無敗の狩人と呼ばれるウマ娘になった (W297)
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第1R 「夢のゲートっ!」
1話 


 本能のままに書いてみた。後悔はしていない。


 京王電鉄京王線府中駅。

 

 俺はある人を待っていた。

 

 …多分、もうすぐ来るんだろうけど。

 

「えーと、来るのは北海道出身の…」

 

 そう資料を漁る俺に声がかかる。

 

「お、君が来てるってことは今日も新しい子が来るのかい?」

 

 声の主は今となっては顔なじみであるここの駅員さんだ。

 

「ええ、毎回の恒例行事ですしね。編入生ですけど中々な力持ってるみたいです」

 

 俺は駅員さんにそう返す。

 

 まあ、問題はないことはないが、問題のない方がおかしいだろうし。

 

 駅の電光掲示板を見て、俺は時計を確かめる。

 

 それと時を同じくして、列車の到着するチャイムが聞こえてくる。

 

 …もうすぐか。

 

 俺は首元のリボンを締め直して、身だしなみを整える。最低限は整えとかないと。

 

 …そういえば、俺のことを話してなかった。

 

 俺の名前はシンボリハンター

 

 かの有名な七冠ウマ娘、シンボリルドルフの双子の妹で、転生者だ。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 俺が生まれた頃からいつだって昔からルドルフ…、いやルナは俺の前を進んでいた。

 

 小さい頃からルナに勝てたことは一度もなかった。

 

 同じ年齢で優劣があるものが二人いたとして、どっちを優先するかと言われれば、優秀な方を選ぶのは自明の理だ。

 

 …とはいっても特に寵愛してたのがルナであって、俺にも両親はそれなりに愛情は注いでくれた。

 

 いじめられたとか、そんなことはなかったから問題はない。

 

 とはいえ、いくら俺が頑張ったところで周りからの評価は「ルドルフの妹だから出来て当然」というのが最大だった。

 

 できなかったときは、「ルドルフの妹のくせになんでできないんだ」というのが俺の日常だった。

 

 そして中学校進学時、ルナに「学校はどこにするんだ?」と聞くと、「トレセン学園に決まっているだろう」と返された。

 

 もとより、ルナは象徴となれるようなウマ娘を目指した英才教育がされていた。そう考えることは当然だろう。

 

 ちなみにだが、俺はそんな教育は最低限…、といった所だ。

 

 俺がこのままルナと同じようにトレセン学園に進んだところで、ルナを越えることはできない。

 

 俺が中央ではなく地方のカサマツトレセン学園に入学を希望するのに理由はそれだけで十分であった。

 

 そのことをルナに告げると、俺はルナに壁に押し付けられた。

 

「なあ、ハンター。今なんて言ったんだ?」

 

「二度も言わせんなよ、ルナ。…カサマツに行く。中央には行かない」

 

 俺の言葉にルナは強い口調で言い返してきた。

 

「何故だ、お前の実力なら間違いなく入学できるはずだろう!トゥインクルシリーズでも活躍できるはずだ!お前が地方に行く必要はない!」

 

「それがあるんだよ、ルナ」

 

 俺はそう言いながら話を続けていく。

 

「ルナ、俺がお前を越えるためにはお前と同じところじゃダメなんだよ。

 

 いくら俺が頑張ったところで、ルナが同じくらい頑張ってたら意味がないんだ。

 

 そのために手っ取り早くできるのは環境を変えること。

 

 あえて厳しい環境に置いた方が俺は成長できると思ってるし」

 

 俺の言葉にルナは「だが…!」と唇を噛みしめながら続けるが俺はそれを遮るように話す。

 

「…それに、俺は必ず中央に入る。ローカルシリーズで俺という実力を見せつけてな。

 

 スカウトは入学試験とか編入試験より厳しいらしいけど、そんな壁を越えれなくてお前という壁を越えれるかよ」

 

「…地方に行ったらクラシック三冠は参加できないぞ。それでもいいのか?」

 

 俺は「もちろん」とルナの言葉に続けていく。

 

「どうせ、3つともルナが取るだろ?…ルナを越えるためなら三冠なんてどうでもいい」

 

「…必ず、中央に来てくれるんだな?」

 

「ああ。それだけはな。

 

 約束するよルナ、必ず」

 

 俺の真剣な表情で、ルナは分かってくれたみたいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 その後、デビューから10戦10勝という怒涛の快進撃を見せ、中央のスカウトを受け、今に至るという訳である。

 

 …少し自分語りが長くなってしまったか。

 

 そう考えているうちに今日来る編入生が乗って来たであろう電車は発車していった。

 

 …さあ、ご対面させてもらいますか。

 

 未来の日本総大将とやら。

 

 俺は『スペシャルウィーク』と書かれた資料に目を通しながら改札に現れるのを待った。




 …シンプルな作品単体を書くのはこれが初めてです。

 ちなみにゲーム未経験で2期のテイオーを見て「テイオー!」と叫んだだけのにわかですので解釈違いなど様々な違いが出ることが多数だと思います。

 終了目標は1期の完走。合間合間やアニメ終了後にうまよんネタやアプリネタを入れていきたいなと。

 BNWの誓いは自身の金がないのでできるかどうかは不明です…。なんでウマ箱って1万近くするんだよ…。


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2話

 …俺がそう待たないうちに、スペシャルウィークはホームから改札へとやって来た。

 

 …やって来たのだが。

 

「夢のゲート開いて~♪…べふっ!?」

 

 …見事に自動改札に引っかかっていた。あそこまで綺麗に引っかかるか普通。

 

 まあ経歴見た限りでも、地元が結構な田舎でそこから出たことないみたいだからなー。そりゃ戸惑うか。

 

 …その後、切符をICカードの所にタッチしてたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 駅員さんに色々教えてもらったお礼を言ってスペシャルウィークはこっちに向かってきた。

 

 じゃ、行くか。

 

「…君がスペシャルウィークだね?」

 

「わー、本物のウマ娘だー、…あ、ハイ!スペシャルウィークです!」

 

 スペシャルウィーク…、長いからスぺでいいか。

 

 俺をまじまじと見て、その後に元気よく返事をした。

 

 そういや、お母さんは小さい頃に亡くなって、周りにウマ娘がいなかったみたいだしな。

 

「俺はトレセン学園生徒会副会長のシンボリハンター。

 

 学園代表としてお前を歓迎する、よろしくな」

 

 俺が出した右手をスぺは両手でつかんでくる。

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

 俺は「じゃ、挨拶はこれ位にして」と前置きする。

 

「本当ならこのまま寮に連れて行こうかな…、って思ったんだけど。

 

 …スぺ、お前トゥインクルシリーズの試合(レース)って見たいか?」

 

「え、見れるんですか!?」

 

 スぺは俺の言葉に勢いよく喰い付いてきた。…まあ喰い付かない方がおかしいか。

 

「ああ。今日はちょうど府中(東京)レース場でレースやっててな。お前が良ければなんだが、どうだ?」

 

 スぺはその言葉に元気よく返してきた。

 

「ぜ、ぜひお願いします!」

 

 そうとなれば連れて行くとしますか。

 

 俺はスぺについて来るように指示して駅の出口へ向かった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「わー、車がいっぱい走ってるー…、人もたくさん…」

 

「…北海道の田舎出身だったっけ?この辺りじゃこれが普通だ。いつか慣れる」

 

「へー…」

 

 スぺの感想を聞きながら俺はある鍵を開ける。

 

「じゃ、荷物は後ろに乗せて助手席に座ってくれ」

 

「…え、コレ、ハンターさんの車なんですか!?」

 

 俺はスぺに「そうだけど?」と返していく。

 

 俺とスぺの前にあるのは黒いSUVと呼ばれる大きい車。…言うまでもなく俺の車だ。

 

「いや、あっちじゃ軽トラぐらいしか乗ったことなくて…。っていうかドアどこにあるんですか?」

 

「あー、それ上の方に、ホラここに」

 

「あ、ほんとだ、あった…」

 

 そして俺はスぺを助手席に乗せてエンジンを付け、車を動かしていく。

 

「…なあスぺ、ちょっと聞きたいんだけど、お前なんでこの時期にトレセン学園に入ろうと思った?」

 

 俺の疑問にスぺは答えてくれる。

 

「小さい頃から新聞とかでトゥインクルシリーズの記事を見てて、そしたらお母ちゃんが願書だしてくれてて…。

 

 憧れの存在だったんで、入れて嬉しいです!」

 

「そうか。…だが、ウチは授業・トレーニング含めて全部厳しいぞ?レースも勿論だけどな」

 

「もちろん頑張ります!あの舞台に立つためにはここが一番ですから!」

 

 スぺは鼻息荒く、そう返してくれた。

 

 これなら潰される心配はなさそうかな、

 

 俺はそう感じながら車を運転していった。

 




 マルゼンスキーがスーパーカー乗り回してるなら、他のウマ娘でも乗ってるかもということで。

 …ちなみに私自身は典型的なペーパードライバーです。


 
 ちなみにモデルにしたのはトヨタのC-HR。

 いつかあんな車に乗って見たいな…。

 いつになるかはよくわからないけど。


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3話

 関係者用駐車場に車を停めて、俺とスぺはレース場の正門へとやって来た。

 

 ここに来るまでの看板や屋台、そしてターフやスタンドなど、スぺは色んなところに目を輝かせていた。

 

 …っていうか食いすぎじゃねえか?いつの間に買ってんだよ。

 

 まあ、まずはパドック連れてくか。

 

 俺はスぺをパドックの方に誘導していく。

 

「…スぺ、ここがパドック。走る前のウマ娘を一人ずつお披露目する場所だ。いつかお前も立つことになるだろうけど」

 

「はー…」

 

 スぺは目を輝かしたままだった。

 

 ちょうど場面は一番人気のサイレンススズカ。…最近伸び悩んでるみたいだけど今日はどうだろうか。

 

 …と、思っていたところ。

 

「トモのつくりもいいじゃないか…、まさに」

 

 

 

「早速何してんだコノヤロォ!」

 

 

 

 俺の蹴りは見事に入り、スぺのトモを触っていた男は一気に飛んでいく。

 

「…ふう、大丈夫かスぺ。ウチのトレーナーが失礼したな」

 

「は、はい…。というかウチのって…」

 

 スぺは顔を赤くして、吹っ飛ばされた男を見ている。

 

 俺はスぺの言葉に続けていく。

 

「そ、この人トレセン学園のトレーナー。行動はアレだけど見る目は保証するよ。

 

 …沖野さん、いい加減その癖やめた方がいいっすよ」

 

 俺がそう話すと沖野さんは「そうはいってもなー…」という感じだ。

 

「やっぱり実際見てみないと分からないことってあるだろ。…というかお前今日はオフにしてたはずだろ、なんでここ来てるんだ?」

 

 沖野さんの言葉に「今日はコイツの案内でココ来てるんです」と続けていく。

 

 …そういえば、スぺがこっちに来てることアイツらに言ってなかったな。

 

「沖野さん、ちょっとスペシャルウィークのこと、見ててもらえますか?」

 

「別にいいが、何かあったか?」

 

「いや、ちょっと電話したいなって思って。元々スぺはそのまま寮に連れていく予定でしたし。

 

 …スぺ、もしまた足触られたら思いっきり蹴っ飛ばしていいからな。この人慣れてるから多少のことなら大丈夫」

 

 そう言って俺はパドックの人混みから離れていった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「…すまないフジ、今大丈夫か?」

 

『ハンターさんですか?…別に構わないですけど、何かありました?』

 

 俺が電話したのは栗東寮の寮長フジキセキ。スぺが入る予定の寮の寮長だ。

 

「ああ、今日入る予定のスペシャルウィークっているだろ?」

 

 フジは『そうですね』と返し、俺は話を続ける。

 

「実は今、府中レース場に来ててな。

 

 …多分だけどウイニングライブも見ることになるだろうから、そこから急いで車を回したとしても6時には間に合わないと思う。

 

 悪いけどその辺りの調整ってできるか?あれだったら今すぐにでも送り届けるけど。

 

 元々ここに連れてきたのは俺だから責任は俺が取るよ」

 

 フジは『いや』と言葉を続けていく。

 

『その子には今は思いっきりレースを見させてあげてください。

 

 …ハンターさんも見たと思いますけどスペシャルウィーク、色々あるみたいじゃないですか。

 

 …その代わりと言っちゃなんですけど、イタズラに付き合ってもらいますよハンターさん』

 

 俺はその言葉を聞いて苦笑いしながら話していく。

 

「…ほどほどにしてくれよ?ヒシアマにならどれだけやっても俺が許すけど」

 

『ちょっと、ハンターさん!?今のってどういうことだい!?』

 

 …いたのかヒシアマ。

 

 ヒシアマゾン。俺の寮、美浦寮の寮長であり、フジの主なイタズラ対象である。

 

「なんだ、ヒシアマもいたのか」

 

 電話越しでフジの苦笑いを含む声が聞こえてくる。

 

『ちょうど話してたとこでしてね。ヒシアマでしっかり練習してからさせてもらうことにしますよ』

 

『だから、やめなってフジ!?』

 

 ヒシアマのそんな叫びが聞こえてきた。



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4話

 

「…じゃあ、フジ。後は任せるよ。スぺも書類は俺が預かっとくから今日はゆっくり休みな」

 

「ええ、任せてくださいよ、ハンターさん」

 

 俺の言葉にフジはそう返してくれる。

 

 あの後、レースはスズカがリギルでは珍しい大逃げをかまして勝利を飾った。

 

 …沖野さんの表情と言い方からして何か囁いたのは間違いないだろうけど。

 

 その後、スズカのウイニングライブを見届けてから俺がスぺの寮、栗東寮に送り届けて今に至る…、という訳だ。

 

「…あの、今日はありがとうございました!」

 

 スぺはそう言いながら俺に頭を思いっきり下げる。

 

「いーよいーよ。俺はこれが仕事だしな。

 

 お礼はレースで見せてくれよ」

 

 俺はそう言って栗東寮を後にした。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 静まった校舎の中、俺の足音だけが廊下に響いていく。

 

 俺は生徒会室の扉を叩く。

 

「俺だ、入るぞ」

 

 俺が入るとそこにいたのは椅子に座って話をしていた俺の姉のシンボリルドルフと周りから女帝と呼ばれているエアグルーヴ、そして来客用ソファで寝ているナリタブライアンの姿だった。

 

「…ハンターか。スペシャルウィークの出迎えお疲れ様だったな」

 

 俺が扉を閉めると、俺の姿に気づいたルナが俺の方に声をかけてくれる。

 

「まあな。今日レースやってて良かったよ。コレ、スぺから預かった書類、生徒会関係の方な」

 

「ありがとうございます、ハンターさん」

 

 書類はエアグルーヴが受け取ってくれ、後は…っと。

 

 俺はソファで寝ていたブライアンの方に向かう。

 

「…おらー、ブライアン起きろー」

 

「…む、ハンターさんか。どうした?」

 

 俺はブライアンを起こして何枚かの書類を渡す。

 

「寝てるとこ悪いけど、これ理事長に届けてくれるか?さすがにまだやってると思うし」

 

「…分かった」

 

 そう言ってブライアンは生徒会室を出て行った。

 

「…で、何話してたんだよ」

 

 俺は生徒会室に転がっている俺用の『ウマ娘をダメにするソファ』(たまにブライアンにも使われている)に腰を下ろしながらルナに伝える。

 

「実はサイレンススズカがリギルを離れることになってな…。ハンター、何か知っていることはないだろうか?」

 

 ルナはそう俺に聞いてくる。

 

「俺か?なんでそう思ったよ」

 

 俺の問いに答えたのはエアグルーヴだった。

 

「…実はスズカとスピカのトレーナーが話している所を何人かの生徒が目撃しているんです。

 

 スピカ所属のハンターさんなら何か知っているかなと」

 

 …やっぱそうだったか。

 

「…多分ウチのトレーナーが何か囁いたんだろ。それ以外でもなんでもないはずだ。

 

 …でも俺はスズカはリギルを離れるべきだと思うよ」

 

「どういうことです?」

 

 エアグルーヴの言葉に俺は続けていく。

 

「単純にスズカがリギルの作戦に合ってないんだよ。

 

 …ホラ、リギルって終盤まで足を溜めてぶっ差すのが基本戦術だろ?

 

 ルドルフやエアグルーヴはそれでいいんだろうけどスズカはそうじゃないんだよ。脚的にもメンタル的にも」

 

「…確かに、ウマ娘は十人十色。先行が得意な者がいれば、差しが得意な者もいる」

 

 俺はルナの言葉に同意するように続けていく。

 

「そういうことだ。スズカに多分あってるのは一時のマルゼンとか今のファル子がやってるみたいな最初からフル加速していく大逃げ型。

 

 リギルは厳しいチームだ、スズカだけ特別扱いする訳にもいかないだろうからウチみたいに自由に走れる方がいいと思うよ。

 

 まあスピカに来るんだったらしっかり俺が面倒見てやるから心配しなくても大丈夫だよ、2人とも」

 

 俺はそう二人に告げる。

 

「…まあサイレンススズカが走りやすくなって心満意足するならそれもいいだろうな。」

 

「そうですね。…ハンターさん、スズカがスピカに行くことになれば頼みますね」

 

「分かってるよ」

 

 そう話していると生徒会室の扉が開く音がした。

 

「…理事長に提出してきたぞ。特に不足もなかったらしい」

 

 ブライアンがそう言いながら部屋に入ってきた。…あーよかった。

 

「ありがとなブライアン。手間増やしちまって」

 

 俺の言葉にブライアンは「別に構わない」と素っ気なく返す。

 

「…それじゃ作業が一段落したことだし寮に戻ろうか。今日はもう遅い」

 

「だな。早く戻らないとヒシアマが怒るだろうし」

 

 ルナはそう言いながら立ち上がる。俺とエアグルーヴも同様だ。

 

 4人で生徒会室を出て廊下を歩いてると、俺はふと思った。

 

「…ちょっと待て。思ったんだがスズカが離れるってことは明日リギルの選抜レースするんだろ?」

 

「…そう、ですね」

 

 俺は続けていく。

 

「お前らがそっちに行くってことは、明日俺一人じゃねえかよ!?」

 

「…頑張れ」

 

 ブライアンからの励ましの言葉が俺の耳に届いた。

 

「…全く、こういう時に限って忙しいんだよホント。

 

 いや3人がいないから忙しくなるんだろうけど…」

 

「まあ終わったら私たちも合流するよ、ハンター」

 

 そう話しながら俺達は帰り道を進んで行った。



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5話

今回は少し短めです。


 スぺが来た次の日の昼休み。

 

「…ハンターさん、隣いいか?」

 

「…オグリ達か。別に大丈夫だよ」

 

 いつものようにカフェテリアで昼食をとっているときに、俺に声をかけてきたのは俺のカサマツ時代からの後輩、オグリキャップ。

 

 その前には大量のご飯がまるで塔のように積みあがっている。カサマツ食糧庫壊滅事件は記憶に新しい。

 

「しっかし、またけったいなもん食うとるなハンターさんは…。舌壊れてるんとちゃいますの?」

 

 俺が食べている『シンボリハンター監修!!超極激辛麻婆丼』を見ながら関西弁でそう話すのはオグリと同室のタマモクロス。

 

 オグリのマイペースに振り回される代表格であり、トレセン学園の中では数少ない常識人だ。

 

「ほんとですよー、体は壊さないでくださいねー?」

 

 そして溢れんばかりの母性で包み込もうとしてくるオグリ達と同期のスーパークリーク。

 

 …一度彼女の手によってオギャりかけたことは黒歴史だ。

 

 タマとクリークの同室であるナリタタイシンは既に落ちていたが俺は耐えた、耐えきった。

 

 あと、ここにはいないがこいつらより一つ下のイナリワンもよく絡んでいるが今日は不在のようだ。

 

「大丈夫だよ、普通に食えてるから。俺が好きで食ってるんだし。タマも食うか?」

 

 俺の言葉にタマは「遠慮しときます」と軽く断る。

 

「…そういえば昨日、新しいコが来たみたいですねー。ハンターさん迎えに行ったんですか?」

 

 そうクリークが話しかけてくる。まあ色々荷物とか運んでたら気づくか。

 

「まあな、それが俺の仕事だし。その内トゥインクルでも見れるようになると思うよ」

 

「で、なんか特徴あったりするんですか?これが得意―とか」

 

「さすがに走りも見てないからそこまでは分からねえよ、タマ。…ただ」

 

「「ただ?」」

 

 俺の言葉に疑問を持ったのはタマとクリーク。オグリは無言で人参ハンバーグ(オグリ盛り)をがっついている。

 

「…多分結構大食い、オグリが10としたらアイツは9ぐらいかな」

 

 俺がそう言うとオグリの方からガタッという音が聞こえてきた。

 

「…ほう、それは楽しみだ」

 

 オグリが一瞬箸を止めた。それに気づいたタマが慌ててオグリに突っ込む。

 

「ちょい待ちオグリ!それレースちゃうやろ!?」

 

「…ほひほんへーふほ(もちろんレースも)ほほふい(大食い)ひょうふ(勝負)ほはは(もだが)?」

 

「何言うとるかわからんわ!口の中のモンはよ無くせ!」

 

「…ほほえましいですねー、この二人の漫才って」

 

 クリークはそうしみじみとした目で二人の方を見つめている。…保護者か。

 

「そうか?…まあこの二人の漫才は面白いからまたどっかのイベントでやってもらおうかなって思ってるけど」

 

「ウチ好きで漫才やっとるわけやないんやけど!?というかハンターさんまでそっち行かんとってもらえます!?」

 

 俺の言葉に対するタマのツッコミがカフェテリアの一角に響き渡った。



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6話





 

 ルナたち3人はリギル選抜レースの方に行ったため一人で仕事中。

 

 …もうこうなったらルナしかできないもん以外全部終わらせてやる。

 

 そう思いつつ、仕事をしていた時だった。

 

「あのー、入っていいですか?」

 

 扉の向こう側からノック音と声が聞こえてきた。

 

「…ああ、大丈夫だ」

 

 俺の言葉の後、そのウマ娘は生徒会室へと入ってくる。

 

「あれ、今日はハンターさんだけなんですか?」

 

「3人はリギルの選抜レースの方に行ってるよ、スズカ」

 

 サイレンススズカ。昨日俺たちの話題にもなってたウマ娘だ。

 

「で、チーム移籍の書類が出来上がったのか?」

 

「…はい。これでよかったんですよね?」

 

 スズカが見せてくれたチーム移籍届にはリギルのトレーナーである東条さん、スピカのトレーナーである沖野さん、そしてスズカ本人の名前と印が押されていた。

 

「ああ、生徒会提出分についてはこれでいい。後は…っと」

 

 俺はルナの机の中から生徒会印を取り出す。

 

 そしてその紙に「生徒会副会長 シンボリハンター」と書き、生徒会印をドンと押す。

 

「…よし、これで生徒会の書類上、お前はリギルじゃなくてスピカになった。お疲れさま」

 

 俺はそう話して「…で、ここからがスピカのシンボリハンターとして」と前置きしたうえで話していく。

 

「…スピカの最年長としてお前をスピカに歓迎するよ。

 

 スピカには癖の強い奴しかいないが、実力やトレーナーの力量は本物だ。よろしくなスズカ」

 

「ええ、こちらこそ」

 

 俺とスズカは握手を交わした。

 

「あ、そうだ。部室行ったときにトレーナーに生徒会の仕事終わり次第そっち向かうって伝えといてくれ」

 

「はい、分かりました。失礼します」

 

 スズカはそう言って生徒会室を出て行った。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「カーイチョー!あっそびにきったよー!」

 

 ドアがバタン!という大きな音と共に開かれる。

 

 全く…、騒がしいのが来た。

 

「アレ、今日はハンターだけ?カイチョーは?」

 

 そう周りをきょろきょろしているのは最近よく生徒会室に遊びに来ているウマ娘、トウカイテイオー。

 

 ルナに凄く憧れてるらしく、ルナもこいつに対しては結構甘いからエアグルーヴも強く言えない。

 

「…生徒会室に入る時はノックをしろって言ったはずだぞテイオー。ルドルフ達なら選抜レースに行ってる」

 

「え、選抜レースってリギルの!?今日あったの!?行けばよかったー…」

 

 テイオーはしょんぼりしながらソファに座る。

 

「まあ、スズカ脱退に伴う補充だからな…、知らないのも仕方ねーよ」

 

「そういえばハンターはリギルの試験って受けたの?」

 

 テイオーは俺の方に首を向ける。

 

「俺は受けてねーな…。レースを走ったことは走ったけどリギルの選抜レースじゃないし」

 

「リギルに入ろうとは思わなかったの?リギルって昔からチョー有名でしょ?」

 

「別に…って感じだったんだよな。ルドルフにも勧められたし強さは本物だろうけど戦術をガッチガチに固められるの嫌だったし。

 

 で、どこにしようかって考えてた時にゴルシに拉致られてスピカに入ることになったって感じだ」

 

 俺の言葉にテイオーは「あ、やっぱゴルシ関係あるんだ…」と呟く。

 

 「まあ結果的に自由な走り方できるスピカは俺に合ってたし。結果オーライってやつだな」と俺は続けていく。

 

「でもなテイオー、お前まだフリーだろ?ならチームはしっかり考えろ。移籍は出来るとはいえ自分の評判にもかかわってくるからな。

 

 チーム移籍ばっかしてるやつなんてウマ娘だけじゃなくてトレーナーからも評判悪くなるからな」

 

 俺の言葉にテイオーは「はーい」と返してくれる。

 

 …っていうかいつのまにか終わったよ仕事。

 

 俺は筆記用具を片付けてクッションの方へと向かい、ボフッとクッションに身を任せる。

 

 …その内ルナたちも帰ってくるだろうから、それまで待つとするか。

 

 それを見たテイオーは俺の方へ向かってくる。

 

「ねーねー、ハンター。カイチョーの昔のエピソード教えてよー。何か知ってるでしょー?」

 

「イヤだ。それ言っても俺がルドルフに怒られるだけだろ。

 

 …それにお前みたいなやつに言えねえよ。どこで言うか分かんねえし」

 

 俺のその言葉に対してテイオーはぶーと口を膨らませる。

 

「そこはさー、ボクを信頼してよハンター。無敵のテイオー様がそんなことすると思う?」

 

「するだろうな」

 

「ツッコむの速くない!?」

 

 そうテイオーと話しているとドアの開く音が聞こえてきた。

 

「…テイオー、来ていたのか」

 

「あ、カイチョー!」

 

 ルナたちが戻ってきたみたいだった。

 

 テイオーはルナの元へと走っていき、俺の元にエアグルーヴが来る。ブライアンはソファの方へ行って眠る準備だろうか。

 

「お前らしかできない奴以外の仕事は終わらせてる。ゆっくりしていいぞ」

 

「ありがとうございます、ハンターさん。あれだけあったのにさすがですね…」

 

 エアグルーヴは俺が終わらせた書類の山を見てそう話す。

 

「スズカの移籍書類も俺がやっといた。見たければそこのファイルに入ってるよ。…で、誰がリギルに入ることになったんだ?」

 

 俺の言葉に答えてくれたのはルナだった。

 

「…エルコンドルパサーだ。お前も彼女の強さは知ってるだろう?」

 

 エル…か。そういえばアイツまだフリーだったな。

 

 エルコンドルパサーはジュニアで結構勝利していたウマ娘だ。激辛料理も行けるみたいでその方面の話も合う数少ない人物である。

 

 まあ、俺達スピカにとってはいい壁になるだろう。強い相手に不足はない。

 

 …そろそろ俺も、部室行くか。

 

 俺はクッションから腰を上げて生徒会室を出て行った。



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7話

 

「…まだやってるー?」

 

 俺はそう言いながらスピカの部室の扉を開ける。

 

「お、ハンター来たか。コイツ、今日からスピカに入ることになったからよろしくな

 

 お前昨日案内してたから名前は知ってるよな」

 

 沖野さんが俺にそう言ってくる。

 

 中にはスズカも含めたスピカの面子とスぺがいた。

 

「え、もしかしてハンターさんもスピカなんですか?」

 

「そうだなスぺ。

 

 …っていうかそうじゃなきゃあの時トレーナー吹っ飛ばしたりしねえよ」

 

「ああ…」

 

 スぺはレース場での一連の流れを思い出したみたいだ。

 

「…ゴルシ、そこにズタ袋があるってことはまた拉致ってきたのか?」

 

「おうよ!」

 

 俺の言葉にウマ娘の中でも超問題児と呼ばれるゴールドシップ…、ゴルシはグッとサムズアップする。

 

 …放置しといていいのだろうか、このやり方。

 

 まあ沖野さんが何も言ってないからよしとしよう。

 

「ハンター先輩、生徒会の仕事は終わったんですか?」

 

「良かったらこの後俺と併走してくれませんか?」

 

「あ、ずるい!アタシがやってもらおうと思ったのに!」

 

「へへっ、こういうのは早い者勝ちなんだよ!」

 

「…相変わらず仲良しだなー、ウオッカ、スカーレット」

 

「「良くないです!」」

 

 息ぴったりなこの二人はウオッカとダイワスカーレット。

 

 何かとバチバチな関係を結んでおり、本人たちは否定するが凄く仲がいい。

 

「というか、もう遅いからレース場使うにしても無理だぞ。予約も取ってねーし」

 

「…そ、そこは」

 

「ハンターさんの生徒会権限でなんとか…」

 

「…お前らは俺をなんだと思ってんだ。そう簡単に生徒会権限使えると思うなよ?

 

 ってか今やったら間違いなくあの3人にドヤされるし」

 

 もちろん、あの3人とはルナ・エアグルーヴ・ブライアンの3人である。

 

 一度無理矢理やったことはあるのだが、その後エアグルーヴに正座させられた。

 

 俺は二人にそう話し、沖野さんの近くに行く。

 

「で、いつやるんすか、スぺのデビュー戦。やっぱ1カ月後のレースっすか?」

 

 俺がそう聞くと沖野さんは「いや」と首を振る。

 

「来週、レースだからよろしくな、スぺ」

 

 …マジですか、それ。

 

「と、トレーナーさん…」

 

「…確かに来週にありますけど、まさかそれに出すつもりっすか!?」

 

 沖野さんは「ああ」とスズカと俺の言葉に答える。

 

「来週、スぺのデビュー戦だ、気合入れてけ!」

 

 

 

「「「「「ええー!!??」」」」」

 

 

 

 スピカの部室にトレーナー以外の叫びが響き渡った。

 

「ガチっすか、沖野さん!?俺やオグリみたいなスカウト組ならさておき、編入してから1週間後にデビュー戦って聞いたことないっすよ!?」

 

「もちろんガチだぜハンター。1週間みっちり特訓すりゃ、デビュー戦ぐらい何とかなるだろ」

 

 そう話す沖野さんを蹴っ飛ばしたのはゴルシ・ウオッカ・スカーレットの3人だ。

 

「何とかなるだろって適当すぎんだろ!」

 

「もうちょっと真面目に考えなさいよ!」

 

 その時に夕飯の時間を告げるチャイムが鳴った。

 

「飯の時間じゃーん、じゃ片付けよろー」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよー」

 

「俺も行くってばー」

 

 そう言って3人は部室を出て行った。

 

「…ってことで、これからもよろしくな」

 

 沖野さんは床から顔を上げてスぺにそう告げる。

 

 …うん、まあ、今の見てたら苦笑いしかできねえよな。

 

「後、ハンター。生徒会用のスぺの加入届、後で届けに行くからなー」

 

「了解です」

 

 そう言ってその日のスピカの集まりはお開きになった。

 



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データベース
オリ主設定


 シンボリハンター

 

 

「こんなとこで止まってたら、アイツを越えれる訳ねえだろ!」

 

 

・キャッチコピー 比較上等!絶対的な姉を越えるために走り続ける生徒会副会長

 

 

・誕生日 3月13日

 

 

・身長 170㎝

 

 

・体重 理想形(本人的には少し太った)

 

 

・スリーサイズ  B81・W59・H83

 

 

・靴のサイズ 両方とも26㎝

 

 

・学年 高等部

 

 

・所属寮 美浦寮(シンボリルドルフと同室)

 

 

・得意なこと サポート系の仕事

 

 

・苦手なこと かわいいダンス

 

 

・耳のこと あまり動かないが姉のことになるとピクッとする

 

 

・尻尾のこと なんか邪魔だな…、とたまに思うらしい

 

 

・家族のこと 両親にあまり構われなかったが気にしていない

 

 

・ヒミツ 愛用している度入りのスポーツサングラスは姉との違いを分かりやすくするため

 

 

・自己紹介 …俺ですか?俺はシンボリハンター。姉の方じゃなくて悪かったっすね。

      アンタとならさらに上を目指せるっぽいんで、これからよろしくお願いしますよ。

 

 

 

 ポータル風紹介文

 

 勝利を追い求める、地方から成り上がった『無敗の狩人』。

 

 生徒会会長のシンボリルドルフは双子の姉であり、越えるべき存在。

 

 独学で身に着けたどんなコース・距離・作戦にも対応できる脚が武器。

 

 姉の負担軽減のため生徒会副会長を務めており、周りの生徒・教員たちからの信頼も厚い。

 

 

 

 ステータス(アプリ風)

 

 スピード 85

 

 スタミナ 90

 

 パワー 82

 

 根性 100

 

 賢さ 94

 

 バ場適正 芝   A 

      ダート A

 

 距離適性 短距離 E

      マイル C

      中距離 A

      長距離 A

 

 脚質適正 逃げ D

      先行 B

      差し A

      追込 A

 

 固有スキル 『さあ、狩りの時間だ!』 

        最終コーナーから徐々にスピードを上げる

 

 固有二つ名 『無敗の狩人』

        4回あるG1レースを全て勝利する  

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 容姿 基本的にシンボリルドルフと同じ。

 

    ルドルフよりオリ主の方が少し高く、右耳のピアスが二つ。

 

    ルドルフとの明確な違いを作るため、勝負服と共用の度入りスポーツサングラスを着用。  

 

 勝負服 黒いスーツに黒ネクタイ、そして半透明の黒い度入りスポーツサングラス。

 

     靴は限界までヒールを低くした黒いランニングシューズ。

 

     モデルは逃走中のハンター。

 

 

 キャラ説明

 

  前世の記憶を持ったまま転生した転生者。ちなみに競馬知識はほぼ持っていない。

 

  芝・ダートの両方をハイレベルでこなすオールラウンダー。ルドルフがシンプルな強さならハンターはバランス的な強さで『どこでも走れる』というのが強み。

 

  『無敗の狩人』という異名持ち。ちなみにG2以下では負けたことが何回があるが、凱旋門賞も含めてG1は無敗であるため、そのインパクトから異名は無くなっていない。本人は『ただの狩人でいいのにな…』と思ってる。

 

  元男なためかわいく踊ることが苦手。基本的にウイニングライブはかっこいい系の曲を選曲することが多い。一応ルドルフにしごかれたおかげで『うまぴょい伝説』や『Make debut!』なども踊れないことはない。

 

  カサマツの経験や生徒会の活動などで顔は広く、周りからの信頼も厚い。

 

  シンボリルドルフの双子の妹であるため比較されがちではあるが仲が悪いわけではなく、寮の部屋が一緒だったりと普通に仲は良好。ルドルフが気を許せる数少ない人物である。

 

  生徒会に入った理由はルドルフの負担を軽減したいというハンター自身の思いと、編入・スカウト組を分かる人材が必要と感じた生徒会の面子の思いが合致したため。

 

  主な戦場はドリームトロフィーダート。たまにドリームトロフィーの予選にだけ出場はする。最近はダート仲間のスマートファルコンと共に観客と一体となったスタジアムづくりをしているとか。

 

  激辛料理が好きで逆にスイーツなどの甘いものは苦手。食べる量は平均を5としてオグリを10、スぺを9とすると6ぐらい。

 

  休日は山道へ自身のSUVで走りに行っている。たまにオグリを乗せて食べ放題の店に行ったり、エルを連れて激辛店に行ったりすることも。  

 

  スピカでは最年長ではあるが入ったのはゴルシが先。こっちにきた後ゴルシに拉致され、チームも決めかねていたためトレーナーの説得もありスピカに入ることになる。

 

  レースに勝った時に芝生を滑って大きく叫ぶのが特徴。ファンの間では「ハンターの咆哮」として有名。



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第2R 「いきなりのデビュー戦」
8話


 

 部室から寮へと戻る途中。

 

「あ、あの!スズカさんはデビュー戦、緊張しましたか?」

 

 俺とスズカの後ろを歩いていたスぺがそう聞いてきた。

 

「いえ、私は…」

 

「そ、そうなんですね!」

 

 スズカが静かにそう答えた後、スぺは俺の方にも聞いてくる。

 

「ハンターさんはどうだったんですか?」

 

「俺か?…俺はデビューが地方だからなー。緊張はしてなかったよ。

 

 …というより『勝ち続けて中央に行く!』っていう思いで頭が一杯だったからな。懐かしいなあの頃」

 

 …あの時の俺は今思い返してみてもヤバかった。

 

 話しかけられようがなんと言われようが黙っており、周りには近づくなというオーラが張り巡らされていた…らしい。

 

 …らしいというのはオグリの同級生のベルノライトから話を聞いた限りということである。

 

 俺に関して、根も葉もない噂がカサマツ内に飛び交っていたと聞いた時は流石に訂正した。

 

「…まあ、トレーナーさんも勝算があってああ言ってることには間違いないよスぺ。緊張なんてして当然だ。

 

 相談なら俺たちがいつでも乗ってやっからよ。遠慮なく聞きに来い」

 

 俺の言葉にスぺは「ありがとうございます!」と返してくる。

 

 俺は「それと」と付け加えるようにスズカに話す。

 

「スズカ、お前もだぞ。同室同士、しっかり相談には乗ってやれ」

 

「…はい、分かってます」

 

 スズカは言葉少なくそう俺に返す。

 

 そんな中、俺のある言葉にスぺが喰い付いたようだ。

 

「…あ、あのー。同室同士ってどういうことですか?」

 

 スぺの言葉に俺は返す。

 

「まー、寮に行ったら分かるよ。…じゃ、俺こっちだから。また明日な」

 

 俺は美浦寮へと向かうため、スぺとスズカと別れる。

 

 …スぺとスズカ、アイツらは同室だ。

 

 …まあ、ちょうどスズカが一人だったというのもあるが。

 

 まあスズカはしっかりしてるし、大丈夫だろう、うん。

 

 俺はそのまま美浦寮への道を歩いていった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「…お、おかえりハンターさん…」

 

「…何があったかは分かるから聞かないぞヒシアマ」

 

 美浦寮に戻ると、寮長室で突っ伏していたヒシアマがいた。大方フジに付き合わされたのだろう。

 

 それともシンコウウィンディ辺りの対処をしていたのだろうか。

 

 さすがのヒシアマにも限度はあるだろうし。

 

「い、いや…。今回はそうじゃないんだ、ハンターさん…」

 

 

 

 え?

 

 

 

 俺がヒシアマの方を見るとそこには問題が書かれた課題のプリントが何枚も散らばっていた。

 

 

 

「補習用の課題が終わらないんだよーっ!」

 

 

 

 

 

「…フジの奴はどうしたんだよ」

 

「フジは、そろそろ栗東に戻らないとって…。会長はまだ戻ってきてないし…」

 

 俺が寮長室の椅子に座り、話を聞いているとそうヒシアマは答えた。

 

「…ったく、美浦の寮長がそれで威厳保てるかっての。…ホラ、手伝ってやるからお前は手動かせ」

 

「ありがとうよハンターさん…」

 

「…はい、ここ。この公式使う。さっきの式と頭が混ざらないようになー」

 

 俺はそうヒシアマに教えていく。

 

 そんなときである。

 

「ただいま戻りマシター!」

 

 聞き馴染みのある元気な声が聞こえてきた。

 

「…エルとグラスか。お帰り」

 

「はい、ただいまです。ハンターさん、ヒシアマゾンさん」

 

 グラスワンダーはそう丁寧な口調で言葉を返してくる。

 

 …本当にアメリカ出身なんだよなグラスは…、と思うことが何回かある。

 

 そういえばだ。

 

「エル、聞きたいことがあるんだが…」

 

「何デス?」

 

 エルは俺にそう返してくる。

 

「…この前のテスト、どうだった?」

 

 …一瞬の沈黙の後、エルは慌てながら俺に話してくる。

 

「…ソ、ソンナこと世界最強のワタシにとって余裕デース!」

 

 エルはそう胸を張るがぶっちゃけエルの言葉は信用してないので。

 

「どうなんだグラス」

 

 俺の言葉にグラスは、すらすらと話していく。

 

「お恥ずかしながら、ハンターさんの思う通りです」

 

「グラスゥ!?」

 

 …やっぱりか。

 

 俺はエルの制服の襟を引っ張っていく。

 

「あーあ、正直に言ったら見つけた激辛店連れてってやろうと思ったのに。俺の特別講習決定な。グラス、少しエルを借りるぞ」

 

「畏まりました」

 

「ヘルプ!ヘルプミー、グラス!私もうコリゴリなんデスよ!」

 

 エルはそう叫ぶがグラスは表情一つ変えない。

 

「いい機会です。ハンターさん、遠慮はいらないですので、エルのことお願いしますね」

 

「言われなくても分かってるよグラス」

 

「Nooooo!」

 

 エルの叫びが、美浦寮中にこだました。



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9話

 

 ヒシアマとエルをしっかりとしごき上げた次の日。

 

 俺は生徒会室の扉をノックして部屋に入る。

 

「ハンターか」

 

「…二番目か、俺は」

 

 俺はそう言いながらクッションに座る。

 

「…いや、エアグルーヴが先に来てるよ。今スペシャルウィークを呼びに行っている」

 

 …スぺを?

 

「…確かお前、スぺの走りはリギルの選抜レースで見たはずだろ?

 

 ってかそん時の映像ない?俺もあいつの走り見たいんだけど」

 

 なんだかんだで俺はスぺの走りを見ていない。沖野さんに言わせれば「末脚の速さが一級品」らしいが。

 

「あいにくだが選抜レースの映像は存在しないな。…今回は私がスぺシャルウィークと少し話してみたいと思っただけだ」

 

「そうか…、それじゃ」

 

 ルナの言葉を聞きながら、俺は戸棚からウマ娘に関するファイルを取り出す。

 

「…確か、このファイルの最後の方に…、あった」

 

 俺が取り出したのはスぺが生徒会用に提出してくれた書類だ。

 

 これを見ればウマ娘の過去などが一発で分かる。もちろん個人情報が大量に書かれているため持ち出し厳禁。

 

「…話すならある程度知っといた方がいいだろ、アイツのこと。スぺが来るまで目通しとけ」

 

「…助かるよ、ハンター」

 

 ルナはそう言いながら俺から書類を受け取る。

 

「…で、だ。テイオー、お前はまだ見たら駄目だぞー」

 

 俺はルナの机の下に隠れていたテイオーを引っ張り出す。

 

「えー!いいじゃん、ボクもう生徒会の一員みたいなもんでしょー?」

 

「完全に生徒会に入ってからな。ホラ、ルドルフの邪魔だ、とっとと出て来い」

 

 俺はそう言いながらルナの机から「ぴえー」と鳴くテイオーを引っ張り出していく。

 

「まあいいじゃないか、ハンター。テイオーにも悪気はない」

 

「悪気があるかどうかの問題じゃねーよ、ルドルフ。お前もあんまりテイオーを甘やかすな」

 

 俺がルナにそういうと「甘やかしてるつもりはないんだが…」とルナは話していた。無自覚なんだよ無自覚。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 しばらくして。

 

「失礼します。スペシャルウィークを連れてきました」

 

 そういうエアグルーヴの声が聞こえてきた。後ろにはスぺも着いて来ている。

 

 …ただし物凄くガッチガチだが。

 

「は、初めまして!スペシャルウィークです!今回はどういう…」

 

 そんなスぺに対し、俺はソファに座るように促す。

 

「…まあ、そこ座れスぺ。別に取って食おうとかいう訳じゃないんだ。

 

 ルドルフが、お前と少し話したいってよ」

 

「会長さんが…?」

 

 ルナはスぺが座ったのを確認していつもの真剣な口調で話し始める。

 

「…生徒会長のシンボリルドルフだ。本校は全国のウマ娘トレーニング施設の中でも最大規模、十全十備のカリキュラムで、優美光明なウマ娘と切磋琢磨し…」

 

 …うーん。固い、固すぎる。

 

 毎回ルナが真剣な話をする時に思うんだが、ルナは四字熟語を多用することが多い。…しかも結構難しい部類に入る奴を。

 

 スぺも若干頭の回転が追い付いてないみたいだし。

 

「…スペシャルウィーク。聞いているのか?」

 

「…は、はい!」

 

 …助け船出してやるか。 

 

「…ルドルフ、固いよお前の話。スぺが固まってる」

 

「そうなのか?スペシャルウィーク、それならすまなかった」

 

 ルナの言葉に続けるように俺は話す。

 

「スぺ、簡単な言葉で言わせてもらうとすれば俺たちもお前の実力を買っているってことだよ」

 

「わ、私をですか!?」

 

 俺はとスぺの言葉に続けていく。

 

「この時期に編入なんて珍しいからな。なあルドルフ?」

 

「…そうだな。君出身は?」

 

「北海道です!」

 

 スぺはルナの言葉にそう返す。

 

「君、確かお母さんが…」

 

 ルナはそこで口を噤むがスぺは「はい」と話していく。

 

「昔、日本一のウマ娘になるって今のお母ちゃんと約束したんです」

 

「…来週、早くもデビュー戦だそうだな。いい報告ができるよう頑張れ」

 

 スぺは「はい」と話し、「ちなみに会長のデビュー戦は?」と聞くとルナは「そんなもの鎧袖一触だ」と返していく。

 

 …生で見たわけじゃないけど結構すごかったんだよなー、ルナのデビュー戦。

 

「…まだ先も長い。学園内の施設も見ておいた方がいいだろう。…ハンター」

 

 ルナは俺にいつものように案内を頼むが俺はそれを断る。

 

「…いや、今日は俺より適任がいるだろ。…テイオー」

 

「はーい!」

 

 俺のクッションに座っていたテイオーが元気よく立ち上がる。

 

「スぺ、コイツはトウカイテイオー。年齢的にもお前に近いだろうから気軽に質問してくれ。

 

 …テイオー。学園内の案内、頼めるな?」

 

「まっかせてー!転入生、行くよ!」

 

「あ、はい!」

 

 だが、それを止めたのはルナだった。

 

「待て、スペシャルウィーク。君はこの意味が分かるか?」

 

 ルナの視線の先にあったのはトレセン学園のスクールモットーだ。

 

「え、えとエク…、…すみません分からないです」

 

Eclipse first, the rest nowhere。一つのことわざでな。まあ意味は自分で考えてくれ」

 

「教えてくれないんですね?」

 

「まあな。お前もこの意味はいつか分かるよ」

 

 俺はそうスぺに話していく。

 

「…まあいい。行ってこいスペシャルウィーク」

 

「あ、はい!…あ、会長さん!」

 

 生徒会室から出て行こうとしたスぺであったが、俺達の方を向いて頭を下げる。

 

「これからよろしくお願いします!」

 

 そう言ってスぺは出て行った。

 

 俺とルナとエアグルーヴの3人になった生徒会室で、エアグルーヴが俺に口を開く。

 

「ハンターさん。なんでテイオーに案内させたんですか?いつもならハンターさんの役目では…?」

 

「まあ、生徒会の仕事体験って感じかな。アイツもいずれは生徒会に入るだろうし。

 

 年齢的にも俺よりもテイオーの方がスぺも話しやすいだろうし。

 

 ルドルフ、『唯一抜きんでて並ぶもの無し』。教えなくて良かったんだよな?」

 

 ルナは俺の言葉に「もちろんだ」と返す。

 

「彼女もいつかこの言葉の本当の意味を知る時が来るだろうからな。…さて、業務をこなしていくとしようか」

 

「そうだな(ですね)」

 

 俺達3人は座って生徒会業務をいつものようにこなしていった。



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10話

 生徒会の仕事を終わり、いつものトレーニングをしにグラウンドに行ってみると。

 

「…何やってんだ、アレ」

 

 俺の目の前に入ってきたのはツイスターゲームをしているウオッカとスぺ。そして周りで見守る沖野さん、ゴルシ、それにスカーレット。

 

 スズカは恐らく別行動だろう。どっかで走ってるかな。

 

「おっ、ハンターか」

 

「…うっす、とりあえずいつもの奴履いてきましたけど。…何してるんですか?」

 

「ああ、今スペシャルウィークに体幹トレーニングさせてるところだ。

 

 この前の選抜レースと違って本番はそうはいかねえ。体をぶつけられたりした時に対応できるようにさせておかねえと。

 

 あ、今日はその靴使わねーぞ」

 

 …確かに、レース本番は体をぶつけられたり前から蹴り出された土が跳んできたりする。

 

 特に、全員が熾烈な争いをするデビュー戦はその傾向が強い。

 

 俺のデビュー戦も同じようなものだったし、対策しておいて損はないだろう。

 

 …ていうか使わないのかコレ。後で履き直してこよう。

 

 沖野さんは俺と話した後、ウオッカとスぺに次の指示を出していく。

 

「…というかハンター、お前って相当やべえよな。その靴で走るのアタシでも難しいぞ」

 

 そんな中、ウオッカとスぺを見ていたゴルシが俺に話しかけてくる。

 

 俺が履いている靴は通常の学園規定シューズに大幅に重りを追加したシューズ。

 

 普通のウマ娘なら歩くだけで精一杯のものではある。

 

 誰にも負けないトモを作るために俺が継続し続けているトレーニング方法だ。

 

「お前に言われたくはねえよ、ゴルシ。…まあこればっかりは慣れよ慣れ」

 

「いや慣れだとしてもその靴でまともに走れるのは凄いですよ…」

 

 スカーレットは俺の言葉にそう返してくる。

 

 …俺はとりあえずスピカの部室に行って靴を通常用に戻してくることにした。

 

 なお、戻ったら俺とスカーレットでツイスターゲームをした。

 

 …いや、俺までやる必要あるのか、…いや、普通に体幹トレーニングはアリか。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 …練習を終え寮の自室に戻ってきた。

 

「鍵はかかったまま…か」

 

 …ということはルナはまだ戻ってきてない。俺達が練習上がった時もまだなんかしてたしな。

 

 俺は鍵を開けて部屋に入り、部屋の電気をつける。

 

 そして俺は、パソコンを引っ張り出し、イヤホンを両耳につけて、一つの作業を始める。

 

 今進めているのはドリームトロフィーダートを盛り上げるための作業である。

 

 芝で勝ってる奴は芝の方のドリームトロフィーに行ってしまう。

 

 …例を挙げるならオグリだろうか。たまにアイツはダートの方も走ってくれるが基本は芝だ。

 

 そんなわけで地方でのウマ娘のレースからレースではない他のスポーツまで、さまざまな盛り上げ方をネットで漁っているのがここ最近だ。

 

 適宜アイドルのライブの盛り上げ方を探してくれているファル子と連絡を取り合い、それを会議で練り上げ…、という感じである。

 

 そんな中、部屋のドアが開いた。

 

「…ただいま、ハンター」

 

「…おかえり、そしてお疲れ、ルナ」

 

 ルナが戻ってきたようだ。ルナは鞄を降ろしながら俺に話しかけてくる。

 

「また盛り上げるための資料探しか?」

 

「まあな。色々探してるけど、イマイチ決め手に欠けるというかな。

 

 俺がこれでいいと思ってもあいつらに合わない奴は違うだろーし」

 

 ルナは俺の言葉に返していく。

 

「そうか、…そういえばだがスピカは何の練習をしていたんだ?見ていた限り、レースの特訓をしているとは思えなかったが」

 

 ルナは俺にそう尋ねてくる。…まあ部外者が見ればそう見えるのも仕方ないだろう。

 

「体幹トレーニングのツイスターゲームだよ。ルナ。本番のレースじゃ体ぶつけられたりとかあるだろ?その時に体勢を崩したりしないようにな」

 

 俺がそう説明するとルナは納得してくれたみたいだった。

 

「確かに、レース中のウマ娘は自分が勝つこと以外考えられなくなる。曲突徙薪、準備しておくことに損はない」

 

「まあ、そんな感じでしっかり育てて…、恐らくデビュー戦とあと1、2戦やって…、クラシックに間に合うかどうかだろうな」

 

 俺はルナにそう話しながら、パソコンの画面へと目を戻した。



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11話

 レース前日、スピカの部室にて。

 

「えー、ここからスタートして、ぐるっと回ってここがゴールだ」

 

 沖野さんはスペシャルウィークのデビュー戦の会場である阪神レース場の見取り図をホワイトボードに書きながら説明する。

 

「あっはい」

 

「んで、スペ先輩の作戦は?」

 

「そんなの逃げに決まってんでしょ」

 

「内からゴーインに突っ込むべきだな」

 

 スぺがそう返す中、ウオッカの言葉にスカーレットとゴルシがそう返し、俺も続けていく。

 

「…どうするんですか?特徴的なコースで有名な阪神ならガン逃げよりぶっ差すのがセオリーって言いますけど」

 

 俺の言葉に沖野さんは首を振って話していく。

 

「…いや、作戦は………なし!!

 

 

 

「「はぁ!?」」

 

 

 

 俺たちの驚きの言葉の後に、ウオッカが沖野さんにチョークスリーパーをキメるが、そんな中スズカが口を開く。

 

「…ないのが、…作戦?」

 

 …そう言うことか沖野さん。

 

「そうそれ…、だはぁ…!」

 

 沖野さんはウオッカから解放される。

 

「…確かに、トレーニングで追い込みとか差しとか、そのあたりの練習してなかったっすね。…スぺの自由に走らせるってことっすか」

 

 沖野さんは俺の言葉に頷く。

 

「その通りだハンター。…スペシャルウィーク、駆け引きしようなんて思うな。好きなように走れ」

 

 確かにこっちに来て間もないスぺに作戦を仕込んでいくのは難しい。

 

 …なら作戦という縛りを無くせばいい。俺達スピカはそんな自由な連中が集まったチームだ。

 

「好きなように…」

 

 スぺがそう呟いた後に、沖野さんは話を続けていく。

 

「前方だろうが後方だろうがどこでもいい、自分がここだ!っていう気持ちのいいタイミングでスパートをかけて、先頭のウマ娘を抜け!」

 

 …スぺはその言葉を聞いて、少し不安そうな表情だ。

 

「うっ…、ここだって分かるかな…」

 

「まぁ、それは経験もあるし、生まれ持ったセンスもあるし。やってみないことには…な?」

 

 沖野さんの言葉に続けるように俺もスぺに話す。

 

「スぺ、お前に言えることは一つ。

 

 

 

 …自分の直感に身を任せろ」

 

「自分の直感に…」

 

 スぺに続けるように俺は話す。

 

「俺達、ウマ娘ってもんは直感に従えばうまくいくことが多い。どういう訳かは知らないがな。

 

 周りに惑わされるな、自分の決断を信じろ」

 

 俺がそうスぺにアドバイスして、ミーティングは終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 次の日、レース当日。駅にて。

 

「…アレ、ハンターさんはあの車で移動するんじゃないんですか?」

 

 俺の姿があることを不審に思ったのか、ウオッカが俺に話しかけてきた。

 

「…結構遠いんだよ阪神まで。何時間も運転してたらさすがの俺でも疲れる。趣味のドライブじゃねーしな。

 

 それに学園が金出してくれるならそっち使わねーと。

 

 車だと事故らないように気を付けないといけないけど、電車ならそんなこと気にせず移動できるからな」

 

 俺がそう話すとウオッカは納得してくれたみたいだった。

 

 そして俺達スピカの面々は電車に乗り込んで、阪神レース場へと向かっていった。



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12話

 

 阪神競バ場に着き、そのパドックにて。

 

「さ、スぺのデビュー戦、見守ってやろうじゃねーか」

 

 ゴルシがそう言いながらパドックの方を見る。

 

「むー、私より先にデビューなんてずるいー…」

 

「まー、そのうちデビューできるよ。焦るな焦るな」

 

 スカーレットがそう頬を膨らますが俺はそうなだめる。

 

「…ってか、トレーナー。スぺに教えたんすかパドックでの見せ方。ここまでそんな練習してるとこ見たことないっすけど」

 

「あ、練習させるの忘れてた」

 

 沖野さんの言葉を受けて、俺の心の中は一気に不安が増していく。

 

『続けて、8枠14番、スペシャルウィーク』

 

 アナウンスと共にスぺが出てきた。

 

 …うん出て来たのはいいんだけども。

 

「あっちゃー、アイツ手と足が一緒に出てやがるよ」

 

「…うっわー、ガッチガチだな。凄い緊張してるなアイツ。…まあ緊張するなって方が無理な話だけど」

 

 パドックでのスぺはゴルシの言葉通り、手と足が同時に出て、動き方もすっごく固いものだった。

 

 …あそこまで動きがガッチガチなやつ、久しぶりに見たよ。

 

 その後、スぺが上に羽織った体操服の上着を脱ぎ捨てようとするがなかなかうまく行かず、そのまま転んでしまう。

 

 …あー、見てられねえ。

 

 そんな中、沖野さんが口を開く

 

「あー、ゼッケン渡すの忘れてた。

 

 …スズカ、これスペシャルウィークに渡してくれるか」

 

 スズカはその言葉を受けて、スぺの元へと駆けていく。

 

 俺は沖野さんに話していく。

 

「トレーナー、ゼッケンスぺに渡すの忘れてたのってわざとじゃないですか?」

 

「…ん、なんのことだ?」

 

 トレーナーは何も知らないという風に俺に話す。

 

 …うん、わざとだなコレ。

 

「とぼけないでくださいよ、全く…。

 

 トレーナーががその顔してるときは大体そうなんです。何年の付き合いだと思ってんですか」

 

 俺は沖野さんにそう話しながら、スタンドへの道を歩いていった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 …そして、地下バ道から出てきたスぺの姿を見てみると。

 

「あれ、さっきと…」

 

「全然違うじゃねえか…」

 

 スぺの表情は、さっきのパドックでの不安そうな表情とは打って変わり、顔は真剣なものになり、いつもの元気そうな目になっていた。

 

 …スズカは何を話したんだろうか。まあそれは本人たちだけの話にしておこう。部外者の俺が割り込んじゃいけないかもだし。

 

 スズカも戻ってきて、スターターが旗を振り、ファンファーレが響き渡る。

 

 それに合わせて、観客のボルテージが上がっていくのもひしひしと感じる。…やっぱレースはコレだよな。

 

 ファンファーレが終わると同時に、ウマ娘が続々とスターティングゲートへと入っていく。

 

 スぺが最後に入ったがゲートに入るのを嫌がるような仕草はなく、その辺りの問題はなさそうだ。

 

 ゲートの入り口が締められ、阪神レース場全体に沈黙の時間が流れていく。

 

 

 

 …そして、今。

 

 

 

 ゲートが開かれ、スぺのデビュー戦となるレースがスタートした。



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13話

 

 スぺのレースがスタートした。

 

 スぺはスタートが周りのウマ娘たちに比べると少し遅れていた。

 

 まあ、ジュニアで走ってきてないスぺにとってレース場で走ること自体初めてだ。

 

 ある程度、仕方ない部分はある。

 

 …とはいえスぺはその後一気にスピードを上げていき、…5番手争いぐらいか?の位置に付けて行く。

 

「スペ先輩、先行の位置ね」

 

 スぺの走りを見て、スカーレットがそう話す。

 

 …沖野さんはミーティング通りスぺに作戦とかを話してる素振りはなかった。

 

 恐らくスぺはそういうタイプだ。

 

 …まあ先行型有利の阪神ならちょうどいいだろう。

 

 そのままレースは動いて行ったが、スぺの近くにいたクイーンベレーが仕掛けてきた。

 

「…体、当てに来たか」

 

 俺はそう呟く。

 

 クイーンベレーにぶつけられるスぺだが、スぺはなんとか耐えている。

 

 …まあ、これでこそレースって感じではあるけど。

 

 レースはそのまま進み、第3コーナー。

 

 クイーンベレーがスぺの前に出て、後ろに足を勢いよく振り払うようなフォームになる。

 

 土飛ばしてくるか。

 

 …だがスぺはというと。

 

「…へえ、アレ避けれるのか」

 

「…お母ちゃんとの練習の成果ね」

 

 スズカがそう呟く。…寮の部屋でなにか話したのだろうか。

 

 最終コーナーを回り、最後のストレート。

 

 先に仕掛けてきたのはクイーンベレー。

 

 …そしてスぺも同じようにスパートをかけていく。

 

 スぺは一気に抜かしていき、2番手へと順位を上げる。

 

 少しずつクイーンベレーとの距離感も縮まってきた。

 

 …クイーンベレーの方を見ると手の振り方が変わっていった。

 

 さっきみたいに走りながら軽くぶつけに来る程度じゃない、思いっきりぶつけに来るつもりだ。

 

 …ウマ娘の速度でぶつけられたら、ひとたまりもない。怪我は免れないだろう。

 

 …だが、俺の心配は杞憂だった。

 

 スぺはクイーンベレーのタックルを前傾姿勢になることで躱していく。

 

 …タックルを躱され体勢を崩すクイーンベレー、そのまま加速していくスぺ。結果は明らかだった。

 

 スぺは大きく両手を広げてゴールし、阪神は歓喜の渦に包まれていった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 レースが終わり、スぺのウイニングライブとなった。

 

 

 

 …そういえばだ。

 

 俺はある考えに気づいた。

 

 あれ、スぺってウイニングライブの練習してたっけ…と。

 

 少なくとも俺は生徒会の仕事やら個人特訓やらであまりスぺにはかかわっていない。一応レースについての心構えとかは教えさせてもらったけど。

 

 ウチのチームの面々を見ても、踊れるが多分あまりスぺと話せていないスズカ、まだまだ未熟で踊れないスカーレットとウオッカ、…一応踊れるがの自由人ゴルシ。

 

 …うん、大丈夫じゃねーな。

 

 さすがに、沖野さんは何かしら対策してるだろう。一応聞いておこう。

 

「…トレーナー、スぺのウイニングライブの練習ってしましたよね?」

 

 俺の言葉を聞いた瞬間、沖野さんの足が止まる。

 

「…やっべ、ウイニングライブの練習マジでやってなかった…」

 

「うっそでしょ!?」

 

 俺の叫びが示す通り、スぺのウイニングライブは棒立ち状態となっていた。

 

 …ライブまで重要視するルドルフに何て言われるのだろうか、頭が痛いな…。



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第3R 「初めての大一番」
14話


 

 スぺのデビュー戦勝利から、スぺ、スズカやゴルシも連勝していき、スカーレット・ウオッカの二人もジュニアで1勝ずつ。

 

 今までの人数不足で休止状態だったスピカ再始動としてはいい感じであろう。

 

 …そして今、問題になっているのが。

 

「…ハンター、これはどういうことだ?」

 

 生徒会室の中でルナの前に正座している俺、そしてその横で佇むエアグルーヴ、…俺のクッションで寝てるブライアン。

 

 ルナが俺に見せてきた新聞には「チームスピカ レースに勝っても… このありさま。」と書かれている。

 

 スズカはいいとして、問題は残りの面子だ。

 

 

 

 スぺ。…前回に引き続き案の定の棒立ちライブ。

 

 スカーレット&ウオッカ。…踊ってる最中、見事に転ぶ。

 

 ゴルシ。踊ることは踊れているがやっているのはブレイクダンス。違う、それじゃない。

 

 

 

 …うん、前にも思ったがダメだなコレ。

 

「…俺も含めて踊れないんだよ。スズカは性格上まだ無理だし、俺がそういう系のダンスは踊れないことはお前も分かってるだろ。ウチのトレーナーもそういうの無理だし」

 

 ルナは俺の言葉に雰囲気を変えずに話していく。

 

「…ああ。それも承知の上で言っているんだ。

 

 …しかしだな、レースだけでなくウイニングライブまで十全十備にこなすのはウマ娘の責務。

 

 教えるものがいないから、で理由になることはない」

 

 …うん、ぐうの音も出ねえ。

 

「…そうなんだけどよ、伝説の『超ガッタガタ Special Record』を踊った俺に教えろと?俺もうあの曲踊ってないから結構うろおぼえだぜ?」

 

 『超ガッタガタ Special Record』とは俺が中央に来て初めてのウイニングライブのことだ。

 

 カサマツ時代は自分の自由な曲を選べたが中央は実績ができるまでは共通曲。それに気づいてなかった俺はルナに面倒を見てもらってなんとかギリ踊れるようになった。

 

 それから何勝かして、カサマツ時代に使っていた曲(他のウマ娘との兼ね合いもあるため選んだのは通常用・お祭り騒ぎ用の二曲のみ)を使えるようになった。それからというもの、共通曲は踊ってない。

 

 …ちなみにだが、『超ガッタガタ Special Record』はダメなウイニングライブの典型例としてジュニア用の教材に使われているらしい。いつまで俺の黒歴史使うんだよ。

 

「…エアグルーヴ、ブライアン、ちょっと「いやです(断る)」…だろうな」

 

 …さすがにこれは無理だったか、うん。

 

 理想としてはスズカに踊ってもらってそれを俺が説明していく感じになるか…?

 

 …そんな中生徒会室の扉が勢いよく開く音がする。

 

 

 

「カーイチョー!いるー!?」

 

 

 

 …この元気な声は。

 

「テイオー!生徒会室に入る時はノックをしろと言っているだろう!」

 

 いつものようにテイオーが生徒会室に入ってきた。

 

 そしてエアグルーヴはいつものようにテイオーに注意するが、これも生徒会室名物。

 

 …そういえばだ。

 

「…テイオー。お前って確か結構踊れたよな?」

 

「ん、ハンターどうしたの?ボクのテイオーステップ見たくなった?」

 

 テイオーはそう答えてくれる。

 

 …テイオーはまだフリーなウマ娘だ。沖野さんが猛アタックしてるとは聞いてるけど。

 

「…ルドルフ、ライブの件だがテイオーを使ってもいいか?テイオーはまだフリーだし問題ないだろ?」

 

「…ああ、そういうことなら構わないよ」

 

 ルナも俺の考えに納得してくれたみたいだ。

 

「…え、なになに?どうしたのふたりとも?」

 

 テイオーが俺達の言葉を疑問に思ったのか、そう俺たちに話してくる。

 

「…テイオー、頼みがある。

 

 

 

 ウチの面子にダンスを教えてくれねーか?

 

 お前も知ってると思うけど、ウチの面子スズカを除いたらライブ散々でな。お前みたいな奴が欲しかったんだ。

 

 …別にこれからスピカに入れとは言わない。

 

 いったん俺たちにお前の力を貸してもらえねーか、頼む」

 

 俺はそう言ってテイオーに頭を下げる。

 

「は、ハンターさん!?相手は年下のテイオーですよ!?」

 

 エアグルーヴが俺の姿をみてそう話すが俺は気にせず頭を下げたままだ。

 

「年下だろうが関係ねーよエアグルーヴ。年下だろうが何だろうが、人に頼むときにはそれなりの筋ってもんを通さねーと」

 

 テイオーは俺に向けてこう話す。

 

「顔上げてよハンター。そう言われたらボクも嫌な気はしないし、受けてあげる!」

 

 …あー、良かった。頭下げた甲斐があるってもんよ。

 

「…じゃ、ウチのトレーナーにも連絡しとくよ。また日にち決まったら連絡させてもらうな」

 

「りょーかい!」

 

 テイオーはそう返してくれた。…これで少しはマシになってくれるかな。



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15話

 

「…どーよファル子。そっちは」

 

 テイオーがスピカの面子にダンスを教えるという約束をした後。

 

 俺は栗東寮のファル子の部屋に来ていた。ちなみに同室のエイシンフラッシュは不在である。

 

「んー、こっちもイマイチかな…」

 

 スマートファルコン、通称ファル子。俺と同じダートを主戦場とするウマ娘だ。

 

「…相変わらずか。あそこからさらに発展させるにはどうしたらいいんだろうかな…」

 

 『ドリームトロフィーダートを活性化する』という名目で始めたこの会議。

 

 会議で話が出た中で最も大きいのが『サポーターシステム』だろう。

 

 分かりやすく言えばごちゃごちゃ混ざって応援するのではなく、応援したいウマ娘ごとに分かれて応援するというシステムだ。

 

 こうすることで塊の中で共通認識が生まれて応援もしやすくなる。

 

 俺達が走る前にスタンドを見ていても、応援したいウマ娘ごとにカラーが分かれているスタンドは壮観だ。

 

 とはいえ全てを分けるのではなく、どのウマ娘を応援してもいいミックスエリアを作っておいたりして初心者の方でも入りやすくしたりしており、俺が危惧していたサポーター同士の喧嘩などは今の所は入ってきていない。ひとまずはこれでいいだろう。

 

 ちなみにだが、俺のサポーターグループの愛称は「Hunters」、ファル子は「ファル子親衛隊」だ。もちろん俺たち以外のウマ娘もそれぞれのサポーターグループを持っている。

 

「…あ、そうだ。私一つ思ったんですけけどいいですか?」

 

「ん、どうした?」

 

 ファル子は俺の言葉に続けていく。

 

「…この前、ハンターさんが一回提案してた、あの、なんでしたっけ」

 

 俺が提案した…?…ああアレのことか。

 

「チャントのことか?」

 

「そう、それ!私、アレいいなーって思ったんです!周りのみんなが全員声を揃えて力を届けて、まさに私たちが求めてるものじゃないですか?」

 

 チャント、サッカーなどで観客が声をそろえてかける掛け声や応援歌。スポーツ応援において最も用いられてると言ってもいいものであり、一度俺も提案したが、最終的に撤回した。

 

「確かにな、チャントはいいよ。

 

 …ただ「グループ数の問題があるからやっぱやめとく」って言ったろ。

 

 サッカーとかの応援は2つだけど俺たちのレースになりゃ軽く10は超えてくるぞ」

 

 俺が撤回した理由がコレだ。いかんせんグループが多すぎる。

 

 チャントが使われているサッカーなどはチームスポーツでありチーム同士のタイマン勝負。応援グループはそれぞれ1チームに1つ、両チーム合わせて二つだ。

 

 だが、俺達のやってるものはチーム戦ではなく個人戦だ。1レースでそのグループは10を越えてくる。だから俺は提案した後に撤回した。

 

 俺はそう撤回した理由を話すがファル子はそれに気にせずに話す。

 

「そう、それで思ったんですけど、今って10グループ以上ぐらいあるのにちゃんとそれぞれのファンの声って私たちに届いてるじゃないですか。

 

 なら、導入しても私たちに応援の声はちゃんと届くんじゃないですか?たとえ10グループ以上あったとしても。

 

 むしろ応援の声がチームごとに統一されるから私たちに届きやすくなるんじゃないかなって」

 

 

 

 …そういえば、そうだな。うん。

 

 

 

「…確かにそうだな。ってか撤回した理由なくなったわ。別にやってもいいじゃん、チャント」

 

「ってことは…」

 

 ファル子はキラキラとした瞳を俺に見せてくるが俺はそれを冷静に抑える。

 

「いや、ファル子。まだやるって決まってないからな!?

 

 …サポーターの人たちがしたいかにもよるし、用具の準備もあるだろうし。

 

 生徒会含めて学園の方にも話しておかないといけないだろうし。

 

 それにサポーターがチャントを考える時間や覚える時間も必要になってくるだろうから少なく見積もっても1か月はかかると思うぞ。

 

 …とりあえずファル子、あくまでこれは俺達での話だ。他の奴の話も聞かねーと。

 

 ダートのメンバーに連絡して導入するかどうか話し合うぞ」

 

「はーい!」

 

 ファル子は元気よく返事してくれる。

 

 …ファル子がこう言ってるとはいえ、他の面子で「いやだ」という奴が一人でもいるなら俺は再び取り下げる予定だ。

 

 俺達だけで進めるのだけは絶対にやってはいけないことである。俺たちは対等な関係でいたい。

 

 …サポーターへの連絡は確定してからだな。

 

 俺はそう思いながら他のダートを主戦場とするウマ娘たちに連絡を取っていった。



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16話

見苦しいですが、前回から作者自身の好みや趣味がはっきりと出てきてます。抵抗感がある方はお早めに…


「遅いよ、ハンター!おいてくよー!」

 

「まあそうせかすなっての…」

 

 現在、俺はテイオーを連れてカラオケボックスに向かっている。

 

 沖野さんもスピカでのミーティング終了次第メンバーを連れてくるらしい。

 

 …というか俺は行くつもりじゃなかったのだが、ルナに、

 

「…一度お前もテイオーに見てもらって来い」

 

 と言われたため仕方なくである。テイオーの保護者的な側面もあるが。

 

 …久しぶりに共通曲踊って見たらガッタガタだったのが理由だろうな、うん。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「んーだからここはもっとこうして…。

 

 …ホントにハンターっていつもつかってる奴以外ダメなんだね。

 

 教材で見た通り!」

 

「うっせーよテイオー。っていうかダメだからアレにしてるってのもあるし、どーも踊れねーんだよなー。…こうして、こうか?」

 

「あ、そうそう!」

 

 テイオーとのマンツーマンのレッスンを受けながら、俺達は他のスピカの面子が到着するのを待っていた。

 

 そしてしばらくしていると。

 

「あれ、ハンターさんと…、テイオー?」

 

 …スピカの面子が来たみたいだった。

 

 驚くメンバーをよそに沖野さんが部屋の中に入ってくる。

 

「俺とハンターが呼んだ。歌とダンスの先生だ。お前らもテイオーステップ、噂には聞いてるだろ」

 

 テイオーは「イエーイ♪」と言いながらピースサインをする。

 

「こいつの走りに惚れてスカウトしたんだけど、いっこうにチーム決めないんだよ。でも、ハンターが頼んでくれてな、先生役ならってことになったそうだ」

 

「俺は共通曲踊れないからな。ルドルフに何とかしろって言われて、エアグルーヴやブライアンに頼もうかと思ったんだが案の定断られてな。

 

 そんときに丁度テイオーが来てくれたから流れで俺が頼んだ」

 

「スピカに歌とダンスを教えるのは会長命令でもあるしねー」

 

 テイオーの言葉にスピカメンバーは「「会長の…?」」と首をかしげる。

 

「『ウイニングライブをおろそかにするものは学園の恥』だとよ。いやー付き合いが長い俺でもあの時のルドルフの表情は怖かったな…」

 

 俺はそう苦笑いしながら話していく。

 

「でも安心して!ボクがみっちり、スパルタで教えてあげる!」

 

 そうしてテイオーのダンスレッスンが始まった。

 

 

 

 ほとんど手つかずだったスぺには基本のステップ、スカーレットは振り付け、ウオッカにはリズム感覚を教えていった。

 

 …ゴルシ?なんか座禅してたよ、…やっぱり分からねえ。

 

 ちなみに踊れるスズカはソファに座りながらタンバリンを叩いていた。

 

 しばらくやった後、スカーレットとウオッカが座っていた俺に話しかけてきた。

 

「そういえばハンターさんはやらないんですか?」

 

「俺は共通が踊れないだけで専用はやれるからな。お前らが来る前に一通りテイオーに確認してもらってたし」

 

「あ、俺ハンターさんのダンス見たいです。カサマツ時代のやつとか!」

 

 俺は時計を確認する。…まあずっと教えてるテイオーの休憩がてらにもいいだろう。

 

「…まあ、久しぶりにやってやるか。…テイオー。ちょっとお前休んでろ。俺が踊るから」

 

「あ、そうなの?…そういえばボク生でハンターのダンス見るの初めてだなー。教材のハンターしか見たことないけどちゃんと踊れるの?」

 

「アレは黒歴史だっての…、良いから見てな」

 

 俺はカラオケ機器を操作してある曲を入れる。

 

「…これはカサマツで一回やったかな。地方時代の奴はこれ含めて4つあるんだけどそのうちの2つが今も使ってる奴な。これともう一つは1回しか踊ったことねえ」

 

 そう話しているうちにイントロが流れてきた。

 

「あれ、なんか曲の雰囲気が今までと…」

 

 スぺがそう感じるのも無理はないだろうな。

 

 Special record!とは全くといっていいほど曲違うし。

 

「じゃ、行くぜ!」

 

 俺がはそう言って決めポーズをしながら歌い始める!

 

 

 

『スタンドアップ! モンスター 頂上へ

 

 道なき道を 切り開く時

 

 スタンドアップ! ファイター とんがって

 

 going on, moving on

 

 戦いの歌 未知の世界へ

 

 タマシイレボリューション

 

 

 

 ひっさびさに楽しませてもらいますか、タマシイレボリューション!

 

 



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17話

 

「いやー、珍しいもん見れたぜー」

 

 カラオケボックスからの帰り道、ゴルシが俺に向けてそう話す。

 

「…まあ、一回しか使ってねえ曲だからな。…テイオーも来てくれて助かったよ」

 

 俺の言葉にテイオーは「気にしないでいいよ!」と返してくる。

 

「テイオーさんに教われば、ライブでも恥をかかなくていいですよね!」

 

 スぺはそう話す。…まあ今日のレッスンで大分上達したみたいだし、次のライブは何とかなりそうか。

 

「ウチに来たら、可愛がってやるぞ?」

 

「えー、どうしよっかなー」

 

 ゴルシの言葉にテイオーは笑顔でそう話す。

 

「ま、テイオーにも考えがあるさ。

 

 俺としてはテイオーのようなエリートこそ、のびのびとやってほしいんだがな」

 

 沖野さんはそう話し、スぺに向けて続けていく。

 

「スペシャルウィーク、3冠ウマ娘獲るぞー!」

 

「えええー!?」

 

 その言葉にスぺは驚きの表情を見せる。

 

「…スぺを出すんすね、クラシックに」

 

「ああ。お前はこのチームで唯一、今年の3冠ウマ娘に挑戦できるんだから当然だろ?」

 

 沖野さんの言葉にスぺは「わ、私が3冠ウマ娘…」と声を小さくする。

 

「この時期に2勝してれば当然の流れだ。ホラ、お前の目標はなんだ?」

 

「それは日本一のウマ娘に…」

 

 「だろ?」と沖野さんはスぺの言葉に続けていく。

 

「皐月賞・日本ダービー・菊花賞、この三冠制覇は日本一のウマ娘になるための最短ルートだ」

 

 「最短ルート…」とスぺは呟く。

 

「スズカさん、私…」

 

「チャンスがあるのなら、挑戦するのがいいんじゃないかしら」

 

 スズカはそうスぺに返す。

 

「は、ハンターさんは…」

 

「チャレンジしないことに意味はねーよ。

 

 それに、挑戦したくても挑戦できないやつもいるんだ。参加しないってなるならお前はその権利をわざわざ捨てることになるんだぜ?

 

 俺も挑戦すべきだと思うよ」

 

 「挑戦…」と呟くスぺに沖野さんが話す。

 

「そのために、皐月賞の前戦、弥生賞を獲るぞ!」

 

「は、はい!」

 

 スぺは元気よく返事をする。

 

「それとハンター!お前のドリームトロフィー予選ももうすぐだ。登録はダートでよかったよな?」

 

「ええ。もちろんですよ」

 

「明日は収録だから仕方ないとして、明後日からか。通常用メニューから直前用メニューに変えていく。しっかり調整して行け」

 

「了解です。…おそらくですけど、その辺りになれば俺たちの新たな試みも始まる頃ですかね」

 

「え、ハンターさんまたなんかやるんですか?」

 

 ウオッカの言葉に俺は「まあな」と返す。

 

「見せるのは当日にはなるけど、俺達だけじゃなくて観客も満足できるものになるよう調整してくよ。期待しててくれ」

 

「あとさらっと言いましたけど収録って何のことですか?」

 

 スカーレットが俺に聞いてくる。

 

 …そういえば言ってなかったな。

 

 俺や出演する他のウマ娘のレースもあるからギリギリ明日になったんだっけか。

 

 まあ、まだ言う必要もないだろう。

 

「それも秘密だ。スカーレット。まあそのうちお前らもわかるよ。…まあ皐月にかかわるとだけは言っとこうか」

 

 俺達はそう話しながら寮への道を帰って行った。



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18話

「…4月〇日皐月賞出走!みなさん、ぜひ来てくださいねー!」

 

 俺はテレビカメラに向かって手を振る。

 

「…はい、オッケーでーす!」

 

 そして今、収録が完了した。

 

 

 

 俺が行っているのがなんなのか…、というと皐月賞を含むクラシックのPR活動だ。

 

 既に多くの方にトゥインクルシリーズを知ってもらってはいるが、さらなる知名度アップのためにウマ娘代表として俺が出向いている。

 

 クラシック前の恒例行事と化しており、ルナがスポーツ番組などの固い番組に、俺がバラエティ番組などの緩い番組に出演するのが鉄板である。

 

 …というよりかはバラエティの方は固い雰囲気のルナよりかはいくらかマシな俺が行かざるを得ないというのが正しいか。

 

 ルナはあの雰囲気を持ってこそのルナだろうし。

 

 一通りの収録を終え、地下の駐車場に止めてある車に俺は乗り込む。

 

「…で、どうだったよ。タイシン」

 

「…どうもこうも、いつもの感じ。もう少し辛くてもよかったかな」

 

 助手席に座っているナリタタイシンが俺の言葉にそう答える。

 

 今日の収録は激辛料理チャレンジであり、タイシンにはよく付き合ってもらっている。

 

 なお、大食いチャレンジの時はここがオグリになって後ろにタマとクリークとなる布陣が定番だ。

 

「ハンターさん的にも今日のは大丈夫でしょ?」

 

「確かに、いつものあそこに比べたら刺激は足りなかったなー。

 

 あそこが俺達に対抗してるっていうのもあるけど」

 

 俺は苦笑いしながらそう答える。

 

 いつものとこ…、というのは俺・タイシン・エルの3人でよく行く激辛料理店だ。

 

 車で10分ぐらいの所にあるため、よく通っている。

 

「付き合ってくれてありがとな、タイシン。また何かお礼はさせてもらうよ」

 

「別にいいよ、アタシもハンターさんには世話になってるしさ」

 

 そう話しながら、俺は車を走らせて行った。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「…戻ったぞ」

 

 俺は生徒会室の扉を開ける。

 

「ハンターか。テレビ収録、ご苦労様だったな」

 

 椅子に座っていたルナが俺に向けてそう話す。

 

「まあ、いつものことだしな。もう慣れたもんよ」

 

「…スピカからはスペシャルウィークがクラシックに出るらしいな」

 

 俺はクッションに座り、ルナの言葉に続けていく。

 

「ああ。順調に勝ててるしな。

 

 ウチのトレーナー曰く弥生獲ってそのまま皐月に乗り込む予定だとよ」

 

「そうか」

 

 ルナはそう言って立ち上がり、窓の外を眺めながら俺に話しかける。

 

「なあ、ハンター。ドリームトロフィーダートで新たな計画が進んでいるというのは本当か?」

 

「本当も何も前からずっと進行中だよルナ。上の許可はとれたし、サポーターも喜んで賛成してくれたし。順調に行けば試験的に俺が出る予選のレースで初導入する予定かな」

 

「…自身のトレーニングと同時進行なのか?」

 

「俺達ができることは終わってるから大丈夫だよ。後はサポーターの方たちに任せるだけ」

 

 そう答える俺を見てルナが話す。

 

「やはり、ハンターはダートの率先垂範となる存在だな」

 

「…お前ほどじゃねーよ、ルナ。俺はダートの面子を引っ張るので一杯だからな。

 

 ウマ娘全員を引っ張るお前には追い付けねーよ」

 

 俺はルナの言葉にそう返した。



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19話

 それからしばらく経ち、スぺの弥生賞がスタートした。

 

 今回、そして次の皐月の舞台となる中山の特徴は最後にある心臓破りの坂。…ホントに誰だよアレ作ったの。

 

 一応スぺには「想像以上にキツイから注意しろよ」とは言っておいたが。

 

 …レース展開としてはスタートと同時に先頭に立ったセイウンスカイをスぺが追う形だ。

 

 第4コーナーを回った時点でスぺは3位。

 

 …さて、問題はここからだ。

 

 レース集団を待ち受けるのはラスト200mにある中山の坂。

 

 先に登ったスカイともう一人は完全に登り慣れてなさそうだった。

 

 スカイはまだ何とか…という感じだったがもう一人は完全に休止状態になっている。

 

 スぺもそれに続くように登り始めていく。

 

 最初は苦しげだったものの一人を抜き去ってスカイとの一対一の場面となる。

 

 最後の直線、スカイはだんだんタレてきていたがここでスぺが仕掛けた。

 

 一気にペースを上げてスカイとの距離を詰めていく。

 

 スぺが差し切るかスカイが逃げ切るか…。

 

 俺達を含めた観客一同は固唾をのむ。

 

 

 

 …そしてラスト30mぐらいか。スぺがスカイを躱した。

 

 スカイも追いすがろうと腕を振るが足が坂で使い切ったのか思うように進まない様子だ。

 

 …そのままスぺは1着でゴール板を通過。歓声が上がる中山でスぺは自身初となる重賞を獲得した。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 その後のライブもまあなんとか見れる程度にはなっており、スピカの部室で祝勝会が行われていた。

 

 スピカのメンバー各々が話している中、スぺがテイオーにダンス特訓の礼を言うとテイオーはそのまま話していく。

 

「…だってボク、スピカに入ることにしたから!」

 

「「「「えー!?」」」」

 

 トレーナーを含むスピカの面子全員(俺とスズカを除く)が同時に驚きの声を上げる。 

 

 ってか沖野さんまで驚くんすか。

 

「ボク、カイチョーに追いつきたいんだ。だからスピカで力でつけて、カイチョーとレースに出てみせる!カイチョーを一番知ってるハンターもいるしね」

 

「…ったく、言うようになったなお前は」

 

 俺はテイオーの頭を乱雑に撫でる。

 

「まーね。それぐらいしないとカイチョーには追い付けないから。ハンターだってそうしたんでしょ?」

 

「…そうだな」

 

 俺はテイオーの言葉にそう返す。

 

「みんな、よろしくっ!」

 

 テイオーはそう俺達にウインクしながら話した。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 その後、俺は生徒会室へと向かった。

 

「…俺だ。入るぞ」

 

 俺がドアを開けるとルナとエアグルーヴがソファに座ってにんじんジュースを飲んでいた。

 

「…邪魔だったか?」

 

「いや、大丈夫だよ」

 

 俺の言葉にルナはそう返す。

 

 その後、俺がクッションに座るとエアグルーヴが話しかけてきた。

 

「そういえばハンターさん、テイオーが…」

 

「スピカに入るんだろ?さっき部室で聞いたよ。まあ俺とウチのトレーナーに任してくれよ」

 

 エアグルーヴの言葉に俺はそう返す。

 

「…ハンター、テイオーは才気煥発なウマ娘ではあるがまだまだ足りないところも多い。しっかりと見ておいてくれ」

 

「言われなくても分かってるよ、ルドルフ。アイツの走り方的にも精神的にもまだまだ改良しないといけない箇所多いからな。

 

 …テイオーが心配ならお前もウチに移籍するか?」

 

 俺が笑いながらルナにそう話すと、「さすがにそれはないな」と苦笑いしながら返された。

 

 その日の夜はそのまま更けていった。



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20話

 

 弥生から一か月ぐらい経って。

 

 スぺの皐月賞当日である。

 

「…さあ、どうなるかな…」

 

 俺はスタンドからスぺの方を見つめる。

 

 …スぺが入ったのは8枠18番という大外。中山の大外はきついんだよな…。

 

 全ウマ娘がゲートに入り、中山に一瞬の静寂が訪れる。

 

 

 

 そして今、ゲートが開かれレースがスタートした。

 

 スぺは後ろから…4番手くらいか?の位置で足を貯めている状態。

 

 問題はスぺではなくスカイとキングの二人だ。

 

 少し前に学校で話した時は調子が悪そうな素振りはなかったし、作戦を負けた弥生のままで来るわけないだろうし。

 

 そんなことを考えているとレースは後半の第4コーナーに差し掛かっていた。

 

 そろそろ仕掛ける時間だな…と思っていた時だった。

 

 

 

 …ここでスカイが抜け出した。

 

 坂に入る数10m前、外に広がり一気にスパートをかけた。

 

 スぺはそれにつられるようにしてスピードを上げる。

 

 そして最後の急坂、スカイは弥生とは違いスピードを下げる気配はなかった。キングの方を見ても同様である。…しっかり対策してきたな。

 

 スぺは坂を登った後、スパートをかけていくが追い付かない。

 

 スカイにつられたことで弥生と違うペースになっちまったのがな…。

 

 そのまま皐月はスカイが1位、キングが2位、スぺが3位という結果になった。

 

 この時点でスぺの3冠への夢は終わったのである。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「…あ、はい。そういう感じで大丈夫です。こちらが送った要領を守っていただけるのであれば…。はい、それじゃ当日、よろしくお願いします」

 

 スぺの皐月賞から戻ってきて俺はサポーターの代表の人たちとオンラインミーティングをしていた。

 

 元ネタは俺発案だし、生徒会副会長としてもこれは俺の仕事だ。

 

 ドリームトロフィーダート+これから来るであろうトゥインクルシリーズ所属のウマ娘全員が納得する形で制作したチャントシステム導入案。

 

 サポーターの方達からも賛同がほとんどで、既に合意済み。

 

 あくまでこの会議はレース直前の最終確認である。

 

 俺はパソコン画面を閉じ、ヘッドホンを外す。

 

 

 

「…あー、終わったー…」

 

 俺は椅子にもたれかかるようにして大きく伸びをする。

 

 こういう堅苦しいのは苦手だがレースをスムーズに運営するために必要なものだ。しっかりこなさないと。

 

 俺は生徒会室の隣にある会議室から生徒会室へと戻った。

 

 

 

 生徒会室にいたのはエアグルーヴだけだった。

 

「ハンターさん。会議終わったんですね?」

 

 俺はパソコンを片付けながらエアグルーヴに返す。

 

「ああ。悪いな静かにしててもらって」

 

 エアグルーヴは「なんてことないですよ」と俺に返す。

 

「…でもホントにやるんですね。これが成功すれば…」

 

「間違いなく変わるよ、ドリームトロフィーダートはな。

 

 他のドリームトロフィーやトゥインクルに波及する可能性も十分にあるよ」

 

 俺の言葉に少し時間をおいてエアグルーヴは話す。

 

「…ハンターさんのレース、私たち3人も見に行きます。ハンターさん、情けない走りは見せないでくださいね?」

 

「言われなくても分かってるよ、エアグルーヴ。俺を誰だと思ってるんだ?」

 

 俺はそう笑顔でエアグルーヴに返した。



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21話

 ドリームトロフィーダート予選が行われる府中競バ場。

 

 スペシャルウィークを含むスピカの面々はその雰囲気に圧倒されていた。

 

「これがドリームトロフィー…」

 

「やっぱトゥインクルとは雰囲気が違うなー。サポーター同士の空気がピリピリしてやがるよ」

 

 そうゴールドシップが話す通り、彼女たちがいるウマ娘専用エリアとミックスゾーン以外はそれぞれのウマ娘を応援するサポーター達の横断幕やフラッグが掲げられており独特な空気を見せる。

 

「にしても、ハンターさんが言ってたことってなんなのかしら。トレーナー、なんか知ってないの?」

 

「俺もあんまり聞かされてねーんだよ…」

 

 スカーレットの問いにトレーナーはそう返す。

 

 それと同時にスピーカーから声が聞こえてきた。

 

『…みなさま、おまたせしました!ドリームトロフィーダート予選、出場ウマ娘入場です!』

 

 それと同時にスタジアムのボルテージは一気に上がっていった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 地下バ道。俺は呼ばれるその時をただ待つ。

 

 …とはいっても今回の俺は大外。

 

 フィールドに出る順番は最後だ。

 

 導入したチャントシステムのおかげでスタジアムは今までで最大の盛り上がりを見せる。

 

 …徐々にバ道にいるウマ娘は少なくなっていき、俺だけとなった。

 

「シンボリハンターさん、スタンバイをお願いします!」

 

「了解です」

 

 俺は出口へと足を進める。

 

 俺は目を閉じ、胸に手を当てて、心を落ち着かせる。

 

 そんな俺に選手紹介の声が聞こえてくる。

 

 

 

『…カサマツから世界へと羽ばたいた誰にもなしえない伝説、ダートを引っ張り続けるウマ娘!

 

 

 

 ある人は言った、…『彼女に獲れないものはない』…と。

 

 

 

 

 

8枠18番!『無敗の狩人』

 

 

シンボリ、ハンター!

 

 

 

「お願い、します!」

 

 俺は大きく声を上げて気合を入れ、フィールドへと飛び出す。

 

 スタンドからは俺に向けて大歓声が聞こえてくる。

 

 そしてHuntersから俺へとチャントが聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

カサマツ

 

中央

 

フランス

 

ハンター!

 

ゴーゴーレッツゴー!ハンター!

 

 

 

俊足飛ばして

 

ダートを駆け抜けろ

 

魅せろ今だハンター

 

勝利へ導け

 

ゴーゴーレッツゴー!ハンター!

 

 

 

俊足飛ばして

 

ダートを駆け抜けろ

 

魅せろ今だハンター

 

勝利へ導け

 

ゴーゴーレッツゴー!ハンター!

 

 

 

 

 

 Huntersのトランペットと太鼓、そして大声援がこのスタジアムに響き渡る。

 

 …っていうかまさか前奏付きにしてくれるとは。

 

 俺は体を震わせる。

 

 俺は応援歌が終わった後、サポーターに頭を下げ、スピカの面子の元へと向かう。

 

「よっ、この雰囲気どうだ?」

 

 俺がそう聞くと、この雰囲気に全員圧倒されたみたいだった・

 

「いや…、もう凄いとしか…」

 

「今までも凄かったっすけど、それを軽く超えていったというか…」

 

 俺は笑いながら返していく。

 

「まだ終わりじゃないけどな。レース本番もチャントが鳴り響く予定だ。まあ見ていてくれよ」

 

 俺はそう言ってゲートへと向かった

 




 今回の使わせていただいたチャントは坪井智哉選手の日ハム時代の応援歌を元にしました。

 独特な前奏と素晴らしい歌詞の組み合わせであるこの応援歌は名曲中の名曲ですね。


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22話

初めて主人公視点でのレース描写をかきました。…これでよかったのだろうか。



 

 …ファンファーレが鳴り響き、歓声に満ちたスタジアムは一気に静まる。

 

 俺はふうっと息を吐き、頬を叩いて気合を入れる。

 

 軽くストレッチをして俺はゲートへと入る。

 

 俺に続くように、他のウマ娘達も入っていく。

 

 全員が入り、スタジアムはさらに静まり帰る。

 

 

 

 …そして。

 

 

 

 

 ガタンッ!!

 

 

 

 

 

 今、ゲートが開かれた!

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 ゲートが開かれると同時にすべてのウマ娘が解き放たれ、フィールドに土煙が一気に舞っていく。

 

 俺も飛び出していき、後方集団の外側に位置取る。

 

 …俺の主な作戦は「追い込み」だ。

 

 一応最初から加速していく逃げ型や先行型もできないことはないが、俺が一番得意にしているのがこのやり方なため、この位置が一番走りやすい。

 

 下手に前に出ると風の影響も受けて少し体力が落ちてしまう。できる限りウマ娘の後ろに位置取り、抵抗を減らして最後に繋げる。

 

 最後の第4コーナーからホームストレート、ここからが自分で言うのもなんだが俺の真骨頂だ。

 

 しっかりと追走している中、スタンドからはそれぞれのサポーターからのチャントが聞こえてきた。

 

 音は混ざり合っているが、しっかり聞き分けられるほど分かれていたと俺は感じる。

 

 …無論ではあるが、俺のサポーターであるHuntersのチャントは俺に一番聞こえてきた。

 

 それは俺も調べる過程で見つけた、最大級に盛り上がれるものの1つ。

 

 

 

 

 

♪♪♪

 

…Let's Go!

 

♪♪♪

 

オイ!オイ!ハンター!

 

オオオ…

 

オオオ…

 

燃え上がれ

 

燃え上がれ

 

勝利をつかみ取れ!

 

ラララ…

 

ラララ…

 

ハンター!

 

ラララ…

 

攻めろ今こそ

 

 

 

 

 

 Huntersが鳴り響かせているのは、プロ野球に始まり高校野球にも普及した応援歌、通称『モンキーターン』。

 

 …まっさかこの曲をセレクトしてくれるとはね。

 

 他のウマ娘のペースもいつもに比べると早くなっている。

 

 だが、俺の足も今まで以上にノっている。

 

 …いつも通りの作戦で行けそうだな。

 

 俺は段々とペースを上げ、下位グループから中位グループまで順位を上げていく。

 

 …そして俺は今、第4コーナーを通過する。

 

 

 

「ここしかねえよなっと!」

 

 

 

 俺はペースをさらに上げる。ここからは俺の脚もフルスロットルだ。

 

 俺はバ群の外側から一気に追い込んでいく。

 

 …ほとんどのウマ娘は出来る限り、内側へと行きたがる。少しでも距離を短くするためだ。

 

 だが、俺はあえて外側を走る。

 

 確かに内側を走るに越したことはないが、俺にとって内側も外側も許容範囲だ。

 

 そのまま多くのウマ娘を抜き去り。俺は坂に入る直前ぐらいで先頭のウマ娘を捕える。

 

 …この辺りになれば俺の脚は最大の速度になってくれる。

 

 それに今日からはチャントの力もある。いつも以上の力が間違いなく出せている。

 

 最後のホームストレート、観客がいるスタンドが近くなるため俺達ウマ娘に聞こえてくる声も最大になる。

 

 その声は、間違いなく俺の力になってくれる!

 

 …俺は改めて応援の力というとてつもないものを感じた。

 

 坂を登りながら、俺は先頭のウマ娘を一気に置いていく。

 

 俺は坂を登り切って後ろをちらっと横目で確認する。

 

 …大体3バ身くらいか。

 

 もちろん、言うまでもなく俺の足もまだまだ残っている。

 

 …もらったな、このレース。

 

 俺はそう確信する。

 

 ゴール板を通過すると同時に、俺は右手を大きく上に突き上げた。




今回の曲
千葉ロッテマリーンズ チャンステーマ3
…通称「モンキーターン」と呼ばれるロッテから高校野球へと広がった応援歌。
 トランペット・アカペラ・手拍子・歌詞のすべてがかみ合った神曲。

 …ロッテの応援はヤバい。





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23話

 前回に引き続き、今回は初めてのライブを表現。

 抵抗がある方は…、ブラウザバックをお願いします。


 ゴール板の前を通過した俺は、スピードを落としながら柵を飛び越え、ターフを横切ってスタンドの前へと走っていく。

 

 …そして。

 

 

 

「シャー、オラァ!」

 

 

 

 膝立ちになりながら芝を滑り、大きく叫び、ガッツポーズをする。

 

 …これが俗に言う「ハンターの咆哮」だ。

 

 勝った時のパフォーマンスも兼ねて、俺が勝利したときの恒例行事となっている。

 

 そして、Huntersがフラッグをたなびかせ、タオルマフラーを回しながら新たなチャントをスタジアムに響かせる。

 

 

 

 

 

止まらねえ 俺達のハンター

 

暴れろ 荒れ狂え

 

ラララ ラララララ

 

叫び オイ! 歌え

 

 

 

止まらねえ 俺達のハンター

 

暴れろ 荒れ狂え

 

ラララ ラララララ

 

叫び オイ! 歌え

 

 

 

 

 …See offか。気持ちいいな、この曲も。

 

 俺は立ち上がりスタンドに一礼して、右手を掲げながらスピカの面子がいる方へと立ち去った。

 

「は、ハンターさん凄かったです!」

 

「まあ、ざっとこんなもんよ。スぺ。お前らが頑張ってるのに俺がダメダメじゃいけないからな」

 

 俺はスぺの頭を乱雑に撫でていく。

 

「さすがはハンターだな。よくやったぞ」

 

 沖野さんは俺の頭をポンと叩く。

 

「これぐらいどうってことないですよ。こんなとこで負けたら「無敗の狩人」ってなんなんだって話になりますしね」

 

 俺はそう沖野さんに返した。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「…ハイ、今日の曲もそれでお願いします。…はい、よろしくお願いします」

 

 走り終え、ウイニングライブのために楽屋で一休みしていたところ扉をノックする音が聞こえた。

 

「私たちだ、入ってもいいか?」

 

「…別に構わねえよ」

 

 俺はそう答え、ルナたち生徒会の3人が入ってくる。

 

「お疲れさまだな、ハンター。十全十美な走りだったな」

 

「ああ、ありがとな、ルドルフ」

 

 そう返す俺にエアグルーヴが話しかける。

 

「…にしても凄い盛り上がり様でしたね。ハンターさんが提案したんでしたっけ」

 

「あー…、提案したのは俺だけど一回撤回したんだよな。それをファル子が拾い上げてやろうって話になって。

 

 …で、やってみたらコレだよ。いやーファル子様様だよホント」

 

 ファル子の予選は…中京だったか?

 

 …まあアイツのことだからいつも通りぶっちぎってくるだろう。チャントのおかげでいつもより力出せてるだろうし。

 

「…ハンターさん、この後どうしていくんだ?」

 

 ブライアンがそう問いかけてきたので俺は答えていく。

 

「他のスタジアムやウマ娘、サポーターの意見にもよるけど多分継続だろうよ。今までのどのレースよりも盛り上がり様凄かったし。

 

 盛り上がり様だけなら、俺がルドルフに勝ったジャパンカップに匹敵するんじゃないかな」

 

「…あのレースか。あの日は雨が降っていたがそれを忘れさせるような大歓声だったな」

 

 ルナはバツが悪そうに俺の言葉に続ける。

 

「ハンター、この後のライブもしっかり頼んだぞ。

 

 生徒会副会長としてしっかり役目を果たして来い」

 

「言われなくても分かってるよルドルフ。今日は共通曲じゃないからな」

 

 俺は笑いながらそう返した。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「わー、私ハンターさんのライブ見るのって初めてです!」

 

「ボクもそうだなー、しっかり見させてもらおっと」

 

「この前のカラオケの時のやつもよかったけど、これからハンターさんが踊る曲もいいんだよなー」

 

「アンタ、分かってるじゃない!これぞハンターさんって感じなのよね」

 

「ハンターの曲と言えば、やっぱこれだよなー」

 

 そう各々が話しているが、そんなスピカメンバーに沖野さんが話していく。

 

「…ハンターのダンスはこの前も見たとは思うけど、お前らがやってるのとは一味違う。

 

 共通は全くと言っていいほど踊れないけど、この曲ならハンターのダンスの魅力が隅々まで出る。

 

 お前ら、しっかり見とけよー」

 

 

 

「じゃ、行くぞ!」

 

「「はい!」」

 

 ライブ直前、舞台裏で俺は他のウマ娘達にそう声をかけてステージに出る。

 

 …今回、俺が選んだのは俺がメインとして使っている曲だ。

 

 続々と全員がステージに立ちスタンバイしていく。

 

 満員に詰めかけた観客からの声はない。奇妙な程静寂な一瞬が過ぎていく。

 

 …さあ楽しませてやるとするか。

 

 

 

Let’s do it again そうどれだけBaby

 

立ち上がれば My dream come true

 

問われる 覚悟の強さ 試されてるようなEveryday

 

 

 …ライブが始まっていく。

 

 この感覚は慣れたようで今だに慣れないような、不思議な感覚だ。

 

 

Hey Let’s go 言い訳で 小さくまとまる気なくて

 

Hey Let’s go 飛び出した 世界は荒ぶるノールール

 

 …俺は大きく腕を広げ、叫ぶようにして歌い続けていく。

 

空振りのスキマに迫ってた現実カウンター

 

容赦なくBeat me Hit me また倒れても Oh

 

もう一度 立ち上がり 前を見た者だけが

 

最後に笑うのさ Only winner

 

 

…We gotta go 届くまで Glory road

 

 

 …さあ、観客全員、しっかり見届けろよ!

 

 

Fight ぶつかって 歯向かって

 

それが僕たちのHard knock days

 

平凡な毎日じゃ 渇き癒せない

 

Here we goいつだって 逃げないで

 

風当たり強く生きていこう

 

ゴールまだ遠く 進むべきHard knock days

 

 

 Hard Knock Days、俺がこの曲を見つけたのは小学校の時。ルナに負け続けたとき、耳に入ってきたのがこの曲だった。

 

 俺に希望を与えてくれた曲であり、俺がくじけそうなとき支えてくれた曲である。

 

 

光の先Make my day…

 

 

 …だが、俺の本気はここからだ。

 

 

あの日見た夢がChanging my life 広がる展望 今表現しよう

 

タフな道さえ 軽く乗り越え 傷跡の数だけきっと輝け

 

 

叶うまで… Hard knock days

 

 

一度きりLife 変わらないMind 一番高い景色を眺めるまでTry

 

 

、…ウイニングライブとしてはこの曲だけだろう、ラップパートがあるのは。

 

 俺はここのラップパートをしっかりと歌いきる。…そして、ここからサビ2周だ。

 

 

Fight ぶつかって 歯向かって

 

それが僕たちのHard knock days

 

平凡な毎日じゃ 渇き癒せない

 

Here we goいつだって 逃げないで

 

風当たり強く生きていこう

 

ゴールまだ遠く 進むべき道

 

 

Fight 蹴散らして 強がって

 

それが僕たちのHard knock days

 

無難な選択? そんなのあるわけない

 

Here we go いつだって 最高で

 

後先なんて考えずに行こう
 

 

願いを束ねて 進むべきHard knock days

 

 

…光の先Make my day

 

 

 …その後もしっかり踊り切って、最後に親指、人差し指、小指を立てた右手を上に掲げる。

 

 

 息が上がるが、それ以上の歓声がスタジアムに響き渡る。

 

 …まだ予選だ。本戦でしっかりアレを踊れるようにしないとな。

 

 俺のHard Knock Daysはまだまだ続いていく。

 

 俺は決めポーズをしながらそう心に誓った。 




チャントで使った曲
See off …野球のみならずサッカーまで幅広く使用されているチャント。
     今回は現J3のサッカーチーム、松本山雅FCのものを参考にしてます



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第4R 「特訓ですっ!」
24話


 

 …予選が終わり、スピカでのランニング中に。

 

「おーし、そこの公園で休憩!」

 

 という沖野さんの指示により休憩となった。

 

「…やっぱり、ハンターさんって息上がってないですね」

 

「まあなスズカ。スタミナには俺も自信があるからよ」

 

 俺は聞いてきたスズカにそう返す。

 

 その後、沖野さんのおごりでたい焼きを買ってもらえることになった…のだが。

 

「…私は、大丈夫です…」

 

 …スぺが断ったのだ。…初めて見たな、スぺが食べ物系で断るところ。

 

 スズカによれば最近食べる量を減らしているらしい。

 

 …調べてみるか。

 

「スぺ、ちょっと触るぞ」

 

「え…」

 

 俺はスぺの右腕を掴む。

 

「…大方、○○キロぐらいか。太りすぎとまではいかないが…」

 

「な、なんで分かるんですか!?」

 

「大体だよ大体。体重計とかに頼らずに自分で体重管理しようって思って編み出した技だ。やってれば普通に身に付く」

 

「まずやらないですし、普通身に付きません!」

 

 俺の言葉に続けるように椅子に座りながら沖野さんが話していく。

 

「…知ってたけどよ。体重が増えることは悪いことじゃない、速く走れる体になって来たって証拠だ」

 

「それに、急激なダイエットは体に悪影響だ。下手にやって体壊したらどうするよ」

 

 俺の言葉に返すようにスぺは「でも!」と返してくる。やれることはやっておきたいんだろうな。

 

「…まあ筋肉量を増やして、体重を減らすことは悪いことじゃない。特にこの脚は…ぐはぁっ!?」

 

 そう言いながら沖野さんはスピカの面々に蹴っ飛ばされた。

 

 …言ってることは正しいんだけどな沖野さん。

 

 その後、スピカの面子でスぺのダイエットを手伝うことになった。

 

 まあスぺがやる気なら手伝うしかないけど。

 

「そういえば、シークレットってなんだったの?」

 

「一口ちょうだい!」

 

 …そういやゴルシはシークレット味買ってたな。

 

 テイオーがそう言うとゴルシが「ん」とテイオーに渡す。

 

「…で、何味なんだ?」

 

「辛子」

 

「ぴえぇぇ!?」

 

 食べたテイオーは見事に泣き声をあげた。

 

「…ていうか辛子か。俺にも一つくれないか?」

 

「いいぜ」

 

 俺はゴルシからたい焼きをもらう。

 

「…ん、まあ分かって食べたら美味しい…か」

 

「いや、ナチュラルに食いますねホント…」

 

 俺の食べる姿を見てウオッカがそう呟いた。

 

 その後、スズカと俺を除く5人はランニングに戻っていった。

 

「いってー…。あいつら容赦ねーな…」

 

「まあ、今のは沖野さんの癖が原因っすよ…」

 

 俺がそう返し、スズカが話していく。

 

「スぺちゃん大丈夫でしょうか…?」

 

「ま、今のスぺはあいつらと遊んで気持ちを入れ替えるのがいいだろ。色々引きずってちゃ、先には進めないんだ」

 

 その後沖野さんはスズカに出場レースについて話していく。

 

 スズカは相変わらずの素っ気ない返事である。

 

「そうだ、ハンター。上から正式にチャントシステム導入許可でたぞ。トレーナー界隈でも好評だ」

 

「さすがにそうっすよね。…いやーまさかあそこまで盛り上がってくれるとは…」

 

 ちなみにだが、俺の所だけでなくファル子の中京を含むすべてのスタジアムで大盛り上がりを見せていたらしい。

 

「芝でも導入するかって議論に上がり始めてるらしい。導入することになればシステムの伝達頼むぞ?」

 

「…うーん、それならサポーターシステムの導入からっすかね…。俺もやることはやるつもりっすけど」

 

 俺は沖野さんにそう返してランニングへと戻っていった。



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25話

 

「ハンター。お前に頼みたいことがあるんだが、いいか?」

 

「…何ですか?」

 

 沖野さんに呼ばれた俺はトレーナー室に来ている。

 

「…スぺにピッチ走法をマスターさせて欲しいんだ」

 

「ピッチ走法ですか…」

 

 レースで使われる走法は主に二つ。

 

 一つ、ストライド走法。

 

 これは距離(ストライド)を大きく取って走る走法。

 

 加速力はピッチ走法に比べると劣るが、その分最高速度に達した時の速度を維持することができ、体力の消費は抑えられるため長い時間ロングスパートを掛けられる。

 

 そしてもう一つがピッチ走法。

 

 こっちは逆にストライドを減らす代わりに脚の回転力を上げる走法。

 

 加速力が得られることによりダートや重バ場の芝、そして坂路などで使用される。

 

 沖野さんの言うことには今のスぺはほぼストライド走法で走っている。…というか走り方全く教えてないらしい。

 

 ずっとトレセン学園でトレーニングを続けているスカイやキングに比べるとその差で劣ってしまったのだろうというのが沖野さんの考えだ。

 

「ダートが得意なお前ならその辺り教えられるだろ、できねーか?」

 

「了解です。できる限り伝えさせてもらいますよ」

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 沖野さんに言われた次の日。

 

「じゃ、お前にはピッチ走法をマスターしてもらう」

 

 俺はスぺを連れて、ターフに出ていた。

 

「ピッチ走法?」

 

 スぺはそう頭を傾げる。

 

「ダートとか坂とかで使われる走り方でな。

 

 …まあ、これ見てもらった方が速いな。

 

 右がルドルフ、左がファル子。この2人の走り方の違いをよく観察しろよ」

 

 俺はタブレットでスぺにある動画を見せる。

 

 これは昨日、俺が編集したもので芝が得意なルナとダートが得意なファル子の走り方の違いを見やすくさせたものだ。

 

「…どうだ。何か違いは分かったか?」

 

「…えーと、左の人の走り方の方が足が地面に着くのが速い…ですかね?」

 

 スぺは悩みながらそう話す。

 

「…正解だ。

 

 平地なら今までの走り方でいいんだけど、坂を登る時はどうしてもスピードが落ちる。

 

 ピッチ走法は加速力が高いから坂とかダートみたいな足を取られるコースで使われてるんだ」

 

 俺はそう言いながらタブレットを芝生に置く。

 

「まあこればっかりは習うより慣れよだな。今から坂路を徹底的に走っていく。

 

 ある程度ピッチ走法をマスターしたら走り方の切り替え方法とか、その辺りのことを教えて行くつもりだ。

 

 で、今トレーナーが手配してくれてる模擬レースで最終調整かな。相手はまだ決まってないらしいけど。

 

 お前のダービーまでなら俺のレースもないし、生徒会業務の合間にはなるけどビシバシ鍛えていくぞ。

 

 覚悟はいいな?」

 

「も、もちろんです!」

 

 スぺはそう気合を入れた。



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26話

 

「おー、やってるなー…」

 

 俺はターフを見ながらそう話す。

 

 沖野さんからリギルの東条トレーナーに話を伝えて欲しいとのことであるため、リギルが練習している時間を見計らい俺はスタンドに来ていた。

 

「えーと、…東条さん、ちょっといいですかー?」

 

「…ハンターか。どうしたんだ?」

 

 俺に気づいた東条さんは俺に近づいてくる。

 

「沖野さんから、『ハナさんにこれ渡しといて!』とのことで」

 

 俺は手元から「果たし状」と書かれた封筒を取り出す。

 

「…果たし状?これ書いた本人はどうしたのよ」

 

「今スペシャルウィークの特訓で外に出てます。ちょっと忙しいから代わりにって」

 

 俺は苦笑いしながら東条さんに話していく。

 

「…ふーん、タイキシャトルとスペシャルウィークの併走ね…」

 

 タイキシャトル、短距離なら日本一と言ってもいいウマ娘だ。

 

 ピッチ走法のいい手本にもなってくれるだろうし、最終実践として申し分ない相手だろう。

 

「…どうか、お願いできませんか?」

 

 俺がそう話すと東条さんはタブレットでスぺの情報を見ていく。

 

「…いいわ、そっちの話に乗ってあげる」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 東条さんは「…日程とかは直接伝えるわ」と話していった。

 

 …そして。俺がスピカの部室へと戻ろうとした時である。

 

「エル!今からハンターとの併走行くぞ!」

 

「了解デース!」

 

 …ちょっと待って?

 

「あのー、東条さん。これはどういう…」

 

 俺がそう聞こうとすると東条さんは気にせずに話していく。

 

「ハンター、距離は中距離、セイウンスカイ並みの逃げで走ってくれ。できるだろ?」

 

「いや、まったく理解が出来てないんすけど!?一応走れますけど!」

 

 俺がそう話していくと東条さんは俺にこう返す。

 

「…ここに、こう書いているわよ」

 

 俺が東条さんから見せられた果たし状の中身にはスぺとタイキの併走への要請以外にもう一つ、「追記:ハンターは自由に使ってもらってかまわねーぜ!」と書かれていた。

 

「…やりやがったな、あのバ鹿トレーナー…。

 

 スタンド行くのになんで練習用シューズ履いていけって言うのかおかしいと思ったんだよ…」

 

 俺の表情を見て東条さんはあきれた表情を見せる。

 

「…知らされてなかったみたいね。どうするの?もどってくれても構わないわ」

 

 東条さんは俺の状況を察してそう話してくれるが…、まあ乗り掛かった舟だ。

 

「いや、やりますよ。あんまりこんな機会ないですし、久々に芝の感覚も持っておきたいですしね。

 

 それにそっちがウチに手伝ってくれるっていうのにそっちが何も得がないっていうのは申し訳ないですしね」

 

 俺はそう話しながらターフへと降りて行った。

 



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27話

「…アノー、ハンターさん。殺気というかなんというか…、たまにグラスが見せるようなオーラが出てるんデスケド…」

 

 俺と並んだエルは俺が放っているオーラを感じて震えている。

 

「俺はトレーナーへの怒りをこのレースで発散しようって思ってるから。後エルがそう話してたってグラスに伝えておこう」

 

「ケ!?じょ、冗談デスよ!」

 

 俺の言葉にエルは慌ててそう返してくる。

 

「とりあえず、今から俺はスズカ並み…とはいかないけど、スカイ並みの逃げで走る。しっかり追いつけるように走ってくれ」

 

「分かったデース!」

 

「俺が逃げを打つことなんて滅多にないんだ。しっかり吸収してくれよ?」

 

 俺がそう話すとエアグルーヴが話してくる。

 

「ハンターさん、エル、準備は…?」

 

「大丈夫だ」「OKデース!」

 

 俺とエルは同時にそう返す。

 

「ヒシアマー!しっかり着順見といてくれよー!」

 

 俺がそう叫ぶと「分かってるー!」という声がゴールにいるヒシアマから帰ってきた。

 

 

 

「それでは、よーい…はじめっ!」

 

 

 

 エアグルーヴの号令と共に、俺は一気に加速していく。

 

 逃げはあんまりやったことがない。やったのは併走を含めて数度だけだ。

 

 …まあできないわけじゃないが。単純にギアを変えるのを早くするだけだ、それ以外の何でもない。距離も長距離じゃなくて中距離だしな。

 

 俺はガンガン後ろを気にせずに加速していく。

 

 …逃げは孤独だ。今回の相手はエルだけだが、本番のレースとなれば十数人が俺を目指して走ってくる。

 

 …今もエルの息遣いが後ろから聞こえてくる。いつもだったらこれが俺の前から聞こえてくるんだけどな。

 

 やっぱなんともいえねーな。この空気感は。

 

 途中で再加速できる脚、そしてこの何とも言えない空気に耐えるためのメンタル。逃げウマとしてはこの二つが重要だ。

 

 …ホントにスズカは毎度毎度よくやるよ。

 

 そういえばこの前「先頭のさらにその先を目指したい」って言ってたからな…。

 

 

 

 俺は第4コーナーを回り、ホームストレートへと入っていく。

 

 …ちっ、やっぱ追い込みの時に比べたら足が重いな。でもここからが勝負だ。

 

 エルも最大スピードで追いかけてくる。

 

 もう一度、加速する!

 

 俺は一気に再加速していく。

 

 …ゴールは見えた。エルも2バ身くらい後ろにいる。

 

 俺が併走トレーニングだとは言え、こんなとこで負けるわけにはいかねーんだ!

 

 俺はそのままスピードを維持しつつ、ゴールへと飛び込む。

 

「ゴール!」

 

 …走り終わった俺は息を整えていく。

 

「…あっぶねー、ワンチャン負けるとこだったよ」

 

 エルはそう話す俺に膝に手をつきながら話していく。

 

「いや、ワタシも限界だったノデ多分追いつけなかったデース…。さすがはハンターさんデスよ…」

 

「おいおいエル、クラシックの後で走ることになる本気のスズカの逃げはこんなもんじゃねーぞ?

 

 お前もしっかりトレーニング積んでいけ。

 

 俺も空いてるときなら手伝ってやるからよ」

 

「了解デース…」

 

 俺は東条トレーナーの元へと戻りながら、エルにそう話していった。



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28話

「…てなわけでタイキとスぺの模擬レースが決定した」

 

 俺はスピカの部室でそう告げる。

 

「タイキ先輩って…、確か去年G1二連勝だろ?」

 

「マイルチャンピオンシップ、スプリンターズステークスで…」

 

「つえ」

 

「相手にとって不足無しじゃん!」

 

 スピカの面々がそれぞれの感想を話していく。

 

 なお沖野さんはこの話をする前に思いっきり蹴っておいた。

 

 そんな中、スズカは「…反対です」と静かに告げる。

 

 スぺの体重が増えてるし、無理して怪我をする可能性があるというのが主な理由だ。

 

 そんな中、復活した沖野さんが話していく。

 

「…確かにタイキシャトルは短距離最強だ。今のお前じゃ勝てないかもな。

 

 だが、強くなるためには自分より強い相手にぶつかるのが一番の近道だ」

 

 スぺは「…強くなれますか?」と話し、沖野さんは話を続けていく。

 

「1度の本番で得られることは、トレーニングの数倍はあると思ってる。

 

 …今はグダグダ考えずに、走って来い!」

 

「はい!」

 

 沖野さんの言葉にスぺは元気よくそう返した。

 

「…スズカさん、私やってみます!」

 

「…分かったわ」

 

 スズカにそう話したスぺの目にはしっかりとしたものがあった。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「…さて、どんなもんかな」

 

 俺はスタンドの上からターフを眺める。

 

「…ハンター、君はこの勝負どう見るんだ?」

 

 そんな俺にルナが話しかけてきた。

 

「…うーん、さすがにタイキが勝つかな」

 

 そう手すりに頬杖をつきながら話す俺にルナは驚いた表情を見せる。

 

「…ハンターなら、評価してるスペシャルウィークが勝つと言うと思ったんだけどな」

 

「評価してるからこそこう言ってるんだよ、ルナ。

 

 今回のレースはスぺがしっかりとピッチ走法をものに出来てるかどうか、これが主題なんだ。

 

 短距離最強のタイキ相手に今のスぺがどれだけ迫れるか、俺はそれを見てる。

 

 最後までしっかり詰めることが出来るのなら上々ってとこだろ」

 

 俺はルナの言葉にそう返していった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「…まっさかあそこまでタイキを詰めるようになってるとはな」

 

 俺はレースを終えたスぺを見てそう呟いた。

 

「ハンターとしてもこれは計算外か?」

 

 ルナの言葉に俺は「ああ」と頷く。

 

「…俺的に1、2バ身は離されるって思ってたからな。

 

 あそこまで競ってくれるのなら、いい意味で計算外だよ」

 

「…トレーナーが話していたが、エルコンドルパサーもダービーに出るそうだ。

 

 群雄割拠、今年の日本ダービーは一段と面白くなりそうだな」

 

「ああ。俺達としても盛り上げ甲斐があるってもんよ。しっかりやっていこうぜ?」

 

「もちろんだ」

 

 俺とルナはターフの中で出来ている輪を眺めながらそう話した。



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第?R 「ハンター、怪物と出会う」
29話


ハンターのカサマツ時代編をかいてみました。合間合間に放り込んでいく予定です。…次は第5R編か、カサマツ編か、どっちにしようか…。


 ある日の昼。

 

 俺はオグリ達と共に昼食を取っていた。

 

「にしてもよく食うねオグリは…」

 

 相変わらずオグリの皿の上には大量のご飯が載せられていた。

 

 そんな中タマが俺に話しかけてくる。

 

「そういえばオグリって昔からこんなに食うとるんですか?」

 

「ああ。初めて会った時の衝撃は強烈だったよ」

 

 俺は無言で食べ続けるオグリを見ながらそう話す。

 

「そういえばハンターさんとオグリちゃんの出会いって聞いてなかったですね〜。一度聞いてみたいです〜」

 

 クリークがそう話してきた。…そういえば話してなかったか。

 

「あー…、じゃあ話させてもらうよ。

 

 俺とオグリの出会いの話」

 

 俺は昔を懐かしむように語り始めた。

 

 

 

 

 

 …カサマツトレセン学園、食堂。

 

「…次も絶対負けられねえ」

 

 俺はピリピリとした雰囲気を醸し出しながら昼食をとっていた。

 

 …ちなみにだがカウンター席に一人の状態。

 

 周りからは俺が出す空気を感じ取ったのか誰もいない。…まあ仕方ないだろうな。

 

 そんな中、俺の元へと近づいてくる人影が一つ。

 

「…すまない、隣いいだろうか?」

 

 …新入生だろうか、今まで見ない顔だった。

 

 というかそうじゃなかったら俺のことを知ってるから近づいてこないか。

 

「…別に構わないが?」

 

「…ありがとう」

 

 葦毛のウマ娘はそう言って隣に座る。

 

「…」

 

「…」

 

 …そしてしばしの沈黙が流れていく。

 

「…いや、飯多すぎじゃねえか?」

 

 俺は山のように積まれた昼食を見てそう呟く。

 

 …厨房の方を見てみると案の定、てんやわんやとなっている。

 

 いやここまで食うやつは流石に想定外だろうからな…。

 

「…そうだろうか?食べ放題だというから遠慮なく食べているのだが…」

 

「いや、食うことはウマ娘にとって必要なことだから問題はないんだけどよ」

 

 そう話しているときにある声が聞こえてきた。

 

「お、オグリちゃん!なんていう人と話してるの!?」

 

 そう叫んだのは栗毛の小柄なウマ娘。

 

「…ベルノか。いや、この人がここで食べていいって言うから…」

 

「相手が相手なの!なんであのシンボリハンターさんと食べてるの!?」

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 その後、栗毛のウマ娘に話を聞いたところ、とんでもないほど俺についての噂話に尾ひれがついてたので丁寧に訂正していった。

 

「さっきは失礼しました…、私は春から入学したベルノライト。…でこっちが」

 

「同じくオグリキャップだ。よろしく」

 

「シンボリハンターだ。ハンターでいいぞ」

 

 そう話していくとオグリがベルノに話していく。

 

「で、ベルノ。この人ってすごいのか?」

 

「いや、凄いも何もあのシンボリ家の出身でデビューから7連勝してるスーパーウマ娘だよ!?ここなら知らない人いないぐらい凄い人!」

 

 …うーん、オグリはなんというかマイペースと言うか。

 

 これベルノいなかったらオグリどうなってるんだろ。

 

「…でも、知られてないってことは俺もまだまだ実力が足りねえな。

 

 お前みたいなやつでも知ってもらえるように頑張るよ。

 

 …走ってたらどっかで会うかもな」

 

 俺はそう言いながら皿を片付けようと立ち上がる。

 

 …いや、まて。そういえばウチのトレーナーなんか言ってたな。

 

 

 

 

 

「…なー、ハンター。お前知り合いいねーのか?」

 

「…何言ってんすかジョーさん。この辺り出身でもないしあからさまに壁造ってる俺に知り合いなんていないっすよ」

 

 北原穣。俺のトレーナーだ。俺はジョーさんと呼んでいる。

 

 俺の走りを見てスカウトしようとするトレーナーは多かった。

 

 …だが、俺が「いずれ中央に行きたい」と話すとその輪は一気に崩れていった。そんな中、残ってくれたのがジョーさんである。

 

「いやー、もうすぐお前さん中央に移籍するんだろ?ならハンターの伝手で新しいウマ娘探しておこうかなって思ってな」

 

 そう話すジョーさんの言葉に俺は首を横に振る。

 

「無理っすよ。ここに入学してからずっと一人で来てるんで。俺が他のウマ娘と話してるとこ見たことあります?」

 

 俺がそう話すとジョーさんは「だろうけどよ…」と続けていく。

 

「まあ有望そうなウマ娘見つけたらここに連れてきてくれ」

 

「まあ話せたらっすけどね…。努力はしてみますよ」

 

 

 

 

 

 …うん、丁度いい。それに二人もいる。

 

「なあ、お前らってもうトレーナー決めてたりするのか?」

 

「い、いえ…」

 

 ベルノはそう話していく。オグリも同様のようだ。

 

 なら話が速い。

 

「今日の放課後、食堂の前に来てくれないか?紹介したいトレーナーがいるんだ。俺のトレーナーなんだけど」

 

 俺は二人に対して、そう話していた。



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30話

 その日の夕方。

 

「…来てくれたか、2人とも」

 

 俺はオグリとベルノを見てそう呟いた。

 

「…あ、あの…、まだ私たち選抜レースとかもやってないんですけど…」

 

 ベルノライトはおどおどしながらそう話す。

 

「…俺はそのうち中央に行く予定だからな。その前に誰か紹介してくれってトレーナーから言われてたんだよ。

 

 …とはいえ、俺はここ出身じゃないし、友達もいねえ。

 

 どうしようかって思ってたらオグリが隣に来たから誘っただけだ」

 

 俺は歩きながら続けていく。

 

「…見た限り、新入生だろ?ちょうどいいなって思ってな。

 

 …まあ悪いトレーナーじゃないことは俺が保証するから安心してくれよ」

 

 俺はそう言いながら二人を連れて部室へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「…ジョーさん、入りますよー」

 

 俺は部室の扉を開ける。

 

「…お、ハンターどうした…ってマジで連れて来たのかよお前!?」

 

 俺が「…マジですよマジ」と返して、そのまま続けていく。

 

「葦毛の方がオグリキャップ、栗毛がベルノライト。一応新入生で、選抜レースもまだらしいっす」

 

「了解だ。俺は北原穣、このハンターのトレーナーやってる。…ん、どうした?」

 

 オグリはまじまじとジョーさんの顔を見ている。

 

「…キタハラジョーンズ…」

 

「あー!それは内緒にしといてくれ!な!?」

 

 ジョーさんはオグリのぼそっと呟いた声に反応する。

 

「…んで、ハンター。こいつらのタイムとか分かるのか?」

 

「いや?」

 

 俺はそう首を横に振る。

 

「え?」

 

 ジョーさんは俺の声にそう返答してくる。

 

「いや、昼飯の時にちょうど知り合っただけなんで、タイムもなにもないっすよ」

 

「マジかよ!?…あー、じゃあ一応お前らのタイム測らせてもらうぞ。

 

 オグリキャップはもう着てるけど、ハンターもベルノライトも体操服に着替えてグラウンド集合な」

 

 オグリはもう着替えていたが俺とベルノは体操服に着替えてグラウンドに向かった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「…とまあ、ここまでがオグリと俺の出会いだな」

 

「…やっぱ、最初は飯関係の話やったんですね…」

 

 俺の話を聞いてタマはオグリの方を見ながらそう話す。

 

 オグリは相変わらず無言で食べ続けている。

 

「まあ、そこから俺は10連勝まで連勝伸ばしてこっち来て、オグリとベルノもこっち来てくれて。

 

 …ま、お前らの知ってる通りだよ」

 

 俺はそう言いながら「ごちそうさまでした」と手を合わせる。

 

「お、ハンターさんもう行っちゃうのかい?」

 

 食器を片付けようとした俺にイナリがそう話しかける。

 

「まあな。この後もトレーニングだったり生徒会の仕事だったり。

 

 ダービー終わったら学園祭も近づいてくるからその辺りの調整もしとかいないとだし。

 

 ウチのスぺのダービー特訓にも手伝わないとだし。

 

 ルドルフが背負いこみすぎるからそれのカバーもしないとだし…。

 

 生徒会副会長は色々と忙しいのよ」

 

 俺は返却棚にトレーを置いて、食堂を後にした。



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第5R 「ライバルとのダービー」
31話


 

 タイキとの模擬レースを経て、スぺのダービーに向けての特訓もヒートアップしてきた。

 

「スぺー、しっかり走れよー。

 

 ピッチ走法をマスターしたとはいえ、それと今までのストライド走法を切り替えできなきゃ諸刃の剣だ。

 

 ダービーにはスカイやキングだけじゃなくてエルもでるんだ。しっかり体に叩き込め!」

 

「は、はい!」

 

 スぺは俺の声にそう返す。

 

「よーい、スタート!」

 

 俺の声と共に、スぺはスタートを切る。

 

 上からは沖野さんの声が聞こえてくる。

 

「今度のダービーは、今までより長い!疲れ切った後半に坂があるんだ、これ位でへばるなよ!」

 

 スぺは一気に駆けあがっていく。

 

 そして沖野さんから俺に声がかかる。

 

「ハンター!今から一本行くぞ、行けるな?」

 

「了解っす!」

 

 そう答えて俺は階段の前に立つ。

 

「よーい、スタート!」

 

「しゃあっ!」

 

 俺は一気に階段を駆け上がっていく。

 

「は、はやっ!?」

 

「スぺ先輩よりも圧倒的に…!?」

 

 俺の走りを見てウオッカとスカーレットはそのスピードに驚く。

 

「…あいつは重バ場、ダートに坂、どんなとこでも走れるのが強みだ。それに加えてスピードもあのシンボリルドルフ並みにある。

 

 それを組み合わせれば…」

 

 俺はその勢いのまま沖野さんの前を通り過ぎていく。

 

「…これぐらいできるって訳だ」

 

 沖野さんが見せるストップウォッチには38秒の文字が示されていた。

 

「さ、38…!?」

 

「エグイな」

 

 俺は息を落ち着かせて、沖野さんに話を聞く。

 

「ちなみにさっきのスぺのタイムどれぐらいっすか?」

 

「42秒。ダービーを考えれば40秒は切ってほしいところだ」

 

 そう話していると。スぺは階段を下りて行っていた。

 

「トレーナーさん、ハンターさん、もう一本お願いします!」

 

 俺はそれを見て呟く。

 

「…まだまだできそうだな、スぺ」

 

 俺はスぺの後ろを追うように階段を下っていった。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 生徒会室にて。

 

「ハンター、これを頼むよ」

 

「おっけ、ってかそれも俺たちにやらせろ。お前じゃなくてもいい仕事だろ?」

 

「そうです、会長はもっと私たちを頼って下さい。ブライアン、これやれ」

 

「分かった」

 

 …いつもの生徒会業務である。

 

「ダービーが終わったら、感謝祭か…」

 

 ルドルフがペンを動かしながらそう話す。

 

「…だな」

 

 俺はそう返してエアグルーヴに続けていく。

 

「エアグルーヴ、要望とかどんなもんだ?」

 

「それならこちらに…」

 

 エアグルーヴが示した先には大量の書類の山があった。

 

「…毎年、この量は何とかならないものか」

 

 ブライアンがそう呟くが、ルドルフが宥める。

 

「まあいいだろうブライアン、それを議論していくのも我々の仕事だ。

 

 談論風発。しっかりとした議論を交わしていこう」

 

「そうだな」「分かってます」「…ああ」

 

 ルドルフの言葉に俺達3人はそう返していった。



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32話

 

 …いつもの神社の石段でスぺの特訓を手伝っているとテイオーがマックイーンを連れてきた。

 

「お、マックイーンじゃねーの。どうしたんだ?」

 

 メジロマックイーン、名門メジロ家の御令嬢にして次世代を担うステイヤーだ。

 

「ハンターさん、テイオーに連れられてきたんです。

 

 ゴールドシップが入らないとパイルドライバーだと言うので…」

 

 …そして。

 

「さすがはメジロ家の令嬢。均整のとれた神々しい、ぐはぁっ!

 

 …ウチのトレーナーは相変わらずである。

 

「な、何するんですの!?」

 

「…あーあ、やっぱマックイーンはウチに合わないねー」

 

「だから昨日からそう言っていたでしょう!」

 マックイーンはテイオーの言葉にそう返していく。

 

 そんな中ゴルシがマックイーンに近づいていく。

 

「テイオーでかした!メジロマックイーン、早速ここにサインを!」

 

 ゴルシの言葉にマックイーンは「見学してからです!」と返すとゴルシは涙目になる。

 

「でも、私は、お前と、走りたくて、…うう」

 

 …うん、バレバレだぞゴルシ。

 

 俺はゴルシの嘘泣きを見てそう思っていたのだが。

 

「ちょ、ちょっと泣かなくてもいいじゃありませんか!別に入らないと言ってるわけじゃないんですから!」

 

 …おい、メジロ家の御令嬢。単純にも程ってもんがあるだろ。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「行けるなスぺ、限界を越えてみせろ!」

 

「はい!」

 

 俺はスぺに向けてそう声をかける。

 

 そんな中、スズカが体を動かす。

 

「え、スズカさんも走ってくれるんですか!?」

 

「私の背中を追い越してね?」

 

 スぺは「よろしくお願いします!」とお辞儀して構えていく。

 

「沖野さん、こっち準備オッケーです!」

 

「よっしゃ、スぺ!40秒を切れなかったらダービーなんて勝てるわけねーぞ!」

 

 階段の上から沖野さんの声が聞こえ、スぺは「はい!」と返事する。

 

「よーい、スタート!」

 

 俺の声と同時にスズカとスぺが一気に駆け上がっていく。

 

 恐らくトゥインクルでは最高峰であるスズカのスピードにスぺは思いきり叫びながら喰らいついていく。

 

 そのままスズカとスぺは沖野さんの前を通り過ぎる、

 

 その後、上からスぺの怒った声が聞こえてくる。

 

「ハンター、すまねえがタイム測り忘れてたからもう一本頼む!」

 

 …多分これ40秒切ったろ。

 

「…了解でーす」

 

 俺は沖野さんの言葉にそう返した。

 

 その後、何本か走った後、俺は階段を登ると、スぺとスズカ以外のメンバーは地面に座り込んで何かを探しこんでいた。

 

「…お前ら何してんの?」

 

 俺がそう聞くとスカーレットとウオッカが返してくれた。

 

「ああ、四葉のクローバーさがしているんです」

 

「ほら、「ダービーは最も運のいいウマ娘が勝つ」って言うじゃないっすか、それのゲン担ぎっすよ」

 

「にしてもマックイーンまでやらなくてもいいんだぞ?」

 

 俺の言葉にマックイーンは「いえ」と続けていく。

 

「私なりにスペシャルウィークさんに関わることができることを考えてしてるだけです。

 

 メジロ家の名を汚さないよう、必ず見つけてみせますわ」

 

「…いや、別にこれ位で汚れることないだろ。まーやるんだったら頑張れ」

 

 俺が戻ろうとするとゴルシが俺の肩に手を回してきた。

 

「なに関係ないって顔してんだよハンター。お前もやるんだよ」

 

 …え。

 

「あのさ、俺この後生徒会の仕事あるんだけど。学園祭も近いし…」

 

 俺がそう話すとゴルシはいつもとは違い、真剣な目で話してくる。

 

「…生徒会と後輩、お前はどっちが大事なんだ?言わなくてもわかるだろ?」

 

 …そう言われたら断れねーじゃねーかよ。

 

「…分かったよ、さっさと見つけるぞ。この後色々と予定詰まってんだから」

 

 俺はそう言って四葉のクローバーを探し始めた。

 

 …なお、四葉のクローバーのクローバーはマックイーンが「ありましたわ!」と言いながら見つけていた。



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33話

 東京優駿、またの名を日本ダービーはすぐにやって来た。

 

 レース当日、東京レース場の地下バ道。

 

「お、きたきた!」

 

 ウオッカが勝負服に身を纏ったスぺの姿を見て言う。

 

「ど、どうも…」

 

 スぺは結構緊張してるみたいだった。

 

 …まあダービーは人の入り凄いし、勝負服着たら一気に気持ちはいるし。

 

「緊張してるみたいね」

 

「限界を越える力が出せるのか心配で…」

 

 スズカの言葉にそう答えるスぺに、スズカはスぺの頬に手を当てて話していく。

 

「あれだけ坂の練習したんだもの。後は思いっきり、楽しんで!」

 

「は、はい!」

 

 俺もスズカに続けるようにスぺの頭を乱雑にかき回していく。

 

「は、ハンターさん?」

 

「…俺が教えれることは全て教えたつもりだ、後はお前がいつも通り走るだけだよ。

 

 そうすりゃ、限界以上の力は出せるはずだ。

 

 …自分を信じろ、スぺ!」

 

「は、はい!」

 

 そう答えるスぺにゴルシが「ほらよ」とあるものを渡す。

 

「…これ、四つ葉のクローバー?」

 

「はい!みんなでさがしたんですよ」

 

「ダービーは、最も幸運なウマ娘が勝つんですよね」

 

「なかなか見つからなくって結局」

 

「マックイーンが見つけてくれたんだよな」

 

「お、思わず目にとまったものですから…」

 

 スピカの面々はそう各々話していく。

 

 テイオーはマックイーンに向けて続けていく。

 

「すっかりチームに貢献してるよね!」

 

「…努力は報われるべきです」

 

 スズカはマックイーンに続けるように「これで運もスぺちゃんの味方ね」と話していく。

 

「み、みんな!それにメジロマックイーンさんも!ありがとうございます!

 

 私、すごく幸せです!」

 

 スぺの言葉に、俺は苦笑いしながら続けていく。

 

「…おいおい、それはレースで1位とった後だろ?

 

 …しっかりタイトル、勝ち取って来い!」

 

「はい、ハンターさん!

 

 …みんな、行ってきまーす!」

 

 そう言ってスぺはターフへと走っていった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「スぺ、小さいなー…」

 

「…トレーナー、それ逆っすよ」

 

「緊張しすぎでしょ…」

 

「ば、バカ、緊張なんてしてねーよ!」

 

 沖野さんは緊張しているのか、俺が指摘するまで双眼鏡を逆に構えていた。

 

 …まあ気持ちが分からんでもないけど。

 

 俺も結構緊張してるし、これがダービーってもんなんだろう。

 

 そう思ってるとウオッカが俺に話しかけてくる。

 

「そういや、ハンターさんってダービー出てないんすよね?」

 

「ああ。クラシック登録できてなかったからな」

 

 そう返すとテイオーが俺に返してくる。

 

「ダービーに憧れはあるの、ハンター?」

 

「…まあ俺の年はルドルフがいたからな。

 

 ある程度は諦めも付いたけど。ないって言ったら噓になるかな。

 

 …まあ俺の技術はスぺに叩き込んだ。

 

 これでスぺが勝ってくれるのなら、俺は満足だよ」

 

 俺はそう言いながらターフへと目を向けていった。

 

 



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34話

 

 東京レース場にダービーの始まりを告げるファンファーレが響き渡る。

 

 重低音がレース場を揺らし終わると同時に、ウマ娘たちは続々と次々とゲートインしていく。

 

 

 

 …そして。

 

 

 

 今、ゲートが開かれ、ウマ娘が一斉にスタートした。

 

 やはりダービー、観客のボルテージもMAXである。

 

 先頭には3人、その中にはキングもいた。

 

 その後ろにはスカイ、スぺとエルはその後方に控えている。

 

 …大丈夫か、キングがあれだけ飛ばしてるの見たことないぞ?

 

 第2コーナーで先頭はキングのまま、スカイが2番目に位置取りしている。

 

 スぺは中団、しっかりスリップストリームを得られる位置だ。

 

 その少し後ろにエルもいる。恐らく最後に思いきりぶっ差してくるのだろう。

 

 レースはそのまま第3コーナー。

 

 …ここでスカイが仕掛ける。

 

 スカイはキングを交わして一気に先頭に躍り出る。キングも喰らいつこうとするが表情は厳しい。

 

 さらに後ろから、スぺも仕掛けていた。

 

 スピカの面々からも応援の声が飛んでいく。

 

 残り400m、東京レース場の急坂にスカイとスぺは入っていく。

 

 …スカイはそのまま逃げ切る形だ、皐月賞のように逃げ切りたいだろう。

 

 だが、スぺの足は落ちない。

 

「…しっかり切り替えできてるな」

 

 …一言、俺はそう呟く。

 

 スぺはピッチ走法に切り替えて、加速力は維持したままスカイに迫っていく。

 

 …そして、坂の半ばでスぺは再加速した。

 

 スカイとの差は縮まっていき、一気に置き去っていく。

 

 …だが、後ろからスぺに迫るウマ娘が一人、エルである。

 

 エルはスカイを一気に置き去り、スぺに迫っていく。

 

 そして、ラスト200m少し前ぐらい。エルはスぺを追い越し、一気に2バ身程離していった。

 

 ここでこれだけ離されてしまえば気持ちが折れるウマ娘もいるだろう。

 

「…まだいけるよな」

 

 スぺの目にまだ火は灯っていた。

 

 スぺが話してくれたお母さんとの約束、「日本一のウマ娘になる」という夢。

 

 それを叶えるためにも、ここで負けるわけには行かないんだ。

 

 いつも物静かなスズカを含めてスピカの面々から大きな応援の声があがる。

 

「…差し返せ、スぺ!」

 

 俺も自然とそう声が出ていた。

 

 俺たちの声が聞こえたのか、…スぺが吠えた。

 

 今まで出したことのないような大声を出しながら、エルとの距離を縮めていく。

 

 そしてスぺはエルと距離を無くし、並ぶ。

 

 どっちが勝つか、スタジアムは最高潮に盛り上がっている。

 

 …そして。

 

 二人はほぼ同時タイミングでゴール板を駆け抜けた。

 

 …その直後、スペは勢いよく転倒した。

 

「スぺちゃん!」「スぺ!」

 

 俺とスズカは柵を乗り越えてスぺの元へと駆けよっていく

 

 スズカはスぺを抱きしめて、俺はスぺの手を肩に回して支える。

 

「…スズカさん、ハンターさん、私限界超えられましたか…?」

 

 そう話すスぺにスズカと俺は笑う。

 

「えぇ…!」

 

「ああ。…よくやったな、スぺ」

 

 俺が確定板を見ると写真の文字が灯っていた。

 

「…珍しいな、写真判定」

 

 …ダービーという大舞台で写真判定という大接戦だ。

 

 観客を含めて、レース場全体は沈黙に覆われる。

 

 …そして、判定結果が出た。

 

 確定板に出た文字は…

 

 

 

 

 

     5

 

     1

 

 

 

 

 

 …スペシャルウィーク1着、エルコンドルパサー2着。

 

 それを示す数字が確定板に灯っていた。




 …悩んだ末にこの結果にしました。

 色々考えることはあると思いますが後悔はありません。



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35話

「や…、やったー!スズカさん、ハンターさんやりました!」

 

 スぺはそう言いながら俺とスズカに抱き着いてくる。

 

「ええ、おめでとう!」

 

「ああ、よくやったぜ。俺はお前を誇りに思うよ」

 

 スズカは改めてスぺを抱きしめ、俺はスぺの頭を撫でる。

 

 そんな中、エルが俺達に近づいてきた。

 

「…スぺちゃん」

 

 …このエルはいつも俺たちが見ているエルとは違った。

 

「…ありがとう。

 

 ワタシ負けたけど、今まででいっちばん楽しいレースでした!」

 

「…私も!エルちゃん、ありがとう!!」

 

 スぺはエルにそう言いながら抱き着いた。

 

 東京レース場から惜しみない拍手が送られる。

 

 エルにとっては初めての敗北だ。悔しさもあるだろうが、間違いない。

 

 …これは素のエルだ。

 

 スぺがスピカの面々にもみくちゃにされてる中、俺はエルに近づき話す。

 

「…素に戻ってたな、エル。久々に見たよ」

 

 エルは俺と同じように小声で返してくる。

 

「今の素直な気持ちを伝えたくて、いつものワタシじゃダメだなって…」

 

 そのままエルは続けていく。

 

「…でも、負けるっテ…、こんなに悔しいんデスネ…」

 

 エルの目には涙が浮かんでいる。

 

 ここまで負けなしで突っ走って来たんだ。その悔しさは計り知れない。

 

 俺はエルの頭に手をポンと置く。

 

「…ああ。こっからどうするか、それはお前の頑張り次第だ。

 

 この後東条さんやルドルフにしっかりしごいてもらって来い。俺も時間空いてるなら走ってやっからよ」

 

「…ハイ!」

 

 エルは俺にそう元気よく返した。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 …ダービーから戻ってきて。

 

「も、もう一本…!」

 

 俺はトレセン学園のダートコースを走っていた。

 

 …1週間後、サマードリームトロフィーの予選第2戦がある。

 

 ここで勝つことが出来れば、本戦への出場確定だ。

 

 …ドリームトロフィーを連覇している俺が、予選で終わって良いわけがない。

 

 それにHuntersに聞いたところ、第2戦用、本戦用と別の応援歌を用意してくれたそうだ。

 

 その期待に答えないわけには行かない。

 

「よっしハンター、ラスト一本、全力で行け!」

 

 沖野さんからそう俺に声がかかる。

 

「よーい、スタート!」

 

 俺は土煙をあげながらダートを駆け抜けていく。

 

 …俺のライバルは、間違いなくアイツ、スマートファルコン。

 

 俺が去った後のトゥインクルシリーズのダートを盛り上げ続けた第一人者だ。

 

 あいつの走り方は…とにかく逃げる。アイツの大逃げはスズカにも劣らないだろう。

 

 …追い込みを信条とする俺にとっては、良い相手だ。

 

 ファル子も恐らく勝って、本戦でぶつかる筈だ。

 

 そのためにもここからしっかり準備して行かないとな。

 

 俺はいつものようにスピードを上げていった。



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36話

 …阪神レース場にて。

 

 

 

 

 

カサマツ

 

中央

 

フランス

 

ハンター!

 

ゴーゴーレッツゴー!ハンター!

 

 

 

俊足飛ばして

 

ダートを駆け抜けろ

 

魅せろ今だハンター

 

勝利へ導け

 

ゴーゴーレッツゴー!ハンター!

 

 

 

俊足飛ばして

 

ダートを駆け抜けろ

 

魅せろ今だハンター

 

勝利へ導け

 

ゴーゴーレッツゴー!ハンター!

 

 

 

 

 

 

 応援歌を聞きながら俺は入場する。

 

 …やっぱ気持ちいいわコレ。導入してよかった。

 

「ハンターさん、ガンバって下さい!」

 

「今日もエグイ追い込み期待してます!」

 

 スカーレットとウオッカから俺にそう声がかけられ、俺は二人の頭の上にポンと手を置く。

 

「ああ、任せとけ」

 

 そして沖野さんから俺に声がかかる。

 

「…ハンター。作戦はいつも通りお前に任せるが、これからのトレーニング予定は今日お前が勝つ前提で組んでいる。

 

 思いきり、ぶっ差して来い!」

 

「了解っす、トレーナー」

 

 俺はそう言ってゲートへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 …阪神レース場、天候は快晴、ダートは乾いている。

 

 レース条件は良好だ。

 

 俺はいつもの定位置、8枠18番の大外ゲートに入る。

 

 他のウマ娘達も続々とゲートに入っていく。

 

 …俺は胸に手を当てふうっと一呼吸して構えをとる。

 

 

 

 そして。

 

 

 

 ガタンッ!

 

 

 

 ゲートが開くと同時にウマ娘たちは走り始めた。

 

 逃げや先行が得意なウマ娘が続々と前方に行くが、俺はしっかりとスリップストリームを得られる位置で足を貯める。

 

 …今日は阪神だけど、いつも通り最終コーナーで思いきり加速しよう。

 

 そして、スタンドのサポーターからは大声援が響き渡る。

 

 今日もHuntersの大声援が俺の耳に聞こえてきた。

 

 

 

 

 

♪♪♪

 

♪♪♪

 

♪♪♪

 

♪♪♪

 

 

 

ハンター Callin’ Callin’

 

ハンター Callin’ Callin’

 

ハンター Callin’ Callin’

 

オオオオ

 

 

 

ハンター Callin’ Callin’

 

ハンター Callin’ Callin’

 

ハンター Callin’ Callin’

 

オオオオ

 

 

 

 

 

 …Callingか。ホントに良い選曲してくれるよ。

 

 俺は走りながらそう感じる。

 

 第3コーナーを回って、最終コーナーをに入る直前。

 

 …俺はいつも通りギアを変えていく。

 

 俺は外側を一気に捲って、1位争いへと食い込んでいく。

 

 …土煙をあげながら俺は先頭へと迫っていく。

 

「…行けるな」

 

 先頭の位置を確認して俺は確信する。今日も獲れる…と。

 

 …坂に入りながら、ピッチ走法に変えた俺は一気に駆けあがる。

 

 先頭も3バ身、2バ身、1バ身と着々と近づく。

 

 そしてゴールから50m前、俺は先頭にいたウマ娘を追い抜いた。

 

 …うん、足もいつも通り残ってるな。

 

 俺はその勢いのままいつものように、右手を突き上げてゴール板を通過した。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 俺のゴールと同時に、Huntersのチームフラッグが大きく上がり大歓声が阪神に響き渡る。

 

 俺は柵を乗り越えて。阪神の芝を膝立ちで滑りながら大きく叫ぶ。

 

 俺の「狩人の咆哮」に答えるようにHuntersから勝利の曲が流れてきた。

 

 

 

 

 

止まらねえ 俺達のハンター

 

暴れろ 荒れ狂え

 

ラララ ラララララ

 

叫び オイ! 歌え

 

 

 

止まらねえ 俺達のハンター

 

暴れろ 荒れ狂え

 

ラララ ラララララ

 

叫び オイ! 歌え

 

 

 

 

 

 勝利のSee offの後、太鼓の音と共に「シンボリ、ハンター!」のコールが何回もこだましていく。

 

 …さて、これで俺の本戦出場は確定だ。

 

 しっかりと準備させてもらうとしよう。

 

 俺はHuntersの声援に答えるように手を叩きながら頭を下げた。




 …今回のチャントは旧ロッテチャンステーマ4。通称『Calling』。

 …MVP時代のロッテの応援は凄いのよ。もちろん今でも凄いんですけど…。

 個人的にはこの曲は里さんのイメージが強いですね。


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第6R 「天高くウマ娘肥ゆる秋」
37話


 スズカの宝塚記念。

 

 エアグルーヴやキンイロリョテイみたいな強いウマ娘はいたものの。

 

 …見事にぶっちぎって見せた。

 

 ちなみにだがスズカはこれが初のGⅠタイトルだったらしい。

 

 

 

 そして、俺は最終調整に入っていた。

 

「スカーレット、頼む!」

 

 俺は前方200mぐらいにいるスカーレットにそう返す。

 

「了解です!」

 

 スカーレットからも元気な返事だ。

 

「じゃ、行くぞー。…よーい、スタート!」

 

 俺とスカーレットは同時にスタートを切る。

 

 ちなみにコースはスカーレットに合わせて芝である。

 

 …俺は前をひたすら走るスカーレットを追いかけていく。

 

 言うまでもないだろう、ファル子対策だ。

 

 スカーレットに少し前から走ってもらい、俺が仕掛けるタイミングを掴むトレーニングだ。

 

 サマードリームトロフィーの行われる場所は中山。…基本的にドリームトロフィー本戦はここで行われることが多い。

 

 …さすがにスズカは宝塚記念を走ったばっかりだったのでスカーレットに頼んだ。

 

「…ここっ!」

 

 俺はいつもより早めに第3コーナーと第4コーナーの中間地点ぐらいから仕掛けていく。

 

 …ここから仕掛けるのはあまりない。マルゼンやルドルフと走る時ぐらいか。

 

 俺はぐんぐん差を近づけていく。

 

 …だが、俺は脚は届かなかった。

 

 僅かにスカーレットが速く、ゴールを通過する。

 

「…くっそ、あそこからだとだめか…」

 

 俺が膝に手をついて息を整えていると沖野さんが近づいてくる。

 

「ハンター、今脚は残ってるか?」

 

「まあ残ってますけど…。仕掛けるギリギリは第3コーナーですかね。

 

 多分それ以上になると最後タレます」

 

「…しかも中山だからなー。坂のこと考えたらもっときつくなるぞ」

 

 俺と沖野さんはそう話していく。

 

「だったら、今仕掛けたポイントからは速く、第3コーナーよりは後ってことですか?」

 

 俺はスカーレットに「ああ」と答えて続けていく。

 

「あの辺のどこかだな…。少しでも仕掛けるのが早かったら最後タレるし、逆に遅かったら力を出し切れないし…」

 

 そう話す俺に沖野さんが話してくる。

 

「まあ、ハンター。直前まで何回かトレーニングしていくからその間に自分のタイミングを掴んでくれ」

 

「了解っす。スカーレットも付き合わせて悪いな」

 

「いえ、これ位ならいつでもオッケーですよ!」

 

 俺がスカーレットに話すとスカーレットはそう返してくれた。

 

 サマードリームトロフィーが終われば9月の学園祭にかかりきりになる。しっかりと勝って終わらせないとな。

 

 俺は近づく本戦に向けて着々と準備を続けていった。



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38話

 中山レース場。

 

 …サマードリームトロフィーダート本戦当日。

 

「…にしてもここまで入るとはなー」

 

「確かにそうですねー」

 

 俺とファル子はレース場のスタンド全体に漂う熱気を感じてそう話す。

 

「でも、お前と走れて嬉しいよファル子」

 

「私もです、しっかり逃げ切りますよ!」

 

 俺はファル子の頭を撫でながら話していく。

 

「言うようになったなファル子。

 

 ま、俺の連覇記録もかかってるからしっかり追い込ませてもらうとするよ」

 

 そう話しているとファル子が入場のため、呼ばれていった。

 

 そしてスタジアムに選手紹介の声が響き渡っていた。

 

 

 

『…全国のダートを制したウマドルがドリームトロフィー初出場初制覇を狙う!

 

 1枠1番、‟砂塵のハヤブサ”、

 

 

 

 スマート、ファルコン!

 

 

 

 ファル子は観客席に手を振りながらフィールドに出る。

 

 そして、ファル子の応援歌はというと。

 

 

 

 

 

走れ疾風(かぜ)のように

 

全速力で

 

砂塵巻き上げて

 

走れファルコン

 

 

 

ゴーゴーレッツゴー ファル子!

 

 

 

走れ疾風(かぜ)のように

 

全速力で

 

砂塵巻き上げて

 

走れファルコン

 

 

 

ゴーゴーレッツゴー ファル子!

 

 

 

 

 

 ファル子はファル子自身のサポーター、『ファル子親衛隊』から激烈な声援を受ける。

 

 ファル子は手を振って、大きく頭を下げる。

 

 観客席からは大拍手だ。

 

 …その後も他のウマ娘が次々に入場していく。

 

 もちろん、俺は大外の8枠18番を選ばせてもらった。不動の位置である。

 

 …まあ大外は誰も選びたがらないのでほぼ問題なく入れるのだが。

 

 そして入場はつつがなく進み、俺の番となる。

 

 運営の方にシューズや服などのチェックをしてもらって、俺は入場ゲートに立つ。

 

『…カサマツから世界へと飛び立ったダートの絶対的王者が自身のもつ連覇記録の更新に挑む!

 

 …8枠18番!‟無敗の狩人”、

 

 

 

 シンボリ、ハンター!

 

 

 

「…お願い、します!」

 

 俺は一礼してフィールドに出て行く。

 

 …今までより一回りも大きい歓声が中山に響き渡っていた。

 

 

 

 

ラララララララララ

 

ラララララララララ

 

ラララララララララ

 

ラララララ

 

 

 

行けシンボリハンター

 

夢見たその先へ

 

勝利を呼ぶ走りで

 

今魅せろ

 

 

 

…シンボリ、ハンター!

 

…シンボリ、ハンター!

 

…シンボリ、ハンター!

 

…シンボリ、ハンター!

 

 

 

ラララララララララ

 

ラララララララララ

 

ラララララララララ

 

ラララララ

 

 

 

行けシンボリハンター

 

夢見たその先へ

 

勝利を呼ぶ走りで

 

今魅せろ

 

 

 

…シンボリ、ハンター!

 

…シンボリ、ハンター!

 

…シンボリ、ハンター!

 

…シンボリ、ハンター!

 

 

 

 

 

 

 

 …まあ、贅沢に16小節も使ってくれちゃって…。でも今までの応援歌と比べても気分は上がる。

 

 ただでさえ、Huntersは他のサポーターと比べても熱い。…というか熱すぎる。

 

 今日もスタンドの一角で全員が飛び跳ねながら歌ってくれている。

 

 …この期待には答えざるを得ないな。

 

 俺は歌が終わった後拍手をして大きく頭を下げる。

 

 その後、俺はスピカの面々がいる場所へと向かう。

 

「ハンターさん、応援してます!」

 

「特訓の成果、しっかり見せてくださいね!」

 

「…ああ、もちろんだよウオッカ、スカーレット。

 

 特訓手伝ってくれてありがとな」

 

 ウオッカとスカーレットに俺はそう返していく。最終的にスカーレットだけでなくウオッカも手伝ってくれた。

 

「カイチョーも見に来るって言ってたよハンター。

 

 ボクのチームの先輩として情けないトコ見せないでよね!」

 

「…お前から聞かされなくても今日の朝に部屋で言われたっての、テイオー」

 

 テイオーの言葉通りだが、今日ここに来る前に部屋で「生徒会副会長として、『絶対』を見せて来い」とルナには言われている。

 

「…ハンターさんには言うまでもないことだとは思いますが、自分の走りをすれば自ずと結果はついて来ると思いますわ」

 

「ありがとな、マックイーン。そう言ってもらえるとありがたいよ」

 

 マックイーンからはそう話される。まあ相手に自分の走りを乱されないことは優勝するための最低条件だ。

 

「ハンターさん、ファル子先輩は強いです。…でも、勝てるって信じてます」

 

「ああ。ルドルフと戦ったときのことを思い出してるよ。でも俺も勝てるって信じてる。理由はないけどな」

 

 スズカにはそう返す。結構ファル子に絡まれてるからある程度は実力わかるのだろう。

 

「は、ハンターさん!私がダービー取れたのは間違いなくハンターさんのおかげです!ウイニングライブ、楽しみに待ってます!」

 

「スぺ、そう言ってくれるのなら教えた甲斐があるってもんよ。ライブ、楽しみに待っててくれ」

 

 スぺにはこう返す。…ホント、ダービー取れてよかったよ…。

 

「…にしても、やっぱりその服違和感しかねーな」

 

 そう笑いながら話してくるのはゴルシだ。ってかルービックやりながら話すな。

 

「…しゃーねーんだよ。ドリームトロフィーはこの服でって決まってんだ。

 

 この辺りとかヒラヒラしてて違和感しかねーよ

 

 まあもう慣れたけどな」

 

 俺はそう言いながら返していく。

 

 そんな中、沖野さんが俺に話してくる。

 

「ハンター、お前に言えることはただ一つだ。

 

 …思いきり楽しんで来い!」

 

 大一番、沖野さんはいつもこう言ってくれる。

 

 俺の実力を信じているからこそこう言えるのだろう。

 

「…了解です。連覇記録、伸ばしてくるとしますか!」

 

 俺はそう言ってゲートに向かっていった。

 

 …なお、後ろから念のようなものを送られていたが気にしないことにしよう。




今回使ったのはファル子がイチロー(オリックス・ブルーウェーブ)、ハンターが藤岡裕大(千葉ロッテマリーンズ)。2曲ともにこの2人に合ってるって思ったんですよね、…まあ独断と偏見ですが。


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39話

 ファンファーレと共に俺を含めたウマ娘はゲートに入っていく。

 

 …ここにいるのはただでさえ猛者が集うドリームトロフィーのトップ層。

 

 対戦相手としてちょうどいい。いつも以上に気合が入ってくる。

 

 …このゲートが閉まってから開くまでの一瞬、この時間だけは騒がしいスタジアムも静かになる。

 

 …そして、今。

 

 

 

 ガタンッ!

 

 

 

 ゲートが開かれて、レースがスタートした!

 

 予想通り、ファル子は最初からぶっちぎっていく。

 

 俺もいつもの後方に控える形だ。

 

 …向かい風とか、ターフが荒れていたりとかはない。

 

 そして、サポーターの応援もいつも以上に熱が入っていた。

 

 俺の耳にはいつもの5割増しで聞こえてきたように感じた。

 

 

 

 

 

オオオ ハンター!
 

 

オオオ ハンター!
 

 

オオオ ハンター!
 

 

オオ ハンター!

 

 

 

…Let's Go!
 

 

…Let's Go!
 

 

…Let's Go!
 

 

ハンター!
 

 

 

 

オオオ ハンター!
 

 

オオオ ハンター!
 

 

オオオ ハンター!
 

 

オオ ハンター!

 

 

 

…Let's Go!
 

 

…Let's Go!
 

 

…Let's Go!
 

 

ハンター!
 

 

 

 

 

 …この舞台で大チャンステーマとはね。やっぱり良い選曲してるよ、ウチのサポーターは。

 

 他のサポーターの声もいつもより増しているが、Huntersの声は相変わらずに俺にはっきりと聞こえていた。

 

 

 

 …そのままレースは進み、俺がポイントとしている第3コーナーに差し掛かっていく。

 

 ここでいつ仕掛けるか、それが勝負を分ける。

 

 ファル子は一人で相変わらずぶっちぎっている。タレてきてる様子もない。

 

 スカーレットやウオッカより、ファル子は速い。それを考えて。

 

 第3コーナーを過ぎて、1、2、3…。

 

 

 

「…ここだッ!」

 

 

 

 俺は温まっていた足を使いギアを最大にする。

 

 後ろから一気に外側を回っていき、他のウマ娘を追い越していく。

 

 …ホームストレートに入り、中山名物の心臓破りの坂が俺の目の前に大きくそびえたつ。

 

 ファル子も視界にとらえた。

 

「…絶対、勝つ!」

 

 俺は更にペースを上げていく。

 

 …このレース終了後、しばらくの間レースはない。

 

 ここで燃えなくて、どこで燃え上がるんだ、シンボリハンター!

 

 俺は坂に入っていくがペースは落とさず、さらにペースを上げた。

 

 ファル子との距離もだんだん縮まってくる。

 

 …スピカの面々やHunters、観客の声が俺の耳にダイレクトで届いてくる。

 

 俺はファル子と並んでいく。

 

 …そのまま差し切ろうとしたがファル子も粘ってきた。

 

 …中山の坂を登り切った後は短い。

 

 俺とファル子はデッドヒートを続けていく。

 

 …俺はペースを上げた。足はまだギリギリ残ってる。

 

『無敗の狩人』の名に懸けて、『スピカ』というチームのバンディエラとして、絶対に負けられないんだ俺は!

 

 そのまま俺とファル子はほぼ同時にゴール板の前を通過した。

 

 …いつものように、右手は掲げられなかった。それぐらい、今までのレースよりも白熱していたからだ。

 

 俺は膝に手をつきながら掲示板に着順が掲載されるのを待った。




 …今回のチャントは旧ロッテチャンステーマ1、通称『大チャンステーマ』。

 前回に引き続きMVP系統の応援歌。

 …実際動画で見てみるとやべえっすね。体験してみたかった…。


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40話

 走り終わり、俺は掲示板を眺める。ファル子も同じだ。

 

 …結果はしばらく灯らなかった。

 

 俺はファル子に話しかけていく。

 

「ありがとな、ファル子。ひっさびさにバチバチのレース出来たよ」

 

「それはこっちの台詞ですよ、ハンターさん!私も限界まで走り切りました、負けても悔いはないです!」

 

「俺もだ、また一緒に走ろうぜ?」

 

「はい!」

 

 俺とファル子はお互いに肩を寄せて抱き合う。

 

 そうしていると番号がやっと点灯した。

 

①   18

②    1

 

 …勝った、か。

 

 番号が発表されるまで静寂に包まれていたスタジアムは、一気に湧き上がる。

 

 この前のスぺ対エルのダービーに次ぐ接戦だろう。当然っちゃ当然か。

 

 …まあ、いつものやらせてもらうとしますか。

 

「ファル子、じゃ行ってくるよ」

 

 俺はファル子と別れて走って…行こうとしたが、そんな力は残ってなかった。

 

 歩きながら柵を乗り越えてHuntersの前に向かう。

 

 …そして。

 

 

 

「…い、よっしゃー!!」

 

 

 

 …俺はためにタメて、大きく両腕を天に突き上げる。

 

 スタジアムの歓声に負けないような俺の咆哮がこの中山レース場に高らかに響き渡った。

 

 …そして、Huntersから勝利のSee offが流れてきた。

 

 

 

 

 

止まらねえ 俺達のハンター

 

暴れろ 荒れ狂え

 

ラララ ラララララ

 

叫び オイ! 歌え

 

 

 

止まらねえ 俺達のハンター

 

暴れろ 荒れ狂え

 

ラララ ラララララ

 

叫び オイ! 歌え

 

 

 

 

 

 タオルマフラーとフラッグが舞い踊るスタンドに向けて、俺は大きく拍手で返して大きく頭を下げた。

 

 そして俺が戻ろうとすると、もう一曲流れてきた。

 

 

 

 

激しい叫びが

 

一つになって

 

今日も中山に

 

木霊する

 

 

 

激しい叫びが

 

一つになって

 

今日も中山に

 

木霊する

 

 

 

 

 

 …激しい叫び。タイトル獲得記念ってとこか。悪くねえなコレも。

 

 その後、俺がスタジアムの中へと消えるまで「…シンボリ、ハンター!」のコールが中山レース場に響き渡っていた。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「…ああ、ありがとルナ」

 

 俺は電話を切って楽屋に一人佇む。

 

 …さて、今日のウイニングライブの時間だ。

 

 ちなみに芝のライブはソロだが、ダートのライブはトゥインクルと同じ上位3人である。

 

 …とはいえ、ドリームトロフィーというデカいタイトルだ。

 

 お祭り騒ぎ用の曲で行かせてもらうとしようか。トゥインクル時代はGⅠタイトルの時に踊らせてもらった曲だ。

 

「…すみません、今日のウイニングライブは○○でお願いします。ドリームトロフィーっていうデカいタイトルですし。

 

 …はい、お願いしまーす」

 

 俺は係りのスタッフにそう話していく。

 

 この曲のライブも去年のウインタードリームトロフィー以来か。

 

 …まああれだけ応援してくれたHuntersを含む観客のためにもしっかり踊らないとな。

 

 俺はそう言ってライブ前、最後の振り付けの確認に入っていた。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 俺は大観衆が詰めかけるステージの上に立つ。

 

 …まだ俺の姿はライトに当たっておらず、観客席は静まっている。

 

 マイクとかの準備も済んだ。…さあ始めるとするか。

 

 俺は観客に向けて声を出していく。

 

「…皆さん、今日は身に来てくださりありがとうございました!

 

 サマードリームトロフィーダートの覇者として恥じないライブをさせてもらいます!」

 

 観客席からは俺の声に応えるように歓声が上がる。

 

「それじゃ…、…行くぞお前ら!

 

 俺がそう叫んで、この曲の始まりを告げる言葉を叫ぶ!

 

「…Let’s PARTY!」

 

 …観客のボルテージは最高潮だ。

 

 そして曲が始まっていく。

 

 俺が先に録音していたコーラスから始まり、いつものように踊っていく。

 

 そして歌唱パートに入っていく。

 

 

 

 君はスター まばゆくシャイン

 

 [O-O-O-O-O, O-O-O-O-O]

 

 自分じゃ気付けない

 

 [O-O-O-O-O, O-O-O-O-O]

 

 

 

 心、リラックスして未来(あす)をイメージ

 

 行方、自由自在

 

 諦めかけちゃった夢にリベンジ

 

 老若男女のプライド

 

 

 

 …さあサビ部分。全員、楽しんでいこうぜ!

 

 

 

 Everybody シャッフルしよう、世代

 

 連鎖するスマイル

 

 Let’s Party エンジョイしなきゃもったいない

 

 だって、人生は一回

 

 レインボーは空だけじゃない

 

 胸にも架かるぜ

 

 どんなミラクルも起き放題

 

 ユニバース・フェスティバル

 

 

 

 俺が選んだ曲はP.A.R.T.Y. ~ユニバース・フェスティバル~。

 

 しっかり観客も楽しんで欲しいと思ったからこの選曲。Hard Knock Daysとこの曲が俺のメイン曲だ。

 

 「バイーンダンス」、「レインボージャンプ」といったダンスがところどころに入っているのがこの曲の特徴だ。

 

 …そして俺は「ゾンビウォーク」を終えてラスサビへと入っていく。

 

 さあ、クライマックスだ!

 

 

 

 めぐり逢いずっと続く世界

 

 偶然なんかじゃない

 

 Let’s Party 点が繋がり合い

 

 線になる一切

 

 

 

 Everybody シャッフルしよう、世代

 

 連鎖するスマイル

 

 Let’s Party エンジョイしなきゃもったいない

 

 だって、人生は一回

 

 レインボーは空だけじゃない

 

 胸にも架かるぜ

 

 どんなミラクルも起き放題

 

 ユニバース・フェスティバル

 

 

 

 俺はその後も踊っていき、最後にしっかりとポーズを決める。

 

 曲が終わると同時に、大歓声が上がる。

 

 …とりあえず、これで一段落だな。

 

 俺は踊り終えると同時に、そう感じていた。




今回のチャント
 激しい叫び…ガンバ大阪で使用されているチャント。
       ガンバサポが大音量で歌うこの曲は圧巻です。


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41話

 

「じゃ、荷物は適当に後ろに置いてくれー」

 

 車の鍵を回しながら、俺はスピカの面々にそう話す。

 

 ドリームトロフィーが終わり、トレセン学園恒例夏合宿となった。

 

 スピカの面子も合宿に行くのだが、沖野さんの車だけだと人数・荷物が乗り切らないという理由から俺も車を運転することになった。

 

 沖野さんが俺以外の面々を乗せ、俺が荷物を持っていく形である。

 

「…じゃ、先行くぞハンター。お前も運転気をつけろよ?」

 

「言われなくても分かってますよ。そっちこそ気をつけて」

 

 沖野さんのミニバンが発進していき、それを見送った後俺も運転席に向かう。

 

「…さーて、ひっさびさにかっ飛ばしますかっと!」

 

 ドアを閉めて、シートベルトを装着し、エンジンを点けた俺は沖野さんの車を追いかけるようにして運転していった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「さあ、やるぞー!」

 

 海岸でテイオーがそう気合を入れる。

 

「…じゃ、頑張れー」

 

「ってハンターさんはやらないんすか!?」

 

 俺の言葉にウオッカからそう突っ込まれる。

 

「…リカバリーに徹してんだよ。この前のファル子との勝負で足限界まで使ったから休ませたいんだ!っと」

 

 俺はそう言いながら持ってきていたビーチパラソルを砂浜に突き刺す。

 

「…倒れたら一応介抱してやるから倒れるまで頑張れー」

 

「今一応って言いましたわよねハンターさん!?」

 

 マックイーンが俺の言葉にそう突っ込んできた。

 

「…それに、今からするのトレーニングじゃねーぞ?」

 

「へ?」

 

 スカーレットが俺の言葉にそう返してくる。

 

「…そうっすよね、トレーナー?じゃなきゃあの荷物持ってこないでしょ」

 

「まあ、確かにそうだな。ハンター、持ってくるぞ」

 

 俺は「了解です」と話しながら俺の車へと向かった。

 

 

 

 

 

「…なんでバーベキューグリルがありますの?」

 

 …マックイーンが俺と沖野さんが持ってきたバーベキューグリルを見て呟く。

 

「そんなの腹ごしらえをするからに決まっているだろ?」

 

 沖野さんはそう答えた。

 

「ちなみに、肉と人参も大量にあるから思いっきり食っとけよー」

 

 俺は段ボールに入った荷物を砂浜に降ろしながら話していく。

 

「腹が減っては戦はなんとやら! 今はたっぷり食べて午後に備えるぞ!!」

 

「「「おー!」」」

 

 という訳でバーベキュー開始である。

 

 …食いながら見てても、スぺの食う量は異常だ。タイキやオグリに匹敵すると言ってもいいだろう。

 

「…スぺがドリームトロフィーにいるんだったら学園祭のアレ参加できたのになー」

 

 俺はそう呟く。

 

「え、何かやるんですか?」

 

 スカーレットが俺の言葉を聞いてそう話してくる。

 

「学園祭で大食い選手権、やることになってさ。

 

 それに出場するウマ娘募集してるんだけど、デビュー前とトゥインクル真っ最中のウマ娘はリスクを考えて対象外なんだよ。

 

 スぺならそこそこいいとこまで行くと思うんだけどなー」

 

 俺はそう話しながら肉を食っていく。

 

「景品とかは何か決まってるんですか?」

 

「…一応な。詳しいことはまだ言えねえけど。今年も面白くできるように頑張るよ」

 

 ウオッカの言葉に俺はそう返していった。



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42話

 

 昼飯を食い終えて。

 

「皆、ファイトー」

 

 俺はバーベキューで使った用具を片付けながらそう言う。

 

 …なお、俺以外の面子は筋トレである。海でやる必要はあるのだろうか。

 

 

 

 そして。

 

「…次、右手青」

 

「いや、無理無理!もうこれ以上複雑に出来ないよー!!」

 

 テイオーがそう叫ぶ。

 

「あ、あらテイオー…? もう…、ギブアップです…か…?」

 

 マックイーンがそう話すが、その声も大分きつそうである。

 

「次、左足赤」

 

 沖野さんはそんな二人を気にせずに次の指示を出していく。

 

「ひ、左足を赤!?そ、そんなの体の…、構造的に…、無理ですわ…!」

 

 マックイーンはさっきのテイオーと同じように叫んでいる。

 

「…あのさ、スズカ」

 

「なんでしょうか?」

 

 俺はスズカに話しかける。

 

「…俺達なんで海に来てまでツイスターゲームやってるんだろう」

 

「さ、さあ…」

 

 俺の言葉にスズカは完全に言葉を詰まらせていた。

 

 

 

「『次のうち旧八大競争ではないのはどれ?』、…宝塚記念っと」

 

 海にわざわざ机と椅子持ってきて小テストである。

 

全然海関係ないじゃん!(ゼンゼンウミカンケイナイジャン!)

 

 テストを受けながらテイオーがそう叫んだ。…まあ言いたくなる気持ちは分からんでもない。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「…海に来た意味ってあったんだろうか…」

 

 俺は机に突っ伏しながら、生徒会の3人にそう話す。

 

「まあスピカのトレーナーにも思うところはあるのだろう。ハンターこれを頼むよ」

 

「…りょーかい」

 

 ルナからはそう話されながら何枚かの書類を渡され、俺もそれに記入していく。

 

「…そういえば、この後の肝試しとかの準備は大丈夫なのか?」

 

 そんな最中、ブライアンがそう聞いてきた。

 

「…まあフジとヒシアマが仕切ってくれるって言うし。

 

 オバケ役のウマ娘の内容も確認させてもらったけど危険な奴もないからな。

 

 …最後に始まる前に何か危険なとことか確認してって感じだろ。

 

 …これエアグルーヴ確認よろしく」

 

 俺はエアグルーヴに書類を渡していく。

 

「了解です…、まあ毎年やっていますが問題が起こったとかはないから大丈夫だろ、ブライアン。

 

 …お前もこれやれ」

 

「はいはい…」

 

 ブライアンはエアグルーヴに促されて書類を書き始めていった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 そして肝試し真っ只中。

 

 肝試しルートの木の裏でしっかりとメイクした俺はウマ娘が来るのを待つ。

 

 …恰好は和装になり、服のところどころに返り血のような赤い水滴が付いている。

 

 顔もアイシャドーで目つきを鋭くし、顔にも赤い水滴を付けている。

 

 …そんな中、俺に話し声が聞こえてきた。

 

「…あ、アンタビビってるんじゃないでしょうね!?」

 

「はぁ!?お、お前こそビビってんじゃねーのか?」

 

 ウオスカコンビだった。

 

 …さあ仕事しますか。

 

「…これだけだったら足りないな」

 

 ウオスカコンビが俺が隠れる木の前を通る時、俺は聞こえるか聞こえないかぐらいの声量でそう呟く。

 

「…ん、スカーレットなんか言ったか?」

 

「…え、今のウオッカじゃないの?」

 

 そう言って二人は脚を止める。

 

「…お。こいつらなら今日の飯困らねえな」

 

 俺はさっきの声より少し大きく話す。

 

「…い、今…」

 

「…き、聞こえたよな…」

 

 ウオスカコンビは体を震わせてていく。

 

 そして恐る恐る顔を後ろに回す…と。

 

 

 

「…さあ、開いて天日干しにするとしようか」

 

 

「「ギャー!!!」」

 

 

 

 俺の目が笑ってない笑顔をスカーレットが照らし出した瞬間、脱兎のごとく二人は逃げ出していった。

 

「…行けるもんだなー」

 

 逃げていく二人を見ながら、俺はそう呟いた。

 



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43話

 合宿から戻ってきて。

 

 俺は放送室から全校生徒へと向けての放送を始める。

 

 …ちなみにだが、基本的に放送は俺の担当だ。

 

 ルナがやることもあるのだが、ダジャレをかましにかましてしまったため、俺がやることになったのである。

 

『…えー、生徒会副会長のシンボリハンターだ。

 

 合宿も終わり、学園祭が近づいてきていることは全員知っていると思う。

 

 その企画の一つとして学園祭で毎年恒例、第33回大食いグランプリを開催することが決定した。

 

 優勝者には賞品としてスポンサー企業から頂いた巨大大穴ドーナツぬいぐるみを渡す。

 

 …なお、参加資格があるのは現在ドリームトロフィーに参加しているウマ娘。

 

 …残念だが、デビュー前や現在トゥインクルにいるウマ娘は参加できない。

 

 定員は3人。この放送後、生徒会室に来てくれた順に選ばせてもらう。

 

 …以上だ。応募を待っているぞ」

 

 俺は放送を閉じる。

 

「…こんなもんだなっと」

 

「お疲れ様です、ハンターさん。お茶でもいかがですか?」

 

 放送を終えた俺にエアグルーヴが話しかけてくれる。

 

「ありがとエアグルーヴ。いただくよ」

 

 俺がソファに座ってゆっくり休もうとする。

 

 …が、そんな時間はこなかった。

 

 生徒会室のドアがバンッ!っと開く音がした。

 

「…大食いグランプリ、参加させてくれないか?」

 

「…いや、早いんだってのオグリ…」

 

 オグリが猛ダッシュで生徒会室にやって来た。

 

「…お前、放送と同時に走ってきたろ。

 

 廊下は走ってもいいけどよ、限度があるぞ?」

 

「…とりあえず参加させてもらえるか?」

 

「マイペースだなお前は…。りょーかい、オグリキャップ参加…と」

 

 俺が書類にオグリの名前を書いていくともう二人の足音がする。

 

「お、オグリ待ってくれやホンマに…」

 

「本当ですよ。大食いグランプリは逃げないんですから」

 

 オグリと仲がいいタマとクリークである。

 

「二人とも、来たのか」

 

「…放送聞いた後オグリが突っ走ってたので…。まあこういうことやとは思てましたけどね」

 

 タマが俺の言葉にそう苦笑いしながら話し、続けていく。

 

「そういえばハンターさん、賞品のドーナツぬいぐるみってどんなもんなんですか?」

 

「あ、それ見たいか?実物はまだ届いてないけど、参考写真なら届いてるよ」

 

 俺はスマートフォンでその写真をオグリ達3人に見せる

 

 そこには地面から人の腰ぐらいまでの大きさの特大ドーナツぬいぐるみが写っていた。

 

「大きいですねー。優勝したらこれ貰えるんですか?」

 

「ああ。優勝したらな。オグリが決まったから後2人、誰か来るかなー」

 

 クリークの言葉に俺はそう話す。

 

 そうしていると少し黙っていたタマが俺に話しかけてきた。

 

「…なあ、ハンターさん。この大食いグランプリ、ウチも参加させてもらってええですか?」

 

「ああ、別に構わねえけど…、ってタマが!?

 

 トレセン学園最強フードファイターのオグリが出るって言ってんだぞ!?」

 

 タマはトレセン学園のウマ娘の中でも小食である。

 

 オグリと比べたらホントにその量は少ない。

 

 それでもタマは俺の言葉に「分かってます」と続けていく。

 

「…でも、このぬいぐるみ絶対欲しいんです!お願いします、ハンターさん!」

 

 タマはそう俺に頭を下げてきた。

 

「了解した。ただ、無理はするんじゃねえぞ?

 

 …エアグルーヴ、タマの名前書いといてくれ」

 

「…分かりました」

 

「ありがとうございます!」

 

 タマはそう言って頭を下げてくる。

 

「…うーん、それじゃ私も参加させてもらっていいですかー?」

 

 そうクリークが話してきた。

 

「…クリークもか?お前もタマほどとは言わねーけど、食う量は平均ぐらいだろ?」

 

「…はい。やっぱりあのぬいぐるみ欲しいですし、それにオグリちゃんとタマちゃんが少し心配ですし…」

 

「こ、子供扱いすなって言うとるやろ!」

 

 クリークはタマの頭を撫でながらそう話し、タマがガーッ!と反発する。

 

「まあ、参加するなら別に止めはしねえよ。エアグルーヴ、クリークも追加な」

 

「もう書いてます」

 

 エアグルーヴはそう返してきた。

 

 …ていうかもう埋まったよ3枠。

 

 じゃ、次の準備に取り掛かっていくとしようか。

 

 俺はそう思いながら新しい書類に取り掛かっていった。



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44話

 

 …秋の学園祭、通称『聖蹄祭』当日。

 

 俺は生徒会室に籠っていた。

 

 ルナとエアグルーヴはリギルの執事喫茶、ブライアンはヒシアマと一緒に子供たちの学園案内。

 

 …という訳で自由に動けるのがスピカ所属で何もない俺だけのため、万が一に備えて生徒会室にいるのである。

 

「…まー、なんもないのが一番なんだけど」

 

 俺はそう言いながらクッションの上で伸びをする。

 

 ちなみにオグリ達の大食いグランプリの司会はイナリ、審判はエルとグラスの2人に任せてある。

 

 そんな中、生徒会室のドアが勢いよく放たれる。

 

「カーイチョー!一緒に回ろうよー!」

 

 …テイオーかよ、オイ。

 

「…あれ、ハンターだけ?カイチョーは?」

 

「ルドルフならリギルの執事喫茶行ってる。さっきの放送した後すぐに行ったよ」

 

 俺はテイオーの言葉にそう返していく。

 

 テイオーは残念そうな顔を見せながら話してくる。

 

「そっかー。ってかさ、ハンターはどこも行かないの?」

 

「…ああ、万が一のために生徒会室に誰か残っとかないとって思ってな。

 

 お前らが思う存分楽しむためには、こういう裏方仕事が重要なんだよ」

 

「…にしては、すっごいくつろいでるけど?」

 

 テイオーはクッションの上に座る俺を見てそう言ってくる。

 

「…こう見えていろいろあるんだよ。情報が入ってきたらすぐに動けるようにはしてるしな」

 

「…そーなんだー。じゃ、ボクはカイチョーのトコ行ってくる!」

 

 そう言ってテイオーは生徒会室を出て行った。

 

「…騒がしい奴だな、ホントに」

 

 俺はそう呟いていった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「ハンターさん、校内ツアー終わったよ!」

 

 学園祭が進み、ヒシアマとブライアンが戻ってきた。

 

「お疲れ様だったな、ヒシアマ。ブライアンはサボらなかったか?」

 

 俺がそう言うとブライアンはいつもの顔で「…さすがにあそこまでいたら、逃げようにも逃げられないだろ…」と呟いてきた。

 

「ていうか、お前らはリギルの執事喫茶行かなくてよかったのか?」

 

 俺がそう聞くとヒシアマが笑いながら返してきた。

 

「あたしはあんなの似合わないよ。フジや会長なら似合うと思うけどね。ブライアン、アンタはやるつもりないのかい?」

 

「面倒くさい、…寝るぞ」

 

 ブライアンはそう話しながらソファに寝転ぶ。

 

 …まあ、コイツはこんなやつだったな。

 

「…まあ、学園祭終わるまで気合い入れていくぞー」

 

 俺がそう呟くとヒシアマが俺に話してきた。

 

「そういえば、ハンターさんは行かないのかい?」

 

「…俺はここで見てるのが丁度いいよ。生徒全員が楽しめればそれでいい」

 

 俺がそう言うとヒシアマが俺に話してくる。

 

「生徒全員って、アンタも生徒だろ?アンタも楽しんできなよ、ハンターさん」

 

「…別にいいって、ヒシアマ。

 

 それに生徒会室に誰か一人いないとだめだろうし」

 

 俺がそう話していくとヒシアマは返してくる。

 

「それなら、アタシとブライアンでなんとかするからさ!ハンターさん行ってきなよ!」

 

「お、ちょ、ちょっと待てってヒシアマ!?」

 

「たまにはアンタも楽しんできなっ!」

 

 そう言って俺はヒシアマに生徒会室を追い出された。

 

「…あー、どうしようか…。ホントに生徒会室に籠ってる予定だったからな…」

 

 俺はそう呟きながら、生徒会室を後にした。

 

 



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45話

 

「…ホントにどうしようか」

 

 …ヒシアマに追い出されたものの、することなんて生徒会室で待機するしかなかった。

 

 スピカは何もやってないし、全員どこ行ってるか分からねえ。

 

 …俺もルナに負けないぐらい、ワーカーホリックになってたっぽいな。

 

 まあ見回りついでに色々なところ回るとさせてもらおう。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 いろいろな出店を回ったり、ゴルシのお好み焼き(なぜか今日は焼きそばじゃなかった)を食べたり、俺はそれなりに楽しんでいた。

 

 そして、グラスから聞いたところ中央ステージでの大食いグランプリはオグリが勝ったらしい。

 

 ただ、「…私はドーナツが食べたかっただけだ」ということでぬいぐるみはタマに譲ったみたいだが。

 

 そんな感じでぶらぶらしていたところ、俺は腕を掴まれた。

 

「ハンターさん、ちょっといいですかっと!」

 

「うおっと!?」

 

 俺は教室の中に連れ込まれる。

 

「誰って…フジか。どうしたよ」

 

 俺の手を掴んだのはフジだった。

 

 どうやらここはリギルの執事喫茶の控室みたいだった。

 

「…ハンターすまない、少し君の手を借りたくてな」

 

 そう話してきたのはルナだった。

 

 フジがそれに続けていく。

 

「実は執事喫茶が予想以上に盛況すぎて人手が足りないんです。

 

 で、外見たらちょうどハンターさんが歩いてたんで。手を掴んだんです」

 

「…そういえば、ずっと生徒会室にいると言ってたがどうしてここにいるんだ?」

 

「生徒会室籠ってたらヒシアマに追い出されたんだよ。『アンタも楽しんできな』って」

 

「あー、ヒシアマらしいですねー…」

 

 俺の言葉にフジがそう答える。そうしているとルナがホールへと向かっていった。

 

「…すまない、フジキセキ。呼ばれたみたいだ、行ってくる」

 

「行ってらっしゃい」

 

 フジはそう言ってルナを送り出す。

 

「…っていうかブライアンを呼べばいいだろ?俺リギルじゃねーし」

 

「…いや、そこにハンターさんがいたんで…」

 

「俺は山か何かなのか?」

 

 …ホールの方を見てみると、出ているのはルナ・エアグルーヴ・オペラオーの3人。

 

「…仕方ねえ、やってやるよ。服とかあるのか?」

 

 俺はそう言いながら、後ろの髪を束ねる。

 

「そういってもらえると思ってました。執事服ならここに、ホラ!」

 

 フジにそう言われて、着た服は普通にピッタリだった。

 

「…なんで俺に合うんだよ。コレ」

 

「万が一のために大きいサイズも作ってたんです。じゃ行ってきてください!」

 

 そう言って俺はホールへと送り出される。

 

「…は、ハンターさん。その恰好は…?」

 

「…見ての通りだ。手伝ってやるよ」

 

 俺はそう言ってオーダーを取りに向かった。

 

 …なお、後でルナに話を聞いたところ、俺が入ってた時間だけ2割増しで人が来ていたらしい。

 

 あと結構ルナとの2ショット写真も撮られたなー。

 

 まあこういう時間だからノリノリでさせてもらったけど。



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第7R 「約束」
46話


「…えぐすぎんだろ」

 

 俺はスズカの毎日王冠の走りを見てそう呟いた。

 

 グラスやエル、それにエイシンフラッシュやナイスネイチャも一緒に出たものの、全く気にせずに走っていった。

 

 …俺も頑張らないとな。

 

 来たるウインタードリームトロフィーに向けて、俺もしっかり調整していかないとな。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 スぺの菊花賞は、スカイがレコードを出して負けた。

 

 …レコード出されたらどうしようもない。

 

 俺の次のレース、ウインタードリームトロフィーダート予選第1戦、これも京都だ。

 

 …という訳で京都に来ている。

 

 今日はスピカのメンバーはいない。

 

 …それでも俺は俺の走りをするだけだ。

 

 俺はホテルの中で、ストレッチをしながらそう思った。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 レース当日。俺は試してみたいことがあった。

 

 沖野さんからは俺が相談すると「お前に任せる」とだけ帰ってきた。

 

 それなら問題ないだろう。

 

 

 

 

 

カサマツ

 

中央

 

フランス

 

ハンター!

 

ゴーゴーレッツゴー!ハンター!

 

 

 

俊足飛ばして

 

ダートを駆け抜けろ

 

魅せろ今だハンター

 

勝利へ導け

 

ゴーゴーレッツゴー!ハンター!

 

 

 

俊足飛ばして

 

ダートを駆け抜けろ

 

魅せろ今だハンター

 

勝利へ導け

 

ゴーゴーレッツゴー!ハンター!

 

 

 

 

 

 もう耳になじんだ俺の応援歌を聞いて、ゲートに入る。

 

 …数少ない本番のレースで試せるとしたらここしかない。

 

 ゲートが開かれると同時にウマ娘たちはスタートを切る。

 

 …そして俺は、最初からギアを全開にして走り出した。

 

 本戦だったらまずできないこと。予選プラスその第1戦だからできることだ。

 

 他のウマ娘も驚いている。

 

 …それもそのはずだ。このところ俺は追い込みしかしていない。

 

 逃げを打ったのは一時のエルとの併走トレーニングの時のみ。

 

 スタンドからも驚きの声があがる。

 

 だが、その後すぐに俺の応援歌が流れてくるのが聞こえてきた。

 

 

 

 

 

♪♪♪

 

…Let's Go!

 

♪♪♪

 

オイ!オイ!ハンター!

 

オオオ…

 

オオオ…

 

燃え上がれ

 

燃え上がれ

 

勝利をつかみ取れ!

 

ラララ…

 

ラララ…

 

ハンター!

 

ラララ…

 

攻めろ今こそ

 

 

 

 

 

 

 モンキーターンに後押しされて、俺は第2コーナーを回る時にはトップスピードだった。

 

 …俺が今回大逃げ策をとったのはファル子の気持ちを感じるため。

 

 勝つために必要なことは、まず敵を知ること。

 

 そのために大逃げをかました。ファル子のように走れば、何かつかめると思ったからだ。

 

 …第4コーナーを回り、後ろとは差があるものの俺の足も落ちてきたように感じた。

 

 後ろからは全員の目が俺をターゲットにしているのが伝わってくる。

 

 でも、外から見ていた限り、スズカやファル子やブルボンといった大逃げ組はここからの加速力が段違いだ。

 

 後ろからのプレッシャー、そして誰もいない前方へと駆けていくこの気持ち。

 

 …ずっと後ろからターゲットに狙いを定め、一気に追い込む俺にはなかなか味わえないものだ。

 

 俺はそこから京都の坂を登り切り、右手を上に掲げながら先頭でゴールテープを切る。

 

 後ろを確認してみるといつもよりかは差は縮まっていた。

 

 足もこの前の本戦と比べると明らかに消耗していた。

 

 …やっぱ慣れないことはするもんじゃねえな。

 

 勝利のSee Offを聞きながら芝を滑りながら叫んだ俺は、そう感じていた。



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47話

 

 俺がレースで勝利した次の日。

 

 俺は生徒会室に籠っていた。

 

 ちなみにだが、スピカの面子は山の上の宿までランニングしてるらしい。

 

 

 

「生徒会が忙しくないのなら来るか?」

 

 今日の昼休み、俺は沖野さんにそう聞かれた。

 

「…いえ、遠慮しときます。リカバリーもしたいですし、ちょっと片付けたい仕事残ってるんで」

 

「…ホント、お前が大逃げ策打った時は「マジかっ!?」てなったけどよ。ちゃんと勝ったのは流石だな」

 

 沖野さんにそう頭を撫でられながら俺は話していく。

 

「自分の意志じゃ二度とやりませんよ…。マジで疲れました」

 

 俺はそのまま続けていく。

 

「…で、スズカが海外でも行くんですか?」

 

「…察しがいいな」

 

 俺は沖野さんに「あれだけ勝ってたら、そう考えるのも当然ですよ」と続けていく。

 

「大方、スズカからあいつらに伝えさせたいって考えですよね?そのために伝える機会を作った感じですか。

 

 ジャパンカップ終わりで、挑戦させるんですか?」

 

「…お前、俺の考え全部分かってんのか?逆に引くぞ?」

 

 沖野さんからはそう言われたが、俺は「バカ言わないでください」と一蹴した。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 …スズカの天皇賞当日。

 

 俺はカフェテリアにいた。

 

 天皇賞に着いていくのもよかったが予選第2戦も近づいてきているため残った。生徒会の仕事もあるし。

 

 まあレースは昼食がてらカフェテリアのテレビで見ていた。

 

「あれ、ハンターさん残ってたんですか?」

 

 俺はテレビを眺めているとフジがそう話しかけてきた。

 

「お前も残ってたのか、フジ」

 

「ええ。そういうハンターさんこそ残ってたんですね」

 

 フジはそう言いながら俺の前の席に座る。

 

「まあ、生徒会の仕事終わらせときたいしな。予選第2戦も近づいて来てるし」

 

「ハンターさんの予選って、次どこなんですか?」

 

「次は府中。見に来るのか?」

 

 俺がそう聞くと、「会長さんが『ハンターが大逃げをした』って言ってたんでね」と話してきた。

 

「まあ、もう二度と自分の意志ではやらねーよ。

 

 プレッシャーとか空気抵抗とかいろいろ考えたら追い込む方が性に合ってる」

 

「そう言いながら裏切ってくるのがハンターさんじゃないですかー?」

 

 そうフジは軽口をたたいてきたが俺は気にしない。

 

「…リギルからは今日の天皇杯誰が出るんだ?」

 

「エルとヒシアマですね。ヒシアマは最初っからスズカに突っ込んでいくって言ってましたけど」

 

 俺はフジの言葉に続ける。

 

「…大丈夫なのか、それは?

 

 今のスズカに着いてくなら、エルとか俺やルドルフレベルでないとキツイぞ」

 

「…ハンターさんがそこまで言うのは珍しいですね」

 

 フジはそう返してきたので俺は続けていく。

 

「それぐらい今のスズカはノリに乗ってるってことだよ。

 

 …ただな」

 

「ただ?」

 

「…こういう時ってなおさら怪我が怖いんだよ。

 

 スズカ含めて、すべてのウマ娘にずっとケアだけは忘れんなって言い続けてるし、あのスズカだから大丈夫だとは思うが…。

 

 お前も、怪我無かったらもう少しトゥインクルでやるつもりだったろ?」

 

「確かにそうですね…。私も怪我には気を付けてたつもりですけど…」

 

 フジは自分の足を見ながらそう話す。

 

「…お前ら、今の話聞いてたんだったらしっかりやれよー。

 

 走ることだけがウマ娘のやることじゃないんだからなー」

 

「「「は、はい!」」」

 

 俺は俺達の周りて話を聞いていたウマ娘たちにそう話した。



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48話

 

 ゲートが開かれて、ウマ娘達がスタートしていく。

 

 いつも通りスズカは最初からかっ飛ばして周りのウマ娘との差を付けて行く。

 

 エルもいつもより早いペースで走り、2番手につけ、その後ろにはヒシアマがいる。

 

 …とはいえ、スズカと他のウマ娘の差は縮まらない。

 

 第3コーナーを回り、1000メートル通過。

 

「57秒4…!?」

 

 フジがそう驚く。

 

「…いつも以上にハイペースだなスズカ」

 

 …持つのかコレ。

 

 他のウマ娘達との差は何バ身離れて来ただろうか。

 

 このレース展開にスタジアムは湧き上がり、学園のカフェテリアでも驚きの声がざわめいている。

 

 そして、スズカはそのまま快調に飛ばしていくか…と思ったが。

 

 

 

 

 

 …スズカの表情が変わった。

 

 

 

 

 

「…っ左脚!」

 

 

 

 俺は椅子から立ち上がりそう叫ぶ。

 

 スズカのペースが急激に落ちた。

 

 走り方もおかしくなっている。

 

 走っている他のウマ娘もスズカを見ながら追い抜いていく。

 

「…ま、まさか故障ですか!?」

 

 フジが俺の声に反応する。

 

「…ああ。左の筋肉系か、骨かは分からねえが、とにかくこのままじゃまずい…!」

 

 ペースが落ちてきているとはいえ、走ってるウマ娘の速度は時速60キロを軽く超えてくる。

 

 このまま転倒でもしたらただじゃすまないし、ただでさえやられた左脚へのダメージは地面に着くたびに大きくなっている。

 

 そんな中、スタンドから柵を乗り越えて飛び出した影が2人。

 

 スぺと沖野さんである。

 

 スぺは一気に加速してスズカの元へ走っていく。

 

「…頼む、間に合ってくれ…」

 

 俺は座って手を握る。

 

 …その場にいない以上、俺はこうすることしかできない。

 

 なんでこんな時に行ってないんだよ俺は…。

 

 スぺはしっかりとスズカを受け止めて、左脚を地面につけさせないでターフに横たわらせる。

 

「…よくやった、スぺ…!」

 

「ハンターさん、スズカは…?」

 

 俺はフジの言葉に返していく。

 

「…とりあえず命は守られたよ。後は選手生命の方だな、こればっかりは運に任せるしかねえが…!」

 

 電話は出来ねえ。沖野さんも東条さんも今はそんな状況じゃねえだろうし、ゴルシやルナたちみたいなあっちにいるウマ娘達も同様だ。

 

 俺は学園内で連絡が来るのを待った。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「…沖野さん!」

 

 連絡を受けた俺は、病院へとやってきていた。

 

「…ハンター、来てくれたか」

 

「スズカは、スズカは診断どうなったんすか?」

 

 俺の疑問に沖野さんは答えてくれた。

 

「左足首の骨折だ。また歩けるようにはなると思うが、以前のように走れるかは分からないらしい」

 

「…やっぱ骨ですか。

 

 …でも、可能性は0じゃないんですね?」

 

「ああ」

 

 …まだギリギリ残ってくれたって感じか。

 

 俺は部屋の扉を開けて、スズカの部屋へと入っていく。

 

「は、ハンターさん…」

 

「まずはお疲れ様、スズカ。命が無事だっただけでも俺は嬉しいよ。

 

 …俺としても、お前の復帰を信じてる。

 

 スピカのメンバーからも言われただろうけど、…絶対、帰って来いよ。

 

 …スピカの最年長、いや生徒会副会長としての命令だ」

 

「…はい、また走れるように頑張ります」

 

 スズカは笑いながら、俺にそう返してきてくれた。

 

 …目はまだ折れてなかった。それだけでも好材料だろう。



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49話

 

 ドリームトロフィーダート予選第2戦。

 

 府中レース場。

 

 

 

 …スタンドからのCallingの大歓声に包まれて、俺は追い込み勝ちをした。

 

 

 

 さあ、本番は次、ファル子が出てくる本戦だ。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「ルドルフ、これの最終確認頼む」

 

「了解した」

 

 俺とルナを含めた生徒会組は生徒会室で仕事をしていた。

 

「…そういえば、本戦出場おめでとう。ハンター」

 

「それを言うならお前もだろ?ブライアンもそうだったよな」

 

 俺がそう話すと、ブライアンはそっけなく「ああ」と呟く。

 

「エアグルーヴはジャパンカップだったか。しっかりと実力を見せてきてくれ」

 

「もちろんです」

 

 ルナがエアグルーヴにそう話すと、エアグルーヴはそう返していた。

 

 そんな中、ドアをノックする音がする。

 

「…どうぞー」

 

 俺がそう言うと、生徒会室に2人が入ってきた。

 

「東条トレーナー…、それとスピカの沖野トレーナーですか?どうして…」

 

 エアグルーヴがそう話していくと東条さんが口を開く。

 

「…今回、用があるのはハンターだ」

 

「俺…ですか?」

 

 東条さんの言葉に俺がそう返すと、沖野さんが話してくる。

 

「…単刀直入に言わせてもらうぜハンター。

 

 

 

 …来年、フランスに行ってくれないか?」

 

 

 

 一瞬の沈黙が生徒会室に流れた。

 

「お、俺がですか!?ていうかなんで!?」

 

 俺は慌てて言い放つと東条さんが話してきた。

 

「…ああ。

 

 年明け、このエルコンドルパサーを海外遠征に出すつもりだ。目標はハンター以来となる凱旋門賞の制覇。

 

 ここ最近、凱旋門賞には日本から多くのウマ娘が挑戦しているが頂点を取ることはできていない。

 

 今回のエルコンドルパサーは必勝を期して行きたい。

 

 そのために凱旋門賞を取ったことがあるハンターを連れて行きたいんだ」

 

 …確かにナカヤマフェスタやマンハッタンカフェやシリウスのように何人かのウマ娘が凱旋門賞にチャレンジしているが勝利は出来ていない。

 

 向こうでのサポートをしっかりとしたうえで…だ。

 

 そのために、日本のウマ娘で唯一凱旋門を取ったことがある俺をエルのサポートに付けたいらしい。

 

「フランスに行く場合って、俺のレースはどうなるんですか?」

 

「出れねえだろうな…。来年の夏・冬共にな」

 

 沖野さんは俺の疑問に答えてくれた。

 

 そしてそれに東条さんが続けていく。

 

「ハンター、まずはお前のレースの邪魔をすることになることを謝らせて欲しい。

 

 …本当にすまない」

 

 東条さんはそう言いながら俺に向けて頭を下げる。

 

「と、東条トレーナー!?」

 

「いやいや!?頭下げないでいいですって!?」

 

 ルナと俺が慌てて立ち上がりながらそう言うと頭を下げながら東条さんが続けてくる。

 

「…これはリギルやスピカと言ったチーム単位のプロジェクトじゃない。トレセン学園、URAとしてのプロジェクトだ。

 

 日本のウマ娘のためにも、どうか引き受けて欲しい」

 

 それに続けて沖野さんも話を続けていく。

 

「ハンター、これは強制じゃねえ。お前が嫌なのであれば拒否することも可能だ。

 

 …後はお前自身の意志。どうしたいんだお前は?」

 

 …最後は俺が決めろってか。

 

 俺の連覇記録もかかっているが、俺の記録と日本のウマ娘の発展。

 

 …俺の選択肢は一つだった。

 

「…顔上げてください、東条さん。

 

 

 

 …俺、フランス行きますよ」

 

 

 

 俺は2人にそう返す。

 

「いいんですかハンターさん!?」

 

「丸1年近く、レースに出れなくなるんだぞ。アンタの連覇記録も途絶えることになる」

 

 エアグルーヴとブライアンが話してくるが、ルナは俺の気持ちを分かっていた。

 

「…いや、ハンター自身と他のウマ娘の発展を天秤にかけたのだろう。

 

 …その気持ち分からなくもないな」

 

「ああ、そう言うことだよルドルフ。

 

 …向こうの技術も全て学んで、帰ってきます。

 

 エルにも俺以来の栄誉を掴めるように俺の技術を注ぎ込みます」

 

「…ありがとう、ハンター」

 

「まー、お前ならそう言うと思ってたけどな」

 

 東条さんと沖野さんは各々の反応をした。

 

 

 

 …となれば向こうに行く前の最終レースは次の本戦。

 

 負けるわけには行かなくなったな…。

 

 俺はそう感じていた。



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第8R 「あなたの為に」
50話


 

 エルがジャパンカップを取ったことにより、フランス遠征が確定した。

 

 …まあ元からその予定ではあったとはいえ、さすがのエルではある。エアグルーヴもいたしな。

 

 そして、俺的に問題だと思っているのがエル、エアグルーヴに次いで3着に入って大号泣していたスぺ。

 

 スズカのために、と思う気持ちがあったんだとは思うが…。最近練習にも力が入り切ってない感じがする。

 

 なんとかして欲しいところではあるが…。

 

 …とはいえ、俺の渡仏前ラストレース、年明け直後、府中で行われるウインタードリームトロフィー本戦は近づいてきている。

 

 ここで負けたら何の意味もない。しっかり獲ってから渡らせてもらうとしよう。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「「「は、ハンター(さん)がフランスに行く!?」」」

 

 スピカのメンバーに俺が渡仏することを伝えるとスピカの部室に驚きの声が響いた。

 

「な、なんで行くんすか!?」

 

「エルが凱旋門挑戦するから。今回は絶対に勝ちたいんだとよ」

 

 ウオッカの疑問に、俺はそう返していく。

 

「…ハンターが凱旋門取ってるから、その経験を伝えて欲しいってことか」

 

 ゴルシは落ち着いた口調でそう話してくる。

 

「そういうことだ、ゴルシ。

 

 日本で凱旋門を取ったことがあるのは俺だけだしな」

 

 俺はそのまま続けていく。

 

「まあ、海外の設備とかトレーニングも勉強したいしな。しっかり成長して戻ってくるよ」

 

 スピカのメンバーに俺はそう話していった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 レース前日、俺は会見に臨んでいた。

 

「…はい、いつも通り勝つだけですね。今回も負けるわけには行かないですよ、そりゃ」

 

 一通りの質問を経て、俺は話していく。

 

「…そして、ここからこのレースが終わった後の話をさせてもらいます。

 

 …エルコンドルパサーが今年からフランスへと遠征することはみなさんご存じかと思います。

 

 

 

 …それに伴いまして、この俺、シンボリハンターもそのフランス遠征に帯同することになりました」

 

 …俺が報道陣に向けていうまで、知っていたのは学園の上層部とリギル、スピカの面子のみ。

 

 ざわっ!?という声が部屋に広がっていく。

 

 …一応、東条さんや沖野さんに会見でこの話をすることを許可してもらったうえで、話した。

 

「つきましては1年間…、来年のサマードリームトロフィーとウィンタードリームトロフィーですね、このレースには出ることができません。

 

 もちろんフランスでもトレーニングは続け、エルコンドルパサーの遠征が終了次第、日本に復帰させてもらう予定です。

 

 …フランスで得た知識をいかして、レースで活躍させてもらうことは、この俺、シンボリハンターの名に懸けて、ここに誓わせてもらいます。」

 

 俺はここで一呼吸して、さらに「最後にサポーターを含めた全てのウマ娘に関わる皆様に向けて」と続けていく。

 

「…どうか、俺の離脱前最後のレースを、このウィンタードリームトロフィーを、ウイニングライブまでしっかりと最後まで見届けて頂きたい。

 

 …よろしくお願いします」

 

 俺はそう言いながら頭を下げた。

 

 



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51話

 …府中レース場。

 

「…行くか」

 

 地下バ道で俺は入場を待っていた。

 

 もちろん今回も大外18番である。

 

 いつものように応援歌を耳にしながら登場するんだと思っていると、前のウマ娘の応援歌が終わると同時に流れてきた。

 

 

 

シンボリハンター フォルツァハンター

 

シンボリハンター フォルツァハンター

 

さあ行け! 前へ進め! 立ち止まるな!

 

俺たちのこの声は届いてるかい!

 

 

 

シンボリハンター フォルツァハンター

 

シンボリハンター フォルツァハンター

 

さあ行け! 前へ進め! 立ち止まるな!

 

俺たちのこの声は届いてるかい!

 

 

 

 …もちろん届いてますよ、ずっと。

 

 俺への熱い応援を聞きながら、俺は走り出す。

 

 

 

『8枠18番!‟無敗の狩人”、シンボリハンター!』

 

 

 

 そして、俺の耳にはトランペット付き、本戦用の応援歌が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

ラララララララララ

 

ラララララララララ

 

ラララララララララ

 

ラララララ

 

 

 

行けシンボリハンター

 

夢見たその先へ

 

勝利を呼ぶ走りで

 

今魅せろ

 

 

 

…シンボリ、ハンター!

 

…シンボリ、ハンター!

 

…シンボリ、ハンター!

 

…シンボリ、ハンター!

 

 

 

 …1年間は応援できなくなるんだ。気合も入ることだろう。

 

 俺はHuntersに向けて拍手を送りながら、ゲートへと向かった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 ゲートに入って、俺は胸に手を当てて「ふうっ」と一息つく。

 

 さあ、始めようか。

 

 

 

 ガタンッ!

 

 

 

 ゲートが開かれると同時に、全てのウマ娘がスタートを切る。

 

 …天候は曇り、ダートは乾いても湿ってもいない状態。

 

 フィールドに問題はなさそうである。

 

 今日もいつも通り後ろに待機して、追い込んでいく形である。

 

 前方もファル子が突っ走っている。…いつもより早めに仕掛けるとするか。

 

 

 

オオオ ハンター!
 

 

オオオ ハンター!
 

 

オオオ ハンター!
 

 

オオ ハンター!

 

 

 

…Let's Go!
 

 

…Let's Go!
 

 

…Let's Go!
 

 

ハンター!
 

 

 

 

オオオ ハンター!
 

 

オオオ ハンター!
 

 

オオオ ハンター!
 

 

オオ ハンター!

 

 

 

…Let's Go!
 

 

…Let's Go!
 

 

…Let's Go!
 

 

ハンター!
 

 

 

 

 いつもより10割増しぐらいに聞こえてきた大チャンステーマを浴びながら俺は脚を早めていく。

 

 …第3コーナーに掛かると同時に、俺はギアを変える。

 

「…持ってくれよ、俺の足!」

 

 俺は一気にスピードを上げて、周りのウマ娘を置き去っていく。

 

 …ターゲットは先頭のファル子。やっぱり、明確な目標がいるのであれば走りやすい。

 

 土煙をあげながら、坂に差し掛かるところで俺はファル子と並ぶ。

 

 脚はまだ残ってる。行けるだろこの勝負!

 

 俺は脚を動かして、坂を駆けあがっていく。

 

「…そう何回も、負けるわけには行かないんです!」

 

 ファル子も俺を置き去ろうとスピードを上げてくる。

 

「そうだよな、ファル子。

 

 …でも、俺もそうやすやすと負けるわけには行かないんだよ!」

 

 そう言いながら俺はスピードを上げる。

 

 坂を登り切った後、俺はファル子を置き去る。

 

 俺は右手を大きく上に掲げながら、ゴールマークを駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 俺はフェンスを飛び越えてターフの上を滑っていく。

 

 

 

「シャー、オラァ!」

 

 

 

 俺は大きく吼える。

 

 そしてそれと同時に、Huntersから勝利のSee Offが流れてきた。

 

 

 

止まらねえ 俺達のハンター

 

暴れろ 荒れ狂え

 

ラララ ラララララ

 

叫び オイ! 歌え

 

 

 

止まらねえ 俺達のハンター

 

暴れろ 荒れ狂え

 

ラララ ラララララ

 

叫び オイ! 歌え

 

 

 

 タオルマフラーとフラッグが府中のスタンドの一角で大きく舞い踊っている。

 

 そしてもう一曲、この前の「激しい叫び」ではない曲が流れてきた。

 

 

 

シンボリハンター

 

寝ても覚めても

 

シンボリハンター

 

オレたちの全て!

 

 

 

さあ共に暴れよう

 

遠慮はいらねえ

 

荒れ狂う衝動を

 

解き放たせよう!

 

 

 

抑えきれねえ情熱を

 

声に乗せ響かせる

 

勝利の喜びを

 

分かち合うために!

 

 

 

シンボリハンター

 

寝ても覚めても

 

シンボリハンター

 

オレたちの全て!

 

 

 

さあ共に暴れよう

 

遠慮はいらねえ

 

荒れ狂う衝動を

 

解き放たせよう!

 

 

 

抑えきれねえ情熱を

 

声に乗せ響かせる

 

勝利の喜びを

 

分かち合うために!

 

 

 

 …この曲、何だったけ。

 

 でも『俺たちの全て』って言ってもらえるのはホントに嬉しいな。

 

 俺はサポーターの前に行き、前列の人からメガホンを受け取る。

 

「…えー、まずは…、勝ちましたー!

 

 俺がそう叫ぶと地鳴りにも似た歓声が上がる。

 

「俺のフランス遠征前最後のレース、勝ててホントに良かったです。

 

 みなさんの応援は俺にしっかりと届いてました!

 

 1年間、俺はレースに出れませんが、また戻ってきたときに大声援、よろしくお願いします!

 

 今までありがとうございました、行ってきます!」

 

 俺はそう言いながら大きく頭を下げた。

 

 …ライブでも言うことは出来るが、俺はHuntersのみなさんに直接伝えたかったからこうさせてもらった。

 

 選択に、後悔はない。行ってくるとしますか。

 

 俺はその後P.A.R.T.Yをしっかり踊り切り、その日を終えた。




 最初のチャントは町田ゼルビア(J2)の『Love me tender』、最後のチャントは同じく町田ゼルビアの『PASION」。
 両方ともに歌詞がかっこいいんですよね。


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52話

 空港にて。

 

 スピカ・リギルのメンバーが俺とエルを見送りに来ていた。

 

「ホントに行っちゃうんすね…」

 

「少し寂しくなりますね…」

 

「まー、1年の辛抱だよ。戻ってきたらまた一緒に走ってやるからさ、ウオッカ、スカーレット」

 

 不安そうに話してくるウオッカとスカーレットに俺はそう話していく。

 

「ゴルシ、俺がいない間のスピカは任せるよ」

 

「おう!このゴルシちゃんに任せときな!」

 

 ゴルシは俺がいないときは最年長になる。…まあ俺が来る前からスピカにいるから大丈夫だろうけど。

 

「マックイーン、ゴルシが暴走したときはお前が止めろ」

 

「なかなか無茶なこと言いますわね!?…まあできる限りはさせてもらうつもりですわ」

 

 マックイーンにはこう話す。…うん、無茶とは分かってるけどさ。

 

「テイオー。ルドルフを目指すなら英語とかフランス語も勉強し始めとけよ」

 

「心配ご無用!ボクにかかれば余裕だよ!」

 

 テイオーにはこうだ。ルナも最終的に海外行ったし、強ければ海外挑戦も視野に入ってくるし。

 

「スズカ、お前は今は完治させることだけを考えろ。無理に走ろうとして焦るなよ」

 

「ありがとうございます、ハンターさん」

 

 スズカは怪我のギプスが取れたとはいえ完治には程遠い。無理にやろうとして悪化させることは一番だめなことだ。

 

 …そして最後に。

 

「スぺ、今のお前に俺から言えることは一つだよ。『…自分の原点を忘れるな』。

 

 …これが出来ないならお前はレースに勝てねーよ」

 

「…自分の、原点…」

 

 …スぺのジャパンカップで勝てなかった理由は大体わかるが、ここで簡単に教えるわけにも行かない。

 

 どうか自分で答えを見つけてくれ、スぺ。

 

 その後、俺はルナたち生徒会組の元へと向かう。

 

「エアグルーヴ、ブライアン。ルドルフが仕事しすぎてるときには引き剝がしてでも止めてやれ。

 

 こいつは止まるっていう言葉を知らないからよ」

 

「…分かった」

 

「もちろんです。生徒会はお任せください、ハンターさん」

 

 ブライアンとエアグルーヴはそれぞれらしい返事を俺に返してくる。

 

「なかなかキツイことを言ってくれるな、ハンター」

 

 そしてルナが苦笑いしながら話してくるので、俺はそれに続けていく。

 

「その通りなんだから仕方ねーだろルドルフ。

 

 俺も人のこと言えたもんじゃねーけど、お前は一度止まるってことを覚えろ」

 

 そして沖野さんと東条さんが話してきた。

 

「ハンター、お前無茶すんじゃねーぞ?」

 

「分かってますよ。沖野さんこそ無茶しすぎないでくださいね?」

 

「…ハンター、向こうにもスタッフがいるとはいえエルと一番付き合いが長いのはお前だ。

 

 エルを頼むよ」

 

「言われなくても。

 

 しっかり凱旋門取らせて帰ってきます」

 

 沖野さんと東条さんからはそう話していく。

 

 …色々と話していくと、俺とエルが乗る飛行機のアナウンスがあった。

 

「ハンターさん、行きマスよー!」

 

「あ、エルちょっと待ってくれ。

 

 お前に聞かせたいもんがある」

 

「ケ?」

 

 俺が示した先にはHuntersがいた。

 

 飛び立つ前、鳴り物系は使えないがエルに声援を…と頼んだところ「喜んで!」と引き受けてくれた。

 

 

 

今翼広げ

 

行け大地を蹴り

 

翔べ高く飛び立て

 

羽ばたけ鷹の如く

 

ゴーゴーレッツゴー エル!

 

 

 

今翼広げ

 

行け大地を蹴り

 

翔べ高く飛び立て

 

羽ばたけ鷹の如く

 

ゴーゴーレッツゴー エル!

 

 

 

「こ、コレは…」

 

「お前の応援歌な。俺が頼んどいたんだよ。気持ちが上がってくるだろ?鳴り物は空港だから使ってないけど」

 

 俺がそう言うとエルは「ハイ!」と元気よく返してきてくれた。

 

「みなさん、私頑張ってキマス!いい結果待っててくだサイ!」

 

「その意気だエル。…皆さん、行ってきます」

 

 俺とエルは見送りに来てくれた人たちに手を振りながら出国ゲートへと向かった。




エルに使った曲は鷹野史寿選手(オリックス・ブルーウェーブ)の応援歌。
この曲はまさにエルだな…と。


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53話

フォントが違うところはフランス語で話してると思ってください。


「エル、どうだ、こっちの芝は?」

 

「うーん、やっぱり違和感ありマス…、芝なのにダートぐらい足を取られるというか…」

 

「やっぱそうか…」

 

 俺はエルの言葉にそう答える。

 

 ヨーロッパに来た日本のウマ娘がまず直面する課題、それは芝の違いだ。

 

 日本の芝に比べてヨーロッパの芝は深くて足にまとわりつくような感覚である。

 

 そのおかげで芝というよりダートを走ってる感覚になるのだ。

 

 日本の芝がスピードを求められるのに対して、ヨーロッパはパワーが必要になってくる。

 

 この感覚の違いをまずは無くして行かないと。

 

「エル、今のってストライド重視の芝の走り方だよな。

 

 次、ピッチ重視のダートの走り方で走ってくれねーか?」

 

「了解デース!」

 

 …エルはそう言ってスタート地点へと走っていく。

 

「…君、トレーナーなのか?指示の出し方が現役とは思えないな」

 

 フランスのスタッフの方が俺の指示の出し方を見てそう話してくる。

 

「サポートするのが好きなんですよ。

 

 あいつらに気持ちよく走ってほしいって思ってるだけです。

 

…タイム計測、お願いします」

 

 エルから「準備OKデース!」と聞こえて来たので、俺達サポート班は位置に付いた。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「…んー、要注意なのはコイツらかな…」

 

 俺は偵察がてらフランスのトレセン学園でそこにいるウマ娘の走りを観察していた。

 

 タブレットで調べた情報と照合しながら調査していく。

 

 …俺が出来るのは俺という選手目線での情報提供。

 

 それをもとに最終的に走り方を決めるのはエルのトレーナーである東条さんである。

 

 現場と日本で認識にラグができないように適宜ミーティングを行いつつ、作戦を練って行っている。

 

 そんな中、俺に声をかけてくるウマ娘がいた。

 

「…アンタ、ここで何してるの?ここは関係者以外立ち入り禁止よ」

 

「…ちゃんと通行証もらってますよ」

 

 俺はそう言いながら首から掛けた通行証を見せる。

 

「…って、もしかしてシンボリハンターじゃないの?

 

 久しぶり!」

 

 俺にそう声をかけてきたウマ娘に俺は面識があった。

 

「ルーヴルじゃねーか。会うのはジャパンカップで日本に来て以来か?」

 

 ルーヴル、俺が凱旋門賞でトップを争ったフランスのウマ娘である。

 

 凱旋門でバトってから連絡を取り合っており、日本にも来てくれた。

 

 確か今はここで生徒会長やってるんだっけか。

 

「…誰も見たことがないマウンテンパーカーを来た不審なウマ娘がいるって連絡を受けて見に来たのよ。

 

 今日はあの日本の制服とか体操服とかスーツじゃないの?」

 

「今回は走りに来てないんだよ。…っていうかこれ不審者に見えるか?」

 

 ルーヴルの言葉を受けて俺が回りながら自分が着ている黒いマウンテンパーカーを見せると「少なくともウチの学校にはいないわね」と返される。

 

「それにその黒いサングラスも怪しいわよ。普通に怖いわ」

 

「そうなのか?そこまでだと思うんだけどなー」

 

 俺がそう返すと、ルーヴルが続けてきた。

 

「で、何しに来たの?」

 

「偵察だよ偵察」

 

「…いや、少しはオブラートに包み隠しなさいよ…」

 

 俺の言葉にルーヴルは呆れながらそう話してくる。

 

「ウチから凱旋門に目指す奴がいるからそれの付き添いだよ」

 

「あー、そういえば日本のウマ娘で凱旋門取ったのってアンタだけだもんね…」

 

 ルーヴルが納得した表情で俺を見てくる。

 

「ってな訳で、凱旋門やるまでフランスにいるからよろしくな」

 

「…分かったわ。ここのウマ娘達には私から伝えさせてもらうわよ、あんたのこと」

 

 ルーヴルは俺にそう話してくれた。




オリジナルウマ娘ルーヴル。フランスのルドルフ的なウマ娘で生徒会長やってる設定。
名前はあのルーヴル美術館から取らせていただきました。


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54話

 フランスに来てからしばらくして。

 

 エル初めてのフランスでのレース、イスパーン賞は2着に終わった。

 

 …とは言ったものの、俺としては結果にこだわってはいなかった。

 

 俺的にはG1レースとはいえフランスの芝になれることを目的としたのがこのレースだったからだ。

 

 だんだんエルも慣れてきて感覚もつかめて来たらしい。

 

 東条さん達と話し合い、次のレースは凱旋門賞と同じ芝2400のサンクルー大賞。

 

 ここでの目標は前回とは違い一位を取ること。

 

 エルも気合が入っていた。

 

「今日もエルは良い感じ…っと」

 

 そんな中、誰かが俺に声をかけてきた。

 

「へえ、あの子がエルコンドルパサーね…」

 

 ルーヴルだった。後ろにはもう一人着いて来ている。

 

「どうしたんだよ、ルーヴル。偵察か?」

 

「そうよ、何か悪いかしら?」

 

「別に…?今のエルは見られようがどうってことねーよ」

 

 俺がそう話していると、ルーヴルの後ろにいたウマ娘がルーヴルに声をかけた。

 

「会長、この人があのシンボリハンターさんですか?」

 

「そうよ。私が負けた日本のウマ娘姉妹の一人。ハンター、あなたは妹の方だっけ?」

 

「ああ、姉がルドルフだな。…で、そのウマ娘は?」

 

 俺がそう言うとそのウマ娘は話してきた。

 

「私はブロワイエ、あなたのことは会長からよく聞いてますよ」

 

 ブロワイエ。確か今のフランスを代表するウマ娘だったはずだ。

 

 恐らく凱旋門にも出てくるだろうし、エルの大きなライバルとなるだろう。

 

「へえ、嬉しいね。そこまで俺たちに負けたこと悔しかったんだ、ルーヴル」

 

 ブロワイエの言葉に俺がそう続けると、ルーヴルは俺に怒ってくる。

 

「悔しいに決まってるでしょうが!

 

 凱旋門賞とれると思ったら「調子に乗んな!」って言われたウマ娘に一気に差しぬかれて!

 

 リベンジで日本に行ったら行ったでそいつの姉に完膚なきまでに叩き潰されて!

 

 アンタ達姉妹は私に恨みでもあるの!?」

 

「はは、そりゃ悪い悪い」

 

「絶対悪いと思ってないでしょ!」

 

「ちょ、ギブ!ギブだってルーヴル!?」

 

 ルーヴルを軽くいなしていると俺に技をかけてきた。

 

 俺は解放されるとブロワイエに話しかける。

 

「…ったく、ブロワイエだったか?そんなにこいつ俺たちのこと話してんの?」

 

「少なくとも、「こんなこと二度としないから!」とは話されていますね」

 

 そこまでだったのかよ、ルーヴル。

 

「っていうかさ、俺が「調子に乗んな!」って言ったのはお前が「日本のウマ娘なんかが勝てるわけないでしょ」って挑発してきたからだぞ?

 

 あんなこと言われなかったら俺も言わねえっての」

 

「そうだけど…。あのときの私はホントに調子乗ってたのよ…」

 

 そう言いながらルーヴルは肩をすくめる。

 

 ちなみにルーヴルと仲が良くなったのはレースの後。

 

 ルーヴルが謝って来たので俺も許し、そこから交流が始まったという感じである。

 

「…まあ、良いわ。今日はエルコンドルパサーを見に来ただけだし。あなたにブロワイエも見せれたし。

 

 帰るわよブロワイエ」

 

「はい、会長。ハンターさん、また会いましょう」

 

 そう言って2人は帰って行った。

 

 

 

 



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第?R 「いざ、凱旋門!」
55話


9話に行く前に、ハンターの凱旋門賞の話をさせてもらいます


 

 

 

 …数年前。ロンシャンレース場。

 

 

 

 俺は気持ちを高めていた。

 

「…絶対、勝つ…!」

 

 ここに来たのは俺一人。沖野さんも学園に残っている。

 

 …それに今回の俺はぶっつけ本番だ。

 

 フランスでのレースには全く出ていない。

 

 こっちの芝の感覚もイマイチだ。

 

 …だから俺はここを芝じゃなくダートと思うことにした。芝の走り方だと間違いなく無理である。

 

 そうしていると、誰かが俺に声をかけてきた。

 

「…アンタ、初めて見るわね。どこから来たの?」

 

 こいつは確か…、ルーヴルだったか。確かフランス最強のウマ娘って言われてたはずだ。

 

「…俺はシンボリハンター。日本のウマ娘だよ」

 

 俺がそう聞くと、ルーヴルはこう返してきた。

 

「私はルーヴル。日本から来ておいてアレだけど、今日は引き立て役よろしくね」

 

「…そうか」

 

 俺がそう話して、どこかに行こうとするとルーヴルは俺を止めてきた。

 

「ちょっと、もしかして勝つつもりでいるの?

 

 日本ってあのアジアの端にある島国よね?

 

 日本のウマ娘なんかがここで勝てるわけないでしょ。

 

 今からでも遅くないから、恥ずかしくなる前に日本に帰ったらどう?」

 

 …へえ、言ってくれるね。

 

 俺をけなしてくるだけなら流そうと思ったんだが、日本全体をけなすなら言っておかないとな。

 

「…なあ、ルーヴルだったか?」

 

「…ん、なによ?」

 

 ルーヴルを止めた俺は彼女にこう言い放つ。

 

 

 

 

 

「…La victoire est à moi!」

 

 

 

 

 

「…!?」

 

 『La victoire est à moi!』、日本語に訳すと「勝利は私のものだ!」である。

 

 これをレース前に言うということはその相手に「調子にのんな!」と相手を挑発している…ということ。

 

 言葉を出すのに戸惑うルーヴルを横目に、俺はゲートへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 ファンファーレが鳴り響き、ゲートに俺を含めたウマ娘達が続々と入っていく。

 

 最高潮に盛り上がっていたスタンドは一気に静まりかえってスタートを今か今かと待つ。

 

 …そして。

 

 

 

 

 

 ガタンッ! 

 

 

 

 

 

 今、ゲートが開かれて凱旋門賞がスタートした。

 

 

 

 …俺はいつもよりペースを落として、最後方に位置取る。

 

 俺が調べたデータだと、日本に比べてヨーロッパのレースはゆっくりとスタートする。

 

 恐らくは芝の違いによるものだろうか。

 

 ここではスピードよりパワーが重視されると言った方がいいだろう。

 

 …そのため、俺が普段のペースで走れば間違いなく中団に巻き込まれて動こうにも動けない状態になる。

 

 そうなるぐらいなら、ペースを落としてでも巻き込まれないようにすると言うのが俺の考えだ。

 

 先頭にいるウマ娘も俺の射程内にいる。

 

 …ただ、ペースが遅い分、いつもより仕掛けるのは結構早めないとな。

 

 そう思いながら、俺は第3コーナーに差し掛かる。

 

「…持ってくれよ、俺の脚ッ!」

 

 俺は足のギアを最大にして一気に加速していく。

 

 下り坂というのもあり、他のウマ娘のペースも上がるが、俺はそれ以上のペースで外側から追い抜いていく。

 

 最後の直線に入るぐらいの所で俺は先頭にいたルーブルに並んだ。

 

「アンタなんかに、負けるわけには行かないのよっ!」

 

 ルーヴルはそう言いながらペースを上げていく。

 

「それは俺も同じだっての!」

 

 俺もそれにつられるようにしてペースをさらに上げる。

 

 …俺はもう、この凱旋門賞でトゥインクルからは身を引くと決めていた。

 

 この脚が壊れようがどうなろうが構わねえ!

 

 最後の残り100m、俺はさらに加速し、ルーヴルの前に出た。

 

「うそ…!?」

 

 ルーヴルがそう呟く声が聞こえてきた。

 

 俺はそのまま加速していく。

 

 ゴール板を通過すると同時に、俺は右人差し指を大きく天に突きさした。



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第9R 「スピカの夢」
56話


 エルはフランスでの2戦目、サンクルー大賞で無事勝利を収めた。

 

 凱旋門とレース場は違うものの、同じ芝2400で勝てたのは大きい。

 

 無事にフランスへの対応は出来ていると言っていいだろう。

 

 ちなみに現在は東条さん・ルドルフ・エルの4人でミーティング中である。

 

『…ハンター。エルのレースを見てて思ったことはあるか?』

 

 画面越しにルナがそう聞いてきた。

 

「…うーん、やっぱレースのテンポだろうな。

 

 この前のレースでもそうだったけど、やっぱこっちはスタートのペースが遅いからエルが逃げ気味になってる。

 

 …そうだろ、エル?」

 

 俺がそう聞くとエルも首を縦に振る。

 

「そうですネ…。日本だともっと前に行くウマ娘が多いデスけど、ここだと初めは全体的に固まってる気がシマス…」

 

 現に、サンクルー大賞ではエルがバ群の中に取り込まれそうになった。

 

 あそこから抜け出すのは俺やルナでさえもかなり難しいだろう。

 

「…分かった、こちらでも作戦は考えさせてもらう。ハンターもデータ収集を続けてくれ」

 

「了解です、最後までデータは集めていきます」

 

 俺が東条さんにそう答えると、ルナが話してきた。

 

「…ハンター、久々のフランスだがどうだ?」

 

「どうもこうもねーよ。…でも、久々にルーヴルには会ったぜ。

 

「ほう、あのルーヴルか。私も久々に会いたいものだな」

 

 ルナがそう答えるのに俺は続けていく。

 

「後、ブロワイエだったか?そいつにも挨拶されたな。なかなかの強者ぽかったよ」

 

「ブロワイエって、ヨーロッパ最強のウマ娘と評されているあのブロワイエか!?」

 

 俺の言葉に東条さんがそう聞いてくるので俺は「そうです」と続けていく。

 

「恐らく俺がエルのサポートに付いてることで、エルのことは結構警戒してるでしょうね」

 

 俺がそう話しているとエルが話してきた。

 

「ブロワイエなら、ワタシこの前会いマシタ!…これがそのブロワイエのサインデース」

 

 エルが見せてきたのはフランス語の入門本。そこにはフランス語で何か書かれている。

 

『エル、ちょっとそのサインをもっと近づけて見せてくれないか?』

 

 ルナがそう言ってくるため、エルはその本をスマホのカメラへと近づける。

 

「…なるほどな」

 

 …終始笑顔だったルナの目から一瞬だけ笑みが消えた。

 

「…エル。そのサイン、俺にも見せてくれないか」

 

「いいデスけど…、何かありまシタ?」

 

 俺はその書かれた文字を見て東条さんに話す。

 

「…東条さん、エルの調整、早めて行ってもいいですか?」

 

『構わないが…何かあったか?』

 

 東条さんに答えるように俺は本に書かれた文字を訳していく。

 

「やっぱりというかなんというかですけど…、『私の方がコンドルより速く飛べる』…と」

 

 それを聞いて東条さんとエルも笑顔が消えた。

 

「…そうか。ハンター、エルにできる限りのことをしてやってくれ」

 

「了解しました、東条さん。

 

 …エル、予定だと明日から1段階上げる予定だったけど、今から行くぞ。行けるな?」

 

「ええ、もちろんデス!」

 

 目に炎が入ったエルはそう元気よく返してくれた。



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57話

 

 本番と同じ、ロンシャンレース場で行われるフォワ賞も勝ったエルは凱旋門賞に臨む。

 

「…行ってこい、エル!」

 

「ハイ!」

 

 俺はそう言ってエルを送り出す。

 

 あれからというもの、エルに様々な特訓を施した。

 

 これで負けても仕方ない…というレベルにはしてある。

 

 後はエルがどれだけ頑張れるか…という話だ。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 一通りの特訓を終えたエルに俺は話しかける。

 

「エル、一つ聞かせてもらってもいいか?」

 

「ケ?別にいいですケド…」

 

 俺はエルに話していく。

 

「…エル、お前はこの凱旋門に全てを懸ける覚悟はあるか?」

 

「全て…デスカ?」

 

 エルが聞いてきたため、俺は続けていく。

 

「ああ、…はっきり言わせてもらうぜ。

 

 今のお前のままじゃ、ブロワイエには勝てねえ。

 

 よくて競り負けるくらいだろうよ」

 

 俺がそう話すとエルは反論してきた。

 

「な、なんでそんなこと言うんデスカ!?

 

 レースなんて、走ってみなきゃ分かんないじゃ…」

 

「それぐらい今のお前とブロワイエじゃ差があるってことだよ!

 

 この凱旋門はただ走るだけで勝てるような甘いレースじゃねえんだ!」

 

 俺はエルの服の胸ぐらをつかみながら、エルに叫んでいく。

 

「今、お前は日本にいる全てのウマ娘達の想いを背負ってるってことを忘れるな!

 

 …スぺ、グラス、スカイにキング!

 

 それからルナやエアグルーヴのようなウマ娘だってこの舞台に立つことは出来なかった!

 

 そんな中途半端な覚悟であいつらに魅せるレースができるわけがねえだろうが!」

 

 俺はそう言ってから我に戻り、エルから手を放す。

 

「…すまない、エル。…取り乱した」

 

「いえ、確かにそうデスね…。ハンターさんの言う通りデス…」

 

 耳を畳み、落ち込むエルに俺は続けていく。

 

「でもな、このレースに全てを懸けるって言うなら勝機はあるよ。エル」

 

「すべてを…」

 

 そう呟くエルの言葉に続けるように俺は話していく。

 

「ああ。…ただ、この作戦をやるならお前の脚を今以上に酷使することになる。

 

 今のトレーニングだとエルの脚の負担を考えたものになっているが、これをするっていうならそのリミッターを破壊するってことだからな。

 

 それにこれが成功するかどうかは本番次第だ。負けたうえに二度と走れなくなるって可能性もある」

 

 俺はそこで一呼吸おいて続けていく。

 

「…だから聞かせてくれ、エル。

 

 お前はこのまま何もせずにブロワイエに負けるか、一か八かの俺のギャンブルに乗るか。

 

 …お前はどっちにしたいんだ?」

 

「わ、私は…」

 

 エルはそこで言葉を詰まらせる。

 

「…無理に乗れとは言わねえよ。日本に戻った後のことも考えたらな」

 

 俺がそう話すと、エルは口を開いた。

 

「…ハンターさん。…お願い、します!」

 

 そこにいたのはいつものエルじゃない、素のエル。

 

 …覚悟はできたみたいだな。

 

「分かった、今までより数十倍はハードになるぞ。

 

 ついて来る準備はいいな?」

 

「もちろんデース!」

 

 エルは俺にそう返した。



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58話

 凱旋門賞当日、俺はスタンドの最前列でエルを見ていた。

 

「…上からの方が見やすいんじゃないの?」

 

 ルーヴルがそう俺に話しかけてきた。

 

「ここがいいんだよ。エルの勝つところを最前線で見たいしな

 

 それにお前もだろルーヴル。フランスの会長さんがこんなところにいていいのか?」

 

「ちょっとアンタと話したかったのよ、すぐに戻るわ」

 

 ルーヴルはそう続けていく。

 

「…ブロワイエはジャパンカップに行くわ。凱旋門賞というタイトルを引っ提げてね。

 

 今年は私もそれについてくつもり。

 

 この後正式に連絡はするつもりだけど、日本に行ったときは盛大に歓迎しなさいよ?」

 

 へえ、日本に来るのかブロワイエ。

 

「了解した。『お前の時みたいに』、盛大に歓迎してやるよ」

 

「ブロワイエは私のようにはならないわよ!」

 

 ルーヴルは俺にそう叫んできた。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 レース直前、俺を見つけたエルは走って俺の方に寄ってくる。

 

「エル、ブロワイエや他のウマ娘達は間違いなく強い。

 

 だけど、俺の特訓を耐えきったお前ならできるはずだ。

 

 勝つって信じてるぞ」

 

「もちろんデース!私に任せておいてくだサイ!」

 

 エルは元気よく俺にそう返してくる。

 

「…間違いなく、日本であいつらも見てくれてる。

 

 …生徒会副会長として命令だ。

 

 

 

 世界を取って来い、エルコンドルパサー!

 

「了解デース!」

 

 エルはそう言ってゲートへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 ファンファーレが鳴り響き、続々とウマ娘達がゲートに入っていく。

 

 エルが入ったのは2枠。

 

 …これを実行するにあたって東条さんに「直前で作戦変えてもいいですか?」と確認し、「作戦はお前に任せる、ハンター。責任は私が取るわ」という言葉を貰った。

 

 それなら心配することはない。東条さんにも感謝である。

 

 すべてのウマ娘がゲートの中に入り、ロンシャンレース場には一瞬の静寂が流れる。

 

 この一瞬の静寂はどこの国でも変わらない。

 

 …そして。

 

 

 

 ガタンッ!

 

 

 

「…さあ、思いっきり楽しんで来い、エル!」

 

 ゲートが開かれると同時に俺はそう話す。

 

 エルは他のウマ娘を気にせずに先頭に立ち、加速しながら差を3バ身、4バ身と離していった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 日本、トレセン学園。

 

 

 

「大逃げだと!?」

 

 

 

 エルコンドルパサーが他のウマ娘を引き離しながら、ぐんぐんと加速していくのを見て、東条ハナは立ち上がりながらそう叫んだ。

 

「グラスちゃん、エルちゃんが大逃げをしたことって…」

 

 スペシャルウィークの言葉にグラスワンダーは「いいえ」と首を振る。

 

「エルの走りが結果的に逃げになることはあっても、初めから逃げる走り方なんて見たことないです。

 

 しかもこの凱旋門賞という大舞台で…」

 

「…エルコンドルパサーなら出来ると確信したんだな、ハンター」

 

 シンボリルドルフはテレビ画面を見ながらそう呟いた。

 

 



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59話

 凱旋門賞の1週間前。

 

 俺とエルは誰もいないターフに立っていた。

 

「…いいか、エル。

 

 今からお前に教えるのは大逃げだ。

 

 …ただの逃げじゃねーぞ」

 

「大逃げ…、スズカさんみたいに走れ…ってことデスカ?」

 

 俺はエルの言葉に同意する。

 

 いつものエルの戦術である先行・差しはあのバ群に埋もれることを考えたらあまりしたくはない。

 

 追い込みでもいいのだが、俺がサポートにいることを考えて対策してきてる可能性が高い。

 

 …そこで、大逃げだ。エルは逃げはしたことがない。情報も少ないだろう。 

 

「そうだな、ブロワイエに勝つなら最低ラインが1000通過が58秒切るぐらいだと思ってる。

 

 参考までに天秋のスズカの1000通過が57秒4な」

 

 俺はエルに向けてそう話していく。

 

 ブロワイエのレース映像や直接見た限りだが、勝つためにはあのスズカ並み…とまでは行かないがそれに準ずるタイムは必須になってくる。

 

 それぐらい、アイツは強い。

 

「エル。この前のサンクルーやフォワ賞は『逃げになった』けど、今回は『作戦としての逃げ』だ。

 

 大逃げは後ろを気にしたら負けだ、前だけを見ろ」

 

 ちなみに俺はジャージに着替えており、走る準備で来ている。

 

「エル、今からやっていくことはただ一つ。

 

 …後ろから追い込む、俺に追いつかれるな」

 

「ハンターさんに…」

 

 エルの言葉に俺は続けていく。

 

「そうだ。俺に追い抜かれた時点で負けだと思ってくれ。

 

 俺に負けるようじゃ、ブロワイエには勝てねえよ。

 

 …それじゃ、行くぞエル!」

 

「ハイ!」

 

 その日から、俺とエルの猛特訓が始まった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 エルは予定通り、6,7バ身と離していっている。

 

 スタートも出遅れてなかったし、順調だろう。

 

 …他のウマ娘の反応を見てもここまで逃げることは想定してなかったっぽいしな。

 

 1000のタイムは57秒8、予定通り良い感じのペースである。

 

 …そしてエルはロンシャンの名物と言ってもいい、フォルスストレートを走り切り、ホームストレートに入ってくる。

 

 後ろからはブロワイエが追い詰めてきている。

 

 差も2,3バ身ぐらいに詰まってきていた。

 

 …ここからが勝負だぞ。

 

 

 

 エルのペースは落ち始め、ブロワイエもそれに負けじと加速してくる。

 

 …流石は地元のスター、ブロワイエだ。

 

 スタンドからブロワイエへの声援が大きくなっている。

 

 …少しエルのペースも落ちたか。

 

 差も1.5バ身ぐらいに詰まってきていた。

 

 

 

 …でも、エルなら行ける。

 

 エルはそれができるウマ娘だと俺は知っているからだ。

 

 

 

「…世界最強のウマ娘になるんだろ、エルコンドルパサー!」

 

 

 

 俺はエルに向けてそう叫んだ。

 

 …俺の声が届いたのか、エルのペースが落ちなくなった。

 

 ブロワイエは1バ身ぐらい後ろにいる。

 

 

 

 …だが、エルにはもうそのリードで十分だった。

 

 

 

 

 エルはまるで俺のように、右手を天に突き刺してゴール板を通過した。



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60話

 エルがゴール板を通過した瞬間、ロンシャンレース場は沈黙に包まれた。

 

 …そりゃそうだろう。大エースのブロワイエが日本から来たウマ娘に負けたのだから。

 

 そんな中で俺は。

 

 

 

「…いよっしゃー!」

 

 

 

 …大きく叫んでいた。

 

 

 

「ハンターさーん!」

 

「お、おわっと!?」

 

 エルもそんな俺を見つけて近づいてきて、フェンスを乗り越えながら俺に抱き着いてきた。

 

「やりまシタよ、ハンターさん!

 

 ワタシ、凄く嬉しいデス!」

 

「ああ、よくやったよエル!」

 

 俺は笑顔を見せるエルの頭を撫でながらそう褒めていく。

 

「ハンターさん!ワタシ、世界最強のウマ娘になれまシタか?」

 

「もちろんだ、エル。お前は世界最強のウマ娘だよ。

 

 俺はお前というウマ娘に関われたことを誇りに思うよ、エル」

 

 そう言いながら、俺もエルを抱きしめる。

 

「ハンターさんがいなかったらワタシ多分このレース取れてなかったデス。

 

 ありがとうございました、ハンターさん!」

 

 俺とエルがそう話しているとブロワイエが近づいて来ていた。

 

「…見事だったよ、エルコンドルパサー。

 

 君と走れてよかった」

 

「ハイ、ワタシもあなたと走れてよかったデース、ブロワイエ!」

 

 通訳を俺がしながらエルとブロワイエは話していき、お互いがっしりとした握手を交わす。

 

「良いレースだった、またどこかで一緒に走ろう」

 

 ブロワイエがそうエルに聞くと、エルは首を振っていた。

 

「…イエ、ワタシのトゥインクルはこの凱旋門で終わりにシマス。

 

 …ここからはドリームトロフィーに移籍しようカナって」

 

 …エルもドリームトロフィー来るんだな。

 

「ドリームトロフィー、日本でやっている更に上のレース…か」

 

「…ブロワイエ、ルーヴルから聞いたがジャパンカップ来るんだろ?

 

 日本で待ってるぜ」

 

「ええ、日本のウマ娘に『ブロワイエが凱旋門のリベンジに来る』と伝えてください」

 

「ああ、もちろんだよ」

 

 ブロワイエの言葉に、俺はそう話していた。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「ええ、ありがとうございます、東条さん」

 

 その日の夜、俺は東条さんと話していた。

 

『ハンター、お前に行ってもらえて本当に良かった。

 

 エルに今までやったことのない大逃げをさせるなんて、私にはできないからな』

 

「いやー、正直賭けでしたよホント。

 

 今までのエルのままじゃ間違いなくブロワイエには勝てないなって思って。

 

 帰ったら思いっきり抱きしめてあげてください」

 

 俺の言葉に「分かった」と東条さんは返してくる。

 

『そういえばハンター。

 

 エルがドリームトロフィーへ移籍するって言ったのは本当か?』

 

 俺は東条さんの言葉に同意する。

 

「ええ、『私のトゥインクルは凱旋門で終わりにする』…と。

 

 エルの戦績なら文句なしでドリームトロフィー移籍できるでしょうし」

 

『…了解した。私の方でも手続きを準備しておこう。

 

 日本には予定通り帰れそうか?』

 

「ええ。元からそれで動いてましたしね。

 

 予定通り帰りますよ」

 

 俺は東条さんとそう話していった。



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第10R 「何度負けても」
61話


 

「エル、ハンターさん!お帰りなさい!」

 

 トレセン学園に戻ってきた俺とエルにグラスがそう声をかけてくる。

 

「エル、見事な走りだった。日本のウマ娘として、ハンター以来の凱旋門賞制覇、見事だったぞ。

 

 ハンターもよくここまでエルをサポートしてくれたな」

 

 ルナはエルと俺にそう返してくる。

 

「…いやー、ギリギリでシタ…。

 

 ハンターさんの特訓がなかったら負けてたと思いマス…」

 

「謙遜すんな、エル。あれはお前の力だよ。

 

 俺はその力の出し方を変えてやっただけにすぎねえからな」

 

 俺がそう言いながらエルの頭を撫でると、エルは尻尾をブンブンさせながら笑顔を見せてくる。

 

「…ハンター、スピカなら今ターフに出ているはずだ。行くなら行ってこい」

 

「了解っす」

 

「あ、じゃあワタシも行きマス!」

 

 俺とエルはスピカの面々の元へと向かおうとした。

 

「…そうだ。オペラオーに言っておくことがあるんだった」

 

「…はい!ボクにですか?」

 

 俺はそう言ってオペラオーに話していく。

 

「オペラオー。この前の京都大賞典、テレビで見させてもらったぞ」

 

 オペラオーは俺の言葉を聞いて体をビクッ!と震わせる。

 

「…あのレース、お前は恐らくスぺをマークしてたんだろうけど。

 

 あの位置にいるなら他のウマ娘の状況も分かるだろうし、早めに対象を他のウマ娘に切り替えることも大切だ。

 

 菊花賞が終われば、本格的に同年代だけじゃなくて上の年代との勝負も増えてくるんだからよ。

 

 …『マークする相手を間違えた』だけで絶対済ますな。

 

 そんなこと思ってると、トプロやベガ、ドトウに菊花賞かっさらわれるぞ。

 

 自分の走り方、何回でも振り返っとけ」

 

「は、はい!」

 

 俺はオペラオーにそう話して置いた。

 

 …数週間後、オペラオーが菊花賞を無事勝ち取ったのは別の話だ。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 俺とエルがターフに向かうと、スピカの面子が練習していた。

 

「あ、ハンター!おかえりー!」

 

 俺に気づいたテイオーがそう手を振る。

 

 エルはスぺの元へと向かっていった。

 

 俺は沖野さんから頭を撫でられる。

 

「ハンター、よくやったぞ」

 

「いえ、エルの実力っすよ。

 

 またこれからよろしくお願いしますね、トレーナー」

 

 俺はトレーナーにそう話していく。

 

 そして、エルがグラスに引きずられていった後、俺はスぺに話しかけていく。

 

「スぺ、京都大賞典見させてもらったぞ」

 

「え!?」

 

 スぺも俺の言葉を聞いた後、オペラオーと同様に尻尾をビクッ!とさせる。

 

「あのなぁ…、調整不足にも程があるっての」

 

 俺はスぺの手を掴んで大体の体重を調べる。

 

「おおかた○○㎏ぐらいか…、増え過ぎだな」

 

「い、言わないでくださいよ!」

 

 スぺはそう言ってくるが、俺は気にせず続けていく。

 

「調整ぐらいトレーナー任せじゃなくて自分でもある程度は出来るようになれ。

 

 ヤバくなったらトレーナーが止めてくれるだろうからさ」

 

「は、はい…」

 

 スぺはそう言って耳を垂らす。

 

 そんなスぺに沖野さんが話しかける。

 

「まあスぺ。ハンターが言うことは最もだが、終わったことを考えても仕方ないぞ。

 

 次は秋の天皇賞。その先はジャパンカップも照準に入れてるんだ」

 

 秋の天皇賞の後はジャパンカップ…か。

 

 スぺとブロワイエの対決、見られそうだな。

 

「ところでトレーナー、今日はどんなメニュー?」

 

「なんでもかかって来やがれ!せいやっ、あたたたっ、とりゃー!」

 

 テイオーとゴルシはそう話し、ゴルシは蹴りを繰り出したり、拳を突き出したりしながら転んでいく。

 

「お前ら、無駄に気合入りすぎ。体を置いてけぼりにするな!

 

 …特にスぺ!」

 

「は、はい!」

 

 そう言って沖野さんはスぺに話していく。

 

「前のレースはハンターが言う通り仕上がり不足が原因だ。お前、隠れてトレーニングしてねーか?」

 

「ええっ!?」

 

「…してたんだな、まったく…」

 

 俺はスぺの反応にそう返していく。

 

 沖野さんはため息をつきながら、改めて話していく。

 

「…決めた!お前らはしばらく休養!

 

 特にスぺは、次の天皇賞まで…そうだ」

 

 沖野さんは何かを思いついたように話していく。

 

「一度、実家に顔出してきたらどうだ。お前、正月も帰らなかっただろ?」

 

「じ、実家ですか!?」

 

 沖野さんはニヤッと笑いながらスぺを見つめていた。

 

 

 

 

 



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62話

「…さーて、やりますかっと!」

 

 そう言いながら生徒会室にいる俺である。

 

「…えーと、まずはこれからだな…」

 

 俺はテキパキと書類を進めていく。

 

 そうしていると生徒会室の扉があく気配がした。

 

「…もう来ていたのか、ハンター」

 

「ルナか。…フランス遠征で出来てなかった分はやっておこうかなって思ってな」

 

 …そう言いながらも俺は手を止めない。

 

「…そういえば、ハンター。

 

 これを見てくれないか?」

 

 ルナから渡されたのはサポーター・チャントシステムに関する書類だった。

 

「来年度のサマードリームトロフィーから芝でもサポーター・チャントシステムの導入が決まった。

 

 基本的にはダートのシステムをそのまま導入させてもらう形だが…、提案者であるハンターにも聞いておこうかなと思ってな」

 

 ルナは俺にそう話してくる。

 

「…ああ、特に問題ない。ここまま行って大丈夫だろう」

 

 俺がそう話すと、ルナは続けていく。

 

「…それでだな。ジャパンカップ前日のオープン特別で実験導入し、Huntersに模範として演奏してもらいたいんだ。

 

 サポーターリーダーたちによる視察も兼ねてな」

 

 俺のサポーター、Huntersの応援は物凄い。

 

 団結力・統率力・歌唱力など、他のサポーターと比べて一線を画していると言ってもいいだろう。

 

 それでいてサポーターも問題行為を起こさないため、模範としては丁度いいだろう。

 

 まあサポーターシステムを作った時に、問題行為をした人物にはURA主催のすべてのレース場に無期限入場禁止という罰則を決めている。

 

「Huntersからは『ハンターがOKしてくれるのであればよろこんで!』と言ってくれている。

 

 …どうなんだ?」

 

「いや別にいいけど?俺が指示してるわけでもないし自由にやってもらえたら」

 

「了解した、それで伝えさせてもらうよ」

 

 ルナは俺にそう答えていく。

 

「あー、後これルナに言うの忘れてたな」

 

「何だ?」

 

 俺はそのまま続けていく。

 

「ブロワイエ、そしてルーヴルが日本に来る。ジャパンカップに合わせてな。

 

 『盛大に歓迎しろ』、だとよ」

 

「ふふっ、彼女らしいな」

 

 ルナはそう言いながら笑みを浮かべる。

 

「あっちはエルに負けて、そのリベンジに来る。気合は十分だろうし、調整もしっかりしてくるだろうな。

 

 …まるで俺とルナの時みたいだな」

 

 俺がそう話すとルナも返してくる。

 

「ああ。出走するウマ娘達にはその再来としてもらうとしようか。

 

 リギルからは誰も出ないらしいが…、スピカはどうなんだ?」

 

「ウチからはスぺを出すって言ってたよ。次の天秋で勝利して、そのまま行くって言ってたよ。

 

 エルと同じくらいスぺにもブロワイエ対策、施しとかないとな」

 

 俺はルナに向けてそう話していった。



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63話

お久しぶりの投稿です


 

 沖野さんの指示により、休暇命令が出たスピカメンバー。

 

 スぺは北海道に一時帰宅している。

 

 …で、俺はと言うと。

 

「…はい、これ確認おっけ」

 

「…ありがとうございます」

 

「…ブライアン、これを頼むよ」

 

「…分かった」

 

 …いつもの通り、生徒会の4人で仕事をこなしている。

 

 俺がフランスに行ってたこともあり、なんだかんだでこうやって4人で仕事するのは久しぶりだったりする。

 

 芝のドリームトロフィーのサポーター・チャントシステムの導入も確定し、それに関する書類も多くなってきた。

 

 そんな中、ルナのスマートフォンが鳴る音がした。

 

「…すまない、テイオーからだ」

 

 ルナはそう言いながら画面を確認していく。

 

 だが、少しルナが顔をゆがめた。

 

「…ルドルフ、どうした?」

 

「いや、テイオーが少し落ち込んでるみたいでな…」

 

 俺がそう聞くと、ルナはそう言いながら画面を見せてきた。

 

 画面のメッセージでは、いつもの元気なテイオーの雰囲気はない。

 

「…カラオケに来て欲しい、だと?

 

 「そこに行けばいいのか?」…っと」

 

 ルナがそう返していくとテイオーからは「うん!」という返事が返ってくる。

 

「…とはいっても、書類があるからな…。どうしたものか…」

 

 ルナはそう呟いていく。

 

「…行ってこいよ、休憩がてらさ。

 

 …ルドルフ、前にどっかに出かけたのっていつだ?」

 

「…3か月前ぐらいだったかな」

 

「会長!?休憩してくださいって言いましたよね!?」

 

 エアグルーヴはルナにそう話していく。

 

「…あー。こっち帰ってきたときに聞いたけど、「大丈夫だよ」ってのはそういう意味だよな…」

 

 俺はルナの言葉にそう頭を抱える。

 

「…ルドルフ、無理矢理でも休め。

 

 働くのは良いが、適度な休憩も必要だ」

 

 俺がそう話していくとブライアンが話してくる。

 

「…そう言うハンターさんはどうなんだ?戻ってきて毎日ここにいるように見えるが」

 

 えーと、そう言われてみれば…

 

「…いつだっけ?

 

 …まあフランス遠征を休暇と考えれば大丈夫だろ」

 

「大丈夫じゃないです!

 

 東条トレーナーとエルから、付きっ切りでサポートしてたって聞いてますよ!

 

 2人はもっと休んでください!」

 

 エアグルーヴは机をバンッ!と叩きながらそう話してくる。

 

 そしてエアグルーヴは続けていく。

 

「…無理矢理にでも出て行ってもらいます。仕事は私たちに任せてください」

 

「え、ちょっと待って…」

 

「まだやることが…」

 

 俺とルナはそう言いながら、エアグルーヴに背中を押される。

 

「…ホントに、こういうときぐらい私たちを頼って下さいっ!」

 

 俺たちはエアグルーヴにそう言いながら生徒会室を追い出される。

 

 そして生徒会室の鍵が閉まる音が聞こえてきた。

 

「…追い出されてしまったな」

 

「…行くか、テイオーのトコ」

 

 俺とルナは顔を見合わせて、苦笑いした。




 …ハンターはあまり自覚してませんが、ルドルフとタメを張るぐらいのワーカーホリックです。
 ストッパーがいないとマジで止まらないのがこの姉妹。


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64話

 

 俺の私服であるマウンテンパーカーを身に纏って、私服モードのルナと共にテイオーのいるカラオケへと向かった。

 

 俺はルナを助手席に乗せて、車を走らせて行く。

 

「…こうやってお前と出かけるのはいつぶりだろうか、ハンター」

 

「…確かにな。

 

 生徒会でっていうのはあったけど、お前と二人きりってのはなかった気がするよ」

 

 俺はルナにそう返していく。

 

「…まあ、エアグルーヴが言う通り休めてなかったのは事実だ。

 

 今日はしっかり休ませてもらうとしようぜ?」

 

「そうだな、ハンター

 

 …しかし、テイオー。大丈夫だろうか…」

 

 ルナは心配そうな顔でそう話していく。

 

「大丈夫だと思うけどな。

 

 スピカの休暇前にテイオーを見たときはなんもなかったし、怪我したって情報も入ってきてないし。

 

 そこまで心配することじゃないと思うよ、ルナ」

 

 俺はルナにそう返していった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「あ、カイチョー、それにハンター!

 

 ホントに来てくれたの!?」

 

 俺たちがテイオーのいるカラオケに行くと、そこにはいつもの元気なテイオーがいた。

 

「…ホントにって。

 

 なんだ元気そうじゃないか」

 

 ルナはそう言いながらスマートフォンの画面を見せる。

 

「落ち込んでるような文面だったからな」

 

「…だから言っただろ?心配することないって」

 

「…そうだったな」

 

 俺がそう言うと、ルナはそう返してくる。

 

「…だって、こうでもしないと来てくれないでしょ?」

 

 ルナの不機嫌な顔を見て慌ててテイオーは続けていく。

 

「…あ、嘘ついてごめんなさい!でも、どうしても見て欲しいものがあって!」

 

 テイオーが俺達に見せてきたのはある曲の予約画面だった。

 

「『SEVEN』…、ルドルフの曲か」

 

「うん!チョー練習したんだ。

 

 ホラ、ボクもチームの一員としてかっこいいトコみせたいし!」

 

 ルナはそう話すテイオーに返していく。

 

「…まあ、これも成長かな」

 

 …ルナ、やっぱりお前テイオーに甘くねえか?

 

「そういえば、ハンターも来るなんて珍しいね。何かあったの?」

 

「エアグルーヴに「仕事やりすぎです!」って怒られてな。

 

 俺たち二人とも、生徒会室追い出されたんだよ。

 

 それですることもねーし、ここに来たって訳」

 

「あー、やっぱり2人らしいね」

 

 テイオーは俺の言葉を聞いて、笑いながら返してきた。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「ねーねー!どうだった、ボクの歌!」

 

「良いじゃないか、うまくなってると思うよ」

 

「ホントに!?」

 

 テイオーはルナに褒められて尻尾をぶんぶんと振り回している。

 

「…でも、カッコよさという部分ではまだまだだな。

 

 …ハンター。本当のカッコよさというものを見せてやれ」

 

「えー、やるのか?お前が見せればいいだろ」

 

 俺がそう話すとルナは「まあいいじゃないか」と話してくる。

 

「…じゃ、カサマツ時代の曲にするか。

 

 タマシイレボリューションと同じで幻の曲って言われた、俺の持ち歌の4曲目」

 

 俺はカラオケの機械でとある曲を選択する。

 

「テイオー、しっかり見ておけ。

 

 お前も知ってるとは思うが、踊りのかっこよさだけならハンターは私を越えるよ」

 

「オイ、かっこよさだけって心外だぞルドルフ。

 

 あながち間違ってねえけどよ」

 

 俺はルナの言葉にそう返していきながら、曲のイントロが始まる。

 

 …まあ、久々にやらせてもらいますか。

 

 

 

「Show me the way 僕らを呼ぶ声に

 

 

導かれて今」

 

 

 

 俺はそのまま叫ぶようにして踊っていく。

 

 「『BATTLE NO LIMIT!』、カッコよさに全てのステータスを振ったような曲だ。

 

 披露したのはカサマツ時代の1回のみ。

 

 こっちに来てからは踊ったことはない。

 

 久々だったが、体は正直だった。自然と体と口が動いて行く。

 

「この瞬間を待ってたんだ!
 

 

 

 

夢にまで見た シチュエーション
 

 

 

 

アドレナリンがバーストして

 

 

 

胸の鼓動湧き上がる
 

 

 

 

パワーアップしたライバル
 

 

 

 

のぞむ所だ 真のバトル
 

 

 

 

遠慮はいらない
 

 

 

 

目指せ! 世界最強!
 

 

 

 

でかい 夢が僕らのパワー
 

 

 

 

飛ばせ! 本気のバトル
 

 

 

 

そうさ! お遊びはおしまいさ ここで決めるぜ!
 

 

 

 

Fighting in my way
 

 

 

 

胸に響く勇気 掴み取れ未来(あす)を
 

 

 

 

きっとたどり着くんだ Someday あきらめない
 

 

 

 

Somehow 投げ出さない Go Fight!
 

 

 

 

Attack! Attack! Attack! No Limit!
 

 

 

 

 俺はそのあともしっかりと最後まで歌い切った。

 

 



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65話

 

 スズカの復帰レースがジャパンカップの前日に決まった。

 

 …チャントシステムの実証実験となるレースだ。

 

 まさか、ここに来るとはな。

 

 スピカの面々も順調に勝ち星をあげており、俺の調整も順調だ。

 

 …走ってみたところ、まあそこまで感覚も失ってなかった。

 

 来年のサマードリームトロフィー予選には余裕で間に合うだろう。

 

 …なお、俺のいないサマードリームトロフィーはファル子が見事にぶっちぎったらしい。

 

 そして、ウインタードリームトロフィー決勝ではオグリも今回だけこっちに来てくれる。

 

 オグリとファル子の対決、面白いものになりそうだ。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 …そして。

 

「…どうでしたか、北海道は?」

 

 マックイーンが北海道から帰ってきたスぺにそう話しかける。

 

「ばっちり休んできました!トレーナーさん、さあトレーニング早く行きましょう!」

 

 スぺはそう言いながら外に出ようとするが、見事に転ぶ。

 

「…里帰りして、いろいろ初心に戻ったみたいだな」

 

 沖野さんの言葉に「スぺちゃんらしいね」とテイオーが続けていく。

 

「…天皇賞まであと少し、完璧に仕上げるぞ!」

 

「…はい!」

 

 沖野さんの言葉に、スぺは床に転んだままそう返した

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 スぺの秋天の日。

 

 俺はスズカと共に学校に残っていた。

 

 俺が残った理由はスズカが残ると言ったためである。

 

 スズカ曰く、「ライバルだから、他にやるべきことがある」らしい。

 

 …まあ、その気持ちが分からないでもない。

 

「…じゃ、スズカ。本気で一本走ってくれるか?」

 

「分かりました」

 

 スズカはそう言ってスタート位置に走っていく。

 

「…天皇賞もそろそろ始まるかな」

 

 俺は時計を確認してそう呟き、スズカに向けて話していく。

 

「…じゃ、よーい…、スタート!」

 

 俺の声と共に、スズカは走り出していく。

 

 スズカは段々と体を倒していき、スズカがトップスピードを発揮できる前傾姿勢になる。

 

 …脚も以前のようには行かないが、戻っては来ているみたいだ。

 

 以前までは怪我への恐怖もあったみたいだが、それも振り切れてる様子、心配はいらないだろう。

 

 スズカはそのまま、最後のホームストレートに差し掛かる。

 

 …脚は衰えてはいない。

 

 トップスピードのまま、スズカは俺の前を通過していく

 

「…以前のスズカに比べたら物足りないが、まあ上々か」

 

 俺はストップウオッチのタイムを確認してそう呟く、

 

 沖野さんから俺がフランスにいる間のスズカについて、いろいろと教えてもらった。

 

 その時のタイムに比べたら十分に速くなってきている。

 

「…タイムも以前とは行かないけど、戻って来てはいるな」

 

「…ありがとうございます」

 

 俺の言葉にスズカはそう返してきた。

 

 …ほぼ同時刻。

 

 府中の東京レース場にて、スぺがレコードで天皇賞を勝ったのを聞いたのはその後の話である。



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第11R 「おかえりなさい!」
66話


 スズカの復帰レース、そしてジャパンカップを前にして。

 

 ブロワイエがジャパンカップに挑戦することを正式に発表した。

 

 それと共にルーヴルが日本に来ることを表明している。

 

ああ、もちろん準備してる。

 

 お前らもしっかり調整してきてくれよ?

 

言われなくても、ブロワイエの調整は順調よ。

 

 凱旋門賞の時よりも能力は上がってるわ。

 

 よっぽどエルコンドルパサーに負けたのが悔しかったみたいね

 

 電話口で、ルーヴルから俺にそう伝えられる。

 

ま、その悔しさを知ってる奴が傍にいるからな

 

うっさいわね!

 

 …精々ブロワイエの走りに驚愕しなさい

 

 ルーヴルからの電話はそう言って切られる。

 

 …さーて、こっちもしっかり調整させてもらうとしますか。

 

 俺はそう思いながら、グランドへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「…え?」

 

 俺はスぺの言葉にそう声を出した。

 

「…ハンターさんのアドバイスや指示は間違いないです。

 

 でも次のレース、自分の力で勝たないといけないんです!

 

 お願いします、ハンターさん!」

 

 スぺはそう俺に頭を下げてくる。

 

 俺がスぺのトレーニングとかについて色々と話そうとしたところ、スぺが断ってきたのである。

 

 …まっさかこう言われることは想定してなかった。

 

 まあ、スぺがこう言うなら俺は見守るだけだ。

 

「…分かったよ、スぺ。

 

 お前がそう言うのなら俺は黙ってる。

 

 …でも、これだけは言わせてくれ」

 

 俺はそのまま続けていく。

 

「…今のブロワイエはこれまでにお前が対戦してきたどのウマ娘よりも速い。

 

 もしかしたら俺やルドルフレベルの可能性だってある。

 

 …だが、俺はそれでもお前が勝てるって信じてる。

 

 お前がこれまでしてきた特訓は、間違いなくお前の力になってるはずだ。

 

 日本の強さをブロワイエに見せて来い、スぺ!」

 

「はい!」

 

 俺の声にスぺはそう元気よく返してきた。

 

 …この目と声の時のスぺは大丈夫な時のスぺだ。

 

 俺がフランスに行く前の時のスぺとは大違いである。

 

 …スぺの成長を感じながら、俺は沖野さんの元へと向かった。

 

「…まっさかスぺがお前の提案を断るとはな」

 

「…ホントっすよ。

 

 でも、良い目をするようになりましたね、スぺの奴」

 

 俺がトレーニングをするスぺを見ながらそう話すと沖野さんは話してくる。

 

「天皇賞をレコードで勝って、自信も付いたみたいだからな。

 

 もうダービーの時みたいにお前がサポートしなくてもいいウマ娘になったよ、スペシャルウィークは」

 

 俺は沖野さんに話していく。

 

「…しばらくの間、生徒会でルーヴルたちに付き添うのであまりこれなくなると思います。

 

 スぺとスズカ、しっかりとお願いします」

 

「…お前に言われなくても分かってるよ。お前はお前の仕事をこなして来い」

 

「…ありがとうございます、沖野さん」

 

 俺は沖野さんにそう返した。



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67話

 

「…やっぱりこっちの芝、違和感あるわね。

 

 走る時の抵抗感が全然ないわ」

 

 ルーヴルはグラウンドを軽く走ってそう話す。

 

「日本じゃこれが普通なんだよ。俺達からしたらそっちの芝は足に絡みついてきてやってらんねえっての。

 

 凱旋門じゃ俺もダートの走り方にしたしな。エルもダートそこそこ走れるウマ娘だし」

 

 俺はそうルーヴルに話していく。

 

 日本に来たブロワイエとルーヴル。

 

 ブロワイエにはルドルフが対応しており、俺はルーヴルの対応である。

 

 …そして、「久しぶりに日本の芝走ってみたいわ」とルーヴルが言うのでグラウンドに連れてきたのである。

 

「…で、お前の感覚的にはどうなんだ?」

 

 俺の言葉にルーヴルが答えてくれる。

 

 「もちろんブロワイエが勝つと思ってるわよ?

 

 …ただこの芝はブロワイエも未体験ってことを考えたら、可能性は50%かしらね。

 

 現に私も全然対応できなかったし」

 

 ルーヴルの目は真剣である。本気でそう思ってるってことなのだろう。

 

「…でも、調整はしっかりしてきてくれたんだろ?」

 

「…ええ。ブロワイエの状態は絶好調だと思うわ。

 

 エルコンドルパサーに負けたことが大分頭に残ってるみたいよ」

 

 そして、ルーヴルはスマートフォンを取り出してさらに続けてくる。

 

「…で、アンタはアタシに付きっ切りでいいの?

 

 凱旋門の時はエルコンドルパサーに付きっ切りだったじゃない」

 

「…今回はな。フランスだと俺はエルのサポート役として行ったけど、今回は生徒会副会長としてお前を歓迎する立場だし」

 

 ルーヴルは「そうなのね」と俺に返して、続けていく。

 

「じゃ、ちょっと軽く私に付き合ってくれない?久々にアンタと走りたいわ」

 

「…ほぼ丸1年現役から離れてたんだぜ俺。お前の望む走りは多分できねえよ」

 

「私も似たようなもんよ。最近事務仕事の方がメインだし。

 

 だから軽くでいいって言ってるでしょ。私はアンタと走りたいって言ってんのよ、ハンター」

 

「…んなこと言っても、俺達のことだからどうしてもガチにはなるだろうが…」

 

 俺はルーヴルの言葉にそう呟きながらも続けていく。

 

「…まあ、お前がやりたいって言うならいいけど。

 

 何メートルにするんだ?」

 

「2400、凱旋門の距離と同じでどう?」

 

「了解したよ、ルーヴル」

 

 俺はルーヴルにそう返して、スタート地点へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「じゃ、よーい…、スタート!」

 

 スタート地点から、俺とルーヴルは同時にスタートを切る。

 

 ルーヴルは快調に飛ばして段々とスピードを上げる。

 

 …ルーヴルの基本戦法は逃げ…とまでは行かないくらいの先行。

 

 それに対して俺はいつも通りゆっくりとスピードを上げる。

 

 ほかのウマ娘がいないとはいえ、俺がペースを上げるタイミングは変わらない。

 

 第4コーナーで俺はギアを変えて一気にスピードを上げていく。

 

 ホームストレートに入りながら、俺は一気にルーヴルとの差を詰めていき、差は2バ身、1バ身となっていく。

 

 トップスピードになった俺はルーヴルと並ぶ。

 

「…まっけ、ない、わよ!」

 

「…んなもん、こっちも、一緒だっての…!」

 

 そのまま俺とルーヴルはほぼ同タイムでゴール板の前を通過した。



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68話

 

 …2400mを走り切った俺とルーヴル。

 

 俺達にとって結果なんて二の次であった。

 

「あー、ひっさびさに本気になったわ…」

 

「…ったく、だから俺達が軽くなんて無理だって言ったんだよ…」

 

 ルーヴルは倒れこみ笑いながら空を見上げ、俺も芝の上に座り込む。

 

 そしてルーヴルは俺に話してくる。

 

「…でも、アンタと走れるだけでも日本に来た甲斐があるわ。

 

 ありがとうね」

 

「…どういたしまして」

 

 …俺はそう返しながら、ルーヴルの手を掴んで引っ張り上げる。

 

「…今度はお互い、ガチガチに調整してから走ろうぜ、ルーヴル」

 

「ええ、もちろんよハンター。ルドルフにもそう伝えておいてちょうだいね」

 

「了解したよ」

 

 俺はルーヴルにそう返した。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 時は流れて、スズカの復帰戦。

 

「…なんか、観客の様子がいつもと違ってない?」

 

 そうルーヴルが俺に話してくる。

 

「実証実験の日だからな。チャントシステムの。

 

 芝のフィールドじゃ初導入なんだよ」

 

 俺は椅子に座ったルーヴルにそう話していく。

 

「チャントってサッカーとかで使われてるアレですか?」

 

 ブロワイエの言葉に俺は答えていく。

 

「ああ、それだな。

 

 応援に統一感をってことでドリームトロフィーダートで導入したんだよ。

 

 今日は一つの応援団だけだけど、ダートじゃこんな感じになってる」

 

 俺はそう言いながら昨年のウインタードリームトロフィーのスタンドの様子をタブレットで見せていく。

 

「…こ、これは…」

 

「…凄いですね、圧倒されますよ」

 

 二人の言葉に俺は「ジャパンカップは導入されないけどな」と説明していく。

 

「それに、これOP戦よね?観客的にそれだけじゃないって思うんだけど」

 

 ルーヴルが観客の盛り上がり様を見て、そう聞いてくる。

 

「一人のウマ娘の復帰レースなんだよ。足の骨折からのな。

 

 実績も十分なウマ娘だから、こうなってるんだよ

 

 …ちなみにエルはそのウマ娘に完敗してる」

 

「…それは、その時に対戦してみたかったな…」

 

 ブロワイエは残念そうな顔を見せてきた。

 

 …実際どうなんだろうな、あの時のスズカとブロワイエが戦ったら。

 

 そしてウマ娘の入場を告げるアナウンスが響き、観客の盛り上がりは最高潮を見せる。

 

『…このウマ娘がターフに帰ってくるのを誰もが待っていました!

 

 復帰レースでもその脚を見せてほしい!

 

 

 

 …1枠1番、サイレンススズカ!

 

 

 

 大歓声と共に、スズカが登場する。

 

 そして、スズカを後押しする応援歌がHuntersから流れてくる。

 

 

 

 

 

新たな舞台に

 

沸き立つ心

 

逆風を切り裂け立ち向かえ

 

スズカスズカスズカ

 

ゴーゴーレッツゴースズカ!

 

 

 

静かな闘志が

 

今燃え上がる

 

勝利の手綱を引き寄せろ

 

スズカスズカスズカ

 

ゴーゴーレッツゴースズカ!

 

 

 

新たな舞台に

 

沸き立つ心

 

逆風を切り裂け立ち向かえ

 

スズカスズカスズカ

 

ゴーゴーレッツゴースズカ!

 

 

 

静かな闘志が

 

今燃え上がる

 

勝利の手綱を引き寄せろ

 

スズカスズカスズカ

 

ゴーゴーレッツゴースズカ!

 

 

 

 …スズカ、頼むからまた怪我だけはするなよ。

 

 お前はこんなとこにいるウマ娘じゃないんだ。

 

 俺はスズカの応援歌を聞きながらそう思っていた。




今回の応援歌は二岡智宏(北海道日本ハムファイターズ)のものを流用。

怪我という逆風に負けずに走ってほしいという理由から選曲しました。


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69話

 

 スズカを含めたすべてのウマ娘が続々とゲートに入っていく。

 

 この瞬間だけ、レース場にあった高まったボルテージは鳴りを潜め、静かな時間が流れる。

 

 ルーヴルも言っていたが、この時間が流れるのはどこの国も共通らしい。

 

 …そして。

 

 

 

 ガタンッ!

 

 

 

 今、ゲートが開かれてレースがスタートする。

 

 ボルテージも一気にレース前の活気を取り戻して、選手たちを後押しする応援歌が流れ始める。

 

 今回レース中に流れる応援歌は選手個人に対するものではなく、選手全員に対する応援歌のためいつものものとは少し違った。

 

 

 

オオオー わっしょい! オオオオオー わっしょい!

 

オオオー わっしょい! オオオオオー わっしょい!

 

オオオー わっしょい! オオオオオー わっしょい!

 

オオオー わっしょい! オオオオオー わっしょい!

 

 

 

フィーバータイム 暴れまわれ

 

なりふり構わず攻めまくれ

 

ドヤ顔でステージへ

 

今日のセンターをつかみ取れ

 

 

 

ララララララララララ

 

ラララララララララララララ

 

ララララララララララ

 

ラララララララララララララ せーの!

 

 

 

 …Huntersすげえ。ここに来てこの曲を選曲するかよ。

 

 Huntersは飛び跳ねながらタオルを回し、スネアドラムをリズミカルに鳴り響かせる。

 

 …恐らくHuntersだからできるものだろう。

 

 前に聞いた話だと音楽系の人も何人かいるって言ってたし。

 

 それでこのボリュームだ。

 

 …相手のサポーターじゃなくてよかったよ。

 

 俺はそう思いながらスズカへと視線を向ける。

 

 スタートでは出遅れており、最後方に位置を取っている。

 

 …最初からぶっちぎる戦法はまださすがにできねえか。

 

 そして第4コーナーを回っても、スズカはまだ上がってこない。

 

 …沖野さんから聞かせてもらったが、医者の言うことにはスズカが走れるようになっただけでも奇跡らしい。

 

 この姿を見れただけでも儲けものか。

 

 

 

 …そう思っていたが、スズカにそんな心配は不要だった。

 

 

 

「…仕掛けてきたな、スズカ!」

 

 俺はそう笑みを見せる。

 

 大欅を過ぎたあたりでスズカは大きくギアを入れた。

 

 一気に前を集団を追い越していく。

 

 …スズカが追い込んでくるとは思ってなかったであろう観客からは大歓声が上がっている。

 

 そしてスズカはさらにその前方にいたサンバイザーも捉える。

 

 …サンバイザーも粘ってくるが、スズカはそれを嘲笑うかのように再加速する。

 

 そのままスズカはサンバイザーを突き放してゴールする。なお右手は大きく上に突き上げられていた。

 

 …後でスズカに聞かせてもらったが、あの追い込みは俺の走り方を参考にしたとのこと。

 

 右手を突き上げたのも、俺を見習ったらしい。

 

 …歓声を浴びるスズカを見てブロワイエは立ち上がって拍手を送る。ルーヴルも同様だ。

 

「すばらしいレースを見せてもらったわね。ブロワイエ」

 

「ええ。明日は、もっと盛り上げてみせるとしよう」

 

 …ブロワイエのやる気も十分みたいだ。

 

 敵が強いに越したことはない。

 

 しっかりと迎え撃ってくれよ、スぺ。




今回の応援歌はフィーバーテーマ(東北楽天ゴールデンイーグルス)。関西限定チャンステーマ時代の歌詞を参考にしてる部分もあります。この曲はスネアドラムがエッグイ。


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第?R 「土砂降りの中の大一番」
70話


 

 …数年前、東京レース場。

 

 カサマツから中央に移籍した後も順調に勝ち進み、俺は初のGⅠレースであるジャパンカップに臨んでいた。

 

 ルナやシービー、それに加えて海外の有力ウマ娘も出てきており、相手に不足はない。

 

 …ルナとの中央初対戦であるセントライト記念は2着になり、カサマツ時代からの無敗記録は途絶えた。

 

 ただ、俺にはそれについて興味なかった。…ただ単に「負けたなー…」とは思ったが。

 

 で、ルナとのレース2戦目という訳である。

 

「…にしても、凄い雨だな…」

 

 ルナは外を見てそう呟いた。

 

 外は雷こそ鳴ってないものの、大粒の雨が降り注いでおり、芝も大分荒れている。

 

「ねー。でも、いい雨じゃない?」

 

 そう話すのはシービーである。聞いてみたところ雨は好きなんだとか。

 

 俺はそんな2人から少し離れたところで気持ちを高めていた。

 

「…ふう」

 

 俺は歩きながらそう大きく息を吐く。

 

 俺にとっては初めてのGⅠ、この黒いスーツを基調にした勝負服も初めて着た。

 

 …やっぱり、この勝負服を着ると気持ちが一気に高ぶってくる。

 

 俺の周りからの人気は三冠を達成したルナやシービーに比べたら低い。

 

 だがそんな逆境は俺の大好物である。

 

「…しゃあっ!」

 

 俺は両頬をパンッ!と叩いて、大雨が降るターフの上へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

『8枠16番、シンボリハンター』

 

「…お願いします!」

 

 ターフに出て、俺はそうスタンドに向けて頭を下げる。

 

 スタンドを見てみるとこの大雨にもかかわらず満員の観客でいっぱいになっている。

 

 …まあルナとシービーの対決を一目見ようという観客の気持ちも分からないでもない。

 

「ハンター!」

 

 そんな中、俺を呼び止める声があった。

 

 カサマツから移籍した後、俺のトレーナーになってくれた沖野さんである。

 

「…どうだ、初めてのGⅠは?」

 

「いや、なんてことないっすよ沖野さん。どんなとこでも俺の走りをするだけです」

 

 俺がそう返すと、沖野さんは「北原さんから聞いた通りで安心したよ」と話してくる。

 

 そう話していると後ろからシービーが近づいてくる。

 

「何話してんのさ、2人とも。アタシに秘密の作戦でもあるの?」

 

「いや、同じチームとはいえ相手に作戦教えねえだろ…」

 

 俺がシービーにそう話していくと、沖野さんは俺達の頭の上に手を置いて話してくる。

 

「…お前ら、俺から話せることはこれだけだ。

 

 

 

 思いっきりレースを楽しんでこい!

 

 より楽しんだ方が、このレースを勝てるぞ!

 

 

 

 その言葉を聞いて俺は話していく。

 

「いつも聞いてることっすけど、今日に限っては安心しますね」

 

「そうだね。しっかり楽しんでくるよ、トレーナー!」

 

 俺とシービーがそう話すと、沖野さんはこう続けてくる。

 

「よし、お前ら二人とも、行ってこい!」

 

「了解です!」

 

「オッケー!」

 

 沖野さんの後押しを受けて、俺とシービーはゲートへと向かっていった。




…多分シービーはスピカに入ってたんじゃないかなって。リギルみたいに制限されるのは嫌いそうだし、自由なスピカだし。


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71話

 

 …ゲートに続々とウマ娘が入っていき、静かな時間が流れる。

 

 …この静寂はGⅠだろうが、どこでも変わらないみたいだ。

 

 俺はふうっと息を吐いて気持ちを落ち着かせる。

 

 …そして。

 

 

 

 ガタンッ!

 

 

 

 ゲートが開かれてレースがスタートする。

 

 俺はいつも通り、最後方に位置取って足を貯めていく。

 

 …今回はずいぶんとスローペースだな。ルドルフもシービーもけん制し合っているのだろうか。

 

 海外のウマ娘達もそれに合わせてか、バ群の中に組み込まれている。

 

 …先頭のウマ娘は2番手のウマ娘に10馬身の差をつけて逃げている。

 

 だとしたら、少しマズいか。

 

 このペースで行くと、間違いなく間に合わない。3コーナー過ぎで仕掛けさせてもらうとするか。

 

 そのままレースは進んで行き、第3コーナーに差し掛かる前先頭のウマ娘は俺達とは15バ身くらいの差を付けて行く。

 

 …いつもの外側を抉る作戦だと間に合わない可能性が高い。

 

 なら。

 

「…仕掛けさせてもらうぜ!」

 

 俺はギアを入れて一気に加速していく。

 

 だが、今回俺が通るのはいつもの外側ではない。

 

「…雨だろうが、なんだろうが、これぐらいの荒れ方ならどうってことねえ!」

 

 今までのレースとこの大雨により、あれてしまった内側である。

 

 走りにくく、ここを走るウマ娘はほとんどいない。

 

 …なら、その内側を一気に抉る!

 

 俺はそのまま、ルナのいる集団も追い越して、先頭のウマ娘との差を9バ身、8バ身と徐々に縮めていく。

 

 …他のウマ娘たちも仕掛け始めたその中で、俺に食らいつこうとしてくる影が二人。

 

「…やっぱり、こうでなくてはな。ハンター!」

 

「…君だけを自由にさせるわけには行かないよ!」

 

 ルナとシービーである。

 

「…負けてたまるかっての!」

 

 俺もそう言いながら二人に負けないように再加速する。

 

 前のウマ娘は大分タレてきていた。

 

 俺達との差は4バ身、3バ身と縮まっている。抜き去ることはできるだろう。

 

 となれば、勝負は俺達3人。それ以外に来ている気配はない。

 

 坂の途中で、先頭にいたウマ娘を追い越して最後の直線に入る。

 

 …スタンドからは「あのルドルフとシービーが負けるのか…!?」というざわめきが大きくなっている。

 

 …俺は貯めておいた脚を使って、さらに加速する。

 

「さすがにまだ残しているよな!」

 

「そう来ると思ってたよ!」

 

 だが、ルナもシービーも負けていない。

 

 俺に食らいつくようにして、加速してくる。

 

 その状態のまま、俺達3人はゴール板を通過した。

 

 …結果がどうなっているかは分からないため、右手は突き上げられなかった。

 

 …だが、俺のベストは尽くした。負けたとしても悔いはねえ。

 

 レースを終えた俺達3人は掲示板に順位が灯るのを待っていた。



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72話

 

 掲示板に俺達3人の順位は乗らない。

 

 「写真」という文字が雨の中で光っている。

 

 大粒の雨が地面を叩く音と、観客のざわめきが東京レース場に響いていた。

 

 …そして、掲示板に数字が点灯した。

 

1       ⑯

 

2       ⑫

 

3       ①

 

 

 

「…やった」

 

 点灯した掲示板を見て俺はそう呟いた。

 

 そんな俺を後ろからルナが抱きしめてくる。

 

「…お、おいルナ!?」

 

「…ハンター、おめでとう。よくここまで来てくれた」

 

「…ああ、ようやくお前に勝てたよ。長かったなー…」

 

 俺はそうルナを抱き返す。

 

「…これからもお互い姉妹、そして最大のライバルとして、互いに切磋琢磨して行こう、ハンター」

 

「言われなくても分かってるよ、ルナ」

 

 そう俺たちが話していると、後ろからシービーが話してきた。

 

「私も忘れないでね、お二人さん。今度は私も負けないからさ!」

 

「ああ、そうだなシービー、

 

 ハンター、いつものアレをしてこなくてもいいのか?」

 

 ルナはそう言いながらスタンドを指す。

 

 そう言われて俺がスタンドを見ると、ハンターと呼ぶ大歓声が聞こえてきた。

 

 …忘れてたな、そう言えば。

 

「ああ。ちょっと行ってくるよ」

 

 俺はそう言ってルナとシービーから離れていく。

 

 …そして。

 

「…シャー、オラァ!!」

 

 俺は膝立ちになりながら両手を横に広げて、叫びながら観客席に向かうようにして芝を滑っていく。

 

 観客席からの歓声、芝からの水しぶき、そして大粒の雨が祝福するかのように俺に掛かってきた。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

『…シンボリハンターの数字が灯った!

 

 カサマツが信じて送り出した狩人の矢が、世界の強豪、そして絶対的な皇帝をも貫いた!

 

 そして今、滑り込んで自らの勝利を噛みしめる『狩人の咆哮』だー!』

 

「…懐かしいもんみてんな、ルナ」

 

 俺はルナにそう話す。

 

「久しぶりに見たくなってしまってな、このレースを」

 

 ルナは振り返って俺にそう話す。

 

「…このレース、私にとってはいい薬になったよ。

 

 誰も私についてこれないのか…と菊花賞までは思っていたからな。

 

 そう考えてるときにこのレースのお前とシービーだ。

 

 久々にレースの楽しさを思い出したよ」

 

「それだったらよかった。中央に移籍した価値があるってもんよ」

 

 俺はそう言って入れておいたコーヒーを飲む。

 

「…だいたい、今もそうだけどお前は一人で抱え込みすぎなんだっての。

 

 もう少しは俺達を頼れるようになれ。

 

 全て自分がやるっていうのは、お前が自分のことを買いかぶりすぎだ」

 

「…シリウスほどではないが厳しいことを言ってくれるな、ハンター」

 

 ルナは苦笑いしながら返してくる。

 

「俺を誰だと思ってんだよ。皇帝様の妹の狩人だぜ?

 

 それぐらいはお見通しだっての」



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第12R 「夢の舞台」
73話


 

 スズカのレースがあった日の夜。

 

 俺とルーヴルはブロワイエの会見を見ていた。

 

…なかなかに盛り上がっていたね。

 

 あの応援歌も良かったよ。私も実際に受けながら走ってみたいね

 

 スズカのレースについてブロワイエはそう答えていき、ジャパンカップについてはこう話していく。

 

私が誰よりも速いと証明し、スズカのレースより盛り上げてみせるよ

 

 そして、一呼吸おいてブロワイエは話を続けていく。

 

…私の先輩、ルーヴルは凱旋門賞でシンボリハンターに負けて、このジャパンカップでも同じようにシンボリルドルフに負けた。

 

 私も凱旋門賞でエルコンドルパサーに負けたが、私はルーヴルとは違うということを証明させてもらうよ

 

…だってよ、ルーヴル。言われてるぜ?

 

 俺がそうルーヴルに話すと、ルーヴルは返してくる。

 

うっさいわね!

 

 …ある程度は私のこと言ってもいいってブロワイエに伝えておいたのよ

 

 そして、俺にルーヴルは続けてくる。

 

…で、アンタのお気に入りって誰なのよ。ずっと言ってくれないじゃない

 

見てたら分かるってフランスで言っておいただろ?

 

 俺の言葉に、ルーヴルが返してくる。

 

見れないのよ。アンタがずっと私につきっきりでいるせいでね

 

あー、確かにそうかー…

 

 ルーヴルが日本に来てから、それの対応のため俺は基本的にルーヴルと行動している。

 

 唯一と言えるのが寮の部屋でのルナぐらいだろうか。

 

まあ、ジャパンカップの結果で分かるよ、俺の後輩は

 

 俺はそうルーヴルに話していった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

…ブロワイエ、調子良さそうだな

 

 パドックでのブロワイエの表情を見て俺はそう呟く。

 

…ええ、問題はなさそうね。よかったわ

 

 ルーヴルもパドックを見ながらそう話していく。

 

 ちなみにだが、ここは府中レース場、スタンド最上段の特別席。

 

 ルーヴルはここからの景色が全体を眺めることが出来ていいらしい。

 

それで、ブロワイエになんて言ってきたんだ?

 

 俺がそう聞くと、ルーヴルは答えてくれる。

 

…『私の二の舞にはなるな!』って言ってきたわ。

 

 調整も完璧な以上、私からブロワイエに言えることはそれしかないしね。

 

 …それでも負けるのであれば、仕方ないわよ

 

 そして、ルーヴルは続けてくる。

 

ハンター、あなたは何て言ったのよ?

 

 ルーヴルの言葉に俺は答える。

 

…俺からスぺに、トレーナーに伝えておいてって言ったことは一つだよ。

 

 エルの時と同じだけど、『細かいこととかは全て忘れて、思いっきり楽しんで来い!』ってな

 

…やっぱり、スペシャルウィークなのね。

 

 ほかのウマ娘とは少し違うと思ってたわ

 

 ルーヴルはそう話して、俺は「まあな」と続けていく。

 

このレースの勝者は、『一番このレース楽しんだウマ娘』だろうな。

 

 ブロワイエやスぺ以外にも海外のウマ娘だったり、日本のウマ娘も来てる。

 

 こういうのは楽しんだもん勝ちだよ

 

あなたらしい読みね、ハンター

 

 俺の言葉に、ルーヴルはそう返してきた。



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74話

 

 ファンファーレが鳴り響き、続々とウマ娘達が続々とゲートに入っていく。

 

 …俺的にはゲートに入る前にスぺがブロワイエを含む海外のウマ娘達に何か話していたのが気になる。

 

「スぺの奴、失礼なこと言ってねえよな?」

 

「…あんたはスペシャルウィークの母親なの?」

 

 俺の言葉にルーヴルはそう日本語で返してきた。

 

「…ルーヴル、お前日本語話せたのか?」

 

「アンタ達姉妹に負けてから練習したのよ。

 

 今までアンタがペラペラフランス語で話すからそれに合わせてただけ」

 

 そして、ルーヴルは続けていく。

 

「他のウマ娘はともかく、ブロワイエは何か言われたぐらいで気にしないわよ。心配しなくても大丈夫だわ」

 

「俺も外から見てる限りだけど、ブロワイエがそれで機嫌悪くするような奴ではないって思ってるけどよ…」

 

 そう言いながら、俺はターフを見下ろしていた。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 ゲートが開かれ、ウマ娘達が一斉にスタートを切る。

 

 スぺとブロワイエは両方ともに後方に位置取る形。

 

「…スペシャルウィークには大逃げさせないのね」

 

「まあ、アレはエルだからできたことだよ。

 

 スぺも少し後方ぐらいだけど、いつも通りの作戦だな」

 

 恐らく、ブロワイエはスぺをマークしているのだろう。

 

 しっかりとブロワイエはスぺの後ろに位置取り、スぺの仕掛けにいつでも対応する形だ。

 

 …向こう正面に入り、段々とバ群は伸びてきている。

 

 そんな中で。

 

「…ここで仕掛けたか!」

 

 スぺがギアを上げて一気に外側から抉っていく。

 

「…今しかないわよ!」

 

 ルーヴルもそう話す通り、すぐにブロワイエもスぺについていくようにしてペースを上げていく。

 

 スぺとブロワイエは他のウマ娘を一気に置き去って先頭のウマ娘達へ迫ろうとする。

 

 前方に位置取っていた他のウマ娘を見ても表情は暗めだ。

 

 恐らくはブロワイエとスぺの一騎打ちになるだろうか。

 

 最終コーナーに入ってくるが、ブロワイエの脚は衰えていない。

 

 …だが、スぺもそれに負けないぐらい脚は落ちていなかった。

 

「行けるんじゃねえのか…!」

 

「まだブロワイエならここから…!」

 

 俺とルーヴルはお互いそう呟く。

 

 レースはそのまま、スぺとブロワイエが競り合う形でホームストレート。

 

 …「だあああっ!」というスぺの叫び声がスタンド最上段の俺に聞こえてきたように感じた。

 

 ここに来てスぺは再び加速した。

 

「ぶっちぎれ、スぺ!」

 

 俺は自然とそう叫んでいた。

 

 ブロワイエも追いすがろうとするが、さらに加速したスぺには追い付けない。

 

 スぺは先頭のまま、ゴール板の前を通過して行った。



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75話

 

「…ふうっ」

 

 俺はスぺのゴールを見て大きく息を吐く。

 

「あー、やられちゃったわね。ブロワイエ」

 

 ルーヴルは結果を見てそう呟く。

 

「でも、凱旋門の時みたいにお互いやり切った顔してねーか、2人とも」

 

 俺はルーヴルの言葉にそう返していくと、ルーヴルはこう返してくる。

 

「…まあ、ブロワイエがやり切ったのなら悔いはないわ。

 

 でも、フランスに戻って特訓はさせないと行けないわね。

 

 来年に今年取れなかった2つのタイトルを取りに行くためにも」

 

「ああ。ウチから来年凱旋門に行かせられるかどうかは分からねえけど、ジャパンカップの再戦なら大歓迎だよ。

 

 ブロワイエみたいなウマ娘が来てくれるのなら俺達としてもありがたいしな」

 

 俺はルーヴルにそう返した。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 …ウイニングライブにて。

 

「…スぺ、よくここまで成長したな」

 

「はい!ありがとうございます、ハンターさん!」

 

 俺がそう頭を撫でると、スぺはそう喜びながら返してくる。

 

「…スペシャルウィークがトレセン学園に来た時からずっと心配そうにしていたからな、ハンターは」

 

 俺とスぺが話す姿を見て、そうルナが話してくる。

 

「うっせーよ。実力は確かに買ってたけど、メンタル面は未知数だったからな。

 

 心配になるのも当然だっての」

 

 実際、何人ものウマ娘がこのトレセン学園に来て、夢半ばでトレセン学園を去る姿を俺は見てきている。

 

 見たくはないが、勝負事の世界であるため仕方がないことではある。

 

「…皐月で負けたときとか、去年のジャパンカップの時とか、お前の気持ちが落ちた時にどう立ち直るかって見ててな。

 

 俺はあの後エルに着いて行ったから、そこで力になれなかったのは心残りではあるがな」

 

 俺の言葉にスぺが返してくる。

 

「いえ、ハンターさんのおかげです!

 

 ハンターさんが空港で言ってくれた、『自分の原点を忘れるな』って言葉がようやくわかったんです。

 

 …あのときの私は『スズカさんのために』って気持ちが大きかったです。

 

 『スズカさんと一緒に走る』ってあの頃はそう思ってました。

 

 …でも、あの後に気づけたんです。

 

 私の夢は『日本一のウマ娘になること』だって!」

 

 そう満足そうに話すスぺを見て、俺はスぺを抱きしめる。

 

「…ああ。よく思い出したな、スぺ」

 

 俺の体に顔を埋めながらスぺは話してくる。

 

「ハンターさん、私「日本一のウマ娘」になれましたか?」

 

 俺は改めてスぺの頭を撫でる。

 

「ああ、そうだな。

 

 これからもしっかり走り続けてくれよ、スぺ」

 

「はい、ハンターさん!」

 

 スぺは俺にそう元気よく返してきた。



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シンボリハンター ボイス集
ホーム画面編


とりあえず12話まで書き終えたんで、ハンターがゲーム版にいたときに聞けるボイスを紹介します。まずはホーム画面で聞けるボイス集を。


 

親愛度3以上 

・「いつもありがとうございます、トレーナー。…俺もそれに答えねーとな」

・「走ってるときの風はいいもんっすよ。トレーナーも一度は感じて欲しいっすね」

・「ようやく、ルドルフの妹っていうしがらみが解けてきたような気がしますよ」

 

正月にログイン 

「あけましておめでとうございます、トレーナー。今年もお願いしますよ」

 

バレンタインにログイン 

「生徒会室へのバレンタインチョコが仕分けしきれなくて…。しばらくはその作業に付きっ切りですね」

 

バレンタインにログイン(親愛度3以上) 

「どうぞトレーナー。俺が甘いの苦手なんで砂糖とかは控えめにしてますけど、それでトレーナーもよかったっすよね?」

 

七夕にログイン 

「生徒会への要望が書かれた短冊があるんですけど、全部実行できますかね…」

 

ハロウィンにログイン 

「ハッピーハロウィン、トレーナー。おかしをくれないといたずらしますよ…なんてね」

 

クリスマスにログイン 

「生徒会のイベントで忙しいっすけど、クリスマスをしっかり楽しみましょうよ」

 

クリスマスにログイン(親愛度3以上) 

「落ち着いたんで、一緒に歩きますか?たまにはこういうのもいいでしょ?」

 

年末にログイン 

「あっという間でしたけど濃い1年でしたね。来年も濃密な1年にしましょう、トレーナー」

 

誕生日にログイン 

「今日でしたっけ、トレーナーの誕生日。いつもは俺たちが主役っすけど今日はアンタが主役ですよ」

 

誕生日にログイン(親愛度3以上)

「誕生日おめでとうございます、トレーナー。今日という日がアンタにとって特別な1日になりますように」

 

ウマ娘の誕生日にログイン 

「やっぱり、誕生日ってもんは特別っすね。色んなウマ娘達から祝われるのは気分がいいです」

 

ウマ娘の誕生日にログイン(親愛度3以上)

「ルドルフじゃなくて俺を祝いに来てくれたんすか?…さすがは俺のトレーナーっすね」

 

未読お知らせがある際にウマ娘と会話 

「お知らせが来てますよ。確認しますか?」

 

未受け取りのプレゼントがある際にウマ娘と会話 

「プレゼントが届いてますよ。なんだと思いますか?」

 

達成済みのミッションがある際にウマ娘と会話 

「ミッションを達成したみたいですよ。さすがはトレーナーっすね」

 

イベント予告がある際にウマ娘と会話 

「新たなイベントが始まるみたいですね。しっかり準備をしておきましょう」

 

イベント開催中にウマ娘と会話 

「イベントが始まってますね。俺の力を見せてやるとしますか」

 

朝にログイン 

・「おはようございます、トレーナー。今日もお願いしますね」

・「ふぁ―…、眠たいことは眠いっすけど、なんとか頑張りますよ」

 

昼にログイン 

・「昼ですか。さーて、今日はどんな辛口料理を食べようかな」

・「生徒会の仕事は終わってますよ。思う存分トレーニングさせてもらいますか」

 

夜にログイン

・「今日も1日ご苦労様です、トレーナー。しっかり明日に備えましょうね?」

・「ヒシアマとフジから言われたんですけど、門限を過ぎてトレーニングをするウマ娘が結構いるみたいでね。…オーバーワークは怪我の元ですから、しっかりセーブさせないと」

 

春にログイン 

「新入生が入って来ましたね。…生徒会副会長として、しっかり導かないと」

 

夏にログイン 

「トレーナーも熱中症には気を付けてくださいね?水分補給はしっかりとしてください。倒れられたら困りますから」

 

秋にログイン 「月をみてると、俺の夢はまだまだ遠いなって感じますよ。いつかは掴めるようになりますかね、月」

 

冬にログイン 

「寒いっすけど、これぐらいでヘタるわけには行きませんよ」

 

ウマ娘と会話 

・「…タキオンの爆発、カワカミの壁破壊、ギムレットの柵破壊、ゴルシの色々…。…はぁ、どれだけ経費で落ちるかな…」

・「タマと話したんですけど、トレセン学園にはツッコミの数が足りないなって思いましたね。いくら何でもボケの割合が多すぎるっての…」

・「シリウスのやつ、もうちょいルドルフにも軟化してくれないですかね。確かにルドルフの理想論で全てのウマ娘が救えるとは思ってないですけど」

・「るn…、ルドルフはああ見えて結構抜けてるとこ多いんですよ。そんな場面を見かけたときはそっとしておいてあげてください」

 

特定の衣装でウマ娘と会話 

・「…可愛い曲を踊るのは苦手っすけど、しっかり頑張らせてもらいますよ」

・「俺がこっちに来て初めて踊ったダンス映像…。ダメな教材として残ってますけど、本人からしたら恥ずかしいって気持ちしか芽生えないですよ…」

 

特定の衣装でウマ娘と会話(勝負服着用時)

・「やっぱ、勝負服を着ると気合が入りますね」

・「レースの最後まであきらめずに走りぬく。…初めてこの勝負服に袖を通した時にそう誓ったんです」

 

朝にウマ娘と会話 

「意外かもしれないっすけど、ルドルフって朝弱いんですよ。その時の顔を知っているのは妹の特権ですかね」

 

昼にウマ娘と会話 

「さっきオグリ達と一緒に食ってきましたけど、あの量はさすがに食えませんね」

 

夜にウマ娘と会話 

「まだ生徒会室の電気が点いてるな…。そろそろ終わらせるよう言ってくるか」

 

春にウマ娘と会話 

「皐月にダービーに春天…、この時期のGⅠレースは数えてちゃキリがないですね」

 

夏にウマ娘と会話 

「暑いっすね…、でもトレーナーの心もそれに負けないくらい熱くなってますよね?」

 

秋にウマ娘と会話 

「学園祭とかハロウィンとか、イベントは多いですけどしっかりこなしていきますよ」

 

冬にウマ娘と会話 

「昔、雪が積もった時はルドルフやシリウスと一緒に雪合戦したんですよ。今やったらどうなりますかね」

 

ログインボーナス 

「今日のログインボーナスですよ」

 

ログインボーナス(翌日の予告)

「明日はこれですね」

 

強化編成に移動 

「トレーニングなら、いつでも出来ますよ?」

 

ストーリーに移動 

「…やっぱり、ウマ娘の歴史は凄いっすね」

 

レースに移動 

「レースにエントリーしますか?」

 

名鑑Lvが上がる状態でウマ娘と会話 

「名鑑レベルが上がったみたいですよ」

 

バレンタインプレゼントをウマ娘から受け取る 

「ハッピーバレンタイン、トレーナー」



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育成画面編

 

体力が一定値以下でウマ娘と会話

・「はぁー…。あ、いや、大丈夫っすよ。次のトレーニングは何っすか?」

・「疲れがないって言ったら嘘になりますけど、こんなとこで休んでられないですよ…!」

 

やる気が絶好調の際にウマ娘と会話

・「よしっ、やってやりますかねっと!」

・「調子は最高ですよ。どんなトレーニングでもOKです」

 

やる気が好調の際にウマ娘と会話

・「こんなところで止まってられねえって思うと、やる気は自然に出て来ますよ」

・「今日はいい気分っすよ。トレーニング、やりませんか?」

 

やる気が普通の際にウマ娘と会話

・「トレーナー、今日のメニューは何ですか?」

・「さーて、今日も頑張りますかね」

 

やる気が不調の際にウマ娘と会話

・「…ええ、少し体が重いっすけど、大丈夫っすよ」

・「…昨日の生徒会で煮詰め過ぎたか…?」

 

やる気が絶不調の際にウマ娘と会話

・「はあ…。ってトレーナー!?き、気にしないでください!」

・「やる気が全然出ねえ…。頭の中で動けって言ってるはずなんですけど…」

 

レース選択画面で3ターン連続で出走時にウマ娘と会話

「今日もっすか?別にトレーナーの言うことなんで大丈夫なんでしょうけど」

 

レース選択画面で4ターン連続で出走時にウマ娘と会話

「いくらなんでもレース多すぎやしませんか?まあできる限り全力で走りますけど、期待はしないでくださいね」

 

目標レースターンでやる気が絶好調の際にウマ娘と会話

・「調整は万全っすよ。さあ、狩りの時間と行きますか!」

・「最高のコンディションですね。実力以上の力、出せると思います」

・「調子は絶好調っすよ。走り終わったら、思いっきり叫べそうです」

 

目標レースターンでやる気が好調の際にウマ娘と会話

・「体が軽いっすね。さあ、走ってきますか」

・「トレーナー、理想の状態で走れますよ。調整ありがとうございます」

・「心配ご無用っすよ。俺を誰だと思ってるんですか?」

 

目標レースターンでやる気が普通の際にウマ娘と会話

・「じゃ、行ってきますよ。トレーナー」

・「ちょうどいいくらいに気持ちが高ぶってます。心配しないでください」

・「言われなくても全力で走りぬいてきますよ。ライブ、楽しみに待っててください」

 

目標レースターンでやる気が不調の際にウマ娘と会話

・「これぐらいならカバーできる範囲内っすかね…。大丈夫だとは思います」

・「いつもに比べたら劣りますけど、しっかり全力で走ってきます」

・「調子が落ちてよーが、俺は俺です。これ位で負けたら洒落にならないっすよ…」

 

目標レースターンでやる気が絶不調の際にウマ娘と会話

・「マジで調整方法どこでミスったんだ…?すみません、トレーナー」

・「トレーナーが気負う必要はないです、俺の体の不調は俺の責任です」

・「…やれる限りのことはやってきます。こんなとこで立ち止まるわけには行かないんすから」

 

トレーニング成功(勉強以外)

・「了解です」

・「分かりました」

・「任せてくださいよ」

 

トレーニング成功(勉強のみ)

・「勉強っすね」

 

トレーニング失敗(勉強以外)

・「おわっと!?」

 

トレーニング失敗(勉強のみ)

・「あー…」

 

お出かけ

「どこに行きますか?」

 

夏合宿中のお出かけ

「久々に楽しみますか!」

 

育成ランクがC~B

「…少しはアイツに近づけましたかね」

 

育成ランクがG~D

「ありがとうございました、トレーナー」

 

夏合宿中にウマ娘と会話

「何やるんですか?ここまで来ていつもと同じってのは通用しないっすよ」

 

継承イベント

「…へえ、こんな力を貰えるなんてね」

 

友情トレーニング発生

「…さあ、俺について来る覚悟はあるか?」

 



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その他編

 

〔ファイナルチェイサー〕シンボリハンター

 

ウマ娘と会話

・「さーて、やってやりますかね」

・「トレーニングで出来ないことは本番では絶対に出来ない。トレーニングから本気ですよ俺は」

・「…基礎は全てに通じます。どんなトレーニングでもどんとこいですよ」

・「準備万端、オールオッケーですよ」

 

才能開花が一定値以上でウマ娘と会話

・「迷ったら俺にも相談してください。伝えることは伝えていくんで」

・「トレーナーの指示なら間違いはないはずです。今日は何するんですか?」

 

育成ランクがS以上

「トレーナーと出会えたことは一生もんの思い出です」

 

育成ランクがA

「まさかここまで行けるとはね…。感謝します、トレーナー」

 

スキル発動(短縮版)

「この距離なら、逃がしはしない…!」

 

スキル発動(ロング版)

「ターゲット捕捉完了…!この距離なら逃がしはしないぜ、…ハンター、Ready, Go!」

 

レースで1着(GⅠレース)

「シャー、オラァ!これが俺の実力ってもんよ!」

 

レースで1着(GⅠ以外)

「順調だな、…よしっ!」

 

レースで2着

「仕方ねーな、次だ次!」

 

レースで3着

「3着か、…なにが足りなかったのだろうか」

 

レースで4~5着

「まだまだ上を目指さねーとな」

 

レースで6着以下

「こんなレース、二度としねえぞ…!」

 

レース出走

「さーて、行きますかっと!」

 

覚醒Lv強化

「努力ってもんは続けていくことに価値がありますからね」

 

才能開花

「これでまた、俺の目標に近づけました」

 

ガチャ獲得

「…俺でよかったって言ってもらえるような走りを見せてあげますよ」

 

 

 

ゲーム起動時

「Cygames」

 

タイトル画面

「ウマ娘、プリティーダービー」

ライブシアターでライブ視聴

・「最高のライブを見せてあげますよ」

・「…得意な曲なら、いくらでも踊りますよ」

ウマ娘ストーリー

「俺の夢を聞いて顔を変えなかったのはアンタだけっすよ。…感謝してます、トレーナー」

 

ウマ娘選択

「シンボリハンター、お願いしますね」

 

チーム競技場で出走

「全員の気持ちを一つにするぞ!」

 

チーム競技場で出走(シンボリルドルフと出走時)

「ルナ、行けるな?」

「もちろんだとも」

 

チーム競技場で出走(シンボリルドルフと出走時)

「ハンター、行くぞ!」

「ああ、分かってる」

 

チーム競技場で出走(エアグルーヴと出走時)

「行くぞ、エアグルーヴ」

「はい、ハンターさん」

 

チーム競技場で出走(ナリタブライアンと出走時)

「言わなくてもいいよな、ブライアン?」

「…もちろんだ」

 

チーム競技場

「さあ、やっていきますか!」

 

チーム競技場で「WIN」

「全員、よくやったぞ」

 

チーム競技場で「DRAW」

「勝ちたかったけど、良いレースだったな」

 

チーム競技場で「LOSE」

「この敗北、しっかり振り返らないとな」

 

チーム競技場の最終結果が「WIN」

「おしっ、この栄光は誰にも譲らねえ!」

 

チーム競技場でハイスコア更新

「ハイスコア更新、次回も更新していきたいですね」

 

チーム競技場の最終結果が「DRAW」

「勝ちたかったけど、良いレースだったな」

 

チーム競技場の最終結果が「LOSE」

「この敗北、しっかり振り返らないとな」

 

クレーンゲーム開始時

「期待してますよ」

 

クレーンゲームでぬいぐるみ獲得

「やりましたね」

 

クレーンゲームでぬいぐるみを獲得できなかった

「難しいっすね」

 

クレーンゲームで大成功

「感謝しますよ、トレーナー」

 

クレーンゲームで成功

「まあ、まずまずですか」

 

クレーンゲームで失敗

「こんなこともありますよね…」

 

クレーンゲームでウマ娘と会話

・「…へえ」

・「マジっすか…」

・「…なるほどね」

 

クレーンゲームでぬいぐるみを複数掴んだ

「え、マジっすか!?」

 

クレーンゲームで途中でぬいぐるみを落とした

「はあ!?」

 

クレーンゲームでアームを動かした

「ふーん…」

 

クレーンゲームで一定時間操作を行わない

「どうしたんすか?」

 

クレーンゲームでぬいぐるみを複数掴んだ

・「おっ!」

・「よっしゃ!」

 

クレーンゲームで途中でぬいぐるみを落とした

・「あー…」

・「マジかよ…」

 

トレーナーノートを確認

「俺の夢、叶えてくれるんですよね?」

 

サポートカードのLv強化

「サポートなら、俺に任せてくださいね」

 

サポートカードの上限解放

「まだまだやれるっぽいですね」

 

トレーナーノートでウマ娘を着せ替える(制服)

「着崩したりはしないっすよ。仮にも副会長ですから」

 

トレーナーノートでウマ娘を着せ替えて会話(制服)

「なんか、違和感あるんすよねー。まあ仕方ないっすけど」

 

トレーナーノートでウマ娘を着せ替える(レース服)

「…この服、ヒラヒラしすぎじゃないっすか?」

 

トレーナーノートでウマ娘を着せ替えて会話(レース服)

「…似合ってないなら正直に言ってください。俺も分かってるので」

 

トレーナーノートでウマ娘を着せ替える(勝負服)

「…俺はやっぱ、この服が一番好きっすね」

 

トレーナーノートでウマ娘を着せ替えて会話(勝負服)

「最後まで、しっかり走り切りたいですね」



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EXTRA R 「響け、ファンファーレ!」
76話


 

 あれからというもの、スピカの面子はガンガンと勝ち進んでいった。

 

 俺は復帰したドリームトロフィーの連覇記録を伸ばし、スズカも同じようにGⅠ勝利の後、満を持してアメリカに渡った。

 

 スぺもジャパンカップの後の有馬記念でグラスに競り勝ち、宝塚記念の雪辱を晴らした。

 

 テイオーは怪我があり、ルナのように無敗の3冠とはならなかったものの、怪我から復帰の有馬記念で劇的な勝利を収めた。

 

 マックイーンは天皇賞連覇をなしとげ、長距離ではトレセン学園内では指折りの実力者となった。

 

 ゴルシは宝塚記念の連覇の後、凱旋門賞に渡った。…さすがに俺は向こうに行っていない。

 

 ウオッカとスカーレットはバチバチのライバル関係を築き上げた、秋の天皇賞は語り草となっている。

 

 そして、全員がドリームトロフィーに移籍して、全員が本戦へと駒を進めた。

 

 俺も今回はダートから芝へと変更した。

 

 スピカが全員参加するということもあり、今回ばかりはこっちに参加させてもらおうということである。

 

 まあ俺がいなくてもダートはファル子やイナリといった面子がしっかりしてくれた、もう心配することはない。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 …で、だ。俺は今ドリームトロフィーの抽選会に臨んでいる。

 

「…おい、オグリ。食いすぎじゃねーか?」

 

「そうだろうか?いつもと変わらないとは思うが…」

 

「お前は相変わらずマイペースだな」

 

 俺はオグリとそう話して、人混みから外れる。

 

 会場から外に出ると、沖野さんと東条さんが何か話していた。

 

「お、ハンター。どうしたんだ?」

 

 俺を見て沖野さんがそう声をかけてきた。

 

「少し風に当たろうかなって思って。…ジャマでしたら戻りますけど」

 

 そう話すと東条さんが「別に大丈夫だ」と話してくる。

 

「…ちょうど、お前が一時スピカから離脱してメンバーがゴルシだけになった時の話をしててな」

 

「…あー、あのときっすか。本当に迷惑かけちゃいましたね…」

 

 凱旋門賞が終わった後、ホテルに戻ると俺の右膝が尋常じゃないくらい痛み出した。

 

 恐らくレース中はアドレナリンとかが出ててそこまで痛まなかったんだろうが、ホテルに戻り安堵したため痛みが襲ってきたのだろう。

 

 その後応急処置として右ひざにサポーターを巻き痛み止めなども貰い、日本に戻って病院で診断をしてもらったところ、『右膝前十字靭帯損傷』という診断がされた。

 

 原因は長年のレース・トレーニングによる脚の酷使。断裂の危険性もあったと言われた。

 

 元から凱旋門賞を最後にトゥインクルを引退することを決めていたため、ある意味今までよく持ちこたえてくれたというのも俺の中ではあった。

 

 …とはいえ、その後もドリームトロフィーに参加する予定もあった俺は、その後の丸1年を完治・リハビリに費やすことになった。

 

 しばらくの間は入院することになり、俺は怪我が完全に治るまでの間ではあるがスピカを離脱した。

 

 理由は俺という怪我人に意識を集中して欲しくないためである。

 

 その後怪我が治り、ある程度レースの感覚が戻ってきた俺はスピカに復帰。ドリームトロフィーにも参加して今に至る。

 

「まあお前のことだからある程度は分かっていたけどよ。その後にスカーレットとウオッカ、それにスズカやスぺも来てくれたんだしな」

 

「ホント、俺のわがままを通してくれてありがとうございました、沖野さん」

 

 俺の言葉に沖野さんは「まあいいってことよ」と返してくる。

 

 そんな中、俺を呼ぶ声がした。ルナである。

 

「ハンター、そろそろ抽選が始まるそうだ。こっちにきてくれないか?」

 

「りょーかい。…いったん俺はこれで」

 

 俺はそう言って部屋の中へと戻っていった。



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77話

 

「…では、シンボリハンターさん。お願いします」

 

「分かりました」

 

 俺はそう言いながら抽選箱の中に手を入れる。

 

「…これにするか」

 

 俺は一つの枠番が書かれた紙を取り出す。

 

「…では、シンボリハンターさん。開けてください」

 

「了解です」

 

 俺はそう促されて紙を開く。

 

「…この番号が来てくれるとはな」

 

 俺はそう呟いて、続けていく。

 

「シンボリハンター、8枠16番です」

 

 俺が引いたのは俺の初GⅠで勝利したジャパンカップの枠番。

 

 大外ではないが、外枠に来てくれたのはありがたい。

 

「シンボリハンターさん。感じることはありますか?」

 

 俺はその質問に率直な感想を伝えていく。

 

「…いつもの大外ではないですけど、外側の枠番を引くことが出来たのはありがたいですね」

 

「この番号は、ジャパンカップの時と同じ番号ですね。思うことはありますか?」

 

 俺はそのまま話していく。

 

「…まあGⅠ初勝利、後はルドルフに初めて勝利できた枠番ですからね。縁起はいいですよね。

 

 ドリームトロフィーの連勝記録も続いているので、「芝に行ったら負けた」とか「ダートでしか勝てない」って言われないようにしたいですね。

 

 後は、ルドルフと久々のガチレースなんで素直に思いっきりレースを楽しもうかなって思ってます」

 

 俺がルナを見ながらそう話すと、ルナは俺と同じような笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「準備は万全か、ハンター?」

 

「もちろん、言うまでもないっての」

 

 本番の朝、生徒会室で俺とルナはそう話していく。

 

「お前と本番のレースで戦えるのはいつ以来だ?」

 

「俺が凱旋門を取る前だから、宝塚記念以来だな。

 

 そう考えたらガチのレースって全然してないんだな、俺達」

 

 凱旋門賞が終わり、怪我を完治させた俺はドリームトロフィーダートに移籍した。

 

 ルナもドリームトロフィーに移籍したが、ルナが行ったのはもちろん芝。

 

 あれから戦ったことは公式戦では一度もなく、模擬レースで何度かである。

 

「ああ。…GⅠでは最後までお前に勝つことはできなかった。

 

 その想い、しっかりとぶつけさせてもらうよ」

 

 ルナは俺にそう話してくる。

 

「ああ。とはいえ俺もGⅡやGⅢみたいなレースだとお前には勝ててねえからな。

 

 お互いしっかりベストを尽くそうぜ」

 

 俺はルナにそう返していくと、生徒会室の扉が勢いよく開かれた。

 

「カーイチョー!遊びに来たよー!」

 

 テイオーである。

 

「テイオー、ここに入る時はノックをしろって言ってんだろ?」

 

「ごめんって、ハンター。でも、ちょっとカイチョーと話したくってさ」

 

 テイオーは腕を後ろで組みながら、そう俺たちに話す。

 

「テイオー、緊張はしているのか?」

 

「そう言うカイチョーとハンターはどうなの?二人でも緊張とかはあるの?」

 

「私はドリームトロフィーに挑戦するのは初めてではない。緊張などしていないさ」

 

「俺も、芝に挑戦するのは初めてだけど、ドリームトロフィーは初めてじゃねえ。もうこの緊張も慣れたもんよ」

 

 俺たちの言葉を聞いてテイオーは話していく。

 

「…あのね、ボク不安なんだ」

 

「どうしたんだ?」

 

 そうルナが聞いていくとテイオーは答えていく。

 

「カイチョーとハンターが…。

 

 ボクのスピードについてこれなくて、悔しくて泣いちゃうんじゃないかってね!

 

 …ってイタイイタイ!ハンター、ギブギブッ!」

 

「そんな想像をするな!」

 

 ルナはそう返し、俺はテイオーの首に無言でチョークスリーパーを掛ける。

 

「ごめんってハンター!もう解いてってば!」

 

 俺がルナを見ると、ルナは感慨深い顔をしていた。

 

 まあテイオーはルナに憧れてるし、ルナも結構テイオーのことを可愛がってる。

 

 その気持ちが分からないでもない。

 

「…か、カイチョー。本気で怒ったの?」

 

 …そう聞くテイオーにルナは「怒ってない」と返していく。

 

 そう話した後、俺達はレースが行われる東京レース場へと向かっていった。



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78話

 

 ターフに出る直前、俺達スピカの面々は着替えて控室に待機していた。

 

「おーし、連れて来たぜっと!」

 

 そうゴルシは麻袋の中から拉致してきた沖野さんを出す。

 

「お、お前ら…!」

 

「「「「ようこそ、チームスピカへ!」」」」

 

 沖野さんに俺以外の7人はそう話していく。

 

「…なんだよ、普通に呼べよ…」

 

 そう話す沖野さんに俺は7人の後ろから前に出る。

 

「トレーナーが行方不明だから、ゴルシに捕まえてもらったんですよ。

 

 まったく、どこ行ってたんすか?」

 

 俺がそう話すと沖野さんは首を背ける。

 

「…何すねてんだ?」

 

「トレーナーさん、今日はどう走ればいいですか?」

 

 そうスぺが聞くと、沖野さんは首をこっちに向ける。

 

 俺たちが沖野さんの顔を見つめる中、隣の控室から声が聞こえてきた。

 

「リギルの声…か」

 

 俺たちの相手となる、リギル。マイラーのタイキを除いて全員が出場している。

 

 そして、沖野さんは口を開く。

 

「…ったく、作戦なんてねえ。チームスピカのやることは一つだ。

 

 

 

 リギルのやつらを、あっと言わせてやれ!

 

「「「「はい!」」」」

 

 俺たちは沖野さんにそう返答する。

 

「おしっ、アタシたちも円陣だ!」

 

「いいですわね!」

 

「トレーナーさんも入って下さい!」

 

「いいって俺は…」

 

 俺たちはそう各々が話しながら円陣を組む。

 

「ハンター、しっかり気合入れてよ?」

 

「言われなくても分かってるってのテイオー」

 

 俺はテイオーに促される。

 

 …ホント、全員よくここまで成長してくれた。

 

 俺の最初で最後となる芝でのドリームトロフィー。

 

 こいつら全員と本番で走るのも最初で最後だ。

 

「お前ら、全員調子とか、怪我とかは大丈夫だよな?」

 

「ええ!」

 

「行けますよ!」

 

「言われなくても!」

 

「大丈夫ですわ!」

 

「心配無用だっての!」

 

「もちろんです」

 

「はい!」

 

 7人からはそう俺にそれぞれの言葉が返ってくる。

 

「…ホラ、沖野さんも覚悟決めてください」

 

「…ああ、分かってるぜハンター」

 

 沖野さんから俺にそう返ってくる。

 

 そして俺は息を吸い直して、思いきり叫ぶ。

 

 

 

「俺たちは誰だ!」

 

 

 

「「「「王者、スピカ!」」」」

 

 

 

「誰より汗を流したのは!」

 

 

 

「「「「スピカ!」」」」

 

 

 

「誰より涙を流したのは!」

 

 

 

「「「「スピカ!」」」」

 

 

 

「戦う準備は出来ているか!」

 

 

 

「「「「おおーッ!」」」」

 

 

 

「チームの誇りを背負い、全員狙うはただ一つ!

 

 一着、そしてウイニングライブセンターのみ!

 

 

 

 …行くぞーッ!」

 

 

 

「「「「おおーッ!」」」」

 

 

 

 俺の声に呼応するように、他の7人もそう叫ぶ。

 

 全員のボルテージは最高潮になった。

 

 これならいいレースをすることが出来るだろう。

 

 そう感じた後、俺達は地下バ道へと向かった。




最後はダイヤのAで主人公が所属する青道高校で伝統的に行われている「王者の雄叫び」が元ネタ。一度書いてみたかった。


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79話

※今回は多数のチャント流用回です。拒否感がある人は見ないことをおすすめします。


 

 俺達、ドリームトロフィーに出場するウマ娘達は地下バ道で紹介されるのを待つ。

 

 順番はもちろん枠番順で呼ばれていく。

 

『さあ、ただいまより出走ウマ娘入場です!皆様、盛大な声援をお願いします!」

 

 そのアナウンスの後、観客席からの歓声・ボルテージは最大となる。

 

 やっぱり、芝はダート以上だ。

 

 ダート側でも色々な策を練ってはいるが、ここまではならない。

 

 いずれはダートもこうなってくれることを願うばかりだ。

 

 そして、続々とウマ娘達が紹介されて入場していく。

 

 

 

『…1枠1番、「異次元の逃亡者」、サイレンススズカ!

 

「…お願いします!」

 

 

 

光を追い越して

 

メーター振り切り駆け抜けろ

 

止まらないぜ

 

韋駄天スズカ

 

ゴーゴーレッツゴー スズカ!

 

 

 

『…1枠2番、「ターフの名優」、メジロマックイーン!

 

「参りますわ!」

 

 

 

翼広げ

 

舞い立て鮮やかに

 

我らの歓声

 

受けて翔け

 

ゴーゴーレッツゴー マックイーン!

 

 

 

『…2枠3番、「女傑」、ヒシアマゾン!

 

「さっ、タイマンだ!」

 

 

 

気持ちと技で

 

真っ向勝負

 

敵を倒し我らを

 

歓喜へ導け

 

ゴーゴーレッツゴー ヒシアマゾン!

 

 

 

『…2枠4番、「帝王」、トウカイテイオー!

 

「行くよー!」

 

 

 

ここに立つために

 

鍛えぬいた日々よ

 

テイオーの全て

 

魅せろ奮わせろ

 

ゴーゴーレッツゴー テイオー!

 

 

 

『…3枠5番、「常識破りの女帝」、ウオッカ!

 

「行くぜー!」

 

 

 

栄冠掴むその日まで

 

恐れず飛び込めゴールへ

 

君の熱き血潮で

 

燃えろウオッカ

 

ゴーゴーレッツゴー ウオッカ!

 

 

 

『…3枠6番、「スーパーカー」、マルゼンスキー!

 

「…ノリノリで行っちゃうわよ!」

 

 

 

夢を運ぶその走り

 

君が刻むヒストリー

 

赤く光る彗星

 

走れマルゼンスキー

 

マルゼン!マルゼン!

 

 

 

『…4枠7番、「不死鳥」、グラスワンダー!

 

「…いざ、参りましょうか!」

 

 

 

歓喜の瞬間を

 

その手で掴むため

 

高鳴る胸に秘められた

 

覚悟を示す時

 

ゴーゴーレッツゴー グラス!

 

 

 

『…4枠8番、「アイドルウマ娘」、オグリキャップ!

 

「…よし、頼む」

 

 

 

胸の奥で熱く滾る

 

想い全て出し切れ

 

壮絶な争いに

 

勝ち残れ最後まで

 

オグリ! オグリ!

 

 

 

『…5枠9番、「麗しの三冠ウマ娘」、フジキセキ!

 

「楽しませてあげるよ!」

 

 

 

光の速さで突っ走れ

 

ドラマティックに

 

ターフを今駆け抜け

 

見せろよキセキ

 

ゴーゴーレッツゴー フジキセキ!

 

 

 

『…5枠10番、「皇帝」、シンボリルドルフ!

 

「…絶対をみせるとしようか!」

 

 

 

力を求める限り

 

幾多の困難乗り越え

 

前人未到の境地

 

辿り着く女の名は

 

ルドルフ!ルドルフ!ルドルフ!ルドルフ!

 

 

 

『…6枠11番、「怪鳥」、エルコンドルパサー!

 

「世界最強の名を、響かせマース!」

 

 

 

さあさ鍛えた肉体と

 

荒ぶる魂で

 

チームを救えエル

 

ファイティングパワー

 

エル!エル!

 

 

 

『…6枠12番、「世紀末覇王」、テイエムオペラオー!

 

「さあ、舞台の幕開けだ!」

 

 

 

覇道極める女

 

今だ魅せてやれオペラオー

 

その名響かせて

 

いざ終わりなき道を行く

 

ゴーゴーレッツゴー オペラオー!

 

 

 

『…7枠13番、「日本総大将」、スペシャルウィーク!

 

「お、お願いします!」

 

 

 

無限に昇る

 

花をここで咲かせろ

 

日本を背負うウマ娘

 

戦いの時だ

 

ゴーゴーレッツゴー スぺ!

 

 

 

『…7枠14番、「破天荒」、ゴールドシップ!

 

「おっしゃー!」

 

 

 

溢れる力を出し

 

その名を刻め

 

希望の道を開け

 

GO MY WAY ゴルシ

 

ゴーゴーレッツゴー ゴルシ!

 

 

 

『…7枠15番、「女帝」、エアグルーヴ!

 

「…行くとするか!」

 

 

 

大空へと願い込めて

 

その翼広げ

 

蒼き丘に立つ勇姿よ

 

大志抱け

 

ゴーゴーレッツゴー エアグルーヴ!

 

 

 

『…8枠16番、「無敗の狩人」、シンボリハンター!

 

「…おし、やってやりますか!」

 

 

 

強気なリードに立ち向かえ

 

得意に相手を引き出して

 

限界を越えていけ

 

闘魂滾らせ燃えろよハンター

 

ゴーゴーレッツゴー ハンター!

 

姉貴に負けるな ハンター!

 

 

『…8枠17番、「影をも恐れぬ怪物」、ナリタブライアン!

 

「…行くぞ!」

 

 

 

このレースで決める

 

君が主役なんだ

 

勝利の叫びを

 

聞かせてくれブライアン

 

ゴーゴーレッツゴー ブライアン!

 

 

 

『…8枠18番、「ミスパーフェクト」、ダイワスカーレット!

 

「…優雅に、咲かせてもらうわ!」

 

 

 

このレースで

 

世界一世風靡しろ

 

燦爛と今輝く

 

一番星よ

 

ゴーゴーレッツゴー スカーレット!

 

 

 

 今ではもう定番となったチャントが、この東京レース場に響き渡る。

 

 …ていうか俺の時「姉貴に負けるな ハンター」って言われてたな。

 

 期待に応えないわけには行かねえよ。

 

 俺はそう感じながら、アップを始めた。




チャント流用元
スズカ…菊池(広島)
マックイーン…加藤(中日)
ヒシアマ…投手汎用(西武)
テイオー…原口(阪神)
ウオッカ…石川(横浜)
マルゼン…オースティン(横浜)
グラス…伊藤光(横浜)
オグリ…宗(オリックス)
フジ…井端(中日)
ルドルフ…吉田正(オリックス)
エル…オスナ(ヤクルト)
オペラオー…根尾(中日)
スぺ…森友哉(西武)
ゴルシ…スケールズ(日ハム)
エアグルーヴ…廣岡(ヤクルト)
ハンター…江村(ロッテ)※歌詞付きver
ブライアン…森岡(ヤクルト)
スカーレット…遠藤(中日)


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80話

 

 …ファンファーレが鳴り響き、俺は8枠16番のゲートに入る。

 

 俺はふうっと大きく息をついて、ゲートに入る。

 

 全員が入ると、東京レース場はレース前特有の静かな空気が流れる。

 

 この空気は芝でもダートでも、トゥインクルでもドリームトロフィーでも変わることはない。

 

 …そして。

 

 

 

 ガタンッ!

 

 

 

 …今、ゲートが開かれた。

 

 俺はいつも通り後方に位置取り、ヒシアマとゴルシの更に後ろの位置につける。

 

 スズカは大逃げモードに入っており、その後ろにはルナやスカーレット、マルゼンといった先行策を得意とするウマ娘達が少し離れて一段となっている。

 

 そして、俺の耳には「これなら絶対勝てる!」とHuntersから言われた応援歌が流れてきた。

 

 

 

 

 

♪♪♪

 

…ハンター!

 

♪♪♪

 

オイ!オイ!

 

オイ!ハンター!

 

 

 

オオオ…

 

オオオ…

 

オオオ…

 

オオオ… そーれそれそれ!

 

 

 

オオオ…

 

オオオ…

 

オオオ…

 

オオオ…

 

オイ!オイ!

 

オイ!ハンター!

 

 

 

 

 

 …やっぱり、この曲だよな。

 

 千葉の風を、尾張名古屋へと運び、26番目の選手たちがひたすら思い思いに叫び続けたこの曲。

 

 チャンステーマ1、通称『デコトラ』。

 

 …史上最大の下剋上を起こした、伝説の曲である。

 

 ほかのウマ娘のサポーターからのチャントもレース場に響き渡っているが、その中でもHuntersの大歓声は俺の耳にしっかりと聞こえてきた。

 

 俺はデコトラの応援を受けながら、前と離され過ぎない位置で様子をうかがう。

 

 …俺はそのまま第3コーナーに入る。この距離なら、いつも通り走ればトップは射程圏内ぐらいか。

 

 ただ、今先頭でかっとばしているのはスズカだ。

 

 その後ろにはルナやマルゼンもいる。

 

 そして、俺の少し前にはスぺも脚を貯めている。

 

 ゴルシも徐々にスピードを上げ始めている。ヒシアマも同様だ。

 

 …そろそろ俺も上げていくか。

 

 

 

「…さあ、楽しませてもらおうか!」

 

 

 

 ギュンッ!という音が似合うように、俺はギアを変えて、一気にペースを上げる。

 

 周りの面々も、同じようにペースを上げていた。

 

 …スズカや先行組との距離は徐々に近づいてくる。

 

 最終コーナーを回り、俺は外側に開きながらもペースを更に上げていく。

 

 …さあ、こっからのホームストレート。足はもちろんまだまだ残ってるし、ペースもさらに上げれる。

 

 坂はあるが、東京の坂は中山の急坂に比べたら大したことはない。

 

 …俺はそのまま最大スピードになりながら坂を登り切る。

 

 …そんな中、沖野さんが俺達の名前を叫んでいるような気がした。

 

 スピカの面子が全員出場しているんだ。叫びたくなる気持ち、分からないでもない。

 

 俺の脚は最大トルクになりながら、一気にホームストレートを駆け抜けていく。

 

 だが、横にはほかのウマ娘たちも来ているのが音だけで分かった。

 

 でも、絶対に負けるわけには行かない。

 

 ファル子からも「ダートの力、しっかり見せてきてくださいね!」と言われたんだ。

 

 俺を送り出しくれたあいつらのためにも、今ここで大歓声を送ってくれている観客のためにも、絶対負けたくねえんだ!

 

 俺たちは全員が横一直線となったまま、ゴール板の前を通過した。




今回のチャント
ロッテチャンステーマ1、通称「デコトラ」。
この曲の説明は不要と言ってもいいでしょう。それぐらいにヤバい応援歌です。
知らない方もYoutubeで「ロッテ デコトラ」で検索すれば分かると思います。 
個人的にはモンキーターンや大チャンステーマと並ぶ、もしくはそれ以上のものだと思ってます。
…ホント、大歓声を選手たちに届けることが出来る世の中になりますように。


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81話

 

「…順位が決まらない?」

 

 控室で運営の人からレースを終えた俺達はそう聞かされた。

 

「はい、ゴールする時、全員が横一列になっているので…、判断が出来ないんです…」

 

 そう言われて、俺とルナはゴール時の写真を見せてもらう。

 

「確かにこれは…、判断できないな…」

 

 その写真は俺達が全員一直線になりながら、ゴールする様子が写っていた。

 

 誰かが抜き出ていたり、誰かが少し下がっていたりする様子もない。

 

「どうする?ウイニングライブの時間も近づいてきてる。

 

 準備の時間も含めていくと、長考はできねーぞ、ルナ」

 

 俺がそう話していくと、ルナは返してくる。

 

「しかし、順位が決まらない以上はウイニングライブは出来ない。

 

 ウイニングライブは一着のウマ娘が観客に感謝を伝えるための場であるからな」

 

 そう言いながらも、ルナは顔をゆがめる。

 

「…かといって誰かを一着として、それ以外を二着にしてしまうと必ず不満が生まれてしまう。

 

 どうすればいいのか…」

 

 百戦錬磨である俺やルナでさえも経験したことがないこの状況。

 

 どうするのが正解なのか…。

 

 俺たちがそう悩んでいたところ、2人のウマ娘が入ってきた。

 

「なーなー、まだ決まらねーのか?」

 

「待てと言っているだろう、ゴールドシップ!」

 

 ゴルシとエアグルーヴである。

 

「すみません会長、それにハンターさん。

 

 ゴールドシップが「もう待ちきれねえ!」と言って…」

 

「まあ、しゃーねーよ。この結果じゃ、順位がマジで決まらないからな」

 

 俺はエアグルーヴにそう返していく。

 

「…君たち二人にも聞いておきたい。

 

 この結果、誰を一着にすればいいと思う?」

 

 ルナはそう言って、2人にゴール時の写真を見せる。

 

「…確かに、これじゃ分かりませんね…」

 

 エアグルーヴも俺達と同じ反応である。

 

 そんな中、ゴルシがそれを見て話してくる。

 

「…なあ、もう全員一着ってことでいいんじゃねーか?」

 

「…は?」

 

 俺がそう言うとゴルシは続けてくる。

 

「ああ。要するに全員同着ってことなんだろ?

 

 それなら全員一着ってことにしてライブやればいいんじゃねーか?」

 

 …確かに、一理あるな。

 

「…それなら、全員納得するな。

 

 全員ソロ曲は持っているし、共通曲もそれなりに踊れるし…」

 

「おいおい、ハンター。共通曲やれるのか?

 

「おいコラ。あれから俺も練習してるんだよ。

 

 それなりには踊れるようになってるっての」

 

 俺はゴルシにそう返していく。

 

 一応普通のウマ娘並みには踊れるようにはなったのが今の俺である。

 

「では、順番はどうしていきますか?」

 

「それなら今回のレースの枠番順にやって行こう。

 

 そして最後に共通曲で締めるのが良いのではないだろうか?」

 

「ああ、そうさせてもらうか」

 

 俺たちはそう話して、ウイニングライブの準備へと取り掛かっていった。



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82話

 

 異例となる全員メドレーでのウイニングライブが始まった。

 

 1枠1番のスズカから歌っていき、今歌っているのは俺の前であるエアグルーヴ。

 

 …この待っている時間は初めてである。

 

 何とも言えない感じだ。

 

 俺はふうっ!と大きく息を吐いて、準備をしておく。

 

 …そして、エアグルーヴのソロが終わり俺の番となる。

 

 エアグルーヴが舞台裏に戻ってくるのと同時に、俺はステージへと向かう。

 

「ハンターさん、お願いします!」

 

「分かってるよ、エアグルーヴ。

 

 次のブライアンとスカーレットにしっかり繋げるよ」

 

 俺とエアグルーヴはそう言葉を交わし、ハイタッチをする。

 

「…おし、…行くぞお前ら!

 

 ステージの中央に立って俺がそう叫ぶと、観客席は一気に盛り上がる。

 

 …さあ、ソロ曲だ。

 

 俺はステージの中央に立つと、曲の始まりとなる電子音と共に呟く。

 

 

 

 

 

…I gotta believe

 

 

 

 

 

 曲が始まると同時に俺は踊り始める。

 

 …この曲はウイニングライブ初披露の新曲だ。

 

 今回、折角芝のドリームトロフィーに参加するのであれば、曲も新しくしようと言うのが俺の考えである。

 

 俺はそのまま歌っていく。

 

 

 

I don't wanna know 下手な真実なら

 

I don't wanna know 知らないくらいがいいのに

 

Why…

 

気づけば I came too far

 

 

 

止まらない 感じる この予感は

 

The new beginning

 

未知の領域 今を切り拓くんだ

 

I gotta believe

 

 

 

Turn it on

 

 

 

相当

 

EXCITE EXCITE 高鳴る

 

EXCITE EXCITE 心が

 

導くあの場所へ

 

駆け抜けていくだけ

 

 

 

(Hey)I'm on the mission right now

 

(Hey)I'm on the mission right now

 

EXCITE EXCITE 答えは

 

I. この手の中

 

II. 進むベき Life

 

III. 生きていくだけ

 

 

 

0から1 1から宇宙の果てまで

 

照らし出す 光は此処にある

 

Yeah no one can't stop me, no one can't stop me now

 

 

 

相当

 

EXCITE EXCITE 高鳴る

 

EXCITE EXCITE 心が

 

導くあの場所へ

 

駆け抜けていくだけ

 

 

 

(Hey)I'm on the mission right now

 

(Hey)I'm on the mission right now

 

EXCITE EXCITE 答えは

 

EXCITE EXCITE 答えは

 

I. この手の中

 

II. 進むベき Life

 

III. 生きていくだけ

 

 

 

 

 

 今回選んだのはExcite

 

 俺のレースに対する自分の気持ちを率直に表した歌詞になっている。

 

 そして歌い切り、ポーズを決めた俺は、裏から出てきたブライアンに話していく。

 

「…次は頼むぜ、ブライアン!」

 

「…言われなくても分かっている」

 

 俺はそう話すブライアンの肩を叩いてステージの中央へと送り出す。

 

 …ぶっきらぼうなやつではあるが、やることはやる。

 

 それがブライアンのやり方だ。

 

 心配はしていない、大丈夫だろう。



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83話

 

 …スカーレットまで全員分のソロが終わり、共通曲の場面となる。

 

「久々だな、これ歌うのも」

 

「最近ハンターは個人曲しか歌ってなかったからな。

 

 副会長として情けない姿は見せないでほしい」

 

「言われなくても分かってるよ、ルナ」

 

 俺はルナとそう言葉を交わしていく。

 

 そして俺はステージ中央部に並んでいく。

 

 全員が揃った後、曲が始まった。

 

 

 

 

ここで今輝きたい

 

叶えたい未来へ走り出そう

 

夢は続いてく

 

 

 

 今回のウイニングライブの共通曲となるのはSpecial Record

 

 …言わなくても分かるだろう、俺の黒歴史の1つである。

 

 だが、もう俺はあの時とは違う。

 

 あれからこういった曲も他のウマ娘並みには踊れるようになった。

 

 しっかり踊り切らせてもらうとしよう。

 

 

 

新しい季節がやってくるよ

 

もっと加速して

 

全身全霊でenjoy!
 

 

夢にまで見た景色が見えるよ

 

君と一緒に目指したキセキ

 

 

 

涙こぼれるときもあるけど

 

この胸に 抱きしめた希望があるから

 

未来を目指して

 

 

 

ここで今輝きたい

 

いつでも頑張る君から変わってくよ

 

Day by Day さあ 進もうmy way
 

 

Specialな絆で走り出そう

 

夢は続いてく

 

 

 

 俺は難なく踊っていく。

 

 ルナほどうまくは出来ていないが、確実に俺の中央初ライブを見た人からすれば確実に成長したな…と思えるだろう。

 

 曲はそのまま続いていく。

 

 

 

ここで今輝きたい

 

小さな憧れが君を導くから

 

 

 

ここで今輝きたい

 

いつでも頑張る君から変わってくよ

 

Day by Day さあ 進もうmy way
 

 

Specialな絆でつながっていく

 

Specialな毎日へ走り出そう

 

夢は続いてく

 

 

 

 俺たちは揃ってポーズを決める。

 

 …よかった、踊り切れた。

 

 振り付けとかも間違えなかったし、恥ずかしい思いはしなくて済んだな。

 

 俺はそう思いながら最後の決めポーズを解き、観客に手を振りながらステージ裏へと戻ろうとした。

 

「…ハンター、まだ終わりじゃないぞ」

 

 その際、俺はルナからそう呼び止められた。

 

「え、もう全員分やったし共通もやったし終わりだろ?」

 

 俺はそうルナに返す。

 

「いや、まだあと一曲残ってるさ。

 

 …お前が一番得意な曲がな」

 

「は?」

 

 俺がそう聞き返すと、俺の耳にある曲のイントロが流れてきた。

 

 それを受けて他のウマ娘も踊り始める。

 

 

 

PARTY PaPaPartyPartyParty P・A・R・T・Y!

 

 

 

 それを受けて観客からは大歓声が上がる。

 

 …いや、俺聞いてねえんだけど!?

 

「ハンター、君が芝に来るのはこれが最初で最後だろ?

 

 さっき全員のメドレーをするとなった時にマルゼンが思いついたそうだ」

 

 俺がマルゼンの方を向くとマルゼンは答えてくれる。

 

「一回踊ってみたかったのよ、この曲。こんな機会でないと思いっきり踊れないしね。

 

 あなたがさっき色々準備しているときに全員に伝えておいたの。

 

 さあメインボーカル、行っちゃいなさいなハンター!」

 

 俺はマルゼンにそう言われてステージの中央へと押し出される。

 

 ほかのウマ娘を見ても文句はなく、まさに楽しんで踊ろうとしているのが見えてくる。

 

 …それなら、しっかり歌い切り、踊り切るまで。

 

 俺は覚悟を決めて歌い始めた。



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84話

 

 マルゼンやルナといった他のウマ娘達の後押しを受けて俺はそのまま歌い始めていく。

 

 

 

君はスター まばゆくシャイン

 

[O-O-O-O-O, O-O-O-O-O]

 

自分じゃ気付けない

 

[O-O-O-O-O, O-O-O-O-O]

 

 

 

 …全員しっかり踊れている。いつの間に練習したのだろうか。

 

 まあここにいるのは全員一流のウマ娘達だ。

 

 これぐらいどうってことはないのだろう。

 

 …まあ、ホントにスズカ以外のスピカの面子はここまで踊れるようになっているだけでも本当に良かった。

 

 あの惨状を見たものとしては嬉しい限りである、

 

 

 

心、リラックスして未来(あす)をイメージ

 

行方、自由自在

 

諦めかけちゃった夢にリベンジ

 

老若男女のプライド

 

 

 

 俺が歌いながら回りを見渡すと、全員楽し気に笑顔で踊ってくれている。

 

 全員、思い思いに楽しみながら踊っていく。

 

 …これがこの曲の真髄だ。

 

 …さあ、全員楽しんでいこうか!

 

 

 

Everybody シャッフルしよう、世代

 

連鎖するスマイル

 

Let’s Party エンジョイしなきゃもったいない

 

だって、人生は一回

 

 

 

レインボーは空だけじゃない

 

胸にも架かるぜ

 

どんなミラクルも起き放題

 

ユニバース・フェスティバル

 

 

 

「さあ、メドレーラスト!最後まで、楽しんでいくぞーッ!」

 

 俺は曲中に踊っている他のウマ娘、そして観客に向けてそう叫ぶ。

 

 観客も俺の叫び声を聞いて一気に盛り上がっていく。

 

 …後になって見れば、俺が曲中で歌詞以外の言葉を叫んだのは全てのウイニングライブで初めてだった。

 

 それだけ俺も気持ちが入っていたのだろう。

 

 そして、俺たちは揃って全員が揃ったゾンビウォークを披露して、ラスサビへと向かっていく。

 

 さあ、これで長かったメドレーもラストだ。

 

 全員、最後まで楽しもうぜ!

 

 

 

めぐり逢いずっと続く世界

 

偶然なんかじゃない

 

Let’s Party 点が繋がり合い

 

線になる一切

 

 

 

Everybody シャッフルしよう、世代

 

連鎖するスマイル

 

Let’s Party エンジョイしなきゃもったいない

 

だって、人生は一回

 

 

 

レインボーは空だけじゃない

 

胸にも架かるぜ

 

どんなミラクルも起き放題

 

ユニバース・フェスティバル

 

 

 

 俺たちはそこからも踊っていく。

 

 しっかり最後まで踊り切ること。それが今の俺達が観客にできる最大限だ。

 

 そして俺たちは最後にしっかりとポーズを決める。

 

 ウイニングライブでは異例となるメドレー、全員がソロ・Special Record・PARTYの3曲を踊り切った。

 

 さすがに疲れたが、観客の歓声は鳴りやまなかった。

 

 レースの順位は最終的にどうだったとか、そんなことは気にならなかった。

 

 俺が最高のライブをできたという達成感だけがそのライブを終えた後にはあった。



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第13R 「届けエール!トレセン学園応援団」
85話



 アニメ1期が終わったので、今回からゲーム版のストーリーを絡めて行こうかな…、と。

 そこまで長くなるつもりはないです。


 

 生徒会室にて作業しているときのことである。

 

「キングヘイローです、失礼します」

 

 そう礼儀正しくノックをしてはいってきたのはキングヘイローである。

 

「どうかしたのかキングヘイロー?何か聞きたいことでもあるのか?」

 

 そうルナが話すとキングは「はい」と言って続けていく。

 

「…実は、ハンターさんに用がありまして」

 

「俺にか?」

 

「はい、少しよろしいでしょうか?」

 

 俺の言葉にそうキングが続けてくる。

 

「別に構わねえよ。…ルナ、しばらく会議室借りるぜ」

 

「ああ、分かった」

 

 ルナに許可を取って、俺はキングを生徒会室の隣にある会議室へと連れて行った。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「…で、俺に用ってなんだ?」

 

 俺がそう聞くと、キングは答えてくれる。

 

「はい!実は…、応援団について、どうしたらいいか聞かせてもらえないでしょうか!」

 

「…え?」

 

 俺がそう答えるとキングは続けてくる。

 

「ハンターさん、私が応援団の団長に就任したことはご存じですよね?」

 

 応援団。この春のファン感謝祭で出場するウマ娘達に声援を送る集団であり、今年はキングが就任した。

 

「ああ、バンブーが「キングのやつ、またやりやがったっスねー!」って叫ぶのは毎日聞く光景だな」

 

 俺がそう話すと、キングはバツが悪そうな顔を見せながら続けてくる。

 

「それで先日、練習会をみなさんと行ったのですが、すべてうまく行かなくて…。

 

 一流の吹奏楽を雇ったりしていたのですが、すべてが揃っていなかったというか…。

 

 ハンターさん、サポーターシステムを作ったあなたなら何が悪いか分かるかなと」

 

「それで、俺にね。…とはいえ、その時の状況を見ないと分かるものも分からねえ。

 

 そん時の動画とかはねえのか?」

 

「それなら…」

 

 キングはそう言いながらスマホの画面を操作していく。

 

「こちらが、応援団の団員の子が撮った動画なんですけど…」

 

 俺は練習会の動画を見せてもらう。

 

「あー…、これはなー…」

 

 俺はその動画を見て頭を抱える。

 

 確かに環境は揃ってるし。人数も十分だ。

 

 ただ、その集団が奏でる音は揃っているとはお世辞にも言い難いものであった。

 

「ハンターさん、何が悪いか分かりますか?」

 

 キングは俺にそう聞いてくる。

 

「…大体わかったよ。お前らの状態」

 

 俺はそう言いながら、自分のスマホ画面を操作していく。

 

「…外部の人を入れた練習会は後2回だったよな」

 

「ええ、確かそうだったはずです」

 

 俺はキングに「少し待ってろ」と話して、ある人と連絡を取る。

 

「…はい。俺です。少し聞きたいんですけど、この日って空いてますかね?

 

 場所はトレセン学園のグラウンドです。行けますか?

 

 あ、来れますか?じゃお願いさせてもらってもいいですか?

 

 はい、学園の正門で待っておくんで。当日お願いしまーす」

 

 俺はそう言って電話を切る。

 

「…揃うかは分からないけど、来れるメンバーで来てくれるってよ」

 

「も、もしかしてHuntersの代表の方ですか…?」

 

 俺はキングに返していく。

 

「ああ、こういうの説明するより見た方が速いからな。少しHuntersの力を借りさせてもらうよ」

 

 俺のサポーターであるHuntersは周りからの評判も高い。

 

 参考にするのであればちょうどいいだろう。

 

「キング、応援団っていうのは何なのか、しっかり見てくれ」

 

「あ、ありがとうございます、ハンターさん!」

 

 キングはそう言いながら俺に頭を下げた。



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86話

 

 練習会当日。

 

「では、今日はよろしくお願いします」

 

「ああ、Huntersとして恥ずかしくない応援をさせてもらうよ、ハンター」

 

 Huntersの代表の人は俺とそう話しをしていく。

 

「というか、ホントによく来てくれましたね…」

 

「まあ、もともと俺達も今日練習会する予定だったからね。

 

 ちょうどよかったよ。

 

 …それで、君が応援団の団長のキングヘイローだね。

 

 ハンターから話は聞いてる。今日はよろしくね」

 

 その言葉を受けてキングは姿勢を正す。

 

「え、ええ!さらなる向上のために、今日はお願いするわ!」

 

 キングはいつもの口調で話していく。

 

「…いつもは近くてもウマ娘ゾーンからでしたけど、近くで見たら、楽器とかの装備はそこそこですわね?」

 

「そうだね。俺達は経験者こそあれどプロはいない。

 

 高校生とかの学生もいるし、社会人もいる。

 

 URAから補助は受けてるけど限界はあるし。

 

 それに、応援する気持ちを伝えるのなら、自分たちの声と気持ちがあれば十分。

 

 楽器はそれを上乗せするためのものなんだから。

 

 しっかり気持ちをのせて応援しないと、どんなに声をあげてもドリームトロフィーだと他のチームに搔き消されちゃうしね」

 

「な、なるほど…」

 

 そんな感じで話していくキングと代表の2人を見ていると俺に話しかける影が一人。

 

「…にしても、ハンターさんはさすがですね…」

 

「まあな、俺もこんなに人が来てくれるとは思ってなかったよ」

 

 俺は話しかけてきたナイスネイチャにそう返していく。

 

「まあキングの暴走はバンブーからも聞いてる。あいつも良かれと思ってやってることは確かだしな」

 

「まー、そうなんですけどねー…

 

 いっつも私達の知らないとこで進んでいるというか…」

 

 ネイチャもキングの性格を分かっているだけに色々と苦労しているみたいだ。

 

「まあまあネイチャ。今日はHuntersの応援をしっかり参考にさせてもらうとしましょう」

 

 そう言うのは同じく応援団に所属しているシーキングザパールである。

 

 パールはネイチャたちよりも年齢が上なだけに、基本的には一歩引いた位置で見守っているみたいだ。

 

 そんな感じで話していると、代表の人から俺に声がかかる。

 

「…ハンター、いつも…ほどじゃなくていいけど走ってくれるか?」

 

「了解です。…まああなた方の応援聞いてたら、俺の脚は自然とトップスピードになりますよ」

 

「嬉しいことを言ってくれるじゃねえか。…準備始めるぞ!」

 

 代表の人がそう言うと、Huntersから「オオッ!」という声が返ってきた。

 

 まあ軽くではあるけど、恥ずかしい走りは見せることはできないな。

 

 俺はそう思いながら軽いアップを始めた。



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87話

久しぶりの更新です。テスト期間が終わったので、出来る限り以前のペースに戻していきたいところですね…。


 

 俺はターフの上で軽く体を動かして、走る準備をする。

 

 まあそこまで本気で走る予定はないが、Huntersの応援を聞いてると脚は自然と速くなる。

 

「…よし、それじゃ行きまーす!」

 

 俺がスタンドに向けて右手をあげると、Huntersの方からも同様に手が上がる。

 

「…しっかり見といてくれよ、キング。…これが最強の応援団の力だ!」

 

 俺はそう呟きながら、思いきりターフを蹴り出した。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 俺がターフを蹴り出すと同時に、いつもと変わらないHuntersの応援が俺に届いてきた。

 

 ちなみに「俺たちの新曲、是非試してくれ!」と言われたので今日はいつものモンキーターン、コーリン、大チャンステーマ、デコトラといった曲ではない。

 

 俺の耳に聞こえてきたのは、まるでそのフィールドを魔境へと変えてしまうような、そんな曲であった。

 

 

 

…オイ!

 

…オイ!

 

…オイ!

 

♪♪♪

 

ハンター!ハンター!

 

ハンター!ハンター!

 

ハンター!ハンター!

 

ハンター!ハンター!

 

 

 

…オイ!

 

…オイ!

 

…オイ!

 

♪♪♪

 

ハンター!ハンター!

 

ハンター!ハンター!

 

ハンター!ハンター!

 

ハンター!ハンター!

 

 

 

 …「U.N.オーエンは彼女なのか?」を原曲とするこの曲。

 

 まるで、吸血鬼の館に誘われたかのような、そんな雰囲気を漂わせる曲である。

 

 俺は向こう正面に差し掛かりながらチラッとスタンドに視線を向ける。

 

 Huntersの応援はトランペットが特別うまいわけでもない。

 

 演奏会でプロのトランぺッターと対戦したら間違いなく負けるであろう。

 

 …ただ、彼らが響かせる音には俺を勇気づけようとする気持ち、それがフルに詰まっている。

 

 そして言わずと知れた、その音に更に上乗せする統一感のある大歓声。

 

 「なんとしてもハンターを俺たちの応援で勝たせる!」、その気持ちは年齢はバラバラであっても一つ。

 

 それが威圧感のあるHuntersの応援を産み出しているのである。

 

「…キング、お前ははりきり過ぎて全員を置いてけぼりにしてる。

 

 誰にも負けない応援は、全員が一丸とならないことには、成立することはない」

 

 俺はそう思いながら、最後のホームストレートに入る。

 

 …応援の熱は向こう正面を走っていたときよりもダイレクトに俺の体にぶつかってくる。

 

 それと共に、俺の脚も最後のスパートをかけるように回転が速くなっていく。

 

 この応援団を俺の味方にすることが出来てよかった。

 

 相手側でこの応援をされたらたまったものじゃねえ。

 

 そう思いながら、俺は駆け抜けていった。




今回のチャントは神戸拓光(千葉ロッテマリーンズ)の応援歌、通称『オーエン歌』。歴代ロッテの応援歌の中でも屈指の盛り上がりを見せる曲です。


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88話

 

 俺は走り終え、スタンドの前へと戻ってくる。

 

 

 

止まらねえ 俺たちのハンター

 

暴れろ 荒れ狂え

 

ララララララララ

 

叫び オイ! 歌え

 

 

 

止まらねえ 俺たちのハンター

 

暴れろ 荒れ狂え

 

ララララララララ

 

叫び オイ! 歌え

 

 

 

 勝利のSee Offが俺に向けて浴びせられて、そのまま次の曲へと移っていく。

 

 …いつもの旗はないものの、俺のタオルマフラーを掲げて曲を歌っていく。

 

 これはまだ聞いたことがない新曲であった。

 

 

 

♪♪♪

 

♪♪♪

 

…いいぞ!
 

 

…ハンター!

 

♪♪♪

 

走れ 光速の

 

シンボリハンター

 

唸れ 衝撃の

 

ハンター華撃弾

 

走れ 光速の

 

シンボリハンター

 

唸れ 衝撃の

 

ハンター華撃弾

 

 

 

 …まさか、この曲を使ってくるとは。今までの曲とは一味違うな。

 

 俺はHuntersの方を見て、大きく頭を下げる。

 

 …曲が変わっても、どんな状況でもHuntersの熱量は変わらない。本当にありがたいことだ。

 

 俺がスタンドに戻ってくるとチア服に身を包んだネイチャが俺に「お疲れ様です」と声をかけてくれる。

 

「にしても、相変わらずHuntersの応援は凄いですね…」

 

「まあな。それでいて問題行動を起こしたって言う話もないし。

 

 まさに俺が理想とする応援団だよ」

 

 俺はネイチャの言葉にそう返していく。

 

 ちなみにキングは再びHuntersと話をしている。これがトレセン学園応援団ためになるのならそれでいい。

 

 そして俺はネイチャに話していく。

 

「ネイチャ、この後キングにお前の応援団も紹介してやれ。サポーターじゃない方のな」

 

「え、私の応援団って…。Huntersに比べたら全然ですよ?」

 

 俺はネイチャに「そうじゃない」と続けていく。

 

「今回はサポーターのスキルというかそっち系を重視したんだ。

 

 お前の応援団も、気持ちじゃ負けないだろ?」

 

「ははは…、照れますね」

 

 俺の言葉にネイチャはそう返してきた。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 そのあと、応援団は順調に成長していきしっかりと統一された応援になった。

 

 そして学園祭当日。

 

 特に目立った問題はなく、順調に進んで行った。

 

 …俺はというと、いつも通り生徒会室に籠りきりであった。

 

「…問題なさそうだな」

 

 俺は生徒会室の窓から外を眺めながらそう呟く。

 

 …問題なく終わること、それが一番だ。

 

 そんな中、生徒会室の扉が叩かれる。

 

「ハンター副会長、いるッスかー?」

 

「…お、どうしたバンブー。何か問題でもあったか?」

 

 生徒会室に入ってきたのはバンブーメモリー。その手には応援団の旗を握っている。

 

「ハンターさん、今応援団がいる場所って分かるッスか?忘れ物としてこれが届いたんスよ」

 

「おっけ、確認してみる」

 

 俺はそう言いながらスケジュールを確認していく。

 

「…今は体育館にいるな。まあ今からなら余裕で間に合うだろ」

 

「了解っス!」

 

 俺とバンブーがそう話している中、俺達の耳にある放送が聞こえてきた。




今回はいつものSee Offと社会人野球のセガサミーが得点時に使う「檄!帝国華撃団」。
いつものかっこいい系の応援歌だけでなく、こういう曲もハンターに似合うかなと。


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89話

 

「…私は一流なの。

 

 今の状態のあなたたちを置いて、ここを離れる無責任さはないわ」

 

「で、でも…」

 

 そんな声が俺達に聞こえてきた。

 

 そんな中、生徒会室から入ってきた俺とバンブーは体育館の中へと突入する。

 

「…なら、代わりの一流の応援団長がいればいいってことか?」

 

 俺はキングにそう言い放つ。

 

「生徒会副会長と風紀委員が忘れ物の団旗を届けに来たッス!

 

 元応援団団長のシンボリハンターと副団長のバンブーメモリーっス!」

 

 バンブーも団旗を肩に引っ提げてそう話していく。

 

「え、ハンターさんとバンブーさん…?

 

 どうしてここに…?というか二人ともその衣装は…」

 

 キングの驚く声に俺とバンブーは返していく。

 

「去年のやつだよ。引っ張り出してきたんだ、残しといてよかったぜ」

 

「それに、こういう声も届いてるんスよ!」

 

 そう言いながらバンブーは電話越しの声をキングに届ける。

 

「ヘイッ!ハンターさん、バンブー、体育館についた?

 

 お願い。キングを説得して!

 

 貴方達が応援を引き受けると!」

 

 電話の向こうで聞こえる声はパール。

 

 …なぜ、こうなったか時間を少し巻き戻そう。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「…ファン感謝祭実行委員会からお知らせです。

 

 13時半より予定していました「借り物・障害物4000m走」ですが…」

 

 …その放送が示していたことは、「借り物・障害物4000m走」が始まったということ。

 

 確かキングはこの競技に出てるカワカミを後押ししたくて応援団に入ったって言ってたな。

 

 …応援団のスケジュール的にこのままいけば間に合わないだろう。

 

 やるしかねーな。

 

「…バンブー、去年の応援団服って残ってるか?」

 

「え、一応残してはいるッスけど…」

 

 …よし、それなら大丈夫だな。

 

 俺はそのままバンブーに話していく。

 

「バンブー、急ピッチで応援団服に着替えて来い。

 

 …キングの応援を引き継ぐぞ」

 

「ひ、引き継ぐってどういうことッスか!?」

 

 そう話していると、バンブーに電話がかかってきた。

 

「バンブーッス。どうかしたんスか?

 

 …あ、今ハンターさんから言われたんスよ。

 

 分かりました、今から着替えて向かうッス!」

 

 バンブーはそう言って電話を切る。

 

「ハンターさん、事情は今パールから聞いたッス。

 

 そういうことなら私達の出番ッスね!」

 

 バンブーは俺にそう話してきた。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「…まあ、そういう訳でこっから後は私達に任せるっス!

 

 助けを求める声があれば、それに答えるのが当然ッスから!」

 

「委員会や生徒会には俺から話しておくよ。

 

 …キング、今お前がやるべきと思ったことをやれ」

 

「わ、私が…」

 

 キングがそう話す中、バンブーは「一緒にエールを届けてもいいでしょうかー!」と話し、観客から大きな歓声が上がる。

 

 応援団にいる他のウマ娘達からもキングを後押しする声があがっていく。観客の人たちも同様だ。

 

「…ありがとう!」

 

 キングはそう言って体育館を飛び出していった。

 

「…よし、準備はいいな、バンブー?」

 

「もちろんッスよ!」

 

 俺は大きく声を上げる。

 

そーれっ!

 

 

走れ!走れ!ウマ娘!

 

走れ!走れ!ウマ娘!

 

走れ!走れ!ウマ娘!

 

走れ!走れ!ウマ娘!

 

 俺はそう叫んで吹奏楽隊と合図を取る。

 

 …準備は万全みたいだ。ならいいだろう。

 

 応援曲や合図は頭に入っている。始めるとしよう。

 

 俺はライジングのサインを送る。

 

 …それと共に太鼓が鳴りはじめ、俺も叫んでいく。

 

 

 

…熱く!

 

…熱く!

 

…熱く!立ち上がれ!

 

…オイ!

 

…オイ!

 

♪♪♪

 

オイ!オイ!オイオイオイ!

 

…オイ!

 

…オイ!

 

♪♪♪

 

オイ!オイ!オイオイオイ!

 

…熱く!

 

…熱く!

 

…熱く!立ち上がれ!

 

Let's Go 不器用で

 

カッコ悪くても

 

選手を信じ

 

声を枯らし

 

Let's Go 変えてゆく

 

俺達が変える

 

想いよ届け

 

君のもとへ

 

…熱く!

 

…熱く!

 

…熱く!立ち上がれ!

 

 キングから引き継いだこの場所、絶対に声は絶やさない!

 

 俺はそう思いながら、ひたすら叫んでいた。

 




今回は横浜DeNAベイスターズのライジングテーマ。「どんな状況でもあきらめるな!俺たちがついている!」というファンの想いを表した神曲です。


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第14R 「アオハルの絆」
90話


 

 ある日の昼休み。

 

 生徒会室でいつものようにいたところ、唐突に理事長が放送を始めた。

 

『昼休憩中、失礼ッ。

 

 全生徒、全トレーナーに告ぐッ!

 

 私はここにアオハル杯を復活させることを決定したッ!』

 

 理事長の放送を受けてブライアンがヒシアマが作ってくれたという弁当を食べながら疑問を呈す。

 

「アオハル杯…、なんだそれは?」

 

 そんなブライアンに答えたのはエアグルーヴだった。

 

「確か、以前行われていたチームの強さを競い合うチーム対抗戦だったはずだ。

 

 …ですよね、ハンターさん?」

 

 俺はエアグルーヴの言葉を肯定する。

 

「ああ、そうだな。スピカとかリギルとかのチームとは関係なしに、チームを組んで最強のチームを目指すっていう大会だ。

 

 トゥインクルやドリームトロフィーとは別開催になるから俺達の負担は増えるけどな」

 

 ルナも俺に続けていく。

 

「だが、先輩方に聞いてもその経験はいつもの個人戦では得られないものらしい。私も一度相談してみようと思っていたのだが…」

 

「ルドルフ、どうするつもりだ?」

 

 俺がルナにそう話していくと、ルナは「君たち個人に任せるよ」と返してきた。

 

「理事長がそう決定した以上、我々生徒はそれに従うまで。

 

 各々がチームに誘われても、参加するかどうかは君たちの判断に任せるよ」

 

「了解です」

 

 エアグルーヴはルナにそう返し、俺とブライアンは静かに頷いた。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 …だが、それは早々と覆されることになる。

 

「…そういう訳で、管理教育プログラムの導入、アオハル杯開催の見直しを行います」

 

 秋川理事長の海外出張に伴いやってきた樫本理事長代理が話したのは俺達をガチガチに制限するものであった。

 

「…生徒会ではっきりと反対の意思を示すことはできないんデスか?」

 

 という訳で自由な学校が好きなタイキを含めて何人かのウマ娘が反対の意を示すため生徒会室に来ていた。

 

「…そうは言っても、理事長代理の言ってることにも一理あるんだ。

 

 俺も口酸っぱく言ってると思うけど、オーバーワークで怪我をするのは絶対にしてはならないからな」

 

 …俺はタイキの言葉にそう返していく。

 

 現に理事長代理のチームであるチームファーストからは何の文句も出ていない。そう言うのを好むウマ娘も少数派であるがいるだろう。

 

「…でも、あの管理教育プログラムを受け入れたら私、補習で満足に練習できなくなるんです!

 

 お願いします!」

 

「…フクキタル、まずお前は補習を受けないように勉強せんか…」

 

 エアグルーヴがフクキタルにそう返した後、ルナは口を開いた。

 

「…君たちの言いたいことは分かった。

 

 だが、君たちの一存で生徒会の総意とするわけには行かない。

 

 …生徒の3分の1以上の署名、これを持ってきてくれるのであれば生徒会としても明確に反対の意を示すよ」

 

 …全校生徒が幸せになって欲しいと言うルナらしい提案である。

 

 ルナがそう言ったことにより、その場は解散ということになった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「ルナ、お前は理事長代理についてどう思う?」

 

 寮の自室で、寝る前に俺はそうルナに話を聞いた。

 

「理事長代理の管理教育プログラムは確かに厳格だが、我々ウマ娘を守ることになるのは間違いない。

 

 生徒会長としてすべてのウマ娘の幸せを願うものとしては、導入も反対はできないというところだ」

 

 …さすがはルナだ。まさに優等生という雰囲気である。

 

「…そうか。

 

 じゃ、生徒会長じゃなくて一人のウマ娘としての本音は?」

 

 俺がそう聞くとルナはこう続けてきた。

 

「…明確に反対の意を示させてもらうよ。

 

 私もこの学校の自由な校風に憧れ入ってきた。

 

 東条トレーナーも私に対して的確なトレーニングを指示してくれてはいるが、もっと走りたいと思うことが多いからな」

 

「お前らしい答えだよ全く」

 

 毅然とした雰囲気で、周りとは一線を画すウマ娘であるルナでさえも本音はこれだ。

 

 多くのウマ娘の答えもこれに近いことは間違いないだろう。

 

「…生徒会室で言っていたが、君の意見もそうだろう?ハンター」

 

「もちろんだよ。走りたいっていうのは俺達ウマ娘の本能だからな」

 

 俺はルナにそう答えていく。

 

「…やっぱり、お前は私の妹だな、ハンター」

 

「まあな。伊達に10数年お前の妹してねえよ」

 

 俺はルナの言葉にそう返していった。



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91話

 

「理事長代理、これを受け取って下さい」

 

 俺は樫本理事長代理に書類の束を渡す。

 

「これは…、署名ですか?」

 

 俺が提出したのは管理教育プログラム導入・アオハル杯中止に反対するウマ娘達の署名である。

 

 タイキ達が集めてきてくれたが、全校生徒のおよそ半数以上はあるだろう。

 

 だが、理事長代理は表情を変えない。

 

「…これで私が考えを変えると思っているんですか?」

 

 その言葉に「いや?」と首を横に振る。

 

「あくまで大多数のウマ娘達の意見はこうですよってことを改めて知らせたかっただけですので」

 

 そして俺は「…ここからは一ウマ娘のシンボリハンターとして」と前置きしたうえで話していく。

 

「…確かに管理教育プログラム、良いものだと思います。怪我をするウマ娘達の数も減ることでしょう。

 

 アオハル杯中止も、ウマ娘達の負担減のためにはいいことだと思います。

 

 …ですが、そこまで俺達の判断が信頼できないのですか?

 

 ウマ娘達は十人十色、千差万別。誰一人として同じウマ娘はいません。

 

 テイオーのように怪我に弱いウマ娘もいれば、ゴルシのように怪我にめっぽう強いウマ娘もいます。

 

 チームファーストのように規則に縛られた方が伸びるウマ娘がいれば、ウチのスピカのように自由にした方が伸びるウマ娘もいます。

 

 トレーナーは俺達の状況をしっかりと判断して、その個々に対してトレーニングを柔軟に変えていくのが仕事だと俺は考えてます」

 

 俺は更に話を続けていく。

 

「そしてアオハル杯中止。開催すれば俺達の負担は増えて怪我をするリスクはさらに高まると思います。

 

 …ただ、先輩方やアオハル杯を経験したことがあるトレーナーから話を聞けば、アオハル杯で得られる経験はトゥインクルやドリームトロフィーでは得られないものだと。

 

 その経験を得られないままこの学校を去ることはできません。

 

 …すべてのウマ娘に無条件で参加を認めろとは言わないです。負担が比較的少ないドリームトロフィーのウマ娘たちだけに限定してもかまいません。

 

 どうか再考の程、よろしくお願いします」

 

 俺はそう言って頭を下げる。

 

 そして俺が理事長室を出ようとすると、理事長代理は「…分かりました」と俺を呼び止めた。

 

「…そこまで言うなら私にも考えがあります。

 

 シンボリハンター副会長、私と賭けをしませんか?」

 

「賭け…ですか?」

 

 俺がそう返すと、理事長代理は続けてくる。

 

「私のチーム、チームファーストとあなた達とでアオハル杯で勝負をしましょう。

 

 もし私たちが負ければあなたたちの主張を認め、管理教育プログラム、ならびにアオハル杯中止を撤回します。

 

 …ただし、そちら側が負ければ無条件で私に従ってもらいます。いいですね?」

 

「もちろんです。俺たちも全力でそちらを倒しに行きますが、大丈夫ですよね?」

 

「ええ、構いませんよ」

 

 …よし、理事長代理をノせることは出来た。

 

 後は俺達次第…だな。

 

 俺はそう感じながら理事長室を後にした。



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92話

 

「…ってな訳で、管理教育プログラム導入とアオハル杯の中止を延期させてもらうことには成功した」

 

 生徒会室で、俺はタイキ達に向けてそう話す。

 

「その言い方…、何かあるのか?」

 

 そんな俺にブライアンがそう話してくる。

 

「ああ。理事長代理から『アオハル杯に参加するウマ娘はドリームトロフィーシリーズ所属のウマ娘限定』っていう条件が出されてな。

 

 デビュー前やトゥインクル真っ最中のウマ娘に更なる負担を掛けさせることはできないということらしい。

 

 …こういう大会は様々な年代との交流も産むから必要だって言ったんだが、そこは譲れないって言われたよ」

 

 そう話した後、俺はタイキ達に向けて頭を下げる。

 

「タイキ、本当にすまない。お前が発案者なのに参加できないってことになってしまった。

 

 俺にもっと力があれば…」

 

 唇をかむ俺をタイキは「イイエ」と声をかけてくれる。

 

「ハンターさんが言ってくれたからコソ、あの人も延期してくれるのだと思いマス。

 

 …ハンターサン、ワタシたちの分まで走りぬいて下サイ!」

 

「…タイキ、ありがとう」

 

 俺はタイキに向けてそう返した。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「…で、チームをどうするか…だな」

 

「ああ、ドリームトロフィー限定となった以上、エルコンドルパサーやグラスワンダーのようなウマ娘は誘えない。

 

 エアグルーヴとブライアンも同じだ」

 

「こっちもだ。スズカやスぺ、それにテイオーやゴルシを誘えたらいい感じになると思ったんだけどな…」

 

 生徒会室でルナと俺は2人でメンバーについてそう話していく。

 

「ルナが長距離、俺がダートに回るとして残るは短距離・マイル・中距離。…さて誰を誘うか」

 

 俺がそう話していくと、生徒会室の扉が開く音がした。

 

「…お2人さん、根気つめすぎちゃノンノン♪

 

 もっとに気楽したらどうなの?」

 

「そうだよ、2人ともただでさえ顔険しいこと多いんだからさ。

 

 たまにはのんびりしたら?」

 

 生徒会室に入ってきたのはマルゼンスキーとミスターシービー。

 

 俺とルナの同期のウマ娘達である。

 

「…シービー、仮にもこれからの学園の未来を背負ってるんだよ、俺達は。

 

 そんなことしてる暇なんてねーよ」

 

「それもそっか」

 

 シービーはそう返し、マルゼンと共に俺とルナが見つめている登録用紙を眺めてくる。

 

「それがアオハル杯の出場登録用紙なの?」

 

 マルゼンの言葉にルナが返していく。

 

「ああ。私が長距離、ハンターがダートを走るとして残り3人を誰にするか考えている所だ」

 

「今回は負けが絶対に許されない勝負だからな。

 

 3勝したらアオハル杯は勝てるが、学園を背負うものとしては完全勝利が望まれてる。

 

 …それを達成するために誰を誘うか、そこで悩んでいるんだ」

 

 選択肢として、オグリやタマ、それにクリークといったウマ娘達もいる。

 

 確実に5戦すべてを取りに行くためには、俺達ができる限りの最善を取りたい。

 

 そう考えているとマルゼンが話してきた。

 

「へえー、それじゃ、お姉さん頑張っちゃおっかな!」

 

 マルゼンはそう言うと、ボールペンを走らせて短距離の欄に自身の名前を書いた。

 

「ま、マルゼン?」

 

 ルナがそう驚きの声を呟くのと同時に、マルゼンは話していく。

 

「一度こういうのやってみたいと思ってたのよ。

 

 ルドルフとはリギルでチームだけど、ハンターとはチームで戦ったことなかったじゃない?」

 

「…ありがとう、マルゼン。

 

 君が味方になってくれるのは心強いよ」

 

 マルゼンの言葉にルナはそう返していく。

 

 そして、椅子に座る俺の後ろから登録用紙を見つめる。シービーも口を開いた。

 

「じゃあ私も、走らせてもらおっかな」

 

 シービーもマルゼンと同じように、マイルの欄に自身の名前を書いていく。

 

「久々に私も、こういう感じのレースやってみたいと思ってたんだ。

 

 またよろしくね、ハンター」

 

「ああ、シービー。いつものエッグい末脚、期待してるぜ」

 

 そうして5つの枠の内、4つが埋まった。後はトレーナーと中距離枠一人である。

 

「それで、トレーナーは誰に頼もうか」

 

「ウチのトレーナーでいいんじゃない?

 

 あの人、そう言うところは気にしなさそうな人だしね」

 

「良いわね。あの人のトレーニング、一度受けてみたいと思っていたのよ」

 

 …まあ、沖野さんならこころよく引き受けてくれるだろう。基本俺たちのやりたいことを優先してくれる人だ。

 

「で、中距離担当…か」

 

「どうするの、オグリちゃんでも誘う?誘ったら来ると思うわよ」

 

 ルナとマルゼンが話す通り、残るは中距離担当のウマ娘。

 

 マルゼンが話す通りオグリもいるし、中距離なら走れるウマ娘は多数いる。

 

「いや、オグリ達もいいけど、心当たりが一人いるんだ。

 

 先にチームトレーニングを始めておいてくれないか?」

 

「分かったよ、ハンター」

 

 俺はルナたちと別れて、そのウマ娘の元へと向かっていった。




…まあ、ぼかしましたけど、このウマ娘が誰か皆さんなら分かりますよね?


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93話

 

 俺は美浦寮のある部屋の前へとやって来た。

 

「…俺だ、入るぞ」

 

 俺が部屋の扉を開けると、そこにはニット帽を被った一人のウマ娘がいた。

 

「…ん、どうしたんすかハンターさん」

 

 俺にそう返してきたのはナカヤマフェスタ。

 

 数少ないゴルシに対応できるウマ娘の一人である。

 

「シリウスを探しているんだ。どこにいるか知らないか?」

 

 俺が探しているのはシリウスシンボリ。俺とルナの幼馴染のウマ娘である。

 

「アイツなら、もう少しで帰ってくると思いますよ。

 

 何か用でもあるんすか?」

 

「ああ、ちょっとアイツと話したいことがあってな。

 

 少し待たせてもらってもいいか?」

 

「別に構わないっすよ」

 

 ナカヤマの言葉に甘えて待たせてもらっていると、シリウスは間もないうちに帰ってきた。

 

「…戻ったぞ、ナカヤマ」

 

 シリウスがそう話しながら部屋の中へと入ってくると、ナカヤマがシリウスに向けて話していく。

 

「オイ、副会長さんがお前に用があるってよ」

 

 ナカヤマはそう言って俺を指し示す。

 

「…よっ、シリウス」

 

「…ハンターか」

 

 シリウスは俺の顔を見てそう呟く。

 

「…少し、お前と話したいことがあるんだ。着いて来てくれるか?」

 

「ああ、別に構わねえよ」

 

 そう言って俺とシリウスは寮の外へと出ていった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「で、どういう用なんだ、副会長サンよ」

 

 ベンチに座りながら、シリウスは俺にそう話してくる。

 

 そんなシリウスに向けて俺は口を開く。

 

「シリウス、アオハル杯が開催されることになったのは知ってるよな?」

 

「ああ、噂には聞いてる。お前が理事長代理に啖呵切ったってな」

 

「まあな」

 

 俺はシリウスにそう返答して、そのまま続けていく。

 

「…シリウス、俺のチームに入ってくれないか?」

 

 俺がそう話すとシリウスは「なんで私なんだ?」と返してくる。

 

「…私である必要があるのか?

 

 …それにお前のチームってことはどーせ会長サマもいるんだろ?

 

 アイツと私の関係、分っていないとは言わせねえぜ?」

 

 シリウスとルナの関係はとてつもなく冷え切っていると言ってもいい。

 

 ルナは友好的にしたいとは思っているらしいが、シリウスはルナの「すべてのウマ娘を幸せにする」ってことには共感できないと反抗的な意思を示している。

 

「ああ、そのうえでお前を誘ってるんだよ。

 

 今回のアオハル杯は、俺達生徒と理事長代理の勝負だと思ってる。

 

 生徒の意志を一つにするために、お前も加わって欲しいんだ」

 

 現に生徒会でも反省文や掃除などの処分でもカバーしきれなくなった素行の悪いウマ娘たちの面倒をシリウスは見てくれてる。

 

 そのウマ娘たちもこちら側に引き寄せることで、俺達は更なる力を出せる。

 

 そう俺はそう感じているのだ。

 

 そもそもシリウスも俺達に匹敵するほどの実力者である。

 

 そんなシリウスを味方に出来れば、俺達は完全勝利に近づく。

 

「シリウス。お前だって管理教育プログラムには従いたくはないだろ?

 

 頼むよ」

 

 俺はそう話すがシリウスは余り乗り気ではないようだ。

 

「そりゃ、あんなルールで固められんのは反吐がでるぜ?

 

 だが、お前はまだマシだとしても生徒会のやり方も似たようなもんだろうが。

 

 それに私に出て欲しいってのも会長サマからの差し金だろ?」

 

「それは俺の独断だ、シリウス」

 

 俺はシリウスにそう返していく。

 

「今回、お前を誘おうと思ったのはルナに言われたからじゃねえ。

 

 俺の中でアオハル杯で完全勝利するため、何が必要かと考えたうえでお前が必要だと思ったから誘ってんだ」

 

 俺はそのまま続けていく。

 

「シリウス、ルナを手伝えって言ってるわけじゃねえし、生徒会を手伝えって言ってるわけじゃねえ。

 

 この自由な学園を守るため、一人のウマ娘として一人のウマ娘、シンボリハンターを手伝ってくれ。

 

 …頼む、この通りだ」

 

「…相変わらずプライドってもんがねーな、お前には」

 

 シリウスに向けて頭を下げる俺の姿を見てシリウスはそう呟く。

 

「…プライドとか枠に囚われてたら、見えるもんも見えなくなる。

 

 お前が教えてくれたことだよ、シリウス」

 

「ハハっ、そうかよ」

 

 俺の言葉を聞いてシリウスはそう笑って続けてくる。

 

「…おもしれえ。お前を手伝ってやることにするよ、ハンター」

 

「ああ、ありがとう。シリウス」

 

 俺はその言葉を聞いて安堵した。

 

 …これでメンバーは揃った。

 

 絶対に勝って魅せるぞ、アオハル杯。




 まあ、予想がついてた人も多いかと思いますが、あの3人が出てきたということは…ってことでシリウス。
 育成実装が楽しみなウマ娘の一人です。


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94話

 

「…ええ。理事長代理の確認取れました。

 

 それで調整お願いします」

 

 俺はある人物と連絡を取る。

 

『分かったよ、ハンター。

 

 俺達も初めてだからうまくできるかどうかは分からないけどね』

 

「いや、そもそも同意してくれたことがありがたいっすよ。

 

 『今回のアオハル杯は、他サポーターチームとの合同応援とする』。

 

 受け入れてくれてホント、こっち側としても嬉しいです」

 

 俺が連絡しているのはHuntersのコールリーダー。

 

 今回は複数のサポーターグループとの合同応援のため、その辺の連絡である。

 

『…で、レース中の曲だけど、ダートのレースだしいつもの大チャンステーマでいいかい?

 

 モンキーターンとかデコトラとかCallingでも大歓迎だよ』

 

 俺は少し悩んだ後に口を開く。

 

「そうですね…。

 

 …幻の曲、お願いしてもいいですか?」

 

『え、アレは君が『できればやめて欲しい』って言った曲だろ?

 

 こちらとしては喜んでやるけど、良いのかい?』

 

 サポーターが歌う曲はその担当するウマ娘が許可を出すことで歌うことが出来る、という制度になった。

 

 基本的にそのウマ娘が拒否することはないが、その中で俺が唯一断った曲だ。

 

「…はい、今回は俺達も全力でチームファーストに挑みます。

 

 そのためにもあの曲が必要だなと」

 

『分かった、君がいいならそれで調整させてもらうよ』

 

「助かります。…後、今回から登場曲制度を導入するんですけど、調整は大丈夫ですよね?」

 

 登場曲制度、俺達がバ道がフィールドへと入場する時に流れる曲だ。

 

 今回のアオハル杯から実験的に導入する。

 

『ああ。君のやろうとしてることは分かってるよ。

 

 俺たちに任せてくれ』

 

「…ホント、すみません。こっちの都合で色々させちゃって」

 

 俺はそう謝るが、リーダーは「大丈夫、大丈夫」と声をかけてくれる。

 

『こっちが好きで応援してるんだからさ、君の1位が見れるのであれば俺たちはなんだってするよ。

 

 俺たちはサポーターなんだからね』

 

「…ありがとうございます」

 

 俺は改めて、リーダーに感謝を示した。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 …そして、当日。

 

 俺の出場するダートレースは最初である。

 

「…ハンター、緊張はしていないか?」

 

 控室で俺はルナからそう話される。

 

「問題ねえよ。むしろちょうどいいぐらいだ。

 

 どれだけ走ってきたと思ってんだよ、ルナ」

 

「ふふっ、それもそうか」

 

 ルナは笑ってそう返してくる。

 

「シリウス、しっかり勝ってお前につなぐから、ちゃんと準備しとけよ」

 

 レースの順番はダート(俺)→中距離(シリウス)→マイル(シービー)→短距離(マルゼン)→長距離(ルナ)である。

 

 ここで躓くことは絶対に有ってはならない。

 

「ああ。別に負けて帰ってきてもいいんだぜ?」

 

「そんなヘマしねーよ、シリウス」

 

 シリウスにそう返して沖野さんのもとへと向かう。

 

「…沖野さん、いつも通り、ですね?」

 

「ああ。お前のいつも通りの走りをすれば、負けることはないはずだ。

 

 しっかり走って来い!」

 

「…了解です」

 

 俺は沖野さんの言葉にそう返して続けていく。

 

「…全員、円陣組んでもらってもいいか?」

 

「お、やっちゃう?」

 

「そうよね。気合入れて行かないと!」

 

「あんまり、こういうのは私らしくないのだが、ここにいるのは君たちだけだ。

 

 やらせてもらうとしよう」

 

「確かにな、私の取り巻きもいねーんだ。お前らなら信頼はできるしな」

 

 4人はそう言いながら俺の周りに集まってくる。

 

「ホラ、沖野さんも来てくださいよ」

 

「今回俺はいいだろ…。ほとんどお前ら自分でやってたじゃねーか」

 

「とはいえ、ちゃんとメニューは考えてくれてたじゃん。

 

 円陣入ってよトレーナー」

 

 シービーの言葉通り、チームを組んでから沖野さんは基本的に俺達の自由にトレーニングさせてくれたが、その中でもしっかりオーバーワークなどについてはしっかり指示してくれていた。

 

 それだけでも十分だ。

 

 無理矢理俺とシービーの間に沖野さんを入れて俺は話していく。

 

「…全員狙うは勝利のみ、チームが狙うは完全勝利!

 

 『チーム生徒代表』、READY TO FIGHT!

 

「「「おうっ!」」」

 

 …レースを前にして、俺達の気持ちは一つになった。

 

 さあ、戦ってくるとしますかね。



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95話

今回はふんだんにチャントを流用させてもらってます。
拒否感がある方は飛ばす、ないしはブラウザバックをどうぞ。


 

 地下バ道にて。

 

「は、ハンターさん…」

 

 ファーストのウマ娘達が歩いてきた俺を見てそう呟く。

 

「おいおい、そう緊張してたら普段の力出せねーぞ?

 

 リラックスしろ、リラックス」

 

 俺がそう話すと、ファーストのエースであるドミツィアーナが返してくる。

 

「ハンターさんは緊張しないんですか?

 

 そりゃ経験もあると思いますけど、このレースの結果で学園の未来が変わってくるんですよ?」

 

 その言葉に俺は笑いながら話していく。

 

「学園の未来を決める勝負とはいえ、それ以前にこのレースを楽しまねーと意味ねーだろ。

 

 チーム戦かつレースはお前らとの3対1、こんなこと経験できることの方が少ないからな」

 

 そんな中、ファーストのウマ娘達が係員の人に呼ばれた。

 

「ホラ、行った行った!

 

 ガチガチになってちゃ、サポーターにも不安与えるだけだぞ!」

 

「…はい、ありがとうございます!

 

 後…」

 

 そう言った後、3人は俺に向けて頭を下げる。

 

「「「ハンターさん、今日はよろしくお願いします!」」」

 

「…ああ、全力で向かって来い!」

 

 俺がそう話すと3人はフィールドへと走っていく。

 

 …少しは緊張取れただろうか。

 

 フルパワーになったアイツらでないと、完全勝利とはいえない。

 

 登場曲と共に入場していく三人を見ながら俺はそう思っていた。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

ぶつけろ熱意

 

無限の可能性

 

流した汗力に変える

 

志天高く
 

 

ゴーゴーレッツゴー! ドミツィアーナ!

 

 

 

 ファーストのウマ娘達のチャントがひとしきり終わると、俺を更に奮い立たせるかのようなチャントが流れてきた。

 

 

 

高ぶるこの気持ち

 

待ちきれない

 

緑黒クルヴァよ

 

今熱くなれ

 

 

 

高ぶるこの気持ち

 

待ちきれない

 

緑黒クルヴァよ

 

今熱くなれ

 

 

 

「…いつも以上に盛り上がってくれちゃって、まったく」

 

 俺は笑みを浮かべて、入り口へと立つ。

 

「…はい、大丈夫です。このまま行って下さい」

 

 蹄鉄や服などのチェックも終わり、俺の入場となる。

 

 …俺は胸に手を当てて、気持ちを落ち着かせる。

 

 …そして、俺の登場曲のイントロである電子音と同時に俺はフィールドへと向かっていく。

 

 俺がフィールドに入ると共に、観客のボルテージは最高に高まっていた。

 

 

 

オオオオオ!

 

オオオオオオオ

 

オオオオオ!

 

 ハ・ン・タ・ー・!

 

オオオオオ

 

オオオオオオオ

 

オオオオオ!

 

 ハ・ン・タ・ー・!

 

 俺が選んだのはzombie nation

 

 プロ野球・NBAなど様々なところで使われていることが多い曲だ。

 

 そして、スタンドからは俺のタオルマフラーを掲げたHuntersからの大声援が俺へと振りかかる。

 

『チーム『生徒代表』、出場ウマ娘を紹介します。

 

 2枠4番、シンボリハンター』

 

 その放送を受けて観客の声量はさらに高まっていく。

 

 

 

オオオオオ!

 

オオオオオオオ

 

オオオオオ!

 

 ハ・ン・タ・ー・!

 

オオオオオ

 

オオオオオオオ

 

オオオオオ!

 

 ハ・ン・タ・ー・!

 

 

 

 そして曲が終わると、Huntersから俺を後押しするトランペットが響き渡る。

 

 

 

素早く力強く

 

先陣を切れ

 

激闘の中で黒く ()やせ!

 

武士(もののふ)の心
 

 

ハンター!ハンター!

 

ゴーゴーレッツゴー!ハンター!

 

 

素早く力強く

 

先陣を切れ

 

激闘の中で黒く ()やせ!

 

武士(もののふ)の心
 

 

ハンター!ハンター!

 

ゴーゴーレッツゴー!ハンター!

 

 

 

 それに答えるように、俺は頭を下げる。

 

 スタンドからは改めて、俺に向けての大拍手が降りかかっていた。

 

 そして俺が最後の調整をフィールドで始めると、改めてチャントが鳴り始める。

 

 

 

俺たちが

 

ついてるさハンター

 

火傷させてくれ

 

このレース

 

俺たちが

 

ついてるさハンター

 

伝えたい この思い

 

アイシテルハンター

 

 

俺たちが

 

ついてるさハンター

 

火傷させてくれ

 

このレース

 

俺たちが

 

ついてるさハンター

 

伝えたい この思い

 

アイシテルハンター

 

 …全く、ウチの応援団はよくやってくれるぜ。

 

 俺はそう思いながらレースに向けてアップをしていった。




ドミツィアーナの曲はオリックスのメインテーマ。
『高ぶるこの気持ち~』はツエーゲン金沢の『待ちきれない』。
そして説明不要のヤスアキジャンプ。
そこからは坂口智隆(オリックス)の応援歌。
ラストはアルビレックス新潟の『アイシテルニイガタ』です。
…ヤスアキジャンプは書いてみたかった。


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96話

 

 俺は4番のゲートに入る。

 

 今回は俺とファーストの3人の合わせて4人。

 

 併走トレーニング以外だとこんな少ない人数で走るのは久しぶりだ。

 

 …中山レース場に、一瞬の沈黙が広まっていく。

 

「…よしっ」

 

 その空気を味わいながら、俺は頬を叩いて気合を入れる。

 

 …そして。

 

 

 

 …ガタンッ!

 

 

 

 ゲートが開き、レースがスタートする。

 

 俺はいつの通りのゆったりとしたペースでスタートを切る。

 

 …が、いつものレースとは様子が違った。

 

「…へえ、そうしてくるか」

 

 俺の前と左をしっかりガードするようにクラヴァットとフェニキアディールが走っていた。

 

 …恐らくは最後までこの態勢を維持して、今飛び抜けているドミツィアーナをそのまま逃げ切らせようとする戦い方だな。

 

「…なあ、クラヴァット、アディール。お前らはこの作戦でいいのか?

 

 お前らだってドミツィに負けたくねえだろ?」

 

 俺はそう二人に話すが、2人は走り方を変えてはこない。

 

「…私たちが個人で戦ったら間違いなく負けます。…でもチームなら!」

 

「今回は個人よりチームの勝利が最優先!

 

 ドミツィが勝つなら、それでいい!」

 

 二人がそう話す通り、ドミツィアーナはいつもより速いペースで先頭を快走している。

 

 俺のスピードはまだノッてない。

 

 …あの作戦、やれるな。

 

 一か八かの作戦ではあるが、やる価値はあるだろう。

 

 俺は勝負に出る。

 

「え…!?」

 

 クラヴァットとアディールの2人が驚きの声を上げる。

 

 …俺は一気にスピードを落とす。

 

「さあ、こっからが本番だぜ!」

 

 俺はそう話し、ほとんど0に近づいたスピードから一気に加速する。

 

 …道がないなら自分で作るまで。

 

 長いレース生活の中で俺はそう学んでいた。

 

 俺は完全に前が空いたコースを一気に加速し、トップスピードになる。

 

 そして俺を後押しする応援歌の前奏が終わり、スタンドから大声援が俺の耳に飛び込んでくる。

 

 

 

…わっしょいわっしょい!

 

オイ!オイ!ハンター!

 

ハンター!ハンター!

 

行け!行け!ハンター!

 

 

…わっしょいわっしょい!

 

オイ!オイ!ハンター!

 

ハンター!ハンター!

 

行け!行け!ハンター!

 

 

…突撃!…突撃!

 

ファースト倒せ!ハンター!

 

…ハンター!…ハンター!

 

お前の脚で!決めてやれ!

 

 

…わっしょいわっしょい!

 

オイ!オイ!ハンター!

 

ハンター!ハンター!

 

行け!行け!ハンター!

 

 

…わっしょいわっしょい!

 

オイ!オイ!ハンター!

 

ハンター!ハンター!

 

行け!行け!ハンター!

 

 

…突撃!…突撃!

 

ファースト倒せ!ハンター!

 

…ハンター!…ハンター!

 

お前の脚で!決めてやれ!

 

 

 

 …俺が封印した幻の応援歌、ハンターチャンス

 

 何者かに追跡されるかのような焦りと不安を相手に与えていく。

 

 Huntersの大声援が俺の脚をさらに早くさせる。

 

 最終コーナーに差し掛かり、俺と先頭を走っていたドミツィアーナとの差はほとんどなくなってきていた。

 

「さあドミツィ、一騎打ちと行こうぜ!」

 

「くっ、ハンターさん…!でも、負けてたまるか…!」

 

 俺の言葉にそうドミツィは返してくる。

 

 ホームストレートに入り、ドミツィアーナは俺に負けじとスピードを限界まであげていたが、俺はトップスピードになっていた。

 

「…さあ、俺についてこれるか!」

 

 中山の坂で俺は一気にドミツィアーナを抜き去っていく。

 

「嘘、でしょ…?」

 

 ドミツィアーナはそう声を上げる。

 

 俺はゴールを通過しながら、そのまま右手を頂点に突き上げた。




今回の使ったのは横浜ベイスターズの『ハンターチャンス」。
演奏機会も非常に少なく、『幻のチャンステーマ』と呼ばれる曲です。
…というかなんで今も公式サイトには残ってるのに演奏しないんだろ…。


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97話

 

 右手を突き上げながらゴール板を通過した俺は、そのまま柵を飛び越えてサポーターの元へと走っていく。

 

 そして、俺の勝利を喜ぶ歓喜のチャントが中山レース場に響き渡る。

 

 

 

♪♪♪

 

♪♪♪

 

…いいぞ!

 

…ハンター!

 

♪♪♪

 

 

走れ 光速の

 

トレセン華撃団

 

唸れ 衝撃の

 

トレセン華撃団

 

 

走れ 光速の

 

トレセン華撃団

 

唸れ 衝撃の

 

トレセン華撃団

 

 

 俺の咆哮が掻き消されるほどの大音量の歓声が中山の屋根にも反射して響いてきた。

 

 

…オイ!

 

 

 …そして、俺が改めてサポーターに向けて頭を下げると、リズミカルな太鼓の音が

 

高らかに

 

響け我らの歌声よ

 

届け

 

熱き5人の心まで

 

 

行けよ 走れよ

 

ひたすら 前見て

 

叶うべき

 

夢の先へ

 

…オイ!

 

 

溌溂と

 

踊るプレーは華やかに

 

魅せる

 

それが5人の心意気

 

 

理想 求めた

 

行きつく その地で

 

喜びの

 

扉開けて

 

…オイ!

 

 

高らかに

 

響け我らの歌声よ

 

叶うべき

 

夢の先へ

 

 

叶うべき

 

夢の先へ

 

 

 

 …チーム用の応援歌も仕上げて来たか。さすがはHunters。

 

 俺はサポーターに向けて、改めて頭を下げる。

 

 …なあ、流れは作ったぜ、4人共。

 

 俺はそう思いながら控室への道を戻っていった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 …まあ、そんな心配もいらないのがあの4人だ。

 

 4人共に勝利し、チームファースト相手に完全勝利を収めた。

 

 理事長代理からは、改めて管理教育プログラムの撤回を認めてもらい、アオハル杯の定期開催も認めてもらった。

 

 俺たちの目的はこれで果たされたと言ってもいい。

 

 しかし、理事長代理のやり方もトレセン学園の自由の1つ。

 

 リトルココンやビターグラッセはチームファーストだったからこそあそこまで伸びた。それは事実である。

 

 改めて理事長代理とこれからの学園を維持していくために協力していくことで合意した。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 …そしてウイニングライブである。

 

「…なあ、ラストはホントにこれじゃないとだめなのか?」

 

 俺は曲を見てそう呟く。

 

「…とはいえ、今回は初回だ。まずはその手本を見せてしかるべきだろう」

 

「ったく、お前は相変わらず踊れねーのか?」

 

 ルナとシリウスから、曲順を見て苦い顔をする俺に対してそう言ってくる。

 

「いや、できないとは言ってねーよ…。

 

 …ただこういうのは苦手って何回も言ってるだろ?

 

 ソロ曲はいつも通り踊るとしてもよ」

 

「大丈夫よ。この前の練習じゃ踊れてたじゃない」

 

「それに、踊れないことはないんでしょ?

 

 自分が出来る限りのことをしてくれればいいからさ。

 

 私達も横にいるしね」

 

「ああ、ありがとなマルゼン、シービー」

 

 …まあ、少し気は楽になったな。

 

 その後、俺はExciteWinnin'5をしっかりと踊り切った。

 

 まあ何とかなるもんである。




今回は以前使用したセガサミーの「檄!帝国華撃団」とオリックスの讃丑歌。チーム戦ということでいつものSeeOffは使ってないです、


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98話

久々に更新させてもらいます。

今回は個人的な解釈が大幅に含まれています…。

後、いつもに比べると倍くらいの長さがありますのでご注意を。


 

「ホラよ、シリウス」

 

 アオハル杯が終わった後、俺はシリウスにペットボトルを渡す。

 

 辺りは暗くなっており、俺とシリウス以外に人気はない。

 

「…ちっ、今回は私とお前の利害が一致しただけだハンター」

 

 シリウスはペットボトルを受け取ってそう返してくる。

 

「お前のおかげで勝てたよ。

 

 手伝ってくれてありがとな」

 

「私がそこらのウマ娘に負けるなんてありえねえ。

 

 お前もそれが分かってて私を呼んだんだろ?」

 

「ああ、良く分かってるな」

 

 俺が微笑みながらそう返していくと、シリウスは「会長サマ以外でお前を一番知っているのは私だからな」と返してくる。

 

 俺はシリウスの横に座ってスポドリを飲んで話しかける。

 

「…シリウス、色々話させてもらうけどいいか?」

 

「別に構わねえさ、ここには私達しかいねえしな」

 

 シリウスはそう返してくるので、俺は続けていく。

 

「…正直、お前を誘ったときはああいわせてもらったけど、お前は俺の誘いに乗ってこないって思ってたんだ。

 

 終わった後だから言わせてもらうけど、オグリやタマ辺りを誘う準備も同時並行でしてたしな。

 

 …シリウス、お前はなんで俺の誘いを受けてくれたんだ?

 

 ルナがいることはお前も予想したって言ってただろ?」

 

 俺がそう聞くとシリウスは「さっきも言ったはずだ」と続けてくる。

 

「私とお前の利害が一致した、それだけのことだ。

 

 会長サマがいるとかいねえとかは問題じゃねえよ。

 

 理事長代理の管理教育プログラムを潰すためには、お前の策を利用させてもらうのが一番だと思ったからな」

 

 俺はそう話すシリウスに向けて続けていく。

 

「…それだけじゃねえだろ?」

 

「ああ?」

 

 そう聞き返してくるシリウスに俺は返していく。

 

「俺とお前の利害が一致した…。

 

 お前がそれだけで動くウマ娘じゃねえってことは俺が一番知ってるよ。

 

 …正直なところ、何が原因だったんだ?」

 

 俺がそう話していくと、シリウスは夜空を見上げる。

 

 

 

 

 

 

「…久々にお前と走って見たいって思ったんだよ」

 

 

 

 

 

 

 シリウスはそう言いながら続けてくる。

 

「…覚えてるか?お前がカサマツに行くって決めたときの私の顔を」

 

 俺は苦笑いしながら話していく。

 

「ああ。あの時のお前はみっともなかったよな」

 

 俺がカサマツへ行くとシリウスに伝えた時、シリウスは俺に「ざけんじゃねえ!」と涙を浮かべながら叫んできた。

 

 今のシリウスからは予想できないような表情だったと記憶している。

 

「あのときの私は、ルナのやつはもちろん、お前にも勝つことが出来なかった。

 

 ルナに全く勝つことができなかったころのお前によ。

 

 …そんなお前がカサマツに行くって知った時、私は逃げたと思ったんだ。

 

 ルナに勝てないお前自身、そしてお前に勝てない私からな。

 

 いずれこっちに帰ってくると思ってても、その気持ちはずっと晴れなかった。

 

 やっとこっちに来て戦えると思ったら今度は世界への挑戦、おまけにトゥインクルを引退する大怪我と来た。

 

 私がようやくダービーを取ったってのに、また逃げんのかって思ったよ。

 

 それで大怪我から引退した後はダートに移籍だと?」

 

 シリウスはそこで少し言葉を止めると、改めて俺に叫んでくる。

 

 

 

 

 

「…ふざけんのも大概にしやがれ!

 

 

 

 

 

 お前がルナっていう存在を追いかけていたのと同時に、私はルナとお前、2人の存在をずっと追いかけてんだ!

 

 お前が追跡者だと思うんじゃねえ!

 

 お前は追跡するものと同時に追跡されるものなんだよ!」

 

 シリウスはそう叫んだあと、俺に改めて話してくる。

 

「お前に誘われたあの瞬間、…私は嬉しかった。

 

 

 

 

 

 …久々にお前と一緒に走れるのかってな。

 

 

 

 

 

 併走トレーニングも、生徒会副会長って役職を持ったお前と、落ちこぼれどもをまとめる私とじゃ出来る筈がねえからな。

 

 …レース前日、5人全員がガチで走ったあの模擬レースの感触。

 

 あの時、久々にルナやお前と走れて私の中の心が少し満足した気がしたんだよ。

 

 それだけでもお前の誘いを受けた価値があった。今の私はそう感じてるよ。

 

 …ありがとう、ハンター」

 

 …シリウスがこんな言葉をいうのは滅多にない。

 

 それだけ感謝してくれてるのだろう。

 

「そんな言われるほどじゃねえよ、感謝を伝えるのは俺の方だ。

 

 …それに生徒副会長って役職を持ってるってのにお前の気持ちにも気づいていなかった。

 

 すまなかったな、シリウス」

 

 俺はそうシリウスに返していく。

 

「…お前がルナの奴に思ってる感情と一緒だよ。

 

 追いかけられる奴には追いかけるやつの気持ちは分からねえ。

 

 お前が一番知ってるはずだ」

 

「ああ、その通りだな」

 

 俺が苦笑いしながらそう話していくと、シリウスは続けてくる。

 

「それに、お前よ。

 

 わざわざ私たちのために時間作ってくれてるんだろ?

 

 …自分のトレーニングの時間を削ってまでよ」

 

「…ん、なんの話だ?」

 

 俺がそう聞くと、シリウスは「とぼけんじゃねえよ」と返してくる。

 

「1週間に1回あるかないかぐらいで、走るには絶好の時間なのに誰もいない時がある。

 

 お前が調整して、私達のための時間を作ってくれたんだろ?

 

 あいつらは「ちょうど誰もいない時間があるんです!」って言ってるけど、バレバレなんだよ。

 

 私にしたらな」

 

 …シリウスの言っていることは事実である。

 

 いま俺が出来る最大限のサポートがこれである。

 

 アイツらは確かに罰則などでまともに練習できなくなった、だが走りたいっていう気持ちを捨てたわけじゃない。

 

 少しでもサポートするために俺のトレーニング時間の一部をこうさせてもらった。

 

「…お前がそう思うなら、そう思ってもらったらいいよ」

 

 俺はシリウスにそう返していく。

 

 …そんな中、俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「…ここにいたか、ハンター」

 

「…ルナか」

 

「…ちっ、会長サマか」

 

 ルナである。

 

「ルナ、どうしたんだ?」

 

 俺がそう聞くと、ルナは話してくる。

 

「…門限だからな。ヒシアマゾンにどこにいるか知らないかって言われたんだ」

 

「そうか、もうこんな時間か」

 

 時計を見るともう遅くなっており、門限の時間はとっくに過ぎていた。

 

 俺がそう話すと、ルナはシリウスに話してくる。

 

「…シリウス」

 

「…なんだよ」

 

 ルナがそう話すと、シリウスは不機嫌そうに返していく。

 

「…改めて言わせてもらうよ。

 

 私達を手伝ってくれてありがとうな、シリウス。

 

 生徒会長、そしてシンボリハンターの姉として礼を言わせてもらうよ」

 

「…ハッ、利害が一致しただけだ。

 

 お前と一緒のチームになることは二度とねーよ」

 

 シリウスの言葉にルナは「そう言わないでくれ」と続けていく。

 

「…ここには私達3人しかいない。

 

 色々話そうではないか。

 

 シリウス、ハンター」

 

「別にいいけど、門限は守らなくていいのかよ?」

 

「ああ、生徒会長であるお前が守らなかったら、門限なんてルール、破り放題になるぜ?」

 

 俺とシリウスがそう言うと、ルナは苦笑いしながら話してくる。

 

「…生徒会長ではなく一人のウマ娘、シンボリルドルフとして君たち二人と話したいと思ったんだ。

 

 聞いたらハンターの他にシリウスも帰ってきていないと言うことだったからね。

 

 私も、こっそりと抜け出してきたんだよ」

 

 それを受けて俺とシリウスはルナに返していく。

 

「そうか。なら、思う存分話そうぜ、ルナ」

 

「お前の改善点、思う存分追及してやるよ。…ルナ」

 

「…シリウスにそう呼ばれるのはいつぶりだろうか」

 

 ルナは笑みを浮かべながら、俺達の言葉にそう返した。

 

 




アオハル杯編、これにて終了です。

なかなか構想が思いつかなかったんですよね…。

シンボリハンターというウマ娘視点で書いていく都合上、シリウスは絶対に入れたいと思っていたので。





…これからの展開ですが、この作品はひとまずここで一区切りとさせてもらいます。

これからのストーリーはイベントストーリーで面白そうなものがあれば絡ませていく予定です。

更新頻度は大幅に低下すると思ってもらって結構です。

読んでいる皆さんと私とでは、解釈違いが色々とあったと思います。

…それでも今まで、この作品を読んでいただいたみなさん。





ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!


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ANOTHER R 「キャラストーリー編」
1話 姉妹というもの


お久しぶりです。
気分が乗って来たので再開することにしました。
いつか書いてみたいと思っていたキャラストーリー編から再スタートさせてもらいます。
頻度は相変わらず不安定ですが、またしばらくの間、お付き合いのほど、お願いいたします。




 

 

 

 …姉妹。

 

 

 

 それは、何かと比較されることが多い家庭環境である。

 

 姉が目立った活躍をすれば、妹が活躍できないと『なぜあいつの妹なのに出来ないんだ』と責められる。

 

 姉がからっきしダメなのに妹が目覚ましいものを残せば『姉はダメだが妹の方は素晴らしい」と称賛される。

 

 姉妹がお互いに切磋琢磨しながらお互いに上を目指していく…。

 

 …そんなことをできるのは限られた姉妹だけだ。

 

 批判される声を右から左へと聞き流し、賞賛の声に驕らずに自分を高めていく。

 

 そんな心の強い2人が揃っているのは激レアケースと言ってもいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トレセン学園のレース場にある人だかりが出来ていた。

 

 

 

(…なんだ、これ?)

 

 

 

 自分はその人だかりに誘われるように近づいて行った。

 

 

 

(…あの、何をやっているんですか?)

 

 

 

 そう聞くと、自分の前にいた女性トレーナーが返してくれる。

 

「あの『神童』、シンボリルドルフが走るらしいのよ。

 

 選抜レースの時にスカウトするにしても人は集まるだろうから、今の内に顔を覚えてもらおうと思ってね」

 

 シンボリルドルフ。まだ新人トレーナーの自分の耳にもその実力は確かに届いている。

 

 『神童』と呼ばれ、デビュー前にもかかわらずデビュー済みのウマ娘に模擬レースで勝利した、強すぎて一緒に併走するウマ娘に断られ続けたなどなど…。

 

 その実力はトレセン学園内に確かに響いていた。

 

 そんな中、ただでさえざわついていた一団が一気に声を上げた。

 

「お、出てきた出てきた」

 

「あれが、シンボリルドルフね…。

 

 走る前から凄いオーラを感じるわ…」

 

 トレーナーたちはそう各々声を上げていく。

 

 自分もシンボリルドルフが放つ緊張感をピシピシと感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シンボリルドルフのトレーニングが始まった。

 

「…それでは、行かせてもらうとしよう!」

 

 一団の後ろにいた自分は隙間隙間からしか確認できなかったが、そんな中でもそのフォーム、足捌き、迫力…、そのすべてがデビュー前のウマ娘とは明らかに違っていた。

 

 そして、シンボリルドルフのトレーニングが終わると同時に、一団は彼女の元へと一気に駆けよっていく。

 

「…シンボリルドルフ、少しいいかしら?

 

 あなたの実力はウチのチームでこそ輝くと思うの。

 

 一考しておいてくれないかしら?」

 

「いや、君のような逸材はウチが引き取りたいね。

 

 ウチにはGⅠを獲ったウマ娘が多数所属している。

 

 そのノウハウを君にも教えることができるはずだ。

 

 是非ウチに来てくれないか?」

 

 …すげー。先輩方が血相を変えて1人のウマ娘に群がっている。

 

 その場に取り残されてしまった自分は、立ち尽くすばかりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(やはり、どこかのチームのチーフトレーナーに頼んでサブトレーナーとして経験を積んでいくべきなのか…)

 

 ぼーっとしながらそう考え事をしながら、自分はずっと歩いていた。

 

 現に同期のトレーナーたちからは「サブトレーナーにならせてもらった」という声も多く聞こえてくる。

 

 いつまでも担当ウマ娘がいない中、トレセン学園を放浪するわけには行かない。

 

 新人トレーナーが専属契約を結ぶのはトレーナー側・ウマ娘側双方のリスクが大きすぎる。

 

 そういう訳で新人トレーナーはどこかのチームに所属させてもらうのが通例となっている。

 

 さっき話した同期からも「何かあれば協力するよ」と聞いている。

 

 …まあどこかのチームに所属させてもらうことにしよう。

 

 そう決意した俺は顔を上げる。

 

(…え)

 

 俺の前に広がっていたのは全く知らない場所と蒼く広がる空だった。

 

(…ど、どこだここ…)

 

 少なくともトレセン学園から出てないことは確かだが…。

 

 トレセン学園は数多くのウマ娘を抱える巨大な学校だ。

 

 その敷地はとても広大である。

 

 自分は場所を覚えきれておらず、マップを見ながら移動することが多い。

 

(そうだ、たしかスマホに専用のマップが…)

 

 俺はそう思いながら肩掛けバッグを引っ張り出す。

 

 …だが、そこに自分のスマホは入っていなかった。

 

(そうだ、たしか充電切れで机に…)

 

 そこまで遠くに行くつもりのなかった当時の自分にイラつきながら、辺りを見渡していると、あるウマ娘が倉庫らしい建物から出てきた。

 

 

 

「…とりあえず、ここの備品の確認は大丈夫…っと」

 

 

 

 そこから出てきたウマ娘はさっきレース場で走っていたシンボリルドルフの姿とほぼ同じであった。

 



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2話 彼女は狩人

 

 倉庫から出てきたのは、先ほどまでターフを走っていたシンボリルドルフであった。

 

(なんでここに…、でも聞くしかないか)

 

 自分は彼女の元へと歩み寄っていく。

 

(あの、少しいいかな?)

 

 自分がそう話しかけると、彼女は書類に向けていた顔をこちらに向けてくる。

 

「…ん、どうされました?」

 

 彼女に「迷ってしまったみたいなんだ」と話すと彼女は丁寧に返してくれる。

 

「そうですか…、確かにこの学校広いから迷いますよね…。

 

 三女神様の像のとこまでならご案内できますよ。

 

 俺も、作業はもう終わったんでね」

 

 三女神様像まで連れて行ってくれるのであればその後は大体わかる。

 

 自分は彼女に「ありがとう」と伝えて、彼女の後ろを着いて行くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …しばらくの間、自分は彼女の後ろを着いて行っていた。

 

 静寂が辺りを支配する中、我慢できなくなった自分は彼女に話しかける。

 

(…あの、さっきの走りは凄かったよ)

 

 そう話すと彼女は怪訝そうな表情を見せる・

 

「え、俺は走ってないっすよ。

 

 今日はずっと備品の管理してますし…」

 

 その言葉を受けて、自分の中に?マークが浮かんでいく。

 

 一瞬の沈黙が流れて、彼女は何かに気づいた表情を見せる。

 

「…もしかしてあなた、俺じゃなくてルドルフのことを言ってるんじゃないですか?」

 

(え…?)

 

 自分がそう声を発すると、改めて彼女は話してくる。

 

「…そういや言ってなかったっすね。

 

 俺、シンボリルドルフの妹、シンボリハンターです。

 

 紛らわしくて申し訳ないっすね」

 

(あ、ご、ごめん!)

 

「いや良いんすよ。よく言われるので慣れてます」

 

 自分は慌ててそう頭を下げると、彼女は手をヒラヒラとさせて「大丈夫」という態度をみせる。

 

 シンボリ、ハンター。

 

 

 

 確か最近カサマツから移籍してきたウマ娘だったはずだ。

 

 さっき走っていたシンボリルドルフの双子の妹だと聞いている。

 

 …にしても、シンボリハンターと言えばだ。

 

(トレードマークのサングラスはどうしたんだ?)

 

「実はさっき片付けしてるときに割れちゃったんですよ。

 

 自分には怪我なかったのは不幸中の幸いでしたけど。

 

 部屋に戻れば予備があるんすけど、いちいち戻るのは面倒くさいですし無くても支障はないんでね」

 

 ハンターはそう言ってポケットにしまっていたレンズが割れてしまったサングラスを見せてくれる。

 

「にしても、ルドルフの奴の走りを見て来たんですか?」

 

 自分は彼女の言葉に「うん」と返す。

 

(スピード、足捌き…、すべてが今まで見たウマ娘とは違っていた。

 

 凄かったよ…)

 

 自分の言葉にハンターは「そうでしょう?」と肯定する。

 

「…それに加えて生徒会にも入っていて、次期会長は間違いないとまで言われてます。

 

 抜けている所もほとんどないですし、俺の自慢の姉ですよ」

 

 ハンターはルドルフのことをそう賞賛して行き、そのまま話を続けていく。

 

「…でも、俺はそんなアイツとずっと比較されてきたんですよ。

 

 アイツに出来て俺に出来ないってことがずっと続いてたんすよ。

 

 姉妹って、嫌でも比べられるんすよね…。」

 

 そう話す彼女の目には悲壮感があった。

 

(…あ、ごめん…)

 

 自分は改めて彼女に謝ると彼女は「こちらこそです」と返してくる。

 

「愚痴に付き合わせて申し訳ないです。

 

 ホント、すみません」

 

 彼女がそう歩きながら頭を下げると、見知った像がみえてきた。

 

「…着いたみたいっすね」

 

 彼女は自分にそう話してくる。

 

(…助かったよ、ありがとうなハンター。)

 

「いえいえ、愚痴に付き合わせて申し訳ないです。

 

 お気をつけて行って下さいね」

 

 彼女とそう話して別れようとすると、彼女は改めて話してきた。

 

「…そうだ。この日って空いていますか?」

 

 彼女が示してくれたのは近日に存在する選抜レースの日程である。

 

「…この日、走る予定なんですよ。

 

 見たところここに来たばっかりの新人トレーナーさんっすよね?

 

 実は俺、こっちでのデビューのためにトレーナー探してるんですよ。

 

 良ければ見に来てくださいませんか?」

 

 彼女はそう聞いてくる。

 

 もとより、この選抜レースはサブになるかどうか関係なく見に行こうとすでに決めていた。

 

 学園所属のトレーナーとして、断る理由などないだろう。

 

 自分は彼女の言葉に二つ返事で首を縦に振った。



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3話 狩人たる所以

 

 模擬レースの日はすぐにやって来た。

 

 様々なウマ娘が出走するが、見に来ているトレーナーの大多数はルドルフが目当てだ。

 

 ちなみにだが、ハンターのレースはその前に行われるらしい。

 

 着々とレースは進んで行き、何人かの有力そうなウマ娘に先輩たちが接触しに行っている様子である。

 

 …そして、ハンターの出る番になった。

 

 あれからというもの、カサマツでのハンターの戦績を確認させてもらった。

 

 こっちに来る前は10戦10勝…。何と無敗である。

 

 まあすべてダートでのレースであり、中央移籍後は芝に転向とのことらしいが、移籍してくるには文句ない成績だろう。

 

「…次に出走するのはシンボリハンター…、確かカサマツからの移籍組だっけ?」

 

「あのシンボリルドルフの妹か…。

 

 地方に行ったってことは、さすがに彼女には劣ってるみたいね」

 

 トレーナーたちはハンターについてルドルフほどの評価はしていないみたいである。

 

 実際、自分もルドルフの走りは誰にも負けないと思わせるものだった。

 

 どのような走りを見せてくれるのか、楽しみである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハンターのレースがスタートした。

 

 スタートの出遅れなどもなくスムーズにスタートしていく。

 

 ゲートに入る前に嫌がったり、ゲートの中でも暴れたりはしていないようである。

 

 そのあたりの心配はなさそうだ。

 

 ちなみにだが、ハンターのペースは他のウマ娘より少し遅いぐらい。

 

 走り方としては追い込み型なのだろうが、手元のストップウオッチで時間を確認すると、普通の追い込み型のウマ娘よりもペースは遅い。

 

 前を走る先行型のウマ娘達との差はだんだんと開いていく。

 

 ハンターに興味を持っていたトレーナーたちもそれを見て他のウマ娘へと移ったようである。

 

 そしてレースは、折り返しを越えた。

 

 …まだハンターはペースを変えていない。

 

 そろそろペースを上げないと、追いつけないんじゃないか…?

 

 そしてそのまま進み、残り600mになろうかというところ。

 

 

 

 

 …ハンターの出す気配が、…変わった。

 

 

 

 

 

 そこからハンターは今までの緩いスピードが嘘かのように猛烈なスピードで追い上げていく。

 

 それはまるで前にいる獲物を屠らんとする、まさに狩人のような存在であった。

 

 前を走っていたウマ娘達との差は一気に無くなっていき、ホームストレートに入る時にはほとんど差は無くなっていた。

 

 それを見て、トレーナーたちは一気にざわつき始めていく。

 

 前で走っていたウマ娘にはスタミナが残っていないのかペースは始めに比べると明らかに落ちている。

 

 そんな様子を歯牙にかけることもなくハンターはトップスピードで進み一気に躱していった。

 

 そのままハンターはそのまま他のウマ娘との差を一気に広げていく。

 

 彼女が人差し指を天に突きさしながらゴール板を通過する頃には、他のウマ娘とは4バ身になろうかという圧倒的な差が生まれていた。



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4話 秘めた想い

 

 …走り終えたハンターはスピードを落として、「よし」と小さく拳を握る。

 

 自分はそんなハンターへ向けて足を進めていた。

 

 ハンターの走りを見て呆気に取られていたほかのトレーナーたちも一瞬遅れてハンターの元へと進んで行く。

 

「ハンター!君ならルドルフに匹敵するウマ娘になれるはずだ!

 

 ウチのチームに来ないか?」

 

「ルドルフの妹なんですってね?

 

 さすがにルドルフ以上になるのは無理だと思うけど、匹敵するウマ娘にはなれると思うわ。

 

 スカウト、受けてもらえないかしら?」

 

 トレーナーたちは各々ハンターにそう話していく。

 

 ハンターは「ありがとうございます」とあまり表情には出していなかったが、その目は若干不満そうに見えた。

 

「…とりあえず、みなさん戻って下さいよ。

 

 この後、ルドルフも走るんすよ?

 

 俺はその後で考えて良いと思うんで。

 

 模擬レース終わったら、三女神様の所に来てください。

 

 俺はそこでゆっくり待ってるんで」

 

 ハンターはそう言って、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …その後に行われたルドルフのレースはまさに圧巻だった。

 

 あの妹にして、この姉ありと感じさせられた。

 

 そしてレースが終わったルドルフの元には数多くのトレーナーたちが駆け寄っていく。

 

 その数はさっきのハンター以上の人だかりであった。

 

 …とりあえず、模擬レース自体も終わったことだし、ハンターの元へ向かうとしよう。

 

 自分はそう思いながら三女神様像の元へと歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 三女神様像の下で座っているハンターの元には数多くのトレーナーが集まっていた。

 

 自分もその場に入れさせてもらうと、ハンターは話し始める。

 

「…これで全員っすかね」

 

 ハンターはそう言うと、誰かが話しかける。

 

「ハンター、君のあの末脚、鍛えればさらに上に行くことも夢じゃない。

 

 G1を獲ることだってできるようになるはずだ。

 

 シンボリルドルフに並ぶこともできると思う。

 

 ウチのチームにはG1を獲ったこともあるウマ娘も何人かいる。

 

 スカウト、受けてくれないか?」

 

 それを受けて他のトレーナーたちも「我も我も」という風に口々に誘い文句を離していく。

 

 そんな中、ハンターは顔をあまり変えずに「G1…か」と呟き、そのまま続けていく。

 

「…俺、夢があるんですよ。小さい頃からの夢が」

 

「夢?その夢叶えようじゃないか!できることはなんだってするぞ!」

 

 ほかのトレーナー達もその言葉に同意するように首を縦に振る。

 

「…本当ですか?

 

 じゃ、言いますよ」

 

 ハンターは一呼吸おいてそこにいる全員に告げる。

 

 

 

 

 

「…ルドルフを越えるウマ娘になる。

 

 

 

 

 

 

 …それが、俺の夢ですよ」

 

 その言葉を受けて辺りにいた俺以外のトレーナーたち全員の顔が一気に冷めていく。

 

「ハンター、それ本気で言ってるのか…?」

 

 誰かがそう聞くと、「本気っすよ」とハンターは返す。

 

「ずっと思いながら過ごしてきたんです。

 

 叶えられると信じてますんでね」

 

 ハンターはそのまま話を続けていく。

 

「…もし、俺のこの夢叶えられると思ったのなら改めて言ってください。

 

 『スカウトさせてくれ』って。

 

 ダメだと思うなら離れてもらって結構ですよ」

 

 ハンターがそう言うと、続々とその場から人が減っていく。

 

 全員、ルドルフの走りを見た後だ。そう思うのも無理はないだろう。

 

 そんな中、自分はその場にとどまっていた。

 

 あれだけいたのに残ったのは自分だけである。

 

「…見に来てくれたんすね。

 

 アンタは俺の夢、叶えられると思いますか?」

 

 ハンターは自分のことを覚えていてくれたようである。

 

 ハンターの言葉に自分は言葉を詰まらせてしまう。

 

(…正直、キツいと思うよ)

 

 そう話すと、ハンターは「やっぱりですか」と返してくる。

 

「じゃあ、別に行ってもらって良いっすよ。

 

 また探すとしますか…」

 

 ハンターはそう言って、その場を後にしようとする。

 

 そんなハンターに、自分は続けていく。

 

(けど、0では決してないと思う)

 

「え?」

 

 ハンターがそう聞き返してくると同時に、自分はハンターのレースを思い出す。

 

 最初のスローペース、アレは出来る限り最後までスタミナを残すためだろう。

 

 そのペースを上げて、最後の強烈な末脚を使うことが出来れば…。

 

 ルドルフに勝てるようになるかもしれない。そう思ったのだ。

 

(ルドルフに勝つ可能性、多分あるよ。

 

 君ならできるかもしれない)

 

 自分の言葉を聞いて、ハンターは笑みを見せる。

 

「…3人目っすよ。

 

 俺の夢を聞いて否定しなかったの」

 

(3人目…?)

 

 俺がそう聞くと、ハンターは続けていく。

 

「1人はルn…、ルドルフっす。

 

 俺がこう言ったら「それは面白いな」って闘志むき出しにしてきました。

 

 もう1人はカサマツ時代のトレーナーです。

 

 「なれるさ、きっと!」ってすぐに返してくれたんすよ」

 

 ハンターはそう話して、一息つくと改めて書類を取り出して話してくる。

 

 どうやらトレーナー登録に関する書類のようだ。

 

「…アンタが良ければ、これにサインしてくれませんか?

 

 書いてくれれば、契約成立です」

 

 自分はハンターからその用紙を受け取る。

 

 

 

 

 

 そして改めて、このシンボリハンターと契約すると言う重さに気づいた。

 

 

 

 

 

 このハンターというウマ娘をルドルフ以上に育て上げる。

 

 とてつもなく高い目標だろう。

 

 ベテラントレーナーが引き受けるにしても難題と言ってもいい。

 

 正直、新人トレーナーの自分が抱えるべきウマ娘ではないと思う、

 

(…自分でいいのか?

 

 まだ校舎の場所も分からない新人で…)

 

 ハンターはそんな自分に「大丈夫っすよ」と話してくる。

 

「…目標は共通じゃないと意味ないっすから。

 

 そこに新人とか、ベテランとかは関係ないです」

 

 ハンターはこう言ってくれている。

 

 顔は笑みを浮かべているが、その眼はレースの時に見せていた真剣な目だ。

 

(…分かった。後悔はしないで欲しい)

 

 自分はその用紙に自分の名前を書いた。

 

「ありがとうございます。

 

 これからよろしくお願いします、トレーナー」

 

(ああ、もちろんだよ)

 

 そう話しながら自分はハンターと固い握手を交わした。



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5話 求める先

 

 ハンターと専属契約を結び、練習する日々が始まった。

 

 考えてきたトレーニングメニューをハンターに伝えると、ハンターは「分かりました」と返してくる、

 

(…これでいいのか?)

 

 そう聞くと、ハンターは「ええ」と答える。

 

「俺のために考えてくれたメニューなんですよね?

 

 俺の体の負荷とかも考えてくれてるみたいですし、いいと思いますよ」

 

 ハンターはメニューを確認してそう続けてくる。

 

 そう言ってくれるのなら大丈夫なのだろう。

 

 練習を見ていても、指示をしっかり聞いてくれる。

 

 練習メニューと違うことをするにしても、まず一度自分に確認を取ってからやってくれている。

 

 …なんだ、この優等生は。

 

 同期や先輩から聞いた、「…よく無茶するから、しっかり管理しないといけない」って言葉が信じられないぐらいである。

 

 勉強の方も優秀であり、補習やらなんやらで時間を取られることもない。

 

 ハンター曰く、「ルドルフの妹は走ることしかできないって言われたくないんすよ」…らしい。

 

 それに加えてハンターは生徒会にも所属してしっかりと仕事をこなしている。

 

 ここに来た時は何もしていなかったらしいが、ルドルフの負担を軽減させるために入ったらしい。

 

 …話を聞いていると、姉のルドルフとの関係は良好と言っていいだろう。

 

 寮の部屋も一緒らしく、周りを気にせずに休めるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …トレーナー室で練習メニューを考えていた時、ハンターが入ってきた。

 

「…失礼します」

 

(…ハンター、生徒会の仕事は終わったのか?)

 

 そう聞くと、ハンターは「ええ」と返してくる。

 

「今日はそこまでやることなかったんで。

 

 早めに終わらせることが出来ましたよ」

 

 ハンターはそう言いながらパソコンを覗き込んでくる。

 

「それ、これからのメニューですか?」

 

(ああ、何か問題でもあるか?)

 

 そう答えると、ハンターは「はい」と続けてくる。

 

「…ここのメニュー、もうちょい量増やせないですかね?」

 

 そうハンターに指摘されたのは、負担がかかりすぎると思い、減らしたメニューである。

 

(あんまり無理はして欲しく無くてな。

 

 ちょっと減らしてもらったよ)

 

 そう答えるとハンターは「そうですか…」と物足りなさそうに答えてくる。

 

「…まあ、トレーナーも俺のことを考えてくれてると思うんで。

 

 そこはもう任せます。

 

 もし、何かあればまた俺から話すんで」

 

 実際、ハンターは増やしてもなんてことなくこなすとは思う。

 

 だが、練習量を増やすとなればその分リスクが増えてしまう。

 

 ルドルフより上に行くことを目標としているのに、その前に怪我して挑戦すら出来ないってことになれば意味がない。

 

(ハンター、そう言えば聞いてなかったんだけど1ついいか?)

 

 そう聞くとハンターは「何ですか?」と聞いてくる。

 

(お前が目指す、ルドルフより上…、それってどうなることが目標なんだ?)

 

 そう話すとハンターは「…そういえば言ってなかったっすね」と答える。

 

 …やっぱり、クラシック三冠なのか、それとも天皇賞連覇とかが目標なのか。

 

 

 

 

 

 

…ジャパンカップ、そして凱旋門賞。

 

 

 

 

 

 この2つを獲得することですね」

 

 ハンターは真剣な目でそう話してきた



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6話 狩人の野望

 

 

 

…ジャパンカップ、そして凱旋門賞。

 

 

 

 

 

 この2つを獲得することですね」

 

 ハンターは真剣な目でそう話してくる。

 

(…ハンター、それって…)

 

 そう聞き返すと、ハンターは「ええ」と続けてくる。

 

「まだ日本のウマ娘が獲ることが出来ていないタイトルの2つ。

 

 これに勝つことができればルドルフの上に行くことが出来たって言ってもいいんじゃないか…。

 

 そう思うんですよね」

 

 ジャパンカップは近年創設されたタイトルだ。

 

 日本のウマ娘が世界に通用するレベルに伸ばすために、作られたものであり海外のウマ娘も多数参加している。

 

 …ただ、まだ日本のウマ娘が勝利することは出来ていない。

 

 世界と日本の差を思い知らされる…、そんなレースになってしまっている。

 

 そして、凱旋門賞。

 

 フランスで開催されるヨーロッパ最大のレースだ。

 

 こちらも日本のウマ娘が参加してはいるが、勝利することは出来ていない。

 

(…ルドルフ以上、いや世界の頂点を獲りに行く…か。

 

 クラシック三冠は興味ないのか?)

 

 そう聞くとハンターは「そこまでなんすよね」と返してくる。

 

「正直、三冠は俺が出なければルドルフがすべて獲ると思ってるんですよ。

 

 それならルドルフにクラシックを獲ってもらって、その間に俺はしっかりと調整してジャパンカップで勝つ。

 

 そしてその次の年の凱旋門賞で最後を飾る。

 

 そうなるのが俺の理想ですね」

 

 …とんでもない理想、いや野望だ。

 

 正直、「三冠獲りに行きます」までは想像していた。

 

 でも、その上を目指しているとは…、思ってもいなかった。

 

 数々のウマ娘やトレーナーが目指しているダービーを捨てるなんてあんまり考えれないだろう。

 

 それに、ルドルフ、そしてデビュー済みのミスターシービーやカツラギエースといった有力ウマ娘の面々とも相手取ることになる。

 

 とにかくハード…それ以上の険しい道と言わざるを得ないだろう。

 

「俺が世界への扉を開けることができれば、トレセン学園に来る海外のウマ娘も増えると思います。

 

 そして、俺という明確な目標が日本のウマ娘の向上心を上げることができる。

 

 …正直、険しすぎる道だとは俺でも思ってますよ」

 

(…それなら、なんでそうしようと思ったんだ…?)

 

 そう聞くと、ハンターは「決まってるじゃないですか」と返してくる。

 

 

 

 

 

…少しでもルドルフの負担を軽減させる。その一心ですよ

 

 

 

 

 

 ハンターはそのまま続けてくる。

 

「ルドルフのやつ、考えすぎるところがあって。

 

 たまにあんまり寝られていない時もあるんですよ。

 

 ただでさえ、トレーナーからのスカウトや自分のトレーニングに忙しいくせに、生徒会やら色んなところと話をしなくちゃいけない。

 

 最近は、どこかの会食に呼ばれたとかもあったかな。

 

 …あいつも周りから『神童』だか呼ばれてますが1人のウマ娘です。

 

 あのまま行けば、ルドルフは間違いなく心身ともに持たない。

 

 何回、寮のベッドに突っ伏している所を見たことか…」

 

 …確かに、ルドルフは学内だけでなく、学外でもたまに姿を見せる。

 

 学外であったとしても、いつもと変わらない雰囲気を放ち続けている。

 

 そんな彼女が唯一休めるのがハンターとの2人だけの空間である自室なんだそう。

 

「俺はルドルフにもゆっくり休んで欲しい。

 

 アイツとともに楽しい学校生活を送りたい。

 

 …俺はルドルフのようにはなれないけど、少しぐらいその負担を肩代わりすることならできるはず。

 

 

 

 それが、ルドルフの妹としての思いなんです。」

 

 

 

 ハンターはそう、俺に言いきってきた。

 



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7話 負担は共に

 

(ハンター、お前の負担は…?)

 

 そう聞くと、ハンターは「大丈夫っすよ」と返してくる。

 

「俺は神童を守るために存在する狩人です。

 

 親からも、『できる限り、ルドルフを助けてやって欲しい』って言われてるんすよ。

 

 ルドルフには伝えてないらしいですがね。

 

 多少の負担が増えようが、大丈夫です」

 

 ハンターはケロっとそう話してくる。

 

(でも、それじゃお前の体が…!)

 

「心配いらないですって。

 

 そのために俺はカサマツで体力付けて来たんですから」

 

 ハンターはそう自信満々に答えてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…本当に、大丈夫なのだろうか)

 

 三女神様の像の前に座り、そう呟く。

 

 ハンターとの話はアレで終了となり、時間もあったのでハンターは外に走りに行った。

 

 トレーニングに対する心配はいらないから、帰ってくるのを待っているのだが…。

 

 どうにも、ハンターのあの言葉に対する不安がぬぐえない。

 

 正直、ハンターの体力はまだ成長途上だ。

 

 確かにハンターはルドルフを越えることが出来ると思っている。

 

 だが今のハンターの実力は、ルドルフよりは劣ると言わざるを得ない。

 

 あのまま行けば、ハンターの野望を達成する前に、ハンター自身が壊れてしまう可能性がある。

 

 …ただ、それを考えて練習メニューを少なくすればハンターはルドルフを越えることは出来ない。

 

 ただでさえ限界に近い量のトレーニングをして、ルドルフを越えられるかどうかだ。

 

 …そう思っていると、誰かが話しかけてきた。

 

「…君は、ハンターのトレーナー君だね」

 

 その声の主には聞き覚えがあった。

 

(シンボリルドルフ…!?)

 

 神童、シンボリルドルフが自分に話しかけてきた。

 

「…隣、座らせてもらうよ」

 

 ルドルフはそう言って、俺の横に座る。

 

「まずは、ハンターのトレーナー君」

 

 ルドルフはそう言って俺の方を向いてくる。

 

「ハンターのトレーナーになってくれてありがとう。

 

 感恩戴得、彼女の姉として感謝を示させてもらうよ」

 

 そう言ってルドルフは俺に頭を下げてくる。

 

(…え!?ちょっと、頭下げないで!?)

 

 慌てながらそう返すと、ルドルフは頭を上げて改めて話してくる。

 

「…ハンターは私の自慢の妹だ。

 

 この数日で分かっているとは思うが、ハンターは基本的に何でも素直に聞いてくれるだろう?

 

 ハンターはそういうウマ娘だ」

 

 ルドルフはそう話して、そのまま続けてくる。

 

「…そして私と同じ、無茶を隠すウマ娘なんだ」

 

 無茶を隠す…か。

 

「私もそうだが。ハンターは限界を越える無茶をしてしまうことがよくあるんだ。

 

 しかもそれを全くと言っていいほど人には見せない。

 

 私といるときでもあまり見せたことはないよ」

 

 …やっぱりか、ハンター…。

 

 いつも何も変わらないように見せてるけど…。

 

 そう思っていると、ルドルフは「心当たりがあるようだね」と続けてくる。

 

「ハンターが私を越えるウマ娘になるのは問題ないよ。

 

 姉妹お互いに切磋琢磨し、実力を上げることは重要なことだ。

 

 …だが、今のハンターだと間違いなく耐え切れず壊れてしまう。

 

 最近は転校してきたばかりなのに生徒会の仕事も手伝い始めててね。

 

 私の負担は確かに軽くなっているんだが、ハンターの負担がその分増えているはずなんだ」

 

 ルドルフはそう話した後、かしこまって俺に話してくる。

 

「だからお願いだ。

 

 

 

 

 

 

 …ハンターを助けてやってくれ。

 

 

 

 

 

 私との勝負、最高潮の状態で臨めるようにして連れてきて欲しい。

 

 …彼女の姉として、どうか頼んだよ」

 

 そう言ってルドルフはその場を立つ。

 

(…言われなくても、分かっているよ。

 

 君との勝負の舞台で勝利させることが、俺の役目なんだからね。

 

 君の妹、しっかりと育て上げてみせるよ)

 

 俺がそう返すと、ルドルフは微笑んで俺に返してくる。

 

「そう言ってもらえると思っていたよ。

 

 それなら私も心配いらなそうだ。

 

 …ハンターのことで疑問に思ったことがあれば、私にも聞いてくれ。

 

 姉として、できる限りのことは伝えさせてもらうよ」

 

 そう言ってルドルフはその場を去っていく。

 

 …ルドルフと話し終えると、もうハンターが戻ってくる時間が迫っていた。

 

 自分は校門へと、ハンターを迎えに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ハンター、お疲れ様)

 

 そう話しながらタオルを渡すと、ハンターは「うっす」と答えてくる。

 

(大丈夫だとは思うが、違和感とかはないよな?)

 

「もちろんですよ。走ったことによる疲れはありますけど、それ以外はないですよ」

 

 ハンターは息を整えながらそう答えてくる。

 

 そしてトレーナー室へ戻っている最中、ハンターに話していく。

 

(今日のトレーニングはこれで終わりだけど、これからなにかすることあるか?)

 

「今日は生徒会の仕事が色々と。提出物系もありましたかね」

 

 ハンターはそう話してくる。やっぱり忙しそうだな…。

 

(…ハンター、俺が手伝えることはないか?)

 

 そう話すと、ハンターは驚いた表情を見せる。

 

「…いや、別に大丈夫っすよ。

 

 トレーナーの仕事を増やすわけには…」

 

(君の負担を減らしたいんだ。

 

 このままじゃ君が壊れてしまうからね。

 

 自分にはまだ余裕があるからさ)

 

 ハンターの言葉にそう答えると、ハンターは「やっぱりそう言う感じで来ますか…」と返してきた。

 

「…分かりましたよ。

 

 俺じゃなくてもできる奴、何個か振り分けさせてもらいます」

 

(そうしてもらえると、自分も安心だよ)

 

 自分とハンターは、歩きながらそう言葉を交わしていった。



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第?R 「狩人、中央へ」
99話


ここからはハンター視点に戻ります。

今回からしばらくは過去編。


 

 カサマツ競馬で勝ちまくり、俺に中央からのスカウトがやってきた。

 

 俺としては、「…ようやくか」と思っていた。

 

 皐月賞までには中央に行きたかったが、ダービーの前になってしまった。

 

 まあ、クラシックには興味ないし、皐月は無事ルドルフが勝っていた。

 

 俺の予定には大きな狂いはまだない。

 

 

 

 

 

 そして、カサマツから旅立つ時がやって来た。

 

 名古屋駅の新幹線ホームで、ジョーさんとオグリ、ベルノライトが見送りに来てくれている。

 

「…オグリ、向こうで待ってるぞ。

 

 体のケアはしっかりな」

 

「ああ、待っていてくれ。

 

 必ずそっちに向かう」

 

 あのあと、正式にジョーさんとの契約を結んだオグリはそう話してくる。

 

 …間近で見ていて、周りとは一線を画す実力が明らかだった。

 

 唯一、と言ってもいい匹敵する相手はフジマサマーチ。

 

 アイツはオグリのいいライバルになってくれるはずだ。

 

「ベルノ、オグリのサポート頼むな。

 

 後、お前自身のトレーニングも忘れんなよ」

 

「わ、分かってます!

 

 任せておいてください」

 

 正直、ベルノライトは走る才能はそこまでではない。

 

 実家がスポーツ用品店をやっているからか、そっちの方が向いてるんじゃないかと思う。

 

 実際、出会った後にベルノの所で頼んだ靴と蹄鉄に変えてみたところ、明らかに履き心地が違った。

 

 …ただ、まだベルノの目にはレースに対する炎が燃えている、邪魔をしてはいけないだろう。

 

「ジョーさん、今までありがとうございました。

 

 オグリをお願いします。

 

 オグリならしっかりサポートしてやれば中央は夢じゃないと思うんで」

 

「ああ、任せておけ。

 

 お前も、怪我には気を付けてくれよ。

 

 お前が中央の舞台で思う存分走っている所、楽しみにしてるからな」

 

 カサマツに来て俺のことをしっかりと育ててくれたジョーさんに俺は頭を下げる。

 

 『カサマツは通過点』と明言しながら、ここまで育て上げてくれたジョーさんには感謝しかない。

 

「正直、お前の『世界で勝つ』って言うでかい目標聞かされたときは驚いたけどよ。

 

 お前は明らかにここのお山の大将になってる器じゃない実力だったからな。

 

 夢のまた夢ではないって思うぜ。

 

 正直今の俺じゃ、お前を中央に送り出すことが限界だ。

 

 後は中央のトレーナーに任せることにするよ。

 

 …そういえば、お前、向こうのトレーナーに当てはあるのか?」

 

 ジョーさんがそう話してくるが、俺はそれに首を振る。

 

「ないっすよ。

 

 でも、俺の実力なら多少は来るでしょ。

 

 幸い、ルドルフの妹って肩書は消えないっすからね」

 

「相変わらずだな、お前は…」

 

 俺の言葉にジョーさんはそう返してくる。

 

 そう話していると、新幹線の発車を告げるチャイムが鳴り響く。

 

「…それじゃ、行ってきます」

 

「ああ、てっぺん掴み取って来いよ、ハンター!」

 

 俺が列車に乗り込み、ジョーさんがそう話すと、目の前の新幹線のドアが閉じていく。

 

「…ジョーさん、今までありがとうございました」

 

 俺はドアの外にいるジョーさんに向けて改めて頭を下げる。

 

 新幹線は徐々にスピードを上げて、名古屋駅のホームが消えて行く。

 

 俺はスピードを上げていく車内に入っていき、座席に座る。

 

 背もたれに体を委ね、俺は伸びをする。

 

(…ここからが勝負だな)

 

 俺はそう思いながら、ルナの待つ中央へと向かっていった。



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100話

 

 新幹線と在来線を乗り継ぎ、トレセン学園に到着した。

 

「…ようやく、着いたな」

 

 入り口の前で俺はそう呟く。

 

 ここまで長かったな…。

 

 そう思いながら、俺は校内へ入っていく。

 

 校内は広々とし、いくつもの校舎が立ち並んでいる。

 

 そんな中、俺の目の前に大きな像が立っていた。

 

「…これが3女神様の像、か」

 

 俺たちの先祖をモチーフにした三女神像。

 

 何か不思議なオーラを漂わせる像の前で、俺は一度立ち止まる、

 

「…どうか、俺を見守っててください」

 

 像に向かってそう呟き、俺は再び歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました、失礼します」

 

 書類を理事長に渡した後、俺は一礼してその部屋を出る。

 

 理事長の隣にいたたずなさんから、様々な書類を受け取った。

 

 そしてカサマツから直接学校に送り届けて置いた荷物は全て寮の部屋に届けられているらしい。

 

 ちなみにここには栗東寮と美浦寮の2つの寮があり、俺が配属されたのは美浦寮の方である。

 

 授業やトレーニングが始まるのはこの週明けで今日は土曜日。

 

 それまでは部屋でゆっくりさせてもらうとしようか。

 

 そう思いながら、俺は案内された寮への道を進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「シンボリハンターね。噂には聞いてるよ。ルドルフの妹なんだってね?」

 

「まあ一応。どうっすかあいつは?」

 

 俺が寮長にそう聞くと、「ヤバいよ?」と返してきた。

 

「この前の皐月もそうだったけど、同期の子たちとは一線画してるね。

 

 お前も大変だね、あんな姉持って」

 

「まあ慣れましたよ。

 

 …それで、荷物は部屋に届いてるんですよね?」

 

「ああ。段ボールで部屋の中に積んであるよ。

 

 食品とか、すぐに開けないと駄目なものは無かったよね?」

 

「なかったはずです」

 

「それなら良かったよ。

 

 部屋、案内するから着いてきて」

 

 俺は寮長に言われるまま、部屋へと向けて歩いていく。

 

「カサマツでどうだったかは知らないけど、ウチは全部2人部屋なんだ。

 

 卒業とか転校で一人になったりすることはあるけど、そこは分かっておいてね」

 

「了解です」

 

 俺がそう答えると、寮長はある部屋の前で止まる。

 

「…ここだよ。

 

 もう1人は今は外に出てるから、この後話しておいてね」

 

 そう言って寮長は鍵を使って部屋のドアを開ける。

 

 部屋を開けると、そこには誰かが使っているであろうベッドと机、そして何も使われた形跡の無いベッドと机、そして隅に固められた段ボールの山があった。

 

「ここが俺の部屋…」

 

「…満足してくれた?

 

 それじゃ私は寮長室に戻るけど、何かあったらいいに来てね」

 

 寮長はそう言って寮長室へと戻っていく。

 

「…それじゃ、荷物開けていくとしますか」

 

 俺はベッドに座って、いくつかの段ボールを開けていった。

 

 まあ、送っておいてもらったのはトレーニングシューズや予備のサングラスなど。明日まで余裕はある。

 

 こっちに来た時に手渡された制服や体操服もしっかりと俺の体に合っている。

 

 正直、明日からでもトレーニングは始められるだろう。

 

 …ただ、この辺りの知識はほぼ0に近い。

 

 聞けるなら、同室のウマ娘に色々と聞いてもいいだろう。

 

 そう思いながら荷物を開封していると、ドアが開く気配がした。

 

「…そういえば、新しいウマ娘が来ると言っていたな…」

 

 そう呟きながら入ってきたウマ娘の声は、俺が一番耳馴染みのあるものだった。

 

「…久しぶりだな、ルナ」

 

 俺の双子の姉、シンボリルドルフに向けて俺はそう話した。

 



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101話

 

「…ハンター、来てくれたか」

 

 ルナは俺の姿を見て、そう話してくる。

 

 その表情は明らかに喜んでいる。

 

「まあな、ようやくこっち来れたよ。

 

 どうやら部屋同じみたいだし、これからよろしくな、ルナ」

 

「ああ、もちろんだとも」

 

 少々回り道にはなってしまったが、ようやくスタート地点には立てた。

 

 これからである。

 

「ハンター、こっちでは土と芝、どちらで走るつもりなんだ?」

 

「芝…かな。それでないとお前とバトれねえだろ?」

 

 ルナの言葉に、俺はそう返していく。

 

「それなら、この後走らないか?

 

 幸い、まだ外は明るい」

 

 ルナは俺にそう話してくる。

 

「…あー、俺が使ってもいいのか?

 

 それに俺、まだ予約とか取ったことないんだけど…」

 

 俺がそう言うと、ルナは「大丈夫だ」と続けていく。

 

「来たばかりだろうが、お前はもうこの学園の生徒だ。

 

 心配はいらないよ。

 

 それに先ほど見て来たんだが、どうやら今日は芝コースは誰も使っていないみたいでね。

 

 言えば使わせてもらえると思うよ」

 

 ルナはそう話して、改めて続けていく。

 

「…何より、今のお前と走ってみたいと言うのが私の本音かな。

 

 お前がカサマツに行ってから、一度も一緒に走っていないからな」

 

 ルナにそう話され、俺は練習用シューズを取り出す。

 

「…分かったよ。

 

 お前がそう言うならな」

 

 俺はそう話し、ルナに連れられる形でグラウンドへと向かっていった、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここからゴール板まで行けば、丁度2000mだ」

 

「了解」

 

 グラウンドの上で、俺はルナからそう説明を受ける、

 

 グラウンドを改めて見渡してみると、地面の芝と土はしっかりと整備されており、ホームストレートには小さいスタンドが設置されている。

 

 カサマツだと土のコースでもここまで整備はされてなかった。

 

 申請すれば足への負担も考えたウッドチップコースもできるようになるらしい。

 

 …やっぱり、カサマツとは明らかに設備面が違いすぎる。

 

 軽くストレッチを行い準備をした後、俺とルナはスタートの態勢に入る。

 

 

 

 

 

「よーい…、スタート!

 

 

 

 

 

 …ルナの言葉と同時に、俺達はスタートを切る。

 

 ルナのペースは先行、最初のペースは俺よりも速い。

 

 俺はペースは変えず、いつも通りのペースで走り出す。

 

 …っていうか走りやすいな、この芝。

 

 走りながらそう思いつつ、俺とルナの差が段々と開いていく。

 

 …正直、ルナに勝てるとはまだ思わねえ。

 

 俺が成長してると同時に、ルナも成長しているはずだ。

 

 …この勝負は俺がどれだけルナに迫れるか、それを測るものだ。

 

 そしてある程度俺とルナの差がついてきた頃、俺は心の中でタイミングを測っていく。

 

 …3、2,1

 

「…ここっ!」

 

 その瞬間、俺は一気にスピードを上げていく、

 

「…やはり、お前ならそう来ると思っていたよ、ハンター!」

 

 ルドルフは嬉しそうな声でそう呟き、同じようにスピードを上げていく。

 

 2人の間は徐々に縮まっていき、ホームストレートに入る時には1バ身もないほどまで詰まっていた。

 

「…こっからが、勝負だぞ!ルナぁ!」

 

「もちろん、そのつもりだっ!」

 

 お互いがそう言いながら、…逃げるルナと追いつこうとする俺、2人のチェイスは激しさを増していく。

 

 俺は懸命に追いすがるが、もうあと一伸びが来ない、足がこれ以上速く出てこないのである。

 

 ルナは、追いかけてくる俺を何とか躱し切り、ゴール板の前を駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はー、やっぱり勝てねえか…」

 

 俺は芝に座り込み、ルナに向けてそう話す。

 

「…でも、カサマツに行ったのは正解だったみたいだな。

 

 私との差がほとんどないところまで近づいて来ていたぞ、ハンター。

 

 これなら、本番のレースも楽しみだ」

 

 ルナは満足げに俺に話してくる。

 

「…ああ。次はダービーなんだろ?

 

 シンボリ家の誇り、しっかりと見せつけて来よ、ルナ」

 

「ああ、分かっているさ」

 

 そう話し、俺とルナは寮への帰途を歩いて行った。 

 

 

 

 

 

 

 そんな俺達を見ていた人影が二つ。

 

「…シンボリハンター、面白いウマ娘が入って来たな…!」

 

「ルドルフがあそこまで追いつめられるとはね…」

 

「…お、おハナさんいい目してるじゃん。

 

 久しぶりに見たよ」

 

「ルドルフの敵はアンタんとこのエースとシービーぐらいと思ってたけど、ハンターもその中に入れる必要がありそうだわ。

 

 トレーニング内容を考え直さないとね」

 

 2人のトレーナーはお互いにそう話していた。



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102話

 

「…シンボリハンターです。

 

 カサマツから来ました」

 

 俺は黒板の前でそう話していく。

 

「…地方出身だけど、そんなこと関係なく頂点獲るつもりでいるんで。

 

 そこんとこ、よろしく」

 

 俺はそう言いながら、頭を下げる。

 

 …その言葉で教室内の空気は一気にピリッとする。

 

 俺はそのまま椅子に座る。

 

 周りからの目はにらみつけるようなものが多い。

 

 「地方出身の奴に負けてられるか」…だろうか。

 

 このクラスはルナと同期のやつも多いから、悔しさはあるだろうし。

 

 席は一番窓側の一番後ろ。

 

 後から来たから仕方ないだろう。

 

 ちなみにルナの奴もこのクラスにいるが、席は少し離れ気味。

 

 まあ、アイツがいるかどうかなんて正直関係ない。

 

 俺は俺のやるべきことをやるだけだ。

 

 …そう思いながら、俺は授業を受けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…どうだ、こっちの授業は?」

 

 昼食時、ルナからそう話しかけられる。

 

「まあ、丁度いいかな。

 

 ついていけねえってほどじゃねえよ。

 

 お前に見せてもらったノートもわかりやすかったしな」

 

 俺はそう返していく。

 

「…そういや、ルナ。

 

 シリウスのやつもここにいるんだよな?

 

 アイツってどうしてるんだ?」

 

 シリウスシンボリ、俺やルナと同じシンボリ家の生まれだ。

 

 その性格はアウトローよりだが、俺が大きく影響を受けた1人でもある。

 

「シリウスは相変わらずって言った方がいいかな。

 

 確かデビューは今年と言っていたはずだが。

 

 まあ、この学校にいるなら、お前もいずれ会うことになると思うよ」

 

 ルナは俺にそう話してくる。

 

 そんな中、俺に話しかけてくるウマ娘が2人。

 

「…お、君がルドルフがずっと話してくれていた妹君かな?」

 

「…邪魔して悪いな、ちょっと座らせてもらうぜ」

 

 俺とルナが一緒に座っているところに来たこの2人。確か…。

 

「君たちか。

 

 ハンター、ミスターシービーとカツラギエースだ。

 

 シービーはカサマツにいたお前でも、名前は聞いたことがある筈だ」

 

 その2人か。

 

 去年のクラシック3冠を獲ったのがこのシービーだ。

 

 そしてカツラギエースは、次の宝塚の有力候補だったはずだ。

 

「初めまして、私はミスターシービー。

 

 君のことはルドルフから聞いてるよ。

 

 『末脚がもの凄い』んだってね?」

 

「ルドルフのやつ、地方に行ったお前をすっげえ評価してたからな。

 

 …あ、アタシはカツラギエースだ、よろしくな!」

 

「シンボリハンター、ルn…ルドルフの奴が世話になってるようで」

 

 俺は2人にそう返していくと、ルドルフは若干しょんぼりとした表情を見せる。 

 

「…ハンター、ルナとは言ってくれないんだな…」

 

「そりゃそうだろうがよ…。

 

 元からお前と話す時以外はルドルフ呼びにしてるよ、俺は。

 

 そうしないとお前だと分からねえことあるだろ?」

 

 こうしたのは俺がカサマツに行ってからだ。

 

 ルドルフ呼びの方が定着した今、スムーズに話をするにはこっちの方がいい。

 

「私は別にいいよ。

 

 教えてもらったら分かるしね」

 

「アタシも構わねえよ。

 

 そう呼ぶのが2人の関係性なんだろ?」

 

「…そうか?それならお前らの前ではルナ呼びさせてもらうよ」

 

 そう返していくと、エースが話しかけてくる。

 

「ハンター、お前ってどのチームに入るつもりなんだ?」

 

 ルナに聞かせてもらったが、中央だとチームに所属することが出走の条件らしい。

 

 カフェテリアの周りを見渡しても、ところどころにチームメンバー募集の張り紙が貼ってある。

 

「…それならウチのチームに入るか?

 

 ウチのチームはまだ余裕があったはずだ。

 

 ハンターの実力なら文句なしで入れると思うが」

 

「待ったルドルフ、それならウチのチームの方がいいんじゃない?

 

 ウチ、まだ人数少なくてさ」

 

 ルナの言葉に、シービーがそう遮ってくる。

 

 その後も2人がお互いに話していく中、エースが俺に話しかけてくる。

 

「…まあ、ハンター。

 

 アタシはお前がどこに入ろうがいいんだけどよ。

 

 お前が納得できるとこが一番良いと思うぜ?」

 

「ああ、ありがとな」

 

 俺はエースの言葉にそう返していった。



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103話

 

 …授業が終わり、俺はグラウンドへと出向いていた。

 

「…やっぱ、ココの奴らは一段階違うな…」

 

 理由はチームに関する情報収集。

 

 俺の選抜レースはまだ先だが、敵を知っておくことに損はない。

 

 ルナからも「行っておいで」と言われ、行くことにした。

 

 ちなみにルナはチームリギルに所属しているそうだ。

 

 確か、ルナ以外にはマルゼンスキーも所属していたはずだ。

 

 理由はリギルのトレーナーと自分のやりたいことが合致したから…らしい。

 

 …そういや、俺のやりたいことに賛同してくれる人こっちにもいるのだろうか…。

 

 カサマツでも俺の夢を「できる」って言ってくれたのはジョーさんだけだったし。

 

 そして、ここにいるトレーナーはカサマツのトレーナーたちよりもルドルフの実力を目の当たりにしている。

 

 …もしかしたら、いないかもしれないな。

 

 ルナからは「何かあれば私のチームに入れてもらえるよう相談するよ」とは言われているが、出来る限りルナの力は借りたくない。

 

 …というか、出来る限りルナとは別のチームに入りたい。

 

 そっちの方が、ルナとうまい具合に高め合えると思っているからだ。

 

 後、ルナと一緒のチームだとルナより上には行けないと自分は思っている。

 

 そのためにもルナとは違うチームに入る必要があるのだが…。

 

「…めぼしいの、見当たらないな…」

 

 それぞれのチームの練習を見ていても、何か違う…と思っていた。

 

 …とはいえ時間は限られてる。

 

 目標は今年の秋のジャパンカップ、最悪でも有マ記念。

 

 そこまでにルナを越えられるようなウマ娘にならなければ…。

 

 …そう思っていながらグラウンドを眺めていると、俺の目の前の視界が一気に暗くなる。

 

「…は!?」

 

 何かの袋に入れられたのか、包まれた俺はそのまま担ぎ上げられて運ばれていく。

 

「…ちょ、何か話せ!

 

 っていうか俺をどこに連れて行く気だ!?」

 

 俺がそう暴れるが、俺の耳に聞こえてくるのは「えっほ、えっほ」という息遣いだけだ。

 

 …ちょっと待て。

 

 この声、さっき聞いたような…。

 

 そう思っていると、何か扉を開ける音がして、俺は地面に降ろされる。

 

「トレーナー、こいつでいいんだよなっ!」

 

 その声と共に俺の視界が開けていく。

 

 そこは、どこかの部室みたいだった。

 

「ああ、ありがとな。

 

 すまねえな、こんなやり方させてもらって。

 

 …シンボリハンターだよな」

 

 俺の目の前に立っていた男性はそう話してくる。

 

「は、はい…」

 

 俺はそう答えてキョロキョロと周りを見渡すと、そこには見知った顔があった。

 

「…やっ。ちょっと連れて来させてもらったよ」

 

「すまねえ、ハンター。

 

 アタシは止めたんだが…」

 

「シービー!?エース!?

 

 …ってことは…!」

 

「うん、チームスピカへようこそ、ハンター」

 

 …俺が拉致されたのは、シービーとエースが所属する、チームスピカの部室だった。



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104話

 

 「チーム、スピカ…」

 

 確かシービーとエースが所属しているチーム。

 

 人数は登録ギリギリだったはずだ。

 

 ちなみに部屋の中にはシビエスの2人、そして長身葦毛のウマ娘、後は1人の男性。

 

「…えーと、2人は…」

 

 俺がそう話すと、2人から声がかかる。

 

「アタシはゴールドシップ、ゴルシちゃんって呼んでくれ!」

 

「俺はここのトレーナーの沖野だ。

 

 悪いな、こんなことしちまってよ」

 

 沖野さんはそう言いながら俺の目線に合わせるように座ってくる。

 

「…昨日のお前とルドルフのレース、見させてもらったんだ」

 

 見られてたのか、昨日のやつ。

 

 まあみられて困るもんでもなかったけど。

 

「…お前の末脚はトレセン学園でも1・2を争うレベルだと思ってる。

 

 末脚の速さだけならここにいるシービーやゴルシにも勝つと思うぜ」

 

 沖野さんの言葉にシービーが「そんなになの?」と返すと、沖野さんは「ああ」と続けていく。

 

「あのルドルフとほぼ同着ってレベルだったからな。

 

 正直ルドルフは今の実力でウチのシービーとエースの2人が走ったとしても、確実に勝てるかどうかはわからないってレベルだからな。

 

 そんなウマ娘と調整が完全に済んでいない、グラウンドも初経験って状況であそこまで詰められたのはすげえよ」

 

 沖野さんは俺のことをそう評価していく。

 

「…少なくとも、お前は選抜レースを受ければ間違いなく複数チームからの勧誘を受ける実力だ。

 

 それなら先に手を打っておくのも一つの手。

 

 そういう訳で今回ここに案内させてもらったって訳だ」

 

 そう話しながら、沖野さんは座り込んでいる俺に目線を合わせるようにしゃがみ込む。

 

「…ハンター、お前が良ければウチに入ってもらえないか?

 

 まあ決めなくても選択肢の1つとして考えるだけでもいいからよ」

 

 …どうしようか。

 

 正直、ルドルフから話されたリギルにも憧れはある。

 

 ほかのチームにも勧誘を受ける可能性は大いにあるだろう。

 

 その後に改めてチームを選んでもいいとは思っている。

 

 …とはいえ、だ。

 

 一度聞いておくのも良いかも知らない。

 

「…1つ、あなたに聞かせてもらってもいいですか?」

 

「ん、なんだ?」

 

 沖野さんがそう返してきて、俺はそれに続けていく。

 

 

 

 

 

 

 

「…あなたは、俺を世界まで連れてってくれますか?」

 

 

 

 

 

 

 俺がそう聞くと、沖野さんは「へえ、そこまでもう見てんのか」と返してきた。

 

「ルドルフはこのままいけばクラシック3冠すべてを獲ると思っています。

 

 そんなルドルフを越えるためには、G1を1つ2つとったところで何も変わらない。

 

 世界というタイトルを取って、ルドルフの奴を越えることができた…そう思うんです」

 

 俺がそう話していくと、沖野さんは「なるほどね」と話してくる。

 

「…面白いこと言うな、お前は」

 

「…と、言うと?」

 

 俺がそう返すと、沖野さんは「だってよ」と続けてくる。

 

「お前、カサマツから来たばっかりなんだろ?

 

 そんな奴がすでに世界まで見据えてるなんて聞いたことないからな」

 

 沖野さんはそう話して、改めて俺に続けてくる。

 

「…ハンター、お前が言ってることはかなりきつい道のりだ。

 

 ここにいる去年3冠のシービーや、今年の宝塚記念有力候補って呼ばれてるエースを越えることは確実なんだからな」

 

 沖野さんの言う通り、シービーやエースからはギラギラとした好戦的な視線が注がれている。

 

「…でも、そんなやつでないと世界のタイトルなんて取れるわけがねえ。

 

 日本のタイトルでさえ、簡単に取れるタイトルはないんだからな」

 

 沖野さんはそう話して、改めて俺に話してくる。

 

「ハンター、お前が良ければ俺にその競走人生、預けてもらえないか?

 

 正直、お前ならルドルフを越えることは十分可能だって思えた。

 

 アイツと同年代で勝てるのはお前だけだ。

 

 …一緒に獲ろうぜ、世界」

 

 …ちゃんと中央にも、俺の思いを分かってくれる人がいたか。

 

 …ここまで言ってくれるなら、文句はない。最高のトレーナーだろう。

 

「…分かりました。

 

 これからよろしくお願いしますよ、

 

 

 

 …トレーナー

 

 

 

 俺がそう言うと、トレーナーは俺の手を握ってくる。

 

「…ああ、これからよろしくな、ハンター!」

 

 そう話してくると、それにエースが話してくる。

 

「それでよ、トレーナー。

 

 ハンターの中央デビュー戦、いつにするんだ?」

 

 そう話すと、トレーナーは話してくる。

 

「今週末だ、今週末!

 

 早速行くぞ!」

 

 

 

 

 

「「「「はあ!?」」」」

 

 

 

 

 

 

 …トレーナーの言葉に、俺達4人の言葉がそう共鳴した。



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第?R 「狩人、生徒会に入る」
105話


 

「…帰って来ねえな」

 

 スピカに入り、無事中央でのデビュー戦も勝利で収めた俺は、寮の自室でそう思っていた。

 

 帰ってこないのは同室のルナ。

 

 生徒会に入っており、今は副会長の仕事をしているのだが…。

 

「…いくらなんでもここまで遅くなるのか?」

 

 ルナが帰ってくるのはいつも門限ギリギリ。

 

 アイツもいろんなところで活躍しているが年齢は俺と同じだ。

 

 間違いなくこのままだとアイツは心身とも壊れる。

 

 俺と対決する前に倒れてしまってもらっては意味がない、

 

 そんな中、部屋のドアノブが動いた。

 

「…ただいま」

 

 ルナが帰ってきたようである。

 

「…おかえり、ルナ。

 

 …大丈夫か?」

 

 若干顔がやつれてしまっているルナは、「ああ…」と返しながらベットに倒れる。

 

「…最近、生徒会の仕事が忙しくてな…。

 

 すまない、少し休ませてくれ…」

 

 ベッドに突っ伏しながらそう返してくるルナには、いつもの威厳は感じられない。

 

 こういう姿のルナは他のウマ娘には見せられないが、妹の俺ならルナも気を許すことが出来る。

 

 他のウマ娘だとこういうこともできなかったはずだ。

 

「…ルナ、無理はするんじゃねえぞ?

 

 俺と対戦する前に倒れてもらっちゃこまるんだからな」

 

 俺がそう話すと、ルナは「分かっているさ」と返してくる。

 

「…なにより、ダービーも今週末に控えている。

 

 体調は万全の状態で臨めると思っているさ」

 

 そう話すルナだが、その目には若干の疲れが隠しきれていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…それで、どうすべきだと思う?」

 

 カフェテリアで昼食をとりながら、俺はシービーとエースに相談する。

 

「どうすべきって言われてもな…、

 

 マッサージとか、そういうことはしたのか?」

 

 エースからそう話されて、俺は「ああ」と肯定する。

 

「昔から怪我とかのサポートについてのことは教えてもらってたからな。

 

 少しは体は軽くなっているとは思うよ。

 

 …ただな」

 

 俺がそう話すとシービーは「ただ?」と聞いてきて、俺は続けていく。

 

「俺がやってるのはマッサージとか、ルナの負担を軽くするだけだ。

 

 いくら俺が軽くしたところで限界は来るからな。

 

 なんとか今は耐えてるが、俺のトレーニングも増えてくるだろうし対応できなくなる可能性が…」

 

 俺はそう言いながらため息をつく。

 

「それなら、ルドルフの奴の仕事を減らさないことには何も変わらねえな。

 

 シービー、何か案はねえか?」

 

 エースはそうシービーに聞いていく。

 

「…それならさ、入っちゃえばいいんじゃない?」

 

「入るって…、俺が生徒会にか?」

 

 俺がそう聞くと、シービーが「うん」と返してくる。

 

「…ハンターはまだ余裕あるんでしょ?

 

 なら直接生徒会に入って少しでも減らしたらいいんじゃないかな?」

 

 シービーはそう話してくるが、エースがそれに返していく。

 

「…でもよ、ハンターはこっちにきたばっかだぜ?

 

 それでも入れるのか?」

 

 そんな言葉にシービーは「誰が決めたの?」と返してきた。

 

「生徒会長は選挙で選ばれてるけど、副会長とかの執行部員の選任は会長が決めれるんでしょ?

 

 選ばれる条件はこの学校の生徒全員ってことだけ。

 

 ハンターにもその条件は当てはまってるはずだよ」

 

「…そうだな。

 

 この後、ダメ元でも生徒会室行ってみるよ」

 

 俺はシービーの言葉にそう返した。

 

 



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106話

 

「…それじゃ、入るか」

 

 放課後、俺は生徒会室の前に立つ。

 

 シービーやエースと話し合い、生徒会に入る決心をした俺。

 

 …荘厳な雰囲気を醸し出す生徒会室の前で、俺はふうっと息を吐く。

 

 その後俺は生徒会室をノックする。

 

 中からは「どうぞ」という声が返ってくる。

 

「…シンボリハンターです。

 

 失礼します」

 

 そう言いながら俺は生徒会室の中へ入る。

 

 部屋の中では作業をしているルナ、そして生徒会長の2人の姿があった。

 

「…ハンター?

 

 どうしたんだ一体…?」

 

 部屋に入ってきた俺の姿を見てルナはそう呟く。

 

「…ちょっとな。

 

 今回お前に用はねえよ」

 

 俺は一番奥の机で作業をしている生徒会長の前で止まる。

 

「シンボリハンターだったね。

 

 中央デビュー戦、見事な勝利。

 

 さすがはルドルフの妹だね」

 

 …やっぱり、この人も俺のことはルナの妹だから…って感じか。

 

「そりゃどーも。

 

 少しあなたに聞きたいことがありましてね。

 

 …生徒会の執行部は会長とルドルフの2人だけですか?」

 

 俺がそう聞くと、会長は「そうだね」と返してくる。

 

「…以前までは4人体制で仕事をしてたんだけど、そのうちの2人が卒業しちゃってね。

 

 今は私とルドルフの2人だけで回してるんだ。

 

 この春、希望者を募ったけど誰もいなかったから、しばらくは2人体制かな」

 

 そう話す会長に向けて、俺は「それなんですが…」と話していく。

 

「俺をこの生徒会執行部に、入れてもらうことは可能ですか?」

 

 俺がそう話すとルナが驚いた表情で駆け寄ってくる。

 

「は、ハンター!?

 

 どういうつもりだ一体…!?」

 

「…訳を聞こうか?」

 

 ルナに続いて会長がそう話してくる中、俺は「はい」と答える。

 

「…るn、ルドルフと同室なんですけど、最近のこいつ、明らかにやつれてるんですよ。

 

 俺もマッサージとかでサポートはしてますけど、いずれは限界が来てしまいます。

 

 俺もルドルフも、競走人生はこれからです。

 

 もちろんルドルフだけではなく、会長あなたもですよ。

 

 2人ともこのままいけば心身共に壊れる可能性が高いかなと思います。

 

 俺は中央のことはまだ良く分からないですけど、単純作業とかだけでもやらせてもらうことができれば2人の負担は確実に減るかと」

 

 俺は更に続けていく。

 

「…それにです。

 

 俺はルドルフの妹っていう肩書こそありますが、それ以前にカサマツという地方出身のウマ娘です。

 

 スカウト組を1人入れることで、考え方の幅を広げるというのも悪くないのでは?」

 

「確かに…、一理あるな」

 

 俺の言葉に、会長はそう話してくる。

 

「…だが、私とルドルフはしっかりトレーナーに管理してもらっている。

 

 壊れてしまう可能性は少ないと思うが?」

 

 会長の言葉に臆することなく俺は話していく。

 

「…今のままではそうだと思います。

 

 ただ、クラシック真っ最中の俺とルドルフはこれからトレーニングの負担が増えると思っています。

 

 他のウマ娘がトレーニング量を上げていくのに、俺達がなにも変わらなければさっさと抜かれてしまいますからね」

 

 俺は会長の目を真っすぐに見つめる。

 

「…しかしだな、お前はこの学校に来たばかりだ。

 

 そんなウマ娘が執行部に入るとなれば…」

 

 ルナがそう俺に話してくるが、俺は「関係ねえよ」と返していく。

 

「生徒会執行部に任命されるために必要なのは、この学校に学籍を置いているということ。

 

 何もルールから逸脱したことじゃねえよ」

 

 俺はそのまま続けていく。

 

「そもそも、募集したけど集まらなかったんですよね?

 

 それなら自分から入りたいと言ってきている俺は知識こそ少ないとはいえ、数少ない優良株ではないですか?

 

 他のウマ娘は、そもそも入りたいって思ってないんですからね」

 

 俺はそう話して、「…これでも、俺を断る理由はありますか?」と会長に告げる。

 

「確かに、無いな」

 

 会長は俺の言葉にそう話した後、「だが」と続けてくる。

 

「君には大事なものが欠けている。

 

 何か分かるか?」

 

 大事なもの…、そういうことか。

 

「…中央での、実績…、ですか?」

 

 俺がそう話すと、「その通りだ」と会長は返してくる。

 

「君のカサマツでの活躍、そして圧倒的なデビュー戦での実力は知っているよ。

 

 君のスカウトはルドルフからの推薦もあったとはいえ、私が主導させてもらったんだからね。

 

 

 

 

 …ただね。

 

 

 

 

 そんな実績、こっちに来てしまえば何の価値もない。

 

 こちらでの実績しか意味はないのだからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …そう簡単に中央で勝てると思わない方がいいよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 君の姉を含めて、この学校はそんな化け物たちが鎬を削り合う場なんだからね。

 

 君は、そんな化け物になれるのかな?」

 

 会長は真剣な目で、サングラス越しに俺の目を睨みつけてくる。

 

 生徒会室全体が震えているような気がする。

 

 俺の全身にピリピリと緊張感が襲い掛かってくる。

 

 …引いてしまえばゲームオーバー、歯向かえばさらなるハードモードに身を投じること決定。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …なんだ、ハードモードなんて、いつものことじゃねえか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なってやりますよ、そんな化け物に」

 

 会長は「ほう?」と返してくる。

 

「ルドルフの上に行くために化け物になれって言うなら、喜んでなってやりますよ。

 

 俺の覚悟、そんな生半可なものじゃねえっすよ?」

 

 ルドルフのためなら、俺の体はどうなってもいい。

 

 そのために学校を支える台になれというなら喜んでなってやる。

 

 …それが俺の思いだ。

 

 …俺は鋭い視線で会長を睨み返す。

 

「ははっ、面白いね。

 

 なあルドルフ。

 

 実に君の妹らしいじゃないか?」

 

 笑い声をあげる会長にそう言われてルナは「恐悦至極です」と返す。

 

「では私に見せてくれ、ハンター。

 

 その化け物になる姿をな。

 

 私も、君のスカウトに関わらせてもらったものとして、期待しているよ」

 

 会長はそう話し、俺は「ありがとうございます」と返す。

 

 そして会長は表情を緩めた後、改めて「…とはいえだ」と続ける。

 

「…今の生徒会執行部は猫の手も借りたいほどの状態だ。

 

 学校に生徒は大量にいるが、君のような希望者は数少ない。

 

 とりあえずは生徒会執行部の一員として君を迎え入れよう。

 

 ただし生徒会執行部として、みっともない走りを見せた場合、私の権限で容赦なく外させてもらう。

 

 いいね?」

 

「…はい、もちろんですよ会長」

 

 俺は会長にそう答えた。



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第?R 「新・生徒会、始動」
107話


 

 …あれからというもの、俺はレースと生徒会の二つの仕事をこなしていった。

 

 目標のジャパンカップと凱旋門賞の二つも勝利することができた。

 

 これが達成できただけでもルナの上に行くことができた…と言えるだろう。

 

 ルナはあのまましっかりと勝利を重ねていった。

 

 三冠、そして俺が凱旋門賞で勝利した後の天皇杯、ジャパンカップ、有馬を堂々と勝ち取った。

 

 ルナのやつも、文句なしでドリームトロフィーへの移籍をしている。

 

 そして、俺たち二人の学校生活は事務作業の割合が増えていった。

 

 俺が右膝の怪我から復帰するまでの間はほぼ会長とルナの二人でなんとか回していたらしい。

 

 どうしても人手が足りないときはマルゼンやシービーたちの二人の手を借りたらしい。

 

 まあ部外者はあまり入れたくないところではあるが、彼女たちには圧倒的な実績がある。

 

 …ちなみにだが、マルゼンとはルナを通じて仲良くなった。

 

 …たまに彼女が話す言葉が分からなくなってしまうのはご愛敬というところだろうか。

 

 

 

 

 

 

 …そして、会長が学校を卒業した。

 

 「二人とも、よくここまで成長してくれたよ。後は頼むね」というねぎらいの言葉をもらった。

 

 …そして。

 

「ルナ、後は会長本人の確認だけのやつ。

 

 ここに置いておくからな。

 

 ほかにやれることはないか?」

 

「ではここに置いてある書類を頼むよ。

 

 また私の確認が必要なものなら持ってきておいてくれ」

 

「りょーかい」

 

 俺はそう言ってルナの机に置いてある書類を脇に抱える。

 

 会長の後押しもあり、新しい生徒会長は他候補に大差をつけてルナが選ばれた。

 

 ちなみにだが、俺は生徒会書記から副会長へと昇進?している。

 

 とはいってもやることは今まで変わらない。

 

 というか会長が生徒会を去ってしまったことで俺とルナへの負担が増えてしまった。

 

 まあ、こればかりは予測できていたことではある。

 

 ルナもしばらくの間は募集をしていたが応募してきたのは事務とかの方で執行委員に応募してくるウマ娘はいなかった。

 

 そういうわけで、俺とルナの二人体制での生徒会がスタートしたのだ。

 

 ちなみに、どうしても人手が必要な時はマルゼンやシービー、そしてエースといった面々に頼んで手伝ってもらっている。

 

 そんな中、生徒会室のドアがノックされる音がした。

 

「…入っていいぞ」

 

 俺がそう返すと、入ってきたのは新しく寮長に任命された二人、フジキセキとヒシアマゾンであった。

 

 栗東・美浦の両寮長もともに卒業を迎えたため、ルナと俺が任命したのがこの二人だ。

 

 二人とも、後輩のウマ娘たちに対しての面倒見の良さ、そして寮長としての視野の広さを持っている。

 

 前寮長からもこの二人なら大丈夫だろうというお墨付きをもらい、二人を任命したのである。

 

「会長、引継ぎ完了しましたよ。

 

 これが、その書類です」

 

「ああ、ありがとうフジキセキ。

 

 あとは私たちでやっておくよ」

 

 フジキセキの言葉に、ルナはそう返す。

 

「しっかし、寮長になるだけでも大変だね…。

 

 面倒見るのは好きだけど、事務作業は苦手だよ…」

 

 ヒシアマゾンはそう言って来客用のソファに座る。

 

「…しかたねえだろ?前寮長も「引継ぎの時は仕事が多くて大変だったよ」って話してたからな。

 

 これからできる限り、お前らの書類は減らすつもりだからよ。

 

 今だけだ、我慢してくれ」

 

 俺は書類に書き込んでいきながら、ヒシアマに向けてそう話していく。

 

「…にしても、ふたりでこの量をやっているんですか?」

 

 フジの言葉に俺は続けていく。

 

「そうだな、ギリギリなんとかやっていけてる。

 

 誰か増やすことも考えてるけどよ」

 

「一度生徒会の応募はしたのだが、どれも事務側のものでな。

 

 執行部に対する応募は無かったんだ。

 

 私とハンターという二人に遠慮しているのかもしれないが…」

 

 ルナも手を動かしながらそう返していく。

 

「…まあ、片方は無敗の三冠達成、もう片方は日本初の凱旋門賞勝利。

 

 臆してしまうのも無理はないですよ。

 

 特に会長は、どうにも近寄りがたいイメージ大きいですし…」

 

 フジの言葉に俺は首を縦に振る。

 

 俺はまだ適度に下級生との相談に乗り、話をしやすいようにはしている。

 

 だが、ルナの方はそうじゃない。

 

 いつでも大きなプレッシャーを放っているため、話すことはできないという雰囲気である。

 

 その例外となるのが、マルゼンやシービー、エース、ラモーヌ、シリウスといった面々。

 

 ともに同世代でバトって来た間柄であるこの面子は俺たちに割とフランクに話しかけてくる。

 

 ちなみにだが、エースに関しては生徒会に誘ったことがある。

 

 エース曰く、「引っ張る側は似合わねえから」らしい。

 

 あとはこの新寮長コンビも割と臆さない側だ。

 

 そう話していると、二人は何か思い当たるウマ娘が思いついたようだ。

 

「それなら、フジ。

 

 あの二人がいいんじゃないのか?

 

 あいつらなら、この二人にも臆さないだろ?」

 

「そうだね。実績的にも十分だろうし。

 

 文句が出ることはないだろうね。

 

 …私たちが紹介しますよ、どうですか?」

 

 ヒシアマとフジはそう俺たちに話しかけてくる。

 

 ルナは少し黙った後、改めて話してくる。

 

「…わかった。

 

 ハンター、行ってきてくれないか?」

 

「りょーかい。

 

 俺が駄目だと思ったらお前に紹介はしないぞ?

 

 後悔はしないよな?」

 

 俺がそう話すと、ルナは「分かっているさ」と返してきた。



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108話

 

「それでよ、フジ。

 

 俺たちに真っ向から意見できる奴なんてそうそういねえと思うんだけどな。

 

 一応言っておくが、シービーとかエースとかは俺たちとタメの奴らなら先に断っておくぜ」

 

 せっかく新しく生徒会に迎え入れるのなら俺たちより年下がいい。

 

 俺たちもいずれはこの学校を去る。

 

 それまでにしっかり次の世代へと繋げる、それができれば最高だ。

 

 一応生徒会の庶務の面々に頼むのもアリだとは思うが、執行部のことは執行部で済ませたい。

 

「その辺は大丈夫ですよ。

 

 私たちよりも年下ですから。

 

 ハンターさんも納得してくれると思います」

 

 フジは「ヒシアマも多分そうだと思います」と続けながら、俺を連れて歩いていく。

 

 そして、俺が連れてこられたのは学校にいくつか設置されている花壇のうちの一つ。

 

 そこには花壇に水をやっている一人のウマ娘がいた。

 

 …えーと、確かこいつは…。

 

 その横顔に、俺は何となく見覚えがあった。

 

「…エアグルーヴ。少しいいかい?」

 

「フジキセキか、何か用か?」

 

 キリっとした目とアイシャドウが特徴的なウマ娘、エアグルーヴはそうフジキセキに返してくる。

 

 …なるほど、こいつなら問題はねえな。

 

「…ちょっと、ハンターさんが君に用があるんだって。

 

 ハンターさん、エアグルーヴです。

 

 名前は知っているかと」

 

「ハンターさん…?

 

 私に何かありましたか?」

 

 エアグルーヴはそう俺に話してくる。

 

「ああ、ちょっとな。

 

 るn、ルドルフの頼みである人材を探しててよ」

 

 エアグルーヴとは先日あった生徒会選挙でルナとしのぎを削りあった。

 

 ルナを継続させるか、それともエアグルーヴに新たに託すか。

 

 選挙期間中、校内はこの二人に分かれた。

 

 俺はもちろんルナの側に回り、応援演説などのサポートをしていたのだが、このエアグルーヴなら負けてもいいと思えた。

 

 それぐらいこいつも、周りから慕われているウマ娘だった。

 

 …だが、結果としてルナが勝った。

 

 そのままルナが会長を継続することになり、俺も副会長を継続することになった。

 

 ルナ曰く、「正直、厳しい戦いではあったかな」という評である。

 

「人材…ですか?

 

 いったいどういう…?」

 

 エアグルーヴはそう俺に聞いてくる。

 

「生徒会執行部の一人になれるウマ娘を探しててな。

 

 唯一の条件はルドルフや俺に臆せずに意見できるウマ娘であるということ。

 

 誰か知らないか?」

 

「それならやはり、ラモーヌ先輩などがいいのでは?」

 

 その言葉に俺は首を横に振る。

 

「ラモーヌは残念ながら対象外なんだ。

 

 次の世代のウマ娘で俺たちに意見をすることができるウマ娘を探しているんだ」

 

「それは…、数少ないでしょうね…」

 

 エアグルーヴはそう言葉を詰まらせる。

 

 そんなエアグルーヴに俺は話していく。

 

「…だからよ、エアグルーヴ。

 

 執行部に入るつもりはないか?」

 

「え…?」

 

 エアグルーヴはきょとんとした顔を見せる。

 

 それもそうだろう、つい先日までバトりあっていた間柄だ。

 

 そんなウマ娘から仲間になるように言われたらこうなるに違いない。

 

「…いいんですか?

 

 私は先日会長と…」

 

 俺はエアグルーヴに「大丈夫だよ」と話す。

 

「あいつはそんなこと気にするようなウマ娘じゃねえよ。

 

 むしろ、お前がいればさらに視野が広がるから、アイツも歓迎するんじゃねえのかな。

 

 すべてのウマ娘を幸せにしたいっていうあいつの理想をかなえるためには、お前に票を入れていたウマ娘たちの力もいるしな」

 

 俺はそのまま続けていく。

 

「…なにより、ルドルフは三冠、俺は地方出身。

 

 それでお前はトリプルティアラを狙うウマ娘だ。

 

 様々なウマ娘を導いてくうえで、視野をひろげることは大事だしな。

 

 なにより、会長選挙のときのあの演説ができるなら大丈夫だろ。

 

 あれだけ俺たちを目の前にして話すことができるなら、俺たちにもしっかり伝えられるはずだ」

 

 俺はエアグルーヴにそう話していく。

 

「…俺から伝えられるのはこれぐらいかな。

 

 フジ、紹介してくれてありがとよ」

 

「どうってことないですよ、ハンターさん」

 

 俺の横で話を聞いていたフジは俺に返してくる。

 

「興味があるなら、俺たちがいるときに生徒会室にきてくれよ。

 

 詳しいことはそこで話させてもらうからさ」

 

 俺はエアグルーヴにそう話して、その場を後にした。 



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109話

 

「それでヒシアマ、誰が候補なんだ?」

 

 エアグルーヴと話した次の日、俺はヒシアマに連れられてターフへと向かっている。

 

「まあ、私の知り合いさ。

 

 実績的にも、実力的にも、両方十分だと思ってるよ。

 

 …ただね」

 

 ヒシアマはそう俺に話してくる。

 

「なんだ?

 

 本人に問題でもあったりするのか?

 

 さすがにそういうことがあれば断らせてもらうぞ」

 

 俺がそう話すと、ヒシアマは首を横に振る。

 

「まっさか、そんなやつハンターさんに紹介しないよ。

 

 …ただ、あいつは走ること以外に興味がないみたいなんだよ。

 

 結構難航すると思うよ?」

 

 なるほど…ね。そういうタイプの奴か。

 

 昨日のエアグルーヴはしっかりと下級生に指導したり、そのあたりに関しては心配はいらないウマ娘だ。

 

 そのため、割と順調に話していくことができた。

 

 だが、今回はそれが違ってくるということだ。

 

「…ま、それは俺が説得すればいいだけだな。」

 

「そうだね。

 

 全く話を聞かないってやつじゃないし、そこはハンターさんの手腕だと思うよ」

 

 ヒシアマは俺にそう返してくる。

 

 …そうしていると、ターフで誰かが走っているのが見えた。

 

「…お、やってるね」

 

 ヒシアマはそのウマ娘を見つけたようである。

 

「…ブライアン!ちょっとこっち来てくれないか?」

 

「…分かった」

 

 そう言って俺たち二人の元に駆け寄ってきたウマ娘は、ナリタブライアンだった。

 

「なるほど、確かにこいつなら実績・実力ともに十分だな」

 

 俺がそう話すと、ヒシアマは「だろ?」と返してくる。

 

 ナリタブライアン。昨シーズンのクラシック戦線でルナ以来となる三冠を達成したウマ娘だ。

 

 同じチーム所属であるルナからもその実力は聞いている。

 

 こいつの走りを表すなら、野性的という言葉が一番似合うだろう。

 

 走り方からその荒々しさが溢れ出してくるのがブライアンだ。

 

「…よっ、確か初めましてだったよな」

 

「…シンボリ、ハンター…だったか?

 

 私に何か用か?」

 

 …ブライアンはそう俺に話してくる。

 

「ああ、単刀直入に聞かせてもらうぜ?」

 

 俺はそう言ってブライアンに聞いていく。

 

「…ブライアン、生徒会に興味はないか?」

 

「…生徒会、だと?」

 

 ブライアンはそう聞いてくる。

 

「ああ、生徒会執行部はルドルフと俺の二人で回してるんだけどな。

 

 どうしても最近、人手が足りなくなってきててよ。

 

 それで二人ぐらい新しく執行部に入れようって話になっててよ。

 

 それでヒシアマに相談したら、お前を紹介されたってわけだ。

 

 お前の実力はもちろん知ってる。

 

 生徒会に入るにしても問題を言ってくるやつはいねえだろうよ。

 

 …どうだ?」

 

 俺はそう話すが、ブライアンは「なんの冗談だ?」と返してきた。

 

「私より向いてるやつがいるはずだ。

 

 …私はただ走れればそれでいい」

 

 ブライアンは無愛想にそう話してくる。

 

「…そうだな。正直、いるかもしれねえよ。

 

 お前を誘ったのも、今回ヒシアマに紹介されたってことだけだからな。

 

 …でも、お前ってことを知って、面白そうとは思ったんだよな」

 

 ブライアンは「何?」と返してくる。

 

「…お前は俺やルドルフとは違ったタイプのウマ娘だ。

 

 ルドルフの理想の中にはお前みたいなタイプのウマ娘ももちろん入ってる。

 

 それを達成するためには、お前を入れるのは悪くないし、むしろいい具合に嵌ってくれると思うしな」

 

 俺はブライアンにそう説明していく。

 

「…なあ、ブライアン。

 

 俺たちに力を貸してくれねえか?

 

 …その代わりって言っちゃなんだが、俺とお前の併走、増やしてやってもいいぜ?

 

 うちのトレーナーと東条さんの話し合い次第ではあるけどよ」

 

 俺がそう話すと、ブライアンは少し黙り込む。

 

「…少し待ってくれ。

 

 考えておくことにする」

 

 …ブライアンにしては、大分前向きな回答だ。

 

「ああ。俺とルドルフは基本的に生徒会室にいるからよ。

 

 気の向いたときに来てくれ」

 

 俺はブライアンの言葉にそう答えた。



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110話

 

「…で、どうだった?」

 

 生徒会室に戻ってきて、ルナからそう話してくる。

 

「まあ、割と好意的だったかな。

 

 少なくともどっちかは来てくれるんじゃねえのか?」

 

 俺はルナにそう返していく。

 

「まあ、最悪私たち2人のまま行く可能性もある。

 

 今はギリギリ回せる量ではあるからね」

 

「…ホント、ギリギリだけどな。

 

 これ持ってくぞ」

 

 俺はそう言ってルナの前に置かれている書類の一部を持っていく。

 

 …生徒会に入ったときは、あまりこういう仕事はできていなかったが、今では順調にこなすことができるようになった。

 

 できるようになってほんとによかった。

 

 そう思いつつ、書類をこなしていくと、生徒会室の扉がノックされる音がした。

 

「…入っていいぞ」

 

 俺がそう答えると、生徒会室の扉が開く音がした。

 

「…失礼します」

 

 そう頭を下げて丁寧に入ってきたのはエアグルーヴだった。

 

「エアグルーヴ、来てくれたか」

 

「…エアグルーヴか。いい人材だな」

 

 ルナはエアグルーヴを見てそう話す。

 

「…お久しぶりです、シンボリルドルフ会長。

 

 こう顔を合わせたのはこの前の生徒会長選挙以来ですよね?」

 

「そうだな。あの時も話したと思うが、いい勝負だったよ」

 

 そうエアグルーヴとルナが話していく中、粗野に生徒会室の扉が開かれる。

 

「…邪魔するぞ」

 

 ナリタブライアンである。

 

「ブライアン、来てくれたのか」

 

「…興味がないといえば、嘘にはなる。

 

 姉貴にも相談して、やってみることにした」

 

 …とりあえず、本人たちの意向は大丈夫みたいだ。

 

「そういうわけだ。

 

 エアグルーヴ。

 

 ナリタブライアン。

 

 2人とも、実績的には充分だ。

 

 そして、この2人なら俺たちにも臆することなく話してくれる。

 

 …あとはお前が決めるだけだ。

 

 ルドルフ?」

 

 俺は2人の頭の上にそれぞれ手を置き、ルナに話していく。

 

 ルナは少し黙ったあと、改めて話してくる。

 

「確かに、君たちなら心配はいらないな。

 

 一人は先日、生徒会選挙でしのぎを削りあったトリプルティアラを狙うことができるエアグルーヴ。

 

 そしてもう一人は私以来のクラシック三冠を達成したナリタブライアン。

 

 私の理想に、少しは近づけるかもしれない」

 

 そう話した後、ルナは改めて2人に向けて話していく。

 

「…エアグルーヴ。

 

 …ナリタブライアン。

 

 君たちがよければだが、生徒会執行部の一員として働いてもらえないだろうか?

 

 無論、慣れるまでのサポートは私とハンターがしっかりさせてもらうよ」

 

 ルナがそう話すと、エアグルーヴは返していく。

 

「…こちらこそお願いします。

 

 会長の理想は、横で聞いていても納得ができるものでした。

 

 それをサポートすることができるのなら喜んでお受けしますよ」

 

 ブライアンもそれに続けていく。

 

「…正直、アンタの理想論はどんなもんかはわからん。

 

 だが、ここに入れば私がさらに成長することができると思えた。

 

 これから頼む」

 

 

 

 …新体制、これでスタートできるな。

 

「ああ。二人ともありがとう。

 

 これから頼んだよ、エアグルーヴ、ブライアン」

 

 ルナは2人に対して、そう話していく。

 

「分かりました…、それでですが」

 

 エアグルーヴはルナの話が終わると、改めて話してくる。

 

「…そこにある書類の山、お2人でやられているのですか?」

 

 その言葉に俺が返していく。

 

「ま、そうだな。

 

 いつもに比べたら少ないほうではあると思うけど」

 

 俺の言葉を受けて、エアグルーヴは「え?」という顔を見せる。

 

「…失礼ですが、いつも終わっているのは何時ごろで…?」

 

 この言葉に答えたのはルナだ。

 

「一応、寮の門限までには終わるようにしているけど、たまに超えることもあるかな。

 

 この量なら夕食までには終わるだろうか」

 

「いつもよりは早いな。

 

 さっさと終わらせようぜ」

 

「もちろんだ、ハンター。

 

 …2人にはまた正式に執行部入りを全生徒に報告した後、軽い仕事から割り振らせてもらうよ。

 

 今日は解散とさせてもらう。

 

 帰ってもらって構わないよ」

 

 そうルナが2人に向けて話していくと、ブライアンは「分かった」と言って帰ろうとする。

 

 …だが、もう一人は何か言いたげであり、「ちょっと待て」とつぶやき、ブライアンの肩をつかんでいた。

 

「…お2人とも、お休みになったのは…?」

 

「うーん、いつだっけ?

 

 ま、今こう元気にやっているから大丈夫だろ」

 

「そうだな。そのうち休みはとるから大丈夫だよ」

 

 俺とルナがそう返すとエアグルーヴは『ダァンッ!』とルナの机をたたく。

 

「今日から手伝わさせてもらいます!

 

 …ブライアン、やるぞ」

 

「…仕方ないな」

 

 そう言ってエアグルーヴとブライアンはそれぞれ何枚かの書類をとっていく。

 

「お2人とも、明日は強制的に休んでもらいます。

 

 いいですね!?」

 

 エアグルーヴは俺たちに向けてそう話してきた。

 

 俺とルナはその姿にあっけにとられることしかできなかった。

 



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第15R 「今宵、リーニュ・ドロワットで」
111話


今回からイベントストーリー、リーニュ・ドロワット編に入ります。
今回のストーリーは『今宵、リーニュ・ドロワットで』を基本にしつつ、『されば君、かなし』の部分もところどころに入れていこうかなと。




 

「…とりあえず、このあたりの確認はおっけーっと」

 

 俺は倉庫にある備品を確認して、扉を閉める。

 

 外の桜の木は満開を迎えており、春の到来を予感させていた。

 

 そんな中、俺の耳に一人のウマ娘の声が聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 

「…あの!

 

 私と一緒にドロワで踊ってくれませんか!」

 

 

 

 

 

 

 『リーニュ・ドロワット』、通称ドロワ。

 

 桜の咲く季節、新年度を祝してこのダンスパーティーは始まった。

 

 …この時期が近付くにつれ、一部のウマ娘たちはそわそわしだす。

 

 本番に着用するドレスを選ぶのもそうだが、一番はメインとなるペアダンスの相手を見つけること。

 

 その際、最も素晴らしいダンスを見せたペアにはその年の『ベストデート』という称号を得ることができる。

 

 ちなみに昨年度は、俺とルナのコンビが獲得した。

 

 ルナに「一度参加したいと思っていたんだ」と誘われ、そのまま参加することになった。

 

 内容?そんなものはルナに全部任せていた。

 

 ルナ曰く、「私の能力を最大まで発揮させることができるのは、お前だけだ」だそうである。

 

 まあそんな感じでルナとのペアダンス特訓が始まり、基本はルナが主導権を取り、ところどころで俺に主導権が入れ替わる。そんな感じだった。

 

「…もうそんな時期か」

 

 俺はそう呟き、生徒会室へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…備品の確認、終了したぞ」

 

 俺は生徒会室に入りながら、そうルナに告げる。

 

「ああ、いつもありがとうハンター」

 

 ルナは顔をこちらに向けてそう返してくる。

 

「…そういえば、ハンター。

 

 相談したいことがあるのだが、構わないか?」

 

「別にいいぜ?

 

 特にやるべきことはないしな」

 

 そう言いながら、俺はビーズクッションに腰を下ろす。

 

「…それで、相談したいことって何なんだ?」

 

 俺がそう聞くと、ルナはある紙を俺に見せてくれる。

 

「今年のドロワについて、こういう意見が出ていてね」

 

 俺がその紙を見せてもらうと、ドロワについての希望が書かれていた。

 

「『ドロワでほかのウマ娘とさらに盛り上がれるようにするため、DJタイムの導入をしてくれませんか?』…か。

 

 まあペアダンス以外でも、ほかのウマ娘と一緒に盛り上がれる時間が増えるのはいいんじゃないか?

 

 これを導入することで総時間は伸びてしまうだろうけどな」

 

 俺はそうルナに告げていくと、ルナは返してくる。

 

「ハンターはこのDJタイムというのが分かるのか?」

 

「一応な。ファル子からチャントシステム導入前に相談されたことがあるんだ。

 

 経験したことはないけどよ」

 

 俺はルナにそう返す。

 

「…では、ハンター。

 

 すまないが、この件お前に任せても構わないか?

 

 こういうものはより精通したものが担当するべきと思うからな。

 

 お前の負担は増えてしまうが、大丈夫か?」

 

 ルナは俺にそうに聞いてくるが、俺は「ああ」と返していく。

 

「ちょうど、本番も終わったところだし、次まで余裕あるからな。

 

 これぐらいなら平気だよ」

 

 そう話した俺は、クッションから立ち上がる。

 

「じゃ、ルナ。

 

 ちょっと出かけてくるわ。

 

 なんかあれば呼んでくれ」

 

 俺はそう話して生徒会室を離れた。




今回からしばらくの間はドロワ編ですが、一応新ストーリー『プロジェクトL'Arc』編も計画の中にはあります。
…ただ、この小説内だとハンター・エルが凱旋門賞を獲得しているため、展開的にどうしていくか迷ってます…。
ある程度軸ができたら開始したいなとは思ってるので、気長に待ってもらえると助かります。


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112話

 

「…シンボリハンターだ。入るぞ」

 

 俺はそう言いながらドロワ実行委員会の部屋の扉を開く。

 

「…はーい、どうかされました?」

 

 部屋の中で待っていてくれたのはナイスネイチャである。

 

「委員長とドロワの運営について話したくってな。

 

 ちょっと待たせてもらうよ」

 

 俺はそう言って椅子に座る。

 

 そんな俺が持ってきた書類をネイチャは見てくる。

 

「…何か、新しく導入するんですか?」

 

「ああ、ちょっとな。

 

 ドロワでウマ娘たちがさらに楽しめるようにする一つの案だよ」

 

「その資料、極秘でなければ見させてもらうことってできます?」

 

 ネイチャがそう言ってくるので俺は「別に構わねえよ」と返す。

 

 資料に書いてきたのはDJタイム導入に関する様々な案だ。

 

 とりあえず自分で調べ、ライブハウスで取り入れられている事例をもとに俺なりに考案してみた。

 

「うわー…、これ書いてきたんですか?

 

 さっすがですねハンターさん…」

 

「まあな。これぐらいならどうってことねえよ」

 

 ネイチャの言葉に俺はそう返す。

 

「そういや、ハンターさんって今年も姉妹ペアで出られるんですか?

 

 去年はお2人とも凄かったですけど…」

 

 ネイチャは俺にそう続けてくるが、俺は「今年は出ねえかな」と首を横に振る。

 

「ルドルフが出るなら出ようかなって思ってたけど、出ないって言ってるからな。

 

 今年はこういった裏方に徹させてもらうよ。

 

 …そういうネイチャこそ、出るつもりはなかったのか?」

 

「いやいや、私には似合いませんって。

 

 第一、そんなことをしたい相手、私にはいませんから。

 

 隅っこでのんびりやらせてもらうのが性に合ってるもんでね」

 

 ネイチャはそう笑みを見せながら返してくるが、俺は「…嘘だな」と返す。

 

「…え、いやいや、嘘なんてついてませんって」

 

「…顔は笑ってるけど、目が少し泳いでる。

 

 それぐらいわかるよネイチャ。

 

 大方、『脇役の自分が主人公クラスのウマ娘と踊ることなんてできないよね…」ってところか?」

 

 俺がそう答えると、ネイチャは「ははは…」と返してくる。

 

「やっぱ、ハンターさんには隠し事できませんね…。

 

 一言一句その通りですよ…」

 

 ネイチャはお手上げ…という表情を見せてくる。

 

「…そうなると、誘いたいって思った相手はテイオーあたりか?」

 

「ええ、その通りです…。

 

 っていうかそこまで分かるんですかハンターさん…」

 

「ネイチャの周りのウマ娘を考えたらな。

 

 …確かテイオーはマックイーンと出るんだっけか?」

 

「あー、確かそうだったはずですね」

 

 俺はネイチャとそう話しながら、話を続けていく。

 

「確かに、テイオーは凄いウマ娘だ。

 

 そろそろ生徒会執行部の一員として生徒会に迎えようかなって話も出てきてる。

 

 あのまま行けばルドルフ…とまではいかなくても、それに準ずる位まではいくんじゃないかな」

 

「ですよね、やっぱり…」

 

 俺の言葉を聞いてネイチャはそう肩をすくめる。

 

「…でも、お前が誘えば、テイオーなら乗ってくれると思うんだけどな」

 

「え…?でももうマックイーンとベストデート取りに行くって…」

 

「それじゃねえよ。

 

 それに関してはさすがのテイオーもマックイーンの方を優先するはずだ。

 

 …でもよ、ペアダンス後、自由にペアを組んで踊ることができる時間があるだろ?」

 

 ドロワにはベストデートを争う審査時間のほかに自由時間がある。

 

 この自由時間はペア以外のだれとでも踊っても構わない。

 

 そもそもドロワの本質はこっちだろう。

 

「その時間に誘えば、何も問題はない。

 

 テイオーなら、断らずに喜んで踊ってくれると思うけどな」

 

「え、でも…」

 

 ネイチャはそう戸惑うが、俺は「…逆に聞かせてもらうぜ?」と続ける。

 

 

 

 

 

 

「…テイオーがずっと競い合ってきたライバルの誘いを断るような、そんなウマ娘だと思えるか?

 

 

 

 …それはお前が一番知っているはずだぞ。ネイチャ」

 

 

 

 

 

 俺はネイチャにそう告げていく。

 

 そんな中、部屋へと歩いてくる気配がした。

 

「…実行委員長、来たみたいだな。

 

 まあ参考程度に頭の中入れておいてくれよネイチャ。

 

 やったことによる後悔より、やらなかったことに対する後悔の方が自分の中にこびりついて離れなくなるとは言っておくけどよ」

 

 ネイチャにそう話した俺は、部屋の中に入ってきた実行委員長へDJタイムについて話を進めていった。

 

 

 

 




 …というわけで、この世界線だとネイチャのあの決断にハンターも一押し加えてます。
 ホント、あの場面は「テイオー!」と叫びました。


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113話

 

「…じゃ、導入で決定ってことで。

 

 ハンターさん、そっちの調整は任せますがいいですね?」

 

「もちろんだよ。

 

 適宜連絡させてもらう予定ではあるから、いつでも言ってきてくれ。

 

 生徒会としても、できる限り協力させてもらうからよ」

 

「ありがとうございます、くれぐれも無理しないでくださいね?」

 

「ああ、わかってるさ」

 

 俺はそう言って委員会の部屋の扉を開けて外に出る。

 

 最終的に、自由時間の後にDJタイム導入という結論に至った。

 

 そして、その運営については俺が全体的に指揮を執るということになった。

 

 理由としては、実行委員会からは人を出しにくいとのこと。今の状態だと現状維持が精いっぱいらしい。

 

 まあ、その時に余裕があれば、人を出せるようにするとは言っていたが…。

 

 正直、無理はしてほしくない。

 

 『DJタイムを導入するから…』ということで今までの運営が立ちいかなくなるなら本末転倒だ。

 

 そう思いつつ、俺はルナに連絡する。

 

「…ルナ、今って大丈夫か?」

 

『ハンターか、どうなったんだ?』

 

「導入で決定。

 

 あとは俺がいろいろと調整するってことで結論づいた。

 

 実行委員会側から周知するとは言ってたけど、生徒会側からもやるのってできるか?」

 

『ああ、大丈夫だ。

 

 それぐらいなら問題はないはずだよ』

 

「それなら良かった。

 

 この後、生徒会室に戻っていろいろ調整させてもらうから準備しておいてくれ」

 

『分かった、待っているぞ』

 

 俺はそう言って電話を切る。

 

 俺はそのまま生徒会室への道を歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の昼休み。

 

 俺は生徒会室で放送器具の準備をしていた。

 

「…とりあえずはこれで行くぞ。

 

 三人とも、問題ないな」

 

 俺がそう聞くと、生徒会の三人はそれぞれに「大丈夫」という表情を見せる。

 

 エアグルーヴとブライアンにも内容を見せたが「問題ない」と言われた。

 

 あとは周知させるだけだ。

 

 俺はマイクの横に原稿を置き、深呼吸する。

 

 さすがの俺も、この瞬間ばかりは緊張してしまう。

 

 そして俺はマイクのスイッチを入れる。

 

 それと同時に、放送を告げるチャイムが全校中に響き渡る。

 

「…食事中失礼するよ。

 

 生徒会副会長、シンボリハンターだ。

 

 今日は俺から、近づいてきているリーニュ・ドロワットについての連絡をさせてもらう。

 

 今回、目安箱の投書の中で『ドレスやダンスには相応しくないけど、大好きな仲間たちと思い出を残すきっかけが欲しい』というものがあった。

 

 それを受けて今回、先ほどの投書の中に書かれていたDJタイムを、ドロワの最後に組み込むことを決定した。

 

 ちなみにだが、このDJタイム実施については全体的に俺が指揮を執らせてもらう。

 

 そこでだが、生徒の中からこのDJタイムに出演してくれるウマ娘を募集する。

 

 もちろん当日まで応募は受け付けているが、興味があるやつはできる限り早く俺に連絡してくれるとありがたいよ。

 

 それと、正直なところを言って俺はこのDJタイムについてそこまで知識はねえ。

 

 とりあえず俺と実行委員会でまとめた初期案を張り出しておくが、何か改善点があれば俺に直接伝えるか、目安箱へ意見を入れてくれると嬉しいよ

 基本的に俺は生徒会室にいるから、生徒会室に来てくれればありがたいかな。

 

 …以上だ。応募を待っているぞ」

 

 俺はそう言い切って放送を切った。

 



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114話

 

 周知の放送をした日の放課後。

 

 俺は校内を巡回していた。

 

 新たに物事を始めたとはいえ、今までの仕事が減るわけではない。

 

 ルナから「少し減らそうか?」と言われたが断っておいた。

 

「ハンターさーん!」

 

 そんな中、走りながら俺に大きな声をかけてくるウマ娘とそれについてくるウマ娘が一人。

 

「…ハンターさん、ちょっと話聞いてもらってもいいですか?」

 

「…ヘリオスとパーマーか。

 

 どうした?」

 

 声をかけてきたのはマイルを主戦場とするウマ娘、ダイタクヘリオス。

 

 ついてきたのは長距離を主戦場とするメジロパーマーである。

 

 この2人の特徴としては…とにかく逃げる。

 

 スタミナとか相手との距離感とか、そういうのを全く気にせずにとにかく逃げるため、無理矢理ついていこうとすれば自身のペース配分がバグる。

 

 …一度、レース運びを見せてもらったのが…、ある意味凄い。

 

 まあそんな二人だが、よく一緒にいることが多い。

 

 いろいろと波長が合うのだろう。

 

 そんなヘリオスに答えると、ヘリオスは俺に向けて両手を合わせてくる。

 

「…おなシャス!

 

 ウチにDJ、やらせてもらえないですか!?」

 

 …え?

 

「…いや、いいけどよ。

 

 ヘリオスは割とそういう系の経験ある感じか?」

 

 俺がそう話すとヘリオスは「まーね」と返してくる。

 

「DJタイムってよくライブハウスでやってるあれっしょ?

 

 なら、何回か経験あるし、伝えられるかなーって。

 

 出る人の調整とかそういうことはハンターさんに任せますけど、それ以外の演者とかならウチにもやれると思うんで!

 

 頼んます!」

 

 ヘリオスはそう言って改めて頭を下げる。

 

「ハンターさん、私もお手伝いします。

 

 さすがに一人で全部やるっていうのは厳しいと思うんで。

 

 ヘリオスに「行くしかないっしょ!」って言われて付いてきましたけど、やりたいなとは思ったんで。

 

 お願いします!」

 

 パーマーもヘリオスに倣うように頭を下げる。

 

 …というか、来てくれるやついてくれたか。

 

 確かに一人でいろいろとやるのは改めて考えるときつい。

 

 我ながら全く予定考えれてなかったな…。

 

「…ああ。ありがとなお前ら。

 

 こちらこそ頼むよ。

 

 正直、俺にそこまで知識はねえ。

 

 ドロワをさらに盛り上げるために、投書の案を採用しただけだからな。

 

 素人にしちゃ知ってる方だとは思うけど、お前らの方が知ってることが多いと思う。

 

 …ちょっとこれから忙しくなるけど、大丈夫だな?」

 

「もっちろん!」

 

「大丈夫ですよ」

 

 ヘリオスとパーマーは俺の言葉にそう返してくる。

 

「それじゃ、これからよろしく頼むよ。

 

 2人とも」

 

 そう言いながら二人の頭をポンポンとたたくと二人は喜ぶ。

 

「わーっ!?

 

 パマちんこれってあれだよね、『頭ポンポン』だよね!?

 

 初めてされたんだけど、すっげーうれしい!」

 

「うん、多分そうだよ!私もはじめて!」

 

 そう狂喜乱舞している中、俺は改めて書類を見渡していく。

 

「…とりあえず、一応空き教室借りれたから。

 

 そこでいろいろ話し合おうか。

 

 ついて来いよ」

 

 俺はそう言ってヘリオスとパーマーを連れて校舎へと向かっていく。

 

「そういやなんですけど、ハンターさんってこの曲知ってます?」

 

 歩きながらパーマーはそう話してある曲を聞かせてくる。

 

「…ああ。この曲ならわかるよ。

 

 なにかあったか?」

 

 俺がそう聞くと、ヘリオスが答えてくれる。

 

「実は、DJタイムでハンターさんにこの曲のラップパートやってもらおっかなって思ってて。

 

 ハンターさんならこれぐらい余裕でできるっしょ?」

 

 そんなヘリオスの言葉に「さすがに余裕とは言えねえな」と苦笑いしながらも続けていく。

 

「まあ、練習すれば行ける曲だとは思うから、大丈夫だと思うよ。

 

 お前らに手伝ってもらうってのもあるし、それぐらいなら喜んでやらせてもらうよ」

 

 俺がそう言うとヘリオスは「あざます!」と返してきた。

 

 …まああれぐらいなら練習すればなんとかなるはずだ。

 

 俺もステージに立つことになるが、こういうのは主宰が前に立って行わないと始まらねえ。

 

 俺が出るとなれば、少しでも人は増えるはずだ。

 

 そう思いながら、俺は委員会室となった空き教室へと歩いて行った。



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115話

 

「…とりあえずドロワの流れとしては今のところこんな感じなんだけどよ。

 

 お前らから見てどうだ?

 

 時間とか、そういうので不備あるなら変えていく必要あるからさ」

 

 俺がそう言うとヘリオスとパーマーはまじまじと見つめていく。

 

「うーん、ちょっとキビ目かな。

 

 時間取れるならもうちょい欲しいかも」

 

「確かに…、時間って変えれるんですか?」

 

 俺は「制限内の話ではあるけどな」と返していく。

 

「門限を超える終了時間はさすがにアウト。

 

 あとはあくまでダンスがメインでこれはサブだ。

 

 開会の挨拶とか諸々やって、その後始めにフジがオープニングアクト…、たしかスカイとやるって言ってたかな。

 

 それをやってそのあとメインになってくるダンスタイムだ。

 

 ベストデートを目指すペアダンスタイム、相手を気にせずに踊れるフリーダンスタイム。

 

 これをやって一息入れた後のDJタイムだ。

 

 初めてっていうのもあるから、どこまで盛り上がるとか、どれくらい参加してくれるとか、そのあたりは全く読めねえ。

 

 そのあたりを考えながらにはなってくるな。

 

 まあいろいろな要素を考えてあと1時間ぐらいまでなら増やせるかも…ぐらいだとは思うかな。

 

 あれだったら調整しといてもらっててもいいぞ。

 

 ちょっと俺、会いに行かないといけないやつがいるからさ」

 

「え、誰なんですか?」

 

 パーマーの言葉に俺は返していく。

 

「…『!monad』って聞いたことあるか?

 

 最近話題のカリスマトラックメイカーだ。

 

 ただ、その素性は謎に包まれてる。

 

 投書でDJタイムと同時に希望されてたから会いに行こうって思ってな」

 

「…え、それって今から会えるもんなんですか?

 

 そういうのってやっぱりいろいろ手続きとか必要になってくるんじゃ…」

 

 ヘリオスが聞いてくるが、俺は「それが大丈夫かもしれないんだよな」と話す。

 

「一人、心当たりがあるんだ。

 

 この後会う約束もしてる。

 

 ちょっと行ってくるよ」

 

 俺はそう言って立ち上がり教室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺がやってきたのは薄暗い校舎の裏側。

 

 万が一、『!monad』の身バレを防止するためにここにさせてもらった。

 

 ここならウマ娘はほとんど来ないし、来るのは巡回で来る俺たち生徒会だけだ。

 

 そして、この辺りは俺が担当しているエリアである。

 

 つまり、秘密の話をするにはちょうどいい場所ってことだ。

 

 俺はそんな場所にあるウマ娘を呼び寄せておいた。

 

 正直、断られる可能性が非常に高いとは思っている。

 

 それでもやれることはできる限りやっておきたいのが俺の流儀だ。

 

 俺が影でゆっくり待っていると、そのウマ娘はやってきた。

 

「…待たせちまったか?ハンターさん。

 

 それと、オレにいったいなンの用だ?」

 

「別にそこまで待ってねえよ。

 

 シャカール、ちょっとお前に頼みたいことがあってな」

 

 アナーキーでロジカルなウマ娘、エアシャカールへ俺は話し始めた。

 

 



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116話

 

 エアシャカール、その口調や風貌から荒々しい雰囲気を見せており、数字を重視する理数系のウマ娘。

 

 タイプは違うが同じ理数系のタキオンともそこそこ仲が良いみたいである。

 

 ちなみにだが、脚質は俺と同じ追い込み型なのでそこでの情報共有も行っている。

 

「シャカール、お前に頼みたいことがあってな」

 

「…ンだよ。手短に話してくれよ、ハンターさん」

 

 そう話すシャカールに俺はあることを告げる。

 

「…ドロワのDJタイム、参加してもらえないか?

 

 シャカール…、いや、『!monad』への依頼だ」

 

 俺がそうシャカールに話すと、彼女は驚いた表情を見せる。

 

「…っ、なんでわかったんだ?」

 

 そう話すシャカールへ俺は「当たってたみたいだな」と話す。

 

「…一応7割ぐらいの確信だったけどよ。

 

 !は数式で階乗を表してて、monadはプログラミング用語。

 

 トレセン学園の理数系といえばお前かタキオン。

 

 それでタキオンはコンピューター演算より実験重視。

 

 そうなるとシャカール、お前しか選択肢は無いんだよ」

 

 俺がそう話していくと、シャカールは「やっぱりあんたの観察眼はすげえな」と話してくる。

 

「…それで、参加しろって一体何をすりゃいいんだ?」

 

「何、簡単な話だ。

 

 DJとして会場を盛り上げてほしい。

 

 詳しい内容、昨日俺から!monad宛に送っておいただろ?」

 

「…アレか。

 

 じゃあ、なんで今回ここに呼び出したんだよ」

 

 そう話してくるシャカールに俺は答えていく。

 

「やるなら筋ってもんがあるだろ。

 

 直接伝えたいとは思ってたからな」

 

 そう話した俺は改めてシャカールに続けていく。

 

「…なあ、シャカール。

 

 俺たちに協力してもらえないか?

 

 メールに書いた通り、報酬は用意している。

 

 !monadがお前ってことも勿論できる限り伏せる。

 

 せいぜい伝えるのは俺と運営委員の2人だけかな」

 

「…そいつらって誰だ?」

 

「パーマーとヘリオス。

 

 なんだったらあいつらにも伝えないけど。

 

 …まあ、あの2人なら伝えても大丈夫だとは思うけどな。

 

 テンションは軽いけど、そこら辺はしっかりしてるやつらだからよ

 

 それはお前も知ってるだろ?」

 

 俺がそう話していくとシャカールは少し黙って考え込む。

 

 そして、シャカールは改めて俺に話してくる。

 

「…分かった。

 

 引き受けてやってもいい」

 

 …シャカールはそう俺に告げてくる。

 

「…ああ、引き受けてくれてうれしいよシャカール。

 

 これから頼むな」

 

 俺がそうシャカールに話すと、シャカールは自身のノートパソコンを開いて操作を始める。

 

「…どうした?」

 

「…実は、フジキセキのやつから『ダンスを見に来ないか?』って誘われててよ。

 

 それで何個かプレイリスト組んでみたんだが…。

 

 どうしても納得いかねえとこが出てきちまってよ」

 

「なら、実際見てみるのが一番いいんじゃねえのか?

 

 多分、フジの奴ならそこまでお見通しだとおもうけどよ」

 

 俺がそう話すとシャカールのやつは「…だよな」と話していく。

 

「…フジキセキのところに行ってくる。

 

 そのあとあいつらの意見も聞きながら調整していくことにする」

 

「じゃ、俺もついて行こうかな。

 

 フジとちょっと話したいことあったし」

 

 そう言って俺とシャカールはフジとスカイの元へと向かっていった。



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117話

 

「…で、今はどんな感じなんだ?」

 

 俺が歩きながらそうシャカールに伝えると、彼女はノートパソコンを叩きながら返してくる。

 

「アンタのメールもらってから軽く調整はさせてもらった。

 

 …ただ、まだまだだな。

 

 本番まで調整はしていく予定だ。

 

 …それと」

 

 シャカールはそう言ってキーボードをタンッ!とたたく。

 

 そうすると俺のスマートフォンにあるメールが届いた。

 

 そこにはあるWebサイトのURLが乗ってある。

 

「…本番でアンタにやってほしい曲だ。

 

 俺なりのアレンジして、また見せる。

 

 多分アンタなら余裕で歌えるはずだ」

 

「りょーかい。

 

 練習しとくよ」

 

 俺はそう返すと、近くの教室から2人の声が聞こえてきた。

 

 教室の中では、セイウンスカイがフジキセキにつられるようにして踊っていた。

 

 …まあスカイの方はともかく、フジに関しては心配いらないだろう。

 

 だが、2人のダンスを見ていると、少し妙なところがあった。

 

「…スカイがリードをとっているのか?」

 

 てっきりいろいろと経験しているフジがリードしているのかと思ったが…。

 

 …でも、ぎこちなくスムーズに動いている。

 

 まあ心配はいらないか。

 

 そして一通り踊り終えると、2人はいろいろと話していく。

 

 2人は笑みを見せているが、その途中で何か悩み事があったようだ。

 

 …どうやらその話を聞かせてもらうと、ダンスの曲についてらしい。

 

 確かに俺たちのDJタイムならともかく、フジとスカイのオープニングアクトはドロワの雰囲気に合ったものの方がいい。

 

 クラシックが合わないから…と言ってポップすぎる曲にしてしまうとドロワの雰囲気とは全く違うものになってしまう。

 

 シャカールもそれが聞こえていたようで、いろいろ考えているようである。

 

 そんな中、ある声がセイウンスカイから聞こえてきた。

 

「…じゃ、曲はナシで行きましょうかー」

 

 …その言葉が聞こえてきた次の瞬間、俺の横にいたシャカールが…、消えた。

 

 

 

 

 

 

「なンでそうなるッ!」

 

 

 

 

 

 それを見て、俺も教室の中へと入っていく。

 

「…よっ。

 

 フジ、スカイ、順調のようだな」

 

 俺の姿を見て、フジは俺に声をかけてくる。

 

「…ハンターさん、来てくださったんですか?」

 

「まあな。

 

 それでシャカール、何かあったのか?」

 

 俺がそうシャカールに聞くと、「ああ」と言いながら続けてくる。

 

「セイウンスカイ!

 

 お前今、曲はナシで行くっつったよな?」

 

「え、あ、はい、まあ…」

 

 スカイはシャカールの剣幕に少しビクッと怯えて答えてくる。

 

「…その判断はピーキー過ぎだ。

 

 ある程度のルール…、音がねえとノるもんもノれねえだろ。

 

 さっきの音に当て嵌めんならな…」

 

 そう言ってシャカールはノートパソコンを操作していく。

 

「…シャカール、なにか当てでもあるのか?」

 

「ああ。…これだな」

 

 そう言ってシャカールがパソコンを操作し終えると、あるクラシック調の音楽が流れてくる。

 

「「おおー…」」

 

「…これで踊ってみろ、調整する」

 

 シャカールがそう話すと、2人は改めて踊り始める。

 

 俺は壁にその場から外れて、壁にもたれがかって2人のダンスを眺める。

 

「…へえ」

 

 俺がシャカールが流した曲に合わせて踊る二人を見ていると、さっき踊っていた時よりもキレが明らかに違っていた。

 

 踊り終えると、フジとスカイは満足したような顔でシャカールに話していく。

 

 …そして、3人がある程度話した後、俺はフジを呼ぶ。

 

「フジ、少しだけいいか?」

 

「分かりました。

 

 スカイ、シャカール少しだけ待っててくれる?」

 

 そう言ってフジと俺は話していく。

 

「…スカイがリードとってるのか?」

 

 俺がそう聞くとフジは「そうですね」と答えてくれる。

 

「初めは私が引っ張ってたんですけど、スカイが『サプライズしたいんで』って言ったのでね。

 

 それならってことでさっきから変えてみたんです。

 

 そっちも、『!Monad』を引っ張り出したみたいですね。

 

 DJタイム導入、順調そうですか?」

 

「まあな。

 

 とりあえずはそっちも順調そうだし、俺の心配はいらないみたいだったようで良かったよ」

 

「ええ。シャカールにはちょっと頑張ってもらうことになりそうですけどね。

 

 私たちも、だらしないものは見せられないんでね。

 

 オープニングアクトだとはいえ、去年のあなた方を越えるつもりなんで」

 

「お、言うようになったな」

 

 まあフジがこの軽口が叩けるなら心配はいらないだろう。

 

 そう言って、シャカールとスカイの元へと向かうと二人があることで話していた。

 

「…シャカールさん、これ以外の音源ってないんですか?」

 

「今はねえな、とりあえずはこれが限界だ。

 

 生オケでも付けたらなんとかなるかもしれねえが…」

 

 生オケ…か。

 

「生オケつけたら、何とかなるのか?」

 

 俺がそう聞くと、シャカールは「ああ」と返してくる。

 

「大体もんがそうだが、プログラミングで出せる音と生の楽器から出る音は全然違え。

 

 同じギターでも全く違う音が聞こえてくる。

 

 だが、そう簡単に生オケ動かせたら苦労はしねえからな」

 

 そう話すシャカールだが、俺には一人心当たりがあった。

 

「…なあ、シャカール、

 

 生オケ動かせるやつ知ってるぜ?。

 

 …お前の一番近くにいるやつなんだけどよ」

 

「…あー、確かに彼女ならできそうだね…」

 

 俺とフジはどうやら同じウマ娘を思い浮かべたようである。

 

 俺とフジの言葉を受けて、シャカールもあるウマ娘を思い浮かべたようである。

 

「…あいつか。

 

 その代わりに、何頼まれるんだろうな…」

 

 シャカールはそう話して、軽くため息をついた、

 



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118話

 

「…ああ、ちょっと時間伸びる感じになるんだけど…。

 

 …りょーかい、ありがとな」

 

「…分かった、こっちで調整する。

 

 それでそっちは余裕あるか?」

 

 フジとスカイ、シャカールと別れた後、俺は教室でてきぱきと書類、電話を捌いていく。

 

「あのー、パマちん…?」

 

「うん、多分思ってること同じだと思う…」

 

 パマヘリの二人はそう話して一瞬黙った後、

 

「…ハンターさんの腕が4本に見えてるんだけど…。

 

 あれマ?」

 

「うん、マジマジ」

 

 電話がひと段落した後、俺はヘリオスとパーマーを呼び寄せる。

 

「…ヘリオス!

 

 こいつにもうちょい曲短く調整できるかどうか確認してきてくれ。

 

 できないならこっち側でもう一回調整するから、できる限りなる速で頼む!」

 

「お、おけ!」

 

「パーマーはこっち!

 

 実行委員会のところへこの書類持って行ってくれ。

 

 今から持っていくって伝えておいたから、多分教室内にいると思う!」

 

「りょ、了解です!」

 

 そう言ってヘリオスとパーマーを外に出させる。

 

 ドロワの日までは刻一刻と近づいてきている。

 

 あれから実行委員長とも話し合い、大体の時間が決まった。

 

 あとは最後の調整をするところである。

 

 …そしてだ。

 

「…ルナ。

 

 今、大丈夫か?」

 

『ああ、ちょうどひと段落ついたところだが…、どうしたんだ?』

 

「なら、シリウスの奴に協力を頼んでもらえないか?

 

 あいつの人脈をさらに使うことができれば、さらにドロワは盛り上がるはずだ」

 

『私でいいのか?

 

 シリウスに協力を頼むなら、お前が行った方が…』

 

 俺はそんなルナの心配を「大丈夫だ」と返していく。

 

「今回ばかりはお前が行った方がいいと思うんだ。

 

 俺の勘でしかないけどよ。

 

 …でも、あいつは引っ張られることを嫌ってるけど、真っ向勝負なら喜んで向かってくるはずだ。

 

 会長シンボリルドルフじゃなくて、幼馴染のルナとして話してこい。

 

 お前との勝負なら、あいつは必ず乗ってくる。

 

 お前ら2人の関係を横でずっと見てきた俺の言葉を信じろ、ルナ」

 

 俺がそうルナに話すと、ルナは少し黙った後、改めて電話越しに話してくる。

 

『…分かった。

 

 気分転換もかねて、シリウスと話してくることにしよう」

 

 そう話した後、ルナは「それと、だ」と続けてくる。

 

『私が言えたことではないが、お前は無理をし過ぎることが多い。

 

 くれぐれも、倒れる前に休息を挟んで英気を養っておいてくれ。

 

 ドロワ本番で、主催本人がいないというのは避けなければいけない事態だからな』

 

「ああ、わかっているよ。

 

 この書類の山終わらせたら一回外出るつもりだからよ。

 

 お前こそ、無理し過ぎないようにな」

 

 俺はルナの言葉にそう返して、電話を切る。

 

 こうなれば後は大丈夫だ。

 

 心配はもういらないだろう。

 

 俺は改めて書類の山に向かっていくと、教室のドアが叩かれる音がした。

 

「…入ってきてくれ」

 

 そう俺が返すと、2人のウマ娘が入ってくる。

 

「…邪魔するぜ」

 

「やっほー、ハンターさん」

 

 入ってきたのはシャカールとファインモーション。

 

 ファインはアイルランドから来た正真正銘のお姫様だ。

 

 こいつに関しては、それとなくできる限りの配慮をさせてもらっている。

 

 さすがの俺も、変なことをして国際問題にはしたくはない。

 

 …そして、数少ないシャカールにおびえることなく話すことができるウマ娘だ。

 

「フジとスカイの調子はどうだ?」

 

「今のところは大丈夫そうだよ。

 

 違和感なく踊れてるみたい。

 

 本番も大丈夫なんじゃないかな」

 

「…音源も心配いらねえ。

 

 あれだけあれば、後はもうこっちで軽く調整するだけだ」

 

 ファインとシャカールは俺に向けてそう話してくる。

 

「…にしても、ファイン。

 

 提案した俺が言うのもなんだが、引き受けてくれてありがとう。

 

 感謝させてもらうよ」

 

「大丈夫だよ、ハンターさん。

 

 ハンターさんにはこれまでずっとお世話になってきてるしね。

 

 それの引き換えってわけじゃないけど、ハンターさんおすすめの激辛ラーメン、連れて行ってね?」

 

「そんなことで良いなら何か所でも連れて行ってやるよ。

 

 激辛好きな面々で厳選したところから、珠玉の一杯御馳走してやるさ。

 

 相当辛いけど、大丈夫か?」

 

「もっちろんだよ!」

 

 俺はファインとそう言葉を交わしていく。

 

「シャカール、忙しくさせてしまってすまないな。

 

 あともうちょい、頑張ってくれるか?」

 

「ああ、これぐらいなら心配はいらねえ。

 

 カマす準備は万全だ」

 

 シャカールは俺にそう返してきてくれた。

 

 そうシャカファイの2人と話していると、俺のスマートフォンに2つの通知が入った。

 

 パマヘリコンビからである。

 

「…よし、これで…!」

 

 俺は最後の書類に、記入して、認証印を押す。

 

「…とりあえず、今日の分終了っと!」

 

 俺はそう言って、大きく息をつく。

 

「お疲れさま、ハンターさん。

 

 このあと何かあるの?」

 

 ファインの言葉に俺は「ああ」と首を縦に振る。

 

「テイオーとマックイーンにペアダンスを見てくれって頼まれててな。

 

 このあと、ちょっと見てくる予定なんだ。

 

 ルドルフにリードされてた俺が話せることなんて、少ないと思うけどな」

 

 俺はそう返して、椅子から立ち上がった。



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119話

 

 メジロ家の屋敷前にて。

 

「…シンボリハンターです」

 

『はい、わかりました。

 

 マックイーンお嬢様とトウカイテイオー様からお話は伺っております。

 

 どうぞ、お入りください』

 

 …インターホン越しにそう声が聞こえてくる。

 

 正直、ここに来るのにはいまだにピリピリとしてしまう。

 

 実家はさすがにもう慣れたが、このメジロの屋敷だけは慣れというものがない。

 

 ラモーヌのやつに誘われ、何回か出入りしたことがあるのにである。

 

 俺は若干荒れる息を落ち着かせて、屋敷の中へと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あ、ハンター!」

 

「来てくださってありがとうございます」

 

 テイオーとマックイーンは俺の姿を見つけると、そう言いながら駆け寄ってくる。

 

「ま、とりあえずひと段落ついたからな。

 

 言っておくが技術とか、そんなもんは俺に聞くなよ?

 

 そういう踊りは俺の対象外だからな。

 

 違和感は伝えるけど、それをどうするかはお前ら自身だ」

 

 俺はテイオーとマックイーンにそう伝えてそのまま続けていく。

 

「…アルダン、今日は体大丈夫なのか?」

 

「ええ。最近体の調子はいいので。心配していただきありがとうございます」

 

 ちょうどやってきていたメジロアルダンにも俺はそう声をかける。

 

 アルダンは体が弱い。ラモーヌからその話は聞かせてもらっている。

 

 自分の走りをしようとすれば、脚が限界を超えて壊れてしまう…、そんな可能性がほかのウマ娘に比べて高い…。

 

 それがアルダンである。

 

 ラモーヌに頼まれ、何回か効果的なストレッチ方法を伝えさせてもらったことがある。

 

「ハンターさん、ご指導のほどよろしくお願いします!」

 

「ああ。伝えられることは限られてるけど、できる限りのことは話させてもらうよ」

 

 そんな中、チヨノオーが俺にそう話してくる。

 

 今回のアルダンのデートはチヨノオーらしい。

 

 サクラチヨノオーはオグリの話よく出てくるウマ娘である。

 

 こうして話すのは初めてのはずだ。

 

 …そして。

 

「いやー、ハンターさん…。

 

 今日もハードスケージュールですね…」

 

 マックイーンに話をしに来ていたネイチャもそう話してきた。

 

「まあなんてことねえよ。

 

 ある程度ひと段落させてここ来たからな。

 

 あとネイチャ、多分学校戻ったらいろいろ資料増えてると思うから目通しておいてくれ」

 

「あーやっぱりですかー…」

 

 ネイチャは苦笑いしながら俺にそう返してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネイチャと共に二組のダンスを見ていると、「さすがだな…」とつぶやいていた。

 

 まずはテイオーとマックイーン、少なくとも文句はない。

 

 おそらく俺とルナをダンスをモデルにしたのだろう。

 

 それに加えて、2人のオリジナル部分もしっかりと確立されている。

 

 …しいて言うとするなら。

 

 そう思いつつ休憩に入った二人に向けて俺は話していく。

 

「テイオー、さっきのとこもうちょっとリード緩くしたほうがいいんじゃないか?

 

 そうすればマックイーンがもっと映えるはずだ」

 

「りょーかいっ!」

 

「マックイーンはもう少しリードとっても問題ないと思うぞ。

 

 分かってると思うけど、リードされるだけじゃベストデートはとれないからな」

 

「承知しましたわ」

 

 2人に関しては細かいバランス調整をすればもう問題ないだろう。

 

 そしてアルダンとチヨノオー。

 

 この二人はシービーとマルゼンの奴をモデルにしたのだろうか。

 

 特にチヨノオーはマルゼンをリスペクトしてるようでしっかりと再現されている。

 

 その一方でアルダンはシービーのものとは全く違うが、自分らしさをしっかりと表現している。

 

 …だが、正直言ってテイオーとマックイーンに比べたら若干劣る…と言わざるを得ないか。

 

 1人ひとりのダンスはしっかりとしている。

 

 …ただ、かみ合っていない。

 

 ところどころでアルダンが無理矢理リードをとるような場面も見受けられた。

 

 2人で作り出すものなのに1人1人が目立っている。

 

 …そうなれば。

 

「アルダン、あそこでリードを無理矢理リードを取ったのはお前の判断か?」

 

「ええ、あのままではいけないと思ったので。

 

 駄目でしたか?」

 

「…いや、ならいいんだ。

 

 ちょっと気になっただけだからな。

 

 あとは細かいところの調整していけば大丈夫だと思うぞ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 俺はそのままチヨノオーに続けてくる。

 

「…チヨノオー、なんでああなったか分かるか?」

 

「…私の技術不足です。

 

 もっと足さばきとかがしっかりしていれば…」

 

 …んー、俺から見たら技術系ではないと思うんだけどな。

 

 正直、これ以上やると逆にアルダンと合いにくくなる可能性がある。

 

 マルゼンをモデルにしてるからそれとアルダンでギャップが生まれてるって感じか。

 

「…チヨノオー。

 

 一つだけ話させてもらうよ」

 

 チヨノオーは「なんでしょうか?」と首をかしげる。

 

「マネをするだけじゃ、上に行くことはできないぞ?」

 

「え…」

 

 チヨノオーはそうつぶやくが、俺は続ける。

 

「…ここから先はお前が考えろ。

 

 それが分かったら、お前ら2人はベストデートへ近づけるようになると思うよ」

 

「…そう、ですか…」

 

 …そう話した後、時間はあっという間に過ぎていた。

 

「…よしっ、ネイチャ、そろそろ学校戻るぞ」

 

「あ、はい。分かりました」

 

 マックイーンと話していたネイチャも用事は終わったみたいである。

 

「4人とも、本番は俺やルドルフ、後はマルゼンとかも来るだろうな。

 

 俺とルドルフ以上のベストデートが見れることを期待してるよ」

 

 俺はそう言ってその場から立ち上がった。







 …雰囲気が大きく変わってしまいますが、ここで話させてください。





 ◇ ◇ ◇





 …長かった!

 わが阪神タイガース、18年ぶりのセリーグ制覇!

 自分が覚えている中で、初めての優勝…、改めて感慨深いです。

 我々ができるのは選手たちに声を届けるだけ。

 でもここからです。

 CS、日本シリーズとまだまだ続くので、38年ぶりの「アレの次のアレ」を掴むまで、頑張りましょう!

 そして来年もしっかりと監督を胴上げできるように!


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120話

 

 …そしてやってきたドロワ当日。

 

 俺は2階から下を眺める。

 

 調整は完全にすることができた。

 

 音響系は今パーマーとヘリオスたちが中心となり準備してくれている。

 

 あとはしっかりと終わらせるだけだ。

 

「…こんなところで油売ってていいのか?

 

 副会長サマ?」

 

 そんな俺に声をかけてくるウマ娘が一人。シリウスである。

 

「大丈夫だよシリウス。

 

 ちゃんと準備はしてきたからよ。

 

 自由時間はちょっと厳しいけど、全員のペアダンス見届けてから向こうに行く予定だ」

 

 俺がそう話すと、シリウスは「そうかよ」と返してくる。

 

「…とりあえず、あいつらに話して周知はしておいた。

 

 あとはお前がどれだけやるかだ。

 

 つまんねーもん見せるんじゃねえぞ?」

 

「分かっているよ。そこらのライブハウスには負けないようなレベルのものができたと思ってるからな」

 

 ルドルフにシリウスとの交渉を任せ、いろいろあったものの最終的にはシリウスはこの周知に協力してくれた。

 

 ルドルフ曰く、いろいろあったらしいが…。

 

 まあ、そのあたりのことは追々聞かせてもらうとしよう。

 

 そう思っていると、シリウスが「ハンター」と声をかけてくる。

 

「…DJタイム実施、あいつに代わって感謝を伝えさせてもらうよ。

 

 ありがとな」

 

「…どういう風の吹き回しだ?お前がそんな言葉をつかうだなんて珍しいな」

 

 俺がそう話すと、シリウスは「うるせえ」と吐き捨て、改めて話してくる。

 

「…どうやらその投書をしたのが私のツレみたいでよ。

 

 本当に実施してもらえるとは思ってなかったそうだ。

 

 それとあいつが希望してた匿名の音楽家も参加させたんだろ?

 

 「感謝してもしきれない」って言ってたぜ?」

 

「そりゃどうも。「投書のおかげだ、感謝してる」って伝えておいてくれ」

 

「…了解した」

 

 シリウスは俺にそう返してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …フジとスカイのオープニングアクトが始まった。

 

 ファインが音源を提供し、シャカールが編集した音源に合わせて、2人は踊っていく。

 

 いい感じに2人とも楽しく踊れてる。

 

 フジとスカイ、どちらも主役であるといえるし、お互いがお互いをしっかり際立たせてる。

 

 フジの潜在的な美しさと、スカイの意外性のあるカッコ良さ…、しっかりと表現されている。

 

 …とりあえず、開幕は大成功と言ってもいいだろう。

 

 そして、しばらく時間を空けてから審査時間が始まって、それぞれの組が踊り始めていく。

 

 テイオーとマックイーン、まあこの二人は心配いらない。

 

 この前見せてもらった時よりもしっかりレベルアップさせてきている。

 

 そして、アルダンとチヨノオー。

 

 どうやら存在していたズレは解消されたみたいだ。

 

 どうやら、チヨノオーも答えを見つけたようである。

 

 そうなれば、アルダンも自身を持って彼女をアシストすることができるし、体を任せることができる。

 

 …マルゼンの動きを完全に真似することが答えじゃねえ。

 

 それに気づけたのならもう大丈夫だよな、チヨノオー。

 

 彼女たち以外のペアも美しいペアダンスを見せてくれている。

 

 正直、この中から1組を選ぶのは厳しいな…。

 

 そう思いながら、ダンスを眺めていると、俺のスマートフォンに連絡が入る。パーマーとヘリオスだ。

 

 どうやら、そろそろ最後の準備をしなくてはいけないみたいである。

 

「…全員、悔いのないようにな」

 

 そうつぶやいた俺は、その場を後にして、DJタイム最後の準備へと向かっていった。



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121話

 

 ダンス時間が終わり、フロアには多くのウマ娘が集まってきている。

 

 俺はざわつくフロアを見ながら、俺はヘリオス・パーマー・シャカールの3人に話していく。

 

「ギリギリまで見てたけど、ダンス時間は無事違和感なく終了した。

 

 残しているのはこのDJタイムのみ。

 

 …このドロワが成功するかどうか、それはこれにかかってる。

 

 ここで大幅にこけたら、今年のドロワは失敗だったという評価になる。

 

 …フロア見てみたら、人は想像以上に集まってくれてる。

 

 音響系もお前らのおかげで最高級のものが揃った。

 

 シャカール…いや!Monadのおかげで音源も心配いらない。

 

 …全員、大丈夫だな?」

 

 俺がそう言うと3人は頷いてくれる。

 

「もち!準備は万全!

 

 テンション・バイブスともに爆上げでカマすよ~!」

 

「うん!できる限りのことはやれた。

 

 あとは私たちが楽しむだけ!」

 

「ああ。アンタが「トラウマにしてもいい」って許可を出してくれたから最高級のモンができた。

 

 失敗なんてするわけがねえだろ?」

 

 ちなみにだが、ほかにも手伝ってくれているウマ娘はいるが、!monadの秘匿のため俺を含めた4人だけで集まっている。

 

 シャカールが「俺とこの2人だけなら正体を明かしてもいい」と話してくれたのでこうさせてもらった。

 

 3人の力強い言葉を聞いて俺も覚悟が決まった。

 

「それなら大丈夫だな。

 

 …行くぞ!」

 

 俺が帽子を被ってそう話すと、3人からは「おう!」という力強い声が返ってきた。

 

 

 

 …さて、いっちょカマしてやるとしますかね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 DJタイムが始まり、俺は司会としてステージの端であおり続けていく。

 

 ヘリオスとシャカールはステージの中央で観客を盛り上げ続けている。

 

 パーマーは裏でしっかり出演するウマ娘たちの調整をしてくれている。

 

 …とりあえず今のところはいい感じである。

 

 そして、時間は順調に過ぎていき、俺の出番も徐々に近づいてくる。

 

 …ちなみにだが、俺の出演は完全サプライズ。

 

 俺が出るのを知っているのは3人だけだ。

 

 俺は観客を煽りながら、気持ちを落ち着かせていく。

 

 …そして。ヘリオスの出番の中でヘリオスが話している中、彼女は俺に振ってくる。

 

「…それじゃ、ここらでいっちょ行きますか!

 

 ハンターさん!

 

 そんなトコで立ってるだけでいいの?

 

 カモン!いっしょに歌いましょーよ!」

 

 …来たか。

 

 ヘリオスが俺に向けてそう叫ぶと、フロアは一気にざわついていく。

 

 

 

「…仕方ねえな、全くよ」

 

 

 

 俺はそう呟いてステージ中央へと向かっていく。

 

「…なんのために俺のマイクがスタンドじゃなくてこっちなんだと思っているんだ?」

 

 俺はそう言うと、改めて帽子を被り直しマイクセットを調整した後に続けていく。。

 

「俺がこんな場所でただただ出演者を紹介するだけのウマ娘だと思ってたのか?」

 

 俺がそう話すと、フロアのざわつきは一気に大きくなっていく。

 

「お前ら!

 

 こっからもう一回気合入れてけ!

 

 まだまだ終わらせやしねえぞ!」

 

 俺がそう叫ぶと、フロアは一気に沸き上がり、悲鳴とも似た歓声が部屋の中に響き渡る。

 

「ヘリオス!」

 

「りょーかい!

 

 テンション爆アゲで行くよ!」

 

「ああ行くぞ、『気分上々↑↑』!

 

 俺がそう叫ぶと、後ろで機材を操作していたシャカールがあるボタンを押して、曲が流れ始めていく。

 

 そして、俺とヘリオスはともに歌い始めていく。

 

 

 

Hey DJ

 

 

カマせ yeah yeah yeah

 

 

気分上々↑↑の

 

 

針落とせ 音鳴らせ パーリナイ

 

 

飲もう ライ ライ ライ

 

 

みんなで踊れ!

 

 

Hip-Pop oh ピーポー

 

 

かけてよミラクルNumber

 

 

 

「お前ら、まだ何回でも盛り上がれるよなぁ!

 

 ここからまだまだ、テンション爆上げで行くぞ!」

 

 俺はそう叫んで観客からの歓声が上がる中、ラップを刻んでいく。

 

 

 

YO! こんな時代に分かち合うMUSIC

 

 

探したくて回す地球儀

 

 

グラつく不安定生活

 

 

それだからバランス重視

 

 

 

 

良いことばかりじゃないから頑張れる

 

 

最悪な日にキック

 

 

再起動のボタンクリック

 

 

DJかけて!今TRIP

 

 

 

 

シャレてるビートに乗って

 

 

感じる体 揺らそうよ yeah

 

 

 

 

Hey DJ

 

 

カマせ yeah yeah yeah

 

 

気分上々↑↑の

 

 

針落とせ 音鳴らせ パーリナイ

 

 

飲もう ライ ライ ライ

 

 

みんなで踊れ!

 

 

Hip-Pop oh ピーポー

 

 

かけてよミラクルNumber

 

 

 

 ヘリオスからこの曲を提案され、しっかりと練習してきた。

 

 まあなんとかなるようにはなったし、俺らしさも出せてるだろう。

 

 そのまま俺とヘリオスは歌い続けていく。

 

 

 

ミラーボール スモークのにおい

 

 

溶けるようなハーモニー

 

 

身にまとって 踊り明かす

 

 

がむしゃらなままで

 

 

 

 

Hey DJ

 

 

カマせ yeah yeah yeah

 

 

気分上々↑↑の

 

 

針落とせ 音鳴らせ パーリナイ

 

 

飲もう ライ ライ ライ

 

 

みんなで踊れ!

 

 

Hip-Pop oh ピーポー

 

 

かけてよミラクルNumber

 

 

 

 

Hey DJ

 

 

シャシャれ yeah yeah yeah

 

 

気分上々↑↑の

 

 

波に乗って はじけ飛べ ファンキーナイ

 

 

飲もう ライ ライ ライ

 

 

みんなで踊れ!

 

 

Hip-Pop oh ピーポー

 

 

朝までミラクルNumber

 

 

 

Hey DJ

 

 

カマせ yeah yeah yeah

 

 

 

 

 とりあえず、一曲目。

 

 …さすがにエネルギー消費量がエゲつい。

 

 歌い終わり、俺とヘリオスは腕を天に突き上げた。



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122話

 

 『気分上々↑↑』を歌い終えると、フロアからは歓声が沸き上がる。

 

「おまえら、付き合ってくれてありがとなー」

 

 俺はそう言いながら、フロアに手を振る。

 

「で、ハンターさん。

 

 これで終わりじゃないよね?

 

 まだまだいけるっしょ?」

 

 そうしていた俺にヘリオスがそう話してくる。

 

「まあな。やろうと思えばいくらでもやれるぜ?

 

 …お前らはどうだ、まだ俺と一緒に行けるか?」

 

 俺がそう聞くと、フロアは一気に熱気を帯びていく。

 

「そうか、ありがと。

 

 『!monad』、もう一曲頼めるか?」

 

 俺がそう言いながらDJブースを振り返ると、シャカールは右手を掲げる。

 

 おそらくOKのサインだろう。

 

 

 

 

 

 …とまあ、ここまでは俺たちであらかじめ決めていた流れである。

 

 さっきの『気分上々↑↑』はヘリオスからの頼み、これから歌う曲はシャカールの要望だ。

 

 この曲もテンションは高めだし、結構練習した。

 

 『気分上々↑↑』はヘリオスとのペアだったが、これから歌う曲はソロだ。

 

 正直俺が歌ってきたHard Knock DaysP・A・R・T・Yより瞬間消費エネルギーは大きいだろう。

 

 …だが、ここでやらないと意味はない。

 

 ここまで言った以上、「後ろに退く」ってことはできねえしな。

 

 そう思っていると、ヘリオスが俺がいた司会ブースで俺に叫んでくる。

 

「そいじゃもう一曲いっちゃいましょっか!

 

 ハンターさん、『!monad』、好きにかましちゃえ~!」

 

 その言葉と同時にシャカールは機材に手をやり、音楽を鳴らせ始める。

 

 

 

 

お前ら!

 

 好きに弾けろ!楽しめ!

 

 この時間中、この部屋の中にいる間だけは俺が許可するからよ!

 

 聞いてくれ!『ココロオドル』!

 

 

 

 

 俺はそう叫んだあと、さっき以上のハイテンポで歌っていく。

 

 

 

 

ENJOY 音楽は鳴り続ける

 

 

IT'S JOIN 届けたい 胸の鼓動

 

 

ココロオドル アンコール わかす

 

 

Dance Dance Dance  READY GO!

 

 

今 ゴーイング ゴールインより 飛び越し

 

 

音に乗り 泳ぎ続ける

 

 

ENJOY ENJOY!  IT'S JOIN IT'S JOIN!

 

 

呼応する心 響き続ける

 

 

 

のってきな的な言葉が出てきた

 

 

ここは心踊るところだから

 

 

置いてかないよ 追い付きたいなら

 

 

Get Up! Stand Up! 行くしかねぇ!

 

 

 

つかねぇ やっぱ 気付いたんだ 100%

 

 

幸せの意思表示 鳴らせ CLAP CLAP

 

 

仲間同士 夜通し 詰め込んだ

 

 

アッパーなテンションのシチュエーション

 

 

 

Have a dreamin' グリーディング

 

 

この場の空気 中心 サークル 繋がるブギー

 

 

フリーキー きばらず ここのみんなと

 

 

その価値あるから Swing swing sing a song

 

 

 

生真面目 恥ずかしがりでもできる

 

 

イマジネーション 望むところだ

 

 

茶の間 床の間 ところ構わず

 

 

ボタンひとつで踊る心が

 

 

 

ENJOY 音楽は鳴り続ける

 

 

IT'S JOIN 届けたい 胸の鼓動

 

 

ココロオドル アンコール わかす

 

 

Dance Dance Dance  READY GO!

 

 

今 ゴーイング ゴールインより 飛び越し

 

 

音に乗り 泳ぎ続ける

 

 

ENJOY ENJOY!  IT'S JOIN IT'S JOIN!

 

 

呼応する心 響き続ける

 

 

 

やっべえ、クッソ楽しい…!

 

 ここまで休まずにずっと歌い続けているが、疲れは一切ない!

 

 フロアにいるウマ娘たちもまったく疲れを見せないまま俺に着いて来ている。

 

 …なら、ここからも着いて来てくれよ!

 

 

 

やっぱりな Hurry up 俺は急いで歯を磨く

 

 

手間は取らせん さぁ見な

 

 

あみ出す つうか 勝手 心騒ぎ出す

 

 

時間 場所など限らず

 

 

 

グータラ てきぱき 日常 メリハリ

 

 

毎日変わる音 フレッシュ デリバリー

 

 

揺らす Body Rock 増々

 

 

ベクトル向かう矛先はプラスへ

 

 

 

その長と短 そこがどうかなる

 

 

所々 ココロゴト 転がしあう

 

 

だから今日は今日 振り切る昨日

 

 

心から踊らす この一時

 

 

 

一度 Go ドア開けたらフロア

 

 

浮き足立つ 抜け出す 揺れる Core

 

 

Up and down こっち タンタ Tap Let's Dance

 

 

Come on 加速 構うもんか もう

 

 

 

いてもたってもいらんない

 

 

心だけじゃ収まんないぜ

 

 

Day and Night Shake a body

 

 

ぎこちないならないで可愛い

 

 

心感じるままに

 

 

 

LA LA LA LIVE LIFE GOOD TO BE ALIVE

 

 

笑い 愛し合いされ 喜怒哀楽 刻む

 

 

音と言葉 つなぐこの場

 

 

届いてるなら MAKE SOME NOISE

 

 

 

ENJOY 音楽は鳴り続ける

 

 

IT'S JOIN 届けたい 胸の鼓動

 

 

ココロオドル アンコール わかす

 

 

Dance Dance Dance  READY GO!

 

 

今 ゴーイング ゴールインより 飛び越し

 

 

音に乗り 泳ぎ続ける

 

 

ENJOY ENJOY!  IT'S JOIN IT'S JOIN!

 

 

呼応する心 響き続ける

 

 

 

 …俺は歌いきって右腕を前に突き出して曲を終える。

 

 

 

「お前ら、付き合ってくれてありがとなー!

 

 

 

 終わりの時間は近づいてきてるけど、それまで全力で楽しんでくれー!」

 

 

 

 俺はフロアにいるウマ娘たちに向かってそう叫んだ。

 




 …というわけで「気分上々↑↑」・「ココロオドル」の二曲を使わせていただきました。

 主人公が歌いそうなパリピ系の曲ってことでの選曲でしたが、彼女は楽しむときは思いっきり楽しんでます。今回もそうですがね。





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123話

 

「…ふぅっと」

 

 …DJタイムは大成功に終わり、片付けも終わった俺はそう言いながらベンチに腰を下ろす。

 

「何事もなく終わってよかったホントに…」

 

 俺は星空を見上げてそうつぶやく。

 

 …さすがの俺でも今回ばかりはエネルギーの消費量は半端なかった。

 

 明日、休みにしておいてもらって正解である。

 

 俺は改めてふうっと大きく息をつく。

 

 久々に忙しい日々を過ごした。俺とルナの二人で回していた時の生徒会業務並みには忙しかったと思う。

 

 …でも久々にはっちゃけれた。

 

 ウイニングライブを踊った後には感じられないものが俺の胸の中にあった。

 

 …そんな俺に話しかけてくるウマ娘が1人。

 

「…アンタのそんな姿、はじめてみたな」

 

 シャカールである。

 

「あんまり見せたことないからな。

 

 …ファインの奴はどうしたんだ?」

 

「…アイツはパーマー達と話してる。

 

 いろいろ話したいんだとよ」

 

 そう話しながらシャカールは俺の横に座ってくる。

 

 そんなシャカールに俺は話していく。

 

「シャカール、今回のドロワどうだった?」

 

 俺がそう聞くと、「ま、良かったんじゃねーの?」と彼女は返してくる。

 

「音響系はしっかりそろえてくれてたし、演者側の調整もしっかりしてくれてた。

 

 演者側からしたら文句はねえよ」

 

「…それなら良かったよ」

 

 俺はそう言ってシャカールに話しかける。

 

「シャカール、お前には結構面倒くさい仕事引けさせちまって悪かったな。

 

 お前がいなければ今回は間違いなく成功できなかった。

 

 ありがとうな」

 

 俺がそう告げるとシャカールは「別になんてことねーよ」と返してくる。

 

「そもそも俺の趣味の延長線上でやってる話だ。

 

 アンタが頭下げる必要なんてねーしな。

 

 正直、フジキセキのやつもDJタイムも、いい経験になった。

 

 感謝するのはこっちの方だぜ、ハンターさんよ」

 

 そんなシャカールの言葉に俺は「そうかよ」と返していく。

 

「…それでよ、これからどうなっていくんだ?」

 

「まだわからねえが、多分継続ではあると思うよ。

 

 あれだけ盛り上がったんだ、来年はやらないっつったら文句がでるはずだ」

 

「そうか」

 

 俺はそう話して、改めて続けていく。

 

「…シャカール、一つ頼まれてくれないか?」

 

「…ンだよ」

 

「…来年のDJタイム、お前が仕切ってくれないか?」

 

 俺がそうシャカールに告げると、シャカールは飲んでいたスポドリを思いっきり噴き出す。

 

「…は、はあ!?

 

 来年もアンタがやんのじゃねえのかよ!?」

 

「確かに来年は俺ができるよ。

 

 …ただな、俺もそのうち卒業する。

 

 そうなる前にやれることはしっかりとやっておきたいんだよ。

 

 生徒会でも、俺とルドルフがいなくてもしっかり運営できるようにシフトしていってるからな。

 

 …こういう運営側の仕事、やっておいて損はないと思うぜ?

 

 間違いなく卒業してから必要になってくると思うからよ」

 

 俺は来年もある程度は手伝う予定ではあるから、心配しないでくれ」

 

 そう話すとシャカールは少し黙って考え込む。

 

「…ちょっと待っていてくれ。

 

 そのうち返答する」

 

 この返事なら、まだ前向きな感じかな。

 

「そうか、まあゆっくり考えておいてくれ。

 

 来年のドロワの時期までに俺に伝えてくれたらいいからよ」

 

 そう話すと目の前から俺とシャカールを呼ぶ3人の声が聞こえてきた。

 

「…呼ばれてるみたいだな、いくぞ」

 

「…ああ、そうだな」

 

 俺とシャカールは立ち上がり、俺たちを呼ぶ3人の元へと歩いて行った。




 …というわけで最長となりました『今宵、リーニュ・ドロワットで』編完結です。

 みなさまお付き合いいただきありがとうございました。

 …アニメ3期も始まりました今日この頃ですが、正直これからの予定はまだ未定な部分が多いですが、自分は自分なりの感じで書いていこうと思います。



 …そしてみなさん、今年のハロウィンイベントはご覧になられたでしょうか?

 まだの皆さんはなる早でみることをお勧めします。

 …シャカファイ、とても良いですよ?


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データベース2
オリ主設定2



 改めて…ではありますが、ハンターが育成実装キャラとしていたら…の情報です。

 ところどころ前回の説明と被っていたり変更していたりする部分があるのでご容赦を…。


 

〔ファイナルチェイサー〕シンボリハンター

 

 

 

 ・ハンターの勝負服(通常版)、実装ランクは☆3。

 

 ・黒いスーツとサングラスを基調としたシンプルなデザイン。

 

 ・首元に緑色のマフラー(シンボリカラー)を巻いて風にたなびかせている。

 

 ・私服は黒を基調にしたマウンテンパーカー。動きやすい服が好み。

 

 

 

・ライブ系統の説明

 

 ・歌唱可能曲

 

  ・Make debut!

 

  ・UNLIMITED IMPACT

 

  ・NEXT FRONTIER

 

  ・Special Record!

 

  ・うまぴょい伝説

 

  ・WINnin'5ーウイニング☆ファイヴー

 

  ・ユメヲカケル!

 

  ・Never Looking Back

 

  ・グロウアップ・シャイン!

 

  ・We are DREAMERS!!

 

  ・BLOW my GALE

 

  ・GIRLS' LEGEND U

  ・Ms. VICTORIA

 

  ・DRAMATIC JOURNEY

 

  ・L'Arc de gloire

 

  ・トレセン音頭

 

 

 

 

・能力系統の説明

 

 ・☆3ステータス

 

  ・スピード G+ 98 

 

  ・スタミナ G+ 85

 

  ・パワー  G+ 91

 

  ・根性   G+ 87

 

  ・賢さ   G+ 95

 

・☆5ステータス

 

  ・スピード F 120 

 

  ・スタミナ F 105

 

  ・パワー  F 113

 

  ・根性   F 101

 

  ・賢さ   F 114

 

 

 

 

 ・バ場適正

  

  ・芝   A

  

  ・ダート A

 

 

 

 ・距離適正

  

  ・短距離 E

 

  ・マイル A

 

  ・中距離 A

 

  ・長距離 B

 

 

 

 ・脚質適正

 

  ・逃げ C

 

  ・先行 C

 

  ・差し A

 

  ・追込 A

 

 

 

 ・成長率

 

  ・スピード +15%

 

  ・スタミナ +0%

 

  ・パワー  +5%

 

  ・根性   +0%

 

  ・賢さ   +10%

 

 

 

 ・固有二つ名取得方法

 

  ・『無敗の狩人』

 

   ・ジャパンカップ(クラシック級)・宝塚記念・天皇賞(秋)を勝利し、有馬記念を連覇および出走したG1レースを全て勝利して育成を終える。

 

 

 

 

 ・固有スキル

 

  ・『さあ、狩りの時間だ!』

 

   ・第4コーナー付近で後方に位置している時、ギアを変えて一気にスピードを上げる。

 

 

 

 ・初期スキル

 

  ・直線一気

 

  ・スタミナイーター

 

  ・束縛

 

 

 

 ・覚醒スキル

 

  ・後方待機 (覚醒レベル2)

 

  ・独占力 (覚醒レベル3)

 

  ・追込直線〇 (覚醒レベル4)

 

  ・迫る影 (覚醒レベル5)

 

 

 

 ・進化スキル

 

  ・独占力→狩人の眼差し

 

   ・レース終盤にすごく前に出る<中距離>

    

    ・条件① ファン数が15万人以上になる

 

    ・条件② 中距離のスキルを2個以上所持する

 

    ・条件③ 加速力が上がるスキルを2個以上所持する

 

  ・迫る影→狩人の咆哮

 

   ・ラストスパートの直線で加速力が上がりさらに視野がわずかに広くなる<作戦・追込>

 

    ・条件① 宝塚記念と天皇賞(秋)を勝利するorG1を4勝する

  

    ・条件② スピードが800以上になる

 

 

 

 ・URAファイナルズの目標一覧

 

  ・目標① ジュニア級メイクデビューに出走

 

  ・目標② ファンを8000人集める

 

   ・時期:クラシック級4月後半

 

  ・目標③ ジャパンダートダービーで5着以内

 

   ・時期:クラシック級7月前半

 

  ・目標④ セントライト記念に出走

 

   ・時期:クラシック級9月後半

 

  ・目標⑤ ジャパンカップで3着以内

 

   ・時期:クラシック級11月後半

 

  ・目標⑥ 有馬記念で3着以内

 

   ・時期:クラシック級12月後半

 

  ・目標⑦ 宝塚記念で3着以内

 

   ・時期:シニア級6月後半

 

  ・目標⑧ 天皇賞(秋)で3着以内

 

   ・時期:シニア級10月後半

 

  ・目標⑨ 有馬記念で1着

 

   ・時期:シニア級12月後半

 





 前回からの修正点
 
 ・勝負服に緑のマフラー(シンボリ要素)追加

 ・ステータス調整

 ・固有二つ名取得方法調整

 ・固有スキル調整

 

 凱旋門賞に出走の代わりに天皇賞(秋)&有馬記念としています。

 …そして、上に書いたように出走目標に天皇賞(春)はありません。

 なぜハンターの目標レースの中に天皇賞(春)がないのかは、これから書いていく予定です。

 


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第?R 「春の青空の下で」
124話



今回から再び過去回です。

前回の説明通り、ハンターの目標レースに天皇賞(春)がありません。

その理由を説明させてもらいます。


 

 桜が咲き乱れる春の阪神レース場。

 

 俺はサンケイ大阪杯に臨んでいた。

 

 ジャパンカップ・有馬記念を勝ち取り、ルナ、シービー、エースと並び4強と呼ばれるようになった。

 

 第一目標のジャパンカップを獲得できた俺は、最終目標である凱旋門賞へ向けて調整を続けていた。

 

 今回のレースはG2ではあるが、春の天皇賞に向けての調整の舞台として出走することにしたのである。

 

 …というわけで。

 

「…ま、いい勝負しようぜ、シービー」

 

「うん、今日も楽しもうね、ハンター」

 

 ゲートに入る直前、俺はシービーと言葉を交わす。

 

 G2でこの対戦はレアだろうし、割に合っていないと感じてしまう。*1

 

 シービーには2回勝てたが、正直勝てるかどうか五分だ。

 

 俺はゆっくりと7枠8番の位置に入る。

 

 …まあ、大外とまではいかなかったが、外側の枠だ。

 

 ゲートの中で俺はゆっくりふうっと息を吐く。

 

 辺りはレース開始直前特有の静かな空気が広がっている。

 

 …そして。

 

 

 

 …ガタンッ!

 

 

 

 ゲートが開かれ、レースが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はいつも通り、集団の後ろ側の位置に着く。

 

 俺は追い込み型だが、その中でも初速は遅めである。

 

 …事実、俺と同じ追い込み型のシービーは俺より少し前を走っている。

 

 これでも中央にやって来た時よりかはスピード・スタミナともに上がっているのだが…。

 

 …俺は先頭の位置を確認する。

 

「…まだ行けるな」

 

 俺はそう呟き、前との差を広がらせ過ぎない程度のスピードでターフの上を走っていく。

 

 レースは半分を越え、周りのウマ娘たちはペースを上げていく。

 

 …だが、まだだ。

 

 今の先頭との差は大体8バ身ぐらい。

 

 これぐらいなら捲ることができる。

 

 シービーを含めた周りのウマ娘たちのスピードを見ても、このペースで行けば第4コーナーを回るころにはせいぜい12バ身もつかないぐらいだ。

 

 俺ははやる気持ちを落ち着かせながらしっかりと走り続ける。

 

 …そして第4コーナーに集団は入っていく。

 

 段々盛り上がる観客の声も大きく聞こえてくるようになった。

 

「…それじゃ、そろそろっ!」

 

 俺は一気に足のギアを変えてスピードを上げる。

 

 

 

 

 

 …ことはできなかった。

 

 

 

 

 

 俺の左足から稲妻のような痛みが俺の脳に届いた。

 

(…うっそだろ!?

 

 ここで怪我するのかよ俺…)

 

 十分にケアなどはしてきたはずだ、それでも駄目だったのか…!?

 

 …とはいえ、このまま走り続ければ俺の足は更にひどくなる。

 

 ただでさえ、今も足が地面に着くたびに痛みがズキンッ!と響いてくる。

 

(…スピード上げる前でまだよかった、後ろも気にせずにスピードを緩められるってのは不幸中の幸いだったか…)

 

 …俺はそのままスピードを落としていき、走りから歩きに移行していって最終コーナーのあたりで歩みを止め、柵に手をかける。

 

 …とりあえず、転倒せずに止まれてよかった。

 

 思いっきり転倒して骨折し、そのまま競争人生が終わるってことにはならなそうである。

 

 俺が柵に手をついて掲示板のほうを見ると、レースはどうやらシービーが勝ったみたいである。

 

 …今、こうして止まっている時点で、俺は競走中止扱いか…。

 

 怪我の具合がどれくらいかは分からないが、多分春天はキツイだろうか…。

 

 俺はそう思いながら雲一つない春の青空を仰いだ。

 

*1
大阪杯がG1に昇格するのは2017年になってから。



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125話

 

「ハンター!」

 

 柵に手をかけて動けなくなっている俺にシービーが近付いてくれた。

 

 どうやら一通り観客に挨拶をし終えてからこっちに向かってくれたみたいである。

 

 そして、トレーナーも俺の元へと近づいて来ていた。

 

「…すまねえ、シービー。

 

 肩貸してくれないか?」

 

「うん、分かった」

 

 シービーはそう話しながら俺の左腕肩にかけてくれる。

 

「…ハンター!なにがあったんだ?」

 

 そう話してくるトレーナーに俺は答えていく。

 

「いつも通り加速していこうって思った時に痛みを感じたんです。

 

 加速したら間違いなく競争人生にかかわってくると思ったので。

 

 トップスピードになる前だったんで、スピード落とすこと出来ましたよ。

 

 後ろに誰もいないってこともありましたがね」

 

 そう俺が答えていくと、遠くから救急車の音が聞こえてきた。

 

「…ハンター、一度病院で程度見てもらえ。

 

 まずは状態を確認することが先決だ」

 

「了解しました」

 

「シービー、お前はしっかりウイニングライブ終了させて来い。

 

 それがこのレース勝ったお前がすべき仕事だ」

 

「おっけーだよ」

 

 トレーナーは俺とシービーにそう話していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、俺は病院へ運ばれて検査を受けた。

 

 診断結果は左足首関節外果損傷。

 

 …どうやら今までのレースとトレーニングの中で骨にヒビが入っていたみたいである。

 

 だが、まだ軽い方ではあった。

 

 ホント、トップスピードで走ってないときでよかった。

 

 骨折とかの大けがなら競争人生に大きく影響を与えてしまう。

 

 とりあえずはその診断結果とギプスをつけて俺は東京へと帰った。

 

 …そして。

 

「…どうっすか?」

 

 俺はシンボリ家の屋敷でシンボリ家の担当医の方に負傷箇所を見てもらっていた。

 

 俺とルナ、そしてシリウスは小さいころからこの人にずっと診てもらっている。

 

「…ちゃんと、話してたことはしてたみたいで良かった。

 

 この程度で済んだのは、カサマツに行ってからも君がしっかりケアしてたからだよ。

 

 これならギプスが外れるのは4・5週間ぐらいじゃないかな」

 

「…ってことは」

 

 俺がそうつぶやくと、担当医さんは「うん」と続けてくる。

 

「宝塚にはギリギリ間に合うと思うけど、天皇賞春は諦めてもらうしかないね」

 

 …やっぱりか。覚悟はしていたが…。

 

 俺は屋敷の天井を仰いで、後ろにいるルナに向けて話す。

 

「…だそうだ、ルナ。

 

 対決は宝塚まで持ち越しだな」

 

 ルナは「そうか…」とつぶやき、改めて話していく。

 

「…ハンターは宝塚には間に合うんですね?」

 

「本当に順調に行けば…だけどね。

 

 ただ治ったとしてもリハビリの期間は読めない。

 

 多分間に合うだろうけど…」

 

 担当医さんはそう話してくる。

 

 俺は大きく息を吐く。

 

 そしてルナは俺に話してくる。

 

「…ハンター。

 

 今は怪我を治すことに集中してくれ。

 

 会長も『今は生徒会の仕事は気にせず、ゆっくり休め』と話していたよ。

 

 宝塚記念で万全の状態で共に走れることを待っているよ」

 

「僕もできる限りのサポートをさせてもらうよ。

 

 君たちの体のことは僕が一番知ってるからね。

 

 ハンター、君がなるべく早くターフの上に戻れるように全力をつくす。

 

 頑張ろうね?」

 

「…分かりました」

 

 俺は担当医さんにそう言葉を返した。

 

 



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126話

 

 それからしばらくして。

 

「…うん、もう大丈夫そうだね。

 

 走り始めても大丈夫だよ」

 

「分かりました、ここまで付き合ってくれてありがとうございます」

 

 俺は担当医さんにそう話していく。

 

 とりあえず怪我を完治、リハビリで普通に動く程度には戻ってきた。

 

 …宝塚記念に向けて、何とかギリギリ間に合いそうである。

 

「…それと、君に伝えておきたいことがある」

 

「…なんですか?」

 

 担当医さんは改めてそう俺に話してくる。

 

「…君の怪我は、酷使に耐え切れずに発生したと考えられる可能性が非常に高い。

 

 君の末脚は専門外の僕から見ても素晴らしいものだって思うよ。

 

 …ただね、その末脚の使用には君の脚に大幅な負荷がかかってる。

 

 一応他の部位も見てみたけど、結構怪我になりそうなところが多い。

 

 今まで君がしっかりケアを続けてきてたから、ここまで続けてこれたと思ってる」

 

 担当医さんは「改めて」と話してくる。

 

「君たちの担当医として言わせてもらうよ。

 

 君が凱旋門賞を獲りに行くとしたら、宝塚記念で無理をさせることはできない。

 

 

 

 いつもの急な末脚の発動はドクターストップとさせてもらってもいいかな?

 

 

 

「…マジっすか」

 

 俺がそう答えると、担当医さんは「うん」と返答してくる。

 

「怪我明けだからね、万が一にも備えて様子を見たいんだ。

 

 ホントならG2かG3の一戦を挟んて宝塚記念って行かせたいんだけど…。

 

 今のところは宝塚記念、選ばれる予定なんだよね?」

 

「…今のところは、ですけどね」

 

 俺の怪我は対外的に「宝塚には間に合う」と発表されており、怪我明けの俺にも票を入れてくれた人たちが多数いる。

 

 さすがに1番人気…とまではいかないが、このままなら選ばれると思う。

 

「…僕から話せるのは「急加速はやめてほしい」ってことだけ。

 

 いつもよりスピードを徐々に上げていくなら問題はないよ」

 

 担当医さんも色々と考えてくれた上でのこの考えなのだろう。

 

 …確かに俺の最終目標は凱旋門賞の制覇だ。

 

 そのためにもこの宝塚記念で怪我をするわけにはいかない。

 

「…分かりました」

 

 俺は担当医さんにそう返していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ってなわけで、いつもの追い込みはドクターストップで使えなくなりました」

 

 久しぶりの練習で、俺はトレーナーにそう話す。

 

「なるほどな…」

 

 俺の言葉に残念がるのはシービーだ。

 

「残念だなー。

 

 また君との追い込み対決できるかなって思ってたんだけど」

 

「ああ、ちょっとの間辛抱しておいてくれ、シービー」

 

 そんな中、トレーナーは俺に話してくる。

 

「…それで、ハンター。

 

 宝塚でどういう走りをするつもりなんだ?」

 

 俺はそれに答えていく。

 

「それなんですけどね…、エース一ついいか?」

 

「ん、どうした?」

 

 エースがそう返してきた後、俺は彼女に向けてこう話した。

 

 

 

「…逃げのやり方、俺に教えてくれないか?」



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127話

 

「はあ!?

 

 お前が逃げ!?」

 

 俺の言葉にエースはそう返してくる。

 

「…エース、静かにしてくれ。

 

 シービー以外の面子にこの作戦を伝えたくねえんだ」

 

「…あ、ああすまねえ…」

 

 エースはそう返し、それにシービーが続けてくる。

 

「…でも、今まで君がやってきたこととは真逆だよ?

 

 それで私とタメを張れるぐらいになれるの?」

 

 俺はシービーにの言葉に「違うな」と返していく。

 

「『なれる』んじゃねえ、『なる』んだよ俺は。

 

 そうでもしねえと向こうで勝つことはできねえ。

 

 幸い、カサマツで何回か経験はしてるからずぶの素人ではないぜ?」

 

 そう話す俺にトレーナーは話してくる。

 

「逃げならドクターストップはかからないのか?」

 

「ええ。いつもの急加速がダメって話なんで。

 

 一応確認ももらってます」

 

 俺はそうトレーナーに返していく。

 

「…よし、それならお前の判断に任せる。

 

 ただし、違和感があるならすぐに伝えてくれ。

 

 エース、ハンターを頼むぞ」

 

「りょーかい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでだ、ハンター。

 

 お前は逃げについてどれくらい知ってんだ?」

 

 エースは俺にそう聞いてくる。

 

「とにかく自分との闘い…かな。

 

 前のターゲットが0なわけだから、自分を信じてただ走るだけ。

 

 それでいてある程度距離もあるから、最後にトップスピードで走るスタミナも残しておかないといけねえし…」

 

 俺がそう話していくとエースは「ある程度は分かってるみたいだな」と返してくる。

 

「下手にスタミナを残してしまえば、後ろに追いつかれれるリスクは高くなる。

 

 かといってスタミナ気にせずに最初からトップスピードで走ったら最後走れなくなるし。

 

 そのバランスが重要だな」

 

 エースは俺にそう話してくる。

 

「宝塚はファンに選んでもらったウマ娘たちが走るレースだ。

 

 有馬ほどじゃねえが、それに迫ってくるぐらいには盛り上がりを見せる。

 

 …ま、そのあたりのプレッシャーはお前なら大丈夫だと思ってるけどな」

 

 エースはそう話して、俺に続けてくる。

 

「…まずは、お前のレース自体への感覚を取り戻すところからだ。

 

 さすがに、1か月近く実践から離れてたら、できるもんもできねえだろうしな」

 

「ああ、ちょっと付き合ってくれよ、エース」

 

 俺は笑みを浮かべながらそうエースに返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言ってエースに付き合ってもらった併走…だったのだが。

 

「…やっぱり、筋肉とかなまっちまってるよな…」

 

「ああ、いくらお前が怪我持ちだとは言え、明らかに落ちてる」

 

 今までほぼ同じペースで走れていた俺とエースだったが、今はそのスピードは大きく劣ってしまっていた。

 

 …今までのように足が動いてくれない。

 

 いくら体が自由に動くようになってもこればっかりはまだ無理だったか。

 

「…とりあえずは、今までのスピードに戻すことが最優先だな」

 

「…ああ。宝塚まであと1か月半ぐらいは残ってる。

 

 気合入れていくとしますかね」

 

 俺はそう話して、改めてエースとの併走に臨んでいった。

 

 



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128話

 

 俺が不在の天皇賞春。

 

 ルナとシービー競り合いの末、ルナが菊花賞以来の4冠目を手にした。

 

 そんなハイレベルな戦いが行われてる京都を横目に、府中のトレセン学園では。

 

「…ようやく、感覚が戻ってきたぜ…!」

 

 俺はひたすらトレセン学園のコースを走っていた。

 

 ちなみに今日はエースやトレーナーは京都に向かっているため不在である。

 

 あれからというもの、ひたすらトレーニングを続けていった俺は、タイム自体は以前と遜色ないレベルに近づいて来た。

 

 あとはレース自体への感覚を取り戻すだけだ。

 

 トレーナー曰く、俺と宝塚記念で勝負しないであろうウマ娘との併走トレーニングなども組んでくれてるみたいである。

 

 …それなら俺はしっかりと走っていくだけだ。

 

「…しゃあっ!」

 

 そう思いながら、俺は再びターフの上を駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、宝塚記念までの日々はあっという間に経過していった。

 

 有馬記念以来の黒いスーツに身を包んだ俺は阪神へとやってきていた。

 

「…ようやく、戻ってこれた」

 

 怪我をしてからおよそ2か月。

 

 急なギアアップ禁止であるドクターストップは未だに外れてはないものの、不安はほぼほぼないところまで来ていた。

 

 この後、俺はフランスへの旅へ出る。

 

 …このレースは俺の日本最終戦。

 

 もう日本の芝の上を駆け抜けるのもこれで最後だ。

 

 …俺は凱旋門賞で全ての力を使い果たすつもりだ。

 

 担当医さんもそれは分かってくれている。

 

 そのためにこのレース、しっかりと調整して来た…のだが。

 

「あいつらとも、戦いたかったな…」

 

 俺はそうつぶやく。

 

 本当なら出走する予定だったルナが練習中の怪我により出走を取り消し。

 

 シービーも天皇賞の後に悪化した怪我の具合が良くなく無期限の休養中。

 

 エースは有馬の後にトゥインクルを引退しドリームトロフィー挑戦への調整中だ。

 

 …正直、あいつらと戦いたかったというのはあるが、凱旋門を目指すうえでこれ以上待っていることはできない。

 

 枠番は1枠1番の超内枠。

 

 逃げをする上でちょうど良い番号に入れた。

 

 …正直、ルナやシービーがいない以上、マークはすべて俺に来る。

 

 ある意味、いつもの追い込みだと躱しに行くことはできないかもしれない。

 

「…ふうっ」

 

 ターフの前の地下道で俺はそう息をつく。

 

「…さすがのお前も、思うことがあるのか?」

 

 俺の耳に聞きなれた声が届いた。

 

 ルナである。

 

「まあな。これで日本で走るのは終わりだしよ。

 

 折角なら、お前らと戦って向こうに行きたかったけどな」

 

 俺はルナの言葉にそう返していく。

 

「…まあ、『急な末脚の発動禁止』って言われてるけど、それ以外の調整は完全に済んでる。

 

 勝ってくるとするよ。

 

 お前ら以外に負けるわけにはいかないんだからよ」

 

「ああ。いくらお前がケガからの復帰戦だとは言え、周りが油断するはずがない。

 

 …そして、何よりお前は我らシンボリ家の一員だ。

 

 負けは許されないぞ?」

 

「もちろんだ。

 

 …行ってくる」

 

 俺はそのままターフの上へと向かっていった。

 

 

 




小説本編とは全く関係ありませんがここで…。










ここまで長かった!我らが阪神タイガース、38年ぶりの日本一!

ホント、ここまで長かったー…!おめでとう、そしてありがとう!

あと、横田…、遂にやったよ…!天国から力をくれてありがとう…!


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129話

 

 …夏の到来を告げる強い日差しが照り付ける阪神レース場。

 

 俺はこの舞台にようやく帰ってこれた。

 

 俺の登場と同時にスタンドからは大きな歓声が響いてくる。

 

 俺はその歓声に応えるようにスタンドに向けて頭を下げる。

 

 そしてその後、俺はトレーナーの元へと駆け寄っていく。

 

「…ハンター、調子はどうだ?」

 

「大丈夫っすよ、とりあえずは心配いらないです。

 

 ここで待っておいてくださいよ」

 

 俺がそう返すと、トレーナーは俺に続けてくる。

 

「…その口叩けるのなら心配はいらなそうだな。

 

 行ってこい!」

 

「了解です!」

 

 トレーナーにそう見送られて、俺はゲートへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ファンファーレが響き渡る中、俺はゲートの中に入っていく。

 

 …ここに来る前、周りのウマ娘からはキツい視線が注がれていた。

 

 正直追い込みはマークされているだろうし、ブロックしに来るウマ娘たちもいるだろう。

 

 …だが、今の俺には関係ない。

 

 俺はパンッと両頬を叩き、ふぅっと大きく息を吐く。

 

 …そして。

 

 

 

 

 

 …ガタンッ!

 

 

 

 

 ゲートが開くと同時にウマ娘たちが一斉にスタートしていく。

 

 そんな中、俺は周りを気にせずに徐々にスピードを上げていく。

 

 俺が先頭に立って走る中、スタンドとほかのウマ娘たちからは驚きの声が上がっている。

 

 正直、本番で俺が仕掛けてくるとは思っていなかっただろう。

 

 バックストレートに入ったときには、俺とほかのウマ娘には10バ身以上の差がついていた。

 

 …というより、やっぱり風が凄い。

 

 いつもはこの辺までほかのウマ娘を盾にして空気抵抗を抑えてスタミナ消費を少なくしていた。

 

 ただ、今回は最初から先頭に立って走ったその分、俺のスタミナ消費量は多い。

 

 とはいえ、宝塚記念の距離は2200。有馬や予定していた春天に比べたらその距離は短い。

 

 今の俺ならスタミナ管理はそこまで必要ない。

 

 そして俺は先頭を維持したまま、第4コーナーへと差し掛かる。

 

 …俺の頭の中に、サンケイ大阪杯の怪我がフラッシュバックしてきた。

 

 あの時も痛みはここに来るまで全くなかった。

 

 …だけど。

 

 

 

 

 

「…俺はもう、こんなとこで立ち止まってるわけにはいかねえんだ!」

 

 

 

 

 

 若干スピードが落ちていた俺は改めてギアを上げて再加速する。

 

 他のウマ娘との差は5~7バ身ぐらいになっていたが、そこからの差は縮まらない。

 

 後ろから俺への鋭い視線が突き刺さってくる中、レースは最終直線に入る。

 

 阪神はここからの直線が短い。

 

 観客の大きな声援を背に、俺は坂を上っていく。

 

 この坂はきついが、長くはない。

 

 後ろのウマ娘たちから聞こえてくる息遣い的には5バ身ぐらいか。

 

 もうここまで来たら大丈夫だろう。

 

 俺は右手を天に突き刺して、そのままゴール板を通過した。



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130話

 

 …俺はスピードを落としてスタンドの前へと向かっていく。

 

 

 

「シャー、オラァ!!」

 

 

 

 そして俺は膝立ちになって思いっきり高らかに叫ぶ。

 

 …復活、そして旅立ちを告げる咆哮である。

 

 立ち上がり、もう一度右手を高く突き上げ、観客からの声にこたえた後俺はトレーナーの元へと向かう。

 

「ふうっ」

 

 トレーナーの前に行った後、俺は大きく息を吐く。

 

「よくやった、ハンター。

 

 怪我した個所はどうだ?」

 

「とりあえずは大丈夫そうっすね。

 

 痛みもあまり感じないので。

 

 これなら全力で凱旋門行けると思います」

 

 俺がそう答えると、トレーナーは安心した表情で返してくる。

 

「その言葉が聞けてなによりだな。

 

 こっからは正直俺ができることはねえ。

 

 向こうでの練習も今最終調整の段階に入ってる。

 

 お前もしっかり準備していってくれ」

 

 俺はそんなトレーナーの言葉に「了解しました」と返答した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …ヨーロッパへの旅立ちの日、空港にて。

 

「…ついにこの日が来たな」

 

 ルナがそう俺に話してくる。

 

「ああ。こっちはお前に任せたよ。

 

 俺が言えたことじゃないが、無理し過ぎるなよ」

 

「ああ、もちろんだとも」

 

 ルナは俺にそう返してくる。

 

「そういや、この前実家帰った時に聞いたんだけどよ。

 

 シリウスもフランスに行ってるって本当か?」

 

 シリウスシンボリ。俺やルナと同じシンボリ家のウマ娘で俺たちの幼馴染だ。

 

 その性格は若干アウトロー気味。

 

 俺もあいつに影響を受けたところがある。

 

 そんなシリウスについてルナは「ああ」と首を縦に振る。

 

「私たちとは違う道を行きたいといってダービーが終わった後、1人でフランスに向かったんだそうだ。

 

 …ハンター、機会があればシリウスの様子も見てきてくれ」

 

「りょーかい。そうさせてもらうよ」

 

 俺がそう答えると、ルナは改めて話してくる。

 

「ハンター。分かっているとは思うが、お前は日本の代表として向こうにいくんだ。

 

 日本のウマ娘の力をしっかり見せつけてきてくれ」

 

「言われなくても分かってるよ。

 

 俺が下手な走りしてしまえば、海外のウマ娘たちから日本のウマ娘全体が舐められちまうからな」

 

「それとだ。

 

 凱旋門賞は日本のウマ娘が獲得することが出来ていないタイトルの一つだ。

 

 …だが、日本のウマ娘で初めてジャパンカップを獲得したお前ならできると信じている。

 

 

 

 勝ってこい。日本でその時を楽しみに待っているよ」

 

 ルナは真剣な目で俺に話してくる。

 

「ああ。待っておいてくれ。

 

 必ず凱旋門賞のトロフィー、持って帰ってくるからよ」

 

 俺はルナにそう返した。

 

 そんな中、俺が乗る便の搭乗案内が聞こえてきた。

 

「…それじゃ、行ってくるよ。

 

 お互い頑張ろうぜ?」

 

「ああ、行ってこい」

 

 俺はルナとそう固い握手を交わして、搭乗口へと向かっていった。





 とりあえず、これでハンターのシニア期春~夏の過去回は終了です。

 この後についてですが…。


 
 正直なところまだ何も決まってません。



 L’Arc編やメインストーリー編などなど、構想はありますが…。

 少なくとも来週中には更新する予定ですのでそれまでお待ちください。


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第16R 「勝利を告げる桜 inフランス」
131話



えー、皆さんお久しぶりです。

ようやくある程度の目途が立ったので書いていこうかな…と。

ある程度構想を描いていた「プロジェクトL’Arc」編、スタートです。


 

 ある日。

 

 俺たち生徒会の4人はいつも通り作業をしていた。

 

 そんな中、誰かが生徒会室の扉を叩いてくる。

 

 仕事をしていたルドルフが「どうぞ」と返すと、入ってきたのは理事長とたずなさん、そして理事長に似た背格好の女性が1人。

 

 それを見て俺たちは進めていた仕事の手を止める。

 

「業務中失礼、今日は君たちに話したいことがあって来させてもらった!」

 

 理事長がそう扇子を開きながら俺たちに話してくる。

 

「理事長、どういう用件でしょうか?

 

 佐岳さんもいるようですが…」

 

 ルナは理事量の言葉を受けてそう話していく。

 

「…ルドルフ、あの人知り合いか?」

 

「ああ。…ハンターがカサマツに行った後に知り合ったから知らないはずだ。

 

 こちら、トレセン学園強化部門の佐岳メイさんだ。

 

 海外のレース…特にフランスで開催されるレースに対して見識が深い」

 

「ルドルフ以外のみんなとは初対面だね。

 

 あたし様は佐岳メイ、これからよろしく!」

 

 ルナ以外の俺たち3人はそれぞれ挨拶していった後佐岳さんは「それじゃ、話させてもらうよ」と話してくる。

 

「…今回、君たちにはあるプロジェクトを手伝ってほしくてね。

 

 目標としてはエルコンドルパサー以来の凱旋門賞制覇だ」

 

 凱旋門賞。

 

 日本のウマ娘としては俺とエルの2人しか獲得できていない。

 

 芝・時差など、さまざまな要因があり日本のウマ娘が獲得することができないタイトルである。

 

「サトノ家の協力もあってVRウマレーターを強化することができてね。

 

 海外のレース場の芝も再現することが出来るようになったんだ」

 

 VRウマレーター、あれは便利だ。

 

 ターフが使えないときも、屋内でしっかり練習することができる。

 

 なおかつ、さまざまなレース場の芝・土を再現しており、今ではトレセン学園の重要な練習施設の一つとなっている。

 

「…それで最近、フランスのトレセン学園との協力協定を結ぶことが出来てね。

 

 向こうと合同でお互いのウマ娘を強化していこうという話で合意したんだ。

 

 そこで…だ」

 

 佐岳さんは改めて俺たちに話してくる。

 

「その中の話で、強化のために日本のウマ娘をフランスに派遣することになってね。

 

 一定の実力を持つウマ娘を現地に派遣することできれば…となったんだ。

 

 それでね」

 

「…依頼!君たちの中から1人、現地に行ってほしいのだ!

 

 もちろん拒否も可能である!」

 

 理事長はそう「依頼!」と書かれた扇子を広げて俺たちにそう話してくる。

 

 …なるほどね。向こうでの調整役が必要ってことか。

 

 そうなれば…だ。

 

「…こういうのはアンタが適任じゃないのか、ハンターさん?」

 

 ブライアンはそう俺に話を振ってくる。

 

「私もそう思います。

 

 フランス語も流暢ですし、向こうのウマ娘と交流もありますし…」

 

 エアグルーヴも俺が行くことに賛同のようである。

 

 そう2人が話す中、椅子に座っているルナが俺に話してくる。

 

「ハンター、凱旋門賞を獲得したことがあるのはお前とエルコンドルパサーだけだ。

 

 …行ってもらえるか?」

 

 …ルナの言葉を聞く前から、俺の答えは一つであった。

 

「ああ、分かってるよ。

 

 これは俺が行くべき案件だ」

 

 俺はそう言った後、2人の前に行って話していく。

 

 「…俺で良ければ、喜んで。

 

 いくつか条件は提示させてもらいますが」

 

「…ん、なんだい?

 

 何か不安な点でもあるのか?

 

 ある程度のことなら調整させてもらうよ」

 

 俺はその言葉を受けて話していく。

 

「ではまず一つ、このプロジェクトへのウマ娘の強制的な参加の禁止です。

 

 海外へのレース対応に集中し過ぎて、日本の芝で全く走れないようになれば本末転倒です。

 

 なにより、凱旋門賞に参加するとなれば菊花賞や天秋に参加することはほぼ不可能。

 

 おそらくしないとは思いますが、クラシック三冠が狙えるウマ娘に強制的に参加させてしまう…、そんなことは避けてください。

 

 自らの意思で日本で獲得できるタイトルを捨てて、向こうで取れるかどうかわからないタイトルを狙いに行く…、それぐらいの覚悟を持ってくれるウマ娘じゃないと、あのタイトルは獲得できないので。

 

 いいですか?」

 

「ああ、分かっているさ。

 

 我々も若き才能を潰したくはない。

 

 君の助言しっかりと活かさせてもらうよ」

 

 佐岳さんはそう返してくる。

 

 俺はそれに続けて「もう一つ」と話していく。

 

「…誰かひとり、ドリームトロフィー所属のウマ娘を一緒に連れて行ってもいいでしょうか?

 

 向こうの雰囲気を実際に肌で味わうことが出来れば、これからのトレセン学園においても強化につながると思うので。

 

 どうしてもコストは増えてしまうと思いますが…」

 

 そんな言葉に「勿論!」と書かれた扇子を広げた理事長が返してくれる。

 

「勿論!日本のウマ娘が強化されていくのであれば、学園としてコストは惜しまない!

 

 積極的に協力してくれるのであれば、何人でも連れて行って構わない!」

 

 …そう言ってもらえるのであれば、俺として心配することはない。

 

「…ありがとうございます。

 

 俺の条件はそれだけです。

 

 この条件がしっかりと守ってくれるのであれば、俺はできる限りのことをさせてもらうので」

 

「ああ、よろしく頼むよ。

 

 君が行ってくれるのであれば、我々として言うことはないよ」

 

 俺と佐岳さんはお互いしっかりと手を握る。

 

「…それで誰を連れていくつもりなんだ?

 

 私なら拒否させてもらうぞ」

 

「ああ、お前がそう話すことは知ってるさ。

 

 生徒会の3人ではないことは確かだ」

 

「それでは誰を…?」

 

 エアグルーヴはそう返してくるが、俺は話していく。

 

「ヒントを提示するなら、『お前ら2人がよく知ってるウマ娘』…かな」。

 

 実績が十分にあるステイヤーってことは確かだよ。

 

 俺はそう話した後、佐岳さんや理事長と一緒にプロジェクトの詳しい内容について話していった。 



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132話

久々のチャント回です。


 理事長や佐岳さんと話した次の週末。

 

 俺はドリームトロフィーリーグの予選が行われる京都レース場へと足を運んでいた。

 

 俺が誘う予定のウマ娘の状態を見るためである。

 

 さすがに怪我持ちのやつを連れていくわけにはいかないし。

 

 …ちなみにだが、理事長と佐岳さんからも「そのウマ娘なら大丈夫」というお墨付きは得ている。

 

 あと、今回俺が見届けるのはスタンドではなく、その上の関係者席。

 

 ルナやブライアンは違う場所でのレースに出場するため、今回は不在。部屋の中にいるのは俺一人である。

 

 レース前のざわめきは未だ衰えを見せない。

 

 ダートで導入されたサポーター・チャントシステムは芝の方でも正式導入された。

 

 だんだんトゥインクルや未デビューのウマ娘のウマ娘たちから、「あの応援をターフの上で受けてみたい」と奮起する声も増えてきた。

 

 導入を決定した俺とファル子としてはうれしい限りである。

 

 そして、スタジアムの放送で出走するウマ娘たちがコールされる。

 

 …俺のお目当てのウマ娘は1枠1番である。

 

「…1枠1番、サクラローレル

 

 そのコールと同時に、地下バ道から『大輪の遅咲き桜』、サクラローレルが顔を見せ、スタンドに向けて頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待ちわびた場所で

 

 

 

真の力を解け

 

 

 

限界超えるその日まで

 

 

 

夢の道繋げろ

 

 

 

ゴーゴーレッツゴー!ローレル!
 

 

 

 

待ちわびた場所で

 

 

 

真の力を解け

 

 

 

限界超えるその日まで

 

 

 

夢の道繋げろ

 

 

 

ゴーゴーレッツゴー!ローレル!
 

 

 

 

 高らかにローレルへの応援歌がリズムよく歌われ、2フレーズ歌った後、改めてコールリーダーの声でもう一つのチャントが歌われていく。

 

 

 

勝利を信じて

 

 

 

俺らは叫ぶ

 

 

 

さあ行け桜の戦士

 

 

 

誇りを胸に

 

 

 

ラララ…

 

 

 

ラララ…

 

 

 

ラララ…

 

 

 

ラララ…

 

 

 

勝利を信じて

 

 

 

俺らは叫ぶ

 

 

 

さあ行け桜の戦士

 

 

 

誇りを胸に

 

 

 

ラララ…

 

 

 

ラララ…

 

 

 

ラララ…

 

 

 

ラララ…

 

 これはヴィクトリー倶楽部出身のウマ娘たちに歌われる曲だ。

 

 チヨノオーも試合前にはこの曲が歌われており、スプリントではあるがバクシンオーにもこの曲が使われている。

 

「…俺の目の前で情けない走り見せないでくれよ、ローレル?」

 

 俺は観客に手を振るローレルに向けてそうつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …試合は難なくローレルが勝ち取った。

 

 クラシック戦線には怪我の影響で出走することがあまり出来なかったが、その同期が三冠を取ったブライアンである。

 

 たまにやっている併走でも、ローレルとブライアンはいいライバル関係を築けており、ぶっきらぼうで孤立しがちなブライアンのいい友人である。

 

 …まあ、そういうわけでアイツの実力は問題ない。

 

 それと、彼女を選んだ理由はフランス出身であり、フランス語がある程度話せるという点だ。

 

 幼少期に日本に来たため、あまりフランスでの記憶はないらしいが、その憧れは強いらしい。

 

 そう言う面でも俺はローレルを連れていきたいと思った理由だ。

 

 …俺は関係者席からローレルのいる地下へとやってきていた。

 

 俺はウイニングライブを控えたローレルの控室へとやってきていた。

 

「…ローレル。

 

 入らしてもらってもいいか?」

 

 俺が扉越しにそう話すと、部屋の中からは「どうぞ~」という声が返ってくる。

 

「…来ていたんですね」

 

「まあな。まずは勝利おめでとう、ローレル」

 

 俺がそう話すと、ローレルは「ありがとうございます」と頭を下げる。

 

「ブライアンちゃんも勝ってるみたいだし、ここで負けるわけにはいかないので」

 

「そうか」

 

 俺はローレルにそう返して、彼女の横に座る。

 

「…それでよ、ローレル。

 

 フランス、来てくれるか?」

 

 実はローレルには理事長たちと話終わった後、すぐに「お前を連れていきたいんだ」と伝えた。

 

 さすがにその日は「今すぐには…」と言われたので「ゆっくり考えたらいい」と話して…、今に至るというわけである。

 

「…そうですね、あの後自分なりにも考えたんですが、ドリームトロフィーのタイトルを取りたいという気持ちもありますし…」

 

 ローレルはそう話して下を向いた後、俺の目をサングラス越しに見つめてくる。

 

「…でも、フランスのさまざまなことを経験できるのであれば、ドリームトロフィーを一度休んだとしても十分におつりがくるかなって。

 

 私の経験がほかのウマ娘や自分の更なる成長につながるのであれば、こちらからも『行きたいです』と大きな声で言わせてください」

 

 …やっぱりそういってくれたか。

 

「ああ、お前ならそうだと思ったよ。

 

 しばらくの間、よろしくな?」

 

「はい!これからよろしくお願いします、ハンターさん!」

 

 ローレルは俺にハキハキとした彼女らしい声で俺に話してきた。





はい、というわけでL’Arc編のハンターの相棒はスタブロ主人公のローレルです。

1人で行くか、それともエルやシリウスといったウマ娘を連れていくことにするか…直前まで悩みました。



…まあ。この章のタイトルである「勝利を告げる桜」から予想していた方も多かったとは思いますが。


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133話

…久々に投稿します。

止まってしまい申し訳ない…。


とりあえず、リアルの方がひと段落ついたので、更新頻度が少しは上がるかと…。


 

 ローレルが俺に伝えてくれた後、正式にローレルが同行することが発表され、俺とローレルはフランスへとやってきた。

 

「…久しぶりだな、フランス」

 

「ですねー、私はあんまり記憶はないですけど、何か懐かしい気分になります」

 

 俺とローレルは空港内で流れてくるキャリーケースを受け取りながら歩いていく。

 

「…ルーヴルの奴からは、空港の外に迎えを寄こしてるってさ。

 

 長居させるわけにもいかねえし、さっさと行くぞ」

 

「はい!」

 

 俺とローレルはキャリーケースを引っ張りながら迎えが待っていると伝えられた場所へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「確か、こっちの方なんだけど…」

 

 ルーヴルから送られてきたメールを確認して、俺とローレルは迎えが来ているという場所へと向かっていった。

 

「…ハンターさん、もしかしてあれじゃないですか…?」

 

 ローレルは俺にそう話した先にいたのは煌びやかなオーラを放ち続け、周りに多くの人々が集まっていた。

 

「…ルーヴルの野郎、『アンタを迎えるにふさわしいウマ娘に行かせるわ』とは言ってたけど、アイツをこのために寄こすのかよ…」

 

 俺は軽く空を見上げて、ふうっと息を吐く。

 

 近づいていくと、相手も俺たちに気付いたようで周りの人たちに「失礼」と言ってこっちに歩いて来た。

 

「…お待ちしておりました、シンボリハンターさん」

 

「ああ、久しぶりだなモンジュー。

 

 お前を俺たちの迎えのためだけに寄こすとか、ルーヴルも大分気合入ってやがるな」

 

 俺にそう話してきたのは欧州最強と呼ばれるウマ娘、モンジュー。

 

 ルーヴルの一番弟子だそうで、俺のこともよく知ってくれている。

 

 こいつは凱旋門賞でエルと、ジャパンカップでスぺとそれぞれ対戦しており、それぞれエルとスぺは勝った。

 

 だが、エルに関して一か八かの大逃げ、スぺに関してはホームアドバンテージがあったというのもあり、正直あれを再現できるかどうかと言われれば正直不明である。

 

「…会長が『ハンターが来るんだから盛大に迎えないと』と息巻いてましてね。

 

 そちらは話されていた付き添いのウマ娘ですか?」

 

「ああ、そうだな。

 

 …ローレル、モンジューだ。

 

 詳しいこと言わなくても、名前は聞いたことはあるだろ?

 

 …で、モンジュー。

 

 こいつはサクラローレル。

 

 小さいころにこっちで過ごした経験があってな。

 

 フランス語もある程度話せるし、今回の研修にちょうどいいと思って連れて来たんだ。」

 

「あ、はい!サクラローレルです、これからよろしくお願いします!」

 

「こちらこそ。モンジューです。フランスへようこそ」

 

 ローレルとモンジューはお互いそう言葉を交わしていく。

 

「…では、参りましょうか、

 

 学園で会長が待ってますので」

 

 俺とローレルはモンジューに連れられて、フランストレセン学園へと向かっていった。



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134話

 

 フランス、トレセン学園生徒会長室。

 

「…久しぶりね、ハンター

 

 そして初めましてね、あなたとは。

 

 生徒会長のルーヴルよ。そこにいるハンター達にはこっぴどくやられたわ。

 

 改めて我々はあなたたち2人を歓迎するわ。

 

 これからしばらくの間よろしくね」

 

 ルーヴルは椅子に座りながら、俺たち2人にそう話していく。

 

「ああ、こっちこそよろしく頼むよ」

 

 俺がそう返すと、ルーヴルは椅子から立ち上がり俺たちに話してくる。

 

「それで、2人に頼んでおいたけど、準備は万全よね?」

 

 …これはルーヴルから「日本のウイニングライブを見せてほしい」という頼みだ。

 

 俺とローレルも「折角なら…」ということで承諾した。

 

「もちろんだよ。曲と後ろで流す映像はお前らのところに送ったはずだ」

 

「ええ、確認済みよ。

 

 あとでVRウマレーターも含めて機材とかの確認を頼めるかしら?」

 

「ああ、分かったよ。

 

 それとだけど、俺は来たことあるからいいけど、このローレルはここに来るのは初めてだ。

 

 案内を頼めるか?」

 

 俺がそう話すと、ルーヴルは「もちろんよ」と返してくる。

 

「モンジュー、サクラローレルを案内してあげて?」

 

「分かりました。…行こうか、ローレル」

 

「…は、はい!」

 

 そう言ってモンジューとローレルは生徒会室を後にしていった。

 

 生徒会長室には俺とルーヴルだけの状態となる。

 

「それじゃ、俺たちも行くとするか」

 

「そうね。後、ハンター。

 

 

 

 …走れる準備はできてる?」

 

 

 

 …やっぱりか。

 

「…またやるのか、ルーヴル?

 

 一応ある程度トレーニングしては来てるし、万が一に備えてシューズとかは持ってきたけどよ…」

 

「前回の日本の芝だと決着つかなかったでしょ?

 

 今回はこっちの芝で勝負を挑むわ。

 

 ダメとは言わせないわよ?」

 

 ルーヴルはそう逃げを許さないという目で俺を見つめてくる。

 

「…分かったよ。

 

 いつやるんだ?それと人数と距離」

 

「明日よ。人数は私とアンタの1対1。距離は凱旋門と同じ2400。

 

 流れとしてはこのレースの後にライブを行う予定ではあるけど、どうかしら?」

 

 …うっわ、なおさら負けられなくなったじゃねえか…。

 

「…アンタなら、こういうハードモードな状況にしたほうがいいかなって思ってね。

 

 好きでしょこういうの?」

 

「…ま、嫌いではない…な」

 

 俺はルーヴルにそう返していく。

 

「…それじゃ、機材の元へ案内するわ。

 

 私もマニュアル見たんだけど、結構難しい日本語とかあって動かし方分からなかったのよね…。

 

 起動とかのセッティングとかは確かしてもらってたはずよ」

 

「りょーかい。そこまでしてもらってるなら俺でもわかる範囲だから大丈夫だと思うよ。

 

 試しに使ってみるか?」

 

「ええ、お願いするわ」

 

 …俺とルーヴルはそう話しながら、機材の元へと歩いて行った。

 



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135話

 

「…これなんだけど、使い方分かる?」

 

 ルーヴルはVRウマレーターの機材を前にそう話してくる。

 

「…ああ、これぐらいなら大丈夫だな」

 

 俺はそう言って操作マニュアルを傍に置いて機材を操作していく。

 

 …今回の研修において、俺の役割はここにいるウマ娘の情報収集と機材や日程の調整である。

 

 日本にいる際にサトノ家の2人から操作方法はある程度教えてもらった。

 

 …ちなみにだが、ローレルの役割はここの授業やトレーニング方法についての情報収集である。

 

 

 

 俺が機材を操作すること数分、ほぼほぼ準備は完了した。

 

 …それと。

 

 

 

 

「じーっ…」

 

 

 

 …うん、何か見られてる。気のせいじゃないよね。

 

 俺の背中からは後ろの壁に隠れて誰かの視線を感じる。

 

「ルーヴル、ちょっといいか?」

 

「…ん、どうかしたの?」

 

 俺はほぼほぼ準備が終わっていたルーヴルに話しかける。

 

「あのさ、あそこにいるやつって…」

 

「…ああ、あの子ね」

 

 ルーヴルはそう話して、「ヴェニュスパーク、こっちにいらっしゃい」とそのウマ娘を呼び寄せる。

 

「あの、会長。この人って…」

 

「ええ、シンボリハンターよ。

 

 …紹介するわハンター。

 

 ヴェニュスパーク、ウチで今一番調子がいいウマ娘…とでも言おうかしら?」

 

「ヴェ、ヴェニュスパーク…です!

 

 これからよろしくお願いする…です!」

 

 ヴェニュスパークはそう話しながら頭を下げる。

 

 …そうか、こいつがヴェニュスパークか。

 

 名前は聞いたことがある。次代のフランスを背負うウマ娘だと。

 

「よろしくな、俺はシンボリハンター。

 

 …日本語話せるみたいだけど、フランス語でも大丈夫だぜ?」

 

「そ、そうなんですね、ではフランス語でお願いしてもいいですか?」

 

 ヴェニュスパークはそう話すが、ルーヴルは「ダメよ」と言い放つ。

 

「…ハンター、このヴェニュスパークは日本のウマ娘に興味があるみたいなの。

 

 いずれは日本に行かせるつもりではあるわ。

 

 折角の機会だし、このハンターと今モンジューが案内をしてるサクラローレルの前ではできる限り日本語で話しなさい」

 ルーヴルの言葉に俺は「大丈夫なのか?」と聞いていく。

 

「…いいのか?」

 

「ええ、最悪あなたたちならフランス語も分かるからね。

 

 日本語の良い練習になるわ」

 

 ルーヴルはそうきっぱりと話してくる。

 

「わ、分かりました!できる限り…日本ゴで話すようにするです!」

 

 …まあぎこちないところはあるが、日本で普通に過ごすなら合格圏内か。

 

 そう思っていると、俺たちの後ろから俺とルーヴルのことを呼ぶ声が聞こえてきた。

 

 …ローレルとモンジューである。

 

「会長、サクラローレルに校内の案内、終了しました」

 

「お疲れ様モンジュー。…サクラローレル、分からないことがあれば遠慮なく聞きなさい」

 

「あ、はい!ありがとうございます!」

 

 ローレルはルーヴルにそう頭を下げる。

 

「どうだった、ローレル。

 

 ここの設備はよ」

 

 俺がそう聞くと、ローレルは「凄かったです!」と返してきた。

 

「日本とは違ったトレーニング器具や施設があったり、日本のものより進んだものがあったり…、これがフランスなんですね…」

 

 ローレルはそう興奮した表情で俺に話してくる。

 

「そうか、それでローレル。

 

 今からVRウマレーダー動かそうと思うんだが、大丈夫か?」

 

 俺がそう聞くとローレルは「はい!」と答えてくれる。

 

「さっきの見学で自分の中のやる気が出てるので!

 

 すぐにでもやらせて下さい!」

 

 ローレルはそう鼻息荒く俺に話してくる。

 

「ローレル、お前は中に入ってルーヴル達を案内してくれるか?

 

 外側の装置は俺が操作するよ。

 

 …それとルーヴルとモンジュー、それにヴェニュスパーク。

 

 お前ら全員この中入ってくれ。

 

 せっかくの機会だ。やっておいた方がいいだろ?」

 

 俺がそう話すとモンジューは「そうですね」と話し、ヴェニュスパークも「お願いします!」と話してくる。

 

 俺は4人全員が入っことを確認してヘッドセットを装着する。

 

「よし、お前ら!

 

 日本が生み出したこのトレーニング方法、しっかりと楽しんでくれよ」

 

 俺はそう話して、電源のボタンを押して、VRウマレーターを起動させた。

 



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