お前はもう絶対に本気を出すな (缶古鳥)
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1.お前が本気出したら多分世界滅びるって言う感じのプロローグ

人生とは選択の連続だ。

 

二者択一、そのルールはどこまで逃げても付いてくる。

どちらか片方を救うために、どちらか片方を見殺しにする。

 

選択の連続だ、人生とは。

 

天秤にかけるようにして、どちらか片方を選ばなければいけない。

そこに第三の選択肢は存在しない。神様はそこまで殊勝ではない。

 

そんな当然で残酷な現実を知ったのはたった齢六歳の頃。

幼馴染みのお転婆に当然のように付き合わされていたいつもの日に、それは起きた。

 

俺が『蛮族』に襲われたのだ。

 

『蛮族』、魔物達の中でも特別知性を有し、独自の言語を持ち、徒党を組み人間を襲う暴力こそが至高の最低の集団。ーー人間種の天敵。

 

俺が襲われたのはゴブリンという中でも強さは最下層に位置する存在だったが、いかんせん数が悪かった。

 

その数、約五十。各自兵装なども整っており、指揮官の姿も見られる。

どういうわけか今まで森に潜伏していたらしい。森を遊び場としていた俺たちは残念なことに奴らに捕まり、蹂躙されるーー、ことはなく。

 

魔法の天才、とまでいわれた幼馴染みはこういうときの心得というものを持っていたらしく、魔法で蛮族どもを風の刃で切り裂いていった。

 

徐々に蛮族を彼女は追い詰めていく。

しかし、運が悪く。ほんとうに運が悪く。

 

 

ーー魔力が、暴走した。

 

 

魔力の奔流が吹き荒れる。

その紫色の色彩が見えたところまでは覚えている。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

ーー気がついたら全てが終わっていた。

 

 

 

 

 

村外れの寂れた教会。

気がついたらそこにいた。焦って教会から飛び出して外に出た。

 

全てが終わっていた。

 

なにか嵐に襲われたかのように村は凄惨な有り様で。

 

思わず息を飲む。

 

この状況を起こしたであろう人物を俺は知っている。

 

後ろを振り向くと、彼女がいた。

こぼれそうなほどに大きな瞳で、泣き腫らした瞳で震えながらこちらを見ていた。

 

「お前がここまでつれてきてくれたのか?」

 

少女に一歩歩み寄ると、彼女は一歩後ろに下がった。

彼女の魔力を受けてこの教会が崩壊していないのはひとえに『神の加護』という奴のお陰なのだろうか。

 

訳も分からないまま、魔力が暴走して。

村がこんな有り様になって、俺も目を覚まさなくて。

きっとそんな状態で、彼女は泣いていたんだろうと、その目を見て分かった。

 

その涙を拭ってあげたいと、無意識に思っていた。

 

だから、彼女に近づいて。

 

彼女の涙を指で拭った。

 

もう金輪際。絶対に、俺が生きている限り。

 

 

「お前は、もう絶対に本気を出すな」

 

 

廃墟になった教会。虹色のステンドグラスから差し込む日差しの元で、小さな小指で指切りをして。あの日、俺は彼女と約束をした。

 

小指を差し出した瞬間、彼女は頬を緩めて、当然といわんばかりに細い小指を俺の指に絡ませた。

 

そうしてはにかむ彼女の笑顔を、俺はきっと忘れられないだろうと思った。

 

この村一帯を、”俺以外”を吹き荒らしたその力を。

 

俺はもう、二度と使わせない。

 

そんな決意が、怠惰な少女を産み出した。

その事にようやく後悔をするのは、俺が十五歳になる頃。

 

 

「ねえ、アル」

 

「...俺の経験則から何を言いたいかなんとなく分からないでもないんだが、とりあえず言ってみろ」

 

「無性にお腹が減ったの」

 

「ああ」

 

「ポテチ買ってきて」

 

「...売店で?」

 

「うん」

 

「お前が買いにいけ」

 

 

人生は選択の連続だという。

もしも、あのとき俺が本気を出すな、など言わなければ。

きっと、こんな怠惰な幼馴染みに寄生させることもなかったんじゃないだろうか。

 

俺こと、アルベルト・ブロークン。

弱冠十五歳にしてSランク冒険者ギルド『黒翼』所属。

 

あれから、なんやかんやあって。

冒険者ギルドに所属することに成功し、ある程度の危険と引き換えに穏当な生活を送る俺たちはーー、

 

 

「ねえ、アル」

 

「...なんだ」

 

「こんなにかわいくお願いしても、駄目?」

 

「...一緒に行くか?」

 

「ちょろ」

 

「殴るぞ」

 

 

何故か同じ家で、一緒に生活する事を強いられている。

 

 

 

 

 

なんで?????????

 

 

 




オリジナルファンタジー恋愛の波が来てる。気がする。
ランキングに天才多すぎて辛い。

ちなみに続く。


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2. お前が本気を出したところで、恐らく世界はそんなに変わらない。

筆が...動くッ!?


俺の怠惰な朝は、幼馴染みに起こされることから始まる。

頬をぺちぺち、と叩かれる感触。アイツは魔力と頭以外に取り柄がなく、たいした筋力があるわけでもなく、はっきり言ってまったく痛くない、が。

 

ベッドからガバッと起きて、奴の手を掴む。よくもまぁ隣の部屋からはるばるとここまでやってきたものだ。本当に。

 

そうして奴の顔を覗き込むと、なにやら驚いているようだった。

 

「おい」

 

「私の予想より起きるのが3秒早い...!?」

 

「やり返される覚悟はできてるな?」

 

「待って欲しい。私女の子だよ?」

 

「だから?」

 

「かわいいでしょ?だからーー」

 

「痛いの一発行くぞー」

 

「ちょっと待って、その拳、魔力を伴ってるから!????」

 

たまには、こいつにやり返す朝も良いだろう。

とりあえず今日は、奴のほっぺをつねることに成功した。

 

「ねえ、アル」

 

「なんだ。アリシア」

 

「ほっぺが痛くて動けない...」

 

「...そのまま一生そこから動くな」

 

「それは私を一生養ってくれるっていうプロポーズ?」

 

「違うわボケが」

 

ベットの上でぐでーっとしているアリシアを尻目に、とりあえず俺は朝ごはんの準備をすることにした。

 

「あ、ご飯とパンならどっちがいい?」

 

「...私朝はパン派閥ー」

 

「知ってた」

 

はいはい、と適当な了承をし、ベットでぐてーっとしている駄目人間に、今日も今日とて朝ごはんを作ることにした。

 

そういえば、とアリシアが声を上げて、

 

「今日、変な夢見たんだ」

 

「へえ、そりゃどんな?」

 

「私とアルが結婚する夢」

 

「馬鹿も休み休み言え」

 

そんな感じのやり取りが、俺たちの朝の一連の流れである、が。

寝室の扉を閉め、奴との空間を隔離。

 

そうして、俺はようやく溜め息を付く。

 

 

「冗談も、休み休み言え...ッ!」

 

 

こちとら年頃の男の子だぞ。

無防備過ぎるのが怖い。理性をどうにか保っている俺にグッジョブと言いたい。

 

「なんで男の部屋になに食わぬ顔で入ってくるんだアイツ...」

 

ぶっちゃけていえば奴はかわいい。絹のような銀色の髪に、吸い込まれるみたいに大きい空色の瞳。極めつけは整った顔。

 

天使かよ。

 

意識してるのが自分だけ、となると途端に悲しくなる。

とりあえず、朝ごはんを作らなくては。集中、集中。

 

今日もアイツの笑顔を見るために。

 

 

 

甘やかしている自覚はあった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

冒険者。

剣と魔法と来て、次に子供が思い浮かべるのは間違いなくそれだ。

ダンジョンに潜って遺物(アーティファクト)を見つける。一人、群れからはぐれたはぐれ竜を狩る。誰も見たことない魔法の真価を最前線で発揮する。蛮族に占拠された『旧大陸』を開拓する。

 

かつて魔王討伐に成功した勇者とやらもその冒険者という括りに入る。

 

であるからして、冒険者は夢に溢れた職業だ。

 

とは俺は思わない。

 

冒険者とは、夢に溢れた職業だ、と民衆は言うが。

冒険者は、夢ではなく現実を直視させられる職業だ。

実際に、死亡率はダントツで一位。ただし、夢さえ見なければ。

剣と魔法の世界で、効率よく生き残るための手段は冒険者だ。

 

冒険者とは夢に溢れた職業ではなく、夢で舗装された職業なのだろうと思う。

 

ダンジョンがわざわざ目立つところにあるのは何故だ。

それはあんぐりと口を開けて獲物を待っているからだ。

そう、養分となる人間たちを待っているからだ。

 

二つ名付き(ネームド)』の魔物がある一定の場所で挑戦者を待ち続けるのは何故だ。

それは蛮勇で愚かな挑戦者を自分の糧にするためだ。

 

冒険者の常識。

冒険者は、冒険をしてはいけない。

 

そんな常識も知らずに、たった八歳のガキが冒険者をするなんて馬鹿げている、と今なら客観視できる。

 

思えば、金のために必死だった。

ガキに働き口なぞない。だから、唯一の光が冒険者だった。

 

冒険者は来るもの拒まず。ただし、自己責任。

それも、冒険者の常識。

 

思えば、思い直すほど、俺がどれだけ愚かだったかが分かる。

アリシアに本気を出すなといったのは自分の癖に、ダンジョンにつれてきたのは何故だ。アリシアの安全を重視するなら連れてくるべきじゃなかっただろ。

 

結局、自分はアリシアの力に頼ろうとしていたのだと。

 

子供心に気づいて、思わず笑った。

 

ボロボロの剣一つ。それで魔物に勝てるわけないだろうが。

考えが回らない。計画性がない。即断即決。全部自分の悪いところだ。

 

また、アリシアに本気を出させようとした。

 

もう二度と本気を出させないって言ったのは誰だよ。俺だ。

 

アリシアを背中に庇って、無我夢中で剣を振った。

流派なんてなにもない。ただ無我夢中で戦っただけ。

 

それなのに。

 

 

ーー俺は気づけば魔物を倒していた。

 

 

俺はどうやら天賦の武の才能があったらしい。

相手の次の動きや、どうやったら勝てるか、とかを瞬時に理解することができる。

 

俺は『武神の加護』を受けたいわゆる神子と言う奴らしく、アリシアの魔力が暴走して俺が生きていたのは加護があったからだった。

 

神の加護を受けている。その事実に俺は浮かれた。

 

その結果、俺は調子に乗りまくり、挙げ句の果てにアリシアを死なせかけた。

その時に助けてくれた冒険者ギルドが、『黒翼』。

 

今でも運命的な出会いだと思う。

 

その結果、俺たちは『黒翼』に所属することになり、色々な事件を乗り越え、Sランクまで上り詰め、いつのまにかこんなところまで来ていた。

 

あのとき、助けてもらった時から、俺はもう慢心しないと心に誓った。

 

この力はアリシアを守るための力だ。

俺はこの力をそうだと信じて疑わない。

 

だから、今日も剣を振るう。

 

目を瞑って、最初に思い浮かべるのは彼女の姿だ。

 

馬鹿みたいな初恋は、今でも続いている。

 

冒険者とは、夢で舗装された職業だ。

しかし、そこに夢がないわけではないのだ。

 

しみじみと、日々を過ごしてそう思う。

 

突然だが、俺たちの所属している『黒翼』。

まがりなりにもSランクギルド。冒険者区分で最強に値するギルドであるからして、国からの依頼を請け負うことがたまにある。

 

まあ、国から公認をもらって好き勝手できることはなかなかに良いことかもしれない。

 

半年ごとに来る、国からの『依頼(無理難題)』。

絶対受けろよ?という意思が文章から伝わってくる。

 

俺はサブマスターを勤めているので、俺たち宛の依頼はギルドマスターの次、二番目に見る権利がある。

 

と、いうわけで。執務室にて。

 

「なぁ、アルちゃん」

 

「どうしたんですギルドマスター」

 

「昔みたいにダリウスのおっちゃんでいいから」

 

「言いませんよ、そんなん」

 

そう、それは若気の至りというやつだ。

所属当時、ギルド一の凄腕と言われて、決闘を挑み腹パン一発でゲロをぶちまかしたのは記憶に新しい。それも、俺の向こう見ずな性格を矯正するのに繋がった。ギルドマスターには感謝している。

 

そんなことより、だ。

 

王国有数の使い手、俺よりも強いギルドマスターが、依頼を見て震えている。

 

「俺、まだ妻も嫁もいないんだけど...マジかぁ」

 

強面で髭がダンディなこのおっさんは現在彼女募集中らしい。

童貞である。それは俺もだが。早く嫁さん探せよとは思う。もう三十路だろ。

 

「で、どうしたんです...か」

 

その依頼を見て、俺は絶句した。

 

「なぁ、俺は冗談だと思うんだが、お前はどう思う?」

 

「俺も冗談だと思いたいですよ。はい、ええ。...えぇ?」

 

依頼には、『ドレイクマーキスの討伐』と書かれている。

ドレイクとは蛮族の支配階級に値する存在で、竜のような翼と羽に人間の知能を兼ね備えた存在だ。

おまけに彼らは実力に応じて名乗る階級を変える。彼らは完璧な実力主義で血統は関係なしに、強さで序列が決まる。ちなみにマーキスは人間で言うところの侯爵。つまり、上から二番目に強いドレイク。

 

そして極めつけにはーー、

 

 

「...『アルベルト・フローレンとアリシア・ヘルティゼルの二名との決闘を求めている模様』。すいぶん他人行儀だな。それをあちらは求めてるってよ。どーする?サブマス」

 

 

それはドレイクの戯れ言だ。

しかし、その言うことを聞かなかった場合。

 

なにが起こるのか。それは、想像に易い。彼らは報復に走るだろう。

ドレイクは武を重んじる存在。相手もルールを守るなら、こちらもルールを守る。逆もまたしかりだ。自分の誇りのために奴らは戦う。誇りを汚すことがなきように、奴らは戦う。

 

腹いせのつもりか?

 

奴らは武神を信仰している。

俺は『武神の加護』を受けてる。

自分の愛している神様がそっぽを向いたから、気にくわないのか。

 

だから、アリシアを巻き込むのか。

 

気にくわない。

 

「ちなみに、受けなかったらどうなると思います?」

 

「めんどくさいことになる」

 

端的に言いきった。だろうな、と思った。

矜持とかは、ぶっちゃけどうでも良い。

 

ただ、彼女を。

 

アリシア・ヘルティゼルに、俺はもう傷ついて欲しくない。

本気を出して欲しくない。傷つくのも、彼女のために頑張るのも俺の仕事だ。

 

「ねえ、先生。これ、期限は?」

 

そこで俺はわざと昔の呼び方にする。少しでも俺のわがままを通すための策だ。

 

「二週間以内に決めろって書いてある。で、その呼び方はおじさん知ってるぞ。わがままを言うときの顔だ」

 

 

そうして、俺は満面の笑みを浮かべて。

 

 

「ーー師匠の『魔剣』、ちょっと貸してもらえます?」

 

 

彼女を傷つけたくない。故に、俺だけが傷つく道を取る。

彼女の悲しむ顔はみたくないし、死ぬのは嫌だ。だから、この二週間で絶対に勝てるようにする。

 

『魔剣』ーー、ダンジョンから取れる『遺物(アーティファクト)』のなかでも最高位に位置する『王の遺産(ロストレガリア)』と呼ばれる幻の存在。同じ剣は一振りもないという唯一の存在にして、剣の頂点に位置する存在。

 

師匠のその『魔剣』があれば、間違いなく勝てる。

 

と、いうわけでお願いをしたのだがーー、

 

「絶対だめですー。いまのアル君には貸せませんー!!」

 

「大のおっさんがその語尾はどうなんですかね」

 

「まだ二十九だから!!」

 

「四捨五入したら?」

 

「三十路だけれども!!」

 

そんなやり取りをしているうちに、頭が覚めてきた。

ギルドマスターは、神妙な顔で問い掛ける。

 

「落ち着いたか?」

 

「はい」

 

「それならいいんだよ」

 

この人は、凄い人だと、改めて実感できる。

感情的で、直情的で、結論馬鹿なのが自分の悪いところだ。分かっている。

今のは、冷静じゃなかった。

 

ようやく、頭が落ち着いてきた。

 

「よぉーし、落ち着いてきたところでサブマス君。君には一ついっておきたいと思う」

 

「はい」

 

「お前が本気を出したところで、お前が思ってるよりお前は無力だ」

 

頭を金槌かなにかで叩かれた気がした。

正論だ。厳しく現実を見せてくる。でもそれは、優しく諭すような声だ。

 

「単体で考えるな。集団で考えろ。冒険の基本は集団戦だ。幸いにもお前は考えるのがうまい。素敵な相棒(パートナー)もいることだし、な?」

 

その言葉と同時に、執務室の扉が開く。

キィと音を立てて、こちらにはいってくるなり、俺の胸に飛び込んできたのはアリシアだ。

 

「...アリシア」

 

「前から一人で思い詰めすぎだと思ってた。私は本気を出せないけど、それでも手を貸せない訳じゃないから」

 

今さら、そんな当然のことに気づいて。

俺はまた慢心していたことに気づいた。

 

自分がアリシアを守るとは、とんだ笑い種だ。

確かに、彼女は本気を出さない。それでも弱いわけがない。

 

むしろ強い。

俺の後ろで、いつもサポートをしてくれるのだ。アリシアは。

 

馬鹿だ。俺は。

ずっとアリシアを対等に扱ってきたつもりなのに、俺はいつのまにかアリシアを守る対象として、下に見ていた。

 

「ごめん」

 

「分かってるなら今日はカレーね」

 

「うん」

 

そんな様子をギルドマスターはにこやかな笑顔で眺めて、

 

「十五歳の少年少女って、こんなに尊いのか...。仕込んだかいがあったぜ」

 

「色々台無しだよ」

 

駄目な大人だ。この人は。

正直、今回の件に関しては感謝してもしれないけど。

俺は毎回、馬鹿みたいに慢心して、それに気づけなくて。

 

正直、この人がいなかったら俺もアリシアも死んでいた。

この人は、一歩引いた位置から辺りを見回して、人間関係を取り持つのがうまい。

 

いい人だ。なのに、なぜ童貞なのだろうか。

 

「失礼なこと考えてるのは分かってるが、ぶっちゃけこれ、限界まで気配殺せば、お前らについていけるのが何人かいるんだよな」

 

「「へ?」」

 

二人揃ってすっとんきょうな声が出た。

 

「つまり、だーー」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

ひでぇ有り様だ。

俺の心情を正直に吐露すると、こうなる。

 

待ち合わせ場所で律儀に待っていたドレイクと、その部下であろう蛮族の集団。

俺とアリシアが正面から来ると見て、ドレイクはこちらに向かって一歩踏み出しーー、

 

ぶっちゃけその瞬間に全てが終わっていた。

 

背後での大爆発。これで部下の蛮族は大体殺った。

それと同時にドレイクの手足が雷の鎖によって束縛され、成す術もなく、ドレイクは俺の剣によって心臓を貫かれ、瞬時に人型から、竜の形に変化し、こちらを憤怒の形相で睨みつけていたが、我らがギルドマスターの『魔剣』によって一刀両断。

 

そして最後にーー、

 

「おい、そこのコボルト。これ持って帰れ」

 

部下の蛮族の生き残り。ゴブリンについで最弱といわれる二足歩行の犬、コボルトにギルドマスターが無理矢理手紙を渡し、帰るように手で促すと、コボルトはものすごい勢いで走り去っていく。

 

いまもギルドメンバーによって生き残りの粛清は続けられており、おそらくこの悲劇の目撃者はあのコボルトだけになるだろう。しかし、魔法によってこの悲劇の記憶は靄が掛かるようになっているので、真実を語るのはその手紙。

 

『正々堂々とした勝負の果てに人間が勝利した』と書いてあるであろう手紙。

 

「正々堂々...かぁ」

 

「私たちもこういうずる賢いところ盗んでいくべきなのかもね」

 

死人に口なしとはよくいったもんだ。

 

そんな俺たちに我らがギルドマスターは笑って、

 

「ほら、お前が本気を出したところで、たいしてなにも変わんないんだよ。頼るべきは仲間。分かったか?」

 

その笑顔がこの悲劇の後に浮かべたものでさえなければ、俺はきっとこれからもずっとこのギルドマスターに心酔していたと思う。

 

「「何か違う...」」

 

「なにも違わない!ほら、帰ったら宴だぜ」

 

今日はチームプレイの大切さを学びました。まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ダリウス・アッシュグロウ
29歳。独身。童貞。
はじめては初な子が良いらしい。冒険者家業が忙しすぎてそんな暇があんまりない。みんなの頼れるお兄さんポジなSランクギルド、『黒翼』のギルドマスター。アルとアリシアのいびつな関係にはちょっと気づいてる。今んところは良い傾向かなぁ、とは思ってるけど。まだ危ないよ!!
王国最強の剣士。腰に差した『魔剣』を本気で振るったことが未だないので挑戦者に飢えている。そのためアルベルトには目をかけている。サブマスは早すぎたか、と思いつつ、なんとかなるさ精神でなんかうまくいってて自分でもビックリ。

『魔剣』の性能がぶっ壊れ。
独身、童貞、三十路。を考えたときに真っ先に思い付いたキャラ。
ダンディなおじさまってかっこいいよね?

ちなみにやること成すこと大体外道。

明日にも期待してくれていいんだよ...?


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3.酒と女ときたら続く言葉はもう決まってる

毎日投稿、滑り込みセーフ。

...20時投稿を目安にしてました(震え声)


ありがとう。ドレイクマーキス。卑劣な戦略を持って倒した貴様だが、俺はお礼を言いたい。お前が求めていなくても、お構いなしだ。

 

ありがとう、ドレイクマーキス。

思えば、楽な仕事だった。ギルドマスターが俺に『魔剣』をポンッと渡して、それで俺が単身突撃したらどうなってたかは知らないが。ともかくとして、ギルドマスターによって俺が単身突撃する事態とはならず、むしろギルドメンバーのみんなと集団で突撃して、ドレイクの聖なる決闘を邪魔する事態にはなった。

 

なった、が。それは置いておいてだ。

 

目の前ではパーティが開かれている。ドレイクマーキス討伐の祝勝会ということで、国から降りた褒賞金でどんちゃん騒ぎである。冒険者は高いランクになればなるほどこういうことは増える。冒険の最中で頼りになるのは結局自分ではなく仲間。つまり、いざというときに備えて仲間との親睦を深めるのも、冒険者として生き残るコツだ。

 

パーティ会場にはまあ百人はいるだろうか。

『黒翼』のギルドメンバーだけで百人を越えるのだから驚きだ。この数を見ると、ここまで大きくなったんだとしみじみと実感させられる。

 

時刻は月刻8時。そろそろ星が輝き始める時間帯だ。

そう、豪勢な食事が机に広げられ、今日に限っては酒は飲み放題。

 

そう、酒だ。酒と言えば男女の仲を進めるマジックアイテム。

酒の勢いで女といっしょにいたらデキちまう。そう、それは冒険者の中で伝わる了解。

 

酒と女と来たら何が続くか当然分かるよな?という暗黙の了解。

そう、大きな依頼を終わらせた後に開かれる、このパーティはもう実質ーー、合コンである。

 

「合コンだ。おい、アル」

 

「ああ、どうした。シルク」

 

わが同志であり、わが親友でもあるうちの頼れるパラディン、シルクと共に。

 

「分かってるよな。今回こそ、だ」

 

「ああ分かっている。いや、今回もだ」

 

「ああ、そうだったな、アル」

 

「「いっぱい飯を食うぞ!!」」

 

俺たちにとってこの合コンに参加する意味がない。

 

なかなかいい所出のシルクは婚約者がおり、婚約者にお熱。

そして俺は誰とはいわないが意中の相手がいる以上、不貞と思われる行為はしたくない。

 

つまり、俺たちにとって合コンとはただの豪勢な食事である。

 

横目でこのパーティ会場全体を見るとーー、

 

我らがギルドマスターであるダリウスさんが酒の勢いでまた女をどうにか口説こうとしている。今日も今日とてダリウスさんは頑張っている。今日こそ頑張ってもらいたい。

 

アリシアはーー、いつもどおりうちの女子勢に囲まれている。

よし、今日もあそこには近づかないように心がけよう。恐らく俺には分からない化粧の話とかしてるんだろう。多分。

 

あそこは獣の巣窟だ。

 

今さらながら皆格好に気合いが入っている。

ドレスとかスーツとかあからさまに気合いの入った服装が多い。

 

冒険者には出会いが少ない。

それこそ、自分のギルドやパーティメンバーの奴らとくらいしか出会う機会が割りとない。救って、救われてという関係だから恋愛にも発展しやすいからギルド内恋愛というのは意外と存在するのだが。

 

「なんか皆眼光鋭くないか...?」

 

「それはきっと気のせいじゃないぞ」

 

シルクにそう言われて、気づく。

眼光が鋭い?とんでもない。あれは獲物を狩る目だ。

 

長年同じギルドにいて恋愛に発展しない意中の相手がいればきっとああなるのだろうか。

男と女の視線が交差する。ここは戦場そのものだ。

 

「ふむ...」

 

なにかを考えるようにしてシルクは手に顎を当てる。

こいつ種族がエルフなせいで顔立ち凄く整ってるんだよな。人によってはこいつで新たな扉を開く人もいるかもしれない。

 

「どうしたんだ?」

 

「おいアル。今日こそ男になる時じゃないか?」

 

「は?」

 

なにをいっているんだこいつは。おもわず間抜けな声が出た。

 

「酒がいつから飲めるようになるか、知ってるか?」

 

「ああ、十五歳からだな。...で?」

 

そう、お酒は十五歳から。

つまり今年から俺は飲める年齢になったということだ。

 

「酒が巷でなんと呼ばれてるか知ってるか?」

 

「ふむ...?」

 

「男女の仲を進めるマジックアイテム、だ」

 

それは俺も知っている。

酔った勢いに任せて意中の相手に言い寄れば意外とうまくいく。

ところでシルク、その手に持っているものは何だ?

 

「さぁ、一緒に酒を飲もうぜアル。去年は僕、そして今年はお前と続いて酒デビューの波が来ている」

 

「知るか」

 

じりじりと魔の手はこちらに歩み寄ってきている。

 

「酒はいいぞー。本能に身を委ねることができる」

 

「忠告するぞ、これ以上近寄るな」

 

この場からの離脱を試みる。いつのまにか男どもに囲まれていた。

後ろから羽交い締めにされた。後ろを振り向くと、我らがギルドマスターが素敵な笑顔を浮かべていた。

 

「ギルドマスター...?」

 

「恨んでくれるなよアル...」

 

「いや恨みますよ?」

 

「これもお前が大人の階段を登るために必要な儀式。そういわば必要な犠牲...」

 

「童貞のおっさんがなに言ってんだ」

 

「最期の言葉はそれで良いか。よし。やれ」

 

「イエス!マイボス!」

 

「おいばかやめろ」

 

回りの奴らもなぜ止めないのか。ギルドマスターの圧力に屈しているのか。

もっと男気みせろやボケが。こうして俺は酒の波に飲まれーー、

 

 

 

 

 

ーーることは意外になかった。

 

俺を中心としてどんちゃん騒ぎが繰り広げられる最中、俺はシルクに酒をガブガブと飲まされるわけだが。

そこまで酔わない。というか酒は意外に飲めた。

 

美味しいわけではないが、なぜか癖になる味。

どうやら俺は酒に強かったらしい。

 

俺が酒に酔う前に回りが酔いつぶれる方が先だった。

 

「くそ、アルめ。こんなに酒が強いとは予想外だったぜ」

 

「まさかギルドマスターが先に酔いつぶれるとは俺もおもいませんでしたよ」

 

「く、この青二才め。俺たちの『酒の勢いに任せてドキドキ進展大作戦』が台無しだ...」

 

「どんなこと考えてんだよおっさん...」

 

「だって気になるんだもん」

 

この三十路の床に転がってうだうだ言ってるおっさんはSランク冒険者ギルド『黒翼』のギルドマスターである。

ギルドマスター。ギルドの代表者。国内で最高峰の。そのギルドマスターがこの体たらくである。夢見る冒険者がみたら間違いなく失望するだろう。

 

「へーい、アルベルトー」

 

「あ、アザミさん」

 

紫色のくせっ毛が特徴的なその女性は、現在我らがギルドマスターであるダリウスさんが口説き落とそうとしている意中の女性にして、ギルドの頼れるお姉さん。

露出がちょっと激しいのがたまに傷だ。

 

魔法の扱いに長けている王国有数の魔法使いにして、『黒翼』の最古参。

アリシアの魔法の先生でもあるその人は、こういうパーティでは損な役回りになりがちだ。

 

「そこのおっさんと酔いつぶれてる男どもを回収しにきましたー」

 

「いつもご苦労様です」

 

「とりあえずこいつらどこにぶちこめばいいかな?」

 

「普通に毛布かけて寝かせてあげましょう」

 

「アルベルトの優しさが身に染みるねー。感謝しとけよ男ども」

 

急ぎ足で毛布を持ってきてアザミさんは酔いつぶれた男どもに毛布をかけていく。パタパタと、こういう可愛らしい仕草がダリウスさんの心をくすぐるのだろうか。少し分かる気がする。

 

「...ぅ、アザミ?」

 

「お、起きたかギルドマスター?でも酔いつぶれてるおっさんはとっとと寝てろー?」

 

「...天使」

 

「きっしょ」

 

その一言で哀れギルドマスターは絶命した。

ダリウスさんのあの恋は叶うんだろうか。あの素っ気ない様子からみて脈はないだろうが、頑張ってもらいたい。

 

「あ、アルベルトー?」

 

「どうしました?」

 

「バルコニーの方にアリシアいたよー?そうだ、会ってきたらー?」

 

ニヤニヤと笑いながらバルコニーの方を指差すアザミさん。

とりあえず、感謝だけ伝えてその方向に向かう。

 

結局はダリウスさんの思惑に乗りかけてることに、少しだけ悔しさを覚えながら。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「ーーあ、アルベルト。やっときた」

 

手すりに体重を預けて、覗くように空を見上げていたアリシア。その声に、自分の名前を呼ばれてハッとする。

 

正面に立つのは、月光を浴びてなお美しさを増す月の妖精。

 

『妖精』。それが彼女の幻想的な姿を表すのにもっとも適している言葉だった。

ドレスに着替えたアリシアは、普段の彼女とは違う輝きで俺を魅せる。

 

月光にのように煌めく銀色の神に、まるで青空を写したような空の瞳。震えるほどに整った表情は笑みを浮かべ、こちらを見つめてくる。

 

天使か。

 

彼女の姿を視界に入れた瞬間、心の奥に沸き立つように心臓が躍動する。

アリシア以外の全てが目に入らない。

 

首から上が火照ったような感覚が抜けない。

 

「...可愛いな」

 

「へ?何に対して」

 

「お前しかいないだろ」

 

「へ、ぇ。そっか」

 

顔面の破壊力がやばい。

まともに直視できないくらいにはやばい。

 

「そういえばいっぱいお酒飲んでたけど」

 

「ああ。十五歳になったからついに酒が解禁されてな。俺より先に皆が潰れるのは予想外だったが」

 

「お酒強いんだね」

 

「ああ、どうやらそうらしい」

 

「だから、顔赤いんだ」

 

...どうやら俺の今の顔は赤いらしい。

鏡がないから自分の顔を見る術もないのだが。とりあえず、すべて酒のせいにしてしまおう。

 

「ああ。酒のせいだ」

 

「へー」

 

そこでアリシアは俺にずいっと顔を近づける。

 

「ねぇ、アル。酔ってる?」

 

「酔ってない」

 

「じゃあ、駄目か」

 

「...何が?」

 

何が駄目なんだろう。というかこいつ言葉たどたどしくないか?

かわいい。いや、そんなことより頬がほんのり赤い気がする。

 

「もしかして酒飲んだ?」

 

「うん。酔ってるよ」

 

「なるほど。通りでちょっと言動がおかしかったわけだ」

 

「私、そんなに変?」

 

「少しだけな」

 

「じゃ、アル以外には見せられないね」

 

「はい?」

 

服の裾をぎゅっと掴まれる。

 

「ねえ、アル」

 

「...何だ」

 

「ちょっと今日の私、変だからさ。運んで?」

 

「なあ、なんで手を広げるんだ?」

 

「お姫様抱っこ。持てるよね?」

 

「持てるけど...お前はいいのか?」

 

「アルだからいいの」

 

こいつはどうやら本気で酔っぱらってるらしい。

慎重に家まで送らなければいけない。

 

「よっ、と。軽いな」

 

「当然。いつでも準備してるから」

 

「...何の?」

 

「秘密」

 

マジで軽い。なに食ってるんだコイツ。

いや、朝御飯から夜ごはんまで全部俺が用意している筈だが。ホントに同じ人間なのだろうか。

 

「ねえ、アル」

 

「どうしたアリシア」

 

「私、ずっとこのままでいい」

 

「は?」

 

「腕のなか、暖かいから。ずっとこのままがいい」

 

「寝てろ。疲れてるんだろ」

 

「ずっと、続けばいいのにね。こんな日が」

 

「...そうだな」

 

この日々がずっと続けばいいと、俺も思ってる。

 

 

 

 

 

翌朝目を覚ますとーー、

 

俺と同じベッドで俺の腕のなかでアリシアが眠っていた。

 

 

 

 

 

なんで?????

 

 

 

 

 

 

 

 

 




酔っぱらったかわいい女の子を想像して書いたらこんな時間になっていた。
私は悪くない。同じ家にいるのに付き合ってすらいないこいつらが悪い。



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4.まだ、気づかなくて良い。その才能に

アルベルト君が盛大な勘違いをしている。そんなお話。
このお話を読まなくてもそこまで影響はありません。予備知識。


天才、とは何をもって定義付けるのか。

中々に難しい議題ではあるが、俺ことダリウス・アッシュグロウはこう結論付ける。

 

誰も止められないのが天才だ。

 

俺は片田舎に生まれ、天才と呼ばれた紛い物で、ただひたすらに努力と運で成り上がり、冒険者を志して早十五年。それだけ経験を詰んできたから分かる。

 

天才は救えない。

神に愛されていると、呪われていると、分かるのだ。俺の場合それを確信をもって言える相手が一人いる。

 

 

ーーアルベルト・ブロークンは天才だ。

 

 

初めてあれを見たとき。

心の底から感じた恐怖を、今さら説明する相手も必要もないが。

 

魔物に襲われているあいつらを見殺しにした方がいいんじゃないかと、血迷った考えが一瞬頭によぎった。

 

心の底から戦慄した。

子供がダンジョンにいるという状況も子供が相対する相手も。何もかもがおかしかったからだ。

 

こんなダンジョンの下層に出てくるはずのないB級モンスター、ミノタウロス。

B級の魔物のなかでも上位に数えられるそれは、当時の俺たちが全力で戦って勝てるかどうか。そんな相手に、子供が一人で立ち向かっている。

 

年端もいかないガキだ。黒い髪が特徴的な、俺より一回りは小さいだろう体で。どうやら足元に転がっている血塗れの少女を守るために必死で戦っているようだった。

 

なぜそんなに小さい体でその魔物に立ち向かえるのか、不思議でならない。

その少女を置いて逃げるべきだろうが。何故逃げないのか。意味が分からない。

 

何故、他者の為に自分をそんなに傷つけられるのか。

 

その背中に『英雄』の面影を重ねて。

 

なにか考えるより先にその少年に手を貸していた。

 

その魔物はあっけなく倒れて。

 

「頼む。コイツを治してやってくれ!」

 

自分の体も傷だらけの癖に。

自分の体なんか顧みず、少女を治してほしいと。

 

そう懇願する少年の姿がやけに眩しく見えた。

 

 

「いいぜ、治してやる。その代わりーー、うちのギルドに入れ」

 

 

その才能が怖くなったから。その才能に焦がれてしまったから。

自分の手中に収めたいなんて、自分勝手が過ぎるとは思った。

 

自分に仕方ないと言い訳をすることは得意だった。

 

なんだかんだと丸め込み、パーティに入れることを無理矢理承諾させた日には今の規模に比べたら、ささやかながら盛大に宴を開いたものだ。

 

今になっても記憶に新しいのは、その時にあいつと、アルベルトとした約束。

 

「あいつに、本気を出させないでください」

 

「へえ、そりゃなんで」

 

そう疑問を口にするとアルベルトは少し考えてから言った。

 

 

「ーーアイツが本気を出したら、全部壊れちゃうんです」

 

 

アルベルトはそれ以上話そうとしなかったが、俺は特段追求することはなかった。頭の片隅に留めておくだけで、大して気にしていなかった。

 

それから、アイツらが入って少しだけ騒がしくなったパーティで色々な困難を乗り越えた。馬鹿だと今なら笑い合えるような、そんな冒険をたくさんした。アルベルトに剣を教えることもあった。先生と呼ばれるのは照れ臭かった。

叱ることもあった。お前らと一緒に学び合う日々があった。

 

お前らが一緒だったから。リーダーとして頼られたから。俺はその間だけ無敵になれた。

 

強くなった自負があった。誰にも負けない自信があった。

 

いつのまにか冒険者パーティはギルドへと規模を変えていて。

大変なこともあったけどそれより楽しさが勝った。依頼の難易度は上がっていった。それでもアイツらと一緒に困難を乗り越えるのが楽しかった。

 

迂闊だったと、今なら思う。

 

『Sランクダンジョン、深淵の攻略』。

伝説に数えられる“それ“に挑んだことが馬鹿だった。

 

 

ダンジョンの最奥に待ち構えていたのは龍。

静謐な空気が漂うそこに立っていたそれは白い鱗と金色の角。三日月色に輝く眼光で知られ、英雄譚でよく語られるーー、

 

エンシェントドラゴン。それに酷く似ていた。神々しい雰囲気と圧倒的なその質量に視界が明滅する気さえした。

 

馬鹿だった。後から後悔するのは自分がそれだけ未熟だった証だ。

 

必死で戦った。それでも勝てなかった。

だから彼女に、アリシアに本気を出させてしまった。俺の記憶の中で、結局、アリシアが本気を出したのはその一回。

ただその一回だけで十分だった。それだけで十分身に染みた。

 

魔力の奔流が暴れ狂う。全てを灰塵に帰さんと、その魔力の渦は襲いかかる。

紫色の色彩。中空を彩る極彩色がこの空間に亀裂を入れた、その瞬間に。

それは”起きた”。

 

いつの間にか、その禍々しい剣が顕現する。

黒い黒いアルベルトの手に握られた一本の剣。

 

全てが一つの剣の元に切り伏せられる。

魔力の渦は霧散し、龍はそれに言葉にならない悲鳴を上げる。

 

そこにたっていたのはアルベルト。しかし、なにかが決定的に違っていた。

そのナニかはなんとも形容しがたいもので。それでも感じる明らかな違和感。

 

圧倒的、なんて言葉じゃ足りない。

そう、アレはーー、

 

 

ーー『絶対的』だ。

 

 

気がついたら全てが終わっていた。

 

俺以外の皆は気を失っていて、その事について誰も覚えていないようだった。

 

後からその事をアルベルトに聞けば、そんなこと覚えてないという。そもそも自分はそんなことしてないと。

 

俺がやった?馬鹿を言うな。

 

()()()()

 

何故覚えていない。お前の才能を俺に擦り付けるな。

 

全部、お前だよ。

何故お前は俺に憧憬の眼差しを向けてくるんだ。

 

お前の主観では俺がずっと最強なのかもな。

でも逆だ。お前は勘違いしている。

 

俺なんかより前にお前がいることを。

 

結局、ダンジョンの奥に眠っていた魔剣は俺のものになった。

 

この魔剣はアルベルトのものなのに。

 

アルベルトは天才だ。天からその才能を与えられた被害者だ。

アルベルトのその力は、才能としか言葉にできないなにかだ。

 

お前のその才能は『呪い』なのかもな。

お前は忘れているのに、周りからは褒め称えられるなんて、そんな気味が悪い現象が起こりかねない。それは『呪い』だよ、アルベルト。

むしろ覚えているのが俺だけでよかった。

 

何故お前がその力のことを忘れているのか。正直それはどうでもいい。

お前の中にどんな力が秘めていようが、どんな秘密があろうが。正直そんなことはどうでもいいんだ。

 

それでもお前は俺の弟子だから。

 

お前のその『呪い』もひっくるめてお前の力だって言うなら。

それより俺がお前より強くなってやる。いつまでもお前が越えられない最強の壁になって見せる。

 

弟子は師匠を越えられない。そんな新しいルールを作ってやる。

お前のその力は怖くない。お前が理解されない化け物なら俺がその力を理解するまで強くなる。

 

お前がその力に気づいて、正しい使い方ができなくなったときには、俺がそれをぶん殴るくらいには強くなるから。

 

俺はお前の師匠であり続けるよ。

俺があの時見たお前の背中はまだ遠いけど、絶対に追い付いて、この魔剣も全部返しにいってやる。

 

だから、まだお前は絶対に本気を出すな。

情けない話だけど、まだ俺はお前を止められそうにないから。その力でお前が過ったことをしたときに、後悔する姿なんてみたくないから。

 

 

俺は二度と後悔なんてしない。

 

 

天才は救えないんじゃない。救わないのだ。

完璧で完結している存在だと周囲が思ってしまうからだれも手を差し伸べない。

 

俺は違うぞ、アルベルト。

だから精々安心して待ってろ。

 

それが十五歳のガキの仕事だ。

 

どれだけ天才だろうが、才能があろうが、何か訳の分からない『呪い』があったとしても。

 

人生経験が俺の半分にも満たないガキが俺に勝てる道理はない。

 

努力してきた大人は強いぜ?アルベルト。

 

しかも俺はまだまだ努力し続ける。

お前が寝てる間もな!!

 

ああ?俺も一緒に剣を振る?馬鹿言うな。ガキはもう寝る時間だ。

 

夢?ああ、これは夢だよ。

 

ほら、分かったらとっとと目瞑れ。

 

こんなむさいおっさんの夢なんか見てもいいことねぇーぞ。

 

俺は寝なくていいのかって?安心しろ。

 

 

 

 

 

 

「夜更かしってのは、大人の特権だからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ある日、アルベルトが見た夢。

弟子の曇る顔が見たくない漢、ダリウスさん。
圧倒的な力を押さえつけるための力に飢えている。守らなければいけないと思っている。唯一その力を知っている。

ちなみに次話あたりからはシリアス先生は死ぬ。


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5.剣に焦がれるのは男の宿命

今日も今日とてー♪
毎日投稿ギリギリだー♪
眠すぎる。




冒険者がパーティからギルドへと規模を変えるとき。

もっとも重要となるのは人数でも、腕っぷしでも周りからの評判でもなく、拠点だ。

 

当然、冒険者たるもの強さも、腕っぷしも、周りからの評判は必要ではあるが、それは冒険者に求められるものであって、ギルドに求められる要素ではない。パーティに所属するメンバーが安心して寝られる場所と、美味しいご飯を食べられる場所と、所属するメンバーが寝る場所。『ギルドホーム』。それがギルドには求められる。

 

拠点を持った上で、冒険者としてCランク以上の実力を持ち、国からの認可を受けた上でギルドは成り立つ。

 

ギルドが樹立するまでの過程はめんどくさいものではあるが、自分達の拠点で好きなように自由に活動を行うというのは存外に良いものである。

 

一緒に過ごすことで知れる側面もあるし、日々の時間を共有することで深まる絆がある。

 

冒険者に焦がれる少年少女が憧れるのはそういうギルドの生活でもある。

伝説に語られる英雄も日常的な営みをもって成長していくものだ。

 

まあ俺もアリシアも『ギルドホーム』に住んでいるわけではない変わり種ではあるのだが、休日だろうと依頼が特にない日でも俺たちはそこに入り浸っている。単純に居心地がいいのもそうだし、ご飯がただで出てくるのもそうだし、自分を高める場所だからというのもある。

 

家はただただゆっくりする場所だが、ここは違う。

 

 

その剣速に、目を見張る。

剣を振られたと思った瞬間、その頃には大抵がもう遅い。

咄嗟の判断で、迫り来る剣と自分の間に魔力による障壁を生じさせる。

 

が、それすらも無駄と嘲笑うかのように障壁は破壊され、喉元に剣が突き立てられる。

 

「これでまたお前の負けだぜ、アルベルト」

 

「流石ですね。また負けました」

 

ここは、俺にとって強くなるための場所だ。

自分の力に自惚れないように。自分の実力不足で後悔する日がないように。

 

このギルドには化け物がたくさんいる。目の前に立つ男ーー、ダリウス・アッシュグロウも例に漏れずその一人である。

 

が、化け物の中でも彼は抜きん出ている。

王国最強の剣士と謳われるだけある。その称号は、今彼を表すのに最も相応しい。圧倒的だ。彼と対峙するした者はそう語る。

 

間違いなく人類の頂点。その男は俺の剣の師匠でもある。

きっかけは単純で、俺が彼に剣を教えてほしいといったからだ。その時から彼は俺の師匠で、未だに越えられぬ存在として、依然俺の前に壁として立ちふさがっている。

 

こうして無駄に広い庭で行う模擬戦は今となっては恒例行事となりつつあるが、俺は未だにただの一回ですら師匠に勝てたことはない。負けることが死ぬほど嫌いで、弟子である俺にすら一切の容赦はない。そういう人なのだ。

 

「大人なんだからちょっとは手加減したらー?木刀でも痛いもんは痛いんだからー」

 

「アルは、そういうの気にしない。むしろ強くなるためなら大体なんでもするバーサーカーみたいなものだから」

 

「流石アリシアはアルベルトの良いところ分かってるねー」

 

「いいところ、なのかな?かっこいいとは思うけど」

 

そんな特段珍しくもない模擬戦の観戦者は二人。

現在、師匠が熱烈に猛アプローチを仕掛けている紫色のくせっ毛が特徴的な女性、アザミさんと、銀色の長い髪が特徴的な俺の幼馴染み、アリシアだ。

 

彼女たちは観戦の常連だ。俺が師匠に一矢報いるのを期待しているらしい。いつかその時が来れば良いとは思っているが、その背中はあまりに遠い。

 

「アリシア、ちょっと治してくれ」

 

「ん。分かった」

 

やはり木刀でも痛いもんは痛い。師匠の筋力で振るわれるもんだからその威力は洒落になってない。少しだけ師匠の攻撃に対応できるようになってきたからか、師匠の攻撃がさらに激しくなった気がする。相変わらずそこの見えない人だが、師匠に本気を出させることはできるのだろうか。

 

「ん、しょ」

 

覇気のない声と共に彼女の掌から緑色の光粒が溢れだし、俺の体をゆっくりと包み込む。染み込むようにその光粒は俺の体に浸透し、そしてたちまち傷は癒えた。

 

「よし。これでまた戦える」

 

「...まだ戦うの?」

 

「どうせ暇だからな...何その目」

 

「ジト目」

 

じぃーっとこちらを見るアリシア。

何故か分からんが罪悪感で心が抉れそうになる。

 

「分かった。次で終わりにする」

 

「次もやるんだ?」

 

「ああ」

 

「...パフェ奢りね」

 

「了解した」

 

そうして俺が師匠と向き合うと、師匠は既に木刀を構えていた。

 

「お前がこんなに骨がある奴に育って師匠としては鼻が高い思いでいっぱいだぜ、まったく」

 

「はい。ギルドマスターの指導のおかげですよ」

 

「昔みたいにもっと先生とか師匠とかダリウスのおっちゃんとかフレンドリーに呼んでも良いのよ?」

 

「気が向いたらそうします」

 

「まったく、可愛げのない奴だ。アリシアちゃんを待たせるのも悪いし、ー瞬で終わらせるぞ?」

 

やれるもんならやってみろ、そう俺は好戦的に笑みを浮かべ、師匠とまた同様に木刀を構えて見せた。そう簡単に勝てる相手ではないが、そう易々と負ける相手でもない。

 

その剣に焦がれて、その剣をどれだけ見続けてきたと思ってる?

 

剣に焦がれるのは男の宿命と言うべきか。

しかし、彼の剣に俺は届くことができるのか。

 

やる前から結果は分かってる?

馬鹿を言うな。その当然を凌駕するから冒険者なんだろうが。

 

 

ーー今日も戦いの火蓋は、切られた

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

『ギルドホーム』の壁にもたれ掛かってアリシアは二人の男の戦いを見る。隣にはアザミも一緒だ。

 

その戦いを見て思うのは、やっぱりアルベルトは馬鹿だと言うこと。

漠然と、これ以上強くなる必要も理由もないと思っている。アルベルトとアリシアより強い存在なんてこの世にそう存在しない。

 

Sランクギルドの最高峰『黒翼』の最高戦力に数えられるからこそ言える客観的な事実だ。冒険者として普通に生きていく上で、これ以上強くなる必要はないと。背伸びをしなければ良いのだ。

 

単純に、自分より強い存在がいるのは人間として、常識的にどう覆しようもない理だろう。だが、それを。アルベルトは覆そうとしている。

 

アルベルトは最強に成ろうとしている。

 

最強を目指そうなんて、馬鹿か英雄か、それとも両方か。

アルベルトは両方だ。アルベルトは馬鹿で、英雄だ。

 

少なくともアリシアが描く英雄像にはアルベルトはぴったりだ。

無駄に諦めが悪くて、困っている人がいれば放っておけなくて、優しくて。かと思えば普通の少年のよう振る舞うこともあって。

 

アルベルトは馬鹿でお人好しだ。

 

そもそも自分のような人間を積極的に世話をする時点で当人の気質などとうに知れているが。

 

「ほんっと、馬鹿」

 

彼が最強を目指すのは自分の暴走を止めるためだ。

自らの力に宿った、圧倒的な魔力。その魔力を一気に操ろうとすると、私が本気を出すと、その魔力は暴れだす。

 

制御できない力は、自分の力ですらない。

正直アリシアとしては今すぐにでもスローライフを送りたい。田舎でのんびりとアルベルトと暮らすだけで、それでいい。

 

でもそれじゃあ駄目だ。

アルベルトはそんなこと望んでない。

 

幼い頃に語った彼が語った夢。

アリシアは覚えているが、アルベルトは覚えているのだろうか?

 

綺麗に星が見える丘で、彼が高らかと、腕を上げて語った夢を。

 

『おれは、英雄になる!』

 

『英雄?』

 

思わず聞き返したのを覚えている。

 

『うん!そして、隣にいるのがお前だ』

 

そういって、彼が笑ったのも覚えている。

 

五歳の頃だったか。きっかけは、たぶんそれだ。

その頃から、私の初恋は始まっている。

 

馬鹿みたいな初恋は、今でも続いている。

 

彼がそうなりたいと望むなら、私もそれに応えるだけだ。

 

これ以上強くなる必要はないだろう。普通に生きていく上で。単純に、背伸びをしなければ良いだけなのだ。

 

自分より強い存在がいるのも当然で、どうしようもないことなのに。

 

多くの人は、彼を馬鹿だと笑うのだろう。

 

彼は馬鹿だと思う。だけど私は笑わない。

 

その男たちの、くだらない戦いを見て思うのだ。

彼は馬鹿だが、それ以上にかっこいい、と。

 

やはり自然に、アルベルトに目にいく。

それは隣のアザミも同じようだ。彼女の視点も自然に、ダリウスを見ている。

 

「ねえ、アザミ」

 

「ん、どった?」

 

「私、強くなりたいかもしれない」

 

アルベルトの隣に相応しい存在でありたい。

意外そうにアザミは目を丸めて、笑って見せた。

 

「アタシも同じこと考えてたとこだった」

 

「それは何で?」

 

「察しろー?」

 

分かってるよ、と笑みだけで返す。

アザミがダリウスを好きなのは、今のところ私しか知らない乙女の秘密だ。

 

「男って鈍いよね。好意も視線も、まったく気づかない」

 

「それなー?」

 

「でも、ちょっとかっこいい」

 

「...うん」

 

「もうちょっと強くなろうかな」

 

「アタシも魔法なら分かることは教えるよー?」

 

「じゃあ、お返しに無詠唱のコツくらいは教える」

 

「助かる」

 

こうして今日も乙女の密約は交わされる。

 

 




(ちなみにアルベルトが何事もなく負けた)
男ってかっこいい生き物だよね。


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6.貴方にありったけ。でも貴方は知らんぷり。

眠かったからふて寝してた。
土日に書きためを作りたいだけの人生だった。


知ってる天井だ。

 

しかし目を覚ますなり違和感を感じたのは、それが普段では、いや、自分の家で見る光景ではなかったから。

『ギルドハウス』の床。その上で俺は毛布をかけられている。いやそれよりも特筆すべき点がひとつ。

 

むさいおっさんが、俺の隣で寝ている。いや、正確にいうならうちのギルドマスターであり俺の師匠でもあり、普段なら尊敬できるダリウスさん、その人が寝息を盛大に立てながら俺を抱き枕代わりにしている。

 

一瞬マジで状況が理解できなかったが、だんだんと思い出してきた。

 

昨日俺は師匠と模擬戦を行い、いつものように惨敗し、いつのまにか書類仕事を手伝わされ、どういう流れか宴が始まる運びになっていた。そして酒の入ったダリウスさんにダルい絡まれ方をされ、気づいたら翌日。

 

朝になっていた。

 

チュンチュン、と小鳥が鳴く。

おっさんとの朝チュンはごめん被りたい。

 

どうにかして俺に抱きつく手を離そうとするが、このおっさんとんでもなく力が強い。

というか俺の腰がミシミシいってないか。痛い。いや冗談抜きで痛い。

このままだと冗談抜きで俺の腰が砕ける。ーー死ぬ?

 

本気で俺が命の危険を感じている中、キィと音を立てて扉が開かれる。

そちらを見ると、アリシアがいた。アリシアが訝しげな目でジーッとこちらを見つめていた。

 

「アリシア、ちょうど良いところに!助けてくれ。早くこのおっさんを引き剥がしてくれ。さもないと俺の腰が砕ける」

 

「...ゆうべはお楽しみでしたね?」

 

「違う。断じて違うぞアリシア。これは不可抗力だ。というか本気で腰がギシギシいってーー」

 

「つよくいきて」

 

「見捨てないでくれアリシア。アリシア?いかないでくれアリシアー!?」

 

「...なにやってんのアンタたち」

 

遠目からこちらを見つめる救世主(アザミさん)が現れた。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

テラステア大陸、イグニス王国ーー首都イグニス。

赤道を南におき、北東へ大きく広がる大陸、その中央に大きくそびえ立つ王国。

神話の時代においては、炎の大精霊、イグニスを使役して見せたという大国。その精霊を神話の人々はなんと驚くべきことに懐柔し、現状唯一、精霊を妃に迎えた国。別名、精霊国とそう呼ばれる。

 

精霊が住まう国。そのせいで魔力の純度が最も高く、魔物の変異種や遺跡(ダンジョン)が発生しやすい環境なため、英雄譚に当てられた冒険者が特に多い。冒険者が一番多い国。冒険者達の最前線。それがこの国でもある。

 

その冒険者の最前線。冒険者の憧れとも言えるSランクギルド。

『黒翼』、そのギルドマスターが朝からなんという体たらくなのだろう。

 

「まさか酒の飲みすぎでギルドマスターが二日酔いとは...」

 

「体質的に酒無理なのに酒好きなのなんなんだろうね」

 

「ほんとなんなんだろうな」

 

なんでもかんでも宴に繋げたがるうちのギルドマスター、ダリウス・アッシュグロウ。

その人は現在二日酔いで完全にダウンしきっていた。

 

お陰で俺たちはそのダリウスさんの二日酔いに効く薬をお使いのついでに買う羽目になったのだ。今さらではあるがうちのギルドマスターの扱いが酷い。二日酔いの件はお使いのついでだ。まぁ自業自得である辺りがうちのギルドマスターである。

 

というかギルドマスターがいなくてもうちのギルドは回るのが凄いところである。『黒翼』には腕利きが多いため、普通にソロで稼いでくる連中がいるのもそうだが、アザミさんが相性や実力を見極めてギルド内で臨時でパーティを組ませるなんて言うのもありふれた光景で、うちはとにかく実働隊が多い。

 

とにかく手当たり次第に高難易度の依頼をこなしていく。

そのせいでお金のことで困ったことはないそうだ。

 

「というか俺たちが手持ち無沙汰なのはどうしてなんだ」

 

「後進の育成の為だよ。私たちばっかり強くても意味がないから。私たちはのんびりと平穏な日常を謳歌してればいいわけ」

 

「暇なのも困りもんだな」

 

「私はこの時間が好きだよ。アルとのんびりと過ごす時間が、一番好きかも」

 

「そうか」

 

「それに、平和なのはいいことだよ。だからあの人は酒を飲んでいるわけだし、私たちも悠長にお使いなんてできるわけだしね」

 

割とあの人は平常運転な気がするが。明日世界が滅ぶとしても酒を飲んでそうなイメージだ。お酒弱いのに。

 

ともかく、俺はアリシアと二人で街に繰り出しているわけだ。

アリシアと二人で。これは実質デートではないのか。お使いという名目はあるが。

 

「というかその格好...」

 

「どう?」

 

白を基調としたワンピースと頭にちょこんと被った麦わら帽子。その白い肌と小柄さも相まって、花畑に棲む妖精のごとき可憐さを感じさせる。何よりも印象的なのはその髪。いつも髪には人一倍気を遣っている、と自負している彼女だが。それがいつもより艶めい宝石みたいに輝いていた。

 

「俺がダリウスさんに抱き枕にされてる間に何をしたんだ」

 

「女の子にそういうの聞くのは野暮。それより、どう?」

 

「どうって...」

 

「かわいいでしょ?」

 

頭一個低い位置からこちらを上目使いで見上げる彼女。

いや可愛すぎか。

 

「...その」

 

「ほら早く」

 

完全に思考が停止してしまっていた。

普段なら、するりと口を滑るようにでる褒め言葉が、これっぽっちも口にできない。というか心臓がバクバクいいすぎてヤバイ。彼女が眩しすぎて直視できない。この込み上げる感情を、どう言葉にすればいいのか。

 

「...可愛いよ」

 

本当に溢れてくる言葉はそれくらいのものであって。

彼女のその美貌に分相応なものであることには違いないが。

 

ただ、それを相手がどう受け取るかは、また別の問題だ。

 

 

「...ありがと」

 

 

そう呟いて俯く彼女の耳は、ほんのり赤い気がした。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

私、今可愛いっていわれた?

いや、少なくともそう誘導したのは自分だし、これを好機といわんばかりにすこし気合いをいれたのは事実だけど。

 

ーー可愛いっていわれた。

 

その事実を何度も心のなかで反芻する。

アルはなんというか、卑怯な男で。

 

自分の本音を上手に隠すのが得意だから。素直に、そう言われるとは思わなかった。

 

アルは、実はモテる。本人は気づいてないし鈍感だし馬鹿だから気づいてないけど、本当にモテる。十五歳という若さもさながら、圧倒的な剣の実力。ここらへんでは珍しい黒髪の希少価値も相まって白馬の王子様ならぬ、黒馬の王子様だ。

 

彼に救われた、という冒険者も後を絶たず、ひっそりと、いや大々的にファンクラブがあるくらいなのに、当人はその事実を知らない。

 

というか、公然の場でモテたいとか呟くくらいには馬鹿だ。

ムカついたから割りと真面目に本気でグーで腹を殴った。

 

私一人でいいでしょ、別に。

 

私が貴方の隣にいるから。

私が貴方の側にいたいから。

 

私のわがままだけど、貴方には私だけを見ていて欲しい。

 

そう思うのはきっと傲慢だ。自覚している。

でも、好きだから。私だけを見ていて欲しいというのはきっとおかしな話ではない。

 

アルの服の裾をぎゅっと掴む。

手を握る勇気はまだないから、だから今はこれだけ。

 

「アリシア?」

 

「いいでしょ。どうせ、空いてるんだから」

 

そう、空いているのだ。

だから今は。今日はこの場所は、私のものだ。

 

絶対に譲りたくない。

ずっと隣にいたい。

 

私とあの時、約束してくれた貴方がいるから、私は今ここにいる。

 

あの時私に手を差し伸べてくれた。あの時指切りをした。

私だけの黒馬の王子様。

 

...かっこいい。

 

「それにしても...」

 

「どうしたの?」

 

「髪、綺麗だな」

 

「...触ってみる?」

 

「なんというか畏れ多い気がする」

 

「なにそれ」

 

変な話だ。誰のためにこんなに手入れしていると思っているんだろう。

きっとこの気持ちは億分の一も理解されていないのだろう。

 

そういえば、とアルが声をあげる。

 

「なんでそんなに髪長いんだ?」

 

「長い方が好きでしょ?」

 

「...そりゃそうだけど、邪魔じゃないのか?」

 

「確かにしゃがんだときに髪で掃除してたなんてこととか目にかかって邪魔な時があるけど」

 

「切ればよくないか?」

 

「アルがこの髪を綺麗っていってくれたから」

 

「へ?」

 

「だから、切らない」

 

本当に長くなりすぎたら切るけど。とりあえず今は腰くらいの長さでいい。アルに褒められたこの髪も、親譲りであろうこの銀髪も。顔も覚えてないくらい薄情だけど、それでも大事にしていきたい。

 

「...ねぇ」

 

「...何だ」

 

「撫でてもいいよ?」

 

「じゃあ、ちょっとだけ」

 

遠慮しがちに手を出して、不器用に撫でる。

大きい手で、頭を撫でられる感覚。悪くはない。

というか、私は好きだ。

 

好きな人に撫でられているからだ。

心の底から、この人が好きなんだと、自覚してーー、

 

ちらりと嫌な雰囲気を感じて後ろを見れば、うちのギルドの馬鹿どもの姿が見えた。

 

「ねぇアル」

 

「ああ、分かってる」

 

「走る?」

 

「走る!!」

 

そういいながらアルは私の手を掴む。

 

全力で走り出して、気づく。

 

私、いまアルと手を繋いでる!?

 

アルは気づいてない。というか走るので必死だ。

私だけ意識してるのが馬鹿みたいだ。

 

どうやったら意識してくれるのか。

後ろから思いっきり抱きつくくらいすれば少しは意識してくれるかな。

 

そんなことを考えてる自分を、馬鹿だと一蹴して。

 

やっぱり好きだ。

 

そんな馬鹿なことを考えてる時点でそれは、彼への想いの証明で。

馬鹿みたいな煩悩は自分の中で膨れ上がるばっかだ。

 

綺麗とか、可愛いとか。そういう言葉も嬉しいけど。

 

 

ーーやっぱり、好きって言葉に憧れる。

 

 

好きって言って欲しい。そう思う私はやっぱり傲慢だろうか。

逃避行を続けている中、そう思った。

 

 

 

 




アル「(アリシアに)モテたい」
アリシア「死ね(腹パン)」


おつかい(デート)
ダリウスさんは犠牲となったのだ。


砂糖空間を作るために悩んでいたらいつのまにかこんな時間になっていた。
毎日投稿はできるかぎり頑張っていきたい所存なので見捨てないでください。
明日も頑張ります。

というかハーメルンの機能全然知らんのだけど。
文の始めに空欄空けるやつとか太い文字にするやつとかどうやるの?(無知)
有識者教えて


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7.このままでいいのか、このままがいいのか

誤字報告めっちゃ助かります!
じぶんでも見直してるつもりなのに案外見つからないものですねー。

朝起きたらランキング乗ってて草なんだ。
まじでこんな稚作を評価してくださって感謝の極みです。


俺たちを尾行していたうちの馬鹿どもから逃げてきたところで、いつのまにか俺がアリシアの手を握っていたことに気がついた。

 

「悪い、いつのまにか握ってた。ちょっと強く握りすぎた、か...」

 

「だいじょ、ぶ。うん」

 

アリシアは耳を赤くして俯いていて、恐らく俺も同じように顔を赤くしていたと思う。女の子の手がこんなに柔らかいことを始めて知った。

自然な流れでアリシアの手を握ってしまった。

 

......あまりにも恥ずかしすぎたので正直その後のことはよく覚えていないが、とりあえず俺たちはさっさとお使いを済ませたらしい。

 

当然その荷物は自然に男の俺は持つわけになるのだが、荷物の重みなんかより俺の左手に握られてるその白い手が気になって仕方ない。

 

「なぁアリシア」

 

「どうしたの、アル」

 

「その手はいつになったら離すんだ?」

 

「......離す必要ないでしょ?」

 

依然その白い手は俺の左手を掴んだままだ。というか結構力が強い。

今、俺たちは大通りを歩いているわけだが。これは他人からみたらカップルのように見えるのではないか。

 

手遅れ?いやまだどうとでもなる。

 

そうして俺達は近場の喫茶店へと逃げ込んだ。

 

んで、そのまま勢いでちょっと早めの昼食と洒落込んでいるわけだが。

 

「普通対面に座るものでは?」

 

「別に今更でしょ」

 

「その手はいつになったら離すんだ」

 

「......別に今更でしょ?」

 

「サンドイッチが食べにくい」

 

「食べさせてあげようか?」

 

「それは遠慮したい」

 

この距離感はまずい。俺の理性が仕事をしている内になにか手を打たなければ。

顔面の破壊力がやばい。可愛すぎる。

もう少し男との距離感を大切にして欲しい。自分が美少女である自覚を持てといいたい。

 

俺も幼馴染みとはいえ曲がりなりにも男なのだから。

勘違いしてしまいそうになるから止めて欲しい。

 

肩と肩がふれあう距離で手を繋ぎながら昼食を食べる馬鹿がどこにいるのだろう。ここにいる。

 

残念なことにこれは現実である。

男が想像しそうな理想のシチュエーションに俺は立っている。

 

初めのお使いという趣旨はどこにいったのか。

これはもうデートじゃないか。そもそも人目を避けるために喫茶店に逃げ込んだ訳だが、全然店員さんがいるじゃないか。

 

馬鹿だった。過去にもしも戻れるのなら浅はかな自分をおもいっきりグーで殴りたい。とっとと『ギルドホーム』に戻ってアザミさんにどうにかしてもらうのが一番よかった。

 

この世でもっとも可愛い存在がそこにいる。

おまけに俺はその存在と手を繋いでいる。

 

「なあアリシア」

 

「どうしたの?」

 

「俺が男である自覚をもう少し持った方がいい」

 

「そうなんだ?ふふふ」

 

「何故笑うんだ」

 

「いや、私そういう目で見られてたんだ、って」

 

「そりゃ当たり前だろ。悪い、気持ち悪かったか?」

 

「安心した」

 

「へ???」

 

なぜ安心するのか。

訳が分からない。というかこの状態からどうにか離脱しなければならない。

手を握られ、アリシアとの距離がめっちゃ近いこの状況を。

 

「なあアリシアーー」

 

「あ、きた」

 

「何がーーッ!?」

 

アリシアが指差す先。

そこには満面の笑みでストローが綺麗にハートマークを描くジュースを運ぶ店員さんの姿がそこにあった。

 

そう。ハートマークを描いている。

ストローが二つ突き刺さっている、いわゆるカップルしか飲まないやつ。

 

店員さんはそれを置くなりそそくさと退場して、俺達の間に静寂が訪れる。

 

「......アリシア?」

 

「ノリと勢いで」

 

「別に俺は口づけとかそういうの俺は大丈夫なわけだが」

 

「私も別に問題ないから頼んだわけだし」

 

「女としてそういうの意識したりしない?」

 

「アルだからいいんだよ?」

 

「絶対に他の男にするなよ?絶対勘違いするから」

 

「アル以外にするわけないでしょ」

 

そういう勘違いしそうな言葉を言わないで欲しい。

本気で俺が勘違いしたらどうするんだろうか。こいつは。

 

気を付けたいのは、その距離感。

今の関係が最も心地よいものだと知っているから。

壊れるのが怖いから。だから必要以上に踏み込んではいけない。

 

そうは思うものの、俺がストローに口を付けているのもまた事実な訳で。

 

自意識過剰が過ぎるかも知れないが、恐らくアリシアは俺に対しての好意が多分ある。俺も憎からずそう思ってるわけだ。

 

でもその好意が幼馴染みとしてのものだったら。

 

でも、万が一にもその想いをアリシアに否定されたとき。

 

俺はどうするんだろうか。

 

一生このままがいいわけじゃない。それでもまだこのままでいいと思ってる。

俺が勇気を出すのはいつになるんだろうか。

 

このままでいいのか、このままがいいのか。

 

自分のことなのに、自分が一番分からない。

でも、まだ俺が勇気を出せない理由はきっとーー、

 

「どうしたの?アル」

 

「いいや、なんでもない」

 

「ふふ、変なの」

 

万が一にも俺に向けてくれるその笑みを失いたくないからだろう。

喫茶店での早めの昼食。カップル紛いのことをしながら、今更自覚する。

 

俺は心の底からアリシアが好きなんだと。

 

否定されたくないから。俺はその一歩を踏み出せない。

俺は臆病な男だ。

 

「ねえ、アル」

 

「なんだ」

 

「ジュース美味しいね」

 

「ああ」

 

ちなみにジュースの味なんか白い手の感触に気を取られ過ぎて感じていなかった。

 

「なぁアリシア?」

 

「なに?」

 

「この手はいつになったら離すんだ?」

 

「私の気が済んだら」

 

いつになったら俺は解放されるのだろうか。

結局それは『ギルドホーム』に帰るまで続いた。

 

もうあれだ。弁明の余地とかない。

 

 

端からみたらただのバカップルじゃねぇか。

 

 

確かに今はそれはまだ勘違いだが、いつかはそれを現実にしたい。

手を繋ぎながら、そう思った。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「なぁアザミ......」

 

「どうしたのダリウスー?」

 

「お前が二人に見える.....」

 

「昨日飲みすぎなんだって。もうすこし控えな?」

 

「やだ」

 

「はぁー......。とりあえずお粥食べる?」

 

「鮭のやつ食べたい」

 

「はいはい」

 

 

 




別にわざわざお使いに行かせる必要はなかったけど、機転を利かせたアザミさんのファインプレイ。

万が一にも否定される可能性があるなら、変わらなくていいと思うアルベルト君。

自分で書いててなんだこのチキンってなる。
中学生の恋愛ってこんな感じなのかな?


文字数が少ないのはご愛嬌。多分次回文字数多くなるので許して。


感想くれると嬉しい(感想乞食)


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8.強すぎる俺達に見合う依頼とかころころ転がってないよね。うん。

誤字報告ありがたすぎる。自分でかいてて気づかないからほんと感謝。
感想もテンションが上がるし、お気に入りが1000届きそうでビックリだし、ランキング上位にいて嬉しいしもうテンション爆上がりです。

なお投稿頻度。

毎日投稿してるひとやべーよ。


時折、夢を見る。

 

夢を見るときは、きまってこれだ。

魔力が暴走したときの夢。

紫色の色彩が、瞳に焼き付いて離れない。

 

その紫色の奔流が全てを切り刻んだこと。

これから続く筈だった平穏が崩れたこと。

自分がその惨状を引き起こした当人だったこと。

 

言い訳ならいくらでもできる。

自分はまだ幼かったし、魔法を扱うにはまだまだ未熟だったし、なにより自分の体はその精神に分不相応な膨大な魔力に恵まれていた。

 

自分は恵まれた。()()()()()()()()

力の扱い方もろくに学んでいないくせに、その力をもって産まれてしまった。

 

どうしようもなく、ふと思う。

 

自分は産まれてきてはいけない存在だったのではないか、と。

あの日の光景は、もう思い出したくもない。だが、頭では理解している。

 

私は魔物と一緒に人間も殺している。

 

子供のときの記憶は靄がかかったみたいに曖昧で、魔力が暴走したあの一瞬しか思い出せないのに、それでもなんとなく分かるのだ。

 

偶発的な出来事だった。そう自分に言い聞かせればその通り。

だけど、過去は消えない。

 

一生自分を戒める傷として残り続ける。

 

もう誰を傷つけたくないから、魔力を制御する術を学んだ。

もう誰にも死んで欲しくないから、傷を癒す魔法を学んだ。

もう誰も殺したくないから、世界を楽に生きる術を学んだ。

 

そうだ。私はあの時なんかよりも成長して、もう魔力なんて暴走させないくらいには強くなって。

それなのに、本気を出そうとすると手が震える。あの光景が脳裏によぎる。

 

アルが死にそうになったときですら私は本気を出せない。

彼の隣に相応しい存在でありたい。それなのに私はーー。

 

その”好き”が深まるたびに自分の嫌なところが浮き彫りになってうんざりする。

 

肝心なときになって、私はきっと後悔する。

それが嫌だから。だから私は本気で、自分の力に向き合いたい。

 

本気を出すな。

 

確かに、そう言われた。

 

だけど、アル。

 

私は、後悔したくないよ。

 

これ以上強くならなくていい。ただ私は守るための力が欲しい。

守られるだけの女なんて性に合わない。

 

 

ーー私は貴方の後ろより、隣が似合う女でいたい。

 

 

夢を見るとき再確認するのは自分の決意。

自分の力に本気で向き合う。いつから私はこんなに前向きになったんだろう。

 

絶対にアルのせいだ。瞼の裏にいつも思い浮かべているのは、自分が好きな男の姿。

すこし笑みが漏れて、私は必ずそこで夢から覚める。

 

 

「ふ、ぁ」

 

 

すこし間抜けに声をあげて、ゆっくり背伸びをしようと腕を挙げようとしたところで違和感に気づく。

 

「手、握ってくれたんだ」

 

あの夢を見るとき。何となく予兆のようなものがある。

そのとき私はきまってこっそりとアルのベットに忍び込む。アルが隣にいると、私が安心するからだ。

アルが朝が遅いせいで、というか私の朝が早すぎるせいで意外と忍び込んでいることはバレない。アルがとことん鈍いのも間違いなく要因の一つだが。

 

そんなことより、右手にアルの手が握られている。

自分から握ったのか、それともアルが握ったのか。

 

「あったかい......」

 

自分より大きい手。マメだらけで傷だらけなその手。それは剣を振り続けた証だ。それは立派に男の手をしていた。

その肌の温もりは毛布なんかよりもあったかくて、すごく落ち着く。なんでこんなに好きでたまらないんだろう。

 

自分でも自分の感情を説明できない。

 

恋は理屈ではないと、アザミが度々口にするのはこういうことなんだろう。

 

好きだ。ひたすらそう思う。

瞼を開けて、最初に見るのはアルの横顔がいい。

 

アルも私と同じことを想ってくれていればいいな、なんて。

 

「ねえ」

 

頬をツンツンとつつく。アルは起きない。

毎度毎度、そんなに気持ち良さそうに寝息を立てちゃって。

 

私が横で寝ているのに気づいて、慌てるとか、そういうイベントはあっていいと思うのに。

 

「......このにぶちん」

 

全くもって、想い続ける側の立場も分かってもらいたい。

鈍いにも程があるでしょ。この馬鹿。でも、そういうところも全部ひっくるめて。

 

 

好き、なんだけど。

 

 

さてと、私のお腹がすく前にアルを起こさないと。

朝ごはんを作るのはアルの役目だ。そのごはんに舌鼓を打つのは私の役目だ。

 

我ながら役割分担がすばらしい。

よし、そうと決まったらいつもどおり起こすか。

 

「起きて」

 

頬をぺちぺち、と。

私の怠惰な朝は、アルを起こすことでようやく始まる。

 

そして腕を掴まれ、やり返されるまでがお決まりだ。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

使い方によっては時にはなんだって凶器になり得る。

食材を切るのに便利な包丁だって使い方を間違えたら立派な凶器だし、フライパンで人の頭をおもいっきりぶん殴れば人を殺せるし、当然魔法も例外ではない。

 

俺が思うに、利便性が人から危機感を奪っているのだ。

 

まあ、つまり。便利で楽だからといって安全だと思ってはいけないという教え。我がギルドマスター曰く、女に色々任せていると大変なことになる。度重なる実体験から得た教訓だそうな。教え自体は正しいが、自業自得である。

 

前方で風の魔法が炸裂する。

風の刃で魔物は切り刻まれ、魔物はあっという間に倒れる。

 

「ーー”フレイムジャベリン”」

 

その魔物に続く影も空中に顕現した炎の槍によって貫かれ、動かなくなる。

 

無詠唱と口頭詠唱の合わせ技、デュアルキャスト。その難度の高い技を軽々とこなして見せるアリシアには驚きだ。

現在、俺達はBランクダンジョンを攻略中なのだがーー、

 

「なあ、アル」

 

「どうしたんですか、ギルドマスター」

 

「アリシアちゃん、気合い入りすぎじゃない?気のせい?」

 

「気のせいじゃないですね」

 

問題は、アリシアが強すぎて、ギルドマスターと俺が仕事がないと言う点である。

 

お気に入りのローブに身を包み、高純度の魔昌石を嵌め込んだ杖を持ち出したアリシアはもう最強だ。強すぎる。

 

「大丈夫。本気は、全然出してない」

 

「それはそれで怖いわ」

 

どやっ、と自慢げに胸を張るアリシア。

可愛いから憎めない。

 

「にしても気合い入りすぎじゃねぇかアリシアちゃん」

 

「ふふ、これが終わったら当分休み。テンション上がる」

 

「ああ、そうだったな」

 

Sランクギルドに所属していて、尚且つ依頼達成回数が基準値を上回っている俺達は、難度が低すぎる依頼は受けられない。後進の育成のためだ。強くなった俺達はもうBランク以上の、いわば中級者以上の依頼しか受けられない。

 

しかしそういったちょうどいい難易度の依頼がそう都合よくゴロゴロ落ちているわけでもなく。

 

大体の依頼はもう消化しきってしまった。

というわけで俺達は暇をもて余す。つまりちょっと冒険者をお休みする期間の完成である。

 

「そういえば今日ギルドの人数少なくありませんでした?」

 

「ああー。依頼がもう王国内なくなるからってちょっと実家に帰るやつとか、他の国で依頼受けてくるやつとか、あとは、ああ『強襲(レイド)』組だな」

 

ちなみにこの機会に先んじて我が親友であるシルクはこの機会に婚約者とイチャラブしてくるそうだ。糞が。リア充が憎い。

 

「というか、なんでギルドマスターが最前線に駆り出されてるんですかね」

 

「暇なんだから仕方ないじゃねえか。アザミがいる以上王国から離れるわけにもいかないし。暇潰しだ」

 

「暇だからってBランクダンジョンいく馬鹿がどこにいるんですか。下手打ったら傷負いますよ」

 

「そういうことにならないように万一の備えはしてるっつーの」

 

腰に指した魔剣をポンポンと叩きながら、それにほら、とギルドマスターは前を指を指した。

 

本来なら脅威である筈の魔物が魔法によって次々と倒されていく。

 

「ふふ、よゆー」

 

「アリシア、魔力の使いすぎで疲れたりしてないのか?もしそうなら殲滅担当代わるが」

 

「二人に剣を抜かせるまでもないかな。私の魔法だけで十分対応しきれる。それに、今日はちょっと調子がいい」

 

「なんで調子がいいんだ?」

 

「ふふ、朝......なんでもない」

 

「なんだ?朝になにがあったんだ!?」

 

照れ隠しをするようにして顔を覆うアリシア。朝になにがあったがすごい気になる、が。女の子の事情とかあるのかもしれないので踏み込みすぎてはいけない。

 

「ここ、上から三番目の等級のダンジョンの筈なんだがなぁ」

 

「アリシアが強すぎて霞んで見えますね」

 

「まぁ、暇潰しにはちょうどいいが」

 

俺の顔を見てニヤニヤと笑うギルドマスター。

 

「どうしました?」

 

「いや、なんでもないが」

 

「そういうのが一番気になるんですけど」

 

「お前らが俺の暇潰しにはちょうどいいって話だよ」

 

ギルドマスターは心底楽しそうに笑みを浮かべる。

と、いっても俺は訳が分からないといった風に返すだけだが。

 

「ねえ、アル」

 

「ん、どした?」

 

「休み、どうする?」

 

「普通に休日を満喫するつもりだが。あ、買い物とか行くか?」

 

「新しい服買いたい。可愛いやつ」

 

「お前は何着ても大体似合うだろ」

 

「......そういうところ、気を付けた方がいいと思う。私以外には、特に」

 

アリシアは顔を赤くしてそっぽを向いた。

なんだそりゃ。

 

「お前が可愛いのは当然の事実だろ」

 

「......馬鹿」

 

「おーい、お前らー?一応ボス前だぞー?」

 

気づけば、ダンジョンの最深部まで到着していた。

目の前には重々しい雰囲気を放つ重厚な扉。

 

「とっとと、終わらせる」

 

そして、アリシアは扉の前まで来て、魔法で扉をこじ開けーー、

 

その奥で鎮座していた蛇(ボス)をあっという間に風の刃で切り刻んだ。

 

「これで、終わり」

 

「......終わり?」

 

「うん。あとはダンジョンコアを破壊したら本当に終わり」

 

「ここ一応Bランクダンジョンだよな?」

 

「ああ、アルベルト。思っているより現実は非情だ」

 

「私たち、強くなりすぎた?」

 

強くなりすぎた代償は、達成感の喪失だ。

確かにこれが終わったら休日が待っているのだが。

 

「もうちょっと、やりごたえのある依頼とかやりたかった......」

 

「休日明けに期待してろ。多分やベー依頼ごろごろしてるから。ほら、帰るぞー」

 

俺達の休日前最後の仕事は、あっけなく幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




砂糖を吐け。介錯してやる。そういう思いで書いてる。

アル君は行動には敏感だが、言動には鈍感。
にぶちん。

蛇(バジリスクドラゴン)瞬殺。
次回から休日です。




アリシア・ヘルティゼル

膨大な魔力をもって産まれた才能の申し子。
しかし、その膨大な魔力ゆえか、幼少期、魔物から村を守るために放った魔法が暴走。結果村が破壊された。彼女にはアルベルトしか残っていない。若干、というか結構依存ぎみ。
村を破壊したトラウマのせいで脳に防衛本能的な何かが働き、幼い頃のことはアルベルトのこと以外まったくと言っていいほど覚えていない。両親の顔すら、覚えていない。
アルベルトのことがめっちゃ好き。

魔法使いとしての実力は、王国最高峰。
本気を出したら真面目に国がヤバイが、制御できないので封印中。

ちなみにお気に入りのローブと杖はアルベルトからの贈り物。めっちゃ大事にしてる。




感想をもらえると更新頻度が上がるかもです。


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9.「迷わず頼れ」

感想をくれたら投稿頻度が上がると言ったのは誰だ?

正直すまんかった。

ソシャゲは時間が溶けるって初めて知った。
週3投稿のペースで頑張るぞい。


俺たちに休日が訪れた。

依頼は大体消化しきった。この時期なので急に舞い込む大依頼、というのも無い。

つまり冒険者の空白期間。暇をもて余す時期である。

 

休日の過ごし方は人それぞれだ。

読書を楽しんだり、友人と楽しい一時を過ごしたり、恋人とイチャイチャするやつだって当然いる。

そして俺のように何をすればいいのかよくわからず頭が空っぽになる奴だっている。

 

冒険者。命知らずで向こう見ずなバカ共だからこそ休日なんてものは稀である。

うちのギルドマスターは暇だったらすぐ依頼受けるし。血の気が多い奴らがいっぱいいるわでうちのギルドは普段暴れまくってるのだ。付き合わされる俺の身にもなってほしいところである。

 

本当に血の気の多い一部のバカは今ごろ『旧大陸』で蛮族相手にヒャッハーしている頃だろうが。依頼があろうとなかろうとバカには関係ないのだ。ご冥福をお祈りしたい。

 

ともあれ、休日である。

一部のバカを除き平穏を享受する時間。

 

その中でも。師匠にしごかれる休日というのは中々に珍しいものではないだろうか。

 

「ふっふっふ、アルベルトよ。これが力の差だ」

 

「結構今の惜しかったと思うんですけど」

 

「一応言っておくが俺はまだろくに魔力を使ってない」

 

「......」

 

「更に言えば俺は全然本気を出していない」

 

「......」

 

「アルベルトよ。―――これが力の差だ」

 

「もう一回」

 

「体力お化けめ。俺少し休憩ー」

 

太陽が燦然と輝く、いつもの『ギルドホーム』の庭にて。

俺はいつも通り師匠にしごかれていた。剣を杖にして立つのがやっとの俺に対して、師匠はまったく息を切らさず、どこか飄々とした様子で木刀をくるくると回している。

 

本当に底が見えない。

 

率直に言えば強すぎる。

隔絶した実力差があるわけではない。実力差は少しづつ埋まっていく感触がある。

 

それでも俺が師匠に勝てるビジョンがまったく思い浮かばない。

どこまでも最適化されたその剣に、心を見透かすようなその目に、底が見えないその力に。

 

俺は一切、勝てる気がしない。

 

俺も強くなっている筈なのに。

 

その背中がまったく見えないのだ。

 

「ほい、アザミ特製ポーション」

 

投げやりに渡されたポーション瓶をキャッチし、そのまま勢いで飲み干す。

これで体力は戻った。もう一回やれる。そう思い立ち上がったところで師匠に手で制止された。

 

「おいアルベルト。お前はここで油を売ってる場合か?」

 

「と、言うと?」

 

「俺は今すごい真面目な話をしようとしているんだが」

 

「アンタが前もってそういうときは大抵ろくでもない案件です」

 

「なんでお前はアリシアちゃんとイチャイチャしてないんだ!?」

 

「なにいってんすかギルドマスター」

 

本当に何を言っているんだこの人。

強さは認めるがそういうところは正直軽蔑する。人の気持ちも知らないで。そんなことができたらとうの昔にしている。

 

接し方と、話す話題も思い付かないから(ここ)に逃げてきたのに。

急に何を話せばいいか分からなくなるあれだ。月一のペースで訪れるそれが急にやってきた。

 

だから今日は剣で煩悩を払いに来たのに。

 

「さて、休日なのにわざわざ俺にボコされにきたアルベルト君に一つ聞きたいことがあるんだが」

 

「なんですかギルドマスター」

 

「二人きりの時は師匠かダリウスのおっちゃん以外の呼び方は許さないと会議で決まったばかりだが」

 

「......師匠」

 

「よろしい」

 

なんなんだろうこの人。呼び方に拘る二十九歳のおっさんは初めてだ。

ちなみにそのよくわからない会議は休日前のダンジョン帰りの時に突発的に開かれ二対一で可決された。世界の理不尽さを少し知った気がした。

 

「俺の貴重な時間を消費してこの訓練と言う時間が成り立っているわけだが」

 

「どうせ休日は師匠剣振ってるだけなんだからいいでしょうが」

 

「お前にアザミとほぼ二人きりの時間が邪魔されたことが気に食わないんだ」

 

この空白期間、実家に帰ったり恋人とイチャイチャしたりという奴らが大半である。

『ギルドホーム』に住んでいる奴らも普段ならいるがそいつらも出払っている。アザミさんと師匠は特にそういうのがない人たちなので結果、二人きりの状況が出来るわけだ。

 

「二人きりで何か変わったことありますか?」

 

「聞いて驚け。今日の朝ごはんはアザミ特製のカレーだった」

 

「師匠のも一緒に作った方が楽なんでしょうね」

 

「昨日今日と続いて一緒にご飯を食べた」

 

「一緒に食べないと師匠がうるさいだけでは?」

 

「なんでお前はこうことごとく俺の希望を打ち砕くんだ」

 

「事実ですから」

 

アザミさんは世話焼きな人なので師匠のようなアホでも優しくする。

俺個人としては師匠の恋は応援したいところだが、アザミさんには気があるのだろうか。

その恋が実ればいいと、影から応援している。

 

「そういうお前はどうなんだ。進捗は」

 

「なんもありませんよ」

 

「マジでなんもないの?」

 

「マジで何もありません」

 

「ほらハプニングとか」

 

「そういうことは俺が特に気を付けているので」

 

「このボケが」

 

唐突に頭を殴られた。理不尽である。

 

「痛いんですが」

 

「大丈夫だ。お前の耐久力を信頼しての威力だ」

 

「理不尽だ」

 

「世界は理不尽だ。慣れろ」

 

世界は本気で理不尽である。

慣れろといってもこの理不尽に慣れたくない。

 

「マジで進展無いならあれだ。口実作ってデートと洒落込め」

 

「俺にはハードルが高過ぎです」

 

「いいか。女って言うのは単純だ。夜景が見えるレストランで愛を囁けば勝ちも同然だ。それだけで落ちる」

 

「そんなに単純なもんでもないですよね?」

 

「いけるいける。俺も試したこと無いけど多分行ける」

 

「実体験が伴ってないから尚更不安!!」

 

こういうのって実体験が伴っているから説得力があるのであって、万年童貞のおっさんが言ったところで説得力も糞もないのだ。

というか童貞のおっさんに何を言われても心に響かない。この年で童貞なのだ。うちの師匠は。

 

「まずそういうのは自分で試してから言いましょうよ」

 

「試す度胸が俺にあると思うか?」

 

「ええ、知ってましたとも」

 

このおっさんはビビリなのである。そのデカイ図体に似合わず。

拒絶されるのも、関係性が関わるのも怖い。そういう面では俺と似ているかもしれない。

 

「空白期間で何らかの進捗をだな」

 

「頑張ってください」

 

「お前もな」

 

「まだ、難しいですよ」

 

「難しい。それは分かるが、平穏がいつまでも続く訳でもないわけだ。俺たちが平穏を享受できているうちに色恋沙汰なんかは片付けておくべきなんだよ」

 

そりゃそうだ。平穏がいつまでも続くわけでもなし。色恋沙汰は冒険中に足を引っ張る要因な訳で。そういうのはこの期間のうちに終わらせてしまえばいいと言うのは頷ける。

だが、このギルドに入ってこれは何度めの空白期間なのだろう。数えたことがあるわけではないが。

進展はまったく無い。だから、今回もなんの進展もないと思っている。

 

「なあ。このまえのドレイクマーキス覚えてるか」

 

「はい?そりゃ覚えてるに決まって―――」

 

「そのドレイクは、お前とアリシアちゃんを求めていた。てかぶっちゃけアリシアちゃんはおまけかもな」

 

だからなんだ。そうはやる気持ちを押さえつけてその先の言葉を待った。

 

「お前はとてつもなく希少な神の加護を受けた神子。アリシアちゃんはもう伝説に匹敵するレベルの魔力の持ち主だ。どっちもすげぇ希少。だがお前は歴史的に見て類を見ないレベル。そこまで分かれ」

 

神妙な顔で師匠は言った。

 

「優秀な奴らがちょっと出張でいないタイミングのあの依頼。ドレイクは決闘だって言ってるのに部下も連れてた。あのレベルの蛮族だ。奇襲と俺の『魔剣』で上手く行ったが、お前一人で行ってたら―――()()()()()()

 

冗談、と笑い飛ばせる剣幕でもない。

端からみたら楽勝に見えたかもしれない。だが、実際あのドレイクが放っていた魔力は本物で、師匠たちの力がなかったら危なかったかもしれない。

 

少しだけ熱に浮かれて一瞬でも一人で行こうと思い上がっていた自分が今では恥ずかしい。

 

「なんかきな臭い。殺せるだろうとは思ってないだろうが、なんつーか。引っ掛かる。何者かの意図を感じないでもない」

 

こういうときの師匠の勘は残念なことに大抵当たる。冒険者としての経験則というやつなのだが、本当に当たる。

 

「国も第二王女さま以外は親しみ深くねぇし。王族の護衛したときなんかもうピリピリしてるんだよ。雰囲気」

 

「で、なにが言いたいんです」

 

「自分の希少性については理解してるな?」

 

「ギルドに入ったときにみっちり教え込まれました」

 

神の加護、というのは希少なものだ。

俺たちが普段祈ることで気まぐれに『奇跡』を起こす神が一定の個人に興味を持ったということなのだから。

種族は関係なしに神のお気に入りに与えられる恩寵。それが加護だ。

 

歴史上確認されているのは俺を含めて十二人。

俺は、とんでもなく希少だということになる。

 

「その希少性がある以上お前は怪しい集団やらなんやらに狙われる危険性を孕んでるわけだ。どこに逃げても虫のように湧いてくるからな。変な奴は」

 

変な奴はどこにいても湧いてくる。これが真理だ。

どうしようもない脅威に、どうにかして対抗する力を手に入れた。

それでも、安心する暇なんてない。

 

「一年前の丁度この日。何があったか覚えてるな?」

 

「はい」

 

目に焼き付いた光景が未だに忘れられない。

時折とんでもなく強い奴が現れて、俺たちの平穏を奪おうとするから。

だから俺は、強くならないと。

 

 

「―――また思い詰めてんな?」

 

 

頭をぶっ叩かれた。さっきより強く。

痛い。めっちゃ痛い。俺より頭一個分は上。そこを見上げると不敵な笑みを浮かべた師匠がいた。

 

「いいか。俺が言いたいのはこれだけだ。迷わず頼れ」

 

頭を固い掌で撫でられる感触。師匠が俺の頭を撫でていた。ごつごつした掌だ。

まめだらけで傷だらけの、強い掌だ。

 

「やばいと思ったらすぐに俺を頼れ。どんなときでもまず俺の顔を思い浮かべろ。そして頼れ。絶対に俺がお前を助けてやる」

 

「 ―――ッ」

 

「絶対に助ける。だから迷うな」

 

このとき、俺が思わず泣きそうになったのは、俺の心に生まれたさざ波は、なんなんだろうか。

今はその背中の大きさに感謝すればいいのか。その度量の大きさにただ感謝するだけでいいのか。

 

「本当に、師匠には敵いませんね」

 

「当然だろ。俺はお前の師匠で、お前は俺の弟子だ」

 

「その背中が遠すぎる。遠すぎるんですよ」

 

「お前は誰より俺を近くで見てるから、俺の背中が大きく見えるだけだ。俺は意外と大したこと無い人間なんだよ」

 

そんなことない。

 

なんなんだろう。本当に、この人は。

強くて、遠い。どうしようもなくその背中は遠い。

 

「師匠は、すごい人です」

 

かけてほしい言葉をくれる。その掌を差し伸べてくれる。

それだけで十分だ。そうだ、思い出した。俺がこのギルドに入ろうと、そう思ったのは。

「馬鹿め」そう一言いって師匠は笑った。

 

 

「―――俺の剣は仲間を守るためにあるんだよ」

 

 

その強い笑顔に、憧れたからだった。

 

憧れは理解からもっとも遠い感情だと、そういうが。

その背中に手を伸ばすのは傲慢だろうか。その遠い背中に、手を伸ばすのは。

 

強くなりたい。師匠の横に立ちたい。だから俺は今日も学ぶ。

 

「師匠」

 

「なんだ?」

 

「もう一回」

 

「はぁー。これで最後な。中でアリシアちゃんとアザミが昼食の準備してる頃だろうし」

 

木刀を構える。師匠も構えて、それで戦いは始まる。

 

燦然と輝く太陽が、俺たちのことを明るく照らしていた。

 

 

 

 




ダリウスさんまじダリウスさん。
突然顔を出すシリアスさん。しっかりラブコメするから安心してもろて。

休日とかいいつつ『ギルドホーム』に入り浸ってる。結局一番居心地いいから仕方ない。

アルベルトのその加護のせいで結構頻繁に狙われる。
というかダリウスさんがイケメン過ぎるのとギルメンが離してくれないのでアルベルト達は亡命しようとか考えません。思考の幅が狭いのは仕方ない。

ちなみにダリウスさんとアザミは同郷。
一緒に冒険しようと旅立った。ちなみに村は蛮族に燃やされたので帰る場所は『ギルドホーム』しかない。

誤字報告本当に助かってます。
感想もよろしくです。本当に頻度上がるかもです。

感謝してるので評価ください。


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