俺の彼女は世界の歌姫 (星夜見流星)
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1話

水上学園都市「六花」、通称アスタリスク

6つの学園が存在するこの島の歓楽街(ロートリヒト)付近を歩く一人の少年柊 夕夜(ひいらぎ ゆうや)の姿があった。

制服の上にコートを着てフードを被っている彼は幼馴染の矢吹英士郎と通話で話していた。

 

「星導館に転校生……ね、あの腹黒生徒会長は何を考えてるんだか」

 

そんなことを話していると夕夜の空間ウィンドウに別の着信が入る。

 

「悪い矢吹、この話の続きはまた後でにしてくれ……あぁ、また厄介ごとだよ、じゃあな」

 

そう言って通話を切り出てきたウィンドウを見て着信相手を確認すると意外な人からの着信だとわかり通話に出る。

 

「お久しぶりですペトラさん。あなたから連絡を入れるってことは一体どのようなご用件で」

 

「久しぶりと言っても3日前にあったばかりでしょう」

 

画面に映し出された人物、クインベール女学院理事長ペトラ・キヴィレフトが言ってくる。

 

「こっちは忙しすぎて昨日なにしたかも覚えてないんですよ?」

 

「貴方が多忙な日々を送ってるのは知ってますよ。依頼してるのは私なのですから」

 

「そう思ってるなら休み増やしてくださいよ。このままだと俺、倒れますよ?」

 

「まぁいいでしょう、また今度休みの日を入れておきますよ」

 

(まじか、正直いつもみたいにスルーされると思ったけどたまには頼んでみるもんだな、だけど今はそんなことよりも)

 

「それより何か依頼があって連絡したのでは?貴女が顔を見るだけのために連絡はしないでしょうし」

 

「そうですね、そろそろ本題に入りましょうか」

 

さて、今度はどんな無理難題を言われるのやら

 

「今回の依頼はシルヴィアの捜索です」

 

「……は?」

 

シルヴィア・リューネハイム

クインヴェール女学院生徒会長にして序列1位にして稀代の歌姫と言われている魔女(ストレガ)、能力は歌を媒体としイメージを様々に変化させる「万能」、戦闘能力も高くアスタリスクで屈指の実力者でもあり夕夜がペトラと交わした契約の中には裏で彼女の護衛も入っているのだが今日は別件のため護衛をしていなかった。

 

「俺の聞き間違いですよね?今シルヴィアの捜索って聞こえた気がしたんですけど」

 

「聞き間違いではありませんよ、シルヴィアが帰ってこないからこうして依頼しているんです、貴方も知っての通りいつもならこの時間までには帰って来るはずのシルヴィアがまだ帰ってこないのですよ」

 

夕夜は別の端末を取り出して時間を見てみると時刻は22時30分を過ぎていて周りを見渡せば学生の姿はほとんどなかった。

 

「シルヴィアがなにか事件に巻き込まれた可能性があると?それでもそこまで心配する必要はないと思いますが」

 

「念には念を入れですよ。近々欧州のツアーもありますし何かあった時が大変なので」

 

夕夜も別件の帰りであるが画面越しからでもペトラの苦労がわかるためとても断りづらい、それに対象がシルヴィアとあっては夕夜も断れない

 

「はぁ…わかりました、見つけ次第連絡します」

 

「ではよろしくお願いします、どこに行ったのかはわかりませんが貴方なら見つけられると思いますよ」

 

最後にそう言ってペトラとの通話が終了する

 

「無茶言うな全く」

 

ほんと困った歌姫だなと思いながら夕夜は移動を始める、目指すはこの近くにある再開発エリアだ。この時間に彼女が居そうなところはそこぐらいしかないだろう。

そうして歩く事約10分、再開発エリアに入り適当な高さの廃墟ビルの屋上に行き探知魔法を使う。

 

「星よ、我を導け」

 

するとここから程遠くない場所にシルヴィアらしきプラーナを見つけた、ただ他にも10人居るようだ、恐らくレヴォルフの不良どもだろう。

近くに数人倒れてる様な反応があるので戦ったあとらしい。

 

「仕方ないなぁ全く」

 

そう言って夕夜は廃墟ビルから飛び降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もういい加減にしてくれるかな、私は貴方達に用はないって言ってるでしょ?」

 

「そうはいかないな、こっちもやられっぱなしで頭にきてんだ」

 

どうしてシルヴィアがこんな事になっているのか、それは数十分前に遡る。

いつもの様にウルスラを探しに再開発エリアまで来ていたのだが時間を忘れてしまい帰ろうと思ったところにレヴォルフの不良達が話しかけてきたのだ。不良達はシルヴィアがいくら断っても諦めず最終的に力尽くで連れて行こうとしたところを返り討ちにされていまに至る。

 

(急いで帰らないとペトラさんが心配するのに、でも力を使ったら正体がばれるし……)

 

天下の歌姫がこんな所に来ていると分かれば人探しどころではなくなってしまう、なんとしてもそれだけは避けたい。

 

(さっきから幾ら倒しても起き上がってくるし厄介だなぁ)

 

最初は15人ぐらいだったところをなんとか10人までに減らしたのだがそれでも相手の数が多いためかなり厄介だった。逃げながら戦っていたからわからなかったが周りを見渡してみると広場になっていてきた道以外に道がない。

 

(これはちょっと不味いかな)

さっきまでは一本道で戦っていたため対処できていたが広場に来てしまった以上数で押されてはかなりきつい。そして不良達がシルヴィアを囲んで来る。

 

「さぁ、覚悟して貰おうか」

 

「……っ!」

 

シルヴィアが力を使う覚悟をした時不良達の後ろに人影が現れた。

 

「殲滅しろ、黒蛇ノ鎖(ウロボロス)

 

「なんだお前!グハッ」

 

「おい、どうした!」

 

「一体何がどうなってるの…?」

 

シルヴィアは目の前の光景を疑った。なぜなら突然現れた人が手を前に出し、なにかを言ったと思ったらシルヴィアを囲んでいた不良達が倒れ始めたのだ。不良達も状況が把握できないまま残りはリーダーらしき男一人となった。

 

「安心しろ、あんたの仲間は気絶してるだけだ。その子から手を引くならあんたを見逃そう」

 

「なんなんだよてめえは…」

 

「強いて言えば通りすがりの始末屋ってところですかね」

 

「舐めやがって!」

 

男が彼?に斧型煌式武装(ルークス)を起動し構えながら突進していくが彼?は構えるどころか動く気配すらない。

 

「警告はした。聞かなかった自分を恨むんだな」

 

そういった途端に男が動かなくなり急に倒れた。正直助けられた自分でもなにが起きているか全くわからない、でも何故だかすごく懐かしく安心している自分もいる。

 

「君は一体誰なの?」

 

恐る恐る聞くシルヴィアに対して少年は手慣れた手つきで空間ウィンドウを開き操作しながら答えた。

 

「そんなことよりここを離れるぞ、直に星猟警備隊が来る」 

 

少年はそう言った途端シルヴィアに近づくと彼女を抱き抱える。

 

「ちょっ!ちょっと待ってよ!」

 

「文句は後で聞くよ」

 

「だってこれ…」

 

シルヴィアが言おうとしたのは今の体制の事だった。背中と膝の下に腕を回され抱き抱えられている、所謂お姫様抱っこの状態でありシルヴィアは自分の顔が熱くなるのを感じた。

 

「舌噛むから少しの間口閉じとけよ」

 

「んっ!」

 

少年はシルヴィアに有無も言わさず高く飛び上がると空中を蹴り猛スピードでその場を離脱する。

 

(このスピード…やっぱりこの人只者じゃない!)

 

シルヴィアは自身を抱えている彼の顔を見ようとフードの中を見るが何故か顔半分が暗くなっていて見る事が出来なかったが右手首を見ると赤と黒の装飾が施されたブレスレットがつけられていた。

 

(このブレスレット!?見た目はだいぶ変わってるけど間違いない!)

 

シルヴィアがブレスレットを見て考え事をしている間に少年はさっきいた場所から少し離れた廃ビルの屋上で止まりシルヴィアを降ろした。

 

「ここまで来れば大丈夫だろ。後は自分でなんとかできるな?」

 

「う、うん。ありがとう」

 

少年は「じゃあな」と言いシルヴィアに背を向け去ろうと歩き始める。

 

「ねぇ、ちょっと待って!」

 

そんな少年をシルヴィアは呼び止めると振り返りはしなかったが彼の足は止まる。

 

「ユウ君…ユウ君なんでしょ?」

 

その言葉を聞いた少年の肩が少し動きそれを見たシルヴィアは話を続ける。

 

「八年前のあの日から私はずっと会いたかった!あって返したかったの!」

 

そう言いながらシルヴィアは自分の首にかかっているチェーン付きの赤い装飾の指輪を見せる。

 

「あの日の約束を果たしたかったの!見た目は変わってるけどそのブレスレット、この指輪と交換した物でしょ?」

 

「…知らないな」

 

「さっさと帰れよ」と言い彼はまた歩き始めビルから飛び降りる。

シルヴィアが後を追いかけ下を見た時には既に遅く、もう誰もいなかった。

 

 

 

 

 

フードを捲り廃ビルの壁にもたれかかる夕夜は「迂闊だった…」と言いながら自分の腕につけたブレスレットで彼女に正体が悟られた事を後悔していた。

 

「ったくだから嫌だったんだよ…」

 

夕夜は力無く崩れ落ち地面に座り、顔を俯かせ途方に暮れるのだった。

 

 




他の執筆と同時進行で書いているので更新は気長にお待ちいただければ幸いです。


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