Lostbelt No.0 『存在証明大陸 ムー』 (御魚天国)
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朝日の出
代償


新たに書き直しverです。

一部設定の変更あり。
プロローグのみ変更なし。
となっています。


「おかしなことになっちまったもんだな」

 

 果てしない未来の地。

 異聞帯の終焉にて、俺は空を見上げていた。

 朝とも夜とも言えない空。

 時間は進んでいるはずなのに、()()()()()()()()()()()()()()のだから、そういうしかない。

 

 一方で地上の方へと視線を向けてみれば、壮大な都市は既に崩壊していた。

 そこに今まであったはずの都市は、黒く果てしないバケモノの手によって食い尽くされていた。

 

 しかしまぁ、随分と時間をかけて準備してきたはずなのに、たった一つの綻びでここまで崩れるとは。

 流石はカルデア、キリシュタリアにデイビットを打ち倒しただけのことはある。

 

 なんて考えながら地上を見続ける。

 都市も何もかも、今まで作り上げてきたものはもうない。

 だが、ここで立ち止まることはできない。

 

 空想樹がなくとも、後がなくとも。

 俺はこんなところで死ぬわけにはいかない。

 

「……マスター。どうするつもりだ?」

 

 気づけば隣に()()()引きずったアヴェンジャーが立っていた。

 どれほど悲惨な戦いだったのか、腕を失い、片目を喪失し、中身が片足がわりになっていた。

 

「よぉ。どうしたその姿」

「カルデアに味方したサーヴァントどもだ。……まさか、私がここまでやられるとは」

()()か?」

「……ふん、消し炭にしてやったわ。矮小な存在にして、それでもなお武器を手に取る。蛮勇とでも言うべきか」

「褒めてやれよ。せめてな」

 

 俺は笑って、ポケットから一枚のカードを取り出し渡そうとする。

 だが彼女はそれを拒否して、俺の隣で地上を見つめた。

 どこか悲しげな目で、世界を見ていた。

 

 俺は右手に刻まれた令呪を見て、パスがいくつか途切れていることに気づいて少女に聞く。

 少女はその質問に対して、地上を見つめながら答えた。

 

「みんなどうなった?」

「……全員死んだ、と言うべきか? アサシンは命令をこなしたさ。だが貴様があの時、あんな命令を……いや、言うまい。この世界はもとより歪だった」

「ははっ、言えてら。……アヴェンジャー、俺は死ぬわけにはいかねぇ。死にたくねぇ」

「……そうか。ならば命令しろマスター。貴様の令呪、今は受け入れよう」

 

 静かながらも、遠くを見据えたその目で彼女は語る。

 令呪、英霊に対する絶対の命令権。

 今までまともに魔術すら効かなかった彼女が、それを受け入れると言った。

 

 ならそれに、俺も応えるだけだ。

 どんな犠牲を払おうとも、もう突き進むしかないのだから。

 

「アヴェンジャー……令呪をもって命ずる。総て喰らい尽くせ。人類史も、この世界も。もう不要だ。奴らごと全部、喰らい尽くしてやれ」

 

 右手に刻まれた令呪、最後の赤い印が消えると同時に、アヴェンジャーの体に魔力が満ちる。

 ニヤリと笑みを浮かべたアヴェンジャーは一歩ずつ前へと出て、崖っぷちに立つ。

 そして振り返って満面の笑みで俺の方を見た。

 

「マスター。貴様との日々はなかなかに刺激的だったぞ。生前、貴様と出会えていたのならば……そう幾度となく考えたが、この出会いもまた運命の一つ。また会おう! マスター!! ()()消えるが、我が大いなる翼は捥がれようとも地に堕ちることはない!!」

「こういうときゃ、また生きて会おう、だろうが」

 

 俺は自然と出た笑みを手で拭って押し消して、落ちて行くアヴェンジャーに背を向ける。

 

 戦いが始まる。

 全てを決する戦いだ。

 

 藤丸 立香。

 人類最後のマスター。

 

 奴を倒し、その先へ行くまで俺は死ねない。

 死ねないんだ。

 

 

 

 クリプターとして始まったのは、いつだったか。

 随分昔だったような気がするし、一年前のことだったような気もする。

 だがどちらにしろ、あの日、あの時。

 この世界に来てアヴェンジャーを召喚した日。

 

 全てが始まったのだ。

 

 

 

Lostbelt No.0『存在証明大陸 ムー」

■■の■■■を知らぬ者たち

 

 




なおネタバレを防ぐため、消せるコメントは消してあります。


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前日譚/革命前夜と七騎のサーヴァント
プロローグ


『──選ばれし君たちに提案し、捨てられた君たちに提示する』

 

『──栄光を望むならば、蘇生を選べ』

 

『──怠惰を望むならば、永久の眠りを選べ』

 

『──神は、どちらでもいい』

 

 

 

 

 

 ──その世界は既に終わりを遂げていた。

 世界として、ではなく『人類史』として、終わりを告げていた。

 人は知性を失い、考えることをやめ、畜生へと回帰した。

 

 七つの異聞帯、に加えて一つ、太平洋のど真ん中に浮かぶ新たな異聞帯。

 そこはキリシュタリアでさえ予想できなかった、生物の存在が歪な島である。

 

 かつて存在していたであろう文明は滅び、見たこともないような生き物が闊歩する。

 奴らは言葉を話す、意思を持っている。

 だが人間ではない、『真似事』が得意なバケモノだ。

 バケモノが人間と生物と、世界を支配していた。

 

 俺はそんな世界に秘匿者(クリプター)として立っていた。

 

 世界を救う、そんな大層な目的のために俺はAチームへと、カルデアに来たわけではない。

 俺は知識を求めてカルデアへと来た。

 だがあまりにも呆気なく、そして()()()()()()爆発は、俺とAチームの皆を殺した。

 

 しかし生き返った、異星の神とやらの選択肢によって。

 糞食らえとでも言うつもりだったが、まだ目的を果たせていないことを思いだした俺は生き返ることを選んだ。

 そして同じく生き返った七人のクリプター、Aチームの皆とともにキリシュタリアの『競い合い』に参加させられることとなった、のだが。

 

 競い合いとか興味はないから、いずれ辞退するつもりだ。

 ただ異聞帯、この世界自体は利用する気だけど。

 

 日本式の小学校を思い出させる崩れた建物の屋上。

 蔦が絡まり、植物が生え、既に文明は過去のものへと。

 

 山の上に建っていたであろう建物の上で、世界を見下ろす。

 ムー大陸、空想上の島、存在しない大陸。

 だがこの異聞帯ではどうやら、存在してしまったらしい。

 

 何か起きたのかはひとまず置いとき、この世界の現状はだいぶやばい。

 人類史として見れば、終わりを迎えていると言っても過言ではないだろう。

 ここはちょっと日本っぽい文明だったんだろうが、もうとっくのとうに植物に覆われて滅びきっていた。

 そして人間はよくわからん生き物に支配されている。

 

 で、この生き物が硬いのなんの、ありとあらゆる重火器を試してみても死ぬ気配がない。

 見向きすらしてこなかった。

 

 一応人間たちには言葉が通じるらしく会話は可能。

 だがまともに話す気がない、と言うよりも話せない様子。

 生き物たちが監視しているのだろうか。

 

 ちなみに俺は魔術で逃走して姿を隠している。

 見向きもしてこないものの、なんとなく見つかったら怖いなー、と思ったからだ。

 

「……んー、まぁ。まずはサーヴァント召喚して、この世界をどう変えるか考えるべきだよな」

 

 懐から取り出したチョークで床に適当に書き連ねて行く。

 サーヴァントってのはどんなものか大体知識では理解している。

 が、実際に見たことない、その点ついてはちょっと楽しみと言えよう。

 

「詠唱、なんだっけ。まぁ、いいや。『眼』で繋げて適当に呼び出せば……いや待てよ。それじゃ面白くないし。サーヴァントは……そうだな。ブリテン関連のやつがいい。強くて、面白い。ならまずはあいつ(ベリル)の異聞帯を『観測』して……縁を繋げればいいか。えっと……素に、()と鉄、だっけ──」

 

 

 

 その男は兎にも角にも、適当だった。

 興味のないこと、楽しくないこと、面白くないこと。

 そして、大切なこと以外。

 

 だが彼は適当であっても、『天才』だった。

 キリシュタリアとは別ベクトルの『天才』だ。

 魔力量も一族、いや魔術師の中でもかなりのモノ。

 彼の知識とその魔力量が合わさり、大抵のことは適当にやってもなんとかなっている。

 実際、数百と言う魔術師相手に、片手間で()()()()()()()()無傷で生存している。

 

 そんな彼は高校生、日本に住んでいる時、あることがきっかけで世界を放浪する旅へと出る。

 きっとその時、彼は魔術を捨てるべきだった。

 

 だが捨てることなどはできなかった。

 だって、魔術が好き(嫌い)で、楽しく(漠然的)て、面白い(否定的)だから。

 

 世界各地で生きるために人を救い、新たな魔術を生み出し、そしてマリスビリーに目をつけられる。

 その結果がこれ、Aチームとして選ばれた爆死。

 未来を見えるはずの目を()()()彼は、自身の死に驚き笑って、拒否をしようとした。

 だが彼は思い出す。

 

 何か、成し遂げなければならないことがある、と。

 それはつい最近の話なのに、思い出せない。

 思い出せないから思い出す。

 そしてそれは世界を救うよりも、人類史を塗り替えることよりも、なによりも大切だと。

 

 ──彼は生き返る、自身のために。

 

 ──彼は改変する、誰かために。

 

 ──彼は呼び出す、目的のために。

 

 

 

「抑止の……輪より来い、天秤の守り手」

 

 あまりにも適当に練り上げられた召喚陣は、大きな極光を弾き出す。

 男は一瞬、眩暈(めまい)を感じてフラつきつつも、右手の甲に令呪が宿ったことを確認する。

 そして魔力を込めた召喚陣を一瞥すると、そこには何かが立っていた。

 

 外見は、言ってしまえば、そう。

 本来ならばブリテン異聞帯でしか成立しないはずの、妖精騎士ランスロット、又の名をメリュジーヌ。

 だが彼はその少女が何か、もっと、別のものに見えていた。

 

 魔力量は彼の目で見える限りで言えば、ただのサーヴァントかどうかすら疑うレベル。

 中身が見えないのだ。

 

 そんな少女はひたひたと足音を立てて、圧倒され呆然と立っている男へと近づく。

 

「召喚に応じ、参上した。貴様が私のマスターか?」

 

 男は笑って頷く。

 きっとこれならば、先へ進めると。




真名:???
クラス:???
異聞帯で成立したサーヴァント、メリュジーヌを依代としたサーヴァント。
霊基があまりにも大きすぎたため、彼の注入した魔力では少女の体での擬似サーヴァントしか召喚できないかった。
何故か足元は白い影が蠢いているが、これは実体のない何か。
召喚された直後は元がそうであったが故に真っ裸である。
真名は不明だが、別段隠そうとも思ってはいない。
ただ思想諸々は人間寄りのようで、ふざけて真名を隠しているところがある。

彼はメリュジーヌの必要があった、それは唯一適合する体だったからだ。


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第1節:一人目のサーヴァント

 さてさて……随分と可愛らしい姿のサーヴァントが、一糸纏わぬ姿で御出でなさったな。

 ブリテン関連のサーヴァントを呼び出したはずなんだが……まぁ、異聞帯に無理やり繋げたわけだし、こういうことも起きるか。

 結構な無茶やったから頭痛は酷く、座り込んでから立てる気がしないが気分はいい。

 かなり満足している。

 

「ふむ……貴様が私のマスター、だな?」

 

 呼び出したサーヴァントの少女は、興味深そうに周囲を見渡して俺に問いかけた。

 俺はその問いに頷くと、少女は振り返って大地を見渡す。

 

「なるほど。随分と歪な……理解した。名を聞こうか、マスター」

「俺の、名前──? ……あー、ちょっと待ってくれよ。今思い出す……」

「……?」

 

 俺の発言に彼女は不思議そうな目で見つめてきた。

 

 思い出す──、というのは別に語弊でもなんでもない。

 本当に今、思い出そうとしているのだ。

 

 何事にも代償というものは必要だ。

 代償無くして手に入るものなど何もない。

 現代なんて最もそれを表していると言えるだろう。

 

 人はその身を削ってお金をもらう、お金を消費してものを手に入れる、ものを消費して人はまたその削る。

 循環とは言え、そこには確かに代償というものが存在している。

 

 俺の利用する魔術の根幹もそうだ。

 何かしらを代償として発動させる。

 

 今回代償となったのは記憶の一片。

 それが『名前』だった。

 

「……分からん。なんだったか……」

 

 ポケットを適当に探ってみるも、出てきたものの名前欄は酷く濁ったような形をしていた。

『俺の名前』という概念すら消え失せたというべきか。

 

 名を失ったことを実感し、失笑しているとサーヴァントは納得したような笑みを浮かべる。

 そして俺の目の前まで歩いてくると、座り込んでいる俺の頭に手を置く。

 何してんだ、という間も無く、彼女は俺の頭を撫でて言った。

 

「名を失う、か。随分と面白いものだな。マスター」

「そうか? お気に召したようでなにより、だ」

「……()()()()()。今からそう名乗れ」

 

 そう言った彼女は、頭から手を離し踵を返すと、足元に引きずっていた()()()()()()()()()を身に纏う。

 と言うより、影の方から纏わり付いてきた、と言うべきか。

 それは一瞬にして漆黒のドレスのようなものを作り上げる。

 

「マスター、貴様の目的はなんだ」

「俺は……俺にはやることがある。あるはずなんだ」

「それすらも忘却したか。それでいてなお、進み続けるか」

「やるべきことは、やらなきゃな」

「……そうか。ならばそれを思い出すまでの間、準備は整えておくべきだろう。カルデアは……ふむ。()()()()()言うところのロシアか?」

 

 そうか、ロシア……カドックのところか。

 あいつも大変だな……ってちょっと待って。

 

「カルデア? なんでお前、それを知って……」

「少し未来を覗いただけの話だ、気にするな」

 

 未来を覗いただけって……千里眼の類だろうか。

 だが英雄とか詳しくない俺が考えてわかるものではないだろう、と俺は思考を止める。

 今は彼女の言う通り、準備を整えるべきだ。

 

「マスター、貴様が決めろ。まずはどうする?」

「まずは……そうだな。もう何人かサーヴァントを呼んでおきたい。なにが起こるかわかんねーしな」

 

 と、俺は彼女の隣に立って地上を見下ろす。

 文明は滅び、地表は緑に覆われた。

 だがそこにあるのは確かな異物。

 その異物をまずは取り除く、そしてそのためにはサーヴァントの用意が必要だ。

 

「賢明な判断だ。この異聞帯程度ならば私一人でもどうにかなるが──」

 

 遠くを見据えた彼女は、少し険しい顔をする。

 

「この霊脈の数。奴らにとっては格好の的だろう」

「わかるのか?」

「大体だがな。だが奴らがこれを利用しようと言うものならば、私たちにとって痛手であることは間違いない」

「……早めに潰しておくべきか」

 

 だが潰すにしても、どうするべきか。

 使用してしまうのが一番早いだろうか。

 

「サーヴァント召喚して、先に使うってのは?」

「……あまり勧めないな。霊脈の量が尋常じゃない、まず神代でもあり得ない数だ」

「なるほどな……なら、人間を利用する手に限るか」

 

 と、なると。

 あのバケモノどもに支配されていた人間。

 奴らを利用し尽くしてやるか。

 

「なにをするつもりだ?」

「面白いことだな。だが何かを始めるには、まずはあそこ目指す必要がある」

 

 そう言って俺が指をさしたのは、遠くにそびえ立つ空想樹だった。

 霧に覆われ、その存在が()()されているようにも見える、遥かなる樹。

 

「空想樹か。ならばいくつか点在している霊脈を辿るとしよう。英霊を呼び出すのにちょうどいいものがいくつかある」

 

 そこまで伝えて歩き出そうとした彼女を俺は呼び止める。

 なんだと言って振り返る彼女に、俺はその名を聞いた。

 

「真名、聞いておきたいんだが」

「……ふっ。今伝えても面白いものでもあるまい」

 

 俺はステータスを覗き見ようとするが、何か靄のようなものがかかっていてみられない。

 唯一見られたのはそこに内包されたスキルだけだった。

 それも唯一つのスキル。

 

『境界の心臓:EX』

 

 ただこれだけだった。

 当然こんな情報だけじゃ、なにもわかるはずがなく。

 

「じゃあ、せめてクラスだけ」

「クラスか。まぁ、それならばいいだろう」

 

 少女は足元に広がる影のように白いものを大きく広げる。

 まるで翼のように、空を飛ぶ竜のように。

 

「私はただの復讐者。王に、人に、魔術師に──、アヴェンジャー。それが私のクラスだ。と言っても、霊基的にランサーの方が近いのだが」

「アヴェンジャー……エクストラクラスか!」

「そうだな。本来召喚に応じる身でもないのだが……この異聞帯ではそうもいかないらしい」

「どう言うことだ?」

「すぐに嫌でもわかるさ」

 

 と言ってたアヴェンジャーはそれ以上語ろうとはしなかった。

 俺も無理に聞き出そうとは思っていなかったから、取り敢えず話を終えて歩き出すことに。

 

 そんなこんなで、異聞帯探索と新たなサーヴァントを仲間にする旅が始まった。

 この世界の歪さを知ることなく。




境界の心臓:EX
アヴェンジャーの保有するスキルの一つ。
このスキル自体、かなり変化した果てのものであり、元は『ドラゴンハート』だった。
だが彼女の霊基そのものを、別の霊基で上書きした結果、こんなものが生まれてしまうことに。
その特性は■■と■■の結びつけ。
それは■■■■■の願いの果てを叶えるためのもの。

なんせそれを、彼は成したのだから。


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第2節:困難故に試練

 歩きだしてからしばらく。

 先ほどまでいた建物が見えないところまで来たところで、俺はあることを思いついてしまった。

 

「さっきサーヴァント召喚するとか言っちゃったけどさ。俺、耐えきれんのかな」

「それは肉体的な意味か。それとも魔力的な意味か」

「どっちも」

「……ふむ。耐えきれるかどうか、で答えるとするならば……無理、と言わざる得ないだろう。だが……」

「だが……?」

 

 と言ったところで少し長考したのち、俺の顔を見て答える。

 

「召喚に乗じれば、結びつけるだけで済む。耐えきれるはずだ」

「乗じる? なんだそれ」

「霊脈についた時に説明しよう。今は取り敢えず最寄りの霊脈を目指すべきだ」

 

 なんかトイレ感覚だな……なんてくだらないことを頭に思い浮かべる。

 この異聞帯、ジャングルみたいなのばっかで道が存在していない。

 ところどころ塗装されていたであろう道が見えるのだが、すぐに途切れてしまう。

 辿ったところでろくな道もないしで、アヴェンジャーだけが頼りだった。

 

 アヴェンジャーは足元に広がる白い影を、遥か上に伸ばしている。

 木々がそびえ立つジャングルの、木よりも高い位置に。

 でもなんかよくわからんが、この影おかげで進めているらしい。

 観測塔みたいなものなのか。

 

「霊脈ってたくさんあるんだろ?」

「観測できただけでも、目眩のする程の数だ。と言っても、召喚に使えるほどの質があるかと問われると否だ。マナの濃度も場所によってチマチマ変わっているようだしな」

「マナの濃度ねぇ……」

 

 俺の身体に影響がなければいいのだが。

 一応魔術で……いや、する必要もなさそうだ。

 

 アヴェンジャーは俺の足元を囲うように影を置いている。

 多分守ってくれているのだろう。

 

「要は、今から行くのはちゃんとした英霊が召喚できるとこ、ってことだろ?」

「ああ、それが正しい」

 

 頷くと同時に、観測塔の役割を果たしていた影が飛んで行く。

 なにを……と思う前に、影は何やら肉片を突き刺したまま戻ってきた。

 その肉片から滴る血を見て呆然としていると、アヴェンジャーは立ち止まり観測塔を手元に寄せる。

 

「ふむ……生物構造自体は汎人類史とそこまで変わらん、か。だがどちらかと言えば、私の世界に近いか……?」

「え、なにそれ?」

「この異聞帯の……豚、か?」

「なんで疑問形なんだよ……」

 

 肉片は明らか様に生物の姿を保っていなかった。

 確かに四本足はあるのだが、その皮膚は硬く硬化しており、口から剥き出しになった牙は恐ろしく尖っている。

 垂れている舌はザラザラと牙のようで、鼻に関してはどこにあるかわからない。

 とにかく豚のような生物でないことだけは確かなのだが、アヴェンジャーはこれを豚と言い張った。

 

「内部構造的には確かに豚なのだが……生物が独自に変化した……? 一応食えるようだぞ、マスター」

「……まぁ、貴重な食料ってことで」

 

 俺はポケットから一枚のカードを取り出す。

 そしてそのカードを豚(仮)に突き刺して、軽い詠唱を唱える。

 すると豚の肉体はスルスルと流れるようにカードの中に吸い込まれていった。

 残ったのはカードのみ、アヴェンジャーは少し目を見開いて聞いてきた。

 

「なんだそれは」

「ん? ああ……まぁ、なんつーか。()()()()だな。置換魔術の応用……だったかな」

「ほう。にしては少々異質に見えるが?」

「だろうな。俺はこいつを『簡易魔術』と呼んでいる。取出(アウト)だけなら誰でもできるし」

「誰でも? 魔術師じゃなくてもか?」

「ああ、仕組み的にはプログラミングと同じだよ。一定の行動に対してこうなる、と予め取り決めておくだけでいい。魔力を込めるのは魔術師(こっち)の役割だ」

「……考えるのは容易いが、それを為し得るのか……」

 

 アヴェンジャーは俺の言葉に少しブツブツと考え始める。

 その間も警戒を崩すことなく、それどころか警戒を高めていた。

 どの程度の力があるかはまだ見ていないが、頼り甲斐のあるサーヴァントだ。

 信用できるかはさておき。

 

「容量は。どの程度収まる」

「そうだな……生物はダメだ。生きていると不都合が起きる。容量的には……大体人間サイズだな。そこまで大きなものは収納できない」

「中身はどうなっている。保存状態の方は?」

「分解と再構築を利用してるだけだから、保存状態は……ってなんでそんなこと聞くんだよ」

「……少しな。一枚、カードを貰えるか?」

「いいけど……」

 

 コートのポケットから一枚カードを取り出してアヴェンジャーに手渡す。

 受け取ったアヴェンジャーは、カードを凝視してから影へと落とす。

 カードはそのまま音を立てることもなく、影の中へと入っていってしまった。

 

「ふむ。魔術にも適用できるか……兵器利用は容易そうだな……大体理解した。行くぞ、マスター」

「お、おう……?」

 

 何か勝手に理解した様子のアヴェンジャーは、影を上に伸ばし引き続き歩き始める。

 

 長々と解決をしたが、結局のところカードに入れるだけの魔術だ。

 マリスビリーに呼ばれた理由もこれが主だったりする。

 奴がなにをするつもりだったかは知らねーけど、これによく興味を持っていたのは覚えている。

 

 少しそのことについて考え巡らせていると、突然アヴェンジャーが前の方を指差す。

 

「マスター、もう少しで着くぞ」

 

 指をさした方を見れば、蔦が絡まったコンクリート製の建物が一つ。

 どこか異質な雰囲気を纏わせて、そこに確かに存在していた。

 

 だが、止まっていても始まるわけじゃない。

 取り敢えず入ろうとしたところ、アヴェンジャーに呼び止められる。

 

「マスター、サーヴァントの召喚は私がする。契約は貴様がしろ」

「え、そんなことできんの?」

「ああ。無理やりだが繋げることは可能だ。まぁ、どこの英霊が来るかはわからんがな」

「別にその辺り詳しくないから構わないが……召喚、できるのか?」

「神霊程度までならば」

「おまっ……」

 

 神霊を()()と呼ぶか。

 一体どんな英霊ならばそう呼べるんだよ。

 

「……まぁ、つまり任せておけばいいってことだな」

「そういうことだ。行くぞ、マスター」

 

 そう言うと勝手に先々と進み出す。

 俺は少し慌てながらも、その背を追って走り出す。

 だが建物に入った瞬間に俺とアヴェンジャーは思わず足を止めた。

 止めてしまった。

 

 だってこれは、こいつは。

 異様だ。

 

「……んだよ、これ……!?」

「っ……これは。少しばかり、驚かされるな。これが異聞帯か」

 

 建物の内部、その壁と天井に敷き詰められるように描かれていた。

 ()()()()()()()()()()()()()が。

 そして中心地点には骨が数個、数える程度に置かれている。

 

 俺は恐る恐る先へと進み、アヴェンジャーはひたひたと真っ直ぐと骨へ向かう。

 骨を拾い上げたアヴェンジャーは俺に見せつけてきた。

 

「マスター、こいつを見ろ。()()()()()()()

「劣化してない? なんでだよ」

「わからん、が。少なくともこれは停滞を意味している」

「停滞、か」

 

 全くわからんが、深刻そうな顔を見るに何かまずいのかもしれない。

 

 俺がそのことについて聞こうとした瞬間、入口方面から唸り声のようなものが響く。

 思わず俺たちは振り向くと、そこには一人……いや、一人と一匹が立っていた。

 間違いなく片方は、俺がこの世界に来た時に見たバケモノだ。

 

 だがもう片方は? あれはなんだ? 

 少なくとも人間ではない。

 

「……英霊、ではないな。貴様」

「……ァ、ァア──、ッ!」

 

 声のようなものをあげた人型は、手に剣のようなものを握って飛び出す。

 俺は咄嗟に簡易的な魔術で、その動きを捉えようとした。

 だが見えない、恐ろしく早い。

 気づけば奴の剣が眼前にて、振り下ろされる──

 

「触れるな」

 

 と言うところでアヴェンジャーは俺の足元から影を伸ばし防ぐ。

 かなり重そうな一撃だったが涼しい顔をして剣を防いでいる。

 

 正直死ぬかと思った。

 やっぱアヴェンジャーはただならぬ英霊みたいだ。

 

「……なっ!?」

 

 いくつか影を飛ばし人型を突き刺そうとするが、奴は大きく弾いて距離を取ると、剣を振るってその全てを防ぐ。

 アヴェンジャーは驚いたような声を出して、ただ奴を見つめていた。

 

「アヴェンジャー、どうした!?」

「あれは、なんだ?」

「あれ、って……わかんねーよ! 少なくともここにいる……」

「違う!! あれは()()だ! この異聞帯によって生み出された、()()()()()英霊だ!!」

「なんだと……!? あれが、英霊!?」

 

 俯いて唸り声のようなものを出す人型を見ながら、俺は驚きに声をあげる。

 まず少なくとも人間の類ではない。

 英雄などと呼べる生き物ですらない。

 

「少なくともそう定められている! だが、正規の手順を踏んだものではないことだけは確かだ!! パスはあのバケモノ繋がっている!」

「おいおい……!? でも、それって……!」

「ああそうだ。話は簡単だ。あのバケモノを殺す」

「だが一筋縄で行くようなやつでもないぞ」

「そうだな……あれ一匹で、トップクラスのサーヴァント並みの力があることは確かだ」

 

 あれ一匹でトップクラスのサーヴァントかよ……。

 俺の異聞帯でこれって、他の異聞帯もなんか心配になってきたな。

 まぁ、今現在で言えば一番やばいのは俺なんだが。

 

「今の私では……マスター。少しでいい、魔力を回せ」

「何するつもりだ?」

「武器を出すだけだ。令呪を使う必要はない」

 

 俺は言われるがままに、繋がったパスを元に魔力を流す。

 アヴェンジャーは構える奴らを見つめながら、手を前に出してその名を呟いた。

 

「【偽称・無垢なる湖光(アロンダイト)】」

 

 影が集まり、一本の剣の形になったかと思うと、その中から一本の剣が生まれ出た。

 白く輝く片手剣。

 それを手に取るとアヴェンジャーは奴らと対峙して構える。

 

 アロンダイト、流石の俺もその名は知っている。

 かの円卓の騎士の一人、ランスロットの保有する聖剣だ。

 なんであんなもの生み出せるんだよ……と言う小声の疑問は、バケモノと英霊、そしてアヴェンジャーとの開戦による轟音によって掻き消されたのだった。




偽称・無垢なる湖光(アロンダイト)
宝具ランク:C+++
対軍宝具
メリュジーヌの持つ宝具【今は知らず、無垢なる湖光(イノセンス・アロンダイト)】を独自のものとして変異させたもの。
サブの宝具ですらなく、取り敢えずちょうどいいのがあったから使っているだけらしい。
偽物ではあるのだが、聖剣としての性質は帯びており、聖剣に対して敗北した逸話を持つ英霊によく効く。
ちなみに最大で百本近く生み出せるようで、一本一本を影で操れる。
故に対軍宝具とされている。


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第3節:二人目のサーヴァント

 戦いはあまりにも圧倒的、と言っていいだろう。

 アヴェンジャーが自身の影に飲み込まれたかと思った瞬間、英霊らしきものの奴の背後で剣を振るう。

 かと思えば、バケモノの上に立って剣を突き刺しては、奴らに捉えきれない速度で攻撃を繰り返して行く。

 俺も次第に目で追えなくなっていた。

 

 距離は結構離れているし、少なくともこっちに被害はないだろう。

 多分。

 

「……まぁ、任せて大丈夫そうだな!」

 

 と、言うわけで俺は召喚陣の調査を始めることに。

 空のカードを五枚取り出し、周りにパッとばら撒く。

 するとカードは自然に五芒星の配置に。

 一枚のカードから適当にチョークを取り出し、その上をなぞって五芒星を描く。

 

 簡易的な術式だ。

 大規模な魔術に割り込む時とかによく使う。

 と言っても、そんな事態が起きることはほとんどないんだけどね。

 

「魔力の流れを追って……まずはいつ利用されたか、何が召喚されたか、追って行くか……」

 

 どうやらこの召喚陣、つい最近使われていたようだ。

 魔力の痕跡が残っている。

 と言うことは、少なくとも魔術が使える人間がいた、と言うことだろうか。

 

 ただ……異聞帯だからなぁ。

 何が起こるかわかんないし、これがどう言う意図で作られたのかすらわからない。

 本当にただの英霊召喚に使われたのだろうか。

 

「まぁ、せめて、どんなのが召喚されたのか、ぐらいはわかるだろ」

 

 召喚術、儀式に基づいて行われる魔術の一つ。

 特殊な経路を辿って調べれば、どう言った存在が召喚されたかぐらいはわかるはず。

 それ以外にも召喚陣自体を見てみたりとかな。

 

 ……これは、なんだ? 

 少なくとも、俺がアヴェンジャーを召喚するときに利用した、カルデア式召喚システムとは毛色が違う。

 まぁ俺の場合、あれの上に自分の術式を重ね合わせて使っているのだが、それは置いといて。

 

 とにかくまずわかることは……こいつは、英霊を召喚するものであると言うこと。

 これだけは間違いない。

 

 だが少なくとも汎人類史のものとは違う。

 根本的に違う。

 

 英霊を召喚すると言うより……英霊を()()()()()()もののような。

 

「……ん? なんだ、これ。いや、まさか……これって、マジか……!?」

 

 この召喚陣、俺の予想をはるかに越すものだった。

 これは()()()()()()だ。

 使い方は一つじゃない、入れるのだって機能の一つに過ぎない。

 

 普通に英霊を召喚することだって可能だ。

 汎人類史よりも簡単に。

 

 だがそれ以上に、これには恐ろしい機能が備わっている。

 それは召喚した英霊の()()……擬似的な機能。

 調べた限りでは、それが判明した。

 

「……どうなってんだ?」

 

 これが異聞帯か、と歓喜の感情が沸き立つ。

 汎人類史より遥かに進んだ文明、知識、魔術。

 まさしく俺の求めていたものだ。

 

「どうした。マスター」

「うぉっ!?」

 

 突然間近で声が聞こえて、俺は驚き少し後ろによろける。

 そしてカードを回収し、チョークで書いたものを消しながら聞く。

 

「アヴェンジャー……終わったのか?」

 

 さっきまで戦っていた入口の方を見ると、かなり悲惨なことになっていた。

 あっちこっち崩れかけており、黒い血のようなものが飛び散っている。

 だがアヴェンジャーが無傷なところを見るに圧勝だったようだ。

 

「怪物は退けた。死ぬまで戦うつもりはなかったようだし、それに……」

「それに?」

「奴は……まるで、()()()()()()()()()()()()()()。貴様に被害が及ばないように立ち回って戦っていたのだ」

「なんでそんなことを……」

「……さぁな。だが、有意義なことがいくつかわかったぞ」

 

 そう言うと少し遠くに伸びていた影が、ズルズルとこっちまで戻ってくる。

 影は謎の黒い英霊が握っていた剣に巻きついていた。

 

「それは……さっきのやつが持ってた剣、か?」

「ああ。英霊の方は消し炭にしたが、何故かこっちは消えなかった。そして一つ、訂正をしよう。存在しない英霊と言ったが、違った」

「と言うと?」

「あと英霊はセイバー……()()()()()だ」

「なっ……!?」

 

 ガヴェイン、円卓の騎士の一人にして忠義の騎士、太陽の騎士。

 太陽の下ならばそのパワーは三倍まで引き上げられるとか言う、英霊でも相手にしたくないやつの筆頭だ。

 そんな奴を相手に……。

 

「ん? ま、待て。何故そう断言できる?」

「単純な話だ。一度戦ったことがある」

「え?」

「……その辺りの話をするとややこしくなるからまた話すが、ともかく。あれは英霊ガヴェインだった。そう断言しよう。ただし()()()()()だが」

「中身だけ……?」

 

 アヴェンジャー曰く、それは宝具は使えないし、英霊としての逸話も通用しない。

 ただ技術だけを持ってきた、中身だけの英霊。

 それがさっきの奴の正体らしい。

 

「全く。どうやったらあんなものが召喚されるのか」

「……もしかしたら、この下のやつかもな」

「なんだと?」

 

 俺は先ほど発見した入れる機能について話す。

 アヴェンジャーは少し考えたのち頷いて、召喚陣に触れた。

 

「少なくともまともに使えるものではある……が、なるほど。入れる機能……デミサーヴァントの要領か……?」

「デミ……つーと。マシュちゃんみたいなもんか……?」

「誰だそれは」

「まぁ、知り合いみたいな。少なくとも俺たちの敵だな」

「ほう……」

 

 そういやマシュちゃん元気にしてっかな。

 出会った当初はかなり素っ気なかったし。

 

 マシュちゃんの顔を思い浮かべていると、アヴェンジャーは召喚陣を確認するように歩き出す。

 

「……昔、この世界で何があったのか。それを確認する手段が欲しい」

「だな。あまりにもおかしい……と言うか、やばい、と言うか……」

 

 もし知れれば、俺の目的に一歩近づく。

 すぐそこまで近づいている。

 自然と笑みが出そうになったところで、アヴェンジャーは突然影を動かして部屋中に張り巡らせる。

 

「うぉっ……!? な、何してんだ!?」

「英霊を召喚するのだろう? その準備だが……」

「あ、ああ。そうか……」

 

 俺はアヴェンジャーの隣に立つと、アヴェンジャーは召喚陣をなぞるように影を動かして行く。

 次第に召喚陣をなぞるように光が溢れ出す。

 詠唱すらなく、召喚の兆候が見え始めていた。

 

「これ、はっ……!」

「だ、大丈夫か!?」

「私を気にしている暇があるならば、契約の詠唱をしろ!」

「お、おう……!」

 

 光り輝く召喚陣に手を向け、簡易的な詠唱をして行く。

 令呪で契約するための詠唱だ。

 

 魔力が外側に流れて行く感じ。

 パスの繋がった感覚。

 

 俺はそれを全身で感じ、体力が奪われたことで膝をつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 召喚陣から、さらに光が溢れ出す。

 

 ただの光ではない。

 召喚されるときに出る光だ。

 

「な、に……!?」

 

 アヴェンジャーは想定外のことなのか、驚きに声を上げて影を自身の足元に戻す。

 だが召喚陣から光は止まない。

 

「マスター、契約は?」

「できて、いるが……! これは、なんだ……!?」

「分からん。だが、この魔力の流れ……英霊が広範囲で、()()()()されるぞ!」

 

 そう言い切ると同時に、光は周囲の光景を塗り潰す。

 だがそれも一瞬のことで、次の瞬間には光が止んでいた。

 俺はゆっくりと目を開いて、目の前で召喚されパスの繋がった英霊のその姿を見る。

 

「召喚に応じ参上しちゃいました! クラス、アーチャー! しがない英霊ですが、よろしくお願いしますね!」

 

 そこにいたのは中世時代の兵士を、超軽装化させたような格好をした少女。

 腰に鉄製の剣を片手に大きな弓を携えて、そこに立っていた。




グウィバー
自分の名前を覚えていない八人目のクリプター。
何かしらの目的を持ってカルデアに来た。
異聞帯ならばそれを叶えるのにちょうどいい環境であると喜んでいる。
髪は真っ黒であるが、実はこれは染めたもの。
本来の髪は汚れ一つない純白の髪色らしい。

子供の頃の記憶は一切なく、ただ何かやるべきことがあったことだけは覚えている。
今は朧げながら思い出しているところで、忘れていながらも、その目的が進んでいることを実感している。


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第4節:急襲

「ってなわけで! それが私の真名でーす!」

「そ、そうか……」

 

 たった今自己紹介を終え、真名を聞き出した。

 無駄にテンションの高いアーチャー、彼女はどうやら汎人類史の英霊らしい。

 だが力を貸してくれるとのこと。

 契約した以上、雇い主はあなたですから! とのことで。

 

 真名を考えると心強く味方であることは間違いないのだが、なんとも言いようのない不安感が沸き立つ。

 このテンション感のせいだろうか。

 

「無事成功した……と言うには少し、難あり、と言うべきか」

「こんなんだもんな」

「こんなんってどういうことですか!?」

 

 一応信頼は出来ること伝えると、アヴェンジャーは渋そうな顔しつつも頷いてくれた。

 それよりもだ。

 

「アヴェンジャー、パスは()()()()()()()()()()

「なに?」

「複数召喚つったろ。どうやらその時、複数パスが繋がっちまったようだ」

「意図せず、二騎の英霊と契約したということか……」

 

 アーチャーはなにを話しているのかよくわかっていないらしく、首を傾げてこっちを見ている。

 が、説明している時間もないので、一先ず外に出ることに。

 既に陽が傾き始めている、オレンジの空が広がり始めているのを見るに、時間経過に関しては汎人類史と変わらない様子。

 

 完全に暗くなる前に、もう一騎の英霊も見つけておきたいが……。

 

「暗くなるとなにが起きるかは分からん。令呪を使うのも一つの手だぞ」

「最後の手段だな。一応サーヴァントの状態を見るのは……こっちはできるな」

 

 俺はアーチャーの方に視線を向ける。

 そこには確かにアーチャーのステータスが表示されていた。

 基本的な項目は以下の六つ。

 

『筋力:C』

『魔力:D』

『敏捷:A+』

『耐久:C』

『幸運:EX』

『宝具:D+++』

 

 それに加えて、スキルに宝具……だが、宝具に関しては、さっき自己紹介の時に確認はした。

 まだスキルの方は確認していないから、そっちを見るとして。

 

『単独行動:A+』

『対魔力:D』

 

『新緑のカリスマ:A』

『油断なき者:C』

『叛逆者:B+』

(ふくろう)の目:C+』

 

 と言った感じか。

 さて、カリスマ性はどこにあるのだろうか……。

 叛逆者に関しては、彼女の逸話的にも納得のできるスキルと言ったところだな。

 

「……『梟の目』? なんだこれ?」

「ああ、それはですねー。単純に、夜に目が良くなるだけ、ですね! それは『私』個人のスキルです!」

「なるほど?」

 

 ……多分、役に立つんだろう。

 多分な。

 

「で、誰か探すんですよね?」

「ああ、つってもどんな奴かわかんねーけど」

「パスが繋がっていれば、クラス程度はわかるのではないのか?」

「なんか変なんだよ、令呪が。パスが繋がっているはずなのに、どこから来てるかわかんねーんだよ」

 

 確かに魔力で繋がっている。

 少し離れているのはわかるのだが、どこにいるのかと言うのが曖昧なのだ。

 そもそも本当に一騎だけなのか……なんか魔力、二騎分ぐらい持っていかれている気がするんだよな。

 

「アヴェンジャー、その影みたいなのでなんとかできないか?」

「ふむ……やろうと思えばできんこともないだろうが……現状の体では少し無防備になる上に、他の英霊を察知するのが少し難しくなる。私自身攻撃されたところで傷は一つもつかんが、貴様を守ることができなくなる」

「それなら私に任せてください! 襲い来る敵は弓で撃ち抜いてみせます!」

「……だそうだが?」

「そうだな……一応実力の方も見ときたいからな。任せていいか?」

「わかった」

 

 アヴェンジャーはそう言うと、白い影のようなものをじわじわと広げて行く。

 地面を飲み込むどんどん広がって行く。

 その間、アヴェンジャーは目を瞑って一言も喋ることなく、動く気配もない。

 

「ところでこの影、なんなんだろうな」

「マスターさんは知らないんですか?」

「聞いてなかったからなぁ……っと、そういや今何時なんだ?」

 

 空はどんどん暗くなり始めている、夜まであと一時間もないかもしれない。

 アヴェンジャーは……まだ終わりそうな気配ない。

 

「今日はテントだな」

 

 ならば、と野宿するための準備を始めた。

 俺はカードを数枚取り出しながら、アーチャーに確認する。

 

「アーチャー、周りに誰もいないよな?」

「気配は感じませんがー……そこかッ!!」

 

 突然アーチャーは構えていないところから弓を引いて矢を放つ。

 建物の周囲を囲う森の中に一矢が吸い込まれて行き……なにかに刺さる音、そして()()聞こえた。

 

「ぴぎゃっ!」

 

 なんとも言い難い声だが、少なくとも人の声であることはわかる。

 俺は目を凝らして見ようとするが、その前にアーチャーが前に出て弓を引く。

 そして森の方へまっすぐと向けた。

 

「マスターさん、私の後ろに。あれは英霊です!」

 

 俺はテントの入っているカードをしまい、別のカードを取り出す。

 魔術の入っているカードで簡易的な暗視の役割を果たすものだ。

 

 カードを手で挟むとそこから魔術の陣が溢れ出る。

 すると目に暗視の魔術がかかり、周囲の光景が良く見えるようになった。

 

 アーチャーが撃ったのは……うさ、みみ? 

 うさぎの耳が見える。

 うさぎの耳を持った少女が、確かにそこにいた。

 

「ちょ、ちょちょ、ちょっと待ってよ! 撃たないで! なんもしないから!」

 

 少女はアーチャーに矢を向けられたことで、半泣きになりつつ出てくる。

 あれが英霊……なのか? 

 いや確かにうさ耳持っているのは変だけどさ。

 

「何者ですか! 名を名乗りなさい!!」

「そ、それは勘弁してください! クラスはアサシン! に、日本の英霊ですぅ!!」

 

 うさ耳少女はガクブルと震えて答える。

 日本にあんなのいたっけ……。

 と、言ったところで思い出す。

 

「いや、待てよ……もしかして?」

「その、もしかして、ですよ」

 

 一瞬目を離した隙に、うさ耳少女の姿が消え、()()()()()()()少女の声が聞こえた。

 目をつけていたはずのアーチャーも、突如消えたことに困惑して俺後ろに弓を向けた。

 少女は一瞬にして俺のそばまで来ていたのだ。

 

「私は【稻羽之素菟(嘘つき兎の川渡り)】ですので」

「宝具かッ!」

「因幡の白兎だな、テメェッ!!」

 

 一本のナイフが首元に当てられる。

 アーチャーは構えたまま身動きが取れず、俺も少女の上手く絡みついた手足によって動けないでいた。

 

「はいはい、因幡の白兎ちゃんですよ。まぁ、他の英霊も混ざってんだけどね」

「なにが目的ですか」

 

 アーチャーが冷静に弓を下ろして聞く。

 アサシンこと因幡の白兎は、俺の首元にナイフを当てまま言う。

 

「私、こんななりでも汎人類史の英霊みたいでして。そりゃもう、アンタ殺して帰るだけですよ」

「随分と物騒だな……」

 

 とは言ったが、かなりやばい。

 じわじわとナイフが奥へと入り込んで行く。

 それに対してアーチャーは冷や汗一つかくことなく、ただアサシンの姿を見ていた。

 

「……なにもしないんで?」

「したところで、でしょう。動けば殺すつもりでは?」

「どちらにしろ殺しますけどね。後か先かの違いです」

「ならば動くべきではないでしょう……もうすぐ、ですしね──」

「え?」

 

 アーチャーが冷静にそう言うと同時に、アサシンはナイフを手から落とす。

 少し後退りして膝をつき、アーチャーのことを睨んだ。

 

「ま、ひ、どく……!?」

「さっき掠った矢に麻痺毒を塗っておきました。まぁ、当たらずとも別の策はありましたが……」

 

 剣を抜いたアーチャーは麻痺して動くないアサシンのそばに行く。

 

「アーチャー、そいつをどうするつもりだ」

「消しておくべきでしょう。後で障害になられても困ります」

「まぁ、そうだが……その前に、聞いておきたいことがある。因幡の白兎……テメェ、一人だけじゃねぇよな?」

「っ……」

 

 麻痺で相変わらず動けそうにはないし、表情も表に出そうとしない。

 だがわかった。

 少なくとも複数召喚されたサーヴァントたちは、既に集まり始めている。

 まだそこまで時間は経っていないはずなのに早すぎる。

 いや、もしかして……。

 

「俺が来る前から、既に何人か召喚されて……?」

 

 呟いた瞬間、アーチャーは突然弓を引いて後ろの森に向ける。

 その直後に少し遠くから、木々を掻き分けるような音が聞こえる。

 

「った、く……おそ、いん、で、すよ……」

 

 ニヤリと笑みを浮かべるアサシンに、俺は嫌なものを感じて音のする方を見る。

 音はどんどんと大きくなっていた。

 

「なにか、なにかが来ます! マスターさん!!」

「やれッ! アーチャーッ!!」

 

 カードを一枚取り出し、カードから西洋の剣を取り出すと因幡の白兎に向けて振るう。

 それと同時にアーチャーが矢を撃ち放った。

 

 

 

 だが森の中から現れた人物の手によって、アーチャーは大きく()()()()()()、俺の手にあった西洋剣はへし折られてしまっていた。

 そして転がっていたはずのアサシンは、少し離れところで脇に抱えられていた。

 日本式の軍服を着た男によって。

 

「わっ、は、は、は、はッ!! 小娘よ! 些か勇みすぎた!! 我が軍とともに進み行けばよかろうものを!」

「う、るさ、い……です、ね! バー、サーカー、は!」

「バーサーカー! ……また日本の英霊か!」

「日ノ本は沈まぬ! 軍は我とともに!! は、は、は、はッ!!」

 

 あっという間に、一瞬でバーサーカーはアサシンを抱えたまま走り去ってしまった。

 一先ずは……助かった、と言うことでいいのだろうか。

 

 と、それよりも。

 

「アーチャー! 大丈夫か!?」

 

 少し離れ場所で、へし曲がった木にめり込んだアーチャー。

 彼女はむくりと起き上がると、頭をさすってから立ち上がる。

 

「いてて……だ、大丈夫です! マスターさんは!?」

「俺は大丈夫だ。なんとかな」

 

 バーサーカーの走り去った跡を見て、俺はため息とともに座り込む。

 英霊がたくさん出てくる異聞帯か。

 その上、変なバケモノまで。

 

 とにかく英霊たちに関してはなにかしらの対策を立てる必要がある。

 バケモノもいずれ殲滅する必要があるだろう。

 そしてそれに支配されているであろう人間たちも、どうにかしなくては。

 

 これからの色んなことに頭を悩ませる。

 だが悩ませたところで何か進むわけでもないので、アヴェンジャーの調査が終わるまでアーチャーとテントを立てることにしたのだった。




アーチャー
中世騎士を超軽装化したような格好をしている。
露出は少なく、どちらかと言うと着込んでいる方。
基本的な武器は弓矢であるが、いざと言う時剣を使えるだけの実力はある。


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第5節:三人目のサーヴァント

 カルデア、俺たちクリプターが戦うべき相手。

 確かに全滅していたはずだったが生きていたと。

 ちょっとした事情で大西洋異聞帯にいた頃、俺はクリプター会議の中でそう聞かされた。

 

 それなりに衝撃ではあったが、相手は七つの特異点を攻略し、人類史を救ったやつだ。

 何らかの方法で生き延びるとは思っていた。

 

 ともかくそんな報告を聞いた俺は居ても立っても居られず、会議から一ヶ月後の今日、八つ目の異聞帯の太平洋のムー大陸へと来たわけだ。

 別にここに来るのはいつでもよかった。

 競い合いに参加するつもりなんざなかったから。

 だがカルデアが生きていたとなれば話は別だ。

 

 いずれ奴らは異聞帯を潰して周る。

 ならその前に、俺は役割を思い出してそれを果たす。

 自分のやるべきことを。

 

 と言いたいが、それ以前に。

 今現在俺たちは影を広げているアヴェンジャーの隣で、テントの入り口で焚き火を囲んで座っていた。

 思いの外、時間がかかっているようで既に夜。 見つけに行こうにももうどうにもならない時間だろう。

 

 先程入手した豚のような生き物を解体して、なんとか食事に。

 ため息をつきながら呟く。

 

「俺ぇ、会議出れるかなぁ」

「はぇ? 会議ですか?」

「そ。俺の他にも異聞帯を経営してる奴らがいるんだけどさ。今こんな状況じゃん?」

「あー、完全にサバイバルですもんね」

「汎人類史の英霊もいるし、バケモノもいっぱいだし。どうにもなんねーよなぁ……」

 

 一先ず俺たちが安全に住める拠点が欲しい。

 英霊たちに狙われず、それでいてこの世界を見渡せような場所。

 少なくとも英霊に攻撃されなきゃそれでいいのだが。

 

 考えれば考えるほどやることが増して行くようで、ため息も増えて行く。

 俺はそんな考えを切り替えるべく、少し気になっていたことをアーチャーに聞いた。

 

「それよりも。お前はなんで俺に協力するんだ? 契約、つっても自分の住んでいた世界を破壊するような行為だぞ?」

「……契約である。それ以上の意味なんてないですよ」

「なら聖杯に掛けた願いは」

「──、それ、は」

 

 少し黙って俯いて焚き火を見つめる。

 だが少しして星が瞬く夜空を見上げた後、ゆっくり答えた。

 

「私、が。聖杯に掛けた願いは。やり直すことです。なにもかも」

「やり直し、か?」

「確かに私は名を残しました。でも、それはそういった存在の一つでしかない」

「どういうことだ?」

「私以外にもその名前を持つ人間はいるってことです。……まぁ、()()()()()()ですが」

 

 他にもいる、か。

 

「だから女だったのか?」

「基本的には男として伝わってるかもしれませんね」

 

 俺は彼女の真名を聞いた時、性別に関しては違和感があった。

 だがそれは『その英霊』の一人であると考えた時、納得はできた。

 とは言え、数多いる中の一人でしかない、ってのも珍しいような気もしなくはないが。

 

 そこから色々と話をしていたところ、突然白い影が収縮してアヴェンジャーが動き出す。

 少し疲れた様子で座り込む。

 

「……っ。なる、ほど」

「アヴェンジャー、終わったのか?」

「少し、時間がかかったがな……やはり体が馴染みきってないのか……?」

「それで結果は?」

「どこにいるかはわかった。一応こっちに来ているみたいだが……しかしあれは……」

 

 少し言い淀んで首を横に振る。

 よくわかんないが来てるならよし。

 

「そうか……なら、取り敢えず待機だな」

 

 そう言ってアヴェンジャーを手招くと、カードから用意した椅子に座らせる。

 アーチャーは立ち上がると、少し見張りをするとのことで、森の方に行った。

 

 俺は串刺しにして焼いた肉をアヴェンジャーに差し出す。

 アヴェンジャーは少し驚きつつも、受け取って食べる。

 

「これはさっきのやつか。……む? 香辛料……?」

「なんか肉に最初から味が付いててな。手間いらずってやつだな」

「ふむ……なかなか美味しいな」

「だろ」

 

 そっからはこの異聞帯について、これからのことを相談しあった。

 基本的には空想樹を目指し、その道中で霊脈を巡る。

 何騎使役できるかはわからないが、できる限り契約をし味方を増やす方向で。

 

 と言っても、増やし過ぎるのもよくない。

 サーヴァントとは言え思想がある、彼らだって人なのだ。

 令呪があると言え、宝具次第では裏切ることだって可能な奴らだっているはず。

 だから最高でも七騎、それ以上の使役はしないことに決めた。

 

 そして俺はアヴェンジャーにも、アーチャーと同じことを聞く。

 

「アヴェンジャー、お前は汎人類史の英霊だよな?」

「……いや、少し違う」

「と、言うと?」

「少し事情がな」

 

 と言うとそれ以上は語ろうとしなかった。

 少なくとも汎人類史の英霊でないことだけは確からしい。

 だから彼女は味方してくれるのだろうか。

 

「なんで俺と一緒に来てくれるんだ? 汎人類史を破壊……消すようなことを」

「汎人類史に興味はない。私にとってもアヴェンジャーとなったきっかけの人間がいる世界、だからな」

「そうか……まぁ、それはこっちにとっても都合がいいな」

 

 かつて豚のようだったものの肉片に齧りつきながら会話を続ける。

 サーヴァントとマスターってこんな関係なんだろうか。

 どうにも正解がわからない。

 

「なぁ、もし聖杯が手に入ったら、どうする?」

「それは……聖杯に掛ける願いの話か?」

「そう」

「……私は、復讐したい。それだけだ」

 

 まさにアヴェンジャー、そのものと言っていい。

 それはクラスに引っ張られた思想なのだろうか。

 それとも彼女が元々持つ思想なのか。

 今の俺にそれを判別することはできなかった。

 

 そんなこんなでしばらく話し込んでいると、アーチャーが森の中から走ってきた。

 

「アーチャー? どうした?」

「多分件の英霊が来たと思うんですけど、それが、その……」

「……? 取り敢えず迎え入れればいいだろ?」

「はぁ……」

 

 アーチャーは頷くと、森の中に入ってその英霊を連れてきた。

 そこで俺は少し驚いて、アーチャーとアヴェンジャーが言い淀んでいた理由が判明する。

 英霊は()()いたのだ。

 

 男と少女、男は19世紀辺りの作業着を着て、少女は男の足にくっついている。

 見た目から既に近代の英霊ということがわかった。

 

「どうもマスター。俺ァ……いや、俺たちゃライダー。見ての通り近代英霊だが、よろしく頼むぜ?」

「……よろしく」

 

 と言ってピースする二人に、俺は一抹の不安を抱いて、二人をテントへと招き入れたのだった。



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第6節:九騎のサーヴァント

「やはり懸念すべきはラ・ムーか」

「え、なんの話?」

 

 朝、昨日の夜はテントの中で一先ずライダーから真名を聞き出して睡眠。

 真名は……英霊になりそうだなぁ、って感じ。

 使えるのは間違いない。

 

 で、同じく汎人類史の英霊のようで。

 深く考えていたが、頷くと協力すると言ってくれはした。

 少し警戒はしておくべき対象かな、とは考えている。

 

 今は朝。

 起きて朝飯食った直後に突然アヴェンジャーが言い出したのだ。

 

「ラ・ムーって?」

「なんだ貴様、知らないのか?」

「ああ」

「……ラ・ムーはムー大陸にいたとされる王だ。他の異聞帯で言うと……多分、異聞帯の王に該当するのでは、と考えている」

「なるほど?」

「わかってないな、貴様。と言っても、私もあまり知らん。太陽神の化身だとかは聞いたことがあるが、その程度だ」

 

 太陽神か……太陽に関連する逸話を持つ英霊と相性良さそうだな。

 出てくるかどうかはわからないけども。

 ……いや、昨日出てきたな。

 

 なんて話をしながら、サーヴァントたちとともにテントを片付けて移動の準備をする。

 と言ったところでアヴェンジャーが立ち止まって、少し遠くの方を見て呟いた。

 

「……霊基の数が、増えてる?」

「え?」

 

 その言葉にライダー……兄妹の兄の方がアヴェンジャーの隣に立って反応を示す。

 

「やっぱそうだよなぁ。英霊の数が増えてんぜ、こりゃあ」

「増えてる?」

「……昨日はこの大陸に、私たちを除いて四騎程度の英霊がいた。だが今日は……」

「デケェのが二騎、既にいた四騎、そして気づいた増えてた三騎……合計九騎いますぜ。マスター」

「クラスはわかるか?」

「……私たちが、観測した……範囲で、なら……」

 

 そう言うとライダー妹が、どこから持ってきた地図を広げる。

 かなり精度の高い地図だが、どこで手に入れたのだろうか。

 

「こんな地図どこで……?」

「昨日の夜、作った……」

「アヴェンジャーさんからちと頼まれてまして。徹夜で」

 

 ニヤリと笑うライダーに、俺は地図を指でなぞる。

 精密に広範囲に、この異聞帯全体が描かれている。

 

 徹夜でここまで完成させたのか。

 ただ細かく書いてあることを見るに、信用度の高いものではありそうだ。

 ……めちゃくちゃ広いな。

 

「宝具を使わせたが構わんな?」

「あ、ああ。こんな地図作れるなら別に構わねーけど。……お前らそんな逸話あったっけ?」

「ま、ちとした事情ってやつですよ。気にしないでくだせえ」

 

 ちとした事情……その事情が気になるんだが。

 だが宝具を使っただけでは、ここまで精密な地図は作れない。

 それこそ地図に関して逸話を持つサーヴァントではないと。

 

 しかし今、気にするのはそこじゃない。

 俺は話し始めるように言うと、最初に指をさしたのはアーチャーだった。

 

「今私たちがいるのはここですね。昨日はアサシンとバーサーカーに襲撃されました」

「……聞いてないぞ?」

「あ、あとで話します! それよりも、アサシンの方は真名が判明してます……よね、マスター?」

「ああ、アサシンの真名は『因幡の白兎』。日本神話に出てくる兎だ。なんでアサシンになったかは知らんが」

 

 その言葉を聞いてアヴェンジャーが首を傾げる。

 

「日本神話? 日本の英霊だと……? 妙だな……まぁいい、続きだ。で、バーサーカーの方は?」

「こっちも多分日本の英霊。どっかの資料で見たことのある軍服を着ていた」

 

 それを聞いてアヴェンジャーは再度を首を傾げる。

 そして地図をじっと見つめて、俺たちの方を見ながら不思議そうに聞いた。

 

「本当に? 日本の英霊か?」

「どうして」

「……ロンドンとギリシャの英霊……じゃないのか?」

「なんでロンドンとギリシャ?」

「……なんとなくだ。それに関しては私が勝手に調べるとしよう。それよりも続きだ」

 

 一体何を気にしていると言うのだろうか。

 たしかに因幡の白兎に関しては、何故アサシンのなのかわからない。

 それに日本軍人の英霊もあそこまでのパワーが出るのがよくわからない。

 近代英霊である以上、出力は抑えられているはずなのに。

 

 なんて考えていると、ライダー兄が他の場所を指差す。

 

「デケェ反応、こいつはセイバー……で、アヴェンジャーさんが任せろ、とのことで」

「抑止力が私を脅威とみなしたようだ、いずれ殺す。貴様らは無視しろ」

 

 明らかに憎しみのこもった物言いに俺の鳥肌が立つ。

 恐怖、それに近いものが沸き立ってきたのだ。

 

 それは他の三人もわかっているのだろう。

 少し静かになって、話の続きを始めたのはライダー妹だった。

 

「残り六騎……ここに一人でかいのと、三人……ここに二人……固まってる……」

 

 指し示した場所は現在地よりかなり離れている場所。

 一先ずは安心してもいいだろうが、いずれ出会ったときのことも考えておくべきか。

 だが次に言われた言葉に、俺は困惑を覚える。

 

「ここにキャスターとフォーリナー……こっちにはアーチャー、バーサーカー、ライダー、ランサー……でも、四人の方は、仲間割れしてる……」

「ちょ、ちょっと待て、フォーリナー? それに仲間割れ?」

「近代英霊ですが、明らかにフォーリナーすね。で、仲間割れの方は……なんつーか。その、()()()()()()んですよね……ランサーが他三騎相手に」

 

 またとんでもないのが出てきたな。

 しかも降臨者(フォーリナー)と来たか。

 一度どこかで見たような、聞いたことがあるような。

 何にしろ、俺はそれを知っている。

 

 だがそれよりも気になったのは、仲間割れって方だ。

 ランサーが他三騎相手に殺し合いを繰り広げているのは非常に気になる。

 

「殺し合いか……利用できそうだな……」

「殺し合いの発端はランサーすね。もっと英霊はいたみたいなんすけど……」

「全員、ランサーの手によって葬られているな。染み付くような魔力から、神霊の可能性が高い」

「なにそれ……」

 

 魔力でわかるのか……。

 色々と例外なのかしれない、このアヴェンジャー。

 他の三人を見ていると、そう思ってしまう。

 

 と言うかランサーが神霊か。

 聞いたらわかるのだが、聞かなきゃなにも思い浮かばない。

 問題となるのは、接触するべきか、避けるべきか。

 

「……一先ず避けるべきか」

 

 現状なにも整っていない状況で接触しても、逃亡したところで逃げる場所がなくなる。

 逃げれなくなることだけは避けたい。

 

「どうする、マスター。私は放置を勧めるが?」

「接触したところでいいことなさそうだもんな。取り敢えず目的地に向けて出発。接触してしまった場合、その都度対応で」

「了解です!」

 

 アーチャーのはっきりとした返事の後、それぞれが適当に返事を返す。

 その後は地図を片付け、テントを片付けて歩き始めた。

 空想樹へと向けて。



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閑話:神霊『ランサー』

本日二話目。
宝具祭りです。


 私はただ、生命力が高いだけのバーサーカー。

 逸話として確かにそれが刻まれている。

 かつて戦場を駆け抜け、武器を手に戦い続けた日々を。

 

 だが、こんなもの戦いなどと呼べるものか。

 近代と神代の差は──、あまりにも大きかった。

 

「ひゃはっ、はっはっはっはっ!! 血とは、争いとはあああああッ!!」

 

 まさに狂気。

 私は確かにバーサーカーですが、それでも近代英霊ということもあって正気を保っている。

 だが小柄なランサーは、正気を保っているとは到底思えなかった。

 

 翼の生えた女神、見た目はまさに神様というべき存在だろう。

 だがその言動と行動は、私のようなバーサーカーよりも凄まじかった。

 

「まさか、召喚された直後に襲ってくるとは……」

 

 私の呟きに、近くに立つ弓を携えた女性が呟く。

 

「一撃が、些か重すぎるぞ……バーサーカー、体力の方は?」

「なんとか、と言ったところでしょうな。キャスター殿の宝具のおかげで、なんとか注意が逸れております故……」

「前が見えていない、と言うわけか」

 

 それならばいいのですが。

 あの女神、些か恐ろしいことにこちらを弄んでいるように見える。

 

 槍を振るえばその薙ぎ払いによって、キャスターの分身が次から次へと蹴散らされて行く。

 矢を放てば、次の行動によって弾かれるから避けられる。

 私が銃弾を撃ち放つと、それすらも軽い動きで避ける。

 

 攻撃のしようがない。

 全て避けられるし防がれるのだから。

 

「くっ……私の魔力もそろそろ尽きるぞ!」

「キャスター殿!」

「我が宝具……【同遺伝子体(クローニング)】も使えなくなってしまう……! せめて令呪の魔力があれば、君たちも作れたのだが……!」

 

 歯を食いしばって、キャスターはランサーを睨み付ける。

 だがランサーはただ笑い続けて、大量にいるキャスターの中で槍を振るい続けていた。

 そこに突然一人、海賊の船長が割って入る。

 だが大きく槍を振るったランサーによって吹き飛ばされてしまった。

 

「ライダー殿! 大丈夫か!?」

「げひひッ……俺様も海の上なら万全に戦えんだがなァ……!」

 

 そう言って片手に握った剣を地面に突き刺して立ち上がると、女神に向かって走り出す。

 かれこれ数時間、私たちは戦闘を続けていたが、このまま戦い続けていてはいつしか敗北してしまう。

 

 この女神をこのまま残しておくことはまずい。

 後に召喚されるであろう汎人類史の英霊たちが、彼女に手こずることがあってはならない。

 ここには()()()()()恐ろしい存在がいることを認知できるから。

 だが……今ここで倒せないのもまた事実。

 

「逃げるしか……あるまいな」

「アーチャー殿……同じ考えでしたな」

「ではどう撤退するか、だが……」

「私が殿(しんがり)の役目を請け負いましょう。こう見えて、逸話に関しては神代に負けず劣らず故……。なぁに、ちゃんと生きて行きますとも」

「……了解した。ライダー、キャスター! 撤退だ!」

 

 その言葉に頷くと、キャスターは宝具を解除して後ろに下がる。

 ライダーも鍔迫り合いで女神の武器を弾き、後ろに大きく下がって撤退する。

 そこに私は銃剣を手に走り出した。

 

「ランサーァァアアッ!!!」

「くふっ……ふ、ふふっ!!! 勇者! ……私を倒さんとする勇者よ!! ()()()()()()()()()()()()()()愚者よ!! 私が相手をしよう!! この私、■■■がッ!!」

 

 そう言うと名前を聞き取ることのできなかったランサーが槍を振るう。

 すんでのところで私も銃剣を振るって、槍の一撃をそらすと胸元に向かって突きを放つ。

 だが卓越した技術を持つランサーの槍は、その私の一撃を大きく弾く。

 

 そこに振るった大きな一撃な、大地を割いて衝撃波がこちらまで届く。

 私は宙に浮いた体で、飛んできた瓦礫を足場にして移動する。

 そして奴の視界から外れた背後から奇襲。

 だが奴は槍を逆手に持つと、近づいた私に向けて振るう。

 

「ぐっ……」

「はははははっ!!! いい、ですねぇッ!! 素敵です、最高ですよ!!」

 

 危ういところで銃剣で槍先を逸らし、奴に一撃を浴びせようとした。

 だが奴は指先で私の一撃を受け止め楽しそうに笑う。

 

 あまりにも一方的すぎる、完全にこちらを弄んでいる。

 奴ならば一撃で私を殺すことも可能だろう。

 だがこちらに実力を合わせてきている。

 近代と神代の差ははっきりとしていると言うのに。

 

「……くっ……」

 

 どちらにしろ私の敗北の可能性は濃いだろう。

 行くと言ったのに、行けずじまいとは。

 汎人類史の英霊として一つの活躍もできずに、か。

 

「……せめて名を残したものして、死に際ぐらいは、な」

 

 銃剣をしっかり握ると、私は再度走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、その瞬間、()()()()()

 

「──は?」

「──なんだ、これは」

 

 女神は驚きに呆然として空を見上げる。

 私も空を見上げ、青い空の中に星が見えたのを確認する。

 星、ただの星じゃない。

 

 青くて、丸くて、アレは。

 

()()、だと……!?」

 

 はるか遠くに、地球が見えた。

 

 それに気づいた時、女神にもある変化が起きていた。

 

「ッ……!? し、神性が、魔力が……!? 何故、何故何故!! 私から()()()()()()()()()!?」

 

 その言葉に驚くと同時に私は走り出す。

 一撃を浴びせようとするが、やはり防がれる。

 だが今度の一撃に対して奴は余裕のない顔を見せる。

 

「くっ……!?」

 

 女神は驚きに顔を歪ませ、飛んで走って後退していった。

 私は奴を退けたことに安心し座り込む。

 意識の混濁、体から魔力が抜けて行くのを感じる。

 

「これ、は……」

 

 直感であの地球によるものだと感じる。

 私は遠くに見えた二つの人影を見ながら、そのまま気を失ったのだった。




キャスターに関しては真名がわかりやすそうですね……。


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第7節:まだ見ぬ英霊たち

「……なんだったんだ? 今の」

「ひえー……地球って実際にあんなのなんですねぇ……」

「……技術の進歩は怖えなァ」

「ん……魔力、抜けた……」

「……宝具か」

 

 俺たちはそれぞれ反応を見せる、今しがた空に出た地球に対して。

 それは突然のことだった。

 突然空に星が瞬いたかと思った瞬間、空に地球が現れたのだ。

 

 大きさはかなり大きく、昔宇宙から撮った写真の奴とほぼ同じ。

 と言うか構図も形も全く一緒だった。

 

「私、初めて見ましたよ」

「俺だって初めてなんだが……いくら現代人つっても、写真でしか見ないからな」

 

 だがその写真に映っていたものが、こうして空に映っていたのだ。

 と言っても、数十秒ぐらいだが。

 

 この時、四人は魔力の消失、そして()()()()()()()のを感じる、と言っていた。

 しかも受肉に近い実体化らしい。

 そしてアヴェンジャーは『宝具だ』と言っていた。

 ならばあれは、一人の英霊が起こした事象ということになる。

 

「非常にまずいぞ……」

 

 仮に今の宝具を放った英霊が汎人類史側についたら。

 そしてもしあの宝具が特定の人物に向けて、放てるものなのだとしたら。

 

「……今の無差別だった可能性があるが……そもそもなんで放った?」

 

 考えうる可能性としてはいくつか上げられるが、今の宝具を放った英霊が戦闘になったから、と言うのが一番有力か。

 じゃなければ、まずそもそも宝具を使うはずがない。

 宝具は英霊の真名に直結するもの、そして魔力も大量に使う。

 そう容易に扱えるものではないのだ。

 

「フォーリナーか……?」

「だろうな、今の宝具はフォーリナーの可能性が高い。降臨者などと仰々しい英霊め。何がしたい……?」

「人助けとか!」

「宝具を使ってか?」

「人によってはそうすると思いますけど」

 

 確かに思想とか色々あるもんな。

 相容れない英霊だっていずれ必ず出てくる。

 

 その辺、カルデアはどうしてるんだろ? 

 

 空を見上げて思考を続けていると、ライダー兄が口を開く。

 

「……たしかにアーチャーの嬢ちゃんの言う通りかもなァ……マスター。()()ほうがいいですかね?」

「いや、宝具は使わなくていい。ただでさえ真名がバレやすいんだからな」

「そりゃそうすね。使わなくていいらしいぜ」

「……ん」

 

 妹は魔力が少なくとも使用できる宝具を展開しようとしていたが兄に言われて止める。

 展開するのが一つだけならば、少量で済むらしい。

 と言うか、二人とも片方が欠けていても宝具が使えるのだろうか。

 それとも二人いて、片方だけ使用が可能、と言う奴なのだろうか。

 

 二人の逸話は有名だが、詳しいところまであまり知らないからなぁ。

 まぁ少なくとも、妹の方は()()()()()()()()()()召喚されているかも、ってぐらいしか知らない。

 事情を聞いてないからな、その辺。

 

「……気にしていても仕方あるまい。マスター、進むぞ」

「そう、だな。行くか」

 

 引き続き森の中を進み始める。

 先頭をアヴェンジャー、その後ろに俺とライダー、そして後方にアーチャーが弓を手に警戒している。

 

 俺とライダーは完全に非戦闘員だから仕方がない。

 ライダーは時代が近代すぎるせいか、戦闘能力を全く持っていないとのことで。

 そもそも召喚自体がイレギュラーだと、昨日の夜に言っていた。

 兄曰く『人は補い合うもんですぜ』とのことで。

 

 兄妹だからそう言ってるのか? 

 それとも、もっと別の何か……? 

 

 と、考えてみるも、英霊についてはそこまで詳しくない。

 人物については聞けばなんとなくわかる程度。

 無知の極みだ。

 

「おいおい知っていけばいいか」

「なんの話だ?」

「アヴェンジャー、前は大丈夫なのか?」

「安心しろ、しばらくは()()()()。到着まで時間もかかるがな」

 

 何に安心しろと。

 確かにアヴェンジャーはかなり強いから、安心はできるが放置はどうかと思う。

 

 後ろの方じゃライダー兄とアーチャーが駄弁ってるし。

 完全に遠足気分だ。

 ……こういうのも悪くはないが。

 

「……真名なんなんだ?」

「む……唐突だな、マスター。真名ついては秘密だ。今伝えたところで面白いものでもないと言っただろう?」

「どういう理由だよ……」

「くくっ……少しは楽しむといい。余裕はあるほどいい。戦いでも、人生でもな」

「参考になんのか? それ……」

 

 そこからしばらく、俺はアヴェンジャーと会話しながら歩き続ける。

 会話内容は他愛のないものだ。

 

 魔術について幾らかアドバイスは貰えたけどな。

 まるで俺の常識が通用しないレベルの魔術については、驚愕する他なかっただろう。

 Aチームのみんなに聞かせてやりたいぐらい。

 簡易魔術については、少し改良の余地があることがわかったのは収穫だ。

 

「つまり?」

「分解、再構築……ここに圧縮と伸張が必要だ。カードに入れるのならば、その二つがあるだけで容量が大幅に変わる」

「だけどそれなら、速度の面で問題が出てくる。圧縮と伸張の過程で時間が……」

「そこはもう少し……む、マスター、次の場所についたぞ」

 

 長く歩いた先、森を抜け立ち止まったところには川があった。

 なかなかに壮大な景色と言えるだろう。

 遠くの方に見える滝からここまで続く川、その色は透明で底まで簡単に見える。

 

「私少し周りを見てきますね!」

 

 と、アーチャーは森の方に。

 

「んじゃまぁ、俺たちゃ宝具の調整してきやす」

 

 と、ライダーの二人は近くの平たい場所へ。

 アヴェンジャーは俺の方を見て、多分召喚するのを待っていた。

 

「取り敢えず、今日はここで野宿だな。テントを広げて、そのあとで召喚陣をアヴェンジャーに……」

 

 ブツブツ呟きながら行動に移ろうとしていた時、少し遠くの方で大きな音が響く。

 金属のぶつかり合う音、その直後に爆煙が捲き上る。

 

「なっ……!?」

 

 あまりの突然のことに、ライダー兄妹も驚いてこっちの方に来た。

 アヴェンジャーは影を動かして俺とライダーの周りに、そして森の方に向かって歩き出す。

 その瞬間、森の中から剣を手にしたアーチャーが吹き飛ばされてきた。

 アーチャーは空中で姿勢を正すと、アヴェンジャーの影を足場にして地面に着地する。

 

「何している、アーチャー」

「ご、ごめんなさい、助かりました! 敵です! ですが、アレはっ……!!」

 

 アーチャーが剣をしまって弓を引く、それと同時に森の中から踏ん張るような声が聞こえた。

 

「ふんッ!!」

 

 その声が聞こえたと同時にアヴェンジャーは影を前に、盾のようにしてアーチャーを覆う。

 すると森の中から衝撃波が繰り出され、木々をいともたやすく薙ぎ倒した。

 

「……ほう。なかなかやるではないか。小娘」

 

 そう言いながら森の中から剣を片手に男が一人。

 少し黒っぽい髪をしており、身長はかなり高い。

 

「この私を、小娘と見るか。()()()()

 

 その言葉に男は神妙な顔をした。

 

「剣を持っているからセイバーだと?」

「貴様の漏れ出る魔力でなんとなく判別できる。貴様フランスの英霊だな?」

「ほう、よく知っているではないか。フランスの英霊はもう一人、いるがな」

 

 と言うと森の中から少女が一人、少し慌てた様子で出てきた。

 

「ちょ、ちょって、ヴェ……セイバーさん! いきなり出て行かないでくださいよ!」

「はははっ! すまなかったな、少女よ!」

 

 少女の方は金色の髪を持っていて、村娘って感じの雰囲気がある。

 だが腰には異物感のある剣が吊るされていた。

 

「ほう……貴様は知っているぞ。()()()()……いや、まだそれに至らず、と言ったところか……アーチャー、あの少女のセイバーを相手にしろ」

「え、あれセイバーなんですか!? ってか、それよりも、あっちの男の方は?」

「私がやる」

 

 そう言うとアヴェンジャーは大きく影を広げる。

 男は笑って大きく踏み込むと剣を構えた。

 少女も鞘から剣を抜こうとして、剣が抜けないことに気づいて鞘に収めたまま構える。

 アーチャーもそれを見て、急いで弓を構え直した。

 

「そちらから来るといい。優位であるのは私だからな」

「そう言うことであれば、行かせてもらおうかッ!!」

 

 男のセイバーが走り出し、剣を大きく振るってアヴェンジャーの影のぶつかり合う。

 それと同時にアーチャーの放った矢が少女セイバーの手によって弾かれる。

 英霊同士の戦いが始まるのだった。




性質上、次から次へと新キャラ出してるけど、制御できるか不安になってきたであり〼。


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