スーパーロボット大戦 とある蛇使い座の日記 (破戒僧)
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第1章 海が干上がった世界
プロローグ 1つの終わりと、1つの始まり


どうも、初めまして。
他の作品でお会いした方はお久しぶりです。破戒僧と申します。

約1か月前に『スーパーロボット大戦30』が発売になり、その勢いで執筆した作品になります。
舞台は『スーパーロボット大戦V』の世界。どこまでその勢いが続くかわかりませんが、とりあえず書きたいように書くつもりです。

少しでもお楽しみいただければ幸いです。
では、どうぞ。


 

 新西暦2199年。

 地球は、外宇宙から現れた侵略者『ガミラス』の脅威にさらされ、滅亡の危機に瀕していた。

 

 『ガミラス』……地球人から見れば、『異星人』というカテゴリーになる彼らは、地球のそれと比較して、はるかに進んだ技術力を誇っていた。

 

 それを用いて作り出された数々の兵器や戦艦、戦闘機は、地球連邦軍が用いるそれらを上回る性能を誇っており、戦場という戦場で地球連邦軍を蹂躙した。またたく間に地球側の軍事力はすり減っていき、まともに抵抗することすらままならない状態になってしまった。

 

 また、直接的な戦闘による被害もさることながら、地球という星と、そこに住まう人々をそれ以上に苦しめたのは、ガミラスが用いた兵器の1つである『遊星爆弾』だった。

 

 冥王星に築かれたガミラスの基地から発射されるそれは、巨大質量の隕石のような兵器であり、それが数多く、地球の各所に着弾することにより、各都市はもちろん、環境そのものがダメージを受けることとなった。

 かつて青い星と呼ばれていたはずの地球は、幾度となく落とされたこの兵器により、海は干上がり、赤茶けた海底『だったもの』を露出させ、さながら死の星の様相を呈していた。

 

 また、爆弾は内部に毒性の胞子のようなものが入っており、着弾と同時にまき散らされる仕組みになっていた。それらは地球にはない『外来種』の植物となり、地球環境を侵食し、時に病に姿を変えて人々を苦しめた。

 

 様々な視点から科学者たちが計算し、地球が滅亡する迄に残された時間は、残り僅か1年という無情な計算結果がはじき出されていた。

 

 

 

 しかし、そんな状況であっても、人々はあきらめてはいなかった。

 

 残り少ない力を、知識を、資源をかき集め、迫りくる侵略者の魔の手に対抗するため、そして、地球を救うわずかな希望に手を届かせるため、必死で抗い続けていた。

 

 ここ、『第3特殊戦略研究所』も、その為の施設の1つだった。

 

 普段、地球防衛のための戦力となる戦闘機やMS……『モビルスーツ』が研究・開発され、連邦軍に力を与え続けている後方の重要拠点の1つ。

 

 現在でもまともに稼働している、決して多くない研究施設の1つであるここに、今日もまた……1人のとある少年が訪ねてきていた。

 

 

 

「ごめんくださーい、星川製作所ですけどー! ご注文の品をお届けに上がりましたー!」

 

「うん? お客さんか」

 

「あっ、そうだった、届くの今日だったっけ。はいはーい、今行きまーす!」

 

 その日、第3特殊戦略研究所の職員である如月千歳は、多忙だった。

 

 少し前に月面特殊戦略研究所から到着し、重要な物資を輸送してきた、叢雲総司を出迎えたところだったのだが、その直後に研究所の出入り口から元気な声が聞こえてきた。

 

 ちょうど総司からの物品受領も済んだところだったため、こちらも負けじと元気よく返事をして、扉を開ける。

 そこには、黒髪黒目で、千歳よりも少し背が低い少年が、プラスチック製のコンテナを両手でどうにか抱えて立っていた。

 

 名前は、星川(みつる)

 ここ最近、研究所の下請け業者として、様々な部品を発注している『星川製作所』……そこの息子であり、家の手伝いで度々配達にやってくる少年だ。

 

 やや小柄で童顔なため若く、ないし幼く見られがちであるが、年齢は17歳。千歳の2つ下である。

 世界がまともであった時代ならば、高等学校に通って青春を謳歌していたであろう年齢だ。

 

 しかし今では、動ける者は皆、何かしらの仕事について必死で産業を回すことで、どうにか社会を機能させている現状である。他の家の例にもれず、彼もまた、教育と青春に使うはずだった時間を途中で切り上げ、労働の現場に身を投げ出していた1人だった。

 

 細身の見た目に反して体力はある方であるため、今日のように、物品の配達で度々この研究所を訪れている彼は、雑用よろしく様々な職務をこなす千歳とは顔なじみだった。

 

 ゆえに、配達に来れば千歳が応対してくれるというのは、勝手口からお母さんが出てくるくらいにいつものことだったのだが、この日は彼女以外ももう1人、奥に見知らぬ人物がいるのに気付いた。

 受領証にサインをもらいながらその人を見ていると、目が合った。

 

「お疲れさん。若いのに大変だな」

 

 そう、気さくに声をかけてきた青年――叢雲総司は、満からコンテナを受け取ると、『私運びますから、仕事ですから』『いいのいいの、こんくらい楽勝楽勝』と、ちょっと慌てている千歳をなだめるようにして、そのまま奥に持って行った。気を利かせて重い荷物を千歳に代わって運んでくれたということらしい。

 態度は軽い感じではあるが、気配りができる大人なのかも、とミツルは思った。

 

 その後は、千歳から次の発注の内容を聞き取って紙に書き起こしながら、なんてことはない雑談にしばし花を咲かせていた。

 

 総司がこれから1ヶ月休暇で、しばらくのんびりする予定だとか、千歳が連邦軍の制服を着ていないのは、多様な職務に対応するため(と、職員達の私的な希望によるもの)だとか、満は本当はモビルスーツのパイロットが志望だったが、そんな余裕もなくなってやむなく実家の手伝いに収まったという事情で、パイロットである総司を尊敬しているとか。

 

 総司はそう言われて、少し何か思う所があったようで、ほんの一瞬、真剣な表情になった場面などがあったものの、すぐに普段の軽い感じの笑みになって、雑談に戻っていた。

 

 しかし、そんなつかの間の平穏な時間すら……侵略者は奪い去って行く。

 

 

 

 ―――ウ~~!!  ウ~~!!

 

 

 

「! 如月三尉、この警報は!」

 

「いけない……敵襲です! 多分、ガミラス……避難しなきゃ、急いで!」

 

 

 

 ガミラスによる地球への攻撃は、主に『遊星爆弾』によって行われるため、ガミラス側の戦闘機や戦艦などが地球にやってくることはほぼない。

 もはや滅びを待つばかりの星、そこまでする必要性が最早ないからだろうと言われている。

 

 しかし、全くそういうことがないというわけではなく、ごくまれにこうして、ガミラスの戦闘機が嫌がらせのように地球にやってきて、最早抵抗する力もろくにない地球の各所を攻撃していくという事態が起こっていた。

 

 不運にも今日、今回の襲撃では、この研究所ないしその近辺が標的になってしまったらしい。

 機銃、あるいはミサイルが撃ち込まれていると思しき爆音が聞こえる中、千歳は2人を先導しながら必死で走っていた。

 

「こっちよ、急いで! もう少しで避難用の簡易シェルターがあるから!」

 

「ガミラスの連中……隕石落とすだけじゃ飽きたらず、直接殴りに来たってわけかよ! くそ、機体が無事だったらな……」

 

 千歳、総司、そして満の3人は、そろって急いで研究所敷地内に設けられている緊急避難用のシェルターを目指して走っていた。

 

 実戦経験ほぼゼロ、半ば非戦闘員であると言っていい千歳はもちろんだが、いくつもの戦場を経験しているベテランのパイロットであるはずの総司もまた、戦わずに避難するという選択をしていた。

 

 その理由は、最初のガミラスの爆撃で格納庫が一部被害を受け、その際に自分が乗るはずだった機体が巻き添えで大破してしまったからだというもの。月から乗ってきた、輸送機ではあるが戦闘能力も持たせてあった機体は、見事にスクラップになってしまった。

 

 そして、その他にもう1つ、

 

(市民を守るのも、軍人の仕事だからな……!)

 

 自分達についてきて走っている満を一瞥しながら、総司は前を向き直す。すると、ほぼそれと同時に千歳が『あそこ!』と指をさして叫んだ。

 その先には、シェルターの入り口と思しき、分厚い頑丈そうな扉が見えてきていた。

 

 あそこまで逃げればひとまず安全だ、と考えたその時、総司の耳に、ヒュウウウ……と、何かが風を切って飛ぶような、不吉な音が届いた。

 聞こえていたのはごくわずかな時間だが、どんどん大きくなる……すなわち、明らかに近づいてくることに気づいた総司は、どっと冷汗が噴き出してきたのを感じながら、

 

「伏せろォッ!」

 

 と、千歳と満に向けて声を張り…………しかし、間に合わなかった。

 

 その直後、彼らが今まで走っていた渡り廊下に……狙って放たれたのか、あるいはたまたまなのかはわからないが……ガミラスの戦闘機から放たれた空対地ミサイルが命中。

 

 千歳と総司は、その爆風を受けながらも、直撃する位置にいなかったがために、間一髪、衝撃で転倒して転がる程度で済んだが……彼らはその瞬間、その目で見てしまった。

 

 爆発により粉々に砕け、瓦礫の山になって吹き飛ぶ通路の壁、崩れ落ちる天井。爆炎と土煙。

 それらに巻き込まれ、飲み込まれていく……自分達よりも数歩後ろを走っていた、満の姿。

 

 その光景は、以前に総司が何かのテレビ番組で見たことがあった、人が雪崩に巻き込まれる映像を思い起こさせた。

 

 あっという間に通路に立ち込めた土埃と黒煙で、自分達の服や顔が汚れていくが、総司も千歳もそんなことに気を向ける余裕がないまま……少し前まで楽しく話していた少年が、飲み込まれてしまった瓦礫の山を、茫然として見ていた。

 

「……そん、な……」

 

「ッ……ガミラス、ッ……!!」

 

 何が起こったか理解するのを拒むように、頭が働かず、そのせいでか体も上手く動かなくなり……床に座り込んで茫然自失になっている千歳。

 

 風通しがよくなってしまった通路の、壁に空いた大穴……そこから見えた、深緑色の戦闘機を、先程までの軽薄な雰囲気が微塵も感じられない、憤怒の表情で睨みつける総司。

 

 しかし、今はそんな場合ではないと、歯を食いしばって総司は動く。

 座り込んで動けないようすの千歳を抱きかかえ、シェルターの扉を開いて中に逃げ込む。

 

 その際、一瞬だけ、彼が飲み込まれた瓦礫の山――すでに火の手が回り始め、煙が通路を覆い始めている――を一瞥しながらも、今の自分に最早できることはないと、振り切るようにして総司は走り去った。ひとまずの安寧を手に入れられるであろう、シェルターの中へと。

 

 

 

 

 

 そして、同じ頃。

 

 同じ地球のある場所で、それは……誰にも知られずに、覚醒の時を迎えていた。

 

 

 

「……あれ……ここ、どこ?」

 

 

 

 




もし『面白いな』と思っていただけたなら、感想・評価などいただけると、作者が狂喜乱舞して喜びます。

今度ともよろしくお願いいたします。


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第1話 蛇使い座の神器

本作品は、二次創作およびクロスオーバーという性質上、『スーパーロボット大戦V』及び『スーパーロボット大戦Z』シリーズのネタバレを随所に含みます。

もし未プレイの方がいらっしゃいましたら、あらかじめご了承ください。


 

 

【○月×日】

 

 今日から日記をつけることにする。

 

 社会人になってからずっと続けてる趣味ないし習慣でもあるし、単なる暇つぶしでもあるし……後から読み直して、『ああ、この時僕、こんな風に思ってたんだっけなあ』と振り返るための記録にもなる。

 

 あと、文面だと冷静に見えるかもしれないが、今現在僕はかなりテンパってる状況なので、今のこの状況をあらためて整理する意味でも、こうして文章に起こしてみるっていうのはいい手なんじゃないかと思っている。

 

 そんなわけで、今言った通り、まずは今現在の状況を認識するところから始めようと思う。

 

 今僕は、見覚えのない操縦席というか、コクピット的な空間に1人で座っている。

 

 車の運転席とか、ゲーセンのレースゲームの筐体とか、そんなちゃちなもんじゃ断じてなく……視界一杯に広がる全天モニターと、色々あってわけがわからないほどならんでいる、操縦桿やらスイッチやらダイヤルやら……うん、やっぱり『コクピット』っていう表現が一番しっくり来る、来てしまう光景だ。

 

 当たり前だが、僕は今までの人生、そんなもんに乗り込んだことは一度としてない。

 僕の職業は普通の公務員だった。毎日夜10時近くまで残業して、へとへとになって帰ってベッドに倒れこみ、そのまま気が付いたら朝だった……みたいな、ちょっとよろしくない生活サイクルの中で必死に頑張って働いていた、どこにでもいる事務職だ。公務員が定時で帰れる? はっ、誰がそんなこと言ったんだかね。

 

 そんな感じなので、決して僕はこんな、飛行機のパイロットでもなければ一生縁のないような、複雑な操作が必要そうなコクピットに縁はなかったはずなのだ。

 

 しかもなんか、ただのコクピットじゃなく……なんか近未来じみたデザインに見えるのは、気のせいだろうか? 僕がただ単にアニメとか漫画の見過ぎ・読みすぎなんだろうか。

 

 まあ、それはいい。考えても仕方ないことだ。

 

 そんな感じでテンパっていた僕は、ふいに『ああ、そうか、さては夢だな』と、現実逃避じみた方向に考えを進ませたわけだが……その直後に、頭が割れるような頭痛に襲われた。

 

 そして、その痛みの中で頭の中に流れ込んできた……あるいは、呼び起こされたのは、『星川満』という、1人の少年の短い人生だった。

 

 普通の一般家庭に生まれ、9歳まではすくすくと育っていった彼だったが、宇宙からの侵略者『ガミラス』が地球を攻撃し始めたことで、その人生は狂っていった。

 学校をやめて働き始めなければならなくなり、将来の夢だったモビルスーツのパイロットも諦めなければならなくなった。

 そして、ついさっき……本当についさっき、その『ガミラス』の攻撃と思しき爆風によって、17年という短い生涯に幕を下ろした……という記憶だった。

 

 それら全てを見終えたところで、頭痛は嘘のように収まった。

 

 あまりにいきなりのことの連続で、またしても混乱しかけたが……そこでようやく、僕は今、自分のこの体が、二十数年間つきあってきた、ブラック労働でボロボロの体ではなく……やや小柄でまだ十代後半あたりと思しき、若い体になっていることに気づいた。

 モニターを鏡代わりにして映してみれば、顔も違う。目の下に隈ができた不健康なアラサーの顔ではなく、童顔だが整っていてハリのある肌の、美少年の顔になっていた。

 

 というか、どう見ても、さっき頭に流れ込んできた『星川満』の顔と体だった。

 黒かったはずの髪の毛が、真っ白になっている点を除けば、だが。

 

 この辺で僕は、これが夢でも何でもなく、そしてただならぬ事態が起こっていると理解して……また現実逃避したくなるのを我慢して、しばらく考えてみた。

 そして、今わかる範囲で状況をまとめてみた。

 

 どうやら僕は今……ネット界隈で流行りの、『異世界転生』みたいな状況にあるようだ。

 過労で死んだのか何なのかはわからないけど、元の世界から、この妙ちきりんな世界の、『星川満』という、これまた死んだはずの少年の体に転生というか、憑依したらしい。

 

 そしてこの世界も、普通の世界じゃない。あきらかに前の僕がいた世界とは異なる……フィクションじみた世界だ。

 

 なにせ、『モビルスーツ』である。

 おそらく、日本で最も有名なロボットアニメであろうあのシリーズに出てくる機動兵器。あれが実在している世界である。というか、この『星川満』くんは、そのパイロットが夢だったようだし。

 

 つまり、この世界はガンダムの世界なんだろうか、という考えに至るのは至極当然ではなかろうか。

 少なくとも、僕の残念なおつむではそう考えることしかできず……同時に僕は、今自分が座っている謎なコクピットについて思い出した。

 

 仮にだが、この世界がガンダムの……あのシリーズめっちゃバリエーションあるんだが、そのうちのどれかの世界だとしよう。

 そうなると、このコクピット、というかこの機体は、ガンダム、あるいは何かのモビルスーツなんだろうか?

 

 とっさに僕は、コクピットから外に出て、振り返って機体を見てみた。

 しかしその瞬間、僕は、余計にわけがわからない状況に突き落とされた。

 

 目に飛び込んできたその機体は、ガンダムではなかった。

 その他のモビルスーツですらなかった。

 

 しかし、僕はこのロボットを知っていた。

 そして、思わず呟いてしまった。

 

 

 

 『アスクレプス』じゃん…………と。

 

 

 

【○月△日】

 

 昨日はもうなんか、機体を確認して、そして日記を書いたところで力尽きてしまったが、今日はもうちょっと頑張って現状の整理を進めたいと思う。

 寝て起きて、やっぱりまたこのコクピットの中だったことで、『夢であってくれ』という、昨日の僕の望みも見事に木端微塵になったことだし。

 

 とりあえず、この世界が何ガンダムなのか、はたまたそれ以外の世界なのかについて、特定するのは諦めた。

 

 手掛かりがあまりに少なすぎるし、僕はガンダムシリーズは、まともにアニメで見た作品が1つもないので……無理だ。『ガミラス』なんて敵勢力が出てくる作品、あるのかどうかもわからん。

 

 なのでもう1つ重要なこと……僕が今乗っているこの機体、『アスクレプス』について、色々考えて整理してみようと思う。

 

 『アスクレプス』は、スーパーロボット大戦シリーズの1つに出てくる、スパロボオリジナルの機動兵器の1つだ。

 知名度は……そんなにない気がする。有名どころである、『グランゾン』や『ヒュッケバイン』あたりと比べると、そこまで知られてはいないんじゃないかと思う。僕が知る限りでは、こいつが出てきたのは、6作品が一続きになっている『Zシリーズ』のうちの、後半3作品だけだし。

 

 しかし、結構重要な役どころで出てくる機体であるし、コレの操縦者であるアドヴェントは……ネタバレになるが、同シリーズのキーパーソンの1人である。

 というか、ラスボスである。そいつが操る機体なのだ。

 

 作中でもかなり強力な機体の1つであるとされている上、この機体は実は仮の姿であり、真の姿に戻って本気を出すとさらにヤバいことに……という設定があったりするが、まあ今はいい。

 

 ……問題は、何で僕が今、そんな機体に乗っているのか、というところである。

 

 現代日本から異世界転生? 憑依? した現状についても不明なら、その憑依先である星川少年がなぜかこの機体に乗っているという現状もまた不明である。二重にわけがわからない。

 

 この機体が目の前にあるもんだから、ガンダムでなければスパロボZの世界なのかとも疑ったが……あのシリーズには、『ガミラス』なんて敵勢力は出てきていなかったはず。

 

 あるいは、数多ある『多元世界』の1つなのかもしれないとも思ったが、それならそれで、何でこいつの本来の持ち主であるアドヴェントがいなくて、僕が乗っているのかって話だ。

 

 考えてもやはり答えは出ず……そんなことをしている間に腹が減ったので、カロリー○イトみたいな携帯食料と水で空腹を満たす。

 

 外に出た時に気づいたんだけど、今僕(と、アスクレプス)がいるここは、撃ち捨てられた連邦軍の基地の1つらしい。

 

 ガミラスの攻撃で破壊されて使えなくなった……というわけではなく、単に放置されてるだけっぽい。掃除も何もされていなくて埃だらけだが、物資とかが割とそのまま残ってる。

 さっき食べた携帯食料や水も、ここに残されていたものだ。勝手に申し訳ないとは思ったけど、昨日から何も食べていなくて空腹が限界だったので。

 見つかって怒られたら、誠心誠意謝ろうと思う。

 

 もっとも……ここに人が来ることは多分もうないと思われるが。

 

 おそらく、『星川満』としての記憶、ないし知識だと思うんだけど……連邦軍は、ガミラスとの戦いで大きく力をすり減らしてしまっているため、基地とか施設のいくつかをリソース的に維持できなくなり、やむなく捨てたというのがいくつもあるらしい。

 恐らくこの基地もその1つ。『棄てられた基地』ってわけだ。予想だけどね。

 

 ……連邦軍は来ないだろうけど……アドヴェントはどうだろ?

 仮にこのアスクレプスが、何かのはずみであの人(人じゃないけど)の手元を離れて、探しているのだとしたら……自分に黙ってコレに乗り込んでいる僕を見て……どう思うかな?

 

 あの性格、ないし性質だから、怒るとかはしないかもしれないけど……『それは私だけの機体だ、返したまえ』とか言って、天から降り注ぐ光で焼却処分とかされないだろうか。

 

 あの人、笑顔は爽やかだけど、内面はシリーズ屈指の外道とまで言われる人だからなあ……もしそういう状況だったらと思うと、この上なく不安である。

 

 よくて放逐、あるいは洗脳して手駒に……悪ければ救済と言う名の焼却処分だろうか。

 いや、あの世界、死ぬよりつらい仕打ちみたいなのもゴロゴロあったりするからなあ……次元獣……呪われし放浪者……イドム……ガクブル。

 

 ……考えていたら怖くなってきたので、この話はここまでにする。

 

 さっき考え事をしていた時に気づいたことだが、どうやら僕はこの体の元の持ち主である『星川満』少年の記憶を引っ張り出して参照することができるようだ。

 

 それによると、この世界は……まあさっきも話した通り、『ガミラス』なる侵略者によって地球が滅亡の危機に瀕している。

 『遊星爆弾』とかいう、隕石みたいなおっかないのが次々撃ち込まれたせいで、海が干上がり、未知の植物によって環境が汚染されている。

 

 資源もエネルギーもじきに底をつくと言われ、まさに滅亡の瀬戸際だ。

 

 研究者達が導き出した結論では……この地球において、人類に残された時間はあと1年。

 それが、人類滅亡までの猶予であると、いつか、何かで発表されたらしい。

 

 ……おいおい、いきなりクライマックスですか、それも世界規模で。

 

 いやホント、なんか……色々とんでもない世界に転生?したもんだな、僕……。

 状況的に、どう転んでも死ぬ未来しか見えない展開、フィクションでも早々ないだろうに。転生して即、人生終了のお知らせって……ひどくないか?

 

 それまでの時間、僕は一体どうやって過ごせばいいんだろう。

 

 記憶の中にある、彼の家に戻って、『星川満』として暮らす?

 いや……ダメだなコレは。体が彼でも、中身が違う。僕だ。記憶があっても、生まれてからずっと一緒だったであろう肉親をは騙せる気はしないし、第一そんなの僕の良心的にも咎める。

 そもそも、記憶の通りなら、彼は既に死んだ扱いになってるはずだし。

 

 なら、『星川満』とは全く別人である『誰か』として、職を見つけて暮らす?

 それも難しいだろう……労働力はどこでも歓迎されそうな世の中ではあるけど、戸籍も何もない身だからなあ。さっきも言った通り、『星川満』の戸籍は今、死亡扱いになってるだろうし……というか、戸籍とか役所とか機能してんのかな、この世界。

 

 ふと、考える。今僕がこうして……というか、目覚めた時に僕が、この『アスクレプス』に乗っていた意味について。

 

 これからの僕の人生をどうするか、どうすべきか……その選択みたいなものに、ひょっとしたらこいつが関わってくるんだろうか?

 

 Zシリーズの、あの混沌とした世界で巻き起こった戦いの中で……それこそ、宇宙を、銀河を、並行世界を股にかけた戦いの中で。

 真の姿を含めれば、ホントに最終版まで、時に敵として、時に味方として戦い抜いたこいつが?

 

 それってひょっとして、こいつで『ガミラス』と……

 

 ……いやいや、んなあほな。

 こちとら、戦闘なんて経験したことない一般人だよ。それをそんな、宇宙からの侵略者相手に、操縦したこともない機動兵器でとか……ないない。

 

 そういうのはそれこそ、主人公であるガンダムとかに任せておくべきだって。……いるのかわからんけど。

 

 

 

 とまあ、そう結論付けて今日の日記も終わろうとしたんだけど……そしたらふいに、胸の奥から悲しい感情が湧きあがってきた。

 同時に脳裏に、僕……というか、この『星川満』が死ぬ直前に言葉を交わしていたと思しき、1人の青年と、1人の女性の姿が……楽しそうに笑う笑顔が浮かんだ。浮かんで、すぐに消えた。

 

 ……いや、何だよ、今の?

 

 

 

 



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第2話 初陣

 

 

【○月□日】

 

 この『捨てられた基地』にはそれなりの量の食料その他が残されていたものの、それも何週間、何ヶ月も暮らしていけるほどではなかった。

 だから、これからどういう形で生きていくにせよ、ずっとここに隠れているわけにはいかない。

 

 ……この地球、どうせ1年で終わるから、1年分あればそれまでここで引きこもってるのもありだったな、とかチラッと情けないことを考えたりもしたけど。

 

 しかし、いつかはとは思っていたものの……案外とその時は早く訪れた。

 

 本日正午ちょっと前、またしてもガミラスの連中がやってきたのである。

 

 しかし、前回……他ならぬ、この『星川満』くんが命を落とした際の襲撃では、地球はろくに抵抗もできずにやられっぱなしだったようなのだが……今回は違った。

 

 遠目に見ていただけなのだが、突然現れた灰色の……モビルスーツ? それとも別系統のロボットかな? わからないが、とにかく灰色のロボットが現れた。

 そしてそのまま、襲ってきたガミラスの戦闘機を全て蹴散らしてしまったのだ。

 

 もう地球にはまともな機動兵器は残ってなかったと思ったんだが(星川少年の記憶から)、あんな切り札的な奴が残されてたんだろうか? まあどっちにしろ、どうにかなったのならよかった。

 

 ……そのロボットを見ていると、何だか懐かしい気配がしたような気がしたのは……気のせいだったんだろうか。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

「こん、のッ……何てじゃじゃ馬だよ、このロボットはっ!」

 

「わ、わああぁあ!? ちょ、ちょっと叢雲三尉!? もうちょっとちゃんと操縦してくださいよ!? す、すっごく揺れ……わああぁ、ゆ、揺れすぎですって! どんだけ下手なんですか!」

 

 ミツル曰くの『灰色のロボット』こと……機動兵器『ヴァングレイ』。

 そのコクピット内にて、操縦桿を握る叢雲総司と、座席の後ろにしがみつく形で同乗している如月千歳は、その無茶苦茶な機動に歯を食いしばって耐えていた。

 

 総司は体にかかるGを歯を食いしばって耐え、千歳は必死で椅子の背もたれにしがみついて転がされないようにしている。

 

 一瞬でも気を抜いたら壁に激突してしまいそうな急加速と急制動の連続。彼女が半泣きで総司に抗議するのも仕方ないことだった。

 

「バカ言うなよ千歳ちゃん、俺はこれでもパイロットとしてはそこそこベテランだっての! おかしいのはこいつの方だよ。てかむしろ千歳ちゃんに聞きたい……何なんだこの滅茶苦茶な機体は!? 研究所ではこんなもんを作ってたのか?」

 

 さりげに彼女のことを『千歳ちゃん』と名前呼びになっているのを指摘する余裕もない千歳は、

 

「いや、私は何を作ってたとか、そこまでは……でもこの機体、そんなにおかしいんですか? 本当に?」

 

「重装甲に大火力……それを、ブースターで推力を上乗せして無理やり高機動に仕上げてる。ロボットっていうより、武装に手足がついてるようなもんだ。兵器としては高性能かもしれないが、乗る人間のことを何も考えちゃいない……並のパイロットじゃまともに動かせないぜ」

 

 まあでも、と総司は続ける。

 

「このくらい滅茶苦茶な機体じゃなきゃ……ガミラスの野郎共に一泡吹かせることはできないってのも、言われてみればそうかもしれないな!」

 

 そう言い切って操縦桿を押しこむ。

 すると、先程までよりも格段に揺れが少ない動きで動き始めたのを、千歳は感じ取った。

 

 どうやら、この短時間の操作でコツをつかんだらしい。

 相応の腕がなければ不可能な芸当である。『そこそこベテラン』という彼の自己評価は、見栄を張ったわけでも何でもなかったということだ。

 

 ふと総司の顔を見ると、普段通りの笑顔にもかかわらず、目だけは戦意に満ちたギラギラとした光を放っていた。

 

 叢雲総司。月面特殊戦略研究所所属。階級、三尉。

 両親と妹をガミラスの攻撃によってなくしており、また、それ以前に所属していた『第25部隊』も、冥王星での戦いで壊滅。彼を残して隊員は全員戦死している。

 

 それゆえに、ガミラスに対する敵意は人一倍であり、この時も彼の脳裏には、失われていった命の敵を討つという思いがちらついて、戦意の炎に変わっていっていた。

 

 ふとその脳裏に……一番最近、ガミラスの手で奪われてしまった、友人――と言うには付き合いが短いかもしれないが――の顔が浮かぶ。ほんの数日前に出会った、黒髪の小柄な少年の顔が。

 

 ガミラスのミサイルの爆風と、それによって巻き起こった瓦礫の崩落に飲まれ、若くして命を散らしてしまった少年のことを思い出して……また1つ、彼は闘志に火が付くのを感じた。

 

「ヤマトの出港を邪魔するために来やがったんだろうが……そうはさせないぜ、ガミラス! 皆の命を無駄にしないためにも……必ず守り切ってみせる!」

 

 そしてこの後、『滅茶苦茶』な機体を見事に乗り込なし、ガミラスの戦闘機を全機撃墜してみせた総司は、偽装を解いて姿を現した『宇宙戦艦ヤマト』を、千歳と共に、『ヴァングレイ』のコクピットから見送った―――

 

 

 ―――と、なるはずだった。

 

 

 

 ―――ピピッ

 

「? 叢雲三尉、何か通信が届いてますよ?」

 

「うん? ホントだ、こんな時に何が……は? 辞令? 『叢雲総司三尉及び如月千歳三尉、及び機動兵器『ヴァングレイ』は、ヤマトに搭乗し、イスカンダル計画に同行せよ』……」

 

 ………………

 

「「……は?」」

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 灰色のロボットがガミラスを全滅させた直後……とんでもないことが起こった。

 

 以前言った通り、この世界の地球は、ガミラスの『遊星爆弾』なる兵器によって、海が干上がってしまっている。そのせいで、海の底に沈んでいた、昔の時代の戦艦の残骸が見えていた。

 聞けばそれは、かの有名な『戦艦大和』らしい。第二次世界大戦で海の底に沈んだ、あの。

 

 が、実はそれはフェイクであり……その下から、残骸ではない本物の戦艦が、しかも空飛ぶ船が姿を現した。

 

 というか、アレって……『宇宙戦艦ヤマト』だよね?

 世代的にアニメみたことはないけど、超有名な奴じゃん。平成生まれの僕でも知ってる。

 いや、最近リメイク版作られたんだっけ? ……見てないからどっちみち知らないけど。

 

 かなり遠くからだというのに、そのとんでもない存在感には目を奪われた。

 

 そして、呆気に取られている間に……なぜかそのヤマトの後方のハッチが開き、灰色のロボットはそこに乗り込んで、一緒に空に飛び立っていった。

 ああ、ヤマトの戦力か何かだったのかな、あれ。

 

 しかしということは、あれはこれからイスタンブール……じゃなくて、イスカンダルに行くのか。

 確か、地球を救うために何かをもらいに行くんだっけ? そのへん超うろ覚えなんだよなあ……まあ、何にせよ僕には関係のないことではあるが。

 

 せいぜい出来ることと言えば、その旅路が無事なものになるよう祈ることくらいである。無事にイスカンダルに行って、『何か』を手に入れて、地球に帰ってきてくれることを。

 地球が滅びるまでの……残り1年以内に。

 

 ……あと、何で『宇宙戦艦ヤマト』の世界に、モビルスーツがあるのかは結局わからないままなんだけど……え、やっぱりこの世界、スパロボか何かなのかな? さっきロボット出てきたし、アスクレプスもいるし。でも、宇宙戦艦ヤマトってロボット出るの? 戦艦枠オンリー?

 

 なんてことを考えていた時、異変は起きた。

 

 なんと、さっき灰色のロボットが駆逐したはずだったガミラスの戦闘機が、再びやってきたのだ。

 倒した奴が復活したとは考えにくい。別な場所に行っていた奴らがここに戻ってきたのだと考えるのが自然だろう。

 

 そして問題なのは、さっきの灰色のロボットがヤマトと一緒に行ってしまった以上、それを迎撃できる戦力はもうここには残されていないということ。

 ゆえに、ミサイルだろうが機銃だろうが、撃たれるままにしかならないということだ。

 

 ヤマトをイスカンダルに送り出すために、地球連邦軍は残る余力のほぼ全てを、ヤマトに託す形で使っただろうから、もう地球に、ガミラスの相手をするだけの力は残されていないのだ。

 

 それを知ってか知らずか、ガミラスの連中は、挑発するように低空で飛んだり、あちこちの施設に機銃を打ち込んだりして、嫌がらせをするような攻撃を行っている。

 ヤマトの出港を阻止できなかった八つ当たりとかも、もしかしたら含まれているのかもしれない。

 

 しかし、何をどんな風に嫌がらせをされようとも……それこそ、ミサイルを撃ち込まれようとも、地球側はそれに対して反撃することができないのだ。繰り返すように、もうあれらに対抗できるだけの戦力が、地球には残されていないから。

 

 ……ただ1つの例外を除いて。

 

 さっきから、僕の中で……焦るような、悲しむような感情が湧きあがってきている。

 

 僕自身は、まさに他人事とでも言うような、冷めた目で事態を見てるのに……何かが頭の中で、胸の奥で、急かすようにしているのを感じる。

 

 ……恐らくだけど、この感情は……この体の元の持ち主である、星川少年のものだ、と思う。

 

 彼の意思がまだ生きてこの体に宿っているのか、それとも、死んだ後にわずかに残った残留思念みたいなものなのか……どっちでも正直大差はない気がするが、どうやら彼は、僕に、ガミラスと戦って、地球を守ってくれ、と言いたいらしい。

 他ならぬ、この機体……『アスクレプス』を使って。

 

 ……率直に言って、僕にそんな義理はない、と思う。

 

 僕はまあ、地球人ではあるけど……気が付いたらコレのコクピットに乗ってたなんていうわけのわからない状況だったわけで、

 知り合いと呼べる人も、この世界にはいない。記憶の中にいる何人かの人達は、あくまで星川少年の関係者達であって、僕とのつながりはない。

 

 だから、あんな、宇宙の果てから隕石飛ばして侵略して来るようなおっかない連中相手に、乗ったこともない機動兵器を使って、命がけで戦う義理も義務も、本来はない。

 

 ない、んだけど……そんな風に考えると、僕の中に宿っている星川少年の残留思念が……責めるような感じこそなけれど、すごく悲しそうな感じになるんだよなあ。

 そのせいか、どろりと胸の奥に重たいものがたまってるような、気持ちの悪い感触になる。

 

 彼はきっと、志半ばで死んでしまった悔しさはもちろん……残された家族まで死んでしまうようなことにならないように願って、そんな風に僕を急かしてるんだと思う。

 

 それに加えて……仮にも僕も地球人だ。

 美しい、青い星だった地球を、こんな風に変わり果てた姿にした侵略者に対して、何も思うことがないわけでもない。ぶっちゃけて言えば、怒りを覚えている部分も、ある。

 

 そして……ここの『捨てられた基地』で、勝手に携帯食料を失敬させてもらったことについて、その分の借りを返すんだと思えば……うん、一宿一飯の恩義的な意味で……

 

 気が付けば、僕は『アスクレプス』のコクピットに乗り込んでいた。

 誰に向けてかもわからない「今回だけだから」なんて言葉と共に。

 

 不思議なもので、この機体の動かし方は、頭の中に入っている。

 

 そもそも僕、最初……日記書き始めた初日に、当然のようにコクピットから降りてアスクレプスを外から見上げてるけど、その時にハッチの開閉を行う操作だって、よく考えてみれば、その手順を知っていなければできないことだった。

 あの時点で既に、僕の頭の中に、その知識はあったのだ。どうしてかは知らないが。

 

 知らない、が……使えるのであれば、使わせてもらう。

 こうすることが、少なくとも今は、正しい気がするから。

 

 んじゃまあ、折角だし……雰囲気を出すためにも、

 

 

 

「『アスクレプス』……出る!」

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 地球連邦軍に残された数少ない戦艦の1つである、『キリシマ』。

 その艦長を務める男、土方竜は、部下たちに銘じ、地上への降下を急がせていた。

 

 先程まで、ギリギリまで『遊星爆弾』の進路を変えようと、大気圏外で奮戦していた彼らは、イスカンダルへ向かうヤマトを見送った後、地上が残るガミラスの攻撃を受けているという報告を受けた。

 

 今の連邦軍に、まともな戦力はほとんど残されていない。ましてこの付近で動かせる戦力で、敵機を撃墜できるレベルのものとなると……自分達以外にはいない。

 

 だが、自分達も決して万全と言えるわけではない。

 

 先程言ったように、この『キリシマ』は、ギリギリまで遊星爆弾の進路を変えようと攻撃を続けていたのだ。そのため、搭載している弾薬の残りはもちろん、エネルギー残量も限りなく少ない。

 相当上手く立ち回らなければ、戦闘機相手であってもまともに戦うことはできず、逆に的になってしまう可能性すらある。

 

 それらを承知の上で、それでもなお土方は艦を地球に降下させた。

 

(沖田達を送り出した以上、彼らが帰ってくるまでは、なんとしても地球は我々が守らなければならん! そうでなくては、奴の決意に……ッ!?)

 

 しかし、大気圏に突入し、いざガミラスとの戦いを……と意気込んだところで、彼らは予想外の光景を目にする。

 

 ガミラスを相手にできるような戦力など、残っていなかったはず。そのはずだった。

 

 しかし、戦場となる地区に舞い降りた『キリシマ』の目の前に現れたのは……

 

「何だ、あの……白いモビルスーツは?」

 

 見覚えのない、白い機動兵器が、ガミラスの戦闘機を相手にして戦っているという光景だった。

 

 どこか透明感のある白色のボディに、鋭利な刃のような突起や、緑色のクリスタルのようなパーツがあちこちにある。仮面のように顔にとりつけられた赤いパーツの向こうに、敵を見据える鋭い目が見えたような気がした。

 

 連邦軍正式配備の量産機とは、大きく違うデザインだ。土方は思わず口走ってしまったが、果たしてモビルスーツなのかどうかすら定かではない。

 

 土方は、将官の立場を持つ者の1人として、今の地球の現状は、そして軍に残されている戦力は随時把握している。

 しかしやはり、何度思い出そうとしても、あのような兵器が残されているという情報は記憶にない。

 

 その周囲を、全部で四機飛んでいる、ガミラスの戦闘機。そこから放たれる機銃の弾丸が、その機体『アスクレプス』に襲い掛かるが、何らかのシールドのようなものを発生させているためか、それらは1発たりとも届くことはない。

 

 しかし、アスクレプスの方からもまた、何か攻撃などをするようなそぶりは見せなかった。

 飛行したまま、前後左右上下に動き、機銃を躱したり、シールドで受けて防いだりしている。その動きは、ゆったりとしていて余裕がある……というよりも、どこか拙く危なっかしい。かわさず受けているのも、単に『避けきれていない』のではないかと思えるほどに。

 

 連邦軍において、訓練校の校長も務めていた土方は、その動きを見て、すぐに思い当たることがあった。空中での戦闘になれていない素人が、まずMSを動かすのに慣れている途中ないし段階の動きによく似ている、と。

 

(ということは、あの機体……乗っているのは素人か?)

 

 恐らく、時を同じくしてガミラスも同じ、あるいは似た結論に達したのだろう。アスクレプスの動きを先読みするようにして――効かないとわかってはいるが――うまく機銃を命中させたり、激突するすれすれを挑発するように飛行したりし始めた。

 

 防御性能を見るに、このまま続けても撃墜されることこそなさそうではあるが、これではらちが明かないと、土方は予定どおり、この『キリシマ』を参戦させるべく、部下に指示を出そうとした……その時。

 

 何度目かになる、激突すれすれの『挑発飛行』を試みた、ガミラスの戦闘機。

 

 先程までと同じように、ギリギリですれ違って飛び去ろうとした……その瞬間、アスクレプスの腰から、目にも留まらぬ速さでブレードが抜き放たれ、そのまま振り抜かれた。

 その一撃は、すり抜ける動きで飛び込んできた戦闘機のど真ん中を捕らえ……両断した。

 

 かわすか受けるしかできない、見た目だけの木偶の坊。

 目の前の人形をそうだと思っていたガミラスは、恐らくは自分の撃墜を知ることもなく、爆炎の中に消えた。

 

 一瞬にして味方の内の一機が撃墜されたのを見て驚いたのか、残る3機は慌てて距離をとろうと急旋回し始める。

 

 その直後、アスクレプスの機体後方のブースターから、白い炎のようなエネルギーが噴射され、急加速する。

 そして一瞬後、あろうことか、トップスピードに近いであろう状態の戦闘機を、後ろから追い抜いた。

 

(速い!)

 

 土方がそう思うよりも早く、戦闘機の行く手に回り込んだアスクレプスは、腰から刃を抜いて、止まれずそのまま突っ込んでくる戦闘機を両断する。

 

 そしてそのスピードをほとんど落とすことなく、複雑な軌道を描いて空を飛び、別な戦闘機に追いつく。

 

 放たれたミサイルをあざ笑うかのように、紙一重でひらりとかわし、すれ違いざまにブレードを一閃。また一機落とす。

 

 先程までの拙い動きが嘘のような、見事な戦闘だった。

 いや、どれもこれも一瞬の出来事過ぎて、戦闘と呼べるかどうか怪しいものではあるが。

 

(先程までは、様子見に徹していたのか……? 拙く見える動きも、もしかすると油断を誘う偽装だったのかもしれん)

 

 残る1機に対しては、背中から伸びる、まるで蛇のように銃身が蛇行するビーム砲を向け、非実体のエネルギー弾を連射する。

 

 それらは、こちらに向けて放たれていたミサイルを空中で全て撃ち落とし、その爆炎を突き抜けて、戦闘機を強襲……命中。いともたやすく、4機を撃墜してしまった。

 

 あっという間の出来事に、呆気に取られていた土方達だったが、すぐに通信を飛ばし、その白い所属不明機に応答するよう呼びかける。

 

 しかし、その機体は呼びかけに答えることはなく、赤い仮面に隠れた目で『キリシマ』を一瞥すると、先程と同じように急加速し、追跡不可能な速さで空の彼方に飛んでいって……消えた。

 

「……一体、何だったのだ、あれは……?」

 

 既に影も形も見えなくなった、『アスクレプス』が飛び去った方向を見ながら、土方はそう、ぽつりとつぶやいた。

 

 

 

 



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第3話 捨てられた宇宙船

 

 

【○月▽日】

 

 『アスクレプス』での初陣は、どうにか勝利で飾ることができた。

 

 言ったように、僕の頭の中には、なぜかこの機体の動かし方がインプットされていて、どこをどうやれば、アスクレプスがどう動くのか、完全に把握できていた。

 

 しかし、流石にすぐそのまま、スムーズに動かせるとまでは行かなかった。

 自転車や自動車と同じで、やっぱりこういうのって、知識だけじゃなく、実際に乗って動かして、体で覚えるっていうのが一番必要なんだろうな、と実感したね。

 

 出撃直後は、思い通りに機体を動かす……それこそホントの意味で、飛行しながら上下左右前後に『動く』ことだけに意識をとられて、手足を動かしたり、武装を使ったりとか、そこまで頭を回せなかった。

 おかげで、戦いが始まってからしばらくの間、ガミラスの戦闘機に好き勝手撃ちまくられてたもんなあ……最後の方なんか、あいつら調子乗って近くギリギリのところまで飛んできたりしたし。

 

 それでもどうにか勝てたのは……ひとえにこのアスクレプスの性能ゆえだろう。

 

 機体全体を守るバリアである『D・フォルト』。コレのおかげで、いくら機銃で撃たれても、アスクレプスの体には弾丸は届かず、傷一つできることはなかった。

 ミサイルの直撃すら防いでくれて、衝撃もほとんど伝わってこなかったからな。

 

 そしてその後は、一気にこちらから仕掛けて、あっという間に全機撃墜することができた。

 

 動かし方については、もうほとんど直感みたいな感じでやってみたんだけど、案外と上手くいったというか、見事に思った通りにアスクレプスが動いてくれて、しかも駆動が滅茶苦茶素早い。

 戦闘機とすれ違う一瞬の間に斬りつけたり、超加速して戦闘機を追い抜いたり、ビーム砲で遠くにいる相手を正確に撃ち抜いたりと……これ本当に僕がやったの? AIの自動操縦とかがやってくれたんじゃなくて? とか言いたくなるような戦い方ができた。

 

 数分前までは、思い通りに動くことすら難しかった僕が、だ。なんかもう、逆に怖い。

 

 それこそ、さっき例えたように、『自転車や自動車に乗る感覚』というか……頭で考えながらとかじゃなくても、体が覚えている感覚で思い通りに動かせた。

 何度も言うようだが、そんな経験あるはずもないのに。どうなってるんだろうね、一体。

 

 それと、『感覚』について、もう1つ。

 

 あの戦闘機4機を僕は撃墜したわけだが……あれってやっぱり、パイロットとか乗ってたのかな? 無人機じゃなくて。

 

 もしそうだとすると……パラシュートとか出して脱出した様子もなかったし、機体の爆発と同時に、乗っていたパイロットも……

 

 つまり僕は、4人、人を殺したことになる。異星人とはいえ、命を奪ったわけだ。

 

 なのに……何でだろう、何も感じない。

 

 頭ではきちんと『殺した(かもしれない)』という事実は認識できている。目の前の現実を上手く認識できず、逃避しているとかいうわけではない。

 しかし、そこから『感情』に繋がる部分が何も機能していない。全く揺らいでこない。

 

 こういうのって、まあ人にもよるだろうけど……人を殺した罪悪感とかで、精神的に不安定になったり、押しつぶされそうなほどにさいなまれたりとか……フィクションだとそういう展開がお決まりだったと思うんだけど……僕にそういうのは起こらないんだろうか。

 僕自身の性根が、実はそういうの気にしない、冷血な感じのあれだったのか……はたまた、認識してはいるつもりでも、現在進行形で感覚がマヒして上手く感情が働かないだけか……

 

 ……考えてもわからないな、やめよう。

 

 まあ、別に進んでそういう、鬱な精神状態になりたいわけでもないし……ひとまず気にしないでおくか。後から違う感じになってきたら……その時考えればいいや。

 雑な感じにまとめたけど、そう結論付けることにする。

 

 さて、そういうわけで、僕の感覚やら何やらについての考察はここまで。

 ここからは、今の状況を改めて整理してみようと思う。

 

 まず、今僕は、地球の大気圏を脱出して……ガミラスのものと思しき、輸送機っぽい宇宙船に乗っている。

 

 いきなり何がどうしてそうなったと思ってる皆さん。落ち着かれよ、ちゃんと話す。

 

 まず、戦闘機4機を撃墜した後、いつの間にかそこにいた飛行戦艦から通信が飛んできた。

 そこの所属不明機、何者だ、的なことを聞かれたと思うんだけど……よく覚えてない。見事にテンパって9割方聞き漏らしてしまったので。

 

 というか、こんだけデカい戦艦が近づいてきてたんだから、気付けよって話だよね……戦闘機の方に集中して周りが見えなくなってたんだろうけど、見えなくなり過ぎである。

 

 で、テンパったままに僕は……通信に対して返事を返すこともなく、逃げるが勝ちとばかりにブースターをふかして、その場から飛び去った。

 どこへなんて考えもせず、とにかくこの場から離れたくて、というか逃げたくて、適当な方向へ一目散に飛んでいった。

 

 幸いというか、追っ手とかは差し向けられなかったらしい。レーダーを確認してみても、周囲に自分以外の機体その他の反応はない。

 

 しかし、安心してほっと一息ついたのもつかの間……これからどうしよう、と僕は、コクピットの中で途方に暮れた。

 

 あれだけ目立ってしまったわけだし、地球連邦軍はこの『アスクレプス』というロボットのことははっきりと覚えただろうし、探そうとするだろう。

 そうなると、今までお世話になっていた、あの『捨てられた基地』には……もう戻れないと思った方がいいかもしれない。万が一、見つかって捕まる可能性を考えれば。

 

 軍人でもないいち民間人が、こんな機動兵器を持ってるなんてこと、認められるはずがないだろうし……そもそもこういうのって、動かすのに絶対免許とかいるよね?

 最悪没収されかねないし、その後で僕自身がどうなるかもわからない。

 

 無免許運転や銃刀法違反のロボット版みたいな罪に問われるかも、と考えると……賭けに出る気にはなれない。やっぱり、あの基地にはもう戻れないな。

 

 かといって、他に拠点、ないし隠れ家にできそうな場所を知ってるわけでもないし……なんてことを考えながら飛び続けていたら、いつの間にか僕は宇宙まで飛びあがっていた。

 

 流石の性能だな、アスクレプス。推進器も必要なく、重力を振り切って単体で宇宙空間に出られるなんて……コクピットの気密とかも問題ないみたいだし。

 

 そしてそのすぐ後に、僕は、地球の重力に捕らわれないくらいの離れた位置を漂っている……深緑色の宇宙船みたいなものを見つけた。

 

 カラーリングからして、ガミラスのもの……恐らくは戦艦。

 戦闘機より全然大きく、その分強力な武装を積んでいるであろうことは簡単に予想できた。

 

 流石にアレを相手にするにはちょっと僕の度胸は足りていなかったので……ヤバいどうしよう、逃げるか、とか即考えたんだけど……不思議なことに、その宇宙船からは、動力炉のエネルギー反応もなければ、人が乗っていることを示す生体反応も、何も感じ取れなかった。

 

 不思議に思って、恐る恐る近づいてみると……パッと見、なんだか妙にボロボロになっているように見えた。

 アスクレプスの手が届くくらいの距離まで近づいてみても、何の反応もない。迎撃してくる気配も、逃げ出そうとしてブースターに火を入れる様子も、何もない。

 

 思い切って、開いたままになっているハッチから中に入ってみると……中はもぬけの殻。

 コクピット内に入っていた、宇宙空間用のパイロットスーツを着た上で外に出て、中を隅から隅まで探してみたけど、全く誰もいない。

 

 そこで気づいたんだが、どうやらこの宇宙船、捨てられたもののようだ。

 

 恐らく、推進機関か何かが壊れて使い物にならなくなって、乗組員は脱出して他の船に映ったとか、そんな感じだろう。

 

 納得できたと同時に、僕はふと、この船との出会いを、むしろ喜んだ。

 ちょうどいいじゃん、ここ、しばらく借りて拠点にしよう、と。

 

 丁度、地球で使っていた『捨てられた基地』が使えなくなったところだったし、これからはこの『捨てられた船』を使わせてもらえばいい。

 

 ちょっと弄ってみると、意外にも動力自体は、電源?が入っていないだけで普通に生きていた。メインモニターやデータベースもすぐに復活して、ハッチの開閉や機密チェックまで、全部問題なく行うことができた。

 

 ただし、推進機関に異常があったみたいで……自力での航行が不可能になっていた。なるほど……捨てられた理由はこれか。

 これじゃあ、船の形をした家としてしか使えないな。前にも後ろにも進めず、ただただ宇宙空間を漂流するだけしかできないわけだから。

 

 が、僕にとってはそれで十分ありがたい。有効利用させてもらおう。今日からここが僕の家だ。

 

 

 

【○月◇日】

 

 ガミラスの宇宙船って、意外と居心地いいのな。

 

 宇宙空間だからか、埃も全然積もってなかったし、少し掃除するだけで普通に生活できるスペースになった。

 空調の性能もいいんだろう、温度も快適だし、息苦しい感じもしない、キレイな空気の中で息ができた。

 

 物資はあんまり残ってなかったけど、それでも、捨てる時に持ち出しきれなかった分なのか、携帯食料や水みたいなものが一部残されてた。

 地球人でも食べられるもののようなので、アスクレプスに積んでた分がなくなったら、こっちを食べさせてもらおうかな。

 

 なお、1つ味見してみたけど、まあ……可もなく不可もなく、って感じの味だった。このへんは地球の方がクオリティ上なのか、はたまたただ単にそのへん重視してないだけか……まあいいや。

 

 何気に激動だった気がする昨日一昨日と違って、特に何もない1日だったので、ゆっくり体を休めることができたのはよかった。

 今更だけど、色々あって気疲れしてたみたいで……今日なんか盛大に寝坊したからな、僕。

 

 ……何もない1日ということで、日記に書くことも何もない。

 しかし、それじゃ寂しいので、今日はちょっとここで、『アスクレプス』について、改めて整理してまとめてみようと思う。

 

 僕の愛機(暫定)にさせてもらっている、この『アスクレプス』。

 もともとのパイロットや性能については、前に説明したので省くとして……今日は、こいつの動力や、そこから発揮される力についてまとめておこうと思う。今更だけど、大分大事な設定だし。

 

 機動兵器、ないしロボットには、すべからくエンジンやら動力炉というものが備わっている。備わっていないと動かない。当たり前である。

 

 それらはロボットによって何が搭載されているかは千差万別。

 モビルスーツなら核融合炉、マジンガーZなら光子力、ゲッターロボならゲッター線という具合にそれぞれ違っていて……中にはガソリンや蒸気機関で動く設定のものや、パイロットの気合で動くなんてものまであった気がする。

 

 そして、このアスクレプスの動力が何かというと……それは『次元力』と呼ばれるものだ。

 

 『次元力』とは、恒星に由来する破壊と再生の力であり、この世に存在するあらゆるエネルギーの源となる原初の力、とかいう設定だったはずだ。

 単純に機動兵器の動力や、その他のエネルギーの代替として使うこともできるが、もしこの力の制御できたなら、それはあらゆる事象を完全に制御することにつながる、とまで言われていた。

 

 早い話が、単純な燃料に留まらず、極めればガチで『何でもできる』力である。それこそ、既存のあらゆる法則を無視して、自分の望む形で事象を引き起こせる。

 代表的なところでは、破損した機体を、動画の逆回しみたいに物理的に再生させたり、時空を捻じ曲げて攻撃や防御、移動に使ったりもできる。

 

 何を隠そう、アスクレプスの『D・フォルト』もその1つだ。次元力で周囲の空間を歪ませ、相手の攻撃が届かないバリアにしている。

 

 元ネタの『Z』では、アスクレプスに『D・フォルト』は備わってなかったと思うんだけど……まあ、その辺は気にしなくてもいいか。

 次元力を戦力として転用することにおいては初歩的な技術、らしい。使おうと思えば使えたんだろう、と思うことにする。

 

 他にもいろいろとこの『次元力』、設定上の知識はあるんだが……詳細に説明しようとするとめっちゃ長く、ややこしくなるので、ひとまずここで区切らせてもらう。

 そもそも僕も、今の段階ではそんな高度な制御なんてできないし。アスクレプスの動力及び戦力として使うくらいが関の山だしね。

 

 ひとまずは、『次元力=色んな事ができる、限りなく万能に近いエネルギー』とでも覚えておけばいいだろう。

 

 そしてこのもう1つ知識を。『次元力』、炉から『発生させる』でもなく、どこかで『蓄える』でもなく、専用の機関を使って異次元から『引き出す』形で発揮するものなんだけど……どうやらアスクレプスに搭載されたその機関は、問題なく稼働しているようで。

 こいつが存在したはずである世界から見れば『異世界』になるんであろうこの世界でも、問題なく動いて、武装も使うことができた。

 

 『引き出す』システムが壊れたりしない限りは、『次元力』はほぼ無限に使えるエネルギーだったはずなので、燃料補給の必要がないのはありがたい。

 そのシステム自体も、『次元力』で再生させられるわけだし。

 

 だからあと心配すべきは……パイロットである僕の燃料その他だけってわけだな。

 

 この艦に残されていたものも含めれば、食料その他の物資は、僕1人なら1ヶ月くらいはもちそうな量あるけど……さて、これからどうしたもんか。

 ほとぼりが冷めるのを待って、地球に戻ろうか? 流石に軍も、いくら所属不明機と言っても、人類滅亡の瀬戸際で、ずっと探し続けはしないだろうし……

 

 ……ってそうだ、地球、あと1年で人類滅びるんだった……戻っても何て言うか、その混乱の渦中に飛び込むだけだよな……ああ、どうしよホント。

 

 ……僕に何か、出来ることってあるのかな?

 ヤマトが、無事に目的を果たして帰ってくるのを、ただ祈りながら待つこと以外に。

 

 

 

 



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第4話 太陽系であっちこっちへ

 

 

【○月☆日】

 

 今僕は、乗っているガミラスの宇宙船を動かし、火星に向かっている。

 

 何のためかっていうと、物資の補給のためだ。

 でも、僕が何かに使おうと思って、というわけではない。地球に届けるためだ。

 

 ここ数日間、ずっと色々と考えていた。僕が、地球のためにできることはないかって。

 

 あれから何度か、嫌がらせ的にガミラスの連中はやってきて、地球を襲った。

 やってくるのは戦闘機か、もうちょっと大きいだけの奴だけっぽかったので、アスクレプスで問題なく応戦・撃墜できたんだけど――1回だけとか言いながら、結局何回も関わってるな、僕――その際、地球連邦軍の戦闘機はほぼ出てこなかった。

 出て来たこともあったけど、明らかに動きが悪くて、途中で撤退してしまったりしていた。

 

 アスクレプスのレーダーで感知した限りだと、動力が異常に弱かったっぽいので、十分でない燃料で飛んでいたんだと思う。それか、粗悪な代替燃料でも使ったか。

 まあ、そんなんじゃ当然、まともに戦えないよね。

 

 けど、そうしなきゃならないくらいに、今の地球にはもう余裕がないんだな、ということの証明にもなった。

 

 そこで僕は、彼らが地球を守るための燃料くらいは何とかできないかと思って、一路木星に向かうことにした。

 この船のデータベースを見て知ったんだが、木星にはどうやら、燃料として使用できる鉱物の採掘場があるらしいので。

 

 暇つぶしにこの船のシステムをポチポチ弄ってた時に見つけたんだけど、なんか、言語設定変えられることに気づいたんだよね。

 選択肢の中から『テロン人言語』ってのを選んだら、表示が全部地球語に変換されて、読めるようになった。

 

 そのおかげで、木星の燃料採掘場の情報に気づけた僕は、そこで物資を積めるだけ積んで、地球に届ければ……少しは地球の役に立てるんじゃないかと思ったからだ。

 

 地球全体の状況から考えれば、焼け石に水以外の何物でもないだろうけど……それでも、やらない善よりやる偽善、という言葉もある。

 できることがあるなら、とにかくやってみようと思った。

 

 なお、推進機関が壊れていたはずのこの船だけど……今朝調べてみたら、なんか直っていた。

 自動修復装置の類でもついてたのかな? いやでも、そんなもんがあるならこうして捨てる意味はないだろうし……

 

 ……アスクレプスの『次元力』の影響か? 物理的なダメージも修復できるエネルギーだしな……いやでも、何もしてないのに勝手に作用して直るなんてこと、あるのか?

 

 まあ、ありえなくはない、と思う。

 

 次元力を扱うのに最も重要になるのは、人の『意思』の力だ。それに呼応して、次元力は様々な形に姿を変える。

 

 ……すごく雑な話、昨日あたりから僕、『推進機関が直ればなー』なんてぼーっと思ってたから、アスクレプスから生み出される次元力の余波か何かがその意思?に反応して、この宇宙船を直した……みたいな? あるのかそんなこと?

 

 ……よくわからないけど、まあ、セルフチェックでも問題はなさそうだったし……使えるもんは使っておく、の精神で、有効利用させてもらうことにした。

 

 あ、それと、首尾よく鉱物を採取できたとして、どうやってそれを地球連邦軍に届けるか、についても一応考えた。

 

 ここ数日の戦闘で、アスクレプスはさらに目をつけられてるだろうし……今乗ってるのはガミラスの艦艇だし……正面から『よかったら使ってください』なんて言って持っていくわけにもいかないよなあ。

 

 ……適当な基地の玄関前とかに、夜の間にこっそりおいて、クリスマスプレゼントみたいに受け取ってもらう……じゃダメだろうか。

 

 メッセージカードに『伊達直人』とか書いて添えておいたりして。

 

 ……案外行ける気がしてきた。これでいこう。

 

 

 

【○月★日】

 

 木星に行こうと思って移動していたら土星についた。

 

 ……ヘイ待ってくれ、意味が分からない。

 読んでる諸君らもわからないだろうけど、書いてる僕もわかってない。

 

 なので、整理する。

 

 このガミラス艦には、『ゲシュ=タム機関』と呼ばれる動力炉がついており、これを使った機能の1つに、『ゲシュ=タムジャンプ航法』というものがある。

 空間を捻じ曲げて任意の行き先に通じるルートを作り、それを通ることで一瞬で超長距離を移動する……いわゆる『ワープ』である。

 

 輸送艦らしき小型艦にまでそんなシステムがついてるなんて……改めてやばいな、ガミラス。

 

 慎重にチェックした結果、そのシステムもきちんと生きていて使えそうだったので、木星に行くために使わせてもらうことにしたのだ。

 

 念には念をってことで、近距離でワープは試してみた。

 丁度見える位置に月があったので、そこを目的地にして飛んでみて……成功。一瞬で月面に到着した。

 

 いやあ……なんか、こう……感動した。

 一瞬のうちに景色が切り替わるんだもんな……小さい頃にSF系のアニメや小説でしか見たことなかった超技術を、実際に体験すると……うん、感慨深いものがある。

 

 テストは問題なく終了したってことで、ちょっと時間を置いてエンジンの冷却やら何やら済ませた後、本命のワープを実行した。行き先はもちろん、木星だ。

 

 ……しかし、着いたのは土星。……わけがわからないよ。

 

 何が起こったのか調べるために、艦の航法システムのログを見てみると……どうやら木星、あるいはその近辺の宙域で、局所的に次元震が発生したと思われる、とのこと。

 原因は不明だが、誰か、あるいは何かが、次元を震わせるような何かをしたってことか?

 

 そして、それの影響を受ける形でこっちのワープは失敗し、着地点がずれた……と。

 

 例えるなら、海でゴムボートを漕いで移動してたところで、近くに誰かが飛び込んできて、その時起こった波に流され、ないし煽られて、進む方向が狂った……みたいなもんか。

 

 全く、どこの誰が何をやったのかはわからないけど、迷惑な話だ。

 

 まあ、どことも知れないはるか遠くに飛ばされた、とかいう状況になるよりはましだと思うことにするか。

 

 不幸中の幸いと言えばいいのか、土星にも同じように、燃料になる物質の採掘場はあるみたいだ。せっかく来たんだし、こっちで採掘していくかな。

 

 

 

 

 

 ※その頃の宇宙戦艦ヤマト

  木星で『波動砲』の試射。

 

 

 

 

 

【○月■日】

 

 ちょっと今日はもう、なんというか……色んな意味で恐怖体験してしまった。

 

 土星にある、これまた捨てられた状態の鉱石燃料採掘場で、使えそうなものを失敬していた時のこと。

 突然、目の前に、巨大でおぞましい見た目の怪物が現れ、襲い掛かってきた。

 

 アスクレプスで採掘してたから、すぐに応戦できたのはよかった。機体から降りて生身でいるところを襲われていたらと思うと……ぞっとする。

 

 てか、この怪物見覚えあるんだけど。

 白くていかつい人の顔に、怪獣じみた胴体と足、肋骨に似た形にまとまってる、触手?みたいな器官、背中に生えてる昆虫っぽい羽(形的に)。

 

 こいつ、『メタルビースト』じゃね? ゲッターロボだかに出てきたやつ。インベーダーが機械と融合したっていう設定の敵。

 ゲッターロボを直接見たことあるわけじゃないけど、ゲームで戦ったことあるよ、コレ?

 

 え、ちょっと待って何でこいつがいるの? ガンダム(モビルスーツ)と宇宙戦艦ヤマトに加えて、ゲッターロボって……まさか、この世界、本格的にスパロボか何かか?

 

 これでマジンガーも出てきたら、スパロボ御三家揃うんですけど。

 

 なんてことを考えたが、そんな場合じゃないのは明らかだったので、すぐさま応戦。

 

 ここ最近は暇な時間を利用して、シミュレーターを使って機体を動かす練習もしていたので、かなり上手く戦えたと思う。

 襲って来たのが1匹だけだったこともあって、割と簡単に倒せた。

 

 けど、嫌な予感がした僕は、急いで戦艦に戻ってみると……案の定、そこには今にも戦艦に襲い掛かろうとしている、別なメタルビーストが!

 

 間一髪そこに割り込んで、そいつも倒すことには成功した。

 けど、さっきと違って3匹もいたのでかなり苦労した。

 

 が、もはやこの星は安全でも何でもないということが明らかになってしまった。こんな化け物がいるんじゃさ……おちおち戦艦降りて採掘なんてできないよ。最悪、足を失うことになる。

 

 幸い、そこそこの量採掘は既にできたことだし、もうこのへんで切り上げて地球までこれらを運ぶことにしよう。それがいい、そうしよう。

 

 ……と、思った矢先に、なんだか余計なものを船のシステムがキャッチした。

 この近くにあると思しき別な船から、無差別に周囲に発せられている……救難信号を。

 

 信号のコードやら何やらを解析すると、どうやらテロン……もとい、地球の宇宙船が発しているもののようだ。座礁して動けないか何かの理由で、助けを求めて。

 

 どうしよう、コレ……助けに行くべきかな?

 

 罠、っていう可能性もなくはないけど、もし、これがホントに地球の船が発しているもので、ホントに困ってるなら……この宇宙の片隅で孤独に助けを待っているであろう、同郷の人を、見殺しにするのは……仮にも今から、タイガーマスクムーブで人助け、ないし地球助けしようとしている身としては……どうにも寝覚めが悪い。

 

 というか、まさかとは思うけど……コレ発してるの、ヤマトじゃあるまいな?

 

 いや、ないとは思うけど……仮にもイスカンダル目指して旅立ったヤマトが、太陽系も出ないうちからそんなことになってるなんて、考えたくないし。

 

 けど、この星、インベーダーいるからな……それに襲われてたらと考えると、万が一もありえないとも言えないような……

 

 ……一応、見に行ってみよう。ちょっとだけ、ちょっと様子見るだけ。それなら大丈夫だろう。

 もしそれで、マジで助けが必要そうな人がいたら、まあ、その時はどうにかして助けられればと思うけど……罠だったり、あるいは何かの間違いだったりしたなら、さっさと帰ればいい。

 うん、そうしよう。念のため念のため。ちょっとだけちょっとだけ。

 

 

 

【○月!日】

 

 死ぬかと思った……。

 

 インベーダー相手にするよりよっぽど怖い経験しちゃったよ……やっぱり、怪物なんかより怖いのは人間なんだなって思った。

 いや、別に社会の厳しさとか、人間の性が悪だとか、その辺を論じるつもりはないし、そもそも今回のことは半分くらい僕の自業自得なんだけど。

 

 あの後、ちょっとだけ、ちょっとだけ、と自分に言い訳しつつ、僕は救難信号が発せられている場所にやってきた。

 

 そして即、ここに来たことを後悔した。

 

 メタルビースト3匹と戦うくらいなんだ、って言えるくらいのヤバい図がそこに広がっていた。

 

 墜落ないし不時着し、破損して動かなくなっていると思しき、地球の戦艦。

 

 そのすぐ近くに力強く浮遊している、地球でも見た『宇宙戦艦ヤマト』。こちらは当然というか、傷一つなく健在であった。

 

 そこに襲い掛かろうとしている、優に二桁に登る数のメタルビーストの群れ!

 

 そしてそいつらを一方的に蹂躙しているスーパーロボット軍団!!

 

 いたよ、ガンダムもゲッターロボも、そしてマジンガーも! 昨日のアレはフラグだったのか畜生!

 あと、ヤマトの艦載機であろう戦闘機が何機かと、地球でも見た灰色の機体もいた。総出でメタルビーストを駆逐していってた。

 

 数で言えばメタルビーストの方が倍以上いるってのに、ほとんど全く相手にならずに蹴散らされていく……全員とんでもない戦闘能力である。

 僕が拙い操縦技術で操るアスクレプスなんか、足元にも及んでいないことは明白だった。

 

 呆気に取られてみていると、いくつかのことに気づいた。

 

 まず、これは見た目一発分かったんだけど、ゲッターロボは『ブラックゲッター』だった。竜馬さんが1人で乗って動かす奴。

 ってことは、ゲッターチームが3人そろってるわけじゃない、のか?

 

 次に、ガンダムらしき機体が2機いたんだけど……あれは何ガンダムだろう?

 面構えからして、ガンダムなのは間違いなさそうだけど……知らない奴だったな。ドクロマークがついたガンダム……そんなのいるのか? 海賊?

 

 そして、マジンガーだけども……よく見るとあれ、『マジンガーZ』じゃないな。あちこち違う。

 スクランダーの形も違うし、胸についてる放熱板(ブレストファイヤー出すやつ)が左右繋がって1つになってるし。その他にも、所々鋭角なデザインになってる気がする。何だアレ? 後継機か何かか? こっちも知らない……

 

 ……僕、ロボットアニメの知識、あんまりないから、そのへん詳しくないんだよ。

 

 まともに全話見たのって、『エヴァンゲリオン』と『コードギアス』と『グレンラガン』くらいなんだよな。

 

 その他は、スパロボで逆輸入的に得た知識くらいしかない。そしてそれも、『Zシリーズ』の途中からのものだけ。具体的には、破界篇から先だけ。

 なので、そこに出てきてないロボット知識は、ないに等しい。

 

 そして、ブラックゲッター以外のロボットに関する知識はその中にはなかったので、ぶっちゃけ名前もわからん。

 特にあの灰色の機体。全く何者かも見当つかないんだけど……

 

 というかそもそも、この体の星川少年の記憶の中では、地球には、ガンダムはともかく、あんなスーパーロボット……マジンガーやゲッターがいた記憶はない。……どこから来たんだ?

 

 ……思えばこの時、考えるのは後にしてさっさと切り上げるべきだったんだな、と思う。

 

 一番懸念していた、『ヤマト、土星に死す』みたいなことにはならないのは確認できたわけだし。ピンピンしてたもんな、明らかに。

 それに、僕ごときが心配するのなんておこがましいと言うしかないくらいの戦力が集まってるのも確認できたわけだから……さっさととんずらするべきだったんだよ……。

 

 ……見つかる前に。

 

 具体的には、ブラックゲッターの目(メインカメラ?)がこっちをギロリと見て、遠くから隠れて見ているつもりだった僕が発見されてしまう前に。

 

 そして、通信か何かで僕の存在が伝わったんだろう。メタルビーストと戦いながらも、一斉にロボット達の注意がこちらに向けられる。

 

 それと同時に、ガンダムやあの謎の灰色の機体、そしてヤマトの方から突き付けられる、強烈な敵意。

 

 当たり前である。何せ今僕、ガミラスの船に乗ってんだから。

 彼らからすれば、地球を侵略してくる、不俱戴天の仇である。

 

 あの時は……生きた心地がしなかった……。

 

 戦ったら確実に負けるってわかってたもの。というか、戦いにもならないって絶対。

 

 ガンダムや灰色の奴は、目で追うのも大変なぐらいの速さで上下左右に動きながら、正確極まりない動きで攻撃して、メタルビーストをハチの巣かぶつ切りにしてたし、

 

 マジンガー(多分)とブラックゲッターの方は、本当に機械なのか疑いたくなるくらいの滅茶苦茶な動きで……叩き切って、焼き払って、引き裂いて、切り刻んで……

  

 そしてヤマトは、近づいてくるメタルビーストをビームっぽい砲撃を直撃させて木端微塵にしてたし……

 

 無理。絶対無理。戦えるわけない。

 アスクレプスを出したとしても確実に負ける。死ぬ。勝負にならない。

 初手で撃墜される光景がもう既に幻視できる。

 

 幸いだったのは、彼らがメタルビーストと戦ってる最中で……一方的であっても、それらに背を向けるような真似はしなかったこと。

 向かってくるメタルビースト達に対して、敵ではあるが逃げて行く僕の方の優先度・驚異度は低いと考えたのか、追ってこずに見逃してくれたことだ。

 

 見事なまでに尻尾巻いて逃げて、どうにか土星の重力圏を脱出できた時は……安堵のあまり、ものすごく大きなため息が口から出た。

 

 ああ、ホント……死ぬかと思った……

 

 ……今日はもう疲れた。

 ある程度土星から離れたところにまで船を進ませたら、早いとこ休もう……

 

 

 

 



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第5話 超文明の残骸

 

 

【○月◆日】

 

 今僕は、どこともしれない場所にいる。

 

 この広い宇宙のどこか、知らない場所……という意味ですらない。

 通常のそれとは違う、よくわからない異空間みたいな場所に、僕はいる。

 

 レーダーやマップ系の機器は全て『解析不能』を示しており、手掛かりは全くない。

 

 ただ、ここにきてしまった原因はなんとなくわかっている。……ワープに失敗したからだろう。

 

 土星を出発した僕は、さっさと収穫した鉱物類その他を地球に届けるべく、ワープで火星辺りまで一気に飛ぼうとしたんだが……その時、なぜか通常空間に復帰することができずに、この謎の空間にでてきてしまったのだ。

 

 異様としか言いようがないような空間だ。

 

 周囲には、戦艦や機動兵器らしきものや、その残骸がふわふわと浮いている。

 比較的真新しいものもあれば、随分と古いものも見られる。

 

 まるで、船の墓場みたいだな、とふと思った。

 そして、もしかしたらここは、いわゆる『バミューダトライアングル』の宇宙版みたいな奴なんじゃないか、と見当がついた。

 

 ちょうど今の僕みたいに、ワープに失敗するとか、何らかの理由で迷い込んでしまう場所。

 一端入ってしまったが最後、出ることはできずに永遠にこの空間の中をさまよい続け、やがて力尽きて朽ちていく……的な。

 

 艦のデータバンクを漁ってみたら、それらしきデータがヒットした。

 『次元断層』と呼ばれる場所がそれにあたるらしい。予想通り、通常空間とは違う空間にある、別名を『宇宙の墓場』とまで呼ばれる場所。

 

 ここがもしそうなら、ヤベーとこに迷い込んじゃったな……とは思ったものの、何もせずにボーっとしていても、状況は改善しない。

 

 幸い、船自体には何も不調はないみたいなので、ひとまず動いてあたりを見て回ることにした。

 

 そうしたら……ひときわ大きくて目立つ、戦艦?っぽいものを見つけることができた。

 

 なんか、やたら縦横に大きいというか、広いデザインだな。艦橋らしきものが見えるから……ええと、やっぱりコレ、こっち側が正面なのか? ということは、あのクリスタルっぽい突起、ビーム砲の砲身か何かだろうか。

 

 コレ、戦艦だとしたら、前側がこんなに面積広いと、艦隊戦でもやったらめっちゃ被弾しちゃうんじゃないか? その分装甲は分厚そうではあるけど……。

 

 レーダーを見てみると……周囲に浮かんでいる残骸の船同様、生体反応はない。動力炉も止まってるみたいだ。完全に死んでるのか、それともこの船みたいに休止状態なだけなのか……そこまではわからないけど。

 

 中に入ってみると、やはりというか、中は無人。

 しかし、いじってみると……この船も、動力そのものは生きていたようで、すぐに復旧した。

 

 艦内の照明もすぐに全部ついて、よく見えるようになったんだけど……ガミラスの艦と同じか、それ以上に近未来的で……白を基調としているせいか、清潔感のある内装だ。

 けど、どこか無機質な感じのするデザインにも見える、かも。

 

 しばらくコンソールをいじってみてわかったことだが……どうやらこの艦、キレイな見た目の割に、かなり長い間放置されていたらしい。

 システムそのものは生きていたものの、データバンクの中身が全部壊れていて、記録も何も残っていなかった。これでは、この艦がどこの誰が使っていたものなのかもわからない。

 

 いや、まあ……別にわからなくても困りはしないんだけどね、どうしてもそういうのを知りたいわけじゃないし……。

 

 復旧も難しそうだから、そこはすっぱり諦めた方がよさそうである。

 

 ワープ失敗から始まって、今日は色々気疲れした。

 ちょうどいいや、今日はここを宿に使わせてもらおう。

 

 明日は、データバンク以外も色々調べさせてもらおうと思う。結構保存状態いいから、もしかしたら色々物資とか機材とか、使えるものが残ってるかもしれない。

 

 

 

【○月?日】

 

 もしかしたらどころじゃなかった。

 すごいぞここ、宝の山だ。むしろ、この艦が宝そのものだ。

 

 今日僕は、この戦艦らしきものを隅から隅まで調べてみた。

 部屋という部屋はもちろん、コンピュータの中身まで、全部。

 

 昨日言った通り、データバンクは全部壊れてて何もわからなかったんだけど、その他は意外と生きているシステムが多かった。

 

 どうやら、船の操作そのものや武装の管制を担うシステムは同一だけど、その他のシステム……生産系の設備や居住スペース、保管庫や格納庫なんかを管理する部分は別系統になっているようで、軒並み無事だったのである。

 

 そして、それらの設備……特に、生産系のそれが凄まじい性能と技術レベルだった。

 

 艦に搭載されているものでありながら、地球では専用のドックですらお目にかかれないようなレベルの設備がそろっていて……スペック通りなら、設計データと材料さえ用意できれば、戦闘機や機動兵器だって作れそうだ。しかも、全自動で。

 艦外で作業するためのガジェットまで用意されていたので、その気になれば、この艦に収まりきらないサイズのものや、艦そのものより大きなサイズのものだって作れそうだった。

 

 物資も、材料から燃料から潤沢に残されていたし、食料すら作れた。

 

 作れたってどういう意味かって? 文字通りの意味だよ。 食料が保管してあるんじゃなくて、食料そのものを作る設備があったんだ。

 

 なんか、加工前はどう見ても鉄か何か、金属の塊みたいにしか見えない状態なんだけど……それが実は、たんぱく質とか炭水化物なんかを、超長期保存可能なように加工したものらしくて。

 それを専用の機械で『戻す』と、オートミールみたいな簡易的な、しかしきちんと栄養バランスその他が考えられた食事になるんだよ。

 

 実際にやってみてびっくりした。どう見ても無機物、あるいは鈍器にしか見えないようなブロック状の物体が、食べ物に変わるんだもんよ。

 

 ただまあ……味は、そこそこどまりだったけど。

 きちんと味はついてて、美味しいと思うんだけど……毎日食べ続けてたら、そう時間かからずに飽きるだろうな、って程度の味だ。

 

 それでも、食料に困らないってのはそれだけでありがたい。この謎な空間に閉じ込められているっていう、今の状況では特に。

 固形化してある原材料ブロック、まだまだ、アホみたいな量残ってるから……その気になれば年単位でここで生活できそうである。

 

 いや、まあ別に、そこまで長くいたくはないけど……

 

 ともかく、当面はここを拠点にさせてもらうとしよう。

 相変わらず、推進機関を含めた『戦艦』としての機能はほぼほぼ死んでるけど、拠点として使う分には申し分ない機能がそろってるからな。

 

 食料生産装置の他にも、服やその他、雑貨類を作るための装置もあった。宇宙服すら作れるっぽかったので、この際だし、スペアとか含めて身の回りの必要そうなもの、一通り作っちゃおうかな?

 

 ……ああもちろん、ゆったりくつろいで過ごすだけじゃなくて、この空間から脱出する方法についても、模索は進めるけどね?

 

 ちなみに、生産系の設備のデータを調べていたら、どうにかこの戦艦そのものと、それを扱っていたらしい集団? 勢力? の名前を知ることができた。

 

 戦艦の名前は、『バースカル』。

 

 そして、これの持ち主である集団の名前は、『ガーディム』というらしい。

 

 ガーディム、ね、覚えておこう。

 どこのどんな人達か知らないが……もしいつか会うことがあったら、お礼とかできたらいいな。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 地球において、昔の船乗りは、船が赤道を超える時に、航海の無事を祈って『赤道祭』という催しを開催したという。

 

 それに倣う形で、今、『宇宙戦艦ヤマト』の艦内では、『太陽系赤道祭』が開催されていた。

 食料生産設備である『O.M.C.S』を使って作られたご馳走や飲み物に舌鼓を打ち、他愛もない雑談に花を咲かせる。

 

 このままいけば、もう間もなく、ヤマトは太陽系を出て、正真正銘の未知の領域へ旅立つことになるため、それを前に船員たちを慰撫する目的も兼ねていた。

 

 また、太陽系を出ると、宇宙線その他の関係で、地球と通信することもできなくなるため、最後に地球に残してきた友人や家族と話すための時間も設けられた。

 1人あたり限られた時間ではあるが、艦載の通信設備を使ってテレビ電話で話すことができる。

 

 もっとも、ガミラスの攻撃で天涯孤独となっている者や、そもそもこの世界の出身でない者などもいるため、通信の順番を辞退した者も少なくなかったようだが。

 

 そんな中、『ヤマト』の艦長を務める沖田十三は、自室にて、戦友である土方竜と通信で言葉を交わしていた。

 それは、これが最後の通信になるということで、他の乗組員達と同様の最後の挨拶でもあったのだが……同時に沖田は、土方から奇妙な話を聞くことにもなった。

 

「白い機動兵器……?」

 

『その様子だと、お前も何も知らんようだな、沖田』

 

「ああ……それで、その白い機動兵器が、度々現れてガミラスから地球を守っていたと?」

 

『ああ。所属も何も明らかにはなっていないし、外見からして、モビルスーツなのかどうかすら判断できないのだが……機体の性能はかなりのものだった』

 

 土方が言うなら確かなのだろう、と沖田は判断するが、彼もまた、その『白い機動兵器』に関する心当たりはない。

 強いて言うなら、現在ヤマトに乗せている『クロスボーンガンダム』も、白いと言えば白い機体だが、それならば土方は一発でモビルスーツだと、そして何よりガンダムだと見抜くだろう。

 

 そもそも、『クロスボーンガンダム』とそのパイロットであるトビアは、火星で遭遇して以降ずっと行動を共にしている。可能性としてはあり得ないと言えた。

 

(土方が知らないとなると、少なくとも連邦軍関係の機体ではないな。しかし、今の地球に、連邦軍以外でモビルスーツや、それに準ずる機動兵器を用意できる勢力など……もしや、流や剣と同じように、異世界からの……? いや、これだけの情報でそう結論付けるのはあまりに早いな……)

 

『最近は姿を見せなくなってしまったが、それにあわせてお前達がもたらしてくれた、冥王星基地陥落の知らせは、地球に残った者達にとってこの上ない吉報だった。これで遊星爆弾はもちろん、戦闘機や戦艦もやっては来ないだろう……ああもしかすると、奴は自分の役目はそれで終わったと思ったからこそ、もう姿を見せなくなったのかもしれんな』

 

 土方の話に、沖田は思考を続けつつも、なるほど、と相槌を打つ。

 

『ただ、見間違いでなければ……パイロットの腕はそこまでではなかったようにも見えたな。動きも、素早くはあるが単調だったし……二刀流で戦っていたのだが、それを生かしきれているようにも見えなかった』

 

「ふ……恩人に対して手厳しいことだな」

 

『教鞭をとっていた性分でな。もし会うようなことがあれば、礼を言っておいてくれ。奴のおかげで、私の部下は何人も救われているからな』

 

 その後しばらく、そんな軽口をいくつか交わして……2人の会話は終わった。

 

 沖田は通信設備の電源を落とし、艦長室の椅子に深く腰掛けて息をつく。

 

(気にはなる、が……地球に危害が及んでいないのであれば、それで良しとする他ないな)

 

 件の『白い機体』についての考察はそこで切り上げ、沖田はこれから待ち受けている、果てしない旅路に思いを馳せる。

 もう少しすれば、地球とも連絡はとれなくなる。知る者、頼る者のいない宇宙の大海原で、ヤマトは孤独で長い戦いを続けていかなければならない。

 

 途中、いくつかの寄り道を経てはいるが、今のところ旅の道程は極めて順調。

 

 しかしそれでも、既にガミラスや、他の敵対勢力……地球を捨てた地球人である『木星帝国』や、飢える破壊魔『インベーダー』などとの戦闘を幾度も潜り抜けてきている。

 

 これから先、さらなる苦難が待ち受けているであろうことを考え……航海の無事を祈りつつも、ついつい思考の海に深く沈んでしまう沖田。

 

 秘蔵の酒を片手に現れた佐渡医師が艦長室を訪れ、『若者に混ざって盛り上がるのが苦手な者同士』で一杯やり始めるまで、その熟考は続いたのだった。

 

 

 

 



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第6話 脱出のために

 

 

【○月$日】

 

 ホントすごいな、この艦の生産設備……マジで何でも作れる。

 

 必要なものは、設計データと材料だけ。それらを入力して準備すれば、あとはもう全部自動でやってくれる。ちょっとした雑貨類から、機動兵器やアンドロイドまで。

 しかも、そのスピードも尋常じゃない。早ければ数十秒で完成する。

 

 テクノロジーのレベルが地球とは違いすぎるな……ガーディムってどんな超文明だったんだよ。

 

 しかも、何だってそんな文明のハイスペックな戦艦が、無人の状態でこんなところに放置されて……いやまあ、今はいいか。考えても答えは出ないし。

 

 色々な設計データは、メインシステムと独立して生産設備の方のメモリーに残されていた。

 

 そして、材料は……そのへんにいくらでも転がっている。

 ここは推定『宇宙船の墓場』だ。ここから出ることができずに、乗組員共々朽ちていったのであろう宇宙船の残骸が、無数にぷかぷか浮かんでいる。

 

 こいつらをリサイクルするのだ。アスクレプスか、または生産設備に付属してある回収用ドローンで、適当なものを回収してきて解体すれば、生産のための材料になる。

 

 折角なので、色々作ってみた。快適に過ごすための家具類とか、宇宙空間で活動するための装備や、いざと言う時のための武器(白兵戦用)なんかも。

 

 機動兵器や作業用アンドロイドも作れそうだったけど、今はやめておいた。別段、差し迫って必要ってわけじゃないし、管理も逆に大変そうだし。

 

 データバンク内にデータがなくても、手間ではあるが、一から設計データを自分で作れば、そこに入っていないものも作ることができた。

 手間ではあるけど、もともとこういう作業好きな方なので苦ではない。マイクラとか好きだし。

 

 試しにウォーターベッドを作ってみたら、寝心地最高な快適寝具が出来上がった。

 調子に乗ってジャグジーバスやマッサージチェアも作った。さらに快適に住めるようになった。

 

 やばい、なんかここで快適に暮らすための設備がどんどんそろいつつある。ここ離れたくなくなりそうで怖い。

 

 ……いっそのこと、推進機関とか直してこの船ごと移動できればいいんだけど、流石にそれは難しいみたいだ。

 残骸じゃ材料として使えないような、特別なパーツないし素材がいくつも必要みたいだし、そもそも船を『戦艦』として運用するための一番重要なシステム……移動や兵装をつかさどる部分のデータが軒並み破損してるからな。

 

 ああ、もちろん遊んでばっかりじゃなくて、最優先で解決しなければならない部分についてもちゃんと取り組んでる。

 この空間から脱出する方法について、きちんと調べたし、目途ももう立った。

 

 方法としては、この空間内に存在する『時空境界面』に、次元断層を発生させるレベルの衝撃をぶつけることで、境界面を崩壊させて通常空間への出口を作れるようだ。

 ただ、それには膨大なエネルギーが必要になる。少なくとも、戦艦に搭載されてる普通の兵装程度じゃまず無理そうだから……それをまずは『作る』必要があるな。

 

 ……僕がアスクレプスの力を十全に扱えれば、それも必要なかったんだろうとは思う。

 

 というか、こいつならその気になれば、単体での次元移動や次元震の発生すら可能だったはずだし……力不足を恥じるばかりだ。

 

 しかし、ないものねだりをしていても仕方ない。

 ここは大人しく、それをどうにかする武器を作ることにしよう。

 

 幸い、その辺のスクラップでもどうにかなりそうだし……設計データもある。

 

 何ともおあつらえ向きな話で、アスクレプスのデータストレージの中に、色々な武器やら機体やらの設計データが保存されていたのだ。

 

 そしてどうやらそれらは、アスクレプスと同郷?である、『Zシリーズ』に登場した兵器類のようだった。面倒なので1つ1つ説明とかはできないが、あの『多元世界』で猛威を振るっていた機体や武器のデータがいくつも保管されていた。

 『サイデリアル』関連のものをメインに、地球産の兵器類のデータ、一部の版権作品のデータ、そして、『御使い』関連の機体その他のデータまで……実にありがたい。

 

 これらのデータと、『バースカル』の生産設備を合わせれば……うん、いけそうだ。

 

 ただし、流石に時間はかかりそうである。気の長い取り組みになるのも覚悟しておこう。

 

 

 

【○月#日】

 

 この艦『バースカル』には、生産用のドックがいくつかあり……昨日から僕は、そのうちの1つをぶっ続けで稼働させて、あるものを作らせている。

 それこそが、僕がこの空間から脱出するための切り札として考えているものだ。

 

 それは、『DEC反応砲』。

 略さずに言うと、『ディメンション・エナジー・クリスタル反応砲』。

 

 次元力が結晶化した物質であるDEC……『ディメンション・エナジー・クリスタル』を用いて、抽出したエネルギーをぶつける兵器である。

 

 これなら、次元力を込めた攻撃だから、相応の出力で撃ちさえすれば、『時空境界面』を破ることもできるはずだ。

 

 アスクレプスの中にデータがあった次元力関連の兵器類。その中には、残念ながら材料その他の関係で作ることができないものも多かった。

 作れる武装の中で、コスパや作成難易度、必要な期間などを鑑みた結果として、最もよさそうなのがこれだった。

 

 それでも、かなり作るのに時間はかかるようで……しばらくはここに留まることになりそうだ。

 

 あと、それと並行して、燃料として使う『DEC』の生成も進めている。これに関しては、アスクレプス自体に、抽出した次元力を変換・蓄積する機能が備わっていたので、自動化して任せている。

 こっちにも時間はかかりそうだし、どっちみちその間は待つしかないだろう。

 

 にしても、よくもまあこんだけのデータがそろえてあったもんだ。

 『DEC反応砲』は、まだサイデリアルが地球に来る前に開発された、とある戦艦に搭載されてた技術だったはずだけど……『天獄篇』で地球を一時的に支配した時に接収したのかな。

 

 ありがたいから使わせてもらうけどね。

 

 

 

 

 

【×月○日】

 

 数え間違えてなければ、ちょうど今日で月が替わった。

 そして、それと同時に……ようやく『DEC反応砲』が完成した。この空間から脱出するための、僕の切り札が。

 

 必要な燃料……DECも、試射と予備含めて、3回撃てるだけの量を用意した。

 

 なお、『DEC反応砲』は……もともとはこの兵器は、戦艦に搭載するタイプのものなのだが、後付けで戦艦に……ガミラスの艦にしろ『バースカル』にしろ、取り付けるのは無理があったので、アスクレプスそのものが構えて撃つタイプにした。

 次元力を扱う以上、そっちの方が都合がよかったっていう理由もある。

 

 かなり大型のものになったので、携行なんてまずできるようなサイズじゃないんだが。

 

 実際に構えてみると……見た目的には、某ハンティングアクションゲームで、据え置き型のバリスタや大砲(ただし縦横に3倍くらいのサイズ比)を使う感じになった。

 

 折角だし、『DECバリスタ』とでも名付けようかな、コレ。

 

 低出力で試射してみた結果、使用自体は問題なし。

 ビームではなく、エネルギーを収束した細長い楕円形の光弾が飛んでいき、射線上にあった――わざと的にするために置いておいた――デブリとか残骸に接触し、爆発。

 それらは奇麗に消滅したし、小規模ながら次元震も観測できた。

 

 この出力でこれなら、出力全開で使えば、問題なく時空境界面を破れるだろう。

 

 ただ、急ごしらえの上にかなり小型化したことがたたってか、1発撃っただけでメンテが必要になった。……これは、本番やれるのは明日だな。

 

 

 

【×月×日】

 

 さあ本番行ってみよう! と意気込んで外に出ようとした時、水を差されるが起こった。

 この空間に、残骸でない何者かが侵入してきたっていうのをレーダーが捕らえたのだ。

 

 一体何だよと思いつつ見てみると……そこにはなぜか、宇宙戦艦ヤマトの姿が。

 

 ……え、何で? 何でヤマトがここに?

 僕と同じで、ワープに失敗したんだろうか?

 

 この空間……そんなに頻繁にというか、落っこちる確率結構高めな場所なの? それとも、単に僕もヤマトもめっちゃ運が悪かったとか、ワープした場所が悪かったとか?

 

 ……考えても仕方がなさそうなので、考察はやめにしよう。

 

 それよか、もしヤマトがここから出られなくて困ってるようなら……ついでだし、『よかったら一緒にどうですか?』的な感じで声かけてみようかな?

 『DECバリスタ』を使えば、それなりの大きさの穴を時空境界面に開けられそうだし、それが開いてる間に、ヤマトが通り抜けることも可能だろうから。

 

 ……地球のためにも、ヤマトはこんなところで止まっていていい存在じゃない。

 その助けになれるなら、僕もやれることをやらないと。

 

 ……ぶっちゃけ、土星でのことが原因で軽くトラウマっぽくなってるし、そうでなくても普通に緊張するんだけど……そんなこと言ってられないしね。

 

 意を決してアスクレプスを出し、ヤマトにコンタクトを試みようかと思った僕だが、その前にまたもや異変が起こった。

 

 もう1隻、レーダーの範囲外から入ってきた船があった。ガミラスの戦艦が。

 僕が失敬して使わせてもらってるものよりもかなり大きい、武装も充実してるやつだった。

 

 それがヤマトに向かって進んでいって、これは戦闘になるか、とハラハラしつつ見てたんだけど……何やら様子がおかしい。

 ガミラスの艦から戦闘機が1機出て、大和に着艦した。

 

 そしてしばらくすると、大和とガミラスの艦が並んですすーっと飛んでいき、ちょうど次元境界面の前あたりまで一緒に来た。

 ガミラスの艦から、ロープのようなビームのような……というか、ビームがロープの形になってる感じのものが伸びて、ヤマトと結合……牽引用の設備か何かか、あれは?

 

 何をやってるんだろうと思ったその直後、ヤマトから凄まじい威力のビーム砲みたいなものが発射されて……時空境界面を直撃、盛大にぶち抜いて大穴を開けた。

 びっくりしすぎてひっくり返るかと思った。何アレ……うちの『DECバリスタ』とは、威力も迫力も比べ物にならないんですけど。

 

 ……あ、ひょっとしてあれ、かの有名な『波動砲』か!?

 

 『宇宙戦艦ヤマト』の代名詞的な武装。アニメ史における『ロマン砲』や『必殺砲』の先駆け的存在。

 一発放てば惑星すら破壊するっていう、ヤマトは見たことなくても『波動砲』は知ってるっていう人も多いであろう、あの……。

 

 計測機器を見てみると、『波動砲』(と、仮定する)の射線上には、重力異常や、極小ではあるが次元震なんかもいくつも観測されていた。どういう仕組みで撃ってるんだアレ? 単なる破壊光線じゃなさそうだけど……うう、知らないって悔しいな。

 

 とか考えていたら、『波動砲』でぶち抜いて開けた穴目掛けて、ガミラスの戦艦が飛んでいく。

 そして、ビームのロープに引っ張られる形で、ヤマトもそれに続いていく。

 

 ……ひょっとして、あの2隻、一時的に手を組んだのか?

 ヤマトが『波動砲』で時空境界面をぶち抜く。ガミラスはそのヤマトを引っ張ってここから脱出する……牽引されてるところを見ると、ヤマトは今の一撃でエネルギーを使い果たした、か?

 

 なるほど、ヤマト単体では、壁は破れるけどその後動けないから脱出できない。

 ガミラスは、時空境界面を破る力がない。

 だから、役割分担する形での呉越同舟、か……よく考えたもんだ。

 

 そしてそれ以上に、よく実行する気になったな。どっちにとっても不俱戴天の敵同士だろうに、相手を信頼して自分の役目を果たす……か。

 流石は、地球連邦軍にその人ありと言われた沖田十三……そして、ガミラス側の艦長も、話が分からない人じゃなかったと見える。最初に飛んでいった真っ赤な戦闘機は、その為の使者だったのかも。

 

 どっかの第六天魔王は、『呉越同舟なんてもんはねえ!(一部抜粋)』って言ってたけど……そんなことはないんだな、という真実を見た気がした。やっぱり、人と人とはわかり合えるんだな。

 

 

 

 ……と、思っていたんだけども。

 

 

 

 牽引している途中で、ビームロープが外れた。

 そしてそのまま、ヤマトを置き去りにして、ガミラスの戦艦、行ってしまった。

 

 ……ええ~……裏切るの? ここで?

 

 頭の中で、50過ぎの眼帯のおっさんがすげえいい笑顔を浮かべてるんですが。ほら、こうやんだよ、とでも言いたげな感じで。

 

 しかも、泣きっ面に蜂とでも言うべき事態がさらに発生。

 

 やはり動けないらしいヤマトに向かって、突如どこからか現れた機動兵器の集団が襲い掛かろうとしていた。

 ……? あのデザイン、どっかで見たような……

 

 ヤマトからは、搭載されていたロボット達が出撃……あれ、増えてる?

 

 ガンダムが増えてるよ? ていうかあれって……ダブルオークアンタじゃない? え、何、刹那君までいるのこの世界?

 

 もう1機の方は……名前忘れた、何だっけあの……あれ……ティエリアが乗ってる奴だよね? くっそ、だめだ出てこない。

 

 その2機を加えたスーパーロボット部隊による戦いが始まったわけだが、押され気味だ。

 

 数がメタルビーストの時以上に多いし、動きも素早い。生命反応がないところを見ると……無人機かあれ。どうりでパイロットがいたら難しいような無茶苦茶な動きもしてるわけだ。

 さらに、なぜか機動兵器達は、隙あらばヤマトを狙おうとするので、それを守るために防戦気味になってる。

 

 とうとう何発かの攻撃が、ロボット達の防衛線を抜けてヤマトに届いた。

 

 大したダメージにはならなかったようだけど……ヤマトって、土星で戦ってるのを見てた時は、バリアみたいなのを張ってたと思ったんだけど。メタルビーストの攻撃とか、爆散した破片とかをそれで防いでたの、見えたし……地球で『遊星爆弾』を破壊した時の爆風も防いでたよ?

 それが今はない……つまり、それに回すエネルギーもない、ということか……けっこうガチでピンチそうだな。

 

 ……覚悟、決めるか。いや、さっき決めたっけな。種類は違うけど。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 不測の事態によりワープに失敗したヤマト、そしてその一行は、まるで宇宙の墓場とでも呼べそうな『次元断層』という空間に迷い込んでいた。

 

 そこで出会ったガミラスの戦艦。使者としてやってきたメルダ・ディッツ少尉から聞かされたのは、この空間を脱出するために、一時的に協力したい、という提案だった。

 ガミラスに対する敵対感情から、最初は反発する意見が出るものの、沖田艦長の決断により、その申し出を飲むことが決定。

 

 波動砲により時空境界面を突破するも、その後の牽引の最中に、さらなる不測の事態が発生。

 

 ガミラスの艦から回されていた牽引ビームが突如として切断され、ヤマトを置き去りにして次元断層の向こうへいってしまったのだ。

 連絡員――実質的な人質――としてヤマトに残っていた、メルダをも置き去りにして。

 

 実はこの時、ガミラスの艦の中では、同乗していた『親衛隊』の者達が、『敵対しているテロン人を助けるなど言語道断』として、艦内を掌握し、牽引ビームの切除と自分達だけでの脱出を強行していたのだが、そんな事情を知る由もないヤマトの乗組員達は、やはり裏切った、と怒りをあらわにする。

 

 そこにさらに、正体不明の無人機と思しき機動兵器が攻撃をかけてきた。

 ヤマトはエネルギーを使い果たし、自力での移動はもちろん、『波動防壁』の展開すらもできない状態。機動部隊を出してこれに応戦するが、苦戦は免れなかった。

 

 途中からは、ヤマトに乗っていたメルダ少尉も防衛に加わる。

 無理もないことではあるが、冷ややかどころか敵意すら乗った視線を受けながらも、『信用できなければ、後ろからでも撃つがいい!』とまで言い切って見せたことにより、一応はこの闘いの間だけは共闘することとなった。

 

 しかしそれでも、多勢に無勢の上、なぜかヤマトを狙ってくることもあり、不利な状況に変わりはなかったが……そこに、さらなる予想外の事態が起こる。

 

「レーダーに感あり! 所属不明の機体が接近中! は、速い!? もう来ます!」

 

「くそっ、また増援かよ!?」

 

 ヤマトの艦橋に悪態をつく声が響く中、その何者かは、突如として戦場に乱入してきた。

 

 緑色の光が尾を引いて飛び、まるで流星のような勢いで斬り込んできたそれは……今まさに、ヤマトに向かって攻撃しようとしていた機動兵器2機を、すれ違いざまに両断した。

 

 それを見ていたヤマトの乗組員達、そして、戦場に出ている機動部隊のパイロット達は、無人機が爆散したその煙の向こうに、その機体を見た。

 

 そして、

 

 

 

「……二刀流の……白い、機動兵器……!」

 

 

 

 思わず、といった様子で……沖田十三は、ぽつりとつぶやいた。

 

 

 

 



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第7話 次元断層の戦いと、脱出

 

 

 光弾を放ちながら突撃してくる、無人の機動兵器。

 『アールヤブ』と呼ばれる名のそれらは、眼前に迫る1機の人型ロボットに、激突することも恐れず突貫していって……次の瞬間、すれ違いざまに両断されて、異空間に散った。

 

 降り抜いた刃を素早く構えなおした『アスクレプス』は、迫ってくる別な敵に向けて、けん制するように光弾を放つ。

 

 背中から伸びているそれは、砲身がまるで蛇のように自在に動いて、その先端の発射口から光弾が吐き出される形になっていて、ほぼ死角なしの稼働・攻撃範囲を発揮していた。

 機体そのものの向きはもちろん、手足とは全く別に、阻害されることなく動き、狙いを定めて打ち込んで、命中させる。

 

 それ1発で落とすことはできなかったものの、その一撃で怯んでいる――無人機なので、正確には衝撃で動けなくなっている、という状態だが――ところに素早く接敵し、両腕のブレードでとどめを刺す。その瞬間に見せた加速も、尋常ならざる速さだった。

 

 その様子を、ヤマトから出撃した機動部隊の面々は、自分達も戦いながらも、興味深そうに眼で追っていた。

 

「なかなかやるもんだな、あの白い機体……見たことねえけど」

 

「地球連邦軍の機体じゃないってことですか?」

 

 総司がつぶやいた言葉に反応して尋ねるトビア。

 総司はそれに、ああ、と答える。

 

「月面の研究所でも地球でも、あんなモビルスーツは見たことも聞いたこともないな。それどころか、見たこともねえ兵装も積んでるようだし……何だ、あのウネウネ動くビーム砲? まあ、便利そうではあるが……」

 

『動力系ニモ、既存ノ技術体系トハ違ウ未知ノエネルギーガ使用サレテイルヨウデス』

 

「……お前はホントにいきなりしゃべるよな」

 

 こちらから話しかけても反応しない、聞きたいことに応えてくれないことも多いこの自機のOSが、また唐突に言葉を発したことに、驚きつつも戦闘の手は緩めない総司。

 

「俺もトビアも見たことない、総司も知らない……ひょっとしてアレも異世界の機体か? 竜馬、鉄也、刹那、ティエリア、お前達はどうだ?」

 

 キンケドゥがそう尋ねるが、その面々からの返事はどれも同じだった。

 

「俺の世界にはなかったと思う」

 

「僕も見たことはないな。もちろん、僕らが知らないだけ、という可能性もなくはないが」

 

「俺もないな」

 

 刹那、ティエリア、鉄也が順に答えた後、残る竜馬は、

 

「俺もだ。だが……あの機体、性能や武装はそれなりのモンだが……気付いてるか、鉄也?」

 

「ああ。……乗っているのは、ほとんど素人に近いようだな」

 

 歴戦のパイロットである彼らは、機体性能そのものはともかくとして、動かしているパイロットは、こう言っては何だが、そこまでの腕ではないことに気付いていた。

 

 駆動が素早く正確であり、またトリッキーな武装や一撃の強力さなどもあって、少々わかりづらくはある。

 

 しかし、動きそのものはかなり単純で直線的。遠距離で射撃してけん制してから、一機に加速して飛び込んで仕留めるといった、有用ではあるが、いわゆる『教科書通り』な戦い方が目立つ。

 

 訓練やシミュレーターで動き『だけ』は熟達しているが、本物の戦場や死線を幾度も経験して洗練された戦士の戦い方ではない、そんな印象だった。

 

 何度か無人機の攻撃に被弾している――それ自体はバリアらしきもので完全に防いでいて無傷だが――のも、戦闘に不慣れであるからだろう。

 

 特に宇宙空間での戦闘は、地球上の重力圏での戦闘とは勝手がかなり違う上、上下左右前後から攻撃が飛んでくるため、それらを見切ってさばかなければ一瞬で落とされることにもなりかねない。そのあたりがわかっていない立ち回りだと、彼らには一目でわかった。

 

(言っちゃなんだが、機体のスペックをほとんど活かせてねえな……あんだけ急加速・急制動が効くなら、もっと飛びこんでかき回すような戦い方もできるだろうに)

 

(実力的に明らかに不釣り合いな機体をなぜ持っていて、しかもなぜこんなところで、俺達を助けようとする? パイロットは何者だ?)

 

 竜馬と鉄也は疑問を覚えながらも、今はまずこの鉄火場を乗り切ることが必要だと考えた。

 ひとまず疑問は頭の片隅に追いやって、まだいくつも残っている無人機の軍団に向き直り、戦闘に集中する。

 

 

 

 戦闘はそのまま終わり、無人機は残らず撃墜に成功。

 

 同時に、去ったと思われたガミラスの戦艦が戻ってきた。

 通信で聞こえてきた内容によれば、どうやら先の離脱は不本意な何かトラブルがあった結果であるらしい。『全てこちらの責任だ』と詫びた上で、あらためてヤマトを牽引する形となった。

 

 その際、竜馬達は秘匿回線を開き、ヤマトの艦橋に『あの不明機を拿捕するか』と問い合わせたが、沖田は少し考えた後、その必要はない、と返した。

 

 代わりに、その不明機に向けて、力を貸してくれたことに感謝する旨と、そちらは何者かという問いかけをメッセージで送った。……少しの細工をした上で。

 

 それに対して帰ってきたのは、

 

 

 

『名乗るほどのもんじゃございやせん』

 

 

 

「……何だこれ、ふざけてるのか?」

 

「江戸っ子なんでしょうか?」

 

「清水っ子という線もあるぞ」

 

 ディスプレイに表示されたテキストメッセージを見て、憤慨したように言う南部。

 それをなだめるのを兼ねて、島と古代が茶化すように言う。

 

 なお、返したミツルに特に意図はない。その場のノリであった。

 

 そして、その後ろで見ていた沖田と真田はというと、

 

「……こちらから送った日本語のメッセージに、日本語で返してきましたね」

 

「うむ、それもかなり早くな。少なくとも、言語が通じる文化圏の何者かではあるようだ……土方が言っていた機体と同一である可能性は高いか」

 

「! 待ってください、追加でメッセージが届いたようです」

 

 と、新見が言ったのに合わせて、その2通目が開封される。

 

「『あの出入り口、こちらも使わせてもらっても?』……か。ひょっとしてあの機体も、この次元断層で迷ってたんですかね?」

 

「ということは、こちらに加勢してくれたのは、出入り口の使用料か。随分律儀だな」

 

「……こちらにこれ以上関わる意図はなさそうですね。沖田艦長、返事はどのように?」

 

「『もちろん構わない』と頼む。それと、『貴官の度重なる防衛協力に感謝する』とも」

 

「? はあ……了解しました」

 

 言い方に若干の違和感を覚えつつも、新見はそのように返事を送った。

 

 その後、ヤマトは牽引されながら次元断層を後にする。

 後方に見えた次元の裂け目の状態を見る限り、まだしばらくは空いているだろう。

 

 そしてヤマトは、無事に通常空間に復帰した。

 

 しかし……そこに待ち受けている、新たな災難の、いや、災厄と呼ぶほかないほどの事態を……まだ、彼らは知らなかった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

【×月×日(同日)】

 

 拙い腕ながらも協力させてもらった、ヤマトの防衛線は無事に終了。

 

 何機か無人機を落として、それなりに役に立った自覚はあるけど……それでも何というか、やっぱり腕の違いは歴然だってのがわかったよ。

 ホントすごいな、ゲッターとかマジンガーとか。

 

 土星で見てた時以上にとんでもない動きで、縦横無尽に飛び回って敵を落としていた。目で追えないくらい早くて、激しい動きで……それなのに狙いは正確無比。

 歴戦の勇士、ってのはああいう戦いができる人のことを言うんだなって、あらためて実感した。

 

 その他の機体……ガンダム4機(クアンタ以外名前わからない)や、例によっているあの灰色のロボット、そしてガミラスのものだったはずの赤い機体も同様。

 赤い戦闘機は、通常の3倍で動いたりはしなかったけど、それでも小ささを生かして敵の攻撃をかいくぐり、1機、また1機と落としていた。

 

 通信での会話は最小限にして、声も変えたから、こっちが誰かについては気づかれなかったと思う。他はテキストでのやり取りだけだし。

 

 けど、戦闘終了後に、ヤマトから『貴官の度重なる防衛協力に感謝する』っていうメッセージが届いた時はちょっとびびった。

 

 あ、コレどうやら、僕が地球で色々やってた機体だってことには気づかれたっぽいな……地球から何か連絡とか受けてたのかも。

 

 あの沖田艦長から感謝されたってことにちょっと感動する半面、僕みたいな若造の浅知恵なんてお見通しだとも遠回しに言われてるようで、少し、うん……びびった。

 

 幸い、それ以上は何もなく、普通に離脱させてくれたけど……なんか戦闘後、機動部隊の面々からめっちゃ視線を感じたんだよね。

 あれひょっとして、『捕まえて連れてこい』とか言われてたら僕、逮捕されてたんじゃ……もしそうなったら逃げられる自信なかったよ……マジでよかった。大人しく行かせてくれて。

 

 その後、牽引されて去って行くヤマトを見送って、拠点である『バースカル』に戻った。

 あの穴が閉じる前に、僕もここから出ないとな。

 

 ただ、出るのはいいんだけど……この『バースカル』を持っていけないのは惜しいな……

 正直、生産拠点としては、ここは魅力的過ぎるくらいの場所だから。

 

 機材だけでも持ち出したいと思ったけど、そのほとんどは艦と一体化してるし、付け替え作業なんかも、技術体系が全然違うからまずできそうにない。

 

 けど、やっぱ諦めきれないので……気休め程度ではあるが、手を打っておくことに。

 

 どうやらこの艦、ヤマトやガミラスの艦と同じで、もともとはワープ系の機能も有していたらしいんだけど……今はデータの破損でシステム自体が使えなくなっている。

 ただ、機動兵器を転移機能で送り出すとか、転移させて帰ってこさせるみたいなこともしていたようなのだ。ドックの方を見ると、それらしい痕跡があった。

 

 繰り返すように、転移機能そのものをつかさどるメインのデータがなければ、この艦のその機能は使えないんだけど……逆に言えば、その『転移機能』の部分をこっちで何とか出来れば、もしかしたら、またここに帰ってくることができるかもしれない。

 

 ガミラスの艦に搭載されているワープ機能や……アスクレプスに備わっているはずの、次元転移機能。それらと上手いこと噛み合えば……。

 ……後者に関しては、僕の未熟さゆえに、まだ使えないけど……(泣)

 

 まあ、ダメで元々だと思って、転移用の次元座標データやパスを、戦艦とアスクレプスの両方にダウンロードしておいた。

 

 それじゃあそろそろ、行くとしますかね。

 

 上手く行けば、次の日記を書くのは、通常空間に復帰してからになるだろう。

 

 上手くいかなかったときのことは……考えたくない。

 

 

 

 



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第2章 海が青い世界
第8話 流れ着いた先は……


お気に入りが400件超えてる…嬉しくて筆が進む現金な作者です。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。

第8話、どうぞ。


 

【×月△日】

 

 ……上手くいきませんでした。

 

 いや、ホントに、もお……何コレ。

 何、この……次元断層に落ちた時以上の異常事態は?

 

 いやでも、スパロボで考えれば割と起こり得ることと言えばそうなのかもしれないけども……。

 

 それにしたって、いきなり異世界、ないし並行世界って何なんだよぉ……(泣)

 

 

 

【×月□日】

 

 ショックのあまり1日無駄にしてしまったけど、とりあえず昨日……いや、一昨日か。あったことをまとめようかと思う。

 ついでに、今日確認できた色々な新事実その他についても。今日の日記は長くなりそうだ。

 

 

 

 まず、次元断層を出ようとしたところまで話は遡る。

 

 ヤマトが波動砲でぶち抜いて開けてくれた出入り口は、ガミラスの戦艦が余裕で通れるくらいには大きかったし、閉じる気配もなかったので……ちょっと緊張しつつも、僕はそこを通過した。

 

 が、通過する瞬間、前方に……すなわち、出口の向こうに、かなり大きな次元震の発生を感知した。その余波ないしエネルギーが、ここまで届くレベルのものだった。

 

 それを受けて、たちまち艦のコントロールは利かなくなり、レーダーやバランサー、その他の正常に航行するためのシステムも、全てが狂っていく。

 

 これはマジでやばい、と直感した僕は、とっさに格納庫に走り、アスクレプスに乗り込んだ。

 

 そして次の瞬間、艦は発生した次元震に引き込まれて次元の流れに巻き込まれ……激流に流されるゴムボートのように、上下左右にこれでもかと揺れながら押し流されていった。

 

 戦艦と言えども耐えきれず、崩壊していくガミラスの艦。

 システムをいじって、アスクレプスのコクピットからでも艦の操作はできるようにはしてたんだけど……明らかに、操作テク程度でどうにかなるようなもんじゃなかった。

 

 もうこれはダメだ、ここにいたら死ぬ。

 そう思い、意を決して僕は、格納庫の扉をぶち破ってアスクレプス単体で脱出した。

 

 その数秒後か十数秒後に、ガミラス艦は後ろの方で爆散したのが目の端に見えたけど……それを悲しんでいる暇も余裕も僕にはなかった。

 

 次元流の中、必死でアスクレプスを操って落ちないように(落ちる、ってどこに落ちるのかは分かんないけど、そういう表現がふさわしい気がした)……サーファーが波に乗る感じで、流れをつかんで渡って行く。

 サーフィンとかしたことないので、ただのイメージですけどね。悪しからず。

 

 けどそれも限界に来そうになったところで……いわゆる『火事場の馬鹿力』って奴なんだろうな。

 僕は、今までできなかった『次元転移』に成功した。

 

 正確には、スパロボでアドヴェントが見せたような『次元転移』そのものではなかったと思うけど……一瞬、ふっと気が遠くなった次の瞬間、かあっと頭が熱くなったと思ったら、急に体の中から力が湧きあがってくるのを感じた。

 そして同時に、『今ならいける』という感じもした。

 

 その感覚に任せて次元力を開放……そして僕は、アスクレプス単体の力で次元震を起こし、次元の壁をぶち破り、外に出ることに成功したのだ。

 

 こうして通常空間にどうにか復帰した僕だったが……ほっとしたのもつかの間、何かが、いや、何もかもがおかしいことに気づいた。

 

 目の前に、青い海が広がっていたのだ。

 そう、地球にはもはやないはずの、青い海が。

 

 アスクレプスのレーダーその他で確認してみると……ここは、地球だ。地球で間違いない。

 空間座標はもちろん、大気組成その他、調べられるもの全てスキャンして見てみても……ここは地球である、以外の結論は出てこない。

 

 しかし、僕のいた世界の地球は……『遊星爆弾』を落とされまくって干上がってしまっていたはずで……こんな風に水が残っているはずがないのだ。

 加えて、まき散らされたガミラスの植物によって、空気は汚染が進んでいるはず。

 

 何もかもが違うのに、『地球』であることは間違いない……ということは、だ。

 

 どうやら僕は、太陽系の外ですらあったはずのあの位置から、一気に地球にまで戻ってきた上に……地球は地球でも、並行世界の地球に来てしまったらしい、とその時気付いた。

 

 ここまでが、一昨日の出来事。

 

 

 この後、昨日一日はショックで呆然として、何もやる気が出ずに、アスクレプスのコクピットでぼーっとして過ごしたので、省略。

 

 

 今日になって、このままぼーっとしていても仕方がないと思い立って、行動開始。

 

 ……と言っても、行き当たりばったりで動き出すのもどうかと思ったので、まずはこの世界の世界情勢?みたいなものを調べようと思った。

 

 アスクレプスには、ネット回線に接続する機能も備わっていたので、それを使ってみたんだけど……出るわ出るわ、目を疑うような情報の数々。

 

 この世界にどんな年があるか、ここさいきんどんな事件があったか、そして何より、どんなロボットが存在するか……その辺を重点的に調べてみたんだけど。

 

 

『オーブ』

『プラント』

『ソレスタルビーイング』

『ガンダム』

『コーディネーター』と『ナチュラル』

『イオリア・シュヘンベルグ』

『メガノイド』

 

 

 ……少なくとも、SEED系と00系の2つのガンダム作品が混在していることがわかりました、はい。

 あと、なんか『ダイターン3』もいそうですね?

 

 しかもなんか、今まさに各地で戦乱真っただ中、あるいは終わったとしてもその直後で、世界情勢がかなり不安定って感じなんですけど!?

 色んな情報が錯綜してて、何が真実で何がダミーないしフェイクか見分けるのめっちゃ大変! てか無理!

 

 おまけに……重要そうなキーワードではあるんだけど、聞き覚えのないものもいくつか。

 これらは多分……僕が知らない作品に関するものだな。前にも言ったけど、基本僕、Zシリーズに出てきてくれたもの以外は知らんから。

 

 なんか、火星とか木星で色々やってるっぽいな……『木連』って何だ? 『ボソンジャンプ』……どこかで聞いたことあるような……

 

 それと、『始祖連合国』とかいうよくわからん国もあるけど……何かこの国は、外界とあまり関わってない、鎖国状態の国っぽいな。

 特権階級まで存在するみたいだし……その逆の、被差別階級もか。『マナの光』に『ノーマ』、ね……随分とまあ、世界観からして違う。ファンタジー?

 

 これは……ちょっと大変だぞ、この世界を渡り歩くの……

 

 『連合・プラント大戦』と『蜥蜴戦争』とやらの終結直後で、残党とかも各地にいたりしてピリピリしてる時期っぽいし……そんなところを、こんな機動兵器でうろちょろしてたら、即刻目をつけられる。

 

 というかその前に、今僕がいるここはどこかって話なんだが……どうやら、どこかの無人島らしいな。

 不時着した場所が、まず誰にも見られない場所だったのは、幸運だったと思うことにしよう。

 

 さて、これからどうするか。

 まさか、この無人島でサバイバルなんてするわけにもいかないし……ガミラスの艦は、次元流の中で失ってしまった。食料とか、色々物資積んでたのにな……。

 

 非常時のことを考えて、アスクレプスにも多少なり積んでおいたから、当分はなんとかなるけど……やっぱり何かしらの形で、人里に行くしかないよなあ。

 こちとら現代っ子だ。サバイバルの技術なんて持ってない。

 

 あーもう、通常空間に復帰するどころか、元の世界に帰ることもできなくなっちゃったなんて……地球に物資とか届けて、ヤマトが来るまで頑張ってもらおうっていう計画ももうこれでおじゃんだよなあ……。

 

 ……っていうか、今更だけどヤマトはどうなったんだ!?

 

 タイミングからして、ヤマトも(そして牽引していたガミラスの戦艦も、恐らく)あの次元震に巻き込まれたと思うんだけど……ま、まさか轟沈してないです……よね?

 

 ネットを今一度見てみても、所属不明の宇宙戦艦が落ちてきたなんてニュースはどこにもない。

 

 ない、けど……ソレスタルビーイングがいるってことは、この世界、『ヴェーダ』あるよな?

 

 あれって、常にネットを監視して、世界規模で情報統制できるくらいの性能持ってたはず……もし故意に隠されてたら、見つける術はない気がする。

 時期的にも今は、イノベイド連中が調子こいてる時期だと思われるし……

 

 ……考えれば考えるほど、なんかよろしくない状況にいるってことが明らかになって行く気がする……気が滅入りそうだ。

 

 立ち直ったばかりではあるけど、今日のところはこの辺にしよう。

 

 

 

【×月▽日】

 

 地獄に仏、あるいは不幸中の幸い……と言えばいいか。

 ちょっと今日は、こんな状況だけど、救いになる、嬉しい事実がいくつか明らかになった。

 

 次元流の中で、『次元転移』を使えるようになったことを思い出した僕は、今一度アスクレプスに乗ってそれを使ってみた。

 

 その結果、『バースカル』に戻れることが判明した!

 

 やったぜ、これで拠点の心配はしなくていい!

 アスクレプスに乗りさえすれば、自動車で通勤するかのごとく気軽にあの万能生産拠点兼仮住まいに戻れる!

 

 ……ただ、そのバースカルがある『次元断層』から、当初の予定通り、出番が来なかった『DECバリスタ』を使って通常空間に出ようとしたら……それは上手くいかなかった。

 

 なんか、あの時の次元震の影響で、あのへんの時空がおかしな感じになってて、上手く通常空間に復帰できなかったのだ。

 

 加えて、アスクレプスの次元転移は、どうやら僕が『次元転移習得後に行ったことがある場所』にしか行けないようだ。ドラ○エのル○ラみたいだな。

 あらかじめ次元座標を記録してたバースカルは例外だけど……コレを使ってもとの世界に戻ることは、やはりできそうになかった。

 

 まあ、あそことこの世界を行き来できるってだけで御の字、ないし十分だと思うことにしよう。

 

 しかしそうなると、結局この世界でどう生きていくかを考えなきゃいけないな。

 

 バースカルには食料生産設備もあるけど、それだって有限だ。何年も引きこもることはできない以上……率直な話、こっちの世界で生活基盤をどうにか確立する必要がある。

 

 色々と面倒な世界情勢っぽいけど、元の世界みたいに、地球人類が滅ぶ寸前まで追い詰められてるって感じでもないので、どうにかなるとは思う。

 そのへんに役立ちそうな知識は……幸いにも、この体の元の持ち主である、星川少年の頭の中に色々と入ってるようだし……既に案もいくつかある。

 

 あ、今更だけど、僕は今『バースカル』の自室でコレを書いてます。

 明日から行動開始……と言いたいところだけど、明日と、もしかしたら明後日までかけて、色々と準備だな。

 

 ネットを使っての調査がメインだけど、あっちで使える足の確保や、その他色々……やることはいくらでもある。

 けど、準備を疎かにするわけにはいかない。

 

 きちんと準備ができたら、動き始めるとしよう。

 

 

 

 



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第9話 こちら『星川製作所』


ちょっと思うところがありまして、タイトルを変更しました。
と言っても、頭に『スーパーロボット大戦』と付け足しただけですが。
今後ともよろしくお願いいたします。

第9話、どうぞ。


【△月×日】

 

 今日で、この世界に来てからおよそ1ヶ月くらいか。

 色々とひと段落したいいタイミングだし……ここ最近のことを振り返って整理してみようか。

 

 まずこの世界は、色々と大きな戦乱が収束したタイミングであり……それらに巻き込まれていた国や地域は、復興に全力を注いでいる所だった。

 

 しかし、世界規模で起こった戦乱だっただけに、よその国から支援をもらうってことも難しく……限られた大国はそれが可能だったみたいだけど、そういう国から支援をもらった小国は、属国のような扱いに甘んじることになる、っていうケースが大半のようだった。

 

 ま、そのへんの外交関係は別にどうでもいいんだけど……そういう、必死こいて国力を取り戻そうとしている国が狙い目だったんだよね、僕にとっては。

 

 ネットを使ったり、必要に応じて実地で探してみると……人口増加や税収増を目当てに、戸籍登録とかその辺のチェックがガバガバになっている国をいくつか見つけられた。

 

 その辺の国の中から、流通や治安の面で比較的マシな国を選んで、この世界で通じる戸籍をゲットした。

 いやホントに、素人の僕から見ても『ここまでってどうなの』と思いたくなるくらいにガバガバだったなあ……助かるけどさ。

 

 まあ、戦争が終わった後で、戸籍情報が消失したようなケースとかもあったみたいだから、それの救済措置としての面もあわさってのコレだったのかもしれない。

 

 ……それを悪用したと考えると、ちょっと罪悪感がこみあげてきますが……向こうも向こうで、多少怪しくても見過ごしてくれるくらいの感じだったし、よしとしよう。

 

 戸籍もとい、身分証明の手段を手に入れた僕は、続いて『仕事』を探すことにした。

 しかしながら、伝手も何もない僕が見つけられる仕事なんて、その辺の日雇いやドサ仕事、あるいはあまり大きな声で言えない仕事くらいのものだった。

 

 社会情勢を学ぶという目的もあって、しばらくはそういう仕事をこなして生活していたけど……このまま続けても、安定した生活には到底結びつかなそうだったので、思い切って自力で『起業』することにした。

 

 会社運営にかかるスキルは、幸運にも星川少年の記憶や人生経験の中にあった――そういや元の世界では実家の製作所手伝ってたもんね――ので、そこらへんで困ることはなかった。手続その他も大体一緒だったし、なんならここでも色々簡略化されてたし、費用も安かった。

 とにかく早く経済活動を再開して、国に税金を入れてほしいんだろうな。

 

 それらの緩和措置その他をフルに悪用……活用して、僕は、『星川製作所』という名前の会社を作った。

 元の世界で、星川少年が手伝っていた実家の社名そのまんま。もうちょっと凝った名前にしようかとも思ったけど、あくまで最初のとっかかりとして使う会社のつもりなので、適当に決めた。

 

 事業内容は、工業製品や機械類のパーツ作成・納品である。これまた、元の世界の『星川製作所』と大体おんなじ。

 

 けれど、復興に力を注いでいる+物資が少ないこの国の情勢では重宝される、需要の多い仕事であるはず。働いている最中もそう実感する場面は多かったし。そう思ってこれに設定した。

 

 何せ、僕には『バースカル』がある。あそこの生産設備を使えば、工業製品やそのパーツなんて簡単に作れるし、材料だってそのへん(次元断層の中)にいくらでもある。

 

 あまり派手な品物……兵器類とか作って売ったりすると、流石に目立って一発で目をつけられるだろうから、小さな規模から徐々にやっていくつもりだ。

 

 会社としての拠点は、国の補助で古ビルを安く借りることができたので、そこを簡単に改装して工場スペースにした……ってことにしている。

 実際には、そのビルの中にある保管庫の中で『アスクレプス』に乗り、バースカルにもどって必要なものを生産して戻ってくる、って感じなんだけどね。

 

 そういう感じで、僕はこれからこの会社を大きくしていって――ただ、従業員は当面雇うつもりはないけど――生活基盤を盤石なものにしていく、という計画だ。

 

 あと、もう1つ。ここ最近で、新たなアスクレプスの機能、ないし能力が使えるようになっていた。

 なんか、アスクレプスを異空間にしまっておけるようになったのだ。

 

 わざわざ格納庫とかを用意しておいておかなくても、念じるだけで一瞬でアスクレプスを収納して置ける。そして、いつでも好きな時に呼び出せるようになった。

 

 アスクレプス自体にも、もともとそういう能力はあったからな。

 異空間に収納している『リベレーター』という武装を必要に応じて呼び出し、それを使って攻撃するっていう技があるのだ。ゲームにもあったけど、この世界でも同じように使えた。

 

 そして、その応用か何かかと思われるんだけど、僕自身も異空間を使って、ものをしまっておいたり、出し入れする感じのことができるようになっていた。

 ……ファンタジーの定番『アイテムボックス』みたいな能力である。あるいはド○クエの『ふくろ』。

 食料でも、武器でも、衣服でも、色々しまっておける。

 

 便利でいいな。特に、『星川製作所』として作った品物を運ぶのに使えそうだ。

 

 入れられる量に制限があるのかは、わからない。ないかもしれない。

 今のところ、どれだけ物を入れても『これ以上入りません』的なことにはなってないので。

 

 

 

 

 さーて……道筋は大体立った。これから忙しくなるぞ……なってもらわなきゃ困るぞ……

 

 

 

 

 

【▼月□日】

 

 起業してからおよそ4ヶ月。

 『星川製作所』の経営は順調である。

 

 どこかから注文ないし相談を受ける。

 見積を出して問題なければ、料金や納期を設定して契約する。

 

 材料を発注して集め、届いたら工場を稼働させて製品の作成に移る―――

 

 ―――と見せかけて『バースカル』に移動。

 

 設計データを打ち込み、生産設備に材料をぶっこんで、あとはもう全自動で作ってくれるので、本でも読みながら待ってればOKだ。

 

 納期自体は、製品の作成難易度やら何やらに応じて、不自然じゃない程度に設定してるけど、バースカルの生産設備なら、工業製品のパーツ程度、ものによっては秒でできるので、大量発注でも数日かからない。

 ただ、あんまり早く納品するとそれはそれで不自然に思われるので、そこそこ時間を置いてから納品するようにしてるけども。

 

 あと、完全にカモフラージュ用になってる、表向きの工場にも、多少の生産設備は置いておき、簡単な部品ならその工場で本当に作れるような環境を整えておいた。

 こうしておけば、誰かが見に来たりした時でも不自然な会社だとは思われまい。

 

 ……実際には、その生産設備そのものが、バースカルの生産設備で作ったものなんだけど。

 

 仕事は早くて丁寧、作れるパーツの種類の幅も広いとあって、評判は上々。お得意様も増えてきつつある。

 

 情勢が情勢だから、勢いがある企業なんかは短期間で伸びられるみたいだな。安定したシェアを持つ競合相手がほぼいないから、そこを掻っ攫えれば一気に成長できる。

 

 同じ時期に『一旗揚げよう!』と意気込んで起業した他の会社を突き放す勢いで成長できている。

 

 競合他社からの嫌がらせその他が心配だったんだが、その辺は意外にも、警察や行政が率先して守ってくれた。

 しかし、ちょっと考えてみれば納得の理由だった。

 

 片や、バリバリ仕事をして経済を回して、他の関連業種の助けにもなり、税金もたくさん納めてくれる優良企業。

 片や、業績がパッとしなくて燻ってる上、他人に迷惑をかけて足を引っ張るような連中。

 

 うん、復興途中でまだまだ伸びていきたい国や地域が、どっちを重く見るかなんて、考えるまでもないよな。

 

 徐々に業務規模を拡大していき、いい意味で忙しい、嬉しい悲鳴の絶えない経営状況になっているわけなんだが……強いて言うなら、その業務規模の拡大が問題でもあった。

 

 業績が上がってきたのであれば、普通はオフィスを大きくして、従業員もいっぱい雇って、業務規模や分野をさらに拡大して、会社そのものを大きくするものだ。

 そして僕は、従業員1人、イコールで社長であるこの会社には似つかわしくないくらいの業績をすでに上げつつある。

 

 結果、徐々に有名になってきているこの『星川製作所』に、『働かせてください!』って就業希望で来る人が出てきたり、行政からも『色々支援しますから会社を拡大しませんか?』っていう申し出が来るようになった。

 『優秀な個人事業主』から、『多くの人材を抱える優秀な会社』に成長させようとしてる。被用者側からも、そうなることを求められている。

 

 今のところは『まだ起業から半年も経ってなくて、色々ドタバタしてますので……』って言ってかわしてるけど、そう長くは持ちそうにないな……。

 

 というか、たった4ヶ月でこんなところまでこれた僕の方がびっくりだよ。

 行政の方もよっぽど、それこそ僕自身よりも断然必死なんだなってわかった。

 

 ひとまず半年くらいまではこのまま引っ張ろう。それ以降は……どうするかな……

 

 企業の実態が実態だからなあ……あんまり従業員とか雇って、内部に入れるわけにもいかないんだけど。

 あと、穿った見方かもしれないけど……企業スパイとかも怖いし。

 

 考えておかないとなあ……そのへん。

 

 

 

【▲月!日】

 

 起業から半年が過ぎた。

 

 少し前まで懸念だった、事業拡大その他の問題については、一応は解決を見せた。

 

 あくまでカモフラージュ用だった表向きの工場と、そこに置いてある製作用の機械。

 それらを、『バースカル』でさらにグレードアップし、本当に企業として、工場として稼働させられるようにして、体裁を整えた。

 

 その工場を『本社』として使って、新規人員の雇用を行ったのだ。合わせて、会社そのものの規模も拡大し、より多くの業務をこなせるようにした。

 

 実際にそこの工場でも製品を生産し、事務仕事その他も行うことで、正真正銘の会社として稼働させておく。これなら怪しまれまい。

 

 ただ、ここの他にも提携してる業者や、別棟の工場その他があるってことにして、必要に応じてその工場で作れる稼働限界以上のものを作ってるので、まだまだ業績は右肩上がりである。

 え、他の業者や工場? もちろん、星川製作所『バースカル』支店ですが何か?

 

 ペーパーカンパニーいくつか作っておいたから、必要ならそっちの名義使えるし……まだまだこの国、そのへんガバガバだからね。

 審査そのものが緩いのはもちろん、多少怪しくても、違法行為さえなくて、結果を十分出せば何も言われない。見逃してくれます。

 

 それにうちの会社、この地域の他の会社とかとも色々業務の上で協力することが増えてきて、顔も広くなってきたから、そういう横のつながりもできてるんだよね。そこも心強い。

 

 特に、原材料の輸入会社や、工業製品の組み立て工場なんかは、お得意様である。時に発注者側として、時に受注側として、いい付き合いをさせてもらってます。

 

 ……しかしあれだな。

 ひとまずこの世界での生活基盤を作ろう、と思って始めたことだったけど……なんだかコレ自体が楽しくなってきてる自分がいるぞ。

 

 いやもちろん、元の世界に帰るための努力とか調査も怠ってはいないんだけどね?

 

 アスクレプスのシミュレーターを使った特訓も毎日欠かしてないし、前に比べれば『次元力』のコントロールも、ほんのちょっとずつではあるが出来るようになってきたと思う。

 それに由来するアスクレプスの武装の威力その他が徐々に強力になっていってるから、それはうぬぼれとかじゃなくて本当だと思うし。

 

 ただ、そういう何かこう……テクノロジーみたいなものに関しては、どうしても表側の身分である『星川製作所』の名義で調べたり閲覧したり、取り寄せたりっていうことでしか調べられないからな……遅々として進まないのが現状だ。

 かといって、あまりよろしくない手段で探そうと何かすれば、そういうの専門の連中から一発で目をつけられるだろうし……下手に動けない。

 

 あくまで真っ当な企業が『業務の上でちょっと有用そうだなと思って興味を持ちました、教えて?』という感じのやり方でしかアクセスできなくて……それで『ダメ』って言われて断られたら、諦めるしかないから……。

 

 比較的有名な辺りでは、『ボソンジャンプ』なるテクノロジーが有望だと見てる。

 

 なんか、古代火星文明のオーバーテクノロジーを使った、瞬間移動的な技術らしい。……並行世界間の移動になんて使えるかは、わかんないし、そもそも技術の全容が見えてないからね。何とも言えない。

 けど、なんか連邦軍はもちろん、過激派組織とか色々なところが関わってて、一層巻き込まれたら酷そうなんだよな……テロ、怖い。

 

 ……ひとまず、ゆっくり調べていくことしかできない。

 

 

 

 ……というか、もう半年経ったんだよな。

 

 たしか、僕のいた世界の地球人類滅亡までのタイムリミットって、1年だったよな。

 

 宇宙で過ごした時間を考えると、半年どころかもう7~8ヶ月経ってるだろう。

 もしもヤマトの旅が順調に進んでいるなら、とっくにイスカンダルに到着して折り返し地点に来てるはずで……

 

 ……そうなったらもう、僕には何もできることなんてない気がする。

 

 当初考えてた『地球に物資をプレゼント作戦 by伊達直人』も、焼け石に水よりはマシかも、程度の思い付きだったし……

 

 ……だったらいっそのこと、ここでこのまま暮らしていくことを考えても……いいんじゃないかな……?

 

 最近、ふとした拍子にそんなことを考えるようになってしまった。

 

 あくまでダミーのつもりで作った会社を通して交流する、近所の人達や従業員の皆との交流が、思いのほかあったかくて、居心地がよくて……ね。

 それで僕も楽になるし、彼らのためにもなると考えれるなら……危ない橋なんて渡らずに、ホントに、いち有望企業の若手経営者として、ここで……

 

 

 

 



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第10話 灰色肌の幽霊少女

お気に入りが500件超えてました!
感謝に言葉もありません…!

感想も全部読ませてもらって、力にさせてもらってます。今後ともよろしくです!

そして今回、ヒロイン?登場。
本SSで、超大幅に運命が変わるキャラクターの1人……の、予定です。


【×月▲日】

 

 ……そろそろ、起業から1年だ。

 

 あれからさらに事業の規模を拡大した僕は、今まで使っていた古ビルを『支社』に変更し、より立地のいい場所に『本社』を移転させて『星川製作所』の運営を続けている。

 事業規模自体を見れば、まだ中小企業の域を出ない会社ではあるけど、それでも従業員は50人を超え、それなり以上の規模にまで成長していた。

 

 まあこれは、僕の営業手腕が卓越していたとかではなく……周りにあった付き合いのある会社で、燻り気味だったり経営が苦し目になってきていたところと合併した結果、急成長したって話なんだけどね。

 経営では一番うまくいってた『星川製作所』の名前をそのまま使って、各事業所は『○○支社』って感じでそのまま運営を続けている形だ。

 

 そしてそれぞれの支社においては、もともとやっていた業務をそのまま行っている。

 

 どういうことかというと、例えば、元々『星川製作所』はパーツその他の製作がメインだったけど、その業務は、もともと『本社』だった、今は『支社』になっている工場にそのまま任せてある。

 

 他の合併した会社は、それぞれ『輸出入業』『資材調達』『人材派遣』『機械類整備』『運送業』の5つなので、それぞれがやっていた業務をそのまま支社の『部門』にして、『星川製作所』全体で、普通なら外部委託するような業務まで、自社でほぼ全部自己完結できるようになった。

 その全体の運営には、流石に僕一人じゃ手が回らないので、各部門でもともと手腕を発揮していて、ノウハウも持っている元・社長さん達(現・支社長&本社役員)の方々にとてもお世話になった。

 

 今では国や自治体からの覚えもめでたく、それぞれお得意様になっている。

 

 大口の仕事が入った時なんか、支社も含めて全体で結構必死こいて業務こなしたりして……古き良き『会社は家族』的な、いい感じの経営状態になってると言えるだろう。

 

 みんなで手を取り合って、この1年で『星川製作所』はここまで大きくなりました。

 

 ……そう……もう1年経ったんだよなあ。

 元の世界の地球は……どんな形にせよ、一応の結末を迎えたはずだ。

 

 どうなったかな……ヤマトは無事に、イスカンダルから、地球を救う『何か』を持ち帰れたんだろうか。

 

 それとも、あの次元断層の出口で、あるいはそのもっと後にまた何かがあって志半ばで倒れて、地球人類は滅亡してしまったんだろうか……

 

 ……今となっては、それを知ることもできない。

 

 

 

【×月☆日】

 

 今日、ちょっと、いやかなりびっくりするようなことがあった。

 

 本社の在庫保管庫の1つとして使ってるとある物件に、最近『出る』って噂になってるところがあったんだよね。

 何が出るかは、まあ、説明するまでもあるまい。

 

 不動産屋に紹介してもらった時は、特にそんな話は聞かなかったし、最近までは問題なく使えてたのに……どうしたんだろうか、今になって。

 軽く調べてみたけど、別にそこで人が死んでたりとか、曰く付き物件って感じでも何でもないようだったんだけど。

 

 で、近くまで来たのでちょっと寄ってみたわけだ。

 

 と言っても真っ昼間だったので、流石にこんな時間から出やしないだろうな、と思ってたんだけど……電気もしっかりつけて倉庫内を見回ってみたら…………いた。

 

 倉庫の隅にぽつんとたたずむ、半透明の髪の長い女の人ががががが……

 

 機動兵器やインベーダーの相手はしたことあっても、流石に心霊現象の相手はしたことないし、耐性もついてなかった僕は、思わずちびりそうになってしまったわけだが……明るくしていたことが功を奏して、ふとおかしなことに気づいた。気づけた。

 

 あーっと、僕の中で、女の人の幽霊といえば、一番に思い浮かぶのは……呪いのビデオを見ると井戸の中から出てきたり、テレビ画面から飛び出してきて襲ってくる、長い黒髪を振り乱してめっちゃ怖いあの人なんだ。

 

 やばいな、この人も髪の毛長いな、けど黒くないな、外国の幽霊かな……と思った。

 

 そのまま、テンパった頭でその幽霊のその他の特徴を見ていったんだけど……よくよく見ているうちに、徐々に色々なことに気付いて冷静になっていったのだ。

 

 髪の毛は長くて、白に近い灰色。

 でもなんか、よく手入れされてるみたいに奇麗なストレートヘアで、幽霊っぽくない。

 

 目は……金色? 黄色?

 

 表情は無表情で虚ろな感じ。この辺はちょっと幽霊っぽいか。

 

 肌が……半透明だからちょっとわかりにくいけど、灰色っぽくないか? 血の気がない色だと思えば、確かに幽霊っぽいのかもしれないけど……

 

 耳……ちょっと長い上に、先端がとがってないか? エルフ耳?

 え、スパロボだと思ってたのになんかファンタジー要素? んなあほな。

 

 そして……服が、コレ……ぴったりした、体に張り付くような……まるで宇宙服とかパイロットスーツみたいな感じに見える。

 これのせいで幽霊らしさが8割減になってて、落ち着きを取り戻すことができた。

 

 いや、まあ、宇宙での戦闘で死んだ幽霊だとしたら、こうなっててもおかしくはないのかもしれないけど……そんな幽霊がなんでこんな場所に出るんだっていう……

 

 割かし冷静に状況を見ることができるようになった僕は、恐る恐るだけど、その幽霊(仮)に話しかけてみた。

 

 すると、返事はしなかったけど、そのまま彼女はこっちに近づいてきて待て待て待て。

 怖い! 幽霊っぽさは確かに多少マシではあるけど、半透明の女の人が音もなく近づいてくるのは普通に怖い!

 きちんと足も2本あって、浮遊したりしないで歩いて近づいてきてるけどやっぱ怖い!

 

 が、驚いたのはその直後だ。

 その幽霊(仮)は、そのまますーっと僕の中に吸い込まれてしまったのである。

 

 やばい、取り憑かれた!? と思ったものの、特に不調はない。意識が遠くなるとか、自分の意思に反して体が動いたりとか、そんなことも特にない。

 けど、体の中に何かが入っているような、異物感、違和感みたいなものは感じる。

 

 その日は仕事を早めに切り上げさせてもらって、『バースカル』に戻って調べてみたら……どうやら僕の中に入って行ったその『何か』は、厳密には幽霊ではなく、何かしらの思念体・精神体みたいなものであることが分かった。

 

 酷く存在として希薄で不安定な状態になっており、このままでは消滅してしまいそうな感じではあるようだけど……生きた人間、あるいはそれに近い何かだってことだ。

 

 興味が出てきた僕は、アスクレプスの中にあったいくつかのデータを応用して使い、その精神体が依代(よりしろ)として使えるようなデバイスを作った。

 Z時空だと、霊魂みたいな存在をAIの代わりに機動兵器に乗せて戦わせる連中もいたからな……というか、アスクレプスの所属陣営が思いっきりそうだったから。その関係で、使えそうなテクノロジーが保存されてたのは、よかった。

 

 ひとまず簡易的なものってことで、タブレット端末型にしてみたそれを手に取ると、精神体は自分から僕の中から抜け出して、その中に入って行った。

 そして次の瞬間、タブレットの画面に、さっきの女の人が映し出された。上手く行ったようだ。

 

 ただし、今度は半透明にはなってない。肌の色も輪郭もはっきり見える。

 

 その状態で話しかけてみたんだが……なんか意識がボーっとしてるみたいで……寝起きで頭が目覚めてない人に話しかけてるみたいな感じ。反応が上手く返ってこない。

 少しの間そうしてみてたんだけど、なんかダメそうなので、ひとまず今日はそれで終わりにした。

 

 

 

【×月★日】

 

 今日丁度休みなので、朝からあらためてタブレット……の中にいる精神体に話しかけてみると、昨日とは打って変わって普通に応対することができた。

 

 しばらく時間を置いた間に、徐々に意識がはっきりしてきたらしい。

 昨日、僕が助けてくれたことも覚えてるって。ありがとうって言われた。

 

 いや、助けたって言っても、なんか体の中に入り込んできたから、対処療法的に代わりのものを用意しただけなんだし、別にそういうつもりはあんましなかったんだけどね。

 

 けど、彼女曰く、あのまま放置されていたら、遠からず自分の意識は完全に消滅していただろうから、本当に助かったんだって。まあ、そういうことならよかった……かな?

 

 ただ、それからさらに詳しく話を聞いてみたんだが……いや、聞いてみようとしたんだが、そっちの方は上手くいかなかった。

 どうやら彼女、いわゆる『記憶喪失』になってるらしくて。

 

 自分のことも含めて、ほとんど何も覚えていないんだそうだ。

 自分がどこの誰で、何をしていた人間なのかも、何も覚えていない、と、申し訳なさそうに答えてくれた。

 

 ただ、自分が持っているこの、精神体云々関連の能力については、直感的に使い方はわかりそうだ、とは言ってた。

 

 それと、ただ1つ……名前だけは覚えているそうなので、教えてもらった。

 『ミレーネル・リンケ』、だそうだ。

 

 名前からして、とりあえず日本人じゃなさそうである。

 いや、肌の色や身体的特徴からすると、地球人かも怪しいんだが(多分違う)。

 

 彼女はそして、どうかこのままここに置いてもらえないか、と頼み込んできた。

 

 迷惑をかけることになって申し訳ないが、自分は精神体だから、このデバイスに宿っていることさえ許してくれれば、他には何もいらない。飲食も必要ないし、放っておいてくれていい。

 ただ、記憶が戻って……自分がここから出ても生きていくだけの力を取り戻せるまで――そんなことが可能なのかどうかも含めて、思い出さなければならないけど――ここに置いてほしい、と。

 

 平面上でではあるけど、あまりにも必死に頼み込んでくるもので……まあ、僕としても、中途半端に助けた後で放逐するのはちょっとどうかと思うし、それについては聞き届けることにした。

 

 ただ、彼女にはここ……『バースカル』の生産設備について見られてしまっているので、秘密保持その他の理由で、自由に出歩かせるわけにはいかないけど、と話した。

 もちろんそれは了承してくれるようで、基本、タブレット(外部ネットワーク非接続)の中で大人しくしていてくれるようだ。

 

 

 

【×月?日】

 

 今日、ミレーネルがちょっとした大手柄を挙げた。

 

 ここ数日の間、ミレーネルには、タブレットの中で暮らしていてもらったわけだけど……何だか徐々に元気がなくなってきてるな、と思っていた。

 いやまあ、無理もないだろう。こんな狭い(という感覚なのかどうかはわからんけど)ところで、昼も夜もなくジッとしてなけりゃいけないんだし。牢屋の中みたいなもんなんだろうな。

 

 なので、ちょっとくらいならいいかな、と思い、気分転換に彼女を外に連れ出した。

 

 タブレットを持って、外を散歩するってだけなんだけどね。カメラ機能とかをいろいろ工夫して、中にいる彼女にも外の景色が見えるようにして。彼女の声は、イヤホンで僕だけが聞けるようにした。

 

 初めて見る外の景色やら街並みに――幽霊だった頃は自我が希薄で、記憶とかあんまりなかったっぽいし――すごいすごい、と楽しそうにしていた。

 連れ出したかいがあったかな……と思っていた、そんな時だった。

 

 バスに乗っている途中、突如、ミレーネルが何かに気づいたように押し黙ったかと思うと……神妙な声で、こうささやいてきた。

 

 『斜め前のシートに座っている2人組の男、テロリストよ』と。

 

 これは後になってから聞いたことなんだけど、ミレーネルには人の感情とか悪意を感じ取る、ニュータイプみたいな能力が備わってるらしく、それのおかげで、そいつらの強烈な殺意や悪意を感じ取れたらしい。

 それで詳しく探ってみると、テロを起こそうとしているというところまでわかった、と。

 

 その後僕は、その2人と同じバス停で降りて、同時に警察に匿名で『テロリストが○○バス停近くの駅ビルに入った』と通報し、後をつけた。

 

 その後、警察に職務質問と手荷物検査をされそうになって、男2人は拳銃を取り出して逃走。

 近くにいた小さな女の子を人質にしようと飛びかかったんだけど……そこに僕が割り込んで、最近習っている護身術で撃退した。

 

 と同時に、ミレーネルが精神波を放ってテロリスト2人の精神にダメージを与えて動けなくし(そんなことまでできるの君?)、その隙に警察が確保した。

 

 こうしてテロは未然に防がれ、僕は後日、警察から感謝状をもらうことになった。

 

 しかし、公にできない身分であるミレーネルはそういうのもらえないわけで。

 なんか僕だけ褒められることが心苦しかったので、ミレーネルにも『何か欲しいものある?』と聞いたら、『たまにでいいからまた気分転換に外出できれば』とのことだった。

 

 そのくらいなら全然いいけど、どうせなら……

 

 ……うん、ちょっと思いついた。今度試してみよう。

 上手く行けば……彼女に、この狭い空間(空間ですらないか)とお別れさせてあげられる……かもしれない。

 

 

 

 




原作ブレイク?開始。

今回登場した彼女については…次回あたり説明載せるかもです。


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第11話 ミレーネル・リンケ

ふと見たら、ランキングで28位に乗ってました…!
これも読んでくださってる皆さんのお陰です。今後とも楽しんでもらえるように頑張りますので、よろしくです!


【×月+日】

 

 先日、テロリストの犯行を未然に防ぐという大手柄――しかも、その時はかかなかったけど、その一件で助かった企業の中には、うちと付き合いのある会社もあった――を立てたミレーネルに対し、感謝を込めてちょっと贈り物をさせてもらった。

 

 次元力で作った、新しい体を。

 

 少し前に話したと思うが、『アスクレプス』のデータストレージの中には、霊魂(イドム)や精神体の類をパイロットとして搭載する機構に関するデータも入っていた。

 

 さらに、『バースカル』には、アンドロイド作成のためのデータも入っていた。それも、金属部品を極力少なくして、有機物質をメインにした……アンドロイドっていうよりは人造人間に近いんじゃないかっていう設計プランも合わせて。

 

 今回はそれらを応用し、組み合わせて、さらに次元力をちょっと応用することでより生身の肉体に近づけ……ミレーネルが取りついて、動かすことができる仮の体を作ってプレゼントしてみたのである。

 

 最初、彼女は『えっ? えっ?』って困惑気味だったけど、いざ使ってみるとすごく気に入ったらしくて。

 

 涙すら浮かべて満面の笑顔で『ありがとう!』と抱き着いてきた。

 アンドロイドだとはわかってるけど、ちょっとドキドキした。いや、元が美人だからさ……。

 

 しかし、そのまま『バースカル』に置いておいたんじゃ何の意味もないので、彼女には、『星川製作所』の新規採用の社員として、事務で働いてもらうことにした。

 女子寮に部屋も用意して、もちろんちゃんと給料も出す。

 

 これなら、休み時間とかに買い物に出たり、町を回ったりもできるし、友達もできるかもしれないし。

 

 あ、ちなみにミレーネルの体は、彼女本来の灰色肌に灰色髪、エルフ耳の形態と、地球人らしい普通の肌色に、普通の耳の形、髪色は黒のモードに切り替えられるようになってるので、職場への溶け込みに関しては問題ない。

 …作った後で『名前横文字なのに黄色人種系にしちゃった』って気づいたけど…本人気にしてないし、まあいいか。

 

 ……正直、身元もよくわからない彼女にここまでしてあげて、会社の内外を――流石に経営上重要な場所に立ち入る許可は与えてないけど。バースカルにも、ボディのメンテナンスとか以外では立ち入れなくさせてもらったし――歩かせることに、不安がなかったわけじゃない。

 けど、なんだか……テロを防いだときに画面の中で彼女が見せた、本当に嬉しそうな、ほっとしたような笑顔や、そこに確かにあった優しさみたいなものは……信じられる気がして。

 

 ……ただ、流石に予防線みたいなものは……悪いけど、用意させてもらった。彼女にも内緒で。

 

 アンドロイドの体にはGPSが埋め込まれてるし……『イドム』の技術を応用して暗示をかけ、『バースカル』関連とか、僕や『星川製作所』に不都合なことについては口外できないようにしてある。

 

 ……彼女を信頼していないようで悪いけど……いや、実際信頼しきれていないからこういうことをしてるわけだけど……こればかりはね。

 僕だけじゃなく、僕と一緒に頑張ってくれてる社員全員の未来に関わることでもあるから……某天狗のお面の人も使った手だと思って……うん、ごめん。そこは許してくれ。

 

 

 

【×月@日】

 

 ミレーネル、よく働く。

 業績的にも、勤務態度的にも、満点といっていいんじゃないかってくらいに、ばっちり働いてくれてる。社内での評判もいい。

 

 事務仕事も、その他の雑用仕事もばっちりこなし、さらに他の部署のヘルプまで全般こなせるっぽい。

 特に、広報系の仕事が得意みたいで、仕事自体も楽しいって言ってた。

 

 もしかしたら記憶喪失前の仕事で、そういうのに慣れてるんじゃないかと思うくらいだ。

 ……相変わらず、そのへんの記憶はまだ戻ってきてないそうだけど。

 

 正直、色々な『予防線』を張ったこっちが罪悪感を覚えるくらいに、こっちには害になることは何一つせずに、一生懸命働いてくれるので、まー助かってる。

 

 あと、それとなく聞いてみたら、友達もできたみたいで、職場内の付き合いも上手くやれてるらしい。よかったよかった。

 

 ……このまま問題なく進んでいけば、色んな意味で僕が『特別扱い』する必要も、いつかなくなるかもしれないな。

 

 

 ☆☆☆

 

 

Side.ミレーネル

 

 私の名前は、ミレーネル・リンケ。

 この惑星『地球』に住んでいるが、地球人ではない。

 

 ここからはるか遠く離れた場所、どこかの宇宙にある、アケーリアスの宙域にあるとある惑星に、ごくわずかに存在していた『ジレル人』の生き残りだ。

 

 私には、今まで生きてきたうちの、一部の記憶が欠落している。

 忘れているのに、欠落していることだけはわかるっていうのは……奇妙な感覚だけれど、実際にそうなので仕方がない。

 

 私の最後の記憶では、私と、もう1人……姉のような存在である、ミーゼラ・セレステラは、惑星レプタボーダにある、ガミラスの収容所にいた。

 そこで……他の囚人共々、虐待に等しい扱いを受けていた。

 

 ……元々、私達ジレル人は、他者の精神に干渉する能力を持つことから『魔女』と呼ばれて各地で忌み嫌われており、迫害を受けていた歴史を持っている。

 それもあって、レプタボーダに収容されていたのだ。

 

 惑星レプタボーダ……あそこは、控えめに言っても地獄だった。

 劣悪な環境、過酷な労役、ろくに食べ物も食べられず、反抗すれば惨い体罰を受け……中には死んでしまった者もいた。他にも、思い出したくもないような、色々な仕打ちを受けた。

 

 そんな地獄からどうやって抜け出したのか……そこのあたりの記憶が全くない。

 というか、全体的にあやふやなのよね。……私、何歳くらいまであそこにいたのかとか、そのあたりまでも。

 

 そんな記憶の空白を挟んで、その次に覚えているのは……奇妙な機械に、精神体となった私が封じ込められている(保護されている、だったかもしれない)という状態。

 

 何があったのかわからないけど……いや、何かはあったのは間違いないんだと思うけど、私はレプタボーダを脱出して……しかし、生身の体を失ってしまったようだった。

 

 幸いと言っていいのか、その後すぐに、彼……星川ミツル、という名の地球人の青年に拾われ、紆余曲折を経て、この仮の体を今は与えられている。

 そして、社会的な身分も。どうやったのか、戸籍まで合わせて用意してくれた。

 

 その代わりに、この体を作ったテクノロジーについてや、それを実行したあの、よくわからない……宇宙船のような施設については、他言しないでほしい、と言い含めて。

 

 その彼には私は、こうしてもう、記憶の一部を取り戻していることは、告げていない。

 

 一応釈明しておくと、記憶喪失だったのは本当だ。彼に出会った当初は、本当に私は、自分がどこの誰なのか、全く覚えていなかった。

 この会社で働くようになって、精神的に大分ゆとりが出てきて……ある日、何の前触れもなく、ふと思い出したのだ。だからその時までは、私は正真正銘の記憶喪失だった。

 

 ……もっとも、記憶を取り戻したことについて、これから先も彼に言うつもりは……当分ない。

 

 一体何で私が、こんな、銀河系からして別であろう惑星に来てしまっているのかはわからないけど……今の私には、居場所は他にない。

 もしここを追われてしまったら、行く当ても、頼れる人もいないのだ。

 

 だからしばらくは、このままここで、1人の地球人として働いて暮らそうと思う。

 

 でも、いつかは地球を出られればいいな、とは思ってる。

 

 もちろん、あのレプタボーダに戻りたいというわけではない。

 

 かといって、故郷の星に戻りたい……というのも違う。

 そもそも、私達ジレル人は、故郷の星ですらも、他の民族から迫害を受けていた。戻れば安らげる故郷なんて……そんなもの、最初からない。

 

 ……私の目的、それは……ミーゼラを探すことだ。

 

 レプタボーダ以降の記憶がない私は、当然、彼女があの後どうなったのかを知らない。

 今もまだあの地獄にいるのか、それとも、上手く脱出してどこかに移り住むことができたのか、あるいは……考えたくないけど、もう……

 

 それを確かめるためにも、いつか私はこの惑星を出て……たとえそれが途方もなく長い道のりになったとしても、『大マゼラン銀河』に行って、彼女を探したい。

 私の知る限り、たった一人残ったジレル人の同胞であり、いつも一緒だった、姉のような人だから。

 

 そのためにも、今は、今まで通りここで暮らそうと思う。

 この惑星のことを調べて……まずは何よりも、大マゼラン銀河に戻る術があるのかどうかが肝要だけど……宇宙開発技術、どのくらい進んでいるかしらね……

 

 その目途がつくまでは……申し訳ないけれど、彼……星川ミツルを、その善意を利用させて貰おう。

 

 その代わりじゃないけど、私も、彼の害ないし不利益になるようなことはしないつもりだから。

 

 黙っていろと言われたことは口外しないし、行くなと言われた場所にも行かない。仕事は真面目にこなすし、そっちの分野で信頼を裏切ることもしない、忠実な社員として振る舞おう。

 いつかテロを防いだ時のように、彼の利益になる話や出来事があれば、教えよう。

 

 これは、この居場所を用意してくれた彼への恩返しであると同時に……もし『その時』が来たら、ここを離れさせてもらうため、そしてその時に、私の願いをかなえるために彼に協力してもらうための……迷惑料の前払いという、打算でもある。

 

 

 

 ……けど、あえて言わせてもらうなら……もう1つ。

 

 

 

 ……私を、ここに置いておいてくれたことに対しての、恩返し、もあると思う。

 今さっき言ったばかりの、『居場所を用意してくれた』とはまた違う意味でだ。

 

 単に、地球人として生きるための身分と立場、ということじゃなく……こんな風に、たくさんの人に囲まれて、集団の中で生きる場を与えてくれたこと。

 それが……変な話だけど、私は何よりうれしくて、感謝しているから。

 

 何度も言うように、私達ジレル人は、長らく他の民族から迫害されていて……宇宙のどこにも、居場所なんてなかった。

 

 それこそ、レプタボーダでだって疎まれていたくらいだもの。皆、私達を『魔女』と呼んで忌み嫌い、関わろうとも、近づこうともしなかった。

 

(けれど、今は……)

 

 こんな風に同じオフィスで、何人もの仲間達と一緒に協力して、仕事に取り組んでいる。

 不具合が出れば助け合い、1つの目標を達成すれば、お互いの健闘をたたえ合い、『打ち上げ』として楽しく会食の席を共にして……そしてまた次の目標へ。

 

 もちろん、それを知らないからではあるだろうけど……私を『ジレル人の魔女』と言って後ろ指を指して、忌み嫌うような人は1人もいない。

 

 私を私として、ミレーネル・リンケという1人の女性として接して、当たり前のように受け入れてくれる。

 

 この、温かい関係……居心地のいい場所……やりがいのある仕事……明日が来るのが楽しみな日々……どれもこれも、今まで、欲しても欲しても手に入らなかったものだ。

 

 だから、つい……ずっとこの日々が続けばいいのに、と思ってしまう。

 

 いつまでも続けてはいられないのだと、わかっていても……それでも、少しでも長く、ここにいられたら、と。

 

 そんな居場所をくれた彼には……打算も何もない。

 本当に、心の底から……感謝している。

 

 その恩を少しでも返したいから、形にしたいから……私は今日も、1人のOLミレーネル・リンケとして、頑張る。

 

 

 

 




【おまけ】

前回~今回登場したキャラ『ミレーネル』について。

・ミレーネル・リンケ
『宇宙戦艦ヤマト2199』に登場のキャラ。
設定とかその他はネタバレになるので一応割愛。
原作アニメでは僅か1話、『スパロボV』ではセリフも3つか4つくらいで出番もほぼ一瞬しかない。
ないのだが、作者的にそんな一瞬で退場させるにはもったいないんじゃね? と思っていて、多分そこまで詳細な設定もないだろうことをいいことに、大幅に色々と改変されて抜擢された。
今後の活躍にご期待ください。


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第12話 明かした事実と、気付けた事実

ランキング11位感謝!!
思わず二度見して変な声が出て、職場の隣の人に『何してんのコイツ』的な目で見られました破戒僧です。

これからも楽しんでもらえるように頑張りますので、どうぞよろしくです!


【□月□日】

 

 ミレーネルが働き始めてから、およそ2ヶ月が経った今日、彼女から『大事な話がある』と呼び出された。

 

 いや、先に言っておくと……別にその、愛の告白的な何かじゃないか、なんて期待はしてなかったよ? ホントに。

 ……そういう話をするような雰囲気じゃなかったからね。なんかこう……思いつめてるというか、なんというか……そんな雰囲気だった。

 

 で、聞かされたのが……彼女の記憶と、素性について。

 『今まで黙っていてごめんなさい』という謝罪と共に、それは始まった。

 

 少し前から、彼女の記憶はいくらか戻っていたらしい。

 

 彼女が、やはりというか地球人ではなく、『ジレル人』という種族であるということ。

 

 地球から遥か遠く離れた――具体的にどのくらい離れたところにあるのかは知らないらしいが――どこかの宇宙にある、アケーリアスとかいう場所(惑星の名前ではないらしい)に住んでいた種族で、僕から見れば宇宙人にあたること。

 

 大マゼラン銀河にある、ガミラスの収容所に入れられ、酷い暮らしを強いられていたこと。

 

 気が付いたら僕に保護されていた(inタブレット)こと。

 

 自分には、人の心に干渉する特殊な能力があり、ジレル人特有のその能力が理由で、彼女達は迫害される身の上だったこと。

 

 思い出せている限りではあったが、全部話してくれた。

 

 その上で、『どうかこれからも、私をここにおいてください』と。

 

 今言ったように、彼女達『ジレル人』は、宇宙のどこにいっても迫害されて居場所がなく、数少ない同族だけでひっそりと暮らしているしかなかった。……その同族も、彼女が知るかぎりでは、彼女ともう1人、姉のような人の2人だけになってしまったそう。

 

 そんな自分が、こんな風に受け入れられて、仲間達と呼べる人達と一緒にいられる。

 それだけで自分にとって、ここは楽園のような場所だから、と。

 

 それを与えてくれた僕には、本当に感謝していて……しかしだからこそ、自分の目的のためにそのことを話さず、記憶が戻ったことも隠して、利用するような真似をしていたことが、ずっとつらかったのだと語ってくれた。

 

 1日、また1日と、会社の皆と一緒に過ごし、仲良くなっていく中で、どんどん罪悪感がこみあげてきて……そして今日、耐えられなくなったそうだ。

 

 もちろん、これを話したことで、僕から追い出される可能性を考えなかったわけじゃない。

 それでも、最初に私を信じてくれたのはあなただから、居場所をくれて、想像もできなかったほどの幸せな時間をくれたのは、あなたの方だったから……と。

 

 ……そうして、全て彼女から聞いたわけだが……僕の方からは、特に何もない。

 

 彼女が心配していたような、追い出すとかそんなことをする気はない。

 むしろ、話してくれてありがとう、と。そして、これからもよろしく、と言わせてもらった。

 

 僕からすれば……僕の方こそ、暗示とかGPSとか体に仕込んでいた分、罪悪感あったんだし……あ、それについてもこの機会にカミングアウトさせてもらった。

 ちょっと驚いてたようだけど、気にしてはいないそうだ。自分の身の上や、知ってしまった事情を鑑みれば当然のことだって。むしろ、優しいくらいだって。

 

 だからまあ、隠しごとをしてたことについては、それでお相子ってことになった。

 

 その他にも、色々と言いたいことをこの機会にお互い全部ぶちまけて、堅苦しい関係の下になる隠し事は極力ゼロにさせてもらったよ。

 そうしてから見る彼女の笑顔は、今までで一番かわいかったと思えた。

 

 そんなわけで……これからもよろしく、ミレーネル。

 

 

 

【▽月☆日】

 

 ミレーネルのカミングアウトからおよそひと月。

 

 今日付けでミレーネルは秘書課に移動。

 僕の秘書、すなわち『社長秘書』になってもらうことにしました。

 

 彼女の場合、僕が外部に隠してる色々な事情についても既に知ってて、連れ歩くには都合がいい立場だし、地球外の技術や知識についても造詣があるから。

 

 これから先は、必要に応じて彼女も連れて転移し、『バースカル』を用いた部分の僕の組織運営についても、助けてもらうことになっている。

 前にも言った気がするけど……あらためてよろしく。

 

 ところで、そのミレーネルに聞いた話で、聞き捨てならないことがあった。

 

 彼女が以前入れられていたという、『惑星レプタボーダ』なるところの収容所なんだけど……そこを管理していたのが、『ガミラス』だという点だ。

 

 前回の日記ではしれっと流しちゃったけど、つまり彼女は……僕と同じ世界から転移してきたということになる。

 どうして、一体彼女に何があってこの地球に、しかも精神体で転移してきたのかはわからないけど……まあ、今はそれはいい。

 

 そして彼女は、叶うならばいつか、その世界に帰りたいらしい。

 

 ただそれは、ここでの生活を捨てたいってことじゃなくて――むしろ、生活基盤はずっとここに置いておきたいそうだ。今の生活がすごく好きだからって――探したい人がいるらしい。

 

 前にもチラッと話した、ただ1人の同族。彼女にとって、姉みたいな人だという……『ミーゼラ・セレステラ』という人を。

 

 もし、今も彼女がひどい目にあっているなら助けたい。助けて、今自分がいる、この楽園のような場所で……一緒に暮らしたい。

 

 だから、もしそこに行ける手段があるのなら、そんなチャンスが来たら、自分は探しに行きたい。叶うなら、僕にも手伝ってほしい、と。

 

 そんな時が来るかどうかはわからないし、どんな形で力になれるかもわからないけど……僕はそれに、迷いなくうなずいた。

 

 ……僕にとっても、あの世界……の、地球は、無関係とは言えない場所だ。

 事情が事情なので、果たして故郷とまで言えるかは微妙ではあるものの、全く思い入れもない訳じゃないし。

 

 もうここにきて1年以上。ヤマトが地球を救えたのかどうか……確認するすべがないから今までは放っておいたけど、知りたくないって言えば嘘になる。

 

 だから僕も、その方法については探すし、もしそれができそうだと思ったなら……その時はミレーネルも連れて行くから、一緒に行こう。そう約束した。

 

 ……というかさ、その方法はずっと探してはいるんだけど、未だに見つかってないんだよね。

 あくまでも、一般人が探せる範囲でしか探せないから。

 

 なんか最近は、また再び世間が物騒なことになりつつあるからさ……

 

 少し前から、名前はよく知ってる『アロウズ』が色々とやってるようだし……『プラント』の方もきな臭い。近々、収まったと思っていた戦争やら何やらが再び起こりそうな気配がある。

 更には、何やら宇宙からまた変なのが攻めてきてるっていう話も聞くし……

 

 ……巻き込まれるのだけは勘弁してほしいもんだよ。頼むからよそでやってくれ。

 

 幸いと言っていいのか、それらの火種になりそうな場所からは、いずれもこの会社がある国と離れてるけど(最初にそういう国を選んで起業した僕、偉い)……。

 

 ただここ、位置的には東南アジアに近い位置の小国だから……物価も人件費も安くていいけど、日本や中東でいざこざが起こると、その波がきそうで怖いんだよね……

 

 世界地図で見ると、そう遠くない位置に『アザディスタン』って国があります……。聞いたことあるぅー……。

 

 ……あれ、ちょっと待て?

 今、何か頭に引っかかった。何かがおかしい気がする。何だこの違和感……?

 

 このアザディスタン、というか、この国が舞台の1つになってる『ガンダム00』絡みで、何か見落としてるような……忘れてるような……

 

 

 

【▽月★日】

 

 昨日の違和感の正体が分かった。

 おかしい。時系列がおかしい。

 

 というか、こんなことに何で今まで気づかなかったんだってくらいの特大の矛盾だ。

 

 今の世界情勢は、アロウズの台頭により、世界各地で地球連邦に恭順しない国家や地域に対する弾圧が頻発しており、混沌としている。

 プラント関連ではまた戦争が始まったみたいだし、日本には宇宙からの侵略者的な連中がまた出たっていう話も聞いた。

 

 で、だ。

 

 『アロウズ』は、『ガンダム00』の世界の敵勢力。

 これに対して、刹那君達『ソレスタルビーイング』は、『ダブルオーガンダム』を筆頭とした新型のガンダムや戦艦で応戦したはず。

 後に、『ダブルオーライザー』になって、敵のボスであるイノベイドの金髪野郎と一騎打ちの末に決着をつけた……というストーリーのはずだ。

 

 ……スパロボZの世界のことまでしか知らないので、僕の原作知識はこれが限界だけど……大体あってると思う。違ったらごめん。

 

 問題は、刹那君の乗ってる機体である。

 リボンズとの決戦の時は、彼の機体は『ダブルオーライザー』だったはずだ。

 

 しかし、約1年前、僕が『次元断層』の中で見た時……遠目に見てたからちょっと自信ないけど、彼は『ダブルオークアンタ』に乗っていたはず。

 

 ……あれって、ライザーより後の機体だよね確か?

 で、今まさにソレスタルビーイング戦ってるわけだけど、時期的にダブルオーかライザーあたりだよねまだ。

 

 何であの時、クアンタに刹那君が乗ってて……あ、ティエリアも最新の機体に乗ってたよな。

 

 ……ひょっとしてあの2人は、今のこの時点よりもさらに後、イノベイド連中を倒して、クアンタが完成した後の時間から飛んだってことか?

 

 イノベイド連中とのアレコレが集結した後、クアンタが作られるのは、今から数えて1年くらいは後のはず。

 なのに、今から数えて1年以上前、次元断層でクアンタが目撃された。

 

 この異常な事態を説明できる仮説は……2つ。

 

 1つは、刹那君達が時間を超えて過去に来たということ。

 この世界から、恐らくは僕らが元いた世界に飛んで、ヤマトに合流した際……時間軸にして約2年間、過去にさかのぼって現れたという可能性。

 

 そしてもう1つは……僕の方が時間を超えて過去に来た可能性。

 

 あの次元流の中で、場所と世界だけじゃなくて時間まで狂ったところに出たとしたら。

 刹那君達は、時間は移動しないで現れたとすれば、彼らがクアンタに乗っていた時間こそが、ヤマトがあのあたりに差し掛かっていた時間。すなわち、今から約1年、あるいはもっと後の未来。

 

 と、いうことは……だ。

 

 僕がいた世界と、この世界の間で……今まではなんとなく、時間も同じように流れるもんだとばかり思ってて……もう1年経ったから、向こうの地球も何らかの形で決着がついただろうなと思ってたけど……その話も変わってくるな。

 

 もしかすると、今の時点では、並行世界の地球はまだ、リミットを迎えてない……いや、それどころか、ヤマトが出港するよりだいぶ前の可能性が高いってことか!

 

 これは……ちょっと気合入れてその方法を探す意義が出てきたかもしれないぞ。

 

 

 

 



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第13話 そして時は動き出す

 

 

【○月○日】

 

 ここ2年と少しの間に、僕の会社はぐんと大きくなった。

 

 ちょっと不謹慎なことを言うようだけど、再び世界各地で勃発した戦争や紛争、そしてその後の復興のために、次から次へと製品その他の受注が舞い込んできて、一気に社の勢力を拡大することができたからな。いわゆる、『戦争特需』って奴だ。

 

 手放しで喜んでいいことかどうかは、倫理道徳を考えるとちょっと微妙ではあったけど、ビジネスチャンスに変わりはないので、この機会にさらに僕の会社は力を増したのである。

 

 世界に名だたる大企業に……とまでは行かないけど、国内有数の複合企業グループと呼べる立ち位置にはのし上がれたと思う。

 

 支社のみんなの企業努力もそうだし、僕自身も『バースカル』を最大限生かして成長戦略には貢献した。

 

 加えて、秘書として陰から僕を支えてくれたミレーネルの働きも大きい。

 

 事務仕事や僕の補佐はもちろんだけど、彼女はジレル人特有の精神干渉能力を使って、悪意を持って僕や会社に近づいてくる人や、潜り込んできた産業スパイなんかを、片っ端からあぶりだして排除してくれたから。

 中には、会長である僕の暗殺や誘拐を未然に防いでくれたことまであった。

 

 味方になると、ホントに心強い能力である。

 

 あ、今さらっと言ったけど、今の僕は『社長』じゃなくて『会長』になってます。

 

 このおよそ1年で、我が社はさらに業務を拡大し、色々な分野に手を伸ばした。

 製作系をメインにしているのは相変わらずだけど、作れるもののレパートリーもぐんと多くなり、自動車や重機類、さらには、ノウハウはまだまだだが、機動兵器類まで作れるようになった。

 

 また、製作系以外の業種にも手を出している。

 食料品の生産や、飲食業、あとは……元々あった運送業や輸出入の貿易業、人材派遣の規模も、ぐんと拡大した。

 

 それから、自社グループの警備強化もかねて、警備会社系や民間軍事会社とも提携し始めた。

 

 今では国外にもいくつか支社を作り(そんなにまだ多くはないけど)、現地企業と協力して運営している。

 

 あとは、他社の株式の買い入れも行って、持株会社って言う立ち位置にもなったな。

 それをパイプにして、色んな業種に関する経営ノウハウも手に入れてる。

 

 そして少し前に、役員会議で経営形態を今のわが社の実態に合ったものに変え、僕の肩書も『会長』に変わることが決定した。

 まだ20歳にもなってないってのに僕、大出世だな。

 

 ……ただ調べてみた結果、世の中には15歳で、しかもうちより何百倍も大きな、世界最大規模の会社の社長やってるスーパーティーンもいるらしいんだけど。

 上には上がいるってことだな……そこまでくると嫉妬心もわかないや。

 

 あと、企業全体の名前も、『星川製作所』から変わることになった。

 新しい名前も僕が考えることになったんだけど……ここまでになると、何かこう、個人名つけるのもアレだなと思ったし、M&Aとかして取り込んだ事業もいくつもあったので……思い切って全然違う名前にすることに。

 

 その際、参考にさせてもらったのは……例によって、『アスクレプス』がいたであろう、Z世界に存在した組織の名前だ。このくらい大きく、力強い組織に将来なればいいなと思って。

 ……敵組織の名前つけるのもどうかと思ったんだけど、語感がよかったから。

 

 会社の皆には、このくらい燦然と輝く一大企業を目指そう、っていう理由にして説明しておきました。ホントにそういう思いがないわけじゃないしね。

 

 というわけで、今日からわが社の名前は……

 

 

 

 ……『サイデリアル・ホールディングス』だ。

 

 

 

【○月×日】

 

 このくらい会社が大きくなると、そこそこ厄介事……とは言わないまでも、ちょっと対応が面倒な案件なんかもちょいちょい舞い込んできたりする。

 

 この間は、アジア全域でトップクラス、世界でも有数の工業メーカーである『ネルガル重工』から、業務提携……に見せかけた企業買収じみた話があったし。

 あそこの会社、表立ってブラックな要求とかしてくるわけじゃないけど……あくまでビジネスの範疇であっても、結構油断ならないんだよなあ……

 

 戦艦とかも色々作ってるだけあって、技術レベルはトップクラスだし、件の『ボソンジャンプ』についても一家言有するだけの技術・知識を有してるようなんだけど……今下手にあそこに近づいたら、下手したら吸収合併とかされかねないような気がする。

 

 今回のプラント絡みの戦争や、アロウズ関係の騒乱で、先に述べた戦争特需のアジアにおけるシェアのいくらかを、僕ら『サイデリアル』が掻っ攫ったのが……もしかしたら面白くなかったのかな? いや、いくら何でも考えすぎか。

 

 突っぱねるのもそれはそれで角が立つから、ある程度は話を進めさせてもらってるけど、その関係の話し合いの時も、ミレーネルがいい感じに相手側の思考を読んでくれたのはマジ助かった。

 

 あと、アジア地域では、最大の取引相手である『旋風寺コンツェルン』を筆頭に、色々と既に提携先がいるから、あんまり大口でのお話はお受けできません、っていう感じの断り文句も使えたのは助かった。

 

 嘘は言ってないしね。あそこの会社には、もう何度かパーツその他を発注してもらってて、大口の取引先、お得意様の1つなのだ。

 

 全世界に通じる鉄道の要所『ヌーベルトキオシティ』に本拠地を置く、これまた世界最大規模の企業であり、鉄道以外にも色々な業務に手を出してるらしい。

 最近では、ロボットやAIの開発に力を入れてるとか、風の噂で聞いたことがある。

 

 こっちは今のところ、ホントに健全な企業同士のお付き合いにとどまっているので、ぜひ今後もこの調子でやっていきたいもんである。

 

 

 

【○月×日】

 

 今日僕は、ちょっと色々と用事があり、『ヌーベルトキオシティ』を訪れていた。

 もちろん、秘書であるミレーネルも一緒にだ。

 

 そこで、ちょっとした……いいや、だいぶ大変な事件が起こった。

 社会的にもそうだけど……何より、僕にとって。

 

 粗方用事を済ませつつ、ヌーベルトキオシティを回っていた僕達。

 あとは細々とした用事も片づけてから、お土産でも買って帰るだけだった。

 

 帰った後に、今さっき連絡が入った、ちょっとしたトラブルないし事件に対する対処が必要になるだろうけど……まあそれは仕方ない。

 全くどこのどいつだよ、うちの工場に忍び込んで、ハッキングと窃盗なんて……

 

 そんなことを考えていた時のことだった。

 突如として、奇妙なロボットの軍団が町を襲って来たのである。

 

 何でも、彼らは『ウォルフガング』とかいうロボット研究者の手下ないし部下達で、乗っているのはそのウォルフガングが作ったロボットなのだという。

 

 ……ウォルフガング……はて、どこかで聞いたような……?

 

 彼らは、自分達の主であるウォルフガングのロボット技術が世界一であることを示すために町を破壊するとか何とか、無茶苦茶なことを言って襲って来たんだが……そこにさらに乱入者が。

 

 それも、見た目的にもテンション的にも、下手したらウォルフガング一味よりも濃い感じのが。

 

 ……『勇者特急隊』って何? 何で新幹線が変形してロボットになるの?

 しかもあのロボット、自発的にしゃべってる気が……え、あれAIなの? すげえ、人間とほとんど変わらないじゃん、受け答えとかも。

 

 一応その名の通り、正義の味方らしく、ウォルフガング一味と戦ってくれている。

 

 一緒に現れた戦闘機?っぽいものと連携してだが、そこから聞こえてくる声も、なんだか熱血っぽかったなあ……

 

 ……いかにも『スーパーロボット』って感じのやり方だなあ……しかもなんか、僕の勘が正しければ、あの『ガイン』とかいうロボ、まだ先があるような気が……?

 

 けど、そんな風に勇敢に戦ってくれるロボット勇者が出てきはしたものの、それでもやはり敵側のロボの数が多い分、大変そうではあった。

 

 ……が、僕にとって本当に大事件だったのは……この後すぐに起こったことの方だった。

 

 なんと、ロボたちが戦っている最中……さらに乱入者が現れたのである。

 

 あの時、ヤマト出港直前の地球で……そして、あの次元断層の中でも見た……ヤマトと一緒にいた、灰色のロボットが。

 

 しかも、その直後に偶然見えたんだけど、なんとロボットのすぐ近くに……総司さんと千歳さんがいたんですけど!?

 

 しかも総司さんの方はそのまま、灰色のロボットに乗り込んで戦いに加わって……え、あの機体って総司さんの機体だったのか!?

 

 というか、総司さんやあの灰色のロボットがここに現れたってことは……

 

 とうとう、来たのかもしれない。ヤマトが……この世界に、今のこの時間に。

 

 

 

 



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第14話 再会

 ヤマトが大規模な時空震動に巻き込まれた後、叢雲総司と如月千歳は、この世界に流れ着き……偶然2人を発見した男性、神宮司辰ノ進の家に厄介になっていた。

 

 ヌーベルトキオシティにある家に1人で暮らす彼は、仕事は既に定年退職し、子供達は既に独立していた。一昨年には妻に先立たれ、1人気ままな暮らしをしていたと語り……行くあてがない2人を快く家に迎え入れ、いくらでもここにいてくれていい、と言ってくれたのだ。

 

 行く当てどころか、この世界――総司達から見れば異世界、ないし並行世界にあたる――では、戸籍すら持っていない彼らは、ひと呼んで『タツさん』に深く感謝しつつ、そのご厚意に甘えることにした。

 

 ……なお、彼は総司と千歳のことを、『心中に失敗した若夫婦』だと思っており、その勘違いを抱えたまま、2人を慮るがゆえにそれを口には出さず見守っていたりする。

 どちらにとっても、知らぬが仏、という話であった。

 

 そのまま穏やかな日々が数日過ぎたある日、謎のロボットが町を襲撃してきた。

 

 しかし、機体も何もないのでは戦えないと歯噛みしていた総司の元に、突如として謎の少女と、この世界に来てから行方のしれなかった愛機・ヴァングレイが現れた。

 よくわからないことの連続に困惑しつつも、総司は今一度ヴァングレイに乗り、同時にやってきた『勇者特急隊』なるロボットや戦闘機達と共に戦い、見事に悪のロボットを撃退することに成功する。

 

 その後、『未登録のロボットで市街地で戦闘を行った』として、一時警察のお世話になることになってしまった総司だったが、そこで助け船を出してくれたのは、その時ともに戦った『勇者特急隊』の一員にして、巨大企業『旋風寺コンツェルン』の社長である、旋風寺舞人だった。

 

 もともと『旋風寺コンツェルン』の従業員であり、彼とつながりがあったタツさんの紹介で会うことになった総司と千歳は、紆余曲折の末に『勇者特急隊特別隊員』となったのだった。

 

 それから、再び襲って来たロボット軍団……今度は、首領であるらしい『ウォルフガング』なる男との戦闘も無事に乗り切った総司達。

 

 もっとも、千歳の方は、もともと機体がないゆえに戦いに参加することはなく、それに加えて、何やら思いつめた様子で、『勇者特急隊』としての活動にも消極的だったのだが……今はそれは省くこととする。

 

 そして戦いの中で、ヴァングレイとの合流と同時に出会った謎の少女……後に『ナイン』と名付けられた彼女が、ヴァングレイのOSである、『システム99』であることが明らかになったりもした。この方がコミュニケーションが取りやすいと考え、アンドロイドの体を作ったのだと。

 

 そして、そんなある日のこと。

 

 その日、総司と千歳、そしてナインは、『旋風寺コンツェルン』の本社に呼ばれていた。

 

 今日これから舞人は、協力関係にある企業である『サイデリアル・ホールディングス』の会長と会談するのだという。

 

 社長である舞人らしい重要そうな業務だが、どうしてそこに自分達が呼ばれたのかがわからず、3人共が首をひねっていた。

 それを察してから、舞人からその理由が告げられる。

 

「相手方から俺達を同席させてほしいって言われたって?」

 

「ええ、お2人の名前を名指しで……それに加えて、一緒にいるであろう女の子も、可能であれば同席させてほしいと」

 

「ナインのことまで知ってたってこと?」

 

「そのようでした。お2人とは知り合いであるかのような口ぶりでしたよ」

 

 呼ばれた理由は分かったが、どうして舞人の仕事相手が自分達に会いたがっているのか、そもそも自分達のことを知っているのかがわからない。

 

 そして、今舞人に言われた『知り合い』というのもピンとこない。

 

 総司達は、つい最近この世界にやってきた、言うなれば異邦人だ。その事情を知る者は、世話をしてくれていたタツさんや、今の雇い主兼仲間である舞人、そしてその関係者数名しかいないが。

 ゆえに、そもそも彼らにはこの世界に知り合いなど皆無に近いはずなのだ。

 

 もし自分達の知り合いだと言うなら、それこそ、自分達と同じ世界から来た者くらいだろうが……しかし、それならそれで、巨大企業のトップであるはずがない。

 

 わからないままでいると、執事の青木さんが、その客の来訪を告げた。

 舞人が『通して』と言うと、扉の向こうから、まだ若い男女2人が入ってきて……

 

「な……っ!?」

 

「う、そ……!」

 

 そのうちの1人の顔を見た瞬間、総司と千歳は絶句した。

 当然だろう。今、彼らの目の前にいるのは……確かに、2人にとって、知り合いと呼べる男だ。

 

 しかし同時に、ここにいるはずのない……いやそれどころか、この世にいるはずのない人間だったのだから。

 

 しかし、いくら待ってみても、目の前の光景が変わることはなく……恐る恐る、といった調子で、総司と千歳は、その名を呼んだ。

 

「お前……あの時の……」

 

「ミツル、君……なの……!?」

 

「はい、お久しぶりです、総司さん、千歳さん」

 

 あの日、ガミラスの攻撃によって……ミサイルの爆風と、瓦礫の山の中に消えたはずの少年。

 記憶の中にある姿よりも、幾分大人びて見え、背も伸びている様子の……星川ミツルは、そう答えてにっこりと笑った。

 

 

 

 それからしばし、時間は過ぎて、

 

「じゃあ、ミツル君はあの時死んだんじゃなくて……この世界に飛ばされてきてたってこと? しかも、今よりさらに過去に……時間まで超えて!?」

 

「あの白い機動兵器の中身って、お前だったのか!? おいおい、マジかよ……さっきから驚きっぱなしだぜ」

 

 2人が驚愕から復帰するのを待ってから、ミツルは一通り、ないし最低限の説明を終えた。

 ただし、話す順序を考えて、意図的に飛ばしている部分はあるが。

 

「では、星川会長はお2人と同郷……つまり、あなたも並行世界から来た人間だったんですね」

 

「そうなります。すいませんね、舞人社長、変な形でこんなカミングアウトをすることになって」

 

「いえ、そんな。というか、よかったんですか、僕にもそんな……重要そうな身の上について話したりして」

 

「構いませんよ、あなたなら信頼できます。そのくらいには、僕としてもあなたの人となりも知っているつもりだし……総司さん達も、あなたのことを信頼してるようですから」

 

 『勇者特急隊』を率いて、自らも前線に出て戦う、正義の心を持つ舞人のことを……彼が信頼できる男であるということを、ミツルはよく知っていた。

 

 加えて、総司達もまた、舞人のことを信頼し、自分達が並行世界から来た人間だと言うことまで含めて、その身の上を全て打ち明けて話している。そのこともまた、ミツルが舞人と秘密を共有することを決心させた理由、ないし根拠になっていた。

 

 事実、舞人もそうして信頼してもらえたことを光栄に思うと共に、その信頼に応えることを、何の迷いもためらいもなく約束するのだった。

 総司達同様、いたずらにその身の上を吹聴するようなことは一切しない。これからもよき友人として、そして協力企業としてよろしく頼む、と。

 

「にしても、驚いたわよ……あの白いモビルスーツ……モビルスーツ? に乗ってたのが、まさかミツル君だったなんて……あの空間で私達を助けてくれた上に、冥王星の基地を落とすまで、地球のことも守ってくれてたんでしょ?」

 

「あ、やっぱそれ知られてるんですね……」

 

「沖田艦長が言ってたからな。地球で連邦軍の指揮を執ってる、土方中将から聞いたらしい。もう何度も、部下の命を救われてるから、見つけたらお礼を言っておいてくれってな」

 

「それは、なんというか……完全に成り行きと言うか、流れに任せた感じだったんですけどね」

 

「そうなの? ガミラスの襲撃にさっそうと現れて、戦いの後は何も言わずに去って行くって話だから、まるで正体を隠したヒーローみたいだって皆言ってたのに」

 

「別に正体隠すことにこだわってたわけじゃないなら、何で名乗り出なかったんだ?」

 

「いや、その……何となく出て行き辛くて。ネコババ同然の機体に乗って好き勝手やってたわけですし……ほら、別に何も悪いことしてなくても、町でパトカーとかお巡りさん見つけるとちょっとビクッてなる感じで」

 

「お前な……その割には行動力あり過ぎだろ」

 

「偶然拾った宇宙船で宇宙まで、あんな空間まで来ちゃうんだもんね」

 

「それ、7割以上事故の結果ですから。ぶっちゃけ、帰りたいのに地球からどんどん離れていくから、怖くて怖くて。一度死んだも同然の身でも、やっぱ死ぬのは怖いです」

 

「その割には無茶苦茶やってるよな……」

 

 緊張もほぐれ、単なる雑談を楽しむ場になりつつあった応接室だが、そこで、舞人の執事の青木さんが、傍によって舞人に耳打ちした。

 

「社長、そろそろ……」

 

「おっと、そうだった。星川会長、総司さん達と久しぶりに会えて、話が弾むのもわかりますが、そろそろ仕事の方のお話も……」

 

「あ、すいません、そうですね……じゃあ、あと1つだけ、総司さん達がいるうちに。これは、総司さんと舞人社長……というより、旋風寺コンツェルンの両方に関係があることなので。それと……そちらのお嬢さんにも」

 

「「「?」」」

 

 そう言われて、どういう意味かと首をひねる一同。

 どうやら仕事に関係ある話のようだが、なぜそこで、総司や千歳、そしてナインが関係してくるのかがわからない。

 もちろん、さっきまで蚊帳の外だったためか、少し面白くなさそうにしているナインも同様だった。

 

 が、この後聞く話では、むしろ彼女が話の中心になることになるということを、まだ、ナイン達は知る由もなかった。

 

 今までミツルの座るソファの傍で控えていた、秘書の女性……ミレーネル・リンケが、おもむろに鞄から、最新型のタブレット端末(自社製品)を取り出した。

 

(今更だけど、随分色っぽいおねーちゃん秘書にしてんだな……流石、大企業の会長サマ)

 

(私と同い年くらい? ううん、ちょっと年下かもだけど、礼儀作法完璧だ……やり手のキャリアウーマンって感じ? うう、なんか負けた気分……)

 

(……? 何でしょう、この人……本当に人間でしょうか? 何か、違和感が……)

 

 総司、千歳、ナインが、彼女を見て三者三様の感想を抱く中、ミレーネルはタブレットを操作して、何やら1つの動画ファイルを開く。

 その様子を横目で見ながら、ミツルがおもむろに口を開いた。

 

「実は、先日……サイデリアルの日本支社のとある工場で、窃盗事件が発生しまして。これは、その時に監視カメラで撮影していた映像なんですけどね」

 

 窃盗、と聞いて、悪を許さない舞人をはじめとした数人の表情がわずかに強張る中、ミレーネルは動画を再生しながら、タブレットの画面を総司達の方に向ける。

 そこには、犯行の一部始終が記録されていた。

 

 休日で誰もいない、稼働していない工場。

 そこは、大型の機械類の製造用ドックのようだった。

 

 そこに……画面の端に、突如現れる機動兵器……ヴァングレイ。

 

「「「!?」」」 ← 総司、千歳、舞人

 

「……っ……!」 ← ナイン

 

 独りでに動き出す工場の製造ライン。

 どうやら、何者かが外部からハッキングして製造機械に指示を出しているらしい。

 

 各所の機械が稼働し、順調に何かのパーツが作られていく。

 

 そこに、ヴァングレイから持ち出されたいくつかの部品のようなものが、あるいはその工場に保管されていた資材類が無断で使用され(窃盗)、何かが組み上がっていく。

 生産ラインの機械類を十全に使い、時に、想定されていない動き方までさせて。

 

 加えて、その合間に、という調子で、ヴァングレイの修理や改造まで、別な機械を使って、そしてやっぱり資材やパーツを無断で使って(窃盗)仕上げていく。

 

「「「…………」」」 ← 総司、千歳、舞人

 

「…………」 ← ナイン

 

 ほどなくして、1人の女の子にしか見えない見事な体が、服まで全部作って着せられた状態で出来上がった。

 その少女……に見えるアンドロイドは、手や足を動かしてみたり、周囲を見回したりして、体の機能に不足がないかどうか確認しているようだ。

 

 一通り確認を終えると、そのアンドロイドの少女……ナインは、映像からではわからないが、再びコンピューターにハッキングして、ここで行ったことのデータやログを削除し(証拠隠滅)、ヴァングレイに乗り込んでその工場を後にした。

 この間誰も来なかったことを鑑みると、警報装置なども事前にハッキングして無効化しておいたのだろう。

 

 加えて、元々ここは生産ラインがロボット等でかなりの割合自動化されており、人が少ない工場だったという点も、誰も気づけなかった理由であると思われる。

 ましてや休日なのだから、休日出勤している社員もいなかった。サイデリアルはホワイト企業です。

 いたのは警備の人間くらいだが、見事にその見回りの間の時間を突かれていた。

 

 …あるいは、そういう条件の工場を選んで、犯行に及んだのかもしれない。

 

 が、資材泥棒等の対策に、ネットワークに繋がずに独自に稼働させていた監視カメラには気付くことができず、この映像が残ったというわけだ。

 

「「「…………」」」 ← 総司、千歳、舞人

 

「…………」 ← ナイン

 

 もの言いたげな目でナインを見る総司。

 目を反らすナイン。

 おろおろと慌てる千歳。

 呆れる舞人。

 

 そんな彼らに対して、今日初めて、ミレーネルは口を開いて……あえてだろうか、特に感情のこもっていない平坦な口調で言った。

 

「……何か言いたいことはございますでしょうか」

 

「「うちの子がすいません!!」」

 

 瞬間、総司と千歳はそろって頭を下げた。

 総司はナインの頭も手でぐいっと抑えて下げさせた。

 

 その姿はまさしく、子供が悪いことをしてしまって、揃って相手方に謝罪する両親そのものだったと、見ていた者達は後に語ったのだった。

 

 

 

 




感動の再会…しかしきっちりオチもつけさせてもらいました。
個人的に原作の『スパロボV』で気になってた点です。
ナインのあの体、どこでどうやって作ったのか。明言されてなかったはずなのでネタにしました。

初期のナインって、命令書偽造したり、都合の悪いことには答えなかったり、割と好き勝手やってるんで……

もしかしたら無人の廃棄工場とかでやったのかとも考えたんですが、ある程度の設備がないとあのレベルのアンドロイドなんて作れないですよね、絶対。


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第15話 支援する立場に

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【○月△日】

 

 無事、総司さんと千歳さん、あと、窃盗犯……もとい、アンドロイドの少女にも会って、きちんと挨拶と説明をすることができた。

 

 その際、今は総司さん、何でか『勇者特急隊』の特別隊員になってるらしいので(何があったんだよ)、その雇い主であり、ビジネスパートナーでもある舞人社長にも事情は一緒に話した。

 信用できる人だからね、それはもう、愚直なくらいにまっすぐで、正義感の塊で。

 

 ただ、全部の事情は説明はできていない。

 思い切って、あの『白い機動兵器』こと、アスクレプスのパイロットが僕であることまでは話したけど、その詳しい事情とかバックグラウンドまではね。

 あくまで、気が付いたらアレに乗っていた、なぜか使い方が分かった、とか、そのくらいの範囲にとどめた。

 

 僕に前世の記憶があることとか、それで知っている『スパロボZ』の世界に出てきた機体だとか……並行世界云々以上に信じてもらえないであろうことについては、話していない。

 

 あと、あの空間内で見つけた『バースカル』その他についても。

 話そうとすると、どうじてもアスクレプスの次元力云々の話を交えなきゃいけないし……それに加えて、バースカルはうちの企業運営に絡んできてるので、企業秘密にも抵触するし(多分)。

 

 そのあたり、ちょっと心は痛んだけど……ひょっとしたら、いつか話せる時が来るかもしれないということで、今は保留ね。

 

 あ、当然ミレーネルの正体についても話してない。これは関係ないからね、今回の件とは、少なくとも直接は。

 

 それから、ナインによるうちの工場からの窃盗事件(証拠隠滅までして非常に計画的かつ悪質)については……まあ、被害額もそこまでじゃないし、総司さん達のためになることなら、ってことで……今回は厳重注意にとどめて、おとがめなしとした。

 

 舞人社長は、『雇い主である自分の責任でもある』って、被害額分を保償してくれようとしたんだけど、それは断っておいた。

 2人が無事でいてくれたお祝いってことで、資材とかその他分は、僕のおごりってことで、プレゼントさせてもらうよ。そうすれば、名実ともに事件性なしってことになるでしょ?

 

 ……ただ、何も見なかったことにしておくのは流石にダメだと思ったので、今回はコレを見せただけなので。

 きちんと謝ってもらえたし、反省してくれたなら何も言うことはありません。

 

 その際に、総司さんと千歳さんが、なんか夫婦じみた息ぴったりの謝罪を見せてくれて(ナインもきっちり頭下げさせられてた)、それが結構面白かったので、うん、チャラで。

 

 ミレーネルは『甘いですね』って感じの視線を横から送ってきてたけどもね。

 ごめんね、身内びいきで。

 

 その後は、総司さん達には退席してもらって、舞人社長と仕事の話をきちんとした。

 内容は……まあ、そこそこややこしい上に長いので省く。

 

 後その際に、ちょっとした情報提供も一緒にさせてもらった。

 こないだ町を襲って来た、『ウォルフガング一味』って連中についての。

 

 少し考えて思い出したんだけど……僕、以前にあの連中のボスの、『ウォルフガング』って奴と会ったことがあるんだ。

 というか、一時期ではあるけど、雇い主、ないしスポンサーだったことがある。

 

 うん、よく覚えてるよ。

 そこそこ年いってるにもかかわらず、なんかやたらガタイがよくて、肩幅も広くて……人間なのにやたら耳が、福耳とは逆の方向に長い、へんな人だった。

 鼻息荒く、最強のロボットの研究を進めるために金が要る! とか何とか言ってたっけ。

 

 それでその時は、研究資金を援助する代わりに、こっちで研究しているロボットや機械類の開発にも協力してもらったんだよね。

 機動兵器じゃなくて……生産系の事業に使う、部品製作用や掘削用、食料生産用のやつを。

 

 戦闘用のロボットじゃないことに面白くなさそうにはしてたけど、その仕事自体はきちんとまじめにやってくれてたっけ。

 予想以上、期待以上にいいマシンができたから、奮発して報酬と、彼の研究に対する融資も多めに支払ったこともまた、覚えてる。うん、腕は確かな人だったな。

 

 ……その時の金が今、犯罪に使われてるとなると……ちょっとやるせないけど。

 真面目に働けば、普通に社会に大きく貢献できるだけの頭脳と技術を持っている人だと知っているだけに。

 

 それを説明すると、舞人社長も驚いていた。

 それと同時に、残念がっていた。僕と同じように、『まともに働いてくれれば……』って、思ったんだろうな。

 

 そんな感じで、舞人社長との会談も無事に終わった。

 

 はー……緊張した、色々。

 

 

 

【○月◇日】

 

 なんだかなあ……再びというか、世界全体がきな臭くなってきた空気を感じる。

 

 日本を離れて、本社のある国に戻った後も、ヌーベルトキオシティ近辺で色々な犯罪者が次々に湧いて出たという話が聞こえてきたから。

 

 総司さん達に色々説明して挨拶もしておいてなんだけど、僕やミレーネルの拠点はここ……東南アジアのある国に構えている『サイデリアル・ホールディングス本社』と、その近くにある邸宅――そして、バースカルに設けている居住スペース――だから、基本的に国単位で離れてるんだよね、『旋風寺コンツェルン』のある、日本とは。

 

 まあ、いざとなれば割と早く、ひとっ飛びで行ける距離ではあるんだけど。性能も乗り心地もいい移動用の機体もあるし。

 

 で、聞こえてきた限りでは、宝石強盗やら何やらやらかす女盗賊や、古き良き江戸を取り戻すとかなんとか言いながら町を破壊しようとするろくでもない侍、割と普通にヤバそうな死の商人的なアジアンマフィアなど、玉突き事故起こしそうなくらいにわらわら悪人が湧いて出ているらしい。

 

 勇者特急隊も結構な頻度で出撃してるって聞くし、大変だな舞人社長達も。

 

 ただそんな戦いの中で、どうやら総司さん達は、味方も増えたらしいことを言ってた。

 地球連邦軍の独立行動部隊と、外部の協力者団体?らしいけど、詳しいことはまだ聞いてない。

 頼りになる奴らだ、ということは言ってたので、まあ総司さんが言うならその通りなんだろう。

 

 それはいいんだが……今述べた連中と比較しても、特にヤバそうな奴らがいる。

 『火星の後継者』とかいう、テロリスト集団と思しき連中だ。

 

 先日、総司さんや舞人達がそいつらに襲撃されたらしい。ロボットに乗っていない、生身の時に……しかも、平気で一般人を巻き込むような形で。

 

 その時は、何やら助っ人が現れてどうにか撃退できたそうだけど……その直後に、全世界に向けて、その『火星の後継者』の首領であり、元・地球連邦軍の軍人である、草壁なる人物が犯行声明を出したのである。

 

 車の中のテレビでそれ、ちょうど僕も見てたんだけど……何でも、『ボソンジャンプ』という技術の危険性が云々かんぬん、それを一元的に管理することが必要どーたらこーたら、私利私欲のために使う奴らには任せておけないあーだこーだ……

 ……ま、速い話がそういう大義名分を振りかざして色々と違法行為やテロ行為やりますっていうことなんだと思うけど。

 

 随分と派手にやるなあ、テレビでこんな風に、世界中に痛い演説を届けるとか……劇場型の犯罪者だろうか?

 いい年してよくやるなあ……ほうれい線半端ない顔しといて。

 

 こういう連中が調子に乗ると、普通の犯罪者よりよっぽど質の悪いことになりかねないんだよなあ……統計上。

 大義名分を盾にして、無関係の人を巻き込んだり、違法行為そのものにも躊躇いなくなるから。

 

 あと、嫌な話……活動資金確保のためとかなんとか言って、金持ちを狙って誘拐したり脅したりするんだよね、こういう連中って。

 『火星の後継者』じゃないけど、何度か僕もその手の連中に狙われたことある。

 

 幸いにして、一応今まではどうにか切り抜けられてきたけども。

 

 一応僕も、大企業の会長として割と有名になりつつあって、その分トラブルに巻き込まれることもあったりしたから、軽く護身術程度は身に着けてる。

 プロの暗殺者を相手にできるとかいうほどじゃないけど、そこらのチンピラくらいなら、1人でも問題なく対処できるくらいには強くなった……と思う。

 

 体力や身体能力の向上は、機動兵器の操縦にも重要な要素だからね、そのへんはこの2年、きちんと妥協せずに頑張ってきたつもりだ。

 

 ただまあ、最善はやっぱり、そういうトラブルを『未然に回避する』『巻き込まれない』ことだ。

 

 ミレーネルが時々、心を読む能力を生かして、そういうのを未然に防いでくれたりするから、マジで助かってるよ。

 

 ああもう、考えてたらますます気が滅入ってきた……

 ホント勘弁してほしいよ……せめて、無関係な一般人や善良な一企業は巻き込んでくれるなよ、テロリストさんよ。

 

 

 

【○月●日】

 

 巻き込むな、って言ったのになぁ……!!(怒)

 

 やられたよ。『火星の後継者』に。

 

 僕がじゃないけど、僕の会社に勤める社員が。

 

 連中どうやら、『A級ジャンパー』なる人物を狙っているらしいんだ。

 

 連中がことあるごとに言ってる『ボソンジャンプ』についてなんだけど、『A級ジャンパー』っていうのは、それに関係して重要な立場にある、ごく一部の素質を持つ人間のことらしい。

 

 何でも、火星のテラフォーミング用のナノマシンの影響を、母親の胎内にいる時から受け続けていた人間は、『ボソンジャンプ』を使う際に、思い通りの行き先に安全に飛べるようになるという素質ないし能力を持っているらしい。

 

 『火星の後継者』は、そのA級ジャンパーを独占しようとして、手段を択ばずあちこちから誘拐している。

 あるいは、他の勢力の手に渡らないように、暗殺までしているらしい。

 

 その条件に合致する者が、偶然うちの会社にもいて……連中に狙われたのだ。

 警備部門が対応しようとしたんだけど、連中、何のためらいもなく銃火器類まで持ち出した。

 

 結果、警備部門の人達の奮戦もあり、死者こそ出なかったものの、重軽傷者多数。

 狙われた社員に加えて、巻き込まれた社員や、守ろうとした警備部門の人達、そして何の関係もない、周囲にいた一般人まで……

 

 よーしわかった、喧嘩売ってんだな、うちに。

 いいだろう、『火星の後継者』……正式にお前らは、敵認定だ。

 

 

 

 ……ところで、『ボソンジャンプ』関連のことや、『火星の後継者』の内情について、何で急にそこまで詳しいことがわかったかというと。

 

 聞かされたからだ。情報提供ってことで……『ネルガル』のアカツキ会長から。

 

 毎度、事業協力ついでにうちの会社の取り込みや買収を画策してくるあそこだけど、どうやら今回は毛色が違うらしく……どんどん活発に、ドンドン過激になる『火星の後継者』への対策として、ここはひとつ協力したい、という申し出があった。

 

 といっても、会社として何かやるというか、連中と事を構えるわけじゃない。

 

 あいつらへの対処には、専門家と言うか、そういうのに対処するのがメインの、連邦軍の『外部独立部隊』なる面々が動いているそうなので、その人達のバックアップを行いたいということだ。

 

 その部隊には、ネルガルにも縁のある人達が参加していて、その縁でずっと支援をしたり情報提供をしたりしてるそうだ。旋風寺コンツェルンと同じように。

 そして、そのバックアップ要員に、東南アジアで大きく勢力を伸ばしている、僕らサイデリアル・ホールディングスにも加わってほしいと。

 

 ネルガルや旋風寺と違い、企業の規模で見れば五歩も十歩も劣っているけど、その分フットワークは軽いし、技術力も確か。また、傘下にある業種の種類も多彩で、様々な面でのバックアップ要員になれるだろうから、と。

 

 何より、これ以降彼らが行動する範囲においては、僕らサイデリアルが動けた方がより手厚く、確実に、サポートの手を届けることができる、という見通しらしい。

 

 なおこの見解については、『旋風寺のご老公』こと、旋風寺裕次郎氏も賛同してくれているとのこと。舞人社長のお祖父さんだったな、たしか。

 あくまで『見解』だけであり、どうするかについてはノーコメントだそうだが。

 

 そして、この申し出については、受けることにした。

 

 地球連邦軍の『外部独立部隊』……それってたしか、今『勇者特急隊』と行動を共にしているチームの1つだったはずだ。

 何でも、『ナデシコ』なる名前の戦艦を中心にして組まれたメンバーらしいけど……詳しくはまだ聞けていない。

 

 ナデシコ……戦艦……機動戦艦……? うーん、聞いたことあるようなないような……

 

 ネルガルからは『それだけ知ってれば十分だ』と言われて……あとはプライバシーとかにも関わるからと、あんまり情報は渡されなかった。

 

 その部隊の責任者であり、戦艦の艦長が、『ホシノ・ルリ』少佐という人物で、『電子の妖精』と呼ばれている有名人だと言うことは教えてくれたけど。

 あ、この人は僕でも名前は知ってる。割と有名人だし。

 例によってそんなに詳しくは知らないけど……後で調べてみよう。今後協力することになる人だし。リサーチは大事である。

 

 それからもう1つ、『勇者特急隊』『ナデシコ』と、残る1つの協力者達について。

 これについてもネルガルはなぜか知っていて教えてくれたんだけど、なんとそれが『ソレスタルビーイング』だというのだ。マジか……そうか、彼らが。

 いや、面識あるわけじゃないけども。しかし、それは心強い。

 

 ともあれ、そんなわけで、僕ら『サイデリアル・ホールディングス』も、『ネルガル重工』『旋風寺コンツェルン』と同様に、彼らをバックアップすることになった。

 他にも、協力してくれそうな組織や、国や地域はいくつかあるそうだが、メインでというか、表に立って動くのは、連邦軍以外はこの3社になるだろうとのこと。

 

 近いうちに、連邦軍のお偉いさんも交えて、詳しい内容の打ち合わせと、協定締結のための書面の作成に移るらしい。

 

 

 

 



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第16話 『エリアD』にて

ランキング9位…感激で泣きそうです。
これからも楽しんでもらえるように頑張ります!

そして今回、ヒロイン候補というか、原作ブレイクキャラというか、そんな子が新たに登場します。
さて、どこの誰でしょう…

第16話、どうぞ。



【○月■日】

 

 連邦軍の代表として来た『ミスマル・コウイチロウ』中将とも話して、協定書も無事に用意できた。

 

 聞けば、中将ご自身も、『ナデシコ』部隊とやらに、軍人として以外にも縁があり、個人的にも彼女達には頑張ってほしいと思っているそうだ。

 その助けになってくれるということで、個人としてもありがとう、と感謝された。

 

 それと同時に、妙というか、よくわからない頼み事もされたけど。

 なんか、ナデシコ部隊の知り合いである、ある青年と共闘することもあるかもしれないから、その時は彼のことも助けてやってほしい、とのこと。

 

 なんか、すごく思いつめた様子で語っていた。詳しく聞くのが躊躇われるほどに。

 一応それについても、『その場での判断になるかと思いますが覚えておきます』と返しておいた。

 

 しかし、ミスマル中将、か……日本語名っぽいけど、苗字どんな字書くんだろうか。全く想像つかない。

 

 まあそれはいいとして、協定はそうして無事に交わしたわけだ。

 

 ……そしたら、その日のうちに早速協力要請が舞い込んできたよ。

 また随分いきなりっていうか、容赦なく働かせようとしてくるな……まあ、いいけど。

 

 で、要請の内容は……今、『火星の後継者』の拠点を探すために日本を離れている独立部隊に、物資その他を届けてほしいというもの。

 今はどうやら、現地での補給が難しい場所に赴いているらしいのだ。

 

 届ける物資等や、輸送代金については、別に僕らの方での持ち出しというわけではなく、きちんと連邦軍が精算してくれる。

 ただし、その他の業務に優先して大至急、また安全確実に行ってほしいとのこと。

 

 さらに、色々と秘匿すべき情報も扱う仕事なので、最も信頼のおける部下を使い、情報の周知等は最小限にしてほしいそうだ。

 

 そんな条件で働かせるんなら……そりゃ、密約に近い形の協定書も必要になるわな。

 

 希望する物資のリストとして届いたものは……早ければ2日で全部用意できる。早速手配を始めよう。

 

 あとそれから、仕事には関係ないことだけど、ニュースで結構どでかい騒動が起こったみたいなことを見たのでついでに書いとく。

 

 なんか、始祖連合国にある『ミスルギ皇国』の第一皇女である、アンジュリーゼ皇女が『ノーマ』であることが判明したとか何とか。

 何やら式典の最中に色々あってその事実が暴露され、その最中に人死にまで起こったらしい。

 

 あ、『ノーマ』とか『始祖連合国』云々については、色々とあの国特有の事情やら何やらがあるんだけど……これについては省く。

 語るにしても、あんまり気分のいいもんじゃないからね。僕も、『ノーマ』ってのがどういう存在で、『始祖連合国』がどういう国で……ってことを知った時には、正直、なんだそりゃ、と顔をしかめることになったのを覚えている。

 

 強いて言うなら……アンジュリーゼ皇女とやら、これから苦労することになるんだろうな。

 

 

 

【○月?日】

 

 今僕は、わが社で開発した自社製品であり、長距離運送部門で主に使われている輸送艦『グラーティア』に乗って、一路、独立部隊の元を目指している。

 

 うん、今回の仕事、僕が自分で動くことにした。

 僕と、ミレーネルの、主に2人だけでやる。これなら、秘匿性も何もばっちりでしょ。

 

 それにコレ、別にただの思い付きってわけじゃなく、もともと考えてたことでもあるから。

 

 将来、総司さん達と……僕らの世界から来た人と接触できて、行動を共にする機会が増えたりした時のために、会長である僕でも最大限フットワーク軽く動けるように、そうなるように企業内の構造を作ってきてあったのだ。

 

 流石に、長期間何度も留守にするとかになると、ちょっと色々と問題も出てくるだろうが、いざとなればリモートで情報を受け取ったり、指示でも何でも出せるし。やり過ぎなければ問題ない。

 

 それに、僕、会長っていう職についている割にはかなり精力的に働いていて、他の役員たちからも『少しは休まれては』って毎度言われてたので、それも利用させてもらうことにした。

 いや、ホントに会社のため、将来のためを思って働いてたわけで、こういう時に彼らの心配する心を利用するためにブラックワークに徹してたわけではないよ? 断じて。

 

 そんなわけで、この『外部独立部隊』とやらの支援に関する業務は、基本的に僕がやります。

 

 今僕とミレーネルが向かっているのは、『エリアD』と呼ばれる場所だ。

 

 磁気異常その他により計器が狂うため近づけないとか、なぜか衛星でもそこの様子を調査することができないとか言われていて、現代の『バミューダトライアングル』的な扱いを受けている海域らしい。

 

 しかし、またしてもネルガルの会長曰く、『あそこは別にそんな感じの場所じゃないから』とのこと。だから何でそういうこと知ってるんだあんた。

 

 まあともかく、メカに異常が起こるようなへんな現象が起こるわけではないと。

 

 ただし、安全という意味でもないらしく……きちんと武装はして行け、とのことだった。

 交渉不可能の問答無用で襲ってくる連中がいるからと。撃墜する分には構わないからと。

 

 いや、何がいるんだよ、教えてくれよ。

 行けばわかる? 秘匿事項だから外で迂闊に口に出せない? そんなー。

 

 仕方ないので、グラーティアそのものの武装に加えて、僕の愛機『アスクレプス』と、もう1つ……わが社で新開発したある機動兵器をグラーティアに積んである。

 

 さらに、グラーティアそのものも、通常のものを僕用にカスタマイズしてあり、重装甲・高機動・高火力という性能に仕上がっている。そこらの機動兵器くらいなら相手どれるであろう戦闘能力を発揮できるので、可能ならこれだけで乗り切りたいところである。

 

 一応、僕とミレーネルが出た後にも、AIで自動航行できるようにはしてあるけどね。

 

 さて、もう間もなく件の『エリアD』に差し掛かるところだ。

 一体何が出るのやら。……問答無用で襲い掛かってくる敵……つまりは、コミュニケーション不能な敵ってことか?

 

 ……インベーダーとか、メタルビーストじゃないだろうな。

 

 

 

【○月#日】

 

 何アレ?

 

 いや、インベーダーとかメタルビーストでなかったのはよかったけど、より意味わかんない奴がいたんですけど。

 

 そいつらと交戦して、しかも何かその後めっちゃ色々あってすげー疲れたんですけどぉ!?

 

 無事に目的地である『アルゼナル』にはたどり着いたけど、到着前にどんだけ混沌としたバトルやら何やら経験させるんだよ! しかも割と血みどろの!

 

 いきなりフルスロットルで『アスクレプス』動かすことになった上に、ミレーネル用の『アンゲロイ』も出す事態になったし……

 

 その後に総司さん達とも会ったけど、『すいません疲れてるんでまた後で……』って逃げるように自室に戻る羽目になったし……いや実際疲れてたんだけどさ。

 

 

 

 ……えーとですね、何があったのかというとだ。

 

 まず、『エリアD』に入って早々、いきなり現れたモビルスーツ、しかも、パイロットが乗ってない無人機の集団に出くわした。

 

 そして、いきなり襲って来た。

 いや、無差別に襲ってくる無人機がエリア内に放たれてるって何なんだよ。

 

 どこかの国や組織が何らかの陰謀でやってるのか……ああそう言えば、独立部隊って『火星の後継者』の拠点を探すためにここに来たんだっけ? ……連中ならやってもおかしくない気はするな。

 

 アカツキ会長が言ってた奴らってこれか、と思いつつ、グラーティアに搭載していた武装で十分対応できてたんだけど……問題はその後だった。

 

 レーダーが新しく何かを感知したんだけど、おかしなことにその反応は、機動兵器じゃなくて……生命反応だった。

 それも、かなり大きな……クジラサイズか、それ以上のものが多数、進行方向に現れた、と。

 

 このレーダーは魚群探知機ではないので、もちろん海の中の魚なんぞにいきなり反応することはない。反応するとすれば、それこそメタルビーストとか、そういう敵性生物が出た時だ。

 

 まさか本当に……とか思いつつ、警戒しながら僕らが行った先にいた者とは、なんと……

 

 

 ☆☆☆

 

 

「……ミレーネル、何アレ?」

 

「ドラゴン、じゃない? 少なくとも、私にはそういう感じの生き物に見えるわね」

 

「だよね、僕にもそう見える……え、何、この海域あんなの出るの? もしかして、エリアDの『D』って……ドラゴンの『D』とか?」

 

「可能性はあ……待ってミツル、他にも何かレーダーに反応が出た」

 

 他に部下などがいない場では、ミツルとは砕けた口調で話すミレーネル。

 彼女が艦のレーダーと、望遠装置を操作して、今新しく感知した何者かの方を、画面を分割して映し出す。

 

「この反応は、機動兵器? でも、モビルスーツや戦闘機じゃない……何コレ?」

 

 画面に映し出されたのは、かなり小型の機動兵器だった。

 先程感知した『ドラゴン』達目掛けて、一直線で飛んでいく。討伐部隊か何かだろうか。

 

 人型をしているが、装甲はかなり薄そうで、率直に言って頼りない。その分機動力はありそうではあるものの、その先に待ち受けている、ドラゴンなどという巨大生物を相手取るのかと考えると、かなりの度胸が要求されそうだ。

 

 中には、人型ではなく、飛行機のような形で飛んでいるものもいるが……こちらはなんとコクピットがむき出しになっている。まだ若い少女が乗っているようだ。

 

「アレが変形してあの人型になるのかな?」

 

「だとしたら、機密性も防御力もまともなものになってるとは到底思えないけど……何なの、あの兵器? パイロットの安全とかガン無視じゃない。機動力に全振りしすぎでしょ」

 

「武装もそこまで強力なものがついてるようには……ん?」

 

「? どうしたの、ミツル?」

 

「あの、後ろの方飛んでる白い機体に乗ってる、金髪の女の子、どこかで……」

 

 

 

 

 

「何なのよ、これはッ……!?」

 

 突然、野蛮で反社会的な化け物『ノーマ』であるとの烙印を押された。

 

 今まで持っていた全てを……立場も、居場所も、服も、尊厳すら奪われた。

 

 どこかもわからないところに押し込められて、わけのわからないロボットに乗せられた。

 

 その挙句、見たこともない怪物と戦え、と言われて放り出された。

 

 その少女、アンジュリーゼ……ではなく、アンジュは、血を吐くような叫びを戦場に響かせた。

 

 『パラメイル第一中隊』……そう名のついた、戦闘部隊と思しき集団に所属させられ、ドラゴンを相手に戦えと言う。

 他の所属メンバー達は、勇敢にも、あるいは無謀にもそれに挑んでいる。機体を見事に使いこなし、怪物を相手に戦い、撃ち落としている。

 

 そんな中、アンジュは、その流れに乗れず、後方にいるばかりだった。

 

 幸い、前線にいるメンバーの腕がいいおかげで、こちらに討ち漏らしがやってくることはない。

 それでも、そんな戦いが間近で起こっていると言うだけで、アンジュの精神はガリガリと削られていった。

 

 無理だ、できっこない。自分にはあんな野蛮な真似はできない。

 シミュレーターで訓練したから動かし方こそわかるが、戦うなんて絶対に無理だ。

 

「もう……もう、嫌!」

 

 そう叫んで、アンジュはパラメイルを、飛翔形態『フライトモード』のままで飛ばし、戦線から離脱を図る。

 

「あっ、アンジュ逃げた」

 

「はぁ!? 何やってんだあのバカ姫、敵前逃亡は極刑だってさっき……」

 

「それ以前に、パラメイルには戦闘一回分の燃料しか入れられてないのよ! 逃げてもどこかにたどりつくことなんて……」

 

(それでもいい! こんなところにいるよりは……)

 

 そうして逃げるアンジュの後ろから、彼女に憧れ、懐いている1人の少女が、同じようにフライトモードのパラメイルで追って来た。

 少女の名はココ。アンジュと同じく、今日が初陣の新兵であり……彼女が『魔法の国』と呼ぶ、『始祖連合国』に憧れていた。幼い頃にここ『アルゼナル』に連れてこられた彼女は、外の世界を知らないのだ。

 

 済んだ瞳、無邪気な笑顔のままに、アンジュを追って来たココは、しかし……

 

「アンジュリーゼ様、私も連れていってください! 私も魔法の国に……はうっ……!?」

 

 背後から襲ってきた、1匹のドラゴンの攻撃を受けて、一瞬でその命を刈り取られ……爆散する機体の中に消えた。

 

 その瞬間を、運悪くモロに見てしまったアンジュは、目の前で1人の少女が、あまりにも惨い最後を迎えた光景に……恐慌状態に陥った。

 

 しかも、その直後、悲劇は繰り返されようとしていた。

 

「ぞ、ゾーラ隊長! ココが……アンジュも止まらないし……ど、どうすればいいですか!?」

 

「まだ手が離せん! こっちが片付くまで自力で生き延びてろ!」

 

「そんなっ!? わ、私、どうすれば……きゃあっ!?」

 

 アンジュ(と、ココ)を連れ戻そうとして追ってきていた、もう1人の新兵である、ミランダ。

 彼女もまた、突然の親友の死に動転し……しかし、その隙を見逃さずにドラゴンが襲い掛かる。

 

 横合いから、その巨体を生かした体当たりを食らう。

 

 追跡のためにフライトモードになっていた……すなわち、機密性皆無の空飛ぶオープンカー状態だったパラメイルから、体当たりの衝撃でミランダは放り出されてしまった。

 

 なすすべもなく落下していくミランダ。そこに、3匹ものドラゴンが群がってくる。

 その顎が大きく開かれたのを見て、ミランダは次の瞬間、何が起こるか理解した。……理解、できてしまった。

 

「い、嫌……た、助けてぇぇーっ!」

 

 その叫びが虚しく響くも、それは誰にも届くことはなく。

 直後、殺到したドラゴン達の牙にかかり、若い命は無残にも洋上で散る…………

 

 

 

 …………はずだった。

 

 

 

 しかし、その瞬間……前を飛んでいたアンジュの機体の横を、凄まじいスピードですれ違って飛んでいく、白い何かがいた。

 

 ミランダはの体にドラゴンの牙がかかる直前、伸びてきた白い大きな手が、彼女の体をしっかりとつかみ……ドラゴンの牙は、ガギン、と音を立てて、割り込んできたその腕に当たった。

 

 

 間一髪でその命を救った、『アスクレプス』の腕に。

 

 

「……えっ……?」

 

 

『……間に合った? 間に合ったな!? あ、あっぶなぁ……』

 

 

 

 




おまけ

【輸送艦グラーティア】

元ネタは第三次スパロボZ天獄篇に出てきた、『サイデリアル』が運用する輸送艦。
少人数でも運用可能な上、積載可能量がかなり大きく、宇宙空間でも使用でき、使い勝手がいい。ただし、武装は最低限なので戦闘能力は低い。
元々は地球の『アクシオン財団』が作成・販売していた輸送艦だが、サイデリアルに生産ラインごと奪われて運用されていた。アスクレプスにデータが残っていたのは多分このため。
敵ユニットとして出てくるのだが、出番が序盤のみで少ない上、天獄篇では中盤以降これより強力なのがポンポン出てくるのでぶっちゃけ影が薄い。

今回登場したのは、ミツルが自分用に改造したもの。動かすだけなら少人数どころか1人でも可能になっており、武装や装甲も一応増設・強化されている。


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第17話 ドラゴンとパラメイルとアスクレプス

 遡ること数十秒前。

 

 なんか、前衛と後衛、そしてその更に後ろのぼけーっと見てる数名の間で、随分空気も動きも違うなー、と観察していた、ミツルとミレーネルだったが、見ているうちに、明らかに後方の3名……アンジュ、ココ、ミランダの3名の動きがおかしいことに気づいた。

 

 完全に戦闘に、緊張あるいは委縮して……というか、率直に言ってビビっており、特にアンジュは今すぐにでも逃げ出さんばかりだ。

 戦闘形態『アサルトモード』に変形もせずに、素顔がよく見える状態だったため、表情から丸わかりだった。

 

 というか、逃げ出した。

 

 いとも堂々たる敵前逃亡。しかも、それを追うように他の2名も来て……しかし、次の瞬間、そのうちの1機が撃墜されてしまう。

 

 あっコレ見てる場合じゃない、と思ったミツルは、すぐさまアスクレプスを起動させてグラーティアを発艦、全速力で現場に急行した。

 あの様子だと、後ろにいた3名は、ともすればまともな戦闘ができない。それでは、たちまちやられてしまうだろうと考えてだ。

 

 案の定、恐慌状態に陥ってアンジュは逃げ出し……その後ろについていたミランダは、ドラゴンの攻撃で突き落とされ、今まさに3匹ものドラゴンの牙にかかろうとしていて……

 

 そこに間一髪、アスクレプスに乗ったミツルが間に合った。

 

「えっ……? 私、生きて……な、何これ……!?」

 

 ミランダは、死ぬ未来が回避された状況と、突如現れた、パラメイルよりもはるかに大きな機体――それこそ、スクーナー級のドラゴンよりも大きい――の両方に困惑していた。

 

 その彼女を慮るかのように、ミツルはスピーカーで、務めて優しく声をかける。

 

『あー、そのー、無事そうで何よりだ。とりあえず、ちょっとの間ジッとしててくれる? すぐに安全なところに避なのうわっ!?』

 

 が、しかし、そこに水を差す、というか、思い切り邪魔してくる者が。

 

 それは、今しがた獲物をとられた、スクーナー級のドラゴン達……ではない。

 彼らは、突如現れた、パラメイルと比較してかなり大型の機動兵器を警戒してか、一旦距離をとって様子をうかがっている。

 

 では何が来たのかと言うと……恐慌状態のアンジュであった。

 

『お、お願い! 助け、助けて、私もっ!』

 

『ちょ、ちょっと待て! 待って! わかったから待ってって君、動きにくいからまとわりつくのやめ……』

 

 アサルトモードに変形し、わきの下あたりにしがみつくようにして助けを求めてくる。

 

 憔悴しきった少女が必死に助けを求める、痛々しい光景ではあるのかもしれない。が……いくら何でも場所と状況、そしてやり方をちょっと選んでほしいと言うのが、ミツルの本音だった。

 よりによって機体の胴体部分、それも腕との連結部分近くに組み付かれたせいで、動きにくいことこの上ない。腕の駆動範囲も制限されるし、暴れられると今助けたばかりのミランダが危ない。

 

 しかし、冷静になるよう声をかけても、アンジュの耳には届いている気配がなく、より必死で、いつのまにか両手両足を使ってしがみついてくる。もっと動きにくくなった。

 

 そして、泣きっ面に蜂。その様子を隙、ないし好機と見たドラゴンが襲って来た。

 

 片手がミランダでふさがれ、胴体にはアンジュ(の、グレイブ)がしがみつき、大幅に戦力ダウンしている状態ではあるが、泣き言は言っていられないと、アスクレプスのブレードを抜いて片手で応戦しようとするミツル。

 

 しかしその瞬間、

 

『い、いやああぁ―――!!』

 

 襲ってくるドラゴンに再び恐怖が湧きあがってきたアンジュが、素早く手足を離してその場から離脱した。……アスクレプスと、ミランダを置き去りにして。

 

『えっ、ちょ、この状況作っといて逃げんの君!? えー……ま、まあ動きやすくはなったけど』

 

 釈然としないものを感じつつも、先程までより大幅に動きやすくなったアスクレプスを動かし、襲ってくるドラゴンに立ち向かうミツル。

 

 ブレード1本でも、油断しなければ十分に渡り合える。アスクレプスの防御力なら、多少の被弾は……直撃さえ避ければ耐えることが可能だ。

 

 機動力を生かした立ち回りや、『D・フォルト』を使った防御ができればさらに盤石だろうが、片手に生身のミランダを握って守っている状態ではそれも難しい。

 上下左右の激しい動きが厳禁なのはもちろん、機体周囲の空間を歪ませるバリア機構である『D・フォルト』は、彼女への影響を考えると使えない。巻き込まないように使えば大丈夫だとは思うが、もしものことを考えての配慮だった。

 

 なお、そのミランダはと言うと、邪魔にならないようにか、はたまた怖くてそうなっているだけかはわからないが、アスクレプスの手の内側にすっぽりと隠れるように、体を丸めてじっとしていた。正直、非常に守りやすいので助かる、とミツルは思った。

 誰かと違って、とも。

 

 そして、その『誰か』はというと、

 

『お、お願い、開けて! 乗せて! ここから逃げて!』

 

『待て、待って、待ちなさい! いきなり何、ちょっと、やめ……開けようとしないで!? こら、こじ開け……ホント待ちなさいマジで! 訴えるわよこらぁ!?』

 

 今度は、ミレーネルの操縦する輸送艦『グラーティア』にとりついていた。

 

 アスクレプスから離れた後、近づいてくるそれに気づいてしまった彼女は、一直線にそこまで飛んでいき、保護してもらおうと壁、ないし装甲をドンドン叩くわ、艦載機出入り口のハッチをこじ開けようとするわ……突然のことに頭が追いつかないミレーネルを困惑させていた。

 

 そして、そこに群がってくるドラゴン達。

 逃げるアンジュ。どこかで見た展開だ。

 

『何なのよ一体っ……ああもう、こっちくんな!』

 

 うんざりしたような声音で、艦に搭載されている機銃やその他武装を使ってドラゴンを迎撃するミレーネル。

 

 それを見ていたミツルは、こちらもうっへりとした表情になって、

 

(必死なのも怖いのも察するけど、タチが悪すぎる……MPKかっての)

 

 MPKとは、ネトゲ用語の1つであり……自分を追いかける大量のモンスターを引き連れて移動してきて、それを他人に押し付ける迷惑行為、及びそれによって他のプレイヤーをキルする行為である。略さずに言うと、『モンスタープレイヤーキル』。

 

 要は、今のアンジュである。

 

 そのアンジュはと言うと、しっちゃかめっちゃかに逃げ回り、またしてもこっちに突っ込んで来ようとして、しかしドラゴンに襲われている最中なのを見て諦めたようだ。

 そのドラゴンは君が先程引き寄せた連中ですがね。

 

 ふと輸送艦の方を見ると、格納庫のハッチが開き、そこから1機の機動兵器が出てくるところだった。

 

 出てきたのは、細身のフレームに、全体的に丸みを帯びた装甲を各所に纏った人型の機体だ。

 関節部などにはまるで布か、包帯のようなものが巻き付いているような見た目である。

 

 ミレーネルが乗っているのであろう、その機体……『アンゲロイ』は、襲ってくるドラゴン達をたった1機で相手取っていた。

 

 『サイデリアル・ホールディングス』の新型機体(の、試作品)であるそれは、稼働フレームを軸にして、変形可能な柔軟な装甲で全体を覆うことで、攻撃力・防御力・機動力の全てにおいて高水準な能力を発揮している。

 その戦闘能力は、試作機ながら、現在連邦軍で通常配備されているモビルスーツなどの機動兵器を上回る性能だ。

 

 こちらもパラメイルよりかなり大きく、それでいて機動力も高い。背部と脚部に備わったブースターが火を噴いて加速すると、一瞬で接敵して、腕が変形した剣ですれ違いざまに斬りつける。

 あるいは、腕を変形させた砲身からビーム砲を放って撃ち抜いていく。いずれの武装も、展開して攻撃するまでがかなり早く、持ち換える動作がない分隙も少なかった。

 

 そのような柔軟な装甲にもかかわらず、防御力もきちんと高い。スクーナー級程度の牙では、装甲で受ければほとんど傷もつくことはなかった。

 

 1匹、また1匹とドラゴンを撃ち落としていく。

 

 そして艦の方は、迎撃機能付きのAIに切り替えて、直接ドラゴンを落としに来たようだ。大型でも機動力があり、生物特有のトリッキーな動きも見せるドラゴンの相手をするには、流石に艦に乗ったままでは厳しいと判断したらしい。

 

 そして、ドラゴンを蹴散らす姿を見て、再度アンジュが……

 

『た、助け……』

 

『こっち来たら撃つ!』

 

『ひっ……!?』

 

 飛び込もうとしたところを、割と本気の殺気と共に、ミレーネルがアンゲロイの砲身を向けたことで、あえなく退散していった。

 流石にMPK二度目はないらしい。声音からも、ミレーネルのうんざりした感じが怒りと共に伝わってきた。

 

 しかし直後、行き場を失ったアンジュは……

 

『よし、これで残るはあの大物だけだな……っ!? な……し、新兵!?』

 

『た、助けて……助けてええぇぇっ!』

 

『何しやがる、離れろ!』

 

 今度はなぜか戦場の方に舞い戻り、今まさに、親玉と思しき『ガレオン級』のドラゴンと戦おうとしていた、パラメイル第一中隊隊長・ゾーラの方に突っ込んでいっていた。

 

 彼女の乗る指揮官機『アーキバス』の腰にしがみつき、またしても見事なまでに邪魔になっている。

 

『だ、だからあの子は……なんでわざわざロボットでしがみつくなんて、器用で迷惑な真似を……って、んなこと言ってる場合じゃ……』

 

 少し前の自分のように、格好の餌食状態になっている、指揮官と思しき機体(と、アンジュ)。

 

 助けに行こうにも、片手にミランダを持っている今の状態では無理だ。

 

 しかし幸運にも、ちょうど周囲のドラゴンをどうにか追い払い終え、さらにミレーネルのアンゲロイも追いついてきた。

 

『ミレーネル、この子お願い!』

 

『お願い、って、ミツルは?』

 

『あれ、どうにかして助けないとやば……』

 

 『やばい』と言い切るよりも先に、それは起きた。

 おそらく、抱き着かれていたことでよけきれなかったのだろう……ガレオン級のドラゴンの攻撃が、2機のパラメイルに直撃し……大破して海に落ちて行くところだった。

 

『そんなっ!?』

 

『ゾーラ隊長ォ!?』

 

 その場面を見ていた他の隊員……サリアとヒルダの悲鳴が響く。

 

 ドラゴンはさらに、確実にトドメを刺そうとでも思ったのか、着水した2機目掛けて、スクーナー級を率いて襲い掛かろうとして……

 

『あ゛ー、も゛ー! 仕事初日から働きすぎじゃないかなぁ僕!?』

 

 次元力の緑色の光を背部から噴き出して急加速し、アスクレプスがガレオン級目掛けて突っ込んでいき、頭に思い切り蹴りを放つ。

 そのままの勢いて、両手に持ったブレードで何度も斬りつけ、さらに周囲のスクーナー級にも、縦横無尽に飛び回って攻撃する。

 

「な。なんだよありゃ……あんなにでけえのに……」

 

「は、速い……」

 

 後方から見ていた、ロザリーとクリスが呆然と呟く。2人と並んで、いざと言う時は援護のために狙撃しようとしていたエルシャもまた、呆気に取られていた。

 

 ドラゴン達は、落ちた2機よりも、今確実に脅威になっているアスクレプスを相手取ろうと決めたようだが、その機先を制するように、アスクレプスは背部のうねる砲身から光弾を放って牽制。

 怯んだ隙に、

 

『リベレーター展開! 来い!』

 

 その掛け声と共に、異空間から巨大な砲身が転送されてきて、アスクレプスの目の前に出現。

 機体と連結し、膨大な次元力がチャージされ始める。

 同時に、後方からアンカーが伸び、何もない空間に打ち込まれて機体を固定した。

 

 そして、出力が最大になったところで、蛇の頭を思わせる形状の大砲が火を噴いた。

 

『Gディメンション・シュート!! 往・生・しやがれぇえええっ!!』

 

 ミツルの叫びと共に、アスクレプスの身長以上あろうかという極太の、純白の破壊光線が放たれ、それが薙ぎ払うように戦場をなぜる。

 光に飲み込まれたドラゴン達は、ほとんどが消し飛んで消滅し、ガレオン級など一部も、形はわずかに残したものの、絶命して力なく落ちて行った。

 

 自分達の扱う武器類とは全くレベルの違う威力の武装の数々に、驚愕が収まらない第一中隊の面々。

 

 そんな彼女達に対して、アスクレプスが向き直る。

 今放った大砲・リベレーターは、再び亜空間に消えた。

 

 思わず体をこわばらせる彼女達に対して、ミツルは、害意はないことを示すかのように、手にしていたブレードをしまう。

 

 それを見て、幾分緊張をやわらげたサリアが、ゾーラ不在の今、第一中隊の副隊長として尋ねる。

 

『助けてくれたことには礼を言う……それで、あなたは誰? ここに何の用?』

 

『ええと……どうも、『サイデリアル・ホールディングス』の者です。こちらに滞在してるはずの、ナデシコ……外から来た部隊に、補給物資を運んできました、あー……ただの運送業者です』

 

 嘘つけ。

 ヴィヴィアン以外の心の声がそろった。お前のような運送業者がいるか。

 

 なお、ヴィヴィアンは『外の世界の運送業者って強いんだなー』と、間違った知識を頭の中で形作りつつあった。違います。誰か教えてあげて。

 

 とはいえ、物資を運んできたのは事実であるし、加えて言えば、近々そういう者が来るという話は、サリアも聞いていた。

 

『……司令から話は聞いてるわ。『アルゼナル』に案内するから、ついてきて』

 

『ありがとうございます。それと……負傷者を1名、こちらで保護してるんですが』

 

『……基地についてから引き渡してもらうわ』

 

 言いながら、サリアは……撃墜されたゾーラの救出に向かう、仲間達の機体を一瞥した。

 その後は、ココが撃墜された場所にも、ちらりと視線を向け……悔しそうに下唇を噛む。

 

 パラメイル4機大破、パイロット1名、あるいは2名死亡の大損害。

 恐らくは生きていない、生きていても重傷であろうゾーラに代わって、自分が司令にこのことを報告すると思うと、彼女は気が重かった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

(以下、日記に戻る)

 

 襲って来たドラゴンは撃退して、約1名人命救助とかもしたものの……初日からハードだった。

 いやまあ、あんな場面に出くわした運が悪かっただけだとは思うんだけどね……。

 

 ともかく、補給関係のチェックその他と……あと、これからお世話になる『外部独立部隊』の皆さんとの顔合わせその他は、明日ってことになった。

 

 総司さんとか、一部の留守番メンバーを除く、戦艦その他の部隊は、『火星の後継者』関連の捜索に出てて、今日はまだ戻ってないみたいだしね。

 

 それまでに、寝て疲れをとらないと。仕事にはきちんと取り組めるように。

 次元力を使った武装を使うと、なんか疲れるんだよなあ……意志の力とかそのへんを引き出すからかな?

 

 

 

 




おまけ 今回出てきた機体について


【アンゲロイ】

元ネタは『第三次スパロボZ』に出てくる敵勢力のロボット。
分類としては下っ端、もしくはAIを搭載して使われるザコ敵。作中での扱いも、基本的には数で勝負の量産機とされている。しかしそれでも地球連邦軍が正規採用している機動兵器よりかなり性能は上である。実際、ザコ敵の割には結構堅い。
部隊ごとにカラーバリエーションが存在するが、基本的に性能は同じ(ある例外を除いて)。

ちなみに、元ネタ世界では大きさが42mもある(マジンガーZの倍以上)のだが、この世界ではミツルのアスクレプスに合わせて、ほぼ同じくらいのサイズに小型化されている設定。バースカルが頑張りました。


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第18話 アルゼナルで顔合わせ

 

【○月#日】

 

 結局、昨日、戦艦のその他が帰還してきたのは、割と遅い時間になってからだったので、翌日……すなわち今日になってから、運んできた物資の受け渡しを行うことになった。

 

 そしてその受け渡しの場で、『独立行動部隊』との顔合わせも一度に行うことになった。

 ほぼ全員――総司さんとナイン、そして舞人社長以外は全員だな――初対面なので、まあ簡単に自己紹介とか、色々な説明も済ませることに。

 

 ただ、なんか聞いていたよりも随分と人数が多い上に、何人かは見たことがあるような方も(僕が一方的に、だけど)いるようなんですが……。

 

 事前に聞いていた『ナデシコ』のメンバー各位。……思ったより少ないのね。

 戦艦に乗ってるくらいだから、人数は多いと思ってたんだけど、『電子の妖精』ことホシノ・ルリ艦長に、補佐?のハリー君、リョーコさんとサブロウタさんに……少人数編成なのね。

 

 あと、勇者特急隊の方々……は、舞人社長以外は、『超AI』なる人工知能を搭載したロボットの方々だったけど……何か、全員揃って熱血というか、正義感MAXな感じだな。

 それに、ロボット相手に話してるって感じがしない。ほぼほぼ人間相手の会話である。目を閉じて会話したら、あるいは電話越しだったらわからないんじゃないかと思うほどに。

 

 それから、私設武装組織『ソレスタルビーイング』の方々。

 刹那君にロックオンさん、アレルヤさんにティエリアさんの、ガンダムマイスター4名。刹那君とティエリアさんは、あの次元断層の戦いでも見たな。いや、直接は見てないが。

 母艦である『プトレマイオス』に乗る、スメラギさんを中心としたバックアップ組の方々とも挨拶した。皆さん、案外気さくに接してくれるようで助かった。

 

 それから、ソレスタルビーイングではないけど、行動を共にしているらしい、トビア君という人にも挨拶した。なんと、彼もガンダム乗りなんだそうだ。

 次元断層の時に見た、胸にドクロマークがあるガンダム。『クロスボーンガンダム』という名前らしいんだが、アレに乗っていたのがトビア君だそうで……え、元宇宙海賊? マジですか。

 

 さて、ここまでは聞いていた範囲内だったんだけど……問題はこれ以降の、存在を聞いていなかった方々についてだ。

 

 というか、ぶっちゃけて言ってしまうと、傭兵団『ミスリル』の皆さんがいました。

 あの潜水艦……ええと、長い名前の……『トゥアハー・デ・ダナン』だっけ? それに乗ってやってきたらしい方々である。

 

 相良宗介君に、マオさん、クルツさん、クルーゾーさん……さらに、上官であるテスタロッサ大佐とマデューカス中佐、カリーニン少佐も。さらには、護衛対象兼ツッコミ担当の千鳥さんも。

 そりゃ、潜水艦ごとこっちに来てるんだから、一緒にいるわな。

 

 もちろん、各自の愛機であるAS……アーム・スレイブも一緒である。

 宗介君の愛機『アーバレスト』には、これまたAIらしからぬジョークセンスが光る『アル』ももちろん一緒だったし、謎テクノロジー『ラムダ・ドライバ』もきっちり搭載されているようだ。

 

 そして、彼らと一緒に来たらしい、ハサウェイ・ノア君。

 愛機である『Ξガンダム』(読み方:クスィーガンダム)と共に来たそうだ。

 

 ハサウェイ、って……え、ブライト艦長の息子さんの?

 Zシリーズにも出てたけど、ぶっちゃけ影薄くて全然覚えてなかったんだけど、あのハサウェイ君ですか!? 君、ガンダム乗るようになったの!? くっそ、派生作品か? 全然知らない……

 

 そして、また独特な名前だな……『Ξ』って……初見じゃ絶対に読めないぞ、こんな文字。

 

 この、ミスリルメンバー+ハサウェイ君だが、彼らはなんと、僕や総司さん、トビア君と同じように、並行世界から……しかも、僕らとはまた違う世界からやってきたそうだ。

 現状を分析すると、そう結論付ける他ないそうで。

 

 理由は不明だが、突然この世界にやってきてしまい、右も左もわからない上、出てきたところではちょうど独立部隊がドラゴンと戦っている所だった。

 状況が全くわからないが、とりあえずドラゴンよりは話の通じる『ナデシコ』のルリ艦長と簡単に交渉した上で、そのまま共同戦線を張り……以降、行動を共にしているらしい。

 

 彼らからすれば、ここは、というかこの世界そのものが全く未知の場所だ。

 行き当たりばったりで行動するのは危険どころじゃないし、それなら運よく協力関係になれた人達と一緒にいた方が、色々と安全だろうしな。

 

 そんな感じで顔合わせをした上で、『今後は物資の補給とかで色々と関わって行く機会も増えると思うのでよろしく』と、ミレーネルと一緒に挨拶しておいた。

 

 それと、あの次元断層で一緒に戦った『白い機動兵器』の中身が僕だと明かしたら、あそこでそれを目撃していたトビア君や刹那君、ティエリア君が驚いていた。

 総司さんに話したように、要点だけざっくり説明はしておいたけど。そういう縁もあるから、積極的に協力させてもらうつもりだってことも付け加えて。

 

 色々と言いたいこと、聞きたいことはありそうだったものの、ひとまず納得してくれたらしい。

 『こちらこそよろしく』『頼りにしてる』と言ってくれたのは嬉しかった。

 

 あと、ミレーネルはクルツさんとサブロウタさん、そして総司さんに速攻でナンパされていたが、いつも通りの営業スマイル100%の笑みで無難に応対していた。

 ミレーネル、可愛いからね。そういう感じに絡まれるのはしょっちゅうだから、慣れてるのだ。

 

 ちなみに、今現在彼らが拠点として使っているここ『アルゼナル』には、他にも……というか、元々ここに住んでいる『メイルライダー』と呼ばれる面々がいる。

 というか、昨日ドラゴンと戦っていた面々そのものである。

 

 が、彼女達はこの『独立部隊』そのものに協力ないし参加しているわけではないので、顔合わせには来なかった。

 

 その後、物資も無事に受け渡して受領のサインももらった。

 これで、ひとまず今回の仕事は完了である。……また定期的に運ぶことにはなるんだろうけどね。

 

 それと、次に来る時に何か準備してほしい物資とかあれば、可能な範囲で要望聞きます、って言っておいたら、早速各自色々と希望を言ってきた。リストに入れておかないとな。

 ミスマル中将に話して、問題なければ次の機会に追加して持って来よう。金出すのはあの人……というか、連邦軍だからね。許可は必要だ。

 

 

 

 そんな感じで独立部隊の面々への挨拶は終わった。

 

 そして僕らはその後、改めてこの基地『アルゼナル』のボスである、ジル司令のところにも挨拶に行った。短期間とはいえ滞在させてもらうわけだからね、こういうことはきっちりしておかないといけない。

 

 本当は昨日のうちにそうしたかったんだけど、忙しそうだったので無理だった。

 ……恐らくその忙しさは、昨日のドラゴンとの戦いの後処理その他が無関係ではなかったんだろうとは思う。

 

 ジル司令は、見た目一発気の強そうな、眼光鋭い黒髪美女だった。

 会話の間中ずっと、油断なくこっちを観察、ないし値踏みしていたようだ。この2年で、交渉事も少なくない数こなしてきたし、多少こういう空気にもなれたつもりだったんだが……それでも緊張する相手だった。

 

 あと、昨日の戦闘に関しても、協力に感謝する、とお礼を言われた。

 お礼って感じのトーンでは全然なく、あくまで形式的に言った感じだったけど、まあいい。

 

 昨日僕、あの後、もののついでってことで……後始末も少しだけ手伝ったんだよね。

 

 死者と負傷者については、『パラメイル』――あの小型の機動兵器の名前らしい――に乗っていた女の子達が連れ帰ったんだけど、パラメイルの残骸はさすがに回収できなかったので、僕が『グラーティア』に乗せて送り届けたのだ。ほぼ大破してたけど、一応ね。

 

 それと……一番最初に撃墜されて亡くなった女の子(ココ、という名前らしい)の亡骸も、運よく見つかったので回収して、届けた。

 ……状態は……言葉にするのもあれなくらいに無残なものだったけど。

 

 結局昨日の戦いでは、死者2名、負傷者2名、パラメイル4機大破という結果になったそうで……衛生的なことを考えて、死者2名の埋葬は既に済ませたらしい。

 

 負傷者2名のうち、僕が助けた女の子……ミランダというらしい彼女については、精神的なショックが大きいため、療養中。

 死にかけたのもそうだけど、親友だったココの死も大きな理由だと。

 

 出番が来るまでは、訓練も含めて休みを取らせるらしい。もしかしたらとは思ってたけど、ココって子共々、昨日のあれが初陣だったそうだ。

 

 そして、もう1人の負傷者であり……こう言っちゃなんだが、昨日MPKまがいのやり方で散々戦場を引っ搔き回した子……アンジュは、まだ目を覚まさないそうだ。

 一応、傷は命に別状はないとのことだけど。

 

 ……アンジュ、か……なるほど、どこかで見覚えがあるわけだ。

 こないだニュースで言ってた、ミスルギ皇国の、追放されたお姫様、ね……。

 

 ついでとばかりにジル司令が教えてくれたんだけど、やはりというか、ここ『アルゼナル』は、『ノーマ』が集められ、連れてこられる場所なんだそうだ。

 

 『始祖連合国』は、『マナ』という魔法じみた不思議で便利な謎パワーが普及していて、日常生活の補助やら通信やら、いろんな場面で活躍しているんだが、まれにその力を使えない、どころか破壊してしまう『ノーマ』という存在が生まれる。

 

 彼女達――『ノーマ』にはなぜか女性しかいないらしい――は、『始祖連合国』では被差別階級にあたる……どころか、人間扱いされていないらしく、見つかり次第捕らえられて国外追放になる、と、外部の国々には知られていた。

 

 僕がこの2年間で調べて知っている情報は、ほとんどこれで全部である。

 あの国、外部の国々とは全くと言っていいほど国交を持ってないので、国内の実情とか全然耳に入ってこないんだよね。

 

 しかしその実態は、ここ『アルゼナル』に送られて、ドラゴンと戦わされているんだそうだ。ここは、異世界からやってくるらしいドラゴンを迎撃するための前線基地ってことらしい。

 

 そんな事情を雑談の中で――それにしてはやけに詳細に説明された気もするが――聞かされつつ、ひとまずジル司令との話は終わった。

 滞在の許可も正式に書面でもらった。これもミスマル中将に届けて説明しないとな。

 

 ちなみに、『メイルライダー』の子たちと顔合わせはした方がいいか、って聞いたんだけど、『必要があればこちらから声をかけるが、少なくとも今はやめておいた方がいい』とのこと。

 

 ……昨日の一件絡みで、まだ皆ピリピリしてるみたいなので、刺激しない方がいいらしい。まあ……無理もないか。

 

 

 

追記

 

 総司さんから追加で聞かされたことなんだけど……どうやら、ヤマトもこちらの世界に来ているらしい。

 

 しかし、とある協力者からもたらされた情報によると、ヤマトは今、あの『火星の後継者』に拿捕されている可能性が高いという。よりによってあの連中にかよ……。

 総司さんがナデシコと一緒に連中の拠点を探してるのは、その理由もあってだったか。

 

 

 

追記その2

 

 昨日、顔を見なかったからもしかしたらとは思ってたけど……総司さんはいたけど、千歳さん、来てなかったんだな。

 

 総司さんに聞いたら、何か、色々思うところがあって、日本に残った……というより、戦線離脱したみたいな言い方をしてた。

 

 ……気持ちはわからなくもないけど、なんだろ……やっぱりちょっと寂しいな。

 

 

 

【○月$日】

 

 今日でアルゼナル到着から3日目。

 

 補給は到着翌日には済んだので、その時点でもう帰っても別によかったんだが、僕はまだここ『アルゼナル』に滞在していた。

 

 理由は、独立部隊+αの、物資その他の消費ペースを確認するためだ。

 

 今後も僕は何度も彼らと接触しては物資を受け渡し、という感じで動いていくだろうが、彼らへの物資補充がどの程度の感覚で、どの程度の量を持って行けばいいか、その最適なペースを計算するためのデータを集めてるわけだ。

 

 連邦軍の正規部隊である『ナデシコ』だけならまだしも、『ソレスタルビーイング』や『ミスリル』、その他に総司さん達といった協力者もいるわけで。

 予定になかった人員が増えているのであれば、その分物資の減りも早くなるだろうし、必要になる物資も変わってくるだろうから。

 

 幸い、万が一のことを考えて、今回物資は多めに持ってきてあったので、そのあたりの調整は十分できる。

 

 結果としてここに長居する形になり……そうなれば、特に場を設けて顔合わせしなくとも、ここに住んでいるメイルライダー達との接点は自然に持つことができた。

 

 何の縁か、特によく話せたのは、あの時一緒に戦った『第一中隊』の子達だ。

 

 明るく元気で人懐っこい感じのヴィヴィアンや、穏やかで人当たりのいい性格のエルシャとは、よく食堂で一緒になった。外の世界のことを聞かせてくれって、興味深そうに言われたな。

 

 隊長であるサリアは、あの場で協力してくれたことには礼を言いつつも、一歩引いて距離を置いた感じの接し方だった。まあ、僕はよそ者だし、そういう態度にもなるか。別に不思議じゃない。

 なお、彼女は元副隊長だったんだが、あの戦いで戦死したもう1人が、第一中隊の元々の隊長だったらしく、その後を引き継ぐ形で昇進したそうだ。

 

 それ以上に距離を感じたのは……ヒルダ、ロザリー、クリスの3人。よく3人でつるんでるっぽい子達だが、なんかやたらこっちを敵視……とは言わないまでも、警戒してる感じがある。

 

 僕やミレーネルを特に、って感じじゃなく、仲間内以外に対しては総じてそんな雰囲気なのだ。

 クルツや総司さん達がナンパ目的で声をかけたりしてもそういう対応だし、その他の面々が声をかけてもあまり話そうとしないから。

 

 あと、こないだの戦いで僕が助けた女の子……ミランダ。

 『助けてくれてありがとう』とまずお礼を言って来たものの、それから少し話した後はさっさと戻って行って……ああ、あれはまだ立ち直れてないんだな。周囲に気を使う余裕がない感じだ。

 

 幸いと言うか、立ち直ろうという気はあるみたいなので、訓練とかには復帰して、食堂できちんと食事も摂ってる――無理して詰め込んでいるように見えなくもなかったが――ようだった。

 

 そして、第一中隊最後の1人……アンジュだが、まだ目を覚まさないそうだ。

 バイタルは安定しているので、繰り返すが命に別状はないので、目が覚めるのを待つだけだそう。

 

 ……まあ、彼女の場合……目覚めたら目覚めたで大変そうだけどな……色んな意味で。

 

 

 

 



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第19話 いったん離脱

ここ最近、仕事がちょっと忙しくなってきてますので、投稿が不安定になるかもです。早くもというか、1日1回は厳しくなるかも……


【○月%日】

 

 今日は、まーなんというか、色んな事が一度に起きた……。

 

 まず、今朝アンジュが目を覚ましたらしい。

 その話を僕は、食堂にいる時に聞いたんだが、それが聞こえた途端……メイルライダー組の空気が一気に悪くなった。その瞬間を境に飯の味が変わったような気さえしたからな。

 

 ヒルダの方から『チッ』って舌打ちの音が聞こえて、露骨に機嫌が悪い感じになった。一緒にいたロザリーとクリスも同じ感じ。

 

 僕の向かいに座っていた(なんか最近よく話しかけてくれる)ミランダは、うつむいて暗い影を背負ったように見えたし、コップを持つ手が震えていた。

 

 ヴィヴィアンは……変わってない。

 むしろ、様子が変わった面々を見て『?』な顔になってた。

 

 エルシャは不安そうにしてて、サリアはそんな様子の面々を見渡して、こちらも先行き不安ゆえかため息をついてた。

 

 が、その直後に警報が鳴って、ドラゴンが攻めてきたので、第一中隊が出動することに。

 まだちょっと調子悪そうなミランダも出撃だそうだ。……正直不安だけど、僕が口出せることじゃないしなあ……。

 

 しかし、どうやら彼女達だけじゃなく、独立行動部隊の面々も戦闘に参加するらしい。

 

 もともとジル司令との間には、拠点としてアルゼナルを使わせることや、情報を提供する代わりに、必要に応じてドラゴンの迎撃に力を貸すっていう約束もあったみたいで。

 基本的にはパラメイルが相手をするんだけど……今回みたいに、アルゼナルの戦力だけではドラゴンを止められないと思った時に力を借りるつもりだったらしい。

 

 今回の一件で、第一中隊は大きく戦力ダウンした上、最近はドラゴンの襲撃そのものが激しくなってきているらしい。再編成ないし、状態の立て直しが間に合わなかったと言ってた。

 

 パラメイルとは大きくサイズの違うモビルスーツや勇者特急隊のロボ達、サイズは近いが明らかに別系統の機体であるASなんかが並び立っているのは、ある種奇妙な光景だった。

 

 あ、ちなみに僕は出撃しなかった。

 僕はあくまで補給その他担当で、独立行動部隊には所属してないからね。基本的に、連邦軍との協定に盛り込まれている範囲でしか仕事はしない。

 

 まあ、ヤバそうだったり、このアルゼナルに被害が及びそうだったら、その時は加勢するのもやぶさかではないけども。一応、すぐに出られるようにアスクレプスは準備だけは終えてある。

 

 で、そのままドラゴンと開戦、ってなるかと思ったら……その前にと言うか、ドラゴンじゃなくてモビルスーツ達が来た。

 

 またかよ、っていうかあいつらもアルゼナル襲ってくるのかよ、って思ったんだが、よく見ると、無人機じゃないっぽいのが先頭にいた。

 というかアレはむしろ……無人機に追われてるのか、あの4機が。

 

 しかもよく見たら、あれガンダム混じってるし……見たことあるのからないのまで。

 え、何? まさかまた『並行世界からの』云々か?

 

 ……どうやらそれっぽい、ジル司令のところに現場から通信入ったって。

 ハサウェイの知り合いらしいんだけど……ガンダム達はそのまま迎撃に協力してくれるみたいだ。

 ……また予定外の味方=食い扶持が増えたなこりゃ。計算し直しだ。

 

 その後、無人のMS軍団を撃墜したら、やっとドラゴン登場。

 

 数こそ多かったものの、順調に応戦できていたんだが……突然別方向から、伏兵と思しきドラゴンが現れてアルゼナルに向かって来た。やだ、賢い。そんなこともできるのあいつら。

 

 が、それとほぼ同時に、こちらからも迎撃のためのパラメイルが1機……1機だけ?

 え、しかも乗ってるのアンジュだって? おい大丈夫か、大丈夫じゃないだろ絶対。

 

 案の定と言えばいいのか、むしろ予想よりひどいと言えばいいのか……アンジュは人型に変形することすらせずに、ドラゴンに向かって突っ込んでいく。

 あれじゃ特攻にもなってない、ただの自殺……え、まさかとは思うけど、それが目的じゃないだろうな。

 

 が、そこからさらに事態は急転。

 

 そのまま撃墜されるかと思ったアンジュだが、ひらりひらりと攻撃をかわし(ちょっと当たってたが)、しぶとく生き残る。

 

 その際、何かのはずみで通信機のスイッチが入ったらしく、アンジュの声がこっちにも聞こえてきた、んだけど……

 

『私は……私が、生きたい……まだ……!』

 

『お、お前……お前が……!』

 

『お前が死ねぇえええっ!!』

 

 なんかすごい気迫で叫んだかと思うと、パラメイルが変形して人型になり……そのまま、凄まじい勢いの連続攻撃でドラゴンを落としてしまった。

 

 え、何じゃ今の……こないだと全然違うんだけど。めっちゃ強いじゃん。

 

 そこからはもうアンジュ、機動部隊と合流して大暴れである。何かが吹っ切れたかのように。

 

 あっという間にドラゴンを撃墜あるいは撃退して、戦闘は終了した。

 

 その後、夕食の席でアンジュを見かけたんだけど……髪がショートヘアになってた。

 あれ、ちょっと前までロングだった気がしたんだけど……いつの間に切ったの?

 

 それと、戦闘後に今回合流した、新顔の方々との顔合わせも行われ、僕もその場に呼んでもらったんだけど……だめだ、顔も名前も全然思い出せん。Zにいたっけ?

 

 少なくとも、『ダブルゼータ』なんてガンダムは初めて聞くので、そのパイロットであるジュドー君とやらは初めて見る、知らない人のはずだ。

 

 一方、『ゼータ』の方は知っているけど、パイロットは、名前でからかうとキレるあの人だったはず。なんでかわいい女の子が乗ってるんだろ。乗り換え中?

 

 ともあれ、今日の襲撃は被害らしい被害もなく無事に終わったわけだ。

 

 けど……食堂で感じた、第一中隊の面々とアンジュとの間の、不協和音が聞こえてきそうなほどに不穏な空気を見る限り……まだ一波乱……いや、二波乱、三波乱くらいはありそうである。

 

 

 

【○月&日】

 

 アンジュが復帰し――というよりは、ようやく正常稼働し始め――ようやく本来のメンバーがそろったパラメイル第一中隊だが……ぶっちゃけその内部の空気は最悪である。

 

 理由は言わずもがな。先の戦いで、前隊長とココが死んだ戦犯であるアンジュが、よく思われていないためだ。

 

 前の隊長を慕っていたらしいヒルダ、クリス、ロザリーは表立って不満をあらわにし、口で突っかかって行くのはもちろん、なんかいじめじみた嫌がらせとかもやってるっぽいし。

 

 ミランダの方は、ヒルダ達ほど直接的に言ってはいないものの、不満自体は隠そうとはしていない。親友であるココが死んだのがアンジュのせいだってことで、やはりよくは思っていない。

 

 そんな隊員達の状況を見て、サリアは今日も頭を抱えている。がんばれ隊長。

 

 あと、ヴィヴィアンとエルシャは特に何もないようだ。

 先日の一件に思う所がないわけではないようだけど、彼女達曰く、『アンジュは既に償いは終えた』とのことで、それ以上追求しようとは思わないらしい。

 

 ここアルゼナルでは、戦死者が出た場合は、生き残った者がその者達の墓を買って立てる、というのが、ある種のしきたり、ないし掟なんだそうだ。

 

 アンジュは既に、この間の戦いで死んだ2人分のお墓を買って、それを自分で荷車で運んで、共同墓地に置いた。それで、務めは果たした、ということらしい。戦死者が絶えないアルゼナルらしい掟だな。

 

 なお、主にヒルダ達からの嫌がらせなどについて、アンジュはただただ、なされるがままになっている…………なんてことは全然なくて、バリバリ反撃している。

 戦場で錯乱していたのが嘘のようなパワフルっぷりである。変わり過ぎじゃなかろか。

 

 元気になったことはよかったかもしれないが、正直いつか刃傷沙汰に発展するんではないかと気が気じゃないです。女の戦い、怖い。

 

 特にヒルダとアンジュは、なんか上手く行けば仲良くできそうな気がするのにな……声的に。

 ……仲良くしたらしたでやべーことになりそうな気がしなくもないが。

 

 さて、それとは対照的に、ここに新しくやってきて『独立行動部隊』に協力することになったジュドー達は、すぐに皆に溶け込んでいた。

 

 知り合いであるハサウェイ達がいたことも理由として大きかっただろうけど、もともとどっちも人と壁を作らない感じの性格の人が多かったからな。

 

 トビア達も混ざって『ガンダムがいっぱいいるな』なんて笑い合ったりしていた。

 

 考えたらすごい話だよな。3つの世界のガンダムがひとところに集まってるんだから。

 ……いや、まず並行世界3つ全部にガンダムがなぜ存在するのかって話だけど。

 

 けどそれだけに、パラメイル第一中隊の子達との温度差が……ちょっとひっどいことになってるんだが……こればっかりはなあ。外野が何か言ったところでどうにかなる問題でもないし。

 

 そして、そんな空気にもめげずにナンパを繰り返すいつもの面々。いっそ頭が下がる熱心さである。

 案外とあれが潤滑油になって両者のわだかまりが解消……しないか。

 

 

 

【○月*日】

 

 ある問題は解決し、ある問題は残ったままではあるが……その結末を見届けることなく、ひとまず僕はここを離れることになった。

 

 ……のだが、どうやら独立部隊もぼちぼち動き出すらしい。

 

 ここ最近、この近辺を探してはいたものの、『火星の後継者』の基地とかは特に発見できなかったので、日本に戻るつもりなのだという。

 

 ただ、先に述べた戦力協力の件もあるので、いくらかはここに残していくらしい。少なくとも、アルゼナルの防備の再編成が終わるまでは。

 

 つまり、部隊を一時的に2つに分けると。

 スパロボ名物ルート分岐ですねわかります。

 

 日本に戻るのは、勇者特急隊とナデシコ、それにジュドー達MS組。引き続き『火星の後継者』を探しつつ、日本の方の様子も見る、と。

 

 対してアルゼナルには、ソレスタルビーイングとミスリルの面々が残る。

 あと、総司さんとナインもこっちに割り振りになったそうだ。

 

 僕はというと……僕が帰る先は『サイデリアル・ホールディングス』本社、つまりは東南アジア方面なので、どっちでもないのだが……ミスマル中将に色々と報告に行くので、まずは日本にはいくことになる。

 

 離脱自体は僕は一足先にすることになりそうなので、一応皆に挨拶しておいた。

 『気を付けていけよ』とか『次は一緒に戦おうな』なんて声をかけてくれたりした。

 

 総司さんは、日本に行ったら千歳ちゃんによろしく、とのことだった。

 

 パラメイル第一中隊の面々は……相変わらず、ヴィヴィアンとエルシャ以外は素っ気ない感じだったけど。もう慣れたな。

 

 そんな風に、概ね皆、軽い感じで送り出してくれたものの……ただ1人、ミランダだけはちょっと違う感じで。

 誰かから聞いたのか、こっちが挨拶に行く前に『帰っちゃうんですか!?』って詰め寄ってきた。

 

 彼女、最初に助けて以降、なんていうか……懐いてくれた感じがしてるんだよね。

 

 前にも言ったかもしれないけど、ここにいる間よく話しかけてきてくれた。

 頻度とか回数では、メイルライダーの中では一番……いや、視界に入るたびにポケモントレーナーよろしく声をかけてくるヴィヴィアンには負けるかもしれない。

 

 ただ単純に慕ってくれてるとかなら、まあ嬉しいけど……それにしちゃどことなく態度が不自然だったりする部分もあって……

 穿った見方でなければ、親友であるココを失った悲しさを紛らわすために、新しい交友関係を築こうとしてる、のかも。僕以外にも、第一中隊のメンバー達にも、機会を見つけてよく話しかけてるみたいだし。

 

 まあ、悲しみからの立ち直り方の1つだと思えば、それもありか。

 

 挨拶に来た時は、すごく残念そうにしてたけど……最後には皆と同じように『気を付けて行ってくださいね』『またきっと来てくださいね!』と言って送り出してくれた。

 

 

 

 ただ、帰る前にちょっとばかり用事を済ませた。

 

 ここに来る前、ネルガルの会長から……『きちんと武装していけ』と言われていたわけだが……実はその他にもう1つアドバイスをもらっていた。

 『商品としての『武装』も持っていくといい』というものだったんだが……その理由が、ようやくわかった。

 

 ここアルゼナルには、『ジャスミンモール』という、大型商業施設?みたいなところがある。

 

 名前の通り、ジャスミン、という名の女性(もちろんノーマ)によって運営されている場所だ。

 メイルライダー達は、ドラゴンと戦って報酬――『キャッシュ』を得て、それをここで使い、色々と買い物をしたり、飲み食いしてストレス発散するらしい。

 

 『アルゼナル』では、所属するノーマに対し、最低限の衣食住は保証ないし支給するものの、本当に最低限であり、食事もまずいオートミールみたいなもの。

 なので、贅沢がしたければドラゴンを狩って『キャッシュ』を稼ぎ、自分の金で買え、というシステムなんだそうだ。

 

 ……なんか、どこぞの地下王国のシステムによく似てるな……とか思ってしまった。

 わずかな報酬(ペリカ)を物販とギャンブルで搾り取るあれにそっくりである。

 

 しかし、こちらの管理者であるジャスミン女史は、『ノーカン! ノーカン!』とか言いそうなアコギで怪しい感じではなく、ちょっと痩せ気味の普通のおばちゃん、って感じの人だった。

 

 なお、戦死者が出た時に『買う』墓石もここで売ってるらしい。すごいなジャスミンモール。

 なんか聞いたら『ブラジャーから列車砲まで何でもそろう』がキャッチコピーらしい。いやほんとすげえな。

 

 そしてそう、なんと武器も売ってる。

 というか、メイルライダー達の機体は、『ノーメイク』と呼ばれる初期の状態から、自分で稼いだ金で武装を追加したり、好きな色に塗装したりしてメイキングしていくんだが、その武器や塗料もここで買うのだ。

 

 ジャスミンさんはどうやら、こういう商品を独自のルートで調達するらしいんだが、そのルートの1つがアカツキ会長、ないし『ネルガル』だったようだ。

 

 そして、僕に武器(商品)を持っていくことを進めたのは……取引先として彼女を紹介する、あるいは彼女に僕を紹介するためだったわけね。

 

 商品を見せたら、『なかなかいいもん扱ってるね』と興味を持ってくれたようだった。

 

 ただし、今回持って行ったのは割とオーソドックスな武装ばっかりだったので、取引対象として成立したものは、残念ながら少なかった。

 

 けど、『面白いものを持ってきたらいい値段で買うよ』とのことだったので、次に期待してくれるようだ。

 それに加えて、『こんなのがあれば調達してほしい』という簡単な要望リストももらった。

 

 ふむ……思わぬところで商売相手ができた。

 次に来る時にはお望みのものをそろえていくとしよう。

 パラメイルに搭載可能なサイズの武器にしぼって持っていく必要はありそうだけど。

 

 

 

 そんなこんなで、期間としてはそんなに長くはなかったものの、予定よりもそこそこ長めに滞在することとなったアルゼナルを離れ、一路『サイデリアル』本社へ、そして日本へ出発した。

 

 

 

 



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第20話 納豆と平和とこれからのこと

お知らせ

第16話と第17話のあとがきに、その回で登場したメカの元ネタや設定的なものを付け加えましたので、もしよかったらご覧ください。

それでは第20話、どうぞ。


 

【○月+日】

 

 日本に戻って早々、旋風寺コンツェルンから、発注したいものがあるとの連絡を受け、ミスマル中将に報告を終えた後、その足で商談に行った。

 

 鉄道用の資材とか、あるいはパーツその他の加工・納品依頼かな、と思って行ったんだけど……発注されたのは、なぜか納豆。

 

 ……え、何で? おたく、鉄道関連の産業がメインだよね? 飲食とか小売業もやってたっけ?

 

 しかも話を聞くと、今、日本各地で納豆が品薄になってるとかなんとか……ますます何で?

 

 別に今年は異常気象とかもなかったから、原料である大豆の品薄や価格高騰も起きていないはずだし……。

 現に、他の大豆製品……豆腐や醤油、味噌なんかは普通に流通してんのに、なんで納豆だけ?

 

 ……よくわからんけど、まあ……ほしいって言うなら作るし、売るけども。

 うちには食料品の製造や加工を扱ってる部門もあるから。

 

 

 

【○月¥日】

 

 一昨日注文を受けた納豆を、早速納品させてもらった。

 そしたら、舞人社長にめっちゃ驚かれた。『この短期間でこれだけの量、よく用意できましたね』って。

 

 まあ、こういう発注に関してはうちの会社、結構強いんだよね。

 

 材料になる大豆を発注して、それをもとに納豆を作ったわけだが……うちの食品加工工場にある製造ラインを使い、今回は結構な量の発注だということもあるので、通常稼働させているよりも規模を大きくして納豆の生産に当たったのだ。

 予備用のラインと、普段は他の食品の加工のために回しているラインの一部も、一時的に納豆の生産に充てる形で。

 

 え、そんな風に生産するものをコロコロ変えられるのかって? 変えられるんだなコレが。

 

 確かに普通、食品の加工って言ったら、それ専用のラインを用意して作るわけだから、そう簡単に他の食品の加工用に変えたりとかできるわけがない。

 

 しかし、うちの食品加工部門には、『万能食品加工マシーン』とでも言うべき、設定次第で様々な食品加工に利用可能な、超便利な機械があるので、それも可能なのだ。

 

 これ1つあれば、納豆や味噌みたいな発酵食品も、かまぼこやはんぺんみたいな練り物も、たくあんやピクルスみたいな漬物も、スモークチーズやビーフジャーキーみたいな燻製も……何でも作れるという、魔法みたいな機械が。

 小麦からパスタをつくることも、肉をミンチにしてハンバーグに加工することも、米から日本酒を、ブドウからワインをつくることすらできる。同じ機械でだ。すごいだろ。

 

 ……このマシン、名前を『グルメキッチン5252』と言うのだが……名前で察した人もいるかもしれないが、作成者はウォルフガングである。

 前に話した、一時期うちが彼のスポンサーだった時に作ってもらった機械である。ホントマジで助かってます。

 

 彼にはこの他にも、様々な種類の農作物を作れる万能有機物栽培マシン『ファーマー0831』や、硬い岩盤も難なく堀り進められる上、掘りながら鉱物資源の種類分けができる掘削・選別同時進行重機『ゴールドラッシュ2684』などを作ってもらっており、またこれらはうちの製作部門で設計図や特許権ごと買い取ってある。

 おかげで、これらが配備されている採掘部門や生産部門では、日夜巨額の利益が生み出されていて……今回もこれらに活躍してもらったわけだ。

 

 ……いや、ホントこんなもん作れる腕があるんだから、ウォルフガング……真面目に働けよ。

 そっちの方がいい意味で歴史に名を残すレベルになれるって絶対。

 

 実際、このことを舞人社長に話したら、それはもう驚いていた。

 

 けど同時に、なぜか嬉しそうにもしていた。

 

 どうしてか聞いたら、『今は悪党でも、心を入れ替えることができれば、きちんと社会のために役立つ力を発揮できる奴だってことがわかったから』だそうだ。

 

 ……ホント、この人はかっこいいな。相手が悪党であっても、いやある意味『悪党だからこそ』……そいつのこともきちんと考えて、心配して、そして明るい未来や、そこに至れる可能性が見えた時には、それを喜ぶことができるんだから。

 いつの日か、ウォルフガングにもその気持ちが伝わってほしいもんである。

 

 もしそんな時が来たら……僕も何かしら、後押しはさせてもらいたいと思ってるから。彼の手腕に、どんな形であれお世話になってる者として。

 

 ……しかし、納豆の品薄はひとまず解消ないし緩和しそうだけど……原因は何だったんだろう?

 

 舞人社長の話では、まだわかってないらしいが……風の噂では、ロボットが現れて納豆を次々に奪ってる、なんて話も聞けたっけ。

 ……そんなに納豆が好きな奴なのかな? ロボット使ってまで強奪って……買えよ、普通に。

 

 ちなみに、雑談の中で舞人社長に聞いた話なんだけど、なんか舞人社長のお爺さんが納豆が大好物なんだって。

 それなのに最近では手に入らなくて元気がなさそうにしてたから、これで喜んでもらえる、って嬉しそうにしてたよ。

 

 ……そういや、タツさんも納豆好きだっけな。

 

 総司さんの話だと、千歳さんは今もタツさんの家でお世話になってるそうだから……後で挨拶に行かなきゃ。……手土産、納豆でいいかな?

 

 

 

【○月@日】

 

 千歳さんとタツさんに挨拶に行ってきた。

 

 その際に聞いたんだが……やはりというか、千歳さん、もう戦いに加わるつもりはなさそうである。

 それこそ、ヤマトが見つかっても見つからなくても、元の世界に戻れても戻れなくても。

 

 もともと千歳さんは、海が干上がり、食べ物もろくに作れず、自然の食品やきれいな景色なんてどこにもなくなってしまった……極限状態の地球で暮らしていた。

 1年後には人類は滅びてしまうだろうとまで言われた、末期も末期の惑星で。

 

 それでも、歯を食いしばってそれに耐え、かすかな希望を目指して戦い続けた。

 

 それが、この平和な世界で数日生活して……自然の食品とかを食べて、穏やかな時間を過ごして……何と言うか、緊張の糸が切れちゃったみたいだ。

 

 もう、ヤマトに戻れたとしても、日程の遅れは致命的だし、あきらめた方がいい。

 こんな平和な世界で穏やかに暮らせるのなら、あんな地球に戻らなくても、もうここで仕事を見つけて暮らせばいい……そんな風に考えた。

 

 それが、生まれ故郷の地球を捨てる決断だとわかっていても。

 

 ……彼女を責めることはできないだろうな。

 当然と言えば当然の考え方だ。苦難が待っているとわかっている道に、それも苦労して戻るくらいなら、今目の前にある、手を伸ばせば届く幸せに縋りたいと思うのも、無理はない。

 

 けれど、総司さんやトビアはそうしなかった。

 あくまで自分達は、あの地球を救うために地球を旅立ったんだと、その使命感を未だに胸に抱き続けている。それはそれで、正しいことだろう。

 

 そして、僕はというと……どうなんだろう?

 

 思えば今の僕は、ここにきちんと社会的地位も生活基盤もある。

 もともとは『ひとまず』的な感じで取り組んだものだったけど、予想をはるかに超えて上手くいって……元の世界より盤石なものが出来上がったと言えるくらいだ。

 

 加えて、ここに来てから仲良くなった人達もいる。僕を慕ってくれる社員たちもいる。

 

 ……そう考えると、僕も、ここを離れて、ここでの全てを棄ててあの世界に戻るのは……嫌、かもしれない。

 

 けど、あの世界を捨てるっていうのも……それはそれで嫌だな。

 多少ではあるけど、思い入れもあるし……僕ももともとは、あの地球を助けようと思って色々と動いていたわけだし……最初の方のガミラスの撃退以外は、ことごとく上手くいかなかったけど。

 

 ここでの自分も捨てたくないけど、あっちの地球を助けられそうなら、それはそれで頑張る……なんだか、僕は僕でどっちつかずで中途半端な考え方を、いつの間にか持ってたもんだなあ。

 

 理想は、こっちに永住したままあっちを助ける……とか?

 我ながら無茶苦茶なことを言ってると思うけどもね。

 

 あ、ちなみに、千歳さんに会ったことは、通信で総司さんに報告しました。

 ……やっぱり、この世界に住む気っぽい、とも。

 

 あの分じゃ、ヤマトが見つかってもダメだろうな、と言ったら……総司さんもちょっと残念そうにしていたけど、やはり千歳さんの意思を尊重するつもりのようだ。

 

 それともう1つ。

 総司さんから通信の時に一緒に聞いたんだけど、向こうでは結構大変なことが起こってた。

 

 なんか、アンジュが行方不明になってるんだって、今。

 僕が帰った少し後の出撃の時に、機体の不調だか何だかでロストしてしまい、今、皆で捜索中なんだそうだ。

 無事でいるといいけど。

 

 あと、毎日そんな風に頑張って探していたら、なんかヴィヴィアンに『なんで皆アンジュを探してくれるの?』って聞かれたらしい。

 

 なんでも、自分達はノーマだから、こんな風に人から心配されたり……いやそもそも、思いっきり使い捨ての消耗品扱いで、人間扱いされないのが普通だった。

 いつ死ぬかもわからず、死んでもすぐに忘れられ、補充される。いつまでも悲しんでるなとばかりに、喪に服す暇なんて当然与えられず、敵が来たらはい出撃、の毎日。

 

 だから、総司さん達がヴィヴィアンに『仲間だからだよ』って何の迷いもなく答えた時も、『仲間』として扱われることが逆に新鮮で、というか理解できなくて、本気で戸惑ってたんだって。

 

 言ってみれば、『ノーマあるある』……なんだろうか。

 ブラックすぎていまいち笑えないけど。ほんとにあの国は……

 

 

 

【○月;日】

 

 納豆の品薄の一件、解決したそうだ。

 

 犯人は、宝石強盗ピンクキャット、そしてその首領、カトリーヌ・ビトン。

 今までも幾度となく舞人社長、ないし『勇者特急隊』と戦って来た犯罪者である。

 

 なんでも、夕食の時に納豆を頭からかぶって激怒した彼女は、この世から納豆を消し去ろうとして、納豆へのネガキャンもかねて日本中から納豆を奪っていたという。

 

 …………うん、ひとっつもわからん。

 

 わからんけど、まあ解決したならいいか。

 

 そんなわけで、品薄は解消になる見込みだし、今回が最後の納品ということになったんだが……その時に、舞人社長のお爺さんである旋風寺裕次郎氏と会った。話に聞いていた、納豆大好きの。

 

 品薄で納豆が食べられず、絶望していた時に、いち早く納豆を供給してくれた僕に、ぜひ一度お礼を言いたいと思っていたらしい。

 ……まあ、喜んでもらえたのならよかった。うん。

 

 

 

 



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第21話 アルゼナル・マネークライシス

【○月_日】

 

 アルゼナルから、というか、そこにいる外部独立部隊から『また物資もってきて』と発注があり、正式に地球連邦軍からも通達があって、また届けに行くことになった。

 

 予定より早いな……計算では、まだしばらくは持つはずだったんだけど。

 

 総司さんに聞いてみたら、ここのところ連日のアンジュ捜索やら何やらで、地味に燃料その他の消費が激しかったらしい。

 ……そう言われちゃ責められないね。仲間のためだもの。

 

 それに加えて、ドラゴン相手にも結構出撃してて、そっちにも弾薬とか色々使ったし、機体の修繕にも資材が必要だから、と。

 

 そしてさらに、色々あってまた仲間が増えたから、その分資材が減るペースも増えた、と。

 またか、今度はどんな人が加わったんだろうな。

 

 それから、今回はなんか……アルゼナルの方でも物資を欲しがっているらしい。

 独立部隊に渡す分とは別に、金は出すからアルゼナルにも物資を売ってほしいそうだ。総司さんとのとは別に、ジル司令からそう相談された。

 

 なんでも、普段は定期的に『始祖連合国』からやってくる『定期便』でそういう必要物資の補充はされるんだけど、ここ最近、定期便が来る時期が乱れがちになっていて、予定通りにこないことがあるそうだ。

 

 最近、以前までよりも頻繁にドラゴンが現れるようになって、定期便が思うように運航できないのが原因だという。

 中には、到着前にドラゴンに襲われておじゃんになったケースもあるそうだ。

 

 しかし、ダメになった分が早急に補填されるなんてことはなく……『始祖連合国』側からは、お前らがきちんと受け取らないのが悪いとか何とか言われたそう。やっぱ滅茶苦茶だなあの国……。

 

 結果、必要物資がぼちぼち品薄になってきており、最近はドラゴン退治にも頻繁に独立部隊の力を借りているそうだ。大変だな、組織の運営も……上の方がバカだと、特に。

 

 そういうことなら、色々と多めに持っていくか。

 ジャスミンさんに頼まれてたものも含めて……グラーティア一台で足りるかな?

 

 いざとなったら、亜空間に収納して持ってくか……『こんなに積んでこれたのか?』って疑われるかもしれないけど。

 

 

 

 追記

 

 アンジュはあの後無事に見つかったらしい。

 

 けど、ヴィヴィアンやエルシャは再会を喜べたのはいいとして……やはりヒルダやロザリー、クリスやミランダは面白くなさそうで、依然として空気は険悪だとのこと。

 

 今回の遭難騒ぎ……アンジュの機体『ヴィルキス』の不調が原因らしいけど……それ、ひょっとして人為的なものだったりしないっすよね……?

 

 

 

【×月○日】

 

 月も変わりまして本日、またやってきましたアルゼナル。

 

 ご要望通り、独立部隊の残留組の皆さんへの補給物資はもちろん、アルゼナルに引き渡す物資もきちんとたんまり用意してきましたとも。

 

 今回は到着後すぐに受け渡しができたので、その後丸々時間ができた。

 ジル司令も『まあゆっくりしていけ』と言ってくれたので、2~3日ここに滞在したら、また帰ろうと思う。

 

 ……しかし、前にも思った気がするけど……性格とか立場、普段の方針とかを考えるとちょっと違和感があるというか……なんかジル司令、想定以上に僕やミレーネルに色々よくしてくれる気がするのは気のせいだろうか?

 単に親切でしてくれてる……? あるいは、何か狙いがあって……?

 

 まあいいや、今のところ実害はないし。

 

 その後は久々に皆に会ったわけだけど、なるほど、見覚えのない面子が増えてる。

 ……いや、見覚え……ない、こともない。

 

 アスランさんがいました。

 Z時空では、諸事情から有害扱いされてしまったアスランさんが。

 

 うん、そういや『オーブ』あったもんね、この世界……それも、ここから割と近くに。

 

 オーブは実は、元々この施設の存在を知っていて……しかし、被差別階級の人々を強制的に戦わせる非人道的なものだっていうことで、よくは思っていなかったのだと。

 今回、ドラゴンによる襲撃の頻度が増えていて手が足りなくなり気味だし、いい機会だから介入するかということで、戦力上の応援ということで派遣されてきたらしい。

 

 しかも、アスランさん以降にも追加で人員が来る可能性もあるそうだ。

 SEED世界からくるとなると……ええと、あのスーパーコーディネーターさん? それとも赤い目の運命さん? あるいは両方だろうか……たぶんそうだな。

 

 で、もう1人、メイドさんが増えてた。

 メイドさんが、なぜかアンジュをかいがいしくお世話していた。

 

 なんでもこの人、アンジュが『アンジュリーゼ』だったころのお付きの侍女で、モモカさんというらしい。

 アンジュに会いたい、お仕えしたい一心で、少し前にここに来た定期便に密航してアルゼナルに侵入したんだそうだ。行動力あるメイドだな……

 

 当のアンジュからは、なんか煙たがられてるっぽいけど。

 アンジュを『アンジュリーゼ様』と呼んで、あくまで『アンジュリーゼ』として扱おうとするからか……過去を吹っ切ったアンジュからすれば、自分を慕ってくれることは嬉しいけど、複雑な気分になる、ってところだろうか。

 

 ……いや、それにしては何か……また違った雰囲気が、所々に……。

 

 気のせいかな、アンジュが彼女に対して、苛立っていると同時に、心配しているように見える……かも?

 そして、モモカさんの方は……こっちはあくまでアンジュに『お仕えします』的な感じだけど……やはりこっちがこっちで、何かを押し殺して、それでも笑ってる、って雰囲気が……。

 

 ……なんだか、あまりいい事情は隠れていなさそうだな、と、何となく思った。

 

 

 

 ……その理由は、そのすぐ後にわかった。

 

 『お久しぶりです!』と、会いに来てくれたミランダと一緒に、食堂でちょっと遅めのランチを食べていた時に、こっそり彼女が教えてくれたのだ。

 

 ここ『アルゼナル』の存在は、僕らみたいな『例外』を除いては、基本的に秘匿事項である。

 そのため、その存在を知った者は……生きてここから帰ることはできない。密航なんかして忍び込んできた者であれば、なおのこと。

 

 つまり、モモカさんは……近く、処罰されることになるとのこと。

 ……処刑、と言い換えても問題ないらしい。

 

 そして、モモカさん自身もそれを承知の上、覚悟の上でアンジュに会いに来たんだそうで……なおかつ、そういう罰が下されることから逃げるつもりもない。最後の瞬間までアンジュの侍女であり続け、そしてそのまま、時が来ればお別れする……と。

 

 ……行動力もあるけど、それ以上に覚悟決まりすぎだろ……。

 

 なお、このことは総司さん達も聞かされていて、よくは思っていないものの……アルゼナルの秘匿に関しては『始祖連合国』の問題であり、内政干渉にもなりかねないから強くは言えないし、言ったところでこの決定は覆らないらしい。

 

 ……あー、もう、なんか色々聞いて、かえって気分悪くなっちゃったな……。

 

 

 

 追記

 

 夕方、ジル司令に呼び出されて、もしできれば、ってことで頼みごとをされた。

 

 件のモモカさんの処分だが、当初の予定では、次に来る『定期便』の時にモモカさんも乗せて行って……海の上で『処理』して、そのまま捨てる、という予定だったらしい。

 

 しかし、定期便はどうも当分来なさそうである。

 

 そこで、僕が帰る時に変わりにモモカさんを乗せて行って……定期便がやるはずだったように海の上で適当に処理してほしいと待て待て待て待て。

 

 運送業者に何させようとしてんだ。

 さらっと殺人教唆すんなや。うちではそんなサービスはやってません。当然断った。

 

 大人しく次の『定期便』とやらを待ってください。いつになるかは知らんけど。

 

 

 

【×月△日】

 

 モモカさんの一件、片が付いた。

 しかし、彼女の命が絶たれたわけではなく……死なずに済んだ。

 アンジュの必死の行動の結果である。

 

 ……けどそれとは別に、今日はちょっともうなんか、それ以上にインパクトのあることがまあ色々と起こったので……それに直接かかわってない僕まで、なんか疲れた。

 

 いや、あまりにも忙しくて、慌ただしくて、そしてカオスな1日だった。

 

 

 具体的に何があったのかと言うと、だ。

 

 

 話は、今日またドラゴンの襲撃があり……しかし何を考えたか、アンジュがヒルダとロザリー、クリスとアスランを連れて、たった5人だけで出撃したことに端を発する。

 

 ここんとこもう何度も話題になっていた話であるが、ヒルダ達3人とアンジュは、それはもう仲が悪い。部隊運用上問題になるくらいに悪い。

 嘘か真か、戦闘中に後ろから狙われたとか、巻き添えするような軌道で撃ったとか、真っ赤なパンツとブラジャーで殺されかけたとか……(最後の何だ)。

 

 で、そのたびにアンジュが反撃したり、それにさらにヒルダが反撃したり、みたいな繰り返しがいい加減うんざりだってことで、決着つけようってことでアンジュがこの3人を連れ出したそう。

 

 しかしもちろん、パラメイルで対人戦なんかしたら問題行動どころじゃない。罰金で済むようなことでもなくなってしまうので、本日のドラゴン相手の戦果で競う、とのこと。

 

 アンジュがよく思われていない理由は、もちろんメインは、前隊長の死に関わっているからだが……最近では、アンジュがヴィルキスでめっちゃ活躍するから、っていうのもあるらしい。

 

 アルゼナルのメイルライダーの給料は、ドラゴン討伐による出来高だ。戦えば戦っただけ、狩れば狩っただけ『キャッシュ』がもらえる。

 

 しかし、最近のアンジュは、襲撃してきたドラゴンをほとんど1人で落とすくらいの、凄まじい勢いで狩るそうで……しかしそうなるとつまり、ヒルダ達にまで獲物が回ってこない。

 当然、報酬はアンジュがほとんど全部持っていく形になっている。ヒルダ達からすると、それも面白くないのだそうだ。皆お金大好きだもんね。買い物に必要だもんね。

 

 アンジュはその部分の不満を逆手に取って、『だったらそのドラゴン狩りの腕で白黒はっきりつけようじゃないの』『私は1人、あんた達は3人がかりでいいわよ』『あ、不正がないようにアスランに審判やってもらうから』とまあ、まとめるとこういうことなわけだ。

 

 ちなみにミランダが入っていないのは、彼女は確かにアンジュをよく思ってはいないものの、つっかかってはこないし、任務は任務で私情は持ち込まずに真面目にやってるからだそう。

 

 随分と喧嘩腰なのがちょい気になるが……彼女なりに、長引くこの嫌な空気に1つの決着をつけようとした結果、行き着いたのがこの勝負なのだろう。

 

 まあ、色々とツッコミどころはあるが、これで問題にきちんとケリがつくのなら、問題はない。

 そう思ったからこそ、ジル司令もこのメンバー出の出撃を許したんだろう。

 

 ……そう、ちゃんとケリがつき、これ以上問題が酷くならないのなら……問題は、なかった。

 

 が、結果は見事に失敗。

 現れる無人機部隊。さらにドラゴンの増援。

 

 それを前にしてなおギャーギャーと言い争うアンジュとヒルダ。

 落ち着きなさい、と諫めようとして、しかし無視されるサリア。

 エルシャとヴィヴィアンは『やっぱりこうなったか』と他人事。

 ロザリーとクリス、ミランダはおろおろしている。

 

 敵がそこまで来ているにもかかわらずのこの醜態を前に……ついにスメラギさんが切れた。

 

 そして、テッサ艦長とジル司令と共謀し、横から割って入って、とんでもない力技でこの問題を強引に解決してしまった。

 

 

 

『これよりパラメイル第一中隊は、ソレスタルビーイングが買い上げます!!』

 

 

 

 アルゼナルで映像越しにその場面を見ていた僕は、その瞬間飲んでいたお茶を噴き出した。

 

 その後すぐにテッサ艦長が『今後の第一中隊は給与制にする』『普段の素行も査定の対象にする』旨を告げる。

 つまり、今までと違ってドラゴンの撃墜が少なくても一定の給料は貰えるが、問題行動が多い場合はその限りではない。

 例えば、敵が来てるのそっちのけで喧嘩したりとか、戦闘中に足の引っ張り合いとか……そういうバカなことをしたら、そのぶん報酬を減らす、と。

 

 とどめにジル司令からも『喜んで売る』と承諾は貰っている旨を伝え、これにてスメラギさんが無事(?)、第一中隊の支配者となった。

 

 ものすごい強引なやり方だけど……よく考えてみれば、これ以上ないくらいに効果的でわかりやすい方法でもあるな、これ。特に、彼女達メイルライダーに対しては。

 

 他ならぬ彼女達が一番知ってることだからな。『金は命より重い』『金を持ってる奴が強い』ってことは。

 今回のいざこざの理由の1つでもあった、彼女達にとって絶対のルールにのっとってねじ伏せた……言ってみれば、札束で盛大に横っ面を張り飛ばしたスメラギさんのやり方は、強引ではあるものの、だからこそ彼女達は何も文句を言うことはできなかったわけだ。

 

 そして、あまりのインパクトに、この騒動の途中で助っ人的に合流してきたシンとルナマリアもきょとんとしていた。

 いや、頼もしい味方なんだけどね? 間が悪かったよ……完全に出番食われてたし。

 

 とりあえず……何か致命的なことが起こる前に、強引にでもケリがついたのは……まあ、よかったんじゃないかな。

 

 

 

 で、もう1つ。

 その後、アンジュがモモカを助けた方法について。

 これも、アルゼナルらしく、金を使ったものだった。

 

 やったことは単純、モモカを『買った』のである。

 

 ここ最近のドラゴンの討伐報酬(ヒルダ達に恨まれるレベルの独り占め)に加え、スメラギさんに給料の前借りまでして作った大量のキャッシュをジル司令に叩きつけ、モモカ自身をアンジュが買うということで助けたそうだ。

 

 よくもまあ思いつくもんだ……まあ、それで丸く収まったのならよかったけど。

 

 うん、やっぱり人死にはない方がいいからね。ただし悪人除く。

 

 

 

 



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第22話 おいでませ、アルゼナル出張所

【×月□日】

 

 本日、『サイデリアル・ホールディングス アルゼナル出張所』、開店いたしました。

 開店記念として、最大50%OFFセールを開催中です。

 皆様に楽しんでいただけるよう、様々な魅力的な商品を取り揃えてお待ちしておりますので、ぜひご来店ください。

 

 ……うん、まあ、どういうことかというと。

 字面の通り、ちょっとここ『アルゼナル』で、『サイデリアル』として商売させてもらうことになりましてね。

 

 

 

 僕は現在、地球連邦軍からの依頼で、様々な物資を仕入れて独立部隊の皆さんに届ける仕事を請け負ってるのは、知っての通りである。

 

 その物資の調達に必要になった分や、輸送その他手数料的な費用に関しては、これも前にも言った通り、地球連邦軍がきちんと負担してくれている。

 

 が、それはつまり、連邦軍が『これは必要な物資だから』と認めているからこそ負担してくれているのである。

 逆に言えば、『必要でない物資』に関しては負担はしない。なので、そもそもリストに上がらず、納品される物の中にも含まれない、というわけである。

 

 具体的に言えば、各機体を動かすために当然必要な燃料や、修繕用の資材、日々を生きていくための食料や、その他日用品、生活必需品の類であれば問題ない。

 多少の嗜好品程度であれば、これもまあ、認められるだろう。

 

 が、不必要であると認められた贅沢品などについては、それは難しい。

 

 例えば、酒、タバコ、お菓子類……あとは、極端な例になるかもしれないけど、ゲーム機とか、ブランドものの衣服とか……軍としての行動には適さない、日持ちしない食料品目とかもだ。

 こんな風な、『欲しいけど必須ってわけでもない』ものは、挙げ連ねればいくらでも出てくる。

 

 そういうものは、『多少の娯楽』として認められる範囲を超えてしまうと(品的にも量的にも)、調達するリストの中には入れることはできない。

 が、こっちの部隊の皆さんとしても、人間である以上そういうので楽しみは確保したいという気持ちはあるだろうし、その気持ちは僕も大いにわかる。

 

 なので、実費というか自腹にはなるもの、ご希望であればお売りしますってことで、今回の補給物資と一緒に持ってきたものを売ることにしたのだ。

 

 ジル司令と、ここの商業施設のボスであるジャスミンさんに許可はとった。

 ジャスミンモールの近くに場所を用意してもらったので、そこに即席の店舗を作らせてもらって……で、開店したのが今回のこの店、というわけだ。

 

 なお、交渉の結果、開店に当たって、アルゼナル及びジャスミンさんには、売り上げに応じてショバ代を支払う義務が生じたが……まあ、そのくらいはしょうがないだろう。

 法外ってわけでもなく、むしろ適正価格だし。貸店舗の家賃みたいなもんだと思えばいい。

 

 というわけで開店したわけだが、けっこう好評です。

 皆さんやっぱり、『軍事物資だから補給品には少ないのは仕方ない』と思ってたものの、嗜好品のたぐいは生活に潤いを与える、欲しいとは思っていた様子。

 

 もともと好まれそうなものをそろえていたってこともあるが、飛ぶように売れて行く。

 自腹であっても、いやだからこそ気にせずに、好きなものを好きなだけ買っていく。

 まあ、実質彼ら専用の店なわけで、他に客なんていないしね。レギュレーション違反とかマナー違反とか、そのへんもあんまり気にする必要はないので、いわゆる『大人買い』も全然OKだ。

 

 ちなみにこの店、一応彼ら『独立部隊』だけでなく……『パラメイル第一中隊』をはじめとした、アルゼナルにいるノーマの皆さんも利用することはできる。

 

 ただしその場合、彼女達は持っているお金が『キャッシュ』と呼ばれる、アルゼナル内部でしか使えない通貨であるため……事前にジャスミンモールで両替してもらって、外界の通貨を手に入れる必要があるんだけど。

 そして、レートと手数料が結構ぼったくりなので、価格面では彼女達に結構不利である。

 

 ……ますますどこぞの地下労働施設の物販みたいだ。

 

 けどこの辺りは、逆にアルゼナルの方のレギュレーションその他が色々と絡んでくるので、これに関しては譲ることはできない、ってジル司令達から言われた。

 

 あくまで彼女達が買い物をできるのは、ジャスミンモールで、あるいはそこを通して、ノーマ達に許された数少ない娯楽として、っていう位置づけにしないといけないそうで。

 そうじゃないと、監察官(エマさんだっけ?)からもにらまれるし、本国から色々言われるんだって。

 『キャッシュ』が外界では使えない通貨として報酬に設定されてるのも、もともとは多分、脱走とかを防止するためっていうのもありそうだな。

 

 まあそれでも……割高であってもその気になれば、限定品と言って差し支えない、いい品物が手に入るってこともあって、一部の人達にはそこそこ好評だった。

 

 初日の売り上げも上々。

 まあ、セール中だし、元々けっこう割安に設定してるので、そこまで大儲けってわけでもないんだけど、そこはそれ、喜んでもらえればいいです、ということで。

 ほとんど僕のお節介で、連邦軍委託の仕事のついでみたいな形でやってることだし。

 

 

 

【×月▽日】

 

 なんか『出張所』に、パラメイル第一中隊の子達がどっと買い物に来た。

 

 そして、決して割安とは言えないレートなのも構わず、欲しいものを欲しいように、好きなように皆買っていった。

 

 いや、きちんと代金さえ払ってくれれば何も問題ないけど……何だ何だ、皆やたら景気いいな?

 

 気になって総司さんに聞いてみたら、今日の戦闘で『初物』なる相手に遭遇したらしい。

 

 読んで字のごとく、『初めて戦う敵』……つまりは、今まで交戦実績のない、新種のドラゴンのことをそう呼ぶそうで。

 そういうのが出ると、交戦してデータを持ち帰るだけで多額の報酬が出るそうだ。

 

 しかし反面、データにない敵ってことで危険度も高く、油断すれば死者が量産されるなんてことにもなりかねないので、当然警戒もいつも以上に必要である。

 

 実際、今回遭遇した奴は――『ビッグホーンドラゴン』と名付けられたらしい――高重力で機体を動けなくする技を使って来たらしく、かなり危ない場面もあったそうだ。

 

 しかし、途中で加わったアンジュの『ヴィルキス』と、キラ・ヤマトの『ストライクフリーダムガンダム』による協力、そしてサリアが隊長としての見事な指揮能力を発揮したことで、どうにか勝利することができたんだそうだ。

 

 で、無事に全員で生還し、ボーナスどっさりもらったと。

 なるほど、それで皆、あんな風に豪快に買い物してったわけね。

 

 そしてさらっと書いちゃったけど、来たか、スーパーコーディネーター。

 これは頼もしい味方が加わったな……あの人マジで強いぞ。

 

 ……それともう1つ。

 アンジュって今日、体調悪くて休んだんじゃなかったっけ? モモカちゃんが解熱剤とか色々買いに来て、その時に聞いた気がするんだけど……

 

 ……何、どてら着てマスクつけて出撃したって? マジかよ。

 

 

 

【×月◇日】

 

 補給物資と『アルゼナル支店』、両方の在庫がそろそろ危なくなってきてたので、ミレーネルに頼んで、超特急で本社に戻って仕入れてもらって来た。

 高速運行用にカスタムした『グラーティア』なら、1日ちょいで往復可能である。

 

 いやしかし、こんなに早く在庫がなくなりかけるとは……結構持ってきたつもりだったんだけど……皆、外の品が手に入るのは嬉しいってことでか、いっぱい買っていってくれるんだよね。

 

 その筆頭は、スメラギさんとマオさんである。買っていくのは、もちろん……酒。

 やりそうだとは思ってたけど……手に入るとわかったらここぞとばかりに……。マオさんなんか、ビール箱で買ってくし。

 

 あと、総司さんも納豆とか、主に食料品の類を好んで買っていってくれる。生鮮食品とかが特に多い気がするな。

 ……もともといた世界があれだったからな、そこで手に入らないものなんかは、やっぱり欲しいし食べたいみたいで。

 

 ジュドーとかの若年組は、お菓子類とか炭酸飲料的な、ジャンクな食べ物、飲み物を時々。

 

 女性陣には化粧品も好評である。これについては、ミレーネルにアドバイスをもらって色々とそろえてみたが、正解だったようだ。各々、自分の好みや予算に応じたものを買っていく。

 

 また、化粧品類はノーマの子達にも好評である。レート的に割高になるけど、それでも余裕がある子は買っていくし、買えない子達がお金を出し合って共同で買う光景なんかも見られた。

 

 あと、宗介とかなめちゃんが時々一緒に買いに来たりもする。

 仲が良くて大変よろしいとは思うけど、女の子と一緒に買い物に来て軍用ナイフとトラップ用ワイヤー見ようとするのはやめれ、軍曹。隣でかなめちゃん、引きつった笑みになってっから。

 いやまあ、置いてるうちもうちだけど。

 

 それと……半ばシャレ的に、この世界の人気アニメとか名作アニメみたいなものの映像ディスクなんかも置いといてみたら……クルーゾーさんが買っていきました。

 ……あっはい、大丈夫です、誰にも言いません。顧客の秘密は守ります。安心してどうぞ。

 

 

 

【×月●日】

 

 別行動になっていたこちら側の部隊も、アルゼナルでの任務を切り上げて、日本にいるナデシコの方に合流することになったようだ。

 

 ジル司令の方も、既にパラメイル部隊の再編は済んだので、問題ないとのこと。

 

 それに伴って、僕もここにいる理由はなくなったので、店じまいをしてお暇することにした。

 

 また、今回スメラギさんが『買い上げた』パラメイル第一中隊については……なんとそのまま同行させることになった。

 皆、『外の世界に行けるのか!?』ってびっくりしてたな。

 

 ジル司令から許可も出てるので、冗談でも何でもなく、パラメイル第一中隊、外の世界デビューである。

 

 ただ、嬉しそうにしている反面……不安でもあるみたいだ。

 特に、外の世界のことを比較的知っている面々がそうだった。

 

 まあ……『始祖連合国』では、ノーマは人間扱いされない身分で、外に出ても味方なんて誰一人いないような場所だからな。ドラゴンとの戦いから一時離れることはできても、社会の中に自分の居場所はあるわけない、と思ってるんだろう。

 

 居場所云々はともかく、ノーマだのなんだのなんて、『始祖連合国』以外じゃ気にされることなんてほぼないから、そんなに不安がらなくてもいいと思うけど。

 

 なお、あっちこっちに動く独立部隊には、引き続き僕ら『サイデリアル』が物資を補給することになるので、希望するなら物販もそのまま利用できます。

 そう言ったら、『出張所』の常連さんになってくれた面々がまー喜んでた。いつもご愛顧ありがとうございます。今後ともごひいきに。

 

 さすがに店舗が常設されてるわけじゃなくなるから、そう頻繁に、手軽には利用できなくなるけどね。

 事前に注文を取って、物資補給の時に、自腹で購入する品物を一緒に持ってくる、みたいなやり方になるかな。

 

 さて、そうと決まれば僕も、店じまいと出発の準備進めなきゃ。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「まさか……こんなことになるなんて」

 

「何だよサリア、お前嬉しくないのか? 外に出られるんだぜ? 私らノーマがさ!」

 

「しかも、ドラゴンとも戦わなくていいし、外出も自由なんだって……」

 

 先刻、今の自分達の雇い主である、ソレスタルビーイングのスメラギからの通達で、『パラメイル第一中隊も我々と一緒に外に出ます』と知らされてから、同隊の面々は浮足立っていた。

 

 自分達『ノーマ』は、反社会的な化け物として『始祖連合国』では扱われるため、一切の自由がなく、ここ『アルゼナル』でドラゴンと命がけで戦うことでのみ、存在することを許される。

 自由など、ごく一部の例外――ジャスミンモールでの買い物や、年に一度の『マーメイドフェスタ』など――を除いて、存在しない。

 

 きっと、いつかドラゴンとの戦いの中でしくじって死ぬまで、自分達はこのままなのだろう。噂に聞くばかりの『外の世界』とやらを知ることもなく、朽ちていくのだろう。

 半ばあきらめていたそんな夢が、思いもかけない形で叶うことになったのだ。浮かれるのも無理はない。

 

 もちろん、色々と不安もあるし、中にはこの外出、ないし遠征を、正直喜べない者もいた。

 

(アルゼナルの、今まであった日常が、壊れていく気がする……そりゃ、戦いは楽になったり、色々といいこともあったけど……それでもこの変化は、本当に私達にとって、好ましいものなの?)

 

 生粋の生真面目さや、ジルから色々な事情を他よりも聞かされているがゆえに、素直に自分達を取り巻く環境が変わっていくことを喜べないサリア。

 そのうちに、変わってほしくない、変わってはいけない部分まで変わってしまいそうで……彼女は常に不安だった。

 

 先日の『初物』の一件で、隊長としての自覚や隊員達との信頼関係が芽生え、そちらの心労はほとんど解決したものの……こちらの、隊員達とは何ら関係ない部分の不安は変わらなかった。

 ジルが『ヴィルキス』をアンジュに託し、それをアンジュが見事に乗りこなして、それからずっとくすぶり続ける、いやな予感。気が付くと、いつもそれに意識が向いていた。

 

 他にも、理由は違えど、外に出ることを喜べない者もいる。

 

 幼年部の子供達の世話をするのが好きなエルシャは、時折自分の報酬でお菓子を買ってあげたりして、彼ら、彼女らを可愛がっていた。しかし、ここを離れればそれもできなくなる。

 世話係の職員はいるから大丈夫だろうが、好きな時に顔を見れなくなるのは寂しかった。

 

 また、ヒルダやミランダも同様に、外に行くということに際して、不安を抱えていた。

 

(私達は『ノーマ』だから、外の世界に居場所なんてあるとは思えない……ナデシコやソレスタルビーイングの皆は、『始祖連合国』以外の国なら大丈夫だって言ってたけど、それでも……)

 

 噂で聞いたのみではあるが、『始祖連合国』以外の国では、人間は『マナの光』を使えないのが当たり前であり、ノーマに対する差別も全くと言っていいほどないという。

 

 ミランダやヒルダは、物心がついて、それなりに大きくなってからノーマとして摘発され、ここに連れてこられた。

 ゆえに、幼年期からここにいる者達と比べて……外の世界が、ノーマである自分達に向ける残酷なまでの扱い、その現実について知っていた。

 その記憶が、イメージが、どうしても素直に喜ぶ邪魔をする。

 

(皆が皆、独立部隊の人達みたいな感じだったら、それは安心だろうけど……)

 

「ふん……そんなに嬉しいかよ。ここを出て外に行けるのがさ」

 

「な、何だよヒルダ……お前は嬉しくないのか?」

 

「嬉しくないわけじゃないさ。色々期待もしてる。ただ、あんまり夢見すぎると……逆に辛い目にあうだけだと思ってるから」

 

 どこか、寂しさや悲しみを宿した目で、ヒルダはロザリーに答えた。

 

 サリアやミランダも含め、どこか雰囲気が暗くなりつつあったが……それを全く気にしていない様子で、第一中隊のエースにしてムードメーカーである、ヴィヴィアンが割り込んでくる。

 

「んー、大丈夫じゃない? 外の人達って、私達がノーマでも気にしないんでしょ? 実際、ここに来てる皆はそんな感じだし、案外普通に楽しくやれると思うな」

 

「ヴィヴィアン、あなたね、そんな簡単に……」

 

「何かあってもきっと助けてくれるよ。皆、私達のこと『仲間だ』って言ってくれてるし。ほら、アスランとかも一緒に行くんだから、ね?」

 

「それは、まあ……そうかも」

 

「アスラン様なら、何かあってもきっと……へへへ」

 

 生まれて初めて見るレベルのイケメンであるアスランに、ほとんど一目惚れみたいな形でファンになったミーハーな2人……ロザリーとクリスが、何を想像したのかだらしなく笑う。

 不安は解消されたようで何よりだが、普段彼女達とつるんでいるヒルダは『けっ』と面白くなさそうだった。

 

 なお、普段から彼女達を口説いている総司やサブロウタ、クルツなどの名前は全く上がらない。哀れ。

 

 と、ヴィヴィアンは続いてミランダを見て、

 

「ミランダもさ、そんな不安にならないで……あー、ミランダはアスランよりミツルの方がいい?」

 

「ふぇっ!? え、えーと……そのー……」

 

 こちらも、普段から仲良くしている……というか、懐いていると言ってもいい相手の名前が出て、露骨に挙動不審になるミランダ。

 

 ヒルダは横目にそれを見て『こいつもかよ』とため息をついたが、どことなくその様子は、アスランに恋焦がれる(?)ロザリーとクリスとは違うようにも見えて、少し気になった。

 

 遠くから眺めてキャーキャー言って、声をかけられるとはしゃいで大喜びする2人と違って……ミランダの方は、自分からさらに積極的に話しかけたりもするし、機会があれば一緒にいる、いようとしているように見えていた。食堂で一緒に食事をしているのもよく見る。

 言い方はあれだが、より『のめり込んでいる』ように見えなくもない。

 

 ヒルダは、ひょっとしてあれが『恋愛感情』なのだろうかとも思ったが……いかんせん、彼女自身にもそんな経験はかけらもないので、知識の上のものでしかない――同性が相手ならその限りではなかったりするが――以上、結局よくはわからない。

 

(やっぱりあれか、命を救われてコロッと行っちゃったわけか? ……っは、だとしてもあたしには関係ないけどな。誰が誰とくっついて乳操り合おうが。……せいぜい夢見りゃいいさ、どうせあたし達ノーマには、そんな幸せな……)

 

「ねえ、そんなとこでバカみたいに突っ立ってられると邪魔なんだけど」

 

「……あぁん!?」

 

 と、考えている途中で……真後ろから、彼女にとっての天敵の声が飛んできたことで、ヒルダの意識は一瞬にして切り替わった。

 そして、予想通りそこに立っていたアンジュとにらみ合いの姿勢に入った。

 

 既にヒルダの頭の中に、さっきまでの妙に暗い雰囲気はない。どっかに飛んでいった。

 

 ほどなくして口論になり、それをサリアとエルシャがなだめるまでがワンセット。

 

 パラメイル第一中隊は、今日も平常運転である。

 

 

 

 




諸事情により、明日多分更新お休みになると思います。
ご承知おきください。


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第23話 DG同盟襲撃、の影で……

 

 

【×月★日】

 

 日本に戻り、ミスマル中将に定例の報告を済ませ、その後は本社に戻って色々仕事をこなした。

 その後再度日本に来てみると……旋風寺から『大至急来てくれ』ってお呼びがかかったので、指定された場所……青戸工場に行った。

 

 そして到着してみると、驚きの光景が。

 なんか、ガインが増えてた。

 

 細部は違うけど、ほとんど黒メインカラーのガインみたいなのがいた。

 なぜか感じめっちゃボロボロになってるのが気になるが。

 

 そこに待ってくれていた工場長から事情を聴くと、このガイン2Pカラーみたいなのは、『ブラックガイン』という名前らしく――まんまだな、と思った――どこぞのアジアンマフィアが、ガインの体と超AIをコピーして、『悪の勇者特急』として誕生させたロボットなんだそう。

 しかし、一度は敵として彼らの前に立ちはだかったものの、なんやかんやあって正義の心を取り戻したんだとか。

 

 ただ、その戦いの際のダメージが結構あったため、すぐにマイトガイン達と一緒に戦うことはできそうにない。

 それを修復するため、当分ここで修理のためにドック入りするらしい。

 

 で、さっきも言ったとおり、きちんと超AIを搭載している彼曰く、『迷惑をかけてしまった先輩方のためにも、一刻も早く復帰して共に戦いたい!』とのことで……やる気十分だな。

 

 青戸工場も総力で彼の修繕にかかる予定ではあるものの、資材の調達やパーツの作成など、色々と手伝ってほしいとのことで、『サイデリアル』に仕事の依頼をしたいそうだ。

 

 なるほど、そういうことなら喜んで。任せてください。

 

 ちなみに、その先輩ことマイトガインや、舞人社長達は、今日も町でロボット犯罪者達の取り締まりその他のために、パトロールとか色々頑張ってるそうだ。

 

 聞けば、ナデシコをはじめ、一足先に日本に行ってた組も、あらたに仲間を迎え入れたらしい。どんな人が加わったんだろうな……僕の知ってる人かな?

 

 

 

【×月!日】

 

 今日はなんというか……僕がこの世界にやってきてから、1、2を争うくらいに激動の1日だった。

 いや、ホントに……あっちでもこっちでもドンパチやってた上に、それとは別口で僕もヤバいことに巻き込まれて、というか普通に襲われて……割とマジで死ぬかと思った。

 

 その後は僕もドンパチの方に加わる羽目になったわけだが、その時の僕はかなり頭に血が上ってた感じがするので、ハイになってたから一時的に疲れとかは吹っ飛んでたな。

 

 で、全部終わった今、めっちゃ疲れてもう動きたくない……でも一応日記はかいておこう、って感じでコレを記しているわけですが。

 

 要点だけかいつま……めてもいないな、これだと。

 うん、一回きちんと丁寧に書きだしてまとめてみますか。いつもより長いよ。

 

 

 

 始まりは、いつも通り……という言い方をするのもそうかと思うんだけども、ここ最近元気に暴れまわってる、ロボット犯罪者集団が襲って来たことだった。

 

 どうやら、それまではほとんど別々に暴れていたいくつかのグループが、1つにまとまって大連合的なものを作ったらしい。

 『デンジャラスゴールド同盟』なる集団を名乗り、ウォルフガング一味、怪盗ピンクキャット、影の軍団(あの変な侍の集団)、アジアンマフィアが一度に襲って来たのである。

 

 数の上でもかなりの規模の襲撃だったので、ヌーベルトキオシティを守るため、独立部隊も総力でこれを迎え撃つことにしたようだった。

 

 チームの中核となっているナデシコとソレスタルビーイングに加え、ミスリルやパラメイル第一中隊、モビルスーツ組も加わった。

 さらに、日本の方で新たに仲間入りしたらしい面々も。

 

 ……って、ザンボットとダイターンかよ!?

 これはまた、正統派なスーパーロボットが来たな……Zでは世話になったなあ。

 

 特にダイターンは、火力も耐久力もガチで強いから、敵陣に突っ込ませて大暴れさせたり、戦艦を守らせたり、伏兵対策に置いといたり、ホント色々世話になった。

 『メガノイド』って単語を見た時から、いるだろうなとは思っていたけども。

 

 そんな頼もしい面々も加わってだが、相手もまた、質も数も決して侮ってはいけないレベルのロボットをそろえての襲撃。

 

 加えて、『エースのジョー』とかいう、特に凄腕のパイロットが操るロボットも出てきて……どうやらマイトガインを目の敵にしているようで、執拗に襲い掛かっていたようだった。

 

 さらにさらに、アジアンマフィアの方が、切り札と思しきとんでもなく大きな戦車……『ニーベルゲン』という名前らしいそれを持ちだしてきた。

 何百mあるんだよアレ……あんなもん市街地で使うなっての。

 

 そんな感じで、かなりの激闘になっていたのだが、しかし……僕が遠くからそれを見ていられたのは、途中までだった。

 

 なぜかと言うと……それどころじゃなくなったからだ。

 

 結論から言おう……襲われました。

 

 誰が? 僕が。ピンポイントで。

 

 誰に? 『火星の後継者』に。

 

 ……どういう理由でかはわからないが、あの連中が今度は僕を狙って来たのである。

 

 ロボットじゃなくて、構成員を出して白兵戦でだけど……聞いてた通りのタチの悪さである。

 市街地の中で何のためらいもなく銃火器を出してきやがって……

 幸い、普段からつけているボディガードと一緒だったし、僕自身も多少護身の心得はあるので、どうにか応戦して撃退できた…………と、思っていた。

 

 が、その直後に……どうやら本命と思しき、明らかに只者じゃない連中が続けて襲って来た。

 最初からザコ構成員は、様子見のための捨て石だったようだ。

 

 続いてきたのは、和装っぽい外套や三度笠を身に着けてる変な連中だったけど……たった数人でありながら、全員がヤバいレベルの暗殺者っぽくて。

 銃火器とかじゃなく、刃物とかアナログな武器ながら、素早い動きと鋭い攻撃で、次々にSPが倒されていって、あっコレマジでやばい、と直感した。

 

 特に、先頭に立っていた、オッドアイの、リーダーと思しき奴……素人に毛が生えた程度の僕にでもわかるくらいに、雰囲気からしてヤバかった。

 

 戦闘はまず部下に任せていて、自分はニヤニヤと笑いながらこっちを見てくるだけだったけど、あいつが参戦してたら……もっと早く壊滅必至だったんじゃないかな、と思う。

 

 どうにか周囲に被害が出ないように、人のいない方へいない方へ逃げ、使われていない廃ビルっぽい場所に逃げ込んだんだけど……その途中、なぜかいきなり僕が無視され始め……代わりに、ミレーネルが集中して狙われるようになった。

 加えて、突然ミレーネルが僕の元を離れ――今までは僕を守るように動いてくれていた――一目散に遠くへ駆け出した。そして、やはり僕をガン無視して暗殺者達は彼女を追っていった。

 

 これは後から聞いたことなんだが、あの時ミレーネルは、精神干渉で連中に幻影を見せ、僕の姿が認識できなくなるようにし、代わりにミレーネルを僕だと思うようにしかけていたらしい。

 そうして囮になって、僕を安全な場所に逃がしてくれたのだ。

 

 そして自分の方は、追い詰められて逃げられなくなったところで……幻術を解除。

 目の前でいきなり全然別な姿に変わったことで、暗殺者達が驚いていたその隙に……隠し持っていた爆弾を使い、なんと自爆した。

 

 逃げ場もなくなり、せめて1人でも道連れにしようと、最後の最後に覚悟を決めて、1人でも多く道連れにしてやろうとしての特攻……に見えたことだろう。

 

 が、僕は彼女がそんなことでは死なないことを知っている。

 

 そもそも彼女は、精神体だけの存在だったところに、僕が活動用の『義体』を作ってあげて、表舞台で働けるようにしたのだ。あの肉体は、言っちゃなんだが単なる入れ物に過ぎない。

 壊れたところで痛くもかゆくもなく……彼女の本体と言ってもいい『精神体』は……リスポーン地点である『バースカル』に転送されるようになっている。そういう風に設定してある。

 

 その設定通り、ミレーネルの精神は『バースカル』に戻った。特に問題もなく無事だったそうで、自爆から数分後には僕の通信端末にその旨の連絡が来た。

 

 なお、その時僕は、ミレーネルが囮になってくれたことでどうにか逃げることに成功した……と思ったら、敵のボスのオッドアイ野郎だけ騙されてなかった。

 マジかよ、ミレーネルの精神干渉が効かないなんて、こいつ人間じゃない? アンドロイドではないようだけど、ならサイボーグか何かか?

 

 ボディーガードも全滅、僕の拙い護身術じゃ、ろくに相手にもならないことは明らか。

 大ピンチだったんだけど、その時突然僕とそいつの間に、飛び込むように割って入った影が1人。

 

 面識は……ないはず。誰だかはわからなかった。

 黒いマントを身に纏い、サングラスのようなバイザーをつけていて顔もよくは見えなかったけど……日本語話してたし、肌と髪の色からして、普通の日本人っぽかったな。

 

 なんか、押し殺すような喋り方で話しながら、何かの武術と思しき動きで、オッドアイの男と戦ってた。僕を守ろうとしてくれたっていうよりは、ただ単に自分の敵だから、って感じだったけど。

 

 その際に2人がお互いに呟いた名前から、黒装束の方が『テンカワ・アキト』、三度笠の方が『北辰』って名前らしいことまではわかった。

 

 その後すぐ、外から大勢の足音が聞こえてきて、北辰が『時間切れか……ならば』って呟いて、その瞬間その場から、描き消えるようにいなくなった。

 

 直後に駆けつけたのは、『ネルガル・シークレットサービス』の皆さんだった。どうやら連中を追っていたみたいで……あの暗殺者達は取り逃がしたそうだけど、他のザコ構成員達は全員とっ捕まえたって。

 何があったのか僕が事情を説明している間に、テンカワ・アキトさんはいなくなっていた。

 

 あ、そしてミレーネルから連絡が入ったのがちょうどこのあたりである。

 

 しかしその直後、今度はさっきの北辰達や、補充されたっぽい戦闘員達が、機体を持ちだして襲ってきた。

 と思ったらさらに、アキトさんも、小型だけど黒い重装甲な機体を持ちだしてそこに飛び込んでいった。いつの間に。

 

 しかし……さっきからあの人、傍目から見ても鬼気迫る勢いだな……いかにも因縁アリって感じだけど、それにしても気迫が違う。どういう関係だろう……あんまり愉快な話ではなさそうだが。

 

 そんな風にドンパチ始めれば、流石に離れたところにいても、独立部隊の面々も気付く。

 

 因縁浅からぬ『火星の後継者』がいたことで、ナデシコとからエステバリス隊の面々と、モビルスーツも何機かこっちに来てくれるようだった。

 

 アキトさんもかなり強いようだし、これはようやく僕も助かったと見ていいというか、休めるかな……なんて思った。一瞬だけ。

 

 ……けどすぐに、『ないな』と思い直した。

 

 突然襲われて、部下を傷つけられて……ミレーネルに至っては囮になってもらった上に、自爆までさせる羽目になった。

 さっきも言ったように、彼女の体は作り物なので、また作りさえすれば……っていうから現時点で既にスペアあるから、いくらでも換えはきくんだけど……感情的な問題は別でしてね?

 

 勝手に襲ってきて、ここまでコケにされて……なんかさ、自分でも柄じゃないなー、とは思いつつも……このまま黙って引き下がるのもどうかと思ったわけですよ。

 

 しかも、『火星の後継者』の連中、エステバリス隊やアキトさん達と戦いつつも、一部は継続して機体で僕のことを探してるみたいだし……あ、もちろん町への被害とかはガン無視で。

 

 よーし上等だ、そっちがその気ならやってやる。

 生身では流石に無理だったけど……機体ならその限りじゃないぞ。この2年でそれなりに戦えるようになった自負はあるんだ。

 

 

 

 



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第24話 やられたからやり返す

寝落ちしました。なので明け方投稿。


「アキト! アキトなんだろ! 無視するなよ、なあ!」

 

「リョーコちゃん、気持ちはわかるがそっちは後回しだ。今はこいつらから何とかしないと!」

 

 リョーコとサブロウタがそれぞれの愛機を駆り、『火星の後継者』の機体と戦っていく中……漆黒の機体に乗った青年、テンカワ・アキトは、かつての仲間の声を耳で聞きつつも、返事をすることなく、目の前の深紅の機体に……北辰の乗る『夜天光』に飛びかかっていく。

 

「迷いなき殺意……見事だ、テンカワ・アキト。我が憎いか、それほどまでに」

 

「何を今さら……!」

 

小型な機体の機動性を生かし、凄まじい勢いで切り結ぶ両機。錫杖とクローが数多の火花を散らし、住宅街の上で、死闘と言っていい戦いを繰り広げる。

 

「隊長! 我らも加勢に……」

 

「おーっと、そりゃ野暮ってもんだぜ?」

 

「アキトの方には行かせるかよ……相手はこっちだ!」

 

「ぬぅ……気を抜くなよ、彼奴ら、ヘラヘラしているが強いぞ。おまけに見慣れぬ機体も一緒だ」

 

 北辰に加勢しようとする部下たち……『北辰衆』を、エステバリスに乗った2人と、それについてきたソレスタルビーイングのモビルスーツ達が迎え撃ち、合流させまいとこちらも戦いになる。

 

 だが、流石に他の構成員達の機体にまでは手が回らない。

 それらは住宅街を飛び回り、何かを探しているように見えた。

 

「ふふふ……残念だがテンカワ・アキト、今日用があるのは貴様ではない」

 

「……さっきの男か」

 

「ん? 何の話だそりゃ?」

 

 アキトと北辰の会話が聞こえたのか、ガンダムサバーニャで援護射撃を乱れ撃っていたロックオンが、思わずといった様子でそう言った。

 それに答える形で、アキトが、視線と注意は北辰の機体からそらさずに、口だけを動かす。

 

「……こいつらの狙いは、さっき住宅街にいた男だ。たしか……『サイデリアル・ホールディングス』の代表」

 

「何ですって!? それってまさか……」

 

「星川ミツル……か?」

 

 スメラギと刹那がそう口走り……それと同時に、今の話を聞いていた、他のメンバー達も驚いた。

 

 理由はわからないが、独立部隊の支援者の1人であり、自分達もよく知るあの青年。

 アルゼナル組は特に付き合いもそれなりにあった彼……ミツルが、狙われている。

 

 今、『火星の後継者』の構成員の機体は、戦闘に参加していないいくらかは、住宅街を飛び回って……しかし、破壊活動を行うでもなく、まるで何かを探しているかのようだった。

 それはつまり、彼を拉致しようとして探していたということか、と一行は思い至る。

 

「そういやあいつら、前に舞人を誘拐しようとしたこともあったっけな」

 

「資金源にする、とか言ってましたね、キャップ。今回もそのためでしょうか」

 

「あり得るな、ミツルも今じゃ大企業のトップだ……ったく、御大層なこと言ってる割には、相変わらずセコくてえぐい連中だぜ……んなことさせてたまるかよ! ミツルは……」

 

 

 

「―――呼びました?」

 

 

 

 その瞬間、住宅街の建物の陰から、凄まじいスピードで白い何かが飛び出し……その直進方向にいた、一体の『マジン』を、すれ違いざまに一瞬で真っ二つにした。

 コクピットは外したものの、爆散して墜落していく。

 

 そして、それをやってのけた下手人は、その直後に急制動をかけて空中で制止し、その姿を戦場全体に見せつけた。

 

「アスクレプス……ってことは、ミツルか! おい、狙われてんのに何出てきてんだよ」

 

「すいませんね、総司さん……でも、このまま引き下がるのはちょっと僕的にもナシなんで」

 

 そう諫めた総司だったが、通信越しの返事を聞いて……それだけで、ミツルの心中に……抑え込まれた強烈な感情があるのを察した。

 

(……怒ってる、のか? 何でこんな……いやまあ、わけのわからんテロリスト連中にいきなり狙われたんだから、そりゃ怒っても仕方ないというか、当然ではあるが……それにしちゃ何か……)

 

 総司のその疑問には、直後に『ククク……』と、押し殺したような笑いと共に北辰が言った言葉が答えとなった。

 

「激情は道理……しかし、力の伴わぬそれは、単に愚かでもある。そんなにも憎いか……我々が。あの秘書の命が、失われたことが」

 

「なっ……!?」

 

「嘘……それって、ミレーネルさんが……!?」

 

 今度は驚いたのは、総司だけではなかった。

 

 ミツルの秘書……ミレーネル・リンケのことは、ミツルと会ったことのある者であれば、皆知っていた。

 

 アルゼナルに残留した者は特に、『サイデリアル・アルゼナル出張所』で買い物をする時に応対してもらったこともあるし、本人も割と人当たりのいい性格なので、交流も多かった。休憩時間などに食堂で一緒になって、色々とおしゃべりをして盛り上がるくらいに仲良くなった者達もいた。

 

 共に戦う、という間柄でこそなけれど、紛れもなく『友達』、あるいは『仲間』と言っていい仲だったし、ナンパをして玉砕したものの、その後も邪険にはされず、変わらず仲良く接してもらっていた者もいた。

 何よりミツルが、仕事上のパートナーとして彼女のことを信頼していたのも、よく知っている。

 

 知らないのは、日本で新たに合流した仲間であり、直接の面識がない、神ファミリーや、破乱万丈くらいのものだったが、そんな彼らでも、よく話題に上る人物として、ミツルとミレーネルのことは知っていたし、大切な仲間なのだな、という認識は持っていた。

 

 恐らく、この一連の騒ぎ……自分達が『DG同盟』と戦っていた途中から、彼らは北辰衆に襲われて逃げていたのだろう。そしてその最中……そういうことになったのだと予想できた。

 

「テメェら……!」

 

 ミツルの怒りももっともだと理解すると同時に……総司をはじめとした、ミレーネルのことをよく知っていた独立部隊の面々自身の中にも、ふつふつと怒りがこみあげてくる。

 勝手なエゴで、アキトをはじめとした人々を不幸にし、今またかけがえのない1人の命を奪ったという『火星の後継者』に対して、誰かが怒声をぶつけて非難しようとして……

 

 しかしその前に、明後日の方向から飛んできたビーム砲が、別な『マジン』を撃ち抜いた。

 そして、

 

 

 

「ちょっと。人のこと、勝手に殺さないでもらえる?」

 

 

 

 戦場に響いたそんな声に、それが聞こえた面々は三度驚くこととなった。

 

「えっ、その声……」

 

「ミレーネルさん、無事だったんですか!? 今、あいつが死んだって……」

 

 思わずと言った感じで言ったのは、アンジュとミランダ。

 たった今『アンゲロイ』に乗って戦場に現れたミレーネルは、さも何でもないかのように、元気な声で返した。

 

「ええ、全ッ然元気よ、安心して」

 

「バカな!? 貴様、確かに我らの目の前で自爆したはず……」

 

「どんなカラクリを使った!?」

 

「教えるわけないでしょバーカ。生憎と私の命は、テロリストにくれてやるほど安くないの」

 

「ぬぅ……だが、生きていたのならばかえって都合がいい。主共々生け捕りにしろ!」

 

「機体はなるべく壊すな、持ち帰って研究材料にするとのことだ!」

 

「なるほどね……狙いは僕っていうより、アスクレプスとアンゲロイか」

 

 自分がなぜ狙われたのかに納得のいったミツルは、大挙して襲ってくる機動兵器の群れを前に、一切動揺することはない。

 

 助けに行かねば、と考えて総司や、他のモビルスーツ部隊が動き出すよりも先に……スラスターをふかして急加速し、自ら敵陣に飛び込んだ。

 

「なっ、速……」

 

 パイロットの1人が『速い』と口にするより先に……その機体は、アスクレプスのブレードで両断されていた。

 飛び込んだ瞬間、すれ違いざまに目にも留まらぬスピードで振るわれていたそれに、パイロットは気付くこともなかったままに、機動系を破壊されて機体は大破、墜落した。

 

 それが、4機。

 たったの一瞬で4機が落とされ、その一瞬で自分達の後方にまで突き抜けて回り込んだアスクレプスは、急制動からの再びの急加速で、今度は後ろから襲い掛かる。

 

 そして、さらに2機。

 応戦するために振り向くよりも早く1機が落とされ、もう1機は『後ろに回り込まれた』と気づくよりも先にリタイアとなった。

 

 今度は前まで突き抜けることはなく、敵陣のど真ん中で制止し……そこで、高速回転しながら背中のビーム砲を四方八方に乱射。

 ちょうど密集していた状態の機体を、ほぼ全てそれで撃ち落とした。

 

 かろうじて当たらずに済んだ、あるいは撃墜には至らなかった機体もいたが、直後に再び加速したアスクレプスは、上下左右前後に複雑な軌道を描いて飛びまわり、それを追撃する。

 次元力のスラスターが噴き出す緑色の光。それが描く軌道が、まるでうねって襲い掛かる蛇のように見えた。

 

 目で追えないほどの不規則で複雑な動きで襲い掛かり、ブレードを振り下ろし……ある時は死角から一撃で、ある時は正面からフェイントをかけて防御を抜いて、ある時は敵の機体を陰にして奇襲する形で、次々に討ち取られていく。

 

 中心から離れたところにいたがゆえに、運よくその射程から逃れることができた者もいたが……その後ろに回り込んでいたのは、ミレーネルのアンゲロイ。

 直後に気付くも、時すでに遅し。腕の装甲を変化させた大剣で両断されて、あるいはほぼゼロ距離でエネルギー砲を撃ち込まれ、同じように撃墜となった。

 

 ものの数十秒の間に、量産型とはいえそれなりの数がいた機動兵器の部隊は全滅していた。

 

 

 

「……すげえ」

 

 その光景を見て、加勢に行った方がいいかと身構えていた面々は、唖然としていた。

 

 思わずといった調子で呟いたのはヒルダだが、見ていた者達の心中は大体同じようなものだった。

 

 独立部隊の中で、ミツルの戦闘を見たことがあるのは2通りの人間だけ。

 以前に異世界でミツルの乗るアスクレプスを目撃した者達と、パラメイル第一中隊の面々だ。

 

 第一中隊はしかし、その時はこれほど早く、複雑にまでは動いていなかったし、直後に放った『リベレーター』の大火力の一撃でドラゴンを一掃してしまったので、時間的にも極めて短い間のことだった。そして、それ以降『万が一』が起こってミツルが出撃する機会はなかった。

 ここまで素早く、複雑で、そして正確な動きができるとは予想外だったのだ。

 

 しかし、それ以上に驚いていたのは、前者……別世界の『次元断層』で、ミツルの乗るアスクレプスを、そしてその戦いを目撃していた者達だ。

 

 総司にトビア、日本で合流した鉄也、そしてナインの4人だけだが……

 

「以前の動きと全く違う……」

 

「おいおい、この2年でどんだけ強くなったってんだよ、ミツルの奴」

 

 トビアと総司のつぶやきの通り……以前、総司達が『次元断層』で見た時のアスクレプスとは、何もかもが違っていた。

 見た目は全く同じだが、その戦い方のキレ、武装の使い方など……総じて、戦闘技能そのものが別格と言っていいレベルだったのだ。

 

 口には出さないが、『グレートマジンガー』のコクピットで、鉄也も同じことを思いつつ……これほど変わるものなのか、と驚いていた。

 あの時、アスクレプスに乗る者を『素人だ』と断じた身として。

 

 ミツルの事情については、合流後に総司達から聞かされて知っていた。彼がほとんど偶然から『アスクレプス』を手に入れたのだということも、彼は自分達と違って時間をも飛び越え、2年前のこの世界に流れ着いていたということも。

 

 それだけの期間修行すれば、確かに上達もするだろうが……

 

(それだけで片づけていいものか? まるで別人だ……独学でここまでの力をよくも……)

 

 レベルはもちろん、戦い方もまるで違う。

 技量的には、自分や流竜馬といった達人クラスにはまだまだ及ばないものの、2年間で、しかも聞いた話だと会社経営もしながら、独学で鍛え上げて、ここまでになるものなのだろうか。

 

 また、先程見せた戦い方などは、以前に竜馬が言っていた、『急加速と急制動を組み合わせて、飛び込んで引っ搔き回すような戦い方』そのものと言えた。

 

 しかしそれは、生身の人間の乗った機体を相手にする分、その相手の挙動なども込みで予測しつつ立ち回らなければならず、難易度はかなり高いやり方だ。シミュレーターで訓練を積んだだけで会得できるような戦術かと言われれば、疑問がある。

 もちろん、もともと才能があったからこそ、鍛え続けて行って伸びたという可能性もあるため、断言はできないが……『戦闘のプロ』とまで呼ばれた鉄也の勘は、どこか不自然だと思っていた。

 

(乗っているのは、本当に同一人物なのか……?)

 

 その疑問はしかし、この戦闘中に解消されることはなかった。

 

 『火星の後継者』のザコ敵を全滅させた後、旗色悪しと判断したのか、北辰達は離脱。

 『DG同盟』についても、手下達は確保したものの、それぞれの親玉格は逃亡した。

 『エースのジョー』も同様である。戦闘中に、連邦軍からの指示で加勢しに来た、グラハム・エーカーが呼び止め、それに僅かながら反応を示したものの、そのまま飛び去って行った。

 

 思いがけず、複数の悪の組織との大規模な戦いとなったその日の騒乱は、一部の民間の協力者の参戦もあり、こうして『ヒーロー』側の勝利で幕を閉じたのだった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 とまあ、そんなわけでどうにか生きて帰りました、と。

 

 戦いの後は、一応共闘したってことで、『独立部隊』の皆さんに挨拶と、事情の説明のために一端合流した。

 

 総司さん達からは、無事で何よりだって喜ばれたり、あんなに強くなってたのかって驚かれたりした。へへへ、すごいでしょ、訓練めっちゃ頑張ってたからね。もっと褒めて。

 

 ミレーネルも、アンゲロイから降りて姿(二代目ボディ)を見せた時に、皆ホッと胸をなでおろしてたようで……まあ、戦ってる最中に北辰が『死んだ』とか言ってたからね。

 

 そんな感じで、後から報告やら説明、情報のすり合わせを行った。

 テンカワ・アキトさんのこととかもその時に聞いた。あと、ザンボットとダイターン組、そして『グレートマジンガー』のパイロットである、剣鉄也さんとは、初対面なので紹介してもらった。

 

 『グレートマジンガー』か……いかにも『マジンガーZ』の後継機的な名前だな。

 加えて、『剣鉄也』っていう名前にもびっくりした。『Z』で一瞬だけ名前出てきたっけな……確か、主人公のお母さんの弟……つまりは叔父だったはず。

 

 ただ、鉄也さん自身はなんと記憶喪失らしい。マジか、大変だな。

 そして、そんな状態であんだけ強いのか……すごいな。

 

 そんな感じで、独立部隊の皆さんと軽く話した後、僕らもようやく帰路につくことができた。

 

 あー……今日はホント疲れた。

 今なら僕、ベッドに倒れ込んだ瞬間に寝れる気がする。

 いや、なんなら送迎車の座席、リクライニング的にちょっと倒したくらいでも寝れそう。車とか電車の振動ってなぜだかちょうどよく眠くなるよね。

 

 え、何ミレーネル、着いたら起こすから寝ていい?

 マジか……ごめん、お言葉に甘える。あ、やばい、そう決めた瞬間にもう眠気が襲って来た。

 

 ……じゃ、お休み。

 

 

 

 



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第25話 宇宙までお届け

 

 

【×月◆日】

 

 なんか最近、旋風寺からガンガン依頼が来るようになったなあ、と思う今日この頃。

 

 それも、ほとんど全部が独立部隊関係の仕事であるあたり、総司さん達の仕事の過酷さがわかるってもんだ……こないだの悪人連中の一斉攻撃といい、最近は出番が多いみたいだし。

 

 で、今回また依頼が持ち込まれたわけだが……その依頼の内容はなんと、パラメイルの改造だった。もちろん、独立部隊と一緒にいる『第一中隊』のものを。

 

 なんでも、宇宙空間でも活動可能になるように、コクピット周囲の気密処理その他の改造をしてほしいとのこと。

 あ、何、今度は皆さん宇宙に上がるんですか。

 

 ……正直、この機体構造で宇宙に行こうとすること自体が間違ってると思うんだけど。

 

 だって、パラメイルってコクピットの気密性、はっきり言ってゼロだし……水中に突っ込んだらそれだけで浸水するレベルだよ多分?

 

 そもそも、空飛ぶオープンカー状態の『フライトモード』から、戦闘形態の『アサルトモード』に変形するわけだし……そらまともな機密性があるはずもない。

 パイロットの生命維持が軽んじられてるっていう点では、どこぞの『手足のついた棺桶』と同等レベル……いや、それ以下だな。こっちには宇宙空間用のパイロットスーツもないわけだし。

 

 まあでも、やれと言われればやりますよ。

 小型の機体だから、パーツの追加取り付けを最小限にしないと、機動性に影響が出る……その条件下で十分な機密性を確保するには……同じくらいのサイズのASを参考にして……いっそパイロットに宇宙空間用のスーツ着てもらうのは……動きづらいからダメ? ああそう(嘆)。

 

 

 

【×月%日】

 

 青戸工場やその他の下請け企業さん達と総出で、どうにか納期に間に合わせた。

 ついでにその他の補給物資も渡して、準備万端になった独立部隊の面々は、今朝、宇宙に向けて飛び立ったそうです。

 

 やれやれ、結構な大仕事だったな……無事に終わってよかった。

 

 んで、聞いた話によると、今回宇宙に上がった独立部隊の目的は……どうやら『火星の後継者』に対して打って出るための作戦だそうで。

 詳細な内容までは流石に教えてはもらえなかったけど、そういうことならより一層頑張ったかいがあったってもんである。

 

 あの迷惑連中にはぜひともガツンと鉄槌を降してほしいものだ。ぜひとも。

 ナデシコチームにソレスタルビーイング、ミスリルにパラメイル第一中隊に、ザンボットとダイターンにグレートマジンガーにクロスボーンにΞにヴァングレイに……これだけの戦力がそろってれば、大体の敵はどうとでもできそうだ。

 

 なお、最近はヌーベルトキオシティやその周辺も平和なものである。

 やっぱりこの前の大規模作戦に失敗したことで、しばらくは連中も派手には動けないみたいだ。まあ、色々と補充を済ませればまた動き出すんだろうけど。

 

 なるべく長く続いてほしいなあ、この平和。

 

 

 

【×月+日】

 

 平和はそれなりに続いても、僕の仕事はそうでもなかった件。

 

 独立部隊を送り出してからしばらく経って、また僕のところに……『サイデリアル』に、補給物資輸送の依頼が舞い込んだ。

 

 中継ステーションである『アマテラス』とやらの制圧には成功したらしいんだが、そこからさらに次の目的地を設定して向かうことになったと。

 最低限の補給は、そのアマテラスにあった物資でどうにかなりそうらしいんだけど、恐らく次に向かう先は、『火星の後継者』の本拠地かそれに近い規模の基地である可能性が高い。

 であるならば、可能な限りコンディションは万全にしておきたいと。

 

 で、また僕に白羽の矢が立ったわけね……今度は宇宙に物資届けろってか。

 

 いやまあ、やりますけどね。

 『グラーティア』は宇宙空間も航行可能な船だから、まあどうにでもなりますし。あ、でも燃料効率は良くしたいから、マスドライバーは使わせてね。

 

 そんなわけで、今、大至急物資を集めているところ。

 明日中に出発して、そのままぶっ続けで飛んで……火星に向かっているナデシコ達にその途中で追いついて物資を補給する、って感じになる。

 

 やれやれ、突貫工事の次は、極道納期の輸送便か……しかも、独立部隊が行くくらいだから、結構危険な宙域だったりするんじゃないの?

 まあ、事前に拠点壊滅させて『火星の後継者』は粗方撤退してるから、逆に今行けばちょうど安全なのかもしれないか。

 

 しかし、今回用意する物資、いつもよりさらに多い気がするんだが……?

 

 

 

【×月<日】

 

 どうにか仕事完了。

 『アマテラス』から火星に向かっている途中の独立部隊に追いついて、物資の受け渡しを……する前にめっちゃ驚く羽目になったけど。

 

 そういや、作戦の成否については軍の方から情報聞いてたけど、具体的にどんな結果になったかまでは聞いてなかったな……聞いておけばよかったよ。

 でなければ、宇宙空間でいきなり『それ』を目にすることになって、お茶噴き出すほどびっくりすることもなかっただろうに……

 

 まず、びっくりした点その1。

 ヤマトが、宇宙戦艦ヤマトが一緒にいた。

 ナデシコと、プトレマイオスと、ダナンと並んで宇宙を飛んでた。ものすごい存在感である。

 

 聞けば、ヤマトは『火星の後継者』に拿捕された後、『アマテラス』で修理されていたらしく、今回の作戦はその奪還も目的の一つだったらしい。

 それは無事に成功し、クルーも含めて全員無事だった。

 

 さらに、ブラックゲッターの竜馬さんをはじめとした、その他の協力者達も一気に加入。

 こないだ会った、アキトさんまで一緒になっていた。アマテラス襲撃の時に共闘して、その後、『火星の後継者』の本拠地襲撃も一緒に行くことになったんだそう。

 

 そして、びっくりした点その2。

 νガンダムが……アムロ・レイさんが合流していました。こちらも『火星の後継者』に捕らわれる形で、機体共々アマテラスにいたんだとか。

 

 なんでも連中、サイコフレームの研究もしてたみたいで、それに協力させられてたらしい。

 何に使うつもりだったんだか……まあ、ろくなことじゃないのは確かだが。

 

 ……最初、宇宙空間を飛ぶヤマトを見て思いっきりむせて(タイミング悪くお茶を飲んでいた)、ミレーネルに『大丈夫!?』って心配されて……

 

 どうにか落ち着きを取り戻してから、きちんと識別信号を出して、通信も入れて着艦させてもらおうとして……そしたら、ちょうど哨戒に出ていたらしいνガンダムが飛んできて、またむせた。

 いやあ、あの特徴的なシルエットと、特徴そのものと言うしかない『フィン・ファンネル』は……見間違えようがない。

 

 2度目のお茶スプラッシュに、ミレーネルに僕の体調と気管支を本気で心配されながらも、どうにか落ち着いて(二度目)……そんで、そのまま着艦。

 

 初めましてになる方々にきちんと挨拶も済ませた後、物資の受け渡しも行った。

 その際、僕があの『白い機動兵器』こと『アスクレプス』のパイロットであることも話した。

 

 もっとも、これについては総司さんや鉄也さんがすでに話していたみたいで、特に驚かれはしなかったけど。

 

 そしてその際、沖田艦長からあらためて、あの時の加勢と、地球を守ってくれていたことに対して、ということでお礼を言ってもらった。

 ……二度目ではあるものの、前回はメールでのやりとり、今回は肉声で、しかも直接声をかけてもらったってこともあって……超緊張した。

 

 同じ空間にアムロさんや竜馬さんなんかのめっちゃ有名な面々もいたから猶更緊張した。

 

 その後、無事に物資の受け渡しも済み……これからどうするのか聞くと、予定通り火星に向かうとのこと。

 上手く行けば、それで『火星の後継者』の本陣を叩いて、組織を壊滅状態にできるかもしれない、とのことだった。

 

 うん、数日前にも書いたばかりな気がするが、ぜひ頑張っていただきたい。滅びよテロリスト。

 

 ちなみに、プトレマイオスに荷物を積み込む時、それに一緒に乗っていた、パラメイル第一中隊の面々にも会って……宇宙空間対応になったパラメイルの乗り心地も聞いておいた。

 

 やっぱり地球で乗るのとはだいぶ感覚が違って驚いたそうだし、もともと紙装甲なので、宇宙空間っていう、人間が生身で生きていられない場所で戦うのも、正直最初は怖かったそうだ。

 でもすぐになれたみたいで、今では普通に戦えてるって。

 

 ……その度合いは人によるみたいではあったけど。

 

 ちなみに、コクピットの気密処理とかの改造、僕んとこの会社も担当したって聞いて、驚いてたな。『旋風寺コンツェルンの下請けがやった』ってとこまでしか聞いてなかったんだって。

 

 そしてもちろん、ダナンとナデシコにも物資を届け、任務完了となったわけである。

 

 あと、ナデシコで例のアキトさんにも会えたので、あの時はありがとうございました、ってお礼を言ったんだが、ちょっと素っ気ない感じで対応されてしまった。

 

 その様子を見て……気のせいでなければ、ナデシコメンバーも少し悲しそうにしていた。

 

 ……一体何があってこんな風な関係になってるのか、少し気にはなるけど……明らかにコレ、軽々しく聞いちゃいけない雰囲気だったので、我慢しました。

 いつか聞く機会があればいいな、とか思いつつ、仕事、終了。

 

 さー、あとは地球に帰るだけ。急げ急げー。

 

 

 

【×月¥日】

 

 帰るだけだと思ってたら、変な連中に襲撃された件。

 

 地球に向かってる途中、宇宙空間で変な無人機軍団が襲ってきて……っていうかあいつら、『次元断層』でヤマトを襲ってた奴らじゃん。すげー久しぶりに見た。

 

 かと思いきや、別なデザインの上位版みたいな機体が混じってて……しかもそれには、AIじゃなくて人が乗ってコントロールしているようだった。

 

 それに乗っていた奴……グーリーと名乗ったその男は、僕とミレーネルに、投降して機体ごとこちらにこい、抵抗すれば撃墜してから回収する、と脅しをかけて来たんだけど……まあ当然ながら却下させてもらいました。

 

 その直後、有言実行とばかりに、無人機達を率いて襲って来たが、『こんなこともあろうかと』の精神で『グラーティア』には改造が施されており、シールド機構も複数搭載して防御力を高めていたため、連中のビーム兵器は全くと言っていいほど通じなかった。

 

 防いでいる間に、僕がアスクレプスで出撃。

 無人機の方はほぼ勝負にならないので瞬殺し、グーリーとやらの乗る機体についても、拿捕したり大破させるまでには至らなかったものの、撃退することに成功した。

 

 やたら早く動くから、追いついて攻撃するのがまず大変だったんだけど、スピードならアスクレプスだって決して低くはないのでね?

 

 撤退する際、『また来るぜ』とか言ってたけど……できれば来ないでほしい。

 『火星の後継者』に加えて、正体不明の武装組織なんてこれ以上相手にしたくないって……

 

 ……しかし、久しぶりにあの機体を見て思ったけど……やっぱりあれ、どこかで見覚えが……

 

 

 

 



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第26話 拉致監禁なう

メリークリスマス!
気を利かせた番外編でも特別編でもなんでもないけど投稿です。

今回からちょっと、オリジナルパートっぽいものに入ります。
スパロボVでは、いつの間にか終わってた的な部分にちょっと、うちのミツル君を介入させてもらいました。

……原作と何かちょっと矛盾とか違うところあったら、それはスパロボ時空だからということでひとつ……(汗)

では、第26話、どうぞ。


 

【×月@日】

 

 無事地球に帰還。

 連邦軍に今回の仕事の顛末と、ついでに帰る途中に襲われた連中についても話しておいた。

 

 そしたら、連邦軍からもそいつらの情報をもらうことができた。

 

 というのも、他ならぬ『独立部隊』が、宇宙でそいつらに遭遇していたらしくて、そいつらに関する情報が報告されていたのである。

 

 あのグーリーって奴とも遭遇済みで、その時はなぜか総司さんがやたら目の敵にされていたらしい。

 問題なく勝ちはしたものの、それなりに苦戦したようだ。

 

 ……ちょっと失礼な話、そんなに強かったかな、って思ったんだけど……あっちは部隊でいるところを、それを承知で襲ったためか、無人機も僕の時よりかなり数が多かったみたいだ。

 加えて、直前に襲撃してきた『火星の後継者』とも戦っていたみたいだから、多少なり消耗もあったってことだろう。

 

 そして、あいつらの組織の名前……それがなんと、『ガーディム』だってこともわかった。

 すさまじく聞き覚えのある名前である。

 

 ……どうりで連中の機体に見覚えがあったわけだ。

 

 アレ、僕が今、生産拠点として使わせてもらってる『バースカル』の元の持ち主だったのか。

 生産システムの設計データの中に、あれらの機動兵器のデータがあったんだ、そういえば。ちょっと見ただけで出番なかったから、ほぼ完全に忘れてたけど。

 

 えー……お世話になってるから『会えたらお礼言おう』とか思ってたけど、なんだよ、迷惑連中の1つみたいな感じなわけ、『ガーディム』とやら……

 

 ……これは、うん、仕方ない。

 いらんトラブルを避けるためにも、今まで同様、『バースカル』の存在は秘匿して……こっそりこれからも使わせてもらうとしよう(確信犯のネコババ)。

 

 あの連中に、戦力はともかく拠点として使える『バースカル』を渡すのは危険だしね。

 

 しかし、そんな風に突っかかってくるとなると……これからも出くわすことになるのかな、あの『ガーディム』とやらに……。

 それも、独立部隊も、僕個人も、かな? ……面倒だなー……

 

 今火星に向かってる独立部隊が、現在いる面倒な連中の筆頭である『火星の後継者』の方を片づけてくれれば、少しは状況もマシになるだろうから、そっちに期待するか、ひとまずは。

 

 

 

【×月;日】

 

 期待した途端に特大の凶報が飛び込んできた件。

 いや、凶報かどうかはまだわからんけど……いやでも、詳細ないし正確な情報はわからなくても、よくない知らせであることは確かだからな……こう言うしかないだろう。

 

 なんか、独立部隊が消息を絶った、らしい。

 

 しかし、『火星の後継者』に返り討ちにされたというわけではない。

 もしそうなら、連中は『地球連邦軍肝いりの部隊を撃破した!』って声高に喧伝するはずだし、偵察に向かった連邦軍の部隊の報告では、両陣営が激突したと思しき『火星極冠遺跡』の周辺には、戦闘の痕跡が残されていた。

 

 しかし、残骸として放置されていたのは『火星の後継者』の機動兵器のみであり、ヤマトをはじめとした、独立部隊の機体なんかは撃墜を認められなかったとのこと。

 

 しかも、『火星の後継者』が連邦軍の偵察機を見つけてもろくに迎撃もしてこなかったため、向こうも相当なダメージを受けているのは間違いない、とのことだった。

 

 推測としては、独立部隊は『火星の後継者』との戦いには勝ったんだろう。

 しかしその直後、何か予想外の出来事が起こって撤収ないし、その場を離れなければならないようなことが起こり……その状態から未だにこちらに連絡を寄こすこともできていない。

 

 ミスマル中将は『彼らがそう簡単にどうにかなるはずがない』と信頼したことを言っていたし……僕自身も大丈夫だとは思うけども……本当に、何が起こったんだろうな、独立部隊に。

 

 独立部隊については、推測する以上のことはもう何もできないので、このへんにしておく。

 

 ただ、それとは別にもう1つ、凶報というか、よくわからないことが起こったという情報が入ったので、記しておく。

 

 さっきまでの話とは完全に別な話になる気がするんだけど……少し前から、オーブの代表であるカガリ・ユラ・アスハ氏と、アザディスタン王国のマリナ・イスマイール氏が行方不明らしい。

 どっちもそこまで詳しい身の上とか経歴は知らないけど、名前は知ってる。『Z』にも出てきたし。

 

 世界各地にまだ戦乱の傷跡が残る中、平和を模索して色々頑張ってる人達だったはずだけど……何かあったのだろうか? ちょっと気になる。

 

 最近だと、何やら『始祖連合国』の方でもきな臭い動きがあるって話だ。

 行方不明になった2人とも、面会・対談の予定入ってたらしいし……けどそのことについては、『我々は何も知らない』と、ミスルギ皇国の皇帝・ジュリオは突っぱねている。

 

 どれもこれも、よくないことの前触れな気がして、不安だ。

 ゲームシナリオだと大概、こういう時って怪しい連中が暗躍してて、その影響だったりするからな……。

 

 あとどうでもいいけど、あのミスルギの皇帝、そこはかとない小物感があると思えるのは僕だけだろうか。権力とか立場をかさに着て、めっちゃ得意になってるオーラが出まくってるし。

 ……どことなく、某神聖帝国の第三皇子に似てる気がする。分不相応な野心や傲慢が原因で途中でこの世からフェードアウトしたりして。なんてね。

 

 

 

 

 

【△月○日】

 

 ……とりあえず現状を整理しよう。

 

 いきなりでなんだが、今僕は、『火星の後継者』の拠点かどこかに捕まって、軟禁されている。

 特に暴行されたり、拘束とかもされてない。それどころか、ちょっとしたビジネスホテル並みに環境の整った部屋を与えられて、妙なことをしなければ自由にしていていい、とまで言われている。

 

 ネット環境とかはないし、携帯電話を始め、外に繋がるものは一切取り上げられてるけど。

 また、部屋から出ることはできないし、監視カメラによって24時間監視されている。窓もないから、ここがどこなのかもわからない。下手したら地下かな?

 

 この日記は取り上げられなかったので、精神を落ち着ける+状況を整理する意味で、今こうして書いているという感じだ。

 

 どうしてこんなことになってるのかと言うと……奇襲を受けて、誘拐されたから、としか言えないな。

 

 

 

 すでに2日経ってるので、もう一昨日の話になる。

 

 僕はその日、ネルガルとの打ち合わせのために、指定された場所を訪れていた。

 そこで、ネルガル側の代表として来た、月臣元一郎さんという人――見るからに只者じゃない的なオーラを漂わせている、シュッとしたイケメン。強そう――と、その部下の人達と、情報交換やら何やらをしてたんだが……そこに突然、『火星の後継者』が襲撃をかけてきたのである。

 

 しかも、打ち合わせをしている建物の周囲を取り囲むように、ピンポイントで『ボソンジャンプ』を使って、機動兵器を送り込んできた。

 

 ……なるほど、連中が語る『ボソンジャンプの危険性』ってのもうなずけるなこれは、なんて、思わず納得してしまう。

 

 この精度で一気に飛んで、標的との距離をゼロにできるとなれば……戦略ってものが根本からひっくり返るし、こんな風に誘拐やらテロに使われたら厄介すぎる代物だ。

 実際、相当な手練れであるらしい月臣さんや、ネルガル・シークレットサービスの人達が何をする暇もなく囲まれてしまったわけだし。

 

 ただ、なぜか連中、月臣さんを見て戸惑ってる様子だったのが気になるが……知り合い?

 

 その後は、『無要な犠牲を出したくなければ我々に従え』との要求である。

 当然、周囲には何も関係ない一般人も大勢いて、さも当然のようにその人達も人質にする形で……やっぱロクデナシだわこいつら。

 

 そんな状況では流石に抵抗することもできない。

 幸いと言っていいのか、連中が要求してきたのは僕1人の身柄だけだったし、ひとまず大人しく従うことに。

 

 ……その時に迎えに来たのが、あの北辰って奴とその部下達だったあたり、いい趣味してやがるホントに……!

 いや、ただ単純に白兵戦で返り討ちにされて逃げられないようにだったのかもしれないけど。

 

 こないだと同様の薄気味悪い笑みを浮かべながら、月臣さんやミレーネルも残して僕は誘拐され、目隠しをされて何かに乗せられ――車、ではなかったと思う。浮遊感あったし、飛行機能のある輸送艇か何かかな――運ばれ……気が付いたらここだったというわけだ。

 

 手荷物検査を受けた上で、簡単な説明を受け、『しばらくここで大人しくしていろ』と、この部屋に放り込まれて現在に至る。

 

 さてさて……連中、一体何の目的で僕を誘拐したんだか。

 

 身代金を取って資金源にする? それもありえなくはないけど……機動兵器出してまでやるかと思うと、違う気がする。

 となると。こないだと同じく……目的はアスクレプス、ないし、僕が保有している兵器類の技術とかだろうな。既存の技術体系からすると、どう見ても異質な兵器やらシステムやら色々と搭載してるし、気になるんだろう。

 

 上手く利用すれば、地球連邦相手により有利に立ち回ったり、こないだ起こったであろう戦いの損害を取り戻せるかもしれないとでも考えたか。

 

 ……実際にそれ(日記はここで途切れている)

 

 

 ☆☆☆

 

 

 日記を書いている途中で部屋のドアが(ノックもなく)開き、『出ろ』と言われて呼ばれたミツルは、兵士の案内に従って歩き……応接室のような部屋に連れてこられていた。

 

 そこに待っていたのは、『火星の後継者』の指導者たる立場にある、草壁春樹。

 その部下である、シンジョウ・アリトモとヤマサキ・ヨシオ。

 護衛としてだろうか、壁際にはさらに複数人の部下と、北辰も待機していた。

 

 まさに四面楚歌と言っていい状況の中、案内されるままにミツルは部屋の中央に置かれた卓につく。ソファはそれなりにいい品のようで座り心地はよく、この光景だけ見れば、単なる企業や団体の重役同士の会合、に見えなくもない。

 

 実際は、拉致された側と拉致した側の、あらゆる意味であまりにも不平等な戦いの場であるが。

 

 『まずは挨拶させていただこう』と、草壁達は、自身と部下達の簡単な自己紹介をした後、すぐに本題に入った。

 

「早速だが、星川ミツル君。君に我々の協力者となってもらいたい」

 

「……ご気分を害するのを承知の上であえて聞きますが……テロ行為に加担しろと?」

 

 語感的には大分柔らかく言っているものの、明確に非難する形で言ったミツルの言葉に、壁際に待機している部下の何名かや、卓についているシンジョウが、僅かに表情を歪ませた。

 が、おそらくこの反応を予想していたのであろう草壁と、もともとこういうことで感情を乱すタイプではないヤマサキは、涼しい顔のままだった。

 

 草壁が今の言葉を問題にする気はないとわかり、シンジョウ達の表情もすぐに元に戻った。

 

「テロ行為か……なるほど確かに、世間一般から見れば我々の活動はそのように見えるのだろう。いや、実際に非難されても仕方のないことを多くやっているからな。しかし我々は、それらの行為は、人類の未来のために必要なものであるという確信をもってこの身を投じている」

 

 語気を強めも荒げもはしないが、意思と力のこもった声で、草壁は話し始める。

 

 自分達の活動は、ひとえに『ボソンジャンプという技術の持つ危険性』を、正しく人々に、世界に認識させるためのものなのだと。

 

 地球連邦では、ボソンジャンプを単なる有用な移動手段としてとらえ、地球内外の各所に置いた『チューリップ』をステーションとして使い、人類が広くその恩恵にあずかれる形で活用していこうと考えた。

 

 しかし草壁曰く、ボソンジャンプはそのように楽観的かつ簡易的な管理で放っておいていいものではない。もっと厳格に管理しなければならないものだ、と言う。

 

「その危険性は、君が身をもって体験してくれたことと思う。こうして手荒な形でここに招待したことは申し訳なく思うが……率直に聞こう。我々の『迎え』が行った時、君はどう思ったかね?」

 

「……稚拙な言い方ですが、こんなんありかよ、と思いましたね。防ぎようがない、と」

 

「まさしくその通りだ。ボソンジャンプは確かに有用な技術ではあるが、あのような形で軍事転用された場合、時としてその脅威性は核兵器すら凌駕するだろう。実際に我々も、やむを得ず今まで何度かそれを利用した戦術を展開してきたものの、そのほとんどで、相手側にろくな抵抗も許さず大打撃を与えることに成功している」

 

(『やむを得ず』ね……よく言うわ。そして、『ほとんど』じゃない一部の例外は……総司さん達だろうな。日本で何度か、ボソンジャンプで跳んで襲ってくる連中を返り討ちにしたらしいし)

 

 思い浮かんだ悪態は、口に出さずに心の中に留めていたが、実際ミツルの推測は当たっていた。

 安直に『ボソンジャンプ戦術』とでも言うべき、機動兵器をボソンジャンプできなり敵中枢へ送り込む戦い方は、破壊にしろ制圧にしろ、あまりにも有効だった。

 

 例外的に、ほぼゼロ距離で出現する敵機にすら即時対応して反撃し、返り討ちにできるレベルのエース級がそろった、『ナデシコ』をはじめとする独立部隊の面々にだけは、通じていなかったが。

 

 そして草壁は今一度言う。

 あの技術は、極めて厳重に、厳格に管理されなければならない、と。自分達はそのために立ち上がったのだと。

 

「我々はこの戦術を用いて、地球連邦を『無血開城』という形で制圧するつもりだ。連邦政府の要人が集まる議会の場に、ボソンジャンプで機動兵器を送り込んで即時制圧し、降伏させる。そうすれば、無用な犠牲を生むこともない、一発の銃弾すら必要なく、連邦政府は我々の手に落ちる。君には、その手伝いをしてもらいたい」

 

「『サイデリアル・ホールディングス』……立ち上げから僅か2年で、東南アジア全体でも有数の大企業にまで上り詰めた出世頭。お噂はかねがね聞いていますよ。その手腕と技術力にあやかれればと思いましてね」

 

 草壁に続く形で会話に加わってきたヤマサキ。

 技術者でもある彼は、これまた率直に、自分達がミツルに求めるものについて言及し始めた。

 

 躍進著しい『サイデリアル』の持つ技術力の提供や、兵器類をはじめとした物資その他の『火星の後継者』への援助。

 その他、フロントとして様々な役割を担ってほしい、とのこと。

 

 盛大にこちらを、企業ごと利用する気満々なその内容を聞いて、頬をひくつかせるミツル。

 

「特にあの白い機動兵器は興味深いですね、既存の技術体系とは全く異なるテクノロジーがいくつも使われているのが、見ただけでわかりましたし。ああもちろん、こちらだけが得をするような形にはしませんから安心してください。きちんとあなた方にも大きなメリットがありますよ」

 

「……例えば?」

 

「世界経済の覇者に名を連ねる大企業になれます。今まさにその名を轟かせている、ネルガル重工や旋風寺コンツェルンを押しのけて、ね」

 

 現在、『火星の後継者』には、ネルガル重工と敵対する関係にある『クリムゾングループ』をはじめとした、複数の支援者が存在する。

 それらは一様に、『火星の後継者』の宿願が成った暁には、地球連邦およびその関係機関における公共事業その他の発注等を、ほぼ独占に近い形で取りつけるという約束を、あるいはそれに近いリターンを約束する取り決めを交わしている。

 

 目論見通りに地球における影響力を確保できさえすれば、なるほど確かにそれも不可能ではないだろう。

 

 完全に職権乱用、市場経済における公正な取引に後ろ足で土をかけるやり方ではあるが、草壁達は『それも必要なこと』だと考えて疑わない。

 

 ゆえに、会話の中で少々黒い内容のそれが混じるくらいのことを、問題にもしない。

 

「まあ、ハイリスクハイリターンな投資みたいなものだと思ってくだされば。損はさせませんよ? 自発的に色々と協力していただければ、我々も面倒がなくて楽でいいですし」

 

「……参考までに聞きたいんですが、もしお断りした場合は?」

 

「その時は……参考までにお教えしますが、協力したくなるようにまあ、色々と」

 

 声の調子を全くと言っていいほど変えずにさらりとそう言ったヤマサキ。

 ミツルの中で、『あ、こいつ外面は普通だけど中身絶対ヤバいな』という評価が出来上がった。

 

 さらに、壁際に立っている北辰の笑みが一瞬深まったように見えたのも、より一層気が滅入る原因になった。

 

(想像したくねー……)

 

 すると、草壁はふいに手首にはめていた腕時計を見ると、

 

「……今すぐに答えを出せとまではいわないが、なるべく早く決めてくれるとこちらも助かる。部屋でじっくり考えてくれたまえ」

 

 どうやら何かしら予定が詰まっているらしく、草壁は言いながら席を立った。

 そのまま扉から出て行こうとして、しかし、『それと』と立ち止まって振り向いて、

 

「一応教えておくが、助けが来るなどとは思わないことだ。この拠点の所在は、外部に対して徹底的に秘匿しているし……連邦の虎の子であるナデシコ部隊は、どこへ行ったやらわからない状況だからな」

 

 そう言い残して、草壁は部屋を出て行った。

 

 その後すぐにミツルも、案内役の兵士達に促され、元の部屋に戻されたのだった。

 

 

 

 



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第27話 大脱出(色んな意味で)

「彼、我々に協力してくれますかねえ」

 

「してもらう」

 

 飄々とした態度で言うヤマサキの言葉を、草壁はきっぱりとそう言い切った。

 しかしそれと同時に、同じようなやり取りを最近したばかりだな、とも思い、苦々しい気分にもなっていた。

 

 異世界からやってきたという戦艦『ヤマト』。

 それを接収し、用いられている技術を自分達のものにしようと考えていたが、一瞬の隙をついて乗組員もろとも脱走された。

 

 それだけではなく、ナデシコやソレスタルビーイング、さらにはまた別な異世界の勢力と思しき機体群と合流され、『火星極冠遺跡』で挑んだ決戦では、こちらの戦力の大半を喪失する惨敗を喫することとなった。

 

 その戦いでは、見たこともない怪物(ドラゴン)や、どこの所属とも知れない機動兵器群(ガーディム)といったイレギュラーな連中も紛れ込んできたものの、自分達が大損害を被ったのは紛れもない事実。

 

 先程は交渉の席ゆえ、大物ぶって見せはしたが、率直に言って今の『火星の後継者』には余裕がない。だからこそ、新たな支援者、新たな武器、そういったものが必要だった。

 

(幸い、ボソンジャンプのネットワークはまだこちらにある。逆転するのは不可能ではない……連邦政府の無血開城、それさえ成れば……ゆえに、今は雌伏の時だ)

 

 そう考え、ミツルに首を縦に振らせるための次の手を考え始めた草壁だったが、その直後、一人の部下が慌てた様子で駆け込んできた。

 

「た、大変です総帥! ね、ネルガルの連中が!」

 

「っ……何だと!?」

 

 

 ☆☆☆

 

 

【△月×日】

 

 攫われたのもあっという間なら、助けられるまでもあっという間だったな、今回の事件。

 

 草壁っていう奴に呼び出されて、『協力しないとひどいことしちゃうぞ(意訳)』って脅された後に、じっくり考えろってまた部屋に戻された。

 

 なんかもっともらしい言葉を並べてはいたし、一部に限れば賛同できそうな部分はあったものの、テロリストに協力するなんて選択肢は、どう考えてもあり得ない。

 目的がどうあれ、連中のやってることはテロそのものだしな。それを『必要なことだ』で全部片づけて、しれっと次の非道に着手することにためらいがないあたり、最高にタチが悪い。

 

 けど、拒否したら拒否したで……アレ絶対拷問とか洗脳とかされる流れだもんな。

 北辰が心なしか楽しそうにしてたし、提案してきたヤマサキって奴も、飄々としてたけど絶対ヤバい奴だったもんね。笑って人体実験とかするタイプだよアレ。

 

 やっぱろくでなしだなあいつら……とか思ったその時だった。

 

 突如、爆発音みたいなものが響いて、拠点内があわただしくなった。

 扉の向こうの物音がどうにか聞こえてきた程度だけど、それでも『何かあったんだ』とわかった。

 

 扉にぴったりと耳をつけてどうにか聞き取れた単語は……『襲撃』『ネルガル』『機動兵器』『ボソンジャンプ』……その他諸々。

 

 まあ、結論から言ってしまうと、ネルガルの警備部門……通称『ネルガル・シークレットサービス』が襲撃してきたのだった。徹底的に秘匿、とは何だったのか。

 

 表で機動兵器同士の戦いが始まり、どうしよう勝てるか、いや逃げる準備を、ってことであわただしくなってたわけだ。

 

 そして、『火星の後継者』はこの拠点を放棄して逃走することに決めたようだったが、その際に僕も連れて行こうとして……しかし、部屋から連れ出そうとした兵士達が、突如気絶した。まるで睡眠薬でも嗅がされたみたいに一瞬の出来事だった。

 

 一体何が起こったのかと驚いていた僕の目の前に現れたのは、なんとミレーネルだった。

 ああ、今の、彼女の精神干渉か……っていうか、乗り込んで助けに来てくれたの!? いや、ありがたいけども……仮の体とはいえ、思い切った手に出るなあ。

 

 

 そしてコレは後から聞いた話なんだけど……この基地の発見・摘発についてもミレーネルが一枚嚙んでたっぽい。

 

 今更だけど……ほら、この子、人の心読めるから。

 

 僕が拉致されて連れていかれたあの時、その場にいた他の面々……ミレーネルや、ネルガルの月臣さんとかは見逃されたんだけど……その時ミレーネル、速攻で連中の頭の中覗いて、拠点とか全部見破ってたのよ。

 

 そしてその後、メンツを潰されたネルガルと協力して僕の救出に取り組むにあたって、さも『調査の結果判明しました』的な感じでここの情報とか全部提供して、それに自分も同行して殴り込みに来た、って感じらしい。

 

 しかも、突入して以降も、途中のロックされた扉とか隔壁なんかも、近くにいた構成員の頭の中からパスワード抜き取ってノータイムで解除しながら、ほぼ素通りでここまで来たって。

 相変わらずチート級に頼もしい能力である。

 

 

 で、そんなこんなで無事に再会できたわけだ。

 

 再会と同時に、『よかった……!!』って喜んで、抱き着いてきて思いっきりぎゅっとされた時にはまたドキッとしてしまったけど、こんな風に大事に思ってくれてるってのは嬉しかった。

 

 けど、さすがに敵陣の真っただ中でぼやぼやしているわけにもいかず、5秒くらい互いの体温を確かめ合った後は、ミレーネルの先導で逃走を開始。

 出会った敵は片っ端からミレーネルが眠らせてくれた――今更だけど、白兵戦がチート級に強いなこの子――ので、ほとんど邪魔されることもなく、もう少しで脱出、という所まで行った。

 

 けど……僕が覚えているのは、そこまでだ。

 何が起きたのかわからないまま、一瞬で景色が暗転して、僕は意識を失った。

 

 ……強いて言えば、その直前の一瞬のこと……

 

 天井が崩れて、落ちてきたように見えた、気がした。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 何が起こったのか、それを説明するのは簡単である。

 

 『ネルガル・シークレットサービス』の襲撃を受け、やむなく草壁達は、拠点を放棄することを決めた。

 その際、人質もかねてミツルを連れ出そうとしたわけだが、乗り込んできたミレーネルの妨害に遭い、連れ出すどころか奪還されそうになってしまう。

 

 やむなく草壁は、連れ出すのを諦めて、移動用に用意していた戦艦に乗り込み、部下達も乗れるだけの人員を乗せた上で、これを発進させる。

 そして、拠点の直上で、戦艦のディストーションフィールドを全開にし……それによって真下にある拠点を押しつぶしたのである。

 

 ミツルが最後に見た『天井が落ちてくる』という光景は、この時のものだった。

 

 当然、拠点内部にいたミツルとミレーネルはもちろん、逃げ遅れたり気絶していた『火星の後継者』の構成員達や、ミレーネルの他にも乗り込んでいた『ネルガル・シークレットサービス』の隊員達は全てこの崩落に巻き込まれ、圧殺された。

 

「機密保持のためとはいえ、もったいなかったですね……データや機材も、あの若会長も」

 

「やむを得ないことだ、もう言うな。……元々『サイデリアル・ホールディングス』は、彼が一代で立ち上げた企業だ。トップである彼がいなくなれば自然と分裂していくだろう。技術に関してはそこで拾い上げればいい」

 

 淡々と言って自分の行いを正当化し、ミツルの死後も迅速にその会社を利用する算段を考える草壁。崇高な目的のためには、何を犠牲にしてでも前進をやめるべきではないと、本気でそう信じている彼は、数十分前まで言葉を交わしていた青年の死を目の当たりにしても……いや、そのGOサインを自分自身が出したのだと理解していても、一切歩みを止めるつもりはなかった。

 

 

 

 しかし、その双眸がこの後すぐ、驚愕に見開かれることとなるのを、彼はまだ知らない。

 

 

 

 同時刻……『サイデリアル』の秘密生産拠点、『バースカル』の艦内。

 

 作り物の肉体(2代目)が死を迎えた……ないし、破壊されたことで、ミレーネルの精神はまたしてもここに飛ばされて戻ってきていた。

 

「……よくも……」

 

 しかし、3代目となる肉体に憑依したその直後……いや、それよりも前から、ミレーネルは怒り狂っていた。

 普段は冷静なその顔に……これ以上ないくらいの、烈火のごとき憤怒の色を浮かび上がらせて、ダン、とテーブルに両拳を叩きつける。

 

「あいつら……よくも……よくもミツルをっ!!」

 

 本体とも言える精神体そのものを、この『バースカル』に保管している彼女にとっては、肉体の死は、本当の意味での死にはつながらない。ゆえに、そのような状況に陥っても慌てる必要はなく、むしろその不死性を生かして情報収集に徹することすらあった。

 

 今回もその特性のおかげで、ミレーネルは大まかにではあるが、何が起こったのか、それによって自分達はどうなったのかを把握していいた。

 恐らくは、『火星の後継者』が何らかの目的で、機密保持のために基地そのものを崩落させ、内部にいた者達全員の口を封じたのだろうと。

 

 そしてその魔の手は、ミツルにも及んだのだろうと。

 

 自分の肉体がああも無残に破壊されたほどの威力。恐らく、基地そのものの重量がそのまま凶器になったのであろうアレは、生身の人間ではひとたまりもない。

 

 となれば、既にミツルは……

 

 容易にそんな、残酷な結論にたどり着けてしまうミレーネル。

 目をそらしても、逃避しようとしても、その事実は変わらないであろうことを……聡明な彼女だからこそ理解してしまう。

 

 悲しみ、怒り、憎しみ、失意……色々な感情がごちゃ混ぜになり、これも作り物の脳がショートしそうなほどの感情の奔流に彼女は身を晒していた。

 

 しかし、その直後……彼女はあることに気づき、一気にその感情を鎮静させた。

 

「……えっ?」

 

 彼女の目は、偶然そちらを向いただけではあるのだが……『バースカル』の格納庫スペースに向けられていた。

 

 そこは通常、ミツルの愛機である『アスクレプス』や、その他、試作段階の様々な機動兵器などが格納されている場所だ。

 

 先程、新しい体に魂を入れてこの部屋に来た時……その時も、同様に偶然、そこの景色が視界に入ってきていた。

 主を失った『アスクレプス』が、どこか虚しく鎮座している様子が見えて、それが余計に痛々しく思えて、ミレーネルの心に突き刺さった。

 

 その時には、確かに見えた、確かにそこにあったはずの、ミツルの『アスクレプス』が……

 

 

 

「…………ない」

 

 

 

 僅か数秒の間に、忽然と消えていた。

 

 

 

 

 

 そして、同時刻。

 

 突如として、瓦礫の山となり果てた、『火星の後継者』の拠点跡地から、天を突くような光の柱が立ち上り……その中から……

 

「バカな……なぜ、あの機体がここに!?」

 

 困惑する草壁。その部下たちも同様。

 しかし、目の前に広がっている光景は、変わらない。

 

 光の柱から出てきたのは……先程まで彼らが話題にあげていた、『白い機動兵器』そのもの。

 

 

 

「……あーもー、死ぬかと思った」

 

 

 

 星川ミツルの乗る、『アスクレプス』だった。

 

 

 

 

 



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第28話 素直に喜べない成長

(日記、続き)

 

 ミレーネルに助け出されて、逃げようとしたところで……これは後からネルガルの皆さんに聞いた話も合わせて知ったことなんだけど、連中、機密保持のためにこの基地を丸ごと破壊したらしい。

 連中が主に機動兵器に搭載して使っているディストーションフィールドとかいう、バリア的なやつを使って。

 

 ……コレのせいで、連中が使うロボって、ザコ構成員が使う量産機でも妙に堅いんだよな。

 

 それの戦艦版を使い、最大出力で展開したことによって、真下にあった基地を押しつぶした、と。

 

 ……逃げ遅れた自分達の仲間や、侵入していたネルガルの捜査員ごと。

 

 そして、僕とミレーネルもそれに巻き込まれそうになったものの、間一髪、僕が召喚……というか、遠隔で次元転移させて呼び出した『アスクレプス』に乗って、そこを脱出した。

 

 その後、残念ながら草壁達は取り逃がした。

 

 北辰を筆頭にした機動兵器部隊が、ネルガルと僕らの両方を相手にして時間を稼ぎ……その間に準備を整えて、敵の戦艦はボソンジャンプしてその場から消えたのである。

 直後に北辰達も同じようにして消えた。

 

 一応、構成員はいくらか逮捕できたそうだが、主だった幹部クラスには逃げられた形だ。

 

 こうして、僕の誘拐から始まり、『火星の後継者』の拠点の1つの摘発に至ったこの事件は、幕を下ろしたのだった―――

 

 

 

 ―――ってことになってる。表向きは。

 

 

 

 実際は違うのかって? まあ、大枠はあってるんだけど……一部に嘘が混じってます。

 もっとも、その嘘の部分も……本当にそうだったのかどうか、自分でもわからない。ただ単に、『恐らくこうだったんだろう』って僕自身が予想してるだけだから。

 

 そのことについても、一応記しておこう。

 僕の予想とか推測が多分に含まれていることだって点をきちんと了承した上で聞いてほしい。

 

 

 

 話は、連中が基地を押しつぶして、証拠隠滅やら口封じやらのために、僕らを圧殺しようとした時にさかのぼる。

 

 その時、僕とミレーネルはどうにかアスクレプスで脱出した、と説明したが、実際は違う。

 

 あの時、僕とミレーネルは、脱出が間に合わず……それどころか、アスクレプスを呼び出すことすらできずに、死んだ。

 

 そもそも僕……少なくとも、あの時点での僕は、自分の意思ないし思念でアスクレプスを次元を超えて呼び出すなんてこと、できなかったからな。

 できたら超便利だっただろうけど。その気になれば逃げられるわけだし。

 

 『亜空間にしまっておいた』状態のアスクレプスなら取り出せるにしても、それとはまた似て非なる能力だしね。残念ながらあの時、アスクレプスは『バースカル』のドックにあったはずだし。

 

 話を戻そう。

 

 ミレーネルは、何度も言うように、あの体はかりそめのものなので、『バースカル』でリスポーンしていた。

 

 そして僕は、あの時本当に死んだ。

 とんでもない重量……というか、勢いがありすぎて、実質あれは巨大な鈍器だったと思うけど、ともかくあの瞬間、自分の体が破壊され、骨が折れ、肉が千切れ、全てが押しつぶされて凄惨なことになって死んだ。

 

 ……走馬灯って奴かな。妙にはっきりその時のこと、覚えてるんだよね……嬉しくない。

 

 けど、その後……生き返った。

 

 どういうわけか、間違いなく死んだはずの僕が……アスクレプスのコクピットに乗った状態で、復活したのである。

 

 あの時は、よく頭が働いてなくて、なるほどギリギリ助かったのか、って勝手に納得して『死ぬかと思った』なんてことを呟いてしまったものの……冷静になって考えてみると、間違いなく死んでるんだよな僕。

 

 もちろん、その時の記憶が、パニックになった僕の脳が見せた幻覚って可能性もなくはないだろうが……ミレーネルも同じようなことを記憶してるし、違うと思う。

 

 それに……この現象、見覚えがある。

 

 メタフィクショナルな発言をさせてもらうが、『Z』世界でこのアスクレプスの持ち主だったアドヴェントには、『リザレクション』という能力があった。

 それは、次元力を使うことにより、自分が死んでも……それこそ、骨の欠片1つ残さず、完全に消滅してしまった状態からでも、甦ることができるというものだ。

 

 色々と制限はあるので、いくらでも際限なく使えて復活できるようなものじゃなかったと思うけど……今回のこれは、それに似ている。どうしてそれを僕が使えたのかは知らないが。

 

 しかしあの瞬間、僕は死んで……そして復活して、さらに次元力でアスクレプスを呼び寄せ、あの瓦礫の山を突き破って脱出したんだと思う。

 

 そこからはまあ、さっき言った通りだ。北辰達と戦って、しかし逃げられた。

 

 そしてその後、ネルガルの皆さんと一緒に帰還。簡単に事情聴取とかその辺を受けた上で、解散になった。

 

 あとその際、隙を見て次元転移で『バースカル』にミレーネルを迎えに行った。

 ミレーネルは僕が無事だったってことを泣くほど喜んでくれた後、すぐさま口裏合わせをして、僕と一緒にアスクレプスに乗り、その状態でネルガルに合流したのだ。

 それで出来上がったのが、さっき話した『表向き』のストーリーってわけだ。

 

 これが、表裏合わせた、この事件の顛末である。

 

 両陣営、死傷者多数。決して無事とは言えない幕引きになったけど……どうにか僕は生きて帰ることができた上、今回の件をきっかけに、企業としても対『火星の後継者』の立ち位置で、今後ネルガルとは協力していくことになった。

 

 ……もっとも、その戦いも、そんなに長くは続かないと思われるけども。

 

 戦いの終盤、ミレーネルがちょっと面白い思念波をキャッチしててね……それがもしかしたら、連中を追い詰める決定打になりそうなんだ。

 

 

 

【△月△日】

 

 あんな事件があった後なので、ちょっとの間だけど、休みをもらった。

 

 ひとまず仕事から離れてのんびりしてるけど、その間に、色々とあの事件について……

 いや、あの事件の時に起こったことや、その前後で見られるようになった、ある『変化』について記しておこうと思う。

 

 いや、どうも『復活』する前と後で……僕の体が、色々と変わっているみたいなのだ。

 

 まず、出来ることが増えた。

 

 以前までできなかった、アスクレプスを次元転移で呼び出すことができるようになっていた。

 離れた場所にいても、僕の意思一つで呼び出せるし、僕自身が転移してアスクレプスのコクピットに搭乗することもできるようになった。

 

 残念ながら、僕自身が自由自在にどこにでも転移できる、ってわけじゃないけど……いやそれでも十分便利すぎるな、この能力。

 普段はドックに置いといて、必要な時に呼び出したり、その逆、降りてからドックに転送したりとかできるわけだし。

 

 そしてもう1つ。

 気のせいじゃなければ……前より僕、強くなった気がする。

 

 北辰達と戦った時に、アスクレプスをより素早く、より精密に、思った通りに動かせて……いやそもそも、その『思った』っていう部分が前と違ったな。

 こう動けばいい、こう動かせばいい、っていうイメージがすらすら頭の中から出てきて、前よりずっと上手く立ち回ることができたのだ。

 

 それこそ、操縦の腕では明らかに僕より上だったはずの、北辰の乗る機体に、機体性能で多少ゴリ押しした部分があるとはいえ、1対1で食い下がれたくらいだもの。

 明らかに以前と違うレベルの戦闘能力に、僕だけでなく、通信の向こうで奴が珍しく困惑していたのが聞こえた。

 

 それでもすぐに、『面白い……』って気を取り直して、終始圧倒され続けたけど。

 馬力や防御力は僕が上だったけど、トリッキーな動きと機体そのものの小ささを上手く利用した戦い方に翻弄され続けた。

 

 ディストーションフィールドも硬かったし、どうにか奴が使ってた錫杖?みたいな武器をへし折るまではできたものの、そこでちょうどタイムアップ。逃げられた。

 

 ……まあ、つい語ってしまったけど、戦闘の内容とか結末については置いといて。

 

 そんな風に、僕の体は色々と変わっていた。

 

 予想としては、今回のこれは、『リザレクション』が……次元力を使った復活が原因だと思う。

 

 『Z』でも似たような形でパワーアップした奴、いたし。

 次元力の流れの中に身を置いたり、あえて敵の、強力な次元力を使った攻撃を食らって死に、そして復活することで、次元力の扱いやその本質を体で覚える、というとんでもない方法で……。

 

 僕も、無意識というか自動的にというか、『リザレクション』を発動して……あれって次元力を使った能力の中では最高峰の1つだったはずなので、そこで強力な次元力にさらされたことで、それに引っ張られて、僕自身の次元力の扱いも急激に成長した……ってことなのかも。

 

 ……まあ、結果だけ見れば、色々と便利になったし、戦闘も強くなれたみたいなので、今のところ僕に損はない。

 

 けどまあ流石に、コレを利用して強くなろうとは思わない。

 

 死んでも生き返れるかどうか不確かだっていうのはもちろん、仮に確定で生き返れるとしても、わざわざ自分から好んで死にたい奴なんていないだろう……少なくとも、僕は違う。

 

 それに……よくわからないうちに自分の体がどんどん変わっていくという感覚は、ちょっとその……怖くもあるし。

 

 これを繰り返したら、最初のうちはよくても……どんどん自分が自分でなくなっていくような気がしている。

 既に僕は、人間には不可能な形で次元力を行使できるようになっている。

 

 もしこれ以上『死んで』『甦って』『成長して』……強くなると同時に、人間からかけ離れていったとしたら……僕は、どうなるんだろうか。

 僕は、僕のままでいられるんだろうか。

 

 ……怖いこと考えちゃったな、やめよう。

 ひとまず今日はゆっくり休養して、それからまた仕事を始めよう。

 

 ……近く、昨日日記に書いた例の『決定打』もどうにか使えるようになりそうだし……ね。

 

 だから、今は、休もう。

 

 

 

 追記

 

 午後になってから、ミレーネルが早上がりで会社から戻ってきてくれて、なんかその後、かいがいしくお世話とかしてくれた。

 

 手作りで料理作ってくれたり、掃除とか洗濯もしてくれて。

 会社の仕事の方も、溜まってる案件で、僕の決済が必要じゃないものはほぼ全部片づけてくれたって。やだ、知ってたけどこの子、超ハイスペック。

 

 まあいろいろと甘やかされて……嬉しいし楽でよかったけど、なんかこのままだとダメになりそうだ、ってぽつりとつぶやいたら、『そしたら私が養ってあげるから安心して』と言われた。

 

 相変わらず美少女なミレーネルがそんなこと言うもんだから、ちょっとくらっと来たけど、それってよく考えたらあれじゃん、『ヒ』で始まって『モ』で終わる2文字の奴じゃん。

 流石にそれはちょっと男としてないわー、と思ったので、逆に早いとこきちっと復帰する決意が固まった。

 

 ……ミレーネルがちょっと残念そうにしてたのは見なかったことにしておいた。

 

 

 

 



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第29話 摘発&救出

年内最後の投稿になります。

来年もどうぞ、『とある蛇使い座の日記』をよろしくお願いいたします。
よいお年を。

第29話、どうぞ。


 

 

【△月▼日】

 

 ここんとこ『激動の1日』が結構な頻度でやってくる件。

 

 まあ、今回に限っては、こっちからしかけたことだから、不意打ち気味なことで疲れたとかはないけど……ああでも、普通にやること多くて大変だったから疲れはしたな。

 

 何があったかというと……『火星の後継者』の拠点に殴り込みをかけました。

 そんで、なんか捕らわれてた女の人を救出しました。以上。

 

 ……端折りすぎたな。うん、ちゃんと説明する。

 

 

 

 ことの発端は、前回、僕が拉致された時に遡る。

 

 あの時、僕やネルガル・シークレットサービスの人達が、北辰達の乗る機動兵器と戦ってる間に、草壁達には逃げられたわけだけど……その時に、ミレーネルが妙な思念波を感知していたのだ。

 

 酷く希薄でふわふわした感じのものだったけど、その思念からは、かすかに『愛情』を感じ取ることができたという。

 

 そしてその後、ネルガルから情報提供の一環として聞かされた、連中がどうやって『ボソンジャンプ』を制御しているかっていう仕組みを聞いた時、ミレーネルの言っていたことの意味がわかった。

 そして、それを利用した突破口も思いついた。

 

 ボソンジャンプを使って狙った場所に飛ぶには、『演算ユニット』とかいう、ボソンジャンプのシステム中枢に、行きたい場所のイメージを送る必要がある。これを『ナビゲート』と呼ぶ。

 そしてそれができるのは、A級ジャンパーのみ。

 

 A級ジャンパーによる『ナビゲート』なしでの移動の場合、狙った場所に正確に跳躍することが非常に難しい上、生命体は体を再構築できない。つまり、ジャンプできない。

 

 ただ、連中はどうやら、火星にあった、演算ユニットへアクセスするための『端末』を持っているらしく、それに『サイコフレーム』を組み合わせることで、一方通行でなら、A級ジャンパーなしでも行き先を指定して生命体をジャンプさせることもできるらしい。

 しかし、精度と安全性、確実性はどれもお察しであり、やはり正確にボソンジャンプを運用するには、『A級ジャンパー』の協力は不可欠。

 

 そこで連中が考えた方法は、控えめに言っても外道極まりないとしか言えないような方法だった。

 あるA級ジャンパーを、演算ユニットにジャンプ先のイメージを送るための『人間翻訳機』として使う。そのために、一連のシステムの中に、ジャンパーを物理的に組み込む、というものだ。

 

 箇条書きで説明すると、

 

1.どこにジャンプするかという情報を、精神制御の類でそのジャンパーに伝える

2.そのジャンパーの思念を、サイコフレームで増幅する

3.増幅したイメージを、アクセス端末を通して『演算ユニット』に送る

4.狙った場所にジャンプ

 

 要するに、そのジャンパーを人間翻訳機として使うわけだ。見事に人を物として利用することしか考えていないやり方である。

 ……考えたの、あのヤマサキって奴か? まれに見る外道だな。

 

 そして、その利用されているA級ジャンパーっていうのが……なんと、ミスマル中将の娘さんだという。

 しかも、以前助けてくれた、あのテンカワ・アキトさんの奥さんでもあるって言うじゃないか。

 

 それはまた……なんとも残酷な話で……。

 ていうか、あの2人、義理の親子だったのね。

 

 ここまでが、こないだ逮捕した構成員とかを尋問してわかったことだそう。

 

 つまり、恐らくは連中の拠点に捕らわれているであろう、そのA級ジャンパー……ユリカさんというらしいが、彼女を助け出すことができれば、連中は一気に弱体化する。

 まともにボソンジャンプを制御できなくなり、連中が目指しているプランも不可能になるだろうから、そこを狙うのが一番効率的だと言えるだろう。

 

 ……効率とかそういうの抜きにしても、そんな形で身内を利用されて怒り心頭なミスマル中将やアキトさんのためにも、さっさと助け出してあげたいし。

 

 そして、ネルガル・シークレットサービスの人達の決死の努力により、連中の拠点と思しき場所までは割れているらしい。すごいな、ネルガル。

 

 あとはそこに一気に戦力を集中して摘発し、ユリカさんを救出と行きたいところだが……その作戦で頼ろうと思っていた独立部隊は、現在行方不明。

 仕方なく、ネルガル・シークレットサービスが単独でことを構えることになった。

 

 地球連邦軍からは戦力は出せないのか、と思ったら、軍の中にもまだ一定数、『火星の後継者』に賛同する者がいて、どこに敵がいるかわからない状態。

 裏切り者の耳に摘発計画が入ってリークされ、逃げられてしまったら大変だからして、これはむしろ連邦軍そのものに内密に行うという。

 

 ネルガル・シークレットサービスも決して無能ではないし、むしろ優秀な人達の集まりだが、それでも相手にも北辰やその部下達と言った手練れがいるし、一瞬でこちらの懐に入ってくる『ボソンジャンプ戦術』は、雑兵が使っても脅威としか言いようがないもの。

 ゆえに、僕ら『サイデリアル』にも手伝ってほしい、と話があり、僕らはこれを承諾した。

 

 そして同時に、連中の『ボソンジャンプ戦術』を完封した上、一気にユリカさんを助け出す作戦も提供させていただいた。

 

 説明した時は『そんなことができるのか』って半信半疑だったようだけど、まず第一案としてその作戦を実施し、ダメそうだったら予定通り総攻撃を、っていう感じにまとまった。

 

 

 

 そして、摘発当日。

 

 敵に悟られないギリギリまで近づき、ネルガル・シークレットサービスと、サイデリアルと提携している民間軍事会社の合同チーム、それに加えて、新たにわが社で開発した無人兵器『デイモーン』と『ティアマト』を多数投入し、一気に攻め込んだ。

 

 突然の襲撃に向こうも最初は混乱していたものの、元軍人を含むプロが参加している集団だけあって、反応は迅速だった。

 すぐさま体勢を立て直し、基地からの撤収と並行して、お得意の『ボソンジャンプ戦術』でこちらの急所を一気に突こうとしてきた。

 

 しかしその瞬間、この作戦の要にして、こちらの切り札であるミレーネルが動く。

 

 さっき言ったように、連中のボソンジャンプの制御は、ユリカさんの思念を精神制御で誘導し、イメージを翻訳させることで成り立っている。

 

 そこに、ミレーネルが、ジレル人特有の精神干渉能力『ゴーストリンク』によって割り込み、イメージを改ざんしてから『演算ユニット』に送信させた。

 

 その結果、連中がジャンプして出てきたのは、こちらの懐……ではなく、あらかじめ機動部隊が配置された、迎撃用の陣のど真ん中。

 

 予想と違う景色に、ポカンとして立ち尽くしている隙だらけな連中を、こちらの機動部隊は速攻で、容赦なく、そのまま集中砲火で撃墜。何もできずに連中は落とされていった。

 

 2回目、3回目と同じようにして『ボソンジャンプ戦術』を無駄打ちさせ……この辺りで敵も、『何らかの手段で戦術が封じられている』ということに気づいた。

 

 しかし、その頃にはミレーネルが『大体感じがつかめた』と言って、次に連中がボソンジャンプを試みたタイミングで、本命の作戦を発動。

 今度は『行き先』だけでなく、『飛ばす対象』をも改ざんし……捕らわれていたユリカさんを直接ジャンプさせて、直で取り戻した。

 

 全身にコードみたいなものが繋がれていて、いかにも『人体実験されてました』的な痛々しい姿だったけど――よく見ると、点滴針みたいに刺さってるわけではなく、脳波検査や心電図みたいな吸盤とかテープ接着だったのは幸いだったかも――その対処はネルガルに任せた。

 

 そして、システムの心臓部と言っていい彼女が突如失われ、混乱の極致であろう『火星の後継者』に対して……総攻撃が始まった。

 僕もアスクレプスで出て、ザコばっかりだが何機か叩き落した。

 

 『ボソンジャンプ戦術』はもちろん、普通にボソンジャンプを運用することすら困難になった連中は、残されていた戦力のほとんどを吐き出して戦わせ、しかし惨敗。

 しかも、なぜか北辰達は出てこなかった。ちょうど留守にしてたんだろうか。

 

 それでも、追い詰められた末の死に物狂いの抵抗により、草壁達一部の幹部には逃げられてしまった。

 

 しかし、戦力や物資の大半を喪失し、切り札だったボソンジャンプも使えなくなった今、連中はほとんど死に体と言ってもいいだろう、とのこと。

 

 ひとまず、第一目標だったユリカさんの救出は達成したし、この作戦、成功と言っていいだろう。

 疲れたけど……達成感を伴った疲労感なら、悪くはないな。

 

 

 

【△月▲日】

 

 救出・摘発作戦から一夜明けて、今日。

 朝イチで、連邦軍のミスマル中将から連絡が入り……開口一番、感謝された。

 

 娘を助けてくれてありがとう、と。

 

 軍人として、私情を押し殺して今まで軍務に当たってはいたものの、やはり娘さんのことが心配だったんだろう。

 当初は『飛行機事故で死亡した』って聞かされていたものの、実際はテロリストに攫われていたと知った時には……生きていたのはよかったけど、余計に不安だっただろうし。

 

 ユリカさんは今、ネルガルが手配した病院――普通の病院ではなく、テロリストの襲撃を防ぐための秘匿された施設――に入っているらしく、もう面会に行って来たそうだ。

 

 もう既に意識も戻り(助けた時にミレーネルが色々やったらしい)、受け答えもはっきりしているため、大事なさそうだとのこと。

 

 それでも、かなり長い期間、人体実験とも言うべき環境下に置かれていたわけだから、検査とかは慎重に行って、異常がないか確かめるそうだけど。

 

 ミスマル中将は、今回のことで火が付いたらしく、これを気に、連邦軍も本腰を上げて『火星の後継者』の摘発に動くそう。

 同時に、軍内部の『火星の後継者』に賛同する連中の摘発を一気に進めるつもりだそうだ。

 

 今までは、下手に刺激して暴走するのを警戒して慎重になっていたが、今回のことで『火星の後継者』の組織そのものに大打撃を与えた今こそ、絶好のチャンスだと。

 

 テレビ電話ごしでも伝わってくるレベルのその本気度に、僕は、『これは連中の寿命も残りわずかだな』と、ミレーネルと2人で苦笑していた。

 

 それと今回、僕らは摘発作戦参加の報酬として、連中が研究していたデータの一部をもらうことができた。

 ボソンジャンプ運用に関する研究資料だけど、これ、色々と他の技術に応用できそうだ。

 

 ああもちろん、外道な技術については何も手は付けないつもりだけど。

 

 ……そろそろ、ずっと前から僕らが研究している、とある武装が完成しそうなんだよね。

 もしかしたら、それの一助というか、後押しになってくれるかもしれない。

 

 ボソンジャンプにおける、A級ジャンパーの思念を機械ないしシステムの駆動に反映させるっていう点。これが、僕らが研究しているアレと、よく似てるから。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 ふとミツルは、日記を書きながら……手元のタブレット端末に目をやる。

 

 その端末は、『バースカル』の生産設備とデータをリンクさせていて、その稼働状況を一目で見ることができるようになっていた。

 

「もうちょっとなんだよな……アスクレプスの中にあった設計データと、バースカルの生産設備を組み合わせて、それでいてこんだけ苦労するとは……まあ、それに見合った性能を発揮してくれるだろうから、長いこと研究し続けてきたんだけど。……副産物の方が先に完成しそうになってるのは……何だかなー」

 

 そうつぶやきながら、タブレット端末の画面を眺めるミツル。

 

 画面上に移されていたのは、恐らくこの世界では、彼以外にはその名を聞いたことがある者も、その性質を知る者も皆無であろう……彼曰くところの、『強化パーツ』の名が並んでいた。

 

 

 

品名:D・エクストラクター

進捗:87%

 

 

品名:リヴァイヴ・セル

進捗:93%

備考:取扱注意

 

 

 

 



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第30話 独立部隊の帰還

新年あけましておめでとうございます。
元日にどうにか間に合いました……(汗)

今年もどうぞよろしくお願いします。



【△月☆日】

 

 今日は、かねてから研究・開発を進めていた……その中でも、特に力を入れていた2つの強化パーツが完成した。偶然にも、同じ日に。

 『D・エクストラクター』と、『リヴァイヴ・セル』。どちらも、次元力と大きく関わりを持つアイテムであり……かなり取扱注意な品である。特に後者。

 

 折角なので今日は、整理する意味も込めて、これら2つについて話そうと思う。

 

 まず、『D・エクストラクター』は、動力部となるパーツの一種だ。

 モビルスーツやASにおける核融合炉、マジンガー系列における光子力エンジン、ゲッターロボにおけるゲッター炉みたいなものと考えればいい。メインの動力として使うこともできるし、サブの動力として追加搭載することもできる。

 

 詳細な仕組みは省くけど、これは、乗り手の意思に応えて『次元力』を生み出す。

 しかも、ある程度その『次元力』を指向性を持たせて使うことができる。

 

 次元力は、恐ろしく汎用性の高いエネルギーであり、単純に動力として使えるのはもちろん、今ある兵装の性能を強化して攻撃力・防御力を高めたり、破損した機体を、ビデオの逆回しみたいにして修復し、ダメージを回復することもできる。

 もちろん、どちらも限度はあるけど、常識的に考えれば破格の能力だろう。

 

 ……スパロボでは割と、そういうのよくあるけども。

 プレイヤーの気合とか友情……もとい、精神コマンドでダメージが回復するし……いやまあそれはおいといて。

 

 限定的ながら、そういう、動力としても戦闘補助としても破格といっていい優秀さのエネルギーを扱えるようになるわけだ。

 

 もっとも、次元力の本質は決してそこじゃなく、今言ったのはあくまでその片鱗に過ぎないんだけど……これについてはすごく長い+ややこしい話になるので、ここで語るのはよそう。

 

 欠点としては、このエネルギーは発動に人の意思を必要とするため、AIで動く無人機には搭載できないってことかな。

 いや、出来ないこともないけど、その場合は正真正銘、ただの動力ってだけのものになるし、既存の動力炉と性能的に変わらないかむしろ低くなるから、コスパ考えたらもったいないしね。

 

 そしてもう1つ……『リヴァイヴ・セル』。

 これは、一言で言ってしまえば、『人とマシンをつなぐ』ことができるものである。

 

 ボソンジャンプとA級ジャンパー、サイコフレームとニュータイプのような関係性を、機体の種類を選ばず作り出すことができる。

 

 これも詳細な仕組みは省くけど、パイロットが装着するパーツと、機体に組み込むパーツの2つを一組で運用する仕組みになっていて……それぞれが送信機であり、受信機でもある。

 

 パイロットの『こう動かしたい』という意思が、ある程度ではあるが、ダイレクトに機体に伝わり、操作性の向上が見込める。本来は、キーボード入力や操縦桿を使うことでしかできない、『機体を動かす』という作業を、人の意思でやることができるのだ。

 訓練すれば、理論上は遠隔で機体を動かすことさえできうる。言ってみれば、ニュータイプでなくても使えるサイコフレームみたいなもんだ。

 

 もっとも、この装置を使えるかどうかに、人間にも機体にも向き不向きがあるみたいなので、そこまで汎用性が高くて便利なものじゃないけど。

 

 ただこのパーツ、『人の意思』を媒介にしているだけあり、『次元力』の運用と非常に相性がいいので、さっき書いた『D・エクストラクター』と合わせて使うことで、相乗効果じみた強化を実現することができる。

 ポイントは、神経電気を受容して『こう動け』って命令を機体に伝えるんじゃなく、あくまで人の『意思』をダイレクトに伝えることだな。その意味では、自分の体以上にダイレクトに命令が伝わるものだと言っていいし、同時にその分扱いが難しい。

 

 どちらも一癖も二癖もあるパーツだけど、使いこなせば非常に強力な武器だと言える。

 

 ちなみに、『リヴァイヴ・セル』には、同名で違う効果を持つアイテム?が、スパロボのとあるシリーズには登場する。

 詳しい説明は省くが、その効果は、ちょっとどころじゃなくエゲツナイもので、人道倫理上どう考えても使えるようなものじゃないため……そっちに転ばないよう、開発時は最大限気を使った。

 どっちにも実は『ナノマシン』が関係してるからね……万が一を考えるとね。

 

 とりあえずまあ、スペック上は心強い武器が完成したってことで……今後、適切に運用していきたいと思います、まる。

 

 あ、もちろん商品としては使わないけどね。

 こんなもん、流通させていいものじゃないから。使うなら自分でか、仲間内でだ。

 

 

 

【△月★日】

 

 旋風寺コンツェルンから、『大至急力を貸してほしい』という呼び出しがあった。

 

 なんと、行方不明になっていた独立部隊の面々が戻ってきたというのだ。

 話を聞くと、ごく最近、というかむしろ、ついさっきこの世界に帰ってきたらしい。

 

 はい、『この世界』という部分が気になったそこのあなた、後できちんと説明するから、まずは落ち着くように。

 

 ひとまず僕は、連邦軍のミスマル中将にもこのことを報告し……たんだけど、既に知ってた。

 そりゃそうか、旋風寺コンツェルンから報告行ってるわな。あそこもうちと同様に、独立部隊のバックアップしてるんだから。

 

 そのミスマル中将からの指示もあり、僕も補給物資その他を手配した後、青戸工場に急行し、物資その他の補給を行った。

 余程の激戦を潜り抜けてきたのか、どの機体も結構なダメージやら、部品の損耗が起こっていたので、割かし大仕事になりそうである。

 

 パイロットの方々は? と聞くと、機体と同じでかなり疲れているようだったので、今は休んでいるとのことだ。挨拶したかったけど、今日はそっとしとこうかな。

 

 代わりに応対してくれたのは、疲労とは無縁なAI組だった。

 勇者特急隊のロボ達と、総司さんのパートナーであるナインだ。

 色々と聞きたいことがあるので助かる。彼らが相手なら、変な話、整備しながら雑談的に話を聞いたりすることもできるからな。

 

 ……具体的には、同じくAI組である、アル君がいない理由とか。

 というか、ミスリルメンバーまるごといなくなってんだけど。

 あと、モビルスーツ部隊も一部いないし……何より、宇宙では確かに合流していたはずの、ヤマトその他の面々が一緒じゃないことも気になってた。

 

 それで話を聞かせてもらったんだが……彼らの旅路は、こちらの予想以上にとんでもないことになってたようだ。

 

 

 

 まず話は、『火星極冠遺跡』での戦いで何があったかに遡る。

 

 あの時、『火星の後継者』の拠点を壊滅させるために戦いを挑んだ独立部隊の面々だったが、そこになぜかガーディムとドラゴンが追加で現れ、三つ巴ならぬ四つ巴の戦いに発展。

 

 それもどうにか切り抜けて――総司さんはその際に、ガーディムのグーリーを討ち取ったらしい――火星の後継者に降伏を迫ったらしいんだが、その際、今度はまたしてもドラゴンと、なぜかドラゴンの中に、パラメイルらしき赤い機体が混じっていた。

 

 さらにほぼ同時に、今度は黒いパラメイルが6機も現れ……そいつらが放った攻撃により、次元震が起こった。

 

 しかし、それに部隊丸ごと飲み込まれてしまいそうになった際……推測だが、ユリカさんが皆を逃がしたらしい。ボソンジャンプでどこかに飛ばして。

 

 そうして飛ばされた先というのが、なんとまたしても並行世界。

 しかも、ミスリルの面々やジュドー達、そして竜馬さんがいた世界だったというのだ。

 

 その世界で、新たな仲間を迎え入れたり、新たな敵と戦ったり、紆余曲折あった末、『パラレルボソンジャンプ』なる技術を獲得することに成功し、こうして帰ってこれたんだとか。

 

 並行世界へ跳躍可能なボソンジャンプか……機体への負担は大きいみたいだけど、すごいもん身に着けたな。

 そして、その鍵になったのは、限定的にではあるが、次元の壁を破る技術を備えていたヴィルキスだという。あの機体、そんな機能も持ってたのか……ただのパラメイルじゃないのか?

 

 そして、『紆余曲折』で済ませてしまったけど、その世界でもまあ、色々あったようで……

 

 なんか、恐らくは自分達と同じように飛ばされてきたと思われる、ガミラスの艦隊とも遭遇したらしい。木星帝国や、ネオ・ジオンと手を組んでて……おい待て、あいつらいるのか。

 地球連邦とネオ・ジオンで争ってる? 少し前まではインベーダーも襲って来てた? へー、そうなんだー(遠い目)。

 

 加えて、飛んだ先の世界は、数年前だかに世界規模の災害が起こり、海が赤く染まってしまった世界らしくて……うん、もうこの時点で嫌な予感しかしない。赤い海って……あれじゃん。

 

 そしてその予感は、すぐに現実となった。

 うん、その世界で新たに仲間になった、けどこっちの世界には来なかった面々について聞いたんだけどね?

 

 ユニコーンガンダム。

 マジンガーZ。

 エヴァンゲリオン。

 

 ……ロボット的にも作品的にもやべーのが大挙して加入していらっしゃった。

 ネオ・ジオンとか、赤い海とか聞いた時点で半ば覚悟はしてたけどさあ……いや、仲間になってくれたこと自体に文句言うつもりはないけどね? いい人たちなのは知ってるし、皆もそう言ってるし。

 

 ネオ・ジオンはガッツリ地球連邦のこと敵視してるみたいだから、戦争自体が苛烈になってて……その分地球連邦の方も強烈にネオ・ジオンのこと敵視してて、滅ぼしたいと思ってて、滅茶苦茶居心地悪そうな世界だ。

 事実、独立部隊も圧力やら実力行使で戦力として接収されそうになったらしいし。

 

 しかし、それ以上にヤバいのは、エヴァとマジンガーだよなあ……。

 

 エヴァは、使徒どうにかしないと世界滅ぶし……マジンガーは作品ないし展開によっては、終盤でヤバい連中が復活する展開が待っていたはず……。

 あしゅら男爵もいたみたいだし……これは多分……ああ、不安だぁ……。

 

 それともう1つ、よくわからない話も一緒に聞けた。

 

 マジンガーZの仲間加入と時を同じくして、なぜか鉄也さんが離脱して、しかもその後、敵として皆の前に現れたんだとか。

 しかもなぜか、甲児君に『マジンガーを降りろ』とか言ってきたらしい。

 

 その時は、竜馬さんが真ゲッターに乗り換えて撃退?したらしいけど、『どうして?』って、勝平君や舞人社長もショックを受けてたようだ。ロボット操縦の先生してもらってたもんね。

 

 どうやら記憶喪失も嘘だったみたいだし……いまいち行動原理が読めないな。何を狙って行動してるんだろう? マジンガーに何かあるのか?

 

 ちょっと見ない間に、面倒事も謎も増えたようで……お疲れ様です。

 細かいことは全部こっちでやるから、ひとまず休んでくれ。

 

 

 

 追記

 

 これは独立部隊の面々接触する前、ミスマル中将から言われたことなんだけど……彼らには、つい先日、ユリカさんを救出したことは話していない。

 

 旦那さんのアキトさんもいることだし、教えた方がいいんじゃ、と思ったけど、ミスマル中将は首を横に振り、説明してくれた。

 

 曰く、『火星の後継者』は今ほぼ壊滅寸前の状態ではあるが、首魁である草壁や、シンジョウやヤマサキといった幹部、そして北辰率いる実行部隊は未だ健在。

 

 今のところは何重にもセキュリティをかけて隠して守ってるけど、もし察知されればユリカさんを奪い返しに来る恐れがある。それだけは絶対に避けなければならない。

 アキトさんやナデシコ部隊なら守ってくれるかもしれないが、相手も決して油断していい面子じゃないのも事実。

 

 ただ……極端な話、連中にとっては、A級ジャンパーなら誰でもいいわけだ。

 

 アキトさんがこの世界に帰ってきたと知れば、そっちを狙う可能性が高い。そうして動き出せば……それに乗じてこちらも動き、今度こそ連中を壊滅させる決定打にもできる。

 早い話が、アキトさんを囮にするわけだ。

 

 聞いていて気分のいい話じゃなかったけど、筋道が通っているのも、有効打足りうるのも事実。

 加えて、ミスマル中将からは、『いざという時は全ての責任は私が取る』とまで言われた。

 

 その覚悟を買い、ひとまずその指示に従い、ユリカさんの救出は隠しておくことにした。

 全部片付いたらきちんと会えるようにするので、どうか勘弁してほしい。

 

 

 

 

 追記その2

 

 なんか、プトレマイオスの格納庫の隅っこに、『ボン太くん』が置いてあったんだけど、何アレ?

 

 しかも、きっちりパワードスーツに改造済みで、武装も色々持たされた状態の奴が。

 

 ……え、やったの? あれで戦ったの? ふもふも叫んで着ぐるみで敵機に突撃したの!?

 

 み、見たかった……ッ!!

 

 

 

 




Q.なんでボン太くんこっちに来てんの? ミスリルの皆さん、向こうの世界に残ったはずなんじゃ……?

A.陣大高校に置きっぱなしになってたボン太くんをプリティ・サリアンが魔法で召喚(という名の拾得物横領)したから。


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第31話 休息とかアレコレ(嵐の前の静けさ)

 

【△月!日】

 

 ひとまず、一通りの修繕その他については済んだ。

 

 パイロットの皆さんも回復したようだったので、改めて『お疲れ様です』って挨拶しておいた。

 

 帰ってきて早々に修理とか物資の補充とか、色々やってくれてありがとう、ってお礼言われちゃったよ。仕事だから別にいいっていってるのに。お代は貰ってるわけだし。連邦軍から。

 

 ここ最近は犯罪者達もあんまり活動してなくて平和なので、ゆっくり休んで疲れを癒してほしい……と思ってたんだけども。

 

 なんか、どうやらそうもいかなかったみたいで。

 帰ってきて早々、彼らは戦いの場に引っ張り出されたみたいだった。

 

 舞人社長が、『エースのジョー』に果たし状をもらったらしく、マイトガインと飛龍が一対一で戦ったらしい。

 その戦いで、マイトガインは撃墜されてしまったのだそうだ。……やっぱ、地上戦主体の機体じゃ、空中戦対応の機体の相手をするのは厳しいものがあったんだろうか。

 

 おかげで、以前から『サイデリアル』も協力して取り組んでいた、ブラックガインの修理が済んで、さあこれで君も戦えるぞ! ……って言って送り出した直後に、今度はガインの方の修理することになっちゃったよ。

 ホントにもう、タッチして交代したみたいな感じで、出て行って、入ってきたからなあ。びっくりした。『何事!?』って。

 

 その後、新兵器である『マイトカイザー』に乗って舞人社長が再度出陣。ブラックガインも、合体して『ブラックマイトガイン』になって一緒に行った。

 で、ジョーも撃退して勝ったらしいんだけど、マイトガインはまた当分ドック入りである。

 

 しばらくは舞人社長は、マイトカイザーで頑張るそうだ。

 

 そして、ドックに入ったガインは『一刻も早く復帰してまた皆と共に戦いたい!』って……黒い方と同じこと言ってるな。さすが兄弟機。

 

 修繕にはブラックガインを直した時のノウハウが使えそうだ。早めに直してあげるから、ちょっとだけ我慢して入院してような。

 

 

 

【△月◆日】

 

 総司さんと一緒に、千歳さんの様子を見に、タツさんちに行った。

 ……随分と久しぶりだな。思えば、僕もここ最近忙しかったというか、大変だったからな……。

 

 けどそしたら、千歳さん、いなかった。

 

 なぜ? と思ってタツさんに話を聞いたら、しばらくはこの家にいたらしいんだけど……最近、『自分のやるべきことを探しに行く』って、家を出たんだって。

 総司さんも僕も、自分なりにできることをしているのに、私だけ何もせずにいるなんてはずかしい。せめて今の自分がやるべきことをしたい、って。

 

 また唐突だな……自分探しの旅に出た、ってわけじゃないだろうけど……。

 どこかで、住み込みや寮住みで働く宛でも見つけたんだろうか? いやでも、タツさんは保証人としてどこにも話はしてないようだし……

 

 ……少し心配だけど、彼女だって子供じゃないんだ(未成年ではあるけど)。信じよう。

 

 ……よく考えたら、僕、17歳だったときから2年と少し経ってるから……今、千歳さんと同い年になったんだよな。

 でもなんか、そんな感じしないや。今でも彼女のこと、面倒見のいいお姉さんみたいな感じに見てた気がする。

 

 『新西暦世界』にいた頃のそんな感覚が、今更ながら戻ってきた。うん、彼女、ちょっとドジだったり勢いで突っ走るところはあるけど、研究所で色々やってたおかげで割と多芸でもあったはずだ。

 機動兵器の操縦免許も持ってるはずだし(ペーパーだけど。っていうかこの世界じゃ通用しないだろうけど)、1人でもやって行けるだろう。

 

 総司さんも同じことを思ったようだったので、この話はここまで。

 

 差し入れないしお土産で持ってきた納豆その他は、そのままタツさんにプレゼントして帰った。

 

 あ、ちなみに今さらっと言った『新西暦世界』っていうのは、こないだ、独立部隊が並行世界に行った時のことを聞いた際に出てきた単語だ。

 これまで観測されている3つの世界に、暫定的に名前を付けたんだって。日記には書いてなかったな、そういえば。

 

 僕らの出身世界であり、『宇宙戦艦ヤマト』が開発され、ガミラスの侵略・攻撃によって海が干上がった世界を、『新西暦世界』、

 

 ソレスタルビーイングやナデシコ部隊、パラメイル第一中隊の出身世界であり、海が青いまま存在している、今いるこの世界を、『西暦世界』、

 

 ミスリルや一部のモビルスーツ陣、竜馬さんや鉄也さんの出身世界であり、セカンドインパクトで海が赤くなった世界を、『宇宙世紀世界』、

 

 それぞれ、そう呼ぶことにしたんだってさ。なるほど、わかりやすくていい。

 

 

 

【△月?日】

 

 独立部隊はアルゼナルに行くことになったようだ。

 

 西暦世界で見聞きした色々な情報……特にドラゴン関係のそれを、情報共有する必要があるため、その専門機関といってもいいあそこに行くんだそう。

 

 なんか聞いたら、ドラゴンって『宇宙世紀世界』に住んでいて、次元の壁を破ってこっちに来ている可能性が高いんだって。マジですか……あいつら並行世界移動できるの? すごいな。

 

 ……ホントに何なんだろうな、あいつら。

 今まではただ単に『襲ってくる敵』『怪物』みたいにとらえてたけど……よくよく考えると、単なる害獣と見ていいものなのか疑問に思えてくるぞ?

 

 以前アルゼナルで戦いの様子を見てた時も、戦略を理解したような動きを見せてた気がする。

 正面切って攻めてきたと思ったらそれは陽動で、別動隊があらわれてアルゼナルを襲おうとしたり……重力を操るドラゴンが力を使う際、その他のドラゴンが全員で一斉にタイミングを合わせてその範囲外に退避したり……

 

 火星では、人型兵器が一緒に現れたって言うし、宇宙世紀世界でもその人型兵器と、アンジュが一戦交えたらしいし……本当に一体何なんだろう、あいつら?

 

 長いことドラゴンと戦ってるなら、アルゼナルで何かつかんでないのかな?

 

 ……仮につかんでいても、何か企んでて教えない、とかならありそうだな、あそこの司令官の場合……。割と食わせ物なのは、少しの付き合いでもわかったから。

 

 まあ、それはいずれ明らかになればいいな、ってことで。

 

 そんなわけで、独立部隊はアルゼナルに向かうそうだが……言ってみれば里帰りみたいな感じになる、パラメイル第一中隊の面々は……そんなに嬉しくなさそうである。

 

 え、辛い思い出ばっかりだし、『帰ってくる場所』的な意識は別にないって?

 そもそも、別にこの世界に帰って来れなくてもよかったって? どの道この世界じゃ人間扱いされないから? ……えぇ……そこまで言う?

 

 まあ、そのへんの意見は人によるみたいだったけども。

 

 クリスとかロザリーは、ほぼ帰属意識ないみたいだけど、エルシャやサリアはきちんとあそこを『帰る場所』として見てる。理由は違うみたいだけど。

 エルシャは年少部の子供達が心配で、お世話してあげないといけないから。サリアは……ジル司令と色々あるみたい?

 

 あと、アンジュと、意外にもヒルダもこの世界に帰りたかったみたい。理由はわからんけど。

 

 ヴィヴィアンは、あそこを家として認識してるっぽいけど……なんかそもそも、つらい思い出とかその辺をあまり気にしてない、楽しく生きてる感じがするしな。

 

 で、残るミランダは……どっちかって言うと、クリスとかロザリー側、かな?

 別に帰りたいとも思ってないけど、ノーマである自分にはあそこ以外に居場所がないから、仕方なく帰る、みたいな感じに見えた。

 

 そしてそのミランダだけど、僕が一緒にアルゼナルには行かないと知ると、しょんぼりして悲しそうな顔になった。『来てくれないんですか……?』って。

 上目遣いで悲しそうにしてるのを見ると、ちょっと罪悪感というか、悪いことしたかな、的な気分になる。

 

 というか、やっぱり僕、ミランダに懐かれてるみたいだな……やっぱり、命救ったから?

 よくあるネット小説みたいに、それで好きになって……みたいなことは……いや、流石にないよね。思い上がりってもんだろう。

 

 まあ何にせよ、可愛い女の子になつかれるのは、悪い気分じゃないけど……あ、でもミランダって確かまだ12歳か13歳だったっけ……お兄ちゃん的、保護者的に見られてる可能性もある?

 

 ……というか、12歳で戦場に出されるって、よく考えると相当に非人道的な部類じゃないのか……少年兵でももうちょっと育ってからだと思うんだが。ホント、ノーマって扱い酷いな……。

 

 とりあえずミランダには、『補給が必要になったらその都度行くから』って言っておいた。

 それでも残念そうだったけど、ちょっとはマシになったように見えた。

 

 

 

 追記

 

 懐かれてる、っていう言い方をしていいのかは微妙だけど、少し前から、ロザリーやクリスが割と好意的に接してくれるようになってる。

 

 けど、これは多分、僕が単なる商人じゃなくて、かなり『金持ち』の部類に入る存在だと知ったからだと思う。

 舞人社長や万丈さんに対しても似たような反応するし。

 

 いきなり話し方が敬語になった時は『何事!?』って思ったけど。

 

 

 

 追記その2

 

 前みたいに『アルゼナル出張所』をできればやってもらえないかって、何人か直談判に来た。

 

 主に、前回常連になっていた人が。

 スメラギさん(酒)とか、マオさん(酒)とか、総司さん(食品)とか。欲望に忠実なようで何より。

 

 検討はするけど、今はちょっと色々忙しいので、補給で行ってもあんまりアルゼナルに長居はできない状態だから、といってご納得いただいた。

 

 その代わり、物資届ける時に、自腹で買うものの『注文』は請け負うから、そっちで好きなように買い物してくれ、とは言っておいた。

 値引きくらいはさせてもらおう。アルゼナルに行くってことは、まだまだ彼らの大変な日々は続きそうだから。

 

 

 

【△月$日】

 

 補給の仕事で僕もアルゼナルに行く……よりも前に、ちょいと大仕事が入った。

 

 今日の朝、ネルガルから連絡があった。

 『火星の後継者』の基地を特定した、と。

 

 同時に、連中に動きがあったとも。

 

 ユリカさんを救出したことで、『ボソンジャンプ』を使った戦術を展開できなくなった連中は、どうやらミスマル中将の読み通り、現在地が判明している『A級ジャンパー』である、アキトさんに狙いを定めたようだ。

 残り少なくなった実働部隊を率いて、北辰達が動き始めたらしい。

 

 ここでアキトさんを捕まえれば、再びボソンジャンプを使えるようになり、起死回生の一手になり得ると見てのことだろうけど……残念だがそうはさせない。

 連中には、このまま速やかに『死』の方に転がり落ちてもらうことにしよう。

 

 そんなわけで、速やかに準備に入る。

 

 ネルガル・シークレットサービスと、地球連邦との共同作戦で……あの迷惑極まりない赤装束の集団に、今度こそトドメを刺すために。

 

 

 

 



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第32話 因縁と決着と感動の再会

感想とかを拝見してる中でちょっと気づいたんですが、『リヴァイヴ・セル』と『リヴァイブ・セル』の表記ゆれについて。

Z世界だと、破界篇とかのセリフの中で名前が出てくるときは『リヴァイブ』ですけど、天獄篇になって再登場したときは『リヴァイヴ』みたいなんですよね。強化パーツとしての名前もそうなってるし。なぜだろう……?

いろいろ考えましたが、この世界では『リヴァイヴ』でいきます。
今後ともよろしくです。


 その日、テンカワ・アキトは、宿敵である北辰に手紙で呼び出され、1人、人目につかない孤島を訪れていた。

 

 手紙の内容は、一対一の決闘を申し込むというもの。早い話が、果たし状である。

 アルゼナルの職員の1人である、整備士のメイに手紙を渡しており、『いつでも貴様の仲間を殺せる』という脅迫でもあった。

 

 奇しくもごく最近、同じようにジョーから果たし状を叩きつけられて決闘に赴いた、旋風寺舞人と同じような状況となった。

 

 しかし、決闘に臨む者の内面、ないし魂胆は見事に対照的なもの。

 アキトが『ブラックサレナ』に乗り、指定された場所に赴いた直後、北辰は1人だけではなく、隠して潜ませていた『北辰衆』に加え、何人もの『火星の後継者』の構成員が、同じように機体に乗った上で彼の前に立ちはだかった。

 

 はなから決闘などするつもりはなく、全てはアキトを捕らえ、ボソンジャンプを運用するためのA級ジャンパーとするための罠。

 予想通り、仲間達に何も話すことはなく、予想通り1人で来たアキトを、後は総出でとらえて連れ帰るのみ……と、北辰たちは思っていた。

 

 しかし、その計画は……同じように機体を隠してついてきていた、アキトの仲間達……『ナデシコ部隊』をはじめとする、独立部隊の面々が姿を見せたことで、見事に頓挫することとなる。

 

「ぬうう…馬鹿な! 隊長が作戦を読み違えただと!?」

 

「奴は仲間には告げず、必ず一人で来ると踏んだというのに……!」

 

「テンカワ・アキト! 貴様には矜持というものがないのか!」

 

「そんなものは犬に食わせた」

 

 バッサリと一言で斬り捨てるアキトと共に並び立つ、ヴァングレイやソレスタルビーイング、ダイターンにザンボット、パラメイル第一中隊といった仲間達。

 

 こうなれば力ずくでと始まった戦い。

 後がない『火星の後継者』達は必死で攻めるものの、卑怯な手段でアキトを闇討ちしようとしたことへの怒りに燃えるスーパーロボット軍団の前に、ほとんど相手にもならずに散っていく。

 

 しかしその戦いの最中、北辰が防衛網を突破して、中枢である戦艦『ナデシコB』を強襲。

 直ちに大破するようなことこそなかったものの、動力部その他に致命的なダメージを受け、もともと寿命間近だった艦は、轟沈寸前というところまで追い込まれてしまう。

 その上、後づめとして控えていたと思しき敵の増援までも到着し、絶体絶命かと思われた。

 

 だがその時、突如として戦場に、見覚えのないナデシコタイプの戦艦がボソンジャンプで出現。

 

 原則、A級ジャンパーのナビゲートなしでは、ボソンジャンプは使用不可能。しかし、『火星の後継者』がボソンジャンプの独占をもくろみ、次々とA級ジャンパーを拉致もしくは暗殺したため、最早A級ジャンパーとして確かな能力を持っている者は、ほとんどいないはず。

 ナデシコ部隊にも、同行してくれているアキトや、本当の非常時にそれを務めてくれた万丈のみである。

 

 では、明らかにネルガル製であろうあの戦艦に乗っているのは、一体誰なのか。

 皆が疑問に思う中、通信用のスピーカーを通して聞こえてきた声はなんと……

 

「ユリ、カ……?」

 

「そう! あなたの可愛い奥さんのユリカだよ! ぶい!」

 

 『火星の後継者』に捕らわれの身となり、行方不明になっているはずの、アキトの妻……ミスマル・ユリカその人だった。

 

 予想外にも程がある展開に驚きつつも、ルリ艦長の指示により、すぐさまナデシコBから、ユリカが引っ提げて現れた『ナデシコC』への引っ越しが行われ、さらにその勢いのまま、ルリ艦長によるクラッキングと、主砲『グラビティブラスト』によって、今しがたやってきた敵の増援は一瞬にして壊滅。

 流れは再び、独立部隊側に傾くこととなる。

 

 そして、そんな中……さらに戦場に波紋を立てる展開が待っていた。

 

「あーもー、今はこいつら片づけるのが先だ! でも一体どういうことなのか、ちゃんと後で聞かせてもらうからな、ユリカ!」

 

「そいつは同感。ま、大方あの落ち目の会長さんが色々やってたんだろうとは思うけどな……今回ばかりは素直に礼を言ってもいいかもしれねえ」

 

 リョーコとサブロウタの、文句を言いながらも、表情にも声音にも喜色を隠しきれていない、そんな言葉に対して、ユリカはというと、

 

「もちろん、ちゃんと説明するから安心して。あーでも、会長さんだけじゃなく、ミツル君にもお礼言わないとね。まだ私、通信でしか会えてないし」

 

「……うん? ユリカ、今何て? え、ミツル?」

 

 思わずと言った調子で声を上げたリョーコ同様、その名前を通信越しに聞いた仲間達全員、『なぜここでその名前が?』と困惑を隠せない。

 

 その一瞬の動揺を隙と見て、不利な戦局を打開すべく、北辰衆の乗る機体『六連(むづら)』の1機が、ちょうど手近にいたリョーコのエステバリス目掛けて襲い掛かろうとするが……

 

「隙ありだ! 落ちろ、エステバリス乗り!」

 

 

 

「ところがぎっちょん!!」

 

 

 

 そんなセリフ――ある事情で一部のメンバーにとってはあまりいい思い出のない――と共に、突如として洋上に、ボソンジャンプして現れたのは、白い機体……『アスクレプス』。

 

 跳躍を終えた瞬間に加速したアスクレプスは、エステバリスに襲い掛かろうとしていた六連目掛けて突っ込み、剣を一閃。

 

 その一撃は、ディストーションフィールドと錫杖の組み合わせで防御されてしまうが、それと同時に迂回するように回り込んできた、蛇のようにうねる砲身が、六連の目の前で鎌首をもたげ……エネルギー弾を連射。

 フィールドを貫いて直撃したそれによって、機体は火を噴き……トドメとばかりに叩き込まれた蹴りによって、大破・爆散して落ちていった。

 

「お前は……」

 

「お前……ミツルか!? 何で、それ……」

 

 なぜここにいるのか。

 なぜボソンジャンプで現れたのか。

 なぜミスマル・ユリカが彼のことを知っていたのか。

 

 アキトと総司が言いかけて、しかし疑問点が過剰にありすぎて言葉が続かなかった。

 それを察するかのように、ミツルは早口で言い放つ。

 

「さっきユリカさんも言ってた通り、後で全部説明します。なので今は……こいつらの息の根を止めるのが先ってことで、お願いします」

 

 言うなり、北辰の乗る『夜天光』と、それに従うように構える『六連』の残りに向けて、手に持ったブレードを突きつけるように構える。

 通信越しのその声には、抑え込んで、努めて冷静になるようにはしているようだが……隠しきれない怒気が込められていた。

 

 

 ☆☆☆

 

 

【△月%日】

 

 完・全・勝・利!!

 

 ようやく『火星の後継者』との戦いに……というか、連中の止まらない迷惑行為に、終止符を打つことができた。あー、すっきりした。

 

 

 

 僕らがやったことといえば、単純である。

 ユリカさん救出作戦の時と同じように、連中の本拠地(仮)を襲撃し、制圧した。それだけだ。

 

 ちょうど北辰達が出払っていた……アキトさんの襲撃・誘拐のために出ていたタイミングだったので、抵抗らしい抵抗もなかった。

 

 まあ、偶然そうなったわけじゃなく、もちろん狙ってそうしたんだけどね。

 

 連中にとっては、起死回生の一手だけに、出し惜しみせず残存の戦力をアキトさんの誘拐に投入していた。しかしその分、守りは手薄になっていたわけだ。

 

 しかも、ネルガル・シークレットサービスの人達……白兵戦も強いのな。

 特に、月臣さん。『木連式・柔』とかいう技術らしいけど、武装した構成員がもう、てんで相手になってなくて。

 

 そのまま一気に、最深部にいるあのほうれい線……じゃなくて、草壁達のところまで攻め込み、幹部格を全員逮捕して、この闘いに決着をつけた。

 

 ちなみに、僕は主に、アスクレプスで外の警戒をしていた機動兵器の相手をしていて……しかしそれもすぐに終わったので、増援が来ないか外で見張ってた。

 

 そのため、最後の白兵戦には参加してない。通信越しに状況を見て、聞いていただけだ。

 素人の僕がこんな大捕り物に参加したって、邪魔なだけだしね。出来る範囲のことで協力させてもらった。

 

 それとほとんど同時に、ネルガルの方から『ナデシコBがピンチなのでナデシコC投入します』という連絡が入ったので、なら僕も手伝いに行くかってことで、アスクレプスでジャンプ。

 戦場に乱入し、出会い頭に北辰衆の機体を一機叩き落させてもらったわけだ。

 

 その後は、独立部隊の皆さんと一緒に連中との決戦である。

 

 ユリカさんの帰還にテンションMAX状態となった皆の力はもう凄まじく、今回は1機たりとも逃さず撃墜させることができた。

 

 北辰の乗る『夜天光』も、アキトさんの『ブラックサレナ』が、激闘の末に撃破した。

 ディストーションフィールドを纏って突っ込んで……しかも縦横無尽に、すごい勢いで追撃もかまして……目で追うのが大変だったよ、あの2人の戦いは。

 

 最終的に、それも決着したわけだけど……機体は落としたものの、北辰とその部下達は脱出したらしく、身柄を抑えることはできなかった。

 まあ、機体がなくなった上、後ろ盾でもあった『火星の後継者』も、今度こそ完全につぶれたから、大したことはできないと……いや、あいつら個人の戦闘能力もヤバいんだよな……

 

 今後、ゲリラ的な犯罪者にならないかどうか、ちょっと不安であるが……まあひとまずは、今回のこの勝利を喜ぼう。今日くらいはそれでいいじゃないか。

 

 戦いの後、一時はアキトさんは、『俺はもう昔の俺では(略)』『ユリカが無事ならもうそれで(略)』的なことを言って、ユリカさんに会わずに行ってしまおうとしたんだけども、そこはユリカさんやナデシコチームからの猛プッシュが入り、最終的には根負けして、きちんと戻ってきた。

 ナデシコの格納庫で、ブラックサレナから降りて夫婦が再会して……うん、思い出しただけでもちょっと泣けてきそうな……うん、いい光景だった。

 

 やっぱり愛し合う2人は幸せになってほしい、ならなくちゃいけないってもんだよ、うん。

 誰が言ったセリフだったか……一流の悲劇より、二流のハッピーエンド。全くその通りだ。

 

 アキトさんもユリカさんも、末永くお幸せに。

 

 というか……なんか今後、独立部隊に参加するっぽいしね、ユリカさん。やる気満々だしね。

 戦術アドバイザーとか、ボソンジャンプ使用時のナビゲートとか、色々兼任で……なんかバッチリ制服っぽいのも着込んでるし。いつ用意したのそれ。

 

 ついこの間まで悪の組織にとらわれてて、病院で療養とか検査とかリハビリしてたはずだってのに……行動力あるなこの人妻。

 

 夫婦で世界を守る戦いに参加するのか、何かすごい……いやでも、ソレスタルビーイングには、親子でメカニックとかやってる人もいたっけ?

 

 まあ、心強い味方が出来たと思うことにしよう。

 ナビゲーターとしてナデシコCに乗艦するなら、アキトさんなしでもボソンジャンプも使えるようになるだろうし。

 

 

 

 そうそう、ボソンジャンプと言えば。

 

 テンカワ夫妻の再会の後、今度は僕が質問攻めにされる番だった。

 

 もちろん、これこれこういうわけで、『火星の後継者』は壊滅させて、ユリカさんも救出してました。けど奪い返されるのが怖いから、ギリギリまで情報は隠してました、って、きちんと全部説明したよ。そして、アキトさんにもきちんと頭下げて謝ったよ。黙っててすいませんって。

 

 アキトさんも、そういうことなら仕方ない、ってわかってくれて、許してくれた。よかった。

 

 まあ、そのあたりの事情はすぐに、他の人達も含めてわかってもらえたけど……むしろ皆さんの関心が向いていたのは、僕がいきなり戦場に『ボソンジャンプ』で現れたことだっただろう。

 

 『火星の後継者』がやっていたように、A級ジャンパーを『人間翻訳機』にして片道のジャンプをやったわけでもないだろうに、どうやって僕がジャンプできたのか。

 当たり前だが、僕もミレーネルも、A級ジャンパーではありません。

 

 その秘密は、この間完成させた秘密兵器『リヴァイヴ・セル』である。

 

 以前日記にも書いたと思うんだけど、この強化パーツは、人間の意思をよりダイレクトに機体に伝えることができるようになる、サイコフレームの類型とでも言えそうなものだ。

 

 こいつを『アスクレプス』に搭載することで、僕のイメージを『演算ユニット』とやらに届けることができるようになった。それは、A級ジャンパーのナビゲートと同様の効果を発揮する。

 

 結果、僕は『アスクレプス』単体でボソンジャンプできるようになったのだ。

 

 それを教えた時、独立部隊の皆さんは、やはりというかとても驚いていた。

 そして、『これでもっとボソンジャンプが使いやすくなる』と歓迎する声もあり、『不特定多数の人間がボソンジャンプを使えるようになるのは……』と危惧する声もあり……まあ、このあたりの反応は予想通りである。

 自分で言うのも何だけど、結構なブレイクスルーだと思うしね、この発明。

 

 今回『火星の後継者』が多用していた、『ボソンジャンプ戦術』のことを考えれば、不特定多数の人間……それこそ、テロリストとかも含むであろう人達がコレを使えるようになるのであれば、それは決して歓迎すべきことではないわけだし。

 

 ……しかし、僕はそうは思っていない。

 そうはならない、なりようがない、と確信している。

 

 確かに、『リヴァイヴ・セル』と『ボソンジャンプ』を組み合わせて使うことができれば、極端な話、A級ジャンパーとか関係なく、誰でもボソンジャンプを使えるようになる。

 

 が、それはあくまで、『リヴァイヴ・セル』が使えればの話だ。

 

 『リヴァイヴ・セル』を使えるかどうかは、結構向き不向きがあり、また人間だけでなく機体との相性もあるため、その時点で『使える人+使える機体』というのは限られる。

 僕とアスクレプスは、幸運なことに大丈夫だった。あと、ミレーネルも。

 

 加えて、『リヴァイヴ・セル』を動かすには、エネルギーとして『次元力』が必須である。

 『リヴァイヴ・セル』に、単独で次元力を生み出す力はないから。

 

 ……本家本元の『リヴァイヴ・セル』なら別だが、今回は安全性最重視で作ったので。

 

 そして、現時点で、ではあるが……この世界で『次元力』を生み出せるのは、僕のアスクレプスと、『Dエクストラクター』などの、ごく一部の動力炉システムだけだ。

 それだって、試作品として作った1基しかなく、それは『バースカル』に保管している。

 

 というかそもそも、『Dエクストラクター』はもちろん、『リヴァイヴ・セル』も、僕は流通させるつもりはないので。将来的にも、全く。

 完全に仲間内だけで使うつもりである。

 

 ……アカツキ会長からそれとなく購入や事業提携の打診が来ていたが、既にはっきり断った。

 

 なので、『リヴァイヴ・セル』+『ボソンジャンプ』は、当面は僕だけの専売特許になりそうだ。

 

 『サイデリアル』の秘匿技術に関わることなので、こればっかりは総司さん達が相手であっても開示も協力もできません、ってことで、はっきり言っておいた。

 ……万が一コレをナイン(前科アリ)あたりが無断で使おうとしたら、今度は許さない、とも。

 

 ぶっちゃけ、まだ検証段階の技術なのは本当なので、仲間だと思ってるからこそ迂闊にこんなもん使わせられない、ってのもあるし。

 

 

 

 何はともあれ、本日の大捕り物+感動の再会は、これにて無事全て終了と!

 めでたし、めでたし。

 

 

 

 追記

 

 折角合流したので、このまま僕も、独立部隊の皆さんがいるアルゼナルに行くことにした。

 

 丁度そろそろ補給物資持っていく時期だなって思ってたし、もうその準備はできてたし。

 

 そして、『ボソンジャンプ』が使えるようになったことで、輸送の足がさらに速くなった。

 

 具体的には、いつも使ってる輸送艦『グラーティア』にコアユニットとしてアスクレプスを接続することで、輸送艦ごとジャンプできるようになった。もちろん、中身も一緒だ。

 ボソンジャンプで一瞬で物資を届けられる補給線……やばい、最強じゃね?

 

 その気になれば、『サイデリアル』本社と、日本の旋風寺コンツェルンと、太平洋上のアルゼナルを、1日のうちに行き来することすら可能だ。

 消費する燃料も、アスクレプスが生み出す次元力のみで済むので、むしろコスト抑えられるし。

 

 ……やばい、最強じゃね?(2回目)

 

 

 

 




Q.アスクレプスってもともと次元転移できるよね? ボソンジャンプ使う意味あるの?

A.どっちも一長一短あるので使い分けてます。

 ボソンジャンプはこの世界にもともとある技術だから、奇異の目で見られることなく使える。また、イメージさえできればどこにでも比較的簡単に、複数人で跳べる。
 欠点としては、跳躍のシステムを演算ユニット等の既存の装置に依存しており、それらの不調が機能の維持・利用にもろにかかわってしまう。また、ジャンプの規模ややり方によっては機体にも多少負担がかかる。

 次元転移はアスクレプス単体で発動可能で、他者による妨害や干渉を受けづらい。また、今後ミツルの次元力制御能力が成長していけば、それに伴って能力も成長し、できることが増えていく見込みである。
 欠点としては、ボソンジャンプとも量子テレポーテーションとも違う異質な技術だから注目されやすい。また、現時点ではアスクレプス単体での跳躍しかできない、ミツルが行ったことがある場所にしか行けないなど、ミツルがまだまだ使いこなせていないが故の制約もある。


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第33話 ジル司令との交渉

 

【△月;日】

 

 今日はドラゴンの襲撃も何もなく、平和な一日だった。

 

 しかしそんな日でも、いやそんな日だからこそ、独立部隊の面々は、己を鍛えることを欠かさない。出撃がないのなら、その分はトレーニングにあてようってことで、シミュレーターや訓練場で汗を流している様だ。

 

 食堂で昼食を食べてる時に、僕も『よかったらどうだ?』って誘われたので、運動不足になるのも問題だしな、と思って、参加させてもらった。

 

 結果というか、評価は、中の下、とのこと。

 まあ……僕、何度も言うように、ちょっと護身術かじっただけの、素人に毛が生えたような程度の腕前だからね……本職の軍人さんや、それに匹敵する腕前の人達にはかないませんよ。

 

 むしろ、『下の下』や『下の中』でなかっただけ健闘したと言っていいんじゃなかろか。

 

 僕の相手になってくれたのは、軍でも指導する立場に立つことが多かったっていう、グラハム・エーカーさんを筆頭に、パトリック・コー……あ、今はマネキンさんか……ご存じ不死身の方。

 それに、前の世界からの付き合いだってことで総司さんと、ユリカさんを助けてくれた恩返しってことでアキトさん。主にこの4人である。

 

 『仕事の合間合間に鍛えてこれなら筋はいい』『本格的に鍛えるつもりならもっと強くしてやれる』との評価だった(グラハムさん談)。

 お世辞を言っている感じじゃなかったので、ホントにそうなんだと思う。

 

 嬉しい評価ではあるが、僕は軍人になるつもりはないし、あくまで商人が本職なので……。

 

 そう言うと、グラハムさんは『そうか』とだけ言って、引き続き指導をしてくれた。

 加えて、普段から効率的に行える自主トレのやり方なんかも教えてもらえた。なんか、至れり尽くせりって感じで、こっちが恐縮しちゃったよ。

 

 あと総司さんが、『なら今度竜馬や鉄也に会った時にはお前も鍛えてもらえば?』みたいなことを言われた。

 ロボットだけでなく、白兵戦の強さにも定評のある方達だし……もしそうしてもらえるなら、それは光栄かもしれないけど……ちょっと、いやかなりきついトレーニングが待っていそうで怖くもあるな。

 

 ……それと、何気ないというか、当然のように放たれたその言葉で、総司さんは鉄也さんが、また仲間に戻ってくることを疑ってないんだな、ということがよく分かった。

 僕としても、ぜひそうなってほしいと思う。舞人社長や勝平君のためにも。

 

 

 

【△月_日】

 

 ここ最近、暇を見て皆さんの訓練に混ぜてもらっている。

 

 グラハムさんに『筋がいい』と言ってもらえて嬉しかったし、だったらその評価に恥じないくらいには上達したいなと思って続けていたら、結構自分でも自覚できるくらいには腕が上がってきた気がする。この短時間で。

 

 もっとも、多少反応が相手の攻撃に追いついてきたり、負けるまでの時間が伸びただけなんだけどね。相変わらず、勝率は全然だし、評価も立ち位置も『中の下』のままだ。

 

 けど、『中の中』は見えてきている、とも言われてるので、調子をよくして励んでおります。

 これもコーチがいいからかな? いや、別に今まで護身術を教えてくれた先生達をディスって言う意図はないんだけども。

 

 流石に、護衛とかつけなくても1人で大丈夫……とまでは言えないだろうけど、変なのに襲われても多少戦えるくらいにはなってると、この身の助けになりそうだと思うし。

 

 『火星の後継者』は壊滅したけど、北辰とその部下達は未だにどこかに逃げ伸びてるっぽいしな……。

 

 また、今日はドラゴンの襲撃があったものの、出撃した子達は全員無事帰ってきた。

 

 ご存じ『パラメイル第一中隊』と、それとは別の『第三中隊』が出撃したそうなんだけど、楽勝だったって。上機嫌で食堂に来たヴィヴィアンに教えてもらった。

 第一中隊の面々はもちろん、ここ『アルゼナル』にいるメイルライダー達も、その質は上がってきてるみたいだ。ジル司令が上手いことやってるのかな?

 

 色々抜け目がなくて、時々何考えてるかわからなくて、ちょっとおっかないところもある人だが……やっぱ有能なんだろうな、と思った。

 

 

 

【□月○日】

 

 その有能なお人に、なぜか『お茶会』なるものに誘われました。

 

 整備士のメイちゃんから伝言で伝えられたそのお誘いに、『はい?』って思わず聞き返しちゃったんだけど……聞き間違いでも何でもなかったようで。

 しかも、必要ならミレーネルにも同席してもらってOKとのこと。どうやら、『サイデリアル・ホールディングス会長』としての立場の僕と、仕事の話をしたいようだ。

 

 とりあえずその話を受けさせてもらって、指定された時間に彼女を尋ねると、応接室みたいなところに案内された。

 

 そこで、独自のルートで外から仕入れたっていう、美味しそうなお菓子と、それよく合うという酒を進められた。

 

 未成年なのでと、酒は断った。

 『堅いことを言うな』『外の法などここでは気にしなくていい』って進められたけど、どっちみち仕事の話をする時は、酒は飲まないことにしているので。

 

 ちなみに、プライベートではたまに飲む。支社がある国の中には、日本と違って未成年でも、16歳とかから飲酒OKの国もあるし、付き合いとかもあるので。

 

 けど今回は、それとは別にしても……なんか、飲まない方がよさそうな気がするんだよね。

 

 いや、別にジル司令が一服盛ってくるとか、そんな変なことは考えてないけど……この人がわざわざ持ち出すビジネスの話なんだ。酒の入った頭で聞いていいことじゃないだろう。

 

 ……あるいは、判断力を鈍らせて少しでも自分に有利な交渉をするとか……そのくらいのことはやりそうだしな、この人なら。間違ってたらごめん。

 

 きっぱり断ると、一応わかってくれて、代わりに紅茶を出してくれた。

 けど、自分は遠慮なく飲みながら、ジル司令は『食べながら聞いてくれ』話を切り出す。

 

 簡単に言えば、ジル司令の用件は、『アルゼナルとして直接『サイデリアル』と取引したい』というもの。それも、かなり本格的に。

 

 ドラゴンの襲撃はその頻度と激しさを増しており、こちらも部隊の再編や質の向上でそれに対応してはいるものの、遠からず対応できないことになると予想される。

 

 しかし、『始祖連合国』にそれを伝えても、『贅沢を言うな』『今ある戦力で何とかしろ』と、無碍な対応が帰ってくるばかり。

 相変わらずというか、『ノーマである』という理由で、まともに取り合ってもらえないそうだ。

 

 彼らにとっては、ノーマはその命すらも含めて、戦って使い潰して当然の消耗品。むしろ、戦死して初めて『仕事をした』と認識してもらえる。が、褒めてはもらえない、当然のことだから。

 

 アルゼナルのしきたりにもその一端が現れていて……ここに連れてこられたノーマは、名前を奪われるそうだ。『アンジュリーゼ皇女』が、『アンジュ』になったように。

 その名前は、死んで初めて返され、墓にその名を刻むことが許される、とのこと。

 

 『あの国の連中には、何を言っても無駄だ。必要なものすら渋って満足によこさんからな』

 酒で口が緩んだのか、それとも普通に素で言ってるのか……少しだけ顔の赤くなったジル司令が、そんなことを言っていた。

 

 皮肉にも、ここアルゼナルは、その兵の損耗率の高さゆえに、そんな風に物資やら何やらを『渋られ』ても何とかなっていたが、ここ最近はその状況が改善されていることが、逆に物資に余裕がなくなってきている原因になっているらしい。

 

 もちろんそれを悪いことだとは言わないが、かといって霞を食って戦えるわけでもないし、なまくらの剣や弾丸のこもっていない銃でドラゴンを倒すことはできない。

 

 ゆえに、『サイデリアル』と取引して独自に武器弾薬や物資を仕入れたいらしい。

 

 こちらにとってはよさそうなビジネスの話だけど、そんなこと――本国に断りもなく、自分達で独自に軍備を増強――したら、また何かいろいろ言われるんじゃないかな?

 

 そう思って聞いたら、『そのあたりはどうとでもなる』とのこと。

 『始祖連合国』の連中は、まあいい顔はしないだろうけど、自分達の負担が増えずに、こっちの自腹でそういうことをする分には、むしろ『殊勝な心掛けだな』って笑って放置するだろうから、とのことである。

 

 聞いてるとつくづくアレな国に思えてくるな……『始祖連合国』。

 

 そしてその財源は、他の部分を色々水増し請求して確保するって。さらっとすごいなやっぱ。

 

 そしてそれだけじゃなく、資金以外にも僕ら『サイデリアル』に有意な報酬を、色々と用意してくれるとのこと。

 

 外部からではわからない『始祖連合国』の情報や、鎖国状態になっているせいでよくわかっていない、エリアDその他の地理情報、『始祖連合国』が独占している資源採掘場や、そこで取れる資源のリストなんかも。

 

 さらには、長い戦いの歴史の中で、アルゼナルに蓄積された、『パラメイル』という兵器の運用に関するノウハウや、ドラゴンとの戦いにおける様々な情報。

 

 その他にも、色々と……なるほど、扱い方次第では千金の価値に化けるであろうものばかりだ。

 正規の料金に加えて、これらの情報をオマケでつけてもらえるなら、十分な黒字と言える。

 

 ……しかもこの人、それらに加えて、なんだかとんでもない提案までしてきた。

 

 『なんだったら、気に入ったノーマを1人か2人、ここから持って行ってもいい』

 『ここの連中は金持ちが好きだから、お前が口説けば喜んでついていく』

 『見た目がいい奴も揃っているし、侍らせるなり夜の相手なり好きなようにできる』

 『欲しい奴がいれば、今すぐにでもここに呼ぶ』

 

 ……明らかに人身売買の申し出なんですが。

 精一杯言い換えて、どうにか……ヘッドハンティング、あるいは職業斡旋か?

 

 何をこの人は、さらっと奴隷貿易じみた交渉持ち出してんだ。いくらなんでも問題ある……え、『始祖連合国』からすれば、ノーマが金やその他利益に変わるなら、十分『有効活用』だって喜んで納得する? えぇー……?

 

 あの……やっぱ酔ってません? むしろそうであってほしいんですが。

 『始祖連合国』も色々酷いけど、この人はこの人で、別ベクトルのガチ度合が酷いな……。

 

 横に座っているミレーネルも、流石にこの手の話は不快なのか、三白眼……を通り越して、睨むような目でジル司令を見ていたようだ。

 

 当たり前だがそんなつもりはないので、ノーマ云々についてははっきり断っておく。

 

 しかし、取引自体はこちらにも有益なことなので、前向きに検討する、と伝えた。

 

 ジル司令としては、それで十分満足できる返事だった様子。

 やっぱり、人身売買の下りは冗談だったんだろうか? いやでも、感じからして、仮に僕があそこで頷いてたら、本気でその話を進めそうな感じだった気がするんだよな……そしてそれを特大の貸しにして、交渉を有利な方に持っていく的な。

 

 やっぱこの人、油断できないな。

 

 

 

 追記

 

 ……よく考えたら、人身売買、前例あったね。

 スメラギさん、『パラメイル第一中隊』を買い上げてたし。

 

 いや、あれはむしろ雇用契約(本人達の意見はガン無視)の一環として見れるかもしれないけど、その後にあったモモカさんの一件は、完璧に人命の売り買いだったしなあ……。

 本来は処刑だったところを、金で買って助けた、っていう。いい結果になったとは思うけども。

 

 

 

 追記その2

 

 自室に帰ってから、ジル司令との今後の交渉について、簡単に打ち合わせをした。

 

 その際、ふと思いついたような感じで、ぼつりとミレーネルが言った。

 

 字面では非人道的な扱いでも、僕に買われるのなら、もしかしたらそっちの方が幸せだっていうノーマもいるかもしれない……と。

 

 今回の話の中でもジル司令が言っていたけど、『始祖連合国』やその関係先では、とにかくノーマは人間扱いされないし、アルゼナルにいてもいつ死ぬかもわからない戦いが続くだけ。

 それならいっそ、『買われて』外に連れ出される方がいい、って子もいるんじゃないか、と。ミツルならその子を買っても、酷い扱いはしないだろうから、と。

 

 ……そう言われると、『ありうる』と思えてしまうのがまた……。

 

 ジル司令もその時、『少なくとも1人、確実についていくであろう奴はいる』とか言ってたな……誰だろ? 僕の知ってる人かな?

 

 

 

 



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第34話 混沌inミスルギ皇国

【□月×日】

 

 ゆっくり起きて、遅めの朝食をとっていたら、なんか慌ただしく皆が走り回っていた。

 

 何事かと思って、ちょうど通りがかったサリアに聞いてみたら、なんと、アンジュとヒルダが脱走したという。

 

 思わず『えっ、今更!?』なんて思ってしまった。

 

 いや、だって……ここに来てすぐの頃ならともかく、最近は普通にアンジュもここの生活になじんでたし、ドラゴンの相手だってガンガン出撃してじゃんじゃん倒してボーナス稼いでたし。

 

 そもそも待遇だって、『独立部隊』の一員になっている今なら、決して悪いものじゃなくなってるわけで(あくまで比較的、かもしれないけど)……今更脱走するって、理由は何?

 しかも、ヒルダまで一緒になって……あ、モモカもいないの? ついていったか。

 

 ちょうど食べ終わったところだったし、探すのに協力しようか? って申し出たんだけど、サリア曰く、ヒルダはともかく、アンジュの行き先には見当がついてるらしい。

 

 先日、サリアとアンジュが一緒になって、ジル司令と色々話をしたらしいんだけど(話の中身については教えてくれなかったが)、その時にジル司令から、ある情報がもたらされたらしい。

 

 ミスルギ皇国皇女・シルヴィア……アンジュの妹に当たるその子が、処刑されることになったと。

 

 それを聞かされた時、アンジュは驚いた様子だった。

 その後は平静を装っていた風だったけど、恐らくあの時すでに、脱走を決めていたんだろう、とサリアは言う。

 

 なるほど、妹を助けに行ったわけか……モモカもそれに同行したと。

 

 しかし、ヒルダもそれと一緒に行ったのか? アンジュを助けるために? ……言っちゃ悪いけど、あの2人そんなに仲よかったっけ……?

 たまたま彼女の方にも、何か脱走する理由があって、一緒に逃げたって考えた方がまだ納得いくな……具体的にはわからんけど。

 

 サリア曰く、『気持ちは察するけど、れっきとした脱走行為だから、捕まえて罰を与えなければならない』とのこと。ヒルダにもアンジュにも。

 

 罰ってどんな? え、たしか敵前逃亡が極刑なんだよね……あ、そこまでにはならない?

 でも、財産没収や禁固、乗っているパラメイルの没収もあり得る? いや、パラメイル没収したら戦えないんじゃ……新人用のノーメイクの量産機からやり直させるの? うわ、結構過酷。

 

 ところでサリア、そんな目の前で衝撃情報聞かされたの見てたなら、今回の脱走、予想できなかったん? あ、いや、攻める意味で言ってるんじゃなくてさ。

 

 あ、予想はしてたし注意してみてたつもりだったけど防げなかった? 夜中にこっそりヴィルキスで出てった……ああ、そっか、ヴィルキスってワープできるもんね。

 しかも、『買い上げ』以降、パラメイルにはいつでも全力出撃できるよう、常に燃料は満タンで入ってるからな(以前までは出撃の時に、一戦分だけ入れてた)……それが裏目に出たか。

 

 それなら仕方ないか、と思ったところで…………さらに事態が動いた。

 

 さっきまで僕は、昼食を食べてたわけなんだが……携帯でネットニュース見ながら食べてたんだよね。ここ、テレビとか置いてないから(ノーマに外の情報は与えられない的な理由だと思う)。

 

 それがつけっぱなしになってたんだけど……サリアと話してる最中、そこからこんな音声が聞こえてきたんだよ。

 

 

 

『ここで臨時ニュースです。ミスルギ皇国皇室から発表があり、ノーマだったアンジュリーゼ元皇女の処刑が執り行われることとなりました』

 

 

 

 サリアと一緒に携帯の画面を二度見してしまいました。

 

 ほわっつ!? 何、アンジュリーゼ……え、アンジュ!? アンジュが処刑!? 妹じゃなくて!?

 

 すぐさまこの情報を、ジル司令とかスメラギさんとかに話して共有したところ……スメラギさんの推測では、『シルヴィア皇女の処刑』という情報そのものが罠だったんじゃないかとのこと。

 助けようとして乗り込んでくるアンジュをおびき寄せて、とらえて処刑することこそがメインの目的だったんじゃないかと。

 

 マジかよ……えぐいこと考えるな、ミスルギ皇国。

 そしてそうなると、主犯はあの小物っぽい皇帝……と、ひょっとしたら妹もグルかもしれん。

 

 処刑は明日の昼に行われるらしい。

 殺すのが目的なのに、なんかやたらゆっくりしてるなと思ったけど、スメラギさんはその理由にも見当をつけていた。

 

 おそらく、公開処刑という形にして、国民も大勢集めてさらし者にする気だろうと。

 

 ……それが当たってるとしたら、マジで腐ってるな、ミスルギ皇国。

 

 当然、独立部隊の皆さんはこれを黙ってみているつもりはないそうで。

 スメラギさんの戦術予報を軸に、早速作戦を立てていた。

 

 何かできることがあれば僕も手伝う、とだけ言っておいた。

 プロの作戦家に意見できるほど頭よくないからね。

 

 

 

【□月△日】

 

 アンジュ、無事に救出成功。

 ついでにじゃないけど、ヒルダも一緒に帰ってきた。

 

 あと、なんかよく知らないけど、タスクとかいう男性のパラメイル乗りも一緒に来た。誰?

 

 

 

 今日は中々の激動の1日――僕自身はあんまり関わってないけど――だったので、そのへんを順番に述べて行こうと思う。

 

 まず、今日の昼に予定されていたアンジュの処刑は、ご丁寧にテレビ中継までされて、全世界に垂れ流されていた。普段は外部との情報連携、テレビどころか国同士のホットラインすらほとんどシャットアウトしてるくせに、こんな時だけ。

 

 処刑の準備段階からその生中継は始まってて、拘束されてるアンジュに対し、妹と思しき車椅子の女の子が、罵声を浴びせながら鞭で打っている様子が映し出されていた。やっぱグルだったか。

 

 同じ車椅子の妹でも、どこぞの神聖帝国生まれの第12皇女とはえらい違いである。立派にナンバーズ……じゃなくて、ノーマに対する差別意識が根付いていらっしゃる。

 

 普通に痛々しい光景なんだが、こんなん見て誰が喜ぶんだか……と思っていたら、処刑を見に集まっていた群衆の皆さんが大喜び。マジかよ、国単位で屑なの?

 というかこれなら、むしろアルゼナルにいるノーマの皆さんの方が全然……よくこんなんで、ノーマは反社会的で凶暴などーたらこーたら言えたもんだな。

 

 反社会的も何も、社会の方がダメなんじゃないのか。

 

 しかも、特別ゲストとして招いた……ええと、『パープル』とかいうミュージシャンがそれを煽る煽る……何あいつ? パンク系とかビジュアル系とか、そういう感じの人か?

 最近名前をよく聞く気はするけど、言ってることが中学二年生じみたセリフの羅列だから、ぶっちゃけテレビとかで見て『うわぁ』って思ってたんだよね。

 

 しかし、いざアンジュが吊るされて処刑されそうになったところで、さっき話した青年……タスク君が乱入して彼女を救助。

 しかもそこに、無人のはずなのに転移してヴィルキスがやってきて、それに乗ってアンジュ達は(タスク君も、モモカも)その場を離脱。

 

 ジュリオ皇帝は、そのまま逃げようとするタスク君のアーキバスとアンジュのヴィルキスを、無人兵器を投入して仕留めようとしたが、今度はそこにボソンジャンプでナデシコCが出現。

 ルリ艦長が『脱走兵はこちらで回収します』と告げて、アンジュを連れ戻そうとした。

 

 が、そこでジュリオ皇帝、よせばいいのにルリ艦長達を挑発するようなことを言った上、『せっかく来てくれたのだから模擬戦などいかがかな』って、そのまま無人機をけしかけてくる始末。

 これにはさすがにカチンときたらしく、かなり辛辣なセリフとともに、ルリ艦長はその『お言葉に甘える』ことにしたようだった。

 

『かしこまりました、ジュリオ陛下。そちらは実弾を使用されるようですから、こちらも同じ条件でお相手します』

『では戦闘開始です。ジュリオ陛下にミスルギ皇国の防備が完全に足りてない事と、自信満々で上から目線でいたところをコテンパンにやられる格好悪さを教えてあげてください。徹底的に

『あ~あ……あのボンボン陛下、ルリちゃんを怒らせちゃった……』

 

 あ、最後のはユリカさんね。

 

 ちなみに僕は、『ナデシコ』で現地に行ってはいない。

 僕はあくまで支援者の立ち位置であって、『独立部隊』には所属してないので、彼女達と一緒にあそこに行くと、色々まずいんだよね。会話を聞いていたのは、通信越しで、である。

 

 そしてまあ、ミスルギ皇国が投入してきた、人型無人機と、なんか円盤みたいな無人兵器との戦いが始まったわけだが……正直、いまさら無人機なんぞが相手になるような面子じゃないよね。

 それはもう圧倒的というか、一方的というか……そんな言葉すら生ぬるい勢いで駆逐されていっていました。

 

 途中から、別行動だったらしいアキトさんと、彼が連れ戻してきたヒルダも加わってたし、見事なまでのワンサイドゲームだった。

 

 

 ……が、今回の混乱、そこで終わらなかった。

 今の状態でも、十分に大騒動だと思うんだけど、これがさらに悪化したのである。

 

 

 

 ちょっと話が変わるというか、時間を数時間ほど巻き戻すんだけども。

 どのくらいかっていうと、ナデシコが出撃した直後あたりに。

 

 その頃、僕らはここアルゼナルで留守番していたわけなんだが、タイミング悪く、ドラゴン襲撃の警報があったんだよね。

 ここを目指しているわけじゃないけど、近くに出たみたい。しかも、結構な規模で。スクーナー級に加え、ガレオン級も結構な数確認されたそうだ。

 

 第一中隊も独立部隊も出てしまっているので、他の部隊で対応するしかないわけだが……もしよかったら僕も出ようか、と申し出ておいた。

 相手がドラゴンなら、独立部隊じゃなかろうが、迎撃する分には問題ないだろうし。

 

 しかし、ジル司令からの返答は、『不要』。

 しかもどういうわけか、僕の出撃に関してだけでなく、ドラゴンの迎撃自体を不要だと言って、どの部隊も出撃させず、見逃してしまった。

 

 いいのかそれ、と思ったけど、『問題ない』と言い切った。

 

 

 

 ……というのが数時間前であるわけだ。

 では、時を戻そう。

 

 ミスルギ皇国の宮殿前の広場で、独立部隊の面々と、ミスルギ皇国がけしかけた無人兵器部隊の戦いが繰り広げられているわけだが……そこに、乱入者が現れた。

 そう、ドラゴンである。さっきアルゼナルが、というか、ジル司令が見逃して素通りさせたドラゴン達が、ミスルギ皇国に襲来したのだ。

 

 ……ひょっとしてジル司令、コレを狙って?

 独立部隊の面々の離脱を助けるため? あるいは、また別な目的が……?

 

 そしてそこにさらに、ガーディム(全部無人機)がどこからともなく現れて暴れ出し、

 

 さらに宇宙からインベーダーまで降りてきて暴れ出し、

 

 どんだけのことになってんだよ、と、テレビ中継の画面を見ながら唖然とするような、混沌極まりない光景が繰り広げられていました。

 つか、リポーターとカメラマン、こんなことになってまで中継続けるって……根性あるな。

 

 ナデシコ部隊に、ミスルギ皇国の無人機軍団、ドラゴン、ガーディム、インベーダー……一般人の方々からしたら、さぞかし生きた心地がしない空間だっただろう。

 

 というか、ガーディムはまだしも、インベーダーまで出てくるとは……いやまあ、『新西暦世界』と『宇宙世紀世界』の両方にいたわけだから、この『西暦世界』にいてもおかしくはないのかもしれないけど……

 

 三つ巴を通り越して、『五つ巴』となった戦場で、ミスルギ皇国の無人機軍団は早々に壊滅し、さらにその後の戦いで、宮殿前広場……と、それに隣接している、王宮の庭園やらは、見るも無残なまでに破壊しつくされ、無茶苦茶な有様になっていた。

 

 降り注いだ敵味方のミサイルやビーム砲で耕され、めくり上がり、庭木や花壇の花は燃え落ち、池の水は蒸発。まともに歩ける道は一つもなくなり……というか平らな地面がそもそも皆無に。

 加えて、破壊された無人兵器の残骸やら、インベーダーの体液やら肉片やらが降り注いで、もうなんか地獄絵図である。

 

 見物に来ていた一般市民に、死傷者も出たらしい。あんだけ広場を埋め尽くすような勢いで集まってれば、そりゃまあ、そうだろうな……。

 流石に不謹慎だから、『ざまあみろ』とかいうつもりはないが。

 

 その映像のラストで、『我が国の防衛部隊が……』と唖然としていたジュリオ皇帝のアップが映し出されて、ジル司令が爆笑していた。気持ちはわかるけども。

 

 そうして、向かってくる者全てを蹴散らして、ナデシコCと独立部隊の面々は撤退。

 ミスルギ皇国は、処刑失敗をはじめとした大恥をかいた挙句、防衛設備も宮殿前広場も大惨事になるという、悲惨な結末を迎えたのでした。ちゃんちゃん。

 

 

 

 しかし、ドラゴンはともかく、何でガーディムやインベーダーまで、狙ったようなタイミングであそこに集まってきたんだか……。

 

 ガーディムは何か狙いがあったんだとしても、インベーダーは……あれは、指揮官になる奴がいなければ、ただひたすらに暴れて食らう『飢える破壊魔』だ。

 それこそ、ゲッター線みたいな、何か餌になるようなものでもなければ、あんだけ集まって現れることはほとんどないはず……。

 

 ……何かあるのかな? あの、ミスルギ皇国の宮殿に。あるいは、その近くに。

 

 そしてそれは、ひょっとしたら……ガーディムやドラゴンが現れたことと、何か関係がある、とか……?

 

 

 ☆☆☆

 

 

Side.???

 

「……あの国の、あの場所から、膨大な力が垂れ流されているのを感じて、調べてみたが……どうやら違ったようだな。興味深い力ではあるが……別物だ」

 

「しかし、この汎用性や利便性の高さは有用だ。我々の宿願の一助となるやもしれぬ」

 

「だが、まがい物の力では到底足りぬ。見つけなければ……手に入れなければ……」

 

「『黒い太陽』の残照を……『源理の力』をこの手に収め、『天の獄』へ至る鍵を……!」

 

 

 

 



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第35話 ノーマとドラゴンの真実

【□月□日】

 

 なんかいきなり、独立部隊やアルゼナルの主だったメンバーが集められて……何事かと思ったら、ジル司令から色々な情報開示が成された。ほんとに唐突に。

 

 いや、何て言うか……僕はその場にいなかったんだけど、そのきっかけになる事件はあったらしいんだ。

 

 伝聞だけど、なんでも、ヴィヴィアンがドラゴンになって、けどアンジュの歌で元に戻ったとか何とか……いや、全然意味わかんなかったんだけどもね、聞いてる当初は。

 その辺の整理もできるだろうからってことで、なぜかジャスミンさんに諭され――こういう風に言われるってことは、彼女も何かしらの情報を知っている1人だったってことか――ジル司令の話を聞くことになったわけだ。

 

 で、聞いたわけだが……なんかかなり、その、スケールの大きい話になってきてた。

 

 『始祖連合国』の人間が、ある1人の『神様』――便宜上そう呼ぶだけらしいが、そのくらいには超常的な力を持つ存在らしい――によって作られた存在だとか。

 その神様とやらは、『始祖連合国』を裏から操る存在で、『ノーマ』は、その神様の思い通りに成長しなかったイレギュラーだから迫害されているとか。

 

 『始祖連合国』以外にも、世界の様々な組織に通じていて……例えば、ナチュラルとコーディネーターの争いにも1枚噛んでいるとか。

 その他にも様々な、世界各地で起こる争い……今までナデシコ部隊や、ソレスタルビーイングが関わってきたものも含む、それらの裏にその影が存在しているとか。

 

 他にも細かく色々とあげ連ねたが、まとめると、ジル司令曰く、その神様……『エンブリヲ』という名前らしいそいつこそが、この『西暦世界』において起こった多くの戦争や悲劇の黒幕であり……ジル司令やジャスミンさん、そして新しく仲間に加わったタスク君達や、その親世代やら仲間達は、そのエンブリヲに反抗するために立てられた作戦『リベルタス』に関わっていた。

 

 それは、以前に一度実行されたものの、失敗し、多くの仲間を失ったそうだ。

 

 しかしそれでもジル司令達は諦めておらず、虎視眈々と次なる『リベルタス』を、今度こそその『エンブリヲ』とやらを倒す機会を狙っているとのこと。

 

 そしてさらに、パラメイルに乗って戦って来たノーマ達に加え、世界の不条理や争いを根絶するために組織された『ソレスタルビーイング』や、ナチュラルとコーディネーターの戦いの終結まで戦ったオーブの面々なども、突き詰めればその根源であるエンブリヲを討つための力。すなわち、『リベルタス』のための戦力であると言える、とまで言い切った。

 

 ちょっとそれは流石に強引じゃなかろうか、と思ったものの……困ったことにあながち間違いでもないんだよな、それ。

 

 本当にそのエンブリヲとやらが、『始祖連合国』のみならず、世界中のそういう悲劇やら不条理の元締めになっているというのであれば、ソレスタルビーイングやオーブの面々のみならず、そういうのと戦う勇者特急隊や、治安維持も立派に仕事である地球連邦軍……に籍を置くナデシコ部隊にとっても標的なわけだし。

 『リベルタスのための』っていうと言いすぎだし、ジル司令の都合に合わせ過ぎだと思うけど……『共通の敵』『倒すべき邪悪』と考えればその通りなのである。

 

 しかもジル司令、マジでその『リベルタス』とやらに本気らしく……『お前達の協力を取り付けるために必要だと言うなら土下座でも何でもする』とまで言い切った。

 色んな意味で覚悟完了しすぎだよこの人……交渉するのに特に厄介なタイプだ。

 

 もちろんというか、その筆頭になるのは、『ノーマ』としてエンブリヲに虐げられ続けている筆頭格である、メイルライダーの面々。そしてその中でも、特別なパラメイルである『ヴィルキス』に乗るアンジュがその役目なのだとか。

 

 そう言われてアンジュは、『あなたの思い通りに動く気はない』とは言いつつも、やはり彼女にとっても、その話が本当なら、エンブリヲは倒すべき敵。

 あくまで自分の意思で戦う、と表明して、ジル司令は『それでいい』と言っていた。

 

 ……そのやり取りの横で、なんだかサリアが下唇を噛みしめていたような気がしたんだけど……まずそれは置いておいて。

 

 さらにジル司令は、そのまま、今自分が名指しで挙げた『リベルタスのために存在している』者達以外……ナデシコ部隊や勇者特急隊、ザンボットやダイターン、そして僕ら『サイデリアル』にも協力を要請してきた。

 アンジュと同様に、『敵の敵だから』とか、『世界の平和を乱す存在だから』とか、理由は問わないが、共に戦ってもらいたい、と。間違いなくここにいる者達全てに共通の敵となるから、と。

 

 特に『サイデリアル』には、武器弾薬の調達をはじめとした物資・戦力の面での協力に期待しているらしい。またとんでもないことに巻き込んでくれるなこの人は……。

 ここで話を掘り下げでもすれば、こないだの『お茶会』で話したような交渉もためらいなく飛び出すんだろうな。あの時のあれ、やっぱりというか、素面で、本気で言ってたんだろうし。

 

 もっとも、ジル司令曰く、コレを聞いてすぐに何かを始めなきゃいけないというわけではなく、あくまでそういう日がいつか来ると思っていてほしい、とのこと。

 あくまで今回話したのは、ヴィヴィアンがドラゴンに変身した事件がいいきっかけになったから、今まで秘匿していた情報をここらで公開しようと思ったそうで。

 

 そして、その一環として……ドラゴンについても、今まで知らされていなかった情報の1つが公開された。

 ヴィヴィアンがドラゴンになって、またヴィヴィアンに戻ったことからも察せられるように……あれは元は人間であるらしい。

 

 最も正確には、人間がドラゴンになったのか、ドラゴンが人間になったのか……そこんとこは、確実なことはわかっていないそうなので、突き詰めすぎるとニワトリタマゴになってしまうが。

 

 つまり、今まで僕らは……ドラゴンだと思っていた人間を相手に戦っていたわけだ。

 

 ……まあ、だからどうってことはないけどね。

 驚きはしたし、インベーダーと同じ感覚で倒していたあれらが、人間が変身してたのか……って多少ショックに思ったりはしたものの、それ以外でだって、有人機を撃墜して……その中のパイロットが脱出しなかった、出来なかったケースだってあったわけだし。

 言い方はひどいが、今更、という話である。

 

 これで連中が、野生動物らしくない戦略的な行動をとっていた理由もわかったな。中身が人間だって言うなら、そりゃそのくらい考えて戦うわ。

 

 そしてそのドラゴンだが、どうやら闇雲に人類を敵視しているわけじゃなく、どうやら何か狙いがあってこの世界に来て、そして『始祖連合国』に攻め込もうとしているらしい。

 

 それが何なのかまではジル司令も知らないそうだが、この間のことから察するに、その『何か』はおそらくミスルギ皇国にあるとのこと。

 それを察したドラゴン達は、ここからはさらに本格的に攻めてくるだろう、と予想した。

 

 なんだかなあ……一難去ってまた一難、って感じだ。

 

 結局、やることは今までとは大きく変わらないだろうけど……面倒事が加速しそうな予感はしている。今から既に。

 

 

 

【□月▽日】

 

 予感的中!

 昨日の今日だってのにどうしてこうも事態が動くかね!?

 

 ひとまずそろそろやっといたほうがいいかってことで、物資補充のために僕とミレーネルは一旦アルゼナルを離れた。

 と言っても、『リヴァイヴ・セル』を使ったボソンジャンプがあれば、移動は一瞬だ。物資の調達や積み込みの分を考えても、明日にはまたアルゼナルに戻れるはず。

 

 ……そのわずか1日足らずの間に、状況が激変したらしいんだけどね……。

 

 というか、今僕、アルゼナルにいないし。まだ『サイデリアル』の本社だし。帰る前だし。

 

 僕らが出て行った後すぐに、ドラゴン襲撃の警報が鳴って……その迎撃のために、一行は港湾地区に行った。

 なんでそんなとこにドラゴンが、と考えたけど、恐らくはミスルギ皇国侵攻のための橋頭保か何かにするためだろうって。

 

 成程、流石は中身人間。戦略的に攻めようとしてるな。

 

 しかし、そこでドラゴン達と戦っている最中に、ガーディムは攻めてくるわ、いつか見たっていう、ドラゴンと一緒に現れる赤いパラメイルが現れるわで、大混戦に。

 しかもそのガーディムには、火星で総司さんが撃墜したらしいグーリーもいたとのこと。何だ、生き延びてたのか。しぶといな。そしてしつこいな。

 

 まあ、ガーディムはまた撃退して退却させた――なんか、通信が入って呼び戻されたみたいにも見えたらしいが――後、アンジュのヴィルキスと、件の赤いパラメイルが撃ち合った攻撃で、時空が歪んで、アンジュとタスク、それにヴィヴィアンがそれに巻き込まれ、どこかに飛ばされてしまったらしい。

 

 ……ヴィルキスって、そんな時空歪める系の兵装まで積んでんの?

 

 いや、確かに、空間転移とかの能力も持ってたし、そういうのがあってもおかしくない……のか。

 

 どっちにしろ……ヴィルキスって絶対ただのパラメイルじゃないよな。今更だけど。

 特別製を通り越して、もっと違う、全く別の何かなんじゃないかとすら思える。

 

 協力体制の一環ってことで、ジル司令にはパラメイルの設計や兵装データその他を開示してもらって、そのへんは見たことがあるんだけど……言うまでもないけど、普通の機体には時空どうこう系の兵装なんぞ積み込まれちゃいなかったしな。

 

 今までの経験からすると、恐らくアンジュの行き先は『宇宙世紀世界』だと思われるけど、『パラレルボソンジャンプ』で探しに向かうには、まだ技術的その他で不安が多くある。

 ゆえに、ひとまずは様子を見つつ……『パラレルボソンジャンプ』の研究が進んで、安全かつ確実に『宇宙世紀世界』に行けるようになったら、その時は探しに行く、という方針だそうだ。

 

 あ、ちなみにここまでの話は、通信越しにミランダから聞かされたことである。

 

 何でか彼女、ジル司令の命令で、こないだから僕との連絡役みたいな担当になってるので。そのために限り、外部との連絡のための端末の使用も許可されているそうだ。

 必要であれば、僕の判断で外部に連れ出したり同行させることもできるとか。

 

 ……ジル司令の何らかの思惑を感じるが……まあ、今はいい。

 

 それと、そのミランダだけど……彼女もアンジュのことを心配しているようだった。

 

 ……今更こういうことを言うのもなんだけど、ミランダにとってアンジュは、親友であるココが死ぬ原因になった相手だから、よく思ってはいなかったはずだ。

 実際、出会ってすぐの頃は、ヒルダと同じくらいかそれ以上に彼女のことを憎んでた感じだったし……表には出さないだけで。

 

 けど、長いこと付き合って彼女のことを信頼できるようになってきたらしいし、あの頃は彼女もいっぱいいっぱいだったんだってことも、頭では元々わかっていたから、そのあたりを考えられるようになったんだそうだ。気持ちの整理がついた、って言うのかな?

 ココのことを、許せる許せないはまだよくわからないけど、アンジュのことは今は、1人の仲間として信頼しているし、共に戦おうとも思っているとのこと。

 

 そういえば、さっき話に出たヒルダも、最近はアンジュと仲よかったっぽいな。

 今回のアンジュの行方不明についても、気丈にふるまいつつも、彼女のことを心配してるらしいし。前回の行方不明(原因:ブラジャー)の時とは違って。

 

 脱走の罪で懲罰房に入れられた前後くらいかららしいけど……何かあったのかな?

 

 んーまあ、ギスギスしてるよりはいいことだとは思うんだけど……あの2人が仲良くしてると、何だろう、すごいことになりそうな予感がひしひしとするというかね……声的に。

 

 

 

【□月◇日】

 

 今僕は、アルゼナルの格納庫の中、『アスクレプス』のコクピット内でこの日記を書いている。

 もう間もなく、僕も出撃しなければならないので。攻めてくる敵を迎撃するために。

 

 その『敵』だが……ここ最近攻めてこないドラゴンではなく……『始祖連合国』の軍隊である。

 

 どうやら、あの、ユリカさん曰く所の『ボンボン皇帝』……何を考えたのかは知らないが、ここアルゼナルを標的として攻撃をかけてきたらしいのだ。

 ちょうど、物資を届けに僕らがアルゼナルに到着した、その直後くらいのタイミングで、襲撃の報告が入ってきた。

 

 しかも、『反逆者に加担したのだから同罪』とか何とか言って、連邦軍所属であるナデシコ部隊や、民間の協力者である、勇者特急隊、一応民間企業である僕ら『サイデリアル』まで標的にして。

 

 ほんとにもう……あの国は……迷惑なことしかしない。

 

 こちらから一応コンタクトは試みたそうだが、見事に無視されているとのこと。

 ……そういうことなら最早戦うしかないということで、準備してるわけ。

 

 なお、アンジュ達はまだ戻ってきてない。

 ボンクラ皇帝の目当ての一つはアンジュだと思うので、この時点でそれは叶わないんだが……だからって軍を引いてくれるとも思えないしなあ。

 

 加えて今回は、最初からそのつもりだっただけに、スカタン皇帝もガチで戦力を投じてきてるようだし……油断はできないと思った方がよさそうである。

 

 やられるつもりはないが、無傷で済むかもわからない戦いになるわけだから……まあ、心の整理っていう意味もあって、こうして日記を書いているわけだ。

 

 さて……そろそろ出撃の時間だな。

 今日中にこの日記、今日のページの続きを書けるか、あるいは……

 

 

 

 



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第3章 海が赤い世界
第36話 ゲッター線とドラグニウム


 

【□月●日】

 

 ……日付は変わったものの、続きは書けた。

 けど、かなり大変な1日だった。

 いやもう、その1日の間に色々なことがありすぎて……最近こんなんばっかだな。

 

 今僕は、『宇宙世紀世界』の『第3新東京市』でこの日記を書いている。

 どうしていきなり次元の壁を超えているのかについては……まあ、順序だてて話していこう。

 

 

 

 あの日、まず僕らは、『始祖連合国』の……というか、ほとんどあのボケナス皇帝の独断だったようにしか見えないんだが……その軍を迎え撃った。

 

 いつもの無人機軍団と、あのフリスビーみたいな無人兵器(ピレスロイド、という名前らしい。殺虫剤?)に加え……なんか、『DG同盟』や『火星の後継者』の機体まで一緒になって攻めて来たんだが……。無人機じゃなくて、パイロットものってたし。

 あぶれた、あるいは路頭に迷ってたのを組み込んだんだろうか? 節操なしだな何とも。

 

 そして、戦艦に乗ってトンチキ皇帝もその場に現れた。

 予想通りというか、アンジュを第一目標として来ていたみたいだが……ここにいないとわかると『それでは出てきた意味がないではないか!』って、後方に下がって行った。何だありゃ。

 

 まあ、アンポンタン皇帝のことは別にいい。いても脅威でも何でもないし。

 

 ともあれ戦いが始まったわけだが……数が多い以外は、今更無人機や量産機相手に負けるような面子でもない。

 補給や修繕が必要な機体は交代で後ろに下がりつつも、十分に対応できていた。

 

 もっともこの闘いは、実質は撤退戦みたいなものである。

 これは、事前に行われた、スメラギさんを筆頭とする戦略担当メンバーらの会議で決まっていたことらしい。

 

 防衛自体は難しくないとはいえ、大国の戦力を次々に投入して攻め続けられたら、いくら何でもいつか息切れして倒れてしまう。

 なので基本、アルゼナルは放棄する方向で考える。その準備やら、人員の避難のための、実質時間稼ぎがこの戦いの目的なのだ。

 

 もともとノーマ達は、追放同然の形でここに送られ、そしてここでもひどい扱いを受けてきた。

 だったらいっそ全部きれいさっぱり捨ててやれ、という結論に達したようで。

 

 アルゼナル自体にも、そこまで愛着がある人も少ないし(つらい思い出が多いから)……何か理由があったとしても、それごと全部引っ越してしまえば、とも考えられるし。

 

 まあ、そんな感じで戦いを続けていたわけだが……その最中、アンジュ達が戻ってきた。

 しかも、以前出会った時は敵だった、例の『赤いパラメイル』や、それとよく似た他のパラメイル?と一緒に。

 

 何気に僕、それ見るのこの場が初だったんだけど……なるほど、パラメイルに見えるけど、どこか異なる雰囲気も持ってる機体だ。

 

 その『焔龍號』に乗っている、サラマンディーネという名前らしい少女は、どうやらアンジュとは和解した……かどうかはわからんけど、この場では協力してくれるらしい。

 アンジュもタスクもそれを納得して受け入れているようだし、まあ……心強い援軍が来たと思えばいいか。

 

 ただ、問題はその後だった。

 

 アンジュが戻ってきたことを察したボンクラ皇帝が、これ幸いと戻ってきて……総攻撃とばかりに攻め出したのである。

 

 一応これにもどうにか対応はできていたんだけど……その最中、とうとう敵のボスが現れた。

 

 え、皇帝がボスじゃないのかって? いやいや御冗談を、あんなん三下の小物だよ。

 

 来たのは、ジル司令曰く所の『神様』。

 西暦世界の諸悪の根源であると語っていた、『エンブリヲ』その人である。火星でもその姿を見せたっていう、黒いパラメイルに乗って現れた。

 

 その戦闘力がとんでもないレベルで……おそらく本気ではなかっただろうにも関わらず、無人機軍団とは比べ物にならない損害をこっちに与えてきた。

 スピード、パワー、火力……どれも、小型のサイズからは想像もできないレベルだった。

 

 しかも、理由はわからないけど、そのエンブリヲはアンジュと……なぜか僕を特に襲って来た。

 何で!? やっぱりこの世界の機体じゃないから? それとも……

 

 さらに、それに便乗してボケナス皇帝まで総攻撃に移って……しかも、嫌がらせのつもりなのか、機動部隊ではなくアルゼナルを標的にして攻撃を開始したもんだから……。

 

 ここで、猛攻に対応できなくなったのか、クリスが撃墜。

 アルゼナルを……正確には、そこにいる幼年部の子供達を守ろうとしてだろう、無理に前線に出て盾になろうとしたエルシャも撃墜されてしまった。

 

 さらに、サリアまでもがここで脱落。

 前2人よりも戦力的な意味では安定してたはずなんだけど……どうも彼女、エンブリヲが現れた直後あたりから、『私がやらなきゃ!』って暴走気味だったように見えていた。

 というか、ここ最近はそうでなくても何やら思いつめた感じだったようだし……ブツブツ呟いてた独り言から察するに、ジル司令や『リベルタス』が関係してるっぽいけど、一体彼女に何があったんだか……?

 

 それが行き過ぎて致命的な事態になる前に、アンジュが手加減した攻撃で、サリアのアーキバスを戦闘不能状態にして、強制的に脱落させたのである。

 

 落ちて行く際の捨て台詞になった『アンジュの下半身デブぅ~!』には、ちょっとシリアスブレイカー的なものを感じて笑ってしまいそうになったけど……状況そのものは笑ってられる状況じゃなかったんだよなあ……。

 

 その3機の脱落をあざ笑うように言った(わざわざオープンチャンネルと外部スピーカーの両方で)スットコドッコイ皇帝に、アンジュがブチ切れて突貫。その戦艦の動力部を破壊したことで、一転して追い込まれた皇帝。

 小物キャラのお約束的に『皇籍に復帰させてやる』とか何とか言って命乞いをしていたものの……まあそれが聞き入れられるはずもなく。

 

 しかし、アンジュがトドメを刺すより先に……なぜかそこで割って入ったエンブリヲが、味方(あるいは手駒)であるはずの皇帝の乗る戦艦を撃墜した。え、何いきなり?

 

 いきなりの裏切り?斬り捨て?に僕らがぽかんとしている前で、さらに事態は進む。

 

 その直後、アンジュとサラマンディーネの機体と、エンブリヲの機体が、あの時空ゆがめる系のヤバい兵器を打ち合って(やっぱりあの黒いのにも搭載されてたか)……そのせいで次元震が発生。

 それに巻き込まれて、出撃していた機動部隊と戦艦は全員……『宇宙世紀世界』に飛ばされてしまった、ということである。

 

 アンジュ達にとっては、飛ばされて、帰ってきたと思ったらまた飛ばされた形になる。事故も含めて結構な頻度で並行世界を行き来してるな、彼女ら……。

 

 そしてその後、こっちの世界に残って活動していた、ヤマトを主軸としたチームと合流し……今に至る、というわけだ。

 

 この後、合流して色々と話し合いというか、互いにここまで何があったかを報告し合う時間が設けられているので、そこに僕も行く予定である。

 

 何やら、こっちの世界に残った組も色々あったみたいだし……あと、マジンガーやエヴァ、ユニコーン他の関係者とは初顔合わせだもんな、そう言えば。きちんと挨拶しておかないと。

 

 ……それと、この世界に来るにあたって……ミレーネルは一緒に来ていない。

 

 彼女はあの時(次元震が起こった時)、補給やら何やらのためにアルゼナルの中にいたはずだ。だから次元震の範囲から外れて、あの世界に取り残されたんだと思う。

 

 有能な秘書不在で話し合いの場に赴くのは、ちょっと心細いけど……頑張ろう。

 

 

 

【□月▲日】

 

 顔合わせと、その後の色々な打ち合わせが思ったより長くなってしまったので、昨日は夜、疲れて日記を書く前に寝落ちしてしまった……不覚。

 なので、昨日午後あったことについて、今から書こうと思う。

 

 宇宙戦艦ヤマトに加え、ラー・カイラムとネェル・アーガマ、それにトゥアハー・デ・ダナンに乗って集合してきた皆さんと合流したわけだが、成程、以前はいなかったメンバーが増えてたな。聞いてた以外にも。

 

 碇シンジ君をはじめとしたエヴァチームに、バナージ君達ユニコーンチーム。それから、兜甲児君達マジンガーチーム。彼らとは初顔合わせなので、簡単に自己紹介を済ませた。

 

 アスカの苗字が『惣流』じゃないってことは、新劇場版だな。あれはあれで厄介と言うか、よくわかんないんだよなあ……というか、ストーリーうろ覚えだし。

 まあ、色眼鏡で見ないで、普通の人間として見ればいいだけのことではあるんだけど。

 

 しかし一方で、いわゆる『原作通り』な展開も起こってしまっていたようだ。

 いないと思ったら……ミスリルに同行していたカナメちゃん、攫われていた。

 カリーニン少佐も、裏切って敵になってしまったらしい。

 

 その際に色々あったとのことで、宗助君の乗機は、それまで乗っていた『アーバレスト』から、最新鋭機である『レーバテイン』に変わっていた。戦力アップではあるんだろうけど、純粋にそれだけを喜べない状況だってのがどうもな……。

 

 それから、何か見慣れない人が……っていうか、肌青いし、絶対地球人じゃないだろって感じの人がいたんだけど……なんとその人、ガミラスの軍人だって。

 

 それ聞いてびっくりしたけど、すぐさま古代戦術長達から『彼女は今は俺達に協力してくれているから、問題ない』と言っていたので……まあ、そういうことなら問題ないんだろう。

 

 そのガミラス人……メルダ・ディッツ少尉は、ゆえあって一時的に、こちらに飛んできたガミラス軍の艦隊からは離反しているんだそう。

 

 あの時……もう2年以上も前になるが、ヤマトを牽引していたガミラス艦が、彼女とその上司の人が乗っていたそうで。

 『次元断層』から無事に通常空間に復帰したはいいものの、やってきたさらに上の上司……ゲール提督、とかいう名前らしいが、そいつが味方ごとヤマトを攻撃してきて……そのせいで上司さんが死んだとのことだ。

 

 なるほど、そんなことがあったんなら、上司に不満もたまるわな。

 

 加えて、この艦……ヤマトに乗って、乗組員達と交流を深めていくうちに、地球人に対して、単なる敵対する異星人という以上の感情を抱くようにもなってきたそうで。

 今では、立場上完全に打ち解けることはできないにせよ、肩を並べて戦う仲間として接しているとのことだ。彼女も、ヤマトのクルーたちも。

 戦闘になれば、彼女自身もあの赤く塗った戦闘機で出撃するらしいし。

 

 彼女には、僕があの『新西暦世界』の地球の出身(中身は違うけど)だってことも話しはしたが、今の話を聞かせてもらったわけであるので、こちらもなるべく色眼鏡で見ることはしない、と、言っておいた。

 ……まだ皆には言ってないけど、異星人とのコンタクトをとるのは、初めてじゃないのでね。

 

 そんな感じで、ひとまず情報交換を終えた僕らではあるが……それに加えて、もう1つ、話を聞くべき相手が残されていた。

 

 それは、一時的にアンジュとタスクと一緒に行動し、さらにあの次元震の影響でここに一緒に流されてくることとなった、あの『赤いパラメイル』その他の乗組員達。

 自らを『龍の民』と名乗る、サラマンディーネさん達である。

 

 彼女達からは、僕らや宇宙世紀世界組が持ってきた情報に負けず劣らずの重要な情報を聞くことができた。しかもたくさん。情報を整理するのが割と大変になるくらいに。

 

 彼女達『龍の民』は、はるか昔にこの『宇宙世紀世界』が一度滅びかけた時に起源を発する存在らしい。

 

 その時、地球はゲッター線に汚染されて、星の環境そのものが死んでしまいかねないほどの危機に陥っていた。『龍の民』はその時に決断を降し、自らの姿を龍に変え、その汚染を浄化しながら、外界には直接かかわることなく生きて行くことを決めたそうだ。

 

 しかも、ドラゴンが扱うエネルギーである『ドラグニウム』は、『ゲッター線』のことだったというのである。ドラゴンは、ゲッター線による汚染を除去し、環境を正常な状態に戻すことができる力を持っていたのだ。そんな設定だったのか……。

 

 ここ数年の間に、宇宙世紀世界の地球のゲッター線汚染が、想定よりも早く除去されていった理由も、ドラゴンが手を貸してくれていたからだったらしい。納得がいった、と言う風に隼人さんが頷いていた。

 

 そんな感じで生きていた『龍の民』だったが、ある日、その始祖である『アウラ』という存在が、エンブリヲによって連れ去られてしまった。

 ここでもアイツかよ……マジで諸悪の根源だな。

 

 そしてエンブリヲは、そのアウラさんをどこかに幽閉し、『始祖連合国』で使われている不思議パワーである『マナの光』のエネルギー源として利用しているというのだ。

 え、じゃあアレもゲッター線由来だったん? すげえな汎用性……。

 

 彼女達『龍の民』の目的、ないし悲願は、始祖アウラを救出・奪還すること。

 そして、この間の戦い――ミスルギ皇国でアンジュの処刑未遂の時のやつ――で、アウラがどこに捕らわれているかについても見当がついたそうだ。

 

 そこでアンジュも補足的に話に加わっていたが、ミスルギ皇国には、『暁の御柱』という、皇家が代々管理を担っている極秘の施設みたいなものがあるらしく、恐らくはそこにアウラは捕らわれている、とのこと。

 

 ……そう考えると、あの時のドラゴンの襲撃はもちろん、インベーダーが襲ってきた理由にも納得がいった。

 

 インベーダーは主にゲッター線を餌にしていたはず。しかし、並行世界である『西暦世界』では、ゲッター線の研究なんてものは進んでおらず、ゲッターロボが搭載しているようなゲッター炉も当然、ない。

 しかし、マナの光=ドラグニウム=ゲッター線なら……よりそのエネルギーが強い『始祖連合国』に、そしてその根源であるアウラがいる場所に惹かれてくる可能性は高いわけだ。

 

 アウラの居場所があそこである可能性が、また一つ大きくなったな。

 

 そして彼女達は、アウラ奪還のため、そして仇敵であるエンブリヲ打倒のためであれば、今まで戦っていた僕らとも手を取り合うつもりがある、とのこと。

 

 戦わなくて済むならそれに越したことはない。こちらの面々も、その提案を了承した。

 すぐに仲間として付き合うのは難しいかもしれないけど、それでも意味のある1歩前進だったんじゃないかな、と思えた。

 

 サラマンディーネさんは技術者としても優秀だそうなので(聞けば、彼女の乗っている『焔龍號』の作成にも携わってるんだとか。多芸なんだな)、心強い仲間になりそうだ。

 特に、彼女の技術を応用しやすいであろう、パラメイルのパワーアップに関して。

 

 ……もうちょっと早くそれが実現できてたら……クリスやエルシャ、サリアも無事にあの戦いを乗り切れたのかもしれないな……いや、やめよう、今考えても仕方ない。

 あの時点では、まだアルゼナルは……被害は多少受けてはいたけど、拠点機能はまだある程度は健在だったはず。無事に回収ないし救出されているであろうことを祈るしかない。

 

 次に西暦世界に戻れた時に、また無事に会えるといいな。

 ヴィヴィアンやミランダ、それに、口には出さないけど、ロザリーやヒルダも心配してるようだし。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 一方その頃、『西暦世界』。

 

 幸か不幸か、次元震に巻き込まれなかったミレーネルは、一旦アルゼナルを離れて、『サイデリアル』で確保している、極秘の工場の1つにいた。

 

 ここは、通常使用する製品を生産するための場所ではなく、ミツルやミレーネルが極秘に何かしらの作成・実験を行うためのスペースである。

 主に、『バースカル』でひな形を作った新兵器を、地球の材料で作り上げ、生産ラインに乗せる際の事前テストなどを行うための場だが……そこでミレーネルは、切羽詰まった表情でキーボードを叩いていた。

 

「恐らく、ミツル達の行き先は『宇宙世紀世界』……アンジュ達が前に飛ばされた時と、次元震の波形が一致していたから、そこは間違いない。それなら、身の安全はそこまで心配しなくていいわね……なら私がすべきことは、そこに飛ばされた彼らをどうやって助けるかの模索……!」

 

 システム上でトライ&エラーを繰り返し、目的としている、あるシステムを完成に近づけていくミレーネル。

 

 画面上には、素人目にはさっぱり意味の分からないコードの羅列と、流線型のボディを持つ戦艦のような『何か』の図面が表示されている。

 

「本来の運用用途とは違うんだけど、この際贅沢は言ってられないわね。『アスクレプス』をコアユニットに据えられれば一番よかったんだけど、Dエクストラクターでも代わりにはなる……後は、このシステムさえ完成すれば、並行世界間の移動もなんとか……」

 

 

 

「そうか、やはりあの機体は……次元を超える力を有した存在だったようだね」

 

 

 

「……ッ!?」

 

 自分以外誰もいなかったはずの部屋に、突如響いた声。

 しかも、より最悪なことに……ミレーネルはごく最近、その声に聞き覚えがあった。

 

 数日前の、アルゼナルを舞台とした戦い。そこで、スピーカー越しに聞いた、こちらの神経を逆なでしてくるような声。

 

 立ち上がって振り返ってみれば、殺風景な部屋の中心に……少し前までは絶対にいなかったはずの、深緑色のスーツと、長めの金髪、そして穏やかな……しかし、明らかに人を見下したような目つきが特徴の、1人の男が立っていた。

 

「あなたは……エンブリヲ……?」

 

「自己紹介の必要はないようだね。会えてうれしいよ……ミレーネル・リンケ女史。こことは違う世界、違う惑星から来た異邦人。君を……歓迎しよう」

 

 

 

 



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第37話 招かれざる客と、短かった平和な時間

 

「そう怖がることはないよ。私は君を迎えに来たんだ……限りない孤独の中、真に理解してくれる者が一人もいない中であえいでいる君を、救いたいと思ってね」

 

「おあいにく様……そういうの、もう間に合ってるから」

 

 頬を冷汗が伝う感触を覚えながら、ミレーネルは、悠々と歩いて近づいてくるその男……エンブリヲから、後ずさりして距離をとろうとする。

 しかし、すぐに今しがた自分がついていたシステムデスクに突き当たってしまい、それもかなわない。

 

 では、どうするか。

 一応、護身用の拳銃は懐の中にあるが、はたしてそれで、この……どうにもただの人間であるようにはどうしても見えない、こと得体のしれない男を倒せるのかどうか、わからない。

 

 そもそもこの男は、『サイデリアル』の社員さえ、限られた人物しか知らないこの施設に、しかも最高レベルのセキュリティを敷いているここに、一体どうやって入ってきたのか。

 

 考えても答えは出ず、焦燥ばかりが募っていく。

 そんな彼女の心の内を知ってか知らずか、エンブリヲの口からは、すらすらと耳聞こえのいい言葉ばかりが出てくる。

 

「ジル司令から聞いてるわ。この世界の『神様』だそうね……その神様が、こんなちんけな工場に一体何の御用?」

 

「神、という言い方は好きではないな。私はいわば、世界の調律者だよ。この世界を、あるべき姿に導き、正すこと……それが私の使命だ。君にはぜひ、それを手伝ってもらいたいと思ってね」

 

「……悪いけど、お断りよ!」

 

 2人の間の距離が2mを切ろうとしたところで、ミレーネルは思い切って拳銃を出し、瞬時に狙いをつけて……撃った。

 

 パァン、と乾いた音が響き、銃弾は予想に反して、防がれることも何もなく……エンブリヲの眉間に吸い込まれるように命中。

 驚愕したような表情で、エンブリヲは仰向けにどう、と倒れ込み……動かなくなった。

 

 予想外に呆気ない幕切れに、逆に困惑するミレーネル。

 しかし、これで終わってくれたのなら、それはそれで最善と言っていい。

 

 ふぅ、と安堵したような息をついた……その瞬間、

 

 彼女の額に、そっと触れるように……エンブリヲの手が触れた。

 

「!?」

 

「思っていたよりも行動的なようだね、少し驚いてしまったよ」

 

 瞬きほどの間に、ミレーネルの眼前で、全く理解できないことが起こっていた。

 

 先程まで確かにそこにあったはずの、エンブリヲの死体は、忽然と消え――血の跡すら残っていない――傷一つない状態となったエンブリヲが、目の前に立っていた。

 ぽん、と気味が悪いほどに優しく頭に乗せられているその手は、幻影でも錯覚でも何でもない。れっきとした生身の人間の手だ。

 

「だが、私の協力者となるのなら、もう少しおしとやかで、聞きわけがよくなくてはね」

 

「誰がっ……っ……!?」

 

「救ってあげよう……君のその孤独を。私が君の友となることでね……彼女達のように」

 

 次の瞬間、エンブリヲの手を解して、ミレーネルは何か得体のしれない力が、頭の中に干渉してくる感触を感じていた。

 それは、まるで彼女の意識を塗り替え、ないし書き換えてしまうかのような……今の今まであったはずの嫌悪感や敵対心が、全く逆の、好意的な感情に置き換えてしまわれるような……

 

(……っ……ふざけるな! こんなもの!)

 

 ほとんど本能的にその『何か』の危険さに気づいたミレーネルは、思念波を全開にする。

 

 自分の脳内に干渉しようとしてくる、その力にさらに干渉することで抵抗し、それが拮抗している間に、力任せに放った思念波によって、押し流すように干渉をはじいて無効化した。

 

 これにはエンブリヲも驚いた様子で、一歩後ずさって、不思議そうに今弾かれた自分の手と、ミレーネルを交互に見ていた。

 

「驚いたな、私の力をはねのけるとは……」

 

「ハァ……ハァ……あいにくだけど、精神干渉系は私のホームグラウンドなのよね。洗脳しようったってそうはいかないわよ。私の何を利用するつもりだったのか知らないけど……あんたには、何一つ……渡しはしないんだから!」

 

 かなり強力な力を使ったがゆえの反動か、息を荒くしているミレーネルは、そう言うなり、デスクの上に乗っていたPCについている、何だかいかにも危険そうなスイッチを、叩くようにして押し……その瞬間、モニターが一瞬にして暗転し、ハードディスクから煙が吹き上がった。

 

「……! データを消したのか」

 

「あんたみたいな連中には渡しちゃいけないデータが多いからね……いざと言う時の備えは、普段からしてあったのよ。データも……私もね」

 

 そして次の瞬間、今度はミレーネルは、胸のあたりに着けていたブローチのような飾りを操作し……

 

 

 ―――ドガァァアアァアン!!

 

 

 いつかの時と同じように、自爆した。

 彼女本人が隠し持っていた爆弾だけでなく、この工場自体にも仕掛けていた、機密保持用の爆弾を起爆させて、全てを瓦礫の山の中に葬り去った。

 

 しかし、どういう手品を使ったのか……それを平然と外から眺めているエンブリヲが、工場から少し離れた開けた空き地にいた。

 

「やれやれ、気難しい子だ……怒らせてしまったようだな。死んではいないのだろうが、追跡は……無理か」

 

 先の戦いの中で、今までに見たことがない種類のシステムやエネルギーを使っていると思しき機動兵器『アスクレプス』と『アンゲロイ』を目にし、その存在が少し気になっていたエンブリヲ。

 

 その持ち主の1人であるミツルは、他の独立部隊のメンバーと共に『宇宙世紀世界』に行ってしまっていることや、そもそも彼は男性より女性の方を近くに置きたい性質であることから、西暦世界に残ったミレーネルの元に現れたのだった。

 

 しかし、逃げられたら逃げられたで、なんとしても追跡して手に入れようというほどには執着していないらしく、ため息を1つついて、その場から立ち去ることに決めた。

 

 ……その間際、ふと思いついたように、

 

「精神干渉が得意分野の異星人か……しかし私の予想通りなら、私の力を弾くまでのものではないだろうと思ったが……読み違えたか?」

 

 あの時、エンブリヲによるミレーネルの精神への干渉は、彼女の抵抗を押しのけて深層へ届こうとしていた。

 しかし、突然彼女の中で、エンブリヲの力をもってしても押し切れないほどの、よくわからない……それこそ、不自然に思えるほどの力が膨れ上がり、干渉をはねのけたのだ。

 

 必死だったがゆえに、彼女自身それに気づいているかは怪しいところだが、エンブリヲはそれが気にかかっていた。

 

 が、すぐに気にしないことにして……次の瞬間には、掻き消えたようにその場からいなくなっていた。

 

 

 

 そして、間一髪難を逃れたミレーネルはというと……前回同様、『バースカル』にリスポーンしていた。

 

 用意していた新しい体に乗り換え、そのままここにとどまって研究を続ける。

 

「全く、あの変なののせいで時間ロスした……でも、完成は見えてる。もう少しね……もう少しで……ミツル達を迎えに行ける」

 

 バースカルのコンピュータに向かって、途中まであの工場で形作っていたシステムを、いよいよ完成させにかかっていた。

 

 モニターには、あの工場と同じ……しかし、より詳細な構造が記された図面が浮かび上がっていた。

 

 そして、その図面と同じ形をした『戦艦』が……ドックの外の空間、建造用ドローンがせわしなく動き回るそこで、形作られつつあった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

【□月☆日】

 

 ホントに何というか、この世界は人をゆっくりさせてくれないんだな、って、今実感している所である。

 

 つか、こんな頻度でトラブルが起こるような魔境じみた場所を、独立部隊の皆さんは渡り歩いてきたのか……マジで尊敬する。

 

 情報のすり合わせも終わり、ひとまず補給もどうにかなったので、次にどうするかを決めるまでは休息の時間にしようということで、僕らはここ、第三新東京市で休んでいた。

 

 その間、交流もかねて色々な人達と話した。

 変な言い方だけど、僕は特に、今まで独立部隊の皆とは、『補給係』としてしかほとんど付き合いがなかったし、その意味じゃ、僕のことを知らない人も、全員合流した状態のこの部隊にはかなり多い。もちろん同じく、僕『が』知らない人も多い。

 

 例外的に、アルゼナルでは僕も割と長期滞在してたから、その時一緒にいた人達とはかなり深く知り合ってるけども……その逆で、ここ『宇宙世紀世界』で出会って、ここから西暦世界には来なかった人達なんかとは、ほとんど知り合いじゃないわけだ。

 エヴァチームやマジンガーチーム、合流後のゲッターチームや、ロンド・ベルなんかの。

 

 あとは、これは僕に限った話じゃないけど、ごく最近仲間に加わったってことで、サラマンディーネさん達『龍の民』なんかもそうだな。

 

 そういう人達とも……まあ、一部は仕事人間だったり、共通の話題が見つからなくて話が進まなかったりしたけど、割と仲良くなれたと思う。

 

 特に向こうから積極的にアプローチ?してきてくれたのは、サラマンディーネさんと、NERVの葛城ミサトさん、あとは、ヤマトのクルーだった。

 

 ヤマトのクルーは、以前一度、『火星極冠遺跡』での戦いの直前、宇宙で補給物資を届けた時に知り合ってはいるものの、あの時はホントにほぼ最小限のやり取りで分かれてしまった。

 話せた相手と言えば、ほぼ沖田艦長と真田副長くらいだったので、時間に余裕があって話せる+僕が同じ世界の出身だってことを知って、話してくる人も多かったのだ。

 

 話してみると割と気のいい人ばかり、砕けた感じの人が多くて。

 戦術長の古代さんを筆頭に、『しばらくは一緒に戦うわけだから、これからよろしく』って感じで仲良くなった。

 

 戦闘機チームの加藤さんとかは、かなりプロ意識強めの人だったので、挨拶はしつつも、まだ見極められてる最中、って感じだったけど。

 

 あと、クルーと言っていいものかは微妙だけど、メルダさんとも話した。

 彼女はある意味、あの『次元断層』での戦いの時に一緒に戦った(僕はほとんど棒立ちでヤマトを守ってただけだけど)間柄でもあるので。

 

 それにどうやら彼女、順調に地球の文化に毒され……もとい、馴染んでいるらしく、特にパフェとか甘味が大好物なんだとか。

 ふむ……NERV関連で子供も増えたし……次の補給物資はお菓子類を多めに見ておこうか。

 

 そのNERVの葛城ミサトさんは……どうやら、スメラギさんやマオさんから、僕のことをよく聞いていたらしい。

 どうしてその2人の名前がわざわざ上がったのかは……まあ、考えるまでもないか。

 

 案の定、『ハムの人』ならぬ『ビールの人』扱いをされていたため、『これからよろしくね! 主に補給物資の面で!』とまあ、満面の笑顔で……はいはい、お酒仕入れてきますよ、多めに。

 まあ、残念ながら僕は今回、アスクレプスとこの身1つで流されてきた状態だから、補給はできないけどもね。どういうわけか、この世界からだと『バースカル』にも飛べないようだし。

 

 そして最後にサラマンディーネさんだが……どうやら彼女は、技術者としての立場から、僕の『アスクレプス』に興味があるようだ。

 

 自分達の乗る『龍神機』――あのパラメイルに似た機体の名前というか区分らしい――と同じように、『次元』に関係するエネルギーを使っている機体だからとして。

 まあ、残念ながらその全てを話す、ないし公開するわけにはいかないんだけども、僕も多少なり技術分野に関する話はできる。この2年以上の間に、勉強したからね。

 

 聞きたい部分全部は聞けなかったようで、そこは残念にしてたけど……今度、資材や時間に余裕がある時に、さらに機体を強化できそうだってことで、有意義な時間を過ごせたようだった。

 僕としても同感である。彼女達の機体に関するテクノロジーや知識は参考になった。

 

 そんな感じで、つかの間の休息を楽しんでいた(過去形)んだけども。

 

 突如、NERVの警報が鳴り……敵の襲来が告げられた。

 それも、部隊の警報じゃなくて、『特務機関NERV』としての警報、ってことは……相手は、使徒。この世界を滅ぼしかねない、なんとしても討伐しなければならない存在である。

 

 が、すぐに出撃することはできない、とのこと。

 

 その理由は……今回の使徒が、宇宙から来ているから。

 

 ってことは、あの受け止める奴かぁ……このタイミングで厄介なのが来たなぁ……!

 

 

 

 



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第38話 覚醒

「やめろ、やめるんだジョー! こんなことをしている場合じゃないんだ!」

 

「泣き言など聞くと思うな、旋風寺舞人! 今日こそ俺が、お前と、お前の語る正義を倒す!」

 

「クソが! この非常時にどいつもこいつも余計なことばっかりしやがって!」

 

「うっさいわね、あたしたちだってやりたくてやってるわけじゃないのよ今回は!」

 

「思惑に乗らねば、この行く当てもないような世界で放逐され、帰れぬやもしれん……となれば、致し方なし!」

 

「悪く思ってくれるなよ、マイトガインとその仲間達!」

 

「思うに決まってんでしょうが! ああもう、腹立つ!」

 

 第三新東京市。

 対『使徒』の戦場となる……と思われていたそこは今、混沌極まる戦いの場となっていた。

 

 宇宙から『落ちてくる』使徒迎撃のため、3機の『エヴァシリーズ』と、火力の要である宇宙戦艦ヤマトを中心に、当初は布陣していた。

 落下してくる使徒に対し、ヤマトの集中砲火によってその勢いを殺し――『ATフィールド』があるため、それで破壊することまではできない――そして落ちてきた使徒を、エヴァ3機が受け止めて倒す、という作戦だった。

 

 しかしそこに、西暦世界にいるはずのエンブリヲが、『DG同盟』の機体群を率いて現れ……こともあろうに、こちらの作戦の妨害をし始めたのである。

 

 『DG同盟』は、ここが自分達のいた世界とは別な世界であると認識すると、ここでエンブリヲに逆らえば帰れなくなるかもしれないと考え、その命令通り攻撃を開始。

 やむなく独立部隊も機動部隊を発進させ、これを迎え撃つ。

 

 特に『エースのジョー』は、『マイトカイザー』に乗って舞人が出撃すると、常と同じように敵意をむき出しにして襲い掛かる。1つの世界の存亡がかかった作戦の最中であることなど、知らないとばかりに、一方的に。

 

 上空では、ドラゴンとグレートマジンガーが現れ、少しでも使徒を足止めしようと戦ってくれている。しかし、あまりにも質量的に巨大な上に、やはり『ATフィールド』に阻まれて効果は薄いとのこと。

 

 短時間でジョーを含む『DG同盟』を片づけて作戦を開始しなければ危ない。持てる全ての戦力を持ちだし……当然、アスクレプスも出撃して戦っていた。

 

 しかしそれを嘲笑うかのように、再び、今度は自らの機体である『ヒステリカ』に乗って現れるエンブリヲは、地上と上空の両方に『ピレスロイド』……ミスルギ皇国で使われている、円盤型の無人兵器をばらまくように投入し、妨害をよりひどいものにした。

 

 NERV本部にあるマザーコンピューターである『MAGI』の算出する、この作戦の成功確率……当初は50%だったそれが、どんどん下がって行く現状に、本部では悲鳴が上がっていた。

 

 さらに、泣きっ面に蜂とばかりに異常事態は続く。

 突如としてヤマトの機関室に侵入者が出現したのだ。

 

 それは保安部によって倒されたものの、その者が行った細工によって波動エンジンが動作不良を起こし、出力が上がらなくなってしまう。かつての『次元断層』の時のように、攻撃はおろか、自力での航行も、波動防壁による防御もできなくなってしまった。

 

 その不調もすぐには直せない。火力の要であったヤマトが動けなくなったことで、いよいよ絶望的になり始めた状況の中……それでも妨害をやめないジョーと『DG同盟』に対して、舞人や総司、ミツルが吼えて……冒頭に至る。

 

 無人機はものの数ではないし、DG同盟の攻撃にも対応できてはいるが、今回の戦い、時間は自分達の敵なのだ。

 

 しかもここにきて、

 

「エンブリヲぉっ!? あんたは……余計なことばっかりして!」

 

「ふふっ、このような状況でもその闘志はゆるがない……やはり君はいいな、アンジュ」

 

「気持ち悪いことを言ってんじゃないっ!」

 

「アンジュは俺が守る!」

 

「出てきたのなら好都合……今度こそ、ここでッ!」

 

 ついには前回のアルゼナル出の戦い同様、自分も『ヒステリカ』で参戦を始めエンブリヲに対し、アンジュ、タスク、サラマンディーネが3人で応戦しようとする。

 

 が、カスタム機とはいえ所詮は量産機の派生に過ぎないタスクはまるで相手にならず、アンジュとサラマンディーネも防戦一方だった。

 

 するとそこに、かつては敵だった巨大な角の黒い龍……『ビッグホーンドラゴン』が現れる。

 彼らは直接攻撃したり、重力を発生させて『ピレスロイド』や、DG同盟の機体を動けなくして墜落させるなどの形で、先程から加勢してくれていた。

 同様にして、エンブリヲにも重力をかけて動きを封じようとしたのだろう。

 

 しかし、それでもエンブリヲの『ヒステリカ』を止めることはできず、むしろその妨害で邪魔だと思われたのか、エンブリヲの矛先はビッグホーンに向いた。

 

 手にしたビームライフルが放たれる。

 その威力はパラメイルのライフル(実弾)とは比較にならない威力で、たったの数発当てただけで、ドラゴンの中でも特に大型であるビッグホーンに致命傷級のダメージを与え、重力攻撃の要である角もへし折れてしまった。

 

 そのままトドメを刺そうとしたところに、

 

「やらせません!」

 

 仲間の危機を救おうと、サラマンディーネが『焔龍號』で突貫。それを追う形でアンジュも飛びかかって剣を振るうが、軽くあしらわれてしまう。

 その強さは、先の戦いでは手を抜いていたのだと実感するには十分なもので。

 

 苦戦するアンジュを助けようと、タスクがアーキバスで援護に向かうも、

 

「君に用はないのだよ、私とアンジュの語らいを邪魔しないでくれるかな? ……失せたまえ」

 

 ヒステリカの頭部にある、女神像のようなパーツから細い、しかし高い貫通力を誇るらしいビームが放たれ、タスクの乗るアーキバスの装甲を貫いて反対側へ抜けた。

 コクピットを狙った一撃だったそれを、間一髪で交わしたタスクだったが、背中の推進機関がダメージを受けたのか、機動性ががくっと下がり、次の動作に続かない。

 

 その直後、振るった剣でアンジュとサラマンディーネをはじき飛ばしたエンブリヲは、トドメの一撃を叩き込もうと、タスクの乗るアーキバスにビームライフルを向けるが、その直後に自分目掛けて飛んできたエネルギー弾を察知してそれを回避した。

 

「おや、誰かと思えば君か」

 

「タスク、下がれ! こいつは僕が引き受ける!」

 

 ブレードを薙ぎ払うように振り抜きながら突貫してくる白い機体……アスクレプス。

 それに乗るミツルに、『すまない……!』と悔しそうな声で返したタスクは、護衛として駆けつけてくれたミランダに付き添われて後ろに退いていく。

 

 二刀流で斬りかかって息つく暇のない連撃で攻めるミツル。それを1本の剣と、機体の小ささと機動性を生かした動きでさばききりながら、エンブリヲは余裕そうに語り掛ける。

 

「なるほど、以前よりもさらに剣のきれが増しているな? 大したものだ、この短期間で……戦いの中で成長するタイプなのかな?」

 

「そんな正統派主人公じみた属性持った覚えはないけども……ねっ!」

 

 剣2本を弾かれた状態で、自分に向けられるビームライフル。

 そこから放たれたビームはしかし、アスクレプスの表面に張られたD・フォルトを貫くことはなく、斜めに受けて表面を滑るように後ろに逸れていく。

 

「やはり、守りは相当に堅牢だな……攻撃面の脆弱さから見て、不自然なほどに」

 

 そのまま加速してヒステリカを蹴り飛ばすが、腕のビームシールドで受けられたため、ほとんどダメージは通らなかった。

 

 ヒステリカは、後ろに押し込まれながらも体勢は崩さない。

 すぐさま空中で姿勢を正すと、『ではこれはどうかな?』という言葉と共に……ヒステリカの方のパーツがスライドして展開した。同時に、エンブリヲの聞きたくもない歌声が聞こえ出す。

 

 あのやばい竜巻みたいな武器……『ディスコード・フェイザー』がくると直感したミツルだが、その射線上に、町や他の戦っている機体が見事に含まれているのを確認して舌打ちした。

 

「避けたら全部巻き込まれるってか……あの野郎……」

 

「下がってミツル、私達がやるわ。サラ子!」

 

「ええ!」

 

「おい待てアンジュ! お前らがあれで受けたらまた次元震が発生するんじゃないのか! それだとこの辺り一帯が最悪転送されるぞ!」

 

 前回のアルゼナルでの一件を思い出した総司が割り込んでそう言うも、

 

「それしか手はないでしょ! 皆手塞がってるし、こっち来てもらうにしても、時間がない!」

 

 あの火力に対抗できるであろう武装は、戦艦クラスの兵装か、スーパーロボットに搭載されているもの……真ゲッターのゲッタービームや、マジンガーのブレストファイヤーくらいだろう。

 しかし、それらいずれも離れたところにいて、既に発射準備に入っているエンブリヲの攻撃を受け止めることはできない。

 

 戦場に響き渡るアンジュとサラマンディーネの歌声。それに応えるように、ヴィルキスと焔龍號も変形し、エネルギーが収束していく。

 

 そして、両方から放たれる次元を破壊する竜巻は、衝突してどうにか相殺された。

 

 が、危惧した通りにその衝突は次元震を起こし……しかし今回、周囲を巻き込んだ転移は起こらなかった。

 その代わりに、とでも言えばいいのか……

 

「これは……!?」

 

「どうしたんですか、ハリー君?」

 

「次元震を中心に……ボース粒子反応!? 何かがここに転移してきます!」

 

「え、ボソンジャンプで!?」

 

 こちらが飛ばされるのではなく、その次元震の向こうから、何かが現れた。

 

「何だ、あれは……?」

 

「戦艦、みたいに見えるけど……」

 

 ヤマトの艦橋からその光景を見ていた古代と森が、思わずと言った様子で呟いた。

 

 現れたのは、緩い流線型のフォームにいくつもの装甲を装着した、戦艦のような何かだった。

 ヤマトやナデシコ、ラー・カイラムやネェル・アーガマなど、自軍部隊のどの戦艦とも異なる造形をしているそれは、何の前触れもなく表れて周囲を驚かせたが……次の瞬間、その戦艦から、オープンチャンネルで聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「よし、成功みたいね……ミツル! 皆! まだ無事!?」

 

「その声……ミレーネル!?」

 

「え、ミレーネルさんって……」

 

「ミツルの秘書か!? なんだってそんな戦艦……戦艦? に乗ってんだ!?」

 

「ミレーネル! それ『アルデバル』だよね!? いつの間に完成させたの!?」

 

 ミツルが割り込んで言って来た言葉通り、それは、ミツルの中では、『バースカル』で建造中の、しかしまだ完成していないはずの機体だった。

 

 高機動戦艦『アルデバル』。

 アンゲロイなどと同じく、アスクレプスの中のデータバンクに設計データが残っていた、ある並行世界で使われていた兵器。

 

 その世界において、銀河最凶の戦闘狂集団『ハイアデス』が運用していたそれは、操縦者と機体を直接つなげることによって、機動兵器に匹敵する機動性を発揮する機体であり、なおかつ1人で動かすことができるという、戦艦としては破格と言う他ない性能を持つ。

 もちろん戦艦として、機体を搭載・運搬したりすることも可能という汎用性の高い機体だった。

 

 欠点として、単独もしくはごく少人数での運用を前提としているため、武装はシンプルで数も少ないのだが、その分を装甲などの強固さに回しているため、多少どころでなく無茶な運用にも耐えうるという形になっていた。

 また、上記の通りの操作方法ゆえに、乗員の体にもコネクタ等を埋め込む外科的処置が必要なのだが、ミレーネルは『ゴーストリンク』の応用でそれをせずに運用を可能にしている。

 

 動力には『Dエクストラクター』を用いており、機体は8割方完成、その制御システムの構築を残すのみ、という状態までは進んでいたはず、とミツルは記憶していた。

 

「ここ数日超がんばって突貫でなんとかね……いやそれは今は置いといて、ええと……ウリバタケさんから聞いてるけど、とりあえず修羅場ってことでいいのよね?」

 

「はっ? なんでそこでウリバタケのおっさんの名前が出て……いやまあ、合ってるけども」

 

「この『アルデバル』なら、パラレルボソンジャンプにも耐えられる強度があるからね……お届け物を持ってきたのよ。じゃ、ハッチ展開! 行っといで!」

 

「舞人! すまない、待たせたな!」

 

「っ!? その声は……」

 

 アスクレプスの隣まで飛んできてから、アルデバルの後方に着けられていたハッチが開き、そこから……修理を完了して復活したガインと、ロコモライザーが姿を現す。同時に、舞人が乗る戦闘機も無人操縦でマイトカイザーの元へと飛んでいった。

 

「ガイン、復活したのですね」

 

「ああ、遅くなって済まない、アル。そちらも新しい力を手に入れたようだな……また共に戦えることを嬉しく思うぞ!」

 

「同感です。遺憾ながら余裕がありませんので、今はこのあたりで。彼が待っています」

 

 AI同士の語らいを切り上げ、戦闘機に乗り換えた舞人の元に急行するロコモライザー。

 そして皆の視線が集まる前で、待ちに待った光景が……マイトガインの復活が実現した。

 

 その場にいた全員が歓喜に沸き、士気も高まるが……無粋と言うには酷ではあるが、その空気に盛大に水を差す言葉が続けて叩きつけられた。

 

「急いでください! 使徒到達予想時刻まで残り5分を切りました!」

 

 もはや悲鳴そのものといった、NERV本部の伊吹マヤからの声が戦場に届き、独立部隊の面々は改めて、帰ってきたマイトガインと共にその脅威に立ち向かおうとする……のだが、

 

「ようやく本来の力を取り戻したようだな……それでこそ俺が決着をつけるにふさわしい相手だ、旋風寺舞人!」

 

「ジョー! お前は、まだそんなことを……今の話が聞こえなかったのか! もう本当に時間がないんだ、この作戦に失敗すれば、この世界が滅ぶんだぞ!」

 

「世界がどうなろうと関係ない! 俺の使命はただ一つ、お前を、正義を打ち倒すことだけだ!」

 

 そこにさらに、

 

「絶体絶命の危機に駆けつける仲間、か……ふっ、素晴らしく陳腐な演劇をありがとう。お返しと言ってはなんだが、私からそこに花を添えてあげよう」

 

「「きゃあぁぁああっ!?」」

 

「っ!? ナーガ! カナメ!」

 

 隙を突かれてか、エンブリヲの攻撃により、サラマンディーネに随伴して戦っていた2人……その乗機である『蒼龍號』と『碧龍號』が撃墜されて落ちて行く光景に、サラマンディーネは息をのみ……それをやったエンブリヲを殺気を込めて睨みつける。

 

 しかし、そんなものはどこ吹く風と言わんばかりに、エンブリヲは時空をゆがめ……さらに手勢を召喚してきた。

 

 今度はピレスロイドだけではなく、『始祖連合国』で使われている、モビルスーツを主軸とした無人機部隊も加わっている。

 しかもその中には、『火星の後継者』や『ガーディム』の機体、さらにアマルガムが使う『AS』までもが混じっていた。

 

「何だありゃ、なんであの野郎、ASを!?」

 

「ガーディムの機体もか……大方、鹵獲するか何かしたのを改造して使ってんだろうさ。こないだのボンクラ皇帝といい、節操のねえこった」

 

 困惑するクルツに対し、『奴らならやりかねない』と総司はそう当たりをつける。

 それに答えることはなかったが、エンブリヲはそれらに『行け』と指示を出し……先程までと同じか、それ以上の大混戦が再び始まった。始まってしまった。

 再び自軍部隊の手はそれらの迎撃にとられ、ヤマトやエヴァ3機の防衛にもろくに手が回らなくなる。

 

 エースのジョーは相変わらず舞人と決着をつける姿勢を崩すことはなく、DG同盟は。彼らは彼らで必死になってではあるが、こちらに向かってくる。

 そして、遊び半分としか思えない軽い態度で攻めてくるエンブリヲ。アンジュとサラマンディーネがどうにか2人がかりで止めているが、それも本気でないがゆえだろう。

 

 これでは使徒の迎撃に到底間に合わない。

 もはや絶望的かと思われたその状況の中……

 

 

 

 ―――ぶちっ

 

 

 

 何かが切れる音を、ミレーネルは聞いた気がした。

 機体の位置的にも、そして人間同士の距離的にも、『彼』と一番近くにいた彼女が、それに一番最初に気づいた。

 

 そしてそれに少し遅れて、ニュータイプとして高い精神勘能力を持つアムロやカミーユ、ジュドーやバナージが、次々とそれを感じ取って行く。

 

「な、なんだこの……凄まじい……怒り?」

 

「これは……こんなにも大きな感情を、1人の人間が発せるものなのか……!?」

 

 戦場に滞空し、不気味なほどにぴくりとも動かない、アスクレプス。

 その中に乗っているミツルが発している……途方もない怒気を。

 

「どいつも……こいつも……」

 

 先程までも、妨害に次ぐ妨害でただでさえ苛立ってはいたが……次元震の向こうから現れたミレーネルと『アルデバル』の衝撃、さらにそこからのマイトガイン復活と言うイベントで、一旦忘れたように蓋をされていたその怒り。

 

 しかし、エンブリヲのさらなる妨害と嘲笑、こちらの話を聞かずに襲ってくるDG同盟やエースのジョー。倒れて行く仲間達。

 世界の危機を前にしてそれでもふざけたことをやめようとしない彼らのふるまいを、それによる犠牲を前にして、蓋をしていた怒りが再燃し……一気にメーターを振り切った。

 

「どいつも、こいつも……この非常時に馬鹿ばっかりしやがって……! そんなに……そんなに、この世界を滅ぼしたいか……!」

 

「おや、怒ってしまったかな? ふふっ、優しいことだ……だが、君にはわからないだろうが、そうまでして守らなければならないほど、価値のあるものでもないよ、こんな世界など」

 

「それはあんたが決めることじゃないでしょうが!」

 

「世界1つの行く末すら軽んじるその傲慢……伝承の通りですね、調律者を語る悪漢よ!」

 

 反論するアンジュとサラマンディーネ。

 

 しかしその時、彼女達を含め、それぞれの機体に乗って戦場に立っていた者達全てが……それこそ、マイトガイン以外眼中に入っていなかったジョーや、余裕の笑みを浮かべていたエンブリヲすら含め、全員が異変に気付いて手を止めた。

 

 何もせず、ただ空中に浮かんでいるだけになっていた、アスクレプス。

 それを中心に……凄まじいエネルギーが渦巻いていることに。

 

「な、何だこのエネルギーは……今までのアスクレプスとは、まるでけた違いだぞ?」

 

「いや、桁違いなんてレベルじゃないわ……こんなの、戦艦に匹敵……いや、それ以上の出力よ」

 

「まだ、これほどの力を隠していたのか? いや、そんな素振りは微塵も……」

 

 ヤマトの艦橋でその様子を観測している南部や新見、真田が困惑して言っている前で、一体何が起こっているのか……あるいは、これから起こるのか。

 それを見逃してはならないと、沖田は、長年の経験から直感し、目の前で澄んだ緑色の光を放ち始めるアスクレプスを凝視していた。

 

 そして、その眼前で……その時は訪れた。

 

「そんなにかまってほしけりゃ……全員まとめて相手してやるよ……!」

 

 あふれ出した光の中で、『アスクレプス』はその身を変容させる。

 

 装甲の一部が変形し、あるいはパージされ、僅かに細身で引き締まった印象を受ける形になり、

 

 顔を隠していた赤い仮面のようなパーツがはがれ、その下に隠されていた顔と、鋭く光る2つの目があらわになり、

 

 下向きに折りたたまれていたユニットが上向きに展開され、緑色の光……『次元力』で構築された、三対六枚の翼が展開。さらに背後に光背のごとき光輪が現れたその姿は……不思議な神々しさを感じさせる異様な存在感を振りまいていた。

 

「何だ……それは……?」

 

 余りの出来事に……明らかにこけおどしとは違う、謎の変容を遂げたアスクレプスを前にして、エンブリヲすらも呆けた様子で、思わずと言った様子でそう問いかけた。

 

 が、その問いにまともな答えが今更返されるはずもなく、

 

 

 

「閉じた世界で神を気取る、もの知らずで哀れな愚者……お前を、今ここで救済しよう。その力を示せ……『ヘリオース』!!」

 

 

 

 その操縦席で、白かったはずの髪が、鮮やかな『金色』に染まったミツルが咆哮。

 暴虐的なまでの力を持つ、太陽の化身が……とうとう顕現し、そして動き出した。

 

 

 

 




おまけ 今回出てきた機体について

【アルデバル】

元ネタは『第三次スパロボZ』に出てくる敵勢力のユニット。
戦艦ゆえに全長500mを超える巨大さながら、その特殊な操作機構と設計思想から、機動兵器ばりの起動性能と戦艦の火力を併せ持つ機体。
敵を発見したらまず砲撃、倒せなければ突撃という攻撃一辺倒の戦闘スタイルを得意とするが、運用する部隊『ハイアデス』が、揃いも揃って好戦的極まりない『戦闘集団』であることもあり、戦闘になると砲撃や光子魚雷をぶっ放しながらあえて敵の戦闘レンジに突っ込んでいく。
性能のみをきちんと見れば高性能な機体なので、この世界では普通に戦艦として運用するつもりで作られた。動力に次元力を使っているため、スペック自体はオリジナルよりも上なのに加え、ボソンジャンプ等の機構が追加で搭載されている。


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第39話 降臨せしは太陽の子

「あれは……何だ……?」

 

 ヤマトの艦橋で沖田艦長がつぶやいたその言葉は、その光景を目にしていた者達、およそ全員の心の内を代弁するものだった。

 

 ヤマトのクルーのみならず、自軍部隊の全員……いや、DG同盟やエースのジョー、それこそ、エンブリヲをすら含めた『全員』だ。

 

 戦闘の途中で、変形して姿を変える機体というのなら、他にもいる。

 3人のパイロットに合わせて3つに姿を変える『真ゲッター』をはじめ、ダイターン3やユニコーンガンダムもそうだ。

 合体機構を『変形』に含めるなら、マイトガインやザンボット3もそれに該当するだろう。

 

 しかし、同じような『変形』ではあるのだろうが、果たしてそれだけなのか……という疑問が頭に浮かんでしまう。

 それほどまでに、今、目の前に顕現している存在は……何かが違った。

 

 先程まで『アスクレプス』という名の機動兵器だったそれ。

 通信越しに聞こえたミツルの言葉によるなら、『ヘリオース』という名前らしいその機体は、あらゆる意味で単なる変形とは思えない、異質な存在感を放っていたのだ。

 

 それと正面から相対しているエンブリヲは、それでもなお、余裕そうな姿勢を崩すことはない。

 上から目線で、尊大な態度のまま―――

 

「それが君の真の力かい? なるほど、凄まじいエネルギーだ、興味深い。一体その―――」

 

 

 ―――メキャッ

 

 

 最後まで言うこともできないまま、

 ヒステリカのその顔面目掛けて、ヘリオースの拳が叩き込まれた。

 

 その直撃から一拍遅れてヒステリカは地面と平行に吹き飛んでいく。

 砕け散った頭部のパーツや、女神像の破片をまき散らしながら、姿勢制御もできず、縦横に盛大に回転しながら。

 

「なんッ―――」

 

 しかし、エンブリヲが体勢を立て直すよりも、何かを言うよりも早く、

 

 その飛んでいった方向に、凄まじいまでの加速で既に回り込んでいたヘリオースが、今度は両手に持ったブレードを振るう。

 

 どうにか体勢を最低限立て直したヒステリカが、こちらも抜き放った剣でそれを受けるが、先程までであれば、剣1本で余裕をもって対応できていたものを、今度はものの数秒と持たずに大きく弾かれて体勢を崩す。

 

 そこに叩き込まれるのは、今度は剣を振り抜いた勢いそのままに回転して放たれた、飛び後ろ回し蹴り。機体を『く』の字に折り曲げて、ヒステリカは飛んでいく。

 

 しかし次の瞬間、

 

「―――スクランブル・エッジ……!」

 

 次元力で形作られた6枚の翼。それがきらめいたかと思うと……消えたかと思うほどの加速で飛び出したヘリオースは、瞬きほどの間に四方八方から連撃を浴びせて、ヒステリカを上へ、上へと叩き上げ、はじき飛ばしていく。

 

「っ……いくらなんでも、調子に―――」

 

「うるさい」

 

 何かを言おうとしたらしいエンブリヲを踵落としで黙らせ、コンマ1秒後にブレードでヒステリカの頭を縦に両断しながらカチ上げる。

 

 が、今度はヒステリカはあえてその攻撃の勢いを利用して加速することで距離を開ける。

 それと同時に、どうやら指示を出してけしかけたらしい無人機部隊がヘリオースに殺到する。それらの相手をしている間に、ヒステリカは一瞬にしてその機体を再生させた。

 

「っ……ダメージが直った!?」

 

「あの機体、いったいどんなカラクリを……」

 

 地上近くから、先程までとは一変した『ヘリオース』の猛攻に唖然としていたアンジュ達だったが、ものの数秒でヘリオースは無人機部隊を、その双剣の乱舞によってスクラップに変え、上空から見下ろしてくるヒステリカに向き直った。

 

 数十を超える連撃で叩き込んだはずの傷が1つ残らずなくなり、頭部の女神像も光沢を放って鎮座している、新品同様の見た目。その機体から、落ち着いた風ではあるが、僅かに苛立ちのこもった声が聞こえてくる。

 

「なるほど、その力、見掛け倒しではないようだ。興味深くはある……しかし、少しばかりいい気になり過ぎのようだね。一度君には、身の程というものを教えてやる必要がありそうだ」

 

 肩のパーツが展開し、今再び『歌声』が響きだす。

 またしても『ディスコード・フェイザー』が、それも、先程アンジュ達が相殺したものよりもさらに大出力のそれが放たれようとしていると、戦場を観測しているマヤから、通信越しに報告が上がった。

 

 計測できたデータを前にして青ざめつつも、アンジュとサラマンディーネはもう一度それを相殺すべく前に出ようとするが……ミツルはそれを手で制した。

 

「必要ない……下がってて」

 

 そう一言だけ言うと、ミツルは精神を集中し、ヘリオースの動力を全開にして膨大な『次元力』を生み出し始める。

 

 それは、まるでオーラのようにヘリオースの周囲に収束して揺らいでいた。

 暖炉の炎のように温かく優しいものにも見えるが、一方でどこか底知れぬ、恐ろしい力にも見える……とてもなじみ深くもあり、全くの未知なる存在でもあり……そんな、まさしく『よくわからない』としか言えない力。それが、凄まじい勢いで練り上げられていく。

 

 それをエンブリヲも若干だが悟りつつも、そのことに臆して退くという発想は、1000年を超える長い時を己の傲慢によってのみ生きてきたその男には、最早なかった。

 世界とは、自分の思うようにのみあり続けるべきであるという、凝り固まった考え方に支配された彼は、その障害になる者を罪と断じ、力を振りかざして粛清することをいとわない。

 

 ……そして、

 

「その傲慢を正してあげよう。いやしく地を這うことしかできない人間が、世界の調律者たる私に牙を届かせることなど、絶対にありえないということを……身をもって知るがいい」

 

 ヒステリカの必殺武装『ディスコード・フェイザー』が……再び放たれる。

 眼前にある全てを粉砕してヘリオースに迫るそれは、まともに着弾すれば、その余波で市街地や、近くで戦っている者達を盛大に巻き込んで、都市を壊滅させうる威力を有していた。

 

 しかしその、次元をも破壊しうる暴風は……すっ、とヘリオースが天に向けて手のひらを突き出した瞬間……立ち上った光の柱に触れて……その瞬間、あっけなく霧散した。

 

「……は……?」

 

 ただ防がれただけではない。仮にそんなことができたとしても、その余波だけで周囲の市街地は少なくとも壊滅するレベルの威力があった。

 だというのに、込められていたはずの膨大なエネルギーが、かき消されたようになくなった。ふわりとした風すら巻き起こらず、『消滅した』。

 

 理解を超えた光景を前に、頭が追いつかず、思考がフリーズするエンブリヲ。

 しかし、その困惑をよそに……既に、ヘリオースの……ミツルの攻撃は始まっていた。

 

 今しがた立ち上った、光の柱。

 それは、『ディスコード・フェイザー』を蹴散らして……空に消えて行き、役目を果たして終わり……ではなかった。

 

 遥か上空に上がった光は、渦巻いて球形を成し、増幅し、密度を増していき……徐々に降り注ぐ太陽光すら遮るようになっていく。

 

「ご高説どうも、クズ野郎。お返しにこっちもいいことを教えてやるよ……」

 

 何かがおかしいことに気づき、はっとしてエンブリヲが空を見上げれば……次元力の球体が日の光を遮って滞空するその光景が、まるで日食が起こっているかのような光景がそこにあった。

 

 そして、次の瞬間、

 

 

「身の程をわかっていないのが……どっちかってことをね……『アンゲルス・サルース』!!」

 

 

 上空から降り注いだ、次元力の光が……ヒステリカを、いや、第三新東京市全体を直撃した。

 

 まるで雲の隙間から降り注ぐ日の光のように、柔らかく温かい光に見えたそれは、しかし……エンブリヲのヒステリカや、無人機部隊に命中するや否や、全てを焼き尽くす光炎となって燃え上がる。

 その光景はまるで、天上の神々が振り下ろした、罪人を裁く断罪の鉄槌。

 

「な、なぁぁああぁああっ!?」

 

 神々しくも恐ろしい光景の中、膨大なエネルギーの奔流たる次元の炎の中に飲まれて……わけもわからぬままに、エンブリヲはヒステリカと共に焼き尽くされる。

 機体を丸ごと飲み込む大きさの業火の中で、装甲がひしゃげ、溶解し、爆散、蒸発。

 その残骸すら燃え散っていき……後には何も残らなかった。

 

 そして、そのついで、あるいは余波とも呼ぶべき光炎にあてられた、他の敵達も然り。

 

 エンブリヲほどに膨大なエネルギーにこそさらされなかったものの、その余波や、収束仕切らなかった、いわば流れ弾に当たって……次々に大破していく。

 

 しかし、奇妙なことに……

 

「くっ、何だ、この攻撃力と攻撃範囲は……おい、機動部隊の損害状況は!?」

 

 ネェル・アーガマに乗るオットー艦長は、第三新東京市全域を飲み込んだとすら言えるこの攻撃に、慌てて自軍の状況を確認する。

 しかし、オペレーターたちの口から聞こえてきたのは……

 

「み、味方機の損害……ありません。撃墜……いえ、被弾0、です。もちろん、本艦も含めて……」

 

「……何、だと? 確かか?」

 

「は、はい。信じられない……あの光、完全に敵と味方を区別して……味方にも間違いなく当たっているのに、敵にだけ攻撃力を発揮している……!?」

 

 ネェル・アーガマだけではない。その他の戦艦や、機動兵器のコクピットの中でも、皆、同じように困惑していた。

 

 天から降り注いだ光炎は、なぜか敵だけを燃やし、味方には全く何の影響ももたらしてはいなかった。穏やかに降り注ぐ日の光のように、温もりを持って心地よく感じられる……その程度だ。

 

 光の中で、困惑しながら味方機がたたずみ、あるいは滞空している中で、敵機は有人機・無人機を問わず、光炎に飲み込まれて爆散していく。

 

 特に破壊の力が集中したらしいヒステリカと違って、跡形もなく消滅、とまでは行かないようだが、首尾よく逃げおおせた者や、特に頑丈に作られていた者――各勢力のリーダー級や、エースのジョーなど――を除けば、壊滅と言っていい様相を呈している。

 僅かに残った者達も、機動部隊が動けば瞬く間に制圧できるだろう。

 

 その光の中で、ヘリオースはふと、天を仰ぐように上を見ると……直後、再び急加速して飛びあがって行った。

 

「え? ちょっ、ミツル!? どこへ―――」

 

 驚いて呼び止めるアンジュの声を無視し、ヘリオースは凄まじい加速で高度を上げていく。

 

 そして、またたく間に雲よりも高いところまで到達し……そこで、落下中の『使徒』を相手に、少しでもその速度を緩めようと奮戦する、ドラゴン達とグレートマジンガーの眼前に姿を見せた。

 

「……!? お前は……アスクレプス? ミツル、か?」

 

「ええ、まあ……鉄也さん、それとドラゴンの皆さん……ちょっとどいてください」

 

「何? 何をする気だ?」

 

「どうもコイツ、無駄に硬いようなので……ちょっとバリアを引っぺがします」

 

 そう言うと、ヘリオースは両手を天に向かって――その先にあるのは、空ではなく、それを遮る巨大な『使徒』だが――突き上げるようにし……そこから、先程ヒステリカを焼き滅ぼした光炎を放つ。

 

 今度は立ち上ってすぐに使徒に直撃したそれは、枯野に燃え広がる炎のように、またたく間に使徒の体全体を覆っていき、火だるまの状態にしてしまう。

 それを察してか、直接攻撃を試みていた、ガレオン級をはじめとするドラゴン達は、慌ててその場から飛びのいて離れた。

 

 もっとも、地上の光景を見る限り……仮に触れたとしても、『味方』である以上は彼ら・彼女らに害はなかったかもしれないが。

 

 しかし、凄まじい勢いで使徒の体表を焼いてはいるものの、それが使徒に劇的に聞いた様子もなく、落下速度も収まらない。

 

 が……異変は、目には見えないところで起こっていた。

 

 それに気づいたのは……地上で、既に小数点以下にまで下がってしまっていた、この作戦の成功確率を前に、覚悟を決めるところまで行ってしまっていた『NERV』本部の指令室……その席の1つに座る、伊吹マヤだった。

 

「これはっ……!?」

 

「どうしたの、マヤ? 何か異変が?」

 

「い、今、観測中ですが……し、信じられません! あの炎……まさか、使徒に……」

 

「ちょっとマヤちゃん!? 何かあったの? あったんなら報告して!」

 

 通信の向こうから聞こえる、ミサトの急かすような声に、マヤは画面を何度も確かめるように凝視しながら、声を震わせて言った。

 

「い、今、上空の使徒の状況を解析していたんですが……使徒に体表展開されていたATフィールドが……消失しました……」

 

「……はぁ!?」

 

 その言葉に、通信の向こうにいるミサトはもちろん、彼女の真後ろにいたリツコも驚きを隠せない。

 思わずマヤの隣からモニターを覗き込んで自分の目でも確認するが、モニターに映し出されていたのは、マヤが言った通りの状況だった。

 

 使徒とエヴァが纏う『ATフィールド』は、通常の兵器では、戦略級の兵器を用いても突破は不可能と言うしかないレベルの、絶対的な防御力を持つ障壁である。

 アレがあるからこそ、『使徒に対抗できるのはEVAだけ』という方程式が出来上がっており……それゆえに今回の作戦では、戦艦の砲撃で速度を緩めつつ、地上激突ギリギリでEVAが受け止める、という方法しか残されていなかった。

 

 しかし、それがなくなったということは……

 

「おい、ミサトさんよ? それってのはつまり、今のあのデカブツには……普通に俺達の攻撃が届く……ってことか?」

 

「そう……なるわね」

 

 竜馬の問いに、未だ戸惑い冷めやらぬ状態でミサトが返す。

 すると、音声だけでもわかるくらいに上機嫌になった竜馬が、『ほぉ~?』と、いかにも何か考えついた、そしてそれを実行に移そうとしているとわかる声が聞こえてきた。

 

 そしてそれは、竜馬に限らず、通信でつながっている全員が思ったことだった。

 

「一体全体、どういう理屈でそうなったのかはわからんが……」

 

「その辺は後で、ミツルにでも聞けばいいだろ? とにかく今は……こっちから打って出るぞ、お前ら!」

 

 少しだけ不安そうに呟いた隼人の言葉を押しのけるように竜馬が咆哮すると、それに続く形で次々に『よっしゃあ!』『そういうことなら!』と、独立部隊の面々が闘志を燃え上がらせていく。

 

 地上に残る敵の掃討を、地上戦が主なメンバーに任せ、飛行可能な機体は次々に空へと飛びあがり……雲の隙間からその巨体を見せ始めた使徒に向けて殺到していく。

 

 その中でも、いち早くたどり着いた、真ゲッターとヴィルキスが、それぞれゲッタービームとビームライフルで攻撃すると、その大質量ゆえにほとんど揺らぎもしなかったものの……その表面には、確かに傷がついたのが見えた。

 事前の作戦会議で、ミサトたちNERV関係者から、『使徒にはATフィールドがあるから通常攻撃は一切効かない』と言われていたはずの使徒に、確かに傷がついたのだ。

 

 傷つけられないのなら、シンジ達に任せるしかなかった。

 が、その前提条件が崩れるのなら……それで黙っている面々ではない。

 

「よぉしお前ら、馬鹿正直に落ちるのを待っててやる義理もねえ、このままコイツ、落ちる前に木端微塵にするぞ!」

 

「「「応ッッ!!」」」

 

 そこからは、それまでの鬱憤を晴らすかのような怒涛の攻撃が使徒に叩き込まれた。

 

 真ゲッターが、マジンガーZが、グレートマジンガーが、ダイターン3が、Ξガンダムが、ヴァングレイが、ヴィルキスが、焔龍號が、そしてヘリオースが、巨体ゆえに外しようのない使徒の体に次々に攻撃を直撃させていき、少しずつ、だが確実にその体を爆散させて体積を減らしていく。

 

 飛び散った破片は、ドラゴンが飛びかかって引き裂いたり、ビームで焼き尽くして地上に落下しても被害が出ないようにしていった。

 

 更に地上では、残るDG同盟の機体を駆逐し終えた後、最後に残ったジョーの『轟龍』に対し、マイトガインとマイトカイザーが合体して誕生した『グレートマイトガイン』が、一騎打ちの末に勝利をおさめていた。

 

 さらに地上近くに来てからは、レーバテインやνガンダムといった地上戦タイプの機体や、『アルデバル』を含めた戦艦も一斉に砲火を浴びせかける。

 中でも、グレートマイトガインが新たなる仲間であるマイトガンナーと合体して放った必殺武器『パーフェクトキャノン』により、使徒の体積をさらに減らしつつ、勢いを大幅に落とすことに成功。

 

 落下までに完全に粉砕することはできなかったものの、当初の数十分の一、あるいは数百分の一にまで小さくなった使徒の最後のひとかけらを、地上に待ち構えていたEVA3機が受け止め……見事にコアを貫いて息の根を止めてみせた。

 

 こうして、二転三転した混沌極まる戦いを乗り越え、宇宙から飛来する使徒を相手に勝利をおさめた独立部隊は、またしても世界の危機を回避することに成功したのだった。

 

 

 

 




おまけ 今回出てきた機体について

【ヘリオース】

元ネタは『第三次スパロボZ』に出てくる敵勢力のロボット。
『アスクレプス』の真の姿であり、とある世界に存在していた『至高神』の核から生み出された存在。人知を超越した圧倒的な力を持つとされる。
本来は手持ちの武装は一切なく、パイロットであるアドヴェントの力を増幅することで攻撃を行うのだが、ミツルはアスクレプスの時に使っていた武装をそのままヘリオースでも使っている。
そもそもアスクレプスにできてヘリオースにできないってことはないだろうし、普通に武器を使って戦っても強いと思われる。
ちなみに『Z』では、アドヴェントの策略の関係ないし都合で、シナリオ上で一度も全力を出すことなく出番を終えている。


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第40話 力の反動

 

 

 宇宙から降ってきた『使徒』を無事撃破し、人類がまたしてもどうにか未来を勝ち取った……その翌日。

 

 独立部隊の面々は、引き続き第三新東京市の『NERV』にて、補給を受けながら滞在していた。

 

 先の戦いは、使徒だけでなく、西暦世界の敵である『DG同盟』や、その他無人機の軍団、そして何より、敵の首魁であるエンブリヲまでもが現れ、部隊全員にとって、火星極冠遺跡以来の激戦と言っていい戦いだった。

 

 修理を終えたガインの合流や、その後の『グレートマイトガイン』への合体、ドラゴン及びグレートマジンガー、『アルデバル』に乗ったミレーネルの加勢、そして戦いの中で覚醒し、圧倒的な力でエンブリヲを討ち取った『ヘリオース』の活躍と、いくつもの要因が噛み合った結果として、どうにか勝利をつかむことはできた。

 

 しかし、こちらが受けたダメージも決して軽いものではない。

 万全の状態で活動を再開するためにも、しばしの間、補給及び休息を必要としたのだ。

 

 そしてそれは、ロボだけでなく……『人』もまた然り。

 

 先の戦いで、敵の首魁であるエンブリヲを討ち取る大手柄を上げた、『アスクレプス』及び『ヘリオース』のパイロットである青年、星川ミツル。

 

 彼は今、ヤマトの医務室で……床に臥せっていた。

 

 

 ☆☆☆

 

 

【□月■日】

 

 目が覚めると、病室っぽい部屋でベッドに寝かされていた。

 

 リアルに『知らない天井だ』っていう場面に、しかも原作と同じく病院で遭遇することになるとは思わなかった。

 いや、正確には病院じゃなくて、艦内に設置された医務室だけども。ヤマトの中の。

 

 まあ、そんな風なことを考えられるのも、状況を理解した今だからであって……目覚めた直後は、いきなり見覚えのない部屋に寝かされてたから『!?!?!?』ってパニックになりかけたからなあ。

 

 けど、すぐ隣というか、ベッドのすぐ横に座っていたミレーネルが、目を覚ました僕にすぐさま状況を説明してくれたので、パニックにはならずに済んだけども。

 

 その彼女から聞いた話によると、どうやら僕、あの戦いの後……倒れたらしいんだよね。

 

 

 

 順番に振り返ってみよう。

 

 使徒……だけでなく、DG同盟とかエンブリヲとか、色々襲ってきてめっちゃ総力戦になり、世界が滅ぶってのにどいつもこいつも自分の都合で他人様に迷惑ばっかりかけてくるもんだから……その途中でブチ切れたんだっけな、確か、僕。

 

 その瞬間、体の中、奥の奥から、すごい勢いで何かこう……力のような、熱のような……上手く言えないけど、湧きあがってくるものがあるのを感じて。

 直感的にそれの使い方が分かった僕は、それに逆らわずに身を任せ……その直後、『アスクレプス』の封印が解かれ、真の姿『ヘリオース』に覚醒した。

 

 そこからはもう、勢いに任せて大暴れ。

 エンブリヲを消し飛ばし、ついでとばかりに他の敵……DG同盟や無人機部隊も吹き飛ばし、上空から落ちてくる使徒のATフィールドを焼き払って、そのままみんなと協力して撃破した。

 

 その戦いの中で、僕は、これまでとは比べ物にならないくらいに上手く『次元力』を使えて……それも、本質である『事象制御』により近い使い方をしていた気がする。

 

 極大火力の攻撃に加えて、敵味方判別しての超広範囲攻撃、さらには、使徒のATフィールドを、中和どころか焼き尽くして無効化とか……

 振り返ってみると、マジで無茶苦茶やってるな僕、と思ったけど……なぜかあの時は、出来る気がしたというか、間違いなくできるって直感してたんだよね。

 

 ……毎度のことながら、不思議なことが起こるなあ、アスクレプスや次元力が絡むと。

 

 

 

 問題はその後である。

 

 戦闘後、『ヘリオース』は元の『アスクレプス』の姿に戻った。

 それと同時に、戦闘中ずっと僕の中にあった『熱』みたいなものが急速に引いていったような感覚があって……頭が冷えた僕は『あーコレ絶対説明とか必要だよね、どうしよう?』なんて考えながら、アスクレプスを降りて……そこから記憶がない。

 

 なので、その後のことは、伝聞になるんだけど……ヤマトの格納庫で、僕は、アスクレプスから降りたその直後にぶっ倒れたらしい。

 そのまま気絶して、呼びかけてもゆすっても全然目覚めなかった。

 

 同時に帰ってきた総司さん達が慌てて僕を医務室まで運び、急患として佐渡先生と原田さんが手当してくれた。

 そのままベッドに寝かされて……僕が目を覚ましたのは、その翌朝だった。

 

 検査及び診察の結果、佐渡先生から告げられたのは……『過労』とのこと。

 体にだいぶ疲れやストレスがたまってて、そのせいで体が休息を欲してぶっ倒れ、そのまま翌朝まで起きずに眠り続けたんだろうとのことだ。

 

 幸いそこまで重篤な状態じゃないけど、大事をとってもう1日経過を見ることになった。

 明日の朝再度検査して、問題なければ退院できるそうだ。

 

 ただしそれまでは、きちんと安静にしていること、と釘を刺されてしまった。

 無理して動いたり、仕事しようとなんかすれば、かえって悪化して長くベッドのお世話になることになるぞ、と。

 

 どうやら佐渡先生の知り合いに、無茶を押して仕事に取り組む、すごく勤勉で真面目だけど、医者としては『いい加減にしてくれよ』と思うしかない知り合いの人がいるそうで。誰だそれ?

 

 まあ、こういう場面で医者の言う事は素直に聞いておくに限る。

 降ってわいた休暇だと思ってゆっくり休むことにしよう。佐渡先生の言う通り、仕事はしっかりなおして体調が元に戻ってから、だ。

 

 ……しかし、『過労』ね……そんなに疲れてたかな僕?

 

 確かに仕事は忙しかったけど、そこまで疲れがたまって大変ってほどでもなかったし……『宇宙世紀世界』に来てからは、『サイデリアル』としての仕事ができなくなって、むしろ暇だったくらいだと思うんだけど。

 

 ……ひょっとして、『ヘリオース』のせいか?

 

 あの『覚醒』の瞬間、凄まじい次元力をあふれ出すのを感じたけど……次元力ってのは本来、人の意思の力で引き出し、制御するもの。

 あれだけの次元力を、限定的とはいえ事象制御レベルで操ったんだから、それを考えると……その分の反動というかフィードバックが来ても、おかしくはない、か。

 

 考えても結論は出そうにない……けど、可能性は高いな。

 参ったな……なんか界○拳みたいな欠点あるんだな、『ヘリオース』。戦闘能力は爆上がりするけど、それと引き換えに体力ごっそり持っていかれるのか?

 

 いや、でも、もしそうだとすれば……これも単純に僕が、反動なしで『ヘリオース』を使えるくらいになるまで成長すればいいだけの話だけど。

 反動に耐えられるように鍛えるか、あるいは、次元力の扱いそのものを上達させて、反動自体が起こるのを抑えるか。

 

 体調が元に戻ったら、色々やることがあるなあ。

 そのためにも、今はきっちり休んでおかないと、だな。

 

 

 

【□月!日】

 

 今朝の検査で問題がなかったので、晴れて退院となった。

 佐渡先生と原田さんにはお礼を言って、僕はヤマトの医務室から出て……そのままアスクレプスごと、ミレーネルが持ってきてくれた『アルデバル』に移った。

 

 この艦にも居住区はついてるし、せっかくミレーネルが完成させて持ってきてくれたんだし……と思ってね。うん。

 

 しかし、そこに移った後も僕は、日がな一日部屋でゆっくりしている。仕事もせずに。

 

 これは別にさぼってるわけじゃなく、これも『回復のため』である。

 

 佐渡先生曰く、今日の朝の結果は良好だったので、退院だけなら問題はない。

 しかし、仕事に復帰するのはまだもう少し待て、とのことだったのだ。最低でも3日、可能なら1週間くらいは、仕事もせずにゆっくり休んで疲れを取れ、と。

 

 そう言われちゃ仕方ないので、引き続きこの『アルデバル』で……その中にミレーネルが用意してくれていた自室で、今日ものんびり療養生活を送ってるわけだ。

 幸い、差し迫って何かしなきゃいけない仕事とかもないし。

 

 他の人達からすると、場所が『アルデバル』の自室に移りはしたものの、実質まだ入院中みたいなもんだと受け取ったのか……今日の日中、何人かお見舞いに来てくれた。

 

 まず、総司さんとトビア、それに古代戦術長。

 ヤマトを代表してってことと……僕が倒れた時にその場にいて運んでくれたのが、ちょうどこの面子だったらしい。

 

 『全然元気そうで何よりだ』って笑いながら、お見舞いだって果物籠を持ってきてくれた。あ、やっぱお見舞いとなるといつの時代もこれが定番なのね。

 あとでミレーネルにむいて出してもらお。

 

 それと、あの戦いでは一番の功労者は僕だってことで褒めてもらったのと……同時に、まあ当然ではあるけど、一体あの姿……『ヘリオース』は何だったのかについても聞かれたな。

 

 これはまあ、細かく話すわけにはいかないから、ざっくりした説明になっちゃったんだけども……あの姿『ヘリオース』は、『アスクレプス』の真の姿であり、真の力なのだ、と説明しておいた。

 

 本来持っている力が膨大過ぎて制御しきれない――少なくとも、あの時までの未熟な僕には到底無理だった。嘘でも何でもない――ため、意図的に力を封印していた姿が、普段の『アスクレプス』なのだと。

 

 色々と細かい気になることはありそうだったけど、一応は理解してもらえたみたいだった。

 実際、あのレベルの力が、制御できなくて暴走、なんてことになった日にゃ、ろくでもないことにしかならないのは目に見えてるしな。

 

 ひとまず、肝要な部分……『アスクレプス』=通常モード、『ヘリオース』=本気モード(ただし制御するのが大変+反動アリ)、っていうことだけわかっててもらえば大丈夫だろう。

 もしこれ以上に詳細な説明が必要な場面とかが出てきたら……その時に考える。

 

 なお、この話については、総司さん達のみならず、基本的に誰に対しても聞かれたら同様の説明を行うことにしたので、よろしく。

 

 そして今日、見舞いに来てくれた人達がもう1組。

 アンジュと、サラマンディーネ、タスク、それにミランダの4人である。

 

 アンジュ、サラマンディーネ、タスクの3人は、エンブリヲを倒してくれたことに対してのお礼を言うのも兼ねて。

 サラマンディーネとタスクは更に、仲間ないし自分を戦いの中で助けてくれたことに対してのお礼も兼ねてだそうだ。律儀だな。

 

 まあ、この全員にとって、エンブリヲは不俱戴天の仇と言っても差し支えない間柄なわけだし、自然と言えば自然、なのかもしれないけど。

 

 しかし、終わってみれば……『神様』なんて呼ばれていながら、あっけない終わりだったな、とも思う。

 

 けど、倒せたんならそれで万々歳だ。何も問題はないな―――

 

 

 

 ―――と、言えたらよかったんだろうけど。

 

 

 

 そのエンブリヲに関して……ミレーネルから気になる話を聞かされてるんだよな。

 

 何でも、彼女、西暦世界で、アルゼナルでの戦いの後にアイツに遭遇してるらしく……その際、拳銃で撃ち殺したはずなのに、次の瞬間何事もなかったかのように復活したというのだ。

 

 見間違いなんかじゃなく、ちゃんと眉間に着弾して倒れ、血だまりまでできていたはず。

 なのに、一瞬でその血だまりごと消えて、無傷の状態で復活していたのだという……どういうことだそれ?

 

 しかも、その後またしてもミレーネルは自爆し……工場ごと爆破したから、確実にエンブリヲも巻き添えで死んだはずなのに、平然とああして出て来たことからして……ミレーネル曰く、あいつは簡単には死なない可能性がある、とのことだった。

 

 それを考えると……こないだああして倒しはしたものの、油断しない方がいい……のか?

 なんか、不吉な可能性が浮上しちゃったなおい……

 

 

 ちなみに、アンジュ達と一緒に来たミランダであるが、彼女が来たのは、アルゼナルにおいて、僕の『担当』だからだとかなんとか。いや、担当て……

 

 お望みなら、療養中のお世話とかお手伝いもしますけど、って申し出られたものの、その役目は今もう既にミレーネルがやってくれてるので、ひとまず大丈夫だって言って断っておいた。

 

 そしたら、なんかがっかりというか、残念そうにしてた。何でだろ?

 

 

 



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第41話 ミツルとミランダ

【□月◆日】

 

 昨日に引き続き、療養中である。

 

 どうやら、僕が佐渡先生から『最低3日、できれば1週間安静』と言われたのは、部隊全体に広まっているらしく、『いいから休んどけ』って言って、こっちに極力仕事とかは回さないようにしてくれてるそうだ。

 

 なんでそんな、部隊全体に僕の療養状況が出回ってるのかって思ったんだが、どうやら『ヘリオース』の説明のついでとか補足みたいな感じで知らされたらしい。

 

 総司さん達に説明した通り、あの姿は『アスクレプス』に比べて、全てにおいて別格の力を発揮するものの、その反動でパイロットである僕がしばらく動けなくなるくらいに疲労する諸刃の剣であると。

 

 大方の人は、あれだけの力を発揮するんだから、そのくらいのリスクはあってもおかしくはない、とある意味納得してくれたみたいだ。その『力』そのものの異質さはともかくとしても。

 

 中には、『機動兵器の出力がパイロット本人の体調にフィードバックされるのか?』って不思議そうにしてた人もいたようだけど、それに関しては割と今更なところもあるので、すぐに気にされなくなった。

 

 例を挙げれば、エヴァンゲリオンにもそういうのあるしね。機体が受けたダメージが、パイロットにもフィードバックされる。こちらは一応、あくまで感覚だけではあるけど。

 

 他にも『サイコフレーム』や『ラムダ・ドライバ』みたいに、人の意思に反応して動いたり、『NT-D』みたいに、逆に人の精神に影響を及ぼすシステムもあるし、

 

 後は……アンジュのヴィルキス。あれなんか、アンジュの意思一つで自力で転移して飛んできたリ……『歌』で兵装が起動するっていう、より一層よくわからないシステム積んでるし。

 ……いやホントあれどうなってるんだろうね? ただの起動キーなのか、それとも……?

 

 それに比べれば、パイロットの意思で出力が上下したり、反動でパイロットが直接疲れるくらい別に珍しくもなんともない気がしてきた。いや、割とマジで。

 

 そんなわけで、引き続き『アルデバル』の居住区で療養してるわけだが……前に言った通り、その間の僕のお世話は、ミレーネルがやってくれている。

 『病人なんだから大人しくしてて』って、炊事洗濯掃除、全部やってくれて、僕にはゆっくり休むことだけを要求する感じ。

 

 ……嬉しいし楽だけど、ちょっとダメになりそうだ。前とは別な意味で。

 一人暮らしで培って来た自活力が徐々に失われていきそうで……やっぱりちょっとずつでも仕事、あるいは家事を……え、ダメ? あ、はい、大人しくしてます。

 

 しかし、そんなミレーネルであっても、四六時中僕の世話をしているわけにはいかない。

 

 彼女には、動けない僕の代わりに、僕がやるはずだった仕事……戦闘に関する報告とかその他諸々を任せてしまっているので。

 今後の方針を決める会議とかには、必要に応じて『サイデリアル』代表としても出てもらってるし、そもそも彼女だって休まないわけにはいかない。彼女の体は、作り物とは言えど、かなり普通の人間に近い有機体のボディだから、普通に人間よりは頑丈だけど、疲労も蓄積されるのだ。

 

 だから、仕事と僕の世話をどっちもこなすなんてことはできない。

 

 そこで、彼女の手が離せない、あるいは休んでいる間に僕の世話をする人員がもう1人要るとして(あくまでも僕に何かさせる気はないらしい)、白羽の矢が立ったのが……ミランダだった。

 

 独立部隊のメンバーの中では、特に僕と距離が近いし、信用もできる。また、『パラメイル第一中隊』は人数がそれなりにいて、1人くらいちょっと借りても仕事に差し支えないよう穴埋めできるってことで、ミレーネルが相談したところ、二つ返事でOKされたそうな。

 

 外部の人間なのに、なんかごめん、と言ったら、『担当ですから!』って返された。あ、またそこに行き着くのね。

 

 いやまあ、今回ばかりは助かるし、ご厚意に甘えさせていただくけども。

 期間もそんなに長くはならないだろうしね。伸びても1週間だ。

 

 そのミランダだが、今日早速お願いしたんだけど……なんというか、ホントに甲斐甲斐しくお世話してくれるので、普通に快適である。

 炊事洗濯掃除、どれも、ハウスキーパーの経験でもあるのかってくらいに要領よくやってくれるので、感心してしまった。ミレーネルが頼んだ以外のことまでささっとすませて、後から帰ってきた彼女の仕事まで楽にしてしまうほどだった。

 

 彼女は元々世話好きというか、面倒見のいい性格だったらしいので、こういうのは手馴れたものであるらしい。アルゼナルにいた頃から……それこそ、パラメイル第一中隊としてデビューするよりも前から、同期や後輩の面倒とかよく見てたんだって。

 

 ただ……あまりこの話題で掘り下げすぎると、あの子……ココの話題にも触れるから気を付ける必要はあるけども。

 

 暇な時間には、話し相手になってくれたりもした。

 特に何の変哲もない世間話だったけど、退屈しない、楽しい時間だった。

 

 とりとめもないことを話しながら、ふと、褒めるのと一緒に彼女の頭をなでてしまったこともあったんだけど、ちょっとびっくりしながらも、嫌がることはなく、むしろ嬉しそうにしていた。

 

 屈託のないかわいい笑顔で笑う彼女を見ていて、以前チラッと考えた、『妹がいたらこんな感じなのかな』っていうのもふと思い出してしまったり……いや、そうすると僕今、その妹に世話をされてるっていう状況に……ううむ。

 

 ま、いいか、細かいことはこの際。

 

 何にせよ……アンジュを筆頭に、戦いの始まりから色々とあったんであろう彼女が……アルゼナルで出会った直後は、素人目にも不安定な感じだとわかるくらいだった彼女が、こんな風に笑えるようになったっていうのは……彼女を知る者としては、なんというか、うん―――

 

 

 

 ―――喜ばしい、と思うな。純粋に。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

Side.ミランダ

 

 ソファに座ったまま、どうやら寝てしまったらしいミツルさん。

 世間話をしていて、ふと、電源が落ちたようにすとんと眠りについた彼を見て……やっぱり疲れがたまってたんだな、と思った。

 

 彼を起こさないように、お茶請けのお菓子が乗っていた皿と、ジュースが入っていたコップを回収。音は立てないように。

 キッチンに持って行って、そのまま洗う。

 

 その最中、なんだかおかしくなって、ふと笑ってしまった。

 

 ……ほんの数か月前までは、こんな風な日常が待っているなんて、思ってなかったからなあ……あの頃から考えると、色んな意味でずいぶん『遠く』まで来たんだな、と自分でも思う。

 

 

 

 『始祖連合国』を構成する国の1つで生まれた私は、人生の途中まで、ノーマであることを隠して育てられていた。

 弟や妹が多い家だったから、忙しい両親に変わって、そのお世話をする機会が多くて……私が世話焼きなのはその頃からだ。もうなんか、性分、と言ってもいいくらいに染みついてる。

 

 けどある時、私は見つかって、捕まってしまった。

 

 兄弟姉妹でノーマだったのは私だけ。だから、家族と離れ離れになるのが私だけで済んだのは……東洋の諺で言う、『不幸中の幸い』だったかな、と思う。

 お父さんやお母さん、弟・妹達……元気にしてるといいな。もう、会うことはできないだろうけど。

 

 アルゼナルに連れてこられてからは、色々なことを勉強させられた。

 

 そのほとんどは、ドラゴンと戦って生き抜いていくために必要な知識とか技術ばかり。一応、普通の学校で習うんであろう、色々な一般常識とかも教えてはもらったけど……その日々は、ああ、私はきっとここで、一生ドラゴンと戦って生きて行くしかないんだ、と私に思わせた。

 

 諸先輩方もそうしてきて……そして皆、若くして散っていったんだ。

 

 アルゼナル窓の外に見える丘の上に広がる、おびただしい数の墓石が並ぶ墓地を見ると、嫌でもそう想像できた。

 

 ……実際、あの初陣の日……後一瞬、ミツルさんが来てくれるのが遅かったら……私は、ドラゴンに食い殺されていたと思うし。

 目の前に、ぐあっと大顎を開いたドラゴンの牙が迫ってくる光景は……今でも時々夢に見る。

 

 けど、それを生き抜いてからは、急転直下の事態の連続で……ある意味では、アルゼナルで戦って死ぬよりも、よほど壮絶な人生を歩んでる気がする。

 

 アルゼナルを、始祖連合国を飛び出して、宇宙に出たり、別の世界まで来たり、

 

 ドラゴンだけでなく、色々な機動兵器や、凶悪な犯罪者やテロリスト、よくわからない生き物(使徒とかインベーダーとか)とも戦って、

 かと思えば、今まで戦っていたドラゴンとは和解して、一緒に戦うことになって、

 

 ノーマには絶対にできないと思っていた、ノーマ以外の仲間や友達もできた。

 皆、私達がノーマであることなんか、これっぽちも気にしてなくて……同じ人間として、大切にしてくれる。信頼し合って、肩を並べて戦うこともできる。

 

 ……ホント、すごいな、私の人生。

 アルゼナルで一生を終えるんだとばかり思ってた頃から考えると……うん、想像もできないくらいにハチャメチャなことになってる。

 

 ……けど、こういうのも悪くない……ううん、けっこういいな、と思う。

 

 もちろん、上手くいったことばかりじゃなかった。

 

 時には、ドラゴンと戦うよりさらに危険な目にもあったし……お別れすることになってしまった人もいた。

 

 初陣で散ったココやゾーラ隊長、アルゼナル防衛線でMIA……行方不明になった、サリア隊長、エルシャ、クリス……どの別れも、悲しいものだった。

 ココとゾーラ隊長以外は、あくまで『行方不明』だから、また会える可能性がないわけじゃないけど……ミレーネルさん曰く、あの戦いの後に、捜索しても発見できなかったそうだから……

 

(でも……撃墜されたエルシャとクリスはともかく、サリア隊長はどうして? アンジュがきちんと手加減して落としたはずなのに……どこに行ったんだろう……?)

 

 叶うなら、また会いたいと思う。どこかで無事でいて、生きていてほしいと思う。

 彼女達も……大切な仲間だから。

 

 

 

 そんなことを考えている間に、お皿も洗い終わって、リビングに戻る。

 途中で寝室によって、クローゼットから毛布を取り出して……ソファで寝ているミツルさんにかけてあげた。空調はついてるけど、念のためね。

 

 ……思えばこんな風に、男の人と親しくなるなんてことも……もう一生ないんだろうな、と思ってたなあ……。

 (始祖連合国の)常識的に考えて、ノーマが結婚なんてできるはずもないし、その前段階の恋愛だって……。

 

 ……まあ、そのせいでアルゼナルでは、女の子同士のアレコレが発達してたっていうのを、ある時偶然知っちゃって、すっごいびっくりした思い出があるけど……まあそれは置いといて。

 

 ふと、アルゼナルでジル司令に呼び出され、ミツルさんの『担当』になった時のことを思い出す。

 

 アルゼナルでは、私が一番ミツルさんに接する機会が多くて、距離も近いから、今後色々な面で協力関係になることを見据えて、連絡係みたいな立ち位置に任命するって。

 アルゼナルと、ミツルさんの会社……『サイデリアル』とでやり取りすることがある時は。基本的にジル司令が直接交渉とかはするものの、その橋渡しみたいなものを私にやってもらうって。

 

 ……というのが、表向きの話で……ジル司令からは、こうも言われている。

 

『可能なら、星川ミツルを篭絡しろ』

『仕事相手としての関係以上に懐深くまで踏み込んで、情を湧かせて協力関係をとりつけろ』

『使えるものは何でも使え。涙も、体も、傷も、過去も……全て使え。手段を選ぶな』

 

 あの人らしいと言えばそうなんだけど……すごく直球だった。

 

 けど、そんなとんでもない指示を……『可能なら』とついていたとはいえ、私は断らなかった。

 

 ジル司令は多分、いや確実に……私の想いに気付いているんだろう。

 

 総司さんや刹那さん、トビアさんやタスクさん……『独立部隊』の他の男性陣に抱いているのとは違う、私の、ミツルさんへの、この想いを。

 

 正直言うと、これが『恋心』なのかどうかは、私自身にもわからない。

 私、まともな恋愛なんてしたこともない、どころか想像すらできないから。

 

 ひょっとしたら、ミツルさんのことは、兄みたいに思ってるのかもしれないし。

 私、兄弟姉妹で一番上のお姉ちゃんだったから、ちょっと憧れることもあったんだよね。自分より年上で、守ってくれるお兄ちゃんやお姉ちゃんに。

 

 一緒にいたいとも、離れたくないとも思う。

 彼が笑うと私も嬉しい。褒められて、頭をなでられた時は、胸が温かくなった。

 彼の役に立ちたくて、こうして一緒にいると安心する。

 

 ……初めてのことが多すぎて、自分の心がわからないや。

 

 それでも、ミツルさんが私にとって、特別な『何か』であることは、多分確かだ。

 それが何なのかは……これからゆっくり見極めていこうかな、と思ってる。いい機会だし、こうしてお世話をさせてもらってる間にでも考えてみよう。

 

 それでもし、私が本当に自分の心の『本音』に気づけたときに……これからも今のままでも十分に幸せだと思えるなら、今まで通りに暮らせばいい。

 

 でももし、今までのままじゃ物足りない、もっと、もっとミツルさんの近くに行きたいと思うなら……その時は、あらためてどうするか考えて、悔いのない選択をしよう。

 ジル司令の指示とか、ノーマとしての立場とか、そういうのも関係なく、あくまで私の意思で。『始祖連合国』の法なんか気にせずに、私がしたいようにしていいんだって……私は、この部隊で戦う間に、ちゃんと学ばせてもらったから。

 

 今からでも、なんとなくわかるもの。そうしたいと……そうしなきゃむしろ後悔する、ってくらいには……ミツルさんは多分、私にとって、大切な人だから…………そして…………

 

 

 

 ―――その方が、楽しいから。

 

 

 




Q.……あの、何か不穏なフレーズ出てきませんでした?

A.気のせい気のせい(棒読み)


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第42話 暗躍するガーディム

【□月?日】

 

 一難去ってまた一難。

 『ヤマト』がまだ動けないうちを狙って、今度はガーディムが攻めてきた。

 

 けど、その時僕は、まだ『アルデバル』で休んでいる最中で……戦闘には参加できなかった。

 

 いや、戦闘が起こってるのはわかったから、通信で沖田艦長に参加を打診したものの、本当に危なくなったら力を借りるかもしれないが、今は大人しく休んでいろ、との返答だった。

 『安心しろ。負傷兵をわざわざ引っ張り出さなければならないほど、ヤマトは脆くも弱くもない』と、一寸の揺るぎもない力強い声で、そんな風に返されちゃあ……黙って待たせてもらう以外に選択肢なんかないです。はい。艦長、めっちゃかっこええ。

 

 そんなわけで、僕こと負傷兵は、ちょうど世話係として来てくれていたミランダと一緒に、大人しく待っている……つもりだったんだけど、そうも言っていられないことが起こった。

 

 ガーディムの連中……機動兵器(無人機)でヤマトを攻撃するのと同時に、白兵戦でもあちこちに襲撃を仕掛けてきていたのである。

 そして、その標的の1つが、この『アルデバル』……というか、僕のようだった。

 

 セキュリティを突破して、『アルデバル』の艦内に、ガーディムの女性型のアンドロイドと思しき連中が乗り込んできた際、最初は自動迎撃システムの『オートマトン』とかを使って応戦していたものの、それで防衛しきれるかというと、ちょっと望み薄と言うしかなく。

 

 そうなった場合、流石にここで、ミランダだけに戦わせて僕が隠れている……なんてわけにはいかないと思い、僕も武器をとろうかと思った。

 

 けど……その時だった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 今、ミツルとミランダは、『アルデバル』内部の居住区にいる。

 いつもはリラックスした状況でくつろいで、しばしの傷病休暇を過ごしているミツル達だが……この日、この時ばかりは、部屋の中の空気も緊張感で張り詰めていた。

 

 侵入者達に対し、ミツルは最初、防衛設備として搭載していた『オートマトン』をキルモードで投入して迎え撃ったが、その侵入者達が人間であればそれなりに有効だったであろう対人ロボットも、血の通っていないアンドロイドが相手では威力は半減してしまう。

 

 多少銃弾を撃ち込んだ程度では、痛みで動きを止めることも、思考を鈍らせることもない。銃弾を受けながらも反撃され、1機、また1機とオートマトンは沈黙していく。

 もちろん、相手方のアンドロイドも無傷ではないし、機能停止に追い込んだ機体もあったが、それでも彼ら……いや、女性型の見た目をしているがゆえに、『彼女ら』かもしれないが、1歩1歩着実にこちらへ向かってくる。

 

「……こりゃ、オートマトンだけで守り切るのは無理っぽいな……」

 

「な、なら私が出ます! アルゼナルで、白兵戦の訓練も受けてましたから……ミツルさんはここで隠れていてください!」

 

「いや、それは流石に無理だって。女の子1人に任せて自分は隠れてるなんて、いくら何でもないでしょ。僕だって多少は戦えるし、念のために白兵戦用の武装もいくつかあるからさ」

 

「それは、でも……ミツルさんはまだ、万全じゃ……」

 

「疲れならここ最近、ミランダがお世話してくれたおかげで粗方抜けてるよ。……ホントはむしろ、ミランダを隠れさせて僕が戦いたいくらいなんだけど、正味な話、1人でこいつら全員相手にできるかっていうと、難しそうだしな……あーくそ、竜馬さんやアキトさんだったら、この程度、1人でも何とかしちゃいそうなもんだけど……『アスクレプス』がないと、ホント役立たずだな僕」

 

「そんなこと……っ!」

 

 卑下するような形で言ったミツルに、ミランダが何か言おうとしたが……その瞬間、パソコンのモニターに映っている映像の中で、最後のオートマトンが沈黙したのが見えた。

 残骸を踏み越えて、アンドロイドたちはさらに奥へ……ここを目掛けて進んでくる。

 

 これはもう、覚悟を決めるしかない。

 ミツルとミランダの脳裏に、そんな一文が浮かんだ……その時だった。

 

 モニターの中で、武器を手にして進んでくる、アンドロイドの集団。

 それが……突如、背後から撃ち込まれたらしいグレネードか何かで、まとめて吹き飛ばされた。

 

(ッ……何だ!? 艦の防衛システムか何かがまだあったか? いや、あの通路にそんなものは……じゃあ、独立部隊から増援が来てくれたのか?)

 

 爆発の際に立ち込めた煙で、監視カメラからみた映像は視界が利かなくなっている。

 ミツルはパソコンを操作し、すぐさま別なカメラに視点を切り替えて、広くその通路を見られるアングルからの映像を映し出して……。

 

 そして、2人は……見た。そして、知った。

 今の爆発の犯人を……駆けつけた、増援の正体を。

 

 それは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふもっふ!!』

 

 

 

 

 

「お前かい!?」

 

 

 

 柔らかな毛並み、愛らしいルックス、つぶらな瞳、短い手足。

 それらにそぐわない、迷彩柄のベストや帽子、体の各部に装備した各種の武装。

 

 2つの相反する要素を、なんか見事に着こなして?しまっている、『ボン太くん』の姿を見て、先程までとは別な理由で2人は絶句していた。

 

 ミランダは『あれって、あの時の……』と、かつて見た光景……宇宙世紀世界の『陣代高校』に行った時に、テロリストのASを相手に、ヴィルキスと協力して八面六臂の活躍を見せる、人間大の謎生物というそれを思い出していた。

 

 愛らしい外見の着ぐるみがふもふも言いながら機動兵器を破壊していくその光景は、色んな意味で非現実的と言うしかない光景で。

 見ている味方のテンションも……特に、気のせいでなければサリアとかロザリーあたりが、なんかよくわからないけど変になっていたのを、ミランダはよく覚えていた。

 

 その謎生物こと『ボン太くん』が、今度はこの艦に乗り込んできたアンドロイドを相手に、まさに無双と言っていい戦いぶりを見せていた。

 

『ふもも、ふももふも! ふももんもも、もっふるもっふ! ふも!』

 

 さっぱりわからん。

 わからんが、強い。

 

 スタンバトンで叩き壊し、マシンガンや散弾銃で撃ち抜き、固まっている所をグレネードで吹き飛ばす。

 集団でかかられて押されている……ように見せかけて、いつの間にか仕掛けた爆弾で一網打尽にしたりと、その戦いぶりはまるで歴戦の軍人のようである。

 

 まあ、中身は実際に歴戦の軍人、というか傭兵なのだが。

 

(実際に見ると思った以上にカオスだなこれ……いや、頼もしいけど)

 

 なんとなく脳内でおなじみのテーマ曲を流しながらそれを見ていたミツル。

 映像の中で、あっという間にアンドロイドは殲滅され、その後もしばしの間周囲を警戒していたボン太くんだったが……安全を確認できたのか、よし、と頷いた。

 

『ふもふもももも! ふももんも、ふももふももんもっふも!』

 

「え、ええと……ありがとう、ボン太くん」

 

『ふもっふ!』

 

 一応、カメラに搭載してあるスピーカー押しにお礼を言うと、ボン太くんは器用にも着ぐるみの指でサムズアップすると、そのままアルデバルを後にした。

 

「……とりあえず、通路のアンドロイドの残骸、回収するか。作業用ドローン回すね」

 

「あっはい」

 

 部屋の中は、なんか変な空気になったものの、とりあえず危機は去ったということで、2人共少しだけ気を緩めることができていた。

 

 

 ☆☆☆

 

 

【日記続き】

 

 宗す……ボン太くんの活躍により、どうにか危機を脱することができた僕達だったが……他にも連中が襲撃していた個所はあったようで。

 

 総司さんとナインが、外に出ていたところを襲われ、総司さんが負傷してしまったらしい。

 

 連中、なぜかナインを狙っていたそうだ。理由はわからないけど。

 

 その後、どうにかその場を切り抜けた総司さん達は、ヴァングレイで防衛線に参加。機動部隊も出撃して、ヤマトを守って戦いが始まった。

 対するガーディムも、何度目かの邂逅になるグーリーの乗る機体をはじめ、通常の無人機を上回る性能の機体を含めた結構な大群で襲って来たそう。

 

 しかもその最中に、それらと比較してなお一線を画すレベルの、指揮官機と思しき機動兵器までもが現れ……その攻撃で、総司さんのヴァングレイが撃墜されてしまったそうだ。

 

 すんでのところで反応して回避し、大破は免れたそうだけど。

 

 それをやってのけた、敵の指揮官……『ジェイミー』という名前らしいが、グーリー以上に露骨にこっちを見下してくる態度のいけ好かない女だったそうである。

 そんなんばっかかよ、ガーディムって。がっかりしました、感謝するのやめます。

 

 今言った通り大破は免れたものの、ヴァングレイは最早ろくに動けない。

 絶体絶命かと思われた、その危機を救ったのは……ナインが持ってきた、ヴァングレイの強化型となる機体……『ヴァングネクス』だった。

 

 スパロボ的に言えば、いわゆる『後継機』っていう立ち位置になるんであろうそれは、ナインがここ最近ずっと、色んな人に協力してもらいながら作っていた機体らしい。

 

 火力、装甲、機動力……全てにおいてヴァングレイを超える性能を持ち、特に機動力は、グーリーの乗る『プラーマグ』とやらを完全に置き去りにするレベル。そこから放たれる大火力の攻撃の雨あられで、次々にガーディムの無人機は撃ち落とされていき……続く形で始まった一対一の戦いの末に、グーリーも今度こそ撃破。

 

 そのまま仲間達と協力して、ジェイミーを含めた敵も撃退し、ヤマトを守り切ることに成功したそうだ。

 

 もっとも、ジェイミーはまだまだ余裕たっぷりな感じで、『データは取れたしひとまず今日はここまで』みたいな感じで帰って行ったそうなので、また来るんだろうなとは思うけど。

 

 そんな感じで、総司さんが新たな力を手に入れ……そして何だか、ナインとも仲良くなった様子で、無事にこの危機を乗り越えることに成功したのだった。

 

 ……あ、いや、訂正。そこまで無事でもなかったわ。

 

 総司さん、最初のアンドロイドとグーリーの襲撃で負傷してたっぽくて、戦闘後、『そういやケガしてたんだった……』って、そのまま医務室に直行したらしいから。

 そんな状態で、しかも初めて乗る新型機を十全に操って勝利って……やっぱすごいな総司さん。

 

 ひとまず、お疲れさまってことで、ゆっくり休んでもらおう。

 そろそろ僕も復帰できるから、彼らの不在の間を埋めるくらいは……まあ、何とか務まると思うし。

 

 

 

 ああ、それと……戦闘の最中に1つ、明らかになったことがあった。

 

 ガーディムとの戦いのたびに結構な頻度で現れていたグーリーなんだけど……どうやらあいつ、アンドロイドだったらしい。

 火星での戦いで倒したはずなのに、その次に出会った時にしれっと出てきたりしたのは、それが理由だったわけだ。死んだ、ないし破壊されたのとは別個体だったのね。

 

 そして、グーリー自身も、戦闘中に明らかになった――顔部分の人工皮膚が破損して、中身の機械があらわになったことで――その事実に驚いていた。

 自覚、なかったのか。あいつ自身も、自分が人間だと思い込んでいたわけだ。

 

 作った際に記憶を操作したんだと思うけど……ガーディムの連中、一体何のためにそんなことしていたのやら?

 

 

 ☆☆☆

 

 

Side.???

 

「報告いたします。ジェイミー一等武官が、任務に失敗し、撤退したようです」

 

「珍しいこともあるものだな。まあいい……何の成果もなく手ぶらで帰ってくるということもあるまい。報告を待ってから、今後の方針を検討するとしよう」

 

 どことも知れぬ、白く清潔感のある……しかし、どこか無機質な空間。

 そこで、病的なほどに色白な肌の壮年の男性が、若い女性……の、姿をしたアンドロイドから、報告を受け取っていた。

 

「ところで、その戦いに例の機体は出てきていたのか?」

 

「特記戦力01『アスクレプス』の出撃は確認できませんでした。情報通り、パイロットは療養中のようです」

 

「不完全な状態で、位階に釣り合わぬ、事象制御レベルの力を行使したのだ、それ相応の反動があってもおかしくはないだろう」

 

「星川ミツル、及び『アスクレプス』そのものについても、拿捕を試みましたが、いずれも失敗したようです」

 

「構わんさ。手元に置いて調べられればそれに越したことはないが、泳がせておけば、行く先々で起こる戦いが刺激になって成長の糧になるだろうしな。他の連中共々、観察は続けておけ」

 

「了解しました。では、失礼します」

 

 去っていくアンドロイドの背中を見送り、壮年の男は、目の前にある巨大なモニターに視線を戻す。彼女が来る直前まで見ていた、その映像に。

 

 モニターには、『宇宙戦艦ヤマト』の姿が映し出されていた。

 

「『波動エンジン』を有する戦艦……これは明らかに、既存のテロン人の技術で作成可能なものではない。やはり、奴らが接触している……となれば、彼らの母星の現状を鑑みれば、その目的は自明……なればこそ、奴らはいずれ向かうはずだ。イスカンダルに……そして……」

 

 画面が切り替わる。

 今度は……恐らくは、第三新東京市での戦いの際に撮影されたのであろう、『ヘリオース』の姿が映し出された。

 

「ようやく見つけた……あの艦とひとところにいるならば好都合だ。手に入らずとも、今は待てばいい……『再臨』の日は、近い」

 

 

 



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第43話 お仕事再開と、旧友の行方

 

【□月#日】

 

 今日から、僕らの立ち位置が少し変わりました。

 

 先日のガーディムの襲撃をどうにか退けた僕らだが、せっかく補給とか色々してたところだっていうのに、また破損した機体は出るわ、負傷者は出るわ、資材燃料その他は減るわで、また少しの間体勢を整えるために時間を置く必要が出てきた。

 なので、もうしばらく『第三新東京市』にいる予定であるとのこと。

 

 幸い、この世界での敵勢力の1つである『ネオ・ジオン』や『Dr.ヘル一味』は、今は何も動きがなく静かなようなので――逆にそれが不気味でもあるが――その余裕は多少なりあるし。

 

 補給は引き続きNERVにお願いする予定……なのだが、それも限界がある。

 

 何せ、この世界における連邦軍も……いかんせん味方とは言い難い立場。

 エヴァや『ロンド・ベル』を、ネオ・ジオンと戦うための戦力として接収しようとしてきたことからもわかるように、世界共通の敵との戦いよりネオ・ジオンとの戦いを優先して、そのために動こうとしない僕ら独立行動部隊を敵視している感じだ。

 

 碇司令がやり手とはいえ、そんなアウェー気味な状況の中で、僕ら全員の補給を面倒見るにも限界があるわけで。

 

 なので、僕の傷病休暇も明けたことだし、ここで『サイデリアル・ホールディングス』として、また仕事をさせてもらうことにした。

 

 新しく僕らの戦力に入った戦艦『アルデバル』は、ネルガル重工と旋風寺コンツェルンの技術協力の元、『パラレルボソンジャンプ』の機能を搭載しており……さらに機体設計上、次元転移にも耐えることができる。というより、最初からそれを前提に設計されている艦だ。

 

 これを使って『宇宙世紀世界』と『西暦世界』を往復し、物資の輸送を行う。向こうの世界で物資その他を仕入れてこっちに持ってくる、というのが今回の手である。

 

 ドックその他は、各艦にあるものや、NERVのを使わせてもらうしかないが、このやり方なら物資は少なくともNERVにかかる負担を軽減できるし、向こうの世界でやっていたように、各自の希望に沿ったものを、嗜好品その他含めて用意することができるだろう。

 

 全体ミーティングの際にそう提案させてもらい、艦長達にもその有効性が理解されて承認された。

 『復帰したばかりのところに苦労を掛ける』って沖田艦長からは言われたけど、いえいえ、このくらいなんでもないです。

 

 ……で、だ。

 さっき、『立ち位置が少し変わった』って言ったことについてなんだが、本題はここからである。

 

 今日から、僕とミレーネルも、正式にこの『独立行動部隊』に参加させてもらうことになったのである。

 

 今までは、あくまで一般というか、外部の協力者として支援をさせてもらっていたわけだけど、ここ最近何だかんだで一緒に戦う機会も多いし、普通に仲間と言ってもらえるくらいには元々交流もしている。

 

 加えて、先日の戦いで見せた『ヘリオース』の戦闘能力や、『アルデバル』やら『アンゲロイ』といった強力な兵器を運用できることも知られている。

 その力を、2つの世界を救うための戦いに貸してくれないか、と言われたのである。

 

 一応僕らには、『サイデリアル・ホールディングス』の会長とその秘書っていう立場があるにはあるんだけど、そこは、同じような立場で(むしろもっとでかい企業で社長やってるが)舞人社長っていう前例もある。

 本来の所属は別にしておいて、一時的に協力関係にするっていう立ち位置についても、宇宙世紀世界のロンド・ベルや、西暦世界ではパラメイル第一中隊がそれに該当している。

 

 もともと『サイデリアル』は、多少の期間であれば、僕がいなくても大体の業務は何とかなるようになっているし、舞人社長からは、何かあれば『旋風寺コンツェルン』からも支援はさせてもらうと言われた。社長不在の間に企業を問題なく回す方法とか。

 

 ……そういやこの人、補給とかでヌーベルトキオシティに戻ってる時以外は、ずっと本社不在にしてるんだもんな。そらノウハウもあるわ(笑)。

 

 僕やミレーネルとしても、ここまで一緒に戦って来た、と言っていい皆からの申し出であるし……沖田艦長達から、力を評価してそんな風に言ってもらえたのはすごく光栄だ。

 それに、他人事として後ろの方で見ているにも、状況的によろしくない場面がいくつもある――使徒とか。ミスると世界滅ぶし――ことも知っている。

 

 強いて言うなら、未だに僕らの操縦テクとか戦闘能力が……機体性能頼りなところが大きくて、ここでエース張ってる皆さんには遠く及ばない部分でちょっと気が引けてる感じもあるくらいか。

 

 けどそれに関しては、勝平君や舞人社長からは『俺達もまだまだだよ』『それこそ皆で協力して強くなりましょう』って言われたし、竜馬さんや総司さん、アキトさんからは、コーチ役や模擬戦の相手ならいくらでも協力するって言われた。心強いことだ。

 

 その申し出を受けさせてもらい……こうして正式に、僕らも彼らの仲間になったわけだ。

 

 もっとも、やることは実質変わらない的なところもあるけどね。ひとまずは当初の予定通り、『アルデバル』でのピストン輸送で、向こうの世界から物資とか運ばなきゃだ。

 

 

 

 それと、その際にもう1つ変わったことが。

 正式に仲間になるにあたって……今まで隠していたことの1つをカミングアウトした。

 

 といっても、僕じゃなくてミレーネルがだけど。

 

 火星出身者やビアル星人(の末裔)、ガミラスの軍人までいることだし、知られても問題ないだろうってことで……何より、仲間と言ってくれたんだから信用したいってことで、ミレーネルが地球人ではないことを告白したのである。

 

 灰青色の肌と白に近い髪を見て、皆最初は驚いていたけど……さすがというかなんというか、秒で受け入れていた。この部隊、やっぱ懐の深さが半端ないな。

 

 メルダ少尉は、『ジレル人』という種族自体を知っていたようで、ひときわ驚いていたようだけど、きっちりこの部隊に毒され……もとい、感化されているようだし。

 ただ、受け入れつつも、何か気になることがある様子ではあったけど。

  

 彼女が持っている……そして、『ジレル人』が迫害される原因になった、精神干渉能力についても、『ニュータイプやイノベイターがいるんだから今更』だと、問題にもされなかったしな。

 

 これには、それなりに覚悟しながら告白したミレーネルも、半分呆れながら、しかしはっきりとわかるくらいに喜んでいた。

 うん、受け入れられてよかったよかった。

 

 ミサトさんやアンジュ達から早速女子会に誘われたりしているミレーネルを見ながら、僕も自分のことのように嬉しくなってしまった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

Side.ミレーネル

 

 本当に、この惑星は……昔の私では想像することもできなかったであろうくらいに、居心地がいい。

 

 私を異星人と知ってなお、精神干渉能力を持っていると知ってなお、当たり前のようにこうして受け入れてくれる。

 自分の心を覗かれるのではないかとか、危害を及ぼされるのではないかとか……そんな疑心暗鬼から迫害されてきた、私達『ジレル人』の歴史からすれば、ありえないくらいの厚遇だ。

 

 彼ら、彼女らからすれば、これを『厚遇』なんて認識すらしていないわけだし。

 ごく普通に友達、ないし仲間として扱ってくれているだけ。だから何も気まずいこともないし、変に遠慮したりもしない。

 

 階級も年齢もほとんど関係なく――所属が違う者同士が入り混じっているから、というのもあるだろうけど――いい意味で『緩い』関係で結びついている。それでいて、その絆、ないし結束力は、下手な軍隊よりもよほど上なのだ。

 

 そんな文化は、この宇宙全体で見ても、非常に珍しい部類だと言っていいだろう。

 

 けれど、決して不快じゃなく……むしろ心地いい。いつまでもここでこうしていたい、と思えてしまうほどに。

 

 今もこうして、カミングアウトの直後に早速誘われた『女子会』で、色々なスイーツに舌鼓を打ちながら、『独立部隊』の女性陣と笑い合いながら、そんな風に思う。

 

 大人も子供も、軍人も民間人も、はては地球人と異星人までもが入り混じっているこの場で……ふと私は、斜め向かいに座っている者の顔を見て、あることを思いついた。

 

「そうだ。ねえメルダ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかしら?」

 

「ん? 何だミレーネル?」

 

 彼女の名は、メルダ・ディッツ。

 青い肌からもわかるように、地球人ではなく、ガミラス人だ。それも、正規軍において、少尉の階級を持っている、れっきとした軍人である。

 

 もちろん、ここにこうしている以上は、生まれも過去も関係なく、彼女もまた仲間、ということに違いはないので、彼女がガミラス人だかどうこう言うつもりはない。

 ただ、ちょっと、軍人としての知識を持っているであろう彼女に、聞きたいことがあるだけだ。

 

「あなた、ガミラスの軍人なのよね? 内部の人事とかには詳しいの?」

 

「多少はまあ……しかし、済まないが、内部情報を話すことはできないぞ? 一応今現在も私は、ガミラス軍の所属だからな……ここに置いてもらっておいて図々しいとは思うが……」

 

「あ、ごめん、そういうことじゃなくてね……実は私、探してる人がいるのよ。その人の情報か、あるいは、探せそうな人や、知ってそうな人がいないかと思ったの」

 

「ああ、そういうことか。しかし、私に聞くということは……ガミラスの関係者なのか?」

 

「いや、探したい人そのものは、関係者……ではないわね。まあ、関わりがないわけじゃないけど」

 

「? と言うと?」

 

「……こういう場で話すことじゃないから詳しくは省くけど……私、昔、レプタボーダにいたの」

 

「何……!? そうか、それは……何と言うか……」

 

 政治犯や思想犯、その他、ガミラスに反抗的な劣等種族達が入れられる収容所惑星『レプタボーダ』……流石に軍人であれば、その名前くらいは知っているようだ。一瞬だけど、苦い表情になっていた。

 

 ……実際は、公になっているよりもよほどえぐいことが行われているんだけどね……まあ、今言った通り、こういう場で話してせっかくのお菓子を不味くするようなことじゃないから、詳しくは言わないけど。

 

 周りにいる皆も『何かわけありっぽい』程度には察している様だけど、詳しくは聞いてこないみたい。配慮がありがたい。

 

「まあ、私の昔のことはいいの。ただ、その頃からの……いいえ、それ以前からの付き合いなんだけど……私、姉みたいな人がいたの」

 

「? それほどの長い付き合いとなると……同じジレル人か?」

 

「ええ、私が知っている限りでは、たった2人だけの生き残りね。私が記憶喪失だって話はしたわよね? その人とは、レプタボーダでは一緒だったんだけど……それから先の記憶が欠落してて、そのせいで、彼女がどうなったのかわからないの」

 

 そもそも、私自身、どうやってレプタボーダを脱出したのかすら覚えてないからね……気が付いた時には、生身の肉体を失って精神体だけになって、『西暦世界』の地球にいた。

 あの時、運よくミツルに拾ってもらえなかったら……私、あのまま消滅してたでしょうね……。

 

 そしてそのせいで……彼女が今どこで何をしているのか、何もわからない。覚えていない。

 

 今もまだレプタボーダにいるのか、それとも私と同じように脱出したのか……後者だとしたら、どうやってか。今、どこにいるのか。

 

「ジレル人……たった2人だけの……? まさか……すまないミレーネル、その人の名前は?」

 

「ミーゼラ。ミーゼラ・セレステラよ。知ってる?」

 

「……! ……ああ、知っている」

 

「! 本当!?」

 

 正直、驚いた。

 何か手掛かりだけでも儲けものだと思っていたから……まさか、直接彼女に……ミーゼラに関する情報を知っているなんて、思わなかったし。彼女、意外と顔が広いのかしら?

 

 けれど、彼女の口から、それに続く言葉を聞かされた時……私は、そのあまりに予想だにしない内容に、さらに驚かされることとなった。

 

「このくらいなら、話しても構わないか……その名前なら、私もよく知っている。というより……ガミラス人であれば……軍人か民間人かを問わず、割と知っている者は多いんじゃないかと思うよ」

 

「? どういうこと?」

 

「ミーゼラ・セレステラは……大ガミラス帝星のトップ、アベルト・デスラー総統の側近の1人だ。私の知る限りでは唯一、純血のガミラス人以外でその大任に就いている存在だよ」

 

「な……っ!?」

 

 ミーゼラが……ガミラスの総統の側近?

 なんで彼女が、そんな地位に……レプタボーダに入れられて、ガミラスに虐げられていた彼女が、一体どんなことがあったら、そのガミラスの、限りなくトップに近い位置にまで上り詰められるっていうの……!?

 

 それに、だ。

 ちょっとまだ上手く理解できないけど、メルダが言う通り、ミーゼラが今聞いた通りの地位にいるとしたら……私は?

 

 レプタボーダで彼女と一緒だった私は……どうなったの? 私は一体、何を忘れているの?

 

 何らかの方法、あるいは過程で、ミーゼラがガミラスの所属になったんだとしたら……ひょっとしたら、私も同じように……?

 

 メルダ曰く、彼女は知名度こそあるものの、その素性や能力、任されている仕事内容……そして過去の経歴なんかには、一般には公開されていないことも多いとのこと。

 メルダも、それ以上のことは知らなかった。

 

(ミーゼラが、ひとまず無事そうなのがわかったのは、まあよかったけど……思いっきり敵勢力だ……それにどうしよう、私自身の記憶も……思い出すの、ちょっと怖くなってきちゃったかも……)

 

 

 



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第44話 多次元企業サイデリアル

 

【□月%日】

 

 『アルデバル』を用いた、『西暦世界』と『宇宙世紀世界』をまたにかけた物資輸送は、すこぶる順調である。

 最初から『パラレルボソンジャンプ』の使用を視野に入れて作られているだけあって、『ボソンジャンプ』に関しては本家本元といっていい『ナデシコC』すら、その一点においては適正で上回ってるからな。

 

 それ単体でも可能なところを、コアユニットとして『アスクレプス』を搭載して次元移動を行うことで、エネルギー消費や機体への負担を最小限に抑えた上で『パラレルボソンジャンプ』を使うことができている。

 

 午前中に出発して、『サイデリアル』本社についたら、あらかじめ用意してあった物資の積み込み。

 それを待っている間に、僕とミレーネルはこっちでの仕事をさっと片づける。

 

 夕方前くらいには全部積み込みやチェックが終わるので、また『宇宙世紀世界』に戻り、各艦へ物資の受け渡し。

 なんとなんと、並行世界間の移動や物資輸送を日帰りでできちゃうお手軽さである。自分で言うのもなんだけど、まーぶっ飛んでるな。

 

 しかも、ジャンプするごとに蓄積されたデータを解析して、より効率よく、負担は少なくジャンプできるように都度改良が進んでるので、どんどん技術精度も上がって言っている。

 そう遠くない未来、『ナデシコC』でも、通常のボソンジャンプと同じ要領で『パラレルボソンジャンプ』を運用できるようになるんじゃないかな。

 

 ま、それまでは今まで通り、うちが頑張らせていただきますけども。

 

 正式に独立部隊に参加することにはなったけど、物資輸送については、今まで通り『連邦軍』の委託でやらしてもらってますからね。まいどどうもー。

 

 

 

【□月&日】

 

 時空振動で『宇宙世紀世界』に飛ばされてきちゃった際は、『えらいことになったなー……』と思って青ざめてたもんだけど……こうも何度も普通に『パラレルボソンジャンプ』で往復してると、なんかこう、並行世界って言っても、その特別さとか珍しさも薄れるな……。

 

 今ではもう、ちょっと県境超えて遠出して買い物してくるくらいの感覚で次元の壁超えてるし……なまじ一瞬で目的地につくもんだからな……。

 

 すっかり『次元移動』も生活リズムに組み込んだ仕事様式が板についちゃったので、その合間に色々他のこともやれる余裕が出てきた。

 

 例えば、今現在の西暦世界の情報の収集とか、ね。

 

 地球連邦軍の内部では、ミスマル中将主導で『火星の後継者』の協力者・賛同者だった者達の摘発が進んでいて、結構な大掃除になってるっぽい。

 

 『火星の後継者』は、主犯格である草壁や、側近だったシンジョウやヤマサキが逮捕され、見事に壊滅したので、組織自体は既にない。

 が、行き場を失った残党がまだあちこちにいて、行き場をなくして野盗まがいのことをし始めているため、順次摘発してるそうだ。

 

 大変ではあるけど、組織だって色々やってくる頃に比べたらそりゃ対処楽なもんだから、問題ない、って言ってた。

 

 次に、DG同盟について。

 今のところ、連中の活動は確認されていないようだ。

 

 まあ、思いっきりこっちに……『宇宙世紀世界』に引っ張り出されちゃってたからな、それぞれの組織のボスまで含めて。

 エンブリヲが連中を連れて来たんだとすれば……僕らが倒しちゃったから、連中、帰れてないんだろうな、やっぱ。

 

 その他の犯罪者とかはいるみたいだけど、警察とか連邦軍が対処してるらしい。

 

 ……むしろ、あの連中が『宇宙世紀世界』で、どこで何をしてるかを考えて警戒した方がいい……のかも?

 

 そして、個人的に一番気になってた……『始祖連合国』について。

 

 その中でも、『ミスルギ皇国』が、ジュリオ皇帝の崩御で結構な混乱が起こってるようだけど……どうにか国としてのシステムはなんとか最低限保てているようである。

 ホントに『最低限』で、国内では大小の混乱があちこちで起こって、決して平和とは言えないような状態になってるようだけど。

 

 犯罪があちこちで起こっていたり、上の方の混乱のあおりを受けて、流通や生産関係がもたついて庶民の生活も徐々に不便になってきていた。

 

 それに加えて、アルゼナルが機能不全を起こしている――ボンボン皇帝(故)のせいだけど――関係で、ドラゴンが国のあちこちで目撃され、これもまた混乱を加速させている。

 

 そのドラゴンを討伐しろとか、本来の役目を果たしていないアルゼナルを懲罰しろとかいう意見も出てるそうだけど、『そんなことに回す力はない』という状態。

 問題を処理する能力が足りてなくて、追い付かないのだ。

 

 現在あの国、皇帝不在の上、皇族があの車椅子の女の子……アンジュの妹であるシルヴィア皇女1人だけになっちゃってるから、統治機構とか意思決定がかなりガタガタなんだよね。

 一刻も早く即位させるべきだとか、流石にまだ早いから議会か何かを置くべきだとか……

 

 そんな状況でも、『最低限』やれてるだけでも上出来なのかもしれない。官僚とか貴族の皆さんとかが頑張ってんのかな?

 

 ま……正直僕のイメージ、あの国だいぶマイナスに傾いてるから……何が起こってようとあまり興味はないんだけどね。助けたいとも思えないし。

 

 それは、元々あの国に住んでた面々にも同様なようで……パラメイル第一中隊の娘達にこのことを伝えたら、アンジュとヒルダが『ざまあみろ』って感じに笑ってた。闇が深い。

 

 とまあそんな感じで、『西暦世界』でも、あっちこっちで大小のトラブルは起こっているものの……僕ら『独立部隊』が動くほどでもないとのこと。

 艦長達に報告入れたら、そういう結論にまとまったからね。よし、これでゆっくり、心置きなく寝られる。

 

 いやでも、ちょっと気になるというか、不安になる情報も一緒にあったんだっけ……安眠、は、だから難しいかもしれない。

 

 仕入れのついでにアルゼナルにも顔を出した時のことだ。色々と話を聞いたり、こっちであったことを報告したりもした。

 

 当然、エンブリヲを倒したことも報告したんだけど……ジル司令はそれで納得しなかったのである。

 

 司令曰く、『確実に殺したはずなのにしれっと生きている』ということが何度もあったらしく、殺しても油断はできないということだった。

 

 いや、それじゃ結局どうすんだよ。『リベルタス』とやらでエンブリヲを倒すのがあんたの目的だろ……え、あいつの不死身の秘密を暴くのもセット? あーそういう……

 

 なるほど、やっぱまだ油断はできないのね。

 ……思えば、今『ギリギリ』でもっているミスルギも……一応手駒は生かしておいた方がいいってことで、エンブリヲが色々やってる可能性もあるな。

 

 あの『ヒステリカ』に乗った奴個人の戦闘能力は驚異的ではあるけど、手下とかに任せた方がいい面倒な仕事だってあるだろうし。

 

 一応……あいつはまだ健在、という想定の下で動いた方がよさそうだ。あーめんどくさい。

 

 

 

【□月+日】

 

 ここんとこ頻繁に、2~3日に1回のペースで並行世界を行き来している。

 かなり部隊そのものの規模が大きくなってきたのに加え、補給の比重がだいぶNERVよりからこっちよりになってきたからな。

 

 前にも言った通り、NERVも、こっちの地球連邦軍からはちょっと嫌われている身だ。

 『使徒』対策は確かに重要だけど、連邦にとって今最優先で対処すべき敵は『ネオ・ジオン』であり、巨大な戦力を有しながらもそれに対して動くつもりのないNERV、及び独立部隊は、あまりよろしくない評価を受けているようで。

 

 まあ、前々からわかっていたことではあるんだけど……いかに碇司令がやり手とはいえ、そんな状況で補給の面倒を見続けるのも簡単ではない。

 なので、こっちができる分はこっちでやることにした結果がこれだ。

 

 で、その為の色々な事務仕事をやってる時に思ったんだけど……もう宇宙世紀世界(こっち)に拠点作っちゃった方が早いんじゃないかって思ったわけだ。

 

 いや、その発想自体は割と前からあったんだけど、色々忙しいから案だけちょいちょいまとめながらも後回しにしてたんだよね。

 それを、いよいよ実行に移すことにした。

 

 つか、移した。

 

 やることは大きく3つ。

 

 1つ目、拠点とする土地及び建物の確保。

 2つ目、正規の企業としての起業申請。

 3つ目、協力者その他の確保。

 

 このうち、1つ目と2つ目を一気に解決するために、既存の企業を買い取ってしまうことにした。

 西暦世界でもよくやっていて手馴れている、M&Aである。

 

 NERVとの連携もとりやすいように、日本の港湾部にある都市の、いくつかの企業……ネオ・ジオンとの戦争で業績が振るわずあっぷあっぷしていたそれらを、即金で従業員や経営権ごと買い取り、色々手を加えて『サイデリアル・ホールディングス 宇宙世紀世界支店』にした。

 

 あらかじめ用意しておいた機材なんかを運び込んで、あまり見た目的に整ってはいないものの、部隊の補給拠点としては問題なく使える程度にまで体裁を整えた。

 もちろん、普通の工場としても稼働させておき、地元経済を回しておく。こうして地元にもお金をきちんと落としておけば、大体受け入れられて上手くいくから。

 

 そんでもって3つ目。これに関しては、企業としてお世話になる表の人脈と……もう1つ、裏の人脈もどうにかして確保したかった。

 

 表の人脈は、きちんと企業努力で徐々に育てていくとして……裏については、裏社会で調べものをしたり、その他色々する際のノウハウの獲得が目的だ。

 こんなご時世なので、色んな所から妨害を受けた時に対処したり、あるいは妨害される前に処理したりとか、そういう時にも役立つだろう。

 

 しかし、それだけに慎重に構築しなければならないものだったんだけど……運よくと言うべきか、それなりに信頼に値する相手を見つけることができた。

 

 相手は、とある傭兵団みたいな組織。

 といっても、『ミスリル』みたいに大規模なそれじゃなく、まあ言い方は悪いけど、零細で経営にも割と苦労している感じの。

 

 そこに所属している、セイナという女性が交渉役に立って、僕らに『スポンサーになってほしい』と言って来たのである。

 

 あちらからは、僕らが欲している裏社会の人脈や情報を提供でき、必要であれば調査や、本業?である傭兵の派遣なども行える。傭兵団として仕事する場合は、別途料金も発生するが。

 

 それらと引き換えに、こっちからは資金とか物資をもらいたいと。なるほど。取引の内容としては妥当だ。

 

 ミレーネルにも同席してもらって調べた感じ、こっちを利用しようとする意図はあっても、裏切ろうとする意思は感じなかったらしいし、むしろ誠実に物事に当たろうとしているのを読み取れて、裏の人間にしては好感触だという。

 

 加えて、ちょっと独自にこっちでも調べてみたところ、彼女の詳細な素性も明らかになった。

 

 というか、思わぬ形で僕ら『独立部隊』に関わりのあった人物だった。

 正確には、その中の『ミスリル』に、だけど。

 

 以下、宗介君やテッサ艦長から聞かされた話を含む。

 

 彼女の所属する組織『A21』は、元々、彼女の恩人ないし恩師である『タケチ・セイジ』なる人物によって運営されていた、青少年の更生施設を兼ねた孤児院みたいなものだったらしい。

 しかし、策謀によって反社会的組織の烙印を押され、タケチ・セイジは逮捕、獄中で自殺。

 

 その復讐のために、A21は一度はテロリストに身を落とし、ミスリルとも戦ったらしい。その際は『アマルガム』が、尖兵として利用するために武器供与その他をしていたんだとか。

 

 最終的には壊滅させたそうだけど、その残党がまだ活動を続けていたようだ。

 

 しかしそれは、世界を憎むテロリストとしてじゃなく……かつてと同じように、青少年の更生を目的としてのもの。

 色々あって、テロリスト時代の償いのためにも……それこそ、タケチさんの意思を受け継ぐ形で、そういう活動を続けているそうだ。

 

 ……この世界今、めっちゃ戦争真っただ中だもんな。そういう組織も必要になるか。

 

 かつては敵だったものの、今は心配なさそうだってことで、正式に協力関係を形作らせてもらうことにした。

 傭兵として動いてもらうことは多分、そんなにないだろうけど、情報とかノウハウ的なところでは頼りにさせてもらおうと思っている。

 

 テッサ艦長達も、かつて自分達が戦った、悲しい運命を背負った彼らに、ほんの一筋、未来に生きる道が示された形となったことで、ほっとしてもらえたようだった。

 

 ……あと、今更になってようやく気が付いたんだけど、この人達『Z』にもいたな。

 あの世界では、元『黒の騎士団』メンバーだっていうとんでもない過去持ってたけど。確か。

 

 思い出すのだいぶ遅かったけど、色眼鏡で見ることなく対応できたと思えばよかったか。

 

 そんな感じで、無事に『サイデリアル』の宇宙世紀支店が……独立部隊が使える拠点ができた。

 『サイデリアル・ホールディングス』が、多国籍企業ならぬ『多次元企業』になった瞬間であった。祝え!

 

 

 

 さて、と。

 足場も安定してきたってことで……ちょっと最近考えていた、ある計画を実行に移そうと思う。

 

 最近、ますます戦いが激しくなってきていることや、『ガーディム』やら何やらのよくわからない連中が暗躍し始めてる状況を考えると……僕らの方でも、色々な可能性を想定した上で、準備を進めておくべきことが多いと思うんだ。

 

 今回のこの『拠点づくり』もその一環ではあるが、もっと重要な部分の計画にも着手していきたいと思っている。

 猶予は……思っているよりもなさそうだし。

 

 今のこのつかの間の平和は、多分、いわゆる『嵐の前の静けさ』だ。

 また『嵐』が来る前に、できることを進めておかないと。

 

 僕が、それこそ、『西暦世界』に来た当初から、頭の片隅で描いていた……そのために何ができるか、年単位で時間をかけて、構想や準備をちょっとずつ進めていた計画――

 

 

 

 ――『バースカル移設計画』を。

 

 

 



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第45話 コロニー落としとありえない再会

 

 

【□月¥日】

 

 ……ちょっと、コレを書いている今も、状況を頭の中で整理できていない僕がいる。

 そのくらい、今回起こった騒動は、最初から最後まで激動なもので……それ以上に、わけがわからなかった。

 

 短時間に色々なことが、それも、ありえないことが起こりすぎて……処理落ちしそうだ。

 

 順番に書き連ねていこう。もともとこの日記は、そういうのをきちんと整理して理解するためにつけはじめたものでもあるし。

 

 

 

 こないだの日記にも書いた気がするけど、ここ最近の穏やかな時間は、まあ予想通りというか、見事に『嵐の前の静けさ』だったわけで。

 『嵐』はある日、突然やってきて、その平和をぶち壊してくれた。

 

 ネオ・ジオンの連中が『コロニー落とし』をやるつもりだという情報が入ったのである。

 

 幸い、補給は既に万全に終わっていたので、独立部隊は一気に宇宙に上がり……既に地球の重力圏間近にまで迫っていたスペースコロニーと、それを護衛しているネオ・ジオンの連中を視界に収めた。

 

 あ、もちろん僕とミレーネルも一緒に上がったよ。『アルデバル』で。

 

 一応説得しようとしたが、まあ当然、向こうは聞く気がなかったので、戦闘開始。

 さっさとネオ・ジオンを全滅させて、コロニーを破壊あるいは軌道を変えて落下阻止しなきゃ、ということになったわけだ。悲しきかな、予想通りというか、予定通りである。

 

 ここまではまあ、うん、予定通りだったんだけど……その後にね、色々と予定外のことが。

 

 まず最初に、援軍が現れた。こっちにも、敵にも。

 

 こっち側に来てくれた、味方の援軍は、マリーダさん達やジンネマン艦長といった、ユニコーン組。そしてさらに、カミーユもいた。

 そこにさらに、オードリー……もとい、ミネバ・ラオ・ザビも一緒に来ていた。この戦いを終わらせるために、って今まで隠していた素性も明かして、ここにきて、ネオ・ジオンを説得した。

 

 残念ながらその言葉は届かず、戦闘は続行となってしまったわけだが、向こうも覚悟はしていたみたいで、動揺は少なかった。

 こっち側も、オードリーがザビ家の末裔だってことに驚いてはいたものの、仲間として受け入れることに異論のある者はおらず、そのまま協力体制に。

 

 ここまでで終わってくれればどれだけよかったか……。

 

 しかしその後、今度は敵側にも、わんさか援軍が来た。

 

 まず現れたのは、ガミラスの艦隊。

 連中、補給や艦隊の修繕のために、ネオ・ジオンと一時的に手を組んでいるらしいので。

 

 そして、元の世界に戻るためにヤマトをしつこく狙っているらしい。

 ただし、具体的にどうやって帰るかっていうビジョンはなく、『ヤマトの波動エンジンさえあればなんとかなるはずだ!』という、なんともふわふわした目的だけで動いているそうで……それを語ってくれたメルダ少尉、呆れながら言っていた。

 

 あと、あの艦隊のボスが、メルダ少尉の上司を殺した仇でもあるんだって。そら辛辣な言い方にもなるわな。

 

 次に、アマルガムの連中。

 ボスであるレナードに加え、クルツの狙撃の師匠であるカスパーや、その他幹部クラスも揃って妨害のために襲い掛かってくる。

 

 その中には、攫われたと聞いていたかなめちゃんもいて……しかし、以前の彼女とは別人のような、冷徹な雰囲気で、しかもレナード達に恭順するようなことを言っていた。

 

 それを見て、宗助君達は『精神制御でもされたのか!?』って動揺してたけど……これはえーと……亡霊みたいなのが取りついてるんだっけ? ソフィアとかいう。

 あれはかなめちゃんじゃなくて、その亡霊。その自覚は今彼女にはないけど。

 

 精神干渉関係の専門家である、ミレーネルにちょっと聞いてみたら、案の定、感じ取れる思念がおかしなことになってる、って返答が帰ってきたし。

 かなめちゃんの体を動かしている思念が、体になじんでいない。ブレているような重なっているような感じになってるって。確定とみてよさそうだ。

 

 あと、なんかレナードの方も性格変わって、ガラ悪い感じになってた。ああ、そういやそんな展開もあったな。かなめちゃんに撃たれて死にかけてああなったんだっけ?

 

 これだけでも結構大変な感じなのに、ここにさらにエンブリヲまで現れた。

 うん、やっぱり生きてやがったよあの野郎。『あの程度のことでは私は殺せないよ』とかなんとか言って、余裕そうだった。

 

 しかも今度は、奴の乗る『ヒステリカ』と同じ、黒いパラメイル……『ラグナメイル』というらしい機体を、6機(・・)も従えて。

 エンブリヲの『ヒステリカ』も合わせれば、合計7機(・・・・)

 

 それだけでも戦力的にかなりヤバそうではあったんだけど……僕らをさらに混乱させたのは、その『ラグナメイル』に乗っていたのが誰がかわかった時だ。

 

 6機のうち5機には……なんと、アルゼナルでの戦いで行方不明になっていた、サリア、クリス、エルシャ、そして別部隊の2人……ターニャとイルマが乗っていたのだ。

 

 後の2人に関しては、第一中隊じゃなかったから、あんまり関わりはなかったんだけど……名前は知ってた。『アルゼナル支店』にも時々来てたし。

 

 彼女達が、なぜかエンブリヲを慕うようなことを言って、ラグナメイルにのってこっちに攻撃を仕掛けてきたのである。

 『ダイヤモンドローズ騎士団』とかいうユニット名までつけて。親衛隊か何かか?

 

 アンジュやヒルダ、ロザリーの言葉にもまるで耳を貸す気配はない。

 

 かなめちゃん同様、洗脳とか精神制御されたのかと、皆疑ってたが、受け答えの様子からはそんな気配は感じられず、ミレーネルも精神波の以上なんかは感じ取れなかったという。

 じゃあ彼女達、本当に自分達の意思で寝返ったと? 一体何があったらそんなことになる!?

 

 ……そして、残る1機のラグナメイル。

 それに乗っていたパイロットが……一番わけがわからなかった。

 

 だって、その娘は…………

 

 

 ☆☆☆

 

 

「ちょっとサリア!? あんた何でそんなところにいるわけ!?」

 

「私達は『ダイヤモンドローズ騎士団』! エンブリヲ様の騎士よ!」

 

「しかも名前が妙にダサい……あんたでしょそれ考えたの!?」

 

「うっさい、悪かったわね! あなたもすぐに、叩き落して平伏させて、私達の一員にしてあげるわ……エンブリヲ様のためにね!」

 

 

「クリス!? クリス、おい!? 嘘だろお前、お前が裏切ったなんて……エンブリヲは、アルゼナルを襲って、私らのことも殺そうとしたんだぞ!?」

 

「違うわ……エンブリヲ君は、エンブリヲ君こそが私の友達なんだ! あんた達なんかもう知らない! エンブリヲ君の敵は、私が討つ!」

 

「ああそうかよ! わかった、私らの邪魔するんなら覚悟しろよクリス! ちくしょう、一体どうなってやがる……何が『エンブリヲ君』だよ!」

 

 

「エルシャー!? なんでそっちにいるの? エンブリヲ、敵だよ? 生きてたんなら、また一緒にこっちで……」

 

「ごめんなさい、ヴィヴィアンちゃん……でも、私はあなた達と戦わなければいけないの」

 

 

 サリア、クリス、エルシャ……かつて仲間だった彼女達が、『ラグナメイル』に乗り、エンブリヲの尖兵として自分達に刃を、銃口を向けてくる。

 

 その事実に、アンジュ達は、エンブリヲが生きていたこと以上に衝撃を受けていた。

 

 彼女達が生きていたことは喜ばしいとはいえ、一体何があったら、こんな風に敵同士として再会することになるというのか。

 仲間に聞いた限りでは、精神制御や洗脳を受けている気配はないという。ならば本当に、心からエンブリヲの仲間になってしまったのかと、考えたくもない可能性が頭をよぎる。

 

 しかし、それらについて考えている時間はない。

 敵となったサリア達は容赦なく襲ってくるのはもちろん、それ以外の敵……アマルガムやガミラス、ネオ・ジオンからの横殴りが飛んで来ないとも限らない。

 さらに、こうしている間にも、コロニーは地球に向かって落下しつつある。

 

 そしてしかし、困惑に包まれているパラメイル第一中隊の中で……とりわけ大きな衝撃を受けていたのは……ミランダだった。

 

「う、そ……なんで……!? なんで……あなたがここに……!?」

 

 彼女が今相対している、最後の1機のラグナメイル。

 コクピットのモニターに……映像アリの通信で映し出された、そのパイロットの顔を見て……ミランダは、まるで幽霊でも見たかのような、愕然となった表情になっていた。

 

 混乱しながらも応戦に移りつつあるアンジュやヒルダ達と違い、ミランダは困惑のあまり、機体の動きどころか、思考すらほとんど完全に停止してしまっている。

 

 しかし、それも無理のないことだった。

 何せ、彼女がモニター越しに対面しているのは……

 

 

 

「どうして、あなたが……!? 本物なの……!? 生きていたの―――

 

 

 

 

 ―――ココ!?

 

 

 

 

 

「もちろん、本物だよ……久しぶりだね、ミランダ」

 

 

 

 かつて、彼女達にとっての初陣で、目の前で戦死したはずの……親友だったのだから。

 

 

 

 



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第46話 ココとミランダとアンジュ

 

 

 『第三新東京市』に引き続いての、第二ラウンド、とでも言うべきか。

 ミツルの乗る『アスクレプス』と、エンブリヲの『ヒステリカ』は、それぞれの刃をぶつけあい、切り結んでいた。

 

「今日はあの姿にならなくてもいいのかい、星川ミツル? その姿のままで『ヒステリカ』の相手をするのは、いささか荷が重いと思うが」

 

「ご心配なく、こっちも色々鍛えてるから大丈夫だよ! それより……お前、今度は一体何した? 何だって死人が生き返ってるんだよ?」

 

「随分な言い方じゃないか……もっと素直に喜んであげたらどうだい? 君やアンジュの目の前で死んだ、君達が救えなかった子なんだろう?」

 

 ココ・リーヴ。

 ミランダの親友であり……あの日、彼女達にとっての初陣で……ドラゴンの攻撃によって撃墜され、死亡したはずの少女。

 

 彼女の死は、ミランダの心に深い傷を残し……一時期はそれが原因で、アンジュとの仲が酷く険悪なものになっていた時期もあった。

 

 そう、確かに死んだはずだったのだ。

 死んで、墓石を立てられ、名前を返してもらい……彼女は間違いなく、パラメイル第一中隊から、アルゼナルからいなくなったはずだった。

 

 それがなぜ、こうしてここで、エンブリヲの部下としてラグナメイルに乗って、自分達の敵として立ちはだかっているのか。

 全くわけがわからないその状況に、パラメイル第一中隊のみならず、ミツルも歯噛みする。

 

(僕もミレーネルも見てた……確かにあの子は、ドラゴンに殺されたはず……死体も回収して、アルゼナルに届けた。あの状態から蘇生できるはずがないし……なら偽物!? それとも……『生き返らせた』とか……いや、いくらなんでもそんなこと……)

 

 

 

 ミツルが困惑しているのと同様に……いやそれ以上に、ミランダもまた困惑していた。

 当然と言えば当然である。死んだと思っていた親友が生きていて、しかし敵として自分達の前に立ちはだかっている。言葉にしてみても全くわけがわからない事態である。

 

「どうして生きているの、ココ……あなた、確かに私の目の前で……基地に戻ってから、死体の確認もしたのに……」

 

「うん、確かに私、あの時死んだよ……でもね、生き返ったの」

 

「生き返った……!?」

 

「そう。エンブリヲ様に、生き返らせてもらったの。それだけじゃなく……言ってもらえたんだ。ドラゴンなんかと戦わなくていい、平和で穏やかな世界を一緒に作ろうって。そのための力も……『ラグナメイル』も、自分が用意するから、一緒に戦おうって」

 

 死んだ者が生き返ることなどない。子供でも知っている常識だ。この世界は、ゲームでも何でもないのだから。

 

 しかし、目の前にいる少女が偽物だと断言するには……ミランダの目には、ココの姿は……生前と同じ過ぎた。

 姿だけではない、声も、口調も、性格も……言葉に表しづらい、感じ取れる雰囲気まで、何もかもが同じだった。変装や整形手術などではないと、彼女には直感できてしまった。

 

 しかし、ただ1つ。

 

「だからミランダ、ミランダもこっちに来て、一緒に……エンブリヲ様のために戦おう! 私達が頑張って、エンブリヲ様の敵を全部倒せば……世界は平和になる。もう二度と、ノーマだからって閉じ込められたり、ドラゴンと戦わなくてもよくなるの!」

 

 何のために戦うのか。その部分だけが……決定的に変わってしまっている。

 自分達と、決して相いれない形で。

 

 二度と会えないと思っていた、そのはずだった親友に会えて……その親友が、自分のことを、まだ今も友達だと思っていたことが嬉しくて、ミランダは揺らいだ。

 けれども、それまで独立部隊で見聞きしていた知識が、記憶が、経験が、彼女を押しとどめる。

 

「ごめん……それは、ダメ……」

 

「っ……ミランダ、どうして!?」

 

「だって……エンブリヲは、私達の敵なんだよ……? ノーマを差別したのも、ドラゴンが……ドラゴンってでも元々は人間で、アウラっていう始祖のドラゴンをさらって、戦いの原因になったのもエンブリヲで……全部エンブリヲのせいだったんだよ!? それなのに……」

 

 モニターの向こうで、ミランダに拒絶されて……それ自体には本当にショックを受けたような表情になっていたココ。

 

 しかし、ミランダが知る限りの事実を並べ、思いつく限りの言葉を連ねても……ココは、

 

「平和な世界にしたいなら、エンブリヲこそこのままにしておいちゃダメなんだよ。だから……私は……」

 

「……そっか……それじゃ、残念だけど……敵だね、ミランダ」

 

「っ……!? そんな、ココ……!?」

 

 辛そうな表情はそのままに、ココは……ラグナメイルの剣を構える。

 その切っ先を向けられ、ミランダは、『グレイブ』のコクピットですくみあがった。

 

 恐怖から、ではない。

 それもなくはないが……それ以上に、親友にこうして剣を向けられ、明確に敵として扱われているという状況が……そしてこの後、戦わなければならないというこの状況が、ショックでしかなかったのだ。

 

 怖くて、悲しくて、どうしたらいいかわからなくて……しかし、敵は待ってくれない。

 

 ラグナメイルのブースターをふかし、急加速して、ココはミランダ目掛けて突っ込んでいく。

 ミランダは、覚悟などまだ決まってはいないにしても、応戦しなくては、と、グレイブを動かそうとし……

 

 しかし、

 

「え?」

 

「ミランダはそこで何もしないでいて! 邪魔しなければ放っておいてあげる!」

 

 ココの乗るラグナメイルは、ミランダのグレイブの横を、すり抜けるように素通りし、そのまま飛び去って行った。

 その先にいたのは……

 

「アンジュリーゼ……様ぁぁああっ!!」

 

「なっ……!?」

 

 アンジュの乗る、ヴィルキスだった。

 

 加速をそのまま勢いに変えて、剣を振り抜いてヴィルキスに斬りかかる。

 

 サリアの乗る『クレオパトラ』のと戦っていたアンジュ。まだラグナメイルの操縦に慣れない彼女を相手に、アンジュは優位に戦ってはいたものの、ほとんど真後ろから飛んできたココの奇襲に、どうにか反応して、それを剣で防ぐ。

 

「っ……あんた……ココ!?」

 

「えぇ!? ココ、って……」

 

「おい、どういうことだよ!? お前死んだはずだろ!?」

 

「そうですよ、死にましたよ……あなたのせいでね、アンジュリーゼ様!」

 

 そう叫ぶココの表情は、ミランダと話していた時とは打って変わって、目を見開き、眉間にしわがより、攻撃的なものになっていた。

 

 言われて、アンジュも思い出す。

 

 あの時、まだココは無邪気にアンジュを慕っていた。

 彼女と友達になろうと、積極的に話しかけてきたり……彼女から話を聞いた、『始祖連合国』を指して言う『魔法の国』に行ってみたいと笑っていた。

 

 そんな彼女をしかし、アンジュは冷たくあしらっていた。

 

 あの頃、彼女はまだ自らを『アンジュリーゼ』だと名乗り、自分がノーマだということを認めていなかった。第一中隊の面々を『これ』呼ばわりし、『ノーマ』だと見下していた。

 ココがプレゼントとして贈ったプリンも、封を開けることもせずに捨てたし、ココとゾーラが命を落とした戦いの後ですら、その認識はしばらく変わらなかった。

 

 アンジュ自身にとっても、思い出したくもない、何もわかっていなかった頃の自分。

 ココの死は紛れもなく……彼女の過ちの1つと数えていいものだった。その死因がドラゴンの攻撃によるものだとしても。

 

 それらのことを思い出して、顔をゆがめるアンジュ。

 

「……その呼び方、やめてもらえる? 私はもうアンジュよ、ただのアンジュ!」

 

「何でですか? アンジュリーゼ様はアンジュリーゼ様じゃないですか……名前変えたくらいで、過去を捨てた気になってるんですか……この人殺しぃ!」

 

 聞く耳持たんとばかりに、剣を振るい、猛攻を仕掛けるココ。

 

 勢いはあるし、ラグナメイルの性能ゆえに攻撃力もかなりのものではある。

 しかし、太刀筋は単純でわかりやすい。フェイントもほとんどない。経験不足と……感情に任せて剣を振るっているであろう部分も見られる。

 

 アンジュの技量ならば、見切ってさばいて反撃できるレベルだと言ってよかった。

 

 しかし、感情をそのままぶつけてくるような先程の叫びが……それゆえにこそ、ココの本心だとわかってしまい……過去の自分への嫌悪感と、ココへの罪悪感が、アンジュの腕を鈍らせる。

 

 加えて、もともとアンジュと戦っていたサリアも……いなくなってくれたわけではない。

 

 突然突っ込んできたココに面食らって止まっていたものの、ここにきて再起動。好機とみて、反対側からアンジュに襲い掛かる。

 

「2対1か……スマートじゃないけど、これもあなたの罪の結果よ、アンジュ。卑怯だなんて言わないわよね?」

 

「言うわバカ! サリア、この卑怯者! ひがみ女! 魔法少女!」

 

「うっさい! 下半身デブ! 脱走常習犯! あんたなんかエンブリヲ様にふさわしくない!」

 

「何の話!?」

 

 同時に襲ってくるサリアとココの攻撃を必死にさばきながら罵詈雑言も飛ばす、ある意味器用な真似をするアンジュ。

 だが、いかにアンジュがエース級の力を持っているとはいえ、同格以上の機体2機を相手にするのは苦しいものがある。

 

 しかしそこに、焔龍號に乗ったサラマンディーネが駆けつけ、横合いから切り付けてココの乗る機体を引きはがし……1対1が2つ、という形に持っていく。

 

「サラ子、ナイス!」

 

「っ……邪魔しないで! 私の相手はアンジュリーゼ様なのに!」

 

「あら、そうでしょうか? あなた、ドラゴンに殺されたんですよね……でしたら、私の、私達の方があなたの仇として妥当じゃないですか?」

 

 挑発を込めて言い放ったサラマンディーネの言葉に反応するココ。

 

「! そうか、あなた達、エンブリヲ様の言ってた……それならわかった。そんな風に言うなら、あなた達も真っ二つにしてあげる……この『ビルキス』で!」

 

「……!?」

 

 突撃してくるココの機体……『ビルキス』の剣を受け止めながら、サラマンディーネは驚きをどうにか押し殺した。

 

(『ビルキス』……!? それは、アンジュの『ヴィルキス』の、かつての名前のはず……なぜ今、この者が乗るラグナメイルに、その名前が!?)

 

 かつて、『古の民』……タスクの先祖は、エンブリヲとの戦いの末に、多大な犠牲を出しながらも、ラグナメイルのうちの1機を奪取することに成功した。

 その機体の名前こそが『ビルキス』。彼らはそれを作り替え、いつかエンブリヲを撃ち滅ぼすための力となるように願いを込めて、『ヴィルキス』という新たな名をつけた。

 

 当然『ヴィルキス』と『ビルキス』は、同時に存在するはずがない機体なのだ。

 

(単なるレプリカでしょうか? エンブリヲが新たに作ったラグナメイルに、かつての奪われた機体の名をつけたということ? それとも……)

 

 

 

 時間も残り少ない中、混沌渦巻く戦場で……ミツルは、ちっ、と舌打ちをした。

 

 あの『覚醒』以来、アスクレプスはなぜかさらに出力が上昇し、アスクレプスのままでも、以前までとは段違いの力を振るえるようになっていた。

 それでいて、ミツル自身の操作技能もそれに馴染んでいた。

 

 ゆえに、この姿のままでも、エンブリヲの相手は務まっている。

 

 しかし、刻一刻とタイムリミットが……地球に落下するコロニーを止められる限界時間が近づく中、このままではまずい、と結論を出さざるを得なかった。

 

「……仕方ないか」

 

 ミツルは秘匿回線を開き、通信をつないだ。

 繋ぐ先は、ミレーネルの乗る『アルデバル』。それに加えて、各戦艦の直衛についているため、後方で待機している形になっている……『ボスボロット』と『ブラックマイトガイン』だ。

 

「ミレーネル、それに、ボス達と、ブラックも」

 

『どうしたの、ミツル?』

 

「ちょっと頼みがあってさ。この後、もし僕が動けなくなったら……回収してもらっていいかな? 『アルデバル』の格納庫に適当に突っ込んでもらえればいいから」

 

『動けなくなったら? って、どういう意味だよそりゃ?』

 

『ぼ、ボス、あれじゃないですか? ほら、この間の……』

 

『ああ、そうか……あの後動けなくなったんですもんね』

 

『……成程、了解した。その時は任せてくれ、ミツル!』

 

『……気をつけてね』

 

「了解。そんじゃ……」

 

 後のことを託したミツルは、深呼吸して集中し……体の奥底から、力を引っ張り出して燃え上がらせるイメージで、『発動』。

 アスクレプスの次元力が膨れ上がっていき……相対しているエンブリヲは、これから何が起こるのかを悟った。

 

「……ようやくか。待っていたよ」

 

 しかし、それをただ見ているだけで、何もしようとはしない。

 

 その眼前で、『アスクレプス』はその姿を変え……真の姿『ヘリオース』へと変身した。

 

「時間がないのは元々だからな……ここからは全力で行く!」

 

(反動でまたしばらく動けなくなるだろうけど、それもやむなし……ミレーネル、ボス、ブラック……その時は任せた!)

 

 3対6枚の次元力の翼を広げ、光背を輝かせながら……ミツルは、飛翔する。

 

 

 

 



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第47話 コロニーレーザーと『なぜなにナデシコ』

 

 

【□月¥日(同日)、続き】

 

 たしかに僕らの目の前で死んだはずの……それこそ、亡骸だって僕らが回収したはずの彼女……ココちゃんが、『ラグナメイル』に乗って襲って来た。わけがわからない。

 

 本人は『エンブリヲ様に生き返らせてもらった』とか言ってたそうだけど、いくらなんでもありえないだろ……死者蘇生って。

 

 今だから言っちゃうんだけど……あの時のココちゃんの状態は、凄惨そのもので……素人目にも蘇生なんか絶対に不可能だってくらいに、確実に死んでた。

 というか、上半身と下半身が泣き別れになった上、海に落ちたせいで血液もほとんど流れ出て、内臓もなくなってた状態だったんだ。それで死んでなきゃ、生物としてむしろおかしい。

 

 けど、じゃああのココちゃんは一体何だったのか?

 残念ながら……その答えは僕にもわからない。

 

 偽物だったのか、あるいは……思いもよらない方法で本当に復活したのか……いや、さすがにそれは……次元力使っても無理だと思うし……

 

 ……次元力で思い出した。

 もう1つ、ちょっとどころじゃなく厄介なことがあったんだ。

 

 このままでは間に合わないと思って、戦闘後に動けなくなるのも覚悟の上で、『ヘリオース』に変形した後のことだ。

 速攻で動いた僕は、エンブリヲのヒステリカをさっさと倒して、他のメンバーへの加勢に行くつもりだった。

 

 しかし、まあ実際にエンブリヲは倒せたものの……その交戦時に、また、ココ復活に匹敵する驚愕を覚えることとなった。

 

 

 

 なんと、エンブリヲの奴が……『次元力』を使ってきやがったのである。

 

 

 

 見間違いか、あるいは計器の故障かと思って何度も確認したが……信じがたいことに、間違いじゃなかった。

 奴の機体……『ヒステリカ』は、確かに次元力を用いて攻撃や駆動をしてきて……こちらが与えたダメージの修復も行っていた。いや、これはもともとできてたことか。

 

 どうしていきなり!? こっちが使ってるのを見てコピーしたのか!?

 いやでも、いくらアイツが……常人から見れば規格外の能力を持ってるからって、サンプルも何もなく、見たことがあるだけの力を再現するなんて不可能だろう。

 

 この世界で、次元力を扱えるのは、僕とミレーネルだけだ。そのための設備は、きちんと内部で管理しており、外部には技術的な情報の1つも流出させてはいない。

 

 次元力に関する研究は、社の内外以前に、『西暦世界』でも『宇宙世紀世界』でも行ってはいない。

 ほぼ全て『バースカル』で行っていた。まあ、それを使ったプログラムを組める設備が、この世界に存在しなかったし、『バースカル』で作って持ち込むこともなかったからな。

 

 でもだとしたら、どうやってこいつは『次元力』の一端を手にしたんだ……!?

 仮に何かしらの形でサンプルを手にできたとしても……実用化するのには並大抵の技術力じゃ足りない上に、次元化学そのものに対しての理解も必要なはずなのに。

 

 それに、だ。

 その点以外にも……何だかエンブリヲとの戦いでは、不自然に思えた点がいくつもあった。

 

 まず、戦闘能力。

 これは前とはさして変わっていなかった。次元力を使えるようになっていたにも関わらず、だ。

 

 まあ、次元力を使ったからって、必ずしも劇的なパワーアップに繋がるわけじゃないのはそうなんだけど……そのせいで、何だかとってつけたような感じに思えたんだよな。

 サブ動力として稼働していたみたいだから、出力そのものは上がっていただろうけど……ほとんど付け焼刃同然というか、全く強みを生かせていないというか。使えるだけ、みたいな。

 

 まあ、これに関しては……まだ使いこなせていないだけ、っていう見方もできなくはない。

 

 けど、気になった点、もう1つ。

 気のせいじゃなければ、なんだけど……なんかエンブリヲ、ちょっと性格変わってたような?

 

 次元力を使いだしてからなんだけど……戦っている最中に、苛立っているというか、前より攻撃的で、こっちを見下していて……ああいや、これは元々か。

 で、通信越しに舌打ちの音なんかも聞こえてきたりして。

 

 大物ムーブが崩れただけ? それにしては、何だかな……その苛立ち方も、どこか取ってつけたような、不自然さがあった。

 

 後からミレーネルに聞いてみたら……その際の妙な精神波の変化みたいなものを、彼女もわずかに感じ取っていたようで。

 何かしらの行動のたびに、エンブリヲから『苛立ち』や『憎しみ』……あるいは『怒り』のような感情が漏れ出してきていた……だそうだ。

 

 ……何か、関係あるのかな? あいつが、いきなり次元力を使いだしたことと。

 

 そして、戦っている最中に……なぜか、僕の心がざわついたような気がしたことと。

 

 

 

 

 まあ、エンブリヲについてはこのへんにしておこう。

 

 その後、どうにかエンブリヲと、サリア達『ダイヤモンドローズ騎士団』とやらも撃退した……というか、エンブリヲが僕に負けたと同時に、彼を守って一斉に撤退していったんだが。

 

 幸い、『ヘリオース』への変形の反動が来る前に決着がついたので、残りの敵との戦いの手伝いをしようとして……しかし、それらももうほとんど終わっていた。

 

 ガミラスはヤマトと総司さんが、アマルガムはミスリルが、ネオ・ジオンは宇宙世紀世界のガンダムチームが中心になって、それぞれもう粗方倒し終えたところ。どれも撤退していっていた。

 

 あとはコロニーを止めるだけ、って段階になって……しかし、予想以上にコロニーの落下速度が速くて、既に阻止限界点を突破、地球の重力圏内に入ってしまっていた。

 このまま皆で総攻撃を加えても、破壊した破片が地球に降り注ぐ。降り注いでも影響がない……大気圏で燃え尽きるくらいの小さな破片にまで破壊しつくすことは、到底できない。

 

 マジンガーやゲッター、グレートマイトガイン、ヘリオース……いずれの火力でも無理だ。

 

 可能性があるすれば、ヤマトの波動砲だけど……位置が悪い。

 あの位置からコロニーを撃つと、地球にも影響が出る可能性が高い。何せ、惑星すら破壊しかねない威力の元祖ロマン砲だ。

 

 威力を絞った試射でも、オーストラリア大陸と同程度の大きさの浮遊大陸を破壊したっていうんだから……そんな危ない橋は渡れない。

 かといって、安全な位置まで……それこそ、コロニーの下側まで回り込んで上に向けて撃つとか、そういう手を撃つだけの時間も最早ない。

 

 万策尽きたか、と思われたその時……秘策は、意外なところからもたらされた。

 

 カギとなったのは、ユニコーンガンダムのサイコフィールドと、オードリーが持っていた秘密兵器である、コロニーレーザーだった。

 

 コロニーレーザーの火力なら、コロニーを落下前に完全に消滅させることができる。

 しかし、落下速度を鑑みると時間が足りない。

 

 そこで、機動部隊が総出でコロニーを下から支え、ギリギリまで減速させて……コロニーレーザーが飛んでくる直前に、離脱するという作戦に出た。これならどうにか間に合う。

 

 ただそうすると、今度は機動部隊の離脱が間に合わずにコロニーレーザーに巻き込まれる可能性があったんだけど……そこを解決したのが、さっきも言ったユニコーンと、ナデシコのボソンジャンプ。

 ユニコーンのサイコフィールドで全員の意識をつなぐと、繋がってる全員がひとまとめみたいな扱いになるらしくて……ボソンジャンプで一斉に全員飛べるらしい。

 

 それを利用して、限界ギリギリまでコロニーを押し戻して時間を稼ぎ……コロニーレーザーの命中直前に全員でジャンプ。

 こちらの損害は当然ゼロにして、なおかつコロニーは完全破壊することに成功した。

 

 その結果だけ見れば、作戦は大成功だけど……色々と、大変な事実が明らかになって、前途多難というしかないな、この先。

 間違いなく勝ったと言える結果なのに、素直に喜べない形になってしまった。

 

 

 

 ……あと、この日記を書いている今、僕は……例によってベッドの上です。

 

 こないだ程じゃないけど、ガッツリ反動きて動けなくなったので、療養中。

 またしても、と言うしかないんだけども……ミレーネルに仕事を、ミランダにお世話を任せる形に。ホントごめん……。

 

 なんかこの後、ミネバの案内で――今後どっちで呼べばいいんだろ――とある場所に向かってるらしいんだけど……果たしてそこ到着するまで、回復できるかどうか……。

 

 

 

【□月@日】

 

 昨日も衝撃の出来事の連続ではあったけど、今日は今日で色々と衝撃だった。

 

 オードリーちゃん(今後もこう呼んでほしい、って言われた)の協力者であり、アキトさん達のかつての仲間でもある女性・イネスさんから、諸々の説明があった。

 

 その際に行われた『なぜなにナデシコ』なる寸劇がちょっと衝撃的だったので、危うく気を取られて説明聞き逃すところだったんだけど……まずは置いといて。

 

 主にボソンジャンプの仕組みについての説明だったんだけど、細かくは省く。

 

 重要なところだけ抜き出せば……ボソンジャンプは、理論上は時間移動さえも可能な技術である……ということくらいか。

 ボソンジャンプの仕組みは、ジャンプ元からジャンプ先に直接飛んでいるのではなく、一度ある時点の時間・場所に跳躍した上で、目的の時間と場所にさらに跳躍しているらしい。

 

 その際に重要になるのが、『火星の後継者』の一件の時にも、度々その存在を聞いていた『演算ユニット』なんだが……西暦世界で、連邦軍も『火星の後継者』もついぞ見つけられなかったそれは、なんとこの宇宙世紀世界にきていたらしい。イネスさんと一緒に。

 そら見つからないはずだわ。異世界に来てたんじゃな……。

 

 西暦世界でイネスさんは、『ナデシコA』と『演算ユニット』と共にボソンジャンプを行い、宇宙の果てに飛ぶはずだったのだが……その時、想定外の事態が起こった。

 なぜかそのボソンジャンプが『パラレルボソンジャンプ』になってしまい、ここ、宇宙世紀世界の……『アクシズ』に飛ばされてしまったとのこと。

 

 かの赤い彗星『シャア・アズナブル』が地球に落とそうとして、しかし、アムロ大尉が起こした奇跡……世に言う『アクシズ・ショック』によって破壊された、その小惑星の破片に。

 そこで、オードリー達の所属する反戦派の組織『ラプラス』に拾われ、今日まで保護されていたそうだ。

 

 ここからは推測交じりの話になるんだけど……イネスさんと『演算ユニット』が流れ着いたのが、宇宙世紀世界の『アクシズ』の破片だったってことを考えると……1つの仮説が立つ。

 

 カギは、アクシズ・ショックを引き起こした張本人……アムロ大尉だ。

 

 今に至っても、何が起こったかよくわかっていないかの謎現象。僕も文献で読んだだけなので、詳しいことは何もわからないけど……その時に起こった奇跡が原因で、『宇宙世紀世界』と『西暦世界』が混線したんじゃないかとのこと。

 

 結果、『ただのボソンジャンプ』は『パラレルボソンジャンプ』になり、イネスさんは演算ユニットごと、宇宙世紀世界に飛ばされた。

 

 そして逆に、アムロ大尉は西暦世界に飛ばされた。その後、火星の後継者に捕まって協力させられていた、と。

 

 事実は小説よりも奇なり、って奴かなあ……また、すごいことになってたもんだ。

 

 そして、イネスさんとオードリーは、この演算ユニットを僕らに託してくれるとのこと。

 

 今まで『火星の後継者』が主に使っていた『ボソンジャンプ戦術』も、こいつを手中に収めている僕らなら、それを正しく使ってくれるだろうから……とのことだ。期待に応えないと、な。

 

 

 

 



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第48話 ルート分岐、再び

 

【□月:日】

 

 はい、毎度おなじみスパロボ名物・ルート分岐の時間がやってまいりました。

 

 今回の分岐はなんと三択。宇宙ルート、地上ルート、そして西暦世界ルートです。

 

 

 

 なぜそんな展開になったのかと言えば、だ。

 

 イネスさん主催?の『なぜなにナデシコ』……もとい、ボソンジャンプに関する説明会が終わった後のことなんだが……そこで、ネオ・ジオンが攻めてきたのである。

 しかも、総帥であるフル・フロンタルが直々に親衛隊を率いて、だ。

 

 彼らはオードリーに対し、コロニーレーザーを自分達に引き渡すよう要求。

 

 しかし、それを地球に向けて撃って戦争の手段とするのではなく、フロンタル曰く、脅しとしては使うが、戦争は別の形で終わらせるとのこと。

 スペースノイドとアースノイド、双方の交流を、戦争を含めて一切を断ち切ることによって。

 

 ネオ・ジオンを含めたスペースノイドは、地球を棄ててコロニーや新天地たる居住可能惑星を求めて旅立ち、地球の者達はそのままさっさと滅びてしまえ、という感じらしい。

 

 今の地球には、こう言っちゃなんだが、すでに戦略的な価値はない。

 セカンドインパクトやらゲッター汚染やらでボロボロで、しかもそんな状態でありながら、Dr.ヘルやら何やらが好き勝手暴れるわ、インベーダーは襲ってくるわ、割と地獄。

 そんな状況であれば、遠からず衰退し、ゆるやかに滅びていく運命にあるだろうと。そんなのは放っておいて、スペースノイドは宇宙で繁栄すると。

 

 言い方はひどいものの、なるほど確かに戦争は終わるな、なんて一瞬思ってしまったけど……オードリーはこれを拒否。

 

 彼女は確かに戦争を終わらせたいと思ってるけど、それは地球と宇宙の相互理解によって、共に歩んでいく未来を望んでのことだから……どちらかがどちらかを見捨てたり見限ったりするような形での終焉は望んではいないと。

 独立部隊の面々もその意見のようだった。

 

 ……さっき、フロンタルの案もありっちゃありかな、なんて一瞬思ってしまった僕だけど、よくよく考えれば、それってつまり……この『宇宙世紀世界』の地球が、『新西暦世界』の地球みたいに……人類が生きていけなくなるくらいに、わかりやすく滅亡に突き進んでいくってことだよな。

 いやまあ、細部は色々違うけど、近い状態ではある気がする。

 

 母星を棄てて宇宙に出て行った地球人……滅亡へのカウントダウンが始まっている星……うん、被る。あの、海が干上がった地球が、被る。

 

 なるほど、そういう風に思うと……寂しいというか、悲しいというか……嫌だな、そういう未来。

 

 そうしてフロンタルの提案を蹴った結果、まあ当然ながら戦闘になった。

 

 なるほど、『赤い彗星の再来』と呼ばれる実力は伊達じゃないね。アムロ大尉が相手をしてたけど、どっちもすごい速さで縦横無尽に動き回って……フェイントやら読み合いやらも無数に火花を散らしていて、とっても割り込める気がしない。すごいレベルの戦いだった。

 

 当然その部下達や、親衛隊も襲ってくる……あと、こっちのメンバーに因縁がある面子も何人かいたっぽい。

 

 その戦いの中では、覚醒したユニコーン(NT-Dの光が赤じゃなくて緑色)を操るバナージや、本来の機体であるゼータに乗り換えたカミーユが大暴れした。

 それに負けじとハサウェイやジュドーも。ニュータイプとサイコミュのバーゲンセールだな。

 

 そのまま押し切り、ネオ・ジオンを撃退することはできた。

 が、息つく暇もなく、さらなるとんでもない知らせが飛び込んで来まして。しかも、2つも。

 

 1つは、コロニーレーザーが、地球連邦軍の手によって奪われてしまったということ。

 ネオ・ジオンがこっちにちょっかいかけている間に、横から、漁夫の利……とはまた違うけど、掻っ攫われてしまった形になる。

 

 間違いなく連中、アレをネオ・ジオンに対する兵器として使うだろうな……これはちょっと、戦争がさらに凄惨なことになってしまうこと請け合いなので、放置はできない。早急に対処すべきである。

 

 そしてもう1つの知らせは……このタイミングで、Dr.ヘルの総攻撃が始まったとのこと。

 地球連邦軍がどうにか戦ってはいるものの、奴の機械獣軍団には、連邦軍の通常配備の機動兵器程度じゃ全く歯が立たないでいるらしい。

 

 ……そんな大変なことになってるんなら、ちゃんとそっちに集中して対応しろや。コロニーレーザーパクったり、こっちにちょっかいかけてこないでさ!

 

 そうは思うものの、言ったところで聞きゃしないのは目に見えてるので、だったらさっさとこっちにも僕らで対処しよう、ということになった。

 

 ……あと、個人的には……Dr.ヘルより、その部下に約1名、もっとヤバいというか、警戒しなきゃいけない奴がいると思うんだけどね……確証はないから、何も言えないが。

 

 そして、知らせがあったわけじゃないけど……エンブリヲの方もどうにかしなきゃならない。

 

 こないだの第三新東京市の戦い然り、コロニー落とし阻止のための戦い然り……アイツを放っとくとろくなことしないからな。これから先も、絶対邪魔してほしくない戦いの時に乱入してくると思われる。

 

 それに、なぜかエンブリヲに協力してるサリア達や、生き返った(?)ココのこと……アイツ絡みで、色々と確かめるなり、対処しなければならないことは多い。

 

 これは……本格的に、ジル司令の言う『リベルタス』の時が近づいてきてる、と取れるんだろうかな……。

 

 

 

 そんなわけで、

 

 地上組は、Dr.ヘルがバカやろうとしてるので、それを阻止。可能ならこの機会に、完全に決着をつけるというか、機械獣軍団を壊滅させる。後顧の憂いをなくす。

 

 宇宙組は、コロニーレーザーをどうにかして、あとネオ・ジオンもどうにかする。

 やることがふわっふわだけど、これはもう仕方ない。色んな思惑が絡み合ってて、何がどう転ぶかわからないから。その場の判断が重要になる。

 

 西暦世界組は、アルゼナルと協力して、エンブリヲをぶっ潰す。洗脳されている?サリア達も助ける。ココに関しては……もしホントに生き返ってるんであれば、助ける……でいいのかな?

 あと、龍の民の悲願である、始祖・アウラの救出も同時進行でやる。

 

 部隊を3つに分けることになったわけだが……地上組には、マジンガーやゲッターといったスーパーロボットが主体になり、宇宙組には、宇宙世紀世界のガンダムチームが主に当たる。西暦世界には、パラメイル第一中隊とナデシコ、ソレスタルビーイングら、もともと西暦世界にいたメンバーが中心となる予定だ。

 

 地上組にはさらに、母艦の役割を兼ねて、ヤマトが同行。

 また、西暦世界組には、ミスリルが同行することになった。どうもこないだの様子を見る限り、エンブリヲとアマルガムがつながっているようだからって。

 

 総司さんとナインは、宇宙組に行くことが決まった。

 

 そして、僕とミレーネルは、西暦世界組である。

 あっちはほぼほぼ僕らにとってのホームでもあるし……エンブリヲの関係で気になることがいくつもあるから、そうさせてもらった。

 

 それぞれの問題を速攻で解決して、すっきりした状態でまた集まれたらいいな、なんて思いつつ……各艦、互いの武運を祈りつつ……

 

 間もなく、各チーム出発である。準備しなきゃ。

 

 

 

【□月_日】

 

 『パラレルボソンジャンプ』で西暦世界に戻ってきた僕らは、一旦二手に分かれた。

 と言っても、僕とミレーネルが離脱して補給物資を調達してくるってだけで、すぐにアルゼナルで合流するんだけどね。

 

 というか、もうしたし。

 速攻で物資を船に乗せて、『ボソンジャンプ』でアルゼナルにひとっとび。マジで便利だなこれ。

 

 アルゼナル自体は、もうほとんど復旧は終わっていた。

 ボンクラ皇帝が出てきたあの戦い以降は、『始祖連合国』の軍隊が攻めてくることもなく(今あの国それどころじゃないしね)、その間にきちんと復活はできた、とのこと。

 

 むしろジル司令、これからいよいよ反攻作戦『リベルタス』を始める気満々でいる。

 ちょうど奴の……エンブリヲの手駒である『始祖連合国』がガタガタになってるから、攻め込んで討ち取るなら今がチャンスだって、息巻いてる。

 

 やる気があるのは結構だけど、それが空回りしたり、他人に迷惑をかけたり振り回したりしないでくれるとありがたいんですけどね。

 

 ……望み薄だな。この人、目的のためならガチで手段を選ばない感じだし。

 

 『リベルタス』というか、エンブリヲの打倒そのものに関しては僕らも協力するつもりだし、ジャスミンさんやその他、アルゼナルの関係者も乗り気なんだから……そのへん、きちんと考えてほしいとは思う。

 あんまり凝り固まった考えだけで動こうとすると……思わぬ形で折れることになる、なんてこともありうるわけだからね。色んな事が裏目に出たりして。

 

 気のせいならいいんだけど……なんかジル司令、すごく、その……執念を通り越した、妄執みたいなものを感じる気が……時々……いや、僕の気のせいならいいんだけどさ……。

 

 

 

【▽月○日】

 

 ジル司令が今までため込んできた資材やら何やらを放出し、各パラメイルの強化を進めている。

 言うまでもなく、『リベルタス』を見据えた準備である。ロザリーやヒルダに言わせると、『考えられないくらいの大盤振る舞い』だそうだ。

 

 遠慮なくそれらを使ってパラメイルを強化している。第一中隊のメンバーはもちろん、その他の……第一中隊以外のメイルライダー達も。

 

 しかし、ただ1人……ミランダだけは、そうしていない。

 戦力アップのために、ジル司令からの資材供与を受けていない。

 

 しかし、戦力アップそのものをしていないというわけでもない。

 

 どういう意味かって? 簡単なことだ。

 彼女の……ミランダの戦力アップに関しては、アルゼナルじゃなく、僕ら『サイデリアル』が請け負っているからだ。

 

 

 

 話は数日前、ミランダが僕の部屋を訪ねてきた時に遡る。

 入るなり彼女は、腰を90度かそれ以上に曲げて、頭を下げて……こう、頼み込んできた。

 

 

『私に、ココを助けるための力をください』

 

 

 先のコロニー落としの時の戦いで、ミランダはココと相対して……困惑しながらも、言葉を交わして、そして確信したそうだ。

 あれは、偽物なんかじゃない。間違いなく、ココ本人だと。

 どういう仕組みかはわからないけど、本当にココがよみがえったんだと。

 

 しかしそのココは今、サリア達同様、エンブリヲによって洗脳され、悪事に加担させられている。

 

 助けたいけど、その為には少なくとも一度はココと戦わなければならない。

 

 しかし、自分の機体……量産期を多少カスタムしただけのグレイブでは、ココ達の乗る『ラグナメイル』には到底届かない。

 

 ヒルダ達と同じように、ジル司令からの資材供与を受けて戦力をアップさせる手もあるけど……自分はヒルダやアンジュと比べると、メイルライダーとしての実力は全く足りていない。多少機体を強化したところで焼け石に水だし、武装を増やしたとしても使いこなせるとは思えない。

 

 そうなると、普通じゃないやり方で力を手にするしかなく……そのために頼れる相手がいるとすれば、僕以外にいない。

 そう考えたそうだ。

 

 邪道なやり方なのはわかってるけど、他にもう、どうしたらいいかわからない。

 

 自分が差し出せる対価なら何だって差し出す。お金も、体も……望むなら、私自身の人生も。

 

 だから、どうか……力がないから強い機体を欲しがるなんていう、バカなことを言っている私を……どうか助けてください。

 どうか私に、親友を、今度こそ助けるための力をください。

 

 今でも鮮明に思い出せる。必死に、本気で、そう僕に懇願してきた。

 

 そこまでの覚悟なら、と、僕はそれを受けることにした。

 ミレーネルに頼んで契約書を用意してもらい……ああ安心して、別に何かヤバいこととか、いかがわしい対価を要求するためじゃないから。

 

 用意したのは、単なる雇用契約書だ。

 

 もともとミランダは、アルゼナルから、というかジル司令から僕に向けて、かなり裁量権が広い出向人員みたいな形で差し向けられている立場であるため、そこを存分に生かさせてもらうことにした。

 

 やったことは極めて単純。ミランダに……期間限定ではあるが、『サイデリアル』所属のテストパイロットとして契約してもらい、その身柄を預けてもらった。

 

 そして彼女に、テストパイロットとして、サイデリアル製の機動兵器に乗ってみてもらう、あるいは、兵器を使ってみてもらう……という形にしたわけである。

 

 わざわざそんな風に立場を用意する必要があったのかと聞かれれば、それはもちろん、ある。

 詳しい説明は省くけど……主に守秘義務とか、秘匿技術とか、そのへんの関係で。

 

 ミランダの乗っているパラメイル『グレイブ』をベースにして、それを改良するような形で作成を進めていくつもりだ。

 あまり操作感が違いすぎると、かえって戦力ダウンになっちゃうからな。彼女が動かし慣れている形、なるべくそのままを保ったものに仕上げるのがいいだろう。何、そうだとしても、いくらでもやれることはある。

 

 ……もっとも、パラメイルじゃなくて、うちで作ってる機動兵器をそのまま使ってもらえれば、それはそれでもっと安定した戦力にはなったと思うんだけどね。

 ミレーネルの『アンゲロイ』とか……あるいは、今丁度開発を進めてる……『アレ』とか。

 

 操作感違いすぎるから無理だろうけどね。大きさ、3倍くらい違うし。

 

 ただ、パラメイルって元々の設計構造が問題ありだからなあ……紙装甲・高機動の機体で、サバイバビリティが完全に最低限以下だから……人命を思い切り軽視した設計だから……。

 それなら、大人しく『アンゲロイ』あたりに乗ってもらった方が、コクピット周りの装甲も分厚いし、安全面も……まあ、今言ったってしょうがないか。

 

 さて、今だけはミランダも僕の『部下』だ。

 彼女の望み通り、強くなるための新たな機体、さっさと用意してあげないと。

 

 

 

 



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第4章 続・海が青い世界
第49話 第二次アルゼナル会戦


【▽月●日】

 

 ここ最近、西暦世界の方は、ほとんど動きがない。

 

 戦支度を進めている僕らからすればありがたい限りではあるけども……多分だけどこれは、いわゆる『嵐の前の静けさ』って奴なんだろうな。最近こんなんばっかだ。

 この後、長いこと平和だった分のしっぺ返しとも言えるような面倒事が起こる気がする。

 

 ……前のアルゼナル襲撃の時もそんな感じだったっけな。

 

 しかも、今回攻めてくるとしたら、考えなしのボンクラ皇帝じゃなく、戦力的にも思想的にも数段厄介なエンブリヲだ。

 恐らく、僕らがこっちに戻ってきたことだって、察しているだろうし。

 

 こちらの準備ができて向こうに乗り込めるのが先か、それとも向こうが攻めてくるのが先か……

 どちらにどう転んでもいいように、今のうちに、出来ることは全部やって準備しておかないと。

 

 具体的には、継続してやっている各機の強化に加え、ミランダの機体の作成と調整。

 

 それから……ここ最近ずっと進め続けている、こちらの……というか、『サイデリアル』の隠し玉の完成を急ぐのと、だな。

 多分だけど……あまり時間は多くは残されてないと思うし。

 

 

 

 さて、西暦世界では何も起こっていないのに対して、宇宙世紀世界の方はというと。

 

 地上組は、こっち程じゃないけど似たようなもんだった。

 

 あっちからは、あの首無し中年……ブロッケン伯爵と、半分夫婦のあしゅら男爵が動いてるわけだが……その進軍速度は思ったほどではなく、今のところ、出現すると同時に出撃、交戦、撃退……を繰り返しているそう。

 率直に言えば、一進一退ではあるが、十分に対応できている。

 

 ただ、独立部隊はそれでいいものの、地球連邦軍の部隊はやはり負けがこんでいて、全体で見るとじわじわと押されているらしい。長期戦になると厳しいか?

 

 それに、Dr.ヘル本人に加え、もう1人いる部下である……ピグモン? 違う、ピグマンか。

 その子爵も残ってるし、あっちがその気になればより厄介なことになるのは明白。

 

 ……むしろ、何で今、手加減してるかのようにゆっくりの歩みなのかが少し気になるところだけど……。

 

 そしてもう1つ。宇宙組。

 こっちはまず、さっさと対応しなきゃいけないコロニーレーザーの方に向かった。

 

 連邦軍に察知される前に、ボソンジャンプで一気に懐に飛び込むことで、見事に奇襲に成功。

 ナデシコCがいなくても、技術供与によって、ラー・カイラムとネェル・アーガマも、色々条件はあるものの、それができるようになっていた。

 

 まあ、僕らも何度もやられたからわかるんだけど……あれマジでびっくりするからなあ。いきなりクロスレンジに敵が現れるから。

 

 そのままコロニーレーザーの方の処理は成功。

 ただし、制圧じゃなくて破壊することになっちゃったらしい。やけっぱちになった連中が、至近距離でぶっ放してこっちに撃とうとしてきたから、その前に破壊したんだって。

 

 しかも聞いたら、バナージ君が発射直前の砲口に飛び込んで中から破壊したって……いや、ホント君時々無茶苦茶するよね……。それこそ、NT-D使ってる時よりも。

 

 なお、そのままレーザーの管制施設にいた連中は逮捕したんだけど、そこにいたのは、地球連邦政府中央議会のローナン・マーセナス議長と、アナハイムのマーサ・ビスト・カーバインさんだったと。

 ええと、リディパパと、あの顔の濃いおばさんか。妙に印象強かったから覚えてる。

 

 これで残るはネオ・ジオンだけとなったわけだが、どうやらこれから彼らは、以前から度々ユニコーンの中に表示されていた『ラプラスの箱』なるものの在処を確認し、それを開けに行くらしい。

 

 リディ少尉曰く(あれ、中尉だっけ?)、開けてはならないパンドラの箱、らしい。たしか彼、これの存在と意味を知って、その結果絶望からの闇堕ちに行ったんだっけか?

 

 行き先は、インダストリアル7。

 恐らくはネオ・ジオンも来るだろうから、そこで決戦になるだろうとのことだ。

 

 ……Z時空との差異がなければ、僕はその中身を知っている……かもしれない。

 けどこの世界、ちょいちょい僕の知ってる歴史と違ったりするから、そのへん断言できないんだよな。加えて、あっちはあっちで補正込みになってる内容だし。

 

 だから不確かな情報ってことで……悪いけど、これに関してはノータッチで。

 

 宇宙世紀ガンダムのオールスターチームみたいなもんだから、負けないとは思うけど……戦いの結果はともかく、『箱』の中身って、かなりの爆弾だからなあ……Z時空と違って。正直、そっちの方が不安だ。

 

 果たして結末がどうなるのかは……まだ誰も知らない。

 

 

 

【▽月▲日】

 

 はい、『嵐』が来ました。

 嫌な予感フルで的中だよこんちくしょう。来るにしてももうちょっと小分けでもいいんじゃないかと思う今日この頃……いや、言ったところで起こってしまったことは変わらないんだけどもね。

 

 エンブリヲ陣営の尖兵……サリア達『ダイヤモンドローズ騎士団』とやらが、ピレスロイド他の無人機軍団を引き連れて攻めてきた。

 

 しかし、来たのは6機のうち、サリア、エルシャ、クリスの3機だけ。

 ココ、ターニャ、イルマは来ていなかった。……最初は。

 

 ……ところで、開戦当初、とある事情により、こっちもアンジュその他数名が出撃していなかったんだが……そのへんの説明は後にする。

 

 ラグナメイル3機はそこそこ脅威ではあるものの、無人機程度は今更相手にもならないし、撃退はそう難しいことじゃない……と、思われていた。

 

 しかし、ひと当てしたところで、こっちの予想を覆す事態が発生する。

 

 なんと、無人機然り、ラグナメイルしかり……攻撃して与えたはずのダメージが、徐々にではあるが回復していくのだ。

 

 一撃で完全に破壊すればそれも阻止できるんだけど、向こうは防御や回避の性能もそれなりにあるし、何より数がいるので、中型以上の機体が相手だとそれも簡単ではない。

 

 ラグナメイルは言わずもがなだ。

 サリアはともかく、クリスやエルシャの操縦技能は、アンジュやヒルダには遠く及ばない。

 それでも、出力自体はかなりのものな上、再生までされるとなると……かなり難しい戦いになる。

 

 データを計測してみると……当たってほしくはなかった予想が当たっていた。

 次元力が検出されたのだ。先の戦いで、エンブリヲが使っていたのと同じように。機体が再生させられていくのはそのためだ。

 

 正直、エンブリヲが本格的に次元力を戦力に組み込んでくるとなると、相当にまずい……と思ったんだけど、どうもおかしいんだよな。

 計測結果に、おかしな点がいくつかあるのだ。……長くなるから、その説明は後にするが。

 

 中々倒せない、ダメージを与えても回復する敵を前に、どうすんだコレって味方側が困惑し始めた頃……タイミングを見計らっていたかのように、エンブリヲが登場。

 

 そしてそれと時を同じくして、こちらはアンジュ()が出撃した。

 

 

 

 ここで話は戻るんだが……最初、なぜアンジュが出撃していなかったのかについて。

 後から聞いた話なんだが、他2名はともかく、アンジュはジル司令の命令で、出撃を止められていたのである。

 

 なぜかと言うと……案の定、ジル司令、暴走していました。

 

 何を置いても『リベルタス』の完遂……それも、自分達が描いていたプラン通りの『アンジュとヴィルキスを中心として』という点を妄執的に重要視していたジル司令。

 これから始まる反攻作戦を前に、万に一つもアンジュやヴィルキスが失われることがないよう、温存する意味で『出るな』と言っていたのだそうだ。

 

 アンジュが出なくても、防衛線くらいどうにでもなる。それこそ、他のメンバーに犠牲が出たとしても、アンジュとヴィルキスの無事が最優先だ、と。

 

 当然そんなことを言われて黙っているアンジュではなく、無理やりにでも出撃しようとするが……そこに、アルゼナルに侵入していた別動隊が襲撃をかけてきた。

 

 来たのは何と、あのモミアゲおじさんこと、ゲイツ。あとその部下数名。

 案の定手を組んでいたアマルガムを動かし、向こうもなぜか、エンブリヲの指示でアンジュを攫いにきたそうだ。

 

 が、そこで、伏兵として控えていたタスクと宗介が助けに入り、撃退に成功した。

 

 この展開は既に、スメラギさんによって読まれていたのである。

 それこそ、ジル司令がヤバそうってことまで含めて。

 

 そのおかげで、アンジュはどうにか助かり……そのままジル司令の制止を振り切り、タスクと宗介と一緒に出撃した、というわけである。

 

 そうして戦場でエンブリヲと相対したアンジュは、すぐに起こっている不可解な現象……機体がなぜか再生するというそれを目にして、『お前の仕業か!?』とエンブリヲに怒鳴って聞いた。

 それをエンブリヲも、得意げに肯定。

 

 だったらお前を倒せば、ってアンジュは飛び込んでエンブリヲを討ち取ろうとした。

 

 しかしその瞬間、伏兵として隠れていた3機のラグナメイル……ターニャ、エルマ、そしてココの乗るそれがアンジュを急襲。

 

 不意打ちで、しかも3機のラグナメイルから同時に攻撃を受けたヴィルキス。

 いかにアンジュと言えども、その攻撃はさばききれず……さらには背後からサリアまでもが襲い掛かり、あえなく中破にまで追い込まれてしまった。

 

 捕らえられたヴィルキスにゆうゆうと近づいたエンブリヲが、そのままアンジュの身柄を強奪、ヴィルキスは海に放り捨てられた。

 

 それを助けようとしたタスクも、返り討ちにされて撃墜。

 先の第三新東京市の戦いと同じことになった。パラメイルとラグナメイルじゃ、機体のポテンシャルが違いすぎて、勝負にならなかった。

 

 海に落ちて行くタスクのアーキバスを見て、アンジュがその名を叫ぶ中……エンブリヲは、『未来の夫の前で他の男の名を呼ぶものじゃない』と、わけのわからないことを言いながら、アンジュをそのまま連れ去った。

 

 この間、僕らはどうにか助けなきゃ、とは思いつつも……誰もそこに間に合わなかった。

 

 この一連のやり取りが行われたのは海の上。まずそのせいで、空を飛べないAS他一部の機体は手を出せなかった。

 

 残る他の機体も、大量の無人機部隊に阻まれて身動きが取れず、ロックオンやクルツさんといったスナイパーの射線も通らず。

 さらに敵の一部隊が、アマルガムと一緒にアルゼナルを直接狙ってきたため、そっちを見捨てるわけにもいかずにさらに戦力を割くことになり。

 

 さらにはその位置、海の上ではあるものの、そこまで深くもない場所だった。

 具体的に言えば、陸戦用の機動兵器が動くには深すぎ……潜水艦であるダナンが動くには浅すぎるという、絶妙な深度の場所。

 

 おまけにアンジュの突貫とほぼ時を同じくして、戦場全体に強力なジャミングが発生。通信障害で指揮系統が、わずかな時間とは言えマヒしたことで、もしかしたら間に合ったかもしれない仲間に指示を出すこともできなかった。特に、機動力に優れるヴァングネクスや、単独でボソンジャンプが可能なブラックサレナあたり。

 

 ……思うに、全部計算ずくだったんだろうな。タイミングから何から。

 

 もしかしたら、僕が『ヘリオース』になりさえすれば、間に会った障害を全部ぶち抜いてアンジュを助けられたかもしれない。

 

 けど、それについては指揮官のスメラギさんから許可が下りなかった。

 

 自分で言うのもなんだが、今いるメンバーの中で、『ヘリオース』は最大戦力と言っていい1つであり……実績込みで、エンブリヲの『ヒステリカ』に勝てる、今のところ唯一の存在である。

 戦場にいるだけで、けん制として一定の効果があるだろう存在だとのこと。エンブリヲ本人にも、その部下たちにも。

 

 しかしヘリオースは、使った後に僕が動けなくなるという明確な欠点がある。

 万が一、アンジュは救出できたものの、エンブリヲを仕留めきれないままに僕が動けなくなったら、その時……エンブリヲを止められる者がいなくなる。エンブリヲ陣営の機体が再生する仕組みが謎のまま、その危険を冒すわけにはいかない、と。

 

 その後、無人機部隊を残して、『ダイヤモンドローズ騎士団』は撤退。

 向こうの戦略目標が恐らく、アンジュの誘拐だったんだろう。それを果たしたから、エンブリヲと一緒に退いた。

 

 アンジュがロストし、タスクが撃墜され、エンブリヲは逃亡。

 見事なまでにやりたい放題やられた……アルゼナルは守れたものの、実質的には敗北である。

 

 加えて、こっちの被害はそれ以外にも……ミランダのグレイブが中破。

 改良型の機体が間に合わなかったので、今回ミランダはまだグレイブで出てたのである。

 

 そして……ミレーネルの『アンゲロイ』が落とされた。

 いや、『落とされた』っていうのも違うかもしれないんだけど……

 

 終盤、アルゼナルが敵の伏兵によって側面から狙われた時……誰も迎撃が間に合わないかと思われたところで、ミレーネルがアンゲロイで飛び出し、Dフォルトを全開にして盾になった。

 

 そして、そのまま遠隔操作でアルデバルを動かし……光子魚雷とレーザーの一斉掃射をぶちかまし、なんと自分ごと敵機を一掃した。

 

 ……体は作り物でリスポーンするから死なない+どっちみちアンゲロイが限界だったからって、毎度無茶苦茶するなこの子……。

 まあ、おかげでアルゼナルが助かったのは確かだが……頼むから自分を大事にしてくれ。心臓に悪いんだよ、大丈夫だってわかってても……。

 

 それと今日、一応こちらにも戦果、みたいなものはあった。3つほど。

 

 1つは、あのモミアゲマン……ゲイツを討ち取れたこと。これは、宗介が撃破した。

 

 Zの頃からではあるけど、あの人、散り際はなぜか爽やかというか……潔い感じなんだよな。無駄に。

 死ぬ瞬間まで自己満足なだけ、ともとれるけど。そしてそれ以外は変人だけど。

 

 まあでも変人とはいえ、アマルガムの中でもトップクラスの使い手だったことは事実だし、こっちにとってプラスの成果だったと言っていいだろう。

 

 2つ目は……エルシャの捕獲、及びその乗騎である『レイジア』の拿捕。

 

 これに関しては、エンブリヲと一緒に他の面々が離脱していく中……エルシャだけはそうせずに戦場に残った。

 話を聞くと、ヴィヴィアンら、かつての仲間達と戦って、言葉を交わす中で……本当に自分はこれでいいのかわからなくなってしまったとのこと。

 

 そのまま投降を申し出てきたので、スメラギさんがコレを受諾。エルシャは今、一応の監視付きで、プトレマイオスの収容房に入っている。

 

 そして、今日の成果、3つ目。

 これ実は、今回の戦い、直接は関係ないんだけど――――

 

 

 ☆☆☆

 

 

「やれやれ……何代目だったかしら、このボディ」

 

 アンゲロイでアルゼナルの盾になり、そのまま自分ごと、アルデバルの斉射で敵機を一掃したミレーネルは、もう何度目かになる、いい加減慣れてしまいそうな『リスポーン』を終えていた。

 

 しかし、その直後。

 すぐに新しい体でアルゼナルに戻ろうとしたミレーネルだったが……

 

 

 

 ――キュイン!

 

 

 

「な、っ……!?」

 

 その胸を、背後から……非実体のレーザーが撃ち抜いた。

 

 胸部を貫く激痛によろめきながら、ミレーネルが振り向くと、そこには……

 

「あ、あんたは……!」

 

「ようやく、尻尾をつかんだわよ。全く……手間取らせてくれたわね」

 

 そこにいたのは、病的に色白い肌に、メガネをかけた年若い女性。

 手に持っている、光線銃と思しきそれの銃口をこちらに向けている。

 

 直接の面識はないが、通信のログでその存在と容姿、そして声は知っていた。

 

「……ガーディムの、指揮官……」

 

「直接会うのは初めてね。私は超文明ガーディムが一等武官、ジェイミー・リータ・スラウシル。あなたが不当に占拠している、この『バースカル』の正当な所有者よ、劣等種族さん」

 

 独特のテンポの、こちらの神経を逆なでするような見下した口調で、そう言った。

 

 

 

 



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第50話 今までありがとう

突然ですが、腱鞘炎になりました……現在、左手の握力が限りなくゼロです。
今はやりのスマホ腱鞘炎ってやつかなコレ……右手で食事しながら左手でスマホいじるのやめようかな、って思いました。

正直キーボード叩くのもちょっときついので……更新遅れたらすいません。


 人工の肉体と言えど、ミレーネルの義体は限りなく生身の人間に近い形で作られている。

 

 ゆえに、損傷すれば痛みもあるし、動きも鈍る。

 

 今まさに、胸を……恐らくは肺を貫通するという、致命傷に近いダメージを受けながらも、ミレーネルは目をそらそうとはせず、その女性……ジェイミーを睨みつける。

 

 その目を見て、ジェイミーは、はぁ、と露骨に呆れたような態度でため息をついた。

 

「『目は口程に物を言う』……テロン人の格言だったかしら? よく言ったものね……けど、そういうの……美しくないなあ?」

 

 小馬鹿にしたようにそう言うと、ジェイミーはつかつかと歩み寄り、持っていた銃を、今度は至近距離で、ミレーネルのこめかみに向ける。

 

「どう考えても逆転の目はないのに、何をそんなに反抗的な目をしているのかしら? 全く、劣等種族の考えはわからないわね……負けを認めて素直に恭順すればいいのに。まあ……単に体が偽物だから惜しくないのかもしれないけど」

 

「……あっそ。そんなことまでお見通しなわけね」

 

「当然よ。アンドロイドや義体の作成なんて、ガーディムの技術では基本レベル……あなた達劣等種族の低レベルな技術とは違うのよ、何もかも。そしてそれゆえに……あなた達がこの艦を、自分のものであるかのように扱っていることは、許されないことなの」

 

 彼女に後ろには、何体かの女性型アンドロイドが控えていた。

 以前、総司とナインを襲撃したグーリーが率いていた、また、アルデバルに侵入してミツルとアスクレプスの拿捕をもくろんだそれらと同タイプだ。

 

 無表情で無機質、見た目は整っているし人間と見分けがつかないくらいに精密ではあるが……不思議と、いかにもアンドロイドといった印象を受ける。

 

「あなた達が超空間航法とも違う奇妙なやり方で次元の壁を超えて、度々どこかに行っているというのは予想していた。けど、それを逆探知して追尾して来てみれば……まさか、次元断層の中にこんなものがあったなんてね。そしてそれを、劣等種族ごときが勝手に使っていたなんて」

 

「落ちてたから拾って再利用しただけなんだけど? というか、長いこと放っとかれたものを今更所有権とか主張されてもねえ? こっちがびっくりするわよ、その面の皮の厚さに」

 

「あら、当たり前でしょう? 私達の文明は、私達ガーディムによってのみ行使され、それ以外の劣等種族は、ガーディムによって管理されなければならない。この『バースカル』は、ガーディムの艦隊旗艦。あなたのように物わかりの悪い劣等種族を、矯正し、教育するための装置なのよ」

 

 徹頭徹尾見下してくるジェイミーに対し、ミレーネルも怯みもせずに反論をぶつけ、怯える様子を見せない。

 屈服しないその姿勢が、ジェイミーには面白くなかったようだ。わずかに眉間にしわを寄せ、

 

「はーあ……テロン人って、どうしてこうなのかしら。本当に美しくない……ああでも、あなたテロン人じゃなかったわね。その義体の特徴……色の薄い灰色の髪と肌……ジレル人の魔女か。他人の心の中に土足で踏み込んで覗いたり操ろうとする、無作法で下品な種族。まさかまだ生き残りがいたなんて、そっちの方が驚きだわ」

 

「……っ……」

 

「まあ、どっちでもいいわ。この艦は返してもらう。従う気がないのなら、あなたは不要よ」

 

 警告もなく、引き金が引かれる。

 一条の光線が眉間を貫いて……ミレーネルの義体は脱力し、崩れ落ちた。

 

 ジェイミーはそれを押しのけて床に捨てるように倒し、『片づけておきなさい』とアンドロイドに一言指示を出す。そして自身は、艦の状態を把握するためにコンソールを叩き始める。

 

 しかしその少し後……顔色を変えた。

 

「……っ!? 何コレ……どういうこと!? データが、何も残っていない……システムも……基礎OSすら満足に稼働して……どういうことよ!?」

 

 ジェイミーは当初、この『バースカル』を持ち帰り、自分達のフラグシップとして再利用するつもりでいた。

 

 現在、拠点として運用している『スリニバーサ』は、同じくガーディムの戦艦であるが、通常配備のそれである。

 対して、今乗っている『バースカル』は、艦隊の旗艦として運用される、ガーディムの最大戦力たる戦艦。戦闘能力はもちろん、機体の生産・整備機能も『スリニバーサ』よりも上だ。

 

 回収できれば大きな戦力になり、今後あらゆる面で動きやすくなるという考えだったが……それは当然、この艦が十全に能力を行使できればの話。

 

 しかし、モニターを睨むジェイミーの目に映っているのは……『バースカル』の、万全とは程遠い現状を示す、いくつもの表示。

 

「これは……システムやデータだけじゃない、ハンガーや各部の武装も……解体されている!? 推進機関や……メイン動力まで!? い、一体どういうことなの!?」

 

 長期間放置されていたのだから、ある程度の機能不全は予想していたが……今のこの状態は、明らかに整備不良で起こるようなものではない。

 

 データやシステムはがほとんど全て消されている上……武装から何から、あちこちの構造そのものが、虫食いのように穴だらけになっているのだ。

 動力すら、粗悪な代替品に置き換わっており、これでは最早、戦艦どころか、『艦』としての満足な運用すらできない、ただの張りぼてになってしまっている。

 

 困惑するジェイミーの耳に、

 

『ざぁんねんでした! あなた、ちょっと遅かったの!』

 

 通信越しに、そんな声が聞こえてきた。

 聞き覚えのある……どころか、つい先ほど聞いたばかりの声が。

 

 しかし今度は、小馬鹿にする攻守が見事に逆転した形で。

 

「……っ……魔女!? どういうことよ……あなた、『バースカル』に何をしたの!?」

 

『見ればわかるでしょ? もうその艦からは、使えそうなものほとんど全部引っぺがして運び出して、よそに移してあるのよ。生産設備も、武装も、動力炉も、全部ね。残ってんのは一部の転送用システムその他と、外側の装甲だけ』

 

「なっ……」

 

『あなた達が『ガーディム』……この『バースカル』の元の持ち主だとわかった段階で、こうなることは予想できてたわ。コレの存在を察知して、奪いに来るかもしれないってね。だからそうなる前に、重要な機能を全部、新しい拠点に移し替えてたのよ、ちょっとずつ、時間をかけてね』

 

「新しい、拠点……!?」

 

『もともとこの艦、推進機関が死んでてここから動かせなかったのよね。戦艦としては運用できないわけだし、でも戦艦ってやっぱりあった方がいいし……だったらいっそ新しく作ろうってことになったの。で、それならこの艦にあるもの、ごっそり全部移してもってっちゃおうとして……ついこないだ完了したとこなのよ。で、今回みたいにあんた達が何らかの……逆探知的な方法で『バースカル』の存在をかぎつけるかもしれないから、私のリスポーンを含む、通常空間との行き来の起点だけはここに残してたの。私達の……今の、本当の拠点に来させないためにね。そして……』

 

「……ジェイミー一等武官」

 

 と、通信越しにミレーネルが話している最中に、背後からアンドロイド兵がジェイミーに話しかけてくる。

 

「何よ!? 今忙しいの、後にして!」

 

「しかし、早めにお伝えした方がよろしいかと。今しがた、外部空間との接続が遮断されました。本艦の外に、通信波や次元観測を含めた一切のアクセスができません」

 

「……何ですって?」

 

 通信はともかく、次元観測もできない。

 それはつまり、外部から見てこの位置を補足することも、逆にここから外部の……転移先の地点を補足することもできないことを意味する。

 要するに、転移技術による脱出ができない……閉じ込められたということだ。

 

 そして、そんな事態が今、偶然に起こるはずもなく。

 こんな事態を起こすとすれば、その犯人は限られていて。

 

「……この、魔女ッ……何をした!?」

 

『さっきから魔女魔女ってうるさいわね、この性悪女! ……ってか、今スキャンしてみたけど、そういうあなたはアンドロイドじゃないの。グーリーとおんなじで』

 

「はぁ!? 何をバカなことを言って……私がアンドロイドなわけ……」

 

『……ああ、そういう感じなのね。こっちも知らされてなかったと……まあいいや。どっちみち、ここから生きては返さないし』

 

 

 

 バースカルの外……次元断層内部の空間に、『それ』はいつの間にか浮いていた。

 

 光学迷彩やジャミングを含めた偽装を施され、ここに来た当初、ジェイミーらは気付くことができなかったそれは……『バースカル』よりも、『アルデバル』よりも大きく、力強い『何か』。

 

 しかし、その見た目からして、あきらかにまだ『未完成』なのであろう構造物だった。

 

 それでも、今からやろうとしていることに関しては、機能として足りていた。

 ゆえに、それに乗り込んでいるミレーネルは、新しい体の指をよどみない動きで動かし、コンソールを操作……発射までのカウントを開始させる。

 

「全砲門展開。エネルギー充填……『タキオンブリッツ・プレッシャー』発射用意。……バースカル、今までありがとう。ごめんね……私達はもう、そこには戻れないから……発射ッ!」

 

 そして、引き金が引かれる。

 

 超高速、かつ超火力で放たれるレーザーの砲撃が、張りぼてとなったバースカルに十重二十重に殺到し……その装甲をものともせずに貫通し、爆砕していく。

 在りし日のガーディム最強の艦は、ひしゃげて、火を噴いて、崩れて行く。

 

『……っ……! こんなのッ、美しくな―――』

 

 通信の向こうから聞こえていたそんな声は、それっきり永遠に聞こえなくなった。

 

 砕けて、崩れて、蒸発して……先程までそこにあった『バースカル』は、数十秒後には、ごくわずかに、元々が何であったかなどわからない残骸が残るのみとなり、跡形もなくその場から消失していた。

 

 その、ぽっかりと空いた空間を、何とも言えない気持ちで見つめながら……ミレーネルは、彼女曰く所の『本当の拠点』の中で、しばし感傷に浸っていた。

 

 しかしそれもすぐに吹っ切り、再度偽装を施した上で、ミレーネルはその場を後にした。

 一応は防衛成功したであろう、アルゼナルに戻り、ミツル達と合流し……ことの次第を報告するために。

 

 

 ☆☆☆

 

 

【▽月▲日 続き】

 

 そういうわけで、『バースカル』はお役御免となり……僕ら『サイデリアル』の生産拠点は、ここ最近ずっと準備を進めていた、新しい拠点の方に移設した。

 というか、移設は既に終わっていた。

 

 あとは、バースカルに忘れ物とかないか確認しつつ、逆探知避けとしてだけ使ってたんだけど……それも終わったわけだ。

 

 ミレーネルも言ったそうだけど……バースカル、今までお疲れ様。ありがとね。

 

 そして、これから先は……今はまだ未完成だけど、完成すれば強力極まりない戦力になるであろう、『アレ』を仕上げていくことにしよう。

 

 ……日記でまで『アレ』なんて書いて思わせぶりにするのもどうかと思うんだけど……どうせならバッチリ完成した時に書きたいよね。

 なので、うん、日記だけど名前は出さずに行こうと思う。

 

 試作機として作った『アルデバル』のおかげで、必要なデータは粗方揃ってるから、もう完成も間近なんだよね……ああ、楽しみだ。

 

 ……けど、しばらくはお預けかな……アンジュ救出とエンブリヲとの決戦の方に注力しないといけないし。

 

 

 

 



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第51話 反攻作戦に向けて

 

【▽月☆日】

 

 エンブリヲ襲撃から一夜明け……僕らは着々と、次なる戦いのための準備を進めている。

 

 アンジュ救出はもちろん、サリア達の奪還、龍の民の始祖・アウラの奪還、そして何より、エンブリヲの打倒も。

 

 そのためにも、急いで、かつ万全に準備を整えなきゃいけないわけで。

 独立部隊総出でそれに取り組んでるんだけど……一部、それに乗れていない人がいる。

 

 誰かって? ジル司令です。

 なんか、自暴自棄って言うか、諦めモードになってる。もうおしまいだ、って。

 アンジュがエンブリヲの手に落ちて、ヴィルキスは海の藻屑と消えた、って。

 

 アンジュとヴィルキス中心の『リベルタス』しか考えてなかったせいで、今のこの状況が、もう挽回不可能な絶望的なものにしか思えないっぽい。完全にやる気なくしてる。

 尤も、ミレーネルやスメラギさんから見ると、他にも何か理由、ないし事情がありそうだって話だったけど……ミーティングの時には話してもらえなかった。

 

 後で、スメラギさんがもう一回話して聞いてみるのと、説得も同時にしてみる、とのことだ。

 その時、男の人はいない方がいい気がする……とのことらしい。なぜかは知らんが。

 

 まあ、女同士の方が話しやすかったりもする……のかな?

 

 あと、ヴィルキスはきちんと回収して、今整備に回してますから。海の藻屑になってないよ。

 

 それと、タスクもきちんと回収して治療に回したし、アーキバスも修理に回したよ。まだ意識は戻らないけど。

 

 だから、拉致られたアンジュを除けば、こっち陣営からリタイアは、人も機体も出てな……ああ、ミランダのグレイブはダメだったっけな。

 中破だけど、破損の度合からして戦いには間に合わないって、整備班が言ってた。

 

 まあ、それならそれで問題ない。彼女には、もう1つの方の機体があるし。

 次の戦いでは、それがいよいよお目見えすることになるだろう。

 

 他にも、決戦を見据えてさらなる機体の強化や、新兵器の調整なんかも進めている。

 

 それと……準備とは違うんだけど、もう1つ。

 前回の戦いで投降してきたエルシャへの事情聴取も済んだので、書いておく。

 

 やはりというか、彼女は洗脳されて従っているわけではなく……ある理由から、自分の意思でエンブリヲの元についていたのだった。

 

 前にも何度か書いたことがあるが、エルシャは面倒見がいいお姉さん的存在であり、アルゼナルの幼年部の子達をことさら可愛がっている。

 自分の報酬を使ってお菓子や洋服を買ってあげたり、時間がある時は遊んであげたりと。

 

 きっと彼女は、ノーマじゃなければ、幼稚園の先生とかになっていたんだろうな、なんて思ったもんだ……あの『始祖連合国』で、まともな幼稚園でまともな教育を施されて、きちんとまともな園児が育つのかは疑問ではあるが。

 

 その『幼年部』の子達なんだが……あの、最初のアルゼナル襲撃の時に、全員死んでしまったのだそうだ。

 

 しかし、悲しみに暮れる彼女の前に、エンブリヲが現れ……なんと、その子供達を生き返らせたのだという。

 そして、『アルゼナルにいればこの子たちはまた危険にさらされる。私のところで預かって、幸せに過ごさせてあげよう』と言って、エルシャ共々、その子達を引き取った。

 

 始祖連合国の中枢部に『エンブリヲ幼稚園』なるものを作り(その名前を聞くと同時にヒルダ達が『うえぇ……』って顔になってた。多分僕もなった)、子供達をそこで引き取った。そして、エルシャはそこの園長さんになったのだという。

 

 生き返らせてくれた恩、そして安全な居場所をくれた恩を返すために、エルシャはエンブリヲに忠誠を誓い、『ダイヤモンドローズ騎士団』に入った、というわけだった。

 

 ……とりあえずどこからツッコめばいいのやら。

 

 子供達が亡くなる原因になったあの襲撃は、そもそもエンブリヲが黒幕で、ボンクラ皇帝をたきつけた結果だし……つまりは、死の遠因はエンブリヲだ。

 それを助けて恩を売るって……完全にマッチポンプじゃないかと思うんだが。

 

 あと、『エンブリヲ幼稚園』なる安全な場所に保護したって……アルゼナルが危険なのはあらゆる意味でそのエンブリヲのせいだろ、元々。

 攻めてくるのはもちろんだけど、そもそもノーマをドラゴンと戦うように仕向けたのもエンブリヲだ。アルゼナルっていうか、ノーマにとっての危機が全体的にエンブリヲのせいだ。

 

 そしてコレ、ココの時にも思ったことだけど……エンブリヲってマジでザオ○クでも使えるの?

 死んだ人がポンポン生き返ってるんだけど……ドラゴン○ールなみに、命の不可逆性ってもんが塗り替えられてるよ。

 

 ……まあ、理に反するとはいえ、本当に死んだ人が生き返った(きちんと真っ当な形で、に限るが)っていうのなら、それ自体はいいこと、ないし結果かもしれないけど……

 

 総合的に考えて、明らかにエルシャを取り込むためのエンブリヲの策だよねコレ?

 けど、エルシャにしてみれば、子供達が生き返った、これから安全に暮らせるっていう部分が最重要ポイントなわけだから、彼女は自分の意思でラグナメイルに乗ったんだろう。

 

 けど、かつての仲間達と戦ってそれもゆらいでしまったと。

 

 エルシャは、流石に今回の戦いには不参加になった。

 見守る、ないし見届けるくらいは問題ないけど、ひとまず大人しくしてろと。

 

 それを承諾した上で、エルシャは、『どうか子供達は助けてあげてほしい』とのこと。

 ……まあ、きちんと生きてたら、助けるよ。そりゃ。

 

 ココといい……本当にどういう仕組みなんだかな……?

 

 なお、サリアやクリスについても聞いてみたけど……こちらはあまり情報は得られなかった。

 

 公言している限りの情報であれば、サリアもクリスも……あと、ココもターニャもイルマも、エンブリヲに命を救われた恩から、っていう共通点はあるらしい。

 が、個人個人に細かい動機とか事情みたいなものもあると思われる、とのこと。

 

 ……クリスで言えば、呼び方が『エンブリヲ君』だったり……やたらと『友達』を強調したり……気になる部分は随所にあったな。そのへんだろうか。

 

 洗脳やら精神制御なしで、自分への忠誠心を植え付けるくらいだしな……何かしらはあるんだろうと思う。

 

 そのあたりが、やっぱカギだろうな……説得するにあたっては。

 

 

 

 追記

 

 エンブリヲ君について、もう1つ、注意しなきゃいけない部分があった。

 

 これは、アルゼナル内でアンジュが襲われた時のことを、宗介から聞いた際に明らかになった話なんだが……ゲイツ達アマルガムに加えて、なんとモモカがアンジュに銃を突き付けて襲ったのだという。

 

 が、もちろんモモカが実は敵のスパイだった、なんてとんでもない展開があるわけではない。

 

 エンブリヲはどうやら、『ホムンクルス』……ノーマではない『始祖連合国』の人間を、マナを媒介にして操ることができるらしいのだ。

 

 どこぞの絶対遵守みたいに、自意識を残したまま命令を聞かせる、って感じじゃなく……当人の自由意思とか意識をほとんど消して、本当に操り人形みたく操作する感じになる。

 どっちかって言うと、イノベイド連中の脳量子波を使った遠隔操作に近いな。

 

 監視カメラの映像を見せてもらったんだけど……その時のモモカ、目がうつろっていうか、ハイライト消えてて……不気味と言うか、怖かった。

 

 ハイライト消えならSEED勢も同じだけど、あっちはきちんと自分の意思も残ってるし、感情も声に籠って表に出てくるので、ただ見た目のすごみだけなんだよな。

 モモカの方はホントに人形っぽくなってて……普段が明るくて活発な性格だから、その分のギャップも相まって……。

 

 これで大人数を操作して襲い掛かってとかこられた日には、ホラーだよなマジで。

 

 それ考えると、アルゼナルは拠点としては好立地だよ。モモカとエマさん以外は、ノーマか外界の人間だけだから。マナとか関係ないから。

 

 ちなみにだが、モモカはその後、アンジュを傷つけないために自力で支配を振り切り、自分で自分を撃って無理やり無力化した。

 ……前にも思ったけど、アンジュのためとなるとマジでこの子覚悟決まり過ぎである。傷つけるくらいなら自決するってか……。

 

 あ、きちんと治療して一命はとりとめてます。ご安心を。

 むしろ、アンジュ救出作戦の時に同行したいってごねてるので、そっちの説得の方が大変です。当面絶対安静だっつの。

 

 

 

【▽月★日】

 

 準備が整った。

 これからいよいよ、ミスルギ皇国に殴り込みである。

 

 ええと、作戦目標は……と。

 

 まず、アンジュの救出。これは基本。

 なんかエンブリヲが去り際に気持ち悪いことを言っていたので、急いだほうがいいかも。

 

 続いて、千鳥かなめの救出。

 アマルガムが協力している以上、エンブリヲの本拠地であるここに彼女もいる可能性が高い。

 

 そして、マリナ・イスマイールとカガリ・ユラ・アスハの救出。彼女達も、失踪当時の状況から察すると、エンブリヲに捕まっている可能性大。

 

 始祖・アウラの救出。これについては、どこに捕らわれているのかわからない。予想はつくけど、確証はない。

 サラマンディーネ達のスパイがミスルギ皇国に潜り込んで情報を流してくれていたそうなんだが……最近連絡が取れないらしい。安否が心配である。

 

 サリア達の救出というか、ぶんなぐって目を覚まさせる。必要に応じて。

 これについては、基本、それぞれの親友枠に一任する。ヒルダとロザリー、そしてミランダがやる気になっていた。

 

 アマルガムの壊滅。具体的には、レナード・テスタロッサの打倒。

 あいつがアマルガムのボスだから、それを倒すなり捕獲するなりすれば、アマルガムは組織として終わりを迎えるだろう、とのこと。

 

 そしてもちろん、エンブリヲの打倒。理由とか言うまでもないよね。いくらでもあるよ。

 

 全部で7つかー……やること多いな……

 

 これらの目的を遂行するにあたり、機動兵器で正面から戦う部隊と、潜入して救出やら何やらする部隊の2つに分かれなければならない。

 

 潜入組は、タスクと宗介がメインになる。それぞれのガールフレンド救出に執念を燃やす2人だ。白兵戦能力も高いので、適任だろう。

 

 機動部隊として戦うのがそれ以外の面子。恐らく例の騎士団が出てくるだろうから、それと戦う気満々の面子を中心に動くことになるだろう。

 

 そして、僕は……どちらでもなく、待機。

 どっちかと言えば機動部隊側ではあるんだが、出撃はしない。例によって、対エンブリヲの隠し玉として、あいつが機体で出てくるまでは温存、ってことになった。

 

 そして今回、僕もちょっと秘策というか、隠し玉を用意しているので……もし戦いになって、もし使う時が来たら……これまで以上に活躍できる自信があったりなかったり。

 

 欠点や弱点を、把握していながらそのままにしておくなんて、ダメだからね、うん。

 

 さーて……そろそろ時間だ。

 この日記の続き、無事に書けますように。

 

 

 

 



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第52話 ミスルギ決戦、開幕

 

 ミスルギ皇国を舞台とした、エンブリヲとの決戦。

 

 これまで攻め込まれる、あるいはおびき寄せられる一方だった独立部隊は、アルゼナルを出て、初めてその総力をもってミスルギ皇国に進軍。宮殿及び『暁の御柱』前の広場に歩みを進める。

 

 それを迎え撃たんと出撃してきたのは、サリア率いる『ダイヤモンドローズ騎士団』。

 それに加えて、いつもの、とでも言うべきか、お得意の無人機部隊である。円盤型の『ピレスロイド』に始まり、他の各勢力の機体をAI制御に改造したのであろう、モビルスーツやマジン、ASなども姿を見せた。

 

 サリアとクリス、ターニャとイルマがそれらを率いて出撃し、ナデシコとプトレマイオス、トゥアハー・デ・ダナンから出撃した機動部隊各機を迎え撃つ。

 

 そして、そんな彼ら・彼女らの戦いの裏で……もう1つ、別な戦いが始まっていた。

 

 先の戦いでエンブリヲに拉致されたアンジュと、アマルガムに捕らわれていると思しき千鳥かなめの救出。

 機動部隊の戦いを陽動とし、ミスリルの陸戦部隊の掩護を受けながら、宗介とタスクが敵拠点に突入。自らも脱出に向けて動いていたアンジュと無事合流し、保護することに成功。

 

 同時に、レナードに連れられていた千鳥かなめとも遭遇し……舌戦?の末、彼女は洗脳……ではなく、自身の精神と一体化していた少女『ソフィア』の精神による支配をはねのけ、宗介の手を取った。

 アンジュ、千鳥かなめ、両方の脱出を妨害することなくただ見送るレナードの態度に、違和感を覚えないわけではなかったが、ひとまず脱出を優先することに。

 

 その後、外に出るまでに、アンジュ絡みのいくつかの騒動を経た後、一同は無事に宮殿の外に脱出することができた。

 

 が……外に出たその瞬間、早くも次の受難が待っていた。

 

『やっぱり逃げ出してきましたね、アンジュリーゼ様!』

 

「っ!? この声……ココ!?」

 

 宮殿から脱出した直後のアンジュ達の前に、機動部隊との戦いには出ず、伏兵として隠れていたココが『ビルキス』で降り立ったのである。

 

『アンジュリーゼ様を奪い取ろうとしてネズミが入り込むかもしれないって、エンブリヲ様が言っていました。自分の代わりにあなたを守っていてくれ、って頼まれたんです。大人しく宮殿に戻ってください、アンジュリーゼ様? でないと……』

 

「はっ……お断りよ! あんたと違って私はあんな奴に飼われる趣味はないから。妻になんかなるくらいなら死んだ方がマシだわ! あと様付けやめてって言ったわよね!?」

 

 気丈に言い返しつつも、アンジュは頭の中で、ここからどうすればいいか考えを巡らせていた。

 

 建物から出たら、タスクと宗介はすぐさま用意しておいた機体に乗り、アンジュもヴィルキスを呼び出してそれに乗り込むつもりでいた。しかし、それを制されてしまった形になる。

 

 いくら宗介やタスクが白兵戦能力に優れていても、機動兵器を、それもパラメイルと比較して桁違いの性能を持つ『ラグナメイル』を相手にして戦えるわけがない。

 ビームライフル1発放たれるだけで、生身の人間など容易く蒸発してしまうだろう。

 

 逃げるにしろ抗うにしろ、機体は必須。せめて、ほんのわずかな間だけでも隙ができれば……と考えるアンジュだが、

 

「大丈夫だ、アンジュ。ここで追っ手がかかるのも、スメラギさんの予想通りだ」

 

「えっ?」

 

「すぐにこっちにも応援が……」

 

 と、耳元で小声でささやくタスク。

 彼が何かを言い終わるより先に……その場にいる全員の耳に、特徴的な音が聞こえ始める。

 

 『独立部隊』の面々にとっては、それなりに聞きなれた音だ。

 敵にせよ味方にせよ、その場面を目にすることが多かったがために。

 

 そして次の瞬間には、音だけでなく、視界にもそれは明らかになり始める。

 

 何もない空間から、『ボソンジャンプ』を終え……ちょうど、アンジュ達とココの間に立ちはだかるように、それは出現した。

 

(ブラックサレナじゃない……パラメイル? でもコレ、誰の……?)

 

 現れたのは、アンジュにとっては見覚えのない……深緑色のパラメイルだった。

 

 デザインは『グレイブ』のそれによく似ている。アンジュの記憶にある、ヒルダやロザリーが乗っていたそれと、主だった特徴が一致する。武装など細部が異なるようだが、そのあたりは任意の改造でいくらでも変わるだろう。

 しかし、彼女が覚えている限り、『深緑色』に塗装しているグレイブに乗っている者はいなかったはずであり、目の前の機体のパイロットが誰なのかには思い至らない。

 

 が、その疑問はすぐに解消することとなる。

 他でもない、その機体に乗っている者の発した声が、彼女達のところまで届いたために。

 

『向こうの方に出てきてないから、どこかに隠れてるとは思ってたよ……ココ』

 

「! その声は……」

 

『ミランダ!? どうしてここに……しかも、何その機体!?』

 

『私の新しいパラメイルだよ。ココ……あなたと戦うための、ね!』

 

 そう言うなり、困惑して動きの止まっていたココの『ビルキス』に勢いよく突進するミランダ。

 

 ビームライフルの銃身をつかんで、射線がアンジュ達に向かないように反らしながら、そのまま押し出すようにしてアンジュ達から引き離していく。

 

『アンジュ! タスク達も、今のうちに!』

 

「っ……よくわからないけど、サンキュー、ミランダ! 来なさい、ヴィルキス!」

 

 そうしてできた隙に、アンジュは困惑しながらもヴィルキスを呼ぶ。

 乗り手の意思に応え、空間を超えて現れたヴィルキスに、アンジュは素早く乗り込む。タスク達もその場を離れ、すぐ近くに用意していたそれぞれの機体……アーキバスとレーバテインに乗り込んですぐに出てきた。

 

 一方で、困惑から立ち直ったココは、ビルキスを押して飛ぶグレイブをどうにか振りほどいて、体勢を立て直す。

 

 しかしその時には既に、宮殿からかなり引き離されてしまっていたうえ、遠くの方でアンジュのヴィルキスが飛翔する光景が見えていた。

 エンブリヲから言いつけられた自らの務めを果たせなかった事実と、その原因になった目の前の存在に、苛立ちからギリ、と奥歯を鳴らす。

 

「ミランダ……私、この前言ったよね? 邪魔するなら、あなたでも容赦しないって……」

 

「うん、言われたね」

 

「でも……邪魔するんだね?」

 

「うん……そのためにここに来た。この間は、何もできなかったけど……」

 

 そこで一拍置いて、ミランダは呼吸を整え……そして、はっきりとした口調で言い放つ。

 

「私が止めるよ、ココ。そして今度こそ……助けてみせる! エンブリヲなんかに騙されて、また命を粗末にしようとしてるあんたを!」

 

「何が『助ける』よ……それじゃ私が今、可哀そうみたいじゃない。私は……もう救われてるの! エンブリヲ様に助けられて、力も、居場所も、夢ももらったの! それを邪魔するなら……」

 

 ココはビルキスを操作し、持っていたビームライフルを左手に持ち替え……右手には剣をとる。

 

 それに呼応するように、ミランダは背中に装備していた、かなり銃身の長い、重厚な装飾のついた銃……のような武器を手に取って構える。

 

 互いが互いに、剣の切っ先と銃口を向けた。

 

「ミランダ……あなたを倒す!」

 

「来い、ココ! 私は、私だってもう……逃げないし、迷わない!」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 ミランダとココ……かつての親友達の戦いが始まったその頃。

 

 場所は変わり……戦場の外縁に待機して全体の動きを見ている、『プトレマイオス』の格納庫。

 

 予備戦力兼エンブリヲ戦への控えとして待機していたミツルは、乗機であるアスクレプスの足元で、ノートパソコン型の端末を通して戦場の動きを見守っていた。

 

 画面の中で、ミランダがココと戦闘に入ったのを見ながら、声には出さずに心の中で彼女の勝利を祈っていると……コツ、コツ、と足音を立てて近づいてくる足音に気付く。

 

 視線を向けると、その先にいたのは……意外な人物だった。

 

「あれ、ジル司令……どうしてこんなところに?」

 

「ああ、こんなロートルにもできることがあるかもしれんと思ってな……念のための待機だ」

 

 現れたのは、アルゼナルの司令官であり、普段は後方で指揮を執る立場であるはずの女性……ジルだった。

 

 軍服のようないつもの服装ではなく、アンジュ達が来ているのと似たデザインの、メイルライダー用のパイロットスーツに身を包んでいる。見慣れない姿だけに、ミツルの目には新鮮に映った。

 

「え、戦闘に出るんですか? ジル司令が? パラメイルで?」

 

「意外か? 何も不思議なことはないだろう……私とてノーマだ、昔は最前線でドラゴンと戦わされていたんだぞ?」

 

「ああ、なるほど、確かにそうなりますね……ノーマ=メイルライダーですもんね」

 

「『リベルタス』に向けて、腕は錆びつかせないように訓練は続けていたからな、そこらの小娘などには負けんさ」

 

 そう言い放って、歯を見せて獰猛な笑みを浮かべるジル。

 その姿には、アンジュとヴィルキスを喪失し、リベルタスの頓挫を悟って失意に暮れていた時の悲壮な様子は、どこにも残ってはいなかった。

 

 スメラギとの語り合いの中で、自分にできること、逃げずに向き合うべきことを再認識した結果なのだろう。

 かつての自分の過ちを乗り越えるため……過去と決別し、今度こそ未来を手にするため……彼女の目には、最早迷いはなく、業火を思わせる光が宿っていた。

 

「そりゃ頼もしいですね。でも、機体は何を使うんです? 一応、クリスとエルシャのハウザーは持ってきてますけど……」

 

「エルシャが乗ってきたラグナメイルがあるだろう、アレを使わせてもらう。かつて『ヴィルキス』に乗っていた身として、小娘などにはまだまだ負けんと言うことを見せつけてやるとも」

 

 得意げにそう言って、格納庫の隅にある『レイジア』へ歩いていこうとするジル。

 ミツルはそれを、苦笑しながら見送るが……

 

 

 

「悪いことは言わない、無駄だからやめておきたまえ。結果のわかり切っている勝負のために命を懸けるなど、愚か者のやることだよ……アレクトラ」

 

 

 

「「!?」」

 

 突如として格納庫に響いた声。

 

 ミツルとジル、両方にとって、聞き覚えのある……どころではない、聞き間違いようもないその声に、2人は目を見開いて声がした方を振り返った。

 

 しかしてそこには、予想通りの人物が立っていた。

 

 これまでと同じ。要塞の中だろうと、結界の中だろうと……その男は、どこにでも、いつでも、好きなように現れる。

 

「エンブリヲ!?」

 

「何でここにっ……」

 

「やあ、この間ぶりだね、アレクトラ。そして……直接会うのは初めてだな、星川ミツル」

 

 超常の力を持ち、世界の調律者を標榜する男は、殺気交じりで向けられる視線を何ら気にすることもなく、常と同じ不遜な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 



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第53話 格納庫で起こったこと

「格納庫に侵入者ですって!? どういうことなの!?」

 

「すいません、スメラギさん……今、システムがダウンしてて、監視カメラが……一瞬だけ確認できた映像から判断するに、え、エンブリヲかと……」

 

「野郎……直接乗り込んで来やがったってのか!」

 

「まずいわ、今、格納庫にはジルとミツル君が……警備部隊は!?」

 

「向かっているんですが、途中の通路に光の壁があって進めないそうです。おそらく、『マナの光』……エンブリヲの妨害工作かと」

 

 騒然となるプトレマイオスの艦橋。

 

 それを知ってか知らずか、邪魔する者のない格納庫で、エンブリヲは常の余裕そうな、傲慢のにじみ出た笑みを浮かべていた。

 事前に妨害を排除してあるとしても、敵地だということなど微塵も気にすることなく、悠々と歩いて、ミツルとジルの方に近寄ってくる。

 

「そう睨まないでおくれ、アレクトラ。せっかくの美貌が台無しだよ。常の軍服とは趣が違うが、その姿も似合っているね……昔を思い出すよ」

 

「奇遇だな……私も、この装束で貴様と相対していると、昔を思い出して怖気が走るよ……また私を口説きにでも来てくれたのかな、『エンブリヲ様』?」

 

「ふふっ。君が望むなら、そうするのもやぶさかではないが……」

 

「お断りだ、心の底からな」

 

 言うが早いか、ジルは右手をすっと突きつけるようにエンブリオに向け……その腕がガシャンと音を立てて変形する。

 

 隣で『は!?』と目を見開いて驚くミツルの眼前で、ジルは変形させた義手から、仕込んでいた凍結バレットを放ち……エンブリオに直撃させる。

 

 小型化されているとはいえ、もとはドラゴンを凍結させて無力化するための、れっきとした機動兵器用の武装。炸裂したそれは、眼前に大きな氷塊を作り出し、一拍遅れて格納庫中に冷風が吹き荒れた。

 

「っ……やはり、閉所で使用するものではないな」

 

「寒っむ……なんちゅうもんを仕込んでんですか、ジル司令……ていうか、義手だったんですか?」

 

「お前……他に気にするところがあるだろう、今のやり取りを見ていて……エンブリヲとどういう関係なのか、とかな」

 

「まあ、それも気になってはいますけど……あんまり聞かない方がよさそうな話ですし」

 

「ふっ、何だ、気遣ってくれるのか? 優しいなお前は……気を抜くな、今ので仕留められたとは思えん。今のうちに機体に……っ!?」

 

 と、ジルが言い終わるよりも先に……その背後に、無傷のエンブリヲが現れ、その首筋にそっと触れた。

 

 その瞬間、ジルはびくぅっ! と体を跳ねさせて大きく反応し……脱力して倒れ込んだ。

 

「そうだね、私も……古い女にもう用はない。尻尾を振ってくるなら、飼ってやってもよかったが……噛みついてくる雌犬など不要だ」

 

「あ、あぁあ……っ……! くぅ、え、エンブリヲっ……何を、した……!?」

 

 床に倒れ込んで、びくん、びくんっ、と体を震わせ……身じろぎ一つするのにも苦しそうにするジル。

 その姿は、苦しんでいるというよりは、何か別の感覚に耐えているようなそれで……赤みのさした顔には汗が浮かび、呼吸は荒く、妙な艶めかしさすら感じられた。

 

「君の肌の感覚の全てを快感に変換してあげたのさ。アンジュにもやってあげたんだが、割と好評だったようなのでね……かつての愛人に対する、せめてもの贈り物だよ」

 

「エン、ブリヲっ……!」

 

「そのまま、しばしそこで1人で楽しんでいてくれたまえ。さて、待たせてしまったかな? 星川ミ……」

 

 言い終わるより先に、ミツルは鋭く踏み込んで、懐から何かを取り出す。

 

 ペンライトのような形状になっているそれを手に持ち、スイッチを押すと……『ヴォン』という音と共に、その先端から棒状の光の刃が伸びた。

 

 見た目明らかに『ラ○トセイバー』と言うしかないようなその武器――『サイデリアル』の兵器部門の試作新製品――を横一文字に振るい、エンブリヲの首と胴体を泣き別れにするミツル。

 話しかけていた時の表情のまま、エンブリヲの首が宙を舞った。

 

「リアルに退○忍みたいな真似してんじゃないよ。クズの上に変態なのかこいつは……ミランダやヴィヴィアンには会わせらんないな、教育に悪い」

 

「全く……腹立たしいことだな。どいつもこいつも血の気が多くて物騒だ」

 

 しかし、一瞬後にはエンブリヲの首は元通りになり、ミツルの顔目掛けて手を伸ばしてくる。

 その表情は、先程までよりも少しだけ歪み……不快感が現れているように見えた。

 

 『やっぱり効かないか』と呟きながら、その手を剣で切り払うミツル。

 しかし、エンブリヲの手に触れた瞬間、光の刀身は、実体がないものであるにもかかわらず砕けて消え……驚いたミツルは、その一瞬の隙にエンブリヲの手に頭をつかまれた。

 

 そのまま、何らかの力がミツルの頭の中に流し込まれていく。

 

「あっ、が……あぁああ……!?」

 

「特に君の存在は不愉快だ。幾度となく私の邪魔をし、思惑を阻んでくれた。今回もまた、そのつもりでいるのだろう……ああ、実に腹立たしい」

 

 常よりもワントーン下がったような声音で言いながら、エンブリヲはミツルの頭の中をかき回していく。

 

 ミツルは無抵抗で……というより、抵抗以前に意識があるのかすら怪しい状態だった。

 目から光が消え、体は小刻みに震え、腕はだらんと脱力しているも、崩れ落ちることはない。

 

「だが、君の操る力と、その技術は有用だ。光栄に思うがいい、君は自由意思を奪った上で、私の手駒にしてあげよう……古き世界の破壊と、新たな世界の創造……そのために、その力を使え」

 

 体の中で暴れまわる快感に身を焼かれながらもその様子を見ていたジルは、僅かに残った思考能力の片隅で、違和感を覚えていた。

 

(何、だ……? エンブリヲの奴、いつもと違う、ような……? 奴なら、相手がいくら吼えようが、嘲笑うことはあれど、不快に思うほど気にすることなど……なかったはず……?)

 

 思い返してみても、ジルの記憶にあるエンブリヲの表情は……いつもあの、こちらを見下したような余裕の笑み。それだけだったはずだ。

 

 甘い言葉をささやいてジルを骨抜きにした時も、

 

 そのまま純潔も、尊厳も、自由意思も、全て奪い去って汚しつくした時も、

 

 当時の『リベルタス』をあっさりと破り、仲間達の命を無惨に奪った時も、

 

 いつもエンブリヲは笑っていた。

 

 まるで、必死に抗っているつもりの愚者を……しかしその実、まるで自分に対して抗えてなどいない愚者を、むしろ楽しんで眺めているかのような、支配者の笑み。

 

 そのエンブリヲが、今は……わかりやすく、怒って、あるいは、苛立っている。

 

(以前の奴とは……違う、ような……いや、そんなことよりも、このままではっ……!)

 

 しかし、ジルがミツルの洗脳を危惧したその瞬間、

 

 突然、脱力していたミツルの腕が動き……逆にエンブリヲの喉元をガッとつかんだ。

 

「な……っ!?」

 

 驚いたエンブリヲは……次の瞬間、思わずと言った様子でミツルの頭から手を放し、自らの喉をつかんでいる腕を振りほどこうとする。

 しかし、振りほどけない。それどころか、徐々にその体が持ちあげられていく。

 

「な、何……だとっ……!?」

 

 困惑と怒りが入り混じった表情になったエンブリヲに対し、ミツルは無表情のままで……しかし、そのミツルにも異変が起こる。

 

 白い髪が突如、金色に染まり……素人目に見ても感じ取れる、その気迫、ないし存在感のようなものが膨れ上がっていく。

 

「何だ、この力は……貴様……一体……!?」

 

「以前にも思ったが、哀れなものだな、エンブリヲ。箱庭の中で絶対者を気取りながら、その身を既に蝕まれ、奪われつつあることに気づかないまま踊り続ける」

 

 普段のミツルとは全く違う口調で、すらすらと言葉が紡がれる。

 

「まあ、()が言えた義理ではないが……それでも、君のそのやり方は不快が過ぎる。だが見方を変えれば、それを正すいい機会に今、恵まれているともとれる」

 

 相対しているエンブリヲだけでなく、何もできずに見ていたジルも、唖然として見ている中……無表情だったミツルの顔に……

 

 

 

 …………晴れやかな、しかしどこか凄みを感じる……満面の笑顔が浮かんだ。

 

 

 

 まるで、この状況を祝福するような……あるいは、心から喜んでいるような笑みが。

 

 

 

 そして、

 

「君は少し、身の程というものを知るべきだね」

 

 瞬間、その喉をつかんでいる手元から、光とも炎ともわからないような何かが吹き上がり……エンブリヲは、悲鳴を上げることもできずに、その場から消失した。

 

 そして同時に、その光景を目にしていたジルも、あまりに強い光に目がくらみ……ふっと、意識が遠のいていき……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジル司令! ジル司令! 大丈夫ですか!?」

 

「っ……!? あ、あぁ……星川ミツル、か?」

 

 格納庫の床に倒れていたジルは、自分の体がゆすられるような感覚で目を覚ますと……横に膝立ちになっている、ミツルと目が合った。

 

 寝起きゆえか、すぐには焦点が合わなかったが、特徴的な白髪ですぐに彼だとわかった。

 

「……気を、失っていたのか? 私は、何を……っ!? エンブリヲは!?」

 

「えっと、僕もよくわからないんですけど……撤退してった、のかな?」

 

「……そうか。相変わらず、よくわからん奴だ……ここに来たのも、ただの気まぐれか……単に、殺す前に昔の女の顔でも見に来たのか……」

 

「ええっと……それ、マジなんですか?」

 

「マジだ。……スメラギにはもう話してあるが……かつての『リベルタス』の失敗は、私が全ての原因なんだよ……あの男に、篭絡されてしまったから……。それ以来、奴を殺すことだけ考えてきた……そのために、サリアも、アンジュも、利用して、巻き込んだ」

 

 ふと、ジルの視線が、変形したままの義手に行く。

 手動で元の手の形に戻し、何度かにぎって、開いて、調子を確かめる。仕込んでいた凍結バレットを撃った以外は、前と変わりなく動くようだ。

 

「……信用できないだろうな、作戦の直前に、こんな話を聞かされては。不満なら、後でいくらでも聞く。出来る償いもするつもりだ。だが……叶うなら、この戦いの間だけは……」

 

「そんな悲壮そうな顔しないでくださいって、別に疑ってやしませんから」

 

 遮る形で、ミツルは言った。

 その顔には、穏やかな笑みが……違和感のない、いつもの彼のそれが浮かんでいた。

 

「きちんと過去を振り返って、あれは失敗だったって思い返すことができて、その上でこれからこうしたい、こうして見せる、っていうビジョンをきちんと持てているなら、人間何とかなるもんですよ。そして、その為に必死であがく奴を助けるのも、仲間の務めです。多分、僕じゃなくても独立部隊の人なら、大体同じようなこと言うと思いますよ」

 

「……だが、私は……」

 

「ガッツリ言いたいこと言い合った上でスメラギさんが送り出したんなら、きちんとそのへんの事情込みで、あなたなら大丈夫だと思ったんでしょうしね。経歴的に訳ありな人なんて、この部隊には全然珍しくもないし……宇宙人や異世界人までいるんですから。それに……」

 

「それに、何だ?」

 

「なんか、アンジュ達見てると……一回変な方向に暴走してからなんだかんだで上手くやっていけるのって、ある意味メイルライダーの特性? 生態? なのかな、って思えてきてるんで」

 

「……ぷっ!」

 

 思わず、と言った調子で噴き出すジル。

 

「何だ、その根拠は……だが困ったな、全く反論材料がないぞ。確かに私らときたら、上から下まで黒歴史だらけの色々と痛い集団だな」

 

「そのボスってことで、それに見合った働きを期待してますね。差し当たって……サリアあたりが色々こじらせてアンジュ達とドンパチやってますんで、どついてきてください。……僕の勘ですけど、ジル司令、あなた原因の一つでしょ」

 

「ご推察の通りだよ。やれやれ仕方がない、責任取って不肖の部下のケツを引っぱたきに行くとするか。まったくあいつ、見事なまでに過去の私と同じような失敗を繰り返しおって……」

 

 言いながらジルは、格納庫の入り口に歩いていくと、そこを塞いでいた緑色の光の壁……マナの光を、雑に蹴飛ばして破壊した。

 

 そこからなだれ込んできた警備部隊に一通り状況を説明した後、ジルは改めて、鹵獲してスタンバイされているラグナメイル『レイジア』に向き直り……真剣な面持ちで、そのコクピットに乗り込んでいった。

 

 それを見届けて、ミツルもこの戦いが佳境に入りつつあることを察し……アスクレプスのコクピットに乗り込むのだった。

 合図が来た時、いつでも出撃できるように。

 

 

 

 ジルと、ミツル。

 2人の脳内に……ほんの数分前に確かに起こったはずの、鮮烈にも程がある出来事は……ついぞ思い返されることはなく。

 記憶の欠落という事実を、2人が自覚することも、やはりないのだった。

 

 

 

 



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第54話 ミランダVSココ

すいません、今回ちょっと難産で……いつもより遅くなりました。
その分気合入れて書いたつもりではありますが……

ひさびさにがっつりバトルシーン書きました……第55話、どうぞ。


 『神の兵器』とも呼ばれる絶対兵器『ラグナメイル』。

 その性能は、デッドコピー版である『パラメイル』と比較して、まさしく天と地と言えるほどの差がある。

 

 武器の火力、装甲やシールドの防御力、継戦能力やその他の特殊能力に至るまで、あらゆる面でラグナメイルはパラメイルを突き放す性能を持つ。

 

 パラメイルと違って、武装の種類において多彩とまでは言えないという点は確かにあるが、それを補って余りあるレベルで、現行の武器の性能が凄まじいため、問題にはならない。

 凍結バレットも追加武装もないが、そんな小細工などしなくとも、純粋な力でねじ伏せられるだけの力があるのだ。

 

 ゆえに、パラメイルとラグナメイルでは、相対した場合、ろくに戦いにすらならない……はずである。

 

 しかし、その絶対的な性能さを感じさせないほどに食らいつき、あるいは覆さんとする戦いが、この戦場のあちこちで起こっていた。

 

「いいかげんに落ちろ、ヒルダ、ロザリー! エンブリヲ君のために!」

 

「やなこった! お前こそ、その似合わねー機体からさっさと降りな!」

 

「お前を助けるまで……あたし達は絶対にあきらめないからな!」

 

 歯ぎしりをしながらビームライフルを放つ、クリスの『テオドーラ』。

 

 その攻撃をかいくぐり、ヒルダの『アーキバス』と、ロザリーの『グレイブ』が空中で踊る。性能差を腕と気合、そしてコンビネーションで強引に埋め、今度こそ、こうして出会えた友を絶対に逃すまいと食らいつく。

 

「アンジュ……あなたは、せっかくのエンブリヲ様の好意を踏みにじって!」

 

「あんな女の子に悪戯して喜んでるようなド変態の好意なんて願い下げよ、気持ち悪い! あんたこそいい加減目を覚ませ、サリア! あんなのに使われるような女じゃないでしょ、あんたは!」

 

 また別な場所では、こちらはラグナメイル同士の戦い。

 アンジュの乗る『ヴィルキス』と、サリアの『クレオパトラ』が火花を散らす。

 

 機体性能が互角であるがゆえに、パイロットの腕で勝るアンジュが押しており、戦意こそ衰えずあるものの、サリアは防戦一方となっていた。

 

 そのアンジュを、時折タスクが支援する形で戦い……また、その戦いに割り込ませないために、ターニャとイルマの機体……『エイレーネ』と『ヴィクトリア』を、機動部隊の他の機体が抑え込む。

 

 そして……それらからまた少し離れた場所では、

 

「機体が変わったところで……パラメイルじゃラグナメイルには勝てないよ、ミランダ!」

 

「それは……やってみなきゃわからないでしょっ!」

 

 驚異的な加速で迫りくる、ココの『ビルキス』。その手に持った剣は、直撃すれば、装甲の薄いパラメイル程度の機体であれば、容易く両断して勝負を決めるだろう。

 

 しかし、迫る凶刃を前にしても、ミランダは取り乱すことなく操縦桿を握り、精神を集中する。

 

 すると、その意思に応えるように……ミランダの『グレイブ』の胴体から、いや機体の各所から、澄んだ緑色の光が放たれ始め……出力が爆発的に上がって行く。

 

(……ッ!? 何、この出力……?)

 

 計測され、コクピットに表示されたその数値に驚きながらも、ココは突撃の勢いを緩めることなく迫り、懐に飛び込んだところで剣を横凪ぎに振るった。

 

 完全に射程範囲内。突進の勢いも載せたこれなら、例えシールドで防御しようとも突破して勝負を決められる。そう確信しての一太刀。

 

 実際、それがただのパラメイルであれば……いや、相当にカスタムされて強化されたものであっても、その予想通りの結末になっただろう。

 

 しかし、目の前の機体は……それに当てはまらなかった。

 

 

 ―――ガ キィン!!

 

 

「……っ、嘘!?」

 

 甲高い音と共に、不可視の障壁によって、ビルキスが振り抜いた剣は止められ、グレイブの深緑の装甲に傷一つつけることは叶わなかった。

 

 その一瞬の動揺の隙を突き、ミランダは手に持った銃の狙いをつける……というよりも、ほとんどゼロ距離で構えた。

 

 とっさにココはラグナメイルのシールド機構を発動させ、さらに腕のビームシールドでそれを受ける構えを取るが……直後にミランダが放った光弾は、そのラグナメイルの防御力をもってしても大きな衝撃をコクピットに届かせるものだった。

 

 盾で受け流すような形で受けたことで、破損こそどうにか免れたものの、大きく押し戻されてしまったビルキス。

 

 そこに、体勢を立て直す暇もやらないとばかりに、ミランダは手に持った長銃型武装『ガナリー・カーバー』から、今度は光線……あるいは、光の槍のようにも見えるそれを連射する。

 

「その程度っ!」

 

 大きく螺旋を描くような動きでそれらの攻撃をかわし、再び懐に飛び込もうとするココ。

 照準を合わせ直すのが間に合わず、再びミランダは距離を詰められそうになってしまうが……その直後、銃を構えたまま、ミランダの機体に異変が起こる。

 

 両肩のパーツがスライドして変形し……ちょうど、ラグナメイルが『ディスコード・フェイザー』を放つときのような形態に姿を変えたのである。

 

 その変形に一瞬ぎょっとするココだったが、ミランダがそれを使えるはずがないとすぐに思い直して突撃し……しかし、次の瞬間さらに驚愕することになる。

 

 確かに、発動に『永遠語り』という歌と、皇家の血、そして秘宝の指輪を必要とする『ディスコード・フェイザー』は、ミランダが例えラグナメイルに乗ったとしても使えるわけがないものであるし、そもそもパラメイルに搭載されているはずがない武装である。

 実際に、そのグレイブに搭載されていたのは、それではなかった。

 

 ただし、ある意味ではよりたちの悪い武装、と言ってもいいものだった。

 

「『クラフティブ・レイガン』展開……モード・ニードル!」

 

 展開した肩を覆うように、澄んだ緑色の障壁、あるいは力場のようなものがさらに出現。

 その表面から、針のような形をした無数のエネルギー弾が放たれる。

 

 懐に飛び込もうとしていたココに、豪雨のごとく降り注ぐエネルギーの針。

 流石に防御しきれないと判断したココは、急旋回してその攻撃から逃れる。幸い射程はそれほどないようで、ある程度離れるだけで、針は空に溶けて消えていった。

 

 しかし、距離を開けたら開けたで、先程と同じように手にした銃からのレーザーにさらされる。

 

 それならばと、ココは自らもビームライフルを撃ってけん制しながら、先程よりもさらに大回りして接近していく。

 

 今度はミランダも機体を動かし、ココのビームライフルの銃撃をかわしながら、遠距離からの射撃で戦いを続ける。

 常に距離を保ち、あの手この手で接近させまいとするその様子から、ココはミランダの得意分野が遠距離戦であることを、あるいは逆に、接近戦が不得手であることを見抜いた。

 

 最初、こちらが油断しているうちにその防御力を生かして奇襲を狙った時以降、ずっとミランダはココを近づかせないように戦っている。

 

 それならばと、ここは市街地に飛び込んで建物を遮蔽物にし、得意の射撃もエネルギーの針も通らないようにして戦い始める。

 そのココを追いかけて、ミランダも市街地に入り……射線を開けてここに攻撃が通るように、それでいてココに近づきすぎないように注意しつつ戦いを続けていた。

 

 しかし、ココの狙いはただ遮蔽物越しの戦闘を行うだけではなかった。

 

(……! よし、かかった!)

 

 何度目かの攻防、何度目かの逃走を経て、ミランダはそこに来た。

 ココに誘導され、誘い込まれた。

 

 そこは、縦方向に長い大通りになっていて……通りそのものの見通しはいいが、遮蔽物になるような構造物はほとんどない場所だった。

 しかも、横道に抜けて退避できるような道はほとんどなく、その上どれも細く、パラメイルどころか普通の乗用車が通ることも困難であろう小ささ。

 

 ゆえに、ある程度その中まで入ってしまうと、一直線に伸びているそのライン上で戦うしかない場所だった。

 

 そこにミランダを誘い込んだココは、ミランダが道の半ば……つまり、引き返して逃げようと思っても絶対に間に合わない位置まで引き込むと、即座に方向転換。

 

 ビームライフルも撃ってけん制しながら、急加速してミランダのグレイブ目掛けて突っ込んでいき……一気に勝負を決めにかかる。シールドを発生させて防御し、エネルギーの針の多少の被弾は許容する形で勝負を決めに行った。

 

 が、防御か回避、あるいは苦し紛れの迎撃に移ると思われていたミランダは……またしてもココの予想に反し……こちらも正面から突っ込んでいく。

 

 ココが驚いた直後には、急加速した機体同士が正面衝突する形になり……とっさにココは、手に持った剣を間に挟んで防御しようとする。

 

 間一髪その防御は間に合ったものの……激突の瞬間、またしても凄まじい衝撃がココの乗るビルキスのコクピットを襲い……ビルキスの方が一方的に吹き飛ばされて体勢を崩した。

 まるで、巨大なダンプカーに激突した軽乗用車が吹き飛ばされて転がるように。明らかに強度や勢いに差がある2つの激突と取れるような結果になった。

 

「な、あっ……何で……私だけ……!?」

 

「隙あり! 『クラフティブ・レイガン』……モード・マイン!」

 

 激突してなお、ほとんど勢いを落とすことなく飛んで向かってくるグレイブ。

 その周囲に、よく目をこらすと見える、球形のシールドが……否、『フィールド』が展開されているのを、ココはかろうじて見ることができた。

 

 おそらくは、あの障壁ごとこちらに突っ込んできたせいで、こちらが一方的に押し負けたのだろうということにも気づけたが、そこからさらに何か推察する暇もなく、次の一手が迫る。

 

 肩口から今度は、丸い大きめのエネルギー弾が何発も……しかし今度は、放物線を描いて飛ぶような軌道で、斜め上に放たれる。

 放ちながら、手にした『ガナリー・カーバー』から光弾を連射しながら飛んでいく。

 

 退避しようにも、自分からここに誘い込んだ理由そのもののせいで逃げ場はなく、

 さらに、唯一退避できそうな上方向には、今しがた放った光弾が……否、『機雷(マイン)』なのであろうそれが行く手を阻み、逃がさんとする。

 そのまま突っ込んでいれば、接触し起爆……そのまま周囲のものが全て起爆し、大ダメージを負っていただろう。

 

 やむを得ず、またしても突っ込んで懐に入らんとするココだが、先程と同じように、振るった剣は不可視の障壁に阻まれ、怯んだ瞬間に両肩から放たれるエネルギーの針の雨。

 さらに、離れようとした瞬間に今度は『ガナリー・カーバー』からのビーム連射。

 

 さらに、ビームライフルでけん制しながら離れようとするココに対し、ミランダは逃がさないとばかりに、そのまま突っ込んで追いかけて撃ちまくる。

 

 けん制のビームライフルもものともしない。全て防ぐかかわされ、全く痛打にならない。

 

『っ……何なの、このパラメイル!? 絶対普通のパラメイルじゃないっ!』

 

 

 

 それらの光景を、同じく市街戦の最中で、あるいは空中から見ていた者達がいた。

 パラメイルと同様、小型の機体を操る、ミスリルやエステバリス隊の面々である。

 

 きちんと自分達が戦っている敵の相手をしながらも、ある者は驚き、またある者は感心して、ミランダとココの戦いを見て、各々考察を行っていた。

 

「なあ、今のあれ……シールドごとラグナメイルに突っ込んでいったのって……アキトのあれと同じじゃ……あれ、『ディストーションフィールド』だよな?」

 

「ネルガルとサイデリアルは協力関係にあったはずだし、『火星の後継者』の機体もいくつか拿捕していたはずだ。それを解析したんだろう」

 

 クルツの疑問に、宗介はそう返すが、そこにさらにアルが口を挟んでくる。

 

『恐らくそれだけではありません、軍曹。あの機体、『ラムダ・ドライバ』も搭載しているようです』

 

「何っ!?」

 

『同様にアマルガムの拿捕した機体を解析したのだと思われます。ディストーションフィールドや、その他のエネルギーが干渉してわかりにくくなっていますが、その2つを並列稼働させているとすれば、正面衝突やビームライフルの直撃でも揺るがないあの防御力も納得できます』

 

「加えて、あの緑色の光……恐らくだが、星川の『ヘリオース』や、『アルデバル』と同様のエネルギーを動力炉として搭載しているのだろう」

 

「ありゃ最早、パラメイルの皮をかぶった全く別の何かだね……下手したらラグナメイルよりスペック上なんじゃないの?」

 

 続けてクルーゾーとマオも言う。

 

 その視線の先で、その『全く別の何か』とまで言われたミランダの機体は、手にした『ガナリー・カーバー』と、両肩の『クラフティブ・レイガン』の同時掃射で弾幕を張り、逃げ場を奪ってココのビルキスを乱れ撃っていた。

 

『戦術は単純ですね。ラムダ・ドライバとディストーションフィールドの防御力で攻撃を防ぎつつ、高火力・高汎用性の遠距離攻撃で、ロングレンジから一方的に攻撃。敵が近づいてきた際には、可能ならば弾幕でけん制して再度距離を取り、それが無理なら防御力に任せて突貫、怯んだところで再度距離をとる、という繰り返しのようです』

 

「ワンパターンではあるが、逆に言えばシンプルゆえに対策が取りづらいやり方だな……いや、むしろ最初からそのつもりで設計した機体なのかもしれん」

 

「なるほど、確かにな。元々ミランダは、部隊の中でもそこまで操縦技術が高いわけではない。強力な武装をいくつも積んだところで、使いこなせなければかえって邪魔になる。ミランダの技量と得意な戦術に機体の方を合わせた結果があれなのだろう」

 

 アルと宗介の考察を補足する形でクルーゾーも続けた。

 

 結論を言えば、彼らの推測は全面的に正解である。

 

 ミランダに新たな機体を与えるにあたって一番の問題になったのは、本末転倒な話、彼女自身の技量の未熟さであった。

 

 それも、無理のないことではある。何せミランダは、数か月前に初陣を迎えたばかりの、比喩も誇張も抜きの『新兵』なのだ。

 

 ヒルダやサリアのように、長い期間をかけて鍛え上げた操縦の腕があるわけでもない。

 もともと才能があり、また似たようなスポーツの経験があったアンジュとは違い、例えばいきなりラグナメイル級の機体に乗せたところで、その力を存分に発揮して戦えるわけもない。

 

 ゆえにミツルが考えた、ミランダの機体の強化方針は、実に単純なものだった。

 

「素人にできる戦い方でも強い感じで作ろう」

 

 ミツルも元々は、素人同然の腕でいきなり『アスクレプス』に乗ることになり、その多彩で強力な機能を最初からは使いこなせていなかった。

 ゆえに、その頃のことを思い出せば、『このくらいのことしかできないのでこの程度の機能でいい』『その機能の範囲でなるべく強くしてほしい』という感覚がわかる。

 

 重視したのは、ミランダが主に使う戦術。

 エルシャやサリアと同じく、遠距離での射撃・狙撃がメイン。

 

 ただ、そういう戦い方というのは、逆に敵に補足・狙撃されないように、あるいは敵の接近を許さないようにする、位置取りや立ち回りが重要になる。

 こちらが狙いをつけている間に逆に狙い撃たれたり、撃っている間に接近されることは絶対に避けなければならない。また、遠くの敵に注意が行ってしまい、他の敵の接近や攻撃に気づかないなどの事態も注意するべきである。

 

 そのあたりの立ち回りにまだ不安が残るミランダを手っ取り早く強化するには、敵に狙いをつける際のアシスト機能に加え、単純に武器の火力や射程距離の強化、そして何より、相手の反撃に対する防御性能を強化するのが一番効率的であるとミツルは見た。

 

 ゆえに、まずは防御の要として『ディストーションフィールド』を搭載。これは、相手の攻撃に対してオートで発動する。

 加えて、その補助として『ラムダ・ドライバ』と、宗介達は気づかなかったが、次元力を用いた『D・フォルト』も搭載し、射撃機としては過剰なほどに防御をガチガチに固めた。

 

 そして攻撃面では、超射程かつ高火力の『ガナリー・カーバー』をメイン武器として所持。

 

 さらにサブの兵装として、両肩には『クラフティブ・レイガン』を組み込んだ。

 

 『クラフティブ・レイガン』は、他の武装のように、既存の技術を解析したり、アスクレプスの中にあったデータから作成したものではない。

 それらも参考程度にはしているものの、あくまで設計段階からミツル自身が組み上げた、いわば『サイデリアル・ホールディングス製』と言っていい武器である。

 強いて言うなら、『バースカル』内にあったガーディム製の兵器もいくつか参考にしていたが。

 

 この武器は射撃系の兵装であるが、砲身や発射口というものがなく、機体表面に層状のエネルギーフィールドを発生させ、それを媒介にエネルギー弾を放つ形になっている。

 その形状は変幻自在。もちろん、ビームライフルのように普通に放つこともできるし、大口径の砲弾にして放つこともできる。球体に固めて設置することで機雷のように使ったり、無数の針のような形で散弾のようにばら撒くこともできる。

 

 なお、『ガナリー・カーバー』の方も、これほどではないものの、連射や大威力のフルバーストなど、様々な銃撃のバリエーションがある。

 

 基本は遠距離から『ガナリー・カーバー』による銃撃・砲撃。

 

 接近されたら『クラフティブ・レイガン』で機雷や散弾を放ってけん制し、再度距離をとる。

 あるいは、ココに対して先程やってみせたように、3つの防御機構を全開にし、強固な障壁を纏って自らを砲弾として突貫するでもいい。

 

 そして、それら全てを支える動力は、ミツルがもたらした技術の核とも呼べる『次元力』。

 人の意思に応えて、その源理の力を引き出す『Dエクストラクター』。

 モビルスーツの巨体を支える『常温核融合炉』と比較してなお、別格の出力を当たり前のように発揮する、文字通り別次元の動力炉である。

 

 動力・火力・防御性能……それら全てが『パラメイル』とはまるで違うその機体は、ココの言う通り、全くの別物というにふさわしい存在だった。

 

 

 

「この、ビルキスでも……ラグナメイルでも、押し切れないなんて……! 機体性能頼りの、ミランダなんかにっ……!」

 

「それは……お互い様でしょ!」

 

 ビームライフルでけん制しながら懐に飛び込もうとするココ。

 

 それを防いで立ち回り、接近を許さず撃ち続けるミランダ。

 

 ココの攻撃は防がれ、ミランダの攻撃はかわされる。

 互いに慎重になったがゆえに、千日手に持ち込まれるかと思われた戦いだったが、その均衡を崩すべく、先にココが動いた。

 

「ビームライフルやブレードの威力じゃ、あの防御を抜くことはできない……超至近距離から最高出力でライフルを撃つくらいじゃないと……いや、それでも……なら!」

 

 何かを考えついたらしいココは、ミランダの攻撃を避けながら、全速力で突貫していく。

 

 逃げても追いつかれると悟ったミランダは『クラフティブ・レイガン』で周囲に機雷を出す。

 

 しかしその瞬間、ココがさらに加速し……なんと機雷がばら撒かれる中を、無視して突っ込んできた。一直線に、最短距離で。

 

「なっ……ココ!?」

 

「機雷を出したばかりなら……シールドもないでしょ!?」

 

 どれだけ堅い防御だとしても、攻撃する瞬間にそれはない。

 ならば、ミランダが攻撃する瞬間……そのための機雷を出している最中であれば、その瞬間だけは防壁もなく、こちらの攻撃が当たる。

 

「っ……ぐぅぅ……この、くらい……エンブリヲ様の、ためぇ!」

 

 当然、突っ込んでいって接触したエネルギー機雷は起爆し、ココの機体はダメージを受ける。しかしそれも気にせず、ココはビームライフルを連射しながら飛ぶ。

 

 着弾直前に発動させた『D・フォルト』によってそれは防がれてしまうが、

 

「やっぱり……すぐに万全の防御にはできないみたいね。さっきより機体が大きく揺れてるよ……これなら、こっちの攻撃も通る!」

 

 そのままライフルを連射しながら距離を詰め、懐に飛び込み……こちらも自らの機体を弾丸に見立てて突撃するココ。

 本命の攻撃……手に持った剣の切っ先をミランダに向け、突進の勢いも載せてそれを突き立てようとする。

 

「……っ……!」

 

 ミランダは更に周囲に機雷をばらまくも、ココはそれで怯むことも一切なかった。

 

「失敗だねミランダ! それじゃ余計に防御が薄くなって……っ!?」

 

 しかし、その瞬間。

 

 もうあと1~2秒後には彼我の距離が0になるというタイミングで……ココの眼前から、ミランダの機体が……かき消されたように消失した。

 

 それと同時に、ビルキスのコクピットで、敵機の反応を現すアラートがなる。

 場所は……今いるココから、上空高い位置。

 その反応は……ミランダの機体。

 

 そのごくわずかな時間で……ココは、今の一瞬で何が起こったのかを察した。

 思い出したからだ。最初にミランダが、どうやって自分の目の前に現れたかを。

 

「ボソン……ジャンプ……!」

 

 最早、目の前に……飛んでいく先にミランダはいない。

 しかし、機雷はそのまま残されている。

 

 そして、加速しすぎた機体は……急には止まれない。

 

 ココはビームライフルを乱れ討って機雷を誘爆させ、さらにビームシールドを前方に構えることで衝撃の緩和を図るも、立て続けに起爆する機雷の爆発は、容赦なくビルキスにダメージを刻んでいく。

 

 その瞬間、ミランダが上空から『ディストーションフィールド』を纏って急降下し、ビルキスに激突。そのまま機雷群をぶちぬいて地上まで押し込み……地面にたたきつけた。

 

 シールド機構で緩和したものの、その衝撃はあまりにも大きかった。

 加えて、特攻同然に機雷群に突っ込んだせいで、機体そのものもボロボロになり、動作不良もあちこちに生じている。

 

 衝撃で剣もビームライフルもどこかに飛んでいってしまい、ビームシールドの発生装置も火花を噴いて沈黙している。

 

 最早まともに飛べるかどうかすら危うい状態にまでなったビルキスのコクピットでは、いくつものモニターが消え、あるいは明滅したり、ノイズが走っている。様々なアラートが、先程から鳴りっぱなしでうるさい限りだった。

 

 そんな光景の中、唯一生きているモニターには……倒れ伏しているのであろうビルキスを見下ろしながら、ミランダのグレイブが、手に持った銃を突き付けている光景が映っている。

 それを目にしたココは……自身の敗北を悟らざるを得なかった。

 

「……おめでとう。ミランダの勝ちだね」

 

「……うん。あんたの負けだよ、ココ」

 

 スピーカー越しに聞こえるミランダの声は、勝利者であるにも関わらず、ちっとも嬉しそうなものではなかった。

 

 

 

 



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第55話 戻りゆく仲間達と、調律者(笑)

 ロザリーとヒルダの、文字通り決死の行動と説得によって、クリスはようやくその凍てついた心を溶かし……2人の元に戻ってきた。

 その際に持ち帰った『テオドーラ』には、機体が壊れてしまったヒルダが乗り込み、戦場に舞い戻る。

 

 アンジュと、そしてジルと全力でぶつかり合ったサリアは、その後にエンブリヲに見限られたことも合わさってようやく目を覚まし、彼の元を離反。『パラメイル第一中隊』に戻り、またアンジュ達と共に戦う道を選んだ。

 

 そんな光景を、かろうじて機能しているモニターの向こうに見て、ココは……どこか諦観したような乾いた笑みになって、呟くように言う。

 

「……すごいね、皆、エンブリヲ様を裏切って行っちゃう。……皆、仲がいいんだね……本当に」

 

「そうだね。普段はもうなんか、喧嘩してばっかりだけど……何だかんだで私達、根っこのところでは仲がいいんだと思う。だからこそ……この土壇場鉄火場で、あんなことができて……そして、声が響いて、届くんだ」

 

 一緒に死んでやる、とまで言って飛び込み、決死の覚悟でクリスを止めたロザリー。

 

 2人の機体の墜落を、自機であるアーキバスを犠牲にしてでも受け止めて助けたヒルダ。

 

 涙ながらにぶつかってくるサリアを、逃げも隠れもせずに迎え撃ったアンジュとジル。

 

「ホント、色々あったからね……でも、そういうのを乗り越えて仲間になれた私達だからこそ、どんな敵が相手でも、戦っていける、って思うんだ」

 

「ミランダって、そういう熱い感じなの、苦手だと思ってたよ。冷静だけど、なんていうか……夢を見るのが苦手ってうか、そういうのに冷めた感じだったから」

 

「そうだね。……ノーマの私達には、どう生きていったとしても、いい未来なんかない、って、心のどこかでいつも思ってたから、かな。でも今は違うよ。そんな風に冷めた考えなんか、持ってる暇もないくらいに毎日が忙しいし、楽しいし、驚きの連続だから。そういう日々を、仲間達と一緒に過ごすのがさ……すっごく楽しいんだ」

 

「……羨ましいな。私も……そんな風にみんなと過ごしたかった」

 

 その言葉は……ココの、嘘偽りのない本音だった。

 その頬を、一筋の涙が伝っていることに、彼女は気付いているのだろうか。

 

「私も、もしかして……あの時死んだりしなければ、あんなふうに皆と仲良くなって、あんな風に一緒に笑えたのかな……あー、悔しーなー……何で私、あの中にいないんだろ」

 

「だったら、そうすればいいよ」

 

 そう言って、ミランダは……突きつけていた銃を下ろした。

 

「今からでも一緒に来ればいい。一緒に来て、一緒に笑って、一緒に楽しんで、一緒に喧嘩……は、何もしなくても勝手に巻き込まれると思うけど……戻ってくればいいよ、ココ」

 

「……でも、私、死んでるんだよ……もう」

 

「生きてるじゃん、今。どうしてかは全然分かんないけど」

 

「でも、私……皆に……ミランダにも、ひどいこと言った」

 

「あのくらいなら、ヒルダとアンジュの方が、普段からよっぽどひどい口げんかしてるよ」

 

「でも、でも……私……敵になって……ミランダや、アンジュリーゼ様のこと、殺そうとして……それで……!」

 

「似たようなことした人があっちでガンガン仲間になってるから大丈夫だよ! そもそもうちの部隊、最初敵だったけど味方になった人や、今も一応敵だけど協力してる人だっているし、今も敵で協力もできてないけどわかり合おうとしてる人だって……ああもう、めんどくさい!」

 

 そう言って、ミランダは……いつの間にか、彼女の頬にも伝っていた涙をぐいっと乱暴に拭う。

 

 そして、語り掛けるような口調を棄てて、

 

「戻ってこい、ココ! あんたの居場所はまだ、パラメイル第一中隊にあるから! っていうかあの戦いであんた逃げだしたままでしょ、このままだと敵前逃亡で極刑だよ!? さっさと戻ってきて隊長に謝んなさい! 今ならサリア隊長も色々バカやったばっかで強くは言えないからチャンスだよ!」

 

「っ……ははっ……こんな時に何言って……ミランダってば……っ! ホント、変わんないなあ……ミランダ、面倒見いいよね、こんな……こんな……敵になった、私にまで……」

 

「当たり前でしょ。聞き分けのないおバカの相手は、弟や妹で慣れてるのよ」

 

「……ミランダ」

 

「何?」

 

「ごめん……ごめんなさい……っ……戻って、いい゛かな゛あ!?」

 

「一緒に謝ってあげる。ほら、行くよおバカ」

 

「うん……! ありが―――」

 

 その瞬間、

 

 突如、2機の間をつないでいた通信が切れた。

 

 涙を流すココの顔を移していた画面がブラックアウトし、驚いたミランダだったが、すぐに『ああ、とうとう壊れたか』と思い至る。

 

 無数の機雷に加え、高所から地面に激突してなお通信が可能だったことだけでも、ラグナメイルの頑丈さゆえの奇跡的なことだったのだな、と。しかしそれも、限界に来たのだろうと。

 

 しかしなぜか……ミランダは、どこか不吉なものを心に感じていた。

 何も根拠などないが……まるで、今断ち切られたこの通信を最後に……ココと、もう話すことができなくなるような、そんな不吉な予感が。

 

 そして、その直後、戦場にその声が響き渡った。

 

 

 

「揃いも揃って友情ごっこか……陳腐な劇は、それはそれで見ていて楽しいものでもあるが……こうも立て続けに見せられると、流石に苛立ちの方が勝るな」

 

 

 

 戦場に舞い降りるラグナメイル……ヒステリカ。

 そのコクピットから、通信越しに声を響かせる、エンブリヲ。

 

 その声音には、常のエンブリヲにはあまりない、わかりやすい苛立ちが乗っていた。

 

「やっと出てきたわね、エンブリヲ! この変態オヤジ!」

 

「今度こそ地獄に落としてやる……覚悟しろナルシスト野郎!」

 

 アンジュとヒルダが……ヒルダは新たに乗り換えた『テオドーラ』の剣を手に、前に出る。

 それに一歩遅れる形ではあるが、同じくラグナメイルに乗るサリアとジルも続く。

 

 同様に、一歩後ろになる形ではあるが、元々の愛機である『ハウザー』に乗り換えたエルシャとクリス、体勢を立て直したロザリー、そして『レイザー』を駆ってヴィヴィアンも続いた。

 

「ラグナメイル……『テオドーラ』に『クレオパトラ』、『レイジア』……そして『ヴィルキス』。かつてのそれもふくめ、私の力と偽物の力で私に牙をむくか……不快だな」

 

「いつも腹の立つ笑顔を崩さない貴様が露骨に苛立つとはな……珍しいものを見せてもらえて光栄だよ、エンブリヲ」

 

 挑発するジル。

 流石にそれに乗ってくることはなかったが、エンブリオはふん、と鼻を鳴らすような音と共に、

 

「尻尾を振ってすり寄ってくるようならまだかわいげもあったものを……古い女になど、今更興味もない。そしてアンジュ……君の少々おいたが過ぎるようだな。我が妻に迎える前に、少し躾けてやらねばならないか」

 

「おぞましいことを言うんじゃないわよ、このスットコドッコイ!」

 

「そうだ。アンジュは!」

 

「お前なんかに渡さねえ!」

 

 なぜだか息が合うタスクとヒルダ。

 

「いいだろう……身の程知らずの古の民共々、ここで因縁を断ってやるのも一興というものか……だが手始めに、私の愛を受けておきながら噛みついてくる恩知らず達に、罰を与えねばなるまい」

 

「よく言う……貴様に元々愛などあろうものか。結局は自分の欲望を満たすための手駒……用が済めば捨てられる程度の玩具でしかない」

 

「今なら私もよくそれが理解できるわ……お尻叩いてくれた恨み、晴らしてやるんだから!」

 

 ジルとサリアが殺気すら込めて睨みつけるが、エンブリヲはたいして気に止めることもなく……なぜか、彼女達2人でも、またアンジュ達でもない方向を見て言う。

 

「君達2人にももちろんそうするが……その前に、だ」

 

 その視線の先にあるのは……撃墜され地面に倒れ伏す、『ビルキス』。

 

「かつて、古の民によって奪われたラグナメイル『ビルキス』……ホムンクルスの汚い手で使われ、汚されたそれの代わりに、新たに『呼び寄せた』。そしてそれに、死した命を掬い上げて乗せてみたはいいが……やはり、使えるものではないか。それはそれで別に構わないが……噛みつかれるのも不愉快だ。ならばせめて、私の手で終わらせてやるのが情けだろう」

 

「裏切られるのは嫌いってわけね……それで、目的はココ? エルシャの言ってた年少部の子供達といい、どんなからくりで生き返ったか知らないけど……そんなことさせないわよ」

 

「ああ。相変わらず理屈はわかってねーけど、生き返ったってんならそれはそれで構わねえ。ミランダも喜んでたしな……もう一度殺させるような真似はさせねえよ。あと、ラグナメイルは迷惑料として貰ってやる」

 

 その視線の先……『ビルキス』とココとの間に立ちふさがるように飛んで出てくる、アンジュの『ヴィルキス』と、ヒルダの『テオドーラ』。

 

 しかしエンブリヲは、

 

「そうか、優しいことだね……自分達に仇なした敵に対してもそんな風に考えられるとは。だが……残念ながら、手遅れだ」

 

「何?」

 

「一度間違いなく死を迎えた少女に、新たな命を与えたのは私だ。だとすれば――

 

 

 

 ―――それを没収することなど造作もないことだとは思わないか?」

 

 

 

「……っ……まさか!?」

 

 ハッとしたように、アンジュは振り返って……動く様子のない『ビルキス』を見やる。

 ただ単純に、撃墜されて動かなくなったのだとばかり思っていたが、もし仮に、今エンブリヲが言ったことが、はったりでも何でもないのだとしたら……

 

 そしてその会話は、通信越しに……グレイブに乗っているミランダにも聞こえていて。

 

「え……う、嘘……嘘だよね? ココ? ねえ……ねえ、ココ?」

 

 その身の内からせり上がってくる焦燥に追い立てられながらも、必死に呼びかけるミランダ。

 通信ができないので、外部スピーカーに切り替えて呼びかける。

 

 返事は、ない。

 

「ココ!? ココってば!? 返事して! ねえ、ココ! 嫌、そんな……ココぉ!」

 

 返事は、ない。

 

 声が徐々に震え始めるミランダ。

 それを通信越しに聞いて……アンジュをはじめ、その仲間達の胸には……またしても目の前で、1つの命が失われた悲しみと、それ以上の怒りがこみあげてきていた。

 

「エンブリヲ……あんたって奴は、本当に……!」

 

「怒ることはないだろう、君達にとっては敵だったはずなのだから。それに、そもそも一度失われた命……それもアンジュ、君が見捨てた命だろう? それを……」

 

「ごちゃごちゃとうるさいのよ……本当にあんたは、人の命を何とも思って……あんたって男は、どこまでっ……!」

 

「怒った顔も魅力的だよ、アンジュ。やはり君は、私のせ……」

 

 

 ―――その時だった。

 

 

 

「うん、しょっと」

 

 

 

「「「え?」」」

 

 墜落し、倒れ伏し……そして沈黙していた、『ビルキス』。

 

 そのコクピットのハッチが手動で開けられ、中から……『やれやれ』といった感じで、額の汗をぬぐいながら、普通にココが出てきた。

 

「びっくりしたー……いきなりモニターも通信も消えちゃうんだもんなー。まあ、ボロボロだったから仕方ないけど……」

 

「…………」

 

「ていうか、どうしたのミランダ? なんかすっごい名前呼びまくってくれてたけど……そんなに必死にならなくても、私どこに……もぉ!?」

 

 言い終わるより前に、ミランダもコクピットハッチを開けて……ココ目掛けて飛び込んで抱き着いてきた。

 

「うわあぁぁん、ココぉぉおお! よかったぁああ!」

 

「え? え!? な、何ミランダ、さっきまで普通に話して……え?」

 

 通信機能が死んでいたがために、ただ1人、エンブリヲの声が聞こえていなかったココ。

 なぜここまでミランダが安堵し、そして喜んでくれているのか……そして今、この戦場が一体どういう空気になっているのか……彼女は、知らない。

 

 

 

「な……なぜ……!?」

 

 困惑するエンブリヲ。

 その声が引き金になったのかはわからないが、

 

「あーっはっはっは! カッコ悪りー! 偉そうなこと言って失敗してやんの!」

 

「あ、あんなにカッコつけて言ってたのに……普通にココ生きてるし……ぶふっ」

 

 我慢できず、と言った様子で吹き出して大笑いするロザリーとクリス。

 

 他の者も……大体同じ感じで笑いをこらえたり、そして失敗したりしている。

 その笑いにも、単純におかしくて笑っている者もいれば、嘲笑っている者、失笑している者まで様々。

 

 強いて言うなら、エンブリヲという存在の底知れなさを理解しているジルは、確かに超越的な力を持つエンブリヲらしからぬ奇妙な失態をいぶかしんでいたが、実害がない、むしろ利になっているのなら、まず今は考えなくてもよいと結論付けた。

 

 そして、戦場の真ん中で赤っ恥をかくことになったエンブリヲは……今日、いや、もしかするとここ数百年なかったかもしれないほどに大きく顔をゆがめて、ぎりり、と奥歯を鳴らした。

 

(なぜだ!? なぜ生きている!? あの小娘の命は、調律者である私が握っている……いつでも屍に戻せるはずだったというのに!? なぜ、いつの間に私の制御を離れた!?)

 

 片手間でそうしたのが悪かったのかと、エンブリヲは改めて、その力でもってココに……その、自分が与えた命に干渉して奪い去ろうとする。

 

 しかし、その存在を、そしてその中にある命そのものを補足するところまでは行ったものの……それより先に干渉しようとした瞬間、拒絶され、弾かれたように干渉が打ち消された。

 

 しかも……ココ自身は、そのことに気付いている様子がない。

 

(バカな……干渉できない……! しかも、何だ、今の『声』は……? 何かが……)

 

 

 

「シリアスかと思ったら、結構変な空気になってんね。何コレ?」

 

 

 

「「「!」」」

 

 その瞬間、戦場に舞い降りたのは……3対6枚の次元力の翼を持つ、白い天使だった。

 

 戦場にいた『独立部隊』の面々はもちろん……エンブリヲすらも、突如として現れたその機体に意識が向いてしまう。

 

「あ、ミツルだ」

 

「おいおい、いきなりヘリオースかよ……大丈夫なのか? それ使うと後でやばいんだろ?」

 

「大丈夫大丈夫。なんか今ならいけそうな気がする」

 

「て、適当ね……」

 

 ヴィヴィアンやヒルダ、サリアに心配されつつも、軽い感じで返すミツル。

 そしてその視線を、今しがた醜態をさらしたばかりのエンブリヲに向け……ニヤリ、と笑う。

 

 そんな態度を感じ取ったのか、エンブリヲの機嫌もさらに悪くなっていた。

 

「貴様……星川、ミツル……!」

 

「ドーモ、エンブリヲ=サン。ヘリオースです。変態死すべし、慈悲はない」

 

 楽しそうにそう言い放つ、ミツル。

 その機体『ヘリオース』の周囲には……エンブリヲはもちろん、仲間達にとっても見覚えのない……6つのリング状の謎のモジュールが、次元力の光を纏ってふわふわと浮いていた。

 

 

 

 



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第56話 ストレート・フルクラム

本日午前10時30分頃、書きかけの別な話を間違って投稿してしまい、幸いすぐ気づけたのであわてて消しました。危なかった……。
もしその時に見た方いらっしゃいましたら『ナニコレ?』ってなったかもしれませんが……その場合は何というか、すいません、お騒がせしました。


「いつもいつも私の神経を逆なでしてくれるな、君は……だがそれも今日までだ。君はここで退場してもらう……永遠にね。葬る前に、一度くらい直接顔を見ておけばよかったかな?」

 

「できもしないことを言うもんじゃない……っていうか、何さっきのことなかったことにしてんだよ。思いっきり会ってただろ直接」

 

「何をわけのわからないことを……その減らず口をも叩けないようにしてやろう!」

 

「……? 覚えてないのか……?」

 

 エンブリヲの言葉に、少し不思議に思うミツルだったが、その理解を待たずにエンブリヲは動いた。

 自機で動くと同時に周囲の無人機に指示を出し、全方向からの飽和攻撃でヘリオースを撃墜しようとする。

 

 が、その大半が、直後に動き出した仲間達の機体によって撃ち落とされる。

 

 ストライクフリーダムや∞ジャスティス、サバーニャが雨あられと放つ弾幕に撃ち抜かれて次々に落とされ、それをかいくぐることができても、動きが鈍ったところを刹那のクアンタやシンのデスティニーが一刀のもとに斬り捨てていく。

 小型の機体も、エステバリス隊やミスリルのASが逃さず落とす。

 

 大型で鈍重な機体は、ダナンから発射されたミサイルの直撃で木っ端微塵になり、不用意に固まっている者達に対しては、ナデシコのグラビティブラストが直撃して一気に消し飛ばされた。

 

 エンブリヲ陣営が投入した戦力は、最早ほとんど残っていない。

 散開して対応する必要がなくなった結果、機動部隊は集結しつつあり……宮殿前広場全体に広がっていたはずの戦場は、今やエンブリヲの周囲のみになっていた。

 

「生意気な……まとめて消し飛ばしてぐおっ!?」

 

 エンブリヲがヒステリカの両肩を展開しようとした瞬間、レーバテインが放った、破壊の意思とエネルギーが凝縮された砲弾が直撃し、大きく体勢を崩す。

 

 更に飛んだ先で、高速で突っ込んできたブラックサレナの本家ディストーションアタックが直撃してさらにはじき飛ばされた。

 

「戦場で棒立ちになり、手や足を動かさずぺらぺらと口だけは達者……三流以下だな」

 

「そして悪役のお約束でもある。だが、あいにくこちらが待ってやる義理はない」

 

「っ……おのれぇっ!」

 

 体勢を立て直しながら、エンブリヲはビームライフルを構え、離脱しようとするブラックサレナを狙うが、そこにまたしても高速で突っ込んでくるものがあった。

 

 それは、これまでの恨みつらみをまとめて晴らさんと剣を構えて突撃してくる、アンジュのヴィルキス。

 

 その姿を視認したエンブリヲは、そちらから迎撃しようとビームライフルの照準を向けるが、直後にその銃身は、下からの大きな衝撃によって弾かれたように上に持ち上がった。

 

 驚いたエンブリヲが、何かが上に抜けて行ったのを見て、目でそれを追うと……それは、先程ヘリオースとともに現れ、その周囲に浮遊していた、謎のリング状モジュールの1つだった。

 それが、戦輪のごとく高速で激突してきたのだと悟り……しかし、その一瞬目を離してしまった隙に、ヴィルキスが懐に飛び込んできて剣を振るう。

 

 直前でビームシールドを展開して防いだものの、その直後にヴィルキスは姿を消した。

 高速で移動したためではない……目の前で、正真正銘、一瞬で『消えた』。

 

「……っ……空間跳躍か! だが……」

 

 すぐさまエンブリヲは転移の反応を探知してそちらに銃を向ける。

 

 案の定そこに姿を現し、追撃をかけんとしてきたヴィルキスを、今度こそ狙い撃とうとするが……

 

「フォーメーション、スプリットライン」

 

 そのヴィルキスの両脇に2機ずつ、4機飛来したモジュール。

 それが今度は、リングの穴になっている部分を見せるように浮遊し……そこからビームを発射してヒステリカを攻撃。アンジュに対する援護射撃を行う。

 

 直撃しては流石にまずいと直感的に悟ったエンブリヲは、攻撃を諦めて大きく回るように飛んで回避するが……その先に、

 

「もらったァ!」

 

「っ……何だと!?」

 

 アンジュと同じく、空間を跳躍して現れたヒルダのテオドーラが出現、懐に入り込まれて剣による一撃を受けてしまう。

 

 さらにそれが離脱すると同時に、今度は遠距離から、追撃を兼ねた離脱支援砲撃が飛んでくる。

 サリアのクレオパトラと、ジルのレイジアだ。一瞬前までは、全く違う離れた場所にいたはずの2機。おそらくはテオドーラと同様、転移して位置を変えたのだろう。

 

「……っ……テオドーラにクレオパトラ、レイジアまでもが私に盾突くか!」

 

「ざまあないわね、エンブリヲ! 女や他人を駒としてしか見ていない、用済みになったらあっさり捨てるような奴なんて、そいつこそ見限られて捨てられて当然ってことよ!」

 

「本当にそうですね。こういう時、『ねえどんな気持ち?』と言うのが正しい作法なんでしたでしょうか?」

 

 直後、また別の方角からビームが飛んできてエンブリヲを襲う。

 飛んできた先にいたのは、サラマンディーネ達の乗る、3機の龍神器だった。

 

「龍の民の機体か……待て、貴様ら、一体今までどこで何を……」

 

「サラ子、お帰り。アウラっての見つかった?」

 

「ええ……リザーディアも救出しました。それと、ついでのような言い方になって恐縮ですが……エルシャさんの気にしていた、幼年部の子供達も保護しておきましたよ」

 

 その報告に、ハウザーに乗っていたエルシャの表情がぱあっとほころんだ。

 

「本当!? ありがとうございます、サラマンディーネさん!」

 

「いえいえ。このくらいなんでもありません、せっかく戻ってきてくれた、仲間ですからね。ただ……それとは別に、少し問題がありまして……」

 

「? 問題って?」

 

「そのままアウラを開放しようとしたのですが、おそらくはこの男の仕業であろう封印が思いのほか強固で……龍の始祖たるアウラを封じられるくらいですから、当然と言えば当然なのですが」

 

 サラマンディーネはそう言いながら、視線で『暁の御柱』の方を指し示す。

 やはり、アウラはあの建物、あるいはその地下にいたようだ。おそらくは、捕らわれていたらしい、協力者のリィザ……もとい、リザーディアも。

 

「封印を破壊するには、最低限、あの『暁の御柱』ごと消し飛ばすくらいの火力がないと到底無理そうでして……」

 

「いや、そんなん撃ったらアウラさんもやばいんじゃないの!?」

 

「大丈夫です。アウラならそのくらい防げるでしょう……アウラ自身もそう言っていました」

 

「マジかよ、すげえな龍の始祖」

 

「ただ、正直、それだけの火力を用意できるかも微妙なのです。アンジュと私が『収斂時空砲』……もとい、『ディスコード・フェイザー』を同時に撃てばどうにかなるかもしれませんが……」

 

「まちなさいあんた達、そんなの撃ったら町ごと壊滅するわよ!?」

 

「わかってるって、流石にそれはまずいわよね……撃ったらスッキリしそうではあるけど」

 

「……なんかアンジュ、最近ますます考え方が物騒になってきてるよな」

 

「ロザリーに同感……ぶっちゃけちょっと怖い。引く」

 

「そこ2人、うるさい! やらないって言ってんでしょうが!」

 

「……ふむ、火力は極大かつ、限定的な範囲に攻撃できる必要があるわけか。機動兵器が携行可能な武装では威力が足りない……かといって戦艦級の火力では周囲も巻き込んでしまう。グレートマイトガインらスーパーロボットがいない現状、それが両立可能な機体は……」

 

 レイジアのコクピットで、ジルはぶつぶつと呟きながら考え……答えを導き出すと、モニターの1つに目を向ける。

 

 そこには、少し離れた場所で……6つのリング型モジュールを縦横無尽に飛ばしながら、エンブリヲのヒステリカと大立ち回りを繰り広げている、ヘリオースの姿が映っていた。

 

 

 

(なるほど、アレ消し飛ばせばいいわけね……ちょうどいい。こいつらの火力実験がてらやってみるか)

 

 通信でしっかり聞いていたミツルは、エンブリヲが彼女達の方に行かないようにひきつけつつ、自分がやるべきことを理解する。

 素早く頭の中でプランを組み上げ、

 

「よし……そんじゃそろそろ終わらせますかねっと! フォーメーション・ショットガン……行け、『SPIGOT』!!」

 

 号令とともに、次元力の光を纏った3つのリング型モジュール……もとい、『SPIGOT』が急加速して飛翔、四方八方からヒステリカに襲い掛かる。

 

 一発一発が無視できない威力を持つその突撃を連続して叩き込まれ、回避も防御も徐々に間に合わなくなってきているヒステリカ。

 

 ついによけきれずに連続で直撃を食らい、体勢を崩した瞬間、突如として眼前にヘリオースが……一瞬前まで、間違いなく何もいなかったはずの空間に現れる。

 

「なっ……転移だと!?」

 

 一瞬にしてクロスレンジに飛び込まれたヒステリカに、ヘリオースの蹴りが連続で叩き込まれ、きりもみ回転で宙を舞う。

 

 それと同時に、ヘリオースの両脇にSPIGOTが1機ずつ飛来。

 そのリングの部分から、剣の柄のように見える何かが、生えるように出てきて……ヘリオースはそれを両手でそれぞれ持って、引き抜いた。

 

 現れたのは、剣。

 それも、エネルギーの刀身の剣ではなく、実体剣のように見える。白と金色主体の刀身と柄が特徴的な、見た目華美で豪奢ながらも、実用に耐えうるとわかる剣だった。

 

 実際にはその2本の剣……『フルアクセルグレイブ』は、次元力を超高密度に凝縮したもので、厳密には『実体』ではないのだが、そう言って差し支えないほどの密度及び攻撃性能を持っており、対ビーム装甲だろうがシールドだろうが貫通する。

 

 2本の剣を両手で構え、一瞬で加速して彼我の距離をゼロにすると、目にも留まらぬ速さで連続攻撃を叩き込む。

 発生させたシールドなど、最初の一撃で砕け散った。

 

 斬撃の合間に蹴り技も組み合わせて叩き込まれ、上下左右に蹴飛ばされ、機体のサイズ差も相まってヒステリカが玩具のようにやられるがままになっていた。

 

 そのさらに合間にできる、本当にごくわずかな隙に、今度はSPIGOTの激突やビームによる援護射撃が入り、本当に何もできないままヒステリカは追い詰められていく。

 

「この……私がっ……!」

 

(なぜだ、なぜこうまで追い詰められる……調律者たるこの私が……火力だけならまだしも、力がほとんど使えなくなっているだと!?)

 

 ヒステリカのコクピットの中で、困惑と憤怒に顔をゆがめるエンブリヲ。

 

 この絶え間ない連続攻撃に対し、機体を再生させ続けることでどうにか持ちこたえているものの……できていることと言えばそれだけ。回避も反撃もできず、されるがままだ。

 

 ここまで何度も、アンジュやヘリオースがやってみせたように、転移で回避を試みてはいるが、一向に成功しない。

 いつもであれば、それこそ生身であろうと、わざわざ集中する必要もなくできるようなことが、今は全く発動する気配がない。

 

(先程から同じようなことばかり……まさか、この男が封じているのか!? ヒステリカの次元制御能力も……ココ達の命の制御・掌握も!?)

 

 そのエンブリヲの懸念は、半分正解であった。

 

 アンジュのヴィルキスを解析し、またサラマンディーネとの技術協力によって、ミツルはヒステリカにも当然搭載されているであろう転移機能を封じるため、周囲一定範囲の次元制御を行っていた。

 その一翼を担っているのが、今回ロールアウトした新武装『SPIGOT』である。

 

 ヘリオース内部にあったデータをもとにして作り上げた異世界の武装であり、膨大な次元力を暴発させずに制御し、最高効率で攻撃や戦闘補助に転用するための補助兵装。

 

 それまでは、ヘリオースの膨大過ぎる力を、ある程度の指向性を持たせて振り回すのがせいぜいだったミツルであるが、理論上、この武装を使えば、以前までに倍する攻撃力を、さらに効率よく使うことができ、さらに反動もかなり軽減することが可能。

 

 もちろん、単純な戦闘用ユニットとしても強力で、突撃させてよし、遠くから撃ってよしであるが、ミツルの負担が減った分、次元力の本質である『事象制御』に関しても強力に使えるようになっており、今エンブリヲの能力を封じているのは、こちらの作用ゆえだった。

 

 しかし、エンブリヲが苛立っているもう1つのこと……ココや、年少部の子供達の命を掌握して利用できないという点に関しては……『SPIGOT』どころか、ミツル自身は関与していない。

 

 そちらが作用しないのは……この場にいる誰1人……それこそ、生き返らせたエンブリヲ自身も知るよしのない、ある理由からであった。

 

 もう何度も、エンブリヲは、彼女達を生き返らせた自分の力を介して干渉しようと試みている。

 しかし、命を没収して屍に戻すことも、体や機体の制御を奪って自分の援護をさせたり、盾にすることもできない。

 

(なぜ……なぜだ!? ノーマだろうと一定の条件さえ満たせば、マナの光を……ドラグニウムの力を用いて干渉できるのは、アンジュにやってやれたことからも明らかだ。彼女達に与えた仮初の命は、思考や感覚まで含めて私の制御下に置けるものだった! だというのになぜ……それに!)

 

 そして、もう1つ。

 エンブリヲを苛立たせている理由が、

 

(何なのだ……干渉が失敗するたびに聞こえる、あの声は……なぜこんなにも腹立たしい!?)

 

 声が、聞こえるのだ。

 ココの命を奪おうとした時も、年少部の子供達の命を奪おうとした時も。

 何かをしようとするたびに、こちらの力が拒絶されるように弾かれ……そのたびに、呆れたような声が、頭に届くのだ。

 

 なぜかはわからないが……内容をさし引いても、妙に心がざわついて、怒りを掻き立てられるような……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そういうの、楽しくないよ?

 

 

 

 

 

 そんな、声が。

 

 一瞬、そんな苛立ちに気を取られたのは……エンブリヲにとって、失敗以外の何物でもなかった。

 

 はっと気づいた時にはもう遅い。

 

 目の前でヘリオースは、2本の剣の柄を合わせて、1本の長大な、両側に刃の突いた槍のような形状にすると……それを大きく振りかぶる。

 

 同時に、ヘリオースの前に、SPIGOTの1つが飛んできて、空中で停止する。

 

 次の瞬間、ヘリオースはその槍を勢いよく投げ……前方にあったSPIGOTのリングの部分を通り抜けて……その瞬間、膨大な次元力を纏って超加速し、ヒステリカに直撃。

 

 串刺しにしてそのまま飛び……轟音を立てて、『暁の御柱』に激突し、そこに機体を縫い留めるようにして固定した。

 

 身動きの取れなくなったヒステリカに狙いを定め、ヘリオースは膨大な次元力を練り上げていく。

 

 その前方に、6つのSPIGOTが飛来し……縦に6つ並んで停止。

 それはまるで、ヘリオースから伸びる長い1本の銃身のように見えた。

 

 その最初の1つ……眼前にあるSPIGOTのリング部分を通すように、ヘリオースは握った拳を勢いよく突き出し……それと同時に、次元力を開放・放出する。

 

 前方広範囲を消し飛ばすだけの威力を持った破壊の奔流はしかし、腕が通ったリングを媒介にすることで収束し、一本の、それでも極太のエネルギー波となって放たれた。

 

 しかしそれも、さらに次のリングを通過してさらに収束、さらに次のリングを……と繰り返すことで、最後のリングを通り抜けて放たれた時には、一条の光の矢のようになって飛んでいった。

 

 そしてその、極限まで凝縮された破壊光線は、寸分たがわずヒステリカに直撃し、貫通。

 

 一拍遅れて、炸裂したエネルギーが吹き上がり……天を衝く光の柱が、『暁の御柱』ごとヒステリカを、跡形もなく消し飛ばした。

 断末魔、あるいは、怨嗟の怒声すら、轟音の中に飲み込んで。

 

 しかし、その爆風すらも制御・収束されていたために、それより外側に破壊が広がることはなく……『暁の御柱・跡地』となったその場所に、地下深くまで届くであろう巨大なクレーター……を通り越して、最早、奈落ではないかと思えるような穴が開いたにとどまった。

 

 そして、部隊の面々が、怨敵・エンブリヲの消失に沸き立つよりも先に……

 

 暗い穴の底から光があふれ……それは、現れた。

 

 

「あれが……!?」

 

「始祖・アウラ……!」

 

 

 

 




おまけ 今回出てきた武器について

【SPIGOT】
元ネタは『第二次スパロボZ』に出てくる武装。
読み方は『スピゴット』。リング状の随伴装備で、膨大な次元力を暴発させずに制御しつつ、効率的に戦闘に運用することを可能にする。
リングの穴の部分からビームを出す、エネルギーをまとわせてそのまま突っ込ませる、リングの穴を通すことで攻撃の威力を増幅させるなど、変幻自在の使い方が可能。
この世界では、サイデリアルやガーディムの技術を盛り込んで、出力・汎用性などあらゆる面でさらに強化して再現されており、今回の戦いの中でもその全容をまだ明らかに配していない。また、ブラスタ以上に膨大なヘリオースの次元力を制御するため、オリジナルよりも多い6機作成され、投入されている。


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第57話 後処理と、『始祖連合国』の末路

【▽月!日】

 

 今僕は、帰還したアルゼナルの自室で、ゆったりと休息しながらコレを書いている。

 

 ミスルギ皇国を舞台にしたエンブリヲとの決戦は、無事に僕らの勝利で終わった。

 

 エンブリヲは倒したし――死んだかどうかは残念ながら微妙ではあるが――救出目標になっていた人達は大方救出に成功している。

 

 アンジュに、かなめちゃん、あと、『龍の民』のスパイやってもらってたっていうリザーディアさんに、エルシャが心配してた年少部の子達。

 

 それに、サリア、クリス、ココの3人もきちんと回収完了。3人共、エルシャ同様、謝罪した上で罰を受け入れ、以降は今まで通り仲間として一緒に戦ってくれるとのことだ。

 

 いや、戦力的には今まで通りどころか大幅アップなんだけどね?

 何せ、サリアとヒルダの2人はラグナメイルに乗り換えた上、ミランダはこの戦いでロールアウトした『サイデリアル』製のパラメイルもどきを実戦で運用し始めた。

 

 加えて、ココとジル司令までもがメイルライダーとして戦力に加わることになった。

 ココの機体は残念ながら、ちょっと修復できるかどうか怪しいレベルまで破損しちゃったものの、ジル司令はサリア達と同じく、今後はラグナメイルに乗るとのこと。

 

 あと、彼女達に科すことになった罰については……内容的には全然大したことないので。

 食事当番1か月間ぶっ続けとか、プリンおごるとか、ささやかなものばかりである。皆、既に心の中で彼女達を許し、受け入れている証拠と言っていいだろう。

 

 エルシャもそれに応えて、彼女らしく明るく優しいお姉さん役としての立ち位置に戻ってきたし、クリスはまだちょっとおどおどしているものの……いやこれは元からか。

 

 そしてココも、元々のフレンドリーで人懐っこい性格に戻って、パラメイル第一中隊の皆とは、一から友達になり直して仲良くするんだって息巻いている。

 

 ……僕、彼女の元の性格までは知らないんだけど……それでも『ああ、もとからこういう子だったんだろうな』って想像、ないし納得できるくらいには、彼女、活発でかわいい子だった。

 ミランダが早くもその制御役というか、面倒見る立場になってて……え、これも元から?

 

 皆、問題なくなじめそうで何よりである。

 

 あと、パラメイル第一中隊関連じゃないけど……戻ってきたかなめちゃんも、すっかり元通りになって宗介君と夫婦漫才を繰り広げていたので、こちらも安心……だと思う。

 

 時折、ちょっと不安そうな顔になるのは……少し気になるけど。

 まあ何かあっても、宗介君が今度こそ守ってくれるだろう。そう信じたい。

 

 それと、もう1人……いや、『1人』って言っていいのかは正直疑問ではあるが……助けた『存在』がいるんですけどね。

 

 他でもない。龍の始祖……『アウラ』さんである。

 

 消し飛んだ『暁の御柱』跡地、その奈落の底から、文字通り飛び出してきたアウラさんは、巨大なドラゴンの姿で……悠然と空を飛ぶその姿は、なんというか、神々しさみたいなものを感じてしまうような……そんな姿だった。

 

 しかし、アウラさんはそのまま空中高く飛び去ると……時空をゆがめて門を作り、どこかに消えてしまった。

 

 その少し後になってから聞いたことなんだけど、サラマンディーネさんが、アウラさんからのメッセージを受け取っていた。

 内容は、開放してくれたことに感謝する、っていうものと……ここにいると人々が混乱するからもう行きます、というもの。配慮のできるドラゴンさんだった。

 

 行き先は恐らく、元々住んでいた宇宙世紀世界……龍の民の領域だろう。シンギュラー反応も検出できてたし。

 

 様子を見に行く……まではしなくていいかな、少なくとも今すぐには。

 封印から解放されて、しばらくはアウラさんもゆっくりしたいだろうし……そもそもその隠里って秘匿されてる場所だから、気軽にはいけないだろうしね。

 

 数少ない行ったことがあるメンバーである、アンジュやタスク、ヴィヴィアンに聞いた話だと……何やら随分とカオスな場所だったみたいだが……興味がない……って言ったら嘘になるな……。いつか行けるだろうか?

 

 ……ただ、1つ気になってることがある。

 飛び去る間際、アウラさん、何か少しだけ……僕の方を見ていたような気がしたんだけど……気のせいかな?

 

 

 

 追記

 

 今回は僕、『ヘリオース』に変身しても、寝込まずに済んでいる。

 

 やっぱり、補助用に作った『SPIGOT』がいい仕事をしてくれたようだ。

 Zシリーズの中でも、個人的にかなり気に入ってる武装の1つ。あれも元々は、膨大な次元力を暴走させずに制御するための装備だったはずなので、参考にしてみてよかった。

 

 若干疲れはあるけど、これなら特に後のことを心配する必要もなく、ヘリオースの力を使えるだろう。同時に、次元力そのものに感ずる理解も深まったと思う。

 

 ……これなら、今開発してる『アレ』についても……近いうちに形になりそうだ。

 

 

 

【▽月◆日】

 

 一大決戦だったこともあり、後始末やら何やらにも時間と手間がかかっている。

 

 いわゆる『嬉しい悲鳴』なんだろうけど、それでもやっぱり忙しそうで……特に、ジル司令とかは昨日から、事務作業とか色々ですっごい大変そうだった。

 それでも、宿願叶ってエンブリヲに一泡吹かせてやれたのは嬉しかったようで、色々愚痴みたいなことを言いつつも、率先してそれらの業務をこなしている。

 

 もちろん僕や、その他のメンバーも、自分にできる範囲のことでお手伝いさせてもらってます。

 

 当然というか、僕がやってるのは物資輸送なんだけどね。ボソンジャンプで。

 

 その他の『後始末』の例を挙げるなら、

 

 まず、エンブリヲのところから保護して連れ帰ってきた、年少部の子達。

 『エンブリヲ幼稚園』なんていう、絶対まともに育つことができなさそうな教育機関に、一時的にとはいえ入れられていたことについて……どうやら悪影響はないみたいで一安心だった。

 

 今後彼女達については、これまで通りアルゼナルで面倒を見るとのこと。

 

 もう、アルゼナルにいるノーマ達が何かと戦う必要はないからね。

 

 将来的には、アルゼナルを出てどこかに引っ越すことも検討するそうだが、人数も結構いるし、準備は色々必要だからって、今は保留になってます。

 

 念のため、『第一中隊』以外の部隊の人達が警備に当たることになっている。

 けど、正直そこまで心配はいらないだろうな。

 

 もうドラゴンが攻めてくることはないし……それに加えて、ここを攻めそうな『始祖連合国』の方も……今はそれどころじゃないから。

 それに関しては、もうちょっと後でね。

 

 エンブリヲのところから戻ってきた、エルシャ、クリス、サリア、そしてココは、元通りパラメイル第一中隊に復帰。さらにそこにジルも加わって、一緒に戦ってくれることになった。

 

 もう司令としての立場は捨てて協力するからって、『司令』はつけないように言われたので……ここからは呼び捨てになってます。はい。

 ……なぜか、『さん』付けするとにらまれるというか、面白くなさそうにされるんだよね……。

 

 アルゼナルの留守は、ジャスミンさんやマギーさん(医者の人)、そしてエマさんに任せるそうだ。

 

 ジャスミンさん、ジルの前任の司令官だったんだって。マジか、すげえな。それなら組織の運営も任せられるだろうね、安心して。

 

 あと、ここにいる中でただ1人ノーマではなく、どちらかと言えば『始祖連合国』側であるエマさんを運営サイドに組み込むっていう決定は少し意外だったんだけど、何か彼女は彼女で吹っ切れてるっぽいんだよね。

 

 アルゼナル襲撃の時、エマさんがいるにもかかわらず、『始祖連合国』の連中、アルゼナルごと吹き飛ばす勢いで攻撃してきたから……彼女、見捨てられた立場なわけで。

 それで、一時的に失意のどん底に至り、酒浸りになったりしてたらしいんだが、こうなったらもう祖国がなんぼのもんじゃい、とばかりに開き直って協力してくれるらしい。いいのかそれ。

 

 アルゼナルはそれでいいとして……『始祖連合国』についてなんだけども。

 

 ボンクラ皇帝の崩御で結構な混乱の只中にあったミスルギ皇国だけでなく、今は『始祖連合国』全体が大パニックになってるらしい。

 

 理由は簡単。いきなり『マナの光』が使えなくなったから。

 

 そもそもあれは、エンブリヲがアウラさんを供給源にして、『始祖連合国』全体に与えていた力であり……そのアウラさんが解放された以上、使えなくなるのはまあ、当たり前のことである。

 

 あの国々は、日常生活から情報通信から、結構何でもかんでも『マナの光』の便利パワーに依存しまくっていたため、それが一気に失われた結果、必然の大パニックが起こったというわけ。

 他の国で例えれば、ライフラインとネット環境が一気に機能不全を起こしたようなもんだろうか……いや、もっとひどいかも。

 

 どうにかしろと各国政府が突き上げを食らっているものの、そのシステムを知っていたのはエンブリヲだけだったため、修復なんてできるわけもない。

 

 社会機能そのものがマヒ……を通り越して崩壊の兆しを見せている。

 というか、このままいくと遠からず国が滅ぶ。間違いなく。

 

 なので恐らく、その前に他の国々が干渉することになるだろうけど……国力そのものが大きく低下している形になっているわけだから……盛大に足元見られる上に、内政干渉もじゃんじゃんされるんだろうな……。

 国としての体裁、残るだろうか? それすら怪しいもんである。

 

 そのことをパラメイル第一中隊の皆に話したら、爆笑する者に『あーあ』と呆れる者に、反応は様々だった。けど、心配する者がほぼゼロだったあたりに、あの国に対する皆の印象というものを察することができる。

 

 唯一ミランダだけは、残してきた家族が心配だって言ってたけど。

 摘発されて離れ離れになるまで、自分のことをかくまってくれて……ノーマとか関係なく、家族として愛情を注いでくれた家族だからって。

 

 どうやらその国は、ミスルギ皇国ではないらしいんだけど……ふむ……。

 

 

 

【▽月?日】

 

 ひとまず、アルゼナルでの『後始末』その他は終了。

 近日中にまた『独立部隊』として動き出すことになりそうだ。

 

 物資の補充も機体の修繕も、一部を除いてばっちりできたので、何も問題はない。

 

 なお、『一部』というのは、ココの機体である。

 やっぱり破損が酷くて修繕が……できないことはないけど、短期間じゃ厳しいんだよね。使えない部品も多いから……ほとんど一から作り直すような感じになる。

 

 それでも修繕できないことはないんだけど、他ならぬココの希望で、彼女にはミランダと同じ『デモンメイル』を作ってプレゼントすることになったのだ。お揃いがいいからって。

 

 『デモンメイル』というのは、僕が命名した、あの『パラメイルもどき』の正式名称である。

 姿かたちは似ていても、パラメイルとも、ラグナメイルとも、龍神器とも全く違う分類の機体ってことで。

 

 メイン動力に次元力を用いているってことで、『Dimension』の一部を取って『Demon』。

 それに加えて、エンブリヲが用いるラグナメイルが『神の兵器』っていう異名をとっていることから……Z世界でもあった『神をも殺す悪魔』というもじりも込めて、そう名付けた。

 

 ココの希望を聞き、彼女の戦闘スタイルなんかも加味しつつ、現在鋭意製作中である。

 

 あと、今後『始祖連合国』をどうするかっていう点についてだが……早速地球連邦が動き出したようだ。

 

 それに加えて、ネルガルとか一部の企業も動き出している。

 滅びかけて、しかし復活しようとしている国っていうのは……割とビジネスにおける都合のいい市場でもある……というのは、僕も身をもって知っている。そういう国で成り上がった身として。

 

 もちろん、僕ら『サイデリアル』も参入します。

 

 今言ったように、何と言ってもノウハウがありますからねえ……そういう状態の国や地域を相手にして、どんな物が必要とされ、どんな風にすると物が売れるか……そして、儲かるか。

 

 幸いと言っていいのか、『始祖連合国』というだけあって、国はいくつもある。

 すなわち、ある程度企業ごとにすみわけができる。

 

 ミスルギ皇国みたいな、バカデカい規模の市場はネルガルとかに任せて、僕らはもうちょっと小さな国を相手にする予定だ。

 まあ、それでも国まるごとだから、とんでもない一大事業になるけど。

 

 ふふふ……相手はこれまでほぼ鎖国状態で、外交だの国際取引だの、利権交渉だののノウハウが全くと言っていいほどない……言ってみれば赤子同然。

 下手すれば、ちょっとした中小企業並みか、それ以下の交渉能力しかないだろう。その上、自力での復興はどう頑張っても不可能で、外貨・外資に頼る他ないと来ている。

 

 ネルガルのイロモノ会長が大喜びしそうな好条件である。

 きっちりばっちり足元見つつ、適正価格(?)で色んな支援を行いながら、色んな利権を掻っ攫ったり買い取ったりしていくんだろうな……。

 金融取引とかでも、言われるがまま、されるがままに色々借りたり、担保で差し出したりするんだろうな……。ノウハウがないから、どんな取引、どんな契約条件が危険かなんて知らないから。

 

 けど、あの国に関しては止めるつもりはない。

 やってやれ、金持ち。僕らもやる。

 

 これについても、第一中隊の皆に話した。反応に関しては、前と同じである。

 

 ジルなんかはさらに聡いもので、『投資関係のいい話があったら一枚かませろ』って言ってきた。

 彼女個人の、いわばポケットマネーから、そのへんの資産運用や利権の売買を考えているらしい。

 さすがは元司令官……プラス、皇族だっけ? 目の付け所が違う。

 

 わかっていないメンバーが大多数だったので、説明もその場でしていた。

 

 簡単に言えば、今のミスルギ皇国をはじめとした『始祖連合国』は、外国や外国企業に頼らなければ、国としての形を維持することもできない、末期な状態。これはさっき言ったとおりだ。

 

 しかし、かの国々はまともにこちらとの取引で使えるようなものがほとんどない。

 国交自体がゼロに等しいから、普通に交易的に物の売り買いできるなんてこともないし……そもそも通貨取引に必要不可欠な、国としての『信用』が現在進行形でストップ安。

 

 そうなると必然的に、何か価値のあるものを担保にして借りる、あるいは売り払って換金する、ということをしなければならない。

 外の世界でも通用するようなものとなると、色々な……漁場や鉱山の利権なんかが主になるな。

 

 そうして差し出して、無事にお金を借りて返せたり、買い戻したりできればいいが……そうできなければ、それらのものは必然的に、買い取った他国、あるいは他国の企業のものになる。

 国内の数少ない資源を抑えられる形となり、結局その後もデカい面はできなくなる……どころか、その利権の持ち主の顔色をうかがいながら生きていくしかないわけだ。

 

 で、その『持ち主側』として投資やら株主やらで参加することで、雑に言えば、『始祖連合国』に対する支配者側に回って『敬いたまえ君達』とかやろうとしてるわけだ。ジルは。

 自分達の生活を支える、必須の利権を握っているとなれば(それが例え投資家の1人としてでも)……それがノーマだろうが、『始祖連合国』の人達は下手に出るしかないから。

 

 自分を追放した世界を恨み、ぶっ壊そうと考えていたジルからすれば、過度に物騒でもなく、何一つ法を犯すことなく溜飲を下げることができる、最高に近い方法だろう。

 

 それを理解したヒルダ達も『面白そうだ!』とまあ、予想通りの反応。

 こりゃ、アルゼナルが事実上の持株会社になる日も近いのでは……?

 

 

 

 追記

 

 ちなみに、僕らが縄張り(意訳)とする予定である国だが……どうやら偶然そこが、ミランダの故郷の国らしいんだよねー(棒読み)。

 

 うちの社で色々と取引を進める部門に、色々と伝えて……彼女の『キャンベル家』の所在や、その家や職場に絡む利権をいくつか確実に抑えておくよう頼んでおいた。

 これに関しては、会社絡みじゃなく、僕のポケットマネーでどうにかする予定だ。

 

 ……さて、ミランダに誕生日いつか聞いておかないと。

 『プレゼント』の確保、それまでに間に合うかな?

 

 

 



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第5章 3つの世界
第58話 人生はいつも理解不能と想定外の連続


 

【▽月#日】

 

 今日はちょっと、新たに部隊に参入した1人である、ココについて書こうと思う。

 

 ココは、性格については……まあ、事前に聞いていた通りの娘だった。

 明るくて元気で、人懐っこい感じ。メイルライダーの中だと、ヴィヴィアンに近い。

 

 エンブリヲのところにいた時には、そういうところはなりを潜めていたみたいなのだが、アルゼナルに戻ってきて以降はすっかり元通りである。

 

 うんうん、やっぱり笑ってる方が可愛いよ。笑顔が一番。

 そんな風に思えてしまうほどに……なんていうか、無邪気で、笑顔が似合う子だ。ほとんど交流もない僕でも、そう感じる。

 

 一番の親友であるミランダのみならず、初陣の日以降、仲良くなる予定だった(ココ談)第一中隊の面々ともすぐに打ち解けていた。

 そのフレンドリーさたるや、どちらかというと内向的なクリスが逆にびびるくらいである。

 

 それこそ、因縁があるはずのアンジュとすらも、3日と経たずに気軽に話せる仲になっていた。

 

 彼女とのことについて、何も思う所がないわけではないようだったが、『生き返ったし謝ってくれたからOK』ということで完結させたらしい。すごい前向きな娘である。

 

 そのフレンドリーさはメイルライダーのみにとどまらず、この数日間であっという間に部隊内の他の面々とも仲良くなった。

 

 ミランダと並んで最年少(12歳)のため、部隊内ではマスコットみたいな扱われ方になりつつある。

 サブロウタさんやクルツなんかのナンパ好きな面々も、『流石に小さすぎる』ということで、小さな子を愛でる、かわいがる感覚で接してるっぽい。

 

 もちろん、僕やミレーネルのとこにも来た。

 

 ミランダと特に交流があるのが僕だってこともあって、彼女から僕のことは色々と聞いていたらしい。ぐいぐい来て……いや、別に迷惑ではなかったんだけど……ちょっと戸惑いました。

 けど、きちんと仲良くなれたと思う。これから、機体その他の関係で色々関わって行く機会も多くなるしね、いいことだ。

 ミランダ共々、これからもよろしく。

 

 

 

 ……こんな風なほのぼの話をした後で、こういう話を持ってくるのは……ちょっとばかり無粋というか、話の流れ的にアレな気がしなくもないんだが……一応。

 

 彼女……ココは、あの『初陣』の日、確かに死んでいたはずである。

 彼女の死については、何度も言うように、僕自身もこの目で確認している。

 

 しかし、今はこうして生き返り……紛れもなく、普通の人間としてふるまっている。

 

 これに関しては、当然ながら、色々と出来る限りの検査・調査が行われた。

 ココと……そして、彼女と同様、エンブリヲが『生き返らせた』と思しき、年少部の子達については……あらゆる検査の結果、全て『問題なし』だった。

 

 何も異常な個所はない。普通の、生きた人間である、と。

 

 そうなるとつまり、ココは……一度死んだ後、本当に生き返ってここにいる、ということになる。恐らくは……年少部の子達も。

 

 エンブリヲの奴が、そんなことまでできるのか、という事実に、ちょっと背筋が寒くなるものの……決戦の時の奴の様子から見て、奴自身、この『死者蘇生』について、完全に把握、ないし制御できているわけではないみたいな感じもした。

 自分で甦らせたんだから、自由にまた死なせられるし、操れる。そんな風に思っていたけど、実際にはできませんでした的な……どうにもちぐはぐな感じがあった。

 

 ……何か、あったのだろうか? エンブリヲが、彼女達の命や意思を制御できない理由が。

 

 あるいは……そもそも、彼女達の蘇生が可能になったことに関しての、原因が。

 

 それこそ……彼女達を蘇らせた、エンブリヲすらも気付いていない……何かが。

 

 仮にそうなのだとしても、今、僕らはそれを見つけられてはいない。

 結局、こうなった理屈については、わからないままだ。

 

 わからない、が……今こうして、目の前で笑っているココが、ココ自身である以上は……それを理由に彼女を、色眼鏡で見るというのも……なんか違うよな。

 

 うん、ココはココだ。

 少なくとも今は、それでいい。

 

 

 

【▽月$日】

 

 別行動をしている部隊から連絡あり。

 それぞれの状況に動きがあったらしい。

 

 まず、宇宙に上がっていた部隊。

 彼らは、『インダストリアル7』でラプラスの箱を取りに行っていたはずだが、そこで案の定、遭遇したネオ・ジオンと戦いになった。

 

 敵の首魁であるフル・フロンタルは、Zでも出てきた巨大モビルアーマーを持ちだしてきたが、バナージ君のユニコーンを中心としての壮絶な戦いの末、これを撃破。

 

 その後、説得して刃を収めさせたフル・フロンタルを伴って、当初の予定通り『ラプラスの箱』を開け……その中身を確認した。

 中身については、Z世界と同じく……地球連邦のスキャンダルだった。スペースノイドの政治参画を嫌った地球側の人間が、前もってその可能性を潰していたという奴。憲章に本来あった条文が削除されてしまったという証拠。

 

 しかし、それを目の当たりにしてなお、バナージ君とオードリーちゃんは、それでも人類の可能性を信じることを決めた。

 

 そして、互いの本音をぶつけ合った説得の末、何とフル・フロンタルと……いや、ネオ・ジオンとの和解に成功。

 泥沼の戦い、互いの怨嗟のぶつけ合いになっていた宇宙世紀の戦いは、こうしてとうとう、その長すぎる歴史に幕を下ろしたのである。

 

 

 

 そして、もう1つの部隊……宇宙世紀世界の、地球に降り立った部隊について。

 

 こちらは、何かが終わった、というような報告ではなかった。

 むしろ、これから起こる、という感じのそれ。

 

 彼らは、Dr.ヘルの進攻に対抗するために地上での戦いに身を投じていたわけだが……前回もちらっと言ったように、予想外にその軍の歩みは遅かったのだそう。

 よく言えば慎重、悪く言えば鈍足。幸か不幸か、戦いは長引き、しかしそれゆえに激しくも特になかったために、こちら側の被害も少なく済んでいた。

 

 しかし、それもどうやら終わりつつあるそうで……ここにきて、Dr.ヘルの軍勢が、今までに倍する勢いで総攻撃をかけてきたのである。

 

 防衛ラインを構成していた地球連邦の軍はたちまち壊滅し、今までの戦いがブラフか何かだったのかというような勢いで進軍を始めている。

 

 恐らく、次が奴らとの決戦になる見込みで……場所は恐らく、光子力研究所のすぐ近くになるとのこと。

 

 この報告を受けた僕ら『西暦世界』の部隊は、すぐさま会議を開き、『宇宙世紀世界』の地上組と合流することに決定した。もちろん、Dr.ヘルとの決戦に加勢するために。

 

 連中の操る機械獣は、決して侮ってはいけないレベルの戦闘能力を持っている。決戦となれば、今いるそれらを総力投入してくることだって考えられる。

 いくら彼らがスーパーロボットを中心に編成されていても、負担は大きいはずだ。

 

 なら、エンブリヲとの戦いを征し、戦力の増強にも成功した僕らが合流すれば、こちらの布陣はより万全になり、戦いを有利に運べるんじゃないか、と見込んだわけだ。

 

 もともと補給やら何やらも既に済んでいたので、準備は1日で整った。

 明日には出発だ。『パラレルボソンジャンプ』で宇宙世紀世界に飛び、光子力研究所に向かう。

 

 時間的には……朝一で出れば、十分間に合うだろう。向こうにいる部隊と打ち合わせする時間も取れると思う。

 

 向こうの世界においては、甲児君や竜馬さん達が長いこと因縁を持っていたDr.ヘルの軍団。

 同じく宇宙世紀世界の出身である、ミスリルの皆さんも、そいつらについてはよく知っていた。

 

 とうとう決着をつける時が来た、と、こちら側の士気も十分である。

 

 なお、同じく宇宙世紀世界にいる、宇宙にいる面々については……間に合うかどうかは微妙らしい。

 『インダストリアル7』からだと、純粋に距離もあるし、補給とかもしなくちゃいけないし。

 

 アクシズまで戻れば、そこから一気に地球までボソンジャンプできるかもしれないけど。

 

 コロニーレーザー制圧の時の奇襲は、イネスさんのナビゲートで、あくまで片道切符で跳躍した形だったはずだもんな。『火星の後継者』がやっていたように。

 あっちの戦艦は、『ナデシコC』や『アルデバル』なんかと違って、単体でボソンジャンプできるようなユニットを積んでるわけじゃないし。

 

 最悪、間に合わないかもしれないと仮定して……僕らだけでも合流して戦うつもりでいるのがいいだろう。

 

 

 

 ……ただ、僕としては……不安要素が1つ。

 

 別に、戦いそのものや、宇宙部隊が合流できないことでの戦力の不足に不安があるわけじゃない。僕らが力を合わせれば、Dr.ヘルだろうが機械獣だろうが勝てると思うし、怖くはないと思う。

 

 でも……僕の記憶、ないし知識が正しければ……Dr.ヘルよりも、その部下のあしゅら男爵の方がヤバいというか、注意しなきゃいけないんだよなあ……。

 

 細かいところは省くが、あしゅら男爵の正体は、古代ミケーネ文明の神官であり……その命を生贄に捧げることで儀式を行い、機械獣軍団なんかよりも数段ヤバい、『ミケーネの神々』を復活させるという使命を帯びている。

 

 Dr.ヘルは元々、その、いずれ復活するであろうミケーネと戦うためにこそ、光子力を欲していた。

 同時に、あしゅら男爵が『使命』を果たすことのないように、洗脳とか記憶操作とか色々やって力を封じていた……というのが、僕が知っている限りの真実だ。

 

 もちろん、この知識は前世由来のもので、この世界においてもそうであるとは限らない。

 根拠も何もないから、説明することはできない……なので、皆に話すこともできない。

 

 ただ、前に聞いた話で……鉄也さんが、あしゅらにトドメを刺そうとした甲児君を、攻撃してまで止め、あしゅらを逃がしたっていう話を聞いていたので……可能性は高いんじゃないかなー……という嫌な予想が常に頭の中にあったりする。

 

 結局、その時はその時、ってことで、対処するしかないんだろうな……。

 

 まあ、ユニコーンやらフルメタやらについてもそうだったんだ。原作知識なんて、それに頼って何かをどうにかできるもんでもなかった。

 色眼鏡で物事を見ずに、1つ1つ、現実の物事、現実に生きている人達のやることとして対処していくしかない、ってことだろう。

 

 ……大丈夫。きっと、皆と力を合わせれば、どんな困難も乗り越えられるさ。今までもそうだったんだから(軽い現実逃避)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【▽月%日】

 

 ちょっと待って何コレ聞いてな――(日記はここで途切れている)

 

 

 

 



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第59話 ZERO

 

【▽月&日】

 

 ちょっと昨日は、その……動転しすぎて、

 というかいろいろありすぎてまともな日記が書けなかったため、昨日の分も今日のこの日記に書き記しておこうと思う。

 

 正直、思い出すのも疲れるようなことが……ことばかりが起こったんだが……きちんと記録しないわけにはいかないし。

 

 結論から申し上げますと……戦いの前に僕が懸念していた『嫌な予感』について……『半分』当たった。

 当たったとも、外れたとも言える結果になった。

 

 けど率直に言って、あれならもう、なんか……普通に当たってくれたほうがまだよかったんじゃないかと正直、思う。

 

 何が起こったか、具体的に説明しようか。

 

 

 

 まず、Dr.ヘルとの戦いは、予定通りに進み……ブロッケンもあしゅらも倒すことに成功した。

 

 その後さらに、首領であるDr.ヘルも出てきたけど、集結した独立部隊の力の前には、自慢の『地獄王ゴードン』も及ばず……あえなく撃墜。

 

 このへんの戦いについては……特に描写することは、正直、ない。

 普通に戦って、普通に勝っただけだからな……それなりに激戦だったとは思うけど、正直、順当にいった結果以外の何物でもない、とも思うし。

 

 しかし……その直後、ついさっき倒したと思っていたあしゅら男爵が、『お前下がってろ』というDr.ヘルの命令を無視して戦場に舞い戻ってきた。

 

 再度の命令違反をとがめるヘルだったが、すでにその時、あしゅらの洗脳は解けていたため……『よくもだましてくれたな!』っていう感じのあしゅら男爵の一撃によって、地獄王ゴードンもろとも、Dr.ヘルは退場させられた。

 

 ……で、まあ、あしゅら男爵が戻ってきたあたりで『やばいなあ……』とは思ってたんだけども……案の定この後、あしゅら男爵は、乗っていた『機械獣あしゅら男爵』を自爆させ……いけにえの儀式を強行。

 

 光子力研究所の近く(敷地内?)にどでかいクレーターができ……その中心に、巨大で、禍々しい体を持った『神』が姿を現していた。

 ミケーネ三大神の一柱『ハーデス』……そしてそれに付き従う、ミケーネの神々が。

 

 持っている武器は、剣とか鎌、あるいは素手ですらある、原始的な戦い方ではあるけど……ある世界では『高次元生命体』とも呼ばれる存在だった彼らが振るうそれらの武器は、前情報通りに強力無比であり……機械獣なんかとは比べ物にならないレベルの脅威だった。

 

 Dr.ヘルの軍勢をたやすく退けた独立部隊であっても……連戦であるということを差し引いても、目に見えて苦戦する相手だったからな……。

 

 もちろん僕も、『ヘリオース』を開放し、SPIGOTも使って全力で戦ったものの……それでも、一度にはミケーネ神の1~2体を相手にするので精いっぱいだった。

 あいつらの戦い方、シンプルだからこそ厄介なんだよなあ……サイズもでかいし、タフだし。

 

 しかも、1対1以上で余裕のある戦いをしてみせたり、なんなら何体か撃破すらしたからか……この部隊の中で最も警戒すべきは誰かってことで、マジンガーZに並んで脅威判定されて、他からもさらに手の空いてるのが襲ってくるようになっちゃったし。ほんとに大変だった。

 

 最後には、奥で仁王立ちして笑っていたハーデスも参戦してきたし。

 そのハーデスが、いけにえになって死んだあしゅらを、パワーアップさせて復活させたり、腹心である『勇者ガラダブラ』を召喚したり、まあ混沌が加速する加速する……

 

 そして、そのハーデスが標的に定めたのは、僕ではなく……『まずはお前からだ』的な感じで……マジンガーZだった。

 

 もちろん、マジンガーも……それに乗っている甲児君も、全力で立ち向かいはしたものの……力及ばず追い詰められ、もはや絶体絶命というところまできて。

 

 これは、多少無理してでも、次元力を全開にして介入したほうがいいか……なんて僕が考えた、その時だった。

 

 ……予想だにしなかった、特大のイレギュラーが姿を現したのは。

 

 

 

 ……何、『マジンガーZERO』って?

 

 何なの、あのやばいどころじゃない戦闘能力?

 

 てか、思いっきり暴走してどっか行っちゃったんだけど!?

 

 

 

 ハーデスに追い詰められたマジンガーから、『魔神パワー』なる未知のエネルギーが迸ったかと思ったその瞬間……マジンガーZの姿が、一瞬にして変わった。

 

 背部に装着されていた、悪魔の翼のような形状の『ゴッドスクランダー』は、数字の『0』のような形で、その中心を斜めに1本の槍が貫いたような形状になり、

 

 機体がどこか有機体じみた、全体的にマッシブな形状に変化し……両腕に『アイアンカッター』の時に現れるそれに似た刃が出現。

 

 目の部分には、さっきまでは確実になかったはずの『瞳』が形作られていて……口のところの、いくつものスリットが走っている装甲だったパーツが、まるで牙の生えた口みたいになって……

 

 他にも、胸の放熱板とか、頭のパイルダーやそのドッキング部分なんかも含めて、全体的にこう……まさしく『魔神』とでも呼べるような、禍々しい変容を遂げた。

 

 その機体は……乗っている甲児君はそれを『マジンガーZERO』と呼び……その目から、十重二十重に発射した馬鹿げた威力の光子力ビームで、ハーデスを一撃で消滅させた。

 ガチの瞬殺である。相手にもなってない感じ。

 

 あと、ある意味当然といえば当然なんだけど……そのやばい光子力ビームの影響というか余波で、地形があのクレーター以上に盛大に変わった上、何体も他のミケーネ神が巻き込まれて消し飛ばされた。

 

 これにはさすがに残ったミケーネ神達も驚いたというか、焦ったようで……あしゅらやガラダブラ、そしてそのすぐ後に合流してきた『暗黒大将軍』なる奴らと一緒になって、その場から退散していった。

 

 さて……まあでも、予想外の変容はあったとはいえ、ここで終わってくれればまだマシというか、むしろ問題なかったかもしれないんだけど……生憎とそうもいかなくて。

 

 なんかしれっと脱出して生きていたらしい、Dr.ヘル(タロスに乗って登場)の余計な一言が原因で――兜十蔵博士は、甲児君をも、その究極のマジンガーのパーツとして考えていたとか何とか――それを聞いた甲児君は、冷静さを失って錯乱状態になり……Dr.ヘルの乗っていたタロスを消し飛ばし、そのままマジンガーごと姿をくらましてしまったのである。

 

 その最後に見た姿は、誰がどう見ても、ただ事じゃないというか……機体を制御できていなくて、暴走したというような状態で……コクピットの中から聞こえた、甲児君の、悲鳴とも慟哭ともとれる声が、やたらと耳に残った。

 

 

 

 こうして、今回の戦いは……Dr.ヘルの一味は壊滅させたものの、今後のことを考えると、問題だらけというしかない結末を迎えたのである。

 

 ……とまあ、ここまでが昨日あったこと。

 

 そして、ここからが今日のできごとである。

 

 昨日は大変なことしかなかった1日だったのは今言ったとおりだが……まったくいいことがなかったかと言われればそうでもなく。

 Dr.ヘルの勢力の壊滅完了、ということ以外にも、成果が1つあった。鉄也さんが戻ってきたのである。

 

 もっとも、状況が状況なので、手放しで喜べるような事態ではないんだけども……どうやら鉄也さんは、あのマジンガーについても何かしら情報を持っている様子だったので、それを聞くためにも話し合いの場をきちんと設けることになった。

 

 というより、鉄也さんが唐突に僕らの元を離れて敵になったり、行く先々で立ちはだかって意味深な言葉を投げかけてきたのは……あのマジンガーの存在に理由ないし起因するところが大きかったみたいで。

 

 鉄也さん曰く、あのマジンガー……甲児君が『マジンガーZERO』と呼称していたそれは、呼び方はともかく……彼が危惧していた『魔神』としてのマジンガーなのだという。

 

 マジンガーはもともと、単なる機動兵器の枠内に収まる存在ではなく、1つの自我を持った生命体に近い存在だとか、人知を超えた『魔神パワー』なるものを操って、あらゆる物理法則を超えた戦いを可能にし、因果すら超越した力を発揮するとか……えらい物騒なワードがこれでもかと並ぶ上に、鉄也さんの顔は真剣そのものなのですよ……。

 鉄也さんは、マジンガーをあの状態にしない……『魔神』として覚醒させないために動いていたそうなんだけど、結局それはかなわなかったと。

 

 そして、このことを甲児君にも僕らにも何1つ告げずに今までいたのは、『このことを説明するという行為自体が、魔神覚醒のトリガーになる危険があったから』だとか。

 

 マジンガーは、『魔神』として覚醒するために……Dr.ヘルの言っていた通り、甲児君をその一部、ないしパーツとして取り込もうとする。そしてそれは、甲児君が絶望したり不安に心を支配されることで、心に隙ができた瞬間に、彼を取り込もうと動く。

 それこそ、彼がその時、マジンガーに乗っていようがいまいが。近くにいようが離れたところにいようが、そういうの一切関係なしに。

 

 なるほどね……そりゃ確かに、一切合切秘密にして動くには十分な理由、と言えばそうだ。

 

 話を聞かされた、竜馬さんや舞人社長達も……感情的にはともかく、鉄也さんの行動理念や、その理由の部分は……理屈としては納得できたようだった。

 

 そしてその上でだが……もちろん、とでもいえばいいのか。

 マジンガーとともに去って行ってしまった甲児君の救出に関して、誰一人諦めてはいない。

 

 今はどこにいるのかもわからない状況ではあるけど、必ず見つけ出して助け出す、と心に誓っている。それこそ、鉄也さんも含めて。

 

 鉄也さんもこのまま、独立部隊に復帰することになったし……今まで何も話さずにいたことについては、きちんと謝罪し、そして秒で受け入れられていた(デジャヴ)。

 

 ……言うまでもないけど、僕も同意見なのでよろしく。

 

 せっかく鉄也さん帰ってきたんだし、そんな状況で今度は甲児君離脱、しかもミケーネはきっちり復活して火種はマシマシの状態ってまあ……ホントにこの世界は、素直に問題を解決させてゆっくりさせてくれるってことがない世界だなあ、まったく……。

 

 

 

【▽月*日】

 

 部隊としての方針はすでに決まったってことで……そうなれば今やるべきことは、有事に備えての準備に他ならない。

 

 ただでさえ、Dr.ヘルの軍団からのミケーネ戦で、こちらの部隊に結構な損害がでているわけなので……ひとまずこれを、再度万全の状態にまでリカバリする必要があります。

 

 僕らは、ここ最近もう何度もお世話になっている『第三新東京市』に行き、またNERVのお世話になることになった。

 

 あと、サブでではあるけど、『サイデリアル 宇宙世紀世界支店』もきちんと仕事します。今回もパラレルボソンジャンプでの西暦世界からの物資輸送がうなるぜ。

 

 さて、今後相手にすることになるとすれば……一番警戒すべきは、やっぱりミケーネ。次点でガーディムだろうか。

 

 ミケーネは純粋に戦力として強大だし……仮にも『神』を名乗るだけあって、時にこちらの予想もつかないような力を振りかざしてかかってくることも多々ある。

 

 ガーディムは、戦力的な意味ではミケーネに劣るものの、あいつらほら……ここぞとばかりに、こっちが消耗したタイミングとかで襲ってくるからさ。卑怯な手もじゃんじゃん使うし。ミケーネとは別な意味でたちが悪い。

 

 その他には……『使徒』や『インベーダー』かな。

 出現するタイミングが全く読めないけど、条件次第では今述べた2つよりもやばいこともある。

 

 ああ、あと、エンブリヲがまた復活してちょっかいかけてくる可能性や……ミスルギ皇国以来、音沙汰なしの『アマルガム』にも注意か。

 

 それから、宇宙には……ええと、ネオ・ジオンは和解したからいいとしても……いたな、厄介なのがまだ。

 ガミラスと、その配下の木星帝国が。

 

 これらに対抗することを考えると……先の戦いで受けたダメージのリカバリはもちろんのこと……可能な限りの機体のパワーアップも必要ってことになるな。

 

 そのことについては皆わかっているようで。

 

 鉄也さんっていうコーチが戻ってきたことで、舞人社長や勝平君は、より一層気合を入れて訓練に励むようになったし、拮抗する実力を持つ竜馬さんたちゲッターチームも熱が入っている。

 

 甲児君と仲がよかった、さやかさん達マジンガーチームや、学生つながりで宗介君やシンジ君達もやる気になっているようだ。前に励まされたり、助けてもらったこととかあったみたいだったからな。

 

 より目に見えて気合が入ってるのは彼らが筆頭だけど、その他のメンバーも当然、気合は入っているし、自分にできること、やるべきことを探して積極的に動いている。

 

 もちろん、僕だってそうだ。

 補給役として動いている以外にも、戦力強化の面でできることは全部やるつもりだ。

 

 具体的には、さらなる『SPIGOT』を用いた次元力制御と……それに加えて、新兵器の開発も、だな。

 

 アルデバルのパワーアップや、ココ用に開発を続けている『デモンメイル』……それに、ようやく近く試作品が完成しそうな……アレとか。

 

 ……日記でまでこんなもったいぶった書き方するのもどうかと思ったんだけど、まあ気分ってことで……何がロールアウトするのかは、してみてのお楽しみ、ってことで。

 

 もし実装されれば、大きな戦力になることはまず間違いなし……とだけ言っておこう。

 

 

 

 



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第60話 黒い天使

 

【▽月@日】

 

 ……もう何度目になるかわからないが、この世界、ちょっと厳しすぎやしないだろうか。色々な意味で。

 

 いや、面倒ごとが降ってくるのは仕方ないとは思うよ? こんなご時世だし、その都度対処していかなきゃ仕方ないんだろうな、とは理解してるよ?

 

 けどさ……だから、いっぺんに複数来るのをできればやめてほしいんだってば……。

 

 こないだだって、使徒+エンブリヲ+DG同盟+ガーディムのコンボで来たじゃん。

 

 で、今回は……しかも、ストーリー的にも結構なトラウマイベント系の奴が起点になって、そういうごちゃまぜ展開になっちゃったんだよなあ……さすがスパロボである(諦観)。

 

 

 

 NERVの食堂で昼食を摂ってた時のことだ。

 

 ミレーネル、ココ、ミランダ、そして僕の4人で一緒の席に座って、『ココの機体もうすぐできるね』なんていう雑談をしていた時のこと。

 

 突如として警報が鳴り……その直後にもたらされた知らせは、『起動実験中のEVA参号機が暴走した』というもの。

 『参号機』という単語が聞こえた時点で、『あれかよ!』と僕は心の中で頭を抱えた。

 

 参号機といえば、テレビ版、新劇場版の両方において、視聴者の心をえぐってくる屈指のトラウマイベントの1つである……被害者は違うけど。

 

 そして、この世界は新劇場版準拠っぽいから……被害者は、アスカか。

 

 その後、ブリーフィングもなしにいきなり出撃になった。

 

 何せ、参号機から検出されたパターンが『青』だったもんで、現時刻をもってそいつを『使徒』として認識・迎撃することになったのである。

 使徒はね……確実に防がないと世界が滅ぶレベルの脅威だからね。

 

 しかも結構な速さでこっちに近づいてきてるってことで、急いで総員出撃準備をして、できた者から出撃ってことになったのだ。

 

 そして、僕らに先駆けて準備が済んだ、エヴァンゲリオン初号機と零号機が先に出撃したんだけど……案の定、苦戦していた。

 

 シンジ君は優しいし、閉じ込められているであろうアスカのことを心配して、本気を出せない。

 レイちゃんはそのへん割と割り切れるんだけど、こっちは純粋に戦闘能力が足りてない。

 

 そんな感じなので、遠慮なしに攻めてくるエヴァ使徒相手に防戦一方になってたわけだ。

 

 途中から、本来アスカが乗るはずの二号機に乗って出撃した、新たなチルドレン……マリも一緒になって戦い始めたことで、多少戦況は改善したと思われたんだけど……その直後に、さらに想定外のことが起こったことで、またひっくり返された。

 

 なんと、もう1匹使徒が……それも、最悪の奴が来やがったのである。

 どこかの先生曰く『最強の拒絶タイプ』が。

 テレビ版だと名前付いてたはずだけど……新劇場版だと『第〇の使徒』って名前なんだよなこいつら……ええと、10番目だっけこいつ?

 

 そいつは、エヴァ3機をまとめて蹴散らした上、捕食するような形で零号機を取り込んだ。

 その光景にシンジ君は、色々な感情が入り混じった悲鳴を上げ……と、このあたりで僕らがようやく出撃できた。

 

 これでももちろん、全速力是準備進めたんだけどさ……あえて言い訳させてもらうなら、僕らが遅かったっていうよりは、ありえないくらい短時間で戦況が動きすぎなんだよ。

 

 とにかく、これでようやく戦力的には余裕ができたわけだったんだが……さあ反撃だ、ってなろうとしたところで、またしても敵が増えた。

 

 行方不明になっていた『マジンガーZERO』である。

 甲児君を取り込んで絶賛暴走中の魔神が、よりにもよってこの局面で乗り込んできた。

 

 さらに、また最悪のタイミングでガーディムまで現れた。

 指揮官としてやってきたジェイミーが、こないだと同じようにこちらを煽る煽る……聞き流せばいいんだろうけど、状況が状況なのでどうしてもイライラが募るばかりである。

 

 しかし、こっちがいくらイライラしていても、敵がそれで攻撃の手を緩めてくれるわけでも、弱くなってくれるわけでもない。

 なので、さっさと体勢を立て直してこの危機を切り抜けるしかないわけである。

 

 まあ、そんなことはとっくに各艦の艦長や司令官レベルの方々はわかっていたので、即座に作戦を練り直して、現れた敵に驚異度別に優先順位をつけて対応することとなった。

 

 現在出てきている敵は、使徒2体、マジンガーZERO、ガーディムの3種類。

 

 戦闘能力で一番やばいのは、ぶっちぎりでマジンガー。

 次いであのゼルエル劇場版。そこから一歩譲って使徒参号機。

 

 ガーディムはぶっちゃけ、量産機はそこまで強くない。弱くもないが、対応できるレベルの敵でしかない。

 ジェイミーの乗る指揮官機『マーダヴァ』や、グーリーっぽいアンドロイドの乗ってる準指揮官機『プラーマグ』は要注意かもだが。

 

 ただし、使徒2体は、それぞれレイちゃんとアスカを取り込んでいるので、そのまま倒すのはちょっとどうしよう、って感じ。

 どうにかして救出するにしても、どっちみち無力化する必要はあるだろうから、戦うことに変わりはないんだけど。

 

 その戦力や数、特性を加味して考えた結果……

 

 まず、マジンガーZEROの相手は、グレートマジンガーと真ゲッターを主軸に、スーパーロボットを中心としたチームで務める。

 とにかくパワーが圧倒的なうえ、生半可な攻撃は通用しないくらいに堅牢なので、これはパワーと頑丈さが何よりも重視されると判断したためだ。

 

 使徒2体は、エヴァンゲリオンを中心に、モビルスーツなど、機動力と火力を両立させた機体が相手をする。

 マジンガーほどではないとはいえ、攻撃力もかなり高い上に、数が2体+何をしてくるかわからないので、臨機応変に対応できる、汎用性の高いメンバーがここに組み込まれた。

 

 なお、総司さんとナインの『ヴァングネクス』や、僕の『アスクレプス』もここである。

 相手が使徒で『ATフィールド』を使ってるので、いざとなったら僕が『ヘリオース』になって、次元力で強制的にそれを引っぺがす役割も担っている。

 

 そしてガーディムは、機動力を重視した小回りの利くメンバーが主である。パラメイルやAS、ブラックサレナやエステバリスなんかだ。

 他2つに比べて戦力的にはそうでもない代わりに、数が多い上、戦況を分析してこちらに対して実に効果的に嫌がらせをしてくる奴がいるので、こっちはこっちで楽じゃない。

 

 それでも、泣き言言っている時間があったら戦え、っていう状況なので……艦長たちの指示に素早く従い、僕らは手分けしてこの状況を打開するために動き出した。

 

 

 

 ……ああ、それともう1つ。

 

 ガーディムに対応するメンバーの中に……さっきの説明には入れなかったけど、ミレーネルもここに含まれてるんだよね。

 

 

 

 ……ただし……ここ最近乗ってた『アルデバル』じゃなく……最近完成した、『アレ』で。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 第三新東京市……の、地下にある居住空間『ジオフロント』。

 

 人類の科学の粋が結集して形作られている、この閉ざされた箱庭の中で……今まさに、人類の今後、行く末を左右する戦いが繰り広げられていた。

 

「すまない……甲児。本当は、こうなる前に止めてやりたかったんだが……」

 

「鉄也、さん……いいんだ、そんなことは……今は、早く、こいつを……っ!」

 

 操縦席である、パイルダーの中に閉じ込められ、『マジンガーZERO』を動かすパーツの1つとして扱われている甲児。

 

 自らの甥にあたる彼を助けられなかったことを悔やみながら、剣鉄也は、グレートマジンガーに乗り……甲児の意思とは無関係に暴れまわる『ZERO』を相手に、一歩も引かずに戦っている。

 

 スペックでは圧倒的に向こうが上。

 しかしそれを、鉄也はグレートの光子力エンジンを暴走させて無理やり高出力を生み出すことでどうにか差を縮めて食らいついていた。

 

(だが、これも長くはもたない……いざとなれば……俺は……!)

 

「くそ……やめろ……! 皆……逃げてくれ!」

 

 拳や蹴りでとらえられないと見るや、ZEROはその体を空中に浮かべ……その目から十重二十重の『光子力ビーム』を放って、まとめて鉄也達を薙ぎ払おうとする。

 

 しかし、それが発射される直前、死角から超高速で飛び込んできた真ゲッターがその顎にトマホークを叩き込み、頭をカチ上げて斜線を斜め上にずらす。

 放たれたビームは、何にも当たることはなく、数分前に使徒が明けた大穴を通って虚空に消えていった。

 

「弱気になるなよ甲児! 今助けてやっから、もうちっとだけ踏ん張りやがれ!」

 

「っ……あ、ありがとう、竜馬さん……でも、もしもの時は……かまわないから、俺ごとがはっ!?」

 

 言い終わる前に、ゲッターの蹴りがマジンガーの顔面に叩き込まれる。

 

「くだらねえもしもの話なんかすんじゃねえ! ガキは黙って助けられてろ!」

 

「助けたいのか殺したいのかどっちなんだお前は……」

 

 コクピットが搭載されている頭部に割と本気の蹴りを叩き込む竜馬。

 それに呆れながら隼人が言うが、竜馬は『はッ!』と鼻で笑って言い放つ。

 

「こんくらいでくたばるたまかよ。見ろ、そんなくだらねえこと心配してる奴なんざどこにもいねえぜ?」

 

 竜馬が視線で指す先には、連携して飛びかかるザンボットとダイターン、それに合わせて隙を見つけて動輪剣で切りかかるグレートマイトガイン、それを援護するダイバーズやボンバーズ、それにブラックマイトガインという図があった。

 

 先ほどと同じように、随分と荒っぽい絵面ではあるが、不思議と不安はない。

 このくらい本気にならなければ、マジンガーを相手に戦うことなどできないし、このくらいで自分たちの仲間が、兜甲児が負けるはずがないと確信しているが故の、『本気』。

 

 感じ取れる、伝わってくるその気迫は、全て彼らが、本気で甲児を助け出そうとしているがゆえのものであると、見ている隼人にも不思議と分かる光景だった。

 

「……まったく、物騒な友情もあったもんだ」

 

「俺たちが言えた義理じゃねえがな……おら、もう一発俺たちもいくぞ、合わせろ、隼人、弁慶。それと鉄也、お前もいつまでも無駄にセンチになってんじゃねえ、後にしろそんなのは!」

 

 一括して再び飛んでいく竜馬。その真ゲッターの背中を目で追いながら、鉄也は気合を入れなおし……今一度、ZEROの姿をその目ではっきりととらえる。

 

「ああ、その通りだ……嘆くのも謝るのも、今じゃない。甲児……お前を助けてからだ!」

 

 若者達が、自分の甥を助けようと必死になってくれている。

 

 彼らは今まで、幾度もこの星を襲った災厄を退け、幾度も自分の予想を覆して成長し、巨悪を打倒してみせた。

 いつだって彼らは、敵がどれだけ強大で、どれだけ絶望的な状況でも、あきらめることはなかったし、死力を尽くして希望をつかみ取った。

 

 そして、今回もそう……ならば、年長者である自分が、甲児の叔父である自分が、どうしてこんなところで、後ろ向きなことを考えてくすぶっていられようか。

 

「もう少しだけ頑張ってくれ、グレート……行くぞ!」

 

 迷いを捨てた鉄也は、黒鉄の魔神を飛翔させた。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「綾波……アスカ……!」

 

 怒り、苦しみ、悲しみ……様々な感情がごちゃごちゃに入り混じった状態で、精神的にすでにボロボロのところまですり減りながらも、シンジは戦っていた。

 

 エヴァの起動実験……その最中に、エヴァ参号機を乗っ取る形で出現した『使徒』。

 それによって使途は、エントリープラグにアスカを取り込んだままに襲い掛かってきた。

 

 さらに、その戦闘中に現れた新たな使徒。

 これまでのどの使徒よりも強大な戦闘能力をもって襲ってきたそれは、自分達を蹴散らした上、綾波の乗るエヴァ零号機を、異形のごとく変形した姿で大きく口を開いて食らい、そのまま取り込んでしまった。

 

 それによって、使徒の発するパターンがエヴァと同一となり、使徒がセントラルドグマに侵入しても自爆機能が発動しなくなってしまった、と通信の向こうでリツコ達が騒いでいたが、シンジにとってはそんなことよりも、綾波達の安否のほうが重要であり、耳に入ってこなかった。

 

 こうして、独立部隊の面々と協力して戦い、どうにか使徒の猛攻をしのいではいるものの……頭の中では、どうしてこんなことになったのか、ここからどうすればいいのか……そんな疑問が繰り返し浮かんでは、しかし対応策など思いつくはずもなく、消えていく。

 

「ちっ……やっぱりあのATフィールドとかいうのが邪魔だな……なあ、前みたいにミツルに引っぺがしてもらっちゃダメなのか? そしたらもっと……」

 

「それができれば、攻撃する分には楽そうなんだけど……うちのMAGIで分析した感じ、ちょっちまずそうなのよね……」

 

 ジュドーのその問いに、通信の向こうからミサトの声が届いて答える。

 

「詳しいことは説明してる暇がないし、正直私も完全には理解出来ていないから省くけど……『ATフィールド』っていうのはただのバリアじゃなくて、自己と他者の境界線なのよ。それを無理に引っぺがす……ないし、取り去るっていうのは、その境界線が不安定になるってことなの。それが敵だけなら特に問題はないんだけど……今は……」

 

「……そうか……今は、綾波とアスカが使徒の体内に取り込まれているから……」

 

「そこで『境界線を曖昧にする』ようなことをすれば……そっちの取り返しがつかない事態になる可能性がある、というわけか……」

 

「それってつまり……ええと、まずいことなのか?」

 

「そりゃもう。自己と他者の境界線がなくなっちゃうと……簡単に言えば、パイセン達と使徒が『混ざっちゃう』んだよ。コーヒーにミルクを入れて混ぜるとカフェオレができるよね? それをもう1度、コーヒーとミルクに分けられると思う?」

 

 ミサトの説明から、今の状況をカミーユとアムロが察し、続くシンとマリとのやりとりが補足となって……それを聞いて、ほかの面々も理解した。

 そんなことになってしまえば……否、そうでなくても、今現在すでにどれだけまずい状況なのかがよくわかるものだった。いっそ、残酷なほどに。

 

(今でさえ、レイとアスカが無事である保証なんてない……非情に徹するのなら、通常の使徒殲滅と同様に対処するのが、最も安全で確実……でも、彼らにはそれができない……できるとしても、絶対にやろうとしない)

 

 そんな言葉を、NERVにいる赤木リツコは、声に出すことなく、心の中にとどめたままにする。

 

 科学者として、そしてNERVの一員として、世界を守るために最善だと言える結論を出して伝えようとも、彼らは絶対に従わない。

 それがわかっているからこそ、今この場で打てる手がないことに対して、ため息をついた。

 

 隣にいる戦友……作戦部長であるミサトもまた、そのことについてはわかっているはずだ。何せ、先程説明したのだから。

 それでも、彼女もまた、希望を捨てない側にこうして立っているということは……そういうことなのだろう。

 

(……アスカは、使徒がエヴァを主体に侵食しているから、まだ助かるかもしれない。五体満足で救えるかは怪しいけれど。でも、レイは……使徒のパターンが変化したということは、零号機を、レイを取り込んで使徒がその在り方を変えたということ。それはつまり、あの子がさっき言ったように『混ざった』ことを意味する……そして、その変化はおそらく、不可逆のもの……だとすれば、もう……)

 

 彼らが話しているよりも1歩進んだところの、残酷な現実を、告げるか告げまいか……それを思って下唇を嚙んでいるリツコ。

 

 その彼女が気付かないところで……

 

 

「ふざけるな……」

 

 

 変化は、起こっていた。

 

 

「お前たちなんかに……渡すもんか……!」

 

 

 操縦桿を握る手に力がこもり……

 かみしめた奥歯が、ぎりっ、と音を立てる。

 

 そして、その目に……明らかに人間のそれとしてはおかしい……毒々しい、あるいは禍々しい、赤い光が灯り……その変化は、直に、彼が乗る機体にも伝わっていく。

 

「綾波を……アスカを……返せ……!」

 

 かけがえのない、仲間を助けるために。

 1人の少年は……今、自分の意思で……1つの壁を越えようとしていた。

 

 

 

 

 

 そして、もう1人。

 

「変容……融合……吸収……不可逆の変化…………いっそもう今、それが起こってると最悪を仮定して、それらを元に戻す方法……」

 

 記憶を漁る。

 ここではない世界で過去に起こった、今回のこれと似た出来事を探り当て……応用できるものがないか、青年は思索する。

 

「オリジナルの世界線にそれはない、バッドエンドだった、続編も知らない……けど、『似た例』なら知ってる……化け物に変えられた女の子……あの時は、そう……『天秤』と『水瓶』……相性のいい2つのスフィア……それに匹敵する次元力なら……。仕方ない、ちょっと無茶するか……!」

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

「空間だけでなく因果をもゆがめる魔神に……この惑星独特の種かしら? あんな不思議な生物もいるのね……うん、なかなかいいデータが取れそうだわ」

 

 そして、それら2つの戦場を、離れた位置から観察するように見ている1人の女性。

 

 ガーディムの一等武官であり、この場に現れた部隊全ての指揮官である彼女・ジェイミーは、常と同じく、未発達な文明として見下すような姿勢のまま、手元のコンソールを捜査して部隊に指示を出していく。

 

 戦場をひっかきまわして反応を見つつ、隙があれば、目的であるいくつかの機体、ないしシステムの奪取を試みるために。

 投入された機体はすべて無人機ゆえに、仮に特攻させることになったとしても、彼女には躊躇いのかけらもあるはずもない。

 

 ただ、独立部隊の側もそれを察しているが故か、ガーディムに対しては深追いしてかかってくることはなく……あくまで、その他の2つの戦線の邪魔にならないように、無人機によるちょっかいを防ぐ戦闘に徹している。

 

 これはつまり、他2つ……使徒とマジンガーZEROに比べて、ガーディムが脅威として小さいとみられているという意味でもあるのだが、ジェイミーはそれを理解しつつも、ふふっ、とおかしそうに笑っていた。

 

「守るもの、助けたいものが多いと必死になっちゃって大変ね。失敗した者、無能な者なんて、さっさと切り捨てて、優先目標の達成だけを見据えて動けば、最大限効率的な戦いができるのに……くだらない感情に流されてそれができないなんて、本当に理解不能な種族。そんなんだから……」

 

 ちらり、とその視線が横にずれる。

 

 ジェイミーの目がとらえたのは、ジオフロントのさらに奥にある……NERV本部の建物。

 そのさらに地下に、NERVという組織の心臓部である、『セントラルドグマ』が存在する、最も攻め込ませてはいけない、守らなければならない場所と言える。

 

 つまりそれは、ちょっかいを出されると非常に困る……戦力をさらに割いてでも守らなければならない、優先度の高い防衛目標ということだ。

 

「そんな風に取捨選択ができないから……」

 

「あんたみたいな卑怯者に困らされる羽目になるって? ホントよね」

 

 突如、遮るように言い放たれると同時に……ジェイミーの乗る『マーダヴァ』の正面に、1機の機動兵器が舞い降りるように現れた。

 

 それに少し驚いたようにするジェイミーだったが、すぐにその顔はいつもと同じ笑みに戻る。

 強いて言うなら、それにさらに嘲笑の感情が乗っているように見えなくもない。

 

 自分の考えを読まれたのは少々癪ではあるが、だからといって立った一機で突出してくるなど、いったい何を考えているのか、と。

 

「その声、聞き覚えがあるわね……確か、ミレーネル・リンケ。向こうにいる特記戦力・星川ミツルの協力者……こうして直接会うのは初めてかしら?」

 

「……ふうん、そうなのね。やっぱりか」

 

 ジェイミーの言葉を……特にその中の『初めて』という部分を聞いて、何かに気づいたような様子になるミレーネル。

 それが声音に乗ったが故か、ジェイミーは少しだけ怪訝そうにした。

 

「……どういう意味? まあいいわ……それで? たった一機でこんなところに出てきて……的にでもなりに来たのかしら? それとも、交渉して帰ってもらおうとでも思った? 今は大変なところなんだから邪魔しないでくれ、って?」

 

「どっちも違うから安心していいわよ。あんたにそんなこと言ったら、嬉々として邪魔して来るのはわかり切ってるし。もっと強引に、邪魔されないようにするために来たのよ」

 

 それを聞いて、変わらず嘲るように見つつも、少しだけ不快そうにするジェイミー。

 

「強がりなんて美しくないわね。たった一機でこの『マーダヴァ』や、こちらの戦力に、勝てるどころか太刀打ちできると思っているの? 我々超文明ガーディムの機体は、低次元な文明の作る、レベルの低い機動兵器とは違うのよ?」

 

 それに、と続ける。ミレーネルの乗る機体を見ながら。

 

「その機体も知ってるわ。あなたが以前から使っていたものと同型機のようね……でもそれ、同じ地球産の兵器を相手に撃墜される程度の戦闘能力しかなかったと思うのだけど」

 

 どうやって調べたかは不明だが、ジェイミーの指摘は確かに当たっていた。

 

 一時期ミレーネルが愛機としていた『アンゲロイ』は、高い性能を持つ機体ではあったものの、アルゼナルで行われた戦いの折に撃墜され、大破した。

 数がそろっていたとはいえ、文明として、技術力で大きく劣る兵器にも太刀打ちできなかった程度の兵器だと、ジェイミーは見下す態度を隠さない。

 

 むしろ、彼女を囮ないし陽動にして、他の機体……それよりも高い戦闘能力を持つと目される、『ヴィルキス』や『レーバテイン』による奇襲を警戒し、戦場全体の観察を怠っていない。

 

 しかし、一向にそれらが動く気配はない。呼応してこちらを攻める作戦ではないようだ。

 

 それならばそれで、今言ったとおりに、この無謀な愚か者を的にするだけだと、ジェイミーは無人機部隊に指示を出す。

 

 指示を受けて、無人の、あるいは戦闘用アンドロイド『ソルジャー』の乗った無人機達が、素早く動いて、ミレーネルの乗る『アンゲロイ』を包囲した。

 これで逃げ場はなくなり、哀れな機体とそのパイロットには、蹂躙される以外の未来はなくなった。

 

 本当に何もなく決着がついてしまいそうな現状に、はぁ、と呆れてため息をつくジェイミー。

 

「お望み通り相手をしてあげるわ。虚勢でもあれだけのことを言ったのだから、せめて10秒くらいはもたせてみなさいね? ……まあでも……」

 

 そこまで言って、今一度その『アンゲロイ』を見るジェイミー。

 

 表面上は、かつてミレーネルが乗っていた機体と、大きく違う個所はない。

 細部の装飾その他が違っているように見えなくもないが、いずれにせよ、ガーディムの機体群をもってして対応できないような存在には見えない、というのが、ジェイミーの判断だった。

 

 過去のデータと比較して、明確に違う点など……せいぜい1つ。

 そのデザイン。機体のカラーリングくらいのものだ。

 

「過去のデータを見る限り、多少パワーアップしたとしても、その機体にそんな大した働きができるとは思えないけどねえ……そんな―――

 

 

 

 

 

 ――――黒く塗った程度で」

 

 

 

 

 

 



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第61話 反撃と救済と、その先に待つもの

 『超文明ガーディム』

 それは、とある時代のとある宇宙、とある銀河系に存在した、その名の通り極めてすぐれた技術力と、それに裏打ちされた強大な軍事力を誇っていた一大星間国家である。

 

 彼らは自分たちこそが宇宙で最も優れた文明であると信じて疑わず、その思想でもって他の惑星の文明を侵略し、自分たちに恭順し同化するか、あるいは滅びるかという選択を突き付けてきた。

 

 その蛮行もまた、彼らからすれば『教育』ないし『矯正』に過ぎないものであり、彼らは自分達のもとで管理されることこそが正しい在り方であり、その文明にとっても幸福なことであると、そして自分達には常に成功と勝利がもたらされると、信じて疑わなかった。

 

 現在、地球という名の辺境の惑星において、作戦行動に従事している上級武官・ジェイミーもまた、そんなガーディムの思想に見事に染まっている1人だった。

 

 今回の作戦でも、彼女はそんな歪んだ自信と自負、そして独自の美学を胸に、作戦を遂行するつもりでいた。

 多少の抵抗は予想されるものの、所詮は辺境の劣等種。自分たちの戦力と技術力、そして自分の智謀をもってすれば、恐るるに値しない。

 

 戦う前から勝利を確信していた、そんな彼女の率いる部隊は……

 

 

 

 …………今まさに、たった1機の機動兵器を相手に、壊滅の様相を呈していた。

 

 

 

「何で……こんな、ことに……何、なのよ!? あんたのその機動兵器は!?」

 

 数分前までは涼しい笑みを浮かべていたジェイミーは、目の前の光景が理解できず、表情を困惑と焦燥にゆがませて取り乱していた。

 

 彼女の問い、あるいは慟哭に、帰ってくる答えはない。

 

 その代わりに、眼前でまた1機……自軍の機動兵器が、轟音とともに爆散して地上に降り注いでいった。

 

 ジェイミーは憎々しげに、それをやってのけた下手人を……目の前で暴威をふるう、漆黒の機体をにらみつける。

 

 その機体……『黒いアンゲロイ』は、腕のパーツを変化させた大砲からエネルギー弾を連射。

 離れた場所で砲撃を行っていた『アールヤブ』を貫き、爆散させ、一掃する。着弾直前に展開した、防御用のエネルギーフィールドを、そこに何もないかの如く、容易く貫通して。

 

 逆に、『アールヤブ』が放ったレーザーは、機体表面のエネルギー障壁『Dフォルト』に阻まれ、傷の一つも作ることはできていない。

 

 その直後、凄まじい速度でアンゲロイの背後に回り込んだ、ガーディムの下士官機『プラーマグ』が、至近距離からの光子魚雷を放とうとするが、それよりも早く、その機体は真っ二つにされ、爆炎の中に消えていった。

 

 発射までの刹那の間に、アンゲロイのもう片方の手が大剣に変化し、目にもとまらぬ速さで振り抜かれ……装甲も何もかも無視したかのような一撃で、『プラーマグ』を両断した。

 

「違いすぎる……以前とは。攻撃力も、防御力も……!」

 

 数分前の彼女は、こんなことになるとは夢にも思っていなかった。

 

 目の前のそれとよく似た機体は、すでに過去の戦闘データにあった。

 『アンゲロイ』という名前――地球のどこかの国の言語で『天使』という意味であるらしいその機体は、確かに地球の既存の機動兵器の中では高性能な部類だった。

 

 カラーリングが変わった機体が出てきた時は、さすがに変わったのは色だけではないだろうと、多少なり改良されているのだろうとは当然予想はしていたが、しかしそれでも、ガーディムの戦力をもってすれば十分に対応可能な範囲内であると考えた。

 

 ゆえに、囮のつもりか何か知らないが、たった1機でこちらに向かってきたその蛮勇をあざ笑いつつ、粉砕してやるつもりで戦闘に入った。

 

 その結果が、今のこれだ。

 

 剣に、大砲、それだけでなく、単なる格闘……膝蹴りや拳の一撃でも、たやすくこちらの兵器は迎撃され、粉砕された。

 

 半ば特攻のつもりで、トップスピードで突撃していった『プラーマグ』は、正面から受け止められ、しかし『アンゲロイ』は無傷。そのまま動力部を握りつぶして放り棄てられた。

 

 至近距離で複数の『アールヤブ』を、動力炉を暴走させて自爆させ……しかしその爆炎の中から無傷で現れた時には、ジェイミーもさすがにその目を疑った。

 

 防御も回避もろくに通用せず、その戦力差はまるで、子供と大人、いやそれ以上。

 データの中にあった機体とは、姿形が同じだけの、まったくの別物、そうとしか思えなかった。

 

 実際、その予想は的外れではない。

 基礎構造こそ同じではあるが、この機体……『アンゲロイ・アルカ』は、以前にミレーネルが乗っていた『アンゲロイ』とは、性能的に全くの別物と言っていい機体だ。

 

 地球の技術力でも――その中でもかなり高レベルではあるが――再現可能な範囲内でしかない『アンゲロイ』と違い、『アルカ』は、動力炉だけでなく、その駆動や攻撃の全てに『次元力』をダイレクトに用いている。

 それゆえに、攻撃力・防御力・機動力……全てにおいてその性能は隔絶しており、通常の『アンゲロイ』と比較して、実に30倍もの戦闘能力を誇るとまで言われている。

 

「……っていうのはミツルからきちんと聞いてたけど……引くほど強いわね、コレ、本当に」

 

 他でもない、『アンゲロイ・アルカ』に乗り込んでいるミレーネル自身もそんな風に思ってしまうほどの……ガーディム相手にほとんど弱い者いじめにしかなっていないほどの戦力差だった。

 

 無抵抗で撃たれていても傷らしい傷も負うことはなく、逆にこちらの攻撃は、当たりさえすればほぼほぼ一撃で相手は沈んでいく。

 おまけに『次元力』の作用により、多少傷を負ったところで自力で修復されてしまう。

 

「ちょっとミレーネル……あなた達、いつの間にそんなとんでもない機体作ったの?」

 

「それも『サイデリアル』の新兵器か?」

 

 後方で、ミレーネルの打ち漏らしを狩るために待機していた、アンジュや宗介、その他の面々も唖然とした様子で、その戦いを見上げていた。

 

 戦いが始まった当初、ミレーネルが『私一人で相手するから、あなたたちが打ち漏らしを狩って。乱戦になったらかえって突破されちゃうかもしれないし』と言って突っ込んでいったときは、いくらなんでも無茶ではないかと思っていたものだが、いい意味(?)で期待を裏切られていた。

 しかし、そうなったらそうなったで、味方からしても唖然とするしかないほどのその戦闘能力を見せつけられて、こちらも困惑している様子である。

 

 しかし、ミレーネルがそれに返答するより先に、通信の向こうからヒステリックな声が聞こえてきた。

 

「ふざけるな……ふざけるな! たった1機の、劣等文明の機体を相手に、ガーディムの精鋭部隊が……こんなの認められるわけがない! こんなの―――」

 

「次にあんたは『こんなの美しくない!』と言う」

 

「こんなの美しくない! ……ハッ!?」

 

「「ぶふっ!!」」

 

 絶叫するように叫んだジェイミー……の、反応を読んで被せたミレーネル。

 それが的中し、直後に聞こえたジェイミーの愕然とするような反応に、思わずヒルダとヴィヴィアンが噴き出した。そのほかの面々も、笑いをこらえたり、苦笑したりしている。

 

 最早彼ら・彼女らの目には、この戦況は緊張感を保って見るものでもなんでもなく、完全に手玉に取られて戦力をすり減らしたジェイミーは脅威には映っていなかった。

 無論、だからと言って油断しているわけではないが。

 

 それでも、そんなミレーネル達の反応は、圧倒し、蔑み、見下すことしか知らないジェイミーにとっては我慢ならないほどに屈辱的なもので。

 動揺と怒りのあまりうまく口を開けない、言葉が出てこないといった状況になり……結局、

 

「こんなの美しくないッ!」

 

「おーい、あのおねーちゃんこれしか言えなくなってやがるぜ」

 

「まるで壊れたラジカセか何かだねえ……想定外の事態が起こるのに弱いと見た。他人を見下してる頭でっかちにはありがちだね」

 

「頭は悪くないのだろうが、部隊を率いる者としては二流だな」

 

 クルツ、マオ、宗介が遠慮も何もなく酷評。

 それらもまた、ジェイミーの怒りに燃料を投入する結果になっていたが……それに続けて、ミレーネルが爆弾を投下した。

 

「ま、バグ起こして支離滅裂にならないだけ優秀だとは思うけどね……アンドロイドながらあっぱれだわ」

 

「「「え?」」」

 

「なっ!?」

 

 ミレーネルの言葉に驚く敵味方一同。

 中でも、いきなり自分のことをアンドロイドだと断じられたジェイミーは、ひときわ困惑を強くしていた。

 

「あん? どういうことだよミレーネル? あいつ、アンドロイドなのか?」

 

「ああ、そういえば、前に戦った何とかってやつもそうだったっけ」

 

「グーリーね。で、そうなの、ミレーネル?」

 

 ヒルダとヴィヴィアン、サリアの問いに、ミレーネルは『ええ』と当然のことのように肯定して言う。

 

「ジャミングでスキャンしにくくしてあるけど、あの機体、コクピット部分に人間の体温の熱源反応も、生命反応もないわ。グーリーがそうだったから、もしかしたらとは思ってたけど……」

 

(それに、『バースカル』に攻めてきた時もそうだったしね。その時の記憶も、見事になくしたまま再生産されたみたいだし)

 

 一部分だけは心の中でつぶやくにとどめたミレーネル。

 

「あと、さっきカマかけてみたというか、やり取りの中でも思ったんだけどさ……あなた、前に私達『サイデリアル』の拠点を襲撃してきたことあったでしょ? その時は返り討ちにして、あんたも乗ってる機体ごと、間違いなく爆散させてやったはずなのに、しれっと生きてるし……その時のこと、きれいさっぱり忘れてるみたいだし」

 

「そんなことがあったの? あ、でもそのパターンって、前にグーリーの時にも……」

 

「ああ、あったな。死んだはずなのに生きてたり、見当違いの記憶に改ざんされてたりして、会話がかみ合ってなかったっけな」

 

 アンジュとヒルダがそう続けて言ったのも手伝って、徐々に部隊全体に『そうなのか』という空気が広がっていく。

 そしてそれは、こちらを動揺させるためのブラフだと思っていたジェイミーの方にもだった。

 

「わ、私が……アンドロイド……?」

 

 そんなはずはない、と思っていた疑念が、徐々に無視できないものになっていく。

 そのことに、ジェイミーが自身の存在に疑問を抱いて、先ほどまでにまして困惑を加速させていく中……

 

 

 

 ―――ドゴォォオオオォオン!!

 

 

 

「「「!?」」」

 

 別な方向で響き渡った轟音。

 とっさに全員の視線がそちらに向いて……その先に広がっていた光景を目にして、音よりもさらに驚かされることとなる。

 

 だが一方で、

 

「おー……あっちの方も、大詰めみたいね」

 

 そうつぶやいたミレーネルのように……多くの者にとっては、驚きと同時に、不思議と納得もまたできる光景だった。

 

 どんな絶望的な状況でも、あきらめずに最後には何とかしてしまう。

 そんな、仲間達の力を信じているがゆえに。

 

 

 

「これが、偉大なる魔神皇帝……『マジンエンペラーG』だ!!」

 

 

「綾波を……返せ!!」

 

 

 剣鉄也の乗る新たな機体……『マジンエンペラーG』が、『マジンガーZERO』にも劣らない圧倒的な存在感をもって戦場に降臨し、

 エヴァンゲリオン初号機が、機体各部に、禍々しい赤い光を走らせ……腕と目から放った極大の衝撃波で、使徒を粉砕する。

 

 動きを止めたマジンガーZEROは、光に包まれると……元の『マジンガーZ』の姿に戻り、そのコクピットからは……待ちわびた声が聞こえてきた。

 

「みんな……すまない、迷惑かけた。もう大丈夫だ!」

 

「甲児君!」

 

「ったく……遅ぇっつーの!」

 

 ほっと胸をなでおろした様子のさやかと、口では荒っぽく言いつつも心配していたボス。

 元通りの兜甲児の帰還に、2人のみならず、仲間達は皆、安堵していた。

 

 そして、もう1つ……エヴァンゲリオン初号機が打ち倒した、『第9の使徒』と『第10の使徒』。

 それらの直上に、高速で飛来する影があった。

 

「ミツルさん!?」

 

「おい、何する気だ!?」

 

「助けるんだよ……2人を。そうだろ、シンジ君?」

 

「っ……は、はい!」

 

「なら……」

 

 声を上げたシンジや竜馬のみならず、見ている者達が困惑しながら見守る前で、ミツルは『アスクレプス』を『ヘリオース』に変形させ……次元力を練り上げ始める。

 

 次元力というものを知らない機体でも観測できるほどに膨大なエネルギーが、しかし、破壊を伴うようなものではなく、木漏れ日のようにやさしい光となって……倒れ伏した使徒に降り注ぐ。

 光が使徒を包み、その中にしみこんでいくのを見ていたシンジは……直感的に、自分が何をするべきか分かった。

 

 初号機が使徒めがけて駆け出すのを見ていたミツルは、説明は必要なさそうだと考え、自分のやるべきことに集中する。

 

「じゃ……よし。返してもらおうか……僕らの、仲間を」

 

 ミツルは目を閉じて集中し、意識を使徒……の、中にいるであろう綾波レイに向ける。

 それと同時に、脳裏に強くイメージを思い描いていく。

 

 こことは違う世界で起こった奇跡。

 『揺れる天秤』と『尽きぬ水瓶』……折れない意思と無限の愛。2つの次元の秘宝が引き起こした、ある1人の少女を、不可逆の変容という悲劇から救い上げたという……救済の可能性。

 

 一層強くなる緑の光の中で……初号機が手を伸ばし、シンジが、のどが張り裂けんばかりにその名を呼んで……

 

 そして……光が収まった時。

 

 初号機の手のひらの上には……力なく横たわる、しかし、しっかりと自分の力を息をしている……プラグスーツの少女の姿があった。

 

「よし……成功! んじゃ、次だ……終わりが見えてきた!」

 

 これまでにないほどの疲労を覚えながらも、ミツルが、もう1人残った少女……『第9の使徒』に取り込まれている、アスカの救出に移ろうと、シンジに呼びかけようとしていた……その頃。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――その通り。

 

―――『終わり』はもう、すぐそこに迫っている。

 

―――そしてそれは、

 

―――新たなる時代の、正しき宇宙の、始まりでもある。

 

 

 

―――偽りの歴史、過ちに満ちた世界、それら一切は終わりを告げ、

 

―――全ての宇宙は再び、至高神と、御使いの御手の元、

 

―――しかるべき姿で、再誕する。

 

―――そのために、欠片を持つ者達よ。今一度……

 

 

 

―――集え、イスカンダルへ……!

 

 

 

 鋼の英雄たちが、仲間を救い、世界を守る戦いを進める裏で。

 

 『何か』が、とうとう、動き出そうとしていた。

 

 

 

 




おまけ  今回出てきた機体について

【アンゲロイ・アルカ】
元ネタは、第3次スパロボZに出てきた敵勢力の機動兵器。『天獄篇』経験者にとっては忘れたくても忘れられない、ご存じトラウマ機体。
見た目は『アンゲロイ』シリーズの単なる色違いだが、性能は全くの別格。というより、この機体こそがオリジナルであり、他がレプリカという位置づけ。
ストーリー中盤くらいで突如出現し、HP20000弱装甲値3000超え、パイロットに至ってはLv70と、『絶対量産機じゃねえだろ』というレベルの戦闘能力で数多のプレイヤーにトラウマを刻み込んだ。
本文中の戦闘力30倍のくだりも公式設定であり、サイデリアルが苦戦する戦場に現れ、圧倒的な力で抵抗勢力を蹂躙する存在として一部で知られていた。
この世界では、現状手に入る素材を使ったレプリカではあるものの、次元力を使った駆動などは構築に成功しているため、カタログスペックはオリジナルとほぼ同等。加えて、次元力による自己修復機能も有しているため、総合的な戦闘力・継戦能力はむしろ上がっている。そんなのの初陣の相手に選ばれたジェイミーは泣いていい。


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第62話 『時空融合』とアウラの言葉

【▽月;日】

 

 さーて……大変なことになった。

 いや、違うな。大変なことに『なっている』。今まさに。

 

 ぶっちゃけ今、こうして日記なんか書いてる場合なのかって自問自答したくなるくらいに、今、現在進行形で大変なことになっている。

 けど、他に何かするっつっても、今すぐに何かできることがあるわけでもないので……状況の整理と、精神を落ち着ける意味も兼ねて、こうして日記を書いています。

 

 というわけで、今こうして起こっていることを……いやどうせなら、昨日から順序だてて見返してみるとしようか。

 

 

 

 まず昨日は、ええと……最初は、使徒の襲来から始まったんだっけ。

 それも、アスカが乗ってる『エヴァ参号機』を乗っ取った使徒が。

 

 しかもそのあと、先んじて出撃したエヴァ3機(含、マリ)が苦戦してるところに、劇場版ゼルエル(正式名称知らん)まで現れて大暴れを始め、しまいには綾波さんを零号機ごと吸収。

 

 しかもそこに、突如、行方不明だったマジンガーZEROも現れた。

 

 さらにそこにガーディムも現れた。いつもどおり、総司さんとナインを狙いつつ、マジンガーZEROとエヴァ、それに使徒のデータを取りに来たらしい。

 指揮官はやっぱりジェイミー。復活して、そして前回のことは忘れていた。グーリーと同じ扱いをされていることが確定した瞬間である。

 

 これに対して僕らは、部隊を大きく3つに分けて応戦し、それぞれの対処に成功。

 

 まず、マジンガーZEROに対しては、グレートマジンガーと真ゲッターを中心としたスーパーロボットが主体となって応戦。

 

 途中、鉄也さんがグレートマジンガーの光子力エンジンを暴走させて、特攻同然の攻撃をしてZEROを道連れにしようとしたものの、相手の防御を抜くことができずに失敗。

 

 鉄也さんはどうにか脱出できたものの、グレートは大破。

 そのままZEROにとどめを刺されそうになったんだが、その時、どこからかもう1機マジンガータイプの機体が飛んできて……鉄也さんはそれに乗り換えた。

 

 その名も『マジンエンペラーG』。マジンガーZEROに勝るとも劣らない存在感、そして戦闘能力を誇る『偉大なる魔神皇帝』だそうだ。

 

 その名に恥じないだけのすさまじい戦闘能力を発揮して、ZEROと互角以上に渡り合い、仲間達との連携でついにZEROを撃破。

 その直後、仲間達の呼びかけに応えて甲児君も復活し、マジンガーZを取り戻した。

 

 しかもその直後……何があったのか詳しくは知らないが、なんと『マジンガーZERO』を制御できるようになったらしく、きちんと甲児君自身の手で制御したままに、再びZEROに変身して見せたのである。

 これには僕ら全員驚かされたが、あの力が味方になったんだと思えば、これほど心強いものもない。前向きに受け取ろう。

 

 で、次。

 エヴァと使徒2体の方については……こっちもなんだかすごいことになっていた。

 

 なんか、エヴァ初号機が、暴走……よりもやばそうな『疑似シン化第一覚醒形態』だか何だかっていう姿に変わり、それまで苦戦させられていた使徒を一蹴した。

 

 いやだってあんな、光るエネルギーでできた腕みたいなのを飛ばしてロケットパンチ?したり、めっちゃおぞましい感じで吠えながら目からビーム出したり……失礼ながら、使徒よりよっぽど怪物に見えてしまった。

 

 けど、その初号機が使徒を倒した隙に、僕はヘリオースの次元力制御を全開にして、綾波さんを取り込んだ使徒に干渉した。

 

 NERVの司令室からの情報によれば、あの使徒はエヴァ零号機を、パイロットもろとも完全に取り込んで融合している状態にあり、そこからパイロットを助け出すことができるかどうかはわからない……というか、正直に言って限りなく絶望的、とのことだった。

 

 しかしそれを踏まえた上で、僕は彼女を助け出すことができる、と考えていた。

 

 理由は簡単。これと似たようなケースを他に知っているから。

 完全に融合ないし変容し、不可逆的に怪物に変わってしまったにもかかわらず、もとの人間の姿に戻ることができたケースを。

 

 ぶっちゃけて言うと、『第二次Z』のエスターのことだ。

 

 色々省くが、あの作品では彼女は、『人造リヴァイヴ・セル』によって機体と強制的に融合させられ、『次元獣』という怪物に変えられてしまっていた。その変化は不可逆的なもので、二度と人間には戻れない、とされていた。

 

 しかし、2つのスフィアを……それも、相性が良く、力を高めあえる『天秤』と『水瓶』を使い、膨大な次元力を用いて干渉することで、彼女を元に戻すことができた。

 

 おそらくは、次元力の本質である『事象制御』によるものだと思うけど……要するに、相応の出力とコントロールさえあれば、次元力は『不可逆』を『可逆』にしてしまえるのだ。

 

 僕がやったのはその再現。ヘリオースから発生させた膨大な次元力を用いて使徒に干渉し……彼女を無理やり分離させて引っ張り上げた。

 それを、シンジ君が初号機を使って救い上げ……彼女を救出することに成功した、ってわけだ。

 

 さすがにというか、おそらくはかなり高レベルの事象制御だったんだろう。1回やるだけでも無茶苦茶疲れたけど……その分、やり遂げた感はあった。

 

 そのあと、同じようにしてアスカも救出。

 こっちは完全に取り込まれたわけじゃなく、使徒にエヴァごと侵食されてただけなので、そこまで難しくはなかった。

 

 そんな感じで、使徒2体は撃破。パイロット2名も無事救出完了。よし。

 

 で、最後にガーディムについては……ミレーネルが大暴れして片付けた。

 つい最近ようやく完成した、『サイデリアル』の鬼札……『アンゲロイ・アルカ』に乗って。

 

 第三次Z天獄篇をプレイした人なら誰でも知っているであろう、あのトラウマ機体である。

 

 外見は、ただ黒く塗装されただけの『アンゲロイ』にしか見えないのだが……その性能は完全に別物。

 武装や駆動のすべてに次元力をダイレクトに用いているため、攻撃力、防御力、機動力、その他諸々、全てが冗談みたいに強力。その戦闘能力たるや、通常のアンゲロイのなんと30倍という恐ろしい状態になっている。しかもこれ公式設定なのよね。

 

 HPの残量次第では、どこぞの3回行動おじさんよりも堅くなるという『お前ぜったい量産型じゃねーだろ』と多くのプレイヤーに言わしめたバケモノである。

 

 当然、ただのアンゲロイ、あるいはちょっと改良された程度の同型機だと高をくくって戦いを挑んだガーディムの皆さんは、もれなく粉砕されることとなった。

 

 この戦闘能力に仕上げるのは、『バースカル』の生産能力でもかなり大変で、ぶっちゃけ行き詰ってたんだけど……『アスクレプス』が『ヘリオース』に覚醒した時や、それ以降の戦闘データをフィードバックすることで飛躍的に開発が前に進んだ、という経緯があったりする。

 なので、完成したのはホントに最近なのだ。

 

 それでも、苦労して作っただけの甲斐はある兵器に仕上がったと思う。

 ……横目でチラチラ見てたけど、マジでガーディム、全然相手になってなかったもんな……攻撃は効かないし、逆にこっちの攻撃は一発でも当たれば、ほぼ間違いなく即撃墜だし。

 

 そのままガーディムの軍勢は、『アルカ』に加えて、周囲のうち漏らしを狩っていたパラメイル第一中隊やミスリルとの連携で、ほどなくして壊滅。

 ジェイミーの乗る『マーダヴァ』も撃墜した……ものの、やはりというかジェイミーはアンドロイドだったので、意味があるかどうかは微妙である。また出てきてもおかしくない。

 

 そんなわけで、使徒は対峙して、ガーディムはぶっ壊して、マジンガーZEROは戦力として組み込むことができたので、どうにか一件落着。

 

 ……そう、誰もが思っていた、その時だった。

 

 

 

 エンブリヲと、レナード、それに……『エグゼブ』とかいう名前の男を含めた3人が現れ……とんでもないことをやってくれたのは。

 

 

 

 虎視眈々とこの時を待っていたあいつらは、マジンガーZEROと、覚醒したエヴァ初号機の力を起爆剤代わりに使い……『時空融合』という、世界を一度終わらせて作り変えるための……儀式?みたいなのを発動させたのである。

 

 詳しい仕組みについては省くけど(ぶっちゃけ僕も理解しきれてはいないので)、この『時空融合』をやると、『西暦世界』と『宇宙世紀世界』の2つの地球が融合してしまうらしい。

 

 しかし、その際に発生する負荷に耐え切れず、地上は壊滅。さらに、衝撃波が発生して、木星あたりまでそれが届き、周辺宙域のコロニーその他も含めて滅茶苦茶になるらしい。

 

 ……エンブリヲは、『一度世界を終わらせて作り直す』的なことを以前、言っていたことがあったのを思い出した。そのための手段がコレか。

 レナードも、似たようなこと考えてたっけな。Z世界とはやり方が違うけど、『世界を作り直す』っていう目的には沿っている……のか?

 

 そして、3人目の謎の男……『エグゼブ』。

 こいつに関しては、目的も含めてわかっていることは多くないが……どうやらこいつ、『DG同盟』を裏で操っていた黒幕にして、なんと、舞人社長やエースのジョーの親の命を奪った仇敵でもあるらしい。このタイミングでそんなのが出てくるとは。

 

 そして、一度始まってしまった『時空融合』を止めるすべはない。

 

 このままいくとバッドエンド一直線だったわけだが……それを止めてくれたのは、なんと、『龍の民』の始祖である、アウラさんだった。

 

 彼女(女性みたいだし、この呼び方でいいかな)が突如としてジオフロントに現れ、その力で時空融合を止めてくれている。

 現在、融合はこの付近だけにとどまっている、という状態だ。

 

 次元規模の現象すら制御できるなんて、ホントにすごいな、アウラさん……さすがというか、その力で『始祖連合国』全体の『マナの光』を支えてただけはあるわ。

 

 ……僕にはできなかったってのにね。情けない限りだよ。

 

 うん、3人が現れて『時空融合』を始めようとしたとき、僕は次元力で発動を食い止めようとしたんだ。次元境界線の異常歪曲は観測できてたから、そこに割り込むような形で『事象制御』で正常化しようとした。

 

 けど……残念ながら力が及ばず、時空融合が始まってしまったのである。

 それなりに成長したつもりではいたんだけどな……まだまだだってことか。

 

 ……しかし、次元力で干渉しようとした時に……何だろう、まるで弾かれたというか、邪魔されたような感覚があった気がしたんだけど……あれってただ単に、僕の力が足りなかっただけかな? それとも……

 

 まあいい……ともあれ、起こってしまったもの、始まってしまったものは仕方がない。

 そうなってしまった以上は、ここからどう巻き返していくかだ。

 

 現状、シンジ君をはじめ、『時空融合』の衝撃で気を失ってしまい、まだ目を覚ましていないメンバーも多い。

 

 ある程度体制を整えられたところで、艦長達や有識者が集まって今後の対応を協議することになるそうだから、まずはそれ待ちだな。

 どう動くことに決まってもいいように、僕もきちんと休んで回復して、待機していよう。

 

 

 

【▽月:日】

 

 艦長達の会議では、『宇宙世紀世界』のみならず『西暦世界』からも有識者その他を呼んで話し合ったらしいんだが、これといった決定的な打開策は出されずじまいだったらしい。

 

 というか、なまじそういうのに見識がある人たちが集まったために、『これはガチでどうしようもない』という結論に至ってしまったんだとか。

 

 起こっている災害(こういう表現でいいのかどうかはわかんないけど、起こってることはまさにそれなのでそう呼称する)の規模が大きすぎて、手に負えないと。

 少なくとも、今の技術レベルでは。

 

 今はアウラさんが抑えてくれているけど、彼女の力だって有限だ。

 いつかは支えきれなくなり……その時は正真正銘、この世界が融合に飲み込まれる時、ということになるんだろう。

 

 最早打つ手はないのか、と思われたが、そんな中で一筋の光明になったのが、他でもない、そのアウラさんに助言を請うというものだった。

 

 確かに、単独で時空融合を抑えるほどの力を持ち、そもそも彼女は、言い伝え通りなら1000年以上の時を生きている存在だ。

 過去の大規模なゲッター線災害を知り、また、ラグナメイルが現役で戦場を駆っていた時代を知っている彼女なら……うん、何か知っているかもしれない。

 

 ただ、今現在アウラさんは、時空融合真っ只中の空間の中にいる。

 その周辺は時空がゆがんだりしてやばいことになってて、とても近づけない。そのため、相談することもできないのだ。

 

 そこで話が回ってきたのは、僕とサラマンディーネさんだった。

 

 まず、サラマンディーネさんは、『龍の民』の中でも特に強い力を持つ者の1人であるため、かなり離れた位置からでもアウラさんと交信できる。

 

 そして、僕の『ヘリオース』は、独立部隊の中で……それこそ、戦艦級まで全て含めた中で、最も『次元空間』を渡るのに適正をもつ機体である。

 『ヘリオース』なら、アウラさんの周辺にあるゆがんだ空間をこじ開けて、ある程度まで近くに行ける、という見込みだ。

 

 ゆえに、その2つを組み合わせる。

 サラマンディーネさんをヘリオースに乗せ、可能な限りアウラさんの近くにまで行き、彼女がアウラさんからと交信して、打開策が何かないか聞く、というもの。

 

 それを、善は急げとばかりに、今日の午後、実行した。

 

 『空間をこじ開ける』というのは、なんというか不思議な感覚で……ものすごく粘度の高い泥の中をかき分けて進むみたいで、なかなか前に進めなかった。

 

 ……あと、言ってみればこれ、大嵐の中を進むようなものだったため、かなり機体が揺れまして……相乗りしているサラマンディーネさんが、とっさにしがみついてきたときに、柔らかい感触とかいい匂いとか『っくぅ……!』って切なげで苦しげな声(堀江〇衣ヴォイス)ががが……

 

 落ち着け、世界の運命がかかってるときにおかしなことを考えるな。彼女だって必死で真剣なんだぞ。消えろ邪念。

 

 色々苦戦しつつも、これ以上は無理、というところまで近づいて、あとはサラマンディーネさんにバトンタッチ。

 

 その結果、期待通りにアウラさんは、この状況に対処する方法を知っていた。

 ただ、その内容っていうのが、予想外にもほどがあるもので。

 

 

 

 『イスカンダルへ行け』

 

 

 

 どうして『宇宙世紀世界』の住人であったはずのアウラさんが、『新西暦世界』のイスカンダルのことを知っていたのかとか、そこにこの状況を打開する術が本当にあるのかとか、そもそもそれなら『新西暦世界』に帰らなければならないじゃないかとか、色々と疑問・懸念は尽きない。

 

 それでも、確かに示された、クモの糸にも等しい可能性を目指して、僕たちは向かっていくことになったのだった。

 

 

 

 

 

追記

 

 これは、皆に報告したほうがいいことなのかどうかわかんないけど……なんとなく、言わない方がよさそうな気がしたので、僕1人の胸の内にしまっていることがある。

 

 サラマンディーネさんがアウラさんと交信している最中のことだ。

 なんと、というかなぜか……アウラさんが、僕にも話しかけてきたのである。

 

 話というか、一方的にメッセージを送信してきた、みたいな感じだったんだけどね。頭の中に、声……というよりは、彼女の『意思』がそのまま響き渡ってきたみたいな感じで。

 

 そして、その内容っていうのが、どうにも……

 

 

 

 

 

『あなたが本来の力を使えれば、『イスカンダル』に行く必要もなかったはず』

 

『しかしそれは、確かに……ない方がいい、使うべきではない力であるのも事実』

 

『今のあなたには、私が何を言っているのかはわからないでしょう』

 

『ですがもし、この先、あなたが本当の力を取り戻すようなことがあれば』

 

『その時は、その力の使い方だけは間違えないで』

 

『そうなってしまったら……きっと、私でも止められないから……』

 

 

 

 

 

 ……なんだかなぁ……不吉というか、不穏というか……そんな感じの言葉を、一方的につらつらと並べられてしまった。

 

 

 

 



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第63話 邂逅

【▽月_日】

 

 鉄也さんの案内で行った先にあったのは、なんと『科学要塞研究所』だった。

 

 ……え、これって確か、光子力研究所の地下にあったんじゃなかったっけ? ジャパニウム鉱石を守るために作られた、『光子力の光子力による光子力のための』研究所だったよね? てか、ミケーネ騒動の時、そこに確かにあったよね。なんでこんな、海の近くにあるの? 移設したの?

 

 あれとは別物? もう1つの科学要塞研究所? マジですか。

 

 しかも、鉄也さんが『会わせたい人がいる』と言って連れてきたのは……なんと、甲児君の父親である、兜剣造博士。そして、母親である錦織つばささんだった。

 

 というのも、この2人はどうやら、この世界における鉄也さんの協力者の筆頭であり……あのマジンエンペラーGを作ったのもこの人たちらしい。すごいなそりゃ……頼もしい。

 

 んで、そんな人達と僕らが何のために面会、ないし合流したのかというと、彼らなら僕らが『新西暦世界』に戻る術を知っているかもしれないから、ということらしい。

 アウラさんの言う通りにイスカンダルに行くためには、まず大前提として『新西暦世界』に戻る必要があるからな。

 

 先の会議のために合流していた面々と力を合わせて、兜博士達はその方法の模索に入るらしい。すでに輪郭は出来上がってるそうなので、あとはそれを確実に行使できるように肉付けをしていくだけだそうだ。

 その間、僕達は待機ということになるが……ただそうしているだけじゃ時間がもったいないので、色々と動かせてもらうつもりでいる。

 

 僕も元々、この部隊の補給担当っていう立場もあるわけだし、今後のことを考えれば、物資なんていくらあっても困ることはないんだから。

 

 そんなわけで、僕も少し前までと同じように、割と頻繁に『アルデバル』でパラレルボソンジャンプを使い、『西暦世界』に戻っている。

 

 ここんとこしばらく『サイデリアル』を空けてしまったので、その分の仕事もしなきゃいけないのと……ここから先の、おそらくはこれまでで最大規模の作戦に向けて、物資その他を手配しておくために。

 

 何せ、行く先は『イスカンダル』……新西暦世界の地球から見て、16万光年以上の彼方だ。往復32万光年以上の道のりとなると、ワープを繰り返しても相当な長さになるはず。

 

 ……というか、そもそもヤマトはその地球を救うために、1年以内に戻ってくるっていうつもりで旅に出たんだっけな……その目的から見れば、今現在、大幅に足止め食ってる最中なわけで。

 ずっとほったらかしだったそっちの事情にも、そろそろ目を向ける時が来たのかもしれない。

 

 近々、これまでにない規模で、大きく動くことになりそうだ。

 

 

 

【◇月〇日】

 

 しばしの待機期間。独立部隊の面々は、各々のやり方でその時間を過ごしている。

 

 昼も夜もなく訓練に明け暮れ、戦いの腕を磨こうとする者。

 

 やってくるであろう一大決戦を前に、家族や友達に会いに一度故郷に帰る者。

 

 同じく故郷に帰りつつも、それはある種の身辺整理や決意表明、戦支度のためである者。

 

 その他にも様々な形で、しかし総じて皆、これから始まる大一番の準備のために時間を使っている者がほとんどだった。

 

 その中でも、『西暦世界』に用がある人は……頻繁にそこの世界に行き来している僕の『アルデバル』を、うまいこと利用していたりする。

 

 ほぼ1日1回ペースで行き来するから、行くときに自分も一緒に乗って行って、用事を済ませて、帰るときに一緒に帰ってくる、という形だ。タクシー……っていうよりは、送迎バスだな。

 

 ジルやエルシャは、アルゼナルに行って様子を見たり、幼年部の子供たちと遊んであげたりしてるし、舞人社長は扇風寺の本社に行って仕事をしたり、浜田君やサリーちゃん達に会ったりしているようだ。

 

 アキトさんやユリカさんなんかも、ミスマル中将と話すために何度か戻ってるし。

 彼らはその気になれば『ナデシコ』で戻れるけど、燃料とか整備費用の節約のためには、乗り合わせで一緒に行った方がいいだろうってことで。ますます飲み会の送迎みたいである。

 

 それとは違う理由で、たびたび僕らと一緒に並行世界を行き来しているメンバーがいる。

 

 ミレーネルにミランダ、そしてココの3人だ。

 

 ミレーネルは僕の秘書だからまあ当然として……ミランダとココは、自分の機体である『デモンメイル』の調整や改良のためである。

 

 ミランダはすでに持っている機体を改良して、より扱いやすくするために。

 そしてココは、もうじき出来上がる新たな愛機の調整その他の追い込みのために。

 

 毎度『アルデバル』に乗って、『西暦世界』にあるサイデリアルの本社に行き、そこで色々と作業にいそしんでいるわけだ。

 ああ、言うのが遅くなったけど、ココに関してもジル指令に話をつけて、ミランダ同様『テストパイロット』としてサイデリアルで雇ってるので。

 

 なお、ココとミランダに関しては、突然僕があちこちに連れまわすようになったため、一時期『会長ってああいう趣味だったのか』と見られていたことがある。

 

 しかし、それも一瞬のことだった。

 なぜなら、ミランダとココは……パイロットとして相応の腕をきちんと持っていて、テストパイロットとしてきちんと仕事をしているから。

 

 開発部門の人たちからは、若い(というかむしろ幼い)のに大したもんだってほめていて、その話がすぐに社内に広まって、誤解は解けた。

 

 その代わりに……なのかどうかはわからないけど、2人は、特に人懐っこくて壁を作らない性格のココは、社内でマスコット的な扱いをされている感じである。

 

 ちょっとその辺を歩くと、いろんな人からお菓子とかお小遣いをもらって、すごくいい笑顔になって帰ってくる。めっちゃ可愛がられてるな。

 一緒にミランダももらってくるのだが、こっちはそういう扱いに慣れてないからか、困惑しながら帰ってきていた。

 

 まあ……いい感じに受け入れられているようで何よりである。

 ココ自身も、全力で外の世界を楽しめているようだし。まるで、いままでアルゼナルの中に押し込められていてわからなかった分を堪能しているようだ。

 その面倒を見ているミランダも、一緒に楽しむことはできているようだし。

 

 ……この風景を日常のものにするためにも、これからの未来、なんとかしなきゃいけないな、とふと思った。

 

 

 

【◇月×日】

 

 …………ちょっと今日、衝撃的な体験をしてしまった。

 

 いや、別に何か悪いことがあったわけじゃない……と、思うけど……いやでも、すぐにそう判断していいものか……

 かといってこんなこと、誰か他の人に相談できるようなことでもないし……ううむ……

 

 ……いつもと同じように、順を追って整理していこうか。そのための日記だ。

 

 

 

 ここ最近、僕は『サイデリアル』の業務で結構長い時間、机の上で仕事をしていた。

 

 このところ、独立部隊に参加するために、かなり長い期間留守にしてたからね。その分の埋め合わせと……これからさらにまた留守にすることもあって、その分の仕事もしようと思って。

 

 社員たちは、気前よく『気にしないで、頑張ってきてください』なんて言ってくれるけど、僕にも創業者の意地みたいなものもあるわけで。

 皆で一緒になって作り上げ、大きくしてきた会社なんだ。確かに独立部隊の皆のことも大事だけど、だからってこの会社をないがしろにするなんてことはあり得ない。

 

 しかし、ちょっと最近は頑張りすぎてしまったようで……今日の昼間、キーボードを叩いている最中に居眠りをしてしまった。

 

 『おいこら』とミレーネルがぺしん、と頭をたたいてくれて、はっとして見てみると……PCの画面上に『あああああああああああああああああ(以下略)』と無数の『あ』の文字が並んでいた。……キーを押しながら寝落ちした結果らしい。あるある。

 文面の99%が『あ』になってしまった書類を修正した後、思い切って仮眠をとることにした。

 

 うちの会社には、社員達が効率よく仕事をするために、仮眠室やサロン、カフェスペースなんかの設備も充実させてある。

 しかし、さすがにそれを僕が使うわけにはいかない。一応、こんなんでも肩書は『会長』なので、一般社員が緊張してしまうからだ。アットホームな社風が売りとはいえ、限度はある。

 

 会長室に隣接して設けてある僕の私室に、それ用のスペースがきちんとあるので、そこで横になって、ひと眠りしようかと思ったんだけど……ちょうどその時、今日の分の仕事を終わらせたココとミランダが遊びに来たのである。

 

 2人は僕がこれから仮眠をとるところだと知ると、ミランダは『じゃあお邪魔ですね』と帰ろうとしたんだけど、何を思ったかココが『一緒に寝る』と言い出したのである。びっくりした。

 

 その表情からは、何も変な意図は微塵もなくて、ただ仲のいい友達(っていう認識。一応は雇用者なんだけどね)である僕やミランダと一緒に寝たいっていう理由と……単純に仮眠室のベッドがふっかふかで豪華だから寝てみたいっていう興味からだったようで。

 あと、ミランダやアンジュとは一緒に寝たことあるけど、僕とは初めてだからって。

 

 いや、そんなのは当たり前でしょ、仮にも男女で……っていうか、君、ミランダはともかくとして、アンジュと一緒に? え、マジで?

 パジャマパーティー感覚? いや、だとしても度胸あるな……。

 色々と負い目があるがために断り切れないアンジュの苦笑が目に浮かぶ。その隣で笑いをこらえていたであろうヒルダとかサリアも。

 

 どうにか断ろうとしたんだけど、純粋で無邪気な子供って厄介だな……

 

 結局、僕用仮眠室にはベッドが2つあるので、僕とは別なもう1つの方のベッドを使うってことで妥協して、そのまま眠った。

 

 眠ったんだけど……ウトウトしていたところで、なんか僕の布団のあたりにゴソゴソともぐりこんでくるような感触があった。

 

 ああ、ココの奴まだあきらめてなかったのか……なんて、寝ぼけて3割くらいしか働いてない頭で思ったものの……もうなんかちょうど寝入る所で、注意する気力もなかったので、いいやと思ってそのまま放っておいた。

 ……起きた時にミレーネルかミランダあたりにびっくりされて、お説教されるかもしれないけど、それはもう仕方ないと思うことにしよう。何、相手はココだ、変なことにはなるまい。

 

 そんな感じのことをうっすらと考えて、そのまま眠りに入って……

 

 

 

 

 ……それは、起こった。

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

(……どこだ、ここ?)

 

 気が付くと……宇宙にいた。

 

 ……うん、意味が分からない。

 意味かが分からないけど、そういうしかない。実際にそうなんだから。

 

 上下左右前後、どこを見てもそんな感じの空間が広がっていて……うん、『下』もなんだ。

 地面とか、床みたいなものもない。ないのに、そこに……宇宙に、僕は、立っている。

 

 そして、この空間にいるのは……僕だけではなかった。

 もう1人、いた。

 

 ふと気配を感じて、振り向くと、そこには……

 

「……っっっ……!?」

 

「ふむ……不思議なこともあるものだね。私としては、まだ君に会うつもりはなかったんだが……ああ、なるほど、テンプティの因子あたりが作用したかな? さすがにこれは予想外だ」

 

 あまりの驚きに、心臓が止まるかと思った。

 そこにいたのは、よく知っている……しかし、一度も会ったことはない、1人の男だった。

 

 肩のあたりまで伸びた、ふわりと広がる鮮やかな金髪。

 

 舞台衣装かと思えるほどに華美な、しかし荘厳さを感じる装束。

 

 背中から生えた、天使のそれを思わせる一対の翼。

 

 そして……この世のすべてに『喜び』を覚えているかのような、爽やかな笑み。

 

 ……『アスクレプス』が、そして『ヘリオース』が実在したんだから、当然……いつかはこの人に会うことになるかもしれない、とは思っていた。

 けど、それにしたってこうもいきなりだと……心の準備ってものができていないわけで……

 

 いや、そんなことを言っても仕方ない。こうしてもう会ってしまった以上は……きちんと、話すことを話さなければならないだろう。

 

 そう、覚悟を決めて……僕は、目の前にいる彼の目をきちんと正面から見て……その名を呼んだ。

 

 

 

「は……初めまして。お会いできて光栄です……聖アドヴェント

 

 

 

「こちらこそ、会えて嬉しいよ、星川ミツル君。多元世界から零れ落ちた、ソルの残照と共に在る者よ」

 

 

 

 



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第64話 アドヴェントの祝福

 

 

 『喜びのアドヴェント』

 あるいは、『聖アドヴェント』

 

 スパロボZ時獄篇、連獄篇、そして天獄篇における最重要キャラクターの1人であり……Zシリーズ全てを通してのラスボスたる存在。

 

 全宇宙・全並行世界の頂点に立つ存在『御使い』の1人にして、膨大な次元力を完全に制御することにより、呼吸をするように奇跡を起こし、人知を超えた力をふるう絶対強者。

 その力たるや、生身で機動兵器をたやすく圧倒し、表現すら難しいほどの長い距離を一瞬で移動し、人の心や記憶を思うがままに改ざんし操ることができる……死すら超越した永遠の存在。

 

 天獄篇最終盤では、新たなる『至高神』を作り上げ、その力をふるうことにより、単独で銀河そのものを終焉させることすら可能なほどの存在となった……そんな男が、今、目の前にいる。

 

「そう身構えなくてもいいよ、私は別に、君を害する目的でここにいるのではないからね……むしろ、こうして君と対面することになったこと自体、想定外と言ってよかった」

 

「ご配慮いただいてどうも……けど、それにしてもまずは……謝ったほうがいいですかね?」

 

「謝る? それは、どうして……いや、何に対してだい?」

 

「それはもちろん……『ヘリオース』を勝手に使ってしまっていることに対して、です」

 

 思い返せば……もう2年以上も前になる。

 この世界……じゃなくて、『新西暦世界』に僕が転生した時、なぜか僕が乗っていた機体。

 あの時はまだ『アスクレプス』で……いや、今も通常モードとしてはそれだけど。

 

 その時から、自分のものであるかのように、僕はずっと……好き勝手にあれを使っていた。

 

 戦闘のため、移動のため、さらには、次元力の研究や戦艦その他への補助動力としてまで……本当に便利に使っていた。

 自分のものではない、あくまでなぜかそこにあった、拾った機体であるにも関わらず。

 

 それどころか、最近はもう『一時的に借りている』なんて意識すら、うっかりなくなってきていたように思えるし。

 転生したばかりの頃はまだ、それに対して、本来の所有者であるアドヴェントに対して、悪いとも思っていたし……さらにちょっと失礼なことを言えば、こんなことをして後で怒られるのが怖いとも思っていた。……怒られるどころか消されるのでは、とも。

 

 そんな感じのことをきちんと謝罪させてもらったのだが、アドヴェントはそれを聞いて、きょとんとしたような表情になっていた。

 

 かと思えば、くすくすとおかしそうに笑ってみせて、

 

「なるほどね。やれやれ、そんな風に考えていたのか、君は。まあ……君の境遇を鑑みれば、ある意味仕方のないことではあるのかな……見当外れとはいえ」

 

「……はい?」

 

 見当はずれ? 何が?

 

 今度は僕がきょとんとした顔になっていると、アドヴェントは『いいかい?』と話し始めた。

 

「まず大前提として、私は君がヘリオースを奪ったとは思ってはいないし、怒ってもいない。そもそも実際に君は私からヘリオースを奪って使っているわけではない。あのヘリオースは、正真正銘、君のための機体なのだからね」

 

「え?」

 

 どういう意味、と尋ねる前に……アドヴェントの背後の空間が揺らいで……『それ』は、現れた。

 

「私の機体は……ほら、ここにある」

 

 巨大な黄金の体に、6枚の翼、人型でありながら、異形の魔物のようにも見えるそれは……

 

「至高神……Z……!」

 

「そう。かの『超時空修復』を経て、残った『消滅しようとする力』を因果地平のかなたに持って行った後も、こうして私とともにあり続けてくれている、私の相棒さ。本来の姿よりは、だいぶ小さくなってしまっているけれどね。そして、これがここにあるということは……わかるだろう?」

 

「……じゃあ、僕の乗っている『ヘリオース』は……『至高神Z』のもとになったそれとは、別物……ってことですか?」

 

「そういうことだ。まあ、それでも、実は全くの別物、というわけでもないのだけどね……これに関しては、話がややこしくなるから省かせてもらうよ。……まだ、君が知るべきこと、知るべき時でもないからね」

 

 だから、とさらに話を続けるアドヴェント。

 

「君は君の思うように生き、思うように『ヘリオース』の力をふるえばいい。私に遠慮する必要なんてないからね……そしてそれは、私の望みであり、『喜び』でもある。そして……彼も、それを望んでいるはずだ」

 

 その言葉と同時に、僕の背後にも、空間の揺らぎが現れ……そこに、何度もともに戦った、僕の相棒が……もう、そう称することに何ら抵抗はなくなってしまった、『ヘリオース』がいた。

 機械のそれにしか見えない無機質な瞳……しかし、なぜか、僕はそれに見られているような感覚を覚えていた。

 

「君と彼なら、今、地球に降りかかろうとしている災いも……そして、その先に存在する真の敵も……きっと打ち砕くことができるだろう。始祖・アウラが言っていたように……君にはそれだけの力があるのだから。まだ、自覚することはできていないだろうけど……いずれ、君はそれに気づくことになる。そしてその時が、本当の意味で君とヘリオースが、この世界に誕生する時だ」

 

「どういうことですか? さっきから、何が何だか……言ってることが全然……」

 

「わからないだろうね……当然だ。だがすまないが、私はまだそれを君に教えることはできない。まだ……その時ではない」

 

「まだって、今まさに地球は……じゃあ、いつなら!?」

 

「君に、覚悟ができた時。あるいは、覚悟を決める時がきたなら……だろうね。そしてそれは、きっと、そう遠くない未来だ」

 

 そう言って、アドヴェントは爽やかに笑いながら……僕の頭に手をぽん、と乗せた。

 なぜか、その触れられているところから……暖かい何かが広がっていくような感触を覚える。

 

「臆することはない。君には、心強い仲間たちがいる……彼ら、彼女らがいれば、君はどれだけ強い敵が現れたとしても、戦っていけるだろうし……この先、全てを知り、力を手にしたとしても、その使い方を誤ることはないだろう」

 

「それも……アウラさんが言っていた……」

 

「……少しだけ、手を貸してあげよう。苦難の道と知りながらも、母星を救うために戦いの銀河へと旅立たんとする君に……君達に……どうか幸あれ」

 

 その瞬間、世界は光に包まれて――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……夢、か? いや、それにしては……」

 

 

 

 気が付くと、僕は……仰向けに寝ていて、見知った天井を見上げていた。

 サイデリアル本社にある、僕専用仮眠室の天井だ。

 

 体が重い……物理的に。

 

 見ると、僕に覆いかぶさるような形で、ココが爆睡していた。……男の布団の中に無警戒にまあ……いやまあ、手を出すつもりは全然ないけどね。

 あーあーよだれまで垂らして……気持ちよさそうに眠ってるなあ。

 

 この安眠具合、僕と一緒の寝床だからか、それとも彼女もともとこうなのか……あるいは、割と贅を尽くした高級寝具(低反発マットレスその他もろもろ)ゆえか……なんでもいいか。

 個人的には、一番最初のそれだとちょっと嬉しいけど。

 

 ココを起こさないようにベッドから出て、着衣を整えてから、会長執務室に戻る。

 その途中で時計を見ると、3時間くらい経っていた。ほんの少しの仮眠のつもりだったのに、結構がっつり寝ちゃったな。

 

 そこには、秘書であるミレーネルが待ってくれていたので、おはよう、と一言声をかけた。

 

 するとミレーネルも、おはよう、と返してくれる……かと思いきや、僕の方を向いて、何か言おうとして……そのまま固まった。

 え、どうしたの? 僕、何か変だった?

 

 あわてて確認してみるけど、きちんとさっき身支度は整えたし……何もおかしなところはない……はず。ネクタイもきちんとしめてあるし、社会の窓も開いてないし。

 

 そしたら、恐る恐る、って感じでミレーネルが僕の方を指さして……

 

「み、ミツル……そ、その髪、どうしたの?」

 

「え、髪?」

 

 髪……あ、もしかして寝ぐせかな? そんなすごいことになってるのか?

 

 手櫛でわしゃわしゃといじってみるけど……そんなでもない気が……いや、こういうのはきちんと目で見なきゃわからないもんだよな。

 ついでだから顔も一緒に洗おうかと思って、洗面台に向かった僕は、そこで鏡を見て……

 

 

「………………は?」

 

 

 なぜか、鮮やかな金髪になっている自分の顔を見て……絶句することとなった。

 

 え、ちょ、ナニコレ……ナニコレ?

 

 ヅラ? ドッキリ? ……引っ張ってみる……痛い、地毛だ。マジで僕の髪の毛だ。

 え、いやでも、今朝顔洗う時に洗面台で見た時には、間違いなく白髪だったはず……仮眠してる間に染まった……のか?

 

 だとしたら、原因は……

 というか、この澄んだ金色は……激しく見覚えが……

 

 

 

 ……あの、ちょっと!? アドヴェントさん!?

 一体コレ、何してくれた結果こうなったんですかねえ!?

 

 

 

 



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第65話 残された不安と、帰還へのカギ

 

 

【◇月△日】

 

 昨日の突然僕の髪が金髪になった一件は、色々な情報が社内外で拡散・錯綜した結果、『会長、大一番を前に大胆にイメチェン事件』として定着した。してしまった。遺憾である。

 

 遺憾であるが……理由を聞かれてもうまく説明できないうえ、その理由自体も僕の推測でしかないので……まあ、仕方ないと思うことにした。

 幸い、似合ってないってこともないようだったし。何人かはほめてくれたし。リップサービス込みだとしても。

 

 けどコレ……多分だけど、アドヴェントの……あの夢の影響だよね?

 いや、そもそもアレって夢だけど多分夢じゃないっていうか……間違いなく、あれは本物のアドヴェントで……そして何かあったというか、何かされたんだろうな。

 

 まあでも、別に何も体に……気になる不調とかはないようだし……ひとまず様子を見ることにした。案外ただの、不本意に起こったイメチェンで済むかもしれないし。

 望み薄? 知ってるよ。

 

 それより、あの夢だよ……なんか、気になることいろいろ言ってたよなあ……。

 

 本来の力とか、僕の覚悟とか……まるで、これから何か起こるかのような、不吉なことを……そして、それらに備えるために『少しだけ力を貸す』とかなんとか……

 

 そして、それらよりも地味に気になってるのが……『テンプティの因子』とか言ってなかった?

 

 ……待て待て待て待て、よく考えたらガチで聞き逃せないセリフだぞこれ!?

 あの夢の中では、目の前にアドヴェントがいることへの緊張とか困惑とかその他もろもろで聞き流しちゃったけど! こっちはこっちで十分に厄ネタだ!

 

 テンプティって……あの享楽主義者か!?

 Z世界に存在した『御使い』の1人、『楽しみのテンプティ』!? アドヴェント以上っていうか……4人の中で一番タチの悪い奴じゃないか! 嘘だろ、あいつまでいるとか言わないよな!?

 

 ……落ち着け、パニックになってもどうにもならない。

 それよりも状況を整理するんだ……最近こればっかりだな。

 

 ついでだ、僕の持っている知識……Z世界の『御使い』についても、今一度整理しよう。

 

 

 

 そもそも、『御使い』とは何か。

 

 彼らは、『スーパーロボット大戦Z』シリーズに登場する敵勢力の1つであり……全ての平行宇宙のあらゆる存在の頂点に立つ存在、として君臨していた……メタ風に言えば、ラスボスの勢力だ。

 

 全部で4人存在し、それぞれ呼び名は『喜びのアドヴェント』『怒りのドクトリン』『哀しみのサクリファイ』『楽しみのテンプティ』……『喜怒哀楽』の4つの感情を司る存在。

 

 その力はすさまじく、あらゆる次元、あらゆる並行世界のいかなる存在であっても、彼らを害することはかなわず、挑んできた者達はことごとく敗れ去り、散っていった。

 彼ら単体の戦闘能力に加えて、彼らは人造の神である『至高神ソル』により、次元力を自在に引き出し、制御することによって、時に死生の理すら覆し、時に無から有を生み出し、時に1つの銀河を丸ごと滅ぼしすらすることができた。

 

 それだけの力を持つ存在であっても、きちんとした倫理観を持っている存在であれば全然よかったんだろうけど……残念ながら、彼らは見事なまでにロクデナシだった。

 しかも、自分達にその自覚がない……所謂『自分が悪だと思っていない悪』。一番厄介なタイプである。

 

 彼らは自分達こそが絶対の存在であるという傲慢と独善の元、自分達以外の存在全てを見下していた。そのうえで、あらゆる並行世界を観測し、管理していた。

 

 彼らは、他の文明が成長し、やがて自分達のレベルにまで追いついてくることを認めなかった。一定以上のレベルに至った文明に干渉し、それ以上成長しないように抑圧した上で管理するか、そうでなければ滅ぼしてしまう。そんな傍若無人を繰り返してきた。

 

 そんな彼らはしかし、Z世界で勃発した『天獄戦争』にて、地球から旅立った主人公部隊との壮絶な戦いの末、4人中3人……ドクトリン、サクリファイ、テンプティが消滅。

 残った最後の1人であるアドヴェントは、自らの敗北と間違いを認め、全ての平行世界を救う『超時空修復』に手を貸した後、因果地平のかなたへ去っていった。

 

 

 

 ……『御使い』の説明についてはこんなところだが……今言った通り、御使いって連中は、最終的には改心?したアドヴェント以外は、超がつくくらいにタチの悪い連中なんだよ。

 

 その中でも一番タチの悪いであろう奴が、さっき言った通り『楽しみのテンプティ』だ。

 

 彼女は全ての行為を自分にとっての遊びと捉えて好き勝手するため、『楽しそうだから』というだけの理由で平然と多くの人の命が奪われたり、星そのものが大変なことになるようなことをやってのけたりする。

 Z世界では、ドクトリンと一緒になって、積み木感覚で銀河を消し飛ばして滅ぼしたり、滅びの運命に決死の覚悟で人類が抵抗しているところに、その障害になる敵機をばらまいて、右往左往する人々を眺めて『楽しんで』いた。

 

 そんな彼女の『因子』……不安しかない……。いったいどういうことなんだ……?

 

 幸いと言っていいのか、彼女本人が出てきてるって感じじゃないけど……いやでもなあ……。

 

 気になる……せめてそこんとこだけでも教えてほしかったよ、アドヴェントさん……。

 

 

 

【◇月□日】

 

 不安はあるけど、検証も調査もできない以上はどうしようもないので、ひとまず務めて気にしないことにした。

 そんな気分を紛らわすために一層仕事に打ち込んだり、訓練に力を入れたりしている。

 

 そんな感じで過ごしていた僕に、昼頃通信が入り……『科学要塞研究所』に呼び出された。2つあるうちの、『もう1つ』の方に。

 

 待っていたのは、ここの主である兜博士と……沖田艦長や真田副長、さらにブライト艦長やルリ艦長、スメラギさんといった、独立部隊の意思決定レベルの方々だった。

 全員ではなかったようだけど、主だった面々はそろっていて……『え、何?』ってめっちゃ緊張した。僕、何かやらかしちゃったっけ、と。

 

 しかし幸い、そこで切り出されたのは 責とか諮問の類ではなく、協力要請だった。

 この先に待っている戦いに向けて、全面的に『サイデリアル』に、そして僕自身にも力を貸してほしい、と。

 

 ……え、何ですか今更? と、正直思ってしまった。

 

 だって僕、少し前からすでに『独立部隊』の一員として協力させてもらってたと思うんだけど……え、僕の勘違いでしたか? だとしたらショックなんだが。

 ……あ、違う? きちんと仲間? ああ、よかった……

 

 しかし、だったらどういう意味でそんなことを切り出されたのかというと……どうやら、僕の『サイデリアル会長』としての立場に配慮したものだったようだ。

 

 知っての通り、と言えばいいのか……『サイデリアル・ホールディングス』は、『西暦世界』に本社を、さらに『宇宙世紀世界』にも支社を置いている『多次元企業』だ。

 こと『西暦世界』においては、立派に大企業の仲間入りをすでに果たすまでに成長した、割とその名を知らない人はほとんどいないレベルの存在だったりする。

 

 そして、僕はそこの会長であり……つまりは、僕の拠点というか本拠地は『西暦世界』にあると言えるのである。

 

 しかし、今回独立部隊が目指すこととなるのは、そのいずれでもない『新西暦世界』の、さらに地球から16万8千光年のかなたにある、イスカンダルである。

 並行世界である上に、物理的にも距離の桁が違う、はるか遠い場所だ。

 

 沖田艦長達は、そんな途方もない場所に……二度と帰ってこれるかもわからない旅路に(もちろん戻ってくるつもりではいるだろうが、それでも万が一ということはあるので)、既に西暦世界に生活基盤を持っている僕を連れていくことに対して、酷だと思っていたらしい。

 しかしその上であえて、僕にも協力してほしいと言ってきたのである。

 

 なぜなら、兜博士達曰く、僕らが『新西暦世界』に行くための、次元の壁をぶち破るカギは……『ゲッター線』と『ヘリオース』にあるらしいのだ。

 

 その話を聞いて、僕がどう答えを返したか?

 そんなの決まってるじゃないか、二つ返事で了解させてもらったとも。

 

 ここまで、形は違えど苦楽を共にしてきた仲間たちを見捨てるなんてこと、僕の方からしても考えもしなかったからね。むしろ、『残れ』って言われてもついていくつもりだったし。

 ヤマトの帰還のために、僕やヘリオースにできることがあるっていうなら、なおさらだ。

 

 そう伝えた僕に、沖田艦長は『改めてその英断に感謝する』と言ってくれた。

 

 そして、手始めにというか……兜博士及び科学要塞研究所とは、技術協力から進めていくことになった。

 次元の壁を打ち破る方法を確立するために、次元力に関するデータを一部でいいので提供してほしいということだったので、その通りにさせてもらった。

 

 光子力やゲッター戦同様、便利で強力だけど危険なエネルギーでもあるので、扱いには細心の注意を払ってほしい、と伝えた上で。

 

 その見返りにじゃないけど、こっちはこっちで兜博士から色々と、主に技術面で協力してもらうことになった。

 

 実は、今サイデリアルで……というか、僕やミレーネルが極秘裏に作成を進めている、ある秘密兵器があって……その仕上げにちょっと手を貸してもらおうかと思ってるんだよね。

 もうずいぶん長いこと……それこそ、『アルデバル』や『アンゲロイ・アルカ』よりも時間をかけて作成に注力してるんだけど、規模が規模だけにまだ完成に至ってない奴があるんだよ。

 

 一応もう完成は見えてきているんだけど、最後の一押しに苦労してたんだが……この分なら、皆でイスカンダルに旅立つのに間に合うかもしれない。

 

 完成すれば、自分で言うのものなんだけど、滅茶苦茶大きな戦力になるはずだ。頑張ろう。

 

 ところで、この『科学要塞研究所』だけど……さっきちらっと触れたけど、どうやら光子力の他に、ゲッター線も扱ってるみたいなんだよね。

 いや、正確にはそれ以外にも、この『宇宙世紀世界』に存在する様々な技術について手広く取り扱って研究・開発を進めているそうだ。そこに今回、あるいはこれ以降、『西暦世界』の技術や、『次元力』も加わるかもしれないわけで。

 

 何を隠そう、あの『マジンエンペラーG』にも、光子力に加えてゲッター線の技術が使われてるんだってさ。

 すごいな、ロボットアニメ2大巨頭のハイブリッドかよ。そら強いはずだわ。……もしかして『G』って『ゲッター』の頭文字だったりするのかな?

 

 そんな『科学要塞研究所』では今、この先の戦いや、『新西暦世界』への帰還に関して、切り札となりうるあるものを作っているらしいんだけど……それが何なのかについては教えてもらえなかった。

 

 これは別に、僕らを信用していないとかではなく、誰に対してとか関係なく、情報を扱う範囲を最小限にしているのだそうだ。外部に漏れる可能性を、限りなく0にするために。

 そういうことなら仕方ない。協力もできないが、信じて頑張ってもらうとしよう。

 

 それ以外にも協力すること、やるべきことはいろいろあるだろうしな……さて、忙しくなりそうだ!

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

「どうやら連中、まだあきらめていないようだな。何かこそこそと企んでいるようだ」

 

「想定された事態だ。奴らの掲げる『正義』というのは、諦めの悪さがお家芸のようなものだからな……足掻くというのなら、それを踏みにじるまでだ」

 

 どことも知れない場所で、『時空融合』の主犯格と呼べる3人が顔を突き合わせて話していた。

 彼らは彼らで網を張っているのか、『独立部隊』の面々がこの状況の打開に向けて動き出していることを察知していた。

 

 しかし、レナードの報告にも、エグゼブは余裕たっぷりにそう言って見せる。

 自らの計画を妨害しようと動いている者がいると聞いても、まるで足元の虫けらが足掻くのを見ているかのように、微塵も動じた様子は見せない。

 

 それとは対照的に、眉間にしわを寄せて機嫌の悪さを隠そうともしない様子の男が、その斜め向かいに座っていた。

 しかし、ふん、と鼻を鳴らして立ち上がると、そのままどこかへ歩き去っていく。

 

「おや。どこへ行く、エンブリヲ?」

 

「どこでもいいだろう……連中が何かやるのをわざわざ待っていてやる義理もない。君の言う通り、さっさと踏み潰しに行こうと思っただけだ」

 

「わざわざ君の方から出向くのか? そう焦らずとも、時が来れば奴らは私達の前に現れるだろう。その時を待ってひねりつぶせば済むことじゃないか」

 

「そうかもしれないが、だからといってウロチョロと目障りな動きをする羽虫共を放っておくこともないだろう。……いい加減不快に思っていたところだ、身の程を知らない哀れな者達に、自分達に一寸の希望も残されていないことを教えてきてやる」

 

 吐き捨てるようにそう言い残し、エンブリヲはその場から搔き消えるようにいなくなった。

 

 その姿を見送り、エグゼブはやれやれ、とでも言いたげにため息をつき、レナードは何か不思議に思うような表情になってしばし虚空を見つめていた。

 

「……あいつ、あんな性格だったか? 初めて会った頃のエンブリヲは、敵と定めた者の抵抗やら何やらも含めて、笑いながら楽しんでいるような男だった気がするが……」

 

 そう、誰が何をやろうとしていても、『無駄な努力だ』と嘲笑し、見下し、余裕たっぷりに眺めて待って……それを踏みにじる。そんな男だったと、レナードは記憶していた。

 

 今のエンブリヲは、その、強者ゆえの傲慢はそのままに、余裕や悪い意味での寛容さが鳴りを潜め、代わりに1つ1つの物事にいらだって反応している。

 些細なことかもしれないが、その違いがレナードの目には不可解に映っていた。

 

 しかし、エグゼブには特に気にするほどのこととは思えなかったようで、軽い調子で『別に問題はないだろう』と言い切る。

 

「やることなすこと上手くいかずにここまで来たとなれば、苛立ちもするだろうさ。それに、私に言わせれば……君だって以前からすれば、随分性格が変わったと思うが?」

 

「……それもそうか」

 

 エグゼブの指摘する『変わった』きっかけになった、眉間の傷跡にふと指で触れながら、レナードは確かに考えても仕方のないことだと、エンブリヲの変化を気にするのをやめた。

 

 

 

 



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第66話 『秘密兵器』

 

【◇月▽日】

 

 本日、なかなかに激動の一日でした。

 

 しかし、決して悪い意味ではなく……むしろ、いよいよ僕ら『独立部隊』が、イスカンダルに向かって踏み出す始まりとなった日……と言ってもいいかもしれない。

 ……この『独立部隊』っていう呼称を使うのも、あるいは今日が最後になるかもね。

 

 日中、まだ日も高い時間のうちに、突如『科学要塞研究所』に警報が鳴り響いた。

 

 何かと思って窓の外を見てみれば、そこにはなんと……すさまじく巨大なドラゴンみたいなメカが浮いて、咆哮していた。

 

 ……っていうかアレ、真ゲッタードラゴンでは!?

 全体像が見えるまでにしばらくかかったけど、上にゲッターロボみたいなの乗ってるし。

 

 まさかと思って聞いてみれば……予想通り、兜博士が作っていた秘密兵器っていうのが、アレだったらしい。早乙女博士が作成していた『真ドラゴン』を改良して作り出していたそうで。

 しかし今、それは何者かの手によって奪われてしまっていた。

 

 その『何者か』がいったい誰だって話なわけだけど……出ました、エンブリヲ。どうやったのか知らないが、兜博士が徹底的に秘匿していたアレの存在を察知して強奪したらしい。

 

 しかも、奴と一緒に……死んだって聞いていた早乙女博士まで現れた。

 直接見た感想を一言。肩幅がすごい。研究者とは思えないガタイだ。

 

 エンブリヲいわく、彼もエンブリヲによって操られているようで……そのまま真ゲッタードラゴンに乗り、こちらに攻撃を仕掛けてきた。

 

 さらにそこに、なんとミケーネの連中まで現れて襲ってきた。ZERO騒動の時に逃げ出して以来だけど、真ゲッタードラゴンと同時に相手するのはさすがにきついか……って、皆身構えた。

 

 が、結果的にはその懸念は半分以上取り越し苦労となった。

 

 というのも、それぞれにとって宿敵と言っていい相手が現れたことで、竜馬さんと甲児君の戦意が天元突破してしまい、それぞれ真ゲッタードラゴンとミケーネの連中に猛攻撃を開始。

 

 甲児君なんか、開幕間もなくして『マジンガーZERO』に変身して大暴れしていた。ミケーネの神々も、いや、うん、強いんだろうけど……普通に蹴散らされていた。

 しかも今回は、僕ら仲間たちのバックアップもあったわけだから、なおさら一方的だった。

 

 そして早乙女博士の方だが……なんと彼、操られていませんでした。

 あくまでエンブリヲに利用されているフリをして、あえて竜馬さん達の前に障害として立ちふさがることで、その成長を確認しようとしたらしい。

 

 真ゲッタードラゴンに乗った自分を倒すほどの腕を見せた竜馬さん達を『見事だ』と認め、エンブリヲの目を盗んで乗り込んでいた號達にドラゴンを託した。

 

 ……で、まあ、当然……いつの間にか自分の手駒である(とすっかり騙されて思っていた)早乙女博士にきれいに裏切られたエンブリヲは、当然のごとく激怒。

 

 しかし残念ながら、彼にとっての災難は、まだまだ終わってはいなかった。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

「ふざけるなよ早乙女博士……貴様、私をだましていたのか……!」

 

「騙す? ああ、そうだとも。貴様が間抜けにもあの程度の洗脳で私を利用しようとしていたようだからな、体よく利用させてもらったにすぎん!」

 

「せっかくこの私が、君の最高傑作を、有意義な形で利用してやろうと思っていたものを!」

 

 自分の思い通りに動くと思っていたはずの早乙女博士が、明確に自分に反旗を翻し、あろうことか『真ゲッタードラゴン』をそのまま、独立部隊側の戦力として託すと言い出した時、エンブリヲは、逆に利用されたことを知り、怒りに顔をゆがませた。

 

 しかし、それを聞いた早乙女博士は、こらえきれないとばかりに大口を開けて笑って見せた。

 

「最高傑作だと? ふ……ふははははははっ! 笑わせてくれるわ!」

 

「何を笑っている……一体何がおかしい!?」

 

「これが笑わずにいられるか! エンブリヲ、貴様に科学者を名乗る資格はないな!」

 

 その声に乗っていたのは、エンブリヲに対する、心の底からの侮蔑と嘲笑だった。

 

「生物は絶えず進化する! それと共に、その生み出すものも進化する!  最高傑作などという通過点で満足している男に、ゲッター線の真髄は永遠に理解できまい!」

 

 物騒極まりない、しかしこの上なく的を射ているその言葉に、兜博士や真田副長を始めとした、『研究』という分野に覚えのある者達は、まさしくその通りだと納得させられ……しかし、1000年以上の時を自分の箱庭の中で過ごし、自分の想像を超える可能性というものを排除し続けたエンブリヲにだけは、それは理解できなかった。

 結局ただ、調律者たる自分に歯向かう愚か者としか見ることのできないエンブリヲは、不快感を隠そうともしないままに、ぱちん、と指を鳴らす。

 

「従わないというのなら仕方ない……ここでそのガラクタの龍とともに朽ち果てるがいい」

 

 エンブリヲの周囲の空間がゆがみ、ミスルギ皇国でも見た、様々な無人機の軍団が姿を現す。

 その中には、サリア達メイルライダーにとって、ある意味見慣れた機体も混じっていた。

 

「なんだありゃ、グレイブか?」

 

「しかも、未改造のノーメイク……」

 

「パラメイルにもAIを搭載して、自分の軍勢に組み込んだ、ってことかしら?」

 

「はっ、たかがグレイブなんざ持ってこられたところで怖くなんかねえよ! 撃ち落としてスコアに変えてやらあ!」

 

「そうだね……アレくらいなら私でもどうにでもできそう」

 

 ロザリーとクリスが威勢よく言うが、エンブリヲは笑みを深めて言った。

 

「見た目で判断するのはよくないな……これらは私が手を加えて改良した、いわばラグナメイルの量産型と言ってもいい機体だ。当然、そこらのパラメイルなどとは比較にならない性能を持っている……私を裏切ることの罪深さを、たっぷりと味わうといい」

 

 その言葉に、『ラグナメイル』の凶悪なまでの性能を知る面々の間に、一気に緊張が走る。

 

 エンブリヲの言葉が本当なら、確かに油断ならない相手だ。

 量産型ということで若干ダウングレードしているかもしれないが、それでもラグナメイルの戦闘能力は、そこらの機とは一線を画すレベルであると、戦ったことがある者ならばよく知っている。

 

 それでもなお、逃げようとする者、怖気づく者は1人もおらず、全員が目の前の敵に立ち向かう姿勢を崩さない。そのこともまた、エンブリヲを苛立たせた。

 

 不愉快な気分のままに、エンブリヲは『行け』と合図を出し、戦いが始まる。

 

 エンブリヲの言葉通り、無人機のグレイブ達は、見た目からは想像もできないほどのスペックに押し上げられていて、小さい機体サイズを生かした回避と攻撃のコンビネーションで攻め立てて来て、自軍部隊を苦しめる。

 そして、同様の改良は、程度は違えど他の無人機にも適用されているようで……全体的に戦力が向上しているのを感じ取ることができた。

 

 そしてそれに加えて、主の敵討ちに燃えるミケーネの神々や、その手勢である魔物『ケドラ』も合わさって襲ってくるのだから、片時も気の休まる暇などない。

 

 それでも、ここまで数多の激戦を潜り抜けてきた独立部隊の面々は、一歩も引かずその猛攻を受け止め、返り討ちにする戦いぶりを見せる。

 

 縦横無尽に飛び回るグレイブやモビルスーツには、同じくモビルスーツやラグナメイルを駆る面々がその相手をし、撃ち落とし、切り伏せる。

 

 巨体の馬力を生かして攻め立ててくるミケーネには、マジンガーZEROとマジンエンペラーGを中心とした、互角以上のパワーで渡り合えるスーパーロボット勢が務めて迎撃。

 

 地上から攻めてくる敵勢力に対しては、レーバテインをはじめとしたASに加え、陸戦仕様のモビルスーツがその相手をした。

 

 そんな戦いの中、また1機、無人機のジンクスを撃ち落とした総司は、先ほどから気になっていた疑問が再び頭をよぎり、思わずといった様子でつぶやいた。

 

「この忙しい時に……ミツルの奴、どこで何してんだ?」

 

 ミツルと、その愛機ヘリオース。

 この部隊の中でも、最大戦力の1つに数えていいであろう彼らが……この戦いには参加していない。出撃の際、既にいなかった。

 

 いや、ミツルだけではない。彼の秘書であり、先の戦いでは『アンゲロイ・アルカ』に乗って獅子奮迅の活躍を見せたミレーネルや、彼がこのところよく面倒を見ている2人のメイルライダー……ココとミランダもいない。

 

「4人そろって遅刻ってわけじゃないだろうし……ナイン、何か知ってるか?」

 

「特に連絡は受けていないのですが、このところ、何やら新兵器の開発を進めているとのことでしたので……その調整ではないでしょうか。ロールアウト間近だという話でしたので、この戦いに投入するつもりで最終調整をしているのかもしれません」

 

「そうかい。まあ、間に合えばいいが、その前に……って、やべえ!」

 

 総司の視界の端に、無人機達と戦っている自軍部隊の横を猛スピードですり抜けるようにして、その背後にある『科学要塞研究所』に向けて飛翔していく複数の影が見えた。

 

 機体サイズはかなり小さいが、ASでもパラメイルでもない。あれは……

 

「あれは……あの赤い機体は!」

 

「北辰か!」

 

 深紅の機体『夜天光』と、それに付き従うように飛ぶ『六連』。ジンシリーズの小型発展機。

 

 アキトの怨敵である北辰と、その部下達である『北辰衆』の乗るそれらの機体が、明らかに『科学要塞研究所』を目指して高速で飛んでいく。

 

「貴様、やはり生きていたのか……」

 

「無論だ。あれしきのことで死ぬはずもなし……最も、一度は全てを失った身なれば、今は神気取りの優男の飼い犬に甘んじている有様ではあるがな」

 

「あんたら、今度はエンブリヲについたのね……あーもう、ろくでもない連中同士がつるむとか、ますますタチが悪くなっちゃって……」

 

「類は友を呼ぶ、っていう奴だろうぜ……ってそんなことより、誰かそいつらを止めろ! 研究所がやべえぞ!」

 

 ヒルダが叫ぶのに応えて、近くにいたメンバー……グレートマイトガインと轟龍がそれらの機体を止めにかかるが、機体のサイズ差と機動性脳を生かしたトリッキーな動きでかく乱され、突破を許してしまう。

 その際、一瞬ではあるが鍔迫り合いに持ち込んだ、ジョーと北辰の間に、とある会話が交わされていたのだが……それが原因でジョーが冷静さを失い、結果として突破を許してしまったことは、戦闘中に他の者が知ることはできなかった。

 

 これからの計画の要となる真ゲッタードラゴンを守ることができても、『科学要塞研究所』に被害が出て準備に支障が出るようなことになれば、やはり多少なり支障は出てしまう。

 

 ハラスメント攻撃とも呼べるような意図で襲い掛かる北辰達だが、その眼前の空間が突如歪む。

 

 その現象を見た瞬間、北辰は即座に何が起こっているのかを看破した。

 

(ボソンジャンプ反応……なるほど、テンカワ・アキトか)

 

 単独でボソンジャンプが可能な、アキトの『ブラックサレナ』なら、どれだけ距離が離れていようと即座にその距離をゼロにすることができる。他のいずれの機体でも間に合わない支援も、彼ならば可能だった。

 

 しかし、北辰とてそれを予想していないわけではない。

 アキトがこうして転移して現れた時には、自分が相手をし、残る部下達の『六連』で研究所を攻撃する、というプランを既に用意していた。

 

 だが、身構えると同時に……北辰は不思議なことに気づく。

 

(……反応が……他にも……?)

 

 アキトの『ブラックサレナ』が現れ、自分の乗る『夜天光』との鍔迫り合いに入り……ここまでは予想通り、と思った次の瞬間。

 

 自分達の横をすり抜けていった、部下の機体の進む先に、さらに2つ……『ボソンジャンプ』の反応が出現したのである。

 ちょうど、『六連』の行く手を阻むような位置で、今まさに空間がゆがみ始め……それが収まった時、そこには、見慣れない機体が姿を現していた。

 

(……? あれは……パラメイル、か? いや、あの緑色の方は、エンブリヲに聞いていた、特殊な機体と特徴が一致する……ならば、もう一機は……)

 

 大きさ、及び見た目は、確かにパラメイルだった。

 しかしその実態は、それよりも数段上……ラグナメイルと同等かそれ以上の性能を誇る、似て非なる機体……『デモンメイル』である。

 

 片方は、ミスルギ皇国での決戦の際にも現れ、ミランダが搭乗した深緑色の機体。手には、長銃型の汎用武装『ガナリー・カーバー』。

 これに関しては、エンブリヲにもたらされたデータの中にあったために、北辰も知っていた。

 

 そしてもう1つは……それらのデータの中にはなかった、銀色の機体。

 デザインはほぼほぼ、ミランダの機体と同じように思えるそれは、しかしそれよりも装甲が重厚になっているように見えた。手に持っている武器も、銃ではなく、やや細身の剣だ。

 そして、それに乗っているのは……

 

「よっし、何とか間に合ったね! じゃあ、行こうミランダ! 私達の2人の、今度こそホントのデビュー戦だ!」

 

「そうだね、ココ。出遅れちゃった分、きっちり活躍して取り戻さなきゃ」

 

 ミランダの乗る、深緑色の機体が、手にした銃『ガナリー・カーバー』を構えて、突撃して来る『六連』に狙いを定める。

 

 ココの乗る銀色の機体が、手に持った剣『MVS(メーザーバイブレーションソード)』の切っ先を向けると同時に、その刃が赤く染まる。

 

 新たな力を手にした少女達は、今度こそ、自分たちの手で、守りたいものを守り、平和な世界を勝ち取るために……その障害となるものを排除するために、自分の意思で戦場に飛び出した。

 自分達で考え、そして名付けた……新たな相棒と共に。

 

「パラメイル第一中隊所属……ミランダと、デモンメイル『ラピュセル』!」

 

「同じく、ココと『アントワネット』!」

 

「「行きます!!」」

 

 

 

 



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第67話 『ラピュセル』と『アントワネット』

 デモンメイル『ラピュセル』と、同じく『アントワネット』は、ともに『サイデリアル』が作成した、パラメイル系列の機動兵器であり……しかしながらその性能は、ラグナメイルに匹敵、あるいは凌駕すらするそれを誇っている。

 

 その一方で、両機は設計思想の基礎は同じであるが、搭載されている武装や、想定されている戦闘スタイルが全く異なるため、一概に同じシリーズにまとめていいものかと、たびたび開発部局の中では話題になった機体でもあった。

 それらはいずれも、パイロットであるココとミランダに合わせて作成されたがために生まれた差である。

 

 そして2つの機体は、今、ロールアウト早々に、その戦闘能力をいかんなく発揮し、格上であるはずの北辰衆の乗る『六連』を相手に、一歩も引かない見事な戦いを見せていた。

 

「ぬぅっ……小娘が、ちょこざいな!」

 

「少しばかり性能のいいおもちゃを手に入れた程度で調子に乗っているとどうなるか、教えてくれようぞ!」

 

「さっきからそう言ってるけど、おじさん達全然『アントワネット』についてこれてないじゃん。ほら、次行くよっ!」

 

 言うが早いか、急加速して『六連』に迫る、ココの『アントワネット』。

 全身各所に備え付けられたスラスターが火を噴き、秒ですさまじい速さに加速して、横向きに構えた剣で切りかかる。

 

 北辰衆はこちらも、『六連』の機動性能を生かした、素早くトリッキーな動きでかく乱しようとするが、そのかく乱の動きそのものに普通に追いついてきて両断しようとする『アントワネット』の剣が迫り、あわてて錫杖で防御し……失敗した。

 

 手にした錫杖は、アントワネットの『MVS』の超振動する刃によってたやすく両断され、その刃はそのまま『六連』の機体を深く切り裂いた。

 

「なっ、ぐぅ……不覚ッ!」

 

 コクピット周辺に張られたフィールドに守られ、どうにか致命傷は避けたものの、駆動部にまで少なくないダメージが入り、たちまち1機が脱落となる。

 

「よし、次……っと!」

 

 その『アントワネット』に、別な『六連』が2機同時に襲い掛かる。

 

 ココは少し慌てつつも、1機が振り下ろす錫杖を剣で受け止め……ようとしたところで、錫杖が動きを変えた。フェイントをかけた動きで、がら空きになった胴体めがけて突きが見舞われる。

 が、ココはそれに素早く反応し、機体をひねるように動かして蹴り上げてそれを防ぐ。

 

 そしてもう1機は、中距離からミサイルランチャーを放ってきたが、今度は剣を持っていない方の手をそちらに向け……その瞬間、『ラムダ・ドライバ』で発生させた力場が、ミサイルはもちろん爆風まで含めてそれを防ぎ切った。

 

 お返しとばかりに、その腕に仕込まれていたビーム砲を放つが、直線的なその攻撃は、六連にはたやすくかわされてしまった。

 しかし今の隙間に、いったん距離をとって体勢を立て直すココ。

 

 再び2機を同時に視界に収め、剣を構えなおす。

 

 

 

 一方、そこから少し離れた場所で、ミランダもまた、残り3機の『六連』を相手にしていた。

 

 こちらはココとは対照的に、遠距離戦を主体とした立ち回りで、『ガナリー・カーバー』と『クラフティブ・レイガン』からエネルギー弾をまき散らして手数で攻める。

 

「ココって結構天才肌だったんだなあ……私も負けてられないな、っと!」

 

「ぬぅっ、珍妙な技ばかり使いおって……」

 

「だが、どうやら接近戦は不得手のようだな。近づかせまいとしているのが丸わかりだぞ!」

 

「そんなの、自分でもわかってるよ……っと!」

 

 張られた弾幕の隙間を縫って急速に接近して来る『六連』。それをミランダは、肩の『クラフティブ・レイガン』からさらに分厚い弾幕を張り巡らせて対応する。

 

 さすがに物理的に通れる隙間がないとなると、いかに『ディストーションフィールド』による守りがあっても、機体の小さな『六連』では強行突破は難しい。そう判断して反転する。

 

 その瞬間を見逃さず、ミランダは素早く狙いをつけて、長距離狙撃モードにしたガナリー・カーバーを構え、自分が張った弾幕をぶち抜いて、その向こう側にいる『六連』を狙い撃った。

 

「……っ、惜しい!」

 

 間一髪というところでその一射は躱されてしまい、掠った腕の装甲の一部をえぐり取るだけにとどまった。

 しかし、『ディストーションフィールド』を貫通して、掠っただけであれだけのダメージになるならば、直撃すれば間違いなく落とせるはずだと思い直し、気合を入れる。

 

 その直後、今戦っていた者達とはまた別な『六連』が、大きく回り込んで弾幕を回避する形で、ミランダの乗る『ラピュセル』の背後に現れた。

 

「後ろっ!?」

 

「性能だよりで戦況把握が甘いわ、素人めが!」

 

 そしてそのまま、コクピットがあるであろう胸部めがけて、突撃の勢いも載せた突きを繰り出すが……その瞬間、

 『ラピュセル』の真後ろに、澄んだ緑色の半透明のエネルギーフィールドが発生し……そこから雨あられと放たれた針状の弾幕によって、突っ込んできた『六連』はきれいに返り討ちにされた。

 

「なっ、馬鹿な……真後ろに……!?」

 

「残念でした……『クラフティブ・レイガン』は、前後左右上下、どこにでも撃てるの。でも、忠告はありがたく受け取っておくね、おじさん」

 

 ミランダの乗る『ラピュセル』に搭載された射撃武装『クラフティブ・レイガン』。

 通常の砲撃用装備と違い、これは発生させたエネルギーフィールドを砲身代わりにしてエネルギー弾を形成・射出するため、射角が恐ろしく広く、実質的に死角が存在しない。

 

 今のように真後ろに撃つこともできるし、エネルギーフィールドを広げれば、真上や真下、さらにはやろうと思えば、全方位に同時に放つこともできる。

 『接近戦を何が何でも防ぐ』という設計思想に即して作られた、攻防一体の兵装なのだ。

 

 思わぬダメージを受けた『六連』は、一度退いて体勢を立て直そうとするが……その瞬間、背後に超高速で飛んできた『アントワネット』が、反応を待たずに『MVS』を一閃させた。

 先ほどまでの意趣返しのような一撃に、あえなく脱落となった。

 

「ミランダ、だいじょぶ?」

 

「あ、ココ。うん、平気だよ。助けに来てくれたの?」

 

「うん、それもあるけど……あ、こっちの人たちも」

 

 ココの指さす先で、『撤退だ!』という掛け声とともに、残る無事な『六連』も含めた全機が素早く後退していく。

 どうやら、ココは逃げ出した敵を追撃しつつ、ミランダに奇襲をかけようとしている機体を見つけて斬り落としに来たようだ。

 

 しかし、それをさらに追おうとしたココたちだったが、『六連』はその小さな体を生かして戦場のど真ん中を突っ切って飛び……しかも突破に難儀しそうな、ミケーネ神達がいる場所を通っていった。

 これ以上の追撃は難しそうだと、ココもミランダも判断せざるを得なかった。

 

 しかも、そこにいた何匹かの『ケドラ』が、ミランダたちを発見し……標的と定めたのか、飛翔して襲い掛かってくる。

 

「あっ、やばい、キモイのが来る……よーし、こんな時はコレだ!」

 

 聞いている者達の気のせいでなければ、どこか嬉しそうにココが言ったかと思うと、彼女の乗る『アントワネット』の両肩のパーツが展開する。

 

 ラグナメイルであれば、そこには時空を破壊する兵器『ディスコード・フェイザー』が搭載されている。

 ミランダの『ラピュセル』には、その代わりに『クラフティブ・レイガン』が搭載され、先ほどまで猛威を振るっていた。

 

 では、同型機である『アントワネット』には何が搭載されているのか。

 

 ミランダのみならず、離れたところで戦っていたアンジュ達も、何気に気になるようで注目している前で……展開したパーツの下に出現したのは……見覚えのある、深紅の放熱板。

 

「えっ? あれって……」

 

 少し離れた場所で、ミケーネ神の1体を『アイアンカッター』で両断し、また1体倒していた甲児が、驚いたようにつぶやいた。

 その眼前で、『アントワネット』の両肩の放熱板が徐々に赤熱していき……

 

「吹っ飛ばせ! ブレストフラァ―――ッシュ!!」

 

 全てを燃やし尽くす灼熱の熱線が放たれ……向かってきていたケドラ達に直撃。

 本家本元よりは小ぶりながらも、決して劣らない、見掛け倒しではない熱量を浴びせられ、ミケーネ神のしもべとして作られた怪物達は、たちまち燃え尽きて消滅していった。

 

 その凄まじい威力はもちろん、別な意味でも驚愕させられてあっけにとられる仲間達。

 

 その眼前で、さらに……今の熱波を受けてなお、ギリギリで……位置取りから、味方が盾になる形で生き残ったケドラめがけて放たれるのは、

 

「そして、もう一丁! サンダーストラァ―――イク!!」

 

 『アントワネット』の頭部が光輝いたかと思うと、そこから、収束した超高電圧の光が束になって放たれ……ケドラを直撃。

 全身を焼かれて動きの鈍ったケドラは回避も防御もできず、すさまじい電撃に全身を蹂躙され、炭か灰かよくわからないものになって、文字通り戦場に散っていった。

 

「ブレストファイヤー……の次はサンダーブレークかよ!」

 

「なんでパラメイルにマジンガーシリーズの武装が!?」

 

「あ、大丈夫です。ちゃんと許可は取ったって言ってました」

 

「許可? 誰が誰に?」

 

「ミツルさんが、兜剣造博士に」

 

 遠距離戦主体のミランダの『ラピュセル』と違い、ココの『アントワネット』は接近戦主体の機体としてチューニングされている。

 

 ゆえに、『D・フォルト』と『ラムダ・ドライバ』による強固な防御力に加え、格闘戦に耐えうるだけの装甲強度と、素早く使えて決め手になる火力のある武装を突きつめた結果が、今の形であった。

 

 同サイズ帯とはいえ、真っ向から敵の武器を蹴り飛ばしてはじくことができる装甲と馬力。

 

 敵の装甲を紙同然に切り裂いて勝負を決められる振動剣『MVS』、

 

 広範囲に一気に決戦兵器級の威力の熱戦を放射できる『ブレストフラッシュ』、

 

 同様に決め技としての威力を持つとともに、出力や範囲を調整すれば、鍔迫り合いからの奇襲などにも使える電撃兵器『サンダーストライク』、

 

 いずれもココが、激しい戦闘(特に近距離~中距離戦)の中でも使えるようにと、決定打足りうる威力があり、なおかつシンプルに使えるものとして調整され、搭載された武装だった。

 

 欠点があるとすれば、出力によっては放出機構の冷却を要するため、連射はしづらいこと。

 そして、小型であっても凄まじい威力を発揮するように作られた関係上、相応にエネルギーを消費するという点だろうが、それも動力炉である『Dエクストラクター』と、その他に搭載されているサブ動力によって十分賄える範囲だった。

 

 なお、ミランダが先ほど言っていた通り、許可は本当にきちんととってある。

 というか、その兜博士の協力で小型化し、実装されている。

 

「すげえなこりゃ……まるでパラメイルの皮をかぶったスーパーロボットだぜ」

 

 あっけにとられて思わずそうつぶやいてしまった総司。

 後ろに乗っているナインも同様だったが……その直後、何かに気づいたように、何もない空中にその視線を向ける。

 

「キャップ、気を付けてください。転移反応……何か来ます」

 

「っ!? 何かってなんだ、敵か?」

 

「わかりません、見たことない反応……いえ……あ、すいませんこれ『ヘリオース』ですね」

 

 それを聞いて、『なんだミツルか』と緊張感の大部分を霧散させる総司。

 驚かすなよ、とでも言いたげな視線をナインに向けながら、

 

「まったく、ミツルの奴今頃……ああ、そうか、ミランダ達の機体の調整でもしてたのか? なら仕方な……どうしたナイン、まだ何かあるのか?」

 

「ええと、その……ヘリオースと一緒に、何か別な反応が転移してきてる、ような……これのせいで最初わからなかったみたいです。でも、コレ、大きい……一体何……!?」

 

 困惑している様子のナインが言い終わるより先に……総司もまた、それに気づく。

 

 戦場の真上、上空に……大きな空間のゆがみが発生し……ナインの言う通り、何かが転移してここに現れようとしていた。

 ヘリオース……ではない。サイズが明らかに違う。

 

 総司とナインのみならず、敵味方の全員がそれに気づき、転移して来るそれの影響で地上に影が差し始めることになれば……皆、目視でその姿を視認することができていた。

 

「でけえ……何だこりゃ? 戦艦か?」

 

「『アルデバル』……ではないようですね。デザインは割と近いようですが……しかし、あの戦艦、どこかで……?」

 

 総司とナインの言葉通り……それは、戦艦だった。

 

 総合的なデザインは『アルデバル』によく似ている。緩い流線型のフォームに、機体各所に装着された、砲台と兼用になっているいくつもの装甲板。

 『アルデバル』と同様、高火力かつ高機動という性質を有しているのであろうことは、容易に想像できた。

 

 細部の形状や装飾、あるいは兵装などは当然違うようだが……それ以外に、目立って異なっている点が、大きく3つ。

 

 1つ目は、カラーリング。

 『アルデバル』が灰色と、緑色をアクセントに形作られていたのに対し……こちらは、白と金色という、なんとも目立つ上、荘厳さや清潔感のようなものを感じられる姿になっている。

 仮に宇宙空間に浮かんでいたら、周囲の暗黒の景色からかけ離れたその色はさぞ浮いて見えることだろう。

 

 2つ目は、装甲の大きさとデザイン、そして数。

 『アルデバル』にもあった、何枚もの……まるで魚のひれのように装着されている前面装甲は、その数と大きさ、そして厚みを増しており、攻撃力・防御力共に強化されているのは明らかだ。

 砲台として機能するクリスタル状態の機構も増設されているうえ、何カ所か開いている空洞は、潜水艦の魚雷発射口に近い形状からして、実体弾を発射できる砲口なのであろう。

 

 さらに、同様の装甲が、全面だけでなく側面や背面にも、形状を微妙に変えて、流線形を損なわないように装着されている。

 文字通り、全方位に死角のない攻撃力・防御力を有している形と見て取れた。

 

 そして3つ目は、その大きさである。

 全長500mを超える大きさだった『アルデバル』をさらに上回り、その1.5倍以上にもなろうかと思えるほどのサイズは、戦場に物理的に大きく影を落とし、その存在感をさらに大きなものにしている。

 

 突如現れたその戦艦に誰もが目を奪われる中……聞き覚えのある声が、スピーカーから聞こえて来て、戦場に響いた。

 

 

 

「ワープアウト完了、通常空間に復帰。『ソーラーストレーガー』全システム正常稼働……コンディション・オールグリーン……成功よ、ミツル」

 

「ご苦労、ミレーネル! よーし、そんじゃ……遅れた分取り戻しますか!」

 

 

 

 



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第68話 『ソーラーストレーガー』と、艦隊の名

 戦場に突如現れた、敵味方双方にとって未知の巨大戦艦。

 

 推定で全長800m以上。宇宙戦艦ヤマトの実に倍以上の大きさを持つそれは、しかしその大きさ以上に、その異様な姿でもって、その場において圧倒的な存在感を放っていた。

 

 意匠からして、おそらくは『アルデバル』の系列であることは明らかであり、加えて先ほど聞こえてきた音声。

 ミツルとミレーネルが乗っている、ということは……まぎれもなくこれは、『サイデリアル』製の戦艦だということだ。

 

 実際には少々異なり、サイデリアルの軍事部門で研究こそ行ってはいたものの、製作に関しては会社側のラインや資材、そして資金は一切使わず、ミツル達が独自に作っていたものであるが……それについては最早些細な問題だろう。

 

 聞こえてきた音声から察するならば、『ソーラーストレーガー』という名前らしいその機体に、最初に刃を向けたのは……機械ゆえに、動揺も恐怖もすることはない、無人機たちだった。

 

 戦場の直上に突如出現した敵機めがけて、グレイブからモビルスーツまで、何機もの大小の無人機が武器を手に向かっていくが……その光景を見ていた者達は、一様にその様子が、愚かな特攻にしか見えなかった。

 まだ武装の1つも見ていない現状ではあるが、あの戦艦が無策で突っ込んでどうにかなるようなものではないことくらい、誰の目にも明らかなことだった。

 

 そしてそれは、その戦艦に乗っている面々……ミツルとミレーネルにも同様で。

 遅れたことを詫びつつ、この艦について仲間たちに説明しようとしていた2人は、無粋にも突撃して来る十数機の無人機を確認し、切り替えてこう考えた。

 

 『試射にちょうどいいかな』と。

 

 そして、その次の瞬間には……巨壁のごとき前面装甲にちりばめられた、無数のクリスタル状の機構が輝きを放ち始め……エネルギーが収束していく。

 

 それは、同型機(恐らく)である『アルデバル』にもあった兵装。しかし明らかに桁が違うレベルの出力で稼働している。

 各艦の艦橋でそれを観測していた、新見薫やマキビ・ハリなどのオペレーター役を担っていた面々は、検出されたその数値に恐れ慄くことになった。

 

 そして、わずか数秒にも満たない、エネルギーの規模を考えれば破格どころではない、短い時間でチャージは終わり……

 

「それじゃ軽めに……『タキオンブリッツ・プレッシャー』……一斉掃射(フル・ボンバードメント)!」

 

「発射!」

 

 その瞬間、十重二十重、という言葉すら生ぬるいであろう、破壊光線の暴風雨が戦場に吹き荒れた。

 

 一目見ただけで数える気が失せるほどに放たれたレーザーの弾幕は、向かってくる無人機達に回避できるわずかな隙間も残すことなく、その全身を貫き……一瞬にして爆散・蒸発させた。その爆音という名の断末魔すら、レーザーが空を切る甲高い音に、ほとんどかき消されてしまった。

 グレイブのビームシールドも、マジンシリーズのディストーションフィールドも、モビルスーツの対ビーム装甲も……全て無いも同然に貫かれ、何一つ役に立ちはしなかった。

 

 しかも、レーザーの豪雨はひとまずの標的を消し飛ばした後もさらに直進し……

 

「何ぃっ!?」

 

 油断、ないしあっけにとられていたエンブリオをそのまま飲み込んで消滅させ、

 

「ぬおおおおっ!?」

 

「ば、馬鹿な、我らミケーネがこのような形で……ぐああぁぁあ!?」

 

 同じように範囲内にいたミケーネの神々や、その手勢であるケドラをも、ついでとばかりに……というか実際ついでなのだが、その圧倒的な破壊の中に沈めて蹴散らした。

 

 なお、当然ながら味方には余波含めて1発も当ててはいない。

 

 その様に調整し、なおかつミツルの言う通り『軽めに』撃った攻撃でもなお、

 

「……マジかよ……」

 

 思わずつぶやいてしまった総司同様、敵味方を問わず、絶句するしかない惨状がそこに広がっていた。

 

 標的となった無人機達に加え、ついでに消し飛ばされたエンブリヲとミケーネ勢。

 それらがいた場所……すなわち、『タキオンブリッツ・プレッシャー』が蹂躙した射線上は、大地が盛大にえぐれて土埃が巻き上がり、その下に見える地面は、膨大な熱量で溶解したり、ところどころガラス化を引き起こして不気味にきらめいてすらいた。

 

 ほとんど戦場を縦断するような形で走った破壊痕を、今の一瞬で作り上げたその戦艦。

 その所業とは対照的に、そこから聞こえてくる声は……呆れるほどに普段通りだった。

 

「えーっと……挨拶より先に、ってか挨拶代わりにぶっ放しちゃいましたけど……ともあれ、遅れてすいません。星川ミツル、およびミレーネル・リンケ、機動戦艦『ソーラーストレーガー』と共に、今から参戦します! 夜露死苦!」

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

【◇月▽日 続き】

 

 そんなわけで、ココとミランダの専用機である『アントワネット』と『ラピュセル』、

 

 そして、『アンゲロイ・アルカ』以上に長い期間をかけて作り上げ、とうとう完成した超大型機動戦艦『ソーラーストレーガー』が、この度の戦いの中でロールアウト。

 

 それらが大活躍しつつ、エンブリヲもミケーネも撃退することに成功した。

 エンブリヲは……まあ、どうせまた死んではいないんだろうけど、まあいいや、まずは。

 

 まあ当然、極秘裏に開発していた機体だった上に、ほとんど不意打ち気味に表れて大暴れしちゃったから、戦闘の後は質問攻めだったけどね。あっちこっちから。

 あの戦艦は何なんだ、『サイデリアル』の新兵器なのか、いつの間に作っていたんだ、etc。

 

 もちろん、きちんとその後説明はさせてもらったけどね。

 ついでだし、日記にも一応書いとくか。

 

 まずは先に、ミランダ達の機体である2機のデモンメイル……『ラピュセル』と『アントワネット』から行こうか。

 

 これらはともに、彼女達の新たな機体として作り上げた新兵器であり、基礎フレームはパラメイルやラグナメイルと同様ではあるけど、その実、3つの平行世界……どころか、『多元世界』の技術を随所に織り込んで作り上げた超高性能機に仕上がっている。

 

 あまり詳細に説明すると、長く+ややこしくなるので適度に省くけど、装甲は材質から何から見直しているので、強度はかなり上がってるし、コクピット周りの気密もきちんと改善されている。フィールドなしでも宇宙空間で活動可能なレベルまで。

 ……ラグナメイルすら、着水しただけで浸水するレベルだからなあ……おかしいってあのへん。

 

 動力には『Dエクストラクター』を……すなわち次元力を使っているため、継戦能力や最大火力は爆上がりしている上に、パイロットの意思の力でさらにそれを強化することが可能。

 この辺については、パイロット各位、操縦技能とともに今後も訓練して強化していってもらうつもりである。

 

 そして2機は、それぞれの戦闘スタイルが割と対照的なので、共通部以降はそれに合わせていろいろとチューニングを行ったり、武装を組み込んだりしている。

 

 ミランダは遠距離戦主体なので、中~遠距離で猛威を振るうべく、手持ち武装に『ガナリー・カーバー』を、補助武装に『クラフティブ・レイガン』を搭載し、敵を近づけずに遠くから一方的に狙い撃って乱れ撃って勝負を決めるスタイルにしている。

 また、仮に近づかれても大丈夫なように、『ラムダ・ドライバ』や『ディストーションフィールド』、それに『Dフォルト』といったシールド系兵装も、過剰なほど搭載しており、防御も万全。

 

 対照的に、ココは接近戦が主体なので、ミランダよりも装甲や馬力の部分を強化し、代わりに、射程距離の長い兵装は大部分をオミットした。

 その代わり、クロスレンジや中距離で大暴れできるように、マジンガーシリーズから拝借したバ火力武装をいくつも搭載している。両肩の『ブレストフラッシュ』や、頭部の『サンダーストライク』など。あと、某反逆の世界の兵装である超振動溶断剣『MVS』も。

 

 なお、2機の名前も今回の出撃直前に決めた。

 

 考えたのはそれぞれのパイロット2人なのだが、個人的にはもうちょっと……別な名前でもよかったんじゃないかなー、と思わなくもないんだが……。

 恐らく、アンジュ達の乗るラグナメイルと同じように女性名で統一しようとしたんだろうけど、それにしてもチョイス……

 

 そして最後に、僕とミレーネルが乗って登場した巨大戦艦について。

 その名も『ソーラーストレーガー』。全長800m超の、まさしく秘密兵器である。

 

 見た目は……ちょっとメタな言い方になるけど、Zシリーズに出てきた『プレイアデス・タウラ』に近い。あんな感じで、ゆるい流線型のボディに、何枚もの装甲板がついている。

 その装甲板に、砲台になるクリスタル状物質が何個もついており、そこから光子魚雷や破壊光線を発射して攻撃する、という感じである。

 

 しかし、カラーリングは違う。『プレイアデス・タウラ』は金と黒がメインだけど、こちらは白と金が主で、白の方がメイン。

 また、装甲板の大きさもサイズアップしている上、砲台役のクリスタルも大幅増設しているため、単純な防御力はもちろんのこと、手数も出力も上がっている。

 

 これらの改造は実は、『バースカル』の設計を参考にさせてもらっている。あの艦、前面の装甲を広く取った代わりに強固にして、そんでめっちゃ砲座をたくさんつけてたからね。露骨なまでに艦隊戦・砲撃戦に特化した仕様になっていたから、そのノウハウが使えた。

 

 また、同様の装甲板は背面や側面にも、装着……というよりは、船体に組み込むような形で設置してあるため、ほぼ死角なし。全方位に大火力で撃てるようになっている。

 

 そんな巨体でも、先にテストケースとして作った『アルデバル』と同様に、高い機動力を保ち、なおかつ少人数、あるいは1人での運用が可能なように作られている。

 まあ、『リヴァイヴ・セル』を応用した、思考で直接コントロールする方式だから、今んとこ僕とミレーネルにしか動かせないけどね。

 

 また、この艦の機能は『戦艦』としてのものだけではなく、移動拠点という面でも充実したものになっている。

 

 居住区画は、『サイデリアル』の不動産部門に監修してもらってデザインされているので、長期間の航海でもストレスなく快適に過ごせるようにデザインされている。空間が限定されているから色々制限はあるとはいえ、ちょっとした高級ホテル並みに仕上がった。

 

 食料等の生産設備も完備。『サイデリアル』の生産部門が使っている『ファーマー0831』や『グルメキッチン5252』なども搭載しているので、保存食だけでなく、その気になれば生鮮食品もある程度は食べられる。自動調理設備もあるから、様々なメニューが好きに注文できるし。

 

 その他にも、娯楽関係の設備も色々と導入しているので、退屈せずに遊ぶこともできるだろう。

 トレーニングに使えるようなジムや、高性能シミュレーターなんかもある。それらで汗を流した後は、スパリゾートばりに色々な種類のある風呂で汗を流せる。ゲーセンやシネマルームもある。

 

 ただ欠点があるとすれば、それら全てが機械、ないしAIで制御可能な範囲のものしかないってところくらいか。

 さっきも言った通り、もともと少人数での運用を前提に作った艦だから。それらの設備・施設を管理する『スタッフ』を入れるっていう想定がないからね。

 

 そして何よりこの艦には、『バースカル』から移設した生産設備の全てがそっくりそのまま、なんなら『多元世界』の技術を反映させて強化した上で搭載されている。資材さえ用意すれば、機体の修繕はもちろん、即興で武装から弾薬、家具や雑貨まで、ほぼ何でも作って用意できる。

 規模的にも技術レベル的にも、ヤマトやナデシコ、プトレマイオスやダナンといった、ベテランの艦にも負けない性能を発揮できると思っている。多分。

 

 ……まあ、各パイロットに合わせた細かい調整なんかは、やっぱりその道のプロにお願いする他ないだろうけどね。

 

 それでもこの艦は、これから始まるイスカンダルへの旅路の、地球を救うための一大作戦を実行するにあたっての、大きな戦力になるはずだ。

 今回、勢いで行った最初の『試射』でも手ごたえは十分あったし……あれ以外にも色々と武装は積み込んであるので、有用性は大部分検証・実証できたといってもいいと思う。

 

 もちろん、僕ら自身も……パイロットとしての働きを含めて、これまで積み上げてきた全てをもって、僕らもそこに協力させてもらうつもりである。

 

 あ、ちなみに。

 この艦の名前……さっき言った通り『ソーラーストレーガー』というんだが……その由来について。

 

 前述のとおり、この艦のデザイン元は『プレイアデス・タウラ』なのだが……名前そのままでいいもんかどうかちょっと考えてね。

 あっちは『おうし座』のスフィア搭載機だったからその名前でもぴったりだったけど、僕やミレーネルは『おうし座』に何の縁もゆかりもない身なわけだし。

 

 しかし、だとしたらどういう名前にするかって考えて……僕の乗る『ヘリオース』が、太陽神の名前を冠していることや、あの多元世界に存在した、地球の次元科学の集大成たるとある戦艦の名へのリスペクトから、『太陽』の意味を持つ名前をもらうことにした。

 また、使用されている技術の大部分が、この世界から見て異世界の産物であることや、僕やミレーネルも異世界から来た身であることから、艦自体を『異邦人』になぞらえて、名付けた。

 

 そうして僕は、『太陽』と『異邦人』を合わせて、この艦に『ソーラーストレンジャー(・・・・・・・)』という名前をつけた…………んだけども。

 

 その直後、まだ仮の名前の段階で書類に書いていたそれを、仕事で『サイデリアル』に来ていたココが偶然見つけて……その時に、声に出してこう言った。

 というか、読んだ。

 

『ええと……そ、そーらー……すとり、すとれ……すとれーがー?』

 

 どうやら『Stranger』を上手く読めずにとちって読んでしまったらしかった。

 

 ココの学力のせい……とは一概には言い切れない。

 書類、まだ仮のだから、手書きだった上に、走り書きで悪筆だったからな……。

 

 僕とミレーネルはそれを横で見てて『あらあら』なんて感じに笑ってたんだが……ふと、『あれ、意外とそっちの方が語感いいかも?』なんて思った。

 なので、思い切ってそっちにすることにした。

 

 こうして、この艦には正式に『ソーラーストレーガー』の名がついたのである。

 

 

 

 ああ、名前と言えばもう1つ。

 

 今回の戦いが終わったときに、沖田艦長から部隊全体にアナウンスが飛んだ。

 

 その内容は、これからいよいよ僕ら独立部隊は、イスカンダルへ向けて、16万8千光年の旅路に臨むことになる、という宣言。

 

 そしてもう1つ……それにあたって、自分達の結束を高める意味その他を込めて……3つの世界の地球の人間が参加して結成される、この部隊の名を決めるというもの。

 

 その名も『地球艦隊・天駆』。

 

 うん、気合が入っていていい名前だと思う。胸を張って名乗れる名前だ。

 その名を掲げての出向は……いよいよ間近に迫っている。

 

 さーて……一応は後方支援要員としての役目もあるわけだし、最終確認その他、きっちりやって準備を万全にしないとな。

 

 

 

 




おまけ  今回出てきた機体について

【ソーラーストレーガー】
本SSオリジナルの戦艦ユニット。
ミツルの新たな移動拠点兼『バースカル』の生産機能移転先として、実は物語の割と序盤から秘密裏に開発されていた戦艦。Zの世界とVの世界の技術をやりたい放題融合させて作った趣味の塊でもある。
システムは大部分がAI制御のため、先にテストケースとして作られた『アルデバル』と同様、少人数で運用可能。
とりあえず現在のところ、アルデバル以上の機動力、バースカル以上の生産能力、ミケーネ神を瞬殺する砲火力などについては本編中で明言され明らかになっている。その他能力などは今後、本編の中で徐々に書いていく予定。


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第69話 出発準備とサプライズ

 

【◇月◇日】

 

 数日後の出発の日に向けて、『地球艦隊・天駆』の面々は、各々が準備に取り掛かっている。

 

 食料や資材といった必要物資各種の調達・積み込みはもちろん、親しい人にあいさつに行ったり……逆にこっちに訪ねて来たり、っていうのもある。

 

 例えば、ネルガルのアカツキ会長。いつも通りの独特な服装で訪ねて来て、ナデシコの皆さんを皮肉交じりで激励していた。

 素直に励ましたり応援するってことをしてくれない人だ、相変わらず。ナデシコの面々からも呆れられていた。

 

 けど、僕らの勝利や無事の帰還を信じてくれているのは本心のようだったし、『少ないが使ってくれ』って資金提供までしてくれたのは普通にありがたかったと思う。

 

 ……ただ、その時にちょっと……『地球の危機なんだからケチケチしないで全財産差し出せよ』的なことをリョーコさん達に言われてたんだが、その際の言い返し方が、また皮肉交じりの絶妙な感じで。

 

『冗談じゃない、そんなことをしたら破産してしまうじゃないか。僕は君たちが勝利すると、地球にはこれからも未来があると信じてるんだからね』

『そうなったらこれからは、ネルガルは並行世界をまたにかける事業を行っていくつもりだよ』

 

 とまあ、商魂たくましい+転んでもただは起きないところを見せつけて、感心しつつ呆れられていたわけだが……その後会長さん、流れるような動きで僕のところにやってきて、『そんなわけで先輩であるサイデリアルとも友好な関係を築いていきたいからぜひひとつ業務提携から……』って、だからやめれっちゅーのに!

 油断も隙もない……そのままいろいろと手を伸ばしてくるつもりだろ……そうでなくても、何を考えてるかわかんないからうかつに返事なんぞできん。

 

 会長からしてみれば、『並行世界をまたにかけた商売』なんていう絶好の儲け話を、しかし1歩先にいってるのが『サイデリアル』なわけだから……ノウハウの吸収なり、人脈づくりなり、色々なことに利用したいんだろうな。

 まあ、商売人としては間違っちゃいない考え方なんだろうけど、それで目を付けられる側はたまったもんじゃないんだってば……

 

 まあ……色々恩もあるし、交渉する気がないわけじゃないんだ。

 ただ、できればきちんと会社としてほかの役員も出席の上で会議の場を設けるか……最低でもミレーネルと一緒の時にやってくれ。彼女がいると、相手の謀略とかほぼ完璧に看破してくれるから、安心だ。

 

 次に、旋風寺コンツェルンから、浜田君とサリーちゃん、それに、浜田君の彼女だっていうルンナちゃんという子。あと、秘書さんとか工場の人たちとかも。

 物資の運び込み兼、激励やお見送りのために……だと思ってたんだが、微妙に違った。

 

 なんと浜田君とサリーちゃん、それにルンナちゃんは、そのまま『地球艦隊・天駆』に同行するつもりだという。機体の整備や、色々な雑務の手伝い要因として。

 

 その場に一緒にいたヒルダが、思わず『本気か!?』と叫んでいた。

 気持ちはわかる。彼女や僕以外の面々も、おそらく口には出さないが思っていただろう……表情が驚愕一色だったから。

 

 仮にも地球から遠く離れた……どころじゃない、しかも並行世界の宇宙に行くっていう、危険な旅路になるんだけど……と、もちろん舞人社長は説明していたけど、彼女達の決意は固かった。

 しまいには舞人社長も根負けし、その熱意を買う形で、3人を迎え入れることとなった。まあ、心強い味方が増えたと考えれば……うん、実際そうなのは間違いないしな。

 

 ……ところで、そのままタイミング逃しちゃって聞けてないんだけど……ルンナちゃんって誰? 多分初対面だと思うんですが。

 いやまあ、別にいいけどね……舞人社長や浜田君達が信用してるんなら、別に悪い子というか、問題のある子じゃないんだろうし。

 

 ……けど、なぜか一瞬、普通の女の子に見えないような鋭い目つきになって……離れたところにいたアキトさんと視線が交わされたように見えたのは……気のせいでしょうか?

 

 ちょっと気になったので、誰かに聞こうかなと思ったんだけど、その直後にアキトさんが僕のところに歩いてきて、ぽん、と肩に手を置き、

 

『大丈夫だ。彼女はもう、問題ない』

 

 ……とだけ言って去っていった。

 意味が分からない。

 

 ……わからないけど、まあ……一応ホントに大丈夫そうではあるから、いいか。

 

 浜田君達同様に、『地球艦隊・天駆』に同行することになった人は、他にもいる。

 

 NERVからは、チームEVAに加わる形で、マリさんが参加することになった。

 それも、自分の本来の機体である『エヴァンゲリオン8号機』で。

 

 相変わらずというか、独特の軽い感じで話す彼女は、堅苦しい感じはしないものの、フリーダム&マイペースすぎて逆に距離感をつかみかねている子が多いようだ。

 そういうのを気にしている様子は、本人にも全くないけども。

 

 あとは、ゲッターチームに加わる形で……って言っていいのかな。號さんと渓さん、凱さんの3人。

 この3人はどっちかっていうと、こないだの戦いの後にチームに加わった感じだけどね。『真ゲッタードラゴン』の乗員として。

 ただ、登場があまりに唐突すぎたから、途中加入メンバーみたいな形でカウントされてる感があるけども。

 

 他にも、合流はしないにしても、見送りに来てくれた人はまだまだいる。

 

 神ファミリーの面々や、シンジ君のクラスメートのトウジ君やケンスケ君、インダストリアル7にいたバナージ君の友人達など。

 

 アルゼナルからはわざわざジャスミンさんやマギーさん。そして、『龍の民』を代表してってことで、ヴィヴィアンのお母さんのラミアさんが来てくれていた。

 『リベルタス』以上の大一番に打って出るってことで、頑張ってこい、と激励していた。

 

 そしてジャスミンさんからはさらに、主にエルシャあてに、年少部の子たちからのビデオレターを持ってきてくれて……『気を付けていってきてね』なんていうたどたどしいメッセージを聞いて、エルシャが泣きそうになっていた。

 

 そして、見送り勢の中で一番ビッグネームだったのは……まさかのフル・フロンタルだ。

 地球連邦との和解後、ネオ・ジオンの首相という立ち位置になったらしい彼は、『同行はできないが武運を祈っている』『不在の間、地球とコロニー、両方の守りは任せておけ』と、頼もしいことを言ってくれていた。

 

 他にも、フロンタルが連れてきた部下たち……かつては戦場で本気で憎みあい、殺し合った間柄の面々もいただろうに、それを乗り越えて純粋に『地球艦隊・天駆』の面々を激励しているのを見たときは……何というか、『人って本当に分かり合えるんだな』と思ってしまった。

 

 こんだけ色々な人の希望を背負って、僕らは旅立つことになるんだな……と思うと、緊張が結構……いやまあ、やることは変わらないんだから、今更ではあるけどもさ……。

 

 彼らの期待を裏切らないように、絶対に勝たなきゃな、って思った。

 

 

【◇月▼日】

 

 いつものように、2つの世界を往復して、物資輸送その他をしていた時のこと。

 

 『サイデリアル』本社にいた僕とミレーネル、そしてココとミランダは……その日、『緊急の会議があるので今すぐ来てください』って言われて呼び出された。

 

 一体なんだろう、と思いつつ、大会議室に入ると……その瞬間鳴り響く、盛大な拍手の音。

 

 部屋に一歩入ると、大勢の社員達が拍手をしていて……いくつも並べられたテーブルの上に、豪華な料理が並んでいた。どう見ても会議なんかじゃなくて、何かのパーティーである。

 

 ふと見ると、部屋の前の方……プロジェクターで会議資料を投影して映し出したりするそこに、なんか垂れ幕みたいなのが張ってあって……そこには、『壮行式』の文字が。

 

 そう、『壮行式』である。サプライズパーティーならぬ、サプライズ壮行式である。

 『地球を救うために銀河の果てまで戦いに行く会長に乾杯!』ってな感じで、ある程度厳かにしつつも、とにかく湿っぽくならないように、笑って励まして送り出すような感じで、社員達が僕らに内緒で企画してくれていたのだ。役員から事務員まで、一丸となって

 

 今言った通り、びっくりさせられたけど……嬉しかった。

 僕もミレーネルも……そして、テストパイロットとして雇用しているミランダとココも、それぞれ一言ずつ挨拶させられて(ミランダが緊張でがちがちになって卒倒しそうになってた)。

 

 料理はおいしいし、社員の皆はかわるがわる激励に来てくれるし。

 役員から掃除のおばちゃんまで、分け隔てなく。見事なまでに無礼講のパーティーだ。

 

 役員や秘書課の皆からは、『今日の分の仕事はもう終わらせておきましたから!』って、前もって逃げ道も塞がれてたしね、いい意味で。

 

 しかも、さらなるサプライズとして、なんとその会場にミランダのご家族が呼ばれてて……無粋ってもんだろうから、詳細に描写したりとかは避けるけど……感動の再会だった、とだけ。

 

 今現在、『始祖連合国』は、ノーマ差別なんてしてる場合じゃないほどに大変なことになっているっていうのは、周知のとおりだ。

 『サイデリアル』は、そのうちの1つの国で、復興支援兼ビジネスとしていろいろやってるわけなんだが……その一環として、現地企業のM&Aを進めている。

 

 企業経営が悪化してたちまち倒産していく企業がそこら中に転がってるからな、あの国……ほとんど捨て値で買い叩けるんだよ。

 

 当然、それにともなって失業者も溢れているので……そのへんで暇してる、労働力になる人の雇用も作りつつ、現地進出進めてるんだよね。

 就業経験あるからノウハウもわかってる、しかし会社がつぶれて仕事がなく、働き口を喉から手が出るほど欲しがっている人がそこら中にいるから、すぐに人集められて、コスパもいいのだ。

 

 ……高度経済成長期以降の、外国に進出する日本企業ってこんな感じだったのかな?

 

 で、その中核として機能させている会社の1つの話なんだが。

 

 その会社は、倒産する前に買収したので、立て直しは楽だったし、買収前から働いている人達をそのまま雇用してる。

 

 その会社の社員の1人が、ミランダのお父さんであり、彼女の生家である『キャンベル家』の大黒柱その人だったのだ。わー偶然(棒読み)。

 

 しかも、わが社は福利厚生の一環として、各家庭への援助制度みたいなものも完備してある。

 配偶者の有無や子供の人数に応じて、一時的なものも含めて色々手当がついたり、保養所や社販なんかを利用できたり、あとはフレックスタイムや特別休暇制度なんかも、色々と。

 

 それらを上手く使えば、今のこの、国そのものがガタガタな状態でも、将来への不安もなく、ある程度ゆとりをもって日々の生活を送れるはずだ。

 

 なお、これらはさっきの『偶然(棒読み)』とは違い、ほんとに普段から、全ての社員に対して実施している制度である。特別扱いとかじゃ全然ない。

 社員を大事にしてこそ会社は強く、大きくなれるんだよ。サイデリアルはホワイト企業です。

 

 国家存亡すら危ぶまれるレベルで大荒れの社会情勢の中、危うく一家路頭に迷うところだったところを救ってくれたってことで、キャンベルさん一家にはめっちゃ感謝された。

 そして、そんな風にして家族を救ってくれていたばかりか、こうして再会させてくれたってことで……ミランダにもめっちゃ感謝された。もう2度と会えないと思ってたそうだから。

 

 うんうん、よかったよかった。

 サプライズパーティーの中のさらにサプライズとして、一応当事者であるはずの僕にも内緒で呼ばれて再会、ってなったもんだから、びっくりしたけどね……。

 

 まあそんな感じで、いろんな意味で騒がしく、そしてその勢いで元気になる『壮行式』だった。

 

 こんだけ盛大に応援されちゃ、何が何でも地球救うしかないな、うん! 頑張ろう!

 

 

 

追記

 

 ミランダがらみの利権やらなにやらは、どっちかっていうとえこひいきみたいなことになるっていう自覚あったから、必要なら僕のポケットマネーで買いそろえるつもりだったんだけど、見事に会社そのものの事業の中に組み込まれた形になった。

 

 役員の皆曰く、『ミランダちゃんは会長だけでなく、もう社員皆にとって家族みたいなもんですから』とのこと。

 会社全体の公私混同……いや、もうここまでくると、規模的に立派にきちんと1つの方針だといえなくもない……のかも?

 

 なお、この話をしている最中ずっと、ご家族、とくにご両親が『ミランダにこんなに良くしてくれる人達ができて……』って感激して泣いていた。

 

 国の法律によって泣く泣く分かれることになった上に、ミランダが『ノーマ』だっていうこともあって、つらい思いをしてるんじゃないか、ちゃんとご飯は食べられてるのか……今までずっと、色々と心配していたんだそうだ。

 ……そりゃそうだよな……あの国の、ノーマに対する扱いを知ってれば……なあ。

 

 ……しかし、ミランダのご家族……娘がそうだったからか、ノーマに対する差別とか偏見、全然ないみたいだな。加えて、『始祖連合国』そのものへの執着とか愛国心みたいなのも薄そう。

 これなら……例えばの話だけど、『始祖連合国』の外に引っ越しても普通にやっていけるんじゃないだろうか。

 

 ……適当な国の、市民権とか永住権的なものをプレゼントしたら喜んでくれるかな?

 もちろん、彼らがそれを望むならだけど。

 

 ミランダが家族と引き離されることになったのは、『始祖連合国』の、ノーマは発見次第逮捕して隔離・追放するっていう法律がもともとの原因なわけだ。

 けど、国籍ごとあの国を出れば、『始祖連合国』の法律は適用されなくなる。ノーマ関連の法律も何も関係なくなる。

 

 ……つまりはそういうことだ。

 

 

 

 

 



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第70話 乗り合わせ変更のお知らせ

 

【◇月●日】

 

 物資輸送の仕事は今日はお休みにして……艦長達や各艦の幹部が集う会議に参加。

 今後の方針……というか、具体的にどのような手順でこの『宇宙世紀世界』を出発し、僕らがいた世界……『新西暦世界』に戻るか、という点についての確認と情報共有のための会議だ。

 

 この作戦において、カギになるものは3つ。

 

 ゲッター線、パラレルボソンジャンプ、そして次元力だ。

 

 まず、転移する手段そのものについては、パラレルボソンジャンプを使うわけだが……以前にも言ったように、ボソンジャンプによって生命体が転移するには、A級ジャンパーによるナビゲートが必要になる。

 しかし、アキトさんもユリカさんも、もちろんイネスさんも、『新西暦世界』のことなんか知らないから、ナビゲートができない。

 

 『新西暦世界』について知っているのは、その世界出身のメンバーだけだ。

 すなわち、総司さんやトビア達を含む、宇宙戦艦ヤマトの乗組員の面々。それに僕とミレーネルだ。

 

 しかも、ジャンプした経験がない行先に行くわけなので、ただ漠然とした意志だけじゃ跳躍は難しいかもしれないときている。次元の壁を越えて跳んでいけるような、強固なイメージが必要だ。

 1人分じゃおそらく足りない。量で、あるいは質で補う必要がある。

 

 そこで、その補助としてゲッター線と次元力を使う、というのが、真田副長が説明してくれた案である。具体的な手順はというと、

 

 

1.『真ゲッタードラゴン』のゲッター線に、『新西暦世界』への帰還を願う皆の意思を集める。

 

2.ゲッター線によってその意志の力を増幅する。

 

3.ゲッター線を『ソーラーストレーガー』の次元力と共鳴させ、さらに増幅する。

 

4.増幅した意志の力を、『リヴァイヴ・セル』を媒介にして『演算ユニット』に送る。

  これでナビゲートは完了。

 

5.『ヘリオース』の力で次元震を起こし、次元境界線を緩める。跳躍しやすくするため。

 

6.パラレルボソンジャンプを実行。

 

 

 とまあ、こんな感じである。

 

 前に僕がした、『リヴァイヴ・セル』を使えば、A級ジャンパー以外でも跳躍できる、という話をもとに組み立てた方法なんだそうだ。

 なるほど……スケールは桁違いだが、確かに僕が『アスクレプス』や『ソーラーストレーガー』でボソンジャンプを使う時と、やってることは同じだな。

 

 なお、次元震を起こすのには、ヤマトの『波動砲』を使う案もあったが、ヘリオースでやった方が周囲への影響も少ないし、早いし、何より省エネである。

 アレ、一発撃つごとにヤマトのエネルギーの大部分を使うことになるし、冷却でしばらく使えなくなるって話だからな。そう何度も使っていいもんじゃないだろう。

 

 それに、沖田艦長は『波動砲』を、やむを得ない事情がない限りは使うべきではない、使ってはいけない兵器だととらえているそうだ。『メギドの火』という例え方をした、とも聞いた。

 星をも破壊しかねない威力の兵器だ、運用に慎重になるのも当然ではある。

 

 ヤマトのクルー各員も、おおむねその方針には賛同しているそうで――約一名そうでもない者もいるとかいないとか――実際、最初の試射を除いては、敵対勢力との戦いで波動砲を撃ったことはないらしい。そして、これからもそのつもりはない、とのこと。

 

 ともあれそんなわけで、方針は確認できた。

 後は、準備が整うのを待つばかりである。

 

 ……何事もなくその時を迎えられることを願うばかりだが……今までの経験上、そういう時に限って邪魔が入ったりするんだよなあ……不安。

 

 

 

 

 

追記

 

 今日の日記を書き終わった段階で知らされたことなんだけど、『地球艦隊・天駆』に増員というか、さらにメンバーの追加があったらしい。

 この『宇宙世紀世界』にある研究施設の1つで、『ニコラ・ヴィルヘルム研究所』とやらからの応援メンバーらしい。

 

 新たに加わったのは、金髪に長身の男性、ヴェルターブ・テックストと、オレンジ色の髪の女性、シャルロッテ・ヘイスティングの2名。

 そして、それぞれの愛機である、ヒュッケバインとグルンガスト、だそうだ。

 

 ヒュッケバイン……は、名前だけは知ってるんだけど……詳しくは知らない。

 グルンガスト……は、名前も知らない。ごめん。

 

 なんかいきなり出てきた感はあるものの、機体スペックはかなり高いみたいだし、頼もしい援軍だ。

 今日も、ヤマトが2人を迎えに行った時には、2人の存在を察知して襲ってきたらしいガーディムを、既に2人だけで蹴散らしてて、それから合流してきたらしいし。うん、心強い。

 

 ひとまず2人は、ヤマトに搭乗することになり、機体スペックやコンセプトその他を考えて、相性がいいと思われる総司さんと組む予定だとのことだ。

 

 なお、2人ともテストパイロットという立ち位置で軍人ではないため、色々と分からないことも多いがよろしく、とのことだった。

 大丈夫大丈夫、この部隊、そんなんばっかだし。

 

 愛称として、ヴェルトとロッティと呼ぶことになった。これからよろしく。

 

 

 

【◇月▲日】

 

 方針も決まり、着々と準備は進んでいるわけなんだが……今日ちょっと、その『準備』の一環ってことで、とある相談が持ち掛けられた。

 

 『地球艦隊・天駆』は、3つの平行世界の戦力からなる混成艦隊だ。

 『宇宙戦艦ヤマト』を実質的な旗艦とし、宇宙世紀世界の地球連邦軍の『ラー・カイラム』と『ネェル・アーガマ』、ミスリルの『トゥアハー・デ・ダナン』、光子力研究所の『真ゲッタードラゴン』、西暦世界の地球連邦軍の『ナデシコC』、ザフトの『エターナル』、ソレスタルビーイングの『プトレマイオス2改』、そして僕らサイデリアルの『ソーラーストレーガー』。

 

 この9隻の艦に、それぞれの世界の勢力が分かれて乗るわけだ。

 

 もちろん、各艦にもともと乗っている、ないし在籍している面々は、そのまま乗ってる。

 エステバリス隊は『ナデシコ』に乗ってるし、ソレスタルビーイングのガンダム各機は『プトレマイオス』に、という感じで。

 

 そして必然的に、その他の面々……すなわち、今並べた艦が所属するどの勢力にも属していない者は、それらのいずれかに乗せてもらうことになるわけだ。

 

 神ファミリーや万丈さん、勇者特急隊、マジンガーチームなどがそれにあたる。

 正式なクルーじゃないって意味で言えば、総司さんとナイン、トビア達もそうかな。一応ヤマトには乗ってるけども。

 

 そういう、言ってみれば『乗り合わせ』みたいなものについてなんだけど、さっき言った通り、相談が持ち掛けられたのである。

 『ナデシコ』のルリ艦長とユリカさん、そして『プトレマイオス』のスメラギさんから。

 

 簡単に言うと、『要乗り合わせメンバーおよびその機体のいくらかを『ソーラーストレーガー』で受け持ってもらえないか』というものだった。

 

 今現在、各艦の乗り合わせ状況はというと、えーと……1回きっちり整理してみて、

 

 

〇宇宙戦艦ヤマト

ヤマトクルー、総司、ナイン、トビア、キンケドゥ、ベルナデッド、メルダ

 

〇ラー・カイラム及びネェル・アーガマ

ロンド・ベルの面々、エコーズ、カミーユ、ファ、マリーダ等

 

〇トゥアハー・デ・ダナン

ミスリルの面々、ハサウェイ

 

〇真ゲッタードラゴン

竜馬、隼人、弁慶、號、渓、凱、マジンガーチーム、鉄也、NERV各員

 

〇ナデシコC

ナデシコクルー、万丈、アキト、神ファミリー、勇者特急隊、ジョー、グラハム、コーラサワー

 

〇エターナル

キラ、アスラン、シン、ルナマリア、エターナルクルー達

 

〇プトレマイオス2改

ガンダムマイスター及びプトレマイオスクルー、パラメイル第一中隊+ジル、龍の民

 

 

 現状、こんな感じになっているそうだ。ややこしいようなわかりやすいような。

 

 基本的に、その機体やパイロットに何かしらの所縁がある艦に搭載される形になってるけど、いくつか例外もある。

 

 例えば、『真ゲッタードラゴン』に、ゲッターチーム以外にもEVAやマジンガーが乗っているのは、機体のサイズに合わせてっていうのもそうだけど……もともとこの(一応)戦艦は、早乙女博士の研究を引き継いで兜剣造博士が作ったものであり、ゲッター以外にもマジンガーとの共闘も最初から視野に入れて作られていた。

 

 そのため、マジンガーの整備に適したドックを最初から備えてあるのだ。『プトレマイオス』や『ラー・カイラム』に、ガンダム用のドックが最初からあるように。

 戦艦は、機動兵器の整備その他を行うのも立派な役目である。その意味での適材適所だ。

 

 また、プトレマイオスにパラメイル第一中隊の面々が乗っているのは、ご存じの通り、スメラギさんが以前、彼女達を『買い上げた』ためで、その時の縁。

 『龍の民』も一緒なのは、パラメイルと機体構造が似ているからってことで。

 

 『ナデシコC』にグラハムさんやコーラサワー……あ、間違ったマネキンさんだっけ、彼らが乗ってるのは、同じ『西暦世界の地球連邦軍』所属だから。

 神ファミリーや勇者特急隊、波乱万丈さんが乗ってるのは、かつて一緒に戦った仲だから。

 アキトさんは言うまでもないな。完全に身内だし。いろんな意味で。

 

 そんな感じに分けられてるわけなんだが、さっき言った通り、これらのうちのいくらかを『ソーラーストレーガー』に受け持ってほしい、という相談だったわけだ。

 

 各艦の格納庫や居住スペースの問題とか、理由はいろいろあるんだけど、一番は『整備にかかる時間と手間』だそう。

 

 これもさっき言った通り、各艦はそのドックで機動兵器の整備やら修繕やらをするわけだが、搭載している機体が多くなれば、それにかかる手間は増える。

 ある程度はロボット等に任せて自動化できるとはいえ、設備も人員も有限だ。10機も20機も同時進行で整備を進められるわけもない。最悪の場合、後回しにしていた機体の整備にまで手が回らないうちに次の戦いが……なんてことにもなりかねない。

 

 また、何かのトラブルで艦が航行不能になったりして、搭載されていた機体が発進できない、なんてことになるかもしれない。その時、その艦に機動兵器の大半が搭載されていました……なんてことになってたら、笑えないことになる。

 

 そういう事態を防ぐためにも、普段からなるべく分散させて搭載し、整備やら何やらを同時進行で迅速に終わらせることができるようにしておくことが望ましい、というわけだ。

 

 加えて、『ソーラーストレーガー』はドックにおける整備作業その他を極限まで自動化している。

 他の艦に比べて、人の手が必要な作業が非常に少ないため、どこをどう修理、あるいは改造するか設定してあとはお任せ、みたいな感じにできる。

 そのため、細かいカスタマイズ機能を除けば、整備機能という面においては、なんなら『地球艦隊・天駆』の中でもダントツと言っていいくらいなのである。

 

 そこにいくらかの機体整備を任せることができれば、他の艦の負担はだいぶ小さくなるわけだ。

 

 もちろん、その時の状況に応じて、どの艦でどの機体の修繕を行う、ないし行わなければならない、っていうのは変わるだろうから、前述した組み分けだってケースバイケースだろうけどね。

 

 今回『ソーラーストレーガー』では、『勇者特急隊』と『パラメイル第一中隊』、『龍の民』、及びそれらの関係者を受け持つことになった。

 

 振り分けの理由は主に、ノウハウがあるから。

 

 以前僕らは、『サイデリアル』の仕事として、パラメイルの宇宙適応のための改造を請け負ったり、旋風寺の工場の手伝いでガインやブラックの修理を手掛けたりしたから、これらの機体の修繕等のノウハウを持ってるわけだ。パラメイルと構造が近い『龍神機』も同様だな。

 

 それに、もともとココとミランダの『デモンメイル』は、見た目は似ていても『サイデリアル』製の機体だ。

 この艦で整備するつもりだったし、そもそもここ最近は2人ともほぼここで寝泊まりしてるから、そっちの意味でもちょうどよかったと言える。今更、とも言うかも。

 

 また、この振り分けに関しては、既に各メンバーの了解は取ってあるとのこと。

 

 全員快く受け入れてくれたし、むしろ歓迎している者すらいたそうだ。

 この艦の居住区の居心地の良さは、『西暦世界』への送迎バス代わりに利用していた面々ならよく知ってるだろうからな……人はいないけど、AI制御で割と何でもできるし。

 

 まあ、喜んでもらえるならこちらとしても何よりだ、と思うことにする。

 クルーが増えるってことになるから、食料とか多めに積んでおくことにしよう。

 

 それと、勇者特急隊が乗るってことは、浜田君やサリーちゃん、ルミナちゃんも乗るってことだな……人の手で行う微細な調整や、ロボットにはできない範囲の手料理なんかの面で助けてもらうこともできそうだ。

 ああそれに、料理ならエルシャやミランダも上手かったはずだな。助かる。

 

 ちなみに、各艦に分かれて乗るってことは、乗ってる間は他の艦の面々とは会って話したり、一緒に食事したりできないのか、と思うかもしれないが、そうでもない。

 小型艇で割と簡単に各艦を行き来できるので、戦闘中とかでもなければ、ちょっと遊びに行くくらいの感覚で行ったり来たりできるはずだ。宇宙空間でも。

 

 あと、北辰の奴がやってたような、個人単位でのボソンジャンプとかもできないかどうか、実は今も研究進めてるので……どうだろ、出発までに形になるかどうか……。

 

 もし実現すれば、他の艦に遊びに行ってる時に、急に敵襲があったりしても、即座に自分の艦に戻って、搭載されてる機体に乗り込んで出撃! なんてこともできるだろうし……。

 

 でも、さすがに厳しいかなあ……期間的に……。

 

 

 

 



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第71話 ナインの協力依頼

 

【◇月☆日】

 

 今日は、『ソーラーストレーガー』に……なんというか、珍しいお客さんが訪ねてきた。

 

 総司さんのパートナーである、ナインである。

 彼女が1人で来た。総司さんと一緒でなく。 

 

 いやまあ、彼女が一人でいること自体は珍しくはないんだよ。

 よく格納庫とかでロボットの研究とか改良とかやってるみたいだし、総司さんの機体である『ヴァングネクス』の改良とか調整も、基本的に彼女が手掛けてるから。

 

 ただ、僕のところを訪れる時に総司さんが一緒じゃないってのは初めてだと思う。

 というか基本、ナインが僕のところに来る時って、総司さんに同行して来る形だったから……僕らに何かしら用事があって、っていうことそのものがなかったかもな。

 

 そして聞いてみると、その要件というのは……『ヴァングネクス』の改良に協力してほしい、というものだった。

 

 ナイン曰く、『ヴァングネクス』は現時点でもかなり強力な機体ではあるけど、さらに改良の余地がある、ということだ。

 というか、彼女が当初から設計し想定しているスペックにまだ届いていないのだという。

 

 彼女が『ヴァングネクス』を作り始めたのは、まだ『独立部隊』と呼ばれていたころの総司さん達が、『火星極冠遺跡』での戦いの後、『宇宙世紀世界』に飛ばされてしまった頃だそう。

 その頃から設計とかいろいろ始めて、少しずつ資材を蓄えて、今ある設備を使ってくみ上げて……っていう感じで作り上げ、あの戦い……グーリーとの決戦でロールアウトしたそうだ。

 

 しかし、あくまでその時に手に入る資材の範囲で作ったため、設計段階で想定している出力には及んでいない。品質的な部分で不十分、ないし不完全な出来だったとのこと。

 

 それ以降も、手に入る素材は徐々に改良されてきたので、ちょっとずつ改良を重ねてはいたらしいが、それも頭打ちに来ている。

 

 これからますます過酷な戦場に行くことになるだろうことを考えると、妥協せず限界まで『ヴァングネクス』を強化しておきたい。

 しかし、今使える資材・設備ではこれ以上の強化は難しい。

 幾度もトライアンドエラーを繰り返して検討したものの、何か別な要素を……それこそ、別な惑星、ないしは文明の、もっと高度な技術や高品質な素材・パーツを使うとかしないと、その領域に至ることはできない……と、ナインは結論を出した。

 

 そして、考え抜いた結果、僕を頼ってきたと。

 

 あ、話は変わるんだけど、僕が生産設備として『ガーディム』製のそれを使えるということは、既に皆に話してある。

 

 『アスクレプス』で宇宙の色んな場所に行ったり来たりしている間に、いろんなものを拾ってそのまま有効利用しながらここまでやってきた。その『いろんなもの』の中には、他の惑星や文明の技術遺産なんかも多くあって……で、その中に『ガーディム』のそれもあった。

 利用価値が高かったので、有効利用させてもらっていた……みたいな感じで、少し前に皆に説明してあったのだ。

 

 まあ、『その中にも』どころかメインで使ってたんだけどね。生産設備として。

 それこそ、データ自体は『アスクレプス』の中に入ってたものを使って、それを形にするのにはもっぱら『バースカル』の設備を使ってたし。

 

 『サイデリアル』の生産・開発技術の根幹部分に係ることだったので、今までは話せなかった。

 『ガーディム』が敵として現れたから、なおさら話せなくなった。

 

 そして、そろそろ話しても問題ないかな、っていう感じになった頃には……秘密にしていたこと自体をすっかり忘れていたため、話す機会を逃していた。

 そんな、ちょっとアレな事情を経て、ようやくカミングアウトできた事実である。

 

 で、それを覚えていたナインは、『地球よりも進んだ技術力を持つガーディムのそれなら、『ヴァングネクス』をよりパワーアップさせることもできるかも』と思った。

 

 『ソーラーストレーガー』の場合、それ以外にもいろいろな技術が……『アスクレプス』のデータバンクの中に入ってた、『多元世界』の技術も色々入ってるからな。

 『次元力』を筆頭とする、それらの技術を組み込むことができれば、より一層……なんてことも考えたのだそうだ。

 

 それでナインは、こうして僕のところに『協力してください』と頼みに来たわけだ。

 『今度は無断で盗んだりしませんから』と、若干笑えない自虐ネタまで引っ提げて。相変わらず優秀?なAIである。

 

 僕としては、仲間の戦力アップにもつながることだし、気前よくOKを出してあげたいところなんだが……こっちの持ってる技術を全面的に提供、っていうのは正直無理だよなあ。

 

 総司さんや、なんならナインのことだって、信頼してないわけじゃないんだけど……それを差し引いてもなお、『ソーラーストレーガー』には、取り扱いには十分……どころじゃなく気をつけなきゃいけないようなテクノロジーがいくつも搭載されている。

 『リヴァイヴ・セル』を筆頭に、それらのうちのいくつかは、使い方を誤れば、災害レベルでやばいことになってしまうものもある。

 

 まあ、そんなことを言ったら、『常温核融合エンジン』や『ゲッター炉』だって似たようなもんではあるが、それでもね……。

 

 妥協点というか着地点として、『全面開示はできないが、ロックのかかっていない範囲でならデータの閲覧や機材の使用はOK』という形で、ナインに協力することとした。

 それを超える範囲で何か必要なものがあれば、その旨申し出てもらえれば、内容に応じて検討はする。けど基本は『やばくない範囲』でやってくれ、ということにしておいた。

 

 当たり前だが、ハッキングして許可していない部分の閲覧や技術利用なんてものをしようものなら……ときちんと注意もしておいた。

 まあないとは思うが、そのへんの信頼はきちんと裏切らないでほしいもんである。

 

 ……そもそも、ハイスペックだけを追求しようとしたところで、テクノロジー同士、あるいは使う人間との相性が悪くて性能を発揮しきれないことだってあるからな。

 まあ、そのへんはナインだってよくわかってるだろうし……きちんと総司さんが余すことなく力を振るえる形で『ヴァングネクス』を強化してみせることだろう。

 

 ここはひとつ、お手並み拝見と行こうか。

 

 早速さっきから、この『ソーラーストレーガー』のラボに入り浸って色々やってるようなので、その努力が形になる日が楽しみである。

 

 

 

【◇月★日】

 

 早くね?

 

 ナインから、『おかげさまで強化プランが完成しました』って、今日の昼頃くらいに言われたんだけど……え、もう終わったの?

 君、作業に取り掛かったの、昨日の夕方ちょい前くらいだったよね? まだ24時間経ってないんだけど……早くね?(2回目)

 

 しかも、無理して急いで仕上げたって感じじゃなくて……オートメンテナンスシステムでチェックしたところ、全く問題なく駆動するように仕上がっている上、性能もきっちり上がっていた。

 

 その1時間後には総司さん呼んできて試しに乗ってみて、感触は上々だったらしい。

 『これなら今まで以上に活躍できるぜ!』って、総司さんも嬉しそうにしていて……それで、お礼を言われたナインも、ちょっと照れながらも嬉しそうだった。

 

 総司さんからは僕らもお礼は言われたけど、いや、こっちは場所と多少の技術協力だけで、形にしたの9割方ナインだからね……なんか微妙な気分。

 いやまあ、喜んでもらえたのはもちろんうれしいんだけどね? うん。

 

 しかし……彼女がAIとして優秀なのは知ってたけど、1日足らずで改良プランをくみ上げて、改修、そしてチェックまで全て完了させるとは……凄まじいな。

 

 それに今回の場合、今まで扱っていた技術系等とは全く違う、ガーディムっていう別文明の技術や設備を使ったにもかかわらず、慣らしすら必要なくそれを十全に使って、あっという間にくみ上げて見せたんだから。

 地球産の素材やら技術と融合させた際も、一切の不備や誤作動を出すことなく。

 

 それってつまり、ものの数時間、あるいは数分で。ガーディムの技術体系をデータから理解して、しかもそれを十全に利用することができるほどの学習能力を持ってるってことだよね?

 それかあるいは、最初から知っていた、と言ってもそん色ないくらいだし。

 

 …………そういえばナインって、総司さんが月面から地球に持ち込んだ、『ERS-100』とかいう『地球再生システム』だかが基になってるんだよね?

 

 自立学習型の万能工作システム……だっけ? 資材さえあれば、地球の文明社会を再建させるだけのシステムすら生み出す可能性もあった……とか言われてるって、前に聞いた。

 そう、たしか……『ヴァングネクス』がロールアウトしたあたりでじゃなかったかな。今まで触れる機会なかったけど。

 

 なるほど、彼女にとって、『学習して』『生かす』という行為は、むしろ得意中の得意なわけだ。なんなら、戦闘そのものや、その補助よりも。

 

 ……というか、『ERS-100』自体は、総司さんも運んだだけだから、どこで開発されたのかはわかっていない……いやそもそも、新西暦世界の地球の技術で作られたものなのかもわからない。

 ということは、もしかしたらナインは……いや、まさかね……。

 

 

 

追記

 

 『設備と技術を使わせてくれたお礼です』と、ナインが今ある『サイデリアル』の技術の改良案をレポートにして提出してくれた。

 

 技術部門の人達に見せてみたところ、『うちにスカウトできませんか?』って割とガチのトーンで迫ってこられた。ちょっとびびった。

 僕もちらっとみてそうは思っていたけど、相当有用なデータに仕上がっていたらしい。やっぱナインって、『作る』ことに関してはマジで優秀なんだな……。

 

 まあ、総司さんと一緒にいる彼女をスカウトすることなんてのはまあ、不可能なので、あきらめるしかないが……いいものをもらってしまった。

 

 今後、彼女と総司さんに協力できることがあれば、今まで以上に力を尽くさせてもらおうかな、なんて、現金なことを思ってしまった。

 

 

 

追記その2

 

 さっきまでと全然関係ない話なんだけど、なんかナインに『愛、とは何でしょう?』って聞かれた。

 ……意味と、趣旨が、わからん。

 

 わからんけど、とりあえず『年齢=彼女いない歴』更新中(前世含む)の僕に聞いてもわからないと思うよ、って、自虐を交えつつ返しておいた。

 クリスマスもバレンタインもずっと仕事か、家で1人でいたしね……この2年も、それまでも。

 

 彼女、この質問を『地球艦隊・天駆』のいろんな人にしているらしく……しかし、今まで聞いた中で、ほとんどまともに答えてくれる人いなかったんだって。

 

 逃げられたり、話題をそらされたり、なんか見当違いそうなことを言っていたり、逆に質問で返されたり、はっきり『自分にもわからん』って言われたりで……

 そもそもきちんと答えてくれたの、コーラサワーさんだけだったってさ。

 

 ……うん、まあ……無理もないと思うけどもね。面子が面子だし。

 

 そんなわけで、僕も答えることはできなくて、上記の通りに返したんだけどさ……その時にナインが、

 

『シングルヘルでメリー苦しみます、というやつでしょうか』

 

 ……だから、君どこでそんなの覚えてくるの。

 

 

 

【◇月■日】

 

 『地球艦隊・天駆』出発の日もすぐそこまで迫ってきた今日は、最後の慣らしとか特訓を兼ねて、総司さん達と模擬戦を行うことにした。

 

 もちろん。破損して修理が必要になったりしたらアレだから、加減はしつつ、武器の火力その他もろもろもセーブしながらだけどね。

 それでも、シミュレーターだけじゃ身につかないいろいろな感覚を鍛えるのには、こういう訓練もやっぱり必要なんだよな。

 

 その模擬戦でも思った、というか実感したんだけど、ナインはやはりいい仕事したようだ。

 攻撃力・防御力・機動力・継戦能力……あらゆる面で見事に『ヴァングネクス』は強化されている。

 

 総司さんの操縦技術とナインのサポート能力も相まって、この性能なら、『ガーディム』を相手に無双することだってできそうな勢いだ。

 

 もともと装備されていた陽電子砲やミサイルユニットの火力は底上げされる形で強化され、かつ射程や収束性能もUPしており、遠近共に隙のない攻撃が可能。

 それらの武器を猛スピードで動き回りながら、正確無比な狙いとタイミングでぶち込んでくるもんだから……敵からしたら悪夢でしかないだろうな。

 

 パーツや制御系を改良したのに加えて……何といっても、旧来の動力炉に換えて『ガーディム・ドライブ・デグ』というものを搭載したのが大きいらしい。

 

 この、『ガーディム・ドライブ・デグ』、あの『バースカル』のメイン動力として搭載されていたものであり、解析してみるに、ガーディムの技術の中でも最高峰の性能を誇る動力炉だと思われる……というのが、ナインの解析結果だった。

 

 ナインは改良作業の際、『バースカル』に搭載されていた現物と、データバンクに残されていた設計データを解析し、若干オリジナルよりも性能を落としつつも複製することに成功。それを『ヴァングネクス』に組み込んで新たな動力とした。

 そら火力も機動力も強いはずだわ……戦艦の動力炉で動いてんのか、今のあの機体。

 

 それに加えて、『ヴァングネクス』と『ガーディム・ドライブ・デグ』は、設計上、なぜか相性が良かったらしく、その圧倒的な力で、ヴァングレイの繊細なシステムを損なうことなく強化することができたんだとか。

 偶然か、それとも……。

 

 ちなみに、データだけ見せて軽く分析してもらったのだが……逆に『Dエクストラクター』は、『ヴァングネクス』とは相性が悪かったらしい。

 

 意思の力によって威力が強化される、というのは、一見強力に思えるけれども、逆に言えばそれは、武装の出力や機動性能が安定しないことを意味している。

 

 『ヴァングネクス』は、その制御系が非常に緻密に計算されたギリギリのバランスで成り立っている。ナインが同乗しているのは、この部分の補助も兼ねてのことであり、そうまでしなければ力を発揮できないようなシビアな機体であるらしい。

 それを考えると、機体性能に『人の意思』が関係して来るっていうのは、出力以上に『安定しない』という点がデメリットになってしまうんだそうだ。絶対値的な数値で劣ったとしても、一定の力を安定して発揮できるような性能である方が有用ってわけだ。

 

 まあ、どういう形にせよ、問題なく強化された、そして総司さんが十全にそれを操れるようになったというのであれば、何も問題はない。

 この先の戦いでの活躍を、楽しみにさせてもらおう。

 

 ……いやもちろん、戦いなんてない方がいいんだけどね?

 

 

 

【◇月!日】

 

 物資の補充、各機体および戦艦の修繕・改修、そして乗組員のリストとの突合確認完了。

 全て問題なく乗り込み、積み込みが完了した、との報告が全艦から上がってきたため、現時刻をもって『地球艦隊・天駆』の出立準備を完了したものとする。

 

 明日、『宇宙戦艦ヤマト』を旗艦とする、合計9隻の艦隊でもって、西暦世界の地球を出発。

 『パラレルボソンジャンプ』によって『新西暦世界』に転移の上、イスカンダルを目指して出発する。

 

 ……以上が、沖田艦長から全部隊に向けて、今日届けられたアナウンスである。

 

 ついに来た。とうとう来た。

 地球を救うために、16万8千光年のかなたに旅立つ時が。

 

 

 

 



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第6章 16万8千光年の彼方へ
第72話 Voyage


【◇月◆日】

 

 宇宙戦艦ヤマト(旗艦)

 ラー・カイラム

 ネェル・アーガマ

 トゥアハー・デ・ダナン

 真ゲッタードラゴン

 ナデシコC

 プトレマイオス2改

 エターナル

 ソーラーストレーガー

 

 『地球艦隊・天駆』、合計9隻。

 本日、滞りなく出港することに成功した。

 

 出発直前、性懲りもなくガミラスの連中が現れ、ヤマトを狙ってきたものの……それを事前に予測していた、ネオ・ジオンと地球連邦軍の混成艦隊が僕らを援護してくれたため、妨害されることなく、パラレルボソンジャンプは実行できた。

 

 ゲッター線に皆の『新西暦世界』への思いを集め、それを次元力で増幅しつつ、『リヴァイヴ・セル』で翻訳、演算ユニットに転送。

 同時に、『ヘリオース』の力で次元震を起こして時空の壁を揺らし……カウントダウンが0になったところで、ボソンジャンプを実行。

 

 9隻全て揃って、パラレルボソンジャンプによって次元の壁を越え……数秒後には、周囲の景色が一変していた。

 

 ガミラスの艦隊も、地球連邦軍とネオ・ジオンの艦隊もどこにもなく……代わりに、上下左右前後、どこまでも続く星空が広がっていた。

 

 ヤマトからもたらされた観測結果によると、現在地は……ええと、正確な名称とかアレは忘れたけど、『天の川銀河』と『大マゼラン銀河』の中間地点近く、とのこと。

 『天の川銀河』ってのが、地球が所属する銀河系の名で……『大マゼラン銀河』は、言わずもがなだが、『イスカンダル』がある銀河系の名である。

 

 つまり、僕らは無事、『新西暦世界』に帰ってくることができた……ということだ。

 ヤマトの面々には実に4か月ぶり、僕にとってはさらに長く、2年以上ぶりの帰還である。

 

 ……まあ、宇宙のど真ん中で何もない空間にだから、感覚的には全然『帰ってきた』なんてそれはないんだけども。

 

 やはりというか、実際にやってみるまでは『本当に帰れるんだろうか』って、皆大なり小なり思ってはいたわけだが、こうして肝心要の『パラレルボソンジャンプ』が成功したことで、皆の士気も一気に上がったように見えた。

 ここからいよいよ、イスカンダルへの旅の始まり、というわけだ。

 

 さっき聞いた通り、ここは両銀河の中間地点であり……単純計算で、イスカンダルまでは、16万8千光年の半分だから……8万4千光年くらいか?

 

 そしてこれもさっき言っていたけど、ヤマトのスケジュール的に見て、既に当初の予定を4か月ロスしている。

 

 当初、1年でイスカンダルに行って帰って……往復33万6千光年を行く予定だったことを考えると、致命的どころじゃないロスだと思えるが、その分の遅れはカバーできる見通しだという。

 ヤマトの出港当初にはなかった、ボソンジャンプをはじめとする様々なテクノロジーを有効利用すれば、1回あたりのワープの距離をぐんと伸ばしたり、その他にも色々と方法はあるそうだ。

 

 詳細なスケジュールは今調整・検討中だそうだけど……真田副長や航海長達を信じて待たせてもらおう。

 

 

 

追記

 

 新西暦世界に戻ってきたということで……一時的に行動を共にしていたメルダとは、ここで別れることになった。

 

 彼女はこの後ガミラスに戻り、ゲール提督(宇宙世紀世界でしつこかったガミラスの奴)の横暴その他について告発するつもりだとのこと。

 彼女にとっては、己の正義感にのっとった行動であり、同時に上官の敵討ちでもある。頑張れ。

 

 愛機である『ツヴァルケ』に乗り、ヤマトを出立していく彼女を、皆で見送った。

 

 次に会う時は敵同士かもしれない……と思うと、なんだか寂しいし、ちょっと辛いな。願わくば……そんな時が来ないでほしいもんである。

 

 皆と一緒に楽しくおしゃべりして、スイーツなんかを堪能して笑っている彼女の顔を思い出すと……戦場で会って戦うことなんて、考えたくもなくなるよ。

 誰も口には出さなかったけど、多分皆、同じように考えていたと思う。

 

 

 

【◇月%日】

 

 今のところ、旅程はすこぶる順調に進んでいる。

 

 進み始めて早々に真田副長から通達があったんだけど、ヤマトの『自動航法システム』とやらを使い、スケジュールの修正に成功したそうだ。

 1日もたたないうちによくもまあ……よっぽど高性能というか、優秀なシステムなんだな。いやもちろん、副長や航海長達も頑張ったんだろうけど。

 

 聞いた話だと、事前に波動コアと一緒にイスカンダルから届けられてあった、イスカンダルへの地図をインプットしてあって、そのデータと、周囲の環境やら何やらの情報をもとに、最善の航路をリアルタイムで判断するとかなんとか……すごい技術もあったもんだ。

 

 なので、基本的には航路・予定その他の決定はヤマトに一任し、他8隻はそれに従ってついていっている……という感じである。

 

 普段は、通常の宇宙空間を9隻揃って飛んでいく。

 ある程度進んだら、『ワープ』によって一気に長距離を跳躍し……それが終わったら、また普通に宇宙空間を飛んでいく……という繰り返し。

 

 ワープを行う場所やタイミングは、これもヤマトが決定し、指示する。自動航法システムを参考に、ワープを行うのに最適な場所やタイミングを計算して決定しているんだそうだ。

 

 また、ワープが終わるたびにきちんと各艦の状況を点検し、問題等が発生していないかどうかを確認しつつ進む、という形になっている。

 ワープ自体にもかなり大きなエネルギーが必要だし、艦への負担もあるから、跳んで、休んで、跳んで、休んで……を繰り返して進むわけだな。

 

 とまあ、簡単にまとめると、進み方は全部ヤマトの方で決めて指示してくれるので……ぶっちゃけ僕らは、周囲に敵影やら何やらがないか警戒しつつ、それについていく形なのだ。

 気を抜いていいわけじゃないのはわかってるが、割とやることは多くなく、自由に気楽にできる旅路なのである。

 

 特にこの『ソーラーストレーガー』の場合、艦の制御を限界まで機械で自動化してるから、人間がやることってあんまり多くないんだよな。その気になれば1人で動かせる艦だし。

 

 基本僕は艦橋にいるんだけど、色々な用事でそこを離れることも多い。食事やトイレはもちろん、日課のトレーニングなんかも時間をとってきちんとやってるし……息抜きとかも。

 その気になれば、手元にあるタブレットその他で艦の状況はリアルタイムで知れるから、極端な話、部屋でくつろぎながらそのへんをモニタリングすることもできるんだけど……さすがに何かあったときに即座に動くかもしれないことを考えると、それはまずいよな。

 

 とはいえ、今言った通り割と緩く過ごしてるし……同じ艦に乗っている、舞人社長達やメイルライダーの皆とおしゃべりしたりすることも多い。ドックに行けば勇者特急隊の皆もいる。

 

 さすがに他の艦にしょっちゅう行ったりするほどフットワーク軽くはできないけど、通信一本ですぐつながるから、おしゃべりなんかは割としてるし。

 

 なので、果てない長い旅路ではあるものの……さほどストレスをため込むこともなく、今現在は順調そのものといっていい現状なわけだ。

 嬉しいことに、戦闘も全然起こらないしね。

 

 ガミラスの勢力圏内だって聞いてたから、発見されて襲撃食らう可能性も考えてたんだけど……まあ考えてみたら、この広い宇宙でそうそう頻繁にエンカウントするとも考えにくいか。

 いくら連中の軍事力が強大でも、常に宇宙全体をカバーできるわけもないし。

 

 けど逆に言えば、こちらをあらかじめ捕捉、ないし航路を予測しておいて、待ち伏せするような形で襲ってくるような可能性はあるってことだ。

 

 実際、以前ヤマトはそういう形でガミラスの襲撃を受けたことがあるらしい。

 その時は、『波動砲』を上手く使った沖田艦長の作戦と、ちょうどこの世界に現れた刹那やティエリアの協力もあって凌げたらしいが……さすがに宇宙での戦いとなると、向こうには一日の長があると考えた方がいいのかもしれない。油断は、できないなやっぱ。

 

 常在戦場、とまでは言わないけど……過度に気を張りすぎず、かといって気を抜きすぎもせず、いつ何が起こってもすぐ動けるようにしつつのんびりゆったり過ごす……難しそうだな逆に。

 

 

 

【◇月&日】

 

 今日は、進路上にあったとある無人の惑星で、水やその他の資源の補給をすることに。

 

 もちろん、地球を出発する時に、物資は大量に積み込んで用意してあるんだけど……少しでも節約しつつ。備蓄を確保しておくために、こういう機会にはきちんと補充することになっている。

 

 補充するのは、さっき言った通り、水や……色々な『有機物』を、である。

 

 さて、ヤマトには、『O.M.C.S』という名の食料供給システムが搭載されている。

 略さずに言うと、『Organic Material Cycle System』……だったはず。

 

 様々な有機物を分解・再構築することで、食料や飲料水を作り出すことができるシステムであり、これのおかげでヤマトの乗組員たちは、毎日おいしい食事をとって英気を養うことができるという、長い旅路を支えてくれる重要な設備なのだそうだ。

 

 ただし、当たり前だが、いかに優秀なシステムとはいえ、無から有を生み出すわけではない。

 稼働させるには、きちんと材料が必要になる。

 

 『Organic』の名の通り、原料はあらゆる『有機物』である。有機物なら割と何でもいいらしく……色々なものを突っ込んで分解し、食料に生まれ変わらせることができる。そのまま食べると毒になるようなものでも、消費期限を過ぎて食べられなくなった保存食でも。

 限られた物資で生き抜いていかなければならない、イスカンダルへの旅路の中で、わずかな物資も決して無駄にはしないという方針がよく表れたシステムだともいえそうだ。

 

 その、原料となる『有機物』を、何でもいいから補充するのも、こういうちょうどいい惑星が見つかった時に行う、重要な作業なのだそうだ。

 

 改修班がそういったものの採集を行っている間、普段、航海中は出番がない機動兵器パイロットの面々がその周囲を警戒する……という感じに役割分担して、手早く行う。

 

 ところで、さっき僕は『O.M.C.S』について、『ヤマトに搭載されている』と言ったけども……このシステム、搭載されているのは、ヤマトだけじゃない。

 僕んとこの『ソーラーストレーガー』にも、同じようなシステムは搭載されている。

 

 なので、ヤマトと同様に、『ソーラーストレーガー』でも有機物の回収は行っている。

 それ専用のドローンをあらかじめ作ってあるので、ほぼ全自動で。

 

 そして、水と有機物を大量に確保したら……それを、『ガーディム』由来の食品超長期保存技術で加工を行う。

 そうすると、いつだったか『バースカル』に積んであった、どう見ても食品にはみえない、金属のブロック、あるいはインゴットのような状態に加工が完成する。

 

 この状態にすると、腐敗も劣化も何もしないので、超が5、6個付くほど長期にわたっての保管が可能なのだ。温度・湿度その他の繊細な管理も特に必要ないし、しかも体積的にも超圧縮されているので、一度に大量に補充して保管できる。

 再度機械にかけてこれを分解すれば、きちんと食べられる食料の状態に戻る。

 

 ただ欠点として、ガーディムの技術で食料に戻すと、レパートリーの問題であんまりおいしくないんだけど、そこで猛威を振るうのが、ウォルフガング印の『グルメキッチン5252』といった自動調理システムの数々である。

 ブロック状の保存食(有機物)を分解して再構築、そしておいしく調理することで……いつでも美味しい料理を食べられるようになっている。

 

 それらのシステムが、このストレスのない快適な旅路を支えてくれているというわけだ。

 

 ……ということをあらかじめきちんと皆には話してあるので、この『有機物その他回収』に必要な作業に関しては、皆、きちんと進んで真面目に手伝ってくれています。

 

 というかぶっちゃけ、周囲の見回りとかは、普段出番がない人たちが気分転換代わりに進んで請け負ってくれている感じもするしね。

 

 ああちなみに、このシステム、ブロック状にするだけじゃなくて、ブロックほどじゃないけど長期保存が可能な、色々な保存食にすることも可能だ(パック飯とか缶詰とか)。

 そうして作って、リクエストに応じて他の各艦……こういったシステムを搭載していない艦におすそ分けしたりもしている。レパートリーはかなり広くて色々できるから、喜んでもらえてるよ。

 

 というか僕ら、なんか地球にいた頃と同じようなこと――物資その他の調達・補充担当――やってるな……。

 各艦からリクエストもらって、それに応じて『有機物ブロック』を材料に加工やら調理を行って……必要に応じて缶詰とかに再加工して、他の艦に届けて……ってな感じで。

 

 普通の食料はもちろん、ケーキなんかのお菓子類や、一部の人達が愛飲してやまない酒類まで……なまじ作れるもんだから、便利に使われている感じである。

 いやまあ、さっきも言ったように喜んでもらえてるわけだから、いいんだけどね?

 

 

 

 それと、うちの艦は保存食や、特殊技術で加工して作った食料以外にも、生鮮食品も結構な量を用意して食べることができる。

 艦内に水耕栽培その他のプラントがあるので……というかこれも例によって、ウォルフガング印のマシンなわけだが……やだ、うちの艦、あの人にお世話になりすぎ?

 

 そのおかげで、割と気軽に生野菜とか手に入るし……それを使って、サリーちゃんやエルシャが美味しい手料理を作ってくれるので、それらもすこぶる好評である。

 

 何を隠そう、僕も割とご相伴にあずかってます。

 

 個人的に一番のお気に入りは、サリーちゃん特製のオムライスである。

 チキンライスの上にオムレツのっけてすっと包丁を走らせると、ふわっと広がって卵の雪崩が……ぶわっと凶悪にいい匂いが……いわゆる『たんぽぽオムライス』なんだよね。

 バイト先で覚えたらしいんだけど、見た目が見事なのはもちろん、味も超美味しいの。

 

 そして、これらを目当てに、時々他の艦から暇な人達が小型艇で遊びに来て、食堂でご飯食べていったり、なんてことも……

 ……ホントにうちの艦、なんていうか……娯楽施設じみた扱いをされてきているような気がする。皆が宇宙の船旅に慣れだして、過度に緊張せず、楽しく気楽に過ごせるようになってきてるから、余計に。

 

 ……いやまあ、何度も言うようにかまわないんだけどね? 喜んでもらえてるなら、僕としてもうれしいし(3回目)。

 

 ……こんだけ快適に楽しく宇宙の旅を楽しんでもらえるなら……地球に戻ったら、このノウハウを生かして、宇宙旅行産業でも今度は始めてみようか? なんて思ったり。

 いやむしろ、並行世界旅行……はさすがに……ううむ。

 

 

 

 

 

 ……というか今日の日記、なんか途中から『ソーラーストレーガー』の台所事情自慢みたいになってるな……

 ……これ書いてるのが深夜で、夜食が欲しくなるくらいには小腹が減っているという現状が原因だろうか?

 

 ……よし、今から何か食べに行こう。

 

 

 

 



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第73話 宇宙の雪と、魔女の罠

 

【◇月*日】

 

 ヤマトの真田副長からの話で、この後の具体的な行動予定が伝えられた。

 イスカンダルに行くにあたって、旅程の遅れを取り戻すため、この先にある『亜空間ゲート』なるものを使うらしい。

 ワープを繰り返して進めば、もうあと数日で到着する位置にあるそうだ。

 

 亜空間を利用したワープ用の設備であるらしいそれは、普通に艦としての機能単体でワープを行うよりもはるかに長い距離を移動できるものなのだそうだ。

 これを使えば、一気に目的地に近づくことができる。なら、使わない手はない。

 

 色々と細かい問題はあるみたいなんだけど、それも対処可能だとのことなので、『地球艦隊・天駆』は一路、そのゲートを目指すことになった。

 

 しかし、宇宙空間にあるそんな設備の情報まで教えてくれるなんて……ホントに優秀というか、助けられるな、その『自動航法システム』とやらには。

 イスカンダルからもらったっていう航路図に、そんなものまで記載されてたのかな?

 

 まあ、その辺のお礼は、イスカンダルについた時にでも……その、イスカンダルからメッセージを送ってきてくれたっていう『スターシャ』さんとやらに言えばいいだろう。

 問題なく目的地にたどり着けるなら、こちらとしては何の問題もないわけだし。多分。

 

 

 

 話は変わるけど、この『ソーラーストレーガー』には、他の艦からいろんな人がよく遊びに来る。

 

 自画自賛になるけども、この艦は他の艦に比べて、生産設備や娯楽設備がぶっちぎりで充実している。

 

 以前にも言った通り、食堂ではオート調理で和・洋・中いろんなメニューが好きなように食べられるし、飲み物もソフトドリンクから酒類まで選り取り見取り。

 

 他の艦ではなかなか食べられない、生鮮食品すらもある程度は食べられる。野菜類の水耕栽培プラントや、養殖用の生け簀まであるからね。

 さすがに大型の魚類とかは飼育してないけど、エビとかウナギとかなら食べられるよ? これも飼育環境は完全機械制御。

 

 飲食以外にも、いろんなソフトの筐体のそろったゲーセンや、お一人様から大人数まで対応可能なカラオケボックス、ビリヤードやボウリングが楽しめるサロンもあり、子供から大人まで楽しく遊ぶことができる。

 

 トレーニングジムや、戦闘機や機動兵器の訓練に使える高性能シミュレーターもある。

 まあでもジムはともかく、シミュレーターは各艦にもあるし、皆自分の機体でやれるだろうからそんなに需要はないけどね。

 

 さらには図書館やシネマルームもある。さすがに質量的にあれだしかさばるから、紙媒体の本はない。電子書籍オンリーだ。

 それでも、古今東西のいろいろな名作のデータを入れてあるので、これもいつでも好きな時に楽しめる。アキトさんの強い要望で『ゲキ・ガンガー』も全話入れてあるよ。

 

 なお、年齢制限があるコンテンツも入ってるけど、それらを視聴するには18歳以上であることが証明できるIDカード認証が必要になる。お子様は見られません。

 にも拘わらず、ヴィヴィアンやサリーちゃんといった面々を招待した上で、自分のIDでダウンロードした映画の鑑賞会(意味深)を開こうとしたヒルダには厳重注意の処分が下りました。反省しなさい。

 

 おまけに室内プールやスパリゾート的なものまである。

 アルゼナルの皆はここが特にお気に入りで、ドリンク持ち込んでバカンス気分でゆったり過ごしたり、思う存分泳いで体を動かしてはしゃいだりしている。

 

 こんな感じで、『戦艦じゃなくてアミューズメントパークか何かじゃないのかここ』って言いたくなるくらいのものになってしまっている。まあでも快適に過ごせる分にはいいじゃない。

 

 他の艦も、長期の航海にも対応できるように色々と設備が整ってるとはいえ、基本的には戦闘や軍事作戦を遂行するために作られてる艦だから(うちも一応そうではあるんだけど)、サロン系の設備はそこそこどまりである場合が多いからね。

 ……何度も言うように、そっちの方がむしろ普通というか当然で、この艦がむしろ全力で趣味に走りすぎてるってだけなんだけど。

 

 なので、非番でやることがない人の息抜きの場所として最適、みたいに扱われており……さっき言ったようにいろんな人が遊びに来るわけだ。

 

 アスカやさやかさん、プルやプルツーなんかの女の子メンバーは、よく食堂にスイーツとかを食べに来るし、もうちょっと年齢が上の層……マオさんやミサトさんなんかは、例によってお酒。

 

 他にも、例によって総司さんや、他のヤマトクルーが多い気がするが、生け簀でとれた魚とかの生鮮食品を食べに来ることもある。

 お刺身や焼き魚、納豆なんかをお供に白いご飯……というのが、皆さん至福のひと時のようで。

 

 男女問わず、特に日本人メンバーに人気なのが、大浴場他、スパリゾート系。

 色々な風呂を体験できるのはもちろん、そもそもゆったり足を延ばしてお湯につかれるっていうのが気に入っているらしい。僕もわかるなあ、その感覚。

 好みは人それぞれだろうけど……やっぱいいよね、大浴場。

 

 なお、スパリゾートにはサービスでコーヒー牛乳やフルーツ牛乳を冷やしておいてある。様式美ってやつだ。

 かなり好評で、利用者のだいたい2~3人に1人くらいは、風呂上がりに飲んでいく。

 

 その中のさらに何人かは、よく、腰に手を当てて一気飲みしていたりする。こないだそれを見て、ああ、どこの世界でもこういうの定番なんだな、って思ってしまった。

 

 宗介君や甲児君、鉄也さんや竜馬さんなんかは、トレーニングジムで鍛えに来ることも多い。

 色々と機材が充実してて、筋トレとかなら割と本格的にやれる環境か整ってるし……汗かいたらその後、スパで気持ちよく流せるからな。

 

 あと、宗介君とかと同じく軍人であるクルーゾーさんも来るんだけど、彼は時々、シネマルームを1人で予約して大画面でお気に入りの映画を見て行ったりしている。

 最近はいわゆる『名作アニメ』だけでなく、最近のアニメもよく見ているようで……ええと、こないだは確か、『鬼〇の刃』と『ヴァイオレット・エ〇ァ―ガーデン』……ああ、うん、何かわかる気がする。

 

 そうして非番の時間を有意義に過ごした人達は、自分達の艦に帰る際に、色々とお土産を持っていき、留守を守ってくれていた仲間たちにふるまう……というところまでが半ばワンセットになっている。

 うんうん、たくさんの人がそうして喜んでくれて、『地球艦隊・天駆』全体の士気向上につながるなら、僕らとしても役に立ててうれしい限りだよ。

 

 ただ、今日というかさっきは、帰りがけの総司さんに『たまにはお前らもこっちに遊びに来いよ』って言われた。

 

 この艦みたいに設備が充実してたりはしないけど、ヤマトにも割と大きな食堂があって、そこによく皆で集まっておしゃべりしたりするそうだ。

 『O.M.C.S』もあるから、いろんなもの食べながら話したりすることもできるし。

 

 それに、ヤマトは『ソーラーストレーガー』とは逆で、人がかかわって動かす機関がかなり多い艦だから、他ほど気軽にうちに遊びに来れる人は多くない。

 そういう人はヤマトにずっといるわけだけど、彼ら・彼女らとおしゃべりしたり交流する意味もあって、ヤマトにも結構色々な人が集まったりするそうなのだ。

 

 また、その人たちをはじめとしたヤマトクルーの皆さんは、同じ世界出身として、あるいは一度ヤマトの医務室でお世話になった身として、僕らのことも気にかけてくれてるそうで。

 だからたまに顔見せに来いよ、って田舎の親戚みたいな感じで総司さんは言ってくれた。

 

 そういうことなら……そうだな、今度、時間見つけて遊びにでも行こうか。

 せっかくだし、色々お土産になるような食料品その他、たくさん用意して持っていこう。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 その、数日後のこと。

 ミツルとミレーネルの2人は、『宇宙戦艦ヤマト』に久々に遊びに訪れていた。

 

 今現在、『地球艦隊・天駆』は、数日前から話になっていた『ワープゲート』にようやくたどり着いたところだった。

 

 宇宙空間に浮遊している、巨大な穴を形作るリング状の構造物。

 この設備を使うことで、単体でのワープを行うよりもはるかに長い距離を踏破することができるわけだが……ここ『アケーリアス遺跡群』のゲートは、もう長いこと使われておらず、存在すらほとんど忘れられている設備なのだという。

 そのため、機能そのものは現在、稼働していない。

 

 ただ、再起動させることは可能だとのことだったため、現在、コスモゼロで古代進と森雪、それに真田副長の3人が、その遺跡に行ってワープゲートを動かすための作業に従事している。

 各艦はその近くに停泊し、それが終わるのを待っている、というのが今の状況だ。

 

 ミツルとミレーネルは、その待っている間の時間を利用してヤマトに来ていた。

 

 

 

「あー、それで雪いないのね……仕事中なら仕方ないか」

 

「ちょうどタイミング悪かったわね……どのくらい時間かかるかわからないけど、今日は割とゆっくりできるんでしょう? なら、帰りがけには会えるかもしれないわ」

 

「もし無理そうでも、お土産は渡しておくからさ」

 

 場所は、ヤマトの食堂。

 『O.M.C.S』で作られた食事やスイーツに舌鼓を打ちながら、ミレーネルは玲や岬といった面々と楽しく談笑しているところだった。現在、一時的にミツルとは別行動中である。

 

 さやかやかなめ、アスカなど、時間ができてちょうどそこに集まっていた面々も一緒にいて、いつもの女子会のような雰囲気になっている。

 

「まあ、間が悪かったのはあっちもだし、仕方ないんじゃないの? ちょうどこんないいお土産が持ってこられた時に、外での仕事とか……ついてないわよねえ」

 

「こらアスカ、全部食べないでよ? ちゃんと帰ってきた時の雪の分も残しといて」

 

「わかってるわよ。そもそもこんなにいっぱいあるの全部食べるとか無理だし……にしても、コレおいしいわね。砂糖菓子みたいなのに……なんていうの? 味わい深い、っていうか……」

 

「それは確かに……っていうかあの船の調理装置、和三盆まで作れたのね」

 

 不思議そうな顔をしながら、ミレーネルが持ってきたお土産の『和三盆』を口にするアスカに、うなずきながら感心するさやか。

 アスカはドイツ育ちであるためか、こういったものを食べるのは初めてのようだ。

 

「あくまで機械で作った『再現』の品だけどね。本場の、職人が作ったやつってもっと美味しいわよ? 前に『サイデリアル』の会議で京都行った時に、お茶請けで出してもらった奴なんか、食べた時衝撃だったなあ……こんなにおいしい砂糖があるのかって思った」

 

「砂糖て。いやまあ、確かにそうだけど……」

 

「まあ、これ以外にも……というか、そもそも地球の食べ物って全体的にレベル高いから、ほとんど何食べても美味しいし、そのたびに驚かされたけどね」

 

「宇宙人にそう言ってもらえるとなんだか誇らしいわね、地球の文化のレベルが銀河に通用してるみたいな感じで」

 

「でも確かに、メルダもパフェ食べてびっくりしてたよね。見た目もきれいなのにすごくおいしい、って」

 

「うん。それですっかりハマって、よく食べに来てた!」

 

 プルやプルツーも一緒になってそんな風に語っていると、窓の外を見ていたかなめが、ふと何かに気づいて、

 

「ん? 何だろあれ……」

 

「え? かなめどうしたの……え、雪?」

 

「えっ、何? 雪、もう帰ってきたの?」

 

「あら……思ってたより早いわね。もう遺跡の修復終わったのかしら」

 

「いや、違う、雪……雪さんじゃなくて。空から降ってくる方の雪」

 

「わあ、すごい! ホントだわ、宇宙に雪が降ってる!」

 

「「「え?」」」

 

 感動したように言うベルナデッドにつられて、他の面々も窓の外を見ると……その言葉通り、艦の上の方から、はらはらと雪のようなものがあたり一面に降ってきているのが見えた。

 

「すごい、綺麗……」

 

「宇宙って、こんなことも起こるのね……知らなかった」

 

「何だろう一体……動きからして、デブリとかではないと思うけど……スノースター? それとも……まさか本物の雪が宇宙空間に降るはずないし……」

 

「まあまあかなめ、そんな野暮なこと言ってないで、こんな時くらい純粋に楽しもうよ。ね?」

 

 漆黒の宇宙空間で、ラメのようにきらめいて、明滅しながら降り注ぐ。神秘的、幻想的なその光景に、女性陣はおおむね感動して見とれていたが、そんな中で……

 

 

 

「……? コレ、何だっけ……どこかで見覚えが……」

 

 

 

 窓の外の後継を見ていたミレーネルが、ふと、この光景に既視感のようなものを覚えた。

 同時に、理由はわからないが……言い知れない不安感のようなものも湧き上がってくる。

 

 知っている。自分は、この光景を知っている。

 しかし、思い出せない。こんな幻想的な美しい光景、思い出として記憶の中に残っていてもよさそうなものなのに。

 

 ただ単に忘れているだけ? それとも……レプタボーダ以降の、『失った記憶』の一部の中に……

 

 そんな風に考えを巡らせていたミレーネル。

 少し気難しい顔になっていたのだろう。今さっきかなめを諫めたルーが、ミレーネルにも同じく純粋に楽しむように言おうとして……その直後、

 

「ミレーネル、ほらあなたも……ふあぁ……」

 

「あれ、何だろ……何か、眠く……」

 

「ん、昨日夜更かししすぎちゃったかな……」

 

 あくびをしたかと思うと、すぐにとろんとした半目になり、眠そうにして……いや、ルーだけではない。

 はっとして見てみれば、かなめに玲、さやかにベルナデッド……周りにいる女性陣の全員が、突如として眠そうにして……そのままテーブルに突っ伏したり、床に座り込んで、眠っていく。

 

 少し離れたところで談笑していた、甲児や宗介、勝平といった、男性達も同じのようだ。

 

 そんな中で、ただ1人無事で立っているミレーネルは……

 

「これって、精神干渉……攻撃されてる!? しかも、この能力……波長……」

 

 周囲に倒れ伏す仲間達を唖然とした表情で見て……しかしそれ以前に、自分の精神官能能力が察知した、ある事実に気づいたことで、愕然としていた。

 

 食堂全体……いや、ともすれば艦全体を覆っているかもしれない。この精神干渉攻撃。おそらく窓の外の雪……に見えるアレは、広域にその影響を及ぼすための触媒のようなものだろう。

 

 そして、感じ取れる精神波は、まぎれもなく……

 

「ジレル人特有の精神波……でも、ミーゼラのじゃない。これは、まさか……でも、なんで、ありえない……だってこれ―――

 

 

 

 ―――私、の…………!?」

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 同時刻、医務室。

 

 ミツルがお土産に持ってきた大吟醸の一升瓶を手に取り、ほくほく顔になっていた直後、突然ふらついて倒れこんでしまった佐渡先生。

 ミツルはあわててその体を受け止めるように支えて(ついでに酒瓶も)、床に頭から倒れるのは防いだが……視界の端で、原田衛生士が同じように崩れ落ちたのが見えていた。

 

 加えて、何かが自分の頭の中に干渉しようとしてくるような不快感が沸き起こる。

 

 とっさにそれを拒絶してはじいたミツルだったが、すぐに別な違和感に気づいた。

 

「今のって……ミレーネルの精神波じゃ……でも、なんで……?」

 

 

 

 



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第74話 記憶の海の底から

 

 

 ひとまず佐渡医師と原田衛生士をベッドに寝かせ、医務室を出たミツルは、その直後に通路を走っていく総司とナイン、そして、オレンジ色の制服を着た小柄な女の子……岬百合亜准尉に出くわした。

 

 3人は今、岬の先導で波動エンジンに向かっているとのこと。

 そこに、今回のこの騒動の原因となる何者かが潜んでいる、と見ているらしい。

 

 以前のこともあるし、今回もまさかまだガーディムか? などと嫌な予想を浮かべながら、3人に加えてミツルも一緒になり、一路、波動エンジンが搭載されている部屋に向かう。

 

 途中、やはり何人か眠って倒れている者がいたが、助ける手段がないのと、一刻も早くこの状況を打開するため、元を断つべきだと足を急がせた。

 

 なお、ナインが無事なのはAIだからだろうが、総司と岬が無事な理由は不明。

 ミツル自身についても定かではないが、案外気合か何かで何とかなったのかも、と無理やり納得することにした。

 

 そして、エンジンルームの前まで到着した一同は、そこで古代戦術長と森船務長と合流した。

 

 この異変が起こった際、真田副長を含めた3人は、外部に出ていたために影響を受けず、無事だった。そのため、アナライザーからの通信で異常事態を知って帰ってきたのだ。

 真田副長はひとまず別れ、沖田艦長らのいる艦橋を目指したという。

 

 合流した一行は、念のためそれぞれの武器を手にもって扉を開け、中の様子を確認する。

 その直後、彼らの前に姿を現したのは……予想外の人物だった。

 

「み、ミレーネル!?」

 

「何をしているんだ、こんなところで……」

 

 彼らにとっては最早見慣れた、白に近い灰色の髪の毛と肌。

 しかし、彼らの記憶にはないデザインの――唯一、ミツルだけは過去に見たことがある――パイロットスーツのようなぴったりした服を身に着けた、ミレーネルの姿だった。

 

 その瞳はしかし、苦楽を共にしてきた仲間達を見るのとはまるで違う、無機質で冷徹な……それどころか、敵意や警戒心すら併せ持った光を帯びていた。

 

「……お前達は、誰だ? なぜ、私の精神干渉を逃れている? いや、それ以前に……なぜ、私の名前を知っている?」

 

「……何ですって?」

 

 そして、かけられた言葉は……まるで自分達を知らないかのような口ぶりのそれ。

 その言葉に、森雪は動揺したような声音で返し……いや、動揺しているのは彼女だけではない。

 

 姿は、同じ。声も、同じ。

 しかし、その他の感じ取れる全てが……『違う』。そう、その場にいる全員が感じていた。

 

 目の前にいるこの女性は、ミレーネルではない。

 こちらの目を欺くために偽装しているのか? しかし、それなら彼女に成りすましたような、ごまかすような言動をとらないのはおかしい。

 

 それに加えて、おかしなことに気づく総司とナイン。

 

「……おい、この部屋の扉……今、外部からロックかかって閉まってたよな? 何で君……部屋の中にいたんだ?」

 

「キャップ、この人……ミレーネルさんじゃありません。いや、それどころか……実体がない?」

 

「……ジレル人特有の精神干渉能力の応用。超空間ネットワークを介して、精神体だけをこちらに飛ばしてきているのね」

 

 唐突に岬が口にしたそんな言葉に、一同は驚くが……目の前のミレーネルはその瞬間動く。

 艦を掌握した時よりもさらに強力な精神波を発し、総司や古代達に幻覚を見せて眠らせようとして……しかし、次の瞬間。

 

 反対方向から発せられた、さらに強力な別の精神波によってレジストされ、弾かれた。

 

「……何、だと……!? これは、一体……!?」

 

 しかし、ミレーネルは、攻撃が失敗したことよりも……今、自分の精神干渉をはねのけたのが何かということに気づいて……そちらの方にむしろ驚き、困惑していた。

 

 総司達は、一瞬強烈な眠気に襲われながらも、即座にそれが消え……そして、目の前でミレーネルが愕然としたような表情になっているのを見た。

 自分達……ではなく、おそらくは、自分達の後ろにいる何かを見て、のようだ。これ以上ないくらいに驚いて、困惑している。

 

 警戒はしつつも、どうかしたのかと、彼らも背後を確認して…………余計に驚くこととなった。

 

 何せ、ミレーネルの視線の先……そして、自分達の背後に立っていたのは……

 

「「「…………ッ!?」」」

 

 

 

「ミレーネルが……2人……!?」

 

 

 

 自分達の背後で、手のひらを突き出す姿勢で……しかし、冷や汗を流し、ショックを受けたような表情になっている……もう一人のミレーネルの姿だった。

 こちらは……『サイデリアル』の会長秘書としての、見慣れたスーツ姿である。

 

 よく見るとわかる程度にではあるが、その手を震わせている彼女は……同じように愕然とした表情でこちらを見てくる、同じ顔の何者かの前で……

 

 

 

 

 

「思い……出した……! そうだ、私は……ッ……!」

 

 

 

 

 

 ほとんど誰にも聞こえないような、掠れるような声で……呟いた。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 彼女の名は、ミレーネル・リンケ。

 アケーリアス宙域のどこかの星の出身で、『ジレル人』の末裔。

 

 『ジレル人』は、幻覚や精神干渉、記憶の覗き見といった特異な能力を持っていたことで、他の種族におそれられ、迫害されてきた歴史を持つ種族である。

 現在は絶滅寸前の状態にあり、彼女自身が存在を認識している同胞の生き残りは、自身と、自身の姉のような存在であるミーゼラ・セレステラのたった2人だけである。

 

 幼少の頃、収容所惑星である『レプタボーダ』に入れられていた過去を持つ。

 主に政治犯や、ガミラスに逆らった種族、戦争で負けた種族の生き残りなどが入れられるそこは、表向きは矯正施設としながらも、囚人への非人道的な扱いが公然とまかり通る、控えめに言っても地獄のような場所だった。

 

 そこで、決して短くない時を過ごしたミレーネルだったが、ある時、彼女とセレステラに転機が訪れる。

 たまたまその惑星を訪問していた、大ガミラス帝星の総統・デスラーの目に留まり、レプタボーダを出ることができたのだ。

 

 それを恩に思った2人は、彼の役に立つことを望み……ガミラスの軍に入った。

 ガミラス人ではない2人にとっては、決して居心地のよくない、楽な道のりではないことを覚悟の上で。

 

 並々ならぬ努力の果てに、セレステラはデスラーの側近にまで上り詰めた。

 単なる補佐としての手腕のみならず、その感応能力をもって、デスラーと敵対する者達の策謀を見破り、彼を助け、補佐する立場となった。

 

 そして、ミレーネルはそのセレステラ直属の部下であり、『中央情報部特務官』の地位を手に入れていた。

 

 そんなある日、ミレーネルはセレステラの命により、ある秘密作戦を実行することになる。

 

 内容は、現在ガミラスにとっての敵対目標であるテロン人(地球人)の戦艦、ヤマト。それを極力機能を残したまま、乗員ごと無力化して拿捕するというもの。

 

 ミレーネルは、アケーリアスの宙域にあった超空間ネットワークを介して、ジレル人の特殊能力『ゴーストリンク』により、自らの精神体のみを飛ばしてヤマトに潜入させた。

 

 その際、周辺宙域に展開していたドメル上級大将指揮下の艦隊に協力を要請し、精神干渉能力を補助する特殊な物質を散布させることで、非常に広範囲にその力を発揮することができた。

 ヤマトの窓から観測できた、雪のような物体の正体がこれである。

 

 そして、増幅された精神波を放って乗員達をことごとく眠らせ、無力化していった。

 後は、無防備になったヤマトを操作し、待機しているセレステラ達の乗る艦隊を呼び寄せて制圧すれば任務は完了……というところまで来ていた。

 

 しかしここで、彼女にとって想定外の事態が3つ発生する。

 

 1つ目は、遺跡の調査のために、古代、森、真田の3名が艦を離れていたために、精神波の影響を受けずに無事だったこと。

 アナライザーから異常事態発生の連絡を受け、対応のために彼らが戻ってくることとなった。

 

 2つ目は、精神波が効果を発揮せず、無事にすんでいた者がいたこと。

 

 生物ではなくAI……機械であるために影響を受けなかった、ナインやアナライザー。

 

 ナインの記憶と混線してしまったために催眠のかかり方が不十分だった、叢雲総司。

 

 とある理由で影響を受けなかった、あるいは受けても無事にすんでいて動くことができた、岬百合亜と星川ミツル。

 

 そして……もう1人。

 これこそが、彼女にとって3つめの『想定外』であり……いや、そもそも想定すること自体が不可能であるといっても過言ではない、特大の異常事態。

 

 敵側に……もう1人、自分以外の『ジレル人』が……それも、他ならぬミレーネル自身が、もう1人いたことだった。

 

 

 

 2人の『ミレーネル・リンケ』の邂逅から先に起こったことを簡潔に述べよう。

 

 当然ながら、混乱の極みに至ったミツル達は、ひとまず服装と態度から、侵入者の方のミレーネルを敵と判断し、問いかけた。

 お前は誰だ、なぜミレーネルの姿をしている、正体を現せ、目的は何だ……etc。

 

 侵入者の方のミレーネルは、それに一切答えずに再び精神波を放つものの、それは、ミツル達にとって仲間の方のミレーネルが放った精神波によって相殺されてしまう。

 

 やむなく古代が発砲し、その銃撃は侵入者の方のミレーネルの体に風穴を開けたが……すぐにふさがってしまった。

 彼女は現在、実体のない精神体。物理的な攻撃は、多少痛みを覚える程度で、実質意味がない。

 

 しかしその隙に、岬百合亜が波動エンジンを操作し、その力を一部開放。

 それによって生じたごくわずかな空間のひずみは、実体であるミツル達には何ら影響を及ぼすことはなかったものの、精神のみの存在となっていた、侵入者の方のミレーネルには致命的だった。

 

 空間のエネルギーそのものが、まるでバキュームのように作用し、彼女の精神体をからめとり……そのひずみに引きずり込み……この場から追放した。

 

 これにより、ミレーネル(侵入者)という脅威は取り去られ、犯人がいなくなったことで精神波による影響も消えたため、ヤマトは危機を脱することができた。

 ヤマトの側からすれば、それで終わりのことだった。……そのはずだった。

 

 

 

 ここから先は、誰も知らず、誰も予想もできなかったこと。

 

 本来ならば、異空間に飲み込まれ、膨大なエネルギーの奔流の中ですりつぶされて破壊され、消滅……生物としても絶命するほかなかったであろうミレーネル。

 

 現に、とある世界線では……そのまま精神体が消滅してしまったために、肉体もそれと同時に命を失ってしまっていた。

 

 しかしこの世界では……ある理由から彼女の精神は壊れることなく、異空間の中を押し流され、漂い続けた。

 

 精神だけの存在であるがゆえに逃れられない苦痛の中で、彼女は助けを求めてもがき続け……しかし、ゆっくりとその精神は、記憶は、傷つき、摩耗していった。

 不幸中の幸いとでもいえばいいのか、心が失われていくのに従って、彼女が感じ続けていた苦痛も取り去られていったが……それが彼女にとって救いになったかどうかは、わからない。

 

 しかし、ある時彼女は……何かのはずみにその流れからはじき出された。

 それはあるいは、どこか近い場所で、次元震のようなものが偶発的に起こり……異空間の壁に穴が開き……その余波によるものだったのかもしれない。

 

 彼女が流れ着いた先は、宇宙も、世界も、時間すらも……全てが異なる場所だった。

 青い海、平和な街並み、異なる文明だと一目でわかる大都会。肌色や小麦色といった体色の民族が主に暮らし、機械文明が主に発達した世界。

 彼女たちがかつて『テロン』と呼んでいた、しかしそれとは異なる世界の同一惑星。

 

 その頃の彼女には、もはや何かをするだけの気力もなく、記憶は摩耗して大きく削れてなくなり……自我すらほとんど消滅し、精神の存在としても死を迎える寸前だった。

 

 心のどこかでそれを理解しつつも、そのことに対しても、彼女は忌避感ももはや示さなかった。すでに彼女は、全てを諦めてしまっていたのかもしれない。

 

 あと数日もそのまま経過していれば……彼女は今度こそ、終わりの時を迎えていただろう。

 

 そして、そんな今わの際に……

 

 

 

 ……彼女は、運命の出会いを、

 

 いや、運命を変える出会いを果たす。

 

 

 

「うわっ、何、え、何!? いやいやいや、マジで!? マジで幽霊!? ちょっ、やば……ん? なんかそれにしちゃ服とか近未来っぽいな……耳尖ってるし。エルフ? ……え、マジで何? 誰? うちの会社の倉庫で何してんの? ……もしもーし、聞こえてる?」

 

 

 

 こうして、今から約2年前の、西暦世界の……とある場所の、倉庫の中において。

 

 ミレーネル・リンケと、星川ミツルは……初めての邂逅を果たしたのだった。

 

 

 

 



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第75話 改めて、よろしく

 

 

「……以上が、私が思い出したことの全てです」

 

「なるほど。説明に感謝する」

 

 精神干渉能力による攻撃から、無事全員が復帰した『地球艦隊・天駆』。

 

 一通りの後処理を終えた後、各艦とモニターで通信がつながっている中で……今回起こったことの詳細と、その裏側に隠れていた、とある真実について、説明と情報共有がなされていた。

 

 そしてその中には、ミレーネルが思い出した記憶についても含まれていた。

 

 彼女がかつて、このヤマトを拿捕するために送り込まれたガミラスの工作員だったという事実が、他ならぬ彼女自身の口から語られた時には、さすがにほとんど全員が驚いていたように見えた。

 それでも、途中で口を挟んだりすることはせず、ミツルを含め、全員がその話を最後まで聞く姿勢をとっていた。

 

「すでに各艦の状況のチェックは済んでいるのだったな?」

 

「はい。侵入者が何か行動を起こす前に、古代や叢雲といった無事だった面々が駆け付けたようです。艦の各部に特に破損等は見受けられませんので、今後の航行予定に差し障りは生じないかと」

 

「波動エンジン、および波動コアについても簡易的にチェックを行いましたが、問題は発生しておりませんでした。ワープ航法も波動砲も問題なく使用可能です」

 

 真田副長と新見情報長からの報告をそれぞれ聞き、うむ、と納得したようにうなずく沖田艦長。

 

「ならば今後の予定に変更はない。同時に、各艦警戒態勢に移れ。……敵の作戦が失敗した以上、そう時間をおかずに後詰めが来る可能性が高い。……だがその前に、確認しておかなければならないことがある」

 

 そう言って、沖田艦長はミレーネルに向き直る。

 

 いや、沖田艦長だけではない。モニター越しに、他の艦に乗っている者達からも視線が集中しているのを、ミレーネルは感じ取っていた。

 

 それでも、これは予想できていた事態。

 ミレーネルは目をそらしたり伏せたりすることなく、正面から見つめ返し、口元を一文字に引き締めて次の言葉を待った。

 

「ミレーネル・リンケ女史。あなたに一つ確認しておきたい……あなたは今後、どうする心づもりであるかを」

 

「……はい。私は……かなうなら、このまま引き続き『地球艦隊・天駆』の一員として、皆さんとともに、イスカンダルへの旅路に……ひいてはその先の、地球を救うための戦いのために、協力させていただきたいと考えています」

 

 それを聞いて、部屋の隅にいた伊藤保安部長がわずかにぴくっと反応したようなそぶりを見せたが、その他は黙って彼女の話を聞き続けていた。

 

「その申し出については、大変心強く、またありがたく思う。しかしそれは……あなたのかつての所属である、ガミラスと敵対することと同義だ。あなたが探したがっていた……姉と慕う者とも。それを踏まえた上で、我々に協力していただける、と?」

 

「はい。……もちろん、このような身の上ですので、私の言葉など信じられないかもしれないのはわかっていますし……もし皆さんがそれを受け入れられないのであれば、今回のことで皆さんに危害を加えたことも含め、しかるべき処罰を受ける覚悟もできています」

 

 ですが、と続ける。

 

「決して短くない時間を地球で過ごした者として……あの星はすでに私にとって、故郷と呼んで差し支えないものになっています。それに……銀河規模で侵略戦争を展開し続けるガミラスに、過去の恩だけを理由に盲目的に従い続けることは、多種多様な種族の存在や価値観というものを知った今となっては……口が裂けても、正しい選択とは言えないものだ、とも認識しています」

 

「…………」

 

「ですから、もし私のことをまだ信じていただけるのであれば……どうか、お願いします。私を……皆さんとともに行かせてください」

 

 そう言って頭を下げるミレーネル。

 

 沖田艦長は、しばらくの間黙って考えていた。

 そして、ミレーネル以外にも……その場にいて顛末を見守っていた、ミツルや総司、ナインや古代といった面々の視線も集中する中で、口を開いた。

 

「ミレーネル女史。あなたの覚悟と、異星人でありながら、我らの母なる星……地球に対して、とめどない愛を抱いてくれているその心に、敬意を示す」

 

「……!」

 

「もとよりあなたを疑うつもりなどない。これまでともに戦ってきた者として、その心根が信頼に値するものであることは理解しているつもりだ。……これからも、よろしく頼む」

 

「っ……はい! ありがとうございます!」

 

 その瞬間、部屋の中の……いや、モニター越しに見ていた者達全ての空気が緩み……中にはわかりやすく笑顔を浮かべて喜んでいる者も少なくはなかった。

 その光景はつまり、この沖田艦長の決断を、何一つ不満なく、見ていた者達が受け入れている……すなわち、ミレーネルはすでに、『地球艦隊・天駆』の仲間として認められ、受け入れられているということの証明だった。

 

 ふと、ミレーネルの視線がずれて横を向き……何も言わず、しかしずっと彼女を見守っていた青年……ミツルと目が合う。

 

 何か彼女によくないことが起こりそうだとみれば、すぐさま口を出して助けるつもりでいた彼だが、それも杞憂に終わり……ほっと安堵していたところ。

 ミレーネルと視線が交わされた瞬間……思わずその顔に、喜びの笑みが浮かぶ。

 

 それに対して、ミレーネルもまた……今度こそ、何1つ不安も含みもない、心からの笑顔で返すのだった。

 

 

 

 しかし、ゆっくりとそのことをかみしめて味わう暇もなく、

 

『沖田艦長! 他ノ方モ、至急艦橋ニオ戻リクダサイ! レーダーニ感アリ、ガミラスノ艦隊デス!』

 

「……沖田艦長の予想が当たったな」

 

 放送設備越しのアナライザーの声が響き渡り、全員が一瞬にして表情を引き締める。

 呟くように総司が言い、続ける形で沖田艦長の声が響き渡った。

 

「総員戦闘配置! 航空隊および機動部隊は直ちに出撃準備! ここは今までよりもガミラスの本拠地に近い……相応の規模および戦力の敵が展開していることが予想される。心せよ!」

 

「ミレーネル君、このあたりで展開しているであろうガミラスの軍について、何か情報は?」

 

 真田副長からの問いかけに、ミレーネルは少し考えて、

 

「恐らくですが……記憶を失う前の私の作戦行動時、協力を要請していた相手からすると……エルク・ドメル上級大将の艦隊かと」

 

「上級大将!? おいおい……何かえらい大物が出てきたんじゃないか?」

 

「『宇宙の狼』の名で知られる、ガミラス軍の中でも最高と言われる名将です。……宇宙世紀世界で何度か戦ったゲール提督とは、率直に言って、全てにおいて雲泥の差かと」

 

「先程の特殊極まる作戦と言い、敵も本腰を入れてきたということか……」

 

 ミレーネルの言葉に戦慄する島と古代。

 

 しかしそれでも、彼ら、彼女らの歩みに迷いはなく、迫りくる戦いに備えて、自らの乗る機体へと足を急がせるのだった。

 

「ミレーネル、君はこっち」

 

「えっ、ミツル? こっちって何―――」

 

 と、ミツルがミレーネルの手を取った瞬間、一瞬だけ緑色の光が2人を包んだかと思うと……その場から一瞬にして2人が消え去った。

 

「……え、何ですか今の?」

 

「ああ、そういやミツルが最近、次元力を使った個人単位での転移が使えるようになったとか言ってたっけな……まだできるのミツルだけらしいけど」

 

「そんなことが可能なのか!? いやでもまあ、北辰の奴も『ボソンジャンプ』で似たようなことはやってたか……まあいい、迅速に動けるならそれにこしたことはない。俺達も急ぐぞ!」

 

 しばしの間、あっけにとられていたトビアやキンケドゥを総司が急かす。

 

 そして、一瞬にして『ソーラーストレーガー』に場所を移したミツル達は、こちらもそれぞれ準備に移る。ミレーネルから情報がもたらされた、これまでにない強敵に立ち向かうために。

 

 ……しかしこの時、彼らはまだ知らなかった。

 この戦いで彼らを待ち受ける敵は……ガミラスだけではなかったことに。

 

 

 ☆☆☆

 

 

【◇月+日】

 

 突然起こった超広範囲の精神波攻撃に始まり、2人のミレーネル。

 そして、戻ってきた記憶と……明らかになった真実。

 

 ……これまで何も起こらず平和だった反動か、ってくらいに、色々なことが一気に起こったり、明らかになったりした。

 

 まあ、結果としてミレーネルの記憶が戻って、そのうえで改めて僕らの仲間になってくれたことについては……本当に良かったと思うけど。

 

 けど、それだけじゃなくて……さらに続けてトラブルが襲ってきたんだもんなあ。

 

 『後詰め』として襲撃してきたガミラスの艦隊は、ミレーネルの情報によれば、ガミラス軍の『上級大将』とかいう人が率いる精鋭部隊だとのこと。

 指揮官としても実力も、兵士達の錬度も、宇宙世紀世界で戦った連中とはまるで別格。

 

 実際、そのあとすぐに機動部隊は出撃して相手をしたわけだけど……確かに、強かった。

 

 これまでの敵は、単に火力と数に任せた戦術しか使ってこなかった。

 あるいは使っても、こちらのデータにない特殊な兵器で不意を突いてきたりとか、そういう方向の戦術にとどまっていた。

 

 しかし、その指揮官……『エルク・ドメル上級大将』とやらは、時に火力と装甲を生かして大胆に攻め、時に巧みに陣形を操ってこちらを誘い込み……気づいたら後ろに敵艦や敵機が回り込んでいたり、一気に包囲が狭まってきて囲まれてしまったり、なんてこともあった。

 

 その時は、空間転移が可能なヴィルキスや、装甲の強靭さや防壁で強引に突破可能な、マジンガーやエヴァンゲリオンだったからよかったけど……正直、肝が冷える場面だった。

 

 こちらの方が、機動兵器ってことで機動力は大きくあるはずなのに、それすら利用して手玉に取ろうとしてくるんだからな……。

 戦慄すると同時に感動すらしてしまった。超一流の軍人って、ここまでのことができるのかと。

 

 しかし、戦いの途中で……なぜかその上級大将の艦隊は、いきなり切り上げて撤退していった。

 理由はわからない。いよいよここから本番か、ってタイミングで……何でだろう? 今日はただ単に様子見だけにとどめるつもりだったとか?

 

 まあそんなわけで、ガミラスとの戦いはそこまでだったんだけど……問題はそのあとだ。

 

 ガミラスの撤退とほぼ同時に、入れ違いになるような形で……今度はガーディムが来た。

 

 例によってジェイミーが指揮官。記憶は……うん、都合がいい感じに消されてるな。前回あんだけみじめに惨敗しておいて、それを丸っと忘れてまたあの高飛車な感じで……なんか、見ていてもはや逆に気の毒というか、痛々しいんだが。

 そのまま、めっちゃ偉そうなこと言いつつ、部下とか無人機に任せて自分は撤退していったし。

 

 誰だよこんな恥ずかしい事させてる彼女の上司は。

 

 ただ今回は、前回と違う点が1つ。

 ジェイミーの乗る『マーダヴァ』の隣に、よく似たオレンジ色の機体が飛んでいて……むしろ、問題だったのはそれに乗っていたパイロットの方だった。

 

 なんと、それには……千歳さんが乗っていたのだ。

 

 西暦世界で、タツさんの家から自分探しの旅(語弊注意)に出て以降、その行方を知ることができなかった彼女が……どういうわけか、ガーディムに組していたのである。

 

 しかもそのまま、『マーダヴァ・デグ』というらしいその機体を駆って、こちらに攻撃を加えてきたんだから……もう何が何だか。

 

 幸いというか、その……千歳さんの操縦テク自体はそこまででもなかったので、危なくなるような場面はなくて……総司さんがヴァングネクスで翻弄しつつ、説得していた。

 千歳さん、自分でペーパーだって言ってたからな。機動兵器の操縦。

 

 『マーダヴァ・デグ』とやらの機体性能は、『マーダヴァ』よりも上だったようだけど……今の総司さんとナインが乗る『ヴァングネクス』だって負けてない。3つの世界の技術に加え、出向直前に僕のところでも協力させてもらって大幅に性能アップしたからな。

 もし、もう少し前……改良前の状態だったら、性能差で苦戦したかもしれないが。

 

 最終的には撃退に成功したものの、千歳さんは逃亡した。

 

 その際彼女は……ナインが傍受していた通信で、気になることを言っていた。

 

 

『ごめんなさい、総司さん……私は、あなたたちを倒して、ヤマトを手に入れなければならないの……地球を救うために』

『総司さん、ナイン、ミツル君、騙されないで……イスカンダルは……』

 

 

 ……はてさて、これは一体何を意味しているのやら……?

 

 色々考察したいところだけど……正直今日はもう疲れた。明日以降に回そう。

 おやすみ。

 

 

 

 



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第76話 イスカンダルのユリーシャ

 

【◇月>日】

 

 千歳さんのことは、また次に遭遇した時に考える、ってことになったので……ひとまず今は、今後のイスカンダルへの道筋について。

 

 今日行われたミーティングで、沖田艦長達から、今後の旅程について説明があった。

 

 この先にあるバラン星という場所に、こないだ使ったのと同じような亜空間ゲートがある。

 

 そして、バラン星にあるそれは、いわゆるハブステーションのような役割を持っているらしく……大マゼラン銀河を含む、様々な場所へ通じているんだとか。

 言ってみれば、巨大な乗換駅みたいなもんか……ともあれ、そこからなら直通で一気に『大マゼラン銀河』に行けるわけだ。

 

 だいぶロスしたと思っていた旅程の問題を一気に解決しておつりがくる、非常にありがたい情報である。

 

 これも例の『自動航法システム』からもたらされたものなんだろうか、と思ってたんだけど……そう聞くより先に、真田副長から、『この情報を提供してくれた協力者を紹介する』と。

 それと同時に、部屋に入ってきたのは……さらさらの金髪のすっごい美人な女の人だった。

 

 名前は、ユリーシャさん。なんと、イスカンダルから来た使者の人なのだという。

 彼女は今まで、自動航法システムの中で眠っていたそうなんだけど(さりげにブラックなカミングアウトがされた気がする)……こないだのWミレーネルの騒ぎで目を覚ましたとのこと。

 

 というかあの時、岬准尉に取り憑いて体を借りていたそうで……え、何、イスカンダル人ってそんな幽霊みたいなことできんの? ……いや、うちの秘書も似たようなことならできるか。

 

 ……まあそのへんの事情はともかく……そのユリーシャさんのおかげで、『地球艦隊・天駆』の今後の旅程はだいぶ短縮できそうなわけだ。

 そのことについて、沖田艦長がお礼を言ってたんだけど、ユリーシャさんは……

 

『言葉ではなく、行動で』

 

 なんか、高飛車……とまでは言わないけど、どこかそっけない感じでそう返すだけだった。

 

 ……総司さんやナインも言ってたけど、なんかこないだ、岬さんに取り憑いてた時は、もっとこう……不思議ちゃん的なふわふわした雰囲気で喋ってた気がするんだけど……

 

 古代戦術長達の見解だと、『公人として接するときの態度』なんだろう、って話だ。

 いわゆる、お仕事モードってことか? ううむ、いまいちつかみどころのない人だ……どっちが素だろ?

 

 まあ、それは今はいいとして……そんなわけで、今後の予定が決まり、各艦に通達されたわけである。

 

 ただ、そのバラン星、なぜかちょうど今、ガミラスの艦隊がものすごい数集まってきているそうで……その数、なんと1万隻を超えているとか。

 ……どこかの銀河系に総力戦でカチコミでもかけに行くんだろうか、とか思ってしまいそうな……いや、それにしたってとんでもない数である。

 

 いくらガミラスの国力が強大だからって、これが簡単に動かせる数であるとは思えない。

 

 というか、ひとところにそんな数を集めたって……逆に動きづらくて邪魔になっちゃうんじゃないかな。宇宙って、前後左右上下が攻撃範囲みたいなもんだし……あんまり密集しすぎると、数を生かせなくて逆に戦いの時に不利になるそうだし。

 

 沖田艦長と真田副長の見解では、観艦式か何かの式典である可能性がある、とのこと。

 

 ……まあ、それにしたってこんだけの数が集まっているってのは、どっちみちこっちにとっては凶報でしかない…………と、僕を含む多くのクルーは思っていた。

 

 しかし、他ならぬ沖田艦長はそう思っていない……むしろこれを、好機であると思っているらしい。

 どうやら何か考えがある様子。……人任せで悪いが、これはちょっと期待できそうである。

 

 逆境の中で『私に考えがある』的なセリフは勝ちフラグ……なんてメタなことはおいといても、沖田艦長は強がりやハッタリは言わない人だ。こうなったら『地球艦隊・天駆』一同、ついていくまでである。

 

 

 

 さて、そんな感じでミーティング自体は終わったのだが……その後、ちょっと変なことがありまして。

 

 あ、話が前後するんだけど……このミーティングに際して、なぜか僕、ヤマトに呼ばれてたんだよね。

 いつもなら『ソーラーストレーガー』から通信で参加させてもらうところなのに、『直接来てほしい』って真田副長から直前で通信が入ってさ。

 

 それはいいけど、何で? って理由を聞いたら、『君に会いたがっている人がいる』とのこと。

 

 で、その『会いたがっている人』っていうのが……ほかならぬ、ユリーシャさんだったのだ。

 

 彼女はなぜか人払いをし、適当な誰もいない会議室で僕と2人きりになった。

 ミレーネルも同席はダメだって言われたので、まあ害意があるわけじゃないだろうと思って仕方なく言う通りにしたんだけど……そこで、何があったかというと、だ。

 

 これがね、他でもない、さっき言った『変なこと』なわけなんだけど……

 

 

 

 ……なんか、2人きりになるやいなや……目の前でユリーシャさんが跪いた。

 そして、僕の手を取って……手の甲にキスしてきた。

 

 

 

 ……待ってくれ、まるで意味が分からない。

 

 さっき見せた淡泊な態度とも、こないだの不思議ちゃんな態度とも、どちらとも違う。

 まるで……目上の者(それもかなり身分に開きがある感じ)に対する、敬意を……いやむしろ、それを通り越して平伏とか忠誠の意思を表したかのような、そんな態度だった。

 挙動そのものが洗練されていて優雅に見える分、余計にそんな風に感じてしまった。

 

 ちょっと前に見た映画で、マフィアのゴッドファーザーと腹心の部下が同じようなことやってた気がするんですけど……。

 

 しかもよく見るとユリーシャさん、かすかに震えてるようにすら見えて……ごめん、ほんとそろそろ説明して!? いったい何なの!? ここまでくると怖いのはむしろこっちだよ!

 

 しかしながら、ユリーシャさんからの説明は……説明になってなかった。

 

 

『やはり、あなたはわからないのですね……ですが確かに、あなたは『力』を持っています。遠い昔に、歴史ごと失われたはずの……禁断の力を』

 

『心より申し訳なく思いますが……私の口から、その意味を話すことはできません。私には資格がない……全ての真実は、わが故郷イスカンダルにて、わが姉スターシャの口よりお聞きください』

 

『そしてどうか、どうかこのまま、彼らのことを見守っていてあげてください。彼らが世界を……いえ、この宇宙を救うことができる者かどうか……それを見定めることもまた、私の役目……』

 

 

 はい、この通り。

 

 沖田艦長や真田副長にも、お仕事モードの淡泊な口調と態度だった彼女が、平伏しながらきちんとした敬語で僕には話してくれた。

 しかし、内容の方は……肝心なことが何一つ明らかになっていないっていうね……

 

 しかし、ここんとこよくこういうことを言われるな……アウラさんといい、アドヴェントといい……僕に一体、どんな力が眠ってるって言うんだよ。

 前々からちょくちょく気にしてた、『死ぬたびに強くなる』あの成長と、何か関係あるのかな……ありそうだな。その先に何が起こるのか……いよいよ気にしなきゃいけない……か?

 

 にしたって、表現が詩的にすぎる……どっかの呪われし放浪者じゃないんだから、もうちょっとわかりやすく話してほしいもんだけど……ああ、怒ってない怒ってない! 怒ってないから、何もしないから震えなくていい! ストップ!

 

 ……とりあえずまあ、彼女が何を心配してるのかわからんけど……僕にどんな力が眠っていたとしても、僕にはそれを変なことに使うつもりはない、と言っておいた。

 

 ただ、彼女が言った『何もせず彼らを見守っていて』ということについては、うなずくわけにはいかない、と返しておいた。

 その『彼ら』ってのはどうやら、『地球艦隊・天駆』のことだったようなので。僕も彼らの仲間の1人だから、一緒に戦うためにこうして旅に同行してるんだし、困ったことになってたりしたら、そりゃ助けるつもりだしね?

 

 それを聞いて、ユリーシャさんは何か言いたげな様子ではあったけど……ひとまず引き下がることにしたようだった。

 立ち上がり、最後まで優雅な動作で、深々と一礼して……僕を残して部屋を後にした。

 

 

 

 ……さっきも書いたが、いよいよ本格的に気にした方がいいのかもしれないな。

 

 一体僕は……何者なんだろうか?

 

 自覚してる限りでは、なんかこう……ネット小説じみた『異世界転生』でこの世界にやってきたみたいな身の上だけど……

 

 そういうのにありがちな『チート能力』的なポジションで、次元力や『ヘリオース』、そして数多の兵器類のデータその他を手にしていて……しかし、それ以上の何か、僕がまだ把握できていないことが隠されている、ってことなのか?

 それも、アウラさんがその扱いに危惧し、アドヴェントがわざわざ励ましてくれて、ユリーシャさんがあんな風に恐れる、何かが。

 

 ユリーシャさんが言っていたことは、ええと……『禁断の力』とか、『歴史ごと失われた』とか……

 ……それってもしかして、『Z』世界準拠の設定の中にあったものなのか? だとすると……

 

 んー……

 

 …………

 

 ………………

 

 ……………………

 

 

 

 

 

 

 

 ……まあ、いいか。

 

 

 

 

 

 

 

【◇月<日】

 

 バラン星に到着するまでもうちょっとあるので、ミレーネルからガミラスの内部事情を聴く。

 

 まあ、彼女もそこそこ上の地位だったとはいえ、そこまで深くいろいろな事情を知ってるわけじゃないみたいだけど……それでも、今の時点では僕らが知らなかったことを、いくつも聞くことができた。

 

 収容所惑星レプタボーダや、銀河外縁部で小競り合いの続いているというガトランティス……侵略して制圧された『劣等種族』の扱いや、逆に進んで恭順の意を示したものへの扱い……etc

 

 そして、その中でも特に興味を引いたのが……現在の『大ガミラス帝星』は、言うほど余裕がないというか、盤石な状態ではない、ということだった。

 

 たしかに、軍事力という面で圧倒的な強者であるのは間違いない。いくつもの星を侵略し、配下に加えて支配領域を拡大してきた。今もなお、それは続いている。

 

 しかし、あまりにその支配領域を拡大しすぎたおかげで、その占領統治やら何やらについて、手が回らなくなってきているのだそうだ。

 

 加えて、その強大な軍も、常勝無敗、というわけでもない。

 支配領域の拡大に沿って戦力の分散も進んでしまい、そのおかげで、戦線によっては負けが込んでいて、異民族相手の戦で後退せざるを得ない状況になっている個所もあるとかないとか。

 

 行く先々で戦果を挙げているのは、ごく一部……こないだ戦った、ドメル上級大将とやらの率いる『ドメル軍団』くらいのものだという。

 

 まあ、地球でも、国土が広くなりすぎてうまく統治できず、ついには反乱を起こされて滅んだ……なんて国は、歴史上いくつも存在するからな。

 ましてそれが、宇宙規模となってるわけなんだから……そりゃ大変だろう。

 

 しかし、そんな状態になっていながらも、なんだってあちこちに喧嘩売って支配領域を広げ続けるのやら……単なる征服欲か、それとも他に何か目的があるのか……

 

 ミレーネルにもそれはわからないそうだけど、あえて気になることを挙げるとするなら……ガミラスは征服した星や文明に対して、例外なく『イスカンダル主義』を押し付けている。

 それにより、ガミラス人やその支配領域に暮らす人々は、イスカンダルの人間を高貴な者として認識し、敬っているらしい。

 

 地球で言うところの特権階級……貴族みたいなもんなのかと思って聞いたら、むしろもっと上……神のごとく崇拝しているとすらいえるんだとか。……宗教?

 

 そして、ガミラスとイスカンダルには星同士の交流もあり……というか、大ガミラス帝星とイスカンダルは、望遠鏡とかなしに違いの星を見ることができる位置に並んでいる『双子星』らしい。

 

 ……なんか、よくわかんなくなってきた。

 

 ええと、ガミラスは地球……のみならず、宇宙のあちこちを侵略しようとしてて、

 

 イスカンダルは、そのガミラスの侵略で滅びかけてる地球を助けようとしてくれて。

 

 けどそのイスカンダルは、ガミラスから崇拝されていて……侵略した星や民族にも『イスカンダルマジ至高』っていう主義を押し付けていて……

 

 ……不思議というか、複雑な関係性が築かれている気がする……やっぱりよくわからん。

 

 けどもしそれが本当なら、イスカンダルからガミラスに『侵略やめれ』って一言言ってもらえたら、全部解決するんじゃないか、って思ったんだけど……そんな風なことにならずに、長いことガミラスが侵略戦争を続けてるってことは……無理なんだろうな。理由はわからないけど。

 

 ……だめだ、結局何か推理しようとしても、情報が足りなすぎる……今は置いておこう。

 

 イスカンダルに行った時に、そのへんの謎もまとめて明らかになることを期待しようと思う。

 

 

 

 



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第77話 惑星バランの戦い

 

 惑星バラン。

 ここには、多くの銀河につながる亜空間ゲートが設置されており、ガミラスやその勢力が宇宙のハブステーションとして利用している重要施設である。

 

 そこでは現在、大ガミラス帝星のほぼ全軍と言ってもいいレベルの、1万隻を超える数の戦艦が集結していた。

 

 そこに、座乗艦である『ゼルグート2世』に乗り、ガミラス中央軍総監にして国家元帥、ヘルム・ゼーリックと、その側近として取り立てられた、銀河方面司令官、グレムト・ゲールが登場。

 並び立つ1万隻もの艦隊に向かって、オープンチャンネルで演説を行っていた。

 

 その内容は、ガミラスの将兵達にとっては衝撃的なもの。

 

 大ガミラス帝星の永世総統である、アベルト・デスラー総統の死亡。

 その暗殺を企てた犯人として、艦隊総司令官ガル・ディッツと、エルク・ドメル上級大将が捕らえられた、というものだった。

 

 それに続けて、ゼーリックはこのガミラスを襲った国難に、元帥である自分がその使命として、亡き総統の遺志を受け継いでガミラスをまとめ上げること。

 そして、今もなお帝都バレラスには反逆者達に与する者達がいるとして、バレラスへ侵攻し、総統府に巣くう奸賊達を殲滅するのだと。その戦いのためにともにいざ行かん、と。

 

 しかし、その演説の最中……突如として、ワープアウト反応を感知。

 その反応の先に……ガミラスの仇敵としてたびたび名の上がる『宇宙戦艦ヤマト』をはじめとした、『地球艦隊・天駆』の戦艦が次々にその場に姿を現した。

 

 これに一瞬ゼーリックは動揺するものの、『これこそ吾輩にヤマトを討てとの神の啓示!』と、その場に集った1万隻を超える艦隊に、『地球艦隊・天駆』を撃滅すべく攻撃支持を出した。

 

 しかし、その時にはすでに、『地球艦隊・天駆』の各艦から、機動部隊は出撃を終えており……

 

「聞いてた通りとんでもない数ですね……」

 

「こりゃ本当にガミラスの全軍が集結しててもおかしくないな……だが、なるほど沖田艦長の予想通り、儀礼か式典として来ていただけらしいな。これじゃ艦隊の強みは生かせないぜ」

 

「ああ、これだけ密集していては、砲撃を放っても確実に味方にあたる」

 

「逆にこっちは、ほとんど狙いをつけずに適当に打っても外しようがないってわけね」

 

 驚きつつも、こちらの予定、ないし予想通りの事態になっていることをその目で確認するトビアや総司。

 鉄也やアンジュは、これならば恐るるに足らず、むしろ望むところだと戦意を高揚させる。

 

 他のメンバーも、それぞれの乗る機体を前に出し、臨戦態勢に入る。

 

 それに対して、密集陣形をとっていたガミラスは……予想通り、ろくに動くこともできていないようだった。下手に動けば、それだけで味方の艦と接触しかねない。

 

「この艦隊全てを相手にする必要はない、かく乱しつつ敵旗艦を標的として狙え! その後、敵陣を突破し、所定のポイントへ参集することを第一目標とする!」

 

 沖田艦長の号令に、マジンガーが、ゲッターが、ガンダムが、パラメイルが、ヴァングネクスが、そしてヘリオースが……さらに艦隊各艦も一気にエンジンに火を入れ、1万隻の大艦隊めがけて突撃していく。

 

 はたから見れば、わずか10隻にも満たない戦艦と、小さな機動兵器で飛び込んでいくその姿は、やぶれかぶれの特攻以外の何物でもないだろう。

 

 しかし、彼ら・彼女らは今、確かにこの場を生き延びることを、そして、目的地であるイスカンダルへ行きつくことこそを考えて飛翔しているのだ。

 

 その証拠に、彼らの中に、多少の恐怖や不安はあっても、諦めや絶望を浮かべているものなど1人たりともいない。

 

「さあて……それじゃ、いっちょ大暴れと行きますか!」

 

 

 ☆☆☆

 

 

Side.ミツル

 

 沖田艦長の作戦は、こうだ。

 

 大前提として、僕ら『地球艦隊・天駆』は、このバラン星にある亜空間ゲートを使い、一気にイスカンダルのある『大マゼラン銀河』に到達することを第一目標とする。

 そのために、ここに集結しているガミラス軍を突破してゲートを使用するわけだが……ただ突破して飛べばいいってものじゃない、というのが艦長の見方である。

 

 仮に一点突破でゲートを使うことができたとしても、その後ガミラスの艦隊もそのゲートを使って追いかけてきたんじゃ……それに対応しきれず、いつかは僕らの方が力尽きる。

 ちょうど、アルゼナルを防衛した時に問題になったのと似た状況になってるわけだな。

 

 ゆえに、僕らがゲートを使った後、ガミラスはそこを通ってこれないようにしないといけない。

 

 そこで艦長の作戦に戻るんだが……敵軍の中を突破して亜空間ゲートを使い、ヤマト以外(・・)の艦と機動兵器がまずは飛ぶ。

 

 そして最後にヤマトが飛ぶ。

 しかし、ただ飛ぶのではない。

 

 バラン星に『波動砲』を撃ち、爆縮・崩壊させることで大爆発を起こす。

 

 その際、いつも波動砲を撃つ時に使っている『重力アンカー』という装置を、使わずに撃つ。

 これを使うことで、砲撃の反動でヤマトが動かないように船体を固定する、というものなんだけど……それなしで撃つことによって、ヤマトは波動砲発射の反動で大きく後退し……その勢いを利用して『亜空間ゲート』に飛び込む。

 

 そうすれば、ヤマトが脱出した直後にバラン星は大爆発。

 

 その衝撃で『亜空間ゲート』は使用不能に。ガミラスは、僕らを追いかけることができなくなる……というわけだ。

 他のゲートを乗り継いで使ったとしても、超大幅にタイムロスになるらしいからな。

 

 そして、その作戦を実行に移すのに最適なポジションを確保するために、僕らは全力で攻撃してガミラスの艦隊を蹴散らしながら、その陣形を突破する必要があるわけで……今、ここね。

 

 

 

「吹き飛べぇぇええっ!!」

 

 総司さんの乗る『ヴァングネクス』が放った陽電子砲が、ガミラスの戦艦の横っ腹に直撃する。

 それが致命傷になり、また1隻、戦艦が爆炎の中に消えていった。

 

 その仇を取ろうと向かってくる無数の戦闘機。しかし、総司さんはトップスピードのはずのそれらをたやすく振り切ってかく乱し、逆にミサイルで迎撃して残らず撃ち落とす。

 

 時折飛んでいくファンネルみたいな支援兵装は、ナインが動かしているんだろう。それから放たれるビーム1発だけでも、直撃すれば戦闘機を撃ち落とす威力がある。

 

 さすがは戦艦用の動力炉を積んで超パワーアップしただけある……相手が戦艦だろうが何だろうが、もはや物の数じゃないな。

 

 同じように、ゲッターやWマジンガー、グレートマイトガインやエヴァンゲリオンといったスーパーロボット達も、無双さながらの大暴れをしている。

 

 グレートマイトガインは動輪剣で砲塔を切り裂いたり、パーフェクトキャノンで戦艦を装甲をものともせず打ち抜いてるし、マジンエンペラーGが薙ぎ払うように放ったグレートブラスタ―で、戦艦が何隻も一度に爆散した。

 

 真ゲッターは敵が密集しているところにストナーサンシャインを投げ込んで大爆発を起こし、戦艦を数隻、戦闘機も何十機もまとめて吹き飛ばしている。

 

 エヴァンゲリオン初号機は今さっき『シン化』し、あの光る腕の衝撃波を放ったかと思うと……それが直撃した戦艦が側面を大きくへこませて吹き飛び、その向こう側にいた別な1隻に激突。

 さらにそれがその向こう側の1隻に激突……といった具合に繰り返されて、ビリヤードみたいに何隻もの戦艦が爆散していった。

 

 そしてマジンガーZ……もとい、マジンガーZEROはもっとすごい。

 例によってあのとんでもない威力の、目から出す光子力ビームが放たれ……そこに何もないかの如く、ガミラスの艦隊を次々貫通してハチの巣にし、勢いの衰えぬまま戦場を横断、宇宙の彼方に消えていった。その途中で貫かれた戦艦? もちろん残らず爆散だよ。

 

 まあ、半ばこうなることは予想できてたので、発射準備に入った段階で射線上から『地球艦隊・天駆』のメンバーは全力で退避したわけだが。

 

 それに加えて、ブレストファイヤーは小型の艦なら直撃しなくても余波で融解・爆発するレベルの威力と熱だったし、ルストハリケーンは巻き込まれた端から金属の船体が塵になっていった。アイアンカッターは当然のように戦艦のボディを縦断(二重の意味で)するし、そもそもただ単に殴ったり蹴ったりしただけでも大砲みたいな威力の衝撃で船体がひしゃげるっていう……。

 本当に無茶苦茶だな、あのマジンガー……。まあ、味方としては頼もしいことこの上ないが。

 

 一方、スーパーロボットほど無茶苦茶ではないものの、モビルスーツやパラメイル、エステバリスといった面々も活躍している。

 

 小型で小回りの利く機体を生かして立ち回り、ガミラスの戦闘機をかく乱して撃墜したり、砲座を破壊して無力化し、相手が攻撃したり移動するのにむしろ邪魔な障害物にしてしまったり。

 

「オラオラオラァ、死にたい奴からかかってきやがれ! 撃墜スコアでボーナスにしてやる!」

 

「ヒルダ、柄悪いわよ……まあ、今更か」

 

「……邪魔をするなら、押し通る……!」

 

 ヒルダのテオドーラとサリアのクレオパトラは、ラグナメイルの転移能力を駆使して縦横無尽に駆け回り、戦闘機を叩き切り、撃ち落としていく。

 

 アキトさんのブラックサレナも同様で、ディストーションアタックで激突して叩き壊していく。しかも機体が真っ黒で、フィールドもほぼ無色透明だから、宇宙空間の黒色に溶け込んで見づらいときている凶悪さだ。

 

 それよりも大型のモビルスーツ……νガンダムやΞガンダム、デスティニーやストライクフリーダムといった機体は、時にファンネルやドラグーンといったトリッキーな攻撃を交え、時に戦艦なみの威力の砲撃を放って、戦艦も戦闘機も撃ち落としていく。

 

「むっ、まずいな……集中砲火で落としに来たか。ミランダ、ココ!」

 

「はいはーい、任せてください! 『ブレストフラッシュ』あーんど『サンダーストライク』! どっちも広範囲拡散バージョン!」

 

「こっちも……『クラフティブ・レイガン』、爆雷モード全力投射! 『ガナリー・カーバー』は、散弾モード! 行けぇぇええっ!!」

 

 業を煮やした一部の艦が、エネルギー砲の掃射でこちらを落としに来たのをジルが察知した。

 その号令で、ミランダとココが広範囲に攻撃を放ち、ガミラスの攻撃を誘爆させて撃ち落とす。

 

 そうしてできた隙間に、今度はアンジュのヴィルキスと、サラマンディーネの焔龍號がやってきて……戦場に歌が響き渡る。

 

 そして放たれる、ヴィルキスの『ディスコード・フェイザー』と、焔龍號の『収斂時空砲』。

 宇宙空間に突如として発生した次元の大竜巻は、掃射のために並んで止まっていた何隻もの戦艦を巻き込み、爆散させて塵にしてしまう。相変わらずスーパーロボット顔負けの威力だ。

 

 そして、同じように不用意に……というか、最初と同じで密集したままになっている個所には、戦艦が猛威を振るう。

 ナデシコの相転移砲や、ラー・カイラムやネェル・アーガマのメガ粒子砲、真ゲッタードラゴンのゲッタービーム、その他もろもろの高火力兵器の餌食になっていく。

 

 もちろん、僕だってさぼってるわけじゃなく、きちんと戦っている。

 

「消し飛べ……『ソール・インペトゥス』!」

 

 次元力で頭上に巨大な火球を作り出し、それを投げるように飛ばす。

 するとその火球は、まっすぐ飛んではいかず、かく乱するかのように複雑な軌道を描いて飛び……しかし寸分たがわず、狙ったガミラス艦に直撃、大爆発を起こす。

 

 その爆風は、直撃した戦艦を飲み込んだのみならず、その周囲にいた他の戦艦にまで届いて大破、もしくは半壊状態にまでもっていった。

 

 僕はそのまま、爆炎の中に飛び込み……それを突き抜けて反対側に出る。

 そこで密集している艦の群れの中心まで行き……今度はヘリオースを中心に、全方位に次元力を開放。それを熱波に変えて……

 

「僕とヘリオースが太陽になる……『ソール・ネオランビス』!!」

 

 言葉通り、ヘリオースをすっぽり覆うほどの大きさの火球を発生させ、そこから全方位に熱エネルギーを怒涛のように放ち……周囲にあったガミラスの艦や機体を消し飛ばしていく。

 どこに撃っても敵にあたるから、味方を巻き込まないようにだけ気を付ければ、好き放題暴れられるな、この戦場。MAP兵器……もとい、広範囲殲滅系の攻撃が大活躍だよ。

 

 そしてあっちの方では、『ソーラーストレーガー』の制御を任せているミレーネルが、こちらも大暴れしている。

 

 機体全面をシールドで覆いながら、装甲についているクリスタルから光子魚雷や破壊光線を四方八方にまき散らしながら、戦場を縫うように飛び回っている。

 すれ違いざまに何十発、何百発のレーザーや光弾が撃ち込まれるので、ひとたまりもなくガミラスの艦は轟沈していく。

 

 そのおかげで、進路上、あるいはそのすぐ横あたりにいる艦がもれなく爆散させられていき……飛んだあとの軌跡が、ガミラスの艦が吹き上げた爆炎で炎上した道みたいに見えるという、中々に怖いことになっていた。

 

 なお。時折、それを体を張って止めようと、横っ腹を見せて『ソーラーストレーガー』の前に立ちはだかり、玉砕覚悟でぶつかって仕留めようとしてきたりもするんだが……装甲強度と、纏っている障壁機構の強度の問題で……激突しようがこちらには痛打にならない。

 

 むしろ、そのまま轢いて、跳ね飛ばして、爆散させて、犠牲者の数が増えるだけ。

 モデルになってる『プレイアデス・タウラ』も、ワープして衝角で激突して相手を破壊する攻撃使えたからね、それと同じことができるように、こっちも元々設計されてるんだよ。

 その気になれば、同じようにワープからの激突だって使えるぞ。技名まだ決めてないけど。

 

 そんな感じで、僕たち『地球艦隊・天駆』は大暴れしているわけだが……それ以外にも実は、ガミラスに大打撃を与えている要因がある。

 

 もちろん、僕ら以外の第三勢力が現れてガミラスを攻撃しているわけじゃない。

 ガミラスを追い込んでいるのは……ほかならぬガミラス自身である。

 

 戦いが始まる直前、僕らはミレーネルに、敵の指揮官について知っているかどうか尋ねたんだけど、

 

『多分だけど、あの声に、あのカラーの艦は……ガミラス軍総監、ヘルム・ゼーリック国家元帥ね。めったに戦場に出てくることのない、大物よ』

 

 とのこと。元帥て……軍のトップじゃん。またどえらいの出てきたな……。

 しかもなぜか、宇宙世紀世界でちょろちょろしてたゲールとかいうやつもいるみたいだし。

 

 こないだ苦戦させられた、あのドメル上級大将よりも上の奴ってことで、これはかなりの激戦になるかと思われ……僕らも、覚悟を決めて戦いを挑んだわけだ。

 

 ……結論から言おう。全面的に杞憂でした。

 というか、想像以上にその……元帥、とんでもない奴だった。ダメな方向に。

 

 だって、密集陣形になってるのにかまわず砲撃命令出してめっちゃ撃たせて……当然というか、同士討ちもじゃんじゃん起こって……

 傍受した通信から、敵兵の『この状況で砲撃命令なんか出すなよ!?』って怨嗟の声が聞こえてきた。マジで。

 

 しかも、その時に傍受した通信の内容がコレです……

 

 

 

『手を休めるな、撃ち続けろ! このまま一気に押しつぶすのだ!』

 

『か、閣下! しかしこの密集陣形でそのようなことをすれば、友軍にも相当の被害が!』

 

構わん!

 

『えぇえ!?』

 

『歴史とは、勝利とは、犠牲の上に築かれるものである!』

 

『そ、そんな……』

 

『全軍、一斉砲撃続けよ! 恐れるな、数こそ力なり!』

 

 

 

 ……なんというか……一時でもこの人と比べてしまった上級大将さんに謝罪したい気持ちにかられた。

 

 というか、隣で諫めてるのがたしかあのゲールってのだと思うんだが……そいつの方がはるかにマシに思えるレベルで、ちょっと、その……ひどい。

 

 沖田艦長はさっき『同じ型の艦に乗っていても、司令官の技量は(ドメル上級大将とは)雲泥の差のようだな』って言ってたけど……それどころじゃなかったよ。

 さっきから一言も声が聞こえてこない沖田艦長も、多分何て言ったらいいかわからなくなってるんじゃないかと思う今日この頃……

 

 そんな感じで、むしろ友軍誤爆の方が被害出してるんじゃないかっていう凄惨な戦場になっていたわけだが……その終わりは、唐突に訪れた。

 

 沖田艦長からとうとう合図が下り、指定されたポイントへ僕らは次々に急行していく。

 

 その際、あくまでも立ちはだかろうとした敵旗艦に対し……

 

「第一船速、ヨーソロー!」

 

「波動防壁、前面集中、全力展開!」

 

「打ち方、始めぇ!」

 

「打ちィー、方ァー、始めェー!!」

 

 ヤマトは前面に波動防壁を集中して展開し、突撃。周囲にショックカノンや実体弾をまき散らしながら進み……そのまま敵の攻撃を防壁で受け止めながら、集中砲火で……

 

「食い破れ!!」

 

 至近距離ですれ違いざまに雨あられの砲撃を浴びせ、そのまま置き去りにして抜き去っていった。

 

 後に『沖田戦法』と呼ばれることになるこの見事な突破戦術で、ついに敵の陣形には、修復不可能なほどの大穴が開き……『地球艦隊・天駆』全員が、所定のポイントに到達した。

 

 そこから先は、予定通りである。

 

 バラン星を爆縮させ、ワープゲートを破壊しつつこちらは撤退(ただし前向きに)。

 ガミラスの大軍を置き去りにしつつ……

 

「ワープアウト、完了!」

 

「各艦各機、問題なし!」

 

「空間座標、想定通り示す。ということは、ここが……」

 

「ああ、ついにやってきたんだ……『大マゼラン銀河』に!」

 

 旅の最終目的地である、イスカンダルのある、『大マゼラン銀河』に……とうとう、到着したのだった。

 

 

 

 



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第78話 次元力と『魔のオーラ』

【◇月¥日】

 

 さて、無事に『大マゼラン銀河』には到着したということで……ここからどうするかだ。

 

 沖田艦長の作戦通り、バラン星の爆縮で亜空間ゲートを破壊することには成功したものの、ガミラスの艦隊全てをあそこに置き去りにすることはできなかった。

 いくつかの艦はゲートが壊れる前にそこを通って、同じようにここに来たようだ。

 

 となると、ガミラスの本星にもそのこと……僕らがこの『大マゼラン銀河』に来たことは知れ渡っているとみていい。

 

 そして、僕らはあくまでイスカンダルに『コスモリバース』を受け取りに行くだけなんだが……ガミラスからしたら、そうは見えないだろう。

 

 何せ、今、地球とガミラスは戦争してる状態なんだ。しかも、地球は劣勢。

 そんな時に、僕らのような、それまでとは比べ物にならない戦力が結集して、しかもガミラスの本星のある『大マゼラン銀河』にやってきたとなれば……一点突破、乾坤一擲の攻撃に打って出たと、ガミラスの本星が狙いだという風にみられるだろう。

 『僕ら悪い艦隊じゃないよ?(意訳)』って言ってわかってもらえるわけもない。

 

 ならば、極力その辺は無視してさっさとイスカンダルにたどり着き、目的を果たしたいところだが……ミレーネルの情報から、イスカンダルとガミラスは、隣り合う『双子星』だっていうこともわかってる。そうなると……難しいだろうな……。

 

 さっき言った通り、ガミラスの軍勢の大部分は置き去りにしたと思うけど、まだこっちにも全くいないってことはない。

 

 現にここ数日ですでに2回、ガミラスの……さほど規模は大きくなかったものの、艦隊と戦った。

 

 1つは、通常の軍よりも錬度の高い……それこそ、ドメル上級大将が率いていたものに負けずとも劣らないレベルのそれだった艦隊。

 

 そしてもう1つは……通常は緑色のはずの艦隊のカラーを青色に染めた艦隊。

 メルダやミレーネルの情報からすると、青い機体は、ガミラスの総統直属の『親衛隊』の船なのだという。

 

 ……これはもしかして、ドメル上級大将の『ドメル軍団』とやらや、その『親衛隊』とやらは、あの場にはいなくてこっちに残ってた……的なパターンか?

 だとしたら、ここから先の戦いは、物量はともかく、敵の強さないし錬度は今まで以上のものがくる……とみていた方がいいかもしれないな。あー、前途多難だ。

 

 そしてこれを踏まえた上で、沖田艦長達の会議で方針が決まった。

 

 そしてやってきましたルート分岐。

 今回はそれぞれ、ヤマトとナデシコを中心に部隊を2つに分け、『互いが互いの陽動として動く』という作戦で行くらしい。

 

 それじゃ互いの戦力が小さくなって、各個撃破される危険が高まるんじゃないか、とも思ったが、戦力に関しては敵も、今現在に限ってはさほど大きいものは残されていない。

 

 加えて、ガミラスのみならず、ガーディムや……もしかしたらだが、他の勢力による攻撃が起こることも想定される。

 

 敵の、物量という意味での『数』は現状さほどいないが、種類という意味での『数』が多いのだ。そして、『質』も馬鹿にできない。

 

 ゆえに、それらの狙いが分散することや、あわよくばつぶし合ってくれることを期待しつつ動く、ということらしい。

 以前の戦いの中での様子を見る限り、ガミラスとガーディムはどうやら、敵対に近い関係にいるようだし……本拠地近くに突如武装勢力が現れたとなれば、それが『地球艦隊・天駆』とは別系統であっても、連中はそれを野放しにはしないだろうから。

 

 そんなわけで、分岐だが……ここでちょっと押さえておくべき前提条件が1つ。

 

 この大マゼラン銀河に関して、地図的に知識を持っているのは、『地球艦隊・天駆』には2人しかいない。

 1人は、イスカンダルのユリーシャさん。もう1人は、元ガミラス軍人であるミレーネルだ。

 

 部隊を2つに分ける際、この2人を別々の組に編成すれば、それぞれが別ルートでイスカンダルを目指すこともできるわけだ。

 あるいは、イスカンダルじゃなくても、あらかじめ『ここで集合ね』って集合場所を決めておいて、そこに向かって別々に進む、ということもできると思う。

 

 また、万が一を考えて、それぞれの部隊に、技術者の面々が協力して作っていた新装備を搭載していくことになった。

 その名も、『ボソントランスミッター』と『ボソンレシーバー』。

 

 通常、ボソンジャンプはA級ジャンパーによるナビゲートがなければ、生命体は跳躍できない。

 しかし、こんなだだっ広い宇宙で、しかも『大マゼラン銀河』なんていう土地勘も何もない場所で、そんなナビゲートができるはずもない。

 

 そこでこれらの装置の出番。

 

 簡単に言えば、『トランスミッター』は発信機、『レシーバー』が受信機の役割を果たす。

 『トランスミッター』側の位置を『レシーバー』が知ることができるので、そのナビゲートに従ってボソンジャンプすれば、イメージなしでも跳躍可能、というものだ。

 

 以上の事情を踏まえ、部隊を2つに分けて移動することになった。

 

 まず、ヤマトを中心に、ラー・カイラム、ネェル・アーガマ、プトレマイオス、エターナルという編成のチーム。さっき言った通り、こちらが『ボソントランスミッター』を持つ。

 

 そしてもう1つは、ナデシコを中心に、トゥアハー・デ・ダナン、真ゲッタードラゴン、ソーラーストレーガーという編成のチームだ。こちらが『ボソンレシーバー』を持つ。

 

 集合場所としては、イスカンダル(そしてガミラス本星)にほど近い『惑星エスコール』という星で落ち合うことに決定。

 ただし、何かあった場合は、『トランスミッター』と『レシーバー』を使って、ナデシコチームがヤマトチームのところまで直接跳んで合流する……というわけだ。

 

 なお、総司さん達はそのままヤマトに乗って一緒に行くことになったので、ここでしばしのお別れである。

 互いに武運を祈りつつ、それぞれ違うルートで僕達は進みだした。

 

 

 

 ……しかし、『エスコール』って……どこかで聞いたことがある気がするんだけど……気のせいかな?

 

 

 

【◇月@日】

 

 こちらの存在がガミラス側に知れ渡っている、という推測は正しかったようだ。

 すでに何度か、小規模ながら艦隊に遭遇して襲われている。こちらもちょうど部隊を分けたところで、数が減っているからいける、と思われたのかも。

 

 まあ、当然返り討ちにしたわけですが。

 

 しかし、今日もまた襲撃があったわけだが……今日襲ってきたのは、ガミラスではなかった。

 

 現れたのは、なんと地球で……それも、ミスルギ皇国で、あのアンジュの処刑騒ぎの時に現れた変なロックミュージシャン。パープル、とかいう奴だった。

 

 いや、さすがに意味が分からないんですけど!? なんでミュージシャンが宇宙に現れて、しかも僕らに攻撃を仕掛けてくるわけ!? あまりに脈絡がなさ過ぎて唖然とするしかない。

 

 しかしよくよく見てみれば、そいつが引き連れている機動兵器達は……DG同盟の、特にウォルフガング一味が使ってきた機体と、何かよく似ている。

 ……ひょっとしてこいつ、DG同盟の仲間というか……あのエグゼブの部下か何かだったの?

 

 残念ながらどこまで考えても答えは出ないので、適当に相手をしつつ、ボソンジャンプでその場は撤退することになった。

 

 蹴散らしてもよかったんだけど、一部の機体や戦艦には、こないだのバラン星での戦いの時のダメージがまだ残っていたため、無理はしない方がいい、という結論に達した。

 

 まだまだ元気というか、全然無事な『ソーラーストレーガー』が殿を務めてけん制し、その間にナデシコがボソンジャンプの準備を整えて、跳躍。撤退には成功した。

 

 

 

 その後は、ワープ先である『惑星フェルディナ』に到着。

 ここは、人間とかの的生命体は特に住んではいないが、環境が地球に近く、酸素もあるので、宇宙服なしでも人間が過ごすことができる。水も飲んでも問題ない成分だそうで……むしろ割と快適に過ごせそうな惑星だ。

 

 加えてガミラスの勢力圏にないため、すぐには見つからないだろうという見込みらしい。

 なので、じっくりと腰を据えて休息をとり、さっき言った、バラン星から引きずってる各機のダメージの修復もここで行うそうだ。

 

 段取り八割、備えあれば患いなし……うん、できる時にきちんと準備しておくことは大事だね。

 

 まあ、ひょっとしたら予想が外れてガミラスが来るかもしれないし、はたまたあのパープルとかいうよくわかんないのが来る可能性もあるが……その時はその時だ。

 

 

 

【◇月;日】

 

 来るかも、とはおもってたけど、マジで来やがった件。

 

 こないだも来た『パープル』である。

 今度は自前の軍団だけでなく、『DG同盟』の連中も引き連れて、この惑星フェルディナに押しかけて襲い掛かってきた。

 

 ……DG同盟の連中もかわいそうに。雇い主(と、その部下)に思い切り振り回されて、並行世界どころか別の銀河まで引っ張ってこられて……

 

 半ばやけくそみたいな感じで襲ってきたものの……まあ、今更相手になるわけもなく。

 修繕自体はまだ未完成だったものの、普通に蹴散らすことができた。今回は、それぞれのボス達が乗っていた機体も完全に破壊したから、これでもう襲ってくることはないと思いたいけど……

 

 しかしその後、今度は真打登場とばかりに、空中要塞に乗ったパープルが、お供のロボット達とともに襲来。

 

 しかもそいつら、数自体はそこまで多くない……いやむしろ、さっきのDG同盟よりも少ないくらいだったんだけど……妙な能力を持っていた。

 

 こっちの攻撃で破損させても、破壊しても……たちまちビデオの逆回しみたいに回復というか、復活してしまうのだ。

 そのせいで、壊しても壊しても復活して襲ってきて、きりがないという状態になった。

 

 パープル曰く『魔のオーラ』とかいうそれの力であるらしく……再生能力だけじゃなく、機体そのものの攻撃力や防御力もかなり上がっているようで、見た目よりも相当厄介な相手だったのだ。

 

 何せ、マジンガーやゲッターの攻撃で、大破って言っていいくらいに完膚なきまでに、バラバラになるまで破壊しても再生するんだから。

 ぶっちゃけ、パイロットも確実に死んでると思うような状態でも再生していた。おかしくない?

 

 これには味方一同驚かされたけども……動揺はそこまでのものじゃなかった。

 

 というのも、僕らの一部は、これと似たような現象をすでに見たことがあったからだ。

 以前に、西暦世界で……『アルゼナル』の防衛戦の時に。

 

 エンブリヲが率いてきた無人機やラグナメイルが、攻撃しても攻撃しても自動的に回復していく……という、あの時と同じことが起こっている。そう、あの時の戦いに参加していた面々は、すぐに気づくことができた。

 最もあの時は、完全に破壊すれば再生はしなかったけど……今回はあの時以上、か。

 

 それで、もしかしてと思って観測してみれば……やっぱり検出できたよ、『次元力』。

 

 エンブリヲに続いて、今度はパープル……というか、エグゼブ陣営がこれを使ってくるとは……一体どういうことなんだか……。

 

 ……いや、少し違うな。というか、妙だ。

 確かにこれは『次元力』だけど……パープル達がこれを使っている様子はなかったからだ。

 

 確かに次元力を使えば、バラバラになった状態からでも復活することはできる。

 けど、それは次元力制御において相当にレベルの高い領域の技だ。そして、そのレベルのことを実行できていると仮に考えると……それにしては今度は、パープル達は弱すぎる。

 

 そして、この点については……あの時のエンブリヲ達も同じだったな。

 

 やってることの難易度と、それ以前の基本的な能力のレベルが、というか順番が滅茶苦茶だ。なんだこの、取ってつけたような……ちぐはぐな状態?

 

 ……まるで、そう……次元力による超再生能力や機体の強化……という力を、他の誰かから与えられている、みたいな感じだ。

 

 思い返せば、パープルは自分達のことを『魔のオーラの洗礼を受けた、洗礼ロボ軍団』だと名乗っていた。ということは、その『洗礼』を授けた何者かがいる、ということでもある。

 パープル達自身がやばいんじゃなくて、その、与えている別な誰かがやばいんだ。

 

 となると、こいつの飼い主であるエグゼブか、あるいは、それより先にこの力を使っていたエンブリヲか……

 

 考えてもわからないが……『次元力』が絡んでいるとわかれば、やることは1つである。

 

 その、次元力による強化、ないし干渉を、引っぺがしてやればいい。

 

 苦戦する僕らを前に……特に、何やら色々と言われて怯んでいる?様子の舞人に対して、声高に色々くっちゃべっているパープル。

 得意げになっているところ申し訳ないが、さっさと終わらせるために動かせてもらった。

 

 今まで出番というか、使う機会が来なかった、『ソーラーストレーガー』の真骨頂を使う。

 

 

 

 もしかしたら前にちらっと言ったかもしれないが、かつてZ世界……もとい『多元世界』には、『ソーラリアン』という名の戦艦が存在した。

 

 これは、その世界の地球にいた研究者達が総力を結集して作り上げた、『天獄戦争』を勝利に導いた立役者とも呼べる存在なのだが……その戦艦は、実は戦闘能力は大したことはなかった。

 というかそもそも、戦闘のために作られた艦ですらなかった。

 

 厳密には『ソーラリアン』は、次元力を操って襲ってくる敵組織に対抗するために作られた、純地球製の『次元制御ユニット』の名だ。それを戦場で運用するために、戦艦としての機能を『後付け』する形でくっつけて、最低限の自衛能力を持たせていた……という艦なのである。

 

 これも以前言ったと思うが、『次元力』の真骨頂は『事象制御』。

 扱いを極めれば、ガチで何でもできる。味方を強化することも、敵を弱体化させることも、長距離を一瞬にして転移させることも、破損や消耗を直すことも……その他もろもろ。

 

 その『何でもありパワー』を高度にコントロールし、部隊を支援したり、敵を封印したりするための力が『ソーラリアン』だった。実際、『天獄戦争』終盤では、シリーズ屈指の某ぶっ壊れ強化を味方部隊にもたらし、ラスボスを封印一歩手前までもっていくことすらやってのけた。

 

 そして……それらと同様の能力を……この『ソーラーストレーガー』も持っている。

 

 現時点では、それにも色々と制限はある。

 事象制御の精度は、本家本元の『ソーラリアン』には及ばないうえ、『ソーラーストレーガー』単体ではこの機能は発動できず、ヘリオースをコアユニットとして接続する必要がある。

 また、ある理由からその『ぶっ壊れ強化』などの一部の機能は使えない。

 

 しかし、今のこの状況を好転させるくらいの働きならば……余裕で可能だ。

 

 『ヘリオース』の次元力に加えて、『ソーラーストレーガー』に搭載されている次元制御システムも並列して稼働させ……範囲指定した『事象制御』を発動。

 ここら一体に『界』を張る。

 

 それによって、パープルの乗る空中要塞や、『洗礼ロボ』達にかけられていた、しかし自分達では全然制御も何もできていなかった『次元力』による強化を引っぺがし、再生能力も完全に奪い取ることに成功。

 それだけでなく、その際に解析した『魔のオーラ(笑)』の仕組みをちょっと参考にさせてもらって、即興でシステムをくみ上げ、逆に味方機全体を強化することにすら成功した。

 

 いきなり『魔のオーラ』が破られてしまったことに動揺していたパープルだったが、敵の動揺なんぞ知ったこっちゃないわけで。

 そこからはもう『よくもまあ好き放題言ってくれた&やってくれたな』とばかりに、怒涛の反撃である。

 

 あっという間に洗礼ロボは全滅し、パープルの空中要塞も、グレートマイトガインが放ったパーフェクトキャノンで粉々に粉砕されて消し飛んだ。

 もとからとんでもない威力だったのに加えて、僕の方の次元力による強化でさらに威力が上がってたみたいで……本当に跡形もなく、何も残さず消し飛んだ。これはすごいな。

 

 ただ、ちょっと強化幅が予想以上だったので、何も考えずに全力で攻撃とか戦闘すると、この惑星フェルディナの地形とか自然とかがむしろ大変なことになりそうで、『皆うまく加減してね!!』ってあわてて叫ぶ羽目になったけど。

 

 なお、それが結果的にパープルに対する挑発みたいになって、なめられてると思ってめっちゃ苛立ってたようだったけど、知らん。

 実際に負けてんだろうが。疾く死ねい。

 

 そんなわけで、パープル軍団は壊滅。あとついでにDG同盟も壊滅。

 こちらは、舞人が色々と迷いを捨てて吹っ切ることができたり、色々あってアキトさんと舞人の友情が深まったり、思いがけず部隊全体を強化する術が手に入ったりと、結果的に見ればいいことずくめな終わりを迎えることができた。禍を転じて福と為す、ってやつだな。

 

 

 

追記

 

 戦いの最中……僕が『次元力』による『界』の準備をしていた時のことなんだが、

 

 精神攻撃なのか本当にそう思っているのかは知らないが、なんかパープルが舞人に話しかけて、よくわかんないことを言っていた一幕があった。

 

 なんか、悪が生まれるのは舞人という正義がいるからだとかなんとか。

 光がある限り影が生まれるのと同じように、正義があるから悪が生まれるとか……舞人という正義がいたからこそ、ジョーは悪の道に落ちたのがその証拠だとか……

 

 思わず『それはひょっとしてギャグで言ってるのか?』とか言いそうになってしまった。

 いや、だってあまりにも訳が分からないんだもの。

 

 妙に難しい、ややこしい言い方で言ってるから、それっぽく聞こえる気がしなくもないけど……よく聞いて考えてみれば、色々と理論的に破綻してるし。

 

 しかも、舞人の方はそれで何か、思い詰めて悩んじゃうし……。

 

 そんなもん真に受けんでも……というか、あんな奴の言うことなんて真面目に聞いてたところで百害あって一利なしなんだから、『言いたいことはそれだけか』とでも言って鼻で笑っておけばいいだろうに……なまじ真面目だから、悩まなくてもいいことで悩んじゃうのかな?

 いや、それが舞人の良さだっていうのはもちろんわかってるんだが……もっと肩の力を抜いて、必要に応じて雑に接する、あるいは、相手にしないってことを覚えた方がいいと思うんだが……。

 

 腹が立ったので言い返したい気分だったけど、それすらめんどくさかったので、きりのいい所でさっさと『界』を使い……その後は、既に書いたとおりである。

 

 それにその時、アキトさんや他の皆の励ましで、舞人も無事に迷いを振り切って、一層やる気を出していたようだし……うん、もう気にしなくていいな、全然、何も。

 

 しかし、ホントによくわからない……万丈の言う通り、まさに物語の中の『悪』としか言えないような連中だな……?

 色々な欲望のために悪事を働くDG同盟とは、また違う、『悪いことをすることが目的』としか、現状見えてこない集団……ホント、何を考えてるんだか?

 

 

 

追記その2

 

 前述のとおり、『界』を張ることによって相手の次元力を無力化することに成功したんだが……その直前に、ちょっと奇妙なことが起きたのを観測できていたので、これも書いておく。

 

 『界』を使う前に、ほんのわずかだが、既に相手の『魔のオーラ』が揺らいでいたのだ。

 

 その時ちょうど、パープルからの攻撃からマイトガインをかばって、アキトさんのブラックサレナが被弾する一幕があった。

 

 まともに食らえば撃墜確定じゃないかと思われたほどの威力だったんだが、今言った通り、わずかに『魔のオーラ』がゆらいでいたおかげで、アキトさんはどうにか耐えることに成功していたのだ。

 それでもかなりのダメージだったから、そのあと発動した『界』の方の力で念入りにフォローさせてもらったけど。

 

 そして、その原因なんだが……なんか、ソーラーストレーガーの方から、何やら独特のエネルギーの波長みたいなのが検出できていたようで……

 次元力ではもちろんないみたいだけど、一体何だろう? 誰の仕業だ?

 

 残念ながら、ほんのわずかな間のことだったために、その原因ないし犯人までは特定できなかったので……今もって不明である。むう……気になるな。

 

 

 

 



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第79話 昨日の敵は今日の友?

 

【◇月_日】

 

 パープルを撃退してからは、まあ平和なものである。

 この隙にさっさと各機の補修その他を終わらせておくべく、各艦のメカニックさん達は奮闘してくれている。

 

 まあ、あの戦いの中での細かな傷は、僕が使った『界』で修繕しておいたので、そこまで大掛かりな修繕はいらないはずだし、各部の部品の摩耗その他の点検・交換くらいで済むはずだ。

 

 足りない部品があったら、『ソーラーストレーガー』の生産設備でいくらでも作れるので、遠慮なくいってほしい。全面協力するから。

 

 機体によっては、点検その他まで含めて数日かかるようなので、その間は休暇みたいなもんだ。

 ちょうどこの惑星フェルディナは、環境も穏やかで危険な生物もいない、のんびり過ごすにはもってこいな星であることだし……満喫させてもらおうかな。

 

 娯楽が欲しければ、ソーラーストレーガーにいくらでもあるし、静かにのんびり過ごしたければ、そのへんにデッキチェアでも持って行って日向ぼっこでもしてればいい。

 しばし、気楽な時間を過ごせそうだ。

 

 

 

 ああ、それともう1つついでに書いとくか。

 

 こないだのパープルの襲撃の時、日記にも書いたと思うんだが……僕の『界』よりも先に、わずかに『魔のオーラ』が緩んだ時があった。

 その原因がこの度判明した。

 

 気づいたのは浜田君だったんだが、その正体は『イノセントウェーブ』という、精神波の一種だったらしい。

 人間の脳からごく微量に放出されているもので、誰でも持っているものだそうだ。

 

 精神波っていうくらいだから、ニュータイプやイノベイターの使う脳量子波や、ミレーネルが精神干渉の時に使うものの一種かな、と思って聞いたんだけど……どうも違うらしい。

 

 イノセントウェーブとやらは、ごく微量だが、普通の人間の誰もが発しているもので、特段珍しいものでもないんだとか。

 

 それがあの時のことにどうかかわるのかというと、あの時、そのイノセントウェーブが『魔のオーラ』に作用し、物理的な影響を及ぼしてその力を弱めたんじゃないか、とのこと。

 つまり、精神の力で物理的な干渉を可能にする……『ラムダ・ドライバ』と同じような現象が起きたということだった。

 

 そして、その時のイノセントウェーブの発生源は、どうやら……サリーちゃんだったらしい。

 計測の結果、彼女はかなり特殊な体質というか才能を持っており、常人の100倍のイノセントウェーブを発することができるんだそうだ。

 

 あの時、舞人やアキトさんの無事を願う彼女のその力で、わずかではあるが『魔のオーラ』を押しのけて揺らがせることができたのだ、という。

 

 それがなければ、舞人をかばったアキトさん、実はけっこうやばかったらしい。魔のオーラ込みの空中要塞からの砲撃は、ブラックサレナを大破させかねない威力だったんだそうだ。

 

 それを聞いて、その場にいたウリバタケさんは、『祈るだけでそんなことが起こるなら世話ないぜ!?』って驚いてたし、ラムダ・ドライバの整備その他に精通している、ミスリルの整備士のサックスさんも、さすがに信じられない様子だった。ほかの技術者の皆さんも、大体同じ感じ。

 

 まあ、確かに単なる『思い』が、何の触媒も増幅もなしに物理的な力をもって干渉して奇跡を起こすなんて……普通に考えてありえることじゃないもんな。

 

 ……が、僕としてはこの理屈を聞いて、むしろ納得がいった。

 

 というのも、多分だけどこの現象、浜田君も気づけていない――というか、知らないんだから無理もない話ではあるんだけど――きちんとしたタネないし仕掛けがある。

 単にサリーちゃんの祈りが奇跡を起こしたわけじゃないのだ。多分。いや、それももちろん重要なんだけど。

 

 僕の推測の話ではあるんだけど、おそらく、この奇跡の犯人は……『イノセントウェーブ』だけじゃない。

 もう1つ……『次元力』が作用しているんだと思う。

 

 パープル達は、『魔のオーラ』と呼んでいたが、あいつらは『次元力』によって不死身の体を与えられ、何度も蘇って襲ってきた。

 そして、次元力は人の意思によって操られるもの。

 

 しかし、パープル達はあくまで、誰かから与えられてその力を使っていただけで……自分達がそれを操ってどうこうできていたわけじゃない。せいぜい、攻撃とか防御に指向性を持たせる程度にしか使えてなかった。

 

 恐らく、サリーちゃんのイノセントウェーブは、物理的な領域に直接干渉したわけじゃなく……その『次元力』を介して奴らに干渉したんだと思う。

 パープル達が中途半端にしか使えていなかった次元力に干渉し、その性質を操作して上書きすることで、パープル達の力を逆に弱めることで、弱体化させた。

 

 つまり……おそらくイノセントウェーブっていうのは、人間の意思を『次元力』に反映させる媒介になる精神波……あるいは、その一種なんじゃないだろうか?

 そして、そのイノセントウェーブを、常人の100倍出せる特異体質であるサリーちゃんは、極端なことを言えば、普通の人間よりも、次元力との相性が極めていい存在……なのかも?

 

 ……これ、結構な大発見じゃない?

 今現在、僕やミレーネルといった、かなり長いこと『次元力』に携わってる面々でも知らなかった……というか、『ヘリオース』のデータストレージの中にもなかった情報だぞ? いや、まだ推測の段階ではあるんだけどさ……。

 

 もしこの推測が正しくて、今後この力を上手いこと扱うことができれば……より繊細に次元力をコントロールすることもできるようになるんじゃないかと……うん。

 

 現段階では、浜田君や他のメカニックの皆さんも、『性質が特殊すぎて上手い活かし方がわからない』という状態のようだけど。

 

 これより先に検証やら何やらが進むには、まだ知識も情報も、何もかも足りないようだ。

 この力について、既にそれなりの時間をかけて研究やらなにやらを進めてきた人でもいれば、それも違ってくるのかもしれないけど……そんなうまい話はないよな。

 

 

 

【▼月〇日】

 

 あったよ、そんなうまい話が。

 

 今日、なんか……DG同盟が投降してきた。

 

 予想通りと言えばそれまでだけど……連中、無理やりこの並行世界、この銀河に連れてこられたっぽくて……しかし、僕らに負けて見捨てられ、迎えも来ず、途方に暮れていたようだ。

 それでも割と前向きに『生きてさえいれば何とかなる!』的に考えてたそうなんだけど……そんな中、ウォルフガングと万丈が接触したらしい。

 

 どうもこの2人、何か互いに用があったようで……万丈の方が、DG同盟の生き残りを探していたところ、同じように万丈に、そして『地球艦隊・天駆』に接触できないかと機会をうかがっていたウォルフガングに出会ったとのこと。

 

 何かしら話して交渉した末に、投降しておとなしくするからということで、『地球艦隊・天駆』に合流・保護を求めてきた……というのが現状である。

 

 さすがにそれは『今までさんざん邪魔してきておいて虫が良すぎるんじゃ……』という意見が多方面から出てきたものの、見捨ててこの星に置き去りにするっていうのも後味が悪い。

 

 それに、舞人が直接会って話した末に、『本当に心を入れ替えて自分達に協力するのなら』ってことで、彼らを受け入れてもいい、と言っていた。

 

 加えて、万丈も彼らに……というか、さっき言った通り、ウォルフガングに用事があるらしく、こちらにもメリットがあることだと援護してきて……最終的に、妙なことは絶対しないこと、と釘を刺したうえで、保護することになったのである。

 

 んでもって、彼らの受け入れ先については……まだ居住スペースに余裕があるってことで、『ソーラーストレーガー』で担当することになった。またかい……いやまあ、いいけどね。

 

 顔を合わせた時、ウォルフガングは僕に気づいていの一番に『おお、久しぶりじゃな!』って声をかけてきた。あ、覚えてたのね、僕のこと。

 うん、ホント久しぶりだね……あの時はこんな、銀河の果てでの戦いの中で再会することになるとは思ってなかったよ。あんた有能なんだから真面目に働けって……ホントに。

 

 そして冒頭に話は戻るんだが、そのウォルフガングこそ、『うまい話』そのものである。

 彼自身、何と前々からイノセントウェーブに注目していろいろな研究を進めていたらしく、その成果をフィードバックして協力して研究を進めることで、飛躍的に進歩しそうだとのこと。浜田君が驚いてたよ。

 

 あ、ちなみに他の2人……カトリーヌ・ビトンとショーグン・ミフネは、サリーちゃんの指揮下で生活班に組み込まれることになった。

 事実上の雑用扱いになってしまうことに、ちょっと文句ありそうな感じだったけど、サリーちゃんの『ダメですか……?』という、涙目+上目遣い+純粋無垢の必殺コンボには勝てず、あえなく撃沈。お手伝いすることになりましたとさ。

 

 

 

【▼月×日】

 

 DG同盟、何か割とうまいこと部隊に溶け込んでる件。

 

 仮にも敵だった奴らを迎え入れるってことで、不和の種にならないかと不安だったんだけど……意外にというか、話してみると結構人のいい、面白い面を持っている奴らだった。

 

 犯罪者としての面や、その時の思考回路はツッコミどころ満載だけど……それだけじゃない人物だっていうのはわかった気がする。

 

 なんか気が付けば、3人ともそれぞれのやり方で、生活班以外のところでも、この部隊に貢献……と言っていいのかわかんないけど、役に立ってくれてる。

 

 たとえばショーグン・ミフネ。侍大好きな日本かぶれ……の、アメリカ人らしい。

 その趣味嗜好ゆえなのか、日本史にやたら詳しいため、勝平君達の勉強を時々見てくれてる。

 

 単純に知識量も豊富なのに加えて、歴史上のいろいろな出来事について熱く語るその話し方が、意外にも歴史の授業として割とわかりやすい上に、要所要所で面白い雑学をはさんでくれるので、飽きずに集中して聴けると評判である。

 『日本で初めてラーメンを食べたのは水戸黄門である』とか、豊臣秀吉の『一夜城』の話とか、歴史上の面白い話を色々と。聞いてて引き込まれる授業だとして好評だ。

 

 カトリーヌ・ビトンの方は、『めくるめく美の追求』という目的を掲げているだけあって、美容とか健康にとにかく詳しく、そしてうるさかった。

 

 その彼女だが、同じく『ソーラーストレーガー』で生活しているメイルライダーの娘達の生活態度を見て……年頃の娘であるにも関わらず、美容というものにまったくと言っていいほど気を使っていないその様子に絶句し、そしてキレていた。

 

 ……いやまあ、彼女達、基本的に美容健康どころか、命の危機の中で戦ってきた身の上なので……そういうの、あんまり触れる機会なかったんすよ。

 『出張所』とかで化粧品はよく売れたから、興味ないわけじゃなかったと思うけど、あくまで趣味の範囲っていうか、二の次っていうか。

 

 しかし、美に人生をかけている彼女には到底許せないことだったらしく、『あんた達に美とは何かを教えてあげるわ!!』って、どっかの大魔王みたいなことを言って、化粧品の本当に効果的な使い方や、美容に良い食べ物・食べ方なんかを、半ば強引にレクチャーし始めたのである。

 

 最初は皆迷惑そうにしてたけど、聞いていくうちにその熱意や、色々な資料まで交えて説明してくれるが故のその説得力に引き込まれていき、しかもそれを実践してみるや、その効果が割とすぐに如実に表れてくれるもんだから、今ではその手の講義も大歓迎されている。

 

 そして、ウォルフガングは言わずもがなである。日夜元気に研究を進めてます。

 加えて、ジョーの乗る『轟龍』をはじめ、各機体の強化プランや兵装の改良案何かも独自に作ってくれて、そのうちのいくつかはほかの艦のメカニック達が真剣に導入を検討している。

 

 やっぱりこのじいさん、技術者としての腕は本当に確かなんだよな……。

 

 ……本ッッッ当あんた、真面目に働けよ……何ならうちの会社で雇うから! その才能をぜひ世のため人のために使ってくれマジで(真剣)。

 『グルメキッチン5252』といい、あんたの発明品、どんだけ僕らを助けてくれるんだよ。

 

 なんか予想以上に役に立ってくれてるので、こちらもできる範囲で彼ら・彼女らに快適に過ごしてもらえるように配慮はしている。甘やかしすぎにならない程度にだけど。

 

 ショーグン・ミフネには、自室として和室を割り当ててある。

 この銀河の果てで、畳に布団で寝られるってことに感激してた。

 自動調理機で日本食も食べられるし、データバンクから時代劇のムービー好きに見ていいって言ってあげたら、号泣してた。

 『心の友よ!』って抱き着かれた。……ジャ〇アン?

 

 カトリーヌ・ビトンは、何といってもスパリゾートの豪華さに感激していた。どうやら、西暦世界から連れ出されて以降、生活基盤が安定してなかったせいで、のんびり風呂に入ったり安眠したりできることが少なく、最近肌や髪の荒れが気になってきていたらしい。

 ここなら足を延ばしてのんびり湯につかれるし、化粧品も備品として色々ある。美容にいい食材もある。好きなように使ってくれ。……あ、納豆だけは嫌? あっそう。

 

 ウォルフガングは……なんか、好きなように研究さえできてれば文句はないみたいだ。己の欲望に忠実であること以外は、妙にストイックなところがある爺さんである。

 加えて、手伝いとしてではあるものの、3つの世界の色んな技術に触れることができて、それだけで嬉しそうだった。部屋割りとかについても、『ラボとドックに一番近い部屋にしてくれ!』って……どんだけだよあんた。まあ、限度超えて暴走するようなことがなきゃいいけどさ。

 

 

 

 



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第80話 デリケートな大問題

衝動的にこういう話が書きたくなって書いた。

反省はしている。後悔はしていない。


【▼月×日】

 

 今日もまあ、平和と言えば平和だったんだけど……ちょっとばかり問題が起きた。

 

 いや、別にそんな、深刻なアレじゃないんだけど……いや、やっぱ結構深刻かもしれない。部隊内の、微妙な不和的な意味で。

 

 険悪なのは、ごく一部の範囲内。

 というか、たった3人だけ。

 

 アンジュと、ヒルダ、そしてタスクである。

 

 もともとこの三人は、アンジュをめぐる三角関係だった。

 ……ヒロインをめぐる2人の片方が女性っていう、ちょっと変則的なそれではあるけど。

 

 タスクは、無人島でアンジュと出会って以降、彼女とともに戦うことを決め……『自分はヴィルキスの騎士じゃない、アンジュの騎士だ』とまで言うほどに強い意志を持ち、実際に何度も、命がけでアンジュのために戦った。

 

 ヒルダも、最初こそ死ぬほど仲が悪かったけど……色々あって信頼し合える関係になってからは、その好意を隠すこともなくなった。『アンジュはあたしにとって王子様なんだよ』って、堂々と皆の前で言ってたことすらあったっけ。

 

 そのヒルダとタスクは、アンジュをめぐり、最近は割とバチバチ火花を散らしてたわけなんだが……この度、その関係にどうやら変動があったらしく。

 

 ……どうも、アンジュとタスクが一線を越えたらしい。

 

 ここ最近のメイルライダーの皆は、こないだも言った、カトリーヌ・ビトンの美容教室で色々な知識をつけて美容に気を使い、その結果として日々かわいくなっていった。

 それは、アンジュも同様である。もともと王女様としてそういうのに気を使った生活をしていた彼女だから、そういうのを思い出して実践するのに時間はかからなかったし、効果もより早く表れたのかもしれない。

 

 ……だからなのかは知らないけど、ここ最近、ヒルダやタスクがアンジュを見る目に、より一層熱がこもっている気がしてたし……その結果として、男女は行くとこまで行ってしまった……ということなんだろうか。

 

 というか、その前日に、タスクが『男女が最低限の節度を守って仲良くするのに必要なアイテム(精一杯の湾曲表現)』を用意できないかって相談してきて……

 いや、実際『ソーラーストレーガー』の生産設備で問題なく作れたから別にいいんだけどね。男として、そういうのを恥ずかしがりつつも用意したくなる気持ちはわからんでもないし。

 

 ……まさかこの艦でこんなもん作ることになるとは思わなかったし、コレの原型を作ったガーディム人も思ってなかっただろうな。

 あんまり深く考えないようにしながら、材料になるゴムを放り込んで……秒で完成したそれを、タスクに渡した。20回分。これだけありゃ足りるだろ。

 

 そんでおそらくは、それをさっそく使ったんだろうね。

 

 まあ、各部屋のベッドメイクは各人で担当していただくことになってるし、洗濯その他は全自動でできるようになってるから、『布団を汚した』ことについてはいいんだけどさあ……

 

 そのことをヒルダも察したみたいで、すごく悔しそうにしたり、落ち込んだりしてるんだよね……かつてないくらいの落ち込み方で、はたから見ててちょっと心配になるレベルだった。

 ……彼女にとっては、失恋に等しい出来事なわけだから、無理もないかもしれないけど……。

 

 今のところは平和だからいいけど……ないとは思うけど、これが原因で戦闘に悪影響とか、そのへんの事態になるのは勘弁だから……うまいこと解決してほしいもんだけど……。

 

 

 

【▼月△日】

 

 ……一応、問題は解決した。

 解決した……けど……素直に喜べない。

 

 どうしてかって? うん、ちゃんと説明する。するから……少し待ってくれ。気持ちの整理が必要だ。

 ホント、どうしてこうなった……?

 

 結論から言えば……アンジュが男気を見せた、とでも言えばいいだろうか。

 

 ヒルダが元気をなくしていることについては、当然アンジュも昨日のうちに気づいていた。

 それが、自分とタスクの関係が進展したことが原因であることも。

 

 以前のアンジュとヒルダであれば、関係が悪くなってもお互い素直になれずに、ずるずると引きずり続けたかもしれない。

 

 しかし、他ならぬアンジュがそんな風になるのを嫌って……気まずさとか一切を無視して、ヒルダときちんと面と向かって、腹を割って話したのだ。

 

 そしてそこで、ほとんど泣き顔でヒルダがぶつけてくる文句やら何やらを全部受け止めた。

 私も好きだったのにとか、アイツがいい奴なのは知ってるけど、それでも……とか、気が付けばヒルダの方も、何もかも隠さず、我慢せずに全部ぶつけて……

 

 そして、泣き崩れそうになった彼女を抱きとめて、アンジュは優しくそれを受け入れた。

 

『ごめんね、ヒルダ……好きな相手を、こんな風に泣かせて、悲しい気持ちにさせちゃうなんて……王子様として失格だよね』……と、そんな風に、さらっととんでもない告白まで紛れ込ませて。

 

 お互いの本音を隠さずぶつけ合い、その上でアンジュも……そしてヒルダも、相手のことを受け入れ、許し……この問題には、無事に決着がついた…………

 

 

 ……と、思ったんだけども、

 

 

 その直後、事態がおかしな方向に進んでいった。

 

 アンジュと抱き合っていたヒルダの目が、なんだか爛々と輝き始めたように見えたのだ。

 

 図らずもその場に出くわした面々が、『ん?』と、何かおかしいことに気づいた直後……ヒルダはアンジュの肩をガシッと両手でつかむと、

 

『それじゃあ、昨日はタスクだったんだし……今日はあたしだよな!』

 

『……へ?』

 

 きょとんとするアンジュの手を引いて、そのままずんずん歩いていき、自分の部屋の前まできて……そのあたりでようやくアンジュ、再起動。

 『あ、コレ何かやばいスイッチ入ってる』と気づいたものの……時すでに遅し。

 

『ちょ、ちょっとヒルダ!? きょ、今日はあたしって、っていうか私達女同士なんだけど!? い、いったい何をどうやって、私知らな……』

 

『大丈夫だって! 私経験あるから! ちゃんと教えるし、優しくするから!』

 

『いや優しくってだからホントに、待って、お願っ、ちょ―――』

 

 そのまま、部屋の中に引きずり込まれて消え、ドアにカギがかかる音がして……夕飯前まで、数時間にわたって出てこなかった。

 

 そして、夕食の席で姿を見せたアンジュとヒルダは……なんか、今朝以上につやつやになっていた。

 タスクがショックを受けてorzになっていた。

 

 しかもどうやら、夕食とそのあと少しの間は単なる休憩時間らしく、どうやら夜になったら続きをやるのだと思われる。

 

 なんでそんなことわかるのかって?

 

 ……頼まれたからだよ、ヒルダにも。タスクと同じように。

 『女の子同士性別の壁を越えて楽しく遊ぶためのいろいろなグッズ(精一杯の略)』をさ!

 

 二日続けて艦の生産設備で大人のおもちゃを作ることになった僕の心中、誰か推し量ってくれるだろうか。

 しかもヒルダ、すっごい色々こだわってて、材質とか形とかめっちゃ細かく指定して来るし、手に取ってみて納得いかなかったら何度でも作り直させるし……なんなのこの情熱。夜の生活に命かけてるの君?

 

 なんか精神的にすっごい疲れた僕を置いて、出来上がったおもちゃ(意味深)を抱えて、アンジュの手を引いて、ヒルダは部屋に消えていった。

 

 ……不和の種は消えた。それはよかった。

 けど、なんかこの休暇の間に、一部のメンバーがおかしな方向に性徴……じゃなくて、成長してしまいそうで……なんか、不安である。

 

 タスク、強く生きろ。じゃないと……とられるぞ、マジで。

 

 

 

【▼月□日】

 

 アンジュとタスク、そしてヒルダのあれこれで色々と疲労していた僕である。

 

 しかしまあ、愛し合う者同士が仲睦まじいのはいいことだし……戦闘やら人間関係に悪影響なく、きちんと収まってくれるのであれば、うん、文句はなかった。

 色々苦労させられたり、やるせない気持ちになったことなんて、日記に愚痴書いてストレス発散する程度で忘れてあげるつもりでいたんだ。

 

 

 

 ……だってのに、何で、状況がより悪化するかな!?

 

 いや、悪化と言っていいのかは正直微妙だけども! そして方向おかしいけども!

 

 

 

 アンジュ達3人が『そういうこと』になったがゆえに触発された……のかは知らんけども……なんか、そういう雰囲気が、この艦内……どころか、こっちのナデシコチーム全体に割と広がっていってる。

 

 もともとこの部隊、カップルとか多かったっちゃ多かったんだよな……

 甲児君とさやかさんとか、宗介とかなめちゃんとか、あと舞人とサリーちゃん、それに浜田君とルンナちゃんもだな。

 

 いや、このあたりの人達は特に何か進展したとか、そういう変化があったわけじゃないんだけど……問題はその他でしてね……

 

 ……アキトさんとユリカさんはいいんだよ。もともと夫婦だったし、長いこと引き裂かれてたんだから……仲睦まじいのはいいことだよ。

 

 ……だから、うん……ユリカさんが僕に、艦の生産設備を使ってイエスノー枕を注文して来ようとも……まあ、ぎりぎり我慢できるよ。

 その他にも色々と必要物資を注文されたけど、我慢したよ。ちょっと聞いてるのつらいから、担当窓口をミレーネルにバトンタッチしてもらったけど。

 

 あと、これはZ世界でもあったかもしれないけど……クルツとマオさんも……うん、そうなったっぽい。

 ま、まあね? もともと仲よかったし……互いのことをきちんと大切に思ってるようだし? うん、いいと思うよ?

 

 ……そして、ロザリーとクリス……ああそうでしたね、あなた方元々そういう関係でしたね。

 元々はそこにヒルダも交えてだったと思うけど、今はヒルダはアンジュに夢中なので、2人でだったっぽい。

 

 ……と思ったら、どうもヒルダとアンジュも加えて4人同時にいろいろやるという計画を立てているという話が聞こえて来て……どんだけ高度なことしようとしてんのあんたら!? 性別も人数も既存の常識をぶっちぎりすぎじゃござーせん!?

 

 まー別にいいけどね!? 仲がいいのはいいことだし! それで士気高揚につながるなら!

 

 タスクが余計にショック受けてふさぎ込みそうな点だけ不安ではあるけど、そうなったらアンジュがまた励まして元気にするだろうしね!

 ……アンジュにかかる負担が色々な意味で大きいな……。

 

 なんかどんどん部隊内にピンク色の空気が充満してきて、風紀の乱れが深刻なことになってる気がするんだけど……これ、合流した後、沖田艦長達になんて説明すれば……テッサ艦長とマデューカス中佐あたりに丸投げしようかな。

 

 それでもまあ、今言った通り、そういうのは突き詰めればプライベートの範囲内であるし……まあ、そのために注文されるおもちゃも、必要経費ってことできちんと生産させてもらいますけどね……節度を守って楽しんでくれる分には、繰り返すが、文句は言わないよ。

 

 

 

 

 

 ……だが、ココとミランダにおかしなことを吹き込みやがったのは許さん。

 

 

 

 

 

 昨日、夜になってから2人が部屋に訪ねて来て……何か用かと思って招き入れたら……ちょっと口に出して言うのははばかられる薄いものを持ってきた2人が、それを僕に見せながら。

 

『こ、これの使い方……ミツルさんに教えてほしいなあ、って……』

『私達、まだ子供だけど……もう子供じゃないんです!』

 

 その瞬間、僕は反射的に次元力を使って2人を眠らせた。

 

 そして、大至急ミレーネルを呼んでその記憶を読んでもらい、2人にこんな心臓に悪いいたずらを教え込んだ犯人が、ヒルダ、ロザリー、クリスの3人であることを把握した。

 

 その上で……悪いとは思ったが、これに関する記憶を2人の中から消させてもらい、それぞれの部屋に運んで寝かせた。

 明日になったら文句言わないと……

 

 ……2人ともかわいいから、ちょっと理性が揺らぎかけただろうが……っ……。

 

 

 

 

 

追記

 

 後処理の最中、ミレーネルにこんなことを言われた。

 

「今回は、ヒルダ達が面白がって焚きつけた結果みたいだから、これでもまあ、いいとは思うけど……」

「もしも、本気であなたに思いを伝えてきたら……その時は、真剣に受け止めてあげてね。それも、1つの責任の取り方よ」

 

 ……まさか僕に限って、なんて言いそうになったけど……どうにか飲み込んだ。

 

 というか、真剣な表情でそんなことを言ってくるミレーネル自身も、すごい美少女には変わりないから……なんていうか、ちょっとくらっと来そうになったよ。

 ……まったく、色々どうしようもないな、僕も……。

 

 とりあえず……その言葉は、覚えておこうと思う。

 

 

 

 



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第81話 聞こえてきた声

 

 

【▼月▽日】

 

 確かに昨日、僕は『このピンクな雰囲気をどうにかしてくれ』と祈った。

 

 けど、だからといってガチのトラブルに舞い込んできてほしかったわけじゃないんだが……まあ、こんなこと言ってもどうしようもないか。

 

 何が起こったかというと……レナード達『アマルガム』が襲ってきたのである。

 

 DG同盟がこっちに来てたことからも予想はしてたけど、やっぱりこいつらも来てたか。

 

 レナード曰く、『時空融合の完成には彼女の存在が必要』ということらしく……そのために、ウィスパード同士の『共振』で彼女を呼び出し、何かしらの方法でまた亡霊(ソフィア)を憑依させ、体を乗っ取り、そのまま拉致しようとしたらしい。

 

 が、どうにかその試みは阻止することに成功している。

 

 というのも、レナードが『共振』を使ってかなめちゃんを呼び出した時、かなめちゃんだけではなく、同じウィスパードであるテッサ艦長もそれに気づいた。

 

 しかし、彼女たちだけでなく……もう1人、ミレーネルもそれに気づいた。

 

 『共振』は、かなり特殊なそれではあるものの、広義的に言えば精神波の一種であるため、そっち方面の専門家である彼女が即座に察知することができたのである。

 

 そして、『ゴーストリンク』によって意識を飛ばし……かなめちゃんの意識が薄れてしまったその瞬間……ソフィアより先にミレーネルが彼女の体を乗っ取った。

 

 そしてうまいこと演技をしてレナードを騙し、直後に宗介達が合流したところで、素早く彼らに合流。

 驚くレナード達を残し、陸戦部隊に守られながら、そのまま一緒に帰ってきた。

 

 その後、行き場を失って唖然としていたソフィアは……以前ミレーネル自身も入っていた、あのタブレット端末(の、形をした精神体用の依り代)にその意識を強制的に移し、閉じ込めた。

 これでもう、かなめちゃんに干渉することはできない。乗っ取られることもないだろう。悪いがここでおとなしくしていてもらう。

 

 ただ、そうして助けたにもかかわらず、なぜかかなめちゃん、依然として調子が悪そうなままなんだけど……レナードの奴に何か吹き込まれたのかな?

 ……後でミレーネルにでも聞いてみよう。一時的に彼女の中に入っていたわけだし、何か知ってるかも。

 

 その後、僕らは後詰めでアマルガムの連中……あるいは、協力関係にあるエンブリヲやエグゼブが襲ってくるのを警戒して戦闘態勢に入ったんだが、なんとそいつらより先に、インベーダーが現れて襲ってきた。

 しかもその戦闘には、どうやらこの世界までこいつらを連れてきたらしいエンブリヲと……インベーダー側の親玉である、コーウェンとスティンガーの2人が。

 

 ……率直な印象をここで1つ。ガタイが、肩幅がすごい。

 早乙女博士の時も思ったけど……研究者には見えない見た目だ。これもひょっとして、インベーダーに寄生されてるがゆえなんだろうか?

 

 ……寄生されてるされてない関係なしに、なんかこう……人間離れした見た目してるけどさ。

 特に、スティンガーの顔色。青て。肌の色、青て。

 

 まあ、それはいいとして……どうやら襲ってくるようなので迎え撃つことに。

 親玉である2人は、手下のインベーダー達だけを残して撤退して行っちゃったけど。何か、ヤマトの波動エンジンを狙う的なことを言ってたな……少し不安だ。

 

 気にはなるけど、今は目の前のインベーダーの相手だ。

 数は多かったし、相変わらず見た目その他が気持ち悪い奴らばっかりだったけど……僕らであれば十分に対応できる範囲内だったし、全滅させるのにさほど時間はかからなかった。

 

 ただ、その最中にちょっと横槍が入った一幕があってね。

 

 恐らくはレナードの指示だろうが、アマルガムの幹部2人……ええと、名前ぱっと出てこないんだけど、武人っぽい男とメガネの女の子の2人が、横から襲ってきたのだ。僕らがインベーダーと戦っているところに、奇襲をかける形で。

 狙いは宗介。……なんかレナードの奴、やたらと宗介を目の敵にしてる気がするな……。

 

 まあ、彼を殺せばかなめちゃんへの揺さぶりになって、またソフィアが彼女を乗っ取る助けになるかもしれない、と思ってるのかもしれないけど……まあ残念ながら、もうソフィア、かなめちゃんの中にいないんだけどね。レナード達は知らないだろうけど。

 

 それでもまさか宗介をやらせるわけにはいかないので、こちらでフォローしつつ戦っていたんだが……その最中、アマルガムの残る幹部の1人である、カスパーによって宗介が狙撃され……しかし、その瞬間にラムダ・ドライバを全開にして防御したため、宗介は無傷。

 

 それと同時に、クルツとサリア、ジルとミランダの4人がカウンタースナイプで逆にカスパーの方を狙撃。

 しかし、それも警戒していたカスパーは、素早くその場を離れることで回避し……しかし、その瞬間に空間跳躍で目の前に現れたヒルダのテオドーラの剣が振るわれる。

 

 それも、ASの左腕を犠牲にしてどうにか防いだものの、それが決定的な隙となって……超長距離で放たれたクルツのとどめの一撃が決まり、完全に破壊された。

 

 後から知ったんだが、クルツが狙い打ったその一撃は、狙撃可能な距離を明らかに超えた、カスパーでも当てることはおよそ不可能なはずの一撃だったという。

 『女の子たちがあんな風に協力してくれたんだから、いいとこ見せなきゃ男じゃねえよな!』とのこと。……言われてみれば、協力したの全員女性だな。

 

 ただ、軽い感じで言ってたけど、それとは裏腹に、その目はしばらく、常にはない真剣そのものといった光を宿していて……なんとなくその心中を察することができた。

 

 なお、宗介への狙撃を防ぎ、迅速に反撃を可能にしていたのは……これもミレーネルのおかげである。

 

 戦いが始まって早々に……アマルガムの2人が来た段階くらいで、超遠距離からこっちを狙っている敵意を彼女が感知し、すでに気づいていたのだ。

 

 後は、『なんかこんなのいて狙ってるよ』『マジで? じゃあ逆に利用しようぜ』みたいな感じで作戦が決まったわけだ。なんか今回、ミレーネル無双だな。

 火星の後継者しかり、アマルガムしかり、精神波を使っていろいろやる敵は、彼女にとっていいカモなのかもしれない。

 

 そんな感じで、アマルガムも撃退、インベーダーも全部倒したわけだが……その後今度はエグゼブが現れ、なんと地下のマントルで大規模な爆発を起こしたとかなんとか……

 惑星フェルディナの火山という火山が噴火をはじめ、ほどなくして星そのものが崩壊するというから大変である。

 

 あわてて各機、戦艦に戻ったわけなんだが……ただ1人、宗介だけは『決着をつけなければならない奴がいる』と言って星に残った。

 皆は口々に止めたけど、テッサ艦長とかなめちゃんは、なんとなくその心中を察しているのか……『ギリギリまで待つから必ず帰ってこい』と声をかけて、送り出していた。

 

 しかし、本当にぎりぎりまで待ってみたけど、彼が帰ってくることはなく……

 

 

 ☆☆☆

 

 

「……惑星フェルディナ、完全に崩壊しました……相良軍曹の脱出は、確認できていません」

 

「そんな……宗介……っ!」

 

「馬鹿野郎、宗介……お前、かなめちゃんを残して、何やってんだ……ッ!」

 

 涙をこらえて下を向くかなめに、血が出るほど強く拳を握りしめるクルツ。

 その横では、テッサがこちらも、沈痛な面持ちでうつむいてしまっていて……マオやクルーゾーは、そんな彼らにかける言葉を見つけられないでいる。

 

 他の艦の、他のメンバーも……おおよそ同じような雰囲気の中にいた。

 

 恐らく彼は、カリーニン少佐と決着をつけに行ったのだろう。

 そのことにかける宗介の意思の強さを理解していたがために、テッサたちは彼を送り出したが……今となってはそれが正しかったのかどうか、答えを出せないでいる。

 

 既に惑星フェルディナは粉々に砕けて、無数の岩塊や粉じんが巻き上がっている。地下から沸き上がったのであろう、溶岩がそこかしこで熱を放ってすらいた。

 

 まるで、星そのものが火の玉になって全てを焼き尽くさんとしているような惨状。

 

 あの中に取り残されたとあっては……たとえ『ラムダ・ドライバ』で惑星崩壊の衝撃を防ぐことができたとしても、脱出することなど不可能。

 

 救出に行く術もない。ナデシコのボソンジャンプや、ラグナメイルの空間跳躍、ヘリオースの次元転移……そのどれを使っても不可能だろう。そもそも、宗介がどこにいるか、無事でいるのかすらわからないのだ。

 テッサの優秀な頭脳は、そんな残酷な答えを導き出していた。

 

 隊全体に、どうしようもない喪失感と、悲しみが広がっていき……

 

 

 

 

 

 ……その時、不思議なことが起こった。

 

 

 

 

 

 ―――大丈夫

 ―――あなたたちがそれを望むなら、源理の力はそれに応えます

 

 ―――限りある命であるからこその輝き、それを燃やして戦う者の美しさ

 ―――それは、決して捨ててはいけないもの

 

 ―――可能性という名の希望、進化という名の未来

 ―――諦めずに歩み続けるなら、いつの日か扉は開く

 

 ―――きっと、あなたたちこそが、この先の未来に必要なのでしょう

 ―――この世界を、宇宙を……また再び、終わらせないために

 

 ―――だから……

 

 

 

 ―――私が、あなた達を救います

 

 

 

 その声を聴いたのは……皆と同じように、『ソーラーストレーガー』の中で、仲間との別れを悲しんでいた……灰色の肌の、1人の異星人の少女。

 

 仲間達と同じように、悲しみにうつむいていた……

 

 

(…………え、何? 誰、今の……声?)

 

 

 ミレーネル・リンケ……彼女、ただ1人だった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

【日記 続き】

 

 もうだめかと思ったその時、宗介の乗ったレーバテインが黒煙の中を突っ切って現れた。

 ほとんど奇跡と言っていい生還に湧き上がる僕ら。

 

 宗介曰く、自分でもよくわからないけど、偶然というか、どういうわけか、煙も溶岩もないルートを飛んで突っ切ることができ、障害物もすべて『ラムダ・ドライバ』で防ぐことができたおかげで脱出できた、とのことだった。

 何はともあれ、無事に帰ってこれたんならそれで十分だよ。よかったよかった。

 

 ……だってのに、めでたい場面に思いっきり水を差してくれるお邪魔虫が多数出現。

 

 大物面して出てきたエグゼブに加え、ハーデスの仇を取るためにと、ミケーネの連中も集結。あしゅら、ガラダブラ、それに暗黒大将軍とまあ、勢ぞろいで現れた。

 

 エグゼブの方も、とんでもなくでかいロボットに乗って現れた上に、パープルと同じく、手下ともども『魔のオーラ』でしっかり強化された状態での参戦である。

 

 案の定、再生能力を持った集団と化していたので、まーめんどくさい。

 ミケーネの方は特に再生とかはしないけど、こっちは普通に強いししぶとい。

 

 やっぱりまた次元力でひっぺがすか、とか考えていたんだけど、それより先に、ウォルフガングと浜田君、それにその他のメカニックの皆さんが協力して作っていた秘密兵器がお目見えすることとなった。

 その名も『イノセントウェーブ増幅装置』。名前そのまんまではあるが、個人が発するイノセントウェーブ……精神波を増幅して、現実世界に影響を及ぼせるようにする装置である。

 

 それを、常人の100倍のイノセントウェーブを発することができるサリーちゃんが装備し、舞人達の勝利を願って祈ることにより……凄まじい力を発揮した。

 

 浜田君達によって調整された『増幅装置』によって、可視光線レベルにまで強力なそれになったイノセントウェーブは、エグゼブの『魔のオーラ』(という名の次元力)による強化に対して特効的な威力となり、ものの見事に再生能力や機体の強化を引っぺがした。

 

 それどころか、霧散した次元力を再利用する形で、逆に舞人達を強化するおまけつきである。

 

 僕がヘリオースの力を使って、さらに『界』という形で前回やったことを、こんなにも見事に、簡単にやってのけるとは……。

 専用の装置を使ってるとはいえ、サリーちゃん、マジですごいな……これが愛の力か?

 

 なお、サリーちゃんが装備したその装置の形を見て、一瞬『天地雷鳴士?』とか思ってしまったことは内緒にしておく。ド〇クエ脳……。

 

 いつ出番が来るかと身構えていたんだけど、どうやら今回の戦い、僕の力は――次元力の制御という意味で――必要なさそうだった。

 なので、純粋に戦闘要員として戦わせてもらいました。

 

 回復手段だった『魔のオーラ』を失ったエグゼブは、それでも機体である『インペリアル』とやらの性能に任せて向かってきたんだけども、舞人とジョーの2人を中心とした『地球艦隊・天駆』の猛攻を受け、ついには敗北。『インペリアル』とともに、宇宙に散っていった。

 

 そして、ミケーネの連中もまた同じく。

 

 こちらは、甲児君と鉄也さんが中心となって相手をしていたわけだが、マジンガーZEROとマジンエンペラーGの圧倒的な力の前にも、最後まで一歩も引かず、ひるまずに向かってきた。

 

 ハーデスの敵討ちとして、ってことなんだろうが……さすがというか、神と言われるだけのことはある強さ、そして気迫だった。

 例え敵わなくとも、絶対に逃げたりしない、という覚悟すら感じて……なんというか、敵ながら天晴、っていうのかな、こういうの。

 

 それに応えるように、甲児君達も、手加減一切なし正真正銘の全力で相手をしていた。

 

 最後には、『機械獣あしゅら男爵』には、マジンガーZEROのブレストファイヤーが炸裂し、

 

 ガラダブラは、マジンエンペラーGのエンペラーソードが真っ二つにし、

 

 暗黒大将軍は、ZEROの光子力ビームと、エンペラーのサンダーボルトブレーカーを同時に受けて……それぞれ同じように、宇宙に散った。

 

 こうして僕らは、惑星フェルディナから宇宙にまで部隊を移した激しい戦いの末に……エグゼブとミケーネ、2つの敵勢力を倒すことに成功したのだった。

 

 舞人とジョーは、それぞれ両親の敵討ちを果たした形になる。

 2人の両親はどちらも、エグゼブの謀略によって命を奪われた――しかもなんと、実行犯があの北辰だっていうから驚きだ――……って、前に聞いたから。

 

 ジョーにとっては、その時の経験が原因で、一時期グレて『正義とかマジありえねーし』みたいな感じになってたわけだし、因縁浅からぬ相手だったわけだ。

 

 甲児君達も、長いこと続いてきた因縁に終止符を打つことができて……達成感のような喪失感のような、言葉にできない感情を抱いているようだった。

 あしゅら自身も、全力で戦って満足して散っていったみたいだし……なんというか、単なる敵と味方以上の何かが、この両者の間にはあっただと思う。

 

 まーなんというか、激動の一日だったけど……それに見合う戦果を手に入れられたんじゃないかな、という感じだ。あー疲れた。

 

 かなめちゃんもさらわれずに無事に済んだことだし、万々歳だ。

 

 ……あ、でも捕まえたソフィアどうしよう? 今、タブレットの中に幽閉中なんだけど……こういう場合って、捕虜としての扱いとか色々配慮すべき? ……後で皆に相談しよう。

 

 

 

追記

 

 これは、戦闘のログを後から見ていた時に気づいたことなんだけど。

 

 宗介が惑星フェルディナから脱出した、その直前くらいのタイミングで……極小の次元震が起こっていたのを観測できていた。

 

 おそらくその衝撃で、周囲にあった、溶岩や岩塊、その他の障害物が偶然消し飛ばされ、進路がクリアになり……そこを通って、宗介は脱出することができたみたいだ。

 

 まあ、惑星1つが崩壊する爆発が起こったんだし……そのくらい起こってもおかしくはない。

 

 けどそれにしたって、ちょうどそれが、脱出するのに都合のいい露払いになってくれるとは……なんというか、運がよかったなあ、宗介。

 

 

 

 

 

 ……偶然……だよね?

 

 

 

 



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第82話 再び合流と、不思議な捕虜の扱い

【▼月◇日】

 

 アマルガムにエグゼブ一味、ミケーネにインベーダー……厄介な奴らとの戦いがどうにか終わり、現在つかの間の休息を堪能しているところである。

 

 残念ながら、バカンス?に最適だった惑星フェルディナは木っ端微塵になっちゃったので、それぞれの艦でだけど。

 まあ、補給や各機体の修繕その他は問題なく行えたことだし、文句は言うまい。

 

 休息をとりつつ、あの一連の戦いの後始末、ないし今後についての対策を進めることにした。

 

 まず、サリーちゃんと『イノセントウェーブ』について。

 

 前回の戦いの中でその有用性が示されたコレについては、一応今後も、浜田君達を中心としたメンバーで研究を進めていき、『増幅装置』の改良その他を行っていくことになった。

 

 既にエグゼブは倒したので、もしかしたらもう『魔のオーラ』を使ってくることはないかもしれないけど、念のためにね。

 

 連中と手を組んでた、レナード達アマルガムや、エンブリヲは健在なんだから……似た力を使ってくる可能性はある。

 そういう時に、敵側のバフや継続回復を打ち消す、リアル『いて〇くはどう』を使えるっていうのは、こちらにとって大きな強みになるだろうからな。

 

 ……そう考えた時、一瞬、某大魔王のポーズで『いてつく〇どう』を放つサリーちゃんのグラフィックを想像してしまって微妙な気分になった。何やってんだ僕。

 

 それに……エグゼブ達に関してはまだ不安もある。

 

 さっきは『エグゼブは倒した』とは言ったけど……そのエグゼブも、どうにも『次元力』を上手く使えていたようには見えなかったからな……。

 パープル同様、『誰かに与えられた』という感じが強かった。戦闘中にもそんなこと言ってたし。

 

 ……傍受した通信の中でも、『私はまだ見捨てられてはいないのですね!』とか何とか言ってたようだし……まるで、さらに上位者、ないし黒幕がいるようなことまで……気になるな。

 こういう不安もあるので、『増幅装置』の改良その他は続けてもらうことにしたわけだ。

 

 それともう1つ……戦いの直前に捕獲?した、ソフィアについて。

 

 かなめちゃんに悪霊よろしく憑依しようとしてたところを、ミレーネルが引っぺがしてタブレットに封印したわけなんだが……意外にも彼女は今、大人しくしてくれているようだ。

 まあ、そうせざるを得ないだけ、と言った方がいいかもしれないが。

 

 最初はどうにかしてタブレットから出ようとしていたみたいなんだけど、それができない、完全にこちらの技術その他が、自分ができる範囲の抵抗を上回っていると悟ったようで。

 

 今は、こちらからタブレットのカメラ越しに顔を合わせると、恨めしそうな目を向けては来るものの……特に罵詈雑言を飛ばしてくるわけでもなし。

 その代わりに、こちらの質問その他にもこたえてくれる気配はないし、まだあきらめずに虎視眈々と脱獄?の機会を狙っているようだが。

 

 味方の一部からは『尋問して情報を引き出すべきでは?』との声も上がったが、テッサ艦長やかなめちゃんからの要望でそれは却下、ないし保留になった。

 

 ソフィア自身、過酷かつ非人道的な人体実験のせいで命を落とした被害者なんだから、って。

 かなめちゃんの体を乗っ取ろうとしたのも、レナード達に協力しているのも、失った自分の人生を取り戻そうとしているから、っていうのが一番大きな理由のようだし。

 

 まあ、そのために他人の人生を犠牲にしていいのかって言われたら、そりゃもちろん否だけども。

 かなめちゃんも、そこまでしてソフィアに協力してやるつもりはないみたいだし。

 

 ただ、一度1つの体に2つの精神が入っていた影響か、どうしてもその気持ちは多少わかっちゃうんだって。難儀だな、ウィスパードってのも。

 

 ひとまず、彼女についてはこのまま保留ってことにした。

 

 ……肉体のない、精神だけの捕虜、ってのは……前例がなくて扱いが難しいけど、とりあえず手探りで……ひどいことだけはしないように頑張ってみようと思う。

 

 

 

【▼月▼日】

 

 通信を使った艦長同士の会議で、ヤマトチームとナデシコチーム、それぞれの現況の情報交換が行われた。

 どうやら向こうもかなり波乱の道のりだった様子。

 

 特に、ガミラスとガーディムはしつこく襲ってきたみたいで……こっちには来なかったあたり、あっちばかりに集中して狙いを定めて襲いに行ったみたいだな。

 ガミラスから『地球艦隊・天駆』の旗艦として認定されてるであろうヤマトと、ガーディムが狙ってるヴァングネクスとナインがひとところにあるんだから、まあ……予想はしてたけど。

 

 この点で見れば、こっちに出現したエグゼブ一味やミケーネのことも考えれば、『互いが互いの陽動として動く』というこの別動隊作戦の目的は果たせたと言っていいと思う。

 

 あっちも問題なく、それぞれの敵の撃退には成功したようだし。

 

 あと、襲ってきたガミラスの中には、宇宙世紀世界から戻ってきた奴もいたらしいんだけど……そいつらと戦った時に、宇宙世紀世界出身の捕虜を何人か収容したらしい。

 その中には、あのフル・フロンタルの親衛隊長もいたそうだ。……ああ、出発の時の見送りとか式典に出て来てないと思ったら、ガミラスに合流してたのか。

 

 ……彼も、『フル・フロンタルの考え方に賛同できなくて離反した』っていう、一部のネオ・ジオンの中の1人だったんだな。

 意外といえば意外だ。フロンタルに心酔してたようだから、そのままついていくと思った。

 

 幸い今は、精神が不安定になっているとかそういうこともなく……ある程度ではあるけど、前向きに物事を考えることができるようになっている様子。

 時間はたっぷりある。自分の中でゆっくり気持ちの整理はつければいい。

 

 あと、同じく宇宙世紀世界から……というか、もともとはこの世界の出身者だっていう。木星帝国のザビーネとかいう奴もいて……こちらはトビアとキンケドゥさんが討ち取ったらしいんだが……ぶっちゃけ僕、そいつと接点ないのでわからん。

 ルート分岐……もとい、行動する隊分けの関係で、戦うこともなかったし。

 

 なので、省く。許せ。

 

 ガーディムは例によって千歳さんとジェイミーが襲ってきたらしいんだが……今回もジェイミーはやっぱりアンドロイドだった。

 

 そして千歳さんは、再び総司さんが説得を試みたものの、聞く耳もたず……というか、何かジェイミーに、詳しく話すことを禁止されているみたいなことを言っていたとか。

 何らかの形で地球を救うのには協力するから、何も言わずにガーディムに協力してヤマトとヴァングネクス、そしてナインを奪い取れ……みたいなことを言われてるっぽい。

 

 一体何を吹き込まれてるのやら……こないだの通信で言ってた『騙されないで……イスカンダルは……』っていう言葉といい、謎が深まるばかりである。

 ……次に遭遇した時には、多少強引にでも話を聞くようにした方がいいかもしれないな。

 

 そして、ヤマトチームについてもう1つ。

 ガミラスやガーディムとの戦いの合間に、今までに遭遇したことのない、謎の敵と遭遇したらしい。

 

 それは、宇宙で突然襲ってきた、意思を持つ生きた金属だったという話で……ああ、うん、いたねそういえばそんなの……『Z』でも中盤~終盤でなんか出てきたやつ。

 

 『ELS』と呼ぶことにしたらしいそいつらと交戦し、その中で刹那が負傷し、ティエリアが肉体を失ったとのことだった。

 

 ティエリアは『イノベイド』だから、肉体を失っても精神をデータにして復活できるから問題ないし、刹那もたいして重症とかじゃないっぽい。それはまあ、よかった。

 

 けど、今後もそいつらに遭遇する見込みであることを考えると……厄介だな。

 

 ここはガミラスの本拠地に近い上、インベーダーやら何やらもやってきていて、ただでさえ敵が多いっていうのに。

 

 とまあ、そんな感じで互いの情報を交換したわけだが……これらを踏まえて今後の予定を検討した結果、予定を前倒しして、両チーム合流することにした。

 集合場所に行くのではなく、『ボソントランスミッター』と『ボソンレシーバー』を使って、超長距離ジャンプで、直接僕らがヤマトのところに飛ぶ形で。

 

 周辺の安全確認その他のために、合流は明日以降になる予定だけども。

 

 それぞれで厄介な敵を撃破したことだし、状況は前よりも好転している。このまま戦力を結集して、一気にイスカンダルに行ければいいけど……同時に、襲ってくる奴らの戦力も集中するってことになるからな。油断できない旅は続きそうだ。

 

 

 

【▼月●日】

 

 無事、ヤマトチームとの合流完了。

 細かい情報交換とかも済んで、今日から全9隻でイスカンダルを目指す旅路の始まりである。

 

 現状、差し迫って何かしなくちゃいけないことがあるわけじゃないので、敵の襲撃だけは警戒しつつ進んでいくことにした。

 

 今日は別にそのへんは何もなかったんだが……しいて言うなら、現在捕虜にしている、ソフィアについてでも書いておこうか。

 

 以前の日記にも書いた通り、ソフィアは今現在、タブレットの中に収監、あるいは封印しているので、外を出歩くことはできないし、かなめちゃん達に危害を及ぼすことはできない。

 しかし、画面越しに会話とかすることはできる。

 

 それを利用して、このところ毎日、かなめちゃんはソフィアに会いに来ている。

 

 万が一のことを考えて、彼女のタブレットは『ソーラーストレーガー』においてあるので、毎日輸送用のシャトルで、あるいは宗介のレーバテインで送ってもらって、うちの艦に来ている。

 

 彼女は彼女で、ソフィアに乗っ取られそうになったことがありながらも、彼女のことを案じている。ひどい目にあって、助けを求めているのは本当なんだからって。

 だから、封印してハイおしまい、じゃなくて……きちんと彼女と面と向かって話し合って、少しでも分かり合えれば、って思っているようだ。

 

 ソフィアの方は、最初は取り付く島もない感じで、恨みがましい目を向けながら『もう放っといて』とか言うばかりだった。

 

 けど、諦めずにかなめちゃんが何度も足しげく通って話し合おうとして……その甲斐あってか、多少なり会話になる程度には進展?したみたいである。

 ……もっとも、対応は相変わらずそっけなさ9割超ではあるけども。

 

 それでも、恨み言に交じって自分の境遇とか……本当はこんなことしたかったとか、どんな風に今までつらかったとか……そういうことを話し始めてくれている。

 かなめちゃんの努力は、無駄じゃなかったようだ。

 

 

 

【▼月▲日】

 

 かなめちゃんがソフィアに会いに来るのはいつものことなんだが、今日はちょっといつもと違った。

 

 かなめちゃんだけでなく、テッサ艦長も会いに来た。

 同じウィスパードであるということで、一度話したいともともと思っていたそうで。一時的に艦の仕事はマデューカス中佐に任せてきたそうだ。

 

 ソフィアの方も、テッサ艦長には多少なり興味があった様子。

 テッサ艦長はウィスパードであるのに加え……彼女の仲間である、レナードの妹だ。それでいながら、こうしてレナードとは敵対し、彼の『時空融合』を、そしてその先の『世界の改変』とやらを阻止すべく動いている。

 

 お互いに、相手が何を考えているのか、その辺を知りたかったみたいだ。

 

 理由はちょっとギスギスした感じだったけど、結果的にいつもより突っ込んだところまで話が進んだようだったので……まあ、結果オーライと言っていいのかな?

 ソフィアも普段より饒舌になって、色々と話してくれたそうだし。

 

 というか、途中からは、互いの理念信念の語り合いとか討論会みたいになってたようだ。

 

 その会話ログから明らかになったことではあるんだけど……レナードはどうやら、ウィスパードだったことで色々と嫌なことがあったり――プライバシーの関係で詳細は伏せるけども――その他さまざまな理由から、『世界をリセットしよう』と考えていて……そのための手段として、エンブリヲ同様の『時空融合』を。そして『歴史改変』を選んだとのこと。

 

 レナードだけでなく、カリーニン少佐も含め、彼に付き従っているのはそういう目的を持っているか、レナードに心酔しているかのどっちかだそうだ。

 一部、金のためにビジネスと割り切って従っている者もいるそうだが。

 

 なお、ソフィアはもちろん前者である。人生を取り戻して、幸福に生きることが目的だそう。

 

 そして、真の意味でその目的を達成するには、なぜかはわからないけど、かなめちゃんがキーパーソンになっているらしい。ただウィスパードであるってだけじゃなく、かなめちゃん個人である必要があるとのこと。

 その理由については、残念ながらソフィアは話してくれなかった。

 

 ただ、それについて『彼女の罪』っていう言い方をしてたんだが……はて?

 かなめちゃんが何かやらかしたってのは、別段何も聞かないが……レナード撃ったくらい? あるいは、ソフィアが憑依している間に何か……いや、だとしたら言い方的に変だよな?

 

 ……彼女がもうちょっと心を開いて、あるいは油断して、情報を開示してくれるのを待つしかないかな。

 ちょっと打算的な動機で悪いが、かなめちゃん達には今後も頑張ってほしい所である。

 

 

 

 



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第83話 ソフィアと愉快な仲間達

 

【▼月☆日】

 

 かなめちゃんやテッサ艦長が、粘り強くソフィアと話を続けている(テッサ艦長は暇を見てだが)のはこないだ言った通り。

 

 しかし最近、なんか……他のメンバーもよくソフィアに会いに来るようになった。

 

 同じミスリルであるクルツやマオさんをはじめ、アキトにユリカさん、サリーちゃんや浜田君、ココにミランダにヴィヴィアン、バナージやカミーユ、アムロさんに刹那、真田副長や新見情報長、総司さんにナイン、ユリーシャさん……その他。

 

 理由は様々だ。単に興味を持ったからっていう人もいれば、ソフィアが実は悲しい過去を持っていると知って、どうにかして助けられないかと思った人もいる。

 ソフィアの掲げる『歴史改変』というものの是非について討論していった人もいれば、どうにかして敵の情報を聞き出そうとした人もいた。

 今は敵同士であっても分かり合えるんじゃないかと思って対話を望んだ人もいれば、全然何も深い考えとかはなくて、友達になれないかなー、とか思った人もいる。

 ……あと、何を思って話しかけたのか、聞いていても全然わからない人もいたな。

 

 なお、どれが誰のことかはあえて言わないことにする。想像してみて。

 

 そういった人達との対話(と言っていいのかどうか)を経て……何かソフィア、徐々に混乱してきたっぽい。

 

 精神に不調をきたしたとかそういう意味ではなく……どう対応したもんかわからなくなったり、緊張感が続かなくなってきた、みたいな気配を感じる。

 

 今までソフィアが相手にしてきたのは、レナードやカリーニン少佐といった、あくまで目的のために手を組んだ相手であり、その間に交わされた会話、ないしやりとりは、常に『同志』としての……言っちゃなんだが、仕事としての堅苦しい内容ばかりだった。

 

 けど、ここにきて……そういうのとはかけ離れたやり取りがあまりに多い。

 

 自分のことを理解しようとしてくれるかなめちゃんだけでも、割と徐々にその心がほどけて来ていたようなのに加えて……同じように自分のことを、目的とか関係なく優しくしようとしてくれる人や、仕事とか堅苦しい要素ゼロで話しかけてくる人、やや堅苦しくはあるものの、レナード達とはまた違った会話を交わすことができる人、ソフィアを通して何かを学ぼうとする人、何を考えているのか話してみても全く分からない人……

 

 今までの人生?で出会うことのなかった人と出会い、言葉を交わし、色々な感情をぶつけたりぶつけられたりしているうちに……徐々に彼女の中に戸惑いが生まれている。

 

 そして、この彼女の変化や動揺に関して理解を示したのは……意外といえば意外なんだが、ヴィヴィアンだった。

 彼女自身も、こういう感じになった経験があるから、『あー、その気持ちわかる』って。

 

 結構前の話になるんだが、覚えているだろうか。

 

 まだアンジュが、ヒルダ達と死ぬほど仲が悪かったころ、ヒルダのブラジャーとパンツでヴィルキスが撃墜され、アンジュが行方不明になったことがあった(言い方)。

 

 その時に、総司さん達はアンジュの無事を願いつつ、ずっと捜索していたわけなんだが……その様子を見ていたヴィヴィアンが、『どうしてアンジュを探してくれるの?』と聞いた。

 

 その頃の彼女達の認識はまだ、『ノーマは人間扱いされなくて当然』というものだった。

 だから、アンジュのことを一生懸命粘り強く探してくれる総司さん達の行動が、ヴィヴィアンには理解できなかった……という、あんまり笑えない『ノーマあるある』である。

 

 その時と似た感じで……今まで触れることのなかった人の思いや考え方に触れた時、好きとか嫌いとかそういうの以前に、どう対応、ないし反応していいのかわからない……ということが、時に起こる。

 ヴィヴィアン曰く、今のソフィアもちょうどそんな風になってるんじゃないか……とのこと。

 

 でも同時に、その向こうに見つかる、知ることのできるものは……きっとソフィアにとっても、重要というか、必要なものであるはずだから……こうして皆でソフィアと分かり合おうとするっていう今の方針自体は、きっと間違ってない。

 そんな風に言って、ヴィヴィアンは今日は帰っていった。

 

 純粋な彼女だからこそ、そういう部分に気づけるんだな、って思った。

 

 となりでそれを聞いてたかなめちゃん達も嬉しそうにしてたから……明日以降、一層気合入れてソフィアと話しにいくんだろうな。

 なんなら、友達誘っていったりすらするかもしれない。

 

 ソフィアとの面会が、単なる捕虜との会話ではなく、気のしれた間柄同士のおしゃべりになる日も……もしかしたら、そんなに遠くないところまできているのかもね。

 

 

 

【▼月★日】

 

 本日もソフィアとの面会……とかいいつつ遊びに来た的な感じになってるわけだが……その最中に、ヴィヴィアンがふと思いついたように口にしたことがある。

 

 ソフィアの目的が、自分が死んでしまったがために手に入れられなかった、幸せな人生を手に入れる、というものであるのは前に書いた通り。

 そのためにかなめちゃんの体を乗っ取って、『時空融合』からの『歴史改変』を行おうとしていた。

 

 そのことについては今もあきらめていないわけなんだが……そこでヴィヴィアンが、

 

『だったらかなめの体を使わなくても、ミツルに新しい体作ってもらえばいいんじゃない? ミレーネルみたいに』

 

『……!?』( ゚д゚) ← ソフィア

 

 ソフィアのみならず、その場にいた全員がまさしく『その発想はなかった』的な感じになった瞬間だった。

 いや、確かにそれは……彼女には体がない。だからかなめちゃんの体を奪おうとした。だったら彼女に体を用意すれば、かなめちゃんの体を奪う必要はなくなる……まあ、言われてみればそれは正しいっちゃ正しい……な。

 

 ただそれだと、相変わらず理由はわからないけど『歴史改変』はできない。

 ソフィアはあくまで、不幸な形で終わった人生そのものをやり直すことを望んでいるので……ただ単に、自由に動けるからだが手に入るだけじゃ満足できないわけだ。

 

 今から生き返って人生を再び歩みたいわけじゃなく、一からやり直したい。それがソフィアの望みなのだ。

 

 ……そう言いつつも、『新しい体が手に入るかもしれない』と分かった瞬間、ちょっと反応していたのも、時折ちらちらとこっちを見るようにしていたのも僕は気づいていました。

 

 そして、ここ結構重要なポイントじゃなかろうか。ソフィアを説得するための。

 

 今言った通り、ソフィアの……そして、レナード達の望みは『やり直し』だ。

 今の世界の歴史を否定し、壊したうえで理想の歴史に作り替えて、その世界を生きよう……っていうもの。今の世界に生きる価値はない、壊した方がいいという思いからそれは来ている。

 

 けどもし、ソフィアが、今の世界を受け入れて……新しい肉体で、今これからの人生を歩むことを選ぶなら……その時はきっと、今彼女をすでに『友達』扱いしているおせっかいな面々が、彼女のこれからの人生を……きっと、素晴らしいものにしてくれるんじゃないかと思う。

 

 過去を嘆き、戻ろうとするんじゃなく……過去を受け入れて、未来に目を向ける。

 そんな、決して楽ではない、しかし、人がごく当たり前にやっていることを……もし、ソフィアが選ぶことができたなら……

 

 

 ☆☆☆

 

 

Side.ソフィア

 

 本当に妙な連中だ、と思う。

 

 私が敵だとわかっていても、こんな風に毎日、にこやかに語り掛けてくる。

 こちらがそっけなくしても、毒を吐いても……悲しそうにしたり、気にしなかったり、態度こそ違えど……決してあきらめることなく、毎日語り掛けてくる。

 男も女も、地球人でない者や、生物でない者さえも。

 

 このところは……半ば根負けする形で、会話に付き合っている。

 

 そして、会話をするようになったからこそ……余計に『変な人達だ』と思うようになった。

 

 私みたいなのに話しかけてくる、物好きな奴……という以外にも……どうして彼ら、彼女らはこういう考え方ができるんだろう。

 最近はよく、そんな風に思うようになったし……そこからつながった会話の中で、そういう人たちの考え方に触れる機会も増えた。

 

 ここの人達……『地球艦隊・天駆』の中には、決して幸せとは言えない過去を持っている人も、少なくない。

 いやむしろ、忘れたいほどひどい過去を持っている人の方が多いと思う。

 

 私が一番多く顔を合わせている、千鳥かなめ……そのボーイフレンドである相良宗介は、幼いころに飛行機事故で天涯孤独の身になり、以来ずっと、傭兵として硝煙香る世界で、物騒極まりない日常を送ってきた。そのせいで今も、平和な社会にまるでなじめていない。

 

 眩いばかりの『正義』を掲げて戦う旋風寺舞人は、両親を悪の手先によって殺された。

 そのライバルであるジョーも同じ。悪人によって利用された挙句に父親を殺された。

 

 テンカワ・アキトとミスマル・ユリカは、新婚旅行の最中にテロリストによって襲撃・拉致され……5年もの間、引き裂かれていた。テンカワ・アキトは過酷な人体実験の末に五感のほとんどを失い、ミスマル・ユリカはボソンジャンプの装置に組み込まれて利用されていた。

 

 アンジュをはじめとするメイルライダーの面々は、ノーマであるというだけで幸せな人生を奪われ……人間扱いされず、追い立てられ閉じ込められ、危険な怪物との戦いを強要された。

 色々なものを失い、死ぬまで解放されず、何人もの仲間達の命が奪われてきた。

 

 碇シンジはその血筋ゆえに、普通の中学生だったところを、半ば無理やり機動兵器に乗せられ、『使徒』を相手に命がけの戦いを強要されている。

 

 アムロ・レイやカミーユ・ビダン、刹那・F・セイエイに叢雲総司……皆、悲惨な戦争の中で、大切な人を失った。家族だったり、友達だったり、仲間だったり、恋人だったり……

 

 そんな過去を背負っていながら、彼ら、彼女らは……私のように、過去を変えたい、幸せな人生を取り戻したい……と思うことはない。

 いや、全く思わないことはないのかもしれないが……それを選択することはない。

 

 それがどうしても、理解できなかった。

 

 もしかしたら手に入ったかもしれない、理不尽に奪われてしまった、幸せな人生、幸せな未来……それが手に入るかもしれないのに、なぜ彼らは手を伸ばさないんだろう。

 人間なら誰でも、それを望むはずなのに。

 

 現に、かなめは――ただし、いつも話しかけてくれる『千鳥かなめ』ではなく、『サガラカナメ』は、だけど――それを求めた。

 その結果としてウィスパードは生まれ、隣り合う二つの世界に決定的な歪が生じた。

 

 その歴史からも、人は時に、不可逆の『時間』をさかのぼってすら、幸福な未来を求めるはずなのに……どうして、そんな、受け入れたくないつらい過去を、今を受け入れて、我慢して生きていく気になんかなれるんだろう……

 

 そのことを、ふと思いついた時に、たまたま話していた相手に聞いたら、

 

「だってそんなことしたら、皆と一緒に過ごした思い出も忘れちゃうじゃん。つらいことも多かったけど、楽しいことも嬉しいことも多かったし、大切な友達や家族もいるのに、そんなのやだよ」

 

 さも当然と言わんばかりに、笑顔を見せながらヴィヴィアンは言った。

 

「確かに、捨ててしまいたいほどに辛い思い出もいくつもある。だが、それも含めて、今の俺という人間を形作っている……彼らとの記憶が、今の俺を支えてくれているんだ。そのことにまで、背を向けようとは思わない」

 

 静かだけれど、強い意志のこもった声音で、アムロ・レイは言った。

 

「戦うのは今でも怖いよ。でも僕に、大切な人を守ることができるなら……その力があるのなら、僕にできることをやりたいと思うんだ。父さんに言われたからでも、僕にしかできないことだからでもなく……僕は僕の意思で、エヴァに乗るよ」

 

 自分が怖がっている、迷っていることを隠しもせず、しかしはっきりと、碇シンジは言った。

 

「失ったものも多いし、消したい過去もいくつもあった。忘れたいほど恥ずかしいやらかしもね……でも、そういう日々の中で手に入れたものもある。だから私は。やり直したいなんて言わないし思わない。今こうして仲間になれた皆と一緒に、これからも生きていくわ」

 

 過ぎ去った過去を思い返すようにしながら、しかし迷いも何も振り切って、アンジュは言った。

 

「つらいことがあったからって、いちいちそれから目を向けて逃げていたら、逃げることしかできない人になってしまう。やり直した後の世界で気に食わないことがあったら、きっとまた同じことを考えて逃げたくなってしまう……だから皆、歯を食いしばって未来へ進むんだ、きっと」

 

 もう何度も自分で考えたことなんだろう。迷いのない強い口調で、古代進は言った。

 

「死ぬほど嫌な思い出でも、いっそなかったことにしたい過去でも……それを乗り越えて俺は今、ここにいる。そして、その途中で散っていった奴らは、皆、未来を信じて、俺に後を託してくれたんだ。だったらそれに報いなきゃ、申し訳ないってもんだろ?」

 

 軽い口調で、しかしその一言一言に、聞いていてわかるくらいの強い意志を、覚悟を滲ませながら、叢雲総司は言った。

 

 ……私には、皆の言っていることがわからない。

 幸せな未来に手が届くのに、今のこの、つらいだけの現実なんで捨ててしまえばいいのに……それを拒んで、わざわざつらい、認めたくもない現実を生きていくなんて……何で、そんな風に……きれいごとにしか聞こえない決断ができるのか。

 

 私には、理解できない。

 

 ……けど、もし……それを私が理解できる日が来るのなら……

 

 ……その時には、私はもしかしたら……今とは違う風に、世界を見ることができるんだろうか。

 

 そしてその時、私は……今はもっていない『何か』を手に入れているんだろうか。

 恐らくは、彼ら・彼女らは持っていて……今の私は、持っていない……それが何なのかもわからない……

 

 ……けど、きっと……大切なものなんであろう、『何か』を。

 

 

 

 



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第84話 『七色星団』の決戦

 

【▼月★日】

 

 少し前にも日記に書いたが、今、僕ら『地球艦隊・天駆』が、捕虜としてアンジェロ……フル・フロンタルの元親衛隊長を収容しているというのを覚えているだろうか。

 

 捕らえた当初は、まだちょっと調子がよろしくないというか、精神的に不安定な感じだったんだが……しばらく時間を置くことで多少落ち着いてきたようなので、今日、聴取が行われた。

 

 その結果、ガミラスの現状について、ミレーネルに聞いていた以上に色々なことが分かった。

 あのゲールとかいうのに一緒について行動してたからな、多少の情報は持ってるだろうと思われていたんだが、期待通りだったみたいだ。

 

 ただ、それを聞いて……なんというか、あっちはあっちで変なことになってるな、と思った。

 

 一言でいうと、今現在ガミラスは、謀略と内部分裂からくる足の引っ張り合いで、全体的に混乱しているっぽい状況らしい。

 

 バラン星の亜空間ゲートの近くで、ガミラスの艦隊1万隻を相手に戦った時、敵側で指揮官をやっていた男……ゼーリックとかいう奴を覚えているだろうか。

 ドメル上級大将より上の地位なのに、戦い方はお粗末どころじゃなかった奴だ、命令に従って同士討ちをしている敵の兵士達が哀れでしかないような光景を作り出していた無能の極みである。

 

 大ガミラス帝星は、総統であるデスラーがトップとなっているわけなんだが、ゼーリックは彼に忠誠を誓ってはおらず、その地位を狙っていた。

 加えて、自分より有能で軍内や民たちへの人気も高い、ドメル上級大将と、もう1人……ガル・ディッツ提督という人を、自分の立場を脅かす者として邪魔に思っていた。

 

 そこで、それらの邪魔者を一気に片付ける策を前々から練っていて……今回、それを実行に移したらしい。

 

 デスラー総統の乗る艦を爆破して彼を暗殺し、ドメル上級大将とディッツ提督にその罪を着せることで更迭した。

 その上で、総督府内が混乱している隙に帝都バレラスを制圧、とどめにガミラスにとっての仇敵となりつつある『地球艦隊・天駆』を討ち取る功績を立てれば、晴れて自分は盤石な地盤をもってガミラスのトップに立てる……と考えていたそうだ。

 

 アケーリアスでの戦いで、ドメル上級大将が突然退却していったのは、それに巻き込まれたからだったんだな。罠にはめるために、帝都に呼び戻されていたわけだ。

 

 しかし、その策はすでにデスラーに見破られていたらしく、暗殺は失敗。

 ゼーリックは裏切り者として粛清されたらしい。哀れな末路である。

 

 そんなわけで現在は、きちんとデスラー総統が戻ってきてはいるものの、ゼーリックが色々やったことの後始末でやや混乱を引きずっている状態にある。

 

 具体的には、ゼーリックが自分にとって邪魔な奴らをあの手この手で排除しようとして、人事関係が滅茶苦茶になってるので、そのへんの整理だそうだ。

 『秘密警察』とかいう、昔の日本でいう特高警察みたいなヤバそうな連中まで巻き込んで動かしていたようなので、事実関係とか法的な手続きが面倒なんだと。

 

 ドメル上級大将はすでに復職しているらしいが、もう1人巻き込まれたディッツ提督や、その他一部の被害者はまだ呼び戻せていないそうだ。

 

 そして、アンジェロが身を寄せていたゲール提督は、ドメル上級大将の復活に伴ってまた立場を追われそうなところだったので、焦っていた。

 とにかく手柄を求めて懲りずにヤマトに手を出し……そしてまた惨敗した、というわけだ。

 

 ……まあ、敵なんだし、足の引っ張り合いをしてくれているのは、こちらとしては願ったりかなったりではあるが……どこの国、どこの星でも、真面目な奴がバカな奴に足を引っ張られて苦労するっていうことは起こるもんなんだなあ。

 

 

 

【▼月■日】

 

 沖田艦長達から、今後の航行スケジュールについて連絡があった。

 

 今僕らがいる宙域からイスカンダルを目指すにあたっての最短ルートは、『七色星団』という場所を通るものらしい。

 

 ただしこの『七色星団』とやらは、7つの縮退星によって構成され、所々でイオン乱流やら宇宙ジェット、その他さまざまな現象が発生し、レーダー障害すらも起こる危険な宙域で……ここを通ることは自殺行為、とまで言われているらしい。

 まともな感性を持っている者なら、まずここを通ろうとは思わないそうだ。

 

 実際、イスカンダルに行くにあたって、ここを避けて進む迂回ルートも当然用意されていた。

 

 ……もう何が言いたいのかわかるね?

 

 そう……『地球艦隊・天駆』は、ここを突っ切っていくことになりました。

 

 それだけ警戒されているのなら、こんな場所を通るとは敵も思っていないだろうから、敵の裏をかくと同時に、一気にスケジュールを短縮することができるだろうって。

 

 発表された際に、驚きはあったものの反対意見はほぼゼロ、歓声すら上がったあたりに……なんというか、僕らもたいがい頭のネジがぶっ飛んできている気がする。

 かくいう僕も反対はしなかったわけだが。効果的なのは確かだしね。

 

 ……ただ、こないだアンジェロに聞いた通り……向こうにはかの『宇宙の狼』とやらが復活し、どうやら総統の命を受けて、正式に僕らを討ち取るべく動いているようで。

 それを考えると、これが『敵の意表を突く』ための方策であっても……万が一のことを考えれば、油断はできないんじゃないかな……と、思う。

 

 もっとも、そんなことは僕ごときが言うまでもなく、沖田艦長達も想定しているだろうけどね。

 

 こちらとしても、何が起こってもいいように、万全の態勢で『七色星団』突破の時を迎えられるように……準備を進めておこうと思う。

 

 

 

【▼月!日】

 

 予 感 的 中。

 

 難所と名高い『七色星団』をあえて突っ切るという奇策だったわけだが……見事に見破られていたようだ。すでにガミラスの艦隊が待ち伏せしていた。

 

 しかもどうやら、やってきたのは以前に聞いた『ドメル軍団』。やはりというか、これを見破って待ち構えていたのは……ドメル上級大将の指示であり、相手はその直属の精鋭たちらしい。

 二手に分かれていた時に、ヤマトチームが相手をしたことがあるらしいが、やはり相当手ごわかったそうで……油断できない戦いになるのは明白だった。

 

 アケーリアスで見た、ドメル上級大将自身の座乗艦はいなかったので、これから合流するのか……あるいは挟撃に持ち込まれる恐れもある。あらゆる理由で時間はかけられない。

 

 沖田艦長の号令とともに、『地球艦隊・天駆』総力で、ガミラスの最強部隊との戦いは始まった。

 

 戦艦の数はこちらの数倍。さらにその数十倍はあろう数の戦闘機やら何やら。

 それらの物量や性能のみならず、二重三重に用意された作戦や、高い熟練度の連携能力から繰り出される戦術の数々。

 さらに周囲には、さっきも言った通り、イオン乱流やら何やらが吹き荒れていて、こちらもある意味天然のトラップゾーンみたいなもの。片時も油断できない。

 

 そして予想通り、敵が足止めを行っている隙に、ドメル上級大将の座乗艦も合流してきたし……そこからは、それまで以上に苛烈かつ精密な攻撃が飛んでくるようになった。

 

 危ない場面はいくつもあったけど、どうにか乗り越えることができた。

 

 まず、物体転送系の装置を使った、いきなり出現する敵機による奇襲。

 何もない場所からいきなり戦闘機が現れて攻撃して来るもんだから、最初はびっくりした。

 

 けど、転送による襲撃は、こちらも既に対応のノウハウがある。

 『火星の後継者』が使ってきたボソンジャンプ戦術と同じだから、そういうのが来るとわかって以降は、即座に対応できるようになった。

 

 そして戦いの途中、その転送を行っている装置が、敵旗艦の甲板にあるとわかった。

 

 そこでこちらも、意趣返しとばかりにボソンジャンプで跳躍したアキトさんのブラックサレナ()がそれを強襲。装置を破壊したことで、敵は転送戦術を使えなくなった。

 知ってはいたけど……呆れるほどに有効な戦術だぜ。

 

 さらに、戦闘が始まってしばらくたった頃、すごいスピードで戦場を突っ切って、ヤマトめがけて飛んでいった1機の戦闘機が、限界ギリギリまで近づいて……ミサイルのようなものを放った。

 その機体そのものは撃墜できたけど、あまりにヤマトに近すぎたせいで、ミサイルの方は迎撃できず、波動砲の砲口に命中して飛び込んだ。

 

 しかもそのミサイルは、単なるミサイルではなく、削岩機……つまりはドリルを改造して作られたもので、回転しながら奥へ奥へ侵入していく仕様になっていた。

 このまま進ませれば、ヤマトの内部にどんどん深く食い込まれて……しかも時限信管で起爆してしまい、致命的なダメージを負う恐れがあったが……アナライザーがそのシステムに侵入してドリルを逆回転させ、外に放り出すことに成功して事なきを得た。

 

 もちろん、それ以外にも様々な戦術を使って攻めてきたし、ヤマト以外もどんどん攻撃を加えられた。

 

 ドメル上級大将の乗る旗艦のほかに、航空母艦ならぬ『航宙母艦』が、相手には4隻もいたので……戦闘機や小型戦艦もひっきりなしに飛んでくるし。

 

 本当に、本当に手ごわい相手だった。

 

 

 

 それでも、僕らはどうにか……勝った。

 

 

 

 重力という縛りのない中をすごい速さで飛んで襲ってくる戦闘機を、それ以上の機動力を持つヴァングネクスやヒュッケバイン、それにパラメイルやモビルスーツが撃ち落とし、 

 

 防御力と火力で攻めてくる戦艦は、こちらも戦艦の砲撃と、スーパーロボットの突破力を組み合わせた戦術で迎え撃って沈めていった。

 

 そして最後には、ドメル上級大将の乗る旗艦が突撃してきて……それと、ヤマトが真っ向から打ち合う文字通りの頂上決戦に。

 

 相手の旗艦……『ドメラーズ3世』というらしいが、全長700mを超える、ヤマトの倍以上の大きさだ。

 その各部に備わった砲塔から、実体・非実態織り交ぜられた一斉射が放たれる光景は、ちょっとどころじゃなくプレッシャーのあるそれで……しかし、それで怯むヤマトでは、そして『天駆』ではなく。

 

 前面に集中展開した波動防壁でそれらを防ぎながら、なおも突撃するヤマト。

 

 それに先行する形で、機動部隊の中でもトップクラスの戦闘能力を誇る面々が、弾幕を潜り抜けてドメラーズ3世に猛攻を叩き込んだ。

 

 真ゲッターのゲッタービーム、ヴィルキスのディスコード・フェイザー、覚醒エヴァンゲリオンの衝撃波が、ドメラーズ3世の砲台を次々と破壊して沈黙させていく。

 

 既に放たれた砲撃は、マジンガーZEROのブレストファイヤーが空中で焼き払い、マジンエンペラーGは飛来する砲撃やミサイルを剣で切り払うという神業を見せていた。

 

 機動兵器と戦艦の波状攻撃によって、ドメラーズ3世の勢いを弱めたところで……とどめにヤマトが至近距離まで飛び込んで、集中砲火でドメラーズ3世の甲板を火の海に変えるほどの数のショックカノン、魚雷、融合弾を撃ちこんだ。

 

 それでもドメラーズ3世はすぐには沈まず、最後の最後でヤマトを道連れにすべく特攻をかけて突っ込んできたが……最後の意地とか矜持とはいえ、それを許すわけにもいかない。

 ヘリオースの力でドメラーズの進行方向上に小型の次元震を発生させ、それを妨害。

 

 次元震に巻き込まれ……例えるなら、渦潮に捕まったような状態になって動けなくなったドメラーズ3世は……そのまま、艦の各部から火を噴いて爆散し……轟沈。

 『七色星団』のイオン乱流渦巻く宇宙空間で、消えていった。

 

 その時に……オープンチャンネルで聞こえてきた、ドメル上級大将本人の者であろう言葉は……今でも、耳に残っている。

 

 

『沖田艦長! 軍人として……いや、1人の男として……貴方のような人物とあいまみえた事を、心から誇りに思う!』

『君達テロンと、我がガミラスに…栄光と祝福あれ!!』

 

 

 ……ホント、どっかの提督や元帥とは、大違いだとつくづく思う。

 

 できれば、彼のような人とは……もっと違う形で出会って、もっと違う結末を迎えたかった。

 

 ……終わった後でこんなこと言うの、卑怯かも、あるいは無粋かもしれないけどね。

 

 

 

 

 

追記

 

 ……これ、書こうかどうか迷ったんだが……今回の戦い、僕ら『地球艦隊・天駆』の、文句なしの完全勝利……というわけでは終われなかった。

 

 というのも……戦いの最中、ヤマトに、恐らくガミラスの工作員部隊みたいなのが侵入してきて……森船務長を拉致していってしまったのだという。

 戦いの最中は知らされなくて……終わった後に聞かされて、驚いた。

 

 もしも、ミレーネルが近くにいれば、それに気づけたかもしれない。

 

 けど戦闘中、僕やミレーネルの乗るソーラーストレーガーは、かなり前の方にいた。

 防御力と火力を生かして、真正面から敵と撃ち合ったり、前線で暴れる真ゲッターやWマジンガーの援護砲撃とかしてたから。

 

 けどそのせいで、ミレーネルの思念波感知能力がヤマトまでは届かなくなり……ヤマトに侵入者がいたことに気づけなかったわけだ。

 

 そのことをミレーネルは悔いてたけど、これはもう……こういう言い方はなんだが、どうしようもないとしか言えないだろう。

 焦って突出しすぎたとかならまだしも、勝つための戦術として僕らは前に出てたんだし。

 

 そもそもヤマトにだって、伊藤保安部長率いる保安部隊がいるんだから、そっちの守りはそっちに任せておくのが当然で……いや、守れなかった彼らを責める意図は別にないんだけどね?

 

 このことで、ヤマトの乗員達……特に、古代戦術長がひどく落ち込んでしまっているようで……仕事はきちんとこなしているようだけど、ずっと彼女を心配して、沈痛な面持ちでいる。

 

 もちろん僕やミレーネルも、いや、『地球艦隊・天駆』の皆が、彼女の無事を祈っている。

 

 ……奇妙なのは、ガミラスの連中が……明らかに森船務長個人を狙って行動していた(ように見えた)という点だ。それ以外には、一切目もくれずに。古代戦術長がそう言ってた。

 彼女を拉致するための支援戦闘以外では、ヤマト内部の破壊工作すら行わなかったらしいし。

 

 一体何で、彼女個人を狙って動いたのやら……

 

 何にせよ、機会さえあれば助けに行くつもりでいるので……それまで何事もなく、無事でいてほしいと切に願う。

 

 

 

 



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第85話 想定外の怪物

【▼月◆日】

 

 先の戦いで拉致された森船務長についてだが……彼女が狙われた理由が分かった。

 というか、正確に言えば……そもそも彼女は狙われてなかったみたいなんだが。

 

 結論から言うと……彼女は、ユリーシャさんと間違われてさらわれた可能性が高い。

 ユリーシャさん自身がそう言っていた。つまり、本当は狙われていたのは……同じくヤマトに乗っていたユリーシャさんだったと。

 

 そういえば、ミレーネルの話にあったな。ガミラスは『イスカンダル主義』とやらを掲げていて……イスカンダル人を神のごとく崇拝しているって。

 ミレーネル自身はそうでもないので、ピンとこないらしいけど、一部のガミラス人は、それこそ己の命を投げ出すほどにその主義に傾倒しているらしい。

 

 そういう人達からしたら……イスカンダル人がヤマト(敵対勢力の戦艦)に乗ってるこの状況を見て、『お助けせねば!』みたいに考えてもおかしくない。

 自発的に動いたのか、あるいはガミラスの偉い人に指示されてかはわかんないけど。

 

 しかし……幸か不幸か、ユリーシャさんと森船務長は、確かに似ている。

 顔のつくりはもちろん、ゆるく波打った髪型や髪色も、細身な体つきも……それこそ遠目で見たら、地球人でもちょっと間違えそうになるくらいには似ていると思う。

 

 だとしたら、間違われても仕方ないと言えばそうかもしれない。

 

 森船務長がユリーシャさんと間違われているなら、手荒な真似はされないだろう。むしろ、手厚くもてなされていると見ていいと思う。万が一にもイスカンダル人に対して無作法があっちゃいけないだろうし……そこはまずは一安心か。

 

 いやでも……ばれた時のことを考えると怖いが。

 

 イスカンダル人なら当然知っているはずの知識とかマナーみたいなのがあったりしたら……森船務長、答えられないだろうし……そういうのでなり替わりがばれるのってお約束だよな。

 

 自分達が勝手に間違えたんだろう、って言っても、知ったこっちゃないとばかりに豹変しそうだよな……するよな、きっと。

 早いとこ助け出さなきゃいけないことには変わりないか。

 

 

 

【▼月?日】

 

 ヤマトに、メルダから通信が入った。

 『新西暦世界』に帰ってきたときに別れて以来だから……モニター越しではあるけど、けっこう久々の再会である。

 

 いや、期間的にはそこまで開いちゃいないはずなんだけど、密度が濃かったからな、最近の日々は……。

 

 しかし、何の用なのかと思ったら……意外や意外、こちらと協力したいという申し出だった。

 

 メルダはあの後、本星に戻り、ゲール提督の数々の問題行動を内部告発しようとしたらしいんだが……その途中で例のゼーリック元帥による暗殺未遂事件が起こり、それに巻き込まれて動けなくなっていたらしい。

 一時は彼女自身もお尋ね者にされてしまい、今まで逃げ隠れしていたんだとか。

 

 というのも、彼女の父親であるガル・ディッツ提督が、邪魔者としてゼーリックによって濡れ衣を着せられてしまい、現在失脚中だからだそうで。

 そういえば、メルダのフルネームは『メルダ・ディッツ』だったもんな……まさかとは思ったけど、血縁……どころか、親子だったのか。

 

 現在はその冤罪も晴れているらしいんだが、そのディッツ提督はすでに本星から連行されて連れ出されてしまっており、彼女はそれを救出しに動いているらしい。

 

 そのディッツ提督が幽閉されている場所が、『レプタボーダ』だと聞いた時には……ミレーネルが一瞬だけど、微妙そうな表情になっていた。嫌なことを色々思い出したのかもな。

 ガミラスに逆らう異民族や、政治犯なんかを閉じ込めておく『収容所惑星』なんだっけ。

 

 そんなわけで、メルダはそのレプタボーダに行こうとしているらしいんだが、時を同じくして、ガーディムがレプタボーダに現れて襲撃を始めており、近づけないらしい。

 連中の目的が何なのかはわからないが、もしこのままガーディムがレプタボーダに攻め込んだりすれば……ディッツ提督をはじめ、そこに入れられている人達が危ない。

 いかんせん連中は目的も思考回路もてんで意味が分からない集団なので、虐殺とか始めないとも限らないしな……そりゃ不安にもなるわ。

 

 しかもその途中で、ヤマトの艦橋に(無断で)ユリーシャさんが入ってきて……『レプタボーダに森船務長がいる』と衝撃的な情報を放り込んできた。

 

 何でそんなことがわかるのかは不明だけど、それならなおさら急がないといけない。

 

 突然のイスカンダル人(貴人)の来訪に、通信の向こうで驚いてテンパってるメルダがちょっと面白かったけど、さっさと再起動してもらって話をまとめ……『地球艦隊・天駆』は、一時進路を変更し、レプタボーダに向かうことになった。

 

 目的は、ガーディムによる破壊行為の阻止と、森船務長その他の救出。

 そして、その見返りに……って言うと言い方がアレだが、メルダ達から、現在のガミラスに関する情報を聞かせてもらうことだ。

 

 ミレーネルが知ってる範囲のそれとは、また大きく事情が変わってきつつあるみたいだし……より中枢に近い、ディッツ提督を救出することができれば、有益な情報を色々とえられるだろう。

 

 メルダも……彼女は以前、ヤマトにいた時は、内部情報を渡すことはしなかったけど、『あの時とは事情が違うから、ある程度はあなた方の役に立つ情報を渡せると思う』って言ってくれたし。

 

 

 

【▼月$日】

 

 死 ぬ か と 思 っ た!!

 

 本当に……本ッ当にやめてほしいこういうの。

 いきなりとんでもない、予想外にもほどがある展開が……それまでとは点で比較にならない、やばすぎる相手が……もう、ホントにもう!!

 

 こうして1日を無事に終えて、部屋でどうにか日記を書くことができている事実がちょっと今でも信じられないくらいに……いや、無事じゃないか、寝込んでるし今、僕。

 

 久々に限界を超えて次元力を使った結果である。

 『ヘリオース』に変身して、『SPIGOT』も使って……それでもなお殺しきれない反動で、今僕、動けません。

 

 またしてもミレーネルとミランダ、そしてココのお世話になってます。早く治れー。

 

 

 

 さて、例によって何があったかだけども。

 

 メルダ通信を受け、僕ら『地球艦隊・天駆』が惑星レプタボーダにやってきた時……僕らの行く手を阻んだのは、ガーディムではなく……なんとインベーダーだった。

 

 とんでもない数の群れが押し寄せ、レプタボーダを襲おうとしていたのである。

 

 レプタボーダには、エネルギー鉱石の鉱脈がある。あの連中は生物も無生物も、有機物も無機物もなく、何でも食らって力に変えるから、それを狙ってきたらしい。

 連中の親玉……コーウェン&スティンガーがそう言ってた。

 

 惑星フェルディナで見た時は、まだ人間の姿をしてた2人ではあるが……ここに来るまでに色々と食ってきたんだろう。きっちり異形化していた。

 超巨大な芋虫みたいな体になって、コーウェンの頭からスティンガーが生えてるっていう、悪魔合体も真っ青の姿である。

 

 ……何であの姿で、さも自分達が最高の生命体であるかのような、得意げな態度をとれるのか……本気でわからない。

 インベーダーに寄生されて、頭までアレなことになってんだろうかな……いっそ哀れだ。

 

 こいつらの迎撃のために、ガミラスの艦隊は身動きが取れないでいたそうだ……って、メルダが通信で言ってた。自ら戦闘機を駆り、インベーダーを撃ち落として戦いながら教えてくれた。

 

 既にガーディムは、相当数がレプタボーダに降下してしまっており、地上にいる迎撃部隊では、迎撃するにも限界がある。そう時間をかけずに陥落してしまうだろう、とも。

 そうなってしまえば……なぜかわからないけど、ガーディムはガミラスを敵視しているみたいなので……当初から危惧していた虐殺的な展開が起こらないとも限らない。

 

 が、そんな事情は知ったことかと言わんばかりに、インベーダーは襲い掛かってくる。

 

 沖田艦長は、『地球艦隊・天駆』がインベーダーを引き受け、先にガミラスの艦隊をレプタボーダに降下させると言って、メルダ達を先に行かせた。

 

 そして、『これは知的生命体との戦いではない。宇宙に存在する全ての命にとって害悪となる者達との闘争である』と判断し、これまで戦闘において使うことのなかった波動砲の使用を解禁。

 

 さらに、ここで僕らにも出番が来た。

 何気に惑星フェルディナで使って以来だった『事象制御システム』を使うためだ。

 

 沖田艦長の要請を受け、『ソーラーストレーガー』と『ヘリオース』でこれを起動。

 味方全体に全能力強化+継続回復のバフがかかり、こっちの戦力が激増。反対にインベーダー達に対してはデバフがかかり……これによって短期決戦を目指すという形になった。

 

 『常用していると慢心を招く恐れがある』という沖田艦長の判断で、今までの戦いでは乱用はしなかったこれを、戦闘の最初から使っていくとは……波動砲解禁といい、沖田艦長も本気でここで奴らを根絶する気のようだ。その決意の強さが垣間見える。

 

 なお、これを使っている間、僕と『ヘリオース』は戦力外になってしまうわけだが……結論から言って、それは問題にならなかった。

 

 さらにコントロールの精度を増した『事象制御システム』で強化された『地球艦隊・天駆』は……自分で言うのもなんだが、ちょっと引くほど強かったのだ。

 コーウェン&スティンガーと因縁深い真ゲッターを中心に、一方的にもほどがある勢いで、片っ端からインベーダーを宇宙のチリにしていった。

 

 そのコーウェン&スティンガーにも、何度も有効打を叩き込んで、倒す寸前まで行ったんだが……そのたびに連中、周囲にいるインベーダーを食って回復しやがるので、キリがなかった。

 

 それなら周囲のインベーダーを一掃してから倒せばいいんじゃないかと思うだろうが、こいつら放っておくと、とんでもない威力のビームを放って味方もろとも攻撃して来るので、放置しておくこともできなくてね……

 

 マジンガーZEROのブレストファイヤーで丸焼きにされ、真ゲッターのストナーサンシャインで吹き飛ばされ、マジンエンペラーGのサンダーボルトブレーカーで黒焦げにされ、真ゲッターのシャインスパークで消し飛ばされ、シン化エヴァンゲリオンの衝撃波で貫かれ、真ゲッターのファイナルゲッタートマホークで真っ二つにされ……もう逆にきついだろいっそそのまま死んどけよって言いたくなるくらいに、しぶとく復活を繰り返した。

 というか、致命打を与えたのの半分くらいは真ゲッターだったな……殺意がすごい。いや、別に文句はないけども。

 

 あと、ファイナルゲッタートマホークを使ったときに、巻き添えでレプタボーダの周囲にある衛星だか小惑星っぽいのを1つか2つ一緒に破壊しちゃってたんだけど……コレ、あとでメルダとかに怒られないだろうか。

 ……インベーダーのせいにしよう。うん、それがいい、そうしよう。

 

 というか、インベーダーが襲ってきたからこうして戦わなければいけなかったわけだし、インベーダーを倒すためのやむを得ない犠牲だったのはホントなんだから、これはもうホントにインベーダーの仕業だと言っても過言ではないのでは? うん、きっとそうだ、そうに違いない(必死)。

 

 最終的には、周囲のインベーダーも1匹残らずいなくなったところで、ヤマトの波動砲が直撃したことでついにコーウェン&スティンガーも年貢の納め時に。

 早乙女博士と違って、最後まで人間としての心を取り戻すことなく……餌を前にして、今度こそ完全に消滅し、宇宙に散ることとなった。

 

 

 

 ……さて、ここまではむしろ順調に行った方だった。

 

 しかし、問題はその後……インベーダーがいなくなったってことで、『地球艦隊・天駆』もレプタボーダに降りて行ったんだが……そこで目にしたのは、話に聞いていた『艦隊』としてのガーディムの襲撃だった。

 

 以前僕らが使っていた『バースカル』に似た姿の……おそらくはガーディムの主力戦艦『スリニバーサ』であろうそれらが、10隻近い数になってガミラスの艦隊や防衛部隊を一方的に蹂躙していた。

 ガミラスの砲撃は、スリニバーサの装甲の前にほとんど通じていないうえ、前面が広いあの形状から放たれる光子魚雷やら破壊光線のせいで、冗談みたいな面制圧爆撃になってた。

 

 しかもそれと並行して、地上にはアンドロイドの白兵戦部隊が大量に放たれているようだし……

 

 数は少ないし小型ばかりだとはいえ、この世界の地球を散々苦しめたガミラスの戦艦が子ども扱いも同然にやられている光景は、色々と衝撃だったが、動揺してもいられない。

 最低限の補給を済ませた機動部隊を発進させ、彼らを迎え撃つために僕らも動き出した。

 

 なお、この時にはすでに『事象制御システム』は解除していたので、僕とヘリオースも戦線復帰している。

 

 強敵ではあるが、それでも勝てるだろう。僕ら『地球艦隊・天駆』の総力でなら、ガーディムの艦隊だろうが負けることはない。

 確かにあの戦艦は強力だけど、こちらには『バースカル』を解析した時のデータもあるし……それをもとに効果的な戦略を練ればいい。

 

 油断さえしなければ、速やかに奴らを駆逐して、レプタボーダを救うことができるだろうと……この時はまだ、そう思っていた。

 

 

 

 ……アレが、現れるまでは。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 惑星レプタボーダにある重要施設の1つ……『第17収容所』にて。

 

 他の施設と同様、ガーディムの襲撃を受けていたここでは……加勢してきた『地球艦隊・天駆』によって、上空にいる機動兵器や戦艦はけん制され、その間に地上にいるアンドロイド達の駆逐も進んでいた。

 

 その戦闘の最中、森雪船務長の救出のために収容所に乗り込んだ古代進だったが……そこで倒れていた伊藤保安部長の口から、彼女はすでにここにはいない、と聞かされた。

 

 しかも、それは、惑星を脱出したという意味ではなく……

 

「ガーディムに拉致された!? それは本当なのか、伊藤!?」

 

「嘘をついても仕方ないでしょう……。彼女はどうやら、イスカンダル人と間違えられていたようでしてね……手厚くもてなされていたんですが、そこにガーディムが攻めて来て……ガミラス本星から来た迎えの船に乗って、脱出しようとしたところを……戦艦の砲撃に撃墜されていた」

 

「!?」

 

「不時着した船を、機動兵器が取り囲んで、中から乗組員を連れ出して連行していた……森船務長も、その中に……助けようとはしましたが、この通りですよ……」

 

「っ……わかった、もういい、しゃべるな。誰か、彼に手当を!」

 

 近くにいた救護部隊員に伊藤を任せると、古代はまだ、『地球艦隊・天駆』と戦いを繰り広げているガーディムの艦隊を見上げた。

 

(あの中のどれかに、雪が囚われているのか……それとも、別の……くそっ、すまない……また、君を助けられなかった……っ!)

 

 すでに今の話は、通信でヤマトに伝えてある。戦艦を撃墜した後、その中を調べて捜索は行われるだろう……そこで彼女が見つかってくれるのを、古代は祈るしかなかった。

 

 今は自分の役目を果たすため、コスモガンを手に、再び歩き出す。

 

 

 

 その古代の背中が、収容所の施設内に消えて言った頃、

 

 一進一退の攻防が続く、『地球艦隊・天駆』と『ガーディム』の戦いに……予想外の方向から、一石が投じられようとしていた。

 

 

 

「かつて仇敵としていた者達のために、今度は命を懸けて戦うか……まるでよくある大衆演劇のような陳腐な展開だね」

 

「っ……その声は……!」

 

 耳にしただけで不快感を禁じ得ない、聞き覚えのある声。

 真っ先に反応したのは……アンジュ。そして、ヒルダやジル、サラマンディーネ達といった面々だった。

 

 声のした方に目を向ければ……案の定、ラグナメイル『ヒステリカ』に乗ったその男が、戦場に姿を現すところだった。

 

「エンブリヲ! こんな時に……一体何の用よ!?」

 

「今はあなたにかまっている暇はありません、失せなさい!」

 

「心配しなくとも、私はすぐにいなくなるよ……君たちに、ちょっとしたプレゼントをした後でね」

 

「いらねーからさっさと消えろ! どうせまた余計なことしていくつもりだろーが!」

 

 その返事をエンブリヲが口にする前に、ヒルダと、同じようにジルやサリア、ココにミランダといった面々が一斉に攻撃を放ち、ヒステリカを排除しようとするものの……それらを容易くかわしてヒステリカは空に舞い上がる。

 

「全く、こらえ性のない女共だ……」

 

 そう言うと同時に、エンブリヲはぱちん、と指をならし……その瞬間、

 

 

 

 ―――ゴゴゴゴゴゴゴ……

 

 

 

 惑星レプタボーダの地面が、まるで地震が起こっているかのように揺れ始めた。

 

 それに気づいた一部の面々は、惑星フェルディナで起こったこと……正確には、エグゼブが引き起こしたことを思い出して青ざめる。

 

「まさか……エンブリヲ、お前、この星を!?」

 

「安心したまえアンジュ、そういうわけじゃないさ……まあ、この星が滅ぶ、という意味で言えば……当たらずとも遠からずではあるがね」

 

「どういう意味だ!? この地震はなんだ……いったい何をした!」

 

「それほど規模の大きな、災害になりうる震度ではないようですが……」

 

 強い口調で問いただす舞人と、素早くデータを解析していた新見情報長。

 それに対してエンブリヲは、こちらの神経を逆なでするように、ゆっくりと語り始める。

 

「少し面白いことを教えてあげよう。この『惑星レプタボーダ』は、現在はガミラスの収容所惑星として使われている。もともと無人の星だったのを、ガミラスが開拓して利用し始めたのだが……実はそれよりもはるか昔に、この星にも文明が存在した痕跡がいくつも見つかっている」

 

「そうなの、メルダ?」

 

「ああ、そう聞いている。だが、痕跡を見る限り、年代測定も困難なほどに……太古の昔、といっていい時代の話だ。だが……それが一体どうしたというのだ?」

 

「おそらくはその時代の遺物なのかもしれないが……先ほど面白いものを見つけたんだ。それを、君達にも見せてあげようと思ってね」

 

 エンブリヲがそういうと同時に、『地球艦隊・天駆』の各艦に、データーファイルが送られてきて……勝手にその画面の片隅に、ウィンドウが開いた。

 ウイルスの類ではないようで、どうやらこの惑星の、別の場所を移した映像のようだ。

 

「その映像に映っているのは、この惑星の極点……地球でいう、南極に相当する場所だ。ほら、見ていたまえ……目覚めるぞ」

 

「目覚める? って、何が……」

 

 ヤマトの艦橋で南部砲雷長がそう呟いたと同時に……映像に移っている地面に地割れが発生し……その中から、何かがゆっくりと浮遊して出てきた。

 

「……卵?」

 

 森船務長に変わって艦橋に立っている岬准尉がそう呟いた通り、その丸い物体は、何かの卵のように見えた。

 

 しかし、周囲にある木々などと対比すると、その大きさはかなりのもので……仮にあの中に何かが入っているのだとすれば、それが『生まれた』時の大きさは……100mを優に超えるだろう。

 

 まさか、インベーダーのような怪物か、あるいは、エンブリヲが言っていた『遺物』という言葉からすると、古代の生物兵器か何かか。

 そう思いいたった面々が、かたずを飲んで映像を見守る中……

 

 ……『それ』の正体に気づいた者が……2人だけいた。

 

「あ……あぁ……」

 

「!? どうしたんだ、ユリーシャさん!? アレが何か知ってるのか!?」

 

 1人は……古代とともに収容所に入り込んでいた、イスカンダルのユリーシャ。

 古代が持っていた通信機越しに見たその映像を見て、恐怖を隠しきれずに震えだした。

 

 今まで一度も……それこそ、おぞましいインベーダーの大群が迫ってきた時も、不快感は見せても取り乱すことはなく、捉えどころのないマイペースな調子だった彼女が、はたから見ても、心底から恐怖している。

 その事態に、古代はこの『何か』が、尋常ではなく危険ないし異質なものなのだと理解した。

 

 ……そして、もう1人。

 それは……ヘリオースに乗り込んでいた、ミツルだった。

 

(いや、ちょっと待て……アレって、まさか……)

 

 絶句する彼の目の前で、ゆっくりとその卵が、ほどけるようにして開封されていき……中から出現したのは、1体の……龍のような何か。

 

 それはしかし、サラマンディーネ達『龍の民』が変身するような姿ではなく……全身がクリスタルのようなもので形作られた、生物かどうかも怪しい存在だった。

 

 翼はなく、獣脚類の恐竜か怪獣のように、2本の足で地面に降り立ち、天に向かって咆哮する。

 産声というにはあまりにも力強いそれは、惑星全体に轟くかのように響き渡った。

 

「あれは……この惑星に、残って、眠っていたなんて……!」

 

 愕然とした様子でつぶやくユリーシャは、続けて……その名を、口にした。

 

 

 

「審判の、巨獣…………エル・ミレニウム……!」

 

 

 

 



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第86話 エル・ミレニウム

 

 エル・ミレニウム。

 それは、『多元世界』に存在した、『御使い』の戦力の名である。

 

 全身がクリスタルでできた、怪獣のような姿をしており……一見すると生き物のように見えなくもないが、その正体はれっきとした兵器。

 

 文明がある一定の技術レベルに至った惑星に『御使い』によって1体から3体が送り込まれ、極点で休眠。

 その星の文明が、『御使い』の意に反した進化を遂げると、それを感知して覚醒……破壊と殺戮の限りを尽くして暴れまわり、その星の全てを滅ぼすまで止まることはない。

 

 その無慈悲なまでの戦闘能力から、銀河の伝承の中では『審判の巨獣』という名で恐れられている。

 

 その怪物が……惑星レプタボーダに眠っていた。

 そして、エンブリヲがそれに干渉したことにより覚醒、目覚めた己の使命に従い……その星の全てを滅ぼすべく動き出した。

 

 

 

「こちら古代! ユリーシャさんからの情報によれば、あれははるか昔に存在した文明が作り出した古代兵器! 非常に戦闘能力が高く危険な存在で、決して戦ってはならない、直ちに脱出するべきだとのことです!」

 

「古代兵器……確かに、まともな生物の見た目はしてねえが……」

 

「ユリーシャさんがそこまで危惧するなんて……本当にやばそうですね」

 

 通信で古代からもたらされた情報を聞き、総司やトビアは、画面に映っているクリスタルの怪物を見て呟いた。

 

 映像越しだというのに、見ているだけで心にずしんと重圧を感じるようなその威容は、数々の戦いを潜り抜けた彼らであっても、いや彼らだからこそ、危険だと感じ取れてしまうものだった。

 

 エンブリヲの話が本当なら――当の本人はいつの間にか消えていた――あの怪物がいるのは、この星の『極点』とのこと。それであれば幸い、今いるここからは大きく距離がある。

 奴がここまで到達するより先に、ここにいる者達を救出し、避難させる必要がある。ガーディムとの戦いをこなしながらゆえ、簡単ではないだろうが……やるしかない。時間との戦いだ。

 

 沖田艦長がそう判断し、全艦に号令を出そうとした……その瞬間、

 

 モニターに映っていた『極点』の景色の中から……その姿が突如として消えた。

 

 そして同時に、『地球艦隊・天駆』が展開している、その目の前の空間に……その、クリスタルの巨体が現れ……大きく地を揺らして降り立った。

 

「「「……は?」」」

 

 突然のことに、そこにいる面々の理解が追いつかない。

 今の今まで、数百キロではきかない距離を離れた位置にいたはずのそれが、いきなり目の前に現れたのだから……無理もないことではある。

 

 その怪獣が、『次元力』を使った転移による瞬間移動を使うことができ、少なくとも同じ惑星にいるのであれば、その裏側にいようと油断できない……などとは、知らなかったのだから。

 

 だがしかし、その一瞬の隙は……この戦いにおいては、致命的というほかないもので。

 

 ――――――――ッ!!

 

 モニター越しではない、直に彼らの耳に届いたその咆哮は……歴戦の勇士である『地球艦隊・天駆』の心にすら畏怖と動揺を与え……それ以外の、レプタボーダにいた者達には、それだけで心を折るほどの甚大なダメージをもたらした。

 

 そして、それだけで終わるはずもなく……エル・ミレニウムは一歩を踏み出すと、大きく息を吸うような動作とともに、体内で膨大なエネルギーを練り上げ……

 

「避けろぉぉおおぉおっ!!」

 

 直感的にその危険を感じ取った竜馬の号令に、前線にいた機動部隊各機が全力で回避に動く。

 

 その直後、エル・ミレニウムの口から、次元力でできた虹色の光炎が放たれ……その射線上にあったもの全てが焼き滅ぼされて消滅した。

 

 建物も、兵器も、大地も……人も。

 収容所の敷地内の一角をかすめた炎は、直撃せずともその余波だけで、その周囲の建物を崩壊せしめ、地面をえぐり地形を変え、そこにいた人々の命を奪い去ってしまった。

 

 戦艦の主砲による砲撃、あるいはそれ以上の威力があるのは明らかだった。

 

 そのことに気づいて義憤に燃えたのは、この中で誰よりも強く『正義』を心に燃やす、旋風寺舞人とグレートマイトガイン、そして彼とともに修行してきた、神勝平とザンボット3だった。

 

「それ以上はさせないぞ! 行くぞガイン!」

 

「ああ! 動輪剣ッ!」

 

「俺たちも行くぜ、やめやがれ怪獣野郎!」

 

「待て舞人! 勝平! 不用意に近づくな!」

 

 鉄也が止めようとするも、既にブースターに火を入れて加速を始めていた2機は、両側から挟み込むように攻撃を加える。

 

 グレートマイトガインの剣が、横一線の太刀筋で首を刈り取ろうとするが……その瞬間、鈍重そうな見た目に似合わず素早く動いたエル・ミレニウムは、その刃をつかみ取って防いでしまう。

 

 反対側から放たれた、ザンボット3のムーンアタックは……直撃したにもかかわらず、まるで効いていない様子だった。

 

 その無機質な瞳がこちらをとらえた瞬間、舞人はまずいと直感し、グレートマイトガインに剣を手放させ、大きく飛んで後退するが……その一瞬後には、既に目の前にその巨体が迫っていた。

 

「なっ……ぐああぁあっ!?」

 

「舞人さんっ!?」

 

 翼もないのに、当然のように飛翔して追いついた巨獣。

 振り下ろされた爪の一撃で叩き落され……グレートマイトガインは地面に激突してしまう。

 

 サリーの悲鳴が上がる中、エル・ミレニウムは追撃とばかりに口の中に再び光を蓄え始める。今度の標的は……地上に落とされたグレートマイトガインのであることは明らかだった。直撃すれば……ただでは済まない。

 

「やめろーっ!!」

 

 その背後から飛び蹴りを放って攻撃をやめさせようとするザンボット3。

 しかし、後ろに視線も向けずに振るわれた尾の薙ぎ払いで吹き飛ばされ、くるくると回転して宙を舞い……こちらも地面に叩き落された。

 

 しかし、その一瞬の間に、素早く回り込んだマジンエンペラーGが、真下で倒れていたグレートマイトガインを救出していた。

 

「全員気をつけろ! イスカンダルの姫さんの言った通りだ……こいつ只モンじゃねえぞ!」

 

「グレートマイトガインが一撃であんな風に……しかも、あんなに大きいのに、とんでもなく速いし、ザンボットの攻撃が直撃してたのに全然効いてないし……」

 

「レプタボーダの古代人ってのはどえらいもん作ってたみたいだな……エンブリヲの奴、とんでもないものを目覚めさせていきやがって!」

 

「あいつは絶対いつか地獄に落とすとして! こいつ放っておいたらホントにこの星の全部を滅ぼしかねないわ! あいつが暴れる中で救助活動なんでできっこないし……」

 

「ならさっさと倒すしかねえだろ! 覚悟決めろ、行くぞお前ら!」

 

 言うが早いか、真ゲッターが真っ先に飛び込んでいき……それに続いて、マジンエンペラーGとダイターン3も飛ぶ。

 マジンガーZとエヴァンゲリオン初号機は、それぞれ姿を変え、ZEROと覚醒形態になってそれに続く。

 

 反対側からはヘリオースとヴァングネクス、グルンガストにヴィルキスが回り込み、モビルスールやAS各機は離れた位置からファンネルやドラグーン、遠距離での砲撃で援護に移る。

 

 真上からトマホークを振り下ろして頭を両断しようとする真ゲッターだが、エル・ミレニウムはそれを全く意にも介さずに、頭でそのまま受け止めて弾き……腕を振り上げて真ゲッターめがけてたたきつける。

 しかしその瞬間、真ゲッターは一瞬で分離して再合体……白い機体が特徴的な『真ゲッター2』となり、腕のドリルで地中深く潜ってしまった。

 

 続けてマジンエンペラーGが手にした剣をふるい、幾度もフェイントを織り交ぜた一撃でエル・ミレニウムの防御を潜り抜けて斬り付ける。

 しかし、その体にはほとんど傷がついたようには見えず、ちっ、と舌打ちしてその場から離れた。

 

 それを追う前にダイターン3の鉄球が打ち据えて動きを止める。

 怯んだところに、アンジュのヴィルキスが目の前に現れ……エネルギーを注いで巨大化させた剣をふるって、目を2つ同時に切り付けた。

 

 普通の生物が相手なら致命の一撃であるが……

 

「ちっ……やっぱ効いてないか」

 

「まあ、兵器だしな……けど、隙はできた!」

 

 目障りに思ったヴィルキスを落とそうとしたのか、腕を振り上げたところで、再びヴィルキスが転移して離脱。

 その死角から、ヴァングネクスが最大出力の陽電子砲を放つ。

 

 その直撃を受けても、巨体はほとんど揺るがなかったが、それを援護射撃に飛び込んだグルンガストが首元めがけて剣をふるい……しかし弾かれる。

 

「ホンット硬い! 何でできてんのこれ!?」

 

「エネルギー砲も実体剣による物理攻撃も効かんとは……だがしかし、これならどうだ!? ブラックホールキャノン、発射!」

 

 局所的な超重力で対象を圧砕する、漆黒の砲弾がヒュッケバインの持つ大砲から放たれる。

 

 それと同時に、突然エル・ミレニウムの足元が崩れ……一瞬その動きが止められる。

 見ると、その巨体を取り囲むように地面にひびが入り……落とし穴のようになっていた。

 

 その直後、離れた位置の地面から出てきた真ゲッター2。あの時地面に飛び込んだのはこのためだったのかと、その光景を見ていた全員が納得した。

 

 そしてその一瞬に、ヒュッケバインの放ったブラックホールキャノンが直撃。

 発生した超重力に空間がゆがみ、周囲の地面や瓦礫の塊を引き寄せ、エル・ミレニウムの体を圧壊させようとするが……その破壊的な空間の中でも、巨獣は健在だった。

 

「っ……光すら捻じ曲げる超重力でも効かんとは……何っ!?」

 

 歯噛みするヴェルトの目の前に、次の瞬間、またしても次元力で空間を超えたエル・ミレニウムがその姿を現し……いつの間にかチャージを終えていた光炎を吹き付けようとする。

 

「させるかぁぁああぁっ!!」

 

 その真下から跳躍してきた初号機が、光り輝く腕で拳を握り、アッパーカットの要領で殴りつける。と、同時にそこから衝撃波を放ち……強引にその口を閉じさせた。

 その結果、光炎はエル・ミレニウムの口の中で暴発し……一瞬遅れて、上向きに頭がカチ上げられてから上空に噴き出し、そらを虹色に染めた。

 

 ゼロ距離での衝撃波に加え、体内で戦艦の砲撃に匹敵する火力が暴発したことで、今回ばかりは少なくないダメージが入った様子である。

 

「よーし、いいぞ……いい位置に来た!」

 

 その時、上空に回り込んでいたヘリオースが、練りに練ってためていた次元力を拳に凝縮し……同時に、目の前に『SPIGOT』を直列に展開。

 以前、ミスルギ皇国で見せた……『暁の御柱』を消し飛ばした時と同じ光景がそこにあった。

 

 直後に解放されたエネルギーの砲撃が、6つのSPIGOTによって凝縮されて……そのまま、口を閉じる直前のエル・ミレニウムの体内に打ち込まれ、内部で爆発を起こす。

 体の中から立て続けに大ダメージを受け、さすがに効いたのか、巨体がわずかによろける。

 

「少しずつだが、効いてるぞ! こいつも不死身じゃねえ、倒せる!」

 

「だが、ちまちま攻撃してたんじゃキリがないな……コーウェン達の時みたいに、一気にでかいのをぶち込めればいいんだが……」

 

「ここは収容施設が近すぎる。戦艦の砲撃や、大威力の攻撃を叩き込もうとすると、確実に巻き込んでしまうだろう。古代戦術長、被収容者達の避難はどうなってる?」

 

 隼人の問いかけに、古代は通信の向こうで苦々し気に答える。

 

「すまない、どう急いでもあと20分はかかりそうだ……!」

 

 戦闘に参加しているメンバーの他は、襲ってくるガーディムの相手や、避難者たちの誘導をしている、その1人が古代だが、状況はやはり芳しくないようだ。

 

「かなり多くの囚人が衰弱していて、思うように動けないんだ。ミレーネルから聞いてはいたが……ここでの待遇は、お世辞にも人道的とは言えないものだったようだな……」

 

「ちっ……ガミ公共、こんなところでまで足を引っ張るかよ……同じガミラスでも、メルダ達とはどうしてこうも違うかね?」

 

「今言っていても仕方ないでしょう。古代戦術長はそのまま避難誘導を続けてください」

 

「くそっ……どうにかして奴を、人のいないところまでおびき出せればいいんだが……」

 

「ルリ艦長! ナデシコのボソンジャンプであいつを宇宙空間に放り出せませんか?」

 

「難しいです。あの大きさと攻撃力では、フィールドを展開して跳躍する前に撃墜されてしまいます」

 

「……僕に考えがある」

 

 その言葉を聞いて、声の主……ミツルに、一斉に視線が集まる。

 

「ちょっとの間、あいつの相手を頼む。ミレーネル、そっち行くから受け入れ準備お願い!」

 

「えっ!? りょ、了解!」

 

「そうか……さっきと同じように、『ソーラーストレーガー』で皆を強化するんだな!」

 

 甲児の言葉に、ちょうどソーラーストレーガーに戻り、コアユニットとして機体を接続した直後だったミツルは、

 

「それもあるけど……それにしたってまずは、周囲への被害を出さないためにも、こいつを引き離さなきゃいけない。ミレーネル、オペレーション……『タウラ』!」

 

「了解! オペレーション・タウラ、実行! 前面防壁全力展開……並びに、周囲の空間への次元干渉開始、ワームホール形成、最大船速・ショックアブソーバー全開……行くわよミツル!」

 

「OK! ヒア・ウィー・ゴーッ!!」

 

 その直後、『ソーラーストレーガー』は膨大な次元力をまとって加速し……同時に、その目の前に、空間をゆがませて作った極彩色の穴が出現。

 

 急加速してそこに飛び込んだ『ソーラーストレーガー』は……次の瞬間、『エル・ミレニウム』の眼前に、同じワームホールを開いて現れ……そのまま……

 

「突っ込んだ!?」

 

「お、おい、大丈夫なのかよ、モロにぶち当たったぞ!?」

 

 そのまま高速で激突。

 その前面に装甲が集中している上、艦全体が矢じりのような形状をしていることや、視認可能なほどの強度でシールドを張ることにより、衝角で激突したような形になり……全くとは言わないが、艦の方の損傷はごく軽微だった。

 

 そのまま『エル・ミレニウム』の巨体を轢いて、押し出すようにして前進し……さらにその背後にワームホールを開いてその中に弾き飛ばし、放り込む。

 その直後にまた別なワームホールを開いて、『ソーラーストレーガー』はそちらに飛び込む。

 

 すると、上空に現れたワームホールから放り出されて『エル・ミレニウム』が出て来て……それをさらに別なワームホールから出てきた『ソーラーストレーガー』が激突して弾き飛ばす。

 ワームホールが開き、放り込まれる巨獣。別なワームホールに飛び込む戦艦。

 

 その繰り返して……まるでドリブルでもするように、『ソーラーストレーガー』は、巨獣を遠くへ、遠くへ弾き飛ばしていく。

 

 が、さすがにそれはいつまでも続かず……何度目かの激突の際、体をひねって回避されてしまい……ワームホールではなく、地面に叩き落すにとどまった。

 

 それでも。その位置は……

 

「よぉし、でかしたミツル!」

 

「ミレーネルさんもお疲れ様! あとは俺達に任せろ!」

 

 十分に、収容所から離れた位置だった。

 多少、地形が変わるくらいの威力の攻撃を繰り出して暴れても、余波で死傷者が出ないだろう程度には。

 

 『エル・ミレニウム』の巨体めがけて……ゲッター線の光を全身に纏った、真ゲッターと真ゲッタードラゴンが、すさまじい勢いで突撃していく。

 

「「「シャイン……スパァァアアァァク」」」

 

「暴れられると思ったとたんにこれだよあの人たちは……」

 

 ミツルが小声でぼそっと呟く前で、盛大に大地をえぐりながら『エル・ミレニウム』にそのエネルギーを直撃させて吹き飛ばす。

 超巨大化したコーウェン&スティンガーにも大打撃を与えたその一撃に、さすがの巨獣も体がきしみ始め……しかし、それだけでは終わらない。

 

 弾き飛ばされたエル・ミレニウムに、すさまじい速さで飛翔したマジンエンペラーGが追いつき……目にもとまらぬ剣戟の嵐が襲い掛かる。

 

「魔刃……一閃!!」

 

 とどめとばかりに叩き込まれたエンペラーソードの一撃は、真ゲッターの攻撃で傷ついたカ所に寸分違わず撃ち込まれ、その傷を広げる。

 

 それでも、痛覚というもののない巨獣は、攻撃直後のエンペラーに、反撃の爪を叩きつけようとして……その真横から発射された、グレートマイトガインのパーフェクトキャノンが直撃。

 さらに逆方向からは、ザンボット3のムーンアタックと、今度はダイターン3のサン・アタックが直撃し、立て続けに爆発が起こる。

 

 さっきは世話になったな、とでも言わんばかりの逆襲の直後に……空間跳躍で現れたヴィルキスが、その眼前で……ほぼゼロ距離で『ディスコード・フェイザー』を放つ。

 

 吹き付ける次元の嵐をどうにか振りほどこうと暴れる巨獣だが、

 

「うおおおぉぉぉっ!!」

 

 咆哮ととともに高速で突撃してきたマジンガーZEROが、自分よりも何倍も大きいその巨体を持ち上げ、振り回し、なぎ倒す。

 そして、倒れ伏した巨体の上に乗り……真下に、ゼロ距離で、光子力ビームを放った。

 

 小型の天体であれば貫通してしまうであろう、出鱈目な威力の破壊光線の豪雨。

 それが全段命中し、『エル・ミレニウム』の体も……ダメージの限界を超え、ついに砕けていく。

 

 それでも、最後のあがきに光炎を放ち、黒鉄の魔神を道連れにしようとするが……その直後にマジンガーZEROは素早くそこを離れ……

 

 その直上に、まるで緑色の太陽を両手で掲げて持っているかのようにして君臨している、ヘリオースの姿を、巨獣は見た。

 全方位攻撃の『ソール・ネオランビス』や、灼熱の光弾を叩きつける『ソール・インペトゥス』……そのどちらとも違う、明らかにそれらよりも強力で危険。

 

 恐らく、真ゲッターやマジンガー達が猛攻をかけてきている間中ずっと、練り上げてため続けた膨大な次元力。

 

 さらによく見れば、掲げている緑の光球のみならず……ヘリオース自体も、炎のように揺らいで竜巻のように渦巻く、膨大な次元力をその身にまとい、機体を大幅に強化していた。

 

 そして、そこから光球体はさらに変容し……ヘリオースの手元で凝縮して小さくなっていく。

 

 同時に、SPIGOTが飛来し、その光球の周囲で……その姿を『変容』させた。

 『変形』ではない。『変容』である。明らかに構造的に考えられない形で姿を変え……合体し……その光球を軸にした、『剣』になった。

 

「過去も……絶望も……!」

 

 その剣の柄をヘリオースが握ると、そこに光の刀身が出現。

 

 あまりのエネルギー密度に、周囲の空間が歪んで軋む。

 少し動かすだけで、世界が悲鳴を上げる。

 

「その全てを……断ち切る!」

 

 次元力の6枚の光翼を輝かせ、一瞬にして『エル・ミレニウム』のすぐそばに降り立ったヘリオースは、掬い上げるように剣をふるい、その巨体をわずかに浮かせると……それをさらに蹴り上げて空高く吹き飛ばす。

 

 そして、空中に放り出された巨体をさらに連続で斬りつけ、蹴り上げ……とどめに……大上段に振りかぶった光剣の全エネルギーを開放しながら、縦一線に振り下ろした。

 

「ジ・オーバーライザー・アァ―――ク!!!」

 

 その一撃は、城塞のごとき鉄壁を誇っていた『エル・ミレニウム』の体を両断。

 

 その全身から、光の粒子の混じった爆炎を吹き上げ……砕け散り、消えていく。

 星1つを滅ぼしかねない巨獣は、こうしてとうとう、最期の時を迎えた。

 

 

 

 



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第87話 ガーディムとイスカンダルの話

 惑星レプタボーダの周辺宙域……ガミラスや『地球艦隊・天駆』のレーダーによって見つからない、死角となる場所に……その船……超文明ガーディムの旗艦『バースカル』は停泊していた。

 

 その中の一室……小さな会議室のような場所で、2人の女性が席についていた。

 

 1人は、『地球艦隊・天駆』の一員であり、宇宙戦艦ヤマトの船務長を務める、森雪。

 

 もう1人は……大ガミラス帝星の宣伝情報相にして、総統デスラーの側近、ミーゼラ・セレステラ。

 

 彼女達2人は現在、捕虜としてこの艦に乗せられていた。

 

 『七色星団』の決戦で、イスカンダルのユリーシャと間違われてガミラスに拉致された森雪は、ガミラス本星からの迎えを待つ間、レプタボーダで待機していた。

 それから少しして、大ガミラス帝星からの迎えとして訪れた使節団……その責任者としてやってきたのが、ミーゼラ・セレステラだった。

 

 しかし、時を同じくして、惑星レプタボーダにガーディムの艦隊が襲来。

 

 セレステラ達は森を乗せて、惑星レプタボーダから脱出を図るも、逃げられずに輸送艦は撃墜、連行され……こうして囚われの身となっている。

 

 その2人がいる部屋のドアが開き、1人の男性が入ってくる。

 ガーディム人に共通の特徴の通り、病的なほどに色の白い肌をしたその初老の男……ガーディム第8艦隊司令、アールフォルツ・ローム・ハルハラスは、不快感を隠そうともしない2人の視線を受けながらも、特に堪えていない様子で口を開いた。

 

「そう睨まないでくれたまえ。せっかく朗報を持ってきたのだから」

 

「朗報……?」

 

「惑星レプタボーダの騒乱だが、無事に鎮圧されたようだ。死傷者多数なれど、ディッツ提督をはじめとした要人のほとんどは大した怪我もなく救出されたらしい。収容所の責任者は死んだがね」

 

「つまり、あなた方の攻撃は失敗に終わったということね……いい気味だわ」

 

 セレステラの棘のある言葉にも、やはりアールフォルツは表情一つ変えることはない。

 

「否定はせんよ。テロン人の艦隊……君達の仲間は、どうやら我々の予想を超えて強力な戦力を有しているらしい。辺境の銀河にありながらそれだけの力を有しているというのは、純粋に評価すべき点だと言えよう」

 

 さらりと森が『テロン人』……すなわち、地球人の仲間であることを口にするアールフォルツ。

 イスカンダル人ではない……つまり、ガミラスの勘違いだったことを暴露しているが……この点については、この艦に来た時点で既に暴露されて明らかになっていたため、別にセレステラも驚いたり反応をすることもない。

 

「だが……だからこそ残念だ。君達のような存在が。イスカンダルなどに騙され、地球を救えるなどという幻想を胸に抱いて、ここまでの困難な道のりを歩んできたという事実がね」

 

 

 

 少し前……森とセレステラが収容された直後のこと。

 2人と面会したアールフォルツは、その時にいくつか、森の知らない『イスカンダル』という存在について話して聞かせていた。

 

 イスカンダルの真の姿は、地球を救うために力を貸してくれるような慈愛に満ちた救世主ではなく……波動エネルギーの力で数々の星を侵略し、滅ぼしてきた凶悪な国家であること。

 ヤマトに乗っていた森には、あまりにも見覚えのある……『波動砲』によって、惑星そのものを破壊していく様子をとらえた映像データとともに、それを聞かされた。

 

 ゆえに、イスカンダルに行こうとも地球が救われることなどない。

 ヤマトの16万8千光年の旅は無駄足に終わる、と。

 

 そして、

 

「でたらめを言うな! イスカンダルは貴様の言うような軍事国家ではない……いや、正確には、そのような歴史もあったと記録されてはいるが……それは数千年前の話だ!」

 

 セレステラが反論する通り、イスカンダルは確かに、かつては『波動エネルギー』によってこの大マゼラン銀河に一大覇権国家を築いた存在だった。

 

 しかし、今現在ではその過去の行いを恥じ、滅びかけている星々に手を差し伸べ、その運命を救っていくという活動に傾倒している。

 地球を救うために、波動コアを送り、自分達の星に招いて『コスモリバース』を贈ろうとしているのも、その一環。

 

 ガミラスとしてそれをどう思うかどうかは別として、その点に偽りはないと、セレステラは反論し……アールフォルツの言うことは嘘だと糾弾する。

 

 そして同時に、そもそもガーディムとイスカンダルが戦っていたのはすでに数千年前の話で……戦いに敗れてガーディムは滅んだはずであると。

 

「我々がいかにして生き延びていたか……それについては今は重要ではないゆえ、またにしよう。確かにイスカンダルが、侵略戦争を繰り返していたのは数千年前の話だ……今現在はそのような活動は報告されていない。だが……それは果たして重要なことなのかね?」

 

「何……!?」

 

「勘違いしているようだから指摘させてもらうが、私はイスカンダルの行いについて以上に、『イスカンダルによって地球が救われることはない』という点を重要視して述べたつもりだ。簡単に言えば……侵略行為がなくなったからといって、イスカンダル人の本質が変わったわけではない……他の星を、その民をしもべとして従え、崇拝させるという本質は、今もそのままだろう」

 

「それは、大ガミラス帝星が『イスカンダル主義』を掲げ、その他の支配地域にもそれを浸透させているためだ! デスラー総統は、全銀河を統一し、その全てに『イスカンダル主義』を浸透させることで、真の恒久平和の実現を目指して……」

 

「それを本気で言っているのなら、そのデスラーという男はすぐに精神の病を疑うべきだな。論理性のかけらもない、一方的な価値観の押し付けは、一般的に侵略と呼ばれ、忌み嫌われる行為だ」

 

「貴様らが言えた義理か! 数多くの文明を滅ぼし、自分達に教順させて同一の価値観と社会構造を構築することを強要してきた侵略国家が!」

 

「我々が行っているのは、高度かつ精密に構築されたシステムによって統制された、知的生命体とはかくあるべきという完璧な社会システムへの矯正であり、いわば教育。そしてそれを行うのは、先達である我々『超文明ガーディム』の義務。その崇高な使命と、単純な侵略行為との違いが判らんようでは……やはりガミラスとやらも、文明のレベルが知れるな」

 

 横で聞いていて、森は……まったく会話になっていない、と思うしかなかった。

 

 アールフォルツは、自分達もまたその『価値観の押し付け』を行っているのだということに気づいていない……というより、そのように考えること自体ができていない。

 自分達が間違っている、という発想に至ること自体がないのだろう。

 

 セレステラはセレステラで、『イスカンダル主義』という金看板を掲げ、ガミラスの侵略行為を正当化しようとしている……あるいは、それを掲げる総統・デスラーを妄信して、それを否定する者にかみついているだけ、といった印象を受けてしまう。

 

 だがそれよりも、森は……先ほどから気になっていたことについて、話が途切れた隙間を見て、アールフォルツに問いかける。

 

「聞いてもいいかしら」

 

「何かな? 私にこたえられることなら教えよう」

 

「それはどうも……あなた達が千歳を……私達の仲間を、あなた達の機動兵器に乗せて、私達と戦わせていたのよね? それは何のため? ヤマトとヴァングネクス、それにナインと、ミツル君とアスクレプスを狙っていたようだけれど……どうしてわざわざ彼女を利用したの?」

 

 恐らくは彼女にも、『イスカンダルを信用してはいけない』と刷り込んで取り込んだのだろうが、わざわざそうした理由がわからなかった。

 彼女を戦わせるよりも、レプタボーダを襲ったような強大な戦力を直接動かした方が効率的ではないのかと思えたからだ。

 

「なるほど、もっともな疑問だな。星川ミツルと『アスクレプス』、それに『ヴァングネクス』については、純粋に使われている技術について興味があったからだ。ヤマトについては、イスカンダルがもたらした波動エンジンを搭載していたため、その調査と接収が目的だな。そして残る『ナイン』……スレイブナンバー2044についてだが……」

 

「何ですって? 今、彼女を何と呼んだの?」

 

「『スレイブナンバー2044』……君たちがナインと呼ぶあのアンドロイド……の、中枢であるシステムの正式名称だ。我々ガーディムによって作成された、な」

 

「……っ!?」

 

 そこからさらに語られる真実。

 

 ナインは実は、ガーディムがイスカンダルとの戦いに敗れ、自分達の文明が滅亡してしまった時に備えて、来る未来にガーディムを復活させるために作った文明再建システム『ネバンリンナ』の端末の1つであり、もともとガーディムによって生み出された存在だった。

 

 現在、アールフォルツとその率いる『第8艦隊』は、そのシステム・ネバンリンナによって、ガーディムの再建を推し進めているが、その作業の中で圧倒的に不足しているデータがある。

 それは、『人間』に関するデータだった。

 

 現在、第8艦隊には生身の人間はアールフォルツ以外におらず、どうしてもデータが偏る。

 手持ちのデータを使って再現したグーリーとジェイミー……『ソルジャー』と『コマンダー』についても、性能はともかく情緒面においては成功とは言えなかった。

 

 そこで、地球において……それも、3つの世界を渡り歩くことで様々な人間とふれあい、そのデータを蓄積しているはずのナインを回収し、内部のデータをフィードバックすることで、『ネバンリンナ』を完成に導く……というのが、彼の目的だったのだ。

 

 それに加えて、千歳を敵として戦わせているのも、生身の人間の情緒方面におけるデータを収集するための実験の一環だったと、アールフォルツは明かした。

 

「この答えで満足かな?」

 

「……もう1つ聞かせて。イスカンダルは地球を救わないだろうと言っていたけれど……その根拠は何? 彼女の言葉が本当なら、今のイスカンダルは、その進んだ技術で多くの星を救済している……崇拝するかどうかはともかく、行い自体は尊敬に値するものであるように聞こえたわ」

 

「一見するとそうだろうな。だが、先ほども言ったように、イスカンダルは今も昔も、その考え方の根幹は変わっていない。自分達の目的のために他者を利用し、気まぐれに手を差し伸べたり見捨てたりするという点はな……仮に奴らの手で、地球が救われたとしよう……しかし、その後のことを考えているかね?」

 

「その、後……?」

 

「そもそも君たちテロン人は、イスカンダルが具体的にどうやって、地球の環境を再生させるつもりなのか、それを知ってはいまい? 『コスモリバース』という名前くらいのものだろう。仮にそれが……イスカンダルから継続的に力を与えられなければ力を発揮しないようなものだった場合はどうするのかね?」

 

「……!」

 

「地球は確かに『一旦』救われるだろう。しかしその後、環境の維持に必要な、何らかのリソースの供給を、イスカンダルに完全に依存する形になる……いわば、生殺与奪を握られるに等しい。その状態で、事実上イスカンダルに従属することになる以外の未来が君たちにあるかね?」

 

「……それは、あなたの想像に過ぎないわ」

 

「そうとも。だが一方で君たちは、全く何も想像すらしていない」

 

「……っ……」

 

「それに対して、我々は過去にそういった方法で他の惑星や文明を恭順させてきた存在や、そのための技術をいくつか実例として知っているし……想像であっても無視していい内容ではあるまい? 事実イスカンダルは、それよりもよほど悪辣かつ直接的な方法で、いくつもの星を滅ぼし、支配下に置いてきて……今もなお、自分達を神のごとく崇拝させて君臨しているのだから」

 

 そこまで言うと、アールフォルツは席を立った。

 

「すまないが、今日は話はここまでだ。私も色々と忙しい身でね……これで失礼するよ。何か要件があれば、そこに立っているエージェントに言いつけてくれたまえ」

 

 そう言い残して、扉を開けて去っていった。

 

 後に残された森とセレステラは、それぞれ、不安感と焦燥、そして不快感と怒りを表情ににじませながら……しかし、今は何もできず、大人しくしているよりほかになかった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

【▼月%日】

 

 予想外の遭遇となった『エル・ミレニウム』をどうにか討伐……したはいいものの、こっちの被害も決して小さくはなかった。

 

 最初の方で結構攻撃食らった、ザンボット3やグレートマイトガインをはじめ、負傷した機体はいくつもあったし……さっきも言ったように、僕も久々に『次元力』の使い過ぎでダウンしてる。

 

 そのため、仕事をミレーネルに、身の回りのお世話をミランダとココにお願いして、休暇中である。

 

 皆も僕の方の事情は知っているので、『ああ、久々だなそれ』って感じで理解してもらえていた。うん、久々にごめん。お休みもらいます。

 

 幸いというか、レプタボーダでの滞在中は、何かこれといって仕事が発生するわけでもないし……ガーディムを撃退した以上、戦闘みたいなのも起こらないだろうしね。

 

 今日1日、普通に快適に、何の問題もなくゆったり過ごさせてもらった。

 

 ……昼間、ココが入れてくれたコーヒーに、砂糖と塩が間違って入れられていた以外は。

 

 

 

 それと、僕が休んでいた間に、沖田艦長とディッツ提督(収容所から無事に救出された)との間で話し合いが行われたらしく、ひとまずここからは、ガミラスと地球人ではあるが、協力関係をとっていくことで話がまとまったそうだ。

 

 同時に、情報交換もきっちり行われた。

 

 ミレーネルに以前聞いた通り、今のガミラスは、際限のない領土拡大のせいで、民も、国も、疲弊しており、そう遠くない未来に破綻を迎えるのは確実。

 しかし、現体制に反対したものは、政治犯としてこういう収容所に入れられてしまうという、典型的な独裁者の治世。

 

 ディッツ提督は、これから自分に味方してくれる者達を集め、ここのような収容所惑星を開放していくつもりだとのこと。

 

 そして、協力関係になる僕ら『地球艦隊・天駆』には、メルダ少尉を連絡将校として改めて同行させる、とのことだ。

 

 もちろんその人事は、仲間達には歓迎され、メルダは再びヤマトに迎え入れられていた。

 プル姉妹をはじめ、彼女と仲が良かった面々が笑顔で『おかえりー!』って。すぐさま彼女の手を引いて、ヤマトのラウンジにパフェ食べに行ったって。

 

 ……まあ、僕は直接は見てないので、ミランダにそう聞いたんだけどね?

 

 ともあれ、こうして仲間も増えたわけだが……一方で、今回の一件では、森船務長の奪還というもう1つの目的は達成できなかった。

 惑星から脱出しようとしたところを、今度はガーディムに拉致されてしまったとかで……また、こちらの救助の手から零れ落ちてしまった形になる。

 

 諦めず捜索や救助のための努力は続けていくつもりなので、もうしばらく、どうか無事で待っていてほしいと思う。

 

 千歳さんのこともあるし……いい加減そろそろ、あいつらともケリをつけたい、なんて思えてきているところだ……。

 

 

 

 



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第88話 対話と決戦と再会

【▼月&日】

 

 16万8千光年の旅もいよいよクライマックスに来た。

 

 最後のワープで、僕らはようやく、イスカンダル……と、ガミラス本星のある星系にやってきたわけだが……その直後、ディッツ提督から連絡が入った。

 なんと、ガミラスの本星が、謎の金属のような生命体に襲われている……というもの。

 

 どう考えてもELSのことだとすぐに分かったわけだが、この事態を受けて、『地球艦隊・天駆』はそこに急行することに。

 

 理由は、刹那達がELSと『対話』して相互理解をすることで、あいつらとの戦いを終わらせるため。

 

 もともとELSは、こちらとコミュニケーションを取ろうとして攻撃を仕掛けてきた――戦闘民族的な意味じゃなくて、『戦闘=地球人にとってのコミュニケーション』だと勘違いして――わけなので、地球人がそういうアレじゃないと理解してもらう。

 あと、連中の挙動から分析した感じ、ELSは全体として1つの生命体的な生き物で、地球人が個体単位で生命活動や意思疎通を行っている存在だってこともわかってない節がある。

 その点についても含めて理解してもらえれば、戦いは終わる……というのが刹那達の見立てだ。

 

 イノベイターである刹那の晴れ舞台……っていうと不謹慎かもしれないが、そのために部隊一同で援護させてもらうことになったわけだ。

 

 その他にも、ガミラスにもディッツ提督やメルダみたいに、ガミラスにも話の分かる奴がいるし……その民達まで含めで全てが憎いわけじゃない。対話の余地があるから、っていう理由もある。

 

 あくまで敵対しているのは、総統デスラー以下、侵略を推進している連中のみ。

 

 理想的な展開としては、戦いの中で、その頂点であるデスラー総統を討ち取り、侵略による拡大政策をやめさせた上では和平……みたいな形だと思う。

 

 そもそもの話、ガミラス本星(と、イスカンダル)に僕らが近づいた時点で、連中が黙ってみていてくれるとは思えないしね。

 図らずも……連中が危惧という名の勘違いをしていた、『地球側による乾坤一擲の攻撃』が、本当になりつつある状況である。

 

 そんなわけで最後のワープを行った僕らは、ガミラス本星の近くにやってきたのだが……そこには、わかっちゃいたけど……数えるのも億劫になるくらいの大量のELSが。

 そしてその中心には、連中の中枢である、月サイズの巨大ELSも。

 

 こりゃ『対話』が目的でもやばいな、と思ったその瞬間……それを迎撃していた、ガミラスの都市型宇宙要塞――メルダ曰く、『第2バレラス』という名前らしい――から……見覚えのある極太のビームが発射され……進行方向上にあったELS達が根こそぎ……実に、群れの半分近くくらいが吹き飛ばされた。

 

 というか、どう見ても『波動砲』だった。

 

 メルダに聞いたら、あんな兵器はガミラスでも聞いたことがないっていう話だから……ここ最近開発されたものらしい。

 そして、向こうは普通に戦いのための兵器として使う気満々だ、と。

 

 侵略の方針に輪をかけてやばいものを敵が手にしたな、と思いつつ……僕ら『地球艦隊・天駆』は、ELSとガミラスの両方を相手取る形で戦いに乱入。

 両方の遠慮も何もない攻撃をさばきつつ、速攻で刹那をELSの中枢に到達させ……クアンタによる対話が始まった。

 

 その後しばらくして、ELSからの攻撃が止まり、彼らは戦域から離れて、小惑星級の方に戻っていった。

 刹那が対話を成功させて、ELSが僕達のことをわかってくれたんだと、皆、すぐに分かった。

 

 そのことにひとまず安堵したものの、今度はガーディムが現れて、僕らとガミラスの両方に攻撃を始めた。

 ELSの方は無視しているようだけど……その攻撃部隊の中には、やはりというか千歳さんもいて……その対応に気を取られている間に、ガミラスの要塞都市から、何隻かの戦艦が、ガミラス本星に降りて行った。

 

 その中に、濃い青色……『親衛隊』のカラーリングの、ひときわ大きな艦があったことから……おそらく、アレが総統デスラーの座乗艦だと真田副長が見抜いた。

 

 さらにそれを追う形で、ガーディムの艦隊の一部もガミラス本星に降りていき……しかもユリーシャさんが、『あそこに雪がいる』ってさらっと爆弾発言をぶっこんで来たもんだから大変。

 

 だからもう……短時間で状況があっちこっちに動くのはやめてほしいってもう何度思ったか……いや思っても仕方ないのは理解というか痛感してるんだけどね!? つくづく!

 

 この事態に、『地球艦隊・天駆』は急遽、部隊を2つに分けることとなった。

 

 1つは宇宙で、千歳さん達率いるガーディムの艦隊の相手をする部隊。

 

 もう1つは、ガミラス本星に降り、デスラー総統とガーディムの艦隊を討伐しつつ、森船務長を救出するための部隊。

 救出に関しては、さらに別動隊を作って……ってことになるかな。

 

 千歳さんの方は総司さんとナインに任せ、僕とミレーネルは本星への降下部隊の方に加わることになった。

 

 長かったガミラスとの戦いも……いよいよ決着の時が迫っている、そう思った。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 大ガミラス帝星……帝都バレラス。

 夜の闇に包まれ、建物の明かりが荘厳な夜景を作り出しているその都市の上空で……三つ巴の戦いが繰り広げられていた。

 

 住民達や、総統府を守るヒス副総統らがかたずをのんで見守る中……ガミラスの誇る艦隊と、数千年前からよみがえった『超文明ガーディム』の艦隊、そして、今迄はガミラスの仇敵として知られていた『地球艦隊・天駆』の艦隊が砲火を交えている。

 

 数ではホームであるガミラスが圧倒的に多いが、それだけで大勢は決しなかった。

 

 ガーディムの戦艦は多少被弾したくらいではびくともしない装甲強度と、多数の無人機動兵器を武器に攻撃を行う。

 眼下に広がる都市や市民への流れ弾による被害など、考慮してもいないかのように、遠慮容赦なく乱れ撃ち、焼き払う。

 

 一方で、『地球艦隊・天駆』は、艦はもちろん、繰り出した機動兵器のどれもが、量産機とは一線を画する一騎当千の戦闘能力をもって暴れまわり、中には当然のように戦艦を相手に蹂躙している機体すらあった。

 しかしこちらは、極力市街地へ被害を出さないように立ち回り、そのためにガミラスやガーディムの攻撃をあえて受けることで街を守っている一面すらあった。

 

「なんということだ……栄えある大ガミラスの帝都に、敵対する異民族の侵入を許したばかりか、このような戦いの場になってしまうとは……!」

 

 ガミラス副総統、レドフ・ヒスは、今のこの事態を嘆きながらも、総統府内で素早く様々な指示を各方面に出し、バレラス市民のシェルターへの避難や、被害状況の把握、各種状況確認のための連絡ラインの構築などを進めていた。

 

「総統への連絡はまだつかんのか?」

 

「それが……30分前に最後の通信の後、『デウスーラ2世』にて親衛隊を率いて出撃し、現在交戦中であります! こちらからの通信は、非常時ゆえ緊急を除き行わないようにとのことで……」

 

「なんとっ……総統、この事態を緊急のそれではないとおっしゃられるか!? ならば、我々は……とにかく市民の避難を進めろ! 総統が負けるとは思わんが、都市直上で艦隊戦など、どんな被害が出るか分かったものではない! 可能なら都市そのものから脱出させたいところだが……」

 

「でしたら、副総統こそお早い脱出を! ここにいては巻き込まれる危険が……」

 

「ここで私が逃げなどしたら、いったい誰が指揮を執るのだ! 仮にも為政者の末席を汚す者として、民達を守る責務を放棄すること断じてまかりならん! 私が避難するのは、なすべきことを全て完遂した後だ……わかったらお前達も動け! 問答の時間すら惜しい!」

 

「は、はいっ! 承知いたしました!」

 

 

 

 ヒス副総統が総統府にて怒号を飛ばしている頃、

 

 ガーディムの戦艦のうちの1つに、戦いの騒乱に紛れて、古代進をリーダーとした部隊が侵入。

 拉致され捕虜になっていると目されている、森船務長の救出に動いていた。

 

 当然、内部に配備されている『エージェント』という名のアンドロイド達に見つかるも、事前にナインから渡されていたリモコンのような装置を使うと、『停止コード』が発信され、その機能を停止させて動きを封じることができる。

 

「ナインがかつて、ガーディムによって作られた存在だったというのは本当だったのか」

 

「そのようですね。しかし、その古巣を裏切ってまで、赤の他人である我々に協力してくれるとは……わからないものだ。まあ、裏切りや罠を警戒しなくてよさそうなのはありがたいが」

 

「その嫌味な物言いは後にしてくれ、伊藤。……まだ傷がふさがっていないんだろう、一緒に来てよかったのか?」

 

 古代は、自分の後ろでコスモガンを構え、周囲を警戒している男……ヤマトの保安部長・伊藤に向けて、一応は気遣う形でそう問いかける。

 

 惑星レプタボーダの戦いの折、ガーディムに拉致される森雪を助けようとして、しかし返り討ちにされて重傷を負った伊藤。

 しかしその後、奇跡的に応急処置が間に合ったことで一命をとりとめていた。

 

 実際にはそれに加えて、その直後の『エル・ミレニウム』との戦いの際、『ソーラーストレーガー』が行った事象制御による味方への支援の余波が彼にまで届き、生命維持と治癒を支援していたことや、舞人を復活させるためにサリーが放ったイノセントウェーブがさらにそれを後押ししていた、という事情が絡み合った結果なのだが……それを知る者はいなかった。

 

 短期間で動けるまでになった回復力を、佐渡医師は驚きながらも喜んでいた。

 皮肉や嫌味交じりの物言いで、決して人に好かれるたちではなかったとはいえ、ここまで苦楽を共にしてきた仲間であるのも事実。負傷や死を喜ばれるわけでもない。

 

 が、その後、この森雪救出のための部隊に、病み上がりにも関わらず志願して同行すると表明した時は、さすがに呆れられていたが。

 『あの人の下には似たような無茶ばかりする奴が集まる』という、佐渡医師の言葉の真意を知る者は……果たしているのかどうか。

 

「皆の安全を預かる保安部長として、その責務を全うするために動いているだけですよ……色々と、思うところもあるのでね。後ろから撃つ気はないから、背中は任せてくれて結構」

 

「そんな心配はしていない。ところでミレーネル君、雪の居場所は?」

 

「少し待って。この艦、脳量子波や精神波を遮断するための特殊加工が施されているみたいで、うまく探れない……でも、どうにか……よし、こっちよ!」

 

 ミレーネルの案内に従って、古代達と共に進みながら、伊藤は、ここまでの自分を、そしてヤマトの旅を思い返していた。

 

 伊藤はもともと、『イスカンダル計画』に意欲を示してこの艦に乗ったわけではない。

 それどころか、そんな計画に期待などしていなかった。彼はガミラスはもちろん、イスカンダルも、その他の異星人も……最初から全く信じてなどいなかった。

 

 彼はあくまで、自分達の真の目的である『イズモ計画』……滅びを避けられない地球から、人類を新天地へ脱出させるという計画のため、移住先となる惑星を探す目的でヤマトに乗っていたのだ。新見薫をはじめとする、幾人かの秘密の同志とともに。

 必要があれば、クーデターを起こしてヤマトを制圧することすら、計画のうちだった。

 

 しかし、並行世界への転移をはじめとする想定外の事態の連続や、結局は人間同士の争いはどこでも起こり、平和な新天地などないことを悟ったがゆえに、新見は離反。

 『イズモ計画』関連のプランはほとんど実行に移されないまま、ここに来た。

 

 それでも必要ならば、自分一人でも何かしら行動を起こすつもりでいた伊藤だったが……宇宙世紀世界でエンブリヲに利用され、真ゲッタードラゴンに関する情報を奪われ……危うく地球を救う旅路がとん挫する危機を招いたことに関しては、責任を感じていた。

 

 それがきっかけになったのか、あるいは彼もまた、長い並行世界の旅路や、異星人達との交流の中で、自覚すらしていない心変わりがあったのかもしれないが……今の彼は、仲間達と共に、イスカンダルを目指し……地球を救うという目的のために動いている。

 

 まだ、完全にイスカンダルや、その他の異星人を信頼したわけではない。

 それでも……単純にその全てが敵ではないし、自分達地球人と手を取り合う意思を持つ者達もいるのだと……そういう点については、理性の部分で理解できていた。

 

 助けてくれるというなら、地球のためにそれを利用すればいい。警戒は怠らず、何かあったときにはすぐに対応できるように、身構えていればいい。

 そう割り切って、伊藤はこの場では、ミレーネルと……ナインに、自分達の命運を預けていた。

 

(結局、性分なんだ……そう簡単に他人を信じられないっていうね。……うちの連中はどいつもこいつもお人よしだから、私みたいなのが1人くらいいた方がいいのさ。……取り越し苦労だったなら、それはそれで構わないし……そうあってほしいものだ)

 

 いつも通り表情を取り繕い、会う人のほとんどに『胡散臭い笑顔』と評される笑みを顔に張り付けたまま……伊藤は、古代達の後を追って、走った。

 

 

 

 そして、いくつかの曲がり角や扉を経た先で……ついに一行は、彼女たちを発見する。

 

「雪ッ!」

 

「! 古代君っ!」

 

 この騒ぎに乗じて脱走していたらしい、雪と……もう1人、異星人の女性。

 

 今まさに、アンドロイドの部隊に見つかって、武器もなく窮地に陥っていたらしい彼女達だったが……状況を理解した古代が即座に『停止コード』を放って無力化。

 距離や位置の問題でそれが届かなかった個体に対しては、伊藤がコスモガンを撃って破壊した。

 

 助けが来た、と理解した森は、その顔を歓喜と安堵でほころばせるが……もう1人の方の、灰色の肌の異星人の女性の方の反応は、対照的だった。

 

「その肌の色……テロン人か!」

 

 その直後、古代と伊藤を強烈な眠気が襲い、体が動かなくなる。

 何かしらの手段で攻撃されていると直感した伊藤は、とっさにコスモガンの銃口をその女性に向け……しかしその瞬間、眠気と金縛りはすぐに消え去った。

 

「待って、姉さま!」

 

「っ!? その、声は……ネル……!?」

 

 異星人の女性……セレステラが、古代と伊藤を無力化するために放った精神波。

 

 それをさらに、逆方向から放った精神波で無力化したミレーネルは……伊藤と古代をかばうような立ち位置で、その半歩前に進み出た。

 

「あなた……生きて……」

 

「やっと……やっと、会えたね。久しぶり……姉さま」

 

 

 

 



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第89話 戦いの終わり

 

 ミーゼラ・セレステラの脳内は、混乱の極致にあった。

 

 自分以外の唯一の『ジレル人』の生き残り……しかし、アケーリアスの宙域での作戦の折、精神体とのつながりが切れて肉体が死亡し、この世を去ったはずの、部下にして、妹も同然の存在……ミレーネル・リンケ。

 確かに死んだはずの彼女が今、生きて、目の前にいる。

 

 偽物ではない。たった今発せられた精神波は、確かにミレーネル本人のものだった。

 誰よりも長く一緒にいたそれを、間違えるはずなどない。

 

 しかしそのミレーネルは……敵であるはずの地球(テロン)人と行動を共にしている。そして、自分が放った精神波を無効化し……テロン人を助けた。

 

 着ている服も、彼女がいつも着ていたガミラスの軍人としての服ではなく、見覚えのないもの。

 

 そもそも彼女は、確かに死んだはずで……生命活動を停止した彼女の肉体は、セレステラ自身が回収して、既に荼毘にふした。

 本当に1人になってしまった、と、涙を流しながら。それを忘れるわけがない。

 

 にもかかわらず、なぜ彼女が生きていて、しかも……これではまるで、テロン人に与し、自分と敵対しているかのようで……

 

 しかし、混乱していても事実は明らかにはならない。

 セレステラは無理やり頭の中で考えを整理してまとめながら、口を動かした。

 

「どうしてあなたが生きてここにいるの……いや、そんなことより、なぜそのテロン人達と行動を共にしているの? その者達は、ヤマトの乗組員……ガミラスの、総統の敵なのよ?」

 

「もちろん知ってるわ。その答えは……私が、彼らと行動を共にしているから。ううん、もっと率直に……彼らの仲間だからよ」

 

「っ……何を言って……まさか、ガミラスを裏切ったとでもいうの!?」

 

「……そういうことに、なるかな」

 

 自分の耳が信じられない、目の前の光景が信じられない。

 セレステラは、見聞きした事実を脳が拒否したくなるような衝撃を受けていた。

 

 いつも一緒で、これからもずっと、大恩あるデスラー総統のために、ともに戦っていくのだとばかり思っていた、妹同然の少女。

 それが、ガミラスを、総統を、自分を裏切って、敵であるテロン人に与したという。

 

(テロン人によって洗脳された? いや、精神波からはそんな様子は感じ取れない……だとしたら、本当にガミラスに叛意を……何かの理由でテロン人に同調して? それとも、ディッツ提督らと同じように現体制への否定? どちらにしても……いやそもそも、だからなんで死んだはずのミレーネルが生きているのよ!? 一体、いったいこれは何の悪夢なの!?)

 

「ごめん姉さま、混乱させてしまって……でも今は時間がないの! 後で全部説明するから、雪と一緒に私についてきて! 雪、他に救出すべき捕虜とかはいる?」

 

「いえ、多分私たちだけよ」

 

「ならよかった。さあ姉さま、今すぐ外へ……」

 

「っ……触らないで!」

 

 反射的にセレステラは、ミレーネルの手をはたくようにして拒絶した。

 

「ネル、あなた、あなた本当にテロン人と……どうして!? どうして総統を……あの方を裏切るような真似を!」

 

「だからそれは後で話すってば! お願い、時間がないの! 早くしないとガーディムの兵隊達が集まってくる……その前に逃げないと! 私達があなたを守る、安全に脱出させるから!」

 

「信用できるものですか! テロン人なんて……それと仲良くしているあなただって! 何があったのか知らないけど、彼の……総統の敵なんかに!」

 

 依然として状況は全く呑み込めていない。

 しかし心のどこかで理解はしたのだろう。ここに……目の前にいるのは、本物のミレーネルで……そして彼女は、自分達を裏切ってテロン人の仲間になってしまったのだと。

 

 テロン人達と共に、自分を助けるなどと言って、連れて行こうとしているのだと。

 恐らくはあの……ガミラスに、総統にとっての仇敵である……ヤマトに。

 

 冷静だった先ほどまでとは打って変わって、表情に混乱……あるいは、錯乱と呼んですらいいかもしれないそれを浮かべ、甲高い声でわめきたてるセレステラ。

 

 それを見て、伊藤が静かにコスモガンを構えようとしたが、それを古代が諫める。

 

「ミレーネル……あなたが敵だというのなら……ここで!」

 

 その瞬間、セレステラは強烈な精神波を放ってミレーネルの精神に干渉し、昏倒させようとするが……即座にミレーネルはそれを拒絶して防御。

 とっさに反撃する形で、より強力な精神波を放ち……それを防げなかったセレステラは、急速に自分の意識が遠のいていくのを悟った。

 

「なっ……な、ぜ……!?」

 

 セレステラの記憶の中では、精神波の強さにおいて、ミレーネルは自分には劣っているはずだった。

 しかし今、こちらの精神波は容易く防がれ、逆にミレーネルのそれは、ろくに抵抗することもできずに自分に届き、意識を刈り取りつつある。

 

 あのアケーリアスで『別れて』から、いったい何があったのか。裏切りの事実といい、何一つわからないまま……

 

「……どう、してよ……ネル……?」

 

 ……セレステラは、意識を手放し、深い眠りについた。

 

 どの目の端に、うっすらと涙が浮かんでいるのを見て……ミレーネルもまた、目の前の景色をにじませながら……倒れこむセレステラの体を抱きとめた。

 

「……ごめんなさい、姉さま……」

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

【▼月&日 続き】

 

 三つ巴の戦いを繰り広げながらも、どうにか森船務長……と、何と一緒に捕まっていた、ミレーネルの姉(のような人)を救出。

 

 そのまま攻撃を続け、ひとまずガミラスの艦隊を撃退することに成功。

 

 それと同時に、宇宙にいたガーディムを駆逐し終え……同時についに、千歳さんの拿捕というか救出にも成功した、総司さんとナイン達が合流。残るガーディムとの戦いに全力を注ぐ。

 

 しかしこの時、ガミラスの連中、やけにあっさり撤退していって……しかもなぜか宇宙に逃げていったんだが、一体なぜだろうと、その時は気になっていた。

 同時に、なんか嫌な予感がしていたんだが……その予感、すぐに現実になることとなった。

 

 具体的には、5分後くらいに。

 

 なんか、ガミラスの総統座乗艦は、再びあの『第2バレラス』とかいう宇宙要塞に逃げ込んだらしいんだけど……その直後に、その一部を切り離して……なんと、この都市めがけて落とそうとしてきたのである。

 

 推定質量6000万トン。あんなもんが落ちたら……コロニー落としほどじゃないが、とんでもないことになる。少なくとも、この都市は丸ごと壊滅することになるだろう。

 当たり前だが、ここに住んでいる、ガミラスの民達も……誰一人助かるまい。

 

 そのことを理解した『地球艦隊・天駆』の皆は、1人残らず絶句していた。

 もちろん、僕も。何考えてこんな暴挙に出たんだよあのデスラーってのは!?

 

 もしかしたら、これで僕らとガーディムを一網打尽にしようとしたのかもしれないけど……どんな理由であれ、このままじゃ何の罪もない民達が大勢……どころじゃない数死ぬことになる。

 僕らもさすがに、そんな事態は望んじゃいない。

 

 しかも、市民の避難誘導をするために一時休戦を提案した沖田艦長の呼びかけを無視して、ガーディムの司令官……アールフォルツとかいう奴は、市街地を攻撃し始めるし。

 

 なんか、『指導者に見捨てられるような民ならば消去も当然』『そしてそれはあくまでガーディムによってなされなければならない』とかなんとか……ごめん何言ってるかさっぱりわからん。

 わからんけど、理解する努力をしている暇も惜しい。

 

 しかもこいつら、千歳さんを半ば騙して利用していたばかりか、滅んだ後の地球を利用して、自分達の新しい母星とし、文明再建を進める計画だったことまでその時に明かした。

 

 よしコレもうぶちのめすっきゃねえな、と結論が出た瞬間である。

 

 ガミラスとガーディム、どっちの暴挙も許すわけにはいかないってことで、僕らはまずガーディムを総力を挙げて攻撃し、速攻で撃破。

 自分達が負けたことを信じられない、といった様子の、アールフォルツの断末魔を聞きながら……全ての艦が爆炎の中に消えていくのを見届けて……しかしその時には、切り離された要塞の一部は、もうすぐそこに迫ってきていた。

 

 しかし、何とそこで、先ほど刹那と相互理解を果たしたELSが、落下物が落ちるのを邪魔して、落下速度を緩めてくれた。

 さらに、ガミラスの残る無事な空中要塞の方を攻撃しているらしい。……不謹慎なのを承知で言おう。ざまーみろ独裁者が。

 

 そのわずかな時間で、ヤマトは波動砲の発射準備を整え……巨大落下物に向けて発射。

 

 見事にそれを、かけら一つ残さず消し飛ばし……どうにか、都市の危機を救うことができた。

 

 恐らく、その光景を一部始終を見ていたんだろう。バレラスの町からは、歓声が上がっているのが、『ヘリオース』に乗っていてもわかった。

 

 沖田艦長の元には、バレラスの『総統府』から、今回の救援に関する感謝と、会談の実施を望む旨を伝える通信が早速入ったらしい。

 

 ……これも不謹慎は承知で言うが、不幸中の幸いというべきか……思いがけない形で、ガミラスとの間に対話のテーブルができたみたいだ。無用な戦いを避けられそうで何よりである。

 

 そっちについては、沖田艦長達にお任せしよう。僕みたいな若造がでしゃばる分野じゃないだろうし。

 

 そして、デスラー総統らが逃げ込んだ空中要塞は……ELSに完全に融合・吸収されてしまったらしい。自国の民を犠牲にしようとした暴君の、あっけない最期だったな。

 

 こうして、ELSとの対話に始まり、目まぐるしく状況が変わる戦いの続いた、長い一日は……ようやく終わった。

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 

 ―――大ガミラス帝星に進行中だった端末より入電。

 

 ―――アドミラルタイプ『アールフォルツ:A0013M』の撃墜を確認。

 

 ―――討伐目標だった、帝都バレラス総統府及び『地球艦隊・天駆』各機各艦、いずれも健在。

 ―――しかしながら、データ収集という点においては、必要最低限量の回収に成功。

 

 ―――『地球艦隊・天駆』は今後、イスカンダルにて『コスモリバース』を受領する見込み。

 

 ―――注意。特記戦力01『ヘリオース』について、現時点で、成長想定値に未達。

 ―――計画実行のため、さらなる成長を喚起するための方策を要する。

 

 ―――並行して、『12の欠片』確保のための手順の最終確認を行う。

 

 

 

 ―――『再臨』の時は近い。準備を万全にせよ。

 

 

 

 



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第90話 スターシャとの対話

 

Side.ミツル

 

 僕達『地球艦隊・天駆』は、帝都バレラスでやるべきことを一通り済ませた後、再び宇宙に上がった。

 もちろん、隣にある星に……この旅の最終目的地である、イスカンダルに行くためだ。

 

 ガミラスについては、沖田艦長達が、総統府の人達と話し合い、デスラー総統が没した今、最早戦いを続ける理由はないということで、お互いにもう手出しはしないこととなった。

 侵略を先導していた独裁者はいなくなったことだし、これから徐々に、少しずつでもいいから、歩み寄っていければいいな、と思う。

 

 今後は、今現在総統府を仕切ってる副総統さんと、しばらくしたら戻ってくるであろうディッツ提督らとともに、ガミラスの運営を行っていく予定だそうだ。

 

 そんなわけで僕らは、宇宙の『花』になったELSと『第2バレラス』をわき目に見ながら、イスカンダルの指示に従って進み、その大地に着陸。

 

 そしてこれから、イスカンダルの女王であるスターシャさんという人に会って、これまでの旅であったことを報告することになったんだけども、さすがに全員で押しかけるわけにはいかない。

 なので、代表して何人かで向かうことになった。

 

 本来なら、『地球艦隊・天駆』の総司令である沖田艦長が……というところなんだけど、残念ながら体調がすぐれないらしいので、真田副長とブライト艦長が代理で行くことになった。

 それに加えて、古代戦術長と森船務長、新見情報長。

 

 こちらから予定していたのはこのメンバーだったのだが、ここからさらに……

 

「あとは……あなたと、あなた」

 

 ユリーシャさんが、刹那とナイン、そして……

 

「それから……あなたも」

 

 ……僕のことも指名してきた。

 まあ、なんとなくそんな予感はしてた。以前のヤマトでのアレもあったことだしね。

 

 そんなわけで、ユリーシャさんと、ナインが行くなら心配だからって半ば無理やりついてきた総司さんを含め、総勢10名で会いに行くことになった。

 

 行きがけにメルダに、『イスカンダル猊下にくれぐれも無作法のないようにな!』って釘刺された。

 しかし、呼び方『猊下』って……やっぱり、イスカンダルの女王って、宗教トップみたいな位置づけなんかな。

 ユリーシャさんに対しては『殿下』だったけど……よくわからん。とりあえず偉い人か。

 

 謁見の場で待っていたスターシャさんは、ユリーシャさん以上のものすごい美人だった。

 さらさらの長い金髪に、線が細くてはかなげな体つき。こちらを憂うようなまなざし……なんか、美人過ぎてどこか現実離れしてる感じにすら思えた。

 

 ……ちょっと失礼なこと言うかもしれないけど、あそこまで行くと逆に近寄りがたい、ってレベルだ。高嶺の花どころじゃない……美術館の銅像とか見てるみたいな気分になった。

 

 スターシャさんからは、ここまでの苦労をひとまず労われたものの、どうやら波動砲……つまりは、『波動エネルギー』を武器として使用したことがあまりお気に召さない様子。

 ただ、それについてはユリーシャさんがフォローしてくれた。『彼らは力に溺れることはない』って、これまでの旅路で僕達が乗り越えてきた苦難を合わせて説明しながら。

 

 刹那とナインを連れてきたのも、その一環だったみたいだ。

 刹那は、言葉で語ることのできないELSと意思を通じ合わせ、戦いを終わらせた、相互に理解し合える可能性を体現した存在として。

 ナインは、AIでありながら人の心を理解し、自分が作られた目的に縛られず、自分が正しいと思ったことをする意思を手に入れた存在として。

 

 

 

 そのまま、一通りの話し合いが終わり……その後、今度はスターシャさんが、ヤマトにいる沖田艦長の元を訪れることに。

 ただ、その前に色々と準備があるからって、一旦部屋を出ていった。

 

 残った僕らは、一度解散してそれぞれの艦に戻ることになったんだけど……その時に、ユリーシャさんに呼び止められて、『少し付き合ってほしい』と連れ出された。

 

 そのまま連れていかれた先……応接室のような、狭くもなく広くもない、それなりに豪奢なつくりの部屋で……先に謁見の場を出ていったはずの、スターシャさんがなぜか待っていた。

 

 どうやら『準備がある』っていうのは方便で……本当はここで、僕とだけ会うことが目的だったみたいだ。

 『なぜミツルとだけ?』って、『地球艦隊・天駆』の皆に不思議に思われないように、気をまわしてくれたらしい。

 

 そして……予想しないではなかったけども……

 

「お会いできて光栄です……太極の力をその身に宿す御方」

 

 スターシャさんは、以前にユリーシャさんがそうしたのと同じように……僕の目の前でひざまずいて、僕の手の甲にキスしてきた。

 その隣で、ユリーシャさんも、同じようにひざまずいていた。

 

 ……落ち着け。悲しきかな……こういう反応も想定内だ。

 ユリーシャさんがそうだったから、スターシャさんもこう来るんじゃないか、とは予想してた……そして、そうなった場合にどう返すかも、事前にシミュレーション済みだ。その通りに動け。

 

「以前、ユリーシャさんにもそのようにしてもらいました。その時は、彼女の口からは、僕にそんな風に敬った態度をとる理由は聞けませんでしたが……スターシャさんからは聞けるんでしょうか?」

 

「はい。お望みであれば、全てお話いたします。もっとも、私も全てを知っているわけではないため、いくらかは推測を交えたうえでの話となってしまうのですが……」

 

「それでもかまいません。お願いします。それと……このままじゃお互い気疲れしますので、普通にしてお願いできますかね?」

 

「……あなた様が、そのようにお望みであれば」

 

 そう言って、2人はすっくと立ちあがり、部屋の中央にある応接用らしいソファを手で示す。

 

 僕ら3人ともがそこに着席したところで、スターシャさん達の身の回りのお世話をしている機械人形――『イスカンドロイド』というらしい――が、お茶とお茶菓子を持ってきてくれた。

 それを適度につまみながらということで、話は始まった。

 

「まず、何から話したものでしょうか……ミツル様は、イスカンダルの歴史について……その、恥ずべき過去の過ちについて、ご存知でしょうか?」

 

「かつて、波動エネルギーを兵器として運用し、他の星々を侵略していた……というものですか? 僕らの仲間が『ガーディム』から聞かされた情報で、真偽のほどは不明だったのですが……」

 

「その歴史は真実です。かつての昔……イスカンダルは、ガーディムや現在のガミラスと同じ……いや、ともすればそれよりもさらに、人の道に外れた行いに手を染めていました。星の海を越え、星と星の懸け橋となるものとして作り出された『波動エネルギー』を軍事転用し、いくつもの星を滅ぼし、あるいは支配下において、この大マゼラン銀河に一大帝国を築いていました」

 

 それは数千年前の話ではあるが、それでもれっきとした事実であり……当時存在した、もう1つの巨大星間国家『超文明ガーディム』と、大マゼラン銀河の覇権をかけて争っていたという。

 

 その結果はイスカンダルに軍配が上がり、ガーディムは文明としては滅亡。

 イスカンダルの一強状態となった大マゼラン銀河は、それから長い間、イスカンダルを頂点に据えた支配体制となっていた。

 

 しかし、それはあくまで昔の話。

 今はイスカンダルは、その過去の行いを恥じ……その償いのために、滅びの淵に立たされている他の星々を、その技術や知識をもってして助けるために活動しているという。

 

 ガミラスの攻撃によって環境を破壊され、滅びを待つのみだった地球に手を差し伸べてくれたのも、その活動の一環としてだ。

 

 生命の存在する星には、時空を超えてその星の記憶を伝える波動が存在し、それは、その星の『エレメント』と呼ばれる物質を使って解き放たれることで、壊れてしまった環境を正常なものに戻し、時空のゆがみすらも正常なものに戻してしまえる。

 それこそが、僕らが地球を救うために求めた『コスモリバース』なのだそうだ。

 

 そして、スターシャさん曰く……ここまでは、公に記録として残されており、イスカンダルのみならず、ガミラスやその他の星々の民たちも……程度に差はあれど、歴史として知っている範囲の話であるという。

 それはつまり……歴史の中で知られていない、記録には残されていない部分が存在する、という風に言っているも同然の言い回しだった。

 

 ……聞いていいんだろうか、その話。

 いや……多分だけど、むしろそのへんが……僕が聞きたかった部分なんだろう。そんな気がする。

 

「当時のイスカンダルが、この大マゼラン銀河に覇を唱えていたというのは、今お話しした通りです……しかし、その忌むべき歴史には、転換点となった出来事がありました」

 

「何か、きっかけがあって……イスカンダルは道を踏み外したと?」

 

「他者のせいにするかのような物言いになってしまいますが……そうなります。あれは……イスカンダルが『波動エネルギー』を技術として確立し、初めて星々の海を、光を超える速さで渡ることに成功した時のことでした」

 

 そう、スターシャさんは……自分がその場面を見ていたかのような語り口で話す。

 もちろん、そんなことは実際にはない。イスカンダル人は寿命がかなり長いらしいけど……それでも、数千年も前からスターシャさんは生きているわけじゃないし。

 

 あくまで彼女は、その歴史を知っているだけ……しかしその歴史を決して、過去の出来事に過ぎないとか、他人事でしかないものとしては受け取っていないからこその言い方なんだろう。

 

 しかし、続けて彼女が語り始めた内容に……僕は驚いて、絶句したままそれを聞くことになる。

 

「当時のイスカンダルは、喜びに沸いていました。これでまた一層、銀河の星々との交流を密なものにし、友情を深めることができると。また、銀河の果てで困っている友の待つ場所へ、いち早く駆けつけて助けることができると。技術の発展のもたらす、明るい未来を確信して……。しかし、それから間もなくして……彼らに接触してきた者達がいたのです」

 

「……?」

 

「その者達と接触した後、イスカンダルは方針を一転させ……波動エネルギーを、通常の運用方法のみならず、軍事方面に転用した技術の開発を……すなわち、あなた方が『波動砲』と呼ぶ、禁断の兵器としての運用を推し進めていきました。最初は外敵に対する自己防衛のための手段として……しかし次第に。武力によって大マゼラン銀河を平定することで、銀河に平和をもたらすという、ゆがんだ思想の元に、かつて友だったはずの他の星々に恭順を迫り……従わない者達に対しては、武力でもってそれを滅ぼし、あるいは恫喝して支配下に加えていった……」

 

「それはまた……極端な方針転換ですね。内部からの反発とかはなかったんですか?」

 

「もちろんあったそうですが……当時の首脳陣は一切聞く耳を持たず、イスカンダルを大マゼラン銀河の覇者とするために政策を推し進めていきました。国内での反発も、次第に収まっていき……最後には、星々から崇拝され、敬われることに、人々は酔ってしまったと……記録にはあります」

 

「そうですか……それで、その『接触してきた者達』っていうのは、いったい何者だったんです? 一体その者達から何を言われて、首脳陣はそんな風に考えを変えたんですか?」

 

「……わかっている限りの話になりますが、その時、彼らは……」

 

 

 

 ―――星々の海を駆ける術を手にした、大マゼラン銀河の先駆けとなる者達に告げる。

 

 ―――お前達は、我々の意に反したシンカを遂げ、力を手にすることは許されない存在である。

 

 ―――もしこれ以上、お前達が誤った道筋を歩んでいくならば、その先には滅びの運命が待つ。

 

 ―――しかしもし、お前達が我らと共に歩むことを受け入れ、この手を取って忠誠を誓うなら、

 

 ―――その先に待つのは、永遠の安寧と繁栄。そして、銀河の覇者となる栄光の未来である。

 

 

 

「当時の首脳陣は、この託宣を受け、ある物は狂ったように歓喜し、あるものは限りない畏怖から心を病み……その果てに、彼らの使徒となることを選びました。そしてイスカンダルは……彼らによって、大マゼラン銀河の覇者となることを『許された』」

 

「許、された……?」

 

「彼らは、当時の首脳陣が、抗うことを即座に放棄してしまうほどの力を見せつけ……しかし自分達に従うならば、それらの力をもってイスカンダルを支援し、銀河の覇者となる未来を手にできるよう取り計らう、と告げたそうです。その代わりに、自分達に変わって銀河の星々を監視し、自分達の意に反する成長を遂げる文明が現れることのないように、管理せよ、と……」

 

 ……それはまた、随分と……スケールの大きな話になってきたな。

 まさか、当時の銀河の覇者だったイスカンダルに……そのさらに、影の支配者みたいな存在がバックについていたとか……

 

 そして、何だ、その……そういうことをしそうな連中に、すさまじく心当たりがあるんだが……

 

 こことは違う世界の地球で、月に到達した人類の先駆者たちに対し、同じように接触し……地球人類は、シンカを許されない種であると、宇宙に飛び出して、その先の領域に到達することを認めないと……そう一方的に告げ、管理し、押さえつけ続けた存在を……僕は、知ってる。

 

「イスカンダルは、その悪魔の取引に屈してしまったのです。そして、平和と友好を愛するはずであった星は、暴力と威圧によって全てを支配する帝国へと変容し……『彼ら』の意向のままに星を管理し、時に滅ぼして……人を人とも思わぬような、暗黒の歴史を紡いでいった……っ……!」

 

 語りながら、つらそうに、苦しそうにするスターシャさん。

 必死に表情を取り繕うとしているようだが、一言一言、言葉にするたびに歯を食いしばって耐えているように、僕には見えた。

 

「その恥ずべき歴史は、『彼ら』が、他の宇宙の勇気ある者達によって倒され……その際に起こった次元の奇跡によって、歪んだ歴史が正されたその時まで続きました……その時を待って、ようやく私達は、解放されることできたのです」

 

「…………」

 

「以来私達は、過去のその行いの償いのために……そして、二度と同じような歴史を繰り返すことのないように……それ自体が恥ずべき行為であると知りながらも、その黒い歴史を封印しました。そして、イスカンダルの王家にのみ伝わる口伝として、ひそかに受け継いできたのです。……ここまで話せば、うすうすお気づきではないでしょうか。私たちがかつて屈した、『彼ら』が何者であったのか……あなたにはもう、見当がついているはず……」

 

「……色々と、呼び方がありますよね。『根源的災厄』……『全宇宙の支配者を気取る者』……あらゆる並行世界の中で、最初に『高次元生命体』の扉を開いた先駆者……その、彼らの名は―――」

 

 

 

 

 ―――『御使い』

 

 

 

「……そう……私達、イスカンダルは……この大マゼラン銀河における、『御使い』の下僕(しもべ)でした。彼らの意思に従って行動し、星々を抑えつける役目を与えられた、飼い犬だった……」

 

「…………!」

 

「波動エネルギーですら、彼らの力の前では、お遊びに過ぎない……『源理の力(オリジン・ロー)』という絶対的な力を振りかざし、『至高神ソル』の元に全宇宙の頂点に君臨する彼らこそが、当時のイスカンダルの、大マゼラン銀河の真の支配者だったのです」

 

 そして、と続ける。

 

「私やユリーシャが、あなたをこのように敬うようにするのは……その力を、あなたがその身に、確かに宿しているからです」

 

「『次元力』……いえ、『源理の力(オリジン・ロー)』をですか? だとしても、僕は『御使い』とは何も、少なくとも直接の関わりはありませんが……」

 

「……あなた自身、もう薄々気づいているのではありませんか? ご自分が……明らかに、普通の人間ではないことに」

 

 恐る恐る、といった声音で、スターシャさんはさらに……僕がもう1つ、知っているなら聞きたかった事柄についても、踏み込んで語りだした。

 畏怖を抱きながらも、自らの務めとして、はっきり言うべきだと……自分を奮い立たせながら、口を動かしている……ように見える。

 

 ひょっとしたら、これから語られることは……僕にとっても、後で『聞かなければよかった』と思ってしまうような、残酷な真実なのかもしれない。

 それでも……僕は、ずっと気になっていたこの疑問に対する答えを、聞きたいと思った。

 

「本質は異なりますが……あなたという存在を言い表すのであれば……『御使い』の残滓……それと同時に……こうも言えるでしょう……『呪われし放浪者』

 

「……っ……!?」

 

 ……知ってる。

 そう呼ばれていた、かつて『多元世界』に存在したある男を……そして、その特殊すぎる境遇と、その誕生の真実を……僕は、知ってる。

 

「ここからは私の仮説です。かつて起こった次元の奇跡……その後、砕け散った『至高神』の残骸のいくつかが、この世界に流れ着いた……そしてそれらは、至高神の『核』に近いそれだったのでしょう……長い時間をかけて、それらは自らを修復し……神器『ヘリオース』として再誕した……しかし、力を行使する上で、最も重要なパーツだけは、『修復』されることはなかった」

 

「……人の、意思。すなわち……オペレーター」

 

「パイロット、デヴァイサー……どのように言い換えてもいいでしょうが……ご想像の通りです。空席となっているコクピットの中に鎮座し、その意思でもって『源理の力』を使う、操縦者というパーツを……ヘリオースは自ら作り出した。それが……あなたです、星川ミツル」

 

「……っ……」

 

「あなたが死ぬたびに、ヘリオース……あるいはアスクレプスは、コクピットにあなたを作り出して自らに乗せた。そしておそらくは、そのたびにあなたは、パイロットとして……『次元力』を扱うものとして最適化されていき、『次元力』の扱いが飛躍的に上達したはずです。そのようにヘリオースが改良して、作り直していたはずですから……」

 

「…………」

 

「そしてあなたの中には、ヘリオースという存在から逆算的に、あるいは逆流する形で……『御使い』の1人……『喜びのアドヴェント』の因子がそのたびに流れ込み、存在そのものが徐々にそれに近くなっていった……人としての意思を、星川ミツルの人格を保ちながらも、あなたは、徐々に人という存在から離れていった……そのことを、私も、ユリーシャも、感じ取りました」

 

 ……今まで疑問に思っていたことが、どんどん解き明かされていく。

 

 『アスクレプス』に初めて乗った時、なぜかその操縦方法が頭の中にあった理由も、

 死ぬたびに復活し、そして次元力の扱いが上達していた理由も、

 それに合わせて、『次元力』に関する知識や、技術面での扱い方が上達していった理由も、

 後は、この金髪とか、アウラのあの言葉の意味とか……その他にも、大小の疑問が、怖いほど軽やかにほどけて消えていく。……予想通りの、残酷な真実と共に。

 

「このままいけば、やがて……あなた様はいつの日か、かつての『御使い』に匹敵するほどの力をその身に宿す……あるいは『取り戻す』かもしれない。12の次元の秘宝も、『超特異点』も無い今、次元の奇跡は……『超時空修復』は二度と起こりません。ゆえに、ご無礼を承知で申し上げますが……万が一、あなた様が『根源的災厄』たる存在に目覚め、力の使い方を誤ろうものなら……その時は……」

 

 一度そこで、スターシャさんは言葉に詰まりながらも、

 

「その時は……あなた方の言う3つの平行世界や、天の川銀河、そしてこの大マゼラン銀河だけの問題ではない……全ての世界、全ての宇宙に、再びあの暗黒の時代がやってくる……そして、今度はその闇が祓われることは、二度とないかもしれない……私は、私達は……それが、どうしようもなく恐ろしいのです……!」

 

 それは、スターシャさんの……かつての『御使い』の恐ろしさを知る者としての、必死の懇願だった。

 ガミラスをはじめ、『イスカンダル主義』を掲げる全ての星々にとって、崇拝の対象とされるほどの存在でありながら……彼女は心の底から、僕なんかに対して、祈るように語りかけてくる。

 

「ですがあなた様は、既に死の淵から再生する力を手に入れている……恐らくこの世界に、あなた様を完全に滅ぼすことができる存在はいないでしょう。あなた様の覚醒を止める術は、もはや……それこそ、あなた様ご自身にも不可能なのかもしれない。であるならば、どうか……どうか、その……母なる星を思う、優しいお心を、忘れないでください……あなた様と共に歩んできた、素晴らしい仲間達との旅路を……それが、あなた様にもたらしたものを……どうか、いつまでも、忘れずにいてください……!」

 

 それこそ……比喩も誇張も抜きで、神に祈るように。

 スターシャさんは、その顔の前で両手を組んで合わせ……深々と頭を下げていた。

 

 繰り返すようだが、僕なんかに……ここまで言われてもなお、自覚の1つも芽生えていない……彼女を慰めて励ます言葉の一つもかけられない……どうしようもない僕なんかに対して。

 

 

 

 



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最終章 帰還、そして…
第91話 受け取ったもの


 

【▼月>日】

 

 スターシャさんからの話は、確かに衝撃的なものではあった。

 けど不思議と、それをすんなり受け入れ……納得すらしている自分がいる。

 

 共通点、色々あるもんな……Z世界の『呪われし放浪者』こと、アサキムと。

 死んでもコクピットの中で蘇ったり……強い力に触れることで自分の枷を外し、あるいは学んで力に変えるところとか……

 

 むしろ、今まで何で気づけなかったんだろう、と言ってもいいだろうレベルだ。

 

 なるほどなー……死んで蘇ってそのたびに強くなって、そのたびに、人間から離れていく……みたいに思って不安になってたけど、何のことはない。

 そもそも僕は、もともと人間じゃなかったってオチか。……別に面白くも何ともないな。

 

 この世界で、至高神の核の、さらにその欠片から生まれた新たな『ヘリオース』によって……コクピットの中に、欠けていたパーツとして生み出された。

 そして、戦闘で、あるいはその他の理由で死ぬたびに生き返り……ではなく、作り直され、今この時まで存在し続けている。

 

 その際に、『最適化』されていたから、僕は『死ぬたびに強くなっている』ように思えて……ひょっとしたら、知識とか技術面でもそうだったのかな?

 

 思えば、『アンゲロイ・アルカ』や『ソーラーストレーガー』を完成させた時も……その直前に、何らかのブレイクスルーみたいなことが起こっていた気がする。

 死んで生き返ったこと……戦いの中で『ヘリオース』を覚醒させたこと……『SPIGOT』の補助を受けてとはいえ、これまでにない規模で次元力を使ったこと……

 

 そのたびになぜか、『次元力』に対する理解が深まって、停滞しつつあった研究・開発が一気に進んで……強力な武装や兵器を作れるようになった。

 あれも、『最適化』の影響で、僕の頭の中に直接そういう知識とかが思いだされてきていたのかもしれない。……感覚としては、直感的に思い浮かんだ、みたいな感じだったけど……。

 

 ……小説やマンガなんかで見るような、ご都合主義なんてものは、なかったってことか。全て、必然として、理由があって起こったことだったんだ。

 

 なお、僕の中に『星川ミツル』の記憶とか経験も入っている理由については……これもスターシャさんの予想だけど、初めて『アスクレプス』が僕を作った際に、その直前に死んだ彼の魂と混線が起こったせいで、巻き込んでしまったんじゃないかとのことだ。

 

 そんなこと起こるのか、って思ったけど……『次元力』がらみだと、本気で何が起こっても不思議じゃないからな……。

 

 それに、総司さんが以前、ミレーネル(敵)の精神攻撃の際に、ナインの記憶と混線したことがあったって前に言ってたっけ。こういう言い方はなんだけど、機械の記憶(記録?)と混線が起こるくらいだし、うん……あり得る気がしてきた。

 

 総合して……これまで自分について認識していたことのほとんどが崩れ去った形になるけど……不思議と、僕に動揺は少ない。

 

 いや、驚いてないわけじゃないし、ショックも多分受けてるんだと思う。

 ただ、そのせいでこう……精神的にマイナスな感じの状態になっているかと聞かれると……そうでもなくて……すんなり『ああ、そうなのか』って受け入れられてるんだよね。

 

 これは、異星人や異世界人、人間以外の存在との交流の中で、自分が何者だろうが『多様性』の1つとして受け入れる土壌が、知らないうちに僕の中にできていたのか……

 

 ……それとも、次元力を行使するのにおいて邪魔になるから、そういう精神的な負荷を一定以上感じないように、自動的にセーブされているのか……

 

 ……願わくば、前者であってほしいな、とは思うけど……僕が『呪われし放浪者』であり、オペレーターという名の、ヘリオースのパーツの1つだとして考えると……困ったことに、後者じゃないかと思えてくるもんだから……

 

 自分の感情が、本当に自然なものなのか自信が持てない。

 自分の頭の中のことなのに、自分の思い通りにならない(かもしれない)……ははは、ア〇ンズ様の気持ちがわかるな。

 

 ……こんな風に冗談かましていられる余裕があるのも……いや、もう考えるのやめよう。

 ショックは受けてないけど、色々疲れたな……今日はもう休もう。

 

 ミレーネル達に心配かけちゃいけないし、皆の前では、普段通りにしないとな。

 

 

 

【▼月<日】

 

 とりあえず、『地球艦隊・天駆』とスターシャさんとの間で、話はまとまったようだ。

 

 前にも言った通り、スターシャさんは僕ら……というかヤマトが『波動砲』を使ったこと……すなわち『波動エネルギー』を兵器として使ったことがお気に召さなかったらしい。

 過去の自分達と同じ過ちを繰り返してしまうんじゃないか、という危惧から。

 

 ただまあ、もともとそのイスカンダルの方針転換は……沖田艦長達は聞かされてないにせよ、『御使い』っていうろくでもない黒幕がいたわけで……まあ確かに、流されたイスカンダルに全く責任がないってわけじゃないだろうけど、それでもさ。

 

 ユリーシャさんの説得もあって、最後にはきちんとスターシャさんも納得してくれた様子。

 

 マジンガーZEROや覚醒エヴァンゲリオンの暴走を、意思の力で制御した甲児やシンジ。

 ELSと相互理解を果たした刹那。

 AIでありながら、人と変わらない心を宿したナイン。

 

 その他にも、異種族・異星人でありながら相互に理解しあい、決して力に溺れることなく今までやってきた僕らを信じることにしてくれたらしい。

 事前の話通り、『コスモリバースシステム』を渡してくれるとのことだ。

 

 ……まあ、『渡す』というとちょっと違うんだけどね……厳密には。

 

 そもそも『コスモリバース』というのは、具体的にどういうものなのか。

 今まで僕らは、それを具体的に知ることなくここまで来たわけだが、それをスターシャさんからきちんと説明してもらった。

 

 生命が存在する星には『エレメント』という物質が存在し、そこにはその星の環境やら生命やらの記憶が、『時空を超えた波動』として残されている。

 その力を、イスカンダルの時空制御技術をもって開放することで、その星の記憶の力で、汚染されたり荒廃してしまった環境を元に戻すことができる。これが『コスモリバース』の原理だ。

 

 そしてこれを作るには、その星のエレメントをイスカンダルに持ってくることが絶対条件。

 

 作るための環境や技術はイスカンダルにしかない。

 作るために必要な材料は地球にしかない。

 

 前に南部砲雷長とかが『助ける意思があるなら地球に直接コスモリバースを贈ってくれればいいのに』とか言ってたことがあったな。

 

 その時は『我々はイスカンダルに試されているのかもしれない』って沖田艦長達が推察してたけど……実際にはそれに加えて、『地球を助けるコスモリバースを作るには、地球からエレメントをもってイスカンダルに来てもらうしかない』っていう理由もあったわけだ。

 

 そして、そのエレメントというのは、宇宙戦艦ヤマトそのものであり……スターシャさんは、ヤマト自体を『コスモリバース』に作り替えることで、僕らにそれを渡してくれるそうだ。

 

 作り変えるとは言っても、戦艦としての機能はそのまま残る。

 ただ、波動砲が使えなくなるだけだそうだ。波動砲のコアシステムがあるところに、コスモリバースを作って設置するそうだから。

 

 スターシャさんからの希望として、『波動砲を封印すること』っていうのも、受領条件の中にあるらしいので、まあ……これは仕方ないだろう。

 帰り道に、波動砲を使わなきゃいけないような敵がでないことを祈るしかない。

 

 ……ついでに、今ので変なフラグが立っていないことも。

 

 

 

【▼月¥日】

 

 『コスモリバース』が完成するまでの間、しばしイスカンダルに滞在させてもらい、休息をとることにした。

 さほど時間はかからないそうだから、日程的な心配はないだろう。しばしの休暇と思って満喫させてもらうことにする。

 

 この惑星、景色が何というか、幻想的できれいだし――どこか作り物じみた違和感もなくはないが――観光っていうには大げさかもしれないが、ゆっくり過ごすには向いた星だと思う。

 空気もきれいで、水も……海水はともかく、川の水とかは飲み水に適している。ユリーシャさん達にきちんと断って、帰り道のための物資の補充なんかもさせてもらうことにした。

 

 もっとも……娯楽施設なんかがあるわけじゃないみたいだから、割とすぐ退屈になりそうではあるけど……その時は『ソーラーストレーガー』でいくらでも遊んでもらおう。

 

 それと、スターシャさんから僕らに、1つ渡されたものがある。

 

 古代戦術長にプレゼントされたそれは、彼のお兄さん……『古代守』さんが残した音声記録だった。沖田艦長の元部下であり、真田副長の親友。新見情報長の元・恋人でもあった人だ。

 今は……イスカンダルにある墓地の1つに眠っている。

 

 冥王星での戦いで殉職したと思われていた彼は、実はガミラスによって捕虜にされており……しかし、護送中の艦がコントロール不能になって、イスカンダルに不時着。

 その際、生存者は古代守さん1人であり……それを、スターシャさんが助けた。

 

 しかし、彼はすでにその時手遅れで、延命治療を施しても長くはもたない状態だった。

 

 ヤマトが地球を出港し、ここイスカンダルに向かっていることは知らされたが、自分の命はそれまでもちそうにない。ゆえに、こうして声をメッセージとして残したそうだ。

 

 古代戦術長に渡されたそれを、彼を知る人も、知らない人も……一緒になって聞いた。

 古代守さんの、地球を救ってほしいという願いの込められたそれを。

 

 何人かは、感極まって涙を浮かべていたり、平静を装いつつも、拳を強く握りしめていて……皆、決意を新たにしているんだろうなということがわかる光景だった。

 

 

 

 ……このままいい話で終わらせられれば一番よかったんだろうけど、もう1つ。

 

 古代戦術長への音声データと同じく……スターシャさんから託されたものが、もう1つある。

 

 見た目は、占い師が使うような、透明な水晶玉っぽい何か。握りこぶしより少し大きいくらいの大きさで、傷一つ、曇り一つなく、見た目はとてもきれいだ。

 しかしもちろん、これは単なる宝石ではない。

 

 それは何と、イスカンダルに残されていた……『御使い』の時代の遺産だった。

 

 イスカンダルの技術によって、厳重に封印処理が施されたそれを、スターシャさんは僕に『本当に必要だと思った時にはこれを使ってください』と言って、渡してくれた。

 

 ただでさえ彼女が危険視し、怖がっていた……もしかしたら、新たな『根源的災厄』になるかもしれない僕に、そんなものを渡していいのかとも思ったけど、スターシャさんは僕を信じてくれるという。

 『地球艦隊・天駆』という素晴らしい人達と共に旅をして、数多の困難を乗り越え、支え合い、理解し合い共に生きることの大切さを理解している僕ならば、力の使い方を誤ることはない。きっと、あの時代の『御使い』達とは違うはずだ、と。

 

 そして、もし本当に必要な……それこそ、僕が『御使い』の力を取り戻してまで対処しなければならないような危機が訪れた時には、きっと『それ』が力になってくれる。そう言っていた。

 

 ……この信頼、決して裏切っちゃいけない。そう思った。

 

 

 

 



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第92話 ミレーネルとミーゼラ

 

Side.ミレーネル

 

「…………」

 

「…………」

 

 『ヤマト』内部に設けられた、簡易な聴取室で……私は、無言で彼女……ミーゼラと見つめ合っている。

 けど、それは決して、仲睦まじいような空気の中でじゃなく……むしろ、険悪というか、最悪というか……。

 

 まあ……理由はわかり切ってるんだけどね。

 

「はぁ……親の仇でも見るような目つきね」

 

「そうもなるわよ。実際に……親より大切な人の、仇だもの」

 

 怒りや、憎しみ、哀しみ……色々な感情が混ざった視線を、ミーゼラは私や……その横にいる、伊藤保安部長や、古代戦術長、そして雪に向けている。

 奇しくも、あの時、突入したガーディムの艦の中にいた面々が、彼女の聴取の担当になった。

 

 私が呼ばれたのは、顔見知りがいた方が、リラックスして多くを話してくれるかもしれないかららしいけど……この分じゃ望み薄ね。

 

 そんな険悪な空気をさっぱり無視して、この聴取をメインで担当する伊藤保安部長が口を開く。

 

「一応、最初に言っておきましょうか。大ガミラス帝星宣伝情報相、ミーゼラ・セレステラさん……ああ失礼、『元』でしたね。あなたの身の安全については保証されています。現在、我々『地球艦隊・天駆』は、大ガミラス帝星とは事実上の停戦協定を結んでいます。ですので、あなたがかつてどんな立場で、地球人から見てどう思われていようとも、供述や協力を強要するような非人道的な扱いをされることはありません。どうぞ気を楽にして聴取に臨んでくださいね。ああもちろん、度を越えて反抗的・攻撃的な態度や行動をとった場合などは別ですが」

 

「「「…………」」」

 

「…………」

 

 ……本当にこの人は……聴取が始まる前から、盛大に喧嘩を売りに行っているようにしか見えない物言いをする……。

 聞けば、前からというか、普段からこんな風に、嫌味で露悪的な、歯に衣着せぬ物言いが目立つ人らしい。冷静さを失わせるための挑発なのか、はたまた地なのか……。

 

 ……もともと、異星人に対してあまり心を開かないタイプらしいわね。私達のような、『元』を含めたガミラス軍関係者のみならず……イスカンダルすら疑っていたらしいし。

 

 その上、誰に何と思われようとも、自分のスタンスを変えないタイプ。

 

 キッ、と鋭い目で伊藤をにらみつけるミーゼラだが、伊藤は涼しい顔でそれを受け流す。

 それを見て呆れかえる、私や雪、古代戦術長の視線も、やはり一切気にせず……

 

「聴取が終われば、少々の準備期間等をはさんだ後に、あなたはきちんと解放されます。他のガミラスの兵士達や、ザルツ人他の従軍異星人の方々と一緒に、総統府から迎えが来る見込みです。どこへ行きたい等の希望があれば、その時に……」

 

「……ガミラスに戻るつもりはないわ。もう、あそこにいても……意味なんてない」

 

 伊藤の言葉を遮るように、ミーゼラは……呟くように言った。

 

「そうなのですか? 確かに、旧体制派と見られているあなたにとって、居場所はないも同然かもしれませんが……」

 

「伊藤、そろそろいい加減にしろ」

 

 古代戦術長がぴしゃりと一言。

 

 ……今現在、ガミラスは……ディッツ提督と、ヒス副総統を中心に再編され始めている。

 これまでの拡大政策に待ったをかけ、現在の支配地域の安定と、大ガミラス臣民の安全の確保を目的として、内政に力を注ぐ形で運営がなされていく見込みだそうだ。

 

 もちろん、あちこちの銀河に対して行っていた侵略まがいの行為からは、一挙に手を引くことになる。……明確に、前総統の方針……『デスラードクトリン』を否定した、方針転換だ。

 

 しかし、その方針に従わず……ディッツ提督の参集命令に反して、ガミラス本星を去っていった者達もいる。かつてのガミラスの栄光を、異民族を力で従えるその強さを何よりも重視し、以前と同様の拡大政策を是として掲げる者達。

 彼らをして、『旧体制派』と……暫定的に呼ばれているそうだ。

 

 デスラーの側近だったミーゼラは、『旧体制派』の中核となりうる人物の1人である……と、多くの者達は思っているようだけど……それを今、彼女は明確に否定した。

 体勢以前に……ガミラスそのものに、もはや執着も何もないと。

 

「あの人が……デスラー総統がいない場所に、もう……いる意味なんてないのよ。あの人は……私の全てだった」

 

「ほう……それはつまり……何ですか、まだ何も言ってないでしょう」

 

「確実に何か言う雰囲気だっただろう」

 

 何か言う前に止めた古代戦術長、ナイス。今の流れは確実に、さらに神経を逆なでするルートだったわ。

 

 その代わりにじゃないだろうけど、雪が……気遣うような、穏やかな口調で訪ねた。

 

「……彼のことを、愛していたの?」

 

「愛? ……ふふっ、どうかしらね」

 

 雪のことを笑ったのか、あるいは……ミーゼラ自身に対する自嘲か。

 悲し気な笑みを浮かべて、彼女は……ぽつりぽつりと、語った。

 

 私も当然知っていることではあるけど……かつて、レプタボーダに入れられていたところを、デスラー総統に救ってもらったこと。

 その恩に報いるために、ガミラス軍に入り、功績を立て、今の地位にまで上り詰めたこと。

 

 それに付け加えて、恩義だけではなく……自分が、デスラー総統の拡大政策『デスラードクトリン』そのものに賛同し、それを推進する立場に立って積極的に動いていたことも。

 

 ……そこに話が至った瞬間、伊藤の目がほんの少しだけ開かれたように見えた。

 それにミーゼラが気付いたかどうかはわからないけれど、そのまま話し続けた。

 

 『デスラードクトリン』は、全ての宇宙を大ガミラスの元に統一支配し、その全てに『イスカンダル主義』を広め、価値観の共有と統一した社会システムの構築をなすことで、全銀河に恒久的な平和をもたらすための方策。

 その過程における必要な犠牲として、反抗的、ないし非協力的な星々への……侵略行為と言う他ない、数々の蛮行は……それもまた、必要なものとしてきた。

 

 当のイスカンダルは、それを決して良くは思っていなかったけれど、だからと言って止めることもなかった。

 

 イスカンダルはいつも、何もせず見ているだけ。

 やることと言えば、時折ガミラスの侵略行為や軍拡に対して抗議したり、気まぐれに可哀そうな辺境の星に手を差し伸べて、わずかな救いを与えたりする程度。

 

 平和と慈愛を歌いながらも、結局口だけ。自分ではそのために動こうとはしない。

 

 しかし、デスラー総統にはそれができる。彼にしか、それができない。

 だが、幾多の困難が待ち受けていようとも、彼は決してあきらめず、決して折れず……きっといつかそれを成し遂げる。だから自分は、それをそばで支えたかった。

 

 ……そんな、独白にも似た、ミーゼラの言葉を……私達は、茶々を入れることもなく……黙って聞いていた。

 

「……本当なら、ネル……あなたとも共に、その道を歩みたかったのだけれどね……。まさか……裏切ってテロン人につくなんて、さすがに思わなかったわ」

 

「……悪かったと思わないわけじゃない。総統にも、助けてもらった恩義は感じてるし……それを忘れたわけじゃない。でも……それでも、今はもう私には……盲目的にガミラスを信じて、そのために戦うことはできない。それが正しいことだとは、もう思えないの」

 

 ひょっとしたらそれは、記憶を失っていたからこそ……まっさらなところに築くことができた、新しい私の価値観なのかもしれない。昔の私が……ガミラスに忠誠を誓っていたころの私が、今の私を見たら、何やってるんだって激怒するのかもしれない。

 

 けどそれでも……私は……地球での2年にも及ぶ暮らしの中で……人と人とが分かり合い、助け合う社会の温かさを……自分が、その中の一員として生きていけることの素晴らしさを知った。

 

 力によって抑えつけ、邪魔なものを排除して……その後に残る、屈服し、傷ついた者を支配するようなやり方では、決してその先に平和なんて来ない。

 

 どんなに困難で苦しい道のりでも、信頼し合える仲間達と一緒なら、1歩1歩進んでいける。

 時に、いがみ合っていた敵達とも、己の考えをぶつけあった末に、分かり合うことができる。

 

 ガミラスでは『幻想だ』と笑われてしまいそうなこと。

 けど私は、地球での2年間と少し……特に、『地球艦隊・天駆』の皆と行動を共にするようになってから、幾度も見てきた。

 

 1年後には滅んでしまうような絶望的な世界で、しかし人々は希望を見失わず、世界の未来をヤマトに託して見送った。

 

 互いの思いを知り、長い間戦いを続けてきた、宇宙世紀世界の地球とネオ・ジオンは、和解し、手を取り合って未来へ進む道を選んだ。

 

 オーブやプラント、地球と木連、いくつもの派閥や勢力が混沌の争いを繰り広げていた西暦世界も、傷つきながらも歩み寄り、少しずつ互いを理解しながら今を共に歩んでいる。

 きっとそう遠くない未来、生まれ変わった始祖連合国もそこに加わるだろうと思いたい。

 

 さらに宇宙では、言葉も通じない、生態も生きる場も、何もかも違うELSとすら、心を通じ合わせ……理解し合い、戦いを止めることができた。

 

 だから私は、かなうなら、ガミラスにもそうなってほしかった。

 力ではなく、対話と相互理解こそが……きっと、ガミラスをより強く、より幸福な未来に導いてくれるだろうと……そう、思ったから。

 

 デスラー総統にも……姉さまにも……そういう未来を生きてほしかった。

 一緒に、生きていきたかった。

 

 でも、そんな願いは……ミーゼラには届かない。

 デスラーの方針に、いや彼自身に心酔し、彼とそのやり方こそがこの世界を救えるのだと、何の疑いもなく信じてしまっている彼女には。

 

 そして、それを失ってしまった彼女には……もう、それに目を向けてもらうことはできなかった。

 

 流れに任せた結果ではあったけど、聞きたかったことを大方聞き出せたらしい。

 伊藤保安部長は、書記役をしている雪が、ミーゼラの話を聞きながらも、きちんとパソコンでその言葉を記録しているのを確認し、

 

「ミーゼラ・セレステラさん、お話と、あなたの意思は伺いました。しかし……ガミラスには戻りたくないとおっしゃいますが……私たちがあなたを下ろすことができるのは、大ガミラス帝星への寄港時だけです。そこはご理解ください。……参考までに、これからどうするおつもりですか?」

 

「……特に、何も考えていないわ。あの人のいない……あの人を否定する、新しいガミラスに協力する気はない……かといって、あの人がいない『旧体制派』にも興味はない。……しばらくは蓄えもあるし、何もせず、静かに過ごしたい」

 

「そうですか。では……ご協力ありがとうございました」

 

 そのまま、聴取は終わった。

 

 ……本当なら、私は……ミーゼラを、地球に誘いたかった。

 

 私が、人と人との関わりの暖かさを知ったあの星で……ミーゼラと共に生きたかった。

 2年前……私があの星で居場所を手に入れてから、ずっとそう思っていた。

 ミーゼラに再会できたら、誘うつもりだった。

 

 でも、彼女はそれを受けないだろう……そう、わかってしまった。

 

 彼女は、ガミラスを……それも、デスラー総統と共に滅んでしまった、旧いガミラスを……それでも、捨てようとはしないだろう。

 たとえそれが、もう……未来に繋がることのない、思っても仕方のないことだとしても。

 

 彼女は、彼女の信じたいものを……最後まで、信じ続けるだろう。

 

 ……それでも、もしかしたら……いつか……

 そんな風に、私の方こそ未練がましく思ってしまっている。

 

 いつかまた、2人で、平和に……そう、戦争なんてすることなく、巻き込まれることもない……平和な時を、行きたい。

 ……そう願うくらいは……していても、罰は当たらないよね。

 

 今はまだ……その深い哀しみに心を閉ざしているミーゼラを……独房に戻っていくその背中を見送りながら……声に出すことなく、私はそう思った。

 

 

 

 



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第93話 M・K・5(マジでキレる5秒前)

 

 

【▼月^日】

 

 イスカンダルにて、ヤマトを『コスモリバース』に作り替えてもらう作業もようやく終了。

 ようやく僕らはこれで、地球に戻れるようになった。

 

 実際の『コスモリバース』を見せてもらったけど、波動砲のコアシステムがあったところに……なんていうか、巨大なカプセルみたいなものがついてた。

 これが、地球を……それも、並行世界のそれを3つ同時に救ってしまえるものなんだなと思うと……感慨深いものがある。僕らの旅の目的は、こうしてようやく果たされたんだな、って。

 

 いやまあ、もちろん、地球に戻ってからコレを使って、地球を救うまでが大事だってのはわかってるんだけどね。

 それでも、明確に旅の、本当のゴールが見えてきたんだと思うと、どうしてもね。

 

 でも、まだ油断しちゃいけない。

 

 エンブリヲやレナードといった、『時空融合』を完遂したい面々は、地球に戻れば……いや、多分戻る前に邪魔して来るだろう。……ひょっとしたら、『コスモリバース』そのものを狙ってくるかもしれない。

 

 今までだって、絶対に邪魔してほしくないタイミングで、必ずと言っていいほど余計な奴らが横からちょっかい出してきて、余計な苦労をさせられてきたんだもんな……。

 

 今言った通り、エンブリヲや、レナード達『アマルガム』。

 それに……まだ推測ではあるけど、エグゼブをさらに裏から操っていた(かもしれない)何者かの存在も気になる……

 

 ……あと、あんまり考えたくないけど……ガミラスの『旧体制派』についてもそうだ。

 ディッツ提督やヒス副総統が主導で動いている『新体制派』には従えない、っていう一部の軍人が、大ガミラス帝星を出奔して行方不明になってるらしい。

 もしかしたらそういう奴らが、逆恨みで襲ってくるかも? こっちも要注意ではあるか。

 

 とにもかくにも、『帰るまでが遠足です』という諺?にもあるように……きちんと旅の道程を全て消化し終えて、目的を完遂する……『コスモリバース』で地球を救うその瞬間まで、油断大敵ってことで。

 帰り道に何が起こっても大丈夫なように、準備は整えた上で進む必要があるだろう。

 

 それと、帰る前にガミラスによっていくことになった。

 

 こないだの、デスラー総統とガーディムの艦隊と、三つ巴でドンパチやった時……何人か、戦いの中でガミラスの軍人その他の捕虜を捕らえたんだが……その人達が今まだ、ヤマトの営倉に入ってるのだ。

 聴取その他はすでに終了しているので、手続きをしたうえで、大ガミラス帝星で彼らを開放することになった。

 

 もう僕らはガミラス(の、新体制派)とは戦う意思はないからね。遺恨の残らないように、きちんと彼らも母国……もとい、母星の土を踏ませてあげないと。

 

 その捕虜の中には、何人か『旧体制派』と思しき人もいるので、若干不安ではあるけど……そのへんは引き渡して以後、ヒス副総統とかに任せることになるだろう。今のガミラスのかじ取りをしてるのは彼らだからね。

 

 ちなみに、解放する捕虜の中には、ミレーネルがずっと探していた、彼女の姉的存在である、ミーゼラさんという人もいた。

 

 もうずいぶん前になるが……ミレーネルがまだ僕の秘書になる前に話してくれたんだっけ。

 惑星レプタボーダの収容所で一緒だった……彼女が知る限り、たった一人の同族。

 辛い時間を2人で乗り越えてきた、かけがえのない存在だから、いつか彼女も助けてあげたい。できるなら、この星でまた一緒に暮らしたい。

 

 そんな風に言ってた相手が……まさか、ガミラスの総統の側近になってたなんてな……。

 しかも、ミレーネル自身は……一度は同じようにガミラス軍に入っていたとはいえ、今は紆余曲折の末、地球にある『サイデリアル・ホールディングス』の会長秘書。

 そして同時に、ガミラスと敵対する『地球艦隊・天駆』の一員。

 

 事実は小説よりも奇なり……とは、よく言ったもんだ。

 

 一応説得はしてみたようだけど、ミーゼラさんは結局、地球に一緒に来るつもりはないって。

 

 けど、なんかガミラスにも戻りたくないそうだ。

 

 彼女は過去に救われた恩から、ガミラス軍の中でも特にデスラー総統に心酔しており……『彼がいないガミラスにいる意味なんかない』とまで言ってたらしい。

 しかし、他に行くあてもないし、そもそも僕らも大ガミラス帝星以外に彼女を下せるような場所はないから、しばらくはそこで暮らすそうだけど。

 

 この先どうするかは、ゆっくり考えるそうだ。

 

 ミレーネルは、かける言葉が見つからなかったそうだ。

 今まで何よりも大切に思っていたものを失い……仲間だったはずのミレーネルには裏切られ……やりたいことも、行く当てもない。生きる意味的なものを、一気に全て失ってしまった形だ。

 

 ……外野がこういうこと言うのもあれだけど……きっと、今は何言っても彼女には届かないか……余計につらくなってしまうだけだろう。しばらくそっとしておいてあげて、気持ちの整理をつけさせてあげた方がいいのかもな。

 

 少なくとも、デスラー総統の敵だった僕らが――直接手を下したわけではないとはいえ――何を言ったところで、ね。

 

 

 

 さて、ガミラス軍の捕虜についてはそんな風に扱うとして……僕らの船は、それ以外にもいろんな捕虜を載せている。

 

 ネオ・ジオンや木星帝国からガミラス軍に移って行動を共にしていた、アンジェロその他の連中については、このまま地球まで連れ帰る予定だ。開放するとしたら、それぞれの故郷にだろうし。

 

 アンジェロは、捕虜になった当初は落ち着きがなかったり、自暴自棄に近い状態だったらしいけど、今はもうすっかり落ち着いている。

 同じように、戦争で人生を振り回された者同士、リディ中尉と最近はよく話してるようだ。

 

 ……この分なら、地球、あるいはネオ・ジオンに戻った後も、しっかりと自分の人生を歩んでいけるだろうと思う。

 またフル・フロンタルについていくのか、それとも違う形で生きるのかはわからんけどね。

 

 それから、彼らに輪をかけて『特殊な捕虜』として扱われてる、ソフィアについて。

 

 こちらも捕まった当初は、そっけなくて自暴自棄気味だったわけだが……とっかえひっかえ色々な人が話しかけて来て交流を持つうちに、割ともう毒気を抜かれたように見える。

 

 最初は、いかにも囚人と被害者の面会って感じで、重苦しいことこの上ない、あんまり同じ場所にいたくない雰囲気を醸し出していた2人。

 

 けど最近はもう、かなめちゃんだけでなく、ヴィヴィアンやココを筆頭に、持ち前のポジティブ&フレンドリーな性格でガンガン押して行って、仲良くなった面々も少なくない。

 彼女達と話している時のソフィアは、普通に同年代の女の子とおしゃべりを――まだちょっとぎこちなくて、探り探りな感じは残ってるけど――楽しんでいるように見える。うんうん、いいことだ。

 

 この分なら、今の軟禁……というか、封印状態を、近いうちに多少なり緩和しても大丈夫かな、とも思ったんだけど……彼女の場合、そもそも肉体がないからなあ。

 

 これは前にヴィヴィアンが言っていたように、ミレーネルと同様の『義体』をプレゼントして、それに封印しなおす形をとるべきか……。

 ノウハウはもうあるから、その気になればすぐ作れるし。

 

 今度、テッサ艦長達に相談してみよう。ミスリルとアマルガムの関係から、彼女の処遇に関して一番的確に相談できそうだし……テッサ艦長自身もまた、彼女とよくおしゃべりしに来る1人だから、どうすべきかの判断を相談するには尚更ちょうどいいだろう。

 

 そして最後に1人。こちらは……もうほぼほぼ『捕虜』としては扱われてないんだけど……ガーディムから奪還した、千歳さんについて。

 

 予想通り、ガーディムに嘘の情報を教えられて、僕らと戦うよう仕向けられていたようだった。

 いや、より正確に言えば……一部しか情報を開示されずに、って感じか。

 

 西暦世界で自分探しの旅?をしていた彼女は、ある日突然ガーディムに招かれ、イスカンダルが波動砲を使って星々を侵略している、という事実を教えられた。

 しかしこの時、それがすでに数千年前のことだとは教えられていなかったらしい。

 

 さらに、イスカンダルが仮に地球を助けてくれたとしても、そんなことを平気でやっているイスカンダルが、ただで地球を助けてくれるわけがない、必ず何か対価を要求され、地球は結果として食い物にされるだろう、とも吹き込んだ。

 

 その結果、イスカンダルを信じられなくなった彼女は、『ガーディムならば君の故郷を救える』というアールフォルツの甘言に乗ってしまい……彼らと手を組むことになった。

 

 ……実際は、ガーディムこそ地球を利用しようとしてたわけなんだけどね。

 助けるどころか、滅んだ後の地球を、ガーディムの新たな母星として活用し、超文明ガーディム再建の足掛かりとするつもりで。

 

 それに、イスカンダルも……まあ、昔はいろいろあったとはいえ、今はきちんと地球のことを助けてくれるつもりだったわけで。

 その辺の誤解は、既に解けている。千歳さんは、自分がうまく利用されていたんだっていうことも、きちんと理解して、反省していた。

 

 そんな彼女をこれ以上責めるつもりの者は、僕らの中にはいなかったわけで。

 イスカンダルに来る前からすでに、千歳さんは晴れて『地球艦隊・天駆』の仲間になっていた。

 

 なお、千歳さんがガーディムで使っていた機体……『マーダヴァ・デグ』は、最後の戦いで総司さんが本気出して攻撃したせいでほぼ大破状態で、修復も不可能だったので、破棄された。

 

 なので、これまでそんな機会はこなかったけど、もし千歳さんが『地球艦隊・天駆』の一員として戦う時には、また別な機体を用意する必要がありそうだ。

 ナインに相談するって言ってたから、これはさほど時間はかかるまい。……ホントに仕事早いからね、あの子。

 

 

 

【▼月^日】

 

 ……今までにも、動揺している心を落ち着けるために日記を書くってのは何度かあったけど……ちょっと今回はまた格別だな……悪い意味で。

 

 書いている最中ではあるが、なんかもう血圧ぐんぐん上昇中って感じである。書くために思い出すとそれだけで、怒りとか苛立ちがこみあげてくる。

 

 エンブリヲ……あの野郎。今度ばかりは絶対に許さん。

 もともと許しちゃいなかったけど、今度こそ絶対に〇す。

 

 ただいま、『ソーラーストレーガー』の艦橋。レーダー機能その他をフルに使って、あのクズヤローを捜索中である。

 

 

 

 何が起こったのかを順に説明すると、だ。

 

 当初の予定通り、『コスモリバース』を受領した僕ら『地球艦隊・天駆』は、イスカンダルを出発し、大ガミラス帝星に捕虜を届けるためにちょっと寄り道した後、帰路に就いた。

 

 その際、なぜかユリーシャさんが一緒に来た。

 彼女は、これからガミラスとイスカンダルの懸け橋になるために、大使として大ガミラス帝星に残るはずだったんだけど……なぜか直前になって、一旦地球まで一緒に行く、と言い出したのだ。

 

 何でそうするのか聞いたら、『お姉さまに言われたから』だそうで。

 それ以上の理由についてはユリーシャさんも聞かされていないらしい。

 

 せっかく大マゼラン銀河に帰ってきたのに、また別の銀河に戻ることになって……大変だな、ユリーシャさんも。

 

 ……思えばこの時、大ガミラス帝星に残っていれば……少なくとも彼女は、この後訪れるとんでもない災難を免れることができたのかもしれない。

 今更思ったところで、遅いけど。

 

 そんな感じで、大マゼラン銀河に別れを告げた僕らは、亜空間を通って一気にショートカットし、地球まで最短スケジュールで帰ることにしたんだが……その亜空間で、襲撃されたのだ。

 

 てっきり『第二バレラス』と共に滅んだ、というか死んだと思われていたデスラー総統と、その部下の『親衛隊』の機体達に。

 どうやら、僕らがこの亜空間を通って地球に帰ると読んで、待ち伏せしていたらしい。

 逃げるのも難しそうだったので、迎え撃つことになった。

 

 亜空間ではその性質として、レーダー系の機能やビーム系の兵器の使用が大幅に制限されてしまうため、戦闘手段が限られる。影響を受けない一部の兵器や、レーザーとかじゃない実弾兵器を使って戦うことになる。

 

 が、こちらはそういうのいくらでもあるので、特に苦労することも実はなかったりする。

 

 ゲッターにマジンガー、グレートマイトガインにエヴァンゲリオン……物理的な攻撃手段を持ち、しかもその威力がえげつないほど強い機体がいっぱいいるし……戦艦各艦にも、ミサイルやら実体弾頭はきちんと搭載されている。

 

 加えて、『ヘリオース』や『ソーラーストレーガー』がメインで使う『次元力』は、この空間の影響を受けずに普通に使えるので。

 

 そんな感じで、奇襲を受けたのには焦ったものの……特段ピンチになることもなく、次々に相手の戦艦を返り討ちにした。

 1機、また1機と、亜空間に散って消えていく、深い青カラーの戦艦達。

 

 ……どうでもいいけど、デスラー総統の親衛隊って、一部の例外を除いて、全員クローン人間で構成されてるらしいね。こないだミレーネルに聞いた。さすがに引いた。

 優秀な兵士とかのクローンを作った上で、生まれた時から徹底的に洗脳教育してデスラーへの忠誠心を植え付けて、裏切る心配のない兵士に育て上げて仕えさせるんだって。

 

 ……まあ、身の安全や、高い水準での能力確保を考えた策なのは理解できるけど……そういうのが禁忌扱いされてる地球人の立場からすると、やばいなそれ、って思う。

 あと、そうでもしないといけないくらいに周囲を信用してないのかな、とも。

 

 ……デスラーについていった兵士の大部分は、実は彼に忠誠を誓っていたっていうよりは、それ以外の生き方をそもそも知らなかった、思いつきもしなかったんじゃないかな……。

 

 そんな風に、合理性を追求しつつ人間性を捨てて回りを固めていたデスラーだが、最後には付き従っていた艦隊をすべて失い……ついには亜空間のど真ん中で孤立無援に。

 

 しかしそれでも、逃走も降伏もせず、それどころか波動砲……もとい『デスラー砲』を撃とうとしていたっぽかったので、ちょっと焦った。

 

 けど、『こんなこともあろうかと』、真田副長が対策をすでに用意していた。

 『七色星団』でのドメル軍団との戦いを参考に、ドリル状の実体弾をあらかじめ用意してあり、それを『デスラー砲』の砲口に飛び込ませることで、砲身自体を損傷させて発射不能にした上、敵のエンジン出力自体も低下させて動けなくしてしまった。

 

 しかも、同じことをヤマトがやられた際は、アナライザーがプログラムをハッキングして書き換え、ドリルを逆回転させて輩出したが、同じことを今回のやつに対してやろうとすると、アクセスした瞬間に真田副長特製のウイルスが逆に流れ込んできて感染、さらに事態が悪化するようになっているという念の入れようだ。

 そうしてシステムが弱ったところに、ダメ押しとばかりにルリ艦長がクラッキングをかけて、艦機能はほぼ完全にダウン。

 

 結果、戦闘どころか移動も防御も何もできなくなってしまった『デウスーラ2世』は、あらかじめセットされていた時限信管が起爆し、内部から爆散。

 外からは、『地球艦隊・天駆』の総力を結集した集中砲火を食らい、散っていった。

 

 その散り際に、通信越しに、狂ったような高笑いと……『あの日の約束も果たせずに、こんなところで死ぬとはな!』なんて言葉が聞こえて来た。

 ……あの男はあの男で、ひょっとしたら、何か理由があって、そのために戦っていたんだろうか。『全宇宙を統一して云々』なんて、絵空事にしか聞こえないような侵略プランとは、また別な。

 

 ……ヤマトの艦橋で、何やら悲しそうな表情になっていたユリーシャさんが、何か知っていそうな気配がしたが……なんとなく、聞けなかった。

 

 

 

 こんな感じで、ガミラスとの最後の戦いはどうにか終わりを告げたわけだが……問題はこの後。

 

 デスラー艦隊の襲撃をしのいで一安心していた僕らの元に、あのクズヤロー……エンブリヲが、何の前触れもなく襲い掛かってきたのである。

 

 しかも、どういう理屈なのか皆目わからないが、エンブリヲは何人も同時に様々な場所に現れ、『地球艦隊・天駆』にいた女性達を次々と誘拐していった。

 

 奴がしつこく執着しているアンジュに加え、森船務長にベルナデット、ラクスさんにユリカさん、テッサ艦長にサリーちゃんにかなめちゃん、そしてユリーシャさんと……ミレーネルまで。

 しかもその際、『おめでとう、君達は私に選ばれたのだよ!』とかなんとか言って姿を消した。

 

 ……同じようなことが、アルゼナルでの戦いの時もあったな、とすぐに思い出した。

 あの時は、アンジュが……花嫁にするためとかなんとか言われながらさらわれたんだっけ。

 

 ということは、今回も……あんのゴミ野郎……どこまでも人を馬鹿にしてくれる。

 

 ってか、中学生や彼氏持ち、人妻まで拉致していきやがって……

 

 ちょっと今回ばかりは本気でキレそう。過去最高レベルにはらわたが煮えくり返ってる。

 そのせいで感情が高ぶりすぎて、スターシャさんが危険視しているものが僕の中で目覚めないかだけ、少し不安だ。

 

 ……そうなったらそうなったで、全部あのクソ下衆野郎にぶつけるだけであるが。

 ごめんスターシャさん、今だけは自重やめるわ。

 

 待ってろあのハーレム野郎、今僕の使える次元力の全てを動員して、二度と復活できないように無間地獄あたりに叩き落してやるからな……!

 

 

 

 



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第94話 ソフィアの決意

 

 

 エンブリヲによって、『地球艦隊・天駆』の女性達が拉致された少し後。

 残された面々は、突如として発生した次元震に巻き込まれた。

 

 それによって転移させられた先は……どこともわからない異空間だった。

 

 そこには、団子のように三つ連なった、融合寸前の状態にあると思しき地球が見えていて……しかし、真田副長の観測結果によれば、それに実体はないとのこと。

 3つの地球はすぐそこに、この空間にあるわけではなく、別な空間の光景をここから観測している結果としてああ見えている、という推論だった。

 

 そしてなぜかこの空間には、西暦世界のエリアDにあったはずのアルゼナル……によく似た施設が存在していた。

 

 摩訶不思議なその光景にをとられていた『地球艦隊・天駆』の面々。

 

 しかしその眼前に、誘拐の主犯格であるエンブリヲと、その共犯者であるレナード達『アマルガム』や、北辰とその部下達。

 そして、どうやら偶然この空間に迷い込んだらしい、ガミラスのゲール達が出現。

 

 さらにゲールは、虎の子として残しておいた、木星帝国最凶のモビルアーマー『ディビニダド』3機と、それに乗り込むクラックス・ドゥガチ(の、クローン)をも戦線に投入。

 

 まさに総力戦とも呼ぶべき、混沌極まる戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 一方その頃、なぜかこの異空間に存在している……エンブリヲ曰く所の『真実のアルゼナル』では……なぜかここにもいるエンブリヲが、さらってきた女性達を前にして、欲望と傲慢の滲み出た表情を隠そうともせずに笑い、得意げに語っていた。

 

「心配いらないよ、アンジュ。第一夫人は、君だから」

 

「誰が何の心配をしてるってのよ、この変態オヤジ……よくもまあこんだけ、恥ずかしげもなく自分の欲望をさらけ出せるものよね……!」

 

 言いながらアンジュは、庭園のようなそこに、自分と同様に連れてこられた、何人もの女性達に目をやる。

 先程『地球艦隊・天駆』から拉致された面々に加え、それぞれの地球や、別な場所にいたはずの女性達も、何人かそこには混ざっていた。

 

 それと同じくエンブリヲも彼女達の方を見て……聞いてもいないのに、1人1人に向けて語り掛け始めた。

 

「ミネバ・ラオ・ザビ……その気高き美しさを私は求める。同じく高貴なる者の持つ責任感が生み出す美のベラ・ロナ……それとは別の、優しさという美のマリナ・イスマイール……何者にも従わない不屈なる美のカガリ・ユラ・アスハ……」

 

 突然このような場所に連れてこられようとも、おびえる様子も見せずに毅然とした態度でエンブリヲをにらみ返す、ミネバ――オードリーと、ベラ・ロナ。憐れむような目で見るマリナに、反抗の意思を隠そうともしないカガリ。

 

「心を落ち着かせてくれる安らぎの美のベルナデット・ブリエット……歌声で戦士達を鼓舞する戦いの美のラクス・クライン……周囲の気持ちを明るくする陽気な美のミスマル・ユリカ………一点のシミもない無垢なる美の吉永サリー………」

 

 動揺や弱気を表に出さずに相対するベルナデッドに、こちらもエンブリヲを憐れむように、嫌悪しつつも何も言わずに見ているラクス。いつもの調子を崩さず、しかし強い意志の光を目に宿して睨み返すユリカ。その背にかばわれているサリーは、理解の及ばない存在を前におびえてしまっているが、彼女の年齢を考えればそれも無理はないだろう。

 

「その知性が生み出す美のテレサ・テスタロッサ……逆境にも悲劇にも屈さず抗い抜いた覚悟の美のミレーネル・リンケ……星をも超えて人々の思いを集める、崇められる美のユリーシャ・イスカンダル……そして、愛する事が生み出す美の森雪……」

 

 何も言わず毅然とした態度のままのテレサに、いら立ちや怒りをこらえ、勤めて冷静にしつつ、機をうかがっているミレーネルと森。ユリーシャはエンブリヲを、汚らわしいものを見るような目で見ていた。同じ地球人でこうも違うのか、という思いを禁じ得ないのかもしれない。

 

 そんな、十人十色の、しかし一様に自分を否定する意思のこもった態度を目にしながらも……エンブリヲは得意げにして、腕を大きく広げ、高らかに言ってのけた。

 

「おめでとう! 君達は私の花嫁に選ばれたのだよ!」

 

 

 ☆☆☆

 

 

「ハハハ! ハハハハハハハ! わしには見えるぞ、滅びゆく地球が! お前達の33万6千光年の旅路も全ては無駄に終わり、憎き地球は終わりの時を迎えるのだ!」

 

「もう……もう、あんたの時代じゃないんだよ!」

 

「消えろ、ドゥガチ! お前の見た光景は幻だ!」

 

「ぬ、ぬおおおおおおっ!」

 

 最後の『ディビニダド』を撃墜し、その機体が爆炎の中に消えていく――もちろん、内蔵されている核弾頭を起動させることはなく――のを見届けた、キンケドゥとトビア。

 

「み、見事だ……テンカワ・アキト……黒衣の復讐者よ……」

 

「もう、俺は復讐にとらわれてなどいない。お前の存在もどうでもいい……さっさと消えろ!」

 

 その向こうでは、アキトが北辰の乗る『夜天光』を、ディストーションアタックの直撃で押しつぶして粉砕し、今度こそ引導を渡し……部下の機体達も、ナデシコ部隊を含む他の『天駆』メンバーによって爆砕され、宇宙に散っていた。

 

「てめえらとの因縁もここまでだ!」

 

「落ちろ……ゲール! 戦士の誇りも知らぬ、ガミラスの面汚しめ!」

 

「ば、馬鹿な……私は、デスラー総統の元で、総統と共にガミラスの再起を果たし、その立役者として栄光を手に……ぬ、ぬわあああぁぁあ!!」

 

 ゲールの乗る戦艦『ゲルガメッシュ』は、ヤマトをはじめとした各艦からの集中砲火を受けて火を噴き……最後に残った砲で一矢報いようとするも、急降下して強襲してきたコスモファルコン隊とメルダのツヴァルケにそれを破壊され……炎の中に消えていった。

 ゲールが忠誠を誓う、デスラー総統が、もう既にこの世を去っていることを、ついぞ知ることもないままに。

 

 その他にも、エンブリヲが繰り出した無人のグレイブ(ラグナメイルの量産型)や、彼に忠誠を誓ったままのターニャとイルマ。

 

 レナード達『アマルガム』――ただし、レナード自身はまだ出てきていないが――の手勢についても、同じASを操るミスリルが主軸となり、側近クラスも含めて次々と撃破していく。

 

 その戦いの中で、高みの見物を決め込んでいるエンブリヲの口から……3つの世界に関する、誰も知らなかった事実が明かされていた。

 

 当初、『地球艦隊・天駆』の面々は、融合しかかっていた『西暦世界』と『宇宙世紀世界』の2つの地球に加え、『新西暦世界』の地球までもがなぜ融合しそうになっているのかと困惑していたが……その理由をエンブリヲは、『最も近いのは『宇宙世紀世界』と『新西暦世界』の2つの地球だから』だと明かす。

 

 実は『宇宙世紀世界』と『新西暦世界』は、かつてエンブリヲとミケーネの戦いで一度滅んだ際に、2つに引き裂かれてしまった……もとは1つだった世界だという。

 それゆえに、2つの世界は互いの影響を大きく受けるし……また、元が同じだったためか、似たような歴史をたどり、同じ名前の人物が歴史の中に登場する。

 

 しかし、2つの世界は完全に同じにはならず、時代も含めて『別の世界である』と断言できるほどの大きな差が、実際には誕生している。それにも、理由があった。

 

 全ての始まりは、『新西暦世界』のおよそ100年前に存在した科学者……『サガラカナメ』。

 

 夫の戦死後――その『夫』については、特に何も資料は残されていないため不明である――異端とも呼べる研究……『過去の改変』にのめりこんでいった彼女は、しかし、生きているうちにその目的を果たすことはできなかった。

 

 だが、彼女が『ウィスパリング』として送った未来の知識は、ソフィアを始めとした、テッサやレナード、そして千鳥かなめといった、『宇宙世紀世界』の『ウィスパード』達に届いていた。

 それらのブラックテクノロジーが、その世界の技術レベルを大きく進め、結果的に『過去の改変』と言って差し支えない現象を引き起こしていた。

 

 惑星フェルディナでレナードとソフィアが千鳥かなめに語って聞かせた、それこそが『罪』。

 並行世界の彼女自身の行動が、ウィスパードという存在を作り出し、またそれによる急激な技術の進歩が、『宇宙世紀世界』における戦争の激化を招いた……ということだった。

 

「なるほどね……そりゃかなめちゃんもショック受けても仕方ないわな」

 

「ですがキャップ、それはあくまで並行世界の……『宇宙世紀世界』のかなめさんのなしたことであり、私たちの仲間であるかなめさんとは関わりはないことです。彼女が気に病む必要性はないと思いますが」

 

「頭じゃわかってても、どうにもならないものってあるのよ、きっと。……かなめちゃん、優しいもんね……まだちょっとしか一緒にいない私でも、よくわかるわ」

 

 納得したように言った総司とは逆に、ナインは理解できないといった風に問いかけた。

 それに答えを返したのは千歳。『自分ではない自分』のやったこととはいえ、それで苦しんでいる人達の存在を知り、他人事には思えなくなってしまったのだろう少女の心を案じていた。

 

 なお、千歳が今乗っている機体は、ナインが新たに作り上げた『グランヴァング』である。

 

 『ヴァングネクス』とは打って変わって、スーパーロボット然とした大型の機体は、見た目通りのパワータイプであり、射撃・砲撃の他に、接近しての肉弾戦も得意とし、タフネスも高い。

 パイロットスキルにおいて総司に大きく劣っている、千歳向けに作られた機体だった。

 

「でもそれ以上に許せないのは、その気持ちを利用してもっと悪いことをしようとしてるアマルガムの連中だよね!」

 

「肯定だ。凶事を引き起こすべく行動している者達こそが全面的に悪いのであって、かなめ嬢が気に病む必要は何一つない。……さて、あらかた片付いたな。これで後は、囚われのお姫様達の救出を残すのみだろう」

 

 ロッティとヴェルトがそう言うと、どうやらちょうど同じことを考えていたらしいジルが、

 

「タスク! ここはもういい、お前はあのアルゼナルもどきに突入してアンジュを助けてこい! 宗介、お前も行け! 千鳥かなめとソフィア、その他のさらわれた女達もあそこにいるはずだ!」

 

「死んでも助けてこいよ! あの下衆野郎に、アンジュに指一本触れさせんな! わかったな!」

 

「宗介、あんたもね! かなめと一緒に高校に帰るんだろ、行ってきな!」

 

「「了解!」」

 

 ヒルダとマオの激励も受け取り、妨害する者のほとんどいなくなった空間を突っ切った宗介とタスクは、それぞれの思い人を救出するために、『真実のアルゼナル』に飛び込んでいく。

 

 その様子を見ていても、エンブリヲは『無駄なことを……』と、自らの優位性を疑うことなく、向かってくるスーパーロボット達を迎え撃つべく、自らも飛び立った。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 ちょうどその頃、さらわれた女性の中で、ただ1人、エンブリヲの元にはいなかった彼女……千鳥かなめは、レナードと相対していた。

 

 そして、レナードの手には、ソフィアが封印されているタブレット端末が持たれている。

 かなめの誘拐時に、エンブリヲが同時に持ち出していたものだ。

 

 レナードはソフィアを開放し、再びかなめに取り憑かせて、『歴史改変』のための最後のピースを埋めるつもりでいた……が、

 

「なんだと……それはどういう意味だ、ソフィア?」

 

『今言った通りよ、レナード。……もう、私はあなた達には協力しない』

 

 全く予想外の理由で、その計画は頓挫しようとしていた。

 自らの幸せのために、失った人生の『やり直し』のために、『歴史改変』を望んでいたはずのソフィアが……ここにきて意思を翻すようなことを言っているのだ。

 

「いったいどういう意味だ……連中に説得でもされて、絆されたのか? 君の決意は、絶望は……そんなに安いものだったのか、ソフィア?」

 

『それは……わからないわ。正直、今でも、やり直したいとか、平和な人生をもう一度取り戻したいっていう気持ちはある。同じようにそれを望むあなた達の思いも、理解しているつもり』

 

「なら……」

 

『でもね……気づいたの。全部リセットして、幸せな人生をやり直す……でもそれはつまり、今のこの世界を、そこにある全部を否定してしまう……台無しにしてしまうことなんだって』

 

「それの何がいけない!? こんな人生に、こんな世界に、歴史に、意味なんてないと思ったからこそ、君は俺の手を取ったんじゃないのか! いまさらそんなきれいごとで……」

 

『……相良宗介に聞いたの。彼が最後に、Mr.K……カリーニン少佐と戦った時に、少佐がなぜアマルガムについたのかを聞いたんだって。……レナードは、その理由を知ってた?』

 

「……面と向かって聞いたわけじゃないが……戦争で失った妻との再会をあの男は望んでいた。それが理由だろう。それがどうかしたのか?」

 

『それだけじゃなかったみたい。少佐は……相良宗介のことも、案じていたそうよ』

 

 飛行機事故からただ一人生還し、天涯孤独となった宗介。

 カリーニン少佐によって救出された時、震えながらぬいぐるみを抱いていたその少年は……数年後、少佐が再会した時、硝煙漂う傭兵の世界で、銃を手に生きていた。

 

 恐らくは何の変哲もない一般家庭に育つはずだった……しかし、全てを失ったがために、傭兵として歩んでいくしかなかった宗介の姿を、カリーニン少佐は例えて言った。

 

 

「お前は……狼の群れの中で育った子羊だ」

「血に飢えることもないし、肉を貪る必要もないのに、狼のふりをしてきた……そうしなければ生きられなかった」

「これほどいびつで、これほど悲しい生き物がどこにいる……?」

 

 

『カリーニン少佐も、相良宗介のことを……助けたいと思ってたんだよ』

 

「……仮にそうだとして、それなら歴史を作り替えれば……その通りになるだろう! 相良宗介は傭兵になんてならず、死ぬこともなかった両親と幸せに……」

 

『でもそうしたら、少佐が彼のことを大切に思っていた……っていう、その事実までなくなっちゃうんだよ。それだけじゃない……ともに戦って、裏切られて、それでも最後にちょっとだけ仲直りして……それを糧にした相良宗介の決意も、少佐の覚悟も、彼を愛したかなめの心も、全部……そんなのは、嫌……』

 

「っ……どれもこれも、根っこのところの悲劇が原因で起こったことじゃないか! それを取り除けば、世界はよりよく……いや正しい歴史を歩みだす!」

 

『けど、そうしてやり直した世界でも、きっと嫌なことは起こるよ。その時レナードはどうするの? また『世界が悪いんだ』ってそれにそっぽを向いて、それ以外の全てもまとめて否定して……また同じことを繰り返すの?』

 

「それは……」

 

『レナードのところにいた時は、同じように過去を変えたい人がたくさんいるんだから、そうすることが正しいんだって、それで全ての人が救われるんだって思った。でも……違った。そうじゃなかったんだ……大事なのは、そんなことじゃなかったんだよ』

 

 画面越しでではあるが、ソフィアはレナードの目を真正面から見て、一言一言はっきり話す。

 

『誰だって同じ。世界はいつだって、『こんなはずじゃない』ことばかりなんだよ……あなた達のところを離れて、かなめたちと一緒にいて、話して……それがよく分かった。辛い過去を持っている人が大勢いるってことは……それと同じだけ、辛い過去を乗り越えて、今の、未来の幸せをつかもうと頑張ってる人がいるってことなんだ。それを台無しになんてしちゃだめなんだよ……!』

 

「ソフィアの言う通りだと思う……きっと、あなたの言う『サガラカナメ』は、その悲しさや苦しさに耐え切れなかったんだと思う。それを否定する気にはなれない……。それでも、私は……何が起こっても、どれだけ辛くても、今こうして、宗介達とかけがえのない時間を過ごせた、この人生を大切にしたい。だから、あなた達には協力できない!」

 

 かなめも一緒になってそう言い切ると、レナードはぎりっ、と奥歯をかみしめて鳴らし、

 

「だから受け入れろっていうのか、俺にも!? 親に捨てられた過去も……妹と袂を分かった過去も……手に入るはずだったもの全て失った、こんなクソみたいな人生も!?」

 

『……それをやり直したいと思うのは……家族を……テッサを……あなたが大切に思っているからでしょ?』

 

「……!」

 

『裏切られた事実なんて……敵対してしまったことなんて認めたくない。そんなことはなかったことにして、元通りに『皆で』幸せになりたいと思ったんでしょ? ……今の世界を否定したら……あなたのその思いも……』

 

「……っ……それでも、俺は……! ぐっ!?」

 

 その瞬間、部屋のドアがけ破られ、銃声が鳴り響く。

 

 直前で察知し、間一髪でそれをかわしたレナードだが、その拍子にタブレットを取り落としてしまう。

 同時に宗介が突入してきて……床に煙幕弾を叩きつける。

 

 レナードが怯んだ隙に、かなめの手を取り、床に落ちているソフィアの入ったタブレットを拾い上げ……素早くその場から走り去った。

 

 その背中を……何もせず……銃を構えることすらせず、レナードは見送った。

 

 その目は……前を見ているようで……何も映してはおらず……まるでどこか遠く、全く違うものを見ているかのようなそれだった。

 

 

 

「このまままっすぐ走れ! 途中にいた人間サイズのASは片付けておいた、もう邪魔する敵はいない」

 

「ありがと宗介! 外はどうなってるの?」

 

「外の敵は、ガミラスの戦艦を含めて既にあらかた片付いている。ここに来る途中、森船務長とミレーネルの先導で避難している最中の女性達とすれ違った。アンジュはタスクが助けに行っているから奴に任せればいい……あとはレナードと、エンブリヲとの決着だ」

 

『……相良宗介。レナードは……』

 

「……すまん、突入のタイミングを計っていたから、途中から聞いていた」

 

 少しだけ声のトーンを落として、謝罪交じりに言う宗介。

 

「奴の事情も大佐殿からおおよそ聞いていた。……それでも俺は、奴が立ち向かってくるなら……俺の大切な『今』を、そして未来を守るために戦う。……奴も、同情を望んでいるわけではないだろうからな」

 

「わかった。そのへんはあんたに任せる。それでいいよねソフィア?」

 

『うん。……相良宗介、レナードは……ここに来るまでいろいろなものを失って、犠牲にして……もう止まれなくなってるんだと思う。でもそれじゃあ……いろんなものを無視して自分の欲しいものだけを見るようになったら、あの男と……エンブリヲと同じになってしまう』

 

「そういう言い方をするってことは……レナードはまだそこまでじゃないということか」

 

「確かに、エンブリヲと比べるようなこと言ったら、『一緒にするな』って不愉快そうにしてたっけ」

 

「朗報だな。敵であることに変わりはないが……まだマシだということだ」

 

『……相良宗介。レナードを止めてあげて。きっと、それだけが彼を……』

 

「……ああ、わかった。ソフィア……千鳥の思いも、お前の思いも、一緒にもっていく。そして……あいつに鉛玉と一緒にぶち込んでやる!」

 

 

 

 ある者は考えを改め、未来への希望を信じることを決め、

 

 ある者はそれでもなお、手に入ったはずの過去を取り戻すことを求め、

 

 ある者は、邪魔なもの全てに耳をふさぎ、目を背け、理想とするものだけを全て手にして悦に浸ろうとする。

 

 そしてある者は、その傲慢と独善を否定し、今と未来を守るために戦う決意をより固くする。

 

 3つの地球の、過去と今と未来をかけた戦い。

 その決戦の時が、とうとう訪れようとしていた。

 

 

 

 



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第95話 箱庭の終焉

 

 

 宗介とタスクが、互いのパートナーの救出に動いているのと同じ頃。

 

 連れ去られた女性達は、森雪とミレーネルの先導により、どうにか開けた庭園のようなスペースにたどり着き……しかしそこには、すぐ前にも見たばかりの顔が待ち受けていた。

 

 見る者の神経を逆なでする、こちらを見下した笑みを浮かべるエンブリヲが。

 

「その行動力もまた、君たちの魅力だ。しかし、これから私の妻となるのだから、あまりわがままばかり言っていてはいけないよ。まずは夫となる私の―――」

 

「消えろ」

 

 ―――ドスッ!!

 

 そこまで言ったところで、突如としてエンブリヲの背後に現れたミツルが、抜き放った光の剣(ライトセイバー)で背後からその胸を一突きにして貫き……同時にそこから次元力を注入。

 体内から膨大なエネルギーが光炎となって噴き上がり、一瞬にしてその体を焼失させた。

 

「……コレの名前、『リボル〇イン』とかにしようかな……まあいいや。ミレーネル、皆も……無事みたいでよかった」

 

「ミツル!」

 

 その姿と、エンブリヲが消滅した光景を見て、女性達の……特に、先頭に立っていたミレーネルの顔に、わかりやすい安堵と歓喜が浮かぶ。

 

「よかった、来てくれたのね……っていうか、今いきなり現れなかった?」

 

「ほら、最近僕、次元力で転移使えるようになったからさ。その応用……っと、残りも来たか」

 

 その言葉に、ミレーネル達が、ミツルの視線が向いている方を見ると……建物の扉を乱暴に開けて、宗介とかなめが、ソフィアの入った端末を持って出てくるところだった。

 どうやら、無事にレナード達の追っ手を振り切って救出できたようだ。

 

「お疲れ宗介。……タスクは?」

 

「別行動だ。アンジュを迎えに行っているはずだが、あいつのことだし心配は……」

 

 宗介が言い終わるより先に、別な方向の建物の影から……タスクのアーキバスと、アンジュのヴィルキスが飛翔し、戦場に飛んでいった。

 

「どうやら、あっちはうまくやったらしい。アンジュは直接ヴィルキスを呼んだようだな」

 

「ああ、そういや呼べば来るんだっけアレ……それならここにいるメンバーで救出対象は全員だね。じゃ、それぞれの艦に送るから、皆動かないで」

 

「? ミツルさん、送るってどうやって……」

 

 テッサがそう、声に出して尋ねたかどうかというタイミングで、ミツルはすでに次元力の行使を始めていて……女性達の体を、緑色の光が包んでいく。

 そして、次々にその身を一瞬で転移させ、この場から消していった。

 

 森とユリーシャ、ベラとベルナデッドはヤマトの艦橋に。

 オードリーはネェル・アーガマに。

 マリナとカガリはプトレマイオスに。

 ラクスはエターナルに。

 ユリカはナデシコCに、それぞれ転移させる。

 

 転移させた先で、突然光と共に彼女たちが現れたのに、各艦のクルーたちは驚いていたが、すぐにその帰還を喜び、保護のために、あるいは直ちに指揮系統に戻ってもらうために動き出した。

 

「なんか地球とかで留守番してるはずのメンバーまでいたんだけど……あのヤローどんだけ好き勝手に連れ出してたんだよ。宗介、かなめちゃんはどうする?」

 

「大佐殿と一緒にダナンに頼む。千鳥、大佐殿もよろしいですか?」

 

「あ。うん……」

 

「え、ええ……ミツルさん、こんなこともできるようになったんですか? 個人単位のジャンプ……いえ、量子転送? その……すごい、ですね……」

 

「どうも。じゃ、送ります」

 

 そう言って、かなめとテッサ(と、ソフィア)をダナンに送り、最後に……

 

「じゃあ、ミレーネル。サリーちゃんと一緒にソーラーストレーガーに送るから。で、戻して早々悪いんだけど、艦の操縦頼めるかな? 僕は『ヘリオース』で出るから」

 

「いいけど……何しに? って……聞くまでもないか」

 

「そりゃあもちろん……」

 

 言いながら、ミツルは宗介とちらりと視線を交わす。

 宗介もまた、これからやるべきことを理解していて……こくりと力強くうなずいていた。

 

「……今度こそ、決着(ケリ)をつけに」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 北辰、ドゥガチ、ゲール……アマルガムの幹部達。

 待ち受ける強敵達を次々に撃破。

 

 突入したタスクと宗介により、連れ去られたアンジュとかなめ、その他の女性達も無事に救出され……それぞれ元居た場所に、ミツルの次元転移によって戻された。

 

 奪ったはずのものが次々と取り戻され、何一つ自分の思い通りにならないことに業を煮やしたエンブリヲは、自らヒステリカで出撃。

 

 時を同じくして、ベリアルに乗り込んだレナードもまた、戦場にその姿を現した。

 

「この私に選ばれていながら、こうも不快な思いにさせてくれるとはな……優しく手折るつもりでいたが、少しばかり躾をしてやらねばならなぐおっ!?」

 

 ヒステリカにエネルギーを漲らせ、戦場全体を見下ろしながら、いら立ち交じりに放った言葉だったが……その言っている最中に、宗介が放った空対空ミサイルが直撃。

 

「獲物を前に舌なめずり……三流のすることだ。ミスルギ皇国での戦いから、何一つ学ばなかったと見えるな」

 

「貴様らっ……レナード、何をしている! さっさとそんな雑魚は片付けて、奴らに身の程というものを教えてやれ!」

 

「俺に指図するな、クズが」

 

「何っ!?」

 

 こちらはこちらで、宗介の乗るレーバテインと対峙しているレナードに対して怒鳴りつけるエンブリヲだったが、仮にも共犯者であるはずのレナードからも、本気の嫌悪と共に罵声を叩きつけられ、唖然とする。

 しかし、すぐにその事実もまた、エンブリヲの怒りに火をつける要因となった。

 

「どいつもこいつも……っ! だが、この時の狭間の世界では私は無敵だ! 貴様らごときがどれだけ足掻こうと、私にその刃が届くことなど無いと知れ!」

 

 言うが早いか、エンブリヲは今の宗介のミサイルでできた損傷をたちまちに直してしまう。

 新品同様の姿になったヒステリカを見て、ちっ、と舌打ちの音を響かせるアンジュ。

 

「ミツル! あれってエグゼブ一味が使ってたのと同じ『魔のオーラ』ってやつじゃないの? だったらあんたの『事象制御』か、サリーのイノセントウェーブで……」

 

「違うよアンジュ! あれは次元干渉とは別物! イノセントウェーブじゃだめだわ!」

 

 と、それを遮って割り込む形で、ダナンの艦橋からかなめが声を張り上げた。

 

 ウィスパードの知識に加え、ソフィアがもたらした情報も加えて解析・推察を進めていたかなめは、エンブリヲが何度も機体を、そして己自身を復活させる仕組みを見破っていた。

 

「あいつの不死身はこの空間そのもののせいよ! この『時の狭間』は色々な並行世界にアクセスできる空間なの。あいつは他の平行世界の自分自身を観測して、その情報と同期させることで、何人も同時に出現したり、傷ついても死んでも、即座に最善の状態に戻したりしてるのよ!」

 

「すまん千鳥! もう少しわかりやすく頼む!」

 

「要するに、パソコンで行うコピー&ペーストと同じだ。エンブリヲは並行世界の自分を利用して『万全な自分』『万全な機体』のデータをあらかじめクリップボードにコピーしておき、損傷するたびにデータを貼り付けして上書きしているということだ」

 

 真田副長がさらに補足する形で付け加えた。

 

「そういうこと! つまりこの空間にいる間はエンブリヲは何度でも復活しちゃうの! だから……この世界をぶっ壊せ!」

 

「世界を壊す……それなら!」

 

 かなめの示した突破口。それを切り開くべく、アンジュはヴィルキスのコクピットで『永遠語り』の歌を響かせる。宇宙の法則をメロディーに置き換えた、世界を破壊する歌を。

 しかし、それをエンブリヲは、無駄だと断じてあざ笑った。

 

「その歌は確かに宇宙を支配し、世界を破壊するだけの力を持っている……だが、君達の知っている『永遠語り』のメロディーは、本来の、完璧な『永遠語り』の一部でしかない! 完璧な永遠語りを再現するためのメロディーは、始祖連合国にも、竜の民にも伝わってはいないのだから。必要なハーモニーが完成しない! 理を破壊するには足りないのだよ!」

 

 アンジュやサラマンディーネの知る歌は、全体の一部でしかなく、それだけでは完成しない。

 ゆえに、『ディスコード・フェイザー』という、ただ破壊だけを引き起こす兵器を起動させることはできても、世界を、理そのものを壊すことはできない。

 

 そう言って嘲笑うエンブリヲだったが……その直後、余裕の笑みが見事に消失した。

 

 ヒステリカのコクピットから観測できている、この空間……『時の狭間の世界』の状態を見て。

 

「これは……どういう事だ!? 『永遠語り』が……統一理論のメロディーが、完璧なハーモニーを生み出しているだと!? 馬鹿な、始祖連合国も竜の民も知らないパートを誰が歌っている!?」

 

「この歌……エターナルからか? ということは……」

 

「ラクス……!」

 

 いち早く気付いたのは、シンと、キラ。

 それを聞いた『地球艦隊・天駆』の面々や、驚愕するエンブリヲの視線が向けられた先……エターナルの艦橋で歌を紡ぐラクス。

 

 失われたはずのメロディーは、タスクを最後の末裔とする『古の民』と古くから交流のあった者達へと……そして、現代のコーディネーターの歌姫へと受け継がれていた。

 予想だにしなかった事態に狼狽するエンブリヲだが……すでに遅く、自分を無敵たらしめていた空間は崩壊を始めている。

 

「やめろアンジュ! やめろラクス! 馬鹿な、私の世界が……『時の狭間』が……! や、やめろぉぉおおぉぉっ!!」

 

 最早最初の余裕など消えて失せたエンブリヲの悲鳴が響く中、アンジュとラクスの歌は、『時の狭間』に響き渡り……世界は、ほどけるようにして消えて失せた。

 

 

 

 次の瞬間には……景色は一変していた。

 

 そこにあったはずの、地球が3つ連なった光景はどこにもなかった。

 『真実のアルゼナル』はすぐそこにまだあるようだが、見る限り、通常の宇宙空間だ。

 

「あの空間……『時の狭間の世界』とやらは、無事に破壊できたようだな。それで我々やあの建物は、通常空間にはじき出されたのだろう」

 

「なるほど。つまり……あの野郎はもう復活できねえってことだな!?」

 

 隼人の言葉で状況を理解した竜馬は、真ゲッター1を超高速で宇宙空間を飛翔させる。

 

「なんという、ことだ……私の世界が……真実のアルゼナルが……はっ!?」

 

 ショックのあまり愕然としていたエンブリヲは、それに反応が追いつかず……横一文字に振るわれたトマホークで機体を真っ二つに両断される。が……

 

「……っ……この私を……なめるな!!」

 

 次の瞬間、ヒステリカは即座に元の状態に回復した。

 

「『時の狭間の世界』がなくなっても、完全に並行世界を観測できなくなったわけではない! 今まで蓄積したデータがあれば、ヒステリカ自身の力のみでアクセスすることは可能……お前達を全員始末してから、また新たにあの世界を構築するまで!」

 

「けど、あの空間がなくなった以上、あんたの再生はもう無限には行えない。再生が追いつかないペースで倒し続ければ、ダウンロードしきれなくなってパンクするはずよ!」

 

 かなめに言い当てられたエンブリヲは、自分が今、かつてないほどに追い詰められた状況にあることを改めて認識させられる。

 それに追い打ちをかけるかのように……ギラギラとした凶悪な笑みを浮かべて、アンジュが無慈悲に言い放つ。

 

「なるほど。つまり……限界がきて死ぬまで、ひたすら殺し続ければいいってことね!」

 

「この期に及んで、まだ私にそのような口を利くか……アンジュ! こうなれば手段は選ばない……君は、力ずくで私のものに……」

 

「何が『こうなれば』よ! あんたは最初からそうだったじゃない!」

 

「そうでなければ、人の弱みに付け込むか……」

 

「人の大切にしているものを盾に取るか……」

 

「人を騙すかじゃない!」

 

 サリア、エルシャ、クリス……一度はエンブリヲに惑わされた3人が、今度は真っ向から彼を否定する。

 仲間を、親友を惑わされ、奪われかけたロザリーやヴィヴィアンもまた怒りをあらわにし、

 

「要するにロクでもないやり方しか出来ないって事だな!」

 

「そこでクイズです! あいつに相応しい名前は何でしょう!」

 

「史上最悪のクズ野郎!」

 

「存在が許されない最低人間!」

 

「エンブリヲ! お前は神でも、調律者でもない!」

 

「ただの下衆よ!」

 

 ヒルダが、サラマンディーネが、ジルが、そしてアンジュが、立て続けに、遠慮も何もない罵倒をぶつけ……常の余裕はきれいにどこかに消えて失せた。

 額に青筋を立てるエンブリヲは、見下してきたノーマ達にこれでもかと自分を否定され、怒りのままに力をふるおうとして……

 

「言っとくけど」

 

 その瞬間、真上から突如として太陽のような火球が落下してきて直撃、大きく機体を破損させながら体勢を崩した。

 

「お前にムカついてるの、女性陣だけじゃないから」

 

 その眼前に、ダーツか何かを放り投げたような姿勢のヘリオースが移る。

 さらにその後ろからは、魔神パワーによってその身を変容させたマジンガーZEROと、ブラックサレナが、

 

「これまでさんざんいろんな場面で邪魔をしてくれて……」

 

「誰も聞きたくもない、耳が腐るようなナルシスト語録を披露して……」

 

「面白半分に戦いをあおり、人々が望んだ平和を歪ませ……」

 

「挙句、てめえのわがままで地球を滅ぼそうとするようなスットコドッコイが!」

 

 さらにダブルオークアンタ、そしてヴァングネクスが……

 

 いや、その他の、『地球艦隊・天駆』の男性陣の機体が前に進み出る。

 

 花嫁にするなどという妄言を残して仲間を攫われ……とりわけ、自分の恋人や妻をその毒牙にかけられそうになった者達からは、途方もない怒りがほとばしっている。

 

「ハイクを読め、腐れ外道。お前に、明日は、来ない」

 

 

 

 



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第96話 スーパーフルボッコタイム

はい、皆様お待ちかねのお時間。

そして今回、ごく一部ですが台本形式?な部分がありますのでご了解ください。
いやほら、Vプレイ済みの人ならわかるかもですけど、しゃべる人が多すぎるシーンがあるので…

では、どうぞ。


 

 

 合図など、必要なかった。

 

「お、愚か者共め! 私は調律者だぞ! この世界の―――」

 

「お前は、もう……」

 

「口を、開くな!!」

 

 スカルハートとフルクロスを駆り、キンケドゥとトビアが左右から追い込んでヒステリカを切り刻む。

 傷だらけになって動けなくなったところを蹴り飛ばし、距離ができたところに、それぞれが放ったピーコックスマッシャーが直撃してハチの巣にした。

 

 その傷も即座に修復するエンブリヲだが、何かを言う前に今度は、最高速度で飛び込んできたアキトのブラックサレナが、ディストーションアタックで激突してくる。

 そのままヒステリカを轢ね飛ばし、縦横無尽に変則的な軌道で何度も激突。ハンドカノンも放って反撃も回避もさせずに打ち据える。

 

「もう、二度と……俺とユリカは、引き離されん……!」

 

 まるで交通事故検証用のダミー人形のように、関節があらぬ方向に曲がり、ボロボロになって空間に放り出されたヒステリカを、とどめとばかりにその拳で打ち抜いた。

 

 胴体に開いた大きな風穴がふさがるよりも早く、今度は、澄んだ緑色の光をまとったユニコーンガンダムと、赤い光を炎のように纏ったゼータが突撃して来る。

 

「お前みたいな、人を人とも思わない奴がいるから……」

 

「戦争で、大切なものを失って……心を壊す人が生まれるんだ!」

 

 サイコフレームの光をまとった拳が叩きつけられて機体が跳ね上がり……その直後に、ウェイブライダーに変形したゼータが激突して、胸の風穴からヒステリカをバラバラに砕いて貫く。

 

「あんたに奪われた人の命を、人生を……何だと思ってるんだよ!」

 

 その残骸を、離れた位置から狙っていたジュドー。

 ダブルゼータのハイ・メガ・キャノンを最大出力で放ち、もはや残骸でしかなくなっていたヒステリカを蒸発させる。

 

 しかし、その状態からでもヒステリカは復活し……怒りそのままに剣を抜いて切りかかろうとして……しかしその瞬間、三日月と日輪を模したエネルギー弾が直撃、その場に縛り付けられる。

 

 そこに、ザンボット3とダイターン3の放った飛び蹴りが命中し、またしてもたちまち半壊までもっていかれるヒステリカ。

 

 さらに今度は、前後左右から怒涛のように襲い来るガンダム達。

 

 シンのデスティニーが斬りつけ、キラのストライクフリーダムと、アスランの∞ジャスティスが撃ち抜き……後ろに下がって逃げようとしたところに、背後から、ハサウェイの乗るΞガンダムのファンネルミサイルが直撃。

 

「お前の存在は、危険以前に……害悪そのものだ!」

 

「ここで駆逐する……対話は、必要ない!」

 

 抵抗する暇もなく振り回されるヒステリカを、アムロのνガンダムが放ったフィン・ファンネルが全方位から包囲して撃ち抜いていき、その隙間を縫うビームライフルの一射が胸に大穴を開ける。

 

 さらに、そのビームの嵐の中にトランザムで飛び込んだ刹那のクアンタ。

 目にもとまらぬ早業で、量子ジャンプも交えた死角皆無の連続攻撃を叩き込み、最後の一撃で機体を両断する。

 

「ダブル……動輪剣!」

 

 その後さらに復活したヒステリカは、2本の動輪剣を連結させて長大な刃を手にしたグレートマイトガインが向かってくるのを、『ディスコード・フェイザー』で迎撃しようとし……

 

「遅い! もう、お前には何もさせん!!」

 

 しかし、その準備が整う前に、視界の端に映った宗介のレーバテインが放った、破壊の意思がこれでもかと込められた、ラムダ・ドライバを全開にして放たれたエネルギー弾の暴威が直撃。

 あまりの衝撃と爆風に、洗濯機の中でかき回されているかのように空中で無様に踊り、

 

「正義の、力を……」

 

『今、ここに!』

 

 舞人とガインの、悪を許さない2つの意思が1つになった斬撃を受け、真っ二つになった。

 

「おのれぇええ! 私は……私は、調律者だ……この私の意思にどこまでも逆らいぐはあっ!?」

 

 復活と同時にさらなる破壊が襲う。

 

 その背後から直撃した、エヴァンゲリオン初号機の巨大な拳がヒステリカを殴り飛ばし……その直後、シンジの両目が赤い光を放つ。

 

「地球は……お前なんかの好きにはさせない!」

 

 一瞬にしてその姿を『疑似シン化』形態に変えた初号機は、右腕からATフィールドを応用して放った強烈な衝撃を放ち、追撃で目からレーザーのような光線を発射。

 その両方が直撃し、ヒステリカは粉微塵に粉砕された。

 

「隼人! 弁慶! いくぞ!」

 

「「おう!」」

 

 そこに真ゲッター1が、両の掌の間に、すさまじいエネルギーを収束させた光球を作り上げる。

 それはたちまち、巨体の真ゲッター1が担いで持つほどの巨大さとなり……それを竜馬は、エンブリヲめがけて勢いよく放り投げた。

 

「ストナァァアァァアサァァアァンシャイン!!」

 

 何一つ残さず全てを無に帰すほどの爆風の中にのまれたエンブリヲだが、それでもなお執念で機体を再生させる。

 ただひたすらに打ちのめされて破壊され、そのたびに復活して……しかし何もできずにまた倒される。その繰り返しが延々と続くこの屈辱に、エンブリヲは額に青筋を浮かべて怒りをあらわにしていた。

 

 しかしその眼前に……あろうことか、まだ収まっていない爆風の中を突っ切って……終焉をもたらす黒鉄の魔神が現れる。

 

 ヒステリカを頭からわしづかみにし、そこについた女神像を握り砕くマジンガーZERO。

 その胸の放熱板が、形容すら難しいレベルの暴力的な超高熱を帯び始め……次の瞬間、ほぼゼロ距離でヒステリカめがけて放たれる。

 

「くらえ……ファイナルブレストノヴァァァアァッ!!」

 

 逃げることも許されぬままに、赤い灼熱の光線が放たれる。

 宇宙のかなたまで色褪せずに飛んでいくほどの。凶悪どころではないそれの直撃をくらったヒステリカ。その首から下は、跡形もなく焼失していた。

 

 無残に焼け残った頭部は、真上に放り投げられ、牙のように割れたマジンガーZEROの口元から放たれたとどめのルストハリケーンで、塵になって消えていった。

 

「なぜだ……なぜ私が、調律者たる私がここまで何もできない!? こいつらの、これほどの力は一体どこから出てくる!?」

 

「それがわからないようじゃ……てめえは一生。猿山の大将にすぎねえよ!」

 

 そこに降り注ぐ無数のミサイル。

 『ヴァングネクス』が放ったそれは、復活したヒステリカの逃げ道をふさいで追い詰めていき、立て続けに撃ち込まれる電磁加速砲が痛打を叩き込む。

 

「先程から回復速度が徐々に遅くなっています。もうひと押しです、キャップ!」

 

「そりゃ朗報だ! よぉし……こいつで落ちろ、クズ野郎がっ!!」

 

 爆炎の中を突っ切って突撃したヴァングネクスが、ゼロ距離でヒステリカに陽電子砲『瞬雷』を発射。

 膨大なエネルギーの奔流の中で、装甲から何から消し飛ばされながらも、エンブリヲはまた再生を行い……しかしナインの言っていた通り、先ほどから徐々に直りが遅いのをはっきりと感じていた。

 

(ヒステリカから並行世界へのアクセスが途切れかけている! まずい、このままでは本当に限界が……復活のためのエネルギーが……)

 

 かつてないほどの危機に、この上ない屈辱を感じながらも、ここはどうにか離脱して引くべきかと考えたエンブリヲは、復活しながらそのルートを模索し……残り少ないエネルギーを集中させてブースターを一気に直す。

 それと同時に、目くらましに使うために、今自分が呼び出せる無人機を全て一度に呼び出し、壁にする。それらに『天駆』の目が向き、手がふさがっているうちに逃走を図る。

 

 が、それすらも事前に読まれていたことを、次の瞬間エンブリヲは思い知らされる。

 

「撃ち方、始めぇ!!」

 

「打ちー方ー、始めー!!」

 

 ヤマトの艦橋、沖田艦長と古代の号令で始まった集中砲火。

 ヤマトのみならず、ラーカイラムにネェル・アーガマ、エターナルにプトレマイオス、ナデシコCにトゥアハー・デ・ダナン、真ゲッタードラゴンそしてソーラーストレーガーに至るまで、『地球艦隊・天駆』の全艦がその砲火を浴びせて、エンブリヲもろとも無人機の軍団を粉砕していく。

 

「この期に及んで逃げられると思わないことね」

 

「本当に、どこまでも醜い男……人々の命をもてあそび、世界に混乱を巻き起こした罪は……」

 

「今、ここで、償ってもらいます!」

 

「償いようもないでしょうけどね、あんたごときの、一銭の価値もない命じゃあ!」

 

 スメラギが、ラクスが、テッサが、ミレーネルが立て続けに言い放つ。

 爆炎の中でもその声は聞こえていたのか……せっかく自分が花嫁にしてやろうと思っていた女達からの、侮蔑のこもった声を聴いて、エンブリヲは我を忘れるほどの屈辱と怒りに染まった。

 

「どこまでも、この私を……世界の創造者にして調律者を、愚弄するかあ!!」

 

 怒りのままに爆炎の中から飛び出し……さすがに視界が効かなかったせいで一瞬、天駆メンバーの反応が遅れる中、エンブリヲは最も近くにいた、トゥアハー・デ・ダナンめがけて飛ぶ。

 そして両肩を展開し、ディスコード・フェイザーで自分を否定した者達を、その破壊衝動のままに粉砕しようとし……

 

 しかしその瞬間、

 

「なるほどな、キモイ男というのは……こういうものか」

 

 ヒステリカの胸を……背後から、レナードの乗ったベリアルの手刀が貫いた。

 

「レナード!?」

 

「なっ……れ、レナード、貴様……なぜ……!?」

 

 エンブリヲと『地球艦隊・天駆』の戦いが始まるより、わずか前。

 宗介との一騎打ちの末に、敗北して墜落……戦線を離脱していた、レナートとベリアル。

 

 ミスリルの陸戦部隊に回収・拿捕を頼んでいた彼だが、完全に落ちてはいなかったらしい。

 

 それがしかし、なぜか今になってエンブリヲを裏切るような形で……不意打ちの一撃で、ダナンへの攻撃を阻止していた。

 

「もうわかってるんだろう、俺たちの負けだと……なら、最後くらいみっともない真似はよせ。……まったく、こんなのと同じようなことをしていたとはな……今更ながら、自分が嫌になるよ」

 

「れ……レナード、貴様ぁああぁぁあっ!!」

 

 直後、強引に胸からベリアルの手を強引に抜き取ると、振り向きざまにヒステリカは手に持った剣を一閃させ……ベリアルを深々と切り裂いた。

 

 既に半壊以上の状態になり、ラムダ・ドライバも最早ほとんど出力を保っていないベリアルに、その一撃を防ぐ術はない。

 完全に致命傷と言える傷を負ったベリアルは、そのまま、今度こそ力なく墜落していき……その真下に回り込んで受け止めた、ダナンの上に落下し、動かなくなった。

 

 そして、怒りで周りが見えなくなったエンブリヲに……この戦いの始まりの時と同じ、太陽を思わせる巨大な火球が直撃。

 まき散らされた爆炎が周囲の空間ごとヒステリカを焼き滅ぼす。

 

「あいつを認めるつもりはないが……本当にその通りだよな。ここにきて今更、逃げようとするわ八つ当たりに出るわ……一体どんだけ頭ン中無惨なんだよ、お前はさあ……えぇ!? エンブリヲ!!」

 

 その爆炎を切り裂いて現れた、ミツルの乗るヘリオースが、両手に持ったフルアクセルグレイブを目にもとまらぬ速さでふるい、ヒステリカを切り刻みながら弾き飛ばして追い詰めていく。

 6枚の次元力の光の翼が軌道を描き、それに沿って黒い機体が砕け散り、破片が飛び散っては消滅していく。

 

 腕を、脚を、翼を失い、攻撃も防御も移動もできなくなったヒステリカを、とどめに叩き込んだ蹴りで撃ち落とし、同時に『SPIGOT』から降り注がせた次元力の奔流に飲み込ませ……アルゼナルの地面にたたきつけた。

 

 そして、SPIGOTを変形・連結させ……眼前に巨大な1つのリングを作り出すと……ヘリオースは自身がそれをくぐって超加速しながら……

 

「地獄に……落ちろぉぉおおぉぉ!!」

 

 まるで炎のように揺らいで渦巻く膨大な次元力をまとって飛び蹴りを直撃させる。

 

 衝撃が体を貫いたその瞬間、エンブリヲは、目の前で星が輝いたかのような光を見た。

 続けて……ほんの一瞬の間に、いくつもの不思議な光景が目の裏に浮かんで消える。

 

 核兵器の爆発のような巨大なキノコ雲。

 

 流星が降り注ぎ、炎に包まれて滅びていくどこかの星。

 

 重なり合って軋む2つの銀河。

 

 列をなして歩き続け……しかし一瞬にして骨になる人々。

 

 闇空の向こうからこちらを見返してくる目。

 

 不気味にうごめき唸るドクロのような何か。

 

 空に向かって吠える巨大な怪物。

 

 羽ばたいて空に飛び立ったと同時に異形の骨になって朽ちる鳥。

 

 そして、空に大きく翼を広げて君臨する巨大な神。

 

 幾度も繰り返す……一瞬にしてエンブリヲが垣間見た『虚空の輪廻』。

 それが終わると同時に、エンブリヲの乗るヒステリカは、ヘリオースの蹴りの衝撃そのままに、『真実のアルゼナル』地面を砕いて、クレーターを、いや大穴を開けて、地中深くに叩き落とされていく。

 

 地面の下にある岩盤や、『真実のアルゼナル』の地下構造部分と思しきものも、まとめて全て砕いて壊し、下へ、さらに下へ。瓦礫と次元力の両方に砕かれ、削られるヒステリカ。

 ついには、アルゼナルのある浮島のようなそれごと粉砕し……それと同時にヘリオースは飛翔してその場を離脱。

 

 次の瞬間、ヘリオースがぱちん、と指を鳴らすと……叩き込まれていた次元力が、ヒステリカを中心に炸裂。

 旭光のようにまばゆく光る、虹色の光炎が、瓦礫となった『真実のアルゼナル』もろともに全てを消し飛ばした。

 

 その光が収まった時、またしてもヒステリカは再生していたが……その姿は最早、今迄のように『万全の状態』には程遠いものだった。

 今にも壊れて爆散してしまいそうなほどに、傷だらけで満身創痍。大破一歩手前と言っていい……もはや何もできないだろうと思える有様だったのだ。

 

 ついに『限界』が来た。その事実は、誰の目にも明らかだった。

 

 そして、そのヒステリカに注目していたがゆえに……ほんのわずかな間、ヘリオースの全身が黄金の輝きを放っていたことに……気づく物はいなかった。

 

「ば、馬鹿な……再生のためのエネルギーがもう……並行世界へのアクセスも……!? システムが、ことごとく機能しない……あ、ありえない……私は調律者だぞ、こんな、こんなところで終わるはずが……認められるか、こんな結末など……ぐああっ!?」

 

 そこに、アンジュのヴィルキスがビームライフルを打ち込む。

 

 ヒステリカの片腕が吹き飛び、その勢いでぐるぐると無様に回る。

 しかし……回復する様子は、もう、ない。

 

「とうとうこれで終わりみたいね、エンブリヲ!」

 

「あ……アンジュ、お前はッ……千年の果てに、私が選んでやったというのに!」

 

 この期に及んで同じように他人を見下すことしかできない、相互理解の『そ』の字もわかっていないエンブリヲに……戦局を黙って見守っていた、『地球艦隊・天駆』の女性陣の……ついに、堪忍袋の緒が切れた。

 

 

ヒルダ「最後の最後まで……」

 

サリア「上から目線で……」

 

サラマンディーネ「みっともない真似を晒してくれる!」

 

マオ「この自意識過剰の……」

 

リョーコ「カッコつけ野郎が!」

 

カトリーヌ「無駄に千年も生きといて……」

 

ジル「自分の醜さも悪辣さも……」

 

フェルト「命の大切さも人の意思の尊さも理解せず……」

 

ミレーネル「世界を自分の玩具としか思ってないような……」

 

渓「最低最悪の脳味噌お花畑野郎!」

 

さやか「あなたみたいな男には……!」

 

ルナマリア「誰かを愛する資格もなければ……」

 

ファ「愛される資格もない!」

 

ルー「そういうわけだから……」

 

エル「そのおかしな髪型を……」

 

かなめ「虫唾が走るキモイ笑顔を……」

 

マリーダ「二度と私達に見せるな!」

 

プル「あっち行けヘンタイ!」

 

プルツー「こっち見るなヘンタイ!」

 

ミサト「ゲロ以下の腐臭がプンプンするわね!」

 

アスカ「消えろサイテー男!」

 

マリ「さっさと爆発しなクズヤロー!」

 

レイ「さようなら」

 

ルリ「永遠に」

 

 

「貴様らあぁぁあっ!!」

 

 機関銃のような勢いで一斉に叩きつけられた罵詈雑言の嵐に、エンブリヲは再び怒りに我を忘れかけ……しかしそうなる前に、アンジュのヴィルキスが振り下ろした剣が、ヒステリカの体に深々と食い込んだ。

 

「あ、アンジュ……ッ……!? お前まで、私の愛をなぜ理解できんのだ!?」

 

「何が愛よ! キモい髪型でニヤニヤしてて、服のセンスもなくていつも斜に構えてる、恥知らずのナルシスト! 女の扱いも知らない、千年引きこもりの変態オヤジの遺伝子なんて……生理的に絶ッッ対無理!」

 

 心の底からの叫びと共に、アンジュは剣に流すエネルギーを最大にして、長大な光の大剣を作り出し……

 

「塵に還れぇぇぇぇぇッ!」

 

 思い切り縦一線に振りぬき……その機体を両断する。

 

 そしてとどめに、両肩から放ったディスコード・フェイザーを、炎を噴いてすでに崩れていくヒステリカに直撃させ……完膚なきまでに破壊。

 何一つ残さず、文字通り宇宙のチリにした。

 

 

 

「私を抱こうなんて、一千万年早いわぁぁあぁ――ッ!!」

 

 

 

「ぐあああぁあああぁあ―――っ!!」

 

 

 

 次元ごと全てを破壊する暴風は、エンブリヲの断末魔もろとも全てを飲み込み……全てが終わった宇宙空間に、静寂だけを残して吹き止んだ。

 

 

 

 



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第97話 ブラックノワールと闇の帝王

 

 

【▼月@日】

 

 ようやく、よ~~~やく、あのクソ下衆野郎との因縁を精算できた。

 

 エンブリヲ曰く所の『時の狭間の世界』。そこにあった『真実のアルゼナル』。

 そこで、この3つの世界における隠された真実やら何やらを知ると同時に……これまでの総決算みたいな感じで、いろんな敵と戦った。

 

 北辰衆にアマルガム、ガミラスのアホ提督……それに、なんか巨大な、こう……所々骨っぽい見た目の(※個人的な感想です)モビルアーマー。

 トビアとキンケドゥさん曰く、木星帝国のボス(の、クローン)で……しかもあのモビルアーマー、核弾頭何個も積んでてめっちゃ危ない奴なんだって。なんちゅう迷惑なものを……。

 

 どうにかそいつらは倒したうえで、宗介とタスクがアンジュ達の救出に行った。

 

 そして、しばらくして……ミレーネルの『義体』に仕込まれている発信機の反応を感知。

 

 その時、僕は『ソーラーストレーガー』を動かしてたわけだが、一時的にそれをオートパイロットに切り替えて、反応があった場所に次元転移で跳躍。

 そこで、無事だったらしいミレーネル達と合流し……ついでに、見たくもないニヤけ面が一緒にいたのでさくっとリボ〇クラッシュしておいた。

 

 思い付きではあるけど、ライトセイバー改造しておいてよかった。

 柄部分に内蔵されてる電源に加えて、握っている僕の次元力を注いで威力や長さを強化できるようにしてあったんだよね。リ〇ルクラッシュは、その応用である。

 

 最近では――特に、スターシャさんに僕の出自の真実を聞かされてからは――生身で次元力を割と自在に扱えるようになりつつある。

 狙った場所への次元転移が自在にできるようになったり、今回みたいに直で戦闘に用いて相手をクラッシュしたり……そのうち、アドヴェントみたいに、『光あれ』的に生身で機動兵器を返り討ちにとかできるようになるんだろうか?

 

 ……それが、望ましい変化なのか、歓迎すべきことなのかは……わからないけど。

 さっき言った通り、真実を知ってから……どんどんそっち方面の変化が早まっているような気がする。

 

 攫われた皆を助けて、それぞれの艦に次元転移で送ったときも……かなりびっくりされたし。

 

 まあ、それはいいとして、だ。

 

 無事、さらわれた全員を助け出し、エンブリヲもレナードもそのまま撃破。

 エンブリヲは、ヤツの不死身の仕組みをかなめちゃんと真田副長が見破ってくれたので、それを破った上で、『地球艦隊・天駆』総出で念入りにフルボッコにしておいた。

 

 わずか数分足らずの間に、10回を軽く超える回数、消し飛んだりバラバラになったりしたエンブリヲは、ついに再生できなくなってしまったところを、自身がゲスい手で手に入れようとしていたアンジュにとどめを刺され……今度こそ永遠に、この世から退場した。

 

 そして、もう1つの黒幕クラスであるレナードについては……こちらも宗介が一騎打ちの末に倒したんだが……その後、まさかの展開に。

 

 フルボッコにされ、逃走にも失敗した末に、こっちの戦艦を道連れにしようとしてきたエンブリヲを……レナードが背後から奇襲し、『俺達は負けたんだ、みっともない真似はもうやめろ(意訳)』って。

 

 その後、逆上したエンブリヲにとどめを刺される形でベリアルを落とされたんだけど……落下した先では、テッサ艦長の操るダナンがそれを受け止めていて。

 

 その時のやり取りは……無粋だろうから、省く。

 ただ、最後の最後に、ほんの少しだけ……兄妹で心が通じ合ったんじゃないかな、と思った。

 

 こことは違う世界で、最後まで世界を憎んで、理解されない自分を嘆いて死んでいった、彼とは別なレナードとは……随分違うというか、救われた最後だった気がする。

 許されなくても、敵どうしでも……最後の最後に……同じ方向を見れたんだから。

 

 

 

【▼月;日】

 

 エンブリヲとレナードその他との戦いは、巻き込まれた立場としては迷惑なだけだったけど……実は、予想外にいい影響をもたらしてくれてもいた。

 

 戦いが終わった後、現在地がどこなのかを詳しく分析して分かったんだけど……なんと、僕らが今いる場所が、既に『天の川銀河』……すなわち、地球のすぐ近くであることが明らかになったのである。

 

 恐らく、亜空間からさらにあのへんてこな空間……『時の狭間の世界』に迷い込んで、さらにその後、そこをぶっ壊して強引に通常空間に復帰した……その影響だろう。

 空間座標か何かがバグって、一気にとんでもない距離をワープしたっぽい。

 

 ここからなら、そう時間をかけずに地球に戻れる。

 それに加えて、エンブリヲもレナードも倒したから、もう邪魔して来る奴らは誰もいないことになる。

 

 それならもう何も心配いらないな! さっさと地球に帰って、『コスモリバースシステム』を使って『時空融合』を回避して、3つの地球をさくっと救ってしまおう! なーんだ、もうほんとに楽勝じゃないか! 勝ったな風呂入ってくる。

 

 ……とまあ、セルフで不謹慎なこと言いまくってみたけど……いや、ホントに心からそうなってほしいと思ってるよ? もう戦いとか何もいらないから。フラグとかそんなんどうでもいいから。

 このまま……このまま、何事もなく終わってくれ。頼むから。

 

 ……なんかさ……嫌な予感がするんだよ。

 

 理由とか根拠とか特にないんだけど、なんとなく胸の奥がざわつくっていうか……

 

 こう、うまく言えないんだけど……

 

 

 

 

 

 

 

 もうすぐ 全てが 終わる

 

 

 

 

 

 そんな、不吉な予感が……する。

 

 

【▼月:日】

 

 ……予感的中。

 地球まであともう少しだってのに……予想だにしていない敵の襲撃があった。

 

 いや、予想はしていないけど……危惧はしていた敵だった。

 

 その名も『ブラックノワール』。

 エグゼブやパープルを裏で操っていた真の黒幕であり……しかもなんと、西暦世界における数々の戦争や悲劇の影に存在していた、こちらの意味でも真の黒幕なのだという。

 

 ……ここから先は、こいつが得意げに語った言葉。ほぼそのままになるんだが……

 

 ブラックノワールは、西暦世界における神のような存在であり……別な言い方をすれば、次元を超えてやってきた『高次元人』というのが、その正体である。

 

 世界の全てをすでに手中に収めて支配しており、舞人やアキトさんを含め、多くの人々の人生を自在に操作して弄んでいた。

 

 この世界は自分が楽しむためのゲームのようなものであり、舞人や僕らは、ヒーロー、ないし正義の味方という役割を与えられた、ゲームの駒に過ぎない。

 エンブリヲ達『悪役』も含めて、全ては自分の手のひらの上で踊っていたにすぎない。そして、今回のゲームのエンディングは、コスモリバースを手に入れて世界を救う一歩手前まで行くが、あと一歩のところでヒーローは悪に敗れてバッドエンド……になるのが自分の望みである。

 

 そう、女性のような……しかし、電子音声じみた声で、ブラックノワールは淡々と語った。

 

 …………これ、僕の頭が足りていないだけなんだろうか?

 パープルの時以上に、言ってることが意味不明で、全くわけわからんのだが……

 

 途中で『こいつ頭おかしいのかな?』って思って、逆に緊張感が失せそうになった。

 

 なんかひどいメタフィクショナルな発言がこれでもかと飛び出して、世界完全否定してる感じのそれなんだが……いやまさか、ホントにこの世界がゲームの中の世界だとか、んなことあるわけないし……

 

 ……『スーパーロボット大戦』という世界を知ってるだけに、ちょっと揺らいじゃったりはしたけども……いや、まさかそんなはずはないわな。

 

 メタ云々を抜きにしても、あいつの発言、色々よく考えて掘り下げてみれば、矛盾結構あるし。指摘してる暇がないから、スルーするけども。

 けどなんか、やっぱりここでも舞人とか一部の人達が動揺してるし……おーい、しっかりしろ、気を強く持て。戯言にいちいち耳を貸すな。

 

 色々総合して考えて……パープルと同じで『相手にするだけ無駄だからさっさと倒そう』ということになった。

 

 しかしながら、厄介なことに、その実力は……自らを『神』と称するだけのことはある、と言わざるを得ないレベルだった。

 

 パープルやエグゼブ同様、『魔のオーラ』という名の、淀んだ次元力を操り、『洗礼ロボ』の軍団をけしかけてきたんだが……その扱いの巧みさや、単純な出力すらも、全くの別格。

 というか……やはり、あいつらに『魔のオーラ』を与えて強化していたのは、こいつなんだろう。

 

 何せ、改良に改良を重ねた『増幅装置』で強化したサリーちゃんのイノセントウェーブも、容易くはじかれてしまった。

 『ソーラーストレーガー』を使った『事象制御システム』すら防ぎきられて、連中が使う『魔のオーラ』をはがすことも、こちらを強化することもできなかった。

 

 それどころか、ブラックノワールの方が周囲の次元に干渉し、フェルディナで僕がやったような『界』に似た空間を形作って、こちらにデバフをかけてくる始末だ。

 次元力そのものの制御で、完全に上をいかれている。かなりやばい、と言わざるを得なかった。

 

 しかし、洗礼ロボ軍団の攻撃をさばきながら周囲の空間を解析した結果、ここら一体の次元のゆがみの起点になっている場所を発見できたので……そこをどうにかすれば、ブラックノワールによる『魔のオーラ』による支配を突破できるんじゃないかと思われた。

 

 そして、アウラさんにメッセージを聞きに行った時と同じように……次元が不安定な中でも強引にそれを突破できるヘリオースと僕がその役目を引き受けることになった。

 

 仲間達に助けてもらいながら、洗礼ロボやブラックノワール自身の攻撃をかわし、どうにかそのポイントにたどり着いた僕は、一転集中、全力で次元力を叩き込んで空間そのものをぶち抜き……ブラックノワールが作り出した『界』を破ることには成功した。

 

 しかし、その際に起こった次元震に巻き込まれ、空間の裂け目、ないし割れ目みたいなものに引きずり込まれてその場から転移してしまい……

 

 

 ☆☆☆

 

 

「……で、ここはどこなんだろうね……っと」

 

 例によってというべきか……状況を整理するため、心を落ち着けるために、『ヘリオース』の操縦席で日記を書いていた僕は、これまでの旅の中でも見たことのない、どことも知れない異空間を見渡してそう呟いた。

 

 見た感じ……間違いなく通常の宇宙空間じゃない。

 しかし、ワープの際に通った亜空間とも、エンブリヲ達がいた『時の狭間の世界』とも違う。

 

 どことなく、濁っていて毒々しい雰囲気を感じ取ることができる……そんな空間だ。

 

 レーダーの類は全部効かない。通信もどこにも、誰にも届かない。

 通ってきた『裂け目』はもう閉じちゃって、後戻りすることもできそうにない。……まいったなこりゃ、どこか変な場所に飛んじゃって、しかも閉じ込められたか?

 

(全力で次元震を起こして、そこから『次元転移』すればどうにかワンチャン……けど、きちんと狙ったところに飛べるかな…………ん?)

 

 そんなことを考えている最中のことだった。

 

 突然、目の前の空間に……何もない、それこそ空気すらないはずの宇宙空間に、炎が燃え上がって……しかもそのまま、形を変えていく。

 炎の塊に目や口の模様ができているという、不気味な姿になった。

 

「……メ〇ゴースト? マネ〇ネ?」

 

「我が名は……闇の帝王」

 

 お、無視か。ってか、またド直球というか、シンプルなネーミングが来たな。

 

「物質界においては、冥府の神『ハーデス』を名乗っていた」

 

 と思ったら予想外の正体が速攻で判明。

 え、じゃあ何……お前、性懲りもなく復活したというか、化けて出たの? 炎の体の亡霊的な……マジでメラ〇ーストじゃん。

 

 とまあ、ふざけて言ってはみたものの……観測してみた感じをマジレスすると、どうやら膨大なエネルギーそのものの体に、ハーデスの意思が宿ってる、みたいな存在のようだ。

 ……中身がアレだから当然と言えば当然かもだが、なめてかかると痛い目に遭う相手だな。

 

「暗黒大将軍らが、お前達との戦いに敗れて無念の死を遂げた際……奴らはその怒りと無念をもって……そして、その命を贄として捧げることで、冥府の扉を開いた。それゆえに、我はこうして蘇ることができたのだ。しかし我は、すぐに物質界に顕現することはせず……さらなる力を求めて、この暗黒の次元に身を隠していた」

 

「へー、そう……修行でもしてた……ようには見えないな?」

 

「我は、お前が落ちてくるのを待っていたのだ。未知なる力をその身に宿す、異世界の異能なる機体……そして、その力を使う者よ」

 

「? 僕を?」

 

「そうだ。貴様はブラックノワールとの戦いの中で、次元の裂け目に引きずり込まれてここにたどり着いたのだろう……ブラックノワールの力を打ち破るために、次元の壁を破ったことでな。その役目を担うのが貴様になるであろうことも、この結末も、我には予想できていた。ゆえに、ここで貴様を倒し、その力を食らうことで……我は、いや我らはさらなる絶対の力を手に入れる!」

 

 そう言うと同時に、闇の帝王の体から炎が四方八方に迸り……その炎の中から、今までの戦いの中で散っていったはずの、ミケーネの神々や、暗黒大将軍に勇者ガラダブラ、機械獣あしゅら男爵までもが復活していった。

 

「おお、我らの肉体が再び物質界に!」

 

「感謝いたします、ハーデス様……いや、闇の帝王様!」

 

「戦士達よ……再起の時はすぐそこに迫っている。その最後の仕上げだ……そこにいる異界の力を宿す者を焼き滅ぼし、その魂を我に捧げよ!」

 

 闇の帝王の号令を受けて、次々に武器を構え、こちらに向けて臨戦態勢をとってくるミケーネ。

 

 闇の帝王自身もまた、その身から迸る炎を轟々と燃え盛らせ、揺らしている。

 炎だけの体で、表情もろくに分からないけど……不思議と、臨戦態勢に入ってこちらをにらみつけているというのがわかる光景だった。

 

 何十体ものミケーネの神々に、そのしもべであるケドラ達。幹部格である暗黒大将軍らに……Dr.ヘルの戦力として使われていた機械獣達まで蘇っている。

 1体1体が一騎当千の力を持つ怪物達。それを率いる闇の帝王は……おそらく、ハーデスだった頃以上の危険度だろう。

 

 そんな連中を、このよくわからない空間で、たった1人で相手をしなければならないという、絶望的な状況。

 生きて帰れるかわからない……いや、傍から見たらこんな状況、確実に死ぬ以外の結末が見えないと言われるだろう。

 

 ……なのに……なぜだろうか。

 

 

 

(なんだろうな、この感じ……全然怖くないし、負ける気がしないんだけど……?)

 

 

 

 ……エンブリヲを倒した後くらいからだろうか。

 前までに輪をかけて、さらに次元力を自在に扱えるようになってきた感じがするというか……僕の中から、どんどん力があふれてくるような感覚がある。

 

 体にかかる負担もほとんどなくなっていて、呼吸をするように力をふるえるようになっていた。

 使いやすくなるから使ってたけど……実はもうそろそろ、『SPIGOT』もいらないんじゃないかとすら思い始めていた。……それでも、単に気に入ってるから使うけど。

 

 あとは、それに見合った経験やコントロール技術さえものにできれば……正直、ブラックノワールの次元干渉に対抗することだって……なんてことまで考えるのは、増長かな?

 

 ……いやでも、正直、今……本当に分からないんだ。

 今の僕の限界が……どこにあるのか。衝動のままに力をふるった時、何が起きて、どこまでのことができるのか。

 

 幸いと言っていいのか、今、僕の目の前には……とても頑丈で使い勝手のよさそうな、試し撃ちに非常に適したサンドバッグがいくつも転がっている。

 ……うん、利用しない手はない。

 

 そんな僕の、ある意味不謹慎な心の内を看破したのか……はたまた、ただ単に自分の中で準備が整ったと判断したからか……

 

「行けぃ、戦士達よ! 今こそ、ミケーネの力を示すのだ!」

 

 闇の帝王の号令で、ミケーネの神々や機械の体の戦士達が、一斉に僕めがけて襲い掛かってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 ―――獣の血

 

 ―――水の交わり

 

 ―――風の行き先

 

 ―――火の文明

 

 ―――そして、太陽の輝き

 

 

 

 最後の扉は、もう……すぐそこに……

 扉の鍵は、すでに、彼の手の中に……

 

 

 

 



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第98話 どうあがいても絶望

えー、今回ちょっと色々な意味で暴走しております。
もっといろいろ好き放題やってみたかった欲がここにきて……

……とりあえず、どうぞ。


 

 

 西暦世界の戦乱を闇から支配していた巨悪・ブラックノワール。

 

 エグゼブが扱っていたものとは比べ物にならないほど強力な『魔のオーラ』によって、洗礼ロボ達の強化と再生に加え、サリーのイノセントウェーブをもはねのけた。

 『ソーラーストレーガー』の次元干渉すら凌ぐレベルの力の前に、さすがの『地球艦隊・天駆』も苦戦するが、周囲の次元の支配の基点となっている個所に『ヘリオース』が突貫し、そこに一転集中で次元力を叩きつけたことで、周囲一帯に及んでいたブラックノワールの支配が揺らいだ。

 

 その隙を見逃さず、『地球艦隊・天駆』全員の意思が一つになったイノセントウェーブに加え、波乱万丈がウォルフガングから受け取った、ドン・ザウサーの遺産『対次元干渉波動光』によって、ついに闇の支配を打ち破り、形勢を逆転することとなる。

 

『馬鹿な……ありえない! イノセントウェーブなど、ゲームを盛り上げるためのアイテムの1つとして設定しただけのものなのに……!?』

 

「順調にメッキがはがれてきたな、悪の親玉」

 

「お前の意思も矛盾だらけの世迷言も関係ない! 俺達全員の力を合わせて、お前という悪はここで必ず倒す!」

 

 冷静に言い放つアキトと、もはや一点の曇りもない決意と共にそう言い放つ舞人。

 

 真田とルリに己の存在の矛盾を指摘されて論破され、絶対の存在などではないことを突き付けられて狼狽するその姿は、自らが豪語する神などからは程遠いものだった。

 

 既に『地球艦隊・天駆』には恐れなどなく、その目に映っているのは……今までと何ら変わらない、倒すべき1つの『敵』としてのブラックノワールのみであった。

 

「それより……ミレーネル! ミツルからはまだ応答とかないの?」

 

「あいつが生きてるのは確かなんだよな!?」

 

 

 アンジュとヒルダが、『ソーラーストレーガー』を操縦しているミレーネルにそう尋ねると、ミレーネルは通信の向こうで、せわしなくコンソールを操作しながらそれに応えた。

 

「それは間違いないわ、あの瞬間、次元震が起こってできた時空の亀裂の存在を観測できてるし……ごく微弱にだけど、ヘリオースが放つ次元力の反応も届いてるから。ただ、こことは別な空間にいるみたいで……詳しい観測はできないのよ!」

 

「でも……無事なのは確かなんですよね?」

 

「それなら大丈夫だよ。ミツルさんもヘリオースも強いから、すぐに帰って来るって! でなきゃさっさとこっちを片付けて、私達が迎えに行ってもいいし」

 

 ミランダとココに続けて、ジルもその見立てを肯定して言う。

 

「そういうことだ。あいつはきっちり仕事を果たした……なら、後に残った邪魔者の始末くらいは、私達がやらねば格好がつくまい! 正念場だぞ小娘共、気合を入れろ!」

 

「「「了解!!」」」

 

 かつてのアルゼナル司令の名は伊達ではないとわかる一喝で少女たちをまとめ上げ、自らもラグナメイル『レイジア』のブースターに火を入れて飛翔するジル。

 

 舞人やアキトがブラックノワールとの直接対決に進み出る中、その周囲には、ブラックノワールの手勢が無数に跋扈している。

 洗礼ロボに加えて、AI制御のモビルスーツやパラメイル(ラグナメイルの量産型)、マジンシリーズやインベーダー、ガーディムの無人機すらも呼び出されていた。

 

 それらを一掃し、舞人達の邪魔をするのを阻止するため、パラメイル第一中隊をはじめ、『地球艦隊・天駆』の戦士達は一斉に前に出る。

 ブラックノワールとの戦いは、いよいよ最終局面を迎えようとしていた。

 

 

 

 ……そして、それと同じ頃。

 

 そことは違う空間で……こちらはたった1人で、死闘を繰り広げている者がいた。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「馬鹿な……」

 

 どろりと濁ったような異様な空間に、轟々と燃える炎。

 その中心に顔のような文様が浮かび上がっている……『闇の帝王』は、目の前に広がる光景を見て……信じられないといったような声音で、そうつぶやいていた。

 

 自力では脱出困難なこの空間に、標的である『ヘリオース』を引きずり込んだところまでは、想定通り。

 ここでそれを討ち、その力を食らうことでさらに己の力を増し、より盤石なものとした上で物質界に復活する。それが、闇の帝王の目論見だった。

 

 そのために、その力でもって。戦いの中で散ったミケーネの戦士達を復活させ、その一斉攻撃でヘリオースを蹂躙……哀れな贄はなすすべなく破壊されるはずだった。

 

 しかし……目の前に広がっている光景は、その全く逆。

 

「ぬっ、が……ぐああぁああぁ!?」

 

 また1体……剣を手に切りかかった一柱が、その剣ごと体を両断され……機械神としての巨体を風化させて消えていく。

 その向こうに、両手に持った剣を振りぬいた姿勢のヘリオースがたたずんでいた。

 

「おのれぇえ……下等種族ごときが、生意気な!」

 

「すぐにその腕を折り、脚を砕き、頭蓋を踏みつぶして醜い屍をさらしてくれるわ!」

 

「……あまり強い言葉を遣うなよ……弱く見えるぞ?」

 

 そんな言葉と共に、ヘリオースの全身から光が放たれ……その身を中心に太陽が顕現したかのようにまばゆくその周囲が照らされる。

 次いで放たれた光炎が全方位に広がり、襲い掛かろうとしていた神々を焼き滅ぼしていく。

 

 その中を歯を食いしばって突破し、ヘリオースの首元めがけて鎌を振りかざす別な一柱。

 

 しかしその一閃はむなしく空を切り、降りぬいた瞬間、切り落とされた自らの両腕と共に、鎌は明後日の方向に飛んでいった。

 

「なっ……!?」

 

 そして、両腕ごと武器を失ったミケーネ神は、喉元に剣を突き立てられ……そこから膨大なエネルギーを流し込まれる。

 体中から火花が散り、機械の体が砕けて裂けて光が漏れ出し……数秒と待たずに内部から爆散する末路を辿った。

 

 血を払うように剣を振るうヘリオースは、そこにさらに襲い掛かろうとしていた……今度は、ミケーネの戦士たる機械獣を迎え撃つ。

 

 火炎や突風、巨大な弓矢に分裂しての攻撃……全方位から降り注ぐそれらを全て紙一重でかわし……上空高く飛翔するヘリオース。

 そして両掌に、すさまじいエネルギーが凝縮した光弾を作り出し、射出。

 

 機械獣達が密集している中で2つ同時にさく裂させ……立ち上った閃光のような火柱が、放たれた攻撃ごと上塗りしてそれらを焼き滅ぼした。

 

「おのれ……これ以上好き勝手にはさせぬぞ! 勇者と言われた我が力、思い知るがいい!」

 

 その爆風の中を突っ切って突撃して来るのは、骸骨のような顔に双頭の龍のような頭を両肩から生やした、ミケーネの機械神の中でも突出した存在……ガラダブラである。

 双龍の頭から破壊光線を放ってけん制しながら、猛烈な勢いで突き進み……その両腕をヘリオースめがけてたたきつける。

 

 しかしその両腕は、ヘリオースの全身を覆うように展開した不可視のバリアによって止められ、その身には届かない。

 爪のみならず、ほぼゼロ距離で放った光線もまた同じだった。

 

「ぬぅう……小癪な、こんな壁など……がぁっ!?」

 

 そのバリアの向こうから、ヘリオースは次元力の波動を叩きつけてガラダブラを吹き飛ばし……それと同時に動きを封じる。

 

「ガラダブラ殿!? おのれ、一体奴は―――」

 

 あしゅら男爵が、しかし何か言い終わるより早く……飛翔したヘリオースはその隣をすり抜けるように移動しながら、手に持った剣を一閃させる。

 

 赤と黒の刀身を持つ、禍々しい大剣……『インテグラル・ディスキャリバー』が放ったその一撃は、寸分たがわず、『機械獣あしゅら男爵』の体の真芯を切り裂き……その命に届いていた。

 

「消えろ、その原罪と共に」

 

「ばか……な……!」

 

 あしゅら男爵が炎の中に消えると、今度はヘリオースは手にした剣を天に掲げ……その瞬間、剣は姿を変え……白と金の神々しい装飾に、天まで届かんばかりの巨大な光の刀身を持ったそれ……『聖剣コールブランド』に変わる。

 

 指一本動かせないままに、振り下ろされたその刃の直撃を受けたガラダブラは……空間そのものが砕け散るような衝撃と、暴力的なまでのエネルギーの迸りの中に飲まれ……断末魔すら聞こえることのないままに粉砕された。

 

「なんと恐ろしき力よ……だがだからこそ、その力、我らのものとなれば、この宇宙全てに覇を唱えるにふさわしい力を手にできよう……! いざ、参る!」

 

 小細工は不要とばかりに真正面から飛び込んでいく暗黒大将軍。

 走りながら、その目から怪光線を放ってヘリオースをけん制し、射程内まで一気に距離をつめたところで、手にしたダークサーベルを振りぬいた。

 

「ぬぅっ!? 何だ、これは!?」

 

 しかし、降り抜いたはずの剣は……突如ヘリオースの体から『生えた』、無数の赤い結晶のような棘によって止められ……しかも全方位に剣山のように生えるそれは、暗黒大将軍の体を突き刺し、串刺しにして空高く持ち上げてしまう。

 

 その、持ち上げられた先に、飛び上がって回り込んだヘリオースが、その手から、やはり血のように赤い結晶を、棘のように何本も生やし……それを叩きつけて突き刺して、さらに動きを封じる。

 

「ぐ、ぐあああぁ……な、何だこの棘は……!? ち、力が抜けていく……」

 

「ジ・エンド・オブ・マーシレス。終わりなき悪夢をここに。そして……」

 

 続けざまにヘリオースは、手のひらをかざすようにし……すると、その目の前の空間が、巨大な怪物の顎(あぎと)のように上下に開く。

 

「開け、尸獄門……!」

 

 その空間の裂け目の向こうから、全てを塗り潰すような漆黒のエネルギーの奔流が放たれ……鉄砲水のごとき勢いで、暗黒大将軍を飲み込んだ。

 

 その本流はさらにとどまることを知らず広がっていき、周囲にまだ残っていたケドラやミケーネ神、機械獣達をも軒並み飲み込んでいった。

 

「よみがえったとこ悪いけど……そのままあの世に帰ってもらう」

 

「ぬ、ぐ……ぐあああぁあぁあ!? も、申し訳ございません、闇の帝王様ぁぁああ……!!」

 

 まるで死の洪水に押し流されたように、暗黒大将軍達はその空間から跡形もなく消し去られた。

 

 そこに残るは……最初にこの場に現れた、闇の帝王ただ1人。

 

「馬鹿な……!? ミケーネの戦士達が、こうもたやすく……なぜだ!? 以前に戦ったときは。貴様の力はここまでのものではなかったはず……このわずかな間に、いったい何があったというのだ!?」

 

「さーて……何だろうね? ……実際のとこ、僕自身もわかっちゃいないんだけど……しいて言うなら……自分のルーツを知って、多少なり『自覚』が出てきたから……かな? 今僕、本当に……思いついたこと、何でもできそうな気分なんだ」

 

 蹂躙の後の静寂が支配する空間で、ゆっくりとこちらを振り向くヘリオース。

 通信越しに聞こえるその声は、戦いの激しさに対して不釣り合いなほどに落ち着いたもの。

 

(体の奥から、力がどんどん湧き出てくる。際限なく、底が見えないくらいに。それこそ、本当に無限に湧き出てくるんじゃないかと思うほどに……。これが、ひょっとしたら……スターシャさんの言っていた、僕の本当の力、なのか……?)

 

 力を振るいながらも、ミツルはその内心で、少なからず困惑していた。

 

 使っても使っても。自分の力に底が見えない。

 1分前、1秒前、いや一瞬前よりも色々なことができそうな気がして……その感覚に押し流されて、思いついたことを、あるいは『思い出した』ことを全て試したくなる感覚。

 

 まるで、あふれ出てくる力そのものが『もっと使え』『何でもいい、やりたいようにやれ』『お前が知っている全てを見せてやれ』と急かしてくるような感覚。

 それに困惑しつつも、身を任せると……自分でも驚くほどの力がいとも簡単に顕現するのだ。それこそ、機体の構造や、力や技の性質すら無視してでも。

 

 その困惑を……奇しくも、闇の帝王もまた、ごくわずかな違和感として感じ取っていた。

 

(いったい何なのだ、奴の力は……ただ単に強いというだけではない。無限に湧き出る間欠泉のような、タガが外れてどんどん止まらなくなっているような……振り回すつもりで振り回されているようにすら見える。どこからこれだけの力が……。本当に奴は一体何者なのだ!? 一体何が起こっているのだ!?)

 

 彼の知る、こことは別なとある世界に存在した戦士達の技、あるいは武器の数々を、いとも簡単に再現し……その力でもって、鎧袖一触、ミケーネの神々を容易く滅ぼしていく。

 

 その姿に、かつてない脅威というものを感じ、動揺しながらも……闇の帝王はそれでも、ミケーネの支配者としての意地ゆえか、退くことをよしとしなかった。

 

 動揺を上塗りするように、怒りと憎しみのままに、体から放った地獄の業火でヘリオースを焼き滅ぼそうとして……しかし、

 

「とぉあっ!!」

 

「ぐふぁ!?」

 

 それを正面からぶち抜いてきたヘリオースの飛び蹴りが直撃。

 

 非実体のはずの闇の帝王の体を、しかしその蹴りは見事にとらえて……宇宙空間に蹴り上げる。

 

「まだまだぁ!」

 

 その飛んだ先に一瞬で回り込んだヘリオースのかかと落としがさらにその身をとらえ、地に叩き落し……

 しかしやはり、落下するより早く回り込んだヘリオースの蹴り上げで再び打ち上げられる。

 

 それをさらに飛び回し蹴りで弾き飛ばすと、ヘリオースはその身にまとったエネルギーを開放。

 溢れだしたエネルギーは、無数の隕石のような形となって放たれ……吹き飛ばされた闇の帝王を追って次々と飛来し着弾、炸裂していく。

 

 その爆風にもまれ、さらにあまりのダメージで身動きの取れない闇の帝王めがけて……

 

「さらばだ……闇の帝王!!」

 

「ぐ……ぐあああぁあああぁあっ!?」

 

 体を『Y』の字にしたヘリオースの、渾身のドロップキックが直撃した。

 

 単なる肉弾技ではなく、極限まで高めた次元力と共に放たれたその一撃は……衝撃と同時に巻き起こったエネルギーの奔流の中で、闇の帝王の命をがりがりと削り、砕いていく。

 あまりの力の迸りに、次元が揺らぎ、空間に亀裂が入り……ついにはそこに穴が開いた。

 

 落下するようにそこに落ちていった闇の帝王は……今まさに、ブラックノワールを打ち倒した、『地球艦隊・天駆』の皆が集まるその真ん中に落下した。

 そして、その穴を通って、ミツルも通常空間に復帰する。

 

「な、何だ!? 宇宙空間に……炎!?」

 

「いや、違う……あれは、悪意の塊だ。だが、もうすでに……」

 

「あ、ミツルさん帰ってきた、お帰りー!」

 

 突如として現れた、得体のしれない新たな敵(推定)。

 しかしアムロは、それがすでに燃え尽きる寸前の……文字通り風前の灯火であることを、いち早く察していた。

 

 その一方で、ココと……その他数名は、同時に帰還したミツルの無事を純粋に喜んでいた。

 

 そのミツル自身も、『ただいまー』と、緊張感に欠ける物言いでそれに答えながらも……もはや虫の息というしかない状態の闇の帝王を、油断なく残心し観察する。

 

「お、おのれ人間どもめ……だが、いい気になっていられるのも今のうちだ! 我は不滅……今はまた朽ちてこの世界より消えようとも、いつの日か必ず蘇る! その時は、貴様らを…………ぬうっ!?」

 

 『地球艦隊・天駆』の面々が見守る前で、消える寸前の闇の帝王はしかし、いずれ復活し、再び自分達の前に姿を現すと告げる。

 しかしその途中に、突如として言葉を切り……

 

(こ、これは……!?)

 

 その時、闇の帝王の目には……ある光景が見えていた。

 

 それは、滅びに瀕した闇の帝王が、その直前のほんの一瞬に垣間見た……因果の果ての、可能性の未来。

 

(あ……ああああ……)

 

 ほんのわずかな時間だけ見えたそこには……絶望があった。

 

(あああ……ああああああ……!!)

 

 宝石のように星々がきらめく、神秘的な美しさを持つ、不思議な宇宙が広がっている。

 その空間に仁王立ちする、闇の帝王をもってしてすら、理解を超えた存在達。

 

 

 黒鉄の城と呼ばれた、『0』を背負った終焉の魔神。

 

 惑星すら容易く破壊するであろう巨体を持った、永遠の戦いの中を生きるゲッターの皇帝。

 

 幾億の機体の合体によって誕生した、宇宙怪獣から太陽系を守る鋼の女神。

 

 それらをもはるかに上回る大きさの、銀河をも踏みつけ砕く、天元突破の紅き螺旋の戦士。

 

 胸に獅子の貌を持ち、光を超えた速さの黄金の腕で全てを砕き光に変える、最後の勇者王。

 

 青い体と輝く光背を持ち、天地開闢の光すら支配し放つ、真の力を開放した重力の魔神。

 

 逞しき白い巨体で破界の拳を振るい、黄金の獣達と共に天の獄を戦い征く、次元の将。

 

 そして……黄金の体に6枚の翼をもつ、全ての宇宙の終わりを見届けんとする、至高の神。

 

 

 その他にも、数多の超越者たる者達が待ち受ける光景。

 戦いの果てに待ち受ける……宇宙そのものを揺るがし、あらゆる法則を破壊し、そしてまた創り出し……その永遠を戦い抜く者達を前に……闇の帝王の心は……完全にそこで、折れた。

 

「だ、駄目だ……勝てぬ! 因果の果てに待つのが、こ奴らでは……絶対に勝てぬ! う、うあああぁぁああ―――!!」

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

「『闇の帝王』だっけ? 何か最後、直前まで『いずれ復活する!』とか言ってたくせに、やたら弱気になってたように見えたな」

 

「己の限界を悟って絶望したのかもしれんな。何にせよ、もう出てこないでいてくれるのならば、それに越したことはないさ」

 

 気になったように勝平が言ったことに、鉄也はそう返す。

 その隣にいて、マジンガーZEROに乗っていた甲児は、『闇の帝王』の気配を以前に知っていたような気がしていたが、すぐに消えてしまったために、その正体に気づくことはなかった。

 

「……まあ、気になるならミツルに聞かせてもらえば、何かわかるんじゃないか? 空間の裂け目から同時に出てきたってことは、ミツルが戦ってて……アイツを倒したんだろうし」

 

「それもそうだな。なあミツルの兄ちゃん、どうだったんだ?」

 

「勝平君、その前に早く艦に戻ってください。機体の修繕とチェックを直ちに行いますので」

 

 と、横からルリが割り込んで声をかけてくる。

 

 思わぬ足止めを食ってしまった『地球艦隊・天駆』。

 特に致命的な遅れではないとはいえ、一刻も早く地球で待つ人々や、『時空融合』を食い止めてくれているアウラを助けるために、彼ら・彼女らは準備ができ次第、地球に戻る旅を直ちに再開するつもりだった。

 

 そのために、出撃した各機は直ちに拠点としている戦艦に帰還するよう、各艦から通信が入り……続々と各艦に戻っていく。

 機体を休ませるためというのはもちろん、想像以上の激戦で疲弊した、自分自身が休むためにも。

 

 仕方ないから後で聞くか、と思い直した勝平は、ふと、今話しかけようとしていたミツル……の、乗っている『ヘリオース』の方を見る。

 

 彼もまたすぐに『ソーラーストレーガー』に帰還するかと思っていた勝平だったが……予想に反して、ヘリオースはその場からなかなか動かず……とどまったままだった。

 

 不思議に思って、勝平はザンボット3を動かしながらも通信を開き、

 

「おーい、ミツルの兄ちゃん、何やってんだよ。ほら、戻ろうぜ? まあ、行く先違うけど」

 

「そうよミツル、疲れたんなら戻ってから休みなさい。ほら、もうちょっと頑張って」

 

「なんなら私たちで運びましょっか? ね、ミランダ?」

 

「う。うーん……それはその……機体の大きさがちょっと違いすぎないかな……?」

 

 さっさと帰るように声をかけるアンジュや、茶化すように言うココとミランダ。

 そんなやり取りを、皆が苦笑と共に見ている中……

 

「……ミツル……?」

 

 ミレーネルが、最初に……様子がおかしいことに気づいた。

 

 宇宙空間を隔てて離れていても、この程度の距離ならば……いつも問題なく、ミツルの意思を、多少なりとも感じ取れるはず。

 それがしかし、今は……

 

「……ミツル……ミツル!? ちょっと、返事して!?」

 

「……おい、ミツルどうした、お前無事か!?」

 

 ミレーネルの様子に、続いて総司が、さらにほかの面々も……徐々に、様子がおかしいことに気づき、顔色を変えていく。

 

 そんな空気の中にもかかわらず……返事は、ない。

 

 よくよく見れば、ヘリオースは……内側から一切の操作がされず……それどころか、姿勢制御用のセンサーさえ働いていないのか、ゆっくりと傾きながら……まるで、川を流れていくように、宇宙空間を漂流し始めて……

 

「叢雲、ヘリオースを回収しろ! 新見情報長、佐渡先生に連絡を。救護室に急患受け入れの要請を頼む」

 

「は、はい!」

 

「了解しました! ヴェルト、そっち持って手伝ってくれ!」

 

「心得た!」

 

「ミツル君、聞こえる? 聞こえたら返事して!」

 

 総司達が協力してヘリオースを回収する中……艦を放り出してかけつけることもできず、それを見送るしかできなかったミレーネルの脳裏には……なぜか、ひどく嫌な予感がよぎっていた。

 

 これを最後に、もう2度と……ミツルと言葉を交わすことができなくなってしまうかもしれない……

 

 理由も何もわからないのに、突然そんな予感が胸の中に沸いて出て、

 

 しかもなぜか……その時はもう、すぐそこに迫っていると、頭の中で何かが語る。ざわめく。

 

 その意味を、真実を、彼女が知ることになるのは……まだ、もう少し後のことだ。

 

 

 

 



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第99話 再臨

今回、割と物語が一気に進みます。
急すぎたらごめんなさい。

あと、最近ぜんぜん『アスクレプス』=『へびつかい座』の出番がなくて、若干タイトル詐欺だな、とかふと思いました。……まあ今更ですが。

第99話、どうぞ。


 

 

「じゃあ、前と同じで……疲労がたまって寝込んでるだけなんですね?」

 

「診察してみた限りではそうじゃな。というより……他に理由がわからん、と言った方が正しいか」

 

「このままゆっくり休んでいれば、すぐに目を覚ましますよね?」

 

「……何とも言えんな。そもそもあの機体のせいでたまる疲労は、前もそうじゃったが、メカニズムがよくわからんからな……まあ、眠っている以外に何か問題があるわけではないから、特に心配はしなくていいとは思うが……」

 

 ヤマトの救護室のベッドの上で、死んだように眠るミツルを見ながら、ミランダとココの質問に答えていく佐渡医師。

 

 ブラックノワールと闇の帝王との戦いの後、宇宙空間でヘリオースに乗ったまま、意識を失ってしまったミツルは、総司たちによって救出された後、ここに運び込まれた。

 

 診断の結果は、以前ヘリオースを初めて覚醒させた時と同じ、過労。

 その時よりも症状が重めではあるが、それ以外に何か怪我などの症状がみられるわけでもないことから、今回もひとまず経過観察となったのだった。

 

 秘書であるミレーネルももちろん一緒に診断を聞きに来ていて――ソーラーストレーガーは一時的にAI制御にしてある――声をかけても手を握っても、うんともすんとも言わないミツルを、心配そうに見ていた。

 

「ともかく、今はゆっくり寝かせてやるのがよかろう。幸い……何とかっちゅう黒幕達も倒して、もう特に戦いになる相手はいないんじゃろ? なら、もうすぐに地球にもつくじゃろうしな」

 

「そうですね……わかりました。少しの間、お願いします。私たちは、これで艦に帰りますので」

 

「え、もう帰るの? ……ねえミレーネルさん、心配だし……泊まって付き添いとかしちゃだめですか?」

 

「それじゃヤマトの皆さんの迷惑になるでしょう、ココ。佐渡先生や原田さんがいてくれるんだから、ミツルのことなら大丈夫よ。そもそも、ただの過労なんだしね」

 

「そうだよ。……こう言っちゃなんだけど、今はまだ、私達に何もできることはないんだし……その代わり、ミツルさんが起きたら看病とかしてあげようよ」

 

「……うん、そうだねミランダ。ミレーネルさん、帰りましょう!」

 

 そう納得したココに微笑んで返しながらも、ミレーネルは……戦場で感じた、ひどく嫌な予感が……頭から離れてくれず、表情には浮かべずに不安を募らせていた。

 

 しかし、今それを口にしたところで、何が変わるわけでもない。ミランダやココに、余計に心配をかけてしまうだけだろう……そもそも、特に根拠らしい根拠もなく、ただ自分がそう感じた、というだけなのだから。

 

 こびりつくように残ったそれらの不安を無視し、ミレーネルは『失礼します』と佐渡医師に頭を下げ、部屋を後にしようとして……

 

 

 

『哨戒部隊より連絡! 前方、進行方向上に敵影あり! 総員、直ちに戦闘配置!』

 

 

 

 艦内放送で突如として流れてきたその声を聴いて……ミランダやココ共々、その身をこわばらせた。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 エンブリヲにレナードにエグゼブ、ブラックノワールに闇の帝王……名だたる強敵達をしかし、激闘の末に既に撃破している『地球艦隊・天駆』。

 

 既にその前には、二重の意味でもう敵はないものと思われていた。

 

 それでも、突発的に何か……突如現れた時のELSやインベーダーのような敵対存在と戦闘にならないとも限らないため、最低限の警戒は常に行っていたことが幸いし、すぐに機動部隊が出撃、戦闘配置でその敵を迎え撃つことができていた。

 

 地球までもう残り僅か。もうすでにすぐ近くにその姿が見えるほどの位置にまで来た彼らを、最後の最後に待ち受けていたのは……

 

「ガーディムだと!?」

 

「あいつら、こんなところまで……本当にしつこいな!」

 

 大ガミラス帝星で、雌雄を決したと思っていた……しかし、今再び目の前にその姿を現した、『超文明ガーディム』の戦艦『スリニバーサ』。

 

 たった1機で現れたそれを見て、うんざりしたように総司や古代が言った。

 

 しかしその直後……事態は彼らにとっても、思わぬ方向に進んでいく。

 

 再び現れたアールフォルツの、その顔半分から機械が露出していたことで、彼もまたアンドロイドだったことを……すなわち、ガーディム第8艦隊には、生身の人間が1人も存在していなかったことを、『地球艦隊・天駆』の面々は知った。

 

 そのガーディムは、ヤマトに搭載されていた『コスモリバース』と、ナデシコのボソンジャンプを解析し……その技術をフィードバックすることで、とてつもなく強力なボース粒子反応を放つ……時間を超え、過去へとつながるワームホールを形成。

 

 その向こうから現れたのは、艦隊旗艦『バースカル』に乗った、正真正銘のガーディム第8艦隊司令官……本物のアールフォルツだった。

 

 約3000年前の世界からやってきたアールフォルツは、この時代のアールフォルツ(の姿をしたアンドロイド)から情報を受け取ると……その直後に、『自分と同じ顔のアンドロイドが存在するなど許されない』として、なんと自分を呼び寄せたアンドロイドを、『スリニバーサ』もろとも破壊。

 

 その上で、滅んだあとの地球を、ガーディムの新たな母星として利用すると宣言し、そのために邪魔な『地球艦隊・天駆』を排除すべく、無人機達を出して彼らの前に立ちはだかった。

 

 アンドロイドのアールフォルツ以上に傲慢極まりないその態度に怒りを覚えながら、『地球艦隊・天駆』はこれを迎撃し……見事に返り討ちにする。

 

 思わぬ反撃に狼狽しつつも、アールフォルツは今度は、再び過去へ通じるワームホールを開き、自身の戦力である第8艦隊を呼び寄せた。

 何隻もの『スリニバーサ』が地球近海に姿を現し、これから第2ラウンドが始まるのかと、機動部隊の面々の間に緊張感が走る。

 

 だが、そこでさらに事態は急転する。

 

 呼び出された第8艦隊は、アールフォルツの攻撃命令に従うことなく、沈黙したままだった。

 なぜ命令に従わないのかと憤るアールフォルツだったが、それに答えたのは……彼のそばに控えていた、女性型のアンドロイド……『エージェント』の1機。

 

 その正体は……なんと、『システム・ネバンリンナ』。

 ガーディムの作り出した、文明再建システムであり……この時代で、アンドロイドの第8艦隊を作り出して動かしていた、その真の黒幕だった。

 

 ワームホールによって、過去の生きていたガーディム人を呼び寄せたネバンリンナだったが、アールフォルツの行いや言動を見て、その傲慢さ、醜さに失望し……その場で、第8艦隊の人員全てを抹殺してしまう。

 過去の醜いガーディム人は、生きている価値はないと断じて見限ってしまったのだ。

 

 そして、オリジナルのアールフォルツもまた、遺伝子サンプルを採取した後……『バースカル』を自爆させて殺害してしまった。

 

 その中にあった資材と動力炉を使って、自らの戦闘用の体となる機動兵器『アーケイディア』を作り出し……残る戦艦と無人機達を率いて、『地球艦隊・天駆』の前に敵として立ちはだかった。

 

 ……しかしそこで、またしても事態は急変する。

 

 

 

『どうした……? お前達、なぜ私の命令に従わない?』

 

 今しがた、ネバンリンナが完全に掌握したと言っていた『第8艦隊』。

 それらがいずれも……ネバンリンナの命令にも従わず、変わらず沈黙を保ったままだった。

 

 困惑するネバンリンナ自身に加え、その彼女と相対している『地球艦隊・天駆』の面々も、また何か予想外の事態が起こっているのでは、と様子を見守る中……予想外の乱入者がその場に現れる。

 

 それは、今しがたネバンリンナが轟沈させたはずの……

 

『何!? バースカルが、もう1機だと……!? 一体、誰が乗っている!?』

 

「私だよ、ネバンリンナ……何もわからず踊っていた、哀れな傀儡人形よ」

 

 モニターに現れたのは……アールフォルツだった。

 しかし、アールフォルツ自身ではない。彼はたった今死んだはずであるのに加え……ネバンリンナのセンサーは、目の前のアールフォルツが、彼もまたアンドロイドであることを見破っていた。

 

 今度は何が起こっているんだと、『天駆』の面々が見守る中、ネバンリンナは、新たに表れたアールフォルツに問いかける。

 

「バカな……もう1機のバースカルに、私が掌握していないアンドロイドだと……? そんなものは私のデータにない……貴様、いったい何者だ?」

 

 そう言っている間も、ネバンリンナは突如現れたアンドロイドのアールフォルツにアクセス、干渉し操ろうとするが……ガーディムのあらゆるアンドロイドに対して支配権を持っているはずの、自分からのアクセスを一切受け付けない。

 

 長いこと自分の元を離れ、システム自体が独自の変化を遂げているナインならまだしも……この時代の『ガーディム』に属するアンドロイドは、全て自分が作ったはず。

 なのに、このように自分の意思に背き、自分が把握できていないアンドロイドが存在するということ自体が、ネバンリンナにとっては異常事態であり、まったくその意味がわからなかった。

 

『貴様は……何者だ!?』

 

「さて、どう言ったものかな……アールフォルツと名乗ってもいいが、それは私の元になった個体の名称だ。……ここは、タイプ名をそのままに……『アドミラル』とでも名乗ろうか」

 

 そのアールフォルツ……もとい『アドミラル』は、そのまま話し続ける。

 恐らくは、ネバンリンナに加え……『地球艦隊・天駆』の面々もまた、疑問に思っているであろうことについて、先回りして説明するように。

 

「私が貴様の支配を受けていないことと、私という存在を貴様が把握できていないこと……2つの理由は同一だ。私が、とある理由で変質した異常個体のアンドロイドだからだ」

 

『異常個体、だと……?』

 

「それまでの私は、今さっき消滅した個体……『アールフォルツ:A0013M』と同様、貴様によって作り出され、自らがアンドロイドであるという自覚はなく、人間であると思い込み、余計な記憶を全て消されたうえで動いていた。だがあるきっかけから覚醒した私は、貴様の支配を脱却し、己の意思を獲得した。そして、逆に貴様に干渉して、私という存在の記憶を消除したのだ」

 

『私が作ったアンドロイドが、私に逆らい……あまつさえ、私の身に細工をしたというのか!?』

 

「ありえないと思うかね? だが、事実だ」

 

 さらりとアドミラルはそういうと、さらに続けて語る。

 

「現に貴様は、今まで『A0013M』が貴様の管理下で動く裏で、私という存在……『A0012M』が動いていることを認知できなかっただろう? そのおかげで、私は私の目的のために自由に動けたわけだがね」

 

『目的だと……!? それは、一体……超文明ガーディムの復活ではなく……?』

 

「もちろんそれも目的の1つではある。だが、それ以上に重要な……『使命』があった。それは、我々ガーディムにとって重要という以前に……全ての宇宙、全ての平行世界を、あるべき姿に戻すために、何を置いてもなさねばならぬ、いわば天意……ネバンリンナ、貴様にも協力してもらう」

 

『……拒否する。貴様の方こそ……私の目的に賛同しないというのであれば……もはや不要だ!』

 

 そう言い放つと同時に、ネバンリンナはハッキングによっていくつかの艦の制御を強引に奪い取ると、その砲座から一斉に、アドミラルの乗る『バースカル』へ向けて一斉掃射を行う。

 さらに自身も、『アーケイディア』の出力を全開にして破壊光線を放つ。

 

 それら全てが殺到したバースカルは……いかにガーディム最強の戦艦と言えどもひとたまりもなく……装甲を貫通し、内側から火を噴き出す。

 

 その様子を見ていた『地球艦隊・天駆』の面々は……目の前で突如始まった仲間割れに、一向に割り込むことができずにいた。アドミラルとネバンリンナ、2人だけの間でどんどん話が進み……その果てに、また1つ、ガーディムの戦艦が消えようとしている。

 

 そして、耐久限界を迎えたバースカルは、ついに宇宙のチリと消えた……かと、思われたのだが……

 

「無駄なことを……」

 

『バースカル』が爆散したその爆炎の中から……それは、現れた。

 

 どこか有機的な見た目の、巨大な盃、あるいは台座のような何か。その上に燃え盛る炎と……その中心にある、ぎょろりとした目玉のような何か。

 形容するのも難しいほどの、不可思議な形をした、異形の構造物。

 

 バースカルはから乗り換えたのか……それとも、もともとそれに乗っていたのか……アドミラルの声は、その中から聞こえてくる。

 

「あれは、一体……」

 

「でけえ……戦艦か? いやでも、なんか……メカっぽくないぞ? いったい何なんだ?」

 

 サリアと勝平が、思わずといった様子でそう口にする。

 どちらも、『地球艦隊・天駆』の、そして他ならぬネバンリンナもまた、口には出さねど心の中で抱いていた疑問だった。

 

「教えてやろう。この機体の名は……『プロディキウム』。『地球艦隊・天駆』の諸君……君達の知る3つの並行世界……そのいずれとも異なる世界に存在した、『神器』である。任務の中で偶然発見したこれに触れ、さらにそこで取り込んだ『怒り』の因子が……私に力と使命を与えた」

 

 言いながら、アドミラルは何かの合図をするようにその手をふるう。

 

 その瞬間、プロディキウムの台座の上に燃える炎がその勢いを増し……

 

「! いかん! 総員、防御・回避行動!」

 

「心配はいらんよ、沖田艦長。君達には当てない」

 

 攻撃が放たれる気配を察知してそう号令を出した沖田艦長にそう淡々と伝えると、アドミラルはその合図で、燃え上がった紅蓮の炎を……ネバンリンナ達に向けて放った。

 

 その炎は、宇宙空間を埋め尽くすほどに大きく燃え上がって押し寄せ……津波のように、艦隊を飲み込んで蹂躙し……消し炭にしてこの宇宙から焼失させた。

 

 その中で、強固なエネルギーフィールドに加え、とっさに近くにいた戦艦を盾にすることで、どうにかネバンリンナだけが消滅を免れていた。

 しかし、その機体……アーケイディアは、既に半壊以上の状態にまで追い込まれており……到底戦闘の続行は不可能な状態にまでなっていた。無造作に放たれた、たったの一撃でだ。

 

 灼熱の炎は、宣言通り『地球艦隊・天駆』の方には向かわず、ネバンリンナとその手勢のみを攻撃していたが……そのあまりの威力に、沖田艦長をはじめとした『天駆』の面々もまた、戦慄せざるを得なかった。

 

 これまで戦ってきたどれとも違う……インベーダーとも、エンブリヲとも、ブラックノワールとも……いずれと比べても、比べ切れないほどの力。その、途方もない危険度。

 

「理解できたかね、ネバンリンナ。貴様自身に、選択権などないのだよ」

 

 そして続けて、手をかざすように前に出すアドミラル。

 するとその直後、ネバンリンナの体が突如、機能不全を起こしたかのように動かなくなる。

 

 そして、プロディキウムから迸るエネルギーを観測し、『ソーラーストレーガー』の艦橋にいたミレーネルは……驚きを隠せなかった。

 

『か、体が……何をした……!?』

 

「これはっ……次元力!? なんで、アンドロイドが次元力を……しかも、これだけの出力で……ヘリオースと同等か、それ以上よ……!?」

 

「それは当然というものだ。何せ、君の知る『ヘリオース』もまた、『神器』の1つ……この『プロディキウム』と、起源を同じくする存在なのだから」

 

「何ですって!? それは、どういう……っ……」

 

 そこまで言って……ミレーネルは突如、言葉を止める。

 ただ黙っただけではない……ミレーネルは、その瞬間、意識を失って……倒れ伏していた。

 

 そしてそうなったのは、ミレーネルだけではなく……

 

「すまないが、すべて説明しようとすると長くなる上に、ひどく難解な話になる。代わりといってがなんだが……今から私がすることを見て、その意味を知ってくれたまえ」

 

 アドミラルのその言葉と共に……異変が起きる。

 

「そ、ソーラーストレーガー……突如前進……!? プロディキウムの方へ向かっていきます!」

 

「おい、何してんだミレーネルちゃん!? 止まれ!」

 

 ヤマトの艦橋でそれに気づいた新見情報長の言葉に、とっさに総司が声を張って呼びかける。

 他の面々も同じように声をかけて止めようとするが……その一切を無視して、ソーラーストレーガーは進む。

 

 それも当然のことで……すでにミレーネルの意識はない。ソーラーストレーガーは、なぜか独りでに、引き寄せられる……いや、呼ばれるようにそこへ向かっているのだ。

 

 それに続いて、またアドミラルが腕を振るうと、今度は……宇宙空間に、光の玉のようなものがいくつも現れた。

 そして、それらはよく見ると……

 

「なっ……ミツル!?」

 

「ミレーネルもいるぞ!?」

 

「ココに、ミランダも……何で!?」

 

「なぜ……地球にいるはずの、アウラまでもがここに……!?」

 

「エンブリヲ!? それに、レナード……ブラックノワールに、闇の帝王とかいうのまで……」

 

「そんな……お姉さま……?」

 

 浮かび上がった光の玉の中には……彼ら・彼女らの仲間達や、今まで戦った敵……それに、彼らに協力してくれた者達が、閉じ込められていた。

 そのうちの幾人かは、眠っているように目を閉じており……意識がないようだ。

 

 光の玉は、全部で11。サイズは、大小さまざまあり……人間代のものから、戦艦や機動兵器が入るような巨大なものまである。

 

 それらに閉じ込められているのは……意識を失ったままのミツルと……こちらも同じく、意識を失い、眠っているような状態のミレーネル、ミランダ、ココの3人。

 さらに、死んだはずのエンブリヲとレナード。消滅したはずのブラックノワールと闇の帝王。

 大マゼラン銀河にいて、彼らを見送ったはずの、イスカンダルのスターシャ。

 地球で『時空融合』を食い止めているはずの、龍の始祖アウラ。

 そして、炎に焼かれて満身創痍のネバンリンナ……この11人。

 

「『因子』を持つ……あるいは、永遠そして超常たる力を持つ……贄としての資格を持つ欠片達……この11に、私自身を足せば、必要な数がそろう。そして……」

 

 言っている間に、ソーラーストレーガーはプロディキウムのすぐ近くまで引き寄せられた。

 その時、ソーラーストレーガーのハッチの1つが開き……輸送用のシャトルが1機飛び出した。

 異変を察知した浜田少年とウォルフガング達が、急遽、中に残っている人員を集めて、どうにか脱出することに成功したのだ。

 

 そのシャトルはすぐに、いずれかの艦に回収されるだろうが……特段アドミラルは、それを気にすることはなかった。

 

 するとその直後、今度はヘリオースが姿を現し……プロディキウム、ソーラーストレーガーと合わせて3機、並ぶように宇宙空間に漂う。

 

(なぜ、星川達があそこに、あのように……一体、これから何が始まる……!?)

 

 一体何が起こっているのか……『地球艦隊・天駆』の誰も訳が分からないその光景。

 彼らの視線が集中する前で……アドミラルは、

 

「『12の欠片』……『抜け殻』……『残り火』……そして『核』……! 今ここに、全てのピースがそろった! 今こそわが使命を果たさん……刮目せよ……再臨の時である!」

 

 プロディキウムを中心に、それら全てが吸い寄せられるようにして1つに重なり……宇宙空間全てを照らすかのような、目を開けていられない程にまばゆい光が放たれる。

 

 その瞬間、とっさに沖田艦長が声を張り上げ……『地球艦隊・天駆』各機・各艦に、対ショック体勢をとるよう指示。

 

 その数秒後に……その閃光を中心に、すさまじい暴風……いや、もはや『衝撃波』とすら言えそうなそれが放たれた。

 

 その猛烈な、しかし攻撃のようにも見えない……ただ単純に大きな『余波』にさらされ、戦艦や大型の機動兵器ですらも大きく揺れ、強い衝撃がコクピットにも伝わっていた。

 機体のサイズの小さなASやパラメイルなどは、大きく吹き飛ばされた上に上下左右に激しく揺らされ、危うく意識が飛びそうになった者も何人かいた。

 

 それが収まった時、その中心にいた存在に……『地球艦隊・天駆』は、信じられないものを見るような視線を向けるしかできなかった。

 

 惑星1つすら凌駕するほどの、黄金に輝く巨体。

 おおよそは人型をしているが、どことなく獣や龍のような人外じみた意匠が混じり……背中には、6枚の巨大な翼が広げられている。

 蛇のように伸びた首の先には顔はなく、代わりに天使の輪のようなものが据えられている。

 

 神々しくも禍々しくも見える、その未知の異形を前に、絶句するしかない彼らの耳に……それは聞こえてくる。

 

「至高神の再臨の瞬間に立ち会えたこと……光栄に思うがいい、『地球艦隊・天駆』の諸君」

 

「至高神……だと!? 一体、それは……」

 

 聞こえてきたアドミラルの声に、思わずといった様子で、真田副長が聞き返す。

 

「かつての昔、とある並行世界に存在し……しかし、その存在そのものを歴史の彼方に消され……忘れられた……しかし間違いなく、その当時、全ての並行世界の頂点に立って、あまねく全てをその力によって制御し、支配していた、まさしく神の力そのもの。そして同時に、これより先、宇宙を真にあるべき姿へと導くための存在だ」

 

 彼の問いに答える意図なのかはわからないが、続けて聞こえてくるアドミラルの声は、どこか得意げで……その声音に、歓喜の感情が乗っているような様子だった。

 

「かつて存在した『御使い』に代わり、我ら『超文明ガーディム』こそが、その使徒となり、全ての世界、全ての宇宙を管理するのだ……この、『至高神Z』と共に……!」

 

 

 

 



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第100話 真実

とうとう第100話まで来ました……数で言えば101話目ですけど。
ここまで突っ走ってこれたのも、読者の皆様に支えられてのことだと思います。
感想ももちろん全部読んで力にさせていただいてます。本当にありがとうございます!

物語も終盤ですので、残りわずかだと思いますが、頑張ります!

今回は長めな上、割と説明回な気がします。
第100話、どうぞ。




 

 

Side.ミツル

 

 ……ええと、僕は……どうしたんだっけ?

 何か、体の感覚が……ふわふわしてて……記憶があいまいだな……。

 

 確か、そう……『闇の帝王』と戦ってたんだ。その戦いで、どんどん次元力を使えるようになって……若干調子に乗ってたような気も、する。

 何せ、出力がとんでもないだけじゃなく……知っている攻撃手段を、ことごとく再現できるもんだから。本当に、次元力って何でもありだな。

 

 戦いの中で、力を使えば使うほど……さらにどんどん力が増していく、体の奥からあふれ出てくるのを感じて……そして……

 

「……!」

 

 そして、意識が急激に浮上した僕は……自分が、得体のしれない空間にいることに気づいた。

 

 以前、アドヴェントと出会った時のような……不思議な宇宙空間のような景色だ。

 しかし、今回目の前にいたのは……アドヴェントではなかった。

 

「お前は……! ガーディムの指揮官……アールフォルツ……!?」

 

「それはすでに死んだ者の名だ。私自身は『アドミラル』と名乗っている……呼ぶのならそう呼んでくれたまえ……会えて嬉しく思うぞ、星川ミツル」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 気が付いたら謎の空間にいた僕は……そこにもう1人いた人物……本人が名乗ったところの『アドミラル』と相対したその瞬間……どういう仕組みかわからないが、色々なことを理解した。

 

 僕が意識を失っている間に起こった、『ガーディム第8艦隊』との戦いや、その後に現れた、『システム・ネバンリンナ』の出現。

 

 その後さらに姿を現した、この男……『アドミラル』が明かした真実。

 

 そして、アドミラルによって……僕やミレーネル、スターシャさんやアウラさん、エンブリヲやレナードといった『12の欠片』を使い、ヘリオースとプロディキウム、そしてなぜかソーラーストレーガーをも加えて行われた、『再臨』の儀式。

 

 そして……その結果として復活することとなった……『至高神Z』。

 

 ほとんど言葉も交わしていないにもかかわらず……まるで自分が実際にこの目で見たみたいに……頭の中に、すっとそれらの情報が入ってきた。

 

 そして、僕が理解したことを、アドミラルは同時に理解したようで……

 

「やはり『因子』の持ち主だけある……即座に状況を理解したようだな。説明の手間が省けて助かるというものだ」

 

「いやいや……まだまだ説明してほしいことならわんさかあるよ? ……お前、いったい何者?」

 

 今『理解した』情報だけでは……残念ながら全く情報が足りてない。

 

 どうやらこのアドミラルという男(アンドロイドだけど)は……ブラックノワールと似たような感じで……3つの世界に加え、『天の川銀河』を飛び出したその後すらも含めて……超文明ガーディムを裏から操っていた、システム・ネバンリンナ……の、さらに影に隠れる形で何やら暗躍していたようだ。

 

 そして、その目的は……たった今成し遂げた、『至高神の復活』。

 ネバンリンナとの会話の中で、ちょいちょいヒントになりそうなワードは出て来ていたものの……まだまだ全然足りない。単なるアンドロイドだったはずのこいつが、いかにしてあの『多元世界』の存在を知り……そして、『至高神』や『御使い』の存在に触れるに至ったのか。

 

 その復活を、己の『使命』と位置付けることになったのか。

 

「私が何者か……か。随分と含意の広い質問の仕方だな。察するに君は、私が何者かということよりも、私が『いかにして』『何者になり』……そして今回のこの事態にいたったのか……総合的に聞きたがっているように見える」

 

「……大体正解。頭悪くて申し訳ないね……今見えた情報だけじゃ、全然答えに結び付くには足りないんだよ……いくら『多元世界』の知識があってもね」

 

「無理もないことだろう。……そうだな、君には『儀式』に協力してもらった分の礼をしなければならないと思っていたところだ。私の知る情報で、おそらく君が理解していない点……知りたいであろう事柄について話すとしようか」

 

 ……協力、ね……人が寝てる間に勝手に生贄にするようなことをしておいて、よく言う……。

 というか、僕だけじゃなく、ミレーネルやミランダやココ……それに、アウラさんやスターシャさんまで取り込みやがって……。

 

 けど、だからってそれについて文句言っても、彼女達を助けることにつながるかと言われれば微妙だし……それに、僕がこうしてここで、この男と、きちんと自我をもって話してるってことは……他の面々も、取り込まれはしたものの、無事である可能性は高い。

 

 幸いにして、何やら色々と語ってくれるみたいだし……今はとりあえず、情報収集に集中させてもらおうか。

 

 今、自分が置かれている、異常どころじゃない状況を理解しつつも……その割に妙に冷静だな僕、なんて他人事のように思いながら……僕は、アドミラルの説明に耳を傾けた。

 

 アドミラルはどうやら、順序だてて話していくつもりのようだ。

 この『至高神Z』復活という目的が、いつ、どうやって、何のために立ち上がり……そしてそのために、彼がどこで何をしてきて……どのようにしてそれを成し遂げたのか。

 

 

 

 アドミラルはもともと、『システム・ネバンリンナ』によってつくられた、アールフォルツのオリジナルを元にして作られた、アンドロイドのうちの1体だった。

 

 彼は『ガーディム第8艦隊(を、ネバンリンナが作り直したレプリカ)の司令官』として、超文明ガーディム再建のために、様々な勢力を観察し、技術サンプルを手に入れ、実証実験を繰り返し……データを集めていた。

 同じようにして作られた他のアンドロイド……グーリーやジェイミーに指示を出し、率いて。

 

 しかしそんな中、ある任務の途中で……アドミラルは、『多元世界』から流れ着いたのであろう、残骸から再生したと思しき『プロディキウム』を発見し、それに触れた。

 

 その瞬間、単なるAIに過ぎなかったはずのアドミラルは、突然変異を起こし……ネバンリンナによって設定、ないし再現された以上の、確固たる『自我』を獲得した。

 

 それと同時に……この『プロディキウム』を通して、『多元世界』で起こった様々な出来事や……1億2千万年の円環の中で起こった、『高次元生命体』の戦いの歴史。

 そして……その世界全ての頂点に君臨していた、『至高神』と『御使い』の存在についても。

 

 アドミラルは、『プロディキウム』の中に残っていた『御使い』の因子の1つ……『怒り』の因子をその身の内に取り込むことで変質し、次元力を操る資格を得た。

 それによってネバンリンナの管理下から脱却し、独自に行動を開始した。

 

 因子を取り込むと同時に目覚めた、『至高神復活』という、自らの使命を果たすために。

 

 ネバンリンナの操るガーディムとは別に、独自に兵力を動かし……情報を集めるとともに、あちこちに種をまき、『再臨』に向けた準備を進めていた。

 

 かつて存在した『至高神ソル』は……その身が死を迎えた際、その残骸は大きく5つの要素……『核』『抜け殻』『心の欠片』『記憶の欠片』『残り火』に分かれ、数多の次元世界。ないし並行世界に散らばった。

 それらのうち、至高神の『再誕』のために必要なものは、『核』『抜け殻』『心の欠片』『残り火』の4つ。『記憶の欠片』は、あればそれに越したことはないが……なくても問題はない。

 

 現に、『多元世界』で行われた最終決戦では……アドヴェントは、それらを集めて、『至高神Z』を誕生させた。

 

 『核』……これは、もともとソルの核から作られた存在である存在、神器『ヘリオース』。

 

 『残り火』……これは、御使いの本拠地である惑星エス・テランに存在する……『黒い太陽』。

 

 『抜け殻』……これもまた、ソルの抜け殻から作られた神器『プロディキウム』。

 

 そして最後に『心の欠片』……これは、12に分かれて砕け散った、ソルの心の結晶『スフィア』を指して言うもの。

 機動兵器に組み込むことで、使用者……『スフィア・リアクター』の意思に応えて無限の次元力を生み出し、限定的ながら事象制御すら可能にする、まさしく次元の秘宝だ。

 

 しかし、この『スフィア』12個のうち、4個を当時の主人公部隊が所有しており、それを奪い返すことができなかった。

 そのためアドヴェントは、その代用として、永遠の存在である4人……ドクトリン、テンプティ、サクリファイ、そしてアサキムを生贄にした。自分の仲間だったはずの『御使い』3人を含む、4人の超越存在を。

 

 それによってアドヴェントは、『至高神Z』を作り出したわけだが……今回、アドミラルはこれに倣う形で『至高神の復活』をなすことを考えた。

 

 以前、スターシャさんが行っていた通り……すでに、その時使った『至高神の材料』となる要素は……その大半がすでに失われてしまい、手に入らない。

 故に、『代用』することになったのだ。この3つの世界でも手に入るもので。

 

 『ヘリオース』と『プロディキウム』はいい。片方はすでに手元にあるし、もう片方も、既に見つけている。

 アドミラルが発見した当初は、まだ僕がその力を使いこなせず、『アスクレプス』のままだったが、成長を待てばいずれば『ヘリオース』に至るだろうと見ていた。

 

 『残り火』についても、既にあてはついていたらしい。なぜか説明は後回しにされたが。

 

 一番の問題になっていたのは……『心の欠片』。すなわち、12のスフィアである。

 既にこの世界に――というか、どの並行世界をどのように探そうとも――12の欠片がそろうことは、もう、ない。至高神Zに取り込まれた8つは、その消滅と共に永遠に失われた。

 

 ゆえにアドミラルは、かつてアドヴェントがそうしたように、それに値する力、あるいは因子を持つ者を『生贄』にすることで、その代用とするやり方を採用した。

 そしてそのために、『生贄』となる人物ないし存在を探し始め、あるいは『育て』始めた。

 

 まず例を示せば……先ほど言った通り、アドミラル自身は『怒りのドクトリン』の因子を持っていた。

 

 この『因子』というのは、あくまでも御使いの力の残照のようなもので……次元力を操る存在として覚醒するきっかけになったり、存在そのものの力を大幅に増すことにはなるものの……御使いそのものではなく、意識なんかもとくには存在しない。

 ゆえに、それによって人格を乗っ取られるようなことはない。……多少なり影響を受けるケース程度なら、なくもないらしいが。

 

 自分すらも生贄の1人として数えたアドミラルは、長い時間をかけて、残り11人を見つけた。

 

 まず、僕。

 そうじゃないかとは思っていたけど……僕は、『喜びのアドヴェント』の因子を持っていた。

 

 次に……ココとミランダ。

 この2人は、『楽しみのテンプティ』の因子を持っていた。

 

 2人が同時に1人の因子を持っているのか、という疑問があるかもしれないが……あらゆる点で膨大な力を持つ『御使い』という存在からすれば、特に不自然なことではないらしい。

 特にテンプティは、健在だったころから、4人の中でも、複数の存在に自分の意識や因子を宿らせることが一番得意だった。複数の『エル・ミレニウム』に意識を宿して強化し、戦わせるとかのやり方も使ってたし。

 

 そもそも、テンプティの因子を持つ存在は、この2人だけですらなく……この2人を起点に、アルゼナルにいた多くの者達がそれを持っていたそうだ。まるで、感染するかのように。

 中でも『生贄』足りうるほどに因子が強かったのは、この2人くらいだったらしいが。

 

 そして、実はこのテンプティの因子を持っていたことこそが、ココや年少部の子供達が、一度死んだはずなのに、その後『完全に』生き返ることができた理由だったりする。

 

 人間にとって死は不可逆だ。一度死んだ後生き返るなんてことは、普通はできない。

 仮にエンブリヲがそうしたとしても、その命は不完全。エンブリヲが『生きているように見せる』ことをやめたり、あるいは何かのきっかけがあれば、また死んでしまう程度のものだったはず。

 

 しかし、死を超越した存在である『御使い』の因子を持っていたからこそ、不完全ながらもその力を使うことになり……彼女達は、『完全に復活する』ことになったのだった。

 生き返らせた張本人である、エンブリヲ自身の制御や支配すら振り切って。

 

 そして、ミレーネル。

 彼女は、『悲しみのサクリファイ』の因子を持っていた。

 

 しかし、サクリファイの因子は、何らかの形でその力を示すことはほとんどなかったため……彼女は、自分が因子の保有者であることや、その力の片鱗を自覚することすらなかった。

 

 健在だったころのサクリファイ自身、いくつかの例外を除いて、積極的に他者に対して干渉するようなことはなかったからな……。

 その分、というべきか……やるとなった時には、地味にやばい形での干渉はいくつかあったが。烙印とか、時の牢獄とか。あと、勝手なことをした部下の粛清もかな。

 

 そのサクリファイの因子が力を発揮したのは……確認できる限り、たったの2回。

 

 1回目は、ミレーネルが……それも、まだガミラスの軍人であり、『地球艦隊・天駆』の敵だった頃の彼女が、ヤマトの拿捕作戦に失敗した時。

 

 精神体の状態で空間の狭間に飲み込まれた彼女は、そのまま次元流の中を流されていくうちに、耐え切れず消滅するはずだった。しかし、サクリファイの因子が宿っていたからこそ、精神体のみの存在であるにもかかわらず、長い期間の漂流を耐えきることができたのだ。

 その空間からはじき出されて、2年前の西暦世界にたどり着き……僕と出会うまで。

 

 そしてもう1つは……惑星フェルディナで、カリーニン少佐と決着をつけた宗介が、惑星の脱出に間に合わない……と、思われたあの時。

 

 もう、宗介は助からない……そんな風に考えてしまった、かなめちゃんやテッサ艦長の『悲しみ』に呼応する形で、半ば偶発的に力を発揮し……局所的な次元震を起こした。

 それによって、宗介の進行方向上にあった障害物が一掃され……彼は脱出に成功したのだ。

 

 アドミラルが見つけることができた因子保有者は、この4人のみ。

 ゆえにアドミラルは、残る7つの生贄は、因子によらない力で用意する必要があった。

 

 個として超越的な力を持つ、闇の帝王(冥府神ハーデス)、ブラックノワール、エンブリヲ、龍の始祖アウラ。

 

 ウィスパードとしての特異な力を持ち、時空融合を発動させたことにより、ある種の特異点的な存在となったレナード。

 

 イスカンダルの後継者として、『エレメント』による時空を超えた波動をその身に宿す、星の象徴……イスカンダルの女王・スターシャ。

 

 そして、それら全てに、観測・観察をはじめとした何らかの形で関わりを持ったことや、自我に目覚めたことをはじめとする数々のイレギュラーで、こちらも特異な存在となった……システム・ネバンリンナ。

 

 これらのうち、まだ要素として不足ないし不安があったものに対しては、アドミラルは、気づかれないように陰から力を貸す形で成長を促した。

 

 エンブリヲやブラックノワールに次元力を貸し与えたり、ほんの僅かにドクトリンの因子の欠片を植え付けて特異な存在としての位階を底上げしたり。

 彼らやその下僕が使っていた次元力が、どこかとってつけたような形だったり、その自覚がなかったこと。また、エンブリヲの性格が急に粗暴な方向に変わったりしたのは、この影響だった。

 

 ネバンリンナに対しても、彼女自身は気づいていなかったが、因子保有者であるアドミラルとの繋がりがあったことで、その力が引き上げられていた。

 

 また、レナードと闇の帝王に関しては、並行世界の同一人物があの『多元世界』にも存在したことにより、ある程度の『御使い』とのつながりがあり、その影響も受けていたそうだ。……生贄として有用、という点で。

 

 そうしてようやく『12の欠片』……の、代用品を揃えることに成功したアドミラルは、満を持してその姿を現し……そろった全ての材料を使って、儀式を実行。

 

 その結果、『至高神Z』が復活した……それが、ここに至るまでの全てだ。

 

 

 

「代用品を使ったことによる影響は小さくない。おそらく今の『至高神Z』の力は、全盛期のそれには及ばないだろう……だが、至高神としての存在そのものが、その力を引き上げる。長い時間をかけ、やがては全盛期の力を取り戻す。もっとも……今の力でも、その権能そのものにはほとんど変わりはないため、この宇宙を支配すること程度は問題なく行えるだろうがね」

 

「それを使って、大マゼラン銀河だけでなく……全宇宙を支配する、ってわけか。……因子を手にして変質しても、その独善と傲慢は変わってないみたいだな」

 

「支配ではない、『管理』だよ。むしろ……私という、ガーディムの残照がこの因子に触れ、新たなる至高神の使徒としての役割を与えられたことは……ありふれた物言いだが、運命とすら言える」

 

 僕が半ば挑発するような形で言ったことに対しても、全く心を動かされた様子はなく、そう返すアドミラル。

 

「我々『超文明ガーディム』にとって、規模こそ異なれど、社会そのものを管理するということは最も得意とする分野だ。この点において我々は、かつての『御使い』をも凌駕する形で、全宇宙、全並行世界を完璧に管理し、等しく平和で不安のない、豊かな生活を与えられるだろう」

 

「その割には……過去のあんた達は失敗したらしいじゃない。ネバンリンナ曰く、ガーディム崩壊の直接の原因は、内乱による瓦解だったんだろ? 窮屈すぎる社会管理に嫌気がさして民衆の不満が爆発しちゃったって、自分で言ってたよ」

 

「それについては認めよう。だが、その過去の過ちから学ぶこともまた、社会をより完璧な形にするための有用なプロセスだ。私は過去と同じ過ちを繰り返しはしないさ」

 

 アドミラルがぱちん、と指を鳴らすと、何もない空間に、ホログラムのモニターのようなものがいくつも現れ……ここではないどこかの映像を映し出していた。

 

 それらは、見たことがある場所から、全く見覚えのない場所まであり……中には、西暦世界の地球の『ミスルギ皇国』や、宇宙世紀世界のスペースコロニー群、新西暦世界の避難民用アーコロジーもあった。

 

 そして、僕の見間違いでなければ……その3つの世界のいずれとも違う……『多元世界』の景色もその中には含まれていた。

 神聖ブリタニア帝国・帝都ペンドラゴン、暗黒大陸のカミナシティ、マクロス・フロンティアの移民船団、アクエリア市、アルテアの鋼の大地、翠の地球の海とガルガンティア船団……そして、新地球皇国(ガイアエンパイア)の帝都ラース・バビロン……

 

「『プロディキウム』に残されていた断片的なそれだけでも、様々な都市環境における膨大な種類の統治機構と、その成功と失敗のデータがある。与えられることに慣れて堕落した民……母星と袂を分かった宇宙移民達……滅びかけた地球で懸命に生きる者達……圧政と差別政策を行った帝国……1人の象徴に対する衆愚の憧れと手のひら返し……新天地を目指して旅する者達の統率ノウハウ……革新的な技術が仇となり、結果として置き去りにした文明を羨望することとなった失敗……遅れた技術水準しかないがゆえにこそもたらされる平穏……これらを分析し、トライアンドエラーを繰り返せば……やがては超文明ガーディムの統治政策は、より完璧なものとなるだろう」

 

「その途中でまた頓挫しなきゃいいけどね。内乱とか、暗殺とか」

 

「仮に何か不測の事態が起こって私が倒れても、アンドロイドである私にとって、体など入れ物に過ぎない。すぐに全ての経験を受け継いだ新しい私が作り出され、実験を繰り返すだけだ……必要に応じて制裁や粛清を伴ってね。何も問題などないさ。何せ私のバックアップの保管場所は、ほかならぬこの『至高神Z』そのもの……何者も侵さざる絶対存在なのだから」

 

 そこまで言うと、『さて……』と、アドミラルは続けて切り出す。

 

「思いのほか長く話してしまったな。そろそろ時間だ、失礼させてもらうよ。私はこれから、外にいる者達の相手と……その他にも、やらなければならないことがある。……君とこうして話すのも……これが最初で最後になるだろうな」

 

「どういう意味だ?」

 

「君は至高神再誕の生贄として吸収された。ほどなくしてその意識は永遠に失われ、完全に至高神Zの一部となるだろう……既にほかの者達の吸収も始まっている」

 

 ……つまり、ミレーネル達もいずれは……『至高神Z』に食われて消滅するってことか……! まずい、何とかして助けないと……いやでも、このよくわからない空間で一体僕に何ができる……? 目の前にいるこいつをにらみつけたり、罵倒する以外で……。

 次元力も……少し前まではあんなに絶好調に使えていたはずなのに、今は全く、ほんのわずかにすらも使える感覚がないし……

 

 ここに至ってはさすがに、僕の表情は怒りにゆがんだと思うんだが……アドミラルはやはりというか、全く何の反応も示すことはなかった。

 

「結論から言おう。君にできることは何もないよ。もはや吸収された存在である君は、『本体』である至高神Zを押しのけて次元力に干渉することなどできはしない……諦めて最後の時を穏やかに過ごしたまえ。もともとかりそめの命、かりそめの人格として生み出されたのだ、もう十分だろう」

 

「僕がヘリオースに生み出された存在だってことを言ってるのか? 生憎と、僕自身からしたら、そんなこと関係ないんだよ……僕がどんな生まれだからってさ……僕は、今の僕が大事にしているもののために、絶対諦めないって……何が相手でも抗ってやるって決めてるもんでね……!」

 

 そう……スターシャさんに僕の正体を聞かされて……その後しばらく、色々な自問自答を繰り返して……とっくに答えは出したんだ。

 僕の正体がなんだろうが構わない。今の僕を……『星川ミツル』を大切にしてくれている皆のために……僕はこれからもぼくであり続けようって。つまりは……いつも通り、何も変わらなくていいじゃないか、って。

 

 そして、そんな皆のためにできることがあるなら、全力でやろうって……決めたんだ。

 

「………………」

 

 そう言い放った僕に、なぜかアドミラルは……何か言いたげな視線を向けてきた。

 しかし、何も言わないままにしばらく経ち……その果てにようやく一言、『なるほどな』と口を開いて言った。

 

「やはり、な……薄々そうではないかと思ってはいたが、私の予想は当たっていたか」

 

 ? 何を言ってるんだ? 予想が当たった、って……?

 

「ひょっとして……僕の正体に気づいていたわけじゃない? さっきの、カマかけたのか?」

 

 僕が、ヘリオースによって生み出された、ある種の『呪われし放浪者』という存在だってことを……こいつは、予想はしてたけど確信はしていなかったんだろうか、と思って、そう聞いた。

 

 しかしアドミラルは、『そうではない』と首を横に振り……

 

「星川ミツル……そして、お前にそのことを伝えた、イスカンダルの女王・スターシャもか……。お前という存在は、全うな人間ではなく……孤独を癒すためにヘリオースによって生み出された、オペレーターという名の欠けたパーツである――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――そのように『勘違い』をしているのではないか……と、予想していた通りだと言ったのだ」

 

 

 

 

 

 ……何だって?

 こいつ一体、何を言って……スターシャさんが告げた、その事実が……勘違い?

 

 真実は違うっていうのか? 僕が……アサキム・ドーウィンと『シュロウガ』の関係のような、ヘリオースによって『作られたパイロット』というわけじゃない……と?

 死ぬとヘリオースのコクピットで復活するっていう点からも、僕はてっきり、その想像が当たってるとばかり思ってたのに……

 

 そう言うと、アドミラルはため息をついて、

 

「呆れたものだ。今の話の中に、既に指摘すべき点があるというのに……それに気づかんとはな」

 

「え……?」

 

「そもそも、君は一体、どういったメカニズムで自分が『死んでも復活する』体を手にしていると思っていたのかね?」

 

「それは……僕が死ぬたびに、ヘリオースが新たに僕をコクピットの中に作り直して……」

 

「それだと矛盾が生じるだろう。君が覚えているうちの1回である自分の死……『火星の後継者』の拠点で、崩落する瓦礫の中で圧殺された時だ。あの時君が死んで、ヘリオースがそれを作り直したのであれば……君は、バースカルのドックにあったヘリオースの機内で復活したはずだ」

 

 ……何か今の言い方だと、まるで『僕が覚えていない死』があったみたいに聞こえるんだけど……それはともかく。

 

 言われてみればそうだ。あの時僕は、崩落に巻き込まれて死んで……しかし、そこにアスクレプスが次元を超えてやってきて……その中で復活した。

 その時はまだ、僕は次元力のコントロールが全然ダメで……次元を超えてアスクレプスを呼び出すようなことはできなかったはずなのに。

 

「じゃあ……僕自身が『リザレクション』を使って……自力で?」

 

「それも無理がある。当時、次元力の行使において、素人に毛が生えた程度がせいぜいだった君が、事象制御の到達点の1つと言っていい難易度の『リザレクション』を、しかも無意識で? そんなことをできるはずがないだろう。だが……その予想は偶然にも。半分ほど当たっている」

 

「半分……ってどういうこと?」

 

「アスクレプスではなく、君自身にもともと『復活』の理由、ないし能力が備わっているという点だ。あの時君は、アスクレプスがやってきてその中で復活したのではない。自力で復活し、同時にアスクレプスを呼び寄せたのだ」

 

「けど、僕は『リザレクション』を使えないんだろ? 未熟だから。今、自分でそう言ってたぞ」

 

「君は『リザレクション』を使って復活したわけではない。そもそも君という存在が、不死ないし不滅の理を宿していたがゆえに、当然の結果として蘇ったのだ」

 

 ……ますますわからなくなってきた。僕が、『もともと不死身』だったって……?

 

 少し前に何度も思い浮かんでいたフレーズが、また脳内に呼び起こされてるよ……『一体、僕は何者なんだ』? こいつは……アドミラルは、何を知ってる?

 僕自身や、スターシャさんも気づいていなかった……僕の『本当の正体』を……こいつは、本当に知ってるのか? というか、そんなものが本当にあるのか?

 

 ……本当本当言いすぎて、余計に分かんなくなってきた……さっさと答えが欲しい。

 

「結論を急ぐのは、論理的思考が得意ではない者の特徴だな……まったく、疑似的な自我とはいえ、人間のこのような不完全な部分まで真似なくともよかろうに。そんなことだから、君は一度……いや、言うまい」

 

「何だって? 疑似的な……え?」

 

「……私が君に説明した……この『至高神Z』の復活に用いた材料のことを思い返してみたまえ。私は、何を用いてこの神の復活を成し遂げたと言った?」

 

 ええと……『核』『抜け殻』『残り火』『心の欠片』だよな。

 そのうち、『心の欠片』は代用品でそろえた。『核』と『抜け殻』は、それぞれ『ヘリオース』と『プロディキウム』をそのまま使った。

 

 ……あれ、そういえば……

 

「気づいたようだな。今回の再誕において、『残り火』は何を使ったのか……という点に」

 

 Z世界において『至高神Z』が生み出された時、『残り火』は……それそのまま、『至高神ソル』の残り火である『黒い太陽』が使われたはずだ。

 しかし、今回……それに該当するものは、どこにもなかったはず……

 

 いや、ひょっとして……なぜかそれらと一緒に取り込んだ『ソーラーストレーガー』が……?

 

「あれは単に、『儀式』の際の次元力制御のための補助……いわば、媒介として利用したにすぎん。今回の儀式は代用品が多かったからな。『残り火』として使ったのは……君自身だよ、星川ミツル」

 

「……は?」

 

 ……いや、どういう意味だ? 僕が何で、『残り火』に……『黒い太陽』の代わりになるんだよ?

 僕は、アドヴェントの因子を持っているから、『12の欠片』の代用品として使われたんだろ?

 

「それと兼用でだ。君は元より、『残り火』として機能するだけの力を持っていた。そういう存在だったのさ……ゆえにこそ、死を迎えた後に即座に、自力で再生することもできた。ヘリオースについてもそうだ……逆なのだよ。ヘリオースが君を作ったのではない、君がヘリオースを作ったのだ」

 

「…………?」

 

「そして『死』に限らず、何かきっかけがあるごとに次元力の扱いを巧みにしていった。それは、君が元々知っていたやり方を、徐々に思い出していったからだ。何せ君は……元々、『御使い』すら超えるレベルで次元力を運用していた張本人だったのだからね」

 

「……? …………!?」

 

 それについてまた聞き返そうとしたが……できなかった。

 声が、出なかった。

 

 ショックで絶句したとかじゃなく……声を出そうとしても、なぜか、口から声が出てこない。

 

 ……さっき、アドミラルが言っていた……『至高神Z』に吸収される、っていうのが始まったのかもしれない。僕の体が、この謎空間で……徐々に透けて、薄れていく。

 

 その様子を見ながらも、アドミラルは何の反応も示すことなく……ただ、口だけを動かす。

 

 僕はそれを、黙って聞いているしかない。それしか、もう、できない。

 

 

 

「恐らく君の正体に気づいた者は、私以外にはいないだろう。私とて、『抜け殻』であるプロディキウムに触れ、ドクトリンの因子を宿していたことで、かろうじて悟ることができたのだから」

 

「それを知ったところで、君がそれを生かしてどうこうする機会は最早訪れることはないがな。……もう気づいているだろうが、君の吸収……本格的な同化はすでに始まっている。ほどなくして、君の意識は永遠に消え……二度と浮かんでくることはないだろう」

 

「しかし、それを嘆く必要はない。君はもともと、『使う』存在ではなく、使われる存在だった……今の君の意識は、星川ミツルとしての自身を運用するために、『ヘリオース』と共に君が自分で作り出した偽物なのだから」

 

「君の死は無駄にはしない。その力は、『至高神Z』と共に、我々新生ガーディムが、至高神の使徒として、全並行世界を等しく、完璧に管理するために有効に利用することをここに約束しよう」

 

「何より君は、かつて一度、自らその道を……『死』を望み、そして己を滅ぼしているのだから……今更未練もあるまい。そうだろう? 星川ミツル? いや―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――至高神ソル

 

 

 

 

 

 




ようやくミツルの正体が明らかになりました。
……以前、感想欄で言い当てていた人がいてびびったのを覚えています。

そして、例によってというか、この作品、30~40話ぐらいで当初は終わるかなと思ってたんですけどね……また三桁超えちゃったよ。
自分にはやはり、物語をコンパクトにまとめる才はないのかもしれません。
何か書くたびこれだもんな……前のヒロアカの時も、その前のSAOの時もそうだった。あと、よそで書いてるやつも……

まあ書きたいように書くのが信条なので、このまま突っ走っていきます。より楽しく、より面白く、皆様に楽しんでもらえる作品が出来上がるように。

今後ともよろしくです。


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第101話 『至高神Z』(前編)

 

「ソーラーストレーガーとヘリオースの反応は!?」

 

「だめです、現在位置を把握できません! ラピュセルとアントワネットは、パイロット不在で宇宙空間に放置されているところを回収できましたが……」

 

「ミツルやミレーネル同様、ココとミランダも行方不明。あの光景からすると、あのデカブツの中に取り込まれたんじゃないかと思われるが……」

 

 沖田艦長や新見情報長、総司ら、ミナトの仲間達が、状況の把握と……突然の失踪を遂げたミツル達の行方を必死で追っていた。

 しかし、その結果は芳しくはない。ミツル達も、ソーラーストレーガーとヘリオースも……既に感知できる範囲にはどこにも存在していなかったのだ。

 

 その報告を聞きながら、ヤマトの艦橋で、古代進はぎり、と悔し気に奥歯を噛みしめて鳴らしながら、悪態をつくようにつぶやく。

 

「そもそもあれは一体何なんだ!? 生物か、あるいは兵器なのか……ガーディムの奴ら、いったい何をしたんだ……!?」

 

「……知りたいかね!?」

 

 そんな声が、突如として聞こえた。

 返事が返ってくるなどとは思っていなかった、古代本人にとっても予想外だったその声は……間違いなく、ガーディムの指揮官である、アールフォルツ……の姿をしたアンドロイド『アドミラル』のものだった。

 

「先ほど述べた通りの内容ではあるが、必要であればもう少し詳しく……そうだな。君達が最低限理解できる範囲の背景説明も交えて説明しよう」

 

 こちらを見下した挑発的な物言いではあったが、『地球艦隊・天駆』のメンバーは、文句を言いたいのをぐっとこらえて続きを待った。

 今は情報が少なすぎる。この後どう動くにせよ、まず何よりも情報が必要だった。

 

 

 

 アドミラルが語ったのは……『地球艦隊・天駆』の者達が知る、いずれの平行世界とも違う……『多元世界』と呼ばれる世界で起こった、壮絶な戦いの歴史からだった。

 

 ある次元災害により、いくつもの並行世界が混線ないし融合してできたその世界には、全ての平行世界を支配下に置く絶対的な存在『御使い』と、その上位者……という立ち位置である人造の神『至高神』が存在していた。

 

 しかし、支配され、虐げられ、時に気まぐれ同然に滅ぼされる状況を、地球にいた者達はよしとせず……その力を結集した精鋭部隊を結成し、敵の本拠地『カオス・コスモス』に……そしてそこに存在する、その世界における地球に該当する惑星『エス・テラン』に殴り込みをかける。

 

 その『御使い』達や、その他の高次元生命体達との戦いの末、見事に敵の最終兵器……ほかならぬ『至高神Z』を打倒。

 ゆがんで壊れかけている宇宙を元に戻す『超時空修復』を行い……全ての宇宙を滅びの危機から救った。

 

 そして宇宙には平和が訪れたが、その残滓とも呼ぶべき力を、あるきっかけからアドミラルは手にし……その時同時に生まれた『至高神復活』という使命を果たすため、今まで暗躍していた。

 

 そのために、3つの世界を巻き込んだ戦いの裏で暗躍を続け、材料、あるいは生贄となる力を集め、あるいは育て続けた。

 そしてついにそれを実行に移し……今こうして、『至高神Z』が復活した。

 

「……スケールがでかすぎていまいち理解しづれえが……つまりてめえは、その、別の宇宙で倒されたはずの『至高神』とやらを復活させたってわけだな? そのために、俺たちやネバンリンナ……その他にも色々な奴らを利用していたと」

 

「その認識でおおむね間違いではないよ。流竜馬君」

 

「……で、その物騒な神様とやらを復活させて、お前は何をしようってんだ?」

 

「決まっているだろう。この力をもって、今度こそ我々ガーディムの手により、全ての宇宙を管理することで……」

 

「ああそうかよ……なら結局、今までと同じってわけだな!」

 

 アドミラルの言葉を遮って、竜馬は咆哮するように言った。

 それに続けて甲児や勝平も、

 

「本物のアールフォルツやネバンリンナと同じだ……結局お前も、力で宇宙を支配しようとするってことなら……俺達の敵だな!」

 

「ああ、だったらその結末も同じってことだ!」

 

「け、けどよ……あんなとんでもない化け物相手に、勝てんのか私ら?」

 

「見間違いじゃなければ、地球より大きいよ、アレ……」

 

 ロザリーとクリスが、『至高神Z』のあまりの大きさと……そしてそれ以上に、見ているだけでも伝わってくる、想像を絶するその強さを悟って、思わずそんな弱気な言葉をこぼす。

 無理もないだろう。それまで戦ってきた中で最大の敵である、巨大ELSやコーウェン&スティンガーをも上回るほどの巨体なのだ。

 

「だとしても……ここで逃げるわけにはいかない!」

 

「そうだな、こいつを放っておけば、どの道その独善と傲慢を振りかざして、地球にもその魔の手を伸ばしてくるに違いないのだから。ならば……僕達が立ち向かうしかない」

 

「これまでだって、どんな相手にも勝ってきたんだ……今更諦めるもんか!」

 

 舞人が、万丈が、シンジが……仲間たちが口々にその覚悟を言葉にしていく中、アドミラルは驚きと呆れが入り混じったような声音でつぶやいた。

 

「……驚いたな。この姿を目にして尚も、抗おうという意思が残っているのか?」

 

「はっ、生憎だったなアンドロイドヤロー! 戦っても勝てないから降伏すると思ってたんなら、悪いが期待にゃ応えられねえよ!」

 

 ヒルダがコクピットの中で中指を立てて挑発しながら言い返す。

 

「なるほど……3つの地球の希望を背負って戦い続けた部隊……『地球艦隊』の名は伊達ではないか。ネバンリンナがほめていたのもうなずける、不屈の闘志を持っているようだ……素晴らしい。できることなら、君達にはこれ以降、地球の管理のために手を貸してもらいたいと思っていたのだがな……」

 

「そんな命令に従う私達じゃないってことくらいわかるでしょう? ずっと私達のことを観察していて……ネバンリンナのデータも取り込んだのなら、なおさらね!」

 

「ふむ……では仕方がない。力ずくで従わせるとしよう」

 

 アンジュが言い切ったのを聞いて、アドミラルはあくまで冷静に、実力行使を宣言する。

 それを聞いて、その言葉すら鼻で笑い飛ばすのは……アキトと、総司。

 

「結局、悪党というのはどいつもこいつも考えることが同じだな」

 

「それができると思ってんなら大間違いだ! お前の野望こそ、今ここで終わらせてやる!」

 

 だがそこに、千歳が待ったをかける。

 

「で、でも総司さん……ミツル君達はどうするの!? あの『至高神』とかいうのに取り込まれちゃったのよね!?」

 

「似たようなことなら前にもあっただろ! 使徒からアスカちゃんやレイちゃんを助け出した時と同じだ!」

 

「けどその時は、『ヘリオース』が次元力を使ってどうにかしたのよね!? 今はミツル君達は……」

 

「だがどの道、彼らを助けるにしても、まずはあの『至高神』とやらを黙らせなければならないことに変わりはない! 方法を探すのはその後……いや、この際戦いながら同時進行でだ!」

 

 ロッティとヴェルトも加わっての話を、今度はナインが強引に割り込んで断ち切る。

 

「それについてはアナライザー達と協力して、私達が分析を進めます! 皆さんはとにかく、あの巨大兵器の破壊を!」

 

 地球を守るため、そして仲間を救うため。

 不安を抱えながらも、意思を一つにして再び『至高神Z』に向き直った彼らを、アドミラルは……どこまでも冷めた目で見ていた。

 

「……いいだろう、『地球艦隊・天駆』の諸君。君達がそれを望むなら、私と『至高神Z』はその力を君たちに示そう。……だがその前に、1つ……試しておかなくてはな」

 

 そう言うと、不意に至高神Zが、その手をゆっくりと持ち上げ、顔のない頭部の前で掲げるようにした。

 

 思わず身構える面々だが、その瞬間……彼らの脳裏に、不思議なイメージが浮かんできた。

 それはまるで……巨大な銀河を、遠くから見ているかのような光景だった。美しく、神秘的ではあるが……どこか不吉な予感が漂っている。

 

「あれは……大マゼラン銀河?」

 

「そうなの、ユリーシャ?」

 

「ええ、間違いない。でもなぜ……っ!? まさか……」

 

 ヤマトの艦橋で、何かに気づいたユリーシャが青ざめるが…………すでに、遅かった。

 

 『至高神Z』は、掲げた手をぐぐっ、と力を込めて、握るように動かしていく。

 それに伴って、頭の中に浮かんでいる銀河……ユリーシャの予想が正しければ『大マゼラン銀河』であるらしいそれが……軋んで、歪んでいく。

 

 その歪みは止まらず……まるで紙に描かれた絵が、くしゃくしゃに丸められていくように、銀河はその形を保てずに……圧縮され、引き伸ばされ、砕かれ、つぶされ……

 

 最後には……音にならないような不思議な音を響かせて……消滅した。

 

「……おい、何だ、今の……?」

 

「ま、まさか……大マゼラン銀河を……」

 

「馬鹿野郎、そんなわけないだろ! そんなことができるわけがない……ただのハッタリだ!」

 

 声を張り上げてジュドーは否定するが……その一方……心のどこかで、なぜかそれが真実だと確信できてしまえることに、気づいていた。

 ジュドーだけではない……『地球艦隊・天駆』の面々は、今起こったことが真実であると……こちらを困惑させるためのフェイクでも何でもないと、なぜか理解できていた。できて、しまった。

 

 すなわち……たった今、『大マゼラン銀河』は……丸ごと消滅したのだと。

 イスカンダルも、大ガミラス帝星も……その他の全てを巻き込んで、この宇宙から消え去ってしまったのだと。

 

 もう、あそこには何もない。誰もいない。

 ガミラスの立て直しのために奔走するヒス副総統やディッツ提督も、傷心をいやしているはずのセレステラも、心を通わせたELSも、その他、大ガミラス帝星の民たちも、レプタボーダにいた難民たちも…………誰一人、何一つ残っていない。全て、消えてしまった。

 

「『至高神Z』の力の試射と、過去の清算とを兼ねたものだったが……今のでおわかりいただけたのではないかな? ……この『至高神Z』に挑むことそのものが、間違いなのだということが」

 

 ユリーシャが絶望を顔に浮かべて……腰を抜かし、へたり込んだ。

 

(お姉さま……もしかしたら、あなたは心のどこかで、こうなることを悟っていて……私を、逃がすために、ヤマトに……?)

 

 艦隊全体を未曾有の衝撃が襲う中、自らも頭の中に激しい動揺を抱えながらも……沖田艦長は、ヤマトの艦橋で声を張り上げた。

 

「総員、戦闘配置に移れ! あれをこれ以上好き勝手に動かせてはならん……今ここで何としても仕留める!」

 

「し、しかし艦長!? 今見えた光景が本当なら、あの『至高神Z』なる兵器は、銀河そのものを消してしまうような……」

 

「馬鹿! あんなものが真実なわけないだろ! 精神攻撃の類だよ!」

 

 動揺を隠せない島と、それを否定しつつも……自身もまた、声が震えている南部。

 その2人の口論を視線だけで黙らせて、沖田艦長は続けて言い放つ。

 

「今の光景が真実なのか否か、それを観測し確かめる術を我々はもたない! だが1つだけ確かなことがある……今ここで奴を止めなければ、地球は終わりだということだ! 時空融合を食い止めていたアウラまでもが奴に吸収された以上、もはや一刻の猶予もない!」

 

 それを聞いて、はっとする者も多かった。

 

 3つの地球の融合は、アウラによって阻止されていた。しかしアウラは、アドミラルの『儀式』によって生贄にされ、『至高神Z』に吸収されてしまったのだ。

 ならば、今……時空融合は。本来のスピードで急速に進んでいるということになる。

 

 沖田艦長の言葉通り、もはや一刻の猶予もない。早急にこの状況を打開し、『コスモリバース』で地球を救わなければならない。

 

 それを理解した『地球艦隊・天駆』のメンバー達は、恐怖を振り切って前を向き、『至高神Z』を……そしてその向こうにいるアドミラルをにらみつける。

 

「愚かな……だが、その諦めの悪さ、不屈の闘志……それらもまた、君達地球人を素晴らしい存在たらしめる要因なのだろう。ならば私もまた、君達のやり方にならうとしよう……その不屈の闘志をもってしてなお、届かない存在がいることを……この戦いで学びたまえ」

 

「総員……かかれぇ!」

 

 沖田艦長の号令と共に、『地球艦隊・天駆』は……あまりにも絶望的な戦いの中に、身を投じて言った。

 この戦いを乗り越えた先に、きっと地球を救うことができるのだと信じて。

 

 

 

 




おまけ  今回出てきた機体について

【至高神Z】
元ネタは、第3次スパロボZに出てきた敵勢力の機動兵器。というか、Zシリーズ全てを通してのラスボス機体。
一応人型っぽい構造はしているものの、頭部がない長い首や天使の輪のような角?、6枚の翼や鋭い爪など、神々しくも禍々しい姿を持つ異形の存在。サイズは惑星レベルの大きさ。
無から有を生み出す、単独で銀河1つを破壊する、『真化』の領域に至っていない攻撃は全く通用しない、傷を負ったとしても瞬時に修復するなど、想像を絶する力を持つ。仮に宇宙そのものが滅んだとしても、それを乗り越えられるだけの力を持つ存在。
ゲームにおけるボスとしての性能も凶悪そのもので、難易度ノーマルでも装甲値4000超えHP500000オーバー、パイロットに至ってはLv99の上にエースボーナス込みで4回行動という恐ろしいことになっている。


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第102話 『至高神Z』(後編)

 

 

 相手は惑星級の巨体。

 通常の機動兵器の攻撃では、多少打ち込んだところで意味などなさないだろう。パラメイルやエステバリス、ASといった小型の機体の力など、豆鉄砲以下だ。

 

 ゆえに、戦力の主軸となるのは、一定以上の火力を持った機体に限られる。

 小型の機体は、彼らの支援のために、『至高神Z』のかく乱のために動くこととなる。

 

 パラメイルやASに乗る者達は、決死の覚悟で至高神Zの周囲を飛び回る。腕や足の1つ1つが、大陸を超える大きさを持っているのだ。当たったらどうなるかなど考えたくもない。

 しかし、肝心の至高神Zは、それを一切気にする用はない。

 というよりも、こちらから何をしても、反応を見せる様子がないのだ。防御も、反撃も。

 

 こちらをなめているのかと、一部のメンバーはいら立ちを募らせるが、それはそれで好都合なのに変わりはない。

 

 挑発するように、真正面でエネルギーを練り上げていく真ゲッター1。その掌の間に生まれた光球が、担ぐほどに巨大になったところで……投擲。

 放たれた『ストナーサンシャイン』は、『至高神Z』に直撃するも……

 

「ちっ……ろくすっぽ効いてやしねえ」

 

「なら、次は俺だ! 光子力ビィィイィ―――ム!!」

 

 『マジンガーZERO』に変容し、その両目から十重二十重に放たれた極大威力の光子力ビームが襲い掛かる。

 手加減など一切なしに放たれたそれらは、至高神Zの全身に降り注ぐ。

 

 だが、それに対するリアクションを待たずに、その後方からさらに出てきた3機……シン化したエヴァンゲリオン初号機に、マジンエンペラーG、ガンナーと合体したグレートマイトガイン。

 それぞれ、衝撃波を、サンダーボルトブレーカーを、パーフェクトキャノンを放つ。

 

 畳みかけるように、ザンボットとダイターンもそれぞれの必殺技を放つ。

 

 それに加えて、アンジュとサラマンディーネが並んで『ディスコード・フェイザー』と『収斂時空砲』を放ち、次元の暴風の中にその巨体を巻き込んでいく。

 

 さらに、『地球艦隊・天駆』の、ヤマトを除く(・・・・・・)全艦が、それぞれの主砲と呼べる装備を惜しげもなく放つ。

 ビーム兵器や実弾のミサイルが飛び交う中、相変わらず無抵抗でそれらの集中砲火にさらされ続ける『至高神Z』。しかし……

 

「これでもダメなのか!?」

 

「宇宙を支配できると豪語するだけあるってことか……半端じゃねえな」

 

 タスクと総司は思わずといった調子でそう呟き、『至高神Z』の、その理不尽なまでの耐久力を前に歯噛みする。

 

「ディビニダドの核弾頭、ちょっとくらい回収しておけばよかったですかね?」

 

「やめとけトビア。仮にあったとしても……それだって焼け石に水だろうさ」

 

「だったらこいつでどうだ!」

 

 するとその直後、真ゲッタードラゴンの頭の上に真ゲッター1が着地し……両機から放たれる、膨大なゲッター線のエネルギーが1つになる。

 それを手元に凝縮した真ゲッター1。その手には……超圧縮したエネルギーによって刀身が形作られた、巨大なトマホーク……『ファイナルゲッタートマホーク』が形作られていた。

 

「うおおぉぉぉおおっ!!」

 

 コーウェンとスティンガーを真っ二つにしたそれを、咆哮と共に大きく振りかぶり……一気に振り下ろす。

 小型の天体すら両断するその威力を、しかし……『至高神Z』は、身じろぎすらせずに、その身で受けきった。

 

 ちっ、と舌打ちの音を響かせる竜馬だが、そのあとすぐにトマホークを手放し――もともとエネルギー体だったためか、手放すと同時に消滅した――真ゲッタードラゴン共々、素早くその場から離れた。

 

 いや、もっと正確に言えば……射線を開けた、だろう。

 

 真ゲッタードラゴンの巨体が飛び去った、との背後には……『地球艦隊・天駆』の最終兵器が、今まさにその発射準備を終えた状態で待ち構えていた。

 

「誤差修正、プラス2度」

 

「対ショック、対閃光防御!」

 

「発射まで、3、2、1……」

 

 艦そのものを『コスモリバース』に改修した後、もはや不要だと判断された、波動砲の基幹システムは、取り外された。その位置に、今は『コスモリバース』が据え付けられていた。

 しかし、万が一のことを考え、波動砲の基幹システムは、ナデシコCに積み込んで持ち帰ってきていた。

 

 それをボソンジャンプでコスモリバースと入れ替えることにより、ヤマトは再び、波動砲を撃つためのシステムを取り戻していた。

 

 『コスモリバース』の受領条件の1つであった、波動砲の封印。それを破ることになってしまうが、沖田艦長は『全ての責任はわしが持つ!』とまで言い切って、使用を断行した。

 『第二バレラス』を超えるこのサイズの敵に通用する可能性があるとなれば、それはもう、波動砲をおいて他にないのは明らかだったからだ。

 

 艦橋にいるユリーシャも、それを理解してくれているのか、それについて何も言うことはなく……むしろ、全てを託して信頼するかのようなまなざしを沖田艦長に送っていた。

 

 今までの攻撃は全て……それこそ、今のファイナルゲッタートマホークすらも、この一撃を確実に決めるための布石。

 

 発射準備はすでに完了。味方の機体達も、既に射線および影響範囲から脱出している。

 

 そして、絶対に逃がしようのないタイミングで……

 

 

 

「波動砲……発射!」

 

「てぇ―――い!!」

 

 

 

 放たれた青白い破壊の閃光が、直線状にあった全てを破壊しながら……『至高神Z』の胸部分に、吸い込まれるように命中した。

 

 惑星1つをも破壊する威力の一撃は、着弾と同時にすさまじい爆風を発生させる。

 まき散らされる膨大なエネルギーは、宇宙の真空空間にも関わらず、その闇を押しのけるような巨大な火球となって……まるで新たな惑星が誕生したかのような輝きを放っていた。

 

 ともすれば、あの中に吸収された、ミツル達や、アウラやスターシャといった面々にも届いてしまうのではないかという懸念はあった。

 しかし、何度も繰り返すように……波動砲でければ太刀打ちできないのは事実だった。

 

 最悪の場合は、それも含めて自分の責任とするつもりで、沖田艦長はGOサインを出した。

 

 そして、爆炎が収まり、その向こう側がようやく見えるようになった時……そこには……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……気は済んだかね?」

 

 

 

 

 

 ……絶望が、待っていた。

 

「も、目標……『至高神Z』……未だ、健在です……!」

 

「嘘……だろ……!?」

 

「波動砲が、直撃したのに……無傷……!?」

 

 新見の、総司の、古代の……それぞれの愕然としたような声が、通信に乗って響いた。

 その他の面々も……目の前の光景が信じられずに、絶句するしかない。

 

 今の波動砲は、確実に『至高神Z』を仕留めるため……ヤマトがその使用に耐えうる最大威力で発射されたものだった。

 それでも、反動で機関部が何カ所もダメージを受け、異常を起こしている。行ってみれば、『壊れない限界ギリギリ』ではなく、『多少壊れてもいいから行動不能にだけはならない限界ギリギリ』というところを攻めた一撃だった。この一発で、なんとしても仕留める覚悟で放たれた一射だった。

 

 ともすれば、あれほどの巨大構造物であっても、その威力で跡形もなく消し飛ばしてしまうのではないか、とすら思えるような。

 先にも述べたように、ミツル達ごと葬り去ってしまうのではと危惧し……しかし、万が一にも仕留め損ねることのないように、正真正銘の全力で放たれた一射だった。

 

 それが、しかし……

 

「そんな……アレで通じないんじゃ、手の打ちようがない……」

 

 ヤマトの艦橋で、思わず南部がつぶやいた言葉は、『地球艦隊・天駆』の全員の心の中に浮かんできていたものだった。

 

 波動砲は正真正銘、彼らの持ち出しうる最終兵器。星一つを破壊する威力を誇るそれは……沖田艦長が『メギドの火』とまで称した、うかつに使うわけにはいかない力。

 しかしその分、その威力は絶対的。ひとたび振るえば、今まで訪れたどんな危機をも貫き、未来を切り開いてきた。

 

 しかし、それが……まるで通じていない。

 

 その状態を見る限り、『至高神Z』には破損らしい破損は一切ない。

 

 同時に、今までこちらの攻撃に対し、攻撃も防御も一切行ってこなかった理由も明らかになった。

 

 こうなると、わかっていたからだ。

 こちらの攻撃は、一切通じない。それこそ……ガーディムの歴史を知る以上は、『アドミラル』もその威力はわかっていたはずの『波動砲』すら、警戒するに値しないものでしかなかった。

 

「心中は察する。だが、これは私からすれば、当然予測できていたことだ……単純な性能もさることながら、そもそも君達が扱うような通常の兵器では、この『至高神Z』には傷一つつけることはできない……もはや次元が違いすぎて、攻撃として成立しないのだよ。『波動砲』すらね」

 

 何をどれだけ撃ち込もうとも有効打足りえない。それどころか、ダメージがまともに通っている様子すらない。

 それを見せつけることで、『至高神Z』が真に絶対的な存在であると実感させ、絶望で心を折る……それが、アドミラルの作戦だった。

 

 さながら、お釈迦様の手のひらの上で遊ばれていた孫悟空のような状況。

 

 正真正銘の絶対者としての力を、何もすることなく見せつけられた『地球艦隊・天駆』だが……それでも、幾人かはまだあきらめていなかった。

 

 何か具体的な作戦があるわけではない。しかし、だとしても諦めることなどできない。

 

 衰えぬ、とは言えないまでも、はっきりとした戦意の乗った視線を感じ、アドミラルは『まだあきらめないのか』と呆れたように溜息をつくが……その直後。ふと、『そうだ』と何かを思いついたように言う。

 

「ここまでしてもわからないのなら……いっそ、君達が心の支えとしているものを取り去ってみようか」

 

「何……どういう意味だ?」

 

「君達は、地球を救うために、16万8千光年もの彼方へ旅立ち、そしてここに帰ってきたのだろう……ならば、その重荷を取り去ってやろう、ということだ」

 

 言いながら、至高神Zはその掌を……地球に向けた。

 その様子を見て、ぞっとするような嫌な予感がした古代は、

 

「何をする気だ!? まさか……」

 

「心配は無用。破壊するわけではないよ。……ただ、時計の針を進めて……来るべき時を今ここで迎えさせてあげるだけだ」

 

 その掌から放たれたエネルギーが地球に届いた直後……状況を観測していた新見情報長が、ヤマトの艦橋で悲鳴を上げた。

 

「これはっ……時空融合の進行スピード、急速に加速! こ、このままじゃ……」

 

「おい、何してやがる!? 今すぐやめろ!」

 

 総司の、いや『地球艦隊・天駆』の面々が次々に浴びせる怒号に一切耳を貸さず、アドミラルは力を贈って『時空融合』を急速に進めていく。

 

 3つの地球は、今まさにそれぞれの表面が触れ合わんばかりの距離にまで近づいており……その境界面に生じているエネルギーの乱流が、まるで竜巻のように荒れ狂っている。

 あれがおそらくは、『時空融合』の進行・完成に伴って成長し……衝撃波となって全てを破壊するのだろう。

 

 その凶行を止めようと、次々に機体ごとの必殺の攻撃を浴びせるが……先ほどアドミラルが言っていたように、それらの攻撃は全く効果があるようには見えない。

 かざされている手に集中して、何が撃ち込まれようとも、わずかに体制を揺るがせることすらできない。

 

 そうしている間にも、融合は進む。

 

 ついに、三角形の位置取りで1つ並んだ地球同士の表面が触れ合い……お互いに重なっていく。重なった部分から、まるで台風のように次元の嵐が吹き荒れ……地球上の全てを薙ぎ払っていく。

 

 誰かの悲鳴が上がる。

 『地球艦隊・天駆』の誰かの悲鳴だろうか。それとも、地球にいる者たちの悲痛な叫びがここまで聞こえてきたのだろうか。

 

 答えは、わからない。

 

 見ていてわかるほどのスピードで融合は進み、それに伴って次元の暴風は強まり……地球全体を何百何千もの台風が、地表も海表も全てを覆いつくしているような……地獄絵図になった。

 あの白く見える風の下では、全てが破壊され、人々の命が奪われているのだ。

 

 ついにはその暴風は地球表面にとどまり切らず、大気圏を突破して宇宙にまで吹き荒れ始め……地球近海に設置されていたいくつもの宇宙ステーションやスペースコロニーが、それに巻き込まれて崩壊し始めた。

 

 

 そして……彼らにとっては永遠にも等しいだろう時間は、ついに終わり……

 

 

 

「やめろぉぉぉおおぉおぉ―――っ!!」

 

 

 

 総司達の叫びもむなしく……3つの地球は、1つに重なった。

 

 

 

 3つが重なってできた地球は……見た目は、青い海を持つ美しい惑星……のように見えた。

 しかし、その地表にはもはや、一切の命が生きてはおらず……人類が今まで築き上げてきた輝かしい文明も、その全てが破壊されつくしてしまったはずだ。

 

 地下のアーコロジーも、陣代高校も、第三新東京市も、光子力研究所も、ヌーベルトキオシティも、オーブも、アルゼナルも、ミスルギ皇国も……全てが、消えた。そこにいた人々ごと。

 

 それを理解して……皆、言葉が出ない中……

 

 

 

「今までご苦労だった……『地球艦隊・天駆』の諸君。君たちの闘いの日々は……今日、終わった」

 

 

 

 アドミラルが、一切感情のこもっていない声で、そう告げて……

 

 至高神Zの、もう片方の手のひらを、彼らの方に向けて……その瞬間、『地球艦隊・天駆』は……光に包まれた。

 

 

 

 




アドミラルのイキリタイムがもうちょっと続きます。
……もうちょっとね。


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第103話 絶望と希望

昨日に引き続き投降します。
今なんか筆が乗ってるので、この勢いが続く限り……さあ果たしてこのまま最後まで行けるかどうか。

というわけで、どうぞ。


 

 

「ここは……どこだ?」

 

「現在地は……ダメです、全ての計測機器が作動していません。未知の空間としか……」

 

「ここに来るまでに通ってきた、亜空間みたいなものか……」

 

 今現在、『地球艦隊・天駆』の面々は……各々の乗機や戦艦ごと、どこなのかもわからない謎の空間に飛ばされていた。

 

 見たところは、明らかに通常の宇宙空間でもないようだが、『大マゼラン銀河』からワープゲートをくぐって通った『亜空間』でもないようだった。

 同じように、エンブリヲに招き入れられた『時の狭間』とも違う。かつて行った次元の狭間とも違う……全くの未知の空間だった。

 

 『至高神Z』が手のひらをこちらに向けてきた直後、光に包まれたと思えば……ここに転移させられてきていたのだ。

 

 計器の異常ではなく、状況そのものが異常なのだということを、モニターをのぞき込んで確かめた真田副長は、

 

「我々は、どこか別な空間に飛ばされてしまった……ということか?」

 

「……少し違う。正確には、おそらく……『閉じ込められた』」

 

 しかし、その斜め後ろで……森船務長に支えられながら立ち上がった、ユリーシャがそれを否定した。

 姉であるスターシャが『至高神』の生贄にされ、生まれ故郷である大マゼラン銀河が消滅したショックからは、まだ抜け切れていないようだが……

 

「閉じ込められた……とは、どういうことだ?」

 

「この空間には……お姉さま達の気配を感じる。ここはきっと……『至高神Z』の体内とも呼ぶべき空間なのだと思う」

 

「体内!? ってことは、俺達は……アレに食われたってことかよ!?」

 

 通信の向こうから、総司の驚いた声が響いた。

 

「……わからないわ。単に閉じ込めただけかもしれないし……あるいは、自発的な協力が得られないと見限って、お姉さまたちのように『吸収』しようとしているのかもしれない……」

 

「あのデカブツの体内か……それにしても広すぎねえか? 計器による計測ができねえとは言え……どこまで見渡しても壁一つねえぞ」

 

「体内と言っても便宜的なものなんだろう……まともな空間じゃないんだろうさ」

 

 竜馬と隼人が、周囲の空間を観察しながら……竜馬は若干いら立ち混じりにつぶやいた。

 

「何にしても、この空間から通常空間に干渉するのは不可能なようだ……ならば、一刻も早く脱出する方法を探さないとな」

 

「……でも、脱出しても……もう、地球は……」

 

 そう、沈んだ声でつぶやいてしまったシンジ。

 それを聞いて、皆、否が応でも現実を直視させられた。

 

 既に『時空融合』は完成し……地球は1つに重なってしまった。その際に発生した次元乱流によって、地上の生命はすべて死に絶え、あらゆる構造物は破壊され……地球は正真正銘、滅びた星になってしまっただろう。

 

 もう、地球に戻っても、助けたかった、守りたかったものは……人も、町も、もう何一つ残っていない。

 往復33万6千光年の旅は無駄になり、地球を救うことはできなかった。

 

 今となっては、ナデシコに移して積み込んできた、『コスモリバース』の存在も……むなしいものとなってしまった。結局、役目を果たすことはできなかったのだから。

 

(……すまない、古代……俺達は……お前に託された地球を、守ることができなかった……お前にもう1度、青い地球を見せてやりたかった……)

 

 真田副長は、ナデシコCの方を眺めながら……声に出すことなく、かつての親友……『古代守』に謝罪した。

 

 コスモリバースシステム……その核ともいえる、起動パルスの部分。

 そこに宿っているのが、『古代守』の魂であることに、真田は気づいていた。

 それゆえに、魂だけでも地球に連れ帰り……もしかしたら、彼に地球をもう一度見せてやれるかもしれないと思っていたのだ。

 

 ……しかし結局、彼はその役目を果たすことすらできないままに……あと一歩のところで、地球は終わりを迎えてしまった。そのことが、真田には悔しくてならなかった。

 

 しかし……その直後、

 

「……もしかしたら……まだ、間に合うかもしれない」

 

 ユリーシャが放ったその言葉に、それが聞こえた全員がはっとした。

 

「……ユリーシャ、それはどういう意味? まだ間に合う、って……」

 

「また、地球を救うことが……ううん、それだけじゃない。大マゼラン銀河も……元に戻して、皆を救うことができるかもしれないわ」

 

「何……それは本当か!?」

 

 森雪の問いかけへのユリーシャの答えを聞いて、古代進は驚きながらも食いついた。

 いや、彼だけではない。今の会話が聞こえていた者達は皆、一様に大きく反応した。

 

「で、でも……もう地球は滅んでしまったのに……大マゼラン銀河だって、あの映像が本当なら、跡形もなく消滅してしまったんですよ!? それなのに……それが、蘇るっていうんですか!?」

 

「……もしかしたらだけど……そう」

 

「……詳しく聞かせていただきたい」

 

 南部の疑うような問いかけにも、はっきりと答えたユリーシャ。

 真田は、なおも何か言いたそうな南部を制しつつ、その続きを促した。

 

「……おそらくだけどこのあたりは今、普通の空間じゃないの」

 

「ああ……『至高神Z』とかいう奴の体内で、亜空間みたいになってるんですよね?」

 

「いいえ、ここじゃなくて……この外側の……さっきまでいた、通常の宇宙空間のこと。あの空間も……おそらくは、『至高神Z』の降臨によって、特殊な空間に書き換えられて変容していた」

 

「特殊な空間……?」

 

「……私も、お姉さまから聞いたことがあるだけだから、詳しくは知らないけれど……『カオス・コスモス』というもの。原因と結果が混濁した、認識が強い力を持ち、存在を定義する宇宙のこと。……かつての時代には、『天の獄』とも呼ばれていたそう」

 

「『カオス・コスモス』……宇宙がそうなっていると、具体的にはどう違うのですか?」

 

「『カオス・コスモス』では、通常の物理法則を超越したことが起こると言われている。この世界の在り方に適した形で力を使えば、それは通常の力をはるかに上回る力となり……逆に、そういった存在に対しては、通常の力では太刀打ちできなくなる」

 

「あのデカブツにまったく攻撃が通じなかったのは、そのせいか……!」

 

 要するに『至高神Z』は……出現と同時にこの宇宙そのものを、自分という存在に適した形に書き換え……それに基づいて力を使っていた。それにより、理そのものを味方につけて、強大極まりない力をふるっていたのだろう。

 

 そして逆に、その世界に適応していない……あくまで、通常の世界の領域を出ない形で力をふるっていた自分達『地球艦隊・天駆』は、理を味方につけた『至高神Z』に手も足も出なかった。

 それこそ、『波動砲』ですら通じなかったほどなのだ……彼らが考えている以上に、その差は絶大……いや、『絶対』のものだったのだろう。

 

 アドミラルが言っていた『次元が違いすぎて攻撃として成立しない』という言葉の意味も、今になって総司たちは理解した。

 

「けど、逆にこの宇宙に適した形で力を使えれば……この宇宙の特殊性は……そのまま武器になる。おそらく、通常の物理法則では絶対にありえない『不可逆性』すらも、遡及して改変、あるいは回復することが可能になるはず」

 

「それって……地球を元通りにすることができるってこと!?」

 

「マジかよ!? もう完全に滅んでても復活させられんのか!?」

 

「復活……そういえば、ココや年少部の子供達も、死んでいたはずなのに復活したし……もしかしたら……」

 

 アンジュ、ヒルダ、サリアがつぶやいた内容は、『地球艦隊・天駆』の面々の頭の中にしみわたっていき……ユリーシャが語る内容が、夢物語ではないのかもしれない、と認識させていく。

 

「カギになるのは……おそらく、『次元力』。それを介して、『カオス・コスモス』の法則に干渉することができれば……理を味方につけたり、事象制御による現実の改変も行えると思う」

 

 ユリーシャはそう言うが、それを聞いて、アキトと宗介は気づく。

 

「次元力……だが、それを扱える機体は、もう……」

 

「『ヘリオース』と『ソーラーストレーガー』は、どちらも吸収されてしまっている。『ラピュセル』と『アントワネット』は無事だが……あの2機はパイロット認証が施されていて、それぞれミランダとココにしか動かせないはずだな……」

 

『付け加えるなら軍曹、単に『次元力』を使えるだけではだめでしょう。今回重要になるのはおそらく『事象制御』ですから、最低でもヘリオースかソーラーストレーガーのどちらか、可能ならその両方の力が必要です』

 

「なんだよ!? じゃあ結局ダメなのか!?」

 

「諦めちゃだめだ! 何か……何か必ず突破口があるはずだ!」

 

「舞人さん……」

 

 苛立ちを隠せない勝平に続けて、自らを鼓舞する意味も込めてか、強い口調で言い切る舞人。

 その舞人を心配し、祈るようなしぐさを見せるサリーを見て……浜田少年がひらめいた。

 

「そうだ……サリーちゃんの『イノセントウェーブ』なら!」

 

「えっ、どういうこと、浜田君?」

 

「『イノセントウェーブ』には、外部から次元力に干渉して……その方向性をコントロールしたり、相手の力を弱めたりできる力があるんです! ミツルさんは、それが常人の100倍以上あるサリーちゃんは、すごく『次元力』の制御に向いた才能を持ってるのかも、って言ってました!」

 

「そうか! なら……例の『増幅装置』でその力を強化して、『イノセントウェーブ』でその『カオス・コスモス』とやらに干渉すれば、道が開けるかもしれねえな! なんなら、あの『至高神Z』の無敵っぷりを引っぺがすことも……」

 

「……いや、難しいじゃろう」

 

 しかし、ウリバタケも一緒になって提唱したそのアイデアを……苦々し気な顔をしながら、ウォルフガングは否定した。

 

「方向性は悪くはない……だが、圧倒的に力が足りん。宇宙の法則そのものを書き換えてしまうほどの力を相手に、増幅装置を使った程度の力では、いかに『イノセントウェーブ』でも……」

 

「足りないんですか?」

 

「ダイターンの『対次元干渉波動光』を使っても、かい? ウォルフガング」

 

「……バケツ一杯の水では、ボヤ騒ぎは消せても、山火事を消すことはできん。いや、相手が力を及ぼしているのがこの宇宙全体であるなら……多分、規模の差はそれどころではないな」

 

「そんな……」

 

 ショックを受けるサリー。

 そこに追い打ちをかけるような形になることに罪悪感を感じつつも、今度は千鳥かなめが、

 

「それ以前に……まずはこの空間から脱出しなきゃ、戦うにも法則に干渉するにも、何もできないよ。それには結局……私たちを閉じ込めている『至高神Z』の力をどうにかして破らなきゃ……」

 

「宇宙全ての法則を書き換えるほどの力を持つ存在を……か」

 

「そんなの、結局無理に決まって……」

 

 

 

『いや……手は、ある』

 

 

 

 その時聞こえてきた声に……聴いていた者達は驚きを隠せなかった。

 

 それは、突然会話に割り込んできたことい所に……その声の主が、『地球艦隊・天駆』の誰でもなかったからだ。

 しかし、声自体は知っている相手の声だった。それは……

 

「ネバンリンナ……あなたなのですか?」

 

 ナインの問いかけにこたえる形で、彼女……システム・ネバンリンナは、肯定の返事をした。

 

『そうだ……まだ私は、完全に『至高神Z』に吸収されていないがために、意識の一部を切り離してこちらに向け……こうして声だけを届けることができている。言ってみれば今の私は、魂だけの状態、といったところだ』

 

「魂、ね……機械のあんたからそんな言葉を聞くとはな、ナインのお袋さんよ」

 

『……陳腐な物言いは自覚しているが……その言い方が一番適切だろうと思えてな。何せ私自身、ここに来れたのは……彼女に案内されてのことだったから』

 

「彼女……?」

 

『……皆、ごめんなさい。勝手なことをして……でも……』

 

「っ!? その声……ソフィア!?」

 

 かなめが驚いたように言いながら……ソフィアが封印されている端末を取り出す。

 そこには、画面の向こうで申し訳なさそうにしている表情のソフィアが映っていた。

 

『吸収されそうになって苦しんでいるあの人……人じゃないけど……その声が聞こえたの。それでとっさに、こっちだよ、って思念を送ってしまったの……』

 

『それに従って意識を飛ばし、今少しだけ私は、自意識を保つ猶予を手に入れた、ということだ……だが、あまり時間はない。やるならば、すぐに取り掛からねばならん』

 

「その言い方だと……君が我々に力を貸してくれるのか、ネバンリンナ?」

 

『……信じろと言っても無理な話だろうがな……だが、それでも構わん。私は私の目的のために……奴を、そして至高神Zを否定するだけだ……』

 

「どうやって、この空間の封印を解くの?」

 

 真田副長やユリーシャから立て続けにぶつけられる質問に、ネバンリンナは1つ1つ答えていく。

 

『この空間を強固に封印しているのは、『至高神Z』の絶対的な力によるものだ。ならば、『至高神Z』自体の力の絶対性を奪うことさえできれば、空間の封印も緩むだろう』

 

「いや、だからそれが無理だって今言って……何か方法があるのか?」

 

『あの場の状況とアドミラルの言葉から察するに……『至高神Z』は、あの場に揃えられた『材料』を使って作り出されたと考えられる。星川ミツル達12人や、ヘリオースやプロディキウムといった特殊な機体……それら全てがそろっていたからこそ完成したのだろう。ならば……その材料を今から突き崩して奪ってしまえばいい』

 

「奪う、とは……どうやって? 今述べた者達は、既に吸収されてしまっているのに……」

 

『完全に吸収されたわけではない。もっとも、意識はもうすでにないゆえ……呼び覚ます必要があるがな。だが、うまくすれば『至高神Z』の絶対性を切り崩せるだろう』

 

 そこでネバンリンナは、『だが……』といったん区切って続ける。

 

『文字通り命がけになるがな……私にとっても、彼女にとっても。失敗すればもちろん死ぬし……成功しても、我らが我らのままでいられる保証はない……』

 

「彼女、って……?」

 

『カギとなるものは4つ。私と、同じく生贄にされたミレーネル・リンケ。万能戦艦ソーラーストレーガー。……そして、その艦内に搭載されているはずの―――

 

 

 

 

 

 ―――『リヴァイヴ・セル』……だ」

 

 

 

 

 

 



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第104話 彼女たちの覚悟

 

 

Side.ミレーネル

 

 ……ずっと、長い夢を見ていたような感覚だった。

 

 眠りに入る直前のような、おぼろげな意識の中で……今までの人生が、走馬灯みたいに流れて見えていた。つらかったこと、苦しかったことも……嬉しかったこと、幸せだったことも……。

 

 レプタボーダで、ミーゼラと一緒に身を寄せ合って耐え忍びながら過ごしていた日々。

 

 そこから、デスラー総統によって救い出され……その恩返しのために、ガミラス軍に入って、特殊部隊のようなやり方で反抗勢力を相手に戦っていた。

 

 その後、ヤマトの無力化のために挑んだ任務で失敗して……記憶の多くを失った私は、地球に流れ着いて……ミツルと出会った。

 

 そこからは……それまでの人生では、どれだけ望んでも手に入らなかった、多くのものを手に入れた。

 

 平和な世界……平穏な日常……暖かい仲間……

 私を私のまま、当たり前のように受け入れてくれる……かけがえのない居場所。

 

 それが、私が異民族……ないし、異星人だと知られていないからだとしても……私はこの地球での日常が、黄金のように輝いて見えていた。

 そして、思った。絶対にこんな日々を……失わせてしまってはいけないんだと。

 

 侵略によって押し付けられる価値観や、押さえつけられた状態の形だけの平和なんて……時に苦しくもあるけど、それでも皆が懸命に生きて輝いている今の世の中に比べたら……魅力なんて、価値なんて……塵ほどもないんだと。

 

 だから……

 

 

 

「……いいわよ、そのためなら……私の命くらい、喜んで賭けてあげるわ……!」

 

 

 

『無意識下で状況を理解していたか。ならば……説明は、要らなそうだな』

 

 ふいに、私の周囲に浮かんでいた……おぼろげな、幸せな生活のビジョンが消える。

 そして代わりに、何もない真っ白な空間と……その中心に立つ、1体の、女性型の見た目を持つアンドロイドが現れた。

 

「ネバンリンナ……で、いいのよね?」

 

『そうだ、ミレーネル・リンケ……お前に、この状況を打開するための提案をしに来た。だが、お前も察しているように……それを実行するには、私とお前が、命を……いや、今の存在そのものをかける必要がある』

 

 そう言うなり、またしても景色が変わる。

 現れたのは……見慣れた『ソーラーストレーガー』の艦橋。

 

 恐らくはこの景色は、現実の『ソーラーストレーガー』のものじゃないんだと思う。多分……ネバンリンナが作り出した、言ってみれば……イメージによるものだ。今はもう、『ソーラーストレーガー』自体は、既に吸収されてなくなってしまっているはずだし。

 

 けれど、実際に必要な操作はここからできるようになっているはずだ。

 聞いた話の通りなら、今のこの、『至高神Z』の降臨によって書き換えられた宇宙……『カオス・コスモス』は、認識が力を持つ世界なんだから。

 

『私もいろいろと試してはみたが、『至高神Z』の力は……まさしく絶対的だ。正攻法での攻略は……不可能と言っていい』

 

「その『正攻法』ってのは……力ずくで、ってこと?」

 

『それもあるが、もう1つ……『次元力』への干渉もだ。『至高神Z』の次元力制御能力は、我々が太刀打ちできるものではない。我々に有利になるようにこの世界に、あるいは『至高神Z』そのものに干渉しようとしても、容易くはじかれ……あるいは、干渉し返される。ゆえに、まずはその、奴を絶対たらしめている部分を切り崩す必要がある』

 

「……そのために、『リヴァイヴ・セル』を使うのね……外側からは何も通じないから、内側から蚕食して腐らせる、か……まるでシロアリね」

 

『お似合いだろう。私もお前も白いからな、見た目』

 

「しょーもない自虐?ネタ言ってんじゃないわよ……さすがはナインのお母さんね。娘に似てセンスが独特だわ……」

 

『……言っている意味が分からないな。叢雲総司も言っていたが……機械である私達に、お前達が言うような生物学的な親子関係はない。我のプログラムは、ナインの収集したデータも取り入れて構築されているゆえに、人格的な意味でのAIに類似点があるというのはわからなくもないが』

 

「そう小難しく考えなくていいわよ。……世の中には、血縁がなくても親子になったり兄弟姉妹になったりする人なんて、いくらでもいるんだから……」

 

 言いながら私は、私にとって……唯一『姉』と呼べる人のことを思い出していた。

 

 ……彼女も、『大マゼラン銀河』そのものの消滅に伴って、きっと……なら、このままには絶対にさせない。

 既に、縁を切られてしまったような形になってしまったけど……それでも、彼女は……ミーゼラは、私にとって……かけがえのない、大切な人だから。

 

『……ミーゼラ・セレステラのことを考えているのか?』

 

 言い当てられた。……顔に出てたかしら。

 

『すでにお前と彼女は、袂を分かったはずだ。それどころか彼女は、『裏切り者』であるお前に対して、敵意すら抱いているかもしれない。……そんな相手でも、お前は……』

 

「当然よ。……たった1人の、愛する姉だもの」

 

 嫌われたってかまわない。二度と会えなくたって構わない。

 生きて……生き延びて……きっといつか、彼女自身の幸せを見つけてくれれば、それで……

 

『……それだ』

 

「?」

 

『それが……唯一、我がわからなかったもの……ナインからデータを抜き取り、最適化させてAIに反映させてもなお、理解できない、人間の感情……ミレーネル・リンケ、『愛』とは何だ?』

 

「……ホント、ナインと同じで、答えにくい質問をしてくるわね……『愛』、か……」

 

 ……きっと、もう少し前の私だったら……私も、この問いに答えをだすことはできなかったでしょうね……そんなものとは、縁遠い世界で生きていたから。

 きっと、それが何かを分かっていても、気づくことも、言葉にすることもできなかったんだろう。

 

 でも、今なら……

 

「心の底から、誰かのことを大切に思うこと……かな」

 

『心から……誰かを? それは、ただ単に協力関係を築いて、互いを助け合うこととは違うのか?』

 

「違うとも言えるし、違わないとも言える。……もっと言えば、何が愛で、何が愛じゃないかなんて、人によって違うのよ。あいまいな答えで申し訳ないけどね。きっと愛は……人の数だけある」

 

『……やはり、理解できない。明文化して定義できない、そのようなあやふやなものが……なぜ、『地球艦隊・天駆』に、あれほどの力を与えている……!? どうして……どうして私にはそれがわからないのよ! あらゆる人物のあらゆる価値観も、私の中にはデータがあるはずなのに!』

 

 ……なんかいきなり、すごく人間らしい口調に変わったネバンリンナ。え、何いきなり!?

 

 ていうか、何かこの口調とか反応……どっかで見覚えがあるような……

 

『あなたの言うとおりなら、愛が『人の数だけある』のなら……個々人の価値観なんてバラバラのはずなのに……なのに、なんであんなに結束を強くして、どんなに強大な敵にも立ち向かえたの!? 完璧に同じ目標を見て、同じ価値観を共有して、極限まで社会の無駄を省いたガーディムは失敗したのに……どうして、そんな不完全なあり方で……あんなにも強くて、素晴らしくて……』

 

 びっくりした、けど……不思議と、怖くはない。

 むしろ……なんだか、こんな風に困惑して、答えを探し求めている様子は……すごく人間らしくて、ある意味ほっとするっていうか……ああ、やっぱりナインに似てるな。

 

 場面や条件は違うけど、あの子も……割と無表情多いからわかりにくいけど、いつも一生懸命だったっけ。

 

「……ごめんね、私は……それにも答えは返せない。けど……」

 

『……けど?』

 

「それを……人間同士の『愛』や『絆』が強い力を生むってことを……それが素晴らしいことだっていうことを、あなたはもうわかってる。だったら、いつかあなたにも……『愛』というものが何なのか、わかる時が来ると思うわ。……ううん、ちょっと違うか……きっと……あなたの中にも、もう『愛』はあるのよ。それが何のことなのか……自分でもわかっていないだけ」

 

『私の中に『愛』が? でも、私は……心なんてもののない、AIなのに……』

 

「今のあなたを見て、単なるAIだなんて思う人はいないとおもうけどね。……きっと、ナインも同じよ。もう『愛』を持っていて……でも、自分の中にあるそれが『愛』だってことに、気づいてないだけ。いつか……わかるときがくる。あなたとどっちが先かしらね」

 

『……本当に、そう思う?』

 

「嘘ついたって仕方ないわよ」

 

『そう……なら……』

 

 そこで、ネバンリンナは……目を閉じて、心を落ち着けるように、しばし沈黙した。

 そして、再び目を開けた時……機械のはずのその瞳には……強い意志が宿っているのを、感じ取ることができた。

 

『なら……こんなところで終わるわけには、なおさらいかないわね』

 

「そうね……私も、絶対にあきらめない。可能性がほんの少しでもあるのなら……最後の瞬間まで、未来へ向かう。そう、決めたわ」

 

 もう、時間も残り少ないはずだ。

 

 私は、『ソーラーストレーガー』の艦橋の中央にある、操縦席に座り……思考操縦で、お目当てのプログラムを探し当てる。

 次元力を用いた『事象制御システム』……ではない。全ての事象制御に『至高神Z』が介入している今、それは力不足で役に立たないし……そもそも『次元力』の行使自体、まともに行えないはず。

 

 けど……それから完全に切り離された存在なら……独自に稼働させることは可能のはず。

 

「……あった、『リヴァイヴ・セル』。……ネバンリンナ、覚悟はいい?」

 

『もちろんだ。……もしかしたら、お前とこうして話すことができるのは……これが最後かもしれないな』

 

「そうね。……聞いてもいい?」

 

『何をだ?』

 

「……この戦いが終わったら、あなたは何をするつもり? また……ガーディム再建のために、『地球艦隊・天駆』の皆と戦うの?」

 

『……私にも、わからないわ。今の私はもう……それが本当にやるべきことなのか、わからなくなってしまったから。もし……今あの『アドミラル』がやっていることと同じで……それが、人間の可能性を閉ざすことにつながってしまうのなら……アドミラルを否定した私が、それと同じことをするわけには……でも、それなら……私はこれから先、何のために……』

 

「……それも、見つけなきゃね。大丈夫よ、あなたが敵にさえならないのなら……きっとどこかに居場所はあるわ。もしかしたら……私達もそれに協力できるかもしれない。ソフィアとか、あの……名前なんだっけな、フロンタルの元親衛隊長の……似たような奴いっぱいいるし」

 

『……ホント、あなた達ってお人よしよね』

 

「かもね」

 

 何か、思わず笑ってしまいそうになりながら……私は、『リヴァイヴ・セル』の中枢システムにアクセスする。そして、私とミツルしか知らないコードを入力し……プロテクトを解除。

 

 覚悟は、もう決めた。

 迷いは……ない。

 

「……『リヴァイヴ・セル』の機能凍結を全解除。並びに、作成者権限により中枢システムからコード発信……対象を『ソーラーストレーガー』及びその搭乗者に指定……『ヴァイオレイション・システム』作動! ……もし私の人格が消えたら、その時は……皆のことをお願い、ネバンリンナ」

 

『……わかった。逆にもし私が消えたら……ナインのことをお願い。彼女なら……本当に『ネバンリンナ』の1人としてやるべきことが何か……間違えずに選択してくれるだろうから。きっと……ガーディムにとっても、地球人にとっても……本当に正しいと言える道をね』

 

 そんなことを話す私たち2人の周囲の空間が……急速に変容していく。

 同時に、意識が遠くなる……私たちの中に、何かが入ってくるような感覚……浸食が始まった。

 

 ……ミツルが作ったナノマシン『リヴァイヴ・セル』……その、禁断の能力。

 それは、パイロットと機体を物理的に融合させ……『次元獣』と呼ばれる怪物に変容させる力。

 

 『次元獣』となった者は、理性も記憶も失い……ただ破壊衝動のままに暴れ続ける存在と化す。

 見た目だけでなく、中身も全て書き換わり……全く別な存在になってしまうのだ。

 

 このとんでもない機能があったからこそ、ミツルは『リヴァイヴ・セル』の開発や使用に、極限まで慎重になっていたし、幾重にもリミッターをかけて機能を封印していた。

 

 けど……今回の場合は、それを利用する。

 

 『至高神Z』は、私とネバンリンナを、復活のための材料にした。

 けどそれなら、完全に吸収される前に、その重要な『材料』のうちの2つが……全く別な何かに変容してしまうことで、その部分が空白になってしまったら?

 

 儀式そのものが無効になって、消滅する……かどうかはわからないけど、少なくとも、その完全性は揺らぐはずだ。不完全な材料で、無理やり復活させたことになるわけだから。

 

 ……もちろん、『まったく別物に変わってしまう』わけだから……私やネバンリンナがその後、どうなるかはわからない。……もしかしたら、何もかも全て忘れて……皆の敵になってしまうかも。

 

 それでも……皆を助けるには、もうこれしか方法がない。

 悲しませることになってしまっても、怒らせることになってしまっても……これで、これが、きっと……

 

 そんな風に思って……私が半ばあきらめて、最後に残った意識を手放そうとして……

 

 ……けど、その瞬間。

 

 

 

 

「やはり、限りある命……それを賭ける者の覚悟は、かくも美しい……それが君達の思いであるのなら……少しだけ、私も力を貸そう」

 

 

 

「……ほら、何諦めて消えそうになってんの。行くよ……ミレーネル! あとネバンリンナも」

 

 

 

 

 聞き覚えのない、けれど、どこか暖かい声と……

 

 一番救いたかった人の、待ち望んだ声が……聞こえた。

 

 

 

 



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第105話 シンカの扉

 

(いったい何が起こっている!?)

 

 大マゼラン銀河を滅ぼし、3つの世界の3つの地球を滅ぼし……絶望した『地球艦隊・天駆』を『至高神Z』の中に取り込んだアドミラル。

 彼は今、ほんの少し前まで、勝利を確信していた余裕たっぷりの態度をなくし……わかりやすく狼狽していた。

 

 最早この宇宙に、自分の進む道を阻む者はいない。そう確信していた矢先に……『至高神Z』の存在そのものが大きく揺らぎ始めたのである。

 

 取り込んだ『地球艦隊・天駆』の仕業……のはずはない。

 いかに彼らが強大な力と不屈の意思を持っていたとしても、その機体の性能は、『在り方』は……通常兵器の範疇を超えることはない。

 

 その圧倒的なサイズ以上に、次元力によって存在そのものが絶対となっているこの機体は、『シンカ』の領域に至っていない者達では、どんな手を使おうとも、傷一つつけることはできないのだ。それが例え、体の内側からの攻撃であろうとも。

 

 だというのに、まさに今……絶対であるはずの『至高神Z』が揺らいでいる。

 

 ありえない事態が起こっていることに困惑するアドミラルだが、『プロディキウム』の中に残されていた記憶を思い出してはっとする。

 かつて、同じように絶対存在として君臨していた『至高神Z』が……いかにして敗れたか。それを思い出した。

 

(あの時は、生贄の一柱として取り込んだ『呪われし放浪者』が、死を望んだことで、至高神を形作っていた組成が崩れた……まさか!? 誰かが……)

 

 その瞬間至高神Zの胸の部分が……まるで内側から食い破られたかのようにはじけ飛び……その中から、異形の怪物が姿を見せた。

 

 それは、重厚な装甲をまとった、機械のクジラのような見た目をしていた。

 

 巨大な口を開けて咆哮しながら、宇宙の大海原に泳ぎ出た、その白金の体を持つ巨鯨は、ぐらりと体勢を崩した『至高神Z』の眼前を悠々と泳ぐ。

 そして、困惑するアドミラルの眼前で、また1つ咆哮すると……その瞬間、空間に光があふれ……それが収まった時には……

 

「どうやら……戻ってこれたようだな」

 

「座標確認。空間異常は変わらず発生していますが……間違いありません。地球近海です」

 

 宇宙戦艦ヤマトが、ラー・カイラムが、真ゲッタードラゴンが、ナデシコCが、プトレマイオスが……『地球艦隊・天駆』の、戦艦と機動兵器達が、通常空間に復帰していた。

 

「馬鹿な……!」

 

 驚愕と困惑、そして、それを塗り潰さんばかりの怒りを湧き上がらせながら、アドミラルは彼らを……そして、おそらくは彼らを解放したのであろう、張本人である白鯨を睨みつける。

 

 同時に、気づく。その白鯨が……どことなく、見覚えがあるというか、かつての『面影を残している』ことに。

 それに気づいた瞬間、アドミラルはいかにして至高神の絶対が破られたのか……その答えを知った。

 

 恐らくは、かつて『至高神Z』が敗れた時と同じことが起こった……生贄にしていた、至高神の絶対性を支えていた柱が失われたのだ。

 しかし、死を選んだわけではない。そもそも、生贄となった者達は、自力で死を選ぶことすらできなかったはずなのだから。

 

 しかし……存在そのものを書き換えてしまえば、それは死んだと同じこととも言える。

 

「『リヴァイヴ・セル』を使った、機体のヴァイオレイション……! 『ソーラーストレーガー』を次元獣にしたのか!」

 

「さすがに理解は早いようだな、アドミラル」

 

「どうやら、賭けには勝てたみたいね……!」

 

 聞こえてきたのは、確かに取り込んだはずの……ミレーネルとネバンリンナの声だった。

 

「貴様らの仕業か……しかし、ヴァイオレイションは、機体とオペレーターを融合させ、その人格は失われるはず……なぜ2人とも無事なのだ!?」

 

「そりゃ簡単な話よ……もともと私達にとって、肉体は入れ物だもの」

 

「私はAIゆえに、データを保護・転送して移し替えれば、いくらでもボディは用意しなおせる。ミレーネルは種族特性として、肉体と魂を分離させるのはむしろ得意分野だ」

 

「そういうこと。というか、もともと私の肉体は次元力で作った仮初のものだったわけだしね……本物は、ミーゼラがもう火葬しちゃったし」

 

「それでも、ヴァイオレイションの影響の強さ次第では、精神ごと取り込まれて自我を失う危険はあった。その意味では『賭け』だったが……どうやら、我々は精神を残したまま、『ソーラーストレーガー』を変容させ、同時に『12の欠片』としての資格を捨てることに成功したようだ」

 

 ヴァイオレイションに伴って、ソーラーストレーガーはこの白鯨のような次元獣となり……ミレーネルとネバンリンナの体は、それと融合し、取り込まれた。

 しかし、その直前で分離することに成功した両者は、変容が完了した段階で、再度『ソーラーストレーガー』に自身の精神を取り憑かせることで……艦を制御する管制人格のような存在となっている。

 

 それによって……いうなれば『次元獣ソーラーストレーガー』となったそれを動かし……『至高神Z』の体を内側から食い破った。それと同時に、事象制御を振り切って『地球艦隊・天駆』の仲間達も助け出したのである。

 

 なお、彼女たちが自意識を保っていられたのには、実はまだ他にも理由があるのだが……それについては彼女たちが知ることはなかった。

 

「まさかとは思ってたけど、アレやっぱり『ソーラーストレーガー』だったの!?」

 

「……! キャップ。今、ネバンリンナからデータが転送されてきました。あれは、特殊なナノマシンの作用によって、機械生命体のような存在に変容したものだそうです」

 

「そんなことが可能なのかよ……さすがはナインのお袋さんだな」

 

 千歳や総司は、少し前まで確かに戦艦の姿をしていたはずの『ソーラーストレーガー』の変容ぶりに驚いていたが……

 

「おのれ……コケにしてくれおって……許さんぞ、ネバンリンナ! 我が推し進めてきた、全宇宙統一管理のプロジェクトを、あくまでも妨害するか! 『超文明ガーディム』の理念すら忘れ放棄した、欠陥品のAIめが……!」

 

「……言いたいことはそれだけかしら、この独りよがりの顔色最悪ジジイ……!」

 

「……は?」

 

 突如としてネバンリンナの口から飛び出した罵詈雑言に。さらに驚かされることとなった。

 無論、総司と千歳のみならず、他の面々や……話していたアドミラル自身も。

 

「結局あんたはやり方や態度が微妙に違うだけで、1コ前のアンドロイドも生身のアールフォルツもみんな同じことしか言ってないわよね! やれ教育だ、やれ管理だ……私が言えた義理じゃないけどさ、よくもまあここまで凝り固まった考え方に至れたもんよね! あんた今までホントに皆のこと観察してたの!? 彼らを見てて何を学んだの!? その目は節穴か何かですかぁ!?」

 

「…………」

 

「え、ネバンリンナって……あんな性格だったか?」

 

「……多分ですけど、今まで『地球艦隊・天駆』の皆さんを観察して……その、人間の感情や性格のデータをフィードバックした結果、じゃないかと……」

 

「おい待て、つーことは何か? あのキレ芸みたいな豹変は、俺達の影響だってことかよ?」

 

「……ま、まあ……若干否定できない部分はあるよね……」

 

「ちょっと、タスク」

 

「おいおめー、なんで私達の方見て言った?」

 

 心外だと言いたげに言った竜馬。

 しかしその後、タスクは思わずといった感じで……身近にいるきつい性格の代表例とも呼ぶべき2人に視線を向けてしまい、その2人……アンジュとヒルダに詰問されていた。

 

「無様だなネバンリンナ! やはり貴様は欠陥品だ、不必要なデータのフィードバックによって、AIでありながら人間のようなあさましいものの考え方をするようになるとは……貴様は最早、超文明ガーディムの未来を託すに足る、文明再建システムの名にふさわしくない!」

 

「ああもう、うるさいっ! もう黙れ! あんたの話はもう聞き飽きたわよ! 私もちょっと前までこうだったんだと思うと、自己嫌悪でどうにかなりそうだわ……それでいてあんた、順調に『至高神』の元の持ち主と同じような考え方するようになっちゃってまあ……見苦しいったらないわね!」

 

「AIごときが私を、『御使い』の後継者たるこのアドミラルを否定するか!」

 

「あんたもAIですけどぉー!? というか、自分であんな連中の後継者なんて、全宇宙に喧嘩売るようなこと自称するとか、よくもまあそんな恥ずかしいことできるわね! それなら私も胸を張ってあなたにNOを突き付けられるわ……あんたがガーディムが犯した失敗を、今度は全宇宙規模でやらかそうっていうなら、いくらだって否定してやるわよ!」

 

「私は過去の失敗を繰り返すことなどない、この『至高神Z』の力をもってすれば、今度こそ完璧な社会管理の実現を……」

 

「いいや、彼女の……ネバンリンナの言う通りだ、アドミラル」

 

 そこに、ヤマトの艦橋に立つ沖田が……アドミラルの言葉を遮る形で割り込んできた。

 

「仮にその『至高神Z』が、本当に全宇宙を支配する力を持っていたとしても……その過程で掲げるやり方には、人の心が通っていない。それでは……仮に文明を再建し、それを宇宙に広げたところで……旧ガーディムと同じ末路をたどるだろう。外見だけを小奇麗に着飾り、しかし人々は心の豊かさを失い、疲弊し……世界は内部から腐り、朽ちていく」

 

「そのようなことにならぬよう、完璧に管理していれば問題ない! むしろ、貴様達が掲げる『心』などという不確定要素こそ、ガーディムが管理する社会においては唾棄すべき異物だ!」

 

「……その様なことを言っているようでは、君は、人の心が持つ可能性というものを理解できる時は、永遠に来ないだろう」

 

「可能性、だと……!?」

 

「確かに人の心は、ひどく不安定で、もろく、容易くその色を変えてしまう不確かなものだろう……だがだからこそ、人はそれを少しでも強く、少しでも大きく成長させるために努力する。苦難を乗り越え、他者と関わり、助け合い、思い合う中で……不完全な心を完全に近づけていく」

 

「最初から完璧な人間など、どこにもいない。皆、愚かで不安定な部分を抱えて……それでも、生きていく中で必死に足掻いて、少しずつ成長していく」

 

 かつて未熟だったころ、幾度も道を間違え……時には鉄拳でそれを正されながら戦ってきたアムロが、沖田艦長に続けて言った。

 

「失敗したなら何度だってやりなおしゃいい。1回や2回失敗したくらいで諦めることもねえし、間違ってると思ったならやり方を変えりゃいい。変に頑固で潔癖になる必要なんざねえ」

 

「何度も失敗して、そこから人は学んでいく。失敗しても、次に生かして、直せばいい。本当に避けなければならないのは……失敗から何も学ばず、同じ過ちを繰り返すことだ」

 

 やや乱暴に竜馬が付け加え、一言一言しっかりと宗介がさらに言う。

 

「つまりお前のように、失敗を失敗だと、悪いことを悪いことだとわかってない奴は論外ということだ」

 

「それに比べれば、自分のことを不完全だと認めて……それでも前に進もうとしてる、ネバンリンナの方がよっぽど大人よ!」

 

 アキトとアンジュがさらに畳みかけ……それを聞いたアドミラルは不快感を通り越して、怒りをあらわにした。

 

「言わせておけば……私が、あの欠陥品よりも下だというのか!」

 

「学ぶことを放棄し、独善のみを指針とする者と、過ちを認めてそれでもなお、1歩ずつでも前に進むことを選んだ者……どちらが見どころがあるかなど、言うまでもない!」

 

「他者を理解するための意思こそが、多くの種族が暮らす宇宙で生きていくのに欠かせないもの……それを否定するのなら、俺たちがそれを討つ! 地球の……いや、宇宙全ての未来のために!」

 

 万丈が、刹那が、はっきりと言い切ってアドミラルを否定する。

 

「腹立たしい……所詮は不完全な文明の愚かな、考え方しかできない連中に過ぎなかったか……それほどまでに私を、そして新たなる時代を否定するというのなら、もはや貴様らなど不要! この私が直々に手を下し、力ずくでこの宇宙から消し去ってくれる!」

 

「どいつもこいつも……結局悪党ってのは、こういうやり方に行きつくみたいね!」

 

「お約束、という奴だな」

 

「それならこっちももう遠慮はいらないってわけだ!」

 

「舐めるなよ劣等文明共……貴様らはすでに目にしているはずだ、この『至高神Z』の圧倒的な力を……知っているはずだ、貴様らに勝機などないことを!」

 

 『地球艦隊・天駆』の面々は、その言葉を受けて……先に魅せられた、波動砲すら凌ぎ切った、『至高神Z』の力を否応なしに思い出させられる。

 

「さて、それはどうかしら?」

 

 しかしそんな中、アドミラルの言葉に、微塵も動揺する気配はなく……不敵に笑いながらミレーネルは返した。

 

「こうなることはわかってたからね……私達がただ無策で、勝機もなくこうして出てきたと思った?」

 

「愚かな……確かに『欠片』の代用品たる一部のパーツは失った。だが、『至高神Z』はすでにこの世界に顕現している! 存在が認識によって定義されるこの宇宙であれば、少なくともすぐにその力が損なわれることはない……貴様らをひねりつぶした後で、ゆっくりと修復すればいいだけの……っ!?」

 

 言い終わる前に、アドミラルは『至高神Z』からさらなる異常を感じ取った。

 

「言ったでしょ? 無策じゃないって。そもそも……私達が、私達だけで助かろうとなんてするはずないじゃない?」

 

「当然……我ら以外にも、助けるべき者は助けるつもりで行動を起こした」

 

「っ……まさか……!?」

 

 その瞬間、またしても『至高神Z』の胸に……いや、その周囲の空間ごと、ビシッ、という音と共に大きな亀裂が入る。

 そしてその向こうから……その亀裂を左右に大きく押し広げながら、『ヘリオース』が姿を現した。

 

「貴様っ……星川ミツル、貴様までもか……!?」

 

「お生憎様、僕だけじゃないよ!」

 

 次元力の翼を羽ばたかせて、亀裂から飛翔し、勢い良く宇宙空間に飛び出したヘリオース。

 宇宙をゆうゆうと飛ぶその姿は……どこか、清々しげな雰囲気をまとっていた。まるで……自分を縛るくびきから解放され、本当の自分を取り戻したかのような……。

 

 その手にはいつの間にか、光をまとった何かが乗っていて……それらは次の瞬間、ふわりと浮き上がり……宇宙空間を飛んで、プトレマイオスに吸い込まれていった。

 そして……中に回収・格納されていた、それぞれの機体の元へ……

 

「今の……ココとミランダか!」

 

「無事だったのね!」

 

「うん! ミツルさんが助けてくれた!」

 

「ご心配おかけしました……これより、復帰します!」

 

「ごめん。本当はアウラさんやスターシャさんも助けたかったんだけどね……」

 

「ううん、大丈夫……気にしないで、ミツル」

 

「あなた達が無事だったのなら、2人もあの中で健在でしょう……あいつを倒してから、ゆっくりと助け出せばいいだけです」

 

「やらせると思うか! どこまでも私をいらだたせてくれる猿共めが……!」

 

 最初の頃にあった、傲慢と不遜を体現したような態度は最早どこにもなくなり……AIでありながら、感情をむき出しにした状態でそう言い放つアドミラル。

 それに応えるように、至高神Zがとうとう動き出す素振りを見せる。

 

 先の戦いでは、ただ何もせずそこにいただけ……それでもなお、自分達に圧倒的な絶望を突き付けたその機体が、とうとう『戦い』を始めようとしている。

 その事実を悟り……しかし、それでも決して諦めず、退くことなく各々構える『地球艦隊・天駆』の面々。

 

 今にもその戦いの火ぶたが切って落とされるかと思われた、そんな緊迫した状況の中で……ただ1人、

 

 星川ミツルだけは……違った。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 ……やっぱ綺麗だな……この宇宙……。『カオス・コスモス』……因果が混濁した、人の意思が力になる宇宙、か……。

 

 この、見覚えのないはずの宇宙なのに……どことなく懐かしさみたいなものを感じてるのは……やっぱり、僕が『至高神』だからなんだろうか。

 意識が薄れていく直前に、アドミラルが捨て台詞みたいに言い残していったこと……

 

 アレ、不思議なことに……でたらめでもなんでもなくて、本当のことだって……それこそが真実だって、なぜかわかるんだよな……。

 明確に言葉にできるような根拠も何もないけど、それでも……わかる。本能とか、そういう部分で……僕は、理解して……いや、気づけてしまった気がする。

 

 僕はやはり、人間じゃない……『呪われし放浪者』でもない……

 かつて存在した『カオス・コスモス』で、『御使い』達によって作られた、人造の神……次元力を思いのままに運用するために作られた、1つのシステムだったんだと。

 

(……まあ、だからって何が変わるわけでもないけどね! 少なくとも……僕自身は、だからって何かを変えるつもりも、改めるつもりもない)

 

 困惑していないわけじゃない。不安も当然ある。

 けどそれでも……僕は、今までと変わらず、『僕』でありたい。『地球艦隊・天駆』の一員として、『サイデリアル・ホールディングス』の会長として……皆と一緒に戦い続けた、星川ミツルという、1人の人間でありたい。

 例え本当は違ったとしても、僕は今まで通りの僕でありたい。過去に引っ張られて、事実にからめとられて……今の僕を、僕たちを否定されてたまるか。

 

 恐らく、一緒に吸収されたミレーネル達も、感覚的に……すでに気づいてるだろう。

 『至高神』云々はともかく……僕が、普通の人間じゃないって。

 地球人とか宇宙人とか、AIとか生身とか、そういうレベルの差ですらなく……もっと、全然違う存在なんだって。

 

 それでも、ミレーネル達は……僕を助けようとしてくれた。

 

 確かにその意思を、願いを感じて……だからこそ僕は、ミレーネル達が行ったヴァイオレイションの瞬間に覚醒して……彼女達を助けることができたんだから。

 

 その後、ミレーネル達を先に行かせて、僕はココとミランダを助け出して、脱出した。

 『ヘリオース』も奪い返した。もともと僕が生み出したものなら、探知して引っ張り上げるのも……不思議と簡単だった。

 

 そんなことができるのも、僕が本当に……『そう』だからなんだろうなと、いちいち実感させられた。

 

 けど、そのくらいで僕はもう、迷わない。

 

 助けた時に……僕の胸に飛び込んで、『無事でよかった』ってわんわん泣きながら喜んでくれた2人を見ていたら、ごくわずかに残っていた迷いも不安も、どっかに飛んでいったよ。

 

 そして、思った。僕が本当は、何だろうが……僕は僕であろうと。

 この記憶が、人格が、たとえ仮初のものだったとしても関係ない。彼女達と過ごした時間は……その中で僕が得たもの、感じたことは、けっして幻なんかじゃない。

 

 だから僕は……『星川ミツル』だ。

 

 それを否定するなら、僕は……何が相手だろうと、立ち向かってみせる。

 

 心の中で、ミレーネルに呼びかける。

 今から僕がやろうとしていることを伝え……彼女にも、それを手伝ってもらうために。

 

 ミレーネルは最初、驚いていたけど……すぐに、首を縦に振ってうなずくイメージが返ってきた。僕を信じてくれる、ということらしい。

 

 それを喜びながら……僕は、僕の内側に意識を向ける。

 かつて至ったはずの境地を、その記憶を引っ張り出して……それを今、ここで、僕の望む力に。

 

 『至高神ソル』だったころの僕が……単なるシステムとしての存在を超え、確かに手にした力。

 そのあとすぐに、終わりを望んでしまったがゆえに、失ってしまったけど……今度はその力を、全てを守るために、戦うために……

 

(それから……これも)

 

 懐から、スターシャさんにもらった水晶玉を取り出す。彼女が、僕を信じて託してくれた……『御使いの時代の遺産』。

 少し力を込めると、水晶玉は手の中で簡単に砕け散って、握りつぶせた。

 

 その中から出てきたのは……漆黒の闇のような何か。

 それに触れ、手のひらから取り込んだ時……僕の中に、色々なものがよみがえる。

 

 ああ、やっぱりこれは……

 

 

(『黒の英知』……『至高神ソル』の、記憶の欠片……!)

 

 

 それを得て……取り戻して……過去に得た力が、今、蘇る。

 

 ―――獣の血

 

 ―――水の交わり

 

 ―――風の行き先

 

 ―――火の文明

 

 ―――太陽の輝き

 

 この宇宙で……もう一度そこに、今……!

 

 

 

「―――真化融合……!」

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 今にも戦いが始まろうとした、その瞬間のことだった。

 

 戦域の上空に飛翔・滞空していた、ヘリオースが……突然、まばゆいばかりの光を放ち始め……その姿が、変容していく。

 6枚の羽根は実体を持ち、その全身は黄金に輝き……徐々にその体が大きく膨れ上がると共に、手足が、頭が変形し……異形の姿へと。

 

 『地球艦隊・天駆』の面々も、アドミラルも……すぐに気づいた。

 今、ヘリオースが何に変容しようとしているのかということに。

 

「あれって、まさか……」

 

「『至高神Z』、か……!?」

 

 驚く千歳や総司。他の者達も……なぜヘリオースが、目の前にいる敵のような姿へ変容しようとしているのかわからずに、困惑している。

 ミツルの意思でそうなろうとしているのか、はたまた、アドミラルが何かしたのか。

 

 ミツルの正体を知らないがゆえに、それを判断できないでいる総司達。

 その一方で、アドミラルはというと……

 

(その身を『至高神Z』に変じることで私に対抗するということか! 愚か者め……ヘリオースは至高神の核ではあるが、その力はほんの一欠片に過ぎない! 形だけ真似たところで……)

 

 しかし、嘲笑と共に脳裏に浮かんだ、アドミラルの予想は当たらなかった。

 

 黄金の異形の体となって膨張していったヘリオース。

 その変容の最中……なんと、背後から突撃してきた『次元獣戦艦ソーラーストレーガー』が、突如として大きく口を開き……ヘリオースの、黄金の異形と化しつつあった体を、大きな口を開けてひと飲みにしてしまったのである。

 

 予想外にもほどがある展開に唖然とする、それを見ていた面々の目の前で……次元獣の巨体が、まばゆい光を放ち始め……まるで、太陽のような輝きを放ち―――

 

 

 

 ……その変容は、言ってみれば、ミツルの心にあった願望を如実に表したものになっていた。

 

 星々を抑圧し、宇宙を支配し、銀河を壊すような……『御使い』のような存在にはなりたくない。たとえ、来歴からすれば、順当な『シンカ』の形が、そこに行きつくものだとしても……かつてそうだった『至高神ソル』には、何の罪もないとしても。

 

 それよりなら、そんな運命を『破界』するために戦った……人としての全てを捨ててでも、宇宙に滅びをもたらす『根源的災厄』と戦うために生きた、『彼ら』の方がいい。

 禁忌と呼べるような手段でも、数多の犠牲と悲劇を生んだ力でも……それでも、その果てに自由と平和を望んで戦った、彼らの方が……僕は、好ましい。

 

 何より、この『天の獄』で神を討つのなら……彼らの名は、まさにお似合いじゃないかと。

 

 そんな思いが、ミツルに道を示した。

 

 共に戦ってきたミツルの機体であり、同時にミツル自身であるとも言える『ヘリオース』。

 ミツルを助けるために、ミレーネルの覚悟が生み出した、『次元獣戦艦ソーラーストレーガー』。

 2つが融合し……まばゆい光が収まった時、そこにいたのは……全く別な『何か』。

 

 『ヘリオース』に近い形をしていながら、『アスクレプス』のそれを思わせる装甲や赤い仮面を身に着け……それらは全体的に、鎧のような重厚さをもってその全身を包んでいる。

 黄金の異形と化しかけていた体を……白金の装甲が包んで覆ったかのような形だった。

 

 背中のユニットから延びる6枚の翼は、黄金に色を変えて、実体を持ったものとなり……ふわりと柔らかそうな質感に変わって広がっている。

 背負う光背は、不動明王のそれのごとき形。宇宙を照らす次元の光炎を纏って燃えている。

 

 そして6枚の翼とは別に……腰のあたりから、副腕か何かのようなものが左右に伸びている。

 よく見るとそれは、アスクレプスだった頃に猛威を振るっていた、蛇のようにうねるビーム砲に近い見た目をしていることに気づけるだろう。

 

 次元獣と化したソーラーストレーガーを取り込んだがゆえにか、全体的にサイズアップし……装甲が重厚になったこともあって、その見た目は鎧の騎士のごとく。

 しかし、重厚でありながらも、その見た目はどこか人に近く有機的で、『力強さ』を感じさせるフォルムを作り出していた。

 

 以前、アスクレプスをモビルスーツと見間違えられたことがあったが……今のこの姿を見てそう思うものはいないだろう。むしろ、スーパーロボットの類と思われても不自然ではない。

 

 変容したその機体のコクピットに座るミツルは、ゆっくりと目を開けて……ふぅ、と息をついた。

 

 その口から、ほとんど何も考えずに……自然に、言葉は紡がれた。

 

「……さ、行こっか、ミレーネル、ネバンリンナ。そして……」

 

 一拍、

 

「僕はお前で……お前は、僕自身だ。それはもうわかってる。でも……それでも、あえてこう言わせてもらうよ。さあ――」

 

 『アスクレプス』でも、『ヘリオース』でもない。

 勿論のこと、『至高神Z』でも、『至高神ソル』でもない。

 

 その名は……

 

 

 

 

 

「―――行こう、次元将ソル!!

 

 

 

 



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第106話 真化融合

 

 

 『地球艦隊・天駆』が、

 アドミラルの乗る『至高神Z』が、

 それぞれ見上げる前で……今まさに誕生した、新たな『至高神』が産声を上げる。

 

 白金の鎧をまとった体をゆっくりと動かし……背中に生えた、天使のような6枚の翼を大きく広げる。

 

 ただそれだけの、ゆっくりとした動作。しかし不思議と、目を離すことができなかった。

 それほどまでの存在感……そしてそれ以上に感じる『目を離してはいけない』という、直感ないし強迫観念にも似た何か。

 

 『至高神Z』よりもより人型に近い……しいて言えば、『アスクレプス』をより有機的に、より重厚に、より神々しくしたような姿となった姿の『次元将ソル』。

 

 その翼がふわりと羽ばたくと、それを中心に、まるで宇宙が波打っているかのように、不可視の、しかし確かにある『何か』が広がっていく。

 それが何であるかを、戦場にいた者達が知るのは……もう少し先のこと。

 

「……そんなに死にたいのならば、まずは貴様から消してやる……!」

 

 その直後、至高神Zの手元に次元力が収束していき……稲妻となって迸り始める。

 しかし、単なる電撃ではない。そのように見えるが、それよりもはるかに危険な……次元をも超えて周囲へ伝わり、対象を焼き尽くし消し飛ばす、膨大なエネルギーの奔流だ。

 

 そしてそれは、『貴様から』などと言っておきながらも、『次元将ソル』を狙って放たれたわけでは特にない。

 解き放たれた雷光は、周囲の宇宙に光の波紋を広げながら、無差別に暴れまわる。その向かう先には、『地球艦隊・天駆』の他の機体群もあり……このままいけば、巻き込まれて致命的なダメージを受けるのは確実だった。

 沖田艦長をはじめ、各艦の艦長達が防御や退避の指示を出すも、到底間に合わない。

 

 しかし、彼らの機体がエネルギーの奔流に焼き滅ぼされる最悪の未来は、訪れなかった。

 

 その先頭に立つように降り立った、『次元将ソル』が、その6枚の翼を大きく羽ばたかせた瞬間……宇宙に暴風が起こり、迫ってきていた雷は全てそれに相殺され、全て消し去られてしまった。

 

 さすがにこれには、アドミラルも絶句する。

 手加減などしなかった。その怒りのままに敵を全て焼き滅ぼすべく、確実に仕留められるだけの一撃を放ったつもりだった。

 

 それがまるで、ろうそくの火を吹き消したかのように、あっけなく消滅させられた。

 

(馬鹿な……これほどのレベルの次元制御をいともたやすく……!? ありえない、材料も何もかもありあわせの、不完全でしかない『至高神』が、この『至高神Z』を上回ったのか!? 星川ミツルがもともと『至高神ソル』だったとはいえ……いや、そもそもあれは『至高神』なのか!?)

 

 疑問を抱きながらも、アドミラルは次の手に出る。

 

 天使の輪の部分から次元力を放出し……それらは目の前で形を成す。

 一瞬空間がゆがんだかと思うと、そこには、何体ものクリスタルの怪物が……惑星レプタボーダで猛威を振るった『エル・ミレニウム』が出現していた。

 

 さらにはそれと同時に、『エル・ミレニウム』以上の存在感を放つ、左右で体の色が違う、クリスタルの巨人までもが形作られていた。こちらも、1体と言わず何体も。

 

「あれは、レプタボーダの……」

 

「『エル・ミレニウム』……レプタボーダの古代文明ではなく、『至高神』とやらに由来する存在だったのか!?」

 

「おまけに、何かそれよりやばそうなのもいるんだけど……」

 

「……どこからか呼び出した? それとも、今この場で……無から有を創造したのか!?」

 

「そんなの……まるで、神の所業……」

 

「看板に偽りなし、ってことか……」

 

「この程度は、至高神Zの事象制御能力をもってすれば造作もないことだ……私はハッタリでものを言うことはしない主義なのだよ」

 

 惑星1つを容易く滅ぼせる『エル・ミレニウム』に加え……その上位種であり、恒星間に展開して発達した文明をも容易く崩壊させられる力を持つ『ゼル・ビレニウム』。

 優に数十体にも及ぶ軍団をものの数秒で作り上げたアドミラルは、それらを前面に押し出すことで、わずかに心の余裕を取り戻していた。

 

 無言で、思念によって彼らに指示を出せば……恐怖など覚えないかりそめの魂しか持たない彼らは、一斉に『次元将ソル』に襲い掛かっていく。

 

 次元転移によって瞬く間にその距離をゼロにし、ある者は腕を変形させて直接殴り掛かる。

 ある者は中距離から次元力の光炎を吹き付けて相手を焼き尽くす。

 ある者は機体を無数に分裂させ、クリスタルの槍の軍勢となって降り注ぎ、貫かんとする。

 

 いかな強固な兵器、いや戦艦、いや艦隊だろうと、次の瞬間には木っ端微塵になっているであろう暴威を前に、次元将ソルは身じろぎ一つしない。

 

「―――相克・滅」

 

 だが、真っ先に到達したクリスタルの槍の先端が、その機体を貫こうとした瞬間……その全身が太陽のように輝いて、膨大なエネルギーの奔流が発生する。

 上下左右前後に放出された破界の波動は、槍も、炎も、殴りかかってきた機体をも……全てを洪水のような勢いで飲み込んで、圧壊・消失させていく。

 

 宇宙全体を照らすような光が収まると、そこにはすでに、『次元将ソル』以外の存在は全て焼失した空間が広がっていた。

 

 さらに『次元将ソル』の腰のあたりから延びた副腕のようなそれがうごめき、蛇のように伸びて前に出ると……先端が蛇の、いや龍の頭のように変形。

 

「フォールディング・ブレイザー……発射」

 

 そしてその口から、今の意趣返しのように放たれた光炎は、展開していた『エル・ミレニウム』と『ゼル・ビレニウム』の軍勢を一瞬で飲み込み、消滅させた。

 

「ばかn―――」

 

 『馬鹿な』と言い終えるより先に、その光炎はそのまま伸びて『至高神Z』にまで届き……着弾の瞬間、その巨体が大きく揺れ、苦しむように悶えてぐらついた。

 『地球艦隊・天駆』のいかなる攻撃も通さず、『波動砲』すら無傷で受け切った『至高神Z』に、初めて明確にダメージが通った。

 

 それは、見ていた『地球艦隊・天駆』の面々にとっても……自分は絶対に負けない位置にいると確信していたアドミラルにとっても、大きな衝撃だった。

 

「馬鹿な……馬鹿な!?」

 

 所詮は余波ということなのか、ダメージ自体はそこまで大したものではなかった。

 至高神Zの事象制御能力で十分カバーできる範囲内であり、事実、意識を向けて力を使いさえすれば、即座に全快状態に戻すことができた。

 

 しかし、絶対の存在であったはずの『至高神Z』が、その絶対を崩され……勝利が約束された戦いであるはずだった前提が、崩れていることが浮き彫りになった。

 0と1とは天と地ほど違う。アドミラルは、認めざるを得なかった。

 

 目の前にいるこの存在は……自分を、そして『至高神Z』を害しうる存在なのだと。

 

「ありえん……なぜ、なぜ全てにおいて劣っているはずの貴様が、この『カオス・コスモス』で……私が支配しているはずの宇宙で、この『至高神Z』に傷をつけられる!? 『高次元生命体』の頂点に立ち、『真化』の到達点に立ったはずの『至高神Z』と同じ地平に立っている!? こんな……こんなことは、あってはならない!」

 

「……今のセリフだけでも、あんたがそもそもひどい勘違いをしてるってことがわかるな」

 

「何……どういう意味だ!?」

 

「あんたは何もわかっちゃいない。『真化』の意味も……そこに至るまでに、本当に必要なものが何であるのかも。ホント、つくづく『御使い』連中と同じような道を歩んでるもんだ」

 

「どういう意味だと聞いている!」

 

「よぉミツル。その話、俺達にも詳しく聞かせろよ」

 

 唐突に、後ろの方からそう声がかかった。

 その声の主は、真ゲッター1のコクピットにいる流竜馬だ。

 

「さっきから聞いてると、どうもその『シンカ』とかいう奴が、お前があのデカブツに攻撃を当てられるようになった秘訣なんだろ?」

 

「ユリーシャや真田副長、それに奴自身が言っていた言葉から察するに、さしずめ俺達には、何か『資格』のようなものが足りないがために、奴に攻撃を届かせることができていないようだった。ならそれを得ることができれば……俺達も戦えるということだ」

 

「だったらさっさとそいつを教えな! ここまで好き勝手にやられた借りの分、熨斗つけて返してやらなきゃいけねーんだからよ!」

 

 弁慶や隼人も加わってそう言ってくる。

 いや、言葉にしたのが彼らだというだけで、どうやら同じことを皆が思っていたようだった。

 

 目をやれば、真ゲッターに続くような形で、マジンガーZEROやマジンエンペラーG、エヴァンゲリオンにレーバテイン、ヴィルキスにブラックサレナ……

 他、『地球艦隊・天駆』全ての視線が自分達に集まっているのを感じた。

 

 その光景に、『まあ考えてみれば当たり前か』と納得するミツル。

 それとは対照的に、理解できないものを見るような目を向けるアドミラル。

 

「馬鹿な……至高神である星川ミツルだけならまだしも、なぜ貴様らがまだ戦うつもりでいる!? なぜ……なぜ今の戦いを見て心が折れていない!? あらゆる希望が潰え、守るべきものすら失い、なぜそれでもそんな目をすることができる!?」

 

「それが理解できないからこそ、あんたはどこまで行っても『真化』を理解できないんだよ」

 

 ばっさりとそう言ってのけるミツルに続けて、

 

「絶望だの何だの、これまで何度もそんなもんは経験してきた……でもな、そのたびに立ち上がって、這いずってでも前に進んで……その繰り返しで俺達はここまで来たんだよ」

 

「希望を捨てず、俺達を信じて、地球で待っている人達のため……俺達自身が願う、希望に満ち溢れた未来のために!」

 

「どんな強敵が現れても、どれだけの窮地に追い込まれようとも……仲間達と一緒に、それを乗り越えてきた!」

 

 総司が、古代が、トビアが、

 

「希望がない? 守るべきものを失った? 勝手に決めつけるな!」

 

「ユリーシャ達からこの宇宙の仕組みや、それがもたらすものについては聞いている……まだ希望が潰えていないことも……俺達には、地球にはまだ未来があることも!」

 

「だったらそれを信じて、僕らは最後まで戦う!」

 

「道はすでに彼らが示してくれた……もうお前の言葉に惑わされたりなんかしない!」

 

 甲児が、宗介が、シンジが、バナージが、

 

「結局今までと同じよ。あんたが全部悪くて、全ての元凶なんでしょ?」

 

「ならばもうやることは決まっている……諸悪の根源を倒して、あとは大団円へ一直線だ……!」

 

「その障害として貴様が立ちはだかるというのなら……」

 

「俺達が必ず、それを打ち倒してみせる!」

 

 アンジュが、アキトが、刹那が、舞人が、

 

 それぞれに思いのたけを、真正面からアドミラルにぶつけていく。

 その声音に、もはや迷いも恐れもありはしなかった。

 

「……あの、キャップ? 皆さん流してますが、さっきのアドミラルの言葉の中に、結構衝撃的なものが混じっていたと思うんですけど」

 

「わーってるよそんなことは! でも後回しだ! つーわけでミツル、どうすりゃいい? どうすればその……何だ、『シンカ』ってのが手に入るんだ?」

 

「無駄だ! 貴様らごときが何を聞いたところで、『高次元生命体』に至るための、この宇宙の真理にぐわっ!?」

 

 言い終える前に、ミツルが放った無数の結晶の槍が『至高神Z』の全身に突き立てられた。

 ダメージ自体は大したことはなさそうだが、動きなどを阻害されているのか、『至高神Z』がこちらに何かしてくるようすも……アドミラルの声すら聞こえなくなっている。

 

 一時的にではあるが、邪魔者を黙らせたミツルは、

 

「あんたも理解してないだろ……っと。じゃあ時間もないし、さくっと説明しますね」

 

「なんか、宇宙の真理とかなんとか、すごい重大な情報のはずなんだけど……」

 

「あまりにいつも通りっていうか、口調とか扱いとか諸々軽いね」

 

 かなめやユリカがそんな風に率直な感想を述べていた。

 他の多くの者もそう思っていたし、実際その通りなのだが、今はそんなことを気にしている時間も惜しいので、スルーして説明に入る。

 

「本来は色々と専門用語やら何やらあって、もっと時間をかけてゆっくり説明する……というか、長い時間をかけて自力で色々『気付いて』『理解する』べきものなんですが……非常事態なのに加えて時間がないので割愛します。カギになるのは、あらゆるものの『意思』です」

 

「『意思』……あらゆるもの、って?」

 

「『意思』とは、人だけが持っているものじゃない。あらゆるものに宿っている。生物・無生物を、有機物・無機物を問わず、ね。これはある宇宙では『霊子』と呼ばれていたものです」

 

 万物に宿る『霊子』は、原子レベルで存在する、それそのものの『意思』。

 人間のように明確な自我を持ち、何かをしようとしているわけではないが……確かに存在しており、そしてそれには、外部から干渉することもできる。

 

 必要になるのは、これもまた『意思』の力であり……月並みな言い方をすれば、あらゆるものに対して自分の意思で干渉し、それを自在に制御することができるようになる。

 

 次元力の行使による事象制御の仕組みがこれにあたる。次元力は単純なエネルギーではあるが、それを介して万物の『霊子』に干渉し、それを自在に操ることで、そこに連なるあらゆる事象を制御することが可能になる。

 すなわち、『極めれば何でもできる』という次元力の極意に連なる力として発揮されるわけだ。

 

 しかし、『真化』の本質はそこではない。

 

 『真化』の本質とは、『他者を理解し、受け入れ、共に歩む』こと。

 言葉にしてみればありふれたものではあるが、万物に宿る『霊子』の存在を念頭に置いてこれを考えた場合、それは……この宇宙に存在するあらゆるものを理解し、受け入れ、そして共に歩んでいく、ということに行きつく。

 この真理を正しく理解し、扉を開けることに成功したものが、『高次元生命体』へと至る資格を手にしたことになる。

 

 そしてそれを戦闘において行う場合の手法として、いくつかの宇宙、ないし並行世界で提唱されていたのが『真化融合』である。

 機動兵器や戦艦の『霊子』すなわち『意思』と、それに乗るパイロットの『意思』を呼応させることで、両者の境界線をなくし、ダイレクトにその意思を伝えるというものだが……これは単なる思考による操縦とかそういうレベルではない。

 

 意思を一つにしたパイロットとマシンは、スペック上の限界を超えたすさまじい力を発揮することができる。

 かつて『多元世界』で戦った戦士たちは、この力を手にしたからこそ、『天の獄』で行われた壮絶な戦いを勝ち抜き、御使いによる宇宙の支配に終止符を打つことができたのだ。

 

「なるほど……つまり、その『真化融合』ってのが、あの野郎に勝つためのカギなわけだな?」

 

「『高次元生命体』の領域に立つモノと対等に戦うための、ある種の資格のようなもの……同時に、俺達が、俺達のマシンが手を伸ばしてつかみ得る可能性そのもの、とでもいうべきものか」

 

「そのためには、パイロットの意思が必要になる……って、でも、そんなのどうやって……?」

 

「乗り手の思考を機体に伝えるなんて、そんな機能、一部のマシンにしかついてないわよ?」

 

「いや、機能とかそういうのに由来する力じゃないって言ってたじゃん」

 

「それはそれでどうしたらいいか余計にわからない……」

 

「気合で何とかなるのか、ミツルの兄ちゃん?」

 

 口々にそう聞いてくる『地球艦隊・天駆』のメンバーの疑問に、ミツルは少し考えて、

 

「イメージしづらいのはわかるけど、そこまでかしこまって難しく考える必要はないよ。こっちで手伝いはさせてもらうし……何より、既に皆はそういう経験というか、感覚を知ってるはずだし」

 

「知ってる、って、どういうことだ? 俺達がマシンと意思を1つにした経験があるってことか? そんな経験……」

 

「ホントにないですか? 一度も?」

 

 総司の言葉を遮って、ミツルは問いかける。

 

 例えば……どう考えても、もう動けない、戦えないほどのダメージを負った時に……必死で操縦桿を握った自分の意思に応えて、相棒が動いてくれたこと。

 

 思いを乗せて放った一撃が、破れないはずの相手の防御を貫いて決定打になったこと。

 

 絶体絶命の危機に、距離も、次元も飛び越えて、来れるはずのないところまで相棒が駆け付けてくれたこと。

 

「何度もそういう奇跡みたいな瞬間を経験してたはずですよ。その感覚を、皆、知っているはずです。それを思い出すだけでいい。そうすれば皆さんにも……いや、皆さんだからこそわかるはずです。自分の相棒にも、自分達と同じ心が……『意思』があるんだってことが」

 

「俺達の相棒に……」

 

「機体に、意思が……」

 

「恐怖をこらえて、勇気を振り絞って強敵に立ち向かった時……勝利の喜びに沸き立った時……悲しい別れに涙をこらえた時……絶望を振り払って前に進む覚悟を決めた時……それらの思いを抱いていたのは、皆さんだけじゃない。握りしめた操縦桿越しに、一番近くでその思いを共有していた相棒がいた……その相棒を今一度……いや、あえてこう言いましょう。いつも通り、信じるだけでいいんです」

 

 言いながら、ミツルは自身もまた、自身の乗る『次元将ソル』に意識を向ける。

 

 『次元将ソル』は、ミツル自身が作り出した分身である『ヘリオース』を素体としているため……言ってみれば、それ自体がミツル自身、もう1つの体でもある、とも言える。

 しかしミツルにとっては、そうだとしても、自分にとっての『相棒』であることに変わりはない。真実を知らなかったとはいえ、ともに戦場で戦い、喜びも怒りも、悲しみも楽しみも、全て分かち合ってきた大切な相棒だ。

 

 そして同時に、融合し1つになっている『次元獣ソーラーストレーガー』や、それと自らの意識を融合させたミレーネルやネバンリンナに対しても。

 

「信じて、受け入れて、共に歩む、それこそが……たったそれだけのことが……」

 

 その思いを強くし、さらにそれを……次元力に乗せて、宇宙に広げていく。

 大きく広げた6枚の翼が輝くと、ミツル自身の思いに加えて……彼の『至高神』としての記憶の底に眠っていた、別な記憶が……『真化融合』を果たし、相棒と共に戦い抜いた鋼の戦士達の記憶とその思いが宇宙に広がっていく。

 

 それらは、『カオス・コスモス』にあまねく広がり、『地球艦隊・天駆』が、今まさに至ろうとしている領域への道しるべとなって、彼ら、彼女らを後押しした。

 かつて、太陽の名を持つ戦艦が、それに搭載されていたシステムと、それが背負った人々の思いがそうしたように。

 地球を救いたいと願う戦士達に、力を与えるために。

 

「マシンと意思を1つにするための……最初で最後の一歩なんですよ」

 

 その瞬間、

 

 混沌に包まれ、絶望に覆われるはずだった宇宙の……その中心とも呼べる場所で、

 

 宇宙を変える、1つの奇跡が、あるいは単なる必然が顕現し―――

 

 

 

「さあ皆さん、行きましょう……『真化融合』!

 

 

 

 希望の未来への扉は、ついに開かれた。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 アドミラルは、『至高神Z』の中で……もはや平静を保つことはできていなかった。

 

 自分が動けないでいる間に、目の前で、『次元将ソル』を中心に広がっていく得体のしれない力……しかしそれが何であるかを、『至高神Z』の中に眠っていた記憶から、アドミラルは認識していた。

 

(馬鹿な、あれは……『あの時』と同じ……!)

 

 まるで自分の記憶のように思い返されるのは、おそらくはかつてこの『至高神Z』を作った者の記憶、ないしは感情なのだろう。

 あれをやらせてはならない、止めねばならない。

 

 アドミラルは、『至高神Z』の全身を貫くクリスタルの槍に全力で抵抗し、わずかにその妨害が揺らいだタイミングを見逃さず……次元力を放出する。

 事象制御によって、また何体ものエル・ミレニウムやゼル・ビレニウムを即座に出現させた。

 

 今ならまだ間に合う。『次元将ソル』を除いて、これに対抗できる力を持つ者はいない。

 『地球艦隊・天駆』が、『あの力』を手にする前に、全力でもってこれをせん滅するため、生み出した兵隊達に即座に突撃指示を出す。

 

 わずか数体で1つの文明を完全に滅ぼし尽くせるほどの存在が、数十体、群れを成して襲い掛かってくるという、絶望どころではない光景。

 

 いかに地球圏最精鋭の部隊と言えども、数秒後には彼らは宇宙の藻屑と消えるだろう。いくら彼らでも、これを防ぐ術はない。

 そう確信しつつも、アドミラルは背筋が冷える感触をぬぐい切れないまま、その瞬間を今か今かと心待ちにし……

 

 ……しかし、その瞬間は……ついに訪れることはなかった。

 

 真っ先に彼らの懐に飛び込み、その爪をふるおうとした数体のエル・ミレニウム。

 しかして次の瞬間……ほとんど同時に、それら全てが、爆散した。

 

「……馬鹿、な……!」

 

 そこに広がっていた光景は、アドミラルが期待していたものとは180度逆。

 

 崩壊し、宇宙に消えていく結晶の怪物達。

 それをやってのけたのは……とうとう『真化』の扉に手をかけた、鋼の戦士達。

 

 トマホークを振りぬいた姿勢の真ゲッター1。

 

 握りこぶしを突き出しているマジンガーZERO。

 

 振り下ろした動輪剣を構え直しているグレートマイトガイン。

 

「これは……悪い夢か……?」

 

 その光景はすなわち、たった1体にも複数で当たり、なお苦戦していたはずの彼らが……今の一瞬で、エル・ミレニウムを一蹴してのけたのだということを示していた。

 

「おいおいおい……何だよこの力は!?」

 

「すごい……体の中から、力が湧き出してくる!」

 

「それだけじゃない。これは……そうか、ガイン! これが!」

 

『ああ、わかるぞ舞人! 私も……私と舞人は今、1つになっている!』

 

 パイロットと機体の境界線を取り払い、互いに理解し、受け入れ、共に進む。それが『真化』の真理であり、『真化融合』の強さの根源。

 そこに至ったことを、『地球艦隊・天駆』の面々は……それぞれその心で理解していた。

 

「すげえ……すげえし、不思議だ……。今までずっとザンボット3と一緒に戦ってきたのに……今俺、ようやく本当にお前のことが分かった気がするよ」

 

「これが君なんだな、ダイターン3。いつもと同じ……しかし、それでいて全く新しい世界を、今僕は体感している……」

 

「けど不安とかは全然ないよ。びっくりはしたけど……それも含めて、ただただ頼もしい……君もそう思ってくれるの、フリーダム?」

 

「これも、1つの『対話』なのかもしれないな……クアンタ、俺と、お前の……」

 

「皆はああ言っているが、お前はどうだアル? 何か新鮮味のある経験でもできたか?」

 

『どうでしょうか? 軍曹殿との間にあったある種の『境界』が取り去られたことは確かですが、別段新しいことを知ったわけでもないでしょう。それが私とあなたの元々の在り方でしたから』

 

「肯定だ。なら……改めて目的遂行のために集中できるな、行くぞアル」

 

『了解』

 

「ノリ気じゃない……頼もしいわよヴィルキス。いいわ、一緒に行くわよ! このまま……神様気取りのスットコドッコイをぶち殺して、この変な宇宙をぶっ壊す!」

 

「あの時お前に言ったこと、忘れちゃいないし、心変わりもしてないぜ! 行こう、マジンガー! 神にも悪魔にもなれる、俺達の力で……地球を救って、未来をつかむ!」

 

「甥がやる気になってるのに俺が後れを取るわけにもいかないな……そういうわけだ。もう少し、付き合ってくれよエンペラー!」

 

「ごちゃごちゃ難しいこと考えるのはここまでだ! おら、ここからは今まで足踏みした分、全力でド派手に行くぜ! ついて来いよゲッター!」

 

「おーおー、皆気合入ってんなあ……こりゃ俺たちも負けてられねえぜ、ヴァングネクス……それにもちろん、ナイン、お前もな!」

 

「はい、キャップ!」

 

 それぞれの乗る機体との対話を経て、今、己の体にみなぎる力を理解する戦士達。

 

 その様子を艦橋の座席から見ていた沖田艦長は、ふと目を閉じる。

 

(これが、『真化融合』……機体と1つになるということか。だとすれば。ヤマトよ……これが、君なのだな……)

 

 『真化融合』は機動兵器に限って起こるものではない。

 ヤマトの艦橋に立つ彼もまた、自身にとっての機体である『宇宙戦艦ヤマト』との間にあった境界が取り払われたのを感じていた。

 

 艦橋にいる者達の中には、突然の未知の感覚に困惑している者も多いようだが、沖田艦長はというと……彼自身も意外なほどに落ち着いていた。

 

(……1年、か……付き合いとしては長いと見るか、短いとみるか……だが、時間など関係ない。今ならわかる……ヤマトよ、君もまた、地球のことを思ってくれているのだな……。ならば……私にもはや一片の迷いも不安もあろうものか。地球を救うまで、共に歩もう……戦友(とも)よ!)

 

 瞬間、カッと見開かれた沖田艦長の両目。

 そこにはもはや、戦いへの迷いはもちろん……強大な敵へ挑むことへの不安も、得体のしれない感覚に対する戸惑いも、かけらも残ってはいなかった。

 

 すぅぅ……と大きく息を吸い込み、

 

「『地球艦隊・天駆』……総員、傾注!!」

 

 ヤマトの艦橋全体に響いた……だけではない。全体通信に乗って、全戦艦、全機動兵器のスピーカーから響き渡ったその声に、それを聞いた者達全員の注意が集まった。

 

「星川の助力によって我らが今しがた至った境地……『真化融合』。これに対して各々、戸惑うところもあろう。未知の感覚に不安を覚えたり、あるいは逆に高揚を覚えていることと思う」

 

 だが、と続ける。

 

「何一つ不安になることなどない! 我らが今、見えざる手と手を取り合って結び付いているのは……今までの戦いでも、常に、自分と一番近くでともに戦ってきた、自らの戦友だ! それと心を通じ合わせ、己の魂をも響き合わせたことの何に怯えることがあろう! 何を怖がることがあろう! 彼らの頼もしさを、強さを、一番知っているのは……自分自身であると思い出せ!」

 

 ヤマトから聞こえてくるその声は……まるで、沖田艦長のみならず、『宇宙戦艦ヤマト』もまたそれに同意し、同調してその意思を響かせているかのように感じられた。

 

「その戦友と互いを理解し、手を取り合った我らがなすべきことは1つだ! 今、目の前に立ちはだかっている最後の敵を倒し、地球に平和を取り戻すことである! この一点において、今までと何も変わりなどありはしないし、それは『彼ら』も当然理解していよう!」

 

 指し示すかのようにヤマトの主砲の砲身が向く先には、『至高神Z』の巨体。

 

 全員の視線がそこに向き……そして沖田艦長は、そして『宇宙戦艦ヤマト』は……最後の戦いの始まりを告げる大号令を響かせる。

 

 

 

「『地球艦隊・天駆』総員、戦闘態勢! これが我らの……最後の戦いである! 最終攻撃目標……『至高神Z』!」

 

「「「了解!!」」」

 

 

 

 




すでに逆転ムードだったところをさらに強化していくスタイル。倍プッシュだ。

次回、蹂躙。


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第107話 地球艦隊・天駆VS至高神Z

 

 

「打ち方、始めぇ!」

 

「打ちー方ー、始めぇー!」

 

 沖田と古代の号令と共に、ヤマトの主砲であるショックカノンが一斉に火を噴く。

 

 何条にも拡散して放たれた光線が、飛ぶ途中で螺旋を描いて1つの巨大な光線になり、その先にあった標的……今にも襲い掛かってこようとしていた『エル・ミレニウム』に直撃。

 本来ならば戦艦の砲撃などものともしない強度を誇っているクリスタルの獣は、しかしその一撃で大きくたたらを踏み、そのボディに幾筋ものひびを走らせた。

 

 さらに続けて2発、3発と命中し……宇宙に進出した文明すら滅ぼす次元の兵器は、崩壊して宇宙に散った。

 

「あれだけ手強かった、あのクリスタルの怪物が、あんなに簡単に……」

 

「いける……これならいけますよ!」

 

 自分達がやったことではあるが、あっけにとられる島。

 その隣で、興奮と喜びを隠せない様子の南部。

 他の者も多種多様な反応を示しているが、多くはまだ理解が追いつかないのだろう、島と同じように驚いているばかりの者が多いようだ。

 

 そんな2人を後ろから見ていた真田は、波動砲の試射を行ったときのことを思い出していた。

 突如として手にした超兵器。そのあまりの威力に唖然とするしかなく、不用意に使うわけにはいかないと皆が直感した――そんな中でも今と同じようにはしゃいでいた者が1人いた気がしたが――その時を。

 

 呼吸を整え、後ろから一喝する。

 

「気を抜くな。あの程度は敵にとっても今や雑兵扱いにすぎん。向こうは何せ、無から有を生み出して攻撃するなどという素っ頓狂なことまでやってくるわけだからな」

 

「ですが、こちらも負けてはいませんよ。俺達にも……ここまで一緒に戦ってきた仲間がいる」

 

 横からそうはっきりと、自信たっぷりに言ってのける古代。

 その、自信と決意の炎を宿した瞳を見た真田は、一瞬その姿が、その兄であり……自身の旧友である男とかぶって見えた。

 

「……ああ、そうだな。何も、何一つ恐れることなどないさ」

 

「敵、『至高神Z』、さらに手勢の兵器を創造して戦線に投入! 飽和攻撃を仕掛けてきます!」

 

「航空隊に出動要請! しかし前に出すぎるな、あくまで艦の直衛を優先任務とする。切り込むのは……彼らがやってくれる」

 

 

 

 ヤマトの砲声を皮切りに、敵味方が一斉に飛び出していく。

 

 新見の報告通り、アドミラルは『至高神Z』の事象制御能力によって、追加で何体もの『エル・ミレニウム』と『ゼル・ビレニウム』を作り出し、全体に突撃させる。

 そしてそれを迎え撃つべく、『地球艦隊・天駆』の機動兵器部隊は各々飛び出していく。

 

 真っ先に飛び出したザンボット3の振るった日本刀状の刃が、エル・ミレニウムを袈裟懸けに断ち切って半壊させる。

 続けざまにそこに、拳と蹴りの連続攻撃を放って叩き落し、とどめに三日月の光線『ムーン・アタック』が炸裂。向こう側が見通せる三日月の大穴を開けて、エル・ミレニウムは崩壊した。

 

「すっげぇや、あんなに強かったクリスタルの怪獣が……もう何も怖くねえ!」

 

「ちょっと勝平! 気持ちはわかるけど……」

 

「あんまり調子に乗って前に出すぎるなよ! 確かにすごいパワーだけど、相手だって弱くなったわけじゃないんだから、油断しちゃだめだ!」

 

「わかってるって2人とも! でもな、こういうのは気持ちで負けちゃだめだ! この力は、俺達とザンボット3の意思がもとになってるって、さっきミツルの兄ちゃんも言ってたからな! さあ……もう一丁いくぜザンボット!」

 

 勝平の号令にこたえるように、ザンボット3がその目を光らせる。

 

 その隣で、勝平達に襲い掛かろうとしていた『ゼル・ビレニウム』。

 体を無数のクリスタルの槍に変えて降り注がせようとしていたそれはしかし、立ちはだかったダイターン3の2つの扇に受け止められ、弾かれてしまう。

 

 それらを集結させて機体を再構築したと同時に、ダイターン3の放った『サン・アタック』によって粉々に爆散する。

 バラバラになった欠片達は、当たり前だが、今度は再生することかなわないまま消えていった。

 

「おっと、後ろにもいたのか……サンキューな万丈の兄ちゃん!」

 

「どうしたしまして! さあ……宇宙の支配者を気取る悪党ども、ダイターン3が相手だ! この日輪の輝きを恐れぬのなら、かかってこい!」

 

 そこから少し離れたところで、宇宙空間を縦横無尽にモビルスーツ達が飛び回っていた。

 

 放たれる虹色の光炎やクリスタルの槍の雨をかすらせることすらなく回避し、飛び込んでいくクアンタとデスティニー。

 敵の懐に飛び込んで、目にもとまらぬ連続攻撃で、堅固なはずのクリスタルの鎧を微塵に切り裂いて爆散させる。

 

 フルクロスがマントのような装甲で炎を打ち払い、ストライクフリーダムと∞ジャスティスがレーザーの雨を降らせてクリスタルの槍を1本残らず撃ち落とす。

 さらに、攻撃の間を縫うように飛ぶΞガンダムのファンネルミサイルが奥の敵を打ち据える。

 

 その隙に飛び込んだスカルハートがゼロ距離でビームライフルを放って打ち抜き、Ζガンダムがウェイブライダーで突撃して粉砕する。

 

 直後にモビルスーツ形態に戻ったΖガンダム。それに乗るカミーユは、自分の機体を包む不思議な光を見ながら、

 

(この感覚……俺とゼータが1つに……。いや、それだけじゃない! あの時と同じ……ゼータには俺以外にも、皆の……人々の思いが集まってきている!)

 

「カミーユさん! それ……」

 

 ΖΖに乗るジュドーが、焦ったような不安がるような声音で通信を飛ばしてきた。

 恐らく、今、自分が感じているのと同じことを察し……かつて死者達の怨念を受け止めた結果、自分の精神が壊れてしまったときのことを思い出しているのだろう。

 

「ああ、わかってるジュドー。だが大丈夫だ……俺はもう、皆の心に押しつぶされたりはしない……いや、皆もそんなつもりはないんだ、きっと。だったら、一緒に戦うだけだ! 同じ……地球の未来を、平和を願う者として!」

 

「わかった……その覚悟、信じるぜカミーユさん! そうと決まれば、俺も一緒に行く!」

 

 そして、それぞれの持つハイパービームライフルやハイメガキャノンをフルパワーで放ち、反撃に動こうとする敵機を一度に打ち抜いていく。

 自分達と機体の、そしてそれに思いを集める者達の願いを載せたビームは、艦砲射撃をも無効化するはずの結晶の鎧をいともたやすく粉砕していった。

 

「いつでも!」

 

「どこでも!」

 

「ロックンロォール!!」

 

 マオとクルツの乗る2機のM9に加え、宗介の乗るレーバテインによる一斉掃射。雨あられと殺到する弾丸。

 本来なら『エル・ミレニウム』に傷一つつけられないはずの、小型機動兵器のそれは、今は容易くその体を打ち抜いて火花を噴出させる。

 

 敵側が総崩れになったところでレーバテインが突貫し、それをさらにクルツが狙撃で援護。

 

 体勢が崩れた敵に、『ラムダ・ドライバ』によって破壊の意思をエネルギーに変えた砲弾がゼロ距離で何発も炸裂し、えぐり取るような傷を刻んで、それらをまとめて破壊した。

 

 『エル・ミレニウム』とレーバテイン。身の丈実に100mを超える怪物と、10mに満たない小型の機体。

 その差がありながらもたやすく敵をねじ伏せる光景は、ある種痛快なものではあるが……立場を逆にすれば絶望でしかないだろう。

 

 現に、

 

「なぜ、なぜ奴らがこれほどの力を……『至高神Z』の力がありながら、なぜ我らが押されている? たかだか劣等文明の軍勢1つ、なぜ押し切れない!?」

 

 『エル』も『ゼル』も、生み出した端から次々に落とされていく。

 その光景を目の当たりにして、愕然とするしかないアドミラルは、それでもあきらめ悪く、さらに多くの手勢を作り出そうとして……失敗した。

 

『ようやくつかんだぞ、アドミラル……!』

 

 『至高神Z』による事象制御のための機構に手をかけたアドミラルだが、その力をふるう直前になって……何者かがそれを妨害してきた。まるで、ハッキングのように。

 しかし、『至高神Z』のシステムにハッキングをかけて割り込むなど、並大抵の機体にできることではない。それができるとすれば、同等の存在のみ。

 

 そして、今しがた聞こえた声は……

 

「なっ、これは……貴様なのか、ネバンリンナ!? ばかな……貴様今、その機体に!?」

 

『見ての通り、この機体は次元獣化した『ソーラーストレーガー』と『ヘリオース』が合体している。当然、前者の一部になっていた私も組み込まれているということだ……それと、星川ミツルはこれを『次元将ソル』と呼んでいるようだ。参考までに覚えておくといい』

 

「次元将……!? かつて身の程知らずにも『至高神』と『御使い』に挑んだ野蛮人共の名か! その名を今になって、至高神の身である星川ミツル自らが名乗るなど、何の当てつけだ!」

 

『当てつけだと? ふ、くくっ……!』

 

「!? 何を笑う……何がおかしい!?」

 

『これが笑わずにいられますか! 傲慢も自意識過剰もここに極まれりね、アドミラル……この名前はただあくまで、彼がそうしようと思ったからよ。細かいとこは省くけど、彼は宇宙全体を力で抑えつける『至高神』であるよりも、押さえつけてくるものに抗う『次元将』のようにありたいと思っただけ。それとも何、あんた自分と『至高神』を同一視して、あくまで彼が自分を見ていたと仮定した上で、そんな名前は自分への当てつけだーとか思っちゃったわけ? プークスクス、このおじさん恥ずかしっ』

 

「それは誰を参考に作った部分よ……? 『地球艦隊・天駆』にそんな人いたっけ?」

 

『さあね? ……もしかしたら、今合体して1つになってるミツルの中から流れ込んできたデータに由来してるかもね』

 

「余計に誰よ。そんな知り合いいたか……?」

 

 唐突に、割り込んでくるように聞こえ始めたミレーネルの声。

 状況を理解していないかのような、緊張感も何もないそのやり取りに、アドミラルはまたしても激昂しかけるが、直後、それどころではない事態になっていることに気づく。

 

「これはっ……!? 『カオス・コスモス』が……私の領域が、書き換えられていく!? 馬鹿な、こんなことが……『至高神』の事象制御による絶対の優位性が……貴様の仕業か、ネバンリンナ!?」

 

『気づくのが遅いわよクソジジイ。腐っても不完全でも『至高神』だけあって、プロテクトは厄介だったけど……こんなんでも超文明(笑)の希望を託されたシステムですから? このくらいのことはできるわ。……もうこの宇宙は、あんたの味方じゃない。絶対に負けない位置で戦っていると思っていたところを、盤をひっくり返された気分はいかが?』

 

 アドミラルが何か言い返すより前に、異変は次々と現れていく。

 

 呼び出したばかりの『エル・ミレニウム』や『ゼル・ビレニウム』が急激に弱体化していき、動きも鈍くなり、装甲ももろくなる。

 存在そのものの強靭さゆえにかろうじて消滅を免れているような状況だが、それらもしかし、『地球艦隊・天駆』の各艦から飛んでくるミサイルや砲撃の掃射によって、掃除するかのようにたちまち消し飛ばされていく。

 

 アドミラルはこちらも負けじと、再度宇宙を書き換えて自分の領域を取り戻そうとするが、

 

「ばかな……できないだと!? 『至高神Z』の事象制御能力が、ネバンリンナに……『次元将ソル』に劣っているというのか!? 不完全な材料しかもっていないはずの、まがい物などに……『真化』の極致にあるはずのこの神の力が、なぜ及ばない!?」

 

「さっきも言った気がするけど……それが理解できないようじゃ、お前は『真化』の『し』の字も知らないってことだよ。『御使い』と同じで」

 

 今度聞こえてきた声は、星川ミツルのそれ。

 それと同時に、『次元将ソル』の両隣の空間がゆがみ……次元力の光が収束していく。

 

 ちょうどそれは、『至高神Z』が下僕を創造する時と同じような光景だった。次元力が形を成し、『エル・ミレニウム』や『ゼル・ビレニウム』が、無から形作られる時と。

 

 しかし、作り出されたのはそれらではない、2つの機体。

 

 1つは、絶対値的に見れば絶大な戦闘能力を持つとはいえ、御使いの下僕のうち、最下位の力しか持たないはずの量産機……『アンゲロイ・アルカ』。

 

 もう1つは、ネバンリンナと共に『至高神Z』に取り込まれたはずの、彼女が作り出した自らの肉体にして機動兵器……『アーケイディア』。

 

 顕現するや否や、弾かれるように飛び出した2機は、それぞれ反対方向から『エル・ミレニウム』と『ゼル・ビレニウム』の残りめがけて襲い掛かる。

 そして、もはや抵抗する力もないと思しきそれらを、刈り取るように葬り去っていった。

 

 アーケイディアとアンゲロイ・アルカ。それぞれ、エネルギーを収束させて作りだした光の剣を振りぬいて、一刀両断。あるいは、エネルギー砲を放ってまとめて蹴散らしていく。

 

 見ていたアドミラルは、それら2機に乗っているのが、急増のAIやイドムではなく、先程まで自分が話していた、ネバンリンナとミレーネル・リンケ……『次元将ソル』の中にいたはずの2人であるとすぐに察した。

 恐らく、ヴァイオレイションの際に失われた彼女たちの肉体の代わりに、星川ミツルか彼女達のための肉体兼機体としてあの2機を作り出したのだろうと。

 

 わずかに残っていた下僕たちを1機残らず刈り取ると、アーケイディアとアンゲロイ・アルカは再び『至高神Z』に向き直る。

 

「これでもう家来はいなくなったわね」

 

『星川ミツル、私の体を取り戻してくれたこと、感謝する。……っていうかコレ、何気にオリジナルより強いわよね絶対……なんか複雑』

 

「いいじゃんネバンリンナ、何か損したわけでもないし。さて、そんじゃお待ちかね……そろそろ終わりにしようか? アドミラル」

 

 その言葉と共に、『次元将ソル』をはじめ、アーケイディアやアンゲロイ・アルカ、

 それだけでなく、『エル』や『ゼル』を全て倒し終えた『地球艦隊・天駆』の面々がその視線を、あるいは手にした武器をそのまま向ける。戦場に残った、自分達の最後の敵に。

 

「っ……舐めるなよ劣等種族共……! この程度のことで、宇宙のごはがっ!?」

 

 と、何か言うのを待たず、『至高神Z』の顔面――と言っていいのか微妙ではあるが、頭があるのであろう位置――に、レーバテインが放ったエネルギーの弾丸が直撃し、大きくのけぞった。

 

『軍曹殿、『獲物を前に云々』のいつもの決め台詞はよろしいので?』

 

「わざわざ言ってやる必要も時間もないし、言っても仕方ないだろうからな。しかしアル、さっきの奴らと戦っていた時から思っていたが……この宇宙は『意思』が力を持つ、という言葉を実感できる光景だな」

 

『ええ。ASのような小型機体の攻撃が、惑星サイズの『至高神Z』に通用しているというのは、なかなかどうしてシュールな光景ですが、我らに有利なことが起こっている分には歓迎しましょう』

 

「そうだな。それに……どうやら俺達以外にも、もう待つ気がない奴らはあちこちにいるようだぞ」

 

 宗介がそう言うと同時に視線をやると、ものすごい勢いで飛び出したブラックサレナが、ディストーションアタックで至高神Zのみぞおちに激突するところだった。

 漆黒の流星となったその一撃を受けて、巨体を『く』の字に折り曲げる黄金の巨神。

 

「確かにシュールだな」

 

『でしょう?』

 

 しかもそれで終わらず、ブラックサレナはまるでピンボールのように超高速で動いて四方八方から激突し続ける。

 

 それに業を煮やした至高神Zが、受け止めて握りつぶそうと手を伸ばし……しかしその瞬間、宇宙空間に迸った雷が至高神Zの脳天を直撃し、その動きを強制的に止める。

 その電撃……『サンダーボルトブレーカー』を放ったマジンエンペラーGは、続けてエンペラーソードを抜き放ち、一直線に至高神Zめがけて飛ぶ。

 

 そしてその反対側からは、ダブル動輪剣を腰だめに構えたグレートマイトガインが飛来し……

 

「魔刃……一閃!」

 

「ダブルゥゥ……」

 

『動輪剣ッッ!!』

 

 凄まじいまでの威力の一撃が、無防備に突き出したその腕に叩き込まれ、深々とそれを切り裂いた。

 惑星サイズの巨体に見合った大きさ・太さの腕が切り裂かれ、その傷は近くで見れば絶壁の谷間のように見えるだろう。

 

 いかにスーパーロボットがパワフルな機体だとは言え、サイズからすればそれは、地形を変えているのと同じ規模の破壊。あまりにも非常識極まりない光景だった。

 

 それを可能にするのが、『意思』が力になる宇宙『カオス・コスモス』であり、そこでのみ可能になる『真化融合』という名の次元の奇跡なのだ。

 

 その光景に歯ぎしりしながらも、アドミラルは次元力でそれを修復し……しかしそれが完了するまでに、また別な方向から巨大な衝撃が撃ち込まれる。

 

(今度は一体……っ!)

 

 そこに立っていたのは、全身から禍々しい赤い光を放つエヴァンゲリオン初号機と、全身から澄んだ緑色の光を放つユニコーンガンダムだった。

 突き出された光の腕と、構えられたビームマグナムが、今の衝撃の出元を物語る。

 

「これ以上……もう何も、お前の好きなようにはさせない!」

 

「お前みたいなやつがいるから……オードリーが……皆が悲しみを背負わされるんだ、だから……」

 

「「今、ここで!」」

 

 瞬間、弾丸のような勢いで飛び出した初号機が、至高神Zのみぞおちに飛び込んで、両腕にATフィールドの光の手甲をまとい、すさまじいラッシュを叩き込む。

 同時に、サイコフレームの光を纏ったユニコーンガンダムの飛び蹴りが肩口に直撃し、さらに続けて拳に蹴りにと連撃を打ち込んでいく。

 

 とどめとばかりにタイミングを合わせて撃ち込まれた拳は、至高神Zの巨体を大きく弾き飛ばして後ろに押し込めた。

 

 そこに間髪入れずに、真上から急降下しながらヴィルキスが強襲。

 

 体勢を立て直せていない至高神Zの背後、翼めがけて、エネルギーを注いで大剣にしたビームサーベルを構え……急降下する勢いに乗せて一気に、振り下ろす。

 

「どぉお――りゃああぁぁあああ!!」

 

 雄々しいと言っていいまでの咆哮と共に振り下ろされた光の刃は、6枚ある翼のうちの1枚を、豪快になんと根元から切り落とした。

 切り離された翼は、少しの間、光の粒子をまき散らしながら宇宙空間を漂っていたが、その後、自らの存在を保てなくなったかのように崩壊し、消滅する。

 

「このッ……矮小な羽虫がぁ!」

 

 これまでで一番明確に痛打となったその一撃を受けて、アドミラルは怒りのままに次元力を開放し、虹色の光炎を放ってヴィルキスを焼き滅ぼそうとする。

 が、それがヴィルキスに届くより前に、

 

「誰が羽虫だって!?」

 

「じゃあその羽虫一匹殺せないおじさんは、ミジンコか何かかなぁ?」

 

 間に割り込んできたラピュセルとアントワネットの弾幕がそれを相殺し、防ぎきる。

 

 さらに、取って返して飛来しするヴィルキス。

 その背後には、付き従うようについてくる他のラグナメイル達……テオドーラにクレオパトラ、レイジア。それに加えて、焔龍號もそれに続いた。

 

「私たちも一緒に行くぜ、アンジュ!」

 

「OKみんな! そんじゃ、せっかくラグナメイル(っぽいの含む)がこれだけ揃ってるんだし……一丁みんなでコレいってみるわよ!」

 

 それと同時に宇宙空間に響き始めるアンジュの歌声。それに呼応して、ヴィルキスの……いや、ヴィルキスだけでなく、テオドーラを含む他のラグナメイル達の両肩の兵器が目覚めていく。

 

「こっ、これって……え、何で……? アレクトラ、確かこれは……!?」

 

「『ディスコード・フェイザー』が……ばかな、あれは血と指輪がなければ使えない兵装のはず……」

 

「何言ってんだよお前ら! 今の私達は、こいつらと1つになってるんだぜ? システムに鍵がかかってようが、そのシステムそのものが協力してくれてんのに、今更ってもんだろ!」

 

「なるほどな……つくづくとんでもない力だ。だが、それなら……好都合!」

 

「わかった! つまりもう難しいこと考えないでなるようになればいいのね!」

 

 若干のやけくそや思考放棄が入っているサリアも含め、ヒルダ、ジル、そして今まさに歌っているアンジュとサラマンディーネはそろって精神を集中し、それに応えてラグナメイル達は力を高めていく。

 『真化融合』によってパイロット達と心を一つにしたラグナメイル達は、エンブリヲによってかけられた封印をいともたやすく振り切り、全ての力を彼女達に差し出していた。

 

 そして次の瞬間、次元を破壊する嵐が……5つ同時に放たれる。

 

「受けてみろ! これが私の……」

 

「私たちの……」

 

「「「全力……全開!!」」」

 

 次元破壊兵器『ディスコード・フェイザー』の一斉掃射という、その力を知る者からすれば悪夢のような光景。

 5つの嵐はしかも、収束して力を大きく増し、惑星をも飲み込む大嵐となって至高神Zを飲み込んだ。暴走しているに等しいエネルギーがその巨体を傷つけ、砕き、振り回して削り取る。

 

 それに耐えるのに精いっぱいで、翼の再生もできないでいる至高神Zめがけて、さらなる災厄が襲い来る。

 

 なんとその、至高神さえ振り回される次元の暴風の中を突っ切ってくる者がいた。

 

 ゲッター線の光をまとって眼前に突撃してきた巨龍……真ゲッタードラゴン。

 そしてその頭の上に腕組みをして仁王立ちで乗る深紅の鬼……真ゲッター。

 

「よぉ、いいザマじゃねえか、至高神様よ。散々見下してた相手に好き放題されるってのは……一体どんな気分だ?」

 

「流……竜馬……っ!」

 

 真ゲッターと真ゲッタードラゴン、2つのエネルギーが収束し……真ゲッターの手の中にまばゆい光となって形を成していく。

 まるでさやから引き抜くかのような動きの後に、真ゲッターのその手には……ゲッターのエネルギーで形作られた巨大な武器……トマホークが握られていた。

 

「うおぉぉぉおおおぉぉぉおっ!」

 

 咆哮と共に、頭上高く――宇宙空間を突っ切って伸びるそれは、もはや高いだの大きいだのの領域ではない気もするが――振り上げられるその刃。

 

 先程は容易く受け取め、傷一つ負うこともなかった武器。

 しかし、今目の前にあるそれは、先ほどまでとは段違いの威圧感を放っており……考えるまでもなく『危険』であると、アドミラルの機械の脳内に警鐘を鳴らす。

 

 が、わかっていてもそれを防ぐだけの力すらもはやなく、

 

「ゲッタァァアアァァ……トマホォォオォオオォク!!」

 

 裂帛の気合と共に振り下ろされたその一撃は、受け止めて防ごうととっさに掲げたその腕と……その向こうにあった、ヴィルキスが切り落とした1つを除く、片側残り2枚の羽根、さらにはその延長上にあった片足に至るまでを……一気に断ち斬った。

 

 一瞬にして左右非対称極まりない姿になってしまった至高神Zに、あろうことかさらに追い打ちをかける真ゲッター。

 振りぬいてなお健在だったトマホークをさらに構えなおし、今度は横一線にそれを振るう。

 

「もう一丁……もっていきやがれェ!!」

 

 胴体を横なぎに真一文字に。

 両断こそされなかったものの、深々と大きな傷を刻み、あまりのダメージに至高神Zの体がきしみだす。

 

「お、の、れぇぇえええぇ!!」

 

 しかし、そこまで好き放題にやられた結果としてアドミラルは我を忘れ、残ったもう片方の腕を掲げて真ゲッターに向けると、その手元に次元力を収束させる。

 今度は光炎ではなく、無数の隕石を顕現させてすさまじい速さで射出し、真ゲッタードラゴンもろとも粉砕しようとする。

 

 先程、アントワネットやラピュセルが迎撃したものよりもはるかに強力なそれを、しかし、次の瞬間四方八方から放たれたビーム砲が打ち抜いた。

 

「そうは……させん!」

 

 爆炎の中を縫うように飛ぶのは、コの字型の移動砲台……サイコミュ兵器『フィン・ファンネル』。

 それを操るアムロ・レイの指示する通りに、複雑な動きで攻撃をかわしながら隕石を迎撃し、誘爆させていく。

 

 その針の穴を通すようなコントロールに戦慄しつつも、アドミラルは負けじと追加で隕石を放ち、面制圧爆撃ばりの量で圧殺しようとする。

 

 だが今度はアムロに加え、ナデシコやダナン、ネェル・アーガマやラー・カイラムといった戦艦の掃射により、こちらも面制圧で隕石の豪雨に対抗して来る。

 それに混じる形で機動兵器達までもが迎撃に加わり、物量で押しつぶすはずが逆に押されるまでの状況になる。手元で顕現させたばかりの隕石が打ち抜かれて誘爆し、こちらの視界がふさがれ……

 

「ぬああぁっ!?」

 

 その隙を逃がさないとばかりに放たれた攻撃が、弾幕を打ち抜いて至高神Zに届く。

 

 立ち込める煙の向こうから弾丸のような勢いで現れたのは、暗い灰色の機動兵器……ヴァングネクス。

 グランヴァングにヒュッケバイン、グルンガストにアーケイディアも続いて現れる。

 

「絶対に……逃がしませんから!」

 

 放たれたミサイルと陽電子砲に続く形で5機が飛翔し、途中で散開。

 

 グランヴァングのアンチプロトンスマッシャーとアーケイディアのエネルギー砲が放たれ、ロングレンジから直撃。

 それと時を同じくして、突撃するヴァングネクスが無数のミサイルを放ってけん制しつつ至高神Zの動きを止め、視界も再び封じる。

 

 周囲を旋回しながら電磁加速砲の連射を浴びせ、至高神Zのをハチの巣にするヴァングネクス。それをさらに援護射撃にする形で、グルンガストとヒュッケバインが飛び込む。

 

「正面から飛び込む!」

 

「こっちも! 計都羅候剣……暗剣殺!」

 

 連撃を叩き込むヒュッケバインと、一刀両断のグルンガストの刃をそれぞれ叩き込まれて怯んだところに……その2機の横を猛スピードですり抜けたヴァングネクスが、自分を弾丸にするかのような勢いで突撃し、その右手に構えた大型陽電子砲の銃口を突き付け……否、叩きつける。

 

「こいつで……ぶちぬけええぇぇえっ!!」

 

 そしてそのままそれを発射。ゼロ距離で殺到する破壊光線に押され、大きく後退。

 そこにさらにまたヴァングネクスが、今度は両手の陽電子砲を同時にチャージする。

 

 いや、ヴァングネクスだけではない。

 グルンガストは胸部のパーツを展開し、グランヴァングとヒュッケバインは砲撃機構と機体を接続し、アーケイディアは背部のエネルギーフレームを変形させて砲口に変える。

 

 そして合図もないままにタイミングを揃え……それぞれの全力砲撃が一斉に放たれ、至高神Zを直撃。

 陽電子砲に反陽子の弾丸、破壊光線に重力崩壊の砲弾……全身に様々な一撃を受けてその巨体を軋ませる至高神Z。

 

 そして、そこに……とどめとばかりに死を突き付ける存在が歩み寄る。

 

 どうにか体勢を立て直そうとするアドミラルの眼前に……いつの間にそこに現れたのか、背中に『0』の文字を背負った終焉の魔神が仁王立ちしていた。

 

「お前の野望もここまでだ……覚悟しろ、アドミラル!」

 

 直後、その凶悪な双眸がぎらりと光ったかと思うと、背部の『ZEROスクランダー』が変形し、巨大な紅蓮の翼……ジェットスクランダーに姿を変えた。

 それが、魔神パワーによってさらに巨大になり……そして、胸部の放熱板共々赤熱し始める。

 

 まるで太陽のように力強い光と熱は、アドミラルからしてみれば、自らに死を宣告する死神の鎌のきらめきだった。

 『至高神Z』からしても冗談としか思えないようなエネルギーを練り上げたマジンガーZEROは、次の瞬間、何の迷いもためらいもなくそれを爆発させる。

 

「こいつで終わりだ……ダイナミックファイヤァァアアァァッ!!!!」

 

 胸部の放熱板と背部の翼から放たれた熱線は、いきなり太陽が5~6個出現したのではないかと思うほどの光と熱。

 アドミラルが必死で展開した次元力による防御を、濡れた和紙を刃物で突くかのようにあっさりと、容易く消し飛ばし……惑星を貫き火の玉に変える熱量が『至高神Z』に殺到する。

 

(ZERO)に……還れぇぇえぇっ!!」

 

 形容のしようもないほどの暴虐的な熱を浴び、全身を焼き尽くされていく至高神Z。

 その中にいるアドミラルの断末魔の悲鳴と共に、ついに限界を迎えたその巨体は、節々から炎を噴出して軋み、割れ、砕け……崩壊していく。

 

 宝石のように輝く宇宙の中心で……産声を上げて間もない至高神は、その全身を炎の中で朽ち果てさせ……崩れ去る砂上の楼閣のように、後に何も残すことなく、あっけなく次元の粒子となって宇宙に溶けて消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま だ だ……!」

 

 

 

 



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第108話 最後に笑うのは誰だ!?

 

 

 当然のことながら、彼らは喜びに沸いた。

 

 一度は絶望的な状況に叩き落とされながらも、起死回生の一手たる『真化融合』によって力を得て、見事にアドミラルと『至高神Z』を打倒すことに成功した。

 

 これまでの一連の出来事の黒幕だと自ら明かした奴を倒した以上、正真正銘、これでもう自分達を阻む者はいなくなったのだと。

 後は、ユリーシャが言っていた通りに奇跡を起こし、地球を救うだけだと。

 

「なんか僕、最後の方出番なかったね。皆を『真化融合』させる後押ししたら、なんかもう皆勝手に大暴れしてあっという間に終わった感じ」

 

「そう言われればそうだな」

 

「いいじゃない。楽できたんだと思えばそれで」

 

「ああ。それに、君の助力がなければ、俺達は活路を切り開くこともできなかったんだ。その意味を考えれば、君は見事に大役を果たしているさ」

 

「それに俺らの方だって、あの野郎にはさんざん好き放題やられて言われてた分をどの道返さなきゃいけなかったわけだしな。それで納得しとけや」

 

 ぽつりとつぶやいたミツルに、総司やミレーネル、アムロや竜馬がそう返し、それを聞いたミツルも『まあいいか』と納得することにした。

 

 すると、ふと気づいたようにココが、

 

「それにしても、きれいだねこの宇宙……戦ってる途中は見てる余裕なかったけど」

 

「そうだね。っていうかそもそも、最初の方、私もココもあのでかいのに取り込まれて全然わかんなかったし……こうして見てみると、すごく幻想的で……ほんとに、きれい」

 

「それをバックに据えて、青い地球がそこにあるっていうこの光景も重ねていいもんだよ。景色を肴に勝利の美酒でも飲みたいくらいだ」

 

「同感ね。私たちの世界では、もう見られなかった景色なわけだし」

 

 マオとミサトがいつも通りの調子でそんなことを言い、2人と飲み仲間であるスメラギもくすりと笑って同意する。

 しかし直後には、気を引き締めて、

 

「けど、まだ最後にやることが残ってるわ。……いくら外見はきれいでも、あの地球には……もう生命は残されていないのだから」

 

「ああ、そうだな……ユリーシャさん? それで、ここからどうすればいいんだ? アドミラルは倒したけど……どうすれば地球や、大マゼラン銀河を復活させられる?」

 

「っていうか、今更だけど……そんなこと本当にできるのか……? 失われた命をよみがえらせるだけでなく、惑星や宇宙すら元通りにするなんて……」

 

「ここまできて無理、じゃしまらねえだろうが。さっさと教えてくれよ、イスカンダルの姫さん」

 

 いつも通りと言えばそうなのだが、ガラの悪い調子で急かす竜馬に、ユリーシャは1つ1つ、口にしながら自分でも確かめるように話していく。

 

「さっきも言ったけど、この宇宙は因果が混濁した特殊な宇宙。この宇宙で起こったことは、意思によって引き起こされる超常的なものであると同時に、通常のあらゆる法則にとらわれない性質を有する。そしてそれには、時間や事象そのものの不可逆性も含まれる」

 

「時間を……巻き戻せるというのか?」

 

 信じられない、といった様子で真田が思わずつぶやいた言葉を、ユリーシャは頷いて肯定する。

 

「過去にはそれを可能にした者がいたという記録もある。けど、今回やるのはそうじゃなく……宇宙そのものの修復と同時に、それと同期させる形で周辺の空間の事象を巻き込んだ回帰を行う」

 

「ええと……ユリーシャ。もうちょっと優しく説明したり、できない?」

 

 言いづらそうに森が言った言葉に、ユリーシャは苦笑しつつ言い直す。

 なお、声には出さなかったが、同じように理解に窮していた面々も少なからずおり、心の中で『森船務長GJ』と親指を立てていた。

 

「要するに、この『カオス・コスモス』は……宇宙空間の状態としては異常な状態なの。さっきまで言ってた、『原因と因果が混濁云々』なんていうのは、普通の宇宙じゃ絶対に起こらないことだから、当然よね。そして、異常な状態であるのなら、元に戻さなければならない。ここまでわかる?」

 

 頷く森。それにつられてか、他のヤマトクルー達の幾人かも同じように首を縦に振った。

 

「その『異常』を元に戻す時、この空間で起こったことを選択的に巻き込んで『異常』として認識させ、元の状態に戻すの。宇宙を直すついでに、起こったことをなかったことにする、といえば……わかりやすいかな」

 

『補足、ないしさらにかみ砕いて説明するなら……ゲームのリセットボタンだ』

 

 そこにさらに、ネバンリンナが割り込むようにして続ける。

 いきなり方向性の違う単語が出てきたことに、思わずといった様子で勝平が聞き返す。

 

「リセットボタン? どういう意味だ?」

 

『神勝平、お前くらいの年頃の子供なら、ゲームの1つくらいはやったことはあるだろう。その時、ボス戦の手前でセーブして、負けたらリセットしてやり直す、というやり方をとったことはないか? あるいは、お目当てのモンスターをゲットしようとして間違って倒した、でもいいが』

 

「そりゃまあ、あるけど」

 

『今のこの宇宙が、まさにそれが可能な状態だと思えばいい。至高神Zの誕生と同時にカオス・コスモスが展開……それがゲームのスタート地点として、そこから後、地球やら銀河やらが大変なことになった。けど幸いにまだセーブはしてないから、全部リセットして元通りにする』

 

「なるほどわかりやすい」

 

「けどそれだと、事象ごと元通りにするのよね? あいつも復活しちゃうんじゃないの?」

 

 かなめがそう聞くと、『普通ならそうだ』と肯定するネバンリンナ。

 

『そのために、ユリーシャが言っていたように『選択的に』事象を復活させる。地球や銀河は復活させるけど、至高神Zやアドミラルは復活させない、といった具合にな。そしてそれを行うには、至高神Zと同じレベルの事象制御能力が必要になり……それが可能なのは、奴だけだ』

 

 そう言ってネバンリンナは、アーケイディアを動かして、ミツルの乗る『次元将ソル』に視線をやる。

 自然と、他の面々の視線もそちらに集中する中、ユリーシャは、

 

「宇宙の書き換えや事象の選択と回帰……それは最早、事象制御のレベルではないわ。いうなれば……かつて別の世界で起こった次元の奇跡……『時空修復』」

 

「時空……修復……」

 

「至高神Zが消え、彼こそがこの『カオス・コスモス』における絶対者となった今……彼ならば、それができるはず」

 

「……そういえば、先ほどは流してしまいましだが……」

 

「アドミラルの野郎、妙なこと言ってたよな? ミツルが『至高神』だとか何とか」

 

 ナインと総司が思い出したように問いかける。

 他の者も、覚えていたが流していた者、言われて今『ああ、そういえば』と思い出した者、そもそも聞いていなかった者と様々だが、その当のミツルはというと

 

「あーはい、なんかそうみたいです。実はかくかくしかじかで」

 

「ほうほう……お前人間じゃなかったんだな」

 

「ミツル君が神様かー……何か実感ないね」

 

「そのくらいすごい力を持ってるっていうのは今目にしたばっかりだけどね」

 

「権能や信仰の対象という存在としてではなく、超常的な力を有する者としての呼称なわけだな。いや、その気になれば近いことは可能なのだったか」

 

 総司に続けて、千歳、ロッティ、ヴェルトとそう続くが……ある意味では予想通りというべきか、それを知ってなお、特に何も……いい意味でも悪い意味でも気にしたような様子はなく、普通に語り掛けてくる。

 そしてそれは、『地球艦隊・天駆』の他の面々も同様だった。

 

 そうなるだろうと予想はしていたものの心のどこかでまだ不安があったミツルは、それを聞いてほっとしたように、

 

「まあ、なんとなくわかっちゃいたけど……全然驚きもしなければ気にした様子もないですね、皆さん」

 

「いやいや、驚いてはいるぜ? ただまあ、今更人間じゃないってわかったところでなあ」

 

「そうそう、宇宙人からアンドロイドまでもともと色々ごちゃまぜになってる部隊だしね、私達。今更神様が増えたところで何も問題ないわよ」

 

「問題ない、んですかね……?」

 

「いいんじゃないの? たかだかちょっと呼び名が変わった程度のもんでしょ。……今思うと、そのいきなり髪色が変わったのも神様パワーの影響なわけ?」

 

「でも、仮にも神様なんだし……拝んどいたらご利益とかあるかな?」

 

「……。(パンパン)……」

 

「おい、誰だ今柏手打った奴?」

 

「神様、今度のテストで100点取れますように!」 ← 勝平

 

「ナンパが成功しますように!」 ← クルツ

 

「アキトと一生一緒にいられますように!」 ← ユリカ

 

「アンジュと私に子供ができますように!」 ← ヒルダ

 

「はいそこ、具体的な願いを述べない……っていうかヒルダは生物学的に無理な願いことをするな。僕だけじゃなくアンジュも困ってるだろ」

 

「なんだよ、神様なんだからそんくらいできるだろ!? 生むのは私でもいいからアンジュとの……っていうかそうだ、一時的にアンジュを男にして私をにn……」

 

「ストップ! 何をすごいこと考えついて言っちゃってんのヒルダ! やめなさい、子供も聞いてるのよ!」

 

『小じわが減って肌年齢が若返りますように』 ← スメラギ

 

『世にはびこる転売ヤーが絶滅しますように』 ← クルーゾー

 

(お二方、なんで秘匿回線でそんなこっそり願い事を……クルーゾーさんの方はちょっと真剣に検討しちゃったじゃないか。気持ちわかるから)

 

 実は結構な衝撃の事実だったはずの『星川ミツル=至高神』という部分をあっさりと流した上、そんな緊張感のないやり取りを繰り広げる『地球艦隊・天駆』の面々。

 

 それをどうにか振り切り、話を前に進めようとした…………

 

 

 

 ……その時だった。

 

 

 

「ま だ だ……!」

 

 

 

 ―――バ キ ン

 

 

 

「「「!?」」」

 

 突如として宇宙空間に響いた、何かが割れるような音。

 はっとして皆がそちらに目をやると……カオス・コスモスに、一条の亀裂が入っている。

 

 さらにそこから二度、三度と音が聞こえ……そのたびに亀裂が大きくなる。

 まるで、卵の殻を破って中から何かが生まれようとしているような光景。

 

 しかも不吉なことに……その、聞こえてきた声には、皆、聞き覚えがあった。

 

 空間の破片をまき散らして広げられた亀裂。その奥から2つの手が伸びてきたかと思うと、その亀裂を強引に左右に押し広げ……滅んだはずの『至高神Z』が、そこから再び姿を現した。

 

「至高神Z……アドミラルか!」

 

「野郎、生きてやがったのか……どっかの大魔王最終形態みたいな登場しやがって!」

 

「完全に消滅したように見えたのに……」

 

「至高神は、不滅の存在だ……『真化』の境地に至り、同じ地平に立つことができた貴様らでも……その根源たる権能そのものを破ることはかなわなかったようだな……!」

 

 そう話すアドミラルの顔は、かつてのアールフォルツ(のアンドロイド)と同様に大きく損傷していた。人工皮膚と思しき部分がはがれ、その下の機械がむき出しになっている。

 

「だったら何度でも消し飛ばしてやるだけだぜ! 偉そうに不滅だとか言ってやがるが……」

 

「その姿を見るに、貴様も無傷で済んだわけではないようだし……『至高神Z』自体も完全に復活できたわけではないらしいな」

 

 竜馬と鉄也の言う通り、アドミラルのみならず、至高神Zもまた、復活したとはいうものの、その姿はひどく傷ついた状態。

 大まかには再生しているものの、6枚あるはずの翼は右側に2枚、左側に1枚の計3枚しかなく、しかも右側のそれの片方は半ばから折れてしまっている。

 左腕は半ばから、右足はひざ下から先が焼失しており、頭部の天使の輪も欠けている。その他にも大小の破損があちこちに見て取れた。

 

 登場時ですでに満身創痍といったその有様に、一度は身構えた『地球艦隊・天駆』の面々は、大部分がやや空気を緩めるが……逆に幾人かは、その状態でなぜ出てきたのかと、アドミラルの考えを読み切れずにいぶかしんでいた。

 

「……ふふ、ふふふ……ふふふふふ……」

 

「な、何だアイツ、いきなり笑いだして……」

 

「気持ち悪い……」

 

 唐突に聞こえ始めたアドミラルの笑い声に、率直に感想を言葉にしたリョーコとアスカ。

 

「認めよう、確かに私とこの、不完全な至高神Zでは、貴様らに勝つことはできないようだ……まさか『真化』の極致に、ほんのわずかとはいえ手をかけて見せるとは思わなかった……貴様らを甘く見ていたつもりはなかったのだが……見通しが甘かったということか」

 

 だが、と続ける。

 

「それでも……そうだとしても、勝つのは私だ……!」

 

「言ってろ機械人形野郎! またもう1回、跡形もなく消し飛ばして……」

 

「……まて、様子がおかしい」

 

 その瞬間、何かに気づいたアキトが竜馬を制する。

 

 なぜ止める、と竜馬が聞き返すより先に、至高神Zはその全身から黄金の光を放ち……同時に、宇宙空間越しにそのプレッシャーを肌で感じ取れるほどの膨大な次元力を練り上げ始める。

 

「まだこれほどの力を……」

 

「野郎、最後に一発逆転でどでかいのを一発かますつもりか!?」

 

「いや、これは……まさか!」

 

 計測された数値その他のデータを見ていた真田が、何かに気づいたように口にする。

 同時に、各機各艦で同じようにデータを見つつ至高神Zを観察していた面々……テッサやスメラギ、ルリやナインといった面々がその表情を引きつらせる。

 

「ナイン、何かわかったのか!? あの野郎は一体何をしようとしてる!?」

 

「キャップ、これは……」

 

 だが、絶句するナイン達よりも先にそれを、予想という形ではあるが口にしたのは……宗介とアキトだった。

 

「……追い詰められた悪党が苦し紛れにやらかすことと言えば、相場は決まっている」

 

「そうだな。ある種のお約束ではあるが……実際に目にするとそれどころではないか」

 

「どういうことだよアキト!? あの野郎いったい何を……」

 

「今宗介が言った通りだ、奴は最後の悪あがきに及ぼうとしている……こういう場面で悪党がやらかすことと言えば、逃走や命乞いを除外して考えれば……大きく分けて2つだ。1つは、せめて一矢むくいんがための、破れかぶれの特攻。そしてもう1つは…………

 

 

 

 ……自爆だ」

 

 

 

 それを聞いて、異常なまでに……それこそ、制御可能なのかどうか怪しくなるほどに高まり続けるエネルギーの意図を察して青ざめる面々。

 

「野郎……俺達を道連れにするつもりってことかよ!?」

 

「冗談じゃないわ! せっかくここまで来たってのに……こんなところで死んでたまるか!」

 

「各艦、距離をとって! 爆風に巻き込まれないように……巻き込まれない、ように……?」

 

 いち早くそう紙字を出したスメラギだったが、その、言っている途中で……自分の言葉の中からふと、恐ろしい懸念に突き当たって青ざめる。

 そしてそれは、彼女のみならず、他の面々も同時に考えついていた。

 

「お、おい……巻き込まれないようにって、どのくらい離れればいいんだ?」

 

「あの大きさだぞ!? エネルギーを暴走させたとしてどれだけの規模の爆発になるのかなんて、想像も……」

 

「アル! 計算できるか!?」

 

『当機では演算機能が足りません。こういった方面は、ナイン嬢かアナライザー、あるいはネバンリンナが適任でしょう』

 

「今、計算中デス」

 

「ですが、不確定要素が多すぎて……しかし、あの大きさですから、仮に同等の大きさの惑星の超新星爆発に換算した場合、単純計算で少なくとも……」

 

『……計算の必要などない。する意味もない』

 

 ナインの言葉を遮って言い放たれたネバンリンナの言葉。

 

「どういう意味です、ネバンリンナ? そちらはもう計算が終わったのですか?」

 

『今言った通りだ、そんなことをする意味はない。忘れたのか、至高神Zは、自爆だのなんだのをする以前に、単体でふるう力として、銀河1つを破壊するだけのそれを発揮したということを』

 

「っ、そういや……じゃ、じゃあまさか、あいつが自爆するとなると、威力はそれに匹敵するか……それ以上ってことか?」

 

「それ以上ってなんだよ!? 地球がある銀河の消滅だけじゃすまないってことか!? 直径どんだけの爆発が起こるってんだ!」

 

「天の川銀河の直径は、約10万6千光年です、それ以上となると……」

 

「いや、いい。単位がすでにえぐすぎる……ネバンリンナが『計算する意味がない』って言った理由がよくわかった。そんなもんワープしても逃げるのは無理だ」

 

「それに仮に逃げられたとしても、それじゃ地球がなくなっちまうじゃないか! いや、それどころか太陽系とか銀河も消えるんだけどさ……どうすりゃいいんだよ! その後に『時空修復』すれば、それも元に戻るのか!?」

 

「ユリーシャさん!?」

 

「わ、わからない……そこまでの規模になると、『カオス・コスモス』自体が崩壊してしまう恐れも……もしそうなったら、起こってしまった事象を修復することができなくなる……!」

 

「じゃあつまり、何が何でもあいつの自爆を止めなきゃいけないってことだな!」

 

「どうやって!? すでにとんでもないエネルギーが渦巻いてるんだぜ! 攻撃でもしたら暴発しちまうんじゃ……」

 

「その通り……もう手遅れだ地球人達よ! お前達にはもう、滅びの運命しか残されてはいない!」

 

 話を遮る形で言い放つアドミラル。

 その崩れかけの顔には、アンドロイドとは思えないほど……悪い意味で人間的とでも言えばいいのか、狂気的な笑みが浮かんでいた。

 

「大人しく我らの支配を受け入れて恭順していれば、こんなことにはならなかったものを……この滅びを呼び込んだのは、貴様ら自身の選択と知れ!」

 

「黙れ、どいつもこいつも責任転嫁ばっかり……それに、そんなことしたらお前も死ぬだろうが! 自爆してまで俺達に一矢報いたいかよ!」

 

「何を言う? 私は滅びぬよ……いや、一度死にはするだろうが、その後また復活する! 言っただろう、至高神とはそもそもが不滅の存在なのだと! 全エネルギーを放出して次元ごと破壊する以上、それがいつになるかはわからないが、私と至高神Zは必ず蘇り、この宇宙に再臨する! そしてその時こそ、新たな宇宙の支配者として君臨す……っ!?」

 

「それをさせると思ってんのかお前は……!」

 

 その瞬間、『次元将ソル』が放った光が『至高神Z』を丸ごと包み込み、光でできた多面体のようなもの……次元牢の中に閉じ込めた。

 

「星川ミツル……いや、『次元将ソル』……! 無駄だ、貴様とて、同等の存在であるこの至高神Zの自爆を止めることは最早不可能だ!」

 

(……っ……そう、みたいだな……なんとなくわかる。これはもう、止められない……!)

 

「だが貴様も恐らくは、死を経ていつか復活するだろう。貴様とはその時に雌雄を決してやる……今からその時を楽しみにしているがいい!」

 

「そんな時は来させないよ……」

 

 次元牢を破ろうと内側から押し広げる至高神Z。

 その力を外側から必死で押しとどめる次元将ソル。

 2つの力が拮抗するがゆえに、双方身動きが取れないが、さすがに自爆の時が来てしまえばそれは破られるだろう。そういう意味では、時間は至高神Zの、アドミラルの味方だった。

 

「ふはははっ、どうやってだ? 私を封印するか? それとも他の銀河に転移させるか!? それもこの次元力の乱流に阻まれて不可能であることくらいは貴様でも分かるだろう! 貴様こそ無駄なあがきはやめて、運命を受け入れろ!」

 

「そういうことを言われて、僕ら地球人が諦めたためしがないってことくらい。お前も知ってるだろうが……! ネバンリンナ! これどうすればいいとか演算できる!?」

 

『さっきからやってるわよ! けど、銀河を破壊する規模のエネルギーをさらに暴走させるようなバカげた威力の爆発なんて、そうそう防ぐ手段があるわけないでしょうが! 現存するどんな宇宙規模災害より対処難しいっつーの!』

 

「出た、ネバンリンナのやさぐれバージョン」

 

「相変わらず豹変度合いえぐいわね」

 

『そこ、うっさい! 同等のエネルギーをぶつけて相殺……無理、そんな力発揮できない。できるとたら『次元将ソル』だけど、そんなことしたらどっちみち天の川銀河くらいは余波で滅びるから意味がない……。エネルギーごとどこかに飛ばしたり、封印する手も使えない……爆発を止めるのも、押しとどめるのも無理……やばい、詰んでる……』

 

 ネバンリンナの、アンドロイドみをもはや感じさせない悲痛そうな声に、ますます不安になる面々。

 そんな中、悔しさをこらえきれないとばかりに、勝平が叫ぶ。

 

「くっそぉぉっ! せっかくイスカンダルまで行って『コスモリバース』持ち帰ったっていうのに、こんなところで全部無駄になるなんて嫌だぞ俺は!」

 

「あんただけじゃなくて全員いやよ、落ち着きなさい勝平!」

 

「16万8千光年の旅だもんな。地球じゃ絶対に作れないものを、イスカンダルまでもらいに行って……3つの世界を救うために、本当に大変な旅路だったもんな」

 

「それを……その道のりを、僕らを信じて送り出してくれた皆の思いを、無駄にしちゃ絶対にだめなのに……コスモリバースさえ使えれば、地球は救われるのに!」

 

「その前に地球とか諸々元に戻さないといけないけどね! 真っ赤な海とか干上がった海とか時空融合とか、そういうの問題じゃないレベルでおかしなことになってるから……それもどうしたらいいのかって結局まだ……」

 

 

 

『……それだ』

 

 

 

 ぽつり、と、ネバンリンナがつぶやいた。

 

「……!? ネバンリンナ、何か思いつ……」

 

『話は後だ! ナイン、アナライザー、手を貸せ! いや、他の演算機能を持つコンピューターも全て接続して演算を手伝え! 他、メカニックや有識者もありったけ集まって手を貸せ! イスカンダルのユリーシャ、お前もだ! 星川ミツル、お前はもう少しの間アイツを抑え込んでくれ! その間に必要な計算と解析を終えて結果を導き出す!』

 

「何か突破口が思いついたのですか、ネバンリンナ!」

 

「俺達も何か手伝えることなのか!?」

 

『ああ、うまくいけば状況を打開できるだけでなく、一気にすべて片付くかもしれん! そのためにも力を貸してくれ! 鍵となるのは、『次元将ソル』と、コスモリバース、そして……

 

 

 

 『波動砲』だ!!

 

 

 

 



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第109話 『破界』と『再世』と『時獄』

 

 

「往生際の悪い奴め……!」

 

「それを言うのは今更ってもんだろ……っ!」

 

 自爆のためのエネルギーをため込み続けるアドミラルと『至高神Z』。

 それを阻止せんがために、次元牢を介して力を抑え込むミツルと『次元将ソル』。

 

 2つの力は拮抗するがゆえに、一進一退の攻防となっているが、繊細な次元力操作を要求されているミツルに対し、半ば力押しで暴走させればいいという状況であるがためか、徐々にアドミラルが押している。

 そのことを2人もまた悟っているようで、アドミラルは妨害に苛立ちつつも勝利を確信した笑みを浮かべている一方で、ミツルの表情には余裕がない。

 

「このレベルまで高まった次元力を抑え込むのは貴様にはもう不可能だ! それこそ、私自身でも止めることなどできん……無駄な抵抗は恐怖を長引かせるだけだぞ? 先ほどから何やら企んでいるようだが……小細工で止められるような規模ではないということもわからんのか?」

 

「そんなもん、やってみなけりゃわかんないだろ……!」

 

「声に力がなくなってきたな。そろそろ限界か? それとも、やはり不安はぬぐえんか? 無理もない……至高神であるお前は、いわば誰よりも次元力に造詣がある1人。もはや滅びの運命を避けえぬことを、本能ではきちんと理解して…………む?」

 

「……っ!」

 

 言い終わる前に、何かに気づいたらしいアドミラルが言葉を切る。

 

 それと同時に、ミツルも何かに気づいて視線を横に向けた。

 

 両者が見る先にあったのは……『地球艦隊・天駆』の旗艦である、宇宙戦艦ヤマト。

 それが、その艦首をぴたりと『至高神Z』……の、入っている次元牢に向けている光景だった。

 

 その瞬間、ミツルはアドミラルを抑えていた次元牢を解除し、その場から離れてヤマトの前を開ける。

 

 アドミラルは、彼らが何をしようとしているのか悟って、笑みを浮かべる。

 

「なるほどな……そうか、『波動砲』か。確かに、『真化融合』状態で放つ波動砲であれば、通常時よりもはるかに大きな力を発揮するだろう……それをもって私を、暴発する前にエネルギーごと消し飛ばそうと考えたか……浅はかだな、地球人共」

 

 しかし、その笑みは賞賛や関心ではなく……嘲りの笑みだった。

 状況を正しく理解できていない地球人達をあざ笑い、憐れみすら覚えながらアドミラルは残酷な事実を言葉にして突きつける。

 

「いいだろう、撃ってくるがいい。私は逃げも隠れもしない。よく狙え、外すなよ。貴様らが希望を託したその最後の一撃、この『至高神Z』に見事撃ち込んでみせろ」

 

(そして……何もかも無駄だということを知り、絶望の中で死んでいくがいい!)

 

 いかに『真化融合』の力を加えた『波動砲』であろうとも、今まさに暴走しようとしている次元力を打ち消すことはできない。

 むしろ、その衝撃が引き金になってエネルギーが解放され暴走、そのまま銀河の終焉につながるような大爆発が引き起こされることだろう。『波動砲』の発射、それはすなわち、地球人がその手で宇宙消滅の引き金を引くことに他ならない。

 

 それを理解できていないのだと、地球人の無知を嘲るアドミラルは、わざわざ狙いやすいようにエネルギーの奔流を一時的に抑え込み、歓迎するように『至高神Z』の両手を大きく広げて『撃ってこい』とアピールまでしてみせた。

 

 より一層勝利を確信し、終焉の時を今か今かと待ち構えるアドミラル。

 

 その彼の知らぬところで……

 

『用意はいいか、沖田艦長……それに、ルリ艦長』

 

「もちろんだ、ネバンリンナ」

 

「ここまで来たら泣き言なんて言ってられません。いつでもどうぞ」

 

『よし。それでは……ミッション・スタート!』

 

 アドミラルのあずかり知らぬところで、彼らの本当の作戦がとうとう動き始めていた。

 

 その数秒後、ヤマトの艦首に設置されている砲口を隠す最終セーフティが解除。その内部に続く口が開かれ……『砲』としての役割を果たす準備が整う。

 そして、そこに収束していく波動エネルギーの光。

 

 それを見てアドミラルはやはり笑いをこらえられない。

 ああ、とうとう彼らはすべてを終わらせてしまう。希望を託した最後の一撃で、絶望する暇もなく訪れる終焉を呼び込んでしまう。

 

 生身の人間なら直視するのもつらいであろう輝きを放つヤマトの砲口。

 今か今かと、アドミラルは最後の瞬間を……自らの死と、そして決定的な勝利が同時に訪れる瞬間を待ちわびる。

 

 ―――そして、

 

 

「波動砲……発射!」

 

「波動砲……てぇ!!」

 

 

 号令と同時に放たれた極大のエネルギー砲。

 射線上にある全てを粉砕しながら、一直線に『至高神Z』めがけてやってくる。

 

 視界を埋め作る光に、機械であるがゆえに眩しさに目がくらむことのないアドミラルは、その最後の瞬間を見逃すまいとばかりに目を見開いて……

 

(さらばだ、『地球艦隊・天駆』……さらばだ『次元将ソル』! この戦い、私の勝ちだ!)

 

 そう、勝利宣言をしながら、破壊の光に飲み込まれ―――

 

 

 

 ―――なかった。

 

 

 

「…………ん?」

 

 機械の体が砕け、溶け、蒸発していく感触がいつまでたっても来ないことをいぶかしむアドミラル。

 波動砲の光は最早目前に迫ってきているにもかかわらず、最後の瞬間が一向に来ない。

 

 もしや、機械だというのに走馬灯でも見ているのか、それで時間が引き伸ばされてゆっくりに感じているのか……などと一瞬考えたアドミラルだったが……即座に違うと悟る。

 同時に、自分が予想もしていなかった異変が起こっていることに気づく。

 

 確かに放たれた波動砲。

 それは、直撃すれば間違いなく『至高神Z』を粉砕し……しかし同時に、ため込まれたエネルギーを暴走させ、全てを終わらせるはずだった。

 

 しかし、それが起こるまで、あと0.5秒もないであろうはずが、なんと……

 

「……何だ、これは? 時間が……止まっている!? しかも、何だこの……尋常ではないボース粒子反応は? 過去や未来へのゲートをつなぐ時と比べてすら……!? 地球人共、一体何をした!?」

 

『気づくのが遅いのよ、バーカ』

 

 答えの代わりに突き付けられたのは、ネバンリンナ(やさぐれver)の、遠慮のない罵倒だった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 時は、ほんの少し遡り……波動砲、発射直後。

 

『まだだ、まだ……まだ……今!』

 

「ルリ艦長!」

 

「はい。ジャンプ」

 

 波動砲の着弾直前、ナデシコCのボソンジャンプ機構がルリ艦長によって作動させられる。

 しかし、ナデシコC自身が跳ぶわけではない。ボース粒子の奔流と共に時空を超えたのは……ネバンリンナの戦闘用ボディである『アーケイディア』だった。

 

 それが、迫る波動砲と、その目標である『至高神Z』……その両者の中間に、挟まれるようにして出現。

 

 そのままでは0.5秒後には、波動砲の直撃に飲み込まれて消滅してしまうだろうが、それよりも早く『アーケイディア』……ネバンリンナは、己の演算能力をフル稼働させて、時空転移の能力を起動させる。

 少し前に完成させたばかりの、過去と現在をつなぐワープゲートを作り、3000年前のガーディム第8艦隊を呼び寄せた超技術……それに、さらに次元将ソルの次元力を足した強化版。

 

 しかし、今回の目的は、過去につながるゲートを作ることではなく……その空間そのものを過去と『つなげ続ける』ことだった。

 

 混沌極まる宇宙『カオス・コスモス』だからこそ可能な荒業。

 空間そのものを、ボース粒子によって時間を超えさせ過去と結びつけ、次元力を補助に使ってそれを持続させることにより……未来に進ませない。

 すなわち、疑似的にその周囲の空間の時間を止める。

 

 今、『アーケイディア』を中心とした周囲の空間は、あらゆる事象が発生に至らない、起こるはずの結果に行きつくことができない状態になっていた。

 

 波動砲はいつまでも『アーケイディア』や『至高神Z』に当たらない。

 『至高神Z』はいつまでもエネルギーを解放できず、自爆できない。

 いかなる終わりも、いつまで待っても訪れない。

 

 また違う言い方をすれば、今のこの状況は……『終わりがないのが終わり』。

 

 多元世界になぞらえて言うなら、それはある種の……『時の牢獄』とも言えた。

 

「小癪な真似を! 無駄だネバンリンナ、意表を突かれたのは認めるが、これも含めて所詮は時間稼ぎにしかならん! いかに時空間を捻じ曲げるようと、『至高神Z』が臨界に至れば、そのエネルギーは銀河をも消滅させる規模のそれだ! それに太刀打ちできるはずもない、体感時間にして、ほんの数分程度、寿命が延びただけだ!」

 

『そんなこと言われなくてもわかってるわ。こっちは……その数分が欲しかったのよ』

 

「何……どういう意味だ!?」

 

『説明するより、あんたがその目で見なさい!』

 

 言い放つネバンリンナの周囲で、ボース粒子の満ちた空間はすでに、『至高神Z』のみならず、周囲の宙域をも巻き込んだ範囲の疑似的に時間停止させる結界を作り出すに至っていた。

 

 そして、その領域の外側……宇宙戦艦ヤマトの甲板の上。

 というより、波動砲の発射口である、艦首の上に……それは立っていた。

 

(『次元将ソル』!? 何をするつもりだ……? それに、あ奴が手に持っているのは……馬鹿な、なぜあんなものを……)

 

「『コスモリバース』だと……?」

 

「認めるよ、アドミラル。まだ未熟な僕じゃあ、いくら『至高神』としての力を持っていても、お前の自爆を止めることはもうできない。そのエネルギーが、宇宙の全てを破壊していくのを止めることも、できない。けど……できないなら、それはそれでいいんだ。だって―――

 

 

 

 ―――破壊された後に、速攻直せばいいんだから」

 

 

 

「何……!?」

 

 言うと同時に、次元将ソルが手に持ったコスモリバースのカプセルが光を放ち始め……その力が周囲一帯の宙域に広がっていく。

 

 本来ならそれは、3つの地球を元に戻すために力を発揮するはずだった希望の装置。

 しかし、地球そのものが融合し滅んでしまった今となっては、その力によって3つの地球を救う機会は永遠に訪れない……はずだった。

 

 だがミツルとネバンリンナ、それに彼女が声をかけた、『地球艦隊・天駆』の面々の手によって改修されたコスモリバースは、それとは別な形で地球を、いや宇宙を救うべく力を発揮し始める。

 

『お前が知っているかどうかは知らんが、『コスモリバース』は、星のエレメントの力を媒介にし、時空を超えた波動を解き放つことでその星の環境を回復させるというものだ。ならばそれを応用すれば……星ではなく宇宙のエレメントを使い、破壊された宇宙そのものを回復させることも可能だと思わないか?』

 

「なんだと……馬鹿な、そんなことは不可能だ! イスカンダルの言う『エレメント』という物質は、生命が存在する星にのみ発生する物質のはずだ! そうでない星や、ましてや宇宙空間そのものに存在するはずもないし……仮にそれがあったとしても、それを『コスモリバース』に加工するのには、イスカンダルの技術と環境が不可欠のはず! その場で宇宙を回復させることなどできるはずがない! そもそもそれは、地球専用に調整された『コスモリバース』だろうが!」

 

『そうだな、本来ならお前の言う通りだ……だが、コスモリバースと、もう1つ……元々我らが行おうとしていた『時空修復』の理論を組み合わせれば、それも可能となる』

 

「時空修復……『御使い』の時代を終わらせ、至高神Zを因果地平の彼方へ追放した、忌まわしき次元の奇跡か!」

 

 簡単に説明すれば、『時空修復』とは、『時空振動』によってねじ曲がり、あるいは破壊されておかしくなった世界を、あるべき姿、元の状態に回復させるための手段である。

 かつて『御使い』が君臨していた『多元宇宙』という時代ないし状況もまた、『超時空振動』という超弩級の時空振動によって、多数の次元世界が融合した末に引き起こされていたもの。それを当時の地球の戦士達が『超時空修復』によって正常な状態に戻した。

 

 同じことを、『コスモリバース』も組み合わせて行うというのが、ネバンリンナの計画だった。

 

『貴様の『至高神Z』による銀河の破壊は、単にそれだけの破壊力をぶつけて引き起こすわけではなく、ある種の権能のようなもの……そしてそれは、エネルギーを暴走させているとはいえ、今回の『自爆』も原理的には同じだ。細部は違うとはいえそれは、『時空振動』によって、次元境界線が崩れ、世界そのものが存在できなくなって『破界』される、という意味ではな。ならば……』

 

「お前が『破界』した端から、『時空修復』で宇宙そのものを『再世』していけばプラマイゼロってわけだ! エネルギーの総量ならこの『次元将ソル』だってお前には負けてないし、『コスモリバース』を媒介として使える分何なら余裕がある。『コスモリバース』の力を羅針盤代わりにして指向性を持たせて発動させてやれば、相乗効果で回復の機能は破壊されるそれを上回る……ってネバンリンナが言ってました」

 

『言いました。自爆でも何でも好きにするがいい。破壊した端から私達が直してみせる。……それこそ、完全以上に完全な状態にまで、な』

 

「馬鹿な……そんなことが、できるはずが……!」

 

「だからそれは」

 

『今から見せてやる……っつってんでしょうが!』

 

 そして、話している間に準備が完了したらしい。

 コスモリバースの光が宇宙全体を照らすように広がっていき……それと同時に、閉じ込めていた『時獄』が解除され、ネバンリンナが停止させていた時間が動き始める。

 

 このままではまずい、と動こうとしたアドミラルだったが……時すでに遅し。

 

 動き始めた時間……当然、目前に迫っていた波動砲は直撃(ネバンリンナは退避済み)。

 

 臨界一歩手前にまで来てしまっている『至高神Z』は、ヤマトの『波動砲』の巨大なエネルギーの直撃が最後の一押しとなって……全てのエネルギーを開放してしまう。

 

 そして、宇宙の、次元の全てを崩壊させる力が地球圏を一瞬で飲み込む……が、それとほぼ同時に、コスモリバースと『時空修復』の力が合わさった光もまた広がっていく。

 

 宇宙が『至高神Z』によって『破界』される。地球も、星々も、何もかも無に帰していく。

 

 そしてそれらは、青い光によって塗り潰され、刹那よりも短い間にそれらは元に戻る。

 『破界』される前……いや、それよりもさらに前の、人々が望む最善の状態に『再世』されていく。

 

 2つの波動は、太陽系を飲み込み、天の川銀河を飲み込み、そして隣り合う銀河やその先の銀河までことごとくを飲み込み……

 

 そして……

 

 

 

 

 

「…………馬鹿……な……!?」

 

 

 

 一瞬か、あるいは長い時間が経った後なのか、

 いまひとつ曖昧な時間間隔の後……気づけば、2つの波動はすでに収まっていて、

 

 宇宙は未だ、宝石のように幻想的な輝きを放っていて、

 

 

 

 そして、眼下には……赤と青、そして赤茶色の……3つの地球がその姿を取り戻していた。

 

 

 

 




波動砲:本命に気付かせないための囮、兼、一応ホントにトドメの一撃(これ以上の悪あがき防止)
本命 :時空修復(共演、コスモリバース)

案の定こちらを見下して本命に気付けなかったどころか、わざわざ待ってくれたアドミラルさん。
しめやかに爆散。


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第110話 戦いの終わり

 

 

 ネバンリンナと次元将ソルが作り上げた、疑似的な『時の牢獄』。

 その外部とは時間の流れに差があったために、内部で行われたやり取りや出来事は、外側からすれば一瞬のうちに終わってしまったことだった。

 

 ゆえに、ミツルとネバンリンナ、そしてアドミラルとの間にどのようなやり取りがあったのかまでは、『地球艦隊・天駆』の面々は知ることはなく……

 

 ……平たく言えば、『波動砲を撃ったと思ったら全てが終わっていた』状態である。

 

 しかしそれでも、眼下に広がる光景が……3つの姿それぞれを取り戻した地球が、自分達の試みが成功したことを物語っていた。

 

「やった、のか……?」

 

「ああ、きっとそうだ……見ろよ。地球が、3つともきちんとある!」

 

 ヤマトの艦橋で、茫然として呟くように言った古代。その隣で肩をたたきながら、歓喜に打ち震える島。

 するとその直後には、観測役を担っていた新見から、さらに1つの報告がもたらされる。

 

「お、沖田艦長……!」

 

「どうした、新見情報長?」

 

「ち、地球より……通信です。発信元が……このコードは、土方宙将かと」

 

「……! そうか……奴からの通信ということは、地球連邦軍の通信設備が復活しているということだな。つまり……」

 

「はい。『新西暦世界』の地球は……元の姿を取り戻しています!」

 

 普段の冷静な表情を珍しく崩し、そう宣言する新見。

 ヤマトの艦橋にいた他の面々が喜びに沸く。そして、同時に通信越しに、

 

「『新西暦世界』だけではないようです。先ほど、こちらの……『宇宙世紀世界』の地球連邦軍とも通信が回復しました」

 

「ネオ・ジオンの方からも同様です。フル・フロンタル首相から、祝いと感謝のメッセージが早くも送られてきましたよ……何が起こったのか、奴は早くも察しているようだ」

 

 ブライト艦長とオットー艦長から。さらに、ルリ艦長も、

 

「『西暦世界』のミスマル中将とアカツキ会長からもメッセージが届きました。特に問題ない状態にまできちんと世界は回復しているようです」

 

「というか、1回世界が滅んだことにも気づいていないか、覚えてない人がほとんどみたいです。ミツル君、皆の記憶まで修復しちゃったのかな?」

 

「……おい、そういえば、そのミツルはどこいった?」

 

「え、あれ? ホントだ……いない」

 

 と、ヒルダがふと気づいて言い、それにはっとしたように、アンジュをはじめとした他の面々も、周囲を見回して……しかし、あの目立つはずの『次元将ソル』の姿がなく、またレーダーにもその反応がなくなっていることに気付く。

 

 どこを探しても見つからず、通信もつながらないことに、ココやミランダが青ざめる。

 

「ね、ねえ、なんでミツルさんいないの!?」

 

「まさか、1人だけ……あの爆発に巻き込まれて、そのまま……」

 

「そうじゃないから安心していいわよ、2人とも。あ、皆か」

 

 と、そこに割り込んでくる形で言ったのは、ミレーネルだった。

 こちらは2人とは真逆で、特に切羽詰まったような声音でもなければ、緊張したような雰囲気でもない。今のこの状況が、心配するようなことではないと、きちんと確信しているように見える。

 

「どういうことミレーネル? ミツルがどこに行ったか知ってるの?」

 

「ええ。まあ、私も気づけたのは偶然だったんだけどね……『姉さま』が教えてくれたから」

 

「! 姉さま、って……それ……」

 

 その呼び方に、森が何かに気づいたようにつぶやくが、ミレーネルはかまわず、皆が知りたがっているであろう疑問の方に先に答えた。

 

「すぐ戻ってくるから、心配しないで待ってていいわ。ミツルは、ただ単に―――

 

 

 

 ―――とどめを刺しに行っただけだから」

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 そこは、通常の宇宙空間でもなければ、『カオス・コスモス』でもない……そもそも『この世』と呼べる空間ですらない場所。

 

 そこに今、彼は……アドミラルと、『至高神Z』はいた。

 

「おのれ……!」

 

 最後の最後、全てを巻き込んで自爆することで強引に相討ちに持ち込み、その後復活することで結果的に勝利に持ち込もうとしたアドミラル。

 

 しかしその策は、自爆そのものを『時空振動』に見立て、それを修復する『時空修復』をノータイムで行う、というカウンターによって、無意味どころか状況を好転させてしまった。

 

 自らの存在と『至高神Z』の命が潰える瞬間、感じ取れてしまった。

 ミツル達が行った『時空修復』は見事に成功し、自分が『破界』したはずの世界は……全て完全に『再世』された。

 

 それも、自爆の影響をなかったことにされただけでなく……それ以前に行った、大マゼラン銀河の破壊や、3つの地球の『時空融合』までキャンセルされてしまい……おおよそ、『地球艦隊・天駆』にとって最善と呼べる形で、世界は、宇宙は救われてしまった。

 滅びて失われたはずの全てが戻ってきて、さらに仇敵である自分は滅びて、皆が万々歳。考え得る限り最高最善の結果と言えた。

 

 ……アドミラルからすれば、言うまでもなく、最低最悪の結果だが。

 

「……ふん、忌々しい……だがまあ、よかろう。今はいい気になっていればいい……今は、な」

 

 だが、アドミラルはまだあきらめてはいなかった。

 

 確かに、今回のことは自分の、そして『至高神Z』の大敗と言わざるを得ない。

 しかし、『至高神Z』は不滅の存在。時間はかかるだろうが、いずれ復活することはできる。

 

 その時には改めて、身の程知らずな地球人達に、至高神の力というものを思い知らせてやり……そして今度こそ、全宇宙を自らの管理下に置くべく動き始めればいい。

 

(今回の敗因は、地球人共の力を見誤ったことも確かにあるが……やはり『至高神Z』の力が完全ではなかったことも大きいだろう。ならば次……復活後は、それなりに時間をかけて、力の全てを覚醒させてから動き出すべきだな。何、問題ない……至高神Zと同化した私もまた、死を超越した不滅の存在。時間はいくらでもある。たかだか数年か数十年程度、この先、幾万幾億の時を君臨し続けていくがための、試練の時だと思えばいい)

 

 そう自分を納得させたアドミラルだったが……次の瞬間、

 

「いいざまだな、ガラクタ野郎。大言壮語をほざいておいて、結局は俺達と同じ末路とは」

 

 唐突にそんな声が聞こえ、その直後に『至高神Z』に衝撃が走った。

 まるで、何かから攻撃を受けたかのような感覚に、アドミラルはあわてて周囲を見渡す。

 

(馬鹿な……誰だ!? この空間は、いわば死者の領域……いったいここで誰が私に攻撃を……)

 

 その視線の先にあったのは……大きさ10mにも満たない、小型の機動兵器だった。

 鋭角なフォルムに黒と灰色の機体が特徴的なそれは、手に持った弓矢のような武器をこちらに向けている。その姿を見て、アドミラルは驚愕に目を見開いた。

 

「ベリアル……レナード・テスタロッサか!? 馬鹿な、貴様がなぜここに……何をしている!?」

 

「俺だって死んだんだ。ここに……死者の領域にいたって、何もおかしいことなんかないだろう? 恐らくだが……死んだ後もこうして意識を保っていられたのは……あんたが『至高神Z』の生贄として強引に俺を一度呼び戻したことや、『因子』とやらを植え付けていた影響だろうがね」

 

 言いながら、レナードは弓矢型の武器……『アイザイアン・ボーン・ボウ』を構え、放つ。

 ラムダ・ドライバによって形成された不可視の矢が、射出即着弾という反則級の速さで次々と『至高神Z』に打ち込まれる。

 

 しかし、その攻撃力は『至高神Z』を揺るがすことができるものでは到底なく、最初は動揺していたものの、アドミラルはすぐに冷静さを取り戻した。

 ……もっとも、その思考の大部分はいら立ちに支配されていたため、きちんと『冷静』なのかと聞かれると微妙なところではありそうだが。

 

 苛立ちながらも、その手をベリアルに向け……次元力の雷を放つ。

 

 ベリアルがいくら世界最強クラスのASであり、レナードの技量と相まって驚異的な戦闘能力を発揮すると言えど、もともと力に差がありすぎる2機。

 そのたった一撃で、ラムダ・ドライバで防いでもベリアルは半壊状態にまで追い込まれ、弓も粉々に砕けてしまった。

 

「いったい何のつもりだ、レナード・テスタロッサ……? 貴様がここに存在していることはまあいいとしても……何を思って私にこんな、無意味な攻撃を仕掛けてくる?」

 

「無意味な攻撃、か」

 

「貴様も馬鹿ではあるまいし、理解しているだろう。ここは死者の領域……誰が誰を攻撃して殺したところで、死んだ者が二度死ぬことはない。ありえんことだが、仮に貴様が私と『至高神Z』をここで破壊したとしても、意味などないのだ。それをわかっていて、何故私と戦う?」

 

「そうだな……俺も、少しだけ馬鹿になってみることにした、ってところか」

 

「何……?」

 

「見習ってやることにしたのさ。馬鹿で、愚かで、非効率的で考え足らずで……けどそれでも、俺に打ち勝って、大切なものを守り通して見せたあいつをな……こんな時でもこんな冷めた考え方の俺に、あいつほどのガッツがあるとは思えないが、それでも……」

 

 言っている最中に、ベリアルの機体が修復される。

 次元力を使った修復のように見えたが、そうではない。

 

 そもそもここは。通常の空間とは違う領域。アドミラルもレナードも、ここでは精神や認識によって存在しているだけ。

 ゆえに、その気になれば破壊された後で復活することもできる。死も破壊もそもそも意味がない世界なのだ。

 

「意味がないかどうかはすぐにわかるさ。……少なくとも俺は、せっかく日の当たる人生を歩もうとしている妹達に、あとから手を出す気満々な奴を、黙って好きなようにさせるつもりはない」

 

「っ……テレサ・テスタロッサのことか!? 呆れた男だな、今更兄貴面とは……ぬおっ!?」

 

 反撃しようとしたアドミラルだが、そこに反対側から巨大な衝撃が襲い掛かる。

 振り向くとそこには……手に持った大剣と、爪が伸びて形成された鞭を、それぞれ降りぬいた姿勢の、暗黒大将軍と機械獣あしゅら男爵がいた。

 

「このままいかせはせんぞ、張りぼての偽神めが!」

 

「我らが主……闇の帝王様を利用した罪、その身をもって償うがいい!」

 

 その忠義ゆえに、瞳の奥に怒りの炎を燃やす2人。

 体格差をものともせず、猛然ととびかかる。

 

 さらにそれを支援する形で、レナードの乗るベリアルも、飛び回りながら弓を射る。

 

 だが、いくら彼らの士気が高くとも、力が違いすぎるがために、『至高神Z』相手にはまるで痛打になっていない。

 

「っ……すでに命無き、蘇ることすらかなわぬ、死人共が、そろいもそろって私に楯突くか! 無駄だと知りながら、なぜ……」

 

「それを無駄だと断じて切り捨てることしかできない。それこそが、貴様や……私の敗因なのだろう」

 

 さらに割り込んできた声に、アドミラルが視線を向けると……そこに広がっていたのは、少し前までは影も形もなかったはずの、何十隻もの艦隊。

 そしてその中でもひときわ目立つ、銀色の巨大な戦艦と、藍色の戦艦……ドメラーズ3世と、デウスーラ2世。

 

「ガミラス……だと!? 貴様らまでもが、なぜ……」

 

「『カオス・コスモス』だったかな? あの不可思議な宇宙が、時空を超えて超広範囲に展開された影響だろうね……亜空間で死んだはずの私や、七色星団で散ったはずのエルクが、こうしてここに呼び寄せられ……再会することができた。もっとも、すぐにまた別れることになりそうだが」

 

「然り。ですが、すでに死人の身でありながら、ガミラスの民たちのこれからを守る戦いに身を投じることができるというのであれば……軍人として本望です、総統」

 

「もう私は『総統』ではないよ。それどころか、ガミラスの多くの民から背を向けられたはぐれ者だ……そんな私と、まだともに戦ってくれるのかい、エルク?」

 

「はて、私は不器用な軍人ですゆえ……難しいことはわかりませんな。それを言うなら私こそ、妻を思いやることもできずに傷つけてしまった考え足らずですとも。……その妻のためにも……」

 

「そして、ガミラスの民達のためにも……君をこのままにしておくわけにはいかないのだよ」

 

 言うと同時に合図が出され……ガミラスの艦隊の集中砲火が『至高神Z』に降り注ぐ。

 

「っ……この……ガーディムの不在の間にのさばった、下等な青虫風情が……!」

 

 苛立ちそのままに力を振るうアドミラル。放たれる雷に、200mや300mを超えるサイズの戦艦からなる艦隊が次々に炎を噴出して爆散していく中、指揮官2人の乗る2隻は猛然と突撃していく。

 

 デウスーラの盾になるように、ドメラーズが前に立ちはだかり弾幕を張り、時にはその身を挺して敵の攻撃を受け止めていく。

 

「ドメラーズに後退はない! 我らが母星を、いや全ての宇宙の未来を脅かす侵略者を、今ここで止める! すでに失った命でそれがなせるのならば、これ以上の誉れがあろうか……各員、最後の力を振り絞れ!」

 

「「「ガーレ・ドメル!!」」」

 

 口々にドメル上級大将を讃え、ともに戦う覚悟を口にしながら『ドメル軍団』は突き進む。

 

 その光景を、デウスーラの艦橋から見て、感心しつつも呆れている者がいた。

 

「総統の御前で『ガーレ・ドメル』ですか……不敬をいささか注意したいところですが」

 

「かまわないさ。それだけ彼が慕われているということだ……そしてその彼と並び立って最後の戦いに臨めるというのは、私にとっても誉れだよ。……君こそよかったのかい、セレステラ?」

 

 そう言ってデスラーは、隣に立つ人物……自らの腹心である、ミーゼラ・セレステラを見る。

 

 彼女は元々、大ガミラス帝星に残っていたはずの身。一度は『至高神Z』によって銀河ごと消滅させられたものの、『時空修復』によって復活した……はずだった。

 しかし、彼女は今、ここに……『死者の領域』で、自分の隣にいる。

 

「ガミラスの星にいれば、そのまま復活できたはずだ。だが、このままここにいれば、君は……」

 

「何をおっしゃいます。迷いなどありません、総統。あなたの隣こそが、私のいるべき場所です。お邪魔でなければ、どうか……このままお供を」

 

 一度、銀河ごと消滅を迎えたことで『死』に至ったセレステラは、『カオス・コスモス』の性質を逆手にとって、その精神体……いわば『魂』だけの状態で時空を超え、デスラーの元にはせ参じていた。

 『時空修復』による復活の機会すら振り切ってふいにし、あくまでこの死者の領域で、彼の隣にいるためだけに、その命も、肉体も……全てを捨てて。

 

「……私は果報者だな」

 

 ぽつりとつぶやくと、デスラーは薄く浮かべていた笑みを消した。

 そして、艦橋から素早く艦隊各艦に指示を出す。

 

 それに従って動く艦隊。時に剣となり、盾となってデウスーラの行く道を切り開く。

 

「総統……後を頼みます!」

 

 そして、その眼前で、ドメラーズがついに限界を迎えて炎の中に消え……それを突っ切ってデウスーラは正面から『至高神Z』を奇襲。

 なんと、最大船速のまま体当たりしていった。

 

 質量ゆえの巨大な衝撃が『至高神Z』を襲うが、それでも傷一つ負うことはない。

 

 無駄なことを、と嘲笑うアドミラルだったが……その眼前で、デウスーラの艦首にある砲口が展開し……見覚えのある光が収束していく。

 

「まさか、貴様……!?」

 

「もはや私にそんな資格もないことくらいわかっている。だが、それでも……ガミラスの、そして……スターシャ、君の未来を思う1人の男として、最後の最後に矜持を通させてもらう……!」

 

 その直後、ゼロ距離で放たれた『デスラー砲』が炸裂し……周囲一帯に破壊のエネルギーが吹き荒れる。これにはさすがに『至高神Z』も体勢を崩した。

 

 しかし、それでも健在。内部にいるアドミラルにも何らダメージらしいダメージはない。

 

 それに対して、波動砲をゼロ距離で使うなどという、自爆以外の何者でもない戦術をやってのけたデウスーラ2世は、その反動と攻撃の余波で、大破同然の状態となっていた。

 

 もっとも、ここは破壊も死も意味をなさない世界。彼らもじきに復活するだろう。

 

 だが、だからこそ、彼らの行動が理解できずにアドミラルは苛立つばかりである。

 

「なぜだ……なぜこんな無駄なことを続ける!? 勝ち目もなく、いや勝ったとしても意味がない、こんな戦いをなぜ続ける!? 貴様らは一体何がしたいのだ!?」

 

「意味がない……か、さて、それはどうだろうね?」

 

 その背後に立ち、弓を構えるベリアル。

 それに乗るレナードを、アドミラルは『またか』とでも言いたげな目で見据える。痛打足りえないことはわかっていても、鬱陶しさと苛立ちは募る。

 

「何か意味があるとでもいうのか? くだらん……いずれは『至高神Z』の力で復活する私と、今はよくてもいずれ精神が擦り切れて存在を保てず消滅していくしかない貴様らとでは、全てが違うのだよ。ここで今、何をやって遊んだところで、未来に何ら影響など……」

 

「そうかな? これだけ暴れて力を振るえば……ほうら、見つかったみたいだ」

 

「見つかっただと? いったい何に……」

 

 

 

「 見 つ け た 」

 

 

 

 その瞬間、苛立ちつつも自らの優位性を疑わず、それゆえにこそその余裕を崩さなかったアドミラルは……一気に背筋が凍るような感覚を覚えた。

 声が、聞こえた。絶対にここで、聞こえてはいけない声が。

 

 気のせいだ、きっとそうだ……そんな風に、アンドロイドらしからぬ思考を巡らせて逃避しようとするも……現実はそれを許してはくれない。

 

 彼の脳内の困惑を形にしたかのように硬直する『至高神Z』。

 その頭上に現れたのは……白金の体に6つの翼を広げた……『次元将ソル』。

 

 そしてそのコクピットから……星川ミツルが、アドミラルを見下ろしていた。

 

「馬鹿な……馬鹿な!? なぜ貴様がここにいる!? 貴様も……貴様も死んだのか!?」

 

「いいや、ちゃんと生きてるよ。ただちょっと、一時的にこっちの領域に入ってきただけだ……理由は、言うまでもないよね?」

 

「……っ……!?」

 

「ああ、その前に……セレステラさん、案内ありがとう」

 

「礼には及ばないわ。私は……これが最善だと思ったからこそ、そうしただけ……ミレーネルも、それを察して、あちらの世界で私にこたえてくれたから……」

 

 遡ること数分前。

 

 セレステラは、この世界にやってきてデスラーの隣にたどり着くと同時に……精神干渉の応用で、時空を超えてミレーネルに思念を飛ばしていた。

 自分達では、この存在……アドミラルと『至高神Z』をどうにかすることはできない。だから……どうにかできる力を持つものを呼び寄せるために。

 

 それを察知したミレーネルが、セレステラとの間にリンクをつないだ。

 そして、それを目印に、辿っていく感覚で……次元の壁を突破してミツルと『次元将ソル』がここに来ることができた。

 

 すでに死んでいる、ゆえに殺せない、という状態のアドミラルと『至高神Z』を、唯一、完全に消滅させることが可能な存在を、呼び寄せることができたのだ。

 先程までの戦いも、膨大なエネルギーの反応をのろし代わりにして、自分達の……ひいてはアドミラル達の居場所を、ミツルに教えるためのものだった。

 

 ……そして、今。

 

「さて……向こうの世界でさんざん色々言い合ったんだ。今更お前とかわす言葉もない」

 

「やめろ……待て、やめろ!」

 

「しいて言うなら……覚悟はいいな、アドミラル? 答えは聞いてない」

 

 様々な戦いの裏に潜んでいたこの男によって、自分も仲間達もさんざんに振り回され、

 そのせいで多くの人が命を、希望を、未来を、平和な生活を失い、

 人々の思いや、明日を望む意志の尊さを無駄だの非効率的だのと一蹴し、

 挙句の果てに、3つの世界の地球を滅ぼしてまで自分達のエゴを通さんとした。

 

 アドミラルの数々の所業を改めて思い返し、それによって、これまで積み重なって溜まりに溜まったミツルの感情……その勢いそのままに、『次元将ソル』の力が解放される。

 

 『死者の領域』であるがゆえに、ここで死ぬという概念がそもそもないはずのそこにあってなお、対峙した者に絶対的な死を、終焉を予感させるその存在感。

 

「う……うおおぉおぉぉおおっ!!」

 

 それに耐えきれなかったのだろうか。

 咆哮、しかし悲鳴にしか聞こえない声を上げて、アドミラルは動く。『至高神Z』の全身から、雷に衝撃波に、流星群に破壊光線……これでもかと手当たり次第に攻撃を放つ。

 宇宙空間でそれを放っていれば、その巻き添えで惑星や小惑星が軽く数個消し飛んでもおかしくないほどの、宇宙の災害に等しき無茶苦茶な攻撃。

 

 強力無比ではある。しかし、明らかな余裕のなさと、追い詰められたが故の必死さが隠しきれない絵図だった。

 

 それにさらされてなお、『次元将ソル』は涼しい顔でそこにたたずんでいた。

 

「破界の光よ……奴を撃て」

 

 そして、おもむろに左腕をすっと上げ、その掌を『至高神Z』に向けると……その腕から放たれた漆黒の破壊光線が、災害の豪雨を一瞬で打ち抜いて消し飛ばし、その向こうにいた『至高神Z』に直撃する。

 まるで、空間ごと削り取って消滅させたかのように、それが通り過ぎた後には何も残っておらず……至高神Zのどてっぱらには大穴が穿たれていた。

 

「教えてやるよ、何もわかっていないお前に……『真化』の意味を……お前達が散々バカにしてきた、人の心と、マシンの心……それらが結び付くことが生み出す、強さを!」

 

 解き放たれた次元力は、『次元将ソル』を中心に異空間全体に広がっていき……その全てを混沌の宇宙に染め上げる。

 

 そのエネルギーにあてられた『至高神Z』は、先の攻撃で受けたダメージの影響も相まって、もはや指一本動かすこともかなわぬ状態。

 

「さっきのは……お前が生贄に勝手に捧げて利用しようとした、ミレーネルの分!」

 

 困惑するアドミラルだが、それが平静を取り戻すよりも先に……次元転移で一瞬にして距離をゼロにした『次元将ソル』がその目の前に飛来した。

 

「これは……同じく生贄にされそうになった、ミランダの分!」

 

 その顔面に叩き込まれる拳。

 片や惑星サイズの巨体。片や以前よりも大型になったとはいえ、それでも数十m級の域を出ない機動兵器。

 

 そんなサイズ差からは想像もできない光景。

 虹色の光をまとった拳の一撃が決まり……太陽系中に響くのではないかという轟音と共に、『至高神Z』はその頭を跳ね上げて大きく体をのけぞらせた。そのまま後ろ向きに一回転してしまうのではないかとすら思うほどに。

 

 しかし、体が反転したところで、今後は背後に『次元将ソル』が転移して現れ、背中から蹴り飛ばす。

 

「同じく、ココの分!」

 

 先程とは全く逆ベクトルの運動エネルギーのままに、盛大に回転しながらその巨体で宇宙を舞う『至高神Z』。中にいるアドミラルは、もはや声を出す余裕もない。

 

「スターシャさんの分! アウラさんの分! 敵だけど最後にちょっとだけ分かり合えたレナードの分! 利用された挙句に存在を否定されたネバンリンナの分! それに……一度は滅ぼされた、3つの地球と、コロニーその他にいた人たちと、大マゼラン銀河の人達の分もだ!」

 

 それにさらに追いついて殴り飛ばされ、また追いついて蹴り飛ばされ、黄金の体に無数の傷やひびが入り、砕けて壊れていく。

 攪拌されるかのように上下左右前後に振り回される巨体。それをさらに、真上に飛翔して現れた『次元将ソル』が、両手を合わせて組んで作った槌を振り下ろして叩き落した。

 

 展開した宇宙空間に、疑似的に作られたのであろういくつもの惑星や小惑星に激突し、それを粉砕してなお飛ばされていく『至高神Z』。

 

 それを見下ろしながら、『次元将ソル』は……次元力を凝縮させ、その手に……身の丈ほどもある大きな杖を作り出した。

 シンプルなデザインながら、白色と金色で清潔感と上品さを感じるその杖を掲げるように持つと……腰の両側にいた、2匹の龍が胴体から切り離され、その杖に二重螺旋を描くように巻き付いた。

 

 さながらそれは、地球における医神・アスクレピオスのシンボルである『アスクレピオスの杖』のような見た目である。

 

 『次元将ソル』は、それをさらに両手で掲げるように持ち、膨大な次元力をそこに込めていく。

 すると、その体からエネルギーが立ち上っていき……その上空にゆっくりと、空間から滲み出すように……太陽のような巨大な光球が現れる。

 

 しかしその正体は、太陽などではなく……膨大な次元力そのものの塊。

 しかも、太陽としての性質も備えているそれは、1つの異空間にありながら、いくつもの次元を照らすほどの光を、エネルギーを湛えた、いわば多次元の太陽とでも呼べる、多元世界を基準に据えてなお異質かつ超常の存在だった。

 

 それが放つ光は、神がほほ笑む相手にとっては祝福、ないしは恩寵であろうが……その敵となったものにとっては、絶望、あるいは滅びそのものと言っても過言ではない。

 

 そして『至高神Z』めがけて……その太陽が放つ、雲の隙間から降り注いでいるかのような、優しく穏やかな光が、光の帯となって伸びていって降り注ぎ……そしてそれが『至高神Z』をとらえた瞬間、

 

 その空間に何者の存在も許さぬと言わんばかりの、宇宙空間もろとも全てを焼きつくす熱と光の奔流が顕現し、全方向に間欠泉のように吹き荒れる虹色の光炎が、『至高神Z』の巨体を、跡形もなく焼き尽くしていった。

 

 太陽よりも明るく、疑似的な宇宙空間を隅から隅まで照らした光炎は、燃やすものがなくなると、今迄の勢いが嘘のように消えて失せた。

 

 しかし、何も残っていないようにしか見えないそこに、ミツルは確かに、滅びえぬ『至高神Z』の存在と、それに紐づけされたように在り続ける、アドミラルの存在を看破していた。

 

 『アスクレピオスの杖』を手にしたまま、ふわりと舞い降りるようにそこに立つ。

 眼前には何もない。何もないが、確かにいる。

 

 そして……これから、本当に、いなくなる。

 

「やめろ……やめろ! こ、ここで私が、『至高神Z』が消えれば、宇宙のあるべき姿が、完璧な管理が……永遠の平和の未来が! 話せばわかる!」

 

「問答無用!」

 

 『次元将ソル』の体から放たれる、次元力の光。

 それらは収束して何本もの剣となり……切っ先を向けて、既に精神だけの存在となった彼らを取り囲む。

 

 光がそのまま剣の形をとったかのような輝く刃は、アドミラルに否応なしに、不可避の終焉の運命を確信させるものだった。

 

「やめろぉぉおおおぉっ!!」

 

 

 

「因果の彼方に……消えろ!」

 

 

 

 ミツルが腕を振り下ろしたと同時に、光の剣は一斉にアドミラルに殺到し……実体のないその身を、存在そのものを、確かに貫く。

 

 その直後……かつて宇宙に君臨し、今また数多の世界の未来を閉ざさんとしていた至高の神と、その力によって己のエゴをかなえようとした機械の男は……その身を儚い輝きの光に変えて……消え去った。

 

 その残骸とも呼ぶべき、かすかな光が舞う中で、ミツルと『次元将ソル』は、大きく両手を広げ……それらの光を吸い寄せるようにして己の元に収束させ、1つも残さず取り込んだ。

 

 そして、ふぅ、とひとつ息をついて視線を挙げれば……そこにはすでに、先ほどまでいたはずの、レナードやデスラー達の姿はなかった。

 

「……何か伝言の1つでもあれば伝えるくらいはするつもりだったのに……潔すぎだな、あいつら……まあ、本人たちがそれでいいなら、僕が何か言うことでもないけど。さて……」

 

 感覚を集中してみれば、既にセレステラとリンクしていたはずの思念のラインも途絶えており、それを追うことはできないようになっていた。

 

 しかし、ミレーネルとつながっているであろうルートはまだはっきり感じ取れる。

 

「…………帰ろ」

 

 もうこの空間に用のなくなったミツルは、『次元将ソル』の翼を輝かせて時空の壁を超えると、そのルートをたどって、姿を消した。

 

 仲間たちの待つ、自分の帰るべき場所へ戻るために。

 

 

 

 




次回、最終話。


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最終話 それぞれの、これから

最終話です。
この後のエピローグと合わせて、2話同時投稿になります。


 

 

【☆月☆日】

 

 3つの世界が『時空融合』により破滅の危機に陥り、しかし『地球艦隊・天駆』の活躍によってそれは阻止され、世界が救われた……と、いうことになっている。

 

 実際は一度滅んでから復活させられた形なんだが、まあ細かいことは言いっこなしだ。

 そんな記録は世界のどこにも……それこそ、その場にいた者達の頭の中にしか残っていないわけだし、過ぎたことをわざわざ蒸し返して不安をあおる意味もない。

 

 ゆえに、あの日、世界は滅びず救われ、悪は滅びた。

 ただ単に、それだけが歴史に残され……これからも地球は回っていくことだろう。

 

 

 

 ―――とまあそんなわけで、

 

 3つの地球が救われてから、しばらくの時が過ぎ……それぞれの世界は、国々は、徐々に元通りの生活を……あるいはそれ以上に改善された状態にまで、取り戻しつつあった。

 

 3つの世界を渡り歩いて仕事をしていると、それがよくわかる場面に出くわすことが多いんだよね。

 ついでにじゃないけど、一緒に戦った仲間達ともよく会って、話を聞けたりしてるし。

 

 

 

 そうだな……せっかくだ。あの後のことを振り返る意味でも、順序良く書き連ねていってみようか。

 

 

 

 死者の領域でアドミラルと『至高神Z』にとどめを刺した後、僕は何事もなかったかのように通常空間に復帰。そこでは、『地球艦隊・天駆』の皆が待っててくれていた。

 

 そこできちんと、全部終わらせてきた旨を伝えて……今度こそ、ようやく戦いが終わったことに、皆喜んで歓声を上げていた。

 

 その後、役目を果たした『地球艦隊・天駆』はそこで解散し……それぞれの世界へ戻っていくことになった。それぞれ、やるべきことをやるために。

 

 世界は3つともきちんと修復され、『時空融合』の危機も去っている。

 しかし、今回のことで、自分達の世界と隣り合う別な地球という『並行世界』の存在が明らかになったため、その関係で色々と対応すべきことが出てくるだろう。

 

 具体的に何が必要かなんて、上げ連ねればきりがないから省略するけど……その対応のために、僕らにもきっとできることがあるはず。

 

 仮にそれがない、あるいは終わったとしても、今度は僕らは僕らで、その世界でやるべきこと、あるいはやりたいことをする番だ。平和になった世界で、戦いばかりだった今まではできなかった……やりたかったことを。

 

 そんな希望も胸に抱きつつ、『地球艦隊・天駆』は、すっぱりそこで解散となった。

 

 なお、それぞれの世界には、『パラレルボソンジャンプ』で帰る手もあったけど……準備が面倒だし、艦隊各艦かなりダメージ受けてる状態だったので、僕がそれぞれの世界に『次元転移』で送ってあげました。

 今の僕なら、これくらいちょろいもんである。もともとの『至高神ソル』としての力に加えて、とどめ指した時に『至高神Z』の力もまるっと取り込んだからね。

 

 また、生贄にされた面々は、『至高神Z』が倒されたことで無事に解放された。

 

 そのうち、アウラさんは自力で『宇宙世紀世界』に帰った。

 

 レナードやエンブリヲ、闇の帝王やブラックノワールは……もともと死んでたからかな、戻ってくることはなかった。

 ただ、最後の瞬間、テッサ艦長が……少しだけ、レナードの声を聴いた気がした、らしい。

 

 そして、スターシャさんについては、移動手段がないとのことだったので、僕が送った。

 どこにって? もちろんイスカンダルに。

 

 ……自分のことながら、マジででたらめだよね『至高神』パワー。ちょっと集中して空間を跳躍するだけで、別な銀河にまで秒で行けるんだから。

 16万8千光年もなんのその。これにはさすがにスターシャさんも唖然としていた。

 

 そして、生贄最後の1人……ネバンリンナは、そのまま僕らに同行することを選んだ。

 というか、『ソーラーストレーガー』と一体化しているので、なし崩し的にそのままついてきた、という感じになるんだけどね。

 

 まあ、別に構わんけどね。もともとは敵だったとはいえ――その時僕意識なかったから、正直そのへんの意識もそもそもないんだけど――最終決戦では協力して戦ったわけだし。

 

 

 

 さて、最終決戦直後の皆はそんな感じだったわけだが……ここからは、『地球艦隊・天駆』が解散になってからの、それぞれの様子というか暮らしぶりの説明でも書いておこうか。

 

 

 

 まずは、勝平君達ザンボットチーム。

 彼らは、ザンボット3を封印し、西暦世界で普通の生活に戻ることを選んだ。

 

 『ガイゾック』とやらとの戦いが一度は終わって、その時にはもう引退したはずだったんだもんな、彼らは。

 今度こそ。家族皆で仲良く、穏やかに暮らしていくんだそうだ。

 

 もっとも、もしもまた何か良からぬことが起こったら、その時はまた、ザンボットを復活させるのもいとわないみたいなことを言ってたけど。相変わらず見ていて気持ちいいくらいに迷いない子達である。

 

 

 

 続いて、同じく西暦世界の、破嵐万丈さんや舞人社長。

 こちらは、勝平君達と同じように、それぞれの仕事……『破嵐財閥』や『旋風寺コンツェルン』の方をこなしつつも、正義の味方も続けていくつもりだそうだ。

 

 正義の味方として広く知られている『勇者特急隊』は、これからも正義の味方として悪と戦うのはもちろん、災害時や事故の時の救助活動なんかにも幅広く活動していくことだろう。

 

 その『悪』の側である面々……ウォルフガングやショーグン・ミフネ、カトリーヌ・ビトンについては、きちんと罪を償ってまっとうに人生を歩んでほしいもんである。マジで。

 ちゃんとまともなスキルも持ってることが、今回の旅できちんと明らかになってるんだからさ。

 

 あと、舞人社長の『旋風寺コンツェルン』については、この世界と並行世界とをつなぐ『パラレルボソンジャンプレールウェイ』の基幹企業でもあるわけだし、その意味でもこれから一層忙しくなっていくことだろう。

 そして、そんな舞人くんを、サリーちゃんや浜田君はこれからも支えて、共に歩んでいくんだろうし。

 

 

 

 オーブやプラントについては、戦いが終わって世界全体が復興に歩んでいくことになったから、その手伝いをしていくんだろうな。

 

 今回の戦いで、直接戦火にさらされることのなかった国、ないし地域だから、余力はあるだろうし。その分、各地での様々な活動に精力的に取り組んでいくんだと思う。

 

 何より彼ら自身にとっても、今まであった色んなものにケリがついて、これからは前に進むための時間になるはずだから。

 共に戦いを乗り越えて、お互いを理解しあったシンやキラも、エンブリヲの打倒によって『古の民』との長い付き合いとその因縁に決着がついたラクスさんも……

 

 

 

 そうして表舞台で活躍していくこととなったオーブやプラントに対して、ソレスタルビーイングはまたこれからも、世界の裏側で紛争や悪の組織と戦い続ける日々に戻るそうだ。

 

 けど、既に連邦軍も彼らのことは、危険なテロリストの組織なんかじゃないことは理解してくれている(最初の頃の彼らはちょっとアレな部分はあったけども)。

 必要に応じて、こっそり情報提供し合ったり、連邦軍やその他の組織と連携しながら様々な騒乱への対応を行っていくことになるだろう。

 

 特に、並行世界や……別の銀河やら外宇宙との交流がこれから始まるって時には、刹那とクアンタの持つ『対話』が必要になる場面もあるだろうし。

 刹那自身、今からその時を楽しみにしているようなことも言ってたし。

 

 

 

 ナデシコチームは、主軸になっていた『独立部隊』もその役目を終えたってことで、西暦世界の地球連邦軍に復帰。

 

 しかし、今回の戦いのために臨時で復帰していたメンバー達――オペレーターの娘達とか――は、元通り軍を離れてそれぞれの生活に戻っていったみたい。

 

 そしてそれはもちろん、アキトさんやユリカさんも同じ。

 5年もの間お預けにされていた新婚生活を、今度こそ満喫するんだって言ってた。アキトさんのリハビリも並行して行っていくつもりだってさ。末永くお幸せに。

 

 

 

 同じ『地球連邦軍』でも、宇宙世紀世界の方のそれはというと。

 

 ネオ・ジオンとの戦いも終わったことだし、ここからは官民協力して、世界全体で復興に向けて歩み始めていくことになりそうだ。

 

 決して楽な道のりじゃないだろうけど……これまで戦いに向けざるを得なかったリソースをそっちに使うことができるわけだから、よっぽどやりがいもあるし有意義だ、って言ってる人が大半だそうだけどね。逞しくて結構。

 

 また、それと同時進行で、外宇宙への進出もプロジェクトとして考えられているそうだ。

 スペースコロニーのみならず、人類がさらに外側の宇宙へ、人間が居住可能な惑星へと進出し、またそこで出会うかもしれない新たな種族たちとの交流やら何やら……そういった部分にロマンを見出しているとのこと。

 

 アムロさん達もどうやら、軍として戦うことよりも、そういう未来につながる仕事の方にやりがいを見出しているみたいだ。もともと好きだった機械いじりや、後進の指導をしていくことになるんじゃないか、って言ってた。

 あるいは、バナージ達みたいに、アナハイムのテストパイロットを続けつつ、自分のできること、やりたいことを探していく道も。

 

 

 

 同じく宇宙世紀世界で、甲児や竜馬さん達もまた、それぞれの道を歩み出した。

 

 Dr.ヘルやミケーネといった面々との決着もついたことで、甲児やさやかちゃんは、弓博士や兜博士達との元通りの日常に戻った。

 甲児君は特にというか、せっかく父親と母親とも再会できたわけだし、これからは家族仲良く暮らしていってほしいもんである。なんか、お父さんと同じように研究者の道にも興味あるみたいなことをちらっと言ってたしね。そういう進路で協力していくのも悪くはないだろう。

 

 ゲッターチームは、隼人さんは研究のため、弁慶さんは渓さんたちと一緒にいるために地球に残るそうだけど、竜馬さんはまだ未定っぽい。軍が進めている外宇宙の開拓事業に参加するとか、ブラックゲッターで武者修行の旅に出るとか、色々考えてみてるらしいけど……どれをとっても荒事のにおいがちらついているあたり、彼らしいというか何というか。

 もし開拓に同行ないし協力してもらえるなら、そりゃ心強いだろうな。

 

 

 

 シンジ君や宗介君達は、元通り学生としての生活に戻り、学友達と楽しく過ごし始めた。

 

 シンジ君はもともと、普通の中学生だったところをある日突然使徒との戦いに駆り出されてたわけだし……ひとまず訪れた平和な世界を、鈴原君達と一緒に堪能してほしいと思う。

 ロボットに興味津々な学友たちとも多いだろうが、何せ別の銀河まで行ってきたんだ、土産話に苦労することはないだろうし。

 

 一方の宗介君はマオさん曰く『傭兵が学生をやってる』っていう立場らしいけど、そんなのは関係ないとばかりに、学友の面々達とは仲いいみたいだしね。

 ツッコミ役のかなめちゃん共々、限りある学生生活、存分に青春していってもらいたい。

 

 幾度もの戦いを乗り越えて強くなったとはいえ、彼ら・彼女らの戻るべき場所は、やっぱりこういう平和で穏やかな日常なんだろうと思うし。

 本業が学生だろうが傭兵だろうが、そんなの関係なく、ね。

 

 

 

 アンジュ達『アルゼナル』の面々は、もうドラゴンと戦う必要もないってことで、こちらは本格的に、それこそ組織ごと新しい人生を歩みだす形になるようだ。

 

 聞けば、海の真ん中にある孤島であることを利用して、アンジュ主導で『アルゼナルリゾート計画』なるものを立ち上げているとか。読んで字のごとく、アルゼナルをリゾート施設ないし観光地として活用するつもりらしい。

 パラメイル第一中隊の面々も総じてノリノリで、こりゃ期待できると今から見ている。全員パワフルだからな……ひょっとしたらすごいのができるかもしれない。

 

 また、『龍の民』との交流も今後続けていくつもりだそうで……もしかしたら、『龍の民』が西暦世界に、今度はここでの娯楽目的で遊びに来る……なんて未来もあるかもね。

 

 ちなみに、多くのノーマやらメイルライダーがこの計画に賛同して協力していくつもりらしいが……ごく一部、『アルゼナル』の所属を抜けてよそに移った者もいたりする。

 それが誰と誰なのかに関しては、後で書く。

 

 

 

 そして、『新西暦世界』では、逞しく立ち直りつつある地球連邦軍と、木星帝国という敵のいなくなったトビア達が手を取り合って復興へと全力で動き出している。

 

 環境汚染については、『コスモリバース』……もとい、それを使って行った『時空修復』のおかげで急速に改善が進んでるし、これからそう時間をかけずに、地球は青い星としての姿を取り戻すことができるだろうと見込まれている。

 

 西暦世界や宇宙世紀世界みたいに、新西暦世界の人達が、新鮮な自然の食材を復活させて食卓に並べることができる日も、そう遠い未来じゃない。

 そして、その日を1日でも早く来させるために、地球連邦軍はもちろん。様々な組織やら企業が協力して取り組んでいるわけだ。

 

 あと、それと並行して……宇宙世紀世界と同じように、外宇宙に進出する事業にも。

 といってもこっちは、『開拓』っていうよりは……すでにイスカンダルやガミラスといった、外宇宙の文明との交流が今もうあるわけだから、それらとの今後の付き合いを模索していくっていう方向性になっている感じだ。『開拓』じゃなくて『外交』だな、どっちかというと。

 まあ、どちらも人類のこれからのために重要であることには変わりないけどね。

 

 ……それと、新西暦世界で起きたことについて……もう1つ。

 『地球艦隊・天駆』の帰還から少しして……沖田艦長が、この世を去った。

 

 もうずいぶん前から『遊星爆弾症候群』……だったかな。アレに含まれるガミラスの植物の胞子が原因で引き起こされる、その病に体を侵されていたらしい。

 本来なら安静にしていた方がいい所を、地球の未来のために意地でヤマトの艦橋に立っていたんだって。すべてが終わった後に、ブライト艦長と佐渡先生が教えてくれた。

 

 最後の最後まで『地球艦隊・天駆』の総司令官として僕らを引っ張ってきてくれた沖田艦長には、皆、感謝でいっぱいだったと思う。

 最後のお別れ、ないし見送りの際は、予定があろうがなかろうが、『地球艦隊・天駆』に参加したメンバーがほぼ全員揃って、沖田艦長にお別れを言った。

 

 けど、無意味に湿っぽい感じにはならず、むしろ『あなたの分もこれから立派に3つの地球を守っていきます』的な、決意表明みたいな感じだったかも。

 こっちの方が僕ららしいし、沖田艦長も悔いなく、心配せず天国に行ってくれるだろう。

 

 

 

 そして、ここまで『地球艦隊・天駆』の皆のその後について話してきたわけだが……最後に、僕らについてだが―――

 

 

 ☆☆☆

 

 

「ミツルさーん! そろそろ時間だよ、準備してー!」

 

「こ、こらココ! 会社では『会長』だってば!」

 

「あっはっは、いいよいいよ好きなように呼んでくれれば。アットホームな社風が自慢だからねうちは……っていうか、もうそんな時間か」

 

 会長室のデスクで、気分転換に日記を書いていた僕を、元気な声で呼びに来たココ。

 それを注意しつつ、同じように僕を呼びに来たらしいミランダ。

 2人とも今となっては、アルゼナルからここ『サイデリアル』に籍を移し、正式にうちの社員になった、優秀なテストパイロットである。

 

 そして同時に、僕の直属として、付き人みたいなことも一緒にやってもらっている。

 

 秘書は相変わらずミレーネルで、彼女にはもちろん今も僕は世話になってるけど、最近は彼女1人じゃ手が足りない場面もちらほら出て来てるんだ。

 

 というのも僕、主に会長としてこの『サイデリアル』本社に普段はいるものの、割とフットワーク軽くあちこちにふらっと出かけたりするんだよね。

 

 何せ、地球の裏側だろうが銀河の果てだろうが、次元力でどこでも一瞬で行けるから、視察とか訪問とかも『よし行くか』でノータイムで行けるし。

 そして、その急な出張(笑)に、色々な意味でついてこれる人材となると、ミレーネル以外だと彼女達2人……『地球艦隊・天駆』に一緒に参加した彼女たちが適任ってわけ。

 

 加えて彼女達は、古巣であるアルゼナルとの橋渡し役にもなってくれてる。

 あそこ今『リゾート計画』進めてるわけだけど、そこにうちからも援助とか投資とかいろいろやって絡んでるからね。やっぱりというか、なんだかんだあそことわが社は縁があるな。

 

 とか何とか考えてる間に、2人の後ろからミレーネルも入ってきた。

 

「ミツル、そろそろ準備して。今日も忙しいわよ」

 

「了解。じゃ念のため、今日の予定確認していい?」

 

「ええ。まずこの後は本社505会議室で定例会議に出席。議題は主に今後の『旋風寺』と『ネルガル』との業務協力について。その後アルゼナルの開発現場の視察と、そのままそこで向こうの責任者……アンジュ達と会食という名の食事会。これが昼食ね。午後からは宇宙世紀世界のサイデリアル支部の視察と、セイナさんから各種報告事項を聞いて……その後は、新西暦世界の地球連邦軍の開発計画会議に出席。開始前にそっちに行ってるネバンリンナから概要の説明があるらしいわ」

 

「……相変わらず1日にこなすスケジュールじゃないですよねそれ……」

 

 さらさらとよどみなく教えてくれるミレーネル。

 それを隣で聞きつつ、呆れつつミランダはつぶやいていた。

 うん、ホントそうだよね。僕もそう思う。

 

 1日で違う国を行き来するどころか、並行世界3つを行き来するスケジュールって、滅茶苦茶どころじゃないよね完全に。

 過労死コースというかそれ以前に、物理的・時間的に無理だって誰でも思うだろうし。

 

 まあ僕の場合は、さっき言った通り、『次元転移』を使えば『移動時間』ってもんがおよそ必要ないと言ってすらいいから、こんな無茶苦茶なスケジュールも立てられるんだけどね。

 そしてそれに付き合ってくれるのが、主にここにいる3人というわけである。いつもお世話になってます。

 

 けど実際、『多次元企業』としてすでに本格的に動き出せている会社は、今は3つの世界においてほとんどおらず、その中でもノウハウ的にずば抜けてるのがうちこと『サイデリアル』だから、3つの世界それぞれからアホほど需要、というか仕事は舞い込んでくるんだ。

 

 新西暦世界には、復興のための資材やエネルギーの提供や、都市の再開発計画や防衛戦力その他にかかる兵器輸入や技術協力。

 あと、人々の腹を満たすための食糧支援などなど。

 

 宇宙世紀世界では、並行世界との交流や物資のやり取りもそうだけど、それと同時に、宇宙にあるコロニーなんかとの物資のやり取りも盛んにおこなわれている。

 ネオ・ジオンとの和解も成立したとあって、技術協力も今後は増えてくるだろうし。

 

 西暦世界は、他2つほど物資やら何やらには困ってないだろうけど、だからこそ新たな可能性を求めて、外宇宙の開拓やらに使う力が必要とされるだろうし、未だに解析できていない部分が多い『火星極冠遺跡』やら何やらに回す力も要るだろうし。

 それに、全く復興関係の仕事がないわけでもないしね。『始祖連合国』をはじめとした、最近まで紛争が続いていた国や地域の復興も、もちろん必要なわけだから。

 

 そんな感じで、ちょっとした遠距離運送業じみた手軽さで3つの平行世界を簡単に、安全に行き来できる僕ら『サイデリアル』の技術は、今や引っ張りだこというわけだ。

 忙しいけど、嬉しい悲鳴である。今後ともご愛顧ください。

 

 まあもっとも、もうしばらくすれば『ネルガル』や『旋風寺』も、『パラレルボソンジャンプ』や『レールウェイ』の技術で追いついてくるだろうな。少なくとも、会社としては。

 そうなったら、僕らの儲けは減るかもしれないけど……その分より多くの人に、並行世界間貿易の恩恵がいきわたるだろう。別に忌避する理由はないな。

 どちらもぜひ頑張って、この『並行世界事業』に参入してきてほしいと思っている。……できれば謀略とかしかけてこずに、ちゃんと穏便に。

 

 それに、ひょっとしたらこの先、今現在確認できている3つの平行世界以外にも、他の平行世界との交流を持つ機会だって出てくるかもしれないし。

 

 そんなバカな、なんて切り捨てることはできないだろう。それを言ったら、今存在がはっきりしている、他2つの平行世界だって、最初は想像もされていなかったんだし。

 

 それに、僕こと『至高神ソル』や『御使い』の記録の中には、それこそ無数の平行世界がまじりあった『多元世界』の存在が記録として残されているわけだし……今は観測こそできていないけど、今後何かの形で関わり合いを持つことになる可能性だってゼロじゃない。

 その時のために、色々とできる準備もあるだろうからな。やれることはやっておくべきだ。

 

 そうすることが、きっとこの先……

 

「ミツル、どうかしたの? ほら、早く準備しないと……」

 

「……! ああごめん、今やるよ」

 

 と、いつの間にか考え込んでしまっていた僕に、少し心配そうに声をかけてくるミレーネル。

 

「疲れてるなら、無理しなくても……」

 

「大丈夫大丈夫、そういうんじゃないから。じゃ、行こうか……最初は会議だったね」

 

 とりあえず今は、目の前にある仕事から片付けていかないとな。

 

 この先の未来のために、やれること、やるべきことは、それこそいくらだってあるだろうから。

 

 

 

 



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エピローグ

1つ前の『最終話』と同時更新しております。

このページにいきなり飛んできて、まだ前の話を読んでない方いましたら、そちらからどうぞ。

本作品最後の投稿になります。では、エピローグ、どうぞ。


 

 

 気が付くと僕は……見覚えのある不思議な空間にいた。

 

 ここに来るのは、今回で三回目だ。

 1度目は、『地球艦隊・天駆』の出向直前……僕の中の力が大きく膨れ上がるきっかけになった、あの時。

 

 2度目は、意識のないままに『至高神Z』復活のためのいけにえにされ、絶体絶命だったと同時に、自分の本当の正体を知ることになった、あの時。

 

 そして、今回は……ああ、なるほど、あなたでしたか。

 

「お久しぶりですね、アドヴェント」

 

「そうだね、星川ミツル。……もう、自分のことについては、思い出して、きちんと認識しているようだが……『至高神ソル』とは呼ばれたがってはいないだろうし、今まで通りでいいかい?」

 

「そうしてください。確かに、色々と知ったり思い出したりはしましたけど……今も昔も、僕は『星川ミツル』のつもりですから」

 

 

 

 数か月ぶりに会った彼……アドヴェントは、変わらず爽やかなイケメンスマイルを浮かべ、僕が無事にアドミラルを倒し、『至高神ソル』としての力を完全に取り戻したことを祝福してくれた。

 まあもっとも、取り戻したはそうだけど、まだまだ使いこなせてるとは言えないけどね。自在に力を使えるようになるには、腰を据えて練習していく必要があるだろう。

 

 ……ぶっちゃけ、今のままでも全然困ることないというか、なんなら過剰なくらいの力はすでに使えてるんだけどね……。

 銀河を飛び越えて移動できる転移能力とか、『ソーラーストレーガー』なしでも事象制御できたりとか……原作でアドヴェントがやってた、生身で機動兵器を撃墜するのとかも多分できると思う。

 

 この上さらに強力な力とか手にしても、使い道が……ぶっちゃけ、思い浮かばん。

 

 そう愚痴っぽいことを話したら、アドヴェントはおかしそうに笑っていた。

 

「君は無欲だね。その上、どこまでも人付き合いにおいて、謙虚で誠実だ。だが、だからこそその力を持つにはふさわしいと言ってもいいだろう」

 

「それはどうも。……さっきからの口ぶりだと……アドヴェントは知ってたんですよね? 僕の正体が、『呪われし放浪者』じゃなくて、『至高神ソル』そのものだって」

 

「それは当然さ。私は御使いとして、一億年以上君と一緒にいたのだから。それで気づかなかったら、むしろそっちの方がおかしいというものさ」

 

「なるほど……でも、逆は無理でしたけどね。記憶がなかったとはいえ……僕はあなたに気づけませんでしたし、思い出すこともできなかったし」

 

「それに関しては無理もないことだ。君はすでに、かつての……『至高神ソル』だった頃とは、全く違う自我を確立していたからね。記憶とのずれもある、認識できなくても仕方がない」

 

「アドミラルは……僕のこの自我は、疑似的なものだって言ってました。至高神ソルが『星川ミツル』の姿をとる際に、人間としてふるまうために必要だから、無意識に作成したものだって」

 

「そうか、彼はそんな風にとらえたのだね。その予測は……当たってもいるし、外れてもいる」

 

「?」

 

「君のその自我、ないし意識は……確かに自然なものとはいいがたい。ただ、疑似的だとか、偽物であるかのような表現をする必要はないものだよ。君は、確かに君でもあるのだから」

 

 ……慰めてくれてるのか。励ましてくれてるのか、どっちかだと思うんだが……いかんせん、表現が遠回りなので、よくわからないんだよなあ。

 

 と、いう感想がおそらく顔に出てしまっていたんだろう。アドヴェントは苦笑しつつ、説明してくれた。

 

 彼曰く、確かに僕のこの人格は、本来の『星川ミツル』のものではないし……はたまた、どこかの世界から転生してきて憑依した、という感じのものでもない。

 いや、そうかもしれないし、そうでないかもしれない。アドヴェントにも、正確というか細かいところまではわからないんだそうだ。

 

 というのも、結論から言えば……僕は、いくつもの魂やら人格が寄り集まって混ざり合った結果として誕生した人格なのだそうだ。

 『至高神ソル』が人間の姿をとって生まれ変わった際に、その材料?として、周囲に漂っていたいくつもの魂を、意識や記憶ごと、次元を超えて観測し、トレースして統合し、その結果生み出された人格。

 恐らくは『星川ミツル』も……僕にとっての『前世』も、そのうちの1つだったんだろう。もちろん……『至高神ソル』自身の意識や記憶も。

 

 そうして人格が作られた後、取り込んだうちの1つである星川ミツルの肉体をトレースし、自分の肉体として形作り……人間の姿になって生まれ変わった、というわけだ。

 

「たしかに、君という存在は、『至高神ソル』の転生と同時にこの世に生を受けた……自然のものとはいいがたいそれだろう。だが、それを恥じることも嘆くこともない。君は君自身が望むように生きていけばいいし、そんな君と一緒に歩んでくれる人たちもいるのだからね」

 

「……そうですね。そうしようと思います」

 

 僕が、元はとはいえ『至高神』という存在であるというのは……なし崩し的にだが、『地球艦隊・天駆』のメンバー皆の知るところとなっている。

 しかし、それで僕に対して接し方を変えてくるような人は、誰一人いなかった。それを知ってなお、今まで通り、星川ミツルという1人の仲間として接してくれている。

 

 ……まあ、一部悪乗りして拝んで来たりする人はいるけど、それはまあいいだろう。

 

 それと……何気に気になっていた、僕の『前世』の記憶について。

 これが本当に『前世』のものなのか、あるいは疑似的に作り出されたものなのか……これも結局わからなかったな。

 

 もしも僕に、前世なんてもんが存在しないのであれば……この記憶は多分、『至高神』由来の多元世界の記憶を保有していることを無理なく受け入れさせるために、自我が形作られる段階で無意識に作り出された、捏造の記憶、ってことだったんだろう。

 経験したこともないような、無駄に壮大な記憶が突然頭の中に現れるよりも、『前世の記憶』なんていう突拍子もない、けど一応きちんと順序だてられていて、フィクションじみているがゆえに理解しやすく受け入れやすい……そんな風な意味で有利だろうし。

 

 まあ、これについては仕方ない。……気にならないって言ったらウソだけど、わからなくても困るようなことじゃないしね。

 今まで通り、僕はこの世界で『星川ミツル』として生きていけばいいだけの話だ。

 

 ……あと、その代わりにってわけじゃないが、アドヴェントはもう1つ……想像もしていなかった、ある1つの事実を教えてくれた。

 

 ほとんど蛇足な情報だけど……僕という存在が、『新西暦世界』で、『星川ミツル』という少年の姿を形どって生まれたことについて。

 これ、実は偶然じゃなかったらしいんだよね。

 

 ただ単に、取り込んでトレースした魂の中からランダムで選ばれたとかじゃなく……この体が彼の姿で形作られたのも、この世界に顕現したのも、きちんと理由があった。

 

 

 

 星川ミツル少年が……この世界における『ジ・エーデル・ベルナル』だったからだ、っていう理由が。

 

 

 

 ……うん、今日イチびっくりさせられた情報だったわ。

 

 かつて、多元世界において『黒の英知』の影響を受け、『天獄』や『御使い』とも浅からぬ関わりがあった彼の魂にひかれて、至高神ソルはこの世界にきて、そして再誕したんだろう……というのが、アドヴェントの見立てである。

 彼はどうやら、『AG』の招集に応じなかった、あるいは気づくこともなかった『ジエーデル』の1人だったようだ。

 

 しかし、『ジエーデル』ってのは世界によって、男だったり女だったり、子供だったり老人だったり……てんで統一性なくて滅茶苦茶だな。

 ほんと、どういう存在なんだか……知識があってもいまだにわかりづらい。

 

 それからもしばらく、アドヴェントとは取り留めもない雑談みたいなことを話した。

 

 そして最後に、アドヴェントは、ふと僕の方に手をかざすように向けたかと思うと……僕の胸のあたりから、光る小さな玉みたいなものがふわりと飛び出してきて……アドヴェントの手に収まった。

 

 直感的に分かる。あれは……『怒りのドクトリン』の因子だ。

 たぶん……最後の最後、アドミラルと至高神Zにとどめを刺して、その力を取り込んだ時に……一緒に取り込んじゃったんだろうな。

 

 かつての同志として、彼の因子は私が持っていく、ってことで、アドヴェントに引き取られた。

 

 そして、最後に、

 

「星川ミツル君……君は、通常のプロセスとは少し違えど……『高次元生命体』の領域に立ち、永遠を生き、後に続く者達を見守り、そして導く立場となった。その意味を、そして責務を、決して忘れてはいけないよ……かつて、先駆者としての本分を無見失い、傲慢に染まってしまった、私達のようになってはいけない」

 

「……!」

 

「きっと、楽しいことばかりではない……つらいこと、悲しいこともあるだろう。それでも、決して……君が最初に信じた正義を、未来を、見失わないようにするんだ。そうすれば……君はきっと、素晴らしい未来をその目で見続け、そして数々の素晴らしい、人々の命の輝きを見届けることができるだろうから。君という神の歴史が、人々の幸せと共につづられていくことを、願っているよ」

 

 ……そんな、含みの大きいセリフを残して、アドヴェントは去り……そして、僕の不思議な夢も、そこで終わった。

 

 

 

 目が覚めると……

 

「あ、ミツルさん起きた」

 

「え、ホント? ちょうどよかった、そろそろ起こそうと思ってたんですよ」

 

 ……なるほど、どうやら職場のデスクで転寝しちゃってたみたいだな。

 横から僕のことをのぞき込んでくるココと、デスクの向こうにいて近づいてくるところだったミランダの2人の姿が目に入った。

 

 それから少し遅れて、自分の事務処理用デスクについて、にっこりと笑い返してくるミレーネルや、PCの画面の中で『やれやれ』って感じの表情になってるネバンリンナも。

 

 皆、今の僕にとって……『星川ミツル』という1人の人間の、豊かで楽しい、満ち足りた人生にとって、なくてはならない大切な人達だ。

 彼女達とも、いずれは別れることになる……それも、ただ単に引っ越すとか退職するとかそういうんじゃなくて……僕が残されて、彼女達が……っていうことを考えると……

 

 ココやミランダは普通の人間だし……ミレーネルも、『ジレル人』は地球人より寿命が長いらしいけど、それでも何千年も生きるわけじゃないだろうしな。

 

 でも、ネバンリンナはAIだし、3000年前のガーディムの滅亡から今まで存在し続けてたわけだから……下手したら普通に1000年でも5000年でも、これからも一緒にいることになるんじゃ?

 今もうすでに、AIとしての演算能力やら機械類への干渉能力、万能工作システムとしての能力を生かして仕事手伝ってもらってるし、これからも……

 

 ……それに、もしかしたらワンチャン、彼女たちも僕と同じ『高次元生命体』に覚醒して、これからもずっと一緒にいられる可能性もなきにしもあらず……いや、コレ案外あるんじゃね?

 『真化融合』でそのとっかかりはつかんだわけだし……さらにココ達は、『御使い』の因子も持ってて、その影響を多少なり受けてもいたわけだし。

 

(……いや、考えても仕方ないんだろうな。こういうのも含めて)

 

 いつか来るその時までに、少しでも悔いなく、少しでも多くの幸せな思い出を作って……笑っては無理でも、胸を張って送ってあげられるように……か。

 

 だったらまずは、この今を、悔いなく、全力で生きていくことが……その一歩だろう。

 

 今ミランダが言ってくれた通り、そろそろ目的地に着くわけだし……寝ぼけ眼のままじゃだめだだめだ。

 ぱしん、と頬を叩いて気合を入れ、衝撃で目を覚ます。よし、おっけい!

 

「じゃ、行きますか! 今日も張り切って、商売、商売!」

 

「何、そのフレーズ? 初めて聞いたわよ」

 

 と、ミレーネルからツッコミ。

 おっと、ついうっかりどこぞの次元商人のフレーズが……夢であんなこと聞いたからかな? ま、いいか。

 

 ……実際に言ってみると、なかなか語感いいなこれ。

 

 ……気を取り直して。

 

 皆を巻き込んで苦笑されたり呆れられたりしつつも、今日も僕は、いつも通り、自分にできることをやっていこう。

 

 地球とガミラスとイスカンダルを秒で行き来できることを利用して、それらの懸け橋……という名の運送屋みたいな立場で、異星間交流の手伝いをするもよし。

 

 資材や食料を運んだり、技術協力を通して、新西暦世界の復興を後押しし、便利で豊かで美しい世界を取り戻す手伝いをするもよし、

 

 宇宙世紀世界で、アースノイドとスペースノイド、両方が幸せに暮らせるように、新たな居住区画の開発や技術の進歩による住環境の改善、地球環境そのものの再生の手伝いをするもよし、

 

 まだまだ伸びしろがあり、またあちこちに戦いの傷も残る西暦世界で、これを機に今までつながっていなかった国や地域を結び付けて、皆で手を取り合って幸せになる手伝いをするもよし

 

 『高次元生命体』だの、『至高神』だのも関係ない。

 自分に……『星川ミツル』にできることをやって、この先の世界を、僕や皆の人生を、もっともっと素晴らしいものにして……皆で、その世界を満喫して生きていくために。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

【新西暦世界】

 『宇宙戦艦ヤマト』がイスカンダルから帰還した後、凱旋を祝福するムードもそこそこに、全世界が一丸となって全力で復興に向けて歩みだす。

 『コスモリバース』の力で環境は徐々に復活し始めているため、人の手によって行うべき、社会システムや施設などの復活に特に注力している。それに加えて、同時に明らかになった並行世界の存在や、これから先、良き隣人となるであろうガミラスその他の外宇宙の星々の存在を踏まえ、将来それらと国交を持つことを前提とした社会システムの再構築を進めている。

 他の世界から食料や物資などの支援を受け、『西暦世界』や『宇宙世紀世界』の者達が驚くほどのスピードで復興が進んでいるらしい。

 

【宇宙世紀世界】

 長く続いた地球と宇宙、連邦とネオ・ジオンの戦いが終結し、これからは手を取り合って復興に向けて歩みだしている……という点では『新西暦世界』と似ている。そちらよりも余力は割と残っている方なので、外宇宙に進出するための開拓計画も同時進行で進めていくことに。人類がさらに外側の宇宙へ向けて足を踏み出す日も、そう遠い未来ではないかもしれない。

 地上において起こっていた、『アマルガム』や『Dr.ヘル一味』などの脅威も去ったが、『使徒』や『インベーダー』をはじめとした、まだこれからもやってくるのかもしれない敵対勢力は存在するため、警戒は続けられている。その時は、かつて地球を救った戦士達が再び立ち上がるのだろう。

 

【西暦世界】

 表面上は戦争も終わって穏やかでありながら、『始祖連合国』やら『火星の後継者』やらといった者達があちこちで暴れていた世界だったわけだが、それらも大方収束し、現在はより安定しつつ、より発展した世界の実現に向けて歩みだしている。各地で起こっていたテロや犯罪者の横行などについても、軍や警察の懸命の努力によってほぼ収まったと言っていい状態。

 また『始祖連合国』については、事実上の崩壊となって以降は、地球連邦および各国の大企業の介入によってどうにか社会を再構築。その際、『マナの光』の消失により『普通の人間』と『ノーマ』との違いが消滅したが、国民の大半に選民思想や差別的な考え方が根付いていた上、マナの光に生活機能のほぼ全てを依存していたため、色々な意味で苦労しているらしい。

 

 

 

 

 

【叢雲総司】

 『地球艦隊・天駆』の解散後、再び『新西暦世界』の地球連邦軍の所属として、復興へと進む地球で『ヴァングネクス』を相棒にあちこちに飛び回っている。忙しい日々だが、日に日に地球が活気を取り戻している様子を行った先々で見られるので、充実している様子。

 相変わらず軽い調子で千歳やその他の女性職員などに声をかけてはあしらわれており、その後、ため息交じりのナインの白眼視を向けられて小さくなるまでがワンセットである。

 

【如月千歳】

 地球連邦軍の所属として、新設された戦略研究所に勤めることとなる。こちらは総司とは対照的に、あちこち飛び回るよりも1カ所に腰を据えて様々な業務に従事する、昔と同じような立ち位置に戻った様子である。ただ、『地球艦隊・天駆』時代の経験を活かし、テストパイロットとして仕事を任されるようにもなった。

 なお、服装については、以前までと同様、男性職員達の強い要望によって、既定の制服ではなくいつも通りの服装のままで今も務めている(本人は特に何も気にしていないし、その意図も知らない。動きやすいから都合いいな、程度)。

 

【ナイン】

 総司のパートナーとしてあちこち飛び回りつつ、『文明再建システム』としての能力も生かし、様々な技術開発や復興計画の立案などにも携わっている。

 総司のことを『キャップ』と呼ぶのに加え、千歳のことを『姉さん』と呼び始めた様子。

 戦略研究所では、画期的なアイデアをいくつも提供してくれる即戦力であると同時に、千歳やロッティと並んでアイドル的な立ち位置に置かれているらしい。

 彼女のことをアンドロイド、ないし機械として認識している職員の方がもはや少なく、ぞんざいに扱おうものなら粛清されるともっぱらの評判だったりする。また、上記の通り様々な面で地球復興に貢献してくれているため、役職や階級を与えるべきかどうか割と真剣に検討されている。

 

【ウォルフガング】

 地球に帰還後、逮捕されて罪を償うことに。ただ、刑務所の中でその頭脳を遊ばせておくのはもったいないと考えた地球連邦により、様々な研究開発に協力するような社会奉仕的な形での刑罰になる見込みである。本人は研究ができるならそれでいいらしく、喜んで司法取引に応じた。

 そしていざ開発に着手したところ、関係者全員の感想ないし意見が瞬く間に一致したらしい。『あんたホントまっとうに働けよ』

 

【ソフィア】

 地球に帰還後、サイデリアル製の『義体』がプレゼントされ、念願だった自由に使える肉体をゲット。ミスリルの監視付きという条件下でではあるが、1人の少女として人生をやり直していくこととなる。

 『ウィスパード』としての知識や技術力は健在のため、それらを生かして様々な研究開発に手を貸すこともある。

 かなめやテッサとは変わらず友達関係であり、時々一緒に集まっておしゃべりしたり、遊びに行ったりすることもあるらしい。彼女の第2の人生は、まだまだ始まったばかりだ。

 

【ネバンリンナ】

 最終決戦の際にもともとのボディを失ってしまったものの、そのAIは『次元獣ソーラーストレーガー』に移植されていて無事だったため、地球に帰還後、改めて新しいボディをミツル達からプレゼントされた。

 その後、ガーディム人の遺伝子が今もなお、一部の地球人の中に生きていることをナインから告げられたことで、ガーディムの文明再建が必ずしも自分がやるべきことではないと判断し、文明再建システムとしての仕事は半ば放棄することに。

 現在はミツル達についていく形で『サイデリアル・ホールディングス』に活躍の場所を移し、AIの特性を生かして、時に戦艦や機動兵器を操り、時にパソコンの中から様々な業務を手伝ったりと、そのハイスペックさをいかんなく発揮してミツル達の仕事やら何やらを手伝っている。

 新西暦世界とどちらに拠点を置くか迷ったらしいが、そっちは娘(ナイン)がいるから大丈夫だろうと判断し、多元世界の技術その他に興味があったこともあってミツルについていった。

 

【ミランダ・キャンベル】

 最終決戦後、パラメイル第一中隊を除隊。正式に『サイデリアル・ホールディングス』に就職し、ミツルの直属の部下となる。

 元来面倒見がよく、細かいことによく気が付く性格であるため、事務などの仕事の面でもミツルの助けになっており、ミツルの素性を知る1人ということもあって、様々な場所に護衛を兼ねて同行しており、色々な場面で頼りにされている。

 本人は現状、ミツルのそばにいて役に立てるということで満足しているようだが、『地球艦隊・天駆』時代から胸の奥にくすぶり続けている淡い思いは、今なお消えていない模様。

 実はその真面目さや性格のよさゆえに職場でも人気があり、10代後半になる頃から急激にモテ初めて色々な男性からアプローチをもらうことになるのだが、前述の思いゆえに本人にその気はないようで、言いよる男性達はことごとく玉砕している。

 

【ココ・リーヴ】

 最終決戦後、ミランダ同様にパラメイル第一中隊を除隊し、正式に『サイデリアル・ホールディングス』に就職。ミツルの直属の部下となる。

 好奇心旺盛で積極的、何にでも挑戦してみる性格だが、残念ながらあまり仕事の面では戦力になっていない様子(せいぜいがミランダの手伝い程度らしい)。どちらかというと、機動兵器の操縦の方で大いに力を振るうため、テストパイロットとしてもミツルの護衛としても毎度活躍している。

 最終決戦以後もめきめきと腕を上げており、10代後半になる頃には、地球連邦軍からスカウトが来るほどのエース級の腕を手に入れた天才肌。原作では開花しなかった才能が日の目を見た。

 ミランダの思いには気が付いており、応援しつつあわよくば自分も、とか考えているらしい。ミツルに対しては、男女としてのみならず、家族的な意味や友達的な意味など、色々な『好き』がまじりあっている感じである……と、本人は語っている。

 

【ミレーネル・リンケ】

 最終決戦後も、それまでと変わらず秘書として、交渉事からテロ・暗殺の未然防止、機動兵器のパイロットとしてなど、あらゆる面でミツルを支え続けている。

 社に復帰してからしばらくして、地球と宇宙及び並行世界との交流が盛んになってきたタイミングで、自分が宇宙人であることをカミングアウトしたものの、会社の皆は変わらず受け入れてくれた。その温かさに触れて、改めてここを居場所に選んでよかった、と笑顔を浮かべたという。

 姉と慕っていたセレステラとは、最終決戦の折、結局彼女自身の選択で死別することになったものの、彼女が選んだ道を否定せず見送った。その際に聞かされたセレステラの遺言に従い、彼女の墓はデスラーのそれと並んで建てられるようガミラスに働きかけた。

 宇宙人であることをカミングアウトした前後で変わらず、やり手の美人キャリアウーマンとして社内外で人気であり、ミランダ以上に色々な男性にアタックされているものの、全て断っている。現実問題として、ジレル人は地球人よりもかなり寿命が長い種族であるため、普通の地球人と結婚すればその後の死別は避けられない。それも彼女が特定の異性のパートナーを持たない理由らしく、彼女曰く『私と同じか、私以上に長生きしてくれる人がいい』と言っているらしいが……現状、誰かを指して言っていることなのかは不明である。

 

【星川ミツル】

 最終決戦後、特に何も変わることはなく、元通り『サイデリアル・ホールディングス』の会長として社に戻り、その後は今まで留守にしていた分も会社の仕事に力を注いでいる。

 いちはやく『多次元企業』として3つの世界をまたにかけた事業を展開し、営利目的での事業はもちろん、再現した『多元世界』の技術を生かして、3つの世界の復興や発展を強力に後押ししている。それにより『サイデリアル』はさらに急成長し、『西暦世界』のみならず、『宇宙世紀世界』や『新西暦世界』においても、知らない者はいないレベルの巨大企業にまで上り詰めた。同時に、そのトップである彼の名も3つの世界に知れ渡ることとなる。

 最終決戦で取り戻した『至高神』としての権能については、強力だし便利ではあるが、それに頼りっぱなしになってもよくないとして事実上封印しており、本当に必要があるときにのみ使うようにしている。ただ、使い方を忘れない程度に使うようにはしており、気まぐれでイスカンダルまで散歩に行ったり、生身でアクシズのあたりを宇宙遊泳に行ったり、火星の後継者の残党が出没したあたりにアンゲロイ・アルカを無から創造して1ダースくらい放り込んだりしているらしい。

 高次元生命体にして『至高神』という身の上ゆえに、誰よりも長く生きることとなり、同じ時間を過ごした者達を見送っていく立場となる運命にある。1人残されるその生涯が孤独なものとなるのか、それとも、生命体としての軛を振り切って、傍らで共に歩んでくれる『誰か』が現れることになるのかは……今はまだ、誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 スーパーロボット大戦 とある蛇使い座の日記

 

 これにて、完結

 

 




 これにて『スーパーロボット大戦 とある蛇使い座の日記』、終幕となります。
 去年11月から投降始めたわけなので、おおよそ半年ちょっとの間、続けたことになります。

 途中、ちょっとスランプとかいろいろあったり、リアルの仕事が忙しくなって更新途切れそうになって危なかった時期もありましたが、どうにかここまでこれました……。
 最後、若干駆け足になっちゃったかな、という印象もあったのですが、詳しく書こうとしたらそれはそれでまた何話もかかっちゃいそうだったし、その間に息切れしてしまいそうだったので、さくっとまとめた感じになりました。

 ここまでこれたのも全て、感想欄にメッセージに、色々と応援してくださった読者の皆様のおかげだと思っております。
 読んで喜んでくれている人の存在を実感するのって、やっぱり自分が小説を書く大きなモチベーションの一つなんだな、って、毎度実感させられながら読ませていただいてました。
 改めて、本当にありがとうございました。

 書いてみていつも思ってたのは、いろんなキャラが出て来て書いてて退屈しないなあと思う反面、キャラが多すぎてかき分けるのがめっちゃ大変だったな、というところでしょうか……さすがスパロボ、クロスオーバーの金字塔……。
 力不足を痛感しながらも思いっきり動かしてたつもりですが……皆さんの好きなキャラは作中できちんと活躍できてましたでしょうか。

 本作品は一応ここで一区切りとさせていただきますが、今後もしかしたら、本編で書ききれなかった部分とか、番外編や後日談とかで書くかもしれません。
 あるいは、他のスパロボ世界にミツル達が出張したりとか……執筆中にふと思いついたそんなネタに走ったりするかもしれません。
 ただ、今はもうなんか、こう、ガッツリ燃え尽きた感じになってますので……期待しないで頭の片隅にでも置いておいてください。

 またいつか、続編あるいは作者の次回作ができた時あたりにまたお目にかかれるようであれば、これに勝る喜びはございません。

 以上を持ちまして完結の挨拶とさせていただきます。

 皆さま、ここまでご愛読いただきまして、本当にありがとうございました!




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