刀オタクが異世界転移したので剣豪を目指します (かんせつ)
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第一章
第一話


私、石川静音。どこにでもいる普通の女子高生。だけど一つだけ他人とは違うところがある。それは・・・私は刀マニアなのである。いわゆるオタクに分類される。日本刀、それは多く人を殺めたモノであり、そして工芸品でもある。初めて美術館で実物を見た時の興奮は忘れられない。しかしそんなことは表に出さず、私は日常を謳歌していた。今日発売されたばかりの純和風ゲームを携えて。そう、今日、たったついさっきまで・・・。

 

『おめでとうございます!!あなたには異世界転移の権利が与えられました!!』

どこかの店であるようなファンファーレとともにそのような言葉が続けられた。ついさっきまで家の前に居て、あと一歩のところで家のドアに手が伸びる、そのはずなのに一歩踏み出したら真っ白な空間にいた。

「な、なにが一体どうなってるの?」

『ですからあなたには異世界転移の権利が・・・』

「いや。そういうのは良いんで元の場所に戻してください」

『そ、そう言われましても・・・』

どこからか羽根の生えたいわゆる天使のような人が現れた。

「ですから元の世界に戻してください」

『ええっとですね・・・あなたには・・・』

「もう二度も聞きました。異世界なんて私は望んでいません」

『そ、そんな~。どどどどうしましょう』

何やら慌てた様子で天使のような人はオロオロしていた。

『日本人はこう言えば乗ってくると聞いていたのに・・・』

「あの、そろそろ元の場所に・・・」

『申し訳ありません!!』

突然な土下座。見事なジャパニーズ・ドゲザであった。

「え?」

『その、端的に申し上げますと今あなたは元の世界に戻ることができません』

「へ?よく聞こえませんでした。もう一度お願いします」

『すぉの・・・こちらの事情で戻れないんです・・・』

「ええええええ!?」

思わず叫び声をあげてしまった。そして天使のような人に掴みかかるのも忘れなかった。

『あああ、あのですねお・・・その・・・とりあえず揺らすのをやめてくださーい』

つい私としたことがうっかり目の前の人物を掴み揺すっていた。あまりにも気が動転していたからだろう。

「で、私が戻れないのはどういうことですか?」

『通じるかはわかりませんが。世界、あなたの住んでいる世界も含めて世界というものには様々な形があるのです』

「いわゆる並行世界ってやつですか?」

『似たようなものです。そして世界にはそれを維持する義務があります』

「ふーん」

『そ、それでですね。もし一つの世界が崩壊へと進み始めたらそれを止めるのが世界なのです。それで・・・』

「何か言いづらいことでも?」

『そのですね・・・その崩壊を止めるために世界は別の世界からそれを止めるための人物を呼び出すのです。つまりあなたが今回別の世界の崩壊を止めるために呼ばれたのです』

「つまり厄介ごとに巻き込まれた、と」

『も、申し訳ありません。。それが機構というものでして・・・止められるものではないのです』

「私が戻るにはどうすればいいの?」

『世界の崩壊を止めてくだされば戻れるはずです・・・』

「私が異世界で過ごしている間、私のいた世界の時間って進の?」

『いえ。それは進むことはないです』

「そっかぁ・・・それが保障されているなら、まぁやるしかないのかな?」

.

『き、協力してもらえるのですか?』

「だってそうしないと帰れないんでしょ?」

『おっしゃる通りで・・・と、とにかく協力者にはそれなりに援助が尽きます』

「援助って?」

『一つだけ望み通りのスキルを得ることができ、一つだけ望み通りの武器を得ることができます』

「じゃぁそれで世界の崩壊を止める武器ってのをください」

『あ、世界に影響を与えるとような武器は無理です・・・』

「デスヨネー。あ、これから行く異世界って死んだらどうなるの?」

『時間が経ては復活します。しかし復活時にステータスが落ちます。それか死ぬ前や死んだ後に呪い等を受けてしまうとアンデッドと化して二度と自由になることはできません。ただその点転移者にはそういった類の呪いを弾く加護が与えられます』

「ふーん・・・死んだら復活、ステータスねぇ・・・まるでゲームじゃん」

『よく言われます』

「いわれるんだな・・・ていうかこういうのって何度もあるの?」

『世界は無数に存在するのでこういったことは珍しくないのです』

「ふーん・・・。じゃぁスキルはどうしよっかなぁ・・・って、スキルって何?」

『異世界での能力、技術のようなものです。過去には≪誰にも負けない剣技≫や≪全ての傷を癒す≫といったスキルを望んだ人がいますね』

「誰にも負けない剣技って・・・それ持ってたらすぐに崩壊を止められるんじゃないの?」

『いえ。剣技で有利でも魔法や他の技能で負けるという事例があります』

「そう簡単にものは進まないってわけね」

『それで異世界にはかなりの時間滞在してもらうことになるのでそれなりのスキルを選んでください』

スキル・・・スキルかぁ・・・あ!

「ねぇ、その異世界の武器ってどのようにして作られてるの?」

『えぇっとですね・・・スキルに鍛冶というものがありましてそれが一定以上のレベルに上がった人が作っているようです』

「ならさ、例えば≪材料さえあれば好きな武器を作ることができる≫っていうスキルって可能なの?」

『ちょっと待ってくださいね・・・今試算してみます』

そう言って一人ブツブツと言い始めた。そして少し経った。

『試算終わりました。世界に影響を与えない程度であるなら可能のようです』

「よっし。スキルはそれでお願い。後は武器かぁ・・・」

『それはこちらで設定できますよ』

そう声がすると目の前にインターフェースとでも言うべき様なものが現れた。そこには≪鋭さ≫や≪攻撃力≫、≪効果≫などがかかれており、もはやゲームそのものであった。

「ここで設定すればいいわけね。じゃぁ・・・」

私は粘土をこねる様にして武器を形作っていく。そしてどれだけの時間が経った後か、一本の刀ができあがった。

「よし、これで完成っと。名前は・・・雫。効果は・・・とりあえず・・・」

そしてまた少し時間をかけてやっと設定が終わった。

『や、やっと終わりましたか?それで武器の方は・・・世界の許容範囲ギリギリってところですね』

〈雫〉

・作成者 石川静音

・分類 不明

~ステータス~

≪鋭さ≫ S

≪攻撃力≫S

≪耐久≫ S

≪重さ≫ 軽い

≪価値≫ 不明

≪対敵対者攻撃力上昇≫

≪耐久値自動回復≫

≪所持者の体力を自動回復≫

≪剣技スキルの効果上昇≫

≪使用者固定≫

 

と、いったものが完成した。

『それでは、これからあなたを異世界に送ります。準備はいいですか?』

「ホントは色々と言いたいけど、言っても仕方ないから言わない。いつでもいいよ」

私はできたばかりの相棒と呼べる刀を手に応える。

『それでは異世界へ転移します。石川静音さん。あなたの冒険に幸あらんことを・・・』

そう言葉が聞こえた瞬間、私の視界は光に包まれた。




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第二話

目が覚めるとそこはどこまでも広がる草原だった。相棒の刀・雫を佩いて私は草原の中に立っていた。右も左もわからぬ土地で私は右往左往したがそれもすぐに解決された。目の前にゲームで言うメニューのようなものが出ていることに気が付いたのだ。

「ホントゲームやってる感じだよなぁ・・・あ、地図の項目があった」

さっそく地図にカーソルを合わせてみてみるとここはバラル平原だと言うらしい。そして私が立っている場所9は近くの町、ゲーンという町に近い位置にいるようだった。

『あー、あー、聞こえていますか?石川静音さん。今あなたの頭の中に直接話しかけてます。聞こえてますか?』

「ん、聞こえてる。何か不具合でもあった?」

『いえ。この世界で必要なステータスプレートについて説明していませんでした。まず腰に帯びているバッグの中を見てみてください』

「あ、なんか固いカードが入ってる」

『それはあなたの身分を保証するのと同時にモンスターの討伐数、あなたのステータスを表示するなどの機能を持っています。なくすことはないでしょうがこれが無いと大抵の町に入るには面倒な手続きが必要となるので覚えていてください』

「はーい。」

『ではまずはゲーンの町へ行ってみてください。途中でモンスターに出くわすかもしれませんので注意してください。これで私との会話は最後になります』

そう言って頭の中の声は聞こえなくなった。色々とステータスをメニューで確認してみると今私が使える技は初期スキルの≪斬撃≫というものだけだった。レベルや修練値を上げることによってスキルや魔法を覚えることができるようだ。

「っと、歩いていたらまぁ典型的な敵が出てきましたよ」

目の前にグニャグニャした生き物と呼べないようなものが出てきた。いろんなゲームに出てくるスライムだった。私は鞘から雫を抜刀し、臨戦態勢を取る。といっても戦いの経験なんてゼロだ。どう立ち回っていいかもわからない。だから相手の隙を突くしかなかった。スライムは相変わらず体?をグニャグニャさせていた。すると体を縮めたかと思ったらこちらに跳躍してきた。それを私は全霊でもって避けた。スライムはさっきまで私のいたところにドスンと音を立てて着地した。

「うへぇ・・・音からして当たるとマズイよなぁ・・・」

しかしスライムは着地時の衝撃を殺しきれていなかったのか動きが鈍いように見えた。

「チャンスは今か。刀に力をためて・・・斬撃!!」

私の思いに応えてくれたように雫が光りだす。そしてそのまま雫をスライムめがけてたたきつけた。雫はものの見事にスライムを両断した。そして視界にはスライム討伐で得た経験値が表示されていた。つまり殺したのだ。命を。そう思うと少し気分が悪くなる。これから先私は数えきれないほどの命を殺すことになるだろう。そう思うと何かが重くのしかかってくる気がした。私は頬を叩いて気分を入れ替える。スライムが倒れたところには一つの小さな結晶のようなものが落ちていた。どうやらメニュによると魔石というらしく、町などで換金できるようだ。それを取り合ずバッグに収納し私はゲーンの町を目指した。

「うーん。それにしても広いなぁ」

風が頬を撫で大自然の力を感じた。その中を私は歩いていた。途中何度かスライムと出会い、これを討伐してついにゲーンの町に着いた。その町は大きくはないが壁に囲まれた立派なものだった。そして門には当然門番がいる。町に入ろうとしているのは私以外にも数人いた。私はその人たちを注視してどう対応すべきか考えていた。そして私の番になる。

「娘。身分証チェックだ」

他の人たちを真似して私もステータスプレートを見せる。

「よし、通っていい。初めてきたようだな。ようこそ、ゲーンの町へ」

少しの歓待を受けて私はゲーンの町に入った。そこは活気にあふれていた。そしてメニューには『冒険者ギルドに行ってみましょう』と出ていた。詳しく見てみるとそこで登録することによって依頼などを受けれるようになるとのこと。ランクが上がればその分高い依頼を受けることができるとのこと。私はメニューに示されたまま冒険者ギルドに入った。

「ようこそ。初めて見る方ですね。冒険者登録ですか?それとも依頼を提出に来ましたか?」

「えっと、冒険者登録をしに来ました」

「ではステータスプレートをお貸し願いますか?」

言われるままに私はステータスプレートを見せた。

「ふむふむ。途中でスライムを何体か倒されたようですね。魔石は拾いましたか?」

「この結晶みたいなやつですか?」

「冒険者ギルドでは魔石の買取もしています。買い取りを希望されますか?」

「はい。お願いします」

私は数個の魔石を渡した。

「スライムの魔石だと一個100ゴールドですね。四個ですので400ゴールドになります。それから冒険者登録も完了しました。説明は必要ですか?」

私は冒険者について説明を受けた。基本的に冒険者ギルドで依頼を受けてそれを遂行する。冒険者にはランクがあり私は一番下のFランクからスタートするとのことだった。

「それではあなたの冒険に幸あらんことを。早速依頼を見てみますか?」

そうして言われるままに私は依頼が張られている掲示板を見ることにした。




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第三話

私は冒険者ギルドの依頼掲示板を見ることにした。依頼掲示板はランクごとに用意されているようで私はとりあえずFランクの依頼を見ることにした。その中には特定の魔石を何個取ってきてほしいというのが多かった。どうにも魔石というのは用途が様々らしく、魔力を込めて魔力のストックを作ることができたり、燃料として優秀であったりとあるらしい。当然モンスターのランクが上がればそれだけ効果も大きくなるようだ。しかしその中で私の興味を惹く依頼があった。

『鍛冶師の雑用係募集』

鍛冶師、つまり私の転移スキル。≪材料さえあれば好きな武器を作ることができる≫を活かせるチャンスだと思った。私は依頼紙を取って受付に行った。

「それでは依頼紙を持って書かれているところを訪れてください。詳しい話は依頼主の方から聞いてください」

私は依頼紙に書かれているところへ向かった。それにしてもこの町は賑やかだ。市も開かれているようだし、ぶつかることはなくてもたまに避けるくらいには人通りが多い。そして少し迷いながら私は依頼主の店へとたどり着いた。そこは炭の臭いがしていかにも火を扱っていると思われる様子だった。私は扉をノックして入った。

「ごめんくださーい。冒険者ギルドで依頼を受けに来たのですがー・・・」

一番部屋の奥、そこに一人の男性と思われる人が座っていた。

「なんだ。来たのは娘っ子か」

開口一番はそれだった。

「で、依頼を受けに来たんだってな。仕事内容は簡単だ。このバッグと採掘道具を持って山から鉄鉱石を取ってくるだけだ。娘っ子にはキツイだろうがな」

何か試すような視線を送ってくる男性。想像していた仕事内容ではなかったが鍛冶に携われる可能性が潰えたわけでないと思う。だから私はこう答えた。

「わかりました。道具とバッグをください。それから山の地図はありますか?」

その返答に少し目を丸くした男性。

「驚いた。娘っ子は華やかな仕事を好むもんだと思っていたが、まさかこんな仕事を受ける奴がいるなんてんな」

男性は店のカウンターらしきテーブルに必要な道具を置いてくれた。

「そう言えば名前を伺っていませんでした。私は石川静音と言います。まぁシズネと呼んでください」

「俺はケミルだ。ケミル武器屋の店主だ。んじゃ頼んだぜ。シズネ」

私は道具をバッグにしまってそのバッグを背負い、地図を確認してケミル武器店を出た。山は町からかなり離れたところにあるらしい。ケミルさんに聞いた限りだとその山には成人している人基準で半日で着くそうだ。だから行きかえりだけで一日。採掘のことも考えると二日三日はかかるとのことだった。依頼内容はバッグ一杯の鉄鉱石を持ち帰ること。私はとりあえずスライムの魔石を換金して得たなけなしの400ゴールドを元手に日数分の携帯食料の干し肉と硬いパン、それから水筒を買った。それらをバッグにしまって私は町を出発した。最初は風も気持ちよく順調な旅路であった。都会で育った私からすれば大自然を歩くというのは貴重な体験だった。しかしそれか続いたのも一、二時間ほどで飽きてしまった。変わらない景色。近づいているのかさえ分からない山。そうして何時間歩いただろうか。何とか山の入り口らしき場所にたどりついた。特に管理人はおらず、自由に採掘していいと聞いていたのでそのまま山道を歩いていく。山道は色々な大きさの石が点在していて非常に歩きづらかった。ここまで歩いてきた途中でこの世界の資源情勢についてメニューのヘルプを見てみるとどうやら山や森ごとに資源グループがあり、一日に一定量の資源を取ることができ、そして一定量が一日ほど時間をかけて同じ資源グループの中の別の場所に出現するという仕組みになっており、資源の枯渇というのは稀らしい。なので気にせず掘ることができるようだ。ケミルさんから聞いた話では鉄鉱石などの鉱石は今いる山だと岩肌や大きな岩にできた亀裂をツルハシなどでこじあけ、鉱石が現れたらハンマーとタガネを使い鉱石を割りだす方法なのだとか。

だから私は岩肌や大きな岩を重点的に見ていった。

「あ、これかな?」

どうやらお目当ての鉱脈と言えばいいのだろうか?その場所を見つけた。私はまず聞いた通りに亀裂めがけてツルハシを振り下ろした。そして手には硬い物を叩いた間隔が伝わる。そして何度もツルハシを叩きつけているとゴロっと岩が崩れ落ちた。そして灰色をした岩の中から角ばって光沢を出す部分が現れた。メニューで見てみるとそれがお目当ての鉄鉱石らしい。私はバッグからハンマーとタガネを取り出して鉄鉱石の割り出しを始めた。鉄鉱石近くにタガネを合わせてハンマーでタガネを叩く。それを鉄鉱石の周囲で何度繰り返したか。数えていないがかなりの数叩いたとき、鉄鉱石が崩れ落ちた。やっとゲットである。時間にして30分ほどか。私の拳三つ分くらいの大きさの鉄鉱石を入手することができた。私は喜び勇んでそれを拾い眺めた。それは本当に鉄の臭いがするものだった。私は大切に掘り出した鉄鉱石をバッグにしまい、また別の鉱脈?を探し始めた。

そうして私は日が暮れるまで鉱脈を見つけては掘るの繰り返しだった。そうして日が暮れる頃にはバッグの半分ほどの鉄鉱石が採れた。鉄鉱石が採れるだけバッグは重くなり、移動が辛くなった。しかしステータスには重い物を運ぶことで成長する筋力という数値があり、それは物理攻撃の威力に直結しているらしく、これも修行の一環だと私は考えることにした。そうして採掘中に見つけた少し開けた場所で貸してもらったテントを広げ、そして干し肉と硬いパンを食べ、それを水で胃に流し込んだ。どっちも味は薄く、これまで食べてきた暖かい食事が名残惜しかった。そして私はテントで休むことにした。

 

━━━━━━━━━

 

夜が明けた朝。私は空腹の胃の中に再び干し肉と硬いパンを水で流し込み、再び採掘に取り掛かった。なれれば早いことで亀裂を見つければ道具を振るい鉄鉱石を掘った。亀裂を見つけるのが手間なだけで採掘には慣れてきたという感覚だった。そうしてお腹が空くころにはバッグは鉄鉱石で一杯になっていた。私はかなりの重量のバッグを背負い山を下りてゲーンの町を目指した。風景は行きの時と変わらず、山の麓の雑木林を抜けようとしていると耳が周囲の茂みからゴソゴソという音を聞き取った。何かの鳴き声も聞こえ、私はバッグを落とすようにして降ろし、雫を抜刀した。それと同時に周囲から緑色の肌を持つ小さな人型の生物が現れた。メニューによるとゴブリンというらしい。まったくこの世界はまるでゲームのようなモンスターばかり現れるようだ。数は前に2匹、左右に1匹ずつ、背後にはいないようで逃げるのは簡単そうだったが、一日かけて掘った鉄鉱石を捨てることになる。そんなことを考えていたらゴブリンたちが襲い掛かってきた。私は後ろに飛びのいてまずゴブリンを前方に集めることにした。そして一匹ずつ仕留めることにする。

「ギャァ!!」

ゴブリンはまるで波のように時間をおいて襲い掛かってきた。だが私はその中の最後に襲い掛かってきたゴブリンをまず狙った。

「斬撃!!」

雫が光を放ち、ゴブリンの胴を真っ二つに切り裂いた。それをみて他のゴブリンの足が震えているのが見れた。今度は襲い掛かってくる様子はなく、こちらの番と私が一歩歩み寄るごとに震えながらゴブリンは後ろに下がるしかし震える足でよろよろと後ろに下がれば当然躓く可能性も出てくる。そして一匹がこけた瞬間私は距離を詰めて地面から空へ走らせるように逆袈裟斬りを放った。ゴブリンは股から頭にかけて両断された。私は緑色をした体液だろうか、それが雫に付着していてそれを雫を振るうことによって飛び散らせ、残ったゴブリンに近寄る。これが最後のチャンスとばかりに残ったゴブリンたちは武器を捨てて全力で逃走した。私は消えたゴブリンの亡骸があったところから魔石を拾い、ゴブリンが持っていた武器を拾ってみた。それは硬い木の棒に石を蔓で結び付けたもので到底価値があるようには思えなかった。私は雫を布で拭いてから鞘に戻してバッグを背負い、再び歩み始めた。

森を抜ければ草原が広がっていて草食動物らしき生物が草を食んでいるのが見えた。そして少し空が赤くなってきた頃に私はゲーンの門に到着した。ステータスプレートを見せて町に入り、ケミル武器店の扉をノックして入った。

「お、娘っ子か。よく戻ってきたな。そして見るからに重そうだな」

「はい・・・肩が痛くて痛くて・・・」

私はバッグをよっこらせと店の床に置いてケミルさんに渡した。ケミルさんは早速中身の確認を始めた。

「うんうん。全部鉄鉱石だな。かなりの大きさの物もあるしちゃんとバッグ一杯に持ってきたな。ご苦労さん。依頼はこれで完了だ。依頼書、持ってるな?」

私は自分のバッグから依頼書を出して渡した。するとケミルさんは自身の物と思われるステータスプレートを依頼書に押し当てた。すると依頼書に紋様が刻まれた。

「これで依頼達成の証明になる。後は冒険者ギルドで預けたゴールドを受け取ってくれ」

「わかりました」

「しっかしこの依頼を受けてもらえるとは思えなかった。採掘なんて貧乏人がやる仕事だし、栄達を望む冒険者ならなおのことだ。依頼を出して一か月、何人依頼を聞いて辞退しやがたことか・・・」

どうやらこの依頼は一か月誰も依頼を聞いて受けようと言う人はいなかったらしい。

「鉄鉱石ならどこかで買えないんですか?」

「確かに買えるがな、値段は張るし質もあまり選べん。注文した後に質の悪い物ばかり回されることも多いからな。だが直接頼めばこうして山から質の良い物を持ってきてもらえるからな」

「質の悪い?」

「あぁ。小さいものばっかりなのが多くてな。まぁ溶かせばあんまり変わらないんだがな。そうだ。依頼を受けて貰った礼と言っちゃなんだが格安でお前さんの武器を作ってやろうか?」

「あ、武器ならありますよ」

ケミルさんには腰に帯びた雫が目に入っていなかったようで、私は腰に帯びた雫を見せる。

「うん?鉄の棒がおまえさんの武器なのか?」

「いいえ、ほら」

私は雫を抜刀して見せた。するとケミルさんの目が目に見えて見開かれた。

「なんちゅうもんだ・・・。一目見てわかる。そいつぁタダモンじゃねぇ。至高の一品だ。そんなもの持ってるのにこんな依頼を受けたのか?」

「えぇっと・・・」

私はこの世界の人間ではない。どうやら最底辺の依頼しか受けれない私が最上の武器を持っていることに疑問を持たれてしまったらしい。そう言えば私を転移させた天使が言っていたっけ。

『もし出自を怪しまれたら≪滅んだ部族出身≫と言えば大抵はごまかせます。あなたの場合向こうの世界だと転移者という部族の出自になりますがそれは存在しないので滅んだということになり、真偽看破のスキルもごまかせます』って。

「ええっと私は滅んだ一族の末裔でして、これは代々伝わるものというか・・・」

「そうか。お前さんの一族は鍛冶師か何かだったのか?」

「はい。一応一族秘伝の鍛冶方法は受け継いでいますが」

「そうか。なら早いとこかねをためて自分の店を作った方がいいな。そいつぁ武器としても一級品だが美術品でも売れる。これは断言できる」

少し興奮した様子で話すケミルさん。どうやら武器のことになると興奮するのは鍛冶師の性というところだろうか?

「それとお前さん、鎧も早めにあつらえたほうがいい。魔石狩りには防具も必要だからな」

そう言えば私はこの世界にアレンジされたような洋服一枚だった。

「まずは革鎧だな。金属鎧はステータスが低いうちは重りにしかならないからな。馴染みの防具屋に紹介状を書いてやろう。そうすれば革防具ぐらいなら今回の依頼金で売ってくれるはずだ」

そう言ってケミルさんは紙に羽根ペン?を走らせて一枚の紹介状を書いてくれた。思わぬ収穫を得ることができた。

「んじゃ、今回はありがとな。しっかしやっぱ鉄は買う方が手っ取り早いと感じたよ。いや、依頼受けてくれてありがとな。武器が必要になったら是非ウチによってくれ」

その言葉を最後に私は店を後にした。そして冒険者ギルドに向かった。

「依頼の受付ですか?それとも魔石の換金ですか?」

「えぇっと依頼を完遂で来たのでその報告と魔石の換金をお願いします」

「依頼を完了したとのことですね?依頼書の提出をお願いします」

私は受付の人に依頼書を出した。

「確認が終わりました。これが依頼金の二千ゴールドとなります。それから魔石の換金でしたね」

私はゴブリンから得た魔石を提出した。

「ゴブリンの魔石ですね。一個200ゴールド。二つですので400ゴールドですね」

私は依頼金の二千ゴールドと魔石代の400ゴールドを受け取った、そう言えば山では借りたテントで休んでいたが町では宿を探さないといけない。そう思い私は格安の宿を受付の人から聞くことができた。とりあえず風呂は町の浴場がタダで使えるそうなのでそこで一風呂浸かることができたそしてすきっ腹のお腹を満たすため店を見回ることにした。そしてちょうどよく屋台でベーコンと野菜を挟んだサンドイッチを70ゴールドで買い、お腹を満たして格安という宿に向かった。そこは確かに格安の雰囲気だった。受付の人に宿代の300ゴールドを払い、部屋の鍵を貰い部屋へ向かった。

一応部屋は綺麗な方で寝るには問題なかった。私はすぐに数日ぶりのベッドに入り、すぐに眠りについた。




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第四話

異世界での三日目の朝も空腹で目が覚めた。私は宿の受付の人に鍵を返して宿をでてお腹を満たすために店を探した。しかし手持ちのお金はスライムの魔石を換金して携帯食料などを買った後に余ったのとゴブリンの魔石から宿代の300ゴールドを引いてそこに依頼金の2千ゴールドを足して2300ゴールドだった。一応水筒は水を入れれば使えるから良いとして、問題は食事だった。どうにも自転車操業感が否めない。とりあえず飲食店に入って一番安いメニューを聞いた。するとパンとサラダとスープがついて100ゴールドだという。私はそれを頼んだ。少し経った後に良い匂いとともに食事が運ばれてきた。サラダやスープの野菜は野菜の細切れを使っていて確かに値段相応だと思った。だが味はよく、久々の暖かい食事を得ることができた。お腹を満たした私は昨日ケミルさんから教えてもらった防具店を訪れた。

「すみませーん」

「いらっしゃい。君は冒険者かな?防具が入用かな?」

「はい。それでケミルさんから紹介状を貰ってるんですが」

「ケミルさんが?とりあえず見せてもらえるからな?」

「はい。」

私は防具屋にいた人に紹介状を見せた。

「うん。確かにあの人の字だ。あの人が紹介状を書くなんて稀だ。よっぽどのことがあったんだろうね。とりあえずボクはラボニ。この防具屋の店主、だ。それで今使えるのは幾らくらいかな?」

「えぇっと宿代とかがあるので・・・1800ゴールドくらいです・・・」

「だったらランクはFかな?」

「はい、そうです」

「なら革鎧がオススメだよ。鎧自体はそこまでだけど加護は乗りやすいからね。手持ちの資金だと、胸当てと手甲、それからブーツが用意できそうだね」

「じゃぁそれをお願いします」

「OK。ちょっと持ってくるから着れそうなのを見つけてみて」

そういってラボニさんは店の奥から防具を持ってきてくれた。私は着ている服の上から持ってきてもらった防具を着けてみた。ちょうどいい物が見つかったのでそれを売ってもらった。メニューを見てみると加護というのは体自身を強化してくれるものらしく、体がダメージに対して硬くなり負う傷を小さくしてくれるらしい。革鎧は生物由来のため人への加護が乗りやすいとのこと。逆に金属鎧は鎧自体の硬さで負う傷を抑えてくれる半面、加護は乗りにくいとのことだった。それにしてもゴブリンなどの魔獣は死ぬと亡骸は消滅し、魔石を残すが、他の生物は死んでも亡骸は消えることは無いとメニューのヘルプにはあった。とりあえず防具を得た私は再び冒険者ギルドに向かった。残り500ゴールド。宿代で300ゴールド、食事で100ゴールドは消えるということは今日一日しか生活できないということだった。私はとりあえず私は受けられる依頼の中で依頼金が多いものを探した。だが先日のケミルさんのように高額の依頼は無く、高くても魔石を取ってきてくれという依頼などでその魔石を得て自分で換金したほうが儲けになることがわかった。というわけで私はなけなしの500ゴールドから昼食分の干し肉と硬いパンを買い、ゴブリン討伐に向かうことにした。魔獣、モンスターも資源と同様で、特定のグループに区分けされて時間をおいて無尽蔵に湧いて出てくるようだった。つまりモンスターを狩る体力が続く限り収入を得ることができるということだった。私はできるだけ速足で森に向かうことにした。そして森の手前で早めの昼食と休憩をし、準備を整えて森に入った。

森に入った私は感覚を研ぎ澄ませて周囲を警戒した。すると地面に足跡が複数あることを確認した。大きさからして人間の物ではないと思う。とりあえず私はその足跡を追うことにした。すると茂みの向こうで何かの悲鳴のような音がした。様子を伺ってみるとゴブリンが鹿を襲っていた。無限に湧くと言ってもゴブリンも人間同様に食事が必要なのだろう。とりあえずゴブリンの狩りが終わり油断したところを襲う算段にした。そして鹿が死ぬところを目の当たりにして、チャンスが来た。私は茂みの中でゴブリンに一番近いところに陣取っていた。そして一気に駆けだし、斬撃を放って一匹のゴブリンを即座に倒した。狩りを達成して余韻に浸っていたゴブリンたちが突然自分が襲われるがわになったことに混乱し、状況を確認してギャアギャアと鳴き始めた。もしかしたら仲間を呼んでいるのかと思い。私はあわてず、そして急いで討伐することにした。ゴブリンは残り三体。まず近くにいた一体の胴へ斬撃を放つ。そして残り二体。前回はここで残りのゴブリンが恐怖からか逃げ出したが今回は足が震えている者の逃げ出す様子はない。やはり近くに仲間がいる可能性が高くなった。そして残り二体のうち一体を倒したところで向かいの茂みが激しく動いた。その中からゴブリンが五匹出てきたのだ。

「やっぱ仲間がいたのか・・・」

残り六体となったことで圧倒的に不利になる。一撃で倒せると言っても攻撃ができなければ意味が無い。そしてやってきたゴブリンの内一匹は石を縛り付けたこん棒ではなく、先の尖った長い木の棒を持っていた。槍といったところか。そしてゴブリンたちは一斉に襲い掛かってきた。それを避けながら攻撃できる隙を伺う。その中一体をすれ違いざまに斬ることができた。残り五体。突然襲い掛かっていった仲間が斬られ倒れたところを見てゴブリンに混乱が生まれる。その隙を逃さず私は雫を振るう。雫を振るえば命が散っていく。肉を斬る感触は気持ち悪いがこれも生きるため。そう思い私は雫を振るう。そうして数は三体となった。援軍にきたはずの自分たちが追い込まれていることに危機感を覚えたのか、再びゴブリンたちの足が震え始め後ろに下がり始める。それを見てこちらが優勢になったことに安堵する。そしてゆっくりと詰め寄り、一体ずつ倒していく。そして最後の一体を倒してようやく静かになった。元からいたのと援軍に来たのを足して九体のゴブリンを倒し、魔石を拾う。そしてメニューを見てみるとレベルアップと表示されていた。どうやらステータスが微小だが上がっているようだった。とりあえず魔石を回収して私は次の群れを探しに森深くまで入っていった。




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第五話

ゴブリン討伐を開始した私はまず九体のゴブリンを屠った。そして魔石を回収して森の奥深くへと進んだ。メニューのヘルプには森の奥へ進めば進むほどレベルの高いモンスターに出会うとあった。私は少しだけ森の奥へ進むことを躊躇した。よって私は奥へと進むのを中断し。水平に移動することにした。そうすれば今の私でも勝てるレベルのモンスター=魔獣が出てくるはずだ。

「ギッギッ」

ゴブリンの鳴き声が聞こえたのでそこへ行ってみるとそこには異様なモノがいた。

体格、その他は今まで見てきたゴブリンと同じなのだが、目つきの鋭さ、そして持っている武器が違った。

ゴブリンが鉄でできたと思われる武器を持っていたのだ。そのゴブリンを中心に六体のゴブリンがくつろいでいた。私しは静かに雫を抜いて突撃の態勢を整えた。できれば一回の攻撃で二体は仕留めたいところ。

そして地を蹴って私はゴブリンたちに襲い掛かった。突然の襲撃で混乱するゴブリン。しかしその中で一体だけ冷静なゴブリンがいた。鉄の武器を持ったゴブリンだった。何か鳴き声を発して私を指さす。その間に私は一番近いゴブリンを両断する。そしてもう一体近くにいたゴブリンに斬りかかり、これを仕留めた。残り四体。残ったゴブリンは私が二体を仕留めている間に態勢を整えていた。鉄の武器を持ったリーダーらしきゴブリンが吠えるとゴブリンたちが一斉に襲い掛かってきた。私はそれをするりと躱しながら隙を窺った。すると一体が攻撃の波から外れたのに気が付き後ろから一閃、仕留めた。残り三体。リーダーゴブリンの指示で再びゴブリンが攻撃しようとしているがその中には戸惑いのようなものが見てとれた。

「ギィ!!」

怒鳴るような声を上げたリーダーゴブリン。それを聞いてか襲い掛かってくる二体のゴブリン。しかし先ほどの攻撃のような連携は無かった。なので一体ずつしっかりと仕留めた。そして残るは鉄の武器を持ったゴブリンだけとなった。するとゴブリンがこちらを見据えてきた。そして一喝。

「ギィアアアアア!!」

するとゴブリンの剣が放った声に応えるようにして光りだした。

「何かのスキル!?」

そしてとびかかるようにゴブリンが襲い掛かってきた。木でできた武器を持った他のゴブリンと違いこのゴブリンは人を簡単に殺せる武器を持っている。そう思うと雫を持った手が震える。殺気を含んだ鋭い剣閃が私を襲う。ゴブリンの身長は私の胸ほどの大きさ。体格が違うので攻撃は捌き辛い。雫で受けようにも相手は私の心臓部分ばかり狙ってきてそれも突きばかりだった。懸命に横によけたり後ろに大きく飛ぶことでなんとか攻撃を避けていた。しかし段々とゴブリンの動きがわかるようになってきて雫で相手の武器を弾こうという余裕が生まれてきた。そしてゴブリンの斬撃を雫で受け、払おうとすると・・・。

「ギィ!?」

弾くのではなく、そのまま武器を斬ってしまった。刀身が半分以下になってしまった自分の武器を見つめてしまうゴブリン。その隙を逃さず私は雫を振るった。ゴブリンは頭から両断され亡骸は消え失せた。私は雫に付いた体液を払ってから鞘におさめ、魔石を拾った。しかしその足は震えていて動きづらかった。先ほどのゴブリンとの戦の余波が来ているのだろう。実際怖かった。死なないと言われているけど痛いのは当然嫌だ。そう思いながら魔石を拾っているとリーダーゴブリンの魔石の名前が違った。

「≪ゴブリンウォーリアー≫?」

どうやら別の個体だったらしい。そして二回戦っただけで私の体力は底を尽き始めていたので渋々町に帰ることにした。合計十五個の魔石という戦果はあったので私は少し浮ついた気分で町へと向かった。

 

━━━━━━━━━━━━

 

「はい。魔石の換金ですね。おや、ゴブリンウォーリアーを倒されたのですか?」

「えぇっと。はい。」

「お一人で、それも登録なさってからまだ日が浅いというのにすごいですね。前は傭兵か何かなさっていたのですか?」

「えぇっと、まあそんな感じです」

「ゴブリンの魔石が14個で2800ゴールド。ゴブリンウォーリアーの魔石が一個600ゴールドですので合計3400ゴールドになります」

私はゴールドを受け取って冒険者ギルドを出ようとした・・・扉を開ける前に誰かに肩を掴まれた。

「おい、嬢ちゃん。良さそうな稼ぎじゃねぇか。うん?」

振り返るといかにも悪そうな顔をした男性・・・おっさんが立っていたそしてその後ろに子分のようなのが数人。

「ひょろっとしているようでその実、実力はある。前歴は知らねぇが最低でもFランクで留まるような強さじゃねぇ・・・っとなるとその武器だな」

実際私が戦えているのは雫があるからこそだ。それを何というか見抜かれているようだ。

「んじゃ失礼させてもらうぜ」

そう言っておっさんは雫に手を伸ばしたが触れる寸前で稲光のようなものが発生して手が弾かれた。

「っつてぇ!!なんなんだ!!」

思い通りにならなかったのが不満なのか怒りがあらわになる。

「残念ですがこの剣は私の一族で代々受け継がれてきた代物。私の許しが無い人は触れることはできません」

「んじゃさっさと許可を出せ。痛い目にはあいたくないだろう?」

「ちょっといいですか?冒険者同士の争いは初期契約によって禁止されています。もめ事を大きくするのなら権利剥奪も辞さないですよ?」

ここで受付の女性が割り込んできてくれた。さすがのおっさんでも権利剥奪は怖いのか何かボソボソと言いながら去っていった。私も受付の女性にお礼を言って冒険者ギルドを後にした。そして疲れた体を大浴場でお湯につかることで癒し、お腹をおいしい料理で満たし、ボロ宿のベッドに潜ることで眠りについた。




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第六話

朝、ボロ宿のベッドで起きた私は顔を洗って外に出る支度をして外に出た。昨日ゴブリンを何体も倒したおかげで数日は動かなくとも大丈夫なほど資金の余裕はあった。だけど大事なのはお金の量ではなく使いかた。私はちゃんと自制して安くて量のある朝食を食べた。そして時間ができたので町の広場に行ってみることにした。そこは露天が多く、人で溢れるほどではなかったがそれなりに多かった。その中で私は少し離れたところに座り、自分のステータスを見ることにした。

≪石川静音 Lv2≫

・斬撃Lv1

・慧眼

あれ?慧眼ってなんだろう?そう思って私はヘルプを見てみた。ヘルプには『相手の実力を測り、相手の動きを先読みする』と書かれていた。

「何それチートじゃん・・・」

そんなのがLv2で会得できるならこの世界の人間は先読みができるという訳だ。そう思うと私はスキルを試したくなり冒険者ギルドに向かった、するとギルドは外にまであふれるほど人が集まっていた。

「ど、どうなってんの・・・?」

「なんだ嬢ちゃん。知らないのか?中に剣聖が来てるんだよ

「剣聖・・・?」」

「なんだ、知らないのか?よっぽどの田舎から来たのか?剣聖ってのは王国の一番の剣士。ドラゴンを退治したといわれる人類最強の剣士様だ」

なるほど・・・人類最高の剣士、か、すると人の波が割れるようにして人が左右に散らばりだした。その中を一人の男性が歩く。

「うわぁ・・・あれが剣聖様か・・・」

「かっこいいぜ」

そんな羨望の声がちらほらと聞こえ、ようやく剣聖と言われる人が見えた。しかしその人物はおよそ人とは言えなかった。耳が人よりも長く先が尖っていて肌は黄色と白が混ざったようなきれいな色だった。エルフ、そんな言葉が私の頭に浮かんだ。そして私は≪慧眼≫で能力を見てみた。

≪剣聖 Lv995≫

それしか見えなかった。名前は多分本名を知らないからだろう。そして他に情報を見れないということはレベル差というやつなのかもしれない。そしてエルフの男性は左右を見渡しながらゆっくりと歩いていた。

「ふむ」

すると一瞬目があった気がした。そんな気がしただけなのにエルフの男性は私がいる方向へ先ほどの迷っているような歩き方とは違ってまっすぐに向かってきた。そしてとうとう私の真正面に来てしまった。

「娘。名前は何という?」

「イシカワ・シズネと言います。シズネとお呼びください」

「シズネ・・・私と手合わせをする気は無いか?」

男性の発言に周囲がうるさくなる。ほとんどが羨望と野次にまみれた声だった。

「なぜ、私なのですか?私より強い方ならたくさんいると思いますが・・・?」

私は思ったことを口にした。

「それは剣を交えればわかること。どうだ?」

「わ、私でよければ・・・」

「では準備がありますのでこちらへ・・・」

「ちょっとまったぁ!!」

私とエルフの男性がギルドの方に案内されようとした中で呼び止めるような声が上がった。

「剣聖様。そんな奴と戦っても意味がありません。そいつはたまたま運が良くてゴブリンウォーリアーを倒しただけのこと。冒険者ランクもF。それに代わって私はCランク。ぜひ私と手合わせをお願いします」

一人の少年が頭を下げた。それに続いて自分もと頼み込む人が続出した。

「ふむ。諸君らの言いたいことは分かった。されど私はこの娘を選んだのだ。冒険者ランクなど関係ない。私の目がこの娘を見つけたのだからな」

そういうと群衆は静かになった。

「あの・・・剣聖様の目って何かあるんですか?」

「知らないんですか?剣聖様の目は≪心眼≫を発眼なされていてそれはレアスキルの≪慧眼≫を上回るのだとか」

≪慧眼≫は私が会得したスキルだ。それの上位だとすれば・・・私の素性でもバレたのだろうか?そして私と剣聖の男性はギルドから少し離れた広場へと案内された。その外にはあふれんばかりの人が集まっていた。

「ではこちらから武器をお選びください」

用意されてあったのは木でできた武器だった。どうやら本気で戦わないといけないようだった。剣聖は背負っていた大剣と同じ大きさの木剣を選び取った。そして地面に背負っていた大剣を置いた。

私も色々と剣を取ってみて振っては選びなおしていた。そしてちょうど良いものを見つけると私も倣って雫を地面に置こうとした。

「お主はそのまま武器を持っているといい。その武器は持っているだけで加護を与えるのだろう?」

やはり読まれているのだろうか?雫のことをまっすぐに見ていた。

「し、しかし・・・」

「大丈夫だ。この娘は殺し屋などではない。殺し屋などの邪な者がそのような神聖な物は持たぬ」

傍にいた人の静止を止めさせ、男性は広場の中心へと向かった。私もそれに続いて広場の中心にて向かい合う。

「そう言えば名乗っていなかったな。私はラフェ族のウィリアムという。よろしく頼むよ」

「は、はい!!よろしくお願いします!!」

「では両者、用意はいいですね?」

審判役の人がそう宣言した。

「先手は譲る。好きに攻めてきたまえ」

そういってウィリアムさんは剣を構えた。その瞬間、私の全身がしびれるような感覚を得た。言い表すのは難しいが何か、高揚感のようなものだった。そして戦に関しては素人同然のはずの私の頭の中には動き方が見えた気がした。

「いきます!!」

そして私は大地を蹴り、ウィリアムさんめがけて剣を振るう。カンカンと木剣同士がぶつかる甲高い音が広場に響き渡る。

(どうしてだろう・・・。戦い方なんてわからないはずなのに体が自然と動く・・・)

私は謎の感覚を覚えつつもその感覚に身をゆだねて剣を振るう。

「ふむ・・・素早く鋭い剣技だな。ではこちらも行くぞ!!」

その言葉と同時にウィリアムさんの発する雰囲気が変わった。そしてウィリアムさんの持っている剣が青い光を発した。一度距離を取り、そして一瞬で間合いを詰めてきた。

「!!」

そして音速と言われてもおかしくないほどの速度で手に持った木剣を振るう。私は無理に抗うのではなく、剣をウィリアムさんの剣に添えるようにして合わせ、体を回し、受け流す。そして返しに回ったからだの回転を活かして逆に斬り返した。それをウィリアムさんは上に跳ぶことで避けた。そしてその後もウィリアムさんは凄まじい速さで斬りかかってくるがそれを私は舞うようにして捌いていった。まったく、そんな動きをしたことが無いのに体は経験したことがあるように動いていく。

「素早い剣技にそれを補う舞うような技。ふむ・・・秘めた才能とはこういうものか」

何かを達観したかのように言うウィリアムさん。そして再び剣を交える。しかしそれは先ほどの物が遊びだったかの如く鋭かった。ウィリアムさんの剣に押される一方的な展開だった。

「どうした。最初の勢いはどこへ消えた!!」

(最初は攻めてなかったくせに・・・とは言えないか・・・)

しかしふと気がついが。ウィリアムさんの剣が振るわれる前にその軌跡とも呼べるものが存在していたのだ。試しにその軌跡を待ち伏せしてみた。

「!!」

そしてその軌跡通りに剣が振るわれた。それに一瞬の驚きは見せたものの、ウィリアムさんは即座に次の攻撃に移った。しかしそれを私は受け流し、一瞬浮いた状態になったところをさらに押して払い、完全にウィリアムさんの剣を宙に浮かせた。そしてその隙を逃さず私は剣を振るう。ウィリアムさんはなんとか姿勢を整えて大剣を振るおうとするが、私が的確に攻撃を与えてウィリアムさんの姿勢を崩すことで剣を振るわせなかった。そしてウィリアムさんは大きく後ろに跳んだ。

「なるほど・・・貴方の強さは見えた。ならば・・・これで舞踏会はお開きとしよう!!」

さらにウィリアムさんの纏うオーラとでも呼べるものが鋭くなった気がした。剣が発する色も青から赤へと変わっていた。そしてウィリアムさんが消えたと思ったら、目の前に剣を構えて振るう直前だった。真一文字に振るわれた剣を受け流そうとしたがその刹那、私は後ろに飛ばされていた。私の頭が結果をたたき出した。私は受け流そうとした矢先に剣ごと吹き飛ばされたのだ。そして追撃するように鋭い剣閃が私を襲った。さらにギアを上げたような剣撃に私の腕は悲鳴を上げる。

(負けたくない・・・私は剣豪になるって決めたんだ!!ここで勝ててもそれが手に入るわけではない。だけど、剣を握る以上、負けたくない!!)

その思いに応えてくれるように体が動いてくれる。ウィリアムさんの剣撃を捌きながらわずかながらに攻勢に出る。次第に剣閃を押し返すことができ、戦いはどちらが主導権を握るかの争いになっていた。しかし戦いは突如として終わった。

「え?」

「むぅ・・・」

ボキっと、私の使っていた木剣が折れたのだ。ウィリアムさんの重く、鋭い剣撃に耐えられなくなったのだろう。

「さ、殺傷性はなくともエンチャントがされた木剣だろ?それが折れるのか?」

「折れるってことは相当な威力を剣聖が出してたってことか?

「そんなバカな。戦ってる奴は最近顔を見せたど新人だぞ」

「だけど折れたのは確かだ。新人が無理な使い方をしたかもしれんが・・・」

ズンっとウィリアムさんは持っていた剣を地面に突き刺した。

「確かに、諸君らが言う通りこの人物は経験は誰よりも浅いであろう」

その言葉に群衆の言葉は止んだ。

「だが、諸君らも見たであろう。私のことを知っているならなおさらのことだ。我が剣が赤き光を発している意味を!!」

(赤い、光の意味?)

「闘気は色ごとに強さが決まっていることは知っていよう。古の英雄まで遡れば闘気の色は紫だと伝わっている。そしてその前段階が赤、そして青と続いていく。僭越ながら剣聖、人類最高の剣士と呼ばれる私ですら到達できたのは赤の闘気。つまり私の全力を意味する。そしてこの少女は私に全力を出させたのだ。決して手を抜いたわけでもなく、演技でもない。私が全力を出したことは本当だ、私に全力を出させたこの少女を弱者と扱うのは、私にはできないが・・・それを否定する者はいるかね?」

ウィリアムさんの問いに答える人はいなかった。

「シズネよ私の弟子になる気はないか?」

その言葉に群衆が再び騒ぎ出した。

「あぁ、驚くのも無理ないか・・・」

少し苦笑いしたような表情を浮かべるウィリアムさん。

「私はね、王子様の剣術指南以外の弟子入りを断ってきていてね。弟子は王子様以外いたことがないんだよ」

「ならどうして私を弟子に?」

「それは私が会ってきた人物の中で初めて見込みがあると思ったからだ。例えお遊びの戦いだったとしても私がこれほど滾ったのは久しぶりだ。イシカワ・シズネ。私の下でその才能を伸ばす気はあるか?」

「ぜひ、お願いします!!」

「では今後ともよろしく頼むよ」

ひょんなことから王国最強と言われる人の弟子になることができたのであった。




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第七話

ウィリアムさんとの戦から一夜明けた朝。私は待ち合わせのために冒険者ギルドを訪れていた。まだウィリアムさんは来ていなかったようなので私は自分のステータスを見ることにした。lvは5に上がっていて、スキルに≪闘争心≫が追加されていた。lvはウィリアムさんと戦ったことで上がったのだろう。だが、スキル ≪闘争心≫の取得理由がわからなかった。ヘルプの説明では敵対者とのレベル差があるほど戦闘補佐を得ることができるとあった。私がウィリアムさんと戦えたのはこのスキルがあったからだと私は思う。しかしそうなるとこのスキルは一体いつ取得したのか。その疑問に突き当たるのであった。考えているうちにギルド内が騒がしくなっていた。

「待たせてしまったようだ」

騒がしい人の波を割ってウィリアムさんがやってきた。

「では行くとするか」

「はい!!」

私はウィリアムさんの後ろを歩いて冒険者ギルドを出た。そして町の門に近いところにある馬車の停留所のようなところに着いた。

「あの、これからどこに向かうんですか?」

「あぁ、王都だよ。王からもし弟子を取ることになったらその者を引き合わせるようにと言われていてね」

(い、いきなり王都?まだこの世界のことを何も知らないのに王都・・・王様に会うなんて・・・絶対ボロを出してしまう・・・)

静園は心穏やかではない状況で言われるままに馬車に乗ることにした。そしてゆったりと馬車はゲーンの町を出発した。そして町を出て少ししたころ。

「どうやら心穏やかではないと見える」

「え?・・・あはは。やっぱそう見えますか?」

「自分の正体が露見することを危惧しているのであろう?」

「え゛!?」

思わず変な声を出してしまった。≪心眼≫というのは他者の心の内も見えてしまうというのだろうか?

「その通り。私の≪心眼≫は他者の心も見抜く。ただまぁ、安心するといい。別に私は君を糾弾することも断罪することもしないし、君の正体を公言するつもりもない」

「え?本当の素性がわかっているのなら危険人物に見えませんか?」

「天より遣われし御子。実はね、私は一か月ほど前に夢で啓示を受けたのだよ」

「啓示を?」

「お告げにはこうあった。『私は天より遣われし一人の少女と出会いこれを育てるべし。その行いはやがてこの世界を包む混沌を祓う偉業となろう』とね」

「天より遣われし御子・・・確かに私は天使?から説明を受けてこの世界に来ましたけど・・・世界を左右する人間って危険視されないんですか?」

「確かにこの世界は混沌に包まれようとしている。ここで歴史の勉強とでもしようか。この世界は確認されているもので数度、魔王というのが出没している」

「魔王・・・魔獣の王ですか?」

「そう。そして魔王が出没する兆しというものがあってね。魔獣を従える魔族というのが多く見られるようになると魔王が出没すると伝わっている。そして現状、魔族の出現報告が数度上がっている」

「つまり魔王がすでに出現、もしくは出現しようとしていると?」

「そう。魔王が出現すると魔獣は恐ろしいほどに活発化する。スタンピードと呼ばれる通常の生存圏以外に大量発生することもある。君からすればこの世界、とでもいうべきか。この世界は数度魔王と対峙し、これを打ち払ってきた。だがそれは神から選ばれし戦士、勇者と呼ばれる者がいてやっと互角に渡り合えるかどうかというレベルなのだよ」

「つまり勇者がいないと魔王は倒せないと?」

「そう。そして魔王が現れるのと同時期に聖剣によって勇者が世界から選ばれるのだが・・・」

「?」

「これは公にはなっていない機密事項でね他言無用で頼む。実は先代魔王の奸計によって聖剣が破壊されたのだよ。破壊といっても砕かれたわけではなく、機能、加護を失ったのだよ」

「え!?つまり勇者を選ぶ聖剣が無いということは・・・」

「そう。勇者が現れることはないというわけだ。聖剣を保有する王国、スペリア王国は極秘裏に優秀な鍛冶師を集めて聖剣の具合を見てもらったがどの鍛冶師も首を横に振るだけだった」

「じゃぁかなり危機的な状態なんですか?」

「そう。だから王国はできるだけ戦える戦士を募集している。偽りの召集令だけどね。それで、君はこの世界にはない鍛冶の技術を持っているんだったね」

「えぇっと。はい、そうです」

「もしよければ聖剣を見てはもらえないだろうか。口伝では聖剣は神から与えられたものだという。神に近しい天から遣わされた君なら何かわかるかもしれない。どうだろうか?断っても私は君の出自は黙っていると誓おう」

「私が役に立てるかはわかりませんがやってみます」

「そうか。ありがとう」

ちょっと重苦しい話はそこまでだった。それからは私の世界の話になった。ウィリアムさんは興味津々で私の話を聞いていた。特に殺伐とした世界でないということに驚きを隠せないでいた。私の話を聞いてウィリアムさんはこう言った。

「君の世界はこの世界と比べればとてもまぶしい。だが私のような戦うことしかできない者からすれば生きづらいのかもしれないな」

その顔には少し影が見える気がした。




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第八話

「うわぁぁぁぁ!!」

私は二日の馬車の旅を経て王都にいた。そこはいたるところに人、人、人で埋め尽くされていた。

「ここが王都。アラネージュだ。ここには全てにおいて人が集まっているのは、見てわかるね」

静音の目は行き交う群衆にくぎ付けになっていた。

「シズネ。観光もよいとは思うが。人を待たせているのでね」

「誰かと待ち合わせをしているのですか?」

「王様だよ」

「ひゅっ!?」

突然の衝撃だった。

「いいいいつの間にそんな約束を?」

「立ち寄った宿場町で連絡をね。聖剣の話をしたら快く受け入れてくれるとね」

「聖剣についてはまだお役に立てるのかわかりませんのに・・・」

「いや、異邦の技術があれば大丈夫さ」

そう言われてウィリアムに案内されて人ごみの中を歩いて行った。しかし人込みに飲まれることは無く、人ごみは海を割るようにして開かれていった。

「剣聖様じゃー」

「あれがドラゴンから切り出したと言われる・・・」

そう言えばウィリアムさんは出会った時と同じように大きな大剣を背負っていた。

「あれがアスカロンか・・・」

アスカロン。ウィリアムさんが過去に討伐したというドラゴンの骨から切り出したという大剣。王国の何人もの腕利きの鍛冶師が丹精を込めて作ったとされる剣であると聞いた。見ているだけでそのオーラというべきものが伝わってくる。また、それに勝る剣を作ってみたいとい思いも生まれていた。そして街並みを抜けて開けた場所に着いた。そこには絵本でみたことがあるような形の城が建っていた。

「ここが王城。王様がいるところだ。名前はヴィルヘルム四世。長くこのスペリア王国を治め、繁栄させてきた名君だ。まぁ、話せばすぐにわかると思うさ」

「これはウィリアム様。ようこそおいでくださいました。王もお待ちしておりました」

王城を守護していたであろう門番の騎士に呼びかけられ、すぐに案内の人が呼ばれてきた。すぐに王宮の中心である玉座の間に通された。

「拝謁せよ。王の御前である」

護衛の騎士がそう言い、誰かが入ってくる、静音は頭を下げた状態なのでわからなかった、だが周囲の雰囲気で王が来たのだと思った。

「ウィリアム。面を上げよ。久しいな。わしが催した宴以来か。また旅をしてきたのであろう。レオもお主の話を聞きたいと申しておった。後で会ってくれ」

「はっ。では後ほど」

「それで、そこな小娘は?」

「先日旅で見つけた者にございます。この者を不肖ながら我が弟子とすることに決めましてございます」

「ほう・・・あれほど弟子を取らなかったお主がとった弟子とは。それほどに強き者か?」

「いいえ、未だ闘気すら出せぬ者ではございますが、磨けば金銀珠玉に劣らない輝きを見せてくれるでしょう」

「そうか。お主が言うのであればその通りになるのやもしれぬな。するとその小娘が秘伝の鍛冶技術を持つと言う者か?」

「はい。私もまだ見たことはありませぬが、持っている剣からして間違いは無いかと思います」

「ではその剣を見せてもらっても構わないか?」

「シズネ、頼めるか?」

「はい」

私少々雫を手放すのを渋ったが、登録者を一時的に解除して近くにいた人に雫を渡した。その人が王様に雫を手渡した。

「ほう・・・見たこともない意匠であるな。して身は・・・うむ?抜けぬぞ?どうなっておる」

「あ、発言をお許しください。それは柄を握って抜くのではなくて丸いところを押して抜くのでございます」

「ふむ?おぉ、抜けた・・・おぉ・・・なんということじゃ。これほどの輝きを発する物なのか・・・。これは素晴らしい。見事な業物じゃ。かような物を作る技術があろうとは」

王様は雫を私に返すと顔つきを変えて私に向き直った。

「さて、まだ名前を聞いておらぬ。名を申せ」

「イシカワ・シズネと申します。シズネとお呼びください」

「ではシズネ。お主に見てもらい物がある」

王様が何かを指図すると私の前に一つの剣を持ってきた。

「これは?」

「とあるいわくつきの剣でな、具合を診てもらいたいのだ。おぉ、大丈夫じゃ触ってもよい」

私は言われるままにその剣を手に取った。私は鍛冶スキルを動員してその剣を調べた。

(見た目は綺麗だけど中身は暗く、淀んでいる。これは・・・呪いかな?ならこの剣がウィリアムさんが言っていた聖剣・・・。呪いを消すには・・・浄化しないと・・・)

「謹んで申し上げます。この剣には呪いが宿っております。これは浄化を試されましたか?」

「うむ。王都の鍛冶師がそう申して協会の者を呼んで何度も浄化を試したが誰も呪いを祓うことはできなんだ」

「この呪いは剣自体に宿っている物。これは剣を破壊しなければ祓うことは叶いますまい」

「むぅ・・・その剣は壊すには惜しい剣でな・・・」

「恐れながら、実は私の鍛冶技術は剣を鋼に変えねば剣を打つことはできません。いわば剣を壊し作りかえとなります」

「そうなのか?してもし剣を壊し作り直したら元に戻るというのか?」

「この剣の真価はわかりませんが、呪いは祓うことができましょう」

「ふむ・・・流石に会って早々の素性のわからぬ者にこの剣を任せるのは心配じゃのう・・・。よし、一つ試させてもらおう。必要な材料はこちらで用意する故、一つ剣を打ってもおう。監督役に数人の鍛冶師をつける。そこで判断してもらうとしよう。後は文官たちと話を詰めるが良い」

その言葉を最後に静音の初めての謁見は終わった。大仕事を申しつけられてね。




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第九話

王様から大仕事もとい、試験を言い渡されて私は文官の人に大量の木炭と土、それから小さいサイズの鉄鉱石を頼んだ。本当は砂鉄が良かったけどこの世界の文明じゃ効率的に砂鉄を採る方法が確立されていないようだった。後は触媒として聖剣と同じように呪いがかけられた剣が選ばれた。いきさつは不明だがかけられている呪いは鍛造で祓うことが可能なの事はわかっていた。

そして三日後にすべての準備が終わったとの報告を貰った私はすぐに現場に赴いた。事前に渡していた設計図通りの炉とふいごが作られていて材料も全てそろっており準備万端だった。これから三日間不眠不休で働くことになる。

私は炉に火を入れ玉鋼の製造に入った。まずは木炭を入れて炉の温度を高める。そして少し時間が経ったら上に口を開けている構造の炉の中に木炭と鉄鉱石を交互に入れる。そして数時間が経つと事前に炉の下の部分に開けていた口から溶けた鉄以外の鉱物が溶けた液体が出てくる。一応触らないように注意を促す。

そうしているうちに日が暮れてきた。私は作業を続行する。適時にふいごで風を送り炉の温度を上げていく。ここらへんで監督役の人が何人か離脱した。夜通し木炭と鉄鉱石を投入して炉の温度を上げていく。そうしていると段々と空が白くなり夜明けが近くなった。

そして炉の温度を表すかのように炎の色も変わってくる。私は片手間に水と食事を済ませ作業を続ける。ただ炉を見守りながら鉄鉱石を投入する単調な作業をしていたら一日が終わった。私は時間が過ぎていくのを確認して鉄鉱石の投入間隔を短くしていった。熱い炎に当たられながら私は作業を続行する。

炉から出ている炎の色が変わり赤紫の色をしてきた。ここからが一番長い。立ち上る炎が大きくなり、安易に近づくことはできなくなった。後は炉の中に設置してある木炭が燃え尽きるのを待つだけだ。しかしこれが長い。炎が弱まるまでに夜が訪れ朝日が昇り、さらに夜を迎えた。立ち上る炎が弱まったのをみて私は柄の長い鋤で炉を崩し始める。未だに炎は消えていないが炉を全て崩す。そして炎が完全に消えるのを待った。炎が消えるのを待って一日。煌々と光を放つ鉧を見て監督役の人たちから驚きの声が上がる。そしてようやく作業が終わった。後はできた鉧を冷やすだけだ。私の世界では炉のあったばしょから運び出して空冷させる必要があるのだが、流石は異世界。魔法によってこの作業を簡略化させることがでいるというのだ。氷系統の『フィールドフリーズ』という魔法を使い、鉧付近の温度を調節し、常温になるべく近づけることができるというのだ。空冷を早めるために鉧の下にある地面に穴を掘り、一番熱が籠っている鉧と地面が接する部分を極力少なくした。

私の鍛冶スキルは鉄の温度を読み取ることが可能らしく、ようやく休みが取ることができた夜が明けたころには鉧の温度はかなり下がっていた。鉧の質を見る限り、かなり良い品質の玉鋼ができそうだった。そうしてさらに一日待つと完全に鉧の温度は触っても大丈夫なくらいに冷えていた。私はタガネを合わせ、鉧から必要な分だけの玉鋼を掘りだした。かなりの大きさを誇る鉧だったがこれだけの大きさなら盗み出すのにもかなりの人手がいるから監視の人を付けるだけで警備は整った。

続いて鍛造に入る。事前に用意されていた鍛冶場に入る。ここでも監督役の人たちが着いてくる。

まず設備を確認する。玉鋼製造の炉とは違い、原始的ではあるものの、石でできた炉があった。事前に下見をして炉とふいごなどを確認していた。

そして鉧から割り出した鋼を炉にくべて熱する。そして赤くなったのを確認して、お手伝いの人とともに熱くなった鉄を叩いて伸ばす。そして煎餅のように平たくなったら水で急冷する。そして煎餅状になった鉄を割ってみて、炭素量を把握する。すぐに割れる鋼は刀の刃となる皮鉄に、割れにくかった鋼は刀の中心となる心鉄にする。そして分別した鋼を皿状に平たくなった鉄の棒に乗せてそれを崩れないように紙で包み、炉で熱する。心鉄には用意された触媒の剣を小さく叩き割ったのを混ぜてから熱した。

熱せられ赤くなった鉄を延ばすようにして叩いていく。そして十分に延びたと思ったらタガネを当てて鋼に切り込みを入れて曲げて重ねる。そしてそれを叩く。これを何度も繰り返し、そしてそれを心鉄と皮鉄の二種類とも行う。実際に心鉄を叩くたびに何か悪い感じのするものが出ていくような感じを覚えた。

そしてできた心鉄をU字に叩いた皮鉄で覆うようにして組み合わせ、再び熱し、叩いて細く延ばしていく。切っ先を鋭くなるように叩いていく。刃の部分は段々と薄くなるように叩いていく。これがまたしんどい。スキルの補助があるものの初めてやるのは本当にしんどかった。でもさらに面倒な作業があった。

できた刀の原型に炭の粉と粘土、それから砥石の粉に水を混ぜて作った特性の土を刃には薄く、それ以外には厚く塗って、波紋を描いていく。そしてそれが終わるとさらに炉に入れ最後の火の作業に入る。そしてスキルがOKを出したら炉から出して水で急冷する。すると日本刀にある独特の反りと波紋が浮かび上がった。そして後は刃を砥石で研いだら日本刀の刃が完成する。そして柄の部分に合うように切り出した木を当てて、今回は簡単に太い紐で柄の木材を縛り柄とした。そして簡単な鍔を付けて完成する。スキルの補佐があったものの、自分で作り上げた始めての刀だった。それを王様に奉納することになる。事前に呪いの類が祓われていることを聖職者の人が確認してある。鞘は今回は作らなかった。できるだけ早めにと言われていたからね。それに実物さえあれば他人でも鞘は作れる。そして武官、文官が揃った上で王様による試し切りが行われることになった。試し切りに用意されたのは結構太い木であった。

「ふん!!」

王様が作った刀で木を切りつけると刀は滑るようにして木を切り倒した。そして次に兵士が纏う鎧が用意された。これはさすがに完全に切断とはいかなかったものの、斬撃の跡を残した。それを見て集まった人たちは驚愕の声を上げた。

「うむ。見事なできよ。呪いを祓い、そしてこれほどの切れ味は魔剣に比類するであろう。それを一人の鍛冶師が作り上げたことは称賛に値しよう」

集まった人たちも王様に同調して頷いていた。傍らで見ていたウィリアムさんが私の肩を叩く。

「よかったなシズネ」

「してシズネよ。話がある」

王様に呼ばれて個室に招かれた。そこには王様と私とウィリアムさんと数人の人だけがいた。

「実はお主の実力を見込んで頼みがある。先日見てもらった剣、あれは聖剣と言ってな、あらゆる魔を断つ聖なる剣なのじゃ。しかし先代魔王の眷属によってかなり強い呪いをかけられてしまってな。聖剣としての力を失ってしまったのじゃ。報告にあった鉄を鍛えて刃を作るお主の鍛冶技術で聖剣を作り直してほしいのじゃ」

「・・・わかりました。お引き受けしましょう」

王様の強い目つきで断ることはできなかった。それに聖剣の打ち直しという大きな仕事に関われるということにも心が躍ったからであった。




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第十話

聖剣の鍛造。それを任された私は王国が蓄えていた聖剣に関する記述を見せてもらうことを頼んだ。王様は快く提案を受け入れてくれて王国最大の図書館に案内された。そしてさらにその中の奥。封がされている部屋に案内された。

「ここが聖剣の歴史と所有者が書き記した日記の保管庫となります。持ち出し、写本は禁じられておりますので退出時には持ち物全ての確認をさせていただきます。王より貴女の入室は自由と仰せつかっておりますので守兵にこの印を見せていただければ入室可能です」

そう文官の人が教えてくれた。そして私の監視としてウィリアムさんが付いてきた。

「何。私自身も聖剣には興味があってね。それに君が何をなすのか、長年生きてきた私がこれでもかと興味を惹きたてる」

そう笑顔で言っていた。

「そう言えば、ウィリアムさんが持っている剣。それも聖剣に分類されますよね?」

「おや、気づいていたのかい。そう。これは私が討伐した竜の骨から作られていてね。竜が持っていた邪気を祓うために聖職者と王国の名高い鍛冶師たちが共同で削りだしたものでね、何の因果か聖剣になってしまったのだよ」

「名前は知りませんがいうなれば竜の聖剣。王様が見せてくれたのは選定の聖剣といったところでしょうか」

「あぁ。あの聖剣には勇者を選ぶ権能があるはずだからね。まぁあの剣が力を失くして以降勇者は選ばれていたのだが・・・」

「さてどこから読んでいきましょうかね・・・」

王国が蓄えた選定の聖剣の知識。そして歴代勇者の日記いこれは数日はかかりそうだ。

 

━━━━━━━━━━━━

 

最初の日はこれと言って成果は無かった。そして次の日。興味深い一文を見つけた。王国の歴史書曰く『王国随一の鍛冶師が数多の加護を備えたタガネと槌で聖剣を叩いても割ることはできず、またどんな武器であろうと聖剣を折ることはできなかった』

『鉄をも溶かす轟々燃え盛る炎の中に聖剣を入れ炎が消えるのを待ち、聖剣を確認すると微塵も溶けていなかった』

「うーん、割ることもできず、溶かすこともできず・・・こりゃ鍛造できないぞ?」

「確かにシズネの鍛冶は溶かし、何かを基にするならそれを割り、溶かし合わせるのが妙。こうもあると成立しないな」

隣で呼んでいたウィリアムさんも同意見のようだ。一応この世界にも鍛造の技術はあるようで、私の鍛造はその亜種とも呼べるモノに分類される。そして王国の歴史書には聖剣が呪いを受けてからの解呪の実験結果が書き記されていた。

「聖職者による禊、聖水に浸す、祈祷、・・・うーんどれも成果は無しかぁ・・・」

「ふむ・・・やはり我々が思いつくようなことは全て成された後か・・・」

「そもそもどうやって選定の剣は作られたんだろう」

それを辿っていくと神話にたどり着いた。曰く、『魔王の力が世界中に及ぶようになった頃、ある日神の啓示を受けた一人の鍛冶師が山から一つの鉱石を掘り出し、それを剣に鍛え上げた結果選定の剣ができたとある。そうしてその剣に選ばれた初代勇者が魔王を討伐した』とあった。

「ふむ。この掘り出した鉱石はおそらくヒヒイロカネだろう。あぁ、ヒヒイロカネというのは霊山と呼ばれる山で極稀に採掘される紅い鉱石のことだ。これで武具を仕立てると特別な加護を得た武具ができるという・鍛冶師にとってはヒヒイロカネを加工するというのはある種の到達点ともいえる」

「ヒヒイロカネ・・・。あ!!」

「おや、それは何か思いついた顔だね?」

「ウィリアムさん。王国は神聖な木から作られた木炭は保有していますか?」

「うむ・・・宰相ではないから具体的な数は把握していないが、聖域と呼ばれるところから神木と呼ばれる木を切り倒して木材として何かに加工しているはずだが?あぁ、まさか」

「そうです。その神聖な木から作られた木炭、それから霊山から採れる鉄鉱石。これらを組み合わせて私のたたら法で鋼を作り出し、聖域の獣から採れるという魔石を燃やした炉で鋼を溶かし、それを聖剣に充てて叩き、呪詛を祓う。これ、どうでしょうか?」

「かかる費用はひとまず考えないとして・・・方法としては誰も試したことが無いだろう。だが費用はかなりかかるだろう。ひとまず宰相殿に提案し、王の意見を聞かねばならないな」

意見がまとまった私たちは図書館んを出て、宰相の下へ向かった。

「お待たせしました剣聖殿。それから初めまして、シズネ殿」

「お初にお目にかかります」

「それで、聖剣を復活させるための目途がたったとか?」

「はい。こちらをご覧ください」

私は考え付いた方法を書いた紙を宰相さんに渡した。

「ほうほう・・・なるほど。確かに報告ではシズネ殿の作る鋼、剣は至高の一品とありました。その鋼を神聖な物で作り、それを聖剣にあて呪いを祓う。えぇ、見事なお考えです。これは誰にも思いつかない・・・いや、秘伝の鍛冶法を持つシズネ殿しか考え付かない方法でしょうな。かかる費用は・・・確かまだ去年の神木の余りがあったはず。それに霊山の鉄ならばかなり保有していたはずです。魔石については王都の冒険者に緊急依頼を出せば数日中には集まるでしょう。すぐに王への奏上文を書かなくてはなりませぬな。奏上文は今日中には出来上りますゆえ、明日、三人で奏上するといたしましょう」

そういうことになり、一夜明けて私とウィリアムさん、そして宰相さんの三人で王様の御前に赴いた。

「ふむ・・・・なるほどな。確かに神聖な鋼を打ち当てれば呪いを祓うことができるかもしれぬな。よくぞ考え付いたものよ。ではシズネ。お主に万事任せるとする。成功の是非も結果も問わぬ。思うがままやってみよ」

こうして私の挑戦が始まるのであった。




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第十一話

私の考えを王様に奏上してから一週間が経って、材料が全て揃ったということを聞いて私は再び炉の前に立った。再び私の挑戦が始まった。とはいえ鉧を作る工程は前回と一緒だ。ただ違った点があった。それは立ち上る炎だ。以前はただ燃え盛るだけの炎だったけど、今回の炎は何というか、ただ焼失させるような炎ではなく、何かを清めるような綺麗な炎だった。

そしてできた鉧は前回の鉧とは違って何か輝いて見えるような気がした。こう、宿るオーラが違うというか・・・。神木を使って、霊山の鉄鉱石で作るとこんなにも変わる者かと思った。そしてその鉧の一部を割りだして私は工房に向かった。そこには魔石がぎっしりと蓄えてあり、準備万端であった。

「さて、やりますか」

私は炉に聖なる魔石をくべて炉の温度を上昇させていく。話には聞いていたが、木炭よりも炉の温度が上がるのが早い気がした。そして私は鉧から割り出した玉鋼を炉に入れて溶かし始めた。高温で熱せられ赤くなったのを確認してから私は炉から出して聖剣を取り出す。そして熱せられた玉鋼を聖剣の刀身の上に置く。そして槌で思い切り叩き始めた。図書館で見つけた聖剣の特性、『聖なる物の力を吸収する』を利用し、聖なる鋼を打ち込み邪気を祓う。私の祓いが始まった。槌で叩くたびに少しずつ玉鋼は伸びるのではなく、聖剣の刀身の中に沈んでいった。それを確認して私の理論は間違っていないと安心した。そして叩くたびに何かが出ていくような感じがした。事実、一個目の玉鋼が全て吸収された後に聖剣を調べてみると呪いが弱まっていたと分かった

私はそのまま何度も玉鋼を聖剣に当てて叩いた。そして十数度鍛錬を終えると聖剣にかかっていた呪いが完全に消え去ったと確認できた。何度か鉧から補充の玉鋼を取り出したけどそれでも残った鉧はかなり大きかった。私はウィリアムさんを通じて文官さんに実験は手ごたえがあったと伝えてもらい、その翌々日に王都の選りすぐりの鍛冶師と聖職者が集められて、王様の前で確認が行われることになった。

「どうだ、シズネ。今回の仕事は」

「はい。貴重な素材を使わせてもらっていい経験ができました。聖剣の打ち直しなんて貴重な体験は今後何かの役に立つかもしれません」

そうしているうちに王様が来て御前披露会が始まった。まず文官と鍛冶師の人たちあらかじめ調べてある聖剣が王様に手渡された。記述によると聖剣は王様か、勇者にしか扱えないらしい。しかしこの世界のこの時代に先代勇者の活躍を直に見た人は生きてはおらず、聖剣の輝きを見た人もいないだろう。だから確固たる結果が出るかはわからなかった。

「ふむ・・・祖父から、父から伝え聞いていた通り神聖な気を放っているのはわかるな」

そして試し切りとして兵士が着る鎧の中でも特に重厚な鎧が持ってこられら。王様は鎧の前に立ち、聖剣の力を解放させた。光が集まり、聖剣は輝かしい光を放ち始めた。

「むん!!」

王様が聖剣を振るうと鎧は聖剣によって両断された。両断された面を見ればわかる通り、鎖帷子も鉄のプレートも何もかもが切断されていた。そんな芸当は雫の加護と私のスキルを振る活用しても成し遂げれないだろう。

「ふむ・・・どうやら聖剣は在りし日の力を取り戻したようだな」

王様は嬉しそうに顔をほころばせてそう言った。その発言に集まった人たちも歓喜の声を上げた。そして王様は私の前にやってきた。

「シズネよ。此度は本当に、本当によくやってくれた。礼の言葉も尽くしようがない。感謝する」

「お役に立てて光栄です」

「して、報酬の件なんだが・・・お主が作った鋼を王都の鍛冶師に使わせてみたところ、かなり良い品質で剣を作れるようでな、あれを売ってほしい」

正直王様の提案は渡りに船だった。実際あの大きさの鉧を私は持ち歩くことができないのであるからだ。

「最初の鋼は良いとして新しく作った鋼はお主が持つといいだろう。それは此度の報酬とは別じゃ。して何が良いだろうか・・・」

「それでは空間収納のスクロールはいかがでしょうか?この先シズネは何度も武器を作ることでしょう。ならばあの鋼を持ち歩く必要があります。空間収納があればいつでもあの鋼を使うことができるでしょう」

「おぉ、それが良いな。それでどうか?」

「えぇとと・・・空間収納のスクロールを知らないというか・・・」

「あぁ、まずスクロールというのはね。対象の魔法を習得している人が書き記した文でね、それを読めば他の人でも魔法を学ぶことができるという代物さ。それで空間収納はレベルに応じて自分の空間を作り、そこに物を収納できるって魔法さ」

「確かにあの鉧を保存するのには良さそうですね。しかし、あの神聖な方の鋼を貰ってよろしいのでしょうか?」

「うむ。あの鋼があればとてつもない武器を作ることは可能かもしれない。だがそれは普通の鋼で事足りるのだ。必要以上の力を持つと余計な事を招き入れるかもしれぬ。それに作り方はお主がまとめてくれた故、必要になったらいつでも作れる。よって聖なる鋼はお主に託すとする」

「では、謹んで受け取らせていただきます」

「うむ。いや、それにしてもめでたい!!」

王様は上機嫌のようだった。人類を救うとも言われる聖剣が復活したのだ。喜ばないというほうがおかしいのかもしれない




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第十二話

これは私が聖剣のお祓いをするための素材の準備を待っている間にあったできごとである。

私は時間が合えばウィリアムさんに剣の稽古をつけてもらっていた。できるだけ雫に頼らす己がスキルと経験を伸ばそうと思ったのだ。それでも一切の手加減を抜きにして戦ってもらっていた。

「お、ウィリアムじゃん。父上から帰ってきているとは聞いていたけど、挨拶ぐらいしてくれよな」

私たちは宮廷の中にある近衛騎士たちが訓練をするところで戦っていた。たまにギャラリーはいたが私が弱いと知るや見るのを止める人が多かった。弱いのに剣聖と戦うのは如何なものかという野次も聞こえたりした。

「殿下。ご挨拶が遅れたこと、深くお詫び申し上げます」

「いいよいいよ。どうせ俺の方から行くつもりで今日も来たわけだし。で、君が噂の弟子さんかい?」

声の人物から興味津々な視線を受ける。

「あぁ、俺はレオ。この国の王子さ」

「おおお、王子様!?これはお見苦しいところをお見せしました・・・」

「いいのいいの。俺の顔を初めてみたんだろ?初めて見た顔のことを考えろなんて無茶な話さ。それも王子なんてわかるわけがない」

と、笑顔でレオ王子はそう言った。ゲームや小説なんかじゃ貴族、王族なんてふんぞり返ってるのが当たり前だと思っていた私からすれば驚きの光景だった。まぁ、王様もそう偉そうにしてなかったから親の背中を見て生きてきたんだろうな、と思った。

「んじゃ、兄弟子として妹弟子の具合を見てやろう」

なんやかんやでレオ王子と戦うことになってしまった。ギャラリーはウィリアムさんとレオ王子のお付きの人だけ。

「んじゃ行くよ」

軽い掛け声とともにレオ王子が突貫してきた。

「っ!!」

最初の一撃を≪慧眼≫で予知して相手の剣に自分の剣を添わせて勢いを反らして相手の態勢を崩そうと試みる。

「おっと」

結果レオ王子の態勢は完全には崩せなかった。せいぜい見積が甘かった、その程度だろう。そして私は間髪入れずに攻撃を仕掛ける。それからは私とレオ王子の間で激しい剣戟が行われた。できるだけ≪慧眼≫で敵の防御態勢、攻撃姿勢を見抜いて有利に進めようとする。

「なるほどなるほど。君、≪慧眼≫を持っているだろう?」

簡単に攻撃を読んでいたら、逆にこちらの手の内が読まれてしまった。

「うんうん。んじゃここまでにしようか」

唐突にレオ王子は剣を引いてしまった。そして私の顔には何故という文字がくっきりと浮かんでいたんだろう。

「君、闘気も使えない見習い剣士だろう?勘や持ってる潜在能力はウィリアムが弟子にするくらいだからあるんだろう。だから楽しみに待ってるよ。あぁ、王都にいるならたまに剣を交えてもらってもいいかな?貴族の子らも剣術指南の人も俺のご機嫌取りにしか剣を振らないからね。ウィリアムや君みたいに外聞関係なく剣を振ってくれる人は少なくてね」

やれやれといった具合に肩をすくめるレオ王子。

「こう見えて俺は友達と呼べる人が少なくてね。剣だけじゃなくて言葉も交わしてみたいね」

おいおいゲームの登場人物のセリフかよ、という感想は強引に胸にとどめて握手をしてレオ王子が去っていくのを見ていた。

「どうやら王子に気に入られてしまったようだな」

「気に入る要素、あります?」

「剣に対する気持ち、それを王子は気に入ったんだろう」

「剣に対する気持ち、ですか」

確かに私は剣で戦うなら誰にも負けたくない、という気持ちはある。例え今は駆け出しだったとしても。いつかはその頂にたどり着きたい、そういった思いはある。

「あぁ、そう言えば剣聖のことについて話してなかったね。君はこの国最強の剣士=剣聖だと思っているだろう」

「え、えぇ。何かあるんですか?」

「いずれわかるだろうけど、この世界には様々な国がある。そして大きな国には大抵剣聖がいる」

「え゛」

「つまり剣聖=世界最強ではないのだよ。特に勇者が現れたら剣聖の名すら見る影もないくらいだと聞かされたことがある」

「聖剣、選抜の聖剣はどこの国にもあるんですか?」

「いや。大陸の国数数有れど勇者選抜の聖剣を持っているのはスペリア王国だけだと聞いている、もしシズネの方法が上手くいったら剣聖の名も返上せねばならないかもしれないな」

そうウィリアムさんは笑っていた。

「剣聖の称号にこだわりとかないんですか?」

「うーん、難しいねぇ。私は剣の人生を送ってきたわけだけど、こう言うのもなんだけど力を求めたのは名のためじゃないんだよね。弱き者を守るため。みんなが安心して暮らせるように。そう師に誓いを立てたのさ」

「誓いを・・・」

「それがいつの間にか国を脅かす竜の討伐にまで至ったわけだ。人生何があるかわからないものだよ。だからシズネ。君が何のために戦うのかは私は問わない。ただ己が願いを偽ることだけはやめた方がいい」偽る、それを言った時のウィリアムさんの目つきは鋭かった。別段嘘を言ってたわけではないのだけど、直観で何かあったのだろうと察した。

「ではシズネ。鍛錬に戻るとしようか」

とりあえずそんなことは気にせず私は剣を振るのであった。




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第十三話

突然王様からの呼び出しを受けた。何か悪さをしたわけではない。もしかしたら鍛造した聖剣に何かあったのだろうか?私は最高権力に呼び出されたという不安を持ちながら王様のいる玉座の間に通された。

「うむ。シズネよ。急に呼び出して済まぬ。実は聖剣が治った故勇者選別を行おうと思ってな。それでその儀式にお主も立ち会って貰いたくてな」

「はぁ・・・」

良かったぁぁぁ。詰問でないことに私、超安堵。しかし顔に出してはいけない。私はニヤけそうな顔を引き締めて王様の言葉を聞く。

「失われた聖剣の輝きは取り戻されその主たる勇者を選び魔王討伐に臨んでもらう。まぁおとぎ話にあるような話が実際にはあるのでな。聖剣が輝きを失ってから魔王が現れなかったのは幸いだが、今現在魔獣たちのもつ魔力が高まる兆しを見せておる。これは魔王が現れる前兆であると記録には残されておる。まだ礼を言うのは早いかもしれぬが、よくぞ聖剣の輝きを取り戻してくれた」

王様は上座から降りて私の手を取り、お礼を言ってくれた。

「おおお、恐れ多き事でございます」

「うむ。して別件ではあるが・・・」

ま、まだあったかぁぁぁ!?私は再び緊張を覚えた。

「先日最初にお主が作った鋼であるが・・・鋼の質と出来上った製品を見て王都の鍛冶師が競り合うほど売れてしまってな、鋼は跡形もなく消えてしまったのじゃ」

笑いながらそう王様は言った。

「そこでじゃ。文官たちと協議したのだがあの鋼は鍛冶の歴史を変えるという結論が出た」

うーんこの世界の金属関連は中世なみだと思っていたけど、たたらってそんなに注目されるっけ?

「それでだな。お主が書き記してくれた鋼の製法を見ても鍛冶師たちはてんでわからぬときたのだ。だからひと時でよいから鍛冶師に指導を行ってはくれぬか?」

あ、そういう流れか。

「無論報酬は出そう。今後作った鋼はお主の名を取ってシズネ鋼と名付けよう」

ヤバイ。それだけはマズイ!!

「おおお、恐れながら私の鋼の製法は一族から繋いできた物でして、私の名を付けるのはどうかご容赦を・・・」

「ふむ、そうであるか。では鋼の名前はお主が決めるとよい。して今後鋼を製造したときには権利料としてお主に料金を支払う。これでどうじゃ?」

なんとここで働かずともお金が手に入るという選択肢がでてきた。一体どれだけの鋼が生産されるのかはわかならいのが難点だがこれは選ぶしかないでしょう。

「はい、鍛冶師の指導と鋼の件、謹んでお受けいたしましょう」

「おぉよかった。これで我が国はますます強くなれる」

「あっ・・・」

つい、こぼれてしまった。

「うむ、何か不都合でもあったか?」

「いいえ。なんでもありません」

そうして王様との会談は終わった。その後通路を歩いているとウィリアムさんに聞こうと思っていたことを聞いてみた。

「ウィリアムさん。いくらなんでも私って怪しいと思いません?王国が知らぬ一族が突然謎の技術を持って現れた。これ普通怪しむと思うんですが・・・」

「あぁ、君の出自なら流浪の一族の出だと言っていてね。そう言えば口裏を合わせるのを忘れていたよ」

そうウィリアムさんは応えてくれた。でもそれだけじゃなかった。

「それと会談中、一瞬戸惑ったね?」

やはり気づかれていたか・・・。

「おおよその検討はつく。自分の作り出した鋼が、戦争・・・()()()に使われるの可能性を危惧したのだろう?」

うん、バッチリ見透かされていた。

「あはは、バレちゃいましたか・・・実際のところそうです。私のいた世界では戦争、人殺しは罪であり許されない者でした。例えどんな理由があろうとも・・・」

「ふむ・・・争いがない世界から来たのであれば戦争、人殺しを忌み嫌うのもわからなくもない。だが戦争については大丈夫だろう。王は国が強くなるとは言ったがそれは戦争の手段を得たからではない。むしろ自国防衛の力が強まったことに喜んでいるのだろう。王は民を重んじ戦いを嫌うお方だ。王が王でいる限り決して自ら戦争を起こすことは無いだろう」

「そうですか・・・」

「だが新しい鋼の製造法が樹立されたとなると他国も探りを入れてくるだろう。技術者の引き抜きは当然予想される。だからこれからは人から選択肢を持ちかけられたときはよく考えることだ。最悪内通の罪が言い渡されるからな」

「はい。肝に銘じておきます」

「あ、いたいた。父上に呼ばれたと聞いたから来てみたらこんなところにいたのかい」

後ろから元気な声が聞こえ、振り返ってみるとそこにはレオ王子がいた。

「これは殿下。我々に何かありましたかな?」

「あぁ、もちろんさ。シズネ。君、鍛冶師だって?それもすごい剣を持っているとか」

そう話すレオ王子の目はキラキラと輝いていた。大体の察しはつくが・・・。

「君の鍛冶の才を見込んで頼みがある。どうか俺に一振りの剣を作ってほしい」

やっぱりそう来たかー。まぁ、鍛冶の話が出た時点で予想はしていたけどね。

「喜んでお引き受けいたしますが、私の剣は皆さまが使っている剣とは少々違っておりまして・・・」

「うん。それも聞いている。できれば見本か何かないかい?」

「では・・・」

私は先日聖剣鍛造の褒美で貰った空間収納の魔法を使って以前試験として作った刀を取り出して渡した。最初は抜くのに苦労していたが、いざ抜いてみるとレオ王子の目付きが変わった。

「ほー。なんともすごい輝きだな。そしてこの模様。俺が今まで作らせてきた剣とは全く違う。うん、気に入った。これでもいいけど、俺自身のために作られた剣が欲しい」

やっぱりコイツゲームの登場人物かよっていう言葉が出るがそれは全力で飲み込んだ。

「では新しく打つとしましょう。あ、使う鋼なのですが・・・かなり神聖なものでして・・・」

「うん?何か問題でもあるのか?」

「実際に見てもらうと分かると思います」

私はレオ王子を連れて広場に向かい、保有していた鉧を見せる。その鉧は聖剣鍛造で使った聖なる鉧だった。それを見てレオ王子は声を上げる。

「これが全部鉄鉱石なのかい?」

「いえ、独自の製法によって作った鋼です」

「これから俺の剣が作られるわけかい?」

「現状私が持っている材料はこれだけなのでそうなりますね」

「うん、ぜひともこれを使ってほしい。これを使えば満足する剣ができるだろう」

その後はレオ王子が鍛冶場は用意するとのことで話は決まった。再び私は刀を打つことになった。




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第十四話

私はレオ王子からの剣の鍛造を引き受けたわけだが・・・。

「なぜ王子がここに?」

「うん?興味があるからだよ。王都の誰もが作ったことのない形の剣を作る君の鍛冶というのを見てみたくてね」

「他の方々のは見たことがあるんですか」

「うーん最初の方は見ていたけどどれも同じ光景でね、飽きてね」

ハッハッハと笑うレオ王子。かなりのプレッシャーがかかるのだが相手は気づいていないのだろう。

とりあえず私は炉に割った玉鋼を入れ工程を始めた。

作り方はただひたすら叩いていく鍛錬法。レオ王子もどうせ飽きるだろうと思っていたけど、当の本人は目を輝かせてみていた。一応集中させてくれるのか会話は無かった。だが時々声を上げるのは勘弁願いたい。集中力が切れるから。

「よし、できた」

私は焼き入れを終えて叩き上げた刀身を水から引き揚げた。刀身にはきっちりと波紋が浮かび上がっていた。そして今度は同じ鋼で鍔を作り、次に木を柄の部分に合わせて切り、柄の土台を作っていく。本当は柄に鮫皮を使いたいのだが持ち合わせがないので王都で買った草食獣の皮を使い、柄を仕上げた。そこで一応の完成となるのだが、今回は鞘まで作ることにした。でもこれだけの作業をすると日も暮れる訳で、レオ王子も帰り、私も泊っている宿に帰った。一応明日は鞘を作るから地味だとは言っておいた。

そして翌日。まぁ地味な鞘作りを見るようなモノ好きなんていないだろう。レオ王子もモノ好きの仲間ではなかった。

私は一人で作業を開始する。完成した刀に合わせて用意した木材に線を引いていく。それも二本。そしてそれに沿って木材を彫っていく。血や錆びのことも考慮して余裕を持って掘るが、緩いのも問題なので丁度いいサイズを上手く彫る必要があった。そして数時間後に彫る作業は完了した。次に木材同士を接着剤でくっつける。そしてくっついたのを確認したら今度は木材を鉋で削って丸みをつけていく。そしてそれが終わると塗料を塗る。今回は黒の塗料を塗った。今回は特に要望があったわけではないため鞘の装飾は行わなかった。そして刀を鞘に納めて完成となった。

「あ。そう言えば刀の性能を確認してなかった」

〈銘々無し〉

・作成者 石川静音

・分類 不明

~ステータス~

≪鋭さ≫ A

≪攻撃力≫B

≪耐久≫ S

≪重さ≫ 軽い

≪価値≫ 高価

≪魔種特攻≫

こんなモンだった。耐久が高いのは驚いたが他のステータスはちょっと上くらいかなと思った。加護も≪魔種特攻≫くらいで雫に比べれば少ないと感じた。これでいいのだろうか?と思いつつも完成した翌日に王宮にいるであろうレオ王子を訪ねた。すると私がいずれ来るであろうと伝えていたのかすんなりと通された。

「いやー待ってたよ。それでそれが俺の剣かい?」

「はい。どうぞお納めください」

「うん。確かに。で、抜いてもいいかい?」

「どうぞ」

一度抜き方を覚えれば日本刀もすぐに抜けるだろう。レオ王子もすんなりとはいかなかったが抜くことができた。

「うん。ただの鉄では見られない光沢だ。この紋様も良い・・・」

おうっと?どうやら完成品のできにトリップしてしまったご様子・・・。トリップするほどのできなのか?そして体感十分後くらいにレオ王子が正気に戻った。

「うん。これほどの剣は見たことが無い。よく作ってくれた。感謝する」

レオ王子が突然頭を下げた。

「頭をお上げください、殿下。流浪の人間に殿下が頭を下げるとは・・・」

「いや。尊敬するべき人に頭を下げないのはおかしい。尊敬に身分の違いはない」

そうキッチリと、まっすぐな瞳でレオ王子はそう言った。

「あ、ありがとうございます」

そしてレオ王子は傍にいた人に刀を渡して何か話し始めた。ちょっと驚いた声が何回か聞こえたが何も聞かなかったことにしておく。

「さて、報酬だけど・・・1000万ゴールドでどうだろう?」

「いいい、一千万!?」

「不服かい?」

「いいえ。何分田舎の出身の見故お金の価値というのがあまり実感できていたなくて・・・」

「うーんそうだな。これだけあれば最低でも20年は不自由なく王都で暮らせる金額だね」

うわーそんなに?そんなにもらちゃっていいの?

「はい、それで構いません」

OKしちゃった。してしまった。20年も不自由なく暮らせる金額を得てしまった。

「そう言えば君王都の外から来たんだってね?なら銀行の手続きもまだだろう?手続きが済んだら報酬を君の名義にしておく」

後は事務的な会話を交わす程度でレオ王子との会談は終わった。その後私は嬉々とした表情で王宮を出た。

 

そして翌日の朝。王様からの使いということで使者が私のところに来た。なんでも急用だから早く来るようにだと。私は急いで支度をして用意されていた馬車に乗って王宮へ向かった。そして玉座のまに通されたのだが。そこに現れた王様のオーラが違った。初対面、聖剣鍛造の報告の時とは全く違う圧のある雰囲気だった。

「シズネよ。これから儂が答えることに正直に答えよ。嘘偽りは許さぬ」

王様の顔はとても厳しく鋭い目つきで気圧された。

「お主、レオに剣を打ったな?」

「はい・・・」

「それはどちらが提案した?」

「れ、レオ王子から・・・」

「ふむ・・・嘘ではないな。別に罪を問う訳ではない」

その言葉で私は一息つくことができた。

「レオはな、幼少の身より剣を学んできた。故にそれ相応の剣を求めておるのだ、そして王国中の鍛冶師に剣を作らせては試し切りに魔獣狩りに出かけるのだ」

そう言って王様は語りだした。

「王の嫡子が軽々と王都の外に出るのは到底容認できぬ。盗賊や強い魔獣に襲われる危険があるからだ。あやつは剣を信じるがゆえに周りから見れば軽率な行動をとってしまう。あやつは次代の王たる身。危険な目に合ってほしくないのだ」

跡継ぎの問題。それに私は踏み込んでしまったのだろうか?

「してお主がレオに打った剣であるが。確かめさせたところ、聖剣に匹敵する剣だと分かった」

うん?今なんと?

「せ、聖剣?」

「うむ。魔種への攻撃力上昇。これは聖剣特有の能力だ。耐久も最高の値を出していた。特異な能力は見受けられなかった故あれは準聖剣といった立ち位置にあるであろう」

うわぁ・・・聖剣を打っちゃったよ・・・。つまりあの鉧の玉鋼を使えば何本も作れるってことか・・・。

「お主、件の鋼を使ったな?」

「は、はい・・・」

「ふむぅ・・・聖剣復活に用意させたものがここまで影響を及ぼすとはな。よってお主に王級鍛冶師の位を授けることにした」

「王級鍛冶師?」

「うむ。王級鍛冶師とは王が認めた王国随一の鍛冶師の位である。今は確か・・・三人おったか」

突然ですが王国随一の鍛冶師になっちゃいました。

「そして件の鋼はお主本人と王国が認めた者以外の者へ打つ剣への使用を許さないことにした」

「つまりあの鋼は基本使用禁止ということですか・・・」

「お主が使う剣であれば問題ない。練習に使用するのも良しとする。しかし他の者に安易に打つことは許さぬ。あの剣が件の鋼を使って作られる剣の最底辺なのか、最高位なのかはわからぬがあれ相当の剣が出回るとなると邪な者が使わぬとも限らぬ」

まあそうだろうな。打った剣が国を脅かすなんて背筋が冷える思いだ。とりあえず私は王級鍛冶師の証の印章を貰い、王様との会談は終わりだった。王宮から出た私を待っていたのはウィリアムさんとレオ王子であった。

「あ、シズネ。父上から呼び出しがあったんだってね。巻き込んでしまって済まない・・・」

「レオ王子。だから簡単に頭を下げないでください」

「事の発端は俺にあるんだ。謝るなら頭を下げるのが当然だろう?」

「そ、そうですが・・・」

「してシズネ。どうだった?」

ウィリアムさんが心配そうに聞いてくれた。

「えぇっと・・・王級鍛冶師?を貰ってきました」

「「え?」」

あっと驚いた顔をする二人。当の私でさえ王様の前でそんな顔をしないようにしていたのだ。

「い、いや。めでたい。この王国に三人しかいない王級鍛冶師を与えられるなんて、鍛冶師の名誉ここに極まれりだな」

「そうですね。これはめでたいことだ。いずれシズネに私の剣も打ってほしいくらいだ」

どうやら相当良いことだそうだ。

「それでだ、シズネ。俺はこの打ってもらった剣の試し切りに行きたい。ウィリアムは付いてきてもらうことになったのだが、君も同行してもらえないか?」

「えぇ。邪魔になるかもしれませんが、それでいいのでしたら」

「いいや、邪魔にならないとも。付き人は近衛から出されるだろうけどまぁお目付け役だな。ちょっと肩ぐるしいかもしれないが、まぁ頼むよ」

こうしてレオ王子の試し切りに同行することになった。出発は明後日とのこと。

だから私はその日に銀行に行き、自分の口座を作り、その後王宮の人に口座を作ったことを伝え、報酬を貰った。20年不自由なく暮らせる金額・・・宝くじでもあたったのだろうか。そんな感覚だった。




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第十五話

レオ王子の刀の試し切りに参加することになった私は朝早くから集合場所の王都の門付近にいた。

「おや。シズネが一番乗りか」

少ししてウィリアムさんがやってきた。

「おやもう揃ってるのか」

さらに少ししてから近衛のお供を引き連れてレオ王子がやってきた。事前に説明が合った通り、レオ王子が用意した馬車で道中進むことになった。馬車には私とウィリアムさんとレオ王子。近衛のお供の人は馬で移動だった。

「シズネは一体どんなところを旅していたのかい?」

いきなりドギツイ話題がきた。私は流浪の民出身とはなっているが実際は旅などしたことはない。故に旅の話など全く持ってできなかった。それでも修学旅行の話を脚色してなんとか話をつなげることができた。

目的地には半日で着くとのことだったので、色々と冷や冷やした旅路ではあったがウィリアムさんが色々と話してくれたおかげで楽しい旅路であった。

「殿下。そろそろ魔獣の森付近となります」

「よし。打合せ通り待機の人間はここで野営の準備を。俺たちは魔獣を狩りに行く」

私とウィリアムさん、それからレオ王子に近衛の人が二人の計五人で森に入ることになった。

森に入ると近衛の一人が杖を構えて何かをつぶやいていた。杖からは間隔をあけて波紋のようなものを発していた。

「あの、近衛の方が使っているのって・・・?」

「あぁ、あれは魔獣探知の魔法さ。あぁやって周囲の波を感じ取って魔獣を探すのさ」

「殿下。ここより左に複数の魔獣の反応を確認しました」

「よし、進もう」

近衛の人を先頭に私たちは森の中を進んでいく。すると聞いたことがある鳴き声が聞こえてきた。

「ゴブリンか」

「先に言っておくが、シズネ。君がいたゲーンの町近くに住むゴブリンとあのゴブリンはレベルが違う。戦い慣れたゴブリンだ。しっかりと構えておくように」

横からウィリアムさんが注意を伝えてくれた。≪慧眼≫でゴブリンを見てみるとレベルが12から14と表示された。私は鍛錬を積んできて今はようやくレベル4。レベル差があるものの、レオ王子やウィリアムさんがいれば大丈夫だろうか?

「よし、まずは俺とシズネで切り込む。ウィリアムたちは手を出さないでくれよ?あくまでもコイツの力試しだから」

と、いう訳で私とレオ王子で切り込むことになった。見つけたゴブリンは五匹。

「俺が右の二体をやるからシズネは左の二体を頼む。一番奥にいる奴は先に手が空いた方がやるということで」

「了解です」

打ち合わせは済み、私たちは刀をすらりと抜いて構えた。

「いくぞ!!」

レオ王子ど同時に茂みから飛び出して一番近いゴブリンに斬りかかった。まず奇襲で一体ずつ倒すことができた。そして次のゴブリンは仲間が突然仲間が倒されたことに混乱することは無く、武器を構えて近寄ってきた。

(相手は尖った木の棒が武器。刺さると当然痛そうだけど、雫で受ければすぐに斬れるはず)

ゴブリンが突きを繰り出してきた。それを私は≪慧眼≫で先読みし、横にするりと避けて返す刀で木の槍を真っ二つに斬り払った。武器を失くしたゴブリンはあわてず噛みついてくるがそれも避けて地面にぶつかって動きが止まったところを背中から突き刺し、倒した。

レオ王子の方を見るとすでに二体のゴブリンを倒して奥の残り一体を倒しにかかっていた。小さい頃から剣の腕を磨いていたレオ王子が不覚を取るはずもなくすぐにゴブリンは討伐された。

「いやー。これは本当に良い剣だ。あまり力を入れずともバターを斬るようにゴブリンを斬ることができた。これはまさに業物だ」

「おほめにあずかり光栄です」

「んじゃ日暮れまでにどんどん狩るとするか」

その後もレオ王子とともにゴブリンを斬り続けた。後から数えてみると拾った魔石からして10体ほど倒していた。おかげでレベルも5に上がっていた。そして夜は野営地で過ごすことになった。一応今日参加した面子の中で女性は私一人だけだったため専用のテントを用意してもらった。とりあえず、夕食は豪華とは言えないものであったが、会話に花を咲かせて楽しく食べることができた。

その晩慣れないテントでの睡眠となったが、疲れもあってかすぐに眠りにつくことができた。

 

そして翌朝。朝食を食べてから私たちは王都への帰路に就いた。レオ王子は打った刀に満足した様子であった。そして私たちは昼過ぎに王都に着いた。私たちは王都の門で別れた。その後は私は冒険者ギルドに行き、魔石を換金してもらった。レオ王子から大金を貰った身であるから換金額はかなり小さく見えたが、お金はお金である。節約を心がけ、貯めておいていざというときに使う。それが私の信条である。その後は王都を少しふらついた後、夜になって泊っている宿に入って眠りについた。




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第十六話

今日もウィリアムさんと鍛錬をしているとふと、ウィリアムさんがこう言った。

「そろそろ外に出るのもいいだろう」

王都に来てから私は鍛錬以外は町を見て回ったり王様から鍛造の依頼を受けたり、レオ王子から刀の鍛造の依頼を受けたことしかなかった。

「そろそろシズネも王都での依頼を受けたらどうかね?」

「依頼・・・ですか?」

「シズネは鍛冶師としての腕を磨きたいだろうが、それでも日々の生活の資金を稼がなければならない。剣を打つにも材料の費用がいるだろう?それに工房も。レオ王子から多少なりとも報酬金を得ていてもそれはつい手に入れてしまっただけのもの。実際に使う資金は自分で稼がなければならない」

そう言えば私の滞在費ってウィリアムさんが出してくれていたんだっけ・・・。

「わかりました。依頼を受けてきます」

そう言って私は王都の冒険者ギルドに向かった。ウィリアムさんが来ると人でごった返すので一人で来た。

冒険者ギルドはどこも共通の形を取っているのか依頼が掲示板に張られていた。

しかしどれも魔石の収集ばかりで、自分で狩りに行った方がいいものばかりであった。

「おい、そこの・黒髪のアンタだよ」

ふと後ろから声がかかる。そこには女性が三人と男性が一人立っていた。

「アンタ、一人なのか?ランクは?」

「えぇ、そうです。ランクはFです」

「なら俺たちとパーティーを組まないか?俺たちはEランクのパーティーでね」

「ライト。本気でコイツをパーティーに入れる訳?」

「私も同感。Fランクなんて手伝いしかできない最底辺」

「・・・」

「いやいや。この依頼受けるなら少しでも人数はいたほうがいいだろ?だからといって他のパーティーと組むむと報酬は減るし、一人を誘う方がいいって決めたじゃんか」

ほっほーん。どうやら私は数合わせのようだ。

「受ける依頼はなんですか?」

「お、乗ってくれるのか?」

「依頼内容によります」

「聞いて驚くなよ?俺隊は王都から離れた小さな村付近にできたゴブリンの巣の討伐だ」

ゴブリン退治か・・・。

「そこに出るゴブリンって魔獣の森に出るゴブリンとどちらが上ですか?」

「それがわかんねぇんだとよ。小さな村だから鑑定士もいないし常駐の冒険者もいないから判別がつかないんだとさ。まぁ辺境に出るゴブリンは弱いと相場が決まっているから大丈夫だろ」

「そうですか・・・私は受ける依頼が無いので良ければあなたたちのパーティーに加えてください」

「よっし、話は決まりだな。俺はライト」

「ミーンよ。せいぜい足を引っ張らないようにね。Fランク」

「ウチはアリムや、とりあえずよろしく」

「・・・エラムです。・・・よろしく」

なんとも個性豊かなパーティーのようだ。

「それで出発はいつになるんですか?」

「明日の朝の予定だ。村までは往復で二日だ」

後は事務的な話をしてそれで終了となった。何はともあれ初めてのパーティーである。私は冒険者ギルドを出て早速食糧などの調達に赴いた。安いがつぎはぎの布で作られたテント、それから毛布。保存がきく干し肉と乾燥させた野菜。それから硬いパンに水。それを多く見積もって四日分は揃えた。テントや毛布などの荷物はかさばるのでその後私は泊っている宿に戻り、ウィリアムさんに早速その話をした。

「ふむ、Eランクのパーティー誘われたわけか」

「はい。リーダーの人は人が良さそうな感じで・・・」

「ふむ、これは勘だが、注意した方がいい。注意はしすぎても損はないからな」

「なぜです?」

「話を聞く限り、頑丈な鎧とまでは求めないが、盾を持っていた人物がいないのだろう?」

「え、えぇ・・・」

「ゴブリンの巣は基本洞窟だ。狭い洞窟を安全にあるためには盾が必要だ。それも無しに進むと投石。最悪矢を射かけられる可能性がある」

「で、ですがもう約束してしまっていて・・・」

「仕方がない。今回はよくよく注意して臨むことだ。次回から他のパーティーと組むのであれば編成を見てから決めるように。これは言っておかなかった私が悪いな。だが有事のことを考えて食糧を四日分揃えたのは先見の明があるな」

ポリポリと頭をかくウィリアムさん。とりあえず今日は寝て、明日を待った。

 

翌日。私は待ち合わせの王都の門にいた。そして予定より少し遅れてライトさんのパーティーがやってきた。

「いやー待たせて済まない。この借りはきっちり依頼で返そう」

私たちは馬車の人に運賃を払って依頼の村へと向かった。

旅路はとても居心地の良いものではなかった。

ライトさんたちは何気ない話で花を咲かせていた。どうやら今までの思い出話らしい。何も知らない私からすればなんともない話であった。私はふと元居た世界のことを思い出していた。

(あー。そういばあのゲームの発売日に転移したんだっけ。あのゲーム、面白そうだったんだけどなー・・・)

休憩を挟みながら馬車は件の村に到着した。そこで問題が起こった。

「俺たちが泊まれる場所が無いだと!?」

「え、えぇ。ですからこの村には客人をお泊めする場所が無いのです・・・。誰も使ってないボロ屋ならありますが・・・」

「俺たちをボロ屋に泊めるつもりか!!依頼を出すほど困っているというからせっかく受けて来てやったのにこの始末。一体どうしてくれるんだ!!それに・・・」

どうやらまだあるようだ。

「泊る場所はあるだけまだいい・・・。だが俺たちの食糧が無いってのはどういうことだ!!」

「お客人が来るときは森に出て狩りをして肉を得たりするのですが、ゴブリンが出てからというもの、森には出ることができず、畑で取れた保存食しかないのです・・・」

こう見ていると村人さんの方が気の毒になってきた。

「くそっ俺たちは王都からはるばるやってきたんだぞ・・・それをこの扱い・・・」

どうやら王都の冒険者というのはある一種のステータスのようだ。私はボロ屋に向かっているライトさんたちとは別にそそくさと村人さんに話をつけに行った。

「あの、すみません・・・」

「ま、まだなにかあるというのですか?」

流石の村人さんもライトさんたちの相手ですっかり疲れている様子であった。

「私の仲間がすみません。私も入ったばかりなので知らないのですが、どうもこういう経験が無い様子ででして・・・」

「そうでしたか・・・よそ様のことを言うのもなんですが、あのパーティーからは去った方がいいですよ。これからも同じことが続くでしょう・・・っと、何でしょうか?」

「えぇっと、テントを張れる場所があればと思いまして・・・」

「テントですか。それなら案内しましょう」

私は村人さんに案内されて一軒の家を訪れていた。その家の人と話を付けてくれたようで、私はその家の隣にテントを張ることができた。

「すみませんね。お一人ならお泊めすることもできるんですが、それだと・・・」

「無用な軋轢を生みますからね。私はテントで寝たことがあるので大丈夫です」

「よくできた人だ。よければこの肉を持って行ってください」

そう言って野菜をを渡してくれた。貴重である新鮮な野菜だというのにありがたかった。私はお礼を言ってテントに戻った。そして軽い夕食を食べてから私は眠りについた。

 

朝。私は朝食を済ませ、ライトさんたちが泊っていたボロ屋に赴いた。そこには不機嫌な三人がいた。

「おい、アンタ。アンタは昨日どこで寝たんだ?」

「えぇっと、あそこですよ」

私は昨日泊った家の隣を指で指した。

「くっそ。Fランクのくせに旅慣れてるのかよ・・・」

初対面の時とは裏腹でライトさんの顔からは笑顔が無かった、人は辛い環境にあると本性がでるとどこかで聞いたことがあるような・・・。

「まぁいい。今日はゴブリン討伐だ往くぞ」

まともに朝食を取れていなさそうだが、大丈夫だろうか?気苦労が絶えないゴブリン討伐の始まりであった。

 




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第十七話

私を含めたゴブリンの巣討伐パーティーはゴブリンを見たという盛を探索することになった。そしてすぐにゴブリンと遭遇することになった。

「よし。エラム。いつものを頼む。アリムとシズネは攻撃準備」

ライトさんがエラムさんに何を頼んだ。とりあえず私は雫を抜刀して構え、合図を待った。するとエラムさんんが何かをつぶやくと、周囲に落ちていた小枝や木の葉が浮き上がった。持っている杖が光っているあたり、魔法の用だった。そしてそれを付近をうろついていたゴブリンに向けて放出した。

「ギィ!?」

突然の攻撃にゴブリンたちは慌てふためいた様子を見せる。

「よし、アリム、シズネ。突撃だ!!」

ライトさんの合図で私たちはひるんだゴブリンたちに攻撃を仕掛けた。私はゴブリンに近づいて雫を一閃。するりとゴブリンが真っ二つになる。≪慧眼≫で見た限り、以前行った魔獣の森のゴブリンよりもレベルは低かった。故に簡単に討伐することができた。五体いたうちの三匹を私が。後は一体ずつライトさんとアリムさんが仕留めていた。

「いやーシズネは強いな。俺たちが一匹やる間に三匹もやるなんてな」

「そうね。Fランクにしてはやるようね」

「どっかの傭兵だったりしたのか?」

「まぁ、色々ありまして・・・」

「まぁ、今はいいか。ゴブリンの足跡を探してゴブリンの巣を探すぞ」

私たちは森を散策し、ゴブリンを見つけたら同じ方法で倒していった。そして攻撃されがゴブリンが逃げようとしていた方向に進んでいきと少し切り立ったt崖があり、そこに洞窟があった。洞窟の入り口にはゴブリンが数匹立っていた。

「あそこがゴブリンの巣だな。エラム。できるだけ枝とかを保持しておけ。立っている奴らは俺たちだけで仕留める」

私とライトさん。それからアリムさんで入り口のゴブリンに攻撃を仕掛けた。少しは抵抗されたものの、これを無事討伐することができた。しかしライトさんが腕に切り傷を受けてしまった。

「ライト!!すぐに治療するわ」

どうやらミーンさんは治療師のようだった戦闘に出ていなかったのはそのせいか。すぐにライトさんの傷も塞がり、私たちは洞窟を進むことになった。エラムさんの魔法で洞窟を照らしながら私たちは洞窟を進んだ。すると進路の先がやけに明るい光を発していた。

「待て。とりあえず様子をうかがうぞ」

少し飛び出した岩陰から先を覗いてみると二十体くらいのゴブリンが座ったり寝転んだりして休んでいた。そして部屋が発していた光は松明によるものだった。そして部屋の奥に暗い通路が一つ。それからその付近にひときわ違ったゴブリンがいた、骨などで装飾された飾りを身に着けていた。

「ゴブリン・マジシャンか。面倒だが巣を作るなら予想はできていた」だがゴブリン共は油断している。エラム、持ってきた枝を全体にばらまけ。その後は魔法で、援護とミーンの守りを頼む。アリム、シズネ。殺気みたいに突っ込むぞ」

≪慧眼≫によるとここにいるゴブリンは森にいたゴブリンより少々強いくらい。ゴブリン・マジシャンというのが少し群を抜いて強いといったくらい。数が多いのが難点だが多分大丈夫だろう。

「いきます」

アリムさんが魔法で浮かせて持ってきた枝や木の葉を休んでいたゴブリンめがけて放出した。突然の攻撃にゴブリンたちは慌ただしくなるが、混乱するとまではいかなかったようだ。

「よし、行くぞ!!」

森では混乱していたゴブリンを討伐していたが、今回は混乱している様子が見えない。辛い戦いになりそうだと実感した。事実、ゴブリンとの戦は膠着する一方だった。私は攻撃を当てることができれば一撃で倒すことができるが、何分数がいるわけで攻撃の隙を伺うので精一杯だった。ゴブリンたちは長い木を使った槍で武装しているために刀で近づくのは勇気とリスクが必要だった。

「くそっ。まさかこいつら戦い慣れてるのか!?」

ゴブリン・マジシャンと呼ばれたゴブリンが杖を振り回しながらゴブリンの集団を操る。そして私たちが攻撃の隙を得たと思うとそこへ火炎弾を撃ち込んでくるという厄介な展開となりつつあった。こちらもエラムさんの魔法で攻撃しているが、そのカバーもライトさんだけで私とアリムさんは何とか自分の力で戦えているといった感じだった。

「クソッ頭を狙うしかないか!!」

一応戦況は見えているようで、ライトさんは押し寄せるゴブリンから離れてゴブリン・マジシャンめがけて突撃を試みた。エラムさんが必死にゴブリンたちへ魔法の攻撃をしかけ、ライトさんへ寄るゴブリンを防いでいた。そしてライトさんはなんとかゴブリン・マジシャンに肉薄する。ゴブリン・マジシャンも火炎弾で攻撃をするが、それをライトさんは避けて、剣を振りかざす。

「ギァァァl?」

ライトさんの剣はゴブリン・マジシャンの左腕を斬り飛ばした。そして追撃をしようと試みるが火炎弾に阻まれる。

「ギィ、ギァ!!」

何か後ろにゴブリン・マジシャンは叫んだ。するとズシンという音が聞こえた。そして何か硬い物を引きずる音が聞こえてきた。そして出てきたのは体長3メートルは肥えていそうな巨大な生き物だった。

「ゴ、ゴブリン・チャレンジャー!?」

ライトさんが何かにおびえるように叫んだ。逆にゴブリンたちはそのゴブリン・チャレンジャーとやらの出現で雄たけびを上げていた。どうやらソイツがこのゴブリンの長のようだった。

「ライト!!チャレンジャーがいるなんて予想外よ。ここはいったん退きましょう!!」

「あ、あぁ!!」

退こうとするが、ゴブリンたちがここぞとばかりに猛攻撃を加えてきた。私は突き出される槍を斬り払いながらなんとか入ってきた入り口へと向かった。するとミーンさんが何かを投げた。それは私の近くに落ちると破裂し、煙をと何かの臭いを生み出した。

「ライト!!」

煙に紛れて私たちは退却しようとするが、なぜか煙があるというのにゴブリンが私めがけて襲い掛かってkるう。慣れぬ視界で煙から繰り出される槍をギリギリで避けていく。それでも革鎧が傷ついていく。煙が晴れたころにはライトさんたちはいなくなっていて私一人になっていた。

「えっ・・・?」

そして私一人に狙いが絞り込まれゴブリンたちが一斉に襲い掛かってくる。私は包囲されて狭い洞窟の入り口にも行けない状態だった。しかし少数ではあるものの、武器である木の槍を斬り折っているためなんとか応戦することはできていた。そして少し戦って、周囲のゴブリンの槍を斬り終えると私は一気に攻勢に出てゴブリンを討ち取る。そして空いた空間に入ってくるゴブリンは歩くだけで攻撃にまでは転じれない。だからそこを突いてさらにゴブリンを討ち取っていく。そして無我夢中に戦っていると周囲にゴブリンがいなくなっていた。確かな記憶はないが全てを斬った間隔はある。しかしかなり疲れてしまった。

だがゴブリンの方も変化があった。ゴブリンの体液でまみれた私を見てゴブリン・マジシャンはなぜか怯えていた。だから簡単に討ち取ることができた。だがまだ問題はあった。チャレンジャーと呼ばれた個体が私の前に立ちはだかったからだ。

チャレンジャーは巨大な剣を持っていてそれを振り回してきた。

(でかい剣といっても錆び付いている。あれなら簡単に雫で・・・!?)

チャレンジャーの攻撃に合わせて雫を振るうが、予想に反して雫は弾かれ、私は大きく態勢を崩してしまった。それでも大ぶりな剣だったため追撃には間に合った。

「あれは・・・闘気?」

よく見るとチャレンジャーが持っている剣が白く光っていた。ウィリアムさんから教えてもらったのだが、闘気は色で判別され、一番低い白。そして黄色、緑、青、赤の順に高くなり、最上位に紫があるという。私はまだ闘気を会得していない。闘気はたとえ白と闘気無しが戦ってもかなり差が出るという。つまり闘気を使えない私は不利であるというわけであった。

「グルァ!!」

雄たけびを上げてチャレンジャーが剣を振るってくる。しかし大ぶりなので後ろに下がることで避けることはできた。そして大ぶりな攻撃の一瞬の隙を突いて私は地を蹴って肉薄する。

あれ、こんなに私動けたっけ?

そういう考えはすぐに捨てて雫を突き出す。私の突きはチャレンジャーの足にしか届かなかった。しかしそれだけでチャレンジャーに膝を突かせることができた。バランスを崩して倒れるチャレンジャー。その倒れてくる巨体を避けて私は地に着いたチャレンジャーの首を思い切り斬りつけた。なんか首を切断することができた。

人型の首を斬るというのに多少は抵抗があったはずだが、すんなりと斬ってしまった。私も戦いの世界に浸ってしまったということだろうか?

首を斬られたチャレンジャーの身体は塵となって消えた。しかし斬った首は残った。ヘルプで調べてみるとチャレンジャーという個体は冠個体と呼ばれて特殊な個体であり、冠個体は倒しても体の一部が残るらしい。私はとりあえず周囲の安全を確認してからゴブリンの魔石を全て拾った。そして部屋の奥の暗い通路を進んでみた。そこには一つの部屋があった。チャレンジャーの部屋だったようだ。そこには獣の角や皮などが保管されていた。私は戦利品を全て空間収納に突っ込んだ。そうして私は洞窟を後にした。




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第十八話

ゴブリンの巣を一掃した私は疲れた体を無理やり動かして森を抜けて村まで歩き続けた。村に帰ると先に逃げていたライトさんたちが村長らしき人と揉めている様子であった。

「ただいま戻りました」

「シ、シズネ。よかった。無事で何よりだ」

笑顔で言うライトさんには少し驚愕の表情が見て取れた。どうやら私は見捨てられていたようだ。煙幕玉を私のところへ投げたことと言い。私に撤退の声がかからなかったのがその証左だ。

「それにしても何をもめているんですか?」

「あ、あぁ。俺隊はただゴブリンの巣の掃討で依頼を受けたわけだがチャレンジャーがいるなんて聞いていない!!あれはDランク以上のモンスターだ。こいつらはそれを知っていたのさ」

「言いがかりもやめていただきたい。村の者でゴブリンの巣に入れる者などおりません。それに依頼分にも詳細は不明と書いてあったでしょう?」

ライトさんが慌てて見てみると確かにそう書いてあった。

「クソッ・・・見落としか・・・。依頼は棄権する」

どうやらライトさんは私がチャレンジャーを倒したことを知らないようだ。

「とりあえず俺たちは急いで王都に戻る。チャレンジャーが出たんだ。それなりの報告をしないといけないからな」

そう言ってライトさんたちは馬車を強引に調達し、王都へと帰る準備をしていた。そこへエラムさんが近づいてきた。

「シズネさんはどうするのですか?」

「私?うーんもうちょっと残ろうかな。森のゴブリンだけでも討伐しておけば村の人も安心できるでしょ」

「・・・確かに」

「おい、エラム、シズネ。早く乗れ。早く帰るぞ」

どうやらライトさんたちは是が非でも帰りたいようだった。それほどチャレンジャーという個体が恐ろしいのだ折る。

「あ、あの。できれば村を守ってもらえないでしょうか・・・?」

「無理だ。俺たちじゃチャレンジャーとには勝てない。それに依頼料は祓えるのか?」

「そ、それは・・・」

「だろ?それにチャレンジャーが出たのなら依頼料はかなり高いぞ?」

何か脅しを駆けるようなライトさん。何も知らされてなかったことへの腹いせだろうか?

「ともかく二人も乗れ」

「あ、私はまだ村に残るので」

「・・・私も残ります」

「はぁ?この依頼はもう継続不可能なんだよ」

「それでも村の人が危ないのは確か」

「冒険者は慈善事業じゃねぇんだぞ・・・まぁいい。それなら置いてくぞ」

「その前に依頼書を貰えませんか?」

「あぁ、ほらよ」

ライトさんは依頼書を私に渡すとミーンさんとアリムさんを連れて無理やり調達した馬車で村を出ていった。

「どうして残ったの?」

「これは私の償い。あなたを残して撤退したことへの謝罪と償いをと・・・」

「うーん、そんなに硬くならなくてもいいよ」

「・・・それでシズネさん。これからどうするの?」

「えーっとそれなんだけどさぁ・・・」

私は空間収納の魔法を使ってチャレンジャーの首を出した。

「!!これは・・・チャレンジャーの首!?ウソ・・・」

「いやー何とか倒せましてな。とりあえずゴブリンの巣自体はほとんど無力化できてて後は森に散らばったゴブリンくらいなんだよねー」

「なぜライトに言わなかったの?」

「いやー今言ったら共同の成果になりそうじゃん?それとみんなが撤退するときなんか変な臭いを出す玉が投げられたんだけど知ってる?」

「臭い玉ですね。魔獣を引き寄せる効果があります。・・・ミーンはあなたを囮にして撤退をしたんでしょう・・・。私もあの時は何もできず、ごめんなさい・・・」

「うーn、そっかぁ・・・」

やっぱり私は囮として置いて逝かれたらしい。

「でもギルドに言えば相応の措置をしてもらえるはず。査問官には嘘判別のスキルを持った人がいるからすぐにわかってもらえる。処分は・・・ランクの降格くらいだろうけど・・・」

「うーん今はそんなことは気にしないかな。帰った時に覚えていたらするくらいで」

「いいの?命の危機だったのに」

「まーそうなんだけど、とりあえずは村の人を守らないと」

「確かにそれが先決」

とりあえず私たちはその日は休憩に当てて、翌日に森に入ってゴブリンの残党の掃討をすることになった。

 

「よし、行こうか」

私たちは森に入ってとりあえず先に洞窟を見に行くことにした。散らばったゴブリンが帰ってきているかもしれないからだ。

「ギッギッ」

そして案の定洞窟にはゴブリンが戻ってきていた。数は10体くらいか。とりあえずエラムさんが洞窟に落ちていた石を魔法で浮かせて持ってきていた。

「それって魔法?」

「えぇ。魔法です。操作の魔法って言って、私は放出しかできませんが極めれば物を自在に操れるとか」

なるほど。面白い魔法もあったものだ。私も極めたら刀を浮かせて手数を増やせないものか・・・

「へへ・・・」

「どうしました?」

おっと。まだ見ぬ興奮に顔が緩んでしまったらしい。とりあえずエラムさんの魔法で浮かせた小石でゴブリンを奇襲させ、その後私が突っ込むことになった、

「行きます!!」

魔法で浮いた小石がゴブリンたちを襲う。不意の突かれたゴブリンたちは慌てふためく。以前いたゴブリンたちと違って戦い慣れていない個体だったのだろう。≪慧眼≫で見た限りレベルも低かった。

「ハッ!!」

私は混乱しているゴブリンを次々と斬っていった。私の足が強化されていたのは先のゴブリン退治でレベルが上がったことで習得した≪速歩≫というスキルが影響しているらしい。気になって昨日の夜に自分のステータスを見てみたらレベルが5上昇し、スキルの増加を確認できた。

そしてすぐに私たちは洞窟のゴブリンを掃討することができた。私が怯んだゴブリンを斬り、復帰しつつあるゴブリンはエラムさんが魔法で牽制し、時間を稼いだ。なかなかのチームプレイができた思う。

「とりあえずこれで終わりかな」

「楽に勝てましたね」

とりあえず魔石を拾って洞窟を後にした。待ち伏せするという手もあったが、森のゴブリン全てが来るとは限らないからだ。エラムさんから聞いたことなのだが、今回の場合は元々自然発生する森と違って、今回のゴブリンはリポップすることはないそうだ。村の人に確認したところ、ゴブリンと戦えるのはわずかだという。だから私たちはできるだけゴブリンを討伐することにした。

洞窟の規模からして数は40から多くても50ぐらいだとか。とりあえず初回で20体、洞窟で24体倒しているからもう森にはゴブリンはいないだろうと判断し、私たちは村に帰ることにした。

詳細を村長に話して、依頼は完了となった。少数のゴブリンならば戦えると言っていたので安心だろう。

ライトさんから依頼書にサインをもらって村からのお礼ということで馬車を出してもらえることになった。

王都への道中。私たちは身の上話に花を咲かせることになった。

「そうですか。シズネさんは流浪の一族の出で鍛冶師なんですね」

「エラムさんはどこで魔法を習ったんですか?」

「王都の魔法学校で学びました。費用はいりますが、検査で合格すれば誰でも学ぶことができるので。冒険者からすれば学びたいときに学べるので便利ですよ」

「なるほどなー私もお金が溜まったら行ってみようかな?」

「チャレンジャーの魔石は1万ゴールドほどになるはず。チャレンジャーの首も加工師に売ればいい金額で売れるはずです。貴族がよく飾りなどに用いますから」

つまり私は大金を手に入れる術を二つも持っているということになる。話しているうちに日も暮れてきて、完全に夜になる前に王都につくことができた。私たちは馬車を出してくれた人にお礼を言って冒険者ギルドへと向かった。

「えぇっと、魔石の換金と依頼完了の報告を・・・」

「わかりました。では依頼書の提出をお願いします」

「え、お前ら依頼を達成したのか?」

後ろから声がかかったものだから振り返ってみるとそこにはライトさんがいた。

「はい。チャレンジャーも倒して、予想される数のゴブリンも倒したので村の方から依頼達成としてもらうことができました」

「ちゃ、チャレンジャーを倒しただって!?」

ライトさんの大きな声でギルド内がざわめく。

「おいおい、チャレンジャーを倒しただって?」

「二人でか?ならCランクか?」

そんな声がざわざわと広がっていく。

「では依頼書ですが、当初の報酬金でよろしいですね?」

「はい。それで構いません」

「それから魔石の方ですが、ゴブリンの魔石が32個で6400ゴールド。それからゴブリン・マジシャンの魔石が一個で1200ゴールド。それからゴブリン・チャレンジャーの魔石が一個で1万2千ゴールドとなります」

合わせて約1万7千ゴールドを手に入れることができた。依頼の方は4千ゴールドだったのでエラムさんと分けて2千ゴールドを貰った。最初はエラムさんが要らないと言っていたけど、次の日に手伝ってもらったということで押して受け取ってもらった。しかしそれに難色を示した人がいる。

「あー、その。俺たちも同じパーティーだったろ?だから・・・」

「・・・それからもう一つ。パーティー内で許可を得ずに一人を囮にして他のパーティーメンバーが敵を前に撤退した」

エラムさんが言った言葉にギルド内はさらに騒がしくなる。

「おいおい、つまりあの優男がやったってことか?」

「確か女ばっか連れている奴だったよな?」

言葉が増えていくうちにライトさんの顔が青くなっていく。

「ちょっと!!あの時は仕方なかったのよ!!それにFランクでも倒せたんでしょう?なら囮じゃないわよ!!」

ミーンさんが何かフォローをしようとするがそれがさらに群衆を騒がしくすることになった。

「Fランクがチャレンジャーを倒した?何かの間違いじゃないか?」

「どこかの傭兵だった奴が転職したのかもしれないぜ?」

「とりあえず規約違反の可能性があるため、審査を受けて貰います。パーティーはエントリーしていた人たちですね?」

「それで問題ないです」

エラムさんが淡々と答えていく。

「ま、待ってくれ」

「では明日の朝審査を行うことにします。参加されなかった方は強制的にランクの降格とペナルティを課せることになります」

結局審査が行われることになった。まぁ、命に係わることだから私も何も言うことは無かった。とりあえず私たちは自分の泊っている宿に戻って夜を越した。

 

そして朝、私とエラムさん。それからライトさんとミーンさんにアリムさんと全員揃っていた。そして私たちはギルドの部屋に案内された。そこには二人の人が座っていた。

「では審査を開始します。まず、パーティー内にて故意で一人を取り決め無しに囮として、他のパーティーメンバーが撤退した。これに嘘はありませんね?」

「それで間違いない」

淡々とエラムさんが答えていく。

「ま、待ってくれ。あの時はチャレンジャーを見て混乱していたんだ。ミーンも混乱していて煙幕玉を投げるのを誤ったんだ!!」

「違う。煙幕玉と一緒に臭い玉も投げていた」

「なるほど。その意見に嘘偽りは無いようですね」

「ま、待ってよ!!」

「故意に囮としたことに間違いは無いようですね。ではシズネさん以外のランクを降格。それからペナルティを受けて貰います」

「えーっと、いいですか」

「何か?」

「エラムさんは償いとして次の日に残ったゴブリンの討伐に手を貸してくれました。依頼遂行への心意気は確かにあったと断言します」

「ふむ・・・そうですか・・・」

「おい、待てよ!!なんでソイツだけ庇うんだ!!」

「では結果を言い渡します。ライト・テラール、ミーン・アニスタ、アリム・ホーロの三名をFランクに降格。それからペナルティとして一定期間依頼報酬金のギルドへの提出を課します。エラム・テルシアは特例としてランクの降格は無し。一定期間の依頼報酬金のギルドへの提出のみとします。ではステータスプレートを提出してください」

こうして判決が下った。解散となってからはライトさんとミーンさんは私に悪態をついて去っていった。

「その、すまんかったな。置き去りにして・・・」

唯一アリムさんはお詫びの言葉を言って帰っていった。

「シズネさん。ありがとうございました」

そしてエラムさんが頭を下げてお礼の言葉を言ってくれた。

「いいのいいの。お咎めが空かなかったのもエラムさんの心意気がちゃんとしていたからだよ」

「そう、ですか・・・」

「それにしてもこれでパーティーは解散だろうね・・・」

「あの・・・良ければ私とパーティーを組んでもらえないですか?」

「え?」

「あ、ですぎたことを・・・今の言葉は気にしないでください・・・」

「ううn、いいよ。組もうよ。パーティー!!」

「良いん、ですか?」

「うん!!」

「ありがとうございます・・・」

「あと私のことはシズネでいいよ」

「私も、エラムでいいです」

「んじゃぁ、よろしくね、エラム」

「はい、シズネ」

こうして一つのパーティーが解散となり、そして新しいパーティーが生まれたのであった。




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第十九話

私は王都の加工師にチャレンジャーの首を売りに出した。すると2万ゴールドで買い取ってもらえた。依頼金と合わせて3万7千ゴールドを手に入れることができた。

「ねぇエラム。魔法学校にはどれだけのお金があればいいのかな?」

「うーんと確か1万ゴールドあればよかったと思う」

「なら後は審査を受けてみるだけか」

「行ってみるの?」

「うん。色々と知りたいことがいっぱいだから」

魔法。現代人の私からすれば甘美な響である。誰もが一度は夢見たことがあるはずの魔法使い。それに私はなろうとしていた。

実際に私は魔法学校を訪れた。

「何かご用ですか?」

「はい。入学を希望してまして・・・」

「そうですか。少しお待ちください」

受付の人が水晶に何か話しかけていた。

「あれは会話の水晶ですね。多分取り次いでもらえるかの確認をしてるのでしょう」

そして少しすると受付の人が会話を終えた。

「お待たせしました。審査の準備が整いましたので、ご案内します」

そして案内されるがままについていくと学校の建物の中の一室に通された。

「入学を希望する人ですね?」

「はい、そうです」

「ではステータスプレートを提示してください」

私はそのままステータスプレートを渡した。

「身分証明はいいでしょう。では魔力の確認に進みます。そこの水晶に手をかざしてください」

私は言われるままに水晶に手をかざした。

「ふむふむ。なるほど。おめでとうございます。あなたはスペリア王国魔法学校への入学を許可されました」

どうやら無事入学できたようだった。

「では入学の手続きをするので、別室にお願いします」

それからは事務的な手続きとなった。1万ゴールドを祓って学校証を貰った。どうやら授業料は最初の1万ゴールドだけでそれ以外は学部によって異なるらしい。特に制限なく授業を聞くことができるらしく、私の知っている学校とは違った様式だった。また卒業という概念は存在していないらしく、いつでも辞めることができるらしい。とりあえず今日は手続きだけ済ませて明日から授業を受けることにした。

それから私たちは冒険者ギルドに向かった。パーティー募集をしようということになったからだ。二人では到底戦えないという判断からきている。

「ではパーティーメンバー募集の広告を出しますね。それからシズネさん。ランク昇格の話があるのですが・・・」

「ランク昇格?」

「はい。お一人でチャレンジャーを倒したというその腕。それをギルドは評価し特例でDランクまでの昇格を認めるという結論になりました」

「Dランク、ですか?うーん、まだまだ実力不足なのでEランクに上がることじゃダメですか?」

「いいえ。それでもいいのですが、本当によろしいのですか?」

「はい。それで構いません」

「ではランク更新をいたしますのでステータスプレートを提出してください」

こうして私はEランクへと昇格することになった。

「どうでしたか?」

「えっとね、Eランクに昇格できちゃいました」

「それはおめでとうございます。これで受けれる依頼も増えますね」

「そうだけど、人がいないんじゃぁ、ね・・・」

「それなんですが。これはどうですか」

「うーんと。パーティー希望書?」

どうやらパーティーに参加したいという人の広告だった。それも数枚ある。ランクはFからEランクまで。

「どうですか?」

「うーん、ある人にパーティーを組むなら盾持ちが一人はいたほうがいいって言われているから・・・あ、この人なんてどうだろ?」

一枚の紙に目が行った。武器は大盾。ランクはEランク。性別は女性。とりあえずこの人に連絡を取ってもらおうと受付の人に声をかけた。

「わその方でしたら、今ギルドにいるはずですよ。ほら、フルプレートの鎧を着た、あの人です」

受付の人が指さした先にフルプレートの人がいた。私たちは早速声をかけることにした。

「あの、いいですか?」

「なんです?」

「パーティー希望ときいてきたんですが・・・」

「あぁ、その話ですか。あなた方のランクは?」

「二人ともEです」

「戦闘態勢はどうなっていますか?」

「私が近接、この子が魔法を使います」

「今後どのような依頼を?」

「魔獣の討伐とか。それから魔法学校にも通うのでずっと依頼をこなすという訳ではないです」

「二人だけですか・・・はい、私をパーティーに加えてください」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

「渡井はリーシャと言います」

「あ、私はシズネと言います」

「エラムです」

「よろしくお願いしますね」

「はい!!」

こうしてちょっと雰囲気が違うリーシャさんという人がパーティーに加わった。

「とりあえずどこか話せる場所に行きませんか?」

「ここじゃダメなんですか?」

「そ、それは・・・あまり素顔を人前で出すのは恥ずかしくて・・・」

「なら宿に行きましょう。そこでなら話ができますよ」

そういうことで私たちは宿を訪れた。

「ふぅ・・・兜はやはり暑い」

ようやくリーシャさんの素顔を見れたわけだが・・・美しい。女の私でも美しいと思った。容姿はまさに漫画とかに出てくるような金髪のストレートだった。

「そんなに綺麗なのに顔を出さないなんてもったいないですよ」

「いいえ、恥ずかしくて・・・」

「いいなぁ・・・もったいないなか・・・」

「とりあえず私は見ての通り大盾で戦います。動きは鈍重かもしれませんが、力にはなれます」

「私はこの剣で戦います」

「・・・私は魔法で」

「お二人は魔法学校にも通うんでしたね。でしたら依頼は不定期に受けるということでいいでしょうか?」

「はい。それで大丈夫です」

「問題ないです」

「ではそれでえ。これからよろしくお願いします」

こうして三人目のリーシャさんがパーティーに加わった。これで依頼も受けれるだろうか・・・?




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第二十話

エラムとリーシャさんとパーティーを組んだ私たちは依頼を受けに冒険者ギルドに戻ってきていた。

「さて、Eランクに上がったわけだけど、何を受ければいいんだろ・・・」

「すまないが、私はとある事情でランクが上がっていたから頼りになる情報は持ち合わせていない・・・すいまない」

「私はライトのパーティーに加わる前は色んなパーティーに混じって依頼を受けていましたので。それの受け売りでいいのなら・・・」

「うん。それでお願い」

「では・・・効率がいいのはFランクと同じでゴブリン退治。巣の探索は前回痛い目を見たのでこれは除外しましょう。なら次に上げるべきはリザードマンでしょうか?」

「リザードマン?」

「トカゲのように鱗を持つ人型の魔獣です。ゴブリンよりも機敏に動き、石などでできたこん棒。また発達した個体は盾なども装備しています」

「なるほど。ゴブリンみたいに簡単にはいかないという訳か・・・」

「ですがリザードマンの魔石は一戸800ゴールドで換金してもらえます。依頼報酬金と合わせれば良い収入にはなるでしょう。ちょうど沼地にリザードマンが出現したようです。リザードマンは放っておくと集落のようなものを作るので早期討伐が求められます。これは比較的新しい依頼のようなので受けてみても良いでしょう」

「よし、じゃぁこれを受けてみよう」

私は掲示板から件の依頼の紙をはがして受付に持って行った。どうやら見つけた人は沼地に生える薬草を取りに行ったときに見つけたとのこと。そして魔獣の繁栄を良しとしない冒険者ギルドが依頼を出したという経緯らしい。とりあえず私たちは食糧などの補給品を買い足した後、それぞれの宿に戻った。

「ふむ。リザードマンか」

私は今日までにあったことをウィリアムさんに話した。

「奴らはゴブリンと違い、レベルが低くとも戦闘経験があると臨んだ方がいい。武器も太い木の棒に石をくくりつけたこん棒だからゴブリンのように斬り折るということはできないだろう」

ふむ。と一息ついてウィリアムさんは続けた。

「最初のパーティーであんな目にあったというのに恐れずにパーティーを組むとは・・・度胸があると評すればいいのか、意見が分かれるところだな。とりあえず信じることができる者たちならばいいだろう。ただ、信頼するのであれば仲間は必ず守らなければならない。これは鉄則だ」

念を押すようにウィリアムさんはそう言った。そして私も部屋に戻って私は夜を越した。

 

朝。待ち合わせの場所に着いた。一番乗りはリーシャさんだった。

「早いな。まぁ、一番に来ていた私が言うのもなんだが・・・」

相変わらずリーシャさんは全身に鎧を着こんでいた。

「あ、遅れてしまいましたか?」

そしてパタパタと慌てるようにエラムがやってきた。

「ううん。私たちが早く来すぎただけだから。とりあえず揃ったし行くとしますか」

私たちは沼地近くの村への馬車に乗り王都を発った、

馬車に揺られること数時間。私たちは沼地近くの村に到着した。

「では私が村長と話してこよう」

リーシャさんが率先して偉い人との話を付けに言ってくれた。少ししてからリーシャさんが戻ってきた。

「討伐までの間は村の空き家を使っていいそうだ」

とりあえずテントでの生活じゃなくてほっとした、

「それから沼地まではここから二時間ほどらしい。リザードマンは最初に見たきりで観察はしてないらしい。まずは様子を探るのが良いだろう」

「私もそれがいいと思います」

「しかしこのパーティーには偵察系の人間がいないな・・・」

「今度パーティー募集でそのことを書いておきましょう」

「その方がいいかもね」

「ではできるだけ静かに行くとしよう」

そうして私たちは沼地に向かって進み始めた。そして休憩を挟みながら二時間ほど歩くと地面が水気を帯びた物に変わっていた。

「沼地といってもそこまでぬかるんでいる様子はないな。これならば戦闘に支障はでないだろう」

そしてもう少し歩くと来でできた建造物が見えてきた、

「あれがリザードマンの巣です。途中の道の来が切り倒されていたからまさかとは思いましたがすでに住処を作っていましたが・・・」

「どうする?」

「うん、ちょっと待ってね・・・」

私は≪慧眼≫を使ってリザードマンのレベルを見てみた。

 

リザードマン ♂

レベル8

 

そんな感じだった。極端にレベルが高い個体というのは見受けられなかった。ただウィリアムさんが忠告してくれたように戦い慣れているということを前提に考えなければならない。私が観察している間にエラムが案を出す。

「リーシャさん。リザードマンを釣ることはできますか?」

「あぁ。数体ならできるだろう。立地のわからない住処で戦うより広いところで戦うのがいいだろう。シズネ。そっちの方はどうだ?」

「うん。こっちも終わったところ。とりあえず脅威になりそうなのはいないみたい」

「よし。では私が釣りだすからそいつらを速攻で叩く。戦闘が起きれば住処のリザードマンが押し寄せてくるだろうからな。とりあえず戦いつつ、いつでも撤退できるようにするぞ」

リーシャさんは戦い慣れているらしく、頼りがいがあった。

「よし、いくぞ!!さぁ、かかってこい!!≪アトラクト≫!!」

リーシャさんの声に合わせて大盾が白く光る。ただ、闘気とは違う雰囲気だった。

大盾の光を見てリザードマンたちが数体出てきた。

「ガァ!!ガァ!!」

彼らは遠吠えのような声を上げてから武器を掲げてそして襲い掛かってきた。

「数体は足止めする。その間に数を削れ!!」

「私が援護します。シズネは攻撃を」

「わかった!!」

私も雫を抜刀してリザードマンと対峙する。幸い出てきたリザードマンのほとんどがリーシャさんに寄っていったため、一対一で戦うことができた、リザードマンの武器は太い木の棒に石を紐か何かでくくりつけた石のこん棒。へし折るのは難しそうだった。

私は一撃を降らせた後に速歩で近づいて雫を一閃。それだけでリザードマンを倒すことができた。

「お、早いな。ならこっちの奴らも頼む」

あれだけの数を相手にしながらこちらにも目を向けているとはリーシャさんはすごい。とりあえず地面の土を掴んでリーシャさんに寄っているリザードマンに向けて投げた。これが簡単に挑発になって一匹が寄ってきた、それをまた同じように一撃で倒す。これの繰り返しで最初に出てきたリザードマンは全て倒せた。

「ふぅ・・・シズネが強いから楽ができた」

「いやぁ、それほどでも・・・」

「先のリザードマンが全てではないだろう。もう少し近づいて様子を探るぞ」

私たちはゆっくりとリザードマンの住処へと近づいた。中の様子を見るとそこには三体の武装したリザードマンと何も持っていないリザードマンが何体かいた。私は気になって≪慧眼≫で見てみることにした。

 

リザードマン ♀

レベル1

 

どうやら守られているようなリザードマンはメスの個体らしい。そして三体のリザードマンがこちらを睨み、構えていた。それを見ると一瞬躊躇してしまう。彼らにも彼らなりの仲間意識があり、生活があるのだ。そう考えると雫を持つ手が震えてしまう。

「よし、敵は小勢だ。すぐに片付けるぞ」

「・・・そうだね」

そうして私たちは抵抗するリザードマンたちを倒した後、無抵抗のリザードマンたちを殺した。

その後はあまり覚えていない。三人で住処を調べて、売れそうなものを探して私の空間領域に収納し、住処の数から数を予想して戦った数以上リザードマンはいないとし、村に帰った。そして村長といくらかを話して見届け人としての印を依頼書に刻んでもらい、私たちは一夜を村で過ごして王都へと帰った。




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第二十一話

リザードマン討伐を終えて王都に帰ってきた私たちはまず冒険シャギルドを訪れた。

「依頼を完了したので手続きをお願いします。それから魔石の換金もお願いします

「では依頼書の提出をお願いします。魔石の換金はあちらでお願いします」

手続きを終えて私たちの手には依頼報酬金1万ゴールドと、リザードマンの魔石18匹分の魔石を換金して

1万2800ゴールドの合計2万2800ゴールドが手に入った。これを三等分にして分け合って、私たちは各々の宿に戻った。

私は考えていた。今まではただ依頼だから、生活のためだからと魔獣を狩っていたが、今回のリザードマンを見て思った。魔獣にも彼らなりの生活があり、仲間がいる。最後まで弱い個体をかばっていたリザードマンの表情は忘れられなかった。それが脳にびっしりと張り付いていて眠れなかった。

「ひどい顔をしているね。失礼。女性には言うべき言葉ではないとわかっているのだが、あまりにも・・・」

朝、私の顔に気づいたのかウィリアムさんが心配してくれた。私は胸の内を明かしてみた。

「なるほど・・・確かに魔獣にも我々のような生活があるだろう。だが肉食動物が草食動物などを餌にするように、我ら人間も何かを犠牲にして生きるしか方法が無いのだ。それに魔獣は古来より魔王が生み出したものだとされている。多少の罪悪感を持つのはいいが、過敏すぎるとかえって足元をすくわれかねない」

正論だった。とにかく私は何か別のことを考えようとした。あ、そう言えば買ったばかりのゲームのPV面白そうだったな・・・。あ、そう言えばあのお菓子おいしかったなぁ・・・また食べたい・・・。

「へへ・・・」

「うーん。今度はまた別の意味でだらしない顔をしているな・・・」

多少おかしい部分があったような気がするが良しとする。とりあえず私は冒険者ギルドに行こうとしたのだがウィリアムさんに呼び止められた。

「シズネ。昨日王から呼び出しがあった。宰相から件の鋼の製造について話があるそうだ。昨日あたりに帰るだろうと伝えていたからすぐに行った方がいいだろう」

「あ、わかりました。パーティーメンバーに伝えてから行きますね」

私は冒険者ギルドに行き、二人に多少話をぼかして伝えた。そして私はそのまま王級へと向かった。

王宮には名前を言えば通れるようなもので、宰相さんの部屋に案内された。

「急な呼び出しに来てくれて感謝する。私は宰相のハインと言います。これから長い付き合いになるでしょう」

「よ、よろしくお願いします」

第一印象は『ぜってー何か腹に一物も二物も抱えているだろオメー』だった。だって顔がそうだもん。是たち会った人の十割がそう思ったはず。

「してあなたが発案した鋼の生産体制のための指導準備が整いましてね。王国から希望する鍛冶師を招集し、選別し、選び抜かれた者たちを集めました」

「その人たちに私の鋼の製法を教えればいいんですね?」

「はい。ぜひともお願いいたします。鋼の性能は聞いております。件の鋼を使えば三流でも二流の作品を作れるとか」

そういう評価なんだ・・・。まぁ玉鋼にはそれだけの評価だけじゃない。真の使い方ってのがあるんだけどね・・・。

「では使いの者に案内させます」

そうして私たちは選び抜かれたという鍛冶師の人たちに会うことになった。

「ここで皆さまがお待ちしております」

入ってみるとそこはいやーまったく・・・むさくるしい!!男臭い!!

おっと、顔に出してはいけない・・・。

「なんでぇ。娘っ子じゃねぇか。コイツが新しい鋼を生み出したのは本当かよ」

「宰相様の言を信じないので??」

「いや。ソイツは違ぇ。ただなぁ・・・」

どうやら鍛冶師は男性が普通で女性は稀、珍しいようだ。

「ではシズネ様。指導をお願いします」

そして私は鍛冶師の人たちの前に立って色々と説明した。鉧押し法をしっかりと教え込んだ。鍛冶師の人たちは三日三晩寝ずに作業するということに驚きをしめしていた。鉧押し法は甘いもんじゃないんだぞと、口酸っぱく教えた。とりあえずやってみようということになったので、後日炉の準備が整うまで講義は中止となった。さて、玉鋼の真の使い道に気づく者はいるのであろうか・・・




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第二十二話

講義が終わってから数日後。再び集められた私たちは炉の準備が整ったとのことなので実際に鋼を作ることになった。前日に明日ぐらに完成するだろうという報告は聞いていたので、ゆっくりと寝て、三日三晩の作業に耐えられるようにしていた。

「おい・・・本当にこれでいくのか?」

鍛冶師の人たちからは疑問の声が上がる。

「でもこれしか方法が無いので・・・」

とまぁ軽くあしらう程度にしておく。鋼作りに手加減はしないのだ。

私は炉に火を入れるように指示する。

「これより作業を始めます。水分はこまめにとるように。食事は携帯食で。脱落者は急いで離脱させるようんひお願いします」

そして一定間隔で木炭と鉄鉱石を入れるように指示。

「いいですか。炎の色を覚えておいてください。これでしか期は測れないので」

嘘八百も良いところだ。私にはスキルがあるからわかるだけでスキル無しに見たら何がなんだがわからないだろう。

そして作業を開始して7,8時間が経った頃。次の段階に移る

「そのまま鉄鉱石を一定間隔で投入し続けてください。それから下の穴から液体がでてくるはずが、分かってると思いますが触らないように。超高温の液体ですので。それから鞴で風を送ってください」

言われたとおりに作業が進むのは良い物だ。そうしていると火が暮れてきた。さて、何人脱落者が出ることやら・・・。

そしてまた数時間が経過した。すると炉に変化が起きる。

「おい、炎の色が変わったがどうすりゃいいんだ?」

「そのまま作業を続行させてください」

そして一昼夜をかけて炉の温度を最高潮をキープさせ、鉄の還元率を高めた。そして見物の鍛冶師の人たちから何人か脱落者が出ていた。そうして二日目の夜更けに作業は最終段階へと入るのであった。

「投入する鉄鉱石の間隔を短くしてください。それから炉の壁には決して当てないように」

最後の下り期に入った。ここまででやっと一日と半分。そして今からそのもう半分を過ごすことになる。

そうして再び一昼夜を過ごし、最後は鉄鉱石の投入もやめて、燃焼するのを見ているだけだった。

炎が弱まってくるのを見て、私は炉の壁を壊すように指示すう。壁を壊していくと、煌々と光を放つ塊が見えてきた。そしてその塊の下を少し彫って鎖を通して、炉があった場所から引っ張り出した。

そして空間冷却の魔法を設営してもらい、冷却を待った。

そして私たちは一日休憩をとって再度集まった。

「どうでしたか?私の製法は「

「確かにヒデェ作業だったな。あんな作業やったことがねぇ。だができる鋼の性能は知ってる。あれだけ良い鋼を作るなら目をつぶる方がいい。ただ・・・」

「ただ人手がかかるのが難点だな。少しは人員を減らせそうだが、最低でも三日寝ずの作業ができる奴がいないとダメだ」

「それに空間冷却を使える魔法使いも必要だ。魔法はからっきしの連中が多いからこれは外部に求めるしかないな」

様々な意見が飛び交う。流石は職人といった感じだろうか。

結果として鋼の製造には複数の鍛冶師が出資して作ることになり、作成した鋼は参加した鍛冶師で分けるという仕組みで決まった。分けられた後は売るも使うも自由となる。だが参加した鍛冶師は少ない領ではなるが、鋼の使用料を祓うことになる。それは巡り巡って私の懐に入る算段であった。こうして不労所得が手に張ったのであった。

しかし喜べない結果もあった。もし私が工房を持てるようになって刀を作ろうと思っても鋼を作るのにあれだけの人員がかかるとなると相当厄介な問題となる。いくらかは私一人でできそうでもあるが、最後の空間冷却の魔法だけは習得していないので手詰まりである。故に魔法学校に行ってなんらかの手がかりをつかまないといけないのであった。

そうして考えて少し。私はエラムと一緒に魔法学校を訪れた。エラム曰く空間冷却の魔法はかなり高難度らしく、まずは基本を覚えないといけないとのこと。というわけでおさらばしたはずの講義を受けることになった。

まぁ、やることは実技なので眠る暇などないのだが・・・。

「・・・であるからして氷結魔法はより鋭いものが求められます」

とりあえず氷属性の魔法を教わっていた。まずは氷の塊を打ち出す魔法、『アイスアロー』を教わってい。

といってもなかなかうまくいかないものであった。エラムはとっくに習得済みらしくこれ見よがしに魔法を放っていた。

「こん・・・のお!!」

とりあえず気合で撃ってみた。すると私の手から氷の塊が発射された。

「うまくいったみたいですね、シズネ」

「うん、やったよ、やった!!」

それからは何度も魔法を発射して感買を覚えていった。一々噛みそうな詠唱を唱えながら数をこなしていった。そしてそんなことをしているうちに授業は終わりとなった。

魔法を撃っていて思ったのだが、剣豪もかっこいいと思ったけど、魔法剣士というのもかっこいいなぁと少し思ってみてみたり・・・。




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第二十三話

教派依頼をこなす日。そう三人で決めていたので私は冒険者ギルドを訪れていた。

「シズネ。こっちこっち」

すでにエラムとリーシャさんが揃っていた。

「待たせてごめんね?」

「いや、特に問題はない」

「それで何の話をしていたの?」

「あぁ、受ける依頼に次いでなんだが・・・」

「このところ良さそうな依頼が無いらしくてね。ランクを上げるには数をこなさないとだから割に合わない魔石拾いとかをやるってのもあるけど、それじゃぁ生活が成り立たないでしょ?」

「なるほどね~。なら依頼は受けずに自分たちで魔石拾いに行く?」

「それが今の状態だと無難だな」

「同感」

そうして私たちは数日分の野営に必要な道具、食糧を買いに行くことになった。女三人寄れば姦しいとは言うけどそんなにうるさいのかな?

とまぁ、物は買い揃えたわけで宿で一夜を明かして翌日の朝に出発だった。

朝早くとまではいかないけど早いほうで私は待ち合わせの王都の門に来たのだが、一番乗りはリーシャさんだった。

「おはよう。早いね」

「あぁ。なんだか早く起きてしまってな」

少し待つとエラムもやってきた。

「私が最後か・・・」

「そんなに遅れてないって。さぁ出発だー!!」

私たちは馬車をレンタルして魔獣の森を目指して進んだ。

御者はリーシャさんがやってくれていた。馬の扱いなんてサッパリだからこのあたりで覚えておこうと思った。

「何簡単さ。手綱をしっかりと持って馬に語り掛けるようにする。これが大事だ」

だそうだ。さっぱりわがんね。

ともかく雑談やらで時間を潰して私たちは魔獣の森の入り口に着いた。

「そう言えば馬車はどうするの?」

すっかり忘れていた問題であった。前回来たときは近衛の人が守ってくれていたけど今回は三人だけ。つまり馬車の番をしてくれる人がいないのだ、

「馬なら大丈夫だろう。車を外しておけば自由に逃げれる。、逃げる時は王都に戻るように調教してあるはずだから安心だ。まぁ後で馬車を回収しにもう一度来なければならないがな・・・」

「とりあえずそうしよっか」

馬を車から外して自由にしてあげた。そして私たちは準備を整えてから森に入った。

森はやはり茂みや伸びた枝などで歩き辛かった。それでもリーシャさんが先導してくれたおかげで大分歩きやすかった。ただ前回と違って魔獣探知の魔法が無いから自分の足で歩いて探す必要があった。

「止まれ」

先導のリーシャさんが何かを見つけたらしい。

「足跡だ。数は・・・五匹。大きさからしてゴブリンだろう。追ってみるか?」

「手がかりはこれだけだし追ってみよう」

私たちは見つけた足跡を追って森深くまで進んでいった。しかし不幸は突然やってくるものだ。そして今回も突然だった。

「ギャァ!!」

突然左右の茂みから多数のゴブリンが飛び出してきたのだ。

「・・・囲まれたか」

瞬く間に囲まれ、退路も失ってしまった。

「どうする?」

「リーシャさん。何体までなら持ちこたえられる?」

「守りに徹すれば7体ほどはいけるだろう」

「ならその間に反対のゴブリンを私が斬る。エラムはリーシャさんの援護を。これでいい?」

「あぁ、それでいこう」

「了解」

私たちは即座に動いた、リーシャさんがゴブリンを引き付け始めた。私はそれに振り向かなかったゴブリンと対峙する。

「気を付けろシズネ!!こいつら戦い慣れている!!」

どうやらそのようであった。ゴブリンたちはまとまって木の槍を突き出してきた。

私は雫で木の槍を斬り折ってリーチの有利を失わせる。武器が折られたゴブリンたちはうろたえ、その隙に私はゴブリンたちを斬った。数にして4体。少し成長したかなと思ったが今はそんなときではなかった。一応の退路は確保したわけで、撤退という選択肢もあったが、このペースだといけると踏んだ。

「リーシャさん、こっち片付いた!!」

「よし、このまま殲滅するぞ」

そのまま私たちはリーシャさんに引き寄せられていたゴブリンも討伐した。魔石を拾っている最中、リーシャさんがあることに気が付いた。

「シズネの件はよほど鋭いのだな。ゴブリンとはいえ一回で斬り倒せるとは」

「まぁ、それが売りだからね」

「これからどうする?足跡が罠だったらしいが」

「それに何体か鎧のようなものを着ていましたね」

確かに鎧を着ていたゴブリンがいた。サイズはまったく合ってないようだったが無理やりに着込んでいた。それも残っていた。

「・・・どうやら他の冒険者の物らしいな」

「てことは・・・」

「もう持ち主は生きていないだろう・・・」

少しだけ悲しい空気が流れた。

「さっきのゴブリンたちは巣から来たのかな?」

「おそらくそうだろう」

「なら危険だけど巣を見つけよう。ステータスプレートさえ見つければ誰だったのかわかるはず」

「同業者の追悼か・・・悪くはないが危険だな」

「でもこのままにはしておけない」

というわけで私たちはゴブリンの巣を探しに森の奥へと進むのであった。




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第二十四話

森の中を歩いて少し。最初こそゴブリンの奇襲があったものの、それから私たちは静かな森を探索していた。

そんな森の中に女性の悲鳴のような声が響いた。

「誰か襲われているのか?」

「わからないけど行ってみよう!!」

私たちは声の聞こえた方へと進んでいった。そして茂み越しに見えたのは獲物・鹿を狩っていたゴブリンの姿があった。

「・・・鹿の鳴き声は女性の声に似ていると言われるからな・・・」

「取り越し苦労でよかったよ」

「とりあえずあのゴブリンは巣に獲物を持って戻るでしょうから後をつけてみましょう」

獲物を持って帰るゴブリンたちの跡を追跡して私たちはようやくゴブリンの巣へたどり着いた。そこには十数体のゴブリンが勝ってきた獲物に歓喜していた。

「手筈は私が敵の多数を引きつけエラムは私の援護。シズネは孤立した敵を各個撃破。これでいいな?」

「問題ないよ」

「よし行くぞ!!」

リーシャさんを先頭に私たちは真正面からゴブリンの巣に斬り込んだ。

「ギャァ!!ギャァ!!」

巣にいたゴブリンたちが唐突に出てきた私たちに驚くことなく、戦闘態勢を整えていた。

「さぁ、かかってこい!!」

リーシャさんの大盾が放つ光に魅かれて大半のゴブリンたちが釣られていき。私は釣られなかったゴブリンめがけて突貫するのであった。

「たぁぁぁ!!」

一太刀でゴブリンを斬るのにも慣れて、私はサクサクとゴブリンを斬っていった。突き出される木の槍も斬り折って優位を失くし

、呆気にとられたところを斬っていった。

「こっちは終わったからそっちに行くね!!」

「やるなシズネ!!」

チームワークにも慣れてきた感があった。そして私たちはリーシャさんに釣られたゴブリンを全て倒し終えた。

「さて、何か防具の持ち主の手がかりでもあればいいのだが・・・」

確かに巣にいたゴブリンの中には来や石でできた武器だけでなく、人工てきな剣などを持っていたのもいた。それらは消えることなく残っていた。そして巣をくまなく探すこと少し、奥にあった住居のようなところに人の物と思われる骨があった。肉や皮は食べられたのか骨だけが残っていた。そして傍らにステータスプレートが落ちていた。

「ステータスプレート・・・頭蓋骨の数と一致するな。三人か。とりあえずシズネ、この骨もも収納していてくれるか?」

「わかった」

私は空間収納の魔法で遺されていた遺骨を回収した。気分はあまり良くないのは私だけではなかった。

「実力に奢っていたか、こうでもしないと稼ぎが無かったのか。それはわからないが、こうなりたくはないな」

リーシャさんの言葉は私たちも同意見だった。私たちはそれいじょうは森を進むことはせず、森を出ることにした。森からでた私たちは複雑な心境だった。とりあえず馬車の馬たちは安全だったようで健在だった。

そのまま私たちは御者を交代しながら夜になっても進んで王都に帰った。帰ってきた私たちは冒険者ギルドを訪れて魔石の換金と冒険者の遺品のことを話した。

「捜索願は出されてないので報奨金はでませんがありがとうございました。こちら手間賃と言っては何ですが・・・」

とりあえず魔石分のお金と遺品と遺骨を持ち帰った褒賞としていくらかお金を受け取った。そのまま私たちはそれぞれの宿に帰って夜を越した。

一夜明けて私たちは冒険者ギルドに集まっていた。

「当面の資金は得たから無理に依頼をこなす必要はないな」

リーシャさんの意見に三人とも合意して私とエラムはそのまま魔法学校に行くことにした。空間冷却などの特殊な魔法は上位クラスとされていて前提の魔法が使えないと授業すら聞けないらしかった。

なので私は氷結魔法の習得を目指すことにした。すでに一定以上会得しているエラムには無駄な時間を突き合わせてしまうことになったがエラムも復習ということで付き合ってくれた。とりあえずそのまま私たちは二日間魔法学校に通った。

そして三日目の朝。私は王級を訪れていた。なんでも先日作った鋼が全て売られてその技術料を頂けるとのことだった。文官の人からお金を受け取った。その額なんと10万ゴールド。とりあえず一回目に参加した鍛冶師の人たちは継続して鋼を作ることとして鋼を作るのと同時に参加を希望する鍛冶師に製法を受け継いでいくとのことだった。そして鋼が作られるたびに私に技術料が祓われるとのことだった。今回は私が主導して作ったため10万ゴールドとなったが、次からは5万ゴールドも頂けるとのこと。

不労所得でウハウハでニヤケそうな顔を引き締めて今後のことも話した。

「おやシズネじゃないか」

そして王級を出ようとしたところに後ろから声がかかる。

「こ、これはレオ王子」

「いいよいいよ。堅苦しいのはお互い得は無いから。それよりも冒険者として色々と働いているようじゃないか。ウィリアムが剣の修行ができないと言っていたぞ」

「あはは・・・」

「といわけで抜き打ちで俺が実践に出ていいる腕を確かめてやろう」

なんやかんやでレオ王子と戦うことになってしまった。うん?前もこんなことがあったような・・・。

「じゃぁいつでもかかってきなよ」

ゆったりとした構えのレオ王子。とりあえず私は攻めたてることにした。カンカンと木剣が打ち合う音が修練場に響く。

「うんうん。対象を狩り取ろうとする鋭い剣筋だ。以前とは全く違う」

余裕ありげにレオ王子は私の実力を測る。勝負は片方が攻めれば片方が防御に回る。そして隙を見て反撃。これの繰り返しで会った。

「うん。これまでにしておこうか」

唐突にレオ王子が剣を退いた。とりあえず息を整える。

「いやぁ変わったね。いいよねー外にでて経験を積めるんだから。王子の身分って不自由なんだよね」

それからはレオ王子の王族への不満もとい愚痴話に突き合わされることになった。

「そういえばシズネ。君は工房を持たないのかい?」

「工房ですか・・・いずれは持ちたいですが今は忙しくて・・・」

「父上も大きくは動けないだろうけど王級鍛冶師の称号を貰ったのならそれ相応の工房を持たないと称号が泣きを見ると思うな:

「そ、そうですか・・・」

「それに打ってもらった剣の整備もしてもらわないとだし。伝手を使って探してみようか?」

「い、いいんですか?」

「そのくらいお手の者さ。それにあの剣を他の鍛冶師に見せてもてんでわからないって言ってたからね。それに工房はできては廃れるけど形は残るからね」

ということで私の工房探しが始まった。元工房の家はすぐに見つかった。掃除などの雑事と専用の炉などを整備して家と合わせて300万ゴールドほどかかるそうだ。

しかし大金が動くことなんて経験がないので私はウィリアムさんに相談することにした。

「なるほど、工房を持つか悩んでいるのか」

「はい。レオ王子が見つけてくれた手前断りづらくて・・・」

「王に認められた鍛冶師なら工房は持って当然だろう。だが冒険者である以上腰を据えることは難しいからな。だが危険な冒険者で稼ぐよりは良い収入源にはなるだろう。最初は注文は少ないだろうが、王級鍛冶師だと知れ渡ればすぐに注文が殺到することになるだろうさ」

ということでウィリアムさんも乗り気であった。私は相談したその足で事務手続きを済ませて工房兼家を買い取った。こうして私は刀匠としての第一歩が踏み出せたのであった。




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第二十五話

工房を持つと言ってもすぐにはできない。掃除や改築に時間がかかるのだ。一週間は欲しいと言われたのでそれまでは冒険者としてお金を稼ぐか魔法学校に行くしうかなかった。

というわけでお金を稼ぐべく私は冒険者ギルドに行くことにした。

「依頼か。手ごろなのは岩熊がでたというのがあったな」

「岩熊?」

「岩山に住む魔獣でどういった生体構造をしているのかは知らんが岩石を食事取るうんだ。大抵食事となる岩石を求めて鉱山などに現れると言う。石を食うだけあって皮膚はかなり硬い。それに岩石を彫る前足や歯はかなり鋭い。どうだ、いけそうか?」

「うーんやってみないとわからないけど倒せそうなら行ってみよう」

「魔法はあまり効果はないと言われています」

「え、そうなの?」

「本来自然由来の者には加護は付きやすいですがエンチャントを始めとする魔法は付着しにくいのです。同じように自然の産物である石を取り込んでいる岩熊には魔法が効きにくいとされているのです」

「うーんそっかぁ・・・」

「ただ討伐時に残る皮はかなり硬く、盾や鎧の一部に用いられるため高価で買い取ってもらえるそうです」

「岩熊はこちらが襲わない限り襲ってこない魔獣でも珍しい温厚な奴だ。緊急ではないらしいから受けてみるのいいだろう」

「よし、行ってみよう」

こうして私たちは鉱山の近くに現れた岩熊の討伐以来を受けることにした。とりあえず数日分の食糧と水を買い、出発する明日に備えた。

 

━━━━━━━━━━━━

 

朝。待ち合わせの時間にはまだ早いけど私は王都の門のところへ向かった。でもやっぱりリーシャさんが一番乗りだった。

「おはよう。シズネ。よく眠れたか?」

「うん。ぐっすりね」

「皆さん早いですね」

でもすぐにエラムも来て私たちのパーティーは集まった。鉱山のある町へ向かう馬車に乗って私たちは二日の旅を楽しんだ。

・・・といってもずっと馬車に乗っていて体は固まるしお尻は痛くなるばかりであった。そんな思い出しかなかったのだが・・・、

そして鉱山の町、フェーンに着いた。

「ここがフェーンの町だ。あまり来ることは無いのだが、この町は王国でも有数の鉱石を産出しているんだ」

鉱石を産出する町、つまり工房を開く私からすればお世話になる町になるかもしれないわけだ。

「しかしここにも冒険シャギルドはあったはずだしそれなりに腕が立つ者もいるはずだ。それが王都に依頼が届くとはな。ともかくこの町の冒険者ギルドに行ってみるとしよう」

私たちはフェーンの冒険者ギルドを訪れ話を聞くことにした。

「あぁ、岩熊?何人か冒険者が挑んだらしいがそいつらでも歯が立たなかったらしいぜ。ここいらじゃ岩熊が出るのはさほど珍しいことじゃないから大抵のやつは経験者なんだがな。どうやらそ今回出た奴は図体はデカイし皮膚もかなり硬いらしい」

「通常よりも硬い皮膚か・・・」

「あぁ、柔らかいとされる関節の裏側の皮膚なんかが普通よりも硬いんだとよ。セオリーは足の関節を壊してから首元にトドメを入れるんだが、動きを封じれない以上首元にも攻撃ができなくてな。嬢ちゃんたち、岩熊に挑みに来たんだろうけど止めといたほうがいいと思うぜ」

とりあえず聞き込みを終えた私たちは集合して話し合う訳になったのだが・・・。

「通常よりも硬い皮膚を持ち経験者である冒険者でも勝てないとなると私たちでは挑戦しても結果は火を見るよりも明らかだとは思うが・・・」

「でもそれだとここに来たのはただの遠足になっちゃうよ」

「そうだな。戦いを生業とするなら挑むことを止めては名折れだ。今日は休んで明日挑んでみるとしよう」

とりあえず宿に休んで英気を養ってから挑戦することになった。

そして次の日。私たちは岩熊が現れたという山へ向かった。山道はごつごつしていて歩き辛く、それが疲れを倍増させていた。

「うむ。やはり山は鎧姿だと倍以上に疲れるな」

息苦しいのかリーシャさんは兜を外して歩いていた。

「皆さん。あたりの石の様子が違います」

エラムの言う通り岩肌にいくつか穴が開いていた。

「岩熊が出ているから穴を掘るのが仕事の鉱夫も山に入っていない。となると穴を掘ったのは岩熊しかいないな。普通、時間が経てば穴は塞がるが未だにい空いたままなら近くにいる可能性があるな」

そのまま掘られた岩肌に添って少し進むと巨大な灰色の物体が見えてきた。それはモソモソと動いていた。

「あれが岩熊だ。今は食事を終えて休んでいるのだろうか」

岩熊はこちらをみてもグォォと鳴くだけで興味を失くしたのか視線をそらした。

「よしとりあえず岩熊は私が引き付ける。今回はシズネの鋭利な剣が要だ。頼むぞ」

「わかった」

私たちはエラムの先制攻撃で視線を外した岩熊に向けて進み始めた。大ぶりな前足の攻撃をリーシャさんが大盾で受け止める。まるで金属同士が勢いよくぶつかったような音が響いた。私はリーシャさんに注意が向いてる岩熊の後ろに回りこんで、後ろ足の膝のうらの関節部分に突きを放った。

「グア?」

しかし渾身の力で放ったはずの突きは効くことは無く、手が痺れただけであった。岩熊の注意はこちらに向かなかったためその後も、突きや切払いを放ったがまったく通らなかった。

「リーシャさん!!私の刀でもダメみたい!!」

「・・・そうか。やはりダメだったか。撤退するぞ。幸い奴の動きは遅いし執拗に追っては来ない。急いでここから離脱するぞ」

「ちょっと待って。まだ試したいことがあるの」

「何?」

「エラム。火属性の魔法と氷属性の魔法は使えるんだったよね?」

「使えますが・・・魔法は効かないはずですよ」

「威力は今回は必要ない。ただまずは火属性の魔法を連続で当ててみて!!」

「・・・何か考えがあるようですね。やってみます」

エラムは膝の裏へ向けて火属性の魔法を連続で放った。その数十発に及んだ。

「今度は氷属性の魔法を撃ってみて」

「今度は氷を?わかりました」

そして氷の魔法を放った。そして一発目が当たった瞬間、パリンと大きな音が響いた。その途端、岩熊の右足が地面に突き、態勢が崩れた。その隙を逃さず私は突きを繰り出した。

「グモァァァァ!?」

山に木魂するくらいの悲鳴が響いた。今度は突きが通じたのだ。

「一体何が・・・」

ともかく岩熊は完全に態勢を崩し、背中から地面に倒れた。何度も立ち上がろうとしているが右足が動かないためモゾモゾと動いているだけだった。

「ともかくチャンスだ。シズネ、首元だ!!」

私はゆっくりと岩熊の首元に近づいて刀を添えて突き刺した。それが決め手となったか岩熊は悲鳴を発し、動かなくなった。そして死んだ岩熊の身体は塵となって消えた。そして岩熊の背中のものと思われる皮と岩熊の魔石が残っていた。

「なんとか討伐できたか・・・しかし何が起こったのか説明してくれるか?」

「うんとね、石って熱してその後に一気に冷やしたらヒビが入るんだ。だから同じように岩の皮膚を持つ岩熊の肌をエラムの火属性の魔法で熱してその後氷属性の魔法で冷やしてみたんだ。そしたらうまくいって皮膚にヒビが入ってそこを突いてみたんだ」

「なるほど・・・。詳しくわかったが、シズネはよくそんなことを知っていたな」

「色々あってね。ともかくこの皮大きいね」

「はい。これだけで一つ鎧が作れそうです。魔獣の者ではありますが岩熊の皮は自然由来の物に近く加護が付きやすいと言われています」

「うーん、リーシャさんの盾かなりボロボロになったね・・・」

「岩をも掘る前足の爪に何度もさらされたからな。こうなるのは覚悟の上だ」

「そうだ。この皮いくらで売れるかわからないけど売った資金はリーシャさんの盾を修理する資金にあてようよ」

「いや・・・流石にそれは・・・」

「今回はシズネの機転とリーシャさんの尽力あってのものです。それがいいかと」

「・・・すまないな。好意に甘えさせてもらおう」

とりあえず岩熊の皮を空間収納の魔法に入れて私たちは山を下りた。そしてそのままの足で私たちは冒険者ギルドに行き、達成の報告と魔石の換金を行った。岩熊の魔石は一個で5千ゴールドになった。依頼金が6万ゴールドで合計6万5千ゴールドになり一人当たり大体2万3千ゴールドになった。

「おいおい嬢ちゃんたち。岩熊を倒したってらしいがホントに倒したのか?どっかで岩熊の魔石を買って報告したんじゃねぇのか?」

私たちの報告を疑う野次馬たちがいた。

「そんなことはない。実際に討伐した」

「ドっから来たのかしらねぇが、場慣れしている奴らが枯れなかったのを嬢ちゃんたちだけで狩ったなんて信じれるか」

「なら・・・」

私は野次馬に見えるように岩熊の皮を収納空間から出した。ズシンと皮は落ちた。

「デケェ・・・。普通の岩熊の皮じゃないぞこれ」

「あぁ。実際に何度も岩熊を狩ってきたがこれほど大きい皮は見たことが無い」

どうやら私たちのことを信じる数の方が多く、言いがかりをつけてきた男はすごすごと去っていった。

「なあなあお嬢さん。どうやってデカイ岩g妻を倒したんだ?」

今度は私たちは質問攻めにあうことになった。

「うーんっと・・・」

正直に言おうとする私の口をエラムが閉じた。

「ここで馬鹿正直に言うよりギルドに言って情報料を取った方がいいですよ」

「そんなので貰えるの?」

「はい。今回の場合、通常の岩熊にも効く可能性高いので貰えるかと」

「ざy、じゃぁ情報はギルドに言うのでそこで聞いてください」

逃げるようにして私たちは受付に戻った。

「岩熊の効率のいい倒し方?では奥の方にどうぞ」

私たちはギルドの奥の方へと通された。その部屋には一人の男性が座っていた。受付の人が何やら耳打ちをしていた。

「ふむ。岩熊の効率の良い倒し方を知っていると言ったが、どのようなものなのかね?」

「はい。しかし実証するには現物が無いと・・・」

「ふむ。用意させよう。討伐した岩熊の皮がどこかにあったはずだ。実証はここでできるかね?」

「はい」

少し経って岩熊の皮と思われるものが持ってこられた。

「で、これを実験体とするが。これをどうすれば効率が出るのかね?」

「えっと、エラム。火を持続的に出せる?」

「はい。できますよ」

「ではまず皮を熱します」

エラムに魔法で岩熊の皮を熱してもらった。

「対象を熱し温度を高めます。そしてそこにエラム、今度は氷をお願い」

「了解」

実際に熱した岩熊の皮の上に氷を落とした。するとパキンと岩熊の皮が割れた。

「お、おぉ・・・。岩熊の皮がこんなに簡単に・・・」

「こうすることで岩熊の皮を割ることができます。今後、今回でたような皮が硬い個体に対しても有効かと思います」

「おぉ、これは重要だ。苦心して叩き折るしか加工する方法が無かった岩熊の皮をこんなに簡単に割れるとは・・・。これは割れる範囲を固定できるのかね?」

「熱する部分を変えればおおまかには可能かと思われます」

「これは大発見だ。狩猟だけでなく加工にも役に立つ。元来必要とされてなかった魔法使いにも立場を作ることができる。よくぞ知らせてくれた」

「えぇっと・・・」

「うむ。言わずともよい。報酬のことであろう。君たちのパーティーは三人かね?」

「はい」

「いや、この考えを出したのはシズネだけだ。報酬はシズネだけでいい」

「確かに」

「そ、そうか。ではシズネとやら。これを本にして売ること権利を貰う代わりに報酬として10万ゴールドを祓う。これでどうか?」

「はい。それで構わないです」

「うむ。これで岩熊の研究も進んだ。すぐに新しい研究本の準備に取り掛かるとしよう」

こうして副産物として10万ゴールドを得ることになった。ギルドから帰る途中私は気になったことを聞いた。

「よかったの?倒したのは私たち3人な訳で・・・」

「考えは生み出した者の物だ。私たちは実行しただけにすぎん」

「欲を出したら罰が下る。それは前に学んだ」

「それに私は岩熊の皮の代金を修理費に当ててもらう立場だ、これ以上何もせずには受け取れない」

「そ、そう・・・」

とりあえず胸のつっかえは取れた。こうして私たちは依頼を完了させて副産物も得て王都に帰るのであった。




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第二十六話

一日フェーンの町で体を休め、私たちは再び二日かけて王都に戻ってきた。その後旅の疲れを一夜費やして癒し。岩熊の皮を売りにいくことにした。王都でも大きい素材を取り扱っている店を訪れた。

「店主さんこれ・・・」

しかし私が最後まで言葉を発する前にエラムが私の口をふさいだ。

「馬鹿正直に品物を見せない方がいいですよ。私もですがシズネも岩熊の皮の相場なんて知らないでしょう?」

「う、うん。確かに知らないけど・・・」

「買う側は売り手が適正価格を知らないと知るや安く買い叩こうとします。まずは岩熊の皮の相場を知ってから物を見せるんです」

「エラム、お金のことになると変わるね」

「シズネが無頓着すぎるんです」

「えぇっと、何かな?」

「岩熊の皮の適正価格を知りたい」

「岩熊?あぁ、あれは王都ではあんまり手に入らないからねぇ・・・取り寄せるとなると結構持ってかれるしそうだなぁ、この布の大きさで5万ゴールドはするかな?」

「それ以上大きいと?」

「大きくてもこれくら。一番大きいので10万ゴールドぐらいの値がついたかな?大木効ければそれだけ多く物が作れるからね?これから狩りにでも行くのかい?」

店主が見せた最大サイズの布を見て私は確かにエラムの言っていることがわかった。

「いや、シズネ」

「えぇっと、これなんですけど・・・」

私は収納空間からズシンと岩熊の皮を置いた。

「え、えぇ!?」

店主さんは驚いた様子で岩熊の皮おw見た。かなり驚いて体様子でカウンターからあ乗り出していた。そしてマジマジと見てこちらを向いた。

「こ、これは一枚でこれなのかい?縫合とかしてなくて?」

「あぁ、一切加工していない天然物だ」

「すごい。通常の倍近くもある。これは競りに出せば高値は必定・・・これは到底ウチじゃ手に負えない」

「そ、そんなにすごい物なんですか?」

「そういえば君この前ゴブリン・チャンピオンの首を持ってきた娘だね。あぁ、これはすごい。多分ここまで大きい物を見た人は少ないだろう。どうかな?これを競りに出してみてはどうだろうか」

「競りに、ですか」

「あぁ、いつもは皮を加工せずにそのまま流しているんだがこれはかなり凝った加工が必要だ。それに良い見世物にもなるだろう。出せばいろんな人が欲しがるだろう。例え保持していると言っても現物を見せないと信じてもらえないだろうからね」

「どのくらい値がつくんでしょうか?」

「最低でも20万は下らないだろうね」

「すごいですよシズネ。これはぜひとも競りに出しましょう」

「そ、そうだね」

なぜか興奮しているエラム。それと変わって別の咆哮で落ち着きが無いリーシャさんがいた。

「どうしたんですか?」

「いや、皮の代金を貰うという約束だったらこれは貰いすぎだろうと思って・・・やはり三人で分けることにしないか?」

「でもそれじゃ約束を破ることに・・・」

「約束の前にこれは規模が違いすぎる」

「そ、そうですか?」

「あぁ、無理にでも受け取ってもらわないと私の気が晴れない!!」

「わ、わかりました」

「確か次の競りは・・・来週の頭だったな。すぐに担当に店に行った方がいいよ」

店主さんにそう言われて私たちは競りを受け付けているところに向かった。

「競りの参加希望されますか?それとも買い付けの方の参加希望ですか?」

「えぇっと商品を出す方で・・・」

「一応注意事項ですが生半可な物は扱っておりません。それを知っての上で参加を希望されますか?」

「は、はい」

「では商品を審査させてもらってもよろしいでしょうか?」

「はい」

私は岩熊の皮を収納空間から出した。

「では審査に入らせてもらいます。少しお時間を頂きますので・・・一時間ほそお待ち願いますでしょうか?」

「わかりました」

そうして私たちは店から出て適当にふらついて時間を潰した。そして店に戻ってきた。

「審査の結果、出品を受け付けることになりました。よろしいですか?」

「はい。お願いします」

「では商品をお預かりいたします。万が一の補償金としてはこれだけとなっております」

提示された金額は15万ゴールド。これだけでも大金である。

「みんな、これで大丈夫?」

「あぁ、大丈夫だ」

「問題ないです」

「ではこれでお願いします」

「では出品者名をお願いします」

「えぇっと、どうする?」

「シズネの名前でいいんじゃないか?」

「そうですね。それでいいでyそう」

「え、私の名前?」

なんやかんやで私の名前で出品されることになった。競りは来週の頭。後五日といったところだった。

そして商品を出して三日が過ぎようとしていた頃、私へレオ王子からの呼び出しがかかった。私はそれを聞いて急いで王宮へと向かった。

「いやぁ待たせたね。やっと君の工房の準備が整ったとのことでね」

「わざわざありがとうございます」

「良いんだ。また君に剣を打ってもらうこともあるだろうしね。では案内するよ」

そう言ってレオ王子に連れられてそのまま王宮を出て気づいた。お供の人はついてきているがレオ王子自ら行く気なのでは、と。そしてそのまま王子に連れられるがままに私は一つの大きな家に連れてこられた。

「ここが君の工房だ。一回は工房。地下室は倉庫にでも。二階は居住スペースだ。部屋は4個あったけ」

「5部屋でございます」

「そうそう。それでね・・・」

そして工房を出て連れてこられたのは大きすぎる空間だった。屋根は木造。屋根と壁の間には太い柱以外は空いていた。

「君、何でも新しい鋼を生み出したそうじゃないか」

「え、えぇ」

「それもかなりおおがかりな方法で。製法を見ただけで思ったんだけどいずれ君が剣を打つときにはその鋼が必要になるだろう?だからいつでも鋼が作れるように場所をあつらえたのさ!!」

そう堂々とレオ王子は手を広げて言い切った。

「お心遣い、ありがとうございます」

「良いんだ。気にしなくていい。俺もこれを貸しになんてする気はないしね」

「そ、そうですか・・・」

「それからアレを」

「どうぞ」

「これが店のリストね」

渡された紙には店と取り扱っているらしい商品がかかれていた。

「君はこの先物入りになるだろう。それの一助になるかな」

「重ね重ねのお心遣い、ありがとうございます」

「費用は前に受け取ったしこれで説明は終わりだね。ここは君が、好きなように使っていい」

「あ、ありがとうございます」

「あぁ、それから話は変わるけど。君、競りに物を出したらしいじゃないか」

「よ、よくご存じで・・・」

「いや、多分貴族の大半は君の名前を目にしたと思うよ。何せ記録を更新するような岩熊の皮を出したらしいじゃないか。競りのところが大きく宣伝していたよ」

「そ、そうなんですか・・・」

「岩熊の革は俺の趣味にはあわないからいいけど、多分かなりの値がつくだろうね」

「そ、そんなにですか」

「貴族というものは常に見栄を張りたくなるものなのさ。たとえそれが金の力によるものだったとしてもね」

「はぁ・・・」

それからはレオ王子の貴族に対する愚痴を聞いていた。途中お供の人がどこからか椅子とテーブルを用意してからは泊らなかった。こうして私は工房を無事受け取った。後で部屋を見てみたのだが・・・広かった。元居た世界のリビング並みに広かった。これが5部屋あり、さらにはキッチンとリビングまであったのだ。それにしてもどこからこんな一階は工房、二階は居住空間という物件が出てきたのだろうか。不思議でたまらなかった。




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第二十七話

朝。私は一人ぼっちの家で目を覚ました。宿でも一人部屋ではあったが、部屋に誰もいないというのは例え他人であったとしても寂しいというものであった。

今日は競売当日である。私たちはいつものように冒険者ギルドに集まってから競売の会場に赴いた。出品者特権で入場券を得ることができて実際の競りにも参加できるようだ。といっても欲しい物はそうそう出てこないというのが当たり前なのだが・・・。

「それにしても多いですね。それに着飾っている人も多い・・・」

「なんか私たちが出した岩熊の皮、かなり貴族の間で話になってるようだよ」

これはレオ王子からの情報。

「さてどのようなものが出品されるのか・・・」

「さぁさぁお集まりの皆様方。長らくお待たせいたし巻いた。これより競売の開始でございます」

その合図を切りに様々な品が出品され、購入されていった。

「続いてはこちら!!本日の目玉商品!!黄金を食べるという魔獣。ゴールドプレデターの魔石です!!」

次に出品された魔石は本当に黄金に輝いていた。普通の魔石が紫などの色をしているのは知っているが、食べた物によって魔石の色が変わるのか、興味があった。武器を作るのに使えば黄金色に染まるのであるのだろうか?

「1100万!!」

「1100万!!これ以上はいませんか?では1100万で落札です」

その魔石は1100万ゴールドで落札された。今度から貴重そうな物をゲットしたら競売に売るのもいいかもしれないと思った。

「それでは本日の目玉商品はまだまだございます!!通常よりとても大きい岩熊の皮でございます」

「来たな・・・」

「いくらになるんでしょうか・・・」

「こちらは先日討伐されたばかりの岩熊の皮でございます。見てもわかる通り一般的な岩熊の皮の約二倍の大きさを持つこの皮。それでは開始します40万からスタートです」

「え、40万からスタートなの?」

「ふむ・・・安易に素材屋に売らずに競売に出したのは正解だったかもしれないな」

「60万」

「65万」

どんどんとお金が積みあがっていく。

「70万」

「70万。これ以上はいませんか?では70万で落札となります」

「70万、70万だよ!!」

「規定で売り上げの一割は引かれるけどそれでも63万。大儲けですね」

それからもつつがなく競売は続く。まったく見たことが無い商品などを目にし、購買意欲がそそられたがそんな金額はどこを叩いても出てこない。とりあえず指を咥えてみていることにしていた。

「それでは売上金63万ゴールドとなります」

競売が終わった次の日。落札金額を受け取った私たち。

「とりあえず当面の資金は困りませんね」

「あ、そのことなんだけどさ・・・。みんな宿ってどうしてる?」

「うーんちょっとボロの宿に泊まってますが?」

「私は普通のところだな」

「ちょっと色々あってさ、家を手に入れたんだけど・・・一緒に住まない?」

「ちょっとで王都に家は持てんぞ・・・。それで、いいのか?」

「うん。今日朝起きた時に寂しくてさ・・・」

「いいんですか?」

「うん。部屋は空いてるし」

「宿代も馬鹿にならんからな。世話になる」

「よろしくお願いします」

「じゃぁ、案内するね」

こうして私は二人を家兼工房に招待した。

「ほー。これは貴族屋敷か?」

「あ、やっぱそう見える?」

「まさか知らずに手に入れたのか?」

「うーん。物件選びは他の人がやったんだよね・・・」

「一階は・・・工房ですか、これ」

「うん。実は私鍛冶師でもあるんだよね」

「ほう。鍛冶師なら冒険者よりも安全に稼げるだろうに」

「うーん素材を集めるのにも冒険者って必要だし(適当)」

「しっかし部屋も広いな。工房の新品のにおい、部屋の装飾や広さから考えて貴族屋敷を改造したのかもしれんな」

「うーん、そっかぁ・・・」

レオ王子!!一体どんあ物を作ってくれちゃったんですかぁ!?

「とりあえず部屋決めは終わったな。しかし・・・」

「料理が全員できるとは・・・分担どうします?」

「三人いるし一日交代で回すのが一番だろうな」

「ならそうしよう。食費は三人分割でいいだろう」

こうして新しい生活が始まったのであった。

一応ウィリアムさんを最初に誘ったのだが・・・。

「流石に年頃の女性と同じ家に住むわけにはいかないだろう。パーティーメンバーを誘うのがいいだろう」

と、断られたのであった。ともかく新しい生活が始まるのであった。




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第二十八話

朝。前とは違って起きても人の気配を感じる。他人の物とは言え、知っている気配がするというのは安心する者だった。今朝は唐突に二人を誘ったので朝食の材料はなく、外での食事になった。食事とはいえ三人で食べるのはおいしかった。

「さて、これからどうするかだが・・・」

「岩熊の皮でのお金が入った以上無理に動かなくともいいかもしれませんが、間が空くと体は動きを忘れますからね」

「私は魔法学校に行きたいかな。習いたい魔法があるし」

「なら数日は休息にしようか」

「ではそれで決まりですね」

こうして私は魔法学校に行くことになった。工房を手に入れた以上、早く稼働させるために空間冷却の魔法が欲しいのだ。まだ初級の魔法しか使えない今、道はかなり長いと思われた。

魔法学校にはかったるい座学というのは下級クラスには無く、実技による指導があるので結構楽ではあった。何がどうして異世界で勉強せねばならぬのだ・・・。

とりあえず次の中級魔法、『フリーズ』を練習していた。これは対象の動きを凍らせて動きを制限させるという魔法らしい。しかしこれが難しい。動かない物なら少しは凍らせることができるのだが、動く的には全然当てることができなかった。しかし今日は魔力が尽きて終わりになった。トボトボと帰路に就いた。

「エラムはすごいよね。すぐに使えるようになって」

「偶々ですよ。明日は上手くいくはずです」

「そうなら良いんだけどね・・・」

「あ、明日の担当私だ。買い物しないと」

私は帰る前に店で野菜やパンなどを買い込んだ。明日は私が食事当番なのだ。

沈む夕日を背に私たちは自宅に帰ってきた。すると二階から良い匂いが漂っていた。

「おかえり。夕食の準備はできているぞ。よそうからちょっと待ってろ」

今日の食事当番はリーシャさんだった。献立は、シチュー、パン、サラダ、それに何かの肉のステーキだった。

「結構作ったね。大変だったでしょ?」

「あぁ。料理なんて久方ぶりだったが、上手くできたはずだ」

「んじゃ・・・」

「「「いただきます」」」

とりあえず私はステーキにかぶりついた。

「リーシャさん。これなんの肉?」

「ミラニ牛だな。ミラニというところでかなりの数が飼育されているからそう名付けられている。安いが旨いのが特徴だ」

私たちは最初に正式な口座ではないが生活基金として同じ額のゴールドを集めていた。

「このシチューもおいしいですね」

「上手くできていてよかった」

私たちはおいしい夕食に舌鼓を打ちながら一つも残さずに食べ終えた。

「はー・・・幸せ」

おいしい食事、頼れる住人、帰る家、そして充実した毎日。これんだけあってどうして不幸と言えようか。

とりあえずベッドにもぐりこんで寝ることにした。

朝。私は早起きをして料理を作った。

「おはよう・・・良い匂いだな」

「あ、おはよう。座って待ってて」

「・・・おはようございます」

「ちゃんと顔洗ってきた?」

軽いやり取りをしながら私は朝食を作り上げた。

「簡単だけどパンとサラダ。それにスープだよ」

「では・・・」

「「「いただきます」」」

「む?このスープ、変わった味付けだな」

「うん。鶏の骨についている肉から出汁を取ったんだ」

「鶏の骨から?また妙な・・・」

「でもおいしいでしょ?」

「えぇ。不思議な味がしますね」

ちょいと手間がかかったが上手にできたようだった。片付けを終えて私はエラムと魔法学校へと向かった。

「今日こそ・・・今日こそ」

意気込みは良かったが朝から夕方まで費やしてやっとのことで『フリーズ』がちょっと実用的に使えるくらいにはなった。

「よかったですね、シズネ。これで上級の授業も受けれるようになりましたが・・・なぜシズネは氷属性の上級魔法を?」

「私の工房で必要なんだよね。空間冷却の魔法がさ」

「確か空間冷却は定点魔法なので習得は上級の中でも簡単だと言われていましたね」

「ホント?それならいいけど・・・」

有益な情報を得て私はそのまま帰りがてら買い物を済ませた。

「さて、リーシャさんが家で待ってるかもだし急がないと」

ちょっと駆け足で私たちは家に帰ってきた。

家に帰ってもリーシャさんはいなかった。そう言えば今日は修理に出していた盾が帰ってくるんだっけ?その後修練場で動きを確認すると言ってたから時間がかかっているのかもしれない。

とりあえず私は夕食の準備を始めた。と言っても献立は朝と同じの鶏ガラスープにパンとサラダ。作れるレパートリーはあっても材料がないという・・・。中世の文化で現代の料理を再現するには色々と物入りになるのである。そうして作っている間にリーシャさんも帰ってきた。

三人で食卓を囲み何気ない会話に花を咲かせる。そうして食事を終えてベッドで眠る。

この生活が一日でも長く続いてほしい。私はそう思っている。




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第二十九話

朝。今日はエラムの作った朝食を食べて私たちは魔法学校へと向かった。

今日から上級魔法クラスに入れるようになり、目標の空間冷却の魔法に手を伸ばせるくらいになったのだ。

でも残念ながらすぐにとはいかなかった。上級魔法ともなると講義があったのだ。

でも講義の中で面白い話を聞くことができた。

「魔法とは生物が行う奇跡である。反対に魔術とは自然が行う儀式である」

「エラム、魔術って何か規制とかされているの?」

「いいえ。特に規制はされていませんね。ですが未解明なところが多く使い手は希少とされているはずです」

なるほど。特段使っても何かあるわけではないのか。・・・使えないけど。

実際に講義を聞いてみると空間冷却の魔法はただ空間を冷やすというだけの魔法ではなく、実際は空間の温度を自在に操るという物だった。なら温度を上げるために火属性の魔法が必要になりそうなのだが・・・。

なんとただ分類上として氷属性に分けられているだけで実際は火属性も氷属性も必要ないらしい。

一隊これまでの授業は何だったんだろうか・・・。まぁ、簡単に上級魔法から始めたらたるむ生徒も出てくるのだろう。実際空間冷却の魔法の需要は高まっているらしい。主に玉鋼の影響で。

とりあえず空間冷却の魔法の実習に入った。と言っても難しい。

ただ魔法を撃ちだすだけでよかった中級以下とは違い、空間を掌握するというこの段階で詰んでいた。空間を掌握することが空間冷却の魔法の肝らしい。最低でもコップに入った水を凍らせたり、溶かしたりができないとタメらしい。

ともかく魔力をこれでもかとひねり出して空間の掌握を試みたがまったくもって上手くいかなかった。というか参加している生徒の中で誰もできていなかった。そしてそのまま授業は終わりの時間になってしまった。

帰り道。

「うーん。上手くいかないなぁ・・・」

「講師の先生も的確に教えてはくれませんね」

「まぁ入学金だけで学べることは少ないのかもしれないね」

その後はエラムの買い出しに付き合ってそのまま家に帰った。そしてエラムの作った夕食を食べて寝た。

 

朝。今日は依頼を受けようという話だったので久しぶりとまではいかなけど冒険者ギルドを訪れた。

「さて、何か良い依頼は無いかな?」

色々と見て回った結果、良さそうな二つの依頼を見つけることができた。

「一つは村の近くに現れたゴブリンの討伐。もう一つは平野に現れたワイルドブルの討伐か」

「ワイルドブル?」

「主に草原に現れる魔獣ですね。普段は温厚ですが縄張り意識が強く、自分と同じ大きさの生物には見境なく攻撃するという魔獣です。討伐時に残る角は装飾品などに用いられますね」

「なるほど・・・」

「しかしこのパーティーでは火力が足りないな。ワイルドブルはその巨体相応の強さを持つ。ここはゴブリンの討伐に行った方がいいだろう」

「じゃぁ決まりだね」

依頼を決めた私たちは数日分の食糧を買い込んで、出発する明日に備えた。

 

朝。私たちは依頼を出した村へと向かう馬車に乗っていた。なんでも王都に村の近くの山で取れる山菜を加工した食品を売りに来た帰りだとか。でもその後にゴブリンが出たらしく、山へは入れなくなっていて困っていたという。ともかくお尻の痛みに耐えて私たちは二日の旅を終えて硬い荷台から解放された。

私たちは村の人からゴブリンの情報を聞いて件の山に入った。

「高い草ばかりで視界が悪いな。ゴブリンはこういうところに隠れるからな。注意しなければ」

草を分けて進むこと少し。突然小鳥たちが慌てるように飛び立っていった。

「もしやゴブリンか?」

「行ってみましょう」

私たちは小鳥たちが飛び立ったと思われる場所に急行した。そして到着するとそこには確かにゴブリンたちがいた。しかしゴブリンたちは何かを襲っている様子ではあったが、近くに草食動物などは見当たらなかった。

「何をしてるんでしょうか・・・」

「ねぇ、あの少し光ってるのって・・・」

「む、あれは?」

「ともかく今なら奇襲できるよ」

「あぁ、やるぞ」

私たちはゴブリンの背後から奇襲をしかけた。突然現れた私たちにゴブリンたちはなすすべもなく打ち倒された。

「楽に倒せたな。しかし巣があるかもしれん。まだ探索が必要だな」

「うーんこの光は・・・」

私たちは謎の光を放っている物体へと近づいた。

「・・・これは」

光の中心には人型で背中に羽根が生えている存在があった。

「まさか妖精?」

「妖精ってあの?」

「はい。気分屋で人の前にはめったに現れることが無く、深域にしていされている森で何度か目撃情報があるくらいで・・・。そんな妖精がどうしてここに?」

光の主は私たちに気づいたようで何かを喋っているがまったく聞き取れなかった。

「何を話してるんでしょうか?」

「うーん・・・とりあえずお腹減ってない?」

私は収納空間からお菓子を取り出してみて渡そうとした。妖精は最初は怪しんでいたが、匂いを嗅いでみたのかその後すぐに食べ始めた。

「お腹が減っていたんでしょうか?」

「ゴブリンは自分より小さいものや弱いものを襲うからな。それにしてもよく食べるな」

クッキーを食べ終えた妖精は私の顔近くに寄ってきた。

「?」

そして私の額に手を当てると突然光がパチンと出た。

「わわっ?何をしたの?」

そして妖精はそのまま離れると光を生み出して光が消えた時には姿は消えていた。

「一体なんだったんでしょうか?」

「さぁ・・・。とりあえずゴブリン探しの続きと行くか」

その後も私たちはゴブリンの巣を探しまわり、ようやく巣を見つけ、夜にゴブリンたちが寝るために戻ってきたところを一網打尽にしてゴブリンを一掃した。とりあえず巣は殲滅できたので私たちは村へと戻ったのであった。




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第三十話

村に帰った私は村の人たちから報酬とは別にお礼として夕飯をご馳走になってその後空き家の家で夜を超すことになった。

「・・・」

冒険者になって歩いたり、戦ったりして体力は付いたと思ったけどやはりすぐに眠たくなった。そしてぐっすりと寝ているはずだったのだが・・・。

「・・・うん?」

私は眠っていたはずだ。それも山の中の村で。でも起きてみると・・・。

「森・・・?」

目の前、周囲は全て森であったのだ。しかも木には見たことが無いような木の実ばかりが生えていた

何もわからない私のところへ小さな光が寄ってきた。

「あれ?確か昼に会った妖精?」

『そうだよ~』

「わわっしゃべった!!」

『着いてきて~』

何もわからない私は案内されるがままに着いていくことにした。森を過ぎると今度は良い匂いが漂う花畑に入った、森も良い匂いがしたが今の場所とは違うベクトルだった。

「ココダヨー」

連れてこられたところは花畑の中の広場のようなところであった。そこにはたくさんの妖精と思われる光が漂っていた。

『ようこそいらっしゃいました、人の子よ』

「ど、どうも初めまして。えっと何がどうなっているのかわからないのですが・・・」

『今夢を介してあなたは妖精郷にいるのです』

「妖精郷?」

『名前の通り妖精の国です。普通は外部からは入ることはできず、資格が与えられた者にのみ入れる場所です』

「そ、そんなところにいるんですか?」

『昼間は私の娘を助けていただきありがとうございます』

「娘さんでしたか」

『ファティって言うんだー』

『あぁ、私はテルフィーヌと申します』

「わ、私は石川静音といいます」

『ふむ・・・良い目、良い心を持っていますね』

「へ?」

『人の清き心を見たのはいつぶりでしょうか・・・。あなたに妖精郷への鍵を渡します』

「そ、そんな簡単に良いんですか?」

『勝手ながらあなたの心を見せてもらいました。とても心地よい物でした。あなたには妖精郷へ入る資格があると私は決めました』

「もし・・・もしもですよ?その資格にそぐわないことしたら・・・?」

『資格に含まれる呪いで死ぬでしょう』

こわっ!!え、死ぬの?そぐわないって言っちゃったけど具体的なことがわかんないんだけど・・・。聞いたマズイかな?でも怖いよ・・・。

『そう怖がる必要はありません。あなたはあなたのままの生き様でよいのです。それがあなたを善い物だと証明する唯一の事ですから』

「は、はぁ・・・」

『では鍵を渡します』

テルフィーヌさんの手から光の玉が出てきてそのまま私の胸に吸い込まれていった。

『これであなたは念じるだけで妖精郷に出入りすることができます。ただし・・・』

「た、ただし・・・?」

『他人にそれを話すのは構いませんが例えあなたと一緒にいてもその者は妖精郷に入ることはできません』

「そ、そうですか・・・」

エラムやリーシャさんにも見せてあげたかったけど残念だ。

『もうそろそろ夜が明けますね。それではまた会いましょう』

その声が聞こえるや、周囲の視界はぼやけていった。そして・・・。

「・・・夢、のはずなんだけど・・・夢じゃないんだよなぁ・・・」

ちょっと気になってステータスプレートを見てみたらスキル欄に≪妖精の祝福≫というのが追加されていた。

寝ぼけた頭が冷静になった。一体私のままの生き様ってなんだろうか?まったくわからない。ただ悪いことはしないように肝に銘じておこう。

「シズネー村の人が朝食を作ってくれましたよー」

私はそのまま村の人から朝食を貰い、腹を満たした。そして村の人に見送られながら私たちは村を出発した。道中お尻が痛いのは毎度のことであった。

そして二日の旅を経て私たちは王都へと戻ってきた。

「やはり王都は人が多いせいか活気に満ちてますね」

「王都の活気もいいが村特有の活気の方が落ち着くと思うな」

色々としゃべりながら私たちは自分たちの家に帰ってきた。

「うーん・・・少し掃除しないとだね」

五日ほど留守にしていたせいか少し汚れが溜まっているように思えた。とりあえず今日は休むことにして明日掃除をすることにしたのであった。




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第三十一話

朝、起きて朝食を食べる。そして先日依頼をこなしたばかりなので私とエラムは魔法学校にいくことにした。

私自身、≪妖精の祝福≫を試してみたい気持ちもあった。ヘルプには『魔力の扱いに補正がかかる』とあった。これは魔法の扱いが上手くなるという解釈でいいのだろうか?ともかく試してみなければわからなかった。

とりあえず講師の先生の講義は耳半分に聞き流して実技の時間になった。私はコップの水を目標に空間冷却の魔法を使おうとした。すると・・・。

「シズネ!!コップの水が!!」

ついにコップの水が凍り始めていたのである。ふと見ればコップの周囲を透明な水色の立方体が覆っていた。これは玉鋼を作った時に見たことがあった。ついでに少し大きくしようと意識してみるとそれに応えるように立方体の大きさも大きくなった。

「よし、これで習得できたかな?」

その後も時間いっぱい練習を続けてコツを得ることができた。これで自分一人でも玉鋼を作ることができるようになれた。今日の帰り道はかなり気分良く歩くことができた。その後は夕食を食べてすぐに寝た。

 

そして次の日の朝。私は以前レオ王子から貰ったリストを手に鉱石を扱っている店を訪れた。

「あのー、ここって鉄鉱石を扱ってるんですよね?」

「あぁ、あるぜ。しかし嬢ちゃん、何に使うんだ?」

「えぇっと、これでも鍛冶師なんです」

「嬢ちゃんが?こりゃ驚いた。んでどれだけ必要だ?」

とりあえず以前玉鋼を作った時と同じ量を注文した。店の店主さんは驚いていたけどすぐに手配してくれることになった。届くまでに三日ほどかかるらしい。

次に木炭を扱っている店でも同じように注文した。それから粘土を扱っている店でも炉に必要な粘土を購入した。これらは全て私の工房に届けてもらえるようにしてもらったのでちょっと値が張ってしまったがしかたがない。とりあえず必要な物は全て購入し、これで自家製玉鋼を作る準備が整った。後は材料が届くのを待つばかりであった。

 

そして次の日。木炭が到着するまでに五日はかかるそうなのでそれまでは時間が空いてしまった。三人で相談した結果、依頼を受けることにした。そんなわけで冒険者ギルドを訪れたわけだ。

「ふむ・・・ちょうどいい依頼というのは中々見つからないものだな」

「ランクが高かったり、報酬が少なかったりと色々ありますからね」

「うーん。王都は人の出入りが多いから依頼も当然多いけど色々あるなー」

結果絞りに絞った結果、三つの依頼が残った。

「まずは恒例のゴブリン討伐。それから街道近くに現れたというウィールドマンムト」

「ウィールドマンムト?」

「象によく似た大型の装飾動物ですね。気性は温厚で体も大きいので並みの肉食動物では歯が立ちません。ですが繁殖期になると縄張り意識が強くなり人や動物を襲うようになるんです。おおよそこの依頼のウィールドマンムトも繁殖期に入っているのでしょう」

「図体がでかい相手か・・・私たちだけじゃ火力足りないんじゃないかな?」

「確かにそうだな。聞いたところじゃ大抵6.7人で討伐するのが通例らしいから半分の私たちでは無理な話だな」

「後はオークの討伐ですね」

「オーク・・・オークかぁ・・・」

「数は2,3体ほど。これなら私たちでも倒せそうだな」

「強さでは岩熊よりも弱いと聞くので大丈夫でしょう」

「じゃぁ、オーク討伐で決まりだね」

依頼を決めた私たちは数日分の食糧を買って、明日に備えた。

 

次の日。私たちはまた馬車での旅をしていた。王都には王国中からいろんな依頼が集まるわけで王国の端っこから依頼が来ることもあるそうだ。

取り合えず今回は近い場所なのでそれほど辛くは無さそうだった。

一日半、馬車に揺られて私たちは依頼を出した村に到着した。村長から話を聞いてオークの数は三体だとわかった。とりあえず今日は空き家に泊まらせてもらって明日討伐に行くことにした。

 

次の日。私たちは村を出て森を歩いていた。オークはゴブリン同様肉食で主に草食動物を狩り、時には肉食動物すら狩るという。ただ、魔獣の中では珍しく現れる個体数が少ないという点がある。これはどういった理屈なのかはわからないが戦う側としてはありがたいものである。

「地面に大きな足跡があるな。大きさからして人型。だが人間にしては大きすぎる。間違いなくオークだな」

私たちは地面にあった足跡を頼りに森を歩いていく。そして歩くこと少し。少しずづではるが何かの足音が聞こえるようになってきた。

「これは近いぞ」

唸り声が聞こえた私たちはこっそりと茂みから覗いてみた。するとそこには緑色の肌をした大きな人型が三体いた。

「見つけたぞ」

「うわぁ・・・結構大きいね」

「私とエラムで二体引き付けるから一体をシズネ、頼む」

「OK」

「行くぞ!!」

私たちはリーシャさんの号令の下、茂みから飛び出した。それに気づいたオークが咆哮を上げて武器を振り回しズシンズシンと歩み寄ってくる。

私は二人から離れつつ、一体に向けて『アイスアロー』を放ち注意を引いた。一体が武器を振り回して歩み寄ってくる。他の二体はリーシャさんめがけて進んでいた。

身長は3mほどあるだろうか。とりあえず私はオークの木でできているであろうこん棒の大ぶりな一振りをを避けて、そのまま肉薄。膝の裏を切り裂いてオークの態勢を崩す。膝をついたオークの頭がちょうど目の前に来て、そのまま私はオークの首をはねた。

そして一体のオークを倒した私はそのままリーシャさんを襲うオークの一体に狙いを定める。同じように膝の裏を切り裂いて態勢を崩させ、下りてきた首を突き刺し、切り裂いた。残りの一体も同じようにして倒した。

「これで片付いたな。」

「リーシャさん大丈夫?かなり大きな音がしてたけど・・・」

オークのこん棒の一振りがリーシャさんの盾に当たるたびにすごい音を出していたのだ。

「あぁ、結構腕に響いたぞ。まぁ、それでも問題はなかったな」

私たちはオークの魔石を拾ってその場を後にした。村に帰ってきた私たちは村長から依頼達成の印を押してもらい、一泊してから王都に戻るのであった。




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第三十二話

王都から帰ってきて一日が経った。今日は注文していた材料が工房に順々に運び込まれていった。朝からずっと材料店の人にあれこれと指示を出して昼を迎えた。私は昼食を取ったらすぐに運び込まれた粘土と煉瓦で炉を作り始めた。煉瓦を積み、その上から粘土をペタペタと塗っていく。流石に大きさのせいもあってかそれだけで一日が終わってしまった。

そして次の日。今日は炉に木炭と鉄鉱石を入れていった。炉の下半分は木炭で埋めて、その上からは鉄鉱石と木炭を交互にサンドしていく。こっちも量はあり、さらに重い。しかし手は一つ。これも一日を費やしてしまった。日が暮れようとしているわずかな時間と光を頼りに完成していた炉に鞴を設置していく。これで炉の準備はできた。

そして次の日。忙しかった昨日一昨日とは違って今日は別途でぐーたらしていた。これも訳があるんだよ?

これから三日間寝ずに炉の火と格闘しなければならいのだ。だからそのための鋭気を養っているのだ。けっして怠けてなどいないのだ。

そして勝負の日、一日目。私は炉に火を入れ作業に入った。一人でえっさほっさと木炭と鉄鉱石を運んでは炉に放り込む。それをずっと繰り返す。

 

 

≪ここからはまったく同じ工程を第九話に書いてありますので気になった方はそちらをご覧ください≫

 

ずっと炎を見て作業をしていて三日が経った。後は炎が炉の下部分に置いた木炭を使って燃焼し終えるのを待つばかりであった。次第に炎が弱まってくるとこれまで頑張ってきてくれた炉を壊し始める。炉の一部分を壊すとそこから煌々と赤紫の光を放つ物体が見えてきた。これが玉鋼だ。それも自分の力で作った初めての物だ。後は炎が完全に消えるのを確認してから私は休むことにした。

 

次の日。気だるい体を動かして私は炉のところへ向かった。そこには炎が消えてなお熱気を放っていた玉鋼があった。その空間に対して私は空間冷却の魔法を発動させる。玉鋼を作る前にあらかじめどれだけの範囲を冷やすことができるか確認してあるので絵問題はなかった。できるだけ長時間発動させるために色々と創意工夫を凝らしてみた。そして何とか一日を費やして何とか熱気を抑える程度には冷やすことができた。でもまだ近くによると熱があることがわかる。まだまだ闘いは終わりそうになかった。

 

次の日も私は玉鋼に対して空間冷却の魔法をかけ温度をゆっくりと冷やしていた。そしてまた一日を費やして魔法をかけているとようやく触れても大丈夫なくらいになっていた。私はこれで一工程が終わったと思い、家に戻り眠った。

 

次の日。私は鏨とハンマーを持って鉧から鋼を採掘していた。今回は太刀ではなく長巻を作るつもりだった。ゴブリンなどと戦って分かったのが太刀では槍を持った相手や自分より巨大な相手と戦う場合、、肉薄しなければならないのだ。ならばこちらもリーチを伸ばして対抗しようという考えの下始めたのであった。

玉鋼は聖剣鍛錬に使った聖なる玉鋼がまだ十分にあったがあれは使うと色々と問題が起きそうなので玉鋼から独力で作る必要があったのだ。

そして一応の必要量よりちょっと多いくらいの鋼を採掘し終えるとそれを工房に運んだ。

 

私は炉に火を入れて採ってきた鋼の破片を炉に入れて熱する。十分に熱せられたとみるとそれを取り出してハンマーで叩いて伸ばしていく。煎餅のようにしたらそれを水で急速に冷却する。それを採ってきた鋼全てをこの形にしていく。それが終わると煎餅状になった鋼を割っていく。ここですぐに割れる物と何度か叩かないと割れない物に分かれる。それを分別していく。すぐに割れる物は炭素量が多く硬く、割れにくい物は炭素量が少なく柔らかいという。

それを分別し終えるとまずは刀の表面を形成する皮鉄を作っていく。これには硬い方の鋼を使う。

割れた鋼をパズルのように組み合わせて塊を作り、これを紙で包んで固定させる。それを炉に入れて熱する。十分に熱せられたら取り出して叩いて欠片の鋼を一つの塊にしていく。そして再び炉に入れて熱する。

次に折り返し鍛錬に入る。十分に熱した鋼を取り出して叩いて伸ばし、半分あたりで割れ目を付けて半分に曲げて重ねる。そしてそれを熱して再び叩いて伸ばして割れ目を付けて曲げて重ねる。それを今回は

15回繰り返した。長巻ともなると元々の塊も大きくかなりの重労働である。本来ならこれはお弟子さんたちと叩いてするのだが、私には転移したときに貰った≪材料さえあれば好きな武器を作ることができる≫のスキルによって一人でも作業をすることができていた。

折り返し鍛錬が終わるとあらかじめ頼んでおいた特製の台に合わせて叩いていく。この台は台座にVの字の枠が取り付けてあり、これで心鉄を包む皮鉄の形を作ることができるのだ。

皮鉄の鍛錬が終わる頃には日も暮れて来ていたので作業を中断する。

 

そして次の日。今度は刀の中心を形作る役目の心鉄を作る。これは柔らかい鋼を使う。

工程は皮鉄の時と同じことを繰り返し行う。

そしてできた心鉄を皮鉄で包み合わせてまた炉に入れて熱する。そして十分に熱せられたと思うと炉から出して叩く。ここからは鍛錬と違って刀の形を作るために伸ばしていく。今回は長巻なので結構長く伸ばした。刃の大きさもさることながら、柄の長さもかなりの長さになる。そして十分に伸ばしたら今度は部分的に熱していき、そこを叩いて刃の形を整える火造りを行う。入念に叩いて刀の形を形成していく。

 

火造りが終わるとここで一旦炉とはおさらば。まだこの状態の刀身は叩いて伸ばしただけでその跡とも呼ぶべき斑があり、面は平らではない。これを鉄ヤスリで磨いて面を綺麗にしていく。

ヤスリで磨いた後は粘土や炭、砥石の粉に水を混ぜて作った焼刃土を塗る土置きをしていく。まずは刀身全体に土を塗っていき、次にこの後に行う焼き入れで波紋を作るためにちょっと分量を変えた焼刃土を紋様を描くように重ねて塗っていく。

土置きが終わるとまた炉と格闘することになる。といってもこれが最後なのだが。刀身を熱し、十分に熱せられたと確認するとそれを水につけて急速に冷却する。これで完全に炉での作業は終わった。

っそいて気がつけば日も暮れていた。今日はここまでで終わることにした。

 

夜が明けて次の日。今日はまず刀身を磨いていく。まだ焼き入れが終わった段階では波紋や地鉄の色は出て来てない。これを研ぐことによって波紋などが出てくるのだ。何度も砥石を変えたり研ぎ方を変えたりして三日ほどかけてゆっくりと磨いていく。そして三日目にしてようやく波紋が浮き出てくれた。そして作業が終わるころには始める前は無骨な鉄の棒だったものがピカピカに光を反射し綺麗な波紋を持つ刀身に仕上がった。

そして刀身を磨き終えた次の日。今日は刀の持ち手、柄や鍔を作っていく。別段見た目は重視するわけでもないので簡単に済ませる。まず刀と一緒に作った鎺をはめる。これは銅を熱して加工したもので鍔などの柄の上部分の留め具になる。次に同じく刀と一緒に作った鍔をはめる。次に二枚の木を合わせて柄の握りを作る。それを鉋で削って柄の形に整える。そして次にちょっと硬い熊の皮を柄の部分に巻いていく。そしてその上から紐で結んで柄の端っこを留め金で留める。これで刀の部分は完成した。そしてすでに紐暮れ始めていたのでここで作業を中断する。

次の日。今日は鞘を作る。といっても今回は太刀と違って刀身がかなり長い長巻のため、鞘は刀身に合う溝を彫っただけのものにする。角材から刀身が入る部分を彫っていく。この時峰の部分は全部彫ってしまう。これで上から入れるように納刀できるようになる。そして彫り終わった鞘を刀身に合わせて実際に納刀できるか、そしてきっちりはまるか試してみる。今回もスキルの補正があってか上手く作ることができた。これの上からなめした牛の革を巻いて鞘を保護する。これでようやく全てが完成した。

実際に納刀、抜刀を繰り返し、振り回してみる。太刀より長い分遠心力に頼って降るためかなり力を使う。とりあえずやってみた感じ不具合は無いように思えた。実際に木を切ってみても綺麗に斬ることができて刃も鋭くできているように感じた。

玉鋼の製造からおよそ十日の日数をかけてようやく完成した。食事の時と休憩の時以外はエラムとリーシャさんと話していなかった。そして今日は自信作の長巻を手に二人のところへ向かった。

「ようやく完成したか。鍛冶は時間がかかると聞くが同居人が忙しなく動いているのを見ているだけというのは中々居心地が良い物ではなかったな」

「それが完成した剣ですか」

「そうそう。自信作だよー」

実際に抜いてみて二人に見せてみる。

「これは・・・シズネが使っている剣には模様が浮かぶ者なのか?」

「ピカピカで綺麗ですね。それに持つところも剣と作りが違うような・・・」

「切れ味のほどはどうなんだ?」

「特に力を入れずに木を斬ることができたよ」

「切れ味も抜群。美しさもかなり上のレベルになるだろう。貴族相手に売り込めばかなり儲けれるかもしれないぞ」

「うーん・・・。作り手としては使われてこそだからなぁ・・・観賞用は、まぁ頼まれたら作るくらいかな?」

「しかし槍のように長いな。これなら大型の魔獣でも相手取れそうだな」

「うん。一日休んだら依頼を見てみよう」

こうして久しぶりの談笑に花を咲かせるのであった。




ありがとうございました。コメントで意見や感想を頂けるとと幸いです。
刀の製法には色々と文句が出そうですが知りうる限りの知識を使って書いたつもりです・・・。
どうかご容赦のほどをよろしくお願いいたします・・・。
そして投稿し忘れていた十三話も同じく投稿しました。そちらもよろしくお願いいたします。


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第三十三話

新しく長巻を作り終えて一日が経った。今日は長巻の試し切りも含めて依頼を受けようということになったので私たちは冒険者ギルドを訪れていた。

「依頼はリザードマンの討伐とゴブリンがあるがゴブリンは森や洞窟の可能性もある。長い物を振り回すには適してないだろう」

「なら沼地のリザードマンでしょうか?」

「大型の魔獣は私たちじゃ無理そうだしそれが無難かもね」

ということでリザードマン討伐に行くことになった。いつも通り食糧を数日分買い込んで次の日を待った。

 

次の日の朝。私たちは依頼を出した村へと行く馬車に乗って馬車の旅に入った。前回リザードマンを討伐した村と近い位置にあるらしく、どうやらリザードマンが出た沼地は同じ沼地だそうだ。リザードマンは水辺を好む習性があるらしく、沼地や川沿い、海辺などに現れるらしい。

馬車に揺られること一日半。ようやく村に着いた。村に着いた私たちは詳しい話を聞くために村長さんのところへ向かった。

「なんと・・・来てくださったのは三人でしたか・・・」

「何か不都合なことでも?」

「依頼したリザードマンなのですが・・・数が多いのですよ」

「具体的には?」

「雄が最低でも15は超えるかと・・・」

「多いな。ここは引き返すのも悪くはないと思うが?」

「大丈夫です。シズネに新しい力ができたように私にも新しい力がありますから」

自身気にエラムがそう言った。

「まぁ、やってみようよ」

話を聞いたうえで私たちは挑戦することを選んだ。武具を整えて私たちは沼地へと向かった。

沼地はぬかるんでいて走るのにはあまり適していない場所だったが、走れないということではないようだった。

進んでいって少し、平らなはずの沼地に建物らしきものが見えてきた。そしてゆっくりと近づいてみるとリザードマンが数体出てくるのが見えた。全員武器を持っていることから、どうやらこちらが近づいてきているのに気付いたらしい。

「いつものように私が引き付けてから倒すか?」

「いや、私が突っ込む」

私は長巻を抜刀し鞘は収納空間に直して長巻を構えて走り出した。それに気づいたのかリザードマンたちも走り寄ってくる。私は刃を地面に添うように構えてそのままリザードマンが間合いに入った瞬間振り抜いた。一閃でリザードマンは斬られ倒れる。そして返す刀で私の攻撃の隙を突こうとしていた二体のリザードマンを一気に薙ぎ払った。そしてさらに踏み込んで一体のリザードマンめがけて突きを放つ。長巻のリーチなら太刀以上の間合いから突きでも攻撃ができるのだ。出てきた五体のうち四体を即座に仕留めることができた。

「ガァ!!ガァ!!」

そして残ったリザードマンは何かを伝えるように鳴き始めた。すると住処と思われる建物からわらわらとリザードマンが出てきた。

「シズネ!!さすがにその数は無茶だ!!加勢する!!」

「私も新魔法を使います!!」

エラムの杖が赤く光る。

「≪ファイア・マシーネンゲヴェーア≫!!」

エラムの杖から火の玉がこれでもかという数が撃ち出されていった。さながら機関銃の様相であった。撃ち出された火の玉は次々とリザードマンの皮膚を焼き、ダメージを与えていった。熱に弱いとも聞いていたので有効打だろう。現に武器を構えることすらおぼつかない様子であった。

「≪アトラクト≫!!」

リーシャさんが盾を光らせリザードマンを引き付け始めたのと同時に私もまた長巻を構えて突貫する。

今度は端から片付けることにした。エラムの魔法で怯んでいるおかげで楽にこちらの間合いに入ることができた。長巻を振るえばリザードマンが倒れる。仲間が倒れるのを見て力を振り絞って戦いを挑もうとする個体もいたが気にも留めずに次々と斬払っていった。そんなことを考えていては手が止まってしまうからだ。そうして長巻を振るって出てきたリザードマンを全て片付けた。

残るは一番気が滅入る住処の探索である。

「グァ!!」

やはりいた。十体ほどの雌の個体が三体の雄の個体に守られていた。同情していては握る刀も緩んでしまう。だから私は心を鬼にして残っていたリザードマンを全て斬った。気分は到底良いものではなかった。

住処の探索と魔石を拾って私たちは沼地を離れた。

村に帰ってきて村長さんに討伐の証である魔石を見せて依頼完了の印を貰い、そのまま一泊させてもらった。そして次の日私たちは王都に帰った。




ありがとうございました。コメントで意見や感想を頂けるとと幸いです。


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第三十四話

依頼が終わって王都に帰ってきて数日。私はウィリアムさんに稽古をつけてもらっていた。

長巻も使うようになったため実践的な訓練を積みたかったのだ。道具は使ってない兵士さんの槍を用いて大体の鍔の位置に紐を巻き付けて刃と柄を分けていた。

ウィリアムさんは相変わらず訓練用の木剣を使っている。本来の獲物は大剣なのにかなり使い慣れているようだった。だって速いんだもん。超速いんだもん。

こちらが少しでも攻めを緩めたら怒涛の如く剣閃が襲ってくるのだ。

「ここまでにしようか。疲れただろう?」

かれこれどれだけの時間、稽古に費やしたのだろうか?とりあえずのどが渇いたので水を飲む。

「しかしシズネの作る武器は変わっているな。あんなにか細いというのに切れ味は恐るべき鋭さを持ち、そして硬い。まるで手品でも見せられているようだ」

実際にウィリアムさんに長巻を使ってもらったところ恐るべき威力をたたき出したのだ。人類が到達できる最高点と言われる赤い闘気を合わせるとこの王国で使われている鉄鎧を鎖帷子ごと一刀両断してしまったのだ。それを見た時はなんと恐ろしい物を作ってしまったのかと思ってしまった。

「それにしても不思議なことはまだある」

「?」

「あれだけ経験を積んだんだ。初めの段階の白の闘気を使えるようになっていてもおかしくはないのだがね」

かれこれ色々と依頼で討伐をこなしてきたのだが私には一向に闘気の兆しが見えていなかったのだ。言われてはじめて気づいた。

「闘気ってあるとそんなに変わるんですか?」

「あぁ。今までは切断できなかったものでも切断できたり、打った武器の破壊力が上昇したり。段階が上がれば肉体の運動自体に影響してくる」

「ほえー・・・早く使えるようになりたいなぁ・・・」

「シズネの刀が強すぎて成長を阻害している・・・そのようなことは無いか」

とりあえず当面の目標は闘気が使えるようになることにした。

「やぁ、やってるね」

そんなところにレオ王子がやってきた。

「これは殿下」

「む?シズネ。槍なんて使ってどうしたんだい?」

レオ王子、こういうところにはすぐ気づくんだ・・・。

「えぇっと・・・新しい武器を作ったのでそれの練習を兼ねて・・・」

「へぇ・・・新しい武器ね。見せてくれないかい?」

「はい」

私は長巻を出して見せた。

「うん?こんな長さじゃ鞘から抜けないんじゃないかい?」

「はい。なので鞘の上の部分自体をくりぬいて上から抜刀するようにしてみたんです」

「なるほど・・・おぉ、これまた美しい刃だ」

レオ王子は知る人ぞ知る剣マニアなのだ。

「なるほど。これなら大型の魔獣や攻撃範囲が大きい魔獣に対しても戦えるという訳か。しかし何も知らない者から見ればただの鉄の棒にしか見えないかもな。戦場ではいい目くらましになるかもね」

そう言われて私は嫌な感じがした。自分の道具が生き物、それも人間を殺す。そのことを考えると胸が痛くなる。

「と言っても君の考え通り戦道具にはしないさ。君が作るのは魔獣を狩る道具であり、人を殺める道具ではないのだろう?」

レオ王子もまた私の心中を察してくれる人物であった。

「お心遣い、ありがとうございます」

「でもこれには良い方の鋼を使っていないようだね。良いのかい?戦いの道具で手を抜くと後々厄介なことになるかもしれないよ?」

「あの鋼は私だけで作った物ではありません。有事の際にのみ使うつもりです」

「そっか。君がそう考えているのならそれでいい。さて、休憩も済んだようだし、俺も混ぜてもらおうか」

そこからはレオ王子も混ざって稽古を再開することになった。ウィリアムさんほどではないがそれでもレオ王子も強い。私にはいい経験になったと思う。

稽古が終わった後、少し雑談をすることになった。

「シズネ。君のところの工房、いつ開くつもりなのかい?」

「うーん・・・依頼とかで店を開けることもあるので継続的に開くのは難しいですね・・・」

「なら弟子を雇ったらどうだい?王国級鍛冶師、それも全く見たことがない剣を作る鍛冶師の弟子募集ならすぐに集まるだろう」

「うーんそうですね。ちょっと考えてみます」

「しかしシズネ。君が作る武器は誰でも扱えて性能も良い。それを安易に作るというのも考え物だと思うがね」

「そうなんですよね・・・やっぱ普通の剣を打つ方が良いんでしょうか・・・」

「信頼できる冒険者などを見極める目が必要になるだろうね。名の売れた冒険者が求めてきたら打つとか」

ウィリアムさんもレオ王子も色々と案を出してくれた。それらを踏まえて色々と考えてみようと思う。とりあえず一日使って考えてみる。経営といっても仕入れ、お弟子さんの給料、商品の値段と色々とある。考えることは山ほどあるかもしれない。元高校生が考えれる物ではない。しかし私にはこういうことに詳しい人の伝手が無いのだ。だから自力でなんとかしなければならない。そこでふと気づいた。

「ケミルさんに聞いてみよう」

私の始まりの地。ゲーンの鍛冶師、ケミルさんがいたのである。




ありがとうございました。コメントで意見や感想を頂けるとと幸いです。


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第三十五話

私は数日の馬車の旅を経て私の初めての町、ゲーンを訪れていた。

「うーん・・・やはり王都の街並みを見るとここは静かに思えるなー」

最初に町に来たときはその活気に心躍ったものだが王都に行ってみればそれは上書きされてしまった。

そして私はしっかりと覚えている足取りでケミルさんの店に向かった。

「すみませーん。ケミルさん、いらっしゃいますかー?」

「うん?誰だ?おぉ、シズネじゃないか」

店の奥のカウンターからのっそりと顔を出したケミルさんは私を見るなり懐かしい物みたような顔つきで出迎えてくれた。

「いやぁ、剣聖様に連れていかれたとは聞いていたが・・・うん、最初に合った時のひよっこのような雰囲気は無いな。少しは場数を踏んだようだな」

「はい。王都で色々と依頼を受けたんですよ」

「それで?王都にゃ足りないものなんてほとんどない。それなのにどうして小さな町の寂れた店にやってきた?」

「えぇっと・・・私も王都で店を始めようと思っていまして」

「おぉ、ついに店を出せるまでになったか。そうかそうか・・・」

「それでケミルさんに聞きたいことが会ってきたんです」

「ほうほう、俺にか」

「えぇっと、ケミルさんってお弟子さんとかって雇ったことあります?」

「なるほど、そのことか。うーん・・・話せば長いが、聞くか?」

「はい。町で茶菓子を買ってあるのでゆっくりと」

「ほう・・。では話すとしよう。まず俺が見習いだった時の話だ」

俺は小さな村の農家の生まれだった。それでガキの頃から親と一緒に畑を耕して暮らしていた。

それで村には時々旅の商人が訪れて旅の話を聞かせてくれるんだ。

その話の中に鍛冶師の話が合ってな。王様直々の依頼を受けて見事な剣を作ったとか・・・そんな話だったっけな。

それでその話を聞いて心躍ったもんさ。鍛冶師になれば名も売れて名誉も手に入る。そう聞いた俺は親の反対を無視して家出ようと決めた。

ツテもねぇ金もねぇ俺は王都に向かう商人が来るのを待って、ソイツに頼み込んで王都まで連れて行ってもらったのさ。

始めてきた王都の活気には興奮したもんだ。それは今でも覚えている。

んで俺は鍛冶屋を巡って弟子入りを志願して回った。だがどこも受け入れてはくれなかった。

当然だ。出自もわからねぇよそ者はどこかの密偵扱いされるのが当然だった。だが当時の俺はそんなこと知る由もなかったのさ。

そして最後の一軒、そこはここのように寂れた店だった。それでも俺は鍛冶師になるために弟子入りを志願した。

そしたらそこの店主はすぐに俺の弟子入りを認めてくれた。何件も回って断られた俺は当時呆気にとられたもんさ。

ただその日から俺の鍛冶師としての生活が始まった。最初はずっと鉄鉱石を見て品質を調べるところから始まった。一日中ずっと鉄鉱石を睨んで良し悪しを見極めた。

当然最初はまったくわからねぇわけだ。だが俺のお師さんは叱ることなく丁寧に教えてくれた。

そんで一か月ぐらい過ぎたころか。ようやく俺は≪鉱物鑑定≫のスキルを手に入れることができた。

そこから俺は剣を研磨の練習を許可された。お師さんが昔に打った物や王都で生活する人たちが使う包丁などを研いで練習したもんさな。

当然これも最初は上手くいかなかったものだ。だがここでもお師さんは叱らずに丁寧に教えてくれた。

んで三か月ぐらいたったら一人前のように物を磨けるようになったわけだ。

そこからやっと槌を持って鉄を打つことを許可された。

最初は生活に使う包丁などを打ったな。まぁこれも最初は上手くはいかなかった。

というか俺は当時まったく気づかなかったんだが、鉄を打って何かを作るってのは高度でかつややこしい技術の扱いだったらしい。王都では鉄を溶かして型に入れる鋳造が主流でな。これなら型通りの形にできて後は研げば形になるからな。

だからお師さんの店は特殊だったわけだ。ただ鋳造品と実際に鉄を打って作ったものじゃ耐久性が全く違ったんだよな。鉄を打って作った方が何倍も強固だった。それでも日々の生活に使うなら鋳造品のほうが金銭的に有利だった。武器も消耗品だから初心者冒険者には安い鋳造品の武器が売れていたな。

だがお師さんは断固として鋳造製の物を作らなかった。俺もそんなことは当時知るわけがないから普通に鉄を打っていた。

んで一年くらいしたらお師さんから一人前だと認められたわけだ。一年鉄を打っている間に百とまではいかないがそれなりに鉄を打った武器を求めて来る冒険者がいた。

どうやらお師さんは知る人ぞ知る腕利きの鍛冶師だったらしい。

んで一人前になった後、どうするか考えていたらお師さんから店を継がないかと言われたんだ。

すでにお師さんも年でな、後継者もおらず、そんな時ひょっこりと俺が現れたって訳だ。運の良い話だろ?

それで俺はお師さんの店を継ぐことになった。それからはお師さんの武器を求めてやってくる冒険者相手に四苦八苦したもんだ。お師さんの武器に負けない武器を打って訪れた冒険者を何人も納得させたものだ。んで日を重ねるごとに訪れる冒険者の顔も増えていった。

どうやら鋳造製の武器が長持ちせず、鉄を打った武器が長持ちすることがようやく知れ渡ったらしい。

んで実際に鉄を打って作っている王都唯一の店に客が集まったのさ。

「ちょっと話の腰を折るが、お前さんは鋳造製の武器がどうして長持ちしないかわかるか?」

「うーんと・・・鋳造品はそのまま鉱石を溶かすんですよね?その時に鉱石に含まれる不純物も一緒に武器に組み込まれるからそれが耐久性を弱めてるはずです」

「その通りだ。俺は何年もかけて鋳造製と鉄を打った武器を比べて研究した。そこで鉄を打って作った武器には鉄以外の鉱物が含まれていないことがわかったわけだ」

んで話を戻すが、客が増えれば当然減る店もあるわけだ。んで年月は過ぎてとうとうお師さんも亡くなってしまった。お師さんの遺言で遺骨は故郷の村に送られた。んで店は俺一人きりになった。そんなところへ次々と弟子入り希望がやってきた。

俺はお師さんがすぐに受け入れたように弟子入り希望の奴らを受け入れた。弟子たちは俺の仕事を見て学んですくすくと育っていった。だがそいつらは鍛冶師になりたくて俺に弟子入りしたわけじゃなかったのさ。

「え?」

つまるところ密偵だったわけだ。技術は教わって伝わるものだ。普通は商品のように売り買いするもんじゃない。王都で唯一鉄を打って作る武器を求める冒険者は増えた。だが今まで鋳造製の武器で稼いでいた店は結果、稼ぎを俺に取られたことになるのさ。

だから他の店は寄る辺がなかったり金に困ってる奴らを焚きつけてお師さんの技術を盗み出したわけだ。

それを知った時はショックだった。技術ってもんは人が人に教えて伝わっていくもんだ。決して交渉などには使ってはいけない。そうお師さんに教わった。それから他の店は良い鉱石を使っているとか宣伝を使って稼ぎを取り戻していった。最初は常連の冒険者がウチの商品を使ってくれていたが次第に人は離れていった。

そして俺は王都での鍛冶師としての立場を追われた。

「それでどうなったんです?」

「なんとか伝手を頼ってこの町に店を開いて暮らしている。鍛冶屋がいない町を条件に色々と探してもらった。俺はあの出来事から学んだ。人を信用するの良いことでもあるが、信用した人間がどう考えているかまではわからない。信用は金よりも軽いってな」

「・・・」

「すまないな。これから店を開いて頑張ろうってやる気のある奴に話すようなことじゃなかった。だが知ってほしかったんだ。誰にも俺と同じような失敗はしてほしくないんだ」

「いいえ。とても貴重なお話でした」

「そうか・・・そう言ってもらえると助かる。ただな、シズネ。お前の持つ技術は必ず世間を騒がせる。だから信用する人間を見極める目を持つことだ。といってもこれは経験が無いとダメなんだがな・・・」

「ありがとうございました。今日のお話は胸に刻んでおきます」

「そうかい・・・ほかに聞きたい話はあるかい?」

「うーん・・・お弟子さんの話を聞いたらなんか聞きづらいですね・・・。お弟子さんとどういうことをしていたのかを聞きたかったんですが・・・・」

「ん、そうだな。お前さんが教わったように教えればいい。それが一番教えやすいからな」

(・・・どうしよう。私の技術って転移をする代わりに貰ったものだから教わったわけじゃないんだよなぁ・・・。どうしよう)

「色々とありがとうございました」

「何かあったらまた来るといい。相談になら乗ってやる」

「わかりました。何かあったら頼りにさせてもらいますね」

そう言って私はケミルさんの店を出て、王都に帰ることにした。




ありがとうございました。コメントで意見や感想を頂けるとと幸いです。
ちょっと静音の出番が少ないのでもう一話投稿しました。


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第三十六話

ケミルさんから話を聞いて、王都に帰ってきた私はまず看板屋さんに足を運び、店の看板と複数の看板を注文した。

そして数日後、私の工房に看板を付けに来てくれた。

「おい、シズネ。店の看板はともかく、こっちの看板は・・・」

「流石に収益が出ていないといのに弟子を募集するのは・・・」

「いいの。決めたことだから」

こうして看板が取り付けられて明日にも開店の準備が進められていった。

 

そして次の日。私の工房・『シズネ工房』がオープンした。そして店先の小さな看板にこう書かれていた。

『お弟子さん募集』と・

お客さんを呼び込むために冒険者ギルドの方にも話をして広告を出させてもらった。それなりに取られはしたけどね・・・。

三人で店を開いた後、エラムは魔法学校にリーシャさんは訓練所に出かけて行った。私は店のカウンターにちょこんと座っていた。

そして日が沈むまで店にいたけどお客さんは誰一人として来なかった。

「まー当然だよね。どこで技術を学んだとも書いてない一切不明な店なんだから来る人いないよね」

そうして私は店を閉めた。

 

そして次の日。今日も私は店を開いてお客さんが来るのを待った。

そして昼過ぎ。ちょっとウトウトしていた時、店のドアに着けている鈴がなった=つまり誰かが工房を訪れたことになる。

「い、いらっしゃいませ!!」

「やぁシズネ。ようやく店を開いたようだね」

シズネ工房のお客様第一号はレオ王子だった。レオ王子が来てからはレオ王子の相手でつきっきりだった。

「シズネ。広告は出しているようだけど、君が作る特殊な剣は宣伝には使わなかったのかい?あれなら武器だけじゃなく美術品としても売れるだろうに」

「刀は商品にするのはまだ止めておきます。あれは特殊ですから。まずは普通の武器を売って様子を見ようと思います」

「ふむ・・・なるほどね。ウィリアムの意見の通りか。まぁ冒険者が人間を相手取るとなると盗賊が主になるが・・・冒険者自体が盗賊になる可能性もあるからな。色々と考えるのは普通か」

それからレオ王子と少し雑談をした後、レオ王子は帰っていった。ただ一つ大事なことを言ってくれた。

「そう言えば店を開いたのは良いけど、君、商品の見本となる物、おいてないじゃん」

「・・・あ」

そう、店は開いたのはいいものの、実際に売る商品を作ってなかったのだ。

そう言われて私はすぐに工房の奥に入った。炉に火を入れて玉鋼を作った炉がある庭(仮)で鉧から鋼を取り出してまた工房に戻った。そして炉の温度が高くなったのを確認してから私は鋼を炉に入れた。

熱した鋼をハンマーで打ち叩いて伸ばしていく。そして剣の長さにまで伸ばしたらそれを水で急冷して鋼の構成組織を密にする。そして出来上ったのを研いでみた。とりあえずロングソードを一本と短剣を一本作ってみた。

でも形としては日本刀のように細い物になった。折り返し鍛錬をしなかったので強度は刀より劣るだろう。けれど使った鋼自体が不純物をできるだけ取り除いた物であるから一定の強度はあるだろうから見本としては良いと思う。焼き入れをすれば見栄えも違っただろうけどそれだと手間がかかってしまう。

とりあえず仕上げた品を店先のガラス窓から見える位置に置いた。これでお客さん、釣れないかな・・・?

品を出してから結構変わった。最初は通行人は見向きもしていなかったのが、横眼で品を見る程度になったのだ。それでもよく見るロングソードなどとの形は違うから普及させるのには時間がかかるだろう。

そして結局その日もお客さんというお客さんは来なかった。

 

そして次の日も私は店を開けた。朝は結局誰も来なかった。だけど昼過ぎ、ドアの鈴が鳴って誰かが店のドアを開いたことがわかる。

「いらっしゃいませー」

「ふーん。貧乏くせぇ店だな」

入ってきたのは大人の男性が数人だった。リーダーのようなのが一人と子分のようなのが数人。

「おい、本当にこの店から王子が出てきたんだよな?」

「はい、間違いありません」

「おい、ここじゃ何売ってるんだ?」

ちょっと威圧的な人ではあるがお客さんには変わりはない(・・・多分)

「そこに飾っているのが見本となります」

「ふーん・・・ただの鉄の棒を磨いただけじゃねぇか。それに軽い。こんなんじゃ役にたたねぇな。行くぞ」

そう言って男性たちは店を出ていった。

「ま、そう思うよね」

実際の物を知らなければ私が作った剣はただ鉄の棒を平らにして磨いただけに見えるだろう。

それに先ほどリーダー格が王子のことを言っていた。つまり王子が目当て、もしくは王子関連で何かあったのかもしれない。、まー帰ってしまえば知ったこっちゃないんだけどね。

そして結局その日もお客さんは来なかった。日も落ちたので店じまいをしようと看板を下げるために店を出た。そして『OPEN』の看板を変えようとしていたその時だった。

「ね、姉ちゃん。ここの店の人?」

後ろから声が聞こえたので振り返ってみるとまだ幼さが残る少年と小さな妹がいた。

「どうしたのかな?親御さんとはぐれちゃった?」

「あの、この店の偉い人に会えないかな?」

「うーんと私が一番偉い人になるかな?」

「じゃ、じゃぁ・・・俺たちを弟子にしてくだしい!!」

「お、お願いします。できるだけ頑張るので雇ってください」

「えぇっと、まずは話を聞かせてくれるかな?」

これがアルとミーナ、二人の兄妹との出会いだった。




ありがとうございました。コメントで意見や感想を頂けるとと幸いです。
ちょっと前話が気分的にどうかと思ったのでもう一話投稿しました。
続きを書きたい衝動に駆られているので今日か明日に三十七話が上がる予定です。


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第三十七話

「えぇっと、まずは名前を聞かせてくれるかな?」

「俺はアルって言います」

「わ、私はミーネと言います」

「君たち、親御さんは?」

「父さんは王都で冒険者をやっていた。だけど一年前に死んだ。母さんは知らない男の人に着いて行って家を出たまま帰ってこない」

「今まではどうやって生活してきたの?」

「俺が冒険者登録をして依頼をこなしてた。施設のゴミ拾いとか。孤児院じゃ拾ってもらえなかったから」

つまり要約すると彼らの父親は死んでしまい、母親は再婚したか別の男に着いて行ったまま育児放棄したわけだ。そして孤児院が面倒を見るのを拒否したと。そんなところへリーシャさんが帰ってきた。

「どうしたんだ、その子たちは?」

「えぇっとここで働きたいらしくって」

「・・・ふむ。君たち、少しここで待ってなさい。シズネ、ちょっと来てくれ」

リーシャさんは二人の返事を聞く前に私を連れて二階へと上がった。

「ど、どうしたの?」

「あの二人、孤児だろ?」

「う、うん」

「なら雇うのはやめておけ」

「ど、どうして?親に捨てられた子だよ。できるなら面倒を「それはダメだ」ど、どうして・・・」

「いいか?私はシズネがどういう環境で育ってきたかは知らない。だが王都で暮らす以上知らなければならないことがある。王都での孤児は珍しくない。むしろ農村などよりも多いかもしれん。つまり孤児はあの子たちだけじゃない。あの子たちを雇えば次の子たちが話を聞いてやってくる。その全員をお前が面倒を見れるとでも言うのか?」

「そ、それは・・・」

「可哀そうだがこれが王都の暗黙の了解ってやつだ。あきらめろ」

「・・・やっぱりできないよ」

「だがな・・・」

「確かに話を聞いて他の子たちも来るかもしれない。でもね、私には少し隠し財産があるんだ。だから・・・」

「隠し財産・・・。そんなことを聞いたら孤児院が子供を引き取れと言ってくるぞ」

「・・・ねぇ、王都での孤児って何歳くらい?」

「10歳前後が一番多いな。流石に乳飲み子や幼児は孤児院などで保護されているはずだ」

「ならさ、十分働けると思わない?」

「いいや。まず孤児は文字が書けない。言えて自分の名前くらいだ。下男にもならないだろう」

「なら読み書きを教えればいいんだよ」

「いいか、学校は「小さな子供が寄る辺もなく、こんな日が暮れた後でも仕事を探してるんだよ!!それを知っていて私だけ暖かい食事と寝床で寝ることなんて私にはできない!!」シズネ・・・」

「来るなら来い!!来たら全員教育して働ける場所を探してやる!!」

「決意は見事だが容易くは無いぞ?」

「わかってる。でも知ってしまった以上私に放っておくっていう選択肢はない」

「わかった。お前はここの家主だ。私は何も言わない。だが私たちは共に冒険者でパーティーを組んでいるということを忘れないでくれよ?」

「いいえダメです。私は反対です」

そう言ってリーシャさんはため息をついて了承してくれた。だけど新たなる敵、エラムが現れた。

「エラム・・・」

「良いですかシズネ。あなたがどれだけの財産を持っているのかは知りません」

「あ、そこから聞いていたんだ」

「茶化さないでください。いいですか?王都には孤児院がいくつもあります。なんとか今は国の補助で生活ができていますがそれでも貧しい暮らしなのには変わりありません。そんな時、一部の孤児だけが働き口を得て少しでも解放されたとなると、他の子たちや孤児院の人が黙っていませんよ」

「そ、それは・・・」

「現在王都にある孤児院は六個。そしてどこも30人近くは孤児を抱えています。そして孤児院にすら入れない孤児も何人もいるでしょう。孤児院が面倒を見れないから断ったり、理由は色々あるでしょう。それら全員・。・いいえ、半分でも押し寄せてきたらどうするんですか?」

「確かにできない・・・」

「でしょう?可哀そうですが・・・」

「・・・それでもできないよ。」

「ですがシズネ・・・」

「孤児院の子供はともかく、寄る辺もない子たちは見捨てられないよ」

「ですが・・・言いたくはないのですが最悪の事を伝えておきます」

「何?」

「これはこの国とは別の国で起きたことです。実際にシズネのような志を持った貴族がいました。その貴族は財産を投げ打ち寄る辺のない孤児を拾い上げました。確かに貴族は志通り、寄る辺のない孤児を救い安定とまではいきませんがそれでも貧しい暮らしから脱却させることに成功しました」

「な、なら私もそれを真似すれば・・・」

「最悪なのはここからです。貴族が孤児を大成させたことを聞いた孤児院が孤児を捨てたのです」

「えっ!?」

「孤児院としても仕事なのです。ですが国によって給料なども違い、最悪自分の給料を使ってまで孤児と同じ生活しかできないところもあると聞きます。そんな中一部の孤児が大成したと聞くなら自分の生活を引っ張る孤児を捨てて面倒を見てもらおうとしたのです」

「そんなことが・・・」

「そしてその貴族はその孤児の面倒まで見ることになり、結局のところ破産寸前にまで追い込まれました」

「それでどうなったの・・・?」

「拾った子たちが多すぎて仕事を斡旋することや読み書きなどの教育ができなくなり、闇商人を通じて奴隷売買に走り、その後奴隷の使用で捕まったとのことです」

「拾った孤児たちは・・・?」

「保護をしていた貴族が捕まったことで元の生活に逆戻り。孤児院に戻れたかまではわかりません。ですが孤児院は拒否した可能性が高いですね」

「そ、それはどうして?」

「その国で奴隷売買が活発かしたと聞きました。そしてその多くが子供だと」

「そんな・・・」

「だからシズネ。あの子たちには可哀そうですが諦めてください。この国で同じことが起きるかもしれないのです」

「・・・ちょっとあの子たちの相手をしていてくれない?ちょっと行きたいところができたから」

「諦めないんですか?」

「・・・これが上手くいかなかったら諦める。だけど・・・足掻けるのなら足掻いてみる」

そう言って私は家を飛び出していった。そして私が訪れたのは・・・。

「急用でございますか?しかし今日のところはお引き取りください。王子もすでに休まれる頃ですので・・・」

「お願いします!!子供たちの命がかかっているんです!!」

私は声の限り叫んだ。この建物の主に届くことを願って。




ありがとうございました。コメントで意見や感想を頂けるとと幸いです。
まだ続きを書きたい衝動に駆られているので今日か明日に続きが上がる予定です。


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第三十八話

「一体どうしたんだい。夜になったというのに・・・。君はそういうことをする人間だったのかい?」

私はこの建物の主、レオ王子を呼び出すことに成功した。

「お願いします。話だけでも聞いてください」

私は土下座してレオ王子に頼み込んだ。

「・・・君がそんなことするとは。とりあえずその恰好はやめたまえ。話を聞かせてくれるかい?」

「ありがとうございます」

そして私はここまでのことを話した。他国での貴族の有様も含めて。

「確かに、他国でそんな貴族がいたということは効いたことがある。君が言いたいことはわかる。孤児院への費用を増やせと言いたいんだね?」

「いいえ違います」

「何?なら何が目的なのかい?」

「法律で、『孤児院が子供を捨てないこと。そして発覚した場合は罪に問うこと』を組み込んでほしいのです」

「法律と来たか・・・なるほど。法で縛るのなら費用は掛からないだろう。だがそうなると孤児院の子たちは貧しい暮らしになって、君が保護した孤児だけが貧しい暮らしから脱却してしまうんじゃないかな?」

「確かにそうなるのかもしれません。ですが子供たちが働けるようになればお金は増えます。孤児院は子供たちが働ける環境を整えることも目的とさせてその収入のわずかを働けない子供たちへの生活の費用に当てさせてはどうでしょう?」

「そうなると・・・孤児院で教育を届かせるのはまだ大丈夫なのかもしれない。だが孤児院が裏で子供を捨てないとも限らない。『出かけたきりで帰ってこない』これは一番ありえそうな良いわけだね」

「それは・・・」

「君の志は良い物だと思う。だけどそれが過ぎると偽善と思われるよ。だから、君は誰とも出会っていない。何も聞いていない。ここにも来ていない。そう思うんだ」

「何か・・・何か手は・・・」

「・・・本当に引き下がるつもりはないのかい?」

「手があるなら引き下がることはできません」

その言葉を聞いてレオ王子は座っていた椅子から立って私の前に来た。

「よく言った。よく言ってくれた。まさか君がここまで求めていた人物だとは思わなかった」

「・・・え?」

「ちょっとしたことがあってね。俺も孤児に出会ったことがあるんだ。まだ子供の頃、王都の店の視察をしていた時だ。突然子供がやってきて、『王子様なんでしょ?お金たくさん持ってるでしょ?少しでもいいから頂戴』って言われてね。連れは孤児なんて捨て置けなんて言って追い払ったんだ。今でも思う。あの時知恵があれば、力があれば救えたのにってね」

「そんなことが・・・」

「だから俺は力が欲しかった。だけど力は正しく使わなければ悪用されて奸物に利用されて救えるものも救えなくなる。だが君が俺が求める人物であるならば違う。偽善と言われようと、信じてくれる人がいるならばその行いは救われる。だからともに救いの手を伸ばそう」

「私にできることがあるならば喜んで」

「話は急を要する。現に君のところに孤児が来ているんだからね」

レオ王子は紙を用意してメモを取り始めた。私が書こうと言ったのだがレオ王子が断った。

「そ、そうです」

「まず力になれるのは俺と君だけだ。ウィリアムも引っ張っては来れるだろう」

「え?」

「今、『王子なのに頼れるのはそれだけか』って思わなかった?」

「イイエ、ソンナコトハオモッテモイマセンヨー」

「いいんだ。宮廷は腹の探り合いが日常だ。信頼できるのなんて数が知れてる。とりあえず法案だがまず親は子供を捨てることを禁じている。ついでに子供が行方不明になったら必ず届け出をわかった当日に出すことも決められている。そして近隣の住民にも知っている子供が行方知れずになった時も報告するようにしてある。ここまではいいかい?」

「はい」

「それでも孤児はなくならない。親が死んで保護できる人間がいなくなった場合が特に多い。後は両親が離婚した時とかね。こういうときは孤児院が引き取るように決めてあるが、どこまでを孤児とするかの判断が必要になる。また捨てられた子供がそんなことを知るはずもないからね」

「確かに十分に教育が行き届いていなかったら何もわからず露頭に迷うことになりますからね」

「学ぶところは基本金がかかる。当然教える講師の給料、建物、教材と費用がかかるからね。だから学ぶことができる子供も限られてしまう」

「しかしそれを補うだけの予算を国から出すとなると予算不足の可能性も・・・あと横領が起こるかもしれません」

「そうだね。国の予算も無限でもないし横領の可能性もある。ならさっき君が話したように個人が働き口を用意するのではなく、国が施設を作り、そこで最低限働けるように教育を行い、仕事を斡旋する。そして仕事を得ることができればその収入のわずかを施設へ納める。こうすれば将来的に国の予算も抑えられるし孤児院への負担も少なくなるだろう」

「働けるようになった子供が全てのお金を使えなくなるのは仕方と割り切るしかないですね。働けるのは施設あってのことですから」

「そうなるね。後はこれを通させるのが問題になる。主に予算の問題だね。だけど誰も反論できないだろう。すればある意味自国の民を見捨てることになるわけだからね」

「なら・・・」

「ただ色々と難癖をつけてすぐには通らない可能性が高い。そうなると救えるものも救えなくなる」

。だから・・・宰相を丸め込む」

「一体どうやって?」

「単純さ。これから死ぬしかない孤児や仕事にありつけなかった孤児院の子たちを成長させれば満足に税金を取ることができる。それを餌にすれば食いつくだろう」

「なるほど・・・」

この国の税金とはスペリア王国に住んでいる人全員が一年に一度国へ一定の金額を収めることになっている。それは農村で暮らす人だろうと貴族だろうと。冒険者だろうと旅人であろうと同様である。

基本的に国に入ろうとするとまず税金が発生する。そして定住すると定住税が取られるのだ。そして店を立ち上げれば店舗に応じて税金が発生するそして貴族になると貴族税を取られることになる。これらはその年の年始から年末までに払うことが義務付けられている。冒険者などは事前に依頼報酬金や魔石鑑定金額から税金が引かれてから支払われている。つまり税金は頭数が揃わなければ収入を得ることができないのだ。しかしここで支払うことができなかったはずの人間が払えるようになるとなるならば話は別になる。税金を払える人間が増えれば国の予算が増えるからだ。だから孤児が働けるようになればその分国の予算が増えるわけだ。そして国の予算を取り仕切る宰相がこの話を見捨てる可能性は低い。

「すぐに宰相を人をやって呼ぼう」

レオ王子はすぐに人を呼んで宰相さんを呼ぶように指示した。その間少し時間ができた。

「いやはや人の縁とは面白いものだね。ただのお抱え鍛冶師、同じ師匠を持つ兄妹弟子だったのが同志になるとは思わなかった」

「私もレオ王子が賛同してくれるとは思ってもみませんでした」

「でも納得させようとは思っただろう?」

「そうですね。納得してもらえないと困りましたね」

少しの談笑の時間が流れ、その後宰相さんが入ってきた。

「王子。火急の要件とはいかがしましたか?」

「ハイン、まずはこれを見てくれ」

レオ王子はこれまで私たちが話し合って書いたメモを渡した。宰相さんは最初は怪訝な顔をしていたけど読んでいく内に感心したように読んでいた。

「王子のお心、感服いたしました。これだけのことを考えていながら相談してくださらなかったのは悔しいですが、練りに練られたこの計画。私にも一枚噛ませてください」

「ありがとう。そう言ってくれて助かる」

「明日の朝主だったものに召集をかけ昼には緊急の会議を開きましょう。会議での反対は起きないでしょう。反対さえ起きなければ後は私の方で万事上手く運ばせましょう。一週間以内には王都で施設を整えましょう。建物はもう使われていない教会や訓練場を抑えれば大丈夫でしょう。講師については学校への採用待ちをしている修学済みの者がいるかもしれません。いなければいずれ講師希望の人間の体験講師という体で雇えば問題ないでしょう。地方の町については一か月ほど時間を頂くことになるでしょう。町によっては孤児が0という巡視報告がある町もありますし、そうでなくとも孤児自体が少ない町もありますので商会などへ保護の協力を取り付けることにしましょう」

「あの・・・農村についてはどうなるんでしょうか・・・?」

「あぁ、農村ほど孤児がいないところはないでしょう。まず農村は寄合によって成り立っていますのでまず親を失った子供が出たとしても他の誰かが面倒を見てくれます。それに月に一度の≪真偽判断≫のスキルを持った巡査官を派遣し孤児の有無や子供の生活環境を調べさせてありますので問題はありません。それに教育の面でもまず計算などができなければ作物で収入を得る時に騙されて損をしたりすることがあるのでまず農民であれ簡単な計算や読み書きは習います。それを子へ孫へと伝えていくのでこちらも問題ないでしょう」

「よかった・・・」

「では王子、私はこれからやるべきことがありますので失礼してもよろしいでしょうか?」

「うむ。仕事を増やしてしまってすまないな」

「いいえ。民の幸福を願うことを我らが王は是としております。そのことであれば粉骨砕身をいといません。では失礼いたします」

そうしてハインさんは退室していった。

「シズネ君も戻った方が良いだろう。訪ねてきた孤児のこともあるしね。とりあえず教育を受けているのであればすぐに君のところで雇うと言い。もしそうでないのであればハインの元へ連れていくといい。手を打ってくれるだろう」

「わかりました。では・・・」

「あぁ、流石に君は会議には出られないだろうから会議が終わる夕方、また訪ねて来てくれるかい?」

「わかりました」

そうして私もレオ王子の屋敷から出た。

しかしレオ王子が同じ考えを持っていてくれたことは幸運だった。私は急いで自分の家へと帰った。

「遅かったな、シズネ。一体どこに行ってたんだ?それにやけに嬉しそうだな」

「えへへーそう見える?あ、あの子たちは?」

「夕食を食べさせて待たせてある。それでお前の足掻きはどうなった?」

「うーん、ほとんど成功したかもね。後は子供たちが計算とかできるかで変わってくるかな?とりあえず話してくるね」

そうして私は二人のいるリビングに行った。

「ちょっとごめんね。せっかく訪ねて来てくれたのに待たせてしまって。ちょっと色々とバタバタしててね」

「いいんだ。温かい食事を貰えたんだから。それで雇ってもらえるの?」

「うーんとね、ちょっと私の質問に答えてくれるかな?」

私はアルとミーナに小学生の低学年から中学年あたりならわかるような問題を出した。結果二人は父親から計算や読み書きなどを習っていたらしい。

「うん、これだけできるなら大丈夫かな。ウチは色々と特殊でね?店、開いたばかりなんだ。だからお客さんも0人。でもお給料は出せるから大丈夫。後は住むとこはどうしてるの?」

「いつも馬小屋に寝泊まりさせてもらってた」

「うーん・・・確かまだ部屋は二つ空いてたよね。なら二人ともここに住み込みで働かない?」

「・・・いいの?」

「うん。問題ないよ」

「あ、ありがとう!!俺、お姉さんのためならどんなことでもやる!!」

「私も頑張ります!!」

「やるのは構わないけど法に触れることはやめてね?」

「あ、お姉さんの名前、聞いてないや」

「私はね、シズネっていうの。これからよろしくね?アル、ミーナ」

これが色んなことを引き起こしたアルとミーナとの出会いであった。




ありがとうございました。コメントで意見や感想を頂けるとと幸いです。
まだ続きを書きたい衝動に駆られているので今日か明日に続きが上がる予定です。
勢いで書いてあるので今日の分で誤字脱字があったらすみません・・・。


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第三十九話

アルとミーナと出会って一日。私は決戦の会議が終わるのをレオ王子の執務室で待っていた。

「やぁ、待たせたね」

そしてレオ王子がハインさんを伴って入ってきた。

「ど、どうでした?」

「父上は喜んで承認してくれた。他の主だった人間も首を横に振ることは無かったよ」

「つまり・・・」

「俺たちの勝利って訳だな」

「よかったぁ・・・」

「ではハイン、予定通りに頼むぞ」

「承知いたしております」

「さて、シズネ。君も店があるだろう?」

「はい。失礼させてもらいます」

私は勝利のままレオ王子の執務室から出た。これで孤児院の子供たちも孤児院に入れないような子供たちも救われる。それが例え自己満足だと言われようとも、それで救われる人がいるのならば喜んで罵られようと私は思う。そして私は自分の店に帰ってきた。

「あ、シズネ。お帰り。お客さんが来てるよ」

「お、お客さんが?すぐ行く」

どうやら運が回ってきたのかお客さんが来ているらしい。私は急いで工房に向かった。

「お待たせして申し訳ございません。私が店主のシズネと言います」

「ど、どうも。使える剣を探しているんですが・・・」

「レプリカはご覧になりましたか?」

「はい。子供たちに勧められて触ってみました」

アルとミーナには午前中に簡単に接客のことを教えていた。どうやら上手く仕事ができたらしい。

「それでどうでしたか?」

「そうですね。この店には他の店と違い良い物を作ってくれると思いました」

「そ、そうですか・・・。まだウチは名も知れ渡ってませんよ?」

「私の剣の先生に言われたんです。『剣は作る人、使う人によって変わる』と」

「な、なるほど・・・。それでは話を詰めさせてもらってもよろしいですか?」

「はい。お願いします」

「ではまず刃の長さはどれくらいにしましょうか?」

「そうですね・・・レプリカのロングソードより少し短めでお願いします。洞窟内でも使えるように」

「なるほど・・・では柄の長さも同じくらい短くする方向でよろしいでしょうか?」

「はい。両手で持てるくらいでお願いします」

「重さは多分レプリカとそう変わらないと思います。何か気になる点とかはございませんか?」

「あ、値段は幾らくらいかかるんでしょうか?」

「そうですね・・・鋼の相場からして6千シルバーほどになりますね」

「ろ、6千ですか!?あの、使う鋼って鉄ですか?」

「はい。鉄を原料にした玉鋼ですね」

そういえば私が発案した玉鋼の名前は結局玉鋼になったんだっけ。

「た、玉鋼でこんなに安くなるんですか?」

「おや玉鋼をご存じで?」

「はい。冒険者ギルドでも玉鋼製の物がよく切れると話しているのを聞いたので」

「そうでしたか。では他に気になる点はございませんか?」

「はい、ありません、ではよろしくお願いします」

「あ、お名前を聞いてもよろしいでしょうか」

「あ、僕はアリムスと言います」

「アリムスさんですね。では剣は明後日にはできますのでそれ以降に来店なさってください。料金は完成品を見てからで」

「わかりました」

こうして初めての注文が入った。アリムスさんを見送ると私は気合を入れなおした。

「アル、ミーナ。仕事だよ!!」

「わかった!!」

「わかりました」

鈴のなるように二人は返事をする。まずは鉧から鋼を取り出すところから始める。二人に丁寧に教えながら鉧から鋼を取り出した。そしてその後工房に戻って炉に火を入れる。まず炉に取り出した鋼の破片を入れて熱してくっつける。

「これがどうなったら剣になるんだ?」

「それはねー見ていけばわかるよ」

鋼の破片がくっついたのを確認する。これも二人に実際に見せた。そして鋼を取り出しス・

「じゃぁこれからこれで鋼を叩くの」

そう言って二人に柄の長いハンマーを渡す。とりあえず私が鋼の向きを調整しながら二人に叩かせた。最初は上手く叩けなかったけど、数をこなしていく内にみるみる上達して上手く叩けるようになった。

こうして折り返し鍛錬を練習も含めて30回ほど行った。二人はへとへと寸前だったけどあともう少しだと鼓舞した。

そして最後に鋼を棒状に伸ばしていく。その後刃の部分を平べったくなるように叩いた。

後はちょちょいと私の方で作業をして一日目は終了した。お疲れの二人を労わりながら夕食を終えて眠りについた。

 

次の日。今日は昨日打った剣を砥石で磨いていくことから始めた。砥石を何度も変えながら磨いていく。今回は値段相応にするために焼き入れを省いた。だけど磨いていく内に折り返し鍛錬を経てできた地金の輝きがでてきた。実際に磨かれた剣を見て二人も驚いていた。

「父さんが使っていた剣と違って輝いてる!!」

「綺麗・・・」

うっとりしている暇は残念ながらなかった。その後柄の部分に木材を合わせて柄の基礎を作り、接着させて持てるように削っていく。その後皮を巻いて上から紐で縛り、柄の端っこに金具を付けて頭で縛る。そして日本刀で言えば鍔、西洋剣でいうガードを付け、その上から鎺を付けてガードを固定する。これで剣自体は完成した。

続いて剣に合うように鞘を作っていく。二つの木材に刃に添って線を引く。これは二人にさせてみた。

その後ゆっくりと削らせていった。二つあるので一人一個削らせてみた。その後私が調整して二つ合わせるとちょうど剣の刃がスルリと収まった。その後は木材を刃を収めたまま接着させる。うまく固定出来たら鉋で形を整えていく。上手く削ったら上から皮を巻いて接着させて完成となる。

完成した後三人で喜び合って後はアリムスさんが店を訪れるのを待った。

 

そして次の日。アリムスさんに完成すると伝えた日だ。その日の昼過ぎ、アリムスさんは店にやってきた。

「お待たせいたしました。こちらが注文された剣です」

実際にアリムスさんに剣を見せた。

「こ、これが注文した物ですか?」

「はい、そうです」

「すごい綺麗だ・・・。冒険者ギルドで見た剣と全く違う。す、すごいですね」

「これが当店の売りでございます」

「ほ、本当にこれが6千ゴールドでいいんですか?」

「はい、6千ゴールドで間違いありません」

「わ、わかりました」

アリムスさんから6千ゴールドを受け取る。こうして初の納品が終わったのであった。アリムスさんが帰るのを見届けてから三人でハイタッチをした。

「やったね」

「おめでとう。シズネ」

「おめでとうございます」

「うん、ありがとね。これがウチの仕事内容の全てになるね。ついてこれる?」

「がんばる」

「がんばります」

小さな決意とともにシズネ工房は歩み始めた。

そしてエラムやリーシャさんと依頼もこなして店と両立した生活が始まって一週間が過ぎた。

レオ王子から孤児への教育施設ができあがり、実際に教育が始まっていることを聞いて私は少しうれしかった。




ありがとうございました。コメントで意見や感想を頂けるとと幸いです。
これで孤児関連の騒動は終わりとなります。お付き合いいただきありがとうございました。
勢いで書いてあるので今日の分で誤字脱字があったらすみません・・・。
もしかしたら静音たちが偽善者に見えてしまうかもしれませんが温かく見守っていただければ幸いです。


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第四十話

孤児騒動からあってから一か月が過ぎようとしていた。私はたまにエラムやリーシャさんと依頼をこなしたり、数少ない注文を受けてアルとミーナと剣を打ったりした。武器の注文は月単位で見れば少ないだろうけど始めたばかりの私たちにとってはありがたい物であることに違いはなかった。

何もない日は三人で炭切りをやっている。後は練習用に伸ばした鋼に向けてハンマーを打つ練習をしたりと

やることは色々あるのである。

それに黙ってカウンターに座っているよりも何か作業を、特に炭切りとか他の店がやっていないようなことをやって見せていれば自然と注目を集めるようになるのだ。そうやってお客さんを釣ろうとしているわけなのです。そんな日を過ごしていた。そんな時リーシャさんがある提案をした。

「シズネ。クランというのは知っているか?」

「クラン?」

「知らないか。クランというのは冒険者や事業主などが集まって形勢するグループのようなものでな。上手く機能すれば依頼の時に必要な食糧や武器を安く手に入れることができたり、依頼を共有したり、事業主の方も固定された顧客を得ることができたりと色々とメリットがあるわけだ。」

「なるほど・・・。あ、私が店のことがあるからパーティーが組めないからクランで依頼をこなしたいってこと?ごめんね、最初に誘っておいてこんなになっちゃって・・・迷惑だよね・・・」

「迷惑とは思っていないさ。人にはそれぞれ事情があるのは当然だ。私がシズネのことをとやかく言うつもりはない。・・・だが、冒険者なら少なからず栄達を望むからな・・・。依頼をたくさんこなしたいという気持ちもある」

「やっぱそうだよねー・・・。パーティー解散する?」

「そ、それは急すぎるだろう。別段このパーティーが悪いという訳ではないし、むしろ制約がない分楽しいからな」

「そっか・・・。エラムはどう思ってる?」

「個人的にはお金が欲しいので依頼をこなしたいという気持ちもありますが急いては仕損じる可能性もありますから今のままでも十分です。ですがクランに入ると色々と情報などを共有できたりするので入ってみるというのもありかと」

「うーん、クランって派閥見たなものですしょ?王都にどれくらいあるのかな」

「大きいものは王都には無いですね。大抵は町になどあるようです。王都には中小のクランがいくつもあると聞いたことがありますね」

「クランの数と王都の鍛冶屋。どっちが多いと思う?」

「規模を問わないのであればクランの方が多いかと。制約として事業主は複数のクランに所属することはできないようになってます。まぁ、所属はしなくとも商品の売買などはするところもあるかもですが」

「うーん・・・冒険者三人に名の知れてない鍛冶屋。受け入れてくれるとこってあるのかな?」

「・・・いっそ自分で立ち上げてみるのはどうですか?」

「え、自分で?」

「はい。既存のクランなどは所属する条件として依頼報酬金を少し納めなくてはならなかったり、商品を安く売らなくてはならなかったりと制約がつくんです。ですが自ら立ち上げればこういった制約はなしに自由に動くことができます」

「なるほどねー。でも人、集まるかな?」

「先ほど言ったように冒険者は制約などを考えてフリーのままでいることも多いです。ですのでそこを

上手く利用して得になるような条件を付ければ自然と人は寄ってくるでしょう。ただ緩すぎたりすると他のクランからよからぬ言いがかりなどを付けられる可能性もありますが・・・」

「ふむふむ・・・。クランってかなりの寄合になるよね?そうなると依頼の取り合いというか人が集まれば集まるほど収入って減りそうじゃない?」

「クランは依頼をこなすこともあるが、大抵は魔獣の森奥深くに住むというオークやオーガ。西のネルミヤ王国との間にある草原に住むワイルドウルフの群れや」ミノタウロス。こういった魔石換金率が高い魔獣を狩りに遠征にでることがもっぱららしい。魔獣の森も西の草原も魔獣は尽きることなく生まれてくるからな」

「つまり人数が少なければ依頼を、多ければ遠征にとで収入を得る訳か・・。とりあえず立ち上げて見よっか」

「集めるだけならタダだからな。稼働するまでは収入は得られんだろうが・・・やってみなければわからんだろう」

「あ、肝心な話なんだけどクランって税金取られたりする?後どこで募集するの?」

「いえ、クランには税金はかかってないですね。募集については冒険者なら冒険者ギルド。事業主なら自分から交渉に行くしかないですね」

「なるほどねー。当面は冒険者を取り込まないとだから冒険者ギルドに張り紙を出してもらおう」

「あ、手数料が多く取られるでしょうが他の町にも募集を出した方がいいですよ」

「うん?それはどうして?」

「町の冒険者は大抵時間が経つと自然にそこの大手のクランに所属することが多くなるのです。理由はクランが依頼を独占とまではいきませんがそれなりに保有しますし、一人の冒険者なら達成できない依頼でもクランなら人が集まって達成できたりとしますからね。ただ長く入っていると納めなくてはならない金銭問題や人間関係などに不満を持ち、抜けたいけど他のアテがなくそのまま所属しているっていう人が少なからずいますからね。そう言った人を呼び込むためです」

「なるほど。それも冒険者ギルドでしてくれるのかな?」

「はい。そうですね」

「わかった。行ってくるー」

「ちょっと待った」

「グエッ」

駆けだそうとした私の首根っこをエラムが掴んだ。

「シズネ。クランを立ち上げるなら先に条件を決めなければなりません。特に金銭面。シズネは甘いですからね。しっかりと決めなければなりません」

「うーん・・・まずは冒険者ギルドに行って他のクランの情報とか見てみようよ。私基準がわからないし」

「そうだな。それがいいだろう」

ということで冒険者ギルドを訪れた私たちであった。

「これが今出されているクランの広告ですね」

何枚かエラムが広告を持ってきてくれた。

「どこも似たり寄ったりだねー。あ、でもどこも専属の鍛冶屋が無いよ」

「真っ先に目についたのはそこか・・・。確かにシズネならそうなるだろうが」

「後は納めるお金の方は・・・依頼報酬金の3%、2。5%・・・。大規模遠征の場合は収入の〇%がクラン運営資金に割り当てられる・・・。大体どこも同じだね。あ、クランホールありってのもある」

「クランホールはそのままクランの拠点となる建物のことですね。クランで違いますが宿舎を兼ねてたりと色々です。私たちが立ち上げるとなると新たに用意しなければならないですね。流石に住まいに他人がたむろするというのは気分がいささか・・・」

「うーんクランホールってどれくらいするのかなぁ?」

「規模にもよりますが500万は必要でしょう」

「500万かぁ・・・」

「まぁ最初は無くても良いでしょう。問題はそれをどうやって調達するかです」

「だよねー・・・」

「まぁここは同じくらいの金額にしておくのが良いだろう。無用な軋轢は勘弁願いたいからな」

「だね。じゃぁ依頼金の2%、遠征時の総収入の8%をクラン資金とするっと。んじゃ出してくるね」

こうして私たちのクランが立ち上がった。まだアルとミーナもいれて五人しかいないけれどね。




ありがとうございました。コメントで意見や感想を頂けるとと幸いです。
今日は二話上げてみました。


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第四十一話

クランの募集を始めて一週間が経った。とりあえず話を聞きたい人は私の工房に来てもらうように書いたけど誰一人として来ていない。名前は『アイアン・イグニス』にした。厨二臭いって?知るかんなもん。一週間の中で一人剣を打ってくれという人がいたからアルとミーナと剣を一本打った。他には村の近くにゴブリンが出たから討伐してくれという依頼を受けたりした。

相変わらずゴブリンは遮蔽物の多い場所に住むから長巻・時雨(この前名前を付けてみた)の出番がなかった。

そして今日も店を開けてアルとミーナと作業をしていたら店のドア鈴が鳴った。

「すいません、シズネさんはいますか?」

訪ねてきたのはアリムスさんだった。

「どうかしましたか?剣に不調でもありましたか?」

「いえ。今日は別件で」

アリムスさんの後ろから三人が店に入ってきた。

「紹介します。私のパーティーメンバーです」

「ガンだ」

「ナルミです」

「シーンと言います」

「え、えぇっと?」

「用件がまだでしたね。私たちを『アイアン・イグニス』に入れてもらえないでしょうか?」

「私たちのクランに?」

「はい。つい先日依頼から帰ってきて、シズネさんの工房が専属でクランを立ち上げたと聞いて来たんです」

「ウチ、まだ立ち上げたばかりでメンバーも冒険者三人だけだよ?」

「大小は関係ありません。メンバーの自由を旨とした募集文に心打たれました。ぜひともお願いします」

「喜んで。えぇっと入るのは4人ですか?」

「はい。そうなります」

「わかりました。では一応確認とかあるので、奥にいいですか?」

その後は店の奥で色々と確認事項を確認した上でアリムスさんのパーティーが私たちのクランに属することになった。その日はそのままお開きになった。依頼はまだ個々のパーティーでこなせる部類なので

パーティー併合とはならなかった。ただもう少しメンバーが集まったら遠征を視野にという話になった。

で、また依頼をこなしたり注文を受けて剣を打ったりして一週間が過ぎた。

店を開店したごく普通の日の昼過ぎ。ドアの鈴が鳴って来客を知らせた。

「いらっしゃいませー」

「すまない。ここがクラン『アイアン・イグニス』の場所で会ってるか?」

「はい。そうです」

「初めまして。俺はダンと言います。で後ろにいるのが」

「オリンと言う」

「ルークと言います」

「早速で悪いんだが俺たちをクランに入れてはもらえないだろうか?」

「ウチの事項は確認されましたか?」

「あぁ。俺たちは以前サルベーの町にいたんだがクランの納金がちと多くてね。依頼もあまり回してもらえなくてな。そんなだから王都で一山当てようと言った時に募集文を見てな。遠征もあるって聞いたんだが・・・」

「そうですね。あと少し人数が増えれば遠征も視野に入れていますね」

「そうか。俺たちの人数が加わったら遠征も始められそうか?」

「えぇ。始めても大丈夫でしょう」

「そうか。ぜひクランに入れてくれ」

「わかりました。では最終確認を行いますね」

そしてそのまま確認を終えて私は三人を連れて冒険者ギルドに向かった。三人をアリムスさんたちと引き合わせた。とりあえず第一印象は大丈夫だった様子。これならクランとしても活動していけるだろう。

そう踏んで明日全員集まって遠征先などを決めることになった。

 

そして次の日。冒険者ギルドには私たちとアリムスさんのパーティー、ダンさんのパーティーが揃っていた。

「では全員集まったようなので進めていきますね。まずはクランリーダーのシズネと言います。剣士です」

「エラムです。魔法使いです」

「リーシャだ。盾持ちだ」

「えぇっと私ですね。アリムスと言います。剣士です」

「ガンだ。使うのは大剣だ」

「ナルミです。魔法使いです」

「シーンといいます。神官です」

「今度は俺たちだな。ダンだ。武器は槍を使う」

「オリンと言う。短剣を主に使う」

「ルークと言います。使うのは弓ですね」

「では全員の自己紹介も終わったところで遠征先を決めていきたいともいます。候補としては魔獣の森か西の草原ですね」

「森だとガンやダンさんの武器が活かしずらいので西の草原が良いと思います」

「そうだな。森の中は戦い辛いから草原に一票だな」

「同じく」

話は進んでいって遠征先は西の草原になった。

「では日時は明後日。それまでに各自物資や情報などを仕入れておいてください」

これでお開きとなった。

その後店に帰って店を任せていたアルとミーナに話をした。

「いいなー。俺も行きたい」

「うーん。アルとミーナには店をお願いしたいんだよねぇ・・・」

「そうですよね。この店の弟子をお願いしたんですから・・・」

「もっとクランの人数が増えたら私が店にてアルに遠征に行ってもらうかもね」

「じゃその時を楽しみに待ってる」

こうして一日は過ぎていくのであった。




ありがとうございました。コメントで意見や感想を頂けるとと幸いです。
今日は二話上げてみました。


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第四十二話

待ちに待った遠征の日がやってきた。今日も店はアルとミーナに任せて私たちは待ち合わせの馬車の駅にいた。そして集合時間前には全員が集結していた。

「えーっと。ではこれより目的地に向かいます。それでは各自馬車に乗って出発です」

馬車に揺られて草原近くの町に向かった。王都からは大体二日の旅路であった。

「うーん遠征とかで頻繁に馬車を使うとなるとやっぱりクラン専用の馬車を調達した方がいいのかなぁ・・・」

「確かに一々予約を入れなければならいのは不便だ。それに確実に目的地への馬車があるとは限らないからな」

「ですがそれにも予算が必要ですよ」

「だよねー」

色々と必要な物は多い。できるだけ稼いでクランの資金を溜めなければならなかった。そして二日の旅路を経て私たちは草原の近くの町、いわゆる前哨基地のフォロムの町に着いた。

「じゃ、ちょっと冒険者ギルドで確認してくるからちょっと待ってて」

草原はスペリア王国とネルミヤ王国の共同管理下に置かれている。よってそこで狩りをするには確認を取らないといけないらしい。

「すみません。草原での狩りを行っても大丈夫でしょうか?」

「はい。今は制限などありませんので。身の安全はご自身でお願いいたします」

狩猟許可を貰って私はみんなのところへ戻った。

「どうだった?」

「うん、大丈夫だって」

「よし。では向かうとするか」

草原まで馬車で行ければいいのだが草原に入るとどこから魔獣が出てくるかわからないらしい。だから馬車の護衛も必要になってくる。損害を出すと結構なお金が必要らしい。だから徒歩で行くしかなかった。そして草原を歩くことどれだけ経っただろうか。

草原はサバンナに近い地形だった。だから見晴らしも良く、草食動物が群れで歩いているのが見えた。

そんな中突然草食動物たちが蜘蛛の子を散らすように散っていった。

「何か来ます!!」

「魔獣かな?全員戦闘準備!!」

確かに草食動物を狙って魔獣が走っているのが見えた。狼のような形をした魔獣が十数匹いるのが見えた。

「エラム、ナルミさん。ここから魔法で狙える?」

「威力は出ませんが挑発程度には」

「よろしく」

エラムとナルミさんが各々、魔法を放つ。それがワイルドウルフの群れのところに着弾する。魔法の爆発の煙の中からワイルドウルフの群れがこちらに走ってきた。

「では打合せ通り各々のパーティーごとに戦闘を」

クラン全体での戦闘の仕方はわからない。個々の力量をしらないからだ。だからまずは自由に戦ってみることにした。私も時雨を抜いて戦闘態勢に入った。

「シズネ、来るぞ」

まずはリーシャさんが大半を引き付けてエラムがそれの援護。私ははぶれた魔獣を撃破することになる。

長巻のリーチを活かして私はワイルドウルフがとびかかってくる前に踏み込んで斬り捨てることができた。まずは二体。後はリーシャのところに群がっているのを片付ければ私たちの近くのワイルドウルフは殲滅できる。

「リーシャさん!!」

「いつもながらに早いな」

私はリーシャさんに群がるワイルドウルフを斬り倒してそのまま戦闘の確認をする。まらアリムスさんのところもダンさんのところも戦闘が続いていた。

「リーシャさんとエラムはアリムスさんたちの援護に。私はダンさんのところに」

「わかった」

「わかりました」

二手に分かれて残ったワイルドウルフの殲滅に動いた。

「ダンさん!!」

「お、団長。そっちは早いな」

「応援にきたよ」

「ありがてぇ。ウチはタンクがいなくてな。前衛が増えるだけで助かる」

「んじゃパパっとシメますか」

まず私はダンさんとともに群がるワイルドウルフを蹴散らし、残りのメンバーとともに残りのワイルドウルフを蹴散らした。そして周りを見ると、アリムスさんのところも戦闘が終わってたらしい。

そのまま魔石拾いに入って、実際に数えてみたらワイルドウルフの魔石が二十七個あった。

「結構な数がいたようですね」

「だねー。エラム。ワイルドウルフの魔石っていくらになるの?」

「一個600ゴールドですね」

合計して一万六千ちょっと。まだまだ狩る必要がありそうだ。

「みんな怪我とか体力は大丈夫?」

「こちらは問題ないですね」

「あぁ、こっちも問題ない」

「では続行ということで」

とりあえず私たちは奥には行かずに周囲を徘徊することにした。

「うん?団長。大きな足跡が複数あります」

見てみると地面に大きな足跡があった。

「大きさからしてミノタウロスでしょうか?」

「ワイルドブルは足が細いからミノタウロスの可能性が高いな」

「では後を追ってみますか」

私たちは方角を見て奥に向かっていなこと確認して足跡の主を追った。そして少し。獣の物と思われる鳴き声が複数聞こえてきた。

「何か見える?」

「二種類の大きなものが複数」

「二種類?」

「もしかしたらワイルドブルとミノタウロスが争っているのかもしれん」

「もう少し近寄ってみようか」

そして近寄ること少し。ようやく対象の姿が見えてきた。半人半獣の身体をしたミノタウロス。そして普通の動物より大きい体を持つと言われるワイルドブル。両者の群れが争っていた。

「いきさつはわかりませんがワイルドブルは縄張り意識が強く、また魔獣の中では変わり種で倒しても魔石も取れて肉や皮も取れます。変わってミノタウロスも同じように倒すと魔石だけでなく、皮や角が残ります。また肉食で他の動物やワイルドブルを襲うとか。これなら収入は見込めそうですね」

「よし、まずはミノタウロスを片付けて、襲われなかったらゆっくり準備を整えてからワイルドブルに取り掛かろう」

ミノタウロスの数は七。ワイルドブルは今は十二。連戦を避けるために容赦なく襲うミノタウロスを狩ることにした。

「では打合せ通りに戦闘開始」

さっきと違って今度はクラン全体での戦闘を行うことにした。タンクのいないダンさんたちが遊撃、タンクのいる私たちとアリムスさんのパーティーで大半を引き付けることにした。

まずは盾を持つリーシャさんと大きい大剣を持つガンさんが前に出てミノタウロスを引き付ける。

その後魔法使い組がタンクの援護。アリムスさんと私でミノタウロスの遊撃を行った。

「やぁぁ!!」

まずミノタウロスは大きい、なので態勢を崩すべく、片足を斬りつける。一回では態勢を崩せなかったけど草原のミノタウロスは武器を持たない。ミノタウロスの大腕と長巻のリーチは同じくらい。ならばミノタウロスの腕をかいくぐって何度も足を斬りつけた。

「グモァ!!」

ようやく態勢を崩すことができミノタウロスが膝をついた。そして近くにきた首を突き刺してトドメを刺した。

周りを見てみるとまだ戦闘は膠着していた。私はすぐさまタンク組を襲っているミノタウロスと戦闘を開始した。そしてタンク組を襲っていたミノタウロスを倒した時にはダンさんのところもミノタウロスを仕留めていて、また、ワイルドブルを襲っていたミノタウロスも孤立したことによって返り討ちにあっていて戦闘は終わっていた。それでもワイルドブルは何頭か倒されていた

「うーん、結構時間がかかったね。みんな大丈夫?」

「なんとか。まだ余力はあります」

「こっちもまだいけるぜ」

「よし、ワイルドブルを倒してから一旦帰るとしようか」

ワイルドブルは残り九体になっていた。今度も全員で行動を開始した。ワイルドブルは突進や突き出している牙を突き刺したりして攻撃してくる。しかし回り込みやすく、一度突進を避けてしまえば方向転換している間に細い足を斬り、楽に態勢を崩させることができた。ワイルドブルは群れで行動するため、最初の私たち三人では相手にできなかったけど、今はクランのみんながいた。だから容易に倒すことができた。

「ふー終わった終わった」

「お疲れさまでした」

「お疲れさん」

後は魔石やミノタウロスの皮や角。それからワイルドブルは肉体全てが残るため、皮や肉、牙を取った。それを全部収納空間にしまった。

「いいですね。空間収納の魔法は。ポーターが必要ありませんからね」

「よし、帰ろっか」

とりあえず私たちは狩りを終了してフォロムの町に戻った。

「うーん魔石はどこも相場は変わらないから良いとして、皮や肉はどうしようや」

「肉は鮮度が価格に関わるのでここで売ってしまいましょう。牙や角、皮はここで売ると他のクランや冒険者なども売っているため価格は下がっています。王都で売れば輸送費などもかからないでし需要も多いので換金率は良いでしょう」

「よし、じゃぁ魔石と肉だけ売ってこようか」

エラムの指摘通りに魔石と肉だけを換金してきた。ワイルドウルフで一万六千。ミノタウロスが一個千シルバーで私たちで倒したのとワイルブルに返り討ちに合ったのを合わせて14個で一万四千。ワイルドブルも全部で19個あって一個800ゴールドなので一万五千。合わせて四万五千。クラン規定で遠征の成果の内7%をクラン資金とするので三千ゴールドが引かれる。そしてクランの人数が10人なので一人頭4200ゴールドになる。まぁ全てを換金したわけではないためまだ最終結果もわからないけどすでに依頼をこなすよりも成果は上がっていた。

「うん、結構な収入だね」

「これでもまだ採集物が残っていますからね」

「これからどうするんだ?一日休んで続行か?」

「そうだね。そうしよっか」

こうして遠征の一日目が終わった。




ありがとうございました。コメントで意見や感想を頂けるとと幸いです。


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第四十三話

遠征二日目。みんな朝早くから集まっていて今日はどうしようか話し合っていた。多分ではあるが一時は共闘した間柄。クランの仲間としての意識が芽生えつつあるのだろうか?

「団長。昨日は地図のこのあたりを探索しました。今日はこのあたりなんか如何でしょうか?」

「同じところにすぐに魔獣が来るとは思えねえな」

「ねぇ、昨日から思ってたけど団長って私のこと?」

「はい。クランの長、団長で間違いないでしょう」

うーむ・・・団長か。

「じゃぁ今日はこのあたりを探索してみようか」

近くに町がある分持っていく物資は軽くて助かっている。私たちは準備を整えて狩猟へと出発した。

「うーん。ここの風は砂っぽいというかなんというか・・・」

「ここはまだ草原ですが西に行くと砂漠が広がっていますからね。土地特有の風といったところでしょう」

「砂漠かぁ・・・」

「砂漠の気候は過酷だと聞く。国をまたいで活動するキャラバンはそう考えるとたくましいと言えるな」

雑談を交えながら私たちは魔獣の痕跡を探した。

「ふむ・・・足跡がありますが大分砂が混じっていますね」

「うーんここにはいないのか・・・」

「ミノタウロスは獲物を探して徘徊するというからな」

その後も私たちは魔獣を探して草原を歩いた。途中休憩を入れはしたけど昨日と違って全然見つからなかった。

「ふむ・・・」

草原を彷徨っているとワイルドブルの死体が何頭も倒れていた。その死体は肉が食べられたような形であった。

「ミノタウロスでしょうか?」

「いや、周囲に魔石が落ちている。どうやらワイルドウルフがやった可能性が高いな」

周囲を見てみると小さな魔石がちらほらと落ちていた。拾ってみると機能拾ったワイルドウルフの物にそっくりだった。

「肉はちぎれているためダメでしょうが牙や皮は売り物になるでしょう。採取しますか?」

「自分で倒したわけじゃないけど、そうしよっか」

私たちは死体から使えそうな皮や角を採取してその場を後にしようとしたのだが・・・。

「何かが近づいてきますね」

「ここから見てもデカイな。ミノタウロスだろう」

「あっちからやってきたってこと?」

「魔獣は血の臭いに敏感だ。このワイルブルの肉の臭いに釣られてやってきたんだろう」

「数は・・・八体か。どうする、団長?」

「全員戦闘準備!!」

私の号令で全員が武器を構える。まずは魔法使い二人が攻撃を開始する。例え遠く離れた位置からの攻撃で魔法の威力が落ちていようと牽制にはなる。魔法が当たったミノタウロスはひるんで他の個体より遅れて進むことになっていた。

「よしまばらに散ったね。各パーティーごとに攻撃開始!!」

各メンバー事に戦闘を開始する。私たちのパーティーもリーシャさんを軸に戦闘を開始する。

いつも通りリーシャさんが敵の大半を引き付けて私がはぐれた敵を遊撃する。ミノタウロスの動きがわかれば簡単で楽に仕留めることができた。そして他のパーティーも順調にミノタウロスを倒していた。

「ミノタウロスは武器を持っておらず、大ぶりなおかげで倒すのは簡単ですね」

「一撃は重たいがな。掴まれたら振り抜くのが大変なんだよな」

雑談を交えながら倒したミノタウロスから角や皮などを採取する。すると土煙を上げて走り寄ってくる影が現れた。

「団長!!ワイルドウルフの群れです!!」

「戦いの音か死肉の臭いに釣られてやってきたか!!」

「よし、そのまま戦闘開始だよ!!」

魔法使い二人の攻撃はミノタウロスより効果的のようで爆発により吹き飛ぶワイルドウルフが見受けられた。しかしそれでもワイルドウルフは向かってくる。

「各自散開、囲まれないように注意して!!」

ワイルドウルフは数の暴力で襲ってくる。数はこちらの方が不利。いくらこちらの攻撃が強くても的が多くては苦戦を強いられるだろう。

「やぁぁぁ!!」

私は時雨を振り回して近づいてくるワイルドウルフを悉く斬り倒していった。数が多すぎてみんなの様子を見ることができないでいた。

(こっちで数を倒してばみんなへの負担が減るはず。がんばらなくっちゃ)

私は夢中で時雨を振り回した。何体倒したのかわからないけど次第に寄ってくるワイルドウルフが減ってきた。そしてようやく剣戟の音が鳴りやんだ。

「ふー・・・疲れたぁ・・・」

「お疲れ、シズネ。あの長物を振り回してワイルドウルフをなぎ倒していたのは圧巻だったな」

「いやはや団長は強いですね」

「団長が強ければ安泰だな」

みんながなぜか私のことを褒めてくれていたけど魔石を拾ってみて理由がわかった。

拾った魔石は32個。そのうち私の近くで拾えたのが15個だったのだ。つまり半数近くを私が倒したことになる。

「うわぁ・・・近寄ってきたのを斬り払っただけだけど・・・なんで私に寄ってきたんだろ?」

「それはわからんな。タンクである私たちを無視しているのが多かったからな。本能で危険だと感じたのだろうか・・・」

「とりあえず採集を終わらせて帰ろっか」

魔石と採集を終えて私たちはフォロムの町に帰った。魔石は何者かに倒されていたワイルドブルの魔石が8個、ミノタウロスのが8個。ワイルドウルフのが32個。占めて約3万2千の稼ぎになった。

皮や角もかなりの数が収納空間に保存されている。前哨基地では安く買い叩かれるから売らないけど価値の換算にはなる。王都で角と皮を全部売れば10万ゴールド近くになる計算だった。二日間でやく15万近い金銭を稼ぐことができた。

「さて、かなりの戦果を挙げることができたわけだけど、どうする?」

「そうですね・・・普通の依頼よりは短期間でかなり稼ぐことができました。スキルを上げたいのでまだ戦いたいところですが休養も大切でしょう」

「いくら戦いを求めても体が着いてこれないんじゃ仕方がない。ここいらで退くのもいいだろう」

「じゃぁ今回はここまでで。では今日は休んで明日王都に帰ろうか」

こうして私たちは一日休んで王都に帰ることにした。途中疲れた体に馬車の旅が堪えたけどまぁ仕方がないかな・・・?

 

んで旅の疲れを一日休んで癒した次の日。私たちは王都の素材屋に遠征で手に入れた角や皮を売りに来ていた。

「なるほど・・・草原のミノタウロスの皮に角。それからワイルドブルの牙や皮か。量はかなりあるな。ちょっと待ってくれ。計算してみる」

店主さんの計算を待っていた。

「待たせたね。合計で17万3千ゴールドでどうだろうか?」

「うーん・・・そうですね。それでお願いします」

ゴールドを受け取って私はみんなが待つ冒険者ギルドに戻った。

「えーっと素材が17万3千ゴールドになりました。魔石が二日間で4万5千ゴールド。合計が21万8千ゴールドになります。ここからクラン規定で7%を引いて約20万ゴールドになります。それを十人で割るので一人2万ゴールドとなります」

「結構いい儲けになりましたね」

「依頼を受けるよりかは良いか。ギルドの評価はあまり変わらんだろうが金にはなるからな」

「ではまた日を開けて遠征を計画するということで」

それでお開きとなった。こうして初の遠征が終わったのであった。




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第四十四話

朝。みんなで朝食を食べて一日の行動をお互いに言う。今日もまた工房に注文が入ったので私とアルとミーナは仕事である。

炉に火を入れて削りだした鋼を入れて作業を開始する。

もう二人と出会ってからとうに一か月が過ぎていた。二人の成長は著しく、しっかりと鉄を叩けるようになって、柄や鞘の装飾の手ほどきを始めていた。流石にまだ炉の温度をしっかりとは管理できてはいない。私もスキルが無ければ当然無理であったであろう。私の工房にトンカンと鉄を叩く音が鳴り響いていたのであった。

「ふー終わった終わったぁ」

折り返し鍛錬を終えて一休み。みんなで工房のカウンターで簡単にお茶にする。

「なーなーシズネ。明日って勇者が選ばれる日なんだろ?」

「あーもうそんな時期かー」

そう、ついに勇者が選ばれる日が明日まで迫っていたのである。おかげで多くの人が王都に集まっているらしい。これは買いだしに行っていたアルとミーナの報告である。おかげで冒険者ギルドも一杯の様子であわよくば張り紙を見て私たちのクランに入ってくれる人がいないかなーと思ってもみたり。

そんなわけで焼き入れまで終わったら鞘さ柄作りはほっといて私たちも勇者選抜のイベントを見に行くことにした。

 

次の日。王宮の前に人がすごい密度で集まっていた。私たちもその一部なのだが、すでに後ろも塞がっており退くも進むもできないありさまだった。

「多いなー」

「こんなに人が多いのは初めてです」

「うーん、イベント以来かな~」

「さてどんな人が選ばれるのでしょうか」

「さぁ・・・もう何年も行われていないからどういう基準化すらわからないらしい」

そして前の人たちが静かになっていった。どうやら王様が現れたらしい。

「我が国の民たちよ。よくぞ集まってくれた。これより、勇者選抜の儀を行う」

王様が何かをつぶやいていく。それに応じるように聖剣が鞘からひとりでに出た。

「さぁ、魔王を滅する聖剣よ!!真なる主の元へ行くがよい!!」

その言葉に応じるように聖剣は集まっている人の中へ飛び立った。そして一人の少年の元へと降りた。

「え・・・・ボク?」

どうやら集まった人達の中から選ばれたようだ。そして集まった人が波の様に左右に散る。王様が聖剣を受け取った少年のところへ来たからだ。

「聖剣に選ばれ市少年よ。魔王を討つ使命を背負う覚悟はあるか?」

「はい!!この身に変えましても!!」

「ふむ。名は何という?」

「ラークと申します」

「ではラークよ。修練を積み、魔王討伐に備えよ!!」

王様の言葉に応えるかのように新しい勇者の誕生を祝うように拍手が起こった。

「ダメだったかぁ・・・」

「アルは勇者に選ばれたかった?」

「うん。でもよく考えたら普通じゃ倒せないような魔獣とかと戦うんだろ?そう思ったら選ばれなくてよかったと思う」

「私は兄さんに危ない目に合ってほしくないです」

「ミーナ・・・」

その後は私たちは人の波に乗って自分たちの家に帰ってきた。そして人の圧に当てられたのを癒すため休んでいたところ、店のドアのベルが鳴った。

「あ、いらっしゃいませー」

「ここはシズネ殿の店で相違ありませんね?」

「はい、そうですが・・・?」

「ウィリアム様がお呼びです」

「ウィリアムさんが?」

「ウィリアムってあの剣聖の!?シズネ、剣聖に会ったことがあのか?」

「うん、まぁね」

私はやってきた使いの人と一緒に馬車に乗って王宮に来た。うーん。いつも何かあるならウィリアムさんが泊ってる宿で話すんだけど、何かあるんだろうなぁ・・・。

「やぁ、シズネ。よく来てくれた」

「やっほー」

案内された部屋にはウィリアムさんとレオ王子がいた。

「えーっと、どういったご用件でしょうか?」

「まぁ座るといい」

言われるがままに私は椅子に座った。

「ウィリアム」

「・・・こればっかりは仕方がありませんからね。シズネ。単刀直入に言おう。私は君に剣の指導をすることができなくなった」

「え・・・?」

「別に君が何か罪を犯したとかそういう理由ではない。新しい勇者が誕生したのは知っているだろう?」

「はい。私たちも見物していました」

「その勇者とともに剣の修練の旅に出ることになった」

「なるほど・・・」

「さほど驚いてはいないようだね?」

「剣を習うとするならばウィリアムさん以上の人はいないでしょうから」

「本当にすまない。勝手に弟子に誘っておきながらこういうことになってしまって・・・」

「あ、頭を上げてください!!」

「ふむ・・・」

「まぁ、ウィリアムから剣の指南を受けれなくなるのは俺もだからね。こればっかりは仕方がないと割り切るしかない」

「それで、新しい勇者はどんな人なんでしょうか?」

「おや、そっちに興味があるのかい?そうだねー・・・君より弱いだろうね」

「えっ・・・?」

「君は持つ武器に慣れている。かたや勇者は聖剣をまだ上手く扱えない三流の冒険者。今も必要な事を覚えるために文官たちに指導を受けているよ」

「勇者って大変なんですね」

「そうだね。勇者はある意味武器を持った外交官のようなものだ。諸国の要請を受けて強大な魔獣と戦うことにもなるだろうからね。でも勇者一人をポイっと出すわけにもいかず、ウィリアムが同行することになったわけさ」

「ウィリアムさん、お気をつけて」

「それは重々承知しているつもりだ。シズネもこれから大変だとは思うが励むように」

「ではささやかながら師の旅立ちに乾杯」

そうして私たちはささやかながらお茶を飲んだ。決してアルコールは飲んではいないからね?




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第四十五話

私はエラムを連れて王都の図書館に来ていた。

「どうしたんですか?何か調べ物でも?」

「うん。そうなんだよねー」

「一体何を探してるんですか?」

「この前遠征に行ったでしょ?でも体力とかの問題であまり数は狩れなかったじゃん。だから効率よく魔獣を狩れる手段がないかなーって」

「なるほど」

「例えば弓みたいに遠くから一斉射撃をと思ったんだけど弓も引くのに体力がいるし遠くに飛ばすには技術がいるでしょ?」

「ふむ・・・でしたらボルトシューターなんかはどうでしょうか?」

「ボルトシューター?」

「大きな鉄の矢じりを専用の大型クロスボウで発射するんです。矢じりの大きさや使う弦の大きさからかなりの威力を発揮してくれますシューター本体の整備に少し手間がかかりますが、矢じりの方は当たれば刺さったりして回収が可能で再利用が可能です。ただし弦を引き絞るのに時間がかかるので連射性はあまりありません」

「先制攻撃で使えば有効だね」

「実際に戦争となれば専用のボルト隊が編成されて先制射撃を行うとか」

「むむっ。軍が絡むとなると入手は難しいんじゃないの?」

「いえ。元々冒険者が開発した物なので流通はしてますよ。矢じりも本体も高いですが」

「だよねー」

「ですが数を揃えれば草原で言えばミノタウロスやワイルブルの群れくらいは交戦することなく狩ることができるかと。ただワイルドウルフに対しては的が小さいため効果を発揮しないかと」

「むむむ・・・なんか欲しくなってきたぞ」

「十人程度じゃ一斉射の効力は低いでしょう」

「うーん・・・そうなると罠、は後の事を考えて改宗する手間がかかるから却下」

「まぁ、人数が揃ってきたら考えてもいいんじゃないでしょうか?」

「そうだねー。でも遠征とか依頼とかをたくさんこなせば冒険者ギルドの評価も上がって未所属の冒険者に勧めてくれるらしいし結果は作りたいんだよね」

「なるほど。実績を積む、ですか

「そーそー。だからできるだけ一度に多くの魔獣を狩れればねって」

「ふむ・・・魔法でしたら魔力を消費するだけで済むので良いかとは思いますがこれは個人差、力量が問われますからね」

「魔法も考えたんだけど継続的な打撃は労力がかかると思ってね」

「確かに魔力が尽きれば打撃を与えることはできなくなりますからね。あ、でもスクロールがありましたね」

「スクロール?あれって魔法を覚えるためにあるんじゃないの?」

「確かにそう言う用途もありますが、魔術関連の物は魔術を発動させるための物があるんですよ」

「魔術・・・魔法とは違う物だっけ。確か魔法は個人の魔力を使うけど魔術は物に存在する魔術を使うんだっけ?」

「そうです。ですので自然由来の物を触媒に事前に魔力を込めて使うのが一般的ですね。後は魔石を使ったりとか」

「魔石って色々使えるねー。でもそれだと費用が嵩むね」

「魔石は使えばただの石ころ同然になってしまいますからね」

「そうなると・・・今できることは個人の継続戦闘力を高めるしかないか」

「そうですね。ただそれも個人技能が問われますから注意が必要ですね」

「そうそう。全員が同じことをできるわけじゃないからね」

「後から草原について調べてみましたが、隣接する砂漠には動物が少ないため砂漠に生息する大サソリなどの魔獣が獲物を求めて草原にまで足を伸ばすそうです」

「大サソリ・・・怖そうだね」

「実際に強い魔獣です。尾には強力な毒を持ち巨大な腕を振り回したりとかなり狂暴らしいです。他にも砂竜という生物もいますね」

「砂竜?」

「砂の仲に潜むトカゲのような魔獣です。潜んで地上の獲物を襲う性質があるため砂漠を歩くときは要注意ですね。しかしこれは砂地から離れないため草原には来ません」

「ふむふむ」

「後は前回の遠征で失念していましたがワイルドブルやミノタウロスからは骨も採取できたようです」

「骨?装飾品にでもするの?」

「いいえ、燃料になるらしいんです。燃やしたりとか」

「なるほど、金の生る木を逃したわけか」

「それに武器にも使われるとか」

「うん?」

「詳しいことはわかりませんが・・・」

「よしちょっと調べてみよう」

「そう言うのって技術ですから公開していないんじゃないんでしょうか?」

「うーん、一般的な事なら前に見たことがあるしあるんじゃないかな・・・あ、ほらあった『骨の加工技術』」

シズネが取った本にはこうあった。

「何々『戦士が己が力を披露するために大きく、重い剣を好んで使うことがある。しかし鉄の塊を作り加工することはほぼ不可能である。しかし骨を利用した物であれば作成は可能である。一本のやや大きい骨を用意しそれに大小を問わず砕いた骨の粉、それらを特殊な培養液の中で放置すると一本の骨に徐々に骨の粉が集まり大きな骨になることがある。これをもとにし刃の部分を磨いて武器とすることができる』だって」

「なるほど・・・ミノタウロスほどの骨、特に腕などはまっすぐですから武器の元になる骨には十分使えそうですね」

「そう言えばガンさんが使ってた大剣も骨っぽかったな。でもウチで作るのは難しそうだ。変な薬品とか家に置いておきたくないし」

そうしてシズネは本を直して図書館を去ったのであった。




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第四十六話

さて、じわじわとお客さんが増えてきた今日この頃。どうやら冒険者の中で綺麗に磨きあがった刀身というのは珍しく、話を聞いて別の町からわざわざ求めに来てくれているお客さんもいた。

今日も今日とて注文を受けて鋼を打つ日々。

そろそろ良い時期かなと思ってアルとミーナに最後の磨きの作業を任せてみることにした。磨きの作業なら失敗しても修正がきくからだ。最初は削りが甘いことが多かったけどゆっくりと進めさせたら段々と完成に近づいてった。そんなこんなで剣を作っていた。

また鞘や柄の作業も慣れてくるとすぐにできるようになっていた。アルとミーナの成長を感じていた。

でもい正直鍛錬まで教えてしまうとmade inアルorミーナになってしまうのでやめておこうと思ったのは胸の内に秘めておくことにする。

そしてウィリアムさんたちが旅に出る前に私はできるだけ稽古をつけてもらえるように頼んでいた。勇者のラーク君とともにウィリアムさんから稽古をつけてもらっていた。

しかし勇者になった影響かラーク君はすぐに闘気が使えるようになっていたのだ。最低の白ではあるが有無の差は大きい。一体なぜ私には闘気が使えないのだろうか・・・。

それでも得る物がなかったわけでもなかった。雷の魔法を練習していた時、偶然かわからないけど雷の魔力を得ることができたのだ。魔力とはこの世界では生まれた時に得るのが基本で厳しい修練によって二つ目を取れるかどうかという具合らしい。でも私は異世界人なので最初はどの属性も持っていなかった。というか説明を聞いていなかった。

この雷の魔力はかなり強い。どっかの話にあるように神経に魔力を流せば爆速の反射神経を得ることができる。さらに魔力を体全体に回すことで体自身も爆速に動くことができるのだ。

ただし消費する魔力が多いため魔力切れになりやすいのが欠点であった。それでも即応性にすぐれたこの力はありがたいと思った。また『慧眼』と併用すれば多分かなり早い相手でも動きを読めると思う。

正直に言えば鍛冶師なのだから火の魔力が欲しかったところ。でも修行を積めば手に入る可能性もあるので日々鍛錬あるのみだった。

そうして毎日を忙しく過ごしていると二回目の遠征の日が迫ってきていた。一回目の遠征の時から増えたメンバ^はいない。つまりまた10人での狩りとなる。早速予定を決める日に全員集まって予定を立てることにした。

「では始めます。前回と同じように今回も草原での狩りを想定しますがそれでよろしいでしょうか?」

「異論無し」

「では私からの意見として今後戦闘を円滑に進めるためにクラン資金を使い、ボルトシューターなどの道具を用意しようかと思っています」

「ボルトシューターっていうとアレか?でっかい弾飛ばすっていう」

「はい。先制攻撃で打撃を与えることができれば戦闘時に消耗する体力を抑えることができ、長時間の狩りを行えるかと」

「なるほど。初期投資はかかりますが長期的に見れば収入が上がる可能性があると」

「そういうことです」

「しかしあれは本体だけでも数万ゴールド。全員分となると数十万になりますよ」

「ですので今後の遠征ではより多く稼ぐ手段が必要です。何か良さそうな方法はありませんか?」

「そうですね・・・ヒールを使えば傷の縫合だけでなく一時的な体力増強にはなりますが・・・全員分となると緊急時に使えなくなる可能性がありますね・・・」

「簡単なものとしちゃぁ弓が一番だろ。安価で練習すれば誰でも扱える。ただ弓は数が揃ってこそ力を発揮するっているからな」

「むむ、では今回も前回と同じようにする方向で・・・」

結局は前回と同じように進めることになった。クラン資金は狩りとは別口で何か稼ぐ手段を見つけないといけないと思った。

「と、いうわけで何か手ごろな金策ってないかな?」

「突然言われても何も浮かびませんよ・・・」

時間があったのでエラムに聞いてみた。

「そうですね・・・クラン全体で狩り以外となると商団でしょうか」

「商団・・・」

「しかし馬車などの初期投資。物流を読める目利きが要りますからね。私たちでは難しいでしょう」

「だよねー・・・」

「大口の依頼とかがあれば良いのですが、そういうのは大手のクランに優先的に回されますからね。できたての私たちでは難しいでしょう」

「うむむ・・・手は・・・手は無いのか・・・」

「まだできて日が浅いですからね。できることは限られています」

「そっかー。ありがとね」

こうしてなんの変りもなく、第二回遠征の日を待つのであった。




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第四十七話

第二回遠征の日がやってきた。私たちは馬車に揺られてフォロムの町を目指した。道中は何を中心に狩るか、今回も稼げれば良いなどと色んな話で花を咲かせた。ただまぁ、どんな話をしようともお尻が痛くなるのには変わりはなかった。

フォラムの町に着いた私たちはまず情報を集めた。ここ最近どれだけの冒険者たちが草原に入ったのか。人数が多ければそれだけ近場の魔獣の数が減るからだ。幸い最近入った冒険者は一組だけらしい。

そのまま集めた情報をすり合わせた後、旅の疲れを取るため一晩休んだ。

一晩休んだ私たちは魔獣の草原に入った。今回も足を使っての探索となった。町付近にまで魔獣は来ないので自然と奥に行くしかなかった。魔獣を求めて私たちは草原を歩いた。今回はちょっと工夫してフォラムの町で肉を買って、その肉の匂いで魔獣を釣れないかと試してみた。すると案の定、ワイルドウルフの群れが食いついてきた。

「団長、ワイルドウルフです!!」

「みんな、戦闘準備!!孤立しないように!!」

肉の匂いに釣られてやってきたワイルドウルフの勢いはすさまじかった。それでも私たちは怯まずに戦った。私も近寄ってくるワイルドウルフを何体も斬り裂いた。

「しまっ!?」

そんなとき、リーシャさんの驚きの声が耳に届いた。エラムの援護もむなしくワイルドウルフに姿勢を崩されたらしい。一度態勢を崩されると大盾は重りにしかならない。

ワイルドウルフの牙がリーシャに迫るその刹那。一つの雷が戦場を疾走した。静音がおおよそ普通の人の運動能力の範囲ではありえない速さで自分のいた位置からリーシャを組み伏せていたワイルドウルフの下へ飛び、ワイルドウルフを駆逐したのだ。静音の身体には雷が宿っていた。

「す、すまない。シズネ。助かった」

「リーシャさん、ゆっくり立って。エラム、手伝ってあげて。ワイルドウルフは私が何とかする」

走り出した静音は時雨を天に掲げた。

「さぁかかってこい!!敵はここにいるぞ!!」

時雨から放たれた雷は戦場を覆いつくした。それを目にしたクランのメンバーは静音の圧を感じ取り、ワイルドウルフは雷を放った静音が一番の脅威と知る。そしてワイルドウルフは一目散に静音に襲い掛かった。

「呼吸を合わせて波状攻撃をすればいいのに慌ただしく一匹ずつ来るのは愚策だよ!!」

しかし静音の前にワイルドウルフ単体ではまったく歯が立たなかった。襲い掛かったワイルドウルフは全て斬り倒された。肉の匂いが漂う戦場に立っているのはイアン・イグニスの面々だけであった。

「団長、今の力は一体・・・?」

「闘気じゃねぇ。タンクの挑発のスキルでもない。一体何なんだ?」

「えぇっとね、私最近雷の魔力を手にして、それを使ってみたんだ」

「雷の魔力・・・破壊には向いていると聞きますがこういう使い方が・・・」

「さっきのありえない速度の跳躍はそれが原因なのか?」

「うん。雷で体を活性化させてね、ひょいっと」

「雷の魔力はその破壊の力の強さ故扱いが難しいと聞いたことがあります。それを自裁に操れるとは」

「まぁ積もる話は後で。まずは魔獣を探さないと」

話を探索に無理やり持っていった静音は再び魔獣を探しに草原を歩いた。その後もミノタウロス。ワイルブルと遭遇しこれを討伐した。ちゃんと骨も残さず採取を行って稼ぎは前回の半分くらいにはなっただろうか。ちょうど疲れを少し感じてきたというところで帰る選択肢を取ろうとしたその時、一体のミノタウロスが近づいてきた。

「あれ、ミノタウロスだよな?」

「形はそうと言えますが・・・肌の色といい、武器を持っていることといい、何か様子が変ですね」

近づいてきたミノタウロスの肌は黒に近い赤色で、斧に見える武器を持っていた。

「あ、あれは・・・レイダー。ミノタウロス・レイダーです!!」

「知ってるのエラム?」

「何らかの環境の変化によって生まれた個体。強靭な体、そして魔獣にしては賢い知性。そして武器を持っている。その戦闘能力はミノタウロスの範疇を超えている。知っているのはこれくらいです」

「相手は一体。こちらは十人。倒せるだろ」

(そうだ、≪慧眼≫なら・・・)

静音は≪慧眼≫でミノタウロス・レイダーを調べた。しかし結果は残酷だった。

ミノタウロス・レイダー

lv34

読み取れたのはこれくらいだった。しかしその情報だけでも恐怖を覚えるだけの物だった。

静音たちで一番戦闘経験が豊富でレベルが高いダンたちのパーティーですらレベル15。草原の魔獣たちのレベルは大体15~18前後。少々のレベル差なら武器やスキルによって覆すことは可能ではあった。しかしミノタウロス・レイダーだけは違った。圧倒的なレベル差。もし情報が本当だったら戦闘経験も豊富な可能性が高い。

しかし決断を下すには遅すぎた。すでにミノタウロス・レイダーはこちらめがけて走り出していたのだ。

「リーシャさんとガンさんを軸に戦闘開始!!できるけ攻撃は受けずに避けて!!」

体が震える。この世界に来て初めて死の恐怖を覚えた。

まずリーシャがレイダーと接触した。

「ぐぅ!?」

しかしレイダーの斧の一撃は生じた音からして絶大な威力があることを示した。立った一撃でリーシャの盾が凹んでいたのだ。

「嘘・・・だろ?」

それを目にしたクランのメンバーたちの戦意が削がれる。それでも静音は諦めることなく雷の魔力を使い、一瞬で間合いを詰めレイダーの頭めがけて突きを放つ。

しかしレイダーは角を上手く使って静音の突きを弾いた。そして反撃とばかりに斧を振りかざした。

静音はそれをまたしても雷の魔力を使い避ける。しかし雷の魔力は無限ではない。いつかは枯渇する。

だからと言って出し惜しみができる相手ではなかった。

そこへ魔法使い組の魔法が飛んでくる。できるだけ威力の高い魔法を放ったのだろう。リーシャも今の内に態勢を整え、また遊撃のメンバーもゆっくりと隙を伺った。

しかし魔法の爆炎からでてきたレイダーはなんともない様子であった。

「そんな・・・」

「やぁぁぁぁ!!」

メンバーの不安を払拭するべく静音は声を上げてレイダーに接近する。雷の魔力で体を活性化させ凄まじい速さで時雨を振るう。一撃目はレイダーが自信ありげに体で受けた。しかし時雨の威力は先ほどの魔法の比ではない。一撃で肌が裂け、体液があふれた。時雨が危険だと察したレイダーはその後は斧で静音の剣閃を防御した。

「おらぁぁ!!」

そこへ遊撃のダンたちが静音に注意がそれているのを見て背後から攻撃を仕掛けた。攻撃は肌を少し斬り裂いただけだった。唯一静音製の剣を持つアリムスの一撃だけ深い傷を負わせられた。

しかし大勢で攻撃したせいでレイダーの注意が遊撃のメンバーに動いた。

レイダーが体を後ろへ向けた瞬間。静音は渾身の突きを放つ。

だがそれは瞬時に気づいたレイダーが手のひらで受け、防がれた。それでも静音は時雨を押し込む。だが力比べとなるとレイダーに軍配が上がる。

そして時雨を手で止められ動けない静音に向けてレイダーが斧を振りかざそうとした瞬間。静音は時雨から手を放し斧の一撃を避けた。そしてその手には愛刀・雫が握られていた。そして雫による突きがレイダーの首を捕らえた。

「グモァァァァ!!」

断末魔のような叫びをあげるレイダー。それでもまだ力尽きない。静音は突き入れた雫で抉るように捻る。そしてさらに雷の魔力を雫に通し、力を解放させる。凄まじい電流が発生しレイダーの首を焼いた。それが決定打となりレイダーは力尽きた。

「た、倒したんだよな・・・?」

「なんという敵。まだまだ知識も力も足りないといったところでしょうか」

「団長がいなかったら俺たち、魔獣の餌になってたな」

メンバーからはレイダーの恐怖は姿を消してはいたがそれでも実力という壁に遭遇していた。そのままレイダーから素材を採取することになったのだが、静音とアリムスの剣でしか肌などを裂くことができないことから二人で採取を行った。そして後方の安全を確認してからできるだけ早くフォラムの町へと逃げ帰るようにして戻った。




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第四十八話

フォロムの町に帰ってきてからは事態は悪くなる一方だった。強大な魔獣と遭遇したことでクランの士気は低下。リーシャさんやガンさんといったタンクの武器が大きく凹んだということもあり草原でも狩りは続行不可能であった。早々に王都に引き上げることになった。フォロムの町にも鍛冶屋はあるが大規模な修復は行うことができないらしい。

ただ悪いことばかりではなかった。ミノタウロス・レイダーの皮や角は通常の個体の物よりも硬く、また強力な魔力を宿しているらしく高値で買い取ってもらえるらしい。魔石も二万ゴールドくらいにはなるから一日換算ですればまぁ稼げた方なのかもしれない。

ともかく私たちは王都へと帰ったのであった。

 

王都に帰ってきてからはウチの工房に剣を注文してきた人が一人いたので注文を受けて剣を打った。

アルとミーナも接客の仕事も鍛冶師としての力量もすくすくと育っていた。なんでも私が遠征に出ている間も鉄塊めがけてハンマーを振り下ろして練習していたらしい。二人の努力はキラキラと輝いていた。

それからは冒険者ギルドでクランのメンバーと話したりして意気消沈していないことを確認したりしていた。

リーシャさんたちの武器も数日後には修復されて戻ってきた。そうして平和な時間を過ごしていたけど、平和とは長く続かない物であった。

ある日、冒険者ギルドに行くとそこはいつもの賑やかな騒がしさは鳴りを潜め、慌ただしい喧噪に包まれていた。

「ガンさん。何かあったの?」

「お、団長。良いところに来たな。どうやら西の町の近くでスタンピードが起きたらしい」

「スタンピード・・・魔獣の大量発生、であってるっけ?」

「そうだ。西には魔獣の歪みはないから偶発的に自然発生が重なったんだと思うが、当事者の町ならともかく、救援要請を受けた王国冒険者ギルドの総本山がここまで慌てるとは穏やかじゃねぇな」

数時間後。緊急依頼として西の町、ラローレンへの救援任務がギルドより通知された。参加は自由とあったが魔獣の大量発生ともなると冒険者としては稼ぎ時ではある。とりあえずクランのメンバーを集合させて話し合った結果、参加することに決まった。スタンピードは収入だけでなく、ギルドの評価も上がりやすいとのこと。ただ多くの冒険者が集まるため、魔石の取り合いなども発生するらしい。だから今回はエラムやナルミさん、シーンさん、ルークさんといった遠距離組は基本ポーターの役割に徹してもらうことになった。そして急いで物資を買って、私たちはラローレンの町へと向かった。

 

ラローレンについて一日を休養に当てて次の日。私たちはラローレンの冒険者ギルドを訪れていた。そこは人が慌ただしく働いていて、冒険者たちも険しい表情で座っていた。

何とか話を聞くことができて手に入れた情報によると現れた魔獣は百を超えるとのこと。ただ数百匹とかという多さではないらしい。ただ物資を買う間に調べた方でも情報はあった。魔獣の自然発生が重なると数だけでなく、強い魔獣やその地域に通常は生まれない魔獣も生まれることがあるらしいのだ。現に確認されているので草原のミノタウロスやワイルドウルフ。ゴブリンやオーク、トロールなども確認されているらしい。数も強さも揃っているらしい。ただこれに魔王が関与しているか、これが不明なままでギルドはあわてているのだろう。数時間ギルドにいるとどうやら明日、魔獣の群れに対して攻撃を仕掛けるとのこと。私たちも色々と話を聞いた後、解散。明日のために休むことにした。

 

次の日。ラローレンの町から多くの冒険者が出発した。これだけの冒険者を馬車で送るには数が足りないため自分で持ってきた冒険者以外は徒歩だった。私たちも先頭の冒険者たちに続いて歩いて行った。

そして歩いていくにつれて何か重苦しい空気になっていった。これが魔獣が集まると発生するという

『魔の渦』らしい。ただ魔獣が人の生活圏を脅かそうとしている証拠らしい。

「おい、何かこっちに来るぞ!!」

前の方が騒がしくなった。そして冒険者たちが散り散りに分かれていった。どうやら敵襲らしい。私たちも固まって動くことになる。そして前線に立ってみるとその魔獣の数の多さに少し後ろに下がりたい気分であった。

「来るぞ!!」

その声と同時にゴブリンやワイルドウルフが吠え、走ってくるのが見えた。

「みんな。まずは無事に帰ることを一番に」

「了解です」

「腕の一本でも取られたらそれで終わりだからな」

私も時雨を構え、腰には雫をいつでも抜けるようにしていた。私たちのいるところにも多くのゴブリンが走ってくる。

「いくぞ!!」

誰がそう声を発したかはわからないが、戦闘が始まった。私も寄ってくるゴブリンを手当たり次第に薙ぎ払っていった。前に遠征で言われて気づいたのだが、私は一刀で並みの魔獣なら倒せるらしい。普通の冒険者は武器の性能や当人の技量で変わるが私たちのいるランク帯では数度攻撃しないと倒せないらしい。

これは私の授かりものである時雨と鍛冶スキルによって作られた時雨のおかげでなんだろう。

だが今はこうして楽に魔獣を倒すことができた。

「うーん・・・囲まれてきたな・・・」

どうやら戦闘が始まって少し経つと私は囲まれてしまっていたらしい。流石に囲まれるとリーチに優れる時雨でもこれを打開するには足りなかった。

「慣れてないけど、するしかないか」

私は右手に時雨を持ち、左手で雫を抜刀し手に持つ。いわゆる二刀流の構えを取る。そこからは両手の刀を振るい、寄ってくる魔獣を近いものから休むことなく斬り続けていった。少しずつではあるが寄ってくる魔獣が減っていった。残っているのが見えるのは大型のミノタウロスやオーク(初めて見た)等であった。

「はぁ・・・はぁ・・・シズネ、突出しすぎですよ・・・」

そこへ息を切らしたかのようにエラムが出てきた。

「うん?私みんなとはぐれたと思ってた」

「違います!!シズネは段々魔獣の方に歩いて行ってたんです。シズネが魔獣を相手にしてくれていたおかげで危険なく魔石は拾えましたが・・・」

エラムはむんと袋を見せてくれた。

「もうパンパンですよ。収納空間にしまっておいてくれないですか?」

「うん、わかった。それよりもみんなは無事?」

「どこかの向こう見ずと違って無事ですよ」

「そっか。ならよかった」

私はエラムに連れられてみんなの元へ戻った。

「団長。勇戦、かっこよかったですよ」

「だが心配するこっちの身にもなってもらいたいもんだ」

少しお小言を頂戴したけど、まだ戦いは終わっていなかった。私たちも大型の魔獣と戦闘を開始した。ミノタウロスは数度戦ったことがあるので私たちは楽に倒すことができた。そうして少しずつ戦場の剣戟の音は消えていき、最後には人間の勝鬨の声に変わっていた。

「ふー・・・なんとか勝てましたね」

「すんげー数がいたが、まぁ、寄ってくるやつはウチの団長のおかげで大分抑えられたがな」

思い思いに感想を口にする。周囲に魔獣がいないことを知ると冒険者たちはラローレンの町に帰っていった。私たちも町に帰ることにした。余談ではあるが、牙や皮が残る魔獣は今回のような大量発生の時は問題が起きるのを避けるために冒険者の剥ぎ取りは禁止されており、魔石と報酬が収入になるらしい。

「魔石の換金はこちらでーす。魔石に応じて報酬もお渡ししまーす」

帰ってきた冒険者ギルドはごった返していた。魔石の換金、そして今回は得た魔石によって報酬を受け取れるらしい。私たちも換金の列に並んだ。

「では次の方ー」

「はい。お願いします」

私はどんと魔石の袋を収納空間から取り出した。

「・・・え?あ、すみません。では集計いたしますね。クランなどには所属していますでしょうか?」

「はい。所属しています」

「では普段の行動場所とクラン名をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「活動場所は王都。クラン名はアイアン・イグニスです」

「王都、アイアン・イグニスですね。少々お待ちを」

どうやら換金に時間がかかっているらしい。

「えぇっとお待たせいたしました。合計21万4300ゴールドになります」

「アイアン・イグニス、21万4300ゴールド、首3位です!!」

「え?」

魔石の換金額を受け取るのと同時になぜか私たちの収入が公表されたのだ。

「ね、エラム。どゆこと?」

「あぁ、そいつはな。こいうとき誰が一番活躍したかで問題になるだろ?だからギルドが魔石の換金額に応じてそれを決めるんだ。で、どうやら俺たちが3位らしいな」

と、冒険者経験の長いダンさんが説明してくれた。

「しかし他の大手も参加しているはず。まだ換金していないのでしょう」

しかし待てど待てども3位が私たちから動くことは無かった。報酬が配られる段階になるまで私たちは3位のままだった。そして報酬金が30万ゴールドだった。

「おー・・・稼ぎとしては遠征と変わらないかな?」

「そうですね。ただギルドへの評価のほうが大事ですので」

報酬金は今回は規定に決めていなかったため、新しく決めたこと『報酬金+換金額を総額で人数割りにする』ということで一人頭5万ゴールド程度になった。とりあえずギルドからも感謝状を受け取ることになった。これでクランの評価も上がってほしいところだ。

戦いが終わった次の日。少し町を観光して、次の日に王都へ帰った。




ありがとうございました。コメントで意見や感想を頂けるとと幸いです。


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第四十九話

王都に帰ってきて数日。平和な暮らしが続いていたと言えばそうなる。

魔獣の大量発生を経て私たちのクランの名前は王都の冒険者の知るところとなったらしい。

おかげで武器の注文がかなり増えた。これは嬉しいことだ。ただたまに大剣や大盾を作ってくれと頼まれることがあるのだが、ウチはそんな特殊な設備は持っていないため、泣く泣く別の店を薦めていた。

とにもかくにも毎日アルとミーナと一緒に鋼を叩く日々が続いていた。

売れ行きも順調で大分売り上げも回収することができた。ただ冒険者は剣を買っても前の剣も予備で持つことが多いらしく下取りといったことは無かった。

しかし玉鋼を使った折り返し鍛錬によって作られた剣は識別してみると耐久、鋭さは大抵Aランク。

攻撃もBランク以上の物が生産で来ていた。ポロっと名剣クラスの物をポコポコと生産してしまい、これが問題につながってしまうのだ・・・。

昼。店は今日は休みにして、アルとミーナを連れて王都を回っていた帰り。私の工房に人だかりができていた。

「あの、ウチの店に何か用ですか?」

「あん?あんたがこの店の主か。ちょうどいい。俺らは工房組合の者だ。アンタ、工房組合に入ってないだろ?今までに不当に稼いでいた売り上げを徴収する」

「え?」

「工房を建てたら組合に届け出を出してその傘下に入る。それが王都じゃ当然のことなのさ。ほら、さっさと出しな」

突然のことで混乱していたけど思い出した。前に工房ができた時にレオ王子から忠告されていたことがあった。

「もし工房ができて順調に回っている時、注意した方がいい。工房組合といった組織があってね。そこは傘下に入ることで工房が有している技術を学ぶことができる・・・有料だけどね。そして売り上げが伸びている非加盟店を見つけると上納金を納めろと大人数で押しかけて来るんだ。組合に入るかは店の自由だ。一応気を付けておくように」

といった内容だった。つまり、『お前稼いでんだろ?それ寄こせ』ということだ。

「組合に入るかは店の自由なんですよね?」

「あぁ?組合に入るのは当然だろ」

「いいえ。自由だと法律で決まっているとお聞きしました」

「・・・ちっ」

「ウチは工房組合には興味がないので、お金を払う義務もありません。これ以上騒がれるのでしたら憲兵を呼びますよ」

「・・・戻るぞ」

そう言って男たちはすごすごと店から離れていった。

「な、なんだったんだ。今の」

「うーん。人の足を引っ張ってお金を横取りする悪い奴らだよ」

「そんな人がいるんですね・・・」

「さて、変な気分になったし、もうちょっと遊びに行こうか」

こうして再び王都巡りをすることにした。その後は工房で少し作業をしたりして一日を終えた。

 

朝。目が覚めてみんなで朝食を取る。そしたらエラムからこんな話が出てきた。

「そろそろなんか統一感のある装飾品を付けるのはどうですか?」

「統一感のある装飾品?」

「そうです。この前のスタンピードで私たちのクランの名前も大勢の人が知るところになりました。ですのでここはクランのシンボルを作って私たちが所属していることをわかるようにするんです」

「なるほど・・・いいね、それ。早速みんなに聞いてみよう」

と、言うことで冒険者ギルドでクランメンバー全員がちょうど揃ったので話し合うことにした。

「クランシンボルですか。良いと思いますよ」

「そうだな。前いたところも持ってたし。スタンピードが終わってから色々クランについて聞かれることも増えたしな」

「へー。どんなことを聞かれたんですか?」

「大体は金の話さ。いくら上に持ってかれるのか、取り分はいくらだとかな」

「なるほど・・・。とりあえずシンボルは作るという方向で」

こうして私たちんほクランのシンボルを作ることになったのだが、デザインは私に一任するということになってしまった。

とりあえず私は服飾店を訪れていた。

「なるほど、クランシンボルね。ウチでできるよ」

「じゃぁ、こんな感じで・・・」

私は紙に書いた物を見せた。

「なるほど。お客さんのところは炎をモチーフにしているわけか。よし、生地はこんなのでいいかな?」

そう言った感じで色々と勧められて色々と決めていった。染色などをするためできるのは数日後ということだった。

 

そしてシンボルの完成日。私は服飾店にいた。

「やぁ、おまたせ。これが完成品だね」

渡されたのは黒の生地に赤い炎を囲うように炉をイメージした括弧のようなものが描かれていたバンダナだった。これを腕に巻くのだ。

「ありがとうございます。良い物ですね」

「そう言ってくれてもらえると作ったこっちもうれしいよ」

代金を払って私はその足で冒険者ギルドに向かった。

「これがクランシンボルですか」

「なるほど、炎か。団長は鍛冶師だからな」

一応シンボルのうけは良かった(と思う)。全員で腕に巻いてみるとなんか統一感があってかっこよかった。こうして私たちのクランは着々と準備が整っていっていた。

で、工房に帰ってきた私は二人にもシンボルを渡した。

「俺たちも貰っていいのか?」

「当然だよ。だって二人もクランのメンバーだもん。しっかりと店を守ってくれてるでしょ?」

「ありがとうございます」

「うんうん」

照れるアルと嬉しそうなミーナ。二人まとめて頭を撫でてやった。




ありがとうございました。コメントで意見や感想を頂けるとと幸いです。


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第五十話

クランシンボル作ったり、新しく注文を受けたりですぐに一週間が過ぎてしまった。

クランのメンバーには悪いと思っていたけど、アリムスさんたちは自分たちで依頼をこなしているらしく、

「大丈夫ですよ。団長は団長の仕事をやってください」と言われた。

既に注文を受けた数は30ぐらいになったかな?今日も忙しく三人で鉄を叩くのである。

そんな中店のドアベルが鳴った。

「あ、いらっしゃいませー」

入ってきたのはちょっと品の高い服を着た人と護衛らしい人が二人。とりあえず作業を中断して対応に当たる。

「ご用件は何でしょうか?」

「えぇ、えぇ。初めまして。私は工房組合の者でして。少しお時間よろしいでしょうか?」

工房組合。スペリア王国の工房を取りまとめている組織。といってもやり方は強引と言った方が良いだろう。

現に私の店も少しお客さんが来ているというだけで

「組合に入らなければならない」「上納金を寄こせ」と言われるくらいだ。

そんな工房組合の人がまた来たのだ。警戒するに越したことは無い。

とりあえず店のカウンターの席で話を聞くことにした。

「えぇっとお話とは?」

「えぇ、えぇ。最近お店が賑やかなようですねぇ」

「え、えぇ」

「それに作られている武器はこれまで見たことがない形をしていて、さらに耐久性が頭一つ抜けているとか」

「はぁ・・・そうですか」

「他の工房からもぜひ作成法を知りたいという声が多く寄せられてましてね。工房組合としてもぜひ学習生の受け入れをお願いしたいのです」

かいつまんで言うとこうだ。「お前良い武器作ってんな。その技術教えろ」ということだろう。しかし工房組合の名前を出してきたなら断りやすい。

「私、工房組合に入ってないので」

「おや。工房組合に入ってないのですか?」

わかり切ったことを・・・。

「それならぜひ工房組合に加入してもらえませんか?あなたの技術は素晴らしい物です。ぜひとも組合でその技術をさらに上へと昇華させませんか?」

もう漏れちゃっているよ・・・。

「いいえ。私は自分の技術でやっていくつもりなので」

「そんなことは言わずに・・・」

「組合に入るかは事業主の判断に任せる。そう法律で決まっているのです。押し売りはやめていただきたい」

「・・・そうですか」

そう言うと男性は店を出ていった。とりあえず護衛の人を使って強引に事を運ぶのかと構えていたけれど何もなくてよかった。特にウチはアルとミーナがいるからね。

とりあえず私は作業を再開することにした。

「なぁ。さっきの何だったんだ?」

「あ、見てたの?」

「兄さんが勝手に・・・」

「いいのいいの。別に見られてマズイものじゃないし。ただの押し売りだよ」

ひとしきり二人の折り返し鍛錬を見てきたけどそろそろかな?休憩に入った時にちょっと思いついた。

「ねぇ。二人で商品を作ってみない?」

「え?」

そう。いくら工房で未知の技術を使っているとはいえ、広まるまでに時間はかかるし冒険者だけではすぐに需要は尽きてしまうだろう。なら新しい口を用意しないといけない。

「色々と見て回ったんだけどね。やっぱりお客さんを増やすならナイフや包丁が一番かなって」

「包丁、ですか」

「そ。食事から食材や素材の加工によく使われるでしょ。うちの剣はよく切れるって評判ならこういう人に勧めても便利だと思わせることができるんじゃないかなって」

「それが俺たちに打たせるのとどう関係があるんだ?」

「うーんそろそろ二人も慣れてきた頃合いかなって。まだ炉に関しては経験が必要だろうけど包丁ぐらいの大きさなら二人でもできると思って。どう?やってみない?」

「・・・やってみたい。やらせて!!」

「やらせてください」

「うんうん。やる気があるようで何より。じゃぁ注文がはけたら一本作ってみようか」

ということでシズネ工房に新たな商品が加わることになった。そして二人のやる気のかいあってか注文の商品は目覚ましいスピードで完成し、空き時間を作ることができたのは二日後だった。

「じゃぁやってみようか」

とりあえず炉も触らせることにした。アルが真剣な眼差しで炉を見ている。しっかりと炉と、入れた鋼を見るように言ったからだろう。

「今だ!!」

アルが勢いよく炉から鋼を取り出した。鋼はしっかりと熱せられているのがスキルでわかった。

そしてアルが鋼を持って小槌で叩き、ミーナがハンマーで大きく叩いていく。

「シズネ。もういいだろ?」

「うん。そこでタガネを使って・・・」

折り返し鍛錬を何度も経験したことによっていつタガネを使えばいいかのタイミングもわかるようになっていた。そのまま十回鍛錬を行って最後に切っ先を整えて熱してそれを水で急冷して終了となる。

「うんうん。二人でもできたじゃん。おめでとう」

「あ、ありがと」

「ありがとうございます」

「後は磨いて柄と鞘を準備するだけだね。今日はここまでにして明日、続きをしようか」

こうして工房に希望の星が輝きだしたのである。




祝!!五十話!!これまでありがとうございました。これからもよろしくお願いします。コメントで意見や感想、お待ちしております。


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第五十一話

アルとミーナだけでナイフや包丁を作り出してから一週間が経った。最初の数日は全然人が来なかったけど、日が経つにつれて人がどんどん来るようになった。どうやら先に勝った人が自慢もとい宣伝をしてくれたらしい。

武器の方の注文も途切れず入ってきてはいるので工房は上手く回っていた。

二人が成長していて私も嬉しく思っていた。

それにクランにも変化があった。新たに二つのパーティーが加入したのだ。

カイさん率いるパーティーとメルンさん率いるパーティーだ。これで遠征もかなり楽になる可能性がでてきた。

そう言うことで第三回遠征を開くべく会議を開いたのであった。

「新たに二つのパーティーが加わったことで遠征の効率も上がったと思います。何かこれを活かす考えはありますか?」

「これだけの人数が揃ったのです。馬を利用するのはどうでしょう?今なら馬の守りにも人を割く余裕があるでしょう」

「確かに人数が揃っているなら馬はアリだな」

「では馬をレンタルするということで。これは総収入から費用を算出することで異存はありませんか?」

レンタル費用についても異議は出なかった。今回も遠征先は西の草原となった。

 

そして遠征日当日。厩舎にはクランメンバー全員が揃っていた。揃いのバンダナを腕に巻いて統一感が出て

胸が躍った。そして馬をレンタルして私たちはフォロムの町を目指した。

馬車と違って移動時間は短縮できたけど、腰へのダメージは大きかった。

一日休んで次の日。私たちは魔獣の草原へと繰り出していた。偵察に慣れているというダンさんたちに偵察を任せて私たちは草原を進んでいた。するとダンさんたちが戻ってきた。

「団長。少し先にワイルドブルの群れがいた」

「よし。まずはワイルドブルを狙おうか」

狙いは決まった。私たちはゆっくりと近づいて、馬を安全な場所に泊めた。馬を守るパーティーは交代制にしてあるのでまずはアリムスさんたちが馬の守りについた。そして私たちは武器を手にワイルドブルに戦いを挑んだ。数は十前後。だが数、経験共に備わった私たちの敵ではなかった。

ワイルドブルに数で当たれるようになり、殲滅速度は上がっていた。

「よーし。無事に倒せたね。みんな怪我はない?」

「こっちは大丈夫だ」

「こっちもよ」

全員の無事を確認してから採取を始める。新たにアルとミーナが練習で打ったナイフをクランメンバーに支給したため、採取はかなり効率が良く進められた。今回は魔獣をおびき寄せる肉は現地調達にすることにした。そのためワイルドブルの肉を馬に乗せて私たちは風上を移動した。

そして匂いに釣られてワイルドウルフやミノタウロスが交互に近づいてきた。私たちはそれを難無く内倒し、かなりの成果を得ることができた。馬による移動で歩きよりもより早く、より疲れずに進むことができ、効率よく魔獣を狩ることができた。まだ昼から少し経った段階で前回の一日の成果を上回っていた。

そのまま狩りを続行しさらなる成果を上げることができた。

「よし。そろそろ日が暮れるし町に戻ろう」

日が暮れる前に町に帰り、肉の売却を行ってから私たちは休むことにした。

 

次の日も狩りを行ってかなりの成果を得ることができた。今回はまだ余裕がありそうなので三日目まで狩りを行った。そして狩りを終えた私たちは王都へと帰ることにした。

 

王都に帰ってきて私たちは素材や魔石の売却を行った。三日間の狩りの成果は大体50万ゴールドになった。それからギルド収入と馬のレンタル分を引いたものを十五人で割って一人当たり約三万ゴールドになった。

前回よりも人数と馬による移動のおかげでかなり成果を上げることができた。それに数を狩ったことで成長の方も著しく進んでいる様子だった。

ともかく第三回遠征は大成功となった。帰ってきたその日に少し奮発して宴を開いたけど終わってから財布が軽くなったことに気づいてちょっと後悔した。

ただ少し問題もあった。私がいないのを聞きつけたのか工房組合の連中が店に数度押しかけてきたらしい。ちょっと威圧的なことをされたらしいがともかくアルとミーナが無事でよかった。

工房組合に対しては対策が必要なのかもしれない。これは私が留守の間にもアルとミーナが売り上げを伸ばし、顧客を他の工房から吸い取ってしまったのが原因らしい。

私の店は高品質だが安いを旨としているため一般層への評価が良いらしい。それが他の工房は快く思ってないらしい。まぁ商売敵だもんね。仕方ないや。




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第五十二話

時間は昼を少し過ぎた頃。私は図書館で本を読んでいた。題名は『基礎魔術』。魔法と対をなす技術、魔術についての本だ。私はクランの成長のための手段を探していた。そして鍛冶についても同じであった。

聞いた限りだと魔法が使用者の魔力を使うのに対して魔術は触媒となる物の魔力を使うらしい。

つまり道具や武具に魔力を仕込むことができるのであれば、もっと突き詰めるのなら再充填ができるのであれば依頼を受けないときに出る余剰魔力を効率的に使うことができるのではないか。そう考えたのだ。

そして魔法・魔術は剣技にも応用できる。鋭い魔力の塊を飛ばすのだ。ただこれはこの世界では魔法が使える剣という意味での魔剣でしかできない芸当らしい。この魔剣を作ることができれば、飛躍的に戦力が上がることだろう。

本によると魔術に必要な物は魔力が入る受け皿だけであるらしい。これは極端に言えばそこらに落ちている石でもいいらしい。ただし物によって貯蓄できる魔力の量は変わるのは当然だろう。

そして受け皿には魔石を使うことができるらしい。ただし、採取したばかりの魔石には魔獣本来の魔力が蓄積しているため、これを抜き取る必要があるようだ。

武器に仕込むのであれば刀身、もしくは柄が一番だろう。刀身はともかく柄ならばすぐに改造することができる。続いて木材などの情報を読んでみると、以前聖剣の打ち直しに携わった時に知ったことで聖域の木材は聖なる力を秘めているとあった。そして同じように魔力が濃ゆい、魔獣が生まれる歪みの周囲から採れる木材は魔術の触媒に適しているらしい。柄にこの木材と魔獣の皮をなめした物、加えて魔力が濃いところで取れた鉱石や魔石を使えば魔術の触媒になりえるのではないだろうか。

とりあえず情報をメモをとって私は王都の素材屋巡りを開始した。その結果、魔獣の森の木材、それもかなり樹齢が高い物とミノタウロスのなめし皮に小さいながらも多くの魔力を蓄積できるというゴーレムの空魔石、魔獣が多く住む場所から採れた鉱石を手に入れることができた。空魔石というのは魔石から魔獣の魔力を抜き取った物である。

早速私は工房で時雨用の柄を作り始めた。アルとミーナは物珍しそうな顔でのぞき込んでいた。

工程はいつものとちょっと違う。木材から柄を切り出して柄にするところは変わらないのだが、今回は頭の留め具の裏に魔石を仕込むのだ。魔力伝導のために頭の留め具の金属は魔力を帯びた鉄を使う。細かな作業が続いたがようやく完成した。

手に取って実際に魔力を込めるイメージをしてみると、魔力が吸われていく感触を覚えた。どうやら時雨に魔力を充填することはできたようだ。

今度は切っ先に火が付くのをイメージしてみた。すると時雨の切っ先に小さな炎が生まれた。今度も成功したらしい。

「シズネ。それ、どうなってんだ?」

興味津々のアルとミーナに色々と語ってみたけれど、二人にはまだ早かったらしい。

ともかく魔剣と言われる物を私は作ることができたらしい。

後は魔力の斬撃波である。これは訓練場で確かめるしかなかった。とりあえず夜になったのでさっさと寝ることにした。

 

次の日。私は訓練場で斬撃波の練習をしていた。昨日寝る前に時雨に魔力を充填していたので少しはできるだろうと思っていた一発目。

鋭い雷を帯びた衝撃波が的を斬り裂いたのであった。

「あっれぇ・・・?これって高度な技術じゃなかったっけ?」

読んだ本には結構難しいと書かれていたが・・・まぁできたのならいっか。ということで今度はどれだけ撃つことができるのかやってみたところ、二十数発撃てることが分かった。これはかなり戦力アップに繋がるだろう。ウキウキの気分で私は訓練場を後にした。

で、店に帰ってみるとそこには注文書の束ができていた。どうやら本格的にウチのナイフの性能が知れ渡ったのか色んなところから注文が殺到していたらしい。硬いものから柔らかい物、様々な物を取り扱う素材屋、肉屋、魚屋。注文先は様々であった。私たちは本格的にナイフを打っていった。一日に打てて数本。注文量は数十本。終わらなさそうな作業が続いた。まぁ嬉しい事ではあるのでいいのだが。

怒涛の注文を全て終わらせることができたのは一週間が経った頃だった。

今回は一本一本に盛り土を行って波紋を描いた。これは『このナイフはシズネ工房製だぞ』というのを見せつけるためであった。我ながら欲にまみれた行いだったと終わってから思った。だがまぁ、ウケは良かったようなので安心した。これでうちの店やクランが知れ渡ってくれればいいなーと思う。




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第五十三話

最近ちょっと手を出したものがある。そう。着物である。

着物という服はこの世界のどこにも無いらしく手に入れるのは困難であった。

刀ほど傾倒していたわけでもないので詳しいことなどはわからない。

だから図面などを書くこともできず、王都の仕立て屋に注文をすることもできなかった。

よって自作するほかがなかった。最初は小さな人形サイズのものを作ってみてみた。だがこれが上手くいかないのである。

別段私が不器用なのが理由な訳ではない(決して不器用ではない)。ただ単にそこまで興味が無かったため知識が乏しかったのである。

それでも始めてから一週間ほどでまぁ納得ができる形が完成した。でも作ったのは上半身だけである。

ただのファッションとしてなら足は袴が良かったのだがこの世界は少しの問題が文字通り足を引っ張り命を

危険にさらす世界である。走りづらい袴は泣く泣く断念した。代わりに少し袴のように折り目を付けたズボンをはくことにした。こっちは仕立て屋さんに上手く説明できたのですぐに完成した。完成度も高く、後は実寸の着物を作るだけであった。

だが時間があるわけでもなかった。

次なる遠征、相次ぐ注文。やるべきことはたくさんあった。だから少ない時間を削ってゆっくりとした速度で進めていった。

そして構想から二週間を経てようやく完成したのである。

と、いう訳で実際に着てみた。

「うん、サイズもばっちり。皮鎧も上から付けれるようにしたから防備も万全。下は袴もどきズボンで動きやすい。バッチリだ」

と、少しテンションが上がった私はぴょんぴょん飛び跳ねていた。

そしてそれを心配そうに見つめる四対の目・・・。

「シズネ・・・変な恰好をして何をしているんだ?」

「きっと何か辛い事でもあったのでしょう」

「んーなんかシズネが何か作ってたみたいだけどそれに似ているな」

「なんだかわからないですけど綺麗だと思います」

そんな声は気にせず私は雫を帯びてみた。

「うん。ついに私も時代劇の一員に!!」

キャッキャと興奮しているが、実際のところ外からみれば笑い声をあげながら剣を振り回す危険な人物である。そう後に言ったのはリーシャさんであった・・・。

興奮も収まったころ。着物には色々と仕掛けというか工夫を凝らしてあるのを思い出した。

使用者の魔力効率を上げる加護。袴には身体能力を補佐してくれる加護を付与してみたのだ。

これは前に時間があるときに適当な服に加護を付ける練習として色々とやっていたためこちらは簡単だった。

効果のほどは試してみないとわからないため私はそのまま訓練場に行くことにした。

訓練場に着いてから、私はかなりの量の視線を感じた。当然である。まったく見たこともない服装の人間がいるのだ。注目を浴びないはずがない。

私はそんな視線を気にせず加護の効果のほどを確かめることにした。

まずは魔力効率の方から。こっちは改造した時雨を使ってみた。日々柄に使わない魔力を貯蓄させていたが今回は私自身が持っている魔力を使うことした。

実際に時雨に魔力を流してみると着物を着る以前と違って魔力の消費が少ない気がした。

着物の方の加護は十分に効果を発揮してくれていた様子であった。

次に袴の方を確認してみた。実際に走ったり跳んだりしてみた。そしたらいつもよりちょっとだけ早く走れたり遠くに跳んだりできた気がした。こっちも加護は働いているみたいだ。

加護といってもまったく経験が無い私が付けた物なので効果は薄いし価値は低いだろう。だが今後のためにはなったと思う。それに服飾も覚えれば武器、いずれ作りたいと思っている鎧に合う服を作って着飾ってもらうということもできるようになるだろう。そうすれば宣伝など幅広く活動することができるようになるだろう。そう考えるだけでワクワクする。訓練場を出て家に帰るときの足取りは軽かった。

 

そして着物が完成してからは忙しい毎日に戻るのであった。注文を受けてナイフや包丁を打ったり、

遠征を計画して数日にわたる狩りを行ったり。収入も増え、お客さんも増えて好調ではあった。

訪ねて来るお客さんも「評判だと聞いて」とか「○○の店が使っていたので」と言ってくる人が増えた。

それだけ私の商品が売れているということなのだろう。

それから数日後。冒険者ギルドを訪れると私とエラム、リーシャさんに通知が来ていると言われた。

「これまでの活躍を判断し、Ⅾランクへの昇格となります」

どうやら遠征などで活躍した結果Ⅾランクへ昇格になったようだ。基準としては依頼を成功させた量や魔石を売った量などで判断されるらしい。

後から聞いたのだが、アリムスさんたちも同じようにⅮランクへの昇格となったらしい。

以前もクランに所属し経験豊富なダンさんたちはⅭランクらしい。

ともかくより高難度な依頼を受けれるにもなりさらなる挑戦が始まったのであった。




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第五十四話

私は今王都近辺の草原を馬に乗って駆けている。いつかは体験してみたいと思っていた馬での遠乗りがこの世界ではできるのだ。遮る物のない広々とした草原。草原を馬で駆るのはとても気持ちがいい。

何時までも、どこまでも駆けていたい気分である。

しかし私には仕事があるのだ。だけど気晴らしには丁度いいと思った。

また馬をレンタルして来ようと思った。

「シズネ、どこに行ってたんだ?」

「ちょっと馬で遠乗りにね」

「いいなー。今度は俺も連れて行ってくれよ」

「そうなるとお店を開けないからなぁ・・・。今度店を臨時休店にしてみんなで行ってみようか」

「やったー!!」

「さて、と・・・。うわぁ・・・まだまだあるなぁ」

日々増える注文の数。剣にナイフに包丁に。種類も形も用途も様々。たまにこういう性能が欲しいという注文もあって色々とすることが多く大変である。ただし苦労が増えるとともに収入も増えているのは確かであった。

そんな忙しい日々の中、来客があった。

「ふむ。ごぢんまりしておるのう」

入ってきたのはかなり裕福な身なりの人物と護衛の人が数人だった。

「えぇっとどのようなご用件で?」

「ふむ。貴様がアイアン・イグニスのリーダーか?」

「はい。そうですが?」

「貴様のような小娘が先の魔獣大量発生の時に活躍したという娘とでもいうのか?」

「?」

「まぁ良いわ。貴様らに吾輩の家来として召し抱えてやろうではないか」

「家来・・・ですか?」

「そうだ。聞くところによると貴様のクランの名前は日々増し、頭数も揃っていると聞く。そんな貴様らに栄誉を得る機会を与えてやろうではないか」

「・・・」

確実にこの貴族らしい人間は私たちを取り込みたいらしい。ただこの人の顔には覚えがあった。

工房組合の取りまとめ。おおよそ正攻法で私の工房を取り込めないからこうして仕官という形を取って私たち、私の工房を取り込もうとしているのだろう。

最近は商品の売れ行きがいいのに反比例してガラの悪いお客さんも増えていた。工房組合の手の者と思われる人間もこっそりと店を伺っているのを遠目から見たことがある。

ならば私の答えは一つである

「申し訳ありませんが、その話。お断りさせていただきます」

「ふむ、うん?なんだと!?」

「私たちは弱小のクラン。そのような者が高貴なお人への務めなど果たすことはできません。どうかお引き取りを」

「えぇい!!調子に乗りおって小娘が!!」

「おやめください!!」

激情する貴族。しかし取り巻きと思われる護衛の人たちが止めに入ったのには意表を突かれた。

それから貴族の人はそのまま連れていかれた。

その数日後。私はレオ王子に呼ばれたので王宮を訪れていた。

「やぁ。呼び出してすまないね」

「いえ。しかしどのようなご用件で?」

「最近宮廷の権力争いが水面下から出ようとしている」

「水面下からとは穏やかではないですね。行った何が原因で?」

「正直まだ不確かな情報だが、レスピレル王国が軍備を強化しているという噂がある」

レスピレル王国。魔獣の草原を西ではなく北に進むとある国である。ネルミヤ王国とは違い、スペリア王国と共に魔獣の草原の管理には携わってはいない。それよりもスペリア王国とは確執があると聞いたことがある。

「レスピレル王国とは数十年前に戦争があったと聞き及んでいますが・・・まさか」

「そう。そのまさかだ。スペリア王国はレスピレル王国とは違い土地は肥え領土も広い。そんなところに勇者の聖剣が復活した。第三者の視点から見ればスペリア王国の力は増しすぎた。それを快く思わないのだろう」

「しかしそれが貴族の権力争いと何の関係が?」

「貴族は戦争となれば手勢の軍を率いて戦わねばならない。故に貴族は手勢を多く求める」

「それで・・・」

「隣国が軍備を整えつつあるならばそれに備えてこちらも軍備を整えなければならない。そうなるとどちらも軍備を整えて戦争に向けて進んでしまう。そして集めた手勢は自らの力を示す物にもなる。どこの貴族もこぞって王都だけでなく国中のクランに声をかけているだろう」

「あの、私のところにも貴族の方が・・・」

「ふむ・・・どんな人物だい?」

私は昨日訪れた人物の特徴を教えた。

「ふむ。君の考えているとおりソイツは工房組合の取りまとめの長でもある。最近君の工房の売れ行きがいいから一石二鳥を狙って取り込もうとしたのだろう」

「どうすれば・・・」

「君は人を見抜く力がある。よく観察し状況を見極めるのが大切だ」

「金言、ありがとうございます」

「もし俺が王子でなければ君を直属の家臣にしたいところだ」

「恐れ多い事でございます」

「君たちはいずれ大きくなるだろう。その時が楽しみだ」

こうしてレオ王子との談笑は終わった。ただし人と魔獣が戦うこの世界で人間同士の争いが起きようとしている可能性がある。そう考えると私はなんとも言えない気がした。




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第五十五話

最近。王都が騒々しくなってきたと思う。以前の活気ある騒々しさとは別の、不安が混じった物だった。

やはり隣国のレスピレル王国が軍備拡張を行っているということが原因なのだろう。

冒険者ギルドも『戦争か?』『起きたらどうする?』といった話題ばかりであった。

このような時期に遠征に出ることは難しいと全員で話し合って決めたので当分遠征に出ることは無い。

正直この軍備拡張には私が関わったことが原因だと見ている。

勇者の聖剣。確かにこれも私が関わり打ち直した。だけど本題はそれじゃないと思う。

玉鋼。これが一番の原因だろう。通常の鋼よりも優れたポテンシャルを持ち優れた武器を生み出す。

そのような物が隣国で発明されればその国の周囲は軍備拡張と見てもおかしくはないだろう。

だが進めてしまった時計の針は元には戻せない。

戦争が起こるかもしれないという背景もあってか、ナイフや包丁以外に武器の注文も多くなってきた。

誰もが予備武器を持っておこうと考えているらしい。とりあえず私たちは注文をこなすことだけを考えて鋼を打った。

 

さて今日も仕事をと思って鉧から鋼を取り出そうとしていたらもうあと少しで鉧が無くなりそうだった。

小さいとはいえ数十本もナイフや包丁を作り、武器も少量作っているのならばいずれは尽きる。

そろそろまた玉鋼を作らないといけない。ちょうどいいしアルたちにも教えておこうと思った。

とりあえず鉄鉱石と木炭、煉瓦を注文して備えた。ただやはり戦争がちらついている状態だからか鉄鉱石の値段は上がっていた。ただまぁ範囲内だったためそのまま注文した。

 

そして諸々の品が納品されて私たちはいざ玉鋼の製造に入った、最初アルたちに三日三晩眠らずに作業をすると言ったら顔を青くしていた。だから二人には普通に睡眠をとらせるつもりだ。

炉に火を入れて鉄鉱石と木炭を交互に入れていく。作業をしているとすぐに夜になった。

「アル、ミーナ。もう遅いから寝てきて」

「いや、シズネが起きてるんなら俺も起きとく」

「私も」

「うーん、心意気は良いんだけど、実際に寝ずに動いていたらだんだん仕事ができなくなって危険になってくるから寝てきて。ね?」

そうスキルの恩恵がある私と違って二人は寝ずの仕事など無理なのだ。眠らないとそれだけ危険が増すのだ。

何とか説得し二人に寝てもらうことができた。その間も私は作業を続ける。

そして二日目、三日目も順調に作業は進み、炉も解体して後は冷えるのを待つだけとなった。

そしてゆっくりと休んでから玉鋼の様子を見てみた。

玉鋼の製造法であるたたら製鉄は鉄鉱石の品質が関係なく良質な玉鋼を生み出す(だったと思う)。

一応調査してみるとちゃんと良い出来の玉鋼が取れそうだった。

とりあえず一安心。

そして次の日から私たちはまた注文の品を打ち始めた。たまにナイフや包丁、武器を作るのではなく研いでくれという注文もあるためそちらはアルとミーナに優先して仕事を回してみている。

何事も経験が必要だからだ。二人は出会ってからたくさん仕事をしたからか、スキルも結構育っているらしい。すでに私の補佐無しでもナイフなどが作れているのがその証左であろう。

二人の成長を感じながら今日もまた鋼を打つのであった。

 

さて肝心の戦争危機の方だが、両国の宰相が話し合ってお互いに軍備拡張を元の状態に戻すということで話がついたらしいことが王様から発表された。これで一安心とほっとしたのは誰もが当然であろう。

ただ当事国だけでなく、さらにその周辺国もまた同じ状態にあるらしいためそれを全て元の状態に戻すには時間がかかるだろう。食糧などが値上がりしていたがこれもゆっくりと元に戻っていくだろう。

工房への武器の発注は減るだろうけど平和が一番である。しかし内心では予備武器であろうと一度は武器の性能を試すであろう。その時に私たちが作った武器の方が優れていると判明すれば武器の立場は一変する。そこから話が広まって売れるようにならないかなーとは思っていたりする。

そして今日もまた注文の品を作るために三人で鋼を打つ日々であった。




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第五十六話

平和な日常に戻ってから数日。シズネ工房の中では怪しげな行動に走っている者がいた。

「おーい、シズネ。木の人形相手になにやってるんだ?」

そう。シズネが木でできた等身大の人形に木の板に穴をあけて紐で結び取り付けようとしていた。

(うーん・・・。元の世界じゃ刀一筋だったから鎧の知識はテレビで物を見ただけだからなぁ・・・。

こんなことになるのなら鎧の方の知識も持つべきであった・・・)

シズネはどうやら武者鎧を作ろうとしている様子であった。この世界の鎧は中世ヨーロッパ風の物が主流であるらしい(ただしまだスペリア王国しか知らないため詳細は不明)。

そして試行錯誤しながら作業を続けた結果、何か見たことがあるような形に仕上がった。

「うーん。こんなもんかな?しっかしここまで苦労させられるとは・・・」

しかし一度構造を知ってしまえば後は実際に作ってみるだけだ。暇があるときにでも少しずつ進めていくとしよう。

そしてまた遠征を行うことに決まった。場所は同じく魔獣の草原。準備に一日をかけてシズネたちはフォロムの町へと向かった。

フォロムの町へ着いて休憩を兼ねて情報収集をしていると気になる情報を得た。

「おい聞いたか?近頃群れの魔獣の数が増えているって話」

「あぁ、聞いた聞いた。原因は不明だが実際に群れの大きさが大きくなっているらしいな」

「こりゃ生半可なパーティーじゃ稼ぐのは無理だな」

とりあえず情報を共有して明日に備えた。

 

次の日。騎馬の集団が魔獣の草原を気持ちよさそうに駆けていた。シズネ率いるアイアン・イグニスの集団である。揃いのバンダナを腕に巻いていた。

「団長。地面に足跡があります」

「よし。それを辿って行ってみよう」

魔獣の痕跡を元にシズネたちは魔獣を探して、見つけてはこれを倒していった。その中でも抜きん出て戦闘力を発揮したのはシズネであった。クランを率いる身故と思われがちであるが、実際は我武者羅に戦っているだけである。しかしその戦闘力はクラン最強と言っても過言ではない。雷の魔力によって瞬発力、攻撃力共に大幅に増加し大活躍を果たした。

この遠征は四日間続けられ、最終的な成果は一人当たり六万ゴールドを得て、ギルド資金も少し手に入れることができた。そして大量の魔石を何度も換金するシズネたちの姿はアラネージュの冒険者はもとより、国中に話が広がるようになっているのは当人たちは知らないのであった。

それと同時にシズネたちが装備している武器にも注目が集まった。静音からすればクランメンバーは多い方だと思っているが、実際はまだまだ小勢力である。だがその小さな集団が大量の魔石を得ている。

メンバー個々の戦闘力が高いという可能性もあるが率いているのは少女というべき人間。

ならば人は自然と武器に目が行くのである。アイアン・イグニスは大盾や大剣以外は静音が作ることができるため既に武器はシズネ工房製の物になっていた。これによって実際にアイアン・イグニスの戦闘能力は増加していた。武器が注目されるようになって工房への注文も増えてきた。

今では一日に一本以上は武器を作る日々であった。忙しいがそれ以上に達成感があった。

また高性能な武器を支給してくれるという噂も広まり、静音の下に複数のパーティーが参加を申し出てきた。一度に十数人のメンバーが増え、アイアン・イグニスの戦力は倍化した。

しかし実際は武器を格安で売ってくれるだけであり落胆する者もいたがそれ以上に他のクランよりも比較的負担が軽いことが後押しして誰も抜けることは無かった。

こうして静音は着実に力を手にしていった。

それを聞きつけ貴族が取り込みに走るのである。

以前は戦争に備えるのが理由であったが、貴族がクランや冒険者を傘下に加えるメリットは他にもある。

貴族が通常よりも安く依頼を出すことができたり、高名な冒険者を雇うことで力を誇示することができるからである。

だが静音はどんな態度で頼まれても首を縦に振ることは無かった。静音は自分たちが貴族の権力争いなどに利用されることを良しとしないからであった。『冒険者は自由であるべし』一番古い冒険者ギルドを作った人物の言葉である。実際にこの言葉を知って静音が感銘を受けたのは言うまでもない。

またアルとミーナも日々鋼を打っていたこともあり、武器も基礎的なことは二人でできるようになり、後もう少しで自立できるくらいに成長していた。それを薄々感じていた静音は二人にあることを聞いてみた。

「ねぇ。二人はこの先どうするの?」

「どうするって、何が?」

「ほら。大人になったら仕事は当然しなくちゃいけないじゃん。でもこんな小さな工房じゃやれることは限られているし」

「あの。シズネさんは路頭に迷っていた私たちに救いの手を伸ばしてくれました。工房の大きさは関係ありません。私たちは私たちができることをやってシズネさんの手助けをしたいんです」

「欲を言えば俺もいつかは冒険者として一緒に仕事をやりたいとは思っているけど、大部分はミーナと一緒だな」

「でも二人もあと少しで自立できるくらいには・・・いや。もうナイフ主流でいくなら自立できるよ?」

「そうだとしても俺たちの考えは変わらないよ」

「そう。ありがとね」

静音は二人の言葉を受けてちょっと恥ずかし気に二人の頭をなでるのであった。




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第五十七話

シズネは武者鎧について試行錯誤をしながら加護についても勉強していた。

加護とは物を作った時に宿る者であり付与された物は消せないのが最近までの常識だったらしい。

だが、以前シズネが勇者の聖剣の呪いを祓うため鍛造したところ、呪いを祓うことができた。

聖なる鋼を打ち付けて呪いを祓った。それの応用で後から加護を付けることはできないのだろうか?

そう思って調べてみた。すると一番近いのはエンチャントであった。

静音は元いた世界のゲームなどでエンチャントという言葉は知っていた。

この世界のエンチャントとは加護ごとに必要な材料を揃え、調合し、エンチャントの石を作る。

そしてそれを魔法使いが付与魔法の応用で武器などにエンチャントの石を融合させるらしい。

「ふむ・・・。つまりエンチャントのようにエンチャントの石の代わりにそれに似た鋼を作ればワンチャン・・・?」

色々と考えた結果がこれだ。続けて加護について読み深めていくと気になる点が見つかった。

『加護は稀に使い古した道具に宿ることがある』とあった。つまり年月を経た道具にも加護が宿る可能性があるわけだ。ただしどれだけ使えばいいのかまではわからなかった。

しかし必要な情報は手に入った。静音はすぐに図書館を後にした。

「たっだいまー」

「シズネ。どこ行ってたんだ?仕事はまだあるぞ」

「ごめんごめん」

シズネは工房に戻って仕事に入った。戦争騒動は終わったので武器の注文は減ったものの、ナイフや包丁といった道具の注文は絶えることが無かった。

 

そして翌日。静音は看板屋に行き昨日注文していた看板を取りに行った。そして持って帰ってきてすぐに店に取り付けた。

その内容は『使わなくなった包丁・ナイフ・剣など・折れた剣も買い取らせていただきます』とあった。

「シズネ。こんなんのつけたら売り上げが減るんじゃないか?」

「ちょっと減るかもだけど、私の予想があってれば逆に収入アップに繋がるはずなんだよねー」

看板を付けてから二日が経った。その間で数本折れた剣と使わなくなったナイフや包丁が集まった。

シズネは日々打った商品を見ていた結果、『鑑定』のスキルを会得していた。

早速買い取った物を鑑定してみた。

・折れた剣

~ステータス~

≪鋭さ≫ E

≪攻撃力≫E

≪耐久≫ C

≪重さ≫ 軽い

≪価値≫ 無し

≪不屈の力≫

とあった。不屈の力とはなんぞやと思って久しぶりにヘルプを開いてみた。

ヘルプには『不屈の力とは折れた武器などに付与されることがあり、能力は武器の耐久が上がる』とあった。

折れた剣なのに耐久だけCだったのはこれが理由らしい。他の折れた剣も鑑定したが、≪不屈の力≫が付与されていたのは二本だけだった。

次にナイフなどの鑑定に入った。

・解体用ナイフ

~ステータス~

≪鋭さ≫ D

≪攻撃力≫E

≪耐久≫ D

≪重さ≫ 軽い

≪価値≫ 微妙

≪手慣れた解体≫

加護の欄にまた見覚えのない加護があった。調べてみると≪手慣れた解体≫は使い古した道具に宿る物で

ナイフなどの刃物であれば鋭さに補正がかかるらしい。

他も調べてみたが加護があったのは数本で全てには無かった。

とりあえず加護があった物を静音は工房の奥に持っていった。今日は柄の作業をしていたので炉は空いていた。静音はまず剣の柄や鍔などを取り払った。次に炉に火を入れて炉の温度を上げて炉の温度が高まったのを見ると一本の折れた剣を炉に入れた。剣が赤く熱されるまで待ち、十分に熱せられたのを確認すると取り出して叩き始めた。刀身に鏨で折り目を付けて折り返すように叩いていく。これを何度も繰り返して剣をただの鉄の塊に仕上げた。叩くことによって剣に含まれていた不純物を叩き出し、これを繰り返したことによってできた塊は元の剣からすれば小さかった。

そしてそれを鑑定してみた。

・エンチャントの塊

~ステータス~

≪不屈の力≫

静音の予想通りエンチャントの塊に変化していた。折れた剣などを打ち直すこともあるだろう。だが大抵は鋼に戻されて別の鋼を足す。この時点で鋼に加護が付与される。打ち直しで加護が付きやすいとあったのはこれが理由なのだろう。

続いて静音はサンプルとして置いていた剣を持ってきた。そしてエンチャントの塊を熱して、それをサンプルの剣に当てて打ち始めた。するとエンチャントの塊はサンプルの剣に吸われるようにして融合していった。そして完全にサンプルの剣に融合した。サンプルの剣にはさして見た目の変化はなかった。

だが鑑定してみると変化があった。

・剣

~ステータス~

≪鋭さ≫ B

≪攻撃力≫B

≪耐久≫ A+

≪重さ≫ 軽い

≪価値≫ 平均より高い

≪不屈の力≫

想定通り不屈の力が付与されてあった。どうやら実験は成功したようだ。加護が宿っている物はエンチャントの塊にするとができ、それを別の武器に移植することができる。多分エンチャントの材料を調合した結果できるのもエンチャントの塊なのだろう。今後もまた研究が必要そうであった。




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第五十八話

静音がエンチャントの塊を見つけてから数日後。今度は静音は正規のエンチャントの塊の精製に挑戦していた。

必要な材料は鉄や銅。それから動物の骨の粉末。さらには鉱石などを採掘したときに得られる特殊な粉。それられに加えて空の魔石だった。空の魔石とは魔法使いなどが魔石から魔力を吸い取った後に残るゴミに等しい物である。しかしエンチャント塊を精製するには必須の素材で会った。

静音は材料を揃えていざ挑戦を始めることにした。

まず材料を全て布で包みばらけないようにする。そしれ包んだものを炉に入れて熱する。

本には十分に材料が溶けたらOKとあったが、この世界でははっきりと物質の融点が解明されているわけではなかった。だが刀に触れていた静音は鉄の融点を知っているためどれだけ炉の温度を高めればいいかはわかっていた。

しかしドロドロに溶けても失敗するため加減が大事であった。

そして十分に熱せられたと判断すると静音は包を取り出した。既に包んでいた布はなく、溶けた銅や他の材料が赤く熱せられた鉄と半ば融合してた。そのまま観察していくと鉄が他の材料をまるで吸うようにして吸収していった。ちょっと見ていて不気味だなと思ったけど、そのまま冷えるのを待った。

空間冷却の魔法を設置して自然に冷えるのを待ったので一日待つことになってしまった。

そして冷えた鉄の塊は無事、エンチャントの塊に変化していることが≪鑑定≫スキルによってわかった。

静音は材料を組み替えてもまた実験を繰り返した。結果、基本の鉄や銅は変えずに、他の素材を変えれば変わった加護を武器に付与できることがわか他った。静音は新たな商材が見つかったと思い、エンチャントの塊を商品の列にならべることにした。

曰く必要な素材を持ち込んでもらえればそれに応じた加護を付与すると。冒険者ギルドにも張り紙を出させてもらい、宣伝に重きを置いた。静音の武器は王都でも有名になっており、これもまた宣伝の役割を果たした。

その効果あってか工房には連日武器への加護の付与を求める冒険者が殺到した。静音はアルとミーナと共にひたすらエンチャントの塊を作っては加護の付与を繰り返した。また加護の付与によってさらにシズネ工房の名前は知れ渡ることになった。

しかしこれを工房組合が黙ってみていることはなかった。

加護の付与は元来一流の鍛冶屋の特権であった。それをまだ立ち上げて間もないところが始めたとなるなど到底認められることは無かった。

「おい、本当に加護の付与なんてできるのかよ」

「えぇ。素材さえあればできますよ」

「一体何をするつもりだ?」

「武器に加護を付与する物を加えるだけです」

「大切な武器を弄るというのか?加護の付与と称して俺の武器に悪さするんじゃないだろうな!?」

工房はこういったようにクレーマーのような者を送って工房の評判を落とそうとしていた。しかし事はそう上手くいくことはなかった。

「なぁ、兄さんよ。そんなに嫌ならしない方がいいんじゃないか?」

「うるせぇ!!外野は引っ込んでろ!!」

「うるさいのはアンタだよ。この店の事を知らないのなら別の店に行きな。正直アンタのような奴が騒いでいるといつまでたっても回ってこないじゃない」

静音の工房を訪れている冒険者たちは日ごろ静音たちが誠心誠意を込めて対応していたことが功を奏したのか静音たちの味方になってくれる者ばかりであった。そうしてすごすごとクレーマーを入れようとしていた者はすごすごと帰っていくのであった。

日を増すにつれて静音の工房の良さは広まるばかりであった。ついには安くて良い武器が手に入ることからオススメの店として紹介されるまでになった。

だが静音の工房ではある問題が起こっていた。

「うーん・・・」

「シズネ、どうするんだ?」

静音は悩んでいた。一日に一件くらいの注文ならよかったのだが、今では王都だけでなく、他の町からもわざわざ王都に出向いて武器の注文をする冒険者まで増えたのだ。玉鋼はまだ王都のみでしか生産されていないため、玉鋼製の武器を求めて他の町からやってくるのだ。そうすると必然的に玉鋼を使って良質な物を作りなおかつ安いとくればそこに行くのが道理であるだろう。そうしてシズネ工房には多くの人が集まっていた。色々と他の町の情勢を知ることもできるのは良い店だったが、如何せん注文の数が多すぎた。

「やっぱり増やそう!!」

悩んでいたのは炉の数であった。最初の予定では静音一人で工房を回していくはずだった。だがそこにアルとミーナが現れ、静音の指導の元、才覚をあらわにしてきた。今ではナイフ程度なら作れることは造作もない。しかし炉の数が一個では商品も一つしか作れない。だから炉を増やすことにした。

増設には無理をいって店は開店したまま作業をしてもらうことにした。

おかげで工房は武器を求める客と炉の増設を受けた店の作業員でごった返していた。そして一週間をかけて二つの炉が完成した。

「これが二人それぞれの炉ね」

こうしてアルとミーナにも炉が与えられた。一般的に鍛冶屋の弟子は炉を使うことが許される=一人前だと認められるというのが一般的であった。しかし新しい炉を与えられるとうのはほぼ聞いたことが無かった。二人にとっては自分のことを認めてくれて、さらに期待されていると思うとなんとも喜ばしい事であった。こうしてシズネ工房はさらに活気があふれることになるのであった。




ありがとうございました。日曜日は更新できず、申し訳ありません。
civが悪いんだよcivが!!(言い訳)
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第五十九話

日頃私の作品を見ている方、ありがとうございます。おかげさまで小説家になろうで総PVが一万を超え、ハーメルンでもUAが五千を超えました。これからもよろしくお願いします。


工房の炉の数を増やしてから、工房の回転率は上がっていた。しかし爆発的な人気を叩き出したとしても

物が行き届いてしまえば物を欲しがる人も減っていくのは当然である。

とりあえず怒涛の注文ラッシュをしのいだ三人は久々にゆっくりとした昼を過ごしていた。

そんななか、シズネ工房に来客があった。

「失礼します。シズネ様はおられますか?」

「はい。シズネは私ですが?」

「王子がお呼びです。私と共に来てもらえますか?」

「わかりました。じゃぁ、二人とも店をよろしくね」

そうして静音は店を出たのだが、当の話を聞いた二人は状況が呑み込めないでいた。

「なぁ・・・王子様って、レオ王子様だよな?」

「そのはずだよ。王子様に呼ばれるって・・・」

「「シズネ(さん)って何者?」」

そんな悩みを抱える二人のことなど知らずに静音は王宮に来ていた。

「やぁ。呼び出してすまないね」

「今日は一体何があったんでしょうか?」

「いやぁ、君の店。最近羽振りが良いみたいじゃないか」

「えぇ。最初から来てくれたお客さんの口伝で広まったのか・・・。ただやっとゆっくりした日が戻ってきてくれましたね」

「それはそうかい。では本題に入ろう。俺はつい先日対魔獣府の取りまとめ約に任じられてね。それで最近議題に上がったのが『魔獣に対して効率が良い武器』でね・・・」

「つまり?」

「君が玉鋼を王国に伝えてから戦争が示唆されるくらいには王国の武器の技術は上がった」

「私、咎められてます?」

「いいや。それで先日君は加護を付与することを新たに商品として出したそうじゃないか」

「よくご存じで」

「それで聞きたい。エンチャントの法則など何かわかったことはあるかい?」

「はい。簡単に申し上げれば使う素材によって決まる可能性が高いかと。例を挙げるのであれば長く使った物を使えば耐久を後押しするエンチャントが付くなど」

「なるほど・・・つまり魔獣が嫌う物を使えば魔獣に対抗できるエンチャントができる可能性があるというわけかい?」

「さぁ・・・そもそもエンチャントの法則を解明しようとしている学者さんなどがおられるはずでは?」

「確かにそう言った人物や集団はいる。だが君のように確立させたという人物はまだいなかった。つまり君が一番乗りの可能性が高い」

「そ、そうなんですか・・・」

「話を元に戻すけど、君に仕事を頼みたい」

「仕事、ですか?」

「対魔獣府に所属する兵士たちの武器の改良を頼みたい」

「それは国からのということで捉えて良いんでしょうか?」

「そうだね、そうなる」

「まだ立ち上がったばかりのウチに任せるのは他の店の不評を買うのでは?」

「商業は実力が一番だ。実力を示している君なら問題ないだろう。それに君は王級鍛冶師なんだしね。

国が実力を認めている者に仕事を頼むのはおかしくはないだろう?」

「・・・わかりました。しかし何人分の物を用意すればいいのでしょうか?」

「そうだね・・・所属しているのが約300人。使う武器は様々だが、剣士が大半を占めている。

弓などの遠距離攻撃を用いる者は今回は除外するとする。だから大体150人分くらいだな」

「えぇ・・・。簡単に剣士とおっしゃられましたが、ウチは片手剣くらいしか作れない小さな店ですよ?」

「ふむ・・・。こちらとしてはこの機に全員玉鋼製で揃えたかったのだが・・・仕方あるまい。できる範囲で頼みたい。エンチャントの方はどうだい?」

「素材と時間さえあれば・・・。ただし、まだ魔獣に対して有効なエンチャントの法則は見つけていないので時間がかかるかと・・・」

「ふむ。ならそちらの方は研究援助ということで資金を回そう。そうすれば何とか見つかるだろう」

「わかりました。お引き受けいたします」

「そうか。それは良かった。肝心の報酬だけど君が売っている相場の3割増しでどうだい?」

「結構多いですね」

「人の命を金で助けられるのなら安い方だ。では必要な書類は後で作って持って行かせる。結果を待っているよ」

こうしてレオ王子との談話もとい商談は終わった。正直やっとゆっくりした生活に戻れると思ったけど、まぁ仕事が無いよりはましか。

とりあえず私はこの話を二人にもしてみた。すると二人は驚きで言葉も出ないありさまだった。

事情を聴いてみると私が王族にコネを持っていることを知らなかったらしい。

取り合えず仕事が増えたことを話して協力してもらえることになった。

そして数日後、山のような書類が届いた。必要な武器の種類と数。それから援助金に関する物だった。

これから忙しくなりそうだ。




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第六十話

静音はレオ王子から届いた書類を見て色々と考察していた。魔獣に有効なエンチャントについてだ。

魔獣が嫌う物は聞いたところによると神官が聖なる魔力を注いで作った聖水。

それから聖域にあるという神木。

そして霊山と呼ばれる山で極稀にしか取れない鉱物、オリハルコン・ミスリル。

しかしどれも高価で研究に使うとはどうしても言い出せない物ばかりであった。

唯一聖水だけは流通していて手に入れることはできた。

「あ、そう言えば鋼を冷やすときに水を使うけどそれを聖水に変えたら・・・」

一つ、静音の頭にアイデアが浮かんだ。早速教会に行って聖水を少しばかり購入してみた。

聖水にも原液とそれを薄めた物があり、原液が聖なる魔力を注いで作った物でそれを薄めた物が回復薬などに使用される。静音は思い切って原液を買ってみた。

そして早速鋼作りに取り掛かった。まずいつものように鉧から取り出した欠片を合わせて熱して一つの塊にする。そうしてできた塊をさらに熱して叩いて形を整えていく。塊が板状になったら聖水の原液を垂らした水につけ一気に冷却する。そうして冷えるのを待ってから引き揚げてみる。そして鑑定をしてみた。

〈聖鋼〉

・ランク C

・魔獣に対して有効な加護が付与される可能性がある

「よし、上手くいった」

そしてそのまま鉄や銅、空の魔石と合わせて熱し、エンチャントの塊が完成した。

早速前にアルが練習で作っていた剣にエンチャントを付与してみた。そして鑑定してみた結果は

〈鋼の直剣〉

・製作者 アル

・分類 剣

~ステータス~

≪鋭さ≫ C

≪攻撃力≫C

≪耐久≫ B

≪重さ≫ 軽い

≪魔獣に対して攻撃力上昇≫

予想通り魔獣に対抗できるエンチャントを付与することができた。早速静音はレオに成果を見せに行った。

「なるほど。ウチに鑑定士にも見せたが成功したようだね。よくやってくれた」

「ではこれを付与した武器を量産すればよろしいのでしょうか?」

「あぁ。その方向で構わない。ただこれを公にすると聖水の値段が上がるだろうね。さて、どうしたものか・・・宰相に相談するとするか。では仕事の方、頼んだよ」

レオにも成果を認めてもらって、静音は本格的に武器の量産を始めた。

シズネ工房は三つある炉をフル稼働させて毎日ひたすら鋼を打っていた。

今回は量が量なので柄に関しては王都の柄専門店に柄を作ってもらうことにしていた。

全てを作っていては時間があっても足りないからだ。それからクランのメンバーにも前もって頭を下げていた。ここ二週間はクランの活動に参加できないということと自分が王級鍛冶師で国から仕事を受けたことを包み隠さず話した。メンバーからは励ましの言葉を貰うことができた。

そして一日一人三本ほど刃を作り続けて約二週間が経った。

柄専門店に作った物から順に送っていたため、プラス二日ほどかかったが、

頼まれていた剣や槍が総計100本余り、ナイフも同じ数作ることができた。途中玉鋼を製造したので時間はかかった。だが何とか成し遂げることができた。

そして一日体を休めて静音はレオのところへ完了の報告をしに行った。

「お、もうできたのかい」

「ウチのできる最大の速さでやりましたから・・・。あ、品質も問題ないですよ」

「では兵士たちに取りに行かせよう。工房に保管してあるんだったけ」

「はい。流石にあれだけの量は空間収納にも入りきらなかったので山のように積まれてますよ・・・」

「わかった。後で取りに行かせる。あぁ、報酬は君の口座に送っておくから」

「これで終わりですね」

「また何かあったら頼むとするよ」

後はレオお抱えの鑑定士が問題ないと判断すれば仕事は完遂したことになる。

とりあえず頑張ってくれたアルとミーナにほぼ完了したと伝えた。流石の二人も約二週間にわたる激務で疲れ果てていた。

そして仕事が終わったことをどこから聞きつけたのか、クランのみんなが静音たちを慰労する宴会を準備してくれていた。流石にちょっと涙腺が緩くなったけど何とかこらえた。みんなの暖かさを嬉しく思いながらその日は三人とも楽しんだ。

そして数日後、納入した武器に問題はないという報告を受けて無事仕事は達成された。

それから魔獣に対する魔獣に有効なエンチャントに関しては他の研究者が発表した論文も踏まえて精査した結果、

第一発見者は静音ということになり、静音名義で魔獣に有効なエンチャントの存在が発表された。

こうしてまた静音は一つの功績を打ち立てたのであった。




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第六十一話

国からの仕事を終えてひと段落し、注文も落ち着いてきた頃。静音はアルとミーナを連れて王都を巡り歩いていた。しかし今日は何やら人が多く、かなり混雑していた。

そう。今日は年に数度ある内の一つ、魔王討伐記念祭りなのである。

場所を問わず、屋台が立ち並び、賑わっていた。

「おー。結構人がいるねー」

いつもより人が多いことにちょっと驚きつつも関心する静音と反対に、アルとミーナは静かであった。

「ん?二人ともどしたの?」

「あ、えっと・・・去年まで祭りなんて全く楽しめてなかったから・・・」

「あ・・・そっか」

そう、二人は元々孤児で孤児院すら入れない劣悪な環境の中で必死に暮らしていた。そこを運よく静音に拾ってもらい、今までの生活が嘘のような暮らしに変わっていた。そして何時かは楽しみたいと思っていた祭りに今参加しているのである。

「んじゃ今日は目一杯楽しまないとね。といっても私王都の祭りは初めてだからよくわかんないけどね・・・」

「とりあえず旨い物が食べたい!!」

「わ、私は飴が食べたいです」

「よし、探しに行こう」

そうして三人は人を避けながら目当ての物を探した。

そして三十分後。少し落ち着いた場所で手に入れた戦利品を口に運び舌鼓を打つのであった。

「むーん・・・この肉串旨い!!」

「飴、甘いです」

「うーん・・・たこ焼きもお好み焼きもあれもこれもないとは・・・異世界恨むべし・・・」

しかし一人だけ知っている世界が違う静音には不評のようであった。しかし両手には焼いた肉の串があるのはご愛敬。とりあえず肉串にかぶりつくことで落ち着いていた。

そして再び王都を巡り歩いた。

一回目は食べ物を探して巡り歩いたので気が付かなかったが、いたるところに装飾が施されていて

祭りの雰囲気を演出していた。

それに誰もが笑顔だった。魔獣の脅威があろうとも人は楽しいことがあれば笑顔になる。

しかし酒を扱っている店は例外だった。酔っ払いがあふれ、喧嘩とまではいかないが小さな諍いで争いが頻発し、それを煽ったりする人もいて阿鼻叫喚の姿だった。

まぁ、店の方もこうなるだろうと予想はしていただろう・・・多分。

それから色々と巡り歩いる間に少しづつ静かになっていった。祭りの終わりが近いのだろう。

三人も十分楽しんだので家に帰ることにした。

「二人ともどうだった?」

「楽しかった。あれもこれも静音のおかげだよ」

「ありがとうございました」

「いいのいいの。私たち家族でしょ?」

こうして一夜の輝きは夜が更けるのにつられて消えていった。

そして次の日。王都では作業員の人たちが装飾などの飾りつけを外していた。

それを後目に静音は冒険者ギルドに歩いて行った。

今日は久々の遠征の打ち合わせがあるからだった。そして冒険者ギルドを訪れるとそこはいつもの賑やかな雰囲気ではなく、物々しい雰囲気が漂っていた。とりあえず見つけたリーシャとエラムのところに行ってみた。

「ねぇ、何かあったの?」

「あぁ、どうやら近頃魔獣の動きがおかしいらしい」

「おかしい?」

「魔獣の森では森の奥深くに行かないとゴブリンすら見つからないとか、魔獣の草原も同じように奥深くに行かないと魔獣に出会えないなどといった現象が起きているようです」

そこへクランのメンバーたちも集まってきた。

「どうやら魔獣が消えた、もしくは何らかの原因があって魔獣が生まれていない可能性がある」

「魔獣が生まれていない?」

「知らないのか?魔獣も無尽蔵に生まれてくるように思うだろうが実際は違うらしい。ある研究者が提唱した説なんだが、魔獣は何らかのリソースを使って生まれてくるって話らしい。んで魔獣の森や魔獣の草原はそのリソースが豊富にあるから魔獣が多く生息するって話らしい。んで、大型の魔獣が生まれるってなるとそっちにリソースが割かれて弱い魔獣が生まれてこないとかなんとか」

「なるほど・・・つまり何かの予兆ってわけか」

「お、呑み込みが早いな。大抵こういう時は巨人とかが出現することが多いらしい」

「巨人?ミノタウロスとかよりも大きいの?」

「こういうことはそう頻繁にあるわけじゃない。だから大抵物好きな人間の手記か口伝でした伝わらないからな。んで実際十年前にかなりデカイドラゴンが出た」

「ドラゴン・・・」

「ソイツは村だろうと町だろうと、草原だろうと生き物がいる場所を見境なく破壊しつくそうとした」

「それでどうなったの?」

「王国は身分を問わず大規模な討伐隊を編成しドラゴン討伐を行った。犠牲も大きかったが無事討伐できた。んでそこで大活躍をしたのが『剣聖』ラフェ族のウィリアムだ」

「なるほど・・・」

「とりあえず物資の値段が跳ね上がるだろうから備蓄しておいた方がいいぞ」

親切なダンさんの助言を受けて私たち三人は保存食などを買いに町に出た。ギルド内の動向はダンさんたちが見てくれてくれるらしい。

一体何が始まるんだろうか・・・。




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第六十二話

王都の冒険者ギルドが騒がしくなってから二日が経った。ダンさんの言った通り携帯食の値段は上がり、また冒険者ギルドにいる人も増えたような気がした。これはダンさん曰く「緊急事態はある意味稼ぎ時でもある。地方から話を聞いて来た奴らもいるんだろう」と。

そして少し経った時、慌ただしくギルドの職員さんが声を上げた。

「魔獣の平原の奥地にてタイタンの兵団が観測されました!!難易度はDランク以上からの参加をお願い遺体します!!」

「タイタンって?」

「硬い皮膚を持つ巨人の一種だ。大抵が武装していて群れを作る。その様から兵団と呼称されている」

「とりあえずウチは全員Dランクだから参加可能だけれど・・・」

「正直今回はどうなるかわからん。参加する冒険者の数を見て進退を決めた方がいい」

「そんなに強いの?」

「皮膚も硬く、簡単だが鎧兜も着ている。並みの冒険者じゃ歯が立たん」

それから少し待って様子を見たが、どこも私たちと同じように様子見をしているようだった。

「どうしよっか・・・」

「こうなると、国の対魔府が出てくるな。そうなると稼ぎはゼロになるな」

「うーん・・・経験は積んでおきたいし、行こう?反対の人は?」

静音の問いに対し反対はいなかった。まぁ安全策は取りたいが、ここで動けば立場は良くなる可能性が高かった。

「アイアン・イグニス、人数15人。参加します」

静音が大声で参加を表明。すると釣られるようにゆっくりとではあるが参加する冒険者が増えていった。

「うーん。これでよかったのかな?」

「誰かが動かにゃならんかった。んで動いたのはウチのリーダー。まぁ評判は上がるんじゃねぇかな」

出発は明日。とりあえず今日は休むことになった。

 

そして次の日。人数分の馬車が用意され、魔獣の平原の前哨地、フォロムへと向かった。

こういう時に湧いた魔獣の群れは見境なく生き物を襲うらしい。だからフォロムも安全とは言えなかった。

だが心配は杞憂に終わった。無事にフォロムには到着し、フォロム自体も無事だった。

そして観測班からの情報では兵団は奥地から少し浅い場所へと移動しているとのことだった。

数はおよそ30ほど。集まった冒険者は50人程度。数では少し上くらい。正直勝てるかはわからなかった。

んで、指揮系統なんだけど・・・一番に名前を挙げた私たちが取ることになった・・・。どうしてこうなった・・・。

「とりあえず様子見で行ってみよう」

私たちは一路兵団を探して魔獣の平原に入った。今回も移動は馬で行った。タイタンは足が遅いと聞いたのでこれなら緊急時に逃げることもできる。

そして平原を駆けること少し。何か物々しい雰囲気が漂っていた。

「この先に何かいるのかな」

「多分兵団だろう。全員、気を付けな!!」

足りないところをみんながフォローしてくれていた。ほんとに助かってる。

そして少し進むと影が見えてきた。しかし遠目で見ても大きさが異常であった。

「間違いなく巨人だな。対抗策は覚えてるか?」

「確か膝の裏が弱いんだったよね?」

「そうだ。人間の鎧と同じく関節の部分は弱い。そこを叩いてから保護されていない首を狙う」

そんな話をしていると巨人の群れがこちらに気づいたようだ。しかしかなり距離は遠い。

どうやら魔獣によって探知範囲が違うらしい。そして巨人は探知範囲がかなり広いらしい。

ここまで聞こえるくらいの雄たけびを上げて巨人が駆けだした。

「迎撃準備!!」

馬から降りてみんな自分の獲物を手に取る。

そしてついに巨人と肉薄する。いざ近くに来ると威圧感がすごかった。でも怖気ずに戦わないといけない。巨人は鉄のこん棒を振るっていた。しかし動きは遅く、避けるのは容易かった。そしてでかい図体のおかげで股を潜り抜けて背後に回れた。そして魔力を込めて膝裏を切り裂いたのだが・・・。

「ほろ?」

なんと足もろとも切断してしまったのである。まさかこんなことになるとはつゆ知らず。以前レオ王子から武器の依頼を受けた時に一緒に時雨にも対魔獣のエンチャントを施したからだろうか?

ともかく足と分離して倒れた巨人の首を裏から突き刺し抉り、切り裂いた。悲鳴が聞こえたがあまり気に留めなかった。行為が終わってから気づいたのだが、私には魔獣に対して良心が働かなくなってしまっているみたいだった。悲鳴も、何も聞いても感じるとこが無い。ちょっと怖くなった。でもそんなのは襲い掛かってくる巨人のせいで消えてなくなった。

こん棒の下振りをジャンプで避けて偶然そのまま巨人の頭に肉薄した。そのまま渾身の魔力を込めて振り下ろした。

「おー・・・」

すると巨人は兜の上から股まで綺麗に両断された。

「おい、なんだあの女。巨人を真っ二つにしやがったぞ!!」

「確か今回のまとめ役じゃなかったか?」

周囲がざわめくが気にしない。そして様子を知ったみんなが集まってきた。

「どうやらリーダーがかなり火力を出せるようだな。ならリーダーを主軸に動くぞ。幸いアリムスも魔力を幾分使えるようだからリーダーほどじゃないが活躍できるだろう。俺たちで周囲の巨人を相手取ってリーダーは浮いた奴を各個撃破だ」

作戦が立つと私たちは一斉に動いた。私は戦場を駆け、巨人の頭に肉薄しては時雨を振り下ろしその命を絶っていった。みんなの方も慎重に動いて巨人を倒していた。

そして作戦開始からどれだけ経っただろうか。いつの間にか巨人は消えていた。

「勝った!!勝ったぞー!!」

そんな声が聞こえて我に返った。どうやら勝てたらしい。とりあえずまとめ役の仕事をしないといけない。

「怪我人の有無の確認を!!それから容体も確認してください!!」

とりあえず参加者の状態の把握を始めた。どうやら怪我を負った人はいるらしいが重症者や亡くなった人はいない様子。とりあえずホッとした。

そして怪我人は馬に乗ることは難しいので数人にフォロムに馬車を取りに行ってもらった。

馬車が到着してから私たちはフォロムに帰り、一日休んでから王都に帰った。




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第六十三話

巨人の兵団が出現しこれが討伐されてから約一週間が過ぎた。その頃王都ではある人物についての噂が流れていた。

「じゃぁ、ここはこうで・・・」

一方静音は巨人兵団討伐を終えて休息を挟んだのち、ギルドからの特別依頼として平原の観察依頼を受けることになっていた。そのためクランメンバーを集めてギルドで会議を開いていた。

「なぁなぁ。あれが巨人を真っ二つにしたっていう娘か?」

「あぁ。参加した奴の大半が何度も目撃しているらしい。それも一度じゃなく何回もらしい」

「そんなバカな。巨人はただでさえ皮膚が硬くさらに鎧も着こんでいるんだ。それをあんな華奢な娘が切れる訳がない」

「だろうなぁ・・・。それに持っている武器も木の枝みたいに細い棒?剣・・・。わからんな」

「どうせどこかの貴族の娘が調子に乗って魔剣か何か手に入れてそれで斬ったんだろ」

「いや。あの娘、クランを立ち上げているらしいぞ」

「クランを?どうせ貴族のままごとだろ」

「いや。あのクランのリーダーは鍛冶屋だと聞いたぞ」

「鍛冶屋?なら貴族と全く関係が無いのか?」

「いや。確か剣聖様と一緒に出歩いているところを見たって奴がいたぞ」

「そういや一時期剣聖様が旅立つ前まで弟子を取ったって噂があったが・・・まさか」

「剣聖様は教練こそしたものの、弟子は取ったことが無かったはずだ。その剣聖様が見込んで弟子にとった娘とすれば・・・」

「それなら腕が立つのも自然か・・・。しかしあのクランは羽振りがいいらしいな」

「あぁ。着ている鎧こそまばらだが傷も残っているだ手入れはされている。それにあの人数で臆することなく巨人討伐に一番に名乗りを上げたということはそれだけメンバーも腕が立つということだろう」

と、こんな風に巨人兵団討伐時の静音を始めとしたクランメンバーの活躍がやや誇張されているが王都では噂のネタになっていた。とりわけ静音は使う武器が奇妙だということで一番の話に上がっていた。

そんなことはつゆ知らず。静音は着々と予定を立てていた。

依頼内容としては魔獣の草原の監視、生息する魔獣に変化は無いか・或いは異常が起きていないかの観測する研究者たちの護衛であった。ただし応戦の必要が無い限りは魔獣への手出しを禁止するとの条件があった。もし巨人が平原のリソースを吸いつくしていて回復不能になってしまっていた場合、魔獣が湧かず魔獣を狩れる狩場が無くなり、冒険者の経済が崩壊する可能性があるからだ。

「じゃぁ今回はパーティを二つにわけるってことで。一班が斥候などの周囲の偵察。二班が学者さんたちの護衛を担当で」

特に問題は無く会議は終了し、当日に備えるだけになった。

そして当日。早くに静音たちは集合場所について研究者たちの到着を待った。研究者たちも時間通りに現れて合流し、そのままフォロムへと向かった。

道中静音はこの世界について詳しくはないため、必要そうな知識が無いかと思い研究者にあれこれと来ていた。研究者も質問に対して嬉しそうに答えていた。

そしてフォロムに着いてから一日休憩を挟んで静音たちは魔獣の平原へと進んだ。

まだ町に近い草原には草食動物などが草を食んでいるのが見えた。ともかく静音たちはまずは巨人の兵団が歩き回ったであろう場所を調べることにした。色々と歩いて魔獣の死骸の残骸や地面に残ったわずかな足跡などを辿ってついに巨人の兵団が湧き出たであろう場所にたどり着いた。その場所に着くと研究者たちは水晶などが付いた杖などを取り出してあたりを歩き始めた。とりあえず様子を見るだけで静音たちは魔獣の襲来に備えた。

そして作業がひと段落したのか杖を置いて紙に何かを書き、また別の紙を取り出して見比べていた。

「あの、何をしているのでしょうか?あ、忙しかったらすみません」

「あぁ、気にしなくていいよ。これはあたりの魔素を調べているんだ」

「魔素?」

「魔素っていうのは馬車で話した通り魔獣のエネルギーとなっているであろう力の事。それから魔獣などが出現するときにも使われる物であると推測されている。それで今回のように強大な魔獣が出現したときにはこの魔素が著しく低下するんだ。そしてこれが低下したままだと他の魔獣が湧かなくなるんだけど、今は以前と同じくらいの量が計測されている。だから魔獣の枯渇という事態は起こらないだろう」

「そうですか・・・ありがとうございました」

それからも静音たちは平原を歩き回って魔素の計測や魔獣の数などを調べた。魔獣に関しては魔獣の探知魔法と遠眼鏡を使っての遠方からの観測だけしかできなかった。そもそも近づいたら襲われるからなのは常識である。

ともかくこれを数日間繰り返して満足した結果が得られたと判断した研究者たちは王都へと帰ることを提案した。そしてそのまま静音たちは王都へ帰った。その後、冒険者ギルドから正式に魔獣の平原での狩りが解禁されたのであった。




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第六十四話

色々な騒動が静まり返って日常が戻ってきた今日この頃。静音は訓練所で剣の訓練をしていた。

例え雷の魔力があったとしても基礎体力や技能はあって困ることはない。

色々と試行錯誤を繰り返したり、動作の練度を上げようと必死に努力をしていた。

しかし一日のもっぱらを訓練に割けるわけでもなく、鍛冶師としての仕事もあった。

注文があれば鋼を打ち、頼まれれば刃を研いだりと仕事はあった。

それに時間が空けばクランを率いて遠征を行って生活の資金を稼ぐ必要もあった。

色々と報酬を貰ってはいるがそれでも最悪の事態を考えればお金もなくてはならない物である。

そんな中で静音は大変ながらも毎日を謳歌していた。

そんなある日、静音の店に一人の男性が訪れていた。

「これはどうもシズネさん。お時間を作っていただきありがとうございます」

「え、えぇ。それでどんなご用件でしょうか?」

「あぁ、それはですね。この度はシズネさんが率いているクランと契約を結びたいと思いまして」

「契約?」

「はい。シズネさんの率いるクランは少数精鋭でランク以上の戦果を挙げていると聞いております。特に魔獣の平原には多く遠征を行っているとか」

そんなことを聞いて少し自分の身が探られていることに静音はちょっとだけ不気味に思った。

「それで私どもはスペリア王国とネルミア王国間での貿易を行っております。しかし懇意にしていたクランが拠点を移したとのことで魔獣の平原を渡るときの護衛がいないのです。そこで私どもと護衛契約を結んでいただきたいのです」

「護衛契約・・・つまり荷駄隊の護衛ですか」

「はい。魔獣の平原や鉄の砂漠。それからネルミア王国の灰雲の草原これらを通るときの護衛をお願いしたいのです」

「そうですね・・・。私の一存では決めれません。クランのメンバーと相談してから返事をしてもよろしいでしょうか?」

「はい。それで構いません。では私は自分の商館におりますので名前を言っていただければすぐに通してくれるようにしておきます」

こうして貿易商との交渉は一時中断になった。とりあえず次の日私はクランのメンバーを集めて件の契約について話し合うことにした。いつもみんなはギルドには毎日顔を出すようにしているらしいので伝言を掲示板に書いておけば次の日には集まってくれる。まったくありがたい話である。

「んで護衛契約か。とりあえず魔石の配分はこちらにあるってのは当然だが、二つの国を行き来するなら一回にかかる時間は結構なものだな」

「それに私たちは魔獣の平原しか知らず、それに奥地にも行ったことがありません。未知の地を歩きさらには護衛対象がいるとなると難易度は計り知れないでしょう」

「うーんやっぱ受けるのは無しだね。それともう一つ聞いたんだけど、なんか王都だけでなく各地のクランが拠点を変えているって話、こっちにも流れて来てる?」

「あぁ、確かにクランメンバー募集の張り紙の拠点位置が変わっているところをいくつか見たな」

「確か王国の北の雪山が連なる山脈に新たな魔の歪みが観測されたらしいですね」

「んでそこの魔獣も特殊で骨やらなんやらと残すから新しい物に目が無い商人と金持ちがこぞって求めてるから一攫千金を狙ってそっちに拠点を移したんだろうよ」

「なるほどねー。そんなことがあったんだ」

「現れたのは毛深い巨人や毛深い象のような魔獣らしいな」

「寒冷地ということで毛深いという特徴があるのでしょうね。そう考えると魔獣も普通の生き物とそう変わらない気もしますが・・・」

「ほえー。面白そうだけど、とりあえず契約の件は断るということで決定。急なのに集まってくれてありがとね」

とりあえずこんな感じで会議は終わった。その足で私は貿易商の商館を訪れた。そして契約はできないと話した。

「そうですか・・・残念ですが仕方ありません。一考していただきありがとうございました」

話は簡単に終わって私は商館を後にした。ん、そういえば一つ忘れていたことがあった。

私は件の貿易商の人が取り扱っている商品をエラムと一緒に調べてみた。するとどうやらこの商館は貿易品とは言っているがその実は武器商品だったらしい。武器に使われる鋼などを主に扱い、王国の鍛冶屋とも複数契約を結んでいるらしい。どうして国家間の貿易で武器を取り扱っているのか?その背景は二つの国の違いに合った。スペリア王国は戦略資源に恵まれているらしいが、ネルミア王国はそうではないらしい。ネルミア王国はとりあえずは自国で武具は賄えてはいるが余剰分が出るほどの余裕はないらしく、

また資源が少ないことから研究もあまり進んでいないらしいようで他国に優れた武具があればこうして貿易商を通して入手しているらしいのだ。そしてつい最近私が玉鋼を王国に提唱したためこうして玉鋼を狙ってネルミア王国が手を伸ばしてきたというのがエラムの推察だった。多分護衛契約は建前で本音は玉鋼を使う鍛冶屋である私の鍛冶屋との契約を結びたかったのだろう。

とりあえず何気ない契約でも考えるようにとのお小言をエラムから頂いたのであった。




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第六十五話

契約云々から少し時が過ぎた今日この頃。遠征から帰ってきてクランの口座を確かめてみると既にクランハウスが買えるぐらいの資金が溜まっていた。これは規約の徴収分だけでなく、クランのみんながクランハウスのためにと少しずつお金を納めてくれていたからだ。これでクランハウスを買い、みんなで集まれる場所ができるのだ。早速会議にかけてクランハウスを買うことを決めた。

場所は任せるとのことだったのでとりあえず経済に詳しいエラムを引き連れて不動産屋に向かった。

「クランハウスねぇ・・・言っちゃぁなんだが嬢ちゃんたち。王都に腰を据える気かい?」

「?」

「シズネ。クランハウスを買うということはそこから動かないという意味でもあるんですよ。買うのに膨大なお金がかかりなおかつ売るときは勝った時のお金の半分も帰ってこない。もしなにかあって拠点を移すことになると損をするんですよ」

「あー、会議の時になんとなく言ってたね」

「大抵王都にいるクランは拠点を持たずに金の流れに乗って動いているのが多い。クランハウスを買うなんて稀中の稀だな」

「そんなにですか」

「ただ買うメリットもある。大衆に聞かれることなく会合などを開く場所ができたり、食住の費用を抑えたりとな」

「うむむ・・・どうしよう。エラム」

「私たちは魔獣の平原で稼ぐことが多いので王都に拠点を持っても良いと思いますよ。それにどこか良い稼ぎどころができたとしてもそこへ遠征をすればいいだけの話ですから」

「よっし。店主さん。良いところないかな?」

「そうだな・・・」

といった感じで話を詰めようとした矢先、ふと思い出したことがあった。

「エラム、そういえばさ。ウチの家の横って空き家じゃなかったっけ?

「?あぁ、そう言えば人が出入りしてるところを見たことは無いですね」

「すいません。ここの隣ってどうなってます?」

「ん、ちょっとまってな・・・。あったあった。えぇっと、空き家だな」

「広さはどんな感じです?」

「そうだな。ここは以前は貴族屋敷が立ち並んでいたはずだ。広さは・・・三階建てで部屋は各階に10ずつある。厨房もそれなりの大きさだ。それに広間もあってクランハウスにはもってこいだな」

「じゃぁ、お値段はどれくらいですか・・・?」

「えぇっと・・・400万ゴールドだな」

「うん、いまの持ち手は422万ゴールドだから支払えるね。エラム。ここでいいかな?」

「ウチの横ですし何かと便利そうですから良いかもですね」

「じゃぁここを買います」

「あいよ。んじゃ金はこの口座に振り込んでくれ。あ、掃除とかはまめにやっているから綺麗だと思うよ」

こうしてクランハウス購入となった。そして口座にお金を支払って無事売買契約成立。実際にみんなでクランハウスを見に行った。

「ここがクランハウスか」

「元貴族の屋敷ともあって大きいですね」

「で、横がボスの鍛冶屋と。こりゃ便利そうだな」

「誰がボスじゃい」

それから実際に中に入って思い思いに探検してみた。

「どうだった?」

「家具も備え付けで掃除もしてありすぐに使えそうですね」

「こりゃ下手な安宿よりよっぽどいいぜ。すぐに引っ越そうか」

「んー女の立場としては一つの階を女専用にして男禁制にしてほしいかな」

「あー確かにね。じゃぁ二階をそうしようか」

と、あれこれ決めてそして数日後にはみんなクランハウスに引っ越してきた。

「で、あとは飯をどうするかだが・・・」

「あーそれなら問題ないよ。ここを買った時に別で料理人を探して雇ったから。多分今日来るはずなんだけど・・・」

そう言っているとドアの呼び鈴が鳴った。

「はーい。今開けますねー」

そこにいたのはちょっと体つきのいい女性だった。

「ここがアイアン・イグニスのクランハウスでよかったんだね?」

「はい。今日からよろしくお願いしますね。エマさん。ん、そちらの方々は?」

「あぁ助手がいるって言ってたじゃん?ウチの娘さ」

「ミーネと言います」

「エリーと言います」

「うん、よろしくね」

「んじゃ二人は買い出しを頼むね。アタシは厨房の様子を見て来るから」

こうしてエマさんたち親子が料理人としてクランに加入した。で、厨房を吟味するエマさん。

「どうですか?」

「いいね。大抵の物は作れそうだ。それに広いから三人全員が動いても問題なさそうだ。良いところを引いたようだね」

とりあえず好印象のようだ。

それから夜になってその日はクランハウス購入記念ということで豪勢な食事になった。エマさんたちが腕を振るって作ってくれた。みんな競い合うように料理を食べ、料理は全て食い尽くされたのであった。

「うん。良い食べっぷりだね。こりゃぁ作り甲斐がありそうだ」

とりあえずクランハウスは購入できたのでクラン資金は別のところに回そうということになったのであった。




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第六十六話

クランハウスを手に入れた今、クラン資金は何に使えばいいのだろうか?それを早速話し合うことにした。

クランハウスという集合場所であり家が手に入った今、どれだけ小さかろうが会議を開くのが楽になった。

「ふむ・・・確かにクランハウスが手に入った今、維持費以外にこれといった使い道は思い浮かびませんね」

「そうだな・・・。新しい武装を仕入れるってのもあるが、正直今の俺たちなら魔獣の平原で小細工をする必要はないからなぁ・・・」

「宿代や食事代を出してもらえるというだけで結構負担は無くしてもらってますし、多くは望まない方がいいかと」

「うーん、そうなるかぁ・・・」

珍しく会議は難航していた。これと言って案が出ないからだ。君たち物欲は無いのかい?

「しかしクランハウスが手に入ったのは良いが・・・逆にメンバーの募集が難しくなったな」

「ん?どゆこと?」

「ほら、クランハウスと言えど、部屋の数には限りがあるだろ?」

「あ、そっか」

そう、クランハウスにある部屋の内三分の一は既に使っている。相部屋などは流石にしたくはないだろう。

そうなると使える部屋以上に人が来ると大変になる。

「といっても王都じゃ巨大なクランは滅多にできないけどな」

聞いたところによると王都の冒険者たちはただ依頼が多く集まるということで訪れるのがもっぱらであり、

好みの依頼が無くなったり、美味しい話ができるとそちらに移る傾向があるらしい。だから集まってクランを形成するというのが稀だとか。

「武器の支援といっても既にウチの工房でできるだけやってるしなぁ・・・」

既にクランのメンバーの武器の大半がシズネ工房製の武器に置き換わっているのだ。強いて言えば工房で作れない大剣を使うメンバーくらいだろうか。

「それに下手に武器の支援をするって言ったらそれ目当てに加入して武器を手に入れたら元のクランにさよならって奴も出てくるかもしれんしな」

「うむむ・・・どうしたものか・・・」

「とりあえず貯蓄に回してはどうでしょう?何か不測の事態があっても貯蓄があれば乗り越えられるかと」

「当分はそれが良さそうだね」

と、いうことで第一の議題は終了。続いて遠征の会議だがこれは何度も開いているのですぐに決まってしまう。遠征先は魔獣の平原なのはいつものことなのだが、今回は少し奥地に進んでみようということになった。どうやらみんなは遠征以外にも依頼などをこなして色々と戦闘を経験していたらしい。

とのことで腕試し程度に収めるけど進んでみようということになった。当然事前に情報はできるだけ入手することを前提とした。そして決まったその日から動き出した。

とりあえず私は書店に向かった。ここなら冒険者が自分の経験を書いた本があるからだ。

とりあえず魔獣の平原の奥地について書いている本を頼んだ。

「ふむふむ・・・」

『魔獣の平原の奥地は入り口とは比べるまでもなく難易度が高い。生息している魔獣がどれも単独行動をしているということから集団で殴ればいいだろうという考えがあるならそれは捨て去った方がいい。

強力な毒を持つデザートスコーピオン、入り口の魔獣たちが突然変異を起こしたと思われるキメラ。通常のミノタウロスよりも強力なミノタウロスレイダー。強靭な体とどこから手に入れたか不明の武具を持つオーガ。これらにしっかりと対策をしなければ金を手に入れる前に自分の命を失うだろう』

とりあえず本を畳んで悩んだ。すっごく脅されているように思えるからだ。だが書いてあることは事実だろう。実際にミノタウロスレイダーは強かった。それがうようよしているとすれば平原の奥地というのは魔境なのだろう。とりあえず情報を集め終わったみんなと合流することにした。

みんなが持ってきた情報は大抵似たようなものだった。だが共通して『油断と慢心をしてはならない』というのがあった。これを踏まえて安全策で行くのは当然としてデザートスコーピオン対策の解毒薬や魔獣避けの薬草などを買い込むことにした。

とりあえず準備は万全にして今回の遠征に臨むことにした。




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第六十七話

もう何度この町を訪れただろうか?静音たちクランのメンバーはフォロムの町にいた。

今回も狩場の移動は馬を使う。馬の利用料の分も稼がなくてはならないが、今回は初めて挑戦する平原の奥地。危険で焦るのは禁物である。とりあえず一日休めた静音たちは馬に乗り平原へと侵入した。

「うーん、やっぱ馬で駆けるのっていいねぇ。お尻が痛くなるけど」

とりあえず平原を駆けながら周りの様子を伺う。これといって異常は見えず、エンカウントした魔獣もいない。このまま奥地に進んでも大丈夫だろう。とりあえず後方確認は欠かさないようにと事前に決めてある。

そして一行は奥地と呼ばれる場所に踏み込んだ。聞いた話の通り、平原の奥地は少し土の色が黒くなっていた。

「どうやら奥地に入ったようだな。しっかしなんだ?この肌にまとわりつくようなものは・・・」

「うーん、圧という訳でもないですし、一体・・・」

駆けることはやめてゆっくりと歩きながら探索を進める。すると遠くに大きい影が見えた。

「リーダー、あちらに」

「うん、何かいるね。よし。周囲への警戒を強めて近づいてみるよ」

そろそろと近づいた。しかしアクシデントが起きた。馬が突然鳴き声を上げたのである。

「あ、コラ!!」

「まさか本能で危険だと察知したのでしょうか・・・あ!!あちらも気が付いたようですよ!!」

「全員馬から降りて戦闘用意!!」

仕方なく降りて迎撃の準備に取り掛かる。近づいてわかったのが相手は人型。

考えられるのはミノタウロスレイダーかオーガ。しかし近づいてくるとその異様さがわかった。

「狼の頭に人の身体・・・顔には大きな牙・・・。これは一体?」

「キメラじゃないかな。聞いた話だと平原の魔獣の突然変異で特徴も平原の魔獣に似ているし。ともかく

相手の動きを観察しながら戦うよ!!」

初見の相手はまず相手の動きを見なければ対処はわからないのが普通だ。キメラは何も武器を持ってないから使うのは己の四肢だろう。

しかし、キメラはこちらに近づいてきた時は二足歩行だったが、戦闘態勢に入ったのだろうか、突然四足歩行に変わったのである。

「一体何のつもりだ?」

「狼の要素が強いのでしょうか?」

そしてキメラは大地を蹴って肉薄してきた。

「させるか!!」

リーシャがそれを遮るとように大盾を構える。ものすごい重い音が鳴り響く。キメラの前右足がリーシャの盾を捕らえていた。しかしまだ前左足が残っている。それをリーシャの横から振り下ろそうとしていた。

「危ねぇ!!」

そこへすかさずガンが大剣を振り下ろし前左足の一撃を防いだ。

「助かった」

「気にすんな」

しかしキメラの攻撃は終わらず、間を割って入ってきたガンにめがけて頭から踏み込んだ。

「おわっと」

噛みつきを難無く避けてそのまま頭へと大剣を振り下ろす。しかし上手く踏み込めなかっため威力はあまりでず、少し皮膚を切り裂いた程度だった。

「団長、少しよろしいですか?」

「どうしたの?」

「奥地の魔獣とはまず様子を見るという話でしたが、キメラは個体ごとに姿が違う。つまり戦闘の様子も違う訳で、様子を見ても次のキメラに対して対策は打てないかと」

「そうだね。疲れる前に倒した方がいいか」

「では」

静音から許可を得てアリムスは攻め手の先陣を切った。未だリーシャとガンを相手取っているキメラに難無く近づき、そして身軽な体捌きで一気に背中に上った。そして後ろから首めがけて剣を突き刺した。

「ゴァァァァ!?」

急所を穿たれて悲鳴を上げるキメラ。しかし躊躇することなく、アリムスは突き刺した剣をねじり、そして振り払った。キメラはさらなる悲鳴を上げる前に絶命した。首は地面に落ち、アリムスのひらりと地面に舞い降りた。キメラの身体は消えることなくそのまま残っていた。

「お見事」

「ありがとうございます」

「じゃぁ警戒班はそのまま周囲を警戒。採取班は取れそうな物をちゃちゃっと取っちゃおう」

アリムスが切り落とした首や体の皮などを採取して静音の収納空間に収めその場を後にした。

「しっかし馬が本能か何かで恐怖に対して何らかの動きを取るってんなら注意が必要だな」

「そうだね。でも遠くで降りると馬の護衛班と離れて孤立するかもだからどうしようもないよ」

奥地を進んでいくとまた影が見えた。

「よし、ゆっくりと近づいてみよう」

そして近づいてみると影はミノタウロスのようであった。

「ミノタウロス・・・レイダーでしょうか?」

「肌もちょっと黒いしそうかもね。レイダーは動きはミノタウロスと変わらないって言いうから様子見無しで一気に決めるよ!!」

静音たちは馬を降りて戦闘準備に入る。レイダーも斧を振り上げて戦闘の意を示した。

両者は一気に近づいて剣を混じえた。しかし変異個体のレイダーでも基本はミノタウロス。

平原で何度もミノタウロスを狩ってきた静音たちには慣れていた。静音たちは波状攻撃をしかけミノタウロスレイダーの目を分散させ隙を作り、そこを突くという連携を見せた。もう唐突に現れたレイダーに恐怖していた頃とは違うのだ。そのまま静音の雷の魔力を宿した時雨が首を落として戦闘は終了した。

「あれほど怖かったミノタウロスレイダーもこんなにあっさりと・・・」

「油断も慢心もダメだよ。ここは私たちにとって未知の領域。気を引き締めていかないと」

こうして静音たちはさらに進むのであった。




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第六十八話

平原の奥地をゆっくりと進む静音たち。ここはとても強力な魔獣が住む領域である。例え最初に数体倒せたとしても体力が続かなければ、移動もままならないような状態になってしまう。

だがここは一体一体が非常に体力を削る戦いとなるため、状態を見極めるのが大切であった。

「うーん。後戦えても2,3回程度・・・。帰ることも考えたら後一回ぐらいかな」

静音は少し考えながら進んでいた。

「団長、前に影が」

「ゆっくりと近づこう。できるだけ馬が暴れないようにね」

ゆっくりと見えた影に近づいていく。影は段々人型のように見えてきて、そしてさらに近づくとそれは鎧を着ていることがわかった。

「オーガ、でしょうか」

「多分そうだと思う。全員戦闘準備!!」

余り近づきすぎると馬が拒否し、離れすぎては馬の護衛班が孤立するので降りる距離は大事だった。

そして近づいていくと、オーガもこちらに気づいたらしく咆哮を上げ、武器を振りかざして走り寄ってきた。

「まずは私が相手だ!!」

まずリーシャが前へ出た。オーガの重い一撃がリーシャの盾を襲う。

「ぐぅっ!!」

オーガの武器がぶつかるとかなり鈍い音がした。凹んでこそいないものの、リーシャは手が痺れるような間隔を覚えた。

「嬢ちゃんにかまっきりじゃダメだぜ!!」

「たぁぁぁ!!」

リーシャの左右から静音とダンを中心にメンバーが攻めたてた。しかしオーガの鎧は頑丈で、隙間を狙わなければダメージは与えられなかった。

「やぁぁぁ!!」

しかし、静音の雷の魔力を纏った一閃だけはオーガの鎧は通用しなかった。足を切られ、オーガはバランスを崩し、そして態勢が崩れたところへ追撃で武器を持った手首を切り落とされ、もがき苦しむ間に背後に影が現れた。

アリムスが無防備なオーガの背中をよじ登ったのだ。そして首の後ろから剣を突き刺し、そして抉り、切払い、首を落とした。オーガは悲鳴を上げながら塵と消えた。

「ふー、何とかなったね」

「お疲れさまでした」

「アリムス、いい奇襲だったな」

「団長が隙を作ってくださったおかげですよ」

段々と連携が密になっていくのを実感した。そしてオーガの身体が消えた場所にはちょっと大きめの魔石とオーガが付けていた鎧が落ちていた。

「オーガの鎧に使われている金属は特殊なものです。説明は後にします。とりあえず回収してください」

急いで鎧などを回収していると、一人、ダンだけは回収作業に参加せず、地面に耳を当てていた。

「ダン、何やってんだ。お前も手伝え」

おもむろにダンは顔を上げて叫んだ。

「団長!!回収は急いだほうがいい!!」

「どうしたの?」

「でっかい足音が近づいてくる。それも複数!!」

「わかった。これで最後だし、みんな、急いで馬に!!」

静音たちは急いで馬に乗ってその場を後にした。そして走りながら後ろを振り返ると数体のオーガがさっきまで自分たちのいたところに集まってきていた。

「一体どういうこと?」

「最初オーガがこっちに気付いて吠えただろ?普通こっちを威嚇するために吠えるならこっちを向くはずだ。だが頭はこっちじゃなく上を向いていた。それでが俺は狼の遠吠えに見えてな。色々と耳をすませていたら、みんなの声に混じって遠くでオーガの咆哮が聞こえた気がしてな。そう近くは無かったと思ったからとりあえず前の戦闘に集中してその後は様子を伺ってたわけだ」

「なるほど・・・ダンが気づいてくれなかったら私たちは袋のネズミになるところだったよ。ありがとう」

ともかく窮地を脱した静音たちはそのままフォロムに向かった。とりあえず汗を流し、ゆっくりしてから会議を開いた。

「えぇっと、戦ってみてわかったと思うけど・・・私たちはまだ平原の奥地じゃ通用しないのは明白だと思う」

「悔しいですがそのようですね。一体一体が強大でさらに厄介な特性も持っている可能性が大きい。いくら数を狩ってきたとはいえ、質が大きすぎると手に負えませんからね」

「あぁ、言っちゃぁなんだが全員が団長みたいに突出した力があればいいんだが残念だが持ってない。とりあえず全員の出力を上げるほうが優先だろう」

「うーん、武器はみんなほぼ同じだし・・・魔力の獲得が一番の手かな?」

「そうですね。全員ともいわず、少人数でも魔力の獲得ができれば大分変るでしょう」

「じゃぁ、当面の目標は魔力の獲得で。じゃぁゆっくり休んで、帰ろう」

こうして平原の奥地への遠征は失敗こそしたものの、新たな目標を打ち立てることができたのであった。




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第六十九話

静音たちは初の遠征の失敗という事態に見舞われたが、それに負けず、次の遠征のための修練に励んでいた。

と言っても属性の魔力の獲得など一朝一夕でできるわけでもなく、修練は難航した。

唯一属性の魔力を持っている静音の経験でもいつ手に入れたかもあやふやで、手段もわからなかった。

本人曰く「気づいたらあった」であるからだ。当然クランのメンバーはその返答に頭を抱えたのは目に浮かぶ光景である。しかしそれでも技能向上のために諦めることは無かった。

静音たちが取り組んだのは属性の魔力の獲得だけでなかった。戦闘時の連携、基礎体力の向上といった基本的なことにも取り組んでいた。やれることはやって力を付けようということである。

それからギルド資金でボルトシューターを配備しようという案も出たが、対応力がまだ難しい敵に対して使うのは危険だということで一旦保留となった。

静音も修練に混ざることもあったが、自分の工房のこともあって全てに参加することはできないでいた。

ここ最近はシズネ工房への注文自体は落ち着いてはいた。それでも少数、他の町からやってきた冒険者などが王都の冒険者ギルドの冒険者の話を聞いて注文をしてくれているのだ。そしてそのやってきた冒険者が自ら所属するクランなどにシズネ工房製の武器を見せ、クラン全体に広めようといった流れがあったりするのである。なのでたまに大量注文が入ったりするので静音もおいそれと工房を任せっきりにはできないでいた。

「うーん、確かに自分は工房を持ってるから抜ける時もあるっては言ってるけど、何とかならないかなぁ・・・」

考えても境遇とは簡単に帰ることなどできないのである。

それから静音はエラムと共に王国内で活動している商団と契約を結べないか試行錯誤をした。

前回のような行ったことが無い土地を行くのではなく、見知った王国内で活動する商団であれば対処できるだろうという判断である。当然これもクランメンバーには話は通してある。

とはいえそういう商団はすでに他のクランなどが契約を結んでいるためこちらも難航していた。

鉱山などの護衛は鉱山の経営者が私兵を雇うことが多く、商団は自身が信頼したクランに依頼を出す。

新参の静音たちのクランは王都では戦績は上の方にあるだろうが、存在としての格は小さいのである。

後契約を結びたいと寄ってくるのはシズネ工房の技術目当ての工房組合程度である。

つまり相手が見つからないでいた。何時までも依頼や遠征で生活費を稼ぐ半根無し草では安定しないのは明白である。

だからと言って収入が降ってくるわけもなく、途方に暮れていた。契約を求めに行った商団から断られてクランハウスに帰る途中。静音はある物を見つけた。

「うん?これってサツマイモに似てるなぁ」

「どうしたんです?あぁ、紅芋ですか」

「紅芋?」

「麦などに比べてすぐに実のが特徴ですが、何分用途が限られていて蒸かす程度しかなく、あまり人気の食材ではないんですよね」

「ふーん・・・ねぇ。エラム。今蒸かすぐらいしかないって言った?」

「えぇ、そうですが・・・」

「じゃぁさ、もし紅芋を有効活用できる手段があるとしたら?」

「あったとしても長期的な計画でさらに収益が見込めるかどうか不明ですよ?」

「うーん、そうだよねぇ・・・。じゃぁ今作っている人から買い上げてみるってのはどう?」

「そもそも作っている人が少ないんですけどね」

「うぐっ・・・」

(確かサツマイモの生育期間は4から5か月程度、待つにはちょっと長いような気もするなぁ・・・それに資金もないし・・・)

とりあえずサツマイモ改め紅芋の事は一旦保留として静音はクランハウスに戻った。

「そうか、やっぱダメか・・・」

「うん、やっぱり出来立てのウチじゃぁ相手にしてくれそうにないよ」

「うーん、やっぱ前の場所が成功してたのは年月を経て成長していたってのが一番か」

「多分ね。やっぱりまだウチは遠征とかで稼ぐしかないかな」

「それしかないな。後は人数を増やして存在感を増やすというのもあるが・・・人数が増えればその分一人当たりの稼ぎは減りかねないんだよな・・・」

「だからと言って頻繁に遠征を行ったとしても経営は難しいでしょうね」

「やっぱそう?・・・どうしようか」

「とりあえずは現状維持に努めるしかないだろう。それに主力の実力が上がれば後々やれることは増えるしな」

色々と試行錯誤をしながら静音たちは経営という難しい壁を乗り越えようとしていた。




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第七十話

静音たちが経営に手を付け始めていた頃。ラークと共に修行の旅に出ているウィリアムたちにも変化があった。最初こそ魔獣に後れを取っていたラークであったものの、今では一人前に魔獣を相手取ることができていた。そして国をまたいで様々な魔獣と戦っていた。そして今は立ち寄った国で一休みしていた。

「ウィリアム様。あ、手紙を読んでらっしゃるんですか」

「あぁ、二人の弟子にだね」

国をまたいでも手紙は届く。しかし当然検閲が存在しているわけで特にウィリアムのように剣聖と名の通った者の手紙ならまず他人に見られる。まぁ見られて困るような内容はまず書かないのであるのだが・・・。

「ふむ・・・静音は一躍有名になったようだな。殿下の手紙に書いてある。成長している証だな」

懐かしむように、そして嬉しそうにウィリアムは手紙を読んでいた。そしてそのまま手紙をしまい、返事を書き始めた。ウィリアムがここまでやってきたことは魔獣退治以外に花を咲かせれるような話題は無かった。

しかしスペリア王国から出たことが無いであろう静音に対して様々な国の魔獣の情報は有益だろうと色々と書いていた。レオに対しては修行をさぼってはいないか?などと少し窘めるような形で書いていた。

それが終わるとウィリアムは手紙を郵便に出して、そのままラークと共に昼食を取った。

「ウィリアム様。これからどうするんでしょうか?」

「ふむ・・・そうだな。ここで強い魔獣が出たのであればそれの討伐に行こうと思うのだが、そう都合がよく魔獣が出る訳もなし。近くにある魔獣の歪みあたりで修行といこうか」

「わかりました!!」

元気よく返事をしたラーク。そしてそのまま二人は魔獣の歪みがある場所へと向かった。

「さて、着いたものの、魔獣は・・おぉ、いたぞ。しかしワイルドウルフか。まぁ大丈夫だろう。ラーク」

「はい!!」

二人を視認したワイルドウルフが獲物を狙うかのように走り寄ってくる。それに対しウィリアムは剣に手を伸ばすことなく、そしてラークが前に立つ。

「聖剣よ、わが敵を討ち倒せ!!セイントスラッシュ!!」

聖剣から放たれた巨大な光の斬撃が地面を抉りながらワイルドウルフを飲み込んだ。

斬撃が通り過ぎた後にはワイルドウルフの姿は無く、討伐された証として魔石が転がっているだけであった。そのまま魔石を拾って二人はさらに歩いた。

「ふむ・・・あまりここの歪みは魔獣を生み出さないのか?魔獣と遭遇しないな」

「前に歪みによって魔獣の数に差があるとおっしゃっていましたね」

「そうだ。スペリアの魔獣の草原の歪みに慣れているせいか、どうも数が物足りないと感じてしまうのだよ」

「うーんいつかは王国に戻って修行をしたいものです」

「確かに修行の旅と言っても離れすぎるとよくないものでもある。そろそろ王国に報告がてら戻るのもいいだろう」

「ほんとですか?やったー」

「気を緩めるな。前を見るんだ」

ウィリアムが指さした方向に魔獣がいた。それは全身毛むくじゃらの巨人のようだった。

「巨人のような大きさだが、あれが話に聞いていた魔獣・トロールか。数は二体。それぞれ一体を相手取るとしよう」

「はい!!」

トロールは全身が分厚い毛でおおわれており、また兜のようなものを被り、斧のような物を手にしていた。そして二体を分断してウィリアム・ラークの両者がそれぞれ相対す。

「ふん!!」

まずウィリアムの大剣が斧を振りかざしたトロールを斧ごと弾いた。そしてそのまま気を高めながら跳躍し、渾身の一撃を放つ。

「グラウンドブレイク!!」

付近を揺るがすような重い一撃がトロールの頭めがけて放たれた。そのまま上半身は潰れ、見るも無残な様になり、絶命。そのまま体は塵と消えた。

一方ラークは長い腕から振り下ろされる斧をしっかりと避けながら戦っていた。そして待ちに待った勝機は訪れた。振り下ろされた斧が今回は地面に刺さったのである。ラークは地面に刺さった斧を抜こうとするトロールの右腕を瞬時に斬り落とした。悲鳴とも呼べる咆哮を上げるトロール。さらに生まれた隙を逃さずラークはトロールの胴体を何度も斬りつけた。そして力が抜けて膝をついたところで降りてきた首を切り落とした。こうして現れた二体のトロールは討ち取られた。

(ふむ。ラークは十分に成長しているな。情報だけの相手でも実際に戦うとなるとまず様子を伺い相手の手の内を知る。そして十分に隙を作りその瞬間に勝負を決める。戦い方としては万全な戦い方だ。これなら強大な魔獣とも十分に戦えるかもしれん。王に良い報告ができそうだ)

魔石を拾うラークを見てそう分析したウィリアムであった。そして二人はそのまま町へと戻り魔石を換金し、一日休みを取り、スペリア王国へと向かうのであった。




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第七十一話

「以上が報告となります」

スペリア王国の王宮にて二人の人物が王の前にて報告を行っていた。

一人は勇者ラーク。そしてもう一人は剣聖ウィリアム。報告の内容はラークの修行の旅の内容であった。

「勇者ラークよ。旅は如何様であったか?」

「はい。ウィリアム様から学べる事はとても多く、そして多くの人と出会いまた学ぶことができました。しかし時間というのはまったく足りないものだと感じました」

「であるか。ひとまずは疲れを癒し、その後はまた旅に出るもよし、一つの場所に留まり技を磨くのも良いであろう」

ひとまずは報告は終わった。

「ではラークよ、下がるがいい。ウィリアム。ちと残ってくれ」

「「はっ」」

ラークは謁見の間から退出し、ウィリアムと王だけが残った。

「してウィリアム。各地の魔獣の様子はどうであった」

「どこの国でも活発している個体が多く見られました」

「やはりか・・・。魔王。奴が以前以上に魔獣に関与している可能性が高まったな」

「旅の途中に王国でスタンピードがあったとか」

「うむ。冒険者たちの活躍で難無きを得たが、やはり他の国でも起きていたか?」

「はい。既に起きていたか、旅だった後に起きたかでいささか乗り合わせることはありませんでしたが、どこでも起きている様子でした」

「ふぅむ・・・。どこの国も自国のことが第一だ。魔王という共通の敵こそあれど、人間の欲という物は変わらない。どこか隙を見せればすぐに突こうとしてくる。これでは情報共有などできはしまい」

「どこの国でもラーク、勇者の存在は煙たがられましたからな。国を守る力を得ようとしてもそれが他国からは脅威に見えてしまいますからな・・・」

「であるな。してラークの腕はどの程度にまで育ったか?」

「並みの魔獣であれば聖剣の能力を加味しなくとも問題なく戦えるでしょう。上位種は聖剣を使えば安全圏、されど上位種というのは遭遇するのが難しく、経験という一番の要素がまだ足りませぬ」

「そうであるか。ふむ・・・スペリア王国は魔獣の歪みが多くある。あえて近場で経験を積むというの芋良いだろう」

「はっ。そのようにいたします」

こうしてウィリアムも謁見の間を出た。そして一人王のみが残っていた。

「ふむ・・・後数年もすれば勇者も場数を踏みS級の冒険者すら凌駕する力を持つであろう。問題は鬱渡る人物がその力をどう使うかであるな・・・」

王が懸念する事柄は多かった。

 

そしてウィリアムたちがスペリア王国に戻ってきて二日が経った。

「え、ウィリアムさんたちが帰ってきた?」

「その通りでございます。先ほどウィリアム様がレオ様をお訪ねになりまして、その時にシズネ様にも合われてはどうかという話になりまして」

「ぜひ同行させてもらいます」

突然シズネ工房にレオの使いがやってきて静音にウィリアムたちが帰ってきたことを告げた。静音はレオとウィリアムたちがいるところへ向かった。

「やぁ、思いのほか早かったじゃないか」

「ご招待ありがとうございます。レオ王子。それからお久しぶりです、ウィリアムさん」

「静音も元気そうで何よりだ」

静音は久しぶりにウィリアムを見たが、以前見た時よりも何か変わっている様子であった。

「ん?あぁ、私の変化に戸惑っているのか。私は戦い続けるとどうも闘気がにじみ出てしまうのだよ」

「闘気ってにじみ出るんですね」

「そういう静音も成長した様子。なんでもスタンピードや巨人兵団との戦いではかなりの戦功をあげたとか」

「いえ、私はそこまで大したことはできていません。全部クランのみんながいてくれたからこそ成しえることができたんです。」

「謙遜も過ぎれば嫌味にもなるぞ?大した武功を立てていないのならば『雷の戦姫』とは呼ばれないだろう?」

「ほう、二つ名を得たか」

「え゛なんですかそれ。初めて聞いたんですけど・・・」

「ふむ・・・では静音。一勝負どうだろうか?」

「へ?あ、はい・・・」

珍しく真剣な顔をしたウィリアムにそう言われて静音は首を横に振ることはできなかった。

そして二人は訓練場に移動した。

「えぇっと、真剣でやるんですか?」

「そうだ。何時まで経っても痛いだけの戦いなどありはしないからね。それにまだ君では私には敵わないだろうからね。君の本気程度捌くことも容易いだろう」

少し挑発されてカチンと来た静音。しかし動じることなく時雨を抜いた。

「では二人ともいいかい?始め!!」

レオの合図で戦いは始まった。まず静音が突貫し剣閃を振るう。しかしウィリアムは少しも動じることなく全てを払いのけた。

「ふむ、多くの戦場を経て磨きがかかったか。しかし闘気は使わないのか?」

「えぇっと、闘気は・・・」

「まだ使えないというのか・・・一体どうなってるんだ?」

「私が知りたいです。でも、別のアプローチはあるんですよ?」

「ふむ?」

静音は一気に魔力を回転させ雷の魔力を発現させる。そして雷の魔力で身体能力を大幅に引き上げた。

「なるほど。雷の魔力か」

「行きます!!」

雷の魔力で強化された静音の突貫はレオには全く見ることができず、ウィリアムでさえ肉眼では視認できず、≪心眼≫でようやく動きが見えたのであった。

「っ!!」

始めてウィリアムの動揺を見ることができた。そして静音は先ほどの剣閃とは全く違うレベルの剣閃を放つ。槍のように長く、しかし突きではなく斬の閃はその強化された速度を以てして長年場数を踏んできたウィリアムですら対処が難しい物であった。ウィリアムは赤の闘気を使用し、身体能力を上げて静音の剣閃を防いだ。しかし最後の一撃だけは切払うことができず鍔迫り合いとなった。しかし闘気と魔力では差が大きく、静音が押されると誰もが思った。

しかし静音はあえて力を抜いて時雨を手放し鍔迫り合いを放棄した。ほんの一瞬ウィリアムの態勢が前へと傾いた。その合間に静音はウィリアムの側面へと回り込み、帯びていた雫を抜刀。奇襲を仕掛けたのである。この行動にウィリアムも一瞬迷ったがすぐさま大ぶりに大剣を振り回した。その一撃はしっかりとした地盤から放たれた一撃ではないものの、静音からすればとても重たい一撃だった。

ウィリアムの振り払いを雫で受けた静音は体ごと吹っ飛ばされたのである。

ウィリアムは静音の得物が見慣れたロングソード風の物に変わったことで戦いやすくなったと一瞬感じたがそれはすぐに払拭された。捨てられたはずの時雨が意思を持ったかのように静音の手元へと戻ったのだ。

「操剣術か」

静音は努力を怠っていなかった。遠征でこそ使わないでいたがこうしてどちらかを手放してしまった時の保険にと操剣術を会得していたのだ。

そして二刀流となった静音はさらなる剣閃を展開すべく突貫した。その矢先。

「はい、そこまでー」

ちょっと気の抜けたレオの声で勝負は止められた。

「ふぅ・・・良いタイミングでしたな」

「?」

「いや、シズネ。多分気づいていないと思うから言うけど。君の戦い方。完全に敵を仕留める戦い方だったよ」

「えぇ・・・そうなんですか?」

「正直私も侮っていた。まさか闘気が使えなくともここまで戦うことになるとは思っていなかった」

「大体挑発したウィリアムが悪いと思うけどね。実感が無いようだけどシズネの奥底では怒りがふつふつと煮えたぎっていただろうさ」

「うーん、自分のことなのにわかんないですね」

「正直続けていたらどちらかが深手を負っていたかもしれない。シズネも今後は戦う場面を気にした方がいい。でなければいずれ取り返しがつかないことになるだろう」

「肝に銘じておきます」

「しかし静音の伸びしろには驚いた。私もうかうかしてられないな」

「俺もだ。というか本気でやったらまず勝てないな」

「えへへ・・・」

褒められながら久しぶりの模擬戦が終わった。この戦いで静音の力は剣聖の中に深く刻み込まれたのであった。




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第七十二話

静音がやらかした当日の夜。静音は夢を見ていた。辺り一面の燃え盛る炎。ただそれだけの夢だった。

夢から目覚めて朝。静音は予感がした。静音は朝食を食べてからすぐに訓練場に急いだ。

そして素振りをしながら練習すること少し。静音の身体を炎が包んだのであった。

静音は炎の魔力を獲得したのであった。原因は不明であるが、静音には一つ確信があったのだ。

以前雷の魔力を獲得した前夜にも夢を見た。おそらく魔力を獲得できる段階になると特殊な夢を見るのではないかと。

「うーん炎の魔力かぁ・・・。鍛冶師としてはありがたいと言いたいところだけど、使いどころがわかんないなぁ・・・」

取り合えず色々と試してみた。斬撃波に炎を混ぜてみたり、足踏みの時に爆炎を使って重さを足してみたり。

やれるだけのことはやってみたがわかったことは衝撃に対して有効であるということがわかったのである。

剣閃が触れる瞬間。間合いを詰めたり、踏み込むときの足さばき。こういう時に炎の魔力を使うと効率が良くなるのであった。

また一つ新たな力を獲得したわけだが一向に傾向がわからないのであった。事実クランのメンバーからは羨ましがられた。

ただ一つ静音には疑問があった。ので・・・。

「団長と手合わせ、ですか?」

「そ。もしかしたらってね」

「理由をお聞かせ願えますか?」

「昨日強い人と手合わせしたんだよね。その人が属性の魔力を持っているのかは知らないけど、実力があったり魔力を持っている人と手合わせしたら体の中の何か目覚めないかなって」

「なるほど。ではやってみましょうか」

そうして静音とアリムスの手合わせが始まった。戦いはそれぞれの内側が現れていた。

見てくれに囚われずただ相手を仕留める剣技の静音と流れるような剣技のアリムス。

状況は静音が一方的に攻めたてアリムスがそれを受け流していくという構図であった。

それから静音はアリムスの中の何かを目覚めさせるべく雷の魔力を発動させた。

そのまま静音の剣閃はアリムスが耐えきれる物ではなくあっという間に勝負はついた。

「ここまでだね」

「ありがとうございました。一つ、わかったことがあります」

「何かわかったの?」

「雷を纏った団長の一撃を受けるたびに何かが浮かぼうとしている感覚を覚えました」

「ほうほう・・・もしかしたら何かあるかもね」

「そうと聞いちゃぁ黙っていられないな。団長。俺とも一つ頼む」

「いいよードンドン回していこう!!」

こうして静音はクランのメンバーとの手合わせを行っていった。剣技だけなら互角、あるいは上回られることもあったが魔力を使ってしまえば静音が圧倒的に有利であった。それでも普段手合わせをしたことが無かったため静音も良い経験ができた。

そして次の日。ばらつきはあったものの数人が属性の魔力を獲得することができた。

アリムスは水。ダンは風。リーシャは地の魔力を獲得した。これで少しは戦力が整ったはずである。

しかし全員が自分を守れる技術を上昇させれたわけではないため油断はできなかった。

とりあえず魔力獲得組の実戦のために遠征に行きそこで力の底を見ることにしたのであった。




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第七十三話

新たに複数人が属性の魔力を手に入れた静音たち。その力を試すべく魔獣の草原に遠征に来たのだが思わぬ 事態に遭遇していたのであった。

「白いワイルドウルフ?」

「そうだ。どういう訳で生まれるのかはわからんが通常の個体よりも二回りもデカくおまけに統率力も高い。奴が現れただけで一帯のワイルドウルフは軍隊のように変貌しやがった。今じゃ他の魔獣はワイルドウルフに狩られるだけの獲物になっちまってる」

「そんなことが・・・」

と、ワイルドウルフの変種が現れて魔獣の草原の環境は一変しているらしい。ともかく静音はこの話を持ち帰ってメンバー全員で話し合うことに決めた。

「なるほどねぇ。話くらいは聞いたことはあるが実際に出会っちまうとはねぇ」

「しかし今の自分たちには新たな力があります。それに草原の浅いところは何度も通った地。いくら統率が取れていても問題ないでしょう」

「しかし変化した奴らがどんな戦い方をするのかがわからない現状迂闊に戦うのは危ないと思う」

「リーシャさんの意見に賛成だな。何も情報が無いのは危険すぎる」

「ですが遠くまで遠征に来て手ぶらで帰るというのも・・・」

会議は混迷を極めた。しかし結局実際に戦ってみようという結論に至った。そして次の日。

王都から移動で使った馬をそのまま利用し、草原を移動し魔獣を探す。

ところどころに生き物の骨の残骸と思われる物が散乱しているのが見受けられた。

しかし今回相手にするのは未知の魔獣。採取するという隙は見せられなかった。

そしてさらに進むこと少し。ようやくワイルドウルフの群れと遭遇した。しかしワイルドウルフの変化はすぐに実感することになった。こちらを見つけるやワイルドウルフは共鳴するように吠えだした。

「威嚇のつもりか?」

「いや、これは・・・」

そして対面しているワイルドウルフの咆哮の後、少し遅れて遠くからもワイルドウルフの咆哮が聞こえた。

「こりゃ遠吠えだな。まさか奴ら、どんな相手でも物量で押しつぶしているのか!?」

そう。ワイルドウルフは変種の誕生によりまとまりを見せ、そして物量によって勝利を得ることを覚えたのだ。一個の群れではやれることは限られている。しかしその群れが幾重にも集まれば草原という広さも相まって非常に有利となる。故に草原の他の魔獣たちは集いに集ったワイルドウルフの大群によって食い荒らされることになっていたのだ。

そんなことはまだおぼろげにしか感じていない静音たちは目の前のワイルドウルフと戦いを繰り広げていた。しかしワイルドウルフの変化は遠吠えだけではなかった。

「なんですかね。まるで襲う気は無いように見えますが・・・こちらを獲物と判断したのであれば襲ってくるはずなんですが」

「うーん。これも何かの変化なのかな?」

ワイルドウルフ自体の戦いの姿も変わっていた。積極的に襲うのではなく、相手の出方を伺いそれに合わせて動いていたのだ。そして危険はさらに静音たちに向けて迫っていた。

「うん?何かが変だ」

変化に気付いたのは馬の番をしていたカイであった。彼は元々山の近くの農家育ちで斥候としての技術を少しながら会得していた。そして山の生き物を狩る狩人でもあったため目も良かった。

彼の目からするとシズネたちと戦っていたワイルドウルフの動きが突然、変化してたのに気が付いたのだ。ワイルドウルフはゆっくりとある方角へと退いていた。そしてその方角は戦いの最初にワイルドウルフの遠吠えが聞こえた方向であった。

カイはすぐさま地面に耳を付けた。

「やっぱり!!」

そしてすぐに異変に気が付いた。

「急いで馬を連れていくぞ!!」

「どうしたんだカイ。そんなに慌てて」

「正体はわからないけど無数の足音が迫ってきている。もしかしたらワイルドウルフの大群かもしれない!!」

「だが連れて行くってどこに・・・」

「団長たちのところだよ!!」

カイは独断で全員の馬を連れてシズネの下へと急いだ。

「団長!!」

「カイ君!!馬を連れてきてどうしたの?後ろに魔獣でも出たの?」

「ともかく皆さん急いで馬に!!無数の足音が迫ってきています」

「大丈夫。無数の群れだろうと前にもたくさん戦ったから・・・」

「いや、すぐさま退いた方がいい。奴らの戦い方、今更ながらまるで足止めのように感じた。

おそらく本隊がいて、それが今迫ってきているのかもしれん。ただでさえ獰猛なワイルドウルフが本性を抑えてまでこんな戦いをしていた。無数の本隊が来るとワイルドウルフと言えど戦いにならんと思う」

「わかった。退こう。みんな馬に!!」

静音はとりあえず安全策ということで退却を選んだ。

「シズネ。後ろを・・・」

そして戦闘域から離脱した静音たちの後ろには視界を埋め尽くすほどのワイルドウルフがいた。馬とワイルドウルフでは速度に差があるため追撃は無かったものの、すぐ後ろに無数の群れが牙を向き、獰猛な雰囲気を出していたのには背筋が凍る気持ちだった。

こうしてワイルドウルフの巨大な群れに静音たちは敗走したのであった。




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第七十四話

ワイルドウルフの群れに追い散らされた静音たち。帰ってまずは体を休めて、翌日作戦会議となった。

「うーん。こうも見事にまとまられると対処は困難だよ・・・」

「大量のワイルドウルフが軍のように統率の取れたとなると厄介だな」

「ここは親玉を目指すのはどうでしょう?」

「親玉さえ潰せれば確かになんとかなるかもしれんが、どうやって親玉を探す?」

「昨日の撤退時にワイルドウルフの黒い体毛があふれる中に白い体毛をわずかながら見ることができました。親玉はおそらく本隊と行動しているのではないでしょうか?」

「本隊を探す・・・これは馬に乗って駆けていれば見つかるだろうけど・・・本隊が襲われたら普通増援が来るよね?」

「そうだな。やるなら最高火力で一気にカタをつける必要があるな」

「うーん。白いワイルドウルフがそんなに強くないと良いんだけど・・・」

とりあえず方針は固まり、次の日に出発となった。

次の日。再び魔獣の草原を駆ける静音たち。

草原は静かで、生物とう生物がまったく存在していなかった。そして進んでいると衝撃の事態が起こっていた。

「ワイルドウルフが・・・仲間を食っている・・・」

ワイルドウルフが共食いをしていたのだった。

「一体何があったんだ・・・」

「わからねぇ・・・。だが希望的観測から言えばもしかしたら白いワイルドウルフが出て既に何日も経っているとして、周囲の生物、魔獣関係なく食い荒らし食糧が尽きたとすれば膨大に膨れ上がった群れが共食いに走るのも道理ってやつだろう」

「ともかく好機なのには変わりないですね」

「うーん飢えている獣ほど恐ろしい物は無いって聞くけど・・・」

「例え末端が飢えていようと大事な本隊は飢えていないでしょう。飢えているので会ったら末端は既に食われているはずです」

「よし、一気に駆け抜けるよ!!」

静音の号令の元、一気に草原を駆け抜けた。駆ければ駆けるほど、あたりに散乱している骨が多く見られるようになった。そしてついにお目当ての魔獣と遭遇した。

「ワイルドウルフの群れ・・・前方の群れは共食いをしていませんね」

「となると本隊の可能性が高いな。打合せ通りリーダーが白いワイルドウルフを仕留める。

そして俺たちはリーダーに近づこうとするやつらの排除だ」

「みんな、行くよ!!」

静音の号令の下全員武器を抜きワイルドウルフの群れへと進んだ。ワイルドウルフも静音たちを見て咆哮を上げる。しかし前回のように遠吠えは起きなかった。

「遠吠えが起きない・・・?」

「例え貢献できたとしても獲物は本隊が優先して食らう。そうなると群れは働き損ですからね。応じないのも無理ないかと」

「チャンスだ!!一気に攻めたてるぞ!!」

メンバーが奮起してワイルドウルフを戦う中、静音は群れの中心に向けて疾走してた。

「いた。白いワイルドウルフ!!」

目の前に白いワイルドウルフが見えた。白いワイルドウルフも静音を見て低く吠え戦闘態勢に入った。

「やぁぁぁ!!」

まずは挨拶替わりに炎の魔力を混ぜた斬撃波を放つ。しかしこれは簡単に避けられる。

そして白いワイルドウルフは発達した前足を叩きつけてきた。静音はこれをなんとか避けて起きざまに 

叩きつけたばかりの前足を切払った。しっかりとした踏み込みが無かったため傷は浅かった。

「一気に勝負をつける!!」

静音は一気に雷の魔力をフル稼働させる。

その時だった。ただ魔力をフル稼働するという静音の意思を体は上手く伝えることができずに、結果として雷の魔力だけでなく、炎の魔力まで同時に稼働、フル稼働の域に達してしまった。

雷の魔力によって体が活性化し、炎の魔力によって体に熱が籠り力があふれ出す。

握る時雨は雷と炎が混じって迸っていた。あまりの形相に白いワイルドウルフは一歩下がってしまった。

そのわずか一歩が白いワイルドウルフの運命を決めた。

炎の魔力によって力が増し、雷の魔力によって活性化した静音の足は例え十歩先の位置にも瞬時に間合いを詰めることが可能だった。そしておよそ目には見えないほどの速さで持って白いワイルドウルフが見せた一瞬の隙をついて肉薄。渾身の一振りで白いワイルドウルフの頭を切り落とした。

戦闘が一息ついたからか静音が纏っていた魔力は霧散した。

「みんなー。親玉討ち取ったよー!!」

親玉を失ったワイルドウルフの群れは統率を失い、隙をさらし、そこをメンバーによって簡単に討ち取られていった。残ったのはワイルドウルフの骸と一回り大きい白いワイルドウルフの骸だった。

周囲の安全を確認してから採取に移った。

「それにしても見事な毛ですねぇ」

「あぁ。稀に出るから毛皮は多分高値で買い取られるだろう」

「それもいいですがここは討ち取った実力を示すべくシズネが身に着けてはどうでしょうか?」

「私が?」

「初日に集めた情報によると白いワイルドウルフ討伐は実感した通り難易度が高いのです。それを討ち取ったともすればクランの名前が広がることは間違いありません。しかし人はおよそ見た目で判断する物です。ですので白いワイルドウルフの毛皮をシズネが身にまとうのがいいかと」

「うーんそういうのはとりあえず帰ってから決めようよ」

ともかく付近の採取を終えると、ワイルドウルフの群れの脅威が薄れた草原中を巡ってワイルドウルフが食い荒らした骸から使えそうな骨などを追いはぎしてからフォロムの町に帰ったのであった。




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第七十五話

ホワイトウルフの討伐を終えて王都に帰ってきてからというもの。静音はホワイトウルフの毛皮と似たような毛皮を使って自分にあった装飾品を作ろうとしていた。

しかし小物にすればメンバーから見栄えが足りないと言われ、大きくすることになっていた。

「うーん。兜とかは被らないからたてがみに使うのは無理だしなぁ・・・」

実際ホワイトウルフの毛皮は素材元の体格が大きいため結構大きい物が取れていた。

試行錯誤しながら毛皮をあれこれとしてみるが納得がいくものはできあがらなかった。

恰好を整えて周囲に見せるという用途でもあるため素材に変化を与える加工はNGだった。

「ねぇ、アル。この毛皮を着飾るようにするならどういう風にしたらいいかな?」

「ん?毛皮?うーん。その大きさならマントにするのが良いと思うけど・・・マントは偉い人以外は着れないって聞いたことがあるんだよ」

「むー、マントか・・・。あ、マントか」

アルの一言で何か思いついたのか静音は試作用の毛皮を使って作り始めた。

それから一時間ほど過ぎると静音は満面の笑みで作品を掲げた。

「できたー!!」

作品は少し小さめのマントであった。背中部分を肩より少し下程度にしてマントというより肩用の装飾品のように作ったのだ。毛皮としての形を残しつつかつわかりやすい物にできたと静音は思った。

「よーし。早速みんなに見せて来るぞー」

そう言って静音は工房を出てクランハウスに向かった。

「相変わらず元気というか」

「それが静音さんなのでしょう」

クランハウスで先日の疲れを癒していたメンバーたち。そこへ嬉々とした表情で静音がやってきたのだ。

「試作品作ってみたんだー。これなら文句はでまい」

自身気に作品を見せる。

「ふむ・・・良いんじゃねぇのか」

「あぁ。これならわかりやすいし良いと思う」

「そうですね。素材をしっかりとわかるように使っていますし、問題ないでしょう」

メンバーからも特に反対は無かった。

「じゃ、今から本物使って作ってくる」

そう言って静音はすぐにクランハウスを出て工房に戻った。

「相変わらず嵐のようなやつだな」

「加工とかが絡むとなんか変わるよな、リーダー」

工房に戻ってすぐ静音はホワイトウルフの毛皮を引っ張り出して加工を始めた。

まず毛皮を採寸して切り取る。そして次に裏地に別のなめした革を当てる。防腐剤に漬けると毛皮の逆立った形が失われてしまう。なので香料などに漬けて付着していた肉などの臭いを除いてなめした革を当てることによって防腐、防臭の役目を果たしてもらうのだ。

ホワイトウルフの毛皮となめした革を縫い付けると後は首かた肩までの等身大人形に当てて実際に形として縫っていく。

かれこれ作業をして二時間ほどでようやく完成した。で、実際に着けてみた。

「ねぇねぇ二人とも、どうかな?」

「ん、似合ってると思う」

「かっこいいと思います」

「そ、そうかなぁ」

自分で聞いておいて少し照れる静音。

「早速みんなにも見せてこよう」

そう言って再び静音はクランハウスに向かった。

「みんなーできたぞー」

そう言う静音の声にわらわらとメンバーが寄ってくる。

「これが完成品ですか」

「しっかりと素材の形を残している良い物だな」

「マントは着れないからこういう背面スカーフのようにしたのか」

完成品は後ろは首の付け根から肩を覆う程度。前も肩の部分を覆う形のちょっとしたものだった。

しかし毛皮の形がそのまま残っているため、どんな素材を使っているかわかる人間にはわかるような物であった。

これで新たなる一面が静音の物となったのであった。




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世界について 一

今回は設定関連が主な話です。本編に進展はありません。


魔獣。それはこの世界に生息すると言われる生物の一種、とされている。

しかし実態はまったく別の物である。視点を魔王に移してみる。

「魔獣の生産はどうなっておる」

暗くかがり火が焚かれている玉座にて座る人型がそう聞いた。

「滞りなく生産されております」

傍らにいた人型がそう答えた。玉座に座る人型こそが魔王。魔獣を統べし人類の敵である。

そしてその玉座がある建物の外、その周囲の光景は異様であった。

地面の土から魔獣がいたるところより這い出てきているのだ。姿形こそ違えど魔獣は全て土から生まれているのだ。

そしてこの土地の土は人類が住む土地の土とは全く違う物であった。魔王が発する魔素に満ちており、魔獣の苗床となっているのだ。魔王が消えない限り魔獣はこの土地の土から湧き出るのである。

そして生れ出た魔獣は歪みを通って人類の生息域へと侵攻するのである。

以前研究者が静音に魔獣は魔素を使い生まれると話していたがそれは誤りである。正確には魔素は魔獣の腹を満たす物の一つであるのだ。魔素さえあれば魔獣は生きていける。しかし魔素は非常食でもある。

故に魔獣の草原に住む魔獣たちは腹を満たすため同じ土地より生まれし魔獣を食らうのだ。

しかし魔獣は生きれば生きるほど強くなる。それはそれまで食らい続けてきた生物、特に魔獣が持つ魔素を食らうからである。

何故人類は魔獣を倒すとレベルが上がり強くなるのか。詳しいことは話せないが単に魔獣と同じように魔素が影響しているのである。と言っても魔素は人類にとっては害ある物に近いが克服できるものでもある。

故に倒した魔獣の魔素を取り込めるのである。

そして少なからず人類が住む土地には薄くとも魔素がある。結論としては魔獣を倒さずともレベルは速度は遅いが上がることもある。

つまり人間も長生きすれば住んでいた土地の魔素にもよるが強くはなる。

逆に言えば例外もある。そう、静音である。体や精神の年齢は年相応ではあるが、転移時のレベルとしては幼子と同じレベルであった。年相応の魔素を取り込んでいないためである。

転移によって作られた肉体でも制約があり幼子同然の肉体しか得られなかったのだ。

だが静音の成長が著しく速いのは理由がある。

スキルの存在である。スキルとはレベルが上がるにつれて獲得できるものである。

しかしスキルは経験を積み得られる物とレベルが上がると同時に何の関係も無く得られる物の二種類がある。

前者はレベルの関係なしに得られるが、後者についてはレベルが低い時ほど得る可能性が高くなる。

一からスタートだった静音の状態は言わばスキル取り放題の状態だったのである。

そして経験を積み、レベルが上がるにつれてそれ相応の力を得た。

しかし問題もある。それは闘気の存在である。

戦う者であれば通常は色は関係なくとも発現するであろう事象である。

闘気の有無はかなり違うと言われている。闘気は戦闘に関係する事象を強化すると言われている。

身体能力、反応速度、武器の威力諸々・・・。故にまず戦う者は上を目指すのではなく闘気の発現を一番とすることもある。しかしどうすれば発現するのかは未だ究明されておらず、経験を積むしか方法は無かった。

静音が闘気を発現できないのはレベルと同じ状態であるからだ。闘気もレベルと同じく魔素に影響されている。闘気は生来取り込んだ魔素の量によって変動することが多い。

静音の身体は同年代と比べて取り込んだ魔素が圧倒的に少ないために闘気が発現しないでいるのである。

逆に最高の紫の闘気を発現したとされる勇者はよほど魔素が濃ゆい土地で育ち、戦うことになってからは数多の魔獣を倒し魔素を吸い成長したとされる。

以上が現在開示できる情報である。




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第七十六話

静音がいるスペリア王国。そこからかなり遠方の国で異変が起こった。

魔獣が出てくると言われる歪みから大量の魔獣が出てきたのだ。現れた魔獣は多種多様であり、想像を絶する数た現れた。冒険者ギルドが言うスタンピードを超えていた。

さらに現れた魔獣にも異変が起こっていた。二足歩行をする魔獣は漏れなく金属の武具で武装し、ワイルドウルフなどの四足歩行の魔獣でも身を覆うような鎧で武装していた。

現れた魔獣は農村、町、都市関係なく襲撃した。国にいた冒険者、兵士が対応にあたるも現れた魔獣は一国が対応できるような数ではなかった。そして戦っていった者たちは一人、また一人と倒れ、ついに国は燃え尽きたのであった。

そして奇しくもその国はスペリア王国の勇者ラークとウィリアムが修行の旅で訪れた国だった。

 

魔獣の侵攻で国が燃え尽きてから一週間が過ぎた日。スペリア王国の国内でもようやく情報が伝わり、国内は騒然とした様子であった。冒険者ギルドにもちらほらではあるが町などからの護衛依頼が増えてきていた。

そんな中静音の工房にもより良い武器をと注文する冒険者が少しではあるが訪れるようになっていた。

そのため三人は今日も鋼を叩いていた。

「なぁシズネ。この国も魔獣にやられるのかな?」

「どうだろ。勇者様もいるしウィリアムさんもいるし、大丈夫・・・とは言えないなぁ。どれだけの魔獣が来るのかもわからないし。というより魔獣はどうやって現れているんだろうね?」

「も、もし魔獣が現れたらどうするんですか・・・?」

「うーん、この国って歪みがいろんなところにあるって聞くからどこに逃げればいいのかさっぱりだね・・・。でも大丈夫。二人は私が守るから」

「ミーナは俺が守る。だからシズネ。時間があるときでいいから訓練をつけてくれないかな?」

「うーん、いいけど。まだアルには早いんじゃないかなぁ」

「早いとかじゃないんだ。やらないと大事な時に何もできない。それを俺は知っているんだ」

「まぁ確かにそうだね。わかった。でも訓練したからって依頼とかには連れていけないよ?」

「わかってる」

こうして有事に備えてアルの訓練が始まった。

訓練は結構簡単な始まりであった。

まずは素振りや走り込みなど基礎体力作りから始まった。

でも何時魔獣が襲ってくるかはわからないため、実践形式の訓練も同時に行った。

訓練所は同じように有事に備えようと兵士、冒険者が集中しているためまともに訓練はできそうになかった。

だが静音の工房には玉鋼製造のための炉を作るための広い空間があったため、そこを仮の訓練所としていた。

「やぁぁぁ!!」

直線的にアルは木剣を持って静音に斬りかかる。しかし結構戦い慣れた静音は軽々とアルの攻撃をいなしていった。それをミーナは心配そうに見ていた。

「はぁ・・・はぁ・・・まったく当たらねぇ・・・」

「兄さん、汗を拭いてください」

「ありがとう」

「私には?」

「シズネさんもどうぞ」

二人は汗を拭いてミーナが作った昼食を食べる。

「シズネはどうして冒険者になろうって思ったんだ?」

「うーん・・・成り行きかなぁ・・・。ちょっと色々あってね・・・」

「ふーん」

そうして休憩を挟んでから静音によるアルの訓練は続いたのであった。




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第七十七話

静音がアルの訓練をつけるようになってから数日。魔獣の出没が増えてきたという噂が本格的に流れ始めた。

冒険者ギルドは依頼が休まず舞い込んできており、中には緊急で村などを助けてほしいという物まであった。

それにより王都の門からは毎日、武装した冒険者に限らず兵士までもの出入りが増えていた。

そんな中、アリムスは冒険者ギルドの様子を探るべくここ毎日のように冒険者ギルドにいた。今日もまた同じであった。

「ふむ・・・ここにも、それからここにも・・・」

「よぉ。アリムスじゃねぇか。何やってんだ?」

「おやダンさん。ダンさんは依頼を探しに?」

「いんや。最近キナ臭くなってきたからな。大本の様子を見に来ただけだ」

「そうですか」

「んで、何枚も地図なんて並べて何やってんだ」

「これはですね、出没したという魔獣の位置ですよ」

「魔獣の位置?そんなの調べてどうすんだ?」

「私は学者ほど知識はありません。ですが思うところがあるんですよ。歪みのない村の近辺などにどうやって魔獣は現れるのかと」

「そりゃぁどっかの歪みからコッソリと流れ着いたってのが定説じゃねぇか」

「そう。そうなんですよ。ですがこの分布を見てください」

「ん・・・ん!?」

「気づきましたか」

「あぁ、頭の悪い俺でもわかる。こりゃ異常だ」

アリムスが書き記していた地図には明らかな異常があったのだ。王都は周りにいくつもの小さな町があり、その町はまた周りに小さな村がある。そしてその村の近辺などに魔獣が出没しているとある。しかし日付が問題だったのだ。魔獣の草原の他にも王都に近い魔獣の歪みはある。しかしそれらを加味しても説明できないような点があったのだ。魔獣が現れたという日付であった。

「えーっと近場の歪みはこことここ。だが近い村にも表れているが少しおいてすぐ別の近くの村にも表れている。で、それら線を引けるように見事につながっている。アリムス。現れたという魔獣の姿は確認できているか?」

「はい。こちらのメモに」

歪みから現れた魔獣が移動すると言ってもエサに困っているのならば一番近くに現れるはず。それが別の種が全く別の位置。それも距離を考えたとしても日をまたいで現れているのが連続して起こっているのだ。

「こりゃ何かデカイやつに追い立てられたか?」

「そうなると同じ種が連続して線でつながるはずです。しかし現れたのはゴブリンからワイルドウルフだけに留まらず、湿地によく現れるというリザードマンが森になんてことまで起きています」

「異常にもほどがある。だがそうなると原因はなんだ?」

「わかりません。異常に関しては最近気づいたのですが、原因はさっぱりですね・・・」

「一体何が起こっているんだ・・・それよりももう何かが始まっているのか・・・?」

「とりあえず団長に報告しましょう。冒険者ギルドに少なからず功績を残している団の長ならばギルドに何かしら提言して聞き入れてもらえるかもしれません」

こうして二人は静音の元を訪ねた。

「ふーん、なるほどね。アリムスの資料は大体わかった。だけどギルドに言っても『で、どうしろと言うんだ』ってしか言われないよ・・・」

「やはりそうなりますか・・・」

「とりあえず当面は遠征よりも村の救援に出向いた方がいいね。益を優先するのも大事だけど失われる可能性がある命を無視することはできないや」

「わかりました。ではどう出ます?」

「とりあえず出ている依頼を見て編成を考えよう。大所帯で一か所に行くより分かれて複数に行ったほうがいいだろうし」

とりあえずダンは大抵はクランハウスにいるであろうメンバーを集めに、静音はアリムスを連れて先に冒険者ギルドに向かった。

「では、緊急会議を始めます」

幸いメンバー全員が何かしらの用事もなくクランハウスにいたためすぐに集合できた。

「とりあえず説明よろしく。アリムス」

「では私から・・・」

まずアリムスの説を説明してから本題に入った。

「とりあえず出ている依頼は数は多いけど難易度は低い物ばかり。だから今回はクランに入る前のパーティー編成で随時討伐に向かっていってもらいたいのです」

「それは構わないが、ギルドにも報告した方がいいはずだ」

「一応やっておく。他になにか気になる点は無い?」

「多分全員が気になっているとは思いますが、原因があるとしたら何なのでしょう?」

「魔獣の集団移動とは考えにくい。あるとすれば、陣取り?」

「陣取り・・・確かにまるで場所を確保するような動きに見えるが・・・まさか魔獣は王国を!?」

「わからない。それは上が判断してくれると思う。とりあえず私たちは戦えない人たちを救うことに専念しよう」

アイアン・イグニスはクランを上げて救援依頼につくことになった。




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第七十八話

突如として現れた魔獣に対しクランの総力を挙げて討伐を始めた静音たち。

静音もまた近辺に魔獣が現れたという村を訪れていた。

「なるほど。山に魔獣が」

「ですじゃ。けども男たちは戦えねぇしで困ってたんですじゃ」

「形とかはわかりますか?」

「緑っこいって言っていました」

「ふむ。わかりました。では早速討伐に行ってきます」

村長から情報を得て、静音はエラムとリーシャを連れて山に入った。

「シズネ。村長の話だと相手はゴブリンのようですね」

「そうだね。だけど・・・」

「何か気になることでもあるのか?」

「突然変異」

「あぁ、それですか」

「今は今までなかったことが起きている。ならこれも頭に入れておかないと」

唐突に現れた魔獣たち。これまでの規則も何もかもがつじつまが合わない現象。こうなるとこの先何が起こるのかさえわからないのであった。

そうして山を捜索していると足跡を見つけた。

「足跡ですね・・・しかし、ゴブリンのものにしては大きいようですね」

「人?いや、魔獣が出ている状況で山を歩くか?」

「ゴブリンと遭遇した人の物でしょうか?」

ともかく手がかりを元にさらに捜索を進める。そして進んだ先で静音が唐突に止まった。

「どうした?」

「何かいる」

静音は雷の魔力を使い、周囲に微弱な電流を放っていた。それを使い、動くものがいないかを探査していた。そして電流の網に何かが引っかかったのだ。

三人はそれぞれ得物を取って戦闘態勢を取る。そして草むらを通り抜けると・・・

「ゴブリン!!」

そこにいたのは緑色をした小人であった。しかしゴブリンというのは無理であった。

「なんだ・・・このゴブリンは・・・」

三人が見たゴブリンは少し身長が高く、それでいて異常になほどの筋肉を備えていたのである。

「ギャ?ギャァ!!ギャァ!!」

こちらに気付いたのか、ゴブリンたちは叫び始めた。

「ともかく片付けるよ!!」

静音を先頭に、リーシャがそれに続いてエラムが後方から援護を開始する。

しかし静音の剣閃は空を切った。

目標としていたゴブリンが消えていたのだ。

「シズネ!!上です!!」

「上!?」

ゴブリンはその発達した筋肉を使って恐るべき速さで上へと跳んだのである。たかがゴブリン。そう侮っていた静音は油断を突かれた形になった。

「っ!!」

ゴブリンの上からの蹴りをかわす。しかしゴブリンの動きはこれだけでおさまらなかった。

リーシャを標的としたゴブリンたちは周囲の木を足場代わりにして飛び跳ね続けリーシャを攪乱しようとしていたのである。

「クソっ。見えん・・・」

リーシャが一瞬視線を別に逸らした瞬間、複数のゴブリンが一気に襲い掛かってきた。

「しまっ・・・」

しかしそのゴブリンたちは爆炎によって跡形もなく消し飛ばされた。

「助かったぞ、シズネ。」

静音は自分の相手よりも苦戦していたリーシャのゴブリンを先に討ったのだ。

そして一匹になったゴブリンを静音は≪慧眼≫で見てみた。

 

ゴブリン  狂

lv35

(狂ってなんだろ。それにレベルが高い。これは魔獣の草原並みだ)

「どうした静音?」

「ううん。なんでもない」

しかし少し考え事をしていて動きが止まった静音の隙を突いて残されたゴブリンは一気にその場を離脱してしまった。

「しまった・・・」

「うーん。まぁいっか」

「いいわけないだろ。群れならともかく一匹のゴブリンなんて探すのにどれだけ時間がかかるか・・・」

「多分さっきのゴブリンは別の群れに向かったんだと思う」

「何?」

「最初に私たちを見つけた時ゴブリンが騒いだでしょ?でもその口は全員上を向いていたんだ」

「上・・・遠吠えか」

「だから群れがいるんじゃないかなって」

「よしなら探索を進めるとしよう」

こうして静音たちは山を捜索して、ゴブリンの群れを二つ討伐することができたのであった。

「しかしどれだけゴブリンがいるのかわからないな・・・」

「あ、それならちょっと待ってて」

そうすると静音は自分の手のひらに何か文字を書いた。すると桃色の光があふれだした。

光が治まるとそこには小さな人型がいた。

「ヤッホー、シズネ。ドウシタノ?」

「シズネ、それは」

「そ、妖精。契約して色々と教えてもらっていたんだ。ちなみにこの子の名前はファティ。

それでファティ。この近辺に魔獣はまだいるかわかる?」

「チョットマッテテ」

ファティは手のひらを合わせた。そこから光が生じそしてそれを頭上に掲げる。すると光のうっすらと霧のようなものに変化しそのまま広がっていった。

「ンーアノキライなカタマリはモウナイカナ」

「そっか、ありがと。じゃ、これお礼ね」

そういって静音はビスケットを二枚渡した。

「ヒャッホー。ミンナにジマンデキルゾー」

「自慢して取られないようにね」

「シズネのカタでタベルカラダイジョウブ」

「私の肩は椅子じゃないんだけどなー。とりあえず山を下りようか」

こうしてゴブリン討伐は終わった。静音たちは村長にゴブリンの討伐が完了したことを伝え、依頼書にサインをもらった。そして一晩家を借りて泊った後、王都には戻らず、そのまま新しい依頼の村へと向かった。




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第七十九話

静音たちは救援依頼を出していた村を巡って魔獣を倒していた。

「ありがとね、ファティ。おかげで魔獣がどこにいるかすぐわかったよ」

「オダイをハズンデモラエレばソレデイイノサ」

静音の肩でビスケットを食べるファティ。

「それでどうするんだ?あらかた近辺の依頼は達成しただろう?」

「うん。それで確かめたいことがあるんだ」

「確かめたいことですか?」

「そ。確かここの村が依頼を出したのが数日前。なら、次の魔獣が近くに現れている可能性ってないかな?」

「そんなまさか・・・と言いたいが、アリムスの一件もあるし否定できないな」

「しかしそうだとしてもどこに行くべきでしょうか?まだ行ってない村はここからだと二か所になります」

「うーん。王都にできるだけ近い村に行ってみよう。外れれば御の字だしね」

静音たちは先手を打つべく出発当時は救援依頼を出してなかった村へと出発した。

そして着いた静音たちは村長に話を聞いてみたが、魔獣は現れていないとのことだった。それに候補から外した村も近いのでそちらに現れたかどうかも確かめたがこちらも外れだった。

「ふむ、予想が外れたか。まぁ危険が無いのは良いことだ」

「ううん。多分これから起こるんだと思う」

「やはり確かめるしかないのか」

静音たちは山へと入った。だが少し歩いただけでファティが騒ぎ出した。

「コワイ!!コワイコワイコワイ!!」

「どしたの?ファティ」

「ヤマにヒトキワイヤナヤツがイル!!」

「ひときわ・・・強い魔獣か?」

「わかんない。とりあえず方向を教えてくれない?」

「シズネ、イクノ?」

「行かないと。村の人が襲われちゃう」

「ワカッタ。アッチダヨ」

「ありがと、ファティ。これ、お礼ね。きつそうだから戻った方が・・・」

「ウウン、ツイテイク」

「そう・・・ありがと」

ファティの先導で山を歩いていくと一人の人物と遭遇した。

「おや。こんなところで迷子にでもなりましたか?」

「あ、いえ。魔獣を探してまして」

(シズネ。コイツ、スッゴイイヤナヤツ!!)

ファティが静音に耳打ちした。その意を汲んで静音は≪慧眼≫を発動させる。

 

魔族 大王蜘蛛

レベル302

 

結果は悲惨というべきか、恐ろしい物であった

「・・・ところであなたはここで何をしに?」

「いえ、少し探し物を・・・」

「最近じゃ魔獣がいたるところに現れるそうですのでお気をつけた方がいいですよ。でも見たところ強そうですから心配はいらないようですが」

「シズネ?」

「ご心配頂き、ありがとうございます」

「ところで探し物って・・・魔の歪みの候補地、ですよね?」

「!?」

「シズネ、何を!?」

「すみませんがね、見えるんですよ。それに頼れる友人もいましてね。その筋からあなたは魔獣に寄する者、そう判断させていただきました」

「なっ・・・」

「それにレベルも聞いたところじゃ人間の寿命じゃ到達できないほど。エルフなどと答えていればよかったものを、あなたは人間だと否定しなかった」

「ふむ・・・まさか行動を読んでここに?」

「えぇ」

「では危険ですね。排除させてもらいます」

すると人物は黒い霧のようなものを発生させた。

「マズイマズイマズイ!!アイツ、ヨクナイヨ!!」

「ファティ。戻った方がいいよ。今からちょっと飛ばすから」

「ワカッタ。キヲツケテ」

そう言ってファティは妖精郷に戻った。

「なぁ、シズネ。目の前のヤツはどれくらい強いんだ?」

「正直わかんない。レベルは高いし・・・」

「人間で到達できないほどのレベル、想像したくもないですね」

「ごめんね、巻き込んじゃって」

「何かあるとわかって着いて来たんだ。後悔はない」

「シズネはよく突っ走りますからね。止める役は必要かと」

「ありがと」

そして変貌を終えた大王蜘蛛が現れた。

「大王蜘蛛か・・・確か魔獣の上、魔族に分類されるんだったか」

大王蜘蛛は大きな両腕の鎌が印象的だった。そしてすぐさま攻撃を仕掛けてきた。

腹部を反らして尻の部分から糸を噴き出したのだ。

「せい!!」

しかし静音の炎の魔力を宿した斬撃波で糸はかき消され、さらには吹き出た糸を伝って炎が大王蜘蛛に伝播した。

「キシャァァァァ!?」

「リーシャさん、足止めを!!エラム、叩き込むよ!!」

「任された!!」

「了解です!!」

リーシャは地の魔力を使い、大王蜘蛛の周囲の地面を盛り上げ、大王蜘蛛を挟み動きを止める。

そこへリーシャが詠唱を終えた火属性の≪ファイアウェッジ≫を放つ。

大王蜘蛛に文字通り炎の楔が撃ち込まれた。

「一気に決める!!」

静音は雷と炎の魔力をフル稼働させ、手に持つ雫に魔力を込める。雫からはあふれんばかりの雷と炎が迸り、光を放っていた。

「ヤメロ・・・ヤメロォォォ!!」

大王蜘蛛からは悲痛な叫びが聞こえたが、静音はそのまま魔力を込めた。そして臨界ギリギリに到達すると、雫から魔力を解放した。

雷と炎の奔流はまっすぐ、大王蜘蛛へと突き進んだ。そして衝突すると大爆発を起こした。

エラムが刺していた≪ファイアウェッジ≫が反応して大爆発を引き起こしたのだ。

どんな魔獣が現れようとも、仲間を守るために三人が練習していた手順だった。

爆風が晴れると、そこには崩れかかった大王蜘蛛の骸があった。

「オノレ・・・オノレニンゲンドモ・・・・」

そう言い残して大王蜘蛛の骸は塵と消えた。残ったのは少し大きめの魔石だった。

「ふぅ・・・とりあえず一件落着と、言うべきかな?」

「もし大王蜘蛛がここら一帯の魔獣を呼び出していたとなるとこれ以上魔獣は出ないだろう」

「ただ、他の場所に行ったみなさんが気になりますね。魔族と鉢合わせしてないと良いのですが・・・」

「そうだね。早く王都に戻ろう」

静音たちは大物を倒した余韻に浸ることなく、王都へ急ぎ戻ったのであった。




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第八十話

大王蜘蛛を倒した静音たちは王都に帰還し、他のメンバーとの情報交換を行った。

「なるほど。その大王蜘蛛が魔獣を呼び寄せていたってわけか」

「確証はないけどね」

「しかし魔族が現れるところには魔獣が大量に現れると聞きます。あながち間違っていないかと」

「って、さっきギルドの人も言ってたよ」

静音は大王蜘蛛の魔石を換金する際にギルドマスターと話ができないか聞いてみた。

流石は魔族の魔石を出した甲斐あってすぐに話ができた。

「ふぅむ・・・魔族の出現か・・・どうやら君たちの言う通りこの魔獣の発生は魔族が絡んでいるとみて間違いないか」

と言う結論が出て、冒険者ギルドは本格的に突如出没した魔獣討伐へと動き出した。

「で、俺たちはギルドの動きに添って魔獣討伐か」

「そうなるね。色々と動き回ることになるけどがんばろう!」

静音たちもギルドに呼応して魔獣退治に乗り出した。

一週間ほど過ぎるとすぐに出没していた魔獣はあらかた討伐された。

しかし、静音が出会ったきり、魔族との遭遇の報告は出なかった。

これに対しギルドは警戒を緩めずに態勢を整えることにした。

また、魔獣討伐に最も貢献した静音たちのクランが賞されることになった。

静音はcは王都に帰還し、他のメンバーとの情報交換を行った。

「なるほど。その大王蜘蛛が魔獣を呼び寄せていたってわけか」

「確証はないけどね」

「しかし魔族が現れるところには魔獣が大量に現れると聞きます。あながち間違っていないかと」

「って、さっきギルドの人も言ってたよ」

静音は大王蜘蛛の魔石を換金する際にギルドマスターと話ができないか聞いてみた。

流石は魔族の魔石を出した甲斐あってすぐに話ができた。

「ふぅむ・・・魔族の出現か・・・どうやら君たちの言う通りこの魔獣の発生は魔族が絡んでいるとみて間違いないか」

と言う結論が出て、冒険者ギルドは本格的に突如出没した魔獣討伐へと動き出した。

「で、俺たちはギルドの動きに添って魔獣討伐か」

「そうなるね。色々と動き回ることになるけどがんばろう!」

静音たちもギルドに呼応して魔獣退治に乗り出した。

一週間ほど過ぎるとすぐに出没していた魔獣はあらかた討伐された。

しかし、静音が出会ったきり、魔族との遭遇の報告は出なかった。

これに対しギルドは警戒を緩めずに態勢を整えることにした。

また、魔獣討伐に最も貢献した静音たちのクランが賞されることになった。

静音はCランクとなり、メンバーも漏れなく昇格した。

それから数日後。静音は再びギルドマスターと話をしていた。

「開拓、ですか?」

「そうだ。西は魔獣の草原があるだろう?だが東の方はあまり開拓が進んでいないのだよ。出てくる魔獣は大体同じだが、冒険者を補助する町や設備が全く整っていないのだよ。一方を進めすぎた弊害ともいえよう」

「では東にも魔の歪みが?」

「いや。スペリアの方には魔の歪みは確認されていない。だがその土地は研究資料によると魔素に満ちているらしい。歪みは無くとも魔獣は魔素を求めてやってきているということだ」

「それで私たちは何をすれば良いのでしょうか?」

「複数の冒険者のパーティーなどを取りまとめて開拓地の魔獣の討伐、また施設設備の人員の護衛を行ってもらいたいのだよ」

「この話、一度持ち帰ってもよろしいでしょうか?」

「あぁ、良い返事を期待している」

 

――――――

 

「ってことがあったのさ」

「なるほど、開拓か」

「確かに冒険者は西にばかり行って東に行く人は聞きませんからね」

「大方西に行き過ぎると草原の魔獣が足りなくなるからな。それで新たな狩猟地を作ろうということだろう」

「で、どうしよっか。報酬は出るし、こういう依頼が来るってことは少なからず私たちのクランの立場ができつつあるってことだと思うけど」

「賛成ですね。さらに地位向上が望めそうですし、この依頼を通じてさらに冒険者を取り込めるかもしれません」

「相変わらずアリムスは理論的だな。まぁ、俺も賛成だ」

特に反対の意見が出ることなく、開拓地依頼を引き受けることになったのであった。




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第八十一話

開拓地開発の依頼を受けた静音たちは参加する冒険者たちが揃ったこと、開拓団の行動表を受け取った。

「なるほど・・・今回はゼロから町を作るって訳か~」

「一から町を作るとなると相当な時間がかかりますよ」

「まず予定表を見てみようよ」

ウェイル・プレイン開発計画

・まず拠点となる基地の建設、および周辺地域の魔獣の生息観測

・基地の増設及び魔の歪みの調査

・魔獣の生息数に応じて人員を派遣もしくは基地の遺棄

 

「・・・なんとも大雑把な計画書だね、これは・・・」

「しかし魔獣が蔓延る地に建築をするというのはたやすいことではないでしょうに・・・」

「まぁ、ある意味複雑に書いて行動を強制するよりも簡単に書いて現地の判断に任せるってことじゃねぇか?」

「うーん、とりあえず私たちは魔獣を基地に近づけなければいいわけだし、基地の方はそっちの人に任せようよ」

結構あやふやな始まり方だったが時間は過ぎ、出発の日を迎えたのであった。

朝。王都の門には大勢の人、物資が集まっていた。

「これよりウェイル・プレインへ向かう!!かの地には大量の魔獣もいるであろう。冒険者の諸君、ぜひともその実力を発揮してくれたまえ!!」

大勢の前で話しているのはこの計画の頭だろう。どこかの商団の長らしく見える。静音は店をアルとミーナに任せたものの、少し心配でもあった。

「それでは出発!!」

長い行列が王都を出発した。

「しかし数か月単位の依頼とは改めてみると面倒ですね」

「まぁ仕方がないな。だが依頼料は奮発してもらえるし、完成すれば新たな狩猟場ができる。まぁ生活品質は多少落ちるのが難点か」

「まぁ仕方ないよね」

「しかしいまいち腑に落ちないのが一つ」

「あぁ、アレね」

この計画の内容に一つだけ決定事項というべきことがあった。それは食糧は自前で用意、調達することであった。

「一番大事な食事をおろそかにするってなんだかなって思うよな」

「まぁ食糧の保存とかを考えれば合理的と言えるでしょうが、正直難しいところですね」

「まぁ、今回はそのために食糧輸送のための馬車をあらかじめ数か月単位で借りて待機させているわけだし、場所も馬で走れば二日とかからない距離だからなんとかなるでしょ」

色々と不安もあるが、開拓団は歩みを進めた。ゆっくりと進む開拓団は三日目の昼に予定地に到着した。

予定地に着くとすぐに建築班が仮の防護壁となる木柵を建て始めた。それに合わせて冒険者たちは周囲の警戒に動くことになった。

静音たちも馬に乗り周辺を駆けまわったが大した異常は見えなかった。

「うーん、これと言って魔獣は見えないなぁ。まぁ町の町近くに現れるようじゃ安全んとは言えないから当然と言えば当然か」

そして作業は夕暮れまで続けられ、夜になると休める。そう思っていた・・・。

「は?夜の見張りだと?」

「はい。私たちの依頼内容は開拓団の護衛ですので」

「そんなの聞いてねぇよ。アンタらは知ってたんだろ?事前に知らせなかったアンタらが悪い。俺たちは知らねぇよ」

そう言って集められていた冒険者の大半が勝手にテントなどを建てて思い思いに食事、飲酒などを始めてしまった。

「どうします?団長」

「仕方がないよ。一応開拓団の人に伝えて有事に備えよう。夜は魔獣が活発になるからね。それに食事の匂いに寄ってこないとも限らないし」

静音はアリムスを連れて開拓団の幕舎に赴いた。

「なるほど、事情は分かりました。事前に夜警のことを伝え忘れていたのはこちらのミスです。しかしどうしますかな・・・」

「私たちのクランは総勢16人。八人一組で警戒には何とか当たれるでしょう。もし魔獣の夜襲があれば例え夜警を知らなくとも身の危険は明らか。他の冒険者も戦うでしょう」

「ありがたい。ではそのようにお願いします。明日からはしっかりと担当を決めることにします」

こうして長い夜が始まった。夜なので馬で駆けることもできないため、松明を持って徒歩で警備に当たることになった。

「うーん、魔獣からすればこんな暗い中で明かりを持ってるなんていい的だよなぁ・・・」

あくびをこらえながらなんとか警備に集中する。

「団長。交代の時間です」

そうして交代時間前に交代組がやってきてくれた。

「ありがとね。何かあったら遠慮なく叩き起こしてね」

そう言って静音たちも何とか眠りにつくことができた。

長い依頼が始まったのであった。




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第八十二話

ウェイル・プレインでの生活が始まって一週間が経った。

最初の数日で木柵を徐々に広げて基盤を作り、王都から届く資材で補強し、そのままフォロムのような石壁を目指しているようだった。

静音たちは変わらず周囲の警戒についていた。町の石壁が完成すれば静音たちは魔獣の調査に赴くことになる。

最初は問題となった夜警も、開拓団の長が話を付けてきっちりと全員で交代する仕組みになった。

食料は自分たちで用意するというのも静音たちは専用の班を作って王都から調達していた。

しかし二週間ほどになるとまた問題が起こった。

「だーかーら。俺たちは食糧を調達するために王都に戻るんだっての」

「それは困ります。あなた方はここの護衛として雇ったのですぞ。持ち場を離れられては困ります」

「食料も無しで依頼をしろってか!?」

そう、静音たちのような大きな集団ならともかく、パーティーや一人で参加している冒険者は自前の食糧が

命綱で班を分けたりしての調達ができないでいた。

「そもそもなんで自前で調達しなけりゃならないんだよ。アンタらが用意してくれればいいだけの話だろ」

「建材はともかく食糧の輸送には危険が伴うのですよ。それに元々同意書に書かれたことに納得したから依頼を受けたのでは?」

双方譲らず、言い争いは平行線になっていった。

そんなことはつゆ知らず、静音たちは哨戒に出ていた。

「シズネ、あれを」

エラムが指さした方向には一匹の牛のような生き物の死体があった。死体はほぼ肉は食い尽くされて骨と皮だけであった。

「野生の肉食動物の仕業かな?」

「そうとも限らん。以前の調査隊の報告が確かならここより先に魔の歪みがあるはずだ。テリトリーからはぐれた魔獣の仕業かもしれん」

しかし静音たちがいるのはまっ平な草原。かろうじて丘があるくらいだった。

「とりあえず昼の集合の時にちょっと議題に上げてみようか」

昼になって昼食をとるときに静音はあったことを議題に上げた。

「なるほど。魔獣の仕業かもしれないと。平原の捜索など膨大な時間がかかりますよ」

「だからね、ちょっと奥に踏み込んでみようかなって。魔獣の生息域近くにまで行ければどれくらいいるのかも確かめられるし」

「それは防壁が完成してからのはずでは?」

「でも事前に知っておかないと不意を突かれたら大変だよ。それに昼からは私たちはフリーだし」

「俺たちもフリーだし団長に着いて行くぜ」

「くれぐれもお気をつけてください」

こうして静音とダンのパーティーが事前調査に行くことになった。

「それにしても何もない平原だな」

「確か最初の計画書では農村まで作る予定だったとか」

「そりゃ無理だろ。魔獣が近くに出るかもしれない土地に農村なんて無理だろ」

「うーん、小さな砦を横に並べて防衛線を整えればできないかな?」

「確かに普通の防衛線のようにすればいけるかもしれないが、そこまでして危険な土地を開拓する必要はないだろう」

「ん、少し空気が変わったような」

「魔獣の生息域に近づいたんでしょうか」

何気ない平原を進んでいたはずが、唐突に触れる空気が変わった気がしたのだ。

「ふむ、特に周囲に異常はないようだが・・・」

「先に進むのはここまでにして周囲の散策に切り替えよう」

進むのを注視して散策に切り替える。すると少し離れた先で何かが走っているのが見えた。

「うーむ、警戒依頼だったから新しく買ったけど正解だったみたいだね」

静音は望遠鏡を持っていた。これならば遠くも見渡せて警戒にちょうどいいと思ったのだ。

「多分ワイルドウルフだと思う。それが数匹。こっちには気づいていないかも」

「討伐しますか?」

「戦闘になって他の魔獣が寄ってくると厄介だから手は出さないでおこう」

そのまま周囲を散策した結果、はぐれ魔獣に遭遇することなく静音たちは拠点に戻ってきた。

しかしそこは騒然としていた。

「あ、団長。ちょっと・・・どころか大問題が・・・」

「どしたの?」

「食料調達で問題が起こって・・・一部の冒険者が勝手に帰ってしまって・・・」

「え?」

アリムスは聞いた話を静音にした。

「うーん・・・私たちは準備が整ってたから気にしてなかったけど、やっぱ起こったかぁ・・・」

「いま開拓団が急いで新しい割り振りを考えているところです」

「そう言えば食糧の輸送だと野盗に狙われるって言ってたけど、ウチの班って少ないのにどうやって防いでいたの?」

「適当な材木などを買って外装をそれでごまかして内部に食糧を隠していたんですよ」

「あーだから馬車に木材があったわけか。それにしても大丈夫なのかな・・・」

静音のつぶやきは現実となりつつあった。




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第八十三話

ウェイル・プレインでの生活も一か月近くになってきた。

食料問題が起こってから、冒険者の顔は入れ替わるのが多くなった。

最初こそ順調に依頼についても、食糧問題が起きればすぐに身をひるがえして王都へと帰っていくのだ。

生活水準が下がり前線での生活ということでの高額報酬に魅かれてくるのだろう。だから一番大事なところがおろそかになってしまうのだろう。

静音たちは引き続き冒険者の取りまとめを行っていた。

食料問題が起こってから冒険者ギルドに専用の食糧輸送を頼んでは見たのの、輸送の危険さから認可されないでいた。

しかし静音たちが用意している馬車では到底賄うこともできず、進退は冒険者の自由としていた。

それでも基地の整備は進み、石壁も大抵が完成していた。

「では私たちは魔獣の調査へと?」

「そうだ。拠点の整備も整いつつある。そろそろ輪を広げても良いだろうと」

「では早速メンバーの応募と防衛班の選定を始めます」

「よろしく頼む」

こうして静音たちは今後狩場となるであろう地域の調査に赴くことになった。

 

――――――――――

 

静音たちは平野を駆けていた。見渡す限りの平野。何度も見た光景。しかし今回はいつもより遠出であった。

「うーん。魔獣の調査って専門の人がやることなんじゃないかなぁ・・・」

「そうですね。大抵調査団とかが組まれるはずですが・・・今回は作成形態が違うからでは?」

「そう言えば町って国が作ると思ってたけど、今回のは商団が作るって言いだしたんだっけ」

「国が作るとなれば調査団を始めとして予算は大きく組まれるでしょうが、今回は商団。利益を優先して支出は減らそうとするでしょうから色々と仕事を回されるのでしょう」

「そうなると、ここで今後狩りをするとなっても西の草原みたいにタダでとは言えなさそうだね」

「でしょうね。町の宿を始めとする設備。それから素材換金所の利率。あまり人気になるとは思えませんね」

「でも何かしら特徴があれば・・・結局は費用対効果が合わないと誰も来ないか・・・」

まだ始まってもいない虚しい話をしながら調査を続けた。こちらには魔の歪みは無いと聞いていた。だがかなり遠くに魔獣の巣窟があるらしく、ここに生息する魔獣はそこからくるという調査結果があった。

「元々調査結果があるなら調査なんて二重にしなくても良いと思うのに・・・」

「調査の内容ではなく、調査することに意味があるのでは?」

「そうだな。調査と言っても国が少しした程度。形、質はともかくしたという結果があれば魔獣がいるということになり宣伝効果にはなるだろう」

つまり国が行った調査のかなり古い結果では実際に魔獣がいるのかも怪しくなる。しかし質はともかく調査をした結果が残ればそれは事実として上書きされるのだ。

「結局いい様に使われているだけかぁ・・・」

「討伐以来でもないですしギルドの評価にはあまり影響しないでしょうね」

「それに商団相手でもそこまでいい影響はでないでしょう。せいぜいよく働いた駒といった感じでしょう」

「うーん、でも開拓団の人はそんな感じはしないけどなぁ・・・」

「それは専門の人を雇ったからで商団とは直接的な関わりが薄いのでしょう」

「世知辛いなぁ・・・」

色々と問題は出てはそのまま滞在する者であった。




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第八十四話

静音は目が覚めると花畑にいた。

「ここは・・・妖精郷?」

「久しぶりですね。シズネ」

「テルフィーヌさん。何でかわかりませんけどこっちに来てしまって・・・」

「今回、あなたが来たのは私が呼んだからです」

「何か、あったんですか?」

「妖精の隠れ里、というのは知っていますか?」

「いえ、初めて聞く単語です」

「妖精の隠れ里というのはあなたたちが暮らしている世界に根を下ろした妖精が暮らしている場所のことです」

「その隠れ里に何かあったんですか?」

「最近、あなたがいる場所がその隠れ里に近いのです」

「私がいる場所・・・開拓団のところか」

静音はここまで開拓団のところで何をしていたかをテルフィーヌに話した。

「そうですか・・・人間がそんなところに町を・・・」

「ん・・・まさか」

「何かありましたか?」

「いえ。もしかしたらなんですが・・・。私たちにその開拓団を指揮している人が調査を依頼しているんですけど、町を作るときとかの大事な調査ってのはちゃんとした専門の人がしたからこそ意味が出るわけで、

私たちのような冒険者になんで依頼をするのかなって思ってたんですけど・・・もしかして開拓団の上の人は妖精の隠れ里について何か知っているからこそ調査といって捜索をさせているのかも・・・」

「ふむ・・・もし人間が隠れ里を知っているとなると厄介ですね」

「一つ、いいですか?」

「何か?」

「私たちがいる場所は障害物がほぼない平原なんですけど、そこにいる妖精ってどこに住んでるんでしょう?あ、決してやましいとかそういうことじゃなくて興味本位で・・・」

「あなたの人柄を信じて話しますが、あなたの近くに住んでいるのは土の妖精です。土の妖精は土を好み地下に住処を作るのです」

「そうですか・・・でも町が完成して拠点として活動し始めたら多くの人がやってくるようになります。そうなると見つかるのも時間の問題になるかもしれません・・・」

「そうなるのですか・・・仕方ありません。人をやって妖精たちに別の土地に移るよう言うしかありませんね。何年も住んでいた土地から離れるように言うことは酷ですが仕方ありません。

シズネ、急に呼び足したりしてごめんなさいね」

「いえ、何かの役に立てたのなら幸いです」

そうして静音の意識は妖精郷から遠くなっていった。

 

――――――――――

 

朝、静音いつのように起きて朝食を食べて一日の予定を確認する。いつものように調査が入っていたが、今日からは考えて行動しなければならない。できるだけ人と離れたい妖精たち。過去に一体何があったかは知らない。だけど色々と魔力を扱うのに≪妖精の祝福≫は重宝している。それにこの世界について聞きづらいことも今後聞けるかもしれない。利益という点が浮かんでしまうのが悲しい事だが静音は妖精を守るために考えねばならなかった。

「団長。どうしましたか?気分でも悪いですか?」

「え、あ、ううん。ちょっと考え事をしててね・・・」

「そうですか。話せる事でしたら相談してください」

「え、あ、うん・・・」

アリムスに声を掛けられるまで静音はずっと考え事をしながら地面を見ていてしまった。

地面の下に住むという妖精。どんな食生活をしているのかは知らないけど一回も土の下から出ないでいいというのは考えにくい。人目を避けて夜に出て来るのか、それとも視力が良くて何者もいないときにひょっこりでてくるのか。興味本位になってしまうが、考えてしまうのだ。だがこんなことを相談できる人間などいないのだ。

(とりあえず、できるだけ人がいるところで考えないようにしないと・・・心を読むスキルの有無も気になるし何か感づかれるのもマズイしね)

とりあえず静音は平静を装いつつ調査を進めるのであった。




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第八十五話

調査から帰ってきた静音たちは昼食を取っていたのだが、開拓拠点が徐々に騒がしくなっていくのを感じた。

「何があったのかな?」

「大変だー!!アーマー・インセクトの集団を率いてジャイアント・マンティスが出たぞー!!」

「アーマー・インセクト?ジャイアント・マンティス?」

「アーマー・インセクトは鉱物を食べる虫です。そしてジャイアント・マンティスは巨大な虫を従えて現れる強敵です。その鎌は薄い鉄盾を破るとか」

「ほー。虫ってことは魔獣じゃないってこと?」

「そう言うことになります。ですのでアーマー・インセクトの甲殻は良い鎧になります。自然由来の物なので加護も付与しやすいとか」

「なるほどー。じゃ、稼ぎに行きますか」

静音はクランメンバーを率いて虫の集団が現れたという場所に向かった。

「ふむふむ、あれがアーマー・インセクトか。なんかダンゴムシみたい」

「姿かたちは似ていますが甲殻の強度は恐ろしく違いますからね」

「そんなに硬いならどうやって倒すの?」

「そりゃぁ、力任せにひっくり返すんだよ。殻は硬いが軽くてな。力に自信がある奴は簡単に転がせるわけだ。んで柔らかい胴体を斬ってシメだ」

「なるほどー。確か甲殻は鎧に良いんだってね?じゃぁできるだけ傷つけないようにしてくれるかな。

全部私が買い取るから」

「おっしゃ。こりゃ誰が一番稼ぐかレースだな」

「金に釣られたわけではありませんが実力を証明するにはいい機会ですね」

「ふむ、一つやってみるとするか」

メンバーのテンションが上がる中、静音は虫の集団の中心を見た。

「あれがジャイアント・マンティス。体格はともかくかなり大きい鎌だなぁ・・・ま、いっちょやりますか」

静音を先頭にメンバーーは虫の集団へと突っ込んでいった。

大剣や槍、大盾を使って力任せにアーマー・インセクトを転がし、鋭利な武器を持っている者がトドメを刺す。途中、アーマー・インセクトにぶつかりそうになった静音。思わず時雨を振るったのだが・・・。

「うそっ弾かれた!?」

数多の魔獣を斬ってきた時雨が弾かれたのだった。全力で振るったわけではないがそれでも弾かれたのは事実だった。時雨は対魔獣に関しては加護で強化してあるが、生物に対しては何も強化要素は精々玉鋼による鋭利さくらいであった。

「うーん、とりあえずデカブツを処理しよう」

静音はアーマー・インセクトは放っておいてジャイアント・マンティスに突貫する。

「やぁぁぁ!!」

静音は雷と炎の魔力で強化された肉体から放たれる強烈な一閃を放った。

「キシャァァァ!?」

その一閃はジャイアント・マンティスの腕を切断し、大きな鎌が音を立てて地面に落ちたのであった。

「うわぁ・・・気持ち悪い・・・」

しかし切断面からは生物特有の体液があふれ出ていて、わずかながら時雨にも体液が付着していた。

それを静音は時雨を振るうことで体液を飛ばし、さらに踏み込んで一撃を放とうとする。

「キシャァ!!」

静音の時雨を脅威だと悟ったジャイアント・マンティスは羽根を広げて空へと離脱した。

「あんな図体で飛べるんだぁ」

しかし静音は動じずにそのまま剣を脇に構える。静音は時雨の刃に雷と炎の魔力を宿し、それを全力で振り抜いた。雷と炎を纏った斬撃波は飛行して逃げようとするジャイアント・マンティスの背中を両断し羽根を燃やし尽くし撃ち落とした。

「ふぅ・・・何とかなった。みんなの調子はどうかな?」

静音が後ろを振り返るとメンバーが血眼になってアーマー・インセクトを転がしていたのであった。

「うーん、精が出るのは良いけど、ちょっと怖いかな?」

そのまま狩りは一方的に終わったのであった。

 

――――――――――

 

「ふむふむ、アーマー・インセクトの甲殻が30揃い、うん、どれも綺麗で助かったよ」

「しっかし団長は武器屋だろ?甲殻なんぞ何に使うんだ?」

「ふふーん。それは秘密なのだ。と言っても試してないからわからないけど」

「?」

「とりあえずアーマー・インセクトの甲殻の値段は王都に帰ってから調べるから報酬はその時ね」

静音はよいしょとアーマー・インセクトの甲殻を≪空間収納≫に放り込んでいった。

「それにしてもジャイアント・マンティスが現れるなんてよっぽどですよね」

「そうですね。ここは魔の歪みに近い地域。通常魔獣の餌になるような巨大虫が出て来るなんて、何かあったのでしょうか?」

エラムとアリムスの知的な会話は放っておいて静音は結論を待つのであった。




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第八十六話

ウェイル・プレインでの生活ももう二か月が過ぎていた。先日ジャイアント・マンティスを始めとする巨大虫の襲撃があってから、冒険者たちの一部が逃げるように去って行ってしまった。

どうもジャイアント・マンティスは生物ながらミノタウロスと同等以上の格付けがされているらしいのだ。

とはいえ町の石壁も完成し、今はここに店を建てようと躍起になっている状態だ。しかしどの建物も開拓団を主導する商団のものばかりであった。それに商団独自に集めた冒険者なども到着しつつあり、そろそろ静音たちの役目は終了しつつあった。

「それで、今日は言った何のご用でしょうか」

「あぁ、君たちは最初からよく仕事をこなしてくれた。まずはそのことに感謝を。それで今後はどうするつもりかな?」

「また王都に戻って依頼や魔獣狩りの生活に戻るつもりです」

「そうか。ではこういうのはどうかな?恒久的な契約というのは」

「恒久的な契約?」

「そうだ。この町を守る契約だ。君たちはここに常駐しこの町を守ってもらうということだ」

「ありがたいお話ですがお断りさせていただきます」

「ふむ、不満かね?」

「はい。届くかわからない食糧、それにここは娯楽という物が欠けていると実際に生活してわかりましたからね」

「ふむ・・・確かに君の言う通りだ。仕方がない、今日を持って君たちの依頼を終了とする。報酬はギルドから受け取ってくれ」

こうして二か月に及ぶ依頼が終わった。

このことをみんなに告げると特に男連中は喜びの声が大きかった。そうだろう。酒が全くと言って飲めなかったからである。娯楽の力は恐ろしく、その日のうちに荷物をまとめ上げて静音たちは王都へと帰ったのであった。

 

――――――――――

 

まず静音は王都につくとすぐに報酬を受け取り、アーマー・インセクトの甲殻の値段を調べてそれ相応の報酬をメンバーに払った。その後すぐに自分の工房に向かった。

「たーだいまー!!」

「あ、シズネさん。おかえりなさい!!」

「おーシズネ。おかえり」

工房では暇そうにボードゲームで遊ぶ二人の姿があった。しかしミーナは静音を見るやすぐに飛びついてきた。アルも恥ずかしそうについてきた。

「二人とも元気だった?」

「はい。寂しかったけど何事もなく過ごせました」

「べ、別に寂しかったわけじゃ・・・」

「兄さんはたまにシズネさんが座っていたところを見てましたもんね」

「べ、別に見てねーし」

「うんうん、元気そうで何よりだ」

その日は静音たちの帰還を祝ってのちょっとした宴会があった。久々に腕を振るったというエマたちの料理に舌鼓を打ちながら騒がしくも穏やかな夜は終わった。

 

朝、静音は朝食を食べてから散らかった広間の片付けを手伝いながら今後どうしようか考えていた。

不確定な収入で操業している今、継続的な収入をどうやったら手に入れられるか。

自分は鍛冶工房があるが、他のみんなは違った。狩りや依頼をしなければ収入は得られない。魔石の値段も永遠に同じとは限らない。需要が満たされたら値段は当然下がる。

開拓団の時のようにどこかに滞在して依頼に当たれば収入は得られるが場所によっては生活水準が下がるのが問題だった。それに良い条件のところは他のクランとかが契約しているだろう。

「何を考えているんですか?」

そんなところにエラムがやってきた。ちょっと意見を聞きたくて静音は軽く胸の内を話してみたが、エラムにはすぐに感づかれてしまった。

「なるほど。継続的な収入の模索ですか・・・。もとより冒険者になった人の多くは収入が不定期であることを承知してなっているはずです。ですので今後も依頼や遠征での狩りを通じて収入を探れば良いかと」

「でもさ、怪我とかしたら遠征にも依頼にも行けないわけじゃん。そうしたら収入は無いし何かで使い切った後だったら治療費とかも・・・」

「確かにそうですが・・・シズネは少し考え方が私たちとは違うようですね」

「?」

「怪我のことなども含めて貯蓄をするのがスペリアに住む人たちの考えです。節制を是とし散財を悪とする。ですので最初は一気にお金を使うシズネを見てびっくりしましたよ」

なるほど。この国の人はしっかりと考えているわけか。静音は転移者のためにこの世界、国に住む人たちの伝統に疎い。どこか時間ができたら少し調べてみるのも面白そうだ。




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第八十七話

開拓地から帰ってきてから静音がまず手を付けたのはアーマー・インセクトの甲殻のことだった。

死骸をそのまま入れていたため、腐ってはいないものの、虫の肉体など一銭にもならない。

少し調べると虫系の素材は特殊な粉を使って肉体を除去するらしい。

実際にその粉末を扱っている店に行き、詳しいことを聞いた。

「なるほど。アーマー・インセクトか。ならこの粉末を使うと良い」

「差し支えなければ教えてほしいんですが、何の素材でできているんですか?」

「あぁ、この粉には観察鏡でないと見れないような虫を混ぜてあるのさ」

そこからはちょっと難しい話が続いた。

用は小さな寄生虫に虫の死肉を食わせるのだ。そしてその寄生虫は餌が無くなったら共食いすらするような種類で最終的に寄生虫の死骸が粉のようになって落ちる程度になるらしい。

とりあえず早速30揃いもあるアーマー・インセクトを工房のたたら炉用のスペースに広げて例の粉を撒いて放置することにした。

その間、静音は無理やり剝ぎ取ったアーマー・インセクトの甲殻を調べることにした。

まず穴が空くかどうかである。静音の構想だと穴が空かなければ使えないからである。

こちらも色々と調べてみた。すると大抵の代物なら穴を空けれるという道具を見つけた。

魔力針という物らしい。仕組みは針自体が魔力伝導が良い素材でできていて、それに魔力を通して使うらしい。大抵この世界にある物は魔素でできているわけで、魔素が変化した魔力を使い、物質にある魔素を融解させて穴を空けるという物だった。

早速こちらも購入して実際に使ってみた。

「さて、やりますか」

腕まくりをして初めての作業に取り掛かる。魔力針に魔力を通し、アーマー・インセクトの甲殻に当ててみた。するとゆっくりとではあるが、針が甲殻に沈んでいった。そしてゆっくりと穴を貫通させて、今度は針をゆっくりと外側を削るように回していく。そうすると静音が望んでいた大きさの穴を空けることができた。

「よーし、まず第一段階はOK。さて、ファティ。来てくれないかな?」

静音しかいない工房に小さな光がこぼれ、そこから妖精が現れた。

「ドウシタノ?シズネ」

「ちょっとこれ触れるかな?」

「ウン。鉄ミタイダケド、イヤナ感ジガシナイ。コレデ何カ作ルノ?」

「まぁね。できたらファティに協力してほしいな」

「オモシロソウ。待ッテル」

少し確認を終えた後ファティには帰ってもらった。一応妖精というのは大変珍しいようなのでアルとミーナには工房に入らないようにしてもらってたのだ。

その後はアーマー・インセクトの甲殻に王都の店で買ってきた安物のナイフや剣をぶつけてみたが、目立った傷はつかなかった。強度の方も問題なさそうだった。

「さて、後は死肉が消えるのを待つだけか・・・」

アーマー・インセクトの死肉が消えるまでの一週間。静音は開拓地に行っていた間に溜まっていた武器の注文の片付けに取り掛かった。結構な数のナイフを作ってきたアルとミーナなだが武器の鍛造はまだまだ静音が付きっ切りで指導しなければならなかったのだ。

それでもナイフや包丁など日用雑貨に使う商品は頑張って作っていてくれたことには大変感謝している。

あまり注文は入っていなかったが、それでも静音は一本一本丁寧に仕上げた。そんなことをしていたら一週間などすぐに過ぎるのであった。

 

アーマー・インセクトの死骸を確認してみると、体があったはずの部分がぽっかりとあいてひっくり返すと聞いていた通り小さな粉が少し落ちただけであった。30揃い全てひっくり返して死肉が消え去っていることを確認した。その中から適当に一つ抱えて静音は工房に入った。

「シズネ。そんなの持ってきて何を作るんだ?」

「うーんとね、秘密」

静音は魔力針を取り出して甲殻の重なっている部分を溶かしてありのままの短冊状のような形として分離していった。それだけを終えるだけで空模様は昼の青空から夕方の茜空に変わっていた。

その日はそのままクランハウスでみんな揃って夕食を食べて寝た。

次の日、静音は別の作業を始めていた。昨日分離した短冊状の甲殻を魔力針で今度はさらに半分程度の大きさに切断し、時に炎に当てて熱して曲がり具合を調節していった。この作業もまた昼過ぎまでかかった。

アルとミーナは特に仕事は無かったため静音の端から見れば理解できない作業を見守っていた。

昼食を食べ終えると今度は半分に切断した甲殻に穴を空け始めた。時々甲殻同士を重ねたりして何かを計っている様子も見れた。そうしてまた作業をしていたら一日が終わりを迎えようとしていた。

その次の日も静音は工房で作業をしていた。今日は昨日穴を空けた甲殻同士を紐で繋げようとしていた。

小さな短冊状の甲殻は紐で繋がれていって一枚の板のようになっていった。

「すげー。あんな曲がっていたのが綺麗に形が変わっていった」

「一体何ができるのでしょうか。楽しみです」

同じものを大小合わせて複数作っていった。昼が過ぎても作業を進めて、いわゆるティータイムの時間には静音が満足する数が揃っていた。

そして作った甲殻板を静音は何時の間に調達していた動物の革でできた防具に同じように紐で結っていった。すると体のほぼ全体を甲殻板で覆った革防具が完成した。まだ頭を覆う部分はできていないがすぐにできるだろう。静音が作っていたのは武者鎧もどきであった。完成しつつある鎧を見てアルとミーナは物珍しさ満載であった。

「なぁなぁ。まったく見たことが無い鎧だ。どこでこんなのを知ったんだ?」

「まぁ色々とあるんだよ、これが」

始めてみる形の鎧を見て興奮するアル。不思議そうにしているミーナ。静音は彼らに鎧を半ば預けて頭の部分の仕上げに取り掛かった。兜は静音が知っている中では小札で作られている武者鎧の各部位とは違って鉄板を加工して作るのが多いらしい。だが今回は静音は革でできた丸帽子に甲殻でできた小札を当てて魔力針で重なる部分を削って調整しながらかなり時間がかかったが兜も完成した。

今回は試作だったため余計な装飾は付けていない。よくあるような兜の金色の角のような物もつけていない。一応は完成したのだが、ここで問題が発生した。鎧の試着をファティに頼みたかったのだが、アルとミーナが鎧から離れないのであった。あまり知られたくはないらしい妖精たちの事情も鑑みたがいずれは知られることになるだろうということでアルとミーナには絶対に他言無用ということで工房の扉を鍵までしっかりとかけてからファティを呼び出した。

「え・・・この子は・・・」

「まさか・・・妖精さん?」

「あまり大声を出さないでね?絶対に知られたくないから」

「ドーモハジメマシテ。ファティッテイウンダ。シズネガ紹介スルヨウナ子タチダカラ、ダイジョウブダヨ」

「そう?信頼してくれてありがと」

「ウン?ナニアレ!!人形?ゴーレム!?」

ファティも武者鎧もどきに気付いたのか興味津々で周りを飛び回っていた。

「ファティ。これってゴーレム?みたいに操ることってできる?」

「ウン、ヤッテミル」

ファティはすぅっと武者鎧に入っていった。すると顔など露出するであろう部分から光が漏れだした。その後すぐに武者鎧は立ち上がって見せたのだ。

「おー実際に動けるのか。どう?動かしずらいとかない?」

「ウウン、ゼンゼン。スッゴイ軽イヨ」

ブンブンと腕を振り回したりするファティ。どうやら期待していた通りにできたようだ。

「ソレデコレハドウスルノ?」

「うーんとね。もし何か危険なことがあったらファティが自由に使っていいよ。だから持って行って」

「クレルノ?イイノ?」

「うん。いいよ」

「ワーイ。コンナノ絶対ニ自慢デキルゾー」

「あまりしすぎないようにね」

こうして武者鎧試作型はファティが持っていった。しかし自分が使わない物を静音はどうして作ったのだろうか・・・。




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第八十八話

武者鎧を作ってファティにプレゼントした後、静音はもう一揃いの武者鎧を作った。

そしてそれを参考にアルとミーナにも手伝ってもらい時間があるときは鎧作成を始めた。

「なぁシズネ。鎧作るってことはこれも売りに出すのか?」

「うんにゃ。これは非売品かな」

「非売品・・・ならどうして?」

「うーん、ちょっとやってみたいことがあってね・・・ファティが上手く炊きつけてくれると良いんだけど・・・」

武者鎧を作り始めてから数日後。冒険者ギルドに新たな狩猟地が解禁されたとの宣伝があった。

「なるほど。例の開拓団のところかぁ」

「しかしフォロムなどとは違って宿の料金などはわからないですね」

「狩りに関係する換金所が一式揃ってる時点で初めて来た奴にふっかけようって算段か?」

「しかし露骨すぎると人は寄ってこないでしょうけどね・・・」

「結局魔獣ってあんまり見なかったよね」

「そうだな。調査の時もあまり遭遇しなかった」

「そうなると・・・あそこの収入は宿屋などでしょうか」

「行ってみるか?団長」

「うーん、開いたばかりだろうし良し悪しはわからないのは当然だけど、今はまだ帰ってきたばかりだし美味しい食事とか食べたいでしょ?」

「確かにまだあっちに行っていた分の酒は飲んでないな」

まったく欲望に素直なものである。まぁ私としてもおいしいお菓子とか食べたりないわけですし・・・。

とりあえず静音たちは休日を謳歌することにした。

「とはいっても趣味に時間が費やせるのは良い物だなぁ・・・」

カンカンと鋼を打ちながら静音はそう口にした。店主が帰ってきたということで注文が増えて来ているのだ。

実際売れ行きが良いと聞くとありがたいものだ。とはいえたまに大剣や槍を頼まれてそれをできないから断るというのは少し心苦しい物があった。だが大剣などを扱っている工房は規模がかなり大きいのが多い。

色々と作業場を確保する都合上そうなるのだろう。それに人手もいるだろう。だが静音はこれ以上工房を大きくする考えを持ってはいないため片手剣類で進める方針である。

そんな中、工房に来客があった。訪れた人物はこれまた商人らしい服装であった。

「ウチに投資・・・ですか?」

「はい。見たところこの工房はまだ大きくできそうな様子。もしよければ支援をさせていただきたいと思い」

「うーん、これ以上大きくするって考えはないので、即答になってしまいますがお断りいたします」

「なんと。しかし大きくすればもっと稼げますぞ」

「ウチ、あまり稼ぎとか気にしていないので・・・」

「仕方ありませんね。でも気が変わったらぜひお声掛けください」

そう言って名刺のような物を渡して去っていった。投資・・・やはり最終的な狙いは取り込みなのだろうか・・・。

「うーんどうしようかなぁ・・・」

正直たまにこういう人が訪れてくるのだ。王都の人間だけでなく、他の町からきた名士に分類させる人なども来る。正直断る一択だから良いのだが毎回断るのも悪いことをしているわけでもないのに何か感じが悪い。だが投資を受ければ冒険者として動く時間がほぼ無くなって鍛冶一筋になってしまうだろう。

クランを立ち上げて人を集めた以上そんなことはできない。

ただ自分がいない間はアルとミーナが応対するわけだから少し厄介なことではある。おとなしいのならいいが、恫喝などしてくるような相手だと問題であるからだ。

開拓団に移動してしまったため途切れたアルの訓練を再開するべきだろう。そうして少し自信と力を付けてもらう必要がある。ただ訓練だけではダメだろうからいずれは本人の希望通り狩りにつれていくべきだろう。あ、乗馬の練習もしなければならないだろう。

「ん?そう言えば元居た世界で馬なんて乗ったこと無かったっけ・・・どうやって教えれば良いんだろ・・・」




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第八十九話

アルの訓練を再開した静音。基礎体力作りから軽い打ち合い程度までを重点的に指導した。

とはいえ、一つ嬉しい誤算として静音が開拓地に行っている間にもアルが一人で体力を鍛えていたのだ。

例え二か月といえこの差は大きかった。えてして静音との打ち合いも鍛えられた体力によって数をこなすことができていた。これによりアルの動きはメキメキと育っていった。

とはいえ静音も詳しい訓練を受けた訳でもないため、実際に得た経験でしか指導できていないのが少しの不安であった。

「弓?」

「うん。まずは弓かなって」

「でも今まで剣の練習してきたじゃんか。それがいきなりどうして」

「いきなり実践で剣を振れって言われても無理だと思って。実際危険だと思うし。だからまずは安全な後方で戦いの成り行きを見てもらおうかってね」

「・・・わかった」

とりあえずアルの弓の練習に入った。と言っても静音も弓はほとんど扱ったことが無い。

暇つぶしに開拓団に行っていた時に触ったくらいだ。だから足りない知識はクランメンバーで弓を使う人や本で補完していた。

流石に工房の空間で練習は無理なため、有料の弓の訓練所に行くことにした。静音も今回のことを契機に弓を扱ってみようとしていた。

周りの人に混じって真新しい弓を構えてみる。と言ってもいきなり弓を引いて綺麗に射れる訳がなかった。

多くの人が弦を話すのを失敗して跳ね返った弓を落としたりあられもない方向に矢が飛んで行ったりと

阿鼻叫喚一歩手前の状態だった。

「うーん、教官とかいないのかぁ・・・場所だけ用意したから後は自分でやれって感じかぁ・・・」

「結局シズネも触ったこと無いのか。大丈夫なのか?」

「とりあえず練習してみようよ」

と、自分たちの番が来たので実際に弓を引いてみたがまったくもって上手くいかなかった。

とはいえ静音は少し触ったことがあったため真っすぐとはいかずとも弦は綺麗に離れていた。

とりあえずコツというか感覚をどうにかこうにかアルに教えようとした。

とりあえずその後も番が回ってきたもののその日は上手くいかずに終わった。

 

その後もアルは体力、剣技、弓技と練習を繰り返して戦いの技術を深めていった。ときおりクランメンバーに頼み込んで変な癖がついてないかなどを見てもらったりした。

それから真面目に弓の腕を磨くために弓を扱うルークやハリルに教えを乞うことにした。

流石に本職なだけあって指導は徹底されていてアルの腕はメキメキと上がっていった。

静音もまぁまぁの上がりであった。

わずか二週間ほどでアルは五本ほと撃てば一本は命中するぐらいの腕になった。

しかし静音は伸びることはなかった。

「なぜだ・・・なぜ私は・・・」

「うーん、人によって得手不得手はあるじゃん?シズネは剣技が良いからそれでいいじゃん」

「むむむ・・・」

とりあえず戦いの技術は一通り学んだとも言えた。しかしそれは徒歩での技術で会った。まだ一番の課題である乗馬が残っていた。

「うーん。こればっかりはどうしたものか・・・」

静音はなぜか一発で乗れたため練習方法などもまったくわからない。かといって気軽に人に聞くと出自を怪しまれてしまう危険があった。だから実際に乗せてみることにした。

静音はアルを連れて厩舎に向かった。

「すみませーん。私の馬とできればおとなしい馬を一頭お借りしたいのですが・・・」

「あぁ、馬は初めてかい?ならいいのがいる」

そう言って厩舎主は静音の馬ともう一頭馬を連れてきた。

「コイツは大分おとなしいヤツだ。初心者ならこれで慣れると良い」

「ありがとうございます」

二人はは馬を引いて王都の外に出た。

「じゃ、実際に乗ってみようか」

「え。なんか無いのか?」

「こればっかりは慣れるしかないかな?」

ほぼ行き当たりばったりの指導にアルは不振がったが結局やるしかなかった。

「よっと・・・おぉ、高ぇ」

「どう?馬上の景色は」

「良いもんだな」

「それにしてもほんとにおとなしい子だね。まったく身じろぎしないし。じゃ、進んでみようか」

静音が馬を引いて、実際にアルが手綱を握る。

「まずゆっくりと馬のお腹を足で押してみて。そうしたらゆっくりと進みだすから」

「わ、わかった」

実際にゆっくりと押してみると馬は少し嘶くとゆっくりと歩きだした。どうやら静音の速度に合わせてくれているのかカッカと歩いてくれた。

「おぉ、歩いてる・・・」

「じゃぁ今日は歩きの練習だね」

そうしてゆっくりとアルは乗馬の練習に励んだ。




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第九十話

静音たちが戦いの訓練をしている頃。魔王領で変化が起きていた。

土から生まれる魔獣は日々増えており、そしてそれらが生まれて間もないにもかかわらず殺し合いを始めていたのだ。大地は魔獣の体液で塗れ、屍をさらしていた。そして勝った魔獣はまた別の魔獣との死闘を繰り返す。そんな異常が見られていた。

「陛下、お呼びでございましょうか?」

「あぁ。例の国の様子はどうだ?」

「やはりあの忌まわしき剣の復活は本当かと」

「ちっ嘘であればよかったと思うことがあるとはな。で、肝心の戦士の力はどうだ?」

「恐れながら・・・未だ実力は不明でございます・・・」

「そうか・・・あの国とて切り札は隠したいだろう。そう言えば戯れで放った魔族、あれは殺されたんだったか」

「はい。帰還していないということは殺されたとみるべきでしょう。まさか裏切りなど・・・」

「魔獣と人間は共存などできん。殺されたということにしよう」

「しかし、魔族を殺せる相手など・・・」

「いるではないか。少し剣が上手いだけの奴がどこの国にも数人はいる。大方その内の一人にでも出くわしたのだろう」

ふぅっと一息をつく玉座の人影。

「で、魔獣たちの状態はどうだ?」

「今しばらくは糧争いの時間が必要かと」

「今の数では足りないと?」

「数は揃えようと思えばいくらでも揃えられます。されど、腕に自信のある戦士と戦うとなれば駒が足りませぬ」

「魔族はあまり生まれぬか」

「申し訳ございません。魔族に匹敵する魔獣ならば生まれておりますが、魔族へと至ったのはほんのわずか・・・」

「よい。これは時間が解決してくれるだろう。それから、門の様子はどうだ?」

「状態は万全と言ってよろしいかと。陛下の軍勢を送り出す準備はいつでもできております」

「そうか。では後ひと月ほど待つとしよう。量、質問わず魔獣を生み出すのだ」

「承知いたしました」

控えていた人影は暗闇に混じるように消え、玉座には一体の人影が残るばかりであった。

「もうじきだ・・・長い年月であった。我らの聖なる大地を取り戻すのだ・・・」

人影は何かに取り憑かれたように何度も同じ言葉を繰り返していた。

外では魔獣が共食いを繰り返し、雄たけびを上げる。それが魔獣の戦いの準備なのであろうか。

一定以上の強さを得た魔獣は戦いから離れ、もっぱら争っているのは生まれたばかりの魔獣であった。しかし殺し合うだけの魔獣が生まれるというのは異常といっても過言は無いだろう。

人間界への危機が迫りつつあるのはこれを目にしたらわかるであろう。




お待たせしました。二週間ほど投稿が無かったのは話数も増えてきて、矛盾や間違いが無いか。それから今後の方針に間違いは無いかの確認で時間を取ってしまいました。また再開していきます。


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第九十一話

魔王領域が活発になっていた頃。王都もまた普段以上の活気にあふれていたのだ。

王が御前試合の開催を宣言したのだ。御前試合とは数年に一度行われる武芸大会である。王国はもちろんのこと他国からも挑戦する者が多く訪れる。ある意味の祭りであるのだ。

そして剣聖の称号を得るチャンスでもあるのだ。

しかし今回は剣聖だけでなく、勇者も出場する可能性が高いのである。高名な勇者と戦える。それだけでも

戦士であれば誉れ高いことである。よって今年はより多い人が王都を訪れるであろう。

そして静音たちもまた出場する予定であった。そんな中ダンが静音に一つの提案というか要望を出した。

「聞いての通りだが御前試合、これが終わるまでクランにフリーの宣言をしちゃくれないか?」

「あーやっぱ備えたいよね。うん。別に否定するつもりもないし、みんなハメを外さない程度にならね」

要するに御前試合に備えるための時間が欲しいということだった。こんな時に遠征はしないとは思うが一応は保険としてほしかったのだろう。しかしダンが言わなくとも静音自身がそういうことを言うつもりであった。

静音自身も御前試合に備えたいからであった。

静音は工房で鉱物の本を何冊も読んでメモを取っていた。御前試合に向けて新たな刀を用意する算段であったのだ。

「シズネー。御前試合に備えて冒険者たちが注文をするかもだけどどうするんだ?数が多すぎて間に合わないとかなったら大変だぞ」

アルもまた成長して商機、そしてリスクを読めるようになっていた。

「それなんだけどねー。ちょっと出かけたいから店自体一時的に閉めようかなって」

「あーシズネもやっぱ出るのか。いいなー。俺も出たいなー」

「もっと強くなったらね」

「それよりも出かけるってどこに?」

「それはねー。王国中の鉱物産出所だよ」

「鉱物?ってことはまた剣を打つのか?」

「そういうことになるねー」

「今回はどのような剣を打つんですか?」

ミーナも興味津々に目を輝かせる。

「それは秘密。御前試合の前に披露したら面白くないしね」

二人の軽い不満抗議を流しながら静音は行く場所のリストアップを終わらせた。これから御前試合まで約一か月。その間にかなりの距離を移動して鉱物を集めなければならない。どれも特殊な鉱物ばかり。それも御前試合の影響で需要は高まっている。産出所に行けば王都などが注文する前に確保できるだろうという算段だ。もし確保できなくても大抵の産出所は料金を払えば採掘ができるというところもあるので心配はあまり必要ないかもしれない。

そんなこんなで静音は旅の準備を終えて軽やかに旅立っていった。

留守番のアルとミーナは時間ができたからと祭りの前触れを楽しんだら?と言われていたのであった。

 

そして静音は馬を駆って街道をただ走っていた。

今回狙う鉱石はどれも魔力伝導率が高い物であった。しかし全て同じ鉱石でなく、複数の鉱石を得ようよしていた。つまり複数の刀、もしくは剣を作るつもりであるのだ。

この世界では魔法使いは一つの属性を極めるよりも複数の属性を操れる方が効率がいいと言われている。

極めに極めた一つの属性ならばこれを覆せるだろうが効率、時間の問題を考えれば複属性に軍配が上がるのだ。

それは属性の共鳴である。属性は他の属性と反応し共鳴を起こし、さらなる強化、結果をもたらすのだ。

例え魔力を一つしか持っていないとしてもその魔力と違う属性の魔法を使えば魔力と魔法が共鳴し合うのだ。二つならばまだしも三つ目ともなるとその習得の時間を属性魔法の鍛錬に回した方が早い。

今回静音はこの共鳴に目を付けた。複数の属性を同時に操るというのは至難の業と言われている。

しかし、属性をあらかじめ付与した剣を同時に操るとどうなるか?

その答えはどこにも無かった。ただ単に成功しなかったのか、挑戦しようとした人物がいないのか。

どちらにせよ試す価値はあった。

静音は炎と雷の魔力を有して、加えて刀の鍛造に必須ということで氷属性の魔法を少し修めている。

まだ他の属性は初心者レベルだが果たして一か月でどうにかなるのか。それは誰も知らないのである。




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第九十二話

静音が目指したのは王国中の鉱山であった。御前試合の影響で鉱物の取引合戦が起き始めていた。

そんな中で買えるかもわからない状態で待つより自分で手に入れに行く、それを静音は選んだ。

とりあえずまずは魔力伝導が優れている魔導鉱石を採掘しに来た。

「ん?あぁ冒険者か。金の臭いには敏感だな」

嫌味を言われつつも入場料を払って鉱山に入ることができた。そのまま静音は勘を頼りに坑道を歩いた。

とはいえ綺麗な坑道は既に掘りつくされた後か、道のために掘られたのだと推測する。

なら行くのは奥深くである。

「あぁ?小娘がこんなところで何やってんだ?」

と鉱夫の人から何度も聞かれたが静音は鉱石のためだと言ってそのまま進んでいった。

勘とは先ほど入ったが実際は人を辿って進んでいたのであった。

そして実際に採掘されているであろう場所にたどり着いた。

「さーて始めますかー」

静音はツルハシを取り出して何度も叩いて掘り始めた。

(こういうのをするのって最初の依頼の時を思い出すなー)

感慨にふけりながらも静音はツルハシを振るい続けた。

ある時は魔獣に刀を振り下ろし、またある時は鋼を叩くために槌を振り下ろす。そんなことをやっていた静音には苦ではなかった。

そして岩石を砕いていると岩石とはまったく別だとわかるような石がでてきた。

「ふむ、これかな?」

試しに取ってスキルで鑑定してみた。

 

魔導鉱石

品質 C

 

魔導鉱石の大きさは小さく、普通じゃとても使えるような代物ではなかった。

「あー残念だな嬢ちゃん。それじゃぁ誰も買い取ってくれねぇぞ」

「あー、実はですね、魔導鉱石なら大小も品質も関係なく、鉱石自体が欲しいんですよ」

「?何に使うかはわからねぇが、そんな小粒の奴は売れないから上の選別所にたくさん置いてあるぜ」

「あ、そうなんですか?ありがとうございます」

突然耳寄りな情報を手に入れて静音は坑道を出て選別所に向かった。

「なるほどね。魔導鉱石であれば何でもいいと。正直誰も買わないから倉庫を圧迫していてね、特別価格でどうだい?」

「じゃぁお言葉に甘えて・・・」

そう言って静音はかなりの量の魔導鉱石を仕入れることができた。静音は買い取った魔導鉱石を収納空間に入れて鉱山を後にした。

時間は有限である。既にここに来るまでに五日かかっている。次の場所に向かうのにも時間がかかる。

静音は最小限で休んで旅を続けた。

 

次に静音が訪れたのはとある山の頂だった。

ここはかつて王国を炎で包もうとしたドラゴンが住んでいたという場所であった。

どこからともなく現れたドラゴンは王国の村を町を焼いた。理由は結局のところ不明である。

魔獣の中でも特殊なドラゴン、竜種は共存もできないことはないがそれでも人との差は歴然である。

故にドラゴンは思いのままに行動する。そして王国はドラゴンと交渉することもなく、討伐隊を派遣。

多大な犠牲を払って討伐したのである。そして最も貢献したのがウィリアムであった。

そしてこの巣は英雄の偉業の地として公開されていた。

静音はそんな中を歩いて最も巣に近い場所に来た。

既にドラゴンが討伐されて十数年。どこも風化しているが、確かに何かが住んでいたことはわかる。

静音は魔導鉱石を持ってゆっくりと地面に手を付けた。そして魔導鉱石を中継して地面に魔力を流した。

すると魔導鉱石がすぐに反応を示した。

「当たりだね」

魔導鉱石は魔力を流すとそれにとてもよく反応する。静音は大地に残留していたドラゴンの魔力を引き寄せたのだ。元々行き場を失っていた魔力は触媒があれば容易になびく。しかしそれはその魔力を扱うことができることが条件であった。静音が扱えるかどうかは不明ではあったが物は試し。やってみたら成功したという図であった。その後も静音は数個の魔導鉱石にドラゴンの残留魔力を引き寄せた。

「んー・・・」

一応の目的が終わってから静音は背伸びをする。

旅の目的は両方とも完遂することができた。後は上手く他に注文した物が集まることを願うばかりである。と言っても静音が注文した物は大抵が今回の御前試合には重用されるようなものではない物ばかりであった。まぁ鉄鉱石の方は入手経路を探すのが困難だった。だが事前にアルとミーナに頼んでいたから

入荷次第工房に運び込まれるだろう。そんなこんなで静音が王都に帰るころには御前試合は二週間後と近づいていたのであった。




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第九十三話

鉱石集めの旅から帰ってきた静音。一日ほど休んでから直ぐに行動にを起こした。

まずアルとミーナが運び込んだ鉄鉱石と魔導鉱石をたたら炉に放り込み、三日間の戦いを制して大量の魔導玉鋼を手に入れることに成功した。

続いて三日の戦いの疲労を癒した後、工房に入り、黙々と刀を打った。

大きさは全て同じにし、特別な意匠を凝らしていた。珍しく刀にノミなどを使って何かの紋様を描いているようだった。それをアルとミーナは不思議そうに見ていた。

そして刀が完成すると今度はそれぞれの柄を作り始めた。今回は色鮮やかな刀を作るということで柄はそれぞれ別の色に仕上げた。

これで刀が完成したわけだが、まだ作業はあった。静音はあらかじめ注文した属性魔石を取り出すと魔石に

宿ったそれぞれの属性を解放し、その魔力を刀に吸い込ませていった。この作業は魔導鉱石の性質上一度しかできない作業なので慎重に進めた。そして基本の火、雷、水、氷、風、光。さらに竜の巣から抽出した特殊属性の龍の七属性を宿した刀が七振り揃った。

ここまでで一週間ほど経過している。

その後は静音考案の技術の最終調整に時間を費やしてついに御前試合の日を迎えた。

 

その日は王都はどこを見ても人、人、人だらけであった。出店が多く立ち並び、人々は祭りを楽しんでいた。

そんな中を静音たちは歩いていた。最初は祭りの雰囲気にあてられて楽しんでいたが、国王の宣言の時間が

迫っていることを知らせる銅鑼が鳴ったため、この日のために揃った猛者たちは闘技場に勢ぞろいしていた。

そして闘技場の一番高い王の席より、王が姿を現した。

「今日この日のために集った王国の猛者たちよ。我はこの日を迎えられたことを嬉しく思う。諸君らが如何様な力を示すか、楽しみにしている」

王の言葉に冒険者たちは歓声を上げた。

「ここに、御前試合の開始を宣言する」

盛大な拍手と共に王は下がり、運営委員と思われる人物が話し始めた。

要点は二つ。まず膨大な数をふるいにかける予選を行う。そしてその後、四つのブロック戦に移行してそれぞれの勝者が準決勝、決勝を戦うとのこと。

そして肝心の戦闘方式だがいくら何でも殺し合いをするわけではない。だが判定は汚職の元になる可能性もある。よって特殊な魔方陣を使い、競技者の魔力を疑似的な防護壁に変換してそれをゲームなどで言うHPにするとのこと。

これは魔力を多く持っている魔法使い系に有利に働くかもしれない。だが魔法使いは近接戦ができる者は少ない。だからそれなりの差は生まれないはずである。

そして説明が終わると自分の名前を書いた紙を集められて、そこから予選の組み合わせが発表されることになった。

「よぉ団長」

静音が振り返るとクランのメンバーが揃っていた。

「そっちは上手く準備は整えられたか?」

「うん。バッチリ」

「それは良かったです。でもそれはこちらも同じ。戦うとなったら手は抜きませんからね」

「さーて誰が一番残れるか。面白そうだな」

思い思いの会話は交わし時間を潰していると、予選の組み合わせが発表された。正直人が多すぎて予選もブロック制らしい。そして見事に静音のクランはバラバラに散っているようだった。

栄光ある勝利は誰の手に渡るのか。闘いの祭りが始まったのであった。




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第九十四話

王国御前試合一日目。

王都に数ある闘技場。そのいずれにも多くの観客が集まっていた。その視線が集まる中で、腕に自信がある冒険者たちが戦っていた。

「次。予選Dブロック八番目の選手」

「あ、はいっ」

そして静音の番が回ってきた。静音は雫を携えて闘技場に向かった。

耳を覆いたくなるような大きな歓声。集中する視線。それを目一杯受けた静音は少しめまいがした気がする。

こんな中で戦うとは結構きつい気がするのだ。

それでも試合は進む。目の前に対戦相手が現れた。男性で歳は20後半ぐらいだろうか?持っている武器は

ロングソードである。

「始め!!」

銅鑼と共に闘技場にある複数の試合が一度に始まった。ルールは簡単。相手の持つ武器を弾き飛ばせば勝ちである。しかし逆に一本は武器を持ってないといけないのである。

「もらったあっ!!」

勢いよく間合いを詰めて来る対戦相手。それに対し静音は相手の行動を待った。

「おらおらぁ!!」

最初から飛ばす対戦相手。上から右からと何度も剣を振るう。しかし静音はそれを冷静に弾いていた。

静音には一つ足りない物があった。対人戦の経験である。最初こそウィリアムに指導してもらっていたが、

力を付けてからはめっきりであった。一度手合わせしたがその時だけでは経験とは呼べない。

だから予選ではできるだけ経験を積むという一種の勝利宣言のような意気込みであった。

冷静に相手の攻撃を弾く。≪慧眼≫には頼らず、自分の経験で対応する。

何十と剣を合わせてくると大体相手の動きが予想できるようになってきた。それが分岐点だと思い、今度は

静音から攻めることにした。

「うおっ!?」

静音の持つ雫、いわゆる刀はこの世界ではまったくと言って知られてはいない。よって初見ではただ細い片刃のレイピアなどと間違えることもある。相手の武器の性質を掴めなければおおよそ対応は難しい。

そんな中、静音は一気呵成に剣戟を放つ。

何度となく戦場で振るってきた雫の一撃は相手の想像以上の威力を秘めていた。

速さ、威力共に相手の対応力を超えていて、十合と経たずに相手の剣が弾かれた。

「勝負あり!!」

こうして静音は初戦を勝利で飾ったのであった。

続く試合も静音は様子を伺いながらできるだけスキルの使用を抑えて体一つで戦い続けた。

それでも勝利が付いてくるだけ静音の力量がうかがえる。

そして迎えた予選ブロック決勝。相手は・・・。

「まさか団長が相手になるとは・・・これはキツイですね」

アリムスであった。

「こっちだってキツイよ。知ってる人と勝負ってなるときついよね」

お互い軽口を言いながら目は真剣で剣を構えた。

「始め!!」

「はぁっ!!」

初撃からアリムスは全力を上げてきた。斬撃波に水の魔力を混ぜて放ったのだ。

「やぁ!!」

ならばと静音も雷の魔力を雫にまとわせてアリムスの斬撃波を打ち払う。

しかしそうしている間にアリムスは一気に間合いを詰めて来る。水の魔力を足裏にまとい、滑るように一気に移動したのだ。そして静音の持つ雫めがけて連続して突きを放つ。

間合いを詰められた後の突きは防御が難しい。ルールがあるため狙いはわかるがそれでも最速の動きで放たれると防ぐのは困難である。

静音は雷の魔力で身体能力を強化してアリムスの鋭い突きを打ち払っていく。そして隙ができたとみると反撃の一閃を放つのだが、アリムスは自身に隙ができるやすぐに滑るようにして間合いを調整して静音の攻撃を避けるのであった。

攻めづらい相手、まさにそんな感じであった。魔獣との戦いはただ相手の攻撃を避け、こちらの攻撃を当て続ければよかった。だが対人戦は駆け引きである。その点で言えばアリムスの方が上手であった。

だが静音に勝算が無いわけでもなかった。アリムスが再び間合いを詰めようと水の魔力を使い、地面を滑り始めた瞬間。

「ごめんね」

静音は雫を地面に刺して雷の魔力を僅かながら解放。雫を差した場所は先ほどアリムスが立っていた場所であった。そこからわずかに地面に残った水を伝って雷の魔力がアリムスに到達、いわゆる感電を引き起こした。

「つぅ・・・」

感電など後が大変なため本当に僅かにだけ雷の魔力を解放した静音。しかしアリムスが怯んだ瞬間、今度は炎の魔力を解放。一気にアリムスの剣めがけて雫を振り下ろした。

予想外の足のダメージ。そして一瞬で詰められた間合い。そこから繰り出された重い一撃。それを受けたアリムスは簡単に剣を放してしまった。

「勝負あり!!」

静音の勝ちであった。

「流石団長。予想外の手を使ってきますね」

「えーっと、足、大丈夫?」

「はい。痛みはしますが歩けるので大丈夫です」

「何かあったらちゃんと言ってね?」

勝負が終わってから静音はアリムスを心配したが笑顔で返されるので大丈夫だと静音は思うことにした。

そして静音は御前試合本選に進むことになったのであった。




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20:50 下書きからのペーストが間違ってました。指摘ありがとうございます。


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第九十五話

王国御前試合二日目。その試合形式はかなり特殊であった。

出場者、観客問わず客席に座り、いざ出番となったら席から闘技場に登るという形式だった。

そして初日の初戦を飾る試合に抜擢された人物はまさに最高の人選だった。

「第一試合、まずは剣聖、ウィリアム様ーー!!」

その名が闘技場に響き渡ると、会場はその何十倍もの歓声が上がった。それだけ剣聖と言う名は偉大であることがわかる。

「そして対戦者、スコッド選手ーー!!」

しかし反対に対戦者にはあまり歓声は沸かなかった。剣聖と言う名が大きすぎたのか、それとも名が知れ渡らなければこうなる定めなのか・・・。少し非情であった。

スコッド選手は武器らしい武器は持っていなかった。ただ腕を覆うような金属の塊があったため、格闘が主な戦闘スタイルなのだろう。

「始め!!」

「先手必勝!!」

試合開始とともにスコッド選手が仕掛けた。初っ端から緑色の闘気を解放。腕の金属の塊、手甲を容赦なくウィリアムさんへと突き出した。

それをウィリアムさんは簡単に大剣で防いだ。しかしその一撃では終わらず、

スコッド選手はそれからも間を空けず連打を繰り返した。

しかし防ぐのは屈指の銘品ドラゴンスレイヤー。少し腕のあるだけの手甲の連打ではどうにもできないでいた。

そんな中ウィリアムさんが動いた。一気に決着をつけるつもりだったのか、大ぶりに大剣を振るい、スコッド選手を退かせた。そして間髪入れずに大剣の腹でスコッド選手の頭めがけて振り払った。

しかし武術に長けたスコッド選手はこれを簡単に避ける。そしてフットワークを生かして今度は大剣をすり抜けてウィリアムさん自体の身体へと拳の一撃を放とうとした。

しかし、拳が届くことは無く、スコッド選手が一瞬にして吹き飛ばされた。

吹き飛ばされて初めてわかったのが、ウィリアムさんがスコッド選手に蹴りを放っていたのだ。

そしてよく見るといつの間にかウィリアムさんは赤色の闘気の一歩前の青色の闘気を纏っていた。

上位の闘気で強化された肉体からの攻撃はさぞ効いたのであろう。スコッド選手はフラフラと立ち上がった。

しかしウィリアムさんの容赦ない追撃の大剣の腹による打撃でスコッド選手は完全に沈んだ。

「試合終了ー!!」

意識が無くなったのが確認されたので、そこで試合終了となった。

ウィリアムさんは膨大な歓声を受けながら元居た席に戻った。

そうしてその後も第二試合etcと続いていった。そしてついにその時が来た。

「選手入場、シズネ選手ー!!」

知っている人がいたのか、わずかながら拍手と声援が聞こえた気がした。そして肝心の対戦相手は・・・。

「対戦者、ダン選手ー!!」

まさかのまた同じクランのメンバーであった。

「いやーアリムスと戦ったってのは聞いてたし、本選に出るんだからもしかしたらとは思っていたが・・・まさか本当に当たることになるとはね」

「ウチのクランで本選に出れたのは私たちだけ。それが最初から当たるのはちょっと運がないと思わない」

「同感だ。だが当たった以上、手加減はしないぜ?」

「その言葉、団長の威厳と一緒にそっくり返すよ」

両者得物を構えた。

「試合開始!!」

「せいやっ!!」

先手はダンだった。初めから風の魔力をフル稼働させ、風の推進力を使って一気に静音に肉薄。鋭い槍の突きを放つ。風の魔力を持っていることを知っていてなおかつ相手の動きが読める≪慧眼≫を持っている静音ですら気づけたのは一瞬遅れてからだった。かろうじて突きの弱点である横からの一振りでダンの突きを反らすことに成功した。そしてそのまま返す刀でダンに雫を振り下ろすが、ダンは再び風の推進力で間合いを取り直し、静音の振りを避けた。

「うーん、このままじゃ埒があかないなぁ」

「いくら団長が二つの魔力持ちとはいえ、速さに特化したこっちが有利だぜ?」

「そうかな?」

静音も魔力を解放した。まず雷の魔力で身体能力を向上させた。そしてその身体能力を発揮してダンに肉薄しようとした。しかしダンもまた魔力を使い、静音の間合いから離脱、

したかに思えた。

「うっそだろ!?」

静音はダンが魔力を使って一歩後ろに跳んだ刹那、炎の魔力を解放し、瞬発力を得て二歩目を踏み、さらにダンに肉薄したのだ。そして強化された身体能力と瞬発力から繰り出される重い一撃をダンに放った。

ダンは始めこそ、真正面から自分の槍で受け止めようとしたが、触れた瞬間一撃の重さを実感し、さらに魔力を解放して静音の一振りと真逆の位置に流れるように跳ぶことで何とか静音の一撃を捌いた。

しかし手に残る痺れるような感触は次に同じ攻撃を受ければ痺れは悪化し、槍を落とすのは確実であった。

「やるしかねぇか!!」

ダンは再び魔力を解放。今度は槍のリーチを活かした連続の振り回しによって静音に防御の態勢を取らせることができた。しかし異変は続いた。槍が静音の刀に当たるたびに手が痺れるのだ。

確かに魔力で振り回す速度を上げている反動で痺れるのはわかるが、ダンが特訓していた時に槍が物体に衝突していたとき以上の痺れを感じていた。

それもそのはず。静音もただ防御するだけでなく、弾く瞬間だけ魔力を解放し、振りの威力を上げてダンが槍を手放すように仕向けていたのだ。そんなことをしていればダンの手にかかる負荷はかなりのものであった。

そして自身の限界を悟ったダンは最後の一手を取った。

(ここで距離を取った?負荷があまりかからない突きを打つ気なのかな?)

しかし静音の予想は外れた。ダンは一気に魔力を解放。まるで暴風のように背中から風を吹き出しながら静音に接近。そして肉薄する寸前で体をひねり、突進の勢いが加わったひねりによる回転の速度を活かしたダン渾身の振り下ろしが繰り出された。

それに対して静音も二つの魔力で強化された雫の一閃を放った。

両者の攻撃は激しい音を立てて激突。静音は雫を振り切ることができたが、空中にいたダンの手には槍は無かった。槍は弾かれ、遠くにあった。そして勢いを何とか相殺してダンは地面に転がり込んだ。

その瞬間、闘技場は沸かんばかりの歓声が上がった。

無名とまではいかないものの、それでも迫力ある戦いをした二人への最大の賛辞であった。

「いやー参った参った。まさか術もなくやられるとはな」

「うーん、私としては槍の長さは厄介だったよ?」

「団長にはもっと長い剣があったろ?温存されたってのなら悔しいことだぜ」

二人は握手をしてそれぞれの席に戻った。

御前試合の熱気は試合が終わるごとに増すばかりであった。




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第九十六話

王国御前試合二日目。

静音は試合を終えたので今日の出番はもうなしである。その分他の出場者の試合で偵察なんかができるわけだが・・・。

まず勝ち残るであろう人物はウィリアム、そして勇者ラークだろう。そしてトーナメント表通りに進むとなると、準決勝まで勝ち進んだ場合、ラークと当たる可能性が高い。

まずそこまで行けるかもわからないが、到達してもそこで負けるだろう。何せ人類最高の戦士と言われる勇者なのだから。

で、偵察の結果なのだが・・・。

「勝者、レオノーン選手!」

試合場では一人のアンバランスな選手が勝利していた。なぜアンバランスなのかというと、鎧はそこまで重い鎧ではないのに対して、兜を被っているからだ。

しかし戦い方は重戦士のような戦いではなく、身軽さを意識した戦い方であった。故に兜の異色さが目立つのだ。

「それにしてもスゲーな。兜で視界が狭いはずなのにあの動き」

「自身が強いことを承知でハンデを課せて挑んでいるのか、はたまた戦い辛い重鎧から変えても兜はそのままの方が良かったのか・・・」

クランメンバーからはその異色さに色々と意見が出るが、静音からすればどれも外れていたと確信していた。

それはその選手が持つ剣、もとい刀であった。静音がこの世界にきて打った刀は時雨と王子レオに打った物のみ。そしてレオに打ったはずの刀とほぼ同一の物をその選手が持っていたのである。

(どー考えてもレオ王子だよね・・・。よく考えたら王様は一番上の見物席から見下ろしているのはわかるけど、次期王になるはずの王子がいないのは不自然。となると・・・)

レオノーン(偽名)選手の戦い方はまぁわかった方だろう。そして集まった民衆の注目を二番目に集めたのがあの選手であった。

勇者ラークの試合である。その名が呼ばれるや会場は莫大な歓声が上がり、そして対戦者は気まずそうであった。

試合は一方的であった。聖剣を大振りに振りまくる勇者ラーク。対戦者は大振りの攻撃であるが故に自身の剣で受けずに避けることで事なきを得ているが、勇者ラークの猛攻は止まらなかった。

何度も大振りの攻撃を出しているのにもかかわらず、まったく疲れを見せないのだ。

何らかのスキル、もしくは聖剣の加護の影響だろうか?

以前静音が打ち直した聖剣ではあるが、当時は鑑定スキルを持っていなかったため、聖剣の能力は知れず仕舞いだった。今ならわかるだろうが、もう聖剣に触れる機会などないだろう。

しかし対戦者も勝ち上がってきただけのことはあってか、ラークの攻撃を悠々と避けている。

しかし大振りであるが、速度も速いため、反撃をできないでいた。

そしてこの御前試合では殺傷性の高い攻撃は禁止されているため、ある意味ではラークはハンデを背負っている状態である。しかし攻撃を避けられ続けてこれでは決着がつかないと思ったのか、

ラークは闘気を解放。色は赤の手前、青だった。そこからのラークの猛攻は激しさを増した。

闘気による身体能力の強化。それも相まってすさまじい速度の攻撃を次々と繰り出していった。

さしもの対戦者も避けきれなくなったのか、一度剣で受けた。しかしそのたった一度で持っていた剣を弾き飛ばされたのだ。そしてそこで試合終了となった。

それ以降も試合を見ていたが特に目立った試合は無かった。その後一同は帰ってエマ達の料理に舌鼓を打ちそのまま眠りについた。




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すこし間が空いてすみません。ぼちぼち続けていきます。


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第九十七話

運命とは手厳しいもの、誰しもがそう思ったであろう。かくいう私もこの日もそう感じていた。

『選手入場!!シズネ選手ー!!』

今日は王国御前試合三日目。当然勝ち残っているわけだから私の名前が呼ばれることになるのだが・・・。

『対戦者、レオノーン選手ー!!』

相手はあの兜を被った(謎)相手である。両者が試合場に立つと勝負は始まる。

『試合開始!!』

仕掛けてきたのは相手からだった。だが難なく私はそれをはじき返した。

(ん・・・?)

正直今の一撃には違和感を覚えた。今までの対戦相手や少しだけ手合わせしたウィリアムさん、そしてもう一人。その人たちの一振りはとても重く感じたのである。しかし、今の相手の一撃はとても軽く感じた。

決して自分が強くなったとか、相手が弱いという理屈じゃないだろう。

導き出される答えは一つ。この世界に広く使われているのは私のいた世界で言うところの西洋剣。

一般的な説だと西洋剣は重量や遠心力を使って文字通り叩き、その威力をもって対象を切断するらしい。

つまり力任せに振るうことができる、いわゆる筋力を利用できるのだ。

しかし私と今戦っている相手が持つのは刀に分類される。切れ味は鋭いが西洋剣と比較して細いのだ。

そして刀は正直打ち合いなどには弱い。肉を断つことは得意だがこのような得物をぶつけ合うような戦いには不向きである。実際試合が終わってから毎度、私は雫の手入れを行い欠けた部分がないかチェックしていた。

そして刀の特徴を知っているのは私だけのはずで、誰にも言ったことはない。

なのに打ち合うたびに相手もまた刀の特徴を知っているかのように感じるのだ。

この試合形式は相手の得物を落とせば勝ちになる。だから私は相手に打つときも受ける時もできるだけ刃の中心で受けて伝ってくる振動を減らして持ち手への負担を減らしていた。

しかし相手は自身の刀の中心でこちらの鍔近くを狙ってきているのだ。

そして何よりも・・・。

「強い・・・」

強いのだ。力任せに振るうのではなく、その得物の特徴を最大限に活かしているのだ。正直技量だけでの勝負となると刀を握ってまだ数か月の私は到底及ばない。たとえ≪慧眼≫で動きを読めたとしても足りないのである。だから私は負けている部分をを取っ払っておつりをもらうことにする。

「使ってきたか」

静音の全身が雷を纏い、さらに足は追加で炎を纏った。雷と炎の魔力の同時使用で身体能力の速度と疑似的な筋力増強を図ったのだ。そこからの静音の動きは凄まじいの一言だった。

雷の魔力で強化された速度に加えて炎の魔力で強化された腕力を使った一閃。これを怒涛の如く放ち続けたのだ。先に雫の心配をしていたのは何処へと。そして的確に相手の鍔付近を狙って雫を振り続けた。

前半の技量だけでの勝負では押していたものの、静音が魔力を使ってからは相手は防戦一方だった。

しかし相手に抵抗する余力を出せないほど静音は攻撃を続けた。

そして静音が魔力を使用してから数分後、事態は急変した。

相手が腰に下げていたもう一本の剣を抜き、二刀流になったのだ。

「え!?」

静音はこの御前試合が初めてだったので知らないのだが、事前に用意していた武器であれば交換、または追加が可能なのである。そして範囲は無制限。そう、『無制限』なのである。

静音は審判を見るも何も言わないので静音はすぐにこれが普通なのだと理解することにした。

しかし咄嗟に二刀流に変わったこと、知らないルールがあるということから静音の思考は一瞬止まってしまった。その隙を逃す相手ではなかった。そのまま二刀流の手数による攻撃が始まった。

最初こそ守りに徹していた静音であったが、炎を雫に纏わせ、相手の剣にぶつけたその瞬間、魔力を爆発させた。自分も爆風を食らう諸刃の剣であったが、相手に距離を取らせることに成功した。実際は『爆炎が噴き出すぞ』と見せかけて相手に距離を取らせたのだ。なので爆風を食らったのは静音だけである。

しかし爆炎の煙を突っ切って静音が突貫した。今度は雫に雷を纏わせて攻撃を仕掛けた。

今の静音は勝ちに執着していて、剣技の妙など知ったこっちゃなかった。

一撃、たった一撃静音の剣閃を受けた相手は手を震わせながら剣を落とした。静音はあらかじめ体に雷の魔力を纏っていたので何ともないが、雷が宿った雫の一撃によって触れた相手の剣に微弱ながら電流が伝わり、さらにそれが相手の手に伝わって突然の痺れを発生させ剣を落とさせたのだ。

突然のことに動揺したのか、それとも現状を把握できなかったのか相手は二度目の雫の一撃を残る刀で受けてしまった。そして再び手が痺れを起こし残る刀も落としてしまった。

『勝負あり!!勝者、静音選手!!』

決着はついた。だが静音の心中は勝利したはずなのに晴れ晴れとしてはいなかった。

「お疲れ様です」

「あ。ありがと」

「相手が二刀流を出してきたのはすごい技量だったがシズネはそれを上回ったな」

「ありがとね。あ、エラム。二刀流とかのルールってどうなってるの?」

「二刀流というより、あらかじめ用意していた武器を後出しするのはルール的にOKなんですよ」

「んーそれって試合場に出るときに装備していないとダメなの?」

「いいえ。ポケットに短剣を忍ばせるとかもOKです。あぁ、シズネには収納空間がありましたね。それも一応OKです。しかし使った人はあまり見ませんね。」

「収納空間を使っている奴なら見たことあるぜ。ただなぁ・・・試合が変に長引くんだよ。武器をとっかえひっかえするんだけどよ。最初こそどんな武器が出るんだろと思っていたけど結局全部同じ剣で観客なんかからは延命だとか言われてたけどな」

「なーるほどねぇ・・・」

この時の静音の顔はいたずらの方法を見つけた子供のような顔だったとその場にいた全員が思ったのであった。

そして次の試合。勇者ラークとその対戦相手だったのだが、ラークの圧勝で終わった。

ラークの技量にも目を見張るものがあったが、それ以上に剣同士がぶつかるときの音がすさまじかった。

しかも勝利した時には相手の剣は折れていたのであるまぁラークが持つのは伝説の聖剣なわけなのだから当然ではある。しかしこれで静音の次の対戦相手はラークに決まったのである。

そして別グループでは順当にウィリアムが勝つであろう。そう思うと静音の心は引き締まっていった。

そしてその日の夕方。静音の攻防に来客があった。

「すみません。静音様はおられるでしょうか?」

「はい、私が静音ですが」

「我が主がお呼びです。どうか一緒に来てもらえませんか?」

(うーん、来ると思ったよ。うん)

とりあえず静音は使いの人と一緒に馬車に乗って移動した。当然目的地は王太子邸だった。

「やぁ、急に呼び立ててすまないね。君の準決勝進出を祝いたかったのさ」

そして飄々というレオがいた。隣にウィリアムもいた。

「いやー今日の相手は強かったんですよ。ところでその相手が持っていた剣なんですが、以前王子に献上したのと似ていたんですよねぇ・・・偶然でしょうか?」

我ながらちょっとふざけた言い方だったと思う。しかしレオはそんなことも気にせず肩を下しただけだった。

「んーやっぱバレているか」

やはりレオノーン=レオ王子であった。

「王子って身分じゃ参加しても相手が気を使うんだ。だから宮廷に籠っている俺は本物の闘いができない。だからこうやって毎回外見を偽って出ているのさ」

「しかし王子。いつから二を使えるようになりましたので?」

「あぁ、以前シズネがウィリアムと戦っているとき二刀を使ったのを見てふと俺にもできないかなって

訓練に励んだのさ」

「そうでしたか。私も二刀を使うのは難しくてお教えできませんでしたからな」

「しかしやはり剣技だけでは限界があると思い知った。負け惜しみに聞こえるだろうがシズネは剣技と魔力をうまく使い分けれているようだ」

「まだまだ剣技に至っては未熟も同然ですよ」

「それを俺の前で言われたら少し詰まるものがあるなぁ・・・。ま、前振りは置いといてだ。静音、次の対戦相手は知っているだろう?」

「勇者ラークですね」

「そうだ。勇者は伝説、王国の誇り、そしてすべての剣士・戦士の羨望の頂点だ。それに挑む。意味はわかるだろう?」

「要はどうやってでも負けろ、ということですか?」

「確かに国の威信、勇者の名誉のことを考えれば確かにそう言わざるを得ない。だが今は逆にチャンスともいえる」

「チャンス?」

「俺は君にわざと負けろとは言わない。個人的には勝ってもらいたい」

「どういうことですか?」

「王国の剣士・戦士の頂点は存在しなくとも勇者だった。そしてその勇者が復活した。だがそれに勝るとも劣らぬ剣士が現れたら?」

「王国の戦力を強大化して見せることができると?」

「まぁ対外的にそう見せることができるわけだ。そして勇者は王国が誇る剣聖の弟子でもある」

「静音。決勝で待っている」

一瞬静音は心を見透かされた気分がして背筋が冷えた気がした。だが同時に嬉しかった。剣聖ウィリアムに少し認められたのだと感じたからだ。

「はい!」

そうして静音は元気いっぱいに答えたのであった。




一か月ほど間が空いてしまい楽しみにしていた方には申し訳ありません。
今後も読んでいただければ幸いです。


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第九十八話

ついにこの日がやってきた。人類最強の称号を得る勇者・ラークとの対戦の日である。

この日の試合は勇者・ラークvs叩き上げで特異な武器を使う冒険者・静音のカードに会場は沸いていた。

闘技場は満席となり早く試合が始まらないかと観客は待ち遠しかった。

「シズネ、大丈夫ですか?」

「うーん、ここまで盛り上がるとは・・・勇者恐るべし・・・」

一方の静音は緊張した様子であった。前日はウィリアムに啖呵を切ったものの、

実際にラークに勝てるビジョンが思い浮かばなかったからである。

「勇者ラーク!!」

その名が呼ばれるや会場は大歓声に包まれた。そして勢いよく闘技場に降りるラーク。

その顔は自身に満ち溢れているようだった。

「対戦者シズネ!!」

名前が呼ばれると静音は闘技場に向かっていった。

ラークと向かい合うと嫌でも勇者の加護の強さが感じられた。

聖剣一本を構えるラークに対し、静音は雫と時雨の二刀流で対抗することにした。

「試合開始!!」

審判の合図とともに物凄い速さでラークが突貫してきた。≪慧眼≫で動きは予測できたものの、

問題はその攻撃の威力であった。単純に突貫の速さを乗せた一振り。たったその一振りを一瞬受けようとしたが静音は第六感ともいうべき勘でその一振りを後ろに下がることで避けた。聖剣はそのまま風圧を発生させて空を切った。しかしその風圧が異常だった。地面の砂埃が舞い、わずかながらその余波を静音は受けた。

(え・・・?あんな威力だったっけ?実際に受けるとその威力の恐ろしさがわかる。あれは受けちゃダメだ)

静音は一瞬の油断も隙も作れないと悟ると雷と炎の魔力を同時発動させた。身体能力を向上させて今度は静音から攻撃を仕掛けた。まず先の一振りを警戒したと見せかけて後ろに距離を取り、

着地した瞬間足元で炎の魔力をフル稼働。爆発的な脚力を生み出してラークめがけて突貫。

さらに時雨の間合いに入る寸前で一歩踏み出しその場で器用に突貫の勢いを生かして斜め横に回転。

魔力、突貫の勢い、それを生かした回転の勢い、持てる力を全て利用した渾身の一撃を放った。

時雨は莫大な遠心力を得てラークを襲うが、簡単に受け止められてしまった。しかしぶつかったときの音で観客にその威力を示した。

そのまま静音は押し込もうとするが、ラークもなされるままではなく簡単に押し返した。

力でも勝てないとなると静音にできることは聖剣より長い時雨のリーチと魔力で強化された身体能力による連撃であった。そのまま静音はラークの間合いの外から時雨をガンガン振り回し始めた。

雷の魔力を纏った時雨が幾重の剣閃を生み出しラークを襲う。しかしラークの技量、そして勇者の加護は尋常ならざるものでなく、静音の全力連撃を見事に捌いていった。

しかし静音の連撃は収まるわけでもなく、一方的にラークの間合いの外から連撃を繰り返した。

攻撃の隙を与えなければという考えだった。

しかしラークも対抗しないわけでもなく、一振り。たった一振りで時雨の功績を弾き、静音の態勢を崩した。さらに追撃しようとするも、咄嗟に静音が雫を通して周囲に張った電撃を警戒してか追撃は成功しなかった。

一旦仕切り直しになるかに思われたがラークがそれを許さなかった。一気に間合いを詰めて恐ろしい速さの攻撃を繰り出し始めたのだ。

両手で剣を振るうラークに対し、片手で剣を持つ静音ではハンデが大きすぎた。

静音は恐ろしい剣閃を驚きの行動で対抗することにした。

自ら時雨を真上に放り投げ、取り回しの良い雫を両手で持ってラークの剣閃に合わせて魔力で向上した身体能力で強化された剣閃を放ち防いだ。

その行動に驚いたラークが一瞬どう攻めるか迷ったのか手を止めた瞬間、

上空に放り投げていた時雨が突如落雷の如く雷撃を纏ってラークめがけて突っ込んできたのだ。

静音は時雨を放り投げた後、時雨を操剣術で上空に滞空させておき、ラークに隙ができ次第繋いでいた

魔力のパスで雷を纏わせて不意打ちを狙ったのである。

予想外の一撃にラークは距離を取った。そして一瞬の膠着が生まれた。

(強い・・・多分殺傷性の攻撃は禁止されているから全力じゃないんだろうけど、それでも絶対的に足りない。力が足りない。でも!!)

静音の脳内に一瞬これまでの記憶が流れていた。突然異世界に連れてこられて、

何もわからず独力で日々を生きてきた。そんな中でも趣味だった刀に触れることができたのは嬉しかった。でも元の世界と違い、力こそが生き様。そんな世界で過ごせば夢で終わるはずだったことも現実味を帯びてきてしまうのだ。刀を持ち、多くの人と試合を行い、鍛錬し名を上げる。

だからこそ、『剣聖』のウィリアムとは最高の舞台で戦いたかった。それが例えウィリアム以上の加護と聖剣を持ち勇者という人類最強の称号を持つラークを超えて。

「勝ちたいんだ・・・挑みたいんだ・・・まだ知らない高みに・・・挑みたいんだ!!」

脳内に流れた記憶から生まれた、ただの独り言。しかしその思いの強さ、純粋さが静音の願いを叶えた。

突如として剣呑としていた会場が不思議な雰囲気に包まれたのだ。

「この気配・・・まさか」

その雰囲気に覚えがあったウィリアムは気づき、その発生源を見た。

静音が淡い桃色のオーラに包まれていたのだ。そしてその周囲を飛び回る一つの光。

『ヤッホー、シズネ。ナンカ呼バレタカラ来テミタヨー』

「ファティ・・・?」

静音の周りを飛ぶ光の正体は妖精のファティであった。

『フーン。アレガ勇者。良イジャン。伝説ニ挑ム。面白イジャン!!』

そう言ってファティは静音の中に『入っていったのだ』

「ファティ?何を・・・!?」

ファティが静音に触れそのまま入り込んだ瞬間、静音の纏っていたオーラが変化。

静音の背中から光輝く一対の羽根が現れた。

「そうか・・・君はあの方に選ばれていたのか。妖精の女王に、そして恐らくあの方の血縁の妖精との縁を持っている。勇者以上のおとぎ話である妖精剣王となったか」

静音の変化とともに手に持っていた雫も淡いオーラを纏っていた。

静音が変化を見るべく軽く一振りするまで観客はおろかラークまでもが静音が纏うオーラに魅了されていたのであった。

「よし、これなら!!」

静音の自身に満ちた一撃がラークを襲った。未知のオーラを纏っている静音を警戒して勇者の加護を全力で行使して聖剣で防ぎつばぜり合いに発展するも、徐々に押されていったのである。

このままでは勝てないと思ったのか聖剣の力も解放したラーク。一瞬押し返し、反撃の一撃を放った。

しかしその一撃は簡単に防がれてしまった。

そしてそのまま静音が返す刀に放った一撃を受けて一気に弾き飛ばされてしまった。

人ごと弾き飛ばす芸当はただの細い刀でできるようなものではなかった。しかし静音が纏う妖精のオーラがそれを現実と化していた。そして静音は纏っているオーラ、ファティに従うように雫を上へと掲げた。

その瞬間雫から莫大なオーラが噴き出した。それをそのままラークめがけて放出させた。

すると突然オーラを受けたラークが何の抵抗も無しに聖剣を落としたのであった。

静音が放ったオーラは攻撃的な威力を持っていたわけでもないのはラークの周囲が変化してないことからも周知の事実であった。

観客は謎の現象に驚くも、実際に見た『静音の放ったオーラでラークが敗北した』ということを無理やり理解して、結果として静音が勝利したという事実が完成した。

謎の現象で終わりとなったが、それまでに二人が繰り広げた戦いは観客が満足する以上のものであったため、莫大な拍手が会場を覆った。

「・・・へ?」

しかし一番理解できていなかったのは静音自身であった。ファティが体に入った、同調した後はファティの助言の下行動していたのだ。特に最後はファティが『これで勝てる』と太鼓判を押したため実行したのであったがどういう現象なのか理解できていないのであった。

しかし勝負は静音の勝利で幕を閉じたのであった。




一か月以上遅れてすみません。ぼちぼち再開していきますので、よろしければ今後ともよろしくお願いいたします。


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第九十九話

王億御前試合最終日。ついに王国最強の戦士が決まるのだ。

正直昨日の試合の後は酷かった。当然勝敗が絡むわけだから賭博も生まれるのだ。

王国最強の称号を意味する勇者。それに賭けていた人は当然少なくはなかった。

だが結果として勇者は負けた。例え自分がその場に出れない力量の人間だとしても、そんなことは関係なしに勇者への文句を言う人間は多かった。しかし笑顔が絶えない集団もいたのだ。

そう、我らがアイアン・イグニスである。

「いやー一晩経っても笑いが止まんねーな」

「ダンさん、かなりにやけてますからね」

「そらにやけない方がおかしいっての。アリムスだって普段より口調が軽いぞ?」

そう、私たちは全員がシズネに賭けたのだ。そしてシズネは勇者に勝ち、私たちは賭けに勝ったのだ。

勇者というフレーズに惹かれて大金を賭けた人もいたのだろう。かなりの額の配当金を受け取ることができた。だが賭博業者は最終日は賭けを行わなかった。それはいくら勝ち星を挙げているとはいえ『剣聖』には勝てないだろうからだろう。だがシズネはそんな予想すらひっくり返してもおかしくはないと私は思う。

「剣聖、ウィリアム!!」

その名が呼ばれただけで会場は莫大な歓声に包まれた。

勇者が再誕するまで王国最強の称号であった『剣聖』の名は伊達ではない。

「対戦者、シズネ!!」

「じゃ、行ってくるね」

シズネはそう言って闘技場に降り立って行った。シズネの登場とともに再び会場が歓声に包まれる。

「さて、君と手合わせをしたことは振り返ってみれば少ない。最初は弟子だと言っておきながらこれは恥ずべきことだ」

「いえ、ウィリアムさんは私の師匠です。最初は剣の稽古を、次は私に王国でのお役目を。いつも進むべき道を教えてくれました。師匠とは必ずしも一つのことを教えるだけとは私は思いません」

「どうやら私はとても優れた弟子を持つことができたようだ。手合わせの度に君は強くなっていた。

さて、今回はどうかな?」

「それを今から証明するんです!!」

もはや二人の間に言葉は不要だった。

「始め!!」

まず動いたのはシズネからだった。今回は前回と違って短い一本の剣だけだった。

だがリーチで見れば剣聖様の大剣が有利だ。それ以上に技量という差もあるが・・・。

「ふっ!!」

静音は一気に魔力を解放し身体能力を強化して一気に仕掛けた。例えそれだけでも足りないとしても。

ウィリアムは静音の怒涛の剣閃を簡単に捌いていった。だがウィリアム自身は驚いていた。

今までの試合では≪心眼≫に頼らずとも相手の動きを読めていた。それは長年の経験からであった。

だが目の前の静音の攻撃は≪心眼≫無しでは全く読むことができなかった。それだけ静音の技量が高いのか、それとも静音が使う特異な武器に関わることを静音が持っているのか、単に天からの御子としての力があるのか。いずれにせよ理がわからないのはウィリアムとしては戦い辛かった。

「では、こちらからもいくとしようか!!」

今度はウィリアムの方から仕掛けた。大剣と刀。大剣から打たれれば刀が最悪折れるレベルの差である。

だがそれを静音はわかっていた。だから絡め手を用意してあった。

「!!」

静音はウィリアムの攻撃を打ち合うのではなく、体を動かすことによって回避することを選んだのである。真上から、そして袈裟切り程度なら体を動かすだけで避けれる。だがすぐに理由を察したウィリアムも対抗策を取った。真横からの一振りであった。それもただの振りではなく、例え後ろに下がられても瞬時に距離を詰めて追撃をできる用意をした振りだった。

「せい!!」

「!?」

静音は誰もが予想しない動きで恐ろしい大剣の一振りを避けた。静音はその場で飛び空中で体を回転させて大剣の横振りを避けたのであった。これにはウィリアムの≪心眼≫と経験が予想した結果をひっくり返した。

条件としてまず静音は魔力の補佐があってもそんな芸当ができるほどの身体能力は生み出せないし経験もない。だから科学が中世並みのこの世界でのオーバーテクノロジーを使った。

「・・・剣?」

ウィリアムが気づいたのは静音の足元に一本の剣が刺さってあったのだ。そして僅かながらその剣と静音が魔力で繋がっていることが感じ取れた。

静音は事前に電気を帯びた一本の剣を地面に刺し、空中で刺した剣と雫に込める雷の魔力を強めた。

簡単に言うと電磁石を生み出したのだ。電流は流れる元にS極、流れた先にN極が生じる。

詳しい原理は静音は知らないが、電気を流せば磁石が作れることは知っていたので事前に雷の魔力でも磁石が作れることを確認してた。そして二本の剣で磁界を生み出して弾き合うようにしたのだ。

当然刺さった剣より空中に存在する雫の方が動く力は大きくなった。その力を応用して体を回転させたわけであった。

だが大衆もウィリアムからしてもそれは曲芸師のような芸当だった。そして一瞬の隙をついて静音は地面の剣を回収して距離を取った。

「おいおい、マジかよ・・・」

「ダンさん、何か心当たりでも?」

「あぁ。前に長物相手の練習がしたいって言われてよ、横からの振りに対する対処を主にやったんだが・・・」

「その時に団長が繰り出したのがあの動き、というわけですね」

「そういうこった。だが団長、自分から不利な条件に持って行ったな」

「得物のリーチは団長が不利。ですが間合いを詰めれば団長が持つ剣は取り回しが簡単なので優位に立てるはず・・・一体何を考えているのか」

「アリムスさん、楽しそうですね」

「あぁ、そう見えますか?団長はいつも予想外の行動で事をひっくり返します。魔獣との戦闘中はじっくりと見ることもできませんが、こうしてみる分だと楽しみで仕方がないのですよ」

静音が全力で戦っている中、団員たちは楽しそうにそれを鑑賞していた。

静音はさらに二本の剣を収納空間から呼び出した。だがその剣は宙に浮いていた。

静音がしようとしていることを察したウィリアムが先の驚きから立ち直って距離を詰めようとしたものの、一歩遅かった。宙に浮く二本の剣+先に静音が呼び出した剣、合わせて三本の剣が意思を持ったかの如くウィリアムに襲い掛かったのだ。

操剣術。文字通り剣を魔力で操るのである。熟練者が操れば手が増えたかの如く攻め立てることができる。

一回一回の攻撃は簡単でもそれを続けられてはウィリアムといえど厄介というか面倒であった。

「ふん!!」

ここでウィリアムは少しギアを上げることにした。ウィリアムの変化と同時に会場が歓声で沸いた。

ウィリアムが御前試合初の闘気を使ったのである。それも常人では到達できないとされ、王国ではウィリアム以外に使い手がいないとされている赤の闘気である。

これは静音としては美味しくない状況であった。

「さぁ、自慢ではないが並大抵の技は通用しないぞ!!」

闘気解放と同時にその覇気からか、操っていた剣は弾き飛ばされ、それに驚き隙を晒してしまったため、静音は一気にウィリアムに距離を詰められた。ウィリアムとしては最初の手合わせの時のように簡単に終わってほしくはなかった。だから横からの振りは封じることにして真上からの渾身の一振りを放った。

静音は何とか≪慧眼≫で予測できたため横にそれることでウィリアムの一振りを避けた。

しかし避けた後、攻撃の痕に驚愕した。振り下ろされた場所はおろか、そこから静音からして後ろ側へ一直線の位置の砂埃が舞っていた。

(まず打ち合えば雫だろうと折れる可能性が高い。だけど昨日の試合で手に入れた力なら!!)

「ファティ!!」

『準備オッケー!!』

静音の声に応えるように淡い光、ファティが現れた。そこから静音はファティと同化、妖精剣王へ移行した。

「妖精剣王、相手にとって不足なし!!」

「へ・・・妖精剣王?」

「・・・自分が使う力も知らないのか・・・?」

まさかの意気込みへの返答がまったくもって素っ頓狂なものであったため、少し気の抜けてしまったウィリアム。

「その姿に関しては後で話そう。まずはこの場を存分に楽しもうじゃないか!!」

「はい!!」

ウィリアムの構えに対し、静音は手を天高く掲げた。妖精の持つ魔力は独特なもので、使うことさえ叶えば、質量をもった物体を生み出すことができる。静音は鍛冶のスキルを使い即席の一本の剣を生み出した。その剣は刀と違って両手剣サイズであった。試合のルールに抵触しないように静音は剣を生み出してから雫を鞘にしまい生み出した剣を両手で持った。

お互いの全力を引き出した試合はさらに凄まじくなっていくのであった。




ありがとうございました。評価やコメントでの感想を頂けると投稿者が喜びます。


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第百話

~百話到達~


妖精剣王と化した静音と闘気を解放したウィリアムが激しい剣劇を繰り広げていた。

観客はただただ歓声を上げながら二人の闘いを見ていた。

しかし剣を握った経験が一年にも満たない静音と長年剣士として経験を積んだウィリアムとは経験の差が大きく出ていた。経験の差が持てる力の扱い方を左右する。静音は攻撃も防御も咄嗟の判断でしか対処できていなかった。

(五分に持っていければ幸いと思っていたけれど、まったく足りない・・・)

ただでさえ平時以上の緊張感による思考の鈍りに加えて疲労と焦りが出てきていた。

しかしウィリアムの剣閃には鈍るどころか鋭さを増すばかりであった。

(それに即席のこの剣の耐久力も測定できてない状態で打ち合うのは負けに近い・・・アレを使うしかない)

「やぁ!!」

静音は隙を作るために剣に魔力を込めて振るった。込めた魔力がウィリアムの剣とぶつかった瞬間に爆発を起こした。さらに牽制として剣を二本呼び出してウィリアムへと突撃させた。一瞬ではあるがウィリアムが囮の剣に気を取られた隙に静音は距離を取って本命の準備に入った。

静音は収納空間から七本の剣を呼び出した。呼び出された七本の剣は観客が見ても普通の剣には見えないほど美しい輝きを放っていた。

「それっ」

静音は七本の剣を操り剣を二人の上空へと配置した。そして七本全てに魔力を込めて準備を整えた。

すると七本の剣がそれぞれの魔力に対応した色を放ち始めた。静音はまるで楽団の指揮を執るかのように妖精剣を振るう。すると一本の剣を残して六本の剣は六つの方角に分かれて地面に刺さった。するとウィリアムも何が起こったのかが感じ取れた。

「結界か」

「やっぱりわかりますか」

「通常の結界ならば魔道具などを使って術者を覆う最低限しか発動させない。だがこの結界は・・・うむ。六属性全てに対応、そして上空に位置する剣は六属性の力を増幅させているわけか」

「うーん、こういうのってすぐにわかるんですか?」

「似たようなものに触れているならばわかるだろうが、こればっかりは経験だろう。なるほど、妖精の魔力は六属性の源とされている。六属性全てを増幅し呼応させることによって妖精剣王の力を高める訳か」

「うーんと、妖精剣王?の力は想定外で、実際はこの刀で自由に属性を切り替えて戦うつもりだったんですけどね・・・」

ポンポンと雫を叩いて少しとぼけた雰囲気を出す静音。

「確かに妖精の力は想定外だっただろう。だが行動には縁が宿る。この結界を用意するためにした行動自体が妖精の力を呼んだのかもしれないな

「そういうものですか」

「しかし残念だがこの結界は君だけが有利になるわけではなさそうだ」

「えっ?」

「使う機会がほとんどなかったから知られていないようだが・・・私も龍の属性の魔力を持っているのだよ」

「え!?」

「まだ作ったばっかりで仕組みが甘いのか、私の魔力も増幅してくれるようだ」

その言葉を聞いて静音の背がサーっと冷えた。さらに追い打ちをかけるようにウィリアムの剣が輝きだした。

「魔龍討伐以来の戦い、得た全て力を使う時!!」

嫌でも肌で感じ取れるレベルのオーラを纏うウィリアム。龍の魔力は特別で自然に得ることは無いと本で読んだ。得るには龍の素材を用いるか、龍自体を討伐するか。当然力は後者の方が大きい。

そしてウィリアムさんは龍を討伐したことがある・・・。

「これ以上に隠し事はなさそうだ。さぁ、始めよう!!」

「っ!!」

極まったウィリアムの剣閃。その脅威は速さではなくその振るう腕力、そして魔力を帯びた剣の鋭さだった。結界の仕込みの際に妖精剣を魔力で補修したものの、一撃受けただけで明らかに尋常じゃないとわかった。そしてウィリアムの剣閃が止むことは無く、次々と静音を襲う。

常に妖精剣に魔力を流して補修しつつウィリアムの剣閃をさばいていく。さらに結界を作る龍属性以外の剣にも魔力を流して結界の強化、属性魔力の増幅を図った。

その甲斐あってか本来静音が持つ雷と炎の魔力のさらなる強化に成功。妖精の力の方は龍の魔力が全体では弱いため完全に強化には至らなかったが、マシにはなった。

さらに激しい剣劇を繰り広げる二人。

だが目が良い観客にはある変化が見え始めていた。

「ん?なんだか、女の子の持ってる剣、変わってないか?」

「遠いからよくわからん」

確かに静音の妖精剣が変化し始めていたのだ。鍔の位置が膨らみ始めたのだ。それに反応するかのようにウィリアムの剣閃が鋭さを増していった。だが何とか静音はその剣閃をさばいていった。

二人が激闘を繰り広げてどれだけの時間がたっただろうか。闘いはさらなる変化を静音にもたらした。

「間に合わなかったか・・・」

「何・・・?」

静音の妖精剣が光を放ち始めた。ウィリアムもその隙を突くわけでもなく、剣を構えたまま変化を見守っていた。

「剣の鍔が・・・開花した?」

文字通り鍔の位置にあった膨らみが開いたのだ、満開の花のように。その変化と同時に結界の剣がさらに輝きを放ち始め、静音の纏うオーラも一層強さを増した。

「開花・・・語るに及ばず!!」

変化が終わったのと同時にウィリアムが静音に切りかかった。しかしその対応は淡泊に見えた。

「えっ!?」

今まで重いと感じていたウィリアムの剣閃がまったく重さを感じなかったのだ。そして

「体が、軽い!!」

そこからは今までとは変わって静音が怒涛の剣閃を展開した。妖精剣は常に補修されて万全。それに気づいてはいないが静音は体が動くままに妖精剣を振るった。

逆にウィリアムは防戦一方だった。そして第三者である観客にはもう静音の剣閃は妖精剣が残した光の軌跡でしか確認できないほどだった。そして好機は訪れた。

「見えた!!」

ウィリアムが防御する際に持ち手の握り方を変えようとしたその瞬間を静音の≪慧眼≫が予測した。その瞬間を狙って渾身の一撃を放った。

「ぐぅっ」

「んやぁ!!」

手の握りが不安定なところに渾身の一撃を受け、一瞬ウィリアムの剣が不安定になった。その隙を突いて静音は咄嗟に妖精剣を細くしてウィリアムの剣の鍔に潜り込ませて剣を救うように振るった。隙を突いたその行動は成功し、ウィリアムの剣は持ち主の手を離れた。その剣が持つ重さを表す鈍い音とともに大剣は地面に落ちた。

落ちた瞬間、闘技場は静まり返ったがそれも一瞬。次の瞬間には莫大な歓声が会場を包んだ。

「しょ、勝者シズネ選手!!」

「か、勝てた・・・」

歓声を聞いてからか、やっと自分の勝利を感じた静音はへろへろと崩れ落ちた。

「ありがとう、まだまだ君は伸びる。私も負けられないな」

そう言って伸ばしてくれたウィリアムの手を取って立ち上がった静音。

歓声に応えるように笑顔を振りまいた。

ここに王国御前試合は静音の優勝で終了した。




九十九話で気づきましたが、綺麗に第百話にこの話を持ってくることができました。
これからもよろしくお願いします。


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第百一話

静音とウィリアムの激闘の余熱が残る中、閉幕式は荘厳とした雰囲気で行われた。

国王が自ら表に立って行う数少ない行事であったからだ。

国王自らが受賞者に対し一人ひとり賞状を手渡し、さらには直々の感想を賜ることができるのだ。

そして順番はウィリアムへと続いた。

「ふむ、お主に渡すのは最後になると思っていたんだがな」

「世代は変わるものです。こと戦士の頂点は常に」

長い付き合いらしい二人の会話は言葉は少なく、ただ口にした言葉以上に通ずる何かがあるのだろう。

そして最後。静音の番となった。

「主とは妙な縁があるようだ」

そう言われて賞状、そして優勝者を表す王国の紋章が刻まれた盾を授与されたのであった。

そして王だけが壇上に残った。

「皆の日々のたゆまぬ鍛錬により今回も素晴らしき試合を見ることができた。そしてさらにはおとぎ話、伝説にも一度しか名を見せぬ妖精剣王が復活した。伝説は過去のもの。されど新たな伝説を作り上げることはできる。故に戦うものは常に勇持ちし者である!!」

王の声高な宣言とともに万雷の歓声と拍手が起こり、皆が「王国万歳」と叫んだ。

王都は最高潮の活気を見せていた。

 

そのままこの日は熱が冷めぬまま夜を迎えた。王都では依然御前試合の熱に中てられていたるところで宴会が行われていた。そして王宮も同じであった。

王国の貴族、試合の本戦出場者たちが一堂に会した祝賀会が行われていた。

しかし一つその前にトラブルがあった。

「え、祝賀会にはドレスが必要?」

「そうなっております。持ち合わせがないと聞いておりますのでこちらで何着かご用意しております」

当然、社交場の一環である祝賀会で着飾ることは特に女性なら必要であった。ただし、それは相手の目を引くためが主であり、ドレスコードなどというものは無かった。

故に独り身である静音にとってはそう大した問題ではない。むしろドレスのような煌びやかな衣装で着飾りたく無いのが本音であった。

「んーと、ドレスって絶対に必要なんです?」

「いえ・・・しかし今回参加する女性はほとんどがご貴族様に連なる方々ばかりでして・・・」

「必要ないってことならドレスを着てないからって処罰されないんですよね?」

「まぁ・・・そうですが・・・」

今静音と話している女性は王国でこういう社交場で着るドレスを扱っている店の人である。つまり御前試合で優勝した人物に店のドレスを着てもらう。これ以上ない宣伝の場であったため何とか必死にドレスを着てもらおうと説得しようとしていたのである。

「着ていく服に制限がないのならこちらで用意しますので」

「えぇ!?」

静音はとりあえず強引に話を打ち切った。ちなみに闘技場を出るまでのわずかな道筋で五回も同じことがあった。家に着いた頃には別の意味でへとへとになって帰ってきた有様であった。

「優勝おめでとう!!」

しかし工房で待ち構えていたのはクランメンバーからの祝いの言葉であった。待ち構えているとは露知らず。不意を受けて静音は少しあたふたしてしまった。優勝した時も受賞するときも毅然としてた姿を見ていたメンバーからすれば笑みがこぼれる有様だった。

「いやーすごかったな」

「おとぎ話の復活。他にも何か隠していませんか?」

「実にめでたい。だが自身の未熟さも知るいい機会になった」

「おめでとうございます。これでさらにシズネさんの名は知れ渡るでしょうね」

様々な言葉が飛び交う中、静音はそわそわとしていた。それに気づいたのはアルだった。

「シズネ、どうしたんだ?なんかそわそわしているけど」

「え!?あぁ、・・・んーっとね・・・」

静音は盛り上がるメンバーからこそこそと工房の奥に入って衣装箱から一つの衣装を取り出した。

「ん?見たことない服だけど、それがどうしたんだ?」

「いやーアル君。これがね?戦闘時の事を考慮して泣く泣く着ることを断念していて、だけど普段着にするには少し目立ちすぎるっていうかね、だけど一着くらいはこういうのを持っておきたいなって作ってみてさ。でも着る機会がなくてずっと衣装箱の中でetc」

と、オタクが水を得た魚の如く早口でしゃべりだした静音。当の質問をしたアルは当然理解できていない。

要約すると以前武者鎧風の防具を作ったものの、趣味で着たかった袴の採用は戦闘時の機能を考慮して不採用だった。しかし羽織道着袴に憧れがある静音からすれば着れるのであれば着たいのである。

しかし普段は煤汚れが多い鍛冶仕事。だから着る機会が限られていた。そしてさらに趣味を詰め込んだ一品を作ってしまいこんでいたのである。

そして祝賀会というそれを着る絶好の機会がやってきたというわけであった。

こうして色々あったものの見事静音は熱望していた着物を着て祝賀会に臨むのであった。

 

静音のクランメンバーからは静音とダンが祝賀会に入ることができた。

「にしても良かったのかい?こういう場って女性からしたら出会いの場だろ?言っちゃぁなんだが俺たち平民からすればご貴族様を引っかける絶好の機会だってのに」

「んー身の丈にあった生活が一番だよ」

しかし、女性のほとんどがドレスで着飾っている中、一人見たこともない服装の静音は目立つ、もとい浮いていた。服装の形は御前試合で着ていた防具に似ているので貴族の子女などは無作法者と影で笑い話にしているのもいた。

「んじゃ、俺はここで。男連れていたら迷惑かけそうだしな」

そう言ってダンはそそくさと男冒険者連中のなかに入っていた。

「国王陛下、並びに王子殿下のご入来でございます」

拍手とともに国王と王子が会場に入って上座についた。

「皆今宵は今までにあった小さきことから全てに至るまでの祝いの席にしようではないか」

王の祝詞が終わるとともに貴族たちが率先して会話を始めた。そして段々と賑やかになっていく会場の中を静かに移動する人物が静音に迫っていた。

「やっ!!」

「こ、これはレオ王子」

突然の来訪に少し驚いた静音。さっきまで上座にいたはずの王子が目の前にいるのであった。

「いやーただでさえ伝説の復活という極上ネタを持っているのにさらにネタを持ってきたら周囲もしり込みするだろうね」

「どゆことです?」

「いや、服装さ。ドレスで着飾って勝負するのが女性の戦場だ。それを放棄するとはある意味周りからすればすでにお断りされているようなもんさ」

「あー、異常に視線を感じるとは思っていましたがそういうことでしたか」

「で、そんな中突然王子が話しかけているとなるとほら。子女はおろか子息までも騒がしくなってるだろ?」

そう話すレオは少し悪戯めいた顔をしていた。

「ウィリアムは父上と話しているのか。少し長引きそうだ。まぁ、こちらも話すことはたくさんあるしね」

「そ、そうですか」

「あーそうそう、。少し近づくよ」

レオは少し静音に近づいた。内緒話がしたいらしい。

「俺が離れた後貴族の連中が近づいてくるだろうけど、妖精関連の話だけは絶対にしてはならないよ」

「やはり彼らも妖精に近づきたいからでしょうか?」

「理解が早くて助かるよ。王国じゃ妖精は神とは別の意味で神秘的な存在だ。妖精は触れ合った者に栄華をもたらすと言われている。蹴落とし合いをやってる貴族の連中からすれば君は良い釣り餌になるだろうからね。それじゃ」

そう言ってレオは去っていった。そしてぽつんと賑やかな会場で一人となった静音・・・はそんなこと気にせず普段は見ることができない料理に目を奪われてそのまま食事に入ろう・・・としたその時であった。

「ちょっとよろしくて?」

「はい?」

振り返るとこれまた派手なドレスを着た女性が数人いた。

「少し名を上げたからと言って身の丈に合わないことをすると身を滅ぼしますわよ?」

なんだか偉そうに(多分貴族のご令嬢だろうから当然だろうけど)ご教授していただくことになりそうだった。

「おや、少し食べ物を取りに行っただけだが人気者だね」

すぐにレオが戻ってきたのであった。

「こここ、これは王子殿下・・・」

「とりあえず中央に近いこの場所は目立つ。場所を変えようか」

そそくさとレオは静音を連れ出して会場の空いている場所に移った。先ほどの女性たちは唖然として立っていたままだった。

「ね、言ったとおりだっただろ?」

「変に実証しないでくださいよ・・・というかさっきの私は餌でしたけど、その釣り竿を握っていたのは王子だったのでは?」

「こりゃ痛いところを突いてくるね。うん、やっぱり君は変わり者だ」

「まぁ、無作法が服を着て歩いてますからね」

「大抵の貴族は俺と自分の身分と今後の損得を考えてへつらうことしか話さない。さっきの連中も俺が君に話しかけたから嫉妬して来たんだろうね」

(そんなどこぞの乙女ゲームの悪役ポジションみたいなことあるの・・・?)

「まぁ、いろいろ文句付ける俺にも事情があるんだけどね」

そういったレオは少し面倒そうな顔をしていた。

「父上からできるだけ君を貴族連中に触れさせないようにって言われていてさ」

「何かまずいことでも?」

「さっき言ったろ?君は貴族連中からすれば格好の的。王の下に貴族がいて、その中で微妙なバランスを調整して国の安泰を図る。それが王の役目だ。まぁ、政治的な都合さ」

「あー、気休めかもしれませんが、あんまり貴族の方々には良い印象はないのでどこかに肩入れすることは無いかと」

「・・・今の君は次期国王と気軽に話せる人間。どっぷり王室に肩入れしているよ」

そう言ってクスクスとレオは笑った。

「あー・・・そうなりますね」

「あんまり気にすることは無い。国王が気兼ねなく話しかけられる私にも貴族の方々から話しかけられるのは私の武勇伝程度。王室に関係あるのならなおさら貴族はよっぽどのことがない限り口出しは無いのはこれまでの私の経験から断言できる。これからも君は変わらず君の道を歩けるさ」

「お、ウィリアム。父上との話は終わったのか?」

「えぇ、色々と話しましたが。やはり王も彼女のことを気にしていたご様子」

「いくら優勝者といえど父上とは話せないだろうけどね」

「私がそのようなことを気にする人間ではないことは知っておろうに」

「あ、父上」

「こ、国王陛下・・・」

あまりの人物の登場に数歩引き下がってしまった静音。まぁ当然の反応である。

「そう堅苦しくしないでくれ。レオと話しているぐらいの感じでならどうかな?」

「いえ・・・そんな恐れ多く・・・」

「ほれいった通りではないかウィリアム。呼ぶと目立つからとこちらから出向いてもダメではないか」

「陛下、ご自分のお立場と彼女の立場。そして彼女の境遇をお考え下さい」

「ふむ、以前シズネは聖剣を復活させたではないか。その時と何も変わらぬどころかシズネの偉業が一つ増えただけではないか。つまり彼女がワシと語れる条件がさらに揃ったと見るべきだろうて」

「すまない静音。私ではもう止められない・・・」

「そんな・・・」

珍しく気まずそうにしているウィリアム。それほどこのヴィルヘルム四世という人物は何かを秘めている・・・のだろうか?

「してシズネよ。これからどうするつもりか?」

そう言った王様の目は先ほどとは違って鋭かった。しかし雰囲気は崩さず、周りも変化に気づいていない。というか王様が話しかけているという方に目が行って気が付いていないといった感じだった。

「これからも変わらず鍛冶師と冒険者として生活を続けるつもりです」

「ふむ、そうであるか。ここだけの話じゃがな、ウィリアムが剣聖の称号を主に譲りたいと言っておってな」

「え・・・?」

「剣技としてはまだ完全とは言えないだろうが、全てを含めたうえで君はいずれ勇者をも超えて剣士の頂点に立つだろう。負けた私が持つにはふさわしくないからね」

「いえ・・・私は剣の頂には程遠い身です。ですので頂点の称号をいただくわけには・・・」

「だがウィリアムに勝った主に称号を与えねば変に周囲に誤解を招きかねんでな」

「確か『剣豪』という称号、いえ、名跡があったはずでは?」

(え゛!?ここで剣豪が出てくるの!?というかまさウィリアムさん私の心を・・・ハッ!!この心さえ見られている気が!!)

「ふむ、また古い物を持ち出してきおったな」

「以前ラークの修行の際、一族の長老にラークの相を見てもらった際に以前から引っかかりを覚えていたので調べてみたら不思議なことに一族の古いほぼ失伝した伝承が纏まったのです」

「あの、浅学の身なので存じ上げませんが、『剣豪』とはそれほど古い言葉か何かなのでしょうか?」

「うむ。どういった形を指すのかは不明じゃが剣士の名跡としては最上位に古い名称じゃ。旅の報告では何も言わなかったが何か発見でもあったかの?」

「えぇ。どうやらその『剣豪』と呼ばれていた人物たちは片刃の細剣を手にしていたとか」

「片刃の細剣・・・。シズネの武器にそっくりじゃな」

「えぇ、ですので彼女にはピッタリかと」

「うむ、では後で重臣たちと相談して称号として制定するとしよう。元々勇者という称号があるのに剣聖を作ったぐらいじゃ。問題にはなるまい。シズネも異議はないか?」

「はい・・・身に余る光栄です」

まるで自然な流れで決まってしまったが『剣豪』という称号を与えられることになってしまった。

その後は試合の時の気持ちなどの雑談を経て王様とレオ王子は去っていった。

「心中、穏やかには見えないか」

「え、えぇ・・・」

静音の中ではこの世界に生涯居座ることになるならば何年、何十年とかけて得たいと思っていた『剣豪』という名称が思っていたのと違う形で一年と足らずに得ることになってしまった。

ある意味この世界での目標をすぐに達成してしまった静音の心中は穏やかではなかった。




ちょっと時間を空けてしまいました。これからもよろしくお願いします。


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第二章
第百二話


――――心ここにあらず

今の静音は文字通りだった。

先日の祝賀会で決まった予定通り、『剣豪』という名称が王国の称号として正式に制定され、御前試合で優勝した静音に授与された。

王国において称号とは貴族称号と戦士称号の二種類に分けられる。

貴族は爵位が様々であるが、戦士は以前までは『剣聖』そして聖剣と共に復活した『勇者』そして新たに制定された『剣豪』のみである。

冒険者などでは名を上げた者に通り名がつくこともあるが、称号とは王より授けられる名誉な呼び名であった。

『剣聖』は長年ウィリアムがその位を維持し、『勇者』は聖剣と一心同体なので聖剣が復活するまでは空席だった。そして誰もが目指した新たな称号、それを授与された静音は冒険者・戦士にとっては希望の風とも捉えることができた。認められさえすれば称号を与えられる。故に王国の剣を握る者は以前にも増して活発になっていた。

しかし当の静音は『剣豪』となってから数日が経ったが物足りない日々であった。

アルやミーナに鍛冶の手ほどきをするものの、なぜか熱が入らないのである。

だからと言って自分で刀を打とうにも小割りをしようとする気すら起きなかったのである。

では剣技で汗をかくのはどうかと思っても練習場所に行く気が起きなかった。

食事の時も静かに食べ、クランメンバーは静音の変化に驚いて声をかけようにも、静音の雰囲気に押されて誰一人声をかけられなかった。

今日もただ起きて食事を取ってただ町を放浪していた。

ただ、一つの塔が目についた。風に当たれば気持ちがいいかと思い静音は塔に上った。

高いところでほかに障害物もないため、風は結構強かった。そして塔の上から静音はただ御前試合の余熱が残る王都をぼんやりと見ていた。

「隣、良いかな?」

「・・・ウィリアムさん」

そこへウィリアムがやってきた。

「君のクランのエラムって子に相談されてね。君を探していた」

「エラムが?」

「どうやら君の関係者に片っ端から相談するため方々を駆け回っているらしい。随分と慕われている証拠だ」

「・・・一つ、聞いていいでしょうか?」

「何かな?」

「どうして『剣豪』だったんですか?」

「称号の授与は気に障ったかい?」

「いえ称号を頂けるのは戦いの道を進むことになった私からすれば嬉しいことです。ですか、なぜ『剣豪』だったんですか?」

「君は天より使われし別世界の人間。元の世界でえ『剣豪』、何か縁でもあったのかい?」

「『剣豪』はある意味で私のこの世界での目標だったんです。そしてウィリアムさんは心を読める

『心眼』を持っています。だからまるで心を見透かされた気がするんです」

「ふむ」

「でも私の世界でも称号でしたけど、こんな剣を握って一年も経たない私が手に入れることができるものじゃない。何十年と努力したり、もしくは最初から天賦の才があるような人がそう呼ばれる、そう思ってました」

「世界が違えば名の意味も意義も変わるだろう。今の君は目標を失っているといったところか」

「そんな感じです」

「そもそも、君は自分の意志でこの世界に来たのかい?」

「いえ、なんかいきなりこの世界を救ってくれって言われて・・・でも手段も方法も、何をどう救えばいいか教えてもらえずそのまま・・・」

「ふむ・・・正直に言うと君を遣わした存在は無責任というべきか・・・」

「ですよね!?突然『世界を救ってくれ~。あ、元の世界には帰れないから』って言われても納得できませんよね!?」

「突然自身の境遇が変われば誰しもがそう思うだろう。曖昧な使命。ならば自分の原点に帰るのはどうだろうか?」

「原点・・・ですか?」

「君は元の世界でも一番の目標、小さなものでも簡単なものでもいい。叶えたいことは『剣豪』になることだったのかな?」

「いえ・・・私は本当は・・・ただ刀が好きで・・・あ」

「目標は見つかったかい?」

「はい・・・私の願いは『自分が納得できる刀を打つ』ことでした」

「ふむ。刀、武具を打つか。それで納得がいく品はできたのかい?」

「うーん、見た目、性能、価値。全てを兼ね備えた逸品なんてすぐには作れませんよ。あ、でも唯一これだけは・・・」

そう言って腰に帯びている雫を見た。雫が静音が仕組みは違えど、最初に生み出した満足のいく刀であった。

「ではこの世界でやりたいことはあるかい?」

「やりたいこと・・・えぇっと・・・本人を目の前にして言うのはなんですけど・・・。この世界に送られた最初ってどうやって生き延びるかしか考えてなかったんです。ただウィリアムさんと試合をやって、実際に刀を使えることに感動したんです。それでいつかはウィリアムさんに勝ちたいと思ったんですけど・・・」

「試合で見事私に勝利したな」

「純粋な剣技、技量じゃないですけどね・・・」

「縁はその当人の人徳、立派な実力の一つだ。勝利したことには違いはないのだが・・・ほかにやってみたいことは無いのかい?」

「あ、料理を堪能したいです。文化も違えば料理も違います。あと冒険もしたいです。それからそれから・・・」

そう朗らかな顔で悩む静音をウィリアムは暖かく見ていた。

「取り合えず、多すぎて纏められません!!」

「ぬ?」

出てきた結果は何とも欲深すぎた。

「強欲すぎますかね・・・?」

「ふむ・・・行き過ぎは問題かもしれないが目標があるからこそ人は歩める。目標が多ければその分距離は長いが達成感も大きいだろう。君の使命を鮮明にするついでに目指すといい」

そう言ってぽんっとウィリアムは静音の背中を叩いた。

「君にも心配してくれる人がいる。すぐにその元気な顔を見せてあげなさい」

「はい!!」

そう言って静音は急いで塔を降りようとした。

「あ、結局ウィリアムさん、私の心を見たから『剣豪』を選んだんですか?」

「あぁ、そういえば論点はそこだった。それについては私は誓って君の心を見てはいない。『剣豪』を選んだのは昔本で知って、そして君と出会い、違和感を覚えて調べた結果見つけたものだ」

「違和感・・・ですか?」

「今思えば不思議な感覚だった」

「うーん、とりあえず見透かされたわけじゃないのですっきりしました。ありがとうございました!」

そう言って今度こそ静音は塔を降りて行った。

「・・・どんな世界でも言葉の在り方は変わらないのだろうか」

ただ残ったウィリアムには拭うことができない疑問があった。

 

 

静音は王都を疾走した。みんながいるクランハウスへと。

「みんな、ただいま!!」

元気よくクランハウスの扉を開けて誰かはいるであろう食堂へと来た静音。

「あ、お帰りなさい」

しかしそこには一人優雅にお茶を飲むエラムがいた。

「え・・・エラム・・・」

「元に戻ったようで何よりです。それよりも何をそんなに驚いているんです?」

「え、だって方々を駆け回っているって・・・」

「動ける方はそうでしょうが、私は運動はそこまで得意じゃありません。ですので一番可能性があるところに行っただけのことです」

「で、なぜにお茶を?」

「果報は寝て待てと言いますがさすがに寝て待つのはあんまりかと思って」

「だからと言って優雅にお茶をキメるのもどうかと思うよ・・・?」

「その・・・正直言うと剣聖様を探し回って疲れてまして、休憩をと・・・」

そっぽを向いて言うエラム。よく見ると額には汗が、足は本当に運動が苦手なエラムが全力で走った後を示すかのように震えていた。

(そういえば、最初こそ私がエラムを助けたけど、一緒に組んでからはこの世界では無知な私を助けてくれてたっけ)

「エラム」

「なんですか?」

「ありがと」

「突然・・・いえ。どういたしまして」

輝く静音の笑顔に最初は恥ずかしがっていたものの、いつもの凛とした顔でエラムも返した。

「ところで他のみんなはどこに?」

「それぞれ心あたりを探っているはずです」

「・・・集まった時期はみんなクラン立ち上げた当初だけど、チームはバラバラだったよね・・・?」

「・・・あ」

メンバーそれぞれが心当たりを頼りに駆け回っているらしいが、その心当たり自体を知らない静音はメンバー全員が戻ってくるまで食堂で待っていた。ただ帰ってきたメンバーは全員が元に戻った静音の笑顔を見て安堵した。




話が溢れたので先投稿です。
欲深な要望ですが、よければこの作品について意見を微量だとしても良ければ頂きたいのです。
読者の皆さんがこの作品をどう思われているのか知りたいのです。
大まかな展開は決まっていますが、小さな話にその意見を組み込めたらなと思っています。
どうかお願いします。


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第百三話

活気を取り戻した静音は以前にも増して活動的だった。御前試合で優勝したため、静音の工房の名前もうなぎ上りで武具の注文も増えた。家事の包丁やナイフから戦闘用の剣まで幅広く注文が殺到した。

ただそこで一つ問題点が浮上したのである。

「うーん・・・これは一体どういう原理なのやら・・・」

静音が鋼を打ち、最後の冷却で温度を調整した水で急速冷却をして鋼を引き締める作業。ここに問題が起きていた。

静音があらかじめ用意した水でならアルやミーナが打った品を冷却しても耐久面などに異常は出なかった。

ただしアルやミーナが同じ温度の水を用意して冷却をするとほぼ確実に耐久面で劣る品ができるのだ。

「うーん、水での急速冷却は文字通り一気に冷やすから鋼が割れやすいってのはあるんだけど、私が用意した水では問題は起きず、アルやミーナが用意した水だと問題が発生する。うーん・・・」

仕方がないの久々のヘルプに助言を求めることにした。

ヘルプ曰く、『静音は鍛冶スキルが最高に近いため問題は起きないが、二人の鍛冶スキルはまだまだなため

静音と同じことをやっても失敗する可能性が高い』とのことだった。

確かにスキルが鍛造全てに関わるのなら冷却の時にも関わってくるのだろう。

だからと言っていちいち静音が用意していてはいつまでたってもアルとミーナの修行にはならない。

「油での冷却なら刃の輝きは鈍るけど安定性はあるんだよね・・・ただウチは刃の輝きも含めての品だからこればっかりは変えられないんだよね・・・」

なので静音は焼き入れに今まで省略していた焼き戻しを導入することにした。

焼き戻しは焼き入れで急速に冷やした鋼がもろい状態を再び熱することで接合させ強度をより強くする工程である。これを複数回行うことで急速冷却による割れを防ごうと考えたのである。

当然工程が増えれば加熱に使う炭の必要量も増えるため経費も増える。ただし包丁や作業用のナイフならともかく、戦闘で命を守る大事な剣などの武具の作成で手を抜けば使用者の命の危機に直結するため手抜きなど

できるはずもなかった。

ただこの工程を導入した結果アルとミーナが自力での焼き入れに成功することができるようになった。

これでまた店で二人に任せられることが増えた。

 

工房の問題を解決した静音は次はクランの収入増加を模索した。といっても結論は簡単で遠征を増やす、ただこの一つしかなかった。

今はまだ王国自体が御前試合の熱気の余熱が抜けていないため、所々お祭り気分が蔓延してた。

そのため冒険者ギルドには未解決の依頼も多くあり、また狩場も空いているとのことだった。

ここで静音はエラムの提言にあった依頼が処理できていない今の冒険者ギルドの依頼を積極的に受けて恩を売り、今後より良い依頼を回してもらえるようにすることにした。

静音はクランをチーム分けをして依頼の消化へと注力した。

難易度は低いものも多かったが集落の近くに魔獣が出たなどの依頼も多く残っており、静音はこれらを優先して解決する方針に定めた。

静音たちは懸命に依頼の解決に努め、冒険者ギルドからは一定の信頼を得ることができた。

王国が良くも悪くも浮足立っている中で不安要素をできるだけ減らした後、静音たちは狩場への遠征を繰り返した。他のクランは遠征を控えていたせいか、魔石の換金額は冒険者有利に上がっていて収入は以前より増えていたのは幸いだった。数度遠征を行ったとき、少し奇妙なことをクランメンバーが気づいた。

「なぁ、団長はエラムの嬢ちゃんとの付き合いってどれくらいだ?」

「ん?クラン設立前から組んでいたけど、何かあった?」

「いやさ、ウチのチームの魔法使いからしたらエラムの嬢ちゃんの魔法が知らない物ばっかりらしくてよ」

「うーん、魔法については私は詳しくないからなぁ・・・」

「それに属性の魔力以外の属性の魔法も高レベル。そんなレベルの魔法使いなら冒険者なんて危険な仕事よりも教鞭を振るって安全に稼ぐ方が合っていると思うんだけどさ、まぁおせっかいなのは重々承知だが・・・」

気になった静音はそれとなくエラムに魔法のことについて聞くことにした。そもそも静音が鍛冶に必要な玉鋼を作るために必要な『フィールドフリーズ』を覚える際エラムも魔法学校で共に魔法を学んだはずだ。学ぶということは足りない何かがあるということ。しかしエラムが使う魔法が知識者曰く高レベルであるということ。わざわざ高レベルの魔法が使えるエラムが基礎を習いにく。このことに静音は疑問を浮かべた。

「うーんと、それはですね・・・私の使う魔法は特殊なんですよ。だから基礎だろうと取り入れれる物は取りいれようと」

そんな回答が返ってきた。その時のエラムは少し驚いた様子であったが、エラムにも自分の事情があるはずである。だから静音は深く詮索することはしなかった。




ありがとうございました。今後もよろしくお願いします。


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第百四話

「数匹逃げたぞ!」

「金のなる木を逃すなぁ!」

静音たちは魔獣の平原に狩りに来ていた。ただ今日のワイルドウルフは妙に足が速かった。

そのため、不利を悟ったのか数匹が逃げようとしていた。

「リーシャ!!」

「任せておけ!!」

リーシャが地の魔力を使い、ワイルドウルフの逃げ道を土の壁を作って塞いだ。

「ダン、アリムス!!」

静音を筆頭に瞬発力があるダンとアリムスが続き、逃げ場を失ったワイルドウルフを仕留めた。

「ふー何とか倒せましたねー」

「しかし噂には聞いていましたが、魔獣の活発化。事実らしいようですね」

「魔獣の活発化かぁ・・・また魔族が絡んでるのかなぁ・・・」

冒険者ギルドで噂になっていた魔獣の行動の活発化。冒険者ギルドは今回は魔の歪み周囲の警戒や魔族の類の捜索の依頼などを出していた。歪み付近の観測所からも魔獣が増えているとの話もあるらしく、狩場の拠点町には静音たちのように多くの冒険者が集まっていた。

「む?」

「どうしましたか?アリムスさん」

「あぁ、エラムさん。なんか、ワイルドウルフの死骸の消え方が奇妙というか・・・」

「違和感、ですか?」

「普通は塵が風に吹かれたときのようにすぐ消えるはず。だけど今回は最後に倒された個体は僅かだけど残っていた時間が長く思えた。それにワイルドウルフ事態の体色も普段と違ったというか・・・」

「・・・変異種、もしくは変異種に変化する途中とかでしょうか?」

「・・・偶々変異中の個体が最後に残った。確かに変異するぐらいの個体なら最後まで残るかもしれないけど、さっきまで戦ってたワイルドウルフ全部が同じ体色に見えた気が」

「・・・マズイですね」

「?」

ほんの僅かなエラムの独り言。それと同じくエラムの顔は深く、真剣だった。アリムスは最後にエラムが何を言ったかを考えていたため、その顔に気が付かなかった。

 

拠点町に帰ってきて相場が崩れない魔石を売り払って、それぞれ休憩とした。

静音・エラム・リーシャの三人もまた腹の虫に従って食事を取りに食事処に入った。

「いやー。最近は魔獣が多くて狩りが楽だ」

「活発化してるってのを上の連中は問題視してるが俺たちにとってはまさに稼ぎ時どころか向こうから金が寄ってくるぐらいだからな」

と、少し問題視されそうな会話をしている冒険者たちがいた。実際上が問題視しているのなら何かしらの危険がある。そう、静音は苦笑いで思っていた。

「その呑気もすぐに消えますよ」

ただエラムが言った一言で静音の苦笑いも消え去った。

「え、エラム?」

「あっ・・・すみません!!」

はっとしたエラムは慌てるようにして二人から離れていった。

「エラム!!」

余りにも必死に離れようとする背中を見て二人は伸ばした手をただ空で遊ばせるだけしかできなかった。

「一体エラムはどうしたんだ?」

「さぁ・・・ただ言い方はヒドイけど、いつもお金のことに厳しかったエラムが稼ぎ時を喜ぶまではいかないけど、歓迎どころか冷ややかな一面はなんか・・・おかしいな」

「私が加わったときはすでに二人は組んでいたが、エラムはやはり経験豊富な冒険者だったのか?」

「ううん。一個上だったんだけど色々あって一緒に組むことになったんだ。それから一緒に魔法学校に通ったりして・・・」

「・・・そういえば私は私の来歴を話したことは無かったな」

「そういえば聞いたことがなかった気が・・・あ、最初にあったときより雰囲気もなんだか柔らかく・・・というか逞しくなったような?」

「・・・女性に逞しいはないだろう・・・」

「あ、ごめんね。それで、リーシャの来歴って?」

「あぁ、前は私は父に倣って騎士として勤めていたんだ」

「え?騎士の方が冒険者より安全そうだし・・・なんで冒険者に?」

「確かに冒険者よりも待遇とかも良い。だが、それ相応の振る舞いが求められた。当然冒険者より強くなければならない。だが女の私には到底その振る舞いには追い付けなかった。だから挫折して、色々あって冒険者になった訳だ」

「ちなみに最初の恥ずかしそうな性格はどこから?」

「あ・・・えぇっと・・・いざ冒険者になったのは良いものの、騎士になるまでは見知った顔の中で育ったから・・・その、人見知りしていてな・・・」

「あぁ、そういうこと。あ、結局エラムの様子で気になるとことかあったの?」

「一つな。一言つぶやいたエラムの目、あれはかなりの強者の目だった。たぶん、本当の戦いを知っていいるかもしれん。似たような目を騎士団の時に見たことがある気がする」

「・・・もしそうだとしたら、エラムもやっぱり訳ありで冒険者になったってこと?」

「もしそうだとしても、冒険者になる前から実力があったのならシズネと一緒に魔法学校に行く理由がわからん」

「それは・・・うーん、どうして?」

「多分全ての理由を纏めたら結論が出るんだろうが、他人の過去は詮索はしない方がいい。エラムが話してくれるのを待とう」

エラムの謎が一つ増えたがとりあえず忙しい日々がまた一日経つのであった。




ありがとうございました。評価やコメントでの感想を頂けると投稿者が喜びます。


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第百五話

―――夜

エラムは拠点町をふらついていた。頭の中ではこの先起こるであろう魔獣の侵攻のことを考えていた。

(魔獣の侵攻の予兆は嫌というほど見つかっています。起こる可能性は高いでしょう。問題は、どこへ向けてでしょうが十中八九王国でしょう。ただ今回は剣聖ウィリアム、勇者ラーク。そして妖精剣王として目覚めたシズネと歴代で見ても最高戦力が揃っています。まず普通の侵攻程度だと弾けるでしょう)

ふと気づくとエラムは自分たちが止まっている宿に着いていた。受付に言ってカギを貰って自分の部屋に入る。

そして袋から今回も売らなかったエラム自身の取り分の魔石を取り出した。

(ワイルドウルフそれも生まれたての物の魔石。通常より魔力を取り込むことができるでしょう)

エラムが魔石に手をかざすと、魔石は光を放ち始め、エラムの手に操られてエラムの体の中に吸収された。

(今回は・・・まぁ、戦力が揃っているから私の出番はないでしょう。陰に隠れてこそこそと支援をしていればよいでしょう。ただ魔王も馬鹿ではないでしょう。以前あった魔族の歪み生成の潜入事件。あれは今までなかったこと。ならば今回の侵攻も恐らく、何かあるでしょう)

エラムは過去にあった魔獣の侵攻の終始を思い出していた。

焼ける森や町や村。泣き叫ぶ子供。子供を探しに戦火に入っていく母親。無謀な勇気で早まって魔獣の群れに突撃して無残にも食い散らかされた新米冒険者。昼も夜も関係なしに防壁へと攻撃を行う魔獣の大群。

―――何度、仲間を作っただろうか

                   何度、仲間を見送ったのだろうか―――

 

       ―――何度、仲間を裏切ったのだろうか―――

「そんな、裏切ってなど!!」

「エラム?」

「は、はい!?」

過去にふけっていたエラムを呼び起こしたのはドア越しの静音の声だった。

「あの、どうしたんです?」

「いや、さっきエラム店から飛び出したっきりで、ごはん食べたのかなって」

「あぁ、そうですか。大丈夫です。あの後露店で少し見繕いましたので」

「そっか。じゃぁ、おやすみ」

(やはりシズネは何かがある。意識しているのか、無意識なのか。どちらにせよ味方にすれば御しやすいでしょうし力にはなるでしょう。ですが、敵にすると、素の私では勝てないでしょう。しかしどちらになるにせよ、私のことを話さなければならないでしょう。ですが、それ自体、リスクがある)

―――なんで私は孤独なのか

                         言えば殺されるから―――

―――誰に

                天に巣くう生物全てに仇をなした存在に―――

       

         ―――なら今回も黙っているのか―――

(確かにリスクを考えれば今後も黙っている方がいい。ただ何かイレギュラーが起きると厄介なのは事実)

         ―――なら今回も仲間を裏切るのか―――

「くっ・・・」

エラムは悔しくて唇を噛む。エラムとてそんな選択肢は選びたくない。

(最後の私が消えてしまえば、完全にこの世界は支配されてしまう。それだけは避けなければならない。私たちの家族が、仲間が、同郷の、この世界に命を懸けて散っていった人たちが守り続けたこの世界を

失うわけには・・・)

またマイナスのことを考えていると、一つ。エラムの中で歯車がかみ合った。

(シズネは、どうして失われたはずのあの服装を、あの鎧の形を、あの刀を知っているのか?そしてエラムと最初に依頼をこなしたあの時感じた違和感に似た、懐かしい感覚は何なのでしょう。)

「まさか!!」

一つの推測が生まれた。

(だがそれはあり得ない。もうこの槍の所有者の名前は私だけになっている。確かに所有者になること自体嫌だった人もいて、名前を消して隠れた人もいた。しかし所有者の名前を消したとしても槍は反応する。だけど、今までシズネの隣にいても槍が反応したことは無かった。なら、シズネは一体・・・)

物思いにふけるのもこれくらいにしようとエラムはベッドに潜った。ただ、最後に一瞬懐かしい背中を思い出した。

(もうあるはずがない『桃色の闘気』初代勇者であり、今まで唯一だった妖精剣王のあの人の背中にどこかシズネは似ていました。しかし、妖精の正体は・・・そして今の人類は・・・。ならどうしてシズネは妖精剣王になれた?)

眠るために横になったはずなのに、消えぬ疑問にエラムはずっと悩まされていた。




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第百六話

「クソっ数が多すぎる!!」

「これでスタンピードじゃないって嘘だろ!?」

「スタンピードはデカ物が沸いてるのが特徴だ。ワイルドウルフの大量発生ごときでスタンピードなんて言ってたら今頃王国中がスタンピード扱いになっちまうぞ!!」

魔獣の草原にて大量のワイルドウルフが出現。記録にも無いような数が観測されたためフォロムの町の

独自判断として緊急依頼を発表。フォロムの町に在中していた冒険者を動員して出現した

ワイルドウルフ掃討戦を開始したのである。

「それにしても、なんというか・・・不思議な感覚ですね」

「不思議って、まぁ、確かに変な感じだな」

「?何か違うの?」

「なんだかな、数は多いが、一匹一匹が弱いっつーか」

「それに体色も通常とは異なっている様子。前は変異前の個体と思っていましたが、この程度の弱さのワイルドウルフは変異するような個体だとは思えませんね」

「油断しないでください。ワイルドウルフの厄介なところは数、群れの統率力です。こちらも即席ですがある程度統率された集団です。分断されないように気を付けてください」

静音たちもワイルドウルフ掃討戦に参加。数が不明な点や戦闘中のネコババを断つために報酬金は平等分配。そのため魔石はギルドが全て得ることになっている。

静音たちの討伐数は掃討戦の戦力では群を抜いていた。

「言っちゃぁ不謹慎だが、俺たち報酬金以上倒してねぇか?」

「多分そうでしょうが、この数を放っておくと町を襲う可能性だってありえます。ここは欲よりも防衛のことを考えた方がいいかと」

順調に戦闘が進む中、一角から炎の柱が上がった。

「なんだ!?」

「まずいですね、他の戦線の方たちがこちらに寄ってきています。よほど強力な魔獣が出たのかと」

「スタンピードとは分類されずともそれ相当の脅威はあるってことだな」

「おい、アンタらも早く逃げろ!!マズイのが現れやがった!!」

悲鳴を上げながらどんどん戦線を離脱していく冒険者たち。

「どうしますか?団長」

「逃げるのが一番だろうけど・・・」

「・・・逃げ遅れましたね」

こちらを襲おうとしていたワイルドウルフもろとも静音たちを狙った業火の波が押し寄せて来た。

「リーシャ、アリムス!!」

「わかっている!!」

「出番のようですね」

リーシャが地面を盛り上げて即席の壁を作成。その後アリムスが土壁に水を染み込ませて業火の波への対策とした。

「火を噴くってことは、ワイバーンか何かか?」

「どうでしょう。火を扱う魔獣は多いですからね」

「一旦攻撃は止まりましたか」

業火の波が止まったのを確認してリーシャが土壁の維持を止めて視界を確保した。そして見えた光景はあたり一面にくすぶる炎、そして焼かれたワイルドウルフの死体。そして

「炎を纏った、羊?」

「特徴はブレイズシープに一致しますね。強力な魔獣です」

「余裕はなさそうだから、端的に情報よろしく」

「炎を自在に操る魔獣です。そしてこちらの炎系統の攻撃が暴発、最悪逆に使用者が自分の炎で焼かれます」

「厄介極まる相手だね・・・」

「ですのでシズネは炎の魔力は使わないように。出現記録こそ少ないのでどうなるかはわかりませんが、危険な可能性は排除した方がいいかと」

「こっちの火が暴発するってことは油でも使うの?」

「液体を使う様子は見られたことは無いようです。暴発の原因はブレイズシープ固有の能力かそれに準ずるなにかかと」

「有効な手は?」

「強力な魔力による衝撃、もしくは全身を氷漬けにするレベルの水属性氷系統の魔法が必要かと」

「全身を覆うような炎を持ってる相手にはかなり必要そうだね・・・」

「ですので普段なら遭遇しても撤退が推奨されますが、完全に残っているのは私たちだけのようです」

「炎で重症を負って残されてる人もいるかもしれないし、いたらその人たちを見捨てることになる。ここで倒すか撃退するしかないね」

「無茶を言います」

「でも無理じゃないんでしょ?」

「有効な手としてはシズネの妖精剣王としての力ですが・・・むやみやたらに妖精を魔獣と関わらせるのは関係上マズイんですよね・・・」

「・・・あのさ、全力じゃないならファティに頼らずとも力が使えるらしいんだよね」

「・・・え?」

「色々話は省いて結論だけ言うと私の体ってなぜか妖精の力が同化しやすいんだって。んで、私の体が妖精の魔力の性質?を覚えたらある程度なら普通の属性の魔力のように自分で生成して扱えるんだって」

「・・・そんな馬鹿な。そんな体質を持つような遺伝子はとっくに・・・」

「エラム?」

「今はそれどころじゃありません。具体的はどの程度なら使えそうです?」

「うーん、試合の時の七割ぐらいかな?」

「十分なラインです。なら私たちで奴の隙を作り、そこをシズネが叩く。これでいきましょう」

いざ作戦が決まったが、静音が妖精の魔力を使用し始めた瞬間、ブレイズシープが目の色を変えたようにこちらに莫大な炎を纏って突撃して来た。

「めちゃくちゃすぎるだろ!?」

何とか避けれたものの、ブレイズシープが大地を踏みしめるたびに地面が爆炎を生み出し、さらに完全にブレイズシープが走り去った後にさらに大きく爆発したのである。

そして執拗に静音めがけて突撃を繰り返すのである。

「まだ何もやってないのにどうして私ばっかり」

静音は唯一使える雷の魔力で身体能力を強化して避けているが今の状態では攻撃どころではなかった。

しかしその間にターゲットにされていないメンバーたちが遠距離で攻撃を開始。

しかしブレイズシープが炎のは単なる炎ではないのか、あまり効いている様子ではなかった。

しかし鬱陶しかったのかブレイズシープの目が静音からそれた。

そしてブレイズシープは大きく息を吸い込むと途端にほかのメンバーめがけて息を吐いた。

「なんだ・・・?」

「ただの呼吸、ではないようですが・・・先ほどから変な臭いがしますが炎のせいでしょうか?」

「・・・この臭いは油のような・・・まさか!?」

何かに驚愕したのかエラムの目が大きく開かれた。

「ダンさん!!急いで私たちの周囲を風で吹き飛ばしてください!!」

「なんだ、急に・・・」

「急いで!!」

見たことがないエラムの勢いに驚くが、エラムの言を信じてダンは風の魔力を最大限に利用してメンバー周囲から外へと吹く暴風を発生させた。

その瞬間、辺り一面が爆炎で包まれた。

「みんな!?」

自分ばかり狙われるため、あえて囮となっていた静音だけがその光景を目にし恐怖に震えた。

しかしもう一度暴風が吹き、爆炎を払って、そこにはメンバー全員が無事で立っていた。

その光景を見てブレイズシープは忌々しそうに、静音は安堵していた。

「シズネ!!大変でしょうけど、雷の魔力も追加で使わないようにしてください!!」

「どういうこと?」

「奴が扱う炎の素がわかりました」

分散したメンバーが攻撃をしている間にエラムが静音の下に走った。

「奴の炎は油を利用しています」

「でも液体なんて出していたようには見えなかったけど・・・」

「気化です」

「気化・・・でも油の沸点って」

「おそらく体内で発火するよりも早く加熱し気化させているのでしょう。その当の奴自体がその原理を知っているのかは知りませんが、十中八九気化した油類が使われています」

「また厄介な・・・。でもみんなの攻撃で隙はできた!!」

静音が雫を掲げ、一気に自身にある妖精の魔力をフル回転させる。それに気づいたのかブレイズシープがこちらに向けて突撃の構えを見せる。

「リーシャさん!!奴の進路をできるだけ土壁で防いでください!!」

「心得た!!」

リーシャがブレイズシープと静音たちの間に何重もの土壁を作成。ブレイズシープの突撃が始まるが、幾重にもある土壁、さらに側面から集中砲火を受けて徐々に突撃の勢いは薄れていく。

そして雫に溜まった妖精の魔力が最高潮を迎えるころには完全にブレイズシープの突撃は止まっていた。

「これで決める!!」

突き出した雫から莫大な魔力の塊が発生。その余波はブレイズシープに衝突してもなお、後ろの地面を抉るほどの威力であった。妖精の魔力の塊はブレイズシープの纏う炎をたやすく突破して本体に直撃。

ブレイズシープはそのまま爆発するようにして散っていった。

「倒した、のかな?」

別段煙が出たわけではないので、ブレイズシープが立っていた場所は普通に目視で観察できた。

「大き目の魔石が見えます。まず討伐できたようです」

「よかったぁ・・・」

今まで戦ってきたどの魔獣より強力だったかといえばわからない。その時々で私の実力が違ったからである。

「いやぁ、普通はデカイ討伐隊を組まないと倒せないって噂には聞いていたが、ウチには伝説の妖精剣王がついてるからな」

「えぇ、やはりシズネさんはこれ以上ない安心感をもたらしてくれますね」

メンバーが口々に静音の力を称える一方、静音自身はその言葉一つ一つから重圧を受けるのであった。




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第百七話

静音はワイルドウルフ掃討戦を終えて王都に戻ってきていた。言葉の重圧とともに。

メンバーは悪気など無いのだろう。ただ純粋な、静音の力を評価する。そして頼りにしている。

それが静音に重圧を加えていた。『力ある者は守る側になる』力がない者が力ある者を頼りにするのは当然である。ただし、頼りにされる側の静音は実際に仲間に危機が迫ったとき、本当に守り切れるのか。

その自信がなかったのである。先日もエラムの発見がなければ負けていたかもしれない。負けるだけならともかく、誰かが死んでいたかもしれないのだ。

実際ワイルドウルフ掃討戦ではブレイズシープによる少ないが死傷者が出ていた。

次に危機が迫ったときにまた突破口を開けるかはわからない。どんな危機が迫るかすらわからないのだ。

確かに静音は力を、細かく言えば実力を求めていたのは確かである。

ただし、今思えばクランを立ち上げたのは収入を増やすため。最初はほとんど同じような実力の面子だった。

しかし今では静音一人が突出している状態である。誰もが「シズネがいれば大丈夫」だと思っている。

だからこそ、当の静音は怖いのである。

「おや。君が私を訪ねて来るとは。よっぽどのことがあったようだね?」

故に、王国から絶大な羨望を集めるウィリアムを訪ねたのである。

「はい・・・実は・・・」

静音は今の自分の心境を話した。ウィリアムは静音の話すことをただ黙って聞いていた。

「大体のことはわかった」

一回、ウィリアムが頷いた。

「だが、それは思い上がり、とでも言うべきだろうか」

「思い上がり・・・自惚れていると?」

「まぁそんな感じだ。何も君自身が気負うことなどないのだから。力ある者が力なき者を守るのは当然だが、その力の有無は誰が決めるのかな?」

「それは・・・他人との差で・・・」

「では君は自分の力が君の仲間よりも優れていると、そう自負があると?」

「それは・・・」

「君は突出した力を持つかもしれない。力が大きければ小細工など無視して解決できることもあるだろう。だが、力だけを持っていても解決できない時もある。例にすれば、君の力では対抗できなくとも、他の誰かの小さな力で事態をひっくり返せることとかか」

「でも今回みたいに対抗策が知られていない魔獣が出てきたりしたら・・・」

「確かにそういうことは今後もあるだろう。だが武技だけが力とは限らないだろう?知識もまた力になるのだから」

「でも・・・」

「私がどれだけ言いつくろっても君の不安を和らげることはできても完全に解消することはできないだろう。できるとするならば、自身の行動あるのみだ」

「私の、行動ですか?」

「知識を蓄えるも良し、まだ知らない武芸を身に着けるも良し。まだ君は先があり、選べる道もたくさんある。慌てることは無い。何かあればこうして先の人間を頼ればいいのだから」

「そう・・・ですか」

「あぁ、そうだとも。力がある者が力なき者を守らねばならないように、先の人は今の人を導かなければならないからね」

「・・・ありがとうございます」

「ところで、話は変わるのだが」

「?」

「近々古い友人が帰ってくるらしくてね。君にも会ってもらえないかと思ってね」

「ご友人ですか。どんな方なんですか?」

「とても変わり者でね。義理堅いが、自由人でもある」

その後は少しの雑談と、気晴らしに剣を交えた程度で終わった。

そして数日後。ウィリアムから連絡があり、友人が帰ってきたとのこと。

「失礼します。静音です」

「あぁ、どうぞ」

ウィリアムの部屋を訪ねると、ウィリアムともう一人、エルフの人物がいた。

ただウィリアムはエルフの先入観通りの細めではあるが体格が整った体形である。逆にも一人の人物は耳が見えなければ見間違えるぐらいの体格を持つ人物であった。

「紹介する。私の古い友人、オリオンだ」

「オリオンだ。よろしくな」

「オリオンさん、ですか。私は静音といいます」

「・・・やっぱ俺ってなんか圧迫感でも与えてしまうのかね?」

「そうではないと思う、さ」

「で、シズネだっけか。アンタが妖精剣王でウィリアムに勝ったっていう娘か」

「え、えぇ、そうです」

「はっはっは!!ウィリアム、お前ぇもついに負けるようになったか!!」

大声で笑いながらウィリアムの背を何度も叩くオリオン。

「私はもとより完ぺきではない。故に負けることもある」

「ま、剣では負けるだろうが弓じゃ俺が勝つからな」

「まだ君の弓の腕は誰にも負けないだろう」

「そうだろうそうだろう。弓聖の名は伊達じゃないからな」

「・・・弓聖の称号を返上してでも旅を選んだ君が言えるセリフ出ないと思うがね」

「弓聖・・・?」

「あぁ、オリオン以降に弓聖の称号にふさわしい弓手は王国にはいなくてね今は空白なのだよ」

「なんだぁ、もう10年ぼっち経つのにまだ出てこねぇのか」

「君が後進の育成をすればすぐに出てくるだろうに」

「だけどよ、弟子に取った奴ら全員、俺の弓すら引けないんだぜ?」

「それは君の弓が特別だからだろうに・・・」

ウィリアムが珍しくあきれた表情をしている。

「しっかし、嬢ちゃん。面白いモノ、持ってんな」

二人の会話を眺めていたら突然オリオンが狙いを定めるように静音に視線を移した。

「あぁ、彼女は」

「天の御子ってところか」

「!?」

「あぁ、驚くのも無理ないだろう。私は『心眼』を、オリオンは『穿眼』を開眼しているからね」

「で、嬢ちゃんはまだ『慧眼』止まりか。既存の眼か、新しい眼かどちらに進むかはまだわからんな」

「『慧眼』って成長するんですか?」

「あぁ、私たちも最初は『慧眼』だったからね」

「俺の眼はウィリアムほど相手の心理は読めんが、弱点を見ることができる。さっきなんで嬢ちゃんが天の御子ってことがわかったかは・・・」

「私がそれを隠していたから、それが私の弱点となってオリオンさんが見抜いたからでしょうか?」

「当たり~。いやーアイツがいなかったらすぐにでもお近づきになりたいところだな」

「・・・まだ彼女に操を立てているのかい?」

「それが俺の選んだ道だ。どれだけ言い寄られようと、幻術に掛けられようと、俺の信念は変わらんよ」

少し、場の空気が悲しい方向に向いた。

「あの・・・」

「ったく、お前が話さなければ何もなかったのによ」

「すまない。やはり気になってしまってね」

「まぁ、嬢ちゃんに事情を話すなら・・・俺には恋人がいた。だがそいつは死んじまったのさ。俺が馬鹿なことさえしなければ、見送ってやれたかもしれないのにな・・・」

「・・・当の本人がどん底に落としてどうする」

「はっはっは!!それもそうだ!!」

オリオンが暗い顔をしたかに見えると、すぐに朗らかな顔に戻った。

「ところで、今後はどうするつもりだい?」

「今後?あらかた大陸は横断したからな。何かしら見つかるとは思っていたが、アテが外れたようだ」

「ふむ・・・」

「だが、たった今見つかった」

「ほう?」

「嬢ちゃん、俺と組まないか?」

「私と、ですか?」

「あぁ、嬢ちゃんは剣士なんだろう?なら王国一といわれた弓手が近くにいたら楽だろう?」

「オリオン、彼女はすでに仲間を見つけていてな」

「なら話は早い。俺もその輪に加えてくれ」

「えぇっと・・・」

「すまない。オリオンはこうなると大抵話を聞かなくなる。迷惑はかけないだろうし、何かあれば私に言うといい。それにオリオンが君と組むというなら、君の悩みも少しは和らぐかもしれない」

「わかりました。ではオリオンさん、今後はよろしくお願いしますね」

「おう、よろしくな」

その後はクランメンバーとオリオンの顔合わせとなったが、突然元弓聖が仲間になったことにメンバーは驚愕。ただ拒むことは無く、全員がオリオンを迎え入れてくれた。




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第百八話

オリオンがクランに加入してから数日後。元とはいえ弓聖が王国に戻ったということで、冒険者ギルドから魔獣の平原への抑えとしての派遣が決まった。

最初はオリオン本人が「自分だけでいい」と言っていたものの、クランメンバーが口をそろえて仲間だからと言い、クラン全員での遠征になったのである。

「まー仲間を思う気持ちもあるけど、オリオンさんの実力も見たいしねー」

とは静音の言である。

「あー、嬢ちゃん・・・じゃなかった、俺もシズネって呼ぶからシズネも俺のこと呼び捨てでいいぞ」

「なにその・・・まぁ、いいや。オリオンってどこを旅してたの?」

「回れるところを回った。だから色んな国や部族の技術なんかも会得したぜ」

「ほー。じゃぁオリオンはクランなんかより師範になった方がよかったんじゃない?」

「師範なんてもんになったら下々まで見ないとだろ?」

「まぁ、そうなるだろうけど」

「だがクランだったら教えるのも自由だし、いざとなったら逃げだせる」

「オリオン最低・・・」

「ま、まぁ、逃げ出しはしないさ・・・」

冗談を交えつつ、フォロムへの道行を終えた。情報収集と休息に一日を使い、いざ魔獣の平原へと踏み込んだ。

「んー・・・」

「どうしたの?オリオン」

「なんだかな。寒気というか・・・ここにはあんまり来たことがないからわからんが、他の歪みがある場所と雰囲気がだいぶ違うというか・・・」

「言われてみれば僅かですが、以前よりも違和感はありますね」

「アリムスも?」

「俺ぁわからん。頭を使うのは苦手だからな」

「こういうのは野生の勘が利くと言いませんか?」

「エラムの嬢ちゃん中々にヒドイこと言ってくれるなぁ・・・」

「待った。先にデカブツがいるな」

「ん~?見えないけど・・・」

「下だ!!」

オリオンが叫ぶや地面から巨大な魔獣が現れた。

「・・・大サソリ、にしては巨大かつ体色が違いますね」

「あぁ、大サソリ自体は見たことがあるが、こいつはまた違う奴か?」

「ともかくまずは様子を見つつ攻撃をするよ!」

しかし陣形を組む前に大サソリが動いた。巨大な鎌腕を突き出してきた。

「大サソリの腕には強い毒がある。こいつぁ専門の解毒師じゃねぇと解毒は無理だ。だから決して当たるなよ!!」

「弱い属性とかある?」

「生態上砂漠の寒さと暑さには強いですが、それ以外は通るかと」

「よしきた!!」

静音は雫をしまい、代わりにそれぞれお緑と橙の色の刀を取り出した。

「一気に行くよ!!」

緑色の刀からは風の刃が舞う暴風が、橙色の刀からは激しい雷が生み出され、

二つは混じり合って雷を纏った風の刃を伴う暴風を発生させた。

雷と暴風の奔流は大サソリに直撃しさらに後方の地面すら抉った。大サソリは雷と風の刃に切り裂かれ、そして傷から感電し致命傷を負った。

「・・・大サソリばっかに注意を向けるな!!ワイルドウルフの群れが来るぞ!!」

どういった経緯があったかは不明だが、ワイルドウルフの群れが接近しつつあることをオリオンが伝える。そして大サソリは一瞬の隙をついて地面へと消えた。

「寸でのところで逃がしたか」

「いいえ。逃げてはいませんね。これはまさか・・・」

ワイルドウルフが近づいてい来ると異変が発生した。地面から大サソリの物と思われる腕が現れてワイルドウルフを掴みそして地面へと引きづり込んだのである。

「一体何を・・・」

「・・・喰らっているんです」

一度に二匹ほどのワイルドウルフを掴み喰らう大サソリ。回復できたのか、再び姿を現した。

だがその姿は体色は黒色が増し、鎌腕は膨張し巨大化。体全体も禍々しいオーラを纏っていた。

「たった数匹のワイルドウルフでこうなるとは・・・」

「こんな生態見たことないぞ」

「大型の魔獣が弱ったら近くの魔獣を喰うのは見たことあるが、ここまで変化するたぁねぇ・・・」

「今ので近寄って来ていたワイルドウルフは逃げたみたいだし、今度こそ追い詰めれば・・・」

クランの弓手や魔法使いが攻撃をしてみるも、並大抵の攻撃は受け付けないのか、弾かれていた。

「どうやら全体的に強化されているようですね」

「だが・・・後ろの方は強化されてないみたいだ」

オリオンの眼には大サソリの背部が変化してないのを確認した。

「どうやって背後を取るか、そしてその背部でも結構硬いんでしょ?」

「あぁ。だが俺の矢なら貫ける」

「後はオリオンをどう背後に回ってもらうか」

「シズネ。先ほどの攻撃はどの程度続けられますか?」

「ん~二本とも魔力は半分くらいになったからさっきと同じ程度・・・あ七金星出せばもう少し続けれるかも」

「ではシズネが暴風で気を引いている間に」

「俺が後ろに回り込んで一撃喰らわせればいいんだな」

「よし、行くよ!!」

静音はさらにもう一本の刀を取り出した。先ほどの二本の刀を大サソリに向け、そしてその二本の間に呼び出した刀を操剣術で配置。二本の刀の魔力をもう一本の刀の魔力で増幅させ、先ほど以上の雷の暴風を生み出した。大サソリは学んだのか、巨大化させた鎌腕を構えて防御の姿勢を取った。

しかし雷と風の刃が次々と鎌腕を切り裂いて傷を増やしていった。

「すげぇな。こりゃ先が楽しみだ」

余裕を持ったオリオンがそう評しつつ大サソリの背後を取った。

「シズネ!!攻撃中止だ!!」

「わかった」

静音の暴風が止むと大サソリは構えをゆっくりと解いた。だがすでに背後でオリオンが渾身の一射を構えていた。

「さぁ、我が一矢、受けてみやがれ!!」

膨大な魔力を集めたオリオンの矢が放たれた。大サソリが反応する前に大サソリの背部を貫き、頭をも撃ち穿った。オリオンの弱点を見抜く穿眼による技であった。

大サソリは頭を貫かれてはどうすることもならずただ倒れるだけであった。

だが倒れた大サソリの死骸は塵となって消えるどころか、生き返ったかの如く蠢いていた。

「ど、どうなってるんだ?」

謎の現象に恐怖するのは当然である。ただエラムだけが静かに、鋭く睨みつけ、杖を構えていた。

「シズネ、そろそろ来ます。とりあえず広範囲攻撃を用意してください」

「え?わ、わかった」

静音が緑と橙の刀をしまい、赤い刀を取り出して構えた直後。

「オォォォォォン!!」

大サソリの骸からワイルドウルフの面影を持った生物が多数現れた。

「な、なんですか、これは・・・」

「シズネ!!」

「うん!!」

禍々しい狼が現れた直後、静音も分かったのか、一気に魔力を増幅。赤い刀を振るって大サソリの骸があったところへ膨大な爆炎の波を放った。

生まれたばかりの狼の魔獣もうめき声すら上げる暇なく炎によって消えていった。

炎が収まるころには大サソリの骸も狼の魔獣も姿を消していた。

「一体、今のは何だったんだ?」

「長年旅していたが見たことがない現象だったな」

(ただ、あのエラムって嬢ちゃんだけは察していた。ただでさえ何も、名前すら見えないってのに一体何を隠しているんだ?)

ただ終わり際にオリオンの眼がエラムを捉えていたが何も得るものがないということを得ただけであった。




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第百九話

王国中の歪み周囲の魔獣が活発になり数も増えているという噂が広まり、それが事実と認められたころ。

静音は突然レオから招集を受け、魔獣掃討の遠征から外れて王都に戻ってきていた。

「送り出した手前、いきなり戻ってこいっていってすまない」

「いえ・・・」

「で、単刀直入に聞こう。君には今の状態はどう映っている?」

「どう、といいますと?」

「例を挙げるならば、歴史、魔獣の研究者は共に過去の伝承、記録から魔獣の侵攻が近いと嘯いている。

確かに過去の記録というのは情報になる。だが、もし魔獣の侵攻が起きると仮定して、過去と同じとは限らないだろう?」

「つまり?」

「実際に前線に立っていた者の意見が聞きたいということだ」

「でしたら騎士団を派遣して・・・」

「騎士を派遣したところで結局はその者たちも過去の情報を優先して本当に気付くべきことを見逃すかもしれない。だが、君は元は王国の人間ではなかったのだろう?なら王国の人間が持たない目線で物事を見ることができるかもしれない」

「えぇっと・・・伝承とかそういうのをまったく知らないので、予想とかそう言うのは・・・」

「ふむ・・・」

一つ、レオが間を取ったとき、部屋の扉が開き、ウィリアムが入ってきた。

「申し訳ありません。陛下に呼ばれていたもので」

「いい。元々無理を言って来てもらったんだ」

「静音の様子からして良い意見は出ませんでしたか」

「まぁね」

「うっ・・・」

「もとより彼女は情勢に疎いのです。少しは情報を見せた方がよろしいかと」

「そうだな。じゃぁ実際に過去の魔獣の侵攻当時に生きていた君の情報を出してくれ」

「200年ほど前になりますか。あの頃はまだ私も子供で気づいたときには魔獣の侵攻が起きていた、といった感じでした」

「ふむ・・・それは聞いたことある話だ。そういえばその時君は大人のエルフの話を耳にしたと言っていたはずだ」

「はい。姿を見せる魔獣の体色が明らかに違っていたり、塵と消えるのが遅かったりと。当時の大人は不審がっていました」

「今君は前線に出ていない。シズネ、前線の魔獣に同じような点は見えたか?」

「はい。私の仲間がその点に疑問を持っていました」

「その者は、人間か?」

「はい」

「・・・」

「どうした、ウィリアム?」

「いえ、何でも」

「まぁいい。確か今日は父上を主として事前対策の会議だったな。どうだった?・・・まぁ、呼ばれた面子を考えれば想像はつくが・・・」

「不敬を知って言いますが・・・悲惨としか言いようがありませんな」

「?」

「今日集められたのはまず、戦士として経験のあるウィリアム。それから王国を主とした魔獣や歴史の研究者。そして王国の端に封土を持つ貴族たちだ。ウィリアム。ここは誰も近づかせていない。おおよそ

貴族たちは自分の領土の防衛を主張したのだろう?」

「・・・はい。歪みを研究する者たちも文派がありますからな。おそらくそれぞれを抱き込んで侵攻の原点を推測・・・憶測させどの貴族も己が封土に近い場所だと主張し会議は平行線に・・・」

「やはりな。過去に起こった魔獣の侵攻はどこも原点はバラバラだとは言え、まさかこんな愚行をするとは・・・」

「殿下は今の情勢をどこまで把握しておいでですかな?」

「大抵のことは。王国中の歪み付近の情勢は把握しているが、おそらく情報が集まる場所と言えば王宮以上の場所はそうないだろう。その点からみて、東と西の両端が変化が激しい。特に東は原因が不明だからこそより怪しい」

「東というと・・・歪みは確認されてなく、魔素が多いから魔獣が来ているんでしたっけ?」

「おや・・・そういえば君は開拓団の依頼を受けたんだっけか、その時に識者から聞いたのかい?」

「えぇ・・・その、東のことなんですけど」

「何か疑問でもできたかい?」

「その、実際の場を見たことがないのでわからないんですが、歪みがある、もしくは発生する条件にその場の空間は関係しているんでしょうか?」

「・・・いや。まず直に歪みが生まれたところを見たことがあるような人物は聞いたことがない。それに魔獣がいる場所には歪みがあるのは当然だ。だが東だけは特殊だと見るのが一般的な意見だったが・・・」

「何時かは忘れましたが、一人の研究者が歪みは必ずとも地面の上にできるものではないと証した者がいたと小耳にはさんだことがありましたな」

「どれくらい前のことだ?」

「4,50年ほど前ですか。ですがすぐに有識者が否定したはずです・・・が、今思えば少し固定観念に囚われていたのかもしれません」

「まさか本当に地面の下に歪みがあるから東にも魔獣が出現していると?」

「あの・・・東に迷宮とかは無いんでしょうか?」

「迷宮・・・いや、もともと東の土地は生産性も薄く、伝承に残っていることもないから研究する者もほとんどいないはずだ。それに調査すら最近行われて開拓地が増えたところだ」

「もし、地面の上にしか歪みが生まれないとしても、地下にある迷宮の地面の上に歪みがあるとしたらどうでしょうか・・・?」

「否定はできないな。なるほど。一般常識を知らない君ならではの発想だ。あぁ、貶しているわけではない。ふむ・・・となると東にも歪みがあると仮定した方が情報統制しやすいか」

「しかしそうなると領土防衛を主張しなかった東側の貴族も声を上げてしまう可能性がありますが・・・」

「そこだ。過去の魔獣の侵攻は何も一路に限定されていない。一路からの断続的な侵攻。同時に多方面からの侵攻。時間差での多方面からの侵攻。予想できる例は全て悲しいが踏襲している」

「北の情勢はどうなっていますか?何分最近は王都にいるよう言われている身でして」

「北か。戦線国には大きい異常は出ていないと聞く。こちらで起こっているほどの魔獣の活発化は確認されていないが、まったく活発になっていないというわけでもない。山脈の方は・・・元々手が付けられない土地だから情報はほぼ無い」

「西から魔獣の群れが出たとして、東に出れば目的はここになりますか」

「そうなるだろう。魔獣にどれほどの知性があるかはわからないが、歪みを生み出せる可能性を持つ魔族がいる以上油断はできん」

「東西で行動を起こし最上位の戦力を持つ王国を封じ、北を動かして本命の戦線国を落とすとされると厄介ですな」

「あの、戦線国って?」

「あぁ、王国の北。大河を超え大森林地帯を抜けた先に一つの小国がある。対魔獣の勢力がお互いに支援して作った戦うための国。そしてその先に・・・」

「魔王の領域があるんだよ」

「魔王の・・・」

「王国南西を本拠とするエルフ、そして西から扇状に国が多数ある。逆に東にはほとんど国がない。だが特に北西に位置する国からすれば魔王の領域に壁がないと支障をきたす。そして北西を魔王に取られると勢力を増やされるのは明らかだ。故に多数の国々が魔王の視線をそらすために戦線国を作ったというわけだ」

「逆に戦線国が落ちれば反魔獣の壁が減るのは当然だ。特に北西は顕著だ。だから様子見もあまりできないわけだが・・・」

「・・・北を動かされるととウィリアムさんが言っていましたが、北には戦線国以外に何かあるんでしょうか?」

「あぁ。戦線国から南東。こちらからいう北東の位置に確認されている歪みで最も大きいものがある」

「最大の歪み・・・」

「そしてその土地は特に荒廃が激しく気温の変化も激しくとても人が住める環境ではない。故に調査すらできなく静観するばかりというわけだ。だが最大の歪みがあるということは一定数以上の魔獣が生まれている可能性がある」

「だから様子見ができないわけですか」

「現状、今王国が東西から挟まれたらまず王国の動きは封じられる。西側からの援助もまず元の西の歪みに近寄らならなくてはならいから頼りにはできないし、事前に求めることも理由が薄くて無理だ。だからもし最悪北の大歪みにまで動かれるとマズイわけだ」

その言葉で部屋の雰囲気は静まり返った。

「だが収穫がなかったわけではない。ウィリアムの記憶にある識者の説とシズネの説が正しければ東の対処の理由は増えて楽になる。二人とも、足労感謝する」

レオのその言葉で今日の話は終わりになった。




話が溢れたので先投稿です。評価やコメントでの感想を頂けると投稿者が喜びます。


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第百十話

フォロムに戻った静音は再び魔獣との闘いに身を投じていた。日に日に増える魔獣との終わりの見えない戦い。それに嫌気がさしてフォロムから離れる冒険者もいれば、稼ぎ時だとやってくる冒険者もいた。

だが出てくる魔獣は強くなるばかりで、舐めてかかった冒険者が返り討ちに遭うことも増えてきていた。

そんな中、歪みの方角からフォロムへ向かって大規模な魔獣の群れが侵攻していると情報が伝わった。

フォロムはすぐに駐在している冒険者を招集し防衛の態勢を取った。

魔獣は足の速いワイルドウルフを先頭に、ミノタウロスが戦線を支えるように続いていた。

ワイルドウルフは倒せても、数が揃ったミノタウロスには生半可な実力では太刀打ちできない。

その中で頭一つ抜けて武勇を見せる集団がいた。静音率いるアイアン・イグニスのメンバー達である。

静音を筆頭にオリオン、そしてエラムの三人が特に目覚ましい活躍を見せていた。

静音の変幻自在に現れる刀が魔獣を正面から両断し、

オリオンの強弓から放たれる剛矢が魔獣の急所を確実に貫き、

エラムの見たこともない大規模広範囲の魔法が魔獣の後方を薙ぎ払っていた。

静音とオリオンの実力は過去が証明してくれているが、エラムの魔法に至っては日に日に種類や威力が変化していて、不明なままである。

魔獣は不明だが、人間は疲労にも限度がある。だが襲ってくる魔獣も減ってきていてあと一押し、誰もがそう感じていたその時だった。

「な、何か奥にデカイ影が・・・」

誰がそう言ったかはわからない。だが戦場全体に響き渡る轟音とも呼べる咆哮が轟いた。

「ただのデカブツの咆哮じゃねぇな。何つーか複数の咆哮が重なった感じだ」

「と言うと複数の大型が出たってこと?」

「いえ、そうではないようです」

エラムが指さした方角に異様に高くそびえたつ影が三つあった。

「三つの影・・・まさかとは思うが・・・」

「嫌な方の伝説の登場のようです」

「嫌な方の伝説?」

「伝説の魔獣、ヒュドラのお出ましです」

三又に分かれた首それぞれが眼下にいる人間全体を見下ろしていた。

「っ?」

そして一瞬だが静音はヒュドラの首三つと同時に目が合った気がした。

そしてヒュドラはすぐに行動を開始した。三つの頭を地面に突き刺した。

「っ!!全員急いで全ての魔獣から離れてください!!すぐに!!」

「どうしたんだ急に慌てて」

「いいから離れますよ!!」

エラムは慌てるようにして皆に魔獣から離れるよう促した。元々伝説のヒュドラが現れたと広まった瞬間逃げ出すものも多く、残っている冒険者もエラムの慌てた様子を見てか、それとも勘からか、魔獣から離れていった。

そしてその刹那。残っていた魔獣が動きを止めた。

「な、なんだ?離れるどころか今がチャンスじゃねぇか!!」

一部の冒険者が魔獣が完全に凍ったように動かなくなったのを見て魔獣に接近。

すると突然魔獣が爆発したのである。

「ひっ・・・ひぃぃぃ!!」

僅かな恐怖だろうと、未知の恐怖は伝播しやすく、瞬時に冒険者勢は潰走し始めた。

「どうする?退くなら今だが・・・」

「さすがにヒュドラを放置しているなんて選択肢はないでしょう」

「倒せる方法はあるの?」

「ヒュドラの伝説は?」

「確か『首の数だけ強く、そして一つ首を落としても再生する。それは核となる部分が絶えず体中を移動している』からだったか?」

「そうです」

「あ、オリオンの穿眼だったら」

「あぁ、確認できてる。だが移動が点々としていて狙いを定めている間に動かれると無理だな。だが、核っつーのが移動するのは頭か胴体の四か所だけっぽいな」

「そこで提案です。三人がそれぞれ頭を吹き飛ばし核の移動場所を制限し、残った胴体の核を討つ。どうでしょう?」

「どうっつたって伝説の魔獣なんぞの対処なんてわからん」

「よし乗った」

「いいのか?それで」

「こんな時に場違いな提案なんてしないでしょ」

「俺たちはどうすればいい?」

静音、オリオン、エラムの三人の行動は示されたが、残ったクランメンバーとわずかな冒険者たちは逃げずに残っていたが何をすればいいかわからないままであった。

「皆さんは近づいてくるであろう魔獣の迎撃をただし足を止めたら・・・」

「爆発するんだったな。わかった」

「あんまり言いたくはないが・・・オリオンが名のもとに過去の伝説を討つ!!」

「「「おおおおお!!」」」

元とは言え王国随一の弓手である弓聖であったオリオンの号令の下、残った冒険者は動き出した。

できる限りヒュドラへの道を切り開くべく、一条の形で魔獣の群れに突撃した。

「みんなは動き出したけど、私たちはどうするの?」

「静音は妖精剣王の魔力で、オリオンさんは放てる最大の攻撃を両方とも遠距離で用意してください」

「わかった」

「おう」

三人がヒュドラめがけて攻撃を用意し冒険者が一丸となりつつあったその時。

「っ!!先に動かれましたか!!」

ヒュドラの頭がひと際大きい魔力の塊を作り始めていたのである。

「やべぇ。似たようなものは見たことはあるが、ありゃデカすぎる。全員ヒュドラの正面から離れろ!!」

オリオンが警鐘を鳴らすも、合わせたように魔獣たちが進路を妨害し始めたのである。

「ダメ!!」

「静音っ!?」

間に合わないと悟ったのか、静音は唐突に冒険者たちの最前列へと飛んだ。

「いくよ。同調、開始」

用意していた攻撃を切り替えて、雫に魔力を流し始める。それと同時にヒュドラが作り出した魔力の塊を冒険者めがけて放った。

「っ!!」

だが静音も準備していた妖精の魔力で作り出した塊を刺すようにしてぶつけた。両者は中間地点で衝突し巨大な爆発を生み出した。余波で衝突地点付近にいた魔獣が被害を受けたが、冒険者への被害はなかった。

「た、助かった・・・」

「静音っ!!」

「ったくすっげぇ無茶しやがるな」

静音の横に遅れてエラムとオリオンが立った。両者ともに攻撃用意はできている。

「結果ですが道は開けました。今がチャンスです!!」

「おう!!」

「うん!!」

三人は攻撃方法を中距離に変更し、一気に仕上げにかかった。ヒュドラも同時に魔力の塊を生成し始めたが今度は三人が早かった。

「やぁ!!」

「我が眼が全てを見抜き、我が矢は全てを貫く!!」

「我らが同胞が練り上げし秘術、とく受けよ!!」

「え、二人してなにそれ・・・」

ともかく三人の攻撃はそれぞれがヒュドラの頭を撃ち抜いた。撃ち抜かれた痕から腐り落ちるように首が消え始めた。

「うまくいきましたね。後は胴体ごと核を・・・!?」

だがそんなに上手く事は進まなかった。

「なんだよ・・・あれは・・・」

「化け物・・・化け物だ・・・」

残ったヒュドラの胴体から突如巨大な口が出現したのだ。

「何をするかわかりません。退避してください!!」

エラムに言われなくとも再び冒険者たちは距離を取った。それとすれ違うように魔獣たちがヒュドラの胴体にできた口の中へと体を投じていった。

「こいつも魔獣を喰らいやがった・・・」

「あっ・・・首が・・・」

そして今まであった首は全て腐り落ちた。しかし再生するかの如く新たな首が生えてきた。

だが、生えてきた首は三つではなく、九又に分かれていた。

「首が増えた・・・エラム、こんなことってあるの?・・・エラム?」

「馬鹿な・・・首が再生するのはともかく、増えるなんてことは・・・」

ヒュドラの変化にエラムが謎の焦りを見せていた。

「こんなことが起こるのは・・・先祖返り・・・始祖の血!!」

「エラム、どうしたの?しっかりして!!」

「・・・すみません。ですが・・・あのヒュドラは・・・」

「何かわかったの?」

「もともとヒュドラは全く人目に現れないから伝説とされるのです。ですがあのヒュドラは・・・

伝説にすら残っていない、始祖のヒュドラに近づきつつあります」

「始祖の・・・ヒュドラ・・・」

静音の前に始祖という伝説にすら残らなかったという存在が現れたのであった。




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第百十一話

エラムがそう呼んだ始祖のヒュドラ。この場にいる誰もがその意味を理解できないでいた。

だが目の前の魔獣が今まで戦ってきた魔獣の何十倍も脅威であることは本能的に感じていた。

故に、足が震え、武器を握る手も汗が増えていた。

「なぁ・・・伝説にすらない魔獣って、どうすりゃ勝てるんだよ・・・」

「もう・・・無理だ・・・ここで、死ぬんだ・・・」

「あきらめるんじゃねぇ!!伝説は、その偉業は、成しえた残っているんだ!!失敗することを考えるんじゃねぇ!!」

既に敗北の空気と化していた。オリオンが必死に激を飛ばすも、抑えることはできないでいた。

「・・・ここが潮時のようですね」

「エラム?」

「皆さんすぐさま戦線から離脱を。幸い魔獣は全てあのヒュドラが吸収したので追手は無いでしょう」

「・・・エラムはどうするのさ」

「あたり一面ごとヒュドラを消します」

「すげぇ・・・まだそんな手札が残っているのか!!」

「えぇ。ですがかなり広範囲ですので皆さんに残ってもらうと使えないので・・・」

「・・・わかった。でも無理はするんじゃねぇぞ」

そう言って冒険者たちの足取りは軽く、町へと退避していった。

ただアイアン・イグニス、特に静音がエラムのことを訝しんでいた。

「何をしてるんですか?早く静音たちも撤退を」

「エラムは・・・エラムはどうなるの?」

「どうなるって・・・どういうことだ?」

「だってエラムの眼がおかしいんだもん!!なんか今まで見たことない目をしてる。まるで・・・何かを覚悟したような目を・・・まさか!!」

「・・・なんです?」

「オリオン!!今すぐエラムを見て!!エラムがどういう攻撃をするのか心を読んで!!」

「あぁ・・・悪いんだがそれはできねぇ。俺より嬢ちゃんの方が強いからなのか見えねぇんだ」

「えっ?」

「まず女性の心を読むなんて真似はあまり好かれないですよ?」

「そんな冗談を言ってる場合じゃ・・・」

そんな話している間に完全に出没前以上の力を手に入れたヒュドラが攻撃の態勢に入った。

今度は首九つで魔力の塊を作り出した。

「なんつー魔力の濃ゆさだ・・・」

オリオンですら唖然としてた。

「もうあれを相殺する術は一面吹き飛ばすしかありません・・・だから・・・」

「エラム・・・」

「・・・さよならです」

すぐさま見たこともない魔法陣が築かれると、そこから風が吹き荒れた。ただし危害を加えるのではなく、強引に残った者を離れさせるものだった。

「っ!?」

だが一瞬静音の行動が早かった。エラムが杖を向けた瞬間、静音も刀をエラムに向けていた。

御前試合準決勝時に使った相手の敵意・害意を消す妖精剣王の力をエラムに向けていた。

だから静音だけはその場に残っていた。

「静音!!どうして!?」

「だって、さよならなんて言われたら・・・誰でもわかるよ」

「っ!!」

「エラム、自分の命、賭けるつもりでしょ?」

「それしか方法が!!」

「あるじゃん。頼ってよ。オリオンより強いってのなら私の力なんて微々たるものだろうけどさ。私たち、仲間じゃん」

「っ・・・本当に、あなたという人は・・・」

「どう?私の命も賭けても変わらない?」

「・・・あなたがどれだけ命を賭けようと状況は変わりませんよ」

「・・・そう」

「あなたはいつも通り、破天荒に、静音らしく、堂々と戦ってください」

「!わかった」

静音は最大限の力を発揮するべく、七本の刀を呼び出した。以前使ったときはまだ実証が甘かったから相手まで強化してしまったが今度は違う。静音の背後に六本三対を羽のように、一本を垂直に配置して静音自身だけを強化できるように結界の範囲を静音の近くに固定した。

六の属性と増幅の魔力。そして妖精の魔力が合わさり、静音の纏う桃色のオーラは輝きを増していた。

「静音。今の私にはあの攻撃を防ぐ術は一面を吹き飛ばすこの一手しかありません。ですから・・・」

「大丈夫・・・だと思う」

「信じていますよ」

静音が妖精の魔力を使うほど、静音のオーラは増していった。ただ問題があった。

「刀の様子がおかしい・・・」

そう、雫の様子がおかしいのであった。莫大な魔力の凝縮に耐えきれそうにないのか、何か様子がおかしかったのである。それは他の刀を同じであった。だがやっていることはウィリアムと戦った時とほぼ同じである。原因不明は気持ち悪いが、今はヒュドラの攻撃を迎え撃たなければならない。

ヒュドラが魔力の塊を放出したのに合わせて、静音も雫から撃てる最大の一撃を繰り出した。

ヒュドラの攻撃が一つの塊なのに対して静音は継続的に魔力を放出していた。だがそれでもヒュドラの魔力の塊は強く、静音の方が押されていた。

「くっ・・・」

徐々に押されていく静音。放出するのに耐えきれそうにない足腰。既に今の静音は限界であった。

「守りたいんだ・・・仲間を・・・町のみんなを・・・。ここでコイツを倒さないと大勢の人が死んじゃう。だから・・・力を・・・力を貸して。お願い」

誰に語り掛けるでもないただの独り言。だが、聞こえていなかったわけではない。

身近な存在が、答えてくれた。

「!!・・・刀が」

手に持つ雫が、後ろにある一から七の数字を付けた星の刀たちが、言葉どころか意思疎通すらできないただの道具だと思っていた刀たちが、実際に何かを伝えるかのごとく輝きを増していた。

「そっか・・・私なりに心を込めて作ったんだもんね。本当に心が宿ったんだ。ありがとう。

力、借りるね」

その言葉と同時に背中に配置した三対の刀が巨大なオーラの羽根を、増幅の刀がオーラでできた結晶を作り出した。雫も妖精剣化してさらに輝きを増した。それは本当の意味で静音が妖精の力を、羽根という妖精の象徴を現した瞬間であった。

「これなら!!」

一瞬にして静音の魔力放出は勢いを増してヒュドラの魔力の塊を消し飛ばした。だが静音はヒュドラの攻撃が消えると自分も魔力放出をやめた。

攻撃を迎撃できたのなら、今はヒュドラの討伐以上に優先するべきことがあったのだ。

一瞬刀の配置を解いてみた。すると刀たちは操剣術で操ってるわけもないのに浮遊し、意思を持つかのように静音の周りを漂っていた。時折何かを表すように刀身を揺るがしていた。

「ほんと、気づくのが遅かったなぁ・・・でも、気づけて良かった。気づかせてくれてありがとう」

「あなたは・・・どんな時でも刀を愛し、刀に愛されているんですね」

ただ見守るだけのエラムは懐かしむような目で変化した静音を見ていた。

だがヒュドラが消滅したわけでもない。ヒュドラは自身の先の攻撃が通用しなかったのを見て、さらなる一手を繰り出した。九つの首に加えて体にできた大口まで使って魔力の塊を作り出そうとしていた。

「静音!!」

「うん、大丈夫だから。みんな、行くよ」

静音が操るまでもなく、刀たちは自分の配置についた。

静音は雫を構え、三対の刀身から生まれた羽根はさらに伸びて、構えた雫に合わせるかのように先端をヒュドラに向けた。そして増幅の刀が生み出した結晶からあふれる魔力が全てを支えていた。

静音はヒュドラがやったように自分も雫を持つ手だけでなく、伸ばした羽根も使って雫に魔力を集め始めたのである。

「うん。やっぱり刀は最高だ」

準備が完全に整った静音。最高潮に凝縮された魔力が雫の中で今か今かと待ちわびていた。

ヒュドラの最大の攻撃が放たれるとともに静音も溢れんばかりの魔力を放出した。

静音の攻撃は一瞬でヒュドラの放った魔力の塊を消滅させて、ヒュドラ全体を飲み込んだ。

「はぁぁぁぁぁぁ!!」

声とともに魔力の放出量は増していき、ヒュドラの首が消えていった。

だがどれだけ力を加えても、ヒュドラの身体は傷つけられないでいた。

「そんな・・・」

「大丈夫」

静音の膨大な魔力放出でも傷がつかないヒュドラの身体。エラムが杖を構えるがそれを静音はすぐさま静止する。

「次は、これだ!!」

静音が雫を上に掲げると、妖精を象っていた刀たちが合わせるようにして雫の周りを周回するようにして浮遊し始めた。七本の星の刀の回る速度は段々と増していき、それに伴って雫が生み出す妖精剣が大きくなっていった。

そしてさらに七本の刀は頭を雫に向けて、垂直に向きを変更。それは巨大化する妖精剣の鍔のようになっていった。静音は雫を持つ手を構え、一気に魔力を流す。空にすら届かんばかりに巨大化した妖精剣を構えた静音。

「これで・・・終わりだぁぁぁ!!」

いまだくすぶって首の再生に喘いでいるヒュドラの身体にめがけて巨大な剣を振り下ろした。

巨大妖精剣はヒュドラの身体を切り裂いて、さらに追撃に魔力放出を繰り出し、切り裂かれたヒュドラの身体へと追撃をした。分厚い表皮に守られていた核も両断され表皮に守られていない内側から攻撃をされればなすすべもなく、核は砕かれて、ヒュドラの身体は完全に崩壊し始めた。

「どう?」

「私たちの勝ちですね」

ヒュドラの身体が崩壊し始めたのを見て静音はエラムに様子を伺い、エラムは太鼓判を押した。

それを聞いて静音は構えを解除した。

「勝てたよ。みんなのおかげで」

勝者の静音は愛する刀たちと戯れていた。




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第百十二話

王都では悲報と朗報の両方が混じり合い特殊な活気を生み出していた。

フォロム付近に現れたという伝説の魔獣、ヒュドラ。元弓聖オリオンが立ち向かうも、

数多の試練にさらされ行く手を阻まれた。だが妖精剣王がこれを見事討伐した。というのが王都に流れている噂である。

民は口々に英雄譚を喜ばしいように話すが、王国上層部は頭を抱えていた。

本格的に魔獣の侵攻が見えてきているからである。それどころかヒュドラが出てきている時点でもう始まってしまっているのかもしれないという意見まで出てきている。

先兵として伝説の魔獣が出てきている以上、今回の侵攻は予想だにしない規模になるという恐怖があった。

ただヒュドラの頭が増えたという事実はほとんど伝わっていなかった。戦っていたのが静音のクランとわずかな冒険者たちだけで、そういう人物は自ら喧伝するような気質は持っていないからであった。

「ねぇ、エラム」

「・・・なんでしょうか?」

「始祖って何?」

王都の噂など知らず、静音たちはフォロムの町で先日の戦いの疲れを癒していた。ただ静音は気になることがたくさんあったため、その発言をしたエラムに聞いてみたわけであった。

「・・・あなたはまだ知らなくていいことです」

「まだ?よくある含みのある言い方だけど・・・じゃぁエラムがやろうとしていた広範囲の攻撃は?」

「それは話せません。話すだけでも危険ですので」

「呪いかそういった類を使うの?」

「まぁ、似たようなものです」

「・・・エラムっていくつ?」

「この流れで答えるとでも?」

冗談を交えつつ質問してみるも、まったく相手にされなかった。ただエラムの反応は嫌そうではなく、ただばつが悪そうな感じであったのがまた疑問を膨らませるのであった。

ただ別の変化もあった。静音の刀たちが意思を持ったかのように動くのであった。

雫と七本の星刀がそうであった。逆に時雨はなぜかまったく反応を見せてくれないままであった。

静音からすればどの刀も心を込めて打ったはずであるのに時雨だけ何もないということに悲しさを感じていた。まぁ、反応をよこせということ自体業があるような考えにも見える訳なのだが・・・。

ただ刀たちが意思?を持ってから刀の性能も上がっていた。これは静音の考えていなかった嬉しい誤算であった。それにヒュドラ戦で使った妖精のように変化したこと。これは一体どういう原理なのか不明なままであった。

ただ何かを知ってそうなエラムは答えてくれそうにないため、ファティを呼んで妖精郷に連れて行ってもらった。

『なるほど・・・妖精剣王に』

「それで実際はどういったものなのか知りたくて。でも伝説としか伝わっていなくて・・・」

『私たちの間でも妖精剣王は伝説として残っています。ただこれは伝わっていないでしょう。初代勇者。この者が最初の妖精を生み出し、妖精剣王と呼ばれるようになったと』

「え!?勇者が妖精を生み出したんですか?」

『はい。そう伝わっています』

静音の認識では妖精は自然から生まれたと思っていたのが実は勇者が生み出したという事実。これはさらに静音を困惑させた。

「一体どうして私が妖精剣王・・・初代勇者と同じ力を・・・?」

『それは・・・あなたも妖精に縁があった、としか考えようがありませんね』

「縁、ですか」

『過去にも勇者と呼ばれた人が妖精と触れ合うも、妖精剣王と化すことはありませんでした。一体どういう理由なのかは不明なのですが、そう落胆することは無いでしょう』

「そうですか・・・。いきなり訪れたのにその上色々とありがとうございました」

収穫はあったが、別の謎もまた得てしまった。

眠りから目覚めた静音。ただ今日は妙な胸騒ぎがしていた。朝の空気を吸ってもいつも味わう新鮮さが無い気がしていた。

「静音」

「あ、エラム」

後ろから声をかけられるも、声をかけたエラムの顔は今までに見た中で最大に真面目な顔付きだった。

「始まりますよ」

「・・・聞きたくないけど、何が?」

「魔獣の侵攻です」

災厄とされる魔獣の侵攻の開始。それがエラムの口から告げられたのであった。




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第百十三話

始まった魔獣による侵攻。フォロムにいた一部のクランが王都に招集された。その中に静音たちもいた。

だが集められただけで防衛に出されるわけでもなかった。集められた中では今後を憂う者や戦いはまだかと言う者が多かった。

そんな中、静音はレオに呼び出されてレオの宮殿にいた。その部屋にはウィリアムとオリオンも同席していた。

「あの・・・防衛は大丈夫なんでしょうか・・・?フォロムも魔獣が近づいているんですよね?」

「報告によればそうらしい。だが王国の野戦築城技術は群を抜いている。一週間程度は持ちこたえてくれるだろう。それよりも・・・」

「他国はともかくとして王国内の足並みがそろうかが問題だな」

「こんな時に足並みを崩す人が・・・?」

「案外際どいところを突くものだ。今王宮ではどこを重点的に守るかで論議が続いているのだろう」

「お貴族様は自分勝手だからな」

「こんな時に・・・」

「待たせてすまない」

待っているとレオが不機嫌そうな顔を隠さずに入ってきた。

「その顔を見るに、大方の予想はつきますな」

「あぁ、あえて言うが、まず戦線はめちゃくちゃになるだろう。予想通り南以外の三方向からの侵攻。進んでいる先はここ、王都で間違いはないという点では意見が合った。だが・・・どこを重点的に守るか、それで無駄な時間を付き合わされた」

「それで、どうなさるおつもりで?」

「父上は軍との会議中だ。その間にこちらで先を行く」

「?」

「静音。それぞれ一方面を任せてもいいだろうか?」

「そうきましたか」

「え゛!?」

唐突な司令官への任命。静音はあまりの唐突さに頭が追い付いていなかった。

「えぇっと、防衛の戦力はどこから・・・」

「もっともな意見だ」

「冒険者に徴兵とかってないんですか?あったら軍の方に・・・」

「徴兵なんてない。他国との戦争なんて普通あり得ないからな。冒険者は依頼を受けて動く。なら先に依頼を出して雇えばこちらの戦力として使えるというわけだ。だが正直王国の冒険者と各方面に派遣された軍の数じゃ正直足りないだろう」

「その点なら上手くいくかはわからないが、手が無いことは無いぜ」

「オリオン、本当か?」

「ヨムスヴォルグ。あいつらを動かす」

「ヨムスを?彼らは王国とは仲が良いとは言えないが・・・」

「あいつらが住んでいる土地は北の魔獣の侵攻地点に近い。自分らの土地を守るついでに数を減らすのに協力してもらうってわけだ」

「だが、王国で彼らとの知己を持つのは・・・」

「俺が会ったことがある」

「わかった。なら交渉役を務めてもらっても構わないか?」

「あぁ。そうじゃないと提案しないさ。というわけで、少し時間を貰うな、団長」

「あ、うん。わかった。でも魔獣の大群の近くに行くってわけなら気を付けてね」

「承知の上さ」

「これで北方は少し余裕ができた。だが実のところ、北方が一番層が厚いらしい」

「ところで、まだ暫定ですが、一方面は私が。あとの二方面はどなたが?」

「当然俺が行く。言い出しっぺが出なくてどうするってのさ。それからもう一方面は父上が編成するであろう王国軍に出てもらう」

「戦力の分配はいかがしますか?」

「ふむ・・・ラークを連れていく。これだけで戦力も士気も上がるだろう」

「それだけでは足りませんな。最低でも質も数も上でなければ。あなたは王国唯一の後継者。何かあったときでは遅いのですからな」

「だが王国自体が無くなっては俺はただ出が良いだけの男になってしまう」

「なんといってもこれは譲れません。私も殿下の指揮下に入ります。静音もそれでいいかい?」

「えぇ。王子を危険に晒すことはあってはならないでしょう。戦場に立ってもらわなければ別ですが」

「痛いところを言ってくれる。だが静音のところにも戦力を充てなければならないだろう。指揮官なんてやったことないだろうし」

「そ、そうなんですが・・・オリオン、そこんところフォローしてくれない?」

「なんとも難しいことを。まぁやれるだけやるさ」

「だが正直なところ、オリオンがヨムスを交渉で引き入れたとしたら、言い出しっぺのオリオンがいるところにヨムスが行くことになる。そうなると・・・」

「一番危険なところに私が行くことになるんですね」

「そうなる。辞退するなら今のうちだ」

「いえ、一番にお誘いを受けた以上、断るわけにはいきません」

「君みたいな貴族がいてくれれば、心強いんだが・・・君が味方で良かったと心底思う。だが、ちゃんと対抗する術はあるのかい?最悪の場合、ヨムス無しで北に行くことになる」

「でしたら・・・勝った暁には大量のお菓子を用意してもらえませんか?」

「菓子・・・?まさか子供まで!?」

「いや、そうか。君の縁か」

「どういうことだウィリアム」

「妖精の力を借りるんです。先立って女王から助力について理解を頂きました。これで妖精の助力を得られます」

「だが妖精自体は非力な存在だ。契約してこその存在。今から契約者を探すというのかい?」

「いえ、そうではなく・・・」

そこで静音が発案したことは妖精郷に入ったことがある者しか知らない事実。静音は隠すところは隠して実用案だけを言った。

「なるほど。だが準備は間に合うのか?」

「ですので出発ギリギリまで工房に籠ることになりますね」

「わかった。菓子の方はこちらで用意しよう。後は戦力の依頼はこちらでやっておく。引き入れるところがあったらできるだけ集めてほしいところだ。ともかく、よろしく頼む」

レオの宮殿で行われた一歩先を行く会議。王国内で唯一足並みがそろった集団が生まれつつあった。




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第百十四話

「え、団長が指揮官に?」

静音が対魔獣侵攻戦で指揮官任命されたという事実はアイアン・イグニス全体に当然ながら衝撃が走った。

だが、過敏な反応を示した者がいた。

エラムである。指揮官になった、そう聞こえた瞬間、静音に詰め寄った。

「え、えっと、なんかマズかった?」

「静音。最上位の指揮官はあなたになるわけですか?」

「えぇっと、軍の編成次第だけど、一番上になる人は軍の方から来るみたい。だから私はお飾りだと思うよ?」

「・・・指揮官の事を聞いたとき、すぐに理解できましたか?」

「ん~そういえばすぐに飲み込めたような・・・」

「・・・思ったより同化が早いですね」

「同化?」

「気にしないでください。それよりも、大分上の立場になったということは、私たちの負担は多そうですね」

何か話を逸らされた気もするが、とりあえず静音は不安要素の方を先にすることにした。

「エラム。魔獣の侵攻について何か知ってるなら助言が欲しいんだけど。特に規模と質について」

「そうですね・・・始祖に近いヒュドラを倒せた時点で質に関してはイレギュラーが無い限りは大丈夫でしょう。ただ問題は数です。具体的に言うなら・・・一人換算で通常のスタンピードの10倍ほど相手取ることになるでしょうか」

「ひ、一人でスタンピードの十倍・・・?」

エラムの一言でクランハウスが凍り付いた。そんな発言をしたエラムを静音はヘッドロックしてこそりと話しかける。

「ちょっと。みんなの意気を削いでどうするのさ」

「逆にそのことで動じないあなたが異常なんです。あなた、常識と感覚が麻痺してきていますよ。これは危うい兆候です。気を付けてください」

なぜか逆に説教を受けてしまう。

「と、ともかく同時に相手にするわけじゃないと思う・・・そうだよね?」

「戦場次第です」

「きっぱりと不確定要素でトドメ刺しに来ないで?」

「隠したところで益はありません。より一層慎重に臨むことこそ重要なんですから」

「・・・とりあえずみんなも不安がらずにね。そもそも全ての侵攻が同じ規模とは限らないから」

「・・・それ、暗にイレギュラーが起きたらの不確定要素で不安爆上がりですよ?」

「あ゛っ・・・じゃ、じゃぁ私は準備があるから・・・それじゃ!!」

トドメを刺した張本人が脱兎のように逃げた後のクランハウスの空気はそれはもう酷い有様であった。

だが一言、その言葉がさらなる問題を引き起こした。

「規模が馬鹿みたいに大きくともさ、この前のヒュドラ?みたいなのが出てこないんだったら大丈夫じゃね?団長がいるしさ」

「そうだな。団長がいればなんとかなるだろ」

シズネがいれば。そんな一体感が生まれているのは静音への信頼の証でもあった。

「何馬鹿なこと言ってるんですか」

だがその言葉はエラムの癪に障ったのか、かなり不機嫌であった。

「『団長』がいれば大丈夫?一番誰よりも自分の命を簡単に賭ける人が安心できる?そんなわけ無いでしょう。もし静音が戦闘できなくなったら終わりということですよ?」

「うっ・・・それはそうだが・・・」

「まぁ、エラム。そう言葉を荒立てるな。案外言葉足らずなところもあるのだな」

だが空気が不穏になったとき、リーシャが助け船を出した。

「シズネを拠り所にするのもいいが、自分の力を第一にしないでどうするというのだ。時間はどれだけあるかはわからんが、最後まで自分を高めないでどうするというのだ」

「あ、あぁ。そうだよな。できるだけ鍛えておかないとな」

リーシャの言葉でクランハウスの空気も良い方向へと変わっていった。

「ありがとうございます」

「何、古参の付き合いというものだ」

そして当の静音は工房の製鉄炉用に作ってもらった場所でアルとミーナに鉧から大量の玉鋼を削り出してもらっていた。使う鉧は以前聖剣復活に用意した特別な鉧であった。

静音の刀が意思?を持ったことの根拠について、一つ考察ができていた。

それは使った鋼の種類である。雫は別として、時雨は普通の玉鋼から打ったが、七本の星刀は特別仕様として聖なる鋼を使ったのである。今のところわかるのはそれだけである。

ただ静音がいた世界でも言われていたようにこの世界でも妖精は鉄を嫌う。

だが雫と七本の星刀に関してはファティが嫌うそぶりを見せなかった。むしろ好んで触れるくらいであった。

だから静音は聖なる鉧から削り出した玉鋼をファティに触れてもらったところ、好感触を得た。

その事実を元に静音はこの鋼を利用して刀を数打つことにしたのである。

猶予はいつまでかはわからない。だができるだけアルとミーナにも手伝ってもらってただひたすら刀を打つのであった。




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第百十五話

なんか波が来ている気がする


魔獣の侵攻が観測されてから数日。最前線では防衛戦が展開され、幾重にもなる堀や逆茂木、防壁などが用意された長城が築かれていた。堀や逆茂木に分断されたところを防壁の上から矢や魔法をはじめとした遠距離火力で魔獣を殲滅し本隊の編成が到着するまでの時間を稼いでいた。

そんな中、オリオンがヨムスヴァイキングの下から帰ってきていた。

「して、彼らは何と?」

「協力的ではありますが、報酬とは別に条件を提示されました」

「条件は?」

「この斧を直せと」

「ふむ、土地や金銭ではなく、その斧をか」

「はい。この斧が直されたのであれば王国と共に戦うと」

「逆を言えば条件を飲む、履行できなければ彼らは独自に戦うという訳か。だがその斧はたしか・・・」

「初代勇者とともに戦ったとされる英雄の一人が持っていたとされる斧。これも魔王の呪いにかかっているのはご承知のはず」

「ふむ・・・ではシズネを呼べ。あ奴は聖剣を復活させた者じゃ」

「シズネが聖剣を?」

「おぉ、オリオンは知らなんだが。あ奴が王国に来てすぐの事だった。ウィリアムの推薦もあったが見事な働きであった。ともかく事は急がねばならん」

と、事情を聞いて静音は王宮へ参内していた。

「事の子細は伝えた通りじゃ。お主の見立てを聞きたい。自由に思うところを述べよ」

静音は王の許可を得て件の斧を手に取り、鑑定してみた。

「・・・聖剣を見た時と同じです。おそらく同じ呪いかと。であれば同じ方法で解呪できるかもしれません」

「では、この件を主に託しても良いか?何、失敗することを責めたりはせぬ。だが最善を尽くすことを頼む」

「承りました。最善を尽くしましょう」

静音は件の斧を持って工房に戻った。そして何故かオリオンも付いてきた。

「どうして?」

「いや、俺は知識に貪欲でな。シズネの鍛冶ってのを見てみたくてな。あの聖剣を直したって聞いてから我ながら居ても立っても居られなくてな」

「ふーん。そうだ。オリオンって他の国の鍛冶師の作業とか見たことあるの?」

「あぁ、無理難題を突き付けられたこともあったが、見る機会もあったが、それがどうかしたのか?」

「んにゃ。ちょうどいいから類似点、差異があったら教えてほしいなって」

「ほーん。なるほどね。ただ差異があったとしても内容次第じゃ教えられないな。ある意味鍛冶師の技術は当人の飯の種だ。技術の内容については喋らないってのが初歩的な契約だったからな」

「なるほどね。アル、ミーナ。作業を始めようか」

ともかく今は時間が惜しい。静音は削り出してもらった玉鋼を炉に入れて作業を開始した。

やることは同じ。熱した鋼を斧にあてて打つ。

結果としては聖剣と同じく斧は打たれた鋼を吸収していった。

「ほう・・・斧が鋼を吸ったのか・・・。シズネはこの斧の性質を知ってたのか?聖剣の時と同じように」

「ん~・・・いやほとんど当てずっぽうだったのが偶々当たっただけって感じかな?」

「なるほどな。で、様子はどうだ?」

「嫌な感じってのは打つたびに消えていってるかな。ただ、どういう性質なのかわからないんだよね。使わている材質とか。そういうのが見れないんだよね。オリオンもやっぱ見えない?」

「あぁ、見えないな。格上を見ている気分だ。そういや、あのエラムって嬢ちゃん・・・女性は何者なんだ?」

「エラムがどうかしたの?」

「いやな・・・俺もウィリアムもエラムの情報が何一つとして見えねぇんだ」

「情報が見えない・・・?弱点とか、ウィリアムさんだったら心とかも?」

「あぁ、何一つとしてな。全て隠している、そんな雰囲気でもあるが、ありゃ明らかに俺たちよりかなりの手練れだ。多分年も上だ」

「まっさか~。私がエラムと出会ったときなんてひよっこだった私より一個上のEランクだったんだよ?まさかEランクから成長してきたエラムがそんな・・・」

そう、ありえないのだ。魔法使いであるエラムとともに魔法学校で魔法を学んだのは静音自身である。

だがもし、習得したという魔法が最初から使えていたのなら、辻褄は合うがそうする理由がわからない。

「・・・ねぇ、オリオン。油って熱したらどうなるか知ってる?」

「油を熱したらどうなるかって料理するなら子供でも分かる。『すぐに火が付く』、だ」

「・・・そう」

その一言で結論が出た。今いるこの世界は技術に関しては静音がいた世界よりも遅れている。

科学技術が進んでいないのなら油に関しては知識に貪欲であるオリオンの言った通りしか観測されない。

だが、エラムは科学が発展してから得られる結果を知っていた。ブレイズシープの一件である。

油は火が付く暇すら与えずに熱すると気化する。普通の液体は気化するが油はどうなるのか?中二病に目覚めた静音が調べたことがある事柄の一つだった。具体的には知らないが、燃えるのに必須な酸素を与えなかったらとかだった気がする。それも実験器具も発展しているから作れるような代物。

そんな実験の結果を技術が遅れたこの世界で得られる可能性は極めて低い。

そうなると、エラムはどうやってその知識を得たのか?代々研究してきたからというならと結論づけるのは簡単ではある。だがもう一つの可能性がある。

「エラムも・・・私と同じ?」

そう、エラムが転移者である可能性である。

ともかくエラムの謎も重要だが今は斧の方が優先だった。静音は二日費やして斧に聖なる鋼を吸わせて様子を見た。最初に手に持った時に感じた嫌な気配が消えたことを確認して王に奏上することにした。

最初から試す気だったのか、ヨムスヴァイキングはオリオンと一緒に斧を扱える血筋を持つ人物を王国へ送っていた。

「ふむ・・・以前拝見した時とはまるで雰囲気自体が違うな」

そうヨムスヴァイキングの男は言った。そして斧を手に持った瞬間、驚愕していた。

「なんだ・・・このあふれ出る力は・・・。これがこの『武の雷』の力・・・」

「ぶのいかづち?」

「あぁ、この斧の名前だ。名前と力が代々伝わってきているが、今この斧はその通りの力を持っている。お前がこの斧を直したのか?」

「えぇ、そうです」

「ヨームを代表して礼を言う。そしてヴィルヘルム王よ。

我らヨームは王国とともに戦うことを父祖の栄誉と名にかけて誓おう」

「おぉ、ともに戦ってくれるか」

王は喜んでヨムスヴァイキングの使者の手を取った。これで同盟が成立した。

「シズネよ。此度も良い働きであった。魔獣の侵攻のこともある故お主には一層期待しておるぞ」

ハードルも上がったところで静音は王宮をでた。

そして次の日。王国の兵士、冒険者に王の名で招集がかけられた。

『王国を憂う者はいかな身分であろうとも王都に集い、ともに剣を手に魔の侵攻に対するべし』と。




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第百十六話

「通すな!!一匹たりとも後ろに通すな!!」

「言われなくても!!」

王国全土に招集がかかってから数日後。静音たちは戦場にいた。ここにいるのは誰もが命を賭して王国を守るべくして集まっている。中には稼ぎ時だと言っている者もいたが肝心の雇い主である王国が滅んではタダ働きとなる。故にその者らも王国を守ろうとするであろう。

だが、戦闘前に静音はエラムから一言、忠告を受けていた。

「え?それは力を出し惜しみしろってこと?」

「端的に言えばそうなりますね」

「どうしてさ。こんな大事な時にそんなことしたら・・・」

「そんなことをすれば余計に死者が増えますよ」

「どうして・・・」

「例え手に届かぬ栄誉でも、身近にそれを得れる者がいれば、自分もと思い無謀な賭けをするからですよ」

「要するに目立つな、ってことか・・・じゃぁオリオンにも?」

「あの人はそこまで目立ちません。何せ今回は武器ごとに分けられるのですから。逆にあなたはいつも突出する。遠距離の役割を持つ人は後ろに配置される点からして今回あなたは余計に目立ちやすいのですよ」

「うっ・・・とりあえず抑えるけど、危なくなったら・・・」

「とっておき以外は使ってください」

「・・・もうバレてるの?」

「ともかく私も後ろの配置になります。できるだけ妖精の力は使わないでください。魔族が紛れ込んでいたら厄介ですので」

「何かあるの?」

「ただあなたが妖精の力を持っているということが知られるのがマズいんです」

「?」

「ともかく、リーシャさんを、クランメンバーを頼ること。頭に入れておいてください」

そんなことで静音は今クランメンバーと息を合わせて戦線の維持に努めていた。波状攻撃を仕掛けて魔獣の圧倒的物量による攻撃を凌いでいた。

そんなか戦場に角笛が鳴り響いた。

「この合図は」

「大規模遠距離攻撃が来る合図だ。打合せ通り・・・」

「魔獣を怯ませつつ退却だったね!!」

静音は雫と時雨それぞれに炎と雷の魔力を回充填させた。ダン、リーシャも準備は整っている。

「いくよ!!」

「おう!!」

「ああ!!」

雷と炎と風の奔流。そしてそれを受けた魔獣の屍を超えて見えたのは積み上げられた即席の土の壁。

他の近接戦士たちはあらかじめ持たされた魔爆石を投げて魔獣の隙を作って退却していた。

そして近接戦士たちが退却したところをまず矢の雨が降り注ぎ、その後に魔法の嵐が吹き荒れた。

様々な魔法が魔獣へと落ち、魔獣を粉砕していった。その光景を見てある者は恐怖する。

「これだけ倒したってのに、魔獣には心が無いのか?」

そう。心、考える脳があれば恐怖し進むことを躊躇するはずである。しかし魔獣は関係なしとばかりに

ただ進んでくる。それが誰もが恐ろしいと思っているのだ。

そして合図の角笛が鳴り響いた。

「よし。突撃だ」

そして近接戦士たちが雄たけびを上げて再び魔獣の群れを押しとどめるべく突撃を開始する。

それが日が落ちるまで続いた。誰もが汗を流し、荒い呼吸をして、沈む夕日など見ずに魔獣と相対していた。そんな中ひと際大きい鳴り物が鳴り響いた。

「総撤退の合図だ。皆、退けー!!」

戦場に続いて野太い声が響いた。それを合図に防壁には斜路となる板が何枚も立てかけられて近接戦士はそこから防壁内へと撤退した。全員が防壁内へと入ったのを確認してから斜路の板は外されて、近寄る魔獣は遠距離攻撃を持つ者らが迎撃していた。

「水をどうぞ」

補給班が水などを渡している中、静音に声がかかった。

「いやはや、ご苦労さんだったな。嬢ちゃん」

「あ、ガロムス司令官さん」

「綺麗な引き際、そして結束力。お前さん達のクランは優秀だなぁ」

「ありがとうございます」

「近接戦士の活躍もそうだが、あのエラムって嬢ちゃんは一際離れしていたな」

「エラムが・・・」

「あ奴は魔獣の攻撃順路をすぐさま予測し最善の攻撃を提案しておった。どこか軍にでもおったのか?」

「いえ。同じ冒険者ですよ」

「そうか。ではお前たちも打合せ通りに」

「はい。移動を開始します」

静音たち冒険者は馬車に乗って一つ後ろの防壁へと移動し始めた。その間、王国軍の兵士たちが遠距離で抗戦し時間を稼いでいた。

「司令官、こちらも準備整いました」

「よぉし。全員馬車に乗りこめー!!」

ガロムスの合図で防壁にいた兵士たちが瞬く間に馬車に乗って撤退した。

あっさりと防壁を捨てたのには訳があった。夜の休憩の時間を稼ぐには一つ工夫が必要だった。

「引っかかってくれるといいんだがのう。魔爆罠に・・・」

魔爆罠。ほとんどの戦士たちが後ろの防壁に移動した後、工兵が周辺の地面に魔爆石を撒いていた。

魔爆石はなぜか魔獣だけに反応し爆発する石である。故に撤退後の時間稼ぎに罠として仕掛けたのである。そして魔獣には防壁は案外高く、魔獣は攻城兵器など持ってないので防壁を上るのにも苦労する。

そんな中で足元が爆発すれば少しは足止めできるだろうという考えである。

さらなる後方では新たな防壁が日夜かけて作成中であり、王国はこの野戦築城を使った防衛戦術で魔獣の侵攻に対処していくのであった。




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第百十七話

戦闘が始まって三日。王国軍と冒険者混合の軍勢は数の差を物ともせず堅牢な野戦防壁にて魔獣を迎え撃っていた。しかし当の司令部にて少し問題が生じていた。

「単刀直入に言わせてもらいます。シズネ殿。あなたの妖精剣王としての力は使わないおつもりですかな?」

一人の参謀からの半ば詰問であった。

「そ、それは・・・」

「よせよせ。お主とあろう者がみっともないぞフレイス」

だが思わぬところから助け舟が出た。出したのは司令官のガロムスであった。

「大方機を見ているのであろういくら数が多いとはいえ今見えているのは下級の魔獣ばかり。そんな奴らに 制限がある手札を浪費させる必要はあるまいて」

「ですがこの戦いは王国、全ての人類の存亡すらかかっていると言える戦い。ならば最初から全力で戦わねばならないのが道理でしょう」

「で、その道理に従い手札を出し尽くした後、さらなる強大な魔獣・・・先のフォロムを襲った魔獣などがでてきたらどうするのだ?」

「そ、それは・・・」

「ほかに同意見はあるか?・・・無いのなら今後同じ議論はせぬぞ。では次の議題に移ろうかの」

こうして静音は難所を乗り越えることができた。

その後は会議内容はいかに町から離れた位置で食い止めるか。それに使える防壁の数などが議題に上がるも特に問題は起こらなかった。会議自体撤退した後に行われたため既に夜も更けてきていた。

元居た世界のように都会の明かりもなく明かりは雲から見える月のみ。ふと月明かりに見とれていると横に

誰かが来た。

「ガロムス将軍」

「やはりいくら武技を極めようと年相応なところもあって安心したものよ」

「あの・・・先ほどはありがとうございました」

「ふむ・・・ということはやはり訳ありか」

「はい・・・」

「おおかた自らの力を見て勇む者が出ないようにとの配慮のためであろう。ありがたいことだ。じゃが・・・」

「?」

「それは見極めが肝心じゃ。少し見誤れば抑えれるはずの被害すら出してしまう諸刃の剣じゃ。全て責任を負う必要はない。だが用心せよ」

「ありがとうございます」

老練ながらその観察眼は凄まじく、並大抵の隠し事は見抜いてしまうというのがレオから聞かされていたガロムスの一面だった。だが恐ろしいのはウィリアムやオリオン、静音が持つような特殊な目に関する

スキルを一切持たずにこれを成し遂げているという点である。

人間同士の戦争は全く起こっていないこの世界で戦うとなれば魔獣ぐらいになる。なおの事機会が少ない中で磨き上げられたその目は一体何が見えているのだろうか・・・。

 

 

―――――――――――

朝。夜間要員と交代して静音たちは防壁の上で突撃の合図を待っていた。だが静音の目つきはいつも以上に鋭かった。

「突撃開始!!できるだけ多くの魔獣を討ち取るのだ!!」

その合図が下るや兵士、冒険者は誰もが声を上げて魔獣の群れに突貫した。

「っ!!」

その中でも静音が突出して魔獣の群れに仕掛けた。

「静音!!」

エラムは自分の忠告を破ったのかと思ったが、静音が妖精の魔力を使っていないところを見ると少し目をつぶることにした。

(大方誰かに吹き込まれたのでしょう。サポートができないのが心苦しいですが、皆さんに任せるとしましょう)

静音は手には雫と時雨。炎と雷の魔力を使用し身体能力を強化して半ば腕力と瞬発力に任せて近づく魔獣を片っ端から切り伏せていった。

正直なところ、まだ三日目の時点で特に冒険者の集まりの中から厭戦気分が出ているように見えていた。

倒しても減らない魔獣。それに嫌気がさしているのだろう。それを感じ取った静音はできるだけ勇まないように、しかし勇気を見せようとしていた。半ば無鉄砲なやり方ではあるが静音としてもやれることはやっておきたかった。

「よぉっし、団長に続け!!だけど孤立するなよ!!」

「お、俺たちも続くぞ!!」

静音の突貫を見たアイアン・イグニスのメンバーが静音の後を追って魔獣の群れに当たり、他の冒険者たちも勇気づけられたか勇ましい足取りで魔獣と相対し始めた。

「冒険者たちの側面を固めるぞ!!」

そして冒険者たちが作った突出部と冒険者の側面を守るべく王国軍が左右に展開し密集陣形で魔獣と戦闘を始めた。

自然に魚鱗の陣形が組まれつつもそれでも討ちこぼれは出て防壁へと殺到する。

「来たぞ!!まずは魔法を打ちこめ!!」

しかし討ちこぼれの魔獣はバラバラに防壁へと近寄ってきていて防壁上で待機していた遠距離組の良い的であった。

そして戦闘開始から数時間が経つと流石に疲れが目に見えてくる。特に三日間まともに休息がとれていない分疲労は著しく見えていた。だが決してガロムスは兵をすり潰して守るような将軍ではない。

「角笛を吹け!!バリスタ隊射撃準備!!」

ガロムスは角笛を吹くように指示。さらにようやく設置されたバリスタでの長距離射撃が可能になった。

弓は技量が求められるがバリスタなら使い方を理解できれば練習は弓より断然少なくて済む。バリスタの数を揃えることができた分援護射撃の質は上がることが期待されていた。

しかし設置型のバリスタだけでは一度の攻撃面の大きさはそう大きくないため、空いている隙間は王国から集めたボルトシューターを持った者が埋めた。前線部隊が退却するのに合わせて大量のボルトが雨のように打ち出された。

そして前線部隊が全員防壁内に入ったこと確認してからガロムスはさらなる指示を出した。

「ボルトシューター組と弓兵、魔法使いは近づいてくる魔獣どもにバリスタ組は後方に爆矢を撃ち込んでやれ!!」

ガロムス号令とともに遠距離組がその威力を発揮した。防壁に近寄る魔獣は矢と魔法に。後方で群れている魔獣には魔爆石を矢じりに仕込んだ爆矢を撃ちこんでさらに魔獣の数を減らしていた。

「ここから先はおいそれと陣地を捨てることはできぬ。できるだけ魔獣の数を減らすのだ!!」

今までの防壁陣地とは違い、今までの戦いで稼いだ時間で築かれた本当の撃退用防壁による戦いが始まった。




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第百十八話

本格的な城塞での抗戦が始まって二日。半ば完成された城塞を放棄することは魔獣を王国に近づけるのと同じであり下がるほどそれは許されることではなくなっていた。

しかし戦線を支える戦士全体に疲労感が溜まり、終わらない戦いに嫌気を訴える者も出始めていた。

死者こそ出ていないものの、一度出れば一気にマイナスに振り切ることは明白だった。

しかし朗報が一つあった。

「ヨムスが一人、エーリク。盟約により同胞とともに参陣した」

ヨムスヴァイキングの援軍が到着したのである。総勢は少ない者の、一人ひとりが纏う雰囲気は歴戦の戦士のようで王国の戦士たちに希望を見せた。

「よし、突撃!!」

何度も繰り返した城壁に斜路の板をかけて近接勢が怒涛の勢いで魔獣の群れに突撃を開始した。

しかし先陣を切ったのはヨムスヴァイキングの戦士たちだった。

誰よりも雄々しい雄たけびを上げながら伝統的な斧と盾を持ち突撃した。

彼らは密集せず、横に広がり個々で魔獣を相手取っていた。

「我らが斧に栄光あれ!!」

先陣を切っただけのことはあり、彼らの武功は目覚ましいものだった。

盾で魔獣を受け止め、反撃として斧を振りかざす。一人ひとりの腕力が凄まじいのか斧の一断で大抵の魔獣は両断されていた。

それを見てか特に王国の冒険者たちも勇気が出たのか本来の力量に近い実力を発揮していた。

だがそれをもみ消すような事が起きる。

「大物が出たぞー!!」

体色は白いので変異種のホワイトウルフと推測されたが、一際大きいらしく、黒に近い色ばかり持つ魔獣の群れの先からでも目立つ存在だった。

そしてホワイトウルフは戦線の薄いところを見つけたのか脅威的な跳躍を行って魔獣の群れを飛び越して一気に戦士たちにその牙を突き立てた。

「くそっ。ただデカいだけじゃないってか。負傷者を急いで壁の中へ。動けるものは時間を作るぞ!!」

そして穿たれた穴を塞ぐべく別の戦士たちがホワイトウルフに挑もうとした。

だがホワイトウルフの咆哮で吹き飛ばされた。ただの咆哮ではないことはそれを見た人間なら誰でも危機感を感じ取った。

そしてさらなる咆哮で他のワイルドウルフが不吉なオーラを纏い始めさらに凶暴さが増し始めた。

「くっ・・・一気に押され始めたぞ・・・退くか?」

「だが退いたとしてもあの壁で持ちこたえられるか?」

形勢が一気に魔獣側に傾きつつある中、静音は現状を打開するため、後方にいるオリオンを呼ぼうとしていた。

「おう、どうにかできそうか?」

「オリオンが号令をかけて。私はみんなの方に働きかける」

「働きかけるって・・・まぁ、いい。やってやるさ!!」

オリオンがその弓を掲げ大声で叫んだ。

「王国を憂い集まった戦士たちよ!!怯むな!!臆せず立ち向かえ!!故郷の友と家族のために勇気を

振り絞れ!!」

オリオンが号令をかける中、静音は妖精の魔力を稼働させ始めた。だが、自身を強化するのではなく、

纏うオーラを戦線に広げていっていた。事前にファティに聞いていたのだが、妖精の魔力は特殊で人族には作用するが、魔獣には作用しないらしい。魔力のオーラを広げることで周囲の人間を強化できるらしいのだ。

そして纏う力が強くなればおのずと自身も出てくる。そこへオリオンの号令が刺さり王国側も戦意を取り戻し始めた。

自身の身に何が起こったかはわからないが勇気が出たのは事実。そして再びヨムスヴァイキングを先頭に魔獣の群れに挑み始めた。

静音もまた支援だけでなく、最前線に立って大物ホワイトウルフに挑むことにした。

「こりゃまた大きい奴だな」

「異常に異常が重なるとどんなイレギュラーも起きるという訳ですか・・・」

「とりあえず片づけるよ!!」

静音を先頭にアイアン・イグニスの近接組が仕掛けた。ホワイトウルフも咆哮で追い払おうとするも、

「せい!!」

静音の炎と雷の魔力で生まれた斬撃波で咆哮を相殺され、左右から一気に挟撃される形になった。

「一気に決めるよ!!」

「おう!!」

「わかりました!!」

「任せろ!!」

静音、リーシャ、ダン、アリムスが一気に魔力を稼働させる。

「まずは私が!!」

リーシャが土の魔力を使ってホワイトウルフの足場を崩して不安定にさせ体勢を崩した。

「次は私ですね」

次にアリムスが水の魔力でホワイトウルフの全身を水浸しにする。

「ダン、仕掛けるよ!!」

「おう!!」

静音が炎と雷の魔力を込めた斬撃波。そしてそれを追うようにダンが風の魔力で暴風を生み出す。

雷の斬撃波はアリムスが仕掛けた水に反応して感電。炎の斬撃波はダンの暴風と混ざって爆炎となった。

二つの衝撃波を受けてホワイトウルフは悲鳴を上げた。だがそれでも震えながらなんとか直立していた。

「これでも足りないか・・・」

「俺を忘れてもらっちゃ困るな」

一連の連携の間に最大限魔力を込めたオリオンの一射がホワイトウルフの頭を撃ち抜いた。

「何とか仕留めれたな」

「うーん、やっぱオリオンの火力が一番かぁ・・・」

「いんや?全員で奴の表皮を削ってくれたおかげで俺の矢が通ったんだ。俺たち全員の手柄さ」

大物を片付け、静音たちも再び前線で魔獣の群れと戦うのであった。




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第百十九話

抗戦が始まって早一週間が過ぎつつあった。最初こそ厭戦気分があったがそれはヨムスヴァイキングという

強大な援軍の到着によって一時的に払拭することができた。だが再び厭戦気分が広まりつつある中、司令部に重大な知らせが届いていた。

「この知らせは確かか?」

「・・・はい」

「わかった。今後も監視を続けよと伝えよ」

一枚の紙を持ち呆然と立ち尽くすガロムス。その手は汗で滲んでいた。

(士気に影響するであろう情報は紙面で送るように指示されたのはありがたいが、これをどうするかが ワシの力が試されるところか・・・)

正直なところ、ガロムス一人の手では到底解決できない事実がその紙に記されてあった。だがこれを指揮下に知らせれば確実に戦線が崩壊するのは火を見るよりも明らかであった。故にガロムスは悩んだ。

だがふと、希望の光が一つあったことに気が付いた。それを思い出すやガロムスは光の下へと急いだ。

「ちと、良いかの?」

「お?司令官殿じゃないですか。こんな夜更けに何かありましたか?」

訪ねて来たガロムスを出迎えたのはアリムスだった。

「すまんがシズネ殿に会わせててくれないかの?」

「わかりました。少々お待ちください」

アリムスは詮索抜きで静音を呼びに行った。

「えぇっと、ガロムス将軍。どうかされましたか?」

「おぉ、夜遅くにすまんな。ちと夜風に当たりに行く年寄りの護衛をしてもらえんかの?」

「護衛なら部下の・・・わかりました」

「いえ、団長。やはり護衛は部下の方がやるべきでは?」

「いいの。私で務まるのならご一緒させてもらいます」

「すまんの」

ガロムスはあらかじめ部下に雑多な人が近寄らないような場所を用意させてそこに静音を案内した。

「それで、何かあったんですか?」

「察しがいいのは助かる。これを知るのは僅か。お主の意見を聞きたい」

そういってガロムスは件の紙を手渡した。そこにはこうあった。

『主戦場及び二次防衛戦の中間に魔獣が集結しつつあり』

「これって!!」

「報告が事実ならワシらは挟み撃ちを受ける可能性がある」

「急いで・・・あっこんなことを軍議に出したら・・・」

「どこまでも察しが良いことだ。確実に我が部隊は崩壊するであろうな」

「・・・それでどうして私に白羽の矢が?」

「以前、お主は力を抑えているという話をしたのを覚えておるか?」

「えぇ、あの時は助け船を出してもらい助かりました」

「どうやら、その時が来てしまったようじゃ」

「・・・そうかもしれません」

「単刀直入に聞く。お主の真の力を合わせたらどれだけの兵でこの背後の魔獣を抑えられる?」

「・・・正直今いる数と同数はいなければ難しいでしょう。特に背後の魔獣に対しては防壁は無いのでしょう?」

「であろうな・・・やはり二次防衛戦で・・・「すみません」なんじゃ?」

「抑えるのは無理です」

「ふむそれはお主の返答で・・・まさか!?」

「はい。抑え込むことは無理ですが、殲滅するのであれば話は別です」

「具体的な方法を知っておきたい。やたら滅多に力を振るうのか?」

「いえ・・・あまり妖精関連の話は広めるなとレオ王子から言われているのですが大丈夫でしょう。実は・・・」

静音は具体的な手段をガロムスに伝えた。その手段を聞いたガロムスは目を点にしていた。

「本当にそんなことができるのか?」

「はい。こんな大規模なことは初めてですが、本場では実際にできているようなので後は他の戦士の勇気次第でしょう」

「ふむ・・・ではお主に一部隊率いてもらおう。ヨムスヴァイキングは勇猛果敢な上そのこと自体が他の兵の士気を上げてくれる。守勢に回れば損害も出さずに守り切れよう。後はお主次第じゃな」

「責任重大ですね」

「押し付けることになってすまんの。だが危うかったら退くことを優先するんじゃ。生き残れば先はあるが死ぬとそれまで。後は誰かを悲しませるだけだからの」

そう言ったガロムスはいったいどれだけの死を見てきたのだろうか。一人苦闘する悲しさが静音には見えた。

「では部隊の選抜には数日「いや。もう済んでおる」では直ぐに発ちます。できるだけ早くに叩きに行くべきでしょう」

「助かる。一応選抜の部隊は疲労が少ない者に絞ってある。夜間の行軍ぐらいなら大丈夫であろう。副官にワシの部下を付ける。些細なことでも相談に乗ってくれる良い奴じゃ。信頼してやってくれ」

「はい。後ろはお任せください」

「うむ。頼んだぞ」

返答を聞いた静音は急いでクランメンバーのところへ向かった。

「みんな出発の準備!!」

「突然どうしたんだ?」

「転戦の命令が出たんだよ」

「ほう・・・他の面子はどうなってる?」

「将軍が既に集めているみたい。だから後は私たちだけっぽい」

「よし。すぐに出立だ!!」

アイアン・イグニスのメンバーとガロムスが選抜した混合部隊は夜に紛れるようにして防衛陣地を発った。

だがその知らせはすぐに司令部の知るところになる。部隊の一部が離反したとしてすぐに議題に上がった。

「将軍!!妖精剣王を筆頭に兵士が離反したというのは本当ですか!?」

その一言で司令部の緊張は最高潮に達した。

「うむそれはワシが指示したことだ。怪我が重い者を中心とした数を後方に送ったのじゃ」

「ですがそれならば妖精剣王のクランは残すべきだったはずです。今は一人でも戦力が必要な時。そのような雑務、他の兵卒にでも・・・」

だがガロムスを批判する武官をフレイスが止めた。

「移動した部隊を戻すにも時間と人手が必要です。戦力が必要であるなら帰還を待つ方が現状の戦力の温存になるでしょう」

そう言ったフレイスの目はガロムスの心中を探っているようだった。

「フレイスの言う通りじゃ。まずは現状を受け止め最善の手を打つのが一番。何か意見は無いか?」

その後はガロムスとフレイスが中心となり離反した静音たちの議題を避けて進めていった。

「ふぅ・・・何とかしのげたの」

「やはり、何か隠しているのですね」

「フレイスか。驚かすでない。・・・で、どこまで知っておる?」

「いえ。全く、何一つ知りません」

「それなのにワシを支持したというのか?」

「先に部隊の様子を見ましたが、怪我の度合いはあまり減ってはいない様子でした。故に何か別の意図があって件の部隊を送り出したのかと思いまして」

「さすがじゃの」

「しかし副官がレイネンスとは。本当に大丈夫なのですか?」

「シズネを信じるしか今はできることはない」

「では我々は彼女たちが戻ってくる場所を守らねばなりませんね」

今まで以上に過酷な戦いを目の前にして二人の武官は静かに覚悟を決めた。




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第百二十話

静音率いる別動隊は夜間行軍の末、魔獣との距離を5、6里ほどまで縮めていた。

「さてシズネ殿。いかがしますか?」

そう尋ねるのはガロムスが着けてくれた補佐官のレイネンスだった。

「よく風を見るとこちらが風上。いずれ近づけば近づくほど魔獣に気づかれるでしょう」

「では一旦休憩にしましょう。そこからは・・・」

「戦闘になりますな。しかし防壁が無い状態でとなれば士気は下がりましょうな・・・」

そのマイナスをどう抑えるか。静音は手段は持ち合わせているものの、使い方をまだ見つけれてはいなかった。

戦士たちは思い思いに休憩してはいるが、酒だけは禁じていた。当然酔ったままで戦場になど出れるわけもなく、指示も聞いてくれるかわからないからである。

だが休憩も終わりに差し掛かった時、運の悪いことが起きた。

「た、大変です!!魔獣の群れが・・・え、何・・・この数は!?」

どこかのパーティーの魔法使いが魔水晶で魔獣の動きを見ていたらしいのだが、伏せていた魔獣の数について思わぬ形で広まってしまったのだ。

「お、おい・・・防壁もないのにどうやって・・・」

「まさか肉壁とか言わないだろうな?」

不安が広まる一方、静音は手遅れになる前に始めることにした。

「レイネンスさん。魔獣との距離は?」

「既に一里以内です」

「わかりました。みなさん!!壁は私が用意します!!」

「用意ったってこの広さにか?」

「みなさんには討ち漏らしを倒してもらいます!!」

「なら誰が前線に立つんだよ」

「それは私たちです。ファティ、お願い」

『ワカッタ!!』

ファティが空へと飛ぶと手から一種の空間の穴を生み出した。

「え・・・嘘だろ!?」

その空間からは妖精が次々と現れたのである。しかもただの妖精ではなく、武装した妖精であった。

その装いは静音が着ている武者鎧の本格版。さらに手に持つのも静音と同じ刀。

鎧には以前倒しアーマー・インセクトの甲殻を使い、刀には貴重な聖なる鋼のみで鍛えた物を用意した。

とも妖精が嫌う鉄は使わずに自然由来の素材で作られた品であった。

その武者妖精がおよそ20人ほど地面に降り立った。

『シズネー。ドウスレバイイ?』

「みんな等間隔に横に並んで。あ、幅は得物の届く範囲でお願い」

『ワカッタ』

武者妖精たちが等間隔に並ぶと一種の戦列が生まれた。

「これが・・・隊長の言っていた壁?」

「えぇ。みなさんはこの後ろで戦ってください」

「ま、まぁ、危険が無いならそれに越したことは無いが・・・大丈夫なのか?」

「えぇ。大丈夫です」

「シズネ殿!!」

そう話している間に嫌でもわかるぐらいの足音が聞こえて来た。

「では他の人の指揮をお願いします」

「シズネ殿は?」

「無論、最前列にて」

「・・・ご武運を」

静音は最初から妖精の魔力を展開。そして今回は妖精たちにもブーストをかけることにした。

どうやらファティ達は鎧などを動かす場合にはどうしても出力が落ちるらしい。そこで静音が足りない分を補うことにした。

そして静音の妖精の魔力と本来の妖精たちの魔力が同調すると、武者妖精たちが輝き始めた。

その光景を見て、一人涙を落とす人物がいた。

(懐かしい・・・やはりあなたはいつだろうとどこだろうとあなたらしく魅せてくれる・・・)

「エラム・・・涙なんて流してどうかしたのか?」

「いえ・・・ふと静音の後ろ姿が昔お世話になった人と重なったので」

「そうか」

そんなことは知るはずもない静音は雫を天に掲げ妖精剣を生み出し妖精剣王となっていた。

「さぁ、どこからでもかかってこい!!」

静音の響く声とともに近づいてきた魔獣たちも一斉に襲い掛かってきた。

だが、所詮は烏合の衆。これまで幾度も戦い続け、そして格別の力を得た静音の前に生まれたばかりの魔獣たちでは到底歯が立つわけがなかった。

突出した静音が巨大な妖精剣を振り回して魔獣を次から次へと切り払い、静音を避けて近づこうとする

魔獣は武者妖精たちによって切り刻まれ、なんとかそれを突破できたとしても万全に構えていた戦士たちによって残さず討たれていった。

時々武者妖精たちの隙間から見える静音の一騎当千の働きを見て感化され前線に行こうとするのをレイネンスが抑えていた。だがただ抑えていたわけではなかった。前線に行こうとする数が一定を超えたのを見計らって静音と打ち合わせた通り、前列に行くことを許可した。その中には当然アイアン・イグニスの

メンバー全員もいた。

人と妖精が協力して魔獣を討つ。誰もが頭によぎる伝説のおとぎ話。それを今、自分たちが体験している。これほど奮い立つのは初めてだった。

感化された戦士たちの活躍あってか、戦闘から4時間後には魔獣の別動隊は全て討たれた。

「あれほどの魔獣の数をこれだけの手勢で・・・妖精とその絆と信頼が力となってくれた。まさに伝説の再来だ・・・」

勝利に湧き上がる戦士たち。その中で武者妖精たちは別のことを気にしていた。

『シズネー。終ワッタラちゃんトお菓子モラエルンダヨナ?』

「うん。期待していてね。でもまた戦ってもらうかもだから、はい」

一応先に用意できていたお菓子を静音は妖精たちに振舞った。

そしてこの場にいる全員が魔獣侵攻から初めての完全な勝利に沸き立っていた。




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第百二十一話

ガロムスがわずかな兵力で防壁を守っている間に静音は魔獣の別動隊をほぼ殲滅することができた。

討ち漏らしは出たようだが逃げるようなら再度襲ってくるまで時間はかかるだろうというレイネンスの見立てから静音は預かった部隊を反転させガロムスの下へ帰還した。静音たちの帰還は静かに迎えられた。

ガロムスが静音たちの一時離脱を公にはしてなかったからである。だが静音の部隊に参加した冒険者たちからの噂はすぐに広まり、静音が圧倒的戦力を隠していたという事実が漏れ出てしまった。

故に静音は魔獣の別動隊を少数で倒した功あれど、今まで見方を危険に晒していたとして冷ややかな目で見られていた。

「くそっ・・・」

そんな中当然それに反発してアイアン・イグニスのメンバーにも不満が溜まっていた。

静音が意図して味方を危険に晒していたわけではないことは当然理解できる。だが全体を見れば明らかに保身で戦っている者もいる中で、静音だけが吊し上げにされることは断じて許せなかった。

だが当の静音はガロムスの要請もあって武者妖精たちに戦闘に出てもらうよう頼んだ。

妖精は魔獣を嫌っている上に菓子を貰えるということで静音の願いを快諾してくれた。

そして武者妖精を加えた戦力で戦うこと五度。圧倒的な武者妖精の力を見た戦士たちは気が緩み始めていた。

そして六度目の戦いが始まった。当初は人間側が優勢だったものの、疲労をものともしない魔獣の攻勢に人間側から離脱するものが増す一方だった。誰もが武者妖精と静音さえいればいいと思い始めていたのである。

「っ!?何か飛んでいった!!」

武者妖精をはじめとした前衛を複数の影が飛び越していった。そしてそのすぐあと、背後から悲鳴が上がり始めた。顔や胴体は狼、耳や足はウサギのキメラのような魔獣が驚異的な脚力で前衛を飛び越えて退却しようとしていた後ろの戦士たちを襲い始めたのである。牙や爪で油断した戦士たちを瞬く間に葬り去る姿は慢心を上書きして恐怖を搔き立てた。後ろに気を取られた前衛は続く魔獣たちの対処に追われ、次は自分と思った後衛の遠距離陣は動くもの全てが敵に見えて攻撃を暴発し、味方まで攻撃し始める有様。

「なんということじゃ・・・」

まさに人間の慢心と恐怖が作り出した地獄であった。もはや指示すら伝えることは難しい状態であった。

逃げ惑うのは主に金で雇われた冒険者たち。唯一持ちこたえていたのは自ら志願して兵士となった軍の兵士たちとわずかな冒険者。もはや戦闘ではなく魔獣による蹂躙だった。

「エラム!!」

そんな中、怒号の如く静音が叫んだ。そして声は届かぬとも、異様を前に静音の援護をするべく静音に注視していたオリオンが気づき、エラムを静音の下へと送り届けてくれた。

「静音、これ以上は無謀、退くべきです」

「エラム、前に私たちを遠ざけるために風の魔法を使ったよね。あれで私を上空に飛ばせる?」

「そんなことをしてどうするというのです。もはや・・・」

「諦めたら、勝てる可能性を捨てることになるんだよ。だから、どっち?」

「・・・できますが、何をするつもりです?」

「なんか妖精の子が言っていたんだけど、この地面の下にすっごい魔力の塊があるんだって。だから穴をあけて、その塊を放出できれば・・・」

「その放出で魔獣を吹き飛ばし、後は副産物の穴で敵を食い止められると。なるほど、オリオンさん、実のところ地面に魔力の塊らしきものはありますか?」

「あぁ、今言われて見てみたが、最初は魔獣のもんだと思ってた魔力の塊は実は別の源だったわけだ。

あぁ、間違いなくこの下にあるぜ」

「じゃぁエラム、よろしく」

「相変わらず無茶なことを・・・まぁ、最善手なのであれば仕方ありません。いきますよ!!」

エラムの魔法で静音が宙に浮いた。そして静音と魔力のつながりがあるファティを通して武者妖精たちにも作戦が伝えらえてそれが前衛の兵士にも伝わり一気に退却が始まった。

「なんと・・・兵士まで逃げ始めたか・・・」

何も知らない司令部は愕然とした。だが瞬時に上空に異常な力の気配を察知した。

「さぁて・・・いくよ!!」

宙を舞っていた静音は魔力を今まで以上に稼働させ八本の刀で生み出したもはや巨大とは言えないほど大きな妖精剣を前衛から離れた魔獣の後陣の地面へと突き刺した。

「届けぇぇぇぇぇ!!」

地面に刺した直後に魔力を放出し地面にある魔力の塊を刺激しようとした。そしてすぐに反応が出た。

「・・・何かくる・・・今!!」

静音は一旦妖精剣を解除し刀身を消し、再展開。

「おりゃぁぁぁぁぁぁ!!」

今度は大地を上から真一文字に深く切り裂いた。地中からの魔力の漏れと唐突にできたわずかな亀裂。

そこを通って莫大な魔力が地面より放出された。魔力の放出は静音が開けた亀裂から間欠泉の如く発生したが、亀裂はあまり広がらなかったが、それでも大量の魔獣が魔力放出に巻き込まれ絶命した。

そしてあふれ出た魔力は輝きながら地面へと降り注ぎ、その後には見たこともない花があたり一面に咲き始めた。

「一体・・・何が起こっとるというんじゃ・・・」

事態を理解している者はごくわずか。だが瞬時に分かったのは魔獣が襲ってこないということだった




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第百二十二話

静音が開けた大穴からは僅かだが絶えず魔力の粒子が漏れ出ていた。

そして魔力の粒子は地面に落ち、新たな花を咲かせるのであった。

大穴が空いてから、魔獣が襲ってくることが激減したのである。この花に近寄ることすらすることなく、

こちらが餌を用意してやっと襲ってくるほどだった。

「さて、魔獣の侵攻を謎のじゃが止めることはできたのじゃが・・・今いる数を討たねば、突然状況が変われば不利になるのは明白じゃ。こちらと同じように後ろから増援が来るかもしれんわけじゃしな」

「あの花が採った後も咲いてくれれば良いのですが、地面から離れたらすぐ枯れるというより散って消えていくともなればそのまま見ているしかないですな」

「シズネ殿、何かあの花について知らんかの?」

「えぇっと・・・どうやら私が使った魔力の塊、あれが妖精の物と似ていたようで、その私の魔力の塊と反応として現れたとしかわかりません・・・」

「ふむ・・・、穴が開いている以上、魔力はあふれ出ている。以前のような大規模な噴出は無理でしょうか?」

「場所を変える必要もありますし、それにどれほど地下の魔力の塊が残っているかは不明ですので、同じことはできないでしょう」

「では次の議題に進みましょう・・・と言っても言いにくいのですが・・・」

「軍勢の厭戦気分じゃな」

「・・・はい。大穴発生前から軍勢の中で厭戦気分が蔓延し始め、大穴発生以降それが爆発したというところです」

「大方魔獣との戦闘も無しに待機していることへの不満といざ戦闘になったとしてもシズネ殿の奮戦以上の 武功は挙げれないという不満からじゃろうな」

「えぇっと・・・私何かマズい事でも・・・?」

「いや。シズネ殿はこれ以上ないほど王国に尽力してくれている。じゃがそれを快く思わぬ者もいるということだけなのじゃ。じゃがシズネ殿がそれを着にする必要はない。ワシらからすればシズネ殿の働きあればこそ今ワシらが戦えていることも同義。これからも何かあれば力を貸してくれ」

「はい、喜んで」

「では次の議題を・・・」

といった具合で淡々と会議は進んでいった。だが次はエラムの厳しい問診が待っていた。

「えっと、私何かした?」

「いえ。ただあなたの状態は適度に観察しなければならないので」

「それって誰かからの命令?」

「いえ、私の目的のためです」

「エラムって謎多いよね~一個くらい話してくれてもいいんじゃない?」

「話せるほど軽いものは持ち合わせていないので」

「それでも何か困ってるのなら助け合うのが仲間ってものじゃない?」

「別の方面でもこちらに染まりつつありますね」

「?」

「精神的にはやはり変化が著しい・・・体質に関してもまた変化あり・・・」

「えぇっと・・・私の身体の変化って、以前言っていた精神云々とか妖精とかのこと?」

「・・・それもありますが、言ってしまうとこれまた問題なので黙って診させてください」

「えぇ・・・別に、病気ってわけじゃないんだよね?」

「判別し辛いですね」

「えぇ!?不安をあおらないでよ」

と言っても魔獣が襲ってこなければやることが無いのも事実だった。いくら報酬がもらえるとはいえ、溜まって待機していろと言われれば不満がたまるのもわかる。飲酒も制限され娯楽も少ない。

こんな状態ではいつ雇われ冒険者たちが帰りかねないのも事実だった。

「大穴、開けたのマズかったかな・・・?」

「あれが無ければ王国の消耗は大きかったでしょう。少しのマイナスよりも得たプラスのことを考えれば良いほうです」

「うーむ・・・私も工房が恋しくなってきたよ・・・アルとミーナは大丈夫かな・・・?」

「その二人を危険な目に合わせないためにもここで踏ん張るんです」

「そうだよね、がんばらなくっちゃ。あ、エラム。大穴周辺に咲いている花、何か知らない?」

「妖精花ですよ。一度妖精郷に行ったことがあるあなたなら気づいていたと思っていたのですが・・・」

「あ、そういえば雰囲気に似ているかも。妖精花って妖精郷以外でも咲くことってあるの?」

「いえ、今回のようなことが無ければ咲くことは滅多にないでしょう。あれが妖精の副産物である以上、目にしたことがある人物はごくわずか。知っている人は少ないでしょう」

「妖精花ってどのくらい咲くの?」

「大穴から魔力が溢れているだけ咲くので、残量にもよりますね。穴ができた分、オリオンさんも見やすくなったでしょうし一度見てもらうのはどうでしょう」

「わかった、頼んでくる!!」

そういって駆け出して行った静音の背中を一人悲しくエラムは見ていた。

「あなたは戦いを知らなかったはず。命を賭けるほど団結することも知らないはず。それなのに今はそれを実行している。この変化に気づかないのですか?」




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第百二十三話

「魔獣が撤退していっているだと?」

王国東で部隊を率いているレオの下にあまりにも拍子抜けな報告が届けられていた。

「魔獣は一度襲い始めたら命尽きるまで人を襲うはず・・・その魔獣が撤退など・・・」

「どうやら此度の魔獣の侵攻は様子がおかしいですからな」

「ふむ、他の戦線はどうなってる?」

「同じように魔獣が退いているとのこと」

「ウィリアム、今後はどうするべきか?」

「これは戦争ではありません。領土を失ったわけでもなく、失地回復は行わずにすむでしょう。されど撤退していった魔獣とはぐれ領内に魔獣が残ってしまう可能性も捨てきれません。ここは領内の警備を強めるべきかと」

「王都の父上にそう奏上しておこう。それから各戦線の司令官とも話がしたい。特に北の戦線では挟撃の事態もあったとか」

「しかしそれも冒険者の活躍によって撃破し窮地を逃れたとのこと。北にヨムスがいるとはいえ北の戦果は大きいでしょうな」

「なにせシズネがいるんだ。それくらいのことはやってもらわねばこまるというもの。しかし・・・」

「腑に落ちないことでも?」

「あぁ、西の戦線とも頻繁に情報のやり取りをしていたのだが、どうにも西の戦線は北やここに比べれば緩すぎるとのことだ。陽動を狙うにしてもあの程度では効果が薄すぎるとは思わんか?」

「確かに。ですが挟撃を狙うのであれば層の薄さは関係ないかと」

「まぁそうなんだが・・・俺の杞憂か」

その後北、西、東の戦線それぞれの指揮官が王都に集められ、戦果の報告とこれからの指針を決める会議が開かれた。そして二日後には指揮官はそれぞれの持ち場に戻り会議の結果を踏まえたうえで軍議を開いた。

「各々方の尽力によって王国の未来を繋ぐことができたと王から感謝の言葉を賜ることができたのも皆のおかげじゃ」

「それが我らの務め故」

「して本題に入ろう。我らはシズネ殿のおかげで魔獣の撤退が速いようじゃ。ここからはこれまで捨てていった防塁を奪還し戦線を立て直す。再度攻めてくるならば今度はこちらが先手を打つ番じゃ」

「各防塁は前へは堅牢ですが我が方の後ろには薄い。奪還することはたやすいでしょう」

軍議は順調に進み反攻の準備が進められることになった。

だが魔獣の撤退を訝しむ者がまた静音の近くにいた。

「魔獣の撤退?」

「そ。理由はわからないけどどこの戦線でも魔獣が離れて行ってるんだって」

「おかしいですね。魔獣は本来理性など無い存在。一度得物を見つければ死ぬまで襲うのがその性。それがどうし撤退など・・・まさか奴の狙いは威力偵察・・・?」

「奴?」

「おっと、失言。どちらにせよ魔獣が退いていくのであれば今回の侵攻はほぼ終わりとなるでしょう」

「ねぇ、エラム」

「なんでしょう?」

「エラムって兵法、軍略に詳しい?」

「まぁ、それなりには・・・どうしたんです?」

「私はぺーぺーだから軍議じゃ言いにくかったんだけどさ、魔獣の群れを軍に例えたとしたら、誰が指示を出しているのかな?理性もないってならなおさら気にならない?」

「指示は・・・魔族が妥当でしょう」

「魔獣の侵攻は人間を根絶やしにすること、それにしても駒の使い方がおかしくないかな?」

「というと?」

「魔獣は魔王の配下なんでしょ?以前襲ってきたヒュドラ。あれが戦線に出たとしたら倒すのは難しいと思うんだよね。あの時は何とかなったけど、普通のヒュドラとか大物の報告もないって聞いててさ」

「確かに、出てきたのは小物の魔獣ばかり。確かにこちらの戦力に対して数ばかりで大物を使っての蹂躙がまったくなかった・・・では今回の狙いは侵攻そのものではなく、別の意図があったと・・・そう睨んでいるわけですか」

「そそ。それで有識者の意見が聞きたくて」

「誰が有識者ですか・・・。ですが魔獣が人を襲うのは糧にするため。それを抑えてでも隠したい目的など・・・。静音。各戦線の敵の戦力バランスはどうだったかわかりますか?」

「んーっとね、北が一番上として東がまぁまぁ、西はあまりだったらしいよ」

「東西で挟撃するならば打倒とは言えませんね・・・なら東に何かを隠していると見るべきですね」

「隠す・・・そういえば東は探索が進んでいなかったんだったっけ」

「えぇ。ですので何か仕込み、罠などを仕掛けて撤退。その後探索に来た冒険者を返り討ちにして東の探索をさせないようにする、と見るべきでしょうか?」

「でもそんなに東にこだわるってことは東にも魔獣の拠点みたいのがあるのかな?」

「どうでしょう。ですが元々東からくる魔獣は出所が不明。どこに元となる歪みがあるのかさえ不明。ともなれば此度の侵攻の原因を探るべく捜索隊が組織されるでしょう。何も罠が無ければよいのですが・・・」

魔獣の撤退という朗報がありながら、エラムの目には疑いの気が宿っていた




かなり遅くなり申し訳ありません。よければ今後ともお付き合いをお願いします。


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第百二十四話

各戦線の魔獣の総退却。今までの史書にも、研究されてきた習性からも予想できなかったできごと。これを好機と逃さず王国軍は魔獣の支配下に落ちていた王国の土地の保護へと動き出した。しかしどの方面の王国軍でも魔獣がいたであろう地には一匹たりとも魔獣はいなかったのである。そう、不自然ともいえるほどに。

 

――――――――

王直々に魔獣の侵攻は終わりを告げた日から一週間ほど。王都を始めとした王国の町全体は活気を取り戻していた。そして冒険者には新たな仕事が待っていた。

今まで立証されていた魔の歪み。これの再調査であった。『歪みは必ずしも大地の上にある』とありながら、歪みが見つかっていない東からの大量の魔獣の侵攻と消滅。いくら何でもおかしいと思った王国上層部は東に比重を置いた大規模な調査を開始したのである。すぐさま冒険者にも何らかの調査の依頼が溢れるほどに舞い込み、戦いの疲れを癒す間もなく再び稼ぎ時が現れたのである。

しかし唯一、静音のクランだけは調査などではなく普通の依頼を受けていた。

「しっかし、なんで受けたらダメなんだろうね?」

「わからん。ただあれだけ博識なエラムが拒絶したんだ。何かあるのだろう」

「だがそれだったら上に注意喚起などするはずだろ?伝手は俺があるし簡単だ。なのにただ俺たちだけがダメだなんておかしいと思うがな」

当然静音のクランにも指名で調査依頼が舞い込むほどだったのをエラムが一蹴したのである。それだけでなく、クラン全体に調査依頼受注の禁止を宣言したのである。詳しい話も無しに言われた一同は当然疑問に思ったが、戦いの疲れも癒えてないからとの静音フォローで何とかその場は収まった。

しかしやはり鋭い勘を持つ者ならば疑問に思う訳である。クラン内で一番エラムと付き合いが長い静音と

リーシャ、そしてエラムの正体がまるで見えないから一目置いているオリオンの三人がクランハウスでエラムの謎の行動に疑問を打ち明けていた。

そして事は起こった。

「静音。どこに行くんです?」

近頃何かとエラムから行動を聞かれる静音。今日は王国が管理する図書館に行くつもりであった。

「えっと、王立図書館に・・・」

「・・・ふむ。私もついて行っても?」

「うん。何か聞きたいことがあったら聞けるからモチロン」

静音は聖剣復活の際に王立の図書館の書庫に触れる権利を得て、そのままであった。それを利用して調べたいことがあったのである。どうせ調べるなら一番情報が集まっているとこでという訳だった。

「確かに、正式な許可証ですね。ご存じの通り持ち出しは禁止、複写も禁止されておりますのでご注意を」

何事もなく書庫に入ることができた二人。

「それで、一体何を調べるんですか?それがわかれば私もすぐに資料を見つけれるはずです」

「えっと、地名、というか地形というか・・・」

「・・・地名?」

「そ。ちょっと冒険者ギルドで聞き覚えのあるような地名を聞いてさ。当の人たちはそんな地名聞いたことが無いって言ってたんだけど・・・ちょっと気になってさ」

「・・・聞いたことが無い地名をなぜあなたは聞き覚えがあると?」

「え゛!?あぁ、えぇっと・・・」

静音が転移者であることはこの世界ではウィリアムとオリオンしか知らない。転移者であることが知られるのは極力避けたいのが静音である。

「えぇっと、ほら、発音の聞き間違えかも知らないからさ・・・」

「そう・・・まぁいいです。それで、聞いたという地名は?」

「ううぇいるうずだったかな?」

「・・・静音、帰りますよ」

「な、なんでさ・・・あ、エラムがもうなんか知っていたり?」

「いいえ。とにかくあなたは触れてはいけない話題です。帰りますよ」

そう言って強引に静音を連れて行こうとしたエラムの手を静音は払った。それだけでなく、エラムに向けて指を向けた。人差し指をエラムに向け、親指を上に向け、それ以外は握り。静音が知る意味のある形であった。そしてエラムが取った行動は静音の予想していた通りの行動であった。

「エラム。私はただ指を向けただけ。なのに杖を探して、戦闘態勢に入るなんて・・・エラム、この形の意味を知ってるんだね?」

「くっ・・・」

そう、静音がエラムへ向けた手の形は銃を象った一般的なもの。ただしそれは銃が存在している世界での話である。火薬の存在はある者の、銃器の存在が無いこの世界でこの意味を知る者などいないはずなのである。

「エラムも、この世界で得られないはずの知識を持っているよね?以前炎を吐く羊と戦った時だってそう。こんな世界で空気の存在を気体なんて表す言葉なんて周知されてないんだよ。それなのにエラムは

気化と言った。エラム・・・私はね「私はあなたが別の世界から来たことを知っています」え?」

「当然あなたから見れば私に違和感を持つでしょう。ですが、私はもとよりこの世界の生まれです。断言できます」

「じゃぁ・・・どうして気化、銃の事を?」

「静音。少し早いですが本当のことを話す必要があるようですね。ですが先にあなたに選択肢を出します。この話を聞いたらあなたは定めに従って行動しなければなりません。」

「定め?それって?」

「それも話せません。要は覚悟の問題です。・・・全てを犠牲にしてでもあなたは私の話を聞きますか?」

静音をじっと見つめたエラムの目。一瞬戸惑うが、それでも静音の覚悟は変わらなかった。

「私はエラムの話を聞きたい。どんな犠牲が必要なのかはわからないからどれだけの覚悟が必要かなんてわからない。だけど、絶対に聞かないと後悔する。そう思える。エラムのそんな悲しそうな眼を見たらね」

「そう・・・ですか」

そうしてエラムは話し始めた。自分の体験談を・・・。




お待ちしていた方へ。非常にお待たせしてすみません。これからもペースが崩れるでしょうが、どうかご容赦ください


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第百二十五話

私を見つめるエラムの目は今まで見たことが無い目だった。誰もが普段はしないような、悲しみの目。

私だってそんな目をした人なんて全く見る機会なんてなかった。所詮ドラマの演出。そんな感じでしか覚えのなかった目。それをこの世界ではまじまじと見せられた。何か大切なものを失った人。それがこの世界には多すぎた。目を瞑りたくなるほどに。だからこそ、聞かないといけないと思った。何を失うかなんて馬鹿な私にはまったくわからない。だけど、聞かないと後悔するとそう思った。だから私の答えは決まっていた

「私はエラムの話を聞きたい。どんな犠牲が必要なのかはわからないからどれだけの覚悟が必要かなんてわからない。だけど、絶対に聞かないと後悔する。そう思える。エラムのそんな悲しそうな眼を見たらね」

「そう・・・ですか」

そう、エラムはうつむいた顔で返事をした。

「では場所を移しましょう。話は私の部屋でします」

エラムの部屋。誰であっても掃除の手伝いにすら入れない謎の部屋。そこに私は案内された。

「全然普通の部屋だね」

特に変わりはなかった。なぜエラムが自分の部屋に誰も近づけなかったのか、それはわからない。だが今は

エラムの話が大事だった。

「まず一つ。あなたはこの世界を別の世界だと聞いたんですね」

「聞いたって・・・確かにそうだけど?」

「ではまずそこを正します。ここはあなたのいた世界とは違う世界ではありません。未来の世界です」

「未来・・・?過去とかありえた可能性の別世界とかじゃなくて?」

「厳密に言えば・・・あなたがこの世界に来ると決まった事で変化した世界と言うべきでしょうか」

「それってどういう・・・?」

「本当は・・・私たちのいた時代で人類・・・地球文明が滅んでいたのです。ですが・・・未来から来たという一人の人物の活躍によって地球は滅びからは逃れることができたのです。代償は大きかったですが」

「?それと私がどういう・・・え゛、まさか!?」

「そう、未来から来た人物はあなたですよ静音」

「ちょ、ちょっと待って。私はこの世界が滅ぶとからそれを防ぐために呼ばれたんだけど・・・なんか語弊が・・・まさか騙されてた?」

「いいえ。あなたが転移した時点では誰も知らなかったんでしょう。滅ぶ世界がどんな世界だなんて。ただわかっていたことはどこかの世界が滅ぶということだけ」

「・・・そうして私が呼ばれて、なぜか自分の世界にまた戻ったという事実が生まれたからこの世界が生まれて、それを何かの意思が誤認したというわけ?」

「誤認というよりは、未来のあなたという存在によって一度目の滅びを回避したこの世界に再び滅びが近づいたからでしょう」

「うむむ・・・ラノベにしたら売れそうじゃない?」

「それは生き残ってからするべきかと」

「お、おう・・・。で、何があったの?ここが地球で未来の世界ってことなら今の文明のレベルを見たら文明の衰退ってレベルじゃないよ」

「そうですね・・・まず、20××年の6月27日に地球は謎の生命体によって破滅寸前になったのですす」

「ん?その日って私が転移したはずの日・・・だってゲームの〇○○の発売日だったもん。じゃなくて、その謎の生命体って?」

「当時は全く前例も特徴の類似性もないことから異なる獣、『異獣』と呼んでいました」

「異獣・・・それでその異獣によって文明崩壊レベルに地球の文明滅んだってわけ?」

「いえ、厳密な滅びの原因は異獣ではありません。異獣は未来から来たあなたともたらされた知識によってほぼ撃退できたのです」

「なら一体、どうして・・・?」

「この世界の魔法や魔獣はどうやって生まれたんだと思いますか?そもそも魔力などというリソース自体存在してなかったでしょう?」

「確かに・・・じゃぁ一体どこから・・・未来から来た私が教えた?でも未来の私がいた世界はココなわけで既に魔法も魔獣もあった訳ってことでしょ?」

「そうです」

「無から生まれる訳もない・・・あ、異獣!!」

「そう異獣の影響です」

「異獣が新たなリソースだったわけ?」

「そう。ですがあの時は未来の静音という戦力だけでは異獣に勝てるなど誰も思わなかった。だから当時の人類は未来の静音が倒した異獣の死体を研究することにした」

「研究って、そんなことしてもリソースを得るには・・・え゛、まさかとは思わないけど・・・」

人間を含めた動物が自分で作れない栄養を手に入れる方法、それは・・・

「そう、異獣を食べたんです。当然拒否反応は相次いで出ましたよ死人が出るほどに。ですがそれでも異獣の力を手に入れた存在もいました」

「それが魔獣?」

「いえ、魔獣もですが、人類も魔の力を手に入れることができたのです」

「でもその力も含めて異獣に勝てたんならどうして滅びに?」

「魔獣の成り立ちの説明がまだでしたね。今存在している魔獣は回収しきれなかった異獣を食べた当時の人類以外の動物の子孫です」

「だから魔獣とただの牛とかの動物が存在していたわけか。ちょっと変化していたけど。あ、魔獣が人を襲いだしたわけか」

「その前にワンクッションあるのです。その、言いづらいのですが・・・」

「?」

「まずこの世界で言う魔王は二代目なのです」

「二代目?でも魔獣が人類を襲う前に何かあってそれから人類を襲うようになった訳で、初代魔王が何かやらかしたの?」

「いえ。今の魔王が未来の静音と初代魔王を殺したのです。そこから魔獣は今の魔王に率いられて獣による人類への報復を始めたのです」

「人類への報復?」

「考えてもみてください。あなたのいた時代の人類と動物の関係を。・・・どう見ても対等でなく、搾取する、されるという立場であったはず。食べるために家畜として生み出され殺されたり、愛玩として生かされたりと」

「た、確かに・・・」

「ですので二代目の魔王は魔の力を得たことを好機と見て人類に報復を始めたのです。その始めが、魔獣と人類の共存を願っていた未来の静音と初代魔王の殺害だったのです」

「そうして長い人類と魔獣の戦いの年月を経て今に至ると?」

「文明自体は異獣の襲撃で無となりました。まず異獣は地球を塗り替えたのです」

「塗り替えた?」

「地球の地面をある一つの島を除いて強引に一つにしたのです」

「一つの島以外・・・日本は残ってるわけ?」

「まぁ、日本人だったらそう思うかもしれませんが・・・残念ながら日本も一つの大陸として取り込まれています」

「じゃぁ、残っている島は・・・あ、ウェールズ、イギリス!!」

「そう、当時の形をそのまま保って残っているのはイギリスだけ。ユーラシアも南極も全ていまや一つの大陸です」

「そ、それは、当時はパニックになった・・・異獣の襲来でそんな暇ないか。でも、魔獣の報復・・・動物がそんなことを思っていたら、そうなるよね。でも、未来の私は知っていたんだよね?」

「いえ、未来の静音が知っていたことは異獣に新たなリソースがあることだけで自分が魔獣に殺されることなんて知らないはずです。ですが、あなたの今の発言を考えれば・・・もしかしたら知っていて隠していたのかもしれませんね」

「ん~それは置いといて、じゃぁ初代勇者とかそこんとこの伝承はどうやって生まれたの?」

「・・・あなたは妖精の成り立ちについては?」

「確か初代勇者によって生み出されたとか。でも初代魔王を別の魔王が倒したのなら、妖精は魔王が?」

「・・・なぜ初代の勇者以外が契約すらできなかった妖精の力をあなたが使えると思いますか?」

「うーん・・・え゛、まさか?」

「初代勇者はあなたであり、倒した魔王というのは魔獣の王を刺したものではなく、異獣を率いていた存在。つまり異獣の王を倒した事実をどうにかして残そうとして変化したものなのです」

「?そういえばこの世界に異獣なんて言葉自体残ってないよね?それまたどうして」

「それが異獣の呪いだからです」

「異獣の呪い?」

「異獣を食べた者、そしてその子孫にかかっている呪いです。異獣に関して何かを残そうとすれば死に至る。またそんな記録が残っているとわかれば優先して破壊する衝動に駆られる。そんな呪いです」

「でも今エラムはペラペラ話せてるよね?」

「・・・今の私は億単位の人間の犠牲によって成り立っているのです。数えきれないほどの人類が研究し、そしてようやく見つけた検体、それが私だったのです」

「検体って・・・そんな実験みたいに・・・」

「もう、余裕がなかったんだ、ですよ」

「ん?」

「いえ、何でもありません。当時の人類の全てによって生きながらえているのが私という訳だけ理解してもらえれば・・・」

そういったエラムの目はとても悲しそうに見えた。絶望。どれだけの死を見て来たのだろうか。家族、友人や知人。もしかしたら知らない誰かの死すら見てるのだろう。

「で、今西暦に直したら何年?」

「ふん!!」

笑顔で聞いた私に返ってきたのはエラムのビンタだった。

「ヒ、ヒドイジャナイカー。セッカク場ヲ和マセヨウトシタノニー」

「カタコトすぎますよ、まったく。いらぬ気遣いということです。ちなみに西暦で直すと8千年ぐらいでしょう」

「ってことは俗にいう八千年から数えるのをやめたっていう・・・アイタっ!!」

二度目のビンタ。

「ちゃんと数えてますよ。ほら」

エラムが空で何かを描くとよく見た空間の歪みから大量の本が出て来た。

「これは・・・日記?」

「私だけでなく、世界の誰かが書いたであろう日記の全てです」

「でも、異獣の呪いでそういう類のは・・・」

「私の使命は世界に散らばった異獣に関する文献を見つけ保護し、あなたの到来を待つことでした」

「私の到来・・・ねぇ、エラムってのは偽名だよね?」

「・・・そうですよ。姿だって、まったく違います」

「だよね・・・でもちょっと、ノリが似てた気がするんだけど・・・」

「何か言いましたか?」

「いいや。それで、私は結局何をすればいいの?」

「話を戻しますか。あなたはウェールズという単語がどう関係していると聞きましたか?」

「んっと、『ううぇいるうずに残りし窯で火を掻き立てよ。さすれば黄金の世界が待っているだろう』って」

「・・・よくもまぁそんな嘘っぱちを・・・というか直でウェールズと指さないあたり自身も異獣の呪いのことを考えているわけでね。小心者らしいこざかしい浅知恵です」

「浅知恵、嘘っぱち?」

「そもそも、魔獣の侵攻・・・今回は例外なんですが、その原因はあなたという存在を今の魔王が認識したからです」

「じゃ、じゃぁ、誰かが死んでいたら私のせいに・・・」

「それはあなたの責任ではありません。話を戻します。今回の魔獣の侵攻は人類が魔獣の対応をしている間に手つかずの大地に『ある物』を探し出すようにする一文を広めることなのです」

「一文を広める?」

「静音はタイムマシンを信じますか?」

「・・・信じるも何も未来の私ってのがいる時点で存在するんでしょ。ってことは探させるものはタイムマシン?存在するんだ・・・」

「いえ、タイムマシンになるかもしれないという代物です」

「原理とかは解明されているわけ?」

「・・・いいえ。ただ存在するとしか私も「ダウト」うっ・・・」

「知ってるよね?エラム」

「・・・えぇ、知っています。涙しか浮かべないあなたが、教えてくれましたから」

「・・・そう」

「ともかく、今の魔王はそのタイムマシンの場所を知っています」

「じゃ、じゃぁもしかして未来の私と初代魔王を殺した二代目の魔王ってのはこの世界の魔王がタイムマシンを使って?」

「いいえ、それは違います。ですが、今この時より、あなたは異獣の記録を学び、備えなければなりません」

「備える・・・そっか、私が、倒しに行くんだね」

「そういうことです。怖気づきましたか?」

「確かに、これから数えきれないほどの死を見ることになるんだろうね。でもさ、考えてもみたらさ、普通に暮らしていたはずの私が、唐突に魔獣とは言え自分の手で倒した、殺したのに、怯えも何も感じなかった。あはは、ゲームをやりすぎたかな?」

「静音・・・」

「と、ともかく、教えてよ、異獣について。私が何をすればいいかを」

こうして、私の本当の世界を救う闘いが始まった。




前話と一緒にしたかったので連投です。


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第百二十六話

エラムから言われた事実。私は異世界に転移したわけでなく、起こるであろう未来の出来事が起きた後の世界にいるのだという。

正直わかんない。頭の出来も良くないことは自分が一番わかっている。だからと言って全部がすぐに信じれるわけでもないけど・・・。

「似てるよなぁ・・・」

『教えるのは明日から。まず一回、頭の中を整理してきてください』とエラムに言われたので今は自分の部屋にいる。

頭の中では言われた事が色々グルグルと回っていた。だけど、エラムの目だけはずっと引っかかっている。

凄く頭が切れる人が共通点を偽って偽の情報を植え付ける、みたいな話があったような無いような・・・。

出も正直、一番怖いのは全てのことが本当なら私一人の存在が世界を変えてしまっていたということになるのだ。私はただちょっと刀が好きなだけな一般人だった。だけどこの世界に来てから、ずっとゲーム感覚でいたと指摘されれば反論する余地はない。だけどゲームのように簡単に正解が見えないのだ。

獣、動物たちがされてきたことは否定できないしそれに憎しみを抱いているのだということをとやかく言える立場ではない。だからと言って魔獣が生まれる前に異獣とか言うのを倒せるのかと言われればわからない。

遭遇したことが無い未来で戦う敵。

「・・・というかどうやって戦うの?」

そう、なんといっても私のいた世界では今私が持っている武器はもれなく銃刀法違反の代物である。

こっちの世界の物を持っていけるのか、持って行ったところでタイムパラドックスなんかが起きないか。

色々と気になるところはある。それに私の世界にはまだ『魔の力』は存在しない。一体どうやって戦えばいいのやら・・・まずそこをエラムに聞いてみるとしよう。と、考えをまとめようとしたが・・・。

「眠れない・・・」

気になって仕方が無いのだ。だからと言って今から押しかけるのもなんだし、だからと言って相談できる相手もいないし寝ている時間だ。私にできることは夜明けまでごろごろとベットの上で転がることぐらいだった。

「と、いうことがあったんだよ。どうしてくれるんだよぉ・・・」

「・・・特に何も」

「ひどくない!?一気にエラムが脳にざっくり入れて来たから夜も眠れず・・・」

「それについてはいずれ通る道なのです。しょうがないとあきらめてください」

「ぬぅ・・・で、今日から色々と教えてくれるんだよね?」

「えぇ。といってもどこから教えたものか・・・」

「まず最初に。どうやって元の世界で異獣とか言うのと戦うの?銃器は当然無理だろうし刀だって手に入らないよ?」

「・・・そのですね、原理がまったくわからないので説明し辛いのですが・・・金属バット数本を纏めたら刀になったらしいんです」

「・・・why?」

「いや、私に聞かれても・・・」

「金属バット片手にならぬ金属バット数本まとめて刀にする?どうやったらできるんですか・・・」

「教えると言ってすぐに頓挫してしまいましたね・・・」

「ぬぅ・・・ん?もしかしてもらった加護とかいうのも一緒に持って帰ったのかな?」

「恐らくそうでしょう。あなたは数多くの異獣に有効な武器を生み出しましたから」

「・・・具体的には?」

「聖剣や聖斧。聞いた話では末期には引きこもってひたすらライフルの弾頭を作っていたとか」

「後ろの事はひとまず置いといて・・・聖剣を私が作ったって?」

「はい。そう聞いています」

「・・・私のチョイスどうなってるんだ?どうせなら刀を打つだろうに・・・はっ、もしかして刀は異獣には有効ではないというのか!?」

「・・・真実を話せば聖剣の元の形は刀です」

「どー考えたってありゃ刀じゃないよ。断言できるよ」

「それが刀なんですよねぇ・・・今の魔王が細工をして余計な金属で覆われているんです」

「・・・なら作ったのはいつ頃なんだろう。そこんとこはわからない?」

「・・・刀に関してはあなたが好き勝手作りすぎたので判別がつきません。ただしあなたが作った中の最高傑作と言っても過言ではないでしょう。だからこそ妖精の力が宿っていてそれを恐れた魔王が細工をしたわけですから」

「うーん・・・実際に触って鍛造というか打ち直しというかやってみたけど、今感じるような力は実感できなかった気がするなぁ」

「そういえば聖剣の修復に携わったんですっけ。多分、打ち直しどころか全く別物、魔王の細工を良い意味で利用して新しい聖剣に作り替えたんだと思いますよ」

「え、そうなの?」

「元々あなたが作った武器は誰でも使えるような物でした。それが使い手を選ぶような意思のような物を持っていた時点で別物と言って差し支えないでしょう」

「そういえば私がこの世界に来て作った刀が意思みたいなの持っているような気がするんだけど、

正体わかる?」

「それ、妖精になりかけている存在ですね」

「妖精?そういえば初代勇者は私なんだっけ。そんで妖精は初代勇者である私が生み出した・・・。つまり妖精の正体は私が打った刀ってことか」

「そういうことです。契約できないなどと言われていますが、実のところ必要な媒介が無いからできないだけなのです」

「媒介?」

「刀のように打たれた金属類の事です」

「・・・よくファンタジーじゃ妖精は金属を嫌うって聞くけどそこんとこは?」

「ただ便宜上妖精と呼んでいるだけで本当の妖精なのかはわからないですね」

「ふーむ・・・」

「それと、妖精についてわかったのなら、妖精郷に行かないといけません」

「妖精郷に?どうしてまた」

「そこに、原初の妖精の宿主があるからです」

「原初の妖精の宿主?」

とりあえず言われるがままに私はファティに妖精郷に案内してもらうのだった。




お待ちしていた方へ。非常にお待たせしてすみません。これからもペースが崩れるでしょうが、どうかご容赦ください


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