知識を求める少女 (パーノクス)
しおりを挟む

第1話 舞原知恵という少女

 IS学園1年1組。そこには、史上初の男性操縦者である織斑一夏がいるクラスだった。世界最強の兵器、IS。それを動かすことができるのは女性だけだったはずなのだが、なぜか男性である織斑一夏は動かしてしまい、このIS学園にやってきた。女子生徒たちはめったに見ることのない男性であり、世界初の男性操縦者という点で彼に注目しており、1学年殆どの女性が彼に釘付けになっている。そんな中、彼に近づくどころか、見向きもしない一人の女子生徒がいた。舞原知恵。黒髪を腰まで伸ばしており、肌は雪のように白い。右目は赤く、左目は金色のオッドアイである。彼女は本を読んでおり、織斑に興味がなさそうである。近くの女子生徒は、そんな彼女を不思議に思い、質問する。

 

「舞原さん。織斑君のとこに行かないの? すごく人気だし、いまのうちにアピールしとかないと、レースに遅れちゃうよ?」

「興味がない。そんなものより、私はこの本を読んでいたいのだ。この本からは多くのことを学ぶことが出来る」

「織斑君に興味ないの!? 初の男性操縦者で、あんなにかっこいいのに?」

「ないな。奴からはなんの学びも得られなさそうだし、話すだけ時間の無駄だ」

「ふーん。舞原さんって変わってるね。なんか、痛い妄想してる中学生みたい」

「なんとでも言え。それより、織斑にアピールとやらをしなくていいのか?」

「そうだ! こんなとこで話してる場合じゃない! 私も行かないと! 絶対に負けないんだからあ!」

 

 そう言って、女子生徒は織斑の元へ行った。その後も彼女は授業が始まるまで、ずっと本を読んでいるだけだった。

 

 

 

 その後、篠ノ之箒が織斑を連れ出したり、織斑が授業がほとんど分からないと言ったりなどの様々なことがあったが、彼女は、そんな彼のことを気にせずに授業を受けていた。放課後、彼女が寮に帰るために歩いていると、後ろから声をかける者がいた。

 

「舞原。少しいいか?」

 

 彼女が振り向くと、そこには自分たちの担任、織斑千冬がいた。

 

「なんでしょうか? 織斑先生」

「お前に頼みたいことがある。一夏を鍛えてやってくれないか?」

「? 鍛えるとは」

「一夏はここに入学するまで、ISのことを全く知らなかった。そして、お前も知ってると思うが、あいつは入学前の参考書を間違えて捨ててしまい、読んでいないのだ。我が弟ながら、非常に恥ずかしいんだが」

 

 知っていると思われていたが、彼女はそのことを記憶から消しており、全く覚えていなかった。なぜなら、彼女にとってその出来事は、覚えるに値しない事なのだから。

 

「だが、IS学園にいるのに、ISのことを全く知らないというのはまずいし、あいつは世界初の男性操縦者だ。いざというときのためにも、知識をつけなければならない。本当なら私が教えてやりたいが、教師の仕事もあるし、それは難しい。そこで、お前に頼みたいんだ。ISの知識を学ばせるため、あいつの家庭教師をしてほしい! 頼む!」

 

 彼女はそう言って頭を下げた。織斑千冬がこうまでして彼女に頼むのは理由がある。知る人は少ないが、彼女は世界でもトップクラスと言えるほど、ISの知識が豊富なのだ。IS学園にいる教師どころか、世界に名だたるIS研究者のほとんどは、知識面で舞原に勝てるものはいない。だからこそ、彼女は織斑一夏の家庭教師を頼んだのだ。しかし、舞原の返答は。

 

「すいませんが、お断りさせていただきます」

「!? なぜだ! お金が出ないからか? それなら給料を出そう。時給2000円でどうだ?」

「いえ。お金の問題ではありません」

「じゃあ、何が問題だというのだ? 男が苦手なのか?」

 

 

 織斑千冬は、彼女が引き受けてくれるものだと思っていた。IS学園で彼に興味や恋愛心を持つ女子生徒は非常に多く、教師の一部ですら、彼に恋愛心を持つものもいるほどだ。舞原もそのような生徒や教師たちの1人だと思っていた。しかし、舞原は織村一夏に興味など無かった。なぜなら。

 

「彼から学ぶものがありません。彼はそこらへんの学校にいそうな、ごく普通の男子高校生。少し変わった部分もあるようですが、大して学べるものでもありません。そんな人に時間を使うくらいなら、私は本を読んで、新しい知識をつけたい」

 

 彼女が興味を持つのは、自分よりも知識のある人。自分よりも知識のない人に時間を使うというのは、彼女が最も忌み嫌うことだった。だから、彼女は織斑千冬の提案を断った。

 

 

「……そうか。それは失礼した。すまない」

「では。私はこれで」

 

 少し落ち込んでいる織斑千冬を無視し、彼女は寮へと向かう。彼女は善人ではない。困ってる人を、無条件で助けたいとも思わない。彼女が動く理由は知識を得たい。それだけである。それ以外の理由では、絶対に動くことのない。それが舞原知恵という少女である。

 

 彼女が自分の部屋に着いて扉を開けると、そこには先客がいた。

 

「あら。あなたは確か、舞原知恵さんでしたわね」

「……誰でしたっけ?」

「なっ! うそでしょ!? このセシリア・オルコットをご存じないのですか? イギリスの代表候補生にして、入試主席のこの私を!」

「どうでもいいことは脳に入れないタイプですので」

 

 舞原が興味無さそうにそう言うと、セシリアは驚いたような顔をし、きっと睨み付ける。

 

「なっ! ほんと、日本人というのは失礼なものばかりですわね! あの織斑というのもそうでしたし。そもそもわたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものが……」

 

 セシリアは独り言のようにぶつぶつと何かを言い続けていた。舞原は彼女の話に付き合う理由もないと思い、ベッドの上に座って本を読み始める。ちなみに、入試次席は舞原である。次席になった理由は、ISの操作でセシリアと差がついてしまったからだ。最も、彼女にとってはどうでも良いことであり、全く気にしていないが。

 

「……はあ。新しいことを学べると思って入学したが……失敗だったかな」

 

 彼女はそんな愚痴をこぼしながら、本をめくる。彼女がここに入学した理由は、新しいものや斬新なものを学べると感じたからだ。IS学園の生徒というのはぶっ飛んだ人が多いと言われており、彼女はそのぶっ飛んだ人を見て、新しいものを学びたいと思い、入学した。

 しかし、大半の女子生徒は織斑一夏や織斑千冬に熱を上げてるような、今どきの女子という人ばかりであり、セシリア・オルコットのような典型的な女尊男卑の人間もいる。ぶっ飛んだ人などどこにもいなかった。彼女は、早くもここでの生活が嫌になってきていた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 クラス代表決定の会議にて

「それではこの時間は実戦で使用する各種装備の特性について説明する」

 

 翌日。1時間目の授業は織斑千冬が教卓の前に立ち、授業を始める。

 

「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

 

聞きなれない言葉に、何人かの生徒が疑問に思うと、織斑千冬がそれに答えるように言った。

 

「クラス代表者と言うのはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席…まぁ、クラス長だな。ちなみに対抗戦は、入学時点で各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点で大した差は無いが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間は変更は無いからそのつもりで。自薦他薦問わないが、誰かいないか?」

 

ざわざわと教室がざわめくが、舞原は大して興味がなく、早く授業してほしいと思っていた。

 

「はいっ!織斑君が良いと思います!」

 

1人の女子生徒がそう発言すると、それに続くように、何人かの女子生徒が一夏を推薦する。

 

「ちょっと待った!俺はやらないって!」

 

「自薦他薦は問わないと言った。他薦された者に拒否権など無い。選ばれた以上は覚悟しろ」

 

彼はそれを断ろうとするが、その逃げ道をふさぐように、千冬が言い放つ。ほとんどの女子生徒が一夏を推薦していたが。

 

「あ。私は舞原さんが良いと思いまーす」

「!?」

 

自分が推薦されるとは思っていなかった彼女は驚き、手を挙げた。

 

「なんだ。舞原? お前も誰かを推薦するのか?」

「いえ。そうではありません。織斑先生。私はクラス代表などやるつもりはないです。断固拒否します」

「舞原。さっきも言ったが、他薦されたものに拒否権などない。選ばれた以上は覚悟しろ」

「くっ……やはりだめだったか」

 

彼女は苦虫をかみつぶしたような顔をしながら、ぼそっと呟いた。彼女は、織斑千冬のことを良く知っている。彼女の人生に興味を持ち、それを知りたいと思って、徹底的に調べ上げたからだ。織斑千冬は、多少強引にでも物事を進める性格だということを、彼女はよく理解していた。その上、教師と生徒という立場では、どうしても教師の方が強くなる。そのため、食いかかってもあまり意味は無いと思い、渋々引き下がった。

 

「さて。他にはいないのか? いないなら、織斑と舞原の決選投票になるが」

 

千冬がそう言うと、それに待ったをかける者が現れた。

 

「待って下さい!納得いきませんわ!」

 

バンッと机を叩いて立ち上がったのは、イギリス代表候補生、セシリア・オルコットだった。

 

「その様な選出は認められません! 大体、クラス代表が男や一般人の女だなんていい恥さらしですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにその様な屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

一夏はその言い方にカチンと来ていたが、舞原は気にしておらず、自分を代表にしないように頑張ってくれと祈るばかりだった。

 

「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!わたくしはこの様な島国までISの修練来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ありませんわ!」

 

彼女の発言はさらにヒートアップしていく。舞原は他の生徒をちらりと見て、生徒が何を感じているのかを理解した。

 

(セシリアさんの発言に対し、苛ついてる人が何人かいるな。その中でも、織斑一夏さんが一番苛ついてるようだ。ま、気持ちは分かる。彼女の声。とんでもなくうるさいからな。ギャーギャーギャーギャー。まるで聞くに堪えん。もう少し静かに喋ってくれたら助かるんだが)

 

直前に名前が出ていたこともあり、彼女は何とか名前を覚えていた。彼女は何かを我慢するように手をぴくぴくさせていたが、それに気づく者はいなかった。そして、事態はさらに危ない方向へ突き進んでいく。

 

「いいですか? クラス代表には実力があるものがなるべき。そして、それは国にも選ばれた代表候補生であるわたくしですわ! 大体、文化として後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で」

「イギリスだって大してお国自慢はないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」

「なっ…!? あっ、あっ、あなたねえ! わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

「先に言ってきたのはそっちだろ!」

 

セシリアの発言に限界が来た一夏が、彼女に言い返した。そして、舞原の額に青筋が少しだけ浮かび、歯ぎしりする。

 

「決闘ですわ!」

「良いぜ! 四の五のいうより分かりやすい!」

「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間つかい……いえ、奴隷にしますわよ」

「侮るなよ。真剣勝負で手を抜くほど、腐っちゃいないさ」

「そう。なんにせよ、良い機会ですわ。イギリス代表候補生のこのわたしの実力を見せてあげますわ!」

 

その後も、一夏とオルコットは色々話していたが、舞原は全く覚えていなかった。彼女は自分の怒りを抑えるのに必死であり、それどころではなかったからだ。唯一の幸運と言えば、セシリアと一夏の決闘が目立ち、2人の内、どちらがクラス代表になるかに注目したおかげで、舞原がいつの間にか推薦枠から消えていたことくらいだろう。彼女はそれに関しては、素直に感謝していた。

 

 

 

 

 

 

 織斑とセシリアの言い合いが終わった後は、通常通りに授業が再開した。その後も篠ノ之箒が誰の妹かばれたり、織斑一夏に専用機が与えられるなど色々あったが、舞原にとってはどうでも良かった。

 放課後、彼女は図書室に入り、本を読んでいた。静寂が支配する空間。彼女はこの静けさが大好きだった。ちなみに、彼女が嫌いな場所はうるさい場所である。カラオケやボーリング場、遊園地などの娯楽施設は一度も行ったことがない。

 

「ふう。やはり図書館は良いものだ。静かだし、あらゆる分野の知識が大量に置いてある。学ぶのに困らないよ」

 

図書館と言うのは彼女にとって、天国のような場所だった。新しい知識をいくらでも得ることが出来て、静かな世界。彼女にとって、これ以上の楽園は存在しない。今彼女が読んでいるのは、医学に関する本であり、興味深そうに読んでいる。

 

「ふむ。読めば読むほど面白い。やはり、医学というのは素晴らしいものだな。どれだけ学んでも、新しい知識があふれるように湧いてくる。理解しても理解してもまるで追い付かない。なんて素晴らしい学問なんだ。私はこの医学という学問に出会えて、とても幸せだよ」

 

彼女の頬は緩み切っており、本当に幸せそうにしていた。そんな風に本を読んでいると、彼女に近づく者が現れた。

 

「あらあら。とっても面白そうな知識モンスターがいるわね」

 

声のした方を見ると、1人の女子生徒がいた。水色の髪をショートカットにしており、ブレザーのようなものを着ている。扇子を持っており、全体的に余裕を感じさせる態度である。

 

「更識楯無か」

「あら。覚えてるのね。あの舞原知恵に覚えられるなんて、嬉しいことだわ」

「一時調べていたからな。ロシア代表でありながら、日本の暗部に所属する。そのトリッキーな生き様を知りたくて、全力で調べていた。ああ、安心しろ。ハッキングとかしてないから。ちゃんと正当な手段で調べた」

「絶対にそれは無いと思うけど。興味を持ってもらえるというのは、嬉しいことね」

「それで? 一体何の用だ」

「用というほどのものはないわ。にしても、なんだか苛立ってるようだけど、何かあったの?」

「クソガキ2人がうるさく言い争うという地獄のような光景に遭遇した。怒りを抑えるのに必死だったよ」

「あはははは。そのクソガキ2人ってとっても気になるけど、多分覚えてないのでしょうね」

「当たり前だ。あんな奴らを覚えても、何も学べない」

 

彼女は更識と話しながらも、本から目を離すことをやめない。彼女にとって優先すべきなのは知識を得ることであり、更識との会話ではないからだ。

 

「にしても、本から目を離さないのね。私との会話はどうでも良い感じ?」

「今私にとって優先すべきなのは、この医学の知識を得ることだ。お前との会話ではない。それに、お前に関する知識は既に蓄えている。新しい知識を得られそうにもないしな」

「あらん。それは悲しいことね」

「話は終わりか? なら離れてくれ。知識を得ることの邪魔になる」

「あらあら。性格にめちゃくちゃ難ありってのは、事実みたいね。社会でやっていけるか不安だわ~」

 

彼女はそう言ってくすくすと笑いながら、舞原から離れて行った。彼女が改めて本を読むことを再開し、知識を得ようとする。

 

「ふむ。膵臓の病気はこのようになっているのか。治療法はこうなっていて……いやはや。勉強になるな」

 

そうしていると、電話に着信が入る。本を戻し、図書室を出て電話しても問題なさそうな場所に行き、着信に応じる。

 

「もしもし」

『ハロー。元気にしてるかしら?』

「何の用だ? 手短に頼む」

『相変わらず可愛げないわね。ロランツィーネ様からの伝言よ。近いうちに、IS学園に来るってさ』

「……ほお。それは良いことを聞いた」

『日時はまた追って連絡するわ』

 

彼女はそう言って通話を切った。

 

「ふふふふふ。良いことを聞いた。彼女は素晴らしい知識の宝庫だからな。会うのが楽しみだ」

 

彼女はそう言って、図書室に戻った。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 白式との出会い

クラス代表戦当日。舞原はクラス代表を決める戦いなどに興味は無かったが、クラス全員が見なければならなかったため、渋々参加した。戦いが始まるまで、彼女は図書館で借りた本を読んでいた。

 

(正直、この戦いはどうでも良い。どちらがクラス代表になろうが、なんの学びにもならないからな)

 

彼女は死んだ魚のような目で、セシリアの機体を見た。彼女の乗っている機体、ブルー・ティアーズについては既に調べており、どういう機体なのかを把握している。舞原が新しく学べそうなものは無かった。

 

(男の方の専用機。製作したのは恐らく、倉持技研だろうな。日本の中では、一番IS研究が進んでる場所だし。あそこで一番頭が良いのはたしか、篝火ヒカルノだったか。あの女の技術レベルは世界と比べても高い方だが……あまり期待できないな。織斑一夏の専用機を造る時間は、ほとんど無かったはずだ。発見から彼の手に渡るまでの期間は、およそ2ヶ月ちょっと。その間に専用機を造るには、元から出来ている物を彼用に改造するしかない。0から造り上げるのは不可能だ。倉持技研が完成させた、あるいは完成間近だった第3世代は全て把握している。私の知らないものが飛び出すことは無いだろうな。あーあ。今すぐ帰って医学の本を読みたい)

 

しかし、その考えはすぐに払拭されることになる。織斑一夏が装着したIS、白式がピットを出た時、彼女はその姿に、一瞬で心を奪われた。他の女子生徒も、彼のかっこよさに心を奪われており、恋心を抱いている生徒もいる。しかし、舞原が心を奪われた理由は、かっこいいからではない。そのISに自分の知らない技術や知識が使われていると肌で感じたからだ。

 

(なんだ。あのISは。私の知らない技術が多数。しかも、スペックもかなり高い)

 

「……素晴らしい」

 

彼女はそのISに感嘆としていた。自分の知らない技術を宿したISが目の前にいる。それが彼女にとって、とても嬉しいことだった。セシリアのIS、ブルー・ティアーズと一夏の白式が激戦を繰り広げる。彼女は目をキラキラとさせながら、その戦いを眺めていた。

 

(なるほど。織斑一夏の才能も凄まじいが、あのISも素晴らしいな。まだ初期設定だけだというのに、あれだけの機体性能。一体どんな技術が使われているんだ。ああ。気になって仕方ない! 調べたい。調べたい調べたい調べたい調べたい調べたい調べたい調べたい調べたい調べたい調べたい調べたい調べたい調べたい調べたい調べたい調べたい!)

 

病気にも思えるほど、彼女は白式を調べ、新しいことを学びたいと思っていた。そして、戦いは最終局面へと移る。白式が初期化(フォーマット)最適化(フィッティング)を終え、真の姿を現した。

 

(すごい。あれが白式の真の姿。なんて美しいんだ。それに、あの武器も)

 

白式の持つ近接特化ブレード、雪片弐型。その形に、彼女は魅了されていた。そして、白式がビットを薙ぎ払い、ブルー・ティアーズに近づいた瞬間、雪片の刀身が光を帯びる。

 

(あれはまさか……零落白夜!? なぜ、奴が単一仕様能力(ワン・オフ・アビリティー)を。しかもあれは、織斑千冬のものだったはず)

 

彼女は、あまりの衝撃の展開に理解が追い付いていなかった。単一仕様能力(ワン・オフ・アビリティー)とは、ISが操縦者と最高状態の相性になったときに発現する固有能力。滅多に発現しないものであり、発現する時も、通常は第二形態から発現するのだ。なのに、織斑一夏は第二形態に移行してない状態で、しかも、初めてISに乗った状態で、この力を発現させたのだ。それに加え、織斑千冬と同じ力を発現させたことも、彼女を驚かせた。本来なら、同じ単一仕様能力(ワン・オフ・アビリティー)が発現するなどありえないからだ。

 

(どういう仕組みだ。ISに謎があることは分かり切っているが、その謎が分からない。ああ。調べたい調べたい調べたい調べたい調べたい調べたい調べたい調べたい調べたい調べたい調べたい!)

 

 

彼女は決意した。白式がどのように作られたのか。なぜ織斑一夏が、こんなにも早い段階で単一仕様能力(ワン・オフ・アビリティー)に目覚めたのか。なぜ、織斑千冬と同じ力に目覚めたのか。これらの謎を、彼女は徹底的に調べ、新しい知識を得ることを。

 

(織斑一夏……いや、白式! 君の全てを見せてくれ。私は、君のことを知りたくて知りたくて知りたくてたまらないのだ!)

 

獣のようなぎらついた目をし、よだれを垂らしながら、彼女は白式を見ていた。周りの女子生徒は、そんな彼女にドン引きしており。かなり距離を置いていた。

 

 

 

 

 

クラス代表戦が終わった夜。彼女は談話室のパソコンを抱えながらソファーに寝転がり、白式についての考察をしていた。

 

(あの白式は、私の知らない技術を大量に使っていた。あの機体は恐らく、相当高いスペックを有している。最も、かなりピーキーな機体でもあるようだし、織斑一夏が使いこなすのは難しいだろうな)

 

彼女はそう思いながら、ソファーから起き上がり、閉じていたパソコンを開く。そこには、彼女が興味を持ったIS研究者がずらりと並んでいた。そして、彼女は一つのファイルをクリックし、あるページを開いた。そこには、倉持技研に関する詳細なデータが載っていた。

 

「完全に記憶から消していたよ。白式は開発が頓挫し、凍結されていた機体だったんだよね。んで、近いうちに遺棄される予定だった。しかし、そんな失敗作が専用機として、織斑一夏の元へ送られた。大幅なパワーアップを遂げ、いくつかあった課題点をクリアして」

 

彼女は、再び研究者が載っていたページを開き、篝火ヒカルノを見る。

 

「彼女にこれをやるのは不可能だな。可能だったなら、もっと早くにしていただろうし。それに、あれだけの技術を、彼女が生み出せるとは思えない。となると、彼女を上回る研究者か。結構数はいるんだよね。しかしその中で、織斑千冬と同じ単一仕様能力(ワン・オフ・アビリティー)を搭載するという、ぶっ飛んだことが出来る人間は、1人しかいない」

 

彼女はさらにページをスクロールし、ある研究者が目に入ったところで止めた。その研究者の名は。

 

「篠ノ之束。彼女ならあり得るな。持ちゆる技術や知識は未知数であり、ISの生みの親でもある。彼女なら、私が知らない技術を沢山生み出してることにも納得できるし、織斑千冬と同じ単一仕様能力(ワン・オフ・アビリティー)を搭載するという、ぶっ飛んだことも可能だろう。まずは、彼女とコンタクトを取ってみることにしよう。どうすれば連絡を取れるかな~。世界が全力で探しても見つからないらしいし。うむむむむむむむ。どうしたものか。いくつか強力なコネはあるけど、それも意味を為さないだろうしなあ。参ったなあ。なにか良い方法はないかな〜」

 

彼女はパソコンを閉じ、またもやソファーの上に寝転がる。

 

「篠ノ之。篠ノ之。篠ノ之。篠ノ之……あれ? そう言えば、同じ名前の生徒がどこかにいたような……誰だっけ?」

 

彼女がゴロゴロとしながら考えていると、話し声が聞こえて来た。

 

「ねえ。箒さんって、織斑君と一緒の部屋なんだよね?」

「そうそう。羨ましいよねえ。抜け駆けし放題だもん」

「良いなあ。私も織斑君と一緒が良かった」

「大丈夫大丈夫。箒さんって、かなり奥手みたいだし、まだまだチャンスはあるって!」

 

その会話を聞いた瞬間、舞原の脳に電流が走った。

 

「思い出したあああああああああ! 篠ノ之箒だあああああああああああ!」

 

その声は談話室全体に広がり、またもやドン引きされる原因になったのだが、彼女は気にしなかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 白式を調べるために

すいません。ガールズラブ要素を出すのは、もう少し後になります。

それと、今回の話はメンタルにくる可能性があるので注意してください


代表戦が終わった翌日。朝のSHRで、織斑一夏がクラス代表になることが決まった。一夏はその結果に抗議を示し、なぜセシリアが代表にならないのかを尋ねた。セシリアは自らクラス代表を辞したらしく、一夏にクラス代表になってもらうのが相応しいと判断したらしい。勿論、舞原知恵にとってはどうでもいいことだった。彼女が興味を持ったのは、あくまで白式であり、織斑一夏ではないからだ。

 

(篠ノ之束とコンタクトを取るために使えそうなのは、篠ノ之箒だ。彼女は篠ノ之束の妹。連絡先を持っている可能性は高い。そこから篠ノ之束とコンタクトを取る。これがファーストプラン。

 だが持っていなかった場合、あるいは断られた場合の対処法も考えなければならない。そのためのセカンドプランに利用するのは、織斑一夏だ。一番白式と接している彼に近づけば、白式の秘密が分かるかもしれない。

 篠ノ之箒とは後日コンタクトを取るとして、まずは織斑一夏に接触しよう。どちらのプランを進めるにせよ、彼と親しくなることは、それなりのメリットになるはずだ。そのためにやるべきことは)

 

 

 

休み時間。彼女は織斑千冬に話しかけた。

 

「織斑先生。少しよろしいでしょうか?」

「舞原か。どうした? 授業で分からないことでもあったのか?」

「そうではありません。例の家庭教師の件。引き受けようと思いまして!」

「なっ!? 良いのか? いくら払えば良いんだ?」

「お金はいりません。私、クラス代表戦での織斑君を見て感動したんです。入試首席であり、クラス代表であるセシリア・オルコットにあそこまで互角に戦えたこと。興味ないとか言った自分を殴りたくなるくらい、素晴らしいものでした! あれだけの才能の塊を指導してみたいと思い、引き受けることにしたんです!」

「そうか! それは嬉しいことだな! 分かった。一夏には私から言っといてやろう。よろしく頼むぞ」

 

彼女は、舞原の肩をとんとんと叩きながら、笑顔で去っていった。彼女はとても嬉しそうであり、周りの目が無ければ、スキップしそうな雰囲気があった。

 

(高い演技力というのは、色々と役に立つな。媚を売ったり、やりたいことを通せるようにしたりと。便利なものだよ。演技練習していて良かった)

 

彼女はそう思いながら、メモ帳に何かを書き記していった。

 

 

 

 

放課後。舞原は第一アリーナにて、織斑一夏と出会った。そこにはセシリアと箒がおり、大変不満そうな顔をしていたが、彼女は気にしなかった。

 

「来てくれたか。初めまして。織斑一夏。私は舞原知恵。君の指導をする者だ」

「あ……ああ。よろしく頼む」

「一夏さん! こんなどこの馬の骨か分からない女の指導より、私のほうが上手にできますわ!」

「セシリア。そんなこと言うなよ。千冬姉が直々に頼んだ人だぞ。きっとすごい人だって」

「ふん。こんな女のどこが良いのやら。見た感じ、普通の生徒にしか見えませんけどね」

 

セシリアは新しい女が現れたことの焦りか、自分が指導をしようとしている。篠ノ之箒は言葉には出さないが、舞原のことを強く睨んでいた。しかしそんなことは、彼女にとってはどうでもいいことだ。

 

「じゃ、ISの指導を始めようか。まずはISを展開してくれたまえ」

「分かった」

 

そう言うと、彼は白式を展開させた。彼女はその姿にまたもやうっとり来そうになったが、なんとか抑えた。

 

「では、自転車並の速度で動きながら、このアリーナを一周してくれたまえ」

「え? 自転車並の速度で? 可能な限り速くとかじゃなく?」

「自転車並だ。速くすることは大変でも、遅くすることなら楽だろう」

 

彼は、なぜそんなことをするのか分からなかったが、彼女の指示に従い、自転車並の速度でアリーナを回る。

 

「おい。舞原。あんな遅い速度で飛ぶことになんの意味がある? あんなの実戦では使えないぞ」

「まあまあ。見ていてくれよ。オルコットさん。ISを展開してくれないか?」

「私もやるんですの?」

「本当なら私がやりたいけど、君の方が良さそうだからね。頼むよ」

「……わかりましたわ」

 

セシリアは仕方なく指示に従い、ISを展開した。

 

「織斑くーーん! 今からセシリアが動き回るから、アリーナを回りながら、それを見ていてくれー!」

「わ、分かったーー!」

「では、オルコットさん。適当にあちこちを飛び回ってくれ。ただし、攻撃は絶対しないように」

「はいはい。分かりましたわ〜」

 

彼女は理解出来なかったが、一夏が強くなるためだと割り切り、あちこちを飛び回る。一夏は自転車並の速度で動いていたため、それを見ることに集中することができた。

 

「舞原。本当にこんなのに意味があるのか?」

「あるよ。まあ見ていてくれたまえ」

 

織斑一夏がアリーナを一周し終えると、次は少し速い速度でアリーナを回るように言われた。その際。

 

「オルコットさん。織斑一夏に機体ごと突っ込んでくれ」

「はあ!? そんなのになんの意味がありますの?」

「意味があるんだよ。頼む」

「ぬうううう……分かりましたわ」

 

彼女は渋々従い、前や後ろ。時には横から、彼に機体ごと突っ込んでいく。彼はそれを回避しながら、先程よりも少し速い速度で、アリーナを一周し終えた。次も、さっきより少し速い速度でアリーナを一周する。これを20回も繰り返した頃には、辺りは真っ暗になり、ISも本来の速度を出せるようになっていった。 

 

「いやー。ここまでお疲れ様。よく頑張ったね」

「いや。そこまで疲れてはないんだけど」

「私は疲れましたわ。こんなに長いこと動き回ったのは、久しぶりです」

 

セシリアは少しヘトヘトになってるが、そこは代表候補性。まだまだ動けるようだった。

 

「ではこれで最後だ。織斑君。君が出せる最大速度でアリーナを回ってくれ。オルコットさんは、ライフルやビットを使ってそれを妨害すること」

「なっ。嘘だろ!?」

「そんなことしますの!?」

「やって見てくれよ。きっと。君の攻撃は当たらないから」

 

2人は彼女の言葉を疑いながらも、織斑千冬が頼むほどの人ということもあって、指示通りにした。一夏は出せる限りの速度で動き、セシリアはそんな彼をライフルやビットで攻撃する。しかし。

 

「!? これは」

「……どういうことだ」

 

セシリアと箒は困惑するしかなかった。なぜなら、ブルー・ティアーズのライフルやビットの攻撃を、一夏は完璧に避けていきながら、アリーナを回っていくからだ。

 

「なぜだ。セシリアのあれだけの攻撃をなぜ?」

「簡単だ。彼の目が、慣れてきたからさ」

「慣れてきた?」

「白式は速度と攻撃力に特化した機体だ。あの機体を扱いこなすためには、それに追いつくための目が必要になる。だから、その目を作るための特訓をしたのさ」

 

最初に自転車並の速度で動くように言ったのは、それが慣れているからだ。その速度で動いてれば、周りのことに目を配るのは簡単なことだ。そこから徐々にスピードを上げていくことで、目を慣らしていき、白式を上手く扱えるようになるために。箒は、彼女の指導に驚くことしか出来なかった。

 

(この女。一体何者なのだ。この短時間で、一夏をここまで成長させるなんて)

 

箒が驚いてる中、舞原は織斑一夏をじっくりと見ていた。

 

(にしても、あの男の才能はとんでもないな。さすがは世界最強の弟といったところか。そんじょそこらの雑魚共とは次元が違う)

 

 

 

 

(すごい。セシリアの攻撃を、簡単に避ける事ができる!)

 

織斑一夏は、自身の成長にただただ驚いていた。今までの自分なら、この速度についていくのが精一杯で、攻撃を見る余裕などなかった。しかし、今は攻撃を見る余裕が十分にある。そこからどう避ければいいかを考える余裕まであり、セシリアの攻撃を避けるのは、そう難しくなかった。

 

(あの人すごいな。こんな指導を思いつくなんて。一体どんな人なんだ。少なくとも、ただの生徒じゃないだろ)

 

彼はそう思いながら、アリーナを一周していった。

 

 

 

「おめでとう。織斑君。見事、一発も被弾せずにアリーナを一周出来たね」

「いや。舞原さんのおかげだよ。君の指導のおかげで、あんなに強くなることができた」

「ふふふ。喜んでくれたなら良かった。あ、これを渡しておこう」

 

そう言って、舞原は一冊のメモ帳を渡した。

 

「これは?」

「今回の君を見て、私が見つけた欠点とそれを補うためのアドバイス。そして、白式の特徴と扱い方だ。君の役に立つと思うよ」

「ありがとう! ぜひ使わせてもらうよ!」

 

短時間で、一夏と舞原の距離は非常に近くなっていった。そして、それを快く思わない者が2名いる。

 

「むううううう! 何なんですのあの距離感は! 大変不健全ですわ! 今すぐにでも離れていただかないと!」

 

(一夏とあんなに距離が近くなるなんて……羨ましい!)

 

 

こうして、セシリアと箒から嫉妬されながら、彼女は織斑からの信頼を得て行った。

 

(思ったより簡単に進むな。こいつが単純な男で助かったよ)

 

その後は、クラス代表となった織斑一夏の歓迎パーティーがあったが、彼女はそれを断った。うるさいのが嫌いだし、別の予定があったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

織斑一夏の指導を終えた後、彼女はIS学園を抜け、夜の街を歩いていた。レイブンホテルと呼ばれる場所に行き、そこで受付に自分の名前を告げると、部屋の番号を伝えられる。がはその部屋へ行き、何回かノックした。

 

「入っていいよ」

 

彼女が扉を開けると、そこには初老の男性がいた。服を着ておらず、タバコを吸っている。彼は、アメリカの大手IS企業ガンドラスの社長、ビルダース・アーキンだった。ガンドラスは世界でも有名な企業であり、政府にも強い発言力を持っている。ガンドラスがいなくなれば、アメリカのIS研究は進まなくなると言われる程に、強大な力を持った企業なのだ。

 

「グフフフフフフ。相変わらず良い体をしているねえ。わし好みに育っておる」

「うん! 私ね。ビルダーズさんがいないと生きられない体になっちゃったの♪」

 

彼女は甘い声でそう言い、ビルダーズの腕に抱きつく。

 

「ねえねえ。ビルダーズさん。はやくしよーよー♪ 私、もう待ち切れないの♪ ビルダーズさんのが欲しくて欲しくてたまらないの♪」

「おおそうか! なら、たっぷりと愛してやろう! 覚悟しておけよ!」

 

彼は獣のように彼女に食いつき、その服を強引に脱がした。2人の肉体関係は中学2年生の頃から始まっており、ビルダーズは、舞原をとても気に入っている。

 

(こう言って体を差し出せば、何でも言うことを聞いてくれる。扱いが簡単で助かるよ。おかげで学び放題だ)

 

彼女はそう思いながら嬉しそうなふりをし、その男に身を委ねた。彼女は、別に彼のことは好きではない。そもそも彼女は、異性を恋愛的な意味で好きになるという感覚が分からない。それでも、彼とこうした関係を持っているのは理由があった。

 

 

 

 

「なるほど。銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)か。アメリカとイスラエルも面白いものを考える」

 

行為が終わった後、男はいびきを立てながらベッドで眠り、舞原はUSBを使い、男のパソコンからデータを抜き取っていた。ガンドラスの社長である男のパソコンを使うなど、普通は出来ないことだが、彼女は長年の関係を結ぶことで、それを可能にした。

 

(今では行為さえ終われば、データは抜き取り放題。非常に助かるよ。あいつがロリコンで良かった)

 

彼女はそう思ったが、それは簡単なことでは無い。好きでもない人に体を許し、やりたい放題されるなど、普通は出来ないことだからだ。しかし、彼女にとっては、これが何でもない事だった。なぜなら、自分の知りたいことを好きなだけ知り、学ぶことが出来るのだから。データを抜き取っていると、彼女は腹部に違和感を感じた。

 

(多分だが、また妊娠したな。やはり危険日かどうかわからない日にするものではないな。中絶するのも金がかかるし……ま、良いか。知識を得るためだ。お金や体の出し惜しみなどしてられない。利用できるものは全部利用する)

 

彼女はそう考えて、データの抜き取りを再開した。その最中、耳に着けてるイヤリングが少しだけ輝いたが、彼女はそれを無視した。抜き取りを終えた後は服を着て、その部屋を後にする。

 

(いつの間にか深夜だな。今から寮に戻ったら怒られるだろうし。今夜は近くのネカフェで過ごすか。アーリーカフェなら、医学の本も読めるし、新しいことを学べるチャンスだ。にしても、最近は学ぶことが多すぎて体がしんどいな。だが、それが心地良い。ゆったり過ごすのも良いが、こうして知識を得るため、あちこち奔走するのも、私好みだ)

 

彼女はそう考え、アーリーカフェに向かった。

 

 

舞原知恵は、自分の知らないことを知るためなら、何だってする。犯罪行為はもちろん、時には自分の体を利用することも。それだけのことをなぜやるのか。知識が欲しいからだ。自分の知らない知識を知り、蓄えたい。たったそれだけのために、彼女は何だってする。その異常さこそが、欲に憑りつかれた怪物と呼ばれる理由。彼女は、知識欲という欲望に憑りつかれた怪物なのだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 説教の連続 嵐の予感

UA1000突破! ありがとうございます!


      


アーリーカフェの一室を借りた舞原は、椅子の上に座り、睡眠を取った。翌日、彼女が目覚めると、妙な気持ち悪さを感じ、吐きそうになったので、口元をおさえる。

 

「ちっ……この感じだと、間違いなく妊娠してるな。めんどくさい。中絶手術は早めにしておくか」

 

彼女がだるそうに体を伸ばすと、携帯の着信音が鳴り始めた。それに応じると。

 

「このバカ女あああああああああ!!!」

 

とんでもない怒号が彼女の耳を襲い、思わず離してしまった。

 

「いきなりなんなんだ。うるさいなあ」

「馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿! 朴念仁! ビッチ! カス! 女たらし! 鈍感! カス! 馬鹿! ボケ! 色白! 巨乳! 馬鹿! 大馬鹿女ああああ!」

 

耳を離していてもうるさい声であり、彼女は鬱陶しく思った。

 

「……はあ。一体何の用だ。ナターシャ・ファイルス」

 

電話の相手はナターシャ・ファイルス。舞原が中学生の頃にアメリカに行った際、知り合った女性である。彼女の親は転勤族というものであり、IS学園に入学するまでは、世界中のあちこちを転々としていた。アメリカもその内の1つである。

 

(彼女の人生を調べるために近づいたら、なぜか付きまとわれるようになってしまった。日本に帰った後も、一週間に4、5回ぐらいは連絡くるし、正直鬱陶しい。知識を得ることの邪魔になるからやめてほしい)

 

舞原はそう思いながら、彼女との電話を続ける。ナターシャは怒り心頭と言った感じで、怒鳴り散らすように話す。

 

「知恵ちゃん! あなたは一体なにをしてるの!」

「? 何の話だ?」

「とぼけないでちょうだい! 私知ってるのよ! またあのクソジジイに抱かれに行ったんでしょ! 自分の身は大事にしなさいっていつも言ってるじゃない!」

 

(どっから情報を得てきたんだ。誰にも話してないはずだが)

 

ナターシャは、舞原が誰にも言っていない情報を簡単に得てしまうのだ。舞原が犯罪行為や体を売る行為をしたときは、必ずと言っていいほどに連絡が来て、このように怒鳴り散らしている。

 

「で? それが何だと言うんだ」

「何だと言うんだ、じゃないわよ! いつも言ってるでしょ! もっと自分の体を大切にしなさいって。あなた、このままじゃ本当に破滅するのよ? それでも良いの?」

「知識を得るための過程で破滅するなら、本望だ」

「あなたが本望でも私は嫌なの! もっと自分の体を大切にしなさい! というか、いい加減にグレーどころかブラックゾーンなことをやめなさい! 知識を得たいのなら本で得なさい! 犯罪行為は、私が許さないわよ!」

「本だけでは得られない知識は大量にある。それに、貴様が許そうと許すまいとどうでも良い。くだらないことで電話をかけてくるな」

「くだらなくないわよ! 私は貴方が危ないことをするのをやめてほしくてこうしてるのよ! 貴方、自分がどれだけやばいことをしてるかわかってるの? お願いだからやめてって何回も何回も言ってるでしょ!」

「やめろと言われてやめる馬鹿はない。それに、私がどこで何をしようと、私の勝手だろ。こっちも何回も何回も言うが、いちいち干渉してくるな」

「ぐぬぬぬぬぬ! 子供みたいな言い分を並べてくるわね。ほっんと可愛くない! とにかく、これからブラックな行為をするのは禁止! 体を売るのも禁止よ!」

「電話をするたびに言ってる気がするな。いつも言ってるだろ。貴様が私の行動を制限する権利などない。どうしても止めたいなら、力づくで止めてみせろ」

 

舞原はそう言って電話を切った。

 

(いつも思うことだが、本当にめんどくさい女だ。何のためにここまでするのやら。相変わらず理解不能だ。ま、言葉で言われるだけマシだがな。ほんとうにこっちに来られたら、あまりにもめんどくさすぎる。と言っても、そんなことはありえないだろうが。彼女はアメリカの軍人だ。そう簡単に国を離れることなど出来ないだろう)

 

彼女はそう思いながら、カフェを後にし、IS学園へと向かった。

 

 

 

 

 

「それで? 学園に黙って、こんな時間まで何をしていた?」

 

(そう言えば、無断の外泊は禁止だったな。私としたことがうっかりしていた)

 

舞原の前には、激怒した織斑千冬がいる。下手なことを言えば命が無いと思えるほどだ。

 

「あの……すいません。でも、どうしても行かないといけないとこがあって」

「ほお。それは、学園の規則を破ってまで行かないといけないとこか?」

「……はい。私、この人に行けって脅されていて」

 

そう言って舞原が見せたのは、ビルダーズのメールだった。文面は

 

わしのところに来てくれたまえ。今夜もたっぷり可愛がってやる

 

「……なんだ。これは」

「私。この人に襲われて……それから写真を撮られて……言う通りにしないと、ばらまくって」

 

彼女は目から涙を流しながら、怯えた様にそう言った。

 

「……分かった。この件は学園側で蹴りを着けよう。もう何も話さなくていい」

 

そう言って千冬は、彼女を抱きしめる。

 

「もう大丈夫だ。後は、私たちがなんとかする。お前が苦しむことはない」

「本当……ですか?」

「ああ。もう何も心配することはない」

「ありがとうございます。私……ずっと……ぐすっ」

「気付けなくてすまない。いまはいくらでも泣いていい。私がすべて受け止めるから」

 

彼女は涙を流しながら、千冬に強く抱き着く。千冬はそんな彼女を慰めるように、頭を撫でていた。

 

 

 

舞原は涙を流し終えた後、自分の部屋に戻った。彼女は酷い目に合っていたということもあり、今日は部屋で休むように言われたのだ。椅子に座り、体をぐーっと伸ばす。

 

「ふう。高い演技力は役に立つな。謹慎とかにならなくて助かったよ。下手したら、知識を得る行為を禁じられてたかもしれないからな」

 

彼女がゆったりしていると、耳に着けたイヤリングが輝き、光の粒子が飛び出した。それらは人の形を作っていき、女性の姿となった。黒い髪を腰まで伸ばしており、アイドルやモデル顔負けのスタイルだ。大きな赤い瞳で大人っぽい顔立ちをしており、美人という言葉がしっくりくる。黒の着物を身に纏っていて、下はミニスカートのようになっている。

彼女は舞原の専用機であり、こうして人型として現れることも可能なのだ。ちなみにこの専用機は、頭脳と体を駆使し、政府の役人を利用して作らせたものである。当然、公に出来る存在ではなく、秘密にするように言われている。舞原も面倒を起こすのは嫌いなので、このISのことは誰にも話していない。

 

「……なんの用だ。メティス」

「別に~。肉体関係を持っていた男を簡単に売るような、超絶性格の悪い女の子の顔を見に来ただけよ」

「会社の情報を見る限り、あいつは近いうちに破滅する。その破滅の時期が少し早くなっただけだ」

「でもこれで、ガンドラスのことは学べなくなっちゃったわよ~。残念でした〜」

「ガンドラスのことを学びたいなら、別の奴を使えば良い。パイプはいくらでもあるのだから」

「……相変わらずえげつないわね。学べるものを吸収するためには、人間という名の道具を大量に用意し、使い終わったら捨てる。悪魔のような人間ね」

「嫌味を言うためだけに来たのか?」

「まさか。私は注意しに来たのよ。あなた。こんな生き方してたら、命がいくつあっても足りないわよ? いい加減やめなさい。今ならまだ間に合うから」

「……はあ。どいつもこいつも、私のやることなす事否定する。本当に目障りだな」

「注意してくれるだけ華だと思いなさい。あなた、世界でもトップクラスに危険な状態だからね? 分かってるの?」

「分かったうえでこうしている。新しい知識を得るためには、出し惜しみなどしてられないんだよ。使える者は全部使う。でなければ、知りたいことを知ることは出来ない」

「……ほんと、化け物ね。人間の皮を被った化け物。気持ち悪くて仕方ないわ」

「なら私から離れれば良い。そうすれば清々するだろ」

「……はあ。本当に可愛くないわね。たまには、普通の女の子のような仕草が欲しいわ」

 

そう言って、ISは姿を消した。

 

「全く。ISのことを学ぶため、専用機を手に入れたは良いものの。こうも小言ばかり言われると鬱陶しくなるな……まあいい。これも知識を得るために必要なことだし、彼女が積極的に話しかけてくるおかげで、私の学びもはかどるからな。あんまり文句は言えんか」

 

彼女は借りて来た医学の本を開き、続きのページから読み始める。

 

「さて。今日は1日中安静にしろと言われたし、こいつを読んで、学ぶとしますかね」

 

 

 

 

 

 

 

 

アメリカの軍事基地、地図に無い基地(イレイズド)の一室にて

 

ナターシャ・ファイルスは、イライラしながら荷物を纏めていた。同居人のイーリスは、それを不思議そうに見ている。

 

「なあ。ナタル。どっかに出かける予定でもあるのか? てか何を怒ってんだ?」

 

ナターシャはイーリスの質問にうんともすんとも言わず、荷物をまとめる続け、作業を終わらせた。

 

「イーリ!」

「な、なに?」

「私。今からIS学園に行ってくる!」

「え? いやIS学園って……てか、何しに?」

「可愛くない女の子をぶん殴って首輪するため! じゃあ、基地と福音のことよろしくね!」

 

そう言って彼女は、嵐のように出て行った。残されたのは、頭にいくつもの?マークを浮かべているイーリスだけだった。

 

「え……どゆこと? ていうか、そんな簡単に国を離れて、大丈夫なのか?」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 新入生 近づく嵐

舞原が学園を休んだ翌日。彼女が教室に入ると、みんなが心配そうに詰め寄ってきた。体は大丈夫なのか、どうして学園を休んだのか、何か悩みでもあるのか。それらの質問を、舞原は出来るだけ愛想よくしながら、適当に躱した。

 

(全く。1日休んだだけで大げさすぎる。何を心配しているのやら)

 

そう思っていると、一夏が彼女に近づいてきた。

 

「やあ。舞原さん。部屋にいないって聞いたときはびっくりしたよ。セシリアがかんかんに怒ってたし」

 

(知ってる。昨日の夜に散々怒られたし)

 

彼女は昨日の夜、セシリアに散々怒られており、その疲れが今日になっても抜けていなかった。

 

「でも、舞原さんになんともなくて良かったよ。なにかに巻き込まれたのかと思って不安だったからさ」

「心配かけてすまない。家の用事で離れなければならなくなってな。みんなに伝え忘れて申し訳ない」

「いやいや。もう気にしなくていいよ。なんともないってことが分かっただけでも良かったし」

「そうか。そう言ってくれると気が楽になるよ」

「そうだ! 舞原さんがくれたメモ帳。すっげえ役に立ってるよ! 自分の欠点が何なのかも分かりやすいし、白式も更にうまく扱えるようになったんだ! おかげで、先生たちにも何回も褒められてるし!」

「おお。それは素晴らしいな。君の才能はとんでもないものだね」

「いやいや。これも全部、舞原さんが色々教えてくれたおかげだよ。ほんとうにありがとう!」

「フフフ。そう言ってくれると嬉しいよ。これからもガンガンやっていくから、ちゃんとついてきてくれよ」

「おう! 任せとけ!」

 

そんな風に楽しく話している2人に嫉妬をする影が2つ。

 

「むうううう! なんなんですのあの女は! なんであんなに一夏さんと仲良くできますの!」

「羨ましい。私もあいつぐらいの知識と能力があったら。一体どうやって手に入れたんだ」

 

 

 

 

放課後、一夏、箒、セシリアと共に第2アリーナを訪れ、ピットに向かった。すると

 

「待っていたわよ。一夏!」

 

そこには、中国代表候補生の凰鈴音がおり、不敵な笑みを浮かべて立っていた。セシリアと箒は顔をしかめているが、舞原は誰か知らないので、首をかしげていた。

 

「セシリア。あの人って誰?」

「中国代表候補生の凰鈴音ですわ。昨日転入してきたんですの」

「なるほど」

「それよりも、ここは関係者以外立ち入り禁止ですわよ!」

 

セシリアがそう言うと、鈴は「はんっ」と挑発的な笑い、煽るように言う。

 

「あたしは関係者よ。一夏関係者。だから問題なしね」

「ほほう、どういう関係かじっくり聞きたいものだな」

「盗っ人猛々しいとはまさにこのことですわね!」

 

 

鈴の挑発にセシリアと箒が怒り、彼女に詰め寄った。舞原は。

 

(毎度毎度思っていたことだが、あいつらはなんで争ってるのか、理解不能だな)

 

彼女にとっては、色恋沙汰というものは理解できないものであり、それゆえに、今争ってる3人のことも理解できなかった。

 

「あんたらのことはどうでも良いのよ。今回はあたしの出番なんだから」

 

鈴は詰め寄る2人を押しのけて舞原を無視し、一夏に近づいた。

 

「待て! そんなこと許すとでも思ってるのか!」

「そうですわ! あなたにはたっぷりと聞きたいことがあるのです!」

「うるさいわねえ。今はあたしが主役なの。脇役はすっこんでてよ」

「わっ!? 貴様ああ」

「言ってくれますわね」

 

鈴の言葉に、2人の怒りがさらに増していく。正に一食触発状態であり、一夏もどうすれば良いか戸惑っていた。

 

(この争い。長引きそうだな。あまり時間を無駄にしたくないし、争いは後にしてもらおう)

 

そう考えた舞原は鈴に近づく。

 

「ねえ。鈴音さん」

「何よ? てかあんた誰?」

「私のことはどうでも良いだろ。それより、くだらない争いは後にしてくれないか? アリーナを使用できる時間にも制限があるんだ」

「……は?」

 

そう言った瞬間、舞原は言葉を間違えたということを感じた。

 

(しまった。思わず言ってしまったな。せめて崇高な争いと言うべきだった)

 

箒とセシリアも彼女を強く睨んでいるが、誰よりも強く睨んでいるのは鈴だった。

 

「はは。はははははは。言ってくれんじゃないの。脇役にすらなれない雑魚のくせにさあ!」

「すまない。言葉を間違えた」

「謝って済む問題じゃないのよ! あんたには分からないでしょうけど、私は大切な話をしようとしてたの! それをくだらないですって? 言って良いことと悪いことがあんでしょ!」

 

(参ったな。完全に切れてる。この状態だと、話は通じそうにないな)

 

「あったま来た! この2人を先に倒そうと思ったけど気が変わったわ! あんたから先にぶっ潰してやる! ISに乗りなさい!」

「断る」

「……はあ!? あんた、ここまで馬鹿にしといて、私との戦いから逃げるの!?」

「馬鹿にしたつもりはない。逃げたというのはその通りだがな。私は戦うのは苦手だ。誰だって苦手な分野をわざわざやりたくないだろ。だから戦わない」

 

(中国のISについての情報は既に頭の中にある。こいつと戦ったとしても、学べることはない。そんな無駄なことに時間を使いたくない。今の私は忙しいんだ)

 

「ふふふふふふ。ここまでコケにされたのは初めてだわ。良いわ。そっちがそう来るなら、戦わざるを得ない状況を作ってあげる! 楽しみにしてなさい!」

 

彼女はそう言い残して、ピットを去っていった。

 

(面倒なことに巻き込まれたな。やはり、感情で突っ走るような奴とは関わるべきではないな。あいつのことを無視して、織斑を連れて行くべきだった)

 

「舞原さん。大丈夫か?」

「私は特に問題ないよ。けど、変な因縁つけられちゃったね」

「鈴には、後で俺から言っとくよ。舞原さんが戦うことはない」

「いや。それはやめといた方が良いよ。彼女、すっごい怒ってたし、そういうことするのは危険だと思う。それに、私なら大丈夫だよ。気にしないで」

「でも」

「この話はここでおしまい。早く訓練に行くよ。君をもっと強くしないといけないからね」

「……分かった」

 

一夏は渋々といった感じで頷く。

 

「オルコットさん。篠ノ之さん。行こう」

 

彼女がそう言うと、2人は無言でついていく。鈴ほどではないが、自分たちのやっていたことをくだらないと言われたことは、相当頭に来たらしく、舞原を強く睨んでいた。

 

(ようやく茶番が終わった。これで、白式のことを学ぶことが出来る。にしても、篠ノ之とオルコットは、私に不満があるようだな。オルコットはどうでも良いが、篠ノ之に悪感情を持たれるのは避けたい。何か良い方法は無いだろうか。うむむむむむむ)

 

彼女は必死に考えようとしたが、そもそも箒がなぜ怒ってるのかすら分からないし、どう対処すればいいかも分からないので、すぐに考えることをやめてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

一方。日本空港にて

 

「ふう。日本の空気は良いものだな。空気が澄んでて美味しいよ。さて。ではこれから、愛しく、そして強靭な百合の蕾に会いに行こうじゃないか! 待っていてくれよ。知恵ちゃん!」

 

ロランツィーネ・ローランディフィルネイ。日本に到着。そして

 

「ふう。飛行機に乗り続けるのも疲れるわね。思った以上に時間かかったし、今日はホテルに泊まって明日IS学園に……ってあれは、ロランツィーネ? オランダの代表候補生がなぜ……まあいいわ。私は私のやるべきことをしましょう。待ってなさいよ。知恵!」

 

ナターシャ・ファイルス。日本に到着。そそくさと去っていく彼女を、ロランツィーネは偶然見つけた。

 

「ん? あれは……ナターシャ・ファイルス? 彼女はアメリカの軍人だったはずだが、なぜここに……まあいいさ。なぜここにいるかは分からないが、私には関係のないことだろう。さて。バスも着くころだし、そろそろ行こうら、待っていてくれよ! 知恵ちゃん! 今日は無理だが、明日には必ず会いにいくから!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 突然の決闘 キレる舞原

UA2000突破!

皆様ありがとうございます!




アリーナでの特訓中、いつも通りに舞原が指導していると、箒が質問してきた。

 

「そういえば舞原。お前はISに乗らないのか? ずっと指導してばかりだが」

「私はISに乗るのは得意ではないからね。それに、体力が人より少ないから、ISに乗ったらグロッキーになっちゃうのさ。それより織斑。スピードが落ちてるよ。もっとスピード上げながら戦って」

「わかった! けどこれ。めちゃくちゃしんどいな。こんだけのスピードを維持しながら戦わないといけないのか?」

 

現在、白式の速度は最高速度に近いものであり、目がある程度慣れている一夏といえど、それを制御するのは困難を極めた。

 

「白式は機動力が高いし、零落白夜は一撃必殺の攻撃力がある。なら、圧倒的なスピードで敵に接近し、一撃必殺で倒す。これが一番良い戦い方だ。銃とかも使えない格闘オンリーな機体のようだからね」

 

白式には追加で武装を付けることが出来ず、剣一本で戦うことしかできない。追加の武装を付けるための拡張領域(バススロット)が存在しないからだ。それ故に、戦う方法は近接戦しかない。

 

(しかし、拡張領域(バススロット)が無いというのも珍しいな。どんなISであろうと、それなりに空きがあるはずなんだが。単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)が原因か、あるいはそれ以外の何かが原因か。なんにせよ、近接戦しかできないというのは、随分とピーキーなものだ。ますます学びたくなってくる)

 

彼女はこみあげてくる笑みを頑張って抑えながら、一夏の行動を見ていた。彼はひいこら言いながらトップスピードを維持しつつ、セシリアや箒と戦っていた。

 

(ふむ。動きが更に良くなってきている。凄まじい才能だ。まるで人間とは思えないレベル。もしかしたら、織斑家には……いや、織斑一夏には何かがあるのかもしれないな。奴が学べない人間というのは、撤回すべきかもしれない)

 

彼女はそう思いながら、彼の戦いを観察していた。

 

 

 

 

特訓はアリーナを使用できるギリギリまで続き、終わる頃には空が真っ暗になっていた。セシリアと箒は壁に手をついており、かなり疲労している。一夏の方は

 

「はあ……はあ……し、死ぬううう」

 

仰向けに倒れており、ゼーハーと息を切らしている。

 

(もう少し体力をつけたほうが良いような気がするが……ま、わざわざ指摘する必要はないか。めんどくさいし)

 

彼女はそう思いながら、彼らに水とタオルを渡していく。

 

「お疲れ様。よく頑張ったね」

「おお! ありがとうな。舞原さん」

「織斑君。君はすごいね。動きがどんどん良くなっていってたよ。君の才能は本当にすごい! このままいけば、国家代表も夢じゃないね」

「あははは。それは褒めすぎだろ。でもありがとう。そう言ってくれると元気が出てくるよ。強くなれるってのは、やっぱり嬉しいからな!」

「確かにそうだな。強くなれるというのは、楽しいことだ」

「お、舞原も分かるのか?」

「ああ。やはり、強さというのは誰もが憧れるものだからな。誰かを守る力を得たい。誰しも思ったことではあると思うぞ」

「おお! 話が分かる人がいて嬉しいよ。俺も、誰かを守る力が欲しいと思ってさ。まあ、今はまだまだ守られてばかりなんだけど」

「そんなことはないさ。織斑君は良くやってると思うよ。私の特訓についてこれるだけでも大したものだからな」

「あははは。そう言ってくれると自信がつくな。舞原さんと話してると楽しいよ」

「ほお。それは嬉しいことだな」

 

 

2人が楽しそうに話していると、セシリアと箒が割り込んできた。

 

「一夏さん。おだてられすぎて調子に乗らないでくださいよ。まだまだ足りないものがあるのですから」

「全くだ。舞原もそんなに褒めることはないぞ。あんまり褒めすぎると調子に乗るからな」

「な、なんだよ2人とも……なんか、怒ってる?」

「「怒ってない!!」」

「怒ってるじゃねえか」

 

一夏は2人が起こってる理由が分からず、どうすればいいかとあたふたしている。舞原も怒ってる理由が分からないし、下手なことをしたくないので、迂闊に触れないように気をつけた。

 

(全く。こいつらはなんで怒っているのやら。本当に理解不能だな)

 

一夏は晩御飯を一緒に食べようと誘ったが、彼女はやることがあるので断った。その際、セシリアと箒が安心したように息を吐いていたが、舞原にはその理由が分からなかった。彼女は部屋に戻り、パソコンを立ち上げる。

 

「さて。パイプたちからのメールは何もなしか。ロランツィーネからも連絡はなし。後は……ん? これは」

 

ネットを開いていると、気になるニュースを見つけたので、そのページを開いた。ページの頭にはこう書かれている。

 

[ビルダース・アーキン逮捕! ガンドラスの信頼ガタ落ちに!?]

 

そこには、ビルダーズが少女に性行為を強要した罪で逮捕されたと書かれており、それのせいでガンドラスの信頼が落ち、株価が急落しているようだ。国からも支援金が減らされるらしく、企業としてはかなりの痛手だった。

 

「なるほど。思ったより被害は小さいな。もう少し大きい被害になると思ってたが、さすがはガンドラスといったところか。だが、もう学べることは無さそうだな。銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の開発も別の企業が引き継ぐだろうし、どこに引き継がれるか調べてみるとしよう。あのISには、学ぶべきものが大量にある」

 

そう思ってパソコンを閉じると、ドアが乱暴に開かれ、セシリアが入ってきた。

 

「舞原さん! いらっしゃいますか! 大変なことになっていますの!」

 

とんでもなくうるさい大声に、舞原が顔をしかめる。

 

「おい。いきなりなんの「とりあえず、私についてきてください!」ちょ……おい!」

 

舞原が文句を言おうとすると、セシリアはいきなり彼女の腕を掴み、そのまま部屋を飛び出した。

 

「ねえ。いきなりどうしたの?」

「とりあえず、これを見てくださいな!」

 

彼女は、セシリアが指さした掲示板を見る。そこにはこんな紙が貼られていた。

 

【舞原知恵。凰鈴音に決闘を挑む! 勝負の行方は如何に!】

 

「……これは」

「おそらく、あの鈴音って方がやったのでしょうね。まさかこんなことをしてくるとは思いませんでしたわ。一夏さんと篠ノ之さんは、鈴音さんを説得に向かってますが」

 

そう話していると、一夏と箒が舞原たちに近づいて来た。浮かない表情をしており、結果が芳しくないというのは明らかだった。

 

「一夏さん。結果は……ダメだったのですね」

「ごめん。何回もやめるように言ったんだけど、聞く耳持たなくて」

「あの女。とんでもなく頑固だったな。絶対に自分の意思は曲げないという感じだった」

「そっか。まあ、こうなったからには仕方ない。全力で頑張るよ」

「でも! もし舞原さんが怪我とかしたら「大丈夫。私は負けないから」」

 

心配する一夏に対し、彼女は言い放った。まるで、自分が負ける未来などありえないと言うように。

 

「戦うのは苦手だからやりたくないけど、こうなった以上仕方ないからね。全力でやってやるさ。んで織斑君。一つ頼みがあるんだけど、白式を貸してくれないかい?」

 

彼女が軽く言い放ったことに、箒とセシリアは唖然とし、一夏はハテナマークを浮かべる。

 

「舞原さん。本気で言っていますの?」

「本気だよ。向こうのISはほぼ確実に第3世代。なら、こっちも第3世代で行かないと大変だからね」

「しかし、第3世代は素人が扱えるようなものではありませんわ。まだ練習機を使ったほうが望みはあります」

 

「織斑君は素人なのに使えてるじゃないか。なら、多分問題ない」

「一夏はたゆまぬ努力を経てあの機体を使えるようになったのだ。素人がぶっつけ本番で使えるわけがないだろ」

「その通りですわ。舞原さんが白式を使うのは危険すぎます」

「いや。織斑君ぶっつけ本番でやってたよね? オルコットさんとの戦いで。それは動説明する?」

「そ、それは……その」

「えっと……あの。しかし、あなたがちゃんと使えるという保証は」

「大丈夫大丈夫。多分なんとかなるって」

「多分って……」

 

セシリアが呆れている中、舞原が一夏に質問する。

 

「まあそういうわけだ。織斑君。白式を貸してくれないか?」

「別にいいけど、ちゃんと扱えるのか? これ、かなり難しい機体だけど」

「大丈夫。なんとかなる気がするから」

「……舞原さんって、意外と適当なのか?」

「ふふふふ。人生は少し適当に行くぐらいが楽しいものなのさ。さてと、明日の決闘もあるし、私はそろそろ休ませてもらおう。おやすみ〜」

 

 

彼女は一夏たちにそう言って、自分の部屋に向かった。部屋に入って扉を閉めると、大きく深呼吸したあとに、扉をぶん殴った。

 

「随分と舐めた真似をしてくれるものだ。私から学びの時間を奪おうとはな。この代償は高く付くと思え。クソチビ女」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話 舞原知恵の実力

凰鈴音と舞原知恵の決闘の日。凰鈴音は甲龍を纏っており、異形の青龍刀、双天牙月を装備している。舞原は白式を纏っており、雪片弐型を装備している。アリーナには多くの人が集まっおり、活気に満ち溢れていた。舞原は声援や騒ぎの声が鬱陶しくなり、早くも帰りたいと思っていた。

 

「良く来たわね! 逃げずに来たことは褒めてあげる」

「逃げ道をふさいだのは君だろう。とんでもないことをしてくれるね」

「ああでもしないと、あんたと戦えないと思ってね。それに、私から一般生徒に挑んだんじゃ印象が悪くなるけど、あんたから挑んだという形にすれば、印象は悪くならないからね」

「ふん。無駄に知恵の回る女だ」

「褒め言葉と受け取ってあげる。さてと。どうやって借りたか知らないけど、一夏の専用機を使ってるのね」

「個人登録してる機体でも、ちゃんと手続きを踏めば、一時的に使えるようになるからな。そんなことをする奴は滅多にいないが」

「そりゃそうでしょ。誰だって慣れたISを使いたいもの。他人のISを使いたいなんて言う変人はほとんどいないわ。にしても、その白式で私と戦おうというのなら、愚かとしか言いようがないわ。あんたがその白式に乗ったことはほとんどないはず。碌に扱えるわけがない。それに、私は代表候補生。あんたよりもISの搭乗時間ははるかに長い」

「まどろっこしいな。さっさと結論を述べたらどうだ?」

「あたしが勝つって事よ!」

 

鈴はスラスターを吹かし、舞原に一気に詰め寄る。牙月で切り裂こうとすると、彼女はその攻撃を剣で受けとめる。

 

「やるじゃない! 素人にしては中々ね。でも!」

 

鈴はバトンでも振り回すかのように扱い、次々に攻撃を仕掛けていく。しかし、彼女はそのすべての攻撃を、涼しい顔で受け流していく。縦横斜めと自在に角度を変えながらの攻撃を防ぐのは容易ではないはずだが、彼女は簡単にこなしていた。流石の鈴も余裕は無くなり、焦りが見え始めていた。

 

(こいつ。一体何なのよ。この攻撃を防げるやつなんて、ほとんどいないというのに。こんな涼しい顔して防ぐなんて。でも、私はこんな奴に負けるわけには行かないのよ!)

 

彼女はさらに果敢に攻めていくが、舞原の防御を崩すことは出来ず、全て防がれていく。そして、自分の攻撃が全く届かないことに、彼女は苛立ちを感じていた。

 

(ふむ。さすがは白式といったところか。これだけの攻撃を防ぎきるとはな。近接戦においては、他のISよりも頭一つ抜けた性能ということか。本当に素晴らしいな。ここまで面白いISは初めて見た)

 

彼女は知らず知らずのうちに笑みをこぼしていた。そしてそれは、鈴をさらに怒らせることになる。

 

「何笑ってんのよ。このボケがああああああ!」

 

更に激しく斬りかかっていくが、舞原はその攻撃を簡単に防いでいき、鈴の攻撃を通さない。

 

「……はあ。白式は学ぶことが多いというのに、お前には学ぶものが何もないな」

「あ? それはどういう意味よ!」

「弱いという意味だ。弱すぎて話にならない。代表候補のレベルというのは、随分と低いんだな」

「……あんた。絶対に許さない! その涼しい顔をぶっ潰してやる!」

 

双天牙月を2本に分離させ、怒りのままに振るう。2本に増え、さらに激しい攻撃になるが、舞原は問題なくさばいていく。

 

「この連続攻撃も……なら!」

 

鈴は一旦後ろに下がった。すると、甲龍の肩アーマーがスライドして開いた。

 

「衝撃砲か。撃たせんよ」

 

舞原が剣を投げつけると、鈴はその攻撃を弾いた。その直後に見えたのは、一気に接近した舞原だった。

 

「なっ!? このお」

「遅い!」

 

鈴が対応するよりも早く、舞原は彼女の顔を殴り飛ばした。

 

「がっ……このお。舐めんな!」

 

彼女が斬りかかかろうとすると、舞原の姿が、彼女の目の前から消えた。

 

「なっ……どこに」

「ほお。スピードも素晴らしいな。瞬時加速(イグニッション・ブースト)なしでここまで速いとは。ほんと、このISは私を飽きさせないよ」

 

舞原は、いつの間にか鈴の後ろに立っており、白式の性能にうっとりした表情を浮かべていた。

 

「あんたね。よそ見してんじゃないわよ!」

 

再び斬りかかるも、舞原は一瞬で姿を消し、またもや鈴の後ろに立っていた。

 

「ふむ。ここまでのスピードを出すと、過剰にエネルギーを消費してしまうな。あまりやらないほうがよさそうだ」

「くっ。うおおおおおおおお!」

 

鈴は怒りのままに武器を振るうが、その攻撃はまたもや躱される。

 

(嘘でしょ。こんな……こんな一般生徒に私が? ISの搭乗時間も碌にない。ぶっつけ本番で、他人のISを使うような奴に……そんなの、そんなの)

 

「認められるわけないでしょうがあああああああ!!」

 

彼女の怒りは頂点に達し、何度も攻撃を仕掛けていく。先ほどとは違い、舞原に武器は無いので、彼女が圧倒的に有利な場面。しかし、その状況でも、攻撃を1発も当てることは出来ず、全て躱されていった。

 

「ぐっ。私は……あんたなんかに……負けられないのよ!」

 

 

再び、甲龍の肩アーマーがスライドして開いた。しかし。

 

「撃たせんと言ってるだろ」

 

舞原は、衝撃砲を打たれる前に鈴の元へ近づき、胴体を蹴り飛ばした。

 

「あぐっ!?」

 

おおきく吹きとばされ、地面をゴロゴロと転げまわる。

 

「嘘でしょ……この私が」

「ふむ。今の私では、白式からこれ以上学べることも無さそうだな。終わらせよう」

 

舞原は剣を拾う。鈴は気合で何とか立ち上がり、出方を見る。

 

「……瞬時加速(イグニッション・ブースト)

 

舞原が小さく呟いた直後には、彼女は鈴の元へ近づいていた。鈴は何とか対応しようとするも、それよりも舞原の攻撃が速かった。光を纏った剣が甲龍を切り裂く。そして。

 

「試合終了。勝者、舞原知恵」

 

零落白夜によって、甲龍のシールドエネルギーは一瞬で0になり、試合が終わった。試合を見に来た生徒や教師たちは唖然としていた。一般生徒である舞原が勝つことなど、誰も予想していなかったからだ。しかし実際には、圧倒的ともいえる差で、舞原が勝利した。少しの静寂が流れた後、今までにない熱気と声がアリーナを包んだ。

 

『すごいわああああああ! 普通の生徒が、代表候補に打ち勝った!』

『これはもう! 取材するしかないですねええ! 素晴らしい戦いでした!』

『凄いわよ舞原あああああ! あなたは最強のパイロットだわあああああ!』

 

生徒達が熱狂の渦に包まれる中、試合をしていた2人は、恐ろしいほど冷めていた。舞原はつまらなさそうな目をしてるし、鈴は意気消沈しており、目に光が宿っていない。

 

「うるさいな。鬱陶しくてかなわん。中国の代表候補。貴様との戦いはつまらなかったよ。何の学びも得られない最悪の時間だった。だが、白式をより深く学べたことについては、礼を言ってやる。じゃあな」

 

舞原はISを解除し、鈴にそう言って、アリーナを後にした。

 

「私が……負けた……しかも……あんな一方的に」

 

彼女は完全に心を折られており、その場からピクリとも動かず、ぶつぶつと独り言を言い続けていた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話 突然の来訪 新たな学び

side 舞原

 

ピットまで歩いていると、突然足に力が入らなくなり、その場で膝をついてしまった。それだけでなく。

 

「ゴホッ! ゲホゴホッ! ガハっ!……はあ……はあ。やはり、私にISの操縦は向いてないな」

 

何度も血を吐き出し、ISスーツや床が真っ赤に染まっていく。本来、ISに乗るだけでここまでの負担がかかることなどありえない。シールドバリアーが負担を軽減し、生体機能を補助してくれるからだが、私にとっては、そのシールドバリアーが生体機能を傷つける原因となる。シールドバリアー内を満たしてるよく分からんエネルギーが、私にとっての毒になるのだ。故に私にとっては、ISに乗ること自体が命がけとなる。このことは学園に伝えてない。新しい学びを得ることについてには、このIS学園は便利だし、ばれると面倒だからな。

 

「クフフ。そうだ。新しい学びをわざわざ捨てる愚人はいない。知識のためなら、体がどうなろうと知ったことか」

 

新しい知識を得るためならなんだってやる。知識を得ることこそが、私にとって最高の幸せなのだから。特にIS。篠ノ之束が作りあげた兵器であり、まだまだ未知の部分が多い。こんなにも学びがいがあるものを学ばないなどありえない。多少無茶をしようと、知識を得たくなるというものだ。そう思っていると、強烈な眠気が襲ってきた。

 

「なんだ……これは」

 

抗うことすら出来ず、私の意識はすぐに落ちてしまった。

 

 

 

 

 

目を覚ますと、私は白い砂浜の上にいた。横には美しい海が広がっており、騎士のような姿をした何かが立っている。目の前には白いワンピースを着た少女が立っていた。白くて大きな帽子を被っており、白い髪がなびいてるという白一色だった。メティスではないな。ということは白式か。しかし、なぜこんな場所に。

 

「どうして?」

 

疑問に思っていると、白い少女が話しかけてきた。

 

「どうして、そんな無茶をするの?」

「知識を得たいからだ。それ以外に理由はない」

 

当たり前のようにそう言うと、少女は私に近づいてくる。

 

「怖い。あなたは自分の体をなんとも思ってない。まるで悪魔のように、貪欲に知識を求め、平然と自分の身を傷つける」

「失敬な。私は普通の人間だよ。己の欲望に忠実な、普通の人間だ」

「違う。あなたは人の皮を被った悪魔。私にはそうにしか見えない」

 

随分と失礼なコア人格だな。人のことを悪魔と言う奴は中々いないぞ。

 

「それで? 嫌味を言うためだけにここに呼んだのか? だとしたらとんでもなく性格が悪いな」

「違う。私はあなたに警告しに来た」

 

ISからの警告か。それは面白そうだな。一体何を言ってくれるか楽しみだ。

 

「そうか。その警告とはなんなのだ?」

「このままじゃ、あなたの体は壊れる。普通の女の子らしい生活をした方が良いよ」

 

くだらない警告だな。そういうのはもう、何十回も聞いてるんだよ。期待はずれもいいところだ。もう少し笑えるものが欲しかったのに。

 

「つまらんやつだな。もう少し面白い警告は出せないのか」

「面白いとかつまらないとか、そういう問題じゃない! あなたの体はダメージを受けすぎてる。そのままだと、本当に取り返しのつかないことになる! それはあなたにも分かってるはず!」

「くだらんな。私の体がダメージを受けてるからなんだ。その程度の理由で、私が知識を得ることをやめるわけがなかろう」

「……どうして。どうしてそこまでして」

「貴様に教えたところで、私になんの学びがある。くだらん話は終わりだ。さっさと現実に戻せ」

「……警告はしたよ。もうどうなっても知らないから」

「ハハハハ! もし私が死んだら、貴様の元へ会いに行ってやろう。警告を無視したら、死んじゃいましたとな」

 

そう言った直後、私の意識は再び途絶えた。

 

 

 

 

 

「ん……ここは」

 

目を覚ますと、私は床の上に倒れていた。起き上がると、ISスーツや肌が血で濡れており、非常に気持ち悪い。さっさとシャワーを浴びたいものだ。

 

「あらあら。ずいぶんボロボロなのね」

 

声のした方を振り向くと、衝撃を受けた。

 

「貴様……なぜここに」

 

そこにいたのはナターシャ・ファイルス。アメリカの軍人であり、国家代表クラスの実力を所持している。彼女が母国を離れることはかなり難しいはず。一体どうやって。いやそれよりも。

 

「何の用だ。ここに何しに来た」

「あなたを止めに来たの。力づくで止めてみせろと言ったのはあなたでしょ」

 

本当に止めに来る奴がいるとはな。ある意味、良い学びになるよ。とんでもない女もいたものだ。

 

「本当はぶん殴る予定だったけど、さすがにそんな状態の子を殴るのは可哀想だしね。やめておいてあげるわ」

「そうか。ではさらばだ」

 

私が去ろうとすると、彼女は私の前に立ちはだかる。

 

「まあまあストップストップ。殴るのはやめるけど、あなたの行動を制限するのは本気よ。もうあなたに、ブラックな行為はさせないわ」

「ふん。私が言葉だけで止まると思ってるのか」

「もちろん思ってないわ。あなたが言葉で止まらないということは、散々思い知らされてきた。だから取引しましょ」

 

そう言って、彼女はポケットからUSBメモリを取り出した。

 

「ここにはある研究成果や論文のデータが入ってる。人工酵素についての機能実験やその成果とかね」

「人工酵素?」

「そ。そしてこのデータの情報はアメリカ国内にしか広まってない。つまり、まだ世界に知られていない新しい知識よ」

 

その言葉を聞き、そのUSBメモリをとりたいという欲望に一瞬で囚われた。まだ広まっていない未知の知識。それを学べる機会が目の前に来ている。想像するだけでよだれが出てしまいそうだ。

 

(食いついてる食い付いてる。まるで、餌を目の前にぶら下げられた肉食動物みたいね。苦労して取ってきた甲斐があったわ)

「けど、このデータを与えるのには条件がある。私のいうことに従いなさい。そうすれば、このデータを渡してあげる」

「良いだろう。貴様のいうことに何でも従ってやる。だからそいつをよこせ!」

「即答ね。じゃあ、これからブラックな行為は絶対にしない事。良いわね?」

「良いだろう。したがってやる。だからさっさと渡してくれ!」

「はいはい。ほらどうぞ」

 

彼女から渡されたUSBメモリを、私は大事に抱える。世界に広まってない未知の知識がある。素晴らしい。本当に素晴らしいよ。今日はなんて素晴らしい日なんだ。世界に広まってない新しい知識を学べる機会に出会えるとは。今日は人生で最高の日だ。

 

「ふふふふふふふ! 感謝するよ! ナターシャ・ファイルス。君のような人間と出会えたことを、私はとても嬉しく思う!」

「手のひらくるくる変えるわね」

(これで、彼女がブラックな行為をすることは無くなったといっても過言ではない。研究所から取ってきて良かったわ。アメリカ軍所属のISパイロットという肩書も、結構役に立つわね)

 

さて。今日はさっさと帰って、この知識を得るとしよう。

 

 

 

 

メモリを受け取った後、私はナターシャと別れピットに行って織斑と合流した。血のことについてしつこく聞かれたが、適当に愛想よくはぐらかし、白式を返して何とか場を収めた。あいつらは疑うような目で私を見ていたが、はっきり言ってどうでも良い。私には新しい知識を得るという仕事があるのだから。ルンルン気分で部屋に戻っていると、妙な光景を見つけた。私の部屋からセシリアが大量の荷物を持って出て来たのだ。

 

「セシリア。何をしてるんだい?」

「あら舞原さん。わたくし、部屋を引っ越すことになったのですわ」

「引っ越し? そりゃなんで?」

「さあ。良く分かりませんわ。わたくしもちんぷんかんぷんですの」

「はあ。そりゃ大変だね。手伝おうか?」

「いえ。もう引っ越しは終わってるので大丈夫ですわ。では。わたくしはこれで」

 

そう言って彼女は去っていった。このタイミングで部屋の引っ越し。ナターシャが何かをしたのか。そう思って部屋に入ると、意外な人物が立っていた。

 

「やあ知恵ちゃん! 久しぶりだね!」

「ロランか」

 

これは本当に驚いた。まさかロランまで来ているとは。

 

「なぜここにいる? 貴様はIS学園の生徒ではなかったはずだが」

「色々手続きをして、ここに入ることになったのさ。そして、この部屋に住むことが出来たんだ。にしても、本当に久しぶりだねえ! 知恵ちゃん!」

 

可能はそういいながら私に抱きついてきた。彼女曰く、こうして抱きついてる時が一番幸せらしい。私にはよく分からないが。

 

「離れてくれ。暑いしやりたいことが出来ない」

「むう。せっかくの再会だというのに、ずいぶんと素っ気ないね。もう少し喜んでも良いだろうに、ま、そういうところも良いのだけどね」

 

そう言って彼女が離れたので、私は自分の机にあるパソコンを開き、ナターシャから貰ったUSBメモリを差し込む。中には大漁のデータが入っていた。適当に一つ選んで開くと、100ページ近くの研究資料があった。

 

「ほお。これは面白いな」

 

人口酵素を作るまでの経緯、どのような方法を試したのか、どのような設備を利用したのかが事細かに書かれている。これは学びがいがありそうだ。

 

「なーにしてるんだい?」

 

資料を読んでいると、ロランが後ろから抱きついてきた。邪魔だからどこかに行って欲しいのだが。

 

「新しい知識を学んでいるだけだ。というか離れろ。学ぶのに邪魔だ」

「もー。ほんとに素っ気ないね。わたしの彼女とは思えないよ。他の人なら、泣き叫びながら喜ぶというのに」

「私を他の奴らと一緒にするな。それに言ったはずだ。私が貴様の彼女とやらになるのは、貴様が複数のパイプを持っていて、学ぶのに便利だからだ。恋愛感情など微塵もない」

「ふふふふ。そうだったね。君はそういう人だった。しかし、こうして私の彼女になってくれて嬉しいよ。君をこうして堪能できるのは、私にとって素晴らしい幸せだ」

 

相変わらず理解不能だ。何を考えてるのかさっぱり分からない。そもそも、恋人関係というのもよく分からない。恋人とは一体何なのだ。どんな本を読んでも、誰に聞いても、明確な答えがない曖昧なもの。今まで学んだどんな学問よりも難しい。いずれはどういうものなのか学びたいが、今はこの人口酵素だ。

 

しかし、人口酵素を学んでいくのは、そう簡単なことではなかった。難しい専門用語や複雑な理論も多く、今の私の知識では、6割ほどしか理解できなかった。

 

「ふむ。これは中々に難しいな。学ぶのが大変だよ」

「知恵ちゃん。これを理解できてるのかい? すごいね。私には何が何やらわからないよ」

「6割は理解できた。しかし、残りの4割が分からない。これを理解するためには、酵素についての知識を仕入れる必要があるな。ロラン、酵素についての本を買ってきてくれ。大至急だ」

「了解! この私に任せたまえ!」

 

彼女は快く承諾し、酵素についての本を買いに行った。

 

「ふう。色々と変テコな奴だが、こうして私のお願いを何でも聞いてくれるのは、非常に助かるよ」

 

私にとって彼女は、新しい知識を学ぶためのパイプであり、都合のいい金づるだ。彼女は素晴らしい人だよ。大したリスクもなしに、大量の利益を得ることができるのだから。

 

「さて。この人口酵素の知識。学ばせてもらおうじゃないか。君のすべてを教えてくれ」

 

私は垂れてくるよだれを拭き取りながら、人口酵素についての資料を読み進めた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 ナターシャとロランツィーネの邂逅

これからはこの時間に投稿していきます



       



side 舞原

 

鈴と戦った翌日。今日は土曜日なので授業が無く、ゆったり新しい知識を学べると思っていた。しかし。

 

「舞原さん、俺に白式の扱いを教えてくれ! 俺、もっと強くなりたいんだ!」

 

朝ご飯を食べに食堂に行くと、彼がそう頼み込んできた。はっきり言ってめんどくさい。なんでこいつが強くなるために、私が色々としなければならないのだ。白式のことはある程度学んだ。これ以上先を学ぶには、製作者の協力が無ければ不可能だろう。つまり、こいつにはもう用が無いのだ。頭を下げて頼んでるが、どうでも良い。しかし私は。

 

「分かった。白式の扱い方を教えてあげるよ。でも、今日は予定があるから、明日でも良いかな?」

「ああ。大丈夫だ! ありがとう。舞原さん!」

 

彼はそう言って去っていった。断るのは簡単だ。彼との関係がどうなっても良い。しかし、彼の頼みを断れば、篠ノ之箒との関係が悪化する可能性がある。あの女は、篠ノ之束と連絡を取るための唯一のパイプ。あいつとの関係を悪化させるのは良くない。だから、たとえどんなに面倒でも、織斑からの頼みは断るわけには行かないのだ。

 

「……はあ。面倒なことになったな」

 

そもそも何を教えればいいのだ。白式の扱いを上手くするには、スピードに慣れて、操作技術を高めること。これ以外にない。しかし、それをあいつが実践できるとは思えない。どうすれば良いのやら。

 

「……ま、多分なんとかなるだろ」

 

最悪の場合、ロランに押し付ければ良い。あいつは私より教えるのが上手だし。そう決めて、私は食券機に行く。私が買ったのはステーキセットAからC、特盛サラダ、みたらし団子10本、スーパーパフェ1つだ。カウンターに持っていって食券を渡すと、呆れたような表情をされた。そういえば、初めてここで食事をしたときもこんな表情をされたな。後は疑いの目を向けられていた。1人でこんなに食べられるのかと。食べきったら、こっちがびっくりするくらいに驚かれたが。流石に全部同時に持っていくのは無理なので、できたやつから受け取り、自分の席へ持っていった。

 

「あら。ものすごい量ね。相変わらずの大食漢だこと」

 

朝食を食べていると、ナターシャが向かい側に座った。彼女の朝食はフレンチトーストにコーンスープという組み合わせだ。

 

「なぜここにいる?」

「あら。聞いてなかった? 私、IS学園の臨時教師をすることになったのよ。ちなみに、あなたのクラスも担当してるわ。よろしくね」

「そうか。それは驚きだ」

 

私は適当に返し、朝食を食べ進めていく。

 

「にしてもすごい量ね。学ぶ時間を大切にしてるから、ご飯は最小限にしてるかと思ったわ」

「それは馬鹿の発想だ。新しいことを学ぶためには栄養は必要不可欠。ご飯の時間はきちんと取るべきだ。それを無駄というやつは、よっぽどの愚人か、時間に厳しすぎる奴か、カッコつけアピールをしたい奴かのどれかだろう」

「あははは。バッサリ行くわねー。にしても、朝食でこれとはとんでもないわね。昼や夜も同じ感じ?」

「まあな。知識を得るには大量の栄養が必要になるからな。こんだけ食べないと、すぐにエネルギー切れを起こす」

「あなたの体のどこに、こんだけのものを詰め込める所があるのかしらね。真剣に気になるわ」

「気になるなら調べれば良いだろ。私の体を解剖するなりなんなりすれば、簡単に分かるんじゃないか?」

「そんなことするわけ無いでしょうが。私はあなたほどイカれてないのよ」

「そうか」

 

話をしている間に、私達は食事を食べ終えた。

 

「さて。私はこれから出かけるけど、あなたもついてくる?」

「今日はお前から貰った知識を学ぶと決めてるんだ。遠慮しておく」

「もう。知識知識知識って。たまには外にも目を向けた方が良いわよ」

「頭の中に入れておく。ではな」

 

私はそう言って部屋に行こうとすると。 

 

「ちーえーちゃーーーん!」

 

ロランが走りながらこっちに来たので、私はそれを躱した。

 

「ありゃ。避けられてしまったよ。残念」

「何の用だ。ロラン」

「食堂で可愛い君を見つけたからね。思わず飛びかかってしまったのだよ」

 

奴が何を言ってるのか理解できない。都合の良い金づるだが、こういう理解不能なところに付き合うというのは、少し骨が折れる。

 

「あなたは、ロランツィーネ」

「ん? おお。アメリカのISパイロットとして有名なナターシャさんじゃないか。私はロランツィーネ・ローランディフィルネイ。100人の恋人を持つ罪深き女性さ! ちなみに、知恵ちゃんも私の彼女の1人だ」

「……知恵ちゃん。あなたって、女の子が好きなの!?」

 

なぜか分からないが、ナターシャが少し嬉しそうにしながら聞いてきた。

 

「そんなわけ無いだろ。こいつは都合の良い金づるで、複数のパイプを持ってるから彼女になってるだけだ。恋愛感情など微塵もない」

「え……ヒモ男みたいなことしてるけど、ロランツィーネさんはそれで良いの?」

「構わないさ。それを了承した上で、彼女にすることを決めたのだからね。他の彼女たちとは違う雰囲気。私を利用しまくる気満々なその態度。そして知識をひたすらに追い求める強い探究心。私はそこに惚れてしまったからね! 彼女の助けになるなら、何千万の金でも費やしてやるさ!」

「そういうことだ。お互いの関係に問題はない。仮に問題が起きても、速攻で捨てるから問題ない」

「それ。問題ないって言うの?」

「言えるだろ。さてと。私はこれで失礼する」

「もう行ってしまうのかい? せっかくここに来たのだし、私は知恵ちゃんともっと話したいのだが」

「貴様と話してなんの学びがあるんだ。くだらん時間を費やしてる余裕はないんだよ」

 

私はそう言って自分の部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

舞原が去ったあと、ロランがナターシャに話しかける。

 

「ナターシャさん。私と少しお話をしないかい?」

「……構わないわ」

 

ロランは食券機に行って朝食を購入し、カウンターに行って料理を受け取った後、それを持ってきた。

 

「さて。いきなり本題に入るけど、あなたは知恵ちゃんが好きなんだね?」

 

ナターシャはいきなりのカミングアウトに、飲み物を吐き出しそうになったが、なんとか堪えた。

 

「いきなり何を言うのよ」

「おや。違ったかな? 女の子が好きか聞いた時、やけに嬉しそうにしてたから、てっきりそうなのかと思ったのだけど」

「いやそりゃ……そういう感情も……ないではないけど」

 

ぼそぼそと小声になりながら、だんだん顔を赤くしていく。ロランツィーネはそんな姿を見て嬉しそうに笑っていた。

 

「ふふ。やはりそうなんだね。きっかけはなんなんだい? というかどこで出会ったんだい?」

「彼女と出会ったのは、アメリカの軍事基地でよ。両親が軍の上層部と仲が良いらしくてね。彼女も基地に来てたのよ。丁度2年前になるのかしら。最初はよくわからない人だった。私のことをすっごく詳しく聞いてくるし、私の一挙手一投足をやたら気にするし。なんだか落ち着かなかったわ。でもね。彼女って危なっかしいところがあるでしょ?」

「分かるよ。ほっといたらどこかで倒れちゃいそうだからね。ついつい目が離せなくなってしまう」

「学ぶ姿勢には感心してたけど、色々と危ないことするから、ほっとけなくなっちゃってね。気がついたら惚れてたわ」

「アハハハハハ! まるでお母さんみたいだね」

「私がお母さんだとしたら、あの子はとんでもなく手のかかる問題児ね」

「だが、見捨てられないんだろ?」

「……まあね。ていうか、あなたは嫌じゃないの?」

「? 何がだ?」

「私が彼女に好意を寄せてることよ。彼氏としては、あんまり良い気分じゃないんじゃないの?」

「全く嫌ではないよ。むしろ安心している。彼女が素をさらけ出せる場所が私の所以外にもあったからね」

 

ロランツィーネはそう言いながら紅茶を飲み、どこか悲しそうに話す。

 

「彼女は、自分を曝け出せる場所が殆どない。知識を得るために人を騙し、自分を偽り、素顔を出さない。しかし、ずっとそんな生活を続けていると、いつかは壊れてしまう。だから、せめて私だけでも、彼女の素をさらけ出せる場所になりたいと思ってたんだ。けど、僕以外にも素をさらけ出せる場所があったようで安心したよ。ほんと、良かった」

 

彼女は心底安心したように言う。自分以外にも素をさらけ出せる場所があった。彼女はそのことがとにかく嬉しかった。

 

「あなたも、色々と考えてるのね」

「それはもちろん! 私はみんなが幸せになれることを常に考えてる。みんな楽しく過ごせるのが、一番良いことだからね」

「最初は金づるとか言ってたから、どんな関係なのかと思ってたけど、それなりに良好? な関係なのかしらね」

「ま、パシられてばかりだけどね。でも、彼女は幸せそうだし、私は満足しているよ。女の子の笑顔や幸せは、私の幸せでもあるからね! 彼女たちのためなら、私はどんなことだってやってみせるさ!」

「フフフ。あなたが100人の恋人を維持できる理由。なんとなく分かった気がするわ。誰に対しても真摯に、全力で向き合うところが、みんな大好きなんでしょうね。知恵ちゃんがあなたの彼女で良かったわ。あの子があんなに我儘言える環境ってのは、とても大事だからね」 

「確かにそうだな。我儘が通じなくなったら、彼女がどんな危ない行為をするか分かったものじゃないからね。こうして一緒にいることが出来るようになって、すごく安心してるよ」

「でも、ちゃんと彼女に目を向けてた方がいいかも知れないわよ。いつか、無くなっちゃうかもしれないから」

「ほお。それは大変だな。彼女からは、目を離さないようにしないと」

「にしても、お互い難儀な人を好きになったわねえ。とんでもなく世話が焼けるし、生意気だし」

「アハハハハハ! 同感だ。おまけに、あまりにも危なっかしいから目を離せない。しかし、そこが彼女の良いところでもあるのだよ!」

「いや。私はもう少し、普通の女の子らしいことをしてほしいかな」

「確かにそれも良いが、そのままの素顔である彼女もとっても素敵だからね。変わらなくても良いと思ってしまうのだよ」

「……あなたって、何でもかんでも全肯定するタイプ?」

「いや。私はだめなところは駄目と言うぞ。しかし、その駄目なところも魅力になるから困ったものなのだよ」

「それを全肯定っていうのよ。全く、あのワルガキに良いようにされないよう、気をつけなさいよ」

「心配ない。既に良いようにされてるし、そういうのも悪くないと思ってしまうんだ。彼女が素をさらけ出し、あそこまで我儘を言うのが自分だけだと考えるとね。今のパシられ生活が幸せになるのだよ」

「……だめだこりゃ。とんでもなく重症ね」

「かもしれないな。しかし、君も似たような所があるんじゃないか? あの子に人口酵素とやらの知識を与えたのは君だろ?」

「……否定しきれないところが悔しいわね」

「ハハハハハハ! 私と君は、似た者同士のようだね」

「そうね。てか今更だけど、私に対してガンガンにタメ口なのね」

「嫌だったかい? 嫌なら変えるけど」

「もう慣れたからそれで良いわ。なんか、あなたには親近感感じるし」

「奇遇だな。私も感じるよ。あの子に振り回される者同士、共に頑張ろうじゃないか」

「出来れば、いつかは振り回す側になりたいわね」

「全く持って同感だね。彼女を振り回すというのは、とっても楽しそうだ」

 

似た者同士故か、2人の距離は一気に縮まった。朝食の後に一緒にショッピングに出かけるくらいには、親密になっていた。そのショッピングでは、舞原知恵に似合うものや、彼女にとって必要と思えるものを探すのに時間を費やしてばかりであり、自分たちのことは二の次だった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話 クラス代表戦 動き始める物語

あれから数日。私は織斑を強くするための指導をした。と言っても、やってもらうのは白式のスピードに慣れることと、操作技術の初歩を学ぶ程度だが。はっきり言って退屈だった。学びの邪魔になるし、あいつに色々指導するのは疲れるし、気分は最悪だ。そして、代表戦当日。

 

試合当日。アリーナは全席満員であり、通路にまで生徒で埋め尽くされている。あの戦いの何が気になるのか分からないが、皆がキラキラとした目で試合を見ていた。織斑の方はやる気満々といった感じだが、鈴の方は少し元気が落ちてるな。私に負けたのがまだこたえているらしい。最も、他の奴らは気づいていないようだが。勝負は一瞬で終わりそうだ。

 

ブザーが鳴り響くと同時に、織斑が斬りかかる。鈴はそれを受けとめるが、どうも迫力を感じられない。あれではすぐに押し切られるだろう。私の予測通り、鈴は押し切られ、後ろにふっ飛ばされる。織斑は攻撃の手を緩めることなく、果敢に攻め続けていく。私が指導していたとはいえ、成長が驚くほど速いな。あの男の才能は驚異を感じるものがある。ま、だからなんだという話なんだが。特に興味を持つものでもないし、学べるものもない。退屈な戦いだ。

 

「……はあ。いっそ、びっくりするようなことでも起きてくれると助かるんだが」

 

私はそうつぶやきながら、青い空に視線をずらした。

 

 

 

 

 

side 織斑

 

行ける。このまま押し切れる。俺は今、白式で果敢に攻め続けていた。

 

「くっ! 調子に乗るんじゃないわよ!」

 

鈴は青龍刀で斜め下から斬りかかるが、俺はその攻撃を受けとめる。力は思ったほど強くない。これなら押し返せる。

 

「うおおおおおお!」

 

俺は雪片で青龍刀を押し返し、そのまま上、斜め、下、横からと様々な方向からの連続攻撃を仕掛ける。とにかく、彼女に攻撃を許したらダメだ。甲龍の攻撃は変幻自在で、その攻撃を受けとめるのは困難だ。舞原さんは簡単にいなしてたけど、俺にはあんな技量はない。だから、鈴が攻められないくらいの連続攻撃で倒す。それが俺が勝つための方法だ。このまま押し通す。

 

「ぐっ! あんた、どんだけ攻め込んでくるのよ! てか、随分と力が強くなったわね」

「舞原さんの指導のおかげさ。あの人のおかげで、俺は強くなれたんだ!」

「確かに強い。けど、これならどうかしら!」

 

甲龍の青龍刀が2本に分かれた。その直後、2本の青龍刀による攻撃が襲いかかる。あらゆる方向から襲いかかるその攻撃は、受け止める事すらできず、装甲のあちこちを切り裂かれていく。

 

「ぐうううう!?」

「あんたじゃ、この攻撃はしのげないでしょ! このまま終わらせてやる!」

 

確かにこの攻撃は強い。さっきからシールドエネルギーがガリガリ削られてるし、動きを見るのが難しい。けど、あの時よりは激しくない。どういうわけか分からないけど、鈴の攻撃は、舞原さんと戦ったときに比べると大人しい。一撃一撃がそこまで重くない。舐めているのか、あるいは攻めきれない理由があるのか。なんにせよ、この攻撃なら、なんとかなる。俺は鈴の攻撃から離れようと、全力で後ろに下がった。

 

「逃がすとでも思ってんの!」

 

彼女が俺を追いかけようとした瞬間、俺は瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使い、鈴に体当たりをした。青龍刀で防御されたが、姿勢を崩すことは出来た。

 

「どらああああああ!」

 

剣を横に振り抜いて武器を弾き飛ばし、そのまま蹴り抜いた。

 

「がっ!?」

 

彼女は呻き声を上げた後、後ろに大きくふっ飛ばされた。しかし、そのまま地面と激突することは無く、なんとか姿勢を持ち直す。

 

「中々やるじゃない。でも、これはどうかしら!」

 

彼女がそう言うと、甲龍の肩アーマーがスライドして開いた。中心の球体が光った瞬間、俺は横に飛んだ。その直後、俺の横をとてつもない衝撃波が駆け抜ける。

 

「……嘘でしょ。衝撃砲を避けるなんて」

 

舞原さんの言ったとおりだ。球体が光った瞬間に、全力で横に逃げて避ける。それが衝撃砲の避け方だ。かなりしんどいし、体への負担もすごい。にしても鈴の奴、相当驚いてるみたいだな。まあ、あの攻撃を避けられるなんて、普通は思わないだろうからな。鈴が動揺してる今がチャンスだ。一気に攻める。

 

「うおおおおおおおお!!!」

 

俺は一気に攻め込み、零落白夜を発動させる。そしてそのまま、甲龍の装甲を切り裂いた。

 

「試合終了。勝者、織斑一夏」

 

甲龍のシールドエネルギーが0になり、試合は俺の勝利で終わった。その直後、アリーナの客席から歓声が響き渡り、俺が勝ったことに喜んだり驚いたりする人、俺を褒め称える人など、様々な人の声があった。しかし、俺はそんな声よりも、さっきの試合のことが気になっていた。

さっきの攻撃。鈴は無防備で受けており、防御しようとしたり、避けようしたりする素振りが見えなかった。いくら動揺していたとはいえ、あそこまで無防備になるのはあり得るのだろうか。

 

「なあ鈴。何かあったのか? なんか、試合に集中出来てない感じだったけど」

「……疲れただけよ。良かったわね。私が疲れてたおかげで、あんたは勝てたんだから」

「鈴?」

「お疲れさま。先に帰ってるわ」

 

そう言って、鈴はアリーナを去っていった。

 

「どうしたんだよ。鈴」

 

さっきの鈴は、明らかに元気が無かった。何か悩みでもあるんだろうか。

 

「なんとかしないと。あいつが落ち込んでる姿は見たくない」

 

元気になってもらうためには、何をすべきだろうか。俺に出来る事。何かあるはずだ。頑張って考えよう。俺はアリーナを去りながら、どうすれば鈴が元気になるかを必死に考えていた。

 

 

 

 

 

クラス代表戦が終わった日の夜。凰鈴音は自分の部屋で、パソコンと向き合っていた。パソコンには候補生管理官を務める女性が映っていた。

 

「それで? わざわざかけてきて何の用? 負け続けてる私を笑いに来たのかしら?」

「そんなことをしてられるほど、私達は暇ではありません」

「じゃあ何の用よ」

「凰鈴音。あなたに命じます。IS学園の生徒、舞原知恵にこのデータを渡し、中国に招待してください」

 

そう言って監理官が送ってきたのは、中国で開発されている新型ISのデータだった。 

 

「なっ!? これ何なのよ! なんでこんなデータを舞原に」

「彼女を取り込むための餌ですよ。あれほどの有用な人材。逃す理由はありませんからね。あなたを圧倒するほどの力を持ち、ISの操縦センスも非常に高い。織斑一夏とも親しいらしいですからね。ここまで素晴らしい人材は、さっさと捕まえておくに限ります。では、データの提供と中国への招待。お願いしますね」

 

そう言って、管理官は通話を切った。

 

「……ざけんじゃないわよ。私は……あいつの踏み台じゃないのよ」

 

鈴はそう言いながら、手を強く握りしめた。爪が皮膚に食い込み、血が流れても、彼女は気にせず、強く握りしめてきた。

 

 

 

 

 

 

どこかにある研究所。そこには無数のディスプレイやキーボードが並べられており、紫色の髪をなびかせた女がキーボードをポチポチしていた。不思議の国のアリスのような服装をしており、かなり奇天烈な人のように見える。

 

「おおおー。いっくん強くなったねえ。ISに関しては初心者だというのに、代表候補を倒しちゃうとは。才能もあるんだろうけど、相当腕の良い人が教えてるだろうね。誰だろなー。ちーちゃん……はないか。ちーちゃん教えるの苦手だし。箒ちゃんも無さそうだし……ちょっと気になるね。くーちゃーん」

 

女がそう呼ぶと、銀髪の少女が現れた。目蓋を閉じており、白いブラウスと紺色のロングスカートを身に纏っている。

 

「IS学園に行って、いっくんを指導してる人を調査してきてー」

「かしこまりました」

「あ。間違えても殺したりしたらだめだよ。あくまで調査するだけだからね」

「はい。では、早速行ってまいります」

 

そう言って彼女は姿を消した。

 

「さてさて。いっくんを短期間で強くしまくった人間。一体どんな奴なんだろうね。場合によっては」

 

女はぱちんと指を鳴らして言う。

 

「消えてもらうことになるかもね。いっくんが強くなりすぎても困るしなー」

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話 不穏な風

クラス代表戦が終わった翌日。その日は休日だったため、私は外を出歩いていた。もちろん好き好んで出かけたわけではない。ナターシャに命令されて渋々だ。

 

「ずっと部屋の中にいたんじゃ健康に悪いし、1時間くらい歩いてきなさい! それまで、人口酵素の知識は預かっておくから」

 

随分とふざけたことをしてくれる。そもそも、外に行って何をしろというのだ。何をすれば1時間も時間を潰せるのだ。ロランは服を買うとか良いとか言っていたが、そんなものに興味はない。服なんて着ることが出来れば何でも良いだろ。

 

「……はあ。なにをしようものか」

 

ナターシャの奴。随分とふざけたことをしてくれたものだ。あいつが余計なことをしなければ、今日1日を有意義に過ごせたというのに。

 

「メティス。私は何をすれば良い?」

「本を買うとか服を買うとかアクセサリーを買うとか色々あるでしょ。あなた金だけは無駄にあるんだし、買ってみたら良いじゃない」

「そんなことに金と時間を使いたくない。出来れば新しい学びを得られるような物が良い」

「わがままねえ。ていうか、前も言ったけど、少しは女の子らしい生活を目指しなさいよ。ほんとうに死んじゃうわよ。たまには学びを忘れて、1日遊んじゃいなさいな。ナターシャもそうしてほしいから、あなたを外に出したのだと思うわよ」

「遊びと言われてもな」

 

何をすれば良いのか全く分からないし。

 

「……公園にでも行ってみるか」

「あらいいわね。公園で遊ぶってのも悪くないわ。せっかくだし、色々と楽しんじゃいなさいな」

 

憂鬱な気分になりながら公園に向かった。そこではたくさんの子どもたちや学生らしき人たちが遊んでいた。鬼ごっこやだるまさんがころんだ、ドッジボールなど様々だ。だが、そのどれもに興味が持てなかった。

 

「……はあ。やはり退屈だな。こんなところで何をすれば良いのやら」

「お昼寝とか遊具で遊ぶとか色々あるじゃない」

「昼寝は時間を無駄にする行為だし、この年になって遊具で遊ぶ馬鹿はいない」

 

帰りたい。さっさと帰って新しいことを学びたい。

 

「……デパートにでも行ってみるか」

「あら良いわね。デパートってとっても女の子らしいし、大賛成よ。あなた金だけは無駄にあるんだし、色々買っちゃいなさいな」

「買いたくなるものがあると良いんだがな」

 

近くのデパートに寄ってみたが、私が目を惹かれるものは何もなかった。違いがよくわからない服があちこちにあったり、安そうな見た目の雑貨が並んでいるだけ。

 

「つまらない。あっちの店とこっちの店の違いも分からないし、服を買うことをどう楽しめばいいかも分からん」

「……あなたって。本当に枯れてるわね」

「やかましい。はあ……時間を無駄にしてるようにしか思えない。そもそも、こんな所で何を楽しめばいいんだ」

「そういうときこそ学びなさいよ。周りの女の子たちを見ていれば、どう楽しむか分かるはずよ」

 

周りの女の子たちね。わけわからん奇声を出してるようにしか見えないんだが。あんなのを見て何を学べという……。

 

「あいつらは」

 

周りを見ていると、織斑と篠ノ之が一緒に歩いているのを見つけた。丁度いい。あいつらから学ぶとしよう。知り合いから学ぶ方が楽だからな。

 

「織斑くーん!」

 

私がそう呼ぶと、織斑と篠ノ之が振り返った。篠ノ之が嫌そうな顔をするが、私に会うのが嫌なのだろうか。そこまで好感度が低くは無かったと思うが。

 

「あ、舞原さん。舞原さんもショッピングか?」

「ああ。新しい服を買いに来てね。君たちは何をしに来たんだい?」

「うーん。何をしにきたってわけでもないんだけど、箒からここに行こうって誘われてきたんだ」

「へえ。篠ノ之さんはここになにしにきたの?」

「……服を買いに来たんだ」

「そうなんだ。なら、私と一緒に行かないかい? 君たちの意見も欲しいし」

「良いぜ。皆で服を買う方が楽しいもんな。箒は大丈夫か?」

「……私は構わない」(このお邪魔虫め。せっかく一夏とのデートだというのに)

 

? なぜ彼女の機嫌が悪くなってるのだ? 私が何かしたのだろうか。まあどうでも良い。彼らからショッピングの楽しみ方について学ぶとしよう。

 

私たちは近くの服屋に行き、そこで服を選ぶ。私は何が良いのか全く分からないため、織斑に任せっきりになっている。

 

「織斑君。私って、どんな服が似合うかな?」

「そうだな。舞原さんは可愛いよりも綺麗系が似合うだろうし。うーん。箒、何か良い服ないかな?」

「そうだな。私は、こういうのが良いと思うぞ」(なぜせっかくのデートをこいつのために費やさないといけないんだ!)

 

彼女が不機嫌そうに選んだのは白のノースリーブと、黒のカーディガン、茶色のスカートだ。スカートはひざ下くらいの長さがある。

 

「舞原なら、この服が良いと思うぞ。試着してみると良い」

 

彼女から服を受け取り、試着室に入って服を着る。簡単に着替えられるし、この服は中々便利だな。試着室を出ると、織斑が驚いたような表情を浮かべる。何かおかしい所でもあったのか?

 

「織斑君。これ、似合ってる?」

「あ……ああ! 似合ってると思うぞ! 舞原さんにぴったりだよ!」

 

 

顔を赤くしながら、彼はそう答える。急にどうしたというんだ。話し方がたどたどしいし、何かの発作でも起きたか?

 

「ありがとう。篠ノ之さんはどう思う?」

「……似合ってると思う」(この女。一夏の心を掴みかけてるな。なぜだ。なぜこんな奴が)

 

相変わらず不機嫌だな。ずっと不機嫌だが、私が何かしたのだろうか。こうも不機嫌そうにされるのも面倒だし、直接聞いてみるか。

 

「條ノ之さん。ずっと思ってたけど、何か怒ってる? 私、何かわるいことしたかな? 気に食わないことがあったら、言ってほしい。ちゃんと治すから」

「……別に。不機嫌ではない」(鬱陶しい。天然かぶりっこか分からないが、こいつに心配されるの苛立つ)

「いや不機嫌だよ。さっきからずっと。私、篠ノ之さんに何かした?」

「別に。何もされてないし、不機嫌になる理由もないだろ」(貴様がここにいるから不機嫌になるのだ。せっかくのデートを邪魔し、一夏をたぶらかして。そもそもISの特訓もそうだ。私たちも教えたいのに、彼女ばっかり教えて、一夏も事あるごとにこいつの名前を出す。幼馴染でもなんでもないこいつが、なぜ一夏に好かれているのだ)

 

明らかに苛立ってるな。直接聞いたのは失敗だったようだ。

 

「箒? どうかしたのか? 舞原さんと何かあったのか?」

 

私たちのことを見かねたのか、彼がそう聞いて来た。

 

「……何でもない。それより、私の服も選んでほしい。私も新しい服が欲しい」

「分かった。えっと箒は何が似合うかなー」

 

こうして私たちは、一緒に服を買いに行ったり、雑貨を買ったりなど、色んなことをして時間を過ごした。今は喫茶店でケーキを食べている。

 

「美味しい! ここのケーキは絶品だね。2人もそう思わないかい?」

「ああ。ふわふわした食感が最高だし、クリームも甘すぎずさっぱりしてる。こんな美味しいところがあるなんて知らなかったよ」

「……そうだな。確かに美味しい。それに、紅茶も美味しい」

「今日は2人といることが出来て楽しかったよ。色々とありがとうね」

「俺も舞原さんと一緒にショッピング出来て楽しかったよ。また一緒に行こうな。今度はセシリアとか鈴も連れて行こうかな」

「良いね。とっても楽しそうだ」

「……そうだな」(絶対に碌なことにならないだろうがな。下手したら、舞原と喧嘩が起きそうだ)

 

またショッピングに行くのは面倒だな。もし誘われたときは、適当な理由をつけて断っておこう。そう思いながらケーキを食べていると、妙な気配を感じ、後ろを振り向いた。

 

「? 舞原さん。どうかしたのか?」

「……いや。何もないよ」

 

何か変な視線を感じた気がする。だが、私を見つめる視線はどこにもない。多分、私の気のせいなんだろう。多分、色々ありすぎて疲れたんだな。仕事や接待以外で外に出ることはないし、買い物はネットで済ませてるし。無駄にショッピングしたせいで、重いものをIS学園まで運ばなければならなくなった。重いし疲れるし良いことがない。やはり、ショッピングというのはダメだな。たいして楽しいこともないし、行くだけ時間の無駄だということが改めて理解できた。

 

 

 

 

 

 

舞原と織斑、篠ノ之がカフェで過ごす光景。それを見つめる視線が一つあった。それはカフェの中で見ているのではなく、カフェから数キロ離れたところで、ISのハイパーセンサーを使って見ていた。

 

「嫁。楽しくなさそうだな。まあ、あの愚図どもが嫁を楽しませられるわけがないからな。あいつらは嫁のことを何も理解していない。やはり、嫁を楽しませられるのは、私だけだ」

 

彼女はうっとりとした表情を浮かべながら言う。腰まで伸びた銀色の髪をなびかせており、左目に眼帯をしている。ヘッドフォンを耳に着けており、何かの音を聞いているようだ。服は真っ黒なドレスであり、右手は黒の指なし手袋をしている。左手の薬指には小さいダイヤが散りばめられた指輪を着けている。

 

「やっと。やっと嫁に会える。長い地獄だったが、それももう終わる。ふふふふふふふふ。待っていてくれ。嫁よ。ナターシャやロランとは違う。本当に嫁を幸せに出来るのは、私だけだ。あははははははははは!」

 

彼女は高らかに笑いながら、人混みの中に溶けていく。少しして人混みがはけると、彼女の姿はどこにも無かった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話 波乱の転校生

HRの最中。教壇に立つ山田先生が面白いことを言った。

 

「今日はなんと、転校生を紹介します! しかも二名です!」

 

クラス中の女子達が一気にざわつく。なんとも面白いことになったものだ。この時期に転校生。間違いなく、織斑が関係している何かだろうな。大方、スパイか何かとでも言ったところか。ま、スパイが何をしようと知ったこっちゃないが、私の知識収集を邪魔することだけやめてほしいものだ。そう思ってると、2人の転校生が教室に入ってきた。1人は男子の転校生。礼儀正しい立ち振る舞いと中性的に整ってる顔立ちで、髪は金髪。その髪を首の後ろで丁寧に束ねている。女子たちが2人目の男子が来たことでざわついてるが、私はそれが気にならないほど、目の前の光景に目を奪われていた。2人目の転校生は白に近い輝くような銀髪で、腰近くまで長く下ろしているロングストレートヘアー。綺麗で整えられてる印象があり、見るだけで分かるほどに肌は綺麗で、手間暇かけているということが良く分かる。そんな彼女の名前は。

 

「……ラウラ? なぜ奴がここに」

 

ラウラ・ボーデヴィッヒ。2年前、私が興味本位で近づき、捨てた女だ。捨てた理由は簡単。あの女から学ぶことが無くなったからだ。学ぶものが無くなれば捨てるのは当たり前。だが、あいつはしつこく私を追いかけて来た。

 

『頼む! 一緒にいてくれ! お前がいないと、私は』

 

そう言って、泣き叫びながら足を掴む彼女を、私は蹴り飛ばした。鬱陶しかったからだ。学ぶものが無くなったというのに、いつまでもくっついてこられても迷惑だ。しかも、ナターシャ以上のしつこさと来てる。多少は暴力的な手段に出なければ、彼女を振り払うことは出来なかった。後悔はしてない。あの女に対し、思う所もない。

 

「まさか、IS学園まで来るとはな。目的は、私への復讐か?」

 

だとしたら面倒なことになるな。あいつの実力はかなりのものだ。私では絶対に勝てない。ロランツィーネが戦ったとしても、勝てるかどうか微妙だし、あいつを戦わせたくない。金づるを失うわけには行かないからな。となると、ナターシャや織斑千冬に戦わせるのが最も良い方法か。ま、まずはあいつの目的を調べてみるとしよう。どうやって戦わせるかを考えるのは、その後でも遅くはない。そう思ってると、ラウラが自己紹介する番になった。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。これからよろしく頼む。好きなものはコーヒーと知識だ。ちなみに、舞原知恵の友達だ」

 

彼女がそう言うと、クラスメイト達が一斉にこちらを見て大騒ぎする。

 

「ええええ! 舞原さん、ラウラさんと知り合いなの?」

「すごーい! あとで色々聞かせてよ」

 

面倒なことになったな。そう思いながら彼女を見ると、彼女は私に微笑んだ。妙な目だ。私を恨んでいるとは思えない。むしろ、親しい人と会ったような奇妙な目。あいつは何を考えている。

 

 

「ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」

 

HRが終わり、私は更衣室に向かった。織斑と金髪の男が騒がれていたが、私にとってはどうでも良いことだ。第1更衣室に着いて制服を脱ごうとすると、ラウラが近づいて来た。

 

「舞原。少し良いか? 聞きたいことがあるのだが」

 

無視したいが、そうするとあとで面倒なことになるな。

 

「どうしたの? 何か分からない事でも?」

「ああ。ちょっとこっちに来てくれ」

 

そう言われて彼女についていく。どこにいくのかと思いきや、女子トイレの中に入った。やばいと思った時は遅かった。あっという間に個室に入れられ、壁に追い込まれた。

 

「ラウラ……貴様」

「久しぶりだな。嫁よ。ずっと会いたかったぞ。お前のことを考えて、何度も何度も何度も、自分の体を慰めた」

「貴様と話すことはない。さっさと離れろ。お前からはもう学ぶことがないんだよ」

「つれないな。相変わらず嫁は冷たい。でも」

 

彼女はいきなり私の口にキスをする。引き離そうとしても、力が強くて離せず、無理矢理口の中を開けられる。

 

「んうう! んううううう!」

「んむ、んにゅ……ちゅ、んふぅ」

 

口の中を舐めまわされ、何かを喉奥に押し込まれた。それから少しだけキスが続き、ようやく離れてくれた。

 

「ふふふ。久しぶりの嫁の唇。美味しかったぞ」

「貴様。一体何を……うぐっ!?」

 

いきなり体が熱くなり、倒れそうになったところを彼女に支えられた。体中が熱い。しかも、感覚が鋭敏になってるような。何を入れられた。

 

「おやおや。ずいぶんと体調が悪そうだな。織斑先生には事後報告になってしますが、この状態の嫁を1人には出来ないし、一緒に保健室に行くとしよう」

「この……失敗作が」

「ふふふ。失敗作か。他のゴミ共に言われるのはムカつくが、嫁なら嬉しくなってしまうな。私は嫁の前だと、マゾになってしまうのかもしれない」

 

私はトイレを出て、無理矢理保健室に連れ込まれた。先生は留守にしているらしく、中には誰もいない。ラウラは私をベッドに寝かせ、カーテンレールで外を見えないようにした。

 

「はあはあ……ラウラ。貴様、何の薬を」

「ただの媚薬だ。嫁にはいくら言葉で言っても意味ないからな。こうして実力行使をするしかないのだよ。ふふふふふ。顔を赤らめてる嫁は可愛いなあ」

 

そう言って彼女が私のお尻を撫でる。

 

「ひゃうっ! き、貴様ああ」

「あはははは。嫁とは思えないほどの可愛い反応だな。もっと鳴いてくれ」

 

そう言って、私のお尻、腕、首を触っていく。鬱陶しいのに、脳が快楽を感じている。

 

「んううう! や、やめ……あん。ラウラ。いい加減に」

「ふふふふ。可愛い反応だな。それに、お前の体はすんなりと私を受け入れてくれる。とっても正直なんだな」

 

まずい。このままだと奴のペースに飲まれっぱなしだ。何かないか。この状況を打開するための何か。

 

「こーら。私とちゃんと向き合え」

 

私が周りを見ていると、彼女が顔を自分の方に向くよう固定してくる。そして、私のスカートを脱がし、下着にまで手をかけようとするので、それを掴んで止めた。

 

「やめろ! これ以上ふざけたことをするなら」

「もう。頑固な嫁だな。はやく受け入れてくれ」

 

そう言って彼女はまたお尻を触った。

 

「あっ……んう。やめ……ろ」

 

奴が私の体を触る度、掴む力がどんどんと弱くなっていく。

 

「ふふ。やっと受け入れたか。では、あとは簡単だ。嫁と楽しむだけ。久しぶりだなあ。こうして楽しむのは」

「殺す。絶対に殺す。貴様だけは絶対に」

「ふふふ。可愛い反応だ。まるでゲームに出てくる姫騎士? という奴みたいだ。一緒に楽しもうか。嫁よ」

「ひう……このおおお」

 

 

 

 

 

 

 

あれから1時間。私はラウラに弄ばれ続けた。もう何があったのか碌に覚えていない。途中から頭が真っ白になったし、わけのわからないことばかり考えていたからだ。ラウラは保健室を出て、織斑先生に報告しに行った。何とかして動きたかったが、身体がいうことを聞かない。

 

「くそ。まさかこんなことになるとはな」

「あらあら。色々酷いことをしたバツかもしれないわね」

 

メティスが笑いを堪えるようにそう言った。

 

「酷いことをした覚えは無い。飽きたから捨てただけだ。そこらへんのガキだって、飽きたおもちゃで遊ぶことはせずに捨てるだろう。それと同じことだ」

「捨てるとまではいかないと思うけどね。あくまで遊ばなくなるだけで。あなたは彼女を捨てた。その天罰が下ったのよ~。これにこりたら、生き方を改めることね~」

「黙れ。変えるつもりなど毛頭ない」

「言うと思った。それより、あの銀髪の少女はどうするの? このままじゃ大変なことになると思うけど」

「なんとかするさ。あいつに弄ばれるのは気に食わない」

「面白かったわね~。普段のあなたが出さないような声で鳴きまくってたもの。思わず笑っちゃったわ」

「性格の悪いISだな。親の顔がみてみたいものだ」

「鏡を見れば分かると思うわよ。ま、色々頑張りなさいよ~。本当に危ないときは助けてやるから」

「うるさい。貴様の助けなどいらん」

「さいですか」

 

それを最後に、メティスの声は聞こえなくなった。さてと。どうにかしないとな。このままでは、学ぶ時間がどんどん減っていく。ただでさえ、ナターシャのせいで学ぶ時間が大変だというのに、あの失敗作にまで邪魔されるわけには行かない。

 

「早急になんとかしないとな」

 

一番頼れそうなのは、ナターシャか織斑先生だな。後で織斑先生に相談してみることにしよう



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話 舞原の大ピンチ!

体調がマシになってきたので、私は保健室から出た。

 

「くそ。最悪の気分だ。こんなことになるとはな」

 

一刻も早く織斑先生に報告しなければ。それでだめならナターシャに報告すれば良い。これ以上ラウラに好き勝手させるわけには行かない。教員室に向かって歩いてると、織斑先生がこっちにやってきた。

 

「舞原。少し良いか?」

「はい。何でしょうか?」

 

織斑先生が私に話。一体どういうことだ。

 

「ラウラから聞いたのだが、体調があまり良くないようだな」

「ええ。その事で織斑先生にしてほしいことが」

「ラウラ曰く、何らかの病気にかかってる可能性があるらしいからな。お前を病院に連れて行くことになった」

 

……今この女はなんと言った。私の聞き間違いかなにかだろうか。

 

「あの。それはどういう」

「ラウラが言うには、お前はかなりたちの悪い病気にかかっているようでな。まだ本人には自覚症状がないようだが、最悪命を落とす病気だと言っていた」

「ち、ちょっと待ってください! そんな突拍子もないことを信じているんですか!? 彼女が嘘を言ってる可能性も」

「私とて半信半疑だ。だが、奴は軍に所属していたこともあって、そこらへんの薮医者よりは病気に詳しい。確かに突拍子もないことではあるが、奴がそんな嘘を言うとも思えない。あいつは冗談を言ったりするタイプではないからな」

「だったら学園の医務室で見れば」

「学園の医療設備は優秀だが、病気の治療や検査となると、病院の方が色々と便利だ。今日はもう授業もないし、早く行くぞ。病気は早期発見が大事だからな」

 

 こうしてあれよあれよと言う間に私は織斑先生の車に押し込まれ、病院へと向かっていった。最悪の気分だ。織斑先生にラウラのことを報告しようとした矢先にこれだ。あの女、私がどう行動するのかを把握して先手を打っていたんだ。とんでもなくやりにくいな。今まで適当にやってきたが、今回ばかりは本気でやらないと危ないかもしれん。

 だが、病院で検査を受けれるというのはチャンスかもしれない。ラウラの言ったことが虚言だと証明出来るからな。そうすれば、織斑先生もラウラを疑わざるを得なくなり、動揺する。そこを上手く突けば。そう思っていたのだが。

 

「なるほど。これは病気にかかってますね」

 

診察を受けた医者から言われた言葉は、あまりにも衝撃的なことだった。

 

「え……わ、私。病気にかかってるんですか?」

「ええ。これはアルビス病というやつですね。初期症状はなんともないのですが、時間が立つにつれて細胞を破壊し、人を殺してしまうとんでもない病気でしてね。かかる人は殆いないからあまり知られてはませんが、誠に恐ろしいもんなんですよ」

 

ふざけるな。そんな珍しい病気だというのなら、この私が知らないはずがない。明らかにこいつが言っていることは嘘だ。そもそもこの医者はなんなんだ。医者とは思えないような妙な話し方。かなり大きな病院だというのに、こんな奴を入れて大丈夫なのだろうか。しかし、織斑先生は完全に信じ切ってるようで、悲痛な顔をしていた。

 

「先生。彼女はどうすれば助かるのでしょうか」

「こちらの病院で入院し、点滴を受ければなんの問題もありません。まだ初期症状のようですからね。その段階なら1週間もあれば完治します」

「それは良かった。良かったな。舞原」

「そうですね。完治できるのなら嬉しいです」

 

ここまで冷める茶番というのも中々ないな。うっかり素をさらけ出してしまいそうだから気をつけないと。私がなにを言ったとしても説得力が無いだろう。織斑先生にとっては、私は医学に無知なIS学園の生徒で、向こうは医学のスペシャリストである医者。どちらを信じるかは明白だ。面倒なことになったものだ。

あれよあれよと手続きが進んでいき、夕暮れが沈む頃には、私はベッドの上にいた。まさかこんなことになるとは思いもしなかった。こんなふざけた茶番に巻き込まれてしまうとはな。

 

 

「たく。どいつもこいつもふざけたことを」

「ほお。ふざけたことというのは、こんなことだったりか?」

 

突然の声に驚き、私は周りを警戒する。そして、病室のドアを開けて現れたのは。

 

「やあ嫁よ。病院での生活はどうだ?」

「……ラウラ。失敗作のゴミクズが。なぜ私の居場所を」

「おいおい。嫁が病気にかかってると言いふらしたのは誰だと思ってる。私だぞ? なら、そこからお前や織斑先生が取る行動も簡単に予測できる。織斑先生は心優しいからな。間違いなく、こういった大きな病院にお前を連れてくると判断した。あとは簡単だ。ここの病院にちょっとした細工をして病院に通わせればいい」

「貴様。賄賂か何かでも送ったのか?」

「あたりだ。流石は嫁だな。これだけ大きい病院だと、院長やそいつの秘書は黒いこともしてるだろうからな。そういうことをしてる奴ほど、手玉に取りやすい。利益を与えれば、簡単にこっちと取引してくれるのだから」

 

こいつ。ここまで頭が回る奴だったか。確かに頭脳は優れていたが、ここまでの策を立てられるなど。

 

「さあ。今日は診察の時間だ。私が嫁を診察してやろう」

 

そう言って奴は一気に私をベッドに押し倒す。あまりにも早く、逃げようとする時間も取れなかった。

 

 

「くっ……やめろ。本当にやめてくれ」

「ふふふ。どうした嫁よ? いつになく弱気じゃないか。凛々しい姿の嫁はどこへやら。ま」

 

彼女は再び私の唇を奪い、深い口づけをする。

 

「やめ……んうう……ちゅ」

「んむ……ちゅ……んふう。ふふふ。そういうのも好きだがな」

「あう……このボケカスがあ」

「語彙が貧弱だな。それに顔も赤くなって。どうした? 嫁は何人もの男と寝たのだろ。私みたいな素人に屈してどうする」

「はあ……はあ」

 

彼女は私の体をさすり、またお尻をすりすりと触る。

 

「ふぐっ! き、貴様。ふざけた真似を」

 

飲まされた薬のせいか、どうも気分が落ち着かない。ダメだ。堪えろ。こんな奴に屈したら、本当に終わりだ。それだけはだめだ。

 

「ふふふ。必死に耐えようとするのも可愛らしい。いますぐにでもめちゃくちゃにしたい。けど」

 

彼女は私の胸を鷲掴みにしてくる。こんな乱暴な触り方のくせに、どうして体が熱くなるんだ。

 

「くっ! 覚えて……おけよ。絶対に殺してやる」

「ふふふ。顔を赤くしながら言っても説得力がないぞ? こんな可愛らしい顔して」

 

彼女は私の耳に顔を近づけ、息を吹きかける。

 

「ひゃう!? このおお」

「あはははは。ほんとに可愛いな。嫁のために、色々と頑張った甲斐があった」

 

彼女がうっとりとした表情をしていると、彼女のポケットから着信音が鳴り響く。彼女は表情を無にしながら、それに応じる。

 

「何だ……分かった。すぐに行く」

 

彼女は携帯をポケットに入れ、私から離れる。

 

「すまないな嫁よ。私はこれから用事があるから出る。また明日遊ぶとしよう」

 

そう言って、彼女は病室を去っていった。

 

「まずいな。このままだと彼女に弄ばれていくだけだ」

 

思ったよりも頭が回るようだし、もっと先手を打って対処していかないと。これ以上、あの失敗作の好きにさせるわけにはいかない。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。