卯ノ花家の受難 (木野兎刃(元:万屋よっちゃん))
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元柳斎、閃く

以前書いていた「卯ノ花さんの光源氏計画」のリメイク作品となります。

リメイク前を知っている方も知らない方も楽しんでもらえたら嬉しいです。


中央四十六室。尸魂界において護廷十三隊が瀞霊廷や現世を護る剣であり盾であるが、四十六室は瀞霊廷における意思決定の最高機関である。

 

元は護廷十三隊など存在していなかったが、山本元柳斎が問題児達を集め、纏めあげ護廷十三隊を組織として成立させた。

 

組織の編成も無事に完了し、護廷隊は荒々しくも仕事をこなして何とか軌道に乗りつつあった。

 

しかし、中央四十六室には大きな悩みがあった。

 

それは十一番隊隊長にして元大罪人、卯ノ花八千流の存在である。斬り合いを好み、自分よりも強き者を求め仕事すらせず暴れ回っているモンスターだ。

 

ハ千流というのは全ての剣の流れ、つまり流派は我が手に有りという思想から名乗り出した名前であり、その思想からありとあらゆる流派や剣士に戦いを挑み、その全てを斬り伏せてきた。

 

そうして築き上げた死体の山は数えるのが馬鹿らしくなる程にまで増えた。本来ならば死刑は免れなかったのだが、元柳斎によって罪が赦免となる代わりに護廷隊へ入隊する事になった。

 

元柳斎の部下になり落ち着きを見せるかと思った四十六室の面々だったが賊の討伐という名目で更に暴れ始める結果となった。

 

回道を習い、落ち着きを見せたかと思えばより長く斬り合いを楽しむ為であり被害は更に拡大し、四十六室と元柳斎は頭を抱えた。

 

本来であれば四十六室は卯ノ花ハ千流の入隊を拒否するつもりだった。しかし、山本元柳斎からの強い推薦があり、考えを改めた。卯ノ花ハ千流という実力者を支配下に置ければ自分達が危険な目に合うことはなくなると考えた。

 

最終的に卯ノ花八千流を支配下に置ければ良かった四十六室。今の荒々しい気性では御しきれないが、そのうち落ち着けば大丈夫と考えていた。

 

しかしいつまで経ってもその兆候は現れず焦った四十六室はある手段に出る事にした。

 

 

「という訳で、山本元柳斎よ。卯ノ花八千流をなんとかせよ」

 

 

 

「意味が分かりかねます」

 

 

餅は餅屋に、厄介な飼い犬は飼い主にと全てを元柳斎へと丸投げしたのだ。

 

しかし突然何とかしろと言われてもと元柳斎は食い気味に返事を返す。

 

 

「アレは自身の快楽の為にしか戦わん。それを従える事ができれば尸魂界は益々の安寧が約束される。どのような手段を使ってもかまわん、アレを落ち着かせよ」

 

「はぁ………そうですか」

 

 

元柳斎は辟易とした。確かに卯ノ花八千流は制御の効かず問題ばかりである。暴れ回る卯ノ花を落ち着かせようとしたのは一度や二度ではない。

 

しかし、元柳斎が直接命令しても聞かず、寧ろ反抗しどうにかして戦おうとしてくる。負ける事は無いが卯ノ花を黙らせるのも無傷では済まないのだ。

 

元柳斎にどうにか出来るのであればとっくにどうにかしているのだ。卯ノ花以外にも問題児ばかりの組織なのにこれ以上無駄な仕事を増やすなと元柳斎はため息を吐く。

 

 

「委細承知しました、必ずや卯ノ花八千流を落ち着かせ護廷の刃として仕上げてみせましょう」

 

 

しかし、こう言うしかない。最高の意思決定機関である中央四十六室の命令に反抗するだけの力はあるし返り討ちにする事も出来るのだが、護廷隊が組織という体を成している以上反抗はできない。

 

しかし、命令を受けたとはいえ元柳斎に名案というものは無かった。諭しても、力で押さえつけても効果の出ない狂犬を落ち着かせるにはどうするべきなのか、思いつかなかった。

 

 

自室へと戻り考えを巡らせる元柳斎。これまで元柳斎自ら落ち着かせようとしてきたが全て失敗している。

 

 

「もはや儂では手がつけられんし………………そうか、儂以外がすれば良いのか」

 

 

自分の言う事を聞かないのなら別の者にやらせれば良いという天啓にも近い閃きをした元柳斎。より強き者との闘争を求める卯ノ花にとって最強である元柳斎は格好の獲物であって黙って付き従う相手では無い。

 

結婚させて引退したとしてもその子供が才能を受け継いでいれば良い。大切な者が出来れば誰でも落ち着きを見せるものだろうと自身の閃きに嬉しさを覚える元柳斎。

 

 

「部下では…………話にならんな。彼奴に友人はおらんし…………………せめて伴侶でも居れば頼めたんじゃが……………⁉︎」

 

 

天啓、再び。

 

 

「そうだ、彼奴とて女。家庭を持てば少しは大人しくなるじゃろう」

 

 

かつてない名案に笑みが溢れる元柳斎。しかし、元柳斎は一つの問題を見落としていた。

 

恋愛のれの字どころか、生首や次の標的といった野蛮な話しか聞かない狂戦士に結婚させる事が如何に難しい事か、単純に落ち着かせるより難しい事である事をこの時の元柳斎は全く考えていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳で、この中から男を選べ。見合いの手筈を整えてやろう」

 

 

「何を仰ってるのか全く分からないのですが」

 

 

「お前も良い年だ、家庭を作って大人しくしたらどうだ?」

 

 

「何言ってるのですか?斬りますよ」

 

 

元柳斎は己の浅慮を悔いた。それなりに良いと思った候補を幾つか見繕い卯ノ花に選ばせたのだが、手渡した瞬間に見合い写真の殆どが真っ二つとなった。

 

 

「満足させられるような男でもない限り一緒になる事は到底出来ません。この紙屑の中にそれらしい者は1人も居ません」

 

 

「ならどのような者なら良い?条件を述べてみよ」

 

 

「最低でも私とそれなりに斬り結べる程度の実力は欲しいです。総隊長を含め他の隊長の皆様はそれなりですが顔が趣味じゃありません」

 

 

眉一つ動かさず淡々と失礼な発言をする卯ノ花に心を乱されてはいけないとなんとか落ち着かせながら無事に残った見合い写真を漁る。

 

 

「ふむ……………此奴か。此奴なら多少はマシか」

 

 

「何か心当たりでもあるのですか?眉目秀麗であれとは言いませんが、護廷隊の男共は清潔感に欠けるのでごめん被ります」

 

 

(普段返り血で汚れきっとる貴様に言われたくないわ)

 

 

出かかった言葉を飲み込む元柳斎。これを言ってしまえばそのあとは卯ノ花は開戦の合図として受け取り殺し合いが始まってしまう。

 

青筋を浮かべながら一枚の写真を手渡す元柳斎。

 

 

「これは?」

 

 

「お主とて痣城の名は聞いたことあるじゃろう」

 

 

「痣城………ですか。かつて斬術と鬼道で貴族まで上り詰めたという武闘派貴族ですね。一度遊びに行った事がありますが、あそこの当主は私が少し睨んだだけで腰を抜かす玉無しですよ」

 

 

痣城家、斬術と鬼道に優れた家系で武力のみでのし上がった成り上がり貴族だ。当然卯ノ花もこの痣城家の事は知っていたし期待をしていた。

 

力のみでのし上がった痣城ならば自身を満足させられるかもしれないと。しかし、結果は酷いものだった。

 

ちょっとした冗談程度のつもりで解放した霊圧に腰を抜かし、鍔を鳴らすだけで震え上がり、腰を抜かし、立ち上がれなくなった取るに足らない雑魚だったのだ。当主が囲っていた傭兵も遊び相手にすらならない雑魚ばかりで酷く落胆したのを卯ノ花は覚えていた。

 

抜刀する事すら馬鹿らしくなるほどの雑魚を斬る程卯ノ花は暇では無いのだ。

 

 

「当主では無い、その弟じゃ。病弱故当主にはなれなかったが、その才覚は一族始まって以来とも噂されておる。一度ワシが手解きをしてやった事もあるがアレはまさしく天才というやつじゃろうな」

 

 

「なる…………ほど…………」

 

 

護廷隊を組織し始め山本元柳斎という男が他人の実力を褒めるという事を滅多にしないのを卯ノ花は理解していた。

 

そんな元柳斎が濁さず天才と言いきった男に少しだけ興味が湧く卯ノ花。

 

しかし、一つ疑問に思う事もあった。死神は霊圧の知覚により敵の強さを測る事が出来るが、痣城邸に押し入った際にそう感じる者は1人もいなかった。

 

それなのに元柳斎が認める程の才覚をもった男がいた事は卯ノ花の興味を掻き立てるには充分だった。

 

もし、本当に元柳斎が認める天才が痣城にいたとして、その者は卯ノ花が存在を認知できない程の実力者であるかもしれない可能性がある。

 

強者との戦いに飢えている卯ノ花にとって確証もない話であっても可能性があるのなら試してみる価値は十分にある。

 

 

「わかりました、一度会って話をするとしましょう。ただし、私がその男と一緒になるかは別の話です。それでも構いませんね?」

 

 

「うむ、手筈は整えておく」

 

 

心の中でグッと拳を握る元柳斎。ここまで何をしても効果の無かった卯ノ花が若干ではあるが興味を示しているのだ。これだけで大きく前進したといえる。

 

卯ノ花が去り際に見せた表情は完全に自分と殺し合おうとしてる時か、任務と称して出撃しようとしている時と完全に同じものであり、元柳斎は心の中で痣城を哀れに思った。

 

しかし、一つの貴族で卯ノ花を少しでも落ち着かせられるのなら安いお釣りだろうと早々に切り替える元柳斎であった。




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卯ノ花、お見合いする

見合い当日、卯ノ花は痣城の屋敷に来ていた。護廷隊からの正式な申し込みという事で当主や使用人達が出迎える。

 

しかし、やたらと距離を取る痣城の当主や使用人達。なによりも斬り合いを好む卯ノ花だが、斬る相手はそれに相応しい相手と決めている。そこまで怯えなくてもと内心哀れに思う卯ノ花。

 

 

「こ、ここが双盾の部屋だ。この穀潰しを貰ってくれるとは嬉しい限りだ。清正するよ」

 

 

「自分の弟にその言い草はあんまりじゃないんですか」

 

 

「この痣城の当主に向かって貴様‼︎」

 

 

「文句があるなら、その腰に差してるご大層な斬魄刀を抜いてかかってきなさい。それが出来ないなら黙って消えなさい、玉無しに用はありません」

 

 

当主が弟である双盾をよく思っていないというのは元柳斎からそれとなく聞いていた卯ノ花。

 

双盾は学問も剣の才能も、何をとっても一族始まって以来の才能であり、それに奢る事のない理想の跡継ぎと言われていた。しかし、幼少の頃に患った病により双盾は病床生活を余儀無くされ跡継ぎ争いから離脱した。

 

その代わりに台頭してきたのがその兄である現当主である。武力的な才能は無い当主だが、不動産の経営でそれなりの成果を出している。

 

しかし、未だに双盾を当主にと望む声が未だに出ている。才覚があり、人望がある双盾は当主にとって弟ではなく、自分の地位を脅かす存在でしかなかった。

 

殺せるのならこの手で殺したいとすら思うようになっていた。

 

 

「い、いくらアレと結婚しようが貴様に痣城の恩恵をくれてやるつもりは無いぞ」

 

 

「落ちぶれていく貴族の恩恵なぞ邪魔でしかありません。さっさと通しなさい」

 

 

痣城の貴族としの状況はあまり芳しくは無かった。不動産の経営でそれなりに成果を出している当主だが、かつての武力やそれに伴う威信が無くなりつつある痣城は貴族として下火になりつつあった。

 

このままでは自分の地位はおろか、痣城という一族の存続が危ぶまれる。だからこの婚約話は痣城家にとって起死回生の一手になり得るものだった。

 

護廷隊からの正式な見合いが成立すれば護廷隊の庇護により痣城の勢力は勢いを取り戻せるとふんだからだ。

 

護廷隊の者を痣城に引き入れ、双盾を殺し、その犯人を適当な敵対貴族に押し付けたら勢力を広げる大義名分となる。その見合い相手の見目が当主の好みであるなら貰ってやるのも吝かではないとすら考えていた。

 

しかし、現れたのはかつて自分を殺そうとした剣の鬼だった。双盾の見合い相手が卯ノ花と知った時ばかりは話を受けた事を後悔する当主だった。

 

 

「ふ、ふん!!後悔しても遅いからな!!おい、双盾!!お前に客だぞ、寝てないで部屋に通せ穀潰し!!」

 

 

「中にいるのは病人なのでしょう、そのような大声はやめてあげなさい」

 

 

「黙れ‼︎貴様は口を出すな‼︎」

 

 

暫く歩くと屋敷の奥まで通される。当主は襖越しに大声で呼びかける。

 

卯ノ花にとって双盾は名前しか知らない他人であるが、病人に対してする扱いでは無いと当主を諌めた。

 

当主は胸ぐらを掴もうとするが卯ノ花に睨まれるとすぐに手を引っ込める。

 

 

「あぁ………もうそんな時間か。兄さん、ありがとう。卯ノ花さんですよね、お入りください」

 

 

部屋の奥から聞こえてきたのは優しくか細い声だった。

 

襖を開け入ると布団が一枚敷かれており、双盾は体を起こした状態でいた。

 

 

「後は2人で勝手にやっておけ!!私はこれから他の貴族と会合があるというのに時間を取らせおって!!」

 

 

「ありがとう、兄さん」

 

 

「お前に兄と呼ばれる筋合いは無いわ‼︎」

 

 

双盾の礼を聞かずに襖をピシャリと締め、ズカズカと去っていく当主。

 

 

「卯ノ花さん、せっかく来ていただいたというのにお茶の一つも出せなくて申し訳無い。僕が兄さんと上手くいっていないせいで整った席を用意出来なかった」

 

 

「歓待など期待していないし、貴方自身にさほど興味はありませんので構いません」

 

 

「そうですか」

 

 

卯ノ花は以前、痣城邸に押し入った際に元柳斎が認めるような者の霊圧を感じなかった理由に納得した。

 

強い者と斬り合う事を何よりの喜びとしている卯ノ花だが、精密な霊力のコントロールを必要とされる鬼道や回道を収めている為霊圧の感知も出来た。

 

死神の強さは基本的に霊圧の大きさで判断する。双盾の霊圧は屋敷の使用人と比べても見劣りするレベルである。それに加えて酷く不安定な霊圧だった。

 

 

「では、まず自己紹介をしましょうか。僕は痣城双盾、趣味は斬魄刀との対話と読書かな」

 

 

卯ノ花は驚き目を見開いた。死神の基本戦術である斬魄刀を使い熟すには幾つかのプロセスを踏まなければいけない。

 

その一つが斬魄刀との対話である。これにより斬魄刀から名前を聞き出し、始解を習得する事が出来るようになるのだ。

 

つまり、使用人程度の霊圧しかない双盾は始解を習得している事になる。

 

卯ノ花としてはちゃんとお見合いだけはした事にして適当に終わらせようと思っていた。興味の無い結婚に興味のない人と一緒になる事、どちらも卯ノ花としては拒否したい事だった。

 

始解出来るからどうという事は無いのだが、使用人程度の霊圧しかない双盾が何故始解が出来るのか少しだけ興味が出た卯ノ花。

 

 

「私は十一番隊隊長の卯ノ花烈です。今はハ千流と名乗っていますのでそちらで呼んで戴ければ幸いです。総隊長命令で本日は見合いに来ましたが、貴方と結婚する気はありませんので悪しからず」

 

 

「そうですか、それは手厳しいですね。僕としては成功させたいなって思ってるんですけどね」

 

 

「あの当主ですか」

 

 

病弱であるが能力と人望に優れた双盾は当主にとって地位を脅かしかねない存在。見合いが成功すれば体よく追い出され、失敗すれば殺されるという事を双盾自身理解していた。

 

兄の事は嫌いでは無いし、自分のせいで迷惑をかけている自覚がある双盾。病弱な自分ではこのまま家を飛び出しても長くもたない事を理解していた。

 

かといってこのまま殺されるのは嫌だった。兄に迷惑をかけず、少しでも生き延びるにはこの見合いを成功させるしか無いと双盾は考えていた。

 

 

「結婚してもしなくても僕は長くない。だったら少しの間でも家庭を作る幸せというのを感じてみたいんです」

 

 

「貴方の境遇を哀れには思いますが、貴方のその願いには共感しかねます。私は死ぬその時まで自分より強い者と戦っていたいのです。切った貼ったを繰り返してこそ私は生きているのだと実感出来る。私が望むだけの実力が無ければ一緒になるつもりは毛頭ありません」

 

 

「じゃあ、試してください」

 

 

双盾はそう言うと立ち上がり、刀掛け台に飾ってある斬魄刀を手に取る。

 

 

「何を試すというのです」

 

 

斬魄刀に手を伸ばした瞬間から何をしようとしているのかすぐに分かった卯ノ花、自身を見つめる目が斬り合う時のソレと同じだからだ。

 

飛び上がりたくなるほど興奮しているのが自分でもわかる卯ノ花。双盾が病人などで無かったらすぐにでも斬りかかっていただろう。しかし、相手は病人で霊圧は取るに足らない程度しかない。

 

そんな相手に自分から斬りかかるなどはしたない上に自分のような強者がやっていい事ではないと卯ノ花は自制した結果気付かない振りして惚けた。

 

 

「何をって気付いているでしょう。貴女の目は今にも僕に斬りかかろうとしている。安心してください、今日は体調が良いので一試合していきませんか?」

 

 

「竹刀などではなく斬魄刀を手に取った意味が分かっているのですか?この私に試合を申し込んだ意味を理解しているのですか?」

 

 

卯ノ花八千流に斬魄刀を用いた試合を挑む事、それは殺し合いをするのと同義だ。竹刀ならまだ加減のしようがあるが、斬魄刀で試合をするとなると加減が出来ず殺してしまうだろう。

 

その彼女の問いに対して双盾は柔らかく笑い答えた。

 

 

「そう簡単に死ぬ訳にはいかないんです。生きる為なら命懸けで必死にならないと」

 

 

瞬間、双盾の霊圧が鋭く強くなった。その霊圧を受け卯ノ花は身震いする。そして、それと同時に歓喜した。

 

霊圧だけで身震いしたのは山本元柳斎と戦った時以来だった。霊圧の強さ、大きさは元柳斎と比べるまでも無いが秘められた鋭さはそれに匹敵する。

 

自分が僅かに感じた期待が期待通りどころか、期待以上かもしれないのだ。卯ノ花は自分を満たしてくれる男と出会えたかもしれないという喜びと戦ってみたいという欲が身体の中を駆け巡った。




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卯ノ花、きっかけをつかむ

卯ノ花と双盾は、部屋の裏にある庭に移動していた。ちょっとした庭園となっており、軽く体を動かすには充分な広さがあった。

 

移動中も腰に差した斬魄刀を引き抜き、斬りかかりたくなる衝動を抑えるのに必死だった卯ノ花。通りかかる使用人達は卯ノ花と双盾の並々ならぬ様子に怯えている様子だった。

 

 

「体調が良い時はここで軽い運動をしてるんですよ」

 

 

「御託は結構。さっさとかかってらっしゃい」

 

 

それを聞いた双盾は斬魄刀を抜刀する。浅打と始解している斬魄刀とでは見た目が違う。能力を解放していなくても始解した斬魄刀は一目で分かるのだ。

 

双盾の斬魄刀も浅打とは見た目が違っている。柄と鍔が白くなっている。始解をしている訳では無い為刀身に変化は見られないが柄や鍔の色と合わさり透明感すら感じる程美しく見えた。

 

卯ノ花はその刀身を見て笑みを浮かべる。自分の淡い期待は間違ってなど居なかったのだと飛びかかりたい衝動を抑えながら自身の相棒を引き抜く。

 

 

「それじゃ、遠慮なくいかせて貰います」

 

 

卯ノ花は驚いた。双盾の踏み込みは病弱とは思えないほど速く、そしてそこから繰り出される斬撃は力強い。

 

しかし、速い踏み込みも力強い太刀筋も思ってた以上というだけで卯ノ花の脅威にはなり得ない。

 

 

「なるほど、思ってた以上ですね。ですが騒ぐほどのものでもない」

 

 

「これは手厳しいですね」

 

 

卯ノ花少しだけ、残念に思った。双盾は卯ノ花が思っていた以上に出来る男であった。

 

しかし、驚いたと言っても思ってたよりも数段良かった程度の事。

 

もう少し鍛えれば楽しいと思える位には強くなるかもしれない。遊び相手には充分といえるだけの力はあるといえる。しかし、病弱な双盾と遊ぶには時間が足りない。もっと時間をかけて強くなってくれればと口惜しく思う卯ノ花。

 

殺し合いなどではなく、これは試合。長引かせてはいけないと思った卯ノ花は殺さないギリギリの加減で一撃入れ終わらせることにした。しかし、双盾は卯ノ花の斬撃を皮一枚のところで避けた。

 

 

「今のは危なかった」

 

 

「余裕で避けておきながら何を言いますか」

 

 

加減した一撃とはいえ双盾は危なげなく避けてみせた。卯ノ花は自分の中の何かが確信に変わっていくのを感じていた。

 

今度は逃すまいと、三回斬魄刀を振るがダンスでもしているかのように躱していく。

 

これまで数多の剣士と戦ってきた卯ノ花をもってしても完璧と言わざるを得ない程の回避。より速く、より鋭い攻撃も去なし、躱し、避ける。

 

 

(なるほど、確かにこれは“天才”ですね)

 

 

元柳斎が素直に天才と認めるだけの実力はあると確信する卯ノ花。全ての剣の流派を倒してきた卯ノ花も自身の技術には自信があった。

 

しかし双盾の技術は実践を積み上げ築き上げた卯ノ花の技術を越えた所にあった。霊圧の差すら感じさせず、敵の攻撃を完璧に防ぐ技術。それは一つの欠点もない完成されたもので、芸術の域に達している。

 

まさに天衣無縫。縫い目の無い天女の羽衣のよう、その技術には隙も綻びも一切存在しなかった。

 

 

(やはり、やはり私のこの昂りは間違っていなかった‼︎)

 

 

卯ノ花は体の奥底から溢れ出す喜びを抑えられなくなっていた。双盾は自分よりも確実に強いと実感したのだ。

 

万全であれば、始解をすれば、自分と同程度の霊圧であれば。どれももしもの話に過ぎないがそう思わずにはいられない卯ノ花。

 

 

(この人なら………………この人なら私を満足させられるかもしれない‼︎)

 

 

加減をしていた攻撃もいつのまにか加減を忘れ、本気で殺しにかかるようになる。しかし、双盾はその全ての攻撃を完璧に防ぐ。

 

 

「貴方を見誤っていました。それはお詫びしましょう」

 

 

「じゃあ、僕を伴侶として認めてくれますか?」

 

 

「それとこれとでは話が別でしょう。私を妻にしたいのなら殺す気で来なさい。さもなければその首を刎ねます」

 

 

「攻撃に関してはまだ少し掴みかねている所があるから殺すつもりでっていうのは難しいですね」

 

卯ノ花の話を受け、双盾も少しずつ攻めるようにはなったが完成された防御と比べれば今ひとつにも感じるが、それでも卯ノ花を喜ばせるには充分だった。

 

 

(どう攻めても殺せる気がしない…………私が求めていたものはこれなのかもしれない)

 

 

双盾こそが自分の求めていた、自分よりも強くずっと斬り合っていたいと思える人物なのかもしれないと卯ノ花は笑わずにはいられなかった。

 

しかし卯ノ花は忘れていた。双盾は病弱であることを。突然、その完璧な動きに綻びが生じた。

 

 

「カハッ‼︎」

 

 

突然の事ながら卯ノ花は刃を止めた。そして二つの意味で驚いた。一つは双盾が突然血反吐を吐いた事、もう一つは、とどめをさせる相手を前に刃を止められた事。

 

一度スイッチが入ったら相手の首を刎ねるまでは切れないという自覚があった卯ノ花だったが何故か自分が隙を見せた相手にトドメを刺さなかったことに驚いた。

 

そして次の瞬間には斬魄刀を手放し、双盾に駆け寄っていた。

 

 

「大丈夫ですか⁉︎大丈夫ですか、双盾‼︎」

 

自身の羽織っていた隊長羽織を包み枕代わりにして頭の下に敷き、双盾を寝かせる卯ノ花。

 

 

(外傷は無いけど…………内臓の損傷が酷すぎる。私では現状維持程度しか‼︎)

 

 

卯ノ花の本気の攻撃を防ぎ切ってみせた双盾に外傷は無い。しかし、病気の影響か身体の中はボロボロだった。回道を習ったとはいえ詳しい診察はこの場では出来ないうえに治療する術もない。

 

今の卯ノ花に出来るのはこれ以上悪化させないように応急処置を施し現状を維持することだけだった。

 

暫くすると痣城の当主がドタバタと走ってきた。

 

 

「貴様、何をしている⁉︎痣城に仇をなすつもりか⁉︎護廷の者といえどやはり罪人に痣城の敷居を跨がせるべきで「黙りなさい」くっ………………もしそいつの身に何かあれば相応の賠償はしてもらうからな」

 

 

「強請りたいのなら勝手になさい。私はこれから彼を治療しなければなりません。邪魔をするなら屋敷ごと焼き殺します」

 

 

「ふん、勝手にしろ‼︎」

 

 

護廷隊が結成された事で、貴族の発言力と言うものは弱まっていた。その事から中級から下級貴族の中で反護廷の風紀が高まっていた。

 

痣城当主はこのまま双盾が死んだことを機に護廷隊を意のままにするチャンスである事、護廷隊の力で他の貴族の先に行けるというチャンスと睨んだ。

 

それ故の言葉、決して弟を気遣っての言葉などでは無い。

 

卯ノ花は双盾に回道をかけるが、回復する兆しは見えてこない。傷ついた器官を修復はするが、回復までは繋がらない。

 

 

「やはり、このままでは埒が開きませんね…………気乗りはしませんが、あそこに連れて行くしかありませんか」

 

 

「貴様‼︎そいつを何処へ連れていく⁉︎何処かへ連れ去ろうというのなら然るべき所へ出てもらうぞ⁉︎」

 

 

「どきなさい、彼は専門的な医療を受けさせる必要があります。玉無しに用はありません。心配するふりなど止めて、つまらない銭勘定でもしてなさいな」

 

 

多少の器官の損傷ならば回道ですぐにでも治せるのだが、双盾は回道だけでは追い付かないほど深刻なダメージがあった。部屋に薬らしきものが見当たらなかった事と、双盾の損傷具合を見て卯ノ花は双盾を治療するつもりなど無かったと結論付けた。

 

玉無しと貶されたからなのか、痣城当主は激昂した。

 

「貴様ぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 

斬魄刀に手をかけ抜刀しようとする痣城当主。しかし、その場に倒れ込んでしまう。

 

 

「この程度の霊圧に耐えきれないようでは話になりません。雑魚は雑魚らしく地べたに這いつくばっていなさい」

 

 

卯ノ花の霊圧解放に耐え切れなかった。卯ノ花としてはちょっとした威嚇程度のつもりだったが倒れ込む程解放したつもりはなかった。

 

 

「肉雫唼、彼を頼みます。食べてはいけませんよ」

 

 

隊長羽織を双盾に被せ、卯ノ花は自身の斬魄刀を解放する。肉雫唼は巨大なエイのような見た目をしており、双盾を飲み込むと卯ノ花を乗せて飛び上がり、痣城邸を後にした。

 

 

 

「全く…………何故こんな事をしているのでしょうね」

 

 

卯ノ花は自分に起こりかけている変化に戸惑っていた。取るに足らない羽虫と思っていた双盾を必死に助けようとする自分に戸惑っていた。

 

大罪人と恐れられ、敵味方に容赦も慈悲も見せず暴れていた剣の鬼としての自分の中で何かしらの変化が芽生え始めているのを実感していた。

 

ただ、自分を満たす相手であれば良いと思っていたが今の卯ノ花の中には双盾を助けたいとい想いがあった。

 

 

「絶対に死なせませんからね。絶対に貴方を助けてみせます」

 

 

四番隊隊舎にたどり着いた卯ノ花。四番隊は殺し屋集団と恐れられている護廷隊には珍しく医療を請け負っている隊である。

 

 

「麒麟寺さん‼︎助けてください‼︎」

 

「久しぶりに顔出したと思ったら何事だ?」

 

 

リーゼント頭の男性死神、麒麟寺天示郎。卯ノ花に回道を教えた張本人だ。

 

 

「助けてほしい人がいます。私の力だけでは助けられません。礼なら何でもします、彼の命だけは助けてください‼︎」

 

 

息を切らして頼み込む卯ノ花を見て麒麟寺は驚きを隠せなかった。

 

戦う事以外に興味を示さず、より長く斬り合う為だけに回道を教えてくれと頼み込んで来た時は何度か断った事もあった。

 

回道は傷を癒す為の技、戦う事しか頭にない卯ノ花では修める事が出来ないものだと思っていたが根負けして教える事になった。これまで卯ノ花に回道を教えたことに後悔しない日は無かった。

 

そんな自分の快楽にしか興味の無かった卯ノ花が誰かを助けようとしている姿に感銘を受けた麒麟寺は小さく笑みを浮かべ、胸をドンと叩いた。

 

 

「良いぜ、奥の部屋に連れてきな。その優男を助けてやるよ」

 

 

麒麟寺は必死に誰かを助けようとしている卯ノ花の気概に応たいと思った。

 




文字数増えたなぁって思うようになりました。

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双盾、目覚める

治療室の前にある長椅子に卯ノ花は静かに座っていた。

 

双盾は無事なのだろうか、自分の応急処置は間違っていなかったか……………そんな不安が胸に渦巻いていた。

 

 

「あの卯ノ花が男を連れてくるとはなぁ…………世の中分からんもんだな」

 

 

「どうだったんですか!?あの人は、双盾さんは!?」

 

 

「ちょ、落ち着け。落ち着けって」

 

 

治療室から出てきた麒麟寺天示郎に掴みかかる卯ノ花。麒麟寺は自分が知っている卯ノ花との違いに戸惑いを隠せない。

 

麒麟寺は卯ノ花と双盾の関係については知らないが、卯ノ花が斬り合うこと以外に興味が無く、負傷者や病人を助けてくれなどと言う女では無い事は知っていた。

 

 

「あの優男、相当弱ってたぜ。外傷が無い所を見るとお前が斬った訳じゃねのは分かる。ただ、今まで碌な治療を受けてねぇんだろうな。いつ死んでもおかしくないぜ。貴族っぽいが、そんな薬の一つも飲ませられない貧乏貴族なのか?」

 

 

麒麟寺は護廷隊の隊長であり、回道の開祖にして達人。治療に携われば相手の肉体の状況など事細かに知る事が出来る。

 

 

「あの人は、痣城の弟です」

 

 

「なんか聞いた事はあるな。痣城くらいの成金なら薬代くらい楽勝だろうに」

 

 

尸魂界における怪我人、病人の治療を目的としている四番隊を利用する殆どは護廷隊の隊士なのだが、貴族も利用する事がある。

 

その為、貴族の情報は麒麟寺の元に集まるようになっているのだ。

 

そして、双盾が痣城当主の弟と聞いて納得した。痣城は斬術と鬼道にて貴族になった珍しい成り上がり貴族。そこの有望株の噂話は聞いた事があった。

 

 

「まぁ、あそこの当主だったら“そう”するわな」

 

 

麒麟寺は痣城と聞いた時から双盾がどのような目に遭ってきたのかを察する。

 

 

「まぁ良い。それで、痣城の坊ちゃんとお前がなんで知り合う事になったんだ。あの坊ちゃん、当主に比べたらマシな霊圧してるがそれでもたかが知れてるだろ」

 

 

卯ノ花と麒麟寺の付き合いは長い為、麒麟寺は卯ノ花がどのような人間が把握している。それ故に麒麟寺にとって双盾と卯ノ花がどうして知り合うのか謎だった。

 

 

「先日、総隊長より見合いをせよと命令がありまして」

 

 

「見合い⁉︎お前が⁉︎冗談は顔だけにしとけよ‼︎」

 

 

「ぶった斬りますよ?」

 

 

「いやいや、男に興味ねぇって言ってたお前に何で見合いさせるんだよ。まぁ、あの坊ちゃんの顔はお前好みっぽいもんな」

 

 

「ぶっ飛ばしますよ⁉︎私のお見合いにどんな思惑があるかなんて知った事じゃありません。ただ…………あの人は初めて興味を持てた人だったので。死んで欲しくないだけです」

 

 

麒麟寺としては弟子たる卯ノ花の精神的な成長の兆しがそこはかとなく嬉しくなっていた。斬る事しか興味の無い女がしおらしい表情を浮かべているのだ。

 

総隊長命令という事は護廷の上、四十六室の思惑があったというのは麒麟寺にも分かる。しかし、その思惑に踊らされているのだとしても、この変化は師匠として嬉しかった。

 

 

「お前さんの応急処置のおかげで一命は取り留めてる。今日中に病室に移せる筈だから見舞いなら明日きな」

 

 

「側にいるのは駄目なんでしょうか?仕事の邪魔はしません。あの人が目覚めるまで側にいさせて貰えませんか?」

 

 

「わーったよ、とりあえず一旦隊舎に戻って支度してこい。一週間くらいは入院するから必要な事は済ませておけよ」

 

 

「恩に切ります」

 

 

足早に去る卯ノ花。弟子の変化は嬉しいといってもあまりの乙女っぷりは複雑な心境の麒麟寺。

 

 

「貸し一つだからなぁー‼︎」

 

 

それを聞いたのか、聞いていないのか卯ノ花は瞬歩で麒麟寺の視界から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

双盾が目を覚ますと双盾の手を卯ノ花が握ったまま眠っていた。

 

 

「よぅ、目が覚めたかい?色男」

 

 

「貴方は……………」

 

 

「四番隊隊長、麒麟寺天示郎。そいつの師匠ってとこだな」

 

 

「そうですか、霊圧の質がこの中では卯ノ花さんと同じくらい洗練されたものだったので只者ではないと思っていましたが………」

 

 

四番隊舎には二百人程の隊士がいるがその中で最も強い者を双盾が瞬時に知覚出来ていた事に麒麟寺は驚いた。

 

卯ノ花が興味を持つだけの実力はあるというのが麒麟寺にも分かった。

 

 

「しかし、卯ノ花に試合申し込むたァ………お前さん怖いもの知らずだな」

 

 

「彼女にアピールするには試合するしかありませんでしたから。斬魄刀には結構止められたんですけど、男なら美人の前くらい格好つけたいものでしょ」

 

 

爽やかな笑顔で言い放つ双盾に驚きを隠せない麒麟寺。確かに卯ノ花の容姿は整っている、文句無しで美人と言えるレベルで整っている。

 

しかし、敵を斬る事にしか興味を示さない剣の鬼を前にして美人と言えるその胆力は、尸魂界中探しても中々見つかるものではないだろう。

 

 

「凄いな、お前さん。どんな育ち方したらこのなまはげみてぇな女に美人って言えるんだ。俺はこんな慈悲のかけらもない女はごめんだぜ」

 

 

「何を仰るんですか。こんなに優しい女性はそんなにいませんよ」

 

 

卯ノ花が握っていた手を解き、卯ノ花の頭を優しく撫でる双盾。その様子を若干引き気味に眺める麒麟寺。護廷隊に強者多しと言えどそんな事は山本元柳斎ですら出来ないだろう。

 

大抵の者は卯ノ花の頭に手を伸ばせばその瞬間に手首が斬り落とされる。例え頭に触れたとしても片腕ごと斬り落とされ燃やされる事は必至だ。

 

 

「卯ノ花さんと試合した時、最後の方はかなり殺気が籠ってましたけど最初の方は僕の体を気遣って加減をしてくれいました。僕が倒れてしまった後もこうして貴方のところまで運んでくれた。

 

卯ノ花さんが本当に剣だけの人間ならこんな事はしてくれませんよ。この人は本当に優しい人なんです」

 

 

そう言って卯ノ花を優しく見つめる双盾。その様子に麒麟寺はため息を吐かずにはいられなかった。

 

 

「そりゃまぁ、回道学んだ者としちゃあ当然の事だし卯ノ花からしたらお前らは殺す価値も無い雑魚って認識だったんじゃねーのか?」

 

 

麒麟寺とて双盾がそういった雑魚ではない事は充分理解している。

 

 

「仮にそうだとしても、僕はその優しさが嬉しかった。ほら、恋は盲目っていうじゃないですか。僕が感じた彼女の優しさに僕は惚れたんだと思います。だから、お見合いとか関係無く僕は残りの人生を彼女と過ごしたいって思いました」

 

 

先ずは好きになってもらわないと、と照れながら言う双盾。それを聞いた麒麟寺は満足そうに頷く。

 

 

「そうかい、あんたになら卯ノ花を任せられそうだ。ガサツで斬り合う事しか頭にない女だが、幸せにしてやってくれ」

 

 

「もう、お帰りですか?」

 

 

「そろそろ逃げないと俺の命が危ないんでな」

 

 

そう言い残すと麒麟寺は瞬歩で消えてしまった。すると、双盾は隣から荒々しい霊圧を感じた。

 

卯ノ花が顔を真っ赤にして霊圧を荒げていたからだ。

 

 

「す、すいません。無作法にも頭を撫でてしまって…………」

 

 

「い、いえ。それは別に構わないのですが…………今日はこれで失礼します。また明日見舞いに来ますので」

 

 

卯ノ花も麒麟寺と同様に瞬歩で消えた。

 

卯ノ花の心拍数が上がっているのは麒麟寺に対する怒りか、はたまた双盾の話を聞いてしまったからなのか。

 

卯ノ花自身もそれが分からなかった。長く生きてきた中でこのような事は初めてだったのだ。

 

男の話に心躍らされ、男に触れられ胸を高鳴らせるなど初めての事だった。

 

 

「それはそれとして麒麟寺天示郎‼︎貴方の変な髪型を綺麗に整えあげます‼︎」

 

 

「誰の髪型変だコラァッ⁉︎」

 

 

この気持ちの高鳴りは麒麟寺にぶつける事にし、一日中麒麟寺を追い回した卯ノ花だった。

 

2人の喧嘩により、山本元柳斎自慢の庭園が吹き飛び麒麟寺と卯ノ花は始末書を書かされた。




いきなり女性の頭撫でるとかどうなん!?って思うけど双盾さんのイメージcvって山寺宏一さんなんすよね。声の感じは龍が如くの秋山さんとかエヴァの加治さんみたいな感じですね。

そして当然くっそイケメンなんわけです。そしてその美声。惚れない方が無理な話ってんですよ。山寺ボイスに口説かれたらそれはもうメス落ち確定です。


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卯ノ花、移動する?

「あとは投薬治療続けながら経過観察といきたいが、あのお坊ちゃんは屋敷じゃまともな治療が受けられねぇ。だから、この四番隊隊舎で預かる事にした」

 

 

「それを聞いて安心しました」

 

 

「しかしだなぁ…………生憎どれだけ期間が必要か分からねぇ奴に割けるほどこの隊舎も広くねぇ」

 

 

四番隊隊舎は総合救助詰所。隊士は勿論、時々であるが貴族の利用もある。隊士が負う怪我は命に関わるものである事も少なくはない。

 

病床数に余裕はあるのだが、緊急事態に備え一定の余裕は保っておかなければいけないのだ。卯ノ花もそれを理解していたのか、若干の悔しさを顔に滲ませる。余裕を保つ為、場合によっては双盾が退院しなければいけない場合も出てくる。

 

卯ノ花は唇を噛み締めた。自分がもっと回道を極めていれば、もっと薬学の知識があれば彼を助けられたかもしれないと。

 

 

「自惚れんなよ、卯ノ花。ちょっとそっと回道習った程度で死にかけの人間治せるほど治療ってのは甘くねぇんだよ。お前は自分がすべき事をした。それで充分なんだよ」

 

 

その様子を見た麒麟寺はこつんと卯ノ花の頭を小突きながら言い聞かす様に話す。

 

 

「それでも……………もっと私に回道の実力があれば」

 

 

小突かれた事を気にも留めていないのか、悔しさで肩を振るわす卯ノ花。

 

ありとあらゆる剣術流派の流れは我に有りと名乗ってきた卯ノ花ハ千流が力を渇望する。どれほど珍しい変革か。

 

この世にも珍しい変革に麒麟寺に親心のような何かが芽生えていた。護廷隊創設から共に戦った仲間として、回道を教えた師として卯ノ花の変革は嬉しくも寂しくもあった。

 

 

(四十六室の思惑に乗っかるのはムカつくが、こいつに必要なのは、あの坊ちゃんなんだろうな)

 

 

卯ノ花に必要なのは戦いや血などではなく安らぎであるべきと麒麟寺は強く思った。

 

 

「そんなにてめぇを責めてぇなら一つ頼まれてくれや」

 

 

「なんでしょうか」

 

 

「お前が四番隊の隊長になれ」

 

 

「何を言っているのですか。私には十一番隊がありますし、貴方だって隊長でしょう。そう簡単に自分の責務を投げ出して良い筈がありません」

 

 

任務と称して暇潰しともいえる闘争に明け暮れる女が何を言うかとツッコミたくなる気持ちをグッと堪える麒麟寺。ここでツッコミを入れてしまっては台無しとなってしまう。

 

 

「零番隊への昇進が決まったんだよ。後任のやつを探してたんだが、丁度良い。お前が隊長やれ」

 

 

零番隊、王族特務の特別な部隊。霊王宮にて霊王を守護する最後の砦。

 

尸魂界の歴史そのものと認められたものだけが資格を持つとされ、その強さは護廷十三隊を凌ぐとも言われる、都市伝説級の噂となっているがその詳細を知る者は元柳斎以外誰も居ないとされている。

 

 

「零番隊ですか、実在していたのですね」

 

 

「お前が四番隊の隊長になれば、隊長権限であの坊ちゃんの部屋はキープ出来る。お前の回道の腕前は確かにあるし、医学知識も充分にある。お前以上の適任はいねぇ」

 

 

「四番隊…………ですか」

 

 

「もし、四番隊の隊長を引き継ぐならそのハ千流って名前は捨てて貰わなきゃならねぇ。理由は分かってるよな?」

 

 

卯ノ花が四番隊の隊長として移籍した場合、卯ノ花は現在の名前であるハ千流、つまりは剣八の称号を捨てなければならない。

 

四番隊は救護詰所でもあるが、隊士以外の治療を受け付けている。そこには一般人だけではなく貴族も含まれる。

 

ハ千流は護廷隊にとって最強の称号になっているが、瀞霊廷全体としては世紀の大罪人というようになっている。一般人や貴族も通う場所で大罪人が隊長を務めるのはイメージが悪いのだ。

 

ただでさえ、一部の貴族から護廷隊への風当たりは強く、ハ千流のまま四番隊の隊長となれば余計な問題を起こしかねない。

 

双盾の為であれば部隊を移るのは吝かではない卯ノ花。どの隊であっても自分のやりたい事は変わらないからだ。

 

しかし、卯ノ花が決断を渋るには理由があった。

 

 

「確かに剣八は瀞霊廷にとっては恐怖の象徴であって私の罪そのものです。ですが、私が積み上げてきたものを捨てたくありませんし、捨てて良い十字架ではありません」

 

 

「それなら別のやつに名乗ってもらえよ。そうすりゃ、剣八は消えないだろ」

 

 

「それはそうなのですが…………………」

 

十一番隊は山本元柳斎に任された戦闘専門部隊。護廷隊最強の部隊の長が弱くては務まらない。

 

そして剣八は最強にして最恐の称号。半端な者に名乗らせる訳にもいかないし、自分の犯してきた罪の象徴を他人に背負わせる訳にもいかなかった。

 

 

「俺が零番隊へ行くのは決定事項だし、総隊長には次期四番隊隊長はお前しか居ないと進言する。一週間もすれば正式な内示が出る筈だ。それまでに候補を探しとけ」

 

 

そう言われて、卯ノ花は十一番隊隊舎へと帰っていった。

 

双盾の事を思えば、四番隊の隊長となって側で治療をした方が良いだろう。しかし、それは自分の罪と誇りを他人に背負わせてまでする事なのか。

 

どれだけ考えようともその答えは出てこない。まるで深い霧の中に迷い込んだかのように思考に靄がかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、卯ノ花に対し四番隊へ移動命令が下された。引き継ぎを兼ねた報告として、十一番隊の隊士達が訓練室に集められることになった。

 

 

「私は四番隊の隊長となる事が決定したようです」

 

 

「良かったじゃないですか、隊長。何でそん顔してるんですか。あの人、名前忘れましたけど貴族の人の治療もしっかり出来て、上手くいけば隊長が満足出来る戦いが出来るかもじゃないですか」

 

 

「それはそうですが、どうしたら良いのか分からないのです。一時の気の迷いで貴方達にまで迷惑をかけてしまっても良いのかと…………………」

 

 

卯ノ花自身、自分の発言に矛盾のようなものを感じていた。今までは誰の迷惑や使命など考えず、自身の快楽を満たす為だけに暴れてきた。

 

それを満たしうるかもしれない人物を見つけた瞬間から自分の中の何かが変わっているのは確信していた。今の隊士に迷惑をかけたくないという思いも自身に起こった何かしらの異常として捉えていた。

 

 

「何を仰るのですか、隊長。隊長に迷惑をかけられるなんて今更ですよ」

 

 

副隊長の言葉に他の隊士達もそうだと頷いていた。十一番隊の隊士は卯ノ花の性格を反映してか、戦闘狂な一面が強い。暴れ回る卯ノ花への対応やそれに伴って増える仕事に苦労をしてきた。

 

しかし、それでも隊士が卯ノ花についていったのはその圧倒的な強さに惹かれたからだ。

 

『とりあず死ぬな。隊長以外に斬られても死ぬな、隊長に斬られても死ぬな』というのが十一番隊の隊士達の常識だった。これまで何百人の隊士が訓練と称して死にかけたか。

 

多少の迷惑など、隊士達にとって大した問題にはならない。

 

隊長が移動し、その引き継ぎ業務の発生程度のトラブルなどそよ風に吹かれる程度のことでしか無い。

 

 

「それに隊長、惚れた相手なんでしょ?だったら着いていくべきです‼︎隊長みたいな人は家庭を持って落ち着くべきです」

 

 

「は、ほほほほ惚れ⁉︎何を言うのですか⁉︎私はべべ別に双盾にそういう感情は抱いていません‼︎」

 

 

顔を真っ赤にして声を荒げる卯ノ花。隊士達は初めて見る卯ノ花の一面に思わずほっこりしてしまった。

 

 

「何をほっこりしているのですか‼︎ぶっ殺しますよ⁉︎」

 

 

「あっはっは、照れちゃって隊長。可愛いとこあるじゃないですか」

 

 

「本当にぶった斬りますよ貴方⁉︎」

 

 

「じゃあ、やります?」

 

 

冗談のつもりで副隊長に言ったのだが、副隊長意外にも乗ってきた。副隊長が冗談で無い事は霊圧の揺れを見れば分かる。

 

 

「本気で言ってるのですか?」

 

 

「流石に真剣じゃ勝ち目無いですし、木刀での試合形式といった感じでやりましょう。俺が勝てば隊長は四番隊の隊長となってもらいます」

 

 

「負けたらどうするのですか」

 

 

「それはその時考えます」

 

 

副隊長とはいえ他の護廷隊の隊長とも互角以上に戦える実力を持った副隊長、決してただの雑魚では無い。

 

しかし、卯ノ花と勝負するには実力の差があり過ぎる。

 

一般隊士から木刀を手渡される。隊士達は2人の邪魔にならないようにと2人から少し距離を取る。

 

隊長になるには幾つかの方法がある。護廷十三隊が結成された時に定められた規定には定められた試験に合格する事、隊長複数名からの推薦を得ること、二百名以上の立ち会いのもと現隊長と戦い勝利する事。

 

護廷十三隊が結成されてから暫く経ち、特例で繰り上げ昇進した隊長以外は皆現隊長との勝負で勝って隊長となっている。

 

より強き護廷十三隊をつくるためにその試験の難易度は高く、他の隊長は基本推薦などしない。

 

現実的に考えて今の隊士達が隊長になるには隊員立ち会いの元、隊長に勝つしかないのだ。

 

 

「本当に私と戦うつもりですか?今なら冗談という事にしてあげても良いのですよ」

 

 

「この虎徹天音、隊長にそんな冗談を言うほど馬鹿じゃないっすよ」

 

 

十一番隊が旗上げされた当初から副隊長として卯ノ花を支えてきた男、虎徹天音。彼は卯ノ花の戦う事に対する思いというのを理解していた。

 

戦闘専門部隊として戦闘においてふざける事は絶対にしてはならない。戦いを冗談とするのは今まで築き上げてきたものを愚弄する事に等しい。

 

虎徹は今培ってきたプライドと実力、そして卯ノ花への忠誠心に従って卯ノ花に勝負を申し込んだのだ。

 

 

「これまでの恩、纏めて返させていただきます。嫁入り前だからって加減してもらえると思わない事です」

 

 

虎徹はこれまでの全てを懸けて卯ノ花に戦いを挑んだのだ。それは虎徹の瞳に宿る意志の強さが物語っていた。

 

 

「そこまで言うのなら受け立ちましょう。油断も慢心も一切を捨て全力で貴方をぶちのめす事にします。覚悟なさい、天音」

 

 

隊長として、剣八として虎徹の決意を無駄にしてはいけないと卯ノ花は木刀を構えた。

 

二百名にも及ぶ隊士達に見守られながら2人の戦いは幕を開けるのだった。




キャプテン翼のライズオブニューチャンピオンというソフトを買いました。キャプテン翼はあまり知らなかったんですけどとあるVtuberの影響で買いました。

慣れるまで難しいですけどめっちゃ楽しいです。オススメですよ。

感想・評価お待ちしてます。



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卯ノ花烈、爆誕

隊首会。定期的に開催される隊長達による報告会のようなもの。四十六室の決定の通達、総隊長命令の通達や重要案件の会議などが行われる。

 

 

「これより新隊長を発表する。四番隊隊長卯ノ花烈」

 

 

ハ千流という名を捨て、本来の名を語る事にした卯ノ花。強き者への拘りを捨てた訳でも無く双盾の為だけに捨てた訳でもない。

 

更に強くなる為であった。戦闘だけではない、助けるべき時に助けられない弱い自分にならない為であると自分の中でそう結論づけた卯ノ花。

 

微笑ましそうに見てくる元柳斎と信じられないものを見ているといった同僚達に青筋を浮かべる卯ノ花だが怒りをグッと抑えた。何故なら自分はもうハ千流では無いからだ。

 

 

「卯ノ花烈、麒麟寺天示郎、山本元柳斎の連名により虎徹天音を十一番隊隊長とする。そして虎徹隊長の申し出である剣八と名乗る事を許可する」

 

 

「有り難き幸せ。この虎徹剣八、護廷の刃として誠心誠意尽くしましょう」

 

 

卯ノ花と虎徹の試合は虎徹の勝利となった。何度打ちのめしても、もう一度と立ち上がった。何度も繰り返すうちに、自分の攻撃に対応出来るようになり、反撃もするようになっていた。

 

卯ノ花はそんか彼の覚悟と成長を認め隊長に推薦した。麒麟寺には四番隊に移る条件として、山本元柳斎には見合いをした報酬として虎徹を隊長に推薦させた。

 

 

「一通りの必要事項は伝えた。これにて隊首会を終了とする。卯ノ花隊長は暫し残れ」

 

 

隊長達がぞろぞろと退室していく。以前あった滅却師の尸魂界への侵攻以来大した事件は無く、これといった変革も無い。

 

それ故に隊首会は早く終わる事が多い。

 

 

「して、その後痣城双盾はどうだ?」

 

 

「痣城邸にいた頃よりは体調は安定していますが、油断はならない状況ですね。双盾さん提案の訓練方法を四番隊の隊士で実践しているのですが、次の隊首会にはそれなりの報告が出来るかと」

 

 

四番隊は基本的に非戦闘員である為、隊士の戦闘能力は他隊と比べてかなり低い水準にある。

 

ハ千流出会った頃のノリで訓練すれば平の隊士でもそれなりに戦えるようになるかもしれないが、それでは耐え切れず辞める者や死傷者が出かねない。それにハ千流としての卯ノ花はもう封印したのだ。

 

「うむ、それは結構。恋仲としてはどうなのだ?多少の進展はあったのだろうな」

 

 

本来であれば護廷隊ではない双盾の協力は受けるつもりが無かった元柳斎だが、卯ノ花を変えた人物として評価が高くなったこと、双盾提案の訓練方法に興味が湧いたのだ。

 

それに、非戦闘部隊である四番隊の隊士が強くなれば護廷隊として出来る幅も増える。そしてその訓練を他隊にも実践すれば更なる強化に繋がる。

 

以上のことから元柳斎は双盾の提案を呑み静観していた。

 

隊長の入れ替えがあってもそれなりに上手く回っているのは元柳斎としても安心なのだが、2人の仲介役をした者として双盾と卯ノ花の関係が気掛かりであった。

 

 

「セクハラですか?総隊長といえど斬りますよ。あと、恋仲などではありません」

 

 

「鍔を鳴らすな、鍔を。四十六室への報告もある。中には貴様が四番隊の隊長になった事に嫌悪感を示す者もおる。貴様が変わった事を証明せねばならんのだ」

 

 

最もらしい事を言う元柳斎だが、卯ノ花の件に関して四十六室は可能な限り関わりたく無い為元柳斎に全て任せている。つまり、報告義務などは存在しない。

 

単純に、元柳斎の興味本位で聞いているだけだ。

 

 

「恋仲も何も私にそう言った感情は無い筈です。そんなものとうの昔に捨てました。私は仕事があるので、用がないなら今日はこれで失礼します」

 

 

卯ノ花は何かを誤魔化すように早口で答えると足早に部屋を出ていった。

 

 

「''無い筈''か………………これはこれで前進したと言えるか」

 

 

女として、人として当たり前の愛するという感情を捨ててきた卯ノ花が無いと否定し切らなかった。今まで卯ノ花を口説こうとした死神は居ない訳では無かった。

 

そんな相手に卯ノ花は能面のような表情を浮かべながら斬り捨てていた。

 

そんな卯ノ花が自身に愛するという感情が無いと思っていた事に疑念を感じ始めている。

 

麒麟寺天示郎を始めとする他の隊長達も卯ノ花が変わってきたと言っていた。

 

 

「かなり落ち着いたようで一安心といったところか。一先ず、任務達成の報告だけしておくか」

 

 

四十六室から命令された卯ノ花を大人しくさせろというもの。命令は四番隊に移籍し、卯ノ花ハ千流なら烈と名乗った事で解決したとして結果の報告をすれば良いかと元柳斎は結論付けた。

 

しかし、四十六室の中には元大罪人である卯ノ花が瀞霊廷の救護詰所である四番隊になった事に否定的な者もいる。卯ノ花が変わったと思っていない者の方が多い。その印象の払拭はこれからの卯ノ花に掛かっている為元柳斎は可能な限り見守る所存だ。

 

 

「それにしても…………抜き身の刃が鞘に収まった分、何かの拍子に抜刀されたら大変な事になりそうだな」

 

 

触れるもの全てを斬ると言わんばかりだった雰囲気が鞘に収まった事で、その刃が抜かれた時以前よりも切れ味を発揮してしまうのではなかろかと感じ、今後卯ノ花の堪忍袋の緒が切れないよう注意しようと決心した元柳斎であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四番隊隊舎にきて以来双盾の体調はすこぶる良くなっていた。ちゃんとした診察に基づく薬の処方、規則正しい生活のお陰なのだろうか。

 

 

「双盾さん、体調は良いようですね」

 

 

「ええ、おかげさまで。最近は白打の練習もしているんですがやっと型が定まってきたところなんです」

 

 

自作したのか、いつのまにか病室に置かれていた丸太に拳打を打ち込む双盾。

 

 

「力に劣る女性や子供扱い易い白打を考えてみたんですけど、どうですかね?できれば実践で試してみたいのですが………………」

 

 

卯ノ花はため息を吐くと双盾の襟首を掴みベッドへと投げ込む。

 

 

「あまり無茶をしないでください。また血反吐を吐いて周りに迷惑をかけるつもりですか」

 

 

「これだけ身体の調子が良いと何でも出来ちゃいそうで……………最近考えてるのは白打や斬術と鬼道を組み合わせた戦術が出来ないかと考えてはいるのですがどうもしっくり来ないんですよ」

 

 

入院してから暇潰しに書き記した斬術、鬼道、白打の修練方法は卯ノ花から見ても舌を巻く程の完成度だった。

 

これが死神の間に普及すれば護廷十三隊の戦力の総合値は間違い無く高くなるだろう。

 

 

「それはそれとして、先程の白打は悪くありませんね。殴り合いになれば有用なのかもしれませんが、基本的に死神が戦うのは虚ですし、隠密機動でも無い限り白打をメインで使う事が無いので実用性はそこまで高くないかと。でも、護身術程度なら使えますね」

 

 

「烈さんにそう言って貰えると自信が出ま……ゴホッ‼︎」

 

 

突然咳き込む双盾、卯ノ花は慌てて駆け寄る。血を吐き出してる訳では無い為然程酷い訳では無いのだろうが咄嗟に回道をかけていた。

 

 

「だから無茶はしないでと言ったでしょう‼︎また貴方に倒れられたら私は………私は……………」

 

 

初めて会った時の事を思い出したのか卯ノ花は悔しげに唇を噛む。

 

自身の不甲斐なさが産んだ状況。あんな思いは二度としないと武力以外の力を求めてきた卯ノ花。

 

 

「そんな顔しないでください。僕がこうしていられるのは烈さんのおかげなんです。貴女のお陰でこうして毎日が楽しいんです。だから笑ってください、貴女の笑顔を僕に見せてください」

 

 

「全く、貴方はいつもそうやって………………変な女に引っかかっても知りませんよ」

 

 

「あはは、それはちょっと困るかな」

 

 

小さく溢した言葉に卯ノ花は笑みを浮かべた。自分がもう言い訳のしょうがない状態にある事を。

 

 

「ふふ、その時は存分に笑わせてもらうとしましょう」

 

久方ぶりに笑顔を浮かべた卯ノ花。戦闘中の愉悦からくる獰猛な獣を思わせる笑顔では無く、心から来る爽やかな笑顔だ。

 

 

「やっぱり美人は笑顔が似合いますね」

 

 

「な、ななな何を言うんですか‼︎そんな冗談を言ってないで大人しく寝てなさい‼︎」

 

 

笑顔に見惚れた双盾が何気なく呟いた一言に顔を真っ赤にする卯ノ花。

 

 

「薬はそこの棚に入れてありますので、食後にちゃんと飲む事‼︎運動するのは良いですが、無茶はしない事を徹底してください‼︎お大事に‼︎」

 

 

卯ノ花は飛び出すかのように病室の扉を強く閉める。救護詰所であるというのに声を荒げ、顔が熱くなり、心拍強く脈打つ。

 

戦闘中のような高揚ではない、別の何か。

 

卯ノ花自身に湧き上がってきている感情の名前は彼女自身にも分からない。

 

一緒にいるだけで心休まり、暖かな気持ちになり何気ない一言や仕草に胸が高鳴るこれは何なのか。

 

卯ノ花にこの答えが見つかるのはまだ先の話である。




リメイク前はこの時点で自身の気持ちに気付いてた烈さんだけど今回はちょっと違いますね。限りなくリーチな感じです。

次の回は明日の18:30くらいです。お楽しみに!!


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双盾、戦う

卯ノ花が四番隊隊長となり数年が経過した。双盾も屋敷にいた頃に比べて体調は良くなっていた。

 

しかし、未だ1日の大半はベットの上で過ごしており定期的に散歩や軽い運動が出来る様になった程度だ。

 

 

「それで、僕に要件ってのは何かな?虎徹隊長」

 

 

「やめてください、貴方は護廷隊じゃないし身分だけで言えば貴方の方が上なんだ」

 

 

「そんな怒気を含ませた霊圧でここに来ているんだ。僕に何か言いたい事があるんだろう?」

 

 

双盾の病室に来ていた虎徹の霊圧には明確な怒気が含まれていた。殺気とは別のものだが、そこに含まれている感情はとても強いものだ。

 

 

「一つ、聞きます。貴方卯ノ花隊長に惚れてるんですよね?なんで本人にその事伝えないんですか」

 

 

「迷惑をかけちゃうからね」

 

 

双盾は自身の病弱さを理解していた。幾ら体調が良くなっているとはいえ、日が経つ毎に死に近づいている事を実感していた。

 

いつ死ぬかも分からない自分が想いを告げる事は卯ノ花を縛り付ける事にしかならない。未来ある彼女に自分という重荷を背負わせてはいけないと双盾は思っていた。

 

 

「迷惑だと……………貴方それ本気で言ってんのか?」

 

 

「仮に僕の想いを伝えて一緒になれたとしても、長くはいられない。僕が病弱でなかったら隊を移る必要も無かったし、彼女自身の願いも果たせたかもしれない。こうして彼女を縛ってしまっているのにこれ以上迷惑を「歯ァ、食いしばれ」ッグ‼︎」

 

 

双盾が想いを語っている最中、虎徹は我慢の限界とばかりに双盾を殴った。

 

殴った虎徹の目には涙が浮かんでいた。

 

 

「迷惑?腑抜けた事言ってんじゃねぇよ‼︎俺達と の隊長が貴方程度の背負って潰れる弱い人だと本気で思ってたのか⁉︎俺達みたいな馬鹿200人を纏めてた人だぞ‼︎」

 

 

殴られた頬を押さえ双盾は虎徹の話を黙って聞いていた。

 

 

「隊長は貴方に惚れてる‼︎あの人は護廷の者としての責任感の強さと貴方への罪悪感のせいで想いを告げられないでいる。いや、自分の想いに気付かない振りをしてる。貴方から行かなくてどうすんだよ‼︎想いを告る事が出来るのに何でしないんだよ‼︎」

 

 

それは双盾への怒りだけでは無かった。虎徹自身が感じていた悔しさの表れでもあった。同様に想いを抱きながら伝える事が出来なかった虎徹と伝えられる立場にいながら言おうとしない双盾。

 

自分に出来なかった好きな人を幸せにするという事を叶えられるのにしようとしない事に悔しさと怒りを感じていたのだ。

 

 

「あの人を幸せに出来るのは貴方しかいない。あの人に安息を与えてやれるのは貴方しかいないんだ。もし、日和るような事があれば俺がお前を殺す」

 

 

それだけ言い残し虎徹はその場を去っていった。双盾はその後も暫く頬を押さえ黙り込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四番隊の隊舎には隊士達の訓練の為に道場が設置されている。しかし、入院し復帰する隊士達のリハビリ用の施設として利用されることの方が多い。

 

そんな道場に卯ノ花と双盾は2人きりでいた。お互い腰には斬魄刀を差している。

 

 

「話があるからと来てみればどういうつもりですか」

 

 

「以前、出来なかった試合の決着をつけましょう」

 

 

「そんなことが出来る体訳がないでしょう」

 

 

「以前麒麟寺さんからいただいた丸薬のお陰で短時間なら大丈夫です。貴女と本気で語るなら''コレ''しかないでしょう」

 

 

そう言いながら抜刀する双盾。その霊圧は卯ノ花が初めて会った時とは比べ物にならないほど高まっていた。

 

それが薬の影響なのか、体調が整った双盾の本来の霊圧なのかは卯ノ花には分からない。

 

 

「もし、何か躊躇っているようなら…………ちょっとの怪我とかじゃ済まないですからね」

 

 

そう言いながら瞬歩で距離を詰める双盾。卯ノ花に戦う意志は無く、構えすらしておらず反応が遅れてしまう卯ノ花。

 

しかし、剣八としての本能が双盾の攻撃に反応したのか、瞬間的に抜刀し双盾の攻撃を受けていた。

 

 

「辞めなさい‼︎これ以上は抑えきれなくなる

‼︎今の貴方にはあまり抑えて戦う事は出来ません‼︎」

 

 

全快に近い状態の双盾の力は並の隊長格よりも数段上だった。少なくとも卯ノ花がハ千流として殺すに見合う実力である事は確かだ。

 

そんな状態では長らく抑えてきた剣八の部分を抑えきれなくなってしまう。

 

そんな事はお構いなしと双盾は攻めを苛烈にしていく。

 

 

「今の貴方は護廷の保護下にあって殺される心配はありません。それなのに、何故命を賭けるような真似をするのです⁉︎」

 

 

卯ノ花が四番隊の隊長になってから卯ノ花は、元柳斎に掛け合い双盾が痣城本家と関わらないようにしてもらった。

 

そうした事で、殺される心配なく、安全に治療が出来るようになった。それにより体調は良くなっているが、戦闘が出来るほどではない。

 

医療に関して麒麟寺は卯ノ花の上をいっている。そんな麒麟寺が作った薬であるならそれなりの効果がある。

 

しかし、麒麟寺から渡された丸薬とはいえ、副作用が無いとは言えないし、効力がどれだけ続くかわからない。このまま戦っても自分に殺さるか、発作を起こすかの二択である為卯ノ花は何とか双盾を止められないか考えた。

 

 

「貴女が好きだからです」

 

 

「な⁉︎」

 

 

咄嗟の告白。体が硬直するのと同時に赤面していくのを感じた卯ノ花。時間にして数瞬、まさに刹那といえる時間。しかし、戦闘の最中ではその刹那の隙すら命取りとなる。

 

双盾の一撃は卯ノ花の肩を切り裂いた。すぐさま回道をかけ治癒していく。

 

 

「あの日、刃を交えてから僕の頭の中には貴女しかいない。貴女を惚れさせる為なら命の一つや二つ、喜んで賭けてやりますよ」

 

 

「あの、ちょ、やめてください‼︎」

 

 

顔から火が吹き出るほど赤面した卯ノ花。多くの戦闘を経験してきた卯ノ花だが、戦いの中で告白してきた者は1人もいない。

 

ましてや双盾は初めて好きになった人である。その人から自分への想いを告げられ嬉しさと恥ずかしさのあまりどうにかなってしまいそうだった。

 

 

「破道の一、衝」

 

 

今の双盾は何がなんでも卯ノ花と戦う気でいる。そんな双盾を出来るだけ傷つけ無い為に斬魄刀目掛け鬼道を放った。

 

 

「宵闇に舞え『月詠神楽』」

 

 

しかし双盾は自身に放たれた鬼道を着弾する直前に斬った。

 

鬼道を弾くのでは無く斬った。そして双盾の霊圧先程までと違い更に大きくなった。

 

 

「鬼道を斬った……………いや、飲み込んだと言う方が正しいですね。なるほど、それが貴方の始解ですか」

 

 

「これが僕が今出せる全力です」

 

 

「分かりました。一撃、ただの一撃だけ本気で参ります。死なないでくださいね」

 

 

直後卯ノ花が解放した霊圧に双盾は生まれて初めて冷や汗が出た。

 

始解して霊圧を上げていなければ前に立つ事すら出来なかったかもしれない。並の死神では近寄る事すら許されない冷たく、恐ろしい霊圧。

 

意思を持った死がそこに立っていた。

 

次の瞬間卯ノ花は双盾の目の前に現れ、剣を振り下ろしていた。明確に迫る死。その中で双盾の頭の中はこれまでに無いほど冴え渡っていた。

 

 

「うぉぉぉぉぉあ‼︎」

 

 

これまで上げた事ないであろう雄叫びを上げながら卯ノ花の刃をその身で受けた。

 

 

「なっ⁉︎」

 

 

卯ノ花の突きが身体を貫いた瞬間に双盾は卯ノ花の腕を力強く掴み、斬魄刀を引き抜けなくする。

 

咄嗟の事で反応が出来なかったのか、捨て身の行動を以外に思ったのか卯ノ花は動きを止めてしまった。

 

「ガホッ、ゴホッ………………僕の………か…ちで…………………」

 

 

血を吐き出しながら左手に握った斬魄刀を卯ノ花へと突き立てる。

 

双盾の視界はそこで暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

双盾が目を覚ますと病室の中だった。攻撃を受けた筈の部分は綺麗に治療されていた。

 

隣には卯ノ花が立っていた。

 

 

「貴方は大馬鹿者です。勝てる筈も無いのに私に薬を飲んでまで勝負を挑み、私の太刀をその身で受け止めて………………」

 

 

「れ、つさ…………」

 

 

意識が覚醒したばかりだからなのか、舌が回っておらず辿々しい双盾。

 

 

「貴方病とは別に馬鹿の虫を治さなければいけないみたいですね。私が治してあげます」

 

 

気付いているのか、いないのか頬を染めながら話す卯ノ花。卯ノ花がどういった腹づもりで話したかは卯ノ花自身にも分かっていない。双盾は小さく微笑み、そして手を取る。

 

 

「貴女が知っているように僕は病弱でいつ死ぬか分からない。これは僕の我儘だけど、貴女には僕の側にいて欲しい。そして、病気が治った暁には僕と本気で戦ってほしい」

 

 

「ええ、勿論。貴方の馬鹿の虫とその病は私が一生をかけて治してみせます。そして何の憂いも無くなった時、貴方の首を私が撥ねます」

 

 

卯ノ花の心を写したかのように、病室から見える夕日は美しく輝いていた。




まだだ!!まだ恋を自覚させんよ!!

双盾さんも大概ぶっ飛んでんなって笑う。このカップル(予定)殺伐としている……………


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卯ノ花、揶揄われる

リメイク版になるにあたって、リメイク前と比べ一部ストーリーの変更がある。

変更があるとどうなるかって?


卯ノ花さんと双盾さんのイチャイチャが増える


双盾考案の訓練法が各隊にて実践され幾年が過ぎた。上位の席官のみ始解を習得していたが下位の席官も習得者が増えていた。また、鬼道では詠唱込みの発動可能な番数が平均で5も増えていた。

 

飛躍的といえば飛躍的、隊や個人によっては思いの外伸びないといった結果にはなったが各隊の平均値は段違いに伸びたといって良いだろう。

 

その成果が認められ、四十六室は死神の育成機関、真央霊術院が創設される事となった。

 

各隊で教材の作成、指導要領の纏めなど仕事が増え大忙しだった。それは四番隊も同様で普段の仕事に加え真央霊術院関連の仕事も増え大忙しだ。

 

 

「大変そうですね。僕も手伝いましょうか?」

 

 

「病人は黙って寝てなさい」

 

 

「でも、そんな量の書類をここでやらなくても……………」

 

 

「私が目を離したら、貴方は何をするか分かりませんから。こうして目を光らせておかなければいけないのです」

 

 

双盾の体調は改善されてきたとはいえ、まだ油断ならない状態である事には変わらない。少し油断をすれば1人で散歩に出かけ、隊舎の前で倒れているという事などよくある事だ。

 

本当に体調が良い時は、隊士の訓練に付き合っていたり相談に乗ったりしており、そこは卯ノ花としても助かっている所なのだが、1人で勝手に出掛け、勝手に倒れられるのには困っていた。

 

それから、双盾の部屋には隊士が経過観察という名目で監視に来るのだが、双盾は言葉巧みに隊士を説得して部屋から出る。

 

そこで卯ノ花は隊士では役不足であるとし、自身の雑務を双盾の病室で行う事にしたのだった。

 

 

「屋敷にいた時はここまで体調が良い事なんて少なかったからやれる事は無かったけど、卯ノ花さんのおかげで色々出来るようになってから寝てるのが凄く詰まらないんです」

 

 

「暇なら読書なり、絵を描くなりして暇を潰せば良いでしょう。勝手に出掛けて倒れられては困ります」

 

 

辟易としながら言う卯ノ花だが、その広角は僅かに上がっていた。屋敷の中での景色しか知らなかった双盾が少しずつではあるが、人並みに出来る事が増えているのが卯ノ花は自分の事のように嬉しかったのだ。

 

 

「読んでた本とかは屋敷に置いてきてるし、絵を描くのはそんなに心惹かれないんですよね」

 

 

「読むものが無いのならそこの医学書でも読んでなさい。それが嫌なら大人しく寝てなさい」

 

 

「でも、今は卯ノ花さんが話し相手になってくれているので楽しいですよ」

 

 

「その程度で私が照れるとでも?」

 

 

「これは手厳しいですね」 

 

 

双盾は分かっているのかいないのか不明だが、揶揄っている。

 

最初は双盾の天然な発言かと思い百面相の如くコロコロと顔色を変えていた卯ノ花だったが、ある日自分の反応を見た双盾の顔を見た時、卯ノ花は自分が揶揄われていると感じた。

 

それ以降は双盾の前では表情を崩すまいと表情筋に力を入れるが、表情以外に反応が出てしまっているのか双盾の瞳は微笑ましそうなままである。

 

余談ではあるが、双盾の病室を出た後の卯ノ花が人気の無い所で顔を真っ赤にし、悶えている所を隊士によく目撃されており、元十一番隊の隊長だと言うのに可愛い人なのではという認識が広まり、卯ノ花は想定されていたよりも早く隊に馴染んだ。

 

 

「でも、暇してないのは本当ですよ。仕事の邪魔をしてしまって申し訳なく思うんですけど、卯ノ花さんと一緒の場所にいられるこの時間は今の僕にとって何よりも好きな時間なんです」

 

 

「はいはい、分かりました。私は一区切りついたのでこれで失礼します。ちゃんと薬を飲んで安静にしててください失礼します」

 

 

 

双盾の言葉を誤魔化すように口早に答えると卯ノ花は慌てて書類を纏め病室を後にした。

 

双盾の病室を出た後だと言うのに、卯ノ花の表情に変化が見られなかった為、隊士達は双盾が寝ていたのだろうかと思い、卯ノ花を見送った。

 

言っている事と思っている事が違う事があるように表情だけで真意を図れない時もある。

 

卯ノ花が双盾の病室を出た数分後…………………

 

 

「隊長、止めてください‼︎隊長‼︎」

 

 

「心頭滅却、心頭滅却‼︎私は至って冷静です‼︎止めないでください‼︎」

 

 

井戸から冷水を汲み上げては、頭から被るといったいった行為を延々と繰り返す卯ノ花と必死に止めようとする副隊長の姿が発見された。 

 

ちなみに、この卯ノ花の奇行は偶然、検診に来ていた元副官である虎徹が通りかかるまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

痣城邸の奥にある客間で貴族達が集まっていた。

 

その中には痣城当主の姿もあるが、彼は何故だかイラついていた。

 

「計画の方はどうなっている?こっちは金を払ってるんだ。問題無いだろうな?」

 

 

当主は双盾と卯ノ花を殺す計画を貴族達に任せたのは良いが、どのような計画でどこまで進行しているかを把握出来ていなかった。

 

その為、貴族達を自分の邸宅に呼び出し途中経過を聞き出そうとしたのだ。

 

 

「抜かりは無いわい。四十六室の根回しも済んでおるし、兵隊も集めておる」

 

 

当主の苛立ちを他所に、貴族達の中の1人が出された茶を啜りながら呑気に答える。

 

他の貴族達も茶菓子をつまみながら呑気な態度を取っているが、その顔に張り付いた笑顔はドス黒いものだった。

 

 

「ま、まぁ良いわ‼︎兎も角、この計画が失敗したら貴様らの身も危険になる事をしっかり分かっておけよ‼︎」

 

 

「クハハハ、貴様の商売をここまで手伝ってやったのは誰だと思うとる。貴様の商売敵を消してやったのは誰だと思うとる。いくら死神だろうと儂等が消せない相手はおらんわ」

 

 

「ぐっ………………」

 

 

怒鳴る当主を黙らせる貴族。痣城は武力で成り上がった貴族であったが、時代が進み代替わりをしていくごとにその武力は失われつつあった。

 

そこで当主は貴族としての地位を維持し続ける為に不動産業に手を出した。しかし、商売のための勉強などまともにした事の無かった当主が貴族達の謀略が蔓延る瀞霊廷で商売するには誰か別の貴族に頼らざるを得なかった。

 

そこで、当主は四十六室に顔が効き、謀略に長けている貴族達に協力を申し込んだ。

 

貴族達も痣城の財産が自分達の小遣い稼ぎには丁度良いと協力を続けてきた。

 

 

「安心せい。そう身構えんでも計画は上手くいくし、お主にも上手い汁は吸わせてやる」

 

 

「ふん‼︎まぁ良い。好きにしろ‼︎」

 

 

そう吐き捨てる痣城当主を尻目に貴族は痣城邸を後にした。

 

1人になった部屋で痣城当主は酒を呑み始める。

 

 

「やっとだ、やっとお前を殺せるぞ………双盾」

 

 

お猪口を持つ手は怒りからなのか、僅かに震えており額には青筋を浮かべていた。




千年決戦編のティザーPV見た!?ただでさえオサレだったのがオサレ度を増してきたよね。皆顔が良すぎる!!!!!!
竹達彩奈さんにバンビちゃんを採用した人に喝采を!!!!!!

それはそれとして、あの動画で卯ノ花さんがワンカット登場したじゃん?ハ千流モードのやつね。怖すぎてちびるかと思ったわ。あんな怖い人を口説く双盾さんまじ?


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獰猛な笑みと覚悟

双盾は流魂街、更木の外れの方に来ていた。珍しく兄から連絡があったからだ。屋敷に住んでいた間も出た後もまともな会話などはした事が無い双盾と当主。

 

文面は本当に兄が自分に宛てたものなのかと疑う程丁寧な文に呼び出される場所が屋敷などでは無く、留魂街。双盾は斬魄刀を腰に差し、薬箱から丸薬を懐に入れ四番隊隊舎を出たのだった。

 

双盾の目の前には、当主と武装した傭兵が百人近くいた。

 

 

「体調は良さそうだな、良かった」

 

 

「おかげさまでかなり良くなってるよ。ありがとう兄さん」

 

 

「思ってもない事を……………」

 

 

「何を言って「黙れ‼︎昔からお前はそうだった‼︎」」

 

 

双盾の言葉を遮り当主は怒りを露わにする。昔から溜め込んでいたものが一気に吹き出したかのように。

 

 

「そうやって出来た人格を装って周囲に愛想を振り撒き、俺を見下していただろ‼︎父も母も貴様が当主になれば比べられていた俺を憐んでいただろ‼︎」

 

 

双盾の才能は痣城始まって以来のもの。平凡以下な当主の才能とは比べるまでもなかった。先に生まれただけで当主になれる、双盾が病弱でなかったら…………幼少期から腐るほど聞かされてきた言葉。

 

どれだけ努力しようと、どれだけ成果を出そうと誰も見ない。誰も認めない。常に比較されてきた当主にとって双盾の優しげな瞳は自身を見下しているとしか思えなくなっていた。

 

 

「哀れなお前に教えやろう!!あの大罪人は今日ここでお前と一緒に殺される‼︎お前はあの大罪人を誘き出す為の餌であり人質だ‼︎あの女が死んだあと私がこの手で殺してやる‼︎どうだ、双盾‼︎お前を嵌めた、俺はお前を超えたんだ‼︎」

 

 

この作戦を聞いた時、当主は初めて双盾に勝てた気がした。

 

卯ノ花は言うまでもなく護廷隊の中で最強格であり、体調さえ良ければ互角以上に戦える双盾も化け物のようなものである。

 

しかし、双盾の体調が回復しているとはいえ長時間の激しい運動は出来ない。ましてや戦闘など以ての外である。

 

数の暴力で双盾の抵抗する体力を削り、人質に取る事で助けに来る卯ノ花を無傷で殺す事が出来る。他の護廷隊への牽制は貴族達が担当しており、自分は双盾と卯ノ花の死に様を間近で見られる。

 

当主は隙の無い計画に笑いたくなる気持ちを隠せなかった。

 

 

「安心しろ、お前はあの女が来るまで殺さん。人質として働いてもらわんと困るからなぁ。お前たちは俺に負けるんだぁ‼︎」

 

 

「残念だよ、兄さん」

 

 

計画を聞かされた双盾の顔には焦りや苛立ち、恐怖といった感情は一切無かった。そこにはただの憐れみしかない。

 

双盾は懐から丸薬のようなものを取り出し、飲み込む。すると、双盾の霊圧は好調時に近いものとなった。

 

 

「ありがとうございます、麒麟寺さん」

 

 

双盾が服用した丸薬は麒麟寺が作ったものだ。服用者の霊圧を高め、体調を整える効果がある。

 

 

「さ、兄さん。久しぶりに兄弟喧嘩といこうじゃないか」

 

 

「またお前は俺をぉぉぉぉぉぉお‼︎やれぇ、やれぇ‼︎死ななければ何をしても構わん‼︎やれぇ‼︎」

 

 

斬魄刀を引き抜き、構える双盾に金切声をあげながら傭兵達に指示を出す。

 

すると斬魄刀を構えた男達が双盾に斬りかかる。

 

しかし、双盾は慌てる事なく蚊でも払うかのように二度三度斬魄刀を振るう。すると双盾に斬りかかっていた男は糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。

 

しかし貴族達が刺客はまだ多くいる。

 

 

「お前が化け物じみているのはよく知っている‼︎だがお前は長時間戦う事は出来ない‼︎ここにいる奴らは一番金を掛けて用意した強者揃いだ‼︎お前のような化け物でも耐えきれないだろうなぁ‼︎」

 

 

双盾を警戒してか痣城の傭兵達は斬魄刀を始解させている。炎熱系、氷雪系、直接攻撃系………さまざまな斬魄刀がただ1人のために向けられている。

 

 

「お前達のせいで、使用人も部下も俺を見なくなった‼︎皆痣城の名に畏怖を感じなくなった‼︎お前のせいで俺はぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 

「やっぱり兄さんは当主に向いてるよ…………家名を、貴族としての誇りをなによりも大事にしてる。そんな事、僕には出来ない」

 

 

「殺せェェェェ‼︎殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセェェェェェェェェ‼︎」

 

 

息を切らす事もなく、軽々と斬魄刀を振るう双盾に対し何かが切れてしまったのか壊れたラジオのように殺せと連呼するようになってしまった。

 

当主の声を号令にして一斉に斬りかかる傭兵達。双盾は1人ずつ丁寧に斬って落とす。

 

避けて、斬る。躱して、斬る。防いで、斬る。傭兵達は必死に双盾を殺しにかかるが誰も双盾に傷をつけられない。誰も双盾の表情を崩す事は出来ない。

 

 

「当主として重圧にも負けず、当主として頑張ってきた兄さんを本当に尊敬してた」

 

 

また1人、斬って落とす。

 

 

「僕を憎んでいたのも知っていたし、殺そうとしているのも知ってた。それが兄さんの為になるならそれも仕方無いと思っていた」

 

 

当主にゆっくり、ゆっくりと近づく。襲い掛かる傭兵達を虫でも払うかのように斬って落とす。

 

 

「兄さんが卯ノ花さんとの見合いを許可してくれなかったら僕はただ死を受け入れるだけだったと思う。僕がもっと上手くやれてればと思って割り切るよ。この首で怒りが収まるならいくらでも差し出すつもりだった。別に怒りもしないし恨みもしない…………………でも、一つだけ許せ無い事があるんだ」

 

 

その言葉には普段の双盾ならば考えられない程の怒気が含まれていた。

 

 

「僕と兄さんの問題に関係の無い卯ノ花さんを巻き込むな‼︎」

 

 

怒気を撒き散らしながら双盾はゆっくりと当主を間合いに捉える。周りにいる傭兵達は動く事が出来ない。少しでも間合いに入れば死ぬという事を本能で理解してしまったからだ。

 

 

「抜きなよ、兄さん………僕と兄さんの一騎打ちだ。よく狙った方が良いよ。僕を仕留め損った瞬間に兄さんの首を刎ねる」

 

 

斬魄刀を構えず手を広げる双盾。当主の目には能面の如く無の表情をした双盾が写っている。怒りはしているがその瞳に当主は全く写っていない。

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあ‼︎」

 

 

喚き声にも近い叫び声を上げながら斬魄刀を引き抜き双盾へと斬りかかる当主。

 

直後、傭兵達の後ろの方で小規模の爆発と極度の霊圧の変化が起きた。

 

双盾は咄嗟に当主の襟首を掴み遠くへと放り投げる。次の瞬間、弾丸のように飛んできた何かが双盾へと斬りかかる。

 

 

「これはちょっと不味いかな?」

 

 

「お前、面白そうだな‼︎俺と遊んでくれよ‼︎」

 

 

飛来してきたそれは少年だった。身長でいえば双盾の胸あたりの高さしかない子供である。しかし、その手にはボロボロに刃こぼれした斬魄刀が握られていた。

 

 

「ジジィ共の口車に乗せられて来てみたら雑魚しかいねぇのかと思って暇してたがよぉ、ちったぁ遊べそうな奴がいて良かったぜ‼︎」

 

 

「そうかい、君と遊んであげられる程余裕が無いからね。帰ってくれると嬉しいな」

 

 

「折角楽しめそうな奴を見つけたんだ‼︎どっちかが死ぬまでやろうぜ‼︎」

 

 

獣のような雄叫びをあげながら双盾へと斬りかかる少年。双盾はそれを冷静に捌きながらかんさつした。

 

技術はお粗末なものだが、その膂力からくる速さと力強さは脅威だった。だが、何よりも脅威なのはその成長速度。

 

双盾の動きを見たからなのか、段々と攻撃が鋭くなっていくのだ。自分よりも練度の高い敵の動きを見て自分に合うように実践する。

 

少年は強くなっている実感が湧いて楽しくなっているのか獰猛な笑みを浮かべている

 

 

「凄いね、君。僕が戦った中で一番………いや、二番目に強いかも」

 

 

双盾が思い浮かべたのは卯ノ花の顔。斬り合いを楽しみ攻撃、防御の全てが相手を殺す為の剣技である卯ノ花の強さは双盾の目から見ても瀞霊廷の中で最上位の強さであると確信出来た。

 

しかし、目の前の少年は単純な斬り合いだけならば卯ノ花よりも強い可能性があった。

 

総合力で言えば間違い無く卯ノ花である。しかし、可能性と異常な成長速度を考えれば少年の強さは危険と言わざるを得ない。

 

 

「そうか、お前以外にも楽しめそうな奴がいるのか‼︎そいつともやってみてぇな‼︎」

 

 

「凄く素敵な人だよ…………でも、君には会わせられないな」

 

 

 

卯ノ花の望みは自分より強い相手と死合う事。今は自分に興味を持っているが、この少年と出会ってしまえば卯ノ花の心が満たされかねない。そうなれば病弱で満足に戦えない自分は見向きもされなくなってしまうと双盾は感じた。

 

 

「君が僕と遊ぶ事で満足するなら良いけど」

 

 

「斬り合いに満足もクソねぇだろ‼︎お前みたいに強い奴がいるならそいつとも斬り合うに決まってんだろ‼︎」

 

 

「そうか、なら決まりだ。君は今ここで殺す」

 

 

「良いねぇ‼︎そうこなくちゃ面白くねぇ‼︎」

 

 

この少年をこのまま野放しにしてしまえば卯ノ花だけではなく、多くの護廷隊士が死ぬ事になる。

 

双盾は手に入れた居場所、大切な人を失わない為に目の前の少年を殺す覚悟を決めた。

 

双盾が覚悟を決めた事を感じ取ったのか、少年は嬉しそうに笑顔を浮かべながら双盾に襲い掛かった。




お久しぶりでごさいます。

こちらの方は千年決戦のアニメまでにこっちも千年決戦まで入りたいですね。

次回は双盾対少年(ショタ剣八)ですね。

呪術もこちらもエタりはしません。ゆっくりですが更新します。良かったらコメント感想などくれると嬉しいです


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