にも適応されている。正直言って№2のヒーロー活動に同伴出来ている事はかなり自分の為になる。

 

「行くぞ次だ」

「はいっ!」

 

エンデヴァーのヒーロー方針は救助、撃退、避難というヒーローに求められる基本的な三項全てをこなす。活動する街を知り尽くし異音(ノイズ)を聞き逃さず、誰よりも速く駆けつけ、被害の拡大を防ぐ為に市民(やじ)を炎で遠ざける。それにオーズは既に適応していた。

 

「チィッ!!奴の個性に俺では水蒸気爆発を起こすか……オーズっ仕留めろ!!」

「はいっ!!」

 

スキャニングチャージ!

 

「セイッヤァァァァ!!!」

 

「(……素晴らしい個性だ)」

 

オーズの活躍を見る度にそう思う、エンデヴァーは基本的に個性を活用する事で高速移動を行っている。炎の推進力にて一時的に空を飛び滞空も可能とするが―――オーズはそれに追いつくどころか上回る速度を見せた事もある。先程のバイク強盗が良い証拠でもある、そして沸き上がる欲望―――この少年を、この個性を物にしなければいけない。

 

「確保ぉっ!!」

「よくやった、時間も良い頃か……飯にするか」

「あっもうお昼だったんですね」

「保須にはいい店がある、そこで奢ってやろう」

「いや財布ありますよ俺」

「年長者の言う事には従え」

 

最初こそ自分の焦凍を誑かした存在として見ていたが、矢張りこの少年は取り込むべきだと強く思う。以前、冬美から彼が遊びに来た時の話を聞いたが……娘も気に入っている節がある、ならば―――実る可能性はあるという物。

 

「ああっそうだ……それが今の俺の欲望、という奴だ……!!」

 

翔纏は欲望を大いに肯定する、ならば今の自分の欲望はどうだろうか。それが実るかどうかは自分次第だろうが……何、難しい物ではないと思いつつもエンデヴァーは遠くない未来、自分の血族にあの無数の動物の個性が刻まれる事を想像して口角を持ち上げるのであった。

 

 

「あの欲望には反応しませんね―――矢張り彼しかありえない」



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欲望の利用。

「翔纏、如何だった」

「素直に疲れた」

「今の状況がか」

「エンデヴァーについていくのがだよ」

 

エンデヴァーの同伴者という立場……ではなく完全にサイドキックとして扱われ続けていた翔纏。その日一日はずっとヴィラン相手に戦い続けていたので流石に疲れてしまっていた。仮免すらない身なのに此処まで暴れて良いのかと思ったが、エンデヴァーが個性使用許可を出している事と結果を出してしまっているので全く問題になっていないらしい。あると言えば……

 

「大変だったわねっ今日はお姉ちゃんが守るからね♪」

「あんのクソ野郎……職場体験の意味知らねぇだろう……!!」

「下卑た目で翔纏を見やがって……!!」

「ああうん有難う」

 

エンデヴァーによって一日中酷使された事によって焦凍を連れてパトロールをしていた姉と兄達に囲まれている事ぐらいだろうか……翔纏としては最高峰のヒーローの活動を見られたどころか隣に並び立てた事は十二分糧になったのだが……家族はそう思っていない模様。

 

「んで焦凍の方は?」

「俺の方はボチボチだった。ヴィランの活動もあったがアンクさん達が対処してた、良い参考になった」

 

焦凍の方は目的であったアンクの炎の扱い方を見る事が出来て満足気。加速術、炎を扱った格闘や放射などなど……既に多くのインスピレーションを受けておりその鍛錬も考えていて翔纏に手伝ってほしい事だらけだと語る顔は明るい。

 

「それで翔纏の方はヒーロー殺しの痕跡は見つけた?」

「いいや……探してはいたけど全然。それよりも他のヴィランばっかり」

「こっちも似たような状況よ、隠れ方が上手いのか……それとも」

「「「誰かが匿っている」」」

 

アンク、ウヴァ、メズールの声が重なる。全く同一の意見に二人は目を丸くしつつも此処まで捜索しているのに見つからないとなるとその線を模索するべきなのかとも思い始めてしまう。

 

「匿うって……誰がそんな事を」

「ヒーロー殺しは名前ではそうだけど、ヴィランも襲ってる。ヴィランがそいつを囲むとは思えない」

「正解よ二人とも、だったら匿う事で利が生まれる個人または集団を考えましょう」

 

ヒーロー殺し、ヒーローを殺す事を目的とし副次的にヴィランをも襲う凶悪犯。それを匿う事で利が生まれる人間……そんなのが居るのだろうか。

 

「いるとしたらヒーローもヴィランも嫌いな奴か?でもそれって……」

「いるのかなぁ……いないとも言えないけどそれだったらヒーロー殺しだってターゲティングされそうだし……」

「「う~ん……」」

 

考えてみるが二人は簡単に煮詰まって纏まらない、だが筋は悪くはない。もう少し思考を増やす事が出来ればいい。

 

「ヒーロー殺しの活動自体が利、じゃなくてそれを利用しているっていうのは如何かしら」

「利用……ってそれってつまりヴィラン?」

「ヒーロー殺しが目的じゃなくて……それを利用する……何かを企ててステインはその起爆剤……?」

 

結局の所そこまでしか分からない、ヒーロー殺しの根本的な欲望が明らかにならなければ分からない事柄だろう。だが何者かが利用している事は明白だろうと兄達は断言して見せた。それを止める為にも一刻も早い確保が望ましい事も明言された。

 

「焦凍っお前は俺とだ、お前にヒーローという物を見せてやる」

「如何でもいいからお前の炎の技術だけ見せろ、お前のヒーローの姿は如何でも良い」

「っ―――!!おい貴様ら焦凍に何を吹き込んだ」

「「「何も」」」

「(2回言っちゃった、重要な事だから……)」

 

今まで以上にド辛辣になってきている息子に思わず先日同行していた3人に目を向ける。実際の所其方は何もしてない、何方かと言えば影響を与えたのは翔纏自身なので物を言うべきは其方。

 

「そうだ、おい翔纏此奴を渡しとく」

 

アンクから渡されたのは何やら細長い箱、ご丁寧にリボンが巻かれておりそこにはメッセージカードも挟まっていた。

 

「なんか多いな、プレゼント」

「まあこんな事をする人は―――」

 

『ハッピバァァァァスディ!!翔纏君、これはオーズという一人のヒーローの誕生を祝うプレゼントだ!!』

 

「まあ会長しかないよね」

 

予想のど真ん中を貫くようなメッセージに若干呆れている翔纏、会長からのプレゼントを開けてみる。そこに入っていたのは―――メカニカルな外観をした片刃の大型剣。刀身の中腹には何やらメダルを入れられるような投入口とスロットが完備されていた。そして箱には灰色のメダルも一緒に入っていた。

 

「このメダルって何だ、初めて見るな……」

「あっセルメダル……そう言えばライドベンダー以外で全然使ってなかったな」

 

セルメダル、それは翔纏専用のサポートアイテムとも言える存在。翔纏の個性が発生させるエネルギーを解析し物質化したメダル。ライドベンダーもこのセルメダルを燃料としており、翔纏にとってはある種必要不可欠なメダルである。

 

「えっと……この剣、メダジャリバーにセルメダルを入れて使いたまえ。そうすればきっと君は君の欲望が生み出すエネルギーに感動し更なる欲望を持つ事になるだろう……ハッピバァァァァスディ!!!か、メダジャリバーって言うんだこれ……カッコいぃ~!!」

 

カマキリソードなども剣に分類できるだろうが、あれは何方かと言えば剣というよりもカマキリの鎌という認識があるのでこうした分かりやすく剣というアイテムにはやはり男の子心が擽られてしまうという物なのである。目を輝かせながら構えを取って演舞のような事をする翔纏に周囲は暖かい視線を作る。

 

「フッセイヤァッ!!このメダジャリバーに切れぬ物など……多分ない!!」

「そこは自信持って言えよ」

「だってまだ使い心地分からないんだもんっ~!!」

 

と漏らす翔纏だが、この後―――それを無理矢理にでも確かめる事になってしまった。

 

「なっなんだぁっ!!?」

「キィアアアアアアア!!!」

 

それは突然に出現した。ビルの一角を崩しながらも出現した理不尽は無差別に暴れ回りながらも丁度その場にいたオーズへと襲いかかった。咄嗟にメダジャリバーで応戦するが―――それを見た時、思わず翔纏の思考は停止した。

 

「こいつっまさかっ……USJの時の同類!!?」

 

襲いかかってきた存在は脳が剥き出しとなりながらも人語を返さずに迫り続ける。兎も角翔纏は戦うしかない、目の前の脅威を。

 

 

 

「君しかありえませんね。では……この欲望は君に差し上げます。さあ行きなさい、終末を導く者の下へ」

 

そして、背後に潜む脅威が、翔纏へと迫り何かを行う。



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驚異の欲望

保須市に突如として出現したヴィラン、それはUSJを襲撃したヴィランの集団の切り札とされていた脳無と酷似していていた。頭部から脳が露出しているそれは紛れもない、そしてそれは対応しているプロヒーローをいとも容易く蹴散らすと此方へと迫ってきた。

 

「うおわぁっ!!?くそっ!!」

 

咄嗟にメダジャリバーで防御するがその腕その物が巨大な刃となっており此方を切り裂かんと迫ってくる。

 

「こいつっなんてパワーなんだ……!!」

「翔纏ックソッこっちにも来やがった!!」

「邪魔しないでっ!!何よ此奴痛みを感じないわけ!?」

「口より手を動かせ!!」

 

翔纏へと襲い掛かったきた脳無、それだけではない。他にも多くの脳無が街の中に出現しており、その一部がアンクたちへも襲いかかってきてその対処に追われている。しかも中々に手強く素早く倒すというには無理がある、そこでアンクは指示を飛ばす。

 

「オーズ!!個性使用を俺が許可する、そいつはお前がブッ倒せ!!」

「っ―――!!了解ぃ!!」

 

エンデヴァーからは出されていたが、家族からは出されていなかった個性の使用許可と戦闘許可に翔纏は笑みを浮かべながらもメダジャリバーを強く握りしめ押し潰そうとする刃を怪力で応え返す。

 

「ふんにゅぅぅぅぅぅぅぅっっ!!」

 

オーズとなっている今ならば発揮できる力がある、それをフル活用して刃を持ち上げると全力で剣を振り抜いてそれを弾き飛ばすとその勢いのまま片足でジャンプしながらソバットを脳無の腹部へと喰らわせて吹き飛ばす―――が、背中から何かが飛び出した。それはビルへと命中する、そして其処へと脳無が迫ると―――一気に弾かれるように脳無が再接近してきた。

 

「何っ!?うおおおっ!!?」

 

再度、刃を受け止めるが今のは何だと思考を巡らせる。何かを放った、それで迫ってきた。だが空気でも炎による推進力でもない、何か別の何か。ならば何がそれを可能にする。

 

「キュァァァァ!!」

 

今度は脳無が何かを吐き出して自分に浴びせ掛けて来た、それは透明の何か。何かと思ったが直後差し向けられた刃―――が、直後に今度は自分が吹き飛ばされた。

 

「こ、今度は俺!?ってうわうわうわうわぁっ!!?」

 

刃に弾かれたと思ったら今度は真後ろから凄まじい力で弾かれた、背中をトレーラーに撥ねられたかのような凄まじい力が襲いかかる中で今度は脳無へと向かっていく中で刃が巨大な腕へと変形して殴り付けられた。それと同時に感じた反発、それが威力を増幅させる。そして再び弾けて脳無へと向かって行く、その時に翔纏はビルを見た。そこには―――何やら紋章のような物がありそれが赤く発光していた。

 

「そうか、これって斥力か!!」

 

この脳無には斥力を発生させる力がある、そしてそれは自分と自分が攻撃した物に発生させる事が出来る。つまり此奴がやっているのは斥力によるループコンボ、だったらそれを利用するだけ……と殴られた際に強引に体勢を変え、紋章による斥力を利用して頭から突撃する。そして放たれたパンチをメダジャリバーの峰で二の腕を殴り付けて反らす事で紋章嵌めを回避しつつも着地するとバッタレッグに力を込めて脳無を紋章へと蹴り飛ばす。

 

「今度はお前が味わえ!!」

「キュエエエッ!!」

 

だが脳無もそう甘くはない、即座にそれを理解すると能力を解除して紋章を無力化して逆にビルをあらん限りの力で蹴って迫ってくる―――が元々紋章嵌めを利用する事を考えていたので対処は容易く跳び回し蹴りを脳無の顎へと決めながら地面へと叩きつける。地面へと突き刺さっている脳無、だがまだもがいている。

 

「USJの時と同じか……あっそうだ、セルメダルを入れるんだっけ」

 

メダジャリバーを構え直した時、剣のスロットが見えた。メッセージにあったメダルを入れろと言う言葉を思い出し、セルメダルをそのスロットへと入れてみると刀身部分にセルメダルが入って剣全体にセルメダルのエネルギーが循環していく。そして並んだ三枚のメダルを見て連想するドライバーのメダル―――という事は

 

「会長なら多分―――!!」

トリプル!スキャニングチャージ!!

「シャァッ行けたぁ!!」

 

ダメ元でオースキャナーでメダルをスキャンしてみると思った通りに作動した。剣全体がセルメダルの力を100%に引き出していく、同時にメダルが消え失せていきながらもそれら全てが刀身へと宿っていく。同時に身体を引き抜いた脳無が飛び掛かってくる。

 

「来いッ!!」

「キュアアアアアアア!!!」

「セイヤァァァァァッッッッ!!!」

 

渾身の力で振るわれるメダジャリバー、それは剣を初めて本格的に使う翔纏が目測を見誤って早く剣を振るってしまったのに脳無の身体を切り裂いた。いやそれ所かセルメダルの力を得て放たれた一撃は脳無の背後に入った背景とも言うべきビルをも切り裂いた。切り裂かれたビルは真横にズレていく―――まるで逆再生のようにビルは修復されていき脳無のみを斬った。

 

「っ―――なんだ、今の威力……!?」

 

真横に倒れこんだ脳無、胸部には深々と残った傷だけが残っている。確かにこの脳無も切り裂かれた筈だが―――直接斬り付けなかったからか、それとも……この脳無にも再生を可能とする個性があるのか……それでももう動かなくなっている。それに安心したいがそれよりもメダジャリバーが発揮した威力に驚きしか生まれなかった。

 

「今の、俺の個性の力なんだ、よな……!?」

 

セルメダルは翔纏の個性から生まれるエネルギーを物質化したもの。ならば自分の個性はこんな力まで発揮するのか、と思わずメダジャリバーを見つめると会長の言葉がフラッシュバックする。

 

 

―――君の身体に刻まれているのは生命の記憶、生命が持つ欲望という進化の力、君の中に渦巻く欲望は凄まじい。だからこそ気を付けたまえ、欲望が君を喰らうのか君が欲望を喰らうのかの勝負だという事をね

 

 

「これが俺の欲望の力……」

 

突きつけられたのは自らの身を滅ぼすだけの力を秘めている個性の実態、それはただ凄まじい個性というだけではない。その個性が発するエネルギーはこれだけの事をやってのけるのと同意義だった。本当にこんな力を自分に扱い切れるのかと不安を覚えた時、何かが自分の周りに飛来してきた。

 

「な、なんだこれっ!?ひぃっ!!?」

 

飛んできたそれに対応しようとするが、それは胸へと飛び込んでくる。そしてそれはまるで溶けるように自分の身体の中へと入っていった。ギョッとするが連続してそれが入ってきた。合計5つの白い光が身体の中へと入ってきた。

 

「おっ俺の中になんか入ったぁ!!?」

 

慌てて胸を掘り返そうと掻くがどうしようもない、完全に入ってしまったらしい。結局それが何だったのかを知る事も出来ずにいたが身体にも異変はない、困惑の中で何かの天啓を得たような顔をして納得する。

 

「まさか会長……!?あり得るというか絶対に会長だろ今の」

 

会長こと鴻上 光生の事は尊敬しているが、良くも悪くもトラブルメーカーな一面もあって様々な厄介事の火種にもなっている。会長の欲望基準でのサポートアイテム及びコスチューム製作もその一端である。それを知っている翔纏としては先程の光はメダルのような物が見えたのでほぼ間違いなく会長だろという答えが出てしまった。後で聞いてみようと思ったその時に携帯に連絡が入る。

 

「緑谷から……位置情報、しかも保須の―――っ救援要請か!!」

 

彼は意味も無くこんな事はしない、しかも位置情報だけを送信している。という事はそれしか出来ないような事態だということ、助けを求めている!!

 

「兄さんっ姉さん!!救援要請が来た!!保須市内!!」

「チィッ!!こっちはまだ時間が掛かるっ行って来いすぐに追いつく!!」

「アンク貴方!!」

「俺たちの弟だぞっ少しは信頼してやれ!!情報はこっちにも回せ!!」

「分かった!!!」

「ウヴァ!!ああもうっしょうがないわね、行ってきなさい!!」

 

兄たちが対応している脳無は自分が戦ったモノより強いらしい、加えて相性の悪い個性を持っているらしい。それでも善戦をしているが純粋に時間が掛かる、なので端末に位置情報を送って自分は急いだ。幸いな事に此処から近く直ぐに助けに行ける、ビルとビルの隙間の死角、誰にも見られない様な狭い路地裏のそこで見たのは―――飯田へと迫り寄っていくヴィラン、そして動けない飯田と緑谷。

 

「セイヤァァァァァッッッッ!!」

「ッ!!!」

 

メダジャリバーを投擲する、空気を切り裂いて進んでいくそれをヴィランは咄嗟に後ろに跳んで回避する。地面に深々と突き刺さった剣、そしてそこへと着地した翔纏を見て手にしていた剣を構えた。

 

「間に合った!?間に合ってるよな!?」

「獣王っ君!?何故此処に……?!」

「決まってるでしょうが!!」

 

倒れこんでいる飯田を庇うようにしながらもサムズアップしながら答える。

 

「ヒーローは助け合いでしょ!」

「良かったっ近くに居てくれたんだ!!気を付けてそいつがヒーロー殺しだ!!」

「大丈夫直ぐに応援も来る、それまではっ―――!!」

 

突き刺さった剣を引き抜きながら構える、目の前にいるヴィランを見る。包帯のようなマスクに赤いマフラー、プロテクターに数本のナイフに日本刀、ヒーロー殺し ステイン。それが目の前のヴィランの正体、だとしても自分のやる事は分かり切っている。

 

「ヒーロー殺しステイン、俺はオーズ!タイマン張らせて貰うぜ!!」

 

胸を叩き拳を突き出して戦う意志を見せるオーズ、それを見たステインは小さく笑いながら刀を構える。



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英雄への欲望。

「タイマン張らせて貰うぜ!!」

 

その言葉の直後にステインは凄まじい勢いで加速しながら斬りかかってきた。メダジャリバーとほぼ同じ長さの日本刀を振りかざして相手を切り裂かんとすると同時に真下からの蹴りを時間差をつけて放つ。日本刀での攻撃に目が取られるかのように時間差をつけたそれを―――オーズは受け切った。

 

「ホゥ……」

 

二択を選択させるような攻撃、斬撃を回避してもその回避の後隙を狙っての蹴りが襲う。防御しても動けなくなった所を蹴りで狙い打つ、そんな狙いはほぼ同時に防御する事を選択したオーズによって阻まれる。斬撃をメダジャリバーで受け止めながらも放った蹴りを脚で押し止めた。

 

「セイヤァッ!!」

 

一気に脚を振り上げて無理矢理に距離を作らせながらもメダジャリバーを振るうが、空中で回転しながらも相手の剣(メダジャリバー)の刀身を踏み台にして跳躍するという神業を見せ付けながらナイフを投擲してくる。回避も考えたが背後にいる飯田の事も考慮して左腕のトラクローを展開してそれを砕く。

 

「ハァッ……判断も早く正確……お前もいいな」

「採点は良いようで何より!!」

 

声を張り上げながらも再度迫ってくるステインにオーズは身体を固くする。その時、頭上へと刀が放り投げられた。それに目がつられるが真正面からナイフが迫る、それをクローで弾くが直後にビルの外壁を蹴って頭上に回り込み、刀を取りながら背中へと斬りかかるステイン。囮の中に本命を隠された、重力に身を任せながら一気に降下し、突き刺そうとするステインに真っ向からメダジャリバーを―――。

 

「SMASH!!!」

「グッ!!」

「緑谷!!」

 

真上からの強襲を救ったのは動けない筈の緑谷だった。全身に光を纏いながらの鋭い一撃がステインの顔を抉る―――がそれを察知したかのように壁を蹴ってダメージを軽減させながらも再度壁キックを繰り返してオーズの正面へと立って、その背後の飯田を狙う。

 

「なんか普通に動けるようになった!!多分、ヒーロー殺しの個性は相手の血を経口摂取する事で発動する個性だ!!摂取した量、血液型、人数で時間が変わるんだと思う!!」

「正解だ……!!」

 

ステインの個性は凝血。血を舐めた相手の動きを最大で8分間奪う。血液型によって効果時間は異なり、O型<A型<AB型<B型の順で拘束できる時間が増えていくらしく、O型である緑谷は飯田や襲われていたヒーローよりも後に血を摂取されたのにも拘らず先に動けている。

 

「ステインっ!!何故お前はヒーローを襲う、何が目的だ!!」

「ハァッ……決まっている、ヒーローをあるべき姿へ戻す!!」

 

同時に飛び出したステイン、振るわれた刃を受け止めるが今までと違って明確な力押しになっていた。だがその力は尋常ではない、これが個性によって増幅されてない人間の筋力かと疑いたくなるほどの怪力。

 

「ヒーローとは称号だ、そうでなくてはならないっ……!!英雄は英雄になろうと思った瞬間に失格、聞いた事はないか……!!」

 

静かに燃ゆる瞳、それでいながらもその奥で輝くどす黒い欲望に翔纏は一瞬戦慄した。初めて目の当たりにする殺人鬼の衝動、欲望に、背筋が凍る。

 

「今のヒーローは腐っている、正さなければならない!!」

「ぐっ!!」

「翔纏君!!」

「ッ―――ざっけんなぁ!!」

 

援護の為に飛び出そうとする緑谷の言葉を遮るかのように翔纏は叫びながらも押される刃を逆に押し返していく。

 

「なろうとして、何が悪い!!憧れて何が悪いんだぁ!?なりたいって思ったが故の努力をっ行動をお前は全て否定するつもりなのか!!?」

「っ―――!!」

 

怪腕が唸る、ステインと真っ向からの斬り結び合い。斬撃の応酬、その中で翔纏は叫ぶ。ヒーローに憧れ、家族に憧れ、全てに憧れていた時の事を思い出しながら。

 

「そんな独善的な正義でヒーローを語るな!ヒーローを穢しているのはお前の方だぁ!!」

「ふざけた事を抜かすなぁっ!!穢しているのは今の世界だ!!」

「じゃあっお前の正義で一体何が正せるって言うんだぁ!!」

 

鍔迫り合い、真っ向勝負となっている状況に周囲が飲まれていた。実力の拮抗などではない、そこにある紛れもない本音のぶつかり合いと溢れる気迫の応酬に飲み込まれていた。

 

「お前が示しているのは―――正義の為なら人は何処までも残酷になれるって言う事だけだぁ!!」

「っ―――黙れ!!何も知らぬモノが俺を語るな!!」

「グゥッ!!」

 

気迫の籠った一閃がメダジャリバーを弾き飛ばしてビルの外壁へと深々と突き刺さってしまった。怒りのままに心臓を抉ろうと迫る刃を握りしめるようにして止める、震える腕に更に力を込めながらも叫んだ。

 

「正義の為なら何をしても良いのかよっ……そこまでヒーローを正したいなら自分が正しいヒーローになって世界を変えればっ良かっただろうがぁ!!」

「―――っ届かぬ、もっと大きく強く届かせる為に血がいるのだ!」

 

渾身の握撃が日本刀の刃を中程から握り砕いた。だがそれでもステインはそれを振るった、それによってオーズの身体を火花を散らしながら切り裂いた。そして僅かに付いた血をステインは舐めようとするが―――目の前で起こったそれに驚愕した。

 

「SMASH!!」

 

緑谷がこの時を待っていたと言わんばかりに飛び出して渾身の援護を繰り出してステインの体勢を崩す。それに応えると言わんばかりに腕を振るうがその時、地面が輝いていた。そこへとオーズが腕を突っ込むとそこから一本の武器が出現した。それは大型の斧、純白の結晶のような刀身が特徴的なそれを強く握り込んだ時、タカヘッドの瞳に光が走った。

 

「セイヤァァァァァ!!!」

 

裂帛の叫びと共に放たれた一撃はステインの刀を粉々に砕いた、いや刀身だけではなく日本刀全体を砕いてしまった。それに目を見開いて驚愕するステインだが、翔纏が叫び。

 

「SMAAAAAASH!!!」

「ッ―――!!レシプロォォエクステンドォォォ!!!」

 

その叫びに呼応するかのように個性による拘束が解かれた飯田が飛び出していく、そして同時に緑谷とのスマッシュと共に自分の最高の一撃がステインへと炸裂した。頭部と腹部へと一撃を受けたステインは外壁へと激突した、その一撃が決定打となったのかステインは意識を失ったのか、動かなくなった。

 

「ハァハァハァ……やったのかな……?」

「おっ恐らく……緑谷君、獣王君本当に済まない……君達を危険にっ……!!」

 

気が緩んだのか、それともステインを倒す事が出来た事による開放感なのかは分からないがそこにあったのは自分達が知っている飯田がそこに居た。そして特に翔纏へと深々と頭を下げた。

 

「獣王君、俺は君がステインに言っていた言葉がっ俺にも染みた……俺はっ兄さんを傷付けたヒーロー殺しが許せない、ヴィランの奴を倒す俺こそがインゲニウムに代わる正義なのだと何処かで思っていた……だが……兄さんはきっと喜ばないと分かった……」

 

仇を討つと息巻いていた飯田、だがそこにあったのは自分の中の正義の暴走に囚われていた自分でしかなかった。そんな自分を兄は決して褒めないし喜ばない、寧ろ自分がインゲニウムの名前を穢す行いをしていたのだと気づかされた。

 

「済まないっ!!!俺がもっと冷静になれていたら……!!」

「家族の事だ、冷静になれないのが普通だよ」

 

それに対して翔纏は笑みで返した、恐らく自分だって兄たちが同じ目に遭っていたら同じ事を考えていた事だろう。情と愛が深ければ深い程に取ってしまう行動に理解が持てる、それは緑谷も同意見。

 

「取り敢えず、ステインを確保しようよ。ってそうだネイティブさん大丈夫ですか!?」

「あ、ああこっちは大丈夫だ……取り敢えずヒーロー殺しの確保を優先してくれ……」

 

その言葉に甘えるように飯田はその辺りのゴミ捨て場からロープを見つけるとステインを縛り上げていく、緑谷はネイティブへの応急処置を行う。翔纏も手伝おうとするのだが―――その前に自分が握り込んでいた武器を見つめていた。

 

「こいつは一体何処から……」

 

メダジャリバーが弾かれてから無意識的に地面から引き抜いた斧、これも自分の個性による物なのかと思いつつも先程の事を思い出す。ステインの武器を粉砕した時の事、刃ではなく武器その物を破壊した一撃。これも自分の個性による物なのだろうか、そうだと思うとメダジャリバーの一件も踏まえて個性に恐怖を覚える。

 

「ちょっと怖いなっ……俺の個性―――」

 

少しだけ自分の個性が嫌に思えてしまった時、斧の刀身が変化した。純白の刃が僅かに紫色が掛かったように見えた―――時に全身から力が抜けていき、意識が混濁して倒れこんでしまった。

 

「なっおい!?そっちの子が大変だぞ!!?」

「しょっ翔纏君如何したの!?しっかりして!!」

「緑谷今っ―――おい翔纏が何で倒れてるんだ!!?何が起きたんだ!!?」

「轟君か!?兎に角獣王君を!!」

 

焦凍が到着した時、翔纏は倒れこんでしまった。そして彼が手を放した時に斧は地面へと消えていった。その時に―――何故か紫色の光に包まれながら消えていった事は誰も認識しなかった……唯一人、腕に人形を乗せながらビデオカメラを向ける男を除いて……。

 

 

「私の予想通り、それが君の選択、欲望―――それが良き終末を導かんことを……」




単純なあのメダルではない……。此処からが本格始動。


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欲望の異変。

聞こえてくる鼓動、感じる熱さ、昇る足音。

 

―――螺旋階段……?

 

暗闇の中、唯只管に足が進んでいく。自分が昇っているのは無限に続くかのような階段。疑問に思いながらも身体は止まらずに昇り続けていく、一歩昇る度に目にするのは様々な命の欲望の数々。

 

―――俺の個性、なのかこれ。

 

映り込んでくる景色、欲望の数々、それらは全て自分の個性の中にある命の記憶。自分はそれらを引き出している、その中に今―――無色の色が混ざり込んでいた。

 

「何だあれ……うわぁっ!?」

 

突然迫りくる無、真っ白な闇が景色を越えて階段を昇り続けていた自分へと迫り始めていた。驚愕しながらもそれから逃れる為に必死に階段を駆け上がっていく。だがそれは迫り続けてくる、そして全てを飲み込むような咆哮を上げて襲いかかろうと―――

 

 

「ッ!!?」

 

大粒の汗を流しながら飛び起きる、荒い息を吐きながら目を覚ます。何が如何したという訳ではない、何も覚えていないし何があったのかも分からない、だが漠然とした恐怖だけが自分の中にありそれが自分を犯している感覚だけがあった事に翔纏は唯々荒い息を吐き続けていた。

 

「此処はっ……」

 

視線を巡らせて周囲を探る、そこは保須市に来てからビルの一室、自分の寝床として使わせて貰っている部屋であった。如何して自分がこんな所にいるのだろうか……と疑問に思っているとぼんやりとしている頭に響く大声が聞こえて来た。

 

「獣王君っ良かった目が覚めたんだね!」

「大丈夫そうだな翔纏、安心した」

「緑谷に焦凍……か?あれ、お前なんで此処に……?」

 

話を聞く前になぜか自分の覚醒を察知した姉に突撃されて潰れたカエルのような声を上げる事になりながらも話を聞く事が出来た。ステインを倒す事が出来た後に自分は突然意識を失って倒れこんでしまい、そこへ丁度やって来た兄達に連れられて此処まで戻ったらしい。本当は病院に連れていきたかったのだが、脳無が暴れ回った影響で出てしまった怪我人やヒーロー達で飽和しそうになっていたので此処で寝かされたの事。

 

尚、姉は事後処理などを行う為に兄達に連行されていった。

 

「だけど本当に驚いたよ!!飯田君も心配してたけどっ急に倒れるんだもん」

「悪い……何か急に意識を失って……何で何だろう」

「ステインとの戦いで疲れたんだろ、俺はその場に居なかったがマジの殺人犯と戦ってたんだ。精神的な疲労もあったんだろ」

 

焦凍の意見が最も筋が通っている、それに納得を浮かべるが自分はそこまでステインの殺気によって疲労していたのだろうか……何とも言えないが兎も角倒れてしまった事は間違いない。

 

「それでその後は」

「えっと……」

 

あの後、ステインは連行される事になったのだが……その直前に傷だらけの脳無が襲来し緑谷を連れ去ろうとした。当然その場にいたプロヒーロー達が対応しようとしたのだがそれよりも早く―――拘束を脱したステインによって緑谷は助けられた。そして焦凍を追いかけてきたエンデヴァーも合流し改めてステインを確保しようとした時にそれは起きた。

 

偽者ッ……!!正さねば…誰かが…血に染まらねば…ヒーローを、取り戻さねば!!

 

マスクが取れ、素顔を露わにしながらもステインは叫んだ。鬼の形相をしながら憎悪を込めて、その場にいた全てに向けて言葉を放った。誰が見てもステインはボロボロで戦える身体などではなく確保する事は容易。

 

来てみろ……偽物共……!!俺を殺して良いのは本物の英雄……オールマイトだけだ!!!

 

その筈なのにエンデヴァーを含めたその場の全員が動けなくなっていた、誰も血を舐められていないのに、ステインの発する狂気的な圧に屈していた。だが、ステインはその時点で意識を失っていた。そして確保された、保須市を恐怖に陥れたヒーロー殺し(ステイン)はこうして終わりを告げた。

 

「そうか……だったら猶更悪いな面倒掛けて」

「いやいやいや気にする事ないって!!寧ろ、翔纏君に戦うの任せ続けてたのが原因みたいなもんだし!!」

「飯田も謝ってたぞ、まあ飯田も緑谷と同じで無罪放免って訳にはいかなかったけどな」

「もしかして、無断で戦ってたのか?」

 

その質問に照れるようにしながらも頷かれた、二人は自分のようにプロから許可を得て個性を使用して戦闘をしていたわけではない。故に職場体験先のヒーローからお説教を貰ったとの事。翔纏からすれば兎に角二人が無事でよかったという事に尽きた。

 

「それより……翔纏、斧みたいなのを使ってたって緑谷から聞いたけど、そんなの何時準備してたんだ?」

「僕も吃驚したよ。突然新しい武器を使うから」

 

緑谷のスマッシュの直後に手にしていた斧、その威力にも驚かされたが、それ以上に不思議だったのがその斧は何処にも見当たらなかった事だった。

 

「メダジャリバーはあの後にアンクさんが取りに行ってくれたけど、その斧は影も形も無かったらしい。どっから出したんだよ」

「いや……俺も全く分からないんだ……なんか無意識的に持ってたっていうか……突然現れたっていうか」

 

翔纏としてもそれ以上の事は全く言えなかった。本当に突然現れて突然消えてしまったのだから、いや心当たりが無い訳ではない。あり得るとしたら―――タジャスピナーのようにメダルによって形成される武器の一つという可能性、そしてそのメダルは―――突然自分の身体へと入ってきた謎の5枚。

 

「あっごめん獣王君僕もう行かないと!グラントリノ……僕の体験先のヒーローに怒られちゃう!!」

「ああ分かった、態々見舞い有難う。あと翔纏でいいぞ」

「分かったよっ翔纏君!」

 

最後にそう言い残して去っていく緑谷を見送った翔纏、その時僅かに視界にノイズが走った。咄嗟に顔を覆うように手を当てた。

 

「大丈夫か翔纏」

「ああいや、大丈夫……何か今視界が……ホラッ強く鼻を噛んだ時に起きるあれっぽいのが」

「あれか。そう言えばあれなんで起きるんだ」

 

大した事も無いだろうと翔纏は気にも留めなかった。実際その後はそんな事は起きなかったのだから―――だがその時、視界にノイズが走った時に瞳に紫色の光が走った事は誰も知らず、それが齎す結果も誰も気づきようも無かった……。そして翔纏は遠くない未来で知る事になってしまう。

 

この出来事の意味の重大さを。



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欲望の試練。

職場体験も終わり、雄英高校には普段通りの日常が戻ってきた。それぞれがプロの現場を体験した事で更に大きく成長しこれからの糧とする事が出来た。教室では皆が自分の体験先ではこんな事をしたという事を語り、それを羨んだり逆に自分の体験を自慢したりもしている。

 

「「ギャハハハハハッマジか爆豪!!」」

「笑ってんじゃねぇクセになって戻んねぇんだよ……殺すぞぉ……!!」

「やってみろや8:2坊やぁぁ!!」

 

爆豪が爆発寸前なのに笑い続けられる胆力は見習うべきなのだろうか、それとも他人に起きている変化を笑うのはいけないと注意するべきなのだろうか……そんな事を思いながらも翔纏は席に着き、何度も何度も拳を作ったり崩したりを繰り返していた。

 

「ケロッどうしたの獣王ちゃん」

「ああいや……ちょっと試したい事が上手く行かなくてね」

「そうっ……でも焦りは禁物よ、焦ったら実るものも実らなくなっちゃうわ」

「ありがと梅雨ちゃん」

 

職場体験が終わってから翔纏はある事に挑戦していた、それはステインとの戦いで出現させたという斧を自らの意志で出現させる事だった。行事が終わってから鴻上ファウンデーションへと訪れて尋ねてみると―――そこで聞かされたのは驚きの事だった。

 

『いや私はそんな事は指示していないが……そもそも君の持つメダル自身も君の個性を固定化させるだけでしかない、それが身体の中に入る……兎も角一度精密検査を行おう』

 

自分に入ってきた5枚のメダルに会長は全く関与していなかったという事だった、つまりあれは第三者によるもの……ならばそれは何を求めて自分にメダルを埋め込んだのか……精密検査を受けたがそこでもメダルは確認出来ずに個性の出力の幅が増している事だけが判明した。メダルが個性と融合した、としか表現出来ないような事になっている。

 

『私からは何とも言えない、だが翔纏君。その力をコントロールするのは君の欲望だ、ならばその力を強く望みたまえ!!そしてそれを完全に制御するのだ!!』

 

というアドバイスを貰ったので翔纏は唯只管に自分の中に芽生えた新しい力を望む事をし続けた。自らの欲望が引き金になるのならば、今の自分の欲望はその力を手中に収めて制御する事。しかし幾ら望んでもその力が表面化する事はなく時間の浪費だけで終わってしまっている。

 

「(あの時の俺は如何してあんな力を引き出せたんだ……そもそもどういった力なのかも分からない、個性の力なら多分動物の力なんだろうけど……何の動物なんだ……?)」

 

自分の個性に刻まれている動物、そのどれとも性質が異なっているように感じてならない。故にどのようにすれば力を使えるのかも分からない手探り状態。

 

「(そう言えば、何で俺意識を失ったんだっけ……確か個性が少し、怖いと思った直後だった気がするけど……)」

 

漸く紡ぎ直す事が出来た記憶の断片、意識を失う直前自分はメダジャリバーを含めて自分の個性への恐怖を覚えていた気がする。元から理解していた自分の個性の凄まじさ、だがそれを別の形で認識した事でそれが強く頭に焼き付いていたあの時の自分。そして抱いた恐怖……もしも、それが切っ掛けとなっていたとしたら―――

 

「それは一体何なんだ……?」

 

言い表せない不安が胸を過った時、その瞳が輝いた。それは不吉な色であった事は誰も気づかなく、それが表面化し始めたのは―――期末試験における実技試験中であった。

 

期末試験。学生にとって大きな試練になる事は確実なそれだが、雄英生にとっては更に大きな意味合いを持つ物になっている。単純な筆記試験だけではなく、実技試験も存在している。しかもそれは最近のヴィランによる事件発生率の上昇を考慮した結果、生徒達の実力向上を図る為により実戦に近づける為にプロヒーローでもある教師との戦いへと変更された。

 

「獣王、お前は特例だ。お前は一人でこの試験に挑んでもらう」

 

他のクラスメイトが二人一組や三人一組という中で唯一一人での実技試験である事を言い渡された翔纏、だがこれにも確りとした理由があった。翔纏の個性の強みはその汎用性、故に更に対応力の向上を図る為に一人で臨めという物だった。そして翔纏の相手となるのが―――

 

「君の相手は僕がするよ、全力で掛かっておいで!!」

「校長先生が相手……!?」

 

翔纏の相手となるのは雄英の校長である根津であった。一体どんな試験が待ち受けているのかと翔纏は緊張した面持ちを作りつつも試験会場へと向かって行く。そして其処で目にしたのは―――視界を埋め尽くすほどの群となって待ち構えていたロボヴィランだった。

 

「多っ!!?」

 

数日前。学校の一室では教師らが集まりA組の演習試験によるペアの検討が行われていた。その際に翔纏一人で試験を受けさせることは決まり、その相手は根津が担当する事に決まったのだが……どんな内容でするのか、教師全員が気になっていた。

 

「ちなみに根津校長、どのように獣王君の対応力を見るのですか?」

「簡単さ。純粋な数で攻めるよ、丁度試験で使う予定だったロボヴィランが余っているからね」

 

と笑顔で応える根津、戦いは数という言葉もあるように数の多さは直接的に勝利に直結する。翔纏が分身出来る事は知っているが、ならばそれよりも遥かに多い数で攻め続けてみようと考えたのである。

 

「勿論、そのままだと突破されちゃうから僕が制御するよ。それに加えてパワーローダー、ロボの改良を頼むよ」

「お任せを、その様子だと徹底的にやってもいいので?」

「力を振るってくれて構わないよ」

「んじゃついでに発目にもやらせます、きっと校長も満足しますよ」

 

こうして翔纏の試験にはパワーローダーとサポート科の発目 明が全面協力した事で誕生した高性能化が図られたロボヴィランが大量投入される事が決定された。それに加えてそれらを根津が統率、制御するので最早とんでもない戦闘力を秘めたロボット軍となった。

 

『さあさあさあっ獣王君、これが君の試験内容さ!!さあ如何する、立ち向かうかい。それとも撤退かな!?どちらを選択したとしてもそう簡単には行かないと思うけど―――Plus Ultraさ!!』

 

スピーカーから聞こえてくる根津の声に簡単に言ってくれると思いつつも―――ドライバーにメダルを装填する翔纏は変身を持って返答した。

 

「上等ッ……全力で立ち向かう!!変身!!!」

 

タカ!

トラ!

バッタ!

 

タ・ト・バ!バ!タ・ト・バ!!!




獣王 翔纏の期末実技試験。ロボインフェルノ・レギオン。

パワーローダーと発目によって強化改修されたロボヴィラン多数を切り抜けて脱出するか、司令塔である根津を確保するかを強いられる。


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実技試験の欲望連鎖。

「フッェィッ!!ダァッ!!」

 

無限に迫りくるような機械の津波、その波を構成する一つ一つが確りと統率されながらもそれぞれバラバラの動きをしながら迫ってくる。何て悍ましい光景なのだろうかとそれを見た者は言う事だろう。それに真っ向から立ち向かう者に対してどんな言葉を送るのだろう、無謀か、蛮勇か―――それともあれこそヒーローだろうか。

 

「セイヤァッ!!」

『ッ!!』

「チィッ!!ダァァッ!!」

 

トラクローの一撃をジャンプして回避しながら豪烈なカウンターを返してくるロボヴィランに舌打ちをする、だがそれを上手くクローで受け流しながらも逆カウンターを叩きこんで両断する。攻撃は通じる、だがそれ以上にロボが人間的な動きで此方を攻撃してくるのが厄介すぎる。入試や体育祭で見たロボヴィランよりもかなり人型に近い形に改修されているのも殆ど人間と戦っている気分になる。

 

『さあさぁ獣王君もっと頑張ってぇ!!』

「校長先生もノリノリだなっセイヤァッ!!」

 

ロボヴィランに搭載されているマイクから聞こえてくる根津の声に反応しつつも此方に向けてロケットパンチを放ってきたロボ、それに対して真っ向から拳で受けて立つ。バッタレッグの脚力で地面を踏みしめながらの一撃は更に出力を上げて押し切ろうとするパンチと拮抗するのだが―――直後に放ったロボットが走り込んできた。

 

『ハハハッ!!ロケットパンチっからのパイルバンカー的なロマンコンボさぁ!!』

「ぐああああっ!!!」

 

ロボはそのまま拳の無い腕でのパンチを繰り出しながらも連結、そしてその際に衝撃波を放って翔纏を吹き飛ばした。ロケットパンチからパイルバンカーのような流れるような連携(それ)は根津が言うように正しくロマンコンボのそれである。壁に叩きつけられても更に迫ってくるロボに対してメダジャリバーを差し向けて刺し貫く。

 

「だったらこっちだって―――本気で行ってやろうじゃねぇか!!」

トリプル!スキャニングチャージ!!

「ゼイッ!!ヤァァァァ!!!」

 

ロボを貫いたまま振り抜かれた一撃、だがそれを敏感に察知したロボたちは回避行動をとる。一部の回避しきれなかったロボは的確に防御姿勢を取るのだが、空間ごと切断し、対象のみを破壊するという常識外れの威力の必殺技(オーズバッシュ)の前に爆散する。そしてそれを繰り出した翔纏は―――

 

スキャニングチャージ!

 

「セイヤァァァァァッッッッ!!!」

 

爆炎の中から飛び出しながら眼下に広がっているロボヴィランへと向けて突撃していった。一気に加速しながらも炸裂したタトバキックは爆風と衝撃波を周囲へと拡散させながらも多くのロボヴィランを撃破していく。

 

『やるねぇっ!!だけどロボヴィランは大量に余っているのさぁ!!』

 

次々と押し寄せてくるロボヴィランの群れ、タトバキックで大量に仕留めたと思ってもそれは全体から見れば僅かな数でしかないのである。新たに迫ってくるそれに対して爆炎から飛び出して翔纏は両手に携えた剣で迫りくるロボをまるで無双ゲームのように斬りまくりながら前進し続けていく。

 

クワガタ!

カマキリ!

バッタ!

 

ガタキリバ!!

 

「おおおおおおっっ!!!」

 

群れを切り進む事で自分の進むスペースを作りながらも前は前へと走り続けていく翔纏、それへと全身から砲塔を出現させたロボが背後から狙い撃ちしてくるが、ガタキリバならば当然それは見えていると言わんばかりにソバットで蹴り砕きながらも高く跳躍しながらも全方位へと電撃の雨を降らせてロボの動きを奪う。

 

スキャニングチャージ!!

 

『セイヤァァァァァァァァ!!!!』

 

電撃で動きが極端に鈍くなったロボへと目掛けて翔纏はスキャニングチャージを発動。跳躍しながらも瞬間的に最大許容人数である50人まで分身するとそのままガタキリバキックでロボを破壊していく。瞬間的且つキックする事だけに全ての翔纏の意識と記憶が合致している為に負担も回避されている、そして着地すると次の手を打つ。ガタキリバキックで開ける事が出来た大きな穴、そこを最高速度で駆け抜ける。

 

ライオン!

トラ!

チーター!

 

トラーター!!

 

「ダララララッ!!」

 

ラトラーターの速度を生かした速さを乗せたトラクローを振るって行く。唯でさえトラクローはコンクリートを容易く切り裂き鋼鉄すら切断する、それに速度が乗っているならば並大抵のものでは受け止めきれない。

 

『それならこれで如何かな!?』

 

そこへ躍り出るのは脚部から空気を放出する事でホバー移動しつつも肩や背中に装備されているブースターで地上限定だが、高機動を実現したロボヴィラン。それはラトラーターの進路を的確に塞ぎつつも攻撃を仕掛けてくる、それでもクローで追い払って行くことで速度は出せるがこうも的確に進路を潰されれば走りにくい上にホバーを活かして上手く避けてくる、だがそれでも押すのみ!!

 

スキャニングチャージ!!

 

「ラダダダダダッセイヤァァァァ!!!」

 

一気に群がって押し潰そうとしてくるのを速度で突破しながらも必殺技(ガッシュクロス)によって全てを切り裂き切り捨てていく。最後に超高速回転して全方位に斬撃を飛ばして全てを片付けたと思ったら、それにすら耐える超重装甲ロボが戦列を作りながら同じくホバー移動で此方に向かってくる。流石に先程の者より速度は遅いが……いやこれの時間稼ぎだったのかと思いながらも次に行く。

 

サイ!

ゴリラ!

ゾウ!

 

サッゴーゾッ!!!

 

「ハァッ!!ムウゥンッ!!ォォォッ!!!」

 

重装甲であろうと関係あるか!!と言わんばかりにパワー特化のサゴーゾでそれを迎え撃つ。体重を乗せながらの一撃は容易に装甲を歪めて内部の回路を露出させていく、ボクサーのようなテンポの良い重々しい一撃が火花を散らしながら炸裂し続けていく。一撃で宙へと上げられて行く重装甲ロボ、それらを手掛けた発目が見たらなんというコメントを残すのであろうか。

 

『でもでも数はいるんだよぉ!!』

 

サゴーゾで対応出来る、だが数が凄まじい。何れコンボによる疲労で倒れるかもしれない、ヴィランとしての自分はそれを待つのみと言わんばかりの圧倒的な物量作戦。戦力の逐次投入は愚策と言われるが此処まで戦力が圧倒的ではそうとも言い切れない―――だが翔纏もそれに屈する程甘い男ではない。

 

スキャニングチャージ!!

 

「ォォォォォォッ……セイヤッ!!!」

 

重量を一時的に無力化しながら浮き上がると一気に高重力を課して大地へと降りる。そして自分を中心に重力の井戸を作り出して重装甲ロボを纏めて引きつけ、必殺の間合いに入った瞬間に必殺技(サゴーゾインパクト)を叩きこんで重装甲を木端微塵に粉砕した。が直後に空からミサイルの雨が降り注いでくる、爆炎の中で空を見るとそこには飛行型が群れを成していた。

 

タカ!

クジャク!

コンドル!

 

タ~ジャ~ドル~!!

 

「ォォォォォォッッ!!!」

 

超高速回転しながら空へと舞い上がると広げていた翼全てを全方位へと発射して飛行型を一瞬のうちに一掃する。だがそんな事は根津はお見通しでしかない、飛行型は軽量化しているので装甲が薄い、だがやりたかったのは空へと誘導する事。翔纏へと差し向けられる複数のロボが合体して形成された巨大な砲塔型のロボ、それは溜め込んだエネルギーを収束させていた。それを見た翔纏は左腕のタジャスピナーを展開した。

 

「よいしょっと……おしっ!!」

 

ベルトからコアメダルを抜くとタジャスピナーへとセルメダルと一緒に装填、そこへオースキャナーを差し向けた。するとタジャスピナーの内部が高速で回転していき連続でメダルが読み込まれていく。

 

タカ!クジャク!コンドル!ギン!ギン!ギン!ギガスキャン!!

 

「オオオオオオッッッ!!!」

 

スキャンが終了すると同時に翔纏の全身を紅蓮の炎が包み込んでいく、それは巨大な不死鳥となって空を煌びやかに照らしていく。ほぼ同時にその不死鳥を討ち取らんと放たれるビーム、それに対して翔纏は臆する事も無く真正面から突っ込んで行く。不死鳥は光の奔流を切り裂くかのように突進していきながら砲台ロボへと必殺技(マグナブレイズ)を炸裂させ、ロボを融解させながら突破した。背後で巨大な爆発が起きる中で翔纏は膝をついてしまった。

 

「流石にっもうキツいかっ……!?」

 

コンボの連続使用に重ねて必殺技の重ね掛け。幾らコンボに身体が慣れてきていると言っても限界という物がある、そろそろ変身を維持する事も出来なくなってしまう。それでももうゲートが見えておりあそこを潜ればいいだけ、だがその前には最後の砦となるロボ達が壁となっている。あれさえ超えれば―――と気合を入れながら次なるコンボを発動させる。

 

コブラ!

カメ!

ワニ!

 

ブラカ~ワニッ!!

 

スキャニングチャージ!!

 

ならば持久戦に弱いだろうという認識ごとひっくり返してやる!!と言わんばかりにブラカワニコンボへとチェンジした翔纏は疲労を回復させながらも此方へと向けてミサイルを放ってくるのを防御しつつも即座にスキャニングチャージを発動、地面を滑りながらも最後の壁のロボを噛み砕く必殺技(ワーニングライド)で押し通ろうとするのだが、それを阻むように展開されたエネルギー障壁によって弾かれてしまった。

 

『残念だったね!!』

「成程口には収まらないってか……だったら一点突破ぁ!!」

 

 

シャチ!

ウナギ!

タコ!

 

シャタ!!

 

スキャニングチャージ!!

 

「セイヤァァァァァァァッッッ!!!」

 

ワーニングライドは広範囲防御に弱いらしい、ならばこれなら如何だ!!と言わんばかりにチェンジしたシャウタコンボ。液状化して勢いを付けながらタコレッグを束ねつつもドリルのように回転させながら突撃する必殺技(オクトバニッシュ)を放つ。当然ロボは障壁を展開して防御を試みる。激しい火花と展開したエネルギーが閃光を放つ中、翔纏はそれをロボごと突破してそのままの勢いでゲートを潜った。

 

「如何だっ!!」

「お見事!!!」

「えっ?」

 

着地した先ではなんと根津が操作用のヘッドセットを外しながら此方に笑みを向けていたのであった。

 

「君なら必ずあのロボを突破してゲートを潜り抜けると思っていたよ」

「えっ如何して校長先生がゲートの先に……!?」

「君のコンボの負担を考えるとロボからの追跡と攻撃を受けながら何処にいるか分からない僕を探すとは思わなかったからだよ、だから僕はゲートの外で待ってたって訳」

「か、完全に読まれてたって事ですか……!?」

「フフフッ生徒の思考を読むなんて紅茶を淹れるよりも簡単なのさ!!」

 

思わず脱力してしまう翔纏。自分の思考は完全に読まれていた、確かに根津を探すなんて事は考えずに突破する事に集中していた……いやこの場合は英断だったのだろうがルール的にそれは良いのだろうかと思えてしまう。

 

「勿論、その代わりに君が脱出できないとしても戦いぶりや戦法によっては合格にするつもりだったよ。それに君はゲートを突破したから問答無用で合格だよ」

「それが飴って事ですか……」

「そういう事さ!!」

 

何はともあれ、翔纏は持てる限りのコンボをフル活用して試験を突破した―――。




―――ドクター、君はどう思う。彼の中にある力は。

『十分でしょう。あと一押しあればあれは覚醒します、どんな色になっているのか興味深いです』

―――良いだろう、ならばそれを確かめてみよう。


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浮き彫りになった欲望。

「如何でした校長、思考制御型のコントローラーは」

「中々だったよ。でも流石に数が多くて少し糖分を使い過ぎちゃったから今補給中さ」

 

軽々しく砂糖を多めに入れた紅茶で一杯やっている根津に肩を竦めるパワーローダー。試験も終了し高性能化したロボの事を聞きに来たのだが、矢張りこの校長はハイスペックすぎる事を実感させられる。個性:ハイスペック。その個性はあくまで頭脳が人間以上になるという物である筈だ。それなのに、あれだけの数のロボを思考で制御して糖分を使い過ぎた程度……どうなっているのだろうか。

 

「それで獣王君はどうでした、あのロボの波を突破したって聞いて冗談でしょうって思いましたが」

「いやはや彼は凄いよ。的確に姿を変えながらも力の出し惜しみをする事も無く必殺技を繰り出した。その負担にも耐えきって遂にはゲートインさ、うん流石獣王一族の麒麟児だ」

 

麒麟とは言い得て妙な表現だと根津は我ながら上手い事言ったと胸を張る。麒麟とは360種にも及ぶ動物の頂点に立つ幻獣の事を指す、無数の動物の力をその身に宿している翔纏は麒麟と例えるべき存在なのかもしれない。マジカル・ビースト・ヒーローの幻もその名が指すように複数の動物を掛け合わせた幻獣へと形態を変えるが翔纏の場合はそれを上回る数の形態を誇る。

 

「それで獣王君は」

「コンボと必殺技を使い過ぎたらしくて全身疲労だって言うから早退させたよ」

「またあの夫婦が何か言ってきますかね」

「ハハッ大丈夫翔纏君が言い包めるって言ってくれたから」

 

USJの一件での獣王夫婦の殴り込みは相当に肝を冷やした、というか当日中に殴り込んでくるなんて誰も考えもしなかった。どうやってそれを知ったのだろうかと皆揃って首を傾げてしまったほど……そんな事を語りながらも根津は運ばれていく破壊されたロボを見ながら思う―――あの個性が秘める力とはどれ程のものなんだろうか。

 

「ドライバーによる個性の統一とそれによる共鳴による特殊能力の発露……一族のそれすら超えている」

 

コンボによって発動する能力、個性発動時の力などなどはドライバーによって増幅されている部分もあるがその根本は翔纏の個性が起こすエネルギー。セルメダルだけを見てもその威力は凄まじいと言う他ない。だがその凄まじさとは裏腹にドライバーとメダルによって制御されている、そして暴走=彼の死を意味してもいい程に危ういバランスで成り立っている。

 

「相澤君に彼への注意を徹底させないといけないね……」

「でしょうな、彼は強力過ぎる個性故に良くも悪くもアイテム頼りです。バランスを崩したら恐らく一気に……ってタイプです」

「だからこそ確りとみてあげないとならない、僕たちがね」

 

根津の脳裏を過る言葉があった―――個性特異点。世代を経るごとに混ざり、より複雑に、より曖昧に、より強く膨張していく個性に肉体の進化が追い付かずに制御不能となる一種の終末論じみた仮説。誰も相手にせず、忘れ去られる物として忘却された物を根津は記憶し思わず翔纏に重ねていた。

 

「(制御アイテムが無ければ簡単な刺激さえもトリガーとなって暴走する個性、正しく個性特異点そのものだ。僕達が上手く導いてあげる必要がある……)」

 

強力な個性は今の社会で誰もが羨み欲しいと思われる存在、だがそれゆえの苦労も存在する。その渦中で最も苦しんでいるのが―――翔纏だ、少しずつ適応し始めていてコンボの負担にも身体が追い付き始めているが……根津の内では不安が尽きない。

 

「ブラカワニでの回復は禁止か……まあ緊急時なら兎も角時間があるなら自然な回復が望ましいだろうからなぁ……」

 

翔纏のダメージは殆どコンボによる肉体的な疲労が殆ど、それもブラカワニによってある程度回復しているがそれでも疲労は溜まっているため早退の許可が出たのでさっさと帰って身体を休める事にした。皆には焦凍から言葉を伝えて貰えるようにメッセージを送っておいた。

 

「流石に連続コンボと必殺技の連打はやばかったな……ガタキリバなんて博打にも程があった」

 

自室の椅子に腰掛けながらも今回の試験の反省を上げていく。矢張りガタキリバの固有能力(ブレンチシェード)の瞬間発動を試みるのは危ない橋を渡り過ぎてしまったという自覚が強い。

 

「一々対応しすぎたか、いや校長先生なら一つのコンボで突き通そうとしたら確実に潰されるはずだ。寧ろ今回のだって試験だから逃げ道を残していた、実戦だったら確実に潰せる手段がいくらでもあった……」

 

試験だから上手く行ったという認識が余りにも強かった、連続コンボチェンジもそうだがそうさせる為に誘導されたような気が強かった。適切なコンボの発動、それが自分にとっての課題という事なのだろう……それを突き破る手段、自分はそれを試みようとしたのだが失敗に終わった。だからこそ今持てる手段であるコンボで抜けたのだが―――

 

「何で使えないんだろうなぁ……あの力」

 

使いたい、使ってみたい、未知であるからこそ知りたいという欲求がある。個性へと融合したメダル、それがどんな力を引き出すのか楽しみでしかない。それを試験で使うには危険すぎるかもしれないが……それでもあの斧を使えるだけでも相当に楽だった筈だ―――そう思った瞬間の事

 

「ぁぁぁっ……!?」

 

そんな悲鳴のような声を上げると同時に胸から3枚のメダルが飛び出してきた、サポートアイテムであるコアメダルとは全く違う。保須で自分に入ってきたあのメダルだと直感しながらそれを掴んだ。

 

「って今出てくるのかよ!?」

 

思わずツッコミを入れてしまいながらもメダルを見る事にした。あの時に見た透明なメダル―――ではなかった、そこにあったのは……確認した時、再度メダルは身体の中へと潜航するように溶けて身体へと融合していく。

 

「何なんだよこのメダル……というか色は兎も角、メダルにあった動物って何なんだ……?」

 

本当に自分の個性に関係あるのかと疑問に思う程度には異質なメダルであった、何故ならば―――そのメダルの色は初めて見る紫、そして……そこに刻まれていたのは―――翼を広げながらも嘴を構えていた、鋭い瞳と顔付に巨大な角、巨大な牙を光らせる凶暴な姿……それらが刻まれていたのを翔纏はハッキリと見た。



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合宿の欲望。

遂に訪れた林間合宿の当日、翔纏は知らなかったのだがテストの後に皆でショッピングモールに揃って買い物に行くという約束があったとの事。是非とも参加したかったと後悔する翔纏だったがそこでなんと緑谷がヴィラン連合の首魁と思われる死柄木弔と遭遇してしまったとの事。そこでは何もなかったらしいが……雄英は度重ねるヴィランとの遭遇を考慮して、行き先の変更を決定した。

 

「おい、ここで一旦休憩だ。お前ら一度降りろ」

「はーい、ってB組は?」

「つうか、なんだ此処。パーキングエリアじゃねぇな」

 

バスはとある場所で止まった。そこで相澤が降りるように通達すると生徒たちは疑うこと無くそれに従う。逆らうのが怖いのもある。外に出て身体を伸ばしながら辺りを見渡すとそこは崖の上の何の変哲もない空き地。確かに景色の良い場所ではあるが、公衆トイレも何も無い。ただ、普通車が一台止まっているだけだった。特に峰田はジュースを飲み過ぎたからかトイレに行きたいと訴えるが相澤はそれを完全無視。

 

「やっほ~イレイザー!!」

「ご無沙汰してます」

 

相澤が丁寧に頭を下げた。その相手は小さな少年を一人連れている猫のようなコスチュームを纏った女性が二人。翔纏はその人達に見覚えがあった。

煌めく眼でロックオン!!

キュートにキャットにスティンガー!!

「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!

「そして今回メインでお世話になるプロヒーロー・プッシーキャッツの皆さんだ」

 

見事なポーズを決めながらもヒーローらしい口上を述べる二人の綺麗な女性がそこに居た、その姿に思わず翔纏は反応しつつ近づきながら頭を下げた。

 

「お久しぶりですマンダレイさん、ピクシーボブさん」

「随分立派になったじゃない翔纏君」

「う~んやっぱり私の予想通りに良い男になったわねぇ~」

 

と気心が知れた中のような談笑をする翔纏に周囲からの説明を求めるような視線が突き刺さってくる、それは相澤も同じくだった。

 

「ああっ俺はプッシーキャッツの皆さんにお世話になった事があるんだ」

「まあ私達、というか具体的に言えばラグドールなんだけどね」

「その時に私達の方は獣王一族の皆さんの施設でトレーニングしてたからね」

 

それを聞いて相澤は納得した、確かにラグドールの個性の特性を考えるならば接触は当然だろう。そして同時に理解してしまった翔纏はドライバーを付けてメダルをセットし始めた。

 

「翔纏君プッシーキャッツの皆さんと知り合いだったなんてぇ!!」

「ああうん、まあな」

「ってなんでドライバーを付けてるの……?」

「俺の予想が正しければ多分この後……」

 

横目でチラリと見ると既にピクシーボブがバスに戻るルートを塞ぐように仁王立ちしている、如何やら確定らしい。

 

「ここら一帯は私らの私有地なんだけどね、あんたらの宿泊施設はあの山のふもとね」

『遠っ!!?』

「今は午前9時30分。そうね、早ければ12時前後かしらん。12時半までにこれなかったキティはお昼抜きね♪まあ魔獣の森を越えられたらの話なんだけどね♪」

 

そんな彼女が指さしたA組の宿泊施設の行方、それは鬱蒼としている森の先にあった。勘のいい者ならばここで思うだろう、何故そんなに遠い此処でバスを降ろされたのかを……まさかと思い始めた辺りで相澤がニヤリと悪い笑みを浮かべながら言った。

 

「―――悪いね諸君、既に、合宿は―――始まってる」

「だと思ったよっ変身!!」

 

直後、ピクシーボブが地面に手を当てる。そこからまるで土石流のごとく地面が盛り上がってA組を飲み込みながらそのまま崖の下へと叩き落としていく。唯一それを逃れたのは変身によって身体が一時的にガードされた翔纏のみであった。皆が崖の下に落とされたのを見てうわぁっ……と言いながらも自主的に降りていく。

 

「皆大丈夫か、焦凍も」

「ああ何とかな……翔纏、お前分かってたのか」

 

土の下から這い出て来た焦凍へと手を貸す翔纏はその問いに対して頷いた。ラグドールの個性を頼った際に他のチームメイトの個性も一通り見せて貰ったし教えて貰っている。覚えていたそれを考えると自然とあの後何をされるのかは予測できた。

 

「此処は私有地だから個性の使用は自由だよぉ~!!それじゃあ頑張ってこの森を越えておいで!!」

 

「何だよ魔獣の森って、ドラクエかよ」

「というか何で魔獣の森何だ?」

「魔獣がいる、とかじゃないかしら?」

 

と切島の言葉にそのままで返す梅雨ちゃん、しかし皆は魔獣なんている訳ないと思って一瞬笑うのだが……森の木々の奥から、それらを薙ぎ倒しながら巨大な怪物、いや魔獣が此方へと闊歩していた。明確な敵意を纏いながらのそれに思わず悲鳴があがる。

 

『魔獣だぁぁぁ!!!』

「セイヤァァ!!」

 

叫んだのとほぼ同時に木霊する雄叫びがあった。飛び出した翔纏の一撃が魔獣の頭部を蹴り砕いた、それによって本当の生物などではなく個性による物だと皆が理解すると頭部を失って動きが止まった魔獣へと次々と攻撃が降り注いで一瞬で魔獣は土くれへと還った。

 

「ピクシーボブの個性:土流。セメントス先生と個性はほぼ同じで土を操作できる、でも……まさか此処までとはね」

 

セメントスがセメントを自由に操作出来るのに比べてピクシーボブは土を操作する。だがそれだけではなく、土を生物の形へと変えてそのまま操作する事が出来る。しかも……その数は尋常な物ではないらしく、森の奥から次々と此方へと迫ってくる足音や羽ばたきが聞こえてくる。

 

「おいおいどんだけいるんだよぉ……!?」

「数えようか?」

「やらんでいい!!」

「どっちにしろ行くしかねぇだろうよ!!昼飯抜きなんて嫌すぎるぜ!!」

 

砂藤の言葉に多くの賛同が集まる、だったら道は唯一つ。最短ルートを強行突破しかない、ならば自分もと存分に力を振るおうとした時―――自らの立っていた地面が紫色に発光し始めた。

 

「しょっ翔纏君なんか足元光ってるよ!?ステインの時みたいだ」

「あの時って……まさかっ!!」

 

緑谷の言葉を受けてまさかと思いつつもその光の中へと腕を突っ込んでみた、そこを狙わんとまるでドラゴンのような土魔獣が迫りくる。皆がフォローしようとする中、翔纏はアッパーのように腕を振り上げて攻撃した。そして―――その攻撃を受けた魔獣は仰向けに横転しながらもボロボロと土くれへと還っていった。

 

「やっぱり抜けた……こいつがあの時使ってた奴か……!」

 

翔纏の手に収まっていたのは斧、間違いなくステインとの戦いの際に何処からともなく出現させた武器だと翔纏は確証を得ながらもそれを迫りくる魔獣へと差し向けた。

 

「セイヤァッ!!」

 

魔獣を一撃で粉砕する抜群の破壊力に皆の士気が上がっていく、このままの勢いでこの森なんて突破してやると息巻く中、飯田が声を張り上げてA組全員で突破する事を叫ぶ。それに皆が応えながら森へと入っていく中―――たった一人、緑谷は不安を感じた。

 

「ヌゥウ!!!セイヤァァ!!」

「あの時の斧って確か真っ白だった筈、それなのに紫に染まってるし……なんだろう、あんな恐竜みたいな奴だったっけ……」

 

それは明らかに変化している。ティラノサウルスの顔を模しているような斧、刀身は紫色に染まっている上にあれを見ていると何故か恐怖を覚える自分がいた。なぜなのか分からないまま、緑谷は魔獣と戦う。頼もしいと思いながらもその心中は穏やかではなかった。



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個人メニューの欲望。

あけましておめでとうございます!!今年もよろしくお願いします!!


「おおっ~随分と早かったじゃん、予想よりもずっと早い」

 

そんな風に呟きながら笑っているピクシーボブの視線の先には森の木々の間から、姿を現してくる1組の生徒達の姿があった。皆無理矢理身体を動かしているような目で分かる様な疲労を携えている。3時間以内に突破出来なければ昼飯抜きと言われて皆は全力で魔獣の森の突破を試みたのだが……無尽蔵に現れてくる魔獣魔獣魔獣の嵐に揉まれ続ける事になってしまった。3時間もあれば突破できるとマンダレイが語っていた道のりを更に時間を掛けて突破した頃には5時近くになっていた。

 

「何が3時間ですかぁぁぁ……滅茶苦茶時間かかったじゃないですかぁ……」

「ごめんねあれは私ならって意味♪」

「実力差の自慢の為かよ……」

「あ~あるある……実力自慢の為にワザと自分の最高記録をあたかも平均見たくいう奴……」

「翔纏なんか妙になれてる感じに溢れてんな……」

「兄さんにやられた」

 

流石の翔纏も疲れ切っていた、時々ブラカワニにチェンジして回復しながらカバーに回ったりはしていたがそれでもクラス全体のフォローアップとなるとブラカワニの姿を維持する事は難しいので他のコンボも多用し続けた。なので翔纏も疲労困憊状態、思わず座り込んでしまったがその時に相澤がその手に持っている斧に目を落とした。

 

「獣王、お前それなんだ。お前のサポートアイテムになかった筈だが」

「ああこれですか、なんか突然地面が光ったと思ったらそこから引き抜けたんです」

「何だそれ」

 

軽く聞いても意味が分からないが本当にそのような経緯で出て来たのだから困る。なのでステインの時もそうやって自分が引き抜いたらしい事を伝えると相澤は少しだけ考えこむ仕草をする、これまでも翔纏はメダルによって固有武器のような物を生み出している。なのでその系列に属し、個性と肉体のバランスがとれ始めた事で発現した新しい物なのではないか……と思っていると斧が地面へと溶けるように消えていく。

 

「ああっまた消えてった……こんな感じでして……取り敢えずサポートアイテムのメダジャリバーに合わせてメダガブリューって名前にしました。なんか恐竜の頭っぽくありませんでした?」

「まあ言われてみたらティラノっぽくはあったな……分かった、それについてはそれでいい。お前もバスから荷物を降ろせ」

「はい分かりました……」

 

フラフラとした足取りのまま変身解除しながらもバスへと向かって行く。これから始まる林間合宿、今日のこんな疲労では済まなくなる。そんな生徒達に内心でエールを送りながら自分は明日からの合宿に備え準備するのであった。

 

 

翌日。疲れ切った身体を満たす食事や癒す湯舟によって体力をフル回復した面々は林間合宿へと取り組む事になった。何処か眠そうな所もあるが、これから始まる合宿を楽しみにしていたからか全員士気も高い。手始めとして身体能力把握テストにて行われたハンドボール投げを爆豪が行う事になった。入学から3か月、USJやら体育祭やら職場体験などで自分達も成長している、さぞかしとんでもない記録が出るんだろうと皆が期待する中で爆豪が叩き出したのは709.6m、ハッキリ言って期待外れに近い結果。

 

「確かに君達は成長したことだろう、3ヶ月間様々な事を経験して成長しているのは確かな事だろう。だがそれは主に精神面や技術面、後は体力面が少々と言った所で個性そのものは今の通りで成長の幅は狭い。今日から君達の個性を伸ばす、死ぬほどキツいが……くれぐれも死なないように―――……」

 

其処までにきつい事がこれから先に待っている、という事に全員が思わず喉を鳴らした。死なないように気を付けなければいけない訓練がこれから待っている……。

 

「それじゃあ早速始めるぞ」

 

と相澤が言葉を切った途端にその隣に4つの影が降り立ってきた、一糸乱れぬ動きで降り立った影に思わず全員が身構えた。現れたのは……。

 

煌めく眼でロックオン!!

猫の手、手助けやって来る!!

何処からともなくやってくる……!!!

キュートにキャットにスティンガー!!

ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!!

 

と先日マンダレイとピクシーボブが行ったポーズに二人を加えた本来のフルバージョン、ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツの本来の状態とも言える。一人だけ、女性たちの中に屈強な男性である虎が混ざっている事については恐らく突っ込んではいけないのだろう、多分きっと恐らく……。

 

「それでは詳しく説明する。筋肉は負荷をかけて壊し、超再生させる事で大きくなるように個性も同じように強くなる。故に林間合宿ではそれぞれが個性の限界を突破する事で更なる個性の強化を図る。限界を超えて鍛えるんだ。それでは皆さん、宜しくお願いします」

 

そして開始される事になる合宿、それぞれにメニューが組まれて行われる事になるこの合宿。それは当然翔纏も同じくである。

 

「獣王一応確認しておく、お前のコンボは身体に大きく負担が掛かる、特にガタキリバがトップで合ってるか」

「そうですね、固有能力を使うっていう前提だとガタキリバがワントップですね。使わずだとラトラーターです」

 

一応メニューの中だとガタキリバの分身を活用してそれぞれが別々の事をする事で合理的で効率的な訓練をする事も検討されていたらしいのだが、ガタキリバの負担の大きさを聞いた相澤が顔を歪めた。

 

「最悪の場合は人格の破綻か……」

「はい……だから爆豪の時の4人も相当に無理してました。極短時間でやる事を一つに絞ればなんとかなりますが」

「……分かった、お前は基本的に時間を分ける。そしてその時間中は指定されたコンボのみを使って土魔獣と戦い続けろ、そして体力回復の場合にのみブラカワニを許可する」

「よ、予想してましたけど相当にキッツいメニューだ……特にラトラーターとか絶対に地獄だ……」

「それじゃあピクシーボブお願いします」

「はいは~い!!それじゃあ行くわよ翔纏君っ!!」

 

そう言いながら背後に無数の巨大土魔獣を控えさせているピクシーボブが笑顔を向けてくるのに恐怖を感じる、色んな意味で。

 

「最初はあれね、アタシたちと同じ猫系の奴!」

「いっいきなりラトラーターですか!?ああもう分かりましたっそれじゃあ存分にお願いします!!」

「良しお姉さんが可愛がってあげるから!」

「それはウチの姉さんで十分です!!変身!!」

キンッ!

キンッ!

キンッ!

ライオン!

トラ!

チーター!

ラ・タ・ラ・タ! トラーター!!




獣王 翔纏。

時間別にコンボをチェンジしながらそのまま全力戦闘!!コンボによる負担に慣れる為の特訓!!

尚、ガタキリバの分身は基本二人までにすること!!必殺技の瞬間のみ最大人数はアリ!!


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拳と欲望。

「ォォォォォオオオオッ!!デアアアセイヤァァァァ!!!」

 

周囲を囲み続けてくる土魔獣、大地だけではなく空からも襲い来る魔獣たち。それらの攻撃を捌きながらも頭部や腹部に一撃を加え、その場を能力を発動させながら脱出していく。如何に頑強な壁だろうがシャウタコンボの液状化には意味は無く突破されてしまう。

 

「グオオオオッッ!!」

「寝てろぉ!!オラァァァ!!」

 

空から襲い来る魔獣の頭部をウナギウィップで絡めとると走り迫る魔獣へと叩き落としてダブルダウンさせる、加えて鞭からは強烈な電撃が迸っており捕縛された土魔獣諸共、電撃によって生じた熱によって崩れ去っていく。

 

「ハァァァッセイヤァァァァァ!!!」

 

鞭を伸ばしたまま下半身を液状化させ、高速で回転させていく。竜巻のような勢いで回転していきながらその速度を得た鞭は雷撃に等しい電撃を纏ったまま周囲の土魔獣へと炸裂していく。加速した鞭は剃刀のように相手を削ぐと言われるが直撃した瞬間に肉体を引き千切るかの如く奪い去りながらも電撃で焼き潰していく。恐ろしい攻撃に空から土魔獣が殺到するのだが、周囲へと向けて高圧の水が噴射されて土魔獣はその圧力に耐えきれずに崩れていく。

 

「うひょぉ~凄い凄い!!成長したわねぇそれじゃあこの超大型は如何かしらぁ!!?」

 

今までより強く地面を触ると回転を止めた翔纏の目の前に30メートル級の超大型土魔獣が出現した、それは龍を模しているのか強靭な爪を差し向けて此方を殺そうとするかのごとく迫って来るが、咄嗟に液状化しながら回避する。

 

「加減無しかよ!!」

 

お返しと言わんばかりに両手を合わせるようにして、水の放射口を狭めるようにしながら高圧の水を発射する。まるで刃のように飛来する水を魔獣は真っ向から受け止める。直撃の瞬間に僅かに表面が傷ついているが、それでも擦り傷程度で即席のウォーターカッターは効果がない―――訳でもないと翔纏はそれを待っていたと言わんばかりに笑った。

 

「引っかかった!!」

 

スキャニングチャージ!!

 

能力を開放しながらも液状化し、土魔獣の攻撃を回避しながらもその身体を伝いながら特大のジャンプをする。そしてウナギウィップと完全に同化した両腕を撓らせて土魔獣へと放ち最大電圧の電撃を放ちながらその身体を拘束する。あの巨体では電撃は通じにくいかもしれないがびしょ濡れの状態、土魔獣は土故に内部まで水は浸透する、それによって電撃は内部まで伝わる。

 

「グォオオオオ!!」

「セイヤアアアアアアアアアア!!!!」

 

内部を貫く電光が溢れ出る中に翔纏は必殺技(オクトバニッシュ)を発動させ、ドリル状に回転する蛸の脚で土魔獣を貫いた。腹部に巨大な風穴が開けられた土魔獣は自重を支えきれずに崩壊していき翔纏はそれを背にしながら着地する。

 

「よしっ合格よ翔纏君!!」

「―――ッハァハァハァハァハァ……」

 

荒々しい息を吐き続けながらも倒れこむように座りながら変身を解除する。連続したコンボでの戦闘、その最後となったシャウタコンボ。既に夕暮れも近くなってきている時間帯になって漸く最後のメニューが終了した、一旦休憩に入って他の皆のメニューの終わり待ちだと言われるが翔纏は疲れでもうそれ所ではなかった。全身に重くのしかかってくる異常なまでの疲労、時々ブラカワニで回復していたがそれでも抜けきらない疲労。

 

「焦凍との特訓で慣れたと思ってたけど、全然だなこりゃ……ブラカワニでも一定数の疲労は残るって思ってた方が良いな……」

 

これはいい教訓にもなったと思える。ブラカワニに頼り切る事は危険だという事への警鐘、益々コンボに慣れないといけないという意識が強くなると同時にこの合宿は自分にとっていい経験になる……そう思いながらもいきなりラトラーターで2時間戦闘はきつ過ぎると愚痴を零す。

 

「ねぇっアンタ本当に凄いね……」

「んっ……」

 

顔を上げてみるとそこには自分と同じように酷く草臥れた顔をしながらも無理矢理に笑みを作って笑いかけてくる女子がいた、オレンジ色のサイドテールに見覚えがあるのか翔纏は彼女を知っていた。というか別の意味で有名だから知っていた。

 

「拳藤さん、だよね」

「知ってるんだ、体育祭優勝者に知っててもらえると光栄だね」

「いや物間って奴のストッパーで凄いって聞いてたから」

「ああ……あいつには本当にね……」

 

ちょっと失礼と言いながらも翔纏の隣、木の下に腰掛け疲れを露わにしながら気の幹に寄り掛かった。

 

「アタシもさ、土魔獣とずっと連戦だったんだよ。流石にキッツいよね……」

「いやホント……地上戦力だけじゃなくて空、地中からも出てくるから気が抜けないんだよね……」

「ホントだよね……しかも意地悪く狙い所を圧縮した土で防御上げてたりするんだよね」

「そうそうっ腹とか頭とかね、しかもそこを使って攻撃してくる」

「そうそう!!」

 

と互いにメニューに対する愚痴が炸裂してしまった、どれだけメニューがきつかったかを共感出来る相手がどれほどまでに欲しかったのかが表れていた瞬間であった。絶え間ない土魔獣との攻防は精神を擦り減らしながらもやめる事が許されない、許されるのは限界寸前か失格レベルのポカをした際に立て直しの時間として与えられる休憩のみ。

 

「でも獣王の戦いぶりも凄かったよ、姿が変わるとあそこまでバトルスタイル変わるって結構大変じゃない?」

「まあ大変だね、でもなれる位に戦ってきたからね。後翔纏でいいよ」

「ハハッそりゃ凄いね、あのサゴーゾだっけ、あの戦いぶり私も参考にしたいなぁと思ってるんだよね」

 

拳藤の個性は大拳。自身の両拳を巨大化させる事が出来る個性、巨大化した拳の一撃は金属製の盾を粉砕した上で後ろに居た人間をぶっ飛ばすのも容易との事。

 

「手が大きくなるとバランス悪くなるでしょ、だからアタシ体幹中心に鍛えてるんだよね。下半身の筋力強化もしてるからさ、ずっしりとしながらパワーファイト出来るサゴーゾは参考に出来る部分多いと思うんだよね」

「成程……命中の瞬間に巨大化させるだけでもかなり強そうだね、相手の不意も突けるし」

「あっ超いいアイデア!!」

 

そんな風に語り合っていると何時の間にかほかのメンバーのメニューが終わったのか集合が掛けられた。それに応えるようにし翔纏は立ち上がって向かおうとするのだが、拳藤の方は疲労が酷いのか上手く立ち上がれないらしい。

 

「手を貸すよ」

「悪いね」

 

そう言いながら翔纏の手を借りて立ちあがった拳藤は改めて感謝をしながら一緒に向かう事にした。

 

「翔纏、アタシの事も一佳でいいよ。アタシが名前なのに翔纏が名字って言うのも可笑しいでしょ」

「そうかな、俺はそういうの多いけどな」



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一にして群、群にして一の欲望。

林間合宿の三日目、変わらずキツイメニューが続き続けている雄英の面々。その中で一番きついのはぶっちぎりで翔纏だろう、現在行われているのはガタキリバ。人格破綻の可能性があるとはいえ、たった一人で多勢に無勢という状況を覆すだけの能力を秘めている能力を埋もれさせるのは勿体ないのと特別扱いするのは合理的ではないという相澤の判断でガタギリバの負担軽減とキャパシティ上昇訓練も行われている。

 

「行くよ俺!!」

「おう任せろよ俺!!」

 

その手始めとして行われたのが翔纏がなんとか許容出来ると判明した分身一人の情報量を増やす事で更に多くの情報量を受け止める為の準備を行う事であった。その為に分身した翔纏は今まで情報量を出来るだけ少なくするために行っていた同じ言葉や行動を禁止し完全に独立した一人として行動する事になった。これを克服するだけでも出来る事は格段に増えるので相澤は正解だと思っている。

 

「オラオラオラァッ!!」

「俺伏せて!!」

「えっなにっ今なんて言ったっうぉっあぶねぇ!?」

 

背中合わせで戦いながらも土石流の如く攻め続けてくる土魔獣を切り伏せ続けていく二人、その中で分身が飛び出して魔獣を切り伏せている時に背後からまるでミサイルのように突っ込んでくる魔獣に気付いた本体。それを助ける為に電撃を纏わせたカマキリソードから斬撃を飛ばした。分身の翔纏は振り向くと斬撃が飛んできたのを慌ててずっこけるようにして回避する、そして迫ってきた魔獣を真っ二つに切り裂いた。

 

「二重の意味で危なかったぁ……」

「ごめんごめん……何か攻めっ気強すぎない、俺ってそんなキャラだっけ?」

「いや情報量増やすなら意図して違うキャラを演じた方がいいかなぁって……イメージ的にはカッコよく戦いたい陽気なハイテンションキャラをやってる」

「何だそれ」

 

倒れている自分を助け起こしながらも自分らしくない姿にツッコミを入れるが、如何やらこれも自分の為の行動だったらしい。確かにこれは意図的にやらなければ自分の行いとは思えない。そんな風に感じていると二人は互いの背後から迫ってきている魔獣へと蹴りを入れた。

 

「まあいいやっとにかくこの調子でガンガン行くぞ!!」

「任されたっ!!勝利のVが二つでWって事を見せてやろう!!」

「良いなそれっそれじゃあ―――」

 

二人は全方位へと電撃を放ち、魔獣を威圧しながらも並び立ちポーズを取った、それは互いに腕を伸ばしており合わせてみるとWに見えるようになっていた。

 

「ピースサインのVは!!」

「ヴィクトリーのVだ!!」

「「そして二つ合わせるとW!!二人で一人!!一人で二人!!」」

『超協力プレーで勝利を掴んでやるぜ!!』

 

「獣王、それ情報量増やす為にやってるんだよな」

 

何時の間にか超ノリノリでもう一人と会話しながらも見事なコンビネーションを決めている、互いが自分という事で考え方も理解している上にガタギリバの特性上、クワガタヘッドの角が通信アンテナの役割をしているので会話するまでも無く意思疎通が可能。恐らくもう一人の自分を強く意識する為にああいう事をやっている……きっとそうなのだろうと相澤は解釈している。

 

「「セイヤアアアァァァァッ!!!!」」

 

そう思っている中で超巨大土魔獣を共に必殺技(ガタキリバキック)で粉砕する姿が映った。そしてそれと同時にガタギリバの特訓時間が終わりを告げたのであった。

 

「終わりか……んじゃな俺、また呼んでくれよな」

「うん分かった、またよろしく」

 

そう思いながら変身を解除すると分身の自分の記憶や体験、感触などが一気に自分へと流れ込んでくる。既に中身があるコップへと同じ量の中身を注ぎ込まれるような事を体験している翔纏、先程までの和気藹々とした空気はなく歯を食い縛りながらそれを自らの物として認識、一つ一つをすり合わせ、受け止めながら統合していく。同じような言葉や思考をするのではない、全く違う自分としての統合は初の試み。その量は膨大その物、それを相澤も固唾を飲んで見守る中―――翔纏は大粒の汗を流しながら膝をついて息を荒げた。

 

「獣王、お前か。確りとお前か」

「ハァハァハァッ……はい、先生……確りと、俺です……獣王、翔纏そのものです……」

 

思わずそのまま仰向けに倒れながらも確りとした口調で返事をした彼に相澤はホッと胸を撫で下ろした、克服の為とはいえ流石に不安が付き纏う。流石の相澤も此処までの個性を鍛えた事はないしそもそも分身系の個性は数が少ない上に分身を再び一つにするというのは益々聞いた事がない。故に若干無茶とも言えるメニューを組んだのだが……如何やら翔纏への見込みは正しかったと胸を撫で下ろした。

 

「ぁぁっでもこれ、やっばいな……別々の視点の記憶が自分の経験としてあるし言葉もちゃんと自分が言ったって感じする……こんな感じなのか……」

「相当キツいか」

「はいっ……」

 

疲労というよりも強い違和感が残っているという感じだろうか、今までは意思疎通を利用して意識を統一化する事で負担を減らしていたがこれは全く別次元の領域。寧ろ自分が全力を出した場合はこんな風になってしまうのかという認識すら存在している、そしてある事を考えている自分がいた。

 

「拳藤、休憩に入るから獣王を見てやってくれ」

「あっはい分かりましたって大丈夫翔纏!?」

「あ、ああ……」

 

凄まじいまでの頭痛に吐き気が襲う中で思う事がある、自分の個性は自分すら殺しかねないのかと。事実二人になって行動しただけでこれだ、ならば……可能と思える領域、分身状態で別々のコンボを使用するという考えるだけ考えていた究極の一にして群。それを実行した時に自分はどうなるのか、そして―――自分という存在はそれに耐えきる事が出来るのか、それを切らざるを得ない状況はどんな時なのか……それだけを恐れる様に考えていた。

 

「今水持ってくるからさ、そこでジッとしてな!!」

「っ……」

 

辛そうに木陰に移動させられた翔纏は顔を青くしながら、震えていた。それは誰もがコンボによる疲労だと考えた―――だが実際は違った、彼は直感してしまったのだ―――自分の個性が導く己が避けるべき終焉を。



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窮地と恐怖と決意の欲望。

―――欲望が君を喰らうのか君が欲望を喰らうのかの勝負だという事をね。

 

 

劇烈な疲労の中で何度も何度も頭の中で反響し続ける会長の言葉。欲望、個性が自分を喰らうように肥大化して襲いかかってきた感覚が諸にあった。正しくガタキリバはその具現化と言っていいほど、他のコンボで言えばラトラーターも顕著だがガタキリバのそれは劇烈であった。一歩足を前に進めれば容赦なく自分を喰らおうと牙を剥き出しにしてくる。

 

 

―――負担があるなど分かっていた、それを克服するためだろう。

 

 

自らにそうだと言い含めても認識が覆らない。一度理解した恐怖が頭を離れない、分かっていた筈なのに欲望が自分から離れないのである。自分の中に生まれたそれはある時を境に膨れ上がっていった、そしては新たな生殖活動を手にして益々膨張を続けている。その欲望は翔纏には理解出来ない筈のものだった、それなのに今はそれを強く望んでいた。

 

「(何で俺がこんな事を考える……あり得ないだろ、俺が、俺がっ―――)」

「ねぇ、ねぇ翔纏!!」

「ッ!!」

 

強く呼びかけられた事で正気に戻る、視界には自分の顔を心配そうに覗き込んでくる拳藤の姿があった。

 

「ねぇっ大丈夫、凄い顔色悪いけど」

「あっ―――ああ大丈夫、大分楽にはなって来てる」

「それでって……アンタの個性ちょっと羨ましいって思ってたけど相当にきついんだね反動、はいスポドリ」

 

受け取りながら喉の奥へと流し込んでおく、冷たいそれが煮詰まった頭をリセットさせてくれる手助けをしてくれる。今の自分は冷静ではない、落ち着かなければいけない……負担のせいで少し頭の回りが鈍いだけだと自分に言い聞かせる。

 

「色々出来るけど大変なんだね、物間がコピーさえ出来れば勝てるって豪語してるけど」

「コピーしてもドライバー無しだと確実に死ぬけど試す?って言っといてくれない、俺も何度も死に掛けたから」

「あ~……やっぱりそういう形なんだ、制御アイテム系」

「そう言う事」

 

様々な方向からの推察で翔纏の個性は基本的にメダルは無くても動物の部位を発現出来るだろうとB組でも考えられていた、では何故それをしないか。単純に出来ないからというのが結論、B組の大問題児である物間は、獣王は鍛錬を疎かにしたから、自分なら完璧に問題ないと言っていたが……恐らく無理だろう。

 

「まあでも相澤先生がいるから死にはしないか……」

「物間を止める後学の為に聞いてもいいかな……どうなるの?」

「いいよ別に。吐血から身体中が壊れていって、壊れた部位から動物の腕やら爪やら腕が生えてきて」

「辛いこと思い出させちゃって本当にごめんなさい」

 

拳藤は軽いノリで聞いてしまった事を心から侘びた、世の中には個性に振り回されてしまう人間なんて幾らでもいる。体質的に抑制できない物だってあるのに物間をそれを許容せずに煽った、それが許せなくなってきた。というか今回の事で煽り癖を直せと言っておかないと将来的にえらい事になるのが見える。

 

「物間についてはアタシが絶対にやめさせる、後嫌なこと思い出させてゴメン。大変だったんでしょ」

「まあね……ちょっとした事で暴発するじゃじゃ馬個性だからね」

 

それを聞いて益々拳藤は聞いてはいけない事を聞いてしまったと自責の念を抱いてしまった。きっとドライバーを手にする事で漸く解決出来た事なのだろう、それまでは本当に苦しい日々だった筈……それを察してなんとか話を変えようと先程聞いた話をする。

 

「そう言えばさっ夜はクラス対抗の肝試しをやるんだってさ、飴と鞭の飴だって」

「肝試しかぁ~……やった事無いな、ちょっと楽しみ」

 

これならいけると其方の方向へと話を持って行く事に成功した拳藤はそのまま飴について語り出す、思い出したくはないだろう筈のそれを埋めるように矢継ぎ早に。それは彼女の優しさ故だ、相手の傷に包帯を巻いてあげられるような―――だが

 

「(暴発……暴走か……俺はその時、決断出来るのか、必要な時に暴走を恐れないその選択を―――)」

 

考えていた。最悪のシナリオを。

 

 

地獄の特訓が終了して遂に夜となって肝試しが行われる事になった。クラス対抗で先にB組が脅かす側、A組が脅かされる側。二人一組で3分置きに出発。ルートの真ん中に名前を書いた御札があるから、各自それを持って帰ることがルール。脅かす側は直接接触する事は原則禁止だが、個性を使用しての脅かしはあり。

 

 

「肝を試す時間だ~!!」

「「「「試すぜぇ!!!」」」」

 

芦戸、切島、瀬呂、上鳴、砂藤は非常にやる気満々で楽しみにしていた模様。辛い事が多い林間合宿だがこの肝試しは飴なのだからある意味当然なのかもしれない。特に彼らは補修組なのでそれが強く出ている、が―――そこに相澤の捕縛布が彼らを拘束する。

 

「その前に、大変心苦しいのだが……補修連中はこれから俺と授業だ」

『嘘でしょ先生!!?』

「生憎マジだ。日中が疎かになってたのでこちらを削る」

『勘弁してぇぇぇぇッッ!!!!』

『試させてくれぇぇ!!!』

 

悲鳴混じりの声が徐々に遠くなっていく、自分も赤点を取っていたらああなっていたのかと思うと少しばかり恐ろしくなってくる。彼らを見送った後、今度は自分達が順番を決める事になった。

 

「あっ私とだね獣王君、宜しくね!!」

「ああ、宜しく」

 

翔纏のペアは透明の個性を持った葉隠だった。今まで余り絡まなかった相手だがこれはこれでクラスメイトと話のタネには丁度良い、そしてトップバッターであった翔纏はそのまま森の中へと入っていく。目的は奥で待機しているラグドール、そこでお札を確保して戻ってくる。張り切って奥へと進んでいった時、翔纏は自分が思っていた以上にあっさりとその時が来たと思った。

 

「葉隠さん、このまま拳藤たちと引くよ」

「でっでも如何やって!!?」

「俺に任せて、それに相澤先生が良いタイミングで許可をくれた……これなら思いっきりやれる!!」

 

頭へと響いてくるのはマンダレイのテレパスによる緊急入電、A組とB組の全員へと伝えられる戦闘許可。これならば―――自分は今の状況を覆すジョーカーとなる事が出来る。

 

「ちょっちょっと待って翔纏アンタまさか!!」

「そのまさかだ―――俺はっ後悔しない!!!変身!!!!」

 

クワガタ!

カマキリ!

バッタ!

 

ガタキリバ!!

 

 

自分が何をするのか察した拳藤は口を手で覆いながら大いに焦った。だが翔纏はその言葉を聞かなかった、この状況では一刻の猶予も無い。だからこそ行動しなければならない、ガタキリバへと変身した翔纏は即座に複数の分身を生み出した。そして―――

 

「頼むぞ俺達、皆を助けろ。全力で戦え!!!」

『おう!!!』

 

その言葉に応えるように散っていく分身たち、そして拳藤や葉隠らを抱える為の分身と共に翔纏は脱出を図る―――ヴィランに襲撃されているこの状況で前に進まないなんて事はしてはいけない。



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欲望の―――発露。

肝試し中に訪れたそれは明確な悪意と敵意を纏ったまま迫ってきた。森の一部を包み込むようなガス、それだけでも異常な事態という事が分かる。そして頭へと響いてくるマンダレイのテレパスによる伝達。それによるマンダレイの方にも二人のヴィランが襲来して来ており、他にもいる可能性があるらしくそれは当たっている。だが、相澤先生からの戦闘許可はこれ程までに有難い物は無かった。

 

「葉隠さん確り掴まってくれ!!」

「うっうん!!」

「拳藤そっちのクラスメイトガッチリ頼むよ!!」

「分かってるけどアンタだってやばいんじゃないの!?だって……!!」

「言ってる場合じゃないだろ!!今使わないで何時使うんだよ!!」

 

本体の翔纏と分身が2人、一人が葉隠を背負いもう一人が巨大化した手でガスによって意識を失っているクラスメイトを抱えている拳藤を背負っている。そして本体の翔纏が最前線を切るような態勢、ガタキリバの反動を気にしている拳藤の言葉など全無視する翔纏はそのままガスが薄い方向へと向かいながらも宿へと向かう。

 

「翔纏、このガス……!!」

「大丈夫だ、濃くなる方向に一人向かわせてる!!」

「アンタ、今何人に自由行動させてるの!!?」

 

その言葉には敢えて答えなかった、自分達を背負っている分身は何も喋らずに本体の指示に従って負担を軽くするように心掛けているようだが他へと向かっている分身はきっとそうはいかない筈。そうなったら昼間の訓練の疲弊なんて目じゃない程のものが彼に集約される事になると拳藤は不安になっていた。だがそれは翔纏と手理解している筈―――

 

「ッ!!よしっ!!」

「ど、如何したの!?」

「ラグドールに八百万、他にもB組の人たちの救助が上手く行ってる。だが不味いな……良し許可する思いっ切りやっちまえ!!」

「ちょっと何が如何したって言うのさ!!?」

 

クラスメイトが助けられた事にホッと胸を撫で下ろす葉隠と対照的に拳藤は激しく焦った、何故ならば最後の言葉が今までにないほどに引っかかっていたからだ。何を思いっきりやれっというのだろうか、それが自分の想っている通りの事なら絶対に不味い事である筈……がその時、ガスが薄れていき視界が利くようになってきた。

 

「ガスが薄れてる……?」

「ああっブラカワニの俺が倒したらしい」

「やったぁ!!」

 

これで少なくとも視界は利くしガスによる意識の喪失などを気にしなくてよくなった、これ程にナイスな対応はないと思ったその時だった。木々の間から伸びて来た二本の腕が迫ってきた。二人を抱えている分身は咄嗟の判断が取れない、故に翔纏は我が身を盾にするように葉隠を庇うが拳藤を庇い切れずに分身共々捕縛される。

 

「ぐっ何だこれ!!?」

「獣王君!?」

「来ちゃだめだっ!!そのまま宿舎に向かうんだ絶対に守り切れよ俺!!」

「っ……分かった直ぐに俺も戻る気を付けろ!!」

 

即座に葉隠を抱えている分身の意識を開放させて自律的な行動を取らせる、そして自分達を捕縛している腕へとカマキリソードを振り下ろして切断する。そのまま着地するのだが―――そこにあったのはマンダレイと虎が行っている戦闘の場であった。

 

「貴方は獣王君!?それに拳藤ちゃんも!!」

「くっこれは喜ぶべきなのか……!!」

 

着地しながら顔を上げた時、目の前に広がっている光景に思わず言葉を失ってしまった。マンダレイ達が倒したと思われるヴィランだけではない、そこに居たのは―――

 

「USJの時の……!!」

 

嘗てUSJにヴィランが殴り込みをかけて来た時の切り札と思われる巨漢ヴィラン、その首魁が脳無と呼んでいたのと似ているがそれよりも更に巨大な脳無がそこにいた。白い肌ではあるが、翼を持ち機動力に自信ありと言わんばかりの者と、黒い肌に伸縮自在なのか鞭のように撓らせている4本の腕……2体の脳無という最悪すぎる事態だと言わざるを得ない。

 

「獣王君っヴィランの目的は貴方よ!!後カッちゃんって生徒!!」

「俺!?後、爆豪!?」

「爆豪君なのね!?よし直ぐに伝えるわ!!」

 

マンダレイが告げたヴィランの目的。自分と爆豪を狙って来ている、何故そうなのかは分からないがだとしたらガタキリバで分身を作ったのは不味かったかもしれない。ガタキリバの分身はダメージの限界が来ると自然に消えてそれまでの経験が全てにフィードバックされる、自分を狙って来ているならば最悪動けない程度に痛めつける事もしてくる。だとしたら―――下手したら自分が動けなくなる可能性がある。

 

「大丈夫か俺!!」

「っ緑谷は!?」

「ごめんっ森の中を猛スピードで進まれて分からなくなった!!」

「合流!!!」

 

そこへ他の分身の自分がやって来る、それは他の場へと増援として送り込んだ自分達。宿舎に送り届けたりを終えて戻ってきたのだろう、それはある種安心だが……これはこれで問題がっ―――

 

「があああああぁぁぁっっ……!!?」

「翔纏、ちょっと大丈夫なの!?」

 

直後に頭が割れんばかりの痛みと共に全身を引き裂くような凄まじいダメージが襲いかかってきた、分身の一つがダメージ超過によって消滅しそれまでの全てがフィードバックされてきた。ダメージはブラカワニの回復で直ぐに癒えて行くが問題は記憶や感情の方。

 

「翔纏翔纏確りして!」

「がああああああああっっ!!あああああああっっっ!!!」

 

「不味いフォローに入らってもう邪魔しないで!!!」

「クソッ拳藤獣王を担いで移動出来るか!?」

 

フォローにはいるべきマンダレイと虎には飛行脳無が襲いかかって妨害し続けている。何とか拳藤に翔纏のフォローを頼もうとするが、拳藤は動けない。何故ならば目の前で本体の翔纏だけではなく分身たちも膝をつき、動けなくなってしまっている。倒された分身の全てが全てに共有される、これが分身の最大の弱点。

 

「確りして翔纏!!アンタはアンタでしょ、それを自覚して!!」

「……っ俺は、俺―――」

「そうよアンタ獣王 翔纏!!」

 

強い言葉を掛け続けて意識を強く保たせるしか取れる手段がない、今意識の均衡が崩れたらその瞬間に翔纏は終わる。他の分身も消滅しそれらも一気に雪崩込んで翔纏を殺しにかかる。だったら本体の翔纏の自我を保たせるしかないと拳藤は思った、休憩中などに聞いた話から最善を選択している。それは正しく―――決定的に間違っていた。

 

「俺が、おれがオレがオレガ―――」

 

自我を強く保とうとするほどに思い知る個性の恐ろしさ、自らを殺そうとする欲望。それが今頂点に達しようとした時―――それは遂に産声を上げてしまった。翔纏から三つの光が飛び出す。それは翔纏の周りを回りながら迫って来ていた脳無の拳を弾き返すと入っていたメダルを押し退けるようにドライバーへと収まった。それによって起きるのは強制的な分身の消滅、だが分身は瞬時に消えた。跡形も無く、そして翔纏は先程の苦しみが無くなったかのように―――拳藤を守るように立ちあがった。

 

「翔纏……?」

 

戸惑いながらの言葉にも答えない。唯……真っ直ぐと脳無を見つめていた、そしてオースキャナーを手に取って静かに告げた。

キンッ!

キンッ!

キンッ!

「変身」

 

プテラ!

トリケラ!

ティラノ!

 

プ・ト・ティラーノザウルゥス!!

 

ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!

 

その時、雄たけびを上げるのは本来この世界にいる筈の無い生物。既に絶滅し人間によってこうであったであろうとされる姿しか見る事のない、いわば空想上の生物の力を身に纏った姿。黒かった身体は白銀へと染まり、その上を紫色の装甲が覆い被さっている、古の覇者が現代に蘇った瞬間でもあった。翼を模したような頭部、鋭くも雄々しい二本の角、そして踏みしめるだけで大地を割る程の力を秘める脚。太古の世界における王者が一つの身体に集約されたコンボ―――プトティラコンボが今、世界に向けて誕生の雄叫びを上げる。



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紫の欲望の連鎖。

プテラ!

トリケラ!

ティラノ!

 

プ・ト・ティラーノザウルゥス!!

 

ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!

 

「な、何っ!!?」

「何だあの姿は……!?」

「翔纏……!?」

 

雄たけびを上げる翔纏、だがその姿はこれまで誰も見た事も無い異質に溢れた物だった。それは当然だろう、何故ならばそこにある力は既にこの世に存在せぬ命によるもの。紫色の外殻を纏いながら立っているその姿は―――古の覇者、プトティラコンボ。

 

「ゥゥゥゥゥゥゥッゥゥ……」

 

低い唸り声が聞こえ始める、それと同時に変化していく体勢。呼吸と共に上下する身体、そこに理性という物が感じられない。唯目の前の存在を消し去る為だけにそこに立っているかのようだった。それに反応するかのようにマンダレイ達の妨害を行っていた脳無が反転して一気に翔纏へと襲い掛かる、噛みつかんと迫る。

 

「危ない!!」

「回避しろ!!」

 

二人の言葉が響くが一向に反応しない、迫る鏃。それがその身体を突き刺そうとした時―――脳無は吹き飛ばされていた。翼竜、プテラノドンを模したその頭部から大きく伸びた紫色の翼(エクスターナルフィン)が一度の羽ばたきでプロヒーロー二人に立ちまわり続けていた脳無を一蹴したのである。

 

「キエエエエエ!!!」

 

吹き飛ばされながらも空中で制動し、高度を取ろうと飛行する脳無、だがそれを許す物かと言わんばかりに更に翼を強く羽ばたかせる。翔纏の身体は重力を無視して飛び立ちながらも脳無の頭上を取ると腰の部分から太く頑強なティラノの尾(テイルディバイダー)が飛び出した。そしてそれを回転しながら振るい脳無を吹き飛ばして地面へと墜落させた。

 

「ゥゥゥゥ……!!」

 

貴様をこの場から逃すと思っているのか、決して逃す事などあり得ないと言わんばかりの一撃。地面でもがいている脳無に代わって4本腕の脳無が走り、その腕の数を活かしながら凄まじい勢いのラッシュを開始する。例え鋼鉄であろうと砕かんとする一撃がラッシュとなって襲い掛かる、だがそのインパクトの音は非常に乾いており一向に砕ける処か傷もつかない。

 

「ゥゥゥッォォオオ!!!」

 

鬱陶しい!!と叫ぶかのような放たれた一撃、それによって脳無の身体が浮いた。そして直後に高速回転しながらの尻尾による殴打で同じく脳無を吹き飛ばした。そして立ち上がり始めた翼脳無を見た瞬間にスキャニングチャージを発動させた。

 

スキャニングチャージ!!

 

発動されたスキャニングチャージ。その直後に肩部にあるトリケラトプスの角(ワイルドスティンガー)が瞬時に伸びると脳無の翼と左肩を貫いた。だが相手は痛みを感じない脳無、それを無理矢理に動いて外そうともがく。肉が抉れてしまおうが構わないという動きに再度プテラの翼が広げられて羽ばたいた―――がそれは空を飛ぶためではない、それによって発生した冷気をぶつける為の物だった。

 

「寒っ!!?」

 

翔纏の背後に居た拳藤すら寒気を感じてしまう程の冷気が脳無へと炸裂する、左肩は角が外れた状態だったが冷気によって下半身が完全に氷に閉じ込められた。そして冷気は上半身へと伝わっていきその動きを奪って行く。そして飛び出した尻尾、それを回転しながら凍り付いた脳無へと叩きつけた。

 

「キグアアアアアア!!!」

 

脳無は声にもならない様な奇声を上げながら地面でもがいていた、それは激痛による物などではない。必殺技(ブラスティングフリーザ)の一撃は脳無を内部まで抉っていた、それは肉体的な意味合いではなく―――もっと最悪を意味していた。

 

「ゥゥゥォォッッ!!」

 

それだけでは物足りないのか、翔纏は地面へと腕を突き刺した。直後に悍ましい雄たけびが周囲に木霊しながらメダガブリューが出現した、その時理解した。あの武器は今の力によって生み出されている武器なのだと。そしてそれを構えながら残っている脳無へと襲い掛かった。

 

「ヌ"ォ!!ォォォッ!!」

「ッッ……ァァァァ!!」

 

脳無も立ち上がり迫りくる翔纏へと殴り掛かった、翔纏の身体へと炸裂するパンチと脳無へと繰り出されるメダガブリューの斬撃。互いに防御や回避という文字はなく完全なノーガードの殴り合い。理性などは無く完全に本能だけで戦っているかのような光景に拳藤たちは唯々圧倒されていた。そこにあったのは純粋な暴力、技術や作戦という物はない、原始的な攻撃の応酬だけが続いている。

 

「ォォォ!!!」

 

大地を踏みしめながらの一撃が脳無の身体へと袈裟斬りに炸裂する、傷口は紫色に禍々しく輝いている。そしてそれを受けた脳無は急に苦しみ出しながら膝をついた。

 

スキャニングチャージ!!

 

再度のスキャニングチャージ。再び伸びたトリケラトプスの角が脳無を貫くとそのまま頭上へと脳無を放り上げた、翼も無い脳無は当然空中で動きなど取れない。翼を展開して圧倒的な速度でその頭上を取るとそのまま重力に引かれるままに脳無目掛けて蹴りを放つ。ティラノの脚が脳無の胸部へと炸裂し、そのまま大地ごと脳無を蹴り砕くような勢いで落下した。

 

「す、凄い……」

 

唯々拳藤は圧倒されていた。あの脳無を一方的に叩きのめす程の戦闘力、だがそれは―――まだ入り口でしかなかった。

 

「ァァァアアアアアア!!!」

「グギャアアアアアア!!!」

 

必殺技を受けてのたうち回っていた翼脳無と大地へと叩きつけられた脳無、だがそれらは変化していた。あった筈の翼が、4本あった腕のうちの2つが……枯れた植物のように萎れ始めていた。そして萎れた部分はボロボロと崩れていき完全に脳無から翼と腕が消え失せていた。直後に脳無は機能を停止したように完全に動かなくなった。

 

「何、今の……翼と腕が消えた……!?」

 

マンダレイの言葉に今のこの場にいる全員の想いが凝縮されていた。あれは何だ、相澤の抹消に近い何かなのかと自分の中で思う中で即座にそれが否定されていく。抹消とは全く違う、あれは言うなれば―――

 

「ウォッ!!?」

 

刹那、翔纏へと一筋の閃光が放たれた。それは的確に腹部へと突き刺さると翔纏の背後へと黒い渦のような物が出現した。

 

「今度は何!?」

「分からぬが。マンダレイ、拳藤の確保を!!我は獣王だ!!」

「了解!!」

 

兎も角動くしかないと身体を動かす、マンダレイは呆然とし続けている拳藤を確保する。そして虎はその手を伸ばすが、直後に凄まじい勢いで翔纏がそちらへと向き直ってメダガブリューを振り被ってきた。

 

「くっ!!獣王、我が分からぬのか!?」

「ウォォォオオオオオッ!!!!」

 

黒い渦には引力のような物があるのか、翔纏は渦から逃れられないようだが目の前にいる虎へと只管に襲いかかろうとしている。それを見た虎は確信した、あの姿は暴走している状態なのだと。だがそれでは如何する、あの脳無をいとも容易く破る程の力を持ち、それを何の躊躇も無く暴力として振るう相手をどうやって確保しろというのか。余りにも難しすぎる案件、そして―――徐々に翔纏の身体は渦の中へと引きずり込まれていく。

 

「不味いこのままでは!!」

「ウオオオオオオッッッッ!!!!」

 

彼が連れ去られる!!と思う中で暴走し続ける翔纏がそれを邪魔する、助けるべき相手がそれを邪魔するという状況で虎は手を出せず―――翔纏はそのまま渦へと呑まれてしまい、直後渦は消え去ってしまった。

 

「くそおおおおぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!」

 

 

 

それは誰の声だったのか、悔しさに塗れた慟哭が森に木霊する。

 

ヴィラン連合による雄英高校林間合宿襲撃事件、多くのヴィランが生徒達に襲いかかる中生徒達は懸命に危機を乗り越えたと言える。だが……その中で最も乗りこえたというべき人物は拉致されてしまった獣王 翔纏であった。何故ならば……彼は自らに掛かる負担を度外視して自分に出来る全力を振り絞った。それによって多くの生徒が助けられた。

 

B組だけではない、ヴィランによって重傷を負ったラグドールもガタキリバの分身によって保護された。そして―――その分身は暗闇の中、暴走する常闇 踏陰の個性:ダークシャドウを抑える為に自らの身を犠牲にする捨て身の戦術、ワザと攻撃を喰らいながらも放電する事で周囲を照らして暴走を抑えた。だが……友を救った行動が彼にとっての最悪の引き金となってしまった。

 

全力を尽くした翔纏、そしてその果てに訪れたプトティラコンボ。それが何を意味するのか……それは直ぐに明らかになる。




冷気発生:プトティラコンボの固有能力。強力な冷気を放出し、対象を瞬時に凍結させる―――がこれは単純な冷気の放出ではなく、メダルが持つ性質による副産物であると考えられる。


プトティラ・アルティメット・スリー:二度目のスキャニングチャージで発動した必殺技。元々は伸びた角で相手を突き刺して放り投げ、ティラノレッグで回旋蹴りを叩き込むというガンバライドオリジナル技。

今作ではアレンジを加え、突き刺し放り投げた後にプテラヘッドで頭上を取り、そこからライダーキックを叩きこむという物になっている。


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明かされる欲望の正体。

―――ゥゥゥゥ……!!

 

獣、唯の獣がいた。本能がままに行動し、全てを蹴散らす王の獣がいた。そこに思考は無く、唯の一度の躊躇もない。

 

―――ゥゥゥッォォオオ!!!

 

王が歩む道、恐怖によって敷き詰められたそれらを目にする度に首を垂れる。

 

―――ゥゥゥォォッッ!!

 

だが、王が真に求める事はそのような物などではない。無双の軍勢、違う、無限の富、違う―――王が望むのは……

 

違う……こんな物などいらない……

 

お前の全てだ

 

 

「ハァッ!?」

 

荒い息のまま、意識が覚醒する。最低最悪の目覚めとも言える、これ程までに気分の悪い目覚めなんて今までになかった。本当に最悪な気分だ、一体何があったのか、何も理解出来ない、唯自分は止めどない欲望の渦に居たような感覚があった。訳も分からずとんでもない悪夢を見せ付けられていたような気分だとしか言いようがない。

 

「よぉっ起きたかよ」

「っ―――」

 

自らに声を掛けられて視線が誘導された、その先に居たのは……USJへと殴り込みをかけてヴィラン連合の首魁と目されている男、その周囲に多くのヴィランが並び立っており此方を見ている。自分の様子はというと……鎖によって両手両足を拘束され、椅子に縛り付けられている。身動きが出来ない状況、幸いなのはドライバーはそのままになっている事ぐらいだろうか―――だがメダルはそこにはない。

 

「よぉっ目が覚めたな、獣王 翔纏君」

「お前……USJに居た奴だな」

「そう、死柄木弔だ。まあ好きなように呼んでくれ」

 

気軽に声を掛けてくるそれは最早友人のそれと同じだった。ヴィランの視線を一身に受けながらも翔纏は冷静に意識を保つ事を頭に置きながら記憶を探る。此奴らの目的は紛れなく自分と爆豪だった、此処に爆豪がいない事から捕まっていないのか、それとも別の場所に捕まっているのか。仮に脱出するなら戦力が欲しい、爆豪の協力は欲しいが……いなくてもそれはそれでいい。

 

「―――随分と不用心だな、俺にドライバーを与えたままか」

「ああ、お前のそれが制御アイテムって事は知ってる。それがねぇと死ぬんだろ、死なれたら困るからな」

 

自分の事を把握している、何処まで把握しているのか分からないが情報を持っている。そして目的も分かる、死なれたら困ると言う事は―――詰まる所目的は……

 

「俺にヴィランになれとでも言うつもりか」

「流石エリートだな、話が早くて助かるぜ」

 

矢張り……自分の身柄を欲しがっているならばその力を手に入れようとする筈、だが問題は仲間に引き入れて何をさせるつもりなのかという事だ。

 

「単純な話だ、お前は俺達の側にいるべき存在だからだ」

「お門違いな上に理解出来ない、俺が何故そちら側に居なければいけないんだ」

「単純な話だ、お前の個性を世界は絶対に受け入れないからだ」

 

受け入れない……拒絶されるという事を言う死柄木、確かに自分の個性は今の社会から見ても異常とも言えるかもしれないが、それでも確りと受け入れられているだろう。ドライバーさえあれば個性の制御は出来ている、眼鏡が無ければまともに物が見えないのと同じだ。

 

「その理由については説明してやる、おいDr.真木」

「ええっ今行きます」

 

今いる場所、バーの奥から影が伸びて来た。向かってきたのは全身を黒と白で統一した服装の無表情かつ無感情な長身で眼鏡を掛けた男―――だが、それ以上に異彩を放っているのが左肩に同じく無表情の人形を乗せている事だった。ドクターと呼ばれた男は此方を見る事無く、人形を見ながら言葉を掛けた。

 

「初めまして獣王 翔纏君、私は真木 終清(しゅうせい)。Dr.真木と呼ばれています、好きなように呼んでください」

「……何、俺に言ってんのこの人。だったらせめてこっち見ろ」

「そいつは誰かと話す時に人形に向けてじゃないと会話できない変人だ、諦めろ」

 

と何故か焼け爛れたように変色した全身に、皮膚移植をしたような姿のヴィランに窘められた。

 

「貴方の個性が受け入れられない理由、それは貴方の個性が世界を終末へと導く美しい物だからです」

「終末、美しい……?」

「ドクターの話は半分で聞いとけ、ドクターは如何しようもない破滅主義者だからな」

「ええっ……色物集団過ぎないお前ら」

「ヒーローに言われたくはねえな」

 

まあ其れについては否定しないでおくが……一先ず話の方向性を元に戻す事にする。自分の個性についてだ。

 

「君は自らの個性に恐怖、または強い否定的な感情を抱いた事はありませんか」

「恐怖、否定的……あっ」

 

その質問で想起されるのは保須での出来事、あの時自分はメダジャリバーの尋常ではない威力に恐怖を抱いた事があった。それだけではない、ステインとの戦いで出現させたメダガブリューにも恐怖を覚えた事があった。

 

「矢張りありましたか、それこそが貴方へと入ったメダルを紫の欲望で染め上げたのです」

「それは……!!」

 

そう言いながら真木は懐からあるものを取り出した、そこにはケースに収められている5枚の紫のメダル。それを目にした時に翔纏の胸の内で何かが疼いた、強い鼓動のような物が発せられている。

 

「私は元々、鴻上ファウンデーションにて研究職に就いていました。貴方のドライバーを開発したのも私なのです」

「えっ……マジ?」

「はい」

「……ある意味会長が原因という読みは当たってたのかぁ……」

 

何ちゅう人を雇っているんだよとツッコミを入れたい気分は山々だが、自分の命があるのはこのDr.真木が作ったドライバーのおかげ。それが無ければ今頃死んでいるかもしれない事を考えると本当に複雑な感情だと言わざるを得ない。

 

「貴方の中にあるメダル、それは私が貴方の個性を解析しその本質を再現した物―――そしてそのメダルが真に求める者を探していましたが、矢張り貴方だったという事です」

「あの時のメダル……!!」

 

保須にて唐突に飛来してきたメダル、あれはこの真木が投げた物。そしてそれは翔纏に強く惹かれていて、瞬時に同化してしまった。何故ならば、大本は翔纏の個性から生まれた存在なのだから。

 

「そしてメダルは貴方の中にある欲望と共鳴し、力を形成した」

「欲望……?」

「そう。自らの個性に殺されるかもしれないという強い恐怖、個性への否定心、猜疑心、存在の否定、無の肯定……それらに共鳴したメダルは個性の中で眠り続けていた貴方の命の記憶を読み取り―――既にこの世に存在せぬ、つまり死んでいる存在の力を具現化した。それがこの紫のメダル、恐竜メダルという訳です」

「俺の……恐怖が、欲望が……」

 

その言葉が真実なのかどうかを疑う事もする事もなく受け入れていた、本能的に分かった、事実だと。

 

「そして恐竜メダルが生むコンボ、プトティラコンボとも言うべきコンボの真の力」

 

やめろ、それ以上言うな。

 

「それこそ、この世界を終末へと導く力」

 

駄目だ、聞くな。理解してはいけない、もう駄目だ―――

 

「貴方の欲望、無欲の力を宿している。即ち―――個性を完全に破壊する個性となった」

 

―――……ああっ確かに……俺は世界に拒絶される存在だ……。




個性破壊:翔纏の中にあった個性に対する恐怖、否定、無の欲望が引き金となって生まれてプトティラコンボ、紫のメダルの真の能力。無への欲望によって生み出された物は様々な物を無となる。これは相澤の抹消のように一時的に個性を消すのではなく、個性を完全に破壊してしまうという最恐最悪の能力。

しかも、紫のメダルが体内に直接存在しており、メダガブリューをプトティラコンボでもない状態でも出せてしまっているので他の形態でも個性の破壊は可能であるとDr.真木は推測している。


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欲望の天秤。

「って事はこの子って今の世界的に言えば殺すべき存在って事?」

「この世界のすべての人間、いえ個性を持つすべての人間から迫害される存在です」

 

突きつけられてしまった事実に言葉を失ってしまう翔纏、誰よりも望んだ筈の個性が誰にも望まれる事が無い物へと変貌したと分かった時―――翔纏の中で何かが砕け散ったような気がした。個性を自由に使いたい、強い身体になりたいと望んだ果てがこれか……何で数奇な運命だろうかと自らの運命を嗤った。

 

「なぁ翔纏君よ、お前はこうも思ってるんじゃないか。家族なら受け入れてくる」

「ッ……」

 

不意に突きつけられた言葉に硬直してしまった翔纏に死柄木はやっぱりかと呟きながら視線を合わせるように屈みながら真っ直ぐ、此方を見据えて来た。

 

「人間なんてもんは自分勝手だ、それが取り巻く世界も同一だ。今世界は雄英を叩き続ける、ヒーローを非難する。例えお前を俺達から助け出したとしても何れ露呈する時が来る、だが個性を壊す個性があると分かった時、お前を許容してくれるかな?」

「そ、レは……」

「今の社会は良くも悪くも個性で成り立ってる、お前のそれはそれを根幹から揺るがす。それが分かったらどうなる、人が、町が、国がお前を消しにかかる」

 

聞くな、聞いてはいけないと思ってもその言葉に耳を傾けてしまう。母が、父が、自分を見捨てる、捨てる訳がない。あんなに自分に優しくしてくれたみんなが自分を迫害する側に回るなんてありえない―――だが、それに納得した自分もいた事に驚いた。何故ならば―――家族は自分の個性について褒めたりすることが余りにも多すぎた。

 

「ヒーロー一族として成り立っているそれを支えているのは何だ?」

「個性……」

「そうだ、お前の個性はそれを破壊する。だとしたらどうなる?今まで手に入った莫大な名声や金を更に高めた自分の個性が壊されるリスクを負ってまでお前を傍に置くと思うか」

 

近くでそれを見ていた者達の目からも明白になる程に翔纏の視線は泳いでいた。迷っている、彼の本質は極めて純粋だ。良くも悪くも彼を成立させているのは欲望なのだ。だったらその欲望を少し突いて不安定にさせてしまえば、後は勝手に揺れ動いてくれると死柄木は分かっているらしい。翔纏は自分と似ていると思い、無意識に彼を庇うような言葉を選んでいる。

 

「だったら、少しでもお前にとって得になる側に就く事を進める。俺達はお前達を恐れない、寧ろ味方として歓迎する。お前の力で俺達を守ってくれ、そして俺達はお前を全力で守り抜く。互いにメリットがある」

「ッ―――!!」

「確かに俺達にも個性破壊のリスクはあるが、その程度で身が守れるなら安いもんだ。それにそうされないように尽力もする、だからお前も俺達の為に尽くす。如何だ?」

 

死柄木の言葉を聞いてある男は思った、中々に上手い手だと。交渉の基本は双方にとってのメリットとデメリットを明白にしてどのような利と損があるのかを理解させる事。翔纏にとっての損は何時恐怖に駆られて裏切るかも分からない事、そして利はビジネスライクに近くはあるが、許容した上で絶対的な味方を得るという事。

 

「加えて私からも利を提供しましょう。貴方のみを守る新たなアイテムの開発、そして本当の意味での制御アイテムと武器を作りましょう。憧れませんか、ドライバー無しの生活に」

 

精神的に弱まっている翔纏に揺さぶりを掛けていく悪魔の囁き、だが彼にとって悪魔ではなく天からの使いのそれに思え始めていた。それ程までに今の翔纏の個性は異端中の異端なのである。世界はその異端を排除するのが目に見えている、守ろうとする活動も起きるだろう。だが、結局世界の流れに逆らえずに遠からず、彼を引き渡す事を選択する筈。だったら最初から別の道を模索すればいい、世界と敵対し自分の居場所を作り出す側へ。

 

「さあ俺の下に来いよ翔纏君、いや翔纏は俺と同じ匂いだ―――お前は俺の右腕になるべき存在だ」

「俺、はっ……俺は……」

 

 

「ふざけるなぁ!!!」

 

一人の男の悲鳴と共にその場にカメラが転がった。殴られた男は信じられないと言ったような表情を作るが、それ以上に憤怒に塗れた男に胸倉を掴まれて無理矢理立たされた。そして殺意に満ちた瞳で睨みつけられて金縛りにあったかのように動けなくなっていた。

 

「テメェ今何つったぁ……!!もういっぺん言ってみろぉ!!!何も知らねぇど素人が偉そうに能書き垂れてんじゃねぇぞゴラァ!!!」

 

それを行っているのは翔纏の兄であるアンク。今、世間は雄英高校の林間合宿へのヴィラン襲撃を一斉に叩いている。そして拉致された翔纏の家族であり、トップヒーローの一角でもある彼らにも話を聞こうと報道陣が殺到する中で一人の記者がある言葉を言った。弟を守り切れなかった雄英について何か一言、と。それにアンクがキレた。

 

「いいかよく聞け!!!あの状況がどんだけ混沌としてたか分かってんのか!?プロヒーローが数チーム単位で動くようなヴィランが数名、そして他にも多くのヴィランが徒党を組んで、作戦を立てて計画的に攻めてきたんだぞ!!!寧ろこれだけの被害で済んだのは奇跡っつって良いんだよ!!!それを全て雄英のせいにするだぁ!?テメェ何年記者やってんだ何も分かってねぇ愚図がぁ!!!」

「やめろアンクやり過ぎだ!!」

「よしなさいアンク!!」

 

今直ぐにも記者を殴り殺そうとするアンクをウヴァとメズールが必死に止める、二人だって同意見だが目の前で自分より先にキレたアンクがいる為か少しばかり冷静になれている。それでもアンクの気持ちはよく分かる。

 

「あの場で翔纏は自分のやるべき事を精いっぱいやったんだ!!それをやれたのもイレイザーヘッドが戦闘許可を出したお陰なんだよぉ!!あの許可が無きゃどんだけの被害が出てたのかも考えられねぇのか!?これを見てるテメェら全員もだ!!」

 

アンクは生放送で回っているカメラを睨みつけながら、抑えられる身体を暴れさせながらも叫んだ。

 

「非難するだけなら誰でも出来んだよ!!何も分からねぇ馬鹿どもが!!!いいか、翔纏は絶対に俺達が、ヒーローが助け出す!!何があろうと、俺は雄英を責める事は絶対にしない、それを覚えとけ!!!今度似たような質問しやがった奴は絶対に潰してやる!!!!」



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欲望の矛先。

ヴィラン連合が根城にしていると思われるバー、そこに囚われている翔纏。だがその拘束は既に解かれている、死柄木曰く交渉は対等の条件でなければ成立しないというポリシーに基づいている。暴れるという選択肢もメダルが没収されている事から少ない、メダルなしで個性を発動させるという事は翔纏自身の死を意味する。それに―――翔纏自身が既に激しく揺れ動いてしまっているので、死を覚悟して暴れるという可能性が限りなく低い。

 

「如何だ、翔纏」

「ッ―――……」

 

ハイライトが消えた瞳、虚空を見つめるまま微動だにしなくなってしまった。無邪気そうでありながらも邪気に溢れている少女、トガヒミコが頬を突いても完全な無反応。それは命令を与えるまで待機している脳無を想起させる。

 

「ちょっとこの子大丈夫なの?完全に動かなくなっちゃったわよ」

「当然だ、今まで自分の中にあった価値観の全てがひっくり返ったようなもんなんだからな。それを受け止めるのも時間がかかる」

「憐れなもんだ、ヒーローに吹き込まれたが故の苦悩って奴だ」

「だからこそ相応しい、ステインと戦ったモノにこそ相応しい苦悩」

 

様々な意見が飛び交う中で死柄木は黒霧に適当な酒をオーダーする、それを受けて飲みやすい酒をセレクトしてグラスに注いで差し出す。それを軽く含みながら視線をズラして先生と声を掛ける。そこにはテレビがあり、画面にはただ文字だけが浮かんでいる。

SOUND

ONLY

 

「先生、これはこれで良いのか」

『今これが最善だよ。今彼は迷っているのさ、今までの全てを捨てるのかをね。ンフフフッ……これで折れなければ新しく揺さぶりを掛けるだけで良い、彼の中に禍根のタネを残し、後はそれが芽吹くのが待てばいいのさ。僕としても彼の個性はぜひとも欲しいからねぇ……まあ僕の中に入れるのは無理だけどねぇ』

 

その言葉に死柄木は素直に驚いた、自分が先生と呼ぶ男は正しく超人社会という時代に生まれた怪物にして魔王。その魔王は正しく個性を支配する化物だ。その化物が支配しきれないと言う個性は初めてだった。

 

『彼の個性は単純な物ではないんだよ、彼の遺伝子と密接な関りがある。獣王一族という動物系の個性の集大成というだけではない、生物の記憶とも直結しているが故に恐竜の力が発現したのさ。だから奪おうとすればその途端に個性は消えてしまうし、彼も死んでしまう。それは弔も望まないだろう』

「成程な、確かに望まない。俺はこいつが気に入った、俺達と同じ匂い、同じ側の存在だ」

『その通りだよ弔。さぁDr.真木、僕からの希望を遂行してくれ』

「ええ。私も興味がありますので」

 

そう言いながらも真木は残っていた紫のメダルに無色のメダルを3枚近づける、そのメダルの影響を受けて透明だったメダルに紫色の欲望が流れ込んでいく所でそれを翔纏へと投げつけた。それはまるでコインの投入口に入れたような音を立てながら翔纏へと吸収されていく。

 

「ッ……」

 

そして身体中から紫色の光を放ち始める、それは閃光となりながらもメダルとなって胸から排出された。それを真木は回収するとそこに刻まれている物を見た。そこにあったのは恐竜とは明確に違う物、正しく空想上の生物がメダルに刻印されていた。

 

「成程……貴方の予測は当たっていたようです、紫色のメダルは絶滅した生物だけではなく空想上の生物も該当するようです」

「どういう事だDr.真木。恐竜は絶滅した生物だろ」

「いえ違います、我々が知る恐竜の姿はあくまでも想像上の形。明確な形を確かめる事は出来ず、骨などから解析し再現した姿も正確とは言えません。故に空想上の生物というのは絶滅生物にも適応出来るのです」

 

真木の解説に周囲がへぇ~っと言いたげな雰囲気に包まれている中、真木はオーズドライバーにも似ている装置にメダルをセットすると直結されているパソコンを操作してデータを吸い出していく。ドライバーの開発者という事もあって吸出しはあっという間に終了した。メダルを引き抜くと、それはまたもや自分の意志で動き出していき翔纏の中へと吸い込まれていく。

 

「おいおいまだ取り込んじまったぞ、いいのか」

「メダルが選んだのです、自らの主として。我々には既に5枚のメダルとデータが手中にあります。問題はありません」

「なら、個性破壊もか?」

「それは無理でしょう。個性破壊は彼の強い破滅的な欲望が巻き起こす無への衝動、彼だけにしか出来ないでしょう」

「そうか、そりゃいい事を聞いた」

 

改めて死柄木は笑った、そして黒霧に新しく酒を注文する。その意図を汲み取った黒霧はカクテルを作り始める、死柄木にはキールを、そして翔纏への物は―――XYZ。それを取って翔纏へとカクテルを差し出す。

 

「お前にとっての最上の選択は俺の手を取る事だ、俺はお前という存在を歓迎し許容する。そして俺達は最高の相棒同士になれる、さあこれで乾杯しようぜ―――俺達の究極の出会いに」

 

キールに込められる言葉、それは最高のめぐり逢い。そして究極のカクテルとも称されるXYZ、それには行き止まりという意味もあるが永遠に貴方の物という意味さえもある。つまり、それを受け取り乾杯するという事は翔纏のヴィランへの移ろいを意味する。顔を上げた翔纏、そこにあるカクテル。

 

「俺は……俺は、俺は俺は俺は俺は……」

「大丈夫お前はお前だ。お前の全てを肯定して守り抜いてやるよ。一緒に歩もうぜ相棒」

 

その問いかけに翔纏は―――



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―――震える欲望。

「大丈夫お前はお前だ。お前の全てを肯定して守り抜いてやるよ。一緒に歩もうぜ相棒」

 

自分の全てを受け入れてくれる、全てを壊した後で新しい世界が自分を待っている。様々な欲望が渦巻きながら腕が動こうとした時―――

 

「どうも〜。ピザーラ神野店です〜」

「ピザ……?」

「誰だよ頼んだの、良い所で台無しじゃねぇか……」

 

舌打ちをする死柄木、だが一体誰が頼んだのか。その場にいるほぼ全員が呆けた顔をしている、誰も頼んでいないのかと思った刹那―――

 

「SMASH!!!」

 

剛腕の一撃によって壁が崩壊、そして同時に乗り込んでくるのは平和の象徴、№1ヒーローたるオールマイトだった。何故此処が分かったのか、如何して此処にオールマイトがいるのかなんてどうでもいい、死柄木は咄嗟に翔纏の壁になりつつ黒霧に指示を飛ばす。

 

「黒霧、ゲート!!」

「させん!!!先制必縛ウルシ鎖牢!!!」

 

背後から伸びた影からさらに伸ばされた鎖のように太い樹木がバーに居た全員を捕縛していく。若手実力派、シンリンカムイの必殺技によって一瞬でヴィランは全員拘束される。

 

「逸んなよ、寝てろ」

 

即座にその樹木を燃やそうと荼毘が炎を放とうとするが、素早く乗り込んできたヒーロー、グラントリノが荼毘の下顎を的確に蹴りつけて意識を奪い去った。

 

「流石若手実力派だシンリンカムイ!!そして目にも止まらぬ一撃、グラントリノ!!もう好き勝手にさせんぞヴィラン連合、何故ッて―――我々が来たぁ!!!」

「そう、俺達が来た。ピザーラ神野店はヒーローだけじゃないって事だ」

 

バーの扉の隙間から入り込んだヒーロー、エッジショットによって開け放たれた扉から完全に武装した警察の機動隊が姿を見せる。しかも外にはエンデヴァーを始めとしたヒーローが待機しているらしく最早状況は詰みに近い。だが死柄木は極めて冷静であった、一ミリの焦りも見せる事もなく背後の翔纏を気に掛けていた。

 

「獣王少年、待たせたねっ助けに来たぞ!!」

「―――っ……如何して……」

「簡単さっ我々がヒーローだからさ!!怖かっただろう、だがもう安心していい。君は私達が守る!!」

 

守る、守る―――?守るって何だ、ヒーローが俺を守るだと、守る訳がないだろう、俺はヒーロー社会を崩壊させる存在なんだぞ。何をほざいているんだ、ああそうだ……何も知らないんだ。だから言えるんだ、でも、一度知られたらもう終わりだ……もう終わりなんだ……。

 

「脳無を呼ぼうとしても無駄だ、既に脳無格納庫は我々が制圧している。覚悟しろヴィラン連合、もう逃がしはしないぞ!!」

「すいません死柄木弔、確かに指定の場所に脳無が……!!!」

「悪いが気絶して貰おうか、転移されては困る」

「数手先を取られたって奴か……成程確かに甘く見てたな……だけどな、此奴は渡さない」

 

腕ごと身体を締め付けてくる樹木、身体に腕が食い込みそうな力だがそれにも一切屈さずに立ちあがる死柄木。状況は最悪、黒霧もエッジショットによって気絶させられた。だが、引かない。その姿にオールマイトは目を疑った、何故ヴィランの彼が誰かを守るヒーローに見えたのか。雑念を捨てろと強く思うが―――死柄木は語る。

 

「此奴はもう俺達の仲間だ、手ぇ出すな。もうこの世界に此奴の居場所は俺達しかない」

「戯言を……!!獣王少年早くこっちに!!」

「誰がこんな時代にした、誰が此奴を拒絶する世界を作ったんだろうなぁ……テメェらだよヒーロー……!!」

「獣王少年!!少年、如何したんだ何かされたのか!?」

 

語気を強めながら殺意と敵意に染まり切った瞳でその場の全ての敵を睨みつけ始める死柄木、その言葉に少しずつ顔を上げていく翔纏。その瞳を見たオールマイトは明らかな異常を感じた。その目は―――まるで救いを求めていた者が、救いを見つけた時に見せる生気の宿った目だからだ。

 

「此奴は悪くない、だから俺が守ってやるんだ。だから失せろ―――ヒーロー!!!」

「戯言を抜かすな!!獣王少年さあこっちへっ!!」

「―――ぃゃ……ぃゃ……」

「獣王少年!?」

 

その場にいたシンリンカムイ、そしてグラントリノと共にオールマイトは見た。大粒の涙を流しながら拒絶するように死柄木の背後から動こうとしない翔纏の姿がそこにあったからだ。

 

「誰もが皆……貴方のように強い訳じゃない、誰もが一等星になれる訳じゃない……誰もが、優しい訳じゃないんだ……皆、貴方みたいだったら俺だって、安心出来るのに……」

「おいっ確りしろ!!精神干渉を受けてるのか!?」

「クソッ死柄木弔、獣王少年への干渉を止めろ!!」

「俺は何もしてない、するのはお前らだ」

 

頭を抱えるように膝をつき、頭を振って恐怖に震えていた。誰もがそれはヴィラン連合による精神干渉の個性によって正気を失っているように見える、特にオールマイトは強さを知っているが故に翔纏が言う訳が無いと断ずる……だが真実は異なっている。

 

「俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は―――」

「落ち着くんだ獣王少年!!君ならその呪縛を振り払えるはずだ!!」

「その思いがっ俺の全てを……壊すんだ……そんな世界なんていやだぁぁぁぁぁ!!!」

 

慟哭の叫びと共に翔纏から紫色の波動が周囲へと拡散していく。風圧とも音圧とも衝撃波とも違う何かに、全員が寒気と共に恐怖を覚えた。自分の中の何かが消えそうな絶対的な恐怖を齎す感覚に皆が困惑する中―――死柄木は笑っていた。

 

「悪いなオールマイト―――翔纏は俺達が守る」

 

その言葉と共にバーの空間内に灰色のような液体が出現した、空中に、いや空間に浮かんでいるそれからは無数の脳無が出現し次々と這い出して来る。

 

「脳無!?何もない所から!?エッジショット気絶させたのでは!?」

「確かに気絶している、此奴のせいじゃないぞ!!」

「くそどんどん増えやがるぞ!?」

「獣王少年!!!」

 

脳無が溢れかえりそうになっているバーの中、そこから救い出そうとオールマイトが手を伸ばす。一先ず彼を安全な場所へと連れて行かなければと手を伸ばすが、それを死柄木が蹴って阻止する。

 

「タイムオーバーだ、悪いなオールマイト。俺達の仲間には手は出させない」

 

力強い言葉と共に、今度は脳無が出現している液体が死柄木たちを取り込むかのように出現していく。それに呑まれたヴィランは次々と姿を消していく、そして最後に翔纏と死柄木を飲み込もうとする。

 

「獣王少年っ手を―――!!!」

 

オールマイトの言葉と手は虚空だけを掴んだ、先程までいた筈の翔纏は死柄木と共に消えてしまった。

 

「NOOOOOOOO!!!!」

 

 

「さて、個性は使いようだ。この意味の無い個性が君に新しい力を与える―――さあ新しい物語の始まりだ」



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死柄木の欲望。

「ゲホガハッ……!!」

 

激しい嗚咽を漏らす、臭気を伴っていた液体に包まれていたが故の行動。肺の中の空気を一度すべて吐き出してから新しく新鮮なものを取り込もうと安静を測る。その時、背中を死柄木が優しく摩っていた。

 

「随分、お兄さんらしくなったね弔」

「ああっ……折角巡り合えた相棒だ、大切にするさ」

「いい子だ弔、これから僕たちの家族になるんだ。その心を忘れちゃいけないよ」

 

顔を上げた時―――そこには更に深い闇があった、本能が理解する。これは逆らう類のものではないと、動物の個性ゆえに分かるのかもしれない本能が告げるのだ。これは群れのボスだと、死柄木がヴィラン連合という群れのボスならばこれは更なる高みにてそれらを操る王だ。漆黒のスーツに身を包み、髑髏を思わせるような機械的な仮面にて顔を覆っている。

 

「初めまして翔纏君、僕は弔の保護者みたいな事をしているオール・フォー・ワンだ」

「オール・フォー・ワン……?」

「まあ気軽に先生とでも呼んでくれていいよ、そして今日から君は―――死柄木 翔纏、僕の家族だ」

 

家族、家族という言葉に一瞬身体が強く反応した。何故だ、如何して―――こんな風に

 

「さてっ家族になったお祝いだ、これを君に上げよう。Dr.真木、準備は出来ているね」

「ええっ急造品ですが、クォリティは保証します。どうぞ貴方が使うメダジャリバーの発展型―――とでも言いましょうか」

 

そう言いながら何処からともなく現れた真木が差し出してきたのは一本の剣であった。メダジャリバーよりもかなり巨大な一振りであり、バスターソードと言える程のサイズ。

 

「銘はまだ決めておりません、ですがそれはまだ使えません」

「ンだよ白けるな、おいDr.真木俺のは」

「其方は待ってください。それ自体も元々あるメダジャリバーを改造したので作れたのですから」

 

舌打ちをしながらも如何にも翔纏が渡されたそれを羨ましがるような仕草をしている弔にオール・フォー・ワンはクスっと笑いながらも次のステップだと其の肩に触れた。

 

「個性は使い方次第だ、こんな風にね」

 

片手を黒霧へと翳すと指が赤黒く染まりながらも伸縮してその身体へと触れる、そして巨大なワープゲートが開かれた。

 

「弔、翔纏君を少し借りるよ」

「ああ分かった、おいお前ら、早く逃げるぞ。じゃねぇとオールマイトが来る」

「ゲッそりゃ勘弁だ!! バッチこいだな!!」

 

そそくさと皆がワープゲートへと入っていくヴィラン、死柄木が黒霧を担ぎながらも最後に翔纏を一瞥しつつもまた後でなっと言い残してゲートの中へと入っていく。そしてゲートが閉じる。

 

「さあっ僕達も始めようか、翔纏君」

「俺、は……」

「大丈夫だ、君の気持ちはよく分かる。だからこそ君は此方側にいるべきなんだ―――でもちょっと待ってくれるかい、来てしまったようだ」

 

翔纏の前へと出るようにしながらオール・フォー・ワンは空を仰ぎ見た、雲によって閉ざされた天。曇天を晴らす光となってヒーローが舞い降りる、平和の象徴、№1ヒーロー、オールマイトが満月を背負いながら迫って来た。その剛腕を振るいながら、オール・フォー・ワンはそれを真正面から受け止めた。

 

「全てを返して貰うぞ、オール・フォー・ワン!!!」

「また僕を殺すか、オールマイト……!!!」

 

凄まじいまでの爆風が瓦礫の山と化している街へと轟いて行く、これがオールマイトの全力のぶつかり合いなのかと思わせるようなそれをオール・フォー・ワンは敢えて防御に回って受け止めている、背後にいる少年を守るが為のように。

 

「随分遅かったじゃないか。バーからここまで5km程度……僕が脳無を送り優に30秒以上は経過しての到着。脳無は改良したとはいえ、衰えたねオールマイト」

「貴様こそ、なんだその工業地帯のようなマスクは!?だいぶ無理をしてるんじゃあないか!?」

「お互い様だねそれは、だが君が遅れた時間に彼にあの剣を渡す事は出来た」

「獣王少年―――なんだ、あの禍々しい大剣は……!?」

 

翔纏が握り込んでいる一本の剣、それは刀身から柄、あらゆる部位が黒く染まっている剣。それでいながらも煌めくという特異性を見せ付けながらオール・フォー・ワンはある物を翔纏へと投げた。

 

「それに思いを込めてごらん、応えてくれるはずだよ」

「思いを……込める……」

「聞くな少年!!奴は君を利用しようとしているだけなんだ!!」

「利用……」

 

真っ白な何か、完全に色が抜け落ちてしまっているそれは落丁している本を思わせた。何も中身が無いそれはまるで自分のようだと思えた、言われるがままに思いを込めようとした時―――

 

「っ翔纏!!!」

「兄さん……」

 

突然の声に其方を向く、そこにはアンクの姿があった。背後には気を失っているメズールやウヴァと言った他の家族の姿まであった。如何やら兄達はバーではなく此処にあったと思われる拠点へと回っていたらしい。アンクは自分の姿を見ると胸を撫で下ろしながらも翼を広げながらも何時でも飛び立てるようにしている。

 

「アンクッこいつは私が抑える、その内に獣王少年を!!」

「分かってる、翔纏待ってろ今俺が―――」

 

―――やめて、来ないで……。

 

剣を盾にするようにして、身を守るような仕草をしながらアンクから遠ざかるようにオール・フォー・ワンの背後へと隠れた翔纏。それにアンクは驚いた、弟は自分を避けたことなど一度もない、いや家族を拒絶した事なんてないのだ。それなのになんだあの顔は……本気で此方を拒絶するような顔だ。

 

「アンクッ少年は精神汚染を受けているんだ!!オール・フォー・ワン、今直ぐ少年を自由にしろ!!!」

「心外だね、僕は何もしていないさ。僕はまだ剣を上げる事しかしていないさ、したのは君達の方さ。そしてこれからは彼がする」

「翔纏、兎に角ジッとしてろ!!」

「来るなと言ってるだろ……何も分かってない、何も分かろうとしていない―――俺はもうっヒーローなんかになれねぇんだよぉ!!!!」

 

慟哭と共に振るわれる剣、振るわれただけなのに翔纏が立っていた地面は沈み、周囲には凄まじい剣圧が襲いかかった。

 

「獣王少年、何を……!?」

「俺はもう、社会そのものから忌避される存在になっちまったんだよ!!!そんな俺が今まで通りに生きていける訳がない……兄さん、いやアンク―――貴方達だけには会いたくなかった……もう後には引けない……俺はっ俺は――――もう全てを消すしかない」

 

その時、咆哮のような音と共に翔纏からメダルが飛び出した。それは新たに投げ込まれたメダル、それは本へと吸い込まれていくと落丁した部分を埋めて新たな物語を紡ぎ出す。それと同時に剣と本が翔纏と一つになっていく、同化して一つになっていく。それを見てオール・フォー・ワンは笑いながら称える。

 

「フムッ如何やら剣の方はまだ時間がかかる様だね。それでも十分だよ、祝おう今日が君の誕生日だ。死柄木 翔纏、古き世界を滅ぼし新たな世界を紡ぎ出す欲望の王者だ」

「ヴヴヴヴァァァァァァ!!!!」

 

飛び出した3枚のコアメダル、そこに刻まれるのは恐竜。そしてそれをドライバーへとセットする。そして剣を地面へと突き刺す事で明確な意志を確かめる、そして―――オースキャナーでスキャンする。

 

キンッ!

キンッ!

キンッ!

 

「変身!!!」

 

プテラ!

トリケラ!

ティラノ!

 

プ・ト・ティラーノザウルゥス!!

 

ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!

 

現れるプトティラコンボ、それが発散させる絶対的な強者によって齎される恐怖はオールマイトにも影響を及ぼす程。突き刺さった剣を引き抜き、構えた。

 

「ゥゥゥゥゥゥッッ……!!」

「冥府に眠る太古の王者の力を纏う王者の誕生だ。君はもう―――」

「ウオオオオオオオオッッ!!!!」

 

誰も逃さない



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欲望に駆られし者。

「オール・フォー・ワン貴様ぁ……獣王少年に何を……!!!」

「君もしつこいねオールマイト、僕は何もしていないさ。言うなれば―――彼自身が招いた事さ」

「あり得ん!!獣王少年は心優しく、勇敢で、誰かの為に全力を出せる少年だ!!それがあのような事をっする筈が無い!!!」

 

 

「オウラァッ!!」

「ゥゥゥォォォ!!!」

 

翼を広げ火炎弾を連射するアンク、それを凄まじい速度で猛追しつつ雄たけびを上げながら迫る翔纏。身体に当たる火炎弾など完全な無視、ノーガード戦法なんて生ぬるいという程に気にも留めずに迫り、手にした大剣を振り被りながら襲いかかっている。

 

「しょうがない、本気で相手してやる!!怪我しても文句言うなよ翔纏ァ!!ウオオオオオオオオッッ!!!」

 

腕だけに個性を発動させていたアンクだが、本気の力を出す為に個性を全開で発動させる。そして迫りくる翔纏の一撃を紙一重の所で回避しながらも顔面に一撃を叩きこむ―――が、小揺るぎもせずに殴り返してくる。

 

「おい翔纏っお前……!!」

「オオオオッッ!!」

 

冷気を纏った拳が迫ってくる、それを咄嗟に爆炎を纏った蹴りで相殺する。完全に相殺している筈なのに身体が軋むような衝撃波が襲いかかってくる、

 

「何だこのパワー……!?思うように、力が出せない、だと……!?」

「ヴォォォォオ!!!」

「ガァッ……!!?」

 

一歩、深く踏み込んできた翔纏は拳をアンクの肉体へと炸裂させると手にしていた大剣で腹部を薙ぎ払った。それを諸に受けたアンクは瓦礫の残骸へと叩きつけられてしまう、そしてその身体が部分的に個性が解除されるかのように生身が見えている。ノイズが走り個性が不安定になっている。

 

「俺の個性が……!?」

「そうっこれが翔纏君の個性さ」

「貴様ぁっ!!!」

 

オールマイトの一撃を回避しながらプトティラコンボの傍へと立った。だが翔纏はオール・フォー・ワンへは全く攻撃を加えようとはせずに静止している。

 

「彼の個性は無の欲望、彼にとっての欲望とは個性の源。無の欲望は他者の個性へと干渉する、アンク、君は咄嗟に後ろに飛んだことでクリティカルヒットにならず済んだようだね、だからこそその程度で済んだのさ。だが―――まともに受ければ個性は消滅する」

「個性が、消滅……まさかテメェ……―――、―――。俺達が翔纏を見捨てるとでも吹き込みやがったのかぁ!!!」

 

ほんの僅かな情報しかない状況でアンクは真相へと辿り着いた、その頭の回転の速さにはオール・フォー・ワンも感嘆の息を漏らした。

 

「今の言葉だけで良くもそこまで辿り着けたものだ、驚嘆に値するよヒーローアンク。だがそれを如何すれば否定出来る?今の彼は超人社会が最も恐れる物だ、嘗て個性によって起きた超常黎明期、それにも匹敵いやそれ以上の恐慌を生み出しかねない存在を―――この世界が何故生かす保証がある?」

「個性を破壊する個性、まさかそんな力が獣王少年に……そうか、少年はご家族に捨てられるかもしれないという恐怖に駆られているのか……!!」

 

暴走に近い今の翔纏、だがそれはそれだけ翔纏が恐れている物の大きさにある。愛を注いでくれた家族から捨てられる、それに対する強い恐怖。世界全てから拒絶されるという未曾有の恐怖は想像も出来ない程に悍ましい。

 

「幾ら君達が力のある家だとしても、その力など高が知れている。国、世界という力に対抗など出来ない。世界の秩序とも言える程に膨れ上がった個性を破壊する力、それを消す為なら世界はヒーローを総動員、いや核兵器を用いてでも彼を消そうとする。なんて惨い事だろうか、だから僕が迎え入れるのさ、家族としてね」

「何が家族だ!!貴様は少年の力を利用する事だけを考えているだけだろう!!!」

「そうだよ、それの何が悪い」

 

改めてオールマイトとの戦闘を再開しながらオール・フォー・ワンは語る。

 

「彼にとって大切なのは信用に値する理由だ、僕達はその個性を壊す力を利用する代わりに盾と矛を務める。世界という枠組みから恐れられる彼が頼れるのはもう僕達しかないのさ」

「たとえ彼が世界から恐れられる存在であろうと、彼が自分を受け止めてくれる器を欲しているならば私がそれを務めてみせる!!絶対に彼を傷付けさせる物かぁ!!」

「出来ない事を軽々しく言うもんじゃないオールマイト」

 

「翔纏お前っ……俺達がそんな事をするって本気で思ってるのか……!?」

「ゥゥゥゥゥッッ……!!」

 

大剣を構えながらも一歩、また一歩と近づいてくる翔纏へとアンクは痛みに耐えながら言葉を掛け続けていく。何処までも彼の中にあるのは家族への想いだ、単純に自分が捨てられるという恐怖だけではない筈だとアンクは確信している。

 

「俺たち家族が、どんだけお前の事を馬鹿みてぇに愛してると思ってんだ……舐めんな、世界だろうが何だろうがンなもん跳ね除けてやるに決まってんだろうが……俺はお前の兄貴、兄貴が可愛い可愛い弟を捨てる訳ねぇだろうが大馬鹿野郎が!!!」

「―――どこにっそんな確信があるっていうんだぁぁぁぁぁ!!!!」

 

明白になった理性が叫ぶ恐怖、何も分からない怖い、未来が怖い、だからこそ翔纏は無を受け入れようとしてしまっている。欲望に呑まれ掛けている、だから今此処で救い上げてやらないと全てを飲み込む欲望の器と成り果ててしまう。そう思った時だった―――突然翔纏の足元が凍て付いた。

 

「何ッ……!?がっ―――!?」

 

その氷に取られた一瞬の隙を突いて、何かが途轍もない速度で翔纏へと体当たりした。そしてそのまま伸びた氷はジャンプ台のように空へと伸びた、そのまま翔纏は空へと打ち上げられて行く。

 

「行けっ良い所は譲ってやる―――!!」

 

 

「翔纏君っ!!!助けに来た!!!」

「獣王、林間合宿での借りを返しに来た……!!」

「翔纏馬鹿なことしてんじゃねぇ!!」

「委員長として、君を正しに来た!!」

「翔纏っ―――今度は私達がアンタを助ける……!!」

 

自分の身体を拘束していたのは―――雄英の友人達だった。



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親友たちの欲望。

「如何、して―――……!?」

「翔纏君っお願いだ、僕達の所に帰ってきて!!」

「緑谷君、獣王君もう直ぐ着地する!!衝撃に備えたまえ!!」

「ダークシャドウ、着地任せる。お前なら出来る!!」

『オウヨォ!!!』

 

身体の各部を拘束されながらも何処かへと飛ばされていく翔纏へと絶え間ない言葉が掛けられて行く。暖かで何処までも自分への想いに溢れている物ばかりだった、そして遂に地面へと迫って来た。それを夜ゆえに巨大化していたダークシャドウが大地を掴むようにしながら衝撃を殺し、着地した。

 

「―――やめっろ……ヴオオオオオオオオオ!!!」

 

着地した際に自分の拘束するダークシャドウの手が離れた事で全身に力を込めて全員を吹き飛ばしてしまう、爆発的な衝撃波によって離れた全員の姿にハッとしたように言葉を失うかのように後退る。

 

「流石、八百万さん……此処なら、誰の邪魔も入らない……!!」

 

緑谷の言葉に周囲を見るとそこはまだ未完成の、骨組み程度しか完成していないスタジアムの中央部である事が分かった。此処まで入念に計画を立てた、そして勇気を奮い立たせて実行に至った。そこには此処にいる全員の力が無ければ出来なかった。

 

 

 

 

 

林間合宿での一件、そこで限界を超え過ぎた緑谷は身体に多大な負担が掛かってしまった。両腕はまともに機能しない程に損傷が著しく、同じような無茶を続ければ腕が使えなくなってしまうという程の怪我を……今後、身の振るい方次第で爆発する爆弾を抱える事になってしまった彼、怪我自体はリカバリーガールによって回復はしたが―――攫われた翔纏を助けられなかった事が余りにも重く圧し掛かっていた。

 

「行くぞ緑谷。俺は―――親友を助けにも行けねぇような下らねぇもんになる気はない」

「うんっ行こう……!!」

 

だが、それを無視して緑谷は翔纏救出へと動き出そうとしていた。肝試し中に八百万がB組の生徒と協力し、ヴィランに発信機を取り付ける事に成功している。そしてその受信器があれば後を追う事が出来る、八百万の説得は出来ている、彼女自身も同行し、危険な時には止めるという条件付きではあるが……。そして飯田もそれに同じくだった。

 

「もう一度聞くぞ轟君、本気なんだな……!!」

「ああ。俺はこの結果で―――もうヒーローになれなくても悔いはない。親友一人助けられねぇような俺はいらねぇ」

 

同じステインの事件を乗り越えた仲である彼が問いかけた、だが彼は止まる気はない。どんな結果が待っていようとも、後悔はしない。するならやれる事を全てやってからするつもりでいる。既に日は落ちている、動き出そうと―――いう時に彼らを止める一つの影があった。それは―――

 

「常闇」

「常闇君……」

「矢張り、行くのだな」

 

それは常闇であった、病院近くの壁に寄り掛かりながら待っていた彼は緑谷達の姿が見えるとダークシャドウの腕を伸ばして静止させながら声を出した。だが、それを見て緑谷は意外に思えた。

 

「常闇君、ダークシャドウを制御出来てるの……?」

「ああ、忌々しい事にあの一件が俺に俺自身の闇を完璧に制御する術を授けたのだ。腹立たしいがな」

 

相当に悔しいのか何度も繰り返し言っている。そしてその一件とは―――林間合宿での出来事だった。

 

『ガアアアアッッ!!!』

『と、常闇ぃ!?なんぞこれ!?』

『獣王か!?駄目だ、早く俺から離れろぉ……!!』

 

ヴィラン連合の攻撃は常闇も被っていた。その時に障子に庇われた際に彼が負った怪我により生じた義憤と悔恨の心、更に夜で厳しくなっていた制御が解かれダークシャドウが暴走してしまう。彼の個性は闇が深れば深い程の攻撃力が増すが制御が難しくなっている。真夜中且つ薄暗い森の中では最早その力を止める事は難しい。

 

『駄目っ逃げてくれ、俺から―――離れろ!!!』

『いや逃げない!!俺はお前を助けに来たんだ、ダークシャドウを俺に向けろ、俺をっ信じろ!!!』

 

強い言葉に救いを想った、だがそれに感応したのかダークシャドウは真っ先に翔纏へと迫っていった。森の木々を平気で圧し折るパワーを持った漆黒の腕が迫る、だが翔纏はそれを回避する事なく真正面から受けた。

 

『ガァッ……ァァァァァアアアアアッッッッ!!!』

『獣王っ!!!』

知ッテイルゾ……貴様、俺ヲ満タセェェェェェ!!!

 

とんでもない力で抑えにかかるダークシャドウ、それによって一瞬で抑え込まれて万力のような力で身体を締め上げながら自分と戦えと要求するダークシャドウ。苦しみの声を上げる翔纏に常闇は自分の個性は友を苦しめる為にあるのか、と歯を食い縛るが、直後に翔纏の声がそれをかき消した。

 

『凄い個性だな、常闇……大丈夫、今度は大丈夫これを制御して、今度は巨大ヴィランと戦おう、な……!!!』

『お前、如何して―――』

『そして、待っていたぜ……この瞬間をぉ!!最大放出大放電んんん!!!』

ピヤァッ……

『静まれぇぇぇぇ!!!』

 

ダークシャドウの一撃を受けながらもクワガタヘッドからの最大放電。放電ゆえに狙った場所へは難しい、故にダークシャドウが超至近距離まで近づいてくれる距離まで粘った。そしてそこで多少外れても問題ないように最大パワーでの放電でダークシャドウの暴走を抑える為の放電の光をぶつけた。それによって制御を取り戻した常闇はダークシャドウを収めて直ぐに翔纏へと駆け寄った。

 

『獣王!!すまない、俺が未熟なせいで……』

『気にするなよ常闇……成長する為に、俺達は雄英に来たんだ……それにお前なら絶対―――フルパワーダークシャドウを制御出来る筈だ……』

 

息も絶え絶え、もう動けないようなダメージを負っている筈なのに翔纏の声は何処までも明るくて、笑っているように思えてしまった。だが、その身体は徐々に薄れて始めていた。まるで液体の中に溶けていくかのように粒子となっていく。

 

『獣王、おい如何したんだ!?』

『悪い常闇……俺は此処までだ、安心してくれ、俺自身は分身でしかない……周囲に誰かいたら、ダークシャドウを使って助けてあげてくれ……』

『だ、だが俺は……』

『大丈夫』

 

消えかかっている手で常闇の腕に触れる、消えかかっているのになんて力強いんだと思った。そして握り込んできた。

 

『怒りじゃなくて、誰かを救いたいって気持ちでダークシャドウを操るんだ。誰かの為に為したいって想いで―――頼む』

 

そう言って消えた翔纏の分身、言葉を残して消えていった友。その時、常闇の身体から闇が溢れていった。

 

ヴォオオオオオオオオオオオ!!!!

『我が友の想いに懸けて―――ダークシャドウ、闇を統べる王と成れ。命を、友を救うぞ!!!』

良いダロウ!!ダガ手綱ヲ握ルノハオ前ダ

『ああ、ダークシャドウお前は俺だ、そして俺はダークシャドウ、お前だ!!』

 

フルパワーであるのにも拘らず、常闇はダークシャドウを完璧に制御していた。そしてその力を存分に使う事で近くで隠れていた障子と緑谷をその身に乗せながら、近場で戦闘を行っていた爆豪と轟へと救援に入ると―――

 

『一蹴しろダークシャドウ!!』

オウラァ!!!

 

二人を圧倒し続けていたヴィランを一撃の下で撃破する程のパワーを発揮しながらも完璧にダークシャドウは指示に従っていた。

 

粋ガルナ、三下風情ガァ!!

『常闇、お前それ―――!!』

『安心しろ制御は出来ている、それより早く乗れ!!宿舎まで撤退する!!』

 

窮地を脱する事が出来たのは翔纏のお陰だった。彼が自分を救ってくれた、そして道を示してくれた。自分の闇とどのように向き合うべきなのかを。

 

「今の俺があるのは獣王のお陰だ、俺はその借りを返したい。また共に歩みたい、そして―――友として、握手をしたい」

「常闇君―――うん行こう」

「俺だけではない、もう一人いる」

 

そう言いながら身体を動かすと背後にいたもう一人の姿を見せた。委員長である飯田は誰か分かったが、まさか此処にいるとは思いもしなかった。

 

「君は拳藤君!!」

「や、やっほ……あの、翔纏の救出に行くんだよね。アタシも一緒に行かせてくれないかな……」

「拳藤さん……ですがどうして……」

「アタシっ……ずっと居たんだ、翔纏の傍で……」

 

翔纏が一番戦っていた、この林間合宿で一番戦っていた。自らに降りかかる破滅のリスクなんて度外視して救える命を救う為の行動を全て行っていた。その苦しみと戦い続けていたのを見届けていたのは拳藤だった。彼こそがヒーローだ、なれるだとしたら彼のようになりたい。

 

「役に立てるかは、分からないけど……連れて行って」

 

実際自分が翔纏の救出に役立つのかと言われたら微妙な所でしかない。それでも同行したいと強く思っている。

 

「分かった、行こう拳藤さん」

「緑谷君!?」

「多分、此処で駄目だって言っても強引についてくると思うよ。だったら一緒に連れて行った方がいい」

 

こうして誕生した翔纏救出チーム。そして―――彼らはオール・フォー・ワンがいる脳無格納庫へと辿り着き、そこで決戦に巻き込まれそうになったが―――

 

「俺が許可する、存分に個性を使え」

 

翔纏の一撃によって吹き飛ばされたアンクがその存在に気付き、個性の使用許可を出した事で一気に計画が進行した。八百万が自身の家が建設しているスタジアム予定地の座標を割り出し別ルートでスタジアムへと向かう、焦凍がスタジアムへと行く為のコースを形成。飯田と緑谷が共に機動力を確保、常闇と拳藤で翔纏を拘束してスタジアムへと身柄を移動させる。

 

―――此処までは計画は上手く行った、後は……

 

「……やめろ、俺は俺は……ヴアアアアアアア!!!」

 

暴走と理性の狭間で揺れている翔纏を確保するだけ。




林間合宿で起きたガタキリバの分身のダメージ超過、その原因は常闇。でもそれを選択したのは全て翔纏自身。この事態も翔纏が招いた結果とも言える。


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根底を覆す欲望。

「皆様っ遅れました!!」

 

スタジアムに到着してから少ししてから百が到達した。乗ってきたバイクから飛び降りながら着地しての登場、バイクが横転し爆発炎上しているが恐らく彼女の個性で作られた物なのだろう。故に余り気にしないでおく。

 

「此処は我が家の私有地ですわ、どうぞご存分に個性をお使いくださいまし!!お父様、お母様の許可は取ってあります!!」

「有難う八百万さん!!」

「よしっ……獣王君を連れて帰るぞ!!」

 

飯田の言葉に力強い返事が返ってくるが、それに対して未だプトティラコンボである翔纏は好意的な反応を返す事は無かった。低い唸り声を上げ続けている、拳藤の話通りにあの姿は基本的には暴走の姿だと考えるのは間違っていない、だが同時に翔纏の意識は残っている、ならばチャンスはそこしかない。

 

「如何して、来たんだ……ヒーローでも、無いお前らが……!!!」

「ダチだからに決まってんだろ」

 

分かり切った事を聞くなと言わんばかりに焦凍がそれに答える、唯友達だから助けに来た。それだけの言葉に翔纏は更に言葉を失う、危険を冒してあんな所にまで来た……なら猶更自分に近づける訳にはいかない、もう、自分は友達ですら―――

 

「翔纏っ!!アタシ達全部聞いてたよ、アンタの中にあるあの紫のメダル!!その姿、個性を壊しちゃう位にやばいパワーがあるんだよね!?私達、そんなの怖くない!!」

「―――っそれを、知ってるのに……」

 

彼らはあの場では瓦礫の陰に隠れていた、だがそこでオール・フォー・ワンが語っていた言葉は全て聞いていたのだ。この姿、いや紫色のメダルが個性そのものを破壊するというのに―――それを聞いて尚自分を助けに来た……信じられなかった。ヒーローを目指している彼らが絶対に恐れる筈のものを前にしてやってきたというのか。

 

「別に怖かねぇよ、どんな個性も使いようだ。お前なら爆豪みてぇに脅して使う訳でもねぇだろうからな」

「轟君!!級友を貶めかねない言動は慎みたまっ……いや、しかし爆豪君ならあり得てしまう、のか……容易に想像できてしまった……僕は彼を信じる事も出来ないのか!?」

「大丈夫だよ飯田君、カッちゃんなら絶対やるから間違ってないから」

「飯田、緑谷気持ちは分かるが今そんな事を言ってる場合ではなかろう」

「ま、まあ飯田さんのおっしゃりたい事も分からなくもない、というか否定できる材料が無いと申しますか……」

「……噂は聞いてるけどさ、どんだけやばいの爆豪って。アタシも注意しとこうかな、主に物間が煽って逆襲されないように」

 

そこにあるのは普段通りの光景だった、クラスで行われるやり取り。それとほぼ同じ物がそのままそこにあった、如何して今の世界にとって絶対的な恐怖をまき散らす存在である自分を前にして其処まで平静を装う事が出来るのか、訳が分からないと動揺が剣へと伝わる状況で緑谷が言う。

 

「翔纏君、君は僕に言ったじゃないか。欲望が、夢が生きる力をくれるって。だったら、君に今は夢はないっていうの、欲望はないの」

「欲、望……俺の欲望……」

「君だってヒーローになりたくて雄英に来たんじゃないの、僕の知っている君はそんな弱くはないよ!!!」

 

弱い、弱い……確かに自分は弱い、だが―――だったらどうしろというのだ。

 

「分かったような口を利くな……ならっお前なら立ち向かえるのか、自分の力が世界の秩序、バランスすら危うくするような力になってしまった事に。世界が俺を消す為に力を差し向ける事だってあり得る、家族ですら抗えない世界の波に!!!」

「翔纏……」

 

想像も出来ない、他者どころか世界そのものが排除しに来るレベルの危険な個性。超常黎明期以上の混沌を齎すかもしれない存在を世界は生かしておかない、世界から拒絶されるならば自分からそちら側に行くしかない。

 

「誰も分からない、この恐怖だけは……!!」

「じゃあ君は本当にそれでいいの!?君の欲望は本当にそう思ってるの!!君は唯、現状に叩きのめされて欲望を持つ事を諦めてしまっているだけなんだよ、だから無の欲望に囚われるんだ!!」

「黙れっ……」

「黙らない!!君の欲望はそんな物じゃない筈だよ、君がその力を誰かを守る為に使いたいって思うんなら、破壊者の力だって守護者にも変える事が出来る!!」

 

この力が守る側の力になれる……そんな絵空事を信じて一歩を踏み出せと言うのか、家族の手すら振り払ってしまった自分がそんな事が出来るのか。分からない、分からない分からない。自分だってヒーローという夢を諦めたくはない、家族のようなヒーローになりたい、そんな夢を、欲望を―――

 

「そんな欲望を―――ッ……!!」

 

突如、翔纏が立っている地面が陥没するように亀裂が入っている。彼自身の脚力、強く地面を踏みしめるように力を込めただけで大地が悲鳴を上げた。その光景に一同は驚愕した。矢張りあの姿は他のコンボとは一線を画すパワーを秘めているのだと。

 

「欲望、俺の夢……そンナ物、モうイラなイ……俺ハッ……ウオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!」

 

その瞳が一段と濃い紫色へと変貌した時、翔纏は天へと向けて噴火にも等しい咆哮を上げた。説得は失敗かと皆が険しい顔を作ろうとするが、違う。失敗していない。寧ろ成功に近い。

 

「翔纏はまだ諦めてない、まだこっち側に居たいって思ってる!!でもっまだ恐怖と絶望に囚われてる、あのヴィランが言ってた言葉に支配されてる!!」

「なら話は早い、こっちも全力で対応しながら思いをぶつけてやりゃいい。それであいつが俺達と居たいって思わせりゃ勝ちだ」

 

翔纏に欲望を思い出させる、無の欲望、全てを拒絶する存在になったが故に欲望すら否定して無欲で居ようとする。その為に自分達を遠ざける、揺らいで戻ろうとすれば深い絶望を味わう事になる。だから留まろうとする。その絶望すら突き破ってやろうじゃないかと全員が戦闘態勢に入る。

 

「僕達があの個性に負けない、そんな所を見せてやるんだ!そうすれば……翔纏君は安心出来る!!!」

「かなり危険な賭けになりますわね……個性の消滅すら覚悟しなければいけないとは……ですが、学友を取り戻す為ならば、その程度のリスクは当然ですわね!!」

「その通りだ八百万君!!苦しむ友一人を見殺しにして、俺はヒーローになんてなれない!その末に個性を失おうと悔いはないし個性は無くなったら、その時は警察官になろう!!」

「流石前向きだな飯田。正しく修羅との戦い、だが恐れはせぬ。獣王、いや翔纏よ―――今度は俺がお前を救う!!」

「翔纏、今度は俺がお前を救い上げる。体育祭でお前が俺にしてくれたみたいにな」

「今度は離さない―――アタシがアンタの手を掴んで、絶対に引き上げるから……!!」

 

ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!

 

大地を砕きながら迫る古の覇者、爆発的な加速を付けながらの飛び蹴りが友を救う為の戦いの号砲となった。



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問いかける欲望。

狂気、正気を狂わせる恐怖に支配された時、人は最も原始的で力となる物に頼る。それは力、本能だ。本能が引き出すパワーに際限は無く、唯々目の前の脅威を屠る事だけに使われる。そしてそれを行使する者はいずれ狂気に命を貪り尽くされて死ぬ。そんな事はさせない、自分達がそこへと辿り着く前に引き上げる。

 

「ウオオオオオオオオオッッッ!!!」

「全員下がれっ!!」

 

大地を砕き咆哮する古の覇者の力を纏う翔纏、瞬間―――世界がゼロになる。無によって蝕まれていく、それを敏感に察知した緑谷達は後方へと飛び退く。翔纏を中心にしながら世界が凍て付く、まるで焦凍の氷のように世界が凍えていく様が映り込むが、即座に爆炎がそこへと襲い掛かり相殺する。

 

「正しく、太古の命を奪い取った激突!!」

「言い得て妙!!」

 

氷河期と隕石、確かにそう思えるような気もする激突だ。だが、徐々に焦凍が押され始めているのか、後退り始めており腰を落として踏ん張っている。

 

「何てパワーだ……!!」

「緑谷さんこれを投げてください!!」

「これって―――えっ!?」

 

緑谷は八百万から渡された物に驚愕したが、早く投げるように促されて大慌てで翔纏へと向けて投擲した。それに気付いたのか命中する前にそれを受け止めるのだが―――それは炸裂して翔纏の全身を一気に燃やしていく。

 

「八百万君、一体何を投げたのかね!?」

「焼夷手榴弾ですわ」

「まさか、テルミットか!?」

「正解ですわ常闇さん」

 

趣味が高じて戦争映画なども見ていた際によく見たグレネードの一種、敵のトーチカなどに潜入して艦砲や迫撃砲の砲身に投げ込んでいたテルミット。そんな物まで創造出来るのかと、そしてよくそんな物をピンを抜いた状態で緑谷に渡したなと呆れ半分だった。ピンを抜いただけでは燃え始める事はないだろうが……何も知らないものからしたらピンが無い=爆発だから緑谷は焦っただろう。が、テルミットが消えて代わりに冷たい霧が周囲に充満し始めた。

 

「ゥゥゥゥ……!!」

「不味いな、怒りを買ったようだ……」

「2000度をぶつけられたらそうなるだろうな」

「だが、キレてんのは俺達も同じだ。あの馬鹿翔纏が、一発殴ってやる!!」

 

と飛び出した焦凍は地面を凍らせながらもその上を炎を推進力にして進んでいく、それに気付いた翔纏が更にその上から無で覆い尽くそうとする。焦凍と翔纏の氷は全く違う。

 

「フッ!!」

 

ジャンプする、瞬時に自分の氷が更に冷却されていく様を見て確信する。あれは無の力で空気の温度が奪われる事で生まれる冷気だ、氷その物を生み出す自分以上にやばい物だと。だがそんな物は友の下へと進まない理由になってならないと背中から炎を噴出して空中で姿勢を制御しつつも加速する。そして―――

 

「喰らええええっっ!!」

 

体育祭の決勝。翔纏が自分に放った必殺技に倣い、自分が編み出した一撃。それを更に林間合宿で昇華させる事で完成させた一撃―――絶対熱と絶対零度を双方纏いながらもそれらを一挙に叩き込む文字通りの一撃必殺が翔纏の頭部へと炸裂する。

 

「目っ覚ませ馬鹿翔纏ぁぁぁぁ!!!」

「グオオオオオオッッ!!!」

 

二つの温度の絶対点の融合、アブソリュート・ドロップが炸裂する。極限にまで高めた炎と氷の一撃はどんな防御だろうが突き破る最強の矛となる、それは例えプトティラコンボの強固な装甲だろうが貫通して翔纏を吹き飛ばしてしまった。

 

「お前が俺に教えてくれた技だぜ翔纏、今度はお前のタジャドルをこれでぶっ飛ばす。だから俺と勝負しろ、そんな姿捨てちまえ!!帰って来い翔纏!!」

 

倒れた翔纏へと思いを叫ぶ、初めて出来た友達にして最高の親友に思いをぶつける。自分は今翔纏がどれほどの絶望と恐怖の渦に居るかなんて分からない。だから唯々言葉をぶつけて腕を引っ張るしかない。自分の殻に籠ってしまっている親友を引っ張り上げる為だけに。

 

「ヴヴヴウウウゥゥゥゥ……」

 

爆炎の炎と絶対零度の氷を受けた翔纏の身体には隅々まで二つの熱が広がり続けている、熱き想いと静かで冷たい想いを込めたそれが届かない訳が無いと確信がある。唸り声を上げながらも立ち上がる、ドライバーのメダルが揺れ始めている。が、直後に胸部のサークルから禍々しい紫の閃光が迸る。強引に、狂気と狂乱の激流へと翔纏を捉える。

 

「――――――――――ぁ。」

「くそ駄目か!!」

「ヴァアアアアアアアアア!!!」

 

再度の暴走、身体を包む異なる熱も無の力で相殺されて消えていく。地面へと差し向けられた手にはメダガブリューが握られている、巨大な大剣と斧の変則二刀流。ハッキリ言って驚異の塊でしかない。瞬間、距離がほぼゼロとなる。とんでもない加速力、大地を一瞬にて制覇した覇者は例え親友であろうともその命を刈り取ろうとする。

 

「轟君!!」

 

身体に閃光を纏う緑谷、彼も新たな力を身に着けそれは既に実戦で通用するレベルにはなっている。だがまだ修練が足りない、完全に会得すれば焦凍を救い出すのも容易だった。そんな後悔なんて役に立たんと言わんばかりに振り下ろされる巨大な刃が、肉を貫き骨を砕こうとする時―――それが止まった。

 

「グッ!!」

「負けるっかぁぁ!!!」

 

其処に立っていたのは常闇と拳藤、二人はカバー出来るように焦凍が叫んでいた時から走っていた。そして今こそその時だと飛び出して二人で漸く、プトティラの怪腕を受け止める事が出来ていた。

 

「踏ん張れダークシャドウ!!」

気張ルノハテメェダ!!モット闇ヲ寄コセ!!

「確かになんてパワー……!!!常闇、アンタの闇をアタシの手に!!」

「ッ―――承知した!!」

 

ある考えを思いついた拳藤、それを瞬時に理解した常闇は拳藤の巨大化した手にダークシャドウの一部を貸し与えるかのように重ねた。影のような怪物、ダークシャドウ。実体がある様で実体がないそれが仮初の肉体を得た時にはどうなるのか―――そしてそれが、強い力を持っていた時にどうなるのか。

 

「ゥゥゥヴォオオオオ!!!」

「行くよっ!!」

「応!!」

「「ダアアアアアアアアアアアア!!!!」」

 

元々巨大化していた拳藤の手にダークシャドウが一体化し、更に巨大な力を得て大剣を押し返した。そして、そこを見逃さないと言わんばかりにダークシャドウが一気に距離を詰めながら翔纏へと襲い掛かり、真夜中ゆえに一切自重しない膨大な力で殴り掛かる。

 

「告げる―――。我は闇を宿し影となる者、故に光となれん。去りてとて影は光と一体なり、故に―――影は光と同じ存在にもなれる!!お前が俺に教えた事だ獣王、いや翔纏!!例えお前がどんな存在になろうとも手を伸ばす事は決して辞めん!!そして今度はお前の手を俺が掴む、そして共に歩むのだ俺達と共に!!」

「絶対に諦めない!!アンタが個性を消す力があろうと知った事じゃない!!だったらヒーローだってヴィランと同じ存在じゃないか、結局使うもの次第だ!!アンタはヒーローになりたいって思ったんならそれを貫き通しな!!アタシも手伝うから、傍で支えるから!!」

「ヴヴヴヴヴァッ―――ウウウウウッッ……ウァァァァァ!!!」



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友がくれた欲望。

「ウウウウウゥゥゥゥ……ァァァァアアアア!!!」

 

幾たびの攻撃を受け続けた翔纏、自分の為に此処まで来てくれた友の想いは確かに身体の内部へと入ってきている。滾る熱い想いは恐怖に囚われている心を僅かながらに溶かし始めている。無の欲望が生み出す冷気を中和しながらも近づいてくるその手は確かに翔纏の手を握ろうとしている。

 

―――無駄だよ、所詮世界の波に抗う事など出来ない。

 

響いてくる声、それはオール・フォー・ワンのような声だった。魂を揺らし、理性を鈍らせ、決断をさせない物。翔纏にとっての恐怖の根源でもある裏切りを最も強調するように絶えず声が響いてくるのである。

 

―――君に残されている道は唯一つ。自らが世界を乱す存在となるしかない、君の拠り所はもうそこしかない。

 

その根源は単純、オール・フォー・ワンが与えた一冊の本。その本は個性によるものだ。余りにも弱い物でしかない、込められた物を反復させるだけ。が、そこに翔纏の無の欲望のメダルが加わる事で翔纏を惑わす幻惑の書が完成してしまった。だが、常に無の欲望を煽り続けるそれは常に翔纏に無を求め続けさせている。

 

「ゥゥゥゥッォオオオオオオ!!!」

「常闇下がれ!!」

「拳藤引くぞ!!」

 

咄嗟にダークシャドウで拳藤を確保しながら後方へと飛び退いた、直後、僅かな時間差で先程まで二人が居た場所へと冷気のブレスが放たれて凍て付いて行く。更に其処へ焦凍の炎が放たれ、爆発が起きる。

 

「危なっ!?常闇ありがっ……てぇアタシ達飛んでんの!?」

「俺もよく分らんが―――常に飛行しているに等しいダークシャドウに身を委ねた、それがこの結果を産んだらしい」

 

ダークシャドウを身に纏いながら拳藤を抱えて飛んだ常闇、フルパワーを発揮するが故に肥大化して常闇そのものを飲み込んでいるに等しい形態。だが、完璧に制御が出来ている、常に浮遊しているダークシャドウが身体を包んでいるからか常闇も空を飛ぶ事が出来ている―――と言いたいが、まだ飛行の感覚が掴めないので空中浮遊のみに留まっている。

 

「駄目だ、幾ら攻撃しても全く小揺るぎもしないぞ!!」

「諦めちゃだめだ、此処で僕達が引いたらオール・フォー・ワンの言葉が本当だって事の証明になって翔纏君はもう後戻りできなくなる!!!」

「しかしこのままでは何時か此方が力尽きますわ!!」

 

バッテリー駆動のローラースケートで機動力を確保しながらの八百万の言葉も事実。このままでは確実に負ける、ならば如何する、最初の暴走に比べてたら大分弱まっているように見える。あと一押し、あと一押しの筈なのに―――まだ何かが足りないというのか。その時、焦凍がある事を言う。

 

「俺に考えがある」

「この窮地を打破できるというのか!?」

「試す価値はある。あれを試してみるしかねぇ―――だけど、上手く行く保証はねぇ。だけどあいつを救う為にはもうこれしかない……ハァッ!!!」

 

焦凍は炎と氷を全開にした、身体の半身から溢れ出していく炎と氷。相反する属性と言っても過言ではないそれらが凄まじい勢いで溢れ出ている、胸の前で拳をぶつけ合う。同時に氷が融ける音と炎が消える音が響き合うがそんな事お構いなしに個性出力を上げていく。炎は黄色から白、そして僅かに青くなり始めている。氷は更に凍て付き、空気中の物まで凍らせて焦凍の周囲の空間さえも凍らせているかのよう。

 

「ウォォォォ!!!」

 

翔纏はそれに気づいたのか、大剣を振るった。プトティラの剛腕で振るわれたそれは真空刃を作り出し焦凍へと迫る。だが、目の前に氷壁が出現して防御する。それを見て、翔纏の胸から何かが飛び出した。

 

「あれは―――本!?」

「見るんだ緑谷君!!」

 

焦凍が握り込んだ本、その本からは夥しい紫と黒の閃光が迸っている。それを剣へとまるで埋め込むかのようにセットした、大剣は更なる力を得たかのように禍々しく変貌していきながらもバチバチと激しい音を立てながら力をチャージするように鼓動を放ち始める。

 

「轟君不味いぞ!!何か、デカいのが来るぞ!!」

「まだ、時間がかかる……!!」

「ならば俺とダークシャドウが時間を稼ぐ!!」

 

拳藤を降ろしながら飛び出すダークシャドウ、本来閃光ならばダークシャドウの弱体化になりうるはずだがそれが起こらない。それはプラスに繋がらず逆に不安要素として強まっていく。

 

「行くぞダークシャドウ!!」

夜ノ神ノ怒リヲ知ルガイイ……

 

本来なら暴走するダークシャドウ、その力を限界まで引き出した最強の一撃を今常闇は放つ。これを放てばどうなるかなんて想像も出来ない―――唯、彼の中にあるのは翔纏を救う為にこの一撃は必要という確信のみ!!

 

「月読命!!」

果テロォォォォォォォ!!!!

 

空に輝く月をバックにしながら己の全てをダークシャドウの腕へと込める。彼のヒーローネームにもなっている夜の神、ツクヨミの名を冠した一撃は文字通りに大地を砕く神の鉄槌となって翔纏へと襲い掛かった。それを咄嗟に大剣で防御を固めるが―――

 

「グォォォ……!!」

 

大剣は軋み、チャージしていたエネルギー全てを防御に回さなければならない程の威力。受け止めているのにその反動で大地へと脚がめり込んでいく。

 

「翔纏ぁぁぁぁ!!!」

「ッッッッ……ガァァァァァ!!!!」

 

力任せに剣の向きを変える事で強引にダークシャドウの一撃を反らした。大地を割る神の鉄槌、だがそれでも相当に無理をしたのかプトティラはかなり息が上がり動けなくなっていた。それを見た焦凍が大声を上げて退がるように言う。

 

「―――っ!!ダークシャドウ!!!」

言ワズモガナダ!!!

 

ダークシャドウもその力に純粋な恐怖を抱き後退を選んだ、そしてそれを最も強く感じ取ったのは翔纏であった―――その視線の先には先程まであった氷と炎が完全に無くなっていた。凍て付く氷河の力と燃やし尽くす劫火の力、その二つが今では完全に焦凍の腕に集約されていた。

 

「これも、お前が俺に―――教えてくれたものだ」

 

少しでも気を抜けばこの力は自分に牙を剥く。極限にまで冷却された氷、極限にまで加熱された炎、その二つは胸の前で交わらせる。冷却による相転移、過熱による相転移、その二つが生み出す対消滅エネルギー。そう翔纏が自分に教えてくれた氷と炎が作り出す極致とも言うべき物、それを今自分は成し遂げた。即ちそのド級の技こそ―――

 

「お前の無に俺の無をぶつけてやる―――此奴を喰らって目を覚ませ翔纏ッ―――!!!!」

 

胸の前にあるエネルギーを―――一部を暴走させる事でそれを推進力にして放つ。爆炎にして氷結、二つがぶつかり続ける事で生まれたそれは真っ直ぐと翔纏へと向かって行く。

 

「何だあれはっ!?」

「と、途轍もないパワーですわ!?」

 

飯田と八百万が驚愕してしまう程に膨大なパワー、奔る閃光が通った後の地面は抉れて―――いや消滅している。正しくそれはメドローアと言うべき存在へとなっていた。そして消滅の力となっているそれは翔纏へとぶつかったとき、何が起きるのか。何も分からないが、もうこれしか切る(カード)はない。これが切り札(ジョーカー)になる事を祈るしかない。

 

「ヴオオオオオオオオオ!!!」

 

向かってくるそれに対して翔纏も全力で対抗する。能力を開放させながらもエネルギーを開放する、それらを剣へと集めながらも向かってくるメドローアへと向けて全力で叩きつける。周囲へと波動が溢れる、膨大すぎる力の激突、何が起きているのか誰にも分からない。

 

「ヴオオオオッ……オオオオオオオオオオオ!!!」

 

メドローアへとぶつけ続ける剣、それを強引に振り抜く。メドローアは四散し、無力化された……訳ではなかった。常闇最高の一撃を受け止め、更に焦凍究極の一撃が加わった事で剣の限界は越えていた。そこに収められていた本ごと亀裂が生じていき―――大剣は粉々に砕け散ってしまった。

 

「ぅぁっ……」

 

翔纏の身体はダメージの限界を越えたように強制的に変身が解除された。そこには彼らが知る翔纏の姿があった。そのまま倒れこみ、意識を喪失する翔纏。それを見届けた焦凍は少しだけ微笑んだ。

 

「手間、掛けさせるなよ親友……貸し、一つだ……」

 

そう言いながらも焦凍も満足気な笑みを浮かべながら倒れこんでしまった。無の中に居た翔纏は帰って来れたのだと皆が胸を撫で下ろす中―――本に取り込まれていた筈の3枚のメダルは翔纏の身体へと再び入り込んでいった。

 

欲望を力に変える翔纏が抱える無への欲望。それを彼はこれからどうするのだろうか。それは全て、これからに掛かっている。



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解放された安心。

ぼんやりとした意識が、徐々に目覚めていく感覚がする。長い長い夢から覚めるように、僅か、僅かに視界がハッキリとして行くような……。

 

「―――……」

 

レンズのピントが合っていないカメラのように、全てがぼやけている風景がそこにあった。何も分からない、だが時間が流れていく度に少しずつ鮮明になっていく光景。規則的に聞こえてくる電子音に呼吸音。如何やらマスクを付けているらしい。

 

「此処は……」

 

霞みがかった頭で紡いだ言葉、何がどうなっているのかさえ認識出来ないまま口にした言葉に近くから大きな反応を示したような音が響いてきた。瞳だけを其方へと向けてみると……そこには最愛の姉が此方を見つめ続けていた。

 

「翔纏……?」

「ぁぁっ……姉、さん……?」

 

直後に自分に覆い被さるように抱き着いてきた愛水、その事だけは分かったがどうしてそうなったのかは全く分かる事もなく、唯ぼんやりとした頭だけが冴えるのを待ち続ける事になった。

 

「……」

「何時まで黙ってるつもりだ」

「……」

 

漸く意識が確りとし始めた時には鳥命や閃蟲、他にも幻や猛もその場にいた。近くに愛水が寄り添っているが、肝心要の翔纏は一切言葉を発する事もなく黙り込んでいる。兄からの問いかけにも応える事なく沈黙を貫き続けている。

 

「一遍死ぬか……」

「待て、翔纏話は聞いた。如何して黙ってるのかも見当はつく―――だからこそ一つ聞かせてくれ、お前にとって俺達はそんなに弱いのか」

 

好い加減苛立ちが限界を越えようとしていたアンクを止めた猛。そんな言葉は酷く優しかった、だがその言葉は酷く鋭利な物だった。1週間前の神野区で起きた事、それらは全てアンクから聞いている。今翔纏がどんな心境なのかも分かっている。だからこそ聞く、お前にとって家族はそんなに情けなく、頼りないのか。

 

「……俺にとって、何よりも安心出来る所……」

「そうか、だったらもっと俺達を頼れ。お前がどうなろうが俺の息子である事に違いはないんだから」

「―――個性を壊す、だとしても……?」

 

その言葉と共に、瞳が紫色に輝きながらも閃光を纏い始めた。それは一瞬、鋭く鋭利な爪を携えた物へと翔纏の腕へと変貌させた。自分はもう全く違う存在へと変わってしまったんだと言う事への証明。世界の摂理を歪める存在になったのだという宣言ともとれる、それでも―――と思った翔纏のそれを否定するように、その場にいた全員がその手に手を伸ばして握って来た。

 

「馬鹿かお前。お前はお前だろ、それに変わりはない」

「下らない事を考えるなよ、個性が無くなった所でお前の兄じゃなくなる訳じゃない」

「全くね。個性は無くてもきっとあなたが大好きなお姉ちゃんである事に変わりはないわ」

「個性なんて、貴方が捨てて欲しいと思うなら今此処で私の個性を壊してくれていいわよ翔ちゃん」

「ああ。家族を守る為ならその位の覚悟なんて安いもんだ」

 

改めて受けた家族の言葉は、今までと変わらず、酷く暖かな物だった。自分が恐れた物なんて其処には欠片も存在せず、まやかしの恐怖でしかない事を改めて認識させられる。

 

「俺、は……俺は……」

「……さっきは悪かった、今は寝てろ。身体を休ませろ」

「―――うん……」

 

兄の優しい言葉に導かれるがまま、翔纏は沸き上がって来た安心感と共に溢れる物に身を委ねて再度の眠りにつく。疲労ではなく、もっと暖かで大きな物に包まれながら……家族の愛に抱かれながら、何の悪意もない無垢な夢の世界へと旅立って行った。

 

 

「相当、怖かったのね。話を聞いた時に悲しかったけど……この子からしたら私たち以上に怖かったのよね」

「だろうな……今まで過保護にし続けたツケって奴か」

 

愛おし気に頭を撫でる愛水の言葉に閃蟲も同意する。翔纏の恐怖の根源は即ち家族、家族からの愛が根底から覆ってしまう事を何より恐れていた。それは今までそれだけ愛されてきた事に感謝しているからこその物だった。それを刺激された事で暴走してしまった、故にその責任は自分達家族にもあると皆が思っている。

 

「私達家族は、今回何も出来て無かったものね……緑谷君たちのお陰ね」

「ああ、全く以て大したもんだよ。あの状態の翔纏は俺達でも止められないかもしれないってのに……まさか真正面からぶつかっていくなんて」

 

トップヒーローとして名を連ねる幻や猛ですら、完全暴走状態のプトティラに真っ向勝負を挑むなんて事は絶対にしたくはない。やらなければならないとは思うが、それでも真っ向勝負は避けて対処する筈。それなのに……緑谷達が行ったのは真っ向からのガチンコ勝負、だがそれこそが翔纏の無の欲望を打ち破る一助にもなった。

 

「それと―――場所を移してくれたのはぶっちゃけファインプレイだったわね、あのままだったらオールマイトとオール・フォー・ワンの現場を映しに来ていたヘリに撮られる所だったし……」

「タイミングとしてはマジでギリギリだった、あいつらが翔纏を連れて行った直後辺りにヘリが来たからな……」

 

友人達の功績は翔纏をあの場から遠ざけて暴走を解除しただけではない。TV局に翔纏の暴走を見せず、離れた八百万の実家が建設中だったスタジアム予定地へ移動したこと。そこはオールマイトとオール・フォー・ワンの戦闘地から離れていたし、全ての注目が其方に向いていた。故に余り問題視もされなかったし、八百万家が自分の家の問題、と言ってくれたおかげで何ともならずに済んだ。

 

「こんなにいい友達に恵まれてるんだ、翔纏は大丈夫だ。その力だって制御出来る筈だ」

「そうね、元々の個性だって制御出来ないって思ってたのに出来ちゃったんだもん。出来るわよね」

「破壊者は守護者になる。必ずな」

 

強い確信のまま、皆はそのまま眠る翔纏を見守り続けたのであった。



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