この虚言の魔術師に王冠を! (玉砕兵士)
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1話

無限に広がる大宇宙。

 

 

かつて人類は地球平面論という世界の端は滝になっているという説を唱えて一定の支持を集めていたり。

しかし別の大陸では地球は楕円でその下には巨大な象が支えて、さらにその下には亀がいてその全てを支えているという説が論じられていた。

 

 

そんな大航海時代も始まったばかりから現在よりももっと地球の未知が解明されていなかったはるか昔から人類は数多くの未知に対して挑んでいた。

 

そしてそれはやがて今までの未知が船が地球を一周して元の場所に戻って来たときに解明されて既知となる。

 

今までの非常識が常識に溶け込み、逆に常識が非常識に移り変わってゆく

 

そして人類はかつての未知の大海原の舞台を宇宙に変えて地球という島から飛び出してまだまだ間もない頃。

 

 

 

その大海原の舞台となっていた大宇宙の人類が住む地球とは別次元のまた遠く離れた銀河系で全宇宙の支配を企む魔術師が敗れさろうとしていた。

 

 

 

「カ〜〜〜〜〜ビィ!!!」

 

 

この悲鳴の主は名前はマホロア。

 

虚言の魔術師とも呼ばれ、その呼び名のとおりに多くの者をある時は不安を煽り、ある時は偽物の同情を買わせての虚言で騙してきた。

 

さらに魔術師と呼ばれるように多くの魔術に長けており、並大抵のものでは簡単に蹴散らされてしまう。

 

そんなマホロアの目的いや、彼のあまりにも大きすぎる夢は野望という表現が正しいだろう。

 

マホロアは無限の力を持つと言われるハルカンドラの秘宝と呼ばれしマスタークラウンを手に入れて全宇宙を支配しようとしていた。

 

しかしその野望は星のカービィと呼ばれるとても平和な星ポップスターに春風と共にやってきた若き星の戦士にたった今打ち破られた。

 

いかに虚言の魔術師マホロアと言えど、数多の強敵を打ち破ってきた星の戦士にはマスタークラウンを持ってしてもついぞ敵う事はなかった。

 

 

カービィに敗れたマホロアは本来であればマスタークラウンを失いその身一つで異空間(アナザーディメンション)から遥かに離れた宇宙に飛ばされたがそこで趣味のテーマパークを作る。

 

その後何やかんやとカービィと再会する数奇な運命を辿っていく。

 

 

 

が、しかしマホロアを飛ばした異空間(アナザーディメンション)は全く別の宇宙。

そう別次元の宇宙に飛ばしてしまったのだ。

 

 

 

いったい何故なのかそれはマスタークラウンにある。

カービィによってマホロアが倒されるまではストーリーどおりであるが、マスタークラウンへの攻撃が中途半端であり半壊程度でマホロアが倒されてしまう。

 

なんと今回のマホロアを別次元へと飛ばした原因となったのはマスタークラウン。

 

長い年月を経たその王冠は意思を持ち始めていたのだ。

 

とは言っても、まだまだYES or NOという範囲内だ。

 

そして物に意思が宿るという現象は滅多にないがあり得なくはなかった。

 

マホロアの所有する宇宙船ローアにも実は意思というものが存在しており、船自身がほんの少しだけではあるが自立して動くのだ。

 

驚愕すべきは宇宙船ローアを筆頭にポップスターの秘宝と呼ばれる夢を生み出す夢の泉とスターロッド、願いを叶える機械仕掛けの大彗星ギャラクティック・ノヴァを創り出したハルカンドラの超文明であろう。

 

そう前述した通りマスタークラウンはハルカンドラが創り出した秘宝。

 

しかしこれも数ある可能性を示しただけで解答にならないかもしれないが日本人的に分かりやすく表現するとマスタークラウンの無限の力と長い年月が付喪神のようなものを創り出したことだろう。

 

さて、唐突ではあるがそんな意思を持つにいたったマスタークラウンに関わらず生き物がその生命の危機に危ぶまれる事態が発生したならばどうするだろう。

 

この場合であれば破壊される危機が発生したならばとりえる手段としては自らに害を及ぼそうとするものを退けるか、三十六計逃げるに如かずの二択。

 

 

まぁマスタークラウンの場合は、戦ったはいいものの負けそうだから途中で逃げたと言ったものだった。

 

 

話を戻すと異空間(アナザーディメンション)という特殊な環境が、半壊した意思を持ちつつあるマスタークラウンを暴走させて逃走するために別次元の扉を無理矢理にこじ開けてしまったのだ。

 

 

 

こうして暴走したマスタークラウンは共にカービィにやぶれたマホロアを引っ張る形で別次元へと引っ張ってしまう。

 

 

 

「………………ウゥゥン?こ、ここは?ドコ??」

 

 

変に寝違えたのか、目をゴシゴシこすりながら何故だか痛む身体を不思議に思いつつ何事かと周りをマホロアが目を覚まして見渡すとそこは見覚えのあるローアの船内ではなく、だだっ広い草原にいた。

 

 

「ナ、なんだココハ!ローアは!どこに行っちゃったの!?ハ、ハヤク戻ってきテェー!!」

 

 

ローアの自動操縦に任せて安心してベッドで眠っていたというのに起きたら草原にいるという全く訳の分からない状況に晒されたマホロアは酷く混乱してその場であたふたとしてしまう。

 

直前までカービィと戦っていたというのに船内でぐっすりと眠っていたと思っているマホロアのこの状態。

 

 

 

読者の皆様はもう違和感に気づいているだろう。

 

 

 

そう、このマホロア記憶喪失になったのである。

 

原因は意思を持ったマスタークラウンの暴走に引っ張られる形になった際に短い間ではあるが主人として多少は認められていたのかそれとも王冠だけの自分が逃げても意味がないと理解していたのか別次元へと逃げる際にマホロアを連れてったのだ。

 

そして力の暴走で王冠を被っていたマホロアの脳に少しばかり影響がでてマホロア単独でハルカンドラにいる守り神のランディアと戦う以降の記憶を失ってしまった。

 

つまりランディアに戦いを挑み敗れたこともカービィ達を利用してローアを修理してマスタークラウンを手に入れたことも、ポップスターを支配しようとしてそれを阻止しようとするカービィとの戦いもゴッソリ無くなっているのである。

 

 

そして気になるマホロアの混乱の元凶となったマスタークラウンは

 

 

 

「アイタ!な、何か身体にササッたヨォ。……ッてコレは!!マサカ!?マスタークラ………ウン?」

 

 

球体上の彼の体にお腹の部分や足下と言われてもよく分からない気がするが、マホロアは自身の足元の方に転がっているまさかのものに驚愕した後に疑問を持った。

 

 

「コレがあの伝説の無限の力をモツと言われるマスタークラウン?」

 

 

そう確かにマホロアの目利きどおり彼が拾ったものは紛うことなきマスタークラウンであるが、どうにも様子がおかしい。

 

いつものマスタークラウンは常にキラキラと黄金色に光輝いて、それでいて一国の国宝級の美しさを兼ね備えている正に芸術品と言われてもおかしくないもの。

 

何よりクラウンの無限の力は魔力を持ったものを一切の誇張なく史上最強の宇宙の支配者にさせるほどの力を持つ王にふさわしき常勝の武具、いや魔道具である。

 

しかし今のマスタークラウンは黄金色に光輝くこともなくむしろ(すす)をぶっかけたかのように薄汚れているよう見えた。

 

マホロアが調べた伝説とは全く異なっているその姿は何処かの観光地に売っているパチモンの王冠の方がいいように思えてしまう。

 

そして、なによりもマホロアが疑問を持つのは魔道具としての力は感じるがあまりにも伝説になったとは言えないぐらいの力の弱さなのだ。

 

 

 

 

「……………。」

 

 

自分が追っていた物がまさかの何の価値もなさそうなただの骨董品だったという事実に打ちのめされてしまい言葉が出てこないマホロア。

 

そして改めてここは何処なんだと訳の分からない状況に全く思い出せない記憶と本当にただの伝説だった骨董品(マスタークラウン)の現実にがらにもなくマホロアは思わず頭を抱えたくなってしまう。

 

 

取り敢えず高値で何処かで売ってやろうと手を伸ばしたが、薄汚れた骨董品(マスタークラウン)を前にしてちょうどいい憂さ晴らしに破壊してしまおうと考え直して盛大に吹っ飛ぶように強めの魔力球を放った。

 

 

 

 

 

シュン!!

 

 

 

「!!!」

 

 

消えた。

 

 

 

骨董品(マスタークラウン)が盛大に吹き飛ぶであろう光景が当然だと思っていたマホロアの予想は大きく外れて魔力球はマスタークラウンに触れることなく掻き消えたのだ。

 

しかも驚くべきことにマスタークラウンの周囲の草は魔力球が掻き消えた時に()いですらいないようにマホロアには見えた。

 

 

 

「マ、まさか!」

 

 

慌てて今まで骨董品だと思っていた物に近づいて、恐る恐る両手で慎重に持ち上げて改めてよく見る。

 

今度は注意深く、何も一つとして見逃すことがないように。

 

 

 

「……ハッ、はははは!間違いない。コレは正真正銘ホンモノのマスタークラウンダョ!!」

 

マホロアは手にとってようやくそれが骨董品ではなくマスタークラウンだと確信して、歓喜の声を上げる。

 

確かにマスタークラウンの魔力量は先程と変わらず伝説の魔道具と比べるべくもなく明らかに弱い物だが、手にとってようやく骨董品と勘違いしたかがわかったのだ。

 

その魔力容量は正に桁違いの伝説級だ。

 

まるでそれは宇宙船ローアからいつも眺める想像も出来ないほど無限に広がる漆黒の宇宙のように底が見えないのだ。

 

マスタークラウンは無限の力を持つ魔道具であり、それを伝説たらしめるのは圧倒的に無尽蔵で底の見えない魔力保有量。

 

例えるならば一般的な普通の魔法使いがジョウロでアリの巣穴を水責めにするならば、マスタークラウンは才あるものが使えば災害とも呼べる津波で街を飲み込んで建物を押しつぶすような物だ。

 

しかし喜んでばかりもいられない。

 

 

 

「デモ一体何でこんなに弱くなってしまってるんだろう?もしかしてボクの魔力球ヲ吸収したのと関係あるのかナァ。」

 

マホロアは暫くマスタークラウンをジッと見つめているかと思うと裏返したり、クラウンの縁や宝石をなぞったりポンポンと叩いたりすると試しに魔力を手から直にクラウンへと流し込んでいく。

 

魔力を送り続けて暫くしてからふぅーっとマホロアは一息ついた。

 

 

「ドウヤラ壊れたトコロヲ治すために魔力を吸収しているみたいダネェ。このままボクの魔力を与えてもまるでサバクに水を撒いてるみたいダョ。」

 

 

また暫くマホロアはマスタークラウンを服で擦ったりして調べているとマスタークラウンを調べてるのに夢中でさっき呼んでいた宇宙船ローアがまだ来ていないことを思い出した。

 

 

 

「アっ!ローアを忘れてたヨォ。」

 

 

 

マホロアが呟いたおかげか、異空間(アナザーディメンション)をちょうど通り抜けた宇宙船ローアは上空に現れた。

 

 

 

ちなみにマホロアには虚言の魔術師以外にも自称ではあるが天かける旅人という呼び名があり、これは宇宙船ローアをモチーフにした呼び名である。

 

虚言の魔術師がそのマホロアの本性だとするならば、天かける旅人マホロアは仮の姿と言ったところだ。

 

そんな天かける船ローアはゆっくりと上空で円を描きながら主人であるマホロアの元に降りようと降下を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よく見ると爆炎を上げながら宇宙船ローアのマストやウイング、部品をバラバラにしながら降下というよりも現在進行形で墜落をしていた。

 

 

そう呼び出したローアはマホロアは分かるはずもないがカービィ達とランディアの攻撃により沈められていたのだ。

 

幸いにも宇宙空間で爆発することはなかったものの、沈まんとする船の意思で応急修理中であったのだ。

 

そこでマホロアのSOSを受信したローアは無理を押して出航し、結果的に異空間(アナザーディメンション)を通り抜けた段階でポップスター以来二度目の墜落を経験することになった。

 

 

 

 

そんなローアの忠犬もかくやという行動は残念ながら記憶喪失で知るよしもないだろう。

 

突然訪れた宇宙船ローアの緊急事態に呆然と立ち尽くすマホロア。

 

そのままローアはマホロアのいる草原にドゴゴゴゴゴゴ!と地響きを立てながら不時着した。

 

シューとまるで力尽きたかの様に船体から煙を上げるローアを見てマホロアは今度こそ頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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2話

マホロアは突然訪れたその状況に困惑していた。

 

 

 

さっきまでローアの船内に居たはずなのに、いきなり檻に入れられてるかと思ったらその周りにいた兵士に槍を突きつけられていた。

 

その兵士に守られているようにいた人間は豚みたいに不健康にブクブクと太っており部屋の奥には男を模したような純金の銅像やら高そうな美術品やら家具やらが置いてありそのせいでやたらと部屋中がピカピカとして無駄に眩しい。

 

正に成金の部屋そのものといった感じだった。

 

 

「……君は一体誰ダィ?」

 

 

「ワシはアルダープ様だ!何だか弱そうなモンスターが召喚されてしまったな。だがまぁ良いこれから貴様はワシのものだ。感謝するが良い。」

 

 

 

 

なにやら険悪な状況になっているがそれを解説するために話は少し遡ってマホロアがまだローアにいた時、つまるところローア墜落から数日ほど経った頃。

 

 

 

 

 

ローアの惨状を見て暫く頭を抱えていたマホロアだったが、いつまでもそうしていられなかったマホロアは墜落したローアの修理を行っていた。

 

だがウイングやマスト等を欠落して更にボロボロになっていたローアを完全に修復することは出来ないでおり、これからどうやって部品を回収すればいいかとウンウン唸って悩んでいた。

 

 

「ウーンどうしよう。ローアが飛べないんジャア、マスタークラウンを手っ取り早く直す方法をハルカンドラで調べられないしなぁ。コレジャア宇宙へ飛ぶドコロかこのホシから飛び立つもできないヨォ」

 

「虚言の魔術師とヨバレシこのボクでもこの辺りにいるヒトはミンナボクのコトを『モンスターだっ!』って言って話も聞かずに襲ってキテルンジャア利用……協力サセラレナイシナァ。」

 

「マッタク!ボクをモンスターと勘違いスルナンテ失礼シチャウヨ!!」

 

 

 

思い出した怒りを発散させるようにイスに座ってグルグルと周りながら手に持ったクラウンに魔力を込めつつ思案する。

 

 

「シカシ一体どうやって、ユウコウテキなアプローチをすれば良いかナァ。モンスターから守って助けてアゲヨウニモそんな都合のイイ展開も全然来ないシナァ。」

 

 

ローアのできる限りの修復を終えてからマホロアはこの星の住民に接触をしようと辺りを飛び回っていたが、襲われない様に近くの茂みから様子を伺うも住民を助ける様な展開もなかなか訪れなかった。

 

ちなみに留守番をしているローアは魔物に襲われないかと言われればハルカンドラの超文明が創り出したローアの力を恐れて知能が低く弱い魔物は自分から近づいては来ない。

 

他にもはたからみればローア自身がただの宇宙船ということもあって来ないこともある。

 

 

「デモ地道にヤッテイクのも飽きてキチャッタナァ」

 

 

なんとも気分屋なマホロアがそうしてグルグルグルと回っていたら偶然にもアルダープの所有するランダムにモンスターを召喚する神器に召喚されてしまったのである。

 

 

「どうした?なんとか言わんか!この低俗なモンスターめ!」

 

 

いきなり召喚されるという予測不可能な事態で、さらにこの失礼な物言いにあったら普通だったら怒ったり慌てたりするのは必定。

 

だが魔術師として知能が元から高いマホロアは素早く状況を理解すると激昂するどころかむしろ喜んだ。

 

自分にかかればこんな槍を構えて脅す兵士程度軽くあしらって逃げられるという自信と余裕もあった。

 

何せやっとこの星の住人とまともに話し合えるのである。今までは見ただけで襲いかかって来るような相手ばかりだったので、内容は最悪だが1番に話を仕掛けてくる相手ならば虚言の魔術師の出番。利用出来るまで利用してやろうとそう思えば目の前の相手の失礼な物言いにも多少は我慢してやろうと思った。

 

しかも初めて話をすることができる住人が喋り方はともかくとして見た感じ中々に強そうな権力を持った貴族であり、さらに言えば頭が悪そうで実に騙しやすそうだ。

 

 

「エェ〜モノだなんてヒドイナァ。それにボクはモンスターじゃないヨォ。それよりもボクと友達!そうフレンズになろうヨォ。そうしたら友好のアカシにキミが、いやアルダープ様がホシイ物をあげるカラァ。」

 

「黙れ!このモンスター風情が!!貴様を召喚して使役しているのはベルゼルグ王国の貴族であるアルダープ様だぞ。そんな事すらも分からんのか?やはり最初に思ったとおり低俗なモンスターだな。」

 

 

まさに聞く耳持たず。

 

マイペースに話しかけてくるマホロアに唾を吐き散らしながら怒鳴るアルダープ。

 

召喚した主人に素直に命令を聞くどころか馴れ馴れしくも話しかけてくるマホロアをハズレの低級モンスターとみなしたアルダープはすぐに殺してまた代わりのモンスターを召喚しようと考え直して近くにいる兵士に命令しようとする。

 

そんなアルダープの不穏な空気を察知したのかいつでもマホロアに槍を突き出そうと臨戦状態に入る兵士たち。

 

だが次の瞬間にマホロアが懐から取り出した物を見てアルダープは目の色を変えた。

 

 

「まぁまぁ、ハナシを聞いてヨォ。アルダープ様にはこんな物なんてドウカナァ?」

 

 

懐から取り出したマホロア手の上には綺麗な宝石や純金のブレスレットに腕輪と価値の高そうなお宝があった。

 

 

「なっ!おいそれを早くワシによこせ。ワシのものだ!」

 

「モッチロン!友好のアカシだからアルダープ様にあげるヨォ。」

 

 

やはり成金のこの部屋を見た時から思っていたとおり金に汚い人間のようだ。扱いやすそうで実に好ましい。

 

今にも椅子から飛び出して行きそうなアルダープの様子に兵士が慌ててそれを制して檻のそばにいた兵士がマホロアから腕輪や宝石を受け取ろうとしたその時

 

 

「大丈夫ダョ。ジブンで渡すカラァ。」

 

 

そう言った後にパッと檻の中からマホロアが消えた瞬間にアルダープの前の机にいきなり現れてお宝を置いた。

 

 

「!!?なわぁ!?貴様どうやって!」

 

「瞬間移動サッ!ドウ?ドウ?気に入ってクレタァ??」

 

 

律儀にアルダープからの質問に答えるマホロアの事はもう頭に入っていなかったようで机に置かれた宝を引ったくるように手に取って夢中になって眺める。

 

マホロアが檻から瞬間移動した事に慌てた兵士は移動してすぐに槍をマホロアに構え直す。

 

暫く眺めた後にマホロアをジロっと見下すような目と顔でアルダープはマホロアを見ると

 

 

「おい。まだ何か持っていないのか?ワシは貴様のご主人だぞ。全部ワシによこせ。」

 

「ザンネンだけど、今はソレしかモッテナイヨォ。でもボクのホシには同じモノがいっぱいあるヨォ!」

 

「そんなに大量にあるのか、それに何だと?ホシだと?どこだそれは?早く持ってこい。」

 

 

いまいちアルダープと話を聞いていた周りの兵士達は『ホシ』という単語が宇宙にある星だとわからず疑問に思っていたがその『星』を分かっていない様子を見て腹の中で笑うマホロアは表面上は愛想のいいニコニコ顔で質問に答える。

 

 

「ソウ!ウチュウ船に乗ってウチュウからこの星にやってキタンダァ!」

 

「な、何だと!?まさかあの夜空にある星からか!」

 

 

見た目から今までモンスターだと思っていた目の前の相手が驚愕の宇宙からの来訪者という出来事に思わず大声をあげるアルダープ。

 

予想外の出来事に固まってしまう兵士達。

 

 

「そうだヨォ。デモ。」

 

 

今までマイペースに喋って行動していたマホロアが急にしょんぼりとした様子になり不思議そうにアルダープと兵士は注目する。

 

 

「ココに来るときにウチュウ船のパーツがバラバラになっちゃってホシに帰れなくなっちゃったんだ。助けをモトメヨウと近くにいたヒトに近づいたら襲われそうになったりシテ。もうダメだとアキラメテたらボクのハナシを聞いてくれるアルダープ様が現れたんだヨォ!だからオネガイシマス!アルダープ様!ボクと一緒にウチュウ船のパーツを探してホシインダ!」

 

 

マホロアの話を聞いて暫くじっと考えていたアルダープは分かりやすい悪い笑みを浮かべた。

 

その笑みを見たマホロアもニッコリとアルダープに笑い返す。

 

 

釣れた

 

 

「おお、それはそれは可哀想だなぁマホロアよ。愚かなお前の為にワシもその船のパーツとやらを一緒に探してやろうではないか。そしてお前がパーツを探せるようにこのワシがアクセルの街のギルドに取り計らってやろう。」

 

「ホントウカィ!アリガトウ!アルダープ様。ウチュウ船が直ったらぜひアルダープ様をボクのホシに招待シテ沢山のゴチソウとオタカラをあげるヨォ!」

 

 

そう言ってアルダープの両手を取ってブンブン振って喜ぶマホロア

 

いつもであれば下賎な者が触るなと怒鳴るアルダープも、そのマホロアの追加のダメ出しに言いたい事を言ってくれたと更に悪い笑みを深くして気分が今までになく良いアルダープは全く気にならなかった。

 

(馬鹿なモンスターめ。ワシは全て(・・)自分の力でこの国の貴族まで登り詰めた聡明な頭脳を持つアルダープ様だぞ。宇宙船とやらが直って貴様の星にある宝を全部もらったら貴様を殺して宇宙船もこのワシのものにしてやる。)

 

 

 

アルダープがそう思案しているときにマホロアも心の中で腹黒い笑みを通り越して大爆笑をしていた。

 

ちょっと欲を刺激して愛想を振りまいて知りようもない奇想天外な嘘をバラまいただけでここまで上手くいってしまうとは本当に愚かな人間だ。

 

こんなにも騙しやすい奴は初めて見た。

 

 

かくしてマホロアは宇宙船のパーツを探してもらう友好的な関係(笑)をアクセルの街の領主であるアルダープと築き、さらにこの星の人間に友好的に接する手段を手に入れた。

 

 

 

 

 

 

「えーと、あのアルダープ様がおっしゃっているのは………つまりそこにいる人(?)は宇宙人でバラバラになった宇宙船のパーツを探している可哀想な宇宙人だから当ギルドに冒険者登録をして欲しい。ついでに宇宙船のパーツを探す依頼も出すという事でしょうか?」

 

「そうだアクセルの街の領主であるアレクセイ・バーネス・アルダープ様からの直々のご命令だ。二回も言わせるな。」

 

 

あのアルダープより控えめではあるがそれでも高圧的な口調の兵士とチラリといま話題になっている一見して新種のモンスターのようなモノが奥の椅子に座っているのを見て困惑した様子のギルド職員。そしてその様子をニコニコと行儀よく椅子に座って眺めているマホロア。

 

 

場所はアルダープの屋敷から変わってここはアクセルの街のギルド。

 

 

 

 

に向かっているマホロアとアルダープからの命令を受けた兵士を乗せた馬車。

 

兵士はアルダープと別れてから憐れむ様な目を最初マホロアにむけていたが、馬車に乗るときには気持ちを入れ替えたのか仕事の顔に戻っていた。

 

マホロアはその憐れんだ目を自分のウソの境遇に対してなのか、それとも食い物にされた人を見てきたからなのか、それともその両方なのかは分からないが、心の中で『ボクはそんなのお見通しだヨォ』と呟きながら馬車に乗り込んだ。

 

ガタガタ揺れる馬車にマホロアが顔をしかめて座席から宙に浮いて外の景色を眺める。

 

兵士はそれをチラッと見て揺れる馬車に尻の痛みを思い出したのか腰の辺りをさすりながらも命令文を熟読する作業に入る。

 

マホロアもそんな真面目な兵士の様子を見て窓の方に顔を戻す。ゆっくりと進む馬車が最初は平原が広がっていたが景色が林からまた平原になり暫く経つと街の城壁を越えた頃にこの星にやってきて初めて見る街に夢中になった。

 

 

 

ウンウンイイヨォ、とてもイイヨォ。

 

オモッタとおり城壁の中にマチを作ってモンスターから身を守っているミタイダネェ。

 

魔法をクワシクまだミテナイから結論を出せないケド、ヤッパリ知らない土地をミテ回るのはタノシイネェ!

 

知らないモノ。よく分からないモノでいっぱいだヨォ。

 

パーツを探すトチュウで少しでもこのホシの魔法を調べればハヤクマスタークラウンを直せるかもしれないヨォ。

 

マァ、アルダープの気がカワッタラ、このホシからオサラバしなくちゃいけないけどデキレバ見てマワリタイナァ

 

 

ソレニ

 

 

ミンナこの馬車を避けたりヒソヒソ話したりシテルネェ、女の人はもっと過敏に反応してるけど思ったとおりアルダープの評判はワルイミタイダネェ。

 

いまさらだけどアンナ愚かなニンゲンがこの街の領主なんてチョット信じられなくなってキタケド調べた方がイイカナァ?

 

 

 

「着いたぞ。アクセルの街のギルドだ。」

 

最初は兵士が降りて慌てて来たギルド職員思わしき人間とボクの事を話しているのか声は聞こえないがだいぶ時間がかかっている。兵士がこちらに手招きをしてくるのでそれに従って馬車から飛び出した。

 

 

事情を話してもらえたようで何よりだ。

 

 

これでもう『モンスターだ!』と失礼な事を言われることもいきなり襲われることも無いだろう。

 

それにしても先程から建物の奥の方でやって来たギルドの男性職員と同じような制服の女性が慌てて引っ込んで行くのが見えた。

 

よほど好色であるようだ。モンスター並みにあの人間は嫌われているらしい。

 

 

「ヤァ!ボクの名前はマホロアダョ!皆んなヨロシクネェ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大変だぁ!遂に悪魔が街に入り込んだあぁ!!」

 

マホロアは大騒ぎになったギルドの前で殺到してきた大勢の冒険者にあわや討伐されそうになった。

 

一体そこで何の話をしてたんだと兵士に怒りたくなったが、次々と四方八方から飛んでくる魔法や矢を避けるのに大変でまずは生き残るのにマホロアは必死であった。

 

 

 

 



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3話

モンスターの次は悪魔扱いされたマホロアが必死に冒険者達の攻撃を避ける間にアルダープの兵士と事情を知らされたギルド職員がなんとかして冒険者達の誤解を解いてくれた。

 

 

 

 

なんともまぁ間の悪いことに実はアクセルの街の近くの森に上級悪魔が現れて暴れていたらしい。

 

 

それも討伐のためにやってきた魔剣の勇者が敗れて対処するのがまさに絶望的で怒った悪魔が攻めてくるんじゃないかとピリピリしている時にギルド前に堂々と現れたマホロアを遂に攻めてきた悪魔と誤解してパニックになったようだ。

 

 

 

 

ちなみにその悪魔はちょうどマホロアが来た日に奇跡的に討伐されたようで悪魔騒動は無事解決されたようだった。

 

巻き込まれたマホロアとしてはその悪魔に『コンナ時にクルナァ!』冒険者達にも『ボクはモンスターでもアクマでもないヨォ!!』と言ってやりたかったが。

 

 

その後は、いくら見た目がモンスターのようでも疲労困憊の様子のマホロアを見て申し訳なさそうにしていたギルド職員に冒険者登録をしてもらったりしたがその時に本当に大丈夫なのかと聞かれたのは別の意味もあるがそれはまた別の機会に話そう。

 

他にも悪魔と間違えて遠慮ない攻撃をしてしまった冒険者達は流石に見た目モンスターにしか見えないマホロアに謝る勇気はなかったようだ。それでも冒険者達はマホロアを申し訳なさそうな目で見送っていた。そんなこんなで宇宙船ローアへフラフラと帰っていった。

 

 

 

「………ナンダカ今日はショウカンされたり、コウゲキされたりろくな目にあってないヨォ。」

 

そう呟いてほとんど倒れるようにベットに飛び込むとすぐにスヤスヤと眠り始めた。

 

 

 

翌日

 

 

 

「コレはマズイネェ。………キノウも大変ダッタケド、今日もロクデモナイ日になりそうだヨォ。」

 

マホロアは宇宙船ローアのメインコンピューターに映し出された画面にあまりの事実に絶望しかけていた。

 

 

その画面には

 

 

『ハルカンドラ NO LINK』

 

 

基本的にローアは行き先が決まらなければ自動航行をしたり、目的地が決まればそこに登録して向かう物だ。

 

マホロアはハルカンドラをもちろん登録してある。自分の目的であるマスタークラウンがある星なのだから。

 

どんなに遠く離れても必ず向かう事ができるようにと、しかし画面は何度見ても『NO LINK』

 

つまりマホロアはたとえ宇宙船ローアを直したところで、ハルカンドラへと帰ることが出来なくなってしまったのだ。

 

それはマホロアが壊れたマスタークラウンを修復するための手段を限りなく失ってしまったに等しかった。

 

 

 

 

昨日散々な目にあったマホロアが、起きたのは太陽が真上にのぼったお昼頃。ぐっすり眠ったマホロアは昨日は外へと出たせいで散々な目にあったんだ。そうに違いないと考えると今日は一日ローアで過ごそうと固く決断し、今やる必要はないがハルカンドラへの航路を確認しておこうとコンピューターを操作していた時にハルカンドラへと行くことが出来ない事実を認識したのだった。 

 

 

 

 

何度も言わせてもらうが行けないのである。

 

 

 

 

これがまだ『ERROR NO FLY』ならまだ救いはあった。これはただ単純に飛行する事が出来ませんと示しているだけなのだから。

 

パーツがバラバラになって無くなっているのは墜落する様を見せつけられたマホロアと墜落したローア自身が飛べないのは一番よく分かっている。

 

これは行けるけど飛べるようにパーツを集めろという事だからだ。解決策はこの星に散らばったパーツを集めて飛べるようにすればいいだけである。

 

 

 

 

若干寝ぼけていたマホロアが『NO LINK』を見て完全に覚醒してまさかと慌てながら他に行った事のある星から有名な星まで片っ端から調べていくがその全てがことごとく『NO LINK』という残酷な表示しか出てこない。

 

考えられる可能性としてはメインコンピューターの故障。

 

しかしこれは真っ先に除外される。なんと言ってもこのマホロア自身がローアの修理を完全に行ってすぐのことなのであり得ない。

 

そして次に考えられる可能性は最悪だが、これしか無いとマホロアも思っていた。

 

何せ日付も大きく変わっており、自分が認識していた1ヶ月近くも進んでいたのである。

 

何か事件か、事故でも起きてなければおかしいというものだ。

 

 

 

 

別次元の宇宙に自分は飛ばされてしまい。ローアをそれに呼び込んだという事だ。

 

 

 

 

マホロアの考えた仮説はこうだ。

 

マスタークラウンを手に入れるため、ハルカンドラまで異空間(アナザーディメンション)を通って向かっていたが何らかの原因不明の事件又は事故が起こり。異空間(アナザーディメンション)に別次元の穴が出来てしまいそこに何故かは分からないが自分だけ入ってしまったという事だ。

 

 

だがそれもおかしな話だとマホロアは頭をひねる。

 

 

ローアごとではなく船内にいた自分だけ別次元を通っているのもおかしいところなのではあるが。

 

そもそも別次元というものが開くこと自体があり得ないレベルの話で全くもって聞いた事がなく、もし開いたとしてもわざわざそんな所に飛び込む事も無いし異空間(アナザーディメンション)に異常が発生した時点でそこから脱出するのが当たり前なものなのだ。

 

異空間(アナザーディメンション)は移動にもマホロアが戦闘にも多用するほど便利な物なのだが、相応に危険がつくものだ。

 

 

 

そこでまたマホロアはウンウンと唸っていたが、ふと自分が最近日課になりつつある手に持って魔力を流し込んでいる物(・・・・・・・・・・・・・・・・)にマホロアの目が止まった。

 

 

 

記憶を喪失した自分の近くにあった無限の力を持つハルカンドラの秘宝マスタークラウン。

 

 

パズルのピースが組み合わさり、虚言の魔術師マホロアの高い知能が真実を導き出し始めていた。

 

 

マスタークラウンを手に入れた自分は、何らかの目的で戦いを仕掛けてきた相手と異空間(アナザーディメンション)で戦闘を行い認めたくはないがそれに自分が敗北したのだろう。 恐らくはここでローアも敗北している。

 

そうでなければマスタークラウンが壊れているという理由がつかない。

 

そして壊れたマスタークラウンを使って最後の反撃に出たのか、逃げようとしたのかはどうでも良いとして、壊れているのに気付かずにか力を込めてしまいマスタークラウンが暴走して別次元の穴が開いたのだ。

 

こうして自分だけしかも別次元の宇宙のどこかもわからない星に辿り着いたのだろう。

 

記憶喪失もその頭にかぶっていたマスタークラウンの暴走であるのだろう。こうして考えてみると暴走した力が別次元の穴を作るのに全力を傾けていたことは幸運であった事を知り記憶喪失だけで済んでよかったと今更ながらにマホロアは冷や汗をかいた。

 

 

 

こうして記憶喪失の自分と半壊したマスタークラウンが出来上がり、訳の分からない状況に混乱した自分がローアを呼び出して終わりというわけだ。

 

 

 

こうして考えるとローアを呼び出せたのだから元の場所に帰る事も可能なのではないかと思えてしまうが、あくまでもこれは例外のような物でマホロアがローアを呼び出したから実現したのである。

 

ローアはマホロアのSOS発信を追跡して別次元の宇宙にいるマホロアのもとに向かったのであって目的地が分からない、手がかりすらない場所へ向かうことはそれこそ誰かがマホロアを助けるために呼ばないと出来ないのだ。

 

そして誰も自分を助けようとしてくれる事も無いだろうとマホロアは断言して言える。

 

 

これは言わずもがな虚言の魔術師の因果応報というべき物だろう。

 

 

 

元々1人だったので助けてくれなくても良いのは……まあ良しとしよう。

 

問題はこのままではマスタークラウンに地道に魔力を流し込むにせよ途方もない時間が必要だ。

 

本当に直るかもどんどん自信が無くなっていくマホロア。

 

昨日は外に出てロクな目に合わなかったが、今日はローア船内でロクでもない現実を知ってしまうことになるとはマホロア自身も思いもよらなかった。

 

そんな足元が音を立てて崩れていくような感覚にマホロアは茫然自失となってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よし!気分転換にアクセルの街へ行こう。

 

 

 

 

『これは外に出て行く訳ではない。最終的な目的地がアクセルの街であって外ではないから最初の朝の決断を曲げているという訳ではないのだ!』という無茶な理論を誰に聞かせる訳でもなく心の中で唱えてマホロアはローアから逃げるように飛び出していった。

 

 

「ヤッパリ!シラナイ場所はイイネェ。珍しい物でイッパイだヨォ!」

 

大通りをフワフワと浮きながら若干はしゃいだ様子のマホロアは周りの住民からギョッとされたりして注目の的となっているが比較的友好的だ。

 

昨日のギルドの騒動と宇宙船の墜落という不幸な生い立ちが宣伝された事もあって、みんな同情しているようだ。

 

露店に出ている食べ物や、何でもないような装飾品を見ては子供のようにはしゃぐ様子を見ていると微笑ましく思えてしまう。

 

 

 

「ドウセダシ、何かヒトツお腹もヘッタシ買ってみようカナァ。」

 

と財布を持って、今まで持っていたお金が使えないことに気づくマホロア。

 

「オットそうだった、ギルドに行ってエリス硬貨とコウカンしなくっちゃいけなかったヨォ。」

 

 

人通りの多い道から、ふわふわと高度を上げて空からギルドを目指して飛んでいった。

 

 

 

 

 

「コレはとても価値の高い指輪ですねマホロアさん。」

 

「マァボクは宇宙人だからネェ。ギルドの人から見たら珍しいものでもボクにとっては路銀集めの道具にしかすぎないヨォ。」

 

目がお金のマークになっているギルド職員から宝と交換してもらったマホロアは大量のエリス硬貨が入った袋を持って早速何か注文しようと近くにある椅子に座る。

 

 

 

 

「よぉ〜!宇宙人君!」

 

とメニューをめくろうとしたマホロアの席の前にくすんだ金髪の男が前に座りながら話しかけてくる。

 

 

「ンン?ナンダイ。キミは?」

 

「俺の名前はダストってんだが、見たところアンタが昨日から噂で持ちきりになってた宇宙船のパーツを探してる可哀想な宇宙人だな。」

 

「ソウダヨ。ボクの名前はマホロア!これからヨロシクネェ。…もしかして宇宙船のパーツをミツケテくれたのカィ?」

 

「いいや残念ながら違う。だけど俺はこの街を牛耳ってる裏の顔役みたいなものだからな。まあでも俺様に頼めば直ぐにでも見つけてやるぜぇ」

 

 

 

なんだか言ってること全部胡散臭いけど……いいこと思いついたヨォ。

 

ジーッと見つめるマホロアにダストは内心でいっぱいお金持ってるこいつから飯代だけでもせびろうと考えていた。

 

 

「ソウナンダネェ!キミはこの街の顔役さんナンダネェ。ダスト!」

 

「そうだぜ、この街の顔役のダスト様なんだぜ!まあ、続きは飯でも食いながらにしようぜ。」

 

 

 

そう言ってダストは早速注文を取ろうとウェイトレスに

 

 

「このバカダスト!あんた何やってのよ。」

 

「シュワシュって痛!何すんだよリーン!?今せっかくこいつから飯を奢れそうなところだったのに邪魔すんなよ!」

 

「あっ、あんたって奴は初対面相手の人に本当に……とにかく早くこっちに来なさい。」

 

「あっちょっ、髪を引っ張るなって。やめろ!」

 

「うちのバカが本当にご、ごめんなさいねぇ。そ、それじゃあねぇ。」

 

 

いきなり現れてそして去っていったダストとリーンをキョトンしたような顔で見送ってからウェイトレスにマホロアはおすすめのカエルの唐揚げを注文した。

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くリーンに引っ張られていたダストはギルドから離れたところでようやく解放された。

 

 

「イタタっ。俺をハゲにするつもりかよ!俺が誰に飯を奢ってもらおうと別にいいじゃねぇか。」 

 

「そもそも誰かにたかろうとしてんじゃないわよ!あんたって本当にクズね。それはともかくとしていい?あのマホロアに絶対に借りを作っちゃダメよ。」

 

「はあ?それってどういうことだよ??」

 

「マホロアが冒険者登録した後見人があのアルダープなのよ。」

 

「げぇぇ。あの豚領主か!アイツが後見人になるなんてアクシズ教に入信するぐらい俺は嫌だぞ……いや、やっぱりどっちも最悪だわ。」

 

 

アルダープのよくない噂を思い出してうえぇと言った顔をするダストにリーンは続ける。

 

 

 

「どういう経緯でマホロアの後見人になったのかは分からないけど、誰よりも金にがめついのに宇宙船のパーツを探すクエストで報酬まで出してるのよ。あのマホロアって宇宙人は一体どんな手を使ったんでしょうね?」

 

「嘘だろ。あのアルダープがか?」

 

「嘘みたいだけど本当よ。マホロアは結構フレンドリーっぽいけどあのアルダープが無償で人助けをするような奴じゃないから、マホロアを傷つけたりマホロアに借りを作るような事をしたらアンタだけじゃなくパーティーにまで迷惑かかるかもしれないんだから今度から気をつけなさいよね。」

 

 

 

 

 



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4話

やっぱり、なんだかんだみんなマホロアが大好きなんだなぁ。

お気に入りもチョコチョコ増えて、感想も増えてありがたい限りです。

返信はするかどうか悩ましい所ではありますがとりあえず今のところはしない方向で行きたいと思います。

でもでも感想はとても嬉しいからいつも読ませて頂いております。

なるべく週一で投稿していきたいけど、来週から同じペースが難しいかも知れないです。
来週分は投稿出来たとしても、以降からは時間を置いて数話分溜めてから再投稿という形になるかもです。

たまにこんな風に投稿は前書きにお知らせしていきますのでよろしくお願いします。




ギルドから離れたところでリーンとダストがマホロアについて話していた頃、マホロアはカエルの唐揚げを完食してお腹を膨らましていた。

 

 

「ウーン、最初はカエルがおススメって言われて嫌われてるのかとオモッタけどなかなか美味しかったヨォ。」

 

 

 

 

「おお!スゲー!なんて美しさだ。ただの宴会芸だと分かっているのにまるで女神が舞っているようだ。」

 

「もう一度、もう一度お願いします!アクア様。花鳥風月をもう一度。」

 

 

なんだか向こうの方が騒がしいけど。何かやってるのかなぁ?

 

と、いつのまにか奥のほうで何やら騒ぎになっているのが気になってマホロアは興味本位で様子を見てみる。

 

 

「もうしょうがないわね。最後の一回よ。あとまるでじゃなくてれっきとした女神……と言っても良いわよ。」

 

 

何やら青い髪の美しい女性が扇子を振りまいて舞い踊っていた。扇子の先から時折出てくる水が反射したり小さな虹が出たりして見ていてとても飽きない美しい光景だった。

 

暫くマホロアはその女性と水芸の花鳥風月に見入っていたが、終盤に差し掛かって女性が頭に乗せていたコップと扇子から噴水のように飛び出した水が綺麗な虹を創り出して幻想的とも言えた花鳥風月は終わった。

 

周りで見ていた冒険者たちから歓声が上がると『もう一度と!』と囃し立てながらお捻りを飛ばしているが、女性は迷惑そうな様子であったが大好評の冒険者達を見て満足気味でもあった。

 

 

 

コレはスゴイパワーの一端かもしれないネェ。

 

何気なく美しいアクアの宴会芸の最中に観察していたマホロアは女性が、アクアがとてつもない力を秘めていることをこの花鳥風月だけで看破していた。

 

これはマホロアがまだアルダープと会う前の冒険者達となんとか友好的なアプローチをしようと飛び回っていた時まで遡るが、今までマホロアが見てきたこの世界の人間の魔法使いは魔力を常に空気中や地面、または水から呼吸をする様に微量ではあるが吸収している。

 

 

 

精霊という存在はその自然から湧き出た魔力が集合体となり知性を持っている生き物でその存在と行使される力はその土地に依存しているのだ。

 

例えば雪精やその親玉の冬将軍は地面や空気中からよりも雪からの魔力吸収の方が効率が良く。自ら司る気候や属性からの魔力吸収がとても高い。

 

 

 

だが人それぞれ魔力の吸収量には限界があるし、魔法陣の構築の速さと属性への得意なのもあれば不得意もあり、更に魔力を魔法という形あるものにする際の効率が高い人は総じて貴重なウィザードとなり、これらの吸収と効率が上がっていくと高い火力を持つアークウィザードとなる。

 

それにプラスして杖や短杖という少ない魔力でも魔法陣を構築しやすくコントロールしやすい道具を必ず持っている。いわば最小限の魔力で最大限の攻撃を行う為である。

 

 

マホロアから見たあのアクアは、宴会芸とはいえ魔道具もなしに魔法陣の構築を同時に発動したり、その早さも只者ではなかった。

 

流石にまだ本物の女神様ということは分かることはないが、マホロアはいずれアクアの正体を知ることになるだろう。

 

 

 

先程の街の顔役だという胡散臭い男の時は失敗したが今度こそ失敗はしない。

 

そうどこかの冒険者パーティーにマホロアは入ろうとしていた。

 

 

マスタークラウンの修復の糸口を見つけるためでもあるが、あの領主任せになってはいるが自分でもローアのパーツを探すと公言している以上は建前のような感じで加入したいというのがマホロアの考えで出来るだけこの街を拠点にしているようなパーティーが一番望ましいと考えていた。

 

作戦としては、アクアの宴会芸をベタ褒めして友好的に接して適当なクエストでボクのチカラを見せつければ嫌でも向こうから勧誘をしてくるだろう。

 

なんたってここは始まりの街。

 

魔術師であるボクのチカラなら他はまだ分からないが、ここら辺のモンスターなら簡単に蹴散らせる!

 

 

 

そして約束された作戦の成功を胸にマホロアは自信満々にアクアに声をかけた。

 

 

 

「オウ!今のとっても凄かったんだヨォ!」

 

「お捻りはやめてください。ってなにコイツ!白昼堂々こんな所にモンスターがいるじゃないの!?」

 

「ボクはモンスターじゃないヨォ。トッ〜テモフレンドリーなマホ」

 

「みんな危ないわ、先手必勝のゴットブロー!!」

 

 

アクアはいきなり現れて声をかけたマホロアに殴りかかってきた。

 

当然説明をしようとしていたマホロアはいきなりの攻撃に慌てて避けようとするが、周りにいた冒険者が邪魔で回避できず咄嗟にリフバリアを貼って防御する。

 

 

「!?これってバリア?」

 

 

「ワワッ危ない!モンスターじゃないってば。」

 

 

あわや殴られそうになったマホロアは殴られないように空中に退避してファイティングポーズをしていたアクアと距離をとった。

 

 

「そうだぜアクアさん。そいつはモンスターじゃなくて宇宙人のマホロアだから。……ていうか俺たちも近くにいるのにいきなり殴ろうとしないでくれ。」

 

「あら、モンスターじゃなくて宇宙人なのね。良かったわ、まるっきりモンスターみたいだからてっきり私は…って宇宙人!?」

 

 

事情を知っている他の冒険者がいて助かったと感じたマホロアと宇宙人という事に驚いたアクアという女性に冷や汗を少しかきながらもめげずに再度フレンドリーに話しかける。

 

 

「ソウソウ、その通りなんだよ。ボクはここから遠い宇宙からやってきたマホロアダヨ。ヨロシクネェ、アクア!」

 

「ほう、貴方が今ギルドで噂になっている宇宙人のマホロアですね。」

 

 

と冒険者達の中をかき分けて、とんがり帽子を被った赤色のワンピースっぽい服を着た小柄な少女がマホロアに話しかけてきた。

 

見た目はどうにも幼くまだまだ冒険者になれるような年齢には見受けられない。

 

 

「ソウソウ名前を覚えてもらってるようで安心したヨォ。また襲い掛かられたらタイヘンだしネ。ソウイウキミは誰だい?」

 

「ふっふっふっ。名を問われたのなら答えなければいけませんねぇ、そう爆裂魔法を操りし紅魔族最強のアークウィザード!我が名はめぐみん!!いずれこの国いやマホロアの旅する宇宙にもその名は轟く予定ですよ!」

 

 

 

大仰な身振りとあまりにも堂々としたおかしな名前の名乗りにマホロアは固まるが、すぐに相手はそういうどこかずれた人間だと順応する。

 

 

コレはまたボクも宇宙をイロイロ巡ってキタケド、ボクには一生理解できない頭のおかしそうな人間ダネェ。

 

 

 

「めぐみんって言うんだネェ。改めてボクはマホロア!ヨロシク!」

 

「えぇよろしくお願いしますねマホロア。…さあ!マホロアも私と同じように名乗りをあげてください!」

 

「エエ!アレをボクもやるのかい!?」

 

「紅魔族の名乗りをアレ呼ばわりにするとは少し言いたい事はありますが、この国では紅魔族に名乗られたら同じように名乗り返すのが礼儀なのですよマホロア。」

 

 

恥ずかしいというか、痛々しいあの名乗りをしなければならないこの星の常識に悪態を吐きつつも礼儀であれば仕方ないとして意を決っしたマホロアは出来るだけそれっぽい身振りで名乗りを上げる。

 

 

「わ、我が名はマホロア!数多の宇宙を巡りし、彼方よりこの星に降り立つ者!」

 

 

シーンと静かになったギルドでだんだんと恥ずかしい気持ちになっていき顔が赤くなる感覚にマホロアが我慢しているとアクアが話しかけてきた。

 

「ねぇねぇ。」

 

「……な、ナンダイ?もしかしてナニカおかしかったのかい?アクア?」

 

「紅魔族に名乗られたら同じように名乗り返す常識だけど、あれって嘘よ。」

 

「ナンダイ!なんでソレヲ早く教えてくれないんダィ。めぐみんはボクのコトをバカにしてるのかい!?おかげでアンナ恥ずかしいコトをしちゃったじゃないか!」

 

知らなかったとはいえ騙されて衆目の前で滑稽な姿を晒してしまい癇癪(かんしゃく)を起こすマホロアは2人に喚くがアクアはその大声に耳を塞いで聞こえないフリをして、めぐみんはサラッと流しているのか動じていなかった。

 

 

 

「恥ずかしいとはなんですかマホロア。私たち紅魔族の者にも負けないとても良い名乗りですし私がこの国で、ひいてはマホロアが宇宙で広めればちゃんと常識になりますよ。」

 

「ソンナ常識が広まったウチュウなんてボクはイヤだ!」

 

「全くあんなに良い名乗りを上げていたのに、このセンスを理解できないとは宇宙人もまだまだ遅れていますねぇ。」

 

 

ハルカンドラという超文明の生まれにして魔術師としてそれなりに名を広めている自分にめぐみんの遅れているという言葉は無視できるはずもなかった。

 

カチーンときたマホロアはまだ残っている理性で直接的な魔法攻撃はめぐみんに負けを認めるのと同義と考えて得意分野の口撃を仕掛ける。

 

 

 

「キミが紅魔族サイキョウだって?始まりの街のアクセルにいる初心者冒険者のクセにズイブンと大言壮語ジャナイカ。」

 

「今はまだ確かに初心者冒険者ではありますが、人類最強の攻撃力を持つ我が爆裂魔法と紅魔族始まって以来の天才的な頭脳を持ってすればそんなもの一瞬に過ぎませんよ。そしていつも氷のように冷静な私はマホロアの煽りには決して乗りませんよ。」

 

フフン!っとキメ顔で余裕の笑みを零すめぐみんの様子に天才を自称するだけ頭が回るようだと少しだけ感心するマホロアもまだまだ煽り言葉はある。

 

マホロアもまだまだ負けずに煽りを続ける。

 

尤も早々に地雷を踏む事になったが。

 

 

「フン!ナンダイその紅魔族のサイキョウってのは、人にウソの常識を押し付けるちんちくりんジャナイカ。」

 

「その言葉、紅魔族以上に私に対しての挑戦と受け取りましたよ!マホロア覚悟!」

 

「ウワァ!さっきの氷のような冷静さはドコにいったんダヨォ。ターバンに引っ付くな!ってアークウィザードなのにチカラツヨ!!」

 

 

ちんちくりんという禁句がマホロアの煽り言葉から出てきた事で突然襲いかかってきためぐみんにマホロアも抵抗してお互いにもみくちゃになるがマホロアの耳やらターバンやらを引っ張られて悲鳴が上がる頃になると流石に周りにいた冒険者が両者を引っ張って強制的に突然始まった対決は終了した。

 

めぐみんはある程度の仕返しはできたのか髪は少しボサボサであったがまだまだ余裕そうではある。対峙していたマホロアはターバンやらをフードやらがヨレヨレになって床に突っ伏している様子でどちらが敗者かは一目瞭然であった。

 

 

「はぇ〜、それにしてもアンタって本当に宇宙人なのね。……初めて宇宙人を見るけど、足が8本もあるタコみたいにウネウネと動いてるのをイメージしてたけど…よく見ると可愛いわねぇ。」

 

「た、タコって。…ボクはそんな変な生き物じゃないヨォ。」

 

フラフラと立ち上がったマホロアは衣服を整えながら、そのままジーッと見つめるアクアに若干の居心地の悪さを感じつつも冒険者パーティーに入れてもらおうと話しかける。

 

 

「それよりも、アクア!実はキミにお願いがあるんだヨォ!」

 

「?なーに私に頼みって?この私にお願いをするのなら……そうねぇさっきまで皆に芸を披露したから喉が渇いてしょうがないの。だから先にシュワシュワを飲ませて欲しいんだけど。」

 

「ナンデ!?ナカマに入れて欲しいんだヨォ!コンナ昼間カラシュワシュワを飲もうとしてるトコロに言いたい事もあるけど、モウ少しくらいボクに申し訳なさうにしてホシイヨォ!」

 

 

今さっきまでアクアのせいで赤っ恥をかいた挙句にこんなボロボロになってるのに、当然とばかりに対価を要求されて怒り心頭なマホロアがめぐみんからアクアに口撃の矛先を変えようとしたところで別の者がアクアに話しかけてきた。

 

 

「さっきから騒がしくしてるけどアクアもめぐみんも、2人とも何してんだ?」

 

マホロアが振り向くとそこには変わった格好をしている少年と、何があったのかは分からないが若干涙目になっている軽装の銀髪の少年?にフルプレートメイルを装備している若い女騎士がいて、君達の方の銀髪の少年の方にこそ何があったんだと聞き返しそうになってしまうがなにか面倒な事になりそうだったので聞かない事にした。

 

 

「あっ!遅かったじゃないカズマ。今さっきまで宴会芸を披露していたんだけど、色々あって小さくて可愛いめぐみんが宇宙人のマホロアを襲ってそれを助けた私に感激して私の信者にして欲しいんだって。」

 

「おっと、アクアまで私の事を小さいと言いますか。可愛い美少女というのは否定しませんが小さくとも最強という事を分からせた方が良いんですか?」

 

「オソワレタとこまでは否定しないけど、カンゲキしてもないし信者になんかなってナイヨォ!ナカマに入れてホシインだってば!ナ・カ・マ!!」

 

「おいアクア全然説明も出来ていないし、その色々の事を詳しく聞きたいがその前に宇宙人って何言ってんだ?」

 

「もしかしてキミがこのパーティーのリーダーかい?ボクはマホロアダヨォ!さっきまで君のメンバーのアクアとめぐみんに色々された責任にパーティーに入れてホシインダァ。」

 

 

さっきの友好的なアプローチを使った作戦から、当てつけも兼ねてこのまま強引に引っ付いてやろうとマホロアは作戦を変更する。

 

後ろでは、アクアが隙を見せたらいつでも飛び掛かってきそうなめぐみんからジリジリと後退して追い詰められているところで、アクアのトンチンカンな説明に割り込む隙を見たマホロアはそう言ってキョトンとマホロアを見て固まっていたカズマに詰め寄る。

 

 

「……宇宙人ってのはイカみたいな足がウネウネしているのを想像したけど意外と可愛いデフォルメしてるなぁ。」

 

「君達は、宇宙人をどれだけ軟体生物としたいんダヨォ!」

 

「お、おうなんか俺の知らない間に迷惑を掛けちまったみたいだけど仲間って俺たちまだ組んだばかりの弱小パーティーだから、あんまりオススメは出来ないかなぁ。」

 

「ナラ尚更ボクにとって好都合ダヨォ。ボクもウチュウ船からあまり離れられないからこの街を拠点にしていきたいんダ!だからボクはキミのパーティーがいいんだヨォ。」

 

「いや今はそれでもなぁ。」

 

 

 

 

悩んではいるが正直なところカズマも仲間は欲しい。

 

だがここで、マホロアをパーティーに入れればなし崩し的に後ろにいる変態的趣向を持つダクネスも入れて貰おうと突っかかってくるだろう。

 

マホロアの実力が未知数なところ以外にもどうしてもパーティーに入れたい理由(・・)が宇宙人だからこそあるがアクアが近くにいる今は話せない。

 

 

 

 

 

 

 

そんなチラッと後ろにいる仲間という単語にウズウズしている女騎士のダクネスを気にしているようなカズマにマホロアはパーティーに入れてもらう勝機を見出した。

 

 

ウソをついてるのが、誤魔化しているのが分かるヨォ♪

 

クク、理由はワカラナイけどカズマは後ろにいるその女騎士がナンダカ邪魔そうダヨォ。

 

カズマァ、さっきはああ言ってたけどパーティーにボクが入るのに満更でも無いんだよネェ。理由はそれだけじゃなさそうだけど。

 

さっきまで話してたから分かるヨォ。キミはあのアクアとめぐみんを制しきれてナインダヨネェ。

 

ボクが加われば一人でもきっとキミの役に立つヨォ。デモその代わりキミもボクの役に立ってもらうからネェ。

 

 

 

嗤うマホロアとどうにかダクネスを遠ざけようと奮闘するカズマに、銀髪の少年?が近づく。

 

 

「……ふーんキミが噂になっている宇宙人のマホロア?」

 

「ウーン?そうだけどキミは誰だい?」

 

「私はクリスっていうの職業は盗賊。それで後ろにいるクルセイダーが」

 

「ん。ダクネスという、すまないなマホロア。私の仲間が失礼をしてしまったようだ、2人とも悪気があったわけではないからどうか私に免じて許して欲しい。」

 

「おい変態。なに勝手に私は仲間ですみたいに言ってんだよ。」

 

勝手に仲間になっている体で話を進めているダクネスにカズマが突っ込む。

 

 

「んん…!公衆の面前でクリスの下着を剥いた男が私を変態と言うとは……!見込み通りの鬼畜、悪くないぞカズマ!」

 

「ちょっ、間違ってはいないが。お、お前はこんな他に人がいるところで何言ってんだ!?あれは事故だろうが!」

 

「間違ってはいない!そのあと泣いて返してくれと頼むクリスに、返して欲しければ有り金全てを寄越せと言っていたではないか?私好みの鬼畜だ!」

 

「ちょっ!?そっちじゃねえし!あと色々と合ってはいるし間違ってはないが本当に待って!!」

 

「落ち着いてダクネス!それ以上もう言わないで!!」

 

恍惚とした表情でさっきまでの出来事を語るダクネスに自らの痴態を言いふらされそうになり顔が赤いクリスとカズマが慌てて制止するも、もはや手遅れで周りにいた冒険者達もクリスには同情的だがカズマをドン引きしていた。

 

マホロアもクリスが実は少女だった事に少しビックリはしたがそれ以上に興奮した様子のダクネスとカズマのまさかの所業に引いていた。だがアクアとめぐみんにある程度耐性はついていたのでめげずにパーティーに入れてもらえるようにする。

 

 

「カ、カズマ。イマのハナシは事故ナンダヨネェ、ボクは信じるよ?ホントウは何をしていたんダイ?」

 

「マホロア…、お前だけだよ信じてくれるのは……是非パーティーに入ってくれ。」

 

「あぁ!?。」

 

「ワァーイ、アリガトウ。カズマ!」

 

 

やはり仲間?に振り回されているカズマにちょっぴり同情して声をかけたが、この中で唯一信じてもらえて嬉しそうなカズマはマホロアの両肩を掴んであっさりとパーティー入りを許した。

そんな棚からぼた餅的なマホロアを見て未だに仲間に入れていないダクネスが少し焦った様子であたふたしていた所にめぐみんが意義ありとばかりに飛び込んでくる。

 

 

マホロアは少し離れた所の机でアクアが突っ伏しているのを見て、どうやらいつの間にかめぐみんの制裁は終わっていたらしい。

 

 

「全く何を勝手に話を進めているんですか?マホロアがパーティーに入るには同じ仲間である私の許可も当然として必要になるんですよ。」

 

「カズマ!このパーティーのリーダーはカズマダヨォ!めぐみんの言う事を聞いちゃダメダヨォ!」

 

 

くるっとカズマの後ろに回ってめぐみんから距離を取るマホロアはそう言ってカズマに強く迫る。

 

 

 

「安心しろマホロア。俺のパーティーに入るのにめぐみんの許可なんて必要ねぇ!」

 

「冷静に考えて下さいカズマ。このパーティーには既に最強のアークウィザードであるこのめぐみんがいるんですよ!魔法使いが2人いてもしょうがないじゃないですか!」

 

「そりゃ普通の魔法使いの話だろうが!一日一発しか撃てない馬鹿げた威力の魔法使いだけじゃダメなんだよ、このポンコツが!」

 

「ポ、ポンコツ!?いいでしょう!最強の我が爆裂魔法を使うまでもありません!魔法など使わずともそこにいるマホロアやアクアを倒したようにカズマのように貧弱な冒険者を倒す術はあるのですよ!!」

 

「カ、カズマ…。」

 

両手を構えて小動物の威嚇のようなポーズをするめぐみんはアクアやマホロアとの連戦続きだが余裕そうな様子だ。さっきは遅れを取ったが、先程の仕返しも兼ねてカズマに恩を売るために前に出ようとするマホロアにカズマはそれを手で制する。

 

 

「心配するなマホロア。あんなロリっ子のワガママをいちいち聞いてたらキリがねぇからな。ここでいっちょパーティーのリーダーが誰か分からせないとなぁ。」

 

 

余裕そうなカズマの様子を見て、仕返しはできないがマホロアはカズマに任せようと下がる。

 

「………一度ならず二度までもこの我をロリっ子とは、覚悟してもらいますよカズマ!!」

 

 

ロリっ子に反応して、襲い掛かるめぐみんよりも早くカズマの手が動いた。

 

「喰らえ!!クリス直伝のスティールでそのお洒落なアイパッチを使ってまたパッチンしてやる!」

 

 

 

「スティール!!!」

 

 

 

一瞬の目潰しのような光でめぐみんの動きが止まった

 

あの一瞬でマホロアは何が起こったのかは分からなかったが、獣のように襲いかかってきためぐみんが止まったのだ

 

マホロアはカズマがフッと漏らした溜息が諦めのようなものを感じた。

 

 

そしてめぐみんは直ぐに自分の体に起こった異変に気づくよりも早く同時にカズマが手に持った馴染み深い物に思わず悲鳴を上げながら石化したように硬直する。

 

 

「ここ、こ、これに懲りたらマホロアのパーティー入りに文句言うなよめぐみん!!」

 

「分かりましたから、は、早くぱ、ぱ、パンツを直ぐに返して下さいカズマァァァァァ!!」

 

 

 

 

「やはり私の目に狂いは無かったぁぁぁ!!」

 

 

マホロアは先程のダクネスが話していた事にこれでもう擁護する事は出来なくなってしまったなぁと思った。

 

成り行きとはいえ、さっき初めて会ったボクの為にここまで助けてくれるとは笑っちゃうくらいお人好しだ。

 

 

 

 

 

………本当にお人好しだ。

 

 

 

 

 

 

 







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5話

(これはヤバいかもしれませんねぇ。)

 

 

カズマの卑劣な罠に咄嗟とはいえ、マホロアの加入を私自身が認めてしまうとは。

 

ジトーっとした目でカズマを見るマホロアと必死になって周りの冒険者やドン引きするアクアにこれは事故だと釈明に追われているカズマ。

 

紅魔族の我が力にマホロアが及ぶとは思えませんがそれでも謎の宇宙人。私の常識が通用しないような宇宙の魔法を使われてもし圧倒されてしまったら。

 

 

ヒソヒソと女冒険者の人達がさりげなくカズマから離れていく様子を見てもう手遅れになってしまったと辛い現実に打ちのめされたカズマ。

 

 

無理矢理とはいえカズマは私を仲間に入れてくれたというのに、もし、もしカズマが私を……あ、あわわ。ど、どうすれば

 

頭の中に悪い考えが充満していきパニックになりそうなめぐみんは不安そうな目でアクアやカズマをついつい見てしまう。

 

 

 

 

「緊急クエスト!緊急クエスト!!全冒険者の方々は至急武装して街の正門に集まって下さい!!」

 

 

大音量のギルドからの警報にその場にいた冒険者達は、何事かと思いながらも指示どうりに手際よく装備を整えてゾロゾロと街の正門に向かうために移動を開始するも数日前に冒険者になったばかりのカズマやマホロアは少しの間ボーッと見つめていたがその間に準備を整えていたダクネスや復活したアクア。パンツを取り戻していためぐみんにせかされて街の正門に向かう冒険者達の列へと続いていく。

 

 

マホロアは横目で街の正門に向かう冒険者達と逆方向に逃げるように駆けていく人や家の中に入り戸締りをする住人達を見て何かただことでは無い様子だけを感じ取って横で走るダクネスに聞く

 

 

「チョット、チョット!一体コレはなんの騒ぎナンダイ?」

 

「うん?何ってこれは…あぁそうかマホロアは知らなくて当然だったよな。少し時期は早いがこれはおそらくだがキャベツの収穫のクエストだ。」

 

「エ?キャ、キャベツ?」

 

「そうだ!この時期のアクセルで採れたキャベツはカエルと同じく名産になるくらいに美味しいんだ。」

 

 

収穫は分かったが、それとこの騒ぎは一体何の関係があるのかと聞きたいのにまるで通じてない事にマホロアは困惑してはいたが放送にあった街の正門に着いてからはダクネスに繰り返し問いただす前に『私は皆を守る壁になってくる!』と鼻息荒く興奮したような様子で先にいた冒険者達の中に消えていった。

 

 

先程のギルドでの特殊性癖的な発言を聞いていたマホロアは興奮した様子のダクネスにこれ以上聞きたく無かったから彼女について行くことはしなかった。

 

少し遅れてアクアとめぐみんがやってくるが、カズマはギルドから走ってきて息を切らしている様子だったがマホロアの疑問を人混みに消えていったダクネスの代わりにアクアとめぐみんが解消してくれた。

 

 

「全くカズマはちょっと走っただけですぐにバテテしまいますね。それではこの後の収穫の時にキャベツの反撃にあって怪我をしてしまいますよ。」

 

「ゼェ、いやお前の言ってる事が意味わかんねえよ。冒険者にキャベツの収穫やらしてる時点でおかしいのに反撃にあって怪我をするってもはや理解できねぇよ。だからもう一回説明してくれ。」

 

「全くおバカなカズマさんはしょうがないわねぇ。いい?この世界のキャベツは収穫の時期になると空を飛んで簡単に食われてたまるかとばかりに反撃してくるのよ。」

 

「やっぱり理解出来ないから、馬小屋に帰っていいか?」

 

アクアの説明をカズマの隣で聞いていたマホロアも理解に苦しむ事を説明されて何言ってんだコイツ?と言わんばかりの微妙な表情でアクアを見る。

 

 

「来たぞ!」

 

帰りたそうなカズマをアクアが逃げないように掴んでいるところで冒険者の誰かが発した大声に振り向くと遠くから緑色の何かの大群がすごい勢いで飛翔してこちらへと向かってきていた。

 

「マ、マサカ。アレって。」

 

近づくにつれて鮮明になる空飛ぶ物体に、顔が引き攣りそうになるマホロアと目が点になるカズマであったが理解できない光景にたまらずに絶叫する。

 

「なんじゃありゃー!!」

 

マホロアもキャベツの大群が葉っぱを羽ばたかせて飛んでくる光景にカズマのように叫ぶ事はなかったが心中で仰天していた。

 

 

「皆さん!今年もキャベツの収穫の時期がやってまいりました!今年のキャベツは出来が良く一玉一万エリスでの交換になりますので出来るだけ多く収穫できるように頑張って下さい!」

 

ウオオォォォ!っとギルド職員からの説明に歓声で反応する冒険者達にマホロアとカズマはやっぱりキャベツなのかと否が応でも理解する。

 

 

フダンならキャベツなんて見てもナントモ思わないけどアンナにいっぱいコッチに飛んできたら怖いネェ。コンナ時いつもならダレカに押し付けるトコロダケド。

 

 

チラッと横目で迫ってくるキャベツにおっかなびっくりにショートソードを構えるカズマとロッドを構えるアクアを見て、2人に聞こえないようにめぐみんにある提案をする。

 

「ネェネェ、めぐみん。」

 

「なんですかマホロア?貴方をパーティーに入る事をカズマが認めても私は認めてませんのでボッチなあなたは分かったら早くあっちへ行って下さい。」

 

「エ!?サッキちゃんとナカマに入れてくれたじゃないか!」

 

「あ、あんな脅迫まがいの事をされたら女の子なら誰だって屈してしまいますよ!ですから私はあんな不正を使った仲間入りなんて認めません!むしろあんな不正行為で仲間になって恥ずかしくないんですか!!」

 

 

とめぐみんはカズマとのカエル討伐クエストの帰り道で無理矢理にカズマパーティーに入った事実を棚に上げてマホロアをシッシッと手を振って邪険にする。まあそんなことなど知るよしもない不満そうな顔をしていたが、マホロアはケロッと不敵な笑みを浮かべながらある提案をする

 

 

「ソンナに言うならショウブしようヨォ。」  

 

 

ギルドでの不安がまた渦巻く。

 

 

「…ギルドでこの私にあっけなく負けたと言うのに懲りずにまた勝負を仕掛けてくるとはいい度胸ですね。」

 

「ククッもしボクよりもキャベツをめぐみんが多くシュウカク出来たらカズマのパーティーに入るのは潔くアキラメル事にするヨォ。」

 

「勝手に話を進めて勝負をしようとしないで下さい。私はあなたと違ってとても急がしいので勝負はしません!」

 

 

キャベツとの戦いに備えてなのか、ブンブンと杖を素振りしながら此方を相手にしないめぐみんを見てギルドでの事といい本当にこの少女は魔法使いなのか疑い始めたマホロアだがとりあえずツッコまずに話し続ける。

 

 

「マァ、確かにめぐみんは急がしいヨネェ。ボクがホンキを出したらカズマはめぐみんのことなんて、モウいらなくなっちゃうかもしれないからネェ。」

 

「……ほぅ。」

 

内心の焦りをマホロアに悟らせないように必死なめぐみんは冷や汗をかきそうになる。

そんなめぐみんを知ってか、知らずかマホロアは迫るキャベツの群れに突撃を行う

 

「パーティーに入る前にボクを頑なにミトメヨウとしないめぐみんにホンキのチカラをミセテあげるヨォ。ついでにカズマにボクがキミよりもスゴイってコトもネェ!」

 

 

キャベツの群れの多くは前に出張っている冒険者達が引きつけてはくれているようだが数が数だけに撃ち漏らしやすり抜けていくキャベツがまだまだ沢山飛んでくる。

 

アクアも言っていたが、タダではやられようとしない生命力溢れるキャベツの癖に生意気な野菜達は考えなしに突っ込んできたように見えるマホロアに狙いを定めてようで5体程が体当たりをしようとしているらしい。それに不敵な笑みを浮かべながらマホロアは一旦減速しつつ魔力を込めて充分に引きつける。

 

キャベツ達は下手なモンスターよりも知恵が回るようでマホロアの攻撃を見越して、マホロアから見て一列に並んで1度目の攻撃を先頭の仲間が命と引き換えに受けた後に残った4匹が無防備なマホロアをタコ殴りにする算段らしい。

 

 

知恵はマワルようだけど、お見通しダヨォ。

 

 

レボリューションソウル!

 

 

マホロアの手から撃ちだされた2つの魔力球がお互いにつかず離れずクルクルと回りながら飛んでいき、先頭にいたキャベツに見事命中して役目を果たした物言わぬキャベツとなる。

残った4匹は敵を撃つべくそれぞれが左右に飛び出してマホロアを包囲しようとするが、

 

 

(!!?)

 

身体が硬直して動くことができなかった。痺れるような身体の硬直に無防備なキャベツ達は驚く間も無く続けて放たれたマホロアの魔力球に次々と撃ち落とされていった。

 

あっという間に5匹を撃ち落とされて、周りで冒険者に一撃離脱の体当たりを仕掛けていたキャベツ達もマホロアを優先ターゲットに変更して今度は最初から包囲して何処へもかわされることが出来ないように一斉に体当たりを仕掛けていく。

 

「ワワッ!」

 

周りをキャベツに囲まれて、目を丸くして驚くマホロアに打ち倒された仲間の仇とばかりに容赦の無い必中の体当たりをするキャベツ達。

 

ククッ、程々にチエは回るようだけど所詮はキャベツ。ソレジャア、ボクに叶うわけないヨォ。

 

先程のマホロアの油断を誘った行動にまんまと引っかかってくれたキャベツに向けて一瞬笑みを浮かべるのを見た包囲していた一部のキャベツは突撃を敢行していた仲間に制止を呼びかけることはできなかった。

 

 

クアッドキルニードル!

 

 

急ブレーキを掛けていた彼以外のことこどくが、マホロアまであと少しのところを地面から突き刺すべくして生えてきた攻撃に串刺しにされてしまう。

 

しかし彼以外にも幸運にも生き残った仲間は、みんなモンスターの蔓延る山や平原を幾つも乗り越え、時には撃退してきた歴戦の猛者だ。

 

しかも、また仲間のキャベツを倒したあの憎きマホロアまで突撃を敢行した分だけ直ぐそこまで近づいているのだ。

 

 

 

生き残りの4匹程のキャベツ達にわざわざ鳴き声で呼びかける必要はない。

 

予定通りではないが、直ぐにキャベツ達は飛翔して急上昇からの急降下の体当たりを示し合わせたかのように仕掛けていく。

 

串刺しにされた仲間達の中心にいた憎きマホロアは急降下するキャベツを見て魔法が間に合わないと考えたのかすかさず腕を交差してガードをしようとする。

 

 

 

前衛職でもない限り防御力に特化しているわけではないこの世界の魔法使いは基本的に相手からの攻撃に弱い。

 

特に今のマホロアのようにプリーストに防御魔法を付与されておらず、前衛のクルセイダーやソードマスターに守られてすらいない魔法使いはいかなキャベツと言えど運が悪ければ骨折してしまう。

 

だがそれは運が良ければの話。

今のマホロアは、周りに助けてくれるクルセイダーもソードマスターもいない。小回りもきいて素早いキャベツにここまで近づかれて一度受けたら後は間髪入れずにの連続攻撃。このままでは袋叩きにされてしまう。

 

 

 

しかし、そのチームワークを活かした攻撃が当たることはなかった。

 

 

「まだ攻撃はオワッテないヨォ!」

 

交差した腕の隙間から覗き見るマホロアは既に物言わぬ急降下していたキャベツ達。

 

マホロアは一度目のキルニードルから更に枝分かれするようにニードルを伸ばして隙をついたと思っていたキャベツ達の更に隙をついて他のキャベツ達同様に串刺しにしていたのだ。

 

マホロアの周りは黒に近い濃い紫色の魔力で出来た剣山と化しており剣山の先の方には緑色のキャベツが刺さっているのを見ると、クリスマスツリーの色違いのように見える。

 

 

アクセルの街に襲来したキャベツ達との戦いはまだまだ続いているがこの中ではマホロアは異色の経歴の新参者ではあるがこの街に妙に多い古参冒険者達にも引けを取らない強者の1人という風に見られる。

 

 

 

(………)

 

 

めぐみんはキャベツ達を鮮やかに蹂躙していくそんなマホロアの様子を見て冷や汗を流しながらも慎重に爆裂魔法を放つ好機を見定めていようと心の中では考えていたが

 

 

「流石に啖呵を切るだけのことはあるようですね。しかしあの程度では私の爆裂魔法には遠く及びません。えぇどんなにカッコよくても私の爆裂魔法程ではありません!」

 

 

 

そんな感じでついついマホロアが気になってしまうめぐみんであった。

 

 

 

 

時と場所は戻ってマホロアは戦闘には他の冒険者達よりも先頭近くには立っていたものの、孤立しないように付かず離れずの距離を意識して近づく無数のキャベツ達を蹴散らしながらその合間で回収も行ってはいたが打ち取ったキャベツを回収できる籠の限界があるので撤収しようとしていた。

 

 

「コレは流石に数がオオイヨォ。」

 

 

一体一体のキャベツならばどうってことないのだが、個体の弱さを充分に補う数の多さにマホロアは一度退却する事に決めたがふと目に入ったのが戦闘前に冒険者達の中に消えたダクネスがキャベツに群がられてタコ殴りにされて嬉しそうに悶えているところであった。

 

状況的にどうやら後ろの冒険者を庇っているようだが、そのついでにキャベツの攻撃を受けて顔を赤くして嬉しそうだ。もっと、もっとだ!とここまで嬉しそうな声が聞こえてきそうな様子。

 

キャベツの収穫ではあるが命懸けの戦いに公私混同挟むダクネスの様子に、ここまでくると病気か何かを疑うようなダクネスの性癖にそのまま無視してキャベツを正門まで持って行こうとしたマホロアだったが、ここで妙案が閃く。

 

 

 

ココでダクネスを無視してもイイけど、ボクがダクネスを助ければカズマはあんまりカツヤクできなかったダクネスをパーティーに入れない口実が出来てカツヤクしたボクを喜んで迎えてくれるはずダヨォ。

 

 

「ダクネス!イマ助けてあげるヨォ!」

 

 

少々危険ではあるが、援護くらいは出来る。

 

籠を近くに一旦置いてマホロアはダクネスの後ろに近づいて魔力球をキャベツに向かって連続発射する。

 

 

「あ、あぶな〜い!」

 

なんともウソくさい棒読みのセリフを言ったダクネスは極度の被虐趣味か天性のクルセイダーの能力を無駄遣いした故かダクネスのデコイはキャベツに放たれたマホロアの魔力球を残らず自身の方へと誘導させた。

 

 

「な、ナニヤッテンノォ!?」

 

「…くぅ!援護は感謝するがマホロア。もっとやっ……今とても良いところなのだ邪魔しないでくれぇ!」

 

 

「ジャマしたのはダクネスの方でしょう!ナンデボクの魔法まで吸収しちゃうんダヨォ!!」

 

 

「それは流れ弾が他の冒険者に当たっては危ないから防御力の高い私が代わりに受けたのだ。それよりも怪我をした他の冒険者をたすけてやってくれ。」

 

 

「イヤ流れ弾って…キミより前にダレもい」

 

 

「クルセイダーは背に誰かを庇っている時は引くわけにはいかないんだぁ!」

 

 

 

 

 

頭が痛くなりそうなダクネスの奇行と言葉にマホロアは言われたように一旦怪我した冒険者を下がらせようとしたが、既にダクネスの邪魔にならないようになのか後方へと下がっていた。というか、他の冒険者達もみんな必死に走って後方へと全力疾走をしていた。

 

 

嫌な予感がしてふと上を見ると、大きな魔法陣と肌を泡立出せるような魔力が唸って今にも爆発しそうな光景であった。

アァ、だからミンナあんなに必死に走ってタンダネェ。魔法陣の向きからして照準は自分ではないが確実にそれに巻き込まれるほど近い位置では慌てるなという方が無理であろう。

 

「ワァァァァァァ!?ダクネス!ダクネス!!」

 

思わず叫びながらマホロアはリフバリアによる防御よりも全力での退避を優先した。

 

異空間バニッシュを発動しようとするも、それよりも早く空の複雑で巨大な魔法陣が発動した。

 

「…………!!」

 

 

 

襲いくる爆風に吹き飛ばされないように目を瞑って体を固くしているが思ったよりもあんまり痛く無い。

 

なんというか守られている様な感じなのだ。

 

ハッとして目を開けると何も見えなかった。体を何かに掴まれて身動きも取れないが、だからこそ自分をあの爆発から誰かが庇ってくれたのだと知った。その誰かとは無論考えるまでも無いがあの状況で近くにいたのはダクネスだけだ。

 

 

「…ダ、ダクネス!」

 

ダクネスの腕の拘束から抜け出して、端正な彼女の顔を見るが眠っているようにピクリとも動いていない。一見大丈夫そうだがあれだけの爆発では流石のクルセイダーといえども無傷のはずがない。

 

前衛職でもなり手が少なく、トップクラスの防御力を持つクルセイダーだから魔法使いのマホロアを庇ったのだろうか?

そしてあの切迫詰まった状況で異空間へと自分1人だけ逃れようとした事をダクネスは知らないだろうから無理はないが、ダクネスはまず自分よりもマホロアを助けることに優先してくるとはマホロアにはとても理解できなかったし、信じられなかった。

 

これではついさっきまでは被虐趣味の頭のおかしい女騎士と馬鹿にしていたが、あの状況で自分の身を挺して守るとは思いもしなかったマホロアはそんなダクネスを一瞬だけ震えた様な手を伸ばすも引っ込めて

 

 

 

 

 

 

…マッタク、ジブン以外のダレカを庇ってケガをするなんてとんだおバカさんダネェ。

 

命よりもダイジなものなんてこのセカイにもボクが旅した宇宙にもあるはずないんだから。

 

ボクを助けるよりもスキルを使って防御力を高めたり、ニゲレバよかったのに

 

……………デモマァ、ボクを助けてくれたコトには感謝するヨォ。

 

それにしても、マッタク。このボクにあんなアブナイを事を起こした犯人にはジブンが何をやったのかコウカイサセナキャネェ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………ついでにキミの仇もとってアゲ

 

 

 

「マホロア大丈夫だったか?」

 

「ワワッ!?」

 

マホロアは何事もなかったかのようにケロッとした様な感じで起き上がっていたダクネスに気絶しているものと思っていたのでギョッとしてしまう

 

 

「ダ、ダクネス。大丈夫なのカィ?」

 

「…マホロア?…そんなにジッと見つめてどうしたのだ?もしかして私にさっきの攻撃を当ててくれるのか?」

 

 

とちょっぴり期待していたらしいダクネスはこっちの声が聞こえていなかったらしくマホロアは一周回って呆れた。

 

 

「とりあえず守ってくれてアリガトネ。…それにしても直撃しなかったトハイエ無傷とはスゴイネェダクネスは。このホシのクルセイダーってヒトはミンナカタインダネェ。」

 

「いや私は不器用すぎて攻撃が当たらないからな、だから防御のスキルしか取ってないお陰でこの街で一番硬い自信がある。」

 

「ナ、ナルホドそれはカタイ訳ダネェ。キャベツはさっきのバクハツで散り散りになっちゃったし、ココにいたらまたバクハツするかもしれないからボクはもう先に戻ってるネェ。」

 

ギルドでのアクアやめぐみんとの一悶着にキャベツ襲来と船から出て以降マホロアは一日中ずっと振り回されていたからか、それとも無事とはいえダクネスに危機を助けられてホッとしたからか一気にどっと疲れが押し寄せてきていた。

 

それに心の内で陥れようとした相手から心配されるのもするのもなんだかモヤモヤとして早く離れてしまいたかったマホロアは、もう十分に活躍できたから良しとしようと考えてキャベツの収穫を切り上げて早くギルドへと戻ろうとした。

 

 

「そうかなら一応、怪我をしてないか見てもらった方がいいかもしれんな。……いや待ってくれ、マホロア。」

 

 

そのままモヤモヤしながらも離れようとしたマホロアに、ダクネスが待ったを掛けてきたマホロアはそのまま離れようと思っていたが一応助けられた手前あまり無下にも出来なかったマホロアはダクネスの方へと振り返る。

 

「ンン?ナンダイ?ダクネスも一緒に戻るのかい?」

 

「…あぁ。戻りながらでいい少し聞きたいことがあるのだ。」

 

 

今日初めてマホロアはダクネスに出会った訳だが、今の何処か真剣そうな顔の中に少しばかりの此方を探るような油断ならない視線に唯の被虐趣味のきしと決めつけていたがどうやらダクネスへの評価を変えなければならないようだ。

 

此方も疲れている所にここにきて、まさかの相手との腹の探り合いとは妙に疲れる一日だと思いながらも顔は平静を装う。

 

 

「聞きたいコト?」

 

「アルダープとは一体どういう関係なんだ?宇宙船の事については知っているが気をつけた方がいいぞ。あの男は私にとっては悪くない男だが他の者からはお世辞にも良いとは言えない男なのだ。」

 

「フゥーン、そうなんだネェ。関係って言っても、周りから聞いている通りアルダープはボクの船を直してクレル。ボクはアルダープにそのお礼をするってだけだからボクにとってアルダープは親切にしてくれた良きトモダチってところダカラなんの心配も必要ないヨォ。」

 

「…そうか、だったらなおのこと気をつけた方がいい。アルダープは根っからの悪徳領主と言われていて過去に何度も王都からの調査団が証拠を見つけるために派遣されたが、依然として一度も見つかってないのだ。関わったものは皆語ることが出来ないほどに不幸な目にあっている。」

 

「……」

 

「初耳だったみたいだな。…だからもう一つ聞かせてくれ、アルダープについて何か知らないか?」

 

 

 

やはりあの無礼な男は評判が悪いようだ。

だが、それにしても妙だ。何度も調査団が派遣されて疑われてるのに証拠の一つも出ないなんておかしすぎる。あんないかにも頭が悪そうなオークの親戚みたいな男がここまで疑われるというヘマを犯しているのに?

 

まぁ、邪魔にならない限りはボクにとって関係ない話だ。

誰が不幸になろうと、誰が不幸であったとしてもネェ。

 

そんな有象無象のことよりも君について気になってきたヨォ。何故だかアルダープよりもアルダープのやっていることに興味津々で詳しく知りたいようダネェ。どうして虐げられる事しか出来ない領民のフリをしているのカナァ?話をしていた君はそんな弱い領民にはとても見えなかったヨォ、ダクネス。

 

 

 

「残念だけどそういったショウコなんてボクは知らないヨォ。デモ教えてくれてありがとうネェ、気をつけることにするよダクネス。」

 

「…そうか分かった。」

 

 

そうして何か大切な事を忘れているマホロアとそんなフワフワと宙に浮いているマホロアを思い詰めた様な顔をしながら見つめていたダクネスはキャベツの収穫いや襲穫(しゅうかく)を終えた2人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーっはっはっは!!あそこまで啖呵を切っておきながら口ほどにもありませんでしたねぇ!この私の勝利ですよ、マホロア!!」

 

「ウグゥ、あのバクハツさえなければテンサイのボクなら余裕で勝てたのニィ。バクハツさえなければこの中でイチバン収穫できてたのニィ」

 

 

時は進んで夜のギルドでマホロアは、カズマ達と合流して結成したパーティー初めての夕食を食べていた。

 

冒頭でめぐみんとキャベツの収穫対決をしていた事を思い出したマホロアは急いで自分の籠を取りに戻っていくも爆発の影響なのか籠は壊れており周りを見渡してもキャベツが一個しか残されていなかった。

そんなこんなで事情を話してどうにか対決自体を有耶無耶にしようと頑張ってはいたが自分で言い出してさらにめぐみんを煽った手前無かったことには出来ず、めぐみんの知能の高さによる口八丁で勝負はマホロアの負けとなった。

その後騒ぎを聞いたカズマがやってきてめぐみんを説得してマホロアをパーティーに入れる代わりに負けた代償としてめぐみんはマホロアに夕食を奢らせた。

 

 

 

「天才?それは勝者であるこの紅魔族最強のめぐみんにこそふさわしい称号なのですよマホ…数多の宇宙を巡りし者よ!」

 

「ナンで言い直したの!昼間のコトをまたからかっているんだね!」

 

「何を言うんですか、ちゃんと褒めているではありませんか。貴方の二つ名は宇宙からの来訪者だけでも紅魔族の琴線にビリビリきているといるんですよマホロア!」

 

「ボクは大勢のホカの冒険者の前で恥ずかしいコトをして過去のジブンを呪ってるヨォ」

 

 

昼間の事を思い出して顔が熱くなるような感覚に赤い顔をせめて見られまいと机に突っ伏すマホロアを見て次にカズマはジトーっとした目でめぐみんを見ながら話しかけた。

 

 

「なぁ、めぐみんさっきのマホロアが言ってたバクハ」

 

「カズマ。一度は解いたパンツの誤解を脅されたから仕方なくと言って騒いでもいいんですよ?」

 

「なぁ、落ち着けよ。俺が言いたかったのは成長期のめぐみんに、この爆発するほど美味いカエルの唐揚げを分けてやると言いたかったんだよ。だから間違っても騒がないで欲しいんだ。」

 

 

 

 

若干の震え声でカズマがめぐみんに唐揚げを自分の皿からめぐみんの皿にのせていく。

 

それを見ていたアクアがカズマにコッソリとバレないようにカズマの皿に載っていた唐揚げを一口でパクッと頂いて幸せそうにモグモグしていた。

 

めぐみんに唐揚げを渡し終えたカズマが自分の皿を見てアレッ?とした感じで不思議そうにしていたが結局気づくこともなくそのまま食事を再開しようとしたところで悶えていたマホロアが復活する

 

 

 

「ネェカズマ。ちょっとお願いがあるんだけど」

 

「うん?どうしたマホロア。さっきも言ったが負けたからって奢らなくていいぞ。ここの食事代は割り勘にするから心配するな。」

 

「イヤそうじゃなくて、実はダクネスをこのパーティーに入れてくれないかなって思って。」

 

「えぇ、お前までなんでまたあの変態を?」

 

「モチロン助けられたオレイってだけじゃなくて、見たところこのパーティーにはゼンエイがいないから前でモンスターを足止めする人が欲しいなぁって思ったからなんダヨォ。攻撃はデキナイにしても防御力に関してイエバ、キャベツの時のクルセイダーのダクネスはスゴかったヨォ。」

 

 

 

色々とダクネスをパーティーに入れた時の利点を並べては見たが、それをゼロどころかマイナスにしかねないダクネスの性癖と攻撃が当たらないのに突撃する癖もあるためマホロアは説得は難しいと思っていた。

 

 

そんな意外なマホロアからのお願いに暫く難しい顔をしていたカズマだったが、元々貧弱な自分ではあんな怖い思いをしながら前衛なんて務まらないと思っていたからダクネスのような上級職のクルセイダーは貴重だ。特にカエルにさえ苦戦して結局ヌルヌルにされためぐみんとアクアの事を考えると前衛はどうしたって必要になる。

それにキワモノであるめぐみんとも楽しそうに話をしているダクネスを見て決心した。さっきまでアクアもダクネスに芸を披露していたところから、アクアとも仲は良い様子のようだし問題も無い……とは言えないがそれはおいおいなんとかしよう。

 

 

「しょうがねえなぁ。」

 

「アリガトウ、カズマ!」

 

「おーいめぐみんとダクネス!それから……てめぇ何勝手に人の唐揚げ食ってんだ!なんか少ないなと思ったらお前が食ってたのか!食った分だけでも代わりに寄越せ!」

 

 

ニッコリと要求が通って嬉しそうな様子のマホロアは、そのまま唐揚げを死守しようとする『ゴメンなさい!』と叫ぶアクアの必死の防戦も虚しく取り上げられるも何個かは残しているだけカズマは慈悲深いのだろうと思った。

 

 

 

ダクネスはカズマとアクアの様子を見てめぐみんと一緒にくだらないことではあるが仲良さげに戯れ合っているようで微笑ましいものを見る目で苦笑していた。

 

 

「まったく2人とも喧嘩をする割には、不思議と仲が良さそうに見えますねダクネス。」

 

「あぁ、私もそう思ってたところだ。」

 

 

 

ダクネスがジーッと見つめているのをめぐみんは、仲間になりたそうなその様子に不安になっているのかと思いカズマと出会う前の自分と重なる所に思うところもありダクネスへ声を掛ける。

 

 

 

「……心配しなくても私はダクネスもこれから過ごす同じ仲間として歓迎しますからね。たとえカズマやマホロアがどう言ってもこの天才たる我が説得して見せますよ!」

 

 

「…フフッ、ありがとうめぐみん。」

 

 

ギュッと手を握る小さくも温かいめぐみんの手に不思議と心が安らんでくる。こんなに小さな子に心配される事に少々恥ずかしくなってしまうが純粋に自分のことを心配して声をかけてくれるめぐみんの言葉をダクネスは好意的に受け止めていた。

 

 

「ソノ心配は必要ないヨォダクネス。」

 

めぐみんとダクネスの手にその横からからスルリと重ね合わせるようにマホロアの白い手が置かれてきた

 

 

「「マホロア?」」

 

「めぐみんが説得なんてするヒツヨウなんかないヨォ。このボクがチョーッとオネガイして説得したらカズマはココロヨク、ダクネスを仲間に入れてくれるってサ!ネッカズマ。」

 

「ん?あぁまあそう言う事だ、これからよろしくなダクネス。」

 

 

後ろでベソをかいているアクアが気になる所だがおおかたいつものようにアクアの自業自得だろう。そしてあっさりとカズマの許しが出て拍子抜けしていためぐみんとダクネスの2人であったが、マホロアの手をがっしりと掴むとお礼を言ってきた。

 

 

「先程めぐみんにも言ったが素性の知れない私の為に本当にありがとう!マホロア。お礼と言ってはなんだが、もしむしゃくしゃした時には私に魔力弾を撃ってイライラを発散させていいからな。」

 

「ククッ、どうだいめぐみん?キミにはカズマを説得できるだけの知能は無かったみたいだけど天才なボクはカズマを説得できたヨォ。クヤシイカィ?」

 

 

あからさまにハァハァと赤い顔のダクネスからのお礼を無視してマホロアは昼間の仕返しとばかりにめぐみんを煽る。

 

 

「……」

 

「隣で魔力弾を撃っていいと声を掛かけているにもかかわらず放置プレイとは…くぅぅ!!アクアにめぐみんやカズマといい私はなんて良い仲間に恵まれているのだ。」

 

 

 

さっきから思うがダクネスは本当は仲間じゃなくて虐めてくれる人を欲しているだけなのでは?さっきから被虐心を満たそうとしているだけじゃないか!しかもコトもあろうにまだ何もしてないボクをカズマのように悪魔と同じように扱うんじゃ無いとダクネスに心の中だけでマホロアはツッコむ。

 

 

「マホロア。」

 

「ウン?ナンダイめぐみん?自称紅魔族随一のテンサイが説得したこのボクに負け惜しみの言い訳でも言うつもりカィ?」

 

「この私にかかれば今のカズマに少しお願いすれば容易く仲間として認めさせられたでしょう。まぁ、ダクネスの事を仲間に入れてもらうようにカズマを説得してくれて私からもお礼を言いますよ。マホロア。」

 

 

マホロアは怒りに我を忘れて狂犬もとい凶猫の如く襲いかかってくるだろうめぐみんの予想に反したアッサリとお礼を言ってくる様は予想外の出来事であり気恥ずかしさから無意識にフードを深く被り直す。

 

 

「…マァ。……ベツにボクもダクネスには助けられたし、防御力ダッテ高いからパーティーの盾役にイイなぁとオモッタダケダカラネ。」

 

「フフフ。最初は紅魔族のセンスを理解できない失礼な宇宙人かと思いましたが、仲間思いで見た目通りのカワイイ反応もするではありませんか?」

 

「……マアネ。」

 

 

目深にフードを被っていき遂にはほとんど下を向いていくマホロアを見て私は全て分かっているんですよと微笑むめぐみんを見て状況を見守っていたカズマとダクネスはニヤニヤと揶揄っているような目で仲直りした2人を優しく見る。状況が分かっていないアクアは隙ありとばかりにカズマの唐揚げを一個口に放り込むと記念とばかりに花鳥風月を酒場の喧騒にも負けない大声で盛大に披露した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニヤァ

 

 

 

 

 

 

 





い、一万字になってしまった

挙げ句の果てに考えれば考えるほどに、投稿が遅れてしまう

誰か助けてぇ!!


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6話

カズマパーティーに新たにダクネスがマホロアの口添えによって仲間入りした翌日ローアの船内は蓄えられていた長期間の航海の為の宇宙食どころかもしもの時のために大切に保管されていたエナジースフィア等あらゆる物がしっちゃかめっちゃかにバラバラに散らばり台風でも突然発生したのかと言わんばかりの惨事となっていた。

 

焼け焦げた床と凹みひび割れた壁という部屋の中で、その台風の中心地に居たのは未だに怒り心頭でまだまだ暴れたりないマホロアが取り敢えず手近な壊して良いものが無くなったからで、我を忘れた怒りから営業スマイルという仮面の下に怒れる内心を隠す程度には収まったところでもしこの怒りの原因が姿を現したら自制が出来るかは怪しい所である。

 

 

 

「クッソォォォォォォォ!!余計なコトをシヤガッテェェェ!」

 

 

 

マホロア自身も人前でないとはいえここまで感情を曝け出して怒りに我を忘れたような行動に出たのは久方ぶりのことでもあった。

一体何があったのかと言うと、前話で語られなかった所の後日談になる。

 

 

「なによマホロア。あんた私の芸は見れても私の酒が飲めないって言うの?罰当たりよ罰当たり!そんなんだからめぐみんに負けちゃうのよ!」

 

「お酒クサイし、飲みすぎだよアクア。そろそろヤメテ水でも飲んだ方がイイヨ。」

 

酒に飲まれたアクアが悪酔いしてマホロアに絡んでおり、これ以上面倒な事になる前にアクアからシュワシュワのジョッキを取り上げて近場のウェイトレスに水を注文する。

 

ダクネスやカズマもめんどくさそうなアクアをマホロアに任せてシュワシュワのジョッキを傾けていくがこちらはペースとしてはアクアと比べて非常にゆっくりだ。

 

絡まれたマホロアとしてもアクアには今後は節度を持った飲酒をして欲しいが無理な話だろう。

 

祝い事とあっては黙ってられないのが宴会芸もとい水の女神ことアクアは自身の財布の中身が少ない事を忘れているわけではなくキャベツの報酬目当てにギルドに借金をして飲み食いするという典型的なダメ人間の行動をしていた。

 

尚そんな嫌な予感しかしないアクアの行動はギルドのクエストの集計が終わり報酬が配られる時に証明されて後に金を持っている分かるとマホロアや小金持ちになったカズマに泣きつくと言う見ているだけで惨めな結果に終わる。

 

 

そして事件はマホロアにとっては事件どころか大事件の話がここから始まったのだ。

 

 

「全くしょうがないわねぇ、マホロアは。あ!そうそう今まで忘れてたんだけどコレ(・・)さっきのクエストで落としてたわよ。」

 

「!?そ、ソレハ!!」

 

ひょいとアクアから渡されたマスタークラウンにマホロアは仰天して奪い取るように強引にアクアから奪う。

 

(落としていてしまっていたなんて、危なかったヨォ。それにしてもクエスト?チャント落ちないようにモッテイタはずだったのにあのバクハツのトキカナァ?)

 

とマホロアがマスタークラウンを懐にしまっている間にシュワシュワを取り返したアクアがまた取り上げられる前にジョッキを一気に傾けて先程よりもさらに赤くなった顔で机の上のピーナッツを指で弾いて食べるという器用な事をし始める。

 

 

「何にせよありがとうネェ、アクア。アレはボクの大切な物でもしキミが見つけてくれなかったらボク、ホントにホッーントに困った事になっていたヨォ。」

 

「大切な物?それよりもソレ、かなり邪悪な力が憑いてる危ないものだから私がサービスで気合い入れて封印してあげたわ。どうどう?凄いでしょ!水の女神様に感謝してくれても良いわよ!」

 

「ソウナンダヨォ。コレはボクの大切な……エ、ナ、ナニをしたって?」

 

「だから封印よ。邪悪な力が憑いてるって言ったのよ?貴方は大丈夫なの?取り憑かれて耳が遠くなってるのならイチシュワシュワでヒールしてあげましょうか?」

 

アルコールの回った赤ら顔でそう言ってくるアクアと対称的に信じがたい事実にマホロアはサァーっと血の気が引いていきマホロアの思考を普段の常に冷静さを心がけていた事を忘れて津波のように押し寄せてくる怒りに支配されないように、幾多の解決策を巡らして暴走しそうな怒りを必死に誤魔化そうとする。

 

 

ナニ?コイツ。ナンダト。

 

 

マホロアの沈黙を是と受け止めたのか、アクアが勝手にウェイトレスに追加の酒を注文してジョッキを傾けて一気に空にしているのをはたから見ると呆然としているように見えている。

 

 

ナニをシタノカ。

 

 

「今日は女神として、いつも以上に頑張っちゃったわ。感服したなら水の女神である私に感謝して信者になってもいいわよ?」

 

 

ワカッテイルノカ?コイツは?もうダメだいくら我慢強いボクでも限界があるヨォ。イマスグに酔いどころか頭にガツンと一発入れてコイツの酔いをフキトバシテヤ

 

 

「はい、ヒール!」

 

 

「グヌゥゥ。」

「………アリガトウ。アクア。デモなんだか今日は調子が優れないからサキニカエルネェ。バイバイ!」

 

 

アクアの不意のヒールが効いたのか?マホロアはすんでのところで、怒りを抑え込んでその場にいたカズマ達が押さえ込むままなく逃げるようにローアへとワープした。

 

 

急いで拠点であるローアへと戻ったマホロアがマスタークラウンにかけられた封印を解除しようと自らの持てる知識と技術で封印を解除しようとしたものの、そもそも施された魔術的にマホロアの知るそれとは全くの未知の分野であったことが災いして解除までには至らずに冒頭の怒りをぶちまけた所へと繋がるのだ。

 

 

フザケヤガッテ

 

イカレテイルノカ?アノ女??

 

 

 

ナニが女神ノ……。ソウカ、ソウナノカ。

 

 

ワカッタ、イイダロウ。ボクも売られたケンカはカウヨ。

 

計画を修正するヨォ。

 

 

 

マホロアの脳内を憎悪が拡がり、理不尽な暴力へと突き動かす

 

それは果たして、ローアの船内だけにとどまらせていいのか?

 

マスタークラウンを復活させて終わり?冗談ジャナイ!

 

ボクは天才だ。

 

他者を傷つけて負け犬どもの上でお山の大将を築くような、そんな強いだけの野蛮人デハナイ。

 

この叡智と、マスタークラウンの力が組み合わさればそれは支配へと変わる…いやそうなって然るべきなのだ

 

なるべくしてこの叡智を授かったボクは、皆が平伏して従うセカイを支配するにたる能力へと創造される叡智なのだ。

 

 

女神だかナンダカ知らないけど、ココマデされてボクも怒ってるんだヨォ

 

デモ、ボクは優しいからネェ。許してアゲル(・・・・・・)ヨォ

 

 

その代わりこの世界をボクのものにさせてもらうからネェ♪

 

 

 

 

いくつもの思考が計画として組み上げられ失敗しては別の計画(プラン)へと移行されて成立してゆく。

 

幾許かの時間と星の数程の思考の中で、マホロアは玉座への道を見出してゆく

 

星の巡り人はいつの日からか歪んだ願いを抱きながら、否。取り戻して玉座へと向かっていく

 

 

 

「マァ、ソレでも今準備デキテモ実行は得策デハナイネェ。長い時間を掛けてマスタークラウンも手に入れたんだヨォ。このホシだって時間をかけてこのボクのものにしてあげるヨォ。」

 

 

そうしてマホロアはローアのコンピューターへと手を伸ばして操作していく、計画は静かに動き出していた。

 

 

 

カズマ達の未来にナニが起きようとしているのか?それはまだ女神も魔王軍もマホロア自身でさえ分からない事ではあるが、何かが起きようとしていた。

 

 

 

「ソウと決まれば、手っ取り早くマスタークラウンを直さなきゃネ!」

 

ヒョヒョイとマホロアが手を振れば適当に手に入れた(騙し取った)お宝が宙を舞いながらマホロアの元へと飛んでいきローブの中へと次々に消えていく。

 

もう片方の手でメインパネルからローアのバリアー展開と警報装置を稼働させて簡潔ながらもローア自身へと船内の掃除を命令させる。

 

 

 

準備を手早く終えたマホロアが荒れたローアから飛び出して行く。

 

癇癪を起こした船の主人が、その片付けをしないどころか命令して飛び出して行ったにも関わらず忠実に命令に従って埃を吸い上げて換気していく。

 

マホロアの八つ当たりで壊されたガラクタの山が崩れるとひとりでに壁と床から出てきた大きなちりとりを持ったアームがガラクタを掃除していきメインフロアから別の部屋へと押し込んでいく。

 

その部屋は一見空き室のように見えたが、そんなことは無い。

 

マホロアの自室へと整頓のせの字も知らんとばかりに強引に押し込んでいき無理矢理扉を閉める。

 

 

ゴミはゴミ箱へ

 

 

ローアは長い間眠らされていた自分を復活させてくれたマホロアからの命令に忠実なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 



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7話


マーマーマホロアーカワイイーナー


 

 

アクセルの街のギルドに急行したマホロアであったが、その時丁度カズマ達は湖の浄化の為のクエストに出発していた事をマホロアはギルド職員から知りパーティーに入ったのに梯子を外されたような気分ではあったが、今から行っても間に合わないだろうと簡単に諦めた。

 

 

数日前の乱闘寸前の騒ぎにあれだけ仲間に入るために力を入れていたにはドライな反応を見せるマホロアに職員も?を少し頭の上に浮かべていたようだったが、合理的な判断をする所は他の冒険者でもあるにはある事ではあったために直ぐに仕事へと戻っていった。

 

 

「マッタク失礼シチャウネェ、このボクに内緒でクエストに行っちゃうなんてイジワルなことをスルナァ。」

 

 

口では怒ってはいるもののマホロアは今アクアに会ったら何かのきっかけでまたイライラするような展開は今後を考えると致命的なミスになりかねなかったので冷静な時間は長くて良いに越したことは無いのである。

 

とまぁカズマ達に会いにきたはいいものの、相手が不在というタイミングの悪さにこれから何をするかを考えながらフワフワと所在なさげにギルドのシャンデリア辺りまで浮かんでいくのを周りからナニやってんだ?と変な目で見られて注目が集まりつつあるがまるで気にならない気にしないと言った我関せずのマホロア。

 

ぶっちゃけ最初の頃にモンスターと一方的に決めつけられて襲われていた頃を思えば、彼にはなんて事ないからだ。

目立つ事も今は落ち着いているが、生まれは宇宙彼方のハルカンドラでこの星以外の知的生命体として注目の的である事に変わりはないし、今は考え中で視界に入ってきても思考は中断しない。

 

暫くすると浮いているマホロアに慣れ始めてきたのか、職員や冒険者達の注意も酒やクエストボードに戻っていった。

 

 

マホロアも次に行くべき所に目星がついたのか、そのある場所に向かう為に換気のために開いていた2階の窓より飛び出して行く。

 

 

マホロアが飛んでいくのを見失わないように、正確に飛んでいく方角を見て1人の人間(・・)が後を追うようにされど気づかれないように細心の注意を払いつつも人混みに紛れながら追って行く。

 

 

それをマホロアはもちろん。

 

騒がしい喧騒の中で周囲の冒険者達も気にも止めず、それを気にする事もなかった。

 

 

 

 

マホロアの飛び立ったところ。

 

それは小さな魔道具店。

無論マホロアが目をつけたのだ。ただの何処にでもあるような魔道具店ではないし始めて街に来た際にアルダープの従者を質問攻めにして得た前情報ではこの街では売れそうにない高額な商品や軽い水害を引き起こす簡易トイレに、モンスターから愛する人を守る為にそのネックレス型の魔道具に魔力を込めると愛する人も周りも全て巻き込んで自爆する本末転倒染みたマジックもとい呪いのアイテム等を仕入れてる変わり者。

 

当然にして初心者冒険者が多いこの街で無駄な買い物は出来るはずが無いし、買おうとするほどの財のある者は貴族ぐらいで街中にそう都合よくいるわけがない。そもそもの効果からして役に立つどころの話ではないデメリットしかない魔道具ばかりである。

 

そんな産廃でしかも高額な魔道具を仕入れている為に常に貧乏であると言われている。

 

ここまで聞くと商才のないどころか頭が残念な人なのか呪われているのかと疑いそうな残念な店主と思われるが、元凄腕の美人冒険者で昔は氷の魔女と言われていたらしくアクセルの街では頼りになる存在らしい。

 

 

ここまで聞いていたマホロアの感想としては、失礼にも氷属性の力が強すぎて自分の財布を寒くさせてるんじゃないかと冗談半分にも思ったが心の中だけで呟くに留めておく。

 

 

 

「コノ星で勇名を馳せたスゴウデのアークウィザードネェ…マァ、どれだけの傑物か?それとも唯の貧乏人か?テンサイのボクがミテアゲヨウジャナイカ。ハナシを聞く限りでもアブナイヤツデモ無さそうだしネェ。」

 

 

そんなこんなで向かった先はアクセルの街の大通りから少しだけ外れた小道にある隠れた老舗っぽく見える小さな魔道具店。

 

その名も『ウィズ魔道具店』。

 

一見すると話に聞いていたほどに貧しくなさそうに見えるが、繁盛もしてないと言った感じだ。

マホロアはやや年季の入った扉のドアノブに手をかけて押すとリンリンと軽い鈴の音が広くはないが小さくもない店の中に響いていく

 

店の中は道具の大まかな種類自体が少ないせいか整理整頓も行き届いており、清潔さがあった。

その奥から『はーい』と女性の声とパタパタと軽い足音がマホロアに聞こえながら姿を現す。

 

 

「いらっしゃい…え!?ど、どなたって言うか明らかに人間じゃない!??」

 

 

(ショウガナイかもしれないけど、失礼シチャウ反応ダネェ。)

 

「ヤア!ヤア!ボクの名前はマホロア。キレイなお店に美人な店主サンダネェ!見ての通りニンゲンじゃ無いけどモンスターでもないヨォ!」

 

 

マホロアを見てギョッとした様な顔を出す長い茶髪のおっとり美人店主の出現と久しぶりな反応をされても慣れた様子で無害かつ愛想を振り撒くアピールをするマホロアに毒気を抜かれたのか、とりあえずは元々おっとりとした性格なウィズも落ち着ちつきお詫びに紅茶をサービスしてくれた。そこで紅茶を出された席でマホロアは自分の身の上話(ウソ)を美味しい紅茶とサービスで出てきたクッキーを齧りながら饒舌に語った。

 

 

「…とマァ、ボクはまたいつか旅に出る為に船のパーツを探してるんだヨォ。もしボクの船のパーツを見つけたらスグにヨンデネェ!モチロンお礼だってするヨォ!」

 

「そうだったんですね。ギルドの人や街の人からお話は聞いていましたが咄嗟に忘れてしまいまして、さっきは失礼な事をしてしまってごめんなさいマホロアさん。私はてっきり魔ぉ…あ、いや、やっぱりなんでもないです。」

 

「??…ウーン?……そういえばここは魔道具店って聞いたけどいったいナニを売ってるんだい?」

 

「はい!私のお店は小さいですけれど大通りにある他の魔道具店に負けない位の良い商品があるんですよ。マホロア様!」

 

 

(…様?)

 

気になる発言は後回しにしておいて、なんとなしに振りかけた話題を聞いて急にかしこまってキラキラしだした目をしたウィズは近くの棚からヒョイと魔道具を取るそんな様子の変わったウィズにマホロアが違和感を覚えながらも、ウィズは商品をテーブルに置く。

 

 

「これなんか如何でしょう?アクセルの街の他のお店には出していない最高純度の魔力を持ったマナタイトでこんなに凄いものは王都でしかお目にかかれないような逸品なんですよ!」

 

「オォーウ?たしかにソレはスゴい逸品ダネェ。」

 

 

ウィズがテーブルに出したものはたしかにアクセルの街ではお目にかかれないほどのマナタイトだ。

 

マホロアもショーウィンドウ越しにそれを見掛けていたし、ローアの中にもサンプルとして安い物をいくつか持っているので存在は知っている。

命懸けのクエストを受ける冒険者やこと魔法使いにとっては魔力の枯渇を避ける為にも、一度きりではあっても頼れる道具があるのとないのとでは冷静な判断を下す為にも切り札的な物はあるに越したことはないのだ。

 

しかしウィズが出したマナタイトは王都でしかお目にかかれない程の純度。その純度が高いということは比例していや、それ相応に値段も高くなるものだ。

 

 

「デモさぁウィズ、王都デ売ってる位のマナタイトってスッゴイ高いって聞いたんだけどコレって幾らくらいナノォ?」

 

「…お一つ1000万エリスになりますが命に比べればいえ、冒険者にとってはきっと必ず何処かでここぞという時に役立つ逸品だと思います!」

 

 

 

このようにべらぼうに高すぎて、決して初心者冒険者の街であるアクセルでこんな大金はたいて買える代物ではない。

 

幾らマホロアでも例外ではなく他の店で買った安い物と比較してもマスタークラウンを復活させる頃には余裕で破産するし、たとえ方々から金を借りて復活した後に借金を踏み倒して支配なんてとても現実的ではないし何よりマホロアのプライドがそれを許さない。

 

 

 

「ソンナ高額なモノ買えるわけないヨ!モシいたとしてもこの街で買おうとは思わずに王都へ買いに行くに決まってるヨォ。」

 

「アウ!…でで、でももしかしたら王都で活躍している通りすがりの凄腕の魔法使いや剣士の方がこれを見つけたら買ってくれるって売ってくれた商人の方が言ったんです!」

 

「キミ自身が売れると考えた訳じゃないのカイ!!ソンナおみくじ感覚でウレル訳ないヨ。というかボクってまだ一度もクエストになんか受けてないのによくこんな高いのよく売ろうと思ったネェ」

 

「それは…たた、確かにマホロア様の言う通り商人の人の言う事を鵜呑みにしてしまったのかもしれませんね。でも次の商品は自信がありますよ!昔はこれでも高名な魔法使いとして名が売れていた私の勘が売れると確信した物なんです!!」

 

(ハナシには聞いていたけど、さっきのでもうケッコウ不安だナァ。)

 

「聞くところによるとマホロア様は宇宙船のパーツを探しているんですよね?なかなか見つからない探し物ならこれがぴったりな商品になります!!」

 

そう言って自信満々にウィズが次にテーブルに置いたのは一昔前に作られたような古い瓶底メガネように見えるが耳にかける部分が黒に近い緑色の羽がついているようになっており、唯のメガネでは無いと言うことはわかるがその力まではなんなのか分からないといったものだ。

 

「……。」

 

 

(ローアの為なら即買っちゃってもイイけどマナタイトの話を聞いていた手前なんか心配ダヨォ。トイウカ、さっきから妙にサマ付けでボクの事呼んでくるのも一体なんなんダロウ?)

 

 

「これは自分の失くした物を頭の中にイメージするとその物が何処にあるのか少しの間だけ映してくれるんです!とっても便利だと思いませんか!」

 

 

自信ありげなウィズを気にかけることなくジーっとテーブルに置かれたメガネを見ながらコレを買うべきか確かめる為にマホロアはウィズに軽くカマをかけてみる事にした。

 

 

「ワーオ、確かに失くしたモノが何処にあるのかワカルのはとっても便利だとオモウヨォ!さっきのマナタイトは買わないけどウィズの勘は当たるヨォ!ちなみにだけどコンナとってもスゴい魔道具だけどボク、タクサン魔力を使っちゃうのはイヤダナァ。」

 

「大丈夫ですマホロア様!魔力なんて消費せずに使えちゃう素敵な商品なんです!デメリットといえば何を失くしたのか忘れちゃう事ぐらいなんです!!」

 

「致命的な欠陥ダヨ!!何を失くしたのかすらもワスレルなんて失くす前より状況がワルクなってるジャナイカ!!」

 

「あ、でもでも忘れないように紙に書いておけば大丈夫ですよ!…たぶんそれにマホロア様程の資金力ならもう一つ買って忘れた事を忘れないようにすれば解決します!」

 

「サイアクのループにハマっちゃってるヨ!…ていうかさっきから妙に様付けで呼んでたケドもしかしてギルドでボクが大量にお金を持ってるッテハナシを聞いたのカィ?」

 

「そ、そんなことは…ないですよ?」

 

疑わしげに見つめるマホロアの目から逃げるようにウィズは視線を逸らして否定しているが、ウソをつけないウィズの素直な性格故にバレバレの態度をとってしまっている。

 

それを見たマホロアは商人のくせに先程のような明らかな産廃を買って100%の善意で売ろうとするわ、お客であるマホロアに腹芸の一つもできないとはと、呆れたようなそれで良いのかと逆にウィズを心配してしまうぐらいには目の前の元凄腕魔法使いはお人好しで騙されやすく善良な性格だと思った。

 

こんな性格では、子供騙しの詐欺にでも引っ掛かってしまいそうなぐらいに心配になってしまうぐらいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソウソレは例えるならば壊れたウチュウ船に乗ってやってきたカワイソウなボクのウソを信じてボクからのお願いをダマサレツヅケテ際限なく聞いちゃうぐらいには♪

 

 

 

 

 

 

 

ニヤァ

 

 

腹の中で腹黒い企みを練り上げながらも表面上は先程からジトーっとした目でウィズを見続けられることについに根を上げたのかはたまた赤字続きの火の車な店の状況で目の前に垂らされた一本の細い蜘蛛の糸に縋ろうとしているのか

 

遂に涙目で失礼を承知でマホロアの両手を掴んでくる必死そのもののウィズにはマホロアの心中等分かるはずはなかった

 

これからお互いに多少の縁を結ぶことになり、後にこの店の従業員となる悪魔と時に熾烈に時には協力しながらアクセルの街で商売をすることになるが虚言の魔術師と氷の魔女の初めての邂逅はまずは虚言の魔術師が優位に立ったのは語るまでもないことだろう。

 

 

 

 






ウィズは美人!


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8話 


長い間お待たせしました。

Wiiデラックスがやってくる!

この小説の前日譚とまさかのマホロアエピローグでどうしようかと頭を悩ませていますが、私はそれでも一向に構わないという烈海王の精神をお持ちの方は読んでいただければ幸いです。


 

涙目で引っ付いてくるウィズを見て、数日前のカズマに泣きついていたアクアを思い出しなんとも言えない疲労感の中でマホロアはある事を思考していた。

 

目の前のウィズについてだ。

 

聞いていた話の人物と比べると些かポンコツっぷりが大きいが問題はそこではない。

若い、余りにも若すぎるのだ。

自分にあまり関係のない寿命という概念は考えるだけ無駄ではあるが、この星の魔法使いは自分と同じように寿命という問題に左右されない訳がないのだ。

実際に赤ん坊も老人もマホロアは目撃しているからだ。

目の前の彼女の若づくりが神がかっているだからと簡単に片付けて良さそうなものでもないし、先程のマホロアを誰かと?勘違いしていたところといい自分と他の人間を見間違えるわけがない所に、そしてそれを隠すようなところも気になる。

 

 

 

ボクに隠し事はムダダヨォ

 

ボクとダレカを見間違えるなんて、まるでニンゲン以外のオトモダチがいるみたいダネェ

 

ウィズ。キミにとっても興味が沸いてきたヨォ♪

 

 

 

そしてそれを知るには少しばかりの探りを、利用するには虚言を交えていけばいい。

 

ある一説に、『ウソを嘘と見抜かないようにするには少しばかりの真実を混ぜて伝えればいい』という言葉がある。

 

だが必ずしも相手を騙すには真実は必要ないのだ。虚言とは相手にそうだと思わせた時点で成立するのだから。

 

言わずもがな前者も心得ていれば、後者もマホロアの慣れ親しんだ手法なのだから。

 

 

 

 

マズは、探りダネェ。

 

「仕方ナイネェ、マァデモ1000万エリスぐらいローアのためにスグに用意してアゲルヨォ。」

 

 

「はう。そこをなんとかお願いしますマホロア様!じゃないと私の店が取り上げられ…えっ?」

 

聞き間違いではないかと疑うのも無理はない。

ちょっと前まで、ボロクソに批判されていた高額商品を買ってくれると言っているのだこの目の前の宇宙人、いやマホロア様は。

 

やりました!私の見立ては正しかったんです。このスゴい魔道具は売れるんです!うふふ私だって商売は出来るんです。

いつもバニルさんは私の事をポンコツばっか言って虐めてきますが私だって出来るんです!…あっ、そうだ!たしかバニルさんはいつもサービスしてお客さんにいっぱい商品をお薦めしていましたね。

 

それなら私も

 

「は、…はい!ご購入頂き大変ありがとうございます!!……今ならもう800万エリスでもう一つご購入頂けますがいかがですか!?」

 

今まで売れなかった反動故か過剰な程に嬉しそうな様子でウィズは目を輝かせて、下心ありきな事を自覚しながらもマホロアに追加購入を促していくウィズ。

 

しかし次のマホロアの何気ない言葉に嬉しそうな顔と体が一転して凍りつくような思いをする。

 

 

「フフ、それにしてもウィズは冷え性ナンダネェ。さっきニギッテキタ手はとてもヒンヤリとしていてチョットビックリしたヨォ」

 

「あ、あぁぁすいません。もしかしたら久しぶりに商品を買ってもらえることに興奮していましたので無意識に魔力が少し漏れてしまっていたのかもしれません。…そのぉ、手は大丈夫ですか?」

 

申し訳ないようなしかし驚いているような、そんな愛想笑い的な表情を努めて顔に出しながらも遅くもなく早くもないスピードで手を引っ込める。

変に意識して早く引っ込めらば疑われて悟られるかもしれない。あくまでも自然体が求められる。

 

「…フーン、ソッカァ♪」

 

「あはは、昔はこれでもちょっと名の知れた魔法使いでしたから…。あのぉえっとぉ。マホロア…様。」

 

「ア!お会計ダネェ。チョット待ってねぇ。」

 

ドクドクと、仲間の為に命を賭けたあの時から止まってしまったはずの鼓動が早鐘を鳴らして自分自身を震えさせようとしている。

 

大丈夫。大丈夫だからお願いだからあともう少しだけ震えないで。

 

目の前の相手は見た目はモンスターっぽいが私と同じ様に心はあるようだし、何より私の事をちっとも疑ってはいない筈だ。

 

ローブから此方の心まで覗いてくる様な大きな黄色い瞳を向けるマホロアにウィズは目を逸らして逃げる様に店のレジへとパタパタと小走りで向かっていく。

 

それを会計まで傍目(・・)にはニコニコとマホロアは眺めていた。

 

勿論黒い嗤い声を上げながらであるが

 

 

 

マホロアはウィズ魔法道具店を後にしたあと、一旦ローアへと戻り夕方まで予備のエナジースフィアでローアへのできる限りの再修理とゴミ箱になっていた自分の部屋の後片付けをしながらカズマ達が帰ってくるであろう夕方まで時間を潰していた。

 

 

 

 

「ふぅ、マッタクほーんとにローアには困っちゃうナァ。ボクの部屋をゴミ箱みたいにしちゃうなんてズーット壊れてた所を直して復活させたご主人様のコトをワガママがすぎちゃうヨォ。」

 

 

マ、ワガママなら大目に見ていいけど邪魔は許さないヨ。

 

やっぱりマスタークラウンが封印されるなんテ、イマでも信じられないけどソレは後回しだヨォ。どのみちローアのパーツを回収してからじゃないと異空間ロードも開けないし、あのアクアってやつに興味もあるし暫くは仲良くした方が良さそうダネ。

 

ローアのコトを直せるご主人様はこの世界いや宇宙ではこのボクだけなんだからね。

 

 

ソレニ

 

ボクの宝物に封印なんてコトをしたお礼をタップリしなくっちゃいけないからネ。楽しみにシテテネェ。ア・ク・ア♪

 

 

 

夕焼けに照らされた平和なアクセルの空を風に飛ばされる葉のように軽い足取り?で飛びながらマホロアは大きな檻を積んだ馬車の近くにカズマ達を見つけたマホロアはアクセルの街の大通りに降り立つが、何やら様子がおかしい事に気づく。

 

カズマがジリジリと冒険者であると思われる見慣れない少女2人ににじり寄っているのである。ポンコツなアクア達では心配だからクエストに他の冒険者を呼んで協力していたのだろうか?

遠巻きにアクア達がカズマを引いた目で見ているが本当に何事だろう?余り関係がないとはいえ一応パーティーを組んでいるし、街中で戦いは御法度だから関わり合いになりたくないし、本音は色々と忙しいところに連帯責任なんてごめんなマホロアはため息をつくのを内心で抑える。

 

それにしてもなかなか険悪な状態である。もしかしてクエストが失敗してしまったのだろうか?

 

 

「ネェ、ダクネス?一体これはナンの騒ぎなんだイ?」

 

 

ギョッとしながらも、振り返ったダクネスはマホロアに気づくと少し不満そうな顔をしながらも会えて嬉しそうな顔をしてきた。

 

 

「ちょっ、ちょっとびっくりしたぞ!…今アクアを連れて行こうとした男の仲間にカズマがスティールでパンツを盗るぞと脅しているところだ。それよりマホロアは一体何処にいたのだ?酒場でいきなり消えてしまったりして、あれから街中を探し回っていたのに見つからなかったから一緒にパーティーで初めてのクエストにならなかったじゃないか。」

 

「エ、オンナの子のパンツをトルッて…マァ、イイヤ。居なかったのはゴメンネェ、実はボクうっかり宇宙船の戸締まりを忘れててソレデ慌てて帰ったんダヨォ。」

 

「さすが宇宙人だなマホロアは、宇宙船とは凄いものが出てきたな。」

 

「ソリャあボクは宇宙の旅人だからネェ。肝心の宇宙船がなかったら旅なんてとても出来ないヨォ。」

 

「その話詳しく聞かせてもらいましょう!!」

 

カズマのダイナミックな下着泥棒の件を棚に上げてダクネスと話をしていた。そこに『宇宙船』というキーワードに反応して興奮したような大声をあげてめぐみんは目を赤く輝かせながら得意顔なマホロアに詰め寄っていく。

 

「ワ、ワワ!」

 

「宇宙船で寝泊まりしているなんて初耳ですよマホロア!同じ仲間であるのに隠し事は許しません。罰として今すぐに私達を宇宙船そらうみ丸まで案内して下さい!!」

 

興奮して目を光らせながら耳に手を当てているマホロアに難癖をつけるめぐみん。

 

「ウルサイから大声で言わないでヨ、めぐみん。…というより勝手にローアをそらうみ丸なんてどっかの漁船みたいな名前に命名しないデヨ!」

 

「そらうみ丸はそらうみ丸です!ローアよりよっぽどカッコいい名前をつけてあげようとしているのに何が不満なんですか?」

 

「ナマエの内容はともかくとして、勝手にローアに改名しようとしてるとこダヨ」

 

興奮しためぐみんの介入によりマホロアはカズマによる百発百中ダイナミックパンツスティールの騒動は進んでいる。ローアの改名権争いをしているうちに事態は終息しようとしていた。

 

 

 

「イ、イヤァァァ!!」

 

突然の悲鳴にローアの名前をめぐみんから守っていたマホロアはギョッとして声の方を見ると降りてくる時に見えた見慣れな少女2人が仲間の男を抱えて慌てて逃げていく様子が見えた。

 

見た感じとても重そうな鎧を着た男を少女2人で抱えているが、もしかしたらあれが火事場の馬鹿力だろうか?危機と言えば危機だが、パンツを取られそうになって逃げる為というなんとも言えないところだが。

 

ともあれ

 

カズマの脅迫が終わり、そのカズマとあんまり同じ様に見られたくないのか、若干の距離をとりながらアクアも集まってきた。だがマホロアに気づいたカズマの顔が少し申し訳なさそうな様子に見えた。

 

「ヤァ、カズマ。どうかしたの?そんなに暗いカオをして?好みのパンツじゃなかったののカイ?」

 

「違うわぁ!この顔はお前を誘わずにクエストに行った事に申し訳ないって顔だよ!!…あと本気でパンツ盗ろうって思ったわけじゃないからなそこは誤解すんなよ。」

 

マホロアの軽い冗談にカズマは心外だとばかりに反論していたが、もう既にめぐみんの説得(という前科)があるためにあまり信憑性はないところではあるがマホロアもこれ以上カズマをいじめる意味はないため思ったことは言わない事にした。

 

「フフ、冗談ダヨ冗談。カズマはソンナ事ヲするはずないってボク信じてるからネェ。」

 

「いやこんな街の往来で、そういう誤解されるような冗談は笑えないし言って欲しくないんだが。」

 

「そうよマホロア。カズマさんは『引きこもりのニート』なのよ。ろくに外にも出ないで引き籠っているニート。略してヒキニートなんだから堂々とパンツを盗むなんて度胸のあること出来るわけないじゃない。」

 

と笑ってる顔を隠してるつもりなのか口元に手を当てて隠しているのか、それとも分かってて煽っているのか楽しそうに揶揄っているアクア。無駄に二回もヒキニート呼ばわりをされて、真顔でマホロアの冗談に否定していたところをこめかみに青筋を浮かべたカズマも反撃とばかりにアクアへと噛みついていく。

 

「おい駄女神お前俺に喧嘩売ってんのか?犯罪行為を躊躇するのは当然だろうが、俺はお前を泣かせるためなら俺は躊躇なく出来るんだからな?分かったらいい加減にそのヒキニートをやめろ。」

 

「カズマもいい加減その駄女神って言うのもやめなさいよ!ギルドでめぐみんのパンツをスティールしたくせに何言っちゃってるのかしらこの変態は。」

 

「あれは俺の幸運値が高かったから起きた事故みたいなもんだしスティールで取るものはランダムだから狙ってやったわけじゃねえだろうが!それにすぐに返したから盗ってはないだろ!それに今の俺はしっかりクエストも行ってるから引きこもりでもなければニートでもねぇ、立派な冒険者だ!どっかの駄女神は飲みまくって借金を作るわ、カエルにすぐに食べられるわ、墓地に余計な結界を作るわで駄女神そのものだろうが。」

 

「わぁぁぁぁぁぁ!!だから駄女神っていわないでよぉぉ!」

 

「うわっ!ひっついてくるなよ!服に涙やら鼻水がついて汚いだろうが!!」

 

落ち着いたと思ったら、すぐにこんなにも騒がしくなってしまう。

 

いつもカズマに泣かされているというのに学習もせずにカズマを煽るアクアの様子にマホロアはそれを見てカズマ達のパーティーに入ったのはアクアの封印を別にしたとしても、もしかしたら失敗だったのでは無いかと少しの後悔の念を抱いていた。

 

とにもかくにもマホロアとしては不本意だが泣きじゃくりながらせめてもの仕返しなのかカズマの服に涙や鼻水を擦り付けようと手四つにカズマへと組み付こうとしている。

 

更に収拾がつかなくなりそうなので、ここでマホロアによる仲裁がはいる。

 

 

「マアマア、カズマもアクアもチョット落ち着きナヨ。二人トモ喧嘩はヨクナイヨォ!ココはボクが奢ってアゲルカラ、ミンナで美味しいゴハンでも食べにいk『マ、マホロア!!あなたなんて心優しい宇宙人なの!それとも危険が危ないあの王冠を封印した私に深い感謝の念を抱いているのね!女神である私に対してとても良い心掛けよ!』こうヨォ。お腹が空いてるから二人ともイライラ・・・っテ?アクア??」

 

 

 マホロアはアクアをもっとよく知るべきだったのかもしれない。

 もし

 

 もともと勝手にマホロアの所有物(・・・)(?)であるクラウンを封印した事件から対して日もたっていないのにマホロアのアクアへの印象は悪かった。ただカズマや他のめぐみんやダクネス等の仲間がいる手前、ぞんざいに扱うわけにもいかなかったからだ。

 

もちろんアクアが善意でした封印の件についてはマホロアは必ず手厚い(・・・・)お礼をするつもりであった。必ずである。

 

 ただマホロアは今回もそうであるのだが、カズマ達の冒険?あまりにも情けないようなクエスト攻略を見ていなかった為にアクアの知能の低さと運の無さが悪魔合体したことによるトラブルメーカーっぷりを知らなかったのだ。

 

 

 「実は私ね、前からあなたに目をかけていたのよ!その青色を基本としたローブにぱっちりとした黄色い瞳。おまけにさっきあなた宇宙船アクシズ・アトランティス号まで持っているなんて素晴らしすぎるわ!!水の女神である私のお眼鏡にかなうなんてとっても光栄なことよ。」

 

「ア、アクア?」

 

 とニコニコと感極まっているような顔でアクアはマホロアを褒めちぎってはいるが、マホロアはローアの名前はまぁ今はまだいいとしてなぜか嫌な予感しかしないアクアの話がこれ以上続かないように切り上げようとするが、少しそれは遅かった。

 

「だから私決めたの!大々的にマホロアを我がアクシズ教のマスコットキャラクターにして世界中にアクシズ教の素晴らしさを広めようと思うの!!」

 

 

 ある人は無知は罪であるという一説を記した。今回の場合はアクアのことをマスタークラウンを封印できるぐらいには能力のある奴だとは思い警戒しているが、そのアクア自身のことについては特に理由はないけど、なんかバカそうだなあ位の失礼極まりない事を考えていた。

 

 事実アクアの話を最後まで聞いていたカズマ一行は、なんでそんな安直な理論でと、固まっているマホロアに同情の視線をむけていても助けようとはしていなかった。

 特にさっきまでマホロアにローアの名前で食い下がっていためぐみんはさりげなく距離をとった。

 誰だって下手すれば女オークも裸足で逃げ出すような狂信者に関わろうとしたくないものなのである。

 

 まあだからこそ、無茶苦茶で強引で迷惑な勧誘はアクシズ狂徒特有の蛮行は有名だし、更に言えばそれを止める試みは幾度も試されたものの失敗に終わっているのだ。

 大きな理由の一つとして彼らは心の底から善意で行動しているのだ。だから間違いを改める気すら起きないのは誠に救えないことのようである。

 実際アクアも良かれと思ってマスタークラウンを封印しているので、この神にしてあの信者といったところだが、ここまでならよくあるアクシズ狂徒の迷惑行為で終わっただろう。

 

 

そうここまでならね。

 

 

 もし、もしあの時アクアが封印をしていなかったら?マスタークラウンが直り次第マホロアはおとなしく帰ったのか?それとも・・・・。

 

 

 

 

 

「・・・・・は?、チョチョット!アクア何をカッテな事ヲ言ってルンダイ!ボクはソンナマスコットキャラクターナn・・ッテハヤ!!」

 

ココマデ自由で勝手なヤツは、アルダープ以来ダネェ。・・・・ゼッタイ泣かす・・・イツカゼッタイニ!

デモ今は、アクアを止めないと絶対にろくでもないコトにナル!

 

 流石にアクアの暴走までは見過ごせないのか、カズマとめぐみンがアクアを慌てて追いかけて走る。ここまでの付き合いでカズマは勿論の事めぐみンも暴走したアクアを止めなければならないと経験で分かったのだろう。

 

 あっという間に通りを駆け抜けていき見えなくなりそうなアクアの凶行(マホロアにとって)を止めるためにカズマ達に続いて追いかけるために空を飛んでいこうとするマホロアのローブを慌ててダクネスが掴んで止めにはいった。

 

 掴まれたローブで首が締まり『グエッ』とカエルが潰れるような声がでる。

 

 

 

「すまないマホロア、アクアを追いかける前にちょっと待ってくれ、実はお前に大事な手紙を渡さなくちゃいけないんだった。」

 

「チョット待ってオネガイだからアトにしてヨ、ダクネス。イマはアクアを止めないとゼッタイにロクな事にならない気がスルンダヨォ。」

 

「分かっている。だが、ちょうどめぐみんやカズマが離れた今しかチャンスがないんだ。それにこれはお前にとっても無視できないはずなんだ頼む。」

 

 

 無理な事を言って申し訳なさそうな様子のダクネスにマホロアは根負けておとなしく彼女の話をマホロアは聞くことにした。

 思わず握りつぶしてしまってクシャクシャになってシワだらけの大事な手紙を伸ばしている彼女の様子を眺めながらマホロアは思案していた。

 

 別に彼女を振りほどくこと自体は難しくはあるものの無理と言う訳ではない。リフバリアで手を弾くか異空間バニッシュで逃れればいいのだから彼女のクルセイダーとしてのパワーと防御力には才能によるものでも他のクルセイダーと比べても特筆すべきものがあるが、伊達に宇宙を旅しているわけではないマホロアにこの星の常識がそのまま通用するわけではないのだから。

 

 ではなぜ、振りほどかないのか?それはマホロアが一番最初に接触した人間の事だろうと予想していた。

 

 

 

モシカシテ、モシカシテだけど?あのコト(・・・・)カナァ?

 

アルダープもよくいる悪徳貴族ラシイ貴族ダッタケド、イグニス様はどんなヒトでドンナ貴族なのカナァ?ダクネスみたいなオヒトヨシならイイナァ♪モシソウナラ是非ともオトモダチとしてナカヨクしてもらいたいネェ。ボクの為にウンとハタライテクレルヨウニネ♪

 

 

 

「他の皆にはまだ喋らないで欲しいんだが、実は私は『ダスティネス・フォード・ララティーナデショ。』・・いつから気づいていたんだ?マホロア。」

 

「ダクネスってば他のヒトと比べてトッテモ、キレイナテーブルマナーなんだもん。コトバツカイとかたまにエラソウダッタシネェ。」

 

 

 クスクスと苦笑する演技をみせるとダクネスは無意識とはいえそんなにへまをしていたのかと恥ずかしくもあったが、しかし貴族のお嬢様ではなく仲間として自分を見てくれている事を告げられた彼女は満更でもなく嬉しそうに頬を赤く染めていた。

 

 

やっぱりダクネスは自分がナカマとして扱われてホシイミタイダネェ。ナンタッテわざわざ命懸けのボウケンシャにナルクライダモンネェ。ジブンの好きなモノをアイテがスキになってくれるのはウレシイヨネェ♪

 

 

 

「デモナニヨリ、ダクネスってばアルダープにキヲツケテとかナニかシラナイカナンテ探るようなコトキイテ来るんダモン。」

 

「・・・・・・」

 

 

 

イグニス様は清貧な貴族様ダッタネ、悪徳貴族なアルダープとは真逆の清廉潔白な貴族様。領民のヒトタチからもトッテモ慕われてイルネェ。

 

アルダープとは違ってワイロがツウヨウしないのはザンネンだし、国王の懐刀とヨバレルくらいにはスキがナイのは厄介だけどスキがないわけではナイネ。

 

 

「ソシテそのオテガミはきっとダクネスのお父さんのイグニス様からのアルダープ内偵のオネガイナンジャナイノ?」

 

「あ、ああその通りだマホロア。しかしそれだけの情報でよくそこまで分かるなぁ、マホロアはすごく頭が良いんだな。内偵については任せても大丈夫そうだな。もしマホロアが引き受けてくれるなr『ダクネス。ザンネンだけど依頼はウケラレナイヨォ』・・・・どうしてもダメか?マホロア?何かあったときの身の安全は我がダスティネス家が」

 

「アア、カンチガイしないでねダクネス。」

 

「え??」

 

「ダクネスはボクのナカマであり、大切なトモダチダカラネェ。依頼ナンテヒツヨウ無いヨ!」

 

「!?・・マ、マホロア!・・・・深く深くダスティネス家として、そして何よりお前の仲間として礼を言うぞ!」

 

「もうダクネスッテバ、マタコトバツカイが貴族にナッテルヨォ。」

 

 

 本当に嬉しそうに若干涙ぐみながらも微笑むダクネスに朗らかに笑うマホロアを見て、私は本当に恵まれた仲間に会えてよかったと思うダクネス。

 

 勿論それは、ここにはいないカズマ達の事も含めてもであるがマホロアとは初めての友達ではあるクリスとは違う小さな秘密を共有するそんな特別な友達ができたような感覚を感じていた。

 

 

 

 

この時のダクネスはカズマ達以上にマホロアに心を許していた。

 

 

 

 

 

クククッ、将を射んと欲すれば先ず馬を射よダネ。

 

清廉なイグニス様はワガママな娘のオネガイにはヨワイミタイダネェ。

 

 

イグニス様のジャクテンは君ダヨォ、ダクネス。ククッ。

 

 

 



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