【新装版】GR:DED (雁野 命)
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プロローグ

今作からは実験的に各話のあとがきにちょっとした解説をつけています。

読まなくても本編に影響はありませんが、作品への理解を深めてみたい方は是非ご覧ください。


夜、現代日本の首都である東京と言えどもこの時間であれば人気(ひとけ)のない場所は存在する。例えば森や山、そして廃墟である。特につい半年前に特定特異災害──ノイズによる事件が起こったドームとなればなおさらである。しかし、本来なら静寂に包まれているはずのこの場所には鉄火場を思わせる剣(げき)の音が響いていた。

 

まず目に入るのはライダースジャケットを着た燃える骸骨であり、それに対して剣を振るっているのはマゼンタと銀で彩られた仮面の戦士──仮面ライダージオウ。明らかに疲(へい)しつつも異形と相対するその姿はまるで特撮番組のワンシーンのようであった。

 

「……っ!?くそっ!何なんだ、コイツ!アナザーゴーストの亜種か何かか?!」

 

その姿の異様さに一度、反射的に距離を取るジオウだったが、それでも異形に動きは見られない。異形の姿は傍目(はため)に見れば隙だらけにしか見えないが、攻めあぐねているジオウからすればむしろ何かを待っているようにさえ見えていた。

 

「──けど、倒すだけなら!」

 

『フィニッシュタイム!』  

 

短い時間ではあったが、ジオウにとっては永遠にも思える睨み合いの中、膠着(こうちゃく)した状況を打開するべくベルトを一回転させたジオウは必殺技のために飛び上がる。

 

「こいつで──」

 

『タイムブレーク!』

 

「──どうだぁー!」

 

異形の周囲に浮かぶキックの文字をエネルギーとして右足に収束させてライダーキックを放つ必殺技タイムブレーク。轟音とともに放たれるその強烈な一撃は確実に異形を粉砕する──はずだった。

 

「これで全てか?」

 

「……え?」

 

放たれた必殺の一撃は異形の左腕によっていともたやすく防がれていた。あまりの事態に困惑したジオウは思考が停止して動けないでいた。

 

「では、こちらの番だ」

 

事態を把握出来ないままのジオウだったが、それよりも早く動いた異形はフリーになっている右手でジオウの足を掴んで持ち上げる。

 

「ちょっ、まっ──ぐぇっ!」

 

異形はそのまま流れるような動作で混乱したジオウを地面に叩きつけると轟音と共に地面が凹み放射状の亀裂が走る。

 

「……ゲホッ、ガハッ」

 

「まだだ」

 

ジオウが仰向けに倒れたまま動けずにいることからもその衝撃がうかがい知れるが、間髪入れず炎を纏った異形の右の拳がジオウの胸部めがけて叩きつけられる。

 

「ぐげぇっ!」 

 

二度目の衝撃で亀裂が広がり地面が周囲に瓦礫が飛散する。衝撃とダメージで動けずにいるジオウの姿は周囲の惨状と相まって打ち捨てられた玩具のようだった。

 

「……う……あ……」

 

「まだだ。俺の怒りはこんなものじゃない」

 

もはや立つことさえ叶わなず後ずさりもできないジオウに対し、悠然と近づいた異形は片手でジオウの首を掴んで持ち上げる。

 

「ぐぇっ……く、くそ……お、お前は、一体……」

 

「……最後に教えてやる。俺はアナザーゴーストでも、仮面ライダーでもない──」

 

「う、うわぁぁぁーーー!!」

 

異形の手から放たれる獄炎が広がりジオウの全身が燃え上がる。異形は無造作に手を放すとその場に崩折れたジオウには目もくれず振り向いて数歩進む。そのまま右手をかざし円を描くと何もない空間に異形が通れそうな大きさのゲートが開いた。

 

「俺はゴーストライダー。転生者(お前たち)を狩るものだ」

 

異形──ゴーストライダーがジオウを一瞥してゲートをくぐると空間が閉じる。そして、後には壊れた地面と灰の山が残されたのみであった。

 




●解説
・最初の世界
シンフォギアの世界にジオウがいる程度の設定しか決まっていませんが、一応、敵はアナザーライダーであることとライドウォッチの入手方法は決まっています。

●プロローグ転生者について
常葉修吾(ときわ しゅうご)(17歳/男)
・ジオウ転生者の少年でシンフォギアの世界でS.O.N.G.の一員として活動しようとしていたが、本編開始前に殺される
・その世界では原典のイベントを終わらせるといつのまにかライドウォッチが出現する仕組みになっていた
・何かのライドウォッチを持っていたが、使いこなす練習もしていなかったため、使っても勝てなかった可能性が高い
・冒頭でやられる捨てキャラのため、これ以上の深い設定はない


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Vol.1:Knight of Gilt
#01


住宅街から少し離れた公園。当然、夜になれば人気のなくなるこの場所に一人の少女──市ヶ谷有咲(いちがやありさ)が特徴的なツインテールを揺らして駆け込んできた。公園の真ん中まで進み、息を整えながらもしきりに背後を気にする様子は何かから逃げているようにしか見えなかった。

 

「ゼェ、ハァ……こ、ここまで、ハァ、来れば──」

 

大丈夫、と言いかけたところで背後にドスン、と重い物──例えば人間ぐらいの──何かが落ちたような音がした。音だけならまだしも何者かの気配を感じた有咲は祈るような面持ちで恐る恐る振り返る。

 

「──ひっ!?」

 

いた。悪魔のような見た目をした怪物が、甲高く(おぞ)ましい咆哮(ほうこう)のような奇声を上げる。その距離、およそ5m。人間相手ならば逃げられなくもないが、相手がこの世の道理の外にあるであろう怪物であればそれも怪しい。

 

「……は、はは」

 

そればかりかここまでの逃走で体力を消耗し、怪物に怯え完全に足の(すく)んだ彼女には尚更、難しい話である。

 

(……何だ、コレ。生徒会で遅くなっただけなのに、急に怪物に追いかけられるとか……もしかして夢だったり──)

 

悲鳴を上げることすら頭にないのか、恐怖と混乱で青ざめた顔のまま立ち竦んでいる有咲に対して怪物がにじり寄る。

 

「ひいっ!?──っ痛、やっぱ夢じゃねー!?」

 

突然のことに驚き有咲は反射的に数歩後ずさりしたところで足がもつれて転んでしまう。痛みで正気に戻ったが、腰が抜けてしまった状態ではどうすることもできず、徐々に近づいてくる怪物に怯えることしかできない。

 

(ヤバい、絶対ヤバい!でも、どうしろってんだよ~!)

 

咄嗟(とっさ)に周囲を見渡すが、どこにも人気はなく、状況を打開してくれるものは見当たらない。戻した視線が怪物と合うとその瞬間、表情のわかりにくい怪物がニヤリ、と笑ったように見えた。

 

(あぁ、みんな悲しんでくれるかなぁ。うん、香澄(かすみ)は泣くな、絶対。りみなんかも号泣しそうだし、紗綾(さあや)もなんだかんだで泣きそうだなぁ。おたえも……ま、まぁ、流石に泣く、よな?つか、ばーちゃん、これから一人で大丈夫かな?……いや、ダメだ、まだ死ねない!)

 

一瞬、諦めかけるが、最後の抵抗のつもりか有咲は涙目になりながらも睨みつける。

 

「ち、ちくしょー!!こんな所で死んでたまるかー!!」

 

精一杯の虚勢で叫ぶ有咲に対して怪物は甲高い叫び声を上げて飛びかかる。

 

「~~っ!?」

 

反射的に目をつぶった有咲は衝撃を覚悟した。しかし、予想していた衝撃はなく、代わりに正面からドン、と何かを突き飛ばしたような衝突音と遠ざかる苦しそうな叫び声に違和感を覚えた。

 

「大丈夫か?」

 

「──えっ?」

 

正面からかけられた労わるような声に恐る恐る目を開ける有咲。そこには白いコートを着た少年が手を差し伸べて立っていた。よく見ればその背後、5mほど先に怪物らしき姿が転がっているのが目に入った。

 

「怪我はなさそうだけど、立てるか?」

 

「えっ、と……す、すいません。こ、腰が抜けちゃって」

 

すぐには状況が呑み込めない有咲だったが、自分を助けてくれたと思しき少年の手を借りてなんとか立ち上がる。

 

「あ、あの!ありが──」

 

「気を抜くな、勇牙(ゆうが)!」

 

「ぬあっ!?指輪がしゃべった!?」

 

「わかってるよ、ザルバ。キミ、危ないから下がってて」

 

驚く有咲を庇うように勇牙と呼ばれた少年は怪物の転がっていった方へ向き直る。それにつられて有咲も目を向けると先ほどの怪物が立ち上がっている姿が見えた。勇牙に対して睨みつけるような視線を向ける怪物は獲物をとられた怒りか、はたまた敵対者に対する防衛本能からか大きく咆哮を上げて飛びかかった。

 

「危ないっ!!」

 

「させるかよ!」

 

勇牙は白いコートの裾を(ひるがえ)すとどこからか取り出した鍔のない赤鞘の長剣──魔戒剣(まかいけん)を突き出して飛びかかってきた怪物を突き飛ばす。鞘のままとはいえその鋭い突きを受けた怪物は先ほどの位置まで吹き飛ばされていた。

 

「……すげぇ」

 

「まだまだ、こんなモンじゃないぜ」

 

感嘆する有咲に気をよくした勇牙は得意気に鞘に入ったままの魔戒剣をクルクルと回して見せる。戦いの場においては油断にしか見えない無駄な動きではあったが、その動きが洗練されたものであることは素人である有咲の目にも明らかであった。

 

「おい、素体相手とはいえ油断しすぎだぞ!」

 

「大丈夫だって、あれぐらいなら片手でだって──」

 

「あ、前、前!!」

 

「へ?」

 

勇牙の左手に()められたスカルリング──ザルバの忠告もどこ吹く風と聞き流す勇牙だったが、有咲の声に前を向くと素体と呼ばれた怪物が公園の外へ飛び去って行く所だった。

 

「あぁーー!!」

 

「ハァ、だから言わんこっちゃない」

 

「……何なんだよ、この状況?」

 

どうすっかなー、頭を抱える勇牙とそれを見て呆れるザルバ。命を狙われた恐怖と目の前のコミカルなやりとりとのギャップについていけず混乱するばかりの有咲だったが、あ、と声を出して急に顔を上げた勇牙と目が合う。

 

「ところで、キミ、大丈夫──って、もしかして生徒会の市ヶ谷有咲?」

 

「え?はい、そうですけど──って、この間、職員室であった、えぇーっと……」

 

「あー、そういえばちゃんと名乗ってなかったな」

 

落ち着いてみれば面識のある人物だったことに驚く二人だったが、名前を思い出そうと努力する有咲に対して申し訳なさそうな表情になった勇牙は改めて向き直る。

 

「俺は3年A組の冴島(さえじま)勇牙。そして──」

 

「そして、またの名を黄金騎士(おうごんきし)・ガロ!で、俺様がお目付け役のザルバだ」

 

「黄金騎士……ガロ……」

 

「おい、俺のセリフをとるなよ、ザルバ」

 

「いや、これは俺様のセリフだろ」

 

ああだこうだとザルバに文句を言う勇牙だったが、ガロの名を噛みしめるようにつぶやく有咲を見てうーん、と唸ると一度ため息をつく。

 

「あの、どうかしたんですか?」

 

「あー、いや、流石にこのまま返すのは危ないかなー、と思ってさ」

 

「あ、危ないって……?」

 

「違う違う、流石に放り出したりしないって!そうじゃなくて、有咲さえよければ家まで送ろうか、って話だよ!」

 

危ない、と言う単語を聞いて大きく反応した有咲の表情が青ざめていることに気づいた勇牙は身振り手振りを交えて慌てて訂正する。

 

「……へ?な、何だ、脅かすなよ~~!って、すいません、先輩にタメ口とか失礼でしたよね?」

 

「いや、そっちの方がしゃべりやすいなら、俺は構わないけど…ははっ」

 

「あの~、私、何か変なこと言いましたか?」

 

安心したのか砕けた口調になったことで逆に慌てる有咲だったが、急に笑いだす勇牙に不安げな視線を向ける。

 

「いや、思ったよりフランクと言うか荒っぽい感じだなー、と思ってさ」

 

「ぬあっ!?こ、これは、その~クセ、と言うか何というか……」

 

「ところでお二人さん、いつまで立ち話をしているつもりだ?」

 

あはは、と照れくさそうに笑ってごまかす有咲に内心でほっとしている勇牙。そんな二人を見かねたザルバの言葉に勇牙は、あー、と小さく唸った。

 

「……それもそうだな。んじゃ、家まで送るよ」

 

「あー、そう、ですね。その、お願い、します……ん?つーか、何で指輪がしゃべってんだよ!?」

 

異性に送ってもらう、と言うなれないシチュエーションに一瞬、意識してしまう有咲だったが、それよりもしゃべる指輪という非常識にツッコミを入れる所が彼女らしいとも言える。

 

「おいおい、今更かよ?」

 

「まぁ、それは道すがら話すよ。それじゃ、遅くなると親御さんも心配するだろうし、早く行こうか。」

 

勇牙に促されて公園を出て帰途へと就く二人。だが、遠ざかっていくその後ろ姿を物陰から風に舞う灰とともに見つめる怪しげな人影に気付くことはなかった。

 




●#01解説
・時系列
アニメの2期ぐらいのタイミングをイメージしていますが、具体的な時期は決めておらず、春から初夏にかけてのどこかと考えています。

・ガロ転生者
冴島姓が多いため、今作でもそちらを採用しました。典型的なガロ転生者のイメージで本質的に魔戒騎士としてズレているところがポイントです。

・風に舞う灰
この素体ホラーの出番はここで終わることを示す一文です。やった人間についてはのちのエピソードにて語られます。


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#02

誰しも人生で一度は聞いたことがあるであろうチャイム音が鳴り響き本日の授業が終わったことを告げる。HR(ホームルーム)も終わりそれぞれ放課後の自由な時間を過ごすために動き始めていた。そんな中、一人浮かない顔で生徒会室へ向かう有咲の姿があった。

 

(うぅ、生徒会、入んなきゃよかったかもなぁ)

 

昨晩の非日常的な体験のせいか一人で行動することに抵抗のある有咲だったが、一人が怖いから着いて来てほしい、などと気軽に友人に言えるほど単純な思考回路はしていないことも事実であった。

 

(それに、あんな話を聞かされたらなぁ……)

 

心なしか青い顔をしながらふと手元を見ると昨晩はなかった銀製らしき指輪が小指に嵌まっていたことから、それを渡された際に聞いた突拍子もない話を思い出すのだった。

 


 

「ホラー?」

 

「そう、魔獣ホラー、それが奴らの名前だ。陰我(いんが)、まぁ、いわゆる邪念が溜まった物をゲートにして現れ人を食らう怪物だな」

 

公園を出た直後に始められた説明に、ふーん、とおっかなびっくりと言った様子で周囲をうかがいながら気のない相槌を打つ有咲を見て勇牙とザルバは苦笑する。

 

「何だ、嬢ちゃん、まだビビってるのか?」

 

「ぬおっ!?ビ、ビビってねーし!あと、急にしゃべんなよ!びっくりするだろ!」

 

ザルバがしゃべったことで予期せぬところから聞こえた声に驚き、小さく飛び上がった有咲に勇牙は少し申し訳なさそうな表情になる。

 

「あ、そういえば、先輩のことは何て呼べば?」

 

「あー、まぁ、名前でも苗字でもいいけど、名前の方が好きだな」

 

「そうですか?じ、じゃあ、勇牙先輩、でいいですか?」

 

「オッケー、それでいいよ。あと、なんとなく名前で呼んでたけど、大丈夫だった?」

 

「え、っと、まぁ、大丈夫、です、はい」

 

うぅ、なれねぇー、と文句をこぼしつつも有咲は一度、深呼吸をして気持ちを落ち着けると目線で続きを促す。

 

「それじゃ、次は魔戒騎士(まかいきし)の話だ。俺たち魔戒騎士は人々を守るために日夜ホラーと戦っている。んで、そのために使っているのが──このソウルメタル製の剣、魔戒剣だ」

 

言葉を切った勇牙は白いコートの裾を翻すと魔戒剣を取り出し、鯉口を切って少しだけ刃を見せる。

 

「これが、魔戒剣?何か、見た感じ包丁とかとあんま変わんないような……」

 

「いや、包丁って……あ、言っとくけど、()()()!ソウルメタル製の武器に触らないように」

 

勇牙は不用意に近づいた有咲から魔戒剣を遠ざけつつ念を押すように、絶対、の部分を強調する。

 

「え?何でですか?あ、もしかして、めちゃくちゃ高い、とか?」

 

有咲のあんまりな物言いにズッコケそうになる所を必死にこらえる勇牙の姿にザルバは呆れつつも笑いをこらえていた。

 

「えぇー……いや、まぁ、それなりに貴重なのは確かなんだけど、基本的に訓練しないと重くて持ち上げることも出来ないんだよね」

 

「重い、ってどれぐらいなんですか?」

 

「えーっと、人や状況によって違うけど、最大でクレーン車のアームが折れるくらいかな?まぁ、そういう訳で、うっかり落とすと人間の骨ぐらいは簡単に折れるから、気を付けてくれると助かるかなぁ」

 

「うえっ!?何て武器使ってんだよ!あぶねーじゃねーか!!」

 

俺に言われてもなぁ、と魔戒剣をしまいながら頭を掻く勇牙だが、何の気なしに目の前で振り回されていた物がそんな危険物だったことを後から聞かされた有咲の気持ちを考えればその反応も仕方がないと言える。

 

「んじゃ、次は俺様の番だな」

 

「お、おう。えーっと、確か、ザルバだっけか?」

 

三度目ともなれば流石に慣れたのか、急にしゃべり始めるザルバにも戸惑いながらも何とか対応する有咲。

 

「そう、俺様は魔導輪(まどうりん)ザルバ。ま、この未熟な黄金騎士様のお目付け役、ってところだな」

 

「未熟は余計だっつーの」

 

カチャカチャと音を立てながら得意気にしゃべるザルバの姿を有咲は好奇心を抑えつつまじまじと見ていた。

 

「な、なぁ、コレって生きてんの?」

 

「あー、まぁ、生きてる、と言えば生きてるか」

 

へぇー、と返事をしつつザルバを指で突くぐらいには緊張の解れた様子の有咲に勇牙はこれを頃合いと見てザルバに目配せをする。

 

「そうだ──なぁ、有咲、ちょっとザルバの前に手を出して」

 

「へ?こんな感じ?」

 

何の疑いもなく出した有咲の掌にザルバの口から細く短い銀のような流体の金属が吐き出された。

 

「ぬあっ!?気持ち悪っ!」

 

反射的に金属を振り払おうとする有咲だったが、それより早く動き出した金属は有咲の左手の小指に巻きつくと、シンプルな指輪の形に落ち着いた。

 

「どうなってんだコレ!?」

 

「それはザルバの一部で作られた指輪だ」

 

「いや、一部、っつーか、目の前で吐き出されれば誰でもわかるわ!!」

 

しかも外れねー!と騒ぐ有咲は大して窮屈でもない指輪がびくともしないことに困惑する。

 

「いいから、聞いてくれ。それがあれば有咲の近くにホラーが来ると俺に伝わるようになってる。まぁ、警報装置の類だな」

 

「へー……って、そんなの貰っていいんですか!?」

 

「いいに決まってるだろ。俺は守りし者だからな。ホラーに狙われている人を守るためにはこう言うやり方も必要なのさ」

 

「……あ、ありがとう、ございます……」

 

屈託のない笑みを浮かべる勇牙にどことなく照れ臭さを感じながら、小さな声で礼を言う有咲。二人の間に気恥ずかしい空気が流れるが、ふと前を見た有咲の視界に見慣れた自宅の門が目に入った。

 

「あ……ここが私の家なんで、もう大丈夫、だと思います」

 

安心するはずの家の前でどこか寂しさを感じる有咲は自然と声のトーンが落ちる。それを見た勇牙は何を思ったのか有咲の肩に手を置いてもう一度笑顔を見せる。

 

「うえっ!?あ、あの?これは、どう言う……?」

 

「大丈夫!」

 

「はい?」

 

思っていたより近い距離にしどろもどろになる有咲だったが、突然の勇牙の一言にきょとんとした表情になる。

 

「俺が──黄金騎士・ガロが絶対に有咲を守るから」

 

「──っ!?ま、真顔で恥ずかしいセリフ言うな!……でも、あ、ありがと……そんだけだ、じゃあな!」

 

まっすぐな勇牙の言葉に真っ赤になりながらもとりあえずの感謝を告げた有咲は脇目も振らずに家へと駆け込んだ。

 




●#02解説
・説明回
ホラーやガロに関する基礎知識がない方向けの説明が中心の回です。原典のエピソードを軸に設定を説明するのは楽しくてつい文章量が増えそうになります。

・魔戒剣の説明
現在では修正されていますが、初期版では資料の混同で説明を間違えていました。初期版を掲載する予定はありませんが、自戒のためにデータは残しています。

・時々挟まれるラブコメ
二次創作に多々ある謎のラブコメシーンの再現です。個人的に書いてて気持ち悪くなりましたが、この転生者を表現するには必要なので無理やり書き上げました。


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#03

「うあぁ~……なんであんな風になっちゃったかなぁ」

 

思い返しているうちに所用を済ませた有咲は生徒会室を出た辺りで昨晩の自身の失態を強く恥じていた。うっすらと頰を赤らめながらああでもないこうでもないと頭を抱える姿は側から見ればいささか滑稽(こっけい)ではあるが、本人にとっては重大な問題である。幸い近くに人もおらず、すぐに気を取り直したため、恥の上塗りをすることはなかったのがせめてもの救いだった。

 

「──っと、そうだった、そろそろ帰んないと」

 

何とか気を取り直した有咲はカバンを背負い直しながら昨晩の件で祖母を心配させたことを思い出し、帰途に就くために急いで下駄箱へ向かう。一応、周囲を窺いながら靴を履き直し外へ出ると校門の辺りに目立つ白コートの青年が目に入った。

 

「……勇牙先輩?」

 

「おー、遅かったな……って、どうかしたのか?」

 

「う~ん?いや、なーんか昨日見た感じとちょっと違う気が……?」

 

こちらを見つけて軽く手を振る姿に安堵と軽い緊張を覚えた有咲だったが、昨晩よりもやけに目立つ白いコートに違和感を感じる。

 

「それは俺様たちの事情を知っているからだな」

 

「?どう言うこと?」

 

「さぁ?」

 

訳知り顔のザルバの言葉によくわからないと言った表情を浮かべる有咲。ちらりと勇牙を見やるが、彼も心当たりはないようだった。

 

「魔戒騎士の着る霊獣の毛皮で作られたコートには事情を知らない一般人に対して印象を薄くして目立ちにくくする効果がある。つまり、お嬢ちゃんが俺たちの存在を認識しているから、その効果が効かなくなった、って訳だ。」

 

「あー、何か昔そんな話を聞いた気がするかも」

 

「頼むからこれぐらいは覚えておいてくれよ、黄金騎士サマ」

 

気を付けとくよ、と悪びれる様子のない勇牙は背を預けていた校門から離れると敷地の外へ歩き出す。

 

「じゃ、送っていくよ」

 

「へ?あ、あの、いいんですか?」

 

有咲の返答代わりの質問に対して何が問題かわからないと言いたげな表情で振り向く勇牙とその裏でザルバは呆れたように小さくため息を()く。

 

「うん?何か問題でもあったか?」

 

「いや、あの、ホラーを探したりとか、パトロールみたいなのとかで忙しいんじゃないかな~って……」

 

照れ隠しではなく本当に申し訳なさそうな有咲の姿に、自分が何かしたのかと不安だったのか内容を聞いた勇牙の表情は途端に明るくなった。

 

「あー、そう言うことか。今のところザルバの探知には引っかかるホラーはいないし、基本的にホラーは夜にしか活動しないから、今の時間なら大丈夫。それに──」

 

「それに?」

 

意味ありげに切られた言葉をオウム返しする有咲と彼女に向き直る勇牙。その瞳はまっすぐに有咲を見ており、首を傾げている有咲と目が合った。

 

「それに、俺は有咲を守るって言っただろ」

 

「──っ!?ま、またそれですか……でも、わかりました。そんなに言うんならお願いします」

 

「はい、お願いされました」

 

昨晩のやり取りの焼き直しのような状態ではあったが、照れながらもなんとか返答を返す有咲は少し早足になりながらも軽い足取りで帰途に就く。そして、それに続く勇牙もその後ろ姿はどこか楽し気であった。

 


 

「(……気配も感じ取れぬとは……)」

 

同時刻、昨晩から勇牙を監視しているゴーストライダーは遠くで有咲と談笑する勇牙に対して呆れ果てていた。だが、それもそのはずである。力を持つ者が人を守るのは当然だが、調子に乗っていて目の前の敵を逃がしてしまったばかりか、自らの倒すべき相手を倒されていることにも気づかずに談笑を続けているからだ。

 

あまつさえ、気配を隠しているとはいえ、ゴーストライダーの姿どころか気配にも気づかない、となれば彼の言葉通り戦士としては未熟であると言わざるを得なかった。

 

(いや、奴の出自からすれば当然だろう)

 

「((しか)り。だが、あの為体(ていたらく)では(いず)れ終わりは見えて来よう)」

 

それに答えた彼にのみ聞こえる暗く冷たい声は勇牙たちの監視を続けるゴーストライダーの内から響いていた。当然のように返すゴーストライダーだが、その声は未熟な黄金騎士の姿への哀れみが見て取れるようであった。

 

(そうだ。偽物は所詮(しょせん)、偽物に過ぎない、ということだ)

 

それに対して冷たく吐き捨てるように返したもう一つの声には勇牙に対する呆れが感じられたが、その奥には勇牙だけでなくここにはいない誰かに対しても抱いている隠し切れない強い憎悪を滲ませているようにも聞こえていた。

 

「(()れば、()()の為すべき事は(ただ)一つだ)」

 

(ああ、その通りだ)

 

静かに告げるゴーストライダーに同意するもう一つの声。そして、勇牙が有咲を送り届けたことを確認したゴーストライダーは宣言の通り次の行動に移るのであった。

 




●#03解説
・百面相
元々ツッコミ系の有咲は百面相が似合うキャラだとは思いますが、今作では非日常に巻き込まれているため、意図的に表情や感情のふり幅を大きくしています。

・霊獣のコート
魔戒騎士の象徴ですが映像作品ではあまり説明されず、細かい効果は解説本などで説明されているようです。

・ゴーストライダー登場
ここで言っている通り#01でホラーを討滅したのはゴーストライダーです。このシーンはわかりやすさを重視して新装版用に新たに書き下ろしました。


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#04

「それじゃ、有咲、また明日な」

 

「え!?あ、はい。それじゃ、また、明日……」

 

有咲が照れくさそうにしながら家に入るまでを見届けた勇牙はあふれんばかりの笑顔を浮かべていた。調査のために昨晩の公園に向かうその足取りは軽く、少し車道を歩いていたせいで背後からくるバイクにクラクションを鳴らされても笑顔で道を譲る姿は傍目にも浮かれていることが一目でわかるようだった。

 

「おい、勇牙、お前さんちょいと浮かれすぎだぞ。それに、あのお嬢ちゃんに肩入れしすぎじゃないか?」

 

「え?そうかな?」

 

別に普通だと思うけどなぁ、と悪びれる様子もなく忠告などどこ吹く風な勇牙に対してザルバはため息を吐く。

 

「まぁ、別に誰かを好きになるな、とは言わんが、黄金騎士としての自覚を忘れてもらっちゃ困るぜ?」

 

「……わかってるよ。俺だって、守りし者、だからな」

 

やることはやるさ、と軽く伸びをする勇牙は公園についたことでその意識を切り替える。多少日は傾いているが、いまだ夕日のさしている公園は人気がないだけで妙な不気味さを感じさせるようだった。

 

「で、ザルバ、反応はあるか?」

 

「……いや、ここにいたことは確かだが、あとは何も感じないな」

 

うまく隠れたもんだ、と感心したような態度のザルバに今度は勇牙が呆れてしまうが、予想していたのか、一度、ため息を吐くと即座に思考を切り替える。

 

「んじゃ、次はゲートを探すか。たしか、有咲はコンビニのあたりから視線を感じた、って言ってたよな?」

 

有咲の証言を思い出しながらコンビニがある方角にザルバを向ける。

 

「ふむ。確かに気配はそっちからだな」

 

「よし、日が落ちる前に見つけたいから、少し急ぐぞ」

 

「お前さんの趣味に付き合ってなければもっと時間があったんだがな」

 

「……うっさい」

 

ザルバの小言に言い返せない勇牙が走りながら周囲を見てみるが、特に手掛かりになりそうなものも見つからないまま目当てのコンビニが近づいていく。

 

「……まいったな。おい、勇牙、こうなったら法師の力を借りるしかないかもしれないぞ」

 

「──いや、そうでもなさそうだ」

 

焦った様子のザルバに対して何かを見つけたのか勇牙の足が止まった。その目線を追うとコンビニの近くでチラシを配っている青年の姿が目に入る。

 

「あの人間がどうかしたのか?」

 

「あのチラシ、多分、尋ね人だ」

 

白のワイシャツにジーンズのいかにも大学生といった格好の青年だが、その様子からは焦りのようなものが見えており、風に流されて足元に来たチラシを見ると高橋という青年を探しているようだった。

 

「なるほど。確かにこの事件がホラーのものなら、ここもヤツの狩場かもしれないな」

 

「そう言うこと」

 

感心したようなザルバの言葉に得意顔で返す勇牙。しかし、急にザルバがトーンダウンする。

 

「だが、これがホラー絡みかどうかわからないぞ?」

 

「それなら、もうすぐ確認できるかもな」

 

「何?それはどう言う──」

 

「あの、すいません」

 

ザルバと小声でしゃべっていた勇牙が声をかけられて見ていたチラシから顔を上げると、チラシを配っていた青年が目の前に立っていた。

 

「今、そのチラシを見ていたと思うんですけど、はっしー……ええと、高橋について何か知ってるんですか?」

 

「いや、特に何か知ってる訳じゃないんですけど、何があったんですか?」

 

一瞬、青年の表情が曇るが、気を取り直したのか持っていたチラシを一旦脇に抱えて勇牙の方へと向き直る。

 

「まずは、自己紹介から。僕は外狩(とがり)、近くの大学に通ってる3年なんだけど、友達の高橋と2~3日前から連絡が取れなくてね。こう言う人なんだけど、見覚えないかな?」

 

説明を終えた外狩は、一度、言葉を切ると脇に抱えていたチラシを一枚取り出して勇牙に見せるが、当然ながら見覚えはない勇牙は首を横に振る。

 

「と言うか、2~3日連絡がつかない、なんて人によってはそんなに珍しいことじゃないと思うんですけど?」

 

当然の勇牙の疑問にザルバも内心でうなずいていたが、外狩は静かに首を横に振る。

 

「いや、はっしー……高橋はまじめな奴でこれまで講義に一度も遅刻したことすらないんですよ?それに、バイト先のこのコンビニにも来ていないみたいで……店長も不思議がっているんですよ」

 

静かに力説する外狩の姿に真剣さを感じた勇牙は一度、腕を組んで悩む姿勢になる。

 

「う~ん……わかりました。ちょっと俺も調べて見ますから、何かわかったら外狩さんに連絡します」

 

「本当かい?!ありがとう、えっと──」

 

「あー、名乗ってませんでしたっけ。俺は花咲川高校3年の冴島勇牙です、よろしくお願いします」

 

初めて安堵の表情を浮かべた外狩に対して自己紹介とともに右手を差し出す勇牙。慌てて握手を返しつつ、外狩は取り出したスマホに勇牙のことをメモする。

 

「冴島、勇牙君……か。それじゃ、僕はこれから一度大学の方に戻るけど、何かわかったらチラシに書いてある僕の番号に連絡してくれるかな?」

 

「はい、それじゃ、外狩さん、くれぐれも気をつけて」

 

「うん?なんだかわからないけど、注意しておくよ。それじゃ、勇牙君も気を付けて」

 

外狩は最初にチラシを配っていたあたりに置いていたリュックにしまうと、駐車スペースにあるバイク──勇牙には知る由もないが、VMAXと呼ばれる大型バイクのカスタムモデルである──に乗って去っていった。あっという間に姿が見えなくなると呆れた様子のザルバのため息が聞こえた。

 

「どうした、ザルバ?」

 

「……どうしたもあるか。最後のアレはなんだ?あの男がお人好しだったからよかったものを、普通なら警戒されて面倒なことになっていたぞ?」

 

「大丈夫だったから、別にいいだろ。それに、危なそうな人間に警告するのも魔戒騎士の仕事、だろ?」

 

「……まったく、ここまで口の減らない黄金騎士は前代未聞だぞ」

 

相変わらずのザルバの小言にあからさまに嫌な顔で屁理屈をこねる勇牙。やいのやいのと店の陰で小声で言い合いをする二人だったが、店の裏手に来たところでピタリと止まる。

 

「なあ、ザルバ、この邪気は……」

 

「あぁ、どうやらそこにゲートがあったみたいだな」

 

流石と言うべき切り替えの早さで二人が見た先にはフェンスで囲われた中にある室外機の陰、外からすれば死角になる場所に古びたキーホルダーが放置されていた。

 

「こっちは間に合いそうだな」

 

ザルバが言うが早いか魔戒剣を取り出した勇牙がキーホルダーから出てきた邪念のようなもの──陰我を断ち切ると、その場に漂っていた不快感が霧散したような感覚があった。

 

「だな。さて、次はどうするかなぁ……」

 

先ほどの鋭さはどこへやら気の抜けた様子の勇牙は頭を掻きながら周囲を見渡すと手掛かりを探すべく、ザルバを地面に向けながら歩き始めるのだった。

 




●#04解説
・浮かれる転生者
真面目に仕事をしているように見えますが、本来なら夜のうちに有咲の記憶を消すのが正しい魔戒騎士の行動です。それ以外の仕事についてはのちのエピソードで語られます。

・通り過ぎるバイク
わざわざ書いてあることには意味があります。今回の場合は監視しているゴーストライダーがバイクで先回りしていることを示すための描写でした。

・外狩登場
あらすじからわかると思いますが、この時点では描写していないため、あくまで一般人として書いています。バイクについては元々車種は設定していたため、ここで描写することにしました。

・ゲートと陰我
彼が見つけたゲートは邪気が残っているため、今回の素体ホラーとは関係ない物である可能性が高いです。陰我と邪気は厳密には別物で邪気はホラーの気配と考えるとわかりやすいかもしれません。


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#05

「(……此れだけ時が有っても何も感じぬとはな……)」

 

(当然だ。奴には注意力どころか実力も覚悟も足りていない。魔戒騎士としては未熟どころか失格としか言えんな)

 

あれから数日、勇牙の監視を続けるゴーストライダーは嘆息(たんそく)まじりの呟きを漏らすが、呆れと哀れみの混じったその声に対して返答もう一つの声にはそれ以上の失望と怒りの籠っていた。だが、そう思うのも無理はない。彼らの言葉通り、勇牙が監視していた彼らに気付くことは一度もなく、現れるはずのホラーのほとんどを彼らが倒していたからだ。

 

(陰我も払わずホラーも討滅しないとは……よくもまぁ、今まで無事だったものだ)

 

本来、ゲートを作らないために街中を巡回するのが魔戒騎士としての普段の業務であり、常日頃から邪気を気にして周囲を警戒するのは当然のことである。しかし、ホラーの捜索にかまけて普段の業務を(おこた)っただけでなく、他のホラーの出現がない違和感に気付かない勇牙は失格と言われても仕方のない有様であった。

 

「(他の誰かが代わりを為す……其れも()()()の性質であろう)」

 

(権利を得ても責任は果たさんか……やはり、度し難い()()だな)

 

「(故に我等が居る。()くぞ、使命を果たす時だ)」

 

(ああ、そのための俺たちだ……)

 

そんな勇牙に対して哀れみを捨てたゴーストライダーの言葉に対して答える声には他に聞く者が居れば強い怒りと決意を感じさせる響きがあった。

 


 

「うーむ、ほんとに何も見つかんねーなぁ……」

 

連日の捜索にもかかわらず(ろく)な手がかりも手に入れられていない勇牙は今夜のパトロールとして最初に有咲と会った公園のベンチでうだっていた。

 

「そうは言っても手掛かりはあっただろう?」

 

「それだって、高橋、って人の血の付いたネームプレートだろ?確実に食われたかホラーになってんじゃん」

 

励ますようなザルバの言葉にも露骨に顔をしかめつつ、あー、どうやって報告すっかなー、と頭を抱える勇牙に対してまたもやザルバは呆れる。

 

「お前さんって奴は……だが、今回はどう考えてもホラーの動きがおかしい。くれぐれも油断するなよ、勇牙」

 

「……ああ、そこは俺も気にかかってる。ザルバにもわからないように気配を消すなんてただの素体ホラーができる芸当じゃない。もっと何かヤバい奴が裏にいる気がする」

 

内容だけならいつもと変わらぬ小言でしかない。だが、その中に含まれるいつもと違う真剣さに流石の勇牙も事態の深刻さを理解しているようだった。

 

「ま、何にせよ俺とザルバのコンビに勝てる奴はそうそういねーよ」

 

な?、と屈託のない笑顔を浮かべる勇牙にザルバはいつもであれば呆れるようなセリフにどこか頼もしさを覚えるのだった。だが、その時、ザルバの様子が一変する。

 

「!?勇牙、別のホラーの気配だ!」

 

「ようやく黒幕のお出ましか……場所は?」

 

「これは……俺様たちの家の方だ!?」

 

勇ましく立ち上がり、ザルバに声をかける勇牙。だが、その直後にザルバから聞かされたのは想像もしていなかった場所だった。

 


 

「……これは、どう言うことだ?」

 

ホラーの気配を追いかけた勇牙がたどり着いたのは冴島邸──彼の自宅近くの森であった。困惑とともに周囲を見渡して見るが、何か罠が待っているような様子はなく、途中でホラーの気配が消えたことも相まってどこか違う世界に迷い込んだような違和感が彼の心に渦巻いていた。

 

「俺様にもわからん。だが、ホラーの気配があったことは確かだ」

 

「なるほど」

 

なら気配はどっちだ、と問いながらザルバを周囲に向けようとする勇牙。しかし、それより早く少し先の木陰が揺れる。

 

「遅かったな、黄金騎士」

 

「ッ!?──外狩、さん?なんでここに?」

 

横合いからかけられた声に目を向けると気配もなく森の中から出て来たのは先日の青年──外狩であった。

 

「気をつけろ、勇牙!邪気は感じないが、ヤツの周囲には微かにホラーの気配が残っている」

 

「なんだって!?」

 

「なるほど。流石に倒した直後だと勘付かれるか……まぁ、当然だな」

 

驚愕(きょうがく)する勇牙を黙殺し、ザルバの言葉に何事かを得心(とくしん)している外狩。その姿に異様な空気を感じ取った勇牙は無意識のうちに魔戒剣を握っていた。

 

「外狩さん、アンタは一体……?」

 

「あぁ、こちらの自己紹介はまだだったな──」

 

勇牙の問いかけに一騎は改めて向き直り、宣言する。

 

「──俺は外狩一騎(かずき)転生者(貴様ら)を狩るのが俺の仕事だ」

 

宣言とともに勇牙へ向けられたその視線は酷く冷たく、以前にあった人の良さそうな態度はどこにも見受けられなかった。

 




●#05解説
・魔戒騎士の説明
原典でも描写されていますが、本来の仕事量なら青春をせずに仕事をしていれば放課後だけでもこなせるレベルの仕事です。本来はホラーの出現自体が職務の怠慢か異常事態を意味しているので、転生者への評価は正当と言えます。

・邪気について
一騎はここで決着をつけるためにあえて時間をかけてホラーと戦うことで転生者に気付かせています。冴島邸を選んだ理由は一般人への被害を避けるためです。


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#06

「俺は外狩一騎、転生者(貴様ら)を狩るのが俺の仕事だ」

 

「俺たちを狩る……?まさか、()()()の言っていた猟犬か!?」

 

勇牙の言葉に小さく顔を(しか)める一騎。その視線は酷く冷たく、以前にあった人の良さそうな態度はどこにも見受けられなかった。

 

「猟犬?おい、勇牙。何の話をしているんだ?」

 

「……そう言うことかよ。なら、斬らせてもらう!」

 

「何を言ってる、勇牙!あれは人間だぞ!?」

 

「アイツはバケモノだ!──今、俺が証明してやる!」

 

制止するザルバの声も気にせず魔戒剣を抜き、上段から袈裟懸けに切りかかる勇牙。が、一騎が右足を半歩後ろに引いて軽く仰け反ったことでその一撃は空を切る。

 

「なっ!?」

 

即座に返す刃で切ろうとした勇牙だったが、一騎が体を戻しながら伸ばした右腕に抑えられ剣が止まる。

 

「っ!?勇牙!」

 

「ちっ!?」

 

反射的に身を引こうとする勇牙だが、右腕と同時に前に出されていた右足で足の甲を踏みつけられていたため、その動きも妨げられる。さらに、勢いを殺さず左足を踏み出しながら放った一騎の左の掌打が動きが止まってガラ空きとなった勇牙の右脇腹に突き刺さる。

 

「ぐっ──このっ!」

 

一瞬、怯んだ勇牙だが、即座に抑えられてない左腕だけで左薙ぎに剣を振るう。しかし、その時には一騎はバックステップで3歩分ほど後ろに下がっており、苦し紛れの一撃は空を切ったがそれに合わせて勇牙も後方に飛び退くことで数mほど距離を取ることに成功した。

 

「大丈夫か、勇牙!」

 

「ハァッ、ハァッ……なんとか、な。ともかく、これでコイツがホラーみたいなモンだ、ってわかっただろ?」

 

呼吸を整えながら油断なく相手を見る勇牙だが、相対する一騎は軽く肩幅程度に足を開いただけの自然体に近い姿で立ちながら冷めた眼差しを向けていた。

 

「なんだ、黄金騎士の力はこんなものか?」

 

「あぁ?!なんだと!」

 

「落ち着け、勇牙!」

 

落胆混じりの挑発に怒りを露わにする勇牙だが、一騎はその態度に冷笑を深める。

 

「武器は良くとも技は単調、覚悟も半端──とんだ鍍金(メッキ)の騎士だな」

 

「黙れえぇぇーーー!!」

 

激昂(げっこう)した勇牙は怒号とともに自らの頭上に剣先で円を描く。すると円の中の空間が割れて中から鎧が飛び出し勇牙の体に装着され、その姿は狼の意匠を持つ輝く鎧を纏った黄金騎士・ガロへと変わり、持っていた魔戒剣が幅広で両刃の大型剣、牙狼剣へと変化する。

 

「鎧を着たか──なら、こちらも本気で行かせてもらう」

 

ガロの鎧を見ても一騎は動じることなく冷めた目のまま一度、目を閉じる。そして全身が炎に包まれると一回り大きくなった炎の中からゴーストライダーが姿を現した。質量を無視した変身はその存在がこの世の道理の外にあることを示していた。

 

「っ!?それがお前の正体か!」

 

「正体、か──やはりお前は何も見えていない」

 

「減らず口を!!」

 

ガロの言葉に対しゴーストライダーは地獄の底から響くような声で応じる。その異質さに一瞬たじろぐガロだったが、意を決して気合とともに一足飛びで距離を詰めて切りかかる。

 

「うおぉぉぉーーーー!!」

 

裂帛(れっぱく)の気合とともに左下段から放たれた右薙ぎの一撃は身長差でゴーストライダーの腰に横一文字の軌跡を描く。振りぬいた姿勢から返す刀で左の脇腹から胴を切り上げ、右肩から切り抜けた剣をそのまま振り上げる。

 

「はあぁーーー!!」

 

振り上げた牙狼剣を大上段に構えて全力で唐竹に振り下ろす。流れるような神速の連撃、彼にとって過去最高の鋭さで放たれた最後の一撃は必殺の確信があった。だが、その一撃がゴーストライダーの頭部を砕くことはなかった。

 

「なんだと!?」

 

「そんな…牙狼剣が…」

 

驚くのも無理はない。振り下ろされる途中の刃が左手で掴み取られていたから──ではない。それだけならまだしも、直前までに切り付けられたはずのジャケットにすら一切の傷がなかったからである。

 

「だから言っただろう。何も見えていない、と」

 

「っ!?う、動かねぇ!?」

 

ガロは剣を引き抜こうとするが、いくら引いても微動だにしない。それどころか、ゴーストライダーが剣ごと左腕を持ち上げると身長差もあってかなすすべもなくガロの体が持ち上がる。そこには圧倒的な膂力の差が見て取れた。

 

「……マジかよ」

 

持ち上がった状態のガロの鳩尾(みぞおち)に炎を纏った拳が叩き込まれ、その衝撃で体がくの字に曲がる。そして、拳の炎が勢いよく弾けると剣を放さなかったガロは勢いを抑えられずに地面から2mほどの浮き上がる。

 

「ご──があっ!」

 

ゴーストライダーは一度、刃から手を放して頭上で右の拳を左手で包んで腕を組むと地面に倒れこみつつあるガロの頭めがけてダブルスレッジハンマー。

 

「ぐっ!──が、あ……」

 

そのまま地面にたたきつけられたガロはその衝撃で牙狼剣を取り落として地面に倒れ伏す。その身に受けたダメージの大きさは鎧が解除されたことからも(うかが)い知れた。

 

「おい、勇牙!しっかりしろ!」

 

「さぁ、裁きの時だ」

 

ザルバの声援も空しく倒れ伏す勇牙の首をつかんだゴーストライダーはそのまま自身の眼前へと勇牙を持ち上げる。

 

「ぐぅ……俺が、何をした……!」

 

「では問おう。()()()()に何をした?」

 

「──っ!?……俺は、ただ……ガロとしての、役目を……」

 

ゴーストライダーの問いを受けて勇牙の脳裏には自らが|特典()()を選択したことで持ち込まれた災厄(ホラー)の姿がよぎったが、認められない彼は自己弁護のような言葉を返すのみであった。

 

「……そうか──ならば、お前の罪で身を焼かれるといい」

 

落胆とも悲嘆(ひたん)ともとれるその言葉を合図にゴーストライダーはその魔眼──贖罪の眼(ペナンスステア)を勇牙にのぞき込ませる。

 

「あ、あぁ……」

 

その魔眼をのぞき込んだ者は自らの罪にその魂を焼き尽くされる。勇牙は使命を果たさなかった自分を悲しげな眼で見つめる歴代の黄金騎士の姿を見ながら、自らの(もたら)した無数のホラーに食い荒らされる苦しみを味わっていた。そして、それを最後に魂ごとその身を焼き尽くされ、冴島勇牙と言う存在はこの世から消滅するのだった。

 

「……また一つ、復讐は成された」

 

そう呟き一つの戦いを終えたゴーストライダーは地面に落ちた灰の山からザルバと変化したままの牙狼剣を拾い上げる。

 

「なんだ、俺様も始末する気か?」

 

「お前に()はない」

 

まったく悲壮感を感じさせない、ともすれば常より明るいのではないかと思えるザルバの態度にゴーストライダーは感情を感じさせない声で静かに答える。

 

 「そうかい」

 

そいつはどうも、と返すザルバに適当な紐を付けたゴーストライダーはそのまま手近な所に牙狼剣を突き立てその(つか)に紐をひっかける。

 

「おっ、と。そうだ、最後に一つ聞いてもいいか?」

 

「……言ってみろ。答えるかは別だがな」

 

「お前さん()不愛想な奴だな……まぁ、いいさ」

 

さして興味もなく答えるゴーストライダーに半ば呆れるザルバだが、会ったこともないはずの鋼のような男を無意識に思い出していた。

 

「それじゃ、お前さんはどうして勇牙を殺したんだ?」

 

生憎(あいにく)、俺様にはさっぱりなんでな、と付け加えるザルバだが、それを尻目にゴーストライダー森の方へと歩みを進めていた。

 

「俺はやるべきことをやっているだけだ」

 

「……なんだと?──いや、まさかお前さんは……?」

 

「好きに受け取れ。俺は次へ向かう」

 

振り向きもせずに返された答えに何か感じるものがあったザルバはゴーストライダーの行動の理由を察するが、使命を果たしたゴーストライダーにとっては関係ないようだった。そのままザルバから距離を取ったゴーストライダーはゲートをくぐると戦いの跡だけを残してその姿を消した。

 

「まったく、牙狼が怪物に説教されるとは。こいつは前代未聞だぞ……」

 

残されたザルバの嘆息まじりの呟きは(そば)に積みあがった灰を吹き飛ばす風の音に紛れるのだった。

 




●#06解説
・人に切りかかる魔戒騎士
本来、魔戒騎士はその力をホラーなどにしか使えない掟があり、人間に切りかかるのは完全にルール違反です。ただし、原典でも何度か破られているため、転生者もこの点に関してはグレーゾーンかもしれません。

・一騎の挑発
単純に説教するキャラではないため、相手を侮蔑し罪を突き付ける手段として罵倒や挑発を行わせています。余談ですが、鍍金の騎士という言い回しは特に気に入っています。

・贖罪の眼
ゴーストライダーの必殺技として有名な魔眼です。多少、原典と違う部分もありますが、細かい説明はのちのエピソードで少しずつ明かされていきます。

・転生者のしたこと
<争いのない世界にホラーを持ち込んで死者を増やしたこと>と<自分が持ち込んだ問題であるホラーを放置して遊び惚けていたこと>です。

・ホラーが存在する理由
特典であるガロを十全に活躍させるために必要な敵としてホラーが生まれる世界に改変されています。同様の理由で番犬所のシステムもありますが、他の魔戒騎士は他の管轄で仕事をしています。

・鋼のような男
読んで字のごとく原典の使い手の一人です。この世界のザルバが知らないはずの人間を思い出す理由はVol.12で類似する現象があるため、詳しくはそちらをお読みください。

●タイトルについて
Knight of Gilt:鍍金の騎士
・作中で転生者を評した一騎の言葉ですが、黄金とは名ばかりの中身の伴わない姿を金メッキと揶揄したものです。
・Giltは正確には金メッキのみを指す言葉で、金箔や金色の物を指す形容詞の過去形でもあります。また、メッキ全般を指す言葉はPlatingです。

●転生者について
冴島勇牙(さえじま ゆうが)(17歳/男)
・牙狼の力(鎧と魔戒騎士としての能力)を特典として選んだ元青年の少年
・牙狼のことは他人の二次創作や以前に見た初期シリーズのイメージぐらいで深く考えずに選んだ
・アフターグロウのメンバーとは幼馴染だが、魔戒騎士になるために一時期から疎遠になっていた
・共学になっている花咲川にこの春から通っている高校3年生
・実力はそれなりだが、調子に乗りやすい性格で記憶の消し忘れやホラーの取り逃がしなどのやらかしが多く、度々ザルバからは小言を言われている


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Vol.2:Reckless Fire Part.1
#01


夢を、夢を見ていました。

夢の中の私はどうにもならないことをどうにかしようと抗い続けている人になっていました。

地面から延びる光の柱に飲まれて消えていく街や人、その光景を眺めることしか出来ないその人は強く嘆き悲しみ、その人は祈りながら叫んでいました。強く、何度も……。

 


 

一騎がくぐりぬけたゲートの先にあったのは荒廃した大地と廃墟となったビルの点在する昼間のゴーストタウンだった。軽く辺りを見回した一騎は頭の中にある知識と周囲の環境に違和感を覚えたのか小さく顔をしかめる。

 

(この世界の軸はシンフォギアのはずだが……どう言うことだ?)

 

一騎が訝しむのも無理はない。本来であれば旧リディアン音楽院の校舎の地下にあったカ・ディンギル──の残骸(ざんがい)があるはずの場所だが、そこに廃墟ではあるが旧リディアン音楽院の一部が残っていた。そして、その近辺には形を残したままの廃ビルや()()()()()()()()()()と共に不自然に隆起した地面が存在しているとなればその違いは一目瞭然であった。

 

(転生者の仕業か。しかし、この()()と不自然な隆起は……ゴースト、お前はどう思う?)

 

「(分からん。だが、()るべきでは無い力の残滓(ざんし)を感じる)」

 

頭の中で呼びかけた一騎に対して彼にだけ聞こえる声で返答したのは、彼をゴーストライダーたらしめる相棒であり半身でもあるゴーストと呼ぶ存在である。その超常の力をもってか、辺りを調べたゴーストの言葉に一騎は一つの結論に至る。

 

(なるほど……なら、やることは一つ、か)

 

「(然り、何時もの如くだ)」

 

(情報を集める、か……まったく、儘ならんものだな)

 

ため息を()いた一騎はひとまずの目的として遠くに見える東京スカイタワーへと歩みを進めるのだった。油断なく周囲を見回しながら歩く一騎だったが、数分ほど歩いた所で頭の奥にピリッとした感覚が走る。

 

「(一騎、罪の気配だ)」

 

(転生者ではない──が、()()()()には丁度良いか)

 

静かに、だが、力強く呼びかけるゴーストの声に一騎は感覚の強くなる方向へと足を向けようとする。が、その時。

 

「やめてください!」

 

「(一騎、罪なき者の血が流れるぞ)」

 

(まったく、(まま)ならんな……!)

 

罪の気配の方向から少女の声が聞こえる。少女に迫る危険を感じたゴーストの警告と同時に一騎は内心でぼやきつつも声の方へと駆け出すのだった。

 


 

「やめてください!」

 

周囲を囲む不良──いっそチンピラと言った方が正しいぐらいの4~5人の男たちに囲まれながら、大きな白いリボンが特徴的な黒髪の少女──小日向未来(こひなたみく)は一歩も怯まず毅然と立ち向かっていた。だが、その態度とは裏腹に普段なら来るはずのないこの地をなんとなくで訪れたことを内心では後悔していた。

 

「おいおい、お嬢ちゃんよー。そんなにつれないこと言うなよー」

 

「そーそー、ここは危ないから、オレたちが守ってあげようか、って言ってるだけじゃんかよ~」

 

「ま、そのついでにちょ~っと一緒に遊んでくれればいーからさー?」

 

口々に勝手なことを言いながら笑う男たちの下卑た視線に恐怖よりも嫌悪が先立った未来は、自分でも気づかないうちに2~3歩ほど後ろに下がってしまう。その姿を自分たちへの恐怖と受け取ったのか、男たちは目に見えて調子づく。

 

「ホラホラ、怯えちゃって、カワイイねぇ~」

 

ヒューヒュー、と(はや)し立てる男たちを睨みつけるように見る未来だったが、その中の一人が進み出ると未来の腕を掴もうとする。が、その時。

 

「あの、それ、ちょっと待ってもらえますか?」

 

横合いからかけられた声にその場にいた全員がその声の方を見るとそこにはどこか申し訳なさそうな顔の一騎が立っていた。

 


 

「あの、それ、ちょっと待ってもらえますか?」

 

「(一騎、如何(どう)言う心算(つもり)だ?)」

 

(これが()()()の最善、だ)

 

声をかけたことをゴーストに咎められるが、それをいなしつつ、一騎は努めて申し訳なさそうな表情を作って前に出る。

 

「あ゛!?何だテメェーは!?」

 

「やんのかコラ!!」

 

「いや、その子も嫌がっているようですし、ここは穏便に治めてもらえませんか?」

 

喧々囂々(けんけんごうごう)に文句を言う男たちを前にしてもどこか申し訳なさそうな顔のままさらりと言ってのける一騎に全員が唖然となる。その中で最も未来に近かった男が怒りに任せて一騎へと近づく。

 

「おい、兄ちゃんよー。カッコつけてるとこわりーけどよー、この子は俺らと遊ぶ約束してんのよ」

 

わかったら引っ込んでな、と吐き捨てるように言った男は一騎の肩を軽く押そうとするが、半身になって(かわ)したことでその手は空を切る。

 

「テメェ、ふざけてんのか!?」

 

「暴力はやめましょうよ、ね?」

 

激昂する男に対してさも当然のように(なだ)める一騎。その態度に怒りを深める男は一騎に対して右手で大振りのステレオパンチを打つが、構えも取らない状態の一騎にあっさりといなされる。

 

「ふざけやがって……この野郎!」

 

「やめてください、これ以上は見過ごせませんよ」

 

冷静に(さと)す一騎の姿に周囲は驚きを隠せないでいるが、軽くあしらわれた男は怒りに任せて拳を繰り出すものの、一騎はそれを左腕で難なくブロックしてみせる。

 

「うるせぇ!」

 

「っ……まだ、続けますか?」

 

「ったりめぇだ、コラ!」

 

「いいぞー!」

 

「やっちまえー!」

 

ブロックされたとは言え、一打目を当てたことで勢いづき左、右と続けて拳を繰り出す男。それをブロックするだけの一騎は防戦一方と見た男たちは銘々(めいめい)に騒ぎ出す。

 

「どうした、口ほどにも──」

 

「……仕方ない」

 

しかし、四打目に入るところで一騎は左腕でブロックしつつ前進。調子に乗った男の大振りの一撃が届く前に踏み込んだ一騎の下からの掌打は男の顎を打ちぬく。

 

「ぐげっ!?」

 

打ちぬかれた男は汚い悲鳴とともに勢いでほんの少し体が浮くとそのまま仰向けに地面に倒れた。そのまま男がピクリとも動かなくなったことで周囲は水を打ったように静かになる。

 

「……気絶しているだけです。しばらくすれば目は覚めるでしょうが、病院に連れて行った方がいいでしょう」

 

勝ったはずの一騎は苦々しい顔をしながらそれだけを告げると道を塞ぐ男たちに目を向ける。悲し気な──それでいて射貫くような視線に男たちは意図せずに怯む。

 

「すみませんが、そこを退いてもらえますか?」

 

最初と変わらないトーンで告げられる言葉に男たちがあっさりと道を開けると、周囲の男たちと同じように固まっていた未来に向き直る。

 

「君、早く行った方がいい」

 

どうも、ここは危険みたいだからね、と悲し気な目で促され困惑しながらも進む未来。

 

「あの、ありが──」

 

「がははっ!見事にやられたなぁ」

 

だが、その歩みは一騎たちの背後からかけられた男の言葉で止められた。

 




●#01について
・夢を見ていました
スクライドのアバンと言えばコレと言っても過言ではないフレーズです。それ以外にもちゃんと描写する理由はありますが、明言はしません。

・シンフォギアの世界
ゴーストの能力で訪れた世界の本来の姿を知ることができる設定です。ただ、転生者の介入で世界の状況が変わっている場合が多いため、詳細を調査して一騎自身の知識で特典を見極める必要があります。

・到着地点
原作と状況は違いますが、作中で示唆されている通り転生者の介入による影響とアルター能力由来の隆起現象によるものです。詳しくはのちのエピソードで説明されます。

・ゴースト
一騎の半身とも呼べる相棒で、二人だからゴーストライダーとして活動できています。彼の仰々しい物言いは人間的な枠組みの外にいることを表すためのものですが、読みづらいため、初回のみルビを振っています。

・儘ならんな
一騎の心情を表す言葉ですが、作者の癖なのか作中では度々この言葉をこぼしています。実際、厄介な事態に遭遇することも多いため、象徴するセリフの一つとなりました。

・ピンチに陥る未来
作中では詳しく描写していませんが、この世界の未来はアルター能力に目覚めており、予感や気配のようなものを感じてあの場に行っています。

・VSチンピラ
罪人と戦い罪なき者を守ることもゴーストライダーの使命ですが、相手が超常の力を持たないため、一騎の方も自身の身体能力のみで戦っています。ここは一騎のルールというか作者のこだわりですね。


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#02

「がははっ!見事にやられたなぁ」

 

「!?」

 

「ビ、ビフ君」

 

(……あの見た目、まさか、いや、確実にそうだな)

 

不意に後ろからかけられた声に一騎と未来が振り向くと肥満体の男──ビフが立っていた。その巨体と名前から導き出される正体に感づいた一騎は庇うように未来の前に立つ。

 

「ぎひひ……がはは──」

 

「やべぇ……」

 

「ビフ君が笑ってる」

 

急に笑い出したビフの姿の異様さに恐怖する男たちと未来だったが、大凡(おおよそ)の状況に察しの付いた一騎は半ば無駄だと思いつつ口を開く。

 

「あの、このまま放っておいてもらえませんか?」

 

「あ”っ!?──叩き潰してやるうぅるららぁ!」

 

(まぁ、そうなるだろうな……)

 

一騎の言葉を挑発と受け取ったのか、激昂するビフの体が発光すると衝撃音とともに周囲の地面や壁面が分解されていくつかのクレーターが作られる。その前兆に身の危険を感じた男たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。

 

「マ、マジかよ!?」

 

「逃げろぉー!!」

 

(……発光と分解、やはり──)

 

「(来るぞ、一騎)」

 

(──()()()()、か)

 

分解に呼応するように灰色で楕円(だえん)の球体状の胴体が形作られ、4つの足が形作られる。その過程を見ながら、動けずにいる未来を庇いながらじりじりと後ずさる一騎。

 

「うららららら!!」

 

(彼女を庇いながらでは戦えん、か)

 

徐々に形作られる異形を横目に未来の方を見る一騎。その姿は未だ全貌(ぜんぼう)の見えない異形の巨大さに脅威を抱いているが、恐怖で動けない、と言うことはなさそうだった。

 

「君、走れるか?」

 

「はい、でも──」

 

「合図したら全力で走って助けを呼んで来てくれ」

 

どうやって、と言いたげな顔の未来だったが、出来るかい?、となるべく優し気な声で問う一騎に対し、動揺しながらも未来は力強く頷く。迂闊(うかつ)に動けないでいる二人の前で異形の右腕に大型のハンマーが形作られる。

 

「でやぁ!!」

 

(あと少し……一瞬だ、一瞬を待つ)

 

冷静に見極める一騎の前で右腕と比較すると小さな三本指のアームと二つの目がついた小さく丸い顔が形作られる。そして、ついに完成したこの世界に存在しないはずの巨大な異形──アルター、NRハンマーはその名の通り右腕にある巨大なハンマーが特徴的な大型ロボットのような姿をしていた。

 

「今だ!」

 

アルターが完成したことでビフの気が逸れた一瞬、その絶妙なタイミングでかけられた合図で一気に走る未来。だが、既に一騎しかビフの目に入っていないのか、走り去る未来の後ろ姿には目もくれなかった。

 

「覚悟しろ!これが俺のアルター、ハンッマーだあぁぁ!!」

 

(まぁ、好都合、だな)

 

高らかに宣言するビフは左手のアームで自身を掴み、安全を確保する。相対する一騎は構えも取らず、ただアルターの姿を眺めていた。

 

「さぁ、次はお前の番だ。持ってるんだろ、アルター?」

 

一騎の態度をアルターを持つ余裕の表れと見たのか、挑発をするビフだったが、そんなビフに対して先ほどと違って冷たい視線を向ける一騎。

 

「アルター?そんなものはない」

 

「あ”!?」

 

「それに──」

 

冷たく言い放つ一騎の態度に激昂するビフ。自分に注意を向けさせるために一度、言葉を切ると、あえてビフに視線を合わせる。

 

「──その程度なら一撃で十分だ」

 

「ッ!?……ぶっ潰してやるうぅ!!」

 

怒髪天(どはつてん)()くように怒り狂うビフはアルターの右腕のハンマーを勢いよく叩きつける。が、それより早く駆け出していた一騎はその一撃を避けつつ、正面右手──ビフの左側にあるガラス扉をぶち破って元オフィスビルの中に突入する。

 

「グッ!?……ちょこまかとぉ!!」

 

アルターの上半身を捻らせたビフがハンマーを打ちこむと一騎の突入したビルが呆気なく崩壊する。しかし、体を動かした分、タイムロスがあったのか、既に窓を破って飛び出していた一騎は、横目で未来の走った方を見つつ、アルターの足の間を抜けて背中側へ滑り込んでいた。

 

(彼女は──)

 

「(逃げ延びたようだな)」

 

(流石は元陸上部、と言ったところか)

 

横目で未来の後ろ姿がほとんど見えなくなっていたことを確認した一騎の動きが一瞬遅れる。それどころか、悠長に立ち上がって埃を払っている姿はビフの力を(あなど)っていることを如実に示していた

 

「ハンッッ……マァァーーー!!」

 

正面に一騎を捉えたビフの渾身の一撃、彼のこれまでの人生の中でもトップクラスに入る会心の一撃だった。しかし、その一撃は()し潰されるはずの存在によって軽々と受け止められていた。

 

「そんなあああ!!」

 

「なるほど」

 

驚愕するビフ。それもそのはずである。ただの人間だと思っていた男が異形(ゴーストライダー)に変身していれば、その存在を知らずとも畏怖(いふ)すべき対象だと理解するからである。そして、それが己の最大の一撃を防ぎ、今なおアルターの動きを封じていることを加味すればその心理的衝撃は想像だに難くない。

 

「お、俺の、アルターが……」

 

「やはり──」

 

地獄の底から響くような声とともに動けないままのアルターの右腕へとゴーストライダーの右ストレートが叩き込まれる。業火を纏ったその拳は一撃でアルターを半壊させ、余波だけで左手に居たビフを吹き飛ばして脇にある廃ビルにめり込ませる程の威力であった。

 

「あ、あぁ……」

 

「──この一撃で十分だったな」

 

アルターが半身を砕かれつつ業火で溶け落ちたことで遮られていた日の光が差し込んでくると、日の当たる場所から一騎の姿は元に戻っていった。だが、アルターを破壊され気絶するビフを冷たく一瞥(いちべつ)するその姿からは最初の申し訳なさそうな姿は想像できなかった。

 

「さて──」

 

不意に口を開いた一騎に溶けてなくなったNRハンマーの後ろにいた男たちがビクッ、と震える。

 

「──お前たちはどうする?」

 

そして、冷めた目のまま男たちに問いかけた一騎は悪魔のように酷薄(こくはく)に笑った。

 




●#02について
・ビフ
スクライドよりゲスト参戦です。本来ならこの世界には存在していませんが、前話のホラーのように転生者の敵となるアルター使いとしてこの世界に生まれました。

・元陸上部さん
ムーブとしても問題なさそうなので原典での活躍から走ってもらいました。一応、一騎の変身は見えませんでしたが、あの大きさなのでハンマーがやられる姿は見えていたと思います。

・NRハンマー
最初は劉鳳をイメージしてディレイ・オクトパスを生身のまま倒させるつもりでしたが、絵面が地味だったので現在の形になりました。


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#03

(もう少しだけ待ってて、未来)

 

ボブカットの少女──立花響(たちばなひびき)は半年振りに強い焦りを感じていた。何時ものように定期健診を終えて親友とも呼べる幼馴染からの連絡に出てみれば、緊急事態を告げる内容、となればこの半年ほど大きな戦いのなかった響には寝耳に水と言うべき状況であった。

 

(でも、今のわたしじゃ……)

 

親友を救いたい、と言う響の心情はもっともであったが、彼女の体は度重なるシンフォギアでの戦闘によって(むしば)まれており、なるべくなら戦闘を控えるように厳命されていたのだった。だが、それでも。

 

(わたしは、未来を守る!)

 

決意とともに駆け出す響。その歩みに迷いはなく、その心のままに導かれるような最速で最短で真っ直ぐに一直線な足取りであった。

 

「──響ッ!こっち!」

 

「ッ!?未来ッ!」

 

不意にかけられた声に目を向ければ見慣れた──しかし、どこか何時もと違う焦りを含んだ未来の無事な姿に安堵したのも束の間、続く言葉に緊張を深める。

 

「まだ、あっちに私を助けてくれた人が!……でも──」

 

「わかった!……でも?」

 

未来の言葉に強く頷いた響は胸に手を当て聖詠(せいえい)を唱えようとするが、言葉を選ぶように悩むその姿に動きが止まる。

 

「多分、もう大丈夫かもしれない」

 

「?それって──ッ!?」

 

どう言うこと、と問いかけようとした響だが、廃墟の方から気配を感じて動きが止まり、自然と体ごとそちらに向き直る。そして、それにつられて未来も目を向けると、そこには先ほど別れた一騎の姿があった。

 

「あ!あの人、さっきの!?」

 

「へ?あの人が?」

 

「えっ、と、どうも、さっきの人です?……でいいのかな?」

 

困惑しながらも頭を下げる一騎の姿に、状況が分からず困惑する響と、何を問うべきか迷う未来と言う混沌とした状況が生み出されていた。そして、意を決したのか、未来は一度、深呼吸をすると一騎の方に向き直った。

 

「あの、さっきのアルター使いの人はどうしたんですか?」

 

「アルター……あ、先ほどの人たちですか?……それなら、あちらで倒れてますよ」

 

「へ?」

 

「……」

 

予想外の返答に思わず間抜けな声を上げる響と対照的に難しい顔になる未来。その姿に気づいたのか、一騎が口を開く。

 

「あの、それで、つかぬ事をお聞きしたいんですが……」

 

「え、っと、はい、何ですか?」

 

未だ唖然としていた響だったが、何事かを考えている未来が応えないことに気づいてかろうじて答えると一騎は安心したような表情を浮かべる。

 

「その、ここは、どこなんでしょうか?」

 

「えっと、ここは東京の旧リディアン音楽院で、今は、ええと、特別指定封鎖区域、そう呼ばれている所です」

 

困惑しかけながらも出した未来の返答に対して、うーん、と唸る一騎。数十秒ほど悩んだ挙句、肩を落とす。

 

「──ダメだ、何も思い出せない……」

 

「これは──」

 

「もしかして──」

 

二人にとっては当然ながら自然な反応にしか見えず、その姿に違和感は感じられない。そして、そこから導き出される結論は一つである。

 

「「──記憶喪失?」」

 

「どうも、そうみたいですね」

 

なんてことないかのように言う青年の言葉に、完全に予想外の事態に直面した二人は顔を見合わせて困惑するしかなかった。

 


 

「(一騎、()れは如何言う事だ?)」

 

(どう、と言われてもな)

 

わたしじゃどうにもならないのでちょっと待っててください、と響に言われたのが数分前。とりあえず、三人は迎えの車と後処理専門のチームが来るの近くのベンチで待っていた。

 

「「「……」」」

 

「(随分と肩入れしているようだが?)」

 

ベンチに座る響と未来──誰が座るかはじゃんけんで決まった──そして所在なさげに立つ一騎の三人の間に妙な沈黙が流れる中、そんな空気を意に介さず一騎に対する追求を深めるゴースト。言外に、使命を忘れていないか、と聞かれているような質問に心の中で頭を抱える。

 

(他意はない。旧リディアン(ここ)の変化もそうだが、先程のアルター使いの件といい、状況が不透明すぎる……不本意だが、流石に今回は深入りするしかない)

 

「(成程。ならば、次は如何する?少なくとも此の辺りに転生者の気配は無いぞ?)」

 

(だが、()の目星は付いている。なら、奴らの行きそうな場所を当たるだけだ……もっとも、そこにいる確証はないがな)

 

やっと先に進める、と安堵したのもつかの間、結局、転生者の居場所については何も分からずじまいである、と言う結論に辿り着き辟易(へきえき)する一騎。

 

(まったく……儘ならんものだな)

 

「あの、ちょっと、いいですか?」

 

内心でため息を吐きつつ押し黙る一騎の姿を緊張していると勘違いしたのか、ベンチに座る響が声をかけた。

 

「はい、何ですか?」

 

「あの、何か覚えてることとかないのかなー、って思って」

 

あ、まずは自己紹介ですかね、と軽く笑う響だったが、待ってください、と一騎がそれを手で制する。

 

「?どうしたんですか?」

 

(やはり、小日向未来に警戒されているか……やむを得ん、か)

 

神妙な面持ちの一騎に対して不思議そうな顔の響と何かを警戒する未来。その姿に危険信号を感じた一騎は内心でまた、ため息をついた。

 

「その、お二人に言わなければならないことがあります」

 

「……それって、さっきのアルター使いの人と何か関係があるんですか?」

 

「はい、もしかしたら──いや、確実に僕は普通の人間ではないかもしれません」

 




●#03について
・半年ぶりの出動
作中の時間軸としてはXV(5期)の後ぐらいの春先をイメージしていますが、転生者の介入で状況は大きく変わっているため、現在のS.O.N.G.は実質活動停止中です。詳しくはのちのエピソードで説明されます。

・響の状態
作中で明言されている通り、いくつかのイベントがカットされているため、体内のガングニールを使っています。ただし、ほとんどの事件を転生者が解決することから戦闘回数も減っているため、何とか生きています。

・記憶喪失
調査をするにあたって一騎の使うカバーの一つです。今後も原典から極端に外れた世界だと情報収集のために使うこともあると思いますが、ゴーストの様子を見ると一般人以外には使ったことがなさそうです。


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#04

「はい、もしかしたら──いや、確実に僕は普通の人間ではないかもしれません」

 

「「ッ!?」」

 

「(一騎、如何言う心算だ?)」

 

(黙って見ていろ)

 

ゴーストの困惑を他所(よそ)に、一騎は悲しそうな目をしつつ驚く二人の前に右手を差し出す。

 

「僕の手を見て貰えますか?」

 

「「?」」

 

「このままでは何もありません。ですが、こうすると──」

 

差し出した手に左手で陰を作り意志を籠めると右手の陰になっている部分だけをゴーストライダーへと変身させると、骨だけになった手の上に炎の玉を作り出した。

 

「こ、これって!?」

 

「……これでさっきのアルターを倒したんですか?」

 

「(成程。先の戦いの説明、と言う事か)」

 

「はい、その通りです」

 

驚愕する二人の前で左手を退()けて光を当てると右手は元に戻った。

 

「その、これって……」

 

「力の原理も理由も分かりません。ですが、直感的に使い方が分かるんです」

 

「「……」」

 

押し黙る二人、それも当然である。いかに埒外物理(らちがいぶつり)の相手と戦おうとも、その本質は少女である彼女たちにとってこの現象は想定を超えていたのだから。そんな二人の前で一騎は一度、深呼吸するとそれぞれの目を見る。

 

「僕は知りたい。どうしてこんな力を持っているのか、僕がどんな人間だったのかを。だから──」

 

言葉を続けようとする一騎を今度は、わかりました、と響が手で制する。

 

「じゃあ、やっぱり師匠に連絡して正解でしたね」

 

笑顔で答える響に対して困惑した表情を浮かべる一騎。足りない言葉を埋めるように立ち上がった響は一騎に向き直る。

 

「わたしたちのいるS.O.N.G.(ソング)には、そう言う専門家の人がいっぱいいるんで、もしかしたら何かわかるかもしれませんよ!」

 

「でも、僕みたいな何もわからない存在なんて迷惑なんじゃ……」

 

力強く宣言するように話す響、その姿に一騎は困惑と躊躇(ちゅうちょ)を示す。その姿を見た響は、こほん、軽く咳払いしてから改めて真っ直ぐ一騎に向き直る。

 

「わたしは立花響、16歳です!あと、誕生日は9月の13日で、血液型はO型!趣味は人助けで好きなものはご飯&ご飯です!」

 

満面の笑顔で、自己紹介です、と言う響に呆気に取られる一騎だったが、その横でほほ笑んだ未来が、じゃあ私も、と一騎に向き直る。

 

「私は小日向未来、16歳です。誕生日は11月の7日のA型です。それと、さっきは助けていただいてありがとうございました」

 

響に(なら)って同じく笑顔で自己紹介と先ほどの礼を述べる姿につられて一騎も笑ってしまうが、では、と前置いて二人の目を交互に見る。

 

「僕の名前は外狩一騎、だと思います。誕生日とかはわからないですけど、二人に会えて本当に良かったと思っています」

 

常の彼を知る者ならば同一人物か疑ってしまうような爽やかな笑顔で自己紹介する一騎の姿に二人も心なしか笑顔になる。

 

「それじゃ、覚えてること、一つずつ上げていきましょう!」

 

まずは名前かー、と意気込む響をたしなめつつ嬉しそうな未来、心からの笑顔を浮かべる二人の言葉に、うーん、と唸りながらも同じように笑顔を浮かべる一騎は何かを思い出す振りをする。

 

「(狙い通りか?)」

 

(半分は、な。だが──)

 

ゴーストの言葉に対し疲れたように返す一騎だったが、二人の笑顔を見て一度、言葉を切る。

 

「(だが?)」

 

(彼女たちは怪物を拒絶しなかった……やはりここは救うに値する世界だ)

 

一騎のまさしく心からの言葉に、然り、と力強く頷くゴースト。その声色には心なしか喜色が浮かんでいるようだった

 

「(良い人間達だ)」

 

(そうだ、俺たちはこの笑顔を──人々の営みをこれ以上奪わせないためにどんな嘘を貫いても罪人を狩る)

 

そのためのゴーストライダー(俺たち)だ、と力強く、祈るように、呪うように心の中でゴーストと世界に宣言する一騎だったが、笑顔に隠されたその決意を二人は知る由もなかった。

 


 

自己紹介が終わった三人はやってきた後処理専門のチームに後を任せて迎えの車に乗ってその場を離れていた。車の向かう先はS.O.N.G.の本部であったが、その車内には後部座席で目隠しをさせられている一騎と、時折、申し訳なさそうに後ろを振り返る二人の姿があった。

 

「すいません、一応、規則と言うか安全のためなので……」

 

「あぁ、別に気しないでください」

 

申し訳なさそうな響の声に対してまったく気にしていないように振る舞う一騎だが、それもそのはずである。ある種の訓練を受けた人間であれば周囲の人間や環境から発生する音、匂いなどからおおよそのルートを把握することは可能であり、彼自身もこれまでの経験から似たようなことが出来るからであった。

 

「(抑々(そもそも)、只の布であれば、我らには関係ないからな)」

 

(まぁ、そんな奴は珍しいがな)

 

それ以前にゴーストによる超感覚を持つ彼にとってただの目隠しなど有って無いようなものだが、そうとは知らない二人からは安堵の声が漏れた。そんなやり取りをしていると目的地に着いたのか不意に車が止まった。

 

(……街中?いや、地下、か)

 

「あ、着いたみたいですよ」

 

「そうですか。あの、この目隠しは……?」

 

「はい、外してもらって大丈夫ですよ」

 

目隠しを外して一瞬、眩しそうに目を細める振りをした一騎が目にしたのはどこかの地下の駐車場と思われる場所だった。三人が下りたことを確認した車がどこかへ走り去ると響が前に出る。

 

(確か、本部は潜水艦だったはずだが……?)

 

「それじゃ、案内しますね」

 

(いぶか)しみながらもそんな態度はおくびにも出さず周囲を軽く見渡してから、お願いします、と軽く頭を下げる一騎。そんな内心を知らない二人は始めて来た場所が気になっていると判断したのかそのまま先導する。

 

(場所の違い……これも転生者の影響、か)

 

一騎が歩きながら自分の知識との差異について考えていると先頭を進む響が何を思ったのか振り返る。

 

「そういえば、一騎さんってガイコツになる時……う~ん、そう、変身!変身する時って疲れたり痛かったりしないんですか?」

 

「変身って……」

 

「(変身、か。悪くは無いな)」

 

(……少し黙っていろ)

 

変身の辺りで妙なポーズを取る響にやんわりとツッコミを入れる未来。そんな二人に一瞬、呆気に取られる表情をする一騎だったが、すぐに気を取り直す。

 

「え、っと、そうですね……とりあえず、今は特に異常はないですね」

 

軽く腕を回して見せたりしつつ答える一騎の姿にどこか安堵した様子の二人。そのやり取りの中、視線だけで周囲を見渡していた一騎の目には偽装された監視カメラや各種のセンサーが見て取れた。

 

「(芸が細かいな)」

 

(……仮にも国連機関の施設だろうからな)

 

相変わらずのゴーストとのやり取りの中、大き目のシャッターの前で三人の足が止まった。

 

「ここ、ですか?」

 

「いえいえ、ここからがすごいんですよ!」

 

どこか楽しそうな響が通信機を壁の一部に偽装された読み取り装置にかざすと、シャッターが開き、エレベーターが現れる。

 

「これは……すごいですね」

 

「秘密基地っぽくてカッコいいですよね!」

 

近未来的な設備に対して驚いた様子を見せる一騎に対してエレベーターに乗り込んで得意気な顔をする響に未来は苦笑いする。

 

「……立花さんっていつもこんな感じなんですか?」

 

「ええ、響はいつもこんな感じです」

 

「え?何の話?」

 

ううん、なんでもない、と乗り込む未来に続いて慌てて一騎が乗り込むと、シャッターが閉まりエレベーターは更なる地下へと下りていくのだった。

 




●#04について
・変身を見せる
ウソを信じさせるために多少の真実を混ぜる、という手法です。どちらかと言えばインパクトの大きさで誤魔化している節もありますが、何かしらの説明は必要なのでこの方法を取ったと思われます。

・自己紹介
原典にあったシーンから持ってきましたが、相互理解の方法として適切ですし、何もわからない人間を安心させる方法としても正解だと思ったので採用しました。

・S.O.N.G.本部
原典から大きく変わったところの一つです。活動縮小に伴う予算削減の影響で都内の一般施設に偽装した地下に移転しました。施設自体はもともとのスペースを改造したもので仮設司令部と同程度の設備はあります。

・変身
地の文では変身と書いていますが、一騎からするとゴーストと一体化するイメージなので合体とか憑依、顕現の方がしっくりくるかもしれません。ちなみに、響のポーズは特撮っぽい感じのイメージです。

・地下へのエレベーター
扉の隠し方は原典の旧本部を参考にしました。地上施設は3階建てぐらいのビルをイメージしていますが、上階にはよくわからないダミーの企業か政府機関が入っていると思います。


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#05

 

司令室と銘打たれた部屋で、先ほど終わった一騎のメディカルチェックの資料を読む赤のカッターシャツの男──風鳴弦十郎(かざなりげんじゅうろう)はその内容に困窮(こんきゅう)していた。内容自体は一騎がいたって健康で鍛えられているただの成人男性であることを示しているが、ある意味ではそれが問題であった。

 

「医学、現代科学、異端技術(ブラックアート)、その他あらゆる検査で今のところ何の異常も見つからない、か……残るはアルターだが、検査はHOLY(ホーリー)にしか出来ない。が、今のHOLYに預ける訳にはいかない。さて、どうしたものか」

 

ひとまず検討を保留として、資料から顔を上げた弦十郎は事態を聞いて真っ先に飛び出した弟子()のことを思い出す。

 

「まったく、響の奴、何のために翼を休業させていると思っているんだ」

 

一体、誰に似たのやら、と誰に言うでもなく呟いた弦十郎はもう一度、資料を眺める。写真と聞いた情報ではただの記憶喪失の好青年にしか見えないが、去年、()から初めて出たアルターと言う言葉に反応した点がどうにも気にかかっていた。

 

「やはり、会ってみなければわからないか」

 

理屈で考えればHOLYに預けるべきである。しかし、弦十郎は己の判断基準である直感で見極めるために一騎との面談を行うことを決める。そうと決まれば行動あるのみ、弦十郎は資料を置くと一騎を呼び出すべく内線をかけるのだった。

 


 

エレベーターを降りてから医務室でメディカルチェックを受けさせられた一騎は、結果が出るまで時間がかかる、と言う名目で近くのソファーで座って待機していた。

 

(まぁ、司令の判断待ち、と言ったところか)

 

実際に結果が出るまで時間がかかるものもあるだろうが、少なくとも、まともな組織であればどこかの機関に引き渡すか判断している可能性も大いに考えられる。だが、彼個人の意見で言えばこの時点でどこかへ引き渡される可能性はないと考えていた。

 

「(随分と呑気なものだな)」

 

(ここに来る前も言ったが、この状況では下手に動けん)

 

それに、果報は寝て待て、と言うからな、と心の中で呟きつつ何とはなしに周囲に目を向ける姿は、事情を知らないものからすれば秘密基地と呼ぶにふさわしいどこかSFチックな設備を珍しがっているようにも見えた。

 

「外狩さんですね?」

 

ふと横合いからかけられた声に目を向けるとスーツ姿の男──緒川慎次(おがわしんじ)が目の前に立っていた。

 

「はい、そうですけど」

 

「司令が話したいことがあるそうで……着いて来ていただけますか?」

 

一騎は静かに頷いて立ち上がる。特に会話もないまま先導する緒川に着いて行くと司令室と銘打たれたプレートのある扉の前で立ち止まる。そのまま緒川が扉の脇のボタンを押すと、二回ほど呼び出し音が鳴った後にその上部のパネルに通話中の文字が表示される。

 

「緒川です。外狩さんをお連れしました」

 

『わかった、入ってくれ』

 

通話中の表示が消えるとドアが開き、どうぞ、と緒川に促されるまま室内へと入ると、弦十郎のデスクの前まで進む。案内を終えた緒川が、失礼します、と一礼をしてから退出すると、座っていた弦十郎が立ち上がる。

 

「外狩一騎くんだったな。俺は風鳴弦十郎、ここの責任者をしている」

 

「どうも、外狩一騎です。それで、お話と言うのは……?」

 

まぁ、座ってくれ、と促された一騎が向かい合わせに置かれたソファーへと腰掛けると弦十郎も向かいのソファーに座る。

 

「話と言うのは他でもない、君の体のことだ」

 

「!?何か、分かったんですか!?」

 

演技には思えない程の立ち上がり兼ねない勢いで身を乗り出す一騎を手で制する弦十郎。その表情は申し訳なさそうに曇っていた。

 

「いや、君の期待に沿えなくて悪いが、検査では異常は見つからなかった」

 

「……そう、ですか……いえ、検査していただいただけでもありがたいです」

 

「そう言ってもらえるとこちらとしても助かる」

 

「(此の世界の技術で我らを捉えることは出来ぬ)」

 

(その心配はしていない……が、ゴースト、この先は少し大人しくしていろ)

 

「(此の男は()れ程か?)」

 

(ああ、相手は()()風鳴弦十郎だ、万が一、と言うこともある)

 

目に見えて気落ちした様子を見せるもすぐに気を取り直す姿を見せた一騎に多少、安堵する弦十郎。だが、その表情の中に一握りの緊張が垣間見えたことで内心で警戒を強める。

 

「そこで、だ。君に一つ聞いておきたいことがある」

 

「?何でしょうか?」

 

「カズマ──シェルブリットのカズマと言う名前に聞き覚えはないか?」

 

「……カズマ……シェルブリット……うっ、頭、が……」

 

「ッ!?大丈夫か!?」

 

シェルブリットのカズマ、予想していたその名前にあえて大げさに反応を示す一騎。頭を押さえて苦しむ姿に流石の弦十郎も動揺する。

 

「は、はい、何とか」

 

「そうか……それで、何か思い出せそうか?」

 

呼吸を整えながら答える一騎の姿にひとまず安堵する弦十郎。水差しから注いだ水の入ったコップを渡しつつ尋ねるが、それを受け取った一騎は、いいえ、とかぶりを振って答える。

 

「……でも、はっきりとは思い出せないんですが、どこか聞き覚えのあるような気がします……教えていただけませんか、そのカズマと言う人のことを」

 




●#05について
・HOLY
アルター使いが存在するため、それに合わせて存在しています。原典ではHOLDの特殊部隊ですが、警察機構としての役割が主体ではないため、今作では国連の組織として扱っています。

・去年
要するに転生者がS.O.N.G.に合流したタイミングです。なお、今回、新装版を作るにあたって見直したところ、時系列的に少し怪しかったため、去年の表記に修正しました。

・あの風鳴弦十郎
一騎から謎の畏敬の念を抱かれていますが、シリーズを重ねるごとに最強キャラとしての立場を確固たるものにしていることから、作者としても正当な評価だと思います。


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#06

「……でも、はっきりとは思い出せないんですが、どこか聞き覚えのあるような気がします……教えていただけませんか、そのカズマと言う人のことを」

 

静かだが力強い一騎の言葉に一度深呼吸した弦十郎が、少し長くなるが、聞いてもらえるか?、と問うと一騎ははっきりと頷いた。

 

「わかった。まず、我々S.O.N.G.について説明したいが、君はノイズについてどれぐらい知っている?」

 

「ええと、検査の時に少しだけ。確か、触れた物を灰にする神出鬼没の存在だと聞きました」

 

「そうだ。そして、ノイズに対抗するために国連が編成したのが我々S.O.N.G.だ。ノイズは特定特異災害と呼ばれ、オーバーテクノロジーで作られた無人兵器だ。奴らは無機物をすり抜ける能力を持つ、そのため、現代兵器は通用しない」

 

我々が奴らを災害と呼ぶのはそのためだ、と付け加えた弦十郎はコップに水を注ぎ、一度飲む。ここまではいいか?、と確認する弦十郎に一騎はしっかりと頷く。

 

「そして、奴らに対抗できるのはシンフォギアだけ……()()()。そう、三年前のあの日までは──」

 

一度、言葉を切った弦十郎は手元のコップに目を落としながら話し始めた。

 

「あるライブ会場にノイズが出現し、現場はパニックとなった。幸い、現地には二名のシンフォギア装者(そうしゃ)がいたが、状況としては大規模な被害は免れそうもなかった。しかし、そこに一人のアルター使いが現れてノイズを倒し始めた。その男こそ──」

 

「シェルブリットの、カズマ……」

 

「そうだ。彼のおかげで装者一名を含めた数十名の()()()を出したが、最小限の被害で事件は終わった……それから二年間、彼は姿をくらましていたが、ある時、響君を助けた彼を保護することになった」

 

そう、今の君のように、と語りながら真っ直ぐに一騎を見る弦十郎。その視線に向き合う一騎の目にも真剣な思いが込められていた。一騎の視線を正面から受けた弦十郎は小さく笑みを浮かべる。

 

「その後、我々はいくつかの大きな事件に遭遇したが、そのどれもが彼の協力によって収束している。若さゆえに暴走しがちだが、自分に正直であり続ける……そんな男だ」

 

思い出すように語る弦十郎の目は一騎の姿に別の誰か──カズマを重ねているようにも見えた。

 

「そうですか……それで、彼は今、何処にいるんですか」

 

「……彼は破天荒なところがあってな。残念だが、半年ほど前にHOLYに異動になった」

 

「そう、ですか……ところで、HOLYとはどんな組織なんですか?」

 

目に見えて落ち込んだ様子を見せる一騎だったが、本心から気になったHOLYの単語に興味を示す。

 

「そうだな、君はアルターについて覚えていることはあるか?」

 

「そうですね……以前に聞き覚えはある、と思います。それと、実際に戦いましたが、急に出てきて驚いたぐらいで……詳しいことはさっぱりです」

 

予想通りの返答だったのか、なるほど、と頷く弦十郎。

 

「我々も詳しいことはわかっていないが、アルターはアルター能力によって周囲の物体を分解して再構成された存在、のことだとされている」

 

「なるほど……なんとなく、分かったような気はします」

 

ひとまずの納得を見せる一騎に、すまないな、と申し訳なさそうな顔で言う弦十郎だが、すぐに頭を切り替える。

 

「そもそも、このアルター能力はカズマだけのものだと思われていた。しかし、八ヶ月前、我々が要請を受けて南米のバルベルデへ向かうとそこにいたのはノイズではなく暴走したアルター使いだった」

 

(なるほど……廃墟のアレは隆起現象か)

 

納得した内心をおくびにも出さない一騎だが、特に警戒していない弦十郎は気づかないまま説明を続ける。

 

「幸い、こちらの説得で保護することには成功したが、それを機に各地で大規模な地面の隆起現象とアルター使いの発生が確認されるようになった。そして、現状を危険視した国連によって作られたのがアルター使いの専門機関、HOLYだ」

 

(いい線はいっている、が、始まりが違う)

 

「HOLYはアルター使いの保護を名目に活動しているが、君も遭遇したようにアルター使いには力に溺れる者もいる。そんなアルター能力者による犯罪の取り締まりを行っているのがHOLYの実働部隊──カズマのいる所だ」

 

(つまり、そう言うこと、か)

 

分かってしまえば何と言うことはない、今回の転生者はアルター使いと戦うためにHOLYを作った、それだけの話であった。

 

「カズマが、そこに……」

 

「そうだ、実働部隊にはカズマのように民間人のアルター使いが数多く所属している。それゆえにいろいろと噂もあるが、実績を上げて今では世界中に支部を作りつつある」

 

まぁ、その代わりにS.O.N.G.の出番は減ったがな、と続けて一度水を飲む弦十郎。一騎にはその表情は先ほどまでと変わらないはずだが、どこか哀愁のようなものがにじんでいるようにも見えた。

 

「……あの、アルター使いではない僕がHOLYに入ることは出来ますか?」

 

「君が、か……出来ない訳じゃないが、やめておいた方がいい」

 

おおよその状況を理解した一騎は転生者に近づくために質問してみたが、それに対する弦十郎の返答は芳しくない。

 

「?なぜですか?彼に──カズマに会えば何かわかるかもしれないんですよ?」

 

力強く静かに問いかける一騎に対して弦十郎は言いにくそうに小さく顔をしかめる。

 

「……アルターの研究機関でもあるHOLYはその性質上、秘密主義の下に部門ごとに分かれて運用されている。カズマのようなアルター使いならまだしも、君のように限定的な力しか持たない人間では彼と接触するだけでも難しいだろう」

 

そう、ですか、と納得しつつも落ち込んだ様子を見せる一騎に、そこで一つ提案がある、と空気を切り替えるように弦十郎が手を叩く。

 

「提案、ですか?」

 

「そうだ。記憶が戻るまでここにいるつもりはないか?もちろん、カズマにも連絡しておくから、都合がつけば会えるようにしよう」

 

(確かに都合はいい、がどうしたものか……)

 

どうだ?、と続ける弦十郎に対して困惑した表情を浮かべる一騎。確かに状況だけ見れば彼にとって好都合ではあるが、彼らの本分としては過度な干渉を避けたいことも事実であった。

 

「ありがたい話ですけど……でも、ご迷惑じゃないですか?」

 

「なるほど。では、うちの協力者である未来君を助けてもらったお礼ならどうだ?」

 

「……わかりました。それじゃあ、次に住む場所が決まるまで置いてもらっても構いませんか?」

 

「もちろんだ。S.O.N.G.へようこそ、一騎君」

 

これ以上は断り切れないと悟った一騎が諦めて提案を受け入れるとニヤリと笑った弦十郎はソファーから立ち上がる。

 

「さて、細かい話は後にして、まずは飯だ!君も食うだろ?」

 

「……そうですね、よく考えたら何かを食べた記憶もありませんし」

 

「(此の男、良き人間だが……)」

 

(あぁ……まったく、儘ならんものだな)

 

ぐぅ、と腹の虫を鳴かせながら答える一騎に、それはいかんな、と先導する弦十郎。そんな彼に従いつつ心の中で辟易する一騎とゴーストであった。




●#06について
・今作のアルター使いについて
原典のアルター使いとは違って新生児である必要はなく、隆起現象の影響を受けた人間が「向こう側」の世界を認識することでアルター能力に目覚めるシステムになっています。

▽シンフォギア本編との道のりの違い
・ライブでの死者が少なく、奏も植物状態で入院しているため、響のサバイバーズギルトが少し弱い
・一期の事件では響が説得しつつあったクリスとフィーネを殴り飛ばしているため、のちに協力が得にくい
・また、リディアンにて隆起現象が発生し、三期時点で日本でアルター使いが確認される
・一期の補足としてクリスは説得中でフィーネは生きているが、司令に監視されている。月は無傷
・二期の事件は神獣鏡は使われておらず、ほとんどは殴り飛ばしているため、響と未来は神の力の器にはなれない
・事件の発端はなくなったが、F.I.Sはフィーネのバックアッププランで動いていた
・二期中盤にはクリスが仲間になっているが、カズマの影響を大きく受けている
・三期ではマリア達の協力もないため、シャトーの起動にすら至っていないが、イグナイトは研究中
・中盤辺りで響の事情を知ったマリアが協力的になる
・四期はカズマが事前に結社と騒動を起こしつつ、本編中でアダムを殴り倒したため、神の力にまつわるデータが少ない
・また、アダムとの戦いの余波でバルベルデにて隆起現象が確認される
・五期については事件も短くなり、棺との戦闘後にシェム・ハを無理やり「向こう側」の世界に殴り飛ばしたせいで南極で隆起現象が起こる
・五期(秋から冬)の後の数か月で世界各国で隆起現象が起こりアルター使いが自然発生



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Vol.3:Reckless Fire Part.2
#01


夢を、夢を見ていたんです。

とても激しく、荒々しく、悲しい夢を、わたしは見続けていたのです。

地面から延びる光の柱に飲まれて消えていく街や人、自分であることを掴むために切り捨てたこれまでを。

ああ、全ては前に歩くために。全ては前に進むために。内なる思いを秘めたあの人の夢を。

 


 

「?気のせい、か」

 

深夜、丑三つ時とも呼ばれるこの時間帯、本来、文明の匂いの遠い南米のバルベルデであれば天上に輝く天然のプラネタリウムを楽しむことも可能だが、HOLYのジープの車列が走っているこの日、この場所においてはそんな風情は感じられなかった。

 

「隊長!カズマ()()、そろそろ着きますよ!」

 

車列の二番目で何かの気配を感じて空を眺めていたカズマと呼ばれた青年は声の主である副長を務める男の方へ顔を向ける。

 

「うっせーな、聞こえてるっての!それより、今回のヤツは強いんだろうなぁ?」

 

明らかに呼びかけを上回る声量で発せられた言葉に副長は一瞬、顔をしかめるが、一応は上司であるため文句を飲み込む。

 

「……そりゃ、そうですよ。なんせ、補給線がないはずなのに大量に銃を持ってるような連中ですからねぇ」

 

錬金術師が関わってる、なんて噂もありますがね、と付け加える副長に対してカズマは獰猛(どうもう)な笑みを浮かべる。

 

「へっ……嬉しいねぇ。最近は結社の生き残りも減っちまったからなぁ……」

 

そんだけの奴ならさぞ楽しめそうだ、とどこか遠くを見ながら嬉々として戦いに備えるカズマに副長は辟易する。

 

「まぁ、楽しそうなのはいいですけど、俺たちまで巻き込まんでくださいよ。この間なんか三人も医務室送りになってますからね」

 

上からもいろいろ言われてるんですよ、と呆れたように愚痴を言う副長だが、そんな文句もどこ吹く風なカズマは空を見上げる。

 

「あーあ、早くフィーネとかシェム・ハみたいに全力でやれるような奴は来ねぇかなぁ」

 

「……頼むからそんな物騒なことを部下の前で言わんでください」

 

また胃薬もらわないとなぁ、などと考える憂鬱な副長の心情など露知らず、まだ見ぬ強者との戦いを夢見るカズマだった。

 


 

「買い出し……ですか?」

 

昼食を終えた一騎が自室として宛がわれた空き部屋に向かおうとしていると待ち構えていた響と未来に買い出しへと誘われた。

 

「はい、だって一騎さんの荷物って何にもないんですよね?」

 

「それで、響と二人で買い出しに誘ってみよう、ってことになったんです」

 

「あぁ、それで……でも、僕の個人的な用事に付き合わせていいんですか?」

 

「(連れ立って動いては目立つからな)」

 

(……まぁ、どうせ言っても聞かんだろうが)

 

一応、納得は示しつつもやんわりと拒否する一騎だったが、彼女たちにとっては否定の内に入らないのか、悩むそぶりもなく首を横に振る。

 

「だって一騎さん、この辺りのこと知らないじゃないですか」

 

「それに、さっき助けてもらったお礼も出来てませんしね」

 

「そうですか……それじゃ、街を案内してもらってもいいかな?」

 

(ほが)らかに笑う二人に案の定、従わざるを得ないと感じた一騎は内心では不承不承(ふしょうぶしょう)ながらも受け入れることにした。

 

「それじゃ、出発──」

 

「おや、外狩さん、お出かけですか?」

 

いざ出発、と言うタイミングで横合いからかけられた声に三人が目を向けると緒川ともう一人、特徴的な長髪と左で結わえたサイドポニーの少女──風鳴翼(かざなりつばさ)が立っていた。

 

「はい、そうですけど……そちらの方は?」

 

「えっ!?翼さんを知らないんですか……って、そういえば、記憶がないんですよね」

 

翼さん?、と頭に疑問符を浮かべる一騎に声を上げた響を筆頭にその場の全員が驚きを隠せない。それもそのはず、国民的アイドルと言っても過言ではない翼を知らない、それだけでも彼らにとっては衝撃だったからである。

 

「そうですか、では、自己紹介を。私は風鳴翼、今は休業中ですが、アイドルをやっています。そして、そこにいる立花と同じシンフォギア装者です」

 

よろしくお願いします、と丁寧に挨拶する翼に対し、反射的に一騎も、こちらこそ、よろしくお願います、と頭を下げる。そんな一騎の様子をじっと見ていた翼の視線に気づいた一騎は頭に疑問符を浮かべる。

 

「あの、僕の顔に何か……?」

 

一騎の言葉で無意識の行動に気づいた翼は慌ててかぶりを振る。

 

「失礼、いえ、その、知り合いに似ていたもので」

 

「あ、それ、私も思ってました」

 

「え!?未来だけじゃなくて翼さんもそうなんですか?」

 

翼の言葉に未来が反応したことで驚く響。どうやら三人とも同じ人物を──おそらく、シェルブリットのカズマを思い浮かべているようだった。

 

「そんなに似てますか?」

 

「いえ、あの男とは似ても似つきませんが……」

 

「確かに、顔とかしゃべり方は違うんですけど……うーん」

 

「何と言うか、雰囲気、とかが何だか近い感じがしませんか」

 

(雰囲気?──まさか、外の世界の理を感じ取ったのか?)

 

「(然り。恐らく、直感で見抜いたのであろう──やはり、人間は侮れんな)」

 

未来が口にした雰囲気と言う言葉に、確かに、と頷く翼と、わかるかも、と同意を示す響、そうですか?、とよくわからない顔をしているのは緒川と内心で納得している当事者の一騎であった。

 




●#01について
・夢を見ていました
前後編の後編のアバンということでこちらでも使用しました。ここでは一人称を意図的に前編とは違う表記にしていますが、これは二つシーンがシチュエーションが同じだけで語り手と主人公が違う別の夢であることを意味しています。

・副長
名前もないモブですが、意外と作中では重要な会話をしています。ちなみに、あとで明言しますが、この時戦う相手はビッグ・マグナムという設定です。

・連れ立って動くと目立つ
前話で情報を集めた一騎は単独で市街を調査するつもりでした。邪魔された理由はネームドの人たちは善人が多い、と言うだけではなく、世界自体が転生者かそれに類する存在に都合がよくなるように動くシステムが原因です。

・翼さん登場
彼女だけでなく一騎に対して友好的な反応が多い理由は直感以外にもフォニックゲインが関係している可能性がありますが、隆起現象に遭遇していることも原因かもしれません。


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#02

 

「ええと、ところで、立花さんもシンフォギア装者だったんですね」

 

「はい、そうなんですよ!あ、でも、他の人には秘密ですからね?」

 

絶対ですよー、と念を押す響の言葉に頷きながら不思議と一騎も微笑んでしまう。

 

「それでは、小日向さんもそうなんですか?」

 

「いえ、私は協力者としてみんなの手伝いをしているだけです」

 

「(一騎、今の此の者達は原罪を祓われていない。恐らく、其れに(まつ)わる事象は起きぬだろう)」

 

「……そうですか。ということは、シンフォギア装者ってお二人だけなんですか?」

 

ゴーストの指摘で現状を把握しつつある一騎は当然と言えば当然の質問をするが、その言葉に他の四人の表情が曇る。

 

(他にも影響があるのか?)

 

「ええと、実は他にも二人いたんですけど……クリスちゃんは書置きを残して旅に出ちゃってて……」

 

「もう一人のマリアも三ヶ月前HOLYに出向……そんな状況ではアイドルを続けられませんから」

 

「そんなことが……すいません、事情も知らずにこんな質問をしてしまって」

 

「大丈夫ですよ、わたしもいますから。へいき、へっちゃら、です!」

 

(……ここまでとはな……)

 

内心の怒りを押し隠して申し訳なさそうな表情をする一騎に対して空元気にも見える笑顔を見せる響。そんな二人の様子にふと思い出したように翼は顔を上げる。

 

「そういえば、立花、また無茶をしたそうだな」

 

声のトーンを一段低くした翼の言葉にビクッと反応した響は目に見えて動揺する。

 

「あ、あの~これには深~い訳がありまして……」

 

「すいません、私が響に連絡したばっかりに……」

 

急に申し訳なさそうな顔でしどろもどろになる響と彼女を庇う未来。そんな二人の姿に翼は小さくため息をつく。

 

「……立花、いくら浸食を抑えられる処置があるとは言ってもその効果は絶対ではない」

 

頼むから無茶はしてくれるな、と力強くもどこか労わる声の翼の言葉に、響は静かに、しかしはっきりと頷く。

 

「そういえば、外狩さんたちはどこかにお出かけですか?」

 

「あ、そうでした。これから一騎さんの部屋に置くものを買い出しに行くんですよ」

 

「それで、私たちは助けてもらったお礼代わりに道案内をするんです」

 

なるほど、と納得した様子の翼。その隣で緒川は手帳を開いて何事かを確認する。

 

「それじゃ、私も同行してよろしいですか?」

 

(監視兼、護衛役、と言ったところか)

 

「(然り。だが、恐らくは護衛の意味合いが強かろう)」

 

「緒川さん、でしたよね?何かあるんですか?」

 

「ええ、最近は物騒ですし、足があった方が何かと便利ですからね」

 

「そうしてもらえると助かりますけど……風鳴さんも何か用事があったんじゃないですか?」

 

突然の緒川の提案に疑われている訳ではないと理解しつつ、信用のためには受け入れざるを得ない一騎だが、とりあえずの抵抗として翼に話題を振る。

 

「いえ、私は見舞いを終えて戻ってきたところで……後はここで待機するだけです」

 

「と言うことみたいですけど、どうしますか、一騎さん?」

 

「……分かりました、それなら、お願いしてもいいですか?」

 

翼の返答を受けて一騎の方をうかがう未来。予想以上のやりにくさに内心で辟易する一騎だが、ひとまず緒川の提案を受け入れることにする。

 

「もちろんです。では、行きましょうか」

 

「(さしもの狩人も善意に勝てんか)」

 

(……復讐の精霊の言葉とは思えんな)

 

内心で辟易する一騎だったが、翼に別れを告げて四人になった一行はエレベーターで地上へ出ると、緒川の運転で市外へと向かうのだった。

 


 

「──と言う訳で、最後にここでいろいろ買ってから帰りましょうか」

 

市外を車で回ってひとまずの案内を終えた四人は、そのまま買い出しのためにショッピングモールに来ていた。休日の午後ともなればそれなりの人がいる中で、はしゃぐ響と揃って楽しそうな表情の未来、それに続く形で戸惑いつつもほほ笑む一騎とその後ろ姿を見守る緒川、その姿は守るべき日常を存分に楽しもうとしているようだった。

 

「それにしても、この通信機ってとても便利ですよね」

 

なんとなく手にした通信機を手の中で(いじ)りつつしみじみと呟く一騎。それもそのはず、この通信機は本来の用途以外にも限度額内なら公共交通機関が利用でき、自販機で買い物もできるとあれば、この反応も納得である。

 

「そうですよね。協力者の私たちも持たせてもらってますけど……これが私と響を、みんなを繋いでいると思うと何だか感慨深いです」

 

「未来……」

 

温かい雰囲気に包まれる四人だったが、街頭のモニターから速報を伝える音が聞こえてくる。

 

『臨時ニュースです。南米バルベルデで活動中のアルター能力者を擁する武装集団をHOLYが鎮圧しました。繰り返します──』

 

四人の見上げた画面には速報の文字とともにHOLYの活動を伝えるニュースとその詳細な情報が読み上げられていた。

 

「HOLYの活動ってどこでもやってるんですね……」

 

「はい、一般人ではアルター使いは止められませんからね。世界中で必要とされているんですよ」

 

まぁ、司令や外狩さんのような例外もいますけどね、と付け加える緒川だが、彼自身も忍者の出であることを知っている響と未来は苦笑いになる。

 

「そういえば、今日の現場にHOLYの人たちは来ていなかった気がするんですけど……」

 

「それなら簡単ですよ……ちょうど今、ニュースでやるみたいですね」

 

ふと思い出した一騎の疑問に対する緒川の回答で四人がモニターの方を向くと、速報を読み終えたアナウンサーが次のニュースを読み始める所だった。

 

『──次のニュースです。本日、午後1時、完成したHOLY日本支部がマスコミに公開されました。今回、支部が完成したことで日本におけるHOLYの活動が全面的に支持される形に──』

 

「──と言う具合で、今後はS.O.N.G.の活動も人命救助が専門になるかもしれませんね……これで、翼さんもアイドルに戻れるといいんですけど」

 

あ、今のは聞かなかったことにしてください、と慌てて否定する緒川と思うところがあってか複雑な表情になる三人。会話の途切れたままの四人の脇を通る親子連れ、その娘が無邪気に歌うアイドル、風鳴翼の歌。常ならば微笑ましさを覚える歌が今は四人の表情に影を落としていた。

 

(転生者の無法がここまで世界を歪めたか……)

 

本来なら解決している問題。理不尽に歪められた世界の傷を感じた一騎は心の底で元凶である転生者に対する怒りを(たぎ)らせる。そんな中、よし、と言う響の小さな気合が一騎を含めた四人の沈黙を破る。

 

「……あの、一騎さん!雑貨だけじゃなくて服とか見てみませんか?」

 

わたしと未来でコーディネイトしちゃいますよ、と努めて明るく振舞い先導する響、その思いに気づき、緒川さんも試してみたらどうですか?、と乗り気になる未来。そんな二人の姿に呆気に取られるがほほ笑む一騎と緒川。楽しそうに見える四人だったが、彼らの胸中には一抹の寂しさが渦巻いているようだった。

 




●#02について
・原罪を祓われていない
Vol2で説明した通り、今作での未来は神獣鏡を使用していないため、二人は神の力の器ではありません。そのため、神の力周りの事件はカズマが力技で解決しています。

・行方不明のクリス
作中では描写されませんが、加入の経緯が変化してカズマの影響を大きく受けているため、強さを求めて世界を旅している設定です。

・浸食を抑える措置
敗北して監視されているフィーネが響と会話する中で可能性を感じたことから、融合症例の治療のための研究を行った成果です。あくまで抑える措置であり、このままでは危険なため、神獣鏡を使った除去を考えている可能性もあります。

・通信機
本編での描写を見るに意外と簡単に持たせている可能性があるため、今作では一騎も持っていることにしました。作中では描写されませんが、おそらく戸籍についても何かしらの措置が取られていると思います。

・バルベルデの事件
#01で言及された事件です。作中でも名言されていますが、このような事件が多発しているため、HOLYの勢力は拡大を続け、S.O.N.G.が担っていた日本での対処も支部ができたことで戦力の低下したS.O.N.G.も更なる活動の縮小が予想されます。


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#03

夕方、S.O.N.G.の本部のあるビルの前で緒川の運転する車が止まる。まず降りてきたのは楽しそうな顔で雑貨屋のレジ袋を持つ響。

 

「いや~楽しかったですね」

 

「もう、響が楽しんでどうするの?」

 

続いて車を降りながらたしなめる未来も同じ袋を持っていることから楽しんだことがうかがえる。後に続く一騎も着替えや日用品の入った買い物袋を持ったまま、穏やかな微笑を浮かべている。

 

「では、僕は一度車を置いてきますので」

 

先に行っててください、と言い残して車を走らせる緒川。軽く伸びをした一騎の前に荷物を後ろ手に持った響と未来が並び立つ。

 

「どうかしましたか?」

 

「えっと、今日の記念にこれ、どうぞ!」

 

「これは……」

 

「私と響から、歓迎の証です」

 

響が差し出したのは赤と青の紐で作られた飛んでいる鳥のモチーフの付いたストラップだった。サプライズに驚く一騎だが、すぐに笑顔を見せる。

 

「ありがとう、大事にするよ。そうだな……これで、どうかな?」

 

受け取った一騎は取り出したストラップを少し弄って通信機に付けると二人に見せる。夕日に照らされるストラップを見て喜ぶ二人、穏やかな空気に包まれるこの状況は一日の終わりとしては最高の光景──のはずだった。

 

「(来たぞ、一騎)」

 

「!?」

 

「あれは……」

 

突如、周囲に鳴り響くヘリのローター音に周囲を見回す三人。ゴーストの警告でいち早くヘリを見つける一騎、ついで、響と未来もその姿を捉えるが、目に映った三機のヘリとそのマークに驚愕する。

 

「HOLY……何でここに?」

 

(ホーリーアイ、いや、絶対知覚との併用か)

 

困惑する二人と内心で気づきつつも表向き困惑を装う一騎。そんな三人の前に先頭のヘリが降り立ちドアが開く。中から部下を引き連れて現れたのは黒いマントと槍を持ち、ガングニールを纏った女──マリア・カデンツァヴナ・イヴその人であった。

 

「マリア、さん?どうしてここに?」

 

「久しぶりね、響、未来」

 

「この人も……シンフォギア装者……」

 

毅然とした、しかし、どことなく様子のおかしいマリアに三人は困惑を深める。そんな三人の様子を見て取ったマリアは真っ直ぐに一騎へと向き直る。

 

「そう、私はシンフォギア、ガングニールの装者。そして──」

 

一度、言葉を切ったマリアは手に持った槍──アームドギアを一騎に向ける。それと同時に背後に控えていた部下がサブマシンガンを構えて一騎に向ける。

 

「──あなたを拘束しに来た、HOLY日本支部の支部長、マリア・カデンツァヴナ・イヴだ!」

 

「マリアさん!?どうして……ッ!?」

 

「(戦闘を見られていたか)」

 

(さもありなん、だな)

 

衝撃的な言葉に動揺を隠せない響と未来。同様に困惑を示す一騎だが、その理由には大凡の見当がついていた。

 

「あの、どう言うことでしょうか?」

 

「決まっている。アルター使いを倒したその異能……個人が持つには危険すぎるその力は、我々HOLYで管理させてもらう!」

 

力強く宣言するマリア、誰が見ても模範的なHOLYとして振舞うその姿は、どことなく無理をしているようにも見えた。

 

「そんな!?一騎さんは何も悪いことはしていないんですよ!」

 

「抵抗するなら、この場で処分させてもらう」

 

「……ッ!?」

 

一騎を庇おうとする未来だったが、冷たく言い放つマリアに肩を落とす。処分と言う言葉に反応して反射的に前に出そうになる響だったが、それを片手で制する一騎。

 

「……一騎さん?」

 

「駄目だ、下手に動くと君たちも危ない」

 

近くを滞空するヘリから注がれる視線と目の前のマリア、さらにその後ろに控えるサブマシンガンに響は圧倒的な不利を悟る。

 

「そうよ……響、アナタたちのやり方では何も守れないのよ」

 

「……くッ!?」

 

悔しそうに歯噛みする響とどこか自分に言い聞かせるような言葉のマリア。そんなやり取りの中、周囲を見渡した一騎は既に決めた答えに向けて行動を開始する。

 

「マリアさん、でしたね?」

 

「ええ、そうよ。それで、こちらに来てもらえるかしら?」

 

返答によっては、と鋭い視線で槍を向けるマリアに対して一騎は真っ直ぐと視線を合わせる。

 

「はい──ですが、一つ条件があります」

 

「……言ってみなさい」

 

「僕が大人しく捕まる代わりにS.O.N.G.(ここ)の人たちを見逃してもらえませんか?」

 

「(成程、彼奴等の懐に入る心算か)」

 

(ああ、調べるにしてもこの方が都合がいい)

 

「「一騎さん!?」」

 

「ッ!?」

 

お願いします、と深く頭を下げる一騎。その言葉に衝撃を受ける響と未来。そして、槍を向けたままだったマリアも一瞬、息を詰まらせる。

 

「師匠なら何とかしてくれます!だから……」

 

「いいんです、響さん。この人たちに着いて行けば会える気がするんです、シェルブリットのカズマに」

 

「一騎さん……」

 

二人のやり取りを見ていたマリアは少し考えると槍を下ろして構えを解く。

 

「……わかったわ。全員、銃を下ろしなさい」

 

「支部長!?」

 

「命令よ。それと、彼らはただの民間人だと思って保護していた──上にはそう報告します。」

 

「……了解、致しました」

 

驚く部下を命令で黙らせるマリアに、ありがとうございます、と一騎は丁寧に礼を言う。

 

「それで、こちらは約束を守ったわ」

 

「はい、今からそちらに行きます。ただ、その前に──」

 

一騎は一度言葉を切ると、振り返ってほほ笑みながら響と未来を交互に見る。

 

「小日向さん、立花さん、昼間も言いましたけど、僕は二人と──S.O.N.G.の皆さんと会えて本当に良かったと思っています」

 

司令と緒川さんにもそう伝えてください、と頭を下げた一騎は、それじゃ、さようなら、と穏やかな笑顔を向けると、泣きそうな顔の二人に背を向けて無抵抗である事を示すために両手を上げたままマリアの方へと歩き出す。

 

「……挨拶は済んだかしら?」

 

「はい、もう大丈夫です……ありがとうございました」

 

「ッ……彼を連行しなさい」

 

「了解」

 

マリアは部下に指示を出して一騎に手錠をかけさせると、そのまま部下たちととも離陸準備の済んだヘリに乗り込んでいくが、その途中、通信機と買い物袋を奪われた一騎は窓から離されて真ん中の席に押し込まれた。

 

「一騎さんッ!必ず、迎えに行きますから!」

 

「帰ってきたら、みんなでふらわーのお好み焼き、食べましょうね!」

 

「(流石に心が痛むか?)」

 

(そんな繊細さはとうに捨てた……だが、彼女は違ったようだな)

 

「……私がやらねば……ッ」

 

(……少し眠る、後は任せた)

 

離陸したヘリの中でドアが閉まる寸前に聞こえた二人の言葉に一騎は内心で自嘲(じちょう)するが、正面に座るマリアがチームの長として毅然に振舞おうと無理をしている姿に憐れみを感じつつ到着まで目を閉じるのであった。

 




●#03について
・ストラップ
この手のイベントに必須な思い出のアイテムとして考えました。デザインのモチーフはワイルドアームズのロディをイメージしています。あと、旧版では盛大に誤字っていたことに気付きませんでしたがそこも修正しました。

・マリア登場
今作では響が体内のガングニールを使っているため、もう一つのガングニールはマリアが使っています。マリアがHOLYに所属する理由は旧F.I.Sのメンバーの身の安全のためです。

・支部長ムーブ
この一連の流れを作りたいがためにHOLYに入れました。あと、ここで笑わなかったらこの先笑うところはないです。


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#04

 

「これは、どう言うことだ?」

 

白衣を着たメガネの男──ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス、ウェル博士とも呼ばれるこの人物は数時間前に本部のあるフロンティアへと連行されて来た外狩一騎と言う異能を持つ男の検査結果に困惑していた。だが、HOLY技術部のトップであり、天才的な頭脳の持ち主でもある彼の胸中には自らの理解を超えた現象に少々の苛立ちと強い知的好奇心の疼きが渦巻いていることを感じていた。

 

「ふむ、生物学的には完全に人間ですが……融合症例でもなければアルター使いでもない。この男、外狩一騎とは、一体……?」

 

F.I.S.時代からのデータや過去に壊滅させた結社の持っていた錬金術に関する資料と照らし合わせるが、当然ながら関連性は見られなかった。

 

「少なくとも異端技術の類ではなさそうですし、むしろ、私の専門分野なのですが……もし、これが人間を超人へと進化させるものならば、あるいは……ククク」

 

嬉々としてデータをまとめるウェル博士。ともすればマッドサイエンティストにも見えかねないその姿は、他に人のいない彼の研究室においては誰にはばかる必要もないのだった。だが、そんな彼の城にも訪れる者はあるのか軽いノックの音とともにドアが開く。

 

「失礼します。ドクター、本部長が報告をお待ちですが……」

 

「……少し、待っていてもらえますかねぇ」

 

「っ、申し訳ありません!……ですが、何分、今回は上層部にとっても異例の事態でして、一刻も早く判断材料が必要なのです」

 

部屋に入った職員は、自身の研究を邪魔されたウェル博士の怒気を含んだ言葉に萎縮するが、自身の仕事を果たすために一応の弁解を試みる。

 

「……すみません、少々、気になる点があったもので。では、こちらをどうぞ。ああ、詳細なデータはメインサーバーに移してますから、何かあればそちらで確認してください」

 

「あ、ありがとうございます。では、失礼しました」

 

一転して穏やかな表情になったウェル博士から印刷してあった資料を受け取った職員が退出すると、ため息をついたウェル博士はモニターに目を向ける。

 

「外狩一騎、私が英雄になるためにアナタの命を有効活用させて頂きますよ」

 

強い狂気を宿した笑みを浮かべながら画面に映る一騎の写真とHOLYの衛星監視システム──通称、ホーリーアイが一瞬だけ捉えた燃え盛る髑髏──ゴーストライダーのぼやけた写真を強く見続けていた。

 


 

「いい加減、何か言ったらどうだ!」

 

肉を打つ鈍い音が尋問室に響く。陰が出来ないように照明で照らされた中心で殴られて倒れこむのは手錠で後ろ手に縛られた一騎であり、傍らに立つHOLYの制服を着た尋問官の男は殴った拳をさすっていた。

 

「ったく、あれからもう何時間になると思ってんだよ……?もうすぐバルベルデだぞ?」

 

「おいおい、あんまりやりすぎんなよ」

 

あまりにも動じない一騎の姿に気味の悪さを覚える尋問官に対して後ろから(いさ)めるような同僚の言葉が飛んでくる。

 

「わかってるっての。あのウェル博士からのお達しとあっちゃ俺らは従うしかないからなぁ」

 

下っ端は辛いぜ、と笑いあう二人の耳に身動(みじろ)ぎした一騎の手錠がコンクリートと擦れる音が響く。

 

「おい!勝手に動くな!」

 

「どうせ何も出来ないんだから大人しくしてろよ」

 

口々に文句を言いながら一騎に近づく二人。倒れている一騎を両脇から引き起こしているところで一騎が小さく口を開く。

 

「……何時だ?」

 

「あぁ?」

 

「今は何時だ、と聞いている」

 

コイツ……!、と怒りを滲ませる右側に立つ尋問官だったが、まぁまぁ、と宥める左側の尋問官は腕時計を確認する。

 

「え~っと、お、もう19時か。日本で捕まえた訳だから……ええっと、バルベルデと日本の時差って何時間だ?」

 

「12時間だ。つーか、本部支給の腕時計なら自動で現地時刻になってるっつの」

 

それもそうか、と納得する相方に呆れる右の尋問官。気が抜けたのは一瞬だったが、一騎の前でその一瞬は致命的だった。

 

「そうか、なら──」

 

一騎の体の表面が炎に包まれる。一騎を支えていた尋問官たちは突如現れた熱を感じない炎に呆気に取られる。その間に一騎の体はゴーストライダーへと変身を遂げた。

 

「──俺の時間だ」

 

地獄の底から響くような声で告げたゴーストライダーは手錠を引きちぎると、両脇の尋問官を殴りつけて昏倒させる。手錠の破片を投げて監視カメラを壊したゴーストライダーはコンクリートに倒れ伏す尋問官を置いてドアを蹴破り外へと出た。

 

(まずは、動力炉だ。フロンティア(コイツ)を落とす)

 

「(職員は如何する気だ?)」

 

(猶予を作る。俺たちなら出来るだろ?)

 

「(然り、だ)」

 

手早く相談を終えたゴーストライダーは迷いのない足取りで通路を進んでいくとその先から複数の呻き声が響く扉があった。その上部には丁寧に動力室と表記されており、周囲の扉には動力棟と書かれており、AとBに分けられていたその先からも呻き声が聞こえていた。

 

(この声は……?)

 

「(罪人も居る。如何やらアルターを無理に引き出されているようだ)」

 

(……なるほど。こちらで正解だったようだな)

 

ゴーストライダーが静かな怒りを湛えてドアを蹴破ると部屋の中央にはコンクリートで舗装された台座とエネルギーを発する大きな球体が目に入った。周囲にはガラス張りの一人部屋が幾つも作られており、その中では老若男女問わず苦しんでいるアルター使いと思われる姿が見受けられた。

 

「あれが動力炉。いや──」

 

中央の球体へ進むゴーストライダーだったが、ただならぬ気配を感じて立ち止まると球体からにじみ出るように黒い怪物が現れる。

 

「──ネフィリムか」

 

轟音。そう呼ぶのが適切としか思えない咆哮を上げるその姿は怪獣と言われても違和感の無い威圧感を(かも)し出していた。2m近い身長を持つゴーストライダーも6mのネフィリムと相対してしまうと小さく見える。

 

「来るか。落とし子よ」

 

警戒しているネフィリムは棒立ちのまま問いかけるゴーストライダーの言葉に反応して咆哮とともに跳びかかる。

 

「怪獣とは──」

 

巨体から繰り出される体重が乗った右手の爪による攻撃。成人男性を優に超える大きさの腕から振るわれた()()は並みのアルターでは打ち砕かれてしまう程の一撃だが、その一撃はゴーストライダーの左腕のブロックで防がれる。そして、ゴーストライダーはブロックした腕のまま体を滑らせて前進。そのまま突き出した右腕はネフィリムの胸へと吸い込まれ、心臓を持ったままの右腕は背中へと貫通した。

 

「──(すべか)らく打倒されるものだ」

 

ゴーストライダーはそのまま心臓を握りつぶすとネフィリムの全身を炎で包む。断末魔の悲鳴を上げる間もなくネフィリムを焼失させた炎は中央にある球体を包みそのまま浸食するように周囲の地面や壁にも溶け込まれていく。その炎──ヘルファイアはあらゆる物を燃やし尽くす地獄の業火そのものであり、あらゆる無機物をゴーストライダーの武器として変貌させる超常の炎であった。そして、その炎を受けたフロンティアは今やゴーストライダーの手中にあるといっても過言ではなかった。

 

「……さて、これでいいだろう」

 

数秒ほど集中していたゴーストライダーが顔を上げると周囲で響いていた呻き声が止み、全ての部屋の電子ロックが解除される。周囲から戸惑う声が聞こえる中、ゴーストライダーが球体を殴り壊すと、その轟音に人々の視線がその原因であるゴーストライダーへと集まる。

 

「ここは沈む。お前たちは自由だ」

 

聞こえないはずの距離でさえ、いやにはっきりと聞こえた声に歓喜するアルター使いたち。暴威から解放され、立ち上がるその歓声を背にゴーストライダーは次なる標的の元へ向かうのだった。

 




●#04について
・ウェル博士登場
HOLYを立ち上げるにあたって技術部門のトップとしてカズマが選んだため、HOLYの所属になっています。一応、監視の名目もありますが、ネフィリムに浸食されていないため、本部に軟禁される程度で済んでいます。

・ホーリーアイ
初期版ではこの場面のみHOLYアイ表記だったため、上記の形に統一しました。どう使っているか明言していませんが、設立からの期間の短さを考えるとアルター使いの集中する地域に限定して使用している可能性はあります。

・日本と南米の時差
決戦の舞台を南米と決めていたため、日本で買い物をさせて時間をつぶさせました。

・ネフィリム
今作では起動すらせずに事件が解決している可能性があるため、アルター使いの力で強制的に起動させているイメージです。


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#05

 

「これは……一体!?」

 

驚愕するウェル博士だが、それも当然である。地響きとともに緊急事態を告げるサイレンが響いたと思えば壁を破って現れたゴーストライダーに掴まれる。そんな状態で平静を保てる人間はそういるものではなく、彼もそうではなかった。

 

「地下の動力炉。アルター使いはお前の案か?」

 

「だとしたら、どうします?私を殺しますか?」

 

常人であれば恐怖で卒倒しかねない声のゴーストライダーに対し煽るようなウェル博士の言葉。ピクリ、と反応するゴーストライダーだが、即座に首を絞める手に軽く力を籠めて眼前に引き寄せる。

 

「ッぐ……!?」

 

「お前は殺さん。だが、報いは受けてもらう」

 

「う、うわぁぁぁーーー!!」

 

冷たく言い放つゴーストライダーがウェル博士に贖罪の眼(ペナンスステア)を覗き込ませる。贖罪の眼(ペナンスステア)、本来は罪を付きつけて魂を焼く力があるが、それ単体に命を奪う力は無い。なぜなら、それは人生をやり直させる更生のための力でもあるからだ。そして、罪を付きつけるためには見る必要がある。今、ウェル博士の魂を見たゴーストライダーはその眼によって彼の全てを知るのだった。

 

(……この男、やはり外道だったか)

 

「(だが、其の手で命を奪ってはいない)」

 

ウェル博士の罪に絞り出すようなゴーストライダー──一騎の言葉に諭すような口調のゴースト。だが、怒りをぶつけるべき相手は魂を焼かれ、意識のないままゴーストライダーの手に掴まれていた。

 

(……分かっている。俺も、ゴーストライダーだ)

 

振り切るように言い放つゴーストライダーはウェル博士を左肩に担ぐと部屋にある端末を炎で溶かす。蒸発しつつ燃える端末をそのままに部屋から出たゴーストライダーは適当な通路に博士を捨てると、この建物の地下にあるアルターの精製施設へと向かうのだった。

 


 

燃え盛る建物、吹き飛ばされて気絶している警備員。精製されたアルター使いで構成される戦闘部隊が壊滅している様は正に阿鼻叫喚の地獄絵図であった。地下にある精製施設を破壊してそんな地獄を作り出したゴーストライダーは、地表中央の建物にあるデータセンターへと向かっていた。

 

「止まれ!止まらんと──ぶべっ!?」

 

「ひ、ひいぃぃ……!?」

 

「無駄だ。死にたくなければそいつを連れて逃げろ」

 

直にここは沈む、と冷たく言い放つと気絶する精製されたアルター使い──ダース部隊の一人と近くにいた研究スタッフらしき人物を放置して階段を上る。そして、しばらく通路を進んでデータセンターが目の前になった三叉路で右の通路から、緑色に輝く球体がゴーストライダーの眼前に飛んでくる。が、それを右手で軽く受け止めるとあっさりと握りつぶした。

 

「よくも僕の大事なタマを!」

 

ゴーストライダーが声の方へ顔を向けると、HOLYの制服を着たアルター使いが同じような7つの球体を浮かべながら、3m程離れた所からゴーストライダーを睨みつけていた。

 

「僕の名前は──ぐえっ!?」

 

「うるさい、黙っていろ」

 

「あぁ!?B級アルター使いが一瞬で!?」

 

ゴーストライダーは自己紹介をする間も与えず、巻いていたチェーンでアルター使いを引き寄せて叩き伏せる。一瞬の出来事に驚く事務スタッフらしき人物を置いてデータセンターへと入ったゴーストライダーはコンソールを操作する。やがて、目当ての情報に行きついたのか画面を静かに見つめる。

 

「これは、好都合だな」

 

ウェル博士の部屋と同じようにサルベージ不可能な程に部屋を焼き尽くすと倒れているB級アルター使いから無線機を奪う。

 

「ひっ!?」

 

怯える事務スタッフを放置してゴーストライダーが指笛を吹くと、違和感を感じたスタッフは背後を振り向く。すると、通路の向こう、何も無いはずの空間がぽっかりと開いて中から車輪が炎に包まれたアメリカンバイク──ヘルバイクが現れてゴーストライダーの真横、右の通路に頭を向ける形で滑り込む。

 

「……バイ、ク?」

 

「ここは沈む。そいつを連れて逃げると良い」

 

バイクに跨りながらスタッフに忠告するゴーストライダー。だが、その行動に疑問に感じたスタッフは何とはなしに声をかけてしまう。

 

「あの、あなたはどうするんですか?」

 

「俺は……こちらから出る」

 

ゴーストライダーの言葉にヘルバイクのエンジンが轟音を上げる。地獄(ヘル)の名を関するに相応しいこの世の物とは思えない音にスタッフは身を縮める。

 

「ひっ──え?」

 

困惑するスタッフを他所に轟音を響かせるヘルバイクがその軌跡に炎の(わだち)を残しながら真っ直ぐに通路を疾走して視界から消える。やがて響く大きな破壊音と衝撃にスタッフが通路を覗き込むと、その先には大きく破壊されている壁だったものと、外へと続く炎の轍、そして、文字通り空を走るヘルバイクに乗るゴーストライダーの後ろ姿があった。

 

「……あ、早く逃げないと!?」

 

あまりの衝撃に呆気に取られていたスタッフだったが、先ほどのゴーストライダーの言葉を思い出して脱出のために倒れているアルター使いを引きずっていくのだった。

 


 

付近を飛行中の本部が壊滅、その一報を受けたHOLYバルベルデ支部は蜂の巣をつついたような大騒ぎだった。さらに、既に墜落を始めていることもあって支部長会議は紛糾し、他の支部からは救助艇が送られるかすら怪しくなっていた。そんな中、つい数時間前に任務を終えて帰還したカズマは待機要請が出ているにも関わらず、墜落している本部を車庫から眺めていた。

 

「燃える髑髏(どくろ)のアルター使い、か……へっ、ビッグ・マグナム程度じゃ物足りなかったからなぁ」

 

満足させてくれよ、猟犬さんよぉ、と呟くカズマ、その顔には獰猛な笑みが浮かんでいた。報告にあった燃える髑髏のアルター使い──それが以前に自分を転生させた存在から聞いた転生者を狙う猟犬であると確信しており、楽しそうに見上げる先には雲一つない夜空に月が輝いていた。

 

「つっても、ここからあそこまで飛ぶわけにもいかねーからなぁ」

 

どーすっかなぁ、などとボヤいていると無線機に緊急連絡が入ったことを伝える信号音が鳴り響く。咄嗟に応答すると地獄の底から響くような声が流れてきた。

 

『NP3228、表に出てこい。繰り返す。NP3228──』

 

「来やがったなぁ!」

 

通信の内容を聞いて飛び出したカズマは支部の広場に出て仁王立ちになる。

 

「さぁ!俺はここだぜ、燃える髑髏のアルター使いさんよぉ!!」

 

大声で宣言したカズマの前に急に影が差す。気配に気付いて空を見上げるとヘルバイクに乗ったゴーストライダーが目の前に飛んで来るところであり、そのまま横滑りしてバイクが止まる。顔を上げた異形の魂を見抜くような視線と異質な気配に思わず飛び退いたカズマの全身が総毛立つ。

 

「へ、へへ……見つけた。見つけたぞ!!」

 

「ああ、そうだな」

 

獰猛な笑みを浮かべて楽しそうに叫ぶカズマと対照的に感情を感じさせない声のゴーストライダー。その距離およそ6m程。悠然とバイクを降りるゴーストライダーにカズマは右手を突き出し、人差し指から小指へ握りこんで最後に親指を握って拳を作る。

 

()()()()からつかみ取ったこの力、随分と持て余しちまったが──」

 

拳を作ったカズマの動きに連動して体が発光し、周囲の地面が抉れていくと、右目から右肩、右腕へとアルターが再構成されていく。

 

「──アンタみたいな化け物ともやり合えるんだ──」

 

再構成されたアルター──シェルブリット・第二形態となった右腕の手の甲を相手に見せつけるようにして、拳を上に向けて内側へと肘を曲げる。

 

「──転生者(アルター使い)も悪かねぇ、そう思うだろ?あんたも!!」




●#05について
・その手で命を奪ってはいない
今作におけるゴーストライダーを象徴する言葉です。罪人とはいえ感情のままに殺していては復讐を越えた私刑になってしまうため、彼らとしてはどこかに基準を設ける必要があったという話です。

・B級アルター使い
スクライドよりゲスト参戦の橘さんです。出番は一瞬ですが、インパクトのあるセリフがあるのでここで使わせていただきました。

・NP3228
スクライドでHOLYに捕まったカズマに付けられたコードです。ここでは原典のカズマになり切っている男にだけ通じる符号として使っています。

・見つけたぞ!!
今作のカズマは原典のカズマになり切っていることを表すため、ここだけでなく随所で原典のカズマが使っていそうな言い回しを多用させています。そのせいか初稿では作者もゴーストライダーに劉鳳みたいな言い回しをさせてしまっていました。


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#06

「──転生者(アルター使い)も悪かねぇ、そう思うだろ?あんたも!!」

 

臨戦態勢を整えたカズマは強くゴーストライダーを睨みつける。対するゴーストライダーはバイクを降りた状態から一歩も動かず、その成り行きを見ていた。

 

「……」

 

「見下してんじゃねぇーー!!」

 

途端に噴出するアルター粒子。その勢いで飛び出したカズマは右腕を振りかぶる。

 

「シェルブリットォ・バーストォォー!!」

 

振りぬいた輝く拳がゴーストライダーに突き刺さる。が、その一歩手前で左腕に拳を受け止められ、カズマの体が空中で止まる。

 

「なッ──」

 

「遅い」

 

驚愕するカズマ。逆にその隙を突いたゴーストライダーの炎を纏った右手が振りぬかれる。しかし。

 

「──なんてなぁ!」

 

「ぬ……!?」

 

一際カズマの右腕が輝くと、左腕にも再構成されたアルターによってゴーストライダーの拳が掴み取られる。力が拮抗しているのか、カズマが地面に降り立つと二人は組み合ったまま動かなくなる。

 

「こんのぉ!!──があっ!?」

 

組み合った状態から同時に頭突きをする二人。だが、身体的な強度のせいか、カズマだけが仰け反ってしまい、バランスを崩す。

 

「しまっ──」

 

「隙だらけだ」

 

「──ぐおぉ!?」

 

一瞬、均衡が崩れたタイミングで力の籠められたゴーストライダーの右の拳が、受け止めていたカズマの左手ごと顔面に叩き込まれた。勢いのまま吹き飛ぶカズマだったが、途中で地面に右の拳を突き立てて回転しながら勢いを殺して着地する。

 

左手で口元を拭ってから獰猛な笑みを浮かべて再度、構えを取るカズマと振りぬいた拳を戻して棒立ちになるゴーストライダー。図らずも仕切り直しになり、向かい合う二人。その構図は先ほどと似ているが、状況はカズマにとって不利になりつつあった。

 

「……一つ問う」

 

「あぁ?……何だよ」

 

一触即発の空気の中、不意にゴーストライダーから出た問いに出鼻をくじかれた形になったカズマは構えたまま不機嫌そうに応じる。

 

「お前は()()で満足か?」

 

「ハッ、まだだよ、こんなんじゃ全然満足できねぇ。足りねぇなぁ!」

 

不意に構えを解くカズマ。その右手が強く光り、それに合わせて左手も強く光り始める。

 

「だから、もっと、もっと!──」

 

光が強くなっていきやがて全身を包む。明らかに隙だらけの恰好のカズマだが、ゴーストライダーはその変化を眺めているだけだった。

 

「──もっと、かぁがぁやぁけぇぇぇーーー!!」

 

やがて、目の眩むような閃光が収まるとカズマの全身にアルターが再構成される。それこそがかつての強敵を打倒したカズマの最強の姿──シェルブリット・最終形態であった。

 

「お前の行く先は俺が見せてやろう」

 

「へっ、ようやく本気になったかよ!てめぇ、名前は何だ!」

 

「……ゴーストライダー」

 

「ゴーストライダーか、オッケー刻んだ。なら今度は俺を刻め。俺の名前を、カズマと言う名前を!」

 

力強く楽しげに宣言するカズマに対し、微動だにしないまま冷たく返すゴーストライダー。二人の間に再び、一触即発の空気が流れる。

 

「さぁ、見せてやる!これが、これだけが!俺の、自慢の、拳だぁぁぁ!!」

 

勢いよく突き出された一撃はこれまでの戦いで放たれた中でまさしく最高と言っても過言ではない鋭さだった。迎え撃つゴーストライダーは右手を前に出してそれを左手で支える。カズマの拳が狙うのは前に出されたその右手。自らの拳に絶対の自信を持つが故のその選択は彼の性格上、避けられないものであった。そして。

 

「ぐっ!?」

 

止められる拳。宙に浮いたままのカズマ。先ほどの焼き直しにも見えるその構図だが、今回は違う点があった。一つは二人とも既に両手を使っていることこと。そして、もう一つは。

 

「……!?」

 

「まぁだだぁぁぁ!!!」

 

カズマはまだ追撃を残していることであった。勢いよく地面を踏みぬいたカズマはアルター粒子を噴出させ、さらに加速する。過去最高を超えるまさに彼の自慢の拳と呼べる一撃は両手の甲から放たれる光によって見えなくなる。そして、その一撃の終わりには一際大きな閃光が迸った。

 

「ゼェ、ハァ、これで──」

 

「満足したか?」

 

「──なっ!?」

 

光が収まると全身に絡みついた鎖で立ったまま地面に縫い留められながら両の拳を片手で掴まれているカズマと、ほんの少し地面を削った以外は無傷のゴーストライダーの姿があった。

 

「ここからは俺の番だ」

 

「っ!?……ぐっ、がっ、あぁっ!?」

 

そこからは一方的だった。ひとりでに鎖が解けると炎を纏った左の拳が顔面に数度叩き込まれ、その衝撃にふらつくカズマは堪らず退こうとするが、掴まれた両の拳ごと引き寄せられる。

 

「ぐおっ!?……ごあっ!?」

 

ガラ空きのカズマの胴体に左の膝蹴りが打ち込まれると同時にゴーストライダーの右手からカズマの拳が解き放たれる。地面から平行になり浮き上がるカズマは、自らの左拳を右手で包んで踏み込んだゴーストライダーのダブルスレッジハンマーを受けて、そのまま地面に叩きつけられる。

 

「……まだ余裕があったか」

 

「ぐぅ……く、くそっ、たれ……」

 

立ち上がろうとするが、ダメージのせいで動けないでいるカズマ。何とかアルターは維持しているが、それが解けるのも時間の問題であった。

 

「寝ていろ。直ぐに終わる」

 

「まだ、だ……俺、はぁ……があっ!?」

 

ゴーストライダーはダメ押しの一撃として倒れ伏すカズマの背中を踏み抜かんばかりの勢いで炎を纏った右足を打ち付ける。あまりの衝撃にカズマの全身を覆っていたアルターが解除されていく。

 

「……大人しくしていろ」

 

「ちく、しょう……うらぁっ!」

 

首を掴まれて持ち上げられるカズマ。眼を合わせられる前にカズマは最後の力を振り絞って右手でゴーストライダーの顔面を殴りつける。

 

「……」

 

「へ、へへっ……意地があんだよ……男の子にはなぁ……!」

 

ただの拳に大した威力もなく、ゴーストライダーの顔を押す程度でしかない。だが、そこには確かに偽物であってもシェルブリットのカズマを名乗る男の矜持(きょうじ)が存在した。

 

「それがお前の全てか?」

 

「あぁ……これが、俺の、自慢の、拳だ……」

 

「……そうか。では、これがお前の行く先だ」

 

満足げに言葉を絞り出すカズマに対して冷たく言い放ったゴーストライダーはゆっくりと贖罪の眼(ペナンスステア)を覗き込ませる。

 

「ぐ……う、あ……あ」

 

カズマが最後に見たのは、自らが生み出した転生前の世界が壊れて行く地獄のような光景だった。そして、その地獄の被害者と彼を切っ掛けに発生したアルター犯罪の被害者、その両方の痛みを一身に受けたカズマはその苦しみを味わいながら、魂ごと体を焼き尽くされるのだった。

 

(……所詮はこいつも転生者、か)

 

「(然り。だが、奴には矜持が在った)」

 

(……それでも、罪は裁かれなければならない──それが、俺たちの使命だ)

 

燃え尽きた灰の山を憐れむように一瞥したゴーストライダーは遠巻きに周囲を取り囲むHOLYを無視してヘルバイクに跨ると轟音を響かせて夜空の向こうへと飛び去って行くのであった。




●#06について
・シェルブリット
基本的には第二形態までで運用していますが、戦闘中に第三形態を経由して一足飛びに最終形態に変化させています。

・お前はこれで満足か?
世界への影響も考えずに好き勝手暴れた転生者に向けられた言葉です。本来、カズマを選ぶような人間は失敗して中途半端に終わるかここまでやり切るかの二択だと思うので、ここまで来た男に贈る言葉としては適切だと思いました。

・偽物の矜持
今作における転生者について珍しく肯定的に描写されている一文です。この作品では自らの在り方を全うすることを是としているため、結果はどうあれこのような表現になりました。

●タイトルについて
Reckless Fire:無謀な炎
・スクライドのOPだから、と言う理由もありますが、この転生者の生き様はまさしく無謀な炎と呼べるものだと思い、このタイトルにしました。
・無数に存在する転生者たちと戦おうとする一騎自身にもこの無謀な炎、と言う言葉は適切なのかもしれません。

●転生者について
カズマ(18歳/男)
・スクライドのシェルブリットを特典として選んだ少年で生前はアラフォーの会社員の男性
・強い相手と戦うことが生きがいだったが、本編終了後は強い相手がいないため腐っている
・現在はHOLYの本部にはおらず、隆起現象の多発するバルベルデにて独自に戦闘を行っている
・日本国籍はあるが、幼少期に天涯孤独になってから「シェルブリットのカズマ」を名乗る
・シェルブリットは最終形態まで使用可能だが、普段は手加減してシェルブリットバーストを使っている
・力押しで戦うパワー重視の戦闘スタイルで道理を無茶でねじ伏せるタイプ
・シンフォギアの知識は特になく、世界がどうなろうと知ったことではないと思っていた


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Vol.4:Merc with a Mouth
#01


二発、三発と連続して響く銃声。夜も深いとはいえ現代の日本の街中では珍しい音が響き渡るが、それだけなら犯罪が多発し武偵と言う職業が存在するこの世界では然程(さほど)珍しくもない。だが、その銃声を発しているのが走って逃げる赤いコスチュームを身に纏った二丁拳銃の男──デッドプールである点や、それを歩いて追いかけているのがゴーストライダーである点は何かの撮影かと思える程に特殊な状況であった。

 

「いつまで逃げるつもりだ?」

 

「ったく、俺ちゃんはまだ死ねないんだって!冒頭でターゲット死ぬとか、あんたらも詰まんないだろ?」

 

地獄の底から響くような声で問いながら追いかけるゴーストライダーに対して、逃げるデッドプールは悪態とともに銃を撃ちながら()()()に語り掛けていた。ここに来るまで五時間以上走り続けているはずだが、時折、速度を落としているとは言え軽口をたたき続ける姿はまさしく饒舌な傭兵(マークウィズアマウス)と呼ぶに相応しいものであった。

 

「いやー、やっぱり足止めにもなんないかー」

 

「(何余裕ぶってんだよ、このままだと追いつかれるぞ!)」

 

どーすんだよ!、とデッドプールの脇で叫ぶ魂だけの存在がぶんぶんと飛び回りながら主張する光景は、この状況の中でも異質ではあったが、それなりの素養のある人間か、当事者であるデッドプールにしか分からないものであり、普段から()()()聞こえているデッドプールにとっては日常茶飯事であった。

 

「解説どうも!──んじゃ、次の手行きますか」

 

行くぞもう一人の俺ちゃん!、とどこか楽しそうなデッドプールは銃をしまうと肉体に引きずられる魂だけの相棒を連れて全力で走り出した。当然、追いかけるゴーストライダーもどことなく苛立ちを滲ませながら走る形となる。

 

「おーにさん、こちら、ってね!」

 

ルートの関係か急に右へ曲がるデッドプールはそのまま数mの距離を一気に走り抜け、線路を跨ぐ歩道橋を駆け上がる。

 

「……させるか」

 

「!?ああっと!?」

 

続くゴーストライダーはカーブする勢いのまま小石を拾うとヘルファイアで炎の塊に変えて投げつけるが、駆け上がった直後のデッドプールは前に飛びつつ、振り向きながらのクイックドロウでそれを撃ち落とす。

 

「腐っても殺し屋、か」

 

「感心したなら見逃してくれてもいいんだぜ?」

 

立ち上がりながら二発ほど連射するデッドプールだったが、45口径ではゴーストライダーにとって足止めにもならず、ついに歩道橋の真ん中で追い詰められる。睨み合う両者だが、ゴーストライダーに打撃を与えられていないデッドプールには圧倒的に不利な状況であった。

 

「あのさー、いくらゴーストライダーSSだからってちょっと厳しくない?」

 

「(んなこと言ってる場合かよ!つーか、どこ見てしゃべってんの?!)」

 

あと、今SSって言わなかったか?!、と()()()に問いかけるデッドプールに混乱する魂だが、追い詰められているはずのデッドプールは、常の彼からしてもどこか余裕そうであった。

 

「覚悟はできたか、殺し屋、いや、道化よ」

 

「いやー、参った、参った。まさかここまで走って来るなんて」

 

走るゴーストライダーとかめっちゃレアじゃね?、と歩道橋を上り切ったゴーストライダーをおちょくるようなデッドプールの態度にゴーストライダーからは怒りの籠もった冷たい視線が向けられていた。

 

「おいおい、いくらイケメンだからってそんなに見つめるなって、照れるだろ?」

 

「黙れ。お前の時間は終わりだ」

 

ヘラヘラと笑うデッドプールに対し悠然と、しかし、どこかいつも以上の迫力を見せて近づいてくるゴーストライダー。間近に迫った首を掴もうとするその姿に、キャーこわーい、とおどけた様子のデッドプールだったが、チラリと腕時計を見るとゴーストライダーに向き直る。

 

「あー、残念、俺ちゃんの時間は延長入りまーす」

 

じゃーねー、と身を躱して下の線路──を走る電車へ飛び降りるデッドプール。その手を掴もうとするゴーストライダーだったが、掴んだ手は抜き放っていた刀で切り落とされたデッドプールの左手であった。

 

「道化らしい逃げ方だな」

 

「(小賢しいが、追わねばなるまい)」

 

高速で走る電車に刀を刺して無理やりしがみ付くデッドプール。逃げ方に辟易するゴーストライダーだったが、その姿を最初に見た時から他の転生者にはない執念と違和感を感じていた。

 


 

(緋弾のアリア……幾分か奴らを追いやすい世界だな)

 

周囲を見渡しながら、特に違和感のない都市部であること感じた一騎は比較的、転生者の傾向を予想しやすい世界であることも含めて小さく安堵していた。さらに、転生者の活動を確認しやすい昼間に来られたことも安堵する一助になっていた。

 

「(然り。だが、油断するな。位置は分かるが、反応が妙だ)」

 

(はっきりしないな……ともかく、警戒はしておく)

 

「(うむ、方角は彼方(あちら)だ)」

 

ゴーストの忠告を受けつつ、ひとまずの情報収集として指し示した方角──武偵高校の寮のある方へと向かう。が、一つ問題があった。それは、移動の過程で発覚したものである。

 

(……なんだ、これは)

 

道中にあった街頭のモニターから流れたニュース──一昨日のバスのハイジャックに関する情報であった。通常、この手の事件──所謂(いわゆる)、原作のイベントには転生者が関わりがちであるが、状況はさらに複雑であった。なぜなら、画面にはどこかで見たことがあるような赤色の全身タイツの男──デッドプールが、両手でピースをしながら何事かを騒いでいる姿がはっきりと映っていたからである。

 

「(殺し屋か……如何する心算だ、一騎?)」

 

(力と見た目がわかったのは幸いだが……アレと遣り合うには些か骨だな)

 

頭を抱える一騎だが、それも当然である。通常、転生者と言うものは、特典と呼ばれる何かしらの特殊能力を持っているものだが、容姿まで含めて模倣した場合は本人の技術や特性まで再現されていることが多く、往々(おうおう)にして厄介な相手だからである。そして、その相手が()()デッドプールともなればさしものゴーストライダーも手を焼かされることは確実であった。

 

「(殺し屋で在るなら我の手の内は読まれているだろう)」

 

(そうだな……だが、本物でないのなら、いや、本物だったとしてもやることは変わらん──転生者なら殺すだけだ)

 

「(然り。では何から始める?)」

 

(場所が割れているなら、まずは準備だ)

 

返答に満足した様子のゴーストとの相談を終えた一騎は手近なビルの駐車場で呼び出したバイクに乗ると、デッドプールに対する準備を行うために出発するのだった。

 




●#01について
・マークウィズアマウス
個人誌のタイトルにもなっているデッドプールの別名です。今作でもその能力は健在でふざけすぎないようにするのは大変でした。

・45口径
映画版では50口径のデザートイーグルで漫画版では45口径のコルト1911を使っているらしいのですが、流石に日本で50口径はやりすぎだと思ったので、今作では45口径を採用しました。

・切り落とされた左手
ご存じの方もいらっしゃると思いますが、映画版のデッドプールで使用した逃げ方です。漫画版やゲーム版では少々過激すぎるきらいがあるので、言動は比較的マイルドな映画版を元に考えていることが多いです。

・時系列
バスのハイジャック事件なので、原作の最初の方です。ちなみに、転生者の介入自体は一年ほど前から介入している設定なので、地味にこの世界になじんでいます。


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#02

 

(……さて、あとはどう出るか、だな)

 

準備を終えた一騎がバイクで繁華街近くを走っていると目標はすぐに見つかったがそれも当然である。昼間の繁華街で赤い全身タイツの成人男性など遠くからでも一目でわかるからだ。

 

(……頭が痛くなってきた)

 

「(……耐えろ。あれが奴の常だ)」

 

バイクをゲートへ戻した一騎は辟易しつつデッドプールの追跡を開始する。休日の午後であるため、人が多く常であれば追跡は難しかったが、相手が一目でわかる特徴的な人物であれば、数々の転生者を追跡した来た彼らには大した問題ではなかった。……(もっと)も、デッドプールの奇行に耐えられれば、の話ではあるが。

 

(食べ歩きにナンパ……そこらの若者と大差はないが……)

 

一騎の困惑も無理はない。本来、転生者とは多かれ少なかれ何かしらの目的を持って動いている。しかし、今回は主人公とヒロインに関するイベントが起こっている日にも関わらず、することと言えば街をぶらついているだけ、と言うのが気がかりであった。そして、気がかりな点はもう一つある。

 

(ゴースト、奴は本当に転生者か?)

 

「(如何言う事だ?)」

 

(先ほどの反応の一件もある。俺には奴が転生者、と言うよりはデッドプールにしか見えん)

 

「(他人の空似だと?)」

 

(転生者ではあるはずだ。だが、ただの転生者ではないような……何か違和感を感じる)

 

違和感と表現したが、彼の感じているそれを表現するには適切な言葉が見つからないのか、難しい表情になる一騎。そして、その違和感はゴーストも感じているようであった。

 

「(確かに、殺し屋とは何処か違う。だが、元々、奴の考えなど分からぬぞ?)」

 

(だろうな。だが、それにしても妙だ。何か、見落としているような……)

 

それは直感のようなものであったが、彼らのように戦場に身を置く存在、ひいては超常の理で戦う戦士であれば誰しも持ちうる、ある種の本能のようなものでもあった。そして、それはしばしば重要な局面で発揮されるものである。

 

(第四の壁か!?)

 

「(成程、ならば行動の説明はつく)」

 

第四の壁とは、所謂、創作(フィクション)現実(リアル)を分ける壁であり、デッドプールはそれを超えて視聴者や読者に語りかけるメタフィクション的なキャラクターであり、それこそがデッドプールが転生者に選ばれる理由の一つでもあった。

 

「(先手は取られた。さて、如何する?)」

 

(決まっている。()()()を使うだけだ)

 

二人は相談を終えるとより細かく観察するべくデッドプールへと距離を詰める。が、そこで、転生者としてもデッドプールとしてもあり得ないもの──(かたわ)らに浮かぶ人魂のような存在が目に入った。

 

(ゴースト、あれは、人、か?)

 

「(然り。そして、あれが元の転生者だ)」

 

(……なるほど。違和感の正体はそう言うことか)

 

わかってみれば何のことはない。その人魂こそが本来、一騎たちの追う転生者であり、デッドプールの特典を持つはずの人物であったのだ。

 

「(殺し屋の狂気に呑まれかけている。故に奴等は乖離(かいり)した)」

 

(つまり、あれは俺たちかデッドプールにしか捉えられん、と言うことか……哀れだな)

 

「(だが、急がねばならん。奴は殺し屋に成りつつある)」

 

(なるほど。下手をすれば殺せなくなるか、刻印が消える、と言うところか)

 

然り、と返すゴーストに対し、またもや難しい顔の一騎。本来の目的である転生者を殺し、刻印を回収することが出来ないのでは本末転倒だからである。

 

(猶予は?)

 

「(凡そ一月程度だろうな)」

 

(まったく……儘ならんな)

 

言外に急げと言っているゴーストの言葉に内心でため息を吐く一騎。だが、ゴーストライダーとして戦ってきた彼にとってはこの程度の壁は日常茶飯事、一瞬で思考を切り替える。その目は少し先でタクシードライバーらしいインド人と肩を組んで陽気に歩くデッドプールの姿を確実に捉えていた。

 


 

「んで、出てくるのが遅れたってワケ?わかってんなら早く来いよ!もう19時だぞ!」

 

もー一日中歩いたから俺ちゃんヘトヘトよ、とおどけた様子で苛立ち交じりに言うデッドプールの前にゴーストライダーが姿を現していた。出て来ないゴーストライダーを引き寄せるためにデッドプールが選んだ場所は周囲には人気のない工事中のビルが並び立つエリアであった。

 

「殺し屋、覚悟はいいか」

 

「って、無視かよ!いいもんねー俺ちゃんだって好き放題やってやるかんな!」

 

「(ちょっ、勝てんのかよ!?)」

 

体取られて死ぬとか、勘弁してくれ!、と(わめ)く人魂を他所にゴーストライダーに向けて両手同時にクイックドロウで連射するデッドプール。都合、十二発の連射を受けたゴーストライダーだが、当然ながら拳銃弾程度ではびくともしない。

 

「ですよね~……じゃ、そう言うことで!」

 

「(え、逃げんの?)」

 

効かないと見るや即座に後ろへ走るデッドプール。だが、リロードしながらとは言え、その速度は悠然と追いかけるゴーストライダーの視界に入り続けるようにギリギリの速さだった。

 

(遅い──ヘルバイクを封じる気か?)

 

「(然り。時間稼ぎだろう)」

 

「ピンポーン!ゴーストライダーさんに六点!」

 

振り向きざまに六連射するデッドプールだが、その銃弾は焼け石に水と言わんばかりにゴーストライダーに当たって燃え尽きる。

 

「(デップー!こっからどうすんのさ!)」

 

「決まってんだろ?逃げるんだよ~!」

 

デップー、行きまーす!とこちらに向かって話しかけるデッドプールは困惑する人魂を引き連れて走り続ける。そして、それに続く形で追いかけるゴーストライダー、その光景はさながら鬼ごっこの様相を呈していた。

 




●#02について
・成人男性
本来は高校生ですが、特典であるデッドプールの性質に引っ張られたことで肉体年齢が原典のデッドプールに近くなっています。具体的には転生してから数か月で成人男性と同程度の体格になりました。

・第四の壁
本来はフィクションではない世界では第四の壁を認識と言われても意味が分かりませんが、今作においては知りえない事象を知ることや干渉できないものに干渉する能力だと思ってください。

・対処法
実はとても単純な方法なんですが、ここでは明言しません。おそらく、他の作品ではあまり出来ないというかやらないと思われる考え方なので気になる方は是非最後までご覧ください。


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#03

「以上、回想終了!いやー、危なかったー」

 

電車に飛び乗ったデッドプールは窓ガラスを割って何とか車内に潜り込んでいた。周囲に人は居ないが、前後の車両には僅かながら人気が感じられる。座席で一息つくデッドプールの周囲を薄っすら赤色になっている人魂が抗議するように飛び回る。

 

「(危なかったー、じゃねーよ!何か無いはずの左手が痛いんですけど?!)」

 

「あー、もしかして、元々、もう一人の俺ちゃんの体だから、痛みも共有してるのかもなー」

 

あ、初めてだった?、と何故か照れながら茶化すデッドプールに表情のないはずの人魂がげんなりしているようにも見えた。

 

「まーまー、どうせ直に治るだろうし、このまま電車に乗ってりゃアイツも追ってこれないから安心しろって」

 

「(はあ!?ゴーストライダーだったらヘルバイクがあるだろ?電車ぐらいじゃ追いつかれるって!)」

 

どうしよう、と今度は薄っすら青くなりながらバタバタと慌てたように飛び回る人魂に噴き出すデッドプール。

 

「おいおい、アイツは一般人には手が出せない。つまり、人が多い場所とか事故が起きたらヤバい場所なら安全、ってことよ」

 

俺ちゃんあったまいいー!、と上機嫌なデッドプールに、なるほど、と納得して大人しくなる人魂。完全に安心しきった二人は笑いあう。

 

「(いやー、よかったよかった。ところで、もう一人の俺ちゃん、って何?)」

 

「いやいや、多重人格って言ったらやっぱ、相棒!かもう一人の~だろ」

 

手首を止血しつつ、ああだこうだと言い合う二人だが、少しすると妙な違和感に気づく。

 

「(なぁ、相棒。何か変な音がしないか?)」

 

「もう一人の俺ちゃんもそう思うか?……何かすっごく嫌な予感がするんだけど」

 

その時、突如、頭の遥か上から轟音が響く。咄嗟に頭を出したデッドプールと人魂は自らの選択を後悔した。そこには、遥か上空にヘルバイクに(またが)ったゴーストライダーの姿があったからである。

 

「(なぁ、何であんな高さにゴーストライダーがいんの?)」

 

「あー、あの高さなら、どんな速度でも人は巻き込まないなー」

 

すごいなー、と感心した様子の二人だったが、その姿を見たゴーストライダーがチェーンを伸ばしたことで正気に戻る。

 

「ヤッベ、引っ込め!」

 

「(うおっ!?)」

 

何とか引っ込んだ二人だったが、全身が隠れるよりも早く右手にチェーンが絡みつく。その瞬間、勢いよく引っ張られるデッドプールは窓の外へと姿を消す。

 

「ウゲッ!?」

 

「(デップー!……って、俺もかあぁぁぁ!?)」

 

チェーンに引っ張られるデッドプールに引きずられて外に出る人魂。勢いよくヘルバイクに引きずられるその姿はさながら私刑(リンチ)を受ける罪人のようだった。

 

「(デップー、早く腕切って逃げようぜ!)」

 

「いや、武器持てないから無理だっての!つーか、落ち着け!」

 

焦る人魂に対して比較的落ち着いているデッドプールの姿に何とか平静を取り戻す人魂。だが、状況は依然としてデッドプールたちに不利であった。

 

「地の文、うるさい!よく聞け相棒、俺たちがまだ焼かれてないってことは、チャンスがあるってことだ」

 

「(地の文……もういいや。とりあえず、何か策があるんだよな、デップー?)」

 

「あぁ、あるぜ!とっておきの策がなぁ!」

 

()()()を見ながら、この後、俺ちゃんの大逆転劇が始まるぜ!、とどこか自信たっぷりなデッドプールと、おぉー!、と盛り上がる人魂。そんな二人を引きずったままのヘルバイクは、街中の人気の少ない方へと走っていくのであった。

 


 

「グエッ!?」

 

「(ぬおっ!?俺まで痛ぇ)!」

 

人に見つからないように小一時間ほど空を飛んでいたが、閑散としたビル街で地面に叩きつけられたデッドプールとそのダメージを共有して痛がる人魂。ヘルバイクから悠然と降り立ったゴーストライダーは冷たい視線で二人を見つめていた。

 

「道化、お前の自由はここで終わりだ」

 

「ちょ、ちょっとタンマ!」

 

冷たく言い放ったゴーストライダーに対してデッドプールは焦ったように止まるように訴える。

 

「何だ?」

 

「最後に、俺ちゃんの話を聞いてくれないか?」

 

必死な物言いのデッドプールにゴーストライダーの足が止まる。

 

「何故だ、俺に話を聞く必要はない」

 

「いいのかなー?俺ちゃんがこのまま死んじゃうと、朝には罪もない人々も犠牲になっちゃうんだけどなー」

 

聞いてくれなきゃ仕方ないなー、とわざとらしい口調と芝居がかった仕草のデッドプールにゴーストライダーは怒気をはらんだ冷めた視線を向ける。

 

「何をした……!?」

 

「おーこわ。まぁ、ちょーっと黙って俺ちゃんの話を聞いてくれれば、爆弾の場所を知ってる人を教えるからさー」

 

聞いてくんないかなー、と脅迫するデッドプール。心なしか、隣に浮かぶ人魂ですら冷たい視線を投げかけているようだった。

 

「いいだろう。お前の罪から探していては時間がかかる」

 

「ヨシ!んじゃ、まず、アンタ等についての話だ」

 

こっからは長台詞だから、よく聞けよ、と前置きしてから深呼吸するデッドプールは芝居がかった調子で話し始める。

 

「アンタ等、本当にゴーストライダーか?」

 

「どう言う意味だ?」

 

「言葉のまんまさ。アンタ等、ゴーストライダーって割にはバイクに乗ってるクセにMCUみたいにスリングリングみたいの使ってるしさー。ぶっちゃけ、何版よ?って感じ」

 

「それに何の意味がある」

 

べっつにぃー、と少し不機嫌そうな態度を作るデッドプールだが、飽きたのか、じゃ、次の話だ、と急に態度が切り替わる。

 

「では、事の起こりは──まぁ、いつでもいいや。ともかく、大事なことはアンタ等がゴーストライダーになった原因だ」

 

「(デップー知ってんの!?)」

 

「まーな。細かいことはさておき、光の柱に飲み込まれる世界、アレがアンタ等と相棒の世界、そうだろ?」

 

「……それがどうした」

 

愛想ねぇなぁ、と不機嫌になるデッドプールだったが、その返答から、それが図星であることは見て取れた。

 

「んで、その時に使った刻印、ってのを、どろろみたいに集めてる。ってことでいいか?」

 

「(それ、ドラゴンボールでもよくない?)」

 

「……」

 

沈黙は肯定として受け取るぜ、とどこかで聞いたような言い回しをしつつ、真実を引き出すデッドプール。その姿はさながら推理を披露する名探偵のようだった。

 

「ピッカッチュウ!……アレ、ウケない?ま、いいや。ともかく、アンタ等はその刻印さえ回収できればいいってことだろ?」

 

「何が言いたい?」

 

「つまり、刻印だけ回収して俺ちゃんを見逃してくんない?」

 

そして、名探偵が推理の果てに行きついた結論は命乞いであった。やらかした後のような居た堪れない空気がその場を支配していた。

 

「(……デップー)」

 

「えっ、何?俺ちゃん、地の文に言われるくらいやらかしたの?」

 

「……刻印は世界を蝕む力だ。それは世界の命を吸って万物を創造する」

 

人魂にすら呆れられて狼狽えるデッドプールのあまりの居た堪れなさにゴーストライダーがポツリと口を開く。

 

「?つまり、どういうことよ?」

 

「刻印の力は特典と歪んだ世界を生み出してそれらを維持する。|転生者()()()()は世界を生贄に地獄を作る罪人だ」

 

故に裁く、と宣言したゴーストライダーは怒りに燃える眼でデッドプールを睨みつける。この瞬間、その場の空気は完全に変わった。

 

「あー、コレ完全に失敗だわ」

 

「(どーすんのさ、デップー!)」

 

「まーまー、今、次の手を──」

 

「次はない」

 

「へ?」

 

慌てる人魂と悩むデッドプール。そして、その姿から何かを読み取ったのか、冷たく言い放つゴーストライダー。その眼はまっすぐにデッドプールを睨みつけていた。

 

「お前の話は推理で構成されていた。つまり、お前は過去や未来の壁はせいぜい数日しか越えられない」

 

「!?……ナンノコトカナー」

 

「そして、今日一日、お前は罠を仕掛ける余裕も頼む素振りもなかった。つまり、爆弾は嘘だ」

 

「……」

 

「(デップー……?)」

 

「沈黙は肯定と受け取る」

 

完全に意趣返しされた形となったデッドプールは言葉を失い俯いて立ち尽くす。慌てる人魂を無視して悠然と近づくゴーストライダー。勝敗は決したかに見えた。

 

「残念、今回は俺ちゃんの勝ちだ」

 




●#03について
・完全に安心
今回の誤字修正です。初期版だと完全が安全になっており、普通にうっかり見逃していました。ちなみに、後に出てくる私刑は誤字ではなくリンチのことなので読みやすいようにルビを振っておきました。

・名探偵
デッドプールの俳優であるライアン・レイノルズさんが名探偵ピカチュウでピカチュウの声をしている、という中の人ネタです。正直、文章だと伝わりにくいですが、デッドプールならやりそうだな、と思ったのでやらせました。

・推理対決
デッドプールの推理はいい線いっていましたが、詳細は違います。詳しい説明はのちのエピソードでしますので、初期版の#08をお読みいただくか、新装版のVol8までお待ちいただけると幸いです。


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#04

「残念、今回は俺ちゃんの勝ちだ」

 

「っ!?これは……!」

 

ゴーストライダーの驚愕も無理はない。なぜなら、昇りゆく朝日によって照らされたゴーストライダーの左半身の変身が解けているからであった。

 

「時間稼ぎはこのためか」

 

「そういうこと、俺ちゃんの粘り勝ち!──ぶげっ!?」

 

勝利宣言をするデッドプールだったが、自分の体を陰にした一騎は右手だけゴーストライダーに変身してデッドプールを殴り飛ばす。

 

「いや、まだだ」

 

「よくもやりやがったな!──ってアレ?」

 

勢い良く立ち上がったデッドプールは残った右手でクイックドロウをしようとしたが、その手は空を切る。よく見ればホルスターは両方とも空になっており、刀も片方しか持っていない。

 

「(デップー、電車の時持ってたっけ?)」

 

「あ」

 

あんな乗り方したら落とすわな、と諦めムードになる人魂だが、そこは歴戦の傭兵であるデッドプールはやる気だった。その間に一騎が3m程の距離まで迫る。

 

「うるせぇ!左手なんていらねぇ!ハジキだって捨ててやった!野郎、ぶっ殺してやる!」

 

「(デップー、それ死亡フラグ!)」

 

「来い、俺の時間はまだ終わっていない」

 

残った右手に刀を持って意気込むデッドプールとチェーンを巻いた左腕を軽く前に出す三体式に近い構えの一騎。狩る者と狩られる者を決める戦いの火蓋が切って落とされた。

 

「そりゃっ!」

 

「っ……」

 

先攻はデッドプールだった。二歩踏み込んだ右薙ぎの一撃は片手にも関わらず、人一人を殺すには十分な威力と速度を持って放たれていたが、一騎は左足を半歩下げて仰け反ることで剣戟を回避すると、右足で踏み込みつつチェーンを巻き付けた左腕を刀の峰に添えて外へ思い切り受け流す。

 

「あ、っと、あぶねぇだ──ぶふぉっ!?」

 

受け流されたことで態勢を崩すデッドプールの左脇腹に一騎の右フックが刺さるが、直前に手首から先のない左腕でブロックされる。しかし、その間にガラ空きになった顔面に対して一騎が頭突きをかまし、デッドプールがたたらを踏む。

 

「てめ──ぬおっ、おりゃぁっ!」

 

「っ!?」

 

チャンスとばかりに払って引いていた左腕でアッパーを狙う一騎だったが、それを察したデッドプールが大きく仰け反ることで回避する。そして、起き上がる勢いで右の刀を突き出すが、一騎が左足を引いて半身になったことで薄く脇腹を切るだけに留まった。

 

「もらった!──第三部、完!」

 

一騎が避けた瞬間に刃を内側に向けたデッドプールはそのまま一騎の腹目掛けて左薙ぎの一撃を振るう。腕の力だけで振るわれた一撃だが、生身の一騎が当たれば致命的である。

 

「やらせん!」

 

「なっ──ウゲェ!?」

 

デッドプールが驚くのも無理はない。なぜなら、半身になった状態から即座にバックステップしていた一騎は、そのままの勢いの右フックをデッドプールの顔面に叩き込んでそこを起点に加速し、倒れこむように剣戟を回避したからだ。そして、殴られたデッドプールもバランスを崩して自身の右側に倒れこむ。

 

「あ~、痛ってぇ~。おまっ、顔ばっか狙うんじゃねーよ!」

 

「急所を狙うのは当然だ」

 

既に起き上がって構える一騎と顔を抑えて立ち上がるデッドプール。ダメージではデッドプールの方が大きく見えるが、日が昇り切るまでに倒さなければならない一騎の方が決め手に欠ける分、不利ではあった。

 

「ようやく、俺ちゃんを褒める気になった?」

 

「(やはり道化だな)」

 

「へっ、何とでも言いな」

 

どうせ勝つのは俺ちゃんよ、と強気なデッドプールだが、実際に太陽が昇りつつある現状を見ればその自信も納得である。

 

「こっからは本気で行くぜ!」

 

大きく踏み込んだデッドプールは右手の刀で上から打ち下ろすように叩き切る。力任せの一撃だが、予想よりも大きく踏み込まれたため、一撃目を躱しきれずにチェーンを巻いた左腕で防ぐ。

 

「そりゃ!そりゃ!どりゃ!こいつで!どうだ!コンチクショウ!」

 

二発、三発と打ち下ろされる剣戟に少しずつ一騎の態勢が崩れていく。都合、八発目の剣戟で流石の一騎も膝をつく。

 

「んじゃ、とっとと俺ちゃんに主役の座を明け渡しな!」

 

止めとばかりに振り下ろされる一撃。そのまま当たれば生身の一騎はひとたまりもない容赦のない攻撃は、たとえ盾や剣を持っていたとしても防ぎきることは難しいだろう。そして、その一撃が近づいたその瞬間。

 

「ゴバァッ!?──何だ、こりゃ、あ」

 

吹き飛ぶデッドプール。数m吹き飛ばされて木に激突して止まったその体は、胴体に大きな穴が開き、傷口の周囲は炭化していた。切られたはずの一騎の方を見ると連撃を受けたチェーンはボロボロだが、その体には傷はなく、右手には煙を上げながら元の形に戻る、切り詰めたショットガンが握られていた。

 

「策を使うのはお前だけではない」

 

一騎のしたことは簡単だ。デッドプールが振りかぶることで出来た陰で一部変身した右手に持ったヘルファイアで強化したショットガンを接射した。それだけであった。

 

「ま、まさか……昼間の準備、ってのは──グアッ」

 

「(デ、デップー──ぐえあっ!?)」

 

咳き込みながら状況を理解したデッドプールに対し一騎は足を狙ってショットガンを撃ち、立ち上がれなくなったデッドプールに対して悠然と近づく。

 

「ああ。この世界では簡単に手に入ったぞ」

 

「クソッ、対策も、ゼェッ、万全かよ……」

 

何と言うことはない。一騎の取った対策とは大げさに動かないことで描写せずに強化を行う、メタフィクション的な観点で行動する、と言うものであった。

 

「さて、どうやらお前たちも一つに戻ったようだな」

 

一騎の言葉で周囲を見渡したデッドプールは人魂がどこにも見当たらないことに気づく。

 

「あ、相棒、は?」

 

「痛みで消えたようだな」

 

これで問題なく消せる、と冷たく言い放つ一騎。歩きながらリロードを済ませる一騎は呆然としているデッドプールの前に立つ。そして、状況を理解したデッドプールはすでに勝敗は決したことを感じていた。

 

「ハァ……まいった、全年齢じゃ下ネタも出ないな」

 

「(其の心配はいらん)」

 

「お前の出番は終わりだ」

 

木陰に入った一騎は刀を蹴り飛ばしてから服を掴んでデッドプールを引き上げると、ゴーストライダーに変身する。

 

「う、ぐ。そうだ、最後に一つ、忠告だ」

 

「何だ?」

 

猟犬(ハウンド)に気を付けな」

 

急がないと先を越されるぜ、と真面目な声色で告げるデッドプールに訝し気な様子のゴーストライダー。

 

「何故、俺に忠告する?」

 

「なに、ただの気まぐれさ」

 

俺ちゃんはトリックスターだからな、とどうやってかマスクを着けたままウィンクするデッドプールに呆れた様子を見せるゴーストライダーは、そうか、とだけ返すと贖罪の眼(ペナンスステア)をデッドプールに覗き込ませる。

 

「ぐ、あ……」

 

贖罪の眼(ペナンスステア)でデッドプールが見たものはこの世界で自らが理不尽に殺してきた人々と転生者によって滅ぼされ続ける光の柱に飲み込まれた世界だった。そして、その光景を最後に混ざり合っていた魂は人々を苦しめた罪で焼き尽くされる。最後に、残された肉体が灰になると、魂と結びついた刻印が解放されて元の世界へと戻っていくのだった。

 

「……流石に、骨が折れた、な」

 

「(ああ、だが、()()か……)」

 

変身が解除されると疲れた表情の一騎が近くの木に寄り掛かる。一晩中、正確には20時間近く活動を続けた人間であればこの疲労も当然である。だが、一度、深呼吸をした一騎は、関係ない、と短く答えて直ぐに木から離れるとゲートを作り出す。

 

(何があろうと、転生者なら殺すだけだ)

 

「(もう行くのか?)」

 

(当たり前だ──俺たちに休む暇はない)

 

自身の覚悟を改めて宣言した一騎はゲートを開くと、目の前に来たバイクに乗り込み、次の転生者のいる世界へと刻印の反応を追って走り出すのだった。

 




●#04について
・時間稼ぎ
今作を読んだ方なら思いつきそうな対処法ですが、あらかじめゴーストライダーだとわかっていないと使えない作戦ではあります。実際、有効な作戦ですがそれなりに運は絡んでいるので、この場合はデッドプールという要素があって初めて成立する作戦と言えます。

・生身での戦い
今回は珍しく生身での戦いのため、あまり派手な演出はせずにアクションを説明するイメージで書きました。動かし方には苦労しましたが、一騎自身の戦闘能力がプロ相手に通用する、という実績を作れたので、悪くはなかったと思います。

・答え合わせ
対処法の答え合わせですが、作者がこの手法を取らせることはあっても、キャラクターが自発的に行動する形は他ではなかなかできないんじゃないかと思います。この方法が可能な理由は今作の第四の壁の説明にある通り、あくまで干渉する力なので知っていればそのように動ける、というだけの話です。

●タイトルについて
Merc with a Mouth:饒舌な傭兵
・#01の解説にもある通り個人誌のタイトルにもなっているデッドプールの別名ですが、新装版になってタイトルをつけるにあたって他に思いつきませんでした。
・Mercは傭兵を意味するMercenaryの略ですが、言うほど傭兵でもなかった気がします。

●転生者について
ウェイド・ウィルソン(16歳/男)
・デッドプールの能力(ヒーリングファクター、戦闘技術、第四の壁の認識)を特典に選んだ男子高校生で生前は男子大学生だった
・武偵高校でヒロインたち相手に好き勝手に振る舞うつもりだったが、強すぎるデッドプールと魂が半ば融合してしまっている
・ウェイド・ウィルソンの名前で強襲科に所属する2年生でAランクだが、原作メンバーと同じクラスでバカ騒ぎをしている
・デッドプールのコスチュームを着て二挺拳銃と二刀流で戦うが、普段からその姿であるため、周囲から変な人だと思われている
・ウェイドとしての実力やアメコミ等の知識を持ってはいるが、映画版基準で転生者と混じっているため、能力は落ちている
・ページを遡ったり、先を読んだりは出来ないが、転生者の持つサブカル等の知識を持っている
・肉体年齢はウェイドに近くなっており、見た目もほとんどウェイドだが、マスクで隠しているため、クラスメイトは判別できない


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Vol.5:Badgers of the Same Hole
#01


7月、世間では夏休みに入ろうかと言うタイミングではイベントごとも多くなる。特に学園モノが核となる世界であれば尚更であり、雄英学園が見える所に出てきた一騎にとっては、転生者を見極めるには絶好の時期であった。

 

(僕のヒーローアカデミア……転生者のやる事はどこでも変わらんな)

 

丁度、昼時の最も暑い時間帯だが、どこからか調達したスマホで状況を確認した一騎はどこか呆れた様子で脇に停めているバイクに軽く腰かけていた。

 

「(然り、だが、今回も油断は出来ん)」

 

(()()、何か厄介な相手か?)

 

「(分からん、しかし、以前の例も在る)」

 

ゴーストの忠告に辟易しつつ問いかける一騎だが、対するゴーストもどこか疲れた声色で困惑していることで警戒を深める。

 

(まったく……儘ならんな)

 

着いたばかりとは言え、不透明な状況にため息を吐いた一騎だが、一度、深呼吸をして頭を切り替える。

 

(ともあれ、まだ転生者とは戦えん)

 

今は奴らが動くのを待つ、と静かに宣言した一騎はバイクに跨ると今回の準備のために町場へとバイクを走らせるのであった。

 


 

街中の休日の昼間にしては人気の少ないエリアに存在するとあるバー。開店していないにも関わらず店内には少年少女を含めた数人の男女が(たむろ)していた。その中で手の形をしたマスクを着ける少年──死柄木弔(しがらきとむら)は腹立たしそうに首を掻きむしっていた。

 

「……で、計画はまだ先なのに、何でここに集まってんのさ?」

 

「あらヤダ、ここは私たちの拠点(ホーム)でしょ?」

 

いつ集まろうと勝手じゃないの、と開き直りにも似た返事をする女性的なしぐさの男──マグネと、マグ姉の言う通りです、と嬉しそうに続く両サイドのお団子が特徴的な髪形のセーラー服の少女──トガヒミコ。そんな二人の態度に死柄木は面白くなさそうに、ふん、とそっぽを向くとカウンターに立つ黒い人型の靄のような人物──黒霧(くろぎり)と視線が合った。

 

「何?何か文句あんの?」

 

「いいえ、順調にコミュニケーションを取れているようで何よりです」

 

非難するような死柄木の視線を軽く受け流す黒霧。どこか剣呑ながらある種の和やかさがある光景だが、そんな空気を打ち壊すように突如、扉が開き闖入者(ちんにゅうしゃ)が入って来た。

 

「っ!?すみません、まだ開店前ですので……」

 

Tシャツにフードの付いたベストを羽織ったラフな格好の闖入者に対し、やんわりと退出を促す黒霧だが、目深に被ったフードから覗く視線に剣呑さを感じて動きが止まる。

 

(ヴィラン)連合に入りたいんだが、ココで合ってるか?」

 

「「「「!?」」」」

 

突然の闖入者の言葉にその場にいた全員が警戒する。その姿に、正解か、とどこか芝居がかったように呟く闖入者。そして、入り口側に近かったトガヒミコがその一言に反応してナイフを持って闖入者の意識の外から切りかかる。

 

「っ!?──痛っ!?」

 

「おっと、危ないじゃないか」

 

頸動脈を狙った一撃は予想外の速さで反応した闖入者の右手によって手首を捻られたことで防がれた。そして、取り落としたナイフは闖入者の左手で回収され、トガヒミコの首に当てられる。そのままトガヒミコを盾にする形の闖入者は右手で携帯型の端末──カイザフォンを銃にして死柄木の足元に威嚇射撃をする。

 

「「っ!?」」

 

「……この匂い……!」

 

「出来れば、動かないでもらえるか?」

 

仲間になるかもしれない相手は殺したくないからな、と殺気の混ざった鋭い視線のまま涼やかに言う闖入者と人質のような形だが、何事かを考える様子のトガヒミコ。一同の間に緊張が走る。

 

「……仮にここがその場所だとして、何で連合に入りたいんだ?」

 

一触即発の空気の中、闖入者に問いかける死柄木。対する闖入者はトガヒミコを解放してナイフを返すと、フードを取ってその下の少年の素顔を晒す。

 

「俺は、ヒーローごっこをしているような連中が嫌いでな。世間の奴らの目を覚まさせてやりたい、それだけだ」

 

交錯する少年と死柄木の視線。少しの沈黙の後、ボリボリと首を掻いた死柄木は諦めたようにため息を吐く。

 

「……いいだろう」

 

「死柄木弔……確かに、その通りですね」

 

「ちょっと、こんなの入れていいの!?」

 

「コイツは戦力になる。それに、暴れられても面倒だ」

 

戸惑いながらも死柄木の言葉に賛同する黒霧と仲間を攻撃した危険な闖入者を警戒するマグネだが、一瞬でトガヒミコの気配を感じさせない一撃を止めた実力を指摘されて何も言えなくなる。

 

「私はいいと思います。この人ちょっとカッコイイですし」

 

「えぇ……?まぁ、確かによく見れば可愛い気もするかしら」

 

「その基準は一体……ともかく、他のメンバーにも後で紹介しましょう」

 

人質にされたトガヒミコが受け入れたことで態度が軟化するマグネとその発言に小さくツッコミを入れる黒霧と、三者三様の反応を見せるメンバーたち。その変わりように困惑する少年だったが、何とか気を取り直す。

 

「あー、それはどうも、俺は、そうだな……カイザ、うん、カイザとでも呼んでくれ」

 

まぁ、よろしく、と軽く挨拶するカイザ。こうして彼が連合に加入したのは一騎たちが来る少し前のことであった。

 




●#01について
・スマホ
ここに限らず、いろいろと道具が出てきますが、適当な木材などに圧力と熱量を加えて作り出したダイヤか何かをどこかで換金して予算を調達している設定です。よく使う装備はゲートでつながった拠点から取り出しているため、ここでは消耗品の補充などをしています。

・敵連合
あの人たちが普段何してるのか知りませんし、結成したばかりのイベントごとの直前なので、特に何もしていないものとして描写しました。

・カイザ
当然ながら偽名です。本人としては本名でもよかったんですが、どうせならコードネームのようなものが欲しかったのかもしれません。


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#02

 

「カイくん、何考えてるです?」

 

「いや、最初に会った時にトガに殺されかけたな、って思ってさ」

 

一騎たちが到着してから数日後、世間の学生が夏休みで浮かれている中、バイク──サイドバッシャーのサイドカーにトガヒミコを乗せたカイザが山間の道路を走っていた。運転中に物思いにふけるカイザとその姿に小首を傾げるトガヒミコ。仲の良さそうな二人の姿もそんな浮かれた学生のようにも見えた。

 

「殺されかけたのは私ですけど」

 

「そりゃ、俺もまだ殺されてあげる訳にはいかないからなぁ」

 

小さく唇を尖らせるトガヒミコに悪いとも思っていない態度のカイザ。どこかズレた様子の二人だが、それが彼らの信頼の証ともいえるものであった。

 

「でもカッコイイから許します」

 

「そりゃどーも。つーか、トガは俺のどこがいいの?」

 

えへへ、とどこか狂気を含んだ笑顔を浮かべるトガヒミコの態度に呆れたような表情で問いかけるカイザ。だが、無理に作ったような声色と合わさって、その態度は照れ隠しにも見えた。

 

「うーん……匂いですかね。あと、私のことわかってくれるじゃないですか」

 

全部終わったら殺したいです!、と照れながらも元気そうに答えるトガヒミコと、言葉自体は物騒だが、そこに含まれる明確な好意に、ふーん、とだけ返すまんざらでもない様子のカイザ。年相応な反応を見せているその姿はとても世界に喧嘩を売ろうとしている敵連合の人間には見えなかった。

 

「もっと血が出てた方がカッコイイんですけどねー」

 

「そりゃどうも。それより、そろそろ目的地に着くぞ」

 

自分を見ながら不穏な感想を漏らすトガヒミコに対して、軽く受け流すカイザは目的地が近づいたことを告げる。そして、どこか楽しそうな二人の視線の先には開闢(かいびゃく)行動隊の集合地点が待っているのであった。

 


 

「(一騎、反応は近いぞ)」

 

(そうか。想定通り、だな)

 

山へと向かう道のりをバイクに乗って進む一騎はゴーストの言葉に自身の見立てが間違っていないことを確信していた。

 

「(しかし、また其れか?)」

 

(……またその話か)

 

普段は空いているバイクの後ろに積まれたバッグの中身──高精度のカメラや望遠レンズ、野営用の装備に不満げなゴーストと、その反応にどこか呆れた様子の一騎は小さくため息を吐く。

 

「(監視ならば我の眼で事足りる)」

 

確かに、超感覚を持つゴーストにとっては自身の能力よりも非効率な監視機器に否定的なのも無理はない。しかし。

 

(お前の力は分かるが、隠れて監視するにはこの方がいい……それに、力に頼り切りでは奴らと変わらん)

 

「(成程、()()の矜持、と言う物か)」

 

(……必要なら使う、それだけだ)

 

どこか感心したようなゴーストの物言いに興味なさそうに返す一騎。そんなやり取りの中、目的地である山頂が近づいてきたことでバイクはスピードを落とした。周囲に人気がないことを確認した一騎は積んでいた荷物を背負うと身軽になったバイクをゲートの向こうへ送った。

 

「(着いたか、では、如何する?)」

 

(そうだな……ここでいいだろう)

 

荷物を背負ってしばらく森の中を歩いていた一騎はちょうど周囲の地形が見渡せる場所を見つけると、その近くの開けた所に荷物を置いた。

 

(ここからなら見渡せる)

 

「(では、其の時まで待とう)」

 

監視のために野営の準備を始める一騎。その眼下に広がる山野、そこで行われる雄英学園ヒーロー科の合宿。その果てに何が起こるのか彼らはまだ知る由もなかった。

 


 

(……妙だな?)

 

カイザと名乗る少年──神代怜(かみしろれい)は夜の森の中を訝しみながら走っていた。敵連合開闢行動隊、そこに所属することになった彼は本隊と離れて行動することになっていたが、刻限になっても合図がないことに違和感を感じていた。

 

「とは言え、俺には俺の仕事もあるしなぁ」

 

周囲に誰もいないせいか、これまでとは違った軽い調子で、うむむ、と唸る怜だが、目的地が近づいてきたことに気づき足を止めると、一度、ため息を吐いた。

 

「ま、いいや。とっととやることやって、トガちゃん助けて好感度アップ!……出来たらいいなぁ」

 

懐から取り出したベルト──カイザドライバーを腰に巻くと手に持ったカイザフォンで9、1、3、Enterと入力する。

 

『standing by』

 

準備が整ったことを告げる電子音声に続いて独特の待機音が鳴る中で怜は左肩の前に閉じたカイザフォンを構える。

 

「変身!」

 

『complete』

 

言葉とともにカイザドライバーに斜めにセットしたカイザフォンを横に倒した怜が電子音声とともに光に包まれると、その姿は紫の複眼と黄色のラインの入った灰色の装甲を持つ仮面の戦士──仮面ライダーカイザへと変身したのだった。

 

「おっ、来たか。んじゃ、狩りを始めますか」

 

「っ!?お前は!?」

 

変身を終えたタイミングで予定よりも遅いが合図となる爆発音を確認したカイザは目標の目の前へ姿を晒すと腰のカイザブレイガンをガンモードにして構える。そして、突如、目の前に現れた仮面ライダーカイザの姿に標的は驚愕の声を上げる。

 

『burst mode』

 

「見つけたぞ──スパイダーマン、飛田八雲(とびたやくも)

 

静かに宣言するカイザの構えた銃口の先にあったのは彼の標的であるスパイダーマン──この世界の転生者の姿であった。

 




●#02について
・カイザとトガ
作者の苦手なパートです。恋愛っぽいにしても関係性の構築が急なので、もう少し下積みというか努力が欲しい所です。個人的にはやるならしっかりやりたい派なので、話のメインに据えるならもう少し丁寧に書きたいと思います。

・狩人の矜持
以前にも説明しましたが、一騎自身が力に溺れないようにするためのルールであり、一騎の定めるルールこそが本作における猟犬とゴーストライダーの違いだと言えます。

・カイザVSスパイダーマン
この構図が今回やりたかったメインです。この回で表現したかったことは転生者狩りとは何か?その違いは何なのか?という二点です。詳細については読み進めるうちに感じていただければ幸いです。


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#03

 

ドサッ、と重い物が投げ出されるような音に目を向けた敵連合開闢行動隊の面々が見た物は、力無く地面に倒れ伏すMr.コンプレスの姿であった。

 

「「「!?」」」

 

「コンプレス!?」

 

真っ先に驚愕の声を上げたのはマグネだったが、近づこうとした所でコンプレスが放り出されたであろう森の中から現れた存在──ゴーストライダーに戦慄した。

 

「三人目、奴はもう戦えない」

 

「っ……何だ、キサマは!?」

 

警戒する開闢行動隊に地獄の底から響くような声で告げられる撃破宣言に対し、大剣を持ったトカゲのような青年──スピナーは怯みかけつつも問いかける。

 

「罪なき者の代行者だ」

 

「邪魔をするなら!」

 

大剣を構えて跳びかかるスピナー。だが、その一撃が届くことは無く、拳の一撃で大剣を砕かれてそのまま破片ごと殴り飛ばされるとその体は動かなくなる。

 

「スピナーが!?」

 

「四人目」

 

「よくも──おぉっ!?」

 

気絶するスピナーの姿に激昂するマグネは武器を構えようとするが、その前にゴーストライダーの左手から伸びるチェーンに絡め捕られる。そのまま引き寄せられた身動きの取れないマグネは腹部に叩き込まれた右手の一撃で戦闘不能になる。

 

「マグ姉っ!?」

 

「五人目。そして──」

 

静かにカウントしたゴーストライダーはヘルファイアを纏わせた燃えるチェーンの輪を分解して周囲に飛ばす。無軌道に飛ばされたかに見えるチェーンだったが、その一つ一つが意思を持ったかのように動くと、ゴーストライダーを狙っていたトガヒミコとその近くにいた黒と灰のラバースーツの男──トゥワイスに殺到する。

 

「きゃああっ!?」

 

「ぐああっ!?」

 

「これで七人」

 

四方八方から迫りくる攻撃に滅多打ちにされた二人は何も出来ずに気絶してしまう。そして、残されたのは継ぎ合わせたような皮膚のピアスをした男──荼毘(だび)だけだった。だが、荼毘は怯むことなく爆炎のような青い炎を撃ち出す。

 

「威力ならこちらが上だ」

 

撃ち出した腕が後ろに弾かれる程の威力の爆炎、まともに受ければ防火服であっても無傷ではいられない──はずであった。

 

「……馬鹿な」

 

青い炎がど真ん中──ゴーストライダーのいた辺りを中心に渦巻くと、赤く染まっていき、大きな火球となって宙に浮かぶ。そして、その下には無傷で佇むゴーストライダーの姿があった。

 

「火遊びが過ぎるようだな」

 

「っ……があぁっ!?」

 

「八人目。あと一人……いや、ここからでは間に合わん、か」

 

荼毘に向かって飛ばされた火球は当たる直前で破裂すると、その強い衝撃で荼毘を吹き飛ばす。そして、強かに体を打ち付けた荼毘も戦闘不能になると、ゴーストライダーは周囲に倒れる開闢行動隊をチェーンで縛り上げる。

 

「(一騎、転生者の反応だ)」

 

(分かっている。だが、後始末はしておく)

 

ゴーストの報告に答えたゴーストライダーは指笛を吹くとヘルファイアで乗っ取ったトラックを呼び寄せる。そして、拘束した開闢行動隊を事前に同じようにしていたガスマスクの少年──マスタードと拘束服の男──ムーンフィッシュとともにトラックの荷台に積むと、トラックを雄英の合宿所へと走らせる。

 

「(何処で降ろす?)」

 

(生徒の居そうな場所だ)

 

細い木程度なら物ともせずに進む強化されたトラックに乗るゴーストライダーは開けた所で遠くから響く爆発音に気づく。

 

(あれは……転生者の方か)

 

「(だが、妙な反応も在る)」

 

(なら、話は簡単だ)

 

どちらも殺す、と静かに宣言するゴーストライダーは運転席に書置きを残してトラックを置いて行くと、呼び出したヘルバイクに跨って音の方へ走り出した。

 


 

「クソッ!何でカイザが──うわっ!?いるんだよ!」

 

スパイダーマンこと飛田八雲は迫りくるサイドバッシャーのミサイルを避けつつ焦っていた。元々、原作知識で敵連合の襲撃が予想されていた合宿ではあったが、自分以外の転生者による予想外の襲撃を受けて完全に混乱していた。

 

「おいおい、逃げてるだけじゃ死んじまうぞ!」

 

後ろから煽るようなカイザの声が聞こえるが、八雲にとってそんなことはどうでもよかった。入学以来やる気をなくして腐っている自分に優しくしてくれた、クラスメイトの梅雨ちゃんこと蛙水梅雨。元々、彼女を守るために同行していたが、まさかそのせいで危険な目に合わせてしまうとは思ってもみなかったのだ。

 

「ぐあっ!?」

 

「おいおい、ちゃんと避けろよ?」

 

(好き勝手言いやがって……それより、梅雨ちゃん、無事に逃げられたかな?まぁ、俺より万能型だし、大丈夫か)

 

数発のミサイルを食らって吹き飛ばされながらも梅雨の無事を祈るだけの八雲だが、それも仕方のないことである。糸を強化するウェブシューターもなく、言い訳程度に持って来ていた自作のスパイダースーツを着ているだけの現状では、10m先に糸を飛ばして常人の3倍程度の身体能力がある程度の戦力にしかならないからである。

 

「ハァー、転生者を狩るのが仕事だが、お前、トップクラスに弱いぞ」

 

「ぐ、うぅ……」

 

防戦一方で動けなくなった八雲に呆れたような態度のカイザ。その対照的な姿を見ればわかるように完全に勝敗は決していた。通常の殴り合いなら合宿中に受けた戦闘技術の強化の成果を見せられたが、乗り物に乗る相手に対して有効な網や電撃のウェブを撃てない現状ではまず無理な話であった。

 

(くそ、ここまでか……)

 

「ま、俺はこれからトガちゃんを助けなきゃならないんでな。さっさと死んでくれ」

 

じゃあな、と軽い調子で死刑宣告をするカイザ。身動きも出来ない八雲がもうこれまでかと諦めかけたその時、後ろから来た黒い影が八雲の脇を走り抜けるとサイドバッシャーの足が壊れてその体が斜めに焼き切られていた。

 

「……え?」

 

「っ!?──くそっ!?一体何なんだ!」

 

咄嗟に飛び降りるカイザと驚愕とダメージで動けない八雲。そしてその二人は爆発するサイドバッシャーの向こうから悠然と近づくその影に戦慄する。

 

「俺は、お前たちの死だ」

 

地獄の底から響く声で宣言する執行人──ゴーストライダーがその姿を現した。

 




●#03について
・VS開闢行動隊
本来なら介入に当たるため、あまり積極的に倒す相手ではありませんが、今回倒した理由は近くにいた罪人だから、という一点のみです。近い状況で言えばVol.1のホラーやVol.2のビフを相手にするイメージです。

・強化トラック
ゴーストライダーと言えば乗り物の強化と制御だということで、廃車になっていたトラックをヘルファイアで強化した設定で登場させました。

・言い訳がましいスパイダーマン
執筆当時はゲームだったり映画の関係でスパイダーマンの姿を見ることが多かったので採用しましたが、そういうミーハーなタイプは原典について詳しくないことが多く飽きっぽい傾向にあるため、こういう感じに描写しました。

・サイドバッシャー
サポートマシンは個人的には好きなんですが、ゴーストライダーなら真っ先につぶすだろうということで熱したチェーンで両断されてもらいました。


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#04

 

「俺たちの、死?」

 

「燃える髑髏の怪物……な~るほど。アンタが俺たちの偽物か」

 

「偽物、か。ならば、お前が()()だな」

 

困惑する八雲を置いて睨み合うカイザとゴーストライダー。二人の間には5m程の距離があったが、超人同士の戦いにおいてその程度の距離は有って無いようなものであった。

 

「大当たり!俺は猟犬(ハウンド)の神代怜」

 

ま、どうぞよろしく、と軽く一礼するカイザだが、その行動に反応を示さないゴーストライダーに不機嫌になる。

 

「無視かよ!ったく、これだから礼儀知らずの偽物は──」

 

「まずは、お前だ」

 

「ハァ?」

 

唐突にカイザを指差して宣言するゴーストライダー。その姿に一瞬、困惑を示したカイザだが直ぐに大笑いする。

 

「はははっ!……アンタ面白いわ──ぜってー殺す」

 

急に声のトーンを落として宣言するカイザは腰のカイザブレイガンを右手に構える。狙う先は当然ゴーストライダーであった。

 

『burst mode』

 

「フェイクはとっととくたばりやがれ!!」

 

引き金を引きながら走るカイザに対して、それを迎え撃つゴーストライダーは飛んでくるフォトンブラッドの光弾を左腕を盾にして防ぐ。

 

「それぐらいは──」

 

『ready』

 

「──想定済みよ!」

 

全弾受け切ったゴーストライダーにダメージは見られない。が、吶喊(とっかん)するカイザは一歩も怯まず、ミッションメモリーをカイザブレイガンに装填すると、電子音声とともにグリップエンドから光刃──フォトンブレードを発生させて左の脇腹から右肩へ切り上げる。

 

「たあっ!てあっ!はぁっ!」

 

肩口を切り抜けた剣から一度手を放すと、即座に左手でキャッチしてそのまま胸を真一文字に切り裂く右薙ぎの一撃を放つ。そして、またもや切り抜けた先で剣を放し、右手で刀身を上にして持ち替えると、左肩から右の脇腹へ袈裟懸けに切り下ろす。

 

「コイツはオマケだ!──」

 

『burst mode』

 

「──とっときな!!」

 

切り下した先で剣を左手で逆手に持ち直すと、右手でレバーを引いてリロードしながら十二発の光弾を連射する。銃と剣が一体化したカイザブレイガンならではの連続攻撃は、長らくこの装備を使い続けているカイザの得意な技でもあった。

 

「どうやら足りないようだな」

 

「な──ぐえっ!?……っと、ま、これで倒れるワケはないわな」

 

連続攻撃の終わり、弾丸を撃ち切って次の動作に移る直前の一瞬の隙をついてゴーストライダーの右ストレートがカイザに叩き込まれる。大げさに5mほど吹き飛ぶカイザだが、予想していなかった訳ではないのか、危なげなく着地する。どうやら、攻撃が当たる直前に自分から後ろに飛ぶことでダメージを抑えていたようだ。

 

「猟犬を自称するだけはあるか」

 

「へっ、そりゃどうも」

 

「……これが、転生者狩り同士の戦い……!」

 

流れるような連続攻撃のカイザとそれを物ともせずに一撃で吹き飛ばすゴーストライダー。睨み合う形に戻る二人とその両者の激突に自分との実力差を実感して戦慄する八雲、三人の間に緊張が走る。

 

「もう来ないのか?」

 

「アンタにもチャンスをやろうと思ったんだが──」

 

『exceed charge』

 

ゴーストライダーの言葉を挑発と受け取ったカイザが、おもむろにベルトのカイザフォンのEnterを押すと、電子音声とともに甲高いチャージ音が鳴り、ベルトから体の黄色のライン──ダブルストリームを通してカイザブレイガンへとフォトンブラッドが注入される。

 

「──いらないみたいだな!」

 

「ぬっ!?」

 

カイザは言葉とともに右手に持ち直したカイザブレイガンをゴーストライダーに向けると、黄色のエネルギーネットがゴーストライダーの動きを封じる。

 

「コイツで──」

 

駆け出すカイザ。その前にはΧ(カイ)を模した光があり、そのままゴーストライダーへ突進する。

 

「──どうだぁ!!」

 

ゴーストライダーに当たる直前、光に合わせてΧ(カイ)の字に切り裂いて駆け抜けるとフォトンブラッドが反応したのか、背後でゴーストライダーが爆発する。これこそがカイザの必殺技──カイザスラッシュである。だが、カイザの動きは止まらない。カイザブレイガンをデジカメ型のパンチングユニット──カイザショットへと持ち替えて、ミッションメモリーも付け替える。

 

「あぁっ!?」

 

「念には念を──」

 

『exceed charge』

 

もう一度、カイザフォンのEnterを押すと、先ほどと同じように電子音声とともに右手に装着されたカイザショットへとチャージが始まる。周囲から見れば完全に隙だらけの姿だが、驚愕するだけの八雲は一歩も動けずにいた。

 

「──入れないとなぁ!」

 

「何て容赦のない攻撃なんだ……!」

 

カイザがゴーストライダーの居た位置に着くタイミングでチャージが完了すると、その勢いのままカイザショットでパンチを叩き込む。これもカイザの必殺技として知られているグランインパクトである。八雲の言葉通りそのどちらもが必殺と言える一撃であり、この技を受けて無事だった敵はそうおらず、二つとも食らってしまえばひとたまりもない──はずであった。

 

「あぁ?」

 

違和感、カイザが最初に感じたのはそれだった。確かに命中した、その実感はある。だが、これまでとは何か手応えが違うような、そんな気がしていた──そして、その感覚は正しかった。

 

「これがお前の全てか?」

 

「……え?」

 

「……おいおい、どんだけの威力だと思ってんだよ?」

 

八雲とカイザの驚愕も無理はない。合計で十トン以上の破壊力を持つ攻撃を受けたはずのゴーストライダーが五体満足で立っているだけでなく、その左手でグランインパクトを受け止めていたからだった。

 

「次は、こちらの番だ」

 




●#04について
・猟犬
Vol.4まではゴーストライダーを表す言葉でしたが、本来は上位存在から依頼された転生者狩りのことです。彼らは誇りを持ってハウンドを自称していますが、一騎は犬と称されることを嫌っているため、一騎が使う場合は自嘲気味に使うことが多いです。

・猟犬の仕事
上位存在から依頼された転生者を殺してその刻印を回収することが仕事です。回収した刻印は上位存在に納めることになっていますが、一部の猟犬は刻印の力で特典を強化して後年になって登場した新フォームや新たな特典を入手している者もいます。

・コンボ技
動きの流れが良さそうなので思い付きで書いていましたが、比較的高威力な技を動作としてつなげられたと思います。なお、作中で明記している通り、彼はこのコンボで何人か殺しているので、実力自体は転生者でもそれなりな方です。

●猟犬について
神代怜(かみしろ れい)(18歳/男)
・仮面ライダーカイザを使う少年で転生前は男子高校生
・他人と同じであることを嫌う傾向にあり、元々ダークライダーが好き
・自称ヤンデレ好きでヒロアカではトガヒミコが好き
・既にいくつかの世界で転生者を狩っており、殺すことに躊躇はない
・クールな性格に見えるが、どこか現実感がなく遊び気分でやっている
・個性は格納、無機物を異空間にしまっておける、と偽る


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#05

 

「次は、こちらの番だ」

 

「……あ?」

 

ミシリ、と音がしたと思えば右手に握られていたはずのカイザショットが見当たらない。それどころか、その下の拳すら見えなくなっていた。

 

「あ、ああ……あああああぁぁぁ!!」

 

握りつぶされた、その事実を認識したカイザが激痛とともに叫ぶ。ゴーストライダーが手を放すとカイザは右手を抑えて後退る。が、ゴーストライダーがそれを許すはずもない。

 

「お、俺の手があぁぁ!──あがっ!?」

 

「喚くな、見苦しいぞ」

 

一歩、踏み込んだゴーストライダーの右ストレートが喚くカイザの顔面に突き刺さる。完全に意識が逸れていた所に叩き込まれた一撃に反応できなかったカイザは3mほど吹き飛ぶとそのまま地面を転がっていた。

 

「うあ……ああ……あ」

 

仰向けになって呻くカイザからは既に最初の威勢のよさは鳴りを潜めていた。そんなカイザに向かって悠然と歩いて行くゴーストライダー。傍から眺めている八雲は衝撃的な光景に声を出すことすら忘れていた。

 

「……どうやら、遊びが──」

 

「ひっ!?」

 

「──過ぎたようだな」

 

「ぐえっ!?」

 

目の前に現れたゴーストライダーの姿に怯えるカイザ。だが、カイザの体が動くよりも早く踏み抜かんばかりの勢いで右足をベルトへと踏み下ろした。その衝撃で地面にひびが入り、カイザの体がくの字に曲がると、ベルトが壊れたことでカイザの変身が解けて怜の姿に戻る。

 

「ゲホッ、ガハッ……ひいっ!?」

 

「呆気ないな。この程度で猟犬とは」

 

倒れたまま咳き込みながら怯える怜の首を掴んで持ち上げるゴーストライダー。決着は着いたかに見えたが、猟犬の一言に一瞬だけ怜の目に生気が戻る。

 

「そう、だ……俺は猟犬、なんだ。こんな所で……」

 

「お前は終わりだ」

 

生気の戻った怜に対して贖罪の眼(ペナンスステア)を覗き込ませるゴーストライダー。

 

「あ、あぁ……」

 

怜の眼にはこれまで猟犬の仕事で殺して来た転生者の姿と彼らの齎した罪が映される。そして、それらの苦しみを一身に受けると、多くの刻印を引き剥がされたその魂は焼き尽くされるのだった。

 

「……これでは、犬死だな」

 

怜の魂からは過去に殺した転生者のことしか分からなかったゴーストライダー。その声には落胆の色が含まれていたが、右手に力を籠めて抜け殻となった怜の首の骨を折るとその体を地面に打ち捨てた。そして、打ち捨てられたその体はカイザの変身に耐えられなかったのか灰となって崩れ去った。

 

「な、何で、殺したんだ!」

 

一連の衝撃から立ち直った八雲は非難の声を上げると、その声に反応したゴーストライダーの冷たく鋭い視線が八雲に注がれる。

 

「な、なにも、殺すことは……」

 

「では、その力はどのように得た?」

 

「っ!?……それは、アンタだって──」

 

「黙れ……!」

 

悠然と近づくゴーストライダーだったが、八雲の言葉に殺気の籠もった視線を向けると気圧された八雲は何も言えずに押し黙ってしまう。

 

「俺は転生者(お前たち)とは違う……やっていることは変わらんがな」

 

冷静になったのか自嘲気味に返すゴーストライダーの姿に困惑する八雲だが、目の前に来たゴーストライダーから向けられている冷たい視線に何も言葉が出なかった。

 

「お前に言うべき言葉がある。大いなる力には──」

 

「──大いなる責任が伴う、だろ?」

 

よく知ってるよ、と言葉を継いだ八雲だったが、どこかその言葉に鬱陶(うっとう)しさを感じているようだった。

 

「どうせアンタもアメコミ好きだろ?俺だってそうだったさ」

 

諦めと後悔の籠もった八雲の言葉にゴーストライダーは微動だにしない。黙って独白を聞くその姿はどこか懺悔を聞く処刑人のようでもあった。

 

「でも、自分で使ってわかった。こんな力じゃ身を守る以外に何にも出来ない!これ以上、どうしろってんだ!!」

 

情けなく叫ぶ八雲。自らの命を狙っているであろう相手に対して吐露するにはあまりにも惨めな言葉にゴーストライダーは冷たい視線を向ける。

 

「……どんな力にも責任がある。お前は責任を果たさなかった」

 

「じゃあ、無駄でも立ち向かえ、ってことか?」

 

ゴーストライダーの言葉を鼻で笑う八雲は、俺は死ねばよかったのか?、とどこか投げやりに返すが、ゴーストライダーは静かに首を横に振る。

 

「出来ることをする。それが責任だ」

 

冷たく、しかし、真っ直ぐに返したゴーストライダーは八雲の胸倉を掴んで持ち上げる。その言葉とどこか哀れみが含まれているような視線に八雲は観念したように力を抜く。

 

「なぁ、俺はどうすりゃよかったんだ?」

 

「あるべき場所で考えろ……それがお前の責任だ」

 

「ぐうぅ……う、ぁ」

 

ゴーストライダーが贖罪の眼(ペナンスステア)を覗き込ませると八雲は最後に自らが見逃した犯罪の被害者と悲し気な数多のスパイダーマンたちの姿を見る。そして、その罪に魂を焼かれながら刻印が元の世界へ戻ると、ゴーストライダーはその体を燃やして灰にする。

 

「(此れで終わりか)」

 

(いや、違う)

 

これからが始まりだ、と宣言する一騎。今回は殺したが、転生者を狩る猟犬と言う多くの謎を残したままの存在に新たな戦いの予感を感じながら、戦闘の音の聞いて近づいてくる雄英の教師らしき足音を背にした一騎はトラックへの道のりのメモを残すと、次なる転生者のいる世界へ向けてゲートをくぐるのだった。




●#05について
・首の骨を折る
カイザと言えばこの死に方ということでやらせてみました。一応、選んだ力にふさわしい死に方をさせることも作品のテーマのようなところがあるかもしれませんが、情報を得られなかった一騎からすれば八つ当たり気味な面もあると思います。

・大いなる力には大いなる責任が伴う
誤解されがちなセリフですが、元々はあくまでテーマとして扱われただけの言葉です。それがやがてベンおじさんからピーターに送られた言葉になりましたが、そう考えると本来は、力や権利には責任がある、という意味で人間に対して贈られた言葉だと解釈できると思っています。

●タイトルについて
Badgers of the Same Hole:同じ穴のムジナ
・転生者も猟犬もゴーストライダーも同類である、というテーマなのでこのタイトルにしました
・厳密には違う点もありますが、外の世界からやってきて特別な力を使う脅威である、という点では大差はありません
・ちなみに、Badgersはカタカナ発音だとバジャーズと発音する感じです

●転生者について
飛田八雲(とびた やくも)(15歳/男)
・スパイダーマンの力を特典に選んだ男子高校生で転生前も高校生だった
・蜘蛛の個性として発現、強化装備としてスーツにウェブシューターが仕込まれている
・ベンおじさんとメイおばさんに相当する人物はいるが、本編には登場しない
・ヒーロー科1年A組に所属していおり、合宿の内容は個性を使わない戦闘技術の強化
・雄英祭では轟に負けたが、ギリギリの対応力を評価された
・正しいことをしたくて世界と特典を選んだが、途中(USJ襲撃)で他人のために頑張ることが嫌になった
・ヒロインは梅雨ちゃん
・能力で出来ることが似ているため、瀬呂がいないことになっている


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Vol.6:Dropping the Sun Part.1
#01


転校初日の朝、不安と緊張と一握りの期待に押しつぶされそうになりながら、赤紫色のロングヘアーをハーフアップでまとめた少女──桜内梨子(さくらうちりこ)は自らの通う浦の星学園への道を歩いていた。

 

(……新しい学校、かぁ)

 

別に前の学校が特別好きだった訳ではないが、急に住み慣れた街を離れて見知らぬ沼津の街まで連れて来られたとなれば、彼女の複雑な心境も理解できるというものである。

 

(でも、空気は悪くないし、ご飯も美味しい。それに、やっと()()()()にも会える……!)

 

案外、沼津も悪くないかも、などと浮かれる梨子。先ほどまでの不安も何処へやら、心なしか足取りも軽く、見える景色も輝いて見えるようだった。だが、それも十年前に別れた幼馴染のヒロくんに再会出来るとなれば仕方のないことであった。

 

(そういえば、あれ以来会ってないけど、分からなかったらどうしよう……?)

 

途端に不安になる梨子。一度浮かんだ疑念は消えず、ぐるぐると良くない想像が頭の中を占める。そう思うと、また複雑な気分が彼女の表情を曇らせていた。ああでもないこうでもない、と内心で頭を抱える梨子。だが、そんな彼女の懊悩(おうのう)もバス停の前に立つ後ろ姿を見るまでであった。

 

「……ヒロ、くん?」

 

「え?……ってことは、もしかして、梨子?」

 

梨子の言葉に振り返る少年、まじまじと彼女を見るその顔に梨子の表情は途端に明るくなる。その少年こそ彼女の幼馴染、ヒロくん──松平広樹(まつひらひろき)その人であった。

 

「うん!久しぶり、だね!……えっと、その、お、大きくなったね!」

 

「大きく、って……まぁ、十年も経てばな。つーか、そっちも、うん、見違えたな」

 

「見違えた、ってどう言う意味よ!……フフッ」

 

色々と言いたいことはあったはずだが、緊張のあまり口をついて出てきた言葉でどこか気恥ずかしい雰囲気になってしまい噴き出す二人。ひとしきり笑いあうと二人にあった妙な緊張感は無くなっていた。

 

「そういえば、ヒロく──あ、ヒロくんのままで、いい、よね?」

 

「お、おう。まぁ、今さら苗字とかで呼ばれてもな」

 

「ヒロくんも浦の星なんだ」

 

「あー、そうだな、まぁ、静真も統合されたしな」

 

どこか照れくささが残っているのか少しだけ硬さの残る二人だが、制服から同じ学校であることが分かって、また、同じ学校に通えるね、と嬉しそうな顔の梨子にまんざらでもない様子の広樹。新しい平和な日常の始まりとしては申し分ない朝だった。──梨子の背後に忍び寄る影がなければ。

 

「広樹君、おはよう!」

 

唐突にかけられた声の方を向くと二人の元に走って来る橙色の髪で左側頭部に黄色いリボンの付いた三つ編みの少女──高海千歌(たかみちか)の姿があった。

 

「おーっす」

 

「お、おはよう、ございます……え、えぇと、ヒロくん、この人は?」

 

突如現れた千歌に妙な危機感のようなものを抱きながら恐る恐る広樹へ問いかける梨子。

 

「あー、こっちは千歌、こっちに来てからだから、十年くらいの友達だな。で、こっちは梨子、東京に居た時の幼馴染」

 

「初めまして、わたしは高海千歌、よろしくね!」

 

「ど、どうも、桜内梨子です、よ、よろしく……」

 

やけに積極的な千歌に対して若干及び腰な梨子。対照的な二人だったが、バスがやって来た事でそのやりとりも中断される。

 

「じゃ、行こっか!」

 

「おう、ほら、梨子も早く」

 

「う、うん、今行く!」

 

さっさとバスに乗り込んだ千歌と広樹、それに続いて慌てて乗り込む梨子。先に乗った二人はグレーでウェーブの入った髪のボブカットの少女──渡辺曜(わたなべよう)の座っている席へとまっすぐと進む。

 

「あ、広樹くんと千歌ちゃん、おはヨーソロー!……ってそっちの子は?」

 

「曜ちゃんおはよう!」

 

「おーっす。えーっと、俺の幼馴染で今日転校して来た梨子だ」

 

「お、おはよう、ございます……えっと桜内梨子です、よろしくお願いします」

 

また現れた親し気な女子の姿に内心穏やかでない梨子だったが、それを押し殺して挨拶をする。

 

「梨子ちゃんかー。わたしは渡辺曜!よろしくね!」

 

少し様子のおかしく見える梨子の姿を緊張していると感じたのか笑顔で挨拶を返す曜。ひとまず挨拶を終えた四人は曜の座る席とその前に分かれて座ったところでバスが出発する。四人がしばらく取り留めのない雑談をしていると、ふと何かを思い出したのか、あ、と曜が声を上げる。

 

「そういえば、知ってる?理事長が戻ってくるらしいよ?」

 

「あー、あの人戻ってくるんだ?」

 

「理事長?」

 

曜の口から、理事長と言う学生があまり気にすることのない人物が話題に上がることに、違和感を覚えた梨子はオウム返しで質問する。

 

「理事長、ってどんな人だっけ?」

 

「……えーっと、千歌ちゃん、ほら、去年の入学式の時の凄かった人だよ」

 

鞠莉(まり)さんだよ。ほら、俺たちの一つ上の三年生で、学校ために外国に行ったりしてる、あの人」

 

「あー!あの人!」

 

「……何だか、凄い人みたいね……」

 

凄かった、だけでは何を指すのか分からない梨子の頭に疑問符が浮かんでいるのが見えるようだったが、広樹の説明を聞いても具体的なイメージがつかないようであった。

 

「まぁ、どうせその内どこかの行事で出るだろうし、実際に見た方が早いだろ」

 

そういえば、昨日の番組だけど、とどこか楽しそうな表情で続ける広樹。そうしてまたもや取り留めのない雑談を再開する四人だが、その中で抱いていた不安と緊張が消えていたことに気づいた梨子は胸に抱いた期待に小さく笑顔を浮かべるのだった。

 




●#01について
・浦の星学園
本来は浦の星女学園ですが、転生者に都合がよくなるように男子も入学できるように改変されています。なお、共学になった浦の星の代わりに静真が吸収される形になりました。

・ある種のハーレム状態
お気づきかもしれませんが、広樹が今回の転生者です。ちなみに、彼の周囲に女子が多いのは学校のせいでもありますが、そうなるように世界が改変されていると答えるほうが適切です。また、時系列も改変されているため、当然ながら原典とは出来事の順序や内容が違います。

・理事長
統合の方向性が違う原因の一つが鞠莉です。スクールアイドルが存在しないため、浦の星を守るために理事長として動くことを思いつき、そのためにいろいろな所を飛び回っていることになっています。

●世界について
・アニメ版を基準にしているが、スクールアイドル関係の歴史や設定は抹消されている
→どうしても必要な場合は芸能人としてのアイドルや別の何かに置き換えられている
・基本的な魔術のルールはFateシリーズに準ずる
・作中の十年前に聖杯戦争があった


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#02

 

夜の帳の降りた広い和風の屋敷──黒澤家、歴史を感じさせる造りの邸内の中を歩く長い黒髪の少女――黒澤(くろさわ)ダイヤは厳重に封の施された小箱を片手に中庭へと向かっていたが、気配を感じて振り返ると、赤髪で短いツーサイドの少女──黒澤(くろさわ)ルビィの姿があった。

 

「お姉ちゃん、本当に参加するの……?」

 

「ルビィ……ええ、御三家の一つである黒澤家の人間が()()()()に参加するのは当然ですわ」

 

「っ……でも、それならルビィが参加すれば──」

 

「ブッブーですわ!これは当主──いえ、姉である(わたくし)の役目ですの……ですから、ルビィは平和に生きなさい」

 

「でも、お姉ちゃんだけを危ない目には……!」

 

「ブッブッブーですわ!黒澤家にふさわしいのは常に勝利のみ!(わたくし)の力を信じなさい、ルビィ」

 

「……うゆ!頑張ってね、お姉ちゃん!」

 

姉であるダイヤを心配するルビィだったが、その言葉に毅然とした態度で返すダイヤの姿に安堵すると笑顔で部屋へと戻っていった。

 

「……ええ、黒澤家にふさわしいのは常に勝利のみ、ですわ……コホン、そろそろ準備を始めませんと……」

 

ルビィの後ろ姿を見ながら呟くダイヤだったが、時間が迫っていることに気付くと中庭にある土蔵へと入っていく。土蔵の床は魔法陣が描かれており、陣の周囲にある蝋燭(ろうそく)に火をつけたダイヤは手に持っていた箱から取り出した古代の矢じりを魔法陣の中心に置いてから土蔵の扉を閉めた。

 

「……時間ですわね」

 

蝋燭のか細い明かりだけが照らす土蔵の中で一度、深呼吸をしたダイヤは()()を始めるために宝石を置くと目の前の魔法陣へと意識を集中させた。

 

「素に銀と鉄。()に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

儀式の始まりとともに闇に包まれていた土蔵の中が埒外の力――魔力により青く輝く魔法陣の光に照らされている。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる(とき)を破却する」

 

そして、その光は魔法陣の前に立つダイヤの口から発せられる呪文によって輝きを増しているようであり、見る者が見ればこの場に渦巻く魔力の大きさと、魔法陣の前に置かれた魔力の籠もった宝石から、その儀式が尋常なものではないことが見て取れた。

 

「――――告げる。汝の身は我が下に、我が運命は汝の剣に。聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うならば答えよ」

 

だが、尋常ならざる儀式を執り行うダイヤに焦燥や不安は見られない。それも当然である。魔術の名家である黒澤家の現当主で天才的な魔術師である彼女にとっては大聖杯の補助を受けていることもあり、不可能な儀式ではないと知っているからだ。詠唱が続く中、その儀式――英霊召喚はついに終幕を迎える。

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を裁く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

魔法陣が一際大きく輝くと輝きの収まった土蔵の中、ダイヤの目の前には白髪で暗中に輝く鋭い黄金を感じさせる男が魔法陣の上に立っていた。その姿を見たダイヤは英霊召喚の成功に安堵し大きく息を吐く。

 

「成功、ですわ……!」

 

「問おう、お前がマスターか?」

 

目の前の男の問いかけで成功の余韻から覚めたダイヤは小さく咳払いをすると居住まいを正す。

 

「ええ、(わたくし)があなたのマスター、黒澤ダイヤですわ」

 

「そうか。サーヴァント、ランサー。真名をカルナと言う。宜しく頼む」

 

端的に自己紹介を終えて黙るカルナに呆気に取られるダイヤ。ポカンとした表情のまま固まるダイヤに気づいたのかカルナの表情が小さく曇る。

 

「どうしたマスター。オレについて言うべきことは言ったつもりだが?」

 

「い、いえ、その、こうもあっさりと真名(しんめい)だけを明かされてしまうとは思わなかったもので……」

 

自らの召喚したサーヴァント、カルナのセオリーから外れた在り方に困惑するダイヤ。本来、聖杯戦争ではクラス名で隠した英霊の真の名前──真名は戦局を大きく左右する重要なカギであり、召喚された英霊がマスターにも真名を隠すことは珍しくもない。

 

「……そうか。いや、オレはマスターに隠し事をする必要はないのでな」

 

端的に告げるカルナにダイヤの困惑も無理はない。真名をマスターに明かすと言うことは自身に絶対の自信を持つか、あるいはマスターに全幅の信頼を寄せているか、そのどちらかである。そして、カルナと言う英霊が後者であると気づいたダイヤは小さくため息を吐く。

 

「いえ、分かりました。では、行きましょうか、カルナさん。いえ、ランサー」

 

「承知した」

 

「あら、行先は聞きませんの?」

 

「お前が命ずるなら、オレはそうするだけだ」

 

行先も告げずに土蔵を出るダイヤに二つ返事で付き従うカルナ。その返答に満足したのか笑みを浮かべたダイヤは中庭でカルナへと振り向く。

 

「街に出ます。あなたの力、見せていただけますか?」

 

「問題ない」

 

「へ?」

 

手を差し出したダイヤの言葉を受けて、カルナはダイヤを所謂お姫様抱っこの形で抱きかかえると、軽やかに20m近い高さでジャンプする。

 

「ぴぎゃあ!」

 

「マスター、気を付けた方がいい。舌を噛むぞ」

 

あまりの衝撃に奇声のような悲鳴を上げるダイヤをなんてことないかのような表情でジャンプを繰り返しながら(たしな)めるカルナ。どこかちぐはぐなまま空を駆ける主従だったが、町場の近くで急に一つのビルの屋上で立ち止まる。

 

「ゼェ、ハァ……ど、どうかしましたの?」

 

「マスター、この街では空を飛ぶ船はあるのか?」

 

「……船、ですか?飛行機ではなく?」

 

息を切らせるダイヤを抱えたまま問いかけるカルナだが、その言葉にダイヤは違和感を覚える。本来、サーヴァントは聖杯戦争に必要なその時代の基本的な知識を聖杯から与えられている。そのため、車やバイク、電話やネットと言った現代文明の利器を勘違いすることは無いからである。

 

「ああ。あの船だ」

 

「え?」

 

カルナの指さす方を見たダイヤは自らの目を疑った。そこには上空から隣のビルの屋上に落ちてくる巨大な帆船──ガレオン船の姿であった。勢いよくビルに当たりかける船だったが、当たる所で屋上の地面に音もなく半分ほど沈み込み、さながら、水面に浮かぶような姿でこちらに舳先を向けていた。

 

「な、何事ですの!?」

 

「ハァーイ!ダイヤ、久しぶりね」

 

驚くダイヤがガレオン船の方を見ると、甲板にはブロンドのセミロングヘアーを特徴的に結った少女──小原鞠莉(おはらまり)の姿があった。

 

「ま、鞠莉さん!?どうしてここに……と言うか、昼間も学校で会ってますし、そもそも勝手に他人のビルを壊して、何をやってるんですか!!」

 

「壊してないわよ!それに、そんなポーズで言われてもねぇ~?」

 

「なっ──こ、これには深い訳が……と言うか、それとこれとは関係ないでしょう!」

 

捲し立てるように詰め寄るダイヤだったが、鞠莉の反論にお姫様抱っこされたままの姿を振り返って赤面しつつも開き直ったように返す。

 

「ちょっとしたジョークよ。でも、意外とお似合いよ?」

 

「お黙りなさい!それより、カ──ランサー、そろそろ降ろしなさい!」

 

「いや、それは出来ない」

 

普段と変わらないようなやり取りをする二人だったが、ダイヤの命令を拒否したランサーの言葉とガレオン船の甲板に現れた一つの人影で空気が変わる。

 

「だとよ、大将。楽しそうな所悪いけど、そろそろいいんじゃないかい?」

 

「ライダー……そうね。残念だけど、そろそろスタートしましょうか」

 

甲板に現れたライダーと呼ばれる顔に大きな傷のある赤髪の女は鞠莉に呼びかけるとおもむろに前に出る。

 

「……やはり、鞠莉さんも聖杯戦争に参加するんですね」

 

「オフコース!よ。だって、魔術師の家系に生まれたんですもの、参加しない訳には行かない、でしょう?」

 

何時もと変わらないような口調で試すように投げかけられた鞠莉の言葉にダイヤの表情は険しくなる。

 

「……そう、ですわね。でも、私は負ける訳には行きませんの!」

 

強い決意を秘めたダイヤの力強い宣言に笑顔になる鞠莉。だが、楽しそうな表情とは裏腹にその瞳はどこか悲しげでもあった。

 

「フフッ、やっぱり、ダイヤはそうでなくっちゃ!ライダー!」

 

「あいよ!」

 

「っ──ランサー!」

 

「ああ」

 

サーヴァントの名を呼ぶ二人、相対する両者の間に緊張が走る。

 

「イッツ、ショータイム!」

 

「お願いしますわ!」

 

同時に叫んだ二人の言葉を合図に現代に蘇った英霊たちの戦い──聖杯戦争が始まりを告げた。




●#02について
・ルビィ登場
旧版では全く出番のなかったルビィのシーンを追加しました。結局、出番は少ないですが、彼女は聖杯戦争の参加者ではないため、その点はご容赦ください。

・英霊召喚
旧版では文字数の関係でカットされた詠唱シーンの完全版ですが、Fate本編での遠坂さんの詠唱をそのままいただきました。Vol.6は特にカットされた場面が多いため、ディレクターズカット版のような気分で執筆していました。

・ダイヤと鞠莉
原典とは違いスクールアイドルとラブライブがないことから、二人の間には確執は存在しないため、軽口を言い合う仲のままですが、聖杯戦争の参加者である以上、衝突は避けられませんでした。


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#03

 

「コイツを喰らいなっ!」

 

まずはライダーが船首にある四門の砲をランサーへ向けて一門ずつ放つ。只の人間であればひとたまりもない攻撃だが、英霊同士の戦いであれば牽制程度の一撃。しかし、ランサーはその攻撃を3軒ほど隣のビルまで飛んで避ける。

 

「ああ?何だい、拍子抜けだねぇ?ま、お荷物(そんなもの)を抱えてちゃあ仕方がないか」

 

やれやれ、と言った風に肩を竦めるライダーだが、ランサーは気にした様子もなくおもむろにダイヤを降ろす。

 

「──そうだな。だが、これで戦える」

 

即座に跳躍、向かう先はガレオン船の甲板に立つライダーである。当然、直線的な動きから想定していたライダーは船首の砲をランサーへと向ける。

 

「見え見えなんだよ!」

 

「はっ!」

 

連射される四門の大砲。その斉射を受けるランサーだったが、右手に持った細身の槍を振るうと、そこから迸る炎によって撃ち落とされる。

 

「ちっ!大将、中に──」

 

「頭上注意だ」

 

「──っと、危ないねぇ!」

 

砲弾が撃ち落とされたところを見たライダーは鞠莉へと声をかけると右手にカトラス、左手にクラシックな拳銃を持つと横っ飛びして頭上に迫ったランサーの槍を避ける。鞠莉を庇うように立つライダーをランサーは船首側から静かに見据える。

 

「悪くはない、が、オレを落とすには足りんようだな」

 

「はん、舐めてくれたねぇ……こいつは高くつくよ?」

 

一触即発の空気の中、睨み合う両者。永遠のように感じられる一瞬の中で鞠莉が身動ぎした音を合図にランサーが動く。

 

「せえっ!」

 

「おっ、とぉ、アタシを焼くには──」

 

踏み込んだランサーの左薙ぎの一撃を軽やかなステップで躱すライダー。その後に続く炎も紙一重で避けると左手の銃をランサーへと向ける。

 

「火力が足りないみたいだねぇ!」

 

「ぐっ……」

 

「そらそら!これで──っ!?」

 

その見た目からは想像もつかない速度で連射される銃弾に一瞬怯むランサー。その隙を狙って踏み込もうとするライダーだったが、その足が一瞬止まり、バックステップへと切り替わる。すると、一瞬遅れて先程までライダーの居た場所をランサーの槍が掬い上げていた。

 

「──なるほど。いい反応、いや、いい勘をしているな」

 

「ちっ、まさかの無傷とは……こいつはヤバいね!どうする、大将!」

 

何とか態勢を立て直したライダーはチラリと後ろに視線を向けて鞠莉へと問いかけるが、鞠莉は戦闘の空気に飲まれているのか、立っているのもやっと、と言う感じであった。

 

「鞠莉!」

 

「──っ!?ライダー、プランBで!」

 

「まかせな!」

 

ライダーの呼びかけで気を取り直した鞠莉が指示を出すと、ランサーと対峙したままじりじりとにじり寄るライダー。不信に思ったランサーだったが、突如、ライダーが鞠莉の方へと跳ぶと、その背後にあった大砲がランサーに向けて撃ち込まれる。

 

「その程度で──!?ダイヤ!」

 

身をよじって避けるランサーだったが、躱した砲弾の行先に気づくとその先にいるダイヤへと叫びながら跳ぶ。その間にビルから飛び降りていた鞠莉をキャッチしながら降りるライダーは声に気づいて視線を砲弾に向けると、自らの失策に気づく。

 

「あっ、ヤベッ」

 

「ちょっ、ライダー!?」

 

「──え?」

 

遅れて意図を察するダイヤだが、砲弾は既に目の前、避けられるはずもなくランサーも間に合いそうにはない。着弾、普通の人間であればひとたまりもない爆発が起こり、ビルの屋上が煙に包まれる。

 

「ダイヤ!!」 

 

隣のビルに降り立ち動転するランサーと押し黙る鞠莉とライダー。しかし、突如、屋上の煙が切り払われ黒い竜の紋章が描かれた旗が立つ。そして、そこには旗を持ち漆黒の鎧を身に纏った銀髪の少女と隣に立つ活発そうな少年──松平広樹と無傷のまま女の子座りになっているダイヤの姿があった。

 

「立てますか?」

 

「は、はい──って、広樹君?どうして、ここに?」

 

「会長?えっと、これは、その……」

 

ダイヤの手を引いて立たせた広樹だが、ダイヤの質問にしどろもどろになる。が、そんな広樹の姿を見て面白くなさそうな表情の女は広樹を自分の方に引き寄せる。

 

「サーヴァントを連れてるなら、考えられることは一つじゃないですか?そんなこともわからないから、そんな無様な姿を晒すんですよ」

 

「なっ!?──な、何ですのあなたは!」

 

煽るような態度の女に助けてもらったことも忘れて詰め寄るダイヤ。その姿に女は冷笑を深めて高らかに宣言する。

 

「私はコイツのサーヴァント、アヴェンジャー!この旗を、この炎を恐れぬのならかかって来なさい!」

 

「ちょっ、ジ……アヴェンジャー、ケンカ腰はマズいって!」

 

「アヴェンジャー……?そんなクラス、聞いたことありませんわ……!?」

 

アヴェンジャーの宣言に慌てる広樹に対してどこか満足そうな表情のアヴェンジャーと彼らを観察する二組のマスターたち。

 

「アヴェンジャー……ヒロがマスター?」

 

「へぇ、随分な物言いじゃないか?どうする、大将?……大将?」

 

「──ええ、撤退よ、ライダー。それじゃ、ダイヤ、ヒロ、チャオ」

 

下から見上げる形の鞠莉とライダーだったが、何事かを考えていてライダーの二度目の呼びかけで反応した鞠莉は状況の不利を悟り、ライダーに抱きかかえられて撤退する。

 

「……鞠莉さん」

 

「ええっと、ところで会長、その、とりあえず、事情を伺ってもいいですか?」

 

広樹の言葉に一瞬、戦闘態勢を取りかけるダイヤだったが、既にやる気のなさそうな表情でファーの付いた黒いコートと黒いワンピースに着替えたアヴェンジャーの姿に気勢を削がれる。

 

「……わかりました。では、まずは監督役に挨拶に行きましょう」

 

話は道すがらいたします、と締めたダイヤは跳んで来たランサーを霊体化させてドアを開けるとワタワタと進む広樹とため息を吐きながら着いて行くアヴェンジャーを連れて監督役の所へと向かうのだった。

 


 

ビル街から離れた広樹たちは監督役のいる場所への道のりを歩いていた。本来ならば、態々歩かずともサーヴァントに運んで貰えばいいのだが、今回は監督役の所もあまり遠くないことから、徒歩での移動となっていた。

 

「……つまり、このサーヴァントの力を借りて願いを叶える聖杯を手に入れるために戦う、それが聖杯戦争、ってことですか」

 

「ええ、概ねそれで合っていますわ」

 

「まぁ、それぐらいなら私にも説明できますけど」

 

聖杯戦争についてのおおよその説明を受けた広樹の言葉に正しく理解していたことで笑顔になるダイヤだったが、その後ろでつまらなそうな表情のアヴェンジャーの一言に振り返って睨みつける。

 

「なら、あなたが説明すればよろしいんじゃないですの?!」

 

「私は実物を見せてからちゃんと説明しようとしたんですが、どこかの魔術師様が勝手に話を進めるもので」

 

困ったものです、と当てつけのように二人を見ながら言うアヴェンジャーにダイヤの表情も険しくなる。その様子を苦笑いで眺める広樹は内心でため息を吐いていたが、不意にダイヤが立ち止まる。

 

「コホン……着きましたわ、ここが、監督役のいる場所──浦の星学院の礼拝堂ですわ」

 

「学校にそんな役割があったなんて……」

 

そのまま進もうとした広樹とアヴェンジャーだったが、前にいたダイヤに手で制止される。

 

「どうしたんですか?」

 

「ここからはサーヴァントは入れませんの。ランサー、ここで待っていていただけますか?」

 

「承知した」

 

急に実体化したランサーは返事をするとその場で佇む。その姿に驚く広樹だったが、悪いけど、待っててもらえるか?、と告げられたアヴェンジャーは不承不承と言った感じで頷く。

 

「では、行きますわよ」

 

ダイヤの言葉に頷いた広樹が先導されて礼拝堂に入ると、灯りの点いた燭台と会衆席の並ぶ通路が祭壇まで伸びている。そして、その先には修道服を着た青い髪の長いポニーテールの少女──松浦果南(まつうらかなん)の姿があった。

 

「いらっしゃい、ダイヤ、広樹。こんな夜更けに何の用、ってなんとなくわかるけどね」

 

「果南さん……久しぶりですわね」

 

「果南さんが、監督役?」

 

穏やかな笑顔を浮かべる果南に対して、ダイヤはどこか辛そうな表情を浮かべ、広樹は見知った人物が監督役と言うことに驚いていた。

 

「うん、そう。そして、あなたたち二人で七騎のサーヴァントが全て揃った。よって──」

 

なんてことないかのように答えた果南は一度、言葉を切って息を吸うと、二人を交互に見る。

 

「──ここに、第五次聖杯戦争の開幕を宣言する。堅苦しくてゴメンね、一応、言う決まりになってるんだ」

 

厳粛に、だが、どこか優しさを感じさせる声で宣言する果南。その宣言を聞いてしみじみと実感する広樹は押し黙ったまま表情を曇らせているダイヤに気づいていなかった。

 




●#03について
・ランサーVSライダー
真名をご存じの方は面白い組み合わせだと思っていただけると思います。ここでは決着がつきませんでしたが、サーヴァント同士の相性以上にマスター側の実力と精神状態が原因だと思います。

・転生者とアヴェンジャー
アヴェンジャーは彼の特典ですが、サーヴァントという意思のある存在のため、常に彼の思い通りには動きません。しかし、彼に都合のいい存在として作られたため、本来よりも信頼や好意を得やすく、要するにチョロくなっています。

・監督役
アニメ版では礼拝堂は存在しませんが、G's版の設定を流用しました。おそらく、場所は学校の裏手とかその辺だと思います。果南を監督役にした理由はほかに出来そうな人が居なかったことと、鞠莉以外にダイヤと確執がある人間が適切だと思ったからです。ちなみに、果南の出番は次の回で終わりです。


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#04

「……では、果南さん、(わたくし)は外で待たせていただきますので、広樹君に令呪の説明をお願いいたしますわ」

 

「……うん、わかった。それじゃ、またね」

 

逃げるように外へ出るダイヤに驚く広樹だが、静かに見送った果南は小さくため息を吐く。

 

「……ちょっとはゆっくりしてけばいいのに……さて、広樹は聖杯戦争についてはどこまで聞いたの?」

 

「ええと、大体は」

 

「そっか。それで、広樹は参加するの?今なら、その令呪を捨てて元の生活に戻ることもできるよ」

 

どうする?、とまっすぐ広樹の目を見て問いかける果南。だが、広樹はまっすぐその目を見返す。

 

「俺は、戦います。俺の選択が正しいのかわからないけど、会ったばかりの俺に願いを託してくれるアヴェンジャーのためにも、今日助けることが出来たダイヤさんのためにも、誰も死なせずにこの戦いを終わらせたいと思います!」

 

力強いがどこか致命的な危うさを抱えた広樹の宣言に果南は感心と呆れの混ざったため息を吐く。

 

「わかった。そこまで言うなら止めないよ。けど、気を付けて。あなたが二人のことを考えているように広樹の心配をしている人もいるんだから、ね?」

 

果南の心からの忠告に、はい、ありがとうございます、としっかりと頷く広樹。その様子に満足したのか、それじゃ、令呪の説明をしようか、と始まった果南の説明に広樹も気合を入れなおす。

 

「令呪、って言うのはその、手の甲にある紋章のことでね──」

 

一度言葉を切った果南が広樹の左手を指さすとそこには横向きに口を開けた竜のように見える赤い紋章が鈍く輝いていた。

 

「これ、ですか?」

 

「うん、基本的に令呪は聖杯戦争の参加者に与えられるサーヴァントに対する絶対の命令権のことで、それ自体が膨大な魔力を秘めた魔術の結晶なんだ」

 

「絶対の命令権、ってそんなのほいほい渡していいんですか?」

 

「そう、だから、その令呪には三回の使用制限がある。一度の使用で一画ずつ消えていって、三画目が消えるとサーヴァントとの信頼がない限り敗北となる」

 

「あの、信頼がない限り、と言うのは?」

 

広樹の令呪を指さしながら令呪の説明をする果南だが、画数の説明で疑問を口にした広樹に、うーん、と少し考えてから向き直る。

 

「そうだなぁ……例えば、広樹は自分に強制的に命令する相手がいたらどう思う?」

 

「ええと、そりゃ、何だコイツ、とか、ムカつくと思いますね」

 

「まぁ、そうだろうね。それじゃあ、その相手が急に命令できなくなったらどう?」

 

「それは、仕返しをすると……ああ、サーヴァントによっては下剋上(げこくじょう)される、ってことですね!」

 

正解、と笑顔を浮かべる果南に納得したように頷く広樹。それじゃ、次は応用編だね、と果南が説明を続ける。

 

「実は、令呪にはもう一つの使い方があるんだけど、それが何だかわかる?」

 

「うーん、確か、令呪はすごい魔力の塊なんですよね?もしかして、それが関係していたりするんですか?」

 

「あれ?まぁ、その通りなんだけど……勘がいいのかな?……ともかく、令呪にはその魔力を使ってサーヴァントの行動を補助することも出来るんだ」

 

ほぼ正解と言える広樹の回答に小さな違和感を覚える果南だったが、それを流して説明を続ける。

 

「例えば、物理的な距離を無視して移動したり、能力を底上げしたり、まぁ、色々な使い道があるんだけど」

 

要はマスター次第、ってことだね、と解説を締める果南に、ありがとうございました、と礼をする広樹。

 

「気にしないでいいよ。これも監督役の仕事だから……さて、あんまりダイヤを待たせるのも悪いから、今日はここまで。他に聞きたいことがあったらまた来てね」

 

「わかりました。それじゃ、また明日」

 

また明日、と返す果南を背にして外へ出た広樹は少し離れた所で互いに背を向けてそっぽを向いているダイヤとアヴェンジャーとそれを見守っているランサーの姿があった。

 

「説明終わったんですけど……これ、何事ですか?」

 

「別に、アヴェンジャーと気が合わないだけですわ」

 

「ええ、そこだけは私も同感です」

 

「この通りだ。マスターとアヴェンジャーでは話にならんのでな。ヒロキ、あとは任せた」

 

ざっくりと明らかに足りない説明を残して姿を隠したランサーとその言葉に剣呑な空気に包まれる二人に広樹は頭を抱える。

 

「それで、広樹君は聖杯戦争に参加するんですの?」

 

まっすぐと広樹の目を見て問いかけるダイヤ、その姿は先ほどの果南に重なって見えた。

 

「俺は、聖杯戦争に参加します」

 

ダイヤの目をまっすぐに見返しながら答える広樹にダイヤは一瞬、悲しそうに目を伏せる。

 

「そう、ですか……では、明日からは──」

 

「ちょっと待ってください!」

 

「は、はい?何でしょうか?」

 

決別しようと言葉を紡いでいたダイヤは突然の広樹の大声に割り込まれて反射的に返事を返す。

 

「あの、俺、誰も死なないで聖杯戦争を終わらせたいんです。そのために協力して貰えませんか?」

 

「ハァ!?アンタ、何言ってんの!?」

 

「そ、そうですわ!聖杯戦争で死人を出さない、なんてそんなこと……」

 

突然の広樹の提案に驚愕するアヴェンジャーとダイヤ。だが、ダイヤは否定しつつもどこか断り切れていない雰囲気を漂わせていた。

 

「一人では無理かもしれません、でも、二人なら、出来るかもしれない……だから、お願いします!」

 

深く頭を下げる広樹の心からの言葉に困惑するダイヤだが、直ぐに否定の言葉が出て来ない時点で答えは決まっているようなものであった。

 

「ダイヤ、オレは戦力は多い方がいいと思う」

 

「!?ランサー……そう、ですわね。ええ、確かに、一度に相手にする敵は少ない方がいいに決まっていますからね」

 

突如、実体化したランサーの言葉に背中を押されたダイヤは静かに頷く。

 

「わかりました、広樹君の提案、お受けいたしますわ」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!アンタもそれでいいの!?何のための聖杯戦争なのよ!」

 

これじゃ、アイツとの時間が……と何事かをごにょごよと文句を言うアヴェンジャーに対して広樹は頭を掻く。

 

「まいったなぁ……なぁ、アヴェンジャー、()()()()共闘してくれよ──っ!?」

 

広樹の言葉に反応して左手の令呪が輝くと紋章の一画が消え、アヴェンジャーが片手で頭を押さえる。

 

「っ!?──この、なんでこんなことに令呪つかってんのよ!?あー、もう、わかったわよ、認めればいいんでしょ、みーとーめーまーすぅ!これで満足ですか、マスター様?!」

 

よほど堪えたのか投げやりになってへりくだるアヴェンジャーに、いや、本当にスマン、と平謝りするしかない広樹。そんな二人の姿にダイヤは呆れつつも笑顔を浮かべる。

 

「これでは先が思いやられますわね……そういえば、広樹君はこんな時間に出歩いていて親御さんは心配なさらないのですか?」

 

「あー、実は、昨日から両親が7泊8日のハワイ旅行に行ってて誰も居ないんですよね」

 

だから、大丈夫です、と返す広樹は、うぅ、二人きりの素敵イベントが、と呻くアヴェンジャーを置いて、それがどうかしたんですか?、と話を進める。

 

「いえ、共闘するなら安全性を考えてよろしければ(わたくし)の家に泊まってはどうかと思いまして……」

 

いかがですか?、と問いかけるダイヤに顔を見合わせる広樹とアヴェンジャーだったが、同時に、是非!、と賛成する二人の勢いにダイヤは若干引き気味になる。

 

「そ、そうですか……では、車を手配いたしますわ」

 

「それじゃ、よろしくお願いします!」

 

「……サーヴァントに部屋はいらないから実質同棲──よしっ……さぁ、行きましょう。あまり遅くなると他のサーヴァントに遭遇する可能性もありますからね。ええ、他意はありませんよ?」

 

「……オレはこのことを告げるべきか──いや、これは彼らの問題か……ダイヤ、オレに掴まれ。その方が早い」

 

車を呼ぼうとするダイヤだったが、三者三様の心境からの話し合いの結果、アヴェンジャーがダイヤをランサーが広樹を抱えて黒澤家へと向かうのだった。

 




●#04について
・監督役というより解説役
今作唯一の果南の出番です。プロットの段階ではもう少し出番や役回りを増やそうとしていましたが、実際に書いてみると文章量が多く、展開が冗長になってしまうため、泣く泣く現在の形にしました。

・転生者の令呪
ここで初めて描写される令呪の形ですが、作者的には竜告令呪をイメージしつつ、本人よりもアヴェンジャーを意識して描写しました。などと言っていますが、これはあくまで小説なので基本的には皆さんのイメージされた形が正解です。

・令呪による共闘
原典のFateでもあったアレです。令呪の仕様上よくあることだと思うので、一度はやる必要があると思ってここでやりました。個人的にはFateというか聖杯戦争を知らない方のための説明としてはいいと思いますが、実際に役立ったかどうかは分かりません。

●果南について
・自身の身体能力に気付いており、やれることをやっていたら代行者になっていた稀有な存在
→経緯は不明だが、かつての聖杯戦争かそれに類する何かの影響で聖堂教会に認識されて訓練を積んだ結果、代行者となった
・浦の星にシスターが存在しない礼拝堂があったため、そこを利用して聖杯戦争の監督役をすることになった
・聖杯戦争の監督役に選ばれたことで聖杯戦争を止めたかったダイヤと喧嘩したため、関係がぎくしゃくしている
→果南自身はダイヤと喧嘩したあとで真実を知ったため、謝る機会をうかがっているが、避けられている
・転生者とは千歌たちを通じて仲良くなった


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#05

 

「ピギャアアアアアアアアア!?」

 

「何事ですの!?──って、広樹君?」

 

朝、静謐な空気に包まれていた黒澤家に響くルビィの絶叫を聞いて駆け付けたダイヤの目の前には叫び声をあげた姿勢で固まるルビィとオロオロとしている広樹の姿があった。

 

「あ、会長……!その、なんか驚かせちゃったみたいで……」

 

「……そういえば、昨晩、帰って来た時にはルビィは寝てましたわね……広樹君、一度、あちらに行っていただけますか?」

 

「あー……はい、それじゃ、また後で」

 

状況を理解したダイヤは広樹を遠ざけると、小さくため息をついて涙目のままぎこちない動きでダイヤを見るルビィの方へ向き直る。

 

「ぉ、ぉねぃちゃぁ……」

 

「ルビィ、もう大丈夫ですわよ」

 

「うゆ……お姉ちゃん、どうして松平さんが家にいるの?」

 

何とか復活したルビィの質問にどう伝えたものか悩むダイヤだったが、説明する前に少し確認しなければならないことに気付く。

 

「その前に、どうしてルビィは彼のことを知っていますの?」

 

「その、昨日、学校で上級生に、か、かわいい、って詰め寄られて……」

 

「まさか、広樹君が……!?」

 

「ち、違うの!その時に助けてくれたのが、その人の友達の松平さんだったの」

 

「そ、そうでしたの……コホン、それなら問題ありませんわね」

 

妹の身に起こっていた小さな事件に動揺したダイヤだったが、顛末を聞いて安心するとひとまず体裁を整える。

 

「実は、彼は聖杯戦争を止めようとするマスターで同盟を組むことになりましたの」

 

「……え?で、でも、どうして家に……?」

 

「それは彼の安全と同盟の意義、という観点で空いている部屋を使ってもらうことにしましたの」

 

「ピギィ!?」

 

「そこまで驚かなくてもいいじゃありませんの……ともかく、あとで(わたくし)と広樹君のサーヴァントも紹介しますから、早く慣れてくださいね」

 

「……ぅゅ……が、がんばゅびぃ……!」

 

「……大丈夫、ルビィは(わたくし)が守りますわ」

 

涙目で力なく返事をするルビィをなでるダイヤは事態を把握しているのか姿を現していないランサーに感謝しつつ、大事な妹を守るために戦う覚悟を固めるのだった。

 


 

放課後、チャイムが鳴って下校し始める生徒たち、ホームルームを終えた2年A組も一人、また一人と下校していくクラスメイトの声を聞きながら梨子は机に突っ伏している広樹の様子を窺っていた。

 

「ヒロくん、朝からお疲れだったみたいだけど、どうかしたの?もしかして、体調でも悪い?」

 

「あー、梨子か。いや、ちょっと聖杯戦争(ゲーム)をやってて寝不足でな」

 

顔を上げながら答える広樹に対して、ゲーム?、と梨子は首をかしげる。

 

「まぁ、気にすんな。それより、何か用か?」

 

「あー、うん、その、よければ一緒に──」

 

『生徒の呼び出しをします。2年A組の松平広樹君、生徒会室に来てください。繰り返します──』

 

帰らない?、と続けようとする梨子だったが、唐突に鳴った広樹への呼び出しによってその言葉は遮られた。

 

「あれ?広樹君、何かやったの?」

 

「千歌じゃないんだから、そんなことしないっての。梨子、悪いけど、呼び出しみたいだからまた明日な」

 

じゃあな、と鞄を掴んで教室を飛び出そうとする広樹だったが、あ、と何かを思い出したのか立ち止まる。

 

「あっと、梨子、千歌。最近、夜は物騒だから、気をつけて帰れよ!」

 

「えっ!?ヒロく──行っちゃった……」

 

「いってらっしゃーい!……ねぇ、梨子ちゃん、一緒に帰らない?」

 

「えっ?うん、別にいいけど……ヒロくん、心配してくれてるんだ……」

 

見送る梨子と千歌を置いて今度こそ教室から飛び出した広樹。その後ろ姿を眺める梨子の目に暗い輝きが宿っていることに気づく者はいなかった。

 


 

「会長、お待たせしました!」

 

「広樹君、ブッブー!ですわ!」

 

授業が終わって生徒会室に駆け込んだ広樹は入って早々に体の前に手でバツ印を作ったダイヤに怒られると、動揺しつつも自分の行動を振り返る。

 

「えっと、急いできたんですけど、何か怒られるようなことしましたか?」

 

「廊下を走ってはいけません!そんなの常識ですわよ?」

 

「……あ、はい、すみませんでした」

 

至極当然の指摘に素直に謝る広樹の姿に満足そうに頷くダイヤは、さて、と空気を切り替える。

 

「今朝、監督役からサーヴァントによる殺人事件──魂喰いの情報が入りましたの」

 

これを、とダイヤが二つのファイルを差し出すとそれを受け取った広樹はパラパラと資料をめくると心臓を抉り取られた遺体の写真に顔をしかめる。

 

「……あの、魂喰い、って何ですか?」

 

「そうですわね……魂喰いとは生き物の魔力や命をサーヴァントに吸収させる行為のことですわ」

 

「つまり、この被害者たちは……」

 

「ええ、おそらく他のマスターに殺された、と思われます」

 

悔しそうな表情のダイヤの言葉に広樹は犯人への怒りを滲ませる。が、側に霊体化して控えていたアヴェンジャーは急に実体化してひょい、と資料を取り上げる。

 

「おい、アヴェンジャー勝手に──」

 

「これ、アサシンの仕業じゃないですか?」

 

資料を取り返そうとする広樹を押しのけてアヴェンジャーが指し示したのは遺体の写真、その切り口の所であった。

 

「ええ、その切り口の鋭さからするとキャスターよりはアサシンの方が可能性は高いと思いますわ」

 

「──そうだ、そしてバーサーカーであるならこの程度では済まない。となれば、自ずと答えは出るはずだ」

 

「まぁ、セイバーみたいな騎士道とか言ってるお上品な連中に魂喰いは出来ませんからね」

 

「じゃあ、敵はアサシン……!」

 

いつの間にか実体化していたランサーを含めた全員の推理をまとめた広樹は敵をアサシンと仮定するが、そこで一つの問題が浮上する。

 

「それで、どうやってコイツを探すんですか?」

 

「それは……」

 

「それは……?」

 

広樹の質問に対しての回答に全員の視線がダイヤに注がれる。

 


 

「夜回り、ですわ!!」

 

そう、何と言うことは無い。単純に街を見回って現場を押さえる。それだけのことを言うために一人と二騎は黒澤家の門前に並ばされていた。

 

「えーっと、それで、具体的にはどうするんですか?」

 

「決まってますわ。これを使いますの」

 

これ、と言って差し出したのは一か所に矢印の付いた丸形のトパーズのブローチだった。まじまじと見つめ、これ、ですか?、と聞く広樹に用途はさっぱりわからないようだった。

 

「これは(わたくし)が探し物をする時に使う魔術具ですわ。こう、魔力を籠めると──」

 

と言って掌に乗せたブローチに魔力を籠めると、ひとりでに浮き上がったブローチが一方向を指し示した。

 

「おそらく、この方角にアサシンかその手掛かりがあるはずですわ」

 

「すごい……流石、ダイヤさん!」

 

ふふん、と誇らしげに胸を張るダイヤだったが、アヴェンジャーの冷たい視線に態度を取り繕う。

 

「コホン……ともかく、起こるとしたら今日か明日。ぐずぐずしている暇はありませんわ!」

 

ランサー、運転をお願いいたします!、と意気込んだダイヤは用意させた車のカギを黒のスーツに着替えていたランサーに渡す。

 

「承知した……全員乗ったな」

 

「それでは、行きますわよ!」

 

四人を乗せた車はダイヤの号令で走り出すと山の方へと向かって行き、やがて峠道へと入りしばらく走ったところでアヴェンジャーが顔を上げる。

 

「ランサー!」

 

「──ああ、承知している」

 

「?一体──」

 

何が、と広樹が言いかけたところで車が急ブレーキして言葉が途切れる。

 

「っ!?──何ですの!?」

 

「敵だ。アヴェンジャー、ダイヤを頼む」

 

突然の状況に驚くダイヤと広樹。敵に気づいたランサーとアヴェンジャーが車外へと出ると、上空からヘリの音が響き、鞠莉を抱えたライダーが降り立つ。

 

「ハァーイ!ダイヤ、ヒロ、二人でデートなんて大胆ね」

 

揶揄(からか)うような口ぶりの鞠莉に、デートって、と困惑する広樹と黙って睨みつけるダイヤ。

 

「さぁて、昨日の続きを始めようか!」

 

「ランサー、本当に一人でやる気ですか?」

 

「──無論だ。お前たちを巻き込むわけにはいかんのでな」

 

横に動いて森へと下がる鞠莉と一歩前に出たライダーに対してどこかズレたようなやり取りをしつつ、応じるように前に出るランサー。睨み合う両者、そして、ライダーの背後の空間から数門の大砲が現れる。

 

「さぁ、勝つも負けるも、派手に使い切ろうじゃないか!」

 

「いいだろう、行くぞ」




●#05について
・りゅびぃ語
加筆されたルビィについてのシーンですが、パニックになったルビィを表現するために一部のセリフを所謂りゅびぃ語と呼ばれる言葉で表記しました。キャラ再現の精度を上げるつもりでやってみましたが、実際に役立ったかどうかは分かりません。

・魂喰い
聖杯戦争には付き物のイレギュラー魔力供給の一つですね。魂喰いは生きた人間の魂や精神を食らう必要があるため、作中で語られているように反英霊や殺人に抵抗のない精神性か狂化した英霊もなければ行いませんし、場合によっては監督役から情報を得た他のマスターに討伐される可能性もあります。

・魔術具
本作のオリジナルアイテムですが、トパーズには失せ物探しの効果があるらしいので、魔術的には間違いじゃないんだろう、ということで採用しました。本来なら原典の魔術具を使うか宝石魔術を勉強するべきなんですが、作品が多くとも宝石魔術の使用シーンとなると資料が少ないため、今回は妥協点としてこの形にしました。

・ランサーのスーツ
英霊正装が元ネタです。ちなみに、ランサーが運転している理由はアヴェンジャーよりも運転手というか使用人に見えるから、という周囲に対するカモフラージュ的な意味合いです。


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#06

次々と放たれる砲弾を切り払いながら突撃するランサーとその後ろで抜けてきた砲弾を払うアヴェンジャー。その動きを見越したライダーは両手の拳銃を連射しつつ後退すると距離を開けて戦う。

 

「まだまだ、たんまり喰らいな!」

 

「ランサー!?」

 

銃撃とともに周囲に展開された大砲から放たれる砲弾。だが、その威力は昨日の比ではなく、切り払いつつ避けるランサーの顔に僅かな焦りが浮かぶ。

 

「ウチのマスターは払いが良くてね!おかげで景気よくぶっ放せるってもんさ!」

 

「ぐっ……」

 

宣言通りに連射を続けるライダーと思うように身動きが取れず、次第に押されているように見えるランサー。全員の視線が両者に注がれる中、一瞬、見守るダイヤたちの横にある木陰が揺れる。

 

「っ!?──マスター、ダイヤを!」

 

「え?──」

 

剣を構えて飛び出るアヴェンジャー、その前には刀で切りかかる黒い軍服の男の姿があった。激突によって周囲に剣圧の衝撃が走る。

 

「せりゃ!」

 

「チッ──このっ!」

 

踏み込もうとする男を無理やり弾き飛ばしたアヴェンジャーは剣を握りなおすと真っ直ぐに男の方を見る。遅れて衝撃から立ち直った広樹もつられてそちらを見ると森から暗い青紫色のサイドテールの少女──鹿角聖良(かづのせいら)が現れる。

 

「よく避けましたね、ですが、バーサーカーの前には無力です」

 

「ナイスよ聖良!」

 

「もう一組!?ダイヤさんはランサーを!──アヴェンジャー、行けそうか?」

 

「勿論、と言いたいところですけど……少々、手こずりそうね」

 

(どうする、()()を使うか……?)

 

聖良に目を向けつつ注意の逸れそうなダイヤに声をかけた広樹は苦々し気なアヴェンジャーの言葉に内心で切り札の使用を考えるほどに焦っていた。そして、同じく追い詰められたダイヤは切り札を切る。

 

「鞠莉さん!聞いてください!これ以上、聖杯戦争を続けるとルビィが死んでしまいますわ!!」

 

「な、何だって!?」

 

「ライダー、聖良、ウェイト!……どう言うことかしら?」

 

突然のダイヤの言葉に驚く広樹と一旦、攻撃を止めて問いかける鞠莉と渋々バーサーカーを制止する聖良。そして、一時的に戦闘は止まった。

 

「ルビィはサーヴァントの魂を集めて聖杯になる、聖杯の器なんですの。戦いが進めばルビィは、死ぬ……だから、私はこの戦いに勝って、ルビィの生存を──」

 

「ええ、知ってるわ」

 

「──え?今、何と……」

 

「私はルビィのこと知っている、って言ったの」

 

ダイヤの心からの訴えを聞いた鞠莉はなんてことないかのように言い放つ。鞠莉の表情は何時もと変わらず、余裕のある微笑を浮かべていた。

 

「そん、な……それなら、鞠莉さんもルビィの──」

 

「いえ、私の願いは根源に至ること、それだけよ──可愛そうだけど、ルビィには犠牲になってもらうしかないわね」

 

「っ……そう、ですか」

 

親友の妹を犠牲にする、そんな宣言を他人事のように語る鞠莉にダイヤの絶望は計り知れない。打ちひしがれるダイヤだったが、一つの決意とともに顔を上げる。

 

「鞠莉さん、いいえ、鞠莉!私はルビィのために全力であなたを倒しますわ!!」

 

力強く、しかし、泣きそうな声で宣言するダイヤの言葉を鼻で笑う鞠莉は敵を睨みつけるようなダイヤの視線にも動じていなかった。

 

「あら、これまで手加減しててくれたのかしら?でも残念、あなたのサーヴァントはそうでもないみたいだけど?」

 

「令呪を以て命ずる、ランサー──()()()()()()()()!!」

 

先程の攻防を思い出してあざ笑うような態度の鞠莉に対して右手の令呪を輝かせたダイヤがランサーに命じる。そして。

 

「承知した。我が身を呪え……『梵天よ、我を呪え(ブラフマスートラ・クンダーラ)』!!」

 

「っ!?──ライダー!!」

 

太陽のような圧倒的な輝きを放つランサーによって上空へと投げられる槍、その圧力を危険視した鞠莉は令呪を使ってライダーへと指示を出す。

 

「ここが命の張りどころってね!アタシの名前を覚えて逝きな!テメロッソ・エル・ドラゴ!太陽を落とした女、ってな!」

 

ライダー──フランシス・ドレイクの宝具──『黄金鹿と嵐の夜(ゴールデン・ワイルドハント)』の発動により、無数の船団がドレイクの背後に現れる。

 

「ワイルドハントの始まりだ!!」

 

一斉に突撃する亡霊の火船とそれを援護する大量の砲撃、サーヴァントとて当たればひとたまりもない宝具による攻撃。しかし、対するランサーは動じない。

 

「武器など前座。真の英雄は眼で殺す」

 

端的に宣言するランサーの右目が大きく見開かれるとその眼力(がんりき)──『梵天よ、地を覆え(ブラフマスートラ)』がビームのように放たれる。そして、その直線状にあった火船は爆発し、砲弾も撃ち落とされる。

 

「チッ、大将!令呪を──」

 

「頭上注意だ、悪く思え」

 

ドレイクの言葉が終わるより早く、先程投擲(とうてき)した槍によって上空からドレイクの場所へと太陽のような劫火(ごうか)──『梵天よ、我を呪え(ブラフマスートラ・クンダーラ)』が降り注ぎ背後の船団すら飲み込む。そして、劫火が収まると、そこには融けて抉れた地面が残されているだけだった。

 

「ライ、ダー?そんな、嘘でしょ?」

 

「バーサーカー!令呪を以て命ずる、私と鞠莉を連れて撤収!」

 

全員が呆然とする中、いち早く気を取り直した聖良の命令でバーサーカーは聖良と鞠莉を抱えると、山の中へと消えていった。そして、あとに残されたのは輝きの収まったランサーと疲労困憊のダイヤに困惑する広樹とアヴェンジャーだった。

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」

 

「──っと、ダイヤさん、大丈夫ですか!?」

 

「え、ええ。ハァッ、少し魔力を、ハァッ、使いすぎただけ、ですわ」

 

「──オレの全力にはまだ遠いが、ご苦労だったマスター」

 

倒れそうになるダイヤを支えるランサーと困惑から立ち直りダイヤを気遣う広樹。ひとまずの勝利を得た彼らだったが、この戦いがダイヤに齎した心の傷と広樹に与えた影響は大きなものだった。

 




●#06について
・パワーアップしたライダー
鞠莉のイメージがルヴィア+慎二なので、おそらく鞠莉の魔力を底上げする何かを使ったか、支援のための礼装を使った可能性があります。ただ、今作では自身を奮い立たせようとした鞠莉がダイヤの逆鱗に触れてしまっただけでなく、令呪のタイミングを見誤ったため、本領を発揮する前に倒されてしまいました。要は可能と成功はイコールではないと言う事です。

・バーサーカー組
旧版の投稿当時はすぐに正体がわかったんですが、それっぽいサーヴァントが増えたので、おそらく少しわかりにくくなっていると思います。ただ、撤退に令呪を使用している点がヒントです。ちなみに、諸事情により理亜の出番はないんですが、設定の問題なのでその点は申し訳ないです。

・聖杯の器
旧版では文字数以外にもこのことを象徴させるため、という理由もあってルビィの出番を作らなかったんですが、知人からの指摘もあって新装版では加筆しました。ちなみに、このシーンから転生者が空気なのは彼が本当に困惑していて何もできなかったからです。メタ的に言えば、出番があると邪魔なので黙っていてもらいました。

・ランサーの全力
全身が輝いているのは『日輪よ、具足となれ(カヴァーチャ&クンダーラ)』が十全に働いている描写です。また、令呪を使ったとはいえこの際に宝具を二連続で使用しているため、おそらく魔力消費はかなりのものだと思います。そのため、このコンボを行使しているダイヤの魔力量は確実に一流の魔術師だと言えるでしょう。

●ルビィについて:立ち位置のイメージは桜や美遊
・母親の胎内の時点で魔術的な処置を施されて生まれた先天的な聖杯の器で本人もそれを知っている
→ダイヤは失敗作だが、その代わりに天才的な魔術の才能を持っている
→そのせいか原典以上にダイヤが過保護だが、姉妹の仲も良くなっている
・原典同様に花丸とは仲がいいが、お互いに魔術師の家系だとは気づいていなかった
・素養は高いが、本格的な魔術の修行をしていないため、逃走や隠密用の魔術礼装か護身用の簡単な攻撃魔術ぐらいしか教えられていない


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#07

 

昼休み、ほとんどの学生にとって昼食と長めの休息を取れるこの時間は正に至福の時間であったが、そんな時間でも同盟を組むダイヤと広樹にとっては数少ない作戦会議の時間でもあった。

 

「それで、ダイヤさん、体の方は大丈夫なんですか?」

 

「またその話ですの?(わたくし)の魔力も回復いたしましたから、問題ありませんわ」

 

昼食を終えて生徒会室に集まった二人は今朝も行ったであろうやり取りをしながら、黒澤家からもらった資料──現場写真を確認していた。

 

「それで、結局、昨日は魂喰いの活動はなかったんですよね?」

 

「ええ、ただ、謎のサーヴァント同士の戦いがあったようで……」

 

「ハァ?謎のサーヴァントってどう言うことよ?」

 

「おまっ、また勝手に……まぁ、いいや」

 

自分のサーヴァントの行動に頭を抱える広樹だったが、昨日の意見のこともあり、ひとまず黙認する。

 

「これは……何と言うか、バーサーカー並みの火力ですね。でも、バーサーカーとは戦ったから……」

 

お手上げですね、と開き直るアヴェンジャー。どうやら、彼女の知識でも今回はどうにもならないようだ。

 

「おいおい……にしても、なんだこの跡は?ハンマー、とかかなぁ?」

 

「そうですわね……この凹み具合からして拳、いえ、もしかしたらキャスターの使い魔や魔術の可能性もありますわ」

 

「それこそ、アーチャーの武器の一つ、と言う可能性も考えると……キリがないですね」

 

三者三様に意見を出しつつ悩んでいたが、突如、窓を割って室内に入って来た何かを実体化したランサーが掴み取った。

 

「っ!?──襲撃!?」

 

「いや、どうやらこれだけのようだ」

 

襲撃を警戒する広樹とダイヤだったが、手に持った矢に手紙が付けられていることを確認したランサーは手紙を差し出す。

 

「これは──一時休戦の申し入れ、ですわね」

 


 

放課後、チャイムが鳴り生徒たちが下校する中、ダイヤとの待ち合わせ場所である屋上への扉の前に向かう広樹は昨日の指摘を思い出してわざわざ少し手前から早歩きになる。

 

「ダイヤさん、お待たせしました」

 

「いえ、(わたくし)も今来たところです」

 

合流した二人はアーチャーのマスターを名乗る人物からの手紙で行われることになった会談の場所として指定された校舎の屋上への扉をくぐる。

 

「うわ、っと、風強いですね」

 

「ええ、ここは海からの風が来ますからね……ですが、アーチャーのマスターはまだ来ていないようですわね」

 

「いーや、ここにいますぜ」

 

「「!?」」

 

「チッ、やっぱり罠なの?」

 

何も無いはずの空間に軽そうな男の声が響く。辺りを見渡す二人と実体化した二騎のサーヴァントだが、何処にも姿は見当たらない。

 

「こ、ここです!」

 

少女の声とともに何かが正面に着地するような音がすると、空間ににじみ出るように緑の衣装とマントを纏った男──アーチャーと、それに守られるように立つ茶色でふわっとしたロングヘアーの少女──国木田花丸(くにきだはなまる)の姿が現れた。

 

「!?あなたがアーチャーのマスターですわね?」

 

「は、はい!その、オラ、じゃなくて、私は、国木田花丸、と言う者で……」

 

つっかえながら話始めようとする花丸だったが、これを遮るようにアーチャーが前に出る。

 

「いやー、すんませんね。うちのマスターは標準語で話すのが苦手なモンで」

 

後はオレに任せといてください、と話を引き継ぐアーチャーに、お、お願いするずら、と花丸は申し訳なさそうな顔になる。

 

「つーわけで、うちのマスターは戦いも嫌いな性分でして、手紙に書いた通り、出来ればこの戦いを平和的に終わらせたいんですよ」

 

「つまり、そのために一時休戦、いえ、無条件降伏をしろ、と言うことですの?」

 

「いや、オタク話聞いてました?むしろ、こっちが協力するんで、マスターを狙わない健全な戦いってやつをですね……」

 

「そうですか。では、花丸さん、あなたの願いはどうなりますの?」

 

アーチャーの物言いに納得していない様子のダイヤは花丸の方に目を向けながら問いかける。

 

「その、オラは……ただ、みんなと平和に生きていきたい。だから、願いも、聖杯もオラには必要ないずら」

 

「なら、あなたが戦う必要はないではありませんか」

 

精一杯の言葉で自分の心を語る花丸に対してダイヤは切り捨てるような言葉を投げかける。

 

「……確かに、オラが戦う必要はないずら。でも、この力で誰かを守れるなら、オラは戦う。そのためにここにいるずら!」

 

ダイヤの目を見つつ本心からの言葉を返す花丸。その視線と答えを受けてダイヤは小さくほほ笑んだ。

 

「わかりました。(わたくし)は、休戦協定を結んでもよいと思っていますわ。ランサーと広樹君はどうですの?」

 

「お前が命ずるなら、オレはそうするだけだ」

 

「……俺も花丸は信用してもいいと思います。アヴェンジャーもいいか?」

 

「どうせ拒否したら、()()令呪を使うんでしょ?だったら選択肢なんてないじゃないの」

 

「だ、そうですよ……やりましたね、マスター?」

 

「やったずら!これで、善子ちゃんも守れるずら!……ありがとう、アーチャー」

 

四人の同意を得られた事で三組の同盟が成立する。この事実に喜色満面になる花丸とアーチャー。沈み行く夕日に照らされるその姿はどこか兄妹のようにも見えた。

 

「さて、それでは、一度、(わたくし)の屋敷に──」

 

「ダイヤさん、何か、変じゃないですか?」

 

話をまとめるため黒澤家に戻ろうとするダイヤだったが、広樹の言葉で周囲に霧が立ち込め始めていることに気づく。そして、その時にはサーヴァントたちは周囲を見回していた。

 

「これは……何かしらの魔術、のように見えますわね」

 

「でも、何だか息苦しい感じが……」

 

「ゲホッ、ゴホッ、これ、喉が……」

 

「──毒だ!オタクら、耐性はあるか!?」

 

「──オレが霧を払う。伏せていろ」

 

毒、と言うアーチャーの言葉に、一瞬、全員に緊張が走るが、伏せたことを確認したランサーの魔力放出により一時的に霧が晴れる。しかし、その一瞬が命取りであった。

 

「こっちだよ!」

 

「──え?」

 

何処からともなく響く幼い少女の声と続いて聞こえる花丸の気の抜けた声。その声に反応してダイヤと広樹が花丸を見ると、そこには胸を切り裂かれた花丸の姿と抉り出した心臓を持つぼろきれを纏った幼い少女の姿だった。

 




●#07について
・現場写真
この世界の黒澤家は沼津の霊脈を管理しているだけでなく、地元の名家でもあるため、雑事に使える人脈を持っていると思われます。というのも、神秘に関する事実を隠ぺいするためにはある程度の人脈や資産が必要になるからです。ちなみに、これらの事件の詳細については後編であるVol.7で描かれます。

・アーチャー&花丸登場
個人的に申し訳ないと思うチーム第1位の二人です。正直、出番があまりないにもかかわらず、テーマ的には花丸をこのまま退場させるしかなかったので、その点は本当に申し訳ないと思っています。また、アーチャーに関してはこの後の展開まで含めて貧乏くじを引かせてしまっているので、こちらも申し訳ないですが、キャラ的には合ってると思うんですよね。

・同盟と襲撃者
花丸の気質を考えると同盟を組む、と言う発想に至るとは思いましたが、死者が出ないことには聖杯戦争を行っているとは言えないため、他のキャラの事情も併せて今回の襲撃を起こさせました。シチュエーションと言動からこの襲撃者が何者かはおそらく見当がつくとは思いますが、その正体は次回に持ち越しです。


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#08

「花丸……!?お前、何者──いや、アサシンか!?」

 

「正解!でも、()()()は貰ったから、もう帰るね」

 

「待て!」

 

屋上から身を投げるアサシンとそれを追おうとする広樹とアヴェンジャーだったが、その下に見えた人影に広樹の動きが止まる。

 

「ちょっ、マスター、アイツって……」

 

「そんな……梨子?」

 

下にいた人影──梨子は落ちて来たアサシンを抱きとめるとチラリ、と広樹を見てほほ笑んでからどこかへ走り去っていった。

 

「嘘だろ……?梨子が、魂喰いのマスター?」

 

「ヒロキ……」

 

「ランサー、追ってください!」

 

「命令とあれば」

 

ダイヤの命令で追跡に向かうランサーと愕然とする広樹にどうすることもできないアヴェンジャーだったが、その後ろで勢いよく扉が開く。そこから現れたのはダークブルーの姫カットの少女──津島善子(つしまよしこ)と和服にブーツの少女だった。

 

「一体何が……花丸!?──まさか、アンタたち騙し打ちを!?」

 

「ちが、俺たちは──」

 

「セイバー!!」

 

「承知!」

 

「っ!?──ぐあっ!」

 

和服の少女──セイバーは激昂する善子の言葉に一瞬で広樹との間合いを詰める。物理法則を無視したような移動により、懐に入られた広樹は動揺しつつも何処からか取り出した直剣──聖カトリーヌの剣で初撃を逸らすが、左腕を負傷する。

 

「ウソ!?この人ホントに人間ですか!?」

 

「うる、せぇっ!」

 

何の技術もない剣を振り回すだけの広樹の攻撃だが、その人間離れした膂力(りょりょく)にセイバーは距離を取る。そして、両者の間にアヴェンジャーが入り込み、広樹をかばうように立ちはだかった。

 

「くそっ、まさかここで()を抜かされるとは……」

 

「マスター!?──コイツ、絶対に(もや)す……!」

 

「マスター、これ、ヤバいかもしれないですよ!?」

 

「くっ!?──どうすれば……」

 

奇襲から一転して優位に立つ広樹とアヴェンジャーだったが、その近くでは倒れて血を吐く花丸をアーチャーが抱き留めていた。

 

「おい、マスター、しっかりしろよ!?クソッ、おい、オタク治癒魔術とかないのかよ!?」

 

「一応、ありますわ。でも、この傷では……」

 

沈痛な面持ちのダイヤは無力さに歯噛みしていた。そして、同じように無力感に苛まれるアーチャーは必死で花丸に呼びかけていた。

 

「クソッ、マスター、アンタはこんな所で死んじゃいけないんだ!──マスター!?」

 

「アー、チャー……」

 

薄っすらと目を開ける花丸だが、その目はすでにほとんど見えていないようだった。

 

「!?ああ、オレはここにいますぜ!だから!──」

 

「れい、じゅを、もって……ゴホッ、命ず」

 

「おい、しゃべんなよ!」

 

「みんな、を、たす、けて……!」

 

瀕死の花丸の切なる願い。その言葉を受けて輝いた令呪が三画とも消えると花丸を抱えたアーチャーは静かに顔を上げる。

 

「……了解した。すまねぇな、マスター。オレじゃあアンタを守り切れなかった。……けど──」

 

「アーチャー?何を……」

 

「──まだ足掻くぜ……。オレは国木田花丸のサーヴァントだからな!」

 

花丸の遺体を抱えたままのアーチャーは右手の弓で広樹に威嚇射撃をしながら善子の元へと一気に走る。

 

「お、っとぉ!?」

 

「セイバー、こっちだ!!」

 

「!?マスター!」

 

一瞬の交錯。縮地で善子を抱えたセイバーが走り抜けるアーチャーの左手を握ると、アーチャーは宝具『顔のない王(ノーフェイス・メイキング)』を発動させるとその姿は誰にも捉えられなくなる。

 

「喰らえ!」

 

アヴェンジャーが旗を振るって正面の空間を業炎で焼き払う。が、姿が見えず、音や気配も捉えられない相手がどうなったのかは確認できなかった。

 

「逃げられたか。ぐうっ……!?」

 

「マスター!?とりあえず、止血を!」

 

一瞬、痛みでよろけた広樹を心配するアヴェンジャーだったが、ハンカチで応急処置をする。そうこうしている間にランサーも戻ってきたようだった。

 

「マスター、今戻った。だが、奴……敵サーヴァントには逃げられた」

 

「逃げられた?あなたが?」

 

困惑するダイヤだったが、どうやらランサーも困惑しているようだった。

 

「どうやら、奴に関する記憶が何もない。おそらく、宝具かスキルによるものだろう」

 

「……確かに、(わたくし)も花丸さんが切られたこと以外は何も覚えていませんわ」

 

「……俺は、覚えてます」

 

どう対策するか悩むダイヤだったが、応急処置を終えた広樹の言葉にランサーとダイヤの視線が向けられる。

 

「どう言うことですの!?」

 

「俺が覚えているのは、マスターが幼馴染の、梨子──桜内梨子だった、ってことです」

 

「なるほど。マスターの情報があるならばサーヴァントの居場所も自ずとわかる、と言うことか」

 

広樹の情報に納得するランサーとダイヤ。だが、広樹の表情は痛み以外で曇っていた。

 

「でも、俺には戦えません……!」

 

「……まさか、幼馴染だから戦えない、と?」

 

「はい、俺は、幼馴染と──梨子と戦うことは出来ません……!」

 

広樹の言葉に怒りを滲ませるダイヤだったが、静かに息を吐くとそのまま校舎内への扉へ向かう。

 

「今日は大人しくしていてください。決着は(わたくし)がつけますわ」

 

静かに、突き放すように宣言したダイヤの去って行く後ろ姿を広樹はただ見ていることしかできなかった。

 




●#08について
・アサシンと梨子
魂喰いのサーヴァントであるアサシンのマスターとなっていた梨子ですが、文章量と展開の関係で本編ではそのバックボーンは特に説明されません。一応、詳細はVol.7で解説しますが、その根底には転生者の望むヤンデレ化した梨子、と言う概念があることだけは明記しておきます。

・セイバーと善子
ダイヤたちへの矢文の前に既に花丸と組んでいたと思われますが、これまでの行動の一部はVol.7で描かれます。また、セイバーの正体は服装や縮地を使っていることから、大体わかると思いますが、本編中に真名が出てくるまでは解説でも隠しています。

・聖カトリーヌの剣
#06で言っていた()()の正体である魔術礼装です。基本的な機能としては短時間だけ身体能力をランクC程度まで強化できます。これも彼の特典ですが、よくあるサーヴァントと戦えるマスターになることも彼の願いに含まれていたため与えられました。

・花丸の願い
ここで言う<みんな>とは全員のことを差しているため、誰か一人でも欠けたら失敗、と言う困難な局面を打破するアーチャーの見せ場です。本来なら花丸の遺体を置いて行くべきでしたが、マスター思いな彼ならば可能なら持ち帰ろうとすると思って行動させました。

・情報抹消
このアサシンと言えばコレ、と言うスキルです。ただし、このスキルはマスターに関する情報には適応されないはずなので、今作ではそのせいで梨子が殺人現場で目撃された情報が消えず、スキルの事実を知る転生者には正体が看破されました。

・戦えない転生者
この時点で転生者の頭は完全に混乱しているため、正常な判断が出来ていません。というかそもそも、どっちもなんとなく知ってるし何とかなるだろう、の精神で戦っているため、事ここに至っても、最悪聖杯で何とかなるだろう、ぐらいの認識です。

●花丸について
・名家ではないが、十代ぐらい続く修験道を持つ魔術師の家系の生まれだが、あくまで宗教家の気質の強い家系で魔術使い程度の家
→魔術はあれば便利ぐらいのスタンスのため、伝統として魔術を伝えるだけの魔術師らしくない家系
・魔術を使えるなら何かをしたいが、魔術は秘匿するものという基本に忠実なため、魔術師としての実力は低い
・聖杯にかける願いはないが、聖杯戦争の被害を最小限にするために参加した
・民を守る英雄の本をかき集めて触媒とした結果、アーチャーが召喚された
→知っている人間を守りたいという思いと自然に親しむものとしてのスタンス、アーチャー自身の気質がかみ合った結果
→本来はちゃんとした触媒を調達する予定だったが、善子の聖痕を見て焦ったことで手近な触媒を選んだ



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#09

 

夜、二日振りに一人と一騎で外を歩くダイヤはトパーズのブローチを使って目的地へと向かっていた。その途中、人通りの少ない寂れた通りを歩くその足取りは力強く確かなものであったが、その表情にはどこか陰りがあった。

 

「ランサー、(わたくし)は間違っていたのでしょうか?」

 

「──オレは無口な方だと自覚している。そして、一言足りないと言われたこともある。だからこそ言おう。オレはお前のような賢明なマスターの元で戦えて幸せだ、そう思う」

 

「ランサー……!ええ、そうですわね!あなたのような英霊がそう思ってくださるなら、(わたくし)は──っ!?」

 

お互いの信頼を確認したランサーと調子を取り戻したダイヤだったが、突如、上空から聞こえるヘリの音に空を見る。

 

「ハァーイ!ダイヤ、この挨拶も最後になるかもしれないわね」

 

「鞠莉……!」

 

「オーウ、そう怖い顔しないでよ。ちゃんと遊び相手も連れて来てるんだから……聖良!」

 

「行きなさい、バーサーカー!」

 

聖良の合図とともにバーサーカーがダイヤたちの目の前に降り立つとダイヤが数歩下がってランサーが一歩前に出る。睨み合う両者だったが、先に動いたのはバーサーカーだった。

 

「バーサーカー、宝具を!!」

 

「!?そんな、いきなりですって!?」

 

「よぉく見せてやる……。あぁ、よく見るがいい……!誠の旗は――」

 

「誠の旗……まさか新選組ですの!?」

 

「――不滅だ!斬れ!進め!斬れ!進め!俺が!新!選!!組だあああああ!!!」

 

宝具『不滅の誠(しんせんぐみ)』、バーサーカー――土方歳三(ひじかたとしぞう)の切り札が咆哮とともに発動されると周囲が銃弾飛び交い号砲轟く戦場と化す。

 

「これは……固有結界?いえ、彼の狂気の顕現、でしょうか?」

 

「気を抜くな、マスター」

 

一瞬、気圧されかけるダイヤだったが、目の前の光景がリアルな幻覚のようなものであると看破して安堵する。が、突如、ランサーが槍を振るうとダイヤの数m手前で矢が叩き落される。

 

「!?これは、まさか!?」

 

「あら?防がれるなんて、案外、大したことないのね」

 

「冗談きついっすよ。あのタイミングで防ぐとか、マジでねぇっすわ」

 

驚愕するダイヤが矢の飛んできた方向を見るとそこには花丸のサーヴァントであったはずのアーチャーが弓を構えていた。

 

「では、令呪を以て命ずる、アーチャー、ランサーを倒しなさい」

 

「は?ちょっ、何言ってんすか!?」

 

「あら、あなたの宝具とバーサーカーがいれば大丈夫でしょう?」

 

宣言とともにヘリの中の鞠莉の右手の新しい令呪が輝くと、おいおい、マジかよ、とぼやくアーチャーだが、直ぐに思考を切り替えて弓を構える。

 

「ハァ、ったく、悪いな嬢ちゃん。オレは()()()()のためにも足掻かせてもらうぜ!」

 

「抜刀――突撃!」

 

「……いいでしょう!令呪を以て命ずる!ランサー、()()で行きなさい!!」

 

やる気に満ち溢れた二騎のサーヴァントを前に令呪のブーストを受けるランサー。そして、三度目のダイヤと鞠莉の戦いの火蓋が切って落とされるのだった。

 


 

黒澤家に割り当てられた自室で待機していろと言われた広樹は何をするでもなくごろごろしていたが、突如、鳴り響いた轟音と違和感で外に出る。そして、遠くに戦場のようなものが見えていることに気づいた一人と一騎は駆け出していた。

 

「アヴェンジャー、アレって、まさかバーサーカー(土方さん)の宝具か?」

 

「恐らくそうでしょうね。ったく、ホント、あの女、疫病神でも憑いてんじゃないの?」

 

言ってる場合か、と突っ込んだ広樹は自身の()()である聖カトリーヌの剣を取り出す。

 

「えぇ~?あの女のためにそれ使うの?」

 

「仕方ないだろ?……もし、梨子が出てからじゃ確実に間に合わない」

 

「……不本意ですが、そうですね。あの子がやられた瞬間が分かりませんでした。多分、アレは私と相性が良くないと思います。不本意ですが」

 

二回も言わんでも、と呆れる広樹だったが、一度立ち止まって深呼吸をすると聖カトリーヌの剣に魔力を通す。すると、剣から出たオーラが広樹を包み込んだ。

 

「よしっ!行くぞ!どっちも俺が守る!」

 

意気込んだ広樹はサーヴァントにも劣らぬ速さで走り出す。それは、彼の持つ聖カトリーヌの剣の名を持つ概念礼装の効果の一つである、人間に霊基を被せて英霊と同等の力──ランクC程度のステータスを付与する、と言う効果によるものであった。

 

「あと少しだ……って、あれ?」

 

その場に着いた広樹が見た物は融けて抉れた地面と、焼け焦げたビル、そして、ほとんど無傷で立つランサーの姿であった。よく見れば、上空にヘリも見えるが、その中には呆然とする鞠莉と聖良の姿があった。

 

「何よ、終わってるじゃないの」

 

「ダイヤさん!大丈夫……みたいですね」

 

「ああ、広樹君。ええ、何も問題はありませんわ」

 

「そう──なら、次は私と戦ってもらおうかしら!」

 

「「「!?」」」

 

二組が声の方に視線を向けると、そこには善子と浅葱色の羽織を着たセイバーが立っており、その姿に近くにいたランサーが一歩前に出る。

 

「なるほどですわね。連戦で疲弊したところを狙う、実に理にかなっています。ですが、そんな小細工は──」

 

一度、言葉を切ったダイヤは改めて一人と一騎を見据える。

 

「──(わたくし)とランサーの前には無力ですわ!!」

 

力強い宣言とともに槍を構えるランサー、一触即発の空気の中、ふわり、とセイバーが進むのにあわせて善子は握った右手を構える。

 

「一歩音越え、二歩無間、三歩絶刀!──」

 

「セイバー!!」

 

「──『無明三段突き(むみょうさんだんづき)』!!」

 

「!?」

 

善子の叫びに令呪が反応して輝くと一瞬その姿が消える。そして、全員がセイバー─―沖田総司(おきたそうじ)を見たのは、奥義『無明三段突き(むみょうさんだんづき)』がランサーの鎧の一部を()()()()()姿とその後、元の位置まで戻った姿だった。

 

「なっ!?──」

 

そして、驚愕はそこでは終わらない。突如、ランサーの真正面、遠く離れた所から放たれた赤い光のようなものがランサーの鎧の壊れた部分、その下の生身の体に突き刺さり眩いばかりの光が迸った。

 

「カルナ!?」

 

「ぐっ──」

 

そして、光が収まるとそこあったのは打ち砕かれた黄金の鎧と倒れ伏すランサー──カルナの姿だった。駆け寄ったダイヤはカルナを抱き起す。

 

「ここが、限界か……」

 

「カルナ、しっかりしてください!」

 

「ダイヤ、不甲斐ない男で、すまない……」

 

「カル、ナ……いいえ、あなたは……最高の、サーヴァントでした」

 

霊核を砕かれて消えていくカルナの姿に涙を流すダイヤ。如何に最強格の英霊であるカルナとはいえ砕かれた霊核を修復する力はなかった。こうして施しの英霊カルナは今回の戦いを終えたのだった。

 

「そんな!?カルナと言えば、あの最強クラスの英霊だぞ?」

 

「マスター、どうやら、次は私たちの番みたいですよ?」

 

「!?」

 

アヴェンジャーの声で気を取り直した広樹が前を向くと驚愕した。それは、咳き込む沖田とそれに驚く善子、ではなく、その後ろから現れた燃え盛る髑髏──ゴーストライダーの姿を見たからだ。

 

「な、何なんだお前は!?」

 

悠然と前に進み出るゴーストライダー、その異形に圧倒される広樹の問いかけに立ち止まったゴーストライダーは地獄の底から響くような声で答える。

 

「俺か?俺は復讐者(アヴェンジャー)だ……!」

 




●#09について
・三度目の正直
三度に渡るダイヤと鞠莉の戦いもこれで最後です。旧版では削られた土方についての描写やアーチャーの再登場シーンを復活させて加筆修正をしましたが、アーチャーが鞠莉の下にいる理由はVol.7で説明されます。

・転生者の宝具
とある宝具の性質を内包した魔術礼装であるため、真名解放に類する能力の発動が可能なことから、転生者は便宜上これを宝具と呼称しています。その正体がどんなものかはVol.7で描写されます。

・最強の鎧と必殺の魔剣
何が起こったのかはVol.7で説明しますが、カルナの『日輪よ、具足となれ(カヴァーチャ&クンダーラ)』が破られたのは連戦による魔力の消耗による強度の低下が理由の一つです。そこに沖田の『無明三段突き(むみょうさんだんづき)』による局所的な事象崩壊が加わったことで、防げるかもしれない一撃が防げませんでした。

復讐者(アヴェンジャー)、ゴーストライダー
ここまで出番のなかったゴーストライダーですが、その間に何をしていたのかはVol.7にて明かされます。そのため、今回の加筆シーンにはゴーストライダーの出番はありませんでした。

●ダイヤについて:魔術や立ち位置のイメージは遠坂凛
・黒澤家は宝石魔術を使う魔術の名家となっており、沼津の管理を行っている
→黒澤家は聖杯戦争のシステムを作った家系の一つのため、聖杯戦争には優先して選出される
→イメージとしてはFateの御三家をひとまとめにした感じ
・両親は健在だが、前回の聖杯戦争の影響でダイヤが現在の当主となっている
・自身が聖杯の器の失敗作でルビィが成功例だと知っているが、姉妹の仲は良く、アイドル好きという共通の趣味を持つ
・鞠莉との仲違いはなくなっているが、果南とは聖杯戦争を止めようとするスタンスで仲違いしている
→実際には果南が知らなかった可能性に思い至っているが、監督役である以上、複雑な感情を抱いているため、顔を合わせにくい
・聖杯にかける願いはルビィの生存
・魔術回路の本数も多く、五大元素使いで多彩な魔術を扱えるが、武術を修めているわけではないため、肉弾戦は得意ではない
→実力的にはケイネスと凛の間ぐらい
・召喚に使用した触媒は古代インドの矢じりで確実な勝利のために強力なインドの英霊を狙っていた
→ダイヤ自身の持つ「施し」という要素がかみ合ってカルナが召喚された

●鞠莉について:魔術や立ち位置のイメージはルヴィア+慎二
・小原家は海外に土地を持つ魔術の名家の一つで黒澤家とは違う宝石魔術を使う家系
・魔術回路の量、質ともにダイヤと同等か少し下程度だが、一歩及ばない実力を資金力と肉弾戦、努力と作戦で補っている
・聖杯にかける願いは根源に至ること:旧版から変更
→参加する理由には自分の実力を証明することもあるが、メインとなる獲物はダイヤ
・ルビィの死は悲しむべき事だが、魔術師の悲願のためには仕方がないと考えている魔術師らしい魔術師
・本来は他の英霊を召喚する予定だったが、召喚に応じなかったため、代わりにライダーが召喚された
・鹿角姉妹には触媒と工房として使える拠点を提供する代わりに共闘する契約をしていた

●聖良について
・戦前から始まった歴史の浅い魔術師の家系だが、自身の実力を証明するために聖杯戦争に参加しようとしていたところを鞠莉にスカウトされた
・あらゆる分野に高い才能を持つが、魔術回路は少なく魔術師としての実力はよくて二流程度しかなく、欠点を補うために妹である理亜と組んでいる
→能力的にはカウレスと同程度だが、歴史が浅いことを考えれば当然の実力である
・魔術師として妹の理亜に劣っていることを自覚しているため、目的のためなら大事な妹ですら踏み台にしようとする魔術師らしい側面を持ち合わせている
・実力を証明するために戦うため、聖杯にかける願いは特にない
・触媒は鞠莉が選んだもので、知名度のみを優先して新選組の誰かをバーサーカーにするつもりで行った結果、土方が召喚された

●理亜について
・歴史の浅い鹿角家には珍しく比較的高い魔力量と魔術の才能を持って生まれたが、姉に依存する性格から実力を出し切れていない
・魔術以外は姉に勝てないが、肝心の魔術も姉に見捨てられたくない一心で磨いたため、姉に対しては全力を出せない
・姉とともに何かに取り組みたかっただけのため、聖杯にかける願いはない
・本来のマスターは理亜だが、基本戦術として理亜は後方で魔力タンクに徹して、幻覚で令呪を持っているように見える聖良がマスターのふりをして戦っていた


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Vol.7:Dropping the Sun Part.2
#01


 

朝日を受けて輝く沼津の海を望む山の中、ゲートをくぐってやって来た一騎はこの世界に渦巻く魔力と人ならざるモノの気配に顔を顰めていた。

 

(……度し難い悪行だな)

 

「(聖杯を求める、か……何時の時代も愚者の行いは変わらぬな)」

 

(いや、そちらの方がよほどマシだ……奴らの望みは聖杯ですらないからな)

 

反応を探りながら嘆息をもらすゴーストに対して一騎は呆れたように心の内で吐き捨てる。

 

(それで、場所はわかったか?)

 

「(……妙だ、反応が多過ぎて絞れん)」

 

(原因は魔術回路か令呪か……まったく、儘ならんな)

 

「(此の眼で見れば判る。一騎、奴等を探すぞ)」

 

困惑から立ち直って宣言するゴースト。状況に辟易しつつも頷いた一騎はバイクを呼び出すと眼下に広がる街へ向かうのだった。

 


 

沼津の街は中心部こそ夜でも明るい場所はあるが、路地裏や少し離れた場所では月明りや多少の街灯が辺りを照らすだけの場所もあった。そして、その夜の闇の中を一騎はバイクで走っていた。

 

(反応はあるか?)

 

「(幾つか在るが……此の先で罪の気配だ。此れは──刻印、か?)」

 

(どちらでもいい行くぞ!)

 

アクセルを全開にする一騎がバイクごと炎に包まれるとゴーストライダーへと変身する。そして、その勢いのまま車道を曲がってアーケードを抜けると目の前に広がる超常の霧へと突っ込む。

 

(あれは!?)

 

霧に入ったゴーストライダーの眼には困惑するグレーでウェーブの入った髪のボブカットの少女──渡辺曜の姿とその背後から今まさに襲いかかろうとしているぼろきれを纏った少女の姿があった。迷わず襲撃者へとバイクをぶつけるとそのままの勢いで通りを二つ越えた突き当りでブレーキをかけ空き地へ吹き飛ばす。

 

「(気を付けろ、奴はサーヴァントだ)」

 

(だろうな)

 

「ひどいなぁ、もう……!」

 

「罪人にかける情けはない、例え童女の姿だろうとな」

 

軽く埃を払って立ち上がる少女を厳しく睨みつけるゴーストライダーはヘルバイクを降りて向かい合う。両者の間に不自然な超常の霧が立ち込めるが、罪を捉え魂を感知するゴーストライダーには視界不良や硫酸の霧など大した意味はなかった。

 

「うーん……あんまり効かないのかなぁ?」

 

「無駄だ、それはお前の手の内を晒したに過ぎん」

 

「ふーん、じゃあ、殺しにかかるよ。行くね」

 

微動だにしないゴーストライダーに対してつまらなさそうな態度の少女──ジャック・ザ・リッパーが一瞬で姿を消す。

 

「来るがいい、罪の権化──ジャック・ザ・リッパーよ」

 

「えいっ!」

 

突如、背後から振るわれる心臓を狙った鋭い一撃。意識の外から放たれる神速の刃はゴーストライダーの背中から心臓を貫く。しかし。

 

「あれっ?──いたっ!」

 

「その刃では俺の心臓には届かん」

 

確かにゴーストライダーの心臓の位置を貫いた一撃、だが、それ故に骨と炎で構成されたゴーストライダーは全くの無傷であった。ゴーストライダーはそのまま驚愕するジャックを振り向きざまの裏拳で殴り飛ばすが、ジャックが咄嗟に背後に跳んだためかダメージは薄いようだった。

 

「むぅ~っ……帰っておやつにする……」

 

「!?逃がすか!」

 

自身の不利を悟ったのか即座に撤退するジャックに対して咄嗟にチェーンで捕まえようとするゴーストライダーだったが、そのチェーンは一瞬遅れて空を切る。そして、霧が晴れるとジャックの姿はどこにも見当たらなかった。

 

(追えるか?)

 

「(……無理だな。既に他の反応に掻き消されている)」

 

ゴーストの返答に変身を解いた一騎は、そうか、と短く返すが、妙な違和感に顔を顰める。

 

「(如何したのだ、一騎?)」

 

(ゴースト、俺は今、()と戦った?)

 

記憶がない、少なくとも先程、戦闘があったことは認識している一騎であったが、その相手が何だったのか、全く覚えていなかった。

 

「(成程、情報抹消か……今、記憶を同期させた。此れで良いだろう)」

 

(……そうか、ジャック・ザ・リッパー、厄介な相手だな)

 

復讐の精霊であり、条理の外にあるゴーストには能力が効かなかったのか、残っていた記憶を共有した一騎は脅威の一端を強く感じていた。

 

(記憶は何とかなる、が、あの速さ……策を練る必要があるな)

 

「(然り。だが、朗報だ。刻印の反応を見つけた)」

 

(そうか。なら一度、顔を確認するぞ)

 

考え込む一騎に同意したゴーストから朗報を受けた一騎はもう一度バイクに跨るとゴーストの示す方角へと走り出した。そして、しばらく走った一騎は浦の星学院──の見える場所でバイクを停めて様子を窺っていた。

 

(さて、どうしたものか……)

 

一騎が悩むのも無理はない。ただでさえ、先ほど遭遇した魂喰いを行うジャックへの対策を考えなければならない上に、ようやく見つけた転生者の周囲にも問題があったからである。

 

「(施しの英霊、カルナ……我等との相性は最悪だな)」

 

(太陽の輝きを放つ鎧、そして、竜の魔女……些か骨が折れるな)

 

分析するゴーストの声を聴きながら観察する一騎の目にはダイヤとその傍らに立つカルナ、そして、ジャンヌ・オルタと転生者──松平広樹の姿が映っていた。

 

「(如何やら、同盟を組んだらしいな……小賢しい真似を)」

 

(まったく……儘ならんな)

 

辟易する一騎とゴーストだったが、そんな彼らに気づかず、何事かで盛り上がっている転生者たちがどこかへ去ると静かにその後を追うのだった。

 




●#01について
・奴らの望みは聖杯ですらない
そもそも願いを叶える権利を持つ転生者が願いを叶える儀式をすること自体がおかしいんですが、この転生者の願いの根幹に聖杯戦争そのものが必要なのでやっぱりおかしいんですよね。

・ジャック戦
ジャックの方はゴーストライダーに通用する武器が存在しませんし、ゴーストライダーは罪人特攻を持つので、基本的には逃げるしかないんですよね。さらに、本作では情報抹消に関してもゴーストが対応できるので、原典以上に相性最悪となっています。また、前回で真名が出ているので、Vol.7は真名を隠しません。

・浦の星学院
誤字修正です。旧版ではなぜか星の浦学院になっていたので修正しました。地味にこの手の凡ミスが多いので、校正の仕事の大変さが身に沁みます。

・太陽の輝きを放つ鎧
今作のゴーストライダーは太陽の下では変身できないので、太陽の光を纏うカルナに対しては無力なので相性としては最悪ですし、転生者が同盟を組んだことで戦力的にも面倒なことになっていました。


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#02

 

翌朝、転生者が黒澤家から学校に向かったことを確認した一騎はジャックの反応を探して、沼津の町をバイクで走っていた。

 

(見つからん、か)

 

「(霊体化されてはな。だが、痕跡は掴んでいる)」

 

昼過ぎまで走り回っていくつかの地点を巡った一騎だったが、サーヴァントの痕跡はあってもマスターの正体までは掴めていなかった。

 

「(此処が最後だ)」

 

(『十千万(とちまん)』……ここは、旅館か?)

 

反応のあったいくつかの地点の最後の一つである旅館──十千万その前を通りがかったところで一騎の中に妙な違和感が生まれる。

 

(……見られている?)

 

「(然り。如何やら、旅館の中だ)」

 

周囲に車通りがないことから、一度、Uターンをすると十千万の駐車場に入ってバイクを停めた。そして、一騎がバイクを降りたところで背後の気配に振り向くと白髪で浅黒い肌の従業員らしき青年が歩いて来た。

 

「あの、何か御用ですか?」

 

「下手な芝居はやめて貰おう、ここに何の用だ?」

 

無害な青年を装う一騎だったが、即座に看破する青年。ため息を吐く一騎に向けられたその鋭い視線は心の奥底まで見通すような歴戦の戦士の目をしていた。

 

「話を聞きに来ただけだ。アーチャー、いや、エミヤと呼ぶべきか?」

 

「……貴様ら、何者、いや、()だ……?」

 

「待て、こちらに敵意はない。俺は外狩一騎、守護者──のような者で、この人魂は相棒だ。ただ、話を聞かせてほしい」

 

小さく両手を上げて敵意がないことを説明する一騎に訝し気な視線を向けていたエミヤは肩の力を抜く。

 

「……そうか、いやなに、こちらも好き好んで戦いたい訳ではないのでね。時間があるのなら、少し寄っていくといい」

 

「(良いのか?)」

 

(どうせ手掛かりもない。それに、話が聞けるならそれに越したことは無いだろう)

 

敵意がないことを納得したエミヤは自らの働く十千万の喫茶スペースへと案内する。先導されるままに着いて行った一騎はお茶を淹れに行ったエミヤを喫茶スペースで待っていた。

 

「待たせたな。さて、ウチは旅館なのでね。緑茶だが構わんか?」

 

「ああ、構わない──それで、この街で行われている聖杯戦争について聞きたい。何か知っているか?」

 

緑茶を受け取った一騎の質問を受けたエミヤは、ふむ、と考え込むと一騎の様子を窺ってから、一度ため息を吐く。

 

「悪いが、受肉した今の私はただの板前でね。生憎と気配は感じるが、君の望むような答えは持ち合わせていないな」

 

「受肉……そうか、前回の参加者だったか。なるほど、道理で異質な気配がするはずだ」

 

「では、先程、君は守護者のような者と名乗ったが、一体、この街で何をするつもりだ?」

 

「アヴェンジャーを倒してこの戦いを終わらせる。それだけだ」

 

「なんだと?どう言うことだ?」

 

訝し気な視線を向けるエミヤに対して正面から見返して答える一騎。二人の間に緊迫した空気が流れるが、その内容とは裏腹に周囲からは世間話をしているようにしか見えなかった。

 

「アヴェンジャー、ジャンヌダルク・オルタとそのマスターは危険だ。奴の願いは世界を歪ませる」

 

「ジャンヌダルク・()()()、だと?サーヴァントを歪めるほどの魔術師……事実なら捨て置けないな」

 

オルタ──通常は召喚されない反転化した英霊を示す一騎の言葉の真意を見極めるエミヤだったが、その言葉に真剣さを感じたエミヤは一度ため息を吐く。

 

「……それで、私に何をさせたい?」

 

「聞きたいことがある。太陽を落とす方法について心当たりはあるか?」

 

「太陽だと?無いことはないが……何をするつもりだ?」

 

「奴の同盟者であるカルナを倒す。オルタは問題ないが、俺は太陽と相性が悪くてな」

 

緑茶を飲んで肩を竦める一騎に少し考え込むエミヤだが、一騎の仕草と裏腹にその目に宿る真剣さに覚悟を決める。

 

「……いいだろう、それはこちらに任せておけ。だが、先にこちらの頼みを一つ聞いてもらえるか?」

 

「ああ、何だ?」

 

「この近くに魂喰いのサーヴァントがいる。そいつを倒してもらいたい」

 

生憎、今の私では手に余るのでね、とどこか申し訳なさそうに言うエミヤだったが、一騎は躊躇なく頷く。

 

「無論だ。俺も無辜の民が傷つくのは本意では無い」

 

では、交渉成立だな、とエミヤが差し出した手を握り返す一騎。そして、今ここに8人目のサーヴァントとマスターですらない部外者同士の同盟が成立した。

 

「ああ、ところで、魂喰いのサーヴァントについては不明だが、マスターらしき人物は分かっている」

 

「それは?」

 

「そこに越して来た──確か、桜内梨子、と言う少女だ」

 




●#02について
・ジャックを探すゴーストライダー
サーヴァントは霊体化することで魔力消費を抑えられますが、発する魔力が少なくなることで追跡が困難になっています。さらに、この世界に渦巻く魔力と転生者の罪の影響で反応が紛れてしまっているため、判別しにくくなっている設定です。

・板前エミヤ
ギャグ要素ではありますが、前回参加者というイレギュラーが必要だったので登場させました。最初はノッブにするつもりだったんですが、ちょっとぐだぐだ色というか帝都感が強くなるのでやめておきました。受肉している理由はマスターが優秀な板前を欲しがったからとかそんな理由だと思います。

・今の私では手に余る
受肉したエミヤではステータスはともかく魔力は生前程度の出力になっているはずなので、まともに戦うのは厳しいはずなんですよね。さらに、相手が情報抹消を持っている時点で不意打ちも厳しいので、ゴーストライダーに任せました。


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#03

 

その日の夕方、ジャックのマスターとされる梨子の通う浦の星学院へと向かった一騎だったが、遠くから観察している限りでは近くにジャックのいる気配は無く、帰宅しても何の動きも無いままだった。

 

(どうだ、反応はあるか?)

 

「(……余程巧く隠れたな。此れでは動くまで見つからんだろう)」

 

(まったく……儘ならんな)

 

「(!?魂喰い、街の方だ……!)」

 

離れた所から監視しつつ辟易する一騎だったが、ゴーストの警告にバイクのアクセルを全開にする。

 

(くそっ、確かにマスターと動く必要はないが……見誤ったか)

 

「(然り。だが、まだ間に合う)」

 

ゴーストライダーへと変身した一騎はヘルバイクで空へと上がると反応のあった場所へ向かう。そこには今まさにジャックに襲われようとしている会社員らしき女性の姿があった。

 

「(一騎!)」

 

(分かっている!)

 

上空から落ちるように駆けつけるゴーストライダーだったが、このままでは間に合わないと見るや、手元のチェーンの一部を飛ばして被害者の心臓に向けられた一撃を間一髪で止める。

 

「あれっ!?──きゃあっ!?」

 

「ふんっ!」

 

「のおっ!?」

 

勢いのままヘルバイクから飛び降りてジャックに殴りかかるゴーストライダーはチェーンでひっかけて被害者を転ばせると、そのまま服にひっかけたチェーンの一部で事態を把握させないまま現場を離れさせる。被害者の対処をしている間に反応速度の関係か思いっきり飛び退いて紙一重で避けたジャックはクルリと着地すると、先ほどまでいた地面は大きく凹み、周囲はひび割れていた。

 

「また、あなたなの?」

 

「そうだ、簡単には逃がさん」

 

相対する両者の間に立ち込める霧。だが、その前にゴーストライダーはヘルファイアを纏ったチェーンをプロペラのように頭上で振り回し、霧を吹き飛ばすことでジャックの動きを牽制した。

 

「むぅ~っ、どうして"わたしたち"の邪魔をするの?」

 

「お前に食われて良い魂などない」

 

「やだよ。まだお腹すいてるんだもん!!──うぅっ!?」

 

チェーンを回すゴーストライダーを無視して被害者を追おうとするジャックだったが、動き出した瞬間に何処からかぶつかって来た燃えるチェーンの一部に動きが止まる。よく見れば戦場を取り囲むように燃えるチェーンの一部が散乱していた。

 

「無駄だ、俺の鎖からは逃れられん」

 

「いやだっ!"わたしたち"はっ……!」

 

「さらばだ、罪の権化よ」

 

ゴーストライダーが振り回したチェーンを叩きつけるが、不意のダメージで動けないジャックは避けられない。勝負は決する──はずだった。

 

「ちょっと待ったぁ!!」

 

「!?」

 

切り払われるチェーンと横合いからかけられる少女の声。驚愕するジャックの目の前にはゴーストライダーとの間に立つ和服にブーツの少女──沖田総司と、少し遅れて近くでポーズを取るダークブルーの姫カットの少女──津島善子の姿があった。

 

「何の用だ?」

 

「あなたが魂喰いのサーヴァントね!私は闇より出でし漆黒の盟主(マスター)、堕天使ヨハネ!!」

 

「マスター、危ないから下がっててくださいよ!」

 

ギラン!、と口で言いながらポーズを決めるヨハネこと善子に毒気を抜かれるゴーストライダーだったが、注意の逸れた一瞬でジャックが逃走していたことに気づき歯噛みすると振り返ってバイクに乗ろうとする。

 

「待ちなさいよ!」

 

「ちょっと、マスター!?」

 

「お前たちに用は無い」

 

善子の声に立ち止まって振り返るゴーストライダーは端的に警告してからバイクに乗ろうとする。

 

「なっ!──この、セイバー、行きなさい!」

 

「速攻でカタを付けます!いざ!」

 

せっかくの名乗りに反応せず、あまつさえ戦おうともしないゴーストライダーに激昂する善子の言葉に答えて切りかかる沖田。踏み込みながら右手での左薙ぎの一撃を放つが、目にもとまらぬ速さの剣戟は振り向きもせずに左手で簡単に防がれる。

 

「っ──かったぁ!何ですかコレ!?」

 

「セイバー!?」

 

「だから言っただろう、用は無い、と」

 

あまりの硬さにバックステップで距離を取るセイバーと驚愕する善子だったが、切られたゴーストライダーはどこか呆れた様子で二人に向き直る。その姿に一歩下がる善子を庇うように沖田が前に立つ。

 

「セイバー、アレを使って!」

 

「承知!『無明三段突き(むみょうさんだんづき)』!!」

 

「っ!?」

 

トン、と軽く踏み出した沖田の平晴眼の構えから()()()()に放たれる三つの平突きがゴーストライダーの喉元を突く。そして、今まで傷つくことの無かったゴーストライダーの首の骨がまさしく剣先の幅と同じ大きさで消滅していた。

 

「通った!?……こふっ!?」

 

「ちょっ──セイバー!?ホントに吐血した!?でも──」

 

「──なるほど。これは確かに、魔剣と呼ぶに相応しいな」

 

「「!?」」

 

戦果を上げたが魔剣の発動による負荷で吐血してしまう沖田とその光景に驚く善子。安堵する二人だったが先程の傷が塞がっているゴーストライダーが悠然と立つ姿に驚愕する。

 

「魂喰いは逃げた、ここに留まる理由は無い」

 

「……だ、そうですけど、マスター、どうしますか?」

 

チェーンをたすき掛けに戻したゴーストライダーは端的に言い放つとその姿に敵意を感じなかったのか、セイバーは背後の善子に指示を仰ぐ。

 

「……悪かったわね、間違えて。でも、そんな疑われる見た目をしている方も悪いのよ!」

 

「マスター、やった私が言うのもアレですけど、結構、無茶苦茶言ってますよ?!」

 

「……気にするな。俺は奴を追う」

 

お前たちは好きにしろ、と言い放つとゴーストライダーはヘルバイクに跨ってジャックの反応を探して夜の街を駆け回るが、結局、その夜は何の手掛かりも見つけることは出来なかった。

 




●#03について
・被害者への対応
旧版ではそこそこ危険な方法で気絶させていたので、比較的安全な形で避難してもらうことにしました。あと、チェーンを細かく分ける技は原典だとダニーが多用していました。

・ヨハネ登場
この時点では聖杯戦争について真面目に考えていないため、堕天使モードが出ています。この時点で花丸と組んでいるはずなので、魂喰いについての情報はそこか果南から得たと思われます。

・『無明三段突き(むみょうさんだんづき)
前回ともどもかなりの戦果を出していますが、如何に物理的防御の高いゴーストライダーでも概念まで昇華された攻撃は防ぎきれないので、当然の結果だと思います。とはいえ、一撃で全体を破壊しないと回復するので、単体ではそれほどの脅威ではないですけどね。


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#04

 

夕方、初日と同じように転生者を監視する一騎は校舎の屋上に広がる霧を見てバイクを走らせていた。

 

(ゴースト、これは……!?)

 

「(然り。魂喰いだ……だが、此の時間に動くとは……)」

 

意表を突かれた形となる一騎だったが、勢いよく霧が晴らされたことで学校の手前でブレーキをかける。そして、その一騎の視界数十m先に走って逃げる梨子と一瞬だけ見えたジャックの姿があった。

 

「(……一騎、罪なき命が、一つ消えた)」

 

(っ……そうか……俺の失策、か……こうなる前に、マスターを殺しておくべきだったか……!)

 

内心で悔しさと憎しみに打ち震える一騎だが、それも当然である。罪なき者の死、それは復讐者である彼らの存在理由そのものであったが、被害者を無くすために戦う一騎とゴーストにとっては避けるべき事態の一つでもあったからだ。

 

「(否、確たる証拠が無いままでは彼奴等と変わらん。今は正しく使命を果たせ)」

 

(……そう、だな。ああ、そうだ、俺には、俺たちにはそれしかない)

 

表情には出さないまま自らの行いを悔やむ一騎だったが、ゴーストの鼓舞により持ち直す。そして、そんな彼らの内心を知らないまま、ジャックの影を追うカルナの姿が見えたかと思えば、屋上の方では善子の糾弾する叫び声と剣戟の音が聞こえていた。

 

「(魂喰いは心臓で追える……今は捨て置け)」

 

(……なら、もう一つの責任を果たそう)

 

優先順位を決めた一騎とゴーストの脇で屋上から飛び出した不可知の一団に対して業炎が迸ると、一騎はゴーストの導きでその存在を追うのだった。そして、学校からしばらく離れた所で不可知の一団──花丸の遺体を抱えたロビンフッドと善子を抱えてその手を握っていた沖田が姿を現した。

 

「放せ!放しなさいよ!!アイツは、私がぁっ!!」

 

「マスター、気持ちは分かりますが、今は抑えて……」

 

「あてて……ちったあ大人しくしてくれよ。こっちは背中をあぶられてんだぜ?……悪いな、マスター。これが精一杯だったわ──ところで、アンタは何の用だ?」

 

三者三様の状態だったが、そこに一台のバイクが近づく。警戒する三人だったが、フルフェイスのメットを脱いだ一騎は敵意がないことを示すために両手を上げていた。

 

「警戒しなくてもいい。俺は守護者のような者だ、協力のために来た」

 

「っ──あんた、昨日の?!いや、違う……?」

 

「いえ、マスター、たぶん、それで合ってますよ」

 

「あぁ?どう言うことだよ?こっちはマスターの死を悼んでるんだ、手短に済ませてくれ」

 

直感で一騎の正体に気づく善子と沖田だったが、時間のないロビンフッドに先を促されて一騎は頷く。

 

「先程の件、記憶がないことも含めて、アサシンのサーヴァント、ジャック・ザ・リッパーと情報抹消のスキルによるものだ」

 

「ジャック・ザ・リッパー?……なるほど、アサシンならこの傷の説明がつきますね」

 

「そんな、アイツらじゃ、ない……?」

 

「……なるほど。んで、オレらにどうしろって?こちとら死にかけなんだぜ、あんまりオレに期待すんなよ」

 

一騎の説明に納得する三人。続くロビンフッドの言葉に一騎は一瞬だけ言いよどむが、意を決して真っ直ぐロビンフッドの目を見る。

 

「……簡単な話だ。ロビンフッド、あなたには小原鞠莉と言うマスターと接触してほしい」

 

「おい、オタク、冗談にしちゃあ笑えないぜ……!」

 

一騎に食ってかかるロビンフッドは殴り掛からんばかりの勢いで胸倉を掴むが、一騎は動じない。

 

「冗談ではない。こちらがアサシンを倒すための時間を稼いでほしい。やつらが──アヴェンジャーが勝てば世界は歪む」

 

「……ったく、どいつもこいつも……オレは不意打ち専門なんだぜ……ハァ、わかったよ」

 

一騎の言葉に頭を抱えるロビンフッドだったが、不承不承と言った形ではあるが、納得して手を放す。その様子を見た一騎は善子と沖田に目を向ける。

 

「沖田総司、津島善子、君たちにはアサシンの討伐に力を貸してほしい」

 

「私はいいんですけど……あなた一人でも大丈夫なんじゃないですか?」

 

「……花丸の仇が討てるなら私はそれでいいわ」

 

一騎の提案を肯定する二人だったが、対照的な姿勢に一騎は真実を話す決意を固める。

 

「それは、俺たちが昨夜の戦いでアサシンを逃がしたからだ」

 

「っ!?……じゃあ、花丸が死んだのは、私の……」

 

「っ、マスター、それは違います!あれは……」

 

「──あれは、俺たち三人の責任だ」

 

「ちょっ、何を言ってるんですか!?こう言う時はもっと、こう──って、ちょっと!」

 

一騎の言葉に激しく動揺する善子とどうにか宥めようとする沖田だったが、一騎は敢えて善子の襟を掴んで目を合わせる。

 

「目を背けるな。これは俺たちの罪だ……!」

 

「私、たちの?」

 

錯乱しかけていた善子の目に意志の光が戻り始める。

 

「そうだ。だから、()()()でその罪を贖う。背負った死の、責任を果たすぞ、津島善子……!」

 

「責任……そうだ、私は花丸の命を、願いを背負う!私はこの聖杯戦争を、犠牲を出さずに終わらせる!!」

 

「マスター……!」

 

一騎の恫喝じみた激励に奮起した善子の力強い宣言に静かに頷く一騎は襟から手を放すと、沖田を善子にそれぞれ目を向ける。

 

「まずは、アサシンを倒す。足止めは俺がやる、二人には止めを任せたい」

 

「セイバー──総司、出来るかしら?」

 

「昨日のアレですか……そうですね、沖田さん的には問題ないですよ」

 

「そうか、助かる。このまま追いかけるが、構わないか?」

 

一騎の提案に頷く二人、そして、作戦は決まった。準備を始める沖田と善子が立ち直った姿を見ながらロビンフッドも花丸の遺体を抱えなおす。

 

「さてと、んじゃ、オレもそろそろ行くかな……あ、そうだ、おいオタク、守護者、だっけか?」

 

「外狩だ、どうかしたか?」

 

「いや、時間稼ぎするのはいいけどよ──」

 

一度、言葉を切ったロビンフッドは皮肉気だが、どこか強い決意を秘めた笑顔を浮かべる。

 

「──別に倒しちまっても構わねぇえんだよな?」

 




●#04について
・被害者を無くすために戦う
ゴーストライダーの意義について明言するシーンですが、旧版では脱字があったので、修正した場面です。この回は特に誤字脱字がひどかったので、メンタル的な意味合いで修正が大変でした

・時間稼ぎの共闘
これがVol.6におけるロビンフッドの行動の理由です。貧乏くじですが、ロビンフッドのキャラ的にはマスターの願いを継ぐために自分を犠牲にする、という姿勢はとても似合うと思いこの形にしました。あと、最後のセリフは個人的な趣味で入れましたが、FGOっぽさが出た気がします。

・背負った死の責任
作中で言及しているように結果論ではありますが、倒せなかった一騎たちの責任ではあるので、このような形にしました。


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#05

 

夜、花丸の心臓を奪った梨子はそれをジャックに食べさせるべく、追っ手を撒いてから自宅への道を歩いていた。

 

おかあさん(マスター)お腹すいたー」

 

「こーら、もうちょっとでお家に着くから、それまで我慢なさい」

 

はーい、と霊体化したまま会話するジャックと梨子だが、ふと目の前に現れた異形──ゴーストライダーの姿に足を止める。

 

「見つけたぞ、罪人よ」

 

おかあさん(マスター)!こいつが"わたしたち"をいじめたの!」

 

「あら、困った骸骨ね。ジャック、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「うん。殺しちゃおう」

 

ゴーストライダーの姿に警戒して実体化したジャックの言葉に梨子は本能的に危険を察知したのか令呪を輝かせて迎撃を命じる。霧を出して迎撃準備をするジャックだが、またもやゴーストライダーは燃えるチェーンを回して霧を払う。

 

「無駄だ、その霧にもう意味はない」

 

「むぅ~っ、おかあさん(マスター)、どうしよう?!」

 

「大丈夫よ、ジャック。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そっかぁ、さっすが、おかあさん(マスター)!」

 

困惑するジャックだったが、梨子の言葉で二画目の令呪が輝くと手に持ったナイフが鈍く輝き、喜ぶジャックはナイフを構える。

 

「此よりは地獄。"わたしたち"は炎、雨、力──殺戮を此処に……『解体聖母(マリア・ザ・リッパー)』!!」

 

周囲が一瞬、濃密な霧に包まれる。ジャックの宝具『解体聖母(マリア・ザ・リッパー)』はDランクのナイフだが、()()()()()()こと、()()()()こと、()()()()()()()()ことの三つが満たされた時、必殺の武器と化す。今は条件を二つしか満たしていないが、令呪によるブーストで無理やり発動させることでその威力を増していた。

 

「……愚かだな」

 

「!?いたっ!?」

 

必殺とはいかずとも強烈な一撃。だが、その一撃はゴーストライダーに届く前に周囲に散らばる燃えるチェーンの一部がぶつかって来て行動が止まる。そして、動きが止まったジャックに対して他のチェーンの一部が殺到し、ジャックは回避に徹するしかない。

 

「やだやだやだぁっ!やめてってばぁ……!」

 

「ジャック!?逃げ──んぐぅっ!?」

 

「させん……!」

 

さらに令呪を使おうとする梨子だったが、その動きを察したゴーストライダーは炎を消したチェーンで梨子を絡め捕って引き寄せる。

 

おかあさん(マスター)っ!?」

 

「私は責任を果たす!セイバー!!」

 

「お任せを!我が剣にて敵を穿つ……!」

 

驚愕するジャックの前に善子の命令で飛び出た沖田は瞬間的に距離を詰める。

 

「はっ!せいっ!」

 

「いたっ!?……う、うぅっ!?」

 

低い姿勢で踏み込みざまに右下段から斜めに切り上げると、返す刃で浮き上がったジャックの胴体を右胸から左胸へ右薙ぎの一撃、宙に浮いたままのジャックは予想外のダメージに動けない。そして、沖田は振りぬいた形から平晴眼の構えをとる。

 

「セイバー、止めを!」

 

「行きますっ!秘剣、『無明三段突き(むみょうさんだんづき)』!!」

 

善子の号令に応える沖田は『無明三段突き(むみょうさんだんづき)』を放つ。走る剣閃が過たずジャックの心臓を貫き、霊核を確実に消滅させる。

 

「ああっ!?……おかあ、さん……」

 

「むぐぅっ!?……ジ、ジャック!?」

 

霊核を失い、消滅していくジャックは無意識の内に梨子へと手を伸ばすが、その手が届くはずもなく魂喰いのサーヴァント、ジャック・ザ・リッパーはその姿は消滅させた。

 

「マスター、ご友人の仇は、取れましたよ……こふっ!?」

 

「もう、締まらないわねぇ……でも、ありがとう、総司……ねぇ、外狩さん、その人はどうするの?」

 

「お前の贖罪は済んだ。復讐は俺に任せておけ」

 

「そんな、ジャック……私と、広樹の可愛い子供(ジャック)……」

 

ひとまずの決着がついた二人を少し休ませる間にゴーストライダーは呆然とする梨子の襟を掴んで引き上げる。

 

「哀れだな……せめて、その闇を殺してやる」

 

「あ、あぁ……」

 

眼前にゴーストライダーの顔があっても気が付かない梨子に贖罪の眼(ペナンスステア)を覗き込ませる。その目には今回ジャックが殺した被害者が映り、彼らの痛みと遺族の悲しみに一度、魂を焼かれ、梨子は更生への第一歩を踏み出すのだった。

 

「……死んだの?」

 

「いや、だが、罪は償わせた。次はカルナだ」

 

「外狩一騎、こちらの準備は出来ているぞ」

 

「!?」

 

突如、横合いからかけられた声に目を向けると、そこには十千万から歩いてくる赤い外套を纏ったエミヤの姿があった。

 

「……誰よ、この人?」

 

「……それはこちらのセリフなのだが」

 

「……気にするな、協力者だ。それよりエミヤ、作戦はどうする?」

 

「ああ、それなら問題ない。まずは──」

 


 

その十数分後、戦いの終わったカルナの目の前に善子と羽織に着替えた沖田が姿を現す。その場面を数キロ先からエミヤが眺めていた。

 

「うむ、良い位置だ」

 

既にゴーストライダーは善子の背後のビルに待機しており、あとは沖田が鎧を壊すだけであった。おもむろに弓を構えるエミヤ、その視線は数キロ先の黄金の鎧を確実に捉えていた。

 

「行くか──I am the bone of my sword.」

 

善子の令呪が輝くと沖田の姿が掻き消えるとエミヤは投影によって手の中に現れた矢を弓に番えて引き絞る。それは矢の形をしていたが、矢ではない。

──『炎神の咆哮(アグニ・ガーンディーヴァ)』。カルナを殺したその弓が、今エミヤの手によって矢として放たれようとしていた。

 

「──”偽・炎神の咆哮(アグニ・ガーンディーヴァ)”!!」

 

カルナの鎧の左胸、心臓に当たる部分の装甲が沖田の『無明三段突き(むみょうさんだんづき)』によって消失する。そして、エミヤの弓から放たれた一射は過たず消失した装甲の下、生身の体に突き刺さり眩いばかりの光が迸った。

 

「さて、私の役目はここまでだ。後は任せたぞ、外狩一騎」

 




●#05について
・令呪を輝かせて迎撃を命じる
旧版からの加筆で本能的に危機を察知したことを示す一文を追加しました。ヤンデレは危機察知能力が高いことは周知の事実ですが、文章だけ見るとわかりにくそうだったので強調してみました。

・ジャックVS沖田
一応、ゴーストライダー単体でも倒せないことはありませんでしたが、周囲に被害を出さないために敏捷に優れた沖田に任せる必要がありました。というのは表向きの理由で、実際は善子が立ち直れるように正しく復讐させるため、という意味合いが強いです。

・太陽を落とす
前回の最後で起こった攻撃はこのように行われましたが、イレギュラーをエミヤにした理由にはこのように原典で止めを刺した宝具でカルナを倒すこのシーンを作るためだったりもします。この際に使用される偽・炎神の咆哮(アグニ・ガーンディーヴァ)は弓そのものを矢として放つことで人間でも使用できるようにしています。また、原典に合わせて一部の文体を変えてみました。

●梨子について
・かつて魔術師だった家系に生まれたが、失伝しているため、魔術は使えない
・聖杯戦争自体についても詳しく知らず、アサシンの言うままに殺人を行わせている
→自身を襲撃して来た魔術協会の人間を撃退して聖杯戦争の情報を引き出した
・引っ越し先の家の中にあった魔法陣を起動させてしまい、アサシンを召喚する
→以前から精神的に危うい面があったが、アサシンの精神汚染が影響して妄想と現実の区別がつかなくなっている
・魔術師としての才能はないため、魔力補給の手段として近隣の魔術師や魔術師の家系の人間を狙って魂喰いをさせていた


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#06

 

「俺か?俺は復讐者(アヴェンジャー)だ……!」

 

「アヴェンジャー、ってそんな、同じクラスのサーヴァントが二体もいるワケ……まさか、猟犬!?」

 

驚愕する広樹を前に悠然と立つゴーストライダーだったが、猟犬、の一言に身に纏う炎の勢いが若干強くなる。だが、面白くないのはもう一人のアヴェンジャー、ジャンヌ・オルタも同様だった。

 

「急に出てきてアヴェンジャーを名乗るなんて……一体何様のつもりですか!」

 

「哀れな道化よ、お前たちの舞台もここまでだ」

 

睨むような視線のジャンヌ・オルタと広樹に対し静かに怒りを滲ませて宣言するゴーストライダー。対照的な両者の睨み合いだが、ゴーストライダーの隣に沖田が並び立つ。

 

「セイバー、いや、沖田総司さん、なんでそんな奴と組んでるんだよ!?」

 

「何を言ってるかわかりませんが、ウチのマスターが世話になりましたからね。その分ぐらいは手伝いますよ」

 

「総司、勝つわよ!!」

 

承知!、と勢いよく答えて構える沖田と後ろに立つ善子。その姿には驕りも不安もなく、ただ、純粋な信念と決意が感じられた。

 

「ダイヤさん、下がっててください!──ジャンヌ、こいつは情報がない、()()()()()()!」

 

「仕方ないわね……来なさい、私の下僕ども!」

 

悲しみに打ちひしがれるダイヤがフラフラと下がる。広樹の左手の令呪が輝き二画目が消えるとともにジャンヌ・オルタが旗を振るうと竜の魔女としての力が増幅され、何処からともなく大量のワイバーンが現れる。

 

「何なんですかこの数はー!?」

 

「まだまだ、こんなモンじゃないわよ!!」

 

再びジャンヌ・オルタの旗が振るわれると上空から巨大な邪竜が舞い降りて来た。頭上を覆うワイバーンの群れと降り立った巨大な邪竜を従えるジャンヌ・オルタと広樹、その表情には余裕が窺えた。

 

「むむむ……これは流石に宝具を使うしかないですかね……」

 

「──上等よ!絶対に、コイツらを勝たせるわけにはいかない!──外狩さん?」

 

「ワイバーンは任せた……そこの元マスターも頼む」

 

小さく唸る沖田と怯みかけた心を奮い立たせる善子だったが、一歩踏み出たゴーストライダーの言葉にしっかりと頷く。

 

「ハッ、大きく出たじゃないの……それじゃ、喰われなさい!!」

 

「ちょっ、外狩さん!?」

 

「マスター、危ないですよ!」

 

ジャンヌ・オルタの指示で悠然と立つゴーストライダーに噛み付く邪竜。その攻撃から逃れるために善子を連れて下がる沖田だが、邪竜の動きが止まったことに違和感を覚える。

 

「アッハッハッハ……は?」

 

「どうやら、食い出がないものは好かないらしいな」

 

ゆっくりと開く邪竜の口、そこから無傷のゴーストライダーが姿を現すと邪竜の体がヘルファイアに包まれ、鱗や爪、牙が鋭く伸びて炎を纏った凶悪なヘルドラゴンとも呼ぶべき姿へと変貌するとゴーストライダーへと頭を摺り寄せる。

 

「なんだ、あの化け物は……!?」

 

「ウソ……私の竜が?──このっ、行きなさい、ワイバーン!」

 

「さて、今度はこちらの番だ」

 

驚愕するジャンヌ・オルタと広樹の前でゴーストライダーは悠然とヘルドラゴンに飛び乗ると空へと舞い上がる。飛び立ったヘルドラゴンへとワイバーンの群れが殺到するが、その(ことごと)くを燃え盛る翼の羽ばたきや尻尾の一振りで叩き落し、口からの獄炎で焼き払う。その様はまさしく地獄絵図と呼ぶに相応しかった。

 

「うわ~……これ、もう、私たちいらないんじゃないですか?」

 

「馬鹿言ってないで構えなさい、来るわよ!」

 

「……マジかよ?こりゃ、ヤバいかもな……?」

 

「……上等じゃないの!来なさい!!」

 

圧倒される二組だったが、奮起して旗を振るったジャンヌ・オルタが呼び出した二体目の邪竜に広樹を抱えて飛び乗ると、追加のワイバーンを呼び出して沖田と善子にけしかける。

 

「総司、宝具を!!」

 

「はい!──ここに、旗を立てます!」

 

飛びかかるワイバーンの群れの中、立てられた旗。その周囲の空間に魔力が満ち、何処からともなく浅葱の羽織の男たち──その中には先ほど倒れたバーサーカー、土方歳三の姿もある──が現れてワイバーンの群れとの戦いを始めた。

 

「外狩さん!こっちは新選組(私たち)に任せてください!」

 

「任せた──来い、竜の魔女よ。地獄の炎を見せてやる」

 

「──ッ!行くわよ、マスター!」

 

ワイバーンの群れと新選組が戦う中、ジャンヌ・オルタと広樹を乗せて飛び上がる邪竜は上空で待つゴーストライダーのヘルドラゴンと睨み合う。先に動いたジャンヌ・オルタの邪竜がヘルドラゴンに激突するとその勢いで怯んだヘルドラゴンの首筋へ喰らい付く。

 

「アハハハ!同じ邪竜の扱いなら私の方が──」

 

「殻も割れんか。邪竜も魔女も衰えたと見える」

 

「──え?」

 

悲鳴を上げる邪竜、その牙と口はヘルドラゴンの鱗で逆にボロボロになっており、その首筋はお返しとばかりにヘルドラゴンの鋭利な牙で喰い破られていた。

 

「そんなっ!──マスター、掴まって!!」

 

「ぬ、おぉっ!?」

 

力を失いもがきながら墜ちていく邪竜を必死に操るジャンヌ・オルタはどうにか近場の駐車場へと不時着させる。

 

「ぐ、うぅ……大丈夫か、ジャンヌ?」

 

「えぇ、何とか。それより、マスターは……無事みたいですね」

 

「ライダーとしては二流、と言ったところか」

 

魔力で構成された邪竜が消えてゆく中、後を追うように悠然と降り立ったゴーストライダーのヘルドラゴンをジャンヌ・オルタと広樹が睨みつける。

 

「っ!?──よし、滅ぼすわ」

 

「クソッ、見下しやがって」

 

「少し待っていろ──行け」

 

ヘルドラゴンから降りたゴーストライダーはヘルドラゴンを上空にいるワイバーンの群れに飛び込ませると、その中心でヘルドラゴンの魔力をヘルファイアで爆発させる。ヘルドラゴンの居た場所を起点に発生した上空を覆いつくす炎が群れのほとんどを焼き尽くした。

 

「なっ──何だ、あの威力は!?」

 

「待たせたな。さぁ、裁きの時間だ」

 

「……上等よ!血祭りにしてあげる!」

 

火の粉が舞い落ちる中、悠然と立つゴーストライダーに怯む広樹と怒りに燃える目で睨みつけるジャンヌ・オルタ。そして、最後の戦いの幕が上がった。

 




●#06について
・アヴェンジャーVSアヴェンジャー
本来のジャンヌ・オルタの能力として邪竜が呼べるかは分かりませんが、この世界では転生者の都合がいいように強化されているため、召喚可能となっています。しかし、手を離れた邪竜はただの魔法生物なので、ゴーストライダーの能力で乗り物にされました。全体的にかませ感が強いのは強化された影響です。

・新選組の旗
無明三段突き(むみょうさんだんづき)』の印象が強くて忘れられがちですが、今作ではこういった要素をピックアップする目的もあるため、登場させました。ちなみに、このシーンにおいて一騎が善子たちに任せたのは善子に対して戦士として敬意を払っているから、という理由があります。

・ヘルドラゴン爆弾
戦場を任せたとは言ったものの空中にいる敵を倒すのは困難だろう、という判断の元、必要なくなったヘルドラゴンを爆弾として有効活用しました。ちなみに、相手の乗り物を奪ったりする今回の戦いは小技のオンパレード感があって個人的には好きです。


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#07

 

「このっ!喰らえ!」

 

先手を取ったジャンヌ・オルタは10mほどの距離を一足で詰めると右手に持った剣で右肩から左脇腹へ袈裟懸けに切り付けると左手の旗、その先端の槍で顎を救い上げる。

 

「アハハ!これで──え?」

 

返す刀で胴には旗、腹には剣でそれぞれ右薙ぎの一撃を放つ。だが、振りぬいたジャンヌ・オルタが見た物は無傷のまま立つゴーストライダーの姿だった。

 

「では、こちらの番だ」

 

「くっ……」

 

無造作に振り上げたゴーストライダーの右の拳が放たれる。これまであらゆる敵を打ち破った拳だが、その一撃は地面に突き立てられて旗によって防がれ、ジャンヌ・オルタは地面を削りながら数mほど下がる。

 

「ジャンヌ、やっちまえ!」

 

「ええ、分かってます!──報復の時は来た!これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮──『吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)』!!」

 

自身の宝具である旗を引き抜いたジャンヌ・オルタは広樹の声に応じてその真名を解放する。宝具『吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)』、それは自身と周囲の怨念を魔力変換して、相手の不正や汚濁、独善を骨の髄まで燃やし尽くす怨嗟の炎を巻き起こす。その業炎はゴーストライダーを飲み込み焼き尽くす──はずであった。

 

「──お前の憎しみは(ぬる)過ぎる」

 

「そんなっ……」

 

ゴーストライダーを飲み込んだはずの業炎は他ならぬゴーストライダーの手で渦巻きながらその形を定めてゆく。

 

「本物の、復讐の炎を見せてやろう……!」

 

「くうぅっ……私はまだっ……ああっ!?」

 

渦巻く業炎が濃縮された火球となってジャンヌ・オルタへと叩き込まれ爆発を起こす。爆発の煙が収まると、そこには半ばからへし折れた旗と転がった剣、そして、力無く倒れ伏すジャンヌ・オルタの姿があった。

 

「ジャンヌ!?──そんな、馬鹿な……!?」

 

驚愕して駆け出す広樹だが、それより早くゴーストライダーがジャンヌ・オルタを掴んで引き上げる。

 

「さらばだ、歪められた聖女よ。せめて、その業は払ってやる」

 

「やめろおぉぉっ!!」

 

「どうして……私は……」

 

贖罪の眼(ペナンスステア)を覗き込まされたジャンヌ・オルタ。その目にはこの世界で歪められる前の自分の姿が映し出される。自らの行いを悔いたジャンヌ・オルタはアヴェンジャーとしての霊基を焼かれ、残った魂は聖杯へと消えていった。

 

「ジャンヌ?嘘だろ……俺の、ジャンヌが……」

 

「ああ、お前が歪めた──故に、俺が正す」

 

足を止めて愕然とする広樹に対し、冷たく怒りの籠もった言葉を言い放つゴーストライダー。僅かに残ったワイバーンが消滅したことで、周囲で響いていた戦いの音が止んでいた。

 

「お前は許さない!怪物だろうが何だろうが──俺が倒す!!」

 

奮起する広樹は下段に構えた剣を起動させると超人的な身体能力で数mの距離を一気に詰める。

 

「うおおおぉぉぉ!!」

 

ゴーストライダーの手前でもう一歩踏み込んで左脇腹から右肩へ切り上げると振り抜いた剣をその勢いのまま大上段に構える。

 

「まだだっ!聖カトリーヌの剣よっ、俺に力をぉぉっ!!」

 

構えた剣が勢いよく燃え上がる。これが聖カトリーヌの剣が持つ二つ目の機能、ジャンヌ・ダルクの宝具『紅蓮の聖女(ラ・ピュセル)』と同等の威力の持つ炎の剣を顕現させるものである。

 

「てああぁぁっ!!」

 

宝具級の威力を持つ燃え盛る剣を唐竹割に振り下ろす。鋭い一撃がゴーストライダーの正中線を勢いよく通り抜ける。素人の剣術ではあるが、超人的な膂力で振るわれたその一撃はまともに当たればサーヴァントですら危うい。しかし。

 

「ハァッ、ハァッ……これで、仇を──」

 

「──その炎は祈りだ」

 

「なっ──」

 

驚愕する広樹だが、それも仕方がない。炎が収まって剣が元の姿に戻ると目の前には無傷のゴーストライダーが怒りの籠もった目で見下ろしていたからであった。

 

「お前の祈り(ねがい)は届かない」

 

「この──ぶげぇっ!?」

 

吐き捨てるように宣言したゴーストライダーは右手で無造作に剣の刀身を掴むと、左の拳で顔面にフックを放つ。超人的な身体能力になった広樹だったが、強烈な一撃に踏みとどまるのがやっとであった。

 

「お前は英雄(ヒーロー)には成れない」

 

「え?──ごあっ!?」

 

刀身を掴んだままのゴーストライダーはヘルファイアで刀身を溶かしつくすと、振り抜いた左の拳を右手で包み、広樹の頭へとダブルスレッジハンマーを叩きつける。

 

「お前の人生(つみ)を悔い改めろ」

 

「う……あ……」

 

意識が朦朧としている広樹の首を掴み上げて贖罪の眼(ペナンスステア)を覗き込ませる。広樹はこの世界に魔術が齎されたことで起きた悲劇とこの聖杯戦争で死んだ者の苦しみと痛みをその魂に受けると、刻印を引き剥がされて体を焼き尽くされるのであった。

 

「──あ、外狩さん!そちらは大丈夫で──こふっ」

 

「ちょっ、総司!?──本当に締まらないわね……」

 

ちょうど使命を果たした一騎が変身を解除したところで一騎の援護に行こうとしていた沖田と善子がやって来た。

 

「こちらは終わった──聖杯戦争の勝者はお前たちだ」

 

「私たちが、勝者……?」

 

「やりましたね、マスター!」

 

一騎から告げられた勝利宣言に困惑する善子と無邪気に喜ぶ沖田。だが、それを眺める一騎の視線には複雑な感情が含まれていた。

 

「……戦いは終わったが、津島善子、お前は聖杯にどんな願いを懸ける?」

 

「私の、願い……」

 

「マスター……」

 

考え込む善子だが、それも無理はない。親友の花丸から受け継いだ”戦いを止める”と言う願いのために戦った彼女には特別な願いは無いからであった。そして、頭をよぎった”親友の蘇生”が願いとして正しいか測りかねていたからでもある。

 

「なら、一つ提案がある」

 

「提案、ですか?」

 

顔を上げた善子の目には真っ直ぐな目で見る一騎の真剣な表情があった。

 

「ああ、世界を元に戻す」

 

「世界を、って、どう言うことですか?」

 

「今からゴーストライダー()の力を使って、一つの可能性──聖杯戦争のない世界の姿を見せる」

 

「ちょ、だから、どう言うことなんですか?!」

 

説明しなさいよ、と少し怒りながら問いを返す善子に対して、ふむ、と一騎は小さく考え込むと自らの目を指さす。

 

「この()を見た者には過去の罪や可能性を見せることが出来る」

 

「魔眼の類ですか?──守護者って言ってましたけど、ホントに何者なんですかね?」

 

困惑しつつ訝しむ沖田に対して、それは重要じゃない、と一騎は疑問を一蹴すると善子へ改めて向き直る。

 

「つまり、聖杯戦争の起こらない、平和な世界を聖杯に願えばいい──出来るか?」

 

「……それなら、花丸も──」

 

「待ってください、マスター」

 

唐突に異議を唱える沖田に、総司?、と訝しむ善子だが、その様子を見る一騎はどこか予想していたようだった。

 

「聖杯にそこまで世界を変える力は無いはずです。それに、まだ()()のサーヴァントの魂しか溜まっていません」

 

「六騎って……!?それじゃ、もしかして──」

 

「いや、それは問題ない」

 

「「!?」」

 

悲し気に持論をぶつける沖田に困惑しつつも言わんとする事を理解する善子だったが、その言葉を予期していた一騎の宣言に二人は驚愕と困惑が入り混じる。

 

「浄化したアヴェンジャーに()()()を付けておいた──おそらく、もう一騎分ぐらいにはなるだろう」

 

「──じゃあ……!」

 

ああ、と頷く一騎の説明に喜ぶ善子と、え?私の決意は……、と複雑な表情の沖田だが、どこか嬉しそうではあった。

 

「それじゃあ、外狩さん、お願いします」

 

「ああ──俺の眼を見ろ」

 

意を決した善子の言葉に顔だけを変身させた一騎は贖罪の眼(ペナンスステア)を覗き込ませる。そして、その目に映ったのは戦いの無い、梨子や花丸のようなまだ死ぬはずではない死者の出ない、この世界本来の姿だった。

 

「──見えたか?それが、この世界の可能性だ」

 

「……はい。あの、外狩さんはこれからどうするんですか?」

 

「次の使命を果たす。ここでお別れだ」

 

「そう、ですか……あの、外狩さん、ありがとうございました」

 

「私からも、ありがとうございま──こふっ」

 

「総司……ハァ、結局、最後まで締まらなかったわね」

 

感謝を述べる二人だったが大事なところで咳き込む沖田に善子は呆れつつも穏やかな表情を見せる。そんな二人の姿を一騎は眩しそうに見ていた。

 

「さて、聖杯は黒澤家だ。津島善子、沖田総司──達者でな」

 

「はい!外狩さんもお元気で!」

 

「んんっ──そちらもお達者で!」

 

頭を下げて黒澤家へ向かった二人の姿が見えなくなると使命を果たした一騎はゲートをくぐって次なる転生者のいる世界へと向かうのだった。




●#07について
・『吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)
原典のゴーストライダーには有効な攻撃だと思いますが、今作におけるゴーストライダーは不正や汚濁、独善といったものを持っているかと問われれば怪しいですし、何よりゴーストライダーに対して炎で攻撃すること自体が失敗だと思います。要するにフレーバーテキストとの相性の悪さが原因だと思ってください。

・宝具としての剣
転生者の剣に隠されたもう一つの機能です。この機能があることから宝具と呼称されていました。とはいえ、通常のサーヴァントならともかくゴーストライダーを相手にするには分が悪かったようです。ちなみに、剣は持ち手だけでも効果はあるため、最後まで身体能力は強化されたままでした。

・世界の再生
これが善子を奮い立たせてまで同行させた大きな理由です。願いを持たない彼女だからこそできるやり方ですが、一騎の言うおまけは一時的にサーヴァント程度まで強化された転生者の魂のことなので、穴を維持するリソースとしては十分だと思います。また、ゴーストライダーがペナンスステアで見せる記憶を選んでいる描写は原典に存在します。

●タイトルについて
Dropping the Sun:太陽の落とし方
・少し意訳が入っていますが、太陽(カルナ)を倒そうとする一騎たちと、転生者がラブライブ!サンシャインの世界を闇に落とした方法、のダブルミーニングです。
・本来の直訳だと「How the Sun Drops」となりますが、口に出した際の語感の関係でこちらをタイトルにしました。

●転生者について
松平広樹(まつひら ひろき)(16歳/男)
・特典としてジャンヌ・オルタを選んだ高校2年生:元男子高校生
→正確にはジャンヌ・オルタをサーヴァントにしてイチャイチャしたい、と言う願いだった
→このジャンヌ・オルタはFGOで自身が育てたデータをもとに構成されている
・現在の能力は高い魔力と魔術礼装「聖カトリーヌの剣」を持つ
→聖カトリーヌの剣は大量の魔力を消費してジャンヌの「紅蓮の聖女」の模倣が可能
→基本機能として身体能力を強化した霊基を被ることでサーヴァントと短時間なら打ち合える
・メインヒロインはジャンヌ・オルタで「どうせならハーレムを作ること」が目的
・梨子とは幼馴染で何年か前に土浦に引っ越して来た

●善子について
・魔術師ではないが、それなりの魔術回路を持つ一般人
・聖痕が出てきたため古本屋にあった謎の本に書いてあった魔術を試したら召喚できてしまった
→聖杯戦争についてはセイバーから直接聞いたが、のちに事実を知った花丸からも説明を受けた
・非日常に飛び込むこと自体が願いのような物だったが、のちに世界を修正する願いを持つ


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Vol.8:Hazard to the World
#01


怒り、憎しみ、彼が最初に感じたのは人間に対する怨嗟(えんさ)の叫びだった。それから先はひどく曖昧で、自由にならない体が機械を纏った人間たちを容赦なく叩きつぶしていた。

 

(やめてくれ!!)

 

「(凶、殺、怨、痛、恨)」

 

彼の叫びは届くこと無く、留まる所を知らず代わりに体と心を蝕む()()と変身の解けた少年や少女に対して振るわれる圧倒的な暴威は止まる気配がなかった。

 

「やめて!!」

 

(もう、ダメだ……)

 

遠くで叫ぶ少女の声、だが、暴走する力に突き動かされる彼の心は絶望と悪意に飲み込まれ、やがて深い闇に沈んでいくのだった。

 


 

昨夜から転生者を探す一騎は初夏の昼間の駅前、その路地裏に出ていた。周囲を観察した一騎の目には街を行く人々の中に眼鏡のようなデバイス──ザイアスペックをかけた姿がちらほらと見受けられた。

 

(ザイアスペック……?ゼロワンだろうが……ヒューマギアが見当たらんな)

 

「(世界の簡略化、否、単純化、と呼ぶべきか……要素を削ったようだ)」

 

(なるほど、世界の矛盾を減らした訳か……まぁ、奴らにとっては無くても変わらんからな)

 

転生者の特典を仮面ライダーゼロワンと推定した一騎は、目に見える範囲で人型のロボット──ヒューマギアが見当たらないことに違和感を覚えるが、ゴーストの説明で世界の再構成による影響だと納得する。

 

「(だが、刻印の反応が弱い、其れが解せぬな)」

 

(上手く隠したか、弱っているのか……まったく、儘ならんな)

 

「あの、すいません」

 

刻印の反応の弱さに違和感を覚える一騎だったが、ふと、横合いからかけられた声に返事を返すと、そこには黒髪で両サイドの髪をリボンで結んだ眼鏡の少女──朝田詩乃(あさだしの)がチラシの束を抱えて立っていた。

 

「ええと、何か用ですか?」

 

「その、人を探しているんです。この人、見たことありませんか?」

 

一騎の問いに手元のチラシを見せて聞き返す詩乃。そのチラシには大人びた少年が映った写真が載っており、名前の所には飛電空也(ひでんくうや)と書いてあった。他にもいくつか情報は書かれていたが、一騎の知っている人間ではなかった。

 

「(飛電……転生者だな)」

 

(おそらくな……しかし、どう言うことだ?)

 

「あの、どうですか?」

 

「あぁ、すいません。どこかで見たことがある気はするんですが……一体、どんな方なんですか?」

 

押し黙る一騎に焦っているのか、もう一度問いかける詩乃に対して、空也を転生者と見た一騎は情報を引き出すために逆に質問をする。一瞬、気落ちした様子の詩乃だったが、彼女も情報を求めているのか少し考え込む。

 

「そうですね……空也──彼は私の幼馴染で、トラウマを抱えた私を守ってくれたり、克服のために一緒にゲームをやってくれたりして……」

 

「とても良い幼馴染さんだったんですね」

 

「はい、私にはもったいないくらいで……でも、先週の事件の辺りから突然、行方不明になってしまって……」

 

「先週の事件?……あぁ、すいません。何分、昨日、日本に戻ったばかりでよく分からないもので」

 

引き出した情報について質問した一騎を一瞬、訝しむ詩乃だったが、外国に行っていたと聞いて、ああ、それで、と納得した様子を見せる。

 

「……実はここ半年ぐらいレイダーと言う犯罪者が兵器を使って暴れる事件が多発しているんです。それで、レイダーと戦う仮面ライダーと言う存在がいたんですが……」

 

()()、とはどう言うことなんですか?」

 

「その、先週、仮面ライダーが無差別に人を襲い始めて……それ以来、仮面ライダーは一種の災害のようになってしまったんです」

 

(力に吞まれたか……まったく、自分の能力も把握できんとはな)

 

「(然り。故に、此度も刻印が消える前に狩らねばらなぬ)」

 

「なるほど……それで、その事件の辺りでその飛電さんは居なくなった、と……それは心配でしょうね」

 

内心で頭を抱えていることを感じさせない一騎の労わるような態度に、はい、と気落ちした様子で答える詩乃。

 

「あの、それで、何か心当たりは……?」

 

「……いえ、お役に立てなくてすみません」

 

「そう、ですか……いえ、ありがとうございました」

 

(……さて、ここからどうしたものか……)

 

「(余程上手く隠されぬ限り、近くに在れば刻印を見つけることは容易いが──っ!?一騎、罪人の気配だ)」

 

(ああ、分かっている!)

 

申し訳なさそうに返答しつつ思案する一騎の返答にさらに気落ちした詩乃だったが、突如、通りの向こうから爆発音が響き、近くのビルの外壁が壊される。そして、通りの向こう側、爆発音の出所には赤い虎のモチーフをした機械のような人型──フレイミングタイガーレイダーの姿があった。よく見ればその手からは炎を飛ばしたような煙が立ち上っており、目の前には髪の右側の一部分を編み込んだモデルのような女性──小比類巻香蓮(こひるいまきかれん)が立ち竦んでいた。

 

「あれは、レイダー!?」

 

「あれがそうですか……それより警察を!」

 

「(如何する心算だ?)」

 

(決まっている、罪なき者を守る)

 

え、ちょっと!、と驚く詩乃を置いて駆け出す一騎。その足は迷わず通りの向こう、タイガーレイダーへと向かっていた。そして、その直前で足を踏み切る。

 

「はっはっはっー!どうだ、俺の力──ぶげっ!?」

 

「え?」

 

香蓮の驚愕も無理はない。本来、一般人が立ち向かおうとも思わない、直前まで高笑いをしていたレイダーと言う脅威が目の前で一般人(一騎)に蹴り飛ばされていたのだから。

 

「早く逃げて!」

 

「は、はい!?」

 

タイガーレイダーに飛び蹴りを放ち、着地した一騎の言葉に反応した香蓮は直ぐに走り出すと、周囲にいた人々も蜘蛛の子を散らしたように逃げ出した。

 

「いってて……おい、てめぇ、何してくれんだよ?あぁ!?」

 

「吠えるな、三下」

 

「て、てめぇ!?舐めやがってぇ!」

 

(釣れたか……レイダー(この程度)なら生身でもやれるが……)

 

「こっち、こっちです!」

 

「(一騎、此処では目立つぞ)」

 

(だろうな……それに、おそらく()()が来る頃だろう)

 

強者である自らに対して楯突く一騎に怒りを露にするタイガーレイダーだったが、チラリ、と後ろに人がいないことを確認した一騎の挑発にさらに激昂すると右手をかざして炎を撃ちだす。しかし、その動きを予想していた一騎は向かって右側、タイガーレイダーの左に飛び込んで避けると、そのまま先ほど助けた香蓮のいる正面の路地へ走り出す。

 

「あっ!?てめぇ、待ちやがれ」

 

「そこまでだ!」

 

逃げる一騎を追いかけようとするタイガーレイダーだったが、かけられた声に振り向くと特徴的な青い銃──エイムズショットライザーを構えた一人の男を先頭に後ろ横一列に四人ほど並んだ警察の特殊部隊のような集団が目に入った。よく見れば隊長以外の全員がザイアスペックと特殊なベルト──レイドライザーをしているのが見て取れた。

 




●#01について
・暴走する悪意
今回の内容からわかると思いますが、原典でもそれなりに話数のかかった例のアレです。今だとアークライダーを使いそうですが、執筆当時は放送休止直前ぐらいだったため、この形になりました。

・世界の単純化
クロスオーバーの際に必ずしも全てを再現する必要はないとは思いますが、個人的にはなるべく原作の要素をピックアップして読者をうならせたいタイプです。なので、今回はテーマ的な意味合いがあるため、この形でしたが、私の好みではありません。

・フレイミングタイガーレイダー
本編未登場の怪人を使えるのも二次創作ならではですね。類型としてオリジナルフォームもあると思いますが、どちらも原典の設定との兼ね合いを考えないと作者の独りよがりになるので、気を付けたいですね。

・怪人に飛び蹴り
仮面ライダーあるあるだと思いますが、意外とタックルとか物を投げるパターンもありますね。あと、変身前でも使える手持ち武器がある場合はそっちを使うことが多いかもしれません。

・生身でもやれる
ビッグマウスでもなんでもなく一騎の正直な分析です。レイダーはレイドライザーさえ何とかしてしまえば対処できますが、実際にどうなるかはのちのエピソードで描きます。

●この世界について
・ヒューマギアが生まれずザイアスペックが主流の世界:スペックは2025年夏辺りで完成
・飛電インテリジェンスはプログライズキーの製作技術とゼロワンを残して飛電製作所として存続
・AI技術の発展を危険視したゼロワンのデータを盗んだZAIAがレイダーを開発
→支配できないAIの駆逐のためにレイドライザーを作る
→原典におけるSAO参加者の一部がレイダーとして暴れる
→テロリストの開発したレイドライザーを解析したと偽ってバトルレイダーの特殊部隊を作る
・バルカンとヴァルキリーはバトルレイダーのリーダーとして活動している
・暴走したゼロワンを心配する詩乃は一人で捜索を続けている
・SAOAGGOのメンバーもとある事情でゼロワンを探している
・死銃事件は本人がレイダーとして活動したため、事件自体が発生していない


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#02

 

(……来たか)

 

「お前ら、エイムズだな!?」

 

「その通りだ。お前を逮捕する」

 

先頭の隊長らしき男がシューティングウルフプログライズキーのスイッチを押すと、バレット!、と音声が鳴る。そして、そのままプログライズキーをショットライザーに装填すると、オーソライズ!、と電子音声が鳴ってプログライズキーが展開される。

 

「変身!」

 

『ショットライズ!』

 

「うおっ!?」

 

引き金を引いて飛び出た弾丸が正面のタイガーレイダーを掠める。そのまま反転してきた弾丸を男が殴り飛ばしてアーマーが展開されるとその姿は仮面ライダーバルカン、シューティングウルフへと変身した。そして、そのままタイガーレイダーに殴りかかるバルカンの背後で男たちもベルトにプログライズキーをセットする。

 

「うおおっ!」

 

「ぐげっ!?」

 

「「「「実装!」」」」

 

バルカンの攻撃でタイガーレイダーが殴り飛ばされる間に男たちがスイッチを押すと全身にアーマーと装甲が装着されて武装が装着されると、その姿は機械の兵士バトルレイダーへと変貌し、バルカンを支援すべく三人が銃を構えると一人が近接支援に向かう。

 

「斉射!」

 

「ぐおおっ!?このっ!」

 

バルカンの合図で射撃組の一斉射が始まり、流石のタイガーレイダーもたたらを踏むが、何とか持ち直して炎で銃弾を防ごうとする。が、その銃撃を合図に左右からバルカンとバトルレイダーが挟み撃ちにする。

 

「突撃!!」

 

「了解!!」

 

「おがっ!?この──げぎゃっ!?」

 

振りかぶったバルカンのパンチを諸に喰らったタイガーレイダーが反撃しようとするが、立ち直り切る前にバトルレイダーのタックルで弾き飛ばされる。

 

「くそっ、五対一なんて卑怯だろ……お?」

 

『『『『ハード!』』』』

 

『バレット!』

 

「悪いが、犯罪者に対する慈悲は持ち合わせていない」

 

何とか立ち上がるタイガーレイダーだったが、その前に横一列に並んだエイムズがそれぞれ、銃を構えて必殺技の準備を終えていた。

 

「マジかよ?」

 

「ディスチャージ!」

 

『シューティングブラスト!』

 

『インベイディングボライド!』

 

「うおあぁぁっ!?」

 

バルカンの号令で放たれたバルカンのバレットシューティングブラストとバトルレイダーのインベイディングボライドがタイガーレイダーに炸裂する。爆発が収まるとそこには男が倒れていた。

 

「ふぅ……さて、これで──」

 

「っ!?隊長、()()です!──ぐあっ!?」

 

「何っ!?──早瀬!?」

 

戦いが終わって気を抜いた瞬間、上空から落ちて来た銀色の影にバトルレイダーの一人が吹き飛ばされ変身が解除される。途端に警戒してエイムズが銃を構える先にはかつて仮面ライダーゼロワン、メタルクラスタホッパーと呼ばれた者の姿であった。そして、その姿は路地から隠れて見ている一騎と香蓮の目にも映っていた。

 

「仮面、ライダー……」

 

(メタルクラスタ……なるほど、これは暴走もする、か)

 

「(()()とは、言い得て妙だな)」

 

「撃て!──本部、<イナゴ>が出た、増援を頼む!」

 

悲しそうな目でゼロワンを見る香蓮に気づくこともなく射撃を開始するエイムズだったが、ゼロワンの正面に展開されたクラスターセルの盾に防がれ、全く通用していなかった。その間に応援を要請するバルカンだったが、その声色からどれほど状況が切迫しているか無線の通信先へ伝わるようだった。

 

「くそっ、全員、銃撃を絶やすな!絶対にここで止めるぞ!」

 

「うわあっ!?」

 

「六嶋!?──E-2で行く、撃ち続けろ!」

 

「「了解!」」

 

『バレット!』

 

銃撃の隙間を縫ってクラスターセルの一部がバトルレイダーの一人を襲い、六嶋が変身解除されて残り三人となったエイムズは起死回生の手段としてバルカンはバレットシューティングブラストの準備に入る。

 

「喰らえっ!」

 

『シューティングブラスト!』

 

「今だ!」

 

バルカンのバレットシューティングブラストが撃ち込まれたことで盾を強化するべくクラスターセルが集まる。そして、その一瞬を見逃さずにバルカンは合図を出す。

 

「「了解!」」

 

『『ハード!インベイディングボライド!』』

 

「……やったか?」

 

同時に放たれたインベイディングボライドがクラスターセルの盾ごとゼロワンを飲み込み爆発を起こす。一瞬、安堵しかけたバルカンだったが、油断なく銃を構えていた。──はずだった。

 

『メタルライジングインパクト!』

 

「うがっ!?」

 

「ぐあっ!?」

 

「な──ぬおっ!?」

 

煙の中から響く電子音声とともにクラスターセルで構成された二体の分身体とゼロワンによるキック──メタルライジングインパクトによって吹き飛ばされるエイムズ、変身の解けた彼らの前に佇むゼロワンの姿はまさしく災害と呼ぶに相応しいものであった。

 

「あ、あの、あれ!?マズいんじゃ……!?」

 

「……みたい、ですね」

 

「ぐ、くそっ……一ノ瀬、ぐぅっ……」

 

(これは、不味いな)

 

「(……!?奴は無抵抗の者を殺す気か?!)」

 

感情を感じさせない機械のような動きで倒れて動けない隊員──一ノ瀬の方へ向かうゼロワンは明らかに無抵抗の人間を殺そうとしているようだった。

 

「た、たいちょ──ぐえっ!?」

 

「ああっ、危ないっ!?って、ちょっと!?」

 

(チッ──やるぞ!)

 

踏みつけられた一ノ瀬の姿を見た一騎は目の前に転がっていたバトルレイダーの銃──トリデンタを拾い上げるとビルの陰に隠れつつヘルファイアで強化する。

 

「ぐ──」

 

(間に合えっ!)

 

『メタルライジングインパクト!』

 

「……!?」

 

電子音声とともに振り上げられるゼロワンの足、その直後にヘルファイアで強化された銃弾がゼロワンの腹部──ベルトの近くへと撃ち込まれる。そして、その衝撃でゼロワンは数mほど後ろへ吹き飛ばされて倒れた。

 

「な、何なんだ……?──まだ、起き上がれるのか!?」

 

(チッ、流石に太陽があると減衰するか……)

 

「(だが、今回は其れで足りたようだ。我らも行くぞ)」

 

「……ナイトさん、どうして……」

 

(ああ……いや、()()()と合流する)

 

不意打ちから起き上がったゼロワンは警戒したのかクラスターセルの足場に乗って何処かへと飛んで行った。そして、トリデンタを放り投げた一騎は香蓮の漏らした言葉を聞き、先程の場所にいた香蓮の元へ駆け出した。

 

「(一騎!?……成程、若しや、と言う事も在るか)」

 

(そうだ。おそらく、彼女は転生者と関係がある……手掛かりぐらいは掴めるかもしれん)

 

「あの、すごいの出てましたけど、大丈夫でしたか?」

 

「はい、何とか……ですが、ここから立ち去った方がいいみたいですね──っ!?今のは……?」

 

「何してるんですか、早く!」

 

(気のせいか?……ともかく、ここを離れるのが先、か)

 

周囲を探そうとしているエイムズに気づいた一騎はひとまず香蓮を連れて移動することになった。そして、一瞬だけそんな二人を見る視線を感じた一騎だったが、その正体を確かめられないままその場を離れるしかないのであった。

 




●#02について
・バトルレイダー隊
ザイアがあるため、エイムズとしてバトルレイダー隊が存在しています。ちなみに、隊員の名前は三人しか決まっておらず、い、ろ、は、で名付けました。隊長についてはのちのエピソードで解説します。
い→一ノ瀬(いちのせ)、ろ→六嶋(ろくしま)、は→早瀬(はやせ)

・<イナゴ>
例のアレです。暴走の理由はプログライズホッパーブレードがないことなので、世界の単純化が彼の運命を決定しました。人間だれしもこの手のミスはやりがちなので、テーマとしては面白いんじゃないかと思い採用しました。

・強化された銃弾
Vol.4でも使いましたが、映画のゴーストライダーでショットガンを強化したアレの延長として、日陰ならどこでも使えるようにしています。こういう小技は作者の大好物です。


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#03

 

「(さて、此処から如何する?)」

 

とりあえず、少し離れた喫茶店に入った二人だったが、ちょっと連絡するところがあるので、と言う香蓮が席を立って電話を掛けに行ったため、残された一騎は頼まれた物と自分の分の飲み物を注文して時間をつぶしていた。

 

(まずは、彼女から情報を引きだす)

 

「(然り、彼女は転生者の情報を持っているやもしれんからな)」

 

(そうだ……まぁ、本来なら朝田詩乃に近付くべきだが……)

 

「(如何した?お前にしては歯切れが悪いぞ?)」

 

心の声で会議をしている一騎だったが、説明を求めるゴーストの声に小さく唸っていた。

 

(あのタイミングで出会ったのも妙だ。確証はない。だが、何か違和感がある)

 

「(然り、だが、其れは小比類巻香蓮も同じこと。此の際、何方でも変わらんのではないか?)」

 

(それもそう、か……まったく、儘ならんな)

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

注文したコーヒーが来ていたことに気づかないまま内心で頭を抱える一騎の姿がどこか遠くを見ているようにしか見えなかったのか、戻って来た香蓮が先に着きながら声をかける。

 

「ええ、大丈夫です。それで、連絡は取れたんですか?」

 

「はい、それで、まずはお礼を。さっきはありがとうございました」

 

「いえ、別に大したことは……」

 

「いや、十分におかしいですって!普通、レイダーに立ち向かおう、なんて人いませんよ?」

 

謙遜する一騎に対してツッコミを入れる香蓮だが、本当にナイトさんに似てますね、と小さく呟く。その表情はどこか寂しさを滲ませていたが、気を取り直したのか勢いよく顔を上げる。

 

「それで、助けてもらってついでで申し訳ないんですけど、その無鉄砲さ、と言うか、その勇気?を買って一つお願いしたいことがあるんです」

 

「ええと、まぁ、僕で出来ることなら」

 

「いや、出来るかはわからないんですけど……あなたには一緒に仮面ライダーを探す手伝いをしてほしいんです」

 

「(一騎、如何やら当たりのようだぞ?)」

 

「……それは、また、どうしてそんなことしているんですか?」

 

香蓮の提案に内心はともかく表向きには当然の返答を返す一騎だったが、その返答に香蓮の顔が曇る。

 

「その……実は、わたしの知り合いの子が仮面ライダーを探しているんですけど、見つけてもさっきみたいな感じで……」

 

「なるほど、それでわざわざ危険に飛び込む僕に声をかけた、と」

 

「ええと、まぁ、身も蓋もない言い方をすればそうですね。それで、彼女──詩乃ちゃんが仮面ライダーを探すのに協力してほしいんです、お願いします!」

 

「(一騎、如何する?)」

 

(乗らない手はない、が、ここまで来ると作為的なものすら感じるな……)

 

「(此処で別れたとしても同じ標的を狙うのだ、(いず)れ、二人とは()ち合うだろう)」

 

(だろうな……まったく、儘ならんな)

 

内心で会議をしている一騎の姿を悩んでいると感じたのか、ダメ、ですかね?、と改めて問う香蓮。一つため息を吐いた一騎は真っ直ぐに香蓮の目を見る。

 

「わかりました。これも何かの縁でしょうし、協力しましょう」

 

「本当ですか!?ありがとうございます!えっと……」

 

「外狩一騎です、一応、私立探偵みたいなことをさせてもらっています。よろしくお願いしますね」

 

「あ、わたしは大学二年の小比類巻香蓮と言います。こちらこそ、よろしくお願いします一騎さん」

 

香蓮の提案を承諾した一騎は自己紹介をしつつ握手を交わすと、香蓮は店に入って来た人影──詩乃に軽く手を振る。

 

「詩乃ちゃん、こっち、こっち!」

 

「あ、レ──香蓮さん、お待たせしました──って、あなたはさっきの?」

 

詩乃が香蓮の手招きで席に向かうとそこに一騎がいたことに驚いていた。

 

「ああ、先ほどの──どうも、外狩一騎といいます……と言うことは、仮面ライダーの正体は……?」

 

「あ、どうも、朝田詩乃です──それより、どうしてそれを?……香蓮さん、この人にも協力を?」

 

「うん、まだ全部は話してないけど、自分からレイダーに突っ込んでくような人だし、ほら、どことなく空也君みたいな雰囲気もしない?」

 

香蓮の言葉に、うーん、と唸る詩乃だったが、いや、あんまり、と返すと、えー、とどこか不満げな顔の香蓮。これではどちらが年上か分かったものではなかった。そんな二人を見つつ一騎はふと疑問に思ったことを聞いてみる。

 

「ところで、仮面──その、空也さんでしたっけ?その人を探すと言っても、何か手掛かりはあるんですか?」

 

「一応、出てくる法則、みたいなものを掴もう、ってなってるんですけど……」

 

「香蓮さん、()()()に行きませんか?その、ここだとちょっと……」

 

「あー、それもそうか……え~っと、と言う訳なので、ちょっと一緒に来てもらえますか?」

 

「はい、大丈夫ですよ」

 

詩乃の忠告でここが喫茶店であることを思い出した香蓮の先導で店を出た一騎たちは詩乃たちが()()()と呼ぶ場所へと向かうのだった。

 




●#03について
・注文された飲み物
初期版では私の好きなアニメの影響で一騎に大食い設定をつけようとしていたんですが、わざわざコメディにする必要もないですし、活かせる場面もなさそうなので、その設定は没になりました。

()ち合うだろう
旧版では漢字変換できなかったため、ひらがなにしましたが、新装版では多少の時間的猶予があったため、わざわざ調べて変換しました。ちなみに、ゴーストの言葉はこのように古い言葉遣いや漢字を多用していますが、キャラ付け以外に理由はないです。

・私立探偵の外狩一騎
この手の主人公の表向きの職業と言えば探偵か記者だと思っていますが、個人的には事件に踏み込む理由が作りやすく特別な資格が必要ないことが原因だと思います。あとは特撮らしいという側面もあるのかもしれませんね。


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#04

 

「着きました、ここです」

 

香蓮の先導で一騎たちが着いたのは詩乃たちが拠点として使っているマンションだった。そのまま合鍵を持つ香蓮を先頭に一騎たちはその一室へと入っていた。

 

「あの、だいぶ、高そうなマンションですけど……ここはどなたが借りてるんですか?」

 

「ええと、ここは──」

 

「ここは、スポンサーの借りている部屋です……初めまして、外狩一騎さん。僕は阿僧祇豪志(あそうぎごうし)と言います」

 

「どうも、外狩一騎です。それで、僕に何か手伝えることは?」

 

部屋に入った一騎たちを待っていたのは体格の良い精悍な顔つきの男──阿僧祇豪志だった。まずはこちらに、と促す豪志を先頭に四人はリビングに入った。広めの部屋に数台の大きなパソコンが並べられていたが、部屋の中央にあるテーブルに集まった一騎たちはシールや付箋の貼られた一枚の地図を見せられる。

 

「現在、僕たちは空也さんが現れる場所を絞り込もうとしています──まず、空也さんが出現した地域はこの地図の赤い点で示されています」

 

「なるほど──じゃあ、この、出現地点に多い青い点は何ですか?」

 

「そちらはレイダーの出現地域です。このことから、レイダーの出現地域に来る、とは思うのですが……」

 

「レイダーを見つける方法がない、と?」

 

説明を受けた一騎の問いに、おっしゃる通りです、と頷く豪志。周りを見ると詩乃と香蓮もどうにもならないとお手上げのようだった。

 

「実際に街中をしらみつぶしに探そうにも、僕たちはご覧の通り少人数ですから」

 

「それじゃあ、僕は街中を走り回っていればいいんですか?」

 

「それでもかまいませんが……出来れば、今日か明日にでもエイムズの施設に潜入してもらえませんか?」

 

「ちょっ、豪志さん、何言ってるの!?」

 

「空也のためとは言え、警察に侵入させる訳には……」

 

驚く香蓮と詩乃だが、それも無理はない。豪志の言うエイムズは複合企業であるZAIA(ザイア)の影響を受けてはいるものの、れっきとした政府機関の一つだからである。

 

「いえ、厳密に言えば政府の敷地内にあるZAIAの施設なので、捕まったとしても精々、興味本位の不法侵入者か産業スパイ程度の扱いで済むでしょう」

 

「いや、そう言う問題じゃ──」

 

「わかりました、お引き受けしましょう」

 

「ええっ!?一騎さん、ホントにいいんですか!?」

 

「まぁ、状況が状況ですし、仕方がないでしょう」

 

「その、ありがとうございます……!」

 

困惑する香蓮と驚きながらも感謝する詩乃だったが、最も驚いていたのは提案したはずの豪志であった。

 

「……まさか、本当に受けてもらえるとは──ともかく、サポートは任せてください」

 

「はい、お願いします。それじゃ、必要な物をメモに書くので……これの調達をお願いできますか?」

 

その辺のホームセンターで買えるようないくつかの物品の書かれたメモを見た豪志が、わかりました、しばらく待っていてください、と言い残して外へと出て行くが、手慣れた様子の一騎に香蓮は不思議そうな表情を浮かべていた。

 

「ねぇ、一騎さん。どうして、こんな危ないことに付き合ってくれるんですか?」

 

「うーん、そうですね……困っている人がいて自分なら何とか出来るかも知れない。なら、やらない理由は無いじゃないですか」

 

「(一騎、如何言う心算だ?)」

 

(言ったままだ……それに、不本意だが、情報を集めるならいずれ行く必要があるはずだ)

 

「……一騎さん、ってかなり普通じゃないですよね」

 

「まぁ、探偵なんてやっている人間は多かれ少なかれそんなものです」

 

当然の問いを投げかけた香蓮に対して内心でゴーストに返答しつつあっけらかんと返す一騎。その返答を受けて疑問が解消されたのか、それじゃ、データ見ときますね、とどこか疲れた様子でパソコンに向かう香蓮を見送る一騎に、ちょっといいですか?、と詩乃が近づいてきた。

 

「ええと、何かありましたか?」

 

「その、これを施設に入った後に使ってください」

 

詩乃が差し出した手の中には一台のライズフォンが握られていた。よく見れば一般的に出回っている仕様とは違い、何やらUSBケーブルのようなものが収納されているようだった。

 

「これは、一体?」

 

「それは空也が私に預けた物で、仮面ライダーの技術を使ってどんなパソコンでもハッキング出来る物らしいんです」

 

「どうしてそんな物を?」

 

「私に預けた理由はさっぱり……でも、一騎さんなら上手く使ってくれるんじゃないかと思って」

 

「……わかりました。じゃあ、お借りしますね」

 

「はい。それじゃ、香蓮さんを手伝ってきます」

 

どうぞ、と差し出す詩乃に断り切れない一騎は申し訳なさそうに受け取ると大事に懐にしまうと、香蓮を手伝うために詩乃が離れたところで一騎は小さくため息を吐いた。

 

「(一騎よ、如何かしたのか?)」

 

(いや、さっきはああ言ったが……どうにも都合が良過ぎる、と思ってな)

 

「(然り、だが、其れは何時もの事だろう)」

 

(それはそうだが……いや、今は奴を見つけることが先決か)

 

作業を進める二人の背を見ながら、どこか奇妙な感覚に困惑する一騎だったが、時間がないことを思い出すと、豪志が戻ってくるまでの間に潜入のための計画を詰めるのだった。

 




●#04について
・スポンサーのマンション
香蓮が出た時点で予想の付いた方もいらっしゃると思いますが、SAOAGGOを知っている方はご存じのあの人です。ちなみに、SAOのキャラが少ないのは作者の趣味です。

・エイムズとザイア
基本的な設定は原典に準じていますが、この辺りの関係性は原典であまり説明されていなかったはずなので、私の個人的な考察が混じっています。設定としてはおおよそ間違っていないはずなので、新装版でも特に変更はしませんでした。

・特製ライズフォン
本作における原作改変の一つです。本来はこのような機能はありませんが、言及されている通り改造されたものです。


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#05

「すいませーん、バイク便でーす」

 

都内にある日本政府の所有するビル──エイムズの施設の存在するこの場所にバイク便に扮して眼鏡をかけた一騎が荷物を抱えて受付に来ていた。

 

「バイク便、ですか?」

 

「はい、えーっと、一ノ瀬さんかその上司に直接、届けるように、って言われてるんですけど……」

 

「今、確認しますね……申し訳ありませんが、一ノ瀬は入院しておりまして、上司の相武も所用で出かけておりますので、お荷物をお預かりしてもよろしいでしょうか?」

 

「あー、困ったなぁ……いや、直接じゃないとダメだ、って言われてて……オフィスかどっかで待たせてもらえませんかね?」

 

いや、流石にそれは、と困惑する受付の女性だったが、なんだかんだと五分近くごねる一騎の態度に辟易したのか、奥のフロアに入らないことを厳命した受付によって一騎は中へと通された。

 

「(流石、腹芸と口八丁は十八番、だな)」

 

(黙れ、お前の出来ないことをやっているだけだ)

 

ゴーストの皮肉にも聞こえる賞賛に素っ気なく返答した一騎はエレベーターが目的の階に到着すると、トイレへと向かい個室に入る。

 

(まずは着替えだな)

 

荷物を開けた一騎はツナギを脱いでエイムズの隊服に近い衣装に着替えると、中に入っていた部品を眼鏡に取り付けてスイッチを入れた。その部品には赤外線でカメラに顔を映りにくくする細工が施されており、多少の違和感はあるが、身元を隠す分には申し分ない物であった。

 

「(では、作戦開始だ)」

 

トイレを出た一騎は真っ直ぐにライズフォンを使ってロックを解除した非常階段へと入ると、そのまま目的の階まで移動して一際大きな部屋──サーバー室へと向かった。

 

(残り時間は……何とかなりそうだな)

 

サーバー室へ入った一騎はその中の一台にライズフォンを接続させると、プログラム通り自動的にハッキングを開始したライズフォンの画面にはダウンロードまでの残り時間が表示されていた。

 

「(此の時間、もどかしいものだな)」

 

(ああ、だが、それよりも──)

 

「(然り、敵だ)」

 

「ここで何をしている!?──君は……!?」

 

気配を感じていた一騎はかけられた声に手を上げながら振り向くと仮面ライダーバルカンがショットライザーを構えていた。しかし、銃を向けた相手がつい二時間ほど前にレイダーに立ち向かった青年だったと気づいたバルカンの殺気が少し和らぐのを感じていた。

 

「(倒すか?)」

 

(いや、確かめたいことがある)

 

「ここで何を──」

 

「──僕はある人のために仮面ライダーを探しています」

 

「──何だと?」

 

「そのためにレイダーを見つけたいんです──見逃してもらえませんか?」

 

「……見つけて、どうするつもりだ?」

 

「仮面ライダーを解放します」

 

「……そうか」

 

仮面に隠されて表情の見えないバルカンの問いかけに真っ直ぐ視線を返して答える一騎。その返答を受けてバルカンはおもむろに銃を降ろすと何処からか取り出したUSBメモリを一騎に投げ渡した。

 

「これは?」

 

「ZAIAの所有するレイドライザーの工場の情報だ。レイダーが必要ならこの情報を使え」

 

「っ!?……そんな物もらっていいんですか?」

 

「ああ、俺はZAIAのやり方が気に入らないんでな。外にいる君たちでこの情報を役立ててくれ」

 

ありがとうございます、と頭を下げる一騎に、じゃあな、と言ってバルカンが部屋を出る。残された一騎はダウンロードが完了したライズフォンを回収するとざっと中身を確認した。

 

「(一騎、確認は出来たか?)」

 

(ああ、大体わかった、が……嫌な感じだ)

 

「(如何した?問題でも在ったか?)」

 

(いや、気にするな、俺の考え過ぎかも知れん……ともかく、ここから出るぞ)

 

何事かを確認した一騎は嘆息しつつも荷物を回収して非常階段から外へと出ると、そのまま止めておいたバイクに乗って尾行を警戒しながら拠点へと戻るのであった。

 




●#05について
・相武(あいぶ)
バトルレイダー隊の隊長で仮面ライダーバルカンですが、メインキャラではないので作中ではふりがなを振りませんでした。ちなみに、名前の由来は原典をイメージしてI'mからの連想です。
I'm→アイム→相武

・一騎の十八番
Vol.1から度々見せている一般人への擬態技術と変装です。これは一騎が目立たずに転生者を探すために磨いた技術で基本的には超常的な力を用いない人間が訓練でできる範囲をイメージしています。描写についてはスパイの出てくる映画や海外ドラマなどで比較的考証のしっかりしている作品を参考にしました。

・バルカンの行動
違和感を感じた方もいらっしゃるかもしれませんが、作者のミスではありません。詳しくはVol.8を最後まで読んでいただければ違和感を払拭できると思いますが、どうしてもミスだと思った場合は作者へのメッセージかツイッターなどで聞いてください。


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#06

情報を得てから数時間後、夜の帳の降りて来た道をバイクで走る一騎。ライズフォンにつないだイヤホンマイクでグループ通話をして状況を説明しながら走る一騎は目的地──地図では森に囲まれた廃工場となっている場所へと向かっていた。

 

『一騎さん、そのエイムズの隊長は信頼してもいいんですか?』

 

『詩乃さん、その話はさきほどもしましたが、他に情報も無い以上、一騎さんに工場を調べてもらうしかないでしょう』

 

『でも、一騎さん一人で大丈夫なんですか?いや、わたしが行っても何も出来ないですけど……』

 

「詩乃さんも香蓮さんも心配してくださってありがとうございます。でも、あくまで内部の写真を撮って現物を確認してくるだけですから……っと、そろそろ着くので、一度、切りますね」

 

目的地が近づいたため、通話を切った一騎は近くの森でバイクを止めると、周囲を警戒しつつ目的地へと歩き出した。

 

「(抑々、バトルレイダーでは我らを倒せぬがな)」

 

(油断の出来る戦いなどない……それに、今回はなおさらだ)

 

「(然り、だが、少々、警戒し過ぎではないか?)」

 

(今回は妙な違和感がある……俺の気のせいかもしれんがな──っと、あれが目的地か)

 

内心でゴーストと相談をしつつ歩く一騎が目的地にたどり着くと、目の前には封鎖されているはずの廃工場から薄っすらと灯りが漏れており、周囲には警備員らしき姿も確認できた。

 

「(ふむ、悪党の成す事は何時の世も変わらんな)」

 

(同じ人間だ、どこもそうは変わらんさ……何かに歪められない限りはな)

 

「(然り、では、歪みを正しに行くぞ)」

 

(ああ、ここからは俺たちの時間だ)

 

小さく頷いた一騎は姿勢を低くして静かに走り出すと、そのまま懐から取り出した小石をヘルファイアで強化した指弾を警備員の一人に撃つ。強化された小石は勢いよく胴体に命中すると警備員は気絶した。

 

「うっ」

 

(一つ)

 

「(動く気配は無い……練度は低いようだな)」

 

(銃やアーマーも無い……あくまで民間の警備会社、と言うことか?──いや、単に油断しているだけ、か)

 

周囲を警戒しつつ倒れた警備員の装備を調べた一騎は警備の弱さに違和感を覚えるが、懐に入っていたレイドライザーとバトルレイダーのプログライズキーを見て銃刀法に配慮した形だと納得した。尤も、レイドライザーが現行法で裁ける装備かどうかは別の話であるが。

 

(ともかく、現物の確保は出来たな)

 

「(残るは写真だ……だが、問題は無いだろう)」

 

(油断は出来ん……では、中を見るぞ)

 

持ってきていた道具で警備員を縛り上げて事務所らしき部屋へのドアを開けた一騎の前にはいくつか積まれた木箱が存在していた。その中の一つの蓋を開けてみると中にはレイドライザーが詰められていた。

 

(物はある……なら、工場は奥の方か)

 

「(然り、幾つかの気配を感じる)」

 

(よし、行くぞ)

 

木箱に詰まったレイドライザーの写真を撮った一騎はこっそりと工場のあるであろう奥へと続く扉を開けると予想通り、数台の生産装置が稼働しており、ライン上にはいくつものレイドライザーが流れていた。その場には何人かの警備員もいたが、隠れて写真を撮る一騎には気づいていなかった。

 

「(では、(転生者)を誘き出すか)」

 

(ああ……だが、本当にこれで来るのか?)

 

「(今更だろう。怖じ気付いたか?)」

 

(違和感がある、それだけだ──行くぞ)

 

小さな言い合いを終えた一騎はゴーストライダーに変身して飛び出すと、強化したチェーンを延ばして生産ラインを叩きつぶした。

 

「敵襲だ!?」

 

「野郎っ!──何っ!?」

 

ゴーストライダーに気づいた一人が叫ぶと五人ほどいた警備員が全員バトルレイダーへと変身する。その中の先走った一人がゴーストライダーを銃撃するが、びくともしていなかった。

 

「何だあの化け物は!?」

 

「撃てっ!……撃ち方止め!」

 

連続して響くトリデンタの発砲音。ゴーストライダーの居た場所が発砲による硝煙の煙で見えなくなったころ警備員のリーダーらしき男の合図で銃撃が止んだ。

 

「流石に、これだけ撃てば──」

 

「無駄だ」

 

「なっ!?」

 

硝煙の煙が晴れると大量の銃弾を叩き込まれたはずのゴーストライダーは無傷であり、そのまま伸ばしたチェーンで驚愕するバトルレイダーたちをまとめて縛り上げる。

 

「ぐっ……おい、誰か動けるか!?」

 

「無理、だっ!」

 

「少し大人しくしていろ」

 

「ぐわっ!?」

 

身動きの取れないバトルレイダーたちに握りこんだ右の拳を叩き込むゴーストライダー。その右ストレートをまともに受けたバトルレイダーたちはまとめて壁へ叩きつけられた。

 

「ぐっ……くそっ」

 

「さて、奴が来るまで待たせてもらうか」

 

倒れたまま動けないバトルレイダーたちを放置したゴーストライダーは、世界の歪みが生み出したレイドライザーを破壊し始める。そして、先ほどの木箱を含めてあらかた破壊しつくしたゴーストライダーはふと違和感に気づく。

 

(奴の反応はあるか?)

 

「(否、何処にも無い……此れは、如何言う事だ?)」

 

(……やはり、早計だったか。こいつらを倒して退くぞ)

 

「ぐあぁっ!?」

 

ゴーストライダーが手をかざすとバトルレイダーを縛るチェーンが爆発し、壁ごとまとめて吹き飛ばされたバトルレイダーたちは変身が解除される。しかし。

 

(帰るぞ──っ!?)

 

「動くな!エイムズだ!」

 

空いた穴から外へ出たゴーストライダーを待っていたのは十人近いバトルレイダーを従えて銃を構えたバルカンの姿であった。上空にはヘリが飛んでおり、よく見ればその中にはカメラを抱えた人物の姿も見えた。

 

「(謀られたか!?──我が気付かぬとは、一体……!?)」

 

(何やら妙なことになって来たな……)

 

「お前がゴーストライダーだな?!」

 

「ならばどうする?」

 

「決まっている!世界の破壊者ゴーストライダー!貴様を逮捕する!!」

 

答えたゴーストライダーに対して銃を構えるバルカンとそれに続くバトルレイダー。十対一、本来ならば圧倒的に不利な状況でいつも通り悠然と構えていたゴーストライダーはその心中でこの状況に困惑しつつも一つの結論を出していた。

 

(決まりだな──こいつは猟犬だ)

 

「(何?……だが、今も奴に刻印の反応は無い。如何言う事だ?)」

 

(この世界で俺たちを陥れる動機があるのは猟犬だけだ。ならば、刻印についても何か仕掛けがあるはずだが……今は退くしかない)

 

「っ!?──撃てっ!」

 

その場を立ち去るべく歩き出したゴーストライダーに向けてバルカンの合図で一斉に銃弾が放たれる。だが、それを意に介さずに歩き続けたゴーストライダーは工場から少し離れて立ち止まった。

 

「くそっ!こうなったら──」

 

「悪いが、捕まるわけにはいかんのでな」

 

「な──ぬわっ!?」

 

銃撃が効かないことに業を煮やしたバルカンが必殺技を撃とうとするが、その前にゴーストライダーがおもむろにチェーンを伸ばしてエイムズを薙ぎ払うと呼び寄せたヘルバイクに乗って空へと走り去るのであった。

 




●#06について
・レイドライザーと法律
原典ではヒューマギアに関する法律はあっても、地の文で言及されているようにレイドライザーの所持自体は法律違反という描写はないはずです。ただ、どんな道具を使っても器物損壊や傷害罪などは成立しますし、兵器として認識されていれば凶器として裁く法律もできるとは思います。

・世界の破壊者
今回の猟犬の発した言葉ですが、あながち間違いと言う訳ではありません。詳しくはのちのエピソードで説明されますが、今作におけるゴーストライダーを表す言葉の一つです。

・猟犬の罠
実際に今作のゴーストライダーを相手にした場合、このように現地の人間の協力を得られない状態に追い込むか、現地人を矢面に立たせることでゴーストライダーが全力を出せない状態を作ることが有効な戦法の一つです。


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#07

「(一騎よ、次は如何する?)」

 

(一度、彼らの元へ戻る……何があるか分からんがな)

 

工場から脱出した一騎は、報告は明日、と豪志から連絡を受けたため、翌朝、指定された時間になってから拠点のマンションへと向かった。

 

『どうぞ、鍵は開いてますから、上がってください』

 

「(鬼が出るか蛇が出るか、と言ったところか)」

 

(無駄口を叩くな……まぁ、理解は出来るがな)

 

インターホン越しの豪志の声に違和感を感じ、内心で辟易した一騎が部屋に入り、リビングへ入るとその場にいた詩乃、香蓮、豪志の三人の視線が一騎へと向けられた。おはようございます、と挨拶する一騎に対して、ぎこちない挨拶を返す三人、その視線にはどこか窺うような感情が込められているようだった。

 

(これは、何かあったな)

 

「(気を抜くな、一騎)」

 

「これが、昨日のデータとレイドライザーです」

 

「……どうも、ありがとうございます」

 

「いえ、ところで、皆さんは何か僕に聞きたいことがあるんじゃないですか?」

 

「「「!?」」」

 

素っ気なく返事をする豪志に対して問いを返す一騎。その言葉に驚く三人だったが、意を決した香蓮が、これを見てください、とスマホの画面に映る動画を見せる。そこには昨日のエイムズと対峙するゴーストライダーの姿が映っていた。

 

『──世界の破壊者ゴーストライダー!貴様を逮捕する!!』

 

「……これは」

 

「昨日のニュースで流れた映像です。こっちは今朝のです」

 

続いて見せられた映像は昨日の昼間のトリデンタを撃つ一騎の後に爆発して吹き飛ばされるバトルレイダーを合成した一連の映像だった。そして、映像の終わりには一騎がゴーストライダーとして指名手配されている、と言う情報が付随されていた。

 

「(やはり、謀られていたか)」

 

(なるほど。これは少々、分が悪いか)

 

「一騎さん、これ、どう言うことか説明してもらえますか?」

 

一騎を見つめる三人の視線。だが、その中には疑念だけでなく、一騎を心配するような感情が含まれていることを読み取った一騎は状況を理解して大きくため息を吐いた。

 

(言い逃れは不可能、か……話すしかないな)

 

「(……良いだろう。こうなっては仕方あるまい)」

 

「──わかりました。全て話しましょう」

 

ゴーストとの会話を終えて、少し長くなりますが、と前置いた一騎に対して三人の真剣なまなざしが注がれる。

 

「まず、僕はゴーストライダー、転生者から刻印を回収するために外の世界から来ました」

 

「転生者……?」

 

「はい、奴らは元々、僕の世界の住人でした。しかし、刻印を使って僕の世界から存在するためのエネルギーを奪って超常の力──特典とそれを自由に使える世界を作った、人の姿をした、ある種の怪物です」

 

「そんな、同じ人間を怪物だなんて……」

 

「怪物ですよ。くだらない願いのために自分の世界とそこに住む人々を、死ぬことも出来ない苦しみで満たす。そして、身勝手に歪めた世界をまがい物の力で蹂躙する──そんな存在が本当に人間と言えますか?」

 

淡々としているが、どこか深い憎しみを感じさせる一騎の語りに三人は言葉を失う。そして、そんな三人の姿を見る一騎の視線には薄っすらと哀れみのようなものが含まれていた。

 

「現に、この世界は存在するはずのない、仮面ライダーとレイダーによって混乱が引き起こされ、皆さんのように戦いに巻き込まれる人間も少なくはないでしょう」

 

「ちょ、ちょっと、待ってください!あの、その言い方だと、この世界が、その転生者?に作られた世界みたいに聞こえるんですけど……?」

 

「ええ、香蓮さんのおっしゃる通りです」

 

「「「!?」」」

 

一騎の返答に驚愕する三人。特に、質問したはずの香蓮のショックは大きかったのかその顔は薄っすらと青ざめていた。

 

「驚くのも無理はありません。ですが、転生者──おそらく、今は飛電空也と名乗る人物によって、僕の世界で作品として語られる世界を元に作られた世界です」

 

「そんな……彼が、この世界を……?」

 

「空也が、転生者……?」

 

「……一騎さん、それって、わたしたちは創作上の実在しない人間、ってこと、ですか?」

 

三者三様にショックを受けていたが、香蓮の一言に三人の視線が一騎へと集中する。

 

「いえ、皆さんは創作に近い世界を元にしていますが、れっきとした今を生きる人間です。そして、そんな人々を好き勝手にしていい権利は誰にもありません──それだけは覚えていてください」

 

「……そう、ですか……ん?あの、刻印が世界を作った、ってことは特典がなくなったらどうなるんですか?」

 

一騎の言葉に納得した香蓮だったが、ふと思い立った疑問を一騎にぶつける。そして、詩乃と豪志も同じ疑問に行き当たったようであった。

 

「そうですね……おそらく、世界は緩やかに終わりに向かって行くでしょう」

 

「そんな!?──それじゃ、わたしたちはどうすれば……?」

 

「少し待ってください。緩やかに、と言うのはある程度発展しきった世界が衰退して行く、と言う意味です」

 

「えっと、つまり?」

 

「この世界なら、長ければ百年程度の猶予はあると思います……もっとも、その間に戦争やそのほかの要因で滅びる可能性もないとは言えませんが」

 

「……それは、普通の世界と何が違うんですか?」

 

「そうですね……ある程度の猶予が決まっている、ということ以外は感じにくいでしょうね」

 

終わりに向かっていく、と言う一騎の言葉に動揺する三人だったが、その猶予と内情に複雑な表情を浮かべていた。

 

「その、猶予を延ばしたり、滅びを防ぐ手段は無いんですか?」

 

「基本的にはありません。しかし、科学の発展によっては恒久的な存続の可能性も極僅かですが、あるでしょう」

 

続く香蓮の質問で判明したわずかな希望に三人の表情には薄い安堵が見えた。

 

「そうですか……じゃあ、続きをお願いします」

 

「はい。僕はそんな転生者の力の源である刻印を回収して、僕の世界を()()()()()()()()ためにゴーストライダーとして戦っています」

 

「正しく、終わらせる……?」

 

一度は納得した香蓮は一騎の言葉に困惑を深める。口には出さないが、詩乃と豪志も同じく困惑しているようだった。

 

「ええ、僕の世界はエネルギーを奪われた曖昧な状態で終わることも出来ません。そのため、住人は永遠に苦しみ続けるでしょう。だから、僕は刻印を回収して僕の世界を元に戻したいんです」

 

「あの、元に戻るなら、その世界は終わらないんじゃないですか?」

 

「いえ、無くなったものは元には戻りません。ですから、僕の世界は一度、生まれなおす必要があるんです」

 

「そう、だったんですか……」

 

予想以上の壮大な話ではあったが、一騎の戦う理由に言葉を失う三人。そんな三人に対して一騎は柔らかくほほ笑んだ。

 

「さて、これで僕の話は終わりです。それじゃ──」

 

「ちょっと待ったぁ!!」

 

部屋を出るために一騎が立ち上がろうとしたところで突如、部屋のドアを力強く開けて黒い長髪で小柄な女性──神崎(かんざき)エルザが勢いよく入って来た。

 

「話は隣の部屋で聞かせてもらった!転生者狩り、私にも参加させてもらおうじゃないの!」

 

「ピ──エルザさん!?何言って──いや、まぁ、そうなるよね……」

 

「いーじゃん別にー。それより、初めまして外狩一騎さん、私の事は──知ってるよね?」

 

「ええ、神崎エルザさん、ですよね。それで、先程の言葉の意味は?」

 

いきなり入って来たエルザの発言に頭を抱える三人だったが、そのまま挨拶を済ませたエルザに一騎は確認の問いを返すとエルザは楽しそうに笑った。

 

「そのままの意味。だって、転生者って怪物を正義の名の下にぶちのめせるんでしょ?そんな楽しそうなこと参加しないともったいないじゃない!」

 

「──一騎さん、こうなった彼女は止められません。なので、僕も協力しましょう」

 

「はぁ……この二人だけだと不安なので、わたしもお手伝いします。これも何かの縁、ですからね」

 

「……皆さん、ありがとう、ございます──詩乃さんはどうしますか?」

 

言い方は違えども口々に協力を申し出る三人に頭を下げて礼を言う一騎。そして、顔を上げた一騎の視線は押し黙る詩乃へと向けられた。

 

「私は……空也がどうしてこの世界を作ったのか聞きたい──だから、彼を信じるために協力させてください!」

 

「……わかりました。それじゃあ、改めて──皆さん、よろしくお願いします。それで、これからの事なんですが──」

 

自らの言葉で協力を表明した詩乃。全員の覚悟を聞いた一騎はひとまずの状況を整理するところから始めるのだった。

 




●#07について
・転生者と刻印の関係
一騎の語った通りですが、少し補足を加えると、転生者たちは一騎と同じ世界の人間で刻印の力を使って特典と世界を作り出して維持しています。しかし、彼らの特典と転生先の世界を維持するエネルギーは転生元の世界とそこに生きる人間を永遠に停滞させて絞り出している、ということです。

・転生先の世界
基本的には転生者が選んだ創作の作品世界を元に作られたことになっていますが、元々、存在していない世界のため、世界の核となっている刻印がなくなれば数十年~百年ぐらいでエネルギーが尽きて滅びてしまいます。しかし、その世界の技術の発達によって世界を維持するエネルギーの生成や変換技術が完成すれば更なる存続が可能です。

・世界を正しく終わらせる
刻印を全て回収すると一騎の世界は一度、完全に滅びます。その後、ゼロから再構成されますが、その際に一騎がゴーストライダーのままである場合は再構成される世界から一時的に弾かれることになります。実際にどうなるかはシリーズ全体の完結までお待ちください。

・神崎エルザ登場
例のスポンサーです。正直に言うと出番はここだけですが、書いててめちゃくちゃ楽しい&動かしやすかったので、いつか別作品でメインにしたいですね。


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#08

 

『聞こえますか、一騎さん』

 

「はい、大丈夫です。無事に着きました」

 

イヤホンから聞こえる香蓮の声に答えた一騎はゼロワンについて詳しく調べるために飛電製作所の封鎖された研究施設へと来ていた。施設の周囲はフェンスで囲まれていたが、難なく潜り抜けた一騎は監視装置などがない事を確認する。

 

「こちらは大丈夫そうですが、豪志さんたちの方から何か聞いてますか?」

 

『ええっと……今は分析待ち、だそうです。詩乃ちゃんも学校がありますからね』

 

今は二人で頑張りましょう!、と意気込む香蓮に対して、そうですね、と微笑みながら返す一騎。レイドライザーの分析が終わるまでに情報を集めるべく窓の一部を焼き切って内部へと潜入した一騎は、ライズフォンを取り出すと内部の地図を見ながら目当ての部屋へと向かった。

 

(さて、この部屋のはずだが、どう探すか……)

 

「(一騎、其処の壁の先は空洞だ)」

 

(なるほど──見つけた)

 

『オーソライズ!』

 

地図と風の音を照らし合わせた一騎はその壁にライズフォンを向けると、電子音声とともに壁が横にスライドして隠し通路が姿を現した。

 

『一騎さん、見つかりましたか?』

 

「はい、何とか。でも、幼馴染だけあって詩乃さんの情報は正確ですね」

 

『そうなんですか?わたしはデータを集める担当なのであまり分からなくて……』

 

「まぁ、そうですよね──では、これから部屋に入ります」

 

『わかりました、気を付けてくださいね』

 

香蓮に報告しつつ隠し通路を進んだ一騎が突き当りの扉の前を開けると、その中には一台の大型の3Dプリンターと制御端末があるだけだった。

 

(端末、か……さて、何が出る──いや、何を()()()()()()?)

 

端末に近づいた一騎がライズフォンのケーブルを繋ぐと内部の資料が閲覧できるようなった。そして、ダウンロードしつつ資料を眺める一騎はその中にゼロワンのシステムに関する資料を見つけた。

 

(やはりあったか。しかし、こうもこれ見よがしに置かれては、な)

 

「(一騎、何故、在ると確信した?)」

 

(直感、いや、簡単な推理だ……認めたくはないが、全て()の掌の上だったようだ)

 

「(?其れは如何言う──)」

 

意味だ、とゴーストが問いかけようとしたところで急にライズフォンの呼び出し音が鳴り響く。画面を見ると、香蓮からの着信だったため、一騎は通話ボタンを押す。

 

「香蓮さんですか?資料を見つけました──ゼロワンのAIに関する記述もあります」

 

『本当ですか!?──それより、早く戻ってください!』

 

「?何かあったんですか?」

 

『エルザさんから連絡があって、豪志さんがレイドライザーを持って出て行った、って!』

 

「──なるほど。とりあえず、理由は分かるかもしれません」

 

『どう言うことですか!?』

 

困惑した様子の香蓮だったが、端末で資料を確認していた一騎はゼロワンが作られた目的を知ったことで豪志の行動の理由に見当がついていた。

 

()()()()()()()()()は高度に発達したAIへの対抗策として作られました。なので、おそらく本能──いえ、システムの根幹として暴走するAIを狙うはずです」

 

『暴走するAI、ですか?……それと、どんな関係が?』

 

「はい、どうやらAI──ザイアスペックやそれに類するデバイスを持つ人間がレイドライザーを使うことが彼の現れる条件だったようです」

 

『!?今、調べてみますね……これは、確かに、その可能性は高そうです!──ってことは!?』

 

「つまり、専門家からそのこと聞いた豪志さんは、エルザさんが気づく前に自分が囮になるつもりだと思います」

 

まぁ、あくまで僕の想像ですが、と一騎が結論付けたところで、隠し通路の入り口近くから爆発音が鳴り響いた。

 

『今の音は!?』

 

「エイムズでしょう。ここは何とかするので、香蓮さんは豪志さんの居場所を見つけてください」

 

『は、はい、わかりました。一騎さん、上手く逃げてくださいね!』

 

「はい、なんとかやってみます……さて、こちらも急ぐとするか」

 

通話が切れたタイミングでバトルレイダーが雪崩れ込んで来る足音を聞いた一騎は状況を打破するべく動き出すのだった。

 


 

(これは……マズいですね)

 

人気のない港に鳴り響く銃声と爆発音、倉庫に吹き飛ばされたバトルレイダー─―豪志は内心で焦っていた。それは、立ち上がった豪志の目の前には推論が合っていたことを示すようにゼロワンの姿があったからである。

 

「ですが、ただ倒れる訳にはっ!」

 

『ハード!』

 

「……」

 

銃撃で足止めをしつつ距離を取った豪志は焼け石に水と知りつつも足を止めて必殺技の準備をする。そんな豪志の内心を知ってか知らずかクラスターセルで銃撃を防いだゼロワンは感情を感じさせない動きで豪志の方を見ていた。

 

「さぁ、来い!」

 

「……」

 

距離を取りつつ睨み合う豪志とゼロワン。じりじりと下がりつつゼロワンの動きを窺う豪志に対してゆらり、とゼロワンの体が動くとクラスターセルが小さなバッタの形となって豪志に襲い掛かる。

 

「っ──そこっ!」

 

『インベイディングボラスト!』

 

ゼロワンのクラスターセルを見た豪志は横っ飛びしつつカウンターで必殺技を放つ。銃口から放たれたエネルギーは無防備なゼロワンへと突き刺さる──はずだった。

 

「なっ──」

 

着地しつつ驚愕する豪志だが、それも無理はない。インベイディングボラストはバッタの群れの一部が盾となって防ぎ、残りのバッタが豪志に殺到したからである。

 

「ぐあぁっ!」

 

転がりつつも赤いエネルギーバリアで防ごうとした豪志だったが、そのまま勢いよく反対側の入り口まで吹き飛ばされて変身が解除されてしまう。

 

「ぐぅ……流石に、限界ですかね……」

 

「……」

 

倒れて動けない豪志に対して悠然と近づくゼロワン。あとは死を待つばかりだった豪志の耳にバイクの爆音が響く。そして。

 

「どうやら、間に合ってもらえた、みたいですね……」

 

飛び込んできたバイクが燃え上がりつつ変身、ゼロワンの直前でブレーキをすると、前輪を軸にして後輪を持ち上げるターン──所謂ジャックナイフターンと呼ばれるテクニックである。そして、その途中で持ち上がったヘルバイクの後輪で勢いよくゼロワンを倉庫の奥へと弾き飛ばした。

 




●#08について
・封鎖された飛電製作所
社長である転生者=ゼロワンが暴走したため、捜査の手が入り、一騎が来た時点では封鎖されていました。原典の町工場とは違い、AIに対抗するための研究施設としての側面が強く、製作所が併設された研究所のようになっています。

・端末と3Dプリンター
原典ではドライバーや各種装備を作るために使われていたアレです。しかし、この世界では元々、転生者がメタルクラスタまでのプログライズキーと装備を持っている状態から始まったため、戦いが始まってから使われることはなかった可能性があります。

・掌の上だったようだ
答え合わせについては次回で行われますが、これまでのシーンだけでも推理は可能なはずなので、読み返して推理してみるのも面白いかもしれません。

・囮になる豪志
ビビりな彼には珍しい行動のように見えますが、<エルザが死ぬなら自分も死ぬけど、出来れば死にたくない>というタイプなので、ゴーストライダーという保険もありますし、これぐらいの行動はするんじゃないかと思い、この形にしました。

・ジャックナイフターン
拙作においてたまに出る細かすぎて伝わりにくい動きの一つですが、個人的には仮面ライダークウガとか海外の映画でやってるイメージがあって使いました。分かりにくい方はネットで検索していただくか、動画サイトでバイクスタント系の動画をご覧になっていただくと私が採用した理由がわかると思います。


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#09

 

「まったく……大した度胸、いや、献身と呼ぶべきか」

 

「ええ、彼女を愛してますから」

 

ヘルバイクから降りたゴーストライダーは呆れたような態度で倒れた豪志に目を向ける。倒れつつ力強い返事を返す豪志に対してゴーストライダーは小さくため息を吐いた。

 

「──まぁいい。下がれるようなら下がれ。ここは戦場になる」

 

「そう、ですね……僕も死にたくはないので、下がらせてもらいます」

 

ゴーストライダーに引かれて立ち上がった豪志が倉庫の外へふらふらと歩いて行く姿を横目で見送ったゴーストライダーは、倉庫の奥──吹き飛ばされて立ち上がったゼロワンを見据える。

 

「来い、哀れな人形よ──いや、既にこの言葉すら届かんか」

 

「……」

 

憐れむようなゴーストライダーの言葉にも無反応なゼロワンは防衛本能──基本ルーチンに従ってクラスターセルのバッタの群れをゴーストライダーに向けて解き放つ。そして、殺到するバッタの群れにゴーストライダーが飲み込まれた。

 

「無駄だ、意思無き力に俺は倒せん」

 

地獄の底から響くようなゴーストライダーの声が群れの中から聞こえると、突如、群れが燃え上がり、全てのバッタが融解しただけでなく形を失った飛電メタルが蒸発していた。

 

「では、こちらの番だ」

 

「……」

 

宣言とともに走り出すゴーストライダーが左手でチェーンを伸ばすと、それを受け止めたクラスターセルの盾が大きく後ろに押し出される。勢いよく迫るゴーストライダーに脅威を感じたのか感情が無いはずのゼロワンは焦ったように残りのクラスターセルをかき集めてアーマーを再構成する。しかし。

 

「遅い」

 

再構成の隙をついて巻きついたチェーンがゼロワンの体を宙に浮かせ、ゴーストライダーの元へと引き寄せるが、ゼロワンは拳を振りかぶって交差する瞬間のゴーストライダーの顔面に叩きつける。

 

「言っただろう、意思無き力では倒せん、と」

 

叩き込まれるはずだったゼロワンの拳は右手の指弾で逸らされていた。そして、そのまま体を捻ってガラ空きのゼロワンの胴体を右の拳で打ち上げると、天井に当たる直前でチェーンを操って無防備なゼロワンを目の前の地面に叩きつけた。受け身の取れないゼロワンはダメージの蓄積が許容値を超えたのか立ち上がることもなくそのまま地面に倒れ伏す。

 

「──ゲホッ、ゴホッ」

 

「まだ生きていたか。だが、それもこれまでだ」

 

変身が解除されて倒れ伏す少年──飛電空也は咳き込んでいるが、蓄積した疲労とダメージでまったく動けず、悠然と近づくゴーストライダーにも気づかないようだった。

 

「自らの浅慮を悔いるがいい──っ!?」

 

空也を掴んで顔の近くまで持ち上げたゴーストライダーは贖罪の眼(ペナンスステア)を覗き込ませようとするが、突如、横から放たれた銃撃によって空也は頭を撃ち抜かれる。

 

「(一騎、刻印を奪われた!)」

 

「何だと……!?」

 

「油断大敵だぜ?ゴーストライダーさんよ」

 

ゴーストライダーが銃撃と声の方向を見ると、そこにはゴーストライダーにショットライザーを向けるバルカン、アサルトウルフの姿があった。

 

「猟犬が狼を使うか」

 

「ハッ、そうやって油断してると足元掬われるぜ?」

 

「ああ、お前がな」

 

「何言って──うおっ!?」

 

ゴーストライダーの言葉に油断なく返したはずのバルカンだったが、背後のヘルバイクから飛んできた短いチェーンに足を引っかけられて態勢を崩したところにゴーストライダーの伸ばしたチェーンが叩きつけられる。

 

「逃がさん」

 

「ぐ、この──おあぁっ!?」

 

立ち上がろうとするバルカンだったが、伸ばしたチェーンと足元のチェーンが繋がって絡め捕られる。そして、そのまま天井近くまで持ち上げられたバルカンは先程のゼロワンのように思い切り地面に叩きつけられた。

 

「ぐ、う、流石はゴースト──」

 

「黙れ」

 

「──ぐあぁっ!」

 

何とか耐えていたバルカンが立ち上がって喋り出そうとするが、その前にゴーストライダーはヘルファイアでチェーンをバルカンごと爆発させた。

 

「もう終わりか?猟犬──いや、朝田詩乃」

 

「(一騎、其れは如何言うことだ!?)」

 

「へぇ、知ってたのか?」

 

驚愕するゴーストだが、それも無理はない。ゴーストライダー──一騎の問いかけた先、晴れた煙の中にはその言葉通りショットライザーを構えた詩乃の姿があったからである。

 

「違和感は最初からあったが、確信したのは製作所だ」

 

「ありゃ?演技は完ぺきだったと思ったんだがなぁ」

 

「演技は問題ない。だが、()()()の存在と情報の精度……流石に都合が良すぎだ」

 

わざとらしいオーバーリアクションを取る詩乃──猟犬に対して指摘とともにゴーストライダーが放り投げたのは詩乃が渡したライズフォンだった。

 

「なるほど、そりゃそうか。ま、刻印は頂いたから何でもいいけどな」

 

「逃がすと思うか?」

 

「ハッ、逃げると思うか?」

 

『ランペイジバレット!』

 

猟犬を睨みつけて問いかけるゴーストライダーに対して、猟犬はショットライザーを撃ちつつポケットからランペイジガトリングプログライズキーを取り出した。そして、右手の指先だけでマガジンを回してから、手首のスナップで展開すると左手に持っていたショットライザーに装填する。

 

「何だと……!?」

 

「驚くのは早いぜ!」

 

『オールライズ!』

 

「変身!」

 

『フルショットライズ!』

 

人間の握力を超えた行動に驚愕するゴーストライダーを置いて、放たれた弾丸を受けた猟犬は仮面ライダーランペイジバルカンへと変身を遂げた。

 

「ほぅ、なかなか良いパワーじゃないか?」

 

「(一騎、奴から先程の刻印の力を感じるぞ!)」

 

「なるほど、奪った刻印を武器にしたか……!」

 

「ま、そういうことだ。んじゃ、とっとと死にな!」

 

『スピード!ランペイジ!』

 

ゴーストライダーの指摘をあっさりと肯定したランペイジバルカンは即座にプログライズキーのマガジンを二回回すと引き金を引いた。

 

「まずはコイツだ!」

 

「ぬ──」

 

ショットライザーから蜂の針を模したエネルギー弾が一斉に発射され、撃ち込まれたゴーストライダーは足を止める。

 

「まだまだぁ!」

 

「ぐ、う」

 

続いてショットライザーをベルトに戻し、チーターの力で高速移動したランペイジバルカンが連続でキックを叩き込むとその勢いでゴーストライダーは一瞬怯んだ。

 

「ここだあっ!」

 

『ランペイジスピードブラスト!』

 

止めとばかりにファルコンの翼で飛び上がったランペイジバルカンは頭上からキックを叩き込む──ランペイジスピードブラストと呼ばれる一連の必殺技がゴーストライダーに炸裂した──はずだった。

 

「軽いな」

 

「ま、そりゃ、そうなる──があっ!?」

 

頭上からのキックを左手で受け止めたゴーストライダーはそのままランペイジバルカンを地面に叩きつける。

 

「この──ぐえっ!」

 

ゴーストライダーの腕を振り解こうとするランペイジバルカンだったが、次の動作に移る前に再度、地面に叩きつけられその行動は防がれる。

 

「俺の邪魔ばっか──ごあっ!」

 

今度はプログライズキーを触ろうとするが、全身をヘルファイアに包まれつつ地面に叩きつけられたことで、流石のランペイジバルカンも動きが止まった。

 

「この、いい、加減に──」

 

「これで終わりだ」

 

「ぐおあぁっ!」

 

抗議の声を上げるランペイジバルカンだったが、その言葉を言い終える前に手首のスナップで体を放り上げられると、無防備な胴体へとゴーストライダーの右ストレートが突き刺さって弾き飛ばされた。そして、6mほど先の地面でバウンドして転がるとその先の倉庫の壁に叩きつけられて変身が解除された。

 

「……終わったか」

 

「(然り。だが、妙だ。刻印の反応が消えた)」

 

(消えた?どう言う事だ……!?)

 

ゴーストライダーの呟きに答えたゴーストの言葉に驚愕しつつも倒れた詩乃に近づくゴーストライダー。だが、大きな外傷もなく倒れる詩乃からは刻印の反応はなかった。

 

(猟犬だったことは確かなはずだ……)

 

「(然り、戦いの中では確かに刻印の反応は在った)」

 

(……()で確認するぞ)

 

困惑するゴーストライダーたちだったが、気絶する詩乃の目を開かせてその魂と記憶を贖罪の眼(ペナンスステア)で覗き込む。しかし、その記憶はメタルクラスタが暴走したところで終わっており、この数日間の記憶は存在していないようだった。

 

(これは……刻印も奪われたか)

 

「(然り、残滓は追えるが……完敗、だな)」

 

(ああ……だが、次はない)

 

自身の失策を痛感した一騎はゴーストとともに難敵を殺す決意を固めるとゲートをくぐり、次なる世界へと向かうのであった。




●#09について
・刻印の回収
ゴーストライダーと猟犬では刻印の回収方法が少し違いますが、基本的には相手の魂を奪う=相手を殺すことで刻印を回収することができます。しかし、魂と結びついていない刻印はそのままでは元の世界に戻ろうとするため、猟犬は回収した刻印は即座に引き渡す必要がありますが、いくつかの例外が存在します。

・猟犬の正体=朝田詩乃
初見で気づいた方はおめでとうございます。一応、推理ができるようにそれなりに伏線をばらまいてみたりしたんですが、意外と香蓮の出番が多かったため、惑わされる方もいらっしゃったかもしれません。ちなみに、バルカンの中身は#05から入れ替わっていますが、気づかれない理由はのちのエピソードで明かされます。

・刻印の武器化
本来、猟犬たちの武装は最初に選んだ特典とそれに類するものしか与えられませんが、一部の猟犬は刻印を通じて元の世界からエネルギーを引き出して特典を作り出すことができます。ただし、一つの刻印では作れる特典に限界があるため、回収した刻印をくすねてより強い力を得ようとする猟犬もいます。

・猟犬の謎
今回のエピソードでは他人から奪ったバルカンと強化フォームを使っていましたが、本人の特典は不明ですし、どうやって逃げたのかはここでは説明しません。詳しくはのちのエピソードで説明しますが、一応、知識の多い方や勘の良い方は思いつきそうなので、推理してみるのも面白いんじゃないかと思います。

●タイトルについて
Hazard to the World:世界にとっての災害
・多少は意訳が入っていますが、これは読んで字のごとく世界の脅威となっている転生者とゴーストライダー、猟犬のトリプルミーニングです。
・この日本語を直訳する場合は普通なら「Disaster」か「Calamity」を使うところをあえてこの言葉を選んでいる意味がありますが、気になる方はVol.10まで待っていただくか旧版の#10をご覧いただければわかると思います。

●転生者について
飛電空也(ひでん くうや)(16歳/男)
・ゼロワンに変身してレイダーと戦う高校1年生で転生前は男子中学生
・ヒロインは朝田詩乃(シノン)。幼馴染で事件に遭遇したころから守っている
・GGOではシノンと一緒にプレイすることが多いが、ピトフーイやエム、レンとも遊ぶ
・キリトたち原作キャラがレイダーとして襲ってきたことで苦戦
→起死回生としてメタルクラスタホッパーを使うが、ブレードがないため暴走
→全員を倒すが、勢いあまって殺しかけたことで絶望
→変身したまま彷徨う災害として恐れられている
・2025年6月に詩乃とGGOを始める
・HNのナイトの由来:ナイト=ない+夜+守る者←空はない、也は夜の変名だが、シノンを守る者という意味を持たせていた


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Vol.9:Nobody Eight
#01


『ジャンプ!オーソライズ!』

 

夜の路地裏に響く電子音声。その音の発生源は死んだ魚のような目をした黒髪の少年──比企谷八幡(ひきがやはちまん)の腰に巻かれたベルト──飛電ゼロワンドライバーであった。そして、ライジングホッパープログライズキーを構える八幡の視線は目の前に立つゴーストライダーへと向けられていた。

 

「……()()、お前か」

 

「何言ってんだ?……まぁ、いいか──変身!」

 

『プログライズ!』

 

呆れ果てたような口調のゴーストライダーに対して八幡は訝しみつつも展開したプログライズキーをドライバーに差し込むと、上空から落ちて来たバッタ型のライダモデルがアーマーとなって展開され、八幡は仮面ライダーゼロワン、ライジングホッパーへと変身するが、ゴーストライダーはその姿をただ眺めているだけであった。

 

「来ないのか?なら、こっちから行くぞっ!」

 

「(一騎、()()()とは言え敵は討たねばならん)」

 

(ああ、分かっている、が……まったく、儘ならん、な)

 

跳びかかるゼロワンを前に辟易しつつ内心で頭を抱える一騎とゴースト。一見、油断にしか見えない姿であったが、圧倒的な実力差を持つゴーストライダーは片手間に相手をしつつ、この戦いの始まりを思い出すのだった。

 


 

猟犬の反応を追ってゲートをくぐった一騎は昼前の廃墟近くに出ていた。白い息を吐きながらライダースジャケットを着て周囲を見渡す一騎はフェンスの向こうに特徴的な台形の建物──ボーダー本部が見えたことで警戒区域近くに出たことに気づくが、その表情はどこか険しかった。

 

(ワールドトリガー、か……()の反応はあったか?)

 

「(否、既に此の世界から出たようだ)」

 

(そうか……痕跡は追えても奴にかかり切り、と言う訳にはいかんか)

 

猟犬がいないことを告げられた一騎は少し落胆するものの、一度、ため息を吐くとバイク用のグローブを嵌めつつ呼び出していおいたバイクに軽く寄りかかる。

 

「(……悪い知らせだ。今回も刻印の反応が弱い。此の周囲には居ないが、用心しろ)」

 

(了解した……まったく、儘ならんな)

 

またもや特殊な状況であることを警告するゴーストに頷く一騎は辟易しつつ、いつものフルフェイスを被ってバイクに乗ると転生者を探して街の中へ向けて走り出した。

 

「(一騎、近付かねば刻印は探せぬが、先ずは如何する?)」

 

(本部にいない、ということはどこかの学校だろう。今の時期、この時間ならまだ授業中のはずだ)

 

「(成程。ならば、我は一つ試す事がある)」

 

(何をするつもりだ?)

 

「(罪の気配から奴を追う。刻印よりも数は多いが、罪の重さを思えば不可能ではあるまい)」

 

(なるほど。確かに、悪人の少ないこの世界なら出来るかもしれんな)

 

「(然り、些か時間は掛かるだろうが、何人(なにびと)も犯した罪からは逃れることは出来ぬ)」

 

何かあれば呼べ、と言い残して集中したゴーストが静かになると、バイクを走らせる一騎の目にはもうしばらくでクリスマスの飾り付けが始まるであろう、平和な冬の街並みが映っていた。

 

(平和、か……仮初めであっても、いや、仮初めだからこそ俺たちが守らなければ……)

 

「(──見つけたぞ、学校、此の先だ)」

 

(っ!?分かった、誘導を頼む──なるほど、確かに、ここが転生者の居場所だろうな)

 

しばらく走り回っていた一騎が人々の営みに決意を新たにしていると、突如、かけられたゴーストの声に誘導されて交差点を曲がる。そして、声に導かれた一騎が辿り着いたのは三門市にあるはずのない一つの高校──総武高校であった。

 


 

(まったく……度し難いな)

 

学校を見張っていた一騎が見つけた転生者──比企谷八幡の姿をした少年を追跡する中で、彼がボーダー関係者であること、そして、特殊な(ブラック)トリガー使いであることを突き止めたが、帰宅した八幡の姿を夜の闇の中で監視する一騎は侮蔑の表情を浮かべていた。

 

「(然り、だが、此の様な転生者は今までにも居た)」

 

(だからこそ俺には許せない。それに、奴は人の姿を──存在を奪っている)

 

反吐が出る、と吐き捨てる一騎だが、軽蔑するのも無理はない。本来この世界にないはずの少年の姿や家族だけでなく、総武高校の奉仕部やクラスメイトまでまとめて再現しているとなれば、この世界に与える影響は計り知れないからであった。

 

「(なればこそ、だ。我等は罪人を等しく憎まねばならぬ──そうであろう?)」

 

(……そうだな──ああ、その通りだ)

 

ゴーストの言葉で冷静になった一騎は意図せず固く握っていた拳を解きながら一度深呼吸をすると、八幡の家を見張りながら思案を始める。

 

(……しかし、刻印の反応が弱いのが気になるな)

 

「(然り、弱った様子は無い。が、此の世界には他の反応は無い。仕掛けぬ道理は無い筈だが?)」

 

(ああ、だが、一応、様子を見る──いつも通り、確実に仕留める)

 


 

「──ん?何だ、コレ?」

 

放課後、三々五々に帰って行く生徒の中で下駄箱を覗いた八幡は丁寧な筆跡の手紙が入っていることに気が付いた。差出人は不明だが、よく見れば、比企谷八幡さんへ、と宛名まで書かれていれば入れ間違えた、と言うことは無さそうであった。

 

「……マジかよ……?」

 

慌てて手紙をしまいつつ周囲を見回す八幡だったが、気づいた生徒はいないようで忘れ物をした風を装ってトイレの個室へと駆け込んだ。

 

「……これは……!」

 

市販されている便せんだったが、丁寧な筆跡で書かれた内容は要約すると、話があるから今日の放課後に屋上に来てほしい、と言うものであり、ともすれば告白──あるいは決闘ともとれるような呼び出し状であった。

 

「誰だ?由比ヶ浜、って線はなさそうだし、雪ノ下──はこんな事しなさそうだからなぁ……」

 

ああでもないこうでもない、と唸る八幡だったが、考えても仕方がない、と気合を入れると確認のために急いで屋上へと向かいその扉の前で立ち止まる。

 

(ん?屋上の扉って封鎖されてなかったっけか?)

 

ドアを開けようとした瞬間に何か違和感を感じた八幡だったが、ま、いいや、と思考を放棄するとゆっくりと扉を開け放った。

 

「あれ?誰もいない……騙されたとか、無いよな?──誰だっ!?」

 

扉を開けっ放しのまま夕日に照らされる屋上の真ん中へと進む八幡は自分の前に影が伸びていることに気づくと勢いよく振り返るが、その時には目の前、ちょうど先ほど入って来た入り口の前に一人の男──一騎が降り立ったところだった。

 

「お前たちを狩る者だ」

 

「なるほど、猟犬、って奴か。犬なら犬らしく骨でもくわえてろっての」

 

「犬、か。確かに、虎の威を借る狐、いや、他人から奪うことしか出来ん愚物を狩るにはちょうどいいかもな」

 

「チッ、言わせておけば!──トリガー起動(オン)!」

 

軽く挑発する八幡だったが、それを上回る一騎の罵倒に怒りを露わにすると、懐から取り出した握りの付いた柄のようなもの──トリガーを起動する。そして、その体はトリオンで出来た青い隊服を着た戦闘体──トリオン体に換装されると、右手にはトリオンで形成された光刃を持つ日本刀──弧月(こげつ)が握られていた。

 

「さぁ、アンタの能力を見せてもらおうか!」

 




●#01について
・ワールドトリガーの世界
本編開始直後ぐらいの12月をイメージしています。世界に対して大きな改変はありませんが、憑依転生をイメージして<比企谷八幡>という存在の形成に必要な存在が追加されています。

・罪の気配
刻印そのものの気配がなくとも世界を歪ませた罪人ではあるため、その罪を追う。ということです。本編では説明しにくいため、こちらで解説しました。

・もう一人の比企谷八幡
今回も特殊な状況ですが、転生者の発言からもわかるように猟犬ではありません。なんとなく想像の付く方もいらっしゃるかもしれませんが、詳細はのちのエピソードで説明されます。

・使用トリガー
黒トリガー使いと説明していますが、ワートリ転生の定番として普段使い用の通常トリガーを持っている設定です。チームにも所属している設定ですが、チームメンバーについては特に設定していません。


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#02

「さぁ、アンタの能力を見せてもらおうか!」

 

「御託はいい、とっとと来い三下」

 

「──ッ!?吠え面かくなよ、野良犬がっ!」

 

一騎の更なる挑発に激昂した八幡は一足で距離を詰めると、右手の弧月を一騎の首めがけて片手で真一文字に右薙ぎの一撃を放つ。超人的な身体能力を持つトリオン体から放たれた一撃は常人では捉えることすら難しく、ましてやマスタークラスと呼ばれる達人にも近い使い手である八幡の0.5秒にも満たない速度で振るわれる剣戟を避けるのは不可能──なはずだった。

 

「動きが単調だ」

 

「な──ぬあっ!?」

 

突如、衝撃を感じて転ぶ八幡だが、驚くのも無理はない。必殺の一撃は弧月を持った手を掴んだ一騎がそのまま勢いを使って投げ倒すとそのまま倒れた八幡を取り押さえつつ弧月を取り上げていたからだ。

 

「くそっ!アステ──」

 

「遅い」

 

押さえつけられた八幡は比較的自由な左手にトリオンキューブを発生させ、通常弾──アステロイドで反撃しようとするが、冷たい目で見下ろす一騎は取り上げた弧月で左腕を切断すると、驚いた八幡が制御を誤って弾丸はあらぬ方向へと飛んで行った。

 

「このっ!放せ!!」

 

「放せ、と言われて放す奴がいるか?」

 

「いい加減に降りろ!ハウンド!」

 

切断面からトリオンを漏出させながら喚く八幡に対し呆れを隠しもしない一騎だったが、その姿に激昂した八幡は自身の頭上にトリオンキューブを生成し追尾弾──ハウンドを発射する。

 

「……愚か者め」

 

眼前に迫ったハウンドを無視する一騎は冷たく吐き捨てると押さえていた八幡の右腕を切断すると全力で胴体を蹴り飛ばす。屋内に蹴り飛ばされた八幡はそのまま階段を転げ落ちて踊り場で止まったが、自動で追尾するハウンドの動きは止まらず、そのまま胴体にハウンドが直撃した一騎は地面に倒れこむ。

 

「う、おおおっ、っと──愚か者はどっちだ!このバカめ!」

 

「……無知とは恐ろしいものだな」

 

「──は?」

 

両足の力だけで立ち上がりつつ勝利を確信した八幡だったが、目の前の光景に思考が停止していた。それも当然だ。なぜなら、トリオン体を容易に貫通するはずの弾丸を受けたはずの一騎が無傷のまま階段の上から見下ろしていたからだ。

 

「ど、どうして生きている!?」

 

「ボーダーの弾丸は人体を破壊できないようになっている。まぁ、痛みは感じるがな」

 

「そ、そんな……」

 

「これは返してやる。だが、痛みでは俺を止められんぞ?」

 

「──くっ……!?」

 

奪った弧月を放り投げた一騎から向けられた侮蔑の籠もった視線と試すような言葉を受けた八幡は目の前の敵の意図が分からずに混乱するばかりだった。

 

「逃げてもかまわんが、その時はどこまでも追いかけて貴様を殺す。死にたくなければ全力で足掻け」

 

「──っ!?……分かったよ。それじゃ、俺の本物を見せてやる──トリガー解除(オフ)!」

 

「……いいだろう、見せろ、()()()本物を」

 

「散れ、千本桜!」

 

挑発を受けた八幡は一度トリガーを解除すると、懐から取り出した刀身の無い鍔の付いた日本刀の柄──(ブラック)トリガー、千本桜(せんぼんざくら)を起動する。見た目には先ほどと同じトリオン体に換装しただけだが、その右手には先程の柄にトリオンで形成された金属の刀身が備わった日本刀──千本桜が握られていた。

 

「さぁ、これが俺の()()だ!!」

 

「……そうか、なら、()()本物を見せてやろう」

 

一騎の挑発を()()したまま得意気な表情で刀を見せる八幡に対して冷めた視線を向ける一騎が静かに宣言すると体が炎に包まれてゴーストライダーへと変身した。

 

「っ!?なるほど、()()がアンタの本物か」

 

「……今のお前に本物は掴めない」

 

「何言ってるかわかんねー、よっ!」

 

悠然と見下ろすゴーストライダーに対して刀を向けた八幡は刀身を桜の花びらのように細かく分解させて殺到させる。そして、あらゆる物を切り裂くトリオンの刃で作られた桜吹雪がゴーストライダーを飲み込んだ。

 

「ハッ、口ほどにも──」

 

「愚かな。手応えも掴めんとは」

 

「──え?」

 

余裕の表情を見せていた八幡であったが、桜吹雪に飲み込まれて切り刻まれたはずのゴーストライダーの声が響いたかと思えば、突如、立ち上った炎で桜吹雪が吹き飛ばされたことで姿を現した無傷のゴーストライダーを見て言葉を失った。

 

「これでは話にならんな」

 

「くそっ、それなら──卍!解!」

 

悠然と降り始めるゴーストライダーに対して狼狽える八幡だったが、一度、言葉を切って息を吸うと刀身を再形成した千本桜にさらにトリオンを注ぎ込んで刃先を下に向けて落とすと、周囲の地面から──視界に入らないものも含めて千本もの巨大な刀身が姿を現す──千本桜景義(せんぼんざくらかげよし)が完成した。

 

「千本桜景義!!──さぁ、これでアンタもお終いだ!」

 

「この距離でそれを使うか……やはり、愚かだな」

 

「負け惜しみにはまだ早いぜ?ま、すぐに終わらせてやるけどなぁ!」

 

呆れたような態度のゴーストライダーに対して威勢よく吠えた八幡は下の階や外の屋上から分解させた刀身を操り、大量の桜吹雪で再びゴーストライダーを包み込む。

 

吭景(ごうけい)・千本桜景義、こいつで──」

 

「無駄だ」

 

ゴーストライダーを包み込んだ桜吹雪が爆発とともに吹き飛ばされるとやはり、無傷のままのゴーストライダーが姿を現す。先ほどの再現のように見えるが、八幡は余裕の表情を浮かべていた。

 

「だろうな──だが、コイツはどうかな!」

 

八幡は桜吹雪が吹き飛ばされることを想定していたのか、自身の周囲に残りの桜吹雪を集めて桜の翼にしており、吹き飛ばされたはずの残りも八幡の右手に集まって剣の形になった。

 

「……」

 

終景(しゅうけい)白帝剣(はくていけん)!どうした、驚いて声も出ないか?」

 

「……もはや、お前と語る舌は持たん、それだけだ」

 

「ハッ、その減らず口、利けなくしてやるよ!」

 

自慢気に技をひけらかす八幡に対して冷めた口調で突き放すゴーストライダー。その態度を虚勢と受け取った八幡は桜の剣を大上段で構えて桜の翼で飛ぶと勢いの乗った全力の唐竹割りをゴーストライダーへと叩き込んだ。運動エネルギーと大量のトリオンを使った全力の一撃はその余波で床に入った亀裂は屋上の中ほどまで伸びていた。

 

「──フッ、この技を使ったのはお前が初めてだったぜ」

 

「そうか、これまで余程楽な戦いをしていたようだな」

 

「え?──ぐえっ!?」

 

油断していた八幡はゴーストライダーの言葉を認識した瞬間に殴り飛ばされていた。そして、そのまま真っ直ぐ壁に叩きつけられた八幡のトリオン体が限界を超えて崩壊する。トリガーが解除された八幡が地面に落ちながら見た物は無傷のまま右の拳を突き出したゴーストライダーの姿だった。

 

「そんな……俺の全力の一撃が……」

 

「お前に()()を見せてやる」

 

「あ……あぁ……」

 

精神的なショックとなれない痛みで動けない八幡に対して悠然と近づいたゴーストライダーはその首を掴んで持ち上げると贖罪の眼(ペナンスステア)を覗き込ませる。そして、己の罪を突き付けられた八幡がその魂ごと体を焼き尽くされると、刻印──の欠片が零れ落ちて元の世界へと戻って行った。

 

「……刻印が分割されている?──っ!?これは!?」

 

違和感を覚えたゴーストライダーだったが、その言葉にゴーストが答えるよりも早く、目の前の世界が崩れ落ち、その体はそのまま()()()()()()()へと落ちて行くのだった。

 




●#02について
・トリガー構成
メイン:弧月、シールド、旋空、アステロイド
サブ:アステロイド、ハウンド、シールド、フリー(バッグワームかグラスホッパー)

・通常トリガーでの戦闘
初期版ではトリガーについて完全に誤解している場面だったので、現在の形に変更しました。ただし、旧版はなるべく本編を変えないまま修正したかったため、こちらとは違う形に修正しています。気になる方は旧版の#09をご覧ください。

・ボーダーの弾丸
ボーダー製の射撃トリガーは一般人を傷付けないために人体を殺傷できないようになっています。ただし、当たるとめちゃくちゃ痛いらしいですが、一騎は鍛えた肉体と意思の力で頑張って耐えました。

・挑発を誤解
強調されている部分をご覧になるとわかると思いますが、一騎は自分の全てを出せ、と言っているのに対して転生者は自分ではない誰かの本物を見せる、と誤解しています。

・千本桜景義
お分かりの方もいらっしゃるかもしれませんが、この卍解の技は基本的に接近戦での使用には複雑な操作が必要なため、力を過信した転生者の戦術的ミスです。一応、別の技を使うか外に出て距離を取ったまま戦えば一矢報いることができたかもしれません。

・分割された刻印
下層にある世界ともども今回のメインとなるギミックです。詳細はのちのエピソードで説明されます。


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#03

 

「……ここは──緋弾のアリア、だと?」

 

先ほどの世界から落ちる中で世界の外殻を見て緋弾のアリアの世界であることを確認した一騎は昼間の廃ビルの屋上から周囲を見渡していた。

 

「(一騎、如何やら此度の相手は刻印を分割した様だ)」

 

(……なるほど、それで奴の弱さと世界の脆さも合点が行く……が、意味が分からんな)

 

「(然り、刻印が小さければ出力も落ちる。自明の理のはずだが……)」

 

困惑する様子の二人だが、それも当然である。本来の刻印でさえ維持するのがやっとである特典と仮初めの世界を、崩壊しやすくする愚行を犯してまで複数を再現する時点で怒りを通り越してまさしく理解が出来ないからであった。

 

(まぁ、おそらく、それほど欲望が深い、もしくは……)

 

「(何かの実験、であろう)」

 

(だろうな……しかし、度し難い連中だ)

 

ため息を吐いた一騎は辟易しつつも廃ビルから出ようとするが、ふと、何かに気づいたように顔を上げた。

 

(ところで、()()()()の転生者の場所は分かるか?)

 

「(然り、分割された刻印の反応は武偵高校からだ)」

 

(……だろうな。一応、聞くが、数は分かるか?)

 

「(()()()()には一つだ)」

 

「……何だと?」

 

げんなりする一騎だったが、さらに続いたゴーストの言葉に思わず口に出して問いを返してしまう。

 

「(此処を除いて残る欠片は七つ。つまり、此の下には最大で七つの世界が在る)」

 

「……まったく……儘ならん、な」

 

頭を抱えた一騎は天を仰ぎつつ珍しく文句を口に出した一騎は緋弾のアリアの世界の比企谷八幡を苦も無く倒すと三つ目──ゼロワンの世界の比企谷八幡と戦うことになるのであった。

 


 

「ぐわあぁぁっ!!」

 

思い返す片手間に吹き飛ばされたゼロワンはその全身を炎で包まれてその装甲ごと燃やし尽くされると、刻印の欠片が戻った後には灰の山が残されるのみであった。

 

「(一騎、呆けるな、終わったぞ)」

 

(……ああ、分かっている……あと、五回、か)

 

「(何時もと同じであろう……多少、短い期間に同じ顔が続くだけだ)」

 

(……それが問題なんだろうが──いや、お前に言うべきではないか)

 

「(否、人の身では苦行であろう。其れに、我らは一蓮托生、気にするな)」

 

(そう、か──いや、待て、何かがおかしい)

 

崩壊する世界で大きくため息を吐いた一騎はゴーストとのやり取りで多少だが気を取り直す。そして、周囲を見渡すと明らかにこれまでと違う闘技場のような世界であることに気が付いた。

 

「(然り、恐らく、此処は最下層の世界だ)」

 

(なるほど、全ての世界を集めたか……それなら好都合だ)

 

「待たせたな!!」

 

現状の判断を終えた一騎とゴーストは突如かけられた声に顔を上げると目の前にはまったく同じ背格好で同じ顔をした四人の比企谷八幡が横並びで立っていた。そして、げんなりした表情の一騎を気にせず、一番右の八幡が一歩前に出る。

 

「俺はfateの八幡!この干将(かんしょう)莫邪(ばくや)で貴様を撃ち抜く!」

 

勢いよく自己紹介をしたfateの八幡は双剣を改造した二挺の拳銃を構えてポーズを取ると、隣の八幡が同じく前に出た。

 

「俺はヒロアカの八幡!デュアッ!このセブンスーツとスペシウムソードが貴様を切り裂くぜ!」

 

「いや、奴を倒すのはこの俺、シンフォギアの八幡だ!この聖遺物、サンライトハートでお前を倒す!」

 

「そして、俺はバンドリの八幡!能力は、ない!!」

 

「……お前たちは阿呆なのか?」

 

威勢よく名乗りを上げた八幡たちを前に一騎は呆れた様子を隠しもせずに頭を抱えて思わず思ったままを口に出してしまう。

 

「……そもそも、お前、能力がないのはどういうことだ?刻印の無駄だろう」

 

「失敬な!!俺には世界とハーレムがある!!」

 

「……話にならんな」

 

流石に気になった一騎はバンドリの八幡に指摘をするが、根拠の不明な自信に満ち溢れた力強い言葉で否定され完全に言葉を失う。

 

「ははーん、なるほど、貴様、俺たちに嫉妬してるな?」

 

「流石、ヒロアカの俺!!」

 

「そうか!自分がモテないからって俺たちの本物の生活を奪う気なんだな?」

 

「……まさか、ここまで突っ込みどころしかないとは……」

 

勝手な言い分を喚く八幡に一騎は呆然とするが、シンフォギアの俺の言う通りだ!!、と続くバンドリの八幡の力強い合いの手でさらに盛り上がる八幡たち。同じ顔をした四人の人間が喚き散らす光景はまさしく地獄絵図であった。

 

「(一騎、奴らの欲望は肥大化し過ぎた。最早、言葉は届かん)」

 

(……そうだな)

 

「──と言う訳だ!……おい、お前!何黙ってんだよ!」

 

「シンフォギアの俺、もしや、あいつは怯えてるんじゃないか?」

 

「そうだそうだ!!」

 

「なるほど!流石はfateの俺、観察眼に優れているな!」

 

「流石だな!!」

 

傍目には押し黙っているようにしか見えない一騎に対して文句を言うシンフォギアの八幡だが、fateの八幡の的外れな分析と合いの手で囃し立てるバンドリの八幡に乗せられてまたもや盛り上がる。そして、その喧噪に耐えられなくなった一騎がその一歩を踏み出した。

 

「もういい、黙れ下郎」

 

「「「「「え?──ぐあっ!?があぁっ!!」」」」」

 

ゴーストライダーに変身した一騎はチェーンで全員をひとまとめにするとそのまま持ち上げて地面に叩きつけ、ヘルファイアでまとめて爆発させた。まさしく、一網打尽にされた八幡たちは煙が晴れるとその姿は消えており、後には大量の灰と刻印の欠片が元に戻った気配が残されているだけであった。

 

「……茶番、だな──さて、いつまで見ているつもりだ!」

 




●#03について
・世界の外殻
以前に説明したゴーストの能力で確認できる世界のおおよその形です。具体的には世界の元になった作品の名前と元々の流れがゴーストには分かるようになっています。

・分割された刻印と世界
世界を構成する刻印の出力が下がることで世界の再現度が下がり、特典の出力が低下するだけでなく、世界自体の強度も低下するため、刻印がなくなれば世界は即座に崩壊します。

・世界の構造
今回の世界はいくつかの独立した世界が積み重なった積層構造になっています。レイヤーごとに異なる世界が存在しており、上位の世界が破壊されるとその下にある世界が新たな外殻として他世界から認識されるようになります。

・肥大化した欲望
今回の転生者は特殊な事情で欲望に忠実になっているせいかやけに盲目的で無自覚な暴走を続けています。詳細はのちのエピソードで説明します。


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#04

「……茶番、だな──さて、いつまで見ているつもりだ!」

 

「……何だよ、気づいてんじゃねーか」

 

チェーンを戻しつつ周囲に向けてゴーストライダーが叫ぶと、戦場の世界が崩壊し、虚無で満たされた漆黒の空間──世界の狭間がこの世界の刻印を持つ比企谷八幡の本体とともにその姿を現した。

 

「当然だ。魂の追跡はこちらの本業だからな」

 

「なるほど、ま、そりゃそうか……んで、俺を見逃してくれるつもりはないんだよな?」

 

「それも当然だ。お前が()()()()()を奪った罪は重い」

 

どこか諦めを含みつつヘラヘラとした態度の八幡に対して憎しみの籠もった視線を向けるゴーストライダー。相対する両者だが、その姿も対照的であった。

 

「なんだよ、誰だって()()を求めてるはずだぜ?そいつらはいいのかよ?」

 

「黙れ、簒奪者(さんだつしゃ)。それはお前を正当化する理由にはならん。そして──そいつらも罪がある限り俺が殺す」

 

まずはお前だ、と八幡を指差すゴーストライダーは一歩を踏み出す。その言葉に籠められた怒りとゴーストライダーの迫力にヘラヘラと言葉を弄した八幡の表情も硬くなる。

 

「チッ、分かったよ……まずは──卍解」

 

「……やはり、使えるか」

 

真面目な表情になった八幡は正面に右手をかざすと足元に波紋が広がり、その周囲に千本桜景義が展開されるが、ゴーストライダーはそれを意に介さずに歩みを止めない。

 

「千本桜景義──って、少しは驚けよ……まぁ、いいや、吭景・千本桜景義!そして、投影(トレース)開始(オン)!」

 

「ぬ……!?」

 

大量の桜吹雪によって歩みを止めざるを得ないゴーストライダーだったが、その合間に行われた二つ目の特典の行使には流石に反応したことで干将・莫邪を手に持った八幡は得意気な表情になる。

 

「お、流石にこれは驚くか──んじゃ、これで終わりだ、懺景(せんけい)・千本桜景義」

 

桜吹雪が一度離れると、動きの止まっていたゴーストライダーと八幡の周囲を全ての花びらが刀の形となって二人を囲い込んだ。

 

「奥義・一咬千刃花(いっこうせんじんか)、そして──I am the bone of my sword.」

 

そのまま全ての剣をゴーストライダーに殺到させた八幡は油断すること無く二丁拳銃をゴーストライダーの方に向けて構えると魔力を集中させて詠唱を始める。

 

「──So as I pray,『Unlimited lost works』.」

 

放たれた魔弾は意識的に空けた桜吹雪の隙間からゴーストライダーの体に命中し、そこからゴーストライダーの内部を突き破って固有結界を発動させてズタズタにする──まさしく、八幡の持ちうる必殺のコンビネーションだった。

 

「ふぅ……ま、とりあえず、これで様子を──」

 

「随分と悠長なことだな」

 

「──なっ!?」

 

八幡が驚くのも無理はない。なぜなら、本来なら防ぎようのない内部から相手を破壊するはずの攻撃を受けているはずのゴーストライダーが千本桜景義を爆砕して無傷のままその姿を現したからであった。

 

「ウソだろ!?あの攻撃、よっぽどの宝具でもないと防げないはずだ!──まさか、神性?いや、何かの加護か!?」

 

「やはり、分体が愚かなら本体も同様、か」

 

「あぁ!?何だと!?」

 

呆れた様子を見せるゴーストライダーに対して怒りを露わにする八幡だが、その姿にゴーストライダーはため息を吐く。

 

「出力不足だ、間抜け。お前の刻印は八分の一欠片でしかない、その程度の力で俺を倒せると思ったのか?」

 

「俺の力が、弱い?……いや、これだけの特典を使えるならその程度は──」

 

驚愕する八幡だったが、分割した刻印から引き出せる力は本来より少なく、再現される力も弱いことは自明の理である。そして、悠然と八幡へと歩みを進めるゴーストライダーの指摘はまだ続く。

 

「お前は分割した特典を同時に使えるようにした──つまり、お前の特典は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その時点でお前は最弱の転生者だ」

 

「そんな、馬鹿な……」

 

もう一つの原因、それは低下した出力を複数の特典に割り振って一人の中で再分割した事による更なる出力の低下。それを自覚せずに自分の力を過信した八幡が勝てないことはもはや明白であり、八幡が呆然自失となることも仕方のないことであった。

 

「理解したか?では、俺の番だ」

 

「ッ!?デュア──あがっ!」

 

いつの間にか目の前に立つゴーストライダーに気づいた八幡は咄嗟にセブンスーツを装着するが、そのままゴーストライダーの右ストレートを受けて吹き飛ばされる。転がった八幡はスペシウムソードを手放してしまっており、セブンスーツのメット部分が砕けて半分ほど露出していた顔は怯えた表情をしていた。

 

「ッ──ハァ、ハァ……」

 

「ふむ、反応は悪くない。だが、お前に勝ち目はない、諦めろ」

 

「クソッ!どうして俺が、俺だけがこんな目に合わなきゃならない!」

 

パニックに陥ったのか泣きそうな顔で叫び出す八幡だが、その姿を眺めるゴーストライダーの目には哀れみは感じられなかった。

 

「どうして、だと?他人を犠牲にその姿と存在を奪っておいて何を都合のいいことを言う」

 

「何だと!?アンタだってその力は誰かの偽物だろう!」

 

「お前と一緒にするな。この姿こそが俺たちだ……偽物ですらないお前にはわからんだろうがな」

 

「はぁ?何、言ってんだよ……それじゃ、アンタの言う本物って何なんだよ……?!」

 

「本物とは命だ」

 

「は……?」

 

「命とはそれだけで本物足り得る。そして、本物とはそう成るのではなく、そう在るもの、なのだ」

 

「……何だよ、それ……」

 

本物、と言う言葉に反応して困惑を深める八幡だったが、その問いに対して返された言葉に呆気に取られる八幡の姿を意に介さずにゴーストライダーは答えを続ける。

 

「そして、偽物とは本物になろうとする在り方、それだけだ。それは主観でしかなく、(しん)に偽物でしかないものなど無いのだ」

 

「それじゃ、俺は、一体……?」

 

「偽物になろうとしたお前は比企谷八幡でも元のお前でもない。そして、何者でも無くなったお前の全てを俺たちは許すつもりはない──その嘆きすらな」

 

冷たく言い放つゴーストライダーに八幡は絶句する。ただでさえ恐怖を感じさせるその異形が怒りを滲ませている姿は折れかけた八幡の心をへし折るには十分すぎるぐらいであった。

 

「そんな……俺の選択は、俺の本物は……」

 

「お前は致命的な部分で憧れを履き違えた、それだけだ。さぁ、裁きの時間だ」

 

諦めたように脱力する何者でも無い男を引き上げたゴーストライダーは贖罪の眼(ペナンスステア)を覗き込ませた。そして、男は自らの奪った力の持ち主の持っていた苦しみと世界を歪めた罪を受けると、その魂と体を焼き尽くされて分割された刻印の最後の欠片が元の世界へと戻っていくのだった。

 

「……これであの顔も見納めだな」

 

「(……だと良いのだがな)」

 

(滅多な事を言うな……それより、次の世界だ)

 

「(然り、次こそ奴を狩る)」

 

戦いを終えた一騎たちは改めて件の猟犬を倒す決意を固めると、休む間もなく次なる戦いへ向かうために猟犬の反応を追ってゲートをくぐるのだった。

 




●#04について
・世界の狭間
一騎の開くゲートの向こうに広がる空間です。基本的には真っ暗ですが、遠くに見える他の世界が星のように光っており、不可視の地面が広がっています。

・六四分の一
どれくらいの強さかと言えば一般人より強いけど怪人には苦戦するレベルの戦闘力です。要は戦闘員や協力者レベルですね。ちなみに、八分の一だと序盤の幹部級怪人ぐらいの強さです。

●タイトルについて
Nobody Eight:何者でもない8
・これは本編で言われているように全部で八人の何者でも無い男となった転生者そのものを表しています
・元になった慣用句やことわざもないので、特に説明するべきことは無いんですが、七つの分体を持つ八幡が九話の敵、と言う数字の言葉遊びがあります

●転生者について
・比企谷八幡となった男
・元高校一年の男子で願いは八幡になることだったが、その発展として刻印を分割して世界を分けた
・個別の特典はないが、分割した世界の自分の能力を使える
・分割した刻印から生まれた分割転生者は切り離された存在のため、元になった転生者の性質が極端に反映されている
①ワールドトリガーの世界
・黒トリガー<千本桜>も使えるA級隊員
・サイドエフェクトは高速思考
・総武高校が三門市にあることになっている
▽黒トリガー<千本桜>
・弧月系のトリガーで基本はブレードとして使う
・桜の花びら状の細かいトリオンのブレードに分解して操ることが出来る
・卍解も使えるが、トリオンを大量に消費するため多用出来ない
・ネイバーフッド由来の黒トリガー
②緋弾のアリアの世界
・HSSを持つ遠山の遠縁の強襲科Aランク武偵
・総武高校のメンバーも武偵
・魔剣戦後ぐらい
③ゼロワンの世界
・ゼロワンに変身する高校生社長
・総武高校は東京
・飛電は遠縁
④fateの世界
・エミヤ・オルタの力と武器を使う魔術師
・高校の設定は変わらない
⑤ヒロアカの世界
・高校生ヒーローの<セブン>として地元で活動している
・個性「スペシウム」:スペシウムを発生させることができる
・ウルトラマンスーツVer.7<セブンスーツ>を使う
・総武高校の設定はそのまま
・開闢行動隊活動後
▽セブンスーツ
・基本となるウルトラマンスーツVer.7.0と同じ装備
・駆動システムとして個性で発生させたスペシウムを使うため、厳密にはセブンスーツとは違う
・なお、スーツにはスペシウム光線を撃つ機構は無い
・理論上生身でもスペシウム光線が撃てるが、体が耐えられないため、完全に自爆技である
⑥シンフォギアの世界
・サンライトハートを使うS.O.N.G.の協力者
・総武高校が東京にある設定
・三期終了後
▽聖遺物<サンライトハート>
・シンフォギアに改造される前の聖遺物を錬金術師が改造したもの
・核鉄の形をしているが、八幡の心臓の代用品である
・起動すると巨大な突撃槍<ランス>の形をとり、エネルギーフィールドを形成してノイズの転換を無効化する
⑦バンドリの世界
・東京にすむ高校2年生でバンドと関わっている
・高校は東京にある
・戦闘能力はない


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Vol.10:Phantom Bullet
#01


真夏の昼間、普通なら夏休み中の学生が街中にあふれそうな時間帯だが、木組みの街を訪れた一騎は現代的な空気とは程遠いとは言え、そんな活気をまったく感じないことに違和感を覚えていた。

 

(……妙だ。元々、静かな街だが、流石に人気が無さ過ぎる)

 

「(然り、だが、()の気配が満ちる此の世界であれば仕方があるまい)」

 

(奴の気配が溢れている、とはどう言う意味だ?)

 

「(待て、少し探る……如何やら、奴は己の刻印を断割(たちわ)り此の世界に撒いたと見える)」

 

気配に紛れて何をしたかは分からぬがな、と見解を述べたゴーストに対して一騎は納得しつつ頭を抱える。

 

(なるほど……いつもの事とは言え厄介な奴だ)

 

「(然り──っ!?一騎、罪人の気配だ、近いぞ)」

 

(まったく、儘ならんな……!)

 

辟易した様子の一騎だったが、罪人の気配を感じたゴーストの声と耳に届いた爆発音で即座に走り出す。案内に従って走る一騎は耳に届く連続した爆発音に戦闘の気配を感じていた。

 

(確認だが、()()()()()は一つか?)

 

「(然り、罪人は一人の筈だ……尤も何らかの力で隠せぬ訳では無いがな)」

 

(なるほど……だが、どうやら先客がいるようだぞ)

 

『ジェットクリティカルストライク!』

 

「ぐおぁぁ!?」

 

目的地の路地に辿り着いた一騎の目の前には爆発とともに吹き飛ばされる怪人──スプラッシングホエールレイダーの姿とガトリングガンの掃射とミサイルを叩き込む必殺技──ジェットクリティカルストライクを放った仮面ライダースナイプ、コンバットシューティングゲーマーレベル3の姿があった。

 

「(ふむ……あの者からは罪人の気配は無い……が、件の猟犬の可能性も在るぞ)」

 

(何にせよ、まずは様子を見る……幸い、気付かれてはいないようだからな)

 

物陰に隠れて様子を見ている一騎には気づかない様子のスナイプは倒れて気絶している怪人だった男の無事を確認すると、軽く周囲を見渡してからそのまま逃げるようにどこかへと飛び去って行った。

 

(分割された刻印、謎の怪人に仮面ライダー……まったく、面倒な事をしてくれる)

 

「(然り、だが、此処で奴を狩る。そうであろう?)」

 

(当たり前だ。まずは情報を集める)

 

内心で頭を抱えた一騎だが、思考を切り替えると野次馬の集まり始めたその場を離れて情報収集に向かうのであった。

 


 

「……いらっしゃいませ」

 

情報収集のために()()()()()()喫茶店、ラビットハウスに訪れた一騎は薄水色のストレートロングヘアーの小柄な少女──香風智乃(かふうちの)、友人や家族からはチノと呼ばれる彼女の案内で席へと着いた。

 

「ご注文は?」

 

「ええと、それじゃ、オリジナルブレンドを一つお願いします」

 

「オリジナルブレンドですね。少々お待ちください」

 

注文を受けたチノが軽く頭を下げてから戻る姿を横目にあらかじめ幾つかの小道具を詰めた肩掛けのカバンを真横に置いた一騎は中から取り出した手帳へと目を向けるフリをする。

 

「(其れで、此処から如何する心算だ?)」

 

(まずはタイミングを待つ……流石に彼女一人では話は聞けそうにないしな)

 

「(……成程。ならば、我は気配を探る)」

 

(ああ、任せた……さて、後はどう出るか……)

 

内心で小さくため息を吐いた一騎だったが、従業員が使うであろう扉が開いた音で目だけをそちらに向けると、店の制服を着た濃い紫のツインテールの長身の少女──天々座理世(てでざりぜ)、リゼと呼ばれる少女は奥で着替えていたのか、申し訳なさそうにチノの方へと近づいていた。

 

「悪い、チノ。あとは私がやるよ」

 

「そうですか?それじゃ、このオリジナルブレンドをあちらのお客さんに持って行ってもらえますか?」

 

ああ、任せておけ、と二つ返事で了解したリゼは出来上がったコーヒーを一騎の元まで持ってきた。

 

「お待たせしました。オリジナルブレンドです」

 

「ありがとうございます。あ、少し待ってもらえますか?」

 

「はい?えっと、何かありましたか?」

 

「いえ、実は僕はこう言うものでして……」

 

「……フリーライター、ですか?」

 

「はい、フリーライターの外狩一騎と言います。それで……」

 

軽く立ち上がって呼び止めた一騎に対して訝し気な視線を向けるリゼだったが、差し出された名刺とカバンから取り出したカメラを見せる一騎の顔を見比べていると、いきなり店の入り口が開け放たれる。

 

「ただいまー!って、あれ?お客さん?」

 

「敵襲かっ!?って、なんだココアじゃないか」

 

「まったく……ココアさん、営業時間なんですからもう少し気を付けてください」

 

ごめんごめん、と軽く謝るココアと呼ばれた少女──保登心愛(ほとここあ)が店の奥の扉へと向かう姿を見送ったリゼは一騎を放置していたことを思い出して慌てて振り返ると手振りで座るように促す。

 

「えっと、それで、何の話でしたっけ?」

 

「はい、今この街に()()()()()()が出る、と言う噂を聞きまして……対したお礼は出来ませんが、何かお話を伺えると助かるんですけれど……」

 

「……まぁ、話ぐらいなら……けど、仮面ライダーか……私は街を守るヒーロー、ぐらいの話しか……チノ、何か知ってるか?」

 

「仮面ライダー、ですか?私も詳しくは知りませんけど、ウワサで聞いた仮面ライダーに変身できる道具を探してる、ってマヤさんが言ってましたね」

 

危ないから止めるように言ってるんですが、と作業する手を止めつつ心配そうにこぼすチノ。特に思い当たる様子が無いのかリゼも小さく考え込んでいると、従業員用の扉が開いて店の制服に着替えたココアが勢いよく入って来た。

 

「何の話?困りごとならお姉ちゃんに任せなさい!」

 

「ココアさん……いえ、困りごと、と言うか、ココアさんは仮面ライダーについて何か知ってますか?」

 

「うーん、仮面ライダーかぁ……市民を守る正義の味方で、正体は自衛隊の鬼軍曹、とか、元軍人で今はコックをしている、とか色んなウワサを聞くけど会ったことは無いかなぁ」

 

「何だそのよくわからん具体的な人物像は……?」

 

(鎌を掛けたつもりだったが……仮面ライダーが一般に認識されている、と言う事か……)

 

「……だ、そうです。お役に立てないようですみません」

 

「いえいえ、実在する、と分かっただけでも助かります」

 

申し訳なさそうに頭を下げるチノに対して、おいしいコーヒーもいただけましたからね、とメモをしながら飲み終えたカップを見せた一騎は外向けのさわやかな笑顔を浮かべると、それなら良かったです、とチノの表情が少し明るくなる。

 

「……外狩さん、仮面ライダーのことはあまり追わない方がいいと思います」

 

「リゼちゃん?どうしたの?」

 

「さっきチノも言ってましたけど、本当に危ないですから……何か理由がなければウワサを聞くだけで十分だと思います」

 

「……分かりました。ま、命あっての物種ですからね。それじゃ、そろそろ取材に行ってきますか」

 

ごちそうさまでした、また来ますね、と代金をテーブルに置いた一騎はカバンを片手に軽やかに店を出るとそのまま適当な路地へと入った。

 

「(此方(こちら)は空振りだ……さて、次は如何する?)」

 

(まずは宿を探す……流石に、この街で野宿は目立つからな)

 

「(成程。人の世は儘ならぬな)」

 

(……まったくだな)

 

内心で頭を抱える一騎だったが、小さくため息を吐くと宿を探しつつ街を調べるために歩き始めるのであった。

 




●#01について
・ばらまかれた分割刻印
前回の世界で一人の転生者が意識とともに刻印を分割していましたが、今回はその原理だけ応用して他者から奪った刻印を分割しました。具体的に何をしているかはのちのエピソードで説明します。

・謎の怪人と仮面ライダー
今回の世界の謎、と言うか話のメインとなるギミックです。今回の一騎の標的は件の猟犬ですが、罪人がいて刻印がばらまかれている以上、それを放置できない一騎はこの件を調査せざるを得ません。

・ラビットハウス
一騎がこの場を選んだ理由はこの世界に転生者がいるとすれば確実にメインキャラのいるこの場所を拠点にしていると睨んだからです。今回は事情が違ったのか転生者はいませんでしたが、最低限の情報収集は出来ました。


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#02

「ぐわあっ!?」

 

夜の帳の落ちた木組みの街、その裏路地は元々の街灯の少なさと人気の無さが相まってどこか不安になるような静けさに満ちていたが、その静寂を打ち破る大きな爆発音とともに吹き飛ばされる怪人──シュートロイミュードは元の中年男性の姿に戻ると戦闘のダメージかそのまま気絶していた。そして、その怪人を倒した一騎は戦闘の直後と言うこともあるが、それ以上にどこか疲れた様子だった。

 

(……これで、何戦目だ?)

 

「(4、否、5体目だ)」

 

(まさか、ラビットハウスを出てから連戦続きとは……早めに宿が見つかったのはせめてもの救い、か)

 

一つ大きなため息を吐いた一騎は宿への道を歩きながら、この一日の状況を振り返っていた。

 

「(然り、そして、其れが一騎の力で倒せる程度の怪人、と言う事も僥倖だ)」

 

(それも気になるが……敵の数が多すぎる)

 

「(人心が乱れれば罪人も増えよう。増してや容易に超人に成れる、と在れば不思議ではあるまい)」

 

(それだけなら分かる。だが、レイダーにスマッシュ、ロイミュード、あまつさえライオトルーパーまで出てきたが、バグスターを見かけない……理由は分からんが、少なくともこの怪人は()に意図的に生み出されている物、と見て間違いはないだろう)

 

「(成程……では、スナイプは何者だ?件の猟犬にしては些か単純に見える。が、刻印の反応は無い──っ!?一騎!)」

 

(分かっている!)

 

考え込む二人だったが、突如、気配を感じたゴーストの警告と同時に近くの建物の陰に飛び込む一騎。そして、一瞬遅れて一騎のいた場所に弾痕が出来ると、飛び込んだ一騎を追うように弾丸が撃ち込まれ、一騎の隠れた壁に無数の弾痕が刻まれた。

 

「よく避けたな!外狩一騎!」

 

「……お前は──」

 

壁から顔を覗かせた一騎の視線の先、雲の少ない月に照らされた夜空に浮かんでいたのは両腕のガトリングガンを一騎に向けたスナイプの姿があった。

 

「そうだ、私は仮面ライダースナイプ……外狩一騎、いや、世界の破壊者ゴーストライダー!お前を倒す者だ!!」

 

「(一騎、如何する?)」

 

(死なない程度に加減して倒す……まったく、儘ならんな)

 

「来ないのならこちらから行くぞ!」

 

動かない一騎にしびれを切らしたのか、スナイプが一騎の隠れる真上まで飛ぶとそのままガトリングガンを連射する。小さく舌打ちした一騎は先程の路地裏まで飛び出ると全身が炎に包まれてゴーストライダーへと変身して追いかけて来た銃弾をヘルファイアで溶かしつくした。

 

「何だと!?」

 

「無駄だ、お前の力では勝てん」

 

「そんなことはっ!」

 

実力差を感じつつも何かに駆られるようなスナイプはジェットコンバットガシャットをベルトのキメワザスロットホルダーに挿入し、スイッチを二度押す。

 

『キメワザ!』

 

「……来るか」

 

「これで──」

 

『ジェットクリティカルストライク!』

 

「──どうだ!!」

 

昼間の怪人を倒したスナイプの必殺技、ジェットクリティカルストライク。大量のミサイルとガトリングガンの掃射がゴーストライダーを包み込みその姿を爆発と黒煙が覆い隠した。

 

「……やった、のか?」

 

「いや、まだだ」

 

「なっ……ぐあっ!?」

 

黒煙を裂いて飛んできたチェーンに絡め捕られたスナイプはそのままなすすべもなく地面に叩きつけられる。顔を上げたスナイプの視線の先には無傷のまま左手にチェーンを持つゴーストライダーの姿があった。

 

「ぐうっ、このっ」

 

「諦めろ、その足掻きは無意味だ」

 

「くっ、私は──があっ!」

 

動けないスナイプをチェーンで引き寄せたゴーストライダーはチェーンを解くとそのまま右のストレートでスナイプを殴り飛ばす。5mほど吹き飛ばされたスナイプはそのまま転がって行くが、ダメージのせいか起き上がるのもやっとのようであった。

 

「く、うぅっ」

 

「動くな」

 

「私は、負ける訳には……行かない!」

 

「ぬ……!?」

 

突如スナイプが跳ね起きたかと思えば、ゴーストライダーの目の前の地面を撃って目くらましをするとその姿が掻き消えており、何処かへと飛び去って行ったようだった。

 

「(……逃げられたな)」

 

(ああ……まったく、油断も隙もないな)

 

ゲームエリアが消えたことで破壊の跡がなくなったことを確認した一騎はひとまず変身を解除する。

 

「(此のタイミングで仕掛けてくるとは……一体、如何言う心算だ……?)」

 

(それは分からんが、今の戦いでわかったことがある。おそらく、スナイプは猟犬ではない)

 

「(然り、其れは我も同感だが……では奴は何処に居る?)」

 

(分からん。しかし、奴のやることだ、何かしらの理由があるだろう……が、今は一度戻るぞ)

 

次の襲撃に備える必要があるからな、と心の中で呟いた一騎は今の状況を考えて難しい表情になるが、一度、深呼吸をして思考を切り替えると、準備のために宿へと戻るのだった。

 


 

翌朝、宿を出た一騎は少し中身の増えたカバンを肩にかけて時折カメラを構えつつ街を歩いていた。傍目には街の写真を撮っている旅行客か記者ぐらいにしか見えないが、実際には仮面ライダーと怪人の情報と現場の状況を照らし合わせているところであった。

 

(……どうやら怪人の種類と場所はランダムのようだな)

 

「(我も同感だ。そして、ライダーと怪人、何方(どちら)も夜間の出現率は低い)」

 

(そうだな……これは、少し厄介かもしれんな)

 

「(然り、加えて此の街では多少の衝撃で建物が崩れかねん……昼間に猟犬を狩るには些か骨が折れるぞ)」

 

(ああ。だが、そのための()()だ……最も、現状では付け焼刃程度だがな)

 

苦い顔になる一騎だが、それも当然である。日の光の下では一騎はゴーストライダーになることが出来ず、対策を取ったとしても限られた力では苦戦することは必至だからだ。

 

「(だが、やるしかあるまい。其れが我等だ)」

 

(当たり前だ……それより、スナイプの正体だが、おそらくこの世界の住人だ)

 

「(……成程。確かに、転生者でも猟犬でも無いのならば、そうなるか……ならば、何故、我等を狙う?世界の破壊者、と言っていたが……)」

 

(奴の手口を考えれば、おそらく、現地の人間を騙したか、人質か……その両方、と言う可能性もあるがな)

 

「(然り、我も同感だが……目星は付いているのか?)」

 

スナイプの正体について問われた一騎は手帳を開いて少し考え込むが、おそらく、と前置いてから口を開く。

 

(この街で戦う技能を持っていて俺たちを追跡できる人間。そして、人質の有無に関わらず猟犬の口車に乗せられそうな人間、となればおおよそ見当は付くはずだ)

 

「(成程。ならば早速──と言う訳には行かぬ様だ)」

 

(敵、か……まったく、儘ならんな)

 

確信へと迫りつつある二人だったが、突如、目の前に現れた怪人──ニードルスマッシュへと視線を向けると戦いを始めるのであった。

 




●#02について
・多種多様な怪人
めちゃくちゃなラインナップですが、一騎の遭遇した中にはバグスターが居ません。また、一騎の遭遇した怪人には原典において科学的な力で変身、または発生した怪人、と言う共通点があります。

・VSスナイプ
ゲームエリアは変身と同時に常時展開されているため、武器としてこの力を使うスナイプは転送する理由がなく、見た目には使用しているかどうかわかりにくいです。また、正体そのものはメインではないので、あまりもったいぶらずに明かされます。

・対策
日の光は今作のゴーストライダーの天敵のため、それなりの対策は常に考えていますが、基本的には持ち歩き可能なものがないので、相手や場所によって準備して使い分けます。


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#03

 

早朝、開店前のラビットハウスに二つの人影があった。一つはカウンターでグラスを拭く大人の雰囲気を漂わせた男性──香風(かふう)タカヒロであり、カウンターの向こうのもう一つの人影へと視線を向けていた。

 

「今朝はずいぶん早いが……何かあったのかい?」

 

「……いえ、何も」

 

気遣うように問いかけるタカヒロに対して少し言いよどむもう一つの人影。申し訳なさそうに答えるその姿にタカヒロは小さくため息を吐く。

 

「そうか……ところで、頼まれていた物が届いているよ」

 

「本当ですか!?」

 

「ああ、これだ」

 

タカヒロの言葉に喜色を浮かべるもう一つの人影。表情の変化に小さく苦笑するタカヒロがカウンターの下から取り出した紙袋が二人の間に置かれると、もう一つの人影が間髪入れずに紙袋を手に取った。

 

「これがあれば……」

 

「浮かれるのはいいが、あまり皆を心配させない方がいい」

 

「はい……でも、これで皆を救えます!」

 

大事そうに紙袋を抱えて喜ぶ人影にタカヒロは労わるような視線を向けるが、一転して申し訳なさそうな表情になる。

 

「君にこんな事を任せてしまって済まない……だが、この世界を頼む、()()()

 

「はい!私が必ず、ゴーストライダーを倒して皆を守ります!」

 

タカヒロの言葉に力強く返事を返した人影──リゼはその手に持つ紙袋へ一度、視線を向けると強い覚悟を胸に店を出るのであった。

 


 

「うわあっ!?」

 

「っ──させるか!」

 

「ぐげっ!」

 

怯える男性に向かって飛びかかるバットロイミュードを飛び蹴りで迎撃した一騎は着地と同時に周囲を見渡すと、助けた男性と同じように何人かの一般人とともに数体の怪人に取り囲まれていた。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「良いから下がっていろ!」

 

「は、はい!」

 

男性が大人しく後ろに回った姿を横目で見る一騎は即座に立ち上がってバットロイミュードへと構えを取るが、宿の前から公園まで二時間ほど戦い続けているその表情は険しいものであった。

 

(流石に分が悪いな……)

 

「(然り。だが、罪無き者を見捨てる訳には行かん)」

 

(それは分かっている……さて、どうしたものか)

 

「──危ないっ!」

 

「ふっ!」

 

バットロイミュードと向き合う一騎の死角から迫るライオトルーパーの姿に後ろからの警告が飛ぶが、それより早く反応した一騎は軽いサイドステップで振り下ろされたアクセレイガンを避けるとその手を掴んで捻り上げる。

 

「ぐっ!」

 

「こいつは借りていくぞ」

 

「ぐ、ううっ!がああっ!?」

 

力任せに振り解こうとするライオトルーパーだったが、アクセレイガンを取り上げた一騎に二度、三度と切り付けられて怯んだところを蹴り飛ばされるとそのまま倒れて変身が解除され気絶した男が姿を現す。

 

「うわああっ!?」

 

(次は……!)

 

ライオトルーパーを倒した一騎は息を吐く暇も無く後ろから聞こえた悲鳴に顔を向ける。その視線の先には腰を抜かした男性の前で右の拳を振り上げるクラッシングバッファローレイダーの姿があった。

 

「どけっ!」

 

「ぐおっ!?」

 

「っ……赤い服の男、この人を頼む!」

 

姿を見る前に駆け出していた一騎が飛び蹴りを放つが、体重の重いバッファローレイダーは一瞬体勢を崩すと一騎の方へと体を向けるが、声をかけられた男性だけでなく周囲の人間は誰も動けそうになかった。

 

(……だろうな)

 

「ぐおおっ!!」

 

「あ、危ないっ!」

 

雄たけびのような声を上げて一騎へと吶喊するバッファローレイダーの姿に誰かが声を上げる。背部ブースターの爆発的な推進力の乗った蹄型の打突武器バッファブロウによる常人では捉えることすら困難な一撃は生身の人間が受ければひとたまりもない──はずであった。

 

「お?──おおぉぉぉっ……!!」

 

「へ?」

 

誰かが間抜けな声を上げるが、それも無理はない。無傷のまま立つ一騎とその背後の地面に叩きつけられてから弾き飛ばされるバッファローレイダーも姿があったからである。常人には見えなかったが、交差する瞬間、振り下ろされる拳をアクセレイガンで滑らせて逸らした一騎はそのままの勢いを利用してバッファローレイダーを地面に叩き付ける。その結果が先ほどの光景であった。

 

(……アクセレイガン(これ)はもう使えんな)

 

「(残りは六体……此れならば──一騎!)」

 

「っ──伏せろっ!」

 

壊れたアクセレイガンを投げた一騎は呆けていた少年を狙うアイススマッシュに気づくと警告とともに駆け出した。

 

「え?うわっ!?」

 

自分の事だと思わなかったのか気付かないままの少年を地面に押し倒すと飛んでくる氷柱を防ぐために鎖を巻いた左手を突き出す。だが、飛んでくるはずの氷柱は連続して放たれた銃弾によって全て撃ち落とされていた。

 

「っ──あれは……!」

 

「見ろ!仮面ライダーだ!!」

 

上空に現れた一つの影、現れた仮面ライダースナイプの姿に危機に陥っていた人々は歓喜の声を上げていた。そんな人々と感情は違えど同じように空を見上げる怪人たちだったが、その中の一人、アイススマッシュが走りこんできた一騎によって蹴り飛ばされたことで怪人による包囲が崩れる。

 

「こっちだ、走れ!」

 

「は、はいっ!」

 

「ぐおおっ!!」

 

「させるか!」

 

一騎の言葉に我に返った人々は包囲の穴からそれぞれ走って逃げる。追いすがろうとする怪人たちであったが、スナイプの銃撃と一騎の妨害で足止めを受けたことで人々を取り逃がしていた。

 

(さて、少しはマシになったか)

 

「(では、反撃の時間だ)」

 

なおも銃撃を続けるスナイプを横目に起き上がったアイススマッシュに対して一騎は左手のチェーンを少し伸ばして構えていると、スナイプが近くにやってくる。

 

「お前、逃げなかったのか?」

 

「逃げる?罪人(こいつら)を倒すのが俺の仕事だ」

 

「仕事、か……まあいい、そいつは任せた!」

 

「言われずとも……!」

 

飛び立ったスナイプが怪人たちへ向かって行くと同時に目の前のアイススマッシュへと一騎が駆け出す。そして、どちらの戦いも一方的な展開で勝利を収めるのだった。

 




●#03について
・スナイプの正体
読者には先行して開示されるパターンです。ちなみに、このシーンのキモはこのやり取り自体ですが、その理由はのちのエピソードで明かされます。

・生身の一騎VS怪人
一騎の戦闘スタイルはフィクションを含めた合気道や古武術の動画などを参考に構成されています。そのため、どこかで見たことのある動きもあるかもしれませんが、武術として理想的な動きは似通ってしまう、と言う事でご容赦ください。

・描かれない雑魚戦
当時はテンポの関係で描写しませんでしたが、今回も追加しても蛇足感が強くなりそうだったので、特に加筆はしませんでした。と言うか、特に苦戦しないならわざわざ生身の戦闘を描写してもあんまり意味がないんですよね。


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#04

 

「(他愛も無いな)」

 

(数に任せた連中ならこんなものだろう……それより、問題はスナイプ()だ)

 

「さあ、次はお前の番だぞ、ゴーストライダー」

 

戦いを終えて倒れる人々から離れた一騎の目の前に同じく戦いを終えたスナイプが飛んで来る。着陸して一騎と相対するその姿は闇討ちをした昨夜とは違い、戦士としての矜持のようなものを感じさせた。

 

「その前に聞きたい。なぜ、俺を狙う?」

 

「昨日も言ったはずだ。世界の破壊者であるお前を倒すと」

 

「なら、誰からそれを聞いた?……答えろ、スナイプ、いや、天々座理世」

 

正体を指摘されたスナイプは押し黙ったままガシャットを外して変身を解除するとそこには一騎の言った通りリゼの姿があった。

 

「……どうして、正体が分かったんだ?」

 

「確信を持ったのは戦いの中での動きと言葉だ……最初から違和感はあったがな」

 

「最初……ラビットハウスで会った時か?」

 

「お前は初対面の俺に()()()()()()()()()()と警告した。普通なら放っておくか、言ったとしても、怪人に気を付けろ、とでも言うだろう」

 

「それはそうかもしれないが……それがどうして?」

 

「敢えて仮面ライダーに言及した、と言うことは、()()仮面ライダーに会うと良くないことが起こる、と無意識に考えていた、そう考えるのが自然だ」

 

まあ、勘のようなものだがな、と付け加える一騎はどこか納得した様子のリゼに対して鋭い視線を向ける。

 

「では、答えてもらおう。俺の事を誰から聞いた?」

 

「……それは答えられない……だが、私はお前を倒して、世界を救わなければならない!」

 

「そうか……だが、その力で俺は倒せんぞ?」

 

「見せてやる!これが、私の新しい力だ!」

 

「む……!?」

 

『バンバンシミュレーション!』

 

力強く叫んだリゼは懐からガシャットギアデュアルβを取り出す。ダイヤルを回してバンバンシミュレーションにセットすると待機音声が鳴り響く。

 

「止めろ、その力は危険だ!」

 

「それでも私は……変身!!」

 

『デュアルアップ!』

 

「ぐ……ぐああっ!」

 

ゲーマドライバーを腰に着けたリゼがガシャットをセットしてレバーを引くとその姿は仮面ライダースナイプ、シミュレーションゲーマーレベル50への変身を遂げるが、その直後、強すぎる負荷にリゼが苦しみだした。

 

「(奴め、何と非道な!!)」

 

(……あまり苦しめたくはない、速攻で行くぞ)

 

「ハァ、ハァ……今度こそ、お前を倒す!」

 

苦しみながらもキメワザスロットのスイッチを押したリゼはゲームエリアであるドラム缶のようなものが並べられた採石場のようなフィールドに自分と一騎を転送させると両腕の主砲ユニット──オーバーブラストキャノンを構える。そして、響き渡る轟音とともに放たれた砲撃で戦いの火蓋は切って落とされた。

 

「くっ、流石に見え見えの攻撃は当たらないか……!」

 

「……」

 

紙一重で砲撃の余波を避けた一騎。力の制御で余裕のないリゼにはわからなかったが、一騎の表情には焦燥は感じられず、どこか哀れみのようなものが含まれているようだった。

 

「これで!どうだ!」

 

「っ……!」

 

「(一騎、何を狙っている?)」

 

(ゴーストライダーで戦うと彼女が危険だ。プランBで行く)

 

対策を使わず逃げに徹する理由を問うゴーストに答える一騎。その間も二発、三発と連続して放たれた砲撃を辛うじて回避する一騎は隙を見てはドラム缶を倒していたが、余計な動きと思考のせいか四射目の砲口が一騎へピタリと合わせられる。

 

「トドメだ!」

 

「いや、まだだ」

 

「──何だとっ!?」

 

砲撃の瞬間、倒れたドラム缶──アイテムボックスから出た黄色いメダル──高速化のエナジーアイテムを取った一騎は目にも止まらぬ速さで砲撃を回避した。

 

「このっ!」

 

再び連続して砲撃が放たれるが、ドラム缶の合間を縫ってそのことごとくを軽やかに回避する一騎。速度だけでなく、戦闘経験の差から来るその動きは最早ただの砲撃では捉えられないようであった。

 

「それなら──」

 

「む……」

 

「──これはどうだ!」

 

スナイプの叫びとともに肩に設置された四基のスクランブルガンユニットが宙に浮かんで一騎を取り囲むと一斉にミサイルや魚雷を発射した。巻き起こる爆発、それに伴う煙と砂塵でスナイプの視界が塞がれる。

 

「倒した、のか?……いや、何かがおかしい……まさか!?」

 

動きが無くなったことで一瞬安堵しかけるスナイプだったが、いつまでも視界が晴れず、むしろ暗闇に包まれていることに違和感を覚える。そして、気付くまでの短い油断が命取りであった。

 

「惜しかったな」

 

「なっ──うあっ!?」

 

突如、煙の中からのびてきたチェーンに絡め捕られそのまま引きずり込まれたスナイプは驚愕する。なぜなら、引きずり込まれた先にはあるはずのない暗闇と左手にチェーンを構えて立つ無傷のゴーストライダーの姿があったからである。

 

「このっ──ぐあっ」

 

引きずり込まれたスナイプはそのままゴーストライダーの頭突きを受けて一瞬、意識が飛ぶ。その隙にゴーストライダーはスナイプの右腕を空いた右手で払った。

 

「うぅっ……な、何を……?」

 

「今、楽にしてやる」

 

伸ばしたままの右手でゲーマドライバーのレバーを元に戻すとスナイプの変身が解除されて周囲の地形が元に戻るとともにゴーストライダーも変身を解除すると倒れかかったリゼに肩を貸した。

 

「一体……どうやって……」

 

「アイテムを使った、それだけだ……都合よく暗黒が出るとは思わなかったがな」

 

「そうか……私の負け、か」

 

「さて、答えてもらうぞ。世界を救う、とはどう言う意味だ?」

 

「それは──」

 

「それは、私から話そう」

 

「!?」

 

「お前は……!?」

 

解説をしながらリゼをベンチへと座らせた一騎は戦う前と同じ問いかけをするが、突如横合いからかけられた声に二人が視線を向けると、そこにはこの時間であれば店にいるはず香風タカヒロの姿があった。

 




●#04について
・一騎の推理
本人の言う通り勘のようなものですが、疑う理由としては無しではないと思うんですよね。理屈としてはこのキャラはこんなこと言わない、と言う粗探しに近いですが、わずかな違和感を元に隠れた敵を探す一騎にはこの程度で十分なのかもしれません。

・シミュレーションゲーマーレベル50
原典をご存じない方に説明すると、装着者への負担を前提に戦闘能力を強化するシステムの搭載されたフォームです。また、ゲームエリアに転送している理由はこのフォームが強力なので周囲への被害を完全に防ぐためですが、その点を一騎に利用されました。

・高速化と暗黒
原典では使える人物に限りがあるか不明でしたが、今作では本編中の描写から使えると判断しました。ちなみに、どちらも停止で代用できそうでしたが、文字数や展開の関係でこの二つになりました。


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#05

 

「どうして、ここに……?」

 

「待て、こいつはお前の知っている香風タカヒロではない──いや、この世界の人間ですらない」

 

静かに佇むタカヒロに問いかけようとするリゼだったが、その動きを制止した一騎は庇うように一歩前に出る。

 

「ご明察だよ外狩一騎──いや、ゴーストライダーと言った方がいいかな?」

 

「!?タカヒロさんじゃないなら、お前は誰だ?」

 

「ふむ、そうだな──()()ならわかるんじゃないか?」

 

「女の人の声に変わった!?」

 

芝居がかった動きで喋るタカヒロの姿をした男は自らの声を女性──別の世界の住人である朝田詩乃のものへと変化させた。

 

「……やはり、あの時の猟犬だったか」

 

「正解!まあ、流石に露骨過ぎたか」

 

睨みつけるような一騎の視線と驚愕と混乱の籠もったリゼの視線に猟犬は、やれやれ、と言った風に肩を竦めるとその姿まで詩乃のものへと変化させた。

 

「……俺の前に姿を現した、と言うことは死ぬ覚悟が出来たようだな」

 

「まあまあ、そう慌てるなって。アンタも満足に変身できないんじゃ、俺の特典が気になるだろ?」

 

「……」

 

「だんまりかよ?まあ、俺は今、気分がいいんで勝手に喋らせてもらうけどな」

 

押し黙る一騎に対して一方的に喋る猟犬の姿は本来ならどこか滑稽に見えるはずだが、猟犬から発せられる目に見えない威圧感のようなものがその異様さを際立たせているようだった。

 

「まず、俺がどうやって生き延びたか教えてやろう。俺の特典はエボルト、ま、要は他人に寄生して対象を暗殺、ってだけの地味な能力なんだが……前回はそのおかげで詩乃を盾にして逃げ延びた、って訳だ」

 

「そんな……それじゃ、タカヒロさんは一体……?」

 

「なあに、タカヒロなら今もラビットハウス(おウチ)でぐっすり眠ってるよ……んじゃ、次はどうして俺がこの姿をしているか、って話だ。興味あるだろ?」

 

「……」

 

リゼの質問に答えつつも自分勝手に話を進める猟犬。その振る舞いは自身の特典であるエボルトにどこか重なっているようであった。

 

「やれやれ……まあ、俺があの世界を出た時点でお前たちに追われているのは気づいてたからな。積層世界で上手いこと時間を稼いでもらっている間にこの世界で色々と仕込ませてもらったのさ」

 

「あれは罠だったか」

 

「その通り!ま、あくまでオマケだったが、上手く使えそうだったんでこの世界でも転生者(エサ)を使って増やした怪人(コマ)を足止めに使わせてもらったぜ?」

 

「!?それじゃ、あの怪人はお前が!?」

 

「いちいち驚くなよリゼ?まあ、ただの人間には無理な話か……ともかく、タカヒロの体を間借りした俺はお前たちを戦わせている間に一芝居打たせてもらったってことだ」

 

()()()のためにな、と嬉しそうに言う猟犬は懐から特徴的なハンドルの付いたベルト──エボルドライバーを取り出して二人に見せびらかすようにチラつかせた。

 

「……なるほど。完全体になるために他の猟犬を呼んだか」

 

「またまた正解!ゴーストライダーに10ポイント!」

 

「共食いとは……畜生にも劣る行いだな」

 

「おいおい、お前だって似たようなもんじゃないか?」

 

「似たような、もの……?」

 

「……」

 

いっそ仰々しささえ感じさせる仕草の猟犬の返答に困惑するリゼと押し黙る一騎。その二人の姿を見た猟犬は皮肉気な笑みを浮かべていた。

 

「世界を正しく終わらせるため、なんて綺麗事を言ってるが、結局、ゴーストライダーの(その)力で世界を終わらせるんじゃ、猟犬(俺たち)転生者(あいつら)と何が違うんだ?えぇ?ゴーストライダーさんよぉ?」

 

「──知ったことか」

 

「は?」

 

「……え?」

 

芝居がかった口調で投げかけられた質問に対してする一騎の返答に思わず声を出すリゼと問いかけたまま固まる猟犬。吐き捨てるように出された一騎の返答だったがそれには続きがあった。

 

「俺は復讐のために戦っている。そこには大義も理想も無い。ただ、転生者(お前たち)を殺す、それが俺の戦いだ」

 

「……フ、ハハハハハ!これだから人間は面白い!お前は自分が悪だと認めるのか?!」

 

「そんな……!?」

 

一方的な一騎の返答に腹を抱えて楽しそうに笑う猟犬と対照的にリゼは絶望した様子を見せるが、違うな、と一騎は猟犬の言葉を一蹴する。

 

「俺は一人じゃない。ゴーストライダー(俺たち)は力無き者のために──次の被害者を出さないために罪人を殺す、それがゴーストライダー(俺たち)の戦いだ」

 

「外狩さん……!」

 

力強く宣言した一騎にリゼの瞳に希望が戻るが、今度は猟犬がつまらなさそうな表情を浮かべていた。

 

「ハッ!言ってくれるじゃないか?ま、復讐で戦ってるのはお前さんだけじゃないけどな」

 

「何だと……?」

 

SAOの(あの)世界でお前に負けて俺のプライドはズタズタになった……ま、それを取り戻すためにこれだけの苦労をしてまで完全体になった、ってことさ」

 

これで条件は五分、って訳だ、と猟犬はヘラヘラとした笑みを浮かべるが、それに対する一騎は怒りと決意の籠もった眼差しを猟犬に向けると真っ直ぐに指を差した。

 

「黙れ、お前はここで殺す」

 

「そう言うと思ってたぜ!」

 

『コブラ!ライダーシステム!レボリューション!』

 

一騎の視線と言葉を受けた猟犬は嬉しそうに凶暴な笑みを浮かべると両手に一つずつ持った小さなボトル──エボルボトルをエボルドライバーにセットすると右手でレバーを握って回転させる。

 

「変身」

 

猟犬の宣言とともにその体を黒い立方体が包み込んで暗黒空間に飲み込まれて一瞬姿が消える。その直後に猟犬居た地点を中心に周囲に小型の黒い立方体を飛び散らせながら白を基調としたアーマーを装着した破壊の化身──仮面ライダーエボル、ブラックホールフォームがその姿を現した。

 

「さぁ、かかって来い!──ま、変身できないお前には何も出来ないだろうけどなぁ!」

 

「……」

 

「さて、後はこの世界ごとお前を倒せば俺の勝ちだ──チャオ」

 

「させるか!」

 

生身のままの一騎に対して挑発するエボルはブラックホールを作り出そうとするが、その動きに気付いたリゼは咄嗟にゲーマドライバーの機能を使って三人をゲームエリアの採石場へと転送させるとスナイプレベル2へと変身して銃撃でエボルの行動を妨害した。

 

「おおっと!?何だ、リゼか……いいだろう、望み通りお前から消してや──」

 

「詰めが甘いのはその力のせいか?」

 

「──ぐおっ!?」

 

一瞬、スナイプへと視線を向けたエボルは攻撃のために右手をかざした姿勢のまま伸びて来たチェーンによって地面へと叩き伏せられる。そして、そのチェーンの始点にはゴーストライダーへと変身した一騎の姿があった。

 

「天々座理世、いい判断だ。あとは俺に任せろ」

 

「一騎さん!」

 

「バカな!?何故、太陽の下で変身している!」

 

「気が付かなかったか?仮想空間には本物の太陽は昇らない。偽りの太陽では俺たちを止めることは出来ない」

 

これで条件は五分、と言う訳だ、と冷たく言い放つゴーストライダーに対してエボルは憎らし気な視線を向けながら立ち上がる。

 

「クッ、だが、この世界が俺とお前の全力に耐えきれるかな?」

 

「無理だろうな。だが──」

 

「な──ぐおっ!?」

 

不敵に笑うエボルの言葉を肯定したゴーストライダーが一度、言葉を切って飛び上がると、その背後から来たヘルバイクに跨ってそのままエボルへとぶつかった。

 

「一騎さん!?」

 

「──お前の好きにはさせん」

 

「ぐ、この──」

 

エボルを先端に引っ掛けたまま進むバイクはその眼前に開いたゲートに飲み込まれる。そして、ゲートが閉じた後には呆然とするスナイプと炎の轍が残されているだけであった。

 




●#05について
・猟犬の正体
今回のメインとなるギミックであり、Vol.8から続く一連の謎の真実が語られました。ちなみに、この転生者はエボルト本人ではありませんが、近づき過ぎてしまっているため、演じている訳ではなく無意識にそれらしい言動をしてしまう状態になっています。

・猟犬が今回したこと
<この世界の転生者を殺してその刻印を分割した><刻印で作った怪人への変身アイテムをばら撒き、同じく刻印で作った装備でリゼを仮面ライダーに仕立て上げた><事件の裏でこの世界におびき寄せた別の猟犬を殺して奪った刻印で完全体になった>

・一騎の理論
この世界観の転生者たちは一騎の行動の如何によらず、存在するだけで今なお犠牲者を苦しめ続けているだけでなく、改変した世界で新たな犠牲者を生み出し続けます。そんな身勝手な怪物を殺し、新たな被害者を生まない、自分と誰かのための復讐であることが私欲のためだけに戦う猟犬と一騎の違いです。

・仮想空間には本物の太陽は昇らない
これが一騎が対策を使用しなかった理由です。要するにゲームエリア内は仮想空間のため、そこにある光は自然物ではなくライトのような人工の光で再現されたもの、と言う解釈です。これはゲームエリアがドライバー内の装置で生成された特殊空間である、と言う公式の記述からしても間違いではない、と思います。


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#06

「ぐあっ!!」

 

ゲートを抜けて世界の狭間に出て来たゴーストライダーが急ブレーキをかけるとヘルバイクの先端に引っ掛けられていたエボルが慣性に従って薄っすらと見える地面を数m先へ転がって行った。

 

「ハッ、やってくれるじゃないかゴーストライダー……だが、こんな広い場所なら俺の力も──」

 

「言っただろう、お前の好きにはさせん、と」

 

「ぐえっ!?鎖、だと?」

 

起き上がったエボルが動き出す前にゴーストライダーが左手に巻きつけたチェーンが伸びてエボルの首に巻きついた。ヘルバイクを降りて向かい合うゴーストライダーとエボル、チェーンで繋がれた両者の間には一触即発の空気が流れていた。

 

「ハッ、チェーンデスマッチかよ……まったく、手の込んだことをしてくれるぜ」

 

搦手(からめて)には搦手、と言うことだ──さぁ、かかって来い」

 

「そうかい──なら、今日がお前の命日だ!」

 

言うが早いか左手でチェーンを引っ張ったエボルはそのままの勢いで踏み込むと右ストレートをゴーストライダーの顔面に叩き込む。

 

「これがお前の全力か?」

 

ゴーストライダーは一歩も動かず殴られたままの状態でエボルを見ると空いている右手でお返しとばかりにストレートを顔面に打ち返した。

 

「ぐあっ!!──ハハッ、そう来なくっちゃ、なぁ!!」

 

「ぬ……」

 

たたらを踏むエボルだったが、楽しそうに笑うと今度は左、右とワンツーパンチを繰り出すと、流石のゴーストライダーも後ずさる。

 

「まだまだぁっ!!」

 

「ぐ、ぬ」

 

今が好機と見たエボルは左で顔面にフックを放つと、右で胴体へのレバーブローのコンビネーションを放つと左のアッパーカットを顔面に叩き込んだ。

 

「さて、そろそろシメに入ろうかぁ!」

 

たじろいだゴーストライダーを見たエボルは三歩程バックステップしつつ戻した右手でドライバーのレバーを回転させて必殺技の準備をする。

 

『Ready go!』

 

「ゴーストライダー……これで終わりだ!!」

 

『ブラックホールフィニッシュ!』

 

高らかに宣言するエボルは右手にブラックホールのエネルギーを集中させるとそのまま踏み込んで右ストレート──ブラックホールフィニッシュをゴーストライダーの顔面へと叩き込む。

 

「フハハハハハ!勝ったぞ、見たか上位者ども!ハハハ──」

 

必殺の一撃を叩き込み、勝利を確信し高らかに笑うエボルだったが、ふと、自らの首元の鎖に目を向ける。

 

「──ん?そういえば、どうして鎖が燃えたまま──」

 

「なるほど、奴らは上位者と言うのか」

 

「は?──ぶげっ!?」

 

違和感に気付いたエボルだったが、時は既に遅く隙だらけの顔面にゴーストライダーの燃え盛る右ストレートが叩き込まれるとひとまずのチェーンの限界である数m先まで吹き飛ばされた。

 

「やるじゃねぇか……だが──」

 

「これ以上、お前に聞くべきことは無い」

 

「がっ──ぐあああっ!!」

 

ズレた顎を戻しつつ冷たく言い放ったゴーストライダーはチェーンでエボルを引き寄せると左の拳を右手で包んで振りかぶる。そして、無防備なまま飛び込んできたエボルへとダブルスレッジハンマーを振り下ろし地面へと叩きつける。

 

「ぐ、くそっ──がああぁっ!!」

 

うつ伏せに叩き落されたエボルが起き上がろうとするが、その前に踏み抜かんばかりのゴーストライダーの右足がその腰へと踏み下ろされると、その下にあったエボルトリガーが圧力に敗けて粉々になり、エボルはその力を失ってコブラフォームへと弱体化する。

 

「お、俺の力、が……」

 

「違うな、それはお前の力ではない」

 

「そう、簡単に──ぐああっ!?」

 

倒れ伏すエボルは悪態を吐こうとするが、それを意に介さず、ゴーストライダーはチェーンを使ってエボルを眼前へと引き上げるとその体を炎で包み込んだ。

 

「やめろ!俺は──」

 

「無駄だ、俺の眼を見ろ」

 

「ぐああぁっ!!あ、あぁ……」

 

ゴーストライダーは既に抗う力を失ったエボルに贖罪の眼(ペナンスステア)を覗き込ませる。炎に苦しむエボルはこれまで殺した転生者とその罪を一身に受けると自分を嘲笑う本物のエボルトの声を聞きながらその体と魂を焼き尽くされるのだった。

 


 

(……これで終わりか)

 

「(然り、良くやった、一騎)」

 

(……いや、どうやらまだの様だ)

 

「(何だと──これは、刻印が!?)」

 

チェーンを戻して一息を吐くゴーストライダーだったが、一瞬の違和感に緩みかけた気を引き締めると戻っていくはずの刻印が何処かへ引っ張られているようだった。

 

「くっ……」

 

「(ぬ!何だ此の異様な力は!?)」

 

何とか刻印の束にチェーンをかけるゴーストライダーだったが、あまりの力強さに徐々にどこかへ引きずり込まれていくようであった。

 

(……このままでは埒が明かん、飛び込むぞ)

 

「(一騎!?──已むを得ん、か……だが、確実に敵地だ、気を引き締めろ)」

 

(ああ、分かっている……まったく、儘ならんな)

 

状況を打開するべく敢えて敵地と知りつつ引かれるままに任せたゴーストライダーは暫くすると視線の先にある一つの世界に引き寄せられていることに気が付いた。

 

(……何だ、あの世界は?)

 

「(何と歪な……だが、大量の刻印の反応がある)」

 

よく見れば内包しているエネルギーのせいか普通の世界と違い一回りほど大きいだけでなく、大量の刻印の影響か一つの世界にいくつかの世界の一部が重なったような歪な形をしており、どこか異様な雰囲気を持っているようだった。

 

「(あの世界、如何やら幾つかの世界を組み合わせている様だ)」

 

(なるほど、ならあの異常な量の刻印にも説明が付くな)

 

「(然り、だが、此処からでは内情は探れぬぞ)」

 

ゴーストライダーは超感覚で世界を探ってみるが、何かのベールで包まれているようにその中を見ることは出来ないようであった。

 

「(恐らく、此れ迄に無い規模の戦いになるだろう……覚悟は良いか、一騎)」

 

(当然だ──俺はいつも通り奴らを狩る。それだけだ)

 

「(然り、では、行くぞ!)」

 

刻印に引かれるままだったゴーストライダーは自らゲートを開くと目の前の世界へと飛び込んでいくのであった。

 




●#06について
・チェーンデスマッチ
これはエボルを逃がさない目的もありますが、ブラックホールで世界ごと吹き飛ばせないようにする目的もあります。あとは自由に動かすと絵的に困りそうだったので、この形になりました。

・偽物のエボルの終わり
今回、エボルの行った攻撃は本編でもしていた動きに近しい物を選んでみましたが、あくまで偽物のため、狡猾さは本物に及ばなかったようで逃げることもできずに倒されました。そのため、コイツを見たら本物なら馬鹿にしてそうだなと思いペナンスステアの描写であんな感じにしました。

・複合世界
今作の最後の舞台である複合世界です。積層世界とは違い、複数の刻印を組み合わせて作られた高エネルギーの世界なので、複数の転生者が存在しています。また、刻印は本来なら元の世界に戻るはずですが、近くに元の世界と同じような高エネルギーの世界があったため、そちらに引き寄せられました。

●タイトルについて
Phantom Bullet:幻の銃弾
・元ネタはアニメSAO二期12話と13話のタイトルですが、今回の敵がSAOの世界にいたこと、スナイプによる変身自体が援護になったことがその話を彷彿させるため、このタイトルになりました。
・没案として「Catch Me If You Can」にするアイディアもありましたが、今の方が面白そうだったので、こちらは没になりました。

●猟犬について
エボルト(年齢不明/性別不明)
・エボルトの能力を特典に持つ存在で転生元は新卒の社会人だが、その時代の面影はない
・Vol.8では詩乃に憑依して登場:銃を使うことが詩乃ではないことのヒント
・エイムズから奪った仮面ライダーバルカンを使い、空也の刻印でランペイジを手に入れた
・エボルトの力で憑依した人間を強化できるため、強化した身体能力でランペイジを使用した
・Vol.9では登場しないものの、情報だけは知っていた積層世界で刻印の分割という手段を学び、わざと気配を残して囮に使う
・Vol.10ではその世界の転生者の刻印を使ってかく乱のための事件を起こし、後から来た猟犬の刻印で完全体となった
・最後に出現した刻印は元々の物とこれまで自身の強化に使った全ての刻印、今回分割した刻印の三種類
→刻印がなくなったため、戦いが終わった後にはリゼの使っていたスナイプも起動しなくなっている


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Vol.11:Dog Eat Dog Part.1
#01


(夕方か……悪くはないな)

 

「(然り。だが、気を抜くな、一騎)」

 

(ああ、分かっている)

 

ゲートを潜り抜けた一騎は日の沈み始めた、冬の夕方の街はずれに出ていた。辺りを見回して警戒する一騎だが、降り立ったのは何かの倉庫の跡地のようで狙い通り周囲に人気は無く、状況を見極めるにはうってつけであった。

 

(特に目立つものはないが……何か見えるか?)

 

「(否、此方も反応が多過ぎて絞り切れん)」

 

(まあ、そうなるか……となると虱潰(しらみつぶ)しに探すしかない、か)

 

肉眼では内包された世界を確認できる特徴が見当たらないことから、超感覚を持つゴーストに聞く一騎だったが、その返事も芳しくはなく小さくため息を吐いた。

 

「(然り。だが、多少、手間は省けたようだぞ)」

 

「……さて、いつまで隠れているつもりだ?」

 

「ほう、良く気が付いたな」

 

押し黙っているようにしか見えない一騎が呼びかけると、返事とともにその周囲を腐った目をしたまったく同じ容姿の十人の少年──比企谷八幡たちが取り囲んだ。

 

「(成程。()の世界のシステムを流用し、欠片とエネルギーで尖兵を作ったか)」

 

「……また、お前たちか」

 

「また、とは何だ!」

 

「今の俺たちは初対面だぞ!」

 

「まあ、基本は変わらないけどな!」

 

げんなりした様子の一騎だったが、それに気付く様子もなく口々に文句を言う八幡たち。だが、彼らの持つ刻印の欠片は紛れもなく本物であり、その事実が一騎により強い疲労感を感じさせているのであった。

 

「……御託はいい、さっさと来い」

 

「いいだろう──」

 

「「「「「「「「「「デュアッ!」」」」」」」」」」」

 

辟易する一騎の言葉に一人の八幡が前に出て懐から取り出した眼鏡をかけると、それに合わせて他の八幡たちも眼鏡をかけつつ全員で声を掛け声を出す。すると、まばゆい光が全員を包み、光がおさまるとセブンスーツを纏った戦術部隊がその姿を現した。

 

「……まったく、進歩の無い奴らだ」

 

「行くぞ、ゴーストライダー!」

 

「そこまでだ!」

 

「(……む?)」

 

「ッ!?誰だ!?」

 

スペシウムソードを構えて臨戦態勢を取るセブンたちに呆れた様子の一騎。どこかちぐはぐな空気の中、突如、横合いからかけられた威圧感のある声にその場の注目が集まると、そこには燃える骸骨──ゴーストライダーの姿があった。

 

「貴様はゴーストライダー!くそっ、合流する前に倒す作戦が台無しじゃないか!」

 

「外狩一騎、ここは俺に任せて逃げろ!」

 

「(まさか!?我等以外のゴーストライダーだと!?)」

 

(どうやらそうらしいが……まったく、儘ならんな)

 

様子を窺う一騎に対して声をかけたゴーストライダーがセブンたちと一進一退の戦いを繰り広げるが、その戦いを見た一騎は小さくため息を吐くと目の前の戦場へと歩き始める。

 

「何やってる!戦えないなら早く逃げろ!」

 

「わざわざ殺されに来たか!なら、望み通り殺してやる!!」

 

チェーンで足止めをしつつ二体ほど倒したゴーストライダーだが、その脇を抜けて飛び出したセブンの一人が強化された超人的な身体能力でスペシウムソードを振るう。生身の人間を殺すには十分すぎる威力を持つ一撃は無防備に歩く一騎を真っ二つに切断する──はずだった。

 

「な──ぬあっ!?」

 

「言っただろう、進歩がない、と」

 

突如、衝撃を感じて転んだセブン。スペシウムソードを持った手を掴んだ一騎がそのまま勢いを使ってセブンを地面に投げ倒すと、そのまま取り押さえつつスペシウムソードを取り上げていた。一連の流れは見る者が見ればかつての積層世界で別の八幡との戦いの焼き直しのようであった。

 

「このっ!離せ!!」

 

「まずは一つ」

 

「がっ……」

 

関節を押さえられているため、想像以上に力が伝わらず体をよじるのがやっとのセブンに対して冷たく言い放った一騎が手に持ったスペシウムソードでバイザーの比較的脆い目の部分を貫くと小さく悲鳴を上げたセブンは絶命し、その姿が霧散した。

 

「なるほど、死体は消えるのか」

 

「そんな、一瞬で……!?」

 

「これが、ゴーストライダーの実力、か……」

 

「さて、次はどいつだ?」

 

「「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」」

 

戦慄するセブンたちと驚嘆するゴーストライダーに対し、スペシウムソードを手放した一騎がゆっくりと冷たい視線を向けると、味方と思われるゴーストライダーですらたじろいだ。

 

「う、うわあぁぁぁっ!!」

 

「遅い」

 

恐慌に陥ったセブンの一人が向かってくる一騎に対してスローイングナイフを投げつけるが、あっさりとチェーンで絡め捕った一騎はそのままヘルファイアを纏わせたスローイングナイフを投げ返す。

 

「ひっ──」

 

「二つ」

 

「ぐえっ」

 

恐怖と混乱で動けなくなったセブンの影をなぞって飛ぶ燃え盛るスローイングナイフがバイザーを貫くと二人目のセブンも倒れ伏して消えた。

 

「く、くそっ、怯むな!」

 

「おっと、俺を忘れてもらっては困るな!」

 

「ぐあっ!!」

 

「うげっ!!」

 

何とか持ち直した一人を筆頭に一騎と戦おうとする残りのセブンたちだったが、その動きを制するようにゴーストライダーが手近な二人を殴り倒しつつ、もう一人へと立ちはだかった。

 

「三つ……少しはマシな動きになったか」

 

「(然り。だが、此の程度では実力は測れぬ)」

 

「ぐああっ!!」

 

ゴーストライダーの動きに評価を下す一騎はそちらに気を取られたセブンの一人に近づくと、その体で日陰を作りスーツ越しにヘルファイアで肉体を焼き尽くす。

 

「こ、このままじゃ……」

 

「これで終わりだ!」

 

「「「がああっ!!」」」

 

残った三人が後ずさりして固まったところをチェーンでまとめたゴーストライダーがそのまま三人をヘルファイアで焼き尽くして戦いはひとまず終わりを告げた。しかし、ゴーストライダーを見る一騎の視線は鋭いままだった。

 

「さて、一つ問う。俺の事を知っている様だが、お前は何者だ?」

 

「初めまして、俺は()()()()のゴーストライダー、篝斗真(かがりとうま)。ま、詳しいことはウチで説明するからついて来てくれ」

 

「(一騎、此れは……)」

 

(付いて行くしかない、か──っ!?)

 

変身を解除し笑顔で告げる少年──斗真が話も聞かずに歩く姿に辟易しつつも進もうとする一騎は視線を感じて周囲を見渡す、が、何処にも監視者の姿を見つけることは出来なかった。

 

「(?一騎、如何かしたのか?)」

 

(……いや、何でもない)

 

「おーい!来ないなら置いてくぞー!」

 

「……まったく、儘ならんな」

 

勝手に先を行く斗真に遅れないように後を追う一騎。だが、そんな二人の後ろ姿を物陰から見つめる人影に気付く者はいないのであった。

 




●#01について
・量産型八幡
Vol.9でゴーストの言った言葉通りになりましたが、この量産型転生者は制御が簡単な上に序盤の幹部級怪人ぐらいの強さなので、下手な怪人を出すよりも安定した戦果を出す事が出来るとして実用化されました。

・外狩一騎の戦い方
今回は正体を隠す必要がなく、相手を殺しても大丈夫なので、体術とゴーストライダーの力を使った一騎本来の戦闘スタイルで戦っています。好きなだけ小技も出せるので、個人的に気に入っているシーンの一つです。

・この世界のゴーストライダー
今回から登場した新たなゴーストライダーです。正体はごく普通の少年に見えますが、ある程度は戦えるようです。日の光の下でも変身できるため、一見すると一騎の上位互換にも見えますが、実際にどうなのかはのちのエピソードで説明されます。


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#02

 

「(ぬ……転生者の反応だ)」

 

(またか?……これは面倒だな)

 

冬の昼間、通勤や通学中の時間を過ぎて落ち着き始めた平日の街中を一騎がバイクで走りまわっていた。勿論、ただ闇雲に走っている訳ではなく、転生者を見つけるために反応の強い場所を探しているが、目当ての転生者を見つけたはずの一騎はフルフェイスの下で浮かない表情をしていた。

 

「(然り、数は多い、が、此度は()()()も居る。然程、問題にはならんと思うが?)」

 

(斗真(アレ)を頼るだと?正気か?……ともかく、一度、情報を整理するぞ)

 

ゴーストの言葉に顔をしかめた一騎は内心で頭を抱えつつも、昨夜聞いたもう一人のゴーストライダーの話を思い返すのだった。

 


 

「着いたぜ。ようこそアジトへ──って、言っても俺の家だけどな。あ、住んでるのは俺だけだから気にしなくていいぜ」

 

戦いの後、徒歩でバイクの修理工場の併設された一軒家に案内された一騎はそのままリビングに通されると、目の前に立つどこか気の抜けた態度の斗真に冷たい視線を向けていた。

 

「……それで、説明してもらえるんだろうな?」

 

「思ったよりせっかちなんだな……ま、心配しなくても説明するから、適当に座って待っててよ」

 

あ、コーヒーとお茶どっちがいい?、とキッチンへ向かう斗真の言葉に内心で頭を抱える一騎は小さくため息を吐くと、好きにしろ、とだけ答えて食卓の椅子へと座った。

 

「(此奴、余程の大物か、それとも……)」

 

(おそらく馬鹿の方だろう……少なくとも俺にとってはな)

 

「はいよ、粗茶ですがどーぞ、ってね……つーか、そんな難しい顔してどうした?」

 

「……いや、なんでもない」

 

二人分の湯呑を持ってきた斗真は一騎の答えに、ふーん、と興味なさそうに返すとそのまま向かいの席へと座った。

 

「──さて、んじゃ、何から話そうか?」

 

「お前は何者で俺の事をどこで知ったか教えろ」

 

「さっきも言っただろ?俺はアンタと同じゴーストライダーで、この世界の転生者と戦ってたらアンタの話を聞いた事があったんだよ」

 

「なるほど。では、何故あの場に都合よく現れた?」

 

「そりゃ、刻印とゲートの反応を辿ったらアンタが居た、ってだけの話でただの偶然だって……つーか、これ尋問?」

 

「……そうか。いや、この聞き方は生まれつきだ、気にするな」

 

気にするな、っていわれてもなぁ、と頭を掻く斗真だったが、それを意に介さない一騎は、次の質問だ、と冷淡に言葉を続ける。

 

「ここは複数の世界が混ざっているようだが、どうなっている?」

 

「そうだな……まず、アンタの予想通りここは百人近い転生者を集めて作られた複合世界だ」

 

「そこまでは分かっている。他に何か情報はないのか?」

 

「生憎、俺が倒した転生者から他に聞き出せたのは、この世界はゴーストライダー──つまり、俺を()と見立てることで特典による敵の発生を抑えているらしい、ってことだけだ」

 

あとはさっぱり、と肩を竦める斗真がひとまずの説明を終えたとばかりに茶を飲んで一息つく間、その様子を黙ったままじっと見ていた一騎は小さくため息を吐いた。

 

「(大した情報は無い様だな)」

 

「……一つ聞かせろ、お前はどうやってゴーストライダーになった?」

 

「疑り深いなぁ……まあ、いいけどさ。俺はアンタと同じ上位者や他の転生者に反対している立場の人間だった。まあ、アンタと違ってすぐには力が無かったんでな、しばらくは魂だけの状態で封印されてたんだ」

 

「……」

 

「んで、ある日、俺の刻印が反応したと思ったら、この世界の敵としてゴーストライダーをやることになってた、って訳さ」

 

納得してもらえたか?と真っ直ぐに一騎を見て問いかける斗真に対して、一騎は鋭い視線を向けたまま、一応はな、と素っ気ない返事を返した。

 

「さて、最後の質問だ。この世界の()はどいつだ?」

 

「核?何だそりゃ?」

 

「……世界を混ぜたからこそ、その世界の中心となる刻印を持つ転生者がいるはずだ。心当たりはないか?」

 

「うーん……まあ、流石にアイツ等も敵に弱点を言うほどバカじゃないからなぁ」

 

さっぱりわからん、と再び肩を竦める斗真に対して、だろうな、と短く返す一騎は予想していたのか冷たい視線を向けていた。

 

「……アンタ、友達少ないだろ?」

 

「想像に任せる」

 

「そうかよ……そういえば、アンタのことは何て呼べばいい?」

 

「……好きにしろ」

 

「あいよ、んじゃ、一騎先輩、質問がないなら飯作るけど、何か食いたいモンあるか?」

 

「俺はいい、核を探してくる」

 

一騎の態度に呆れつつも立ち上がりかけた斗真だったが、一瞬早く立ち上がった一騎の言葉に動きが止まる。

 

「は?先輩、夕飯どうすんだよ?」

 

「時間が惜しい。食事なら探しながらでも出来るだろう」

 

「あー……もしかして俺も行く感じ?」

 

「……お前は転生者を狩らないのか?」

 

「え?いやー、俺は学校とバイトがあるから今日は無理かなー、って」

 

ダメ?と小さく首を傾げた斗真に対して冷たい視線を向ける一騎、二人の間にはただ静かな沈黙が流れるだけであった。

 


 

休憩がてら手近なコンビニでバイクを停めていた一騎は昨夜のやり取りを思い出して内心で頭を抱えていた。

 

(情報はともかく、少なくとも、斗真(アレ)を軸に作戦は立てられん)

 

「(然り。だが、戦力に違いはあるまい)」

 

(それもどうだかな……ん?)

 

一騎は正午過ぎまで続けた調査の結果、核の居場所はおろか、転生者の正確な総数すら掴めていないことに小さくため息を吐くが、ふとどこかから飛んできた紙飛行機が足元に落ちたことに気づくとそれを拾い上げた。

 

「(子供の悪戯であろう、捨て置け)」

 

(……いや、どうやら違うようだ)

 

「(何?……此れは、住所と地図?)」

 

(それも、転生者の刻印が描かれている……罠、にしてはあからさま過ぎるが、どうしたものか)

 

一騎の行動を訝しむゴーストだったが、広げられた紙飛行機が刻印とどこかのビルと思われる住所が記された地図で作られていたことでその声には困惑が感じられていた。対する一騎もどこかその地図の真意を測りかねているようであった。

 

「(……否、迷う必要はあるまい。罠ならば其れを打ち砕き奴等を狩る。そうであろう?)」

 

(……そうだな。まあ、虱潰しに探すよりはマシか)

 

「(然り、であれば、行くぞ、一騎)」

 

ああ、と内心で返事をした一騎は適当に折りたたんだ地図をポケットへしまうと記された場所へ向けてバイクを走らせるのであった。

 




●#02について
・斗真による説明
この世界についての簡単な説明ですが、彼も戦いながらの情報収集のため、自分以外についての情報は不足しています。また、彼自身のスタンスも生活を優先しているため、その行動には一騎ほどの苛烈さはありません。

・斗真を軽視する一騎
前述の理由により、一騎は斗真の能力や資質を疑問視しています。まぁ、本来は一騎のように復讐のために全てを切り捨てている方がおかしいんですけどね。

・紙飛行機の地図
ここに描かれている転生者の刻印は作中で転生者たちから引きはがされるアレです。特殊なものや分割されたものでなければ基本的に刻印のデザインは統一されています。


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#03

 

放課後、授業から解放された生徒たちが部活や帰宅など、それぞれの目的に動き始める中、机に突っ伏している斗真はどこか疲れたような表情をしていた。

 

(ったく、勝手に出てったまんま朝になっても帰ってこないとか……ホント、何なんだあの人は?)

 

頭を掻きながら小さくため息を吐いた斗真は、ひとまずバイトに行くか、と内心で一人ごちて立ち上がるとスクールバッグを肩にかけて3-Aを出た。が、その直後、目の前にいる人物を見て苦虫をかみつぶしたような顔になる。

 

「ゲッ、総司かよ……」

 

「ハッ、ご挨拶じゃないか斗真、いや、ゴーストライダー?」

 

「ばっ!……その名で呼ぶんじゃねーよ。()()を忘れたのかよ?」

 

意地の悪そうな笑みを浮かべた少年──総司を引き連れてコソコソと廊下の端へ移動する斗真は誰かに会話を聞かれないかヒヤヒヤしているようだった。

 

「何、ここでやり合うつもりはないさ。ただ、お前が慌てる姿が面白くてつい、な」

 

「ホント、悪趣味な奴……んで、何の用だ?」

 

「いや、3-A(そのクラス)にいる俺のハーレム要員を見に来ただけだ」

 

「……お前、マジで協定のこと忘れてない?」

 

呆れたような口ぶりの斗真に対してあからさまに不機嫌な表情になる総司。面白いように表情の変わる総司の姿は高校生にしてはどこか幼さを感じさせるようでもあった。

 

「わかっている。ゴーストライダーが居る限りこの世界の人間には手を出さない……まったく、面白くもない協定だ」

 

「……最初に、勝者への景品だ、とか言ってノリノリで作ったのはどこのどいつだよ」

 

「何か言ったか?」

 

「別にぃ~?それより、俺これからバイトだから行ってもいいか?」

 

「好きにしろ。俺はもう少しヒロイン(景品)を見てから帰る」

 

おちょくられた仕返しか、協定、忘れるなよ、と念を押して煽る斗真だったが、既に眼中にないのか斗真に目もくれない総司に辟易しつつもバイトへと向かう。が、ふと何かを思い出したのか総司が斗真の方へと目を向けた。

 

「……おっと、そうだ。一つ言い忘れていた」

 

「あん?まだ何かあんのかよ?」

 

「先ほど聞いたんだが、協定を無視してゴーストライダーが暴れているらしいぞ?」

 

「……マジかよ?」

 

「ああ、今は西地区のビルにいるようだ。まったく、優秀な先輩がいると大変だなぁ?ハッハッハッ」

 

意地の悪い笑みを浮かべた総司の言葉を受けて慌てて飛び出す斗真。離れていく背中に対して何事かを言われたようだが、斗真の耳には入っておらず、急いで校門を出た斗真は目立たないところで呼び出したバイクに乗って現場へと向かうのだった。

 


 

夕方も近くなり人通りの少なくなったビルの並ぶ薄暗い通りに着いた一騎はその中のビルの一つの前でバイクを降りた。

 

(ここが地図のビルか……一見するとただの雑居ビルだが)

 

「(然り、此処には転生者の反応が在る……が、向こうの方が早かったようだ)」

 

(チッ、雑魚共か)

 

「おい、お前、そこで何をしている?!」

 

後ろからかけられた聞き覚えのある声に面倒くさそうに振り返った一騎の前には予想通り三人ほどの八幡(戦闘員)の姿が立ちはだかっていた。

 

「お、お前はゴーストラ──ぶべっ!」

 

「五月蝿い」

 

真っ先に一騎に気づいた一人の顔面を振り向いた勢いのまま右フックで殴り、脳震盪でダウンさせた一騎はすぐさま視線を走らせると手近なもう一人へステップで距離を詰める。

 

「な──んがあっ!」

 

「ああ、一号と二号が──ごふっ!?」

 

二人目に近づいて左のアッパーカットでダウンさせつつ、驚いたままでいる最後の一人に距離を詰めてみぞおちへの強烈なボディブローで立て続けにダウンさせた一騎は油断なく周囲を見渡す。

 

(呆気ない、が、本命はこの後か)

 

「(然り、来るぞ!)」

 

『カイガン!オレ!』

 

「そりゃあ!」

 

突如、真上から変身音とともに降りて来た仮面ライダーゴースト、オレ魂がガンガンセイバーのブレードモードで切り下ろすが、その動きを察知していた一騎は前に飛び込んで回避すると、そのまま開け放たれているビルの内部へと飛び込んで行った。

 

「チッ、すばしっこい奴!」

 

直後にガンモードに切り替えようとする仮面ライダーゴーストだったが、ビル内部の暗さで目標を見つけられないことから即座に闘魂ブーストゴーストアイコンをドライバーにセットする。

 

『一発闘魂!闘魂カイガン!ブースト!』

 

「よっしゃ、命、燃やすぜ!」

 

「違うな」

 

「え?──うおっ!?」

 

ハンドルを押し込み、闘魂ブースト魂への変身を終えた仮面ライダーゴーストは突如、ビルの内部から伸びて来たチェーンに絡め捕られてビルの中へと引きずり込まれる。当然、逃れようともがく仮面ライダーゴーストだったが、半実体化しようにも何故か絡みついたチェーンをすり抜けることが出来なかった。

 

「クソッ、一体何が──」

 

「燃やすのは俺だ」

 

「なっ!?──ぐああっ!」

 

混乱から立ち直れない仮面ライダーゴーストに対し冷たく言い放ったゴーストライダーはチェーンで巻かれたままの相手に贖罪の眼(ペナンスステア)を覗き込ませると、情報を取得してからその魂と肉体を焼き尽くした。

 

「まずは一つ、か」

 

「(然り。だが、此の場には他の反応は無い)」

 

(なるほど……罠ではなかったようだが、こちらの動きは向こうに知れたか)

 

「(ぬ、監視カメラか……随分と地味な手を使うものだ)」

 

周囲に敵の気配がないことを確認して変身を解いた一騎は敵の規模から、ひとまずはこの情報は相手にとっても予想外だったと結論付けて外に出ると、ダウンしていた三人の首の骨を折って止めを刺す。

 

(さて、ここからどうするか)

 

「(先ずは次の拠点を落とすべきであろう)」

 

(そうだな、なら──)

 

「一騎先輩、何やってんだよ!?」

 

「……何の用だ?」

 

次の目標を定めた一騎とゴーストの前にバイクに乗った斗真が現れるが、あまりにも慌てた様子に一騎は怪訝な表情を向ける。

 

「何の用、って、アンタが人の話も聞かずに()()を破るからだろうが!」

 

「協定?ああ、出がけに聞かされた、あのふざけた決まり事か」

 

「ふざけた、だと……!?あれはこの世界を守るために必死で──」

 

「転生者が譲歩してもゴーストライダー(俺たち)が容赦する必要はない……もし、お前がこのふざけた決まり事を俺にも守らせるつもりなら、俺がお前を裁く」

 

「ッ──!?」

 

怒りに燃えていたはずの斗真だったが、生身のはずの一騎から放たれる圧倒的な殺気に呑まれて動けなくなる。その様子を見た一騎は小さくため息を吐くと不意に殺気を抑えた。

 

「……お前がやる分には好きにするといい。だが、俺は転生者を狩る。何かあったら俺のせいだとでも言っておけ」

 

「一騎先輩、俺は……」

 

「俺は核を探すために次の拠点を落とす……お前にその気があるなら転生者の刻印と情報を持ってこい」

 

じゃあな、と呼び寄せたバイクに乗った一騎が次の拠点へ向けて走り出すと、残された斗真もバイクに乗ってどこかへと走り出したが、その表情からは大きな迷いが見て取れるのであった。

 




●#03について
・振り回される斗真
設定したものの本編では特に必要はなかったので描きませんでしたが、彼の通う学校は共学になっている花咲川です。また、彼は彼なりに世界と日常を守るために戦っていますが、その姿勢は一騎にとっては許せないものだったようです。

・協定
この世界はゴーストライダーを敵とすることである種の平和が成り立つ世界です。そのため、ゴーストライダーである斗真とは私闘が禁じられており、ルールを定めた決闘に勝利することで景品としてネームドキャラを好きにする権利を得る、と言う協定があります。

・ゴーストライダーVS仮面ライダーゴースト
一見、有効に見える仮面ライダーゴーストの能力ですが、基本原理はあくまで科学なので多少、霊に性質をよせたしても本来の使い手でもなければ、魂そのものに干渉できるゴーストライダーにとってはより倒しやすくなっただけでしかありませんでした。


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#04

 

日がほとんど沈み夜の気配の濃くなった時間、いつものコンビニでバイトをしている斗真だったが、目の前のレジではなく、その向こうを見ているような表情は未だに大きな迷いを感じさせるようだった。

 

「ねえ、斗真、本当に大丈夫?」

 

「──え?俺、そんなにヤバそうに見えた?」

 

「うん、こんな感じ」

 

「……うわぁ、確かにこれはヤバそうだわ」

 

同じシフトになることが多い友人でもある茶色のウェーブロングの髪の少女──今井(いまい)リサから見せられた直前の自分の写真は心配されても仕方がないと納得できるものであった。

 

「──で、何があったの?今ならお客さんもいないし、アタシでよければ聞くよ?」

 

「うーん……例えばさ、リサは自分のやりたいことが友達のやりたいことを邪魔するとしたら、自分と友達、どっちを優先する?」

 

「何それ?引っ掛け問題とか?」

 

「いや、例えばの話だって──んで、どう思う?」

 

うーん、と考え込むリサに対して、失敗したかな、と内心で客が来ないか気にする斗真だったが、そんな心配をよそに結論が出たのかリサが斗真へ向き直った。

 

「そうだなぁ……アタシなら友達を取るかな」

 

「まあ、リサはそう言うよな」

 

「でも、もし、斗真が本当にしたいことなら、友達の邪魔にならない程度にやったらいいんじゃないかな?」

 

「……ホント、リサは面倒見の鬼だな」

 

「鬼って何よ──」

 

「──危ない!」

 

表情の柔らかくなった斗真の冗談で笑いあう二人、だが、そんな他愛のない日常の一ページは入り口のガラス戸が叩き割られたことで終わりを告げた。

 

「……おいおい、アイツ、諦めたんじゃなかったのかよ?」

 

「あ、ありがと……でも、何が──」

 

「あー、とりあえず、ヤバい奴なのは確かだな」

 

「え、っと、とりあえず、警察呼ぶ?」

 

困惑するリサを庇って伏せた斗真が入り口にいるガラス戸を破った張本人である赤を基調としたコウモリのライダー──仮面ライダーキバ、キバフォームを覗き見ながら内心で頭を抱えていた。

 

「いや、まずは俺がバイクでアイツを引き付けるから、リサは奥に入って隠れてから警察を呼んでくれ」

 

「でも、それじゃ斗真が……」

 

「大丈夫、俺、約束破ったこと無いだろ?」

 

「……わかった。絶対、無事に逃げてね?」

 

小さな声で会話を終えてこっそりとスタッフルームへと隠れようとするリサとは逆に姿を晒して入り口へと進む斗真に対してキバの視線が向けられる。

 

「貴様、よくも抜け駆けを!」

 

「抜け駆け、って単に友達とバイトのシフトが被ったから悩みを相談してただけだろうが?!」

 

「うるさい!おまけに僕のリサに抱き着くなんて!」

 

「いや、俺は庇っただけだし、お前はただのストーカーだろ!?つーか、庇ったのもお前が原因だからな!?」

 

勝手に激昂するキバに律儀にツッコミを入れつつ横目でリサが隠れたことを確認した斗真は小さくため息を吐いた。

 

「まあいい、協定なんて知ったことか!ここでお前を倒す!」

 

「どいつもこいつも協定を無視しやがって──いいぜ、かかって来な。変身!」

 

掛け声とともにゴーストライダーへと変身した斗真はタックルをしてキバを壊れた入り口から外へと弾き飛ばすと、そのあとを追ってそのまま自分もコンビニの外へと飛び出した。

 

「クッ、だが、この程度で──」

 

「済むわけねぇだろっ!チェインブロウ!」

 

「ぐっ──ぐえっ!」

 

立ち上がったキバの首にチェーンをかけたゴーストライダーは勢いよくチェーンを引っ張ると、そのまま引き寄せたキバの顔面に右ストレートを叩き込んだ。

 

「グッ、この……」

 

「アンタの罪を悔い改めな!ペナンスステア!」

 

「ぐ──ぐあああっ!!」

 

軽い脳震盪に陥ったキバの襟首を掴んだゴーストライダーがペナンスステアを覗き込ませると、キバは己の罪によってその魂ごと体を焼き尽くされていった。

 

「ふぅ、これでなんとか──」

 

「残念ながら、ならないんだよなぁ」

 

「っ!?誰だ!?」

 

一息つこうとしていたゴーストライダーだったが、突如、横合いからかけられた声に目を向けると、そこには赤と青のツートンカラーの戦士──仮面ライダービルド、ラビットタンクフォームの姿があった。

 

「勝利の法則は決まった、ってな」

 

「……ホント、協定って何なんだろうな──クソッ、こっちだ!」

 

「あっ!?待てコラァ!!」

 

やる気満々と言いたげなビルドの姿に大きなため息を吐いたゴーストライダーは、ひとまずコンビニへの被害を抑えるために呼び出したバイクに乗って広い場所へとビルドを誘導し始めるのであった。

 




●#04について
・バイトの友達
こういうシーンは苦手なので書いててテンションを維持するのが大変でした。まぁ、本来は斗真が戦うだけのシーンなのでなくてもよかったんですが、状況に説得力を持たせるためにこのような形になりました。

・斗真の戦い
基本的には日常を守るために戦う斗真ですが、協定に則った決闘には真面目に参加しますし、今回のように協定違反の暴走転生者と戦うことも彼の役目です。また、技名を叫ぶのは彼の趣味というかクセのようなものです。

・横行する協定違反
おそらく、一騎が暴れていることがきっかけで不満を持つ転生者たちが暴走している可能性はあります。そのせいで働かされるは斗真はたまったものではありませんが、その手の転生者を倒してこなかった自分のせいなので諦めてもらうしかありません。


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#05

 

深夜の河川敷、本来なら静けさに包まれる平和な場所だが、今はゴーストライダーの周囲を取り囲む赤、青、黄の怪盗のような衣装の戦士──ルパンレンジャーのVSチェンジャーから鳴り響く銃声と離れた所に倒れ伏す転生者たちの姿で戦場の様相を呈していた。

 

「くらえっ!」

 

「無駄だ」

 

「「「ぐあああっ!」」」

 

一斉に放たれる銃撃を防御もせずに無視したゴーストライダーは右手のチェーンでルパンレンジャーを一纏めにして爆発させると、気絶して変身の解除された三人の転生者を放置して背後にいる残りの転生者へと視線を向ける。

 

「さあ、次はどちらだ?」

 

「くそっ!仕方ない、プランBで行くぞ!」

 

「分かった!うおおおっ!」

 

視線を向けられた金色のアーマーに赤い複眼の戦士──仮面ライダーアギト、グランドフォームが合図とともに構えを取ると、横にいた白いコートの青年がガロの鎧を召喚してゴーストライダーへと跳びかかった。

 

「せいっ!てやあっ!」

 

「ぬ……」

 

「今だっ!」

 

牙狼剣による連続攻撃でゴーストライダーの動きが止まったタイミングでバックステップしたガロが声をかけると、その背後でライダーキックの構えを終えたアギトの視線がゴーストライダーを捉えて飛び上がった。

 

「はぁーーっ!!」

 

「その程度で俺を倒せると思ったか?」

 

「何っ!?──ぐえっ!」

 

大地のエネルギーの集約されたライダーキックを受けたゴーストライダーだったが、これまでの戦績を考えれば当然と言うべきか無傷であり、お返しとばかりに片手で軽く受け止めたままのアギトを力任せに地面に叩きつけた。

 

「このっ!アギトを放せっ!!」

 

「そうか──なら、返してやろう」

 

「え?──うわっ!?」

 

「がっ!?」

 

激昂して切りかかろうとするガロだったが、ゴーストライダーが投げつけたアギトを受け止めきれずそのまま地面に倒れこんだ。

 

「ぐ、おい!だいじょ──」

 

「よそ見をするな」

 

「「ぐええっ!」」

 

立ち上がる前にアギトの無事を確認しようとしたガロだったが、その前に二人まとめて踏み下ろされたゴーストライダーの右足に踏みつぶされて動けなくなる。

 

「ぐうっ、このっ」

 

「流石に鎧は頑丈だな──だが、これで終わりだ」

 

「「ぐ、うあああっ!」」

 

右足で踏みつけたままの二人に対して贖罪の眼(ペナンスステア)を覗き込ませたゴーストライダーは情報を読み取ると二人の魂と肉体を焼き尽くした。

 

(これも空振り……やはり、拠点の場所は分かっても核についての情報は無いか)

 

「(然り。如何やら、奴等は実働部隊には何も教えていない様だな)」

 

(なら、いくら雑兵を調べても意味は無い、と言うことか……まったく、儘ならんな──ん?)

 

「(如何した、一騎──此れは、如何言う事だ?)」

 

周囲に敵の姿が無くなったことで変身を解除して情報を整理していた一騎だったが、ふと違和感を感じた右手を開くと何やら折りたたまれた紙が握られていた。

 

(……ゴースト、周囲に反応は無かったのか?)

 

「(然り。あの瞬間、確実に刻印の反応は無かった。だが、現に手元に其れが在る……一体、何が起こっているのだ?)」

 

(分からん、が、何にせよ悪意のあるものではなさそうだ──見てみろ)

 

「(此れは──地図か……成程、手の込んだ事をするものだ)」

 

周囲を警戒しつつも困惑する二人だったが、開いた手元の紙が昼間の地図と同じように刻印とどこかマンションと思われる住所が記された地図であることから、どこか納得をした様子であった。

 

「(此の場所は奴等の情報にも在った拠点のようだが……此処に何かが在るのか?)」

 

(どうだろうな。だが、昼間の地図といい俺たちに転生者を倒させたいだけかもしれんな)

 

「(成程。ならば我等の成す事は一つだ)」

 

(ああ、奴らを見つけて狩る。それだけだ──ん?着信か)

 

周囲に倒れる転生者を燃やして止めを刺しつつ次の行動を決めた二人だったが、振動を感じてスマホを取り出した一騎は斗真からの着信であることを確認して通話を始めた。

 

『あ、もしもし、一騎先輩?今どこにいる?』

 

「外だ……何だ?やる気になったのか?」

 

『……まぁ、そんなとこ。とりあえず、いくつか手に入れた情報があるんで戻ってきてもらえるか?』

 

「(一騎、夜明けも近い。一度、態勢を整えるぞ)」

 

「……わかった、一度そちらへ戻る」

 

んじゃ、またあとで、と勢いよく通話を切った斗真に対して小さくため息を吐いた一騎は周囲の転生者たちを燃やし尽くしたことを確認すると、地図の住所の方を一瞥してからバイクに乗って斗真の家へと戻るのであった。

 




●#05について
・VS転生者部隊
複合世界では複数人として運用することを前提とした特典を持つ転生者たちを中心にいくつかのチームが作られていますが、ここで一騎が戦っているのはそのチームの一つです。とはいえ、ゴーストライダーのスペックに敵うような特典もなかったため、鎧袖一触しました。

・突如、()に入った情報
正しく手の中に入っていた出所不明の情報ですが、これが罠か一騎の言うように手助けをしたいだけなのか、その正体についてはのちのエピソードで明かされます。

・協力的な斗真
これまでとは打って変わって協力的になった斗真ですが、前回の戦闘のあとなので、協定の存在意義がなくなっていることを感じたことが原因だと思われます。また、この様子では前回の戦いの後にも何人かに襲われている可能性もあります。


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#06

 

(ここも居ない、か……どう言うことだ?)

 

翌朝、と言ってもすでに昼に近い時間帯になってはいたが、地図に書かれたマンションの見える屋上で周囲を観察する一騎は辺りに人が住んでいないことに違和感を感じていた。

 

「(周囲に生命の反応は無い。が、あの建物には複数の強力な転生者が居る……此れは当たりを引いたかもしれんぞ?)」

 

(そうだな……ここまで露骨に人払いされていればさもありなん、だな──それより、あそこに核はいるか?)

 

「(分からぬ。此処からでは他の反応に紛れて絞り切れんな)」

 

(結局、虱潰し、と言うことか……まあ、最初よりは幾分かマシか)

 

「(然り。だが、斗真の情報も役に立つものだな)」

 

(……お前、少し斗真(アレ)の肩を持ち過ぎじゃないか?)

 

マンションの様子を窺いつつ現状の分析を終えた二人だったが、斗真の話を出したゴーストに対して一騎は大きくため息を吐いた。

 

「(確かに、斗真の実力は低いが奴からは転生以外の罪の気配は無い。そして、仮にも協力者であれば評価はせねばなるまい)」

 

(なるほど。お前の基準ではそうなるか……とは言え、無駄話もここまでか)

 

「(然り。だが、雑兵とは言え気を抜くな)」

 

分かっている、と一騎が内心で返事をすると屋上のドアが開きG36(アサルトライフル)を構えた三人の八幡(戦闘員)を従えた仮面ライダーグリスが姿を現した。

 

「「「動くな!」」」

 

「そう言われて止まる奴がいるか」

 

「あっ!?待て!」

 

グリスの姿を確認した一騎は警告を無視して冷たく言い放つとそのまま柵を飛び越えて屋上から飛び降りた。慌てて柵を越えて下を覗き込んだ四人だったが、その眼前には建物で作られた日陰の中を落ちながら屋上へとチェーンを伸ばすゴーストライダーの姿があった。

 

「愚か者め」

 

「──くそったれ!」

 

「カシラ!?」

 

「ダメだ、撃てない!」

 

伸ばされたチェーンが巻き付いたグリスはゴーストライダーの力に耐えられず屋上から引き落とされるが、八幡たちはそのまま地面へと落ちていく二人を眺めているしか出来なかった。

 

「タダでやられるかよっ!!」

 

『スクラップフィニッシュ!』

 

「遅い」

 

「──なっ!?」

 

落ちていく中で必殺技を放つべくドライバーのレンチを下ろしたグリスだったが、それを予期していたゴーストライダーはベルトを燃やし尽くして破壊したことで変身が解除されて本来の青年の姿に戻ってしまった。

 

「では、情報をいただくぞ」

 

「ぐ、がああっ……あぁ……」

 

驚愕した表情のまま青年に贖罪の眼(ペナンスステア)を覗き込ませたゴーストライダーは情報を読み取った魂ごと体を燃やし尽くすと、灰を撒き散らしながら地面へと着地して追撃に備えるが、屋上には何の動きも感じられなかった。

 

(……追撃がない?いや、気配自体が消えたか)

 

「(然り。如何やら奴等は親である転生者が死ぬと消える様だ)」

 

(なるほど。まあ、それも道理か……それより、奴ら、あそこにそれなりの人数を揃えているな)

 

「(然り。このままでは少々、我等に分が悪いな)」

 

(なら、いつも通り準備をするだけだ)

 

周囲に敵がいないことを確認して変身を解除した一騎は拠点を制圧する準備を整えるために近くに止めてあったバイクに乗って街中へと向かうのであった。

 


 

「……ふぅ」

 

夕方、普段より客の少ないファーストフード店のキッチンでバイトをしている斗真は表面上いつも通りに仕事をしているものの、その内心では強い疲労感を感じていた。

 

(うーむ、流石に徹夜で戦ってそのままバイトはしんどい……休んどきゃよかったかなぁ?)

 

「斗真君、疲れてるみたいだけど、大丈夫?」

 

「彩か……あー、ちょっと徹夜で働きっぱなしでな……」

 

「あー、そういえば、コンビニのバイトもやってるんだっけ」

 

ヒマがあるのか声をかけて来たピンク色の髪をしたどこか人目を惹く少女──丸山彩(まるやまあや)が斗真の返答を聞いて、うーん、と何事かを考えながら斗真の顔を観察していた。

 

「えーっと、俺の顔に何か付いてた?」

 

「え!?あ、ううん!その、そういえば、昨日()()()()()()()()()()()()()事故があった、って聞いたけど、もしかしてそのせい?」

 

「え?あ、ああ、そうそう!いやー、その件で朝までてんてこ舞いでさー」

 

「ええ!?それじゃ、斗真君、本当に一晩中働いてたんだ……」

 

(あぶねー、そういえば、修正力で事故、ってことになってたの忘れてたわー)

 

いやー、まいったなー、と勢いで押し切ろうとする斗真に流される形で、なるほど、と得心の行った様子の彩に安心する斗真だったが、ふと店の外に強い気配を感じて動きが止まる。

 

「斗真君?」

 

「あー、ちょっと調子悪くなってきたかも」

 

「え、大丈夫!?きゅ、救急車とか呼んだ方がいい?!」

 

「いや、そこまではいいから!つーわけで、ちょっと早退するけど、後のこと頼めるか?」

 

「え?うん、それはもちろん大丈夫だけど……」

 

じゃ、よろしくなー、と軽い調子で彩に任せると、さっさと店長に報告して手早く着替えた斗真が店を出ると先程の気配をより強く感じて警戒を強めた。

 

「さあ、出て来いよ!こっちは準備万端だぜ!」

 

「そうか、その割には時間がかかったようだがな」

 

「っ!?総司!?……そうか、お前が来た、ってことはそう言うことなんだな?」

 

「ああ、その通りだ──さあ、今こそ盟約を果たす時だ」

 

斗真の前に現れた総司が交わす言葉は無くなったとばかりに口を閉ざすと、二人の間には一時の沈黙が流れる。そして、一陣の風が吹くと二人は同時に動き出すのであった。

 




●#06について
・斗真に対する認識の違い
ここで一騎とゴーストの間で斗真に対する認識の違いの理由が説明されています。罪の有無に主眼を置くゴーストと実力と覚悟を重視する一騎の間で評価が分かれますが、どちらが正しいのかは今後の展開をご覧ください。

・グリスとその部下
グリスをリーダーとするならその部下にはカシラと呼ばせるのが礼儀だと思ったのでこうなりました。ちなみに、この戦闘員は緋弾のアリアの世界の能力なので、強襲科Aランク武偵相当の身体能力を持っていますが、本編では発揮されませんでした。

・バイト先その二の斗真
複数のバイトを掛け持ちしている理由は生活費と転生者へのけん制が目的ですが、ネームドキャラと交流すると言う役得があります。なお、世界の修正力は特典に対する敵のように自然発生するものですが、この世界にはそれを最適化させる管理者が居ます。


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#07

 

日が沈み始め、逢魔時(おうまがとき)とも呼ばれる時間帯に一騎の見張っていたマンションのロビーのソファーには二人の青年が座っていたが、片方は吹き抜けのある中庭を眺めながらくつろぐ軽薄そうな遊び人、もう片方はどこか落ち着かない様子で周囲を警戒する真面目そうな大学生とその姿から見受けられる印象は対照的であった。

 

「ふあ……あふぅ」

 

「……おい、退屈なのは分かるが、一応、警備らしくしてくれよ……」

 

「ああ、悪い悪い。いやぁ、こう何時間も座りっぱなしだと、流石に眠くなってきてなぁ」

 

ヘラヘラと悪びれた様子もなく笑う軽薄そうな男に対して真面目そうな男はピリピリしつつも呆れたようにため息を吐いた。

 

「……気を抜くのは勝手だが、そのままゴーストライダーに殺されても俺は知らないぞ?」

 

「分かってるって、流石にそんなヘマはしないっての……しっかし、本当にゴーストライダーは来るのかねぇ?」

 

「ちゃんとメッセージ読んでないのかよ?……昼間、警備班のグリスがやられてるんだ、来るに決まってるだろ」

 

そうか……、とどこか寂し気な表情を浮かべた軽薄そうな男は一度、深呼吸をすると元の表情に戻るが、その中には真剣さが含まれているようであった。

 

「ま、そう言うことなら気合を入れ直すとするか」

 

「……アンタ、ソシャゲのお知らせとか読まないタイプだろ」

 

「お、よく分かったな?ま、どうせ必要なら改めて強制的に読ませるだろ?」

 

「……よく分かったよ、次からはアンタと違う班に──」

 

してもらう、と言いかけた真面目そうな男だったが、その言葉は爆発音とともに玄関をぶち破って入って来た一台の燃え盛る骸骨──ゴーストライダーの乗るヘルバイクによって遮られた。

 

「「なっ──」」

 

驚愕して動けない二人だったが、侵入してきたゴーストライダーはヘルバイクから降りて軽く周囲を見渡してから数m先にいる二人へと視線を向けた。

 

「どうした?見ているだけか?」

 

「っ!?行くぞ、グリスの弔い合戦だ!変身!」

 

『complete』

 

「チッ、こちらロビー、ヤツが来た!!──変身っ!」

 

『花道・オンステージ!ジンバーレモン!』

 

ゴーストライダーの挑発に軽薄そうな男一瞬で仮面ライダーカイザに変身してソードモードのカイザブレイガンを取り出すと、本部に報告を入れた真面目そうな男も後に続いて仮面ライダー鎧武、ジンバーレモンアームズに変身する。

 

「うおおっ!」

 

右手で順手に持ったカイザブレイガンを両手で握り直したカイザは飛び出した勢いのまま、微動だにしていないゴーストライダーの左肩から右脇腹にかけて袈裟懸けに切り下ろす──筈だったが、その光刃は無造作に挙げられたゴーストライダーの左手で軽く握り止められていた。

 

「遅いな」

 

「何っ!?」

 

「下がれっ!」

 

『burstmode』

 

驚愕するカイザだったが、ゴーストライダーの視線が背後から放たれた鎧武の射撃に向いた瞬間にガンモードにして光刃を消すとそのままバックステップしてゴーストライダーから距離を取って鎧武と並び立った。

 

「先走るな!」

 

「悪い、少し熱くなった」

 

「……奴は強い、冷静に行かないと俺たちもやられるぞ」

 

「ああ、分かってる……まずは距離を取って時間を稼ぐ!」

 

「了解だ!」

 

作戦会議を終えた二人は左右に分かれて走り出すと鎧武は手元のソニックアローで、カイザはカイザブレイガンとブラスターモードのカイザフォンでそれぞれ射撃を始めてゴーストライダーの足止めにかかる。対するゴーストライダーは大したダメージは無いようだったが、攻撃によって動きを制限されつつあるようだった。

 

「よしっ、これなら何とか……」

 

「なるほど、自分の実力は弁えているようだが──」

 

「なっ──」

 

策が成功しそうなことに一瞬、安堵するカイザだったが、ゴーストライダーがおもむろに左腕を横薙ぎに振るった瞬間に衝撃を感じて困惑する。そして、混乱から立ち直れないまま、鎧武とともに壁に叩きつけられた。

 

「──戦力差は理解できていなかったようだな」

 

「「ぐあああっ!」」

 

ゴーストライダーが伸ばしたチェーンによってまとめて壁に叩きつけられた二人はそのままチェーンを伝わったヘルファイアによって魂ごと焼き尽くされるのだった。

 

「(先ずは二つ──だが、直ぐに次が来るぞ)」

 

(ああ、そのためにわざわざ目立つ方法で来た、そうで無くては困る……流石に建物ごと燃やすのは骨が折れるからな)

 

「(然り。だが、其の必要は無さそうだ)」

 

「居たぞ!ゴーストライダーだ!!──うげぇ!!」

 

悠然と歩くゴーストライダーを見つけた仮面ライダーブレイドが頭を叩きつぶされる断末魔の叫びをきっかけに階段やエレベーターだけでなく、吹き抜けを降りたのか中庭からも多種多様な転生者たちが現れてゴーストライダーの周囲を取り囲んで行く。

 

「三つ、いや──」

 

「この野郎っ!よくも仲間を──ごふっ!?」

 

ゴーストライダーの背後から怒声とともに飛びかかって来た死覇装(しはくしょう)を身に纏った青年は始解状態の斬月を大上段に振りかぶってそのまま袈裟懸けに切り下ろそうとするが、振り向きざまに半身になって回避したゴーストライダーはそのままカウンター気味に放たれた業炎を纏った右拳が青年の腹に突き刺さる。燃えながら吹き飛ばされた青年は壁に叩きつけられてそのまま燃え尽きていった。

 

「──これで四つだ」

 

「クソッ、また一人やられたぞ!」

 

「あきらめるな!一斉にかかるぞ!」

 

『exceed charge』

 

『ROCKET-DRILL-LIMIT BREAK』

 

『スキャニングチャージ!』

 

『マキシマムドライブ!』

 

『ライジングインパクト!』

 

ファイズの合図をきっかけにライダーたちは一斉にキックを放つ。一つ一つが必殺の威力を持つ攻撃であり、微動だにせずその全てが直撃したゴーストライダーは爆発四散する──はずであった。

 

「有象無象が勝てると思ったか?」

 

「そんな!?」

 

「バカな!?」

 

彼らの驚愕ももっともである。あれだけの攻撃を受けたはずのゴーストライダーがその場から一歩も動かずに無傷で受け止めていたからであった。

 

「今、地獄を味わわせてやる」

 

「「「「「うわああっ!!」」」」」

 

驚愕から立ち直れていないライダーたちに対して無慈悲に言い放ったゴーストライダーの足元から地獄の釜の蓋が開いたように業炎が吹き上がる。熱気とともに立ち上った火柱に包まれたライダーたちが離れた転生者たちの視界から一瞬見えなくなるが、火柱がおさまった後にはゴーストライダーが悠然と立つのみで、ライダーたちは灰すら残さず焼失していた。

 

「ライダーが一瞬で燃え尽きただと……!?」

 

「さぁ、次はどいつだ?」

 

「「っ!?」」

 

ゆっくりと視線をめぐらすゴーストライダーの姿に威圧されたのか蛇に睨まれた蛙のように動けなくなる転生者たち。既に勝負は決したように見えたその時、一騎のスマホが振動したことを感じたゴーストライダーの動きが一瞬止まった。

 

「……ぬ?」

 

「!?今だ!一時撤退するぞ!!」

 

ゴーストライダーの注意が逸れた一瞬を見逃さなかったスパイダーマンがウェブを放って足止めを行うと、それに合わせて転生者たちは蜘蛛の子を散らしたように逃げて行った。

 

「逃がすか……!」

 

「(待て、一騎……如何やら斗真から着信のようだ)」

 

(斗真からだと?……チッ、仕方がない)

 

逃げ出した転生者たちを追いかけようとするゴーストライダーだったが、斗真からの着信を無視する訳にも行かないため、周囲に危険がないことを確認しつつ、変身を解いてスマホを取り出した。

 

「……おい、何の用だ?」

 

『篝斗真は預かった、返してほしければメールの場所まで来い』

 

「お前は何者だ?……切れたか」

 

スマホから聞こえたボイスチェンジャー越しの声と突如切れた通話に眉をひそめた一騎だったが、直後に届いたメールに添付されたロープで巻かれて転がされている斗真の写真と埠頭の倉庫までの地図を見て内心で頭を抱えた。

 

(……結局、こうなったか)

 

「(其の様だ。して、一騎、如何する心算だ?)」

 

(不本意だが、行くしかないだろう……まったく、儘ならんな)

 

転生者が逃げ、斗真が捕まった現状に辟易する一騎だったが、大きくため息を吐いて気持ちを切り替えると後始末をつけるためにバイクに乗って埠頭の倉庫へと向かうのであった。

 




●#07について
・警備班の二人
これまでの転生者と比べて実力があるのか善戦しましたが、やはり勝つことは出来ませんでした。とは言え、そのあとの面々を考えると頭脳派ではあったようです。

・一瞬で燃え尽きるライダー
宇宙での活動を目的としていて耐熱性の高いはずのフォーゼが燃え尽きているので、この時の火力は最低でも優に数千度は超えているはずです。ただし、先に魂を焼いている場合は変身が解除されているので、もう少し低い温度の可能性もあります。

・捕まった斗真
前回のシーンの後に捕まったようです。働いてない訳ではないものの、一騎と比べるとこの章ではあまりいいとこ無しですが、なぜこのような状態になったのかは次回をご覧ください。


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#08

 

夜の帳が下りた埠頭の倉庫街を走る一台のバイクがその中の一つ、灯りの漏れる倉庫の前で停車した。その倉庫はメールに添付された地図に書かれた場所であり、バイクを降りた一騎は周囲を見渡すが周囲に人影は無く、目に見える範囲では罠の類も無いようであった。

 

(……さて、鬼が出るか蛇が出るか)

 

「(何れにせよ衝突は避けられぬであろう。気を引き締めろ、一騎)」

 

(ああ、分かっている……中に入るぞ)

 

改めて気合を入れ直した一騎が鍵のかかっていなかったドアから倉庫内に入るとシャッターの前に転がされているロープで巻かれた斗真の姿が目に入った。

 

「(随分と簡単に見つかるものだな)」

 

(一応、罠を警戒するぞ……おそらく、無用だろうがな)

 

「(其れは如何言う事だ?)」

 

すぐに分かる、と内心で答えた一騎は警戒しつつ斗真に近づくが、何事もなく斗真の下へとたどり着くと周囲に意識を向けながら状況を確認すると、斗真の体には特に異常はないものの、意識を失っているようだった。

 

「(ふむ……如何やら怪我は無いようだ)」

 

(だろうな──それより、黒幕のお出ましのようだ)

 

「よく来たな外狩一騎、いや、ゴーストライダーよ!」

 

気配を察知した一騎が声の方に視線を向けると、倉庫内中央のコンテナの後ろから金の鎧を着た青年とオーマジオウが姿を現した。

 

「なるほど。お前たち、いや、オーマジオウ(お前)がこの世界の核か」

 

「ほう、よく分かったな?流石はゴーストライダー、と言った所か」

 

「それだけ分かれば十分だ。人質を使わないならさっさと終わらせるぞ」

 

ゴーストライダーに変身した一騎は並び立つ青年とオーマジオウに相対するが、オーマジオウは肩を竦めるだけで、青年もニヤニヤと笑みを浮かべているだけだった。

 

「せっかちな奴だな……まあいい、俺の名前は常磐総司(ときわそうじ)ゴーストライダー(お前)を倒す者だ」

 

「俺は関崎尊(かんざきたける)、同じく、貴様を倒す者だ」

 

「そのセリフは聞き飽きた。俺を倒すつもりなら行動で示してみろ」

 

一歩前に出たオーマジオウ──常磐総司に続いて金の鎧の青年──関崎尊もわざわざ自己紹介とともに宣言をするが、そんな二人の行動を意に介さずゴーストライダーは冷たく言い放った。

 

「ハッ、良いだろう!そんなに死にたければ望み通り殺してやる!」

 

「まったく、熱くなりやすい奴め──もっとも、俺も同じだがな!」

 

あっさりと挑発に乗ったオーマジオウはさらに一歩を踏み出し、尊も右手を虚空に伸ばすと黄金の波紋を立たせて円柱状の刀身の突撃槍のような剣──乖離剣・エアを取り出す。

 

「出し惜しみはしないか……ならば、こちらも──っ!?」

 

「(何だと!?)」

 

初手から全力で来る転生者たちを前に相対するゴーストライダーはチェーンを叩きつけて機先を制そうとするが、その動きは背後から伸びて来た──倒れていたはずの斗真が変身したゴーストライダーのチェーンによって防がれていた。さらに、尊が放った天の鎖によって、動きの鈍っていたゴーストライダーは完全に動けなくなっていた。

 

「おっと、危ない危ない。ついでにこいつも喰らってもらおう」

 

「(ぬぅ、此れは天の鎖か……!?)」

 

「悪いけど、アンタにはここで死んでもらう……ま、戦えないのは不本意だけどな」

 

「なるほど。やはり初めから転生者(そちら)側だったか」

 

「ハッ、所詮は負け犬の遠吠えだ!──さあ、これで終わりだ!」

 

『終焉の刻!』

 

ゴーストライダーの言葉を一蹴したオーマジオウがベルトのスイッチを入れてエネルギーが高まっていくと、尊も天の鎖を維持したままエアに魔力を集中させていく。そして、二つの力が臨界に高まり、ついにその時が来た。

 

「ゴーストライダーよ、滅びの時だ!」

 

『逢魔時王必殺撃!』

 

「ぐ、うう……」

 

まず、放たれたのはオーマジオウの必殺技。跳躍したオーマジオウがゴーストライダーの周囲に展開されたジオウの文字のエネルギーを右足に集約させて放つ必殺のキック──逢魔時王必殺撃。その威力は凄まじく、余波だけで倉庫のシャッターが吹き飛ばされ、ゴーストライダーの足元の地面が抉れるほどであった。

 

「受けよ!『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』!」

 

「ぬ、がああっ!!」

 

続けざまに放たれた乖離剣・エアの最大出力はあらゆる「死の国」の原典である生命の記憶の原初の光景を再現したものであり、特典としてギルガメッシュの力を持つ尊の切り札であった。地面を抉りながら切り上げられた文字通り世界を切り裂くその一撃はオーマジオウの真横を抜けてゴーストライダーに直撃し、爆音と閃光が倉庫を包み込む。そして、全てがおさまるとゴーストライダー、外狩一騎の姿はそこにはなく、倉庫の屋根が吹き飛ばされて壁の一部が残されているのみであった。

 

「フン、他愛のない。チリ一つ残さず消え去ったか」

 

「ああ、どうやらウワサほどでもなかったようだな──おい、いつまで倒れてるつもりだ?」

 

「だったらもうちょい待ってくれよ!こっちは逃げるのに必死だったんだからな?!」

 

「ハッ、次はもう少し位置取りを考えておくんだな……ま、もうそんな相手もいないだろうがな。ハッハッハッ」

 

爆発の跡の前に並び立つオーマジオウと尊は余波で飛ばされた斗真に対して冷たく言い放つが、強敵を倒した彼らの顔には余裕の笑みが浮かべられており、戦闘の終わった倉庫街にはオーマジオウの高笑いが響いているのであった。

 




●#08について
・オーマジオウとギルガメッシュ
ボスらしい特典を持った二人ですが、もちろんこの章と次章のボスであり、片や世界の核、片や世界の管理者と言う役職を持たせられた存在です。

・斗真の裏切り
これまで怪しい点のあった斗真ですが、ここでその正体を現しました。ちなみに、これまでの戦闘では多少、手を抜いているところがあったため、アレが彼の実力の全てではありませんが、ボスの二人には及ばないようです。なお、一騎が気づいていた理由は次章で明かされます。

・逢魔時王必殺撃と『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)
字面だけ見るとやりすぎな気もしますが、ゴーストライダーを相手にする上で慢心しなかったこの二人は正しかったと言えます。両者の全力を受けたゴーストライダーがどうなったのかは最終章Vol.12をご覧ください。


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Vol.12:Dog Eat Dog Part.2
#01


ゴーストライダーとの戦いが終わった数時間後、日曜日の朝を迎えたマンションのリビングではつまらなさそうにライドウォッチを弄る総司と顔をしかめつつタブレットを操作する尊の前で不機嫌そうな表情で立つ斗真の姿があった。

 

「おい、報酬が貰えない、ってのはどう言う事だ?」

 

「……上位者からの指示だ。死亡した証拠を持って来い──だそうだ」

 

「ま、泣く子と上司には、ってことだ……面倒な事この上ないがな」

 

「正しくは、泣く子と地頭(じとう)、だ。それにこの場合は用法として正しくない」

 

「そうか?ま、細かいことは気にするな……で、何の話だったか?」

 

「……要するに、俺に死体を探して来い、って話だろ?つーか、それぐらいならその辺の連中にでもやらせとけばいいだろ?」

 

げんなりした様子で斗真に説明しつつ、どこかズレた会話をする二人だったが、対する斗真が当然の疑問を投げかけると尊の表情がさらに渋くなった。

 

「嘆かわしいが、報酬の支払いがなければほとんどの連中が動かん。それに、俺は街の管理と報酬の配分を考える仕事がある」

 

「それに、動き回って()に万が一があっても困る、ってことで足止めしかしてなかったお前にお鉢が回って来た、って訳だ」

 

ま、多少は働いてもらわんとな、と意地の悪そうな笑みを浮かべながらの総司の言葉に斗真は大きくため息を吐く。

 

「……わかったよ、んで、具体的にはどうすりゃいいんだ?」

 

「外狩一騎の死体、またはその一部を探せ。おそらく、倉庫街近くの海中か流されて海岸にでも打ち上げられているだろう」

 

斗真の方も見ずに指示を出した尊に対して、りょーかい、と適当に返事をした斗真はさっさと外へ出ると抜けるような青さの空を見上げて小さくため息を吐いた。

 

「ったく、もっと強い奴と戦える楽しい仕事は無いもんかねぇ……」

 

物騒な願いを一人ごちる斗真は協力してくれそうな何人かの転生者に連絡を入れると、億劫(おっくう)そうにしながら捜索へと向かうのであった。

 


 

(……ここは、どこだ?)

 

目が覚めた一騎は最初に覚えたのは違和感であった。倉庫街で吹き飛ばされて海中に落ちたはずの一騎がまず目にしたのは木目のある天井であり、次いで背中に感じる感触からベッドに寝かされていることに気づき、最後に外から差し込む光で今が昼を少し過ぎた辺りだと予想したところで傍らに浮かぶゴーストの姿が目に入った。

 

「(目覚めたか、一騎)」

 

(ああ、なんとかな……それより、これはどう言う事だ?)

 

「(其れは──)」

 

「──あっ!目が覚めたんですね?よかった……」

 

周囲を見渡した一騎は生活感を感じないことから、そこを来客用として使われているアパートの一室か何かだと当たりを付ける。すぐ脇にボロボロのワイシャツが丁寧に畳まれていることや怪我をしていた体が手当てをされていることを含めて内心でゴーストに問いかけるが、その前に開けられた部屋の扉から入って来た三つ編みをしたピンク色の髪の少女──(たまき)いろはは一騎の様子を見て安堵している様だった。

 

「……ええっと、あなたは一体?それに、ここはどこなんですか?」

 

「えっと、まず、私は環いろはと言います。それで、ここは私が下宿しているみかづき荘と言う所です」

 

「そうですか……僕は──」

 

「ゴーストライダーの外狩一騎さん、ですよね?そちらのゴーストさんとやちよさんたちからお話は聞いてます」

 

「……そうか。それで、どこまで知っている?」

 

最初は警戒を解くために穏やかな仮面で接するつもりの一騎であったが、いろはの言葉に一度ゴーストの方を見てから、内心で困惑しつつも狩人としての鋭い視線をいろはへと向ける。

 

「その、あなたがこの世界に来た理由と来てからの行動については知っています」

 

「なるほど。つまり、あの視線や地図はお前たちの仕業、と言う事か」

 

「はい……それで、倒れていたあなたを()()()()()が見つけてくれてほむらちゃんがここまで連れてきたんです」

 

「そうか、助かった。礼を言う──が、それより今、芳乃、と言ったな?お前たちは魔法少女だけではないのか?」

 

礼を言って起き上がろうとした一騎だったが、少なくともみかづき荘にまつわる人間の中では聞きなれない名前に問いを投げかけるといろはは一度、不思議そうにしたあと得心が行ったのか小さくほほ笑んだ。

 

「はい、芳乃ちゃんは346(みしろ)プロに所属するアイドルで他にも色々な所に味方がいるんです」

 

「(環いろは、先ずは他の者に報告すると良い。可能であれば一騎の食事も頼む)」

 

「はい!それじゃ、外狩さんが起きたことを皆さんに伝えてきますね」

 

あと、外狩さんの食事の用意もしておきます、といろはがゴーストに促されて部屋を出て行くと、一騎は小さくため息を吐いて頭を抱えた。

 

「(一騎、後は本人たちから聞くと良い)」

 

(……わかった。しかし、今回は斗真(アレ)の裏切り以外は予想外が多すぎるな)

 

「(成程、奴を遠ざけていた理由は其処か。だが、此度の()()()ならば問題はあるまい)」

 

(まずは事情を聞く。どうするかはそれからだ……それにしても、お前が共闘を良しとするとはな)

 

「(此度の件は其れだけの大事、と言う事だ)」

 

(守るべき者に頼らねばならんとは……まったく、儘ならんな)

 

ゴーストと相談を終えた一騎は状況に辟易しつつも怪我を感じさせない動きでベッドから起き上がると、ゲートから取り出した替えのシャツに着替えてから話を聞くために部屋を出るのであった。

 


 

(……マジかよ?)

 

昼下がりの気怠さを感じつつ、そろそろ昼飯かなー、などと海岸近くのコンビニの前で呑気に座っていた斗真は手元にあるタブレットを見て愕然としていた。それもそのはずである。タブレットの画面には今いるコンビニの数時間前の監視カメラの映像が流れており、その映像には死んだはずの一騎が少女に背負われて運ばれている姿が映りこんでいたからであった。

 

(あの攻撃で生きてるなんて、一体どんな手品を使った?──いや、それより今は手がかりを見つけないと)

 

一騎が生きていた衝撃で困惑する斗真だったが、役目を思い出して瞬時に頭を切り替えると痕跡を見つけるために映像を見る。だが、その映像から読み取れたのは一騎が生きていることと、運んでいるのが黒い長髪の少女であることだけであった。

 

(流石に、コレを報告して、はい終わり、って訳にはいかないよなぁ……しゃーない、少し癪だが、尊に頼むか)

 

『……何だ?俺は忙しいと言ったはずだが?』

 

成果の無さに落胆する斗真だが、一度、大きなため息を吐くと街の管理を引き受けている尊のスマホに連絡を入れると、数度のコール音の後に不承不承と言った様子で尊が応答した。

 

「……報告、いや、要請だよ」

 

『要請?おい、まさか──』

 

「ああ、お前の予想通り、一騎(ヤツ)は生きてる──それも仲間がいるみたいだ」

 

『仲間?以前の報告には協力者の話は無かったはずだが?』

 

斗真の報告に対してスマホ越しにも呆れ果てたような表情が目に浮かぶような尊の非難の声に、ただでさえ不機嫌だった斗真の表情が更に渋くなっていた。

 

「俺が知るかよ……ともかく、探すにももう少し情報が欲しい。映像の解析を頼めるか?」

 

『……いいだろう。ついでに監視システムで外狩一騎を探しておく。お前はそのまま痕跡を辿れ。おそらく、奴らのアジトに行ったはずだ』

 

「了か──あの野郎、切りやがった……ま、いいや。とにかく一度、集合をかけるか」

 

一方的に指示を出して通話を切った尊に対して不満を抱く斗真だったが、一度、深呼吸をして頭を切り替えると捜索を協力している転生者たちへと連絡を入れる。

 

(だが、これであのゴーストライダーと戦えるんだ──まったく、楽しみで仕方がないな!)

 

タブレットをバッグにしまった斗真は獰猛な笑みを浮かべると停めてあったバイクに乗って集合場所へと向かうのであった。

 




●#01について
・生きていた一騎
アレで終わりという訳には行かないので生きていましたが、ボロボロになる程度には手痛い攻撃でした。作中でもトップクラスにダメージを受けているので痛みはありますが、精神力で立ち上がっています。

・協力者を選ぶゴースト
斗真を協力者にしたかったようですが、当てが外れてしまいました。今度の協力者は複数のようですが、その実態がどのようなものなのかは次回をご覧ください。

・黒い長髪の少女
旧版を未読の方でもなんとなく予想できるかもしれませんが、その正体は次回をご覧ください。ちなみに、成人男性としても筋肉量の多い一騎の体重はそれなりの重さなので、体格の問題もあっておそらく背負っているというよりも引き摺っている感の方が強いかもしれません。


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#02

 

「あら、もう動けるのね」

 

部屋を出た一騎が気配の多い、居間として使われている一室を見つけてドアを開けると近くのソファーに座って本を読んでいた黒髪の少女──暁美(あけみ)ほむらが声をかけて来た。

 

「何とかな。それより、世話をかけた」

 

「別に構わないわ……知ってるかもしれないけど、暁美ほむらよ」

 

簡潔にあいさつを済ませたほむらに対して、知ってるだろうが、外狩一騎だ、と同じく簡潔に返した一騎は軽く周囲を見渡す。部屋の中にはお茶を飲んでくつろぐ少女──依田芳乃(よりたよしの)の姿があり、少し離れたキッチンには調理中の青いロングヘアーの少女──七海(ななみ)やちよと会話している黒髪でツインテールの少女──遠坂凛(とおさかりん)といろはの姿があった。そして、視線を戻した一騎の前にはいつの間にか手元の本に視線を戻しているほむらと近くに来ていた芳乃の姿があった。

 

「わたくし依田は芳乃でしてー。失せ物探しモノならお任せをー」

 

「ああ、外狩一騎だ。お前にも世話になった……それより何故俺を助けた?」

 

独特の口調で話す芳乃を気にする様子もなくあいさつを済ませた一騎は特異な才能を持つとは言え、ただのアイドルが危険な戦いに首を突っ込んでいることに疑問を感じて問いかけた。

 

「困っている人には力を貸しなさい……ばばさまのお言葉でしてー。ゆえにー、わたくしはープロデューサー(あの方)と皆さまの幸せのため動いたまでのことー」

 

「……そうか、その戦いは俺が引き継ごう」

 

「ありがたきことでしてー。しかしー、()()になせることは限られるゆえー……外狩さんにはわたくしたちを導いて頂きたいのですー」

 

「む?それは──」

 

「それは私から説明します」

 

芳乃の返答に対して、どう言う意味だ、と問いかけようとした一騎の言葉は先程までいろはと話していた凛の言葉で遮られた。

 

「初めまして、外狩さん。私は遠坂凛です」

 

「外狩一騎だ。今回は世話になった、礼を言う」

 

「いいえ、私たちだけでは倒せない転生者を何人も倒して頂いてこちらこそありがとうございます」

 

「それは俺の使命だ、気にするな……それより、敬語は不要だ」

 

「そう?──それじゃ、まずはこれを見て」

 

頭を下げた一騎に対して優雅な動きで丁寧に礼を返す凛だったが、一騎の言葉を受けて砕けた口調になった凛は眼鏡をかけつつ一枚のメモを手渡す。そのメモには「SAO、バンドリ、ラブライブ、デレマス、プリヤ、まどマギ、マギレコ」と書かれていた。

 

「これは……この世界を構成する<原典>か」

 

「ええ、この世界はオーマジオウの特典を持つ常磐総司を核として、戦闘力を奪った原典で構成された世界よ……まあ、転生者たちの会話から得た情報だから、私たちにはどれがどの世界かは分からないけど」

 

「なるほど。それで、どうやって転生者の存在に気付いた?」

 

「最初は芳乃が同じ事務所のマキノの情報を擦り合わせた結果、複数の世界が混ざっていることに気づいたのが始まりだったわ」

 

「(ふむ、無理矢理組み込まれた故の世界の齟齬(そご)を只の人間が暴くとは……やはり、人の力は底が知れぬな)」

 

凛の言葉に感心するゴーストの言葉に、むふー、と得意げな表情をする芳乃の姿を横目に、続けてくれ、と一騎が先を促す。

 

「それで、細かい所を省くけど、芳乃たちが違和感に気づいたことで原典の封印に綻びが生まれた──そこから起動したルビーとサファイアを手にしたイリヤと美遊(みゆ)に巻き込まれる形で私とルヴィアが気付いた、ってこと」

 

「……なるほど。平行世界に干渉可能なカレイドステッキであれば綻びからこの世界の自身を起動させる程度は造作もない、と言う事か」

 

「あら、詳しいのね。ともかく、私たちの影響でこの世界にも魔力が存在するようになってまどかとμ's(ミューズ)の希が気付いたわ」

 

鹿目(かなめ)まどかは分かるが、もう一人が東條希(とうじょうのぞみ)だと?──いや、魔力の存在が強い世界なら儀式さえ正しければあり得ない事ではないのか……?」

 

「私の知る限りでは、魔術回路も持たない人間が魔術を使うのは不可能よ──ただ、この世界の転生者たちが深層心理で、希なら出来る、と思っているなら可能かもしれないわね」

 

少し考え込みそうになる一騎であったが、凛の考察を受けてひとまず納得すると視線で先を促した。

 

「それじゃ、続けるわね……それで、まどかと言う大きな因果をきっかけにほむらといろは、やちよさんが本来の自分を取り戻し始めたの──もっとも、その時にソウルジェムがあったのはいろはとやちよさんだけだったけど」

 

「待て、暁美ほむらは魔法を使っていたはずだが……?」

 

「(恐らく、我等の影響だ。短期間に転生者が減り、世界の修正力に刻印(リソース)を持って行かれた事で封印が緩んだのであろう)」

 

「なるほど。……しかし、これだけ揃えば転生者には気付けるだろうが、これまでよく見つからなかったな?」

 

「ええ、実は転生者たちの動きを予期して芳乃たちが同じ事務所のアイドルの力を借りて密かに私たちを集めていたの。そして、秘密裏にこの世界の謎を解いて転生者に対抗するためにこの<お茶会>と言うグループを結成した、と言う訳」

 

「……そうか。それで、転生者との戦いを俺たちに任せたい、と言う事か?」

 

「そうね──半分は当たり」

 

「半分、だと?」

 

説明を受けた一騎は彼女たちの目的を推察するが、凛はその答えに薄く笑って首を横に振ると、眼鏡を外して真っ直ぐに一騎に視線を向けた。

 

「外狩さん、転生者を倒すために、私たちと共闘しない?」

 

「……なるほど。さっきの言葉はそう言う意味か──ゴースト、知っていたな?」

 

「(然り。恐らく、我の予想が正しければ此度の世界、我等のみでは全ては救えぬ──ならば、我は共闘すべきだと考えたまでの事)」

 

「そうか……だが……」

 

凛とゴーストの言葉を受けた一騎が他の策を考え込むが、周囲の他の<お茶会>のメンバーから注がれる視線に一度、大きくため息を吐いた。

 

「……わかった。その申し出を受けよう──ただし、可能な限り転生者との戦いは避けろ。それは俺たちの仕事だ」

 

「オーケイ、契約成立ね。それじゃ、外狩さん、これからよろしく」

 

一騎の返事に対して満足そうな笑みを浮かべた凛が右手を差し出すと一騎は諦めたようにその手を握り返した。

 

「さて、契約も済んだことだし、少し遅いけどお昼にしましょうか」

 

「ああ……ところで、遠坂凛。契約、と言ったが、魔術は使っていないだろうな?」

 

「まさか?貴方相手に試す程バカじゃないわ」

 

「……そうか。いや、俺たちにはその手の魔術は効かん。下手に使っていれば事だったが、使っていないのならば問題は無い」

 

「え、ええ。気を付けるわ……芳乃と希(あの二人)、実は未来視でも持ってるのかしら……」

 

何気なく告げられた一騎の言葉に思うことがあったのか何事かを呟きつつ動揺している様子の凛だったが、一騎はその呟きを気にせずに昼食を摂るのであった。

 




●#02について
・この世界の実情
作中で明言されている世界を混在させていますが、気づいたキャラの人選は並行世界を観測できるか世界にある超常に関わる人間であることを条件にしています。希や芳乃のようなグレーゾーンのキャラもいますが、転生者の認識によって能力を補強されていることが原因です。

・事情その二
ネームドは増やしたいけど敵を増やすわけにはいかない転生者側が、世界を構成していない転生者の刻印を使ってネームドの持つ戦闘力を戦いの記憶とともに封印しています。そのため、Vol.11の冒頭の監視はマキノで紙飛行機は希によるものでしたが、一騎が大量の転生者を倒した後はほむらが時間停止で情報を渡していました。

・協力ではなく共闘
これまで、Vol.7以外はほとんど一人で戦っていた一騎ですが、今回は状況が状況なので共闘することになりました。一騎にとっては本来なら避けたかった事態ですが、この世界の実情を考えた結果なので、腑に落ちない方はのちのエピソードでの解説をご覧ください。

・未来視?の二人
上述の通り、この世界観ではその世界を作り出した転生者が出来そうだと思っていれば本来は不可能そうなことも可能になると言うシステムがあります。その中でもここでは希と芳乃は特にイメージの影響が強く出ているため、軽い万能キャラのような扱いになっています。


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#03

 

「──あとの礼装や晶葉(あきは)たちのど、ドローン?とかの道具類はルヴィアの屋敷に置いてあるわ……これで全部だけど、他に聞きたいことは?」

 

遅めの昼食を終えて夕方まで情報を擦り合わせていた一騎と凛だったが、<お茶会>の戦力を聞いた一騎は眉をひそめていた。周囲にいたメンバーはそれぞれの方法で時間を潰しており、その中には偵察から戻っていた銀髪と赤い目の少女──イリヤスフィール・フォン・アインツベルンとその傍に浮かぶカレイドルビーの姿もあった。

 

「……一応、確認するが、すぐに戦力が増える可能性はあるか?」

 

「時間があれば宝石のストックを増やせるけど、そのぐらいかしら?あとは、貴方の影響でソウルジェムを持つ魔法少女が増えている可能性はあるけど、当てには出来ないわね……いっそ、英霊召喚でも出来れば別なんでしょうけど」

 

「そこまでする必要は無い……いや、今は時間が無い、と言った方が正確かも知れんがな」

 

「まあ、その辺は流石に相手も無能じゃない、ってことね……それで、猶予はどれぐらいかしら?」

 

「おそらく──既に時間切れだ」

 

『あー、聞こえるか外狩一騎!その建物は完全に包囲されている!大人しく出て来い!』

 

一騎の言葉が終わるかどうかと言うタイミングでみかづき荘の外から響く拡声器の声に一騎以外のメンバーが一斉に反応する。そして、この状況を予期していた一騎だけが声の主が斗真であることに気づいていた。

 

『三分だけ待つ!大人しく投降するならそこのイレギュラーは見逃してやる!いいな、三分だぞ!』

 

「っ!?まさか、こんなに早いなんて……!?」

 

「ここは奴らの作った街だ。監視網ぐらいはあるだろう……それに、俺たちは目立つからな。僅かでも痕跡があれば、見つけ出すのは造作もあるまい」

 

「それもそうね……それじゃ、私とイリヤで外狩さんをサポートしつつ陽動をかけるから、ほむらは芳乃をお願い。やちよさんといろははかく乱を──」

 

「その作戦は無しだ──可能な限り転生者との戦いは避けろ、と言ったはずだぞ?」

 

一方的な通告を受けて動揺するメンバーだったが、冷静に状況を分析する一騎の言葉で落ち着きを取り戻すと、外を覗き見た凛が指示を出し始める。だが、その言葉は突如かけられた一騎の一言で遮られ、メンバーの視線が一騎に注がれる。

 

「……アンタねぇ!こんな状況でどうやって戦闘を避けろ、って言うのよ!?」

 

「俺に策がある。少し暁美ほむらを借りるぞ」

 

「私?……私は構わないけど、今の私に止められる時間は十秒程度よ?」

 

「いや、それだけあれば十分だ」

 

怒りの籠もった抗議をする凛だったが、頭に巻かれた包帯を取りながら告げられた一騎の言葉に視線をほむらに向けると当の本人も困惑しているようだった。

 

「……本当に何とかなるんでしょうね?」

 

「ああ、もちろんだ──では、手短に説明するぞ」

 

訝し気な視線を向ける凛に対して端的に答えた一騎はゲートから取り出した所々が破れたいつものライダースジャケットを羽織りつつ作戦を説明するのだった。

 


 

裏手側を中心にみかづき荘を取り囲む十人近い転生者たちはそれぞれに緊張した面持ちをしているが、二人の供を連れて正面玄関から数m程離れた所に立ち獰猛な笑みを浮かべる斗真はその中でも際立って異彩を放っていた。

 

「な、なあ、ホントに俺たちだけで勝てるのかよ……?」

 

「おいおい、こっちは十二人の腕利きの転生者、対して向こうは手負いのゴーストライダーと数人の魔法少女──どうしたって負けはねぇだろ?なあ、斗真?」

 

「ま、雄也(ゆうや)の言う通りだ。それに、時間的に向こうは変身できないんだ、もう少し気楽に行こうぜ?」

 

「そ、それもそうだよな!悪い二人とも手間かけさせたな」

 

「ったく、雅樹(まさき)は少しビビりすぎだっての──ところで、あとどのくらいだ?」

 

張り詰めた空気に耐え切れなくなったのか、斗真の後ろにいたゲーマドライバーを腰に巻いた少年──雅樹が不安そうな声を上げるが、トライチェイサーに跨る少年──雄也の分析と斗真の言葉に安堵のため息を吐いた。そんな雅樹の姿に呆れた様子の雄也だったが、ふと気になって残り時間を尋ねると即座に雅樹が手元のスマホを確認する。

 

「えーっと、あと一分だな──って、あれ?玄関って開いてたか?」

 

「は?お前何言って──」

 

「ッ!?しまった!?」

 

「ぐえっ!?」

 

誰も気付かない間に開いていた玄関に気付いた三人は違和感を覚える。その中で斗真だけはある可能性に気付いたが、既に時は遅かった。次の瞬間、玄関から先程までいなかったはずの一台のバイクがフルスロットルで飛び出すと、三人の脇をすり抜けるタイミングで一瞬アクセルを緩めた一騎はチェーンを放り投げ、直撃した雅樹を昏倒させてそのまま走り抜けた。

 

「な──」

 

「クソッ、ゴーストライダーだ!全員、追いかけるぞ!!」

 

「おい、イレギュラーはどうすんだよ!?」

 

「んなもんほっとけ!ヤツが最優先だ!」

 

一瞬の交錯だったが、一騎の姿を確認した斗真は他の仲間に声をかけると倒れたままの雅樹を放置して追跡を開始した。

 

「(停止した時間で加速して玄関から出る──如何なるかと思ったが、第一段階は成功だな)」

 

(ああ……しかし、やっておいて何だが、ここまで乗ってくるとはな)

 

遅れて付いてくる十一人の転生者を尻目に嘆息する一騎。それもそのはずである、<お茶会>のメンバーを守るために一騎が使ったのは作戦とも呼べない稚拙なトリックで囮となる事であり、まさか全員が追跡に来るとは思っていなかったからである。

 

「(然り。だが、未だ太陽は昇っている、油断はするな)」

 

(分かっている──いつも通り使命を果たす、それだけだ)

 

「(む、仕掛けてくるようだぞ?)」

 

「喰らえ!──って、うおおっ!?」

 

ゴーストと会話をしつつ広い大通りを走っていた一騎に対して背後から仮面ライダーウィザード、フレイムスタイルのウィザーソードガンによる銃撃が飛んでくる──が、チェーンを落としつつ車体を倒した一騎が真横にある脇道に入ったことであっさりと回避すると、続いて曲がろうとしてチェーンに引っかかったウィザードはクラッシュしてしまいそのまま近くの電信柱へと激突した。

 

「(先ずは一つ、否、先程の奴を含めて二つか)」

 

(順調、と言うべきか……まあいい、このまま行くぞ)

 

「チッ、生身だからって油断するな!」

 

「おう!射撃がダメなら接近戦よ!おりゃ!──って、あれ?」

 

住宅街を抜けつつ斗真の声に答えた仮面ライダークローズは一騎の左に並ぶと右手に構えた専用の剣──ビートクローザーを横薙ぎに振るうが、一騎が一瞬早くアクセルを緩めたことで刃の軌道から外れる。

 

「阿呆め」

 

「ぬおおっ!?」

 

「おい、ウソだろおおっ!?」

 

追撃を考えていなかったのか動きの止まったクローズに対して呆れたように吐き捨てた一騎はそのまま車体に蹴りを入れると、完全にバランスを崩したクローズがクラッシュし、後ろから一騎に追撃しようとしていたアマゾンアルファも巻き込まれて脱落していった。

 

「(四つ。ふむ、悪くないペースだ)」

 

(ああ……しかし、こいつ等、敵の呼吸を読む気はあるのか?)

 

「隙ありっ!──なんだとおおっ!?」

 

元の速度に加速した一騎がふと背後を見た瞬間に仮面ライダーゼロワン、ライジングホッパーが右からアタッシュカリバーを振り下ろすが、一騎がそのまま加速した事でその一撃は空を切り、追い抜きざまにハンドルの一部を溶かされた事で操作が出来なくなったゼロワンはそのまま横転した。

 

「(五つ──だが、気は抜くな。恐らく、此れは前座だ)」

 

(だろうな。こいつ等には殺意が足りん……それに、斗真(アレ)が消極的なのが気になる──っ!?)

 

倒した──と言っても一時的に脱落させただけの転生者たちを分析する一騎だったが、気配を感じて回避行動をとると先程までのルートだと直撃していたであろう複数のエネルギー弾が飛んできていた。

 

「お、よく避けたな?だが、空からなら反撃できないだろう!」

 

(ホークガトリングか……流石に本気を出してきたか)

 

「(然り。では、作戦を次の段階へ進めるぞ)」

 

チラリと後ろを見て空を飛ぶ仮面ライダービルド、ホークガトリングの姿を捉えた一騎は車体を倒しつつ減速してすぐ脇にあるアーケードへと侵入するのであった。

 




●#03について
・<お茶会>のメンバー
今回、名前も登場していないメンバーとしては絢瀬絵里、一ノ瀬志希の二人がいますが、絵里は戦闘に使える技能がないため、怪しまれない程度の手伝いをしていそうです。志希は化学の知識を活かしてFate世界の知識を借りて霊薬とか何かとんでもない物を作っていそうな気がします。

・指揮を執る凛
この場において指揮を執るような人間としては最適だと思ったので、全体的にチームの代表みたいなポジションをさせています。あと、一応、プリヤ時空の出身なので多少は攻撃的な面を強く出しています。

・作戦とも呼べない作戦
シンプルに囮になった一騎ですが、基本的に転生者たちは一騎を脅威とみなしていますし、イレギュラーである<お茶会>のメンバーはネームドで倒したくない、と言う心情があるので、囮作戦は想像以上に効果を発揮しました。

・十二人の(自称)腕利き
正直に言うと怪人などの敵と戦わずに大して訓練もしていないような連中の中で腕利き、という程度なので、実はこれまでの転生者の中でもそれほど強くはありません。もっと言えば手の内を知っている相手と戦っているから互角なので、既知の相手に対して対策が上手いだけの連中です。


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#04

「はぁ?アーケードに入っただと?──チッ、いいからそのまま足止めしとけ!」

 

万が一に備えて変身せずに追跡部隊の後方で指揮に専念していた斗真だったが、無線から聞こえる部下たちの報告ともうすぐ沈む夕日を見つつ、自らの浅慮を呪っていた。

 

(そのまま殺すかいい感じに生け捕りにして状態を見極めてから戦うつもりだったが──クソッ、あの無能どもめ)

 

「だいぶ気が立ってんな、大丈夫かよ?」

 

「……ああ、ま、何とかな」

 

副官として隣を走る雄也の言葉に何とか表面上は落ち着きを取り戻したように見せる斗真は小さく深呼吸をする。

 

(ともかく、ゴーストライダーにならなくとも一騎は手強い──変身したらどれだけ強くなるか……)

 

「しかし、どうする?現行の戦力じゃ流石に厳しいぞ?」

 

「ハッ、冗談だろ?こっちだってゴーストライダーだ。それに、向こうは手負いでこっちは無傷、そう簡単には負けねーよ」

 

「……分かったよ。んじゃ、最後はリーダーに任せて、俺も削りに行ってくるわ」

 

ヘルメットの下で不敵に笑う雄也に対して、任せた、と斗真が力強く頷くと、バイクの上で構えた雄也が、変身、と叫び仮面ライダークウガ、アメイジングマイティに変身して数十m先に見える商店街の跡地へと飛び込んでいき姿が見えなくなる──そして、大きな爆発音が響いた。

 

「……やられたか。ま、アルティメットでも無けりゃそんなモンか」

 

ゆっくりと独り言を言いながら闇に包まれた跡地へ入った斗真は自らの予想の正しさを裏付けるような大量の焦げ跡と周囲に舞う灰を見てゴーストライダーの力を感じたが、そこには落胆も絶望もなくただ純粋な興奮だけが胸中に渦巻いていた。

 

(これでようやくゴーストライダーと──本当の強敵と戦える……!)

 

「仮にも仲間の死にそんな笑みを浮かべるとは──随分と業を重ねて来たようだな」

 

「っ!?」

 

突如、目の前の闇の中からかけられた声に目を向けるとそこには一騎の姿があった。よく見れば、ライダースジャケットの所々が破れていたが、おそらく、今の戦いで出来た傷は一つもないようであった。そして、一騎の指摘で顔を触った斗真は自分が獰猛な笑みを浮かべていることに初めて気づいた。

 

「なあ、一騎。今、俺は笑ってるのか?」

 

「ああ、まるで獣だな」

 

「ハッ、上等だ!俺もお前も所詮は猟犬──野良犬(お前)番犬()、どっちが上か証明してやらぁ!!」

 

「……そこまで堕ちていたか。ならば、俺たちが引導を渡してやる──来い、外道」

 

宣言と共に両者が炎に包まれると無傷のゴーストライダー──斗真が勢いよく飛び出してジャケットの所々が敗れたゴーストライダー──一騎に対して殴りかかる。

 

「おら、よっ!」

 

「ぬん!」

 

勢いよく振りぬかれる斗真の右の拳を左手でブロックした一騎はカウンター気味に右の拳でアッパーを放つ──だが、その拳は斗真が左足を引いて半身になったことで空を切る。

 

「ハッ、どうした?その程度か、よっ!」

 

「ぐっ……!?」

 

お返しとばかりに放たれた斗真の左のボディブローが一騎の腹部に決まり、呻き声を上げた一騎はたたらを踏んで数歩後ずさった。

 

「どうやら、昨日のダメージが残ってるみたいだな?──チェインブロウ!!」

 

「む、う……!?」

 

数歩分離れた一騎の首に伸ばしたチェーンを巻き付けた斗真はそのまま左手でチェーンを引っ張ると、引き寄せられた一騎の顔面に右ストレートが決まり、その勢いで頭を揺らされた一騎の顎が外れて完全に動きが止まった。

 

「コイツでトドメだ!──インフェルノストライク!!」

 

一連の攻撃で勝利を確信した斗真が全力を籠めて炎を集中させた右の拳が無防備な一騎の胴体に突き刺さり大爆発を起こす。瞬間的な威力だけなら尊の持つ乖離剣・エアにも匹敵する一撃、当たれば一騎であっても無傷では済まない──はずだった。

 

「もう終わりか?」

 

「──え?」

 

爆発の煙がおさまったあとには先ほどよりジャケットの破損が増えた以外は大きな違いの無い一騎の姿があった。理解が追い付かずに思考が停止する斗真を置いて一騎は悠然と外れたままの顎を元の位置に戻した。

 

「では、俺の番だ」

 

「は──あ?」

 

瞬間、無造作に振るわれた一騎の()()()が斗真の顔面に突き刺さる。その威力は棒立ちだった斗真が3mほど後ろに吹き飛ばされるほどであり、その衝撃に呆然とする斗真は何とか倒れずにいたが、顎が外れた事にも気付かないでいた。

 

「どうした?その程度か?」

 

「え?何でこんなに差──ぐおっ!?」

 

悠然と近づいた一騎の()()()()()()()()が目の前の現実を受け入れられないでいる斗真の()()に決まる。呻き声を上げた斗真は踏ん張ろうとするが、勢いが強くそのまま後ろに倒れそうになる。

 

「まだだ」

 

「うお──おぶっ!?」

 

倒れそうになる斗真の()に伸ばしたチェーンを巻き付けた一騎はそのまま左手でチェーンを引っ張ると、引き寄せられた斗真の()()()()()()()()が決まり、その勢いで頭を揺らされた斗真の動きが完全に止まった。

 

「さて、最後は──こうだったか?」

 

「いっ──ぐあああっ!?」

 

一騎が同じような動きで力を籠めて炎を集中させた()()()が無防備な斗真の胴体に突き刺さり大爆発を起こす。全力には見えない一撃だが、その威力は明らかに先程の斗真のインフェルノストライクを上回っており、爆炎がおさまった後には仰向けに倒れたまま動けない斗真の姿があった。

 

「ぐ……ううっ」

 

「ふむ、まだ息があるか」

 

「……どうやって、俺の一撃を、防いだ?」

 

「簡単だ。俺の方が強い、それだけの事だ」

 

「く、ははは……マジかよ?」

 

息も絶え絶えの斗真の質問に事も無げに答えた一騎はそのまま襟首をつかんで斗真を持ち上げる。その返答に圧倒的な力の差を感じた斗真は最早、笑うしかなかった。

 

「質問は終わりか?」

 

「そうだな……それじゃ、最後に、一つだけいいか?」

 

「何だ?」

 

「こいつを見ろ!──ペナンスステア!!」

 

「む──」

 

斗真の言葉を聞くために顔を近づけた一騎に対して斗真はペナンスステアを覗き込ませる──が、しかし。

 

「それで、何を見ればいい?」

 

「──え?」

 

斗真の困惑も無理はない。これまで数多くの罪を暴き悔い改めさせてきたペナンスステア、必殺とも呼べるその力が目の前にいる一騎には通用しなかったからである。

 

「……なるほど。やはり、()()の声も聞こえていないようだ──まったく、これでゴーストライダーを名乗るとはな」

 

「……アンタ、何言ってんだよ?!俺は、まだ──」

 

「黙れ外道。潔く、俺の眼を見ろ」

 

「ぐ──うあああっ!?」

 

一騎の贖罪の眼(ペナンスステア)を覗き込まされた斗真はこれまでに犯した罪と今の世界に与えた苦しみを与えられてその魂と肉体を焼き尽くされた。

 

(……っ!?そうか、外狩一騎は──ゴーストライダーは……)

 

そして、焼き尽くされる最後の瞬間に外狩一騎とゴーストライダーの全てを理解して篝斗真と言う存在は消滅するのであった。

 


 

「(ふむ……一騎の仲間になれるやも、と思ったが、些か早計だったか)」

 

(お前を認識できない時点であり得ないだろう……それに、転生者狩りの同類など居ない方がいい──それより、面白いことが分かったな)

 

ゴーストライダー同士の戦いを終えて変身を解いた一騎は妙な感想を抱くゴーストに対して白い目を向けつつ、斗真から読み取った情報を思い返していた。

 

「(然り。だが、其れよりも我は一騎の精神力に驚かされた──よもや人の身で贖罪の眼(ペナンスステア)に耐えようとは)」

 

(またそれか?所詮は偽物の力だ。この程度なら<お茶会(あいつら)>の中にも出来る奴はいるだろう)

 

子供の成長を喜ぶ親のような態度のゴーストに呆れた様子の一騎だったが、一度、深呼吸をしてから気持ちを切り替える。

 

(この話はこれで終わりだ──合流場所に急ぐぞ)

 

「(うむ。だが、我の予想通りであった故、先程の()()()が効くであろう)」

 

(そうだな──っと、忘れていた)

 

「(む?まだ何か在ったか?……それは──)」

 

「このジャケットは貰って行くぞ」

 

呼び出したバイクに跨ろうとした一騎はゴーストライダーに変身しつつ、灰の山から斗真のジャケットを拾い上げると、灰を払ってからジャケットを着替えた。

 

「(盗みか?罪人め)」

 

(違うな、これは慰謝料だ)

 

「(成程。ならば致し方あるまい)」

 

軽口を言い合うゴーストと一騎は変身したままバイクに乗るとそのまま合流地点へ向けて走り出す。そして、あとには灰の山と戦いの痕が残されており、ゴーストライダーの行く先を示す炎の轍が夜空へと続いていた。

 




●#04について
ゴーストライダー(野良犬)VSゴーストライダー(猟犬)
ついに始まった頂上決戦、に見えますが、実際は一騎の圧倒的優勢で終わりました。一騎があえて同じ攻撃を返したのはゴーストライダーとしての格の違いを刻み付けるためです。ちなみに、斗真の技名には何か元ネタがあった気がしますが、メモには残っていなかったため、その点は不明です。

・斗真の敗北の理由
彼は敵として再構成された特典の力で変身していますが、一騎はゴーストという人外の外部リソースの力で変身しています。その在り方の違いとして斗真は魂を認識して操る力を持たず、ゴーストを認識できていませんでした。そのため、ペナンスステアもこれまでの戦いでは通用しましたが、原典でもあるように精神力の強い一騎には通用しませんでした。

・仕込みと盗み
アメコミと言うよりはアメコミ映画的な描写ですが、ゴーストライダー同士の戦いは必ずやるつもりだったので、ジャケットを奪うシーンは絶対にやろうと思っていました。また、仕込みについては次回で明かされます。

●斗真について
篝斗真(かがり とうま)(18歳/男)
・ゴーストライダーの力を特典として与えられて花咲川高校に通う三年生で車両の修理工場に併設された一軒家に住む
・ゴーストライダーの力自体は嫌いではないが、格ゲーと海外ドラマでの知識しかないため使いこなせている訳ではない
・基本の能力はMAoS(エージェントオブシールド)版とUMVC3版を合わせたイメージでペナンスステアが使える
→太陽の下でも変身が可能だが、パワーソースが自分であるため、出力はザラゾス版よりも低く耐久度も落ちている
→魂を認識して操る力を持たないため、強い精神力も持ち合わせている人間にはこのペナンスステアは通用しない
・本来は最強の力を望んでいたが、上位者の都合で言いくるめられて現在の形になった
→ヒロインを欲している訳ではなく、単純に強い力と倒すべき敵を求めているだけ


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#05

 

「おい、尊!これはどう言う事だ?!」

 

ゴーストライダー同士の戦いが終わった少し後、転生者たちが拠点として使っていたマンションは騒然とした空気に包まれており、ロビーでは転生者たちの指揮を執る尊に対して詰め寄る総司の姿があった。

 

「俺の部下たちから、()に襲われている、と言う報告がひっきりなしに来ているぞ!」

 

「抑えられていた特典に対応する敵が溢れ出した──つまり、斗真(あのバカ)が勝手に突っ走ってやられた、と言う事だ」

 

「……なるほど。それで、どうするつもりだ?」

 

「既に対策は取った。今は敵に対応する転生者を充てて対処させている」

 

激昂した様子の総司だったが、尊の返答にひとまず気を落ち着かせると、次いで返された言葉を聞いて大きく一度頷いてから訝し気な視線を向けた。

 

「そうか──では、ここの連中は何をしている?」

 

「これも対策だ……ゴーストライダーに対しての、だがな」

 

「うん?それは、どう言う事だ?」

 

「奴は俺たちを狙ってここに来る。ゆえに、敵を持たない転生者を集めた、と言う訳だ」

 

「なるほど。だが、こいつらが何の役に立つ?」

 

「確かに、戦力としてはたかが知れているが、まぁ、盾代わりにはなるだろう」

 

「ふむ。まぁ、俺の活躍の邪魔だけはさせるなよ?ハッハッハッ──っ!?」

 

「っ!?」

 

尊の説明を受けて得心が行った総司は機嫌が良さそうに高笑いをするが、突如、中庭から聞こえた大きな着地音に遮られる。立ち込める砂煙は衝撃波でガラスの割れたロビーにまで広がっており、突然の事態に転生者たちの間には動揺が広がる。

 

「もう来たか──総員、戦闘態勢を取れ!!」

 

「チッ、俺より目立つ登場をするか外狩一騎……いや、ゴーストライダー!!」

 

混乱する転生者たちは尊と総司の言葉でそれぞれに戦闘準備を整える。そして、転生者たちが固唾を呑む中、砂煙が晴れると地面の抉れた中庭には転生者たちを睥睨(へいげい)しながら悠然と立つゴーストライダーの姿があった。

 

「随分と数を揃えたものだな──それほど俺が怖いか?」

 

「ハッ、それは(コイツ)が勝手にやったことだ──それより、貴様、ついに本性を見せたな?」

 

「……何の話だ」

 

「とぼけるなよ?この世界の仕組みについては知ってるだろう?」

 

「知っている。それがどうした?」

 

意地の悪い笑みを浮かべる総司の言葉に不快そうな空気を漂わせながら返答するゴーストライダーだったが、その様子を気にも留めずに総司は面白そうに笑みを深める。

 

「なら、復讐に駆られたお前は、敵に襲われるこの世界の住人(無辜の民)を見捨ててここに来た、ってことだろう?これが貴様の本性と言わずして何とする!」

 

「……」

 

「どうした?あまりの衝撃に言葉も出ないか?ハッハッハッ──」

 

「浅はかな考えに呆れ果てただけだ──その程度、俺が考えないとでも思ったか?」

 

「ハッハッハッ──は?」

 

精神的優位に立ったと感じて高笑いする総司だったが、心底呆れたような声のゴーストライダーの返答に動きが止まった。

 

「俺たちには協力者がいる……不本意だがな」

 


 

「クソッ、キリがねぇ!!」

 

ゴーストライダーがマンションに到着する少し前、突如、怪物の溢れた街はパニックに包まれていた。頼るべき警察は早々に壊滅し、尊の指示で戦う転生者たちも敵の数に圧倒されつつある正に阿鼻叫喚の地獄絵図と言うべき状況であったが、そんな中、運悪く激戦地に配置された転生者──仮面ライダーオーズは倒した敵には目もくれずに悪態を吐きながら敗走していた。

 

「つーか、他の連中はどうしたんだ?……まさか、やられたんじゃ──ぐああっ!?」

 

一瞬、気の緩んだオーズに対して物陰から放たれたイカのグロンギ──メ・ギイガ・ギの火炎弾が直撃し、既に限界だったオーズの変身が解除されてそのまま青年は地面に倒れこむ。

 

「しまっ──」

 

「伏せて!──弾けろっ!」

 

目の前に迫るギイガの姿に、終わった、と感じた青年だったが、直後に響く少女の声で目を伏せると、目の前には吹き飛ばされたギイガと青年を庇う凛の姿があった。

 

「遠坂、凛?」

 

「流石に、この程度じゃ倒れないか……ねえ、後ろの貴方、戦える?」

 

「え、っと、数秒あれば、何とか」

 

「それじゃあ──」

 

私が時間を稼ぐ、と言いかけた凛だったが、その言葉を言い終わる前に真上から素体ホラーが飛び降りてくる。

 

「あ──」

 

気配を感じて上を見るが時すでに遅く、既に避ける暇は無く、正面には火炎弾を放とうとするギイガの姿もあり、完全に()()と言える状態──のはずだった。

 

「『刺し穿つ(ゲイ)──」

 

「──今のは!?」

 

「──死棘の槍(ボルク)』!」

 

「あれは……!?」

 

まず、違和感を感じたのは凛。落ちてくるはずの素体ホラーが()()()に吹き飛ばされたと思えばその姿が掻き消えていた。ついで、正面を見ていた青年は赤い槍を持った青い装束の戦士──ランサー、クー・フーリンがギイガの心臓を刺し貫く後ろ姿を目撃していた。

 

「さて、二人とも怪我は──っ!?」

 

「うわっ!?──って、あれ?」

 

一先ずの危機を脱した凛と青年だったが、倒れる青年の背後──ちょうどランサーの死角になる影から素体ホラーが這い出て青年と凛を襲う──直前で遠方から飛来した光る矢に貫かれてその姿が霧散した。

 

「アーチャーか……まさか、またあの野郎と一緒とはな……ともかく、オレはサーヴァント、ランサーだ。二人とも怪我は無いな?」

 

「アーチャーにランサー……ってことは、外狩さんの言った通り、本当にはぐれサーヴァントが出てるのね」

 

「おっ?そこまで知ってるなら話は早い。嬢ちゃん、オレと契約する気はないか?」

 

「ええ、いいわよ──それじゃ、()()()()()()()()()

 

「は?おい、今なんか──」

 

自ら契約を願い出たランサーだったが、妙に即決してにこやかな表情の凛に違和感を覚えるが、時すでに遅く、よく見れば掲げている左手には令呪のような物が一画消費されているようだった。

 

「よし、これで契約成立!」

 

「ちょ、待て待て待て!何だその怪しげな令呪モドキは!」

 

「あ、()()?これはゴーストライダーの力を使って無理矢理サーヴァントを維持するって言う……まあ、呪いの一種ね」

 

「呪い!?いやまあ、確かに魔力は確保できてるけどよ……いきなり味方のサーヴァント呪うとか、とんでもねぇマスターだな」

 

本当に効くのねー、とどこか呑気に呟く凛に対して辟易しつつも周囲への警戒は怠っていないランサーだったが、そんな中で青年は戸惑うばかりであった。

 

「さて──それじゃ、まずはアーチャーを確保しましょうか」

 

「えぇー……マジか?」

 

「ええ、少なくともこちらには駒が足りない──あの制圧力、出来れば仲間にしておきたいの」

 

「ま、その点に関しては問題ないだろうよ──それより、坊主、お前はどうする?」

 

「俺は……」

 

即席のマスターである凛との相談を終えたランサーは戸惑うばかりだった青年の意思を尋ねるが、突然の事態に心を決めかねているのか、青年はどう返すべきか答えあぐねていた。

 

「行くわよ、ランサー!──それじゃ、貴方、命を粗末にしないようにね」

 

「あいよ!──じゃあな、坊主、せいぜい生き残れよ」

 

返答を待つ気が無かったのか号令を出した凛を抱えて飛び去るランサーの後ろ姿を眺めていた青年だったが、一度、大きく深呼吸すると、決意を秘めた目で人々を守るべく走り出すのだった。

 




●#05について
・溢れ出す敵
世界の敵であるゴーストライダー(斗真)がその世界以外の存在に倒されたため、それによって抑えられていた怪人などの敵が現れました。尊は本来ならゴーストライダーが敵の対処をしている間に準備を整えるつもりでしたが、まさにイレギュラーによってその予想は覆されました。

・仕込み
敵の解放ともに世界に封じられていた原典の力も解放されました。その中にはまどマギやマギレコの魔法少女が目覚めただけでなく、サーヴァントの力を持つ人間がいるため、世界の仕組みとしてサーヴァントも召喚されました。そして、それを予期していたゴーストにより、作中の発言通りあらかじめ凛とルヴィアには令呪モドキが渡されていました。

・<お茶会>の行動
戦闘可能なメンバーは各地に散って民間人の保護にあたり、それ以外のメンバーは避難者の誘導や後方支援、戦闘の収まった地区でのケガ人の救助などを行っています。凛とルヴィアは例外としてサーヴァントを連れてそれぞれの担当地区で指揮を執っています。


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#06

 

「なるほど。イレギュラーの力を借りたか──考えたものだ」

 

「チッ、味なマネを……!」

 

「この世界の事はこの世界の者に任せた、それだけの事だ。そして──」

 

部下からの連絡で状況を把握して感心する尊と目論見が外れて歯噛みする総司だったが、そんな二人に対して冷たく言い放ったゴーストライダーは一度、言葉を切ると強い意志を籠めた視線を向ける。

 

「──転生者(お前たち)を狩るのは俺の仕事だ」

 

「ハッ、どうやら一度、俺たちに負けたことを忘れたみたいだなぁ!」

 

「っ!?総司が変身する時間を稼げ!」

 

「「「「了解!」」」」

 

ゴーストライダーの宣言に激昂した総司が歩きながら考え無しにオーマジオウに変身しようとするが、その動きを察知した尊の指示で近くに居た転生者たちが動き出す。

 

「行くぞ!」

 

「おう!」

 

最初に動き出した干将と莫邪を握った青年と仮面ライダーマルスはタイミングを合わせてゴーストライダーの右側から武器を構えて飛びかかる。

 

「はああっ!」

 

「うおおっ!」

 

続いてその対応に動くであろうゴーストライダーの動きを見越した仮面ライダーエターナルと仮面ライダーダークキバが左側から攻撃を仕掛ける──はずだった。

 

「そんなっ!?」

 

「バカなっ!?」

 

「動きが単純だ──もっとも、速さを重視するなら仕方がないがな」

 

完璧なタイミングで動いたはずの四人だったが、その動きはゴーストライダーの両手から伸びたチェーンで絡め捕られたことで完全に封じられてしまっていた。

 

「このっ!」

 

「放せっ!」

 

「ああ、放してやろう──地獄へとな」

 

銘々に喚く転生者たちだったが、ゴーストライダーの宣言と共にチェーンを伝って流された業炎によって断末魔を上げる間も無く焼き尽くされる。

 

「呆気ない奴らだ」

 

「だが、仕事は果たしたぞ?──変身」

 

『最高!最善!最大!最強王!逢魔時王!』

 

「安心するのは早い」

 

「お前もなぁっ!」

 

転生者たちの稼いだ一瞬を使ってオーマジクウドライバーを装着した総司がオーマジオウへと変身しようとするが、倒した転生者たちに冷たく吐き捨てるゴーストライダーはその隙を逃さずにチェーンを伸ばそうとする。だが、その動きをいつの間にか黄金の鎧を装着していた尊が王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)からいくつかの宝具を射出して牽制する。

 

「……どうやら、お前もその力に引きずられている様だな」

 

「貴様、俺の財を──ぐおっ!?」

 

しかし、牽制に放たれたはずの宝具はゴーストライダーのチェーンに絡め捕られると逆にヘルファイアで強化されて撃ち返される。対応の遅れた尊は咄嗟に別の宝具で相殺するが、その陰に隠れるように伸びて来た左手のチェーンに絡め捕られた。

 

「借り物の宝具だと言う事を忘れたか──まったく、慢心とは恐ろしいな」

 

「(然り。だが、此のままでは焼く前に変身が終わるぞ?)」

 

「ぐっ!だが、例え縛られていても──」

 

「お前を焼くのは後だ──少し向こうへ行っていろ」

 

「なっ──うおおっ!?……」

 

絡め捕られたまま宝具を撃ちだそうとする尊だったが、勢いよくチェーンを振り回したゴーストライダーはハンマー投げの要領で中庭の吹き抜けから尊を遠くへと投げ飛ばした。

 

「(成程。一先ず分断は出来たか)」

 

(ああ──だが、少し面倒だな)

 

「まったく、アイツは肝心なところで役に立たんな──まぁ、元々、アテにはしていないがな」

 

尊たちを分断させたゴーストライダーは変身の完了したオーマジオウと静かに睨み合う。一触即発の空気の流れる中、一連の流れを見た転生者たちは恐怖で近づけず、周囲を取り込むだけにとどまっていた。

 

「クソッ、やってられるか!俺は逃げるぞ!」

 

「あっ!?この──俺も連れていけ!」

 

「お前ら──クソッ、俺だって巻き込まれるのはゴメンだ!」

 

耐え切れなくなった一人が叫んでから逃げ出すと、同じ考えだった他の転生者たちも一斉に騒ぎながら逃げ出していき、やがてその場にはゴーストライダーとオーマジオウだけが向かい合っていた。

 

「どうやら、取り巻きは逃げ出したようだな」

 

「抜かせ。貴様など俺一人で十分よ」

 

「そうか──なら、さっさとかかって来い、三下」

 

「ッ!?──ハッ、上等だ!真の王の力を見せてやろう!!」

 




●#06について
・変身と時間稼ぎ
仮面ライダーにとって弱点の一つである変身までの時間ですが、通常の相手であれば変身直後の自動防御があるので問題にもなりません。しかし、ゴーストライダーが相手ではそれも怪しいため、この場において他の転生者たちは全力で時間を稼ぐ必要がありました。

・分断される二人
原典に性質が引き寄せられた尊は宝具を射出するだけで十分だと慢心した結果、倒されなくとも分断されることになりました。このことで敗北を予感した転生者のほとんどは即座に撤退しました。

・オーマジオウ降臨
変身を完了させた総司ですが、強がりでもなんでもなく心の底から自分一人でゴーストライダーを倒すつもりです。原典での活躍を考えれば不可能ではなさそうですが、その戦いの結末がどうなるのかは次回をご覧ください。


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#07

 

「ッ!?──ハッ、上等だ!真の王の力を見せてやろう!!」

 

ゴーストライダーの挑発に激昂したオーマジオウは吠えた勢いのまま右手をかざすとゴーストライダーの前方の空中に時計の文字盤が浮かび、そこからタトバキックを放つ仮面ライダーオーズが現れてそのままゴーストライダーへと向かって行く。

 

「単純だな」

 

「それはどうかなぁ!」

 

向かって来たオーズに対してゴーストライダーは地面から獄炎を吹き上がらせてその一撃を防ぐが、それを予想していたオーマジオウはゴーストライダーの左側、数m程離れた所に今度は仮面ライダーブレイド、キングフォームを必殺技──ロイヤルストレートフラッシュを放つ状態で召喚させる。

 

「無駄だ」

 

「ハッ、これでもか!」

 

視界の外から切り上げで放たれた光刃を右前方へステップして回避したゴーストライダーはその勢いのまま前方へ飛び込もうとする。だが、それすらも想定済みだったのかオーマジオウはスピードロップを放つ仮面ライダードライブ、タイプスピードをゴーストライダーの飛び込む先の正面に出現させる。

 

「お前の動きは──」

 

「なっ──」

 

ドライブによる神速の一撃はゴーストライダーが着地点の手前で()()()()()()()()()()()タイミングで半歩左にステップしたことで避けられる。これだけでも驚嘆に値するが、そのままドライブの脇をすり抜けざまに殴り飛ばしたゴーストライダーは無造作に右手を上にあげてチェーンを伸ばすと、その先に浮かび上がりかけていた時計の文字盤が爆発で掻き消され、周囲にチェーンの一部が散らばっていった。

 

「──既に見た」

 

「何だと……!?」

 

困惑するオーマジオウだったが、苦し紛れにゴーストライダーの後方へクリムゾンスマッシュを放つ仮面ライダーファイズを召喚する。が、ポインターが当たる直前にまるで見えているかのように軽く体を捻るだけで回避され、見当はずれの方向にクリムゾンスマッシュを放ったファイズの姿が掻き消える。

 

「どう言う事だ……!?」

 

驚愕しつつもゴーストライダーの正面にライジングカラミティタイタンを放つ仮面ライダークウガ、ライジングタイタンフォームを召喚し、真上に仮面ライダー龍騎を召喚してドラゴンライダーキックを放とうとするが、チェーンを両手で持ってライジングカラミティタイタンの剣先を逸らしたゴーストライダーはそのままクウガと立ち位置を入れ替わると、前方にステップしつつ振り向きもせずに龍騎へとチェーンを振るって発動を妨害する。そして、そのまま技が不発に終わったクウガと龍騎の姿は消えていった。

 

「一体、何が起こっていると言うのだ?!」

 

オーマジオウが驚愕するのも無理はない。先程のレジェンドライダーによるコンビネーション技は模擬戦以外では一度も使っていない対ゴーストライダー用に考案したとっておきだったが、その全てが通用しなかったどころか当たりもしなかったからである。

 

「言っただろう、既に見た、と」

 

「既に……まさか!?」

 

「ああ、斗真(ヤツ)の記憶で見せてもらった──もっとも、英雄の再現を並べただけの技とも呼べないものにはいらぬ対策だったがな」

 

「貴様っ……!」

 

冷たく言い放つゴーストライダーに対し怒りを露わにするオーマジオウだったが、力の差を見せられたためかただ吠える姿を晒すだけであった。

 

「まだプライドがあるのならお前の全力を見せてみろ──プライドがあれば、だがな」

 

「ッ!?いいだろう──」

 

『終焉の刻!』

 

なおも挑発を続けるゴーストライダーに対して激昂したオーマジオウはベルトのスイッチを入れてエネルギーを高めつつ中庭へ出る。

 

「滅べ!ゴーストライダー!!」

 

『逢魔時王必殺撃!』

 

跳躍したオーマジオウがゴーストライダーの周囲に展開されたジオウの文字のエネルギーを右足に集約させて放つ必殺のキック──逢魔時王必殺撃。一度はゴーストライダーを倒した究極の一撃がチェーンを巻いた左腕を盾にしただけのゴーストライダーに炸裂し周囲を閃光が包み込んだ。

 

「ふむ、確かにまともに当たれば厄介な技だが──」

 

「なっ──これはどうなっている!?」

 

驚愕するオーマジオウだが、それも当然である。閃光がおさまると目の前には五体満足で立つゴーストライダーの姿があり、自分の体が地面や外壁から伸びるチェーンによってキックの姿勢のままゴーストライダーの眼前に縫い留められていたからであった。

 

「こうなってしまってはどうにもできまい」

 

「このっ!放せ下郎!」

 

「無駄だ。その鎖はこの世の道理では壊せん」

 

どうにか脱出しようと足掻くオーマジオウだが、ヘルファイアで強化されたチェーンはびくともせず、どうすることも出来ないでいた。

 

「では、次はこちらの番だ」

 

「しまっ──ぐげえっ!?」

 

冷たく言い放ったゴーストライダーは右の拳を左手で包んで腕を組むとヘルファイアを纏わせたダブルスレッジハンマーをもがくオーマジオウの胴体へと振り下ろし地面へと叩き落した。

 

「そ、そんな……あ、アブソリュートスロウンを抜くなん──ぐえっ!?」

 

「人の呪術で俺たちの攻撃を防げると思ったか?」

 

あらゆるダメージを萎縮させるはずの特殊エネルギーフィールド──アブソリュートスロウンをはじめとした絶対的な防御を抜ける一撃に困惑するオーマジオウだったが、ゴーストライダーがその隙を見逃すはずもなく腰のオーマジクウドライバーにヘルファイアを纏った右足が踏み下ろされる。

 

「ふむ、ベルトは──」

 

「ぐあっ!?」

 

「なかなか──」

 

「ぐええっ!?」

 

「頑丈だな!」

 

「ぐああっ!?」

 

圧倒的な破壊力を持つゴーストライダーの攻撃に一度は耐えたオーマジクウドライバーだったが、二発、三発と続けざまに加えられる攻撃にヒビが入り、四発目で完全に破壊されたことでオーマジオウの変身が解けると、ドライバーとともに衝撃を受け続けた総司はまともに動けないでいるようだった。

 

「ぐ、うう……オーマジオウには、自己再生があるはずなのに……」

 

「ヘルファイアは魂を焼く炎だ。肉体は癒せても魂は簡単には癒えん──さぁ、裁きの時だ」

 

「おっと、それにはまだ早いんじゃないか?」

 

倒れ伏して動けなくなった総司に対して説明しながら引き上げようとするゴーストライダーだったが、その動きは背後からかけられた尊の声によって遮られた。

 




●#07について
・コンビネーション攻撃
作中でも言及されているように強力な攻撃ではあるので、ゴーストライダーも直撃すればダメージは免れませんが、何度も訓練で見た攻撃であれば見もせずに避ける程度は簡単なので、完璧に訓練したことがアダとなりました。

・オーマジオウの敗北
本来は圧倒的な防御力と攻撃力を持つオーマジオウですが、そもそもフルパワーのハルクと殴り合って悪魔と戦うゴーストライダーが相手なので人間の技術で作られたものでは多少軽減するのがやっとだと思います。原典でも過去にはアベンジャーズ全員と一人で渡り合ったこともあるので、殺す目的で戦うならこの程度は可能だと思われます。

●総司について
常磐総司(ときわ そうじ)(18歳/男)
・オーマジオウのライドウォッチを特典として得た花咲川高校に通う三年生で都内の一等地に建てた御殿で生活している
・この世界の核となる転生者で全ての平成ライダーの力を継承しているが、学生生活をするために大っぴらに力を使うことは無い
・願いはヒロインのいる学生生活で好き勝手に生きていきたい
・最強クラスの猟犬の一人であり、自信も最強を自負しているが、その強さ故に必殺技を多用する傾向がある
・オーマジオウと言うよりは原点のソウゴに引きずられている節があり、本人は認めていないが、<王>と言う単語に反応してしまう
→上記の気質のせいで尊とは相性が悪い
・基本的には冷静だが、どこか子供っぽさが強く癇癪を起こすこともあるため、メンタルの管理が難しい
・ヘルファイアは魂を焼くため、人間の作ったオーマジオウの物理的、魔術的な防御では貫通される


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#08

 

「ふむ、思ったより早かったな」

 

「た、尊……!」

 

「総司、随分と無様な姿じゃないか?いつもの減らず口はどうした、ん?」

 

「くっ……」

 

ヴィマーナに乗りながらゴーストライダーと総司を見下ろす尊の姿は常よりもどこか楽しげな様子であったが、倒れ伏す総司は悔しそうに歯噛みするしかなかった。

 

「さて、本来なら総司(ソイツ)を守るべきだが……オーマジオウのない総司(ソイツ)に価値は無い」

 

「た、尊……?何の、つもりだ?」

 

ゆっくりと立ち上がった尊は右手を虚空に伸ばすと黄金の波紋を立たせて円柱状の刀身の突撃槍のような剣──乖離剣・エアを取り出し魔力を集中させていく。

 

「何、ここでゴーストライダーを倒さなくてはオーマジオウ()のないこの世界は終わる──ならば、お前を助ける理由は無い」

 

「そ、そんな……」

 

「まぁ、そう言う訳だ──死して拝せよ!『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』!!」

 

魔力が臨界に達し放たれた乖離剣・エアの最大出力はあらゆる「死の国」の原典である生命の記憶の原初の光景を再現したものであり、特典としてギルガメッシュの力を持つ尊の切り札であった。上空から振りかざすように放たれた一撃は一直線にゴーストライダーへ向かって行き爆音と閃光が周囲を包み込んだ。

 

「ふはははは──」

 

「手品は終わりか、道化よ?」

 

「──は?」

 

勝利を確信し高笑いをする尊だったが、目の前の現実に理解が追い付かず、その動きが止まった。だが、究極の一撃を受けて消し飛んだはずのゴーストライダーが左腕を盾にして悠然と立っていた衝撃を考えれば無理もないことであった。

 

「貴様、何故だ!?何故、無事でいる!?」

 

「知れたこと──地獄の再現で()()()()()が殺せるものか」

 

「本物だと……まさか、貴様、特典ではなく、本物の……!?」

 

「本、物……?」

 

ゴーストライダーの言葉から一つの結論に辿り着いた尊は恐怖で顔面が蒼白になるが、痛みと衝撃で頭の回らない総司は困惑するばかりであった。

 

「無駄話が過ぎたな──では、こちらの番だ」

 

「く、くそっ!冗談じゃ──ぶげえっ!?」

 

ゴーストライダーの宣言に逃げ出そうとする尊だったが、ゴーストライダーの左手から伸びたチェーンが首に巻きついてその動きを封じる。そのままゴーストライダーの目の前まで引きずり落とされた尊は抵抗も出来ずに右ストレートを顔面に叩き込まれる。

 

「逃がさん」

 

「ぐえっ!?ちくしょ──おごっ!?」

 

吹き飛ばされそうになった尊だが、ゴーストライダーは無慈悲にも首に巻きついたままのチェーンを引いて眼前に引き寄せると腹部へと打ち上げるような右のボディブローを放つ。防御が間に合わなかった尊の鎧の腹部が砕けてその体はくの字に折れ曲がって数mほど浮き上がった。

 

「墜ちろ」

 

「ごがあっ!?」

 

うつ伏せの状態で落ちる尊は息も絶え絶えと言った様子だったが、それを意に介さず、ゴーストライダーは左拳を右手で包んだダブルスレッジハンマーを頭に目掛けて叩き込む。当然ながら避けることも出来ずに直撃した尊はそのまま地面へと叩きつけられる。

 

「う、ああ……」

 

「ここまでか──では、これで終わりだ」

 

「ぐ、があああ……あ、あぁ……」

 

ゴーストライダーは倒れ伏す尊を眼前に引き上げると、抵抗する力が残っていない尊に贖罪の眼(ペナンスステア)を覗き込ませる。そして、この世界で歪めた幾つもの魂の報いと自身の犯した罪を一身に受けてその魂ごと肉体が焼失した。

 

「さて──次はお前だ」

 

「ひいっ!?く、来るな、バケモノ!──ぐえっ!?」

 

灰となって消えた尊の姿に恐慌状態になった総司は後ずさって逃げようとするが、悠然と近づくゴーストライダーは首を掴んで眼前へと引き上げる。

 

「黙れ──さあ、俺の眼を見ろ」

 

「い、嫌だ!死にたく、な……い……」

 

暴れようとする総司だったが、抵抗もむなしく贖罪の眼(ペナンスステア)に引き寄せられる。そして、これまで踏みにじった英雄(ライダー)たちの無念とこの世界を歪めた罪、自身の犯した過ちを一身に受けて尊の後を追うようにその魂ごと肉体を焼失させるのだった。

 


 

戦いが終わったしばらく後、ガールズバンドのライブのチラシで溢れる夜の東京。そのはずれにある使われていないはずの倉庫に一人の青年が周囲を窺いつつ入って行くと、中には十人ほどの転生者たちが会合のために集まっていた。

 

「おー、遅かったな?」

 

「悪い、もう始まってたか?」

 

「いや、まだだ──しっかし、俺たちを集めた連中は何をするつもりなのかねぇ」

 

「それは──」

 

出迎えた男の言葉に安堵した青年は疑問に答えようとするが、その言葉を遮るようにコンクリートの壁がぶち破られ入って来たアマゾンオメガが灰になっていた。

 

「な、何だ!?」

 

「あ、あそこに人影が!?」

 

混乱に包まれる転生者たちの前にコンクリートの壁を溶かしながら燃え盛る髑髏──ゴーストライダーがその姿を現すと、転生者の一人がその前に出る。

 

「お前は一体、何者だ?!」

 

「俺はゴーストライダー。転生者(お前たち)を狩るものだ」

 

地獄の底から響くような声で答えたゴーストライダーは獄炎を地面から吹き上げると使命を果たすべく転生者たちへと向かって行くのであった。

 




●#08について
・本物の地獄
これはこのゴーストライダーが刻印由来で再現されたものではない、と言う意味です。その正体や詳細な出自は今後、執筆する続編において明かされる予定です。

・複合世界のその後
核と管理者のいなくなった複合世界では暴れる怪人と戦う<お茶会>のメンバーと共闘する転生者たちがいましたが、戦いを終えたゴーストライダーが怪人を殲滅させて転生者たちの刻印と<お茶会>与えた令呪モドキを回収しました。

・逃げ出した転生者たち
戦いの最中に逃げ出した転生者たちは散り散りになり、その一部がどこかのバンドリ由来の世界に集まりましたが、そこをゴーストライダーが襲撃しました。

●タイトルについて
Dog Eat Dog:共食い
・このシリーズのタイトルとして採用しましたが、元々、ゴーストライダーを猟犬とみなして同類ともいえる転生者や敵である猟犬と戦う姿を共食いと例えた所から来ています。
→逆に言えば、猟犬という呼称はこのタイトルありきな部分もあったかもしれません。
・実は初期の草案では最終章であるVol.11と12のような複合世界だけを舞台にする話でしたが、描けるテーマに限界があったため、今の形になりました。
→そのため、このシリーズではなるべくゴーストライダーの情報を小出しにしつつ、転生者や猟犬との対比を意識して描いたつもりです。

●尊について
関崎尊(かんざき たける)(20歳/男)
・ギルガメッシュ(アーチャー)の能力を特典として得た青年で都内のマンションで悠々自適に暮らしている
・王の財宝を全て扱えるだけでなく、乖離剣エアを扱えるだけの魔力とサーヴァント相当の身体能力を持ち合わせている
・この世の全てを望んでおり、自信の欲望と原点のギルガメッシュの在り方が混ざっている
・最強クラスの猟犬の一人であり、自信も最強を自負しているが、余裕のある時ほど慢心しないため原典よりも厄介度は増している
→上記の気質のせいで総司とは相性が悪い
・どこか達観しているところがあり、原典よりも皮肉屋なところがあるものの、咄嗟の時に眠っている慢心が顔を出す
・世界の守護者たるDED版ゴーストライダーは対粛清防御(のようなもの)を持つため、エヌマエリシュによる攻撃は威力が減衰する
→厳密に言えば権能を振るうことによって抑止力が働き、ゴーストライダーの持つ性質が強化されて対粛清防御として機能している


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Vol.EX:Inherit Light
#01


眠らない街、東京。そこは深夜であっても(あか)りの絶えない街ではあるが、どんな場所にも例外はある。例えば、再開発区画や都心を少し離れた場所など人気が少なければそれだけ灯りは乏しくなり、闇はその深さを増していく。そして、転生者を探す一騎は郊外にある()()()()()()()()()ガソリンスタンドにいた。

 

(ここはラブライブの世界──のはずだが、飽きもせず牙狼でも選んだのか?)

 

呆れたように内心で呟く一騎だが、店員が一人もおらず周囲に異様な気配が漂うガソリンスタンドにキーが挿しっぱなしで放置された車を見れば否が応でも何か──おそらく特典による敵──に襲われたと考えるのが自然だからだ。そして、彼の経験から言えば、牙狼の敵である魔獣ホラーが相手だと睨んでいた。しかし。

 

「(否、魔の気配は無い。だが、何か異様な波動を感じる)」

 

(波動だと?いや、待て……ガソリンスタンド、残らない死体、波動……まさか──)

 

「(一騎、気配が近いぞ!)」

 

「っ!?こいつは──」

 

ゴーストの予想外の返答に考え込む一騎だが、何かを掴みかけたタイミングで掛けられた警告で右前方に飛び込むと、甲高い鳴き声とともに先ほどまで立っていた場所へと伸びていた触手が空を切った。飛び込んだ勢いのまま前転、振り返りつつ立ち上がった一騎が見たのは前方に大きな口の付いたナメクジやウミウシのような5mほどのぶよぶよした怪物──ペドレオンクラインだった。

 

(やはり、スペースビースト──ネクサスか)

 

「(成程、此れが異生獣の波動──否、魂と呼ぶべき物か)」

 

(言っている場合か。ともかく、ここに長居は出来んな)

 

「(然り、ナイトレイダー(守り手)が居るとすれば我等の障害になるやも知れぬ)」

 

転生者の特典をネクサスと結論付けた一騎に対して目の前のペドレオンが甲高い鳴き声とともに触手を伸ばして襲い掛かる。だが、その瞬間、一騎の肉体が炎に包まれてその姿がゴーストライダーへと変身すると、向かってきた触手を片手で掴んでペドレオンと睨み合う構図になる。本来なら絶好のチャンスであるが、触手を掴んだままのゴーストライダーはどこか攻めあぐねているようであった。

 

(ここで倒すのは簡単だが、振動波をどうするか……)

 

「(一騎、振動波は我に任せろ)」

 

(……出来るのか?)

 

「(然り、既に()()()()())」

 

ゴーストがビースト振動波による情報共有を妨害していることを確認したゴーストライダーは掴んでいた触手を引っ張ると、宙に浮いて無防備になったペドレオンの胴体へと手刀を叩きこみ体内から爆発させる。そのままペドレオンが消滅したことを確認したゴーストライダーはガソリンスタンドの防犯カメラに映らない距離まで離れてから変身を解除した。

 

(まさか、そんなことまで出来るとはな)

 

「(うむ、奴等の振動波とは奴等自身、即ち魂と同質である。故に捉えてしまえば後は容易い物だ)」

 

(なるほど──っと、ナイトレイダーが来たか?いや、あれは……)

 

ゴーストの説明を聞きつつ隠れて周囲の様子を窺う一騎だったが、ガソリンスタンドに現れたのはナイトレイダー──ではなく、黒塗りのワンボックスカー──遊撃車Ⅲ型とも呼ばれる警察車両であり、その中から出てきた複数人の特殊部隊員が周囲を警戒していることに強い違和感を覚えていた。

 

(警察?ナイトレイダーやメモリーポリスが来ないと言う事は……)

 

「(一騎、此れは世界の単純化やもしれぬ)」

 

(なるほど……奴らのことだ、どうせ、大人と関わっていては青春に集中できない、とでも考えたんだろうな……転生者らしい浅はかな考えだ)

 

特殊部隊が来たことで何らかの理由で世界を構成する際に防衛組織の存在が消された可能性を理解する二人だったが、いつも通り覚めているゴーストとは対照的に一騎はいつも以上に怒りを滲ませていた。

 

「(そうやもしれぬ。だが、真実は分からぬ。故に我等は正しく使命を果たすのみ、そうであろう?)」

 

(……そうだな。確かに、ラブライブ(この世界)で防衛組織がない可能性があるなら急ぐ必要がある)

 

「(然り、先ずは如何する?)」

 

(見つからない内にここを離れて情報を集める。行くぞ)

 

ひとまず落ち着いた一騎はゴーストの返事も待たず、静かにその場を離れると、この世界の情報を求めて人の多い町場へ向けて歩いていくのであった。

 


 

翌日、図書館を利用して新聞やネットで世界の変化を調べていた一騎だったが、目当ての情報が集まったはずのその表情はどこか浮かないようであった。

 

(まさか、本当にTLT(ティルト)そのものがないとはな……)

 

「(表立って異生獣の被害が無い事だけは救いであろう)」

 

(あくまで大型の出現が少ないだけだ……おそらく、昨日のような事件が散発的に起きているはずだ)

 

「(然り。とは言え、異星の技術も無く只の人間の力のみで此処まで抑え込むとは……やはり、人の力は底知れぬな)」

 

(当然だ。世界を形作るのはいつだってただの人間の営みだ。無ければある物で何とかするしかないだろう……もっとも、滅んでしまっては転生者(奴ら)に都合が悪い、と言う実情もあるだろうがな)

 

自身の得た情報とゴーストの物言いに内心で頭を抱える一騎だったが、それも仕方のないことである。大型ビーストの出現があった情報が残っている、と言う事は、スペースビーストに対抗するはずの防衛組織であるTLTがないことの証明である。そして、TLTがないと言う事はこの世界では警察や自衛隊などの超常的ではない組織のみでスペースビーストに対抗していることが容易に想像できたからである。

 

(だが、一つだけ分からないことがある。ネクサス(転生者)は何をしている?まさか、政府と協力してスペースビースト狩り、と言う訳でもあるまい)

 

「(然り。昨夜、此の街で特典が使われた気配は無かった。恐らく、異生獣の発生さえ気付いておらぬのだろう)」

 

(だろうな。どうせ、自分の罪を忘れて青春を謳歌しているんだろう……それで、反応は追えるか?)

 

「(然り。彼方(あちら)だ)」

 

分析を終えた一騎は荷物をまとめて図書館を出ると、ゴーストの示した方角へとバイクを走らせる。しばらく走っていた一騎はやがて、反応のあった場所──音ノ木坂学院の見えるところでバイクを止めると、下校する生徒たちの中に何人か男子生徒の姿があることに内心で頭を抱えていた。

 

(……まあ、そうなるだろうな)

 

「(奴等とて居場所は必要なのだろう)」

 

(……そうまでして来たのなら、責任ぐらいは果たすべきだろうが)

 

一騎が頭を抱えるのは当然だ。原典においては音ノ木坂学院は女子校であり、共学になっていると言う事は世界を捻じ曲げた当人がそこにいることを示していたからである。あまつさえ、これまでの情報から、何もせずのうのうと暮らしていることが容易に想像できるからだった。

 

「(居たぞ、奴だ)」

 

(あれか……なるほど、想像通りの間抜け面だな)

 

内心で呆れたように呟く一騎の視線の先にいたのは落ち着いた雰囲気を持つ長い黒髪の少女──園田海未(そのだうみ)と談笑する活発そうな少年──転生者の姿があった。監視されていることにも気付かずに談笑を続ける姿は普通の少年にしか見えないが、その魂から発する刻印の反応が少年が転生者であることを証明していた。

 

「(然り。だが、油断するな、一騎)」

 

(ああ、分かっている──いつも通り、確実に仕留めるだけだ)

 




●#01について
・ビースト振動波
ウルトラマンネクサスに登場する怪獣であるスペースビーストはビースト振動波で情報を共有して適応進化する性質があります。一騎はそれを警戒していましたが、本作ではゴーストの語ったような設定で突破させました。

・存在しないTLT
細かい設定はこの後に書いていますが、転生者の無意識の願いでこの世界には来訪者やダークザギが存在しないため、スペースビーストに対しては現実世界と同程度の技術力で対応するしかない状態になっています。

●この世界について
・スペースビーストの現れる世界だが、防衛隊のような特殊な組織がないため、ネクサス以外は巨大な敵に対処できない
・ネクサスとスペースビーストは別の宇宙から来た設定になっているが、ダークザギや来訪者は存在していない
→警察や自衛隊などが人海戦術で小型の内に掃討しているため、散発的な事件は発生するが、ほとんどは大型になる前に倒している
・スペースビーストの成長が遅いのはスクールアイドルという希望が存在しているからという理由もある
・スペースビーストの生態についてはほとんどわかっていないが、人間の恐怖や負の感情に反応していることは判明している
→対ビースト用の特殊弾が実戦配備される程度にはビースト細胞の研究は進んでいる
→あくまで、通常弾よりマシ程度の威力なため、レーザーなどの高火力兵器の開発が急がれている


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#02

「ハァッ、ハァッ──くそっ、どこにいる、スペースビースト……?」

 

その日の夜、転生者の少年──真継光亮(まつぎこうすけ)は息を切らしてを街中を走り回っていた。焦燥感を滲ませるその様子は当然ながら単なるランニングと言う訳ではなく、突如、変身アイテムであるエボルトラスターが感知したビースト振動波の反応を追跡していたことが原因であった。

 

「っ──今度はこっちか!?」

 

出ては消える、と言う普段と違う反応に違和感を覚えつつ翻弄される光亮だったが、やがて、人気の少ない公園の近くで反応が止まったことに気付くと専用の武器であるブラストショットを構えて公園に飛び込んだ。

 

「そこか!……って、何も、ない?」

 

勢いよく公園に飛び込んだ光亮は困惑していた。なぜなら、彼の目の前には反応の原因であるスペースビーストはおろか、ネコの子一匹存在しない無人の公園があるだけだったからである。

 

「勘違いだったか?……ま、いいや、明日も早いしそろそろ──」

 

「帰れると思うか、間抜け」

 

「っ!?誰だ!?」

 

周囲を軽く見まわしただけで帰ろうとする光亮だったが、公園の中から掛けられた声に目を向けると、樹木の影から一騎が姿を現した。

 

「お前たちを狩る者だ」

 

「俺を狩る?──まさか、ダークザギか!?」

 

「……まさか、その程度の認識しかないとはな」

 

一騎の言葉を勘違いしたままブラストショットを構える光亮の姿に呆れた様子の一騎だったが、光亮に向けられている視線からは強い侮蔑は感じられても油断している様子は微塵もなかった。

 

「……まあいい。俺はお前を狩る、それだけだ」

 

「くそっ!やられてたまるか!」

 

冷たく言い放ち光亮に近づく一騎だったが、無防備に歩く一騎に対して光亮はブラストショットを放つ。人間一人を戦闘不能にできるだけの威力を持つ真空波動弾は放たれた勢いのまま一騎へと直進する。だが、その射線を事前に読んでいた一騎は軽く半身になることでその攻撃を躱して悠然と近づいていく。

 

「避けただとっ!?」

 

「狙いが甘いな。それでは飛行型には当たらんぞ?」

 

「うるさい!今度は当ててやる!」

 

まさか避けられると思っていなかった光亮は驚愕するが、嘲笑しつつ近づく一騎の言葉に気を取り直すと、ポンプアクションで弾を装填すると狙いをつけて再度、一騎へと射撃する。当然、その攻撃は先ほどと同じように避けられる。だが、今度は一騎の避けた先へとブラストショットの銃口が向けられていた。

 

「当たれっ──っと、うおっ!?」

 

命中を確信した光亮だったが、トリガーを引く前に一騎の飛ばした指弾によって手元が狂い、目の前の地面へと真空波動弾が放たれる。何もない地面に対してその力を遺憾なく発揮した真空波動弾の余波を受けて足を取られた光亮は受け身も取れずに前のめりに転んでしまう。

 

「いっ──つつ……この──」

 

「隙だらけだ」

 

「まず──うごっ!?」

 

起き上がろうとした光亮だったが、その隙を一騎が逃すわけもなく、無防備な胴体を蹴り飛ばすと、光亮の体はそのまま数mほど転がって行った。

 

「力に振り回されるだけの素人め。デュナミストの風上にも置けんな」

 

「ぐっ、言わせておけば……うおおおおおおっ!」

 

一騎の言葉に痛みを堪えて立ち上がった光亮は懐から取り出したエボルトラスターを鞘から引き抜くと同時にそのまま前方に掲げる。すると、光に包まれた光亮の体が銀色の戦士──ウルトラマンネクサス、アンファンスへと変身した。

 

「シュアッ!」

 

「抗う気概はある、と言う事か。なら、こちらも本気を出そう」

 

構えを取るネクサスに対して静かに言い放った一騎はゴーストライダーへと変身すると、その姿に困惑した様子のネクサスに向けて悠然と歩き始めた。

 

「デァッ!」

 

困惑から復帰したネクサスは腕を振って光粒子エネルギーのカッター光線──パーティクルフェザーを放つが、防御もせずに直撃したゴーストライダーは体に小さく火花を散らしたその攻撃を意にも介さず前進を続ける。

 

「無駄だ、その程度は牽制にもならん」

 

「フッ!シュアッ!」

 

驚愕するネクサスだったが、即座に気を取り直し抜刀のようなポーズを行うと、両腕を十字に組んで合わせたアームドネクサスから放つ光線──クロスレイ・シュトロームをゴーストライダーに向けて放つ。大型のビーストを撃破する威力を持つ基本形態であるアンファンスの必殺技とも呼べる攻撃は悠然と歩くゴーストライダーに命中した。しかし。

 

「デュアアッ!?」

 

「手加減して勝てる相手だと思ったか?」

 

クロスレイ・シュトロームを片手で防ぎつつ放たれたゴーストライダーの火球の一撃でネクサスが吹き飛ばされる。何とか立ち上がったネクサスだったが、目の前に立つ無傷のゴーストライダーに対して拳を構えつつも動けないその姿は攻めあぐねていると言うよりもたじろいでいると言う方が正しかった。

 

「では、こちらの番だ」

 

「!?フッ!デァッ!」

 

ゴーストライダーがおもむろに動き出したことで意を決したネクサスは胸のエナジーコアの前にアームドネクサスを掲げてそのまま腕を振り下ろすと体色に赤が多くなり、胸から肩にかけて生体甲冑の追加された姿──ウルトラマンネクサス、ジュネッスへと更なる変身を遂げた。そして、右手に込めた光を上空に向けて放つと周囲を隔離する戦闘用亜空間であるメタフィールドを展開した。

 

「なるほど。ようやく全力で来たか」

 

「シュアッ!デァッ!」

 

悠然と歩き続けるゴーストライダーに対して体を光らせたネクサスが音速で移動する──マッハムーブでゴーストライダーの背後に回り込むとそのままの勢いでパンチを繰り出す。スペースビーストですら反応するのがやっとの一撃がゴーストライダーへと襲い掛かる。だが。

 

「!?」

 

「速度はいい。だが、拳が軽いな」

 

初めて使った技とは言え、目の前で自身の拳が掴まれていたことに驚愕するネクサスは何とか腕を引き離そうとするが、その動きが仇となった。

 

「ウッ!?ヘァッ!?デュアアッ!?」

 

顔面に一発、腹部に一発放たれた拳にネクサスがよろめいたところで爆炎を纏った本命の拳が胸部のコアゲージへと叩き込まれると、拳のインパクトと同時に爆発が起こり、直撃したネクサスが数mほど吹き飛ばされて転がっていった。

 

「……む?どうした、この程度か?」

 

「ウ……ヘアッ……」

 

簡単に吹き飛ばされて倒れこんだネクサスを訝しむゴーストライダーだったが、その困惑も無理はない。何とか立ち上がったネクサスだったが、戦いによる痛みや恐怖などほとんど経験したことのない彼にとっては立ち上がるだけで一苦労だとは思わなかったからである。

 

「……まさか、戦えない、と言う事はないだろうな?」

 

「ッ!?」

 

「そうか──なら、ここで終わらせてやる」

 

何とか構えを取ったネクサスだったが、その姿から戦いを続ける意思が無い事を読み取ったゴーストライダーはチェーンを伸ばして止めを刺そうとする。

 

「ッ!?デュアアッ!?」

 

チェーンから逃れようとするネクサスだったが、力及ばず絡め捕られるとチェーンから伝わった獄炎と爆発でダメージを受けて倒れこみそうになり、コアゲージが赤く点滅し始める。

 

「グッ──ハァッ、ハァッ──」

 

コアゲージの点滅──それはネクサスにとって変身するデュナミストの生命力が低下していることを示しており、生命の危機を感じて何とか変身を解除した光亮だったが、既に倒れていないことが不思議なほどの消耗具合だった。

 

「さぁ、裁きの時だ」

 

「ぐっ──クソッ!」

 

裁きを与えるべく悠然と近づくゴーストライダーの姿に恐怖した光亮はブラストショットをガンモードにし、上空に向かってトリガーを引く。すると、光亮の周囲をバリアーが包み、その身を守り始めた

 

「む──ストーンフリューゲルか……!」

 

「は、ははは──ざまぁみろ!俺はまだ死なないぞ!」

 

ボロボロのまま叫ぶ光亮だが、その高揚も無理はない。彼が呼んだストーンフリューゲル──デュナミストにより召喚される石柩でデュナミストを癒す力を持ち、召喚者を守るバリアーを展開する脱出手段の一つでもあったからだ。だが、それを知るゴーストライダーは意に介さずに光亮の元へと走り寄るとそのまま拳をバリアーへと叩き込んだ。轟音とともにバリアーが揺れるが、その表面には傷一つ付いていなかった。

 

「ひっ!?ど、どうだ!流石にこれは破れな──」

 

「なら、壊れるまで叩くだけだ」

 

「──へ?う、ウソだろ……!?」

 

続けざまに放たれる拳によって次第にひび割れていくバリアー。だが、それが割れる前に上空から差し込む光によって光亮の体はストーンフリューゲルに回収されてどこかへ飛んで行った。

 

「愚かな。すぐに叩き落して──っ!?」

 

「(一騎、異生獣の気配だ!)」

 

(まったく、儘ならんな……!)

 

ヘルバイクを呼んで追跡しようとするゴーストライダーだったが、女性の悲鳴が聞こえると罪無き者の命を救うためにゴーストが気配を感じた方へと向かうのであった。

 




●#02について
・いつもと違う反応
ここで発生しているビースト振動波はゴーストの発生させた偽物の振動波です。そのため、周囲への被害の少ない地形へと誘導していました。

・生身で戦う転生者
このシーンで生身で戦おうとしているのはこれまで大型のビーストとの戦闘経験が少なく、小型もブラストショットで簡単に倒せたこと、相手が生身で油断していたことが原因だと思います。

・戦い慣れていないネクサス
せっかく変身したネクサスですが、戦い慣れていないこともあってか、ゴーストライダーには通用していませんでした。ある程度戦い慣れていれば初手でメタフィールドを展開していれば何かしらのダメージは与えられていたかもしれません。

・ストーンフリューゲルのバリアー
原典では破られることのなかったバリアーですが、ゴーストライダーのパワーを考えると状況によっては破壊できてもおかしくなさそうなので、このような形になりました。


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#03

 

昨夜の戦いで転生者を逃がした一騎は翌日の朝には音ノ木坂の見える場所で転生者が現れるのを待っていた。しかし、既に始業時刻を過ぎているにも関わらず転生者が現れていないことから、張り込みの成果は出ていないようだった。

 

「(一騎、何故、奴を探しに行かぬのだ?)」

 

(奴を追う必要はない。いや、追っても意味はない、と言うべきだろうな)

 

「(如何言う意味だ?)」

 

(昨日の一件を思い出せ。奴は自分が生きるためならあらゆるものを犠牲に出来る。そんな相手をただ追うだけでは同じことの繰り返しだ)

 

ゴーストの問いに対して淡々と答える一騎だったが、その目には転生者に対する怒りと軽蔑が見て取れた。だが、それもそのはず、昨夜、転生者はスペースビーストに襲われる一般人を見捨てて逃げただけでなく、自分が居場所と決めたであろう学校にすら姿を現さないことから、転生者は自分の命以外の全てを犠牲に出来ると確信したからである。

 

「(成程。では、如何する心算だ?)」

 

(奴が出てこざるを得ない状況を待つ……おあつらえ向きにスペースビーストの動きも活発化しているからな)

 

「(ふむ。大型の異生獣が出たとあれば世界を守るために奴も姿を見せる、と言う事か)」

 

(そう言う事だ……まぁ、出てこなければそれこそ奴は逃げられなくなるだろうからな)

 

「(成程。ならば、今は時を待つとしよう)」

 

(ああ……だが、思ったよりも早く終わりそうだな)

 

相談を終えたゴーストが大人しくなったことで空を見上げる一騎だったが、街に漂う不穏な気配に眉をひそめていた。

 


 

その日の夜、光亮は自分の部屋で布団に(くる)まって震えていた。それは転生前を含めても彼の人生において初めての経験であったが、明確な死を与える者のイメージであるゴーストライダーに対する恐怖だけでなく、一般人を見捨ててでも生き残ろうとする自分の醜さから目を背ける無意識の行動でもあった。

 

「……死にたくない……嫌だ、嫌だ……ひっ!?」

 

うわごとのように呟く光亮だったが、突如、玄関から聞こえたチャイムに怯えて頭から布団を被ると必死に目をつぶり、息を殺していた。だが、無情にも玄関が開く気配がして光亮の脳裏に自分を殺しに来るゴーストライダーのイメージが鮮烈に浮かび上がってくる。

 

「フーッ……フーッ……」

 

必死に口を押えて叫ばないようにしているが、既に限界が来ていた。目を閉じて耳をふさいでいても徐々に近づいてくる気配、既に逃げるという選択肢を失っていた光亮は懐に持っていたブラストショットをかろうじて握りしめると部屋の入り口の閉じたままのドアに向けて構える。そしてトリガーを引く──直前で聞こえたノックの音でトリガーにかかっていた指が止まった。

 

「光亮?そこに居るのですか?」

 

「……海未……?」

 

「光亮!?一体、何が──まさか、戦いの影響で……?」

 

ノックとともに聞こえてきた幼馴染である海未の声に少しだけ落ち着きを取り戻した光亮だったが、憔悴しきったその様子を見た海未はウルトラマンとして戦う中で何かあったと思っているようだった。

 

「……あ、あぁ……()()()はヤバい……俺じゃ、アイツに勝てない……」

 

海未の言葉でゴーストライダーの恐怖を思い出したのかまたもや震えだして頭を抱える光亮を見た海未は何かを決意したように小さく頷くと足元に転がってきたブラストショットを拾い上げる。

 

「……大丈夫ですよ、光亮」

 

「──え……?」

 

「私があなたを──みんなを守ります。ですから、あなたはもう戦わなくても大丈夫です」

 

(そうだ……俺一人じゃ戦えない。けど、海未が一緒なら──彼女を守るためなら戦えるかもしれない……!)

 

海未の言葉に顔を上げた光亮はブラストショットを握りしめた海未の瞳に宿る強い決意を見て少しだけ生気を取り戻す。既に折れ切ったはずの光亮の心に小さな意思の力が戻り始める。だが、そのきっかけを得るには少し遅かった。

 

「っ!?これは……?」

 

「エボルトラスターに反応?……マズい、大型だ!」

 

懐から零れ落ちたエボルトラスターが反応していることに気付いた光亮だったが、時は既に遅かった。何かが着地したような振動と轟音のような咆哮は市街地にスペースビーストが現れたことを指し示していた。

 

「っ!?あれは、ガルベロス……!」

 

「光亮!」

 

遠くに見えるケルベロスのような三つの頭を持った大型のスペースビースト──ガルベロスの姿を見た光亮はネクサスに変身しようとする。しかし。

 

「──っ!くそっ……!」

 

「……光亮?」

 

(ダメだ、ここで変身したら、()()()に見つかる!くそっ、どうすれば……)

 

腰に構えたエボルトラスターを引き抜けない光亮。その心中にあったのは戦わなければならないという使命感よりも自らの保身が上回っているようだった。そして、動けないでいる光亮の手を海未の手が握りしめた。

 

「逃げましょう、光亮」

 

「いや、でも……」

 

「あなたが戦わなくても誰かが戦います!どうしてあなただけが苦しまなくてはならないのですか?!」

 

「──それ、は……」

 

海未の言葉にエボルトラスターを取り落としそうになる光亮だったが、寸でのところでわずかに残った使命感がその動きを止めていた。事実を告げるか黙って逃げるか迷う光亮。実際にはほんの数秒だったが、光亮にとっては永遠にも思える時間だが、その逡巡は更なる振動音によって遮られた。

 

「な、なんだ一体!……あれ、は──」

 

「燃える、骸骨……!?」

 

驚愕する二人の視線の先にあったものはガルベロスとそれに対峙する同じサイズの燃える骸骨──ゴーストライダーの姿だった。

 




●#03について
・スペースビーストの活発化
これは冒頭のペドレオンと転生者との戦いの直後のスペースビースト(おそらくビーストヒューマン)の二件が連続していることを指し示しています。また、ビースト振動波を感知できるゴーストは既にガルベロスの発生も予期していました。

・怯える転生者
これまで戦いらしい戦いをしてこなかった転生者にとってゴーストライダーは初めて自分を脅かした存在で畏怖の対象になりました。また、この辺りの描写はネクサスのOPである「英雄」の歌詞にかかっている部分があります。

・巨大化するゴーストライダー
作者の活動報告で行っていたアメコミキャラ紹介を読んだ方ならご存じかもしれませんが、ゴーストライダーには巨大化する能力があります。正確にはサイズを変更する能力らしいので、もしかしたら本来よりも小さくなることも可能かもしれません。


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#04

ガルベロスが現れる少し前、大型のスペースビーストの出現を察知していた一騎はその近くで待機していたが、ガルベロスがその姿を現してもネクサスが動く気配が無い事で呆れ果てたのか、小さくため息を吐いていた。

 

「(一騎、如何やら予想が的中したようだな)」

 

(ああ……だが、ここまで腑抜けだったとは……むしろ、追い詰めた方が楽だったかもしれんな)

 

「(否。我等の戦いに罪無き者は巻き込めぬ。慎重に過ぎる事は無いであろう)」

 

(そうだな──なら、そろそろガルベロス(これ)を片付けるか)

 

世間話のような調子で分析を終えた一騎は咆哮を上げるガルベロスを一瞥してからゴーストライダーに変身すると、見る見るうちにその体が大きくなっていき、ガルベロスと同程度の大きさになってその進路上に立ちはだかった。

 

突如、目の前に現れた障害物に対して威嚇の咆哮を上げるガルベロスは邪魔だとばかりに火炎弾を吐き出す。違う世界での戦いにおいてはネクサスジュネッスを苦戦させた一撃。だが、その威力を知ってか知らずか防ぐそぶりもしないゴーストライダーはそのまま火炎弾の直撃を受け、黒煙に呑まれる。

 

歓喜の雄たけびを上げるガルベロスだったが、その喜びも長くは続かない。突如、黒煙を割いて伸びてきたチェーンに引き寄せられて体が宙に浮かぶと、そのまま黒煙の中から現れた無傷のゴーストライダーによって中央の首を掴まれて空中に持ち上げられた。必死にもがくガルベロスだったが、ゴーストライダーの腕はびくともしていなかった。

 

「(愚かな。我等に炎が通じるとでも思ったか?)」

 

(何を言っても無駄だろう。所詮、こいつらは獣だ……それに、もうすぐ終わる)

 

常人には聞こえない念話のようなもので冷たく言い放つゴーストだったが、その行為を無駄だと切り捨てるゴーストライダーは左手で持ち上げているガルベロスに対して容赦なく拳を叩き込み続けていた。一方的な戦闘──作業を続けるゴーストライダーの言葉通り、やがてガルベロスは吠える力もなくなり、力なく持ち上げられているだけになっていた。

 

「(ふむ。既に振動波は抑えている。我は罪人を探しておこう)」

 

(分かった──いや、もういい)

 

端的に会話を終えたゴーストライダーはガルベロスを獄炎で包み込むと、振動波を抑えたまま灰すら残さずに焼き尽くした。そして、周囲を見渡すと、市街地の一角でその動きが止まった。

 

「(一騎、奴は──)」

 

(ああ、今、見つけた)

 

ゴーストの報告を遮ったゴーストライダーの視線の先には先ほどの戦いを見上げていた少年──光亮が見られていることに気付き、走り出す姿があった。

 


 

「ハァッ、ハァッ──」

 

ゴーストライダーとガルベロスの戦いを見るために海未を振り切っていた光亮は変身せずとも見つかった自身のミスを悔やみながらどこへともなく逃げていた。本来なら海未のいる自宅か人の多い街中に逃げるべきであったが、彼の中に残っていたわずかな理性がそれをさせないでいた。

 

「ハァッ、ハァッ……流石に、ここまでくれば──」

 

「準備運動か?結構なことだ」

 

「──ッ!?」

 

どこをどう走ったのか、工事の中断しているどこかの空き地に辿り着いた光亮はひとまず呼吸を調えようとするが、背後から掛けられた声に視線を向けると、追跡に使ったバイクから降りて歩いてくる一騎の姿があった。悠然と歩くだけの一騎だったが、光亮は恐怖と動揺で動けなくなっていた。

 

「どうした?その力は使わないのか?」

 

「っ!言われなくとも!このおおおっ!!──え?」

 

一騎の挑発に対して必死に心を奮い立たせた光亮はエボルトラスターを引き抜いて変身しようとする。だが、何故かエボルトラスターを引き抜くことが出来ず、鞘に収まったままであった。

 

「な、なんで……?」

 

「簡単だ、お前は光に見放された。それだけのことだ」

 

「う、ウソだ!くっ!このっ!」

 

静かに歩みを進める一騎の言葉に愕然とする光亮はその言葉を否定するために何度も鞘から引き抜こうとするが、一ミリも動かないエボルトラスターの姿は無情にも一騎の言葉が正しいことを証明していた。

 

「時間切れだ」

 

「なんで──だばっ!?」

 

諦めが悪いのかなおも変身しようとする光亮だったが、目の前に来ていた一騎に気付かず、体重の乗った右の拳が顔面に突き刺さると、受け身も取れずに殴り飛ばされた。

 

「ぐ……俺の力を、返せよぉっ!──おげっ!?」

 

何とか立ち上がった光亮は走りこんで一気に距離を詰めると、勢いだけのテレフォンパンチを放とうとする。しかし、その動きを読んでいた一騎はパンチを受け流すと、その勢いを使ったカウンターの背負い投げで光亮を投げ倒した。

 

「遅い」

 

「ゲホッ──うおっ!?くそっ、容赦なしかよ……!」

 

「当然だ。罪人にかける情けはない。ましてや、我が身可愛さに命を見捨てるような下郎にはな」

 

倒れこんだままの光亮の顔面に対して一騎の右足が踏み降ろされそうになるが、寸でのところで転がったことで顔面が踏みつぶされる事は無かった。しかし、昨日の戦いの傷も癒えておらず、精神的にも追い詰められた光亮は既に立ち上がるだけでもやっとのようであった。

 

「俺の何が悪いんだよ……生き残ろうとして何が悪いってんだよ!!」

 

「それ自体は悪ではない──だが、何かのために立ち上がれないお前に光はない」

 

「あ……!」

 

「そして、自らの行いに向き合わないことがお前の罪だ」

 

もはや何もできず、ボロボロのまま居直る光亮の言葉に対して何の感情もなく、冷たく言い放つ一騎だったが、その言葉に光亮の心の奥底にあった何かが噛み合い始める。

 

「そう、か……でも、光がなくなったなら、この世界はどうなるんだ?」

 

「安心しろ。光は絆だ。誰かに受け継がれ、再び輝く──それこそがお前の望んだ力だ」

 

「あぁ……そうか、そうだったのか……俺がするべきだったのは……」

 

一騎の答えに対して何事かを納得した光亮。その瞳には戦いの前にあった恐怖や怯えはほとんどなくなっているようであり、既に戦う意思は残ってはいなかった。

 

「さぁ、罪に向き合う時間だ」

 

「……くそっ、もっとヒーローらしくしておくんだったなぁ……」

 

ゴーストライダーに変身した一騎は立ち尽くしている光亮の目の前に来ると、胸倉を掴み贖罪の眼(ペナンスステア)を覗き込ませる。そして、この世界でスペースビーストに殺された人間と滅びることもできない元の世界の人間の痛みや苦しみを一身に受けた光亮から引きはがされた刻印が元の世界へと戻っていくと、その魂は灰すら残さずに肉体ごと焼き尽くされた。

 

「(此れで、また一つ復讐が果たされたな)」

 

(ああ……さっさと次の世界に行くぞ)

 

「(待て、大型の異生獣の反応だ)」

 

使命を果たしたゴーストライダーが次の世界へのゲートを開こうとするが、その前にゴーストが気配を察知したスペースビーストである大型化したペドレオンクライン──ペドレオングロースが先ほど戦っていた近くに現れる。だが、ゴーストライダーはそちらの方も見ずにゲートを作り出す。

 

「(如何した?放っておく心算か?)」

 

(いや、既に光は受け継がれた。俺の出番はもうないだろう)

 

「(成程。ならば、後は新たな適能者に任せるとしよう)」

 

ゲートを抜ける前に一瞬だけ振り返ったゴーストライダーはペドレオングロースの前に立ちはだかる青の戦士──ウルトラマンネクサス、ジュネッスブルーがメタフィールドを展開して両者の姿が消えて行く光景を見ると、そのままゲート抜けて次の転生者がいる世界へと向かっていくのであった。

 




●#04について
・番犬VS猟犬
本来、ガルベロスには再生能力がありますが、再生力を上回る攻撃を連続で叩き込まれてしまえばどうすることも出来なかったようです。また、復活しないように完全に焼却させられたため、今後、同一個体が復活することはないでしょう。

・光に見放された
原典において同様の事態は発生しませんでしたが、光自体が意思を持っているようだったので、ゴーストライダーやガルベロスから逃げて立ち向かうことをやめた転生者からは光が離れるのではないか、と思ったためこのような形になりました。

・光は絆だ
原典における名台詞の一つです。その言葉通り、転生者から離れた光は彼の代わりに戦うことを決意した海未へと受け継がれたことになっています。ちなみに、メタ的には設定段階で特典と世界を決めた時に連想したのが海未だったので、この形にしましたが、後になって三森すずこさんがジードに出ていることを知ったので、知っていればネクサスじゃなくてジードだったかもしれません。

●タイトルについて
Inherit Light:受け継がれる光
・今回は何のひねりもなくド直球にネクサスそのもののことです。
・完全書き下ろしなので光そのものの資質と光が受け継がれていくことを描く以外は凝ったことをしないつもりでこのタイトルにしました。
・ちなみに、今回の書き下ろしがEXなのはネクサスの特別編の話数がEXだったから、と言う地味な小ネタも含まれています。

●転生者について
真継光亮(まつぎ こうすけ)(17歳/男)
・変身できる共学になっている音ノ木坂に通うデュナミストの高校3年生で元は社会人の男性
・ウルトラマンXで見たことでネクサスにハマったため、その力を受け継いで何かを為したかった
・強化タイプはジュネッスだが、大型のスペースビーストに出会ったことは1~2回しかないため、戦闘経験はほとんどない
・極稀に大型のスペースビーストと戦う以外はたまに見かける小型を倒していたが、数が少ないため、積極的には動いていない
→実際は公的機関が人海戦術で中型までを倒しているため、希望の多い地元から出ない転生者の周囲には発生しにくかっただけ


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