白鷺と鴉 (オクシモロン)
しおりを挟む

1話

百合っていいですよね。わかりますとも。


『本当に…行ってしまうのですか?』

 

立派な屋敷のとある一室で、青白い髪をした少女が問いかける。

 

『しょうがないよ、どの道もうすぐ見つかっちゃう』 

 

黒をさらに黒染めしたような、真っ黒な髪の少女が答える。

 

『これ以上こっちの事情で迷惑かけられないしさ。私のこと聞かれたら知らんぷりしてね』

 

『……』

 

黒髪の少女は努めて笑顔を作るが、青白い髪の少女は下唇を噛み複雑そうな表情をしている。

 

『ですが…この国から出るだなんて、無謀です!』

 

『もう私の居場所はない、生き残るにはそうするしかないんだよ』

 

『………わかっています』

 

『手紙とか出すようにするからさ。…だから、そんな顔しないで。ね?』

 

『約束、ですよ?』

 

『もちろん』

 

外から何人かの話し声が聞こえてくる。どうやら追手はそこまで迫っているらしい。

 

『…そろそろお別れかな。匿ってくれてありがとね、助かったよ。みんなにもそう伝えておいて』

 

『はい…どうかお元気で』

 

その会話を最後に黒髪の少女は屋敷を出る。

 

追手に捕まらないよう隠れながら、しかしできるだけ速く港の方へと向かう。途中で雨風が強くなってきたが、少女は構うことなく必死に走り続けた。

 

崩れた橋があればそれを飛び越え、自分の背よりはるかに高い崖があれば木を登って対処した。島のちょうど北端、巨大な人型の機械のようなものを後目(しりめ)に西にある港に向かおうとしたところで、ついに追手に見つかってしまう。来た道は既に塞がれている。気づけば背後に足場はなく、類を見ないほど強まった暴風雨によって海は大荒れであった。

 

少女は、代々受け継がれてきた刀に手をかける。少女の家には独自の剣術の流派があった。元は暴漢や刺客の急所を的確に狙い意識を刈り取るだけの不殺の剣。しかし父の犯した罪によって、今や人を効率よく破壊する殺人剣術にまで成り下がってしまった。少女には剣の才能があったが、自身のそれを今ほど恨んだことはなかった。

 

少女と追手。既に追手はただ一人にまでなっていた。年端もいかない少女に、鍛錬を重ねてきた彼らの剣は届かなかったのである。両者は互いの呼吸を読み合い、隙を窺っている。読み違えれば待つのは死あるのみ。

 

先に仕掛けたのは追手であった。極限の集中によって、少女には見るもの全てがスローに見えていた。降り注ぐ雨粒が、斬りかかる追手の全てが、殺意のこもった歪んだ顔が。

 

勝敗は一瞬で決した。袈裟斬りを繰り出す追手の刀を紙一重で躱し、鋭い峰打ちによって相手の意識を刈り取った。少女の刀は紛うことなき不殺の剣であった。

 

刀を鞘に納め、自らが倒した追手たちを見やる。誰一人として命を落とした者はいないが、少女にとって気持ちのいい景色ではなかった。顔を(しか)め両の拳を握りこんだところで、左手に何かが握られていることに気が付いた。

 

円形の装飾の中央に、波しぶきのような模様が浮かぶ青い珠がはめられている。それを持つ者は神になる資格を持っていると言われ、その者は総じて「原神」と呼ばれる。すなわち、神の目であった。

 

『………』

 

本当に欲しかったものは力ではなく救いであったと歯噛みした。神の目を懐にしまって歩き出したその時、狙いすましたかのような一筋の稲光が少女の眼前に落ちる。その雷の勢いのままに、少女の身体は荒れ狂う海に投げ出された。

 

 

 

 

「…!」

 

バっと勢いよく起き上がる。額には薄っすらと汗が滲んでいて、嫌な感じ。

 

「何回目だ、この夢…」

 

彼女にとっては悪夢の類であるそれを、数えるのが面倒になるぐらい繰り返し見ていた。故郷と、大好きな友人と別れ、同時に神の目を手に入れたあの日のこと。思い出さないようにはしているが、コンスタントに訪れる悪夢のせいでその努力が実ることはない。

 

「ねぇ、それどんな夢?」

 

「ぅわひゃい!?」

 

完全に油断しているところに声をかけられ、意識して出すことはないであろう素っ頓狂な声が出てしまう。ベッドのすぐ側に置かれた椅子に声の主はいた。

 

胡桃(フータオ)…もう、ビックリさせないでよ。ていうか、なんでいるの?こんな朝っぱらから用事?」

 

「用事なんか無いよ。千鶴お姉さんの寝顔見てただけ」

 

真っ黒な髪に琥珀色の瞳を持つ彼女の名は、鴉丸(からすま)千鶴と言う。

 

「他人の部屋に忍び込んでやることがそれって、普通に怖いんだけど…」

 

「堂主が堂内でなにしてもいいと思うけどなぁ」

 

「今してるのはデリカシーとかプライバシーの話なんだけど?」

 

流れに流れて漂っていたところを拾われてはや数年。最初に目覚めた場所は現在も自分の部屋として使っているこの場所だった。往生堂という名のこの場所は、今目の前にいる胡桃という少女が堂主を務めており、彼女で七十七代目ということでかなり長い歴史があるらしい。年下なのに立派に責務を全うしていて、そういった部分は本当に尊敬している。

 

基本的に部屋に鍵をかけていないため勝手に入られても文句は言えないのだけど、堂主の胡桃が出ていけと言ったら大人しく従うしかない立場なので、そういう面でも彼女の行動に物申すことはできないのである。つまり、それを引き合いに出されるとほぼ言いなりというわけだ。怖すぎる。

 

ベッドに潜っていたい誘惑を必死に振り切り、胡桃がいるのも気にせず普段着へと着替える。鍛錬で使うための刀に、作り置きをしておいた朝食を持って準備は完了だ。

 

部屋の窓を開けて新鮮な空気を取り入れつつ部屋を出る準備をする。胡桃は椅子に座りながら鼻歌を歌っている。また新しい歌でも考えているんだろうか。少なくとも、今すぐ私の部屋から出るつもりはないらしい。

 

「じゃあ少し出てくるから」

 

「ほ~い」

 

気の抜けた微妙な返事を聞いてから自室を出る。胡桃は何をするわけでもなく部屋に来ることがあるけど、目的がわからない。毎日のように会っていても、知らないことはまだまだあるみたいだ。

 

 

 

 

往生堂を出て璃月港の外へと向かう。犬がたくさんいる橋を越えて左手、西側の港がよく見える崖の上へと到着する。景色も悪くないし風通しもいいので、普段はここを使っている。

 

刀を構えて素振りを開始する。璃月に来てからも毎日欠かさずやっている鍛錬は、余計なことを考えず無心になれる数少ない時間で存外気に入っていたりする。元が”そういう家”の生まれだからだろうか。

 

「ふっ…ふっ…」

 

基本の型から独自に派生させた型まで、勝手に身体が動いてしまうほど染みついた動作を繰り返す。それが終われば仮想敵をイメージし、一撃限りの一本勝負をやってみたりする。正直これにどの程度効果があるのか分からないけど。

 

想像するのは、茶髪でファトゥスの戦闘狂。まだ璃月に来て間もない頃、元素のげの字も知らない私に必要だったのは扱う元素を完全に御すること。そのお手本にしたのが、水元素を武器の形状にして射出したり、自身の周りに展開して防御に使ったりする行秋くん。それと、水元素を様々な武装にして遠近中どのリーチでも巧みに戦う”公子”ことタルタリヤ。行秋くんには、彼が執筆した小説を読んで感想を言うことを条件に色々教えてもらった。璃月では酷評されているらしいけど、私的には良かった。稲妻人の私は璃月の人たちと感性が違うらしい。

 

タルタリヤに関しては、私の剣術に興味があるからと手合わせをお願いされたのが運の尽き。ほんのちょっと手合わせをするだけのつもりだったのに、相手が勝手にヒートアップしてただの殺し合いに発展してしまった。偶然居合わせた鍾離先生が止めてくれたからいいものの、あれ以来タルタリヤからの決闘は全てお断りしている。

 

それでも彼の元素コントロールは非常に勉強になったし、いざとなったら水元素の刀を使うことには慣れておいた方がいいかもしれない。得物がない状態で戦場に放り出されたらどうなるか分からないし。

 

その場から数歩下がり、居合の構えをとる。深呼吸して集中力を高め静かにその時を待つ。

 

足を力強く踏み込み、忌々しい戦闘狂を打倒せんと刀を振るう。しかし、その刃は振り抜く前に止まってしまった。そう、何者か(・・・)に止められてしまったのだ。

 

見ると、そこには灰色の服に深紅のスカーフを纏った長身の男がいた。

 

「…何しに来たの、変態」

 

「その言い方はないんじゃないのか?”運び屋”」

 

「そっちこそその呼び方やめてよ。あんまいいイメージないんだから」

 

仕事の都合上そう呼ばれることが多いけど、あんまり好きじゃない。それを分かってて言ってきた男、タルタリヤである。この変態戦闘狂、他人の鍛錬を遮ってまでちょっかい出してきやがった。今度から鍾離先生に監督してもらおうかな…。でも往生堂の仕事あるし、忙しいよねぇ…。

 

「しばらく見ないと思ったら急に現れるんだから。で、なに?決闘ならしないよ」

 

「最近用事があって稲妻に行ってたんだ」

 

タルタリヤの言葉にピクリと反応する。稲妻に行っていたと、彼は言った。何のために?

 

「非常にいい経験をしたよ。敵がわんさか出てくる謎の秘境があってね」

 

「思い出話しに来たわけじゃないんでしょ?何が目的?」

 

「手合わせをしようかと思ってね。もちろん対価は払うさ」

 

「…対価?」

 

「そう。知っている限りの稲妻の現状と、君の鍛錬の手助け。これでどうだい?飛雲商会の次男坊よりかは、俺の方が適していると思うけど」

 

思ってもない申し出であることには変わりないけど、この男に借りを作るのは非常にまずい気がする。数分の熟考の末に結論を出した。

 

「………わかった」

 

「そうか!よし、まずは手合わせだ。君の弱点を把握しないことには指導もできないからね」

 

こうして、現時点で一番会いたくない男との鍛錬が始まった。…始まってしまった。

 

 

 

 

十本勝負の結果、私の全敗だった。やはり、瞬きした時には相手の武器が変わっていてその対応を迫られるのは辛いものがある。

 

「いい運動になった。太刀筋は悪くないどころか、数年で予想以上に成長しているね。あの時の君が赤子のようだよ」

 

「はぁ…はぁ…うっさいな、変態…」

 

「元素のコントロールも達人のそれだ。実体のある得物で戦うぶん元素で作った武装より自由度は若干落ちるけど、既に元素で武装ぐらい作れるんだろう?」

 

「全部お見通しってわけか…」

 

ここ数年で元素の扱い方はかなり成長した実感がある。それこそ、タルタリヤのように水元素で武装を作ることだってできるようになった。重さだったり、ほんの少しのリーチのズレだったり、十年以上振ってきた刀との誤差があってあまり使ってはいないんだけど。基本的には刀に水元素を付与する戦い方が好きだしね。

 

それよりも、鍛錬とはいえタルタリヤの真似事をしていたのがバレていることが恥ずかしい。

 

「君の剣術は相手の急所を最短最速で狙うことに特化している。それぐらいは刃を交えればすぐわかった。ただ、これは君の意識の問題なんだろうね。あからさまな悪意を持たない人間に対しては、たとえ鍛錬でも刀を向けることが苦手だ」

 

「………しょうがないじゃん」

 

「ある程度は改善してきたけど、無意識にセーブがかかっている。魔物にはあれだけ遠慮なしにやれるって言うのに」

 

「え、どっから見てるわけ?ストーカー?」

 

「おいおい、誤解だ。たまたま通りかかった時だけだよ」

 

「どうだか」

 

ジト目でタルタリヤを睨むが、当の本人はどこ吹く風である。

 

「本人の意識はひとまず置いておくとして、まずは水元素の武装を扱っていくのが最優先だ。手札は多いに越したことはないしね」

 

「やけに肩入れするね」

 

「君が強くなれば俺の楽しみも増えるからねぇ。相棒といい君といい、強者の存在は俺をワクワクさせてくれる」

 

相棒が誰のことを言っているのかは分からないけど、私を鍛える理由はなんとも彼らしいものだった。

 

「それで、対価をまだもらってないんだけど?」

 

「おっと、そうだった」

 

…こいつ、私が言及しなかったらそのまま帰るつもりだったな?

 

 

 

彼からもたらされた情報は、稲妻での目狩り令が撤回されたこと、幕府軍と抵抗軍のいざこざもとりあえずの終結を迎えたこと等が主だった。知らないうちに故郷が大変なことになっていたらしい。

 

稲妻のことを思うと、いつも浮かぶ人物がいる。彼女のことについても聞いてみることにした。

 

「青白い髪の少女?…あぁ、神里家の令嬢だね。彼女のことも君との関係も詳しくは知らないけど、特に何もないんじゃないかな?」

 

「そっか。…ふぅ」

 

いくら手紙でやり取りしているとは言っても、情勢のこともあって帰ると約束してから一度も稲妻に行けていない。ちゃんと顔を見るまでは安心できないのだ。

 

「それじゃあ、やることもやったし俺は行くよ。気が向いた時にまた来るから、その時までにもっと強くなっていてくれよ?」

 

「一生来んな」

 

それを最後にどこかへ行ってしまった。気が抜けたからか、お腹が「ぐぅ~」と非常に大きい音を出す。…タルタリヤが帰った後で本当に良かった。聞かれてたらなんて言われるかわかったもんじゃない。

 

手ごろな岩に座ってからあげとおにぎりを食べる。稲妻人として米は欠かせないし、揚げ物と抜群に合う。香菱に作り置きできる料理を教わっておいてよかった。冷えてもうまうまである、最高だ。食べ過ぎはよくないけども。

 

ご飯を食べながら考える。タルタリヤは元素の武装を使えるようになった方がいいと言った。現段階で元素自体を武装として形作ることはできている。できているが、それをどうやって攻撃力を持たせたものにしているのか。そういえば原理とか仕組みとか、そういったことは考えたことがなかったように思う。

 

例えば、甘雨が降らせる氷柱やエウルアが使う氷の剣。ああいうのは個体を尖らせるから武器として完成するわけで、流動的な水に攻撃力を持たせるにはどうすればいいんだろうか。勢いよく飛ばす?それもアリかもしれないけど、近接戦闘を主とする私にとってそれは奥の手だろう。

 

そう言えばタルタリヤの水元素武装、あれは恐ろしく切れる。びっくりするぐらい切れる。でも持ち手が無事なのはなぜ?多分、局所的に水の圧力なりを強めているからだ。おにぎりの最後の一口を放り込んで岩から降りる。そびえ立つ岩壁の前に立ち、水元素の刀を生成する。これだけではただの刀の形をした水である。刃の部分の出力だけを意識して上げてみると、なんかすごいビシャビシャしてきた。余計な力が入りすぎている証拠だ。まぁ、これは今後改善するとして…。

 

目の前の岩壁を切り裂くイメージで刀を振るう。するとどうだ、岩がまるでバターのようにすっぱり切れてしまった。想像以上の結果にちょっと嬉しくなる。切れ味を最大限まで高めつつ、しかし余分な力は出さない。それをマスターするには骨が折れそうだ。

 

そう言えば港の方が賑わってきた、ずいぶんとここに長居したらしい。用事があることをすっかり忘れていて大慌てで往生堂への帰路につく。もう!どっかの変態が来なきゃ余裕を持って行動できたのに!

 

 

 

 

急いで自室に戻ってくると、流石に胡桃はいなくなっている。代わりに一羽の鴉が窓辺で私の帰りを待っていた。

 

(あおい)!来てたんだね」

 

この鴉の名前は蒼。稲妻ではお馴染みの鳥だけど、璃月やモンドでは滅多に見かけない。稲妻固有なのかな。私が小さい頃から一緒にいる子で、稲妻から璃月に来た時もいつの間にか私の側にいた。他の鴉よりも少し身体が大きく獰猛そうな印象を持たれがちだけど、実はかなり大人しく賢い子だ。

 

そんな蒼の足には小さな筒がくくりつけられている。綾華からの手紙だ。稲妻に行けない私と、稲妻からおいそれとは出られない綾華とのやり取りを請け負ってくれている。璃月から稲妻を往復しても大丈夫なぐらいのスタミナはあるみたいだけど、こっちに戻ってきた時には目一杯可愛がることにしている。

 

「手紙書き終わったら遊ぼうね、蒼」

 

手紙には彼女の近況報告や、稲妻の現状なんかが書き記されていた。タルタリヤが言っていたことは少なくとも本当のようだ。しかし、幕府軍と抵抗軍がいきなり仲良しこよしできるはずもない。お互いの代表が話し合いの場を設けたということらしいけど、そこでもひと悶着あったらしい。大丈夫か私の故郷…。

 

手紙を読み終えるなり引き出しからストックしてあった便箋を取り出し、長年使っている筆に墨をつける。

 

璃月での生活のこと。モンドも含めて友達がたくさんできたこと。今朝の鍛錬のこと。伝えたいことはたくさんあるけど、会った時にいっぱい話したいからそこまでいっぱい書かずに終わらせる。そう言えば、ずいぶん前にもらった手紙に氷元素の神の目を授かったと書いてあった。剣や詩にも真剣に取り組んでいたらしい。正直詩に関しては無知だけど、剣は負けていられない。私も頑張らないとね。

 

「…よし、と。じゃあ出かけよっか蒼。と言っても仕事だけど」

 

お風呂でさっと汗を流し、よそ行き用の服に着替える。ベージュ色の七分丈のズボンに真っ白のシャツ、袖のないフード付きの黒い上着というどちらかと言えばモンド風な服装である。実際モンドに行ったとき仕立ててもらったものだ。

 

シャオユウさんに言われて受けた仕事。匿名の依頼ではあったけど、どう見ても依頼主がモロバレである。鮮度を出来る限り保った清心をいっぱいに詰めたカゴを手に往生堂を出る。

 

目指すは琥牢山の麓。相棒の鴉と共に、”運び屋の千鶴”は今日もテイワットを駆ける。




実はまだ朝の数時間しか経ってない。
清心が必要な匿名希望さん、一体どんな残業勧誘真君なんだ…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話

「いい天気だね、(あおい)!」

 

天衝山から遁玉の丘へと続く道を、相棒の鴉とともに滑走(・・)する少女が一人。千鶴である。

 

元素コントロール特訓の一環で、足から水元素噴射すればめっちゃ速く移動できるんじゃね?というなんとも安易な思いつきから編み出された移動方法。

 

地面と足裏の間に水元素を停滞させ、後方へ噴射することで推進力を得ることに成功。特訓の序盤こそ勢いが強すぎて思いっきり地面に後頭部をぶつけたり、逆に弱すぎて少しも動かないなど四苦八苦していたが、経験を積み重ねていくうちに無意識化で制御できるようになっていった。

 

そんな千鶴は鍾離の計らいによって往生堂で厄介になっていたが、”働かざるもの食うべからず”という稲妻に伝わる古い言葉を思い出し自ら労働を志願したのだった。

 

当時、冒険者としての活動の他に璃月港での配達業を兼任していた千鶴はこう考えた。もっと早く仕事を終わらせることはできないか、と。そこで役に立ったのが、ちょうど習得を目指していた”鴉丸式陸上滑走法”である。

 

その滑走法は、それまで璃月港内までしかなかった活動範囲を一気にモンド全域にまで拡大させた。千鶴は仕事の幅と多くの人々との関りを、依頼主は冒険者故の魔物による事故率の低さと滑走法による速さを得られるという双方にメリットのある結果となった。

 

そして現在。天穹の谷から南天門、琥牢山の麓へと進んでいく。まるで生き物の尻尾のような不思議な見た目をしている伏龍の木の根元に、千鶴の到着を待つ人物がいた。

 

 

 

 

「甘雨!」

 

水色の髪に赤黒い角、こっちが心配になるぐらい色々際どい服装をする彼女。璃月七星の秘書を務めていて、その凄まじい仕事ぶりは私もよく耳にしている。ちなみに、角が生えているのは仙人の血が半分入っているかららしい。

 

そう言えば煙緋にも白い角が生えていたし、璃月ではそこまで珍しい光景でもないらしい。稲妻には獣耳は生えてても角の生えた人はいなかったから、初見はけっこうビックリしたことを覚えている。

 

「おはようございます、千鶴さん」

 

「うん、おはよ。待った?けっこう急いで来たんだけど…」

 

「先ほど到着したばかりですので、お気になさらず」

 

「ならよかった」

 

定型文のような会話をしつつ、伏龍の木の巨大な根っこ付近に腰を下ろす。まず先に依頼を達成しなければならない。

 

「これ、頼まれた清心ね」

 

そう言って持ってきたカゴを渡す。心なしか甘雨の表情も緩んだように見える。

 

「前から気になってたんだけどさ、これ何に使うの?」

 

「食べるんですよ」

 

「え゛っ」

 

軽い気持ちで聞いてみたら予想の斜め上から答えが返ってきた。食べる?清心を?

 

「鍾離先生から苦いって聞いたんだけど…」

 

「それが清心の味ですから。とても美味しいんですよ、千鶴さんも食べてみますか?」

 

「えっ、あぁいや、私はいいよ。甘雨のために持ってきたんだから」

 

「そうですか…」

 

おぉん、その断った側が罪の意識に苛まれる表情はやめてくれ…。いやしかし、甘雨は仙人の血が流れているわけで、私たち人間とは多少違った味覚を持っているのかもしれない。偏見いくない。

 

心地よい風が吹き抜ける。天気は雲のほとんどない快晴。少しぼーっとするだけで眠気が襲ってくるほどの居心地だ。

 

ふと隣を見てみると、甘雨が見事なまでに舟を漕いでいた。一般人ではすぐに潰れてしまいそうな激務を、初代璃月七星の時からずっと続けてきているのだ。そりゃこうもなるだろう。

 

「ねぇ甘雨?寝るならもう少しちゃんとしたところで寝たら?」

 

「……っ!ね、寝てません!寝てませんよ!」

 

「それはさすがに苦しいでしょ…」

 

これだからワーカーホリックは。甘雨といいジンさんといい、適度に休んだ方が仕事の効率は上がるんだよ?

 

「もう、ここ使っていいから。少し寝なって」

 

自分も腿をポンポンと叩き催促する。無理やりにでも寝かせる強硬手段だ。

 

「いえ、悪いですし…。私は大丈夫なので」

 

「あのね、大丈夫ってのは大丈夫じゃない人が使う言葉なの。それに私も心配でしょうがないから、私のためだと思ってさ」

 

葛藤すること数分。甘雨が折れることで決着となった。

 

「…では、失礼します」

 

「うむ、くるしゅうない」

 

ふわふわした水色の髪が私の足に乗る。思ったより角が邪魔になることはなさそうでひと安心といったところだ。

 

すぐに規則的な寝息が聞こえてくる。この髪は手触りもいいのかと、彼女の頭を軽く撫でながら思う。やりすぎて起こしても悪いのでほどほどにしよう。

 

「蒼、ちょっと来て」

 

小声だったにもかかわらず、間髪入れずにやってきた。君は頭もよければ耳もいいのかい?

 

「木の上から周りを警戒しててもらっていい?この状態で不意打ちとかされたら反応遅れちゃうし」

 

了承してくれたのか、甘雨をチラ見してから伏龍の木の上へと飛んで行った。…くちばしで突っつかれたけど。ちょっとだけ痛い。

 

 

 

 

体がビクッとなった拍子に目が覚める。いつの間にやら私も眠っていたらしい。太陽はすでに真上ほどまで昇っている。

 

「お腹空いたな…」

 

自覚した途端に空腹が激化し、おまけにお腹も元気よく音を鳴らす。甘雨はまだ熟睡中らしく、当初と変わらない体勢でそこにいた。

 

「蒼、戻ってきていいよ」

 

言うと同時に脇腹へ体当たりされる。木の上ではなく真横にいたようだ。適当な仕事をする子ではないからサボってたわけじゃないだろうし、そろそろ私が起きると見越していたということだ。伊達に長く一緒にいないな。一緒にいる時間が一番長いからか、私のことは何でもわかるらしい。

 

そんなことを考えているうちにも、蒼はゲシゲシと私のことを蹴飛ばしている。ごめんって、居眠りしたのは謝るから蹴らないで。その爪がいい具合に痛いんだってば!ねえ聞いてる?ちょっと!?マジで痛いってほんとに!

 

しかし、途中で一度も起こされなかったということは、敵襲は確認されなかったことの証明である。平和が一番、これ大事ね。

 

「甘雨、そろそろ起きてー」

 

「んぅ…」

 

むくりと起き上がり欠伸をひとつ。こんな些細な動作すら絵になってしまうのだから、顔面偏差値の高い美少女というのはとんでもないものである。そういえば煙緋も魈も、顔面があまりにも良すぎる。仙人ってのはみんな美男美女しかいないの?そんな種族あるの?うらやまけしからん。

 

適当な会話をしつつ彼女と別れ、腹ごしらえのために璃月への帰路につく。蒼のご機嫌取りのためにちょっと遊びながら帰ることにしよう。もともとそういう約束だったしね。許してくれるでしょ、なんだかんだ優しいし。

 

「んじゃ、競走しながら帰ろうか」

 

適当に拾った枝で土にスタートラインを引く。つまるところ、よーいドンのかけっこだ。まあ片方は飛ぶし片方は滑ってるから、誰一人として駆けてはないんだけども。

 

「この枝が地面に落ちたらスタートの合図ね?…それっ!」

 

真上に放り投げた枝がくるくると回りながら飛んでいく。スタートダッシュを決めるために水元素を足裏にスタンバイさせてその時を待つ。そしてカツンと音を立てて枝が落ち、それと同時に私と蒼は勢いよく飛び出すが…。

 

「えっ、速くない!?手加減ってもんを知らないんですか!?ここはイチャイチャしながら帰るのが相場でしょうが!!」

 

華麗にスタートダッシュを決めた私に対し、翼を広げて羽ばたくためのラグがあったはず。しかし次の瞬間には十数メートルは離されてしまった。稲妻に向かう蒼を実際に見たことは無かったから、ここまでスピードが出せるだなんて知らなかった。

 

「蒼~?私寂しいんだけど~?置いてかないでよぉ…」

 

トップスピードですら距離が縮まらないので既にゆっくり観光モードだ。アルベドに作ってもらったゴーグルは早くもお役御免である。ごめんねアルベド、今度絵のモデルになったげるから許して。

 

 

 

 

往生堂の私室、その窓辺には一羽の鴉。なにやら澄ました顔でこちらを見ている。遅かったなって?お前が速すぎるんだよ!見るからに怒ってるじゃん、そろそろ機嫌直してってば。

 

しかし今はお昼時。こういう場合は美味しいご飯を食べればいいと世の理として決まっている。蒼は思ったより人間チックな鴉なので、毛づくろいや水浴びさせるよりはご飯と睡眠なのである。

 

「そうなると、どこでご飯食べるかだよねぇ。どこで食べたい?」

 

聞いてみても、くちばしをちょいちょいと動かすだけ。お前が決めろってことですねわかります。私は人間を顎で使う鴉を爆誕させてしまったらしい。

 

蒼を抱えて部屋を出る。現状は私の方が立場が低いため逆らえないので、私がお抱えさせていただいている次第です。

 

考えながら往生堂を出ると、辺りをキョロキョロするシャオユウさんとはちあった。

 

「あ、千鶴さん!やっと見つけた…」

 

「んぇ?」

 

なんだか私を探してたみたい。何か用事でもあるんだろうか。

 

「食材の運送をお願いしたいとの依頼がありまして、できれば急ぎがいいらしいので探していたんです」

 

なるほど。食材も時間が経つと腐ってしまったり鮮度が落ちたりするから、速く届けたいというのは非常に分かる。一生冷蔵、冷凍で保存できるわけじゃないからね。

 

「どこまで運べばいいんですか?」

 

「依頼主によると、モンドの鹿狩りまで届けてほしいそうです」

 

「モンドとは、これまた遠いですね」

 

「急で申し訳ありませんが、よろしくお願いしますね」

 

そう言って駆け足でシャオユウさんは戻っていった。まぁ、お昼ご飯は鹿狩りで決定したので手間が省けたし良しとする。

 

「蒼、今日は鹿狩りでお昼だね」

 

「カァ」と鳴く蒼。これは了承の意である。私にはわかる。わかるったらわかる。

 

目的地の決まった千鶴は、空腹を満たすためにモンドを目指して璃月を出発したのだった。

 

 

 

 

さて、向かうはモンド城の鹿狩り。帰離原、望舒旅館、萩花洲、石門と抜けていき、アカツキワイナリーを過ぎたころ。今のうちに食べるご飯をある程度決めておかなければならない。お腹をすかせたままメニューを選ぶなど拷問に等しい。

 

「ん?あれは…」

 

璃月とモンドでは食文化が違うため、お店に並ぶ料理のラインナップも全く違ってくる。璃月は本当にご飯が美味しいのだけど、モンドのそれも侮ってはいけない。

 

「黒き眷属を従えし我が同胞よ…」

 

ん~、モンドに行くの自体久しぶりだし、鹿狩りにどんなご飯があったかなんて正直覚えてないんだよなぁ…。串焼きとかピザとか?考えるだけでもどんどんお腹がすいてくる。

 

「この邂逅は我らの運命(さだめ)…って、無視!?」

 

あ、清泉町が見えてきた。確かドゥラフさんが少しだけ獣肉や鳥肉を売ってくれていたはずだから、そこで買って済ませてもいいのでは?

 

物思いにふけっていると、突然目の前に紫色の鳥が姿を現した。

 

「お待ちください、千鶴殿」

 

「うわっ、ってオズ?」

 

私の前に現れたのは、モンドの冒険者であるフィッシュルが顕現させる大きな鳥だ。なぜ人の言葉を話せるのかは知らないけど、時たま理解不能な言葉をしゃべるフィッシュルの通訳もしてくれていて非常に助かっている。

 

「今日はフィッシュルと一緒じゃないんだ?珍しいね」

 

「後ろを振り返ってみてください。お嬢様も一緒ですよ」

 

「え?」

 

言われた通り振り返ると、息を切らして走ってくるフィッシュルが目に入った。オズはワープして来られるが、生身の人間であるフィッシュルではそうはいかない。少し泣きそうな顔をしているし、なんだか申し訳ないことをしてしまった。

 

「はぁ…はぁ…やっと追いついた…」

 

「えっと、ごめんね?フィッシュル。ちょっと考え事してて」

 

息を整え、いつもの奇妙なポーズを取るフィッシュル。どうやら調子は戻ったらしい。

 

「……話す内容忘れた…」

 

「……ねぇオズ?」

 

「私に聞かれましても」

 

私に無視されたショックのあまり、話す予定だった話題が頭から飛んでしまったみたい。いや、ほんとごめん。

 

「千鶴殿はどのような用事でモンドへ?」

 

「私は配達。モンド城まで食材を届けなきゃいけなくってさ」

 

「それはそれは」

 

「わぁ…蒼ちゃんモフモフ……」

 

オズと話している隙に、フィッシュルは蒼を撫でて癒されているようだ。こういう年相応の可愛さが垣間見えるギャップがフィッシュルをより引き立てていると言える。

 

「そうだ、食材早く届けないと。それじゃそろそろ行くね?」

 

「んん゛っ、そう…ではまた逢いましょう千鶴」

 

「うん。今度はゆっくり話そうね、フィッシュル。オズもまた今度」

 

そういって彼女たちと別れ、モンド城への道を急ぐ。目的地まであと少しだ。




新年あけましておめでとうございます(激遅)

亀更新とは言いましたが、まさかここまでとは。

こんな調子ではありますが、ゆったりとゴールまで書ければいいかなと思っておりますん。よろしくお願いします。

今年の抱負は申鶴を引くことです。対戦よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話

「それでね、エウルアが冷水風呂に行くっていうからついていったんだ」

 

「えぇ...それ間違いなくドラゴンスパインでの話だよね?エウルアって極度のドMだったりする?」

 

「失礼ね。涼しくなるようなことが好きなだけで、決してそういうんじゃないわ」

 

モンド城にて食材配達の任務を終え、そのまま”鹿狩り”で昼食をとることにした。”鹿狩り”でウェイトレスをやっているサラさんからの依頼だったわけだけど、”鹿狩り”は元々清泉町の狩人と食材提供契約を結んでいる。しかし、いくら新鮮な食材を仕入れられると言ってもモンドで取れるものに限られるわけで、今回は璃月の食材が必要だったということだ。

 

”完熟トマトのミートソース”と、デザートとして”午後のパンケーキ”を注文し料理が出来上がるのを待っていたところに、同じく昼食の時間だったらしいアンバーとエウルアがやってきて合流。そして今に至るというわけである。

 

稲妻の古い言葉に「女三人寄れば姦しい」という言葉がある。まぁ意味は読んで字のごとくで、女はおしゃべりだから三人も集まったらやかましくなる的な意味。私たちもそれに当てはまるようで、集まった途端話すことが湯水のように湧いてくる。主にアンバー発信ではあるけど。

 

そんな中、”旅人”という人物と一緒にアルベド、ベネットを加えた5人でドラゴンスパインで起きた事件を解決した話を聞かされ、エウルアが極寒のドラゴンスパインで湖に入ったという話が出てきてびっくり仰天、という流れだ。

 

「知らないところでけっこう大変な事が起きてるんだねぇ」

 

「璃月では何か起きたりしてないの?」

 

「起きてるっちゃ起きてるらしいんだけど、そのタイミングでちょうどいないんだよね」

 

「運がいいんだか悪いんだか...」

 

”完熟トマトのミートソース”を食べ終え、”午後のパンケーキ”をパクパクしながら呟く。エウルアは何とも言えない反応を見せるが、そういった大事件に関わりたくない一方で蚊帳の外感は少しだけ感じていたりする。タルタリヤが黄金屋でやったこととか、葬仙儀式、渦の魔神オセルとの闘い。それに伴う群玉閣の消失など。

 

群玉閣のことに関しては、怖くて凝光さんには聞けてない。あの人にとってはすごい大事なものだったわけだし、変に情報を仕入れたりするのは憚られるというものだ。

 

「そういえば、モンドが大変な時は璃月にいたんだっけ?」

 

「あぁ、あの風魔龍のやつ?それもウェンティから聞いただけで、実際にその場は見たことないんだよね」

 

その時も例の”旅人”とやらが登場していた。一体何者なの...世界中の厄介ごとに首突っ込んでるじゃん。先日タルタリヤと会った日、稲妻の目狩り令が撤回された件にも旅人が関与していたことを聞いている。

 

全ての事件に関わる”旅人”と、全ての事件を回避する私。そういう意味では対称的な存在と言えるのではないか。

 

「ていうか、話戻るんだけどさ。アンバーも冷水風呂やったの?」

 

「しないしない!そんなことしたら凍え死んじゃうよ!」

 

「やっぱエウルアが氷元素の神の目を持ってるからなのかね?」

 

「知らないわよ、そんなこと」

 

首と腕をブンブン振りながら否定するアンバーと、頬杖をつき半眼で軽く睨むエウルア。ま、神の目ってわからないこと多いし、しょうがないか。

 

ペット用のご飯を食べ終わった蒼を再び抱え、目の前で会話に花を咲かせるアンバーとエウルアを見る。明るい性格で面倒見のいいアンバーと、自身の生まれによって無条件に他者から疎まれるエウルア。初見の時は接点なんてないように思えたけど、思いのほか相性は良かったらしい。

 

表面上は普段と変わらないように見えても、アンバーと話す時は若干雰囲気が柔らかくなっている...気がする。少なくとも私にはそう見える。

 

 

羨ましい

 

 

少しだけ、そう思った。

 

自分だけが不幸だなんて言うつもりはない。それこそ旧貴族「ローレンス家」の血が流れているエウルアは、彼女の人となりなど関係なくそれだけでモンドの人たちから忌み嫌われていたのだから。

 

しかし、自分の好きな人と好きなように触れ合うことのできる彼女、ひいては彼女たちの関係が、とても眩しいものに見えてくるのだ。

 

私だって、帰ろうと思えば北斗さんに頼んで稲妻に帰ることもできるし、現在の活動拠点である璃月にも好きな人たちはたくさんいる。でも、できるなら。エウルアのように、他人からの見る目とか関係なく自分を貫き通せる強い心があったなら。

 

綾華と一緒に、稲妻にいたいと思う。まぁ、それができたらどれだけ楽だったか。帰る家はなく家族もいない。最後の肉親であった父親は人殺しの犯罪者。あの時からたった数年しか経ってないし、稲妻に帰ったらどんな目に遭うか分からない。

 

多分だけど、綾華は私を庇ってくれる。私に罪がないことを知っているし、私にとっては特に仲のいい子だったから。でもそれだと神里の家に迷惑がかかってしまう可能性が高いのだ、私を匿ったあの時のように。

 

そんなことはしたくないから、未だ帰郷できないでいる。何かきっかけとかあればいいんだけど...。ちょっと他力本願すぎるか。

 

「ちょっと、なにボーっとしてるわけ?」

 

「へ?」

 

「さっきから黙って考え込んでたみたいだけど、悩みでもあるわけ?」

 

エウルアがそんなこと言うなんて、エウルアから見た私は相当だったのだろうか。

 

「んー、大丈夫。夕飯何にしようかな、とかそんなレベルだから」

 

「そう」

 

それ以上の追求はなく、少し離れたところにいるアンバーに目を移した。いつの間にか席を外していたらしい彼女は、なにやらティマイオスとスクロースの3人で話している。

 

「エウルアはさ」

 

「?」

 

少しの好奇心であった。ただ勇気が欲しかっただけかもしれないが。

 

「アンバーのこと、どう思ってるの?」

 

「...質問の意図が分からないわね。でも強いて言えば、いつか恨みを晴らしたいと思ってるわ」

 

「そうなんだ。...例えばどんな?」

 

「私が騎士団に所属した日、私の宿舎の掃除をしたりとか、色んなところの観光に連れて行ったりとか。なんか妹にお世話されてるようでみっともないじゃない?」

 

「エウルアらしいね」

 

恨みなどという物騒な言葉は使っているものの、言葉通り恨んでいるわけではない。アンバー曰く、「冗談に慣れたらいい人だとわかる」らしい。

 

「二人とも、お待たせー!」

 

「おかえり。三人でどんな話してたの?」

 

「大したことは話してないよ。ただの世間話」

 

錬金ツインズとの世間話なんて正直想像もつかないけど、アンバーほどのコミュ力お化けならそれも容易に成し遂げられるのだろう。

 

「それじゃ、私たちは行くわね」

 

席を立ちながらエウルアが言う。滅多にモンド城に戻ってこないエウルアとの再会が終わってしまうのは名残惜しいけど、騎士は忙しいのだ。仕方がない。

 

城外へ向けて歩いていく二人に別れを告げると、「そう言えば」と思い出して蒼に話しかける。

 

「蒼さんや、稲妻まで行けそうかい?」

 

そう尋ねると、蒼は大聖堂の方まで飛んでいき稲妻の方角をじっと眺める。しばらくすると、元気よく稲妻へ向けて飛び去って行った。

 

野生生物の勘なのか蒼だけに備わる特殊能力なのか。蒼は天候を読み切ることができ、その特技を使って綾華とのやり取りを安全に行ってくれている。蒼だけなら雷雨の中だろうと稲妻まで飛んでいけるんだろうけど、雷雨の中じゃ手紙の安全が保障されないために晴れの場合にのみ飛んでいくのだ。

 

なんだこのチート鴉。元素を使った全力疾走よりも速いし、人語も理解できる上に天候まで把握できるときた。どう考えてもただの鳥じゃないし、実は神の目とか持ってるんじゃないの?

 

そんなことを考えながら飛んでいく蒼を見送った後、少し考えてある場所へと歩を進める。モンドに来たなら会っていかねばならない。

 

 

 

 

西風騎士団本部。

 

稲妻でいう雷電将軍のような絶対的な王がモンドにはおらず、モンドを守る防衛組織として存在している。ローレンス家のような旧貴族も未だ残ってはいるけど、実権を握っているわけではない。

 

そんな西風騎士団には”ファルカ”という名の大団長がいるのだが、現在は戦力のほとんどを連れて遠征に出ているためまだ会ったことは無い。聞くところによると男の人らしい。

 

ではその大団長が不在の今誰が西風騎士団をまとめているのか、それが代理団長のジンさん。

 

こんな話をするということは、当然目的の人物も...。

 

騎士団本部に入り目当ての部屋の扉をノックする。ちなみに、最近この本部に入るのも顔パスで大丈夫になった。信頼ってすげー!

 

部屋の主から許可を得たので早速入室させていただく。

 

「ジンさん、こんにちは」

 

「ん?...あぁ、千鶴か。久しいな」

 

絶賛デスクワーク中だったらしい。いつ見ても働いてんなこの人。

 

西風騎士団代理団長、本名をジン・グンヒルド。その実力は本物であり、同時に風元素の神の目を授かっている。真面目なうえに頼りになすぎるためか、たくさんの仕事を抱え込んでしまいがちだ。そのせいで一度は過労で倒れてしまったこともあるらしい。

 

ディルックさんもこれには若干呆れているような感じで話していたことを覚えている。

 

「自分から訪ねてくるとは珍しいな。なにか用事でもあったのか?」

 

「仕事の依頼でこっちに来てたんですけど、それも終わっちゃって。せっかくだからみんなに顔でも出しておこうかなと」

 

「そうか。皆も喜ぶだろうな」

 

顔面偏差値バグ勢の一角(自社調べ)としてその名を連ねる彼女だが、やはり日ごろからの仕事詰めでやや疲れが見えている。

 

「もうお昼ですよ?少しは休憩したらどうですか?どうせまだご飯も食べてないんでしょうし」

 

「この書類がひと段落ついたら休憩を取ろうと思っていたところだ」

 

「ジンさんの休憩は休憩とは言いませんからね。たかだか数分の作業停止が休憩になるわけがない」

 

前述の通り、彼女はその真面目な性格故に仕事をやりまくるのだ。璃月で言えば甘雨や刻晴と同列である。はっきり言って異常だ。これには彼女の育ちや信念なんかも絡んでるんだろうし、どうこう言っても変わらない可能性が高いんだけど。

 

「私は大丈夫だ。君の方こそ、璃月から遥々疲れただろう。ゆっくり休んでいくといい」

 

そういって私に休息を勧める。ならばこちらは最強のカードを切るしかないらしい。

 

「あー!!特に深い意味はないけど、バーバラに会いに行く用事思い出したなー!特に深い意味はないけどー!!」

 

「なっ、ちょっと待ってくれ!」

 

途端に焦りの表情を浮かべるジンさん。それはそうだろう。西風教会の牧師であるバーバラはジンさんの生き別れの妹であり、なんやかんやあった関係でギクシャクしがちなのだ。あんま詳しい事情は知らないけど。

 

バーバラもバーバラで、姉との距離感を測りかねている感じがある。姉妹そろって不器用なんだから。長い間離れていたとしても、ちゃんと血の繋がった家族ということらしい。ちゃんと姉妹してるんだよなぁ、この二人。

 

「だったらちゃんと休んでくださいよ。またバーバラに心配かける気ですか?」

 

「...わかった、降参だ。君の言う通りにしよう」

 

「最初からそうすればいいんです。じゃあ引きこもってるリサさん連れてくるんで、ちょっと待っててください」

 

そう言って部屋を出る。目指すは同じ騎士団本部内にある図書館。図書館を内蔵する騎士団って普通に考えてすごい。

 

そんな図書館の主がリサさんだ。私としては、怒らせると怖いお姉さんといった感じ。私は怒らせたことはないけど、笑顔でマジギレしてるところを見たことがある。あの時は、さすがにブルってしまった。

 

「リーサーさーん」

 

図書館に入ってすぐの場所にある定位置に彼女はいた。いつもと同じく完全にだらけきっている。

 

「あら、千鶴じゃない。仕事はもう済んだの?」

 

「おかげさまで。そういうリサさんはそこまで仕事してないように見えますけど」

 

「そう見えるだけよ。図書司書としての仕事を立派にこなしてる最中なんだから」

 

「二百年に一人の天才の名が泣きますね」

 

こんなんでも、スメールの学術院をその名の通り”天才”と呼ばれるに相応しい成績を残して卒業している。見た目では人は判断できないというのは本当らしい。

 

「それで、わたくしになにか用かしら?」

 

「あぁ、そうだった。お茶しましょ、リサさん」

 

「人の職場でデートのお誘い?大胆ね」

 

「なに言ってんですか、ジンさんも一緒ですからね」

 

「つれない子猫ちゃん」

 

サボることに対して一切の躊躇がないリサさんを引っ張り出すのは、文字通り赤子の手をひねるより簡単であった。これでいいのか西風騎士団...。

 

そんなこんなでリサさんを連れてジンさんのもとへ無事帰還。入ってすぐ右手にあるテーブルでティータイムだ。

 

「ジンさんえらいですね。私がいない間に仕事の続きやってるもんだと思ってましたよ」

 

「少しは遠慮というものを覚えたらどうだ?」

 

「ワーカーホリックが治ったら考えます」

 

「ふふっ、仲がいいのね」

 

ジンさんはしっかりティーセットを用意してくれていたらしい。バーバラにチクる必要はこれでなくなったと言っていい。目には目を歯には歯をジンさんにはバーバラを、である。

 

「そうだ、ねぇ千鶴。今日は鴉は連れていないの?」

 

「鴉じゃなくて蒼です。あの子ならもう稲妻に飛ばしましたよ」

 

「残念、わたくしけっこうお気に入りなのに」

 

わかりますよリサさん。あのモフモフ、クセになりますよね。まったく色んな人をたぶらかして、悪い鳥さんだこと!

 

「彼...なのか彼女かは分からないが、人の言葉を理解しているようなそぶりを見せるのが不思議だ」

 

「私ぐらい付き合いが長いと、蒼の考えてることも分かってきますからね。あと一応女の子です」

 

「とても賢いのだな、蒼は」

 

「そりゃもう、自慢の家族ですから」

 

その後は他愛のない会話を続け、気づけば時計は四時を指していた。やはりガールズトークというのは時間の感覚を鈍くする効果があるらしい。ジンさん的には慌てていたけど、こんな時間から仕事を再開しようとするジンさんを二人で押さえ、いい加減休んでもらうことにした。

 

あなた一週間は休暇取っても足らないぐらい働いてますからね?

 

 

 

 

夜。

 

良い子はそろそろお寝んねしている時間だ。こんな時間に起きているのは、悪い子と自立した未成年、それと大人ぐらいだ。

 

昼間とは違ってとても静かなモンド城は、まるで世界に自分だけしかいないかのような錯覚をしてしまいそうになる。

 

これから向かうはこの静けさとは無縁の場所。夜中に真の姿を見せるところだ。

 

遠慮もなしに扉を開けて中に入る。

 

「......はぁ」

 

入ってすぐ目が合った赤い髪の青年に溜息をつかれる。お?こちとらお客やぞ?おうおう!

 

「ここは子供が来る場所じゃないんだ、千鶴」

 

「ディルックさんこんばんは。一応お客さんなんですけど、もう少し接客なんとかならないですかね?」

 

「せめて昼間に来ればいいだろう」

 

「そうしたらディルックさんいないじゃないですか」

 

「僕だって毎日いるわけじゃない。君が来るときに偶然いただけだ」

 

「またまた~」

 

「冷やかしなら帰ってくれないか」

 

これ以上やると怒られそうなので、両手をあげながら自重のポーズ。

 

「...客だと言うのなら早く注文してくれ」

 

「じゃあ、アップルサイダーで」

 

返事はなかったけど、さっそく作業に取り掛かってくれた。

 

「おいおい、俺たちのことは無視か?千鶴。とりあえず座れよ」

 

声をかけてきたのは、西風騎士団で騎兵隊長をしているガイアさんだ。浅黒い肌に眼帯をしたモンドの騎士である。頭脳派らしい。

 

「そうだよ千鶴。酒場に来たらパーっと飲まないともったいないよ?」

 

「あぁ、ウェンティもいたんだ」

 

「君はいつもひどいよね」

 

緑衣を纏った少年...の割には女の子のような見た目の少年、吟遊詩人のウェンティも同時に反応する。初対面の時はまさかお酒が飲める歳だなんて思いもしなかった。いや、これはしょうがないと思うんだ。

 

促されてカウンターに座る。ウェンティを挟んでガイアさんの反対側だ。

 

「得体の知れない人は怖いんじゃないかな?」

 

「酒臭いよりはマシだと思うんだけどな。それに、俺の方がよほど紳士的だ」

 

「子供相手にくだらない言い合いはよしてくれ。...注文のアップルサイダーだ」

 

「ディルックさんありがとう!」

 

仕事でモンドに寄ったときは必ず飲むようにしている。これがたまらんのですよ!

 

「なぁ千鶴、俺たちと一緒にモンドを守る仕事をしてみないか?」

 

「やめておくんだ。ロクなことにならない」

 

「勧誘するぐらい、別にいいだろう?実力は折り紙付きだ。大団長たちが遠征でいない今、騎士団の人手不足は深刻なんだ」

 

「騎士団に入らせるぐらいなら、僕のところで雇うさ。彼女なら多少の運送ならしっかりこなしてくれる上、作物の安全も盤石なものになる」

 

「私のために喧嘩しないで!」

 

一度行ってみたかったこのセリフ。なんだかシチュエーションは全然サマになってないけども。

 

「ぷっ、あっははは!”子供相手に変な言い合いはするな”って言ったのは、ディルックじゃなかったかな?」

 

「...ふん」

 

「まぁ、少しは考えておいてくれよ」

 

そっぽを向くディルックさんに、隣でお腹をおさえながらヒーヒー言ってるウェンティ。

 

「私が騎士団に入ることは多分ないですね。アカツキワイナリーにも。いずれは稲妻に帰るつもりなので」

 

「そういえば、千鶴は稲妻出身だったな。帰る目途はついているのか?」

 

「へ?...あ~、いや...夢はでっかくって言うじゃないですか?」

 

「とうぶん達成できそうにないね、その夢は」

 

「ぐぬぬ...」

 

くそう!そんなこと分かってるわい!ちょっとビビリで及び腰でヘタれてるだけだから!...あっ、もう末期ですね。これ。

 

「璃月にはいつ帰るんだ?」

 

ディルックさんがグラスを拭きながら尋ねる。

 

「ん~、もう少しだけモンドにはいようと思ってますけど、なんでですか?」

 

「君に頼みたい仕事があるんだ。帰る前に屋敷まで来てくれ」

 

「いいですけど、なに運んだらいいんです?」

 

「璃月の商人からブドウを仕入れたいと言われたんだ。飲食店で使うわけじゃないようだから、大荷物にはならないはずだ」

 

「はーい」

 

早くも次の依頼が舞い込んだ。臨時収入ゲットだぜ!

 

酒場で楽しく飲みながら夜は更けていく。まぁ、私とディルックさんはノンアルコールだけど。ワイナリーのオーナーなのにお酒が苦手って、ギャップだね。

 

ちなみに、ジンさんに用意してもらった騎士団の宿舎の部屋にて、帰ってすぐソファで爆睡してしまった。女としての尊厳は蒼に食わせました。悲しい。

 

 

 

 

翌朝、秒でシャワーを浴びてサッパリし、いつもの服へと着替える。

 

「さぁ、今日向かうのは...」

 

アルベドがいるであろう、ドラゴンスパインだ。




ずいぶん日があきました。生きてます(白目)

綾人お兄様のためにケツミドリ2本目確保したんですけど、これで綾人お兄様が片手剣キャラじゃなかったらミーは爆散する。

もうちょっとで現代綾華様出す...予定!


誤字脱字、誤用等の指摘や感想などありましたらお気軽にどうぞ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間 「手紙」

地の文多めです。そして短めです。
どうしても綾華様を登場させたくて突っ込みました。

誤字脱字等ありましたらご指摘いただけると嬉しいです


「お嬢、来ましたよ」

 

良く晴れた日の昼下がり。屋敷の庭から稲妻城を眺めていると、家司であるトーマが私に声をかける。

 

鎧と外国の衣服が混じり合ったような服装をしていて、彼が持つ炎元素の神の目を表したような赤が目立つ。そして、稲妻では珍しい金髪を持っている。何を隠そう、彼は稲妻出身ではなくモンド出身なのだ。

 

「ありがとうございます、トーマ」

 

そんな彼が右腕につけている籠手には、ここ数年で特に見慣れた少し体格の大きい鴉がとまっている。

 

その鴉の足に括り付けられている手紙を片手で器用に外し、渡してくれた。

 

「そら、いい子だ。ちょうど採れたてのスミレウリがあるんだ、一緒に取りに行こうか」

 

なぜだか人の言葉を理解できる蒼という鴉は、トーマの肩に飛び移るとそのまま大人しくついていった。その光景を微笑ましく眺めたあと、手元の手紙に目を落とす。

 

 

” 綾華へ

 

これだけやり取りしていると、段々と書くことが無くなっていくものだとたったいま痛感してる

 

日常のことを書いてもありきたりだし、かといって奇怪な出来事が日常茶飯事で起きても困るんだけどさ

 

そういえば、そっちは目狩り令が撤回されたって聞いたよ。みんな色々奔走したみたいで、とりあえずお疲れ様

 

私の方は相も変わらず、璃月とモンドで仕事の毎日。平凡なのがいいのか悪いのか...って感じ

 

あと、今お世話になってるところに「写真機」っていうのがあるから、今度写真撮って一緒に送るね

 

それじゃあ、また会えるときまでどうか元気で  千鶴より ”

 

 

読み終わり、一息つく。

 

わざわざ手紙で送るような内容ではないけれど、それが書けるということは平穏無事に過ごせているということの証。それを思えばつい笑みがこぼれてしまうというもの。

 

ただ、最後の一文を見て少し溜息も出てしまう。

 

”また会えるときまで”

 

それはいつになるのだろう、その時は訪れるのだろうか。稲妻は鎖国を取りやめ、開国へ向けて動こうとしている。もうあの時の稲妻ではないのだ。あなたを追い詰めた稲妻は、安心して帰ってこられる故郷へとなっている。

 

父親の事件のことも全て調べはついているし、今の稲妻にはあなたをどうこう言う人はいない。そのことを一刻も早く伝えたいところではあるけれど、お兄様はそれを許してはくれない。

 

曰く、『真に千鶴と共に歩んでいくのなら、千鶴自身の決意でもって稲妻に帰ってくるべきだ』と。私と同じようにお兄様も千鶴とは旧知の仲で、事の顛末も当然知っている。

 

ここでこちらから手を差し伸べてしまえば、千鶴の心の成長には繋がらないということなのだろう。千鶴が心配なのはお兄様も同じだけれど、だからこそ今はじっと待つべきなのだ。

 

千鶴が稲妻に帰ってきたとき、心から迎えられるように。

 

...頭ではわかっていても、やはり会いたい気持ちは日を重ねるごとに膨らんでいく。手紙でのやり取りだけでは、そろそろ満足できなくなってきているし。

 

だから、早く帰ってきて。元気な姿を、あの弾けるような眩しい笑顔を、もう一度私に見せて、千鶴...。

 

「まだここにいたんですか?お嬢。なにか考え事でも?」

 

蒼のお世話を一旦終えたであろうトーマが帰ってくる。彼の口ぶりから察するに、自分で思っている以上の時間をここで過ごしていたらしい。

 

「...いえ、手紙の返事をどうしようかと考えていたところです。最近の稲妻は色々ありましたから、書くことがたくさんありそう。ふふっ、今回はどのくらいの量になってしまうのかしら」

 

 

 

屋敷の中へと戻っていく綾華を見送りながら、トーマは思う。考え事の内容は、十中八九例の少女のことであろうと。

 

会ったことはないが、綾華の口から頻繁に出てくる”千鶴”という名前。数年前に稲妻から去っているということや、その他に多少の事情も聞いている。

 

蒼という鴉が運んでくる手紙を中継する役を担っているが、手紙の内容までは知り得ていない。

 

千鶴という少女が稲妻に帰ってきたときは、是非とも話してみたいものだとトーマは少しばかり口角を上げる。

 

「お嬢のマル秘エピソードとか、あわよくば聞いてみたいね」

 

呟きながら自らの仕事に戻る。

 

 

こうして今日も、平和な日常が過ぎていく。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。