ドラゴンブラッド (カイン大佐)
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プロローグ

此方では初の小説、基本的に読むの専門なのでおかしな所が有れば御指摘下さい。


其処は都内でも有数の高級ホテル、1泊でサラリーマンの平均月収が消える程のホテルは、現在ある人物によって貸し切り状態だった。

 

「ほう?この小瓶が例の…」

 

厳重にアタッシュケースに入れられた親指程の小瓶を眺めるのは、スキンヘッドに高級なスーツを身に付けた小太りな男。

彼は此処等一帯を仕切るマフィアのボス、名前を光堂と言う。

 

 

「はい、純度の高いドラゴンブラッドです。」

 

アタッシュケースを持つ部下の顔にも緊張感があった。

何せこの小瓶1つで億の金が動くのだから緊張もするだろう。

 

「これが1滴飲むだけで化け物みたいに強くなるっちゅうあれか。」

 

今日はこのドラゴンブラッドを仲介し協力組織に売り付ける為だけにこのホテルを貸し切りにしたのだが。

 

「にしても、相手側の連中遅いのう?」

 

そうなのだ、商談の時刻は既に過ぎているにも関わらず相手が現れ無いのである。

 

そして光堂がイライラしながら携帯を手にした瞬間、ホテルの照明が全て消えた。

 

 

 

ほぼ同時刻

 

ホテル入り口にも警備の為複数の部下が配置されていた。

その内の1人は何時までも現れ無い相手に困惑しながらタバコに火を着けようとした。

 

「チッ!」

 

しかしライターの油切れか火が着かない、するとそんな男の目の前にボッと誰かが火を灯した。

 

 

「ああ、すまない。」

 

タバコに火を着け、相手に礼を言った、それが男の最期の景色となった。

首に走る鋭い痛み、ずれる景色、男は自分が何をされたのかすら分からないまま息絶えた。

 

 

他の仲間達も男の異変に気付き即座に銃を抜いた。

 

 

其処には1人の男が立っていた。

 

 

レザージャケットにジーンズという出で立ちに短く切られた黒い髪、夜の帳の中爛々と光る紅い瞳だけが部下達の恐怖を最高潮に上げて行く。

 

しかもその瞬間に照明が全て消えた。

 

 

「う、うわぁぁぁ!」

 

部下達の内誰が撃ったのかは分からない、しかしその1発がトリガーとなり男達はパニックになりながら謎の男の方に発砲する。

 

「遅っせ。」

 

既に其処に男の姿は無いにも関わらず。

 

次第に発砲音は減って行った、僅か数秒、其処に生きているのはレザージャケットの男だけだった。

 

皆首を狩られ事切れていた。

 

 

「此方ニーズヘッグ、ロビーの片付けは終了、これからドラゴンブラッドの回収に向かう。」

 

 

インカムに向かって報告をするニーズヘッグと言う男にインカム越しに返答があった。

 

 

「此方ファブニール了解、予定ポイントで待機中、誘導してくれれば此方で片付けるよ?」

 

 

女の声だった、静かなその声で提案をして来る。

 

 

「了~解、俺はドラゴンブラッドの回収だけさせてもらうぜ?」

 

 

「うん。」

 

 

ニーズヘッグはインカムを切ると上に続く階段へと歩み寄る。

 

最上階まで優に15階は在りそうな長い階段、吹き抜けのその階段を見たニーズヘッグは事も無さげに言う。

 

 

「チョロいな。」

 

ドン!と言う爆発音に近い音の後、ニーズヘッグの姿は最上階の手摺の上に在った。

 

其処から一直線のVIPルームの前には暗闇を携帯のライトで照らすマフィアの部下の姿が。

 

ニーズヘッグは腰の後ろに着けた大型ナイフを抜くと、一直線に部下達に襲いかかる。

 

誰もが声を出す暇も無い程の速度で絶命した。

 

その勢いのまま大きな扉を蹴破れば、其処にはスキンヘッドの男がアタッシュケースを抱えて逃げ出す寸前だった。

 

 

「だ、誰だ貴様!」

 

暗闇の中の襲撃者に光堂の顔は恐怖に染まっていた。

 

 

「誰かと聞かれて答える馬鹿が居るかよ…強いて言えば、代行屋だよ。」

 

光堂の顔が青ざめる、この東京で真しやかに流れる噂、代行屋、金次第で様々な依頼を代行する連中、その中でもこれ程の腕前の人間を光堂は1組しか知らない。

 

 

「ま、まさか九頭龍の…双竜!」

 

「へぇ~良く知ってるな、おっさん。」

 

 

ニーズヘッグの口元が三日月に歪む、手にした大型ナイフが僅かな月明かりに鈍く光る。

 

恐怖に震える光堂は最終手段に出る。

 

手にしたアタッシュケースを思い切りニーズヘッグに投擲したのだ。

 

「うおっ!」

 

流石に予想外だったのかアタッシュケースを受け止めたニーズヘッグの動きが止まる。

 

その隙に光堂は見た目より遥かに俊敏な動きでニーズヘッグの横を抜け、蹴破られたドアから廊下に出た。

そして廊下の端にあるエレベーターに乗り、扉が閉まった瞬間、光堂は自分の生存を確信した。

 

このまま屋上の上がり待機させてあるヘリに乗り込めばいかにあの男と言えど追っては来れない。

 

 

「ファブニール、予定通り誘導したぜ?」

 

 

これも予定通りだとも知らずに。

 

エレベーターの扉が開き屋上に飛び出した光堂、自分の悪運にガッツポーズし、ヘリのハッチに手を掛けた瞬間、彼の意識は途絶えた。

 

ヘリのパイロットが見たのは首から上が弾けた光堂の姿だった。

 

「えっ?」

 

理解するより速くパイロットの意識も途切れた。

 

狙撃されたと気付いたのは死ぬ間際の刹那だった。

 

 

 

そんなホテルから1キロ以上離れた廃ビルの屋上で女が笑っていた。

 

 

「天国に行けると良いね?」

 

 

愛銃の特殊改造されたヘカートのスコープ覗き込みながら女、ファブニールは片付けに入る。

 

夕焼けの様なオレンジの長髪を夜風にさらしながら紅い瞳は彼方で仕事を終えた相棒の姿を捉えていた。

 

 

インカムから聞こえる相棒の仕事終了の声にヘカートを解体しながら答える。

 

 

「久々に実入りの良い仕事だったし、何か美味しい物、食べたいな~。」

 

 

「仕方ない、じゃあ焼き肉でも行くか?」

 

 

その言葉にファブニールの目が輝く。

 

 

「やった~!ならこのまま1度着替えて駅前で集合ね?」

 

 

ファブニールはそう言うと荷物を纏め、屋上から飛び降りた。

 

 

 




後程設定と用語、募集を掛けます


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チュンチュンと窓の外からする世界の闇などとは無縁の呑気な鳥の鳴き声に重い瞼が開く。

 

夏宮芹の朝は一般人より遅めの午前10時にスタートした

 

昨日は夜遅くに仕事を終え、深夜営業の焼き肉チェーン店でたらふく食事をした後に帰路についた。

 

「よく寝た~。」

 

決して広くは無い私室のカーテンを開け、日の光を浴びながら部屋を見渡す。

まあ自営業なので決まった時間に縛られ無い強みを全力で行使しながらも軽く身支度を整える。

 

此処は彼女達が拠点とする雑居ビルの三階にある彼女の私室。

 

一階には喫茶店が入っており、二階を表稼業の探偵事務所として使っている。

 

 

 

元々は相棒の飛鳥の部屋であったが三年前に芹が住む事になった時に彼が与えた物だった。

 

 

「にしても、大分ごちゃごちゃして来たな。」

 

ベッド脇の机の上には昨日使ったヘカートが整備の為置かれている。

更に壁には弾は抜いてあれども、ワルサーやコルトパイソン、果てには部屋の隅に置かれたロケットランチャーまで、武器商人の様なラインナップが並ぶ。

 

「今度飛鳥に片付け手伝ってもらおう。」

 

 

絶対に嫌そうな顔をする相棒に何をあげたら手伝ってもらえるか思案しながら二階に降りて行く。

 

 

二階の事務所には神藤探偵事務所と書かれた掛札が吊るされている。

 

合鍵を使い中に入ると、来客用のソファーには男が1人眠っていた。

 

此処の所長、神藤飛鳥である。

労働は1日1時間と書かれたシャツのせいで威厳も何も無いが一応所長である。

 

 

芹はとりあえず飛鳥を起こさない様に事務机に座りパソコンを開く。

 

秘匿のアドレスに昨日の依頼人に仕事の完了と詳細を添付した報告書を作成、そして情報漏洩の防止の為にメールを1度開くと2度と読めなくするウイルスを添えて送信する。

 

それが終わると時刻は既に昼に差し掛かっていた。

 

流石にそろそろ相棒を叩き起こそうと席を立つと同時に台の上に置かれた飛鳥の携帯が鳴る。

 

慌てて起きた飛鳥はソファーから転げ落ち、机の角に頭をぶつけてのたうち回っている。

 

「イテェ!」

 

 

「何やってるのよ~。」

 

仕方なく代わりに携帯に出る芹。

 

 

「はいもしもし?」

 

すると電話の向こうから野太い声が聞こえて来た。

 

 

「あらおはよ!今回はお疲れ様~。さっきメールは確認したわ~!クライアントも大満足よ~!」

 

やけにハイテンションなオカマ口調の喋り方に芹は電話に出た事を若干後悔しながら答える。

 

 

「お、おはようございます田中さん」

 

 

「ノンノン!そんな昔の名前はもう捨てたわ~、今の私はミスフローラルよ~!」

 

多分電話の向こうで変なポーズ決めてる彼、イヤ心は乙女の彼女?ミスフローラルこと田中剛三郎は芹がこの仕事を始めて以来の馴染みの深い仲介屋だった。

表の顔はカマバーのマスターでモヒカン頭の筋骨隆々の大男、でもフローラルの名に恥じぬ程良い匂いがするし、メイク等の美容に関しては、芹の師匠的存在である。

 

「はぁ…」

 

疲れた声に即座に田中が反応する。

 

 

「あら?疲れた声ねぇ、昨日の相手位ならウォーミングアップ位だと思ったんだけど…ハッ!昨晩のナニが激し過ぎてお疲れなのね~!ごめんなさい私ったら、でも気を付けてねナニをする時は避妊を忘れないでね~キャ~~!」

 

何か彼の脳内では私達はあられも無い姿なのだろうと長い付き合いから予想しつつ、会話を切る。

流石に飛鳥も痛みが取れたのか床から起き上がる。

 

「で、本題は何ですか?」

 

 

若干怒気を含んだ声に田中は本題を切り出す。

 

「あらヤダ私ったら本題を忘れてたわ、2人には迷子の仔猫探しを依頼したいのよ!」

 

 

それを聞いた2人の表情が変わる、これは田中の使う隠語であり、裏稼業の依頼の事だ。

 

 

「受けるかどうかは2人が決めて頂戴、一応お店の方に顔を出してくれると嬉しいけど」

 

それだけ言うと電話は切れた。

 

 

「仕方ない…行こっか?」

 

 

「だな、話だけでもな…」

 

 

2人は直ぐに準備を終え事務所を後にした

 

 

 

 



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依頼

とりあえず博多豚骨ラーメンズ読みながら書いてます。


事務所を出た飛鳥と芹はタクシーに乗り、目的の場所へと向かう。

 

其処は所謂飲み屋街、朝早い時刻の為殆どの店は閉まっている。

人気の無い道を歩く2人は会話も無く1つの店の前にたどり着く。

地下に造られた簡素な造りの店、カマバーアンジュこそが2人の目的地だった。

 

「お邪魔します。」

 

「邪魔するぜ?」

 

クローズと書かれた掛札を無視し店内に入れば其処にはアンティークな造りのバーがあった。

そのカウンターにいる身長2メートル以上の筋骨隆々のモヒカン頭が此方に顔を向ける。

 

「邪魔するならお帰り下さ~い」

 

オカマ口調での返答に2人は

 

「「お邪魔しました~」」

 

とお決まりの返答と同時に回れ右して階段方向に向かう。

 

 

「待って待って~、ノリが良いのは分かったから帰らないで~。」

 

やけに良い匂いのする太い腕に2人纏めて抱き止められ店内へと引き摺られて行く。

 

そのままカウンター席に座らされた2人に安堵の表情を浮かべて、店長の田中は店の鍵を内側から閉めた。

 

「2人とも来てくれてありがと!」

 

ウインクを飛ばしながら早速とばかりに2人の前に資料を出す。

 

 

「これが今回の依頼か?」

 

田中がコクッと首を縦にふる。

其処には数枚の紙に依頼人の顔写真と依頼内容、報酬等が記載されていた。

 

「依頼人の名前は大神紫苑、都内の有名アパレル企業の若き社長、依頼の内容は数週間前に亡くなった姉の敵討ちの代行…報酬は前金百万円、成功報酬百万円か。」

 

「敵討ちの相手は久遠正美、都内在住のフリーター、数週間前仲間と共謀し依頼人の姉を拉致、性的暴行を加えた後に遺体を海に捨てた…酷い…」

 

同じ女性として犯人に明確な怒りを示す芹の横で飛鳥が田中に疑問を投げ掛ける。

 

「相当優秀な情報屋を雇ったみたいだな依頼人は、だがこれだけの証拠が有れば無能な警察連中でも逮捕位出来るだろうに?」

 

 

するとその質問が来ると分かっていたとばかりに田中はため息をつく。

 

「犯人の血縁の部分読んで見なさい、ため息が出るから。」

 

 

「何だよ?」

 

 

其処には詳しい犯人の血縁関係者の名前と職業が載っていた。

 

 

「「あぁ~納得…」」

 

 

其処には犯人の父親の職業の欄に警察庁の幹部を示すデータが載っていた。

つまる所、いくら証拠を並べても上からの圧力によって全て揉み消されてしまうのだ。

それだけ今の司法機関等は腐敗が進んでいた。

仮に裁判に持ち込めたとしても金によって無罪にされて終わるのが関の山だった。

そして依頼人はそのせいで裏稼業に頼るしかなかったのだろう。

 

「依頼人からの依頼としては犯人とそれに加担した連中全員、そして証拠を消したその父親の抹殺よ、姉の苦しみより何倍も苦しめて殺してくれって泣きながら話していたわよ。」

 

伏せた瞳を上げながら田中は飛鳥達の方を見る。

 

「受けてくれるかしら?」

 

 

「「任せて!/任せておけ!」」

 

2人はカウンター席を立つと店の外へと向かった。

その背中には怒気が漂っていた。

 

「犯人の方は私がやるけど良いよね?」

 

「じゃあ俺は父親の方だな、ヘマすんなよ!」

 

「そっちこそ!」

 

互いに拳を突き合わせて笑みを浮かべる、その笑みの下に獰猛な怒りを隠して。

 

一旦準備の為に帰路についた2人を見送りながら田中はカウンターの上の書類に火をつけて燃やす。

 

「自業自得とは言え御愁傷様ね、あの2人は滅多に怒らない分怒った時はどんなマフィアよりも恐ろしいのよ、特に芹ちゃんは今回マジギレっぽかったし本当の意味で逆鱗に触れたわね~くわばらくわばら」

 

 

 




今回から簡単な次回予告付けようかな?


汝その邪龍を起こすことなかれ

それは今より闇が深い時代、それは闇の暗黙の掟だった。

嘗ては邪龍、そう呼ばれた女はある日を境に組織から姿を消した。

僅かばかりの日だまりの中で女は安寧を得た。

しかし今、愚者はその逆鱗に触れた、ならば辿る末路は1つだけ。

汝ら刮目して見よ、今再びの絶望を

次回、雷鳴の邪龍


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雷鳴の邪龍

とりあえず格闘技の描写の為にケンガンアシュラ全巻買って来た、皆も面白いから読んでね!


その晩、芹の姿は都内にある小さな廃工場の入り口付近にあった。

 

対象が2人の為、飛鳥とは今回は別行動である。

 

キャミソールにローライズジーンズという春真っ盛りの時期にはいささか早すぎる格好だが、龍人の彼女には多少の寒さなど関係無い。

 

工場の入り口付近には見張りだろう、半グレ程度の男が2人入り口の前でキョロキョロしている。

 

(情報の通りかな、一般人のクセに良く調べたな、あの人)

 

事前にコンタクトを取った年上の情報屋を思い浮かべながら、そろそろ始めるかと入り口に近付く。

 

 

「すみませ~ん、久遠さんに此処に来るように言われたんですけど~。」

 

入り口前の2人が芹に近付く。

 

「お前は?」

 

香水臭い男が2人芹の身体を全身嘗め回す様に見る。

 

 

「久遠さんの後輩の林です、良いバイトが有るから紹介してやるって言われて来たんですけど。」

 

 

すると男達はああ、あれの事かと互いの顔を見合わせる。

しかし男達は少し考えた後おもむろに話を切り出す。

 

 

「お前も物好きだな、あんな危ないバイトに手を出すより、俺達と向こうで楽しい事しねぇか?金もたっぷり出すからよ!」

 

 

性欲を隠そうともしない男達の視線を無視しながら芹は演技とは言え満面の笑みで返す。

 

 

「えっ!良いんですか?私お金無くって困ってたんですよ~。」

 

猫なで声に気を良くした男達は芹の腕を掴んで人気の無い方へと連れて行く。

 

 

廃工場脇の元は社宅だったであろうボロい建物、その中へと先導された芹は再び猫なで声で聞く。

 

 

「ところでさっき話してた危ないバイトって何ですか?私何も聞かずに来てしまったので…」

 

不安そうな女に良い格好でもしようとしたのか片方の男が頭を掻きながら答えた。

 

 

「何でも最近仕入れた新しいヤクの実験らしくってな?適応する奴がいれば1人頭億の金を出すらしいんだ!頭イカれてるよな、失敗すれば死ぬのによ。」

 

 

芹の表情が驚愕に変わる、そんなドラッグはこの世に1つだけ、ドラゴンブラッドだけだ。

と言う事は今工場の中で行われているのは

 

 

「人体実験…」

 

 

「でも大丈夫だろ、俺らと遊んでれば無事な訳だし、と言う事で早速!」

 

男達が空き部屋に芹を押し込もうとした時だった、バスッ、バスッと言う空気の抜ける様な音と共に男達の眉間に風穴が空いた。

手を離した一瞬の隙にカバンに忍ばせた魔改造済みのPSS拳銃を速射、男達を物言わぬ骸に変えた。

 

「悪いけど趣味じゃあ無いの!」

 

芹は慌てて工場の中が見える窓の側に近寄る、暗い工場の中だが問題は無い、龍人の中でも取り分け眼の良い彼女にとって多少の暗さは関係無い、視力、動態視力、視野、夜眼、彼女の眼はあらゆる環境に対応出来る。

 

 

(工場の中に男が6、女が4、1人は久遠か……壁の所に誰か居る…吊るされてる?実験に使われた人か!)

 

芹は当初のプランをかなぐり捨て、工場の窓を蹴破る為に駆け出した。

 

 

 

 

 

彼女、西野咲は端的に言って運の悪い女だった、都会に憧れ友人2人と観光に来た田舎育ちの高校生、田舎には無い大きなビルに圧倒されながら、観光に花を咲かせていた。

すると少しガラの悪そうな男性が話し掛けて来た。

彼は久遠を名乗り、芸能事務所のスカウトだと言い咲達3人をべた褒めした後、事務所に案内された。

そして事務員さんに出されたコーヒーを飲んだ後、彼女の意識は途切れた。

 

 

気がつけば埃臭い廃工場の中で鎖で腕を拘束され吊るされていた。

 

3人が起きたのを確認した久遠はおもむろに僅かに紅い液体の入った注射器を持ってニヤニヤと近寄って来た。

 

一番最初に注射されたのは活発な幼なじみだった。

彼女の変化は一瞬だった、声を出す暇も無く全身の筋肉が異様に膨張を始め、その圧力で自身の骨や内臓を潰しながら巨大化し、最終的に出来損ないの水風船の様になってしまった。

 

 

それを見たもう1人は泣きじゃくりながら暴れたものの数人に取り抑えられ注射器を射たれた。

此方の変化も一瞬だった、全身の穴と言う穴から血液が吹き出し、あっと言う間に木乃伊の様になってしまった。

 

 

そんな2人を見て嗤う久遠達に咲は最後の抵抗として涙を流しながら睨みつける。

 

「そんな睨むなって、お前は当たりかも知れねぇだろ?」

 

注射器が迫る、この世に神様が居るのならどうかこの人達に裁きが下りますようにと心の中で叫びながら咲は全てを諦めた。

 

その瞬間、ガシャンとガラスの砕ける音と共に裁きの女神が舞い降りた。

 

それは夕陽の様な長い髪に露出の高い服、手には1丁の銃を持った女、夏宮芹だった。

 

芹は一瞬で状況を判断すると、引き金を引いたのすら認識出来ない速撃ちで久遠の注射器を持つ腕に風穴を開けた。

 

 

「ギャアアア!お、お前!何者だ!俺にこんな事して!パハが黙って無いぞ!」

 

のたうつ久遠を無視し吊るされた咲の方に近付き鎖を的確に撃ち抜き、咲はそのままなす術無く落下する。

それを芹は片腕で受け止めて立たせると咲に1枚の紙を手渡す。

 

「あの窓から逃げて、十分離れたら此処に連絡して!必ず助けてくれるから!」

 

呆然とする咲を窓の方に有無を言わさず押しやる。

 

 

「逃がすか!」

 

当然他の半グレが逃がすまいと窓の方に向かうがその足を弾丸で止める

 

「ヒッ!」

 

咲はその間に窓から外に出た。

 

 

芹は残った半グレ達の顔を見渡し、全員が事件に関わった人物である事を確信する。

 

そんな芹の背後に久遠と数人が回り込み芹を取り囲む。

 

いかに相手が銃を持っていようと10倍近い人数で囲えば普通始まるのはただのリンチだ。

オマケに芹は7発しか無い弾丸の内4発は既に使っている。

リロードの暇を与えないつもりだろう。

 

「テメェ嘗めた真似してくれたなぁ!女に産まれた事後悔させてやる。やっちまえ!」

 

傷口を抑えた久遠が半グレ達に指示をとばす。

 

そんな状況でも芹は嗤う、嗤う。

 

無知蒙昧とはこの事とばかりに内心で嗤う。

 

弾が足りない程度で、数が10倍程度で半グレごときが九頭龍にかなうと思っている事が可笑しくて堪らない。

 

「良いわよ…一方的な暴力を見せてあげる。」

 

 

芹は顎の下、喉の辺りに爪を起てる。

 

「逆鱗…解放!」

 

芹の瞳孔が爬虫類の様に縦長に変わる、瞳は更に紅く爛々と輝き芹の周りに青白い何かが迸る。

 

 

その瞬間久遠は目映い光に眼を焼かれた、最早その眼は機能しない。工場の中屋根や壁までもが吹き飛ぶ程の威力、爆音に久遠の鼓膜は破れ何も聞こえない。

彼は運が良かった、唯一芹から距離をとっていたから光の直撃は避けられたのだ。

若しくは芹が狙ってそうしたのかも知れないがどうでも良い事であった。

 

彼女の周りから放出されたそれは、音の440倍の速度を持ち1億ボルトの電圧、そして1ギガジュールのエネルギーの塊、人はそれを雷と呼ぶ。

 

彼女に近付き過ぎた半グレ達は身体を内側から焼かれプスプスと煙をあげながら朽ちて行った。

 

芹は疲れた顔をしながら久遠に近付いて行く。

 

その時彼女の足下に何かが転がって来た。

 

それは先程久遠が落としたドラゴンブラッド入りの注射器だった。

 

芹はそれを拾いあげると全身に火傷を負いながらミミズの様に逃げようとする久遠を踏みつけて止めた。

 

 

「助。げ、で、死にだぐ…ない!」

 

 

必死の懇願をする久遠を見る芹の瞳は熱を持たない何処までも冷たい瞳をしていた。

 

 

「貴方が軽い気持ちで奪った命達も、死にたくなんかなかったはずよ。」

 

芹は久遠の首筋に深々と注射器を射し込んだ。

 

ドラゴンブラッドを射たれた久遠の身体は全身の骨が溶けた様に薄いスライムの様になってしまった。

 

芹は久遠達に興味を無くしたかの様に立ち去ろうとしたがその時助けた少女の横に吊るされていた他の被害者の遺体に目が行った。

 

醜く歪められオマケに自分の雷撃で爛れたそれにそっと手をあてた芹は心の中で被害者達に黙祷を捧げる。

 

(ごめんなさい、私がもっと速く動いていれば助けられたかもしれないのに。)

 

悔やみは尽きないがこうしている間にも爆音を聞き付けた近隣住人が集まって来ている、芹は壊れた壁から外に出ると夜の闇に消えて行った。

 

 

例えどれほど強い力が有っても救えるモノなど一握りなのかと涙を流しながら。

 

 

 

 

 

 




次回予告

逃がさない、どれだけ遠くに逃げようと必ず見つけ出してその喉笛を食いちぎる。
世界樹の根の如く我が牙は全てを穿つ。

次回 黒龍の牙


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黒龍の牙

雨がしとしと降る東京の首都高、久遠の父親は息子の凄惨な現状など知るよしもなく首都高をお気に入りのアストンマーチンで法定速度を無視して走らせていた。

 

(しかし連中も良い買い物をしてくれたものだ!)

 

それは久遠の父が数年間から上客としている海外マフィアの事である。

彼らに警察の内部情報を売るだけで自分の年収の何倍の額の金と手付金にとこんな高級車までくれるのだ、警視の自分なら多少の無茶は効くし、金を出せば大抵の罪は揉み消しが効く。

 

かわいい息子のヤンチャの後始末位楽なものである。

 

気ままにハンドルを切るが、その時漸く彼は違和感に気づいた。

現在の時刻は土曜日の午後6時である、普通なら首都高は混み合いこれ程スムーズに進む事は不可能だろう。

 

(まあ此も私の運のなせる業か!)

 

傲慢に笑いながら彼は狩り場へと進んで行った、その先に黒龍が口を開けて待っているとも知らずに。

 

 

 

軽快に車を走らせているとあり得ない事が起きた。

コンコンと誰かが車の窓を叩いたのだ、何かが当たったのだろうと無視しようとすると、先程より強くゴンゴンと窓がノックされた。

 

驚いて外を見た久遠父はあり得ないモノを見た。

 

人だった、息子とそう年の変わらないであろう男が時速100キロ以上で走る車に並走しているのだ。

 

視線が交差した瞬間男は窓に思いきり拳を叩き込み窓ガラスを粉々にした上でハンドルを掴み車はそのまま壁にぶつかり車体を傷付けながら停車した。

 

挟まれたかと思われた男は無事な姿で前に立っていた。

 

割れた窓ガラスで頭を切ったのか血を滴しながら久遠父は怒りの形相で相手に怒鳴る。

 

「貴様!私を誰だと思っている、この車の価値も分からん餓鬼が!」

 

 

車の前に立つ男に対して唾を吐く

大切な車を傷付けられ、相手が車と並走していた事実はすっかり頭から抜け落ちていた。

 

それに対して男は嗤う。

 

「別に自分で買った物じゃあ無いんだ、傷んだ所であんたには損害は無いだろ?警視さん?」

 

蔑んだ様に自分を見て来る男に更に怒りが湧く。

 

「マフィアに情報を売って得た物に何の価値が有る?」

 

自分の所業がばれている事に焦りを覚え車を発進させようとした時だった。

 

ドゴン!!!

 

爆発に近い轟音と共に久遠父は天井に頭を打ち付けた。

訳も分からぬまま今度は一瞬の浮遊感と強烈な下への力を感じた瞬間、身体が潰れそうな衝撃が全身を襲う。

 

久遠父は自分が車ごと蹴り上げられたのだと理解すら出来なかっただろう。

 

エアバッグにより何とか肋を折った程度で済んだが、本当の地獄は此処からだった。

 

「まだ終わらねぇよ!」

 

 

ドゴン!ドゴン!ドゴン!

 

続け様に今度は横に3回まるでサッカーボールを蹴るかの様に超重量の高級車がぼろぼろになりながら首都高を転がる。

 

(このままじゃあ…殺される!)

 

歪に歪んだ高級車、エアバッグ等最早拘束具でしか無い

 

這い出る事も叶わず、歩み寄る男にカチカチと歯の噛み合わぬ音で恐怖を表現するだけの久遠父にその時希望の光が射した。

 

近づくパトカーのサイレン、久遠父は自分の悪運に感謝した。

 

ピタリと男の動きが止まった、そして直ぐに複数のパトカーが男の背後に止まる。

 

(やった、私は生き延びた!)

 

歪んで上下逆さになった車の窓から見たパトカーの中から高齢の男性が部下を連れて出てきた。

 

 

「待て飛鳥、そこまでだ。」

 

飛鳥と呼ばれた男は仕方ないとばかりに手を上げた。

 

 

「助けてくれ!そいつに殺されそうになったんだ!速く捕まえて、いや射殺してくれ!」

 

高齢の男性に強い口調で言えば、男性からは何故か冷たい瞳が返って来た。

 

 

「君は、誰に命令している…」

 

 

「そんなの、そこのお前に…」

 

 

そこで漸く気づく、男性の顔に明確な見覚えがあったからだ。

 

「警視庁…長官…」

 

 

そうこの男性こそが現警視庁長官神藤鷹文その人だった、当然階級など遥か上の相手に強く出れる筈もなく言葉は尻すぼみになる。

 

 

「それに飛鳥を止めたのは、何も君を生かす為では無い。」

 

 

「へっ?」

 

その顔に絶望が走る。

 

 

「息子を殺した糞虫の最期を見届ける為だよ…」

 

 

「そ、それは!」

 

 

久遠父は三年前に自分とマフィアの癒着を調査していた警察官を1人マフィアの手を借りて返り討ちにしていた。

よく見れば長官の後ろで待機する連中も、その警察官の部下達だった。

 

すると飛鳥と呼ばれた男が再び歩き出し、割れた窓ガラスから驚異的な力で久遠父を引き摺り出す。

 

 

「へぇ~、コイツが親父の追ってたゴミ野郎か…」

 

そこでこの男達の関係に気づく。

 

「まさかお前、あの神藤鴻一郎の息子!?私に復讐する為に!?」

 

 

しかし飛鳥の目には幾ばくかの怒りも無かった。

 

「いいや?此はあんたの息子が引き起こした事件の被害者からの依頼だ、俺の私情は含まねぇ。」

 

 

「ま、待ってくれ私にはまだ息子が…」

 

 

すると飛鳥は鼻で笑う。

 

「あんたの息子ならさっきうちの相棒が片付けたよ、地獄は寂しいらしいからな、あんたも案内してやるよ。」

 

 

飛鳥が久遠父を空中に放る。

 

「長官!貴様!殺人を見逃す気か!」

 

 

狂乱した叫びにも鷹文の目は動じない。

 

 

「腐敗を取り除く為なら私は悪魔とでも手を結ぶ!」

 

 

何か最期に叫ぼうとした久遠父の胴体に音を越えた回し蹴りが炸裂する。

全身の骨を砕き、大好きな車に突撃肉片となり絶命した

 

「……ワリイな爺ちゃん、後始末は任せるわ!」

 

 

「身内の不祥事にお前を駆り出したのだ、当然の対価だ。」

 

2人は逆の方へと進んで行く、2人の目指す未来の遠さに辟易しながら。

 

 

 

 

事務所に戻ると灯りが点いていた。

 

 

「終わったぞ~。」

 

 

中に入る、しかし芹からの返事が無い。

 

 

部屋を見渡せば奥のシャワーの灯りが点いていた。

 

ああまたかと長椅子に座り携帯を弄っているとシャワーからタオルで髪を拭いた芹が出てきた。

 

「あ…お帰り…」

 

何処か歯切れの悪い言葉に飛鳥はポンポンと長椅子の隣を叩く。

 

芹が座るのを確認すると、話を切り出す。

 

 

「何があった…」

 

芹の肩がビクッと跳ねる。

 

「な、何も無いよ…」

 

 

「目の腫れを隠してから嘘つけ馬鹿野郎!さっきまで泣いてたのバレバレなんだよ。」

 

それは芹の癖の様なものだった、仕事で何かあるとシャワー室で隠れて泣くのだ、それが自分ではどうしようも無い事だとしても責任感の強い芹は勝手に1人で抱えてしまうのだ。

 

「………今日の仕事で、またドラゴンブラッドの被害者が出たの……私がもう少し速く動いてたら、助けられたかもしれないのに…」

 

「この世界にたらればは無い、起きた事実は変わらない、だから1人で何でも背負うな。」

 

 

飛鳥はそう言うと芹に少しだけ背中を向けた。そこが世界でも数少ない芹の泣ける場所だった

 

すると芹はうつむきながらその背中に身体を当てた。

 

「うん…ごめん…でも少しだけこのままで」

 

背中から聞こえる嗚咽を聞きながら、飛鳥は明日芹の好きなスイーツでも買って来てやるかと、背中に感じる2つの膨らみに負けないよう別の事を考えながら夜はふけて行った。

 

 

プロローグ完




次回予告

街で頻発する複数の通り魔事件、複数の現場での同時発生に手の回らない双竜
その時頼もしい仲間が駆けつける

「お金貸して下さい」

本当に大丈夫か?これ。

次回、青龍出撃


次回からどんどん募集キャラを出して行きます



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青龍出撃

今回から投稿して頂いた皆さんに続々登場していただきますので宜しくお願いします。


神藤探偵事務所のある1日

 

 

「「どうすっかな~/どうしようかこれ…」」

 

 

飛鳥と芹は机の上に置かれた2枚の書類を前に首を捻ってにらめっこしていた。

 

「まさか同時に別の仕事が入るとは…」

 

 

「しかも片方は男女2人で来いって言われてるし…」

 

片方は飛鳥の祖父からの依頼で密売組織との癒着が疑われる大物議員の主催するパーティーに出席し、証拠となる物を回収して欲しいと言う潜入捜査の依頼。

 

もう1つは知人の議員からの依頼で今巷を恐怖のドン底に落としている連続殺人事件の捜査。

 

普通2つ目の依頼等は警察の領分だが、今回は相手が相手だけに警察もお手上げなのだ。

其処には数枚の写真も貼付されていた。

被害者は全員ある高校の学生、凶器は重さが数百キロは有りそうな鉄骨、皆顔の判別が着かない程に酷い有り様だった。

被害者達はいわゆる不良集団で、夜遊び等を常日頃から行う決して素行の良い人間では無いが、流石に此はやり過ぎだと2人は思う。

 

「新には電話して、ヘルプに入ってもらうとして…」

 

「飛鳥と新君に潜入の方を頼んで、もう1つの方は私が行こうか?」

 

新と言うのは2人と同じ九頭龍の1人、黄龍の称号を持つ男性であり、潜入捜査等は得意分野だった。

 

「だがな…こんな殺しを出来る奴が普通な訳が無い、十中八九ドラゴンブラッドの適合者だ。」

 

「…うん、分かってる。」

 

危険ドラッグドラゴンブラッドは適合者以外が服用するとたちどころにその命を落とす。

 

しかし数千分の1の確率で適合者と呼ばれる存在が現れる。

彼らは覚醒後、凄まじい膂力や頭脳を手に入れる。

回復能力などに至っては真の龍人に迫るものを持つ。

 

当然だが一般人がそんな力を手にした所で、何の代償も無い訳が無く、彼らはテロメアを急速に削りながら力を発揮するのだ。

それ故に彼ら適合者の寿命は1月持てば長い方だと言われる程に短くなる。

 

「無理だと判断したら躊躇わずに殺せるか?」

 

「………」

 

それは芹を心配しての発言だった。

 

芹は戦闘では逆鱗以外は殆ど銃に頼る、此は言い換えれば芹の攻撃力は多少改造でかさ増ししてはいるが銃の火力にイコールになる。

 

一般人相手ならそれで十分だが、適合者相手ともなるとそうも行かない。

多少の傷は直ぐに治ってしまう為、頭か心臓を狙うしかなくなる。

芹は過去のある事件から適合者には殺意を向けられないのだ。

 

「やっぱり俺が…」

 

そう言いかけた時、ピンポーン!と入り口のインターホンが鳴る。

そして2人の痣が青白く光る。

 

「!私出てくるよ…」

 

芹はソファーから立ち上がり、入り口に向かう。

扉を開けるそこには芹とそう背丈の変わらない女性が立っていた。

 

背中まで伸びた黒髪を纏めたその女性は2人と同じ深紅の瞳で此方を見ていた。

 

「彩さん!どうしたんですか?こんな朝早くに。」

 

女性安倉彩、青龍の称号を持つ彼女は芹の先輩の様な存在であり、いつもは父親の遺した道場を運営しながら、たまに裏の方にも顔を出していた。

 

「…今日は2人に相談がある…」

 

「は、はあ、とりあえず中にどうぞ…」

 

芹に案内され事務所の中に入り、飛鳥の対面に彩を座らせた芹は飛鳥の隣に座り、話を待つ。

 

「相談と言うのは他でも無い…お金を貸して下さい!」

 

その瞬間飛鳥と芹はずっこけた。

まあ彼女のこう言う事は決して珍しい物では無いのだが。

 

「また門下生に逃げられたのか彩さん!?」

 

「ええ、今度は1月足らずで…。」

 

眉間に皺を寄せたその表情は一見怒っている様だが、実際の所凹んでいると言った方が正しいのだろう。

 

彼女の教える剣術道場は門下生が長続きしない事で有名だった。

大抵の剣士はその厳し過ぎる鍛練に直ぐに折れてしまい夜逃げ同然で辞めてしまうのだ。

プラスで言えば彼女の必要最低限の会話しかしない社交性の無さも長続きしない原因かも知れないが。

そんなこんなで彼女はよく金欠になる、その為やむにやまれぬ時は近所の危ない黒服さん達の用心棒等をして生活しているのだが、近頃は例の殺人事件で黒服さん達の仕事も閑古鳥が鳴いており、彼女も商売あがったりであった。

 

そんな話を聞いた芹の頭に電流が走る。

 

「彩さん、今日の晩一緒に仕事して貰えませんか、依頼が立て込んでて、報酬は此くらいなんですが。」

 

パチパチと電卓で報酬の話をすると彩の眼に少し明るさが戻った。

 

「殺しはしないけど良い?」

 

「はい、では詳細はメールで送っておきますので、今晩9時に指定の場所で。」

 

 

その晩彩と芹はある公園にいた、其処はある情報屋から次の犯行現場になる可能性が高い場所の1つとして教えてもらった場所、時間についても犯行が全て夜9時以降だった事から当りをつけていた。

犯行現場は全て広い場所で人が集まり易く被害者の通う高校から一定距離の範囲内、近くに工事中か解体中の現場がある場所だった。

 

芹は横に置いたコントラバスのケースにはヘカートを上着と腰にコルトパイソンとグロックを装着し、彩は竹刀袋に入れられた刀と手には木刀が握られ完全武装していた。

そんな2人とは別に、もう1人飛び入りゲストが居たのは予想外だったが。

 

 

「何で長尾さんがここに居るんですか?私彩さん以外に声かけて無いんですけど?」

 

芹のジト目などどこ吹く風と男長尾一高は煙草を吹かせる。

年の頃三十路前後、茶髪に顎髭の男性はカメラを片手に立っていた。

 

「いやなに、自分で売った情報が外れていたら商売人としての名に傷が付く、それに1度は間近で見たいだろう、生の適合者って奴を。」

 

酷く楽しそうに笑うこの男は極度の快楽主義者だった。

その為なら命を文字通り懸ける程に。

 

 

(本音が漏れてる漏れてる…)

 

「何時相手が襲って来ても知りませんよ私、ッ!」

 

その瞬間2人の痣が歪に光る。

 

「来たぞ…」

 

其処には身の丈以上の鉄骨を片手で持ち上げる制服姿の少女が立っていた。

 

彩は即座に木刀を投擲、相手がそれを避けた一瞬の隙をつき、竹刀袋から刀を取り出す。

芹もヘカートを即座に取り出し構える。

 

「キキキキ、カカカ」

 

赤く濁った目で此方を睨みながら黒い髪を振り乱した少女は一足の元に距離を詰める。

そのまま縦一文字に鉄骨を振り下ろす。

 

「長尾さん、危ない!」

 

長尾は芹の声に反応し後ろに跳ぶが僅かに遅い、鉄骨が振り下ろされる。

頭を柘榴の様に割られるその刹那、長尾と鉄骨の間に影が差す。

 

ガキンッ!

 

手に持つ刀を使い鉄骨のベクトルを僅かにずらし長尾を助けたのだ。

 

「下がって!」

 

「すまねぇな嬢ちゃん!」

 

長尾が下がったのを確認した彩は八艘の構えを取る。

普通の剣士が先程の様な事をすれば、刀は容易く折れて柘榴が2つに増えるだけだが、彩の持つ超人的集中力がそれを可能にしたのだ。

 

今の彼女には世界が遅く見えていた、しかし彩の表情は優れない。

 

(あの鉄骨を何とかしないと、刀が先に折れてしまう)

 

そして巻き上げた砂塵の中から少女が姿を見せる。

再び鉄骨を振り上げたその瞬間。

 

ズガン!と言う音と共に鉄骨が少女の手を離れ地面に転がる。

少女の腕は衝撃で折れていた。

よく見ればいつの間にか距離を取った芹が援護射撃をしたのだ。

 

武器を失った少女に彩が踏み込む、迎撃しようと振るわれた左の肘を紙一重で掻い潜る、そしてその首に峰打ちする為に刀を反した瞬間、彩は信じられないものを見た。

 

先程の援護射撃で折れた腕が少女には似つかわしく無い程に膨れ上り、ガシッと刀の峰を受け止めたのだ。

瞬間、彩の視界が高速で回る、そして次の瞬間には横に投げ飛ばされていた。

 

 

「ガハッ!」

 

「グゥ!」

 

飛ばされて先で反応の遅れた芹とぶつかり、地面を転がる。

 

(聞いて無いぞ、ドラゴンブラッドにこんな力が有るなんて!)

 

 

クラクラする頭を押さえて立ち上がるが刀は少女の足下で隣の芹は利き腕の右がダラリと垂れ下がり鎖骨が折れているらしい。

回復は既に始まっているが、それを少女は待ってはくれないだろう。

 

(何とか刀を取って反撃したい所だが、さてどうしたものか…)

 

刀の所まで2秒、拾って振り抜くまで2秒、4秒の隙を探そうと彩は思考を巡らせる。

 

「此方だ化け物!」

 

その時響いた男性の声に彩も少女も一瞬視線をそっちに向けた。

 

「長尾さん!?」

 

自分に視線が向いた瞬間、長尾は手に持ったカメラのフラッシュを全開にして連写した。

 

暗い公園に激しい光が瞬く。

 

「ギャ、ギャ」

 

人語は話せていないが強烈な光に眼を焼かれたのだろう

 

龍人と適合者の大きな違いは五感や能力のオンオフが出来るか出来ないかにある。

 

「やるじゃない、見直した」

 

その瞬間には彩は既に刀を取って居合い抜きの構えを取っていた。

 

少女は身の危険を感じ巨大化した腕をバットの様に振るが、彩はそれを間一髪でかわすと少女の大木の様な腕を一閃の元に切り伏せた。

 

 

ズドンと巨大化した腕が地面に落ち大量の血が流れると同時に少女の体は元の大きさに縮んで行く。

 

彩は素早く自分の服の一部を切り取り止血を行う

 

傷の再生が始まっていた、腕を無くしたが少女は一命を取り留めるだろう。

 

(二度とドラゴンブラッドに何か関わるものか)

 

 

そう心に決めて少女を担ぐと芹と戻って来た長尾の方に向かって行った




一方その頃の飛鳥は

「お前一生それで生きて行けるよ。」


「ええ!?嫌ですよ僕人間苦手だし」


「お前は良い詐欺師になるよ」


「だから嫌ですよ!」


次回、黄龍潜入


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黄龍潜入

明けましておめでとうございます、本年も適当に更新して行きます


其処は都内随一の高級ホテル、飛鳥達は其処で行われるパーティーに出席する為、ホテルまで車で来ていた。

 

 

「今回の目標は金城昇、現政党のナンバー2で前々から黒い噂の絶えない議員だが、先日摘発された人身売買組織の顧客リストに名前が有った、その裏取りの為の証拠集めが今回の仕事だ。」

 

 

後部座席の女性に声をかける。

甘栗色の長い髪に白いドレスを着込んだ年若い女性。

 

「分かってますよ、僕がその男に近づいて証拠を押さえれば良いんですよね?」

 

 

返ってきた声は女性と言うにはいささか低い声だった。

 

 

「にしても相変わらずスゲェ変装テクニックだよなお前、見た目だけなら完璧に女だぞ。」

 

「まあ、僕の特技ですから。」

 

 

そう、後部座席に居るのは女性では無く、女装した男性なのだ。

 

 

千葉新、黄龍の称号を冠するこの男は変装次第で男にも女にもなれるのだ。

 

 

「あと、お前は今回のクライアントの義理の妹でパーティーに出席出来ない兄に変わって出席した箱入り娘って言う設定忘れるなよ?」

 

 

「飛鳥君は?」

 

 

「俺はお前の婚約者らしい。」

 

 

2人が最終確認を終えると丁度ホテルの地下駐車場に着く。

 

 

入り口にはホテルのスタッフが招待状を確認している。

 

 

新は事前に渡された招待状をスタッフに見せる。

 

「伊藤岬様ですね?」

 

 

「はい、兄に代わって挨拶に参りました。」

 

 

その声は完全に女性のものに代わっていた。

 

 

おまけに対応した男性スタッフ達の顔はほんのりと赤くなる。

 

皆少し夢見心地の様な緩んだ表情になり、ボディチェックも無しに新を通してしまった。

 

 

これが彼の持つ超人的能力、新は超人的魅力と呼んでいるが、その正体は匂いにある。

 

本来人が異性に引かれる時、一番先に反応するのは容姿や声等ではなく匂いから始まる。

 

匂い=フェロモンと言うのは異性を魅了する一番の武器とも言える。

彼はその時の変装次第で様々な異性を魅了するフェロモンを精製出来るのだ。

 

新が歩くだけで周囲の男性の顔がだらしないものに変わって行く。

 

「お前一生それで生きて行けるよマジで…」

 

 

後から来た飛鳥が新に耳打ちする。

 

 

「嫌ですよ、僕人間苦手ですし。」

 

 

そう言う新の顔は一瞬だけ本気で嫌そうなものに変わる

 

 

 

 

2人の足はそのまま会場の中央に居た七三頭の男、金城の元に向かう。

 

 

「金城様、本日はお招き頂きありがとうございます。」

 

完璧な所作で金城に挨拶をすると金城が新の方を見た。

 

 

金城も他の男と同じ様に顔を赤くしながら近づいて来る

 

 

「君は確か…」

 

 

「兄の代理で参りました伊藤岬と申します、以後お見知り置きを。」

 

 

金城には伊藤と言う名前に聞き覚えが有った、その妹ともなれば興味も出る、何せ見た目は一級の美女なのだ、金城の鼻の下も伸びる。

 

 

(まあ、中身は男なんだけどなソイツ。)

 

 

飛鳥は内心で笑いながら金城から視線を外し会場を見渡す。

 

 

(さっきから此方に向けられてる視線、誰だ?)

 

 

会場に入った時から飛鳥達に向けられていた視線、その原因を探すが人混みに紛れて判別しにくい。

 

 

飛鳥は周囲を警戒しながらパーティーの輪に入って行った。

 

 

 

 

2時間程してパーティーも終わりを向かえようとした時、金城が新の方に近づいて来た。

 

 

「伊藤さん、少々お話したい事がありますのでお時間よろしいですか?」

 

 

欲を隠そうともしない視線に内心でため息を吐きながら新はにこやかに返す。

 

 

「ええ、今日は1日オフですので。」

 

 

その言葉に金城が小さくガッツポーズしたのを2人は見逃さなかった。

 

 

「お前は良い詐欺師になるよ」

 

 

「だから嫌ですよ僕!」

 

 

小声の2人の会話も舞い上がった金城には聞こえていない。

 

 

「では此方に。」

 

 

新の尻を撫でる様にしてエスコートして行く金城に2人共鳥肌を立てていた。

 

 

 

部屋に案内された新はソファーに座ると、直ぐ様グラスと酒を持って金城が戻って来た。

 

 

「お酒はお好きですか?」

 

 

「はい、大好きです。」

 

 

金城はあからさまにアルコール度数の高いウオッカをグラスに注ぐと新に渡す。

 

話しなど方便で酒に酔わせた女性を好き勝手したいと言う欲が丸見えだった。

 

(まあ、こんな酒くらいじゃあ酔わないんだけど。)

 

酒を注ぎ終わり葉巻に火を着けようとした一瞬の隙を見逃さず新が動いた。

 

ポケットに忍ばせた自白剤と睡眠薬をブレンドした物を金城の酒に入れたのだ。

 

 

怪しまれない様に酒を呷ると金城も酒に口を着けた。

 

効果はすぐだった。

 

 

金城はフラフラと前後不覚に陥り、台に突っ伏せる様に寝落ちした。

 

 

新は金城の側に近づいて行く。

 

 

「お前が関わった人身売買組織の資料は持っているな?」

 

 

「……カバンの…中…」

 

 

 

新が金城のカバンを調べる。

 

 

二重底になったカバンの中から薄型のパソコンを見つけた。

 

 

「他には無いか?」

 

 

「他には…」

 

 

そう言った瞬間新の背中に何か嫌な予感が走った。

 

新はパソコンを抱えて即座にその場から飛び退く。

 

次の瞬間、窓が割れ金城の頭が弾けた。

 

 

(狙撃!?)

 

新は部屋の隅に寄り、金城のカバンに近づいて行く。

 

バン!

 

もう1発の弾丸が金城のカバンを貫通した。

 

中に有ったディスクの様な物の破片が飛び散った。

 

 

(やられた、もう1つの証拠が!)

 

 

新は悔しがるが先程の音もある、もうすぐ人が来る、新は即座に入り口から飛び出ると1度トイレに駆け込み自分のカバンの中から男物の服一式を取り出し直ぐ様着替える。

 

カツラを外し持ち出したパソコンをカバンに詰めると即座に地下に向かう。

 

 

車の前には飛鳥が既に待機していた。

 

 

「どうした慌てて?てか女装はどうした?」

 

 

「金城が狙撃された!今すぐずらかろう。」

 

 

 

「はあ?」

 

 

 

飛鳥は慌てて車に乗り込むと車を急発進させた。

 

 

「狙撃って、死んだの?金城!」

 

 

「うん、恐らく金城と裏で繋がっていた誰かの差し金だと思う。」

 

 

 

後部座席でパソコンを開いた新はパソコンの中のデータを漁る。

 

 

其処には人身売買での売られた人間の戸籍や値段などが記されていた。

 

 

しかしなかなか組織に繋がるデータが見当たらない。

 

しかし最後のファイルに新は漸くガッツポーズした。

 

「飛鳥君、裏で糸を引いていた連中が分かったよ!」

 

 

「マジで?」

 

 

そのファイルの最後に数文字だけ記述が有った。

 

 

「龍汪会、中華系最大のマフィアだ!」

 

 

 

 

 

 

そして場所は変わり都内の高層マンションの屋上

 

 

其処には1組の男女がいた。

 

 

片方は黒髪で女性的な顔立ちの美丈夫と銀髪のロングで今、金城を狙撃した女性。

 

 

「当たったか?」

 

 

「ええ勿論、私の腕をお忘れですか?支部長。」

 

 

女の視線におお怖っとオーバーなリアクションを取る支部長と呼ばれた男は苦笑いをこぼす。

 

 

「お前の腕は俺が一番良く知ってるさ、翠。」

 

 

銀髪の翠と呼ばれる女性はライフルを片づけながら、しかし表情は少し不服そうだった。

 

 

「しかし一緒にいた女には逃げられました…」

 

 

悔しそうな翠の頭を支部長と呼ばれた男が撫でる。

 

 

「あれが噂の龍人なら仕方ない、遅かれ早かれバレるから仕方ないさ。」

 

 

「しかし!」

 

 

支部長は翠の頭をワシャワシャとおもいっきり撫でると真剣にその瞳を見返す。

 

 

「お前なら次は当てられるだろ?」

 

 

その言葉に翠の瞳に火が灯る。

 

 

「はい!」

 

 

「なら良い、今夜の仕事は終わりだ、俺の奢りだ何か食って帰ろうぜ!」

 

 

「ありがとうございます。」

 

 

 

そうして2人は夜の街に消えた。

 

 

 

 

 

 




今回は予告ではなく告知程度


そのうちになりますが仮面ライダーの読者参加型の物を現在考案中です。

内容としてはソロモン七十二柱をモチーフにした仮面ライダーで敵は天使。

ただ72人も扱いきれないので何名かに絞る予定。


とりあえずタイトルは仮面ライダーアモン。


また詳細が煮詰まったら募集掛けますのでよろしくお願いします


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