ベルセルク/ガンビーノ転生!? (霧桜ルー)
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番外編
銀蜘蛛メンバー (51話現在)



少々資格取得の勉強の為、しばらく投下が遅くなるかと。

それはそうと投下\( ・ω・ )/

事前情報として、現在ガンビーノは戦場では第1連隊を前衛、騎馬隊を遊撃に、第2連隊を後衛に置いてるので第2連隊キャラはまだ出てきていません。
1個連隊は3個大隊で編成されてます。
2個連隊なので6個大隊あるって訳ですね(`・ω・´)キリッ




 

 

 

ロシーヌ(女)

ガンビーノの養女で文武両道の才女に育ったがどちらかと言うと武闘派の気質が強い。

ガッツには勝てないがそこらの熟練兵相手でも負けない強さを身につけて、ガンビーノが嘆くはめに。

クシャーンの軍務総書(最高司令官)の年頃の娘というのもあって婚約の話が出てきてはいるが(ことごと)くガンビーノが握り潰している。

【民政官補佐見習い】

 

バーラン (男)

無類の酒好きにしてガンビーノ傭兵団時代から歩兵部隊の指揮を任されている古参メンバー。

ちょっとバカで言動はどこかチンピラを思わせる。

「好き勝手に生きる」男で、基本的に指図されるのが嫌いだったがガンビーノと居ると新しいもの、面白い物がたくさん見られるからという理由で着いてきてるらしい。

【歩兵第1連隊・第1大隊長】

 

モスヴィラント・バーナー (爺)

ガンビーノ傭兵団の老将で比較的裕福な平民出身。

一応孫も居るようだが傭兵になって以来会っていない。

団の相談役のような立場だったが非常に好戦的で、老いで死ぬ事を嫌がっていた。

ドルドレイ撤退戦で戦死

 

ドノバン (ホモ)

肉食系のホモマッチョ。本人は酔ったガンビーノからガッツを買った気になってたが話を聞いてなかったガンビーノの怒りを買って暗殺された。

表向きは、深追いし過ぎて反撃され戦死。となっている

 

ウルバン・キリターナ (男)

一言で言うと名医、ただし出自は不明でなんで傭兵団に属しているのかも誰も知らない。

朝に弱い清々しいイケメンで貴族との付き合いもある為、ガンビーノの情報源になる事も。

【衛生軍医長】

 

カルテマ (女)

元子爵家の令嬢で家の没落と共に家名を捨てて入団。

当時は護身程度の剣術しか出来なかったが素質があったのかぐんぐん腕を上げて団の中でも上位の強さを誇る。

ロシーヌの教育係で仲がいいが、バーランは苦手なのかあまり仲が良くない。

【歩兵第1連隊・第2大隊長】

 

ヴァランシャ (男)

かつてミッドランド兵を100人以上ぶっ殺しまくった大男。

名も売れてきた頃にガンビーノ傭兵団と戦って敗戦、降伏したところをガンビーノにしつこく口説かれて入団した。

地上では強いが船に乗ると途端に酔う。

【歩兵第1連隊・第3大隊長】

 

ゲリコ (男)

元々は伯爵家に使えていたがガンビーノが気に入って、半ば脅迫する形で譲り受けた騎士。

ゲリコの場合、騎士とは階級だけで馬には乗れない。

実際ムリに乗馬しようとして馬を潰し、アドンに怒られて以来大人しく歩兵を率いている。

【歩兵第2連隊・第1大隊長】

 

ゾンダーク(男)

ゲリコとはまた別の伯爵家の出身。篭城戦に雇われていたガンビーノの強さにハマって誘いに乗った。

この時にガンビーノは脅迫せずに大金を積んでゾンダークを伯爵から買い取った。

その際の「伯爵とは仲良くしていたい」と言う言葉の真意を知る者はいない。

【歩兵第2連隊・第2大隊長】

 

ナバーラ(オカマ)

元ダイバ配下のクシャーン人。嫁騒動の後に「使える奴よこせ」とガンビーノに詰め寄られたダイバが断りきれなかった結果、今に至る。本人も上のやり取りを大体知ってるが特に不満には思ってないらしい。

むしろそれだけダイバから認められていて、ガンビーノにも出世させて貰えるくらいには信用されてると喜んでたりする。

得意武器は手甲(白兵戦用)。

【歩兵第2連隊・第3大隊長】

 

アドン (男)

元チューダーの騎士団長を務めてた隠れた才能を持っている

アホな一面が強いもののガンビーノの仲間たちとすっかり馴染んでしまっている。

ガンビーノと出会う前にガッツを襲ってしまい弟のサムソンを討たれてしまった。

ガンビーノの有する騎兵は分類を問わず指揮を任されている

【重装騎兵大隊長】

 

エルドリオ・ゲルガー

動けるデブ。そしてアドンに勝る超重装の騎士。

金より甘味のガンビーノもドン引く甘いもの好きで、攻め落とした城の食料庫を漁りに行く姿はすっかり名物になっている。

アドンの鎧はボウガンを防げないがゲルガーは距離によるが弾けてしまう為、弓兵に恐れられている。

兜の三本角がチャームポイント。

【100騎長】

 

キュリアス・カマデウス (男)

傭兵団時代からいる中堅将校で軽装騎兵の小隊長。

基本的にはアドンの指揮下にいるもののたまにガンビーノから直接指示を受けることも。

元騎士階級で好戦的な一面を持っていてカマキリに似た空気をまとっている。

【100騎長】

 

ギーエン(男)

元・黒羊鉄槍重装騎兵団の団長。原作と違ってドルドレイ陥落(ガンビーノによる攻略)時、ゲノンから借りていた為ガンビーノの指揮下におり、鷹の団と戦うこと無く生き延びた。

その後、ドルドレイ撤退戦で団員を削られながらも共に脱出。最終的に再編成されたタイミングでアドンと指揮権を賭けて決闘。

互角に戦ったが、アドンのやたらと長い技名やセリフに気を取られて負けた。(めっちゃ凹んだ)

【100騎長 (兼) 次席指揮官】

 

ジャリフ (男)

クシャーン人の伝令役で1番最初にガンビーノと会った縁でダイバの所から引き抜かれた。

ミッドランド語にも長けていて通訳や翻訳をする事も。

ガンビーノとは上官と部下の関係で、ガンビーノの残虐性の裏にある真意に気付けていない。

【伝令官】

 

髭骸骨 (男)

あだ名は "髭" で海賊船の船長をしていた。

亡命航行中だったガンビーノ達の改造戦艦と戦って負けたが、傘下に入る事を条件に戦艦を譲渡された。

それにあたって足を洗い奴隷商に転職してミッドランドとクシャーンを行き来しながら集めた情報をガンビーノに渡している。連絡手段は伝書鳩が主流。

【海軍司令】

 



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亡命渡航のひととき


番外編は読まなくても本編に影響はありません。
ほのぼの回アンケートを反映して、今後はほのぼの回は番外編に投下していきますぞ


 

 

「ねぇ〜〜暇ぁ〜暇なの〜〜」

 

「んな事言ったってな…釣りすっか?」

「やだ」

 

ああ、そう言うだろう未来は見えてた。

実際何も娯楽のない船で2日も我慢出来てた辺りは褒めるべき…なんだろうな。

だからって海の遊びなんかろくに知らん俺にどうしろってんだ?

広いから鬼ごっこなりは出来るだろうけどロシーヌの事だ、追い詰められたら帆先なり甲板とかに登って落ちかねないしな。

 

さすがに40過ぎて50近い体じゃ子供の遊びに付き合うのも辛い。

ん〜〜〜…

 

「チェスするか?」

 

「難しいからやだ」

 

「トランプはどうだ?」

 

「いっつも負けるから楽しくないの、やだ」

 

どないせいっちゅーねん。

そもそも他は俺自身が遊んだ記憶が無いしな…。

まさか賭博じみた事を教えるわけにもいかねぇし。

 

「えぇい!カルテマァーー!」

 

「えっ、私?」

 

「お前に任せる。俺じゃロシーヌが気に入る遊びを思いつかねぇ」

 

「ハイハイ、ロシーヌ〜?」

 

「何して遊ぶの?」

 

なんか食い付きが俺より強くねぇか?

まぁそりゃそうか。女の子の遊びは女のカルテマの方が理解してるもんだろうし、初めからアイツに任せりゃ良かったのか。

 

小舟(ボート)出して死にかけてるバーランでもつつきに行く?」

 

「行くーー!」

 

ちょっ!?

ウッソだろお前!

 

「待て待て待て、何言ってんだテメーは!ガキ連れてする遊びじゃねーだろ!何考えてんだ」

 

「はぁ、でもロシーヌは乗り気だし…」

 

「でもじゃねーよ。もういいお前には頼まん」

 

「ちぇっ、バーランいじめるいい機会だったのに」

「なんか言ったか」

 

「ううん、なーんにも」

 

ったく、いったいバーランになんの恨みがあるんだよ。これじゃ迂闊にロシーヌの世話なんか頼めねーじゃねえか。

ウルバンは…向こうに移ったんだっけ。

となると…。

 

「おいアドン!!」

 

「えぇ!私か!?」

 

「あんだよ文句あんのか?釣り餌にすんぞ」

 

「いやいやとんでもない!喜んでお相手しよう」

 

「って事だロシーヌ。()()()()遊んでこい」

 

「いいの?」

 

「ああ、思いっきりな」

 

「ガンビーノ…私の聞き違えか?何やら言い違えておらんか」

 

「何も言い間違えてねぇよ。んじゃ娘を頼むわ」

 

「さぁ遊ぼう!逃げるなアド〜ン!!」

「ぬわぁぁーー!ガンビーノォー!」

 

これで良し、俺はその辺の奴らと夕飯の魚でも釣って暇つぶしすっかな。

アドンがまだなんか言ってるがもう知らん。

 

釣り糸を垂らしてジーッと揺れる海面を見てると、なんとも気の抜ける感覚を覚えた。

何かリラックス効果でもあったんだろうか。

 

頭がほんのり火照るような、体がほぐれる様な感覚。

 

「そういや久々にゆっくりするな…」

 

のんびり待っていると魚より先に団員達がつられて近付いてきた。

 

「おっガンビーノも釣りか?」

「銛持って飛び込むイメージが強いぜ、釣りって印象じゃねーなw」

()()()()使って取るとか言わんでくださいよー?」

「バッカ、あれは魚にゃデカすぎるw」

 

「ったく、テメーらは静かに糸も垂らせねぇのか?ちったァ落ち着いて座ってろや」

 

「「「へへへっwへーい」」」

 

「…1番デカいの釣った奴にはとっておきの酒をくれてやる。気張っていけや」

 

「「まじかよ!」」

「さすがボス!」

「「「うっほぉぉーー!」」」

 

どう扱っても騒がしい奴らめ。

 

まぁこんな日があっても悪かねぇ…よな

 

 

 

 

 

 

 



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第1期 【足掻き苦しんだ日々】
望んでたのと違う…


 

 

「…う、うおァァァァァ!!?」

 

起きたら顔が変わってた事、みんなは経験ないか?

俺はまさに今、そんな経験をしてばちぼこ驚いている。

 

お、落ち着け俺。

いくら何でもそんな訳あるか。

 

転生とか憑依なんてモンは漫画かアニメ限定の特権展開じゃねーか。それをオメー、一般庶民たる俺が経験するなんて考えられねぇだろ常考。

 

いやでも知ってるつーか、見覚えあんだよなこの厳つい顔。俺の記憶違いじゃなかったらベルセルクのガンビーノだと思うんだけど。

酒の勢いでガッツ襲って殺られちゃうあの…。

 

確か漫画の方じゃガンビーノって見た目40後半くらいのオッサンだったんだけど、俺今40前半なんだよな…。

 

あれ?もしかしなくても俺詰んでね?

 

いやいやいや、よくある話だろこんなん。

リアルな夢見て起きたら1人恥ずかしくなって「うぉぉぉ」って悶えることになるオチのアレだろ。分かってんだよ。

 

こうやって頭から水でもかぶりゃ簡単に目が覚め───ないだと!?

えっ、つまりこれって…

 

 

Q, 朝起きたらガンビーノでした。どうしたらいいですか?

 

A, 寝ぼけてんじゃないですか?

 

 

あぁー終わったわー

 

「どうした!ガンビーノ!」

 

やめろ今来んな。

現実逃避しようとしてんのになんでテメーらの顔見なきゃいけねぇんだよ。戻されちゃうだろが!

 

「いや…どうもしねぇ、ちょっと寝覚めが悪かっただけだ。俺ァ二日酔いで頭いてぇんだ、騒ぐんじゃねぇ」

 

悪夢と二日酔いで不機嫌ムードを演出してそれっぽく顔をしかめてみせる。

ここで目頭を押さえて軽く唸る小技も忘れない役者っぷり。

 

「あぁ…すまねぇ、まあ昨日あんだけ飲んでりゃなぁ…」

 

よし、さすが俺の部下だ。

下手に追求して来ないから誤魔化しやすくて助かる。

 

仮にも団長相手に呆れ顔した挙句ビックリさせた事は許してやろう。俺は優しいからな

 

しっかしどうしたものか。

自分がガンビーノだったのは理解した、納得するとかは後だ。今がどの辺りの時系なのかを調べなきゃいかん。

よくある話だと普通は物語の主人公に転生するもんだろうに何故かガンビーノに転生ときたもんだ。

 

死にキャラ転生とか誰得よ?

転生つったらガッツとかグリフィスとか、もっと気の利いたキャラがいただろうによー。

無神論者でもキレちゃうよ?マジで。

 

いや待て、そうだガッツだ。

今がガッツを拾う前なのか、もう居るのかそれを確かめきゃいけねぇ。

俺の生死を左右する重大事案や!

 

 

えっと…たしか彼女がガッツを拾って来るんだったよな。少なくとも漫画じゃそうだった。

すぐに確かめねーと!

 

 

 

 

 

 

結果から言うと、どうやらシスはまだガッツを拾って無いらしい。

 

唐突に駆け込んできた俺に驚いた様子だったが「子供はどうした」と聞いたところ、不思議そうに見つめてくるだけだった。

これはワンチャンあるかもしれない。これからの動き次第では生きられる希望が…!!

 

天幕に引き返す道すがらすれ違う傭兵達を見て回る。

コイツらは俺の、ガンビーノの部下達。平時には盗賊と大差ない連中だから別に赤子の1人や2人、俺が見て見ぬふりをした所で問題は無いはずだ。

 

ガッツを拾わない。

 

それしかねーだろ、俺が生き残る方法なんてよ。

 

 

 

 

 

 



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バタフライ・エフェクト

 

 

俺が何者か、それを思い出してはや数ヶ月が過ぎちまった。あっという間に今日を迎えた気分で憂鬱だ。

体感時間が狂っちまったらしい。

 

『ガッツを拾わないようにする』つったって今の時勢じゃ親を亡くした子供も赤子もウンザリするくらいには居る。

赤子の見た目なんざ大して違わねーってのにどうやって見分けりゃ良いんだよ!

 

あんだっけか、漫画じゃシスがガッツを拾ってくるんだったよな?て事はだ。

そのタイミングさえしのげれば何とかなったりしねーかな。

いや、無理か。そもそもいつの話なのか思い出せねぇ時点でこの考えは無駄だ。

 

悩んだ末に俺は思い至った。

もしシスがガンビーノに愛されてたら?子供を拾おうとは思わないかもしれない、と。

 

みなまで言うな!わかってる、クズ野郎じみた事言ってんなって。

でも生きたいんだ!俺は生きたい。

そんな本音を隠しながら今日もシスのテントに顔を出している。

 

「痛くねぇか?シス」

 

「あーー!ぅぅーー♪」

 

いつからだったかシスの髪をとかしながら話しかけるのが当たり前になっていた。

 

「なぁシス、子供が居なくても俺ァお前が居たらそれでいい。1人が寂しいんなら俺が側にいてやるだからよ…」

 

『赤子を拾わないでくれ──』

 

ダメだ言えねぇ。

この世に生まれて40数年。本気で惚れた女に、死産で気を病んじまった妻に、どの面下げて言えってんだ。

 

「うーー?」

 

シスの手が言い淀んだ俺の頭をポンポンと撫でてくれる。

 

嬉しさと自己嫌悪が胸の奥で混ざる。

やめだ、もうやめよう。

いっそシスの好きにさせるのも悪かねぇ。

 

「あぁ、大丈夫だ。何でもねぇよ」

 

撫でてくれるシスの手を優しく握り返しながら笑顔を返す。

思えば作り笑顔ばかりしてる気がする。

おかしいな…前世でも今世でもこんなふざけた考えした事無かったのに。

 

お前だってこんなクソッタレな世界に好んで生まれた訳じゃねえってのにな。

 

戦争に飢餓に重税、貧困に犯罪に贈収賄。どこに行ってもどれかが蔓延していやがる。

 

聞くだけだとろくでもねぇ世界だろ?実際そうさ。

こっちじゃ100年戦争っつーんだが…分かりにくいか?

そうだな、中世ヨーロッパの戦国時代って言ったら分かるか?

まぁそんな時代だ。

 

 

「あうーーー」

 

シスの髪の手入れが終わると、正座したシスが自分の膝をポンポンと叩きながら誘ってくる。

最近してくれるようになった膝枕だ。

昼寝にも丁度いい時間だから素直に乗っておこうと思う。

 

寝転がった瞬間、武装した男が駆け込んで来なけりゃもっと良かったんだけどなぁ…

 

「おーいガンビーノ!!丘3つ向こうにチューダーの輜重隊が通過中だとよ。どうする、久々にやるか?」

 

……くそっ、シスの膝枕で昼寝決め込むつもりがタイミング悪ぃこった。

仕方ねぇな、「ダメだ」って言ったって行くだろてめぇら。ちょっと待ってろ俺も行く。

 

「チッ、今度はマトモな物なんだろうなぁ。前みたいに食えねぇブツだったらぶん殴るからな?」

 

「分かってるさ、ちゃんと調べたぜ。ブツは食料が主であとは雑貨物みたいだ」

 

「雑貨か…」

 

たまにはシスに何かプレゼントするのも悪くない。

気の病で言葉を忘れちまってるが、今もシスには愛情がある。時間があればシスの面倒を見てやってるが伝わってるのかよく分からねぇ。

明確に伝えるにはいい手じゃねぇか?これ。

 

「ん?なんか言ったか?」

 

「何でもねぇよ。さっさと行きてぇ奴ら集めてこい」

 

「おう!!」

 

部下共のストレス発散をさせるついでだ。ブローチでも(くし)でも何でもいい。

シスの喜びそうなもんがありゃあ頂くまでよ。

 

 

 

 

 

だからよシス…ガッツを、拾わないでくれ

 

 

 

 

 

 



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なんでそうなんのぉ!?

えー、人物名が出てきますがモブです。
好きな見た目に脳内補正して読んでください(๑•̀ㅂ•́)و✧




 

 

「ウオオォォーーーーッ!!」

 

 

長い戦闘が終わった。

ミッドランドの辺境貴族に雇われてチューダーのクソ野郎共と殺り合って2ヶ月。

奴らが引き上げてくれたおかげで俺らもやっと解放された。

また多くの部下が、戦友が、どうでもいいけど貴族お抱えの騎士達が戦場に溶けていった。

 

俺は1人、城壁の上で落とさなかった命を抱きしめるように膝を抱えている。

右を見れば死者の世界が、左を向けば生者の世界が。

地平線に沈む夕日に迫る夕闇が下の景色と合わさって、今いるココがこの世とあの世の境目ではないかと錯覚してしまう。

 

勝ち戦に沸き立つ生き残りを見てると、やっぱりこれが現実なんだなと再認識させられる。

悪夢として片付けられたらどれだけいいか…。

 

それはそうとつい最近、大切な事を思い出せた。

そう、ガッツを拾う事になる場所だ。

 

はっきりと覚えてる訳じゃないが、雨上がりで木に人が吊るされてる場所だった。

 

溜まりに溜まった疲労で動きたくなかった俺は手近な部隊長に面倒事を押し付けることにした。

このくらい楽したってバチは当たるまいよ。

 

「おいバーラン、こんな血錆臭ぇ城からさっさとおさらばするぞ。生き残り集めて出発の用意しとけ。準備出来たら呼びに来い」

 

「あいよ、ボス」

 

慣れてるとばかりに各部隊長を集めて指示を飛ばしていくバーランを尻目に、焼け残った馬小屋に向かう。

 

俺か?俺はいいんだよ。

酒と一緒に藁山にダイブしてサボんだから。

シスんとこ行っても良いんだが血なまぐさいのは好きくないらしい。「うーー!」って威嚇されちまうんだよなぁ…。

 

お気に入りの酒を煽りながら兜を外す。

もしかしたらこのままガッツに出会わないなんて事も有り得るんじゃないか?そんな事を考えちまう。

 

よく言うだろ?「運命なんて簡単に変えられる」「運命は簡単には変えられない」ってよ。

前者はバタフライ・エフェクトだ。僅かな違いが世界の()()を乱す事で変えられるとしている。後者は運命の自己修復だ。人間で言うとこの自然治癒力だな。

運命は定められた結末に回帰しようとする傾向がある。

 

俺が生き延びるためには運命の自己修復を上回る力で流れを乱すしかない。そして運命を変えたら最後、戻れない手探りの人生を歩むことになるのが決まってる。

 

ったく、転生なんてするもんじゃねぇなぁ……

 

なんか気分が重くなっちまった。

のんびりチビチビ飲んでた酒が半分くらい減った頃、バーランが呼びにきた。

 

「ガンビーノ!皆揃ったぜ、後はアンタの命令待ちだからな。飲みもその辺にして来てくれ」

 

「んぁ?ああ、そうだな」

 

まぁ、なるようになれ。だな

 

「バーラン、カルテマに女達の馬車の護衛に付かせとけ。無ぇとは思うがいつ襲撃されても平気なようにな」

 

分かった、と馬で走り去っていくバーランの後を自分も馬に乗って追いかけ団員達に合流する。

 

 

「よぉしてめぇらぁ!帰るぞ!!」

 

叫んだ俺に全員が歓声で答える。

これでいい。これでいいんだ。俺は傭兵として生きてそして死ぬ、死ぬまでは必死で生き延びる。

 

後悔の無いように、な。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◇〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

おかしい…

 

何かがおかしい…

 

この感覚…どっかで…

 

デジャブ?分からない。でもどっかで見たことある気がする。

そうだ、見覚えがある。あの木。

そう…丁度あんな感じに人が吊られてて…

 

「ん?どうしたガンビーノ、死体なんか見つめて…今どき珍しくもねぇだろ。大方商隊か近くの村が襲われて遊ばれた挙句に吊られたんだろ……おいガンビーノ?どうした?」

 

あれは…いや、まさか。

 

「バーラン、子供…いや赤子は見えるか?」

 

「え、ガキか?……………いや、見えねぇな。助かったんじゃねぇか?まあ探しゃあその辺に隠れてるかもな。はははッ」

 

俺には笑い事じゃないんだが。

いや、だけどたまたま似てる雰囲気なのかもしれない…

 

「笑うトコじゃねぇだろ…探さなくていいぞ、無視して通れ」

 

「だな、金目のもんなんか残ってなさそうだしな」

 

不謹慎な奴め。

ああ、殺し殺されの傭兵家業やってる俺が言えたこっちゃねぇか。

 

自嘲気味に笑った瞬間だった。

 

「ガンビーノ!!」

 

カルテマの声だ。

なんだ?後ろでなんかあったのか?

 

「んだよ言ったじゃねぇかシスから目ェ離すn「すまないッ!シスが勝手に……!!」

 

「あ"ぁ?」

 

「────落し子、拾っちまった…」

 

 

 

 

 

 

 

なん……だと!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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もう好きに生きるぜ!

 

 

シスがガッツを拾っちまった。

 

カルテマ曰く吊られてた妊婦の骸から赤子が流れ落ちて、産声をあげた、と。

そんでそっちに気を取られた隙にシスが馬車から飛び出してきて止める間もなくその子を抱きかかえて離さなくなってしまった、ねぇ。

…っかしいな、ガッツ拾う流れってそういう感じだったっけ?

 

確かにあの場所には複数木があって同じように人が吊られてたけどよ…。

冗談キチィぜ。

ロシアンルーレットの()()()を引いちまったって事じゃねぇか!

 

まぁ分かってたさ、あの景色を見た時に「まさか…」って察したんだからよ。

思えば本当にふざけた人生だった。

 

ガンビーノとしてこの世に生まれ育って40年と少し。

今更になって前世持ちだったと気付いたところで運命の死を回避するには余りに遅すぎる。

その日その日を生きるだけでも必死なのに俺の道は墓穴にまっしぐらと来たもんだ。

 

詰みだろ、こんなん。

 

「くそッ…ちくしょう……ッ…………」

 

天幕の中で声を殺して嗚咽する。

生きたい、死にたくない。いや、生き物なればいずれ死ぬ。だがいつ死ぬか分からぬから明日を思えるのであって、死期が確定してる今はそれしか見えない。

 

どうしようもない…

 

いや、まだ手はある。

ガッツを殺してしまえばいい。まだ赤子だから簡単な事だ。

皆が寝静まった頃にでも殺っちまえば分かるまい。

死人から生まれ落ちたガキだ、長生きできるなんて誰も思っちゃいない。

 

だがそうまでして生きながらえて何になる?今の俺は傭兵であり、傭兵団団長であり、ガンビーノなんだ。

それにシスからガッツを奪ったらシスはどうなる?俺を恨むか?いいや、きっと壊れちまう気がする。

 

ならどうする?ガンビーノとしてじゃなくて "俺" 個人としてどうしたいか、決まってる。ガッツは殺さない。

ああそうだ、ガッツはまだ赤子だ。

人格形成も歩むだろう未来も、きっと変えられるはずだ。俺自身の未来はもう変わらないだろうがガッツなら…。

 

きっと俺はガッツに討たれる。いつか、どんな状況かは分からないがその運命は変えられないんだと思う。

それは仕方ない。

未練タラタラだし死にたくなんて無いけど無様な死に方だけはしたくない。

これは俺の最後の、「どうせ死ぬなら」の意地だ。

 

決めたぞ。

 

ガッツに俺が出来る限りの教育を叩き込むんだ。

剣以外の道を示してやろうじゃないか。文字、歴史、数学、医学、道徳…はちょっとアレだが生きる道の選択肢くらいは増やしてやっても悪くなかろうよ。

 

「ああ、クソッ!やる事増えたじゃねぇか!」

 

でも悪かねぇ。

 

俺が死ぬまでにガッツをいっぱしに育て上げてみせる。

原作云々なんざ知るか!()()()()()()()()生きるなんてもう終いだ。

俺はガッツの育ての親になる。

 

そうと決めたら善は急げだ!

ウチで唯一、子育ての経験を持つのは女兵士のカルテマただ1人。

彼女の天幕に急ぐ。シスが母親で俺が親父か。

うん、良いじゃねぇか。

 

 

 

逃げるばかりが道じゃねぇってこった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ガンビーノの変化

コメント返信書こうと今朝覗いたら評価増えてました(*´>ω<))アリガト!

……ん?赤…赤?赤ァ!?:( ;´꒳`;):ナ、ナニゴト?

↑ホントにびっくりしましたw
う、嬉死す前に投下!(;´∀`)っロ




 

 

ガンビーノ傭兵団。

 

戦時は敵兵を圧倒する程の歴戦の戦士達が集まる傭兵団。そして平時には近づくだけで襲いかかってくる危険な猛獣共。

それがミッドランド、チューダー両者の認識だった。

 

いかにも危ない奴等の寄合い世帯。老いも若きもその目は並の兵士より鋭く、精神まで洗練されている。

そんな団員達の視線は1ヵ所、ガンビーノ、シス、そして赤子(ガッツ)に注がれていた。

 

赤子を抱きかかえるシスに寄り添うように、その強面をなんとか緩めて笑顔を作ろうと奮闘するガンビーノ。

だが悲しいかな、ぎこちない笑みは不気味さを増幅させて赤子の泣き声が一段と強くなるだけ。それをシスが静かにあやす。絵画のような幸せな家族の姿がそこにはあった。

 

しかし、傭兵団のほぼ全員がガンビーノの行動を理解出来ずに唖然とした顔を並べている。

ガンビーノは一体何をしているんだ…?と。

 

 

 

 

 

〜〜◇カルテマ◇〜〜

 

 

 

 

シスのあんな笑顔は久しぶりに見た。

言葉を無くす前を最後に、ついぞ見れなかった誰かを慈しむ様な優しい微笑み。

その腕には赤子を抱きかかえて、傍らにはガンビーノが。

いつだったかシスから聞いた夢の話。「幸せな家族を作りたい」って大きくなったお腹を擦りながら言ってたっけ。

 

彼女の夢が今、叶っている。そう思うだけで目頭が熱くなってくる。

 

なのに…

よりによって今、無粋を体現したような男バーランがアホ面下げて近づいて来てる。

空気ってもんを読めないのか?アイツ。

 

「ああ、ここに居たのかカルテマ。ちょっと聞きてぇんだがお前から見てどうだ?なんつーか変じゃねぇか?最近のガンビーノは。どう思う?」

 

「……は?」

 

呆れた。見て分からないのかこのバカは

言葉を忘れても尚、かつて思い描いた夢を忘れられなかったシスの行動をガンビーノが受け入れたんじゃないか。

 

まったく…独り身の男共は皆して阿呆だ。

 

「それをわざわざ私に聞きに来るのかバーラン。よっぽど暇なんだな、お前らは」

 

「いやいや、だっておかしいだろ?()()ガンビーノだぞ?仮にあのガキがガンビーノの実の子だってんならまぁ俺だって分からなくねぇけどよ、死人の落し子だぞ?気味悪ぃよ」

 

「………」

 

バーランの言葉に彼を睨んでた視線をシス達に戻す。

なるほど、このバカの言う事も一理ある。

 

確かに、私の知りうる限りガンビーノという人間は誰かに優しく接するようなタイプじゃない。

この傭兵団に所属して長い古参兵辺りは気付いているが、せいぜいシスに対して情が厚い位だろう。

だけど誰にだって心境の変化って物くらいある。ガンビーノも人間だったって事じゃないか。

 

「良いんじゃないか?何もお前が面倒見ろって押し付けられてる訳じゃないんだ。あまり過剰に毛嫌いしてるとガンビーノに斬られるぞ」

 

「えぇ、マジかよ…斬られんのはゴメンだぜ」

 

「なら気をつける事だな、知らん訳じゃないだろ?シスの件でガンビーノに何度も突っかかって行った奴がどうなったか」

 

バーランの渋い顔を横目に自分の天幕に戻る。

 

最近のガンビーノは宿営地でもやたらとうるさくなった。もちろん悪いことじゃない。

「汚ぇ!手ぇ洗え!」とか「そんなとこで済ますなッ!便所の場所は決めただろうが!」とか。他にも色々言うようになった。多分子供に気を使ってるから言ってんだと思う。

 

いい父親になれるんじゃないかな、ガンビーノは。あくまで私個人の考えだけどね。

 

テントの中でガンビーノに渡す子育ての注意事項を布切れに書きあげる。

 

シスのこれからの幸せを願いながら。

 

 

 

 

 



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ガッツの成長

 

 

 

子供の成長ってのは存外早い。

驚いた事に1年も経たないうちにガッツが歩けるようになった。もちろんたどたどしいが。

俺やシスの元に行こうとトテトテ一生懸命に歩く姿には頬が緩みっぱなしになっちまう。

 

前世じゃ子供どころか結婚以前の話だったからこんなに早く育つとは思ってもいなかった。

いや正直歩くのは2〜3歳くらいからじゃないかなんて適当に決め付けてた。1歳ならハイハイ出来たら上等だろうって。

 

驚きはもう1つある。

シスがガッツの名前を覚えたことだ。

初めてシスがガッツの名前を呼んだ時には思わず「お前喋れるのか!?」と詰め寄って威嚇されちまったもんだ。

 

…あれ?って事はガッツと一緒にシスに文字とか言葉教えたら喋れるようになるんじゃねぇか?

そう考えた俺はシスにも勉強させる決心をした。

 

 

「いいか、これが『いぬ』でこっちが『ねこ』だ」

 

「「いーーう♪」」

 

「『いぬ』だ、『いぬ』だぞガッツ」

 

シスの膝の上で『犬』の絵札をパシパシ叩いて遊ぶガッツに根気よく言葉を教えこむ。

シスも一緒に居て興味を持ったらしく、ガッツと一緒になって発音する。

悪くは無いんだが中々に骨が折れる…。

 

それと余談だがガッツが一番最初に覚えた言葉は『ママ』だった。何故だ、何故なんだガッツ…。

こんなにも一緒に居てお前に言葉を教えてるのは俺だぞ?『パパ』なんだぞ?なんで『ママ』なんだ!?

 

チクショウメェ!!!

 

「あははッ、苦労してそうだなガンビーノ。どうだ?息抜きがてらちょっと付き合ってくれねぇか?」

 

いつから見てやがった…?

相変わらず気配の薄い奴、ウルバンが天幕入り口の柱に寄りかかって笑っていた。

 

「あ"ぁ?んだよウルバン、俺が禁酒してる事ぐれぇ知ってんだろ。わざわざ誘いにくんじゃねぇよシバくぞ」

 

「うわ怖ぇ、子供が覚えちまったらどうすんだよガンビーノ」

 

わざとらしくおどけて見せるウルバンのなんとウザイ事か。

 

チッ、この野郎後ろ弾してやろうか…。

 

「ウルバン、医学に関しちゃてめぇが適任なのは分かってる。だがガッツにはまだ早ぇ、今のは聞かなかったから出ていけ」

 

「…。へいへい分かりましたよ、ボス」

 

どうやら団の奴らも慣れてきたらしいが、代わりにガッツのそばに居る間は俺が強く出れない事に味をしめたアホ共がここぞとばかりにちょっかい出して来るようになった。

因みにガッツが「かえ!かえ〜(金、金〜)」と言いながら剣を担ぐ仕草をしてたのを見つけた時に、そのクセのある姿から犯人(バーラン)を特定して本気でシバキ倒した事もある。

 

危なっかしくて目が離せねぇ。

 

当然だがガッツに剣を教える気は全くない。

俺はガッツに勉学の道を歩んで欲しい、血錆や泥濘にまみれた人生なんか送って欲しくねぇ。

長く子育てしてる内に本気でそう考えるようになっていた。

だから()()()剣の知識は離しとくに限る。

 

「ほらガッツ、その果実水飲んだら始めんぞ」

 

「パーパ」

 

「……ッ!」

 

ダメだ!そんな風におかわりねだったって何も出ねぇぞ!

 

「「パーパ?」」

 

「……グッ!!」

 

ひ、卑怯だ!ガッツの野郎、シスとダブルおねだりだなんてやるじゃねぇか…!

そんなんで俺が落ちるとでも!?

 

「…最後の1杯だかんな」

 

グフゥ…

 

 

 

 




評価、感想本当にありがとうですぞ!

お気に入り数が増えててドキドキしてます(*`・ω・´)
まだまだ書いてきますぞ〜!


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運命の拮抗線

さ、3本目…:( ;´꒳`;):っロ


間に合ったから投下…バタッ。ミ(o*_ _)o➰◇


 

 

ガッツを拾ってから3年が経った。

俺の前世の記憶は霞がかかったように殆どがうろ覚え状態になりつつある。きっと更に時間が経てば忘れちまうんだろう。

だが今年は前々から準備してきた物がある。

 

ペストに関する情報集め、そして予防策だ。

 

旅人や行商人を捕まえて命と持ち物を保証する代わりに知りうる情報を洗いざらい喋らせてきた。

今は何処の地方が酷いか、病状はどんなか、治療の成功例はあるのかetc…。

 

結果としては上々、致死率は高いが不治の病では無いのが分かった、治療薬に関しては入手済みだ。

治療薬と言っても特効薬じゃない。

あくまで病状が悪化してない早期患者に対してのみ、()()()効果アリ程度のものだ。

 

だがやはり運命の力ってのは強いらしい。

 

城攻めに雇われている俺たちは疫病が迫ってるからと契約を無視して退く訳にもいかない。

まさにペスト拡大域のギリギリで戦っている。逃げたくても逃げられない状況にあった。

 

戦況が停滞してる今、この地でペストが広がる可能性が高い。いくら俺が声高に危険を訴えたところで他の傭兵団は勿論、騎士共が聞くとは思えない。

ならどうするか?

簡単だ。俺は俺の団員だけを守ればいい。

 

 

「ウルバン、薬の備蓄は?」

 

ウルバン・キリターナ。新しく設立した団内の新兵科【衛生兵】の部隊長。

対ペスト部隊まで編成して日夜訓練を続けてさせている。

 

「およそ全員分確保済み。だけど人手が足りてない、増員して欲しいんだけど……」

 

「無理だな、医術の心得のある奴は全員てめぇの隊に投じてる。何も知らねぇド素人は寧ろ邪魔だろう?」

 

「そりゃ…まぁな」

 

「いいか?俺ァなにも団員全員の治療しろとは言ってねぇ、奴らには十分気を付けさせてるからな。それでも発症しちまった奴を隔離、治療すりゃ良いんだ。出来んだろ?」

 

出来るはずだ。なにせコイツは腕がいい。

なんで傭兵なんてやってんのか不思議なくらいに。

 

頭を掻きながら困った笑みでウルバンは続ける。

 

「あーー、そう言われちゃやるっきゃねーですわ。ま、期待にゃ答えてみせますけどね?なんで──」

 

「ん?」

 

「──いや、何でもねぇですわ。んじゃ俺はこれで」

 

何か言いたげなウルバンだったがアッサリと出て行った。なんだったんだ?

まぁ何でもいい、明日からはまた総攻撃が始まんだ。さっさと寝ちまうか…。

 

ベッドに入って考える。

 

今の俺ならシスにもしもの事があってもガッツを憎みはしない、でももしガッツが俺を憎んだら?

 

疫病を知ってて何もしなかった。だから母さんが、シスが死んだんだってなるかもしれない。

有り得る、十分に。

 

疲れた体に、脳に睡魔が襲ってくる。

やれる事はやった、後は野となれ山となれだ。

 

「ああ…くそッ、シス…ガッ…ツ……」

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◇ウルバン◇〜〜〜

 

 

 

 

 

「こっちの奴はダメだ!!もう死んでる!」

 

「おいッ薬!追加のヤツもってこいッ!」

 

「ああ…くそッ!死ぬな!!」

 

「衛生ーーッ!早くッ!早く来てくれ!」

 

「死体を連れてくんなッ!次ィ!」

 

 

まさに地獄だ。

傷病兵で溢れる野戦テントの中で軍医と衛生兵が懸命に働いている。

交代で休ませていてもその顔は疲労の色が濃い。

 

俺はペスト患者隔離用の天幕に向かった。

ガンビーノが前々からうっとおしい程に警戒を促してたおかげで発症者は少なかった。

だが0じゃなく、その中にはシスも含まれていた。

俺はガンビーノにシスの治療を命じられている。必ず助けろ、と。

 

「おい、交代だ。シスの様子は?」

 

ガンビーノの手配でシスはテントで治療していた。

 

「良くは無いです、ただ他よりはマシ…ってくらいで」

 

だろうな、見ただけでヤバそうだ。

ふとテントの入り口付近でシスを、俺達をじっと見つめてるガッツが目に移った。

なんでここにいんだ?

 

「おいガッツ!これはペストってんだ!伝染るやべぇ病なんだ近寄るな!おいお前、ガッツ連れて行け」

 

交代する軍医に連れて出るように指示を出す。

 

「……ガッツ…」

 

小さくそう聞こえた。ガッツと。

それはガッツに聞こえたとは思えない小さな声だったのにガッツは反応した。

連れて行こうとした軍医からするりと抜け出すと震えながらもシスの手をしっかり握りしめて座り込んでしまった。

 

「お、おい行くぞガッツ」

 

「いや待て、いい。好きにさせてやろう」

 

手で制して軍医を止める。

 

ガッツは自分の意思で母親のそばに来た。ペストの怖さを理解してないとしても無理に引き離すのはガッツにもシスにも良くないかもしれない。

それに…

 

「ガッツ、よく見とけ。お前の親父は外で、お袋は目の前で戦ってんだ。()()()()()()()()()目ぇ逸らすんじゃねぇぞ」

 

「……。」

 

ガッツは黙って、目に涙をためて頷いた。

よし、なら俺は俺のすべき事をやるまでだ。

 

 



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乗り越えた先に

 

 

 

早歩きでシスのテントに向かいながらウルバンから状況を聞きだす。

 

「で?シスの容態は?」

 

シスの危ない時に傍に居てやれなかった。

焦りと怒気を抑え込む。運命がどっちに転ぶか分からないのがもどかしい…!

待ってろ…シス、今行くからな。

 

「大丈夫だ峠は越えた。越えたが体力が戻ってないから起きんのは無理だな。それと─」

 

あー…とまた言い淀むウルバン。

 

「なんだ!?なんかあったのか?」

 

「あ、あぁ…まあ言うより見てくれた方が早いわ」

 

こっちはそんな余裕無いんだ!と怒鳴りたい気持ちを押し殺しながら歩幅を広げる。

気づけば走り出していた。

 

「シスッ!!」

 

シスは寝ていた。いや、さっきまで寝ていたようで俺の声で起こしちまったらしい。

首だけ動かしてこっちを向いた。

 

「…ッ、よく…よく頑張ったな…。シス」

 

泣きそうになる。

後ろにはウルバン以外にも部下がいるのに。

 

「ガンビーノ」

 

「あぁ、俺だ。帰って来たん、だ…ぞ?」

 

今なんて?

 

「シス?」

 

弱々しい笑みで俺を見るシスの瞳を見つめ返す。

聞き違えた?いや、まさかそんな。少なくともガッツの声じゃない。ガッツは軍医の所で感染してないかチェックされてるはずだからな。

じゃあ今のって……。

 

「…ガンビーノ」

 

「……ッ!」

 

間違いねぇシスの声だ、滅茶苦茶驚いたじゃねぇか!

ちくしょう言葉が出てこねぇ。

シスが生きてた、言葉も…戻った、のか?

 

予想外の事に思わず硬直しちまった。

 

「おぁえり、ガンビーノ」

 

馬鹿野郎ッ…!そりゃあ俺のセリフだ!

シスを引き寄せてギュッと抱きしめる。ダメだ、涙が溢れて止まらねぇ。

 

「シズゥ…ゥッ、あ"ぁ、ただッいま……ッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからどのくらい泣いてたかは知らねぇ。

落ち着いた時には俺とシスの2人だけになっていた。きっと気を効かせてくれたんだと思う。

 

「落ち着いたならちょっといいか?ガンビーノ」

 

テントの外からウルバンが呼んできた。

 

「今は休めシス。また後で来るからな」

 

頷いたシスをそっと寝かせてテントから出る。

暫く歩いた所でウルバンが口を開いた。

 

「シスの言葉の事なんだがな」

 

「ああ、なんか知ってんのか?」

 

「シスが言葉を忘れた原因、覚えてるよな?」

 

勿論だ、自分の子を流産しちまったショックで気を病んじまったんだ。

 

「正直言うと言葉を取り戻す前兆はあった。ガッツの名前を呼んだことだな、アレは思うにシスなりの愛情表現なんだよ」

 

「…だとして、急に言葉を取り戻した理由は?まさかペストにかかったおかげだ、とかほざくわきゃねぇよな?」

 

「怒るなよ?ガンビーノ。言っちゃ悪いが俺はペストのおかげでもあると思ってんだ」

 

「……」

 

分からない。

何をどうしたらペストのおかげになるってんだ。

 

「これは俺の予想だけどな、シスは幸せだったんだと思うぞ?子を亡くしてもアンタが傍に居てくれて、ガッツを拾った後も変わらずに2人を愛した。だから彼女はそれを手放したくなかった。その想いが、感情がシスの心をコッチに呼び戻したんじゃ無いかね」

 

「死の間際に生を願ったから…って言いたいのか?」

 

「あぁ、だけど心の病は俺の専門外なんでね。あくまで俺の予想でしかないんだぞ?ガンビーノ………え?おいガンビーノ!?」

 

「ごッ…こっち見んじゃねぇ…」

 

運命が変わった。

シスが()()()()()()。ガッツも無事ときたもんだ。

悔いは無ぇ。

 

「…。また泣いてんのか?」

 

「うるぜぇッ!歩哨にでも立っでろッ!」

 

きっと今の俺は人に見せれねぇ顔になってんだろうな。

 

「あいよ…俺はなんも聞こえなかったぜ、悪ぃなボス。無駄に付き合わせちまって」

 

ウルバンの足音が遠ざかっていく。

声を押し殺すのも限界で声を上げて泣いた。泣き崩れるなんて初めてだった。嬉しかった、ただただ嬉しかった。運命が変わった事がじゃない、家族が無事だった事が無性に嬉しかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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現実は甘くねぇ

100!?いや120超えとる!!(((゚ω゚)))
ここまで伸びるなんて思ってなかったですぞ!

30人くらい気に入った!って言ってくれる人居ればいいな♪程度に書いてたのに…((((;゚Д゚)))))))コンナノ シラナイ

評価、感想も励みになってます!ありがとうですぞ!




 

 

相変わらず戦争は終わらねぇ。

それどころか終わる気配すらありゃしねぇ。

 

ミッドランドもチューダーも、互いの国民を戦場にこれでもかと投じてる。そろそろ無駄だって気付かないもんかね。

豆まきの豆じゃねぇんだぞ、俺達は。

 

今は敵城の正面に陣取って張り巡らせた塹壕に身を隠している。

俺達の直属の指揮官は攻撃開始早々に敵城壁に突撃命令を出すという恐るべき暴挙をしてのけた。

結果か?分かんだろ?あっちゅう間にハリネズミに変身なされたさ。活躍なんて無かったがね。

 

「「「ウォラァァァーーッ!!」」」

 

突如地響きと鬨の声が起きた。

騎兵突撃。

生きて戻ろうなんて考えてない、「一兵でも多く道づれに!」と突っ込んでくる敵さんの決死隊だ。

素直に付き合うだけ命の無駄、はっきりわかんだね。黄泉比良坂(ヴァルハラ)には己の軍馬と行ってもらおう。

 

「団体さんのおいでだァ!!構えろぉ!!」

 

号令と同時に膝立ちで塹壕ギリギリから弓隊が構える。100人程のクロスボウ兵、50人程の長弓兵が弓を引き絞る。

数は少なくとも老練な精鋭達、敵が哀れだ。

 

「距離150!水平射!放てぇ!」

 

合図で長弓兵が矢を放ち、その殆どが軍馬を仕留めていく。

悲鳴と嘶きが混ざりあって突撃隊形が乱れはじめる。

 

「距離100!水平射!放てぇ!」

 

乱れた前列を抜けて突出してきた騎士達も同じく軍馬を射られて地面に転がり落ちていく。

 

この時点で騎士達に出来るのは死ぬ事のみ。

最後まで突撃しながら死ぬか、逃げる背中を射たれて死ぬかの2択しか残ってない。

進むも死、退くも死だ。

 

「距離50!全射手水平射ァ!放てぇ!」

 

ザァッっと音を立てながら放たれた矢は騎士の鎧を易々と貫く。

一方的な虐殺と言ってもいい。

 

「ガンビーノッ!!右翼が崩された!右から来るぞ、数約50距離200ッ!!」

 

部下の声に応じて指揮を飛ばす

 

「槍隊右行けぇ!密集陣!クロスボウ兵、援護してやれ!ガッツ!!」

 

「……ッ!?」

 

ああくそッ!!やっぱり無理じゃねぇか!

カルテマ達に「戦場を教えるには良い機会だ」と再三に迫られて根負けした結果、ガッツを連れてきちまっている。

 

「離れんじゃねえぞ!俺の影から出んな!!」

 

ガッツを引き倒すように後ろに隠して落ちてた盾を持たせる。まだ6歳の子供には大きすぎる盾だが、ガッツの体を隠すには丁度良かった。

 

「来るぞッ!!構えぇー!」

 

ゴッ!ガッシャーーー!

 

軍馬諸共突っ込んできた騎士が、槍兵と激突して崩れこんでくる。

怒声や悲鳴、断末魔の中ただ目の前の敵を斬り捨て続ける。これが戦場なんだ。躊躇いは死を招く。

その目に焼き付けとけガッツ、死ぬってのがどういうものなのか!

 

 

 

 

 

日が落ちて戦闘が終わった。

衛生兵が忙しなく行き来する中、震えて泣きそうなガッツを抱き抱えながらシスの待つ天幕に向かう。

 

「怖かったか?ガッツ」

 

返事はない。ただ僅かに抱き着く力が強くなっただけ。

 

「忘れんじゃねぇぞ…あれが俺の戦場だ。ガキが来ていい場所じゃねぇ、次は死ぬと思え」

 

今日の事でガッツは戦場の怖さが分かったはずだ。

「剣を教えて!」なんて来ることは無くなるハズだ。そもそもガッツが戦場に興味を持たないように育ててたつもりだったのに付いて来たがるなんて…、どっから興味を得たんだか不思議でしかない。

 

まぁ今はこれ以上言う事はない、これで大人しくなってくれれば助かるんだけどなぁ…。

 

 

 

 

 

 

 



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親の心子知らず

 

 

僕は父さんが好きだ。母さんも好きだ。

父さんは色んな事を教えてくれる。文字と簡単な計算にミッドランドやチューダー、クシャーンの歴史とか。知る程にその異文化に触れてみたいっていう好奇心が募って、「外の世界を見たい!」ってお願いしては、父さんを困らせたりしてる。

母さんはそんな僕を見ながらいつも微笑んでる。父さんと取り合うように食べる母さんのご飯なんて物凄く美味しい。

他人(ひと)から聞いた話だけど僕は拾われた子らしい。でも大切にしてくれてるのは分かってるから別に構わないと思ってる。

 

父さんは傭兵を率いる団長っていう仕事をしてるらしくて、僕はその部下の人達に色々な外の世界を聞く機会が多かった。

特に古参兵達の話には惹かれるものが多くて、戦場への興味は僕の中で日に日に強くなっていったのを覚えてる。

 

だから僕は考えた、どうやったら戦場に連れてって貰えるかって。

そして実行したんだ。カルテマ(古参兵)達が父さんと打ち合わせ(?)をしてる時に「父さんについて行きたい!」って泣き付いた。

もちろん頑なに拒まれたけど、そんな僕を見てかカルテマやモス爺が一緒にお願いしてくれた。

結局は父さんが折れて憧れの戦場を見に行ける事になった。

 

甘く見てた。

憧れも好奇心も何の役にも立たなくてただただ怖かった。

歯はガチガチ鳴って震えが止まらなくて、ずっと父さんの後ろに隠れてた。なだれ込んで来た敵を怯まず剣で斬り捨てていく父さんは、強くて大きくて頼もしく見えた。

帰り道、父さんに抱き抱えられながら僕は誓った。

 

僕も強くなって父さんと一緒に母さんを守ろう。って

 

でも父さんには言えなかった。

父さんは僕が剣の道を選ぶのを嫌がってるらしくて、皆にも教えないように言い聞かせてるんだって。なんでダメなんだろう?

 

ウルバンやカルテマ、モス爺とか殆どの古参兵は()()()()()何も教えてくれない。

もう一度一緒にお願いして欲しいって頼んだのに断られちゃって取り付く島もない。

でもバーランはこっそりだけど教えてくれるから好き。

みんな「ガンビーノがなぁ…」って言って相手にしてくれないけどバーランだけは「まぁ少しならいいんじゃね?」って!

()()()()()()()()()皆と同じ剣で練習してるけどまだまだみたい。

剣に振り回されてる内は話にならないんだって…。

多分暫くは素振りだけしかさせてくれないと思ってる。この剣、僕の体には大き過ぎるからね。

 

ちょっとやってみたくなって剣を横に振ったらそのまま引っ張られて転んでしまった。

しかもそれをいつから居たのかバーランとウルバンに見られてしまった。バーランは僕を見て笑ってるしウルバンはびっくりしてる。

 

「ふッふははははッ!まだお前には早かったかもなガッツ。もう少し体がでっかくなってからにしたらどうだ?それからでも遅くねぇんじゃね?」

 

なんかムカつく、バーラン(バカ)のくせに。

知ってんだよ?よくやらかして父さんにシバかれてるって。カルテマが言ってたからね。

 

「オイオイ…面白いもん見せてくれるって言うから来たのにマジかよバーラン。お前ガンビーノに殺されんぞ?」

 

ウルバン顔色悪いよ?

大丈夫、ウルバンは悪くないからね!父さんも分かってくれるよ。

 

「良いんだウルバン、僕が頼んだんだよ『早く強くなりたいから教えて』って」

 

「いや、そうじゃなくってだな…」

 

「いーじゃねぇかよ教えるくらい!ガッツだってそろそろ物心つく頃だろ?生きる為には剣は必須じゃねぇか!なぁ?」

 

うん!バカなんだろうけどやっぱりバーランは好きだ。

 

「いや、6歳ならもうとっくに物心は付いてるわ。なのにガンビーノが教えてねぇって事はよお前…ヤバいんじゃないの?」

 

「……やべぇかな?」

 

「やばいだろうな」

 

どうしたんだろう?今度はバーランの顔色が悪くなってきてる。ウルバンは呆れ顔だ。

皆が言うように僕に剣を教えた事がまずかったって事なのかな?

 

「大丈夫なの?バーラン」

 

「いやぁ…大丈夫じゃねぇかも…?」

 

()()やらかしたなバカ野郎、いっそ大人しく斬られるってのも手だぞ?なに、生きてたら治療してやるよ。生きてたらな」

 

「治す気ねぇだろてめぇ」

 

「決め付けんなよな、まぁでもバレたらその首が落ちんのは確実だと思うぞ。どうすんのよお前マジ死ぬぞ」

 

「……」

 

「…ったく、このままバレたらおしまいだからな。そうなる前に謝ったらどうだ?ガンビーノだって事情を聞けば命までは取らないんじゃ無いかな」

 

「僕も行く」

 

 

ウルバンに言われて状況を理解したバーランと一緒に父さんの天幕に向かって歩き始める。

なんか気まずい。

でも父さんがそんなに怒るとも思えない、きっと少しのお説教で許してくれる気がする。

 

…そんなこと無かった。

 

この日、僕とバーランはブチ切れた父さんによって大目玉をくらった後、まだ霜が降りる寒い季節なのに川に叩き込まれた。

 

 

 

 

 



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男の子は戦いが好き、はっきりわかんだね

 

 

俺はここ数日、朝霧も晴れない早朝からガッツの剣の練習に付き合っている。

正直言うとほっときたかったんだが、中途半端な剣で戦場に踏み込んだらどうなるか…分かんだろ?そうなるくらいならと思ったんだ。

 

「軽いし浅いぞ、もっと踏み込めガッツ!」

 

「ッ!」

 

ガッツの突き出す剣を流しながら軽く切り払う。

薄皮が裂けて僅かに血が出るが、気にする素振りもなく打ち込んでくる。

 

「うらあぁーッ」

 

「がむしゃらに斬り込むな!隙だらけだぞ!」

 

「うッ!」

 

ヒラリと躱して足払いを食らわせる。

バランスを崩しながらも受け身を取るガッツ、やはり体術も教えたのは正しかったみたいだ。

だからと言って加減はしない。ガッツが立ち上がる前にその首に剣を突きつけて宣言する。

 

「首1つだガッツ。てめぇはまだ子供だが子供なりに利点はある、てめぇからは俺の全身を視野に入れられるが俺からは見えなくなる所がある。良いかガッツ、体の差を活かせ。分かったらもう一度だ!立て!!」

 

「………」

 

無言のまま立ち上がるガッツ。だが不貞腐れてる訳では無い。

ジッと俺を見据えているその目は何処に隙が生まれるかを見極めようとしている。

 

いいぞ、それで良いんだガッツ。

 

「ッおおぉ!!」

 

集中を邪魔するつもりで大声と共に斬りかかった。大上段からの打ち落とし。

力技でガッツの剣を落とす!

 

取った!と思ったのもつかの間、ガッツが視界に居なかった。

 

「…なッ!?」

 

驚きと殺気に気付いたのは同時だった。

咄嗟に首を逸らした瞬間、首すれすれの場所を下からの剣が貫いた。

危なかった。コンマ1秒でも遅れてたら自分の首が落ちてたところだ。

背筋に冷たいモノを感じる。

 

確かに手加減はしてた、だからと言ってナメては無いし油断もしてなかった。

偶然か狙ったのか、どっちにせよガッツは助言を活かして見せた。

俺は死にかけたけどな!?

 

「やるじゃねえか…ガッツ、今のはなかなか良かったぜ。普通は下からの攻撃なんて予想してねぇ物だからな」

 

肩で息をしてるガッツの頭を撫でてやるとパァッと嬉しそうな顔をする。

俺に褒められるのがそんなに嬉しい事なのか…?

思うにガッツの成長が早いのって、やっぱり()()って物の影響が強いんだろうな。

 

「今日はこれで終わりだ。戻る前に川で汗流しとけ」

 

「うん!」

 

元気に走っていくガッツを見届けて1人、ウルバンの天幕を目指す。

ガッツには常用の傷薬を持たせてるが質がいいとは言えない代物である。

菌が入ったら大変だ。

 

「おう、ウルバン起きてるか?」

 

まぁ寝てたら寝てたで叩き起すから良いけどよ。

 

「…今起きたところだけどなんだ?悪いが朝は苦手なんでね。面倒事なら止めてくれないか」

 

「傷薬を取りに来た。止血効果があって治りの早いイイやつをな」

 

呆れ顔のウルバンを無視して薬品棚を漁る。

 

「たしかこの辺に入れてたよな、えーっとぉ?」

 

ポイポイポイのポポイとな♪

 

「待て待て待ってくれガンビーノ、分かったから。今出してくるからぶちまけないでくれ…」

 

「ああ、悪ぃな」

 

何か言いたげなウルバンに軽い笑顔を返す。

5年、6年と子育てしてるうちに自然に出来るようになっていた。

「これだよ」と出された薬を持ってガッツが行ったであろう川に向かう。

 

ガッツは河原に落ちてた倒木に座っていた。

潰れた手のマメを見つめて考え事をしてたらしいガッツを呼んで薬を放り渡すと、またも嬉しそうな笑顔で受け取る。

 

「ガンビーノ!」

 

「ん?」

 

「ありがとう!!」

 

「…おう」

 

何だかなぁ、薬1つで喜びすぎじゃないか?

 

 

 

 

 




お気に入り登録200人到達だと!?((( ゚ д ゚ ;)))

ほ、ホントにええんですかぁ?:( ;´꒳`;):
ありがとうですぞ!(*^^*)


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俺のガキ(息子)に何をする!

 

 

ミッドランド軍によるチューダーへの反攻作戦。

かつて奪われた城を1つ1つ奪い返していくとか言う気の遠くなりそうな狂気の作戦。

また大勢の命を溶かした目前の城ももう落ちる。

つっても上の奴らは俺達(傭兵)を使い捨て程度にしか考えてない。

今更だが先駆けなんて怖くて出来ないらしい正規軍の変わりに凸れとの御命令を受けてる。

 

ハハッ、せいぜい好き勝手にやらせてもらうさ。

 

「いいか野郎共ォ!城門が砕けたら全員で突入するぞ!お宝は早い者勝ち、手柄首も女も取ったもん勝ちだ!!せいぜい稼げや!…抜剣(ばっけん)ッ!!

 

「…ッ」

 

ふと視界に入ったガッツは初陣ってだけあって緊張した顔つきになっていた。

ったく、しゃーねぇな。

 

「ガッツ」

 

「…なに?ガンビーノ」

 

「死んだら意味ねぇからな、適度にやりゃあ良いんだよ。変に気張るな」

 

ガッツが頷いた直後、轟音と共に門が壊れた。

さぁ稼ぎ時だ!剣を掲げて叫ぶ

 

「突ッ込めぇーー!!」

「「「「オオォォォォォッ!!!」」」」

 

そこからは乱戦だった。

入れまいと打って出てくる敵兵との白兵戦、入り乱れる敵味方を一瞬で見分けて斬り捨てる。

 

何人か斬った時、たまたまガッツが敵を仕留めるのが見えた。

自然と笑みが零れたがその後ろに回った奴が見えた、敵だ。ガッツは気づいてない!

走り出した時には遅くガッツが打ち倒された。トドメを刺そうと振り上げられるメイス。

 

「「くたばれッ!!」」

 

ソイツと俺の声が重なる。

ガッツの頭を割られるより早く敵の首を刎ね飛ばした。倒れ込んだ敵の血を浴びたガッツと目が合う。

 

「ガ、ガンビーノ…」

 

「呆けんなガッツ敵は前だけから来る訳じゃねぇんだ。倒したからって気ぃ抜くな」

 

ほら立てとガッツを引き起こす。

 

「ん、気をつける」

 

「ああそうしろ、てめぇの死に顔なんざ見たかねぇ」

 

去り際に落ちてた兜を適当にガッツに被せる。勝ち戦で死にたい奴なんか居やしねぇからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方には戦は終わった。言うまでもないだろうが俺達の勝利で今は酒宴の真っ最中。

ガッツは手柄首こそ取れなかったが敵を4、5人斬ったらしい。初陣にしては上出来だ。

 

「あぁん?おい、ガッツはどうした?せっかく褒めてやろうって思ってたのによォ…おいてめぇガッツ連れてこい!」

 

酒に肉に女に勝利。これ以上ない肴だろうが!

このクソッタレな世の中の生きる楽しみを教えてやるぜ!!

 

「よさんかガンビーノ…あの子はまだ幼い。人を斬る事の怖さは我らの比では無かろうよ」

 

静かに語りかけるように止める老人、モスヴィラント。

周りからはモス爺とか呼ばれてる。

 

「あん?だから楽しませてやろうって言ってんじゃねえか!んだよ小言なんざ聞きたかねぇぞ」

 

「儂とて言いたくはない…言わせんでくれガンビーノ」

 

長く団に尽くしてガンビーノを支えてきた老兵。

酔った勢いとはいえあまり無下には出来ないものがある。

 

「……チッ、シラケるぜ」

 

何となく居づらくなって席を立った。

 

自分の天幕で飲み直すか…。

頭を掻きながら戻る道中、後ろから声をかけられた。

 

「なぁ…ちょっといいか?ガンビーノ」

 

「あ"あ?」

 

不機嫌ながら振り向いた先にいたその男には覚えがあった。

 

…ドノバン?

 



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ガッツ(貞操)の危機

 

 

怖い…怖いよ。

 

毛布にくるまってこれから寝るって時になって、急に人を殺した事実に震えが止まらなくなった。

手に残る相手の体を貫いた剣の感触。

後ろから殴り倒された痛みと、首を無くした兵士の血の温もりに目に焼き付いた切断面が忘れられない。

 

皆も…ガンビーノもこんな風に苦しんだのかな…?

 

体を丸めて震えを押し殺そうと頑張る。

ふと天幕に光が入って来たのに気づいて振り返った。ガンビーノが来てくれたのかなって思ったけど違う様だった。

よく見えない。

微かに見える肌の色、体格…。

 

「…ドノバン、なの?」

 

なんか変…。

そう思った直後に見えたドノバンの歪んだ笑み。

直感が "逃げなきゃ" と叫んだ。何処に?ガンビーノの所に!

いやダメだ、ドノバンを押しのけれる程の力は僕には無い。咄嗟に剣に手を伸ばしたけど掴む前に押さえつけられてしまう。

 

「は、離してドノバン!誰か!だれ「うるせぇ!黙ってろ」

 

必死で助けを呼ぶ口に布を押し込まれる。

 

そう言えば少し前に酒の席でガンビーノが言ってたっけ。

『いいかぁガッツゥ、軍隊じゃあ幼気の残るガキやら女は気をつけなきゃいけねぇ。何処の軍隊でも "そういう事" ってのが結構あるからな!!』

その時はガンビーノの言う『そういう事』が何なのか分からなかったけど今ならわかる。

助けて…ガンビーノ!!

 

ドノバンの手を振りほどこうと身を捩る。

 

「……ッ」

 

「暴れんじゃねぇ!」

 

「ッう!?」

 

痛い…。殴られた頬がジンジンして熱を帯びるのを感じる。助けて…助けてよガンビーノ…。

せめて泣くもんかと歯を食いしばった時、耳を疑う言葉が聞こえた。

 

「いいかよく聞けガッツ、俺はガンビーノに銀貨20枚も出したんだ。てめぇに20枚も積んだんだ。だってのに…せいぜい楽しませて貰うぜぇ」

 

「……」

 

嘘だ、嘘だよ。ガンビーノがそんな事…。

抵抗する気も起きないくらいデカい衝撃だった。ガンビーノが僕を売った…?お金で?

 

大人しくなった事に満足したのか、ドノバンは腕を掴むのをやめて肌着を乱暴に引き裂きはじめた。

後ろからベルトを外す音が聞こえる。

そして腰をドノバンに掴まれた、その時だった。

 

「おい…何してんだドノバン」

 

聞きなれた声。

怒りを抑え込むような殺意を孕んだ声音。

 

「ガンビーノ…」

 

「あ"ン?…ッ!!ぁ…い、いや待て、待ってくれガンビーノ違うんだ」

 

ガンビーノと目が合った。本気で怒ってる。

それだけで僕は売られたんじゃないってのが分かった。

 

「何が違うのかはこの際どうでもいい。()()()見逃してやるから失せろ。…あぁ待て、今度俺と顔合わせる時までに言い訳くらいは考えとけ」

 

青ざめながらスボンを履き直して逃げるように出ていくドノバン。

なんでドノバンを逃がしたのか分からなかったけど、ガンビーノが助けてくれた。それだけで嬉しかった。

 

「遅れちまったなガッツ…。すまねぇ」

 

そう言って自分の来てたシャツを着せてくれた。

「怖かったよな」って、そっと優しく抱きしめてくれたガンビーノの腕の中で僕は泣いた。

 

初めて人を殺した後悔と殺されかけた怖さ。

ドノバンに押し倒された時に感じたおぞましさ…。

 

ガンビーノはただ黙ってそれを聞いてくれてた。

ひとしきり泣いて落ち着いた頃、ガンビーノが隣に寝転んで「寝付くまでは居てやる」って。

後の事は俺の仕事だから、と頭を撫でてくれて寝るように促された。

だから今日の事は忘れようと思う。きっとガンビーノがうまく収めてくれる気がするから。

 

 

 

 

 

 



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ゆ" る" さ" ん" !!

 

 

 

ドノバンによる「アーーッ♂」な展開を阻止して数日が経った。あの日以来ドノバンは当然と言えば当然だが、明らかに俺を避けている。

俺が怒る事くらい予想出来なかったのか?やっぱり発情した男はケダモノ。はっきりわかんだね

 

まぁガッツが可愛くてそのプリケツをウホッなドノバンが欲しくなっちゃうのは仕方ない。

納得いくけど許早苗。

 

 

 

さてさて本日の仕事は残党狩り。

貴族や領主からしたら面倒な後始末でも俺達傭兵からすればこれ以上ないボーナスステージだ。

当然の如く部下を総動員して退却する敵さんの帰路で待ち伏せる。

待ち伏せ?凸らないのかよチキン!だと?分かってねぇな素人め。敵は腐っても正規軍、兵数は1傭兵団よりは多い。

ナメてかかって押し返された暁には目も当てれねぇだろうが。

 

ここ最近は攻城戦が多かったのもあって新兵はおろか古参兵共もイラついて空気がピリピリしてた。無能な騎士だの将軍だのに付き合わされてたんだから無理もない。

 

こんな時くらいは手網を離してやるもんだ。

 

「いいかテメーら、相手の数は俺達より多いが負けて士気はガタガタだ。手向かう奴だけ殺せ。分かってるだろうが取ったもん勝ちだからな、思いっきりやれ」

 

獲物を目にしたら最後、飢えた狼みたいな勢いで襲いかかるのがコイツらだからな。銅貨1枚すら残らない気がする。

 

「突撃ィーーーッ!!」

 

剣を引き抜いて馬を駆る。

慌てて体勢を整えようとしてた敵騎士の首をすれ違いざまに斬りとばす。

指揮官を失くした部隊ってのは驚く程にもろい、それは敗軍だろうとなかろうと変わらない。案の定、潰走をはじめた。

 

ちなみにガッツはお留守番中。

まだ立ち直るには時間がいると思って連れて来てない。今頃はシスか誰かと一緒に居るんじゃないかな?

 

 

戦闘も終盤、俺は素晴らしい物を見つけた。いや見てしまったって言うべきか。

ドノバンが逃げる敵兵を追って森の中へ駆け込んで行く姿だ。

あの日、俺はその場でドノバンを始末したかったが "仲間殺しは縛り首" って規則のせいで手が出せなかった。

とは言え "やり方" はあって、今がその絶好のタイミングって訳。

アタックチャ〜ンス☆

 

ドノバンの後を追うように単騎で森に入る。

 

逃げ惑う敵兵相手にヒャッハーしてるドノバン、その背中を狙うクロスボウに気付く気配はない。

最後の1人の頭を砕いた瞬間、短い風切り音と共にドノバンの肺を貫いた矢。

 

「……ぇあ"?」

 

状況が飲み込みきれてないドノバンは矢が放たれたであろう場所に視線を向ける。

肺に血が流れ込んだんだろうか、息苦しそうだ。

 

「カッ…ガ、ガンビーノ…?」

 

ドノバンと目が合う。

クロスボウを放り捨ててドノバンに近付く。近付きながら代わりに剣を抜く。

 

「ようドノバン、最近つれねぇじゃねーか」

 

「カハッ…ま"待ってくれガンビーノ、ガッツの件だよな…?あれは俺が悪かった。あ"あの時のおえ"はどうかしちまってたんだよ。な?ハッ…だか…グガッ」

 

言いながらバランスを崩して落馬したドノバン。仕方なく俺も馬をおりて目の前に立つ。

苦しそうに喘ぎながら尚も命乞いを続けてくる。

 

「だのむ…殺ざないでぐれ……」

 

「なぁドノバン、俺はお前の性的嗜好にとやかく言うつもりはねぇ、何処のガキのケツ掘ろうが舐めようがどうだっていい。だがな…ガッツに手ぇ出したのだけは許せねぇ。分かるよなあ?」

 

ドノバンを立たせて木に寄りかからせる。こうでもしないと声がよく聞こえないからな。

ボソボソ言うんじゃねえよドノバン。

 

「な"仲間殺しは、縛りk「安心しろドノバン、テメーは戦死したんだからよ」

 

「え"…ッ!!」

 

浅い笑顔を浮かべながらその腹を斬った。

驚愕から苦痛と絶望の表情に変えながら崩れ落ちるドノバン。

 

「あ"…ア"ア"ァ"ァ"ァァーーーッ!!」

「…チッ、うるせえよ」

 

誰かに聞こえちゃうだろうが。

 

ちょうど跪く姿勢だったドノバンの首に剣を振り下ろす。これでいい、これでいいんだ。やっと全てが片付いた。

ったく、手間かけさせやがって…。

 

一息ついた後、もと来た道を引き返した。

 

 

 

 

 




ドノバンが出した銀貨20枚のネタバレするって言ったな。あれは嘘だ( -ω- `)フッ


あっ、ごめんなさい!違うんですヾ(・ω・`;)ノ話の流れ的に合わなくて削っちゃったんです。許してクダチャイ

いつも読んでくれてありがとうですぞ!


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運命が殺しにくるんだが…

タイトル変えました(;´∀`)
仮名だったのでそろそろ頃合かなって…

許してぇ!!


 

 

今日も今日とて攻城戦。

なんつーか、そろそろ飽きてきたって言うか…うん。ぶっちゃけ飽きた。

長引いた戦争のせいか有能な指揮官ってのは大体死んじまったらしい、敵も味方も突撃し合ってはバタバタ倒れるばかりで一進一退。

それを聞いた指揮官がヒステリックに叫び散らかす毎日。「何とかしろ!!」って、いやいやアンタらが何とかする方法を考える立場だろうが…。

もう…イカレポンチなんだから。

 

「ガンビーノ!城門が軋んできてる、そろそろ壊れるよ!」

 

ガッツが塹壕に飛び込んでくる。初陣の時とは随分変わって今じゃ怯まず前線に駆け出す元気な猪武者に育っちまった。

誰に似ちゃったんだよお前…。

 

でもまぁ偵察の役割を果たしたのはええ事やで。ガッツの頭を撫でながら指示を出す。

 

「走れ伝令!各隊亀甲隊形ッ!!目標は敵城門正面。止まるなよ、着く頃には門が破壊されてるハズだからな!」

 

「了解!」

 

中腰で塹壕を駆けていく伝令兵。

間もなくしてバーラン隊とカルテマ隊を筆頭に亀甲隊形をとった部隊が前進し始めたのが見えた。

敵の砲兵も弓兵も気付いたらしく必死の抵抗をみせる。

 

「テメーら仕事だそのケツ上げろ!突撃ィィーー!!」

 

号令と同時に亀甲陣の合間を散兵が駆け抜けていく。

問題ない、あるはずが無い。いつも以上に順調なんだから。

 

ふと城壁の砲に目がいった。

偶然だったが見えた()()に血の気が引いた。いつの間に調整したのか角度を変えた大砲がこっちを向いていたのだ。

マズいと思った瞬間、砲口が火を吹いた。

 

「伏せろ!ガッt…ッ!!」

 

爆発。

衝撃波で吹き飛ばされ、泥濘にまみれた。

咄嗟に体をズラしてガッツを庇う形をとったが間に合ったのか分からない。

ちきしょう…これ死ぬのか?

戦場の音も掠れるように聞こえなくなって、眠気に似た感覚に意識を呑み込まれた。

 

 

 

 

〜〜〜◆ガッツ◆〜〜〜

 

 

 

不意に聞こえたガンビーノの声に振り返った時、後ろに居たはずのガンビーノの姿はなかった。

そこには砲弾で出来たクレーターとバラバラになった人間のパーツがあるだけ。

 

「ガンビーノォ!!」

 

至近弾だって分かってすぐ、剣を放ってクレーターの中に飛び込んだ。ガンビーノの無事を確かめる為に。

 

ガンビーノはすぐに見つかった。突っ伏した状態でピクリともしない。

 

「ガンビーノ!大丈夫!?」

 

上半身の鎧はひしゃげて破片が刺さってて、下半身を覆う泥を除けるとベッタリと血が手に付着した。

酷い、その一言に尽きる。

 

「衛生ッ!衛生ーーー!」

 

叫ぶように衛生兵を呼びながらガンビーノの足の傷口に塹壕から拾ってきた酒をかけて押さえつける。ウルバンに教わった事だ。止血帯が無い今、こうでもしないと…!!

 

「…ぅう"」

 

「ガンビーノ!?大丈夫だから、すぐに衛生兵が来るから!」

 

意識があるのか無いのかそれ以上反応しなくなったガンビーノの足を押さえ続ける。その指の間から絶え間なく血が溢れてくる。

 

ダメだ…血が止まらない。

 

「ガンビーノ、大丈夫だから…大丈夫だから…」

 

「おいガッツ何してんだ!塹壕に入れ!!」

 

顔を上げると塹壕から1組の衛生兵が僕を呼んでいた。やっと来てくれた!

 

「助けて!ガンビーノが…!!」

 

「なに?ガンビーノ!?」

 

駆け寄って来た衛生兵の表情が一瞬で曇って、「うわっひでぇ」って呟いたのが聞こえた。

 

「血が止まってねぇな…ガッツ、ちゃんと押さえてたんだよな?」

 

「勿論だよ!酒をかけて消毒してから圧迫したんだから!」

 

「ならいい、取り敢えず担架に乗せなきゃな。ガッツは下がってろ後は俺達の仕事だからな。おい手伝え」

 

「よし、俺は肩を持つから足の方持ってくれ」

 

塹壕に担ぎ込まれたガンビーノが担架に乗せられたのを見届けて剣を拾い握りしめる。

焦りも恐怖も殺意一色に塗り変わっていくのを感じる。

 

殺してやる、お宝なんてどうでもいい。

アイツらは殺す、斬って、刺して、落として殺してやる。ガンビーノへの見舞いには大砲を鹵獲したって言えばきっと喜ぶに違いない。

 

まだ抵抗を続けている壁上の砲兵を睨みつける。

 

「逃げるなよ…僕が行くまで」

 

どの砲兵がガンビーノを撃ったかなんて知らない、だけど皆殺せばどれか当たるはず。

許さない、絶対に許さないからな。

 

ガンビーノを狙った奴は僕が必ず…殺してやる。

 

 

 

 



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Gが目覚めた

たまにチラッと出てくるモブキャラ
モスヴィラント・バーナー爺( ´灬` )

イメージしやすいように一言で言います
「ゲンドウの後ろにいる冬月」的キャラです
(*^^*)。(伝われッ!)



 

 

 

知らない天井だ…

 

 

──なんて事はなく、目が覚めたのは医療天幕のベッドの上だった。

傷病兵の呻き声やら悲鳴で阿鼻叫喚なのが当たり前の所だってのに今は随分静かな空気が漂っている。考えるに戦闘からある程度日が経ったという事だろう。

 

「起きたんだね、ガンビーノ」

 

「…シス?」

 

ベッドの横の椅子に座っていたシスと目が合った。

シスはペストを患った際に顔が酷く爛れたのだがウルバンらの治療で随分回復してきている。

顔の半分を覆う包帯もそろそろ取れるんだとか。医術の腕ヤバ過ぎだろアイツ、なんで傭兵なんてしてんだ?いやマジで。

 

「ウルバン呼んでくるから、ジッとしててね」

 

そう言って立ち上がったシスを呼び止める。

 

「なぁシス、ガッツは無事か?」

 

「うん」

 

頷きながら短く答えてくれた。

 

そうか、それならいいんだ。

ガッツの無事を確かめる前に意識ぶっ飛んじまったからな…原作じゃついでに足とか理性まで飛ぶんだからそりゃやってらんねーよな、原作ガンビーノも。

 

たとえ俺が原作に沿って足無くしたとしてもガッツを殺そうなんて考えやしねーけどな。

 

「シス、ガッツに「無事で良かった」って伝えといてくれ」

 

「自分で伝えたら?ガッツもその方がいいでしょ」

 

察してくれよぉ、なんか気はずかしいから頼んでんだって。伝われ!

 

「…分かった。言っとく」

 

「ああ、頼むぜ」

 

ニカッっと笑顔で頼んだのになんで呆れ顔を返されにゃならんのだシスよ。おーい。

 

シスが出ていくのを見送ってから半身を起こす。

さっきから殆ど感覚が無い自分の右足を確認すべく毛布を引っペがした。

 

「…そうか、もう心配ないって訳だな」

 

あった。右足は包帯と固定具でかなりゴツイ見た目になってるがちゃんと五体満足の状態だった。

だからなんだって話だが俺には大事な事なんだ。

これでガッツに殺される最後のフラグが折れたんだからな、原作ブレイクだろうが知ったことか。

今じゃ俺も一児の親なんだ、そうそう死んではやれん。

 

安心してまた寝転がる。

誰も居ない天幕で1人、叫ぶように見えない "何か" に拳を突き上げた。

 

「はッ、ハハッ…ざまーみろクソッタレめ!俺は生きてる!足もある!因果律がなんだ、運命がどうした!!俺はガッツを殺さねーし殺されねぇ、どんな面してるか知らねぇが指くわえて見てろ!俺がテメーの筋書き歪めてやるからな!絶対だッ!!」

 

肩で息をしながら腕を下ろす。

何かスッキリした気分だった。そのままつい二度寝カマした俺だったが、間もなく来たウルバンに普通に起こされた。

 

チョー許さん!!

 

 

〜〜〜◇ウルバン◇〜〜〜

 

 

 

 

「起きろガンビーノ。…おい起きろっつーの」

 

「…んぉ?」

 

ったく、人に心配かけといて自分は二度寝とはいいご身分だなガンビーノ?あっ、そういや団長様だったなアンタw。

取り敢えずムカついたから冷たいタオルを寝起きのガンビーノの顔にぶつけておいた。

 

「なぁおいウルバン、も少しマシな起こし方は出来ねぇのかよ、ああ?」

 

「知らんよ、人が必死こいて治療してやっと目が覚めたって聞いて来てみれば二度寝カマされてた俺の気持ちを察して欲しいね」

 

なんかブツクサ言ってるガンビーノは無視してぱっぱと現状を伝えていく。

怪我人に冷たいって?馬鹿言え俺は忙しいんだよ。

 

「まずアンタの足の怪我な、今んとこは切らなくて済みそうだから暫くはそのまま経過観察するぞ。それとガッツに礼言っとけよ?聞いた話だけど吹っ飛ばされたアンタの足に酒かけて圧迫してたんだとよ。良かったなあ、もしガッツが手当してくれてなかったら壊死して切断してたかも知れねーよ?」

 

「そ…そうか、ああ分かった言っとくぜ」

 

なんかやけに素直だな。素直なガンビーノもそれはそれで気持ち悪い。

人間死にかけると性格変わるってマジなのか…。

 

「それからアンタが寝てる間、団の事はモス爺がやってたからな。そっちにも礼言っとけよ?あの人元気だから良いけどあまり無理させんなよな」

 

「あ〜、バーナーはいいんだよ。アイツは仕事と戦が大好きだからな、ほっといたって死なねーよ」

 

ガンビーノはモス爺をなんだと思ってんだ?

確かに付き合いが1番長いから言える事なんだろうけど、あまり知らない身としては複雑な気分になる。

言うべきことは言ったから後はガンビーノ次第、天幕を出る直前にちょっと一言。

 

「親バカも程々にしとけよ?死んだら治せねぇからな」

 

わあーてるよ(わかってるよ)

 

手をヒラヒラと…いや、シッシに近いジェスチャーを尻目に自分の天幕に戻る。

あれはぜってー分かってない。

 

ガンビーノの事だから親バカ拗らせて死期を早めかねない。マジで洒落にならないくらい有り得るからな…。

ま、今に始まったことじゃないか。

 

「あ、ウルバン!」

 

「おうガッツか、ガンビーノの所に?」

 

「うん!」

 

おうおう、嬉しそーにしちゃってまぁ。

 

「気を付けてけよ」

 

返事も忘れて駆けてくガッツは後ろ姿でも分かるくらいパァーっとしてた。

良いねぇ。愛されてるじゃねーのガンビーノさんよ。

 

 

 



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親は子を崖から突き落とすモンだろ?

 

 

足を怪我して2年が経った。

ほぼ杖無しで歩けるまでに回復したものの長く歩くとやっぱり傷が痛む。

今日も日課の散歩を終えてシスと一緒に天幕外の椅子に腰掛けてチェスをしていると、戦を終えたガッツが走って帰ってきた。

なんだかいつもよりテンションが高めだ。

 

「ガンビーノ、聞いてくれよ!敵の大将を殺ったんだ!」

 

「おかえりガッツ、怪我してない?」

 

「大丈夫だよ母さん。ほらこれ!見てよガンビーノ!!」

 

「ほーーマジみたいだな。よくやったじゃねーかガッツ、お前も随分強くなったんじゃないか?」

 

ガッツが嬉しそうに渡してきた小袋には確かに数枚の金貨と何十枚かの銀貨、銅貨が入っていた。

大将と言えば護衛がいて重武装が当たり前。騎士を討つのとは訳が違う。これはかなり頑張ったに違いない。

 

「うん…、…。ほらよ」

 

ポポイっとガッツに金貨と銀貨を1枚ずつ投げて渡す。流石に全部は多すぎる、まだ子供なのに大金持たせて変に散財する癖がついたらたまらないからな。

 

おい何だよそんな目で見んなよ。

何もピンハネしてるんじゃねえよ、ガッツの為にも親の義務を果たしてんだからんな。勘違いすんなよな。

お前らもガッツの純粋さを見習えい!

 

「ま、死なねえ程度に頑張れよ」

 

「うん!!」

 

いつの間にかシスの膝の上に座ってたガッツの頭をワシワシと撫でくりまわしてやる。

こうするとびっくりするほど喜ぶ。今も満面の笑みでコインを握りしめてるくらいだからな。

 

ああ、可愛い盛りのガッツを見てると原作に律儀に沿わなくて本当に良かったと思えてくる。

 

ギリ覚えてる範囲だとガンビーノを殺しちゃったガッツはガンビーノの部下に追い回されて崖から落っこちる運命だった。

落ちても死ななくて狼の群れを撃退するも力尽きてバタンキューした所を別の傭兵団に拾われる所までは覚えてる。

 

んーー、ダメだそっから先が思い出せねえ。

 

「ガンビーノ?ねえガンビーノってば!」

 

「あ?なんだ」

 

「んーん、なんか考え込んでるみたいだったから…」

 

「あー気にすんなオメーには関係無いからよ」

 

ひとしきり撫で終わってチェスを片付ける。

そろそろ晩飯時でシスも行かなきゃならないしガッツじゃチェスの相手にならない。「大丈夫?」って聞いてくるガッツにいつも通り大丈夫だと返して席を立つ。

 

1年と少し前、自力で起きれるようになったってのに「まだ動くのは早い」とか言ってくるウルバンの反対を押し切って始めたリハビリの日々。

その時は傷が深くてマトモに歩けなかったから杖での移動だったがそれが宜しくなかった。

動きが制限されるせいでストレスが溜まりっぱなしで自然と酒が増えた。アル中になるほどじゃないにしろ禁酒に失敗したのは痛い。

 

っかしーなー、前に禁酒した時は成功したんだけど…。

 

まあそんなこんなでガッツの成長を見続けてきた俺の考えは最近変わってきている。『そろそろちゃんと世の中を見せてやるべきなんじゃないか?』って。

 

子供の成長ってのは思ってるより早い、だからもう少ししたらガッツを独り立ちさせるのも悪かないよな。

シスの後に着いていくガッツを眺めながらそんなふうに思う。

アイツはこの世の中を上手く生きてけるんだろうか…。

 

それだけが心配で仕方なかった。

 

 

 

 

 

 



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子離れするべきだな…!

 

 

 

「ここに居たのかガンビーノ」

 

「うん?」

 

宿営地近くを流れる小川で剣を研いでいた所にウルバンが声をかけてきた。

見れば特に装備も付けてないラフな格好でどこか清々しい様な雰囲気を漂わせている。水でもぶっかけりゃ『水も滴るいい男』になりそうな。

なんだろう…生理的に受け付けねえ。

 

ウルバンには悪いが何処と無く嫌そうな顔をしちまってると思う。

 

「んだよ見りゃわかるだろうが暇してねえからな、暇つぶし相手探してんなら他当たれよ」

 

「おいおい一言目がそれかよ。いい知らせがあるから来たんだけどな」

 

いい知らせ。

はて?俺に言いに来る程の事でなんかあったっけか。

 

「ガッツの事でな「アイツがどうした」

 

イケねぇ早っちまった。

おい何だよウルバン、アホけてないで続き言えや。

 

「あ、ああ。アンタから頼まれてたガッツへの医療教育だけどな、一通り教え終わったからって言いに来たんだ」

 

「そうか…それは確かにいい知らせだな。礼言うぜ」

 

研ぎもそこそこに剣を収める。

特に予定も無いしガッツの訓練でも見に行ってみるか

そんな俺の考えを見透かしたのかウルバンが忠告という名の釘を刺してきた。

 

「ガッツんとこ行くのも良いけど時間ずらした方がいいんじゃないか?アンタが見に行ったら…いや、見てるのをガッツが気付いたら訓練に集中出来なくなると思うんだけど」

 

「んぬぅ…」

 

ちくしょう否定できねえ。

仕方ない、晩飯の時にでも座学の事を褒めて、ついでに夜戦訓練の方を覗きに行こう。

夜なら俺が見に行ってても見つけられないだろうからな。

 

ウルバンと一緒に天幕に戻りながら覗きを決意する。

 

それにしても本当に丁度いいタイミングだった。

ガッツを独り立ちさせようと思っていたが、技術も知識も中途半端なうちは実現できない。あと心配なのは剣の方だけだがそれも夜には分かる事だ。

 

嗚呼、本当に楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◇シス◇〜〜〜

 

 

 

 

 

晩御飯を食べ終わってすぐ、ガッツとガンビーノは席を立ってしまった。

ガンビーノは仕事が、ガッツは訓練があるから仕方ないけどせっかく家族が揃ったんだからゆっくりして行けばいいのにとも思う。

 

「独り立ちかぁ…」

 

数日前、急にガンビーノがそんな話をしてきた。

確かにガッツも12歳になってある程度の事は自分で出来るようになっている。嬉しい反面、少し寂しいものがある。

でもやっぱりまだ早い気がする。

 

使った食器を川で洗った帰り道、とある場所でガザッっと草が動く音が聞こえた。

思わず体が硬直するも、音のした所をよく見ると草影から鞘と足が生えている。見覚えのある靴と剣の鞘。

 

「……ガンビーノ?」

 

何してんのこんなトコで。

 

「シスか?シッ 静かにしろ、今ガッツの訓練を見てる真っ最中なんだからな!」

 

音を立てないようにゆっくり振り向きながら、声を出すなと言いたげに口元に指を立ててる。

ホントに何してんの?

 

「ガンビーノ…なんて言うか、何その格好」

 

全身に草をまとって顔には薄く泥を塗っている。

怒られないように声のトーンを抑えて聞きながらガンビーノの近くに座る。

ガッツを独り立ちさせようとしてる父親の行動じゃ無いよね、絶対。

 

「いいかシス、これは必要な事なんだ。ガッツの今の実力を見極める為に見てるんだからな。アイツが1人でも生きていけそうか見極めんだよ」

 

「ふーん。ホントに独り立ちさせるんだ」

 

私は乗り気じゃないけどガンビーノがさせると言ってるからさせるんだろうね。不満が無いわけじゃないけど私は幸せな方だからあまり我儘は言えない。

実際この世界でガンビーノくらいじゃないかな?子育てに積極的で女の私の意見も聞いてくれて、一途な人って。

 

「…どんな感じなの?ガッツは大丈夫そう?」

 

「思ってた以上だな。バーランを押し返してやがる」

 

へえっと感心する。

頭の良さは別として剣の腕は団内でも上位に入るバーランを押せるなんて…。

 

「じゃあガッツは合格?」

 

「ああ、近々アイツにも独り立ちの話をしても良さそうだぜ。ウルバンも医学は教え終わったって言ってたからな」

 

「そぅ…そっか、分かった」

 

胸がキュッと締め付けられる感じがする。

ガッツの独り立ちまで時間が無い、成人するまで待つ気はガンビーノに無いらしくて15、6歳頃には…って言っていた。

 

「シス、俺を恨むか?」

 

ガンビーノの問いに一瞬驚いた。

恨みなんかしない、ただ少し寂しくなるだけなんだから。

 

「そんな事しないよガンビーノ、私もガッツの独り立ちに賛成するから」

 

ガンビーノは静かに頷くだけだった。

大丈夫、ガッツが居なくなってもガンビーノが傍に居てくれる。私はひとりじゃない…。

 

「…先に戻ってるね」

 

せめてその時までは甘やかしてあげたい、甘えて欲しい。まだ子供なんだから。

私達の、たった1人の愛息子なんだから…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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これが俺の愛だ

 

 

 

「この団から出ていけってどういう事なんだよ!?ガンビーノ!」

 

剣の鍛練を終えたタイミングでモス爺がガンビーノの所に来るように言いにきて、そのままの足で向かったら古参兵や母さんも集まってた。

そこで言われたのは『独り立ちしろ』って事だった。

 

「なんで急にそんな事言うんだよ、僕は嫌だ!ここは僕の家で皆は家族じゃないか!ガンビーノ、ガンビーノがそう教えてくれたじゃないか!」

 

まくし立てるように言葉をぶちまける。

血の繋がりが無いのは知ってる、でも追い出すような扱いはされた事なんて今まで1度もなかった。なのになんで急にこんな話を出したのか分からなかった。

誰かがガンビーノに何か吹き込んだ?いやそんなハズない、ガンビーノが耳を貸すとは思えない。

 

「落ち着いてガッツ。ガンビーノも言葉が足りてないんだよもう一度ちゃんと初めから言い直して、ほら」

 

「…」

 

母さんの優しく諭すような言い方に少しだけ興奮が和らぐ。確かにガンビーノは時々言葉が足りなくて誤解されたり、齟齬が生じて苦労してたのは知ってる。

軽く深呼吸しながら椅子に座り直す。

 

少し間を置いてガンビーノが独り立ちの件を話し始めた。

 

「いいかガッツ、俺はな──」

 

そこから先はよく覚えてない。

頭が考えるのを拒否したんだ、ただガンビーノの言葉が耳に入ってくる。

聞きたくない…聞きたくないよそんな話。

 

何となく居心地悪くて気持ち悪かった。

 

 

 

 

〜〜〜◇モスヴィラント◇〜〜〜

 

 

 

古参兵達に連れ沿われて天幕を出ていくガッツの後ろ姿を眺めながらガンビーノの心境を探ってみる。

 

「よかったのか?ガンビーノよ」

 

「…ああ」

 

返事に覇気がない、まあ無理もなかろう。

傍から見ても仲のいい親子だと感じる程家族らしかったと言うのに、自らガッツを突き放すような事をしたのだから。

確かに子供は独り立ちさせねばならぬ。だがもう少しやりようがあろうに。

 

「のうガンビーノよ、そこまで心辛い思いをするくらいならいっそここに、自分の元に居させてやれば良かったのではないか?無理に独り立ちさせんでも…」

 

「バーナー、俺がガッツに言った言葉を聞いてなかったのか?今じゃなきゃ駄目なんだ。俺がまだ健在な今じゃなきゃ…!」

 

気のせいかガンビーノが何かに焦っているように見える。その焦りがどこから来てるのか、長い付き合いを持ってしても分からない。

儂にも子はおるし、なんなら孫もいる。だが子育ては妻に任せっきりだった故に分からぬのだ。

 

「甘い親では無く優しい親でありたい、であったか」

 

それがお前がガッツに独り立ちさせることを決意した理由か…。大した親バカよな。

 

「俺はガッツが可愛い、血の繋がりこそ無いが俺の大切な一人息子なんだ。アイツはこのクソッタレな世の中を生きなきゃいけねえ。だからまだ子供のうちに、失敗しても許されるうちに世界がどんなかちゃんと見せてやりたいんだ」

 

「…親は子より早く死ぬ。だったな」

 

平時は子が親を看取り、戦時は親が子を看取る。

だがガンビーノのように親子共に戦地にいればどっちが先に死ぬかなんて分からない。

それでもガンビーノは己よりガッツが生き残る事を当たり前の様に考えている。

 

「そうだ。丁寧に石をどけた道を歩かせるのは親のエゴでしかない、子の為を思うなら石をどけずに見守るべきなんだ。許されるうちに転ぶ痛みを知り、起き上がり方を学ばせる。親が死んだ時、どっちの子が生き残れるかなんざ議論の余地すら無いだろう?」

 

正論である。

それにしても一体誰が想像し得ただろうか、()()ガンビーノがこんなにも強い父性に目覚めるなどと。

少なくとも儂には出来なかった、できなかったが知った以上はこれまで同様支えてゆくまで。

 

「なるほどな、お前の考えは理解した。もはや儂も反対はしまいよ、だがせめて15の旅立ちまでは変わらず接してやってくれよ?」

 

当然だと言うようにハッキリとガンビーノは頷いてシスと共に外に出ていった。

妻と寄り添い子の成長を見守る、か。

 

まったく…親バカここに極まれり じゃな。

 

これは儂が老体に鞭打ってでもガンビーノが言っていた()()()を叶えてやらんといかんようだ。

地図を見ながらため息を着く。

ガンビーノが "ジジイ" と呼んでいた鍛治職人。これから彼を尋ねねばならぬ。

 

せっかくの機会なのだ、旧交を温めるとしよう。

 

 

 

 



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浪漫は時に常識を狩る

 

 

さて、ガッツが15になる前に用意してやる物がある。分かる奴は察しがついただろうがそう、大剣だ。

重武装の騎士のドタマかち割れて、ガッツが振り回せるサイズに抑えた逸品じゃ無きゃいけない。

幸い鍛冶に関しては適任者を覚えていたし、身近にツテがあったのも幸運だった。

バーナーに馬と護衛と休暇を与えて送り出したから、多分暫くは帰ってこないだろう。

 

フッ、ふふふふふ…フハハ八八ノヽノヽノヽ!

 

来たぞ俺の時代がァ!

 

今までやりたかった新兵器開発。金がかかり過ぎるとバーナーの反対で着手出来てなかったが知った事か!頭の中では既に何を作るか決まっているんだ。

 

颯爽と工兵隊のテント群に向かう。ウッキウキが止まらねえぜ!

 

「居るか野郎共ッ!前々から言ってた()()作るぞ!!」

 

勢いよく突入して来た乱入者(ガンビーノ)に、揃って驚いた顔を向けてくる。なんだよ歓迎しろやオラ。

ズカズカと踏み込んで設計台に図面を広げると工兵長が恐る恐るホントに作るのかと聞きに来た。

 

「あの団長、アレは作った所で運用が難しいとの事でモスヴィラント副団長が却下されたのでは…?」

 

あ"?あーー、そういやそんな事言ってたな。どうしても作りたくて聞き流してたからすっかり忘れてたぜ。

思い出したからと言って止めてはやらんがな!

 

工兵長の肩をガシッと掴みながら職権乱用のお手本をカマしてやる。

 

「いいかよく聞け工兵長、男には浪漫を追求しなきゃいけねぇ時がある。運用がどうこうじゃない、馬鹿みたいに突っ走って浪漫詰め込んだ最高傑作。それをこの世に生みだす事に意味があるんだ」

 

「は、はあ……」

 

「よし分かってくれたな?そんじゃあ作ってくれ、頼んだぞ。…頼んだからな?」

 

困惑している工兵長に念を押してテント群を後にする。

 

俺が作りたい物、それは自走砲だ。装甲で覆われた上品な物じゃなくていい、と言うかそんなの作れないからな。

大型の荷馬車を4輪から6輪に増やして車輪と車軸を鉄で補強する。

そこに鹵獲してきた大砲を据え付けて完成!って感じの簡易的な代物だ。

もちろん射角調節機を付けるから近距離でも応戦可能

 

近々ある攻城戦に間に合えばきっと…。

 

自分の手で動かす戦争、チェスの如く戦局を意のままに動かせる悦び。それが体を支配する感覚。

自然と邪悪な笑みが溢れた。

俺は自分の中にある抑え込めない本能的な狂気をこの日初めて自覚した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◇名も無きチューダー城主◇〜〜〜

 

 

 

なんだ…何が起きておるのだ?

 

ミッドランド軍相手の籠城戦、1ヶ月も優勢を保ってきたはずが今日、突然急変した。

血まみれの兵が、腕をなくした兵が、矢を受けた兵が飛び込んできては戦局の急激な悪化を知らせてくる。

 

「駄目です!これ以上は門が持ちません!」

 

「報告!城壁守備隊が壊滅、敵が押し寄せて来ております!」

 

「閣下、お逃げ下さい!このままではお命が危険に!」

 

頭が回らなくなってきた。

兵士達に急かされるままに館の外へ出ると想像を絶する光景が目に飛び込んできた。

 

「なんだ…なんだこれは!なんなんだコレは!!」

 

尽く破壊され凸凹に変形した城壁。

その城壁を飛び越えて撃ち込まれてくる砲弾。投石機でなければ有り得ないような弓なりの弾道で町を吹き飛ばしている。

 

もはやこれまで。

 

せめて最後に何が起きているのか確かめる為に最後に残っていた城壁端の物見櫓に駆け上がった。

臣下が止めるが振り払って戦場を見渡す。

 

「…あれか」

 

600メートル程先の小高い丘の上に大型の砲台を操る部隊が見えた。

黒地に銀糸で編まれた瑠璃目の蜘蛛。初めて見る部隊紋章と異様な形の砲台だった。

だがそれが火を吹いた瞬間、私はさらに驚いた。

野砲では無い、さらに大型の固定砲を使っていたのだ。

 

有り得ない…固定砲は重く大きいゆえに持ち運びが出来ない物だ。城下で作ったものを壁上に上げるのがせいぜいの代物のはず。

 

瞬間理解した、これは王都に伝えねばいかん。と

自分のいる所が格好の的であるのも忘れて懐から用紙を取り出してペンを走らせる。

一刻も早く、あの砲とそれを扱う部隊の存在を知らせるのだ。

 

書き上げた書を伝令に掴ませた瞬間、轟音と衝撃を受け私の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今年最後の投稿です(º∀º*)マニアッタ

お気づきかもですが原作には無かったガンビーノ傭兵団の団旗を作ってみました☆
自走砲とか団旗…浪漫だよねぇ(*^^*)

来年もよろしくですぞ!


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繋がる運命

 

 

 

「なあ聞いたか?西の要塞が一日で落とされたって話」

 

「あ〜らしいな一日で戦局を変えたって話だよな。固定砲を運用する部隊だとか」

 

「聞いた聞いた!なんでも街1つ焼き払って皆殺しにしたとか!」

 

「え、俺は男は奴隷で女は慰みものに、子供は金持ちに売られたって聞いたぞ」

 

「ソイツら歴戦の傭兵団で負け無しなんだとか。特に攻城戦で暴れまくってるらしいぜ」

 

青空の下、草原に寝転んでいるとそんな噂が耳に入ってくる。ここの所ちょくちょく聞くようになった話だ。

黒地に銀糸で編まれた瑠璃目の蜘蛛。巷じゃ『銀蜘蛛部隊』とか呼ばれている。

 

「俺達とどっちが強いかな?」

 

「バーカ、俺達に決まってんだろ。いくら強いったってグリフィスにゃ勝てねえんだからよ」

 

リッケルトにコルカスが自信満々に言い放つ。

 

実際に戦ってみないうちは断言出来ないけど負ける気はしない。押されるようなら野戦に持ち込めばいい。

聞いた話だと最も得意なのが防城戦、野戦にはあまり出てこないんだとか。

まあ砲を守らないといけないだろうしな。

 

1人考えにふけってる所に足音が近づいてくる。

 

「グリフィス起きてるか?」

 

「…どうしたキャスカ」

 

「そろそろ出発だから。起きてるならいいんだ」

 

「もうそんなに経ってたのか、すぐに行くよ」

 

そう返事をして兜とサーベルを手繰り寄せる。

強い奴が敵になるならそれもいい、ソイツらを踏み越えて俺は夢を掴むんだ。敵は強ければ強いほどいい。

そうでなきゃ俺の夢は叶わないんだからな。

 

サーベルを吊って馬に跨る。

 

「行くぞ!目的地はスグそこだ!」

 

「「「「おうっ!!」」」」

 

号令に答える仲間達。

コイツらと共に俺は突き進む、だから彼等には踏み台になってもらう。俺は決して負けない。

 

兜を装着しながらまだ見ぬ敵にそう誓った。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◇ガンビーノ◇〜〜〜

 

 

 

 

巷で噂の『鷹の団』

 

彼等の戦場はここから遠いがその活躍は俺の耳にまで届いてくる。やっぱり大したもんだ。

正直言うとあまり会いたくない相手である。

鷹の団は機動戦が得意らしいが俺は違う、地点防御とか動かない戦ってのが得意だから相性が宜しくない。

だからと言って負けてやらんがな。

 

実は負けたくない理由は他にある。

あのグリフィスって子、寝取り好きなアナルビッチ君じゃん?そんなのに負けるとか…なぁ…どうよ?

ガッツに『お前が欲しい(キリッ』とか言っちゃう子だぜ。「お義父さん!」なんて言われた日にゃその場でブチ56す自信がある。

 

いやまあ冗談だけどな、冗談…。

 

冗談ついでにグリフィスがやらかす原因のベヘリット、あれがバタフライ・エフェクトとかの影響受けて消えててくれないかとも考える。

因果律のしつこさは嫌ってほど分かってるが僅かな希望は捨てきれない。

 

どんだけ考えても消えない悩みだ。

それなのに現実は俺の頭痛の種なんかお構い無しに目まぐるしく変動する。

 

「ガンビーノ!商隊が近くを通るらしいぜ!行っていいか?」

 

「あ"あ?行くなって言ってテメーらが我慢した試しがあったかよ。俺も行くから待っとけ」

 

はやる部下を待たせながら兜を着けて剣を吊る。

鷹の団、いつか戦うかもしれない強敵、ガッツを筆頭にした彼等に勝てるかは分からない。

 

まだ会わないグリフィスを睨みつける。

【触】を引き起こすなんてふざけたマネ、俺は絶対に認めないからな!

 

 





実は今日は俺の誕生日なのです\(°∀° )/(23)

ちょっと短いですがフラグ立てといたので両者戦場で会っても平気かな?(笑)
次回は時系が一気に進んでガッツが自立しますぞ!

☆お気に入り500人超えてました!:( ; ´꒳` ;):ガタガタ
嬉しいを超えて適切な言葉が出てこないくらい喜んでます。いつも感想ありがとうですぞ!


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因果律(神のシナリオ)は変えられない

 

 

「時は今ぞ!突入!」

 

突撃命令に少し遅れてこじ開けた城門を踏み越える。

入ると数秒前に我先に飛び込んで行った傭兵達が立ち止まっているのが見えた。

 

…何してんだアイツら。

 

突撃の勢いは止まって半包囲しているだけ、全員の視線の先には

全身鎧(フルプレートアーマー)の大男が何人かを相手に暴れていた。

どうやら手が付けられないらしい。

 

「ウオォラァ!!」

 

戦斧のひと薙ぎで3、4人を切り飛ばした剛腕に、ドッシリと構えるその姿に最前列の奴らは軒並み怯んでやがった。

 

「ひぃ!バ、バズーソだァ!」

 

「バズーソって灰色の騎士の?30人斬ったとか聞いたぞ!?」

 

「押すんじゃねえ!やめろ下がれ!」

 

…ったく大の大人が雁首揃えて情けねえ。

 

「どうしたミッドランド軍!こんなものなのか!?揃いも揃って腰抜け揃いか!そこの将よ、俺は受けて立つぞ!」

 

「…ッ」

 

さっきまでの威勢は何処へやら、指揮官はバズーソの挑発にイラつきながらもビビっちまってる。

ここまで来て負けたんじゃ笑えもしねえが俺なら殺れるって確信みたいな感じがある。コレはチャンスだ。

 

誰が先に突撃するか言い合ってる傭兵共を押しのけてバズーソの前に出る。

 

「む?なんだ小僧、まさか俺に挑むつもりか」

 

「金貨10枚」

 

「「なに?」」

 

バズーソと指揮官の声が重なった。

 

「この饅頭の値段だよ、俺は傭兵だぜ?名誉じゃ飯食えねえんだからコレ出せよコレ」

 

「なッ!?」

 

ちょっとした嫌がらせのつもりだったが予想以上に効果があったらしい、バズーソの目に殺気が宿った。

 

「高い!6枚だ」

 

「9」

 

「7枚!これ以上は出せぬ!」

 

「…チッ、しゃーねぇな」

 

金は取れる時に踏んだくるのが当たり前だからな。

 

面と向かって立ってみて確信した、バズーソと俺の体格差はこれ以上なく丁度いい。

両手で大剣を構え、少し腰を落として相手の攻撃を誘う。勝負は一瞬、カウンターで仕留める。

 

バズーソは怒りに満ちた目で睨みつけてくる。

 

「小僧…後悔するぞ!たった金貨7枚でその頭かち割られるのだからなぁ!!」

 

「ハッ、金貨7枚もする餅を斬り捨てるなんて贅沢で良いじゃねえか。有難く貰ってくぜ」

 

「…ッ!死ねぇ!!」

 

頭を狙った大振りの一撃。

それを屈むように避けて、思いっきり踏み込んでバズーソの死角から目に大剣をぶち込んだ。

切っ先が兜ごとバズーソの顔の半分を斬り裂いた。

 

「お"…ぁ……」

 

「ま、こんなもんか」

 

膝から崩れ落ちるように倒れたバズーソ。

それと同時に味方からは歓声が、敵には動揺が広がり勝敗は決まった。

 

「敵は怯んだぞ!押し崩せえ!」

 

「「「オォォォォォッ!!」」」

 

敵に襲いかかっていく味方を見送りながら、後ろから忍び寄ってきていた敵兵の腰に大剣をぶっ刺す。

 

「後ろから殺ろうなんて10年遅せぇんだよ」

 

昔なら殺られてたが今はそんなヘマはしない、慢心はしてないが無傷で済んだのはやはり嬉しい。

倒れた奴にとどめを刺してそのまま残党狩りに加わった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◇グリフィス◇〜〜〜

 

 

 

 

 

バズーソとの一騎打ちの一部始終を見届けた。無駄のない構えと相手の死角から急所への一撃。

その後は背後からの敵を苦もなく仕留めてみせた。

 

「ヒュ〜♪敵さんにもすげぇのがいるもんだな」

 

「あんたとどっちが強いかね?」

 

「ばーか、次元が違ぇよ。なあ?グリフィス」

 

確かに戦えば俺が勝てる。

でもアイツを見た時、殺りたくないとも思った。何故かは分からないがコレが()()ってヤツなのかもしれない。

 

「…この城も終わりだ、さっさとずらかるぞ」

 

「へいへい」

 

アイツの姿を見た時不思議と惹かれるものがあった。初めて会った気がしない、そんな感じに。

 

「欲しいな…」

 

次に機会があれば彼を引き入れるのも悪くない。

いや、きっと引き入れてみせる。俺は欲しいと思ったものは絶対に手に入れないと気が済まないんだから…。

 

 

 

 



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白黒の邂逅

 

 

ガンビーノ傭兵団を出て1年が経とうとしている。

先の攻城戦で約半年間の雇用契約が切れて今は新しい戦場を探す旅路についている。

 

普段はすれ違う旅人や行商人、立ち寄った村で情報を集めながら町を転々とするんだが、この地は人口が少ないらしくて一向に誰とも会わないまま遺跡街道まで来てしまった。

 

やっちまった。

まさか迷子になるなんて…。

 

勘を信じてここまで歩いてきた以上、今更戻るなんて馬鹿らしい。

思考放棄してほのぼの日和を満喫しながら歩いていた時、何かの気配を感じた。

誰かに見られている…そんな感覚。

 

大剣の柄に手をかけながら警戒する。

確かに視線を感じたんだが誰も居ない。

 

「気のせい…か?」

 

柄から手を離した瞬間野盗らしき騎馬が5騎、なだらかな斜面を駆け下りてきた。

いや、野党にしては装備が整ってる気がする。()()()か何処ぞの傭兵崩れの可能性の方が高そうだ。

 

大剣を構え、勢いそのままに突っ込んできた1人目の男の剣を避けながらその腹を真っ二つに斬り捨てる。

間髪入れずに襲ってきた2人目の右腕を斬り飛ばすと、指揮官らしい男がビビったのが分かった。

しかも()の目の前で何か言い合いを始めてる。

 

さっさと逃げりゃいいのに…馬鹿な奴。

 

「くたばれッ!」

 

「ヒィッ!」

 

「!?」

 

大剣を振り下ろす直前、目の前を矢が掠めた。

 

まだいたのか…気付かなかったぜ。

 

クロスボウを捨てて突撃してくる褐色肌の騎馬兵。

剣ごと斬り飛ばそうと下段の構えをして、違和感を覚えた。コイツ構えがおかしい。

利き手に剣、反対の手で手網を握るのが普通だ。

なのに手綱が緩んでいる。

唐突にガンビーノの言葉を思い出した。

 

『いいかガッツ、戦ってても瞬間的に相手の動きを察知して反応しなきゃいけねぇ。それこそ臨機応変ってヤツだ。顔には出すなよ?ギリギリまで相手に合わせて "此処だ!" って時に裏をかくんだ。そうすりゃもうこっちのペースよ』

 

そうか、なら───

 

「ウオォッ!!」

 

「ハァッ!」

 

剣が交わる直前、相手が両手で構えた瞬間、大剣を寸止めさせた。

 

「なにッ!?」

 

体勢を崩して落馬したソイツにひたすら打ち込む。

剣が折れるのが先か頭が弾けるのが先か、だがそれより先にソイツの兜が弾け飛んだ。

見えた顔からして、女。

 

「は?お前ッ」

 

思わず剣を止めちまった。

女兵士なんてカルテマ以外に見たこと無かったから。

いや、言い訳だ。ただ目の前の敵にトドメを刺す機会を俺はこの一瞬で無くした。

 

俺と女の間に打ち込まれた槍によって。

 

「剣を引いてくれないか?」

 

声音からして若そうな男。

もしここに夢みる乙女がいたら「白馬の王子様!」とか言っただろうか。

俺から言わせりゃ白馬の盗賊団がせいぜいだけどな。

 

「また新手かよ。テメーらの相手してるほど暇じゃねえんだよ俺は」

 

大剣を正面に構えて応戦する。

 

「済まないな、だが俺も引けないんでね」

 

何のこっちゃ知らないがやる事は1つ。

 

「ぜりゃあァッ!」

 

左上からの袈裟斬り。

馬上の敵にも余裕で届く大剣だから出来る力技で騎兵の死角、ほぼ背後の位置から斬りかかった。

 

「へえ…でもまだ甘いよ」

 

細身のサーベルに当たった大剣がスウーっと滑り落ちて地面に突き刺さった。

そして体に走る痛み。

 

「……は?」

 

弾かれた?いや、流された。

なんだ…これ。

 

振り下ろした大剣が受け流されたのは理解できた。

だけど自分に刺さってるサーベルは理解出来なかった。あまりにも早すぎるんだ。

敵を見誤る、すなわち死を意味する事。

 

「マジか…よ」

 

笑えねえぜ…。

 

最後に見えたのは兜を脱いだ男の顔。

なびく程に長い銀髪で凜々し気な、そんな感じの顔だった。

 

 

 



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ドルドレイ前哨戦

 

 

ガッツが鷹の団に接触した。

 

その噂を聞いて俺は物語が回帰しようとしてる事を確信した。『鷹の団』で『大剣振り回す若武者』つったらもうガッツしかいねーだろ。

運命とやらはどうあってもグリフィスを闇堕ちさせたいらしい。

 

ま〜〜ったく冗談じゃねぇやい!

俺の気も知らねーで勝手ばっかしやがって!何が運命だコノヤロー。

 

 

こちとら毎度おなじみチューダー戦で飽きて疲れた頃合いだってのによ。

ちなみに戦況は最悪、チューダーの大規模反攻作戦を受けてズルズルと後退中。そんな時に新興の貴族が功を早って戦線を突出させすぎたんだから堪らねえ。

あっという間に後方のドルドレイ要塞と分断されちまった。

 

そんなアホなんざほっときゃ良いのに『直ちに救援せよ』なんて命令が出されてウチの雇い主が無駄な手柄欲を起こして引き受けやがった。

巻き込み事故なんてレベルじゃねーぞマジで!!

 

しかも斥候の情報じゃあ包囲してんのは紫犀聖騎士団にボスコーン将軍率いるチューダーの一軍。その数掴みで2万弱。

……夢だろ?

 

まぁ命令だからな、しょーがねえ。仕方なく俺たちゃ『おバカ救出 大・作・戦☆』の主力として進軍、今は少し離れた台地に布陣してチューダー主力と睨み合いながら機を伺っているところだが…。

 

畑から兵士が取れるとかそーゆー感じなのか?チューダーって…。

 

「いやぁ〜、無理だろアレ」

 

「わざわざ言わなくて良いんだよバカ」

 

「言いたくもなるっての…あん中に突っ込むんだぜ?俺たち。紫ナンタラの騎士団はともかくボスコーン将軍とかどーすんのよ。俺当たりたくねーよ…カルテマ、アンタが相手するか?」

 

「……無理。一騎打ちであの将軍に勝てるとは思えない」

 

「ふむ、儂がもう少し若ければ…いや、難しいかな?」

 

「聞いたろカルテマ。モス爺だって無理な相手なんだぜ?俺は御免こうむるぜ!」

 

かれこれ1時間以上も作戦会議をしてるがいい案は無し。

ウチで一二を争う戦争好きなバーナーやバーランですら衝突を避けたがっている。

もちろん俺だってゴメンだが「あ、無理っす〜」と言って引き揚げるわけにはいかない、やるしかないのだ。

 

ひとまず言い合いになりかけてる場を静める。

こういう時は独裁よろしく「こうだ!俺に従え!着いてこい!」と強く引っ張るのが1番効果的だ。

 

「聞けテメーら。正面からぶつかるのは論外だ、夜襲も…十中八九失敗すると俺は思ってる。だが幸い敵の主力は騎兵ときたもんだ。俺達が最も得意にしてる兵科だろ?ガッツリ攻めるんじゃねぇ。守りながら攻撃すりゃ勝てる可能性はある」

 

ちょうど良い対騎兵戦に覚えがあるしな。

 

「守りながら…?森に引き込んで囲むとかか?」

 

「違ぇよバーラン。いいか、今から書く陣をお前らよく覚えろよ?コイツは "方陣" つってな──」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◇チューダー軍本陣◇〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「ミッドランド軍は動かぬか…」

 

「ハッ、未だ動きはありませんが敵の主力にあのガンビーノ傭兵団の旗を確認しております」

 

「ムウ…それは厄介ではあるが将軍、そなたならば問題あるまいな?」

 

「当然でございます」

 

「ふふっならば良い。期待しておるぞボスコーン将軍」

 

「ハハッ」

 

一礼して退席する。

その際チラッと総督の後ろの幕の影に美少年が待機してるのが見えた。

嗚呼、戦地に来てまでコレとはもうどうしようもあるまい…。

 

ゲノン総督。

あまり共感できない性癖で有名なお方だがそれでも我が上官。逆らうなど許されぬ。

 

「将軍!騎士団および歩兵部隊、いつでも出陣可能です」

 

「うむ、ならば騎士団長を招集せよ。作戦を伝える」

 

「ハッ!」

 

駆けてゆく部下を見送りながらため息をつく。

ミッドランドの大攻勢に対して国を傾けてまで行っている大規模反攻作戦だが未だに勝機が見えてこない。

ここから離れた地では鷹の団とやらが力を強めているとか。

 

「まったく…上手くいかぬ物だな」

 

次から次に悩みの種が増えてゆくばかり。

有能な将すら今のチューダーにどれだけ居るか…。上官がアレなのはこの際致し方ないとしても、せめて部下に有能な者が欲しかったと強く思う。

声には出さないがコボルイッツ家の馬鹿もいっそ何処かで戦死してくれれば気が楽なのだがな…。

 

「ここにおられましたか将軍、各騎士団長方がお集まりです!」

 

呼びに来た部下の声でハッとした。

どうやら考えながら会議室とは別の場所へ歩いていたらしい。

 

「すまぬな。直ぐにゆく」

 

まぁ良い。我は騎士らしくある迄よ。

作戦と呼べるか分からんが総督の命令には従う。

騎兵で敵陣を切り裂いて、歩兵部隊がその亀裂を押し広げて分断、殲滅する。

なんと安易な策か、もう少し考えて頂きたかった…。

 

チューダーの、故国の先はもはや長くはあるまいな。

この私もいずれは…

 

 

 

 



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裏切りの決断

 

 

方陣。またの名をテルシオ。更に分かりやすく言えば『馬刺し量産陣』だな。

馬刺しは好きか?好きなら集まれ俺が奢ってやるぜ。

 

明日はちょっと固めなお肉が沢山手に入るからな♪

皆でファイヤー囲んでズンドコパーチーといこうじゃないか!

 

安心しろ、相手は戦争ガチ勢の紫犀聖騎士団って事で伝令は非効率だから手旗信号を取り入れてある。あぁミリオタ諸君、言うでない。素人用の簡易的なシロモノなんだからな。

 

おかげで連携が早くなって何とか数の差を埋められている。27000 VS 5000 の戦闘だ。

「ずっこい」なんて言ってくれるな。コッチが5000なんだから。

いやぁ…笑いこらえんのも一苦労ってもんだなこりゃ。顔がニヤケちまうわ。

ふははははー、勝ったな風呂はいってくる。

 

酔わない程度に酒を飲みつつ櫓から布陣を眺め悦に入ってると、本陣の方から渋い顔したバーナーが近づいて来るのが見えた。

まいっちゃうぜ、せっかくの酒が不味くなるってもんだ。

 

「ガンビーノちょっと来てくれんか」

 

さすがに10年以上の付き合いともなると声音だけで良い報せか悪い報せか分かるようになるらしい。

んでこの感じは悪い方だ。

 

「…いい眺めだぞ。死と生存をかけた布陣がよく見えるからオメーが上がってこい。何があったかは…一応聞いてやるよ」

 

「そうか、そっちに酒はあるか?」

 

珍しいな。普段ならこんな時には呑むなって説教カマしてくる奴が…。

まあ怒られたからって止めれるもんじゃねえけどな。

 

「強くはねぇけどそれで良けりゃくれてやるよ」

 

バーナーは黙って上ってきた。

そんで何も言わずに酒を受け取ってグイッと煽る。多少の不満や疲弊じゃ顔にも見せないバーナーが、だ。

それ程の悪報…どうしよう、聞きたくねえ。

 

「……」

「……」

 

こういう時、なんて切り出すべきか俺は知らない。なにせ俺にはコミュ力なんてステキなスキルは備わってないからな。

だから待つ。バーナーが話す気になるのをひたすら待ち続ける。

でも体冷える前には話して欲しいかな(笑

 

「……布陣を解けと言われてな」

 

ん、今なんて?

 

「反対したんじゃが奴ら、騎士の誇りとやらが勝利より大事らしい。儂らは前衛の任を解かれる事になった」

 

…成程な、コイツがしかめっ面になる訳だ。

冗談じゃねーぞ。いや、冗談にしても悪質だ。

今回の救出作戦に投入された騎士団はたったの1個。数は500程度でチューダー騎士団の4分の1以下。

ソイツらの誇りとやらの為に死ねと!?何言ってんのお前。

 

いや、バーナーが悪いわけじゃないか…。フフッ、どうにも俺は人の縁には恵まれてないらしい。

 

「そりゃ…嗚呼、最悪極まる命令だな」

 

「どう見るガンビーノ、この戦負けかのう?」

 

はっきり言って数も軍事力も勝る相手に正面衝突戦なんて無謀でしかない。

誰が言ったか、『無能な上官は敵より怖い』だっけ?まったく骨身にしみるぜ。

 

「まあ負けるだろうな。ここで負けたらドルドレイ要塞まで敵は行くだろうが向こうにゃあの敵を食い止められるだけの戦力が揃ってねえ。だから城も取られて俺たちゃ大敗して終わりよ」

 

スっと手で首を落とすジェスチャーをしてみせる。

良くて敗走、最悪は包囲殲滅される。分かんだろ?

 

「もし退くならば早めに言ってくれ。その時は儂が殿を務めるからな」

 

「いや、しなくていい。そうならねぇ様に俺が何とかする」

 

「……出来るのか?」

 

できるさ、俺にとって団員は家族同然なんだ。

情も感じない他人を切り捨てんのに迷いも罪悪感も恐れもない。俺は、俺自身とコイツらの為なら大抵の事は出来る。

例えそれが外道でも、悪党って言われようとも俺は躊躇うことは無い。

 

「任せろ」

 

お前らのボスは我儘で強欲なんだ。

そんな俺だが家族は絶対に見放さねぇ。ましてや無駄死になんて絶対させねーからよ。

 



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交渉会議

 

 

いや〜乱世乱世。おっボスコーン将軍じゃん、ご機嫌いかが?

 

なんて軽口叩ける状況じゃないんだよなぁこれが。

え、なんなん?なんで将軍直々に来ちゃってんの?見てみーよ俺の後ろを。

バーラン冷や汗かいてるしバーナーのしかめっ面よ。カルテマに至っては目すら合わせようとしてないよ?アカンわ、こりゃアカン。交渉失敗する気がしてきた

 

まあカルテマが目ェ合わせないのってボスコーン将軍が怖いってよりは彼の後ろにいる副官だか護衛だかのコボルトイッツだかコボルイッツだかの騎士の意味深な視線を避けてるからだと思うんだけどな。

 

うーん……カオス。

 

互いに無言で見つめ合い (睨み合い)続けてるもんだから重い空気が場を支配してゆく。

そんな中、先に口を開いたのはボスコーン将軍だった。

 

「それで、なぜこのタイミングで我等チューダーへ寝返りを申し出たのだ?貴様らの名や活躍は聞き及んでおる。故に分からぬ、不利だからと裏切るような輩では無いはずだ」

 

そりゃな。勝てる戦で勝てなくなったからって理由でこんな事はしない。あくまでミッドランドに愛想が尽きただけの事。

これを上手く伝えなきゃイカンのが今回の難点よ。

 

今こそ俺の乏しいコミュ力をかき集める時!

コミュ力総動員令発令!欲しがりません勝つまでは!

相手に緊張を気取られぬように少し胸を張って、顔に余裕を浮かべて…はい完成。

 

「ミッドランドに愛想が尽きたからだ」

 

「……?…それだけか?」

 

そうだよ、悪かったな上手い理由考えつかなくて!

いいかおまいら。コミュ障ってのはな、コミュ力総動員したところで上手く口が回るわけじゃないんだよ。

ましてや重い空気の中でなんて…。くっ!

 

そんな真剣無垢な俺の考えを察してくれたのか

『( ˙ㅿ˙ )ポカーン』的な表情のボスコーン将軍は何度か唸ったのちにチューダー軍への参加を許してくれた。

 

ホンマええ人やでぇー。

 

「その代わりにお前達にはドルドレイ要塞攻略の先鋒を務めてもらうぞ」

 

「ああ、任せてくれ。もとよりそのつもりだからよ」

 

初めに俺達の価値を見せとかないとな。

ある日後ろからブスリなんて笑えもしねぇ。

 

ちなみにだがこの場合の "先鋒" は時代劇で見るような私が!いや某が!ってものじゃない。直訳すると『矢面に立って死を伴う忠誠を見せろ』ってなる。

別に「寝返った奴に払う金はない」とか言われなきゃ問題は無い。言われた通りに先鋒を務めるまでよ。

 

「攻略方法は俺に一任してくれんのか?」

 

「む、構わぬが…出来るのか?」

 

あたぼーよ、こちとらドルドレイの周囲の地理はパーペキに把握してんだ。簡単に落としてみせるっての!

 

「期待してくれていい、なんなら一夜でぶんどってやるぜ。そんときゃ声かけるから軍の用意しといてくれや」

 

「ほう…」

 

うん、見た感じ納得してくれたボスコーン将軍の期待には答えんとだからなぁ。

ふふふっアンタにゃ簡単に死なれちゃ困るんだ。

 

俺の()()。それにはアンタの死と、鷹の団との戦、それと…俺の死が含まれてんだからな、中途半端な事はしねぇ。

俺ァな、自分の全てをこの瞬間に賭けるんだ。

悪ぃが利用させて貰うぜ?ボスコーン将軍さんよ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良かったのか?あんなタンカを切って」

 

「んだよバーナー、俺が信じきれねぇのか?」

 

会議解散後、未だに眉間に皺を寄せてるバーナー。

まぁ負けりゃチューダーに捨てられてミッドランドにも帰れなくなる賭けだからな。心配になんのも分かる。

だけど俺は勝ち目のない賭けはしねえんだ。

 

「ドルドレイをどう攻めとるか考え付いてんのはマジだぜ?あとはちょっと編成しなきゃイケねえだけだ。いいかバーナー。戦が、戦争が、この世の戦場がどう変わってくかをテメーに見せてやる!だからよ…俺を信じろ。信じてついてこい」

 

「うむ……」

 

ホントに頼むぜバーナー。

いくら命賭けたつったって何処ぞの本能寺はゴメン被んだ。チューダーなんてタダの足掛けでしかない。

本命を掴む為に必要な過程、道程。

 

笑えよ神様。

テメーの使徒のシナリオを引き裂く人間の足掻きを。

運命を歪める人間の足掻きを。

 

 

 

 



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ドルドレイ奪取

 

 

よし、命賭けたから本気出してくぜ。

 

取り敢えず要塞の対岸に布陣してみたけどやっぱりデカい。そんでこれまた無駄に高い!城壁が。

手段問わずなら幾らでもやりようあんだけど、奪いとったらそのまま使いたいんだと。

門とか城壁は壊さないようにして落とせだなんて、雇い主の無茶ぶりに慣れたつもりだったが上には上がいるもんだな。

ミッドランドの阿呆共に負けず劣らずのイカレポンチぶりだぜコンチクショー。

 

「ガンビーノ、ボスコーン将軍の使者が文を持ってきたぞ」

 

「催促状か?」

 

「なんぞ硬くて長ったらしい文面じゃ」

 

「…要約しろ」

 

なんで階級が上の奴らは息苦しい儀礼やら礼儀を好むのかねぇ…理解に苦しむぜ。

 

「要するに『貴様の戦いを見させてもらう、期待してるぞ』って事じゃな」

 

あーハイハイ。つまりケツを叩きに来たってわけね。

こいつァぶっ刺される前に動かねぇとな。

 

「バーナー、ドルドレイを貰いに行くぞ」

 

「策があるのか」

 

もちろんある。

1つは要塞を大回りで迂回して背後の山に登ってパラグライダーなりパラシュートモドキ作って強襲するプチ空挺作戦。

まぁちょっと考えりゃ不可能だって分かるわな。

流石に毛布に兵士くるめて山から突き落とすなんてマネは俺には出来ねえ。

 

んだからこっからが大事な本命作戦。

 

昼間は俺たちが、夜はボスコーン将軍の軍が交代で要塞にハラスメント攻撃を仕掛けてじっくりと敵兵を疲弊させ、いい感じに敵がバタンキューしたら一気に殴り込むって作戦だ。

 

なんなら攻城塔に油満載した放水樽積み込んで壁にぶっかけまくって火ィつけて焼き払うって手もあんだけどな、さすがに外道かなって思ったから止めた。

ダメだな俺も、敵が目の前に篭ってるってのに情に負けて非情になりきれねえ。

 

「…ボスコーンとこに行ってくる。部隊集めとけ」

 

「うむ、よかろう」

 

ボスコーン陣営に向かいながらふと考える。

 

ドルドレイを落としたらやっぱり鷹の団が来るんだろうか。来たとしてちゃんと()()()()()()()()()()()()()()()()?俺が死ぬとしたら多分その時になるはず。

ガッツに殺されるんじゃない、運命に殺されるんだ。

 

俺が死んだらガッツは泣いてくれるだろうか… と

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◇ウィンター辺境伯◇〜〜〜

 

 

 

 

「報告致します!先程攻勢をかけてきていたガンビーノ傭兵団を撃退致しました。お味方の損害は軽微、現在は矢の補給と負傷者の後送中です!」

 

「あいわかった」

 

伝令兵が退出するのを見届けると同時に思わずため息がでた。友軍の救出に失敗した挙句、送り出した傭兵団が寝返ったのだからため息の1つも出よう。

寝返ったのだから攻めてくるのは分かるがまるで手応えがない。ガンビーノ軍はかように弱兵であっただろうか?

 

しかもこれで7日も攻めては退いてを繰り返すばかり、城壁を登るでもなく城門を打ち破るでもない。

ガンビーノ自慢の亀甲陣とやらで近づきながら矢を放ってくる程度。

昼夜問わず、裏切り者とチューダー軍が入れ代わり立ち代わり仕掛けて来るあたり焦っておるのだろうか…?

確かに兵は多少疲れてきておる様子だが。

 

…どうも腑に落ちぬ。

 

「旦那様、お飲み物をお持ちしました」

 

「む、あぁ入れ」

 

物思いにふけるのも程々にメイド長の持ってきたコーヒーを1口。

これだ、これが落ち着くのだ。

仮にもこの要塞の守備に着いていた連中だ、ここが難攻不落であることくらい理解してるはず。

何を企んでるか知らぬが無駄な事よ。

 

私は奴の首が落ちるのを待てば良い。この要塞を落とせずチューダーに始末されるか、部下に討たれるか戦で死ぬかの3択よ。

やはり教養のない者はろくでもない最後を迎えるものだ。

 

「まったく、愚かな男だ」

 

援軍が来たら挟み撃ちにしてやろう。

そして世に知らしめるのだ、ドルドレイ要塞は不落にして傭兵団なぞ国家の主力たりえぬ。とな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……なんだ?…まだ夜も明けておらぬでは無いか。

何処からか聞こえる喧騒に目が覚めたがおかしい、部屋が外からの明かりで揺らめいている。

 

「…火、か?」

 

明るい。明るいのだ。

 

「!?燃えている?あれは…いや、まさか」

 

頭をよぎったのは『夜襲』、それもおそらく本気の攻勢であろう。閉じた窓越しに敵か味方か分からぬ鬨の声がハッキリと聞こえるのだ。

これは…まずい。

 

「旦那様!大変でございます、敵が!敵の大軍が城壁を乗り越えて城内に!」

 

突如ノックも無しに飛び込んできたメイド達、皆して顔色が悪く青ざめている。

 

「敵は!奴らは何処まで入ってきたのだ!」

 

「分かりません、あっちこっちで火の手が上がってまして…」

 

「あっという間でした…!あっという間に敵が城壁を乗り越えて来たのです!」

 

やられた!今宵は新月、こちらの壁上の松明を目印に夜陰に紛れて近付いたのだ!

考えうるに攻城塔に兵を満載して来たと言った所か。くそっ!

 

「お前達は敵がこれ以上侵入せぬように窓や扉を補強してこい!それから残った兵をかき集めて──

「大変でございます!内壁が突破されました!お逃げ下さい!持ちこたえられません!!」

 

指示を遮って駆け込んできた負傷兵が告げたのは城の陥落と同義の言葉だった。

…負けだ、もはや如何ともし難い。

手で払うようにメイド達を退出させて1人椅子に腰を下ろした。

勝てるはずだった。

よもやこの要塞がこんなにも容易く落とされようとは…。

 

不思議と心は落ち着いている。

ドカドカと近付いて来る乱雑な足音が聞こえ、開け放たれた扉から入ってきたのは、ガンビーノ傭兵団の将の1人。名は忘れたが知ったところで…だろう。

無念だ。

 

「テメーが辺境伯だな?俺はバーランってんだ。あっと!名乗らなくていいぜ、名なんざ聞いたって覚える気ねぇからな。首だけよこせや」

 

私は剣を抜きはなった男に最後に問うた。なぜかは分からぬ、聞きたかったのだ。

 

「最後に答えよ。なぜ寝返った、貴様らとてミッドランド人であろうに…故国を裏切ってまで何が欲しかったのだ」

 

「はあ?ンなもん知らねーよ、知らねーけど俺達はガンビーノに着いてくって決めた人間の集まりだからな。強いて言うなら "新しい世界" を見してくれそうだから。かな、ガンビーノはよ。それに俺はお前らみたいに国とか名誉なんて考えたこともねーよ」

 

バーランと名乗った男の剣が私の首を狙って振り下ろされる。

…やはり私には分からぬ事だ。

残念だ、このような最期を迎えるとは…

 

 

これ以上なく、残念だ。

 

 

 

 



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光の鷹・暗闇の蜘蛛

 

 

「っかー!あれがドルドレイかよ。デケーなぁおい」

 

「うるさいぞコルカス、私らは偵察で来てるのを忘れるな。ガッツでさえ騒いでないんだぞ」

 

「ケッ!」

 

「キャスカ、なんで俺と比べんだ?」

 

「? お前、敵がいたら迷わず突っ込んで行くじゃないか。1番偵察に不向きだと思ってるんだが何か間違ってたか?」

 

…間違ってねえな。

だけど今回に関しては突っ込むなんて馬鹿なマネはしねえ。なんせ相手は俺の育ての親にして鷹の団にならぶ()()()()()()()()()()として有名なガンビーノ傭兵団。

聞いた話じゃ『銀蜘蛛部隊』とか呼ばれて恐れられてるとか。

 

「それにしても…凄まじいな。なんだあの死体の山は」

 

「…えっぐいぜ。軽く万は死んでんじゃねーか?」

 

今、俺達の眼下に広がるのはドルドレイ要塞に辿り着くことなく死に絶えたミッドランド兵の死体の群。

要塞正面に幾重にも構えられた空堀、土塁、馬防柵、棘木に阻まれながら矢を受け死んでいった兵士達。

アイツらは知らなかったんだろう、ガンビーノの仕掛けた罠の効果を。

 

酷いところは死体が二重三重に折り重なっている。

突撃してどうにかできるものじゃ無いんだ、俺が1番よく分かってる。

 

「…戻ろうぜ、グリフィスには俺から伝える」

 

「ああ!?なんでテメーが言うんだよ!信用ならねぇ!」

 

「要塞正面に作られてんのはガンビーノが作った対人罠だ。城壁に近付く敵を殺す事だけを考えて作られてる。アレが側面に作られてねぇのも罠の内なんだよ」

 

「なんでお前がそれを知ってるんだ?戦ったことがあるのか?」

 

「…ガンビーノは俺の親父だからな」

 

「「はぁ!?」」

 

キャスカとコルカスが驚きの表情で俺を見てくる。

まあグリフィスにさえ言ってねえ事だから無理もねーか。

 

「だからグリフィスには俺から伝える。俺以上に親父を知ってる奴も居ねーからな」

 

「良いだろう。だが私も同席する」

 

まあそうだろうな。

2人から不信感が拭えてなさそうな雰囲気をバリバリ感じる。

 

「なら俺も同席してや─

「お前はいい。ガッツと喧嘩になるのがオチだ」

 

「はあ〜!?」

 

「…先いくぜ」

 

ったく、偵察に不向きなのはどっちだか。

 

……なんか…気が乗らねえなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◇ガンビーノ◇〜〜〜

 

 

 

 

「ふははははっ!良い!良いぞガンビーノ!」

 

「はあ…そりゃどーも」

 

これ以上ないくらいご機嫌なゲノン閣下。

その両隣には線の細い美少年達が侍る。いや、マジで美少年なんだよな、これが。

美少女侍らせるんならまだ分かるんだがこれはちょっと……わっかんねーな。

髭面醜男と美少年のデュフフハーレム展開とか貴腐人方にとってもエスケープ案件だろこんなん。

 

これが最高司令官かよ…。

 

いつもあんな感じなのか聞いた時、ボスコーン将軍が目ェ合わせてくれなかったくらいだからなぁ。

 

「あ〜閣下?ご機嫌な所悪いんですけどね。鷹の団がミッドランド軍と合流した件はどうされるんで?」

 

「ガンビーノ、貴様は心配性であるな。この要塞にはボスコーン将軍に紫犀聖騎士団、コボルイッツ家のアドンもおる。案ずるでない」

 

…ウッソだろお前。

ボスコーン将軍?説得のために援護射撃を…、なんで目をそらすんだよおい!

 

「お言葉ですが奴らは他の傭兵団と一線を画す "何か" がある。だからこれまで生き残ってきたんだ、侮るのは危険かと!」

 

呆れ混じりの怒りを声に乗せてゲノン総督にぶつけるが暖簾(のれん)に腕押し、まるで聞き入れる様子は無く…。

 

「嗚呼そうだ、言い忘れておったわ。ボスコーン、ガンビーノ。鷹の団と剣を交えるにあたってグリフィスを殺す事は断じてならぬ!生け捕りにするのだ」

 

「…幾ら出してくれんです?」

 

「ガンビーノ!控えよ!」

 

「ボスコーン将軍、俺はまだ傭兵なんだぜ。正式に組み込まれたわけじゃねえ。金を求めて何が悪い」

 

それにこの命令だけは受けときてえ。

ボスコーンが拒否できない流れってのを作っちまえばこっちのもんよ。

悪ぃな、将軍。

 

「グリフィスを生け捕りにした暁には貴様の望む額を出してやるぞ」

 

「へへへ…そりゃどーも。お忘れなく…」

 

「…ッ。御意」

 

やったぜ。

後は鷹の団がどう出てくるか…だな

 

 

 

 



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賽は投げられた

 

 

ミッドランド軍本陣では延々と軍議が開かれていた。

いくら兵を投じてもまともに城壁に取り付けない現状を打開せんと各軍団長が集められている。

が、なかなか良案が出てこないまま時間だけが過ぎていく。

 

「だから、両翼から軍団を進めれば突破出来ると!」

 

「貴殿は知らぬのか?青藍騎士団がそれをして半数を失って敗走したではないか!」

 

「いっそ投石機で門を破っては如何か?」

 

「そなたは着任間もない故知らぬだろうが、あヤツらに砲弾を撃ち込まれて使える投石機は残っておらぬのだ」

 

「たとえ城壁まで辿り着けても激しい抵抗を受けて結局は引くしかなくなる。しかも紫犀聖騎士団が追撃してくるから被害が攻める度に増してゆく…」

 

「「「「むむぅ……」」」」

 

揃いも揃って唯々唸るばかり。

無理もない、ミッドランド軍の首脳陣は老練な者達ではあっても、老練故に新しい感覚や柔軟な考え方が難しいのだろう。

 

俺もガッツから要塞前の足止めの罠が使えなくなる条件を聞いてなかったら危なかったかもしれないくらいだ。

しかも聞けばその罠はガッツの父が考案したとか。

最高の好敵手だと喜びたい気分だ。

 

「いやしかし、これでは幾ら鷹殿といえ攻略は厳しいでしょうなぁ」

 

軍議の緊張に耐えかねたのか、場の空気を緩めようとしたのか、1人の貴族がそう切り出してきた。

軍議の場に呼ばれはしたが身分のせいで発言が難しい身には嬉しい舟だ。乗るしかない。

 

「お望みとあれば…」

 

「いやいや、致し方ない事ですぞ。何せ難攻不落の─ 今、何と?」

 

「陛下がお望みとあれば、あの要塞を落としてご覧に入れます」

 

俺の言葉を受けて場がざわめき出す。

無理もない、国のトップたる自分達が落とせない城をポッと出の若輩に落とされたら面目丸潰れだろう。

だが俺は俺の夢の為にもここは見せ所、引く訳にはいかない!

 

「どれ程の兵がいるのじゃ」

 

「陛下ッ!」

 

異を唱えようとした男を手で制して王は言葉を続ける。

 

「グリフィス、我が軍は既に多大な犠牲を払った。これ以上負ける訳にはいかぬ。どれ程の兵を与えればあの要塞を落とせるのじゃ」

 

「一兵も頂きません。私の鷹の団だけで当たります」

 

「不可能だ!」

 

「鷹殿、悪い事は言わぬ。見栄を張るのはよされよ」

 

よくもまぁ言えたものだ。

どれだけ自分達が兵を無駄に溶かしてきたかなんて考えた事も無いのだろう。

新しい知恵に対して古い知識を必死であてがおうとする、それが叶わぬと知って尚彼らは変わろうとしていない。

こんな奴らよりも俺の方が優れていると国に、王に、兵達に見せつけてやる。

 

「陛下、たとえ失敗しても失うのは1傭兵団のみ、痛手にはなりますまい」

 

「鷹殿ッ!」

 

「グリフィス殿、自身が何を言っているか分かっておるのか!?」

 

「静まれ……余は決めたぞ。鷹の団グリフィスにドルドレイ攻略を命ずる」

 

「はっ」

 

一部を除いた軍議に連ねる貴族の表情が僅かに歪んだのがわかる。

これでいい、それでいいんだ。

この場で俺に好意的な貴族を見極められるのはデカい。

 

「それでは私はこれで」

 

 

ユリウス将軍、貴方は…危険だ

 

 

 




お気に入り数が初投稿時の倍なんてレベルじゃないくらい増えてて言葉もないです˚‧º·(´ฅωฅ`)‧º·˚アリガトー

どうやら一時的にですがランキングにも乗ってたらしく…!?
(どのランキングかはわかりませんが)
これはもう…エンディング目指して完走する覚悟ですぞ!(*´罒`*)


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男2人の出会い

祝!お気に入り1000人突破!!"(ノ*>∀<)ノ

この2時作の投稿時の目標人数は30〜40人だったんですよ。
ばちぼこ驚きながら嬉しさ余って布団の上で打ち上げられた魚の如くモダモダして歓喜してました!( ꒪Д꒪)マジです

初投稿時から応援してくれてる方、最近知って気に入ってくれた方々に感謝してますぞ!
コメントや評価もありがとうですぞ(*´罒`*)

投下!(〃・ω・)ノ ・:*:・。➰◇



 

失敗した…。

よもやあの小僧があれ程に強いとは!

しかしマズイ、これ程の事を隠し通すなどできるわけが無い…逃げた兵から既に話が伝わってるやもしれん。

痛っ、くそっ!傷のせいで表情を変える度に痛むわ。

 

「何たるザマか、アドン!!」

 

「うッ!!」

 

突如聞こえた恐ろしい声に肩が震える。

誰が聞き違えようチューダー軍最強の男、ボスコーン将軍の怒気をはらんだ声だ。

軍規を破ってまで私怨を優先した以上よくて投獄、そのまま手打ちもありえる。

 

い…いかん!私の命が!!

 

「いや、コレは違うのです!まさかあの小僧が─」

 

「黙れアドン!独断で兵を連れ出し受けた被害は甚大、そして弟のサムソンまで討たれたにも関わらず仇を打つどころか手柄もなし、よくもそのツラ下げて戻れたものよ!」

 

「ぐぅ…いや……ですがッ!」

 

まずい、これはマズイ。

最悪斬られかねん!!

ああっ!戦斧に手を……!!

 

「終わった…」

 

死を悟った直後、鼻先スレスレで戦斧の刃が止まり風圧が吹き出た冷や汗を飛ばした。

 

───ッ!?

生きてる?私は生きてるのか?

 

「…貴様の処遇は戦の後に決める。ガンビーノと共に城の守りにつけ、地下牢にぶち込まれぬだけでもありがたく思え!」

 

「は、ははァ!!」

 

立ち去るボスコーン将軍の足音に安堵を覚える。

 

助かった!あぁ…腰が抜けたわ。

ん、ガンビーノだと?確か元ミッドランドの傭兵じゃなかったか?城を預けるということは正式に組み込まれたのか?

むむぅ…私は聞いてないんだがな。

 

「おやぁ?そこで腰砕けてんのはもしやアドン殿か?」

 

「な!なんだお前は!?」

 

不意に話しかけられたせいで少しどもったがすぐに立ち上がった。腰砕けだと?そんなわけあるか!

 

「あ〜?何度か会ってんだけどなぁ…んん、俺は影薄いのかぁ?」

 

「き、貴様っガンビーノ!」

 

思い出したぞ、少し前に寝返った傭兵団の長ではないか!むう。なんたる悪党ヅラ…確かに裏切りそうだ。

 

「まぁ共に城に籠るんだ。仲良くしようじゃねーか」

 

スっと手を差し出してくるあたりわきまえておらぬらしい。貴族が平民の手など握るものか!

どちらが上か分からせてやるわ!

 

「ふんっ!ガンビーノとやら、おのが身分をわきまえるのだな!誰が貴様の手など──

「アドン殿?」

 

突然ドスをきかせた声で呼ばれ、思わず言葉を止めてしまった。いや、ビビってなどおらぬ!貴族たるもの下の者の言葉も聞いてやらねば─

 

「その傷、()()()()()にやられたのでは?」

 

「な、なぜ知っている」

 

ボスコーン将軍から聞いたのか?いや敗走兵からか?

 

「そりゃまあ、で。強かったでしょう?」

 

「はっ、何を言うか!これ以上無いほどにボコボコにして痛めつけてやったわ!痛っ!?」

 

ガシッと手を捕まれかなり近距離でガンビーノの顔を見た。やはり間近で見る面ではない。殺気を感じる顔だ。

いや、それ以上に握られた手が痛い。凄い力で締め付けてくるのだ。

 

「俺ァ下手な冗談が嫌いなんだよ…強かったろ?俺の息子は

 

「離せっ!私は負けてなど──息子?」

 

「テメーの傭兵百人殺ったのも、弟殺ったのも俺の息子だ。名前は "ガッツ" ってんだ。いい名だろ?親不孝な出来息子なんだよ…」

 

「ひぃ!!」

 

人の目ではない!人間が出来る表情では無いわ!

巣窟だ…。この城は化け物の巣窟になったのだ!!

 

「おいおい、俺はなんも怒っちゃいねぇ。むしろ感謝してんだぜ?息子の手柄になってくれたアンタらによォ」

 

「……ぅ」

 

いったい何を言っているのだ、この男は。

今どきのミッドランドの平民はこんなにもイカれているのか!?

 

「ま、戦い方は間違っちゃいねぇよ、相手が悪かったってだけだ。嫌いじゃねーぜあんたみてぇな奴」

 

すれ違いざまにポンッと肩を叩かれた。

馬鹿な、この私が震えているだと?

 

いや、駄目だ。この男はボスコーン将軍の次に敵にしてはいかん!

 

「…仲良くしよーや」

 

ガンビーノの言葉を背に受けながら思った。

断ったら死ぬやもしれん…と。

 



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カルテマとアドン

 

 

ボスコーン将軍出撃。

 

その報せを聞いた時のガンビーノの笑顔は見た事ないほど歪んでいた。

まあ元々強面だから余計にってのもあるんだろうけど…

()()を知っている私たち古参兵は笑顔の理由がまだ分かるものの、アレは他人には見せられない。

 

城壁の持ち場で腰掛けて遠目に見えるチューダー軍と、背水の陣の鷹の団を眺めながらガンビーノの賭けを思い出してる時、それを邪魔する足音が近付いてきた。

 

「おおっ、カルテマ殿ではないか!ここにおられたか。いや〜奇遇ですな!」

 

「これは…アドン殿」

 

寝返りの交渉会議の場で顔合わせした時辺りからなにかと執拗に絡んでくるようになった男。

何か目に付くことをした覚えなんか無いんだけど。

 

「なにか御用ですか?生憎ですが貴族相手と言えど儀礼には疎いもので、失礼」

 

「いやいや気にする事はない!ところで、その…カルテマ殿は今は独り身だとか…?」

 

ガンビーノも言ってたがこの男はバカだ。

バーランとは毛色の違うバカらしいが私には同じにしか見えない。こういうバカを気に入るのはガンビーノの悪い所だ。

少なくとも私は空気の読めない男が根本的に苦手だ。

 

「それは…誰から?」

 

「バーラン殿から!」

 

アイツ次の戦場で殺してやる。

 

風がでて城の周りに砂埃が舞い上がり始めた頃、どっちから仕掛けたのか分からないが鬨の声と地響きが開戦を知らせてくる。

 

「始まった様ですよ?私の配置は此処ですけど貴方は内側でしょう。戻られては?」

 

「んむぅ……」

 

本気でガンビーノはこの男も()()()()()気なのか?

まぁ連れてくと言ってた以上はそうなんだろう。この男が着いてくるとは思えないんだけど…。

 

そもそもこの男は忠誠なんて物を持ち合わせてるのか?

 

「戻る前に1つ聞きたいんですがアドン殿、貴方は誰に忠誠を誓っているのですか?」

 

「む、急ですな……」

 

「どうなんです?」

 

少し迷ってる辺り、チューダー帝国に心酔してるってワケではなさそう…かな?

 

「そうだな、騎士の忠誠とは神と王に捧げる物ゆえに──」

 

違う。私が聞きたいのはそういう答えじゃない。

 

「貴方自身の事を聞いてるんですよ」

 

「……」

 

これは私の予想でしかないが、多分この男は生まれながらの貴族だった。だから階段式で騎士になったのかもしれない。

誰かの為にとか考えた事も無い人間が命を掛けた忠誠を誓うなんてありえないだろう。

ああ、そういう意味ではガンビーノの目は確かな物だ。

ボスコーンと違って追い詰められたら騎士やら忠誠なんてほっぽりそうな感じがする。

 

でもそろそろ敵の別働隊が来る頃合いだ。

これ以上話していられない、また機会があったらいろいろ聞いてみるのも悪くないかもしれない。

 

「失礼、ただの好奇心で聞いたんです。困らせるつもりは無くて」

 

「ああ…!構わないとも。言われてみるまで深く考えた事も無かった。いや、決して祖国を蔑ろにしてる訳では─」

 

「大丈夫ですよ、貴方を咎める人はここには居ませんから」

 

「カルテマ殿ッ!」

 

え、なに。なんで食い気味になってんの?

怖い怖い

 

「伝令です!カルテマ隊は即座に城門を閉じて敵の侵入を阻止しろとの事!以上」

 

「すぐにやる。そう伝えてくれ」

 

「はっ!」

 

アドンと別れるいい口実ができた。

足早に門に向かいながら今後の流れを思い返す。

 

ガンビーノの勘はやけに当たる。

でもそれが例の計画を必要とする程なのか私には分からない、今は不安だけど敵の別働隊が来ればきっとこの不安も晴れてくれるはず。

 

私達は一蓮托生。

 

今更逃げ出すなんてありえないでしょう

 

 



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ここが最後の大戦(おおいくさ)

 

 

ボスコーン将軍、ゲノン総督の戦死を皮切りに形勢は完全に逆転してしまった。

言うて初めからコレが狙いだった俺からしたら願ったり叶ったりなんだがな。

 

ただ最近ヤル気満々なミッドランド正規軍から罵声を浴びせられたり、寝込み襲われたり、盾持って近づいて来られたりと熱烈な猛アタックを受けている。

連中は過剰って言葉を知らないらしい。

 

「良いねぇ、壮観(そうかん)じゃねーか」

 

俺もそれなりに場数を踏んできてるがここまで凄まじい数の総攻撃を受けたのは初めてだ。

今まではせいぜい2〜3軍団規模だったのに今回は参戦した貴族共が根こそぎ動員してきてるらしい、10軍団くらいは居る。

カラフルな津波って感じだな。

 

何色もの旗がたなびいていて、その旗の群れにパラパラと矢を放つ味方。

残ったミッドランド軍の連中はメンツを掛けて来てるから簡単には引き下がらない。

おかげでジリジリと距離が縮まっている。

 

「なにを悠長に眺めておるのだガンビーノ!早く防がねば!ええい、なんなのだあのやる気のない反撃は!」

 

「いいんだよアレで。今じゃアイツらくらいだぜ?真面目に戦争してんのなんてよ」

 

「突撃してきたミッドランド兵を慈悲もなく射殺しておった者が何を今更…言ってる事とやってる事がまるで違うではないか」

 

「そりゃーおめえアレだよ、城壁狙って来るヤツらが悪い。初めから罠を狙って来てりゃ死なずに済んだんだからな」

 

「な、なに!?」

 

あの罠は時間稼ぎの為に置いてただけだからな。

撤去する事を考えてなかったもんだから、代わりに必死こいて撤去してくれてるミッドランド軍に感謝してるってのはマジな話だぜ。

 

「ま、まぁ良い。だが抜かれたらいかにする気だ!アレを防ぎきる兵力などこの城には残っておらんのに!!」

 

「はぁ?誰が守るっつったよ。俺は初めから籠城する気なんて微塵も持ち合わせちゃいねぇんだ」

 

「まさか城を捨てる気か!?」

 

あ、そういやアドンに計画の事言ってなかったわ。

てへぺろっ(ノ≧ڡ≦)☆

 

「俺たちは最後に一戦してこの城を去るつもりだ、次の行先も決まってるしな」

 

「……はァ!?」

 

当然だろう、こんな死ぬ価値も無い戦で死んでやるなんて正気の沙汰じゃねえ。

それで得するのは首級をあげれるミッドランド側だけで、俺たちゃ死に損。

三十六計逃げるに如かずってな。

 

「〜〜ッ、逃げるとしてっ!逃げるとして何処に行くと言うのか!此処で籠城して本国からの援軍を待つのが定石ではないか!!」

 

分かってねぇ、分かってねえな素人め。

俺たちは包囲されてんだ、伝令なんか出せねーしこっちの主将と指揮官が討たれた話はすぐにチューダー本国に伝わるだろうよ、でだ。

本国のお偉いさんはどう考えるかだ。

俺なら救う為に兵を出すとかはしねえ、そのまま籠城を命じて反撃部隊の集結と補充の時間稼ぎに充てる。

要は捨て駒にしちまうんだ。

 

「いいかアドン。もう俺達に生き残る道なんて残っちゃいねえ。いや違うな、あるにはある。だがそれはマトモな道じゃねぇ茨の道だ。この泥沼の戦争から1抜けする為の一縷の望みにかけたんだ、生き残りたきゃ着いてこい!死にたきゃ残って苦しんで死ね!」

 

「貴様ッ!貴様が本気で守ればこのドルドレイは落ちぬはずではないか!なぜ逃げるのだ!何のためにここまで来たというのか!」

 

「俺たちはクシャーンに亡命する」

 

「亡命…? クシャーン?」

 

初めからクシャーンに渡ることが目的だったんだ。

それが叶うところまで来れた、今更やめられるもんか!

 

「よく聞けアドン、この戦争は講和なんて出来ねぇ。国益を賭けて始めた戦争で、ミッドランドもチューダーも、とっくに利益を上回る損害を抱え込んじまってんだ。

いや、それ以上に積み重なった死体と怨みが多すぎる。どっちかが滅ぶまでこの戦争は終わらねぇんだよ!」

 

「だから…逃げるのか?茨の道を行くと言うのか!?」

 

「道は道だ。茨の道でも道だからな」

 

「───ぬぅ」

 

罠の殆どを取り外したのか敵のミッドランド軍の鬨の声が強くなってきている。

もう時間がない。

 

「来るのか、来ねぇのか!今、ここで決めろ!アドン!!」

 

「〜〜〜ッ」

 

「どうすんだ!!」

 

もう行くしかない。

討って出るタイミングは逃せないからな。

 

「行く!行くぞ!私も共にクシャーンへ行く!」

 

「ならすぐ隊を集めろ!一点突破で港まで突っ走んだ。港に船が来てるはずだからな、最後の戦だ。最高の一戦をして行こうじゃねーか」

 

「うむ!」

 

兜を取って緒を締める。

ここで生き残れば俺は運命の呪縛から解放されるんだ、必然気が引き締まる。

 

「野郎共出るぞ!決戦だァ!!」

 

誰にも邪魔をさせるものか。

俺はもう───

 

 

 

自由なんだからな

 

 

 

 

 

 

 



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運命(さだめ)受け止めた先に

アンケート協力ありがとうですぞ(*^^*)
これはちゃんとENDに反映します。

コメント、評価にも喜んでます(*´罒`*)
今後もよろしくです!


 

 

「あれがガンビーノか…おのれ傭兵上がりが!!」

 

ドルドレイ攻略の終盤というタイミング、ここに来て予想外の衝突が起きた。

 

司令官と主力の将軍を失って、一時は申し訳程度の抵抗しかしてなかった奴等が何を血迷ったのか出撃。

敗軍残党の悪足掻きと舐めてかかった最前列があっという間に食い破られて中列で激しい攻防戦になった。

 

「止めろ!押し返せ!我らミッドランドの強さを見せてやれ!」

 

各部隊長の指揮も効果は見られない。

無理もない、彼らは上官の戦死の穴埋めとして繰り上げ昇進しただけの者が殆ど。歴戦の部隊相手に善戦しろと言う方が酷だろう。

 

だがそれでは困るのだ。

何としてでも敵の首を取り、手柄を立てねば調子づくグリフィスを牽制出来なくなってしまう。

 

私がかき集めた白龍騎士団の再編部隊に至っては敵の先鋒を潰そうとして、逆に青鯨超重装騎士団に呆気なく蹴散らされてしまっている。

 

何たるザマか…頭が痛くなるわ。騎士団の面汚し共め!

このままでは私の立つ瀬が無いではないか。

 

もはや私の手持ちのカードは尽きたも同然。ゆえに出し惜しむ時では無い、切り札を出すしかあるまい。

 

「ラグドール、来い!」

 

「はっ…御用でしょうか?」

 

ラグドール。この男は我が白龍騎士団に属する弓兵で、100m先に立てた矢すらも射折る弓の名手。

本当はグリフィスを殺させようと考えたんだが暗殺などという手段は武門の恥。

いずれ堂々と排してくれようぞ。

 

「あの馬上の男が見えるか?」

 

「ええ、灰銀色の鎧の男ですね」

 

「奴を射殺せ、一矢で確実にな」

 

「承知」

 

ラグドールはY字の棒を地面に突っ立ててクロスボウを構え、狙いを定め始めた。

聞いた話だとあの男は憎き鷹の団の切り込み隊長の父親だとか。鷹の関係者は少ないに越したことはない。

恨みはないが死んでもらおう。

 

悪く思うなよガンビーノ。貴様自身に興味はなくとも私はその首に用があるのだ。

死んでくれ、死んで私の役に立て。

 

「…いつでも」

 

「放て!!」

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◇アドン◇〜〜〜

 

 

 

 

 

ドルドレイを棄てると決めた直後の敵中突破。

確かに私はガンビーノがマトモな、常識的な戦い方をする男ではないと分かっていた。

だが今こうなってくるとどうも私自身も同類だったのやもしれんと思えてくる。

 

ボスコーン将軍であれば間違いなく残って戦ったであろうし、逃げると言えば首を撥ねられたやもしれんからな。

 

「む、避けたか!」

 

突っかかって来ていた敵将を切り捨てると同時に周りの敵兵が引き潮の如く、いや蜘蛛の子を散らすように壊走しだした。

10騎から先は数えてなかったが中々に骨が折れたわ。にしても、私もやれば出来るものだな!

 

ガンビーノからもらった補充の騎兵共も私の命に従ってよく戦ってくれている。

ここまで脱落は数騎のみ、厄介と思っていた白龍騎士団すら撃滅した今の私に恐れる物など無い!

 

「命のいらぬ者から前に出よ!この三叉槍の餌食にしてくれるわ!」

「ほざけ!チューダーの犬風情ぎゃッ」

 

「くっ…敗軍の将如きがッ!?」

 

「フハハハハァッ!!どけどけぇい!」

 

止めようと必死の形相で向かってくる騎士共の首が、腕が血飛沫と共に宙に舞っていく。

口では大層な事を叫ぶくせに大した事ない奴らよ!

 

あの小ぞ…もといガッツとやらには見舞うことが出来なかったが後で人伝いに聞いて震えあがるに違いない!

ついでに後ろから続くガンビーノにも私の強さを見せつけておけば、後々良い待遇が期待できるというもの。

 

「ぜぇりゃあああーーー!!」

 

それは敵の後詰に突っ込んだ直後であった。

風切り音というより唸りに近い音の矢が顔スレスレを掠めていった。

 

し、死ぬ!今のは死ぬぞ!当たってたら即死で召されるぞ。おのれ私がこの隊の将と知って狙い撃ったのか!

 

見ればかなり近くに狙撃手らしき男がクロスボウを構えていて、次の矢を装填しようとしている。

 

むう、弓兵の身で逃げずに抵抗する度胸は見事。

だが許さぬ!貴様だけは生かして帰さぬ!

 

何やら後ろに派手な装束の者がいるがおそらく何処かの貴族の影武者であろう。如何にミッドランド人がイカれてると言え、まさか本物の貴族がこんな所にいるはずが無い。

 

「逃がさぬぞ。食らえぃ!我がコボルイッツ家に伝わりし槍術、岩斬旋風──

「う"っ!?」

 

…う"?「ゔっ」てなんだ?

その声音は言っちゃ…聞こえちゃいかんヤツでは無いのか?

 

振り向いた先に見えたガンビーノの姿。

兜の額部に矢が突き立ち一筋の血が顔に沿って流れ、ガクンと下がった手から抜け落ちる剣。

 

そのままユラリと体が揺れ、仰け反るように落馬して兵の波に消えていった。

 

「ガ……ガンビーノォ!!

 

敵も味方も一瞬だけ止まったような気がした。

 

し、しまった!コレでは相手に我らの指揮官が殺られたよと教えたも同然では無いか!

や…やらかしたか?

 

「「「大将首だァー!!」」」

 

おっふぅ…

さっきまで逃げ腰だったクセに!

手柄が目の前と知って勢い付いたか、現金な奴らめ!

 

大将首を取らんとする敵とそれを食い止める味方が入り交じって混戦を極めていく。

もはや陣形もへったくれも無くなっている。

 

あぁわわわ、やってしまった。

どうする!?ここは私が残って殿を務めるべきか?いやだが死にたくないぞ!!

 

「ここは儂が殿に着く!ゆけぇ!!」

 

……え?

 

状況をいち早く理解したバーナー殿が歩兵を纏めながら叫び、カルテマ殿の高い声がそれに続く。

 

「アドンはそのまま突っ切って!ウルバンッ、ガンビーノを拾って来て!バーランは私に続きな!」

「おう!」

 

いかん…いかんぞ!それはいかん。

いくらなんでも己の失態を他人に押し付けて死に追いやるなど出来るものか!

 

「待たれよ!ここはこのアドンが殿に─」

「黙ってゆけぃ!!ガンビーノには予め伝えておったのだ。貴様のようなひよっ子は寧ろ邪魔じゃ!」

 

「さっさと走れアドン!後ろが食いつかれんぞ!!」

 

「アンタが突っ切んなきゃ私達は囲まれんだよ!仲良く心中なんてまっぴら御免!さっさと走れ!」

 

ぐぅ…お許しを!

 

「青鯨超重装騎士団私に続け、突破するぞ!」

 

このアドン、せめて敵陣を切り裂いて見せようぞ。

この失態はいずれ必ず…!!

 

 

 

 

 

 

 



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その手が掴む未来は

 

 

おーー真っ青な空。

眩しくておめめシパシパすんぜコンチクショー。

 

 

「ん、起きたかガンビーノ」

 

おー、ウルバンじゃねーか。どうしたよ?そのクマ

 

目を開けたら俺は荷馬車の上にいた。

周囲に広がる景色に見覚えなんかない。

 

「ウルバン…今どの辺だ」

 

「ちょっと待てよ、地図がこのへんに……」

 

かなり体がしんどいが今は気にしてる場合じゃねえ。なるべく急がねーと追っ手なり待ち伏せに会う可能性が高くなっちまうからな。

いくら隊長クラスが平気でも兵隊は違う。

ここまで来て無駄死になんて俺が許さねぇ。

 

「手ぇかせウルバン。寝てる場合じゃねぇ」

 

頭をあげた瞬間、視界がぐるっと回って吐き気を覚えた。そういや頭に矢が当たったんだっけか。

よく生きてたな俺

 

ダメだ頭グッラグラで立てねぇや。

 

「あ〜寝てろ寝てろ。えっとな、今はもう少しで折り返し地点に到着するって所だ」

 

「随分早ぇな。俺はかなり寝てたのか?」

 

「いや2日くらい寝てた。ここまでは強行軍で来たんだよ。ほら、前にアンタが言ってた… "しゃりょーか" だっけ?あれでな」

 

しゃりょーか…?何言ってんのお前。

俺そんな意味わかんない事言った覚え無いんだけど。

 

「なんだよ覚えてないのか?まさか記憶が飛んだのか?歩兵を荷馬車なり幌馬車に乗せて移動させるってアンタが提案したんじゃないか」

 

ああ!思い出した。『機械化歩兵』の話か!

そうだそうだ伝わりやすいように "車輌化歩兵" って言ったんだった。

 

「そういやそうだったな。て事は今はバーナーが仕切ってるのか?」

 

「いや…モス爺は戦死したよ」

 

死んだ…?バーナーが?

 

「じゃあ今は誰がこの軍率いてんだ?」

 

「前衛はバーランが、ここ中列はカルテマ、最後尾はアドンが率いてるよ。敵襲の際は各部隊が相互支援する形を取ってるから心配はない」

 

そりゃ頼もしいこって。

 

「モス爺の最後…聞くか?」

 

「いや、必要ねぇ」

 

あの爺のことだ、自ら好んで殿を引き受けたに違いない。

「老いて床で朽ちるなど耐えられぬ」って事ある度に言ってた奴だ。戦場で散れたなら本望だろうさ。

 

「ウルバン、伝令出してひとまず折り返し地点で休ませろ。こんだけ進んだなら追い付かれる事もねぇはずだ。馬が潰れちゃ目もあてらんねぇしな」

 

「あいよ」

 

そういや折り返し地点ってどんな所なんだ?

野営は仕方ないとしても都市部だったら避けなきゃいけなくなるから困んだよな。

 

「地図かせ」

 

「ん」

 

えーとこの赤いラインが進んできた道か?って事は今この辺だから───

 

おぉん?此処ってたしか……

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◇霧の谷◇〜〜〜

 

 

 

 

 

結局、妖精なんか居なかったんだ。

分かってた。でももしかしたら、見つけられたら何か変わるかも知れないって縋りたかったんだ。

結局何も変わらない。

この山に囲まれた小さな村で、蔑まれながら私は死んでいくんだ。

 

「いらない…こんな世界、消えちゃえばいいのに」

 

雨も止んで薄霧の出てきた草原に体を投げ出して空を見上げた。

 

もし羽があったら、私は自由になれたのかな

もし私がお父さんの娘だったら、愛して貰えたのかな

もし妖精が居たら、私は救われたのかな

 

答えなんて出てくるわけが無い。

もう夜も更けたけど私が居なくても両親はきっと心配なんかしてないだろうな。

むしろお父さんは私の悪態つきながら泥酔してるはず。

泣くのもとっくに飽きて涙も出てこない。

 

ぼうっと空を眺めてた時だった。

 

「……誰!」

 

なんか聞こえた。

ぬかるみを近付いてくる足音が確かに聞こえた。

霧と暗がりで姿は見えないけど何かが、誰かがいるのは気配でわかる。

間違っても妖精なんかじゃない

 

「こいつァ驚いた。まさか()()()()()()()()()()()()()()()()()ハハハッ、家出娘ってところか?」

 

何…コイツ。

盗賊?人攫い?こんな山奥の滅多に人が来ない所に?

まあ、何でもいいか。

 

「なにアンタ、人間?それとも化け物の類い?盗賊でも人攫いでも人殺しでもなんでもいいけど私なんも持ってないから。なんならどっかに売り飛ばしてみる?」

 

「…あいにく俺ァ妖精には縁遠い人間でな。お前に夢を見せてはやれねぇ」

 

妖精…夢…?どうして知ってるの?

一言も言ってないのに。

 

「その縁遠い人間が私になんの用?てかアンタ何者?」

 

「俺か!俺ァガンビーノってんだ。人攫いだけはまだした事ねぇけどな、盗賊とか人殺しに関しちゃ否定はしねえ」

 

ああ、追われ者が逃げ込んできたって訳ね。

確かに人の出入りのないここは隠れるのに都合のいい場所だろうし。

 

「ふーん、で?その犯罪者を見ちゃった私は口封じされる感じ?……殺るなら苦しまないようにしてくれる?」

 

別に好きで死にたいんじゃないけど痛いのはいや。

どうせ私じゃ大人の足から逃げきれないしね。

 

「ガキを殺す気はねぇよ。むしろ俺はお前を連れていこうと思って来てんだ」

 

「は?」

 

「絵本に出てくるような夢のある人生は諦めろ。ただ俺はお前にこの世を、広い世界を見せてやれる。こんな閉鎖的で寂れた村から出て大海を見ようじゃねぇか」

 

何を…言ってんのこの男。

私を連れて行く?この村から出られる…?あの同じ事の繰り返しみたいな毎日から解放される?

 

「アンタは…犯罪者なんじゃないの?」

 

「いや、俺は傭兵だ」

 

傭兵…。

確かに人殺しだし盗賊と変わりない連中だって聞いた事があるけど…。

どうだっていい、こんな所から出られるなら!

 

「行く。連れてって!ここに未練なんて無いもの」

 

「任せろ、人攫いは初めてだが上手く連れ出してやる。それとお前はこれから俺の娘になるんだ」

 

「…はぁ?なんでそうなんの」

 

「俺んとこは圧倒的に男が多い、いくら子供でも女が1人ふらついてていい場所じゃねーんだ。だから俺の娘になれ。手ぇ出そうとするバカはいなくなる」

 

あー、そういうことね。

あれ?て事はこのガンビーノって結構上の人間なの?

 

「ねぇ…最後に1度だけ村に行っていい?」

 

「構わねぇけど何しに戻るんだ?」

 

「友達に一言だけお別れ言っときたいの」

 

「そうか、なら言ってこい。俺達は谷の出口で待ってるからな。…いや途中に迎えを出しておく、お前と同じ女だから安心しろ」

 

「ありがと」

 

「んじゃ、さっさと行ってこい」

 

差し出された手を掴んで私は立ち上がった。

ゴツゴツした大きな手の感触が夢じゃないって頭の中で興奮気味に暴れてる感じがする。

 

ガンビーノと名乗った男が霧の中に消えていくのを見送って村へ走った。

 

見つけた。見つけた!

妖精じゃなくて傭兵だったけど、私は見つけたんだ。

自分の歩く新しい道を!

 

ジル!私行ってくる!

宝物も全部あげる!またいつか会いに来るよ。絶対!

 

どこに行っても友達だからね、ジル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◇???◇〜〜〜

 

 

 

 

「ほう…さすがは因果律に嫌われし男よ。まさかあの子まで因果より解き放つとはな」

 

彼の者が持つ物とは別のベヘリット。

本来であればここで使われたであろうもはや無用の卵。

 

「面白い…奴らの憤る顔が見れぬのが惜しいが…」

 

……カロン

 

「いずれ相見えようぞ、ガンビーノ」

 

 



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さらばミッドランド

 

 

ドルドレイ脱出から7日間にわたる強行軍の末ミッドランドの田舎のとある小さな港町《ルデール》にたどり着いた。

山育ちで海を知らないロシーヌは砂浜に寝転がってこれから乗る船を眺めながら足を波に浸して遊びだした。

さすがは子供、体力が違う。

 

「わぁ…大っきい」

 

「だろう?この辺りでこれ程のモノを持ってるのは俺だけだって言っても過言じゃねぇくらいだ」

 

「でも見聞きしてた形には似てないって言うか…なんか歪な感じがするね」

 

「初めて現物を見りゃそう思うのかもな」

 

「早く乗ってみたい!どんな感じなのかすっごい気になるんだけど!」

 

「昼前には乗れるさ。それまではシス達と寝てこい」

 

「はーいはい。ちゃんと起こしてね〜」

 

「起こすのはカルテマにでも頼めよ」

 

海を見るのも初めてらしいロシーヌにはデカい船は新世界を見たのと同然だろうな。

山奥じゃあ海の話が届くことすら稀だろうし。

 

いやぁ〜それにしても子供らしい、可愛い反応してくれるじゃんかロシーヌ。

パパん嬉しいぞ!

 

「ガンビーノ、見てきたぞ」

 

「んぉ!?…ああアドンか。」

 

やっぱりプライベート以外であの子と関わるのはやめた方が良いかもな…。

そのうちボロが出そうで仕方ねぇ

 

「船はもう少しで出港できそうだったぞ、あとは食料の積み込みだけで終わりだな」

 

「そりゃなによりだ」

 

「で〜…聞きたいんだが何で船から側面砲を外したんだ?あれでは戦えんではないか」

 

「近代化改装と言え、改良だ。改良」

 

「んむ…そう…なのか?」

 

心配性なヤツめ。

 

側面砲の代わりに厚さ1.5㍉の外張り装甲付けて、船首と船尾には自走砲に使ってた固定砲を計8門据え付けてんだ。

これを改良と言わずになんて言おうってんだ!

 

しかも!しかもだ。

マストのてっぺんにある見張り台には伝声管まで整備して索敵、伝達を確実に底上げしてある。

強いて言うなら動力だけは無理だったくらいか。

 

さすがに砲塔の据え付けは大変だったぜ。

載せすぎると装甲やら積載やらで船が沈みかねなかったからな、最終的には船首に2×2の4。船尾に2×2の4で落ち着いた。

 

ああ…金が足りねぇ…。

 

「改良と言うならそうなのかもしれんが何で一隻だけなんだ?他はむしろ悪化してるでは無いか」

 

「悪化とか言うなボケ、運ぶだけの船に武装なんざ要らねぇだろうが。軽くなったぶん速度が出るんだから文句言うんじゃねえよ。泳がすぞ」

 

「わ、私は何も言っとらん!」

 

ったく、資金だって無限じゃねえんだ。

改良出来たのは旗艦になるこの一隻だけ、残りは非武装の改造商船(輸送船)になるのは必然だろうに。

 

一時期ウチの代名詞だった自走砲なんて費用削減の為に艦砲に転身させたんだからな!

持っていけない台座を焼却処理して海没させてまで…

くうぅ…(泣)

 

ダメだダメだ、思い出したら鬱になるわ。

 

「アドン、船酔いする奴は輸送船に乗せろ。酔わない奴らは俺と旗艦に乗るように伝えとけ」

 

「あいわかった」

 

よし、俺も一眠りしておこう。

ミッドランド最後の睡眠ってなw

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫?ロシーヌ」

 

「大丈夫だよ母さん!船って凄いね!風も気持ちいいし水の上にいるってまだ信じられないもん!」

 

「落ちないでね。ところでアドン、バーランは?」

 

「今頃あっちの船で死にかけてるのではないか?」

 

「あ、船酔いの薬渡すの忘れた…」

 

「おーおー、生き地獄へようこそってか?はははっ」

 

夢にまで見たクシャーンへの亡命。

それが叶ったんだ、悔いは無い。

 

この地とも暫くの別れ…か。

元気にしとけよガッツ、俺より先にくたばったら殺しに行くからな。

 

じゃーな、クソッタレのミッドランド!

 

 



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第2期 【茨の道へ】
急がば回れ


 

 

 

『海の船旅を知りたい』

今後誰かにそう聞かれたら俺は絶対にこう答えてやる

「それはもう、気が滅入る程に大変でうんざりする事だ」って。

 

 

数時間前のことだ。

先発させたアドン達から伝書鳩が届いた。それはいい、鳩が来るのは無事の報せだから一向に構わなかったんだがそれが『迷子になりました』『あと、子供乗せました』なんて書いてあったら頭の1つも抱えたくなるってもんだろ、あんのバカタレ。

命の保証なんざ無い所に子連れで赴くとかアホの所業だぞ?

まぁ手紙読んだ感じ、成り行きで仕方なく…らしいがどうだか。

 

つかちょっと待て。

手紙にある()()()()()()ってなんぞ、嫌な予感しかしないんだが?

何処の海域で迷子になったか知らんし、どんな親子だかもどうでもいいがクシャーンに着いたらさっさと送り返してやる。

なんだか無性にそうしなきゃイカン気がする。

 

そもそもなんだ、この人魚伝説がどーの、デッカい鯨がこーのとツラツラ書きやがってからに。

……知らんがな。知りたくもない。

まぁ船旅も暇だから海路案内の漁師に話上手を選んだってんならなんも言わねぇけどよぉ…。

 

多分あれだろ、これ。

なんかこんな条件のキャラ見た気がするぞ俺。

アドンの奴は内陸育ちだから鯨だと思ってるんだろが『海神』の事言ってんだろうな、この親子。

冗談じゃねえよ。

一寸法師作戦は一寸法師とガッツだから上手くいったってだけで俺たちがどうにか出来る相手じゃない。

神の末席たる海神に挑むなんざ無謀だ。

チキンとか言うんじゃねえ!命中率10%の艦砲と陸軍が大半の中世船だぞこちとら!

 

って事で仕方ないからな、アドンにはそのまま "所詮漁民の伝説" と勘違いさせておいて先に行くように言っておこう。

触らぬ神に祟りなし。だ

せっかくスルー出来そうな原作イベを見つけたんだ、命かけてまでクリアする必要はねぇ。

 

俺は慎重派なもんでな。

 

「カルテマ、ロシーヌにこの内容で手紙書かせて飛ばせ」

 

「ロシーヌに?良いけど…」

 

「あの子の読み書きの練習にいいだろ。面白くもねぇ紙切れに書き続けるよりは誰かに送る、誰かが読む手紙を書く方が楽しいかもしれねぇぞ」

 

「──はっ、了〜解。大した親バカだねぇ」

 

ほっとけ。

シッシとジェスチャーでカルテマを追い出して1人考えを巡らせる。

 

陸戦しか能の無い俺が如何にクシャーン王家に食い込むか。

短期だったがチューダーの正規軍に組み込まれたおかげでマトモな肩書きはある。

いきなり頂点と繋がるのは俺個人としても避けたい。

旨みが無いからな。

 

問題は今が原作とどれくらいズレてるか、だ。

 

間違うな、俺は俺の為に生きてる訳じゃねえ。

俺はガッツを育てると決めた時からアイツの為の生を選んだんだ。ガッツの為に、()()()()グリフィスを助ける。

──その為の亡命。

 

年々薄れる前世の記憶のおかげでクシャーン皇帝の名も忘れちまったが、今世の目的だけは忘れねぇ。

ガッツ。

待っていろ、俺がお前を。

天使と自惚れる馬鹿げた使徒の手を切り落としてやるからな。

 

 



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クシャーン上陸

 

 

 

ミッドランドを発って2ヶ月は経ったか?やっとだ、やっと着いたぞ!夢にまで見たクシャーン帝国!!

私が来た!とでも叫びながら練り歩きたい気分だぜ。

 

まぁ俺の後ろじゃ久方ぶりの地面に対して、涙目で喜んでたり五体投地の真似をしてる奴まで居るからちょっとな。

このまま叫んだら俺まで変人達の仲間入りしちまう。

ただ、船旅の苦労を思えば少しくらい好きにさせとくのも──

 

「ママー、あの人達」

「シッ、見ちゃいけません!」

「あの軍装ってミッドランドの…」

「チューダーのも混じってないか?」

 

…あー、駄目だ。叩き起こそう。

 

 

 

 

さすが戦争と無縁だった国家と言うべきか、港の、町の活気が違う。ちょっとした地方都市ってくらい賑やかで人と物が流れている。

どこか懐かしくて町特有の喧騒が落ち着く俺はおかしいだろうか。

 

「ガンビーノ!ああ良かった。無事に着いたんだな」

 

「よぉウルバン、アドンも一緒か。まぁこの通り無事だ。それと新顔も居るぞ」

 

既に港町を満喫してただろうアドンとウルバン。

何を買い込んだのか知らないが幾つか紙袋を抱き抱えていた。

新顔と聞いて顔を見合わせる2人だが十中八九、面識は無いはずだ。

 

「ほら船長、話してた奴等だ」

「お初にお目にかかる。海賊を生業としていた海賊船元船長、髭骸骨です」

 

「「おお…!」」

 

見た目いかにもな海賊に俺と同じ反応をする2人に思わず苦笑いがこぼれる。

そうだろう、そうだろうよ。これ以上海賊らしい奴は中々居ないもんな!

もっともこの後すぐに武装船を与えて送り出す予定だから、鮫と鯨の共闘とかは無い訳だが。

 

「なあアドン…」

 

「ん?」

 

カルテマに髭骸骨を武装船に連れていかせて、部下はウルバンに押し付け、アドンを連れて町へ向かう道すがら()()の話を聞いた。

クシャーンに関わる事はもう足掻くしかないが、仮にも "神" の名を拝する海神なんかには間違っても関わりたく無い。

アレはガッツの仕事だ。

 

話の結果から言うと、アドンは既に報酬の支払いを終えて親子に小型船を与えて島に帰していた。

なんか娘の方が大型船やら港町に興味津々らしかったが土産を満載させたら大人しく帰ったとか…。

 

あれ?もしかしてコイツ(アドン)有能?

 

何にせよビッキビキにそそり立つ死亡フラグに引きずり込まれなくて済んだのは僥倖(ぎょうこう)だ。

ここで死んだら\\闇フィス爆誕//待ったナシだからな。

偉いぞアドン。

 

「それで、お前の言ってた様に親子は帰しといたがこれからどうする気なんだ?分かってるだろうが数百人の部下を食わせなきゃいけないのに雇い主が居ないのは不味いぞ」

 

「それなんだがな?町の連中の話を拾ったんだが近く祭りがあるらしいんだよ。王城近い港町の祭りだぞ、きっと王家の誰かがお忍びで来るはずだ」

 

「初耳なんだが…盗み聞きでもしてたのか?」

 

「テメェ…人聞き悪い言い方すんな。聞き耳立ててたと言えバカタレ」

 

「あぁ…そうだな。すまぬ」

 

別に怒っちゃいねぇんだが。

アドンに諜報能力があるなんて微塵も思ってないしな。ドルドレイにいた頃みたいなヘマさえしないでくれりゃそれでいいんだ。

あとは──

 

「アドン、お前に預けた工兵隊は生きてんのか?」

 

「無論だ。船から降りたら1日と経たずに平然としてたぞ」

 

「なら自走砲を作り直せ。前の砲は髭の奴にくれたからな、ひとまず代用で手に入る長射程の奴を積めばそれでいい」

 

「待て待てなんだと!?あれ1台で幾らかかると!」

「作れ」

 

「…あい分かった」

 

例え火の車だろうが身を切る出費だろうが、出すべき時に金は惜しんじゃいけねぇ。

ミッドランドで使ってた自走砲の噂くらいは従軍商人伝いでコッチにも届いてんだ。ならアピールしなきゃ駄目だろ。

『俺達はここに居る!』ってな。

 

王政が健在なら、いやなればこそ王家は欲しがるはずだ。

臣下に渡ると厄介な部隊、なれど有すれば強力な部隊を。たとえ直近に戦が無くともきっとそうする。

 

扱いなんてどうだっていい、金さえ貰えりゃどうとでもしてみせる。

今までがそうだったようにな。

 

 

 



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知らぬが仏

 

 

 

探せ!

 

草の根分けてでも探し出せ!!

 

白髭ヨボヨボのおじいちゃん、齢70くらいのお爺ちゃん、鱗を剥がし尽くしたヤンクックみたいな鳥を飼っている、奴がそうだ!

見つけ次第カツアゲよろしく『卵出せやコラ』とでもシメ上げろ。

ちょっっっと変わった卵だが持ってこい!持ってきた奴には金貨10枚くれてやる!

 

───なんてガンビーノが叫んでたが何なんだあれ。

 

遠路はるばるクシャーンにまで来て一番最初にする事が養鶏家(?)と思しき老人探しとは…いやはや。

それも手隙の連中を総動員してまでやる事か?

 

「なあー、ここにあるヤンクックってなんだよ」

「知るかよ。卵とか飼ってるとか書いてあっから鳥かなんかだろ」

「(鳥なのに鱗を云々って……)」

「なぁ隊長ー、隊長はこのヤンクックって鳥知ってんすか?」

 

「はぁ?ンなもん俺も知らねーよ」

 

報酬の金貨に食い付いちまったのが失敗だったぜチクショウ。

何処にいるのかも分かんねぇジジィ探しなんてそも俺には向いてねぇんだよなあ〜。

 

あ。

 

そうだよ、なにも歩き回る必要は無いじゃねーか。

 

「よっしゃ、オメーら酒場行くぞ!」

 

「え」

「ちょっ!それは──」

「バーラン隊長、いくら何でもそれは…」

 

「バッカ、誤解すんな。人の集まるところに情報有りだ!って事で楽して情報集めんぞ!!」

 

「「((大丈夫かよ…))」」

「おっほ、良いっすね!行きましょ!」

 

うーん、やっぱ俺天才じゃね?

 

 

 

*

 

「70くらいで鳥を飼ってるお爺さん?」

 

「そそ、知らないか?」

 

「ウチの常連さんには居ないかな…それとお客さん達が話してる内容にもそんな名前の鳥は居なかったと思うけど」

 

「あーー、そうか。あんがとついでにもう一杯!」

 

…ここも駄目か。

もう何軒もハシゴして何十杯と酒を飲んでるのに全然ジジィの手がかりが見つかんねぇ。

つーかホントに生きてんのかこのジジィ、齢70過ぎてんだろ?既にポックリ逝ってても不思議じゃねえよ。

 

金貨10枚もする値打ちもんの卵拝めねえのは惜しいけどこの際だ、仕方ねえ、次行くか。

 

「おいテメェら起きろ。次の店行くぞ、おい」

 

「……」

「う"ぅ…もう勘弁してくだざぃ」

「──Zzz」

 

チッ、下戸共が。なっさけねぇ。

どうすっかな…さすがにコイツら担いでハシゴはちょっとなァ。

まあいっか、ここまで探して見つからねえんだ。

他の奴が見つけりゃ上々、それでも見つからなきゃポックリ逝ってたってこった。

無駄に頑張る必要はねーわな。

 

「おーい姉ちゃん!肉揚げともっ杯くれや!」

 

「隊長…そろそろ……」

 

「おう、これ食ったら戻るから寝てていーぞ。支払い済ましたら起こしちゃる」

 

「oh......」

「ハーイ、おまちどう!」

 

うん、美味い。

 

「おかわり!!」

 

「「((帰りてぇ…))」」

「Zzz…」

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

「───で?今の今まで呑んだくれてた訳か」

 

「いやガンビーノ待ってくれ。探してたんだ、だけどよ…見つかんなくてよ」

 

「卵は別の隊の奴が見つけてきたから良いとして、昼間っから飲み歩きたァ良い身分だな?バーラン」

 

やっべぇ…やっべぇよ。

これ激おこだよ。

船の営倉送りとかワンチャンあるやつだコレ。

 

「あ、あ〜…なあ。卵ってどんな感じのやつだったんだ?金貨10枚も出すほどなら一目!せめて一目拝んどきたいんだよ。そしたら大人しく罰受けるからよ!な?頼むよ」

 

なんの為の苦労か知っておきたい。

そう思うのは我儘じゃねえ、そうだよな!?

 

「……コレだ」

 

コトンと出された()()は。

ヤンクックの卵らしいソレはなんて言うか──

 

「えっ気色悪ッ」

 

あ。

 

「今月いっぱい禁酒しろ。それが罰だ」

 

1ヶ月!?

今月始まったばかりじゃねーか!!

嫌だ!1ヶ月も酒が飲めねえなんて…死刑じゃねーか!

 

「連れて行け」

 

「「ハッ!」」

 

「悪かった!ガンビーノ!!口が滑っただけなんだ。おいヤメロ!離せッ」

 

たかが卵1個のせいで禁酒なんて……

あんまりだァーーーッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 



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悪役の矜恃

 

 

 

ベヘリットだ。

言わなくともどんな代物(シロモノ)かわかると思うが。

 

金貨というニンジンで釣り上げた覇王の卵が今、丁寧に梱包された形で俺の目の前にある。

馬鹿な話だよな。

"1番大切もの" を対価に願いを叶えるなんて、悪魔の契約そのまんまじゃねぇか。

ゴッドハンド(神の手)なんて大層な二つ名を付けた奴には余程センスが無かったらしい。

 

なんて感想はこの際どうでもいいな。

 

要はコイツを何処の誰に送り付けるか、だ。

それとその手段だな。

 

──、思えばろくでもない生き方をしてきたもんだ。

部下を死なせて敵を殺して、なお飽き足らずに奪う側で居続けている。

そうでもしなきゃ大事なモンを守れない世界だからだ、正しいかなんざ迷った事もない。

ただ、そうだな。

 

俺が振りまこうとしてる厄災はそいつの過去を否定して未来を摘み取る。

必然的にその影響を受ける子供達には少なからずの罪悪感は感じる。

 

「(あの子達に誇れねぇ大人にだけは、なりたく無かったんだがな…)」

 

ガッツを育てると決めたあの瞬間が俺の生死を分ける分岐点だったのなら、コイツを送り出すこの選択は俺が人の道を踏み外す瞬間になるんだろうな。

 

「誰か居るか」

「はい」

 

「鳩を2羽用意しろ。小箱の方をウチで1番飛翔力のある伝書鳩に、手紙はどれに付けてもいい。髭骸骨宛に飛ばせ」

「ハッ!」

 

悪く思うなよ、()()

同じ子を持つ親として、家族を想う男としてすまないとは思う。

だが所詮は他人の人生だ。

どれほど悲惨な結末になろうと、いかに悲劇的な人間を作り出そうと、俺はそれを理解して、承知したうえで事を進める。

正道で守れないなら外道で守る。それが俺のエゴだ。

まぁ…そうだな。

 

己の不幸と思って諦めてくれや。

 

 

 

 

*

 

 

 

「進路変更!ミッドランド領海へ向かうぞ!」

「「「おう!!」」」

 

「お頭…良いんですかい?」

「船長と呼べ!馬鹿野郎!」

「すんませんッ!船長!」

 

ったく。

私だって好き好んで用の無いミッドランドに行きたくないわい。

だがガンビーノから『絶対に飛ばせ』と鳩が来ては致し方あるまい。

小箱の中身がなんであるかも知るべきでは無い。

 

これは長年の勘だが多分当たりだろう。

ミッドランドの貴族なんぞに興味は無いが噂は聞いた覚えがある。

ミッドランドで流行っている邪教。その紋章。

それが小箱に刻まれてるなど気付きたくも無かった。

 

「──はァ…」

 

「おか…船長。鳩はどうします?」

 

「位置に着くまでは休ませとけ。俺宛の手紙を抜いて残りはまた鳩につけて飛ばせ。送り先は」

「──領の伯爵夫人宛だ」

 

「分かりやした」

 

…こんな面倒な匂いがプンプンする物を古巣に送るなんて何考えてやがる?ガンビーノ。

くそっ、ヤバい男についちまったのかもしれねぇな、俺達は。

 

神様…アンタを呪うぜェ。

 

 

 

*

 

〜〜〜???〜〜〜

 

 

「失礼致します奥様」

 

「入りなさい、何かあったの?」

 

「所属不明の伝書鳩がお手紙と小箱を運んで参りまして……」

 

「それで?」

 

「奥様宛の手紙でしたので処分はせずお持ちしたのですが…お心当たりございますか?」

「見せてちょうだい」

 

「(この紋章は…たしか)」

「ええ、知ってるわ。かつてこの城の守りについていた傭兵団の紋章よ。あの人(主人)は昔から多忙だったでしょ? 彼もそれを知ってたから私に送ってきたのね。邪魔しないようになんて、粋な心遣いじゃない」

 

「そうでしたか、失礼しました。では小箱はここに置いてゆきます」

 

「そうして頂戴」

 

「では、失礼致します!」

「ええ、ご苦労さま」

 

 

……正直、手紙にある蜘蛛の紋章は初めて見たわ。

そもそも手紙に書いてあったから(ゆかり)のある傭兵団だって気付けただけの話だし。

でもコッチは知っている。

 

私達が崇拝する御方の紋章(山羊の神様)

 

『我らが同志への贈り物です』だなんて、ふふふ。

ガンビーノ…どんな人だったかあんまり思い出せないけど覚えておくわ。手紙は燃やしちゃうけど悪く思わないでね。

あの人に知られる訳にはいかないもの。

 

「(でもコレ…何に使う呪具なのかしら)」

 

ま、いいわ。

地下室に置いておきましょう。

 



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若きガニシュカ・心の平穏

 

 

機は満ちたのだ。

 

ミッドランドから噂に聞く歴戦の傭兵団が亡命してきた、と王領の港町の代官から報せが入った時、私は不思議な感覚を覚えた。

敗北手前で僅かな手札を全賭けするが如く全てを投じたくなったのだ。

いや、投じねばならない気がした。と言うべきだな。

 

クシャーンは長らく外国との戦と無縁だったが、無縁ゆえに戦を知らぬ弱兵が増えつつあった。

そこに戦術・戦略共に長けた軍団が亡命してきたのだ。

手に入れない理由などあるまい。

問題は誰が彼等を配下に引き入れるか、である。

 

もし他の貴族に取られれば厄介な火種に成りかねず、時期王座を狙う弟に取られれば間違いなく私の命が脅かされる。

幸い父は興味が無いらしいが、ならばこそ私の配下に迎えねばなるまい。

影薄く、静かに生きられぬならば足掻くしかない。

 

その為にも、必ず。

 

「殿下、例の部隊の居場所を突き止めましてございます」

 

「ならば早急に使者を送れ。人選はダイバ、お前に任せる。良きにはからえ」

 

「御意に」

 

 

 

*

 

クシャーン王家に生まれてこの方、私は自由を感じた事が無かった。

父は私を玉座を脅かす敵とでも思っているのか、おぞましい物を見るような視線しか向けてくれぬ。

自身がそうして王位を継いだからか、それを息子に重ねて見たのか。

私にそんな気など無いというのに。

 

一方で母は弟に王座を継がせたいらしい。

見た目の善し悪しなのか、性格の可愛げが理由なのか知らないが私を疎ましく思っているのは分かる。

 

家臣共は父に付くか弟に付くか、水面下で飽くことなく派閥争いを続けている。

そんななか私はいつも暗殺に怯えて生きてきた。

父と母、どちらの刺客に殺されるのか、と。

 

だがそれももう終わりだ。

この間の城下近くの祭りに忍んで赴いた際に出会った老人『ダイバ』。

それが魔術師だと言うのはある種の運命に思う。

彼を配下に引き入れると同時に()()()()()()()()()()()()()()()()()の噂も聞いた。

 

前々から多少の噂話は聞いていたが、聞けば聞くほど惹き付けられる物があった。

何より防城、攻城戦に長けている所が良い。

経歴は奇妙だがこの際目を瞑ってしまおう。

 

きっと、力さえ手に入れればきっと安らぎの時間が得られるに違いない。

その為ならば私は幾らでも殺そう。

幾らでも血を流して(むくろ)を積み上げてゆこう。

私の愛する平穏が手に入るまで。

 

およそ誰も理解出来まい。

大国の王子が望む本当に欲しい物を。

 

「殿下」

 

「決まったか」

 

「はい、ジャリフを向かわせました」

 

「そうか」

 

「殿下、何か考え事ですかな?」

 

「いや、少し…な」

 

そういえばダイバが言っていた私に送るはずだった『献上品』を横取りしたのも例の部隊だったか。

さすがに王家に渡すものだったとは知らなかったのだろうが、なんの為に欲しがったのかちょっと気になる所だな。

ダイバ曰く「真の所有者以外には無価値な物」、それを知って持っていくなど余程の物好きなのだろうが。

 

「殿下…お顔が。悪い感じになってますぞ」

 

「──、相変わらずの無礼者め」

 

何が悪い顔か。

生まれつきこんな顔だわ。

 

 

 

 






(2022/09/05 )皆さんにお知らせです。
実は今の携帯の画面が割れてしまい機体を交換する事になりました。
もちろんデータ移行は頑張りますが実は前機の時失敗して消えてしまったことがあります。
万が一失敗した時はこの『霧桜ルー』によく似せた名前で続編を投稿します。
よろしくお願いします


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道化の顔は笑っているか

 

 

 

今1度ハッキリ言っておくが、俺は無神論者だ。

誰が何と言おうと、なんなら神本人が俺の目の前に降りてきて『私はここに居る』と行ったとしても、俺が信心に目覚める事は無い。

 

だが実はそれっぽい存在は居るんじゃないか?と。

無神論者ですら神の存在を疑いたくなる程、運命とかいう精密機器(ブラックボックス)がよく出来てる事に感心しつつ、俺はとっくに曖昧になった前世の記憶を辿ることにも飽きてしまっていた。

 

だから…そう、気の迷いだったんだ。

覇気も権力もないガニシュカ王子を前にした時、配下としてじゃなく、父親として、出来の悪い子ほどかわいいと思う感覚に襲われちまったのは…。

 

 

 

 

 

 

 

「我儘に生きろだと?」

「そうです殿下。もっと我儘に生きてください」

 

ガニシュカ王子の執務室。

ここで俺はやらかした。ガッツを1人前に育てあげると決めたかつての熱が再燃して口が滑っちまったんだ。

あくまで下っ端として、今後増えていくだろう配下の1人として生きれば楽だってのは分かってるんだけどな。

 

打算じゃねえ、感情に負けたんだ。

 

「どうせなら奔放な感じでお願いしたい。食器は基本銀で統一したうえで装飾にこだわるんです、殿下は王族ですからね。権力が無かろうと我儘が通らないなんて事はないでしょう。ついでに城下にも遊びに行っていただきたい。買い物するなり建設現場を見物するなりご自由に。嗚呼、伝言ゲームはご存知で?文官共が仕事と勘違いしてるアレは、あんなのはアテになりませんのでね。信じないでください。あんなので自分らの生活が左右されるなんて民からすりゃたまったもんじゃありませんよ」

 

「お前が私の生き方を決める気か?力こそ無いが貴様の傀儡になる気など毛頭無いぞ」

 

声音こそ怒りを感じるものの、目はどこか冷めたものを感じさせてくる。

ろくな生き方が出来なかった者の目だ。

捨てれる物は全て捨てた、そんな生き方をしてきた人間特有の空気。

 

「ご冗談を。あくまで手っ取り早く殿下の足場を固める方法の1つを提示しただけ、俺は玉座に興味なんざ無いんでね…いやホントに。傀儡なんて金積まれてもいりません」

 

にやけ顔で降参のジェスチャーをして見せて無反応なあたり、冗談が通じないタチらしい。

 

実際、今俺が作りたいのは顔の見える指導者だ。

情報が集まる酒場でさえ、王家の人間の顔を知る者が一人もいないなんて考えものだ。当然悪い意味で。

 

民の為、国の為、平和を勝ち取る為に。

どんな大義名分を掲げた戦だろうと真っ先に駆り出されて死にゆくのは俺たち国民だ。

戦争に勝ったところで末端の一兵卒はちょっとばかしの金を渡されて『はいお終い』。

負けた日には目も当てられねぇ。

 

誰の為に死ぬのか。

何の為に死ぬのか。

それも分からず死んでいくなんて哀れがすぎる。

そんな死に方したくないと戦を拒めば拷問と死が待ち受けている。

そんな国が一枚岩になれるものか。

こんな国の民が、王に国に忠誠なんて誓えるものか。

基盤だ、まず土台を確かなものにしなきゃいかん。

 

ガニシュカ殿下が街へ行くようになれば民は王子の、後の王の顔を知れる。

王子の言動が見えれば人となりが分かる。

そうなれば多少の情も湧いてくる。そうすりゃ国の頂点と基盤が繋がって万々歳よ。

 

後はガニシュカ殿下の心次第。

虐げられた痛みを周りへ振り撒くか、仕舞い込んで時間をかけて癒してゆくか。

どちらにせよ傍で見守っていく必要がある。

 

ガニシュカ王子が歩む道はきっと血が流れる、覇道だろうと王道だろうと血濡れた道なのは変わりない。

そんないつ足を取られるか分からない道を1人でゆく必要は無い。

滑って転んだ時に手を貸す人間の1人くらい居てもいいじゃないか。

 

「さて、ぼちぼち動きますか殿下」

 

「ガンビーノ。疑わしき時は殺すぞ」

 

「そんな日は来ませんがねぇ」

 

「…外に行くんだったか?」

 

「ええ、釣りなんかどうです?いや、今なら旅芸人が見れるかな」

 

「貴様が楽しみたいだけじゃなかろうな」

「ふっはははははッ」

 

「貴ッ様!(図星か!)」

 

「良いじゃねぇか楽しんだ方が、気楽でいい」

 

「無礼討ちにしてやる!そこで待て!!」

 

キッツい冗談言ってらっしゃる(笑)

……冗談だよな?

 



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温室育ちの(サナギ)の保護者

 

 

「はあ、兵の動員?」

 

「うむ。お前の隊と私の領内から動員すれば反抗的な近隣の領の1つや2つ、制圧は難しくないだろう?」

 

「……?」

 

お前は何を言ってるんだ?

戦争ってもんはそんな『おめぇシバくぞ』みたいな軽い感じで起こしていいものじゃないんだ。

アホ言ってると殴るぞ?おん?

 

「止めておくべきでしょうな、負けが見えてる」

 

「そんなことは無い!歴戦のお前達と私の兵を使えば民兵の訓練が終わるまでは戦える。訓練さえ終われば軍として投入して問題あるまい?所領が増えれば周りへの圧力も容易になろう」

 

「いや、そういう事じゃなくてなァ…」

 

いくら何でも急ぎすぎなんだよ。

勢いで開戦して運良く勝っても得られるのは多少の領土と権益、それと領民からの恨みくらいだぞ?

誰が新しい土地を治めんだよ、殿下自らか?冗談だろ。

納税渋る領民をどうやってなだめる?武器持って蜂起したら?今のガニシュカ殿下の元にソイツら抑え込める人材がいるはずねぇ。

 

しかも仮に負けてみろ、殿下も俺も仲良く晒し首だろうぜ。

そんな行き当たりばったりな戦争なんて何処ぞの戦争大好き少佐ですらやりたがらねぇよ、多分。

 

だけどまぁ、あれもダメこれもダメと言ってちゃ何も出来ねえ、ここは『待て』と『良し』で譲歩すべき…なんだろうなぁ。クソっ!

 

「…殿下、戦争したいのであれば俺の開戦工作を待って頂きたい。戦争を泥沼化させない為と速やかな帰順の為に。期間は…そうだな2年は待って頂きたい」

 

「2年!? 2年も待つのか!」

 

「ええ、その間に "全て" 済ませてしまおうかと」

 

「……何が欲しい」

 

「2年間の内政権限とそれに必要な金を」

 

「内政権限だと?お前は仮にも武官だろうが、はいそうですかと私が渡すと思うか?それに内政はダイバの人選で(おこな)っておる」

 

「それは知ってますがね、それじゃ力不足なもんでウチの人間を使いたいんですわ」

 

…力不足か

 

実際、渡すしかない。

力不足ってか知識不足な以上、人を変えるしか手がないんだから。

戦争慣れしてる俺がここまで従軍を渋ってる以上、開戦は強行できない。

それでも戦争の準備はするって言ったんだ。

他にマトモに戦える武官がいない今、俺の意見を呑むしかない。

ま、『仕方ない』って事だ。

 

「渡して貰えりゃ完璧な戦争をお見せ出来るんですがねえ」

 

「……チッ!…2年だ。2年後、お前が僅かでも権限返上を渋った時は覚悟しておけ。惜しまず殺すぞ」

 

「ええ、もちろん。殿下はそれでいいんですよ」

 

いらない心配してる必死具合はかわいいと言うか、可愛げがあるって言うべきか。

見てて楽し…おもしろ…悪くない。

 

あ〜、やっぱり俺は甘いんだろうなァ。

 

 

 

 

 

 

 

「殿下…」

 

「ダイバ、苦言はもう聞きたくないぞ」

 

「お聞きを殿下、ガンビーノを信じすぎてはなりませぬぞ。確かに戦争において奴ほど頼れる者は居ませんでしょうが、奴は何か危うい感じがするのです」

 

「──、何の話だ」

 

「何が、とハッキリ言えませぬがこの老骨。まだ目は衰えておりませぬ」

 

「……」

 

「殿下」

「わかった。わかったわ、もうよい。暫く見張りを付けておけばよいのだろう」

 

まったく、なんでこの2人は仲良く出来ぬのか…。

 

 

 

 



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(てのひら)の中の絡繰(からくり)

 

 

 

ぬぉぉぉぉぉぉぉ!!

 

終っわんねえ!

え、なにこれ。なんなの?なんで穀倉地帯の干ばつ放っといてんの?

運河の氾濫に土砂崩れ、インフラもめちゃくちゃ。

そりゃあ雨で物流が滞るわ。

なんなら地震が来た日には国が滅びるわ。

 

いくらなんでも平和ボケしすぎだろ。

見た感じ軍需と民需はちゃんと管理されてるわりに、インフラを調べたらビックリするくらい放ったらかしよ。

どんくらいかって?

「人が通れる幅があったらもう道じゃん」「馬車が通れる幅があるなら大丈夫、そのうち踏み固められて車道になるでしょ」ってレベルで涙が出るね。

下手すりゃミッドランドの方がちゃんとしてたまである。

考えられるか?100年戦争やってる国の方がインフラしっかりしてんだぞ。

金も人も資源も戦争に注ぎ込んでるはずなのに。

 

「アドン!」

「…なんだ。もういいでは無いか、内政権など返上してしまえ」

 

「なにだらけてんだ起きろ、新しい任務だ。都市部と穀倉地帯を結ぶ主要街道の整備の責任者にお前をあてる。隊を連れて現地にいけ」

「寝かせてくれ」

「あ?毎日寝かせてやってるだろうが」

「ああ…3時間な」

 

「街道が完成したら好きなだけ寝ろ。さっさと行け」

「ぬう…」

 

これで街道整備は良し、あとは──

 

「ロシーヌ」

 

「私もなんかするの?」

「そうだ、お前ももう15歳、それに同年代の子達より才能に恵まれてる。土砂崩れの対策をするんだ、そうだな…補佐にカルテマを連れて行くといい。自然災害の抑え方は教えたろう?」

「うん。お金とか人は?連れて行っていいの?」

「いや現地で雇うんだ、金は幾らでも送ってやる。嫌がるようなら金と技術を与えて動員すればいい。詳細はお前に任せるぞ」

「分かった、任せて」

「気を付けて行くんだぞ。何かあったらすぐに報せを寄越すんだ、いいな?」

「ん」

 

よし、残るこの水害と干ばつは俺がやるしかないか。

いくら貿易黒字とはいえ、こんなに湯水が如く金を溶かしてたらそのうち俺、闇討ちとかされそうだな…w。

見張りか護衛か知らねえけど最近、バーキラカの連中がコソコソ動いてるっぽいし。

ダイバのジジィめ、人が余ってんなら寄越せってんだ。

 

「ジャリフ!」

「はっ!」

 

「先に運河の調査に行くから道具と荷馬車の用意をしとけ。俺は隊をまとめてくる」

「分かりました」

 

ジャリフと別れて兵舎に向かう道すがら考える、この国を、世界を再び戦火につつむ薪とする計画。

はたから見たら国と民に尽くす政策だが本質は全く違う。

国民という大多数の兵力となる者たちの心を、感情を操作しやすくするための布石。

来たるべき()()()に備えて。

 

背を向けあった冷戦。

国内ガタガタのミッドランド、国内バラバラのクシャーン

互いが向き合えるようになった時、全ての布石が機能する。

 

「───ふっ、ははっ」

 

「ガンビーノ将軍!」

「…なんだ」

「ジャリフ殿より言伝(ことづて)です、『いつでも』と」

「すぐ行くと伝えろ」

 

「はっ!」

 

悪く思わねえでくれよ、ガッツ

 

 

 

 



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神の天敵

 

 

 

「んーー、退屈だなァ……」

 

まいったな…やる事が無いぞ。

いや、無いことはないんだが1、2時間机に向かってりゃ終わる程度の書類仕事じゃやる気にもなれねぇ。

一応ペンこそ持っちゃいるがなんだか走りが悪くて紙に㌧㌧㌧と黒点が増えるばかり。

 

殆どの人員が任地に行ったせいで兵舎もガランとして寂しい空気が幅をきかせている。

 

ウルバンとバーランは残ってるが医学はあいにくサッパリ分かんねーし、朝から酒飲んで呑まれてる奴にかける言葉も無いと来たもんだから本格的にやることが無い。

頭脳派には分からねぇだろうが肉体派なら分かってくれるだろう、座ってるだけでケツがウズウズしてムカついてくるこの感覚を。

眠気とか以前にその空間が嫌になんだよな。

 

シスんとこ行っても良いんだが今は物騒なストーカー(バーキラカ)が俺にくっついてるから、あまり近付けたくねぇ。

アイツら人間兵器だからな。

 

────よし、視察(さんぽ)でも行くか。

 

「誰かいるか?」

 

「はい、失礼します」

 

入ってきたメイドはクシャーン人じゃなかった。

ガニシュカが気を利かせたのか、単に人種分けした結果なのか知らねえが俺の周りにはミッドランド人とチューダー出身者が集められている。

 

「んん?いつもの奴じゃないのか、オメー新顔だな」

 

「はい、配属されてまだ5日目です」

 

「そうか、わざわざクシャーンまで来るなんざ酔狂な女だなァ。見た感じミッドランド人だろ?向こうはまだ殺り合ってんのか?」

 

「いえ、チューダーとの戦争は勝利で終わって殆どの国土を併合したらしいです。戦争が終わったので私はミッドランドで父と旅商人をしてましたが盗賊に襲われて、そのまま奴隷として売られました」

 

「奴隷商ねぇ……」

 

まぁよくある話だ。

殺されなかっただけマシと考えりゃ釣りがくるぜ。

ところでこの子、どっかで見たような。

 

「それで私はかなり高額で取り引きされたんですが、乗せられた船が難破してしまって……元海賊だったという奴隷商に拾われました」

 

「(ふ〜〜ん……うん?)」

 

元海賊の奴隷商ねぇ…。

なんだか知り合いにそんな奴が居たような──

 

「もしかしてだがその海賊、もとい奴隷商の船長は松葉杖ついてたか?」

「あ、はい!ついてました。お知り合いだったんですか?」

 

知り合いも何も部下なんだが?

あの髭、やりやがった。

 

「それよりだ、その船でクシャーンに来たのか」

 

「はい、それでクシャーンの港で降ろされて奴隷商のツテに売られてここに来たんです」

 

「そ、そうか。んでオメーの名前は──」

 

「はい、コレットです」

 

OUT(アウト)ォぉぉ~~~~~~~~

 

やっちまってんじゃねえか、ダメじゃんか!

思い出したぞ、コレットっていやガッツと絡みがあるキーワードキャラだろ?そんなんクシャーンに来ていいワケねぇだろうが!!

 

「(───いや待て)」

 

コレットがガッツと会うのって "触" の後のはずだ。

そのタイミングでミッドランドに送り返せば……いやダメか、そもこの子の親父が死んでるんじゃ話にならねえ。

これ……俺がまたなんかやっちまってたパターンか?

 

「あの、何かお持ち致しますか?」

 

「いや、俺はちょっと出掛けてくるからこの部屋に鍵かけといてくれ。夕方には戻るから軽食も用意しておけ」

 

「分かりました」

 

深く頭を下げて見送るコレットを横目に部屋を出た。

実際どうしようも無いからな。

手遅れだ。

 

手遅れだが身寄りの無い子供を見ると胸が痛む今日この頃。

「散々人殺した奴の何が痛むんだ」とか思ったヤツ、てめぇ殺すからな。

 

本音言うとあの子をウチに編入して会計部にでも放り込むのもアリっちゃありだと思うんだよな。

金勘定が出来るのはステータスとしてはデカい。

俺としては歳が近いからロシーヌの友達にでもなってくれりゃ万々歳なんだが。

 

「ロシーヌが何て言うか、だな」

 

あの子が喜ぶようならコレットを養女に迎えるのも悪くない、金はかかるだろうが別に難しくねぇ。

そうなるようならシスにも話さないとだな。

 

うん。

ま、なるようになれだ。

 

 

 

 

 



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嫁騒動

 

 

 

「失礼します」

 

「ん、おー。コレットか、なんだ」

 

「将軍宛にダイバ様よりお手紙が届いてます」

 

「はァ? チッ よこせ」

 

………

……

 

…なるほど

 

 

突然だが、ガニシュカが嫁を娶るらしい。

なに、唐突すぎるだと?バッキャロウ俺にとっても寝耳に水だったんだぞ。

 

今回迎えるのは正室、俺たち臣下からしたらNO.2。

ガニシュカの不在時や()()()の時には強い命令執行権を持つことになる。

ただ、まだ選定の段階らしく誰を正室とするかは決まっていないって話だ。

絞り込みはダイバ達古参の臣下が済ませてるようだが、どうやら最終選抜の候補2人のどっちを推すかで議論が紛糾。

収拾がつかないとみたダイバが俺に『手伝え』と脅迫文(ラブコール)

 

ビビったワケじゃないが、忙しくも優しい俺はダイバ側に立つことを決定。

ダイバに着く選択が間違ってないか確かめる為に早馬(はやうま)でアドンも呼び戻した。

 

「んむぅ…事と次第は分かったがこんな面倒事に応じるつもりか?面倒事は一番嫌いだったろうに」

 

「まぁな、ただ今回だけはダイバを助けてやんのも良いと思ってんだ。オメーはどう思う」

 

「なんとも言えぬ。クシャーン貴族は国王寄りの者が多いからな、ダイバ殿を助ければ奴らが明確に敵対してくるに違いない。だが奴らの意見が通れば我らの力は間違いなく削られてしまう」

 

「だが貴族連中は来年にはどうせ敵になる。ならダイバに味方した方が得る物は多いはずだ」

 

「良いのか?他の者にはまだこの話をして無いのだろう?」

 

「はッ!良いも悪いもあるかよ、こんな高度かつ厄介な案件をアイツらが理解出来るはずねぇだろうが。カルテマなら少しは分かるだろうがアイツは下級貴族の出身だ、貴族社会の厄介事の対応に関してはお前には劣る」

 

「(それを言うなら何故(なにゆえ)ガンビーノは理解出来てるのだ?そっちの方が遥かに不思議なのだが…)」

 

「なんだ。言いたい事でもあるのか」

 

「いや無い」

「なら帰っていいぞ。また呼ぶかもしれねぇがな」

 

「──近くまた顔を合わせそうだな」

 

お〜い、やめろやめろ。

そんな不穏なフラグを立て逃げするんじゃねぇよ。

フラグ1本折るのどんだけ大変か分かってんのか?まったく。

 

アドンを見送ってダイバの手紙を篝火(かがりび)で焼き捨てる。

これがただの権力争いの一端なら無視を決め込む所だが、今回は状況が違う。

応じればダイバに貸しができて立場的余裕もうまれる。

 

ダイバはガニシュカ派の上級貴族で文・芸に秀でた内向的な令嬢を推していて、現・国王派の貴族連中はクシャーンと同盟関係にある他国の王女を推してきている。

国王派の貴族は財とコネ、権力でガニシュカ派を圧倒してる状態。

唯一、ガニシュカ派が勝ってるのは軍事のみ。

保有する財は同等を誇る為、あとひと押しの発破剤に俺を使いたいんだろう。

 

ダイバは軍事力という後ろ盾を得て、俺はダイバに政治的貸しが出来る。

これ以上ないwin-winな関係だし、俺としてもダイバの候補を推しておきたい。

内向的な性格ならばガニシュカに取って変わろうとも、国権を乱用する事も無いだろうしな。

下手に他国から迎え入れてみろ、性格次第でクシャーンという国が傾きかねねぇ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

これは余談だがガニシュカは正室が来ることは知っているものの、誰が来るかまでは知らない。

ま、政略結婚なんて所詮そんなもんだ。

 

「残りの人生を好きでもねえ相手と共に生きる…か」

 

考えただけでゾッとする。

このまま黙って見届けるのも忍びないと思うのは、親心のせいだろうか。

 

「誰か居るか」

「はい、如何しましたか」

 

「ジャリフに鷹狩の手はずを整えるように伝えろ。余計な招待状は送らなくていい、殿下と "件の令嬢" の参加を優先しろ。と」

「承知しました」

 

これでいい。

令嬢が鷹狩に興味あるかは知らんがお互い初見同士で結婚するんだ、その前に少しでも互いを知り合う機会を用意してやるのも悪くねぇだろう。

むしろこれは父親の義務だろうしな。

 

願わくば想い合うように、なんてのは俺の我儘だろうか

 



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ヴァルナ・ベルファ令嬢

 

 

 

走れ走れオラ走れ!未来の王妃様の護衛だぞ!

丘など軽く駆け上がれ、そのまま加速して駆け下りろ!馬が潰れたら走ってでも着いてこい!

 

「ガッ、ガンビーノ!!二騎脱落したぞ」

「構うなっ!今はとにかく食らい付け!」

 

「あっ!アドン将軍がコケました!!」

「だからなんだ離れるんじゃねぇぞ!」

 

「大丈夫なのかよアドンの奴、ゼーハーしてるぞ」

「フル装備で参加するからだ。あんな重装で走ろうなんて馬鹿なんだろ、ほっとけ」

 

お見合い代わりにセッティングした鷹狩は思った以上に過酷なものになった。

事前に聞いてたように、なるほど、褐色美人にして長い黒髪を真後ろで纏めた細目なれど左右対称で美しい眉目秀麗な令嬢。

だが騎馬民族出身者だとは聞い無いんだが?

貴族令嬢とか嘘だろってくらいハキハキした性格。

 

しかも鷹を追って駆け出すほどに活発な方ときた。

傭兵あがりの俺たちより馬の扱いが巧みなおかげでヒョイヒョイ駆けて、護衛の俺らは着いていくのでやっと。

狩りも中盤という今、既に兵の2割とアドンが脱落しちまってる。

 

「ガンビーノ将軍、やはり楽しいな!」

「そりゃッ、何より」

 

如何(いかが)した!息があがっているように見受けるが!」

「なに、まだまだ!」

「(クソッ、なんで俺が張り付かにゃいかんのだ!ガニシュカが横に居るべきだろうが!!)」

 

「おっ!見よ将軍、獲物が落ちたぞ」

 

「…落ちましたな」

 

獲物が落ちて初めて馬の足が遅くなった。

正直脱落5秒前って感じで威勢を張る余力すら残ってねぇ。

 

「(やっと…休め、る)」

 

取った獲物の血抜きとか下処理があるからな、俺たち護衛の貴重な休息時間だ。

ガニシュカはというと、丘5つ向こうの陣にふんぞり返って1歩も動いてないんだから驚きだろう?

何しに来てると思ってんだろうなアイツ。

 

「よし、馬を休ませろ。狩りはここまでだ、これ以上は馬が潰れちまう」

 

「将軍、少しよいか?」

「なにか」

 

「この鷹狩は将軍の発案だったと聞いたのだ、理由もな。私も貴族の娘、物心が着いた頃より政略結婚は覚悟していたのだがまさかこのような場を貰えるとは思っていなかったよ」

 

「左様で」

 

俺も政略結婚だから狩りも微妙な空気になるだろうと予想こそしてたんだがな、まさかガニシュカは動かないわ令嬢は突っ走るわ、こんな事になると思ってなかったぜ。

 

「それにしても将軍もなかなかの馬術であった、振り切るつもりで走った私に着いてこられたのですから」

 

「はっはは…」

「(はッ…。文句すら浮かんでこねぇや)」

 

未来の王妃の護衛だからと、これから帰ろうとしてたアドンまで参加させて、手隙の兵隊根こそぎ動員したというのに。

突っ走る気なら初めから言ってくれよ、そしたら軽装で来たものを。

 

「如何した」

 

「いやァ…さすがにこたえるな、と」

 

「将軍は御歳60であったか?少々無理をさせたようだな」

 

「はは…自分で思ってるより衰えたようで」

 

「それはすまなかったな。楽しくてつい、許せ」

 

「楽しまれたのなら結構、それと見合いの場はまた用意しましょう。今度は殿下を知れるような場を」

「いや良い。見合いの場を作り、私の為に足を運んでくださるお方だ。悪い方ではあるまい」

 

「…左様で」

 

貴族の色恋の感覚ってのは俺には分からん。

だが多分、こういう女が良き妻に、王妃になられるんだろうな。

 

「ではな、先に戻っておるぞ!」

「はァ!?護衛隊を置いてっちまったら…!」

 

「よい!はぁっ!」

 

「(良かぁ無いだろ……)」

 

みるみる小さくなる背を眺めながら、白髪ばかりになった頭を掻きながら腰を下ろした。

いつの間にかこんなに老いちまってたらしい。

子供が出来るとてめぇの歳を忘れるって言うがなるほど、人に聞かれてはじめて数え直すとはな。

そういや昔、ガッツも手柄を立てたと嬉しそうに俺の所に来てたっけか。

ガニシュカの陣に駆け戻ってく令嬢の背が小さかった頃のガッツに重なって見えた。

随分懐かしい光景に思いを馳せる。

 

「───うん。よしっ、馬の息が整った者から引きあげろ!忙しくなるぞ!」

 

「「「おうっ!!」」」

 

そのうち迎えに行くからな、ガッツ。

 



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汚名を対価に


前回投下した時に「今年最後の投下ですぞ」って言ったよな
あれは嘘だ!(`・ω・´)キリッ

冗談です。書き上がったものの我慢出来なくなったんで投下します。あ!許してぇ!!


 

 

よォ、オメーら聞いたか?

とうとう戦争が始まったらしいぜ、なに?バカ言えウチじゃねえよミッドランドの方だ。

ミッドランドで内戦だとよ。

いやぁ〜、俺も髭骸骨から受け取った手紙で知った時は思わず立ち上がったよね。

驚いちゃいねぇぜ、喜びでだ。

 

なんでも王妃派と国王派で前々から対立してたんだと。

まァ王妃とユリウスって関係ズブズブだし、国王…の名前忘れたけど王様はグリフィスがお気に入りで取り立ててりゃオメー、貴族の血統とプライドで固めたような男のユリウスは面白くなかっただろうな。

てかよく考えたら王妃と不倫しといて自分が蔑ろにされてるからって逆恨みする奴が王位継承権持ってるとか、控えめに言って恐怖だろ。

 

だからぶっちゃけこうなる予感はしてた。

マジだぜ?まだミッドランドにいた頃、グリフィスに匿名で『ユリウスは生かしとくが吉』って密書送って根回ししといたんだから。

 

あれ、これ違うわ。予感のレベル超えてる。

はたから見たら俺が仕組んだ戦争に見えちゃうじゃねえか!

…みっしょ?ナニソレ知らない子ですねぇ。

あ〜ちょっと身に覚えが無いって言うか記憶にございません

 

って、そんなこたぁどうでもいいんだよ。

ミッドランドがおっぱじめた以上、こっちもなる早で開戦せにゃいかんくなったわけだ。

あ、このタイミングでダイバに内政権返してヒィヒィ言わせてやんのもアリだな…。

戦費のやりくりとかもう俺したくねーし。

 

「コレット、居るか?」

「はい」

 

ここの所、何かあればコレットを呼ぶようにしている。

周りにコレットは俺のお気に入りである、と認識させる為で機を見てロシーヌ着きにさせれば不自然なく()()()()()からだ。

 

「この手紙をジャリフに渡してこい。それとコッチは殿下宛だ、これに関しては使番に手渡せばいいからな」

「分かりました」

 

「(さぁて、あとで監獄の方にも顔出しとくか…)」

 

堪らねえな、この感覚。

絶ッ対的優位な戦力でただローラーしていけば勝てる戦争、流れる血は勝てば幾らでも拭いようがあるから気にするこたぁない。

 

奇襲、夜襲、包囲殲滅、退却誘引に伏撃強襲。

いい実戦経験値になってくれるに違いねぇ

 

くはは…

 

ハハ八八ノヽノヽ

 

ハハ八八ノヽノヽノヽノ \!!

 

戦争だ!

いや、戦争にすらならねぇ勢力地図の塗り絵だ。

そうだ、これでいい。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

始めようじゃねえか、戦争を終わらせる為の戦争を!

俺の親父たちが始めた戦争を、俺が息子達の代で終わらせてやる。

孫の代には戦争のない世界を、むこう数世紀の安寧のために俺はもう1度剣を取ろう。

全ては愛おしい我が子の為に。

 

 

 



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クシャーン統一戦

ご飯中の方へ。
食後に見てくださいね(´・∀・`)
一切の責任は負えませんよ〜


 

 

よく聞けテメーら、ガニシュカの命令だ。

宣戦布告と同時に越境しろとさ。

って事で進軍だ。お前ら落ちるんじゃねえぞ、拾ってやんねーからな。

 

…なんて軽く注意しといたがこれはひでぇ。

落ちる落ちない以前に乗り物酔いした連中で見るに堪えない惨状だ。

 

俺が率いるクシャーン第1・第2車両化歩兵師団は約6000人の大所帯、この日の為に領内から根こそぎかき集めてた荷馬車、幌馬車に全員を乗せて進軍していたところに吐き気を訴える奴が続出。

まさか一々列を止める訳にもいかねえから身を乗り出して外に吐かせたんだが、そのせいで誘爆(もらいゲロ)する奴もチラホラ…。

軍列が通った跡は…言いたくもねえ状態になっちまってる。

鼻にツンっとくる特有のあの臭い、そこに吐瀉物を車輪が轢き耕して土砂と混ざった()()に視覚を攻撃される。

後列の連中にはさぞ地獄だろうな。

 

ったく、世話の焼ける奴らめ。

今後の為にもエチケット袋作っといてやらんとな。

 

ガニシュカが国王派に宣戦布告すべく送った布告官が勤めを果たして戻り、その報せが狼煙(のろし)台に届くまで少なく見積もって6日。

狼煙台から合図が上がる前に国境に着陣、合図と同時に渡河出来るようにしとかなきゃいけねえってのに。

間に合わなかったらなんて誤魔化すかな…。

 

「ガンビーノ殿」

 

「なんだァ、脱走兵でも出たか」

 

「いやいやそこまで酷くはない。私は先遣隊が戻ったのを知らせに来ただけだ、彼ら曰く国境の橋には少数の警備兵が居るだけで破損は一切無いそうだ」

 

「そうか。ならこのまま行くぞ、相手が少ねえなら酔ってガクブルな兵隊でも降ろしゃあ威嚇程度にはなるだろ」

 

騎兵も含めれば兵隊だけで1万人はいるはずなんだが、それが威嚇程度にしか使えんとは…いやはや。

 

「なんと言うか…散々だな」

「まったくだ」

 

報告に来た騎兵の名はキュリアス。キュリアス・カマデウス

ミッドランドにいた時に入団してきた元騎士だった男で、今は100騎長(小隊長)を任されている何処と無く()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

「キュリアス」

「む」

 

「隊を率いて先行しろ。橋を確保して後続を待て」

「承知した」

 

キュリアスが隊を率いて列から離脱するのを見送って数時間後、完全に日が暮れたタイミングで全軍に野営を命じた。

俺は当然の流れで護衛が組み上げた天幕に入ってベットに体を横たえる。

歳のせいか椅子はちょっと腰にくるようになってな。

 

「う"ぅ"ぅ"〜〜〜〜ん"」

 

どうすりゃいいんだ、酔ってない奴だけで再編成するか?いやダメだなそんな時間はねえ。

早ければ明後日にはキュリアスが橋を確保する。

ただ相手が素早く反撃に出る可能性も十分に有り得る以上、このままフラフラの歩兵は送れない。

 

───仕方ない。

 

「おい、誰かエルドリオを呼んでこい」

 

「はっ!」

 

天幕付きの兵が走っていく音を聞きながら布団の上に地図を広げた。

これから侵攻する男爵領の領都に続く地形、国境の大河の先は広い荒野になっていて騎兵突撃は有利なんだが援護の歩兵があのザマだ。

降ろして即時展開が出来ないんじゃ話にならねえ。

俺としては騎兵だけで山岳地帯まで戦線を押し上げてから歩兵を投入したい。

その為にもう一隊、騎兵を送り込む。

エルドリオ・ゲルガー、アドン顔負けの超重装騎兵でその鎧はボウガンの矢なら100歩内で撃たれても弾く程に硬い。

機動力はお察し程度だが普通科騎兵のキュリアスの援護なら十分なはずだ。

 

「お呼びか?ガンビーノ将軍」

 

「入れ」

 

「失礼する」

 

ヌッと入ってきた完全武装のゲルガーはいつも通り()()()()()()()()()()ゴツい姿だった。

動けるデブじゃねえ、ゴリマッチョなんだな。

 

「明日の朝イチでお前、隊を率いて先行しろ。橋を確保するキュリアスと合流して敵の反撃に備えとけ」

 

「あいわかった。ところで補給はどのくらいで追いつくんだ?」

 

「うぅん…ざっと2日、まぁ遅くとも3日と経たずに追い付かせよう」

 

「そうか、ならば良い」

 

「橋の維持が厳しければ撤退して後続を待て、敵が橋を落とそうとしたら適度に仕掛けて嫌がらせに徹しろ」

「承知した」

 

ひとまずこれでよし。

聞いた話国境の大河は広く深いらしいからな、橋を落とされちゃたまらん。

 

「ガンビーノ将軍、この饅頭(まんじゅう)幾つか貰ってってよいか?」

「ああ、好きに持ってけ。なんなら全部くれてやる」

「〜♪」

 

うっへぇ…皿ごと全部持ってくのかよ30個はあるぞ?一人で食う気だとしたら相当だな。

やっぱり動けるデブなのか?

 

「ではな!」

「ん、ああ…」

 

大丈夫…なのか?

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◇2日後・国境の橋◇〜〜〜

 

 

 

 

「っ、くあぁ〜〜〜っ」

 

「おいおい暇なのは分かるけど見張り番の時に欠伸はやめとけ、隊長に見つかったらどやされんぞ」

 

「しゃーねーだろう?そもそも人通りだってほとんど無い橋の警護なんて昼寝しててもできらぁ」

 

「まぁーなー」

 

確かに暇だ。

暇なんだが運悪く俺らの隊長は変に気合いの入った人で仕事中の気の緩みにうるさい。

うっかり昼寝した日にゃ唯一の楽しみの飯を取り上げられちまうだろうよ。

 

「んお?」

「?、どしたー」

 

「馬が来る…」

「馬ぁ?」

 

あ〜、確かに来てるな。

1、2、3、4、5、6……ぇ?

いや、いやいやいや嘘だろおい!ありゃ騎兵じゃねぇか!

なんでこっちに来てんだよ!

 

「敵だァ!!!」

「敵?」

 

「よく見ろ!武装してやがんだろ!伝令ッ!!」

 

「えっ敵って…えっ逃げるか?」

 

「馬鹿野郎ッ橋を明け渡す気か!迎え撃つんだお前らボウガン持ってこい!槍を取れ!」

 

バリケードは…間に合わないな。

 

「おい!伝令はどうしたッ」

「もう行ったよ!」

 

「ならいい、奴らの足を止めんぞ!構えろぉ!」

「ちくしょう!なんだってんだ」

 

───来る!

 

「おお、逃げぬとは見事なり!いざァ!!」

 

「いくぞオラァ!!」

「「「ぅわああァァァァ!」」」

 

クソがッとんだ厄日だぜ!



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レッドカーペット作戦

 

 

クシャーン王国はデカい

そりゃあもうめちゃくちゃデカい、いやもうバチボコ大っきすぎて地図見るのも嫌になる程だ

ちなみに俺はとっくに地図を見るのを諦めている

 

諦めた時俺は思いついた

これバカ正直に国王派潰して回らなくていいんじゃないか?ってな!

 

「知らねーぞガンビーノ、アンタが短気なのはまぁ知ってたけど後で絶対困るからな」

 

あっても大雑把にしか分からん地図だぞ?予備もあるし困りゃしねーよ

 

「おいガンビーノ、さっき使者が書簡を持ってきてな。男爵領は降伏するそうだぞ」

 

「そうか…思ったより早かったな」

 

「なぁガンビーノよ」

 

「なんだァ?」

 

「地図はどうした?ここにさっきまであったよな」

 

「ん」

「ん?」

 

ほれ、と顎で指し示す先には篝火が地図を食っている最中

唖然とするアドンにアチャー顔のロシーヌ達

 

バカでけぇ国土に敵味方が入り交じってんだぞ?色付けたらモザイク模様間違いなしだ

ここは何処で敵はコレで──なんて頭の悪い事に付き合うほど俺は気が長くねぇ

 

「地図がなくったって困りゃしねぇよ。国王がふんぞり返ってる玉座まで真っ直ぐに突き進むだけだからなあ」

 

「そんな事してみろ、後方を絶たれて包囲させるでは無いか。そうでなくとも補給線を守る事が難しくなってしまう」

 

「アホぉ!そうなる前に王様んトコに踏み込むんだろうが!それに遅れてガニシュカの部隊も来るんだぞ。後方はそっちに任せて俺達は進むのが仕事だろうが」

 

「う…ぬぅ」

 

ったくアドンのアホめ、相手は俺達とは違う国王って生きモンなんだぞ

テメェの懐に武器持った敵が踏み入ってきたらまず逃げる、そんで守りを固めるまでがワンセットの人間だ

だから敵を一々プチプチと駆逐する必要なんざねぇ

此処から王都まで線を引いて、敵地は攻め滅ぼして味方は道路に、残りは現国王ぶっ殺してガニシュカを即位させた後に掃討するだけっつう簡単な作業で片がつく

 

国王派だって旗印の王様が死ねば降伏したがる奴も出てくる

 

電撃戦だ

短期決戦

幸いベルファ家の手厚い支援で補給に心配はない

 

「アドン、お前はキュリアスとエルドリオそれと車両歩兵を3000連れて次の子爵領を攻め落とせ。できるな?」

 

「あぁ…出来るが」

 

「よし、俺は残りの連中を連れて子爵領を迂回する。んで味方陣営の伯爵領を通って国王派の公爵領を攻める。素早く行けよ?相手に対応する時間を与えんな」

 

「うむ。ひとまず作戦は理解したが…ダイバ将軍との連携はどうするのだ?」

 

「俺達が公爵領を落としたタイミングで海寄りの山で狼煙を上げる。そしたら鳥艦(ちょうかん)(空母)からダイバが怪鳥連れてくる手筈になってる、合流してからが本番よ」

 

この日のために用意した大型鳥艦

タンカー型に飛行甲板を取り付けたガレー船、怪鳥とはいえ鳥は狭い所に押し込めるわけにいかないらしいから仕方ない

 

伝書鳩と何が違っうってんだろうな

 

「嗚呼…自走砲5門分の金が溶けたあの船か」

「ああ…」

 

嫌な…出来事だったな

 

「ロシーヌ今夜は早く寝るんだ、明日は早朝に発つからな」

「はーい」

 

「お前達も下がって明日に備えろ」

 

「うむ。ではな」

「「はっ!」」

 

さて俺も今日はシスの所で寝るとするかな。

 

「ロシーヌおいで、今日は皆で寝よう」

 

「ホント?やった!久しぶりの "川の字" だね」

 

「ああそうだな」

 

まだ子供らしいロシーヌの手を握ってシスの天幕へと向かう。

川の字と喜んでるロシーヌだが、シスがロシーヌを猫可愛がりしてるから俺が入る余地なんてない。

なんせシスがロシーヌを抱きしめたまま朝を迎えるなんて事は日常茶飯事らしいからな。

羨ま…微笑ましい。

 

「明日の朝もお前はきっとシスに捕まってるんだろうなァ」

 

「ふふふ、かなぁ?どっちが先に抱きしめるか競走だね♪」

 

「そうなるとシスごと抱きしめちまえば俺の勝ちだな」

 

「あー!それはズルだよ」

「ハハハハハッそうかァずるいかあw」

 

大人は大概ずるいものさ

 

 

 



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人でなしの正義

 

 

 

「さっすが公爵家、ガッツリ兵隊集めてんな」

 

「どんくらいだ?1万はいるかな」

 

伯爵領で1日だけ休んで公爵領の領境の砦に侵攻したらだーれも居ないんだから驚いたもんだ。

近くの村で事情を聞けば城塞都市に立て篭もってるって話だからコレはもう来てくれって言ってるも同義だろって事で出向いてやって現在は包囲攻城中。

城壁にはためいてる旗の種類と数からして相当数がいるのが分かるから迂闊に突撃命令も出せない。

そこでだ。

まさか兵糧攻めをする訳にもいかねえから壁の上から敵を追い払っちまおうって考えた。

 

城の周りに溝を掘って盛り上げた土で土塁を築いて柵を立て弓隊に守らせる。

これで城の兵隊の突撃で布陣が崩される事は無い。

こうでもしなきゃおっかなくて攻城兵器も呼べやしねぇ

 

ここで毎度おなじみ攻城兵器と言えば?そう投石器君だよな

 

彼がいれば取り敢えず何とかなっちゃう辺りは最高のパートナーだけど扱いには一癖も二癖もある困ったちゃん。

『遅い・重い・逃げられない』なんて致命的だろ?

 

そこで俺は考えた。

バラして運んで組み上げちまおう。ってな

 

実際そうしてゴロゴロ運んで今は前線後方で組み上げ中。

ちなみに砲弾も一工夫しておいた。

 

四方八方が尖った砲弾に取っ手を彫り込んで、そこに油を染み込ませた布を縛り付ける。

ガッツがそんな感じのミニタイプを使ってただろ?3秒待ってバーンのアレだ。

結ぶ布は横幅30歩、長さ100歩で直前に着火してぶん投げる。

 

すると城壁にくい込んで布は黒煙を巻き上げて視界を遮りつつ敵の呼吸も害してくれる。

その隙に歩兵が突撃するって戦法よ。

 

実際そんな物が何十発、何百発と飛んでくるのを想像してみろ。城壁を飛び越えて町へ降りそそぐそのさまを。

これが上手く刺さったら攻城戦で死ぬ兵隊がぐんと減ってくれる。

何千何万って数字で使い捨てられる歩兵の1人1人に歩んできた過去があってこれからの未来があるんだ、死ななくて済むんならそうしてやるべきだろう。

 

ガニシュカは戦象を使いたがってたがあんなデカブツを押し付けられちゃたまったもんじゃない。

騎兵相手ならいざ知らず、他に効果的な兵科が無い。

行軍は遅いし大飯食らい、おまけに臆病な動物で混乱したら抑えが効かないなんてもはや恐怖でしかない。

戦争において兵器に感情は要らねぇんだ。

 

「おぅい将軍閣下ぁ!でけたぞぉ!!」

 

「よしぶっぱなせ」

 

「なぁ本当に良いのかよ」

 

「何がだ」

 

「クシャーンの騎士・貴族連中の反発だよ。こんなの戦争じゃないとか云々言ってやがるんだ、いくら国王派を潰せても腹の中に敵が出来るんじゃ元も子もないだろ」

 

滅多に異を唱えてこないウルバンが珍しい。

普通の攻城戦なら負傷兵の治療で手が離せなくなるからいい機会ではあるのかもしれないが──

 

「だからなんだ。連中に気ぃ使って戦争が終わるか?人死にが減るのか?答えは(ノー)だ、変わらねえ。何も変わらねぇ、なら変えるしかねえだろ。それが出来る立場に居る俺がやらねぇと」

 

「なんの為に?アンタが戦争をさっさと終わらせたって誰かがまた戦争を呼び起こすだろうさ。そしたらもっと惨い戦争が始まる事になるんだぞ」

 

「良いじゃねぇか、それでいいんだろうが。戦争は惨ければ惨いほど良いモンなんだ。戦争をしたがるバカが減る」

 

「それでいくとアンタもバカって事になるぞ」

 

「ハハハッ!馬鹿は死ななきゃ治らねぇからな。お前も苦労するだろうな」

 

「不治の病だ」

 

「違いねぇ」

 

呆れ顔のウルバンだがなんだかんだで付き合ってくれる。

 

「確信犯め」

 

「共犯者だな」

 

「……チッ」

 

さてウルバンが納得(?)したところでおっぱじめようかな。

 

どんどん投げてどんどん焼いて、そんでパッパと進んじまおう。歩兵の方の布陣も終わった。

 

俺たちは生まれた時代が悪かったんだ…そう思って諦めてもらおう。

 

「全機砲撃始め」

 

 



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地獄の再来を

 

 

 

猛火の城だ。

ミッドランドに伝わる大昔からの言い伝えにあんな感じの都市が燃える話があった。天使に焼き払われたという伝説だ。

あいにく目前の惨劇は我々のボスが引き起こした物なわけだが。所詮戦争の一面だと片付けるにはあまりにも(むご)い。

野戦に敗れて傘下に降った己さえも幸運だったと思える程に。

 

人が天使(伝説)と同じ道を辿ろうとしてる事実。

 

「他人事ながら恐ろしいな」

 

「あらぁ。一軍の将ともあろう方が尻込みなさるの?」

 

!?

いきなりの独特なオネエボイスに思わず体がビクッと反応してしまった。

この口調、妙に艶やかな声音、ああ。君か

横目で捉えた姿はよく知るクシャーンの将軍、転属で来たクシャーン人の中で唯一将軍として指揮権を与えられた(オカマ)だ。

彼女は2連の指揮官だから本来はここに来るはずないんだが…

 

「ナバーラ、アンタの持ち場はここじゃ無いだろうが。暇だからとこんな所まで足を運んで……攻撃命令が来たら出遅れるぞ」

 

「あらぁ?心配してくれるのかしら。嬉しいけど無用な心配よ、そこまで馬で来たんだから」

 

まぁ暇だからな。

普通攻城戦となれば俺たち歩兵は盾をかざして命をかけて波状攻撃を仕掛けるもんだ。

だがガンビーノが指揮を執るようになってからは制圧戦が殆どになってきている。そのおかげで攻撃開始から5日が経った今日まで誰1人として死んでいない。(迎撃で数人負傷したとは聞いたが)

 

「んで?俺が昼寝よろしくサボってた事でも報告するかね」

 

「んふふ。やぁねぇアタシそんなに性格悪くないわよ、ちょっとからかいに来ただけなんだから」

 

十分いい性格してるだろうに。って言葉はポイ捨てしといて取り敢えず『横来いよ』と手招きしておく。

悪い女…うん。悪い女じゃないんだが癖が強い奴だからな

ガンビーノ以外じゃ俺が1番話しやすいって思ってんだろうなコイツは。性別のちぐはぐに戸惑う男連中や「ええっと…(´・ω・`;)」って話づらそうにする女連中とは確かに噛み合わないだろうし。

 

「なんで俺の所に…バーランとかカルテマとか、2連連中に絡んでりゃ良いだろうに」

 

「んふふふふ。分かってるでしょうに嫌ねぇ」

 

「言ってみただけだ、お前こそ分かって言ってるだろ」

 

「ええ勿論、言ったでしょ?からかいに来たって」

 

「はっ(w」

 

本当に遊びに来ただけかよ。

目の前じゃデケェ城塞都市が黒煙を巻き上げて燃え盛ってるってのに、コイツと居るとまるで平時の一コマのような錯覚に陥ってしまう。

なんだかなぁ。

 

「ガンビーノ閣下が怖い?」

 

「…なに?」

 

「そんな顔してたわよ。彼らへの同情ってよりは我が身じゃなくて良かったとか、そんな感じのね」

 

俺がガンビーノを?

まさか。ガンビーノの怖さは戦った時に体験してる。敵にはどこまでも苛烈で部下にはやけに世話を焼く。

()()()()()()だって事くらい重々承知してるんだから恐れるはずがない。

 

だが──

 

「そうだな、俺は怖かないが危うい奴は何人かいるな」

 

「そう。でもそういう子たちをなだめ、抑えて解きほぐすのも私達の仕事のウチよ」

 

分かっているさ。

俺でさえガンビーノが何を目指して戦い続けてるかまだ見えてこないんだ。付き合いの短い、今を生きるので精一杯な連中がガンビーノを畏怖する気持ちも分かる。

 

実際、ガンビーノと同じ先を見えてる奴は最古参の人間くらいだろう。

 

「うん?てことは俺を心配して声掛けてきたのか?」

 

「んふふ。どうかしらね」

 

「おいおい、ホントにからかいに来ただけかよ」

 

…いや待て。おかしい

なんでわざわざ自分の隊から離れてまで俺のところにナバーラは来たんだ?暇だったから?そんなはずない。

軍規で待機命令が出てるうちは指揮下の隊から離れちゃいけない事になってる。

 

いくら転属間もないとしても軍規を知らないハズはない。

 

「お前…なんか大事な話があったりするのか?」

 

「ん〜〜。不安要素に留まるくらいだけどね。ちょっと気になる適度の事よ」

 

「なんで俺なんだ。ガンビーノに直接伝えりゃいいだろうに、どうして遠回りな事を」

 

「アナタが1番現実的な相手だから。バーランもカルテマもガンビーノに寄りすぎてるわ。たとえ伝えても『ガンビーノなら何とか出来る』って油断しかねないもの」

 

なんだそれは。

その言い方、まるで──

 

「確実じゃないけど、情報が外に流れてる感じがするのよ」

 

「裏切り者か」

 

「アナタが内側を、アタシが外側を。協力してくれない?」

 

()()()協力しろって事か。

こりゃバレたらバーラン辺りにシバかれかねないな。

 

だが、そうだな。

ガンビーノがこのまま何事かで死ねば俺たちは不慣れなクシャーンの大陸でバラバラに四散しかねない。

結末は野垂れ死にか野盗落ちかぐらいだろう。

仕方あるまい。

 

()()って時には、良いだろう。その代わりその嫌な予感が確実なもんになった時はすぐに教えてくれよ」

 

「ありがとうね。アナタなら引き受けてくれると思ってたわ…またねヴァランシャ♡」

 

「(ゾゾワッ!!)」

 

さすがにノンケの俺に投げキッスはキツい。

大丈夫だよな?俺そういう方面で狙われてたりしないよな?

 

はあぁ…。こいつぁまた1波乱ありそうだなあ

 

 

 

 

 



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今更ガバがあったとかマジ?

 

 

『マジです』って素直に言えたらどんなに楽だったか。

 

5日間ひたすらに炎弾を撃ち込んで、城壁の6割を削り崩して弓兵に2日間ずっと昼夜問わず入れ代わり立ち代わり矢を撃ち込ませた。

抵抗が無くなった7日目に歩兵隊を突っ込ませたらそのままアッサリ陥落よ。

こっちの死者は20人にも届かない程度。

 

と、ここまでが俺の()()()()()の仕事内容だったんだが、入城するタイミングでフッと考えたのが公爵の処分だ。

ミッドランドじゃオレたち傭兵の雇い主(正規軍将校)(貴族)が云々してた事だからぶっちゃけやり方が分からねえ。

 

降伏した男爵は後続のガニシュカに身柄を引き渡したし、子爵は戦死したと聞いたから特に何もしなくて済んだが公爵とまで来ればそうもいかないハズだ。

連中はやたらとプライドが高い。

いくら相手がガニシュカ派の軍務総書で、その直下の軍に敗れたとしても肩書きを外せば俺は異邦人になる。

素直に従うとはとても思えない。

 

なんて悶々としながら掃討戦の指揮をしてた所に届いたのが公爵が自決していたって報告だった。

聞けば踏み込んだ時には既に公爵が嫁さんと息子、娘を道ずれに服毒自殺した後だったとか。ウルバンが確認したって事だから確かだろう。

 

子供まで黄泉道(よみち)に連れていくなんざ親のするこっちゃねぇ…が、まぁ攻めた俺が言えたことじゃないけどよ。

 

「それで、公爵家の連中(使用人)はどうした」

 

「それが妙な話で誰1人として残ってなかったらしいんですわ。地下室もくまなく調べてみても痕跡0でさぁ」

 

「そうか…()()()()()()()

 

「へ?」

 

なんでもない。と話を切り上げた。

 

だが妙な違和感は覚えている。

攻城戦は飽きるほど経験してきたがこんなに死体が少ないなんて事は初めての事だ。

それだけ民間人が逃げられたと思えば喜ぶべきなんだろうが、そこがおかしい。()()()()()()()()()()

確かに王都へ進軍する俺達の目撃情報を点と線で結べば大体のルートは分かるだろうが、王都の前には公爵領だけじゃなく伯爵領だってあった。

電撃的速度で犠牲を少なくしようとした俺の動きを考えればむしろ王都にもっとも近く、もっとも落としやすい都市の民が、もっとも大きく堅牢なこの公爵領に逃げ込んで然るべきだろう。

 

それがいざフタを開けてみればこの様だ。

余りにも不自然では無いか。

 

「考えすぎ…か?」

 

それならそれでいいが用心に越したことはないよな。

 

「そこのお前、ジャリフを呼んでこい」

 

「はっ!」

 

今は隊長クラスの奴らに気を付けさせるしかない。この戦争が終わったらその辺の対策もしなきゃって事だな。

取り敢えず今はジャリフに各隊に通達させて、ふるいにかけてみるのが一番安牌か。

 

嗚呼、ただでさえ王様をどうすりゃいいのか頭抱えてるって時に、ホンットに勘弁して欲しいぜ。

王族殺しなんてろくでもねえ結果にしかならんしな。

 

も〜、やめだやめだ!

 

そん時になったらふんじばってガニシュカにポイしてやる!

ま、適当に理由付けて何とかしてくれんだろ。

 

だって言えねえだろ。

『現国王の生殺与奪の事まで考えなかったわ(笑)』

 

なんて

 

 



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祖国か・未来か

 

 

 

 

「悪いようにはしない!だから投降しろっ!!」

 

「ざけんな!そっちが負けの状況だろうが!!」

 

「この付近は我が軍の集結地なんだぞ!貴様等に勝機などないのだ、なぜ分からん!?」

 

「だ〜からなんだ!御託はいいからさっさと武器捨てて馬降りろや!それか首よこせ!」

 

「「もう諦めろって言ってんだ!!」」

 

 

 

濃霧の中、軍の先頭を行ってたバーランの隊が急に騒ぎ出したから何事かと来てみりゃこの有様よ。

姿シルエットは見えないが声の響きから察するに割と近距離で怒鳴りあっている。

どことなく拙いミッドランド語で投降を促す敵の声を、そんな気なんて更々ないバーランの怒鳴り声が押し返す。

何やってんだコイツら。

 

「何やってんだバーラン。向こうの規模は」

 

「それが分からなくてよ…そう多くはないと思うんだが、なにせ見えねぇから」

 

「俺たちより多いと思うか?」

 

「まさかぁ!……どうだろ」

 

「どうってお前…ハッキリしろよ。見合ったからこうなってんだろうが」

 

「いやそれがよぉ──」

 

 

聞けば濃すぎる霧にノロノロ進むのが嫌になったバーランが道を確認する為に斥候を出したらしい。

だが少しして戻ってきた斥候が話したのはクシャーン語。

霧でシルエットだけしか見えなかったせいで自分トコの奴だと思ってたバーランは当然、ミッドランド語で返した。

「何言ってんだオメー」と。

 

ここまで来て両者共に「あれ?」って空気になった時、送った本物の斥候が駆け戻ってきて叫んだのが「敵です!!」。

この斥候は斥候で、霧で方向感覚が狂って見えた武装集団のシルエットをバーラン隊と誤認してしまい、報告したものの返ってきたクシャーン語にびっくりして来た道を駆け戻って来たんだと…。

 

そして今に至る、と。

ホントに何やってんだコイツら。

 

「(てかアレ、援軍なのか新手なのかによるよなァ)」

 

数日前に落とした城の援軍ならせいぜい戦力は互角と見ていい。

が、新手の軍だった場合は話が変わってくる。

王都に近くなるほど貴族の階級も上がって、動員してくる軍の規模もデカくなっていく。

 

歩兵電撃戦でここまで来た俺たちの軍の戦える兵隊は9000弱、うち第2連隊は10数㌔後方にいて、ここには約半数の第1連隊しか居ない。

つまりだ、ここで殺りあってもし相手が新手の軍だったら最悪第1連隊が再編しなきゃいけないダメージを受けかねねぇ。

ミッドランド人の兵隊メインで編成してる第1と違って第2はクシャーン人の兵隊がメインだ。

まず間違いなく同士討ちが起きちまう。

 

それに──

 

「アイツさっき『ここは我らの集結地』とか言ったてたよな」

 

「ンなもんガセだ!」

 

「だとしても、だ。霧が晴れたら包囲されてました、じゃ笑えもしねぇ」

 

「引くのか」

 

「仕方ねえだろ?この霧じゃあ罵り合う以外にできる事ァねぇよ」

 

不承不承といった感じに後退の合図を出したバーラン。

この未だ晴れない濃霧の中で突撃する程バーランもバカじゃなかったって事だ。

視界にいた兵達が溶け込むようにスウッ…っと霧の中へ下がっていく。

 

剣を真っ直ぐに突き出して、その切っ先が霞む世界で白兵戦なんて悲劇しかうまねぇ。

地図の上では平野でも、何処に窪地があるかも、何処にどの規模の敵集団が構えてるかも分からない。

だからこそ今は撤退だ。

 

「(上手くいかねぇもんだな…この辺は大軍が集まれるほどデカい平地じゃなかったはずだが)」

 

ここは周囲を山々に囲まれていて、数本の道がこの平野に繋がっているだけ。

数千・数万の軍が集結するだけならともかく、それが退却となればあまりにも難しい場所だ。

ただでさえ近くの城が落ちたばかりなのに、そんな所で集結なんて無謀な事をするだろうか?

 

それに地形のせいでここは霧が濃くなりやすい。

そんな視認に苦慮する地で集結なんて事…あるのか?

 

疑問は残るが第1大隊は下がり始めている。

ボヤボヤしてたら俺自身まではぐれかねない。

 

「(何がどうなってやがんだ)」

 

手綱を引いてかろうじて見える道を引き返す。

霧が晴れた頃にまた戻ってくればいいさ。

 

そう自分に言い聞かせて。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

正直無茶な命令だと思っていた。

たった100騎で1万近い敵の足を止めるなんて「死んでこい」と、捨て駒にされたのだと思った。

願わくば敵が進軍を先延ばしにしてくれないものかと願いながら放った斥候と入れ替わりで敵の斥候に鉢合わせた時は本当に生きた心地がしなかった。

 

終わった。と

濃霧が姿を隠してくれていると言っても規模を掴まれたかもしれない。

そこからはもう必死だった。

自分が何を叫んだかも覚えてないが、ただ口だけが動いていた。

 

頭はその機能を放棄した。

いや、させたのだ。

放棄しなければ怖くて舌戦なんて出来なかったから。

いつ濃霧を切り裂いて敵が現れるか、そんな恐怖を押し殺しながらとにかくデタラメを叫び続けた。

 

それがつい先程、静かになった。

 

「どうだ…引いたのか?」

 

「はっ、おそらくは」

 

副官の相槌に大きく息を吐くと強烈な脱力感に涙が溢れた。

 

「(生きてる…まだ生きている!!)」

 

怖かった。

下級貴族とはいえ騎士として、戦で死ぬのを恐れた事など無かったが捨て駒となって無為に死にたくは無かったから。

 

「戻りましょう。敵が引いたとはいえ再び偵察や斥候を放ってくる可能性は多大にありますから」

 

「ああ、もう充分だろう」

 

そうだ。充分なはずだ。

国王陛下が軍を集め、体制を立て直される時間は充分に得られたはずだ。

全ては国のため、国王陛下の為に。

 

「撤退だ!」

 

馬の手網を握る手に力が入る。

 

おそらく歴史に残るであろう確実な戦果を成し遂げたのだ、と実感出来たから。

 

 

 



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約束されたチェックメイト

 

 

 

「(ガンビーノも老いたもんだな)」

 

事のあらましが記された書状を机に放り投げた。

 

歳のせいと言ってしまえばそこまでだが、此度(こたび)の采配はあまりにもガンビーノ()()()()()

もとより計画遂行に支障なしと分かっているから兎や角言いたくないのに、鬱陶しい程に貴族達が騒ぎ立てている。

ガンビーノの更迭(こうたい)罷免(クビ)、はては処刑まで求める声が方々から聞こえてくるのだ。

 

父王との戦いは派閥決戦の側面もあると理解こそしていたが馬鹿共(きぞく)の戯言には頭が痛くなるばかりだ。

 

執務室に椅子の軋む音だけが反響する。

 

「増援を送るべき…か?」

 

失策に対する詫び状こそ届けど援軍要請は来ていない。

万全を期すならば送るべきだろうが、送れば貴族達にガンビーノを叩く口実を追加で与えてしまう。

『自分の失態すら自分で拭えぬのか!』と、さも己らが正しいとばかりに責め立てる姿が目に浮かぶ。

噂に聞く多党制の国にある与党のスキャンダルをここぞとばかりに叩きまくる野党の如くガンビーノを叩くだろう。

 

ガンビーノの排斥を目論んでいる貴族共なら尚更だ。

 

「(くそっ…クシャーン王国は末期だと言ったガンビーノの意味がやっと分かったわ)」

 

仮にも現国王軍を相手に1万の兵だけを率いて、半年足らずで首都に迫っている。

我が配下の他の貴族の誰が真似できる?およそ誰にもできないだろう。

遅遅と進まず攻勢限界か補給切れで負けるに違いない。

 

なのに開戦した今も、ガンビーノを敵視する者は減らない。

父王派・皇后派・第2皇子派とてんでばらばら、同じ派閥内ですらいがみ合っているときた。

 

「シラット」

 

「はっ」

 

部屋の隅、ロウソクの灯りが届かない所から返事が来る。

 

「ダイバの準備は出来ているのか」

 

「はい、既に偽装も終わって何時でも発艦できる状態です」

 

「うむ」

 

決めたぞ。

増援は送らない。

 

「ダイバに伝えよ。合図を受けしだい即応しろと」

 

「はっ」

 

ガンビーノがダイバの部隊を無理くり再編成して作らせた()()とやら。

私の知識に無い型の軍艦、不格好と言うか…あの真っ平らな船が本当に決戦に役立つのか知らないが金にうるさい傭兵あがりのガンビーノが作った物だ。

無駄なシロモノじゃないんだろう。

何より日頃から意見の相違で仲の悪いダイバに頭を下げてまで前線に引っ張って行ったほどだ。

期待するとしよう。

 

後は…ああ。

口さがない奴の口も封じねばな

 

「それとシラット、貴様の部下を数人寄越せ。近く()()にあう者たちを処理してもらいたい」

 

「御意」

 

この戦争で要らないものは全部捨ててしまおう。

人も物も、何もかもを。

 

 

 

 

 

 

~~~◇とある漁師◇〜〜〜

 

 

 

 

 

「釣れんのぉ」

 

いつもは良く釣れる(くぼ)んだ釣りスポット。

どういう訳か今日は朝から糸を垂らしているのにマトモに当たらない。

 

「じいちゃん…」

 

「待て待て、も少し粘ってみよう」

 

魚を逃がすまいとウキを睨み続けるが、孫はとっくに釣りに飽きてしまっている。

 

「……じいちゃん」

 

「なんじゃ」

 

「見て」

 

「んん?」

 

孫の声に誘われて、島影を指差す孫の視線を追う。

 

「なんじゃ……ありゃァ」

 

そこには小島サイズはあろう船が漂っていた。

いや、最初は島だと思ったほどだ。

草枝を引っ掛けた網がその大きな船体の所々に絡み付いて、若い頃に見た沈没船の姿を思い起こさせる。

帆も砲も無い、二階建ての小屋の様なものだけが建っている平たい船だった。

 

「幽霊船じゃ…」

 

目が離せない。

(かい)を握る手に汗が滲んでいくのは分かった。

 

「じいちゃん、先っぽに鳥が──」

 

「……。 頭引っ込めるんじゃ!!」

 

()()を見た瞬間、逃げろと本能が叫んだ気がした。

同時に動けるようになった老体に鞭打って必死に(かい)を漕いだ。

 

「(ありゃあ鳥じゃない!あげな形の鳥がおってたまるか!)」

 

幽霊船との距離は数十理はあった。仮に鳥が見えても豆粒サイズがいいところだろうにアレは十分にデカかった。

この距離で頭ひとつ分はあると映る巨躯に、コウモリに近い羽の影を持つ鳥など聞いた事が無い。

 

「(はよう村の衆に!あん船は不吉の前兆に違いねぇ)」

 

「じいちゃん…あり何と?」

 

「黙っとき!すぐ陸に着くけな!」

 

何が起きたかなどは大事では無い。

逃げるんじゃ、1秒でも早くこの海から───

 

 



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