東方誘我道 (レガシィ)
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第一歩 幻想入り

はい!二つ目のシリーズ物の投稿です!
東方は解釈や複雑な設定が多く、作者もまぁまぁファンな自身はありますが、きっと万人受けはしないと思うし矛盾や違うところも多々ありますので苦手な方は読むのをあまりオススメしかねます。
それでも大丈夫という方はどうぞ楽しく閲覧ください!!


 ピィーチチチ 

 

「、、、、、、、、、、、、、、、」

 

 小鳥の囀りが、澄み渡る水のように耳を吹き抜けていく。

 

 少年は見知らぬ森の中で、さながら白雪姫のように静かな寝息を立てて眠っていた。

 

「、、、、、、、、、?」

 

 目を覚まし、体を起こして周りを見渡す。全く見覚えのない光景と、あらゆる植物の匂いが鼻を刺激し、一瞬夢かと見紛い、目を擦る。しかしその"夢"は覚める気配は無く、反対に意識のみが鮮明になっていく。そしてその過程であることに気付く。

 

「ここどこ? てか、、、、、、、、、ん? おろろ?」

 

 少年は、記憶を失っていた。

 

「いや待って待って、状況を整理しよう。異世界転生ものの小説でもこんな展開は多分そう無いよ、記憶くらいはあるでしょ」

 

 少年は自身に言い聞かせて状況を整理する。

 

「、、、、、、記憶はやっぱり無し、なにかのショックで飛んだ? 、、、まぁ、無いなら仕方ないよね、とりあえず、持ち物は財布とライト、趣味とロマンで買った警棒、服装はジーパンとパーカーにコートか、、、寒さくらいは凌げるかね」

 

 対してお洒落に興味もないため、適当な服を着ている。外は秋が終わる頃だったのか服を着込んでいたが現在は寒いという感覚は無く、コートを脱いで手に持つ。

 

「日は高いし、取り敢えず歩いて人を見つけるか」

 

 少年は鬱蒼とした森を、地図もコンパスも土地勘も無く歩いていく。

 

 ザッザッザッザッ

 

(これ別に僕が方向音痴なの関係ないよね?)

 

 歩いても歩いても大して変わらない光景に疑問が浮かぶがその疑問は次の瞬間には無くなる。

 

 フッ

 

「?」

 

 突如として視界が暗転する、フラフラと歩き、近くの木を背にする。

 

(急な視界の暗転、、、、、、毒でも吸ったかな?)

 

 フッ

 

 急に視界が晴れると目の前には金髪で黒いワンピースを着た少女がフワフワと浮かんでいる。

 

 そう、浮かんでいる。

 

「お前は取って食べれる人類?」

 

「んー、ありきたりな台詞だけど、食べても美味しくないと思うよ? ほら、ガリガリだし」

 

「でも大きいのだー、食いでがあるかもしれないのだー」

 

 少女はニコニコと嬉しそうに嗤いながら舌舐めずりをして少年を見つめる。

 

「、、、、、、あっ! UFO!」

 

 バサァッ! 

 

 ダッ! 

 

 少年は突拍子もない場所を指さして気を逸らすと、地面の葉っぱを舞い上げて視界を防ぎ、全力でその場を離脱する。少女の目をくらます為になるべく木が多い場所で視界を切りながら走り抜けていく。

 

「うーん、逃げられちゃった、、、まぁいいのだー、チルノのところに行こーっと」

 

 金髪の少女は追いかける気力がわかず、その場を後にする。

 

 少年は暫く走って草原、というより、何もない原っぱにたどり着く。

 

「はぁ、追っかけて来なかったのか。助かった」

 

 かなりの距離を走ったあとに後ろを確認し、無事を喜ぶ。しかし、日が落ち始めていることに気付き落胆する。

 

「うっわぁ、やらかしたなぁ。どっか野宿できそうな場所ないかな」

 

 見渡す限りの草原に失望し、その場で横になる。

 

「まーいいか、生きてるだけ儲けものってやつでしょ」

 

 少年はそのまま無防備に眠りにつく。

 

 ──

 

 ムクリ

 

「やーっば、寝ちゃった」

 

 辺りは完璧に暗くなり、天然のプラネタリウムの元で少年は目を覚ます。そして横になったまま先程のことを考える。

 

「んー、今にして思うとあの女の子何だったんだろうなぁ。浮いてたし、幽霊か? それとも精霊? まさか妖怪とか? 、、、考えたら興味が尽きないなぁ」

 

 リーロリーロ、コロコロコロ、ジリリリ、、、

 

 コオロギやキリギリスが鳴き、静かな夜に開催されるオーケストラ。その音に耳を傾けつつやるべきことを考える。

 

「まずは空腹問題、次に寝床、それからここは何処なのかの情報収集かな。これらの為には人と会わなきゃ、でもその前に自分の身の証明を、、、、、、あ~あこんなことになるんならラノベとか読み漁っとくべきだったかなー」

 

 ふと空を見上げると、特大の満月が雲の陰から姿を表す。

 

「良い月だなぁ、別に風流人を気取るつもりはないけど、、、」

 

 ぐぅ~〜〜っ、、、

 

「、、、お団子が欲しくなってくるね」

 

 風流とはおよそ無縁の願望、夕暮れの全力疾走で腹の虫が鳴いていた。

 

「あら、だったら私と一緒にお月見でもいかが?」

 

「いやーそれは、、、おぅッ!?」

 

 ガバッ、バッ! 

 

 どこからともなくその人物は急に現れ、横になる少年を見下ろす。少年は驚いて寝た状態から横に跳ね起きる。

 

「あらあら、外の人間にしては大した運動能力ねぇ、魔力も中々高いし」

 

「、、、驚いたなぁ、周りを気にしてるつもりではあったんだけど」

 

「私にはそんなの関係ないもの」

 

 空間の裂け目のような所から、半身を顕にしてクスクス笑う目の前の美しい女性は話を続ける。

 

「今日はよくよく不思議なことに出会う日だ」

 

「それで、お月見はしてくれるのかしら?」

 

「、、、いやぁ、お姉さんのお誘いはありがたいんですけどね、ちょーっと怪しすぎるっていうか、、、ね?」

 

「それが妖怪の本質だもの」

 

「あ、やっぱり人間ではないんですね」

 

「貴方が知りたいこと、少し付き合ってくれたら気まぐれに教えてあげるわよ」

 

 少年は少しだけ考えるポーズを取るが、すぐに誘いを快諾する。

 

「そのほうが得か。お姉さん、名前聞いてもいいですか?」

 

「ふふふ、やっと乗り気になったわね。

 

 私は八雲紫、ちょっと偉い妖怪よ。貴方は?」

 

「生憎と、記憶がすっぽ抜けていましてね。人間関係とか自分の記憶が全く無いんですよ」

 

 少年は紫が用意していた団子を食べる。そうして月見という名の質問、あるいは尋問が始まり、全てを明け透けに話した。反対に紫はある程度のことを少年に話した。

 

「まとめると、ここは紫さんの結界の中の幻想郷という場所で、妖怪や神様やその他諸々の色んな人? がいる場所ってことですか」

 

「概ねその認識で構わないわ。ここに来るには全ての人に忘れられなければならないのだけど、本人が忘れてしまっているのは初めてね」

 

「ちょっとどころか神レベルじゃないですか、、、」

 

 紫はクスクス笑いながらお酒を口にする。

 

「さっきの話に出てきた、博麗神社? に行けばいいんですね?」

 

「えぇ、先に言っておくけれど私は関与しないわ、そこにいくまでに死んだら所詮その程度ということだもの」

 

 紫は笑顔を崩すことなくそう言い放つ。

 

「流石は妖怪、僕の命さえも玩具の一つみたいな認識だなぁ」

 

「そんなに心配しなくとも大丈夫よ。貴方にはさっき言った通り、どういうものか分からないけど能力がついている。この場所に偶然にも適応した結果だけれどね。貴方、これまでの人間に比べると相当幸運よ?」

 

「自分でもそう思うけど、これだけ幸運が来ると不幸もきっと来るんだろうなと思うね」

 

「あら、随分悲観的ね? もっと前向きに考えなさいな」

 

「常に万物において天秤は釣り合うものだと思って生きてるからね、幸運が来れば不幸も同じように来るものだと思っているよ」

 

 ザッ

 

「それじゃ、お団子ご馳走さまでした。僕はもう行くのでまた何処かで会いましょう」

 

「はぁい、頑張ってねー」

 

 少年はその場で立ち上がり会釈とお礼をして。歩き出す。

 

 それを紫は手をヒラヒラと振って見送る。

 

(まさか能力を持っているなんて、、、全てに言えるけれど、使い方を間違えれば異変へと昇華してしまう、、、)

 

「まぁ、それも面白そうね♪ 、、、方向逆だけど大丈夫かしら?」

 

 ヴゥンッ

 

 紫はスキマへと消えていった。

 

 ──約一週間後──

 

 紫は博麗神社へと無断で侵入していた。

 

「れーいむ♡」

 

「うわっ、アンタはいつも唐突なのよ」

 

 博麗霊夢、幻想郷を守る博麗の巫女。

 

 妖怪退治以外は普通の巫女と変わりはなく、今日も境内の掃除をこなしていた。

 

「最近変わったことはないかしら?」

 

「変わったこと? いえ別にないけど」

 

「あら? 、、、ほら、黒髪で少し白髪が混じってる子とか参拝に来たりしてないの?」

 

「やけに具体的ね? でもまぁ、そんな奴は知らないわよ、参拝に来たら多分少しくらい覚えてるもの」

 

「、、、、、、死んだかしら?」

 

「は? 誰が?」

 

「いえ、こちらの話よ」

 

 扇子を口に当ててオホホとわざとらしく笑い、紫はスキマに消えていく。

 

「一体何だったのかしら、、、」

 

 霊夢が掃きぼうきを持ったまま空を見つめているとその方向から箒にのった白黒の魔法使いがやって来る。

 

「霊夢ー!!」

 

「そんなに大声出さなくても聞こえてるわよ、魔理沙」

 

 掃除を再開する霊夢の横に魔理沙が着地する。

 

「なぁなぁ! 聞いたか!?」

 

「聞いてない」

 

「せめて用件くらい聞いてから答えろよ、、、」

 

 素っ気なく返事をする霊夢に拍子抜けする魔理沙。

 

「あんたもその箒でたまには掃除を手伝いなさいよ」

 

「いや、そんなこと言ってる場合じゃないんだって! これ見ろよ!」

 

 そう言って魔理沙は文々。新聞と書かれた新聞を霊夢に見せる。

 

「ん、、、?『悪人、妖怪激減、ついに博麗の巫女が本格活動の兆しか!?』、、、なによこれ」

 

「やっぱり身に覚えはないよな?」

 

「あるわけないじゃないの」

 

「そうハッキリ言うあたりやっぱり霊夢は霊夢だぜ、、、」

 

 キッパリ言い放つ霊夢に魔理沙は再びがっくりと肩を落とす。二人で話していると、そこに人影が二人、近付いてくる。

 

「あー! 霊夢さん! なんですかこれ!」

 

「あやややや、これはこれは魔理沙さん、当社の新聞をお手にしていかがしましたか?」

 

「げ、早苗に文」

 

 あからさまに嫌そうな顔をする霊夢に構うことなく早苗は近付いていく。

 

「この新聞!もしかして霊夢さんもついに信仰集めに出たんですか!?」

 

「いやー、感心感心、先代のような貫禄が出始める頃ですかねぇ」

 

 キラキラした目で霊夢を見つめる早苗と、腕を組んで頷く文に魔理沙が説明する。

 

「いや〜今回霊夢は無関係らしいぜ?」

 

「そうよ、また変な新聞でっち上げてくれちゃって」

 

「へ? 違うんですか?」

 

「違うに決まってるじゃないの」

 

「なんだ、、、これを機に取材しようと思ってたのに、、、」

 

 二人は明らかに期待外れの態度をする。

 

「悪かったわね。ていうかどこからそんな話が出たのよ?」

 

「いやー、色んな妖怪が最近ボロボロな姿で見つかるんですよ。聞いてみたら、皆口を揃えて人間にやられたって言うものですから」

 

「へぇ、確かに人間で妖怪退治なんて私か霊夢くらいなもんだしな」

 

「なるほど、、、じゃあ新聞に書くんならウチって断言しなさいよ、参拝客来るかもしれないし」

 

「この清く正しい射命丸、嘘を書くことはいたしません!裏が取れた以上は本人を探して取材しますとも、それでは!!」

 

 バヒュン! 

 

 適当な敬礼をした後に高速で空を飛んでどこかに行ってしまう。

 

「よく言うぜ、嘘八百で色んな奴から恨み買ってるくせに」

 

「うちは文さんには贔屓にしてもらってますよ」

 

 パンッ

 

 霊夢が手を一回叩き二人を追い払う仕草をする。

 

「ほらあんた達、手伝わないんならどっかに行きなさい、明日は宴会だってあるんだから」

 

「お〜、今回は珍しい奴らくるんだろ?」

 

「珍しく月のお姫様とかが来るらしいですね、あと地霊殿の方とか」

 

「なんであいつらも来るのよ、仕事は?」

 

「さぁ? 暇なんじゃないですか?」

 

「じゃ、明日は良い酒でも持ってまた来るぜー」

 

「私もなにか持ってきますねー」

 

 二人も飛んで行ってしまい霊夢だけが残された。

 

「はぁーもう、やる気無くなっちゃったわ。戻ってお茶でも飲もうっと」

 

 掃き箒を近くに立てかけ、神社の中へと戻っていった。

 

 ──

 

 少年は完全に迷子になっていた。

 

「はぁ、、、格好つけて東とか西で納得したけど、東ってどっちやねん、太陽が上る方じゃねぇのかよ、、、」

 

 思わず関西弁になって独り言を呟く。本人の考えは合ってるが、思い出して上を向く頃にはいつも太陽が真上にあり、方角も分からずにウロウロし続け、すっかり周りは暗くなっていた。

 

「なんだよここー、、、雑木林、じゃなくて竹林?」

 

 迷いの竹林、傾斜と同じ風景が広がるため、方向感覚が機能せず遭難者が続出する幻想郷の一角。

 

 少年にとって最悪の場所に迷い込む。

 

「また日が落ちてきた、、、一週間くらいか? もう団子も無いしなぁ」

 

 近くの岩にもたれかかって幾度目かの夜を越えようとする。

 

「はぁ、、、筍掘ったら生で食えっかな、、、明日やってみよ」

 

 目を瞑って寝るが、数時間経つと不意に目を覚ます。

 

 パチッ

 

(ここは危険が危ないせいで、すっかりショートスリーパーだ、、、)

 

 少年はここに来てから幾度か妖怪に襲われているため、すっかり危機察知能力が上がってしまった。

 

「はぁ、歩くか、人くらいいるかも」

 

 ザッザッザッザッ

 

 ──せろっ

 

 暫く真っ直ぐ歩くと、人の声が聞こえてくる。

 

「お?」

 

(声が荒い、酔っぱらいかもしれないけど人がいるだけラッキーだ!! なんか恩を売って食べもの分けてもらおう!)

 

 近付いていき、どんどん声と姿がはっきり聞こえて見えてくる。

 

 三人組の男が、少女一人に暴行を加えようとしている。

 

「おら!ちゃんと縛れお前ら!」

 

「ヘッへ、あのうさぎ特性の痺れ薬、動けねぇぞぉ」

 

「ん"ー!ん"ー!」

 

 あからさまに悪いですと言わんばかりの笑みを浮かべて少女を麻縄で縛っている。

 

(、、、やっべぇ、こういう現場はちょっとなぁ、人呼んだらなんとかなんねぇかな、、、でもなぁ)

 

「いや待てよ?」

 

 三人の男追い払う→少女に感謝される→色んな物を貰えて感謝される→僕ハッピー。

 

「よしやろう、せっかくだし能力も試すか」

 

 打算しかない少年は深くフードを被り、警棒を手に取る。

 

「おら、暴れんな!」

 

「妖術を使われたら厄介だ、足も縛れ!」

 

「おまわりさーん!! ここに女性に暴行を加えるクズがいまーす!!」

 

 少年は戦わずに追い払う方法を選んだ。

 

(この方が楽じゃん、僕天才〜)

 

「あ? なんだあのガキ、このへんにゃ人なんかいる訳ねぇだろ」

 

「正義感に駆られて動いたか? 馬鹿だなぁ」

 

「えマジ? この辺人いねぇの?」

 

 驚いて固まっている所に男の一人が歩み寄り眼の前まで近付きナイフを取り出す。

 

「あんま関係ねぇけどよぉ、念の為殺しとくか」

 

「あ、すいません自分なんも見てないしなんも聞いてないんで見逃してください」

 

 パキャッ

 

「ブグッ」

 

 そう言うやいなや、手に持つ警棒で男の顔を殴りつける。

 

 たじろぐ所に脛に打ち込み、腕を掴んで何度も警棒を振り下ろす

 

 ボゴォボゴォバキャッ

 

「ァ"ァ"!」

 

「おぉ、警棒って鉄並みに硬いけどホントに腕折れるんだ。怖、、、」

 

 その場に倒れる男が少年を睨みつけて立ち上がろうとするが、少年は顔を何度も蹴りつける。

 

 他の二人はそれをあぜんとして見つめる。

 

 バギャッドガッボグッ

 

「どのくらいで気絶するんだろ?」

 

 ネチャァ

 

 男の血で紅くなって靴を見る、男は動かなくなっている。胸が上下していることから生きてはいる。

 

「な、なんだあいつ、、、まさか妖怪、、、」

 

「ひぃっ! こんなことしてられるか!」

 

 ダッ! 

 

「お、おい待てよ!!」

 

 ダダダッ

 

 二人は逃げていく。

 

「お、ラッキー、手間が省けた。いやー綺麗に奇襲が決まったなぁ」

 

 少年はナイフを拾い、モンペを着た真っ白な髪の縛られた少女に近付いていく。

 

「さて、と」

 

「んー! んー!」

 

 ブチブチッ

 

 ナイフを近づけ、麻縄を切る。

 

「これでよーしっと」

 

「、、、、、、」

 

「喋れる? 、、、いや無理か、痺れ薬って言ってたし」

 

 ヒョイッ

 

「いやーごめんね、力入んないでしょ? おんぶは落ちそうで怖いからこれで我慢してねー」

 

 横抱きにして岩のところまで連れて行く。

 

 その間、少女が不安にならないように下らない話をしきりに話す。ここ数日に起こったことや、道すがらに見つけた虫の雑学などを話しながら、岩まで連れて行く。

 

(いやー、僕って気が利くなぁ)

 

 トサッ

 

 コートを被せてそこに寝せる。

 

「薬が抜けるまで側にいるから寝てていーよ、身体に悪いしねぇ」

 

「ーっーっ」

 

「ん?あ、り、が、、、気にしなくていいのになぁ、律儀だね、君」

 

 パクパクと口を動かして少女は感謝を伝える。

 

 ──ー

 

 チュンチュン

 

「、、、、、、!」

 

 ガバッ! 

 

 いつの間にか眠っていた少女、藤原妹紅は目を覚まして周りを見渡す。少年の姿は無く、コートがかかっていることから夢ではないことを察した。

 

「、、、名前くらい聞かせてくれてもいいじゃないか」

 

 妹紅は立ち上がり、昨夜のことを思い出しながらスタスタと自分の家に歩いていく。

 

「んー、駄目だ、顔も声も思い出せない。薬の影響か?」

 

 僅かに歩いたところに妹紅の家があり、自身の家に入り、博麗神社で宴会があるのを思い出す。

 

「あ、なんも用意してないな、、、まぁ何もなくてもいいか」

 

 ──

 

「しまった! 忍びなくてなんとなく置いてきちゃったけどなんもお礼もらってねぇ!!」

 

 あの後に一時間程近くにいたが、そこにいる理由を忘れて適当に歩いており、日が上った頃に気付く。

 

「うっわ、しかも能力試してない、、、まぁ、人工的な道見つけたし、人がいるところに出るっしょ」

 

 真っ直ぐ歩くと、江戸やその辺りの時代を思わせる人里が見えてくる。

 

「っー!!!人がいることにこんなに感動する日が来ようとは、運がいい!やっぱり僕はツいてる!」

 

 疲労や空腹を忘れて人里へと走り出し、中に入るが、明らかに自分格好が浮いていることに気付く。

 

 道行く人にチラチラと姿を見られ、居心地が悪くなるかところもしれないが、そんな余裕はない少年はなにか食べ物を求め、近くの茶屋を発見する。

 

「団子なら安く済むかな」

 

 タッタッ

 

「いらっしゃい」

 

 おばあさんが経営している茶屋へと入り、まずは確認する。

 

「すいません、このお金って使えます?」

 

「んー?何だいその紙は?」

 

「あ、じゃあこっちは?」

 

「似てるけど、うちじゃ使ってないねぇ」

 

 おばあさんはお金を見せてくる。

 

「これって確か明治とかの、、、マジかぁ、、、」

 

 ガックリと頭を落としながらその場を後にしようとする。

 

「すいません、失礼しましたぁ」

 

「ちょっと待ちなさいな。ほら、座って」

 

「?」

 

 大人しく座るとお茶を出してくれる。

 

「ん? お茶ってサービス?」

 

「あんた、よく見たらあちこちボロボロじゃないか。長生きしてるからねぇ、聞いたことがあるのよ。あんた、外の人だろう? 待ってな、今お団子出してあげるから」

 

「ホントですか!?ありがとうございます!!」

 

 遠慮する余裕もない少年はお茶をすすって待つ。

 

「はい、どうぞ」

 

 昔らしい三色団子を出され、少年は手を合わせて食べる。

 

「おぉ、もひもひしへへほいひいへふ」

 

「食べてから喋りな、ゆっくりしぃ」

 

 ゆっくりと咀嚼して味わう。

 

(こっち来てから団子しか食えてないな、腹持ちいいから別に良いんだけどさ)

 

 団子を食べ終わり、お茶をすすりながら情報を集める。

 

「博麗神社ってどこにあるんですか?」

 

「あらー、最近評判の神社ね、最近まで巫女さんがぐうたらだったのに急にやる気出したみたいよ」

 

「おろ?話と違うなぁ、まいっか。それでどっちに行けばいいんですかね、できれば右とか左でお願いしたいんですが」

 

 先日の反省を活かし、恥を忍んで聞く。

 

「簡単よ、ここからまーーっすぐ行くだけ」

 

 山の方を指差してそう言い、少年は立ち上がる。

 

「御馳走さまでした、必ずお金は返しに来るのでツケておいてください、それでは」

 

 タッタッタッ

 

「慌ただしい子ねぇ」

 

 山の近くまで行くと、とんでもなく長く対して整備されてない階段を見て気力が萎える。

 

「うわ、うっわ、世界は僕に優しくない」

 

 暫く考え込み、歩みだす。

 

「いや、僕が歩けばそこはちゃんとした道になるんだよ!行くぞコラァ!」

 

 誰でもない相手に喧嘩を売り、走り出そうとすると不意に上から声が聞こえ、思い切りこけて頭から階段の一段目に突っ込む。

 

ドゴォ

 

「愉快な人間ね、あなた」

 

「、、、、、、見なかったことにして」

 

「あなたが転んだこと? それとも独り言を言ってたこと?」

 

「どっちもです」

 

 ハナヲ抑えながら声の主を見ると、金髪で宝石のような翼を生やした幼女が飛んで見下ろしている。

 

「外人、、、Hello?Is it for me something?」

 

「なにそれ、別にあなたと同じように喋れるよ?」

 

「あぁ、確かに」

 

 階段に座って話し出す。

 

「で、どちら様? 生憎、僕は今は名前無いよ」

 

「私はフランドール・スカーレット、吸血鬼よ」

 

「本当になんでもありだなこの場所、、、」

 

 俯いて頭を抱えると、フランはその顔を覗き込み、無邪気に笑う。

 

「血を吸うのは別にいいけど、死なない程度にお願いしていい?」

 

「血は吸わないわ、お腹は減ってないもの」

 

「おろ?じゃあなんの用デショウ?」

 

「最近はお姉さまが構ってくれなくて暇なの、人間のフリをして色んな妖怪と遊んでみたけど皆すぐ壊れちゃって、退屈しのぎにもならないわ。でもあなた、人間なのに魔力がと──ってもあるのね」

 

 少女は無邪気に笑い、紅い瞳を覗かせる。

 

 少年は無意識に立ち上がって後ずさって階段を上る姿勢に入っていた、気づくと手や額から冷や汗が溢れ出す。

 

「それで、、、まさかだったりする?」

 

「私と遊びましょう!!」

 

 ダッ!!! 

 

 命の危機を感じた少女は全力で階段を駆け上って行った。

 

 ー博麗神社ー

 

 ガヤガヤガヤワイワイワイ

 

「毎度のことだけど本当に賑やかね、霊夢」

 

「ほんと、うざったらしいくらいだわ」

 

 ワインを飲みながら主に妖怪が騒ぐ様子を見てレミリアは霊夢に問う。

 

「たまたま休みとはいえ、まさか竹林の奴らとか地霊殿の奴らとか集まるとは思わないよなー」

 

「全く、いい迷惑よ。また参拝客が減るじゃない」

 

「減るほど来てるの?」

 

「ぶっ飛ばすぞ」

 

 レミリアの従者、咲夜にクスリと笑われ、苛立ちを見せる。

 

「てか、またフランの奴置いてきたのか。駄々こねて暴れられるのは勘弁だぜ?」

 

「それが困ったことになってね、一週間前から外出したっきり帰ってこないのよ」

 

「家出?」

 

「端的に言うとそうなりますね」

 

 ため息をつき、ワインをゆらゆらと揺らしながら話すレミリア。

 

「ふーん、ま、死ぬことは無いだろ、吸血鬼だし」

 

「放浪癖がつかないのかってことと、、、色々壊さないかが心配でしょうがないわ」

 

「「ほんとそれ」」

 

 霊夢と魔理沙が声を揃えて同調すると、遠くも近くもない場所から破壊音が聞こえ、それはどんどん近付いてくる。

 

 ドォンッ! バァンッ!! 

 

 何だ何だと妖精や神たちがざわめき出すと、騒ぎの元凶が姿を現す。

 

「うぉわっ!!あっちぃ!!」

 

「あははは! 逃げてばかりじゃつまらないわよ!!」

 

 大きな鳥居をくぐり階段をの下から、服の所々が燃えて破けている少年が姿を現す。

 

「永琳、あの子って確か紅魔館の所の妹よね?」

 

「そうですね、追いかけられてる少年は知りませんが」

 

「おぉ!!フランが暴れてるぞ!?」

 

「チルノちゃん、あの人間さん大丈夫かな?」

 

「死んだら食べてあげるのだー」

 

「やめなさい、お腹壊すわよ」

 

「あははっ!禁忌、クランベリートラップ!!」

 

(やばっ、またあれが来るっ!)

 

 少年は警棒で弾幕を防ぐが、耐えきれずに警棒が折れ、勢いのままに吹き飛ばされる。

 

 バキィッ

 

 ビュゥンッ、メギィッ

 

 、、、ボタボタ

 

 少年は足元から吹き飛ばされ、木に叩きつけられ、頭から血を流す。

 

「うわぁ、嫌な音したわね」

 

 身体がビクビクと痙攣し、俯いたまま血を流し続ける。

 

(、、、頭クラクラする、動かねぇ、眠い、、、)

 

「あの、大丈──」

 

 木の近くにいた妖夢が声をかけようとすると、少年は急に木に向き直り、木を掴んで頭を何度も叩きつける。

 

 ゴンッ、ゴンッ、ゴンッ、グヂャッ

 

「ちょっちょっと!?」

 

「あの人間、頭おかしくなったのかしら」

 

「おい霊夢、さすがに神社を曰く付きにするのはまずいんじゃないか、、、?」

 

「当たり前でしょうが! 止めるわよ!」

 

 ピタッ

 

 少年は急に叩きつけるのをやめてフランに向き直る。

 

「はぁ~~、、、、、、目が覚めた」

 

 頭を抑えながらニヤリと笑ってそう言い放つ。

 

「あっは♡恐怖と痛みで頭おかしくなっちゃったのかしら?」

 

「あ"? ここで気絶して死ぬくらいなら頭カチ割ってでも意識保つ方が生き残る可能性があるからだよ」

 

「すっごーい! こんなにしぶとく生き残ってくれる人間なんて初めて!!」

 

 パチパチと拍手をしながら無邪気に笑うフランに、出血で頭が回らない少年は怒りがこみ上げる。

 

「人間なんてウジみたくそこら中にいるだろうに、なんで俺を狙うんだか」

 

「あなたこそなんでそんなに生に執着するの? そんなに苦しい思いまでして生きる理由はあるの?」

 

「記憶ぶっ飛んでるのに生きる理由なんてあるわけねぇだろが」

 

「じゃあ死んでもいいんじゃない?」

 

「良くないに決まってんだろ」

 

「なんで?理由がないのに」

 

 逆に問うフランを周りのギャラリーは静観する。

 

「あらぁ、そんなこと言われたら壊れちゃうわよ、あの子」

 

「生きる理由、か。苦しい問いだな、助けなくていいのか?」

 

「答えによるわね、本当に死にたいんなら妖怪に殺してもらえば楽になれるし。迷惑だからどっか別な場所に行ってもらうけど」

 

「巫女の言う言葉じゃないわね」

 

 少年はクラクラしながら考えてハッキリと答える。

 

「そんなもん、生きる理由以上に死ぬ理由が無いからに決まってんだろうが!」

 

 その答えにその場の全員はあぜんと口を開く。

 

「「「えぇー、、、」」」

 

「ふーん、あっそ」

 

 ゴォォ!! 

 

 フランは炎の槍を作り出して玩具に飽きたかのような顔と共に少年に向けるが、その前に炎の壁と共に妹紅が立ち塞がる。

 

「そこまでだ、それ以上するんなら私が相手になるよ?」

 

「あなたは蓬莱人の、、、あはっ、次はあなたが遊んでくれるのね!!」

 

 ビュンビュンッ! 

 

 フランが色とりどりの弾幕を放つと、妹紅は炎を身に纏う。しかしそれは、妹紅に当たらずに様々な方角へと不自然に曲がっていく。

 

 ザッザッザッ

 

「いやぁ、女の子に守ってもらうってのも悪くないけど、やっぱり男が前に立ったほうが格好つくよね」

 

 少年は立ち上がって歩き、妹紅の肩をぽんと叩く。その姿を見て一同は驚きに満ちる。怪我が治っている。それこそ血の跡はあるが、傷が全て癒えて無くなっている。

 

「嘘、、、!?」

 

「ちょっと永琳、蓬莱の薬ってまだあったの?」

 

「いえそんなはずは、、、」

 

「これは摩訶不思議な現象だぜ、なぁ霊夢?」

 

「まーた異変の気配がするわ」

 

「咲夜、あなたがなにかしたの?」

 

「いえ、私はなにも」

 

 ザワザワと再び喧騒に包まれる中、驚きの一言を少年は言い放つ。

 

「いやほら、僕って昔から怪我が治るのは早いんだよね」

 

「そんな理由で治るか!!」

 

 妹紅は体中をベタベタ触って確かめる。

 

「ホントに傷がない、、、あんたも蓬莱人なのか?」

 

「僕はふっつーのDKでーす」

 

 その光景をみてさらにフランは笑みを浮かべる。

 

「ますます面白いわ! さぁ! もっと遊びましょう!!」

 

「うーん、一つ訂正。生きる理由はないって言ったけどたった今一つできたわ」

 

 少年はポケットに手を入れて能力を行使しようとする。

 

「良い女の前で格好つけたいからってのはどうよ?」

 

 少年は真剣な表情でそう言い放った後、ニヤリと鼻で笑い飛ばす。

 

 ヴゥンッ

 

「!?」

 

「はい、お終い。その位にしときなさいな」

 

「紫よ、止めるのが少し遅いのではないか?」

 

 フランはそれを見て弾幕繰り出そうとするが、後ろから扉が現れ、結界の中に捉えられる。

 

 その扉の中からは紫と椅子に座った後戸の秘神、隠岐奈が現れる。

 

「おろ、紫さんだ」

 

「はぁい、久し振りねぇ」

 

 紫は手を振りながら少年の前に降り立つ。

 

「随分時間がかかったみたいね?」

 

「方向音痴は自覚してたんですがね。自覚してもどうにかなるもんじゃないんで」

 

「ちょっと紫!どういうことよ!!」

 

 霊夢がツカツカと紫に近付いていく。

 

「あら霊夢、助けるのが遅いんじゃないの?」

 

「そこじゃなくて!一体どういうことよこれ」

 

 ギャーギャーと騒ぐ二人をよそにして少年は近くの木に腰掛ける。

 

「あ"ぁ"疲れた、、、てか格好つかねぇな。だっせぇ」

 

 座り込んだ少年に永琳と優曇華が慌てて近づく。

 

「大丈夫ですか!?怪我を見せてください!」

 

「ほら、早く上脱ぎなさいな」

 

「え、いや、完治したんで大丈夫っす、、、」

 

「そんなわけありません! 早く!」

 

「ちょっ、待って待ってせめて自分で脱ぐから!」

 

 流されるまま渋々と服を脱ぎ、傷があった場所を診察してもらう。

 

「、、、、、、ホントに傷一つないなんて」

 

「そろそろいいかな? 流石に至って健全なDKにこの格好は辛いんだけど、、、」

 

「頭の傷もないわ、、、あなた一体何をしたの?」

 

「さぁねー、なにをしたんでしょうかねー(棒)」

 

 目を逸してあからさまな棒読みをする。

 

「話す気は無いのね」

 

「この場所は誰が僕を殺すか分からないからね。悪いけど、あんまり信用しないよ、お医者さん」

 

 頭の血を拭いながら、少年は警戒心を顕にする。

 

 その横で紫と霊夢と魔理沙、そこにいた妹紅が話している。

 

 パシンッ

 

 紫が扇子を音を立てて閉じると、賢者らしい雰囲気を作る。

 

「さて霊夢、あなたは博麗の巫女です、幻想入りしてしまった人間を保護する義務があります」

 

「う、分かってるわよ、、、」

 

「見捨てるような発言はあまり褒められたものではないと思うぞ」

 

 隠岐奈も同じように話し、霊夢は頭が上がらない。

 

「まぁなんだ、頑張れよ。博麗の巫女さん」

 

「ガンバ霊夢だぜ!」

 

「魔理沙は後で弾幕ごっこしましょうか」

 

「お、受けて立つぜ?」

 

「ちょっと!」

 

 霊夢は少年に近付いていく。

 

「え、僕?この辺壊したのは僕じゃないから、賠償金は向こうの金髪さんにお願いできるかな」

 

「そうじゃないわ。私は博麗霊夢、博麗の巫女よ」

 

「おろ、あなたがですか」

 

「そうよ。それで、私はアンタみたいな外の人間を保護する義務が一応あるのよ、アンタ家事できる?」

 

「多分、それなりにはできると思うけど、、、」

 

「じゃ、アンタがこの場所に適応できるまでうちで雑用してもらうからよろしくね」

 

「うん、うん??え?why?」

 

「はい名前、なんていうの?」

 

「あー、うん、記憶が無いので分かりません!」

 

「あなたの名前は八和道行去永(やかみちいざな)よ」

 

 紫が横から口を出して名前を教える。

 

「え、そうなの?」

 

「苗字は私が考えたけれど、名前はあなたのもので間違いないわ。詳しくは私の能力でも分からなかったけれどね」

 

「と、いうことらしいです、、、随分仰々しい名前だな」

 

「そ、じゃあ行去永、今日からこき使うからよろしくね」

 

(、、、要するに住み込みで働けってことか)

 

「こちらこそよろしくお願いします」

 

 深々と頭を下げて握手する。

 

 こうして、八和道行去永の素敵な幻想ライフが始まった。




はい、今回の主人公は適応力?以外は割と平凡に書きました。少し運動神経が良いですが、実際に現実で目で見た範囲以上の動きはさせてないので飛び抜けてイカれた動きはさせてないと思います。
もう一つのシリーズの方はしばし不定期投稿で、こっちも不定期なので気が向いたら見てもらえたらなと思います。
応援お願いいたします!!


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第二歩 僕は弱いよ

東方は結構知ってる方だと思いますが、矛盾や気になる点があれば見ないほうがいいかもしれないです。ですが見てくださる方がいればぜひ応援お願いします!!


 ──騒動から一ヶ月後──

 

「霊夢ー!!」

 

 魔理沙がまたいつものように博麗神社へと降り立つ。

 

「おろ、おはよう、魔理沙」

 

「よう行去永、霊夢の奴はどこだ?」

 

「霊夢さんはまだ寝てるよ、朝ごはんが冷めちゃうよ全く」

 

 大して無い落ち葉を掃除していた箒を立てかけてため息をつく。

 

「そうかー。ここに来てから一ヶ月経つけど、ここにはもう慣れたか?」

 

「まぁそれなりには、皆良くしてくれるしね」

 

「あれからフランに気に入られてるしな、お前」

 

「あはは、今日も午後からティータイムに呼ばれてるよ」

 

 あれからフランはほぼ毎日博麗神社へと足を運んだり呼ばれたりして、その度に行去永は外の世界の遊びを教えたり、弾幕ごっこに付き合っている。

 

「お前、素質はあるし魔法使いになれるかもな。なんなら、この魔理沙さんが直々に教えてやってもいいぜ?」

 

「魔法使いかー、良いね、憧れる。霊夢さんが起きるまでお茶でも飲む? 人里で貰った饅頭があるよ」

 

「お、貰うぜ。飲んだら弾幕ごっこでもするか?」

 

「お願いするよ、いつフランが気まぐれに僕を殺すか分からないからね。最低限戦えるくらいにはなりたい」

 

「つっても、お前の場合はその謎能力のせいで攻撃が全然当たらないけどな」

 

 お茶を淹れて菓子と共に魔理沙に差し出し、縁側に座る。のどかな一日の始まりに、自分が掃除した場所を眺めながらお茶をすする。

 

「なーんかお前、湯呑似合わねーなぁ」

 

「湯呑に似合うとかあるの?」

 

「なんていうか、格好のせいか?場違いっていうかなんつーかなぁ」

 

「まぁ外から来たし、ここじゃ浮くかもね」

 

 ズズズとお茶をすすり、饅頭を食べ終わると行去永は先に立ち上がり弾幕の準備をする。

 

「お、もう始めるのか?」

 

「いや、もう一度確認しておこうかと思って。魔理沙はゆっくりしてていいよ」

 

 行去永はそう言って、羽根のような橙色の弾幕を複数作って適当に空中に飛ばす。

 

「うんうん、なんでこの形かは知らないけど作れるね」

 

「お前の弾幕は一発一発が重い代わりに少ないからな、ちゃんと使い所は考えるんだぜ」

 

 魔理沙も指をペロリと舐めながら箒に跨がって準備する。

 

「そんじゃあ、軽ーく弾幕ごっこ、スタートだぜ!!」

 

 ブワァッ! 

 

 霧雨魔理沙は普通の魔法使い、人の身でありながら魔法を扱う稀有な人物。箒に跨がり、星をイメージした美しくも力強い弾幕を扱う。

 

「とりゃあ!」

 

 ギュイーン バババッ

 

 二本のレーザーと小さな筒からミサイルが飛んでくるが、それを横に走り飛んで回避する。

 

 ダダダッ

 

「相変わらず容赦ないなぁっと」

 

 ブゥンッ、ヒュンヒュンッ

 

 横にふわりと飛びながら、掌から小さな蜂の形をした変則的に動く複数の弾幕を放つ。 

 

 魔理沙はそれを箒に乗って飛び回り華麗に回避していく。

 

 ドンッドンドン

 

「ギア上げていくぜ!!」

 

 倍以上のマジックミサイルを放ち、行去永の退路を塞ぐ。同じように走って避けようとするが追尾して後ろを追いかけてくるため振り切れない。

 

「んー、昼間から満点の星空を眺めることになろうとは」

 

 前宙しながら行去永は指をくるくる回すと、ギリギリで弾幕は行去永を避け、何発かは魔理沙の方に向かっていく。

 

「うおっと! 相変わらず不思議能力だな、そろそろタネを教えてくれてもいいんじゃないか!?」

 

 ビュンビュンッ ボボボンッ

 

「嫌だよ、魔理沙口軽いんだもん」

 

「そりゃ残念だ」

 

 魔理沙は箒で猛スピードで近付き、ミニ八卦炉を行去永に向けて構える。

 

「えっちょっ」

 

「とっておきだ! たんと喰らえ!! 恋符、マスタースパーーク!!!」

 

 ミニ八卦炉の中から極太の眩い光線が行去永に向けて発射される。

 

 ゴォォォーーー!!! 

 

 光線を撃ち終わると行去永は歩きながら手を上げて降参の意を示している。

 

「こうさーん、殺す気かって」

 

「おいおい、お前のスペルカード一度も見たこと無いぜ? いい加減その秘密主義をやめたらどうなんだ?」

 

「僕の能力は一度バレたら早いからやだよ」

 

 霊夢は既に起きて二人の遊びを眺めていた。

 

「中々やるようになったじゃないの行去永」

 

「どこをどう見たらそれ言えるんですかね」

 

「とぼけなくていいわよ。マスパがしっかり命中してるのに無傷なのは、避けたんじゃなくて防いだからでしょ? 魔理沙、アンタ手加減してもらってるわよ」

 

「なんだって!? おい行去永それは失礼だぞ! もう一回だ!」

 

「どの道攻撃手段無いんじゃ勝てないってば。正真正銘、魔理沙の勝ちだよ。そろそろ紅魔館行く時間だから、じゃーねー」

 

 行去永はひらりと誘いをかわして階段を降りていく。

 

「ちぇっ、連れないなぁ」

 

「魔理沙、アンタ私になんか用事あるんじゃないの?」

 

「ん? いや、これといって特にはないぜ?」

 

「行去永の様子を見に来たのね」

 

「まーな、外の人間なんて珍しいし、慣れないこともあると思ってな」

 

「アンタって意外に面倒見良いわよね」

 

「うるせーほっとけ」

 

 お茶を飲みながら二人はのどかな時間を過ごす。

 

 ──紅魔館──

 

 ゴンゴンゴン

 

「お邪魔しますよ〜」

 

「あら行去永、いらっしゃい。また妹様に呼ばれたの?」

 

 ノックをして扉を開け、中に入る。丁度トレイを持っている咲夜と目が合い、挨拶をする。

 

「ありがたいことに、今日も生きて帰れるといいんですがね」

 

「それにしても、こんなに簡単に入れるなんて、美鈴はまたサボっているのかしら」

 

「あ~、多分今日は真面目にしてると思いますよ。僕はあんまりそうゆうの関係ないですし」

 

「? また例の謎能力のことかしら?」

 

「まぁそうですね、あと今日はレミリア、、、さん? 様? もお茶に参加するみたいなんですよね」

 

「だったらきっと中庭ね、案内するわ」

 

 カツンカツンと静かな廊下に二人の足音が響く。

 

 中庭へ案内されると、既に姉妹とパチェリーは席についている。一つだけ丁寧に空いている席があり、そこへと促される。

 

「御機嫌よう、お兄様」

 

「こんにちはフラン、レミリア様、それとパチェリーさん」

 

「宴会以来ね、座りなさいな」

 

「、、、、、、」

 

 挨拶を済ませて行去永はそこに座る。咲夜が慣れた仕草で紅茶を注ぎ、ミルクを淹れてかき混ぜる。

 

「ところで珍しいね、フランがお茶しようだなんて」

 

「ん~、今回はお姉さまの要望なの」

 

「、、、何故デショウカ?」

 

「そんなに固くならなくていいわ、別に取って食おうってわけじゃないのだから。まぁ、貴方の態度次第だけどね」

 

 レミリアの提案と聞いて萎縮する行去永に、当の本人は怪しく微笑む。

 

「冗談キツイなぁ」

 

 紅茶を一口飲んで落ち着くと、レミリアから口を開く。

 

「質問なのだけれど、貴方は今、霊夢の小間使いなのよね?」

 

「居候の身ですし、できることはなんでもやりますよ」

 

「この紅魔館には優秀なメイド長と要請メイドがいるのよ」

 

「みたいですねぇ」

 

 行去永はその場で紅魔館をグルリと見渡して言う。

 

「でも執事っていないのよね。そこで、貴方物覚え良いみたいだし、面白そうだから私の執事になってみない? 霊夢の所よりはいい暮らしが出来るわよ?」

 

「ん? あ、これもしかして就職面接みたいな感じですか?」

 

「似たようなものね、貴方自身に興味はあるわ、けどさっき言ったのも事実よ。賃金もちゃんと出るし、どうかしら?」

 

 あまり考えることなく、行去永はその誘いを断る。

 

「それはちょっと断らせてもらってもいいでしょうか?」

 

「あら、どうして?」

 

 レミリアは薄く笑い、理由を問う。

 

「今が割と気に入ってるからですかね」

 

「そう、、、ね、言った通りでしょう?」

 

「へ?」

 

 レミリアはフランに笑って得意げな顔をする。

 

「ちぇー、今回は勝てると思ったのになー」

 

「、、、あぁ、そういう。僕が誘いに乗るかどうかを当てるゲームですか」

 

 全てを察した行去永は無気力にダラリと腕を下げる。

 

「フフ、まぁね。でも執事にしたいのは割と本気よ、いつでも言ってくれていいわ」

 

「流石はカリスマ、会って間もないのに絆されそうだ」

 

 首の後ろをポリポリ掻きながら軽口を叩く。

 

「私の用事は済んだわ。ほらパチェ、なにかあるんでしょ?」

 

 レミリアそう言うと、パチェリーは本を取り出し、行去永に渡す。

 

「これはもしかして、、、」

 

「あなたがいつだったか欲しがってた魔導書よ、この間の魔力検査のお礼とでも思って」

 

「良いんですか?」

 

「私もあなたの魔力に興味があったし、貴重な話も沢山聞かせてもらったからね。古いものだし、対価としては足りないくらいよ」

 

「それじゃあ有り難くいただきましょう」

 

 本をパラパラめくり、確認して紅茶を飲むと、フランが疑問を口にする。

 

「そんなもの何に使うの?」

 

「僕は能力以外で戦う術を持ってないからね、あとはただの興味かな」

 

「そういえば、あなたは能力を一切明かさないわね?」

 

「うーん、、、人間はね、酷く臆病なんですよ」

 

 そう言うと、行去永はポケットからトランプのジョーカーを取り出して二本指で掴む。

 

「常にジョーカー(切り札)が手元に無ければ、安心して眠ることもできない」

 

 ピッ、パッ

 

 トランプを右手から左手に投げるとそのトランプは姿を消す。

 

「あら、手品上手いのね」

 

 トントン

 

 レミリアを見ながら頭を軽く叩く。

 

「?」

 

 レミリアはなんとなく自身の帽子をとって確認すると、トランプのジョーカーが入っている。

 

「っ? あら、、、いつの間に」

 

「これはゲームみたいなものだよ、誰が一番先に僕の能力に気付くのか、、、実はちょっと楽しみなんだよね」

 

 コトン

 

 行去永はカップを置き、手を合わせながらクツクツと笑う。

 

「、、、紫なら知ってるんじゃないの?」

 

「あ、賢者の方々はズルくないですか?」

 

 パチェリーが呟くと、先程までの怪しい雰囲気が一気に解けてヘラヘラと笑いだす。

 

「さて、話は終わったわ、貴方はどうする?」

 

「どうするって、、、まぁ、晩ごはんの準備ありますし、帰りますかね」

 

「えー、もう帰るのー?」

 

「元々少しだけって約束だったしね」

 

「明日は? 明日も来るの!?」

 

「来れたら来るよ」

 

 紅茶を飲み干し、カップを静かに置いて立ち上がると、中庭から出ていく。

 

「レミィ、貴方──」

 

「パチェまで言わないでよ。私は今、行動を操作されてしまった、、、もしかしたら私と似たような能力なのかもしれないわね」

 

 自身の拳を握って開いてを繰り返し、感覚を確かめなが笑う。

 

「やっぱり面白そうね、彼。もうしばらくは様子を見ようかしら」

 

 真紅の瞳を仄暗くなった中庭で光らせながら、吸血鬼は邪悪な笑みを浮かべた。

 

 ──ー

 

「ねぇ行去永、うちってオカズが三つも並ぶくらい家計に余裕あったっけ?」

 

 博麗神社は参拝客の来ない妖怪神社、そう噂されるが故に常にお金に飢えている。それなのに一汁三菜がきちんと並んでいる光景に霊夢はふと疑問を口にする。

 

「ここに並んでるものの総額はだいたい三十円くらいですよ? あ、お金の価値が違うから十銭? とかそのへん? ですかね」

 

「外のお金の価値観はある程度知ってるわよ。で、どうやったの?」

 

「人里で色々してるうちに"お礼"が集まりまして」

 

 基本的に行去永は打算と計画でのみ動く、良く言えば人心掌握の術に長けており、悪く言えば報酬無しには友人の頼み事以外では動かない八方美人。

 

「へぇ、、、犯罪を犯してないんなら別にいいわ、お粗末様」

 

 カタンッ

 

 箸を置いて食器を台所に置きにいき、行去永も続く。

 

「あ、そうだ。一応言っておきますね、今夜少し外出します」

 

「構わないけど、夜は危ないわよ?」

 

「僕の能力も段々使いこなせるようになってきましたし、少しだけこの辺の地理を知っておきたくて。要はただの散歩です」

 

「あんた酷い方向音痴だものね」

 

「お恥ずかしい限りで」

 

 洗い物をしながら下らないことで笑い合い、時間が経つ。

 

「それじゃあ、多分一時間くらいで帰ってくるんで」

 

「はいはい、行ってら~」

 

 霊夢に送り出され、適当な場所へと歩く。

 

 人目のつかないような、森と近い殺風景な場所に着くと、行去永はおもむろに開いて読み出す。

 

「どんな感じかな、と」

 

 身体強化の魔法や五大元素の基礎的な本を読み、丁寧な説明が書かれているため、それに従って実行する。

 

(おぉ流石は魔女。伊達に長年研究してるわけじゃないんだ、わかりやすい)

 

 しばらくの間、魔法と能力を見て使ってを繰り返し、一時間経つ頃に戻ろうとする。

 

 パタンッ

 

「そろそろ戻るか、実験も済んだし」

 

 行去永は独り言を呟き、能力を使って博麗神社へと戻ろうとするが、視線を感じて一度立ち止まる。

 

「、、、、、、、、、どちらさんでしょうかね」

 

 返事はなく、夜の闇に低い声は吸い込まれていく。

 

「よっと」

 

 ボゥッ! 

 

 炎の魔法を使い、指先に火を灯して周りを燃やす。

 

「火遊びは危ないよー?」

 

 行去永の真後ろに、緑がかった癖のある灰色のセミロングに鴉羽色の帽子、薄い黄色のリボンをつけた少女が現れる、、、いや、存在を認識させた。

 

「おうわっ!」

 

 行去永は驚き、後ろにきゅうりを置かれた猫のように飛び跳ねる。バクバクと心臓を鳴らしながら疑問を口にする。

 

「ど、どちらサマ?」

 

「はじめましてー、お姉ちゃんの妹のこいしだよー! おにーさんは?」

 

「あ、えっと、行去永でっす、、、」

 

 謎の自己紹介と態度に、いつもの調子で自己紹介ができずにたじろぐ。

 

「ねぇねぇ、なんで私がいるのわかったの!? お姉ちゃんでも気付けないのにー!」

 

「え? うーん、熱烈な視線を感じたとでもいいましょうか」

 

「無意識に私を認識できたの?」

 

「、、、まぁあれだ、ブラックホールみたいなもんだよ」

 

「?? 良くわからないけど凄ーい!」

 

 実際は行去永の能力の副次効果のようなものなのだが、それを伏せて適当なことを言う。こいしは手をパタパタと上下に動かして笑う。

 

「で、僕に何か用?」

 

「ん? 特に用事はないよ、おにーさんがいたから見てただけ」

 

「さっきから日本語がちょいちょい分かりづらいなぁ。じゃあ特になにもないんだね?」

 

「うん!」

 

 勢いよく断言するこいしに再び調子を崩され、どんどん疲労が蓄積する。こめかみに指を当てながら帰宅を促す。

 

「えっと、じゃあ僕帰るから君もそろそろ帰りな? ほら、家族も心配するだろうし」

 

「おにーさんもねー」

 

 ニコニコと笑いながら手をブンブン降ってその場を後にする。

 

「何だったんだ、全く、、、」

 

 行去永は肩をコキコキと鳴らしながら博麗神社へと戻っていった。

 

「ただいま、、、っす」

 

 居候の身なため大声で帰宅の合図をするのは気が引け、つい小声になってしまう。

 

 神社に入り、さっさと自分が与えられた寝るだけの部屋に戻って就寝する。

 

 行去永のここに来てからの普段どおりの一日が、今日も幕を閉じた。

 

「霊夢さん、僕って働くべきですよね?」

 

「どうしたの急に」

 

 翌朝、行去永は突拍子もないことを言い出した。

 

「いえ、向こうだと僕は高校生なんですけど、ここだとこの年はもうとっくに働いてるなー、と」

 

「神社のことやってるじゃない」

 

「別に神主ってわけじゃなくてバイト、、、にもならないお手伝いじゃないですか」

 

 この一ヶ月間、行去永がやったことといえば掃除とご飯作り、それと弾幕ごっこくらいなものだ。変に考え過ぎて不安を煽られてしまうのも無理はない生活を送っていた。

 

「別に止めはしないわよ、家事当番さえ守ってくれれば」

 

「何かいいお仕事ないですかねー」 

 

 スパァァン! 

 

 霊夢の許可を得て、自分に出来る仕事がないかとぼやくと、急に障子が大きな音を立てて開く。

 

 緑色の髪に蛙の髪留めをした霊夢の同業者、東風谷早苗が元気よく現れる。

 

「だったら! いいお仕事がありますよ!!」

 

「おはよう、東風谷さん」

 

「おはようございます!」

 

「朝っぱらからうるさいわよ早苗」

 

「うるさいのは健康の証ですよ霊夢さん! 守谷神社のお守りがあれば無病息災! 行去永さんも一ついかがですか!?」

 

 早苗はそう言って、どこからか守谷と書かれたお守りを取り出して見せる。

 

「よくもまぁ、仮にも同業者の前でセールスできるわねアンタ」

 

 霊夢は呆れ顔でため息をつく。

 

「てか、あれは? レミリアん所の執事」

 

「あれだと住み込みなんですよ、あと覚えること多くてダr大変そうですし」

 

((今ダルいって言おうとした))

 

「行去永さん、時々素が出ますよね」

 

「別に演じてるわけじゃないし、ただ言葉を選んでるだけ〜」

 

「嘘つきね」

 

「正直な嘘つきが僕のモットーなんで」

 

「何よその天邪鬼な答え」

 

 霊夢がジト目で行去永を睨み、それから三人でなんとなく世間話をしていると、神社に再び来訪者が現れる。

 

 シャッ

 

「相変わらず、ここはいつ来ても騒がしいな? 博麗の巫女よ」

 

 障子を開けて現れたのは人里の守護者であり、歴史の編纂者、上白沢慧音だった。

 

「どうでもいいけど来るんならお賽銭くらい落としていきなさいよ」

 

「賽銭とは参拝者の心の表れであり求めるものではない、お前は何か賽銭を貰えるような行いをしているのか? そもそも──」

 

「分かった! 分かったわよ! あんたの話はいつも長いのよ!」

 

 両手を出してもう止めろと言わんばかりに大声でかき消す。

 

「全く、博麗の巫女ならもう少しだな」

 

「慧音さん、なにか用事があったんじゃないんですか?」

 

 長くなりそうなことを察知した行去永が話を切り替える。

 

「おっと、そうだったな。実は最近妖怪の悪さが目立ち始めててな、寺子屋の生徒の安全の為に本業の力を借りたい」

 

「要するに?」

 

「子供たちが襲われないように妖怪退治をしてほしい」

 

「、、、、、、あ、その件引き受けても良いわよ」

 

「そうしてもらわないと困るんだが、やけに好印象だな? 一体どうした」

 

「行去永が働きたいらしいからこき使ってやって」

 

(、、、、、、、、、は? 何考えてんだこの人?)

 

「、、、まぁ、腕の方は問題ないだろうが。お前はそれでいいのか?」

 

「良いわけないよね、僕はまだ地獄で閻魔様と面接したくないし」

 

「だ、そうだが?」

 

「働かざる者食うべからずよ、行きなさい。あんたなら例の不思議能力で死ぬことはないでしょ」

 

「防御に特化してるから戦うのは嫌いなんですがね、霊夢さんこそ職務怠慢では?」

 

 楽をしたい霊夢と、楽をしたい+死にたくない行去永は一步も譲らずに話し合う。

 

「お二人が話していても埒が明きませんし、こんなのはどうでしょう?」

 

 パキンッ

 

 早苗が割り箸を小気味よい音を立てて割り、赤丸を書いたクジを用意する。

 

「んー、シンプル」

 

「良いわ、やりましょ」

 

(能力を使えば簡単に正解を引けるけど、、、そこまで俺は腐ってない)

 

「「せ──の!」」

 

 ────

 

「で、結局僕が行くことになると」

 

「博麗の巫女は幸運だからな、運勝負じゃ誰も勝てんさ」

 

 寺子屋までの道のりを慧音と話しながら歩く。

 

「働きたいとは言ったけど死にたいとは言ってないんだよなぁ、、、」

 

「まぁそう言うな、助っ人もいるし身の危険は君が危惧するほどない」

 

「助っ人?」

 

 疑問を唱えると同時に、寺子屋から聞こえてくる声によってそれは解決する。

 

「おーい慧音ー、遅いぞー」

 

「あぁ、妹紅さんか。確かに迷いの竹林から近いし適任か」

 

「妖怪退治できるのは霊夢だけじゃないからね」

 

「よう行去永、ここでの暮らしは慣れたか?」

 

「お陰様で。というか、妹紅さんが来るなら僕が来る必要なかったくないですか?」

 

「君の後で妹紅に声をかけたんだ。大は小を兼ねるともいうし、人数は多いほうが良いさ」

 

「それで、人里から寺子屋までの道のりの妖怪を退治すれば良いんですか」

 

「危害を加えるかは分からないからな、個々の判断になるがよろしく頼む」

 

 慧音はそう言うと授業の準備があるからと寺子屋の中に入っていく。

 

「さて、ちゃちゃっと終わらせようか」

 

「まだ子供たちが来る時間には早いですよ」

 

「敬語はやめてくれ、なんかむず痒いんだよ」

 

「まぁ、分かった、、、外だと重要な要素なんだけどな、ここの人はあんまそういうの気にしないよね」

 

「面倒だしな、見た目と歳が違うやつなんてザラにいるし。かくいう私もその一人だけどね」

 

 ボゥッ、ヒュォッ

 

 妹紅は掌に炎の塊を作り、突然行去永に向けて放つ。

 

 クルンッシュルルル

 

「、、、、、、なんのつもり?」

 

「おぉー、それがあの能力か。改めて見るとやっぱり不思議だな」

 

 向けられた炎は行去永が人差し指を向けるとその場でクルクルと小刻みに円を描いて回転し、鎮火していく。

 

「あのね、僕は脆弱な人間で弾幕は当たると割と致命傷なの。せめて事前に一報してよ」

 

「あの程度で被弾するようじゃ今頃死んでるさ。さて、暇だし弾幕ごっこでもしないか?」

 

「冗談きついよ、遠慮させてもらう」

 

「保守的だなぁ。もっと自信を持つべきだと思うけどね」

 

「変に天狗になって痛い目見たくないだけだよ。そろそろ時間だし、見回りでもしよう」

 

「はいはい」

 

 二人は人里から寺子屋までの道のりを子供たちを護りながら歩く。

 

「まとめて来てくれるから楽で助かるな」

 

「妖怪なんてでてきませんように」

 

 行去永が道中祈っていると子供達が二人に話しかける。

 

「なんで今日はもこーがいるの?」

 

「最近物騒だからお前達を守れって慧音が言うもんだからさ」

 

「お兄さんは妹紅お姉さんより強いの?」

 

「まさか、僕は弱いよ。とってもすーっごく」

 

「男の癖にだっせー!」

 

「男は強くなきゃ駄目ってお父さんが言ってたよ」

 

「あはは、手厳しいなぁ」

 

「ほら、そろそろ時間だろ、行った行った」

 

「バイバーイ!」

 

「またねー! 弱いお兄ちゃんともこー!」

 

 妹紅と行去永に手を振りながら子供達は寺子屋へと駆けていく。

 

「、、、、、、はぁ、子供は苦手だ」

 

「こりゃまたなんで? 純粋で可愛いじゃないか」

 

「、、、子供の頃を思い出すから」

 

「ふーん、、、」

 

 特に何事もなく、寺子屋の一日は終わりを迎えようとする。しかし、事件は夜間に起きた。

 

 ──ー

 

「ふーっ、採点はこのくらいでいいか。今日は夜間は開いてないし早く帰るとするか」

 

 慧音は子供達のテスト用紙をクリップで閉じて一人呟く。窓の外は夕焼けが林に隠れてうっすら見える。

 

「二人もご苦労だったな、なにか異常はあったか?」

 

「妹紅さんが戦ってくれたから問題ありませんでしたねー」

 

「そんなに強い妖怪は出なかったぞ」

 

「強くなくとも人間の子供達にとっては脅威だ、暫く頼むよ」

 

「はいはい」

 

「僕が来る意味なくね?」

 

 三人は話し合った後に寺子屋を後にする。この時慧音は気が緩んだか、寺子屋の鍵を締め忘れてしまった。

 

 夜中。草木も眠り、孤独な静寂が世を満たす。

 

 夜中に人里から出た人間に、命の保証は無い。だと言うのに、考えの浅い小さな子供は忘れ物という些細な理由で簡単に自身の命を危険に晒してしまう。

 

 ──ー

 

(大事な御守りを忘れちゃったけど寺子屋が開いてて良かった)

 

 子供は御守りを握り締めて寺子屋を出る。

 

(早く帰らなきゃ)

 

 暗闇の中だが、歩きなれた道を間違えることなく進む。

 

 ドンッ

 

 しかし突然、なにかにぶつかり尻もちをついてしまう。

 

「いたた、、、なに?」

 

 見上げた場所には、真っ黒な甲殻をまとった虫の妖怪が、闇夜に浮かぶ赤い双峰で子供を睨んでいた。

 

「ひっ、、、!!」

 

 自我のない妖怪は位が低く大した力もない、が、子供一人喰らうことなど容易い。

 

(神様、、、!!)

 

 妖怪は、大きく口を開き、それを目の当たりにした子供は目を瞑り御守りを強く握り深く祈る。

 

 バグンッ! 

 

 妖怪の口の中に少年はいない。

 

「草木も眠る丑三つ時。そんな喩えがあったなぁ、そういや」

 

 行去永が子供を雑に抱えて木の枝に座っていた。

 

「魔物が跳梁する時間。外だと夜は危ないから早よ帰れっていう御伽噺みたいなものだけど、、、こと幻想郷に至っては当てはまらねぇな」

 

 ザッ

 

 行去永は枝から降りながらボソボソと独り言を呟く。

 

「さて、名も無き蟻の妖怪さん。今すぐにここから去れ。そうしたら見逃してやるよ、まだ地獄に行きたくはないでしょ?」

 

 カチカチカチカチ

 

 顎をカチカチ鳴らしながら、言葉を介さずして意図を伝えるように行去永に威嚇する。

 

「、、、言葉分かってると思う?」

 

「えっ、いや、僕に言われても、、、」

 

「だよね。ちょっっとshockingな光景だから、目ぇ瞑ってた方がいいよ」

 

「えっ?」

 

 キシャァァァ!! ドドドドドッ

 

 カラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラ

 

 奇声を発しながら二人に猛進していく、しかし行去永が手に握り拳を作ると、妖怪は横スレスレに走り去る。しかし、その先にはこの世とは思えない阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっている。

 

「言葉も理解出来ない妖怪と弾幕勝負の必要はないな、悪いけど即死ね。それじゃあ文字通り地獄への片道切符、いってらっしゃ~い」

 

グァゥ!?ギジャァッ!!!

 

 妖怪は謎の空間へと猛進し、そのまま消えていった。

 

「これでよしっと、で、こんな時間に一体どうした?」

 

「えっと、あの、、、御守りを、、、」 

 

 子供はおずおずと御守りを差し出す。

 

「御守りぃ? そんなものの為に身を危険に晒してちゃ世話ないな」

 

 その御守りは今朝方見覚えのある守谷神社のものだった。

 

「、、、、、、知ってる? 御守りって一回その効力に助けられたら燃やして供養するんだよ」

 

「えっ! そうなんですか!?」

 

「そうそう、俺は一応神事の関係者だから、代わりにクヨウシトイテアゲルヨー」

 

「良いんですか? ありがとうございます!!」

 

「イイヨイイヨー」

 

(妖怪にあったのが不運なのか、助けられたのが奇跡なのか、、、縁起悪いし燃やしとこ)

 

「ほら帰るぞ。特別に家まで送ってあげよう」

 

「何から何までありがとうございます、、、それと、弱いっていってごめんなさい、、、」

 

「なんのこと? 俺馬鹿だから忘れちゃったー」

 

 二人は人里へと歩いていった。その一部始終を木陰から妹紅は見守っていた。

 

「、、、、、、やっぱり強いじゃないか、嘘つきめ」

 

 妹紅は右手の掌に炎の玉を作って握りつぶし、そう呟いた。

 

 ──

 

 翌朝

 

「ちょっ!? 行去永さん!! なんでウチの御守り燃やしてるんですか!?」

 

「こんな縁起の悪いものは燃やすに限るよ、何が奇跡だこの野郎」

 

「あー今守谷をバカにしましたね!? 許しませんよ!?」

 

「いつも博麗を馬鹿にする人がどの口を」

 

「馬鹿にしてません! 事実です!!」

 

「あんたをたった今ぶちのめすことにしたわ」

 

「霊夢さん!? 待ってください話をー」

 

「問答無用!!」

 

 ドォォォンッ! バゴン!! 

 

 いつもどおりに幻想郷の日々は過ぎていく。

 

 




呪術廻戦の方もよろしくお願いします!


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第三歩 僕は打算的

【こんにちは、八和道行去永です。

 幻想郷における夏、という季節がやってきました。

 流石は神サマが当たり前にいる世界、四季がはっきり感じられてとても暑いです。しかし、僕は今冷や汗のおかげでめちゃくちゃ寒いです。え?なんで冷や汗かいてるのかって?あっはっは、目の前にリアル閻魔様が鎮座していらっしゃるからですね。(絶望)】

 

 行去永の前には、地獄の閻魔である四季映姫がお茶をすすって座っている。勿論理由は昨夜の出来事についてのことだった。

 

「、、、、、、、、、エンマサマガナンノゴヨウデ」

 

「そんなに怯えないでください、特別貴方を裁きに来たわけではありませんので」

 

「いやあの、僕も日本人なので閻魔様の話はよーく知ってるんすよ。もう少しだけ、、、ちょっとだけ待ってください」

 

 行去永は深く深呼吸をして対面する。

 

「もういいですね?私も休みを返上して来てるので手早く済ませましょう」

 

「はい、、、」

 

「昨夜、地獄に来る予定のない低位の妖怪が出現しました。浄玻璃の鏡という道具を用いて原因を追求したところ、貴方の姿が鏡に写りました。ここまではいいですか?」

 

「はい、大丈夫っす」

 

「それではここからが本題です、あの妖怪を送り込んだのはあなたで間違いないですね?」

 

「はい、、、」

 

「それは地獄の侵略等が目的ですか?」

 

「絶対に、百%、そんなことはありえません」

 

「まぁ、そうでしょうね。大方、貴方と一緒に写っている子供を助けるためでしょうし」

 

「そう!そうです!邪な気持ちは一切ありません!」

 

 首をブンブンと縦に振りながら全力で肯定の意を示す。

 

「嘘偽りは無いですね?嘘をつくと、、、舌を抜きますよ」

 

「いやほんとに!鏡では冷静に見えるかもしれないけど内心めちゃくちゃ慌ててたんですよ!」

 

 ジロリと睨みつけながら脅しをかける閻魔の風貌に、見た目は幼い少女ながらも威圧感を感じて行去永は再び冷や汗を滝のようにかく。

 

「、、、分かりました。では、今後はそのようなことのないように、もし避けられぬ事情があり、行うのであれば正当な理由を私か小町に話してください」

 

「はい、、、二度としません」

 

「、、、流石にそこまで恐れられると私も傷つくのですが」

 

「僕の目標は安楽的な死なので、、、閻魔様や幻想郷の神々とは対峙したく無いんすよ、、、」

 

「変わった人間ですね、、、少なくとも今の所、貴方の罪は白が八割ほどを占めてます。そんなに不安になることはありませんよ」 

 

「マジっすか!?ありがとうございます!!」

 

「それでは、これからも善行に励むように」

 

「はい!お気をつけてお帰りください!!」

 

 映姫はそう言い残して博麗神社を後にした。

 

「、、、、、、、、、、、、もう行った?」

 

「あ、霊夢さん起きました?」

 

「ずっと起きてたわよ。で、あんた何やらかしたの?」

 

「いやぁ、、、自己防衛の過剰防衛で怒られました」

 

「ん?まぁ何でもいいけど、面倒事はやめてよ?」

 

「以後気をつけまーす」

 

 話していたのは朝の五時、行去永は幸い早起きなので応接することができた。

 

「あ、そうだ。あんた今日は日雇いの仕事するんでしょ?」

 

「そうっすね。良い感じの給金でしたし、ボーナスも出るみたいなんで今日は帰るの遅くなるかもですね」

 

「ふーん、じゃ、頑張ってー」

 

 霊夢は行去永の用意したご飯をよそいながら欠伸をかいてそう言った。

 

 ──ー

 

 夜

 

「んー♪良いねぇ、魔法使えば荷運びなんて楽々だ。お陰で懐が潤ったし、今日はなにか食べて帰ろーっと」

 

 行去永は仕事を終え、一月の間に何度かお世話になった屋台の暖簾を潜る。

 

「やぁ、久しぶりー」

 

「おっ、居候の兄ちゃん!久しぶりだなぁ!酒でいいかい?」

 

「何度も言うけど未成年だって、ラムネとなんか適当にご飯頼むよ」

 

「かーっ!細けえなぁ、あいよラムネ!」

 

 屋台には他に二人組の男客、それと身なり的には恐らく妖怪や神様の類の片方に翼が生えた女性が一人、ひっそりと端で酒を楽しんでいた。

 

(セフィ○スみたいな人いるなぁ、かっけー)

 

 陽気な店主は行去永が久し振りに来たのが嬉しいのか、笑いながら会話をどんどん広げる。

 

「やー、だいぶ前だがあんときは助かったよ、腰をやっちまった時!」

 

「困った時はお互い様だよ、病院は行ったの?」

 

「んなもん行かなくても寝ときゃ治るもんさ!ほれ!余裕だぜ!」

 

 腰をバシバシと叩いて見せる。

 

「なら良かった」

 

 カタンッ

 

 その直後に屋台の端の女性は盃を落としてしまい、中の酒が溢れてしまう。

 

「ん?」

 

「ありゃ、大丈夫かお客さん。飲み過ぎか?」

 

 女性は首を横に振るが、頭がクラクラと動き、明らかな酔いが見て取れる。

 

「あー、どうしたもんかね」

 

 店主は行去永をチラリと見るが、それより先に二人組の男が反応する。

 

「あー、いいよいいよ、俺らが宿まで連れてってやるよ、なぁ?」

 

「そうだな、俺らが運んでやるよ」

 

 ニヤニヤと二人は嘲笑いながらそう言い、意識が朦朧とする女性に肩を貸しながら宿のある方へと向かう。

 

「、、、、、、なぁ行去永君よ、どう思う?」

 

「どうって?」

 

 ラムネを開けて飲みながら相槌を打つ。

 

「あの二人だよ、なんか怪しくねぇか?」

 

「怪しくてもねぇ、こんなとこで酔い潰れるまで飲んで、お持ち帰りされるのは自業自得な気がするけどねぇ」

 

「やっぱりそう見えるよな?」

 

「、、、、、、はぁ、、、あのなぁオヤジ、客のそういう話まで首突っ込んだらキリないぞ?彼女は運が悪かった。更に言えば行いが悪かった。もしかしたら男たらしで意外に楽しく激しい夜を過ごすかもしれないよ?ほら、んなことより飯作ってくれよ」

 

「いーや、生まれて六十三年、芯の曲がったことは大嫌ぇなんだ!様子見るだけで良いんだ!頼まれてくれよ!」

 

 店主は手を合わせてそうねだる。行去永は優しくない、打算と計画無しに動かない。逆に言えば、報酬さえあればある程度はどんなことでも引き受ける。

 

「、、、、、、はぁ、、、飯代は?」

 

「安心しろ、ツケといてやる!」

 

「じゃやんねぇよ」

 

「冗談だ、好きなだけ食ってけ!」

 

「全く、、、今回だけだからねマジで」

 

「おう!ありがとな!!」

 

 行去永は空いた腹を満たすのをもう少しだけ我慢し、三人の跡を静かに追っていく。

 

 ──ー

 

「どの宿にするよ?」

 

「いっそ家でいいんじゃね?」

 

「そうするか。いやぁ、幸運だなぁ、こんな美人が隣で酔いつぶれるなんて」

 

「だな!ちょうど最近溜まってたんだ、無理矢理ヤっても問題ないだろ。なぁ、そう、だ、ろ、、、?」

 

 男は後ろを振り向いて同意を求めるが、そこに友人の姿は無い。

 

「おい、つまんねぇことしてねぇで出てこいって!そのへんに隠れてんだろ!?」

 

 男の声は虚しく人里の闇に木霊する。

 

 ドサッ

 

 男の真後ろに泡を吹いて倒れている男の友人がいた。

 

「ひっ、ひぃ!」

 

 男は慌てて女性の肩から手を離して後ずさると、行去永が女性を受け止める。

 

「おっと、女性の扱い方がなってねぇな。もっと紳士に扱えよ」

 

 軽口を叩きながら脈を測ったりして女性の様子を確認する。

 

「んー、なにかされた訳じゃなし、ただ酔い潰れたたけか、、、迷惑だな全く」

 

「お、おぉお前、屋台にいた、、、!」

 

「ん?あぁ、そうだ。おにーさん、魔が差すのは分かるけどさ、流石に倫理ってもんがあるでしょうよ。つーことで少しだけ痛い目にあってくれ」

 

「へっ?」

 

 バチバチンッ

 

 男は行去永の魔法による電撃を受けてその場に倒れ込む。

 

「便利だなぁパチェリーさんの魔法。さて、おっさんのとこにでも運ぶか。おーい、おねーさん、歩ける?」

 

「ん、んん、、、」

 

 目を覚ますことなくウンウンと唸っており、とても歩ける状態ではない。

 

「ダミだこら、運ぶけど吐かないでよ」

 

 ザッザッザッ

 

(、、、、、、背中に柔らかい物が、、、)

 

 バチンッ

 

 行去永は自分の頬を叩き、考えを改める。

 

(いや待て待て会ったどころか見たことしかない人にそんなことを思うのはアイツラと変わらねぇだろ!ぁぁあでも考えないのもキッツい!いっそ能力で運ぶか?いや気絶しながら歩くとかシュールすぎる!クソっ!耐えるしかないのか、、、)

 

 行去永が一人悶々としていると、おぶっている女性が目を覚ます。

 

「、、、、、、ここ、、、は?」

 

「おっ、目、覚ましたね、立てる?」

 

 女性は軽く頷いて背から降ろされるが、まだ足取りはおぼつかず頭に手を当てている。

 

「肩貸すから取り敢えずその辺に座る?」

 

 再び軽く頷き、既に閉店している近くの茶屋の長椅子に腰掛ける。

 

「さて、諸々の事情は省くけど、おねーさん僕に助けられたって解釈にしてくれない?その辺の説明は屋台のおっさんがしてくれるから」

 

 女性はコクコクと二度うなずく。

 

「あー、あまり喋れない感じ?」

 

 再び二回頷くと、申し訳なさそうに俯く。

 

「、、、取り敢えず名前だけでも教えてくれないかな?駄目なら文字を書くとかでも良いんだけど」

 

 気まずい空気を流すために当たり障りのないことを質問すると、答えが帰ってくる。

 

「、、、稀神サグメ」

 

「なるほどね、サグメさんね、OKOK」

 

 指で丸を作り、警戒させないようにニコニコと若干怪しげな笑顔を作る。

 

 するとサグメは左手を口元に当てたまま、行去永の手の平に右手で指を走らせる。

 

「ん?あぁ、筆談か。ごめん、もう一度してくれない?」

 

 ついついと指で文字を作る。

 

 サグメは舌禍の稀神、口にした事象を逆転させる能力を持つため、不用意に喋ることが出来ない。そのことを掻い摘んで話した。

 

「ふーん、難儀な能力だなぁ、、、じゃあ今酔ってるっていったら酔いは抜けないの?」

 

 その手があったかと言わんばかりに、事象を口にする。

 

「私はお酒に酔っている」

 

 そう口にすると、みるみるうちに顔の赤みが抜けていき、半分以上虚ろだった瞳もハッキリと行去永の姿を映す。

 

「おぉ、すげぇ。ほんとに逆転するんだ」

 

『少年、私はどうすればいい?』

 

 ついついと再び文字を行去永の掌につづる。

 

「ん?あぁ、事情の説明を屋台のおっさんにしなきゃならないから付いてきてくれると助かるんだけど良いかな?」

 

『了解した』

 

 二人はそれほど長くもない道を歩きながら筆談を交えて会話する。

 

「へぇー、遠い所からわざわざここに来てお酒飲んでたの。誰か信頼できる人がいないと危ないよ?」

 

『それに関しては申し訳ない』

 

 口を開くのを拒んでいるが、それはあくまでも能力の都合上であり、本人は人と話すのが苦手なわけでも嫌いなわけでもない。ただし、地上の穢れを嫌うのは月人の共通点であることに代わりはない。

 

 助けてくれた恩人を無下にもできず、一定の距離を取りながら返答だけする、謎の会話方式が取られていた。

 

「まぁ、ちょっと危ないことがあった後だもんね、あんまり信用されないのは分かってるよ」

 

(そういうわけではないのだが、、、しかし、説明するのは、、、)

 

 説明しあぐねている様子を見て行去永は話を逸らす。

 

「あっそうだ。物理的に近付かずに会話する方法なら少しあるよ」

 

「?」

 

 行去永ちょいちょいと手を動かして見せる。

 

「手話って言ってね、外の世界で声を出せなかったりする体質の人が使う"会話"なんだ。まぁ、僕もあんまり知ってるわけじゃないけど」

 

 そう言いながら、一般的な手話の形を作る。

 

 サグメは物珍しそうにその様子を眺める。

 

「これがおはようで、これがおやすみ。んで、ごめんなさいと、ありがとう」

 

 サグメはなんとなくその形を真似してやってみる。

 

「はいはーい、どういたしまして」

 

「!」

 

 真似しただけの手話に反応されてからかわれ、サグメはムスッとした顔で既に提灯が見えている屋台の方へと早足で行ってしまう。

 

「えっ、ごめんって、怒ったんなら謝るからさー!」

 

 行去永もそれを追いかけ、その後に暖簾を潜る。

 

「おう!兄ちゃん、やっぱり俺の勘は間違ってなかっただろ?」

 

「はいはい、そうだね。それよりはよご飯、お腹と背中がくっつきそうだ」

 

「待ってな、今準備してやる」

 

 店主は振り向いてご飯の準備を進める。

 

(、、、まぁ、こんなもんだよな、人並みに社交力はあると思ってただけにわりかしショックだなぁ)

 

 先に座っていたサグメは行去永を見ることなくぼんやりとしている。

 

 ぼーっとしているとご飯ができたようで、行去永の前に鼻孔を刺激する見た目からして美味しそうなご飯が準備される。

 

「ほら、たんと食いな!」

 

「いただきま~すっと。あ、おっさん、サグメさんに事情説明してくれよ」

 

「おっとそうだったな、嬢ちゃん実はな──」

 

 店主が説明している間に行去永は念願の夜ご飯を静かに一人で食べる。酒がメインの屋台なため定食などではないが、居候の博麗神社よりは豪華なご飯であり、細身の高校生の腹に溜まるくらいのボリュームの、満足のいくご飯だった。

 

「ごちそうさま〜」

 

 手を合わせて終了を告げると、サグメが行去永を呼ぶ。

 

「少年」

 

「はいはい、少年ですよー」

 

「名前は?」

 

「あ、名乗ってなかったね。改めて、博麗神社に居候してる外来人、八和道行去永。よろしくね」

 

『あぁ、改めてよろしく』

 

 店主からもらったのか、紙にスラスラと書いていく。

 

「それだけ?ってことはないよね」

 

『、、、さっきの手話のことなのだが、今回のような例もある。、、、もっと詳しく教えてもらいたい』

 

「あぁなんだ、そんなことか。鈴奈庵っていう本屋ならもっと詳しい本があると思うから今度行ってみたら?」

 

『、、、、、、店主、彼は随分鈍いのだな』

 

「いつもは鋭いのになぁ、人間関係になると急に疎くなる。なぁ兄ちゃん、この嬢ちゃんは一緒に見てくれって言ってるんだよ」

 

「?、、、、、、あぁ!そういうことか、手話覚えても話せる人いなかったら意味ないもんね」

 

 サグメは溜息をついて再びペンを走らせる。

 

『もう、そういうことでいい。それと、私と話すときはそんな笑顔を作らないでもらえると助かる。遠慮する必要もなければ取り繕う必要もないし、敬称もいらない』

 

「、、、それでいいんなら遠慮しないけど」

 

 ずっと貼り付けていた笑顔をやめ、いつものような怪しげで表情を悟らせないような顔に戻る。

 

「やっぱり兄ちゃんだいぶ印象変わるな、笑顔作ったままのほうがいいんじゃねぇか?」

 

「失礼だなおっさん、俺は人を選んで話してるだけだっての」

 

「嬢ちゃんもそう思うよな?」

 

『私としてはこっちの方が楽でいい』

 

「ほーらな」

 

「ったく、、、ま、いいや。さ、そろそろ店じまいだ。二人共帰んな」

 

「へーい。あ、サグメ、宿まで送るよ」

 

『飛んで帰るから問題ない』

 

「あんたも飛べんのかよ、、、」

 

 行去永はサグメを見送り、夜が更けて来る時間に博麗神社へと戻り、布団に入っていた。

 

(てか、今日どっかの権力者とパイプできたってことじゃん、ラッキー♪)

 

 いつもどおり、ろくでもないことを考えながら夢の世界へと旅立っていった。




東方の少女達はなんか、性格を正確に知れないので自己補填とかです。(激ウマギャグ)
苦手な人とか、こうじゃないだろー!って人は絶対にいると思うので今後ともお気をつけください。


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第四歩 僕は速いよ?

久し振りの投稿、楽しんでいただければ幸いです!


 行去永はいつものように起床し、本来日替わりのはずの朝の準備を始める。朝が強いわけではなかったはずだが、霊夢のだらけ具合に当てられすっかり早起きになってしまった。

 

「、、、執事になっても良かったかもなぁ」

 

「ちょっと、それ私に気づいてた上で言ってるの?」

 

 珍しく霊夢は早起きし、行去永の後ろにいた。

 

「おはようございます。起きたら顔洗ってきてくださいよー」

 

「もう洗ったわよ、着替えたし。それより今日の当番は私じゃなかったの?」

 

「だっていつも忘れるじゃないっすか」

 

「そうね、もう全部やってよ面倒くさい」

 

 霊夢は悪びれもせずに、行去永の作った朝ごはんをつまみ食いする

 

「別にそれは構いませんが、今日は早起きですね?」

 

「今日は宴会なのよ、それの準備」

 

「宴会? 一月前もしてませんでしたっけ?」

 

「ここには宴会好きの妖怪ばっか集まんのよ、あんたも準備手伝いなさい」

 

「参加しないのに?」

 

「なんで?」

 

「いやなんでって、僕これでも男ですけど、、、」

 

 行去永は手を止めてひらひらと手を振る。

 

「だから?」

 

「女子会に混ざるのはキツイので適当に人里で時間潰してきまーす」

 

「まぁ、参加は自由だから止めはしないけど。手伝いはしなさい、居候でしょアンタ」

 

「、、、へーい」

 

 行去永は流されるままに宴会の手伝いをさせられ、男だからと人里に買い物に行かせられる。

 

 ──ー

 

「、、、男でも、この量はアホだろ」

 

 買い物メモには、大量のお酒の銘柄と店名、壊れた酒器の数がズラズラと書かれていた。

 

「往復面倒くさっ、、、」

 

 ボソッと呟きながら人里を歩いていると、一ヶ月の間に手伝いや人助けを繰り返していたお陰か、老若男女問わずに声をかけられる。

 

「よぉ、行去永君、元気かい」

 

「元気だよー」

 

「おう、居候君、良い肉入ってるよ!」

 

「その呼び方なんとからならんの? まぁ、また今度ねー」

 

「八和道さんっ、この間はどうもありがとうございます」

 

「あー、良いよ良いよー。困ったらお互い様」

 

「あの、この後ってお時間ありますか?」

 

「んー、ごめんね~今はおつかいの途中なんだ、また今度ね」

 

 数人の村娘達に囲まれ、お茶や散歩の付き添いを頼まれるが、それを断り自身より一回り小さい少女の頭をポンポンと叩く。そして目的の酒店へと入りメモを店主へと渡す。

 

「相変わらずモテモテだな、兄ちゃん」

 

「この時代背景にモテモテなんて言葉あることに驚いたわ」

 

「俺も若い頃は遊んだもんさ、今のうちだけだぜ、火遊びが許されんのはよ」

 

「へいへい」

 

 軽口を叩きながら、少々デリカシーにかけた会話をする。

 

「これまたすごい量だな、あの巫女は蟒蛇か?」

 

「沢山客が来るからね、運ぶのには往復しなきゃ」

 

「兄ちゃんなら適当に人捕まえたら手伝ってくれるんじゃねぇのか?」

 

「他人に借りなんか作りたくないし、却下で」

 

「相変わらずの猫かぶりだな」

 

「当たり前だ、なにが悲しくて理由なく人助けなんかしなきゃなんねーのよ。そんなのは仙人とか暇人に任せときゃいーの」

 

「おい、、、兄ちゃん」

 

 突然店長は顔面を蒼白にして行去永を呼ぶが、熱弁している行去永はそれに気づかない。

 

「大体、強者は弱者を救うなんていう今の世の理はナンセンスだ。助け合いにならないし強者に得がない」

 

「お、おい、、、それくらいにしとけって」

 

「見返りがあってこその助け合い、Win-Winが成り立た──」

 

「俺は知らねーぞぉ!!」

 

 酒店の店長はさらに顔を蒼くして店の奥に引っ込んでしまう。

 

「?別に鬼がいるわけでもあるまいに、、、」

 

「へぇ、誰が鬼ですって?」

 

 後ろにいたのは頭にシニヨンキャップ、右腕に包帯をグルグルに巻き、左腕には鎖のついた腕輪をつけた本物の"仙人"茨木華扇が鬼の形相に笑顔を貼り付け佇んでいた。

 

「アッすいません、僕手伝いがあるので帰ります」

 

 ガシッ

 

「なにかもう少し話すことがあったのでは? 私に言ってみなさい。人々の悩みに耳を傾けるのも仙人の役目です」

 

「いやぁ仙人サマの時間をお取りするのは非常に心苦しく思っておりますのでこの辺りでお暇させていただこうかと」

 

 冷や汗をダラダラと滝のように流しながら言い訳をつらつらと述べていく。

 

「座りなさい」

 

「、、、、、、はい」

 

 何故か酒店の床に正座させられ、華扇の説教が始まり、それを二十分ほど聞いていく。

 

「──からして、貴女の考えも確かに一理あるかもしれません。ですが、人を助けるという行為そのものに意味があるのです。人を助けることによってその善行、徳は巡り巡って必ず自分に戻ってくるのです」

 

「、、、はぁ」

 

(まだかな、、、長ぇ、、、)

 

 三十分後

 

「見返りがなければ人は動かない、そんな心持ちでは貴方自身の心が貧しくなっていきますよ」

 

「はい、、、」

 

(え、長すぎない?)

 

 結局そのまま一時間の説教フルコースを美味しくいただくことになった。

 

「というわけで、言動にはくれぐれも注意することです!わかりましたね!?」

 

「はい、もう、骨身に染みました、、、」

 

「手の届く範囲でいいのです、少しでも多くの人を救けるのが仙人なのですよ」

 

「僕は仙人サマじゃないですけど良く分かりました」

 

「一言多いですよ、とはいえ人助けをしてるのも事実、考えを改めろとまでは言いませんが身の振り方は考えなさい」

 

「はい、、、」

 

 ガララッ

 

 素直に返事したあとに、予め用意されていた酒瓶をガチャガチャと持って店を出ていく。

 

 ズキッ

 

 行去永は原因不明の頭痛で頭を抑えながら、心の中で独り言をぼやく。

 

(手の届く範囲ね、、、。今の僕ならあの世にだって手が届く、そんなのは勘弁だ。つーか手伝ってけよ、人助けがどうの言うんならよぉ)

 

 ──

 

「あ"ーやっっと運び終わった。つっら」

 

「おう、お疲れ様」

 

 ニ時間かけて全て博麗神社へ運び終え、縁側に寝転ぶと労いの飲み物が差し出される。

 

「あぁ、ありがとう魔理──じゃないっ!?」

 

「あんたが例の外来人だね?」

 

(え、この状況からの世間話?)

 

「アタシは星熊勇儀、鬼さ」

 

「鬼、、、っすか」

 

 まじまじと姿を見つめると、赤い立派な一本角に黄色い星のマーク、腕にはジャラジャラと鎖のついた腕輪をつけた、イメージと若干のズレはあるものの、鬼であることに違いない容姿をしている。

 

「そんなに情熱的に見つめられると照れるねぇ」

 

「あぁいや、申し訳ない。イメージと若干違ったのでつい見てしまいました」

 

「アッハッハ! 気にしてないから構わないけどね。アンタの名前は?」

 

「あ、八和道です、ここで絶賛居候中です」

 

「ヤカミチ? 変な名前だね」

 

「ぶっちゃけ僕もそう思います」

 

 出された飲み物に口をつけようとするとツンとくるアルコールの刺激臭がして手を止める。

 

「うぉっ、これ酒か」

 

「なんだアンタ、飲めないクチかい?」

 

「まぁ、未成年なんで、酒は嫌いですし」

 

 未成年だろうと関係ない幻想郷の少女たちにちょくちょくされる質問に、いつものように未成年と答えて制止する。

 

「えっと、星熊さんはなんでこの時間からここに?」

 

「なんでって、今日は宴会だろ? 久々に地上の宴会に参加しようと思ってねぇ。で、時間が分からないから萃香と一緒に飲もうと思ったら誰もいないし、どうしようかと思ってたら」

 

「僕が来たと」

 

「そういうこった、暇つぶしの相手になってくれよ」

 

(あれ?なんかデジャヴだ)

 

「外来人ってそんなに珍しいですか? 最近色んな人に話してる気がするんですけど」

 

「そうだねぇ、アタシが最後に見たのは十八年前かねぇ」

 

「うわ確率ひっく」

 

「しかもただの人間じゃなくて、話に聞くと能力を持ってるらしいじゃないか。なんだったか、幻想郷に偶然適応した結果? だったか?」

 

「紫さん経由ですか」

 

「知り合いに心を読める妖怪がいてね、そこ経由さ」

 

「覚り妖怪みたいなのいるんだ」

 

「名前はさとりだよ」

 

「ホントにさとりなんだ、、、」

 

 勇儀は話しながらもグイグイと大きな盃を空けていく。

 

「それでさ、ものは試しなんだけど」

 

「弾幕ごっこ及び身の危険の可能性があるものはお断りさせていただきます」

 

「、、、アンタも心が読めるのかい?」

 

「勘っていうか、ここに来てから色んな人に言われたんで」

 

「良いじゃないか、少しくらい。減るもんでもないし」

 

「僕の神経と肉体がすり減るんで勘弁です」

 

「宴会の余興にもってこいだろ?」

 

「人の死体がでる宴会なんか聞いたことないですし、てか宴会時代参加しませんし」

 

 行去永は腕をクロスしてバツマークを作り、否定の意を示す。

 

「なんでかって言われたら、男なんで。それ以上は言いません」

 

「ふーん、寧ろ男なら飛びつくだろうに」

 

「健全な男子高校生には刺激が強いでーす」

 

「一つ屋根の下に女と暮らしてるやつがよく言うねぇ」

 

 後ろからさらにもう一つの声、よく見慣れたもう一人の鬼、伊吹萃香だった。

 

「おや萃香、邪魔してるよ」

 

「そうみたいだねぇ」

 

「じゃ、話し相手もできたことだし、そろそろお暇させてもらってもいいですよね」

 

 勇儀は立ち上がろうとする行去永の肩を人指し指で抑えて再び座らせる。

 

「まぁまぁ、こういうのは多いほうが楽しいだろ」

 

(力アホ強っ!? どうなってんだよ物理学が機能してねぇぞパスカルゥッ!!) 

 

 身体の筋肉量をザックリ見た目から計算しても全く釣り合わない勇儀の力に、表情を凍らせながら文句を心の中で叫ぶ。

 

「、、、そうっすね」

 

 諦めの笑みを溢しながら二人の鬼の暇つぶしに付き合い、気付くと宴会の為に妖怪が博麗神社に集い始めていた。

 

「そろそろか、、、じゃ、僕は人里に行って時間潰してきますんで、後はどうぞご自由に」

 

「本当に参加しないのかい?」

 

「宴会にいると色々都合悪いんで、また機会があれば」

 

 シャッ

 

 障子を開けて外に出ようとすると、目の前には丁度中に入ろうとしていた天狗の新聞記者、射命丸文がいた。

 

「、、、あっ! ぜひしゅざっ」

 

 シャッ

 

 行去永は再び障子を閉じて踵を返して裏口へと向かう。

 

「天狗じゃないか、なにか用事があったんじゃないのかい?」

 

「取材は面倒なので裏口から逃げまーす」

 

 裏口へと向かい、扉を開けるが既に文に回り込まれており、シャッターを押す気はないものの目の前で笑顔でカメラを構えている。

 

「はぁ、、、何度も言ってますけど取材はお断りです」

 

「そこをなんとかお願いしますよー!」

 

「ここ最近は大人しかったのに、、、」

 

「外の世界の人間! しかも色んな名のある方と知り合いになっているときました! こんなの特ダネじゃないですか!」

 

 腕をグイグイと引っ張られながら、既に宴会を始めている妖怪や妖精たちの巣窟へと案内される。

 

「まーまー、取り敢えず座ってくださいな。お酒でも飲んで」

 

「未成年だって何度言えば良いんでしょうかね」

 

「ほら、今なら白狼天狗のお嬢さんがお酌してくれますよ!」

 

「えっ!? ちょっ! 文さん!」

 

 そう言って文は天狗社会の後輩に当たる天狗、椛を半ば強引に連れてくる。

 

「椛さん、、、貴方も大変ですね」

 

「いやもう本当に、うちの上司がすいません、、、」

 

 頭をペコリと下げ、耳の垂れ下がる様子は反省した飼い犬のそれにしか見えない。

 

「さぁ! ここまで天狗がサービスしてるんですよ! 取材の一つや二つ、器を大きく持ちましょうよ!!」

 

「、、、、、、、、、」

 

 行去永は周りを見渡し、とある人物を探して発見する。

 

「分かりました、取材を受けましょう」

 

「おぉ! それでは早速!」

 

「いいんですか行去永さん?」

 

「はい、ただし、、、僕と勝負しましょう」

 

 ニヤリと怪しげな笑みを溢しながら行去永はそう言い放つ。

 

「なるほどなるほど、勝負ですね。それもまたいい取材の内容になりそうです、いいでしょう」

 

「まぁ、勝負といっても弾幕ごっこではないですよ、勝ち目無いですし」

 

 立ち上がって境内の中央辺りまで行去永は進むと説明しだし、それを余興代わりに妖怪たちは説明を聞く。

 

「内容は少しだけ捻ったレースです」 

 

「レースですか、私が有利すぎるのでは?」

 

「言ったでしょう、少し捻ったと。まず、ここを真っ直ぐ行ったら太陽の畑がありますね。そこには片喰という植物が自生しています。そして、片喰を幽香さんに相手より速く届けられたら勝ちというのはどうでしょう?」

 

 行去永は木の根元で妖精たちと戯れている幽香に目配せをする。

 

「なるほど、私はその花を知らない。ですが私の圧倒的スピードにかかれば何往復もして、数打って当てられるというわけですね」

 

「いいハンデだと思いませんか?」

 

「しかしそれは幽香さんは許してくれるのでしょうか、、、」

 

「私は畑を荒らさないのなら構わないわ、面白そうだし」

 

 楽しそうに幽香は妖しい笑みを浮かべる。

 

「もし、僕が勝てば金輪際取材は一切お断りさせていただきます。文さんが勝てば」

 

「いつでも好きな時に取材できるというわけですね、良いでしょう! この清く正しい射命丸、約束はお守りします!」

 

「決まりですね、では早速始めましょうか」

 

「合図は私がやってやるのぜ」

 

 いつの間にやら魔理沙が盃と旗を片手に二人の間に立つ。

 

「さぁみんな! 賭けるなら今のうちだよ!!」

 

 ここぞとばかりに河童のにとりが賭博表を作り、観客達は思い思いに賭け出す。

 

「霊夢はどっちに賭けるの? 私は勿論文だけど」

 

「当然、行去永よ」

 

「人間と天狗のレース勝負なんて、話にもならないんじゃないの? 霊夢にしては負け戦を挑むのね」

 

 アリスと咲夜は既に文に賭けているが、霊夢はハッキリと行去永に賭けると言い放つ。

 

「私も彼に賭けるわ」

 

 ピィンッ、カランッ

 

 レミリアもそう言ってにとりの持つ箱にコインを投げ入れる。

 

「お嬢様もですか、、、?」

 

「お金に興味など無いわ。ただ、運命は彼が勝つと言っている、それだけのことよ」

 

「行去永は勝算のない賭けはしないわ、それとただの勘」

 

 盃とグラスを開けながら二人の強者は行去永にかける理由を話す。また、鬼や妖精達もそれを肴に酒をあおりながら眺めている。

 

「いやぁ、ヤカミチの奴、中々いい余興じゃないか。萃香はどっちだい?」

 

「そりゃあ当然、天狗だろう。人間が勝てるわけあるまいさ」

 

 大妖精とリグルは幽香に問いかける。

 

「幽香さんはどっちが勝つと思いますか?」

 

「行去永さんは人間さんにしては確かにとても足が速いですけど、、、」

 

「文が負けるわけないに決まってるだろ大ちゃん! なんせさいきょーのアタイが認めてるんだからな!」

 

「こんなのバカでも分かるぜ! 天狗にスピード勝負を挑むなんて最高にルナティックな奴だ!」

 

 チルノとクラウンピースはさも当たり前と言わんばかりに笑う。

 

「フフ、それはどうかしらね、、、でも、私は彼が勝つと確信しているわ」

 

 レースの二人は中央で構え、後ろの魔理沙は音頭を取る。

 

「行去永さん、約束忘れないでくださいよ!」

 

「行くぜ! スリー! ツー! ワーン!! レディ、ゴー!!!!」

 

「お先に失礼っ!」

 

 バヒュンッッ!!!!! 

 

 一礼したあと、突風を巻き起こしながら文は空を飛んでいく。巻き起こる風で不安定になる体制を体幹で支えながら、行去永は一步も動かずに呑気にその様子を静観する。

 

「おー、流石は幻想郷最速。その異名は伊達じゃないなぁ」

 

「そんなこと言ってる暇あるのか?」

 

「まぁ、僕の勝ちは決まってるので」

 

 行去永はゆっくりと歩きながら勝ち筋を説明しだす。

 

「きっと文さんは種類の違う花を一輪ずつ丁寧に摘み、まとめて幽香さんに渡すつもりでしょう、帰ってくるまであと二、三分ってとこ。でも、勝利条件はあくまでも幽香さんに指定した植物、片喰を渡すこと。そして片喰っていうのは」

 

 プチッ

 

 行去永は少ししゃがんで境内に自生している五輪の小さな黄色い花を咲かせた雑草を摘む。

 

「実はどこにでも生えてるこれのこと。さあどうぞ? Fairlady」

 

 流暢な動作で一礼し、静かに幽香にそれを手渡す。

 

「一輪の花というのも悪くはないけれど、次はもっと華やかなのを期待するわ」

 

「いやはや、手厳しいですね」

 

 周りの観客達は唖然とした後に絶叫する。

 

 えぇぇぇぇぇええぇぇ!!??!!??! 

 

「そんなのアリ!?」

 

「ルール上は確かにありだけど、、、ずっるー!」

 

「あっはっはっ! こりゃあ天狗も一杯食わせられたねぇ!」

 

 ビュンッ!! 

 

 文が両手一杯に花をもって丁度帰還する。

 

「幽香さん! この中に例の花はありますか!?」

 

「ほら行去永、このくらいが正解よ」

 

「また今度ご用意サセテイタダキマスー」

 

「ということは私の勝ちですか! いやぁ! やっぱり幻想郷最速の名は──」

 

「フフ、あなたの負けよ」

 

「──へっ?」

 

 幽香はニコリと笑い、片喰を見せる。

 

「これが正解、既に彼は私に花を届けたわ」

 

「そっ、そんな、、、いつの間に、、、」

 

「太陽の畑に自生してるとは言いましたけど、誰もどこから摘んで来いなんて指定はしてないですし、ズルはしてません、いいハンデだったでしょう?」

 

「そ、、、そんなの聞いてないですよー!!!」

 

「己の速さを過信し、話をちゃんと聞かなかったアンタの負けよ」

 

 霊夢は文をなだめながらそう言うと、満面の笑みを溢す。

 

「ほら! 文に賭けた奴らは早くお金を寄越しなさい!!」

 

 ここぞとばかりに霊夢はお金を徴収しだす。レミリアと霊夢以外の全員が文に賭けていたため、元手が何十倍にもなって霊夢の元へと帰ってくる。

 

「いいわねぇ♡行去永、定期的にこういうのしなさいよ」

 

「人里の賭博場にでも行きゃいいじゃないですか」

 

「華扇が許してくれないのよ、でもここでのお遊びは見逃してくれるから助かるわー」

 

 少し遠くの方では、例の仙人がバツの悪そうに静かにお酒を嗜んでいる。様子から見て恐らく文に賭けたのだろう。

 

「仙人サマでも賭博ってするんですね」

 

「酒も飲むしね」

 

 軽口を叩いていると、フラフラとした千鳥足のような、しかし転ぶこともない芯の通った足取りで行去永に萃香が近づいて絡みに行く。

 

「やるじゃないかぁー、口八丁とはいえ天狗に勝つなんてねぇ」

 

 キュポンッ、瓢箪から口を離すときにそんな音を立てる。

 

「それはどうも、、、そろそろ僕はお暇させていただきますんで」

 

 ガシッ

 

「まーまー、そんなに急ぐなって、酒でも飲みなよー」

 

「イヤ、だから未成年ですって」

 

 肩を組んで瓢箪の酒をグイグイと勧めてくる萃香。

 

 相手は山の四天王の鬼、それの酒を断るのは人間如きにはたいそれた真似だ。しかし、行去永はそれをハッキリと断る。

 

「おいおい、、、人間が、まさか私の酒を飲めないって?」

 

 忘れてはなならない、どんなに近くに感じても相手は大国を相手にできる怪力乱神の鬼なのだ




次辺り、若干シリアスになりますねぇ。


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第五歩 私は行去永だ

「おいおい、、、人間が、まさか私の酒を飲めないって?」

 

 ゾワァッ、、、

 

 ズキンッズキンッ

 

 全身の毛が逆立つような威圧感、周りの妖怪達はざわめきだし、近くの文と妖精たちも気圧される。だが、それでも行去永は執拗に酒を嫌い、それと同時に未知の頭痛が行去永を襲う。

 

「、、、断るのは確かにマナー違反かもしれません。でも僕はお酒を飲めない、、、本当に申し訳ない」

 

 しおらしくなるが、行去永は自身の意見を頑として曲げない。

 

「はぁ、、、お固いやつだねぇ、頭を上げなよ」

 

 萃香は行去永に頭を上げるように言い、大人しく行去永は従って顔を上げる。そしてそれと同時に顔を掴む。

 

 ガシッ

 

「自分から飲めないってんなら、飲ませてあげようじゃないか!」

 

「っ!! 待っ!?」

 

 グビンッ

 

 否応なしに瓢箪の酒を口にねじ込まれ、不意に一口飲んでしまう。

 

 バシンッ

 

「おっと、どうだい? 初めての酒は、、、ん?」

 

 思わず両手で萃香を押しのけるが、飲んだ酒は鬼が飲むような代物、当然一気にアルコールが身体に回る。それと同時に、意識の混濁、異常吐き気と全身の脱力感に見舞われ、その場に膝をつく。

 

 さらには萃香は自身の掌を見つめるが、まるで強火に触れたかのように火傷の跡が残っていた。

 

 最初は酔っただけかと思っていたギャラリーの様子もだんだん変化する。

 

「おい、、、なんか様子がおかしいぜ?」

 

「萃香、飲めない奴に無理矢理飲ませたら駄目よ。しかもそんな強い酒」

 

「行去永さん、お水飲めますか?」

 

「、、、、、、行去永?」

 

 ガクンッ

 

 行去永の腕が不自然に突如ダラリと脱力する。

 

「っ!!」

 

 妖夢は謎の恐怖から後退りする。そして気付くと刀を抜いていた。

 

 妖夢だけではなく、霊夢や力のある妖怪達が臨戦態勢に入っていた。

 

「ど、どうしたんだぜ霊夢? 行去永もちょっとおかしくないか?」

 

 魔理沙は行去永に近づくが、周りの様子を見て足を止める。

 

(悪神の類? いや、何かがおかしい)

 

「魔理沙、今すぐ行去永から離れなさい」

 

 行去永の様子は酔いというよりも拒絶、身体に異物が入るのを極端に避けている様子で、じわじわと神通力の類が漏れ出している。 

 

 ヴゥンッ

 

「あら、これは不味いわね」

 

 スキマを通して見ていたのか、紫がどこかから現れて扇子をピシャリと閉じる。

 

「紫!」

 

「苦しそうね」

 

「待って、、、今はダメだ、近付かない方がいい」

 

 右の掌を向けて紫に止まれと合図するが紫はそれでも、その先へ歩もうとする。しかし、そこで紫はなにかに阻まれて立ち止まる。

 

「、、、、、、」

 

「ちょっと、何してるのよ?」

 

「拒まれているわね、、、それがあなたの意思?」

 

 行去永は虚勢を張りながらも、ガタガタと肩を震わせながら滝のように汗を流し始め、首を横にブンブンと振る。

 

「全く、一体どんな契約を結んだのかしらね」

 

 ヴゥンッ

 

 紫はスキマを使い、拒まれている一種の境界を強行突破する。

 

「お眠りなさいな、これ以上はその身体が危ないわよ」

 

 紫がスキマを行使し、行去永の背中を叩くとその場で気絶して気配が消える。その場にしばしの間、静寂が流れる。

 

「さて、一件落着。皆、得物を下ろしなさいな。霊夢、この子を神社に寝かせて頂戴」

 

 紫は倒れた行去永の様子を見ながら笑ってそう言う。

 

「待ちなさい紫、それで誤魔化せると思わないで」

 

「妖怪の賢者よ、それで我らが納得するとでも?」

 

 霊夢とレミリアは武器を構えたままでいる。

 

「一体アレは何なんですか!? 答えてください!」

 

 妖夢や一部の妖怪達も警戒を緩めずに二人を見据える。

 

「三日、、、いえ、二日待って。私も調べている途中なのよ、二日後に分かっていることを全て話すわ。今の所は安定しているし、彼を見限るのはやめてあげて」

 

 珍しく紫はしおらしい反応を見せるてそうお願いする。

 

「、、、はぁ~、家事と家計簿作るやつがいなくなると困んのよ、別に見殺しにしたりしないわ」

 

「人を臆病者みたいに言わないでくれるかしら、彼はうちの居候とフランが気に入ってる人間ってだけよ、全く」

 

「相変わらず、食えない女ね」

 

 幽香を皮切りに数名の妖怪は興が冷めたと言わんばかりにその場を立ち去る。

 

「、、、それじゃあ霊夢、早く神社に──」

 

 直後、力が抜け落ちていた行去永の頭が不自然な挙動で持ち上がる。

 

「いつまで私に触れているつもりだ妖怪。病人扱いをするんじゃあない、退きたまえ」

 

「「「「!!!」」」」

 

 紫は驚いて手を離すと、行去永はその場でゆっくりと身体を起こして立ち、自身の身体を確かめるように掌を動かす。

 

 その様子を見ている者達は、直感と経験から妖精までもが理解する。神が現れたと。

 

「、、、聞いてもいいかしら?」

 

「ん、一考に値する質問なら答えてやろう」

 

 先程までの様子とは打って変わって尊大、かつ傲慢とも言える態度で紫の質問を聞くことを承諾する。

 

「貴方は何者なのかしら、、、彼なの? それとも憑依や神降ろしの類?」

 

「無粋なことを言うな、私は八和道行去永本人だ。お前たちが見てきた者の姿だろう」

 

 そう言うとソレは腕を広げてその場で一回転する。

 

「八和道は私が考案した名字よ。神に等しいか、そのものである貴方がそれを使うのは少し違うのではなくて?」

 

「何を言う、まさかこの名が自ら生み出したものとでも言うつもりか?」

 

「、、、、、、どういうこと?」

 

「私は道祖神、八和道行去永。契約によりそうなった。この名字も、一度神の身を捨てた時に失ったのを私の能力で拾ったに過ぎぬ。過程は貴様が関係したようだがな」

 

「道祖神、、、ですって、、、?」

 

 霊夢が思わず声をあげると、それに呼応するように静観していた者たちは話に混ざっていく。

 

「なぁ霊夢、道祖神ってなんなんだぜ?」

 

「、、、道祖神っていうのは、塞の神、幸ノ神、岐の神、あらゆる名を持つ、古くから存在するかなり上位の神。ポピュラーな例で言うと、行ってきますやお帰りなさいの言霊がそれに当たるかもね」

 

「流石は神に仕える者よな、いつもはあんなでも知識はある訳だ」

 

 ギィィッバタンッ

 

「また、道祖神は悪霊や悪鬼達から守る役目が主、そして神が現世へ行く時の通り道を管理する神でもある。数多の名を持つ絶対秘神の私とシンパシーを感じるものよな」

 

 重たい扉が開く音と同時に、霊夢の背後に隠岐奈が現れて説明を付け足す。

 

「絶対秘神まで出やるとは、そこまでイレギュラーな状態なのかねぇ」

 

「どうしましょうっ神奈子さま、諏訪子様。なんかまずくないですかっ!?」

 

「落ち着きな早苗、少なくも向こうはアタシ達の親戚さ。外の世界の神なんだから」

 

「ただ懸念すべきなのは、神の身を捨てたって言うのがね、、、」

 

「さて、皆もある程度貴方について知ったわけだし、本題に入らせてもらうわ。貴方の目的は?」

 

 紫は扇子を開き、口元を隠して問うが当の本人は聞かずに状況を把握している。

 

「ふーむ、私に対する敵意と疑りの目が絶えんな。そこのスキマ妖怪が呼んだ秘神に宴会の吸血鬼、戦神までいるではないか。この短時間に皆のこの警戒中々の手腕ではないか」

 

「誤魔化さないで答えてくださいな」

 

 ピシャンッ

 

 紫は扇子を音を立てて閉じながら苛立ちを表す。

 

「そう苛立つな、順に答えてやる。今は私が起きていられる時間は短いのでな」

 

 道祖神はそう言ってそこに鎮座する。

 

「まず目的だが、お前達と普段から過ごしている私を仮にAとし、今の私をBにするならば特には無いな。侵略や制圧など私の性ではない。道祖神とは言わば絶対防御に優れた神、何かを護ることに存在の意義があるものだ」

 

「行去永を護ってるってこと?」

 

「それは違う、この男は捨てられた。それを私が拾ったに過ぎん」

 

「だからこうしてここにいられるってわけね」

 

「その通り、私は定形のない神なのでね。私が降りるための器が必要だったんだ。この男は偶然、私の像の前で果てかけていたから丁度良かった」

 

「でもおかしいわ。貴方、神の仕事を放棄したと言うの?」

 

「私はあくまで分霊だが、私の本霊がそれを一時的に放棄した。詳しい説明は面倒だが、ここにいる私は分身のようなものに過ぎぬ、そこの軍神や土着神と同じようなものだな」

 

「じゃあ満足したら帰るのかしら?」

 

「何を言っている、私はここに永住するつもりだ。いずれ本霊を連れて私と同化しよう。紫といったか? 実に美しい世界を造ったではないか、褒めてつかわそう」

 

「お褒めにあずかり光栄ね、、、神の力を使って騒ぎを起こさないのなら、私は構わないわ。外の神のお眼鏡に叶ったとも捉えられるし」

 

「でも貴方はそれでいいの? お酒を飲んだ時にしか出てこれないなんて、随分不便そうだけど」

 

 紫は警戒を解いてそう言い、幽香は疑問を口にする。

 

「クハハ、安心せい。あと一月もすればこの男の人格は消え、私が表になり裏は消える」

 

「、、、、、は?」

 

「もっと簡単に言おうか。この男の魂は死に、私がこの抜け殻となった体を使うのだ。その時にはこの体も私の形に作り直される。文字通り、この男はこの世から消え去る」

 

 道祖神はハッキリ言った、八和道行去永は一月で死ぬと。

 

「元々死体に近い衰弱した身体。道に落ちている猫や鳥の死体を拾った者がどう使おうと自由だろう?」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ。それはおかしくない?」

 

 霊夢は珍しく慌てた様子で道祖神に異論する。

 

「元よりこの男が生きるのを一度放棄したのだ。何もおかしくはないだろう? 折角記憶も弄って生に固執させ、すぐには死なないように色々と弄ってやったというのに」

 

「弄った、、、?」

 

「こんな片田舎に幽閉されていた小僧にまともな記憶などあるものか。同じ年頃の別の人間の記憶を流し込んだにすぎない。性格は生来、、、というより、まともに生きたらこうなっていたのだろうな」

 

 道祖神の衝撃の告白にある者は戦慄し、ある者は恐怖する。そして、とある者は異議を唱えた。 

 

 異議を唱えるは現人神、東風谷早苗

 

「そんなの間違ってます!!」

 

「ちょっ、早苗っ」

 

「ほぉ、現人神か。で、何が違うんだ? 話くらいは聞いてやろう」

 

「そんな、人の記憶を勝手に消しちゃったり、改造したり、、、ちょっとロマンはありますけど、最後にはこの世から消えちゃうなんて、、、」

 

「そんな言い分は私が間違っていることの証明にはならん。何をいうかと思えば私が言ったことを繰り返しただけ。不愉快だ、神罰でも下そうか?」

 

「おっと、それは私達が許さないねぇ」

 

「私達の娘に危害を加えるってんなら呪っちゃうよ〜」

 

 一瞬殺す気のない殺気をわざと漏らして嘲笑うが、諏訪子と加奈子が早苗の前に出てニヤリと笑って見せる。

 

「ハハ、軍神に土着神か。外の神繋がり、見逃してやるとするかな。それに、もう時間も無さそうだ」

 

 自身の震える腕を見て道祖神は一言残していく。

 

「ではな、一月後にまた会おうじゃないか」

 

 ドサッ

 

 終始一切として感情を高揚させず、その場にいる全員を嘲笑うかのようにして道祖神はいなくなり、その場に気絶した行去永が残った。

 

「あー、取り敢えず、行去永は神社に寝かせてくるな。よっと、、、意外と重いなコイツ」

 

 魔理沙は半分引きずるようにして行去永を連れて行く。

 

「何が何だか、、、」

 

「妖怪の賢者様はそれでいいのかしら」

 

「、、、相手が悪すぎる。正直今回、私は関与する気はないわ」

 

「なんでよ、アンタのスキマでなんとかなんないわけ?」

 

「あくまでも彼と神は表裏一体、同一人物の別人格なの。そこに肉体的な境界は無いわ」

 

「それに加え、相手は私レベルの神。信仰者の数も信仰の深さもそこらの神の遥か上だ。関わらぬのが吉だろうな」

 

 紫と隠岐奈は無情にもそう言い放つ。大妖怪や神たちは大体が不干渉を宣言、一部の妖怪と人間は納得出来ぬままその日の宴会は総員酔いを覚まして幕を閉じた。




因みに幽香と行去永が割りと仲よさげなのは、宴会前の書いた話を投稿し忘れたからです。


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第六歩 僕は何者?

「んぉッ?」

 

 間抜けな声を出して行去永は飛び起きる。

 

 起き抜けに日の光が行去永の顔を照らし、時計を見ずとも寝坊したという事実を知らせる。

 

(、、、やらかしたかも)

 

 額に手を当てて怒られる覚悟をし、霊夢のいるであろう台所へと向かう。

 

 しかし、途中の居間で当の本人は呑気にお茶をすすっていた。

 

「おはよう。気分はどう?」

 

「まぁ、、、良くはないですね」

 

「そ、私はもうご飯は済ませたから。あとあんたは今日は紅魔館に行きなさい」

 

「え、、、何で?」

 

 言われたことを飲み込めないまま行去永は目を点にする。

 

「フランが宴会に参加できなくてストレス溜まってるらしいのよ。レミリアは用事があるから紅魔館を留守にするらしいし、アンタが遊んで解決してきなさい」

 

「あー、納得。でも僕男なんすけど」

 

「なによ、あんたロリコンなわけ?」

 

「あれでも僕の三十倍くらい生きてる人ですけど、、、まぁ、ロリコンではないんで行きますよ」

 

「じゃあ、なるべく早く行ってきなさい」

 

 フランの危険性を知っている行去永は渋々と、しかし被害を出さないためという思いを持ちながら紅魔館へと向かっていった。

 

「、、、、、、紫、いいわよ」

 

 ヴゥンッ

 

「悪いわね、霊夢」

 

「まさか二日も昏睡だなんて、、、」

 

「神を体内に飼うなんてそんなものよ。一人の人間には出過ぎたマネだもの」

 

 パチンッヴゥン

 

 紫が指を鳴らすと再びスキマが開き、幻想郷の名だたる賢者たちが現れる。

 

 絶対秘神、摩多羅隠岐奈

 

 永遠に幼き紅い月、レミリア・スカーレット

 

 月の頭脳、八意永琳

 

 山坂と湖の権化、八坂神奈子

 

 土着神の頂点、洩矢諏訪子

 

「ったく、神やお偉いってのはどいつもこいつも暇なわけ?」

 

「今回はたとえ暇でなくとも集まるべき議題よ、博麗の巫女なら今回の件を軽視しないほうがいいわ」

 

「それ、結局今回は暇だったってことじゃないの」

 

「無駄話はやめな」

 

「そうよ、さっさと本題に入りなさい折角この私が昼間から起きてるというんだから」

 

 神奈子とレミリアが話を中断させ、紫が今回の本題に入る。

 

「堅苦しい挨拶は抜きにして、調査の結果を話すわ。まず、幻想郷に来る前の行去永の情報、これに関しては簡単だったわ。少し外に行って歴史をスキマで少し探ったら出てきた」

 

「確か、捨てられたんだったかしら」

 

「えぇ、地図に載らないような片田舎で少し他人と違ったからぞんざいに扱われ捨て子となったってところね」

 

「でも、それにしては外の最近の知識を多く持ちすぎじゃない?」

 

「それは私から話そう」

 

 隠岐奈が割って入り、調査結果を話す。

 

「結論から言うと、外の世界の道祖神は健在だった」

 

「そりゃそうでしょ、事実を目の前で見てるんだから」

 

「違うぞ霊夢、彼じゃない。もう一柱だ」

 

「「「?」」」

 

「どういうこと?」

 

「うむ、詳しく話そう。まず、私達が二日前に見たのは八和道行去永という、人間を依り代とした神の姿だった。幻想郷にその神がいるということは当然外の世界の道祖神はいないはず、、、だが、外では彼の神は健在だった」

 

「どっちかが分霊じゃないのかい?」

 

「それにしては神気がハッキリしすぎている。あの話し方からしてその線は薄いだろう」

 

「彼が道祖神を騙る偽物ってことは?」

 

「それも残念だが無い、神奈子と諏訪子は分かるだろう?」

 

「ちょっと待って、、、そんなことが可能なの? だってそれは月でさえも成し得ることのできない技術よ」

 

「突飛な考えだと思うけど、本当にそういうことなの? パチェに聞いたことあるけど、、、にわかには信じ難いわよ」

 

「ちょっと、もっと分かりやすく話してくれない?」

 

 隠岐奈の言っていることに永琳やレミリア達が察し始めるが、話が見えてこない霊夢は苛立ちながらお茶をすする。

 

「要するにだ、彼はこの世界の道祖神ではない、恐らくは、、、平行世界の道祖神、とでも言おうか」

 

「、、、、、、はぁ?」

 

「淑女がそんな顔をするな、ありえない話ではない、、、何故なら」

 

 道祖神の能力は、あらゆる道を作り、歩み歩ませる程度の能力なのだから。

 

「道を作る、、、?」

 

「あぁ。だが、こちらの道祖神はそこまで大きな力は無い、だからこそおかしいと思った。あらゆる可能性を模索し辿り着いた結論。それが、平行世界にいる強大な力を持った道祖神が、何らかの理由からこの世界へと道を作り、辿り着いてしまったということだ」

 

「平行世界だなんだと言い出したらキリがないじゃない、そんなのは偶然でしょ?」

 

「そうね、偶然よ、、、約六垓七千京分の一の、ね」

 

 永琳は計算の結果から紡がれた途方も無い数字を言葉にし、現実に二回と起きない可能性を話す。

 

「話を続けよう。恐らくは"向こうの行去永に当たる人物"の記憶をこちらの行去永に流し込み、あの人格を形成させ、こちらの世界に住み着いているのだろう」

 

 、、、、、、、、、

 

 結論が放たれたその場は、水が打ったような静けさに満たされ、同時に暗く重たい空気がそれぞれから湧き出る。

 

「これが本当だとすると、道祖神は絶大な力を持った神、、、それこそ、最低でも私と同じレベルの力を持つ神ということ。それを分かった上で私は結論を出したわ、私の選択は、、、何もしない」

 

「ちょっと、それ本気で言ってるわけ? 妖怪の賢者ともあろう者が、とんだ弱腰ね」

 

 霊夢は怒りを微微に漏らしながら紫に煽言を吐きつけるが、その言葉を聞いた幻想郷の重鎮達は無言を貫く。

 

「ちょっと、あんた達も本気で言ってるわけ? 人一人殺して神を卸すっていうの? なんの罪もない一人の人間を、ただの気まぐれで!?」

 

「、、、悪いけどアタシ達は幻想郷に助けられてる、隠岐奈が言ってることが正しいなら、下手に手を出さないのが吉さ」

 

「私は悪いけど神奈子と同意見、紫に賛成だよ。元より私達は住まわせてもらってる側だしね」

 

「ちょっと!」

 

「永遠亭も、全面的に反発するつもりはないわ」

 

「私も異論は無いわ」

 

「永琳まで、、、!」

 

 続々と賢者、神たちは一人の人間の命と引き換えの安寧に賛同する。

 

 妖怪や神にとって、この選択は当たり前に正しいこと。しかし、彼女達と短くも濃密な時を過ごした彼は、既に幻想郷の一員として認められてしまっていた。

 

 そんな中、一人の妖怪は異を唱える。

 

「私は反対」

 

「、、、レミリア!」

 

「あなた、、、本当に意味を分かって言ってるの?」

 

「ええ、勿論。私のかわいい妹が行去永を気に入ってるし、将来的には私の従者にする予定なんだから。あとは、そうね、、、」

 

 紫の問いかけにレミリアは声のトーンを更に低くして怒気を漏らす。

 

「私以外の者が運命を決めるのは許さない」

 

「そう、、、なら、予め言っておくわ。もしも幻想郷にとって害を成すとわかれば、、、その時は分かるわね」

 

 紫の金色の目が真っ直ぐとレミリアを見つめ、同じように見つめ返す。

 

 パァンッ! 

 

「双方、そんな殺気を漏らすな。博麗の巫女、紅魔の主、各々の考えを否定する権利は誰にも無い。ここはそういう場所だからな」

 

「「「、、、、、、」」」

 

「いい頃合いだね。考えは明言したし、私等は帰るとしよう。行くよ諏訪子」

 

「はいはーい」

 

 シャッ

 

 神奈子と諏訪子は紫のスキマを使わずに神社の障子を開けて出ていく。

 

「私は元よりそこまで幻想郷について深入りするつもりはないわ。ただ、もしも永遠亭にとって害となりうるならば対策するだけ。精々頑張りなさい、博麗の巫女と紅魔の主」

 

「霊夢、全て理解しろとは言わん。だが、時には受け入れることも重要なことだと、この機会に知るといい」

 

 永琳と隠岐奈もそう言い残しその場から去っていく。

 

「霊夢、、、貴方には酷なことかもしれないけれど、これが最善なの、理解も納得もしなくてもいいから受け入れて頂戴」

 

「、、、、、、」

 

 ヴゥンッ

 

 紫はスキマを開き、不安げな表情を残したままにその場からいなくなった。

 

「、、、フン、妖怪の賢者というのも大したことのない臆病者ね。この幻想郷に一体どれだけの戦力があると思ってるのかしら」

 

「アンタが平常運転で安心したわ」

 

「当然、私はいずれ幻想郷の頂点に立つんですもの。で、話は戻るけど、具体的にどうするつもり?」

 

「どうにでもなる。て、言いたいところだけど、今回は流石にヤバいかも。取りあえず、この件に関与してない神や名のある妖怪の力でも借りようかしら」

 

 霊夢はお祓い棒を持って立ち上がり、次に行く場所の目処をつける。

 

「そ、私は夜から動くから昼は任せたわ。咲夜」

 

「はい、お嬢様」

 

 バサッ

 

 レミリアはニヤリと悪童的に笑い、咲夜の名を呼ぶと、傘をさして神社から帰っていく。

 

 帰りがけに一言、霊夢に言い放って。

 

「、、、霊夢、万が一が起これば、私は彼を殺せるわよ」

 

 パタンッ

 

「、、、、、、そう。私にもあるわよ、その覚悟くらい」

 

 一月半、ただその程度の付き合いの人間が神と同格になる。そして、それが幻想郷に仇なす存在であれば、楽園の巫女として、果たさなければならない使命は一つ

 

 彼を"退治"すること。




書いてみて気づいたこと。
あぁ、今回短ぇ!


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第七歩 僕は月に行ってみたい

自分でかいててなんですが、めっちゃ適当に書いてますね。このシリーズ。元々10話程度で完結の予定なので適当に読み流すくらいでいいと思います。


「霊夢さーん、起きれますかー?」

 

「無理、、、ダルい、、、」

 

「それは困ったなぁ、、、」

 

 行去永は濡れタオルを霊夢の頭に乗せながら虚空に呟く。一際頑丈で病気知らずの霊夢が風邪を引いてしまい、その看病を行っているところだ。

 

「こういう時に限って魔理沙は来ないんだもんなぁ。チルノの氷を頭から被ってほっとくからこうなるんですよ」

 

「うるさいわね、悪かったわよ、、、私はもう大丈夫だから離れなさい。風邪伝染るわよ」

 

「いやいやいや、看病する人居なくなるのは霊夢さんが困るでしょ。ここまで弱ってる人見て見捨てるほど、僕は流石に鬼畜な人間じゃないっすよ」

 

「変なところでバカなのね」

 

「風邪引かないから儲けっすね。あ、失礼しますよ」

 

 おでこに手を当てて体温を測りながら軽口を叩く。

 

「んー、八度七分ってとこですかね。食欲も無さそうですし、今は安静にして寝ててください」

 

「ん、、、」

 

 霊夢は短く返事をすると素直に眠りに入り、寝息を立て始める。

 

「博麗の巫女ねぇ、、、こうしてみると幼い顔つきだな。、、、年下だから当たり前か」

 

 ガラッ! 

 

 ボソッと呟くと突然居間の障子が開き、妖精達の声によって一気に騒がしくなる。

 

「れいむー! 今日も遊びに来たぞー!!」

 

「お邪魔しまーす!」

 

「待ってよーチルノちゃーん」

 

 パァンッ! 

 

 行去永は少し大きく柏手を打つと、再びその空間は静けさを取り戻す。

 

「今日は博麗の巫女はお休みです。霊夢さんは体調が良くないので騒がしくしないで」

 

 行去永は口元に人差し指を立てて静かにしろという意図を伝えると、しゃがんでコソコソと静かに妖精達は話し出す。

 

「霊夢が風邪? 明日は槍でも降るんじゃないか?」

 

「バカは風邪引かないっていうのにな」

 

「チルノが引いてないからそれは合ってるでしょ」

 

「天才のアタイに向かってなんだとー!!?」

 

 チルノは立ち上がって大声を出すが行去永が睨みつけて静かになる。

 

「うるさいってのが分かんなかったの?」

 

「、、、、、、ごめんなさい」

 

「あ、ごめん、強く言い過ぎた。でも、病人の前では静かにしようね」

 

 行去永は妖精達にお菓子を置いてお茶を淹れると、忙しそうに今日の雑事を終わらせていく。

 

「行去永さん、大変そうですね」

 

「ん? まぁ、ぐうたらに見えるかもしれないけど、普段あれでもあの人は博麗の巫女だからね。意外とやることあるんだよ。ほら、夏だからお盆もあるし」

 

「霊夢さんはいつ治りますか?」

 

「僕は医者じゃないからなー、それは分からないよ」

 

「永琳の薬はよく効くって人里で評判だぞー」

 

「永琳っていうと、あのーあれ、赤青の服の怪しい医者?」

 

「そう、その人。その人のところには行かないの?」

 

 スターサファイアが提案するが、行去永はそれを否定するように手を振る。

 

「それは駄目かな。僕がいない間に霊夢さんの容態が悪化したりしたら目も当てられない。魔理沙が来てくれたら別なんだけどね」

 

 溜息混じりにそう言うと、チルノは突飛な提案をする。

 

「じゃあ! アタイ達が面倒見てやればいいんじゃないか?」

 

「それは無理、、、でもないか、、、?」

 

(うん、無理じゃないな、少なくともマトモな子が一、二人いるし)

 

「おーい、どうしちゃったの?」

 

「行去永さーん?」

 

 行去永は黙り込んで考え、突然閃いたように話し出す。

 

「よしチルノ、そのアイデア採用しよう」

 

「へ?」

 

「台所にはお粥を作ってあるから霊夢さんが食欲ありそうだったら食べさせてあげて、ニ時間ごとにタオルを濡らして額に乗せること。んでもって、魔理沙や他の人が来たら看病を手伝ってもらうように頼ってね」

 

「へ? ん? えっ?」

 

「ちょっちょっ待って待って」

 

「あぁ大丈夫、紙に書いておくから分からなくなったら見るといいよ」

 

 妖精達の反応を気に留めずに早口で話しを無理矢理続け、そのまま立ち上がって外出の準備を始める。

 

「あの、行去永さん?」

 

「おーい、行去永ー」

 

「じゃ、任せた! 天才妖精達!」

 

 行去永は神社の外へと走り出していった。

 

「ど、どうしようかチルノちゃん、、、?」

 

「ぅ、、、うおぉー! 見たか今の行去永の態度!? アタイはやっぱり天才だー! やるぞ大ちゃん!!」

 

「えー、、、」

 

「やっぱりお前ってクレイジーだなー」

 

 チルノは行去永の一言に簡単に乗せられ、続く妖精達も霊夢の看病をすることになった。当の行去永は永琳の元へ行くために、能力を使って空中を移動していた。

 

 ダッダッダッダッダ

 

(わざわざ正直に迷ってやる必要なんかないもんね)

 

 迷いの竹林の上空に到着し、件の建物を発見すると、再び空中を駆けていく。

 

「ほい、とーちゃーっく」

 

 古い日本の屋敷であることに変わりはない永遠亭。しかし、少しも古びた様子を見せないのは永遠亭の主人、永遠を操る蓬莱山輝夜の能力故だろう。

 

「どこから入ればいいんだこれ、、、」

 

 正門を通らずに直に庭に着地してしまったため、本来のルートを見失い、途方に暮れていると優曇華が声をかけてくる。

 

「えっ!? あれ? 正門は開いてないのになんで!?」

 

「おっ、あの時の兎さん。どうもおはようございます」

 

「えっ、あぁ、おはようございます、、、」

 

「赤青の医者、、、永琳さんを探してるんだけども、どこにいるのか教えてくれないかな?」

 

「あ、患者さんでしたか。それならこちらに」

 

 優曇華は行去永を永琳のいる診察室へと案内する。

 

 軋む音の聞こえない古い日本の屋敷に新鮮味を覚えながらすぐに永琳の元へと到着する。

 

 コンコンコン

 

「お師匠様ー、患者ですー」

 

「入ってちょうだい」

 

 ノックをして合図とともに入室すると、行去永は奇異な目で見られる。

 

「あら、貴方はこの間の、、、」

 

「どうも、お久しぶりです」

 

「今日は病気? それとも怪我?」

 

「あ、申し訳ないんだけど僕じゃなくて、薬が欲しいのは霊夢さんなんですよね」

 

「霊夢が? 珍しいわね、風邪?」

 

「症状は概ね同じなんで風邪薬だけ貰えれば」

 

「調合するから少し待ってて」

 

 そう言うと永琳は背後にあるすり鉢などで薬草をすり潰し、薬を調合していく。

 

「そういえば聞いたわよ。サグメが一緒にいても何故か嫌じゃない不思議な人間がいたって。それってあなたでしょう?」

 

「サグメと知り合いなんですか?」

 

「一応、私は月の都の出身だもの」

 

「つきのみやこ? それ、サグメと関係あるんです?」

 

「、、、あの子何も言ってないのね。あの子は月の都っていう場所の住人なのよ」

 

「、、、そういう名前の場所? それとも」

 

 永琳は真上を指して断言する。

 

「文字通り、月よ」

 

「わぁ、月かぁ。スケールデカいなぁ、、、今度行ってみようかな」

 

「フフッ、どうやって行くつもりよ」

 

「んー、月までの距離は38万 kmだっけ。ロケットは放物線軌道に乗って、最短で大体マッハ22だかで動くけど、僕はその軌道とその他諸々の邪魔を無視出来るから、、、まぁ、最初だと二時間くらいで行けなくはないっすね」

 

 永琳が冗談と受け取り鼻で笑ったにも関わらず、指でくるくると円を描きながら行去永はあっさりとそう言い放つ。

 

「、、、、、、本気で言ってるの?」

 

「まぁ、そういう能力ですし。行きは時間がかかるけど、一度行けば道は開通しますから二回目以降はもっと早いですねー」

 

(神の能力、、、抑えられていてもそれ程までに便利なものなの? それとも、、、いえ、よしましょうか)

 

 カタンッ

 

 永琳は考えを深めるのを防ぎ、調合を終えて器材を置くと行去永に問いかける。

 

「それじゃあ月の都まで少しお使いに行ってくれないかしら?」

 

「まぁ、内容次第ですけど」

 

「別に大した内容じゃないわ、手紙をサグメか綿月姉妹に届けて欲しいのよ」

 

 永琳は封筒を胸から用意してピラピラ振って見せる。

 

「、、、健全な男の子の前で、あんまり、そういうのは、良くないかと、、、」

 

 顔を片手で隠してぎくしゃくと行去永は言うと、からかうようにして永琳は笑う。

 

「ごめんなさいね。しまうところが無かったから、つい。それで、受けてくれるかしら?」

 

「要するに行って帰ってくるだけですよね? だったら問題ないっすよ。サグメにも会いたいし引き受けます」

 

「良かった、それじゃあこれ飲んで」

 

 永琳はピンク色のいかにも怪しい液体を行去永にビーカーで渡し、手紙に文字を追加していく。

 

「え"なんで?」

 

「月の都は色々あるのよ、ほら遠慮せずグイッと」

 

「、、、死ななきゃいいか」 

 

 ゴクン

 

 飲み込んでも特に体の変化は感じられず、永琳は風邪薬を渡してくる。

 

「届けるのは今日か明日で良いわ。あと、私や輝夜のことはサグメと綿月姉妹以外に話さないで。それじゃ、お大事に」

 

「結局あれなんす──」

 

「お大事に」

 

「、、、へーい」

 

 半ば強引に帰らされ、渋々と帰路についていった。

 

「、、、永琳、良かったの?」

 

「何がですか?」

 

 輝夜が寝間着姿で永琳のいる診察室へと入ってくる。

 

「彼、死ぬわよ?」

 

「、、、では、賭けてみましょうか」

 

「賭け?」

 

「彼が死ぬか、生きて戻ってくるか」

 

「、、、いいわよ、暇つぶしになりそうだし。私は勿論死ぬ方に賭けるわ」

 

「私は生きて帰ってくる方に賭けましょう」

 

 二人の蓬莱人は行去永の生死についての賭けを、まるで神を嘲笑うがごとく話す。

 

「では負けた方は買った方の言うことをなんでも一つ聞くということで」

 

「うふふ、何をしてもらおうかしらね」

 

 ──ー

 

「じゃ、また出掛けるからよろしく。薬はさっき言った通りだし、用事が終わったらお土産持ってくるからねー」

 

 行去永は博麗神社に戻るやいなや、妖精達にそう告げて再び博麗神社を飛び出していった。

 

「完全に放任ね」

 

「まぁ、良いんじゃない? チルノとかピースも楽しそうだし」

 

「いつもと違って新鮮だし楽しいしね」

 

 光の三妖精は二人が賢明に看病する姿を見ながらお茶を飲んでいた。

 

「にしても、行去永さんて寝てるのかしら?」

 

「確かに、目の隈酷いよね」

 

「今度安眠出来るように周りの音を消してあげようかしら」

 

「じゃあ私はなにも見えなくするー!」

 

「それ、人間は困るんじゃないかしら、、、」

 

 ──ー

 

 カランカランッ

 

「いらっしゃいませー!」

 

 小気味良い音を立てながら、行去永は人里のとある場所に寄っていた。扉を開けると、幼いながらも書店を切り盛りしている少女、本居小鈴とその友達の稗田家当主が姿を見せる。

 

「あっ、行去永さん、例の本なんですけど」

 

「あー、やっぱ見つかんなかった? まぁ、時代が外とは違うからなー」

 

「いえ、香霖堂の店主さんから譲って貰いましたので、お売りできますよ」

 

「あー、魔理沙御用達のあの店? へー、ある所にはあるんだ。じゃ、貰おうかな」

 

「はーい」

 

 小鈴は店の奥に行き、本が汚れないように梱包していく。

 

「外の本、手話というものですか、、、何故それを? 行去永さんは普通に話せますよね」

 

「友達がね、ちょっと話すのが難しい人だからさ、一緒に話せたら楽しいだろうと思って」

 

「なるほど、、、計画だ打算だと言う割には、意外とお節介ですね!」

 

「どうだろうねー、それも計画のうちかもよ?」

 

 手をぷらぷらと振って軽く話を流すと、丁度本の梱包が終了する。

 

「はい、梱包終わりましたー」

 

「毎度ながら丁寧だねぇ。じゃ、バイバーイ」

 

 カランカランッ

 

「お節介焼きよね、誰が見ても」

 

「あはは、阿求と似たようなものでしょ?」

 

「それを言うなら小鈴でしょ?」

 

 誰もいない店内で二人の少女はいつものように笑い合う。

 

 その場を後にした行去永は煎餅が売っている店へと出向き、お土産用と書かれた数種類の煎餅を買う。

 

(土産くらいはいるよな、、、酒は買えないし煎餅でいいか)

 

 その後、行去永は誰の目も届かない森へと足を運ぶ。

 

「さて、、、妖怪の山は真反対、魔法の森でもないから誰もいない。初めての長距離移動、成功するといいなぁ」

 

 行去永は周りがほんのりと薄暗くなる中、明るく妖しげに光を帯びる月を見上げ、頭の中でルートを構築し始める。

 

(能力のおかげで僕には重力や軌道は関係ない。ただ真っ直ぐに最短を行けばいいい)

 

「よし、、、」

 

 カラカラカラ

 

 行去永は空に向かって、文字通りに駆け出す。重力を無視し、垂直に地面を走るかのように月へ向かって上っていく。能力を使ってトンネルのような真っ暗な空間へと入っていく。

 

(宇宙は魔法使わないと外に出れないな)

 

 自身の周りだけ、幻想郷の空間になるように魔法を使用し、再び宇宙空間を上っていく。

 

(多分宇宙に入って、今どの辺だ? 外だと計算上はあと三十分くらいだけど、、、)

 

 真っ暗なトンネルをそんなことを考えながら走り続ける。

 

 ──ー

 

「そろそろ出るか」

 

 カラカラカラ

 

 ゾワァッ

 

 二時間通して走り、トンネルを抜け出して外に出ると、何も見えない宇宙へと放り出される。

 

「やっっば、怖っ」

 

 例えようのない恐怖感と不安感が身体に巡り、背筋を凍らせるが、月まで目前と言うことに気づき冷静に道を創る。

 

「ここまで来たら直でいいか」

 

 タッタッタッ、フワッ

 

 月面に目測より長い時間歩くと無重力を一瞬感じて着陸する。

 

「おー、地球はほんとに青かった、、、当たり前か。さて、月の都とやらはどこだろな」

 

 能力を使ったり使わなかったりしながら、無重力を体験して都を探すが、いつまで歩いても都は見えてこないことに疑問を抱く。

 

「んー? 行けばすぐ分かると思ったけど、、、あぁ、結界か? じゃあ、、、総当たりでいいか」

 

 その場に立ち尽くし、能力を使って総当りし、結界を発見する。

 

「、、、、、、、、、おっ、ぶつかった。意外と近い、お邪魔しまーす」

 

 結界に無断で侵入するが、能力のお陰でアラーム等が鳴ることはなく、月の都の全容を観る。

 

「おぉー、地球を見るよりよっぽど驚くなこりゃ」

 

 空は黒く、寒いわけでもなく適温。朱く華やかで 行去永の記憶にある中華風の建物が郡をなし、何故か息ができて重力があることに気がつく。

 

「結界の効果か? ま、いいや、サグメはどこかなーっと」

 

 ザッザッザッ

 

 大胆に都へと歩いていくと、兎の耳を生やし、手には銃剣を装備している二人組の月人を発見する。

 

「これはたまげた、ほんとに月には兎がいたのか」

 

 行去永が独り言を呟くと、その人物達は慌てた様子で銃剣を向けながら行去永に近づいていく。

 

「な、何者だ!? どうやってここに来た!?」

 

「あ、怪しいけど別に何もしないです。走ってきました」

 

「何処から!?」

 

「アレから」

 

 行去永は地球を指さして笑うと、もう片方の人物は

 

 銃の引き金に手をかける。

 

「いや、だから信じられないかもしれないけど地球から友達に会いに来たんだってば」

 

「そんな話は信じられるか! 穢れを持つ地上の民が月の都に入るのは重罪、悪く思うな」

 

 ダンダァンッ

 

 二人の人物は引き金を引き、耳を劈く音をたてながら銃弾が発射されるが、弾は全て逸れていく。

 

「「何だと!!?」」

 

「こっちも約束あるんだよ、悪いけどサグメの居場所を教えてくれない?」

 

「まさかっ、妖怪が再び攻めてくる為の斥候!?」

 

「そんなんじゃないってば、、、あ、ほら煎餅でも食って落ち着けって」

 

 行去永の話に耳を傾けることもせずに月人達はトランシーバーを使って増援を呼ぶ。

 

「地上の妖怪が単騎で結界内に侵入! 謎の力により迎撃失敗、増援を要請する!」

 

「あっこら、待てってば、、、うわっ、やば」

 

 増援を呼んだと同時に連携の取れた動きで行去永はあっという間に囲まれて銃剣を向けられる。

 

「、、、、、、交渉の余地はあったりする?」

 

「「「無い!!」」」

 

「はぁ、、、マジかよ」

 

 ダダダダダダンッ!! 

 

 声を揃えてそう言うと、一斉に銃弾を発射する。

 

 行去永はその場で跳び上がりそれを回避し、適当に銃弾を月人の周りを飛び回らせて空中を歩き始める。

 

「こっちも暇じゃないんだ、自分で探すよ」

 

 月人達は味方の弾に被弾しかけ、話を聞く状態ではなくなる。

 

「うわぁっ!」

 

「なんで銃弾がこんな動きするんだ!?」

 

 タッタッタッ

 

「見た目より遠いな、、、ん?」

 

 月の都の前には、銀と紅いの鎧を身にまとい、大きな剣を帯刀している大柄な月人、それの後ろに控える兵士のような者が数名構えている。

 

「たかが一人の妖怪に何を手間取っている、、、」

 

「玉兎達はこれだから、全く」

 

 トンッ

 

「Hello、一応聞くけど話は通じる?」

 

「地上の妖怪の侵攻か?」

 

「いや全く違う。何度も言うけど僕は友達に会いに来ただけだからさ、ここにその人を呼ぶか案内してくれない?」

 

「断る、そもここに地上の穢れが存在しているのが問題なのだ、大人しく死ね」

 

「穢れってのが何かは知らんけど、こっちも頼まれごとなんだよ。約束は守るのが筋だろって」

 

 そこまで言うと近衛兵達は剣を抜いて構える。

 

「殺せ、相手は地上の妖怪一匹、時間はかかるまい」

 

 ドドドッ

 

 カラカラカラ

 

 先行した三人が斬りかかるが、行去永の横をスレスレに剣が通り過ぎる。

 

「「「!?」」」

 

「俺は戦ったら脆いし弱いけどさ、当たらなかったら意味ないよ? 今日はある程度準備してきたからね、少し強気で行くよ」

 

「ハァッ!!」

 

 ガゴンッ

 

 近衛達は再び剣を振るうが、次は味方に柄を振り下ろし、三人揃って自滅してしまう。

 

「、、、下がれ、私一人でやる」

 

 銀と紅の鎧の近衛は剣を抜いて歴戦を思わせる足取りで行去永に向かう。

 

「おい、待て待て、、、アンタは絶対ヤバいだろ」

 

「ヌンッッ!!」

 

 バゴォン! 

 

 行去永は能力で剣撃をズラすが、横の地面がひび割れ、その瓦礫が僅かに顔に当たる。

 

「ハアァァッ!!!」

 

 ブゥオォンッ! 

 

 タンッ、トッ

 

 行去永は再び剣撃を繰り出す近衛から一歩離れて空中を走り出す。

 

 そのまま重力を完全に無視し、走った場所が地面かのように縦横無尽に適当に歩き始める。

 

「! 一体どんな力だ、、、」

 

「このままでいいから聞いてよ。ほんとに何もするつもりはない。俺は侵略とかそういうのは嫌いなんだよ」

 

「信用出来るものか!!」

 

 ブゥオォンッ!! 

 

 剣撃を連続して繰り出すがそのいずれも当たらずに空を切る。

 

(ジリ貧だ。隕石でも落とすか? いやそれは信用が消えるか、元々ないけど)

 

「あっ、じゃあワタツキ姉妹ってのを呼んでくれよ! 多分話が通じるだろうし!」

 

「呼びましたか?」

 

 ヒュッ、ザシュッ

 

「は?」

 

 ほんの僅かの隙で背後に刀を構えた女性が行去永の背を斬り裂き、行去永は咄嗟に前に跳ぶ。

 

「依姫様っ!!」

 

「貴方達は下がりなさい、私が片付けます」

 

「はっ!」

 

 依姫と呼ばれる月人は近衛達を下がらせると刀を行去永のいる方に突きつける。

 

 ザッザッザッ

 

「ちょっと、誰か知らんけど一張羅が台無しなんだけど」

 

 何事もなかったかのように歩いてくる行去永をしっかりと見据える。

 

「八雲紫の差金ですか? 穢れ、、、」

 

(? この男、穢れを纏っていない?)

 

「だから違うってば、穢れが何か知らないけどサグメに用事があるだけだってば」

 

「、、、サグメ殿は月の賢者だ、そのような噓を信じられるものか」

 

「月人って頭固ったいのね、、、荒事は苦手なんだけどなぁ」

 

 行去永はぼやきながら、地に伏している近衛の剣を足で弾き握ると、能力を行使する。

 

 カラカラカラ

 

「戦ってる間くらいは話を聞いてくれたりする?」

 

「それはあなた次第だっ!!」

 

 ギィンッ! ヒュッガインッ

 

 依姫の刀を受け、能力を織り交ぜて受け流していく。

 

(動きがどんどん洗練されていく、、、何故当たらない? それに、何故か神を降ろせない、、、)

 

(最大限ズルしてコレかよ、、、攻めは苦手なんだってば、てかなんで神がこの辺にいるんだよ仕事してろ!)

 

「俺は縁あってサグメと地上で出会ったんだよ、本人をここに呼んでくれ! 多分なんとかなる!」

 

「では何故わざわざ月に来たのです? 地上で待っていれば良かったの、にっ!」

 

 ビュオンッ!! 

 

「危なっ、話聞く気あるんならもう少し優しくしてよ!」

 

(チッ、やりたくないけど仕方ないっ)

 

「!!」

 

 カラカラカラッキインッ──ゴォンッ! 

 

 行去永は近くの宇宙空間から比較的小さめの隕石を寄せて月面へと直撃させ、砂埃を起こす。

 

「煙幕など無駄です!」

 

 ブォンッ!! 

 

 依姫は砂埃を払う、その視線の先には剣を捨てて頭を下げる行去永がいた。

 

「信用できないなら拘束してくれて構わない、その間怪しい動きをしたら殺せばいい、とにかくサグメに会わせてくれれば解決するんだって! 頼むよ!」

 

「、、、、、、、、、」

 

「依姫、それでいいんじゃない?」

 

「お姉様っ!」

 

 依姫の後ろに扇子を持ってにこやかに笑う人物、豊姫がいつの間にかいた。

 

「ほら、交戦する気もないし、貴方なら万が一にも負けないでしょう?」

 

「っ! 、、、はぁ、分かりました」

 

「ウフフ、じゃあ拘束してくるわね」

 

 豊姫は頭を下げている行去永に向かって歩き、話しかける。依姫はそのうちに近衛達を都へと帰還させる。

 

「こんにちは、地上の人間さん。私は豊姫といいます。悪いけど拘束させてもらうわよ」

 

「交渉成立?」

 

「えぇ」

 

「殺さない?」

 

「何もしなければね」

 

「、、、待って待って、安心感で吐きそう」

 

 行去永は膝から崩れ落ちて喉を抑え、ボタボタと汗を流す。

 

「もう、生きた心地がしない、、、、、、」 

 

「あら、さっきまでとは随分違うわね」

 

「あーもうやだ、、、オエッ」

 

 ぼやきながら手を差出すと、謎の紐に拘束される。

 

「ん!? 痛っ!?」

 

「少し辛いかもしれませんが我慢してくださいね」

 

 ポサッ

 

「あっ、ちょっと、それ拾っていいですか?」

 

「なんですかそれ?」

 

「サグメか綿月姉妹とやらに渡す手紙っすよ、これが元々今回の目的なんで、煎餅と本はお友達用」

 

「あら、じゃあ拝見しますね」

 

「あぁ、貴方が綿月姉妹っすか、なら良かった」

 

 豊姫は手紙を拝見すると笑顔を見せた後に最後の文章を読んで笑顔を貼り付けたまま、行去永の拘束を解く。

 

「おろ?」

 

「姉様、どうしました?」

 

「依姫、これ見て」

 

 豊姫は手紙を依姫に見せ、コソコソと話し出す。

 

「へっ? 八意さまの近況報告ですか?」

 

「そこじゃなくて最後よ最後」

 

「えっと、来てもらってばかりで悪いからこちらからも使者を送ります。文通がやりやすくなる為の重要な人なので乱暴はしないように、、、」

 

「「、、、」」

 

((やってしまった))

 

「急に拘束解いてどうしたんですか?」

 

「、、、いえ、なんでも無いのですよ、はい。取り敢えずサグメを呼ぶから私の家まで行きましょうか」

 

「? 了解っす」

 

「貴方たちは下がりなさい、この者はこちらで処理します。それと、他言は無用です」

 

「「「はっ!」」」

 

 依姫が近衛と巡回兵たちに同様の話を通した後、

 

 裏道のような場所を通り、人目につかないように豊姫の家の一室へと案内され、依姫と共に暫くの間待たされる。

 

「拘束は無くていいんすか? それにお茶まで」

 

「、、、一つ確認ですが、貴方は八意様と知り合いなんでよね?」

 

「まぁ、そうですね。あ、このお茶上手い」

 

「始めから八意様のことを私に言っていただければ、、、」

 

「急に背中斬られて殺す殺す言われたら無理くないすか?」

 

「う"っ、その件についてはすいませんでした」

 

「別にいいですけど、もう終わりましたし」

 

 隠しきれない、小さくない怒りがピリピリと漏れ出る。依姫は超がつくほど真面目な性格なため、自分自身を先程から叱り、自己嫌悪に陥っている。その時、不意にノックが鳴る。

 

 コンコンコン

 

「失礼する」

 

「あ、サグメ、やっほー」

 

 その場から手を振ると、小さくサグメも手を振って返す。

 

「本当に知り合いなのですか、、、?」

 

「地上での恩人、そして友人だ」

 

「え、喋れんの?」

 

「この機械を使えば、ある程度は話せる」 

 

「うぇえ? じゃあこの本は無駄になっちゃったか」

 

 手話の本を取り出して見せるがサグメはそう思っているわけではなさそうで、興味津々にそれを見つめている。

 

「見たい?」

 

「是非とも」

 

「じゃ、どうぞ」

 

 サグメは片翼をパタパタとさせながら本を開き、手の形を真似していく。

 

 話においていかれている依姫はその様子を静観する。

 

「喜んでもらえて何より、用事も済んだし僕は帰ろうかな」

 

「今度はいつ来るんだ?」 

 

 ガチャ

 

 サグメが本を閉じて問いかけるとちょうど扉が開き、団子を人数分持った豊姫が入ってくる。そして、行去永が返した答えは中々に冷徹な物言いだった。

 

「え? もう二度と来ないと思うけど」

 

「「へっ?」」

 

 姉妹の声が重なる。

 

「なっ、なぜ? 交通が悪いのは知っているが、なんで?」

 

「いやまぁ、交通に関しては問題ないよ。それよりも、毎回来る度に殺されかけてちゃたまったもんじゃないし、何よりここでは僕は穢れ? なんでしょ。穢れとやらは月に来ちゃいけないみたいだからね。人を中身で見ずに偏見だけで見るような人が沢山いる場所はこっちから願い下げだし。あ、サグメは違うから、幻想郷に来たら声かけてね」

 

「まっ、待ってください!」

 

「まぁ急ぎじゃないし待てるけど何すか?」

 

「こ、今後はこういったことは無いのですから気軽に訪ねていいんですよ?」

 

「遠慮します、居心地悪いですし。永琳さんのお願いももう聞くつもりないから安心してください。僕はもう来ません」

 

「えっとー、ほら! サグメに会える機会が減りますよ?」

 

「それは残念だけど仕方ないね、会えたらラッキーくらいで考えときます」

 

 姉妹はあれやこれやと意見するが、実は行去永は全て分かって言っており、心の中で復讐がてらにほくそ笑んでいる。

 

(少しくらいは鬱憤を晴らしても構わないよな)

 

「もういいですかね? そろそろ帰りたいんですけど」

 

「、、、あっ!!」

 

 突然豊姫は声を上げると、さらに突拍子もないことを言い出す。

 

「ならば私達も一緒に地上に連れていってください!」

 

「一体なーにを言い出すんだこの人は」

 

 うっかり口に出てしまったと言わんばかりに慌てて口を塞ぐが、それをお構いなしに豊姫は話し続ける。

 

「私達が直接八意様に経緯を話せばいいのです!」

 

「姉様!?」

 

「いや無理無理無理、あんた多分お偉いさんでしょうが」

 

「仕事の方は問題ありません! 貴方の力でパパっと飛べば良いのです!」

 

「妹の方もなんか言ってやってよ」

 

「確かに、それなら問題ないかもしれません、、、元々何回か行ってますし」

 

「マジカヨー、、、、、、サグメは?」

 

「私もそれでいいと思う」

 

「いや、そうじゃなくてね。行くのはもういいや。問題ないし、サグメも来る?」

 

「、、、同行しても良いだろうか」

 

 片翼をパタパタと動かし、いつも通りに口元を隠しながら答える。

 

「りょーかーい」

 

 コツン、、、カラカラカラカラカラカラ

 

 行去永はトンネルをその場から地球に創り、道の調整を始める。

 

「僕の能力はどんな場所でも物でも概念でも、どんな形であれ観測出来れば好き勝手に道を創れる。一度目は物理的に行く必要があるけど、二度目以降は道が開通されるからほぼ一瞬で行ける、、、月から地球は初めてだから時間かかるのは許してください」

 

「ここを歩いてきたのですか? 凄い、何も見えないですね、、、」

 

 豊姫は暗闇の空間に手を入れて不思議そうにしている。

 

「いかんせん座標がズレると大変なことになるから、地上のどの場所に行くか調整中です。あんま触んない方がいいっすよ、その中はこの世の"裏"なんで、閉じたら僕しか迎えに行けません」

 

「量子が全てを覆っている、何もないように見えてこれは特殊なワームホール? いえだとしたら、、、」

 

 豊姫はブツブツと呟きながら中身を観測している。

 

「、、、依姫さんでしたっけ?」

 

「はい」

 

「彼女、調整中に落ちても知らないよ」

 

「多分それはないと思います、多分、、、」

 

 カラカラカラカラカラカラ

 

「よし、完成。到着まで走れば一時間、歩けばニ時間程度、どうします?」

 

「走る? どこをですか?」

 

「この中をですけど?」

 

「足場は?」

 

「僕が作るんで問題ないっすね」

 

「もし、足場がないまま行ったら?」

 

「文字通り、月から地球まで真っ逆さま。隕石ならぬ隕人の完成でーす。言っとくけど中で飛べるかどうかは知らないよ、僕は飛べないし」

 

 行去永はヘラヘラ笑いながらポケットに手を入れてトンネルに入っていく。

 

「僕の後ろからじゃなきゃ道は出来ないからねー、じゃあしゅっぱーつ」

 

「楽しみねぇ〜、行くわよ依姫!」

 

 トンネルの暗闇に飲み込まれたのを見た豊姫は我先にと入っていく。

 

「あっ、姉さま!」

 

「行くとしよう」

 

 サグメも入っていき、依姫も意を決して入っていく。中は文字通りの暗闇、しかしお互いははっきり見える。暗闇というよりも別な世界と言う方が正しい気さえする空間だ。

 

「ようこそ〜世界の裏道へ。ここは外から一切として干渉できない、代わりにこっちからも干渉できないから、時間を正確に測って歩かなきゃだから頑張りましょうー」

 

「は〜い!」

 

 ──ー

 

 進み始めて約一時、その間豊姫は遠足にいく学生のようにはしゃいで行去永に質問攻めする。

 

「貴方の能力はどこまで及ぶの?」

 

「んー、やったことある中で概念に近いのは自分が怪我した時、全快への道を歩んで怪我を治したり、さっきやった、剣道の道を歩んである程度の剣技を使えるようにしたりとか」

 

「さっきから歩く、歩むの表現は必要なんですか?」

 

「勿論、あくまでも道を作って歩むまでのワンセット。弾幕みたいに自分でスピードを持ってるのは道を作れば勝手に進むけど、歩かなきゃ人は前には進めないし」

 

「なるほど、確かに、、、じゃあ足を切断すれば能力は無効化されるのですか?」

 

「七割方ね、少なくとも自分に対するバフは消える。てか怖いこと言わないでよ」

 

「じゃあ、先程私と斬り結んだ時はそれを使っていたのですか」

 

「そうそう、それに加えて依姫さんの剣撃をずらしたり、神が降りる先を適当なところに道を作って妨害したりとかしてズルしまくったけど、勝ち筋が全く見えなかったわ」

 

「、、、それ無敵じゃありませんか?」

 

「ところがどっこい、あくまでも観測するのが条件なんで、早すぎたり後ろから刺されたりしたら詰む上、僕本体は少し運動神経が良いだけの雑魚です」

 

「そんなにペラペラと弱点を晒してもいいのか?」

 

「元からここにいる誰かを相手にしたら勝てないし五十歩百歩でしょ」

 

「あんなに健闘したのにですか?」

 

「今回は凄い準備したし、あくまでも僕の能力は護りに特化したもの、分けはあれど勝ちはありません。さて、そろそろ着きますよー」

 

 トンネルを抜けると、青々とした空を上に見据えて迷いの竹林の上空に到着する。

 

「永遠亭は、、、あっちか」

 

 永遠亭まで空を歩いていく。

 

「あそうだ、僕の能力は口外しないでくださいよ。誰にも自分から言ってないんですから」

 

「心得ました」

 

「了解した」

 

「はいはーい」

 

 三人の了承を得た後に、永遠亭の真上へと行去永は降り立った。

 

 続



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第八歩 僕は最低だ、、、

この前にうっかりもう一つの方に投稿しちゃって馬鹿みたいに焦りました


 永遠亭の入口に行去永は、月の民と共に降り立った。

 

「先に言っときますけど、僕は一切干渉しないんで話は貴方達がつけてくださいよ?」

 

「えぇ、もちろんです。今回は私共の不始末、きちんと説明させていただきます」

 

 豊姫はそう言った後、行去永を先頭にして四人は正門へと入っていく。

 

「あれ、行去永さん。なにか忘れ物でも、、、いぃ!?」

 

 鈴仙は目に見えて驚愕する。半日と経たずに行去永が戻ってきたかと思えば、後ろにはかつての上司が勢揃い、なにか重大な事件になるのではないかと訝しむのは当然のことである。

 

「ど、どういうことですか?」

 

「あー、うん。まぁ、さっき月に行ってさ」

 

「その時点でもう理解し難いんですけど」

 

 行去永の能力を知らない鈴仙は、耳をしおらせて肩を落とす。それを気にも止めずに説明を続ける。

 

「封筒を渡したら、色々良くないことがあったみたいで、ちょっと意趣返ししてたら地上に来るって聞かなくなっちゃって」

 

「あなた、よくもまぁ月の民の最上位に位置する方々に復讐だなんて思いつくわね」

 

「本当にちょっとしたつもりだったんだけど、なんか説明するのも面倒だしいいやって」

 

「ちゃんと寝てないからじゃないですか? 目の隈酷いですよ」

 

「毎日十時には寝床に入ってるんだけどなぁ。あ、それで悪いんだけど、永琳さんのとこに案内してもらっていいかな」

 

「あ、分かりました。皆さんですか?」

 

「サグメは今回の件、無関係だし。お茶でも出してあげくれないかな、お代は後で払うし」

 

「了解でーす」

 

 行去永は頼み事を終え、鈴仙はそれを了承する。

 

「じゃあまた後でねー」

 

 サグメに手を振り、それを手を振って返す。

 

 あまり月にはない、というより、そんなに頻繁に使うほどでもないコミュニケーションの方法。

 

 けして遠くもなく近くもない、その距離感が心地よかった。

 

「なんだか、サグメ様少し変わりました?」

 

「? そんなことはないと思うが、、、」

 

「なんというか、以前よりお綺麗になられたといいますか」

 

「、、、行去永に会ったからかもしれない」

 

「えぇ!?」

 

(それってつまり、"そういうこと"よね、、、! 月の民と地上の人間って大丈夫なのかしら、、、)

 

「サグメ様」

 

「?」

 

「心から応援しています、、、!」

 

「??」

 

 サグメは疑問符を浮かべっぱなしだが、鈴仙は自分の中で考えを完結した。

 

 ──ー

 

「なるほどね、話は分かったわ」

 

 永琳に事の顛末を全て話した三人。豊姫と依姫はバツが悪そうに目を背ける。

 

 当の行去永は真顔を保っているが、本心は酷く怯えていた。

 

(やべぇ、、、言うタイミング逃した)

 

「さて、どうしたものかしらね。行去永はどう思う?」

 

「おっれぇ!? えっとっすね。あーと、うーん、、、」

 

「意地悪ねぇ、貴方。大方、ちょっとした意趣返しの為に黙ってたら、言うに言い出せない状況になったのでしょう?」

 

 永琳は月の頭脳と呼ばれる天才。ほんの些細な隠し事など、当然のように筒抜けだった。

 

「いや、うん、はい。全くもってその通りです」

 

「なっ!?」

 

「あら、やっぱりそうだったの」

 

 驚く依姫と対象的に豊姫はとても穏やかに笑う。

 

「ね、姉様。一体どういうことですか??」

 

「いえ、ただなんとなく最初から嘘な気がしてたのですよ」

 

「、、、俺自分で嘘吐くの得意だと思ってるんですがね」

 

 数少ない得意分野をいとも簡単に看破されてしまい、行去永は若干肩を落とす。

 

「私は全く分からなかったのですが、、、」

 

「まぁ、殺されかけたし、これでおあいこってことにしとこうよ。うん、そうしよう」

 

 あまり納得の行ってなさそうな依姫にニヘラと笑いながら行去永はその話を誤魔化す。

 

「まぁ、今回はこちらの失態も大きいですし、そういうことにしておきましょう」

 

「じゃあ、問題は無くなったのね?」

 

「お手数をおかけして申し訳ございません」

 

「いいのよ豊姫。久し振りに貴方達に会えたし、変わりないようで安心したわ」

 

「じゃあ僕はサグメのとこに行くんで、あとは師弟同士ごゆっくり〜」

 

「、、、ところで、サグメとはどういう経緯で知り合ったのです? 随分と親しそうですが」

 

 話は全て終わったと思い、サグメの元へと早足でさろうとする行去永に対し、話題を急に変えて豊姫は行去永に問いかける。

 

「あー、偶然だよ偶然。お互いちょっと仲の良い友達ってだけ。それ以上でも以下でもないよ」

 

(月の賢者とやらが酔っ払ってお持ち帰りされそうになったなんて聞きたかねぇよな)

 

「しかしサグメはよく貴方のことを話しますよ?」

 

「え、なんて?」

 

「最初は、嘘つきであまり信用できない怪しい男が自分を助けてくれたって言ってたわね」

 

「え、、、ショック、、、」

 

「でも、この一ヶ月でかなり印象が変わったわ、ねぇ? 依姫」

 

「そうですね。私の聞いた話は、行くたびに何かしらの物をプレゼントしてくれたり、自分を見つけると犬のように尻尾でも振ってるんじゃないかと思うほどの笑顔で近づいてきたり、人里にいると時々さらりとくっついてきたり、でも穢れが近いはずなのに不思議と嫌じゃない、むしろ心地良いとまで──」

 

「分かった! もう十ッ分に分かった!! もう止めてくれ!!!」

 

 行去永は顔を耳まで真っ赤に染めながら両手で顔を隠し、大声をあげて話を止める。

 

「、、、あぁ、そういうこと」

 

「貴方、見た目や性格の割に意外とピュアなのね」

 

「? 、、、、、、あぁ! サグメのことが好ー」

 

「だからやめてくれってば!!!」

 

 耐えきれずに土下座する勢いで地面に身体を突っ伏し、再び大声をあげて悶える。しかし、その場に一つの爆弾が投下される。

 

「お師匠様ー。なにか大声が響いてるんですが、いかがなされましたかー?」

 

「八意様、なにか問題でも?」

 

 サグメと鈴仙が騒ぎを聞きつけてやってきたのだ。

 

「行去永がちょっとだけ病気なのよ」

 

「モゥ、、、ヤメテ、、、」

 

「! 無事なのか?」

 

 ピトッ

 

 サグメはそれを聞くと、慌てた様子で倒れている行去永に駆け寄り、自身のおでこと行去永のおでこを合わせて熱を測る。

 

(アァァアア! 待て待て待て待て、、、落ち着け! そうだ般若心経だ! 行け俺! 仏説摩訶般若波羅蜜多心経観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子色不異──!!!)

 

「熱が激しく上下して、、、!?」

 

 ガクッ

 

 サグメに駆け寄られ、さらに顔の熱を上げたかと思うと、行去永は心を冷静に保つために突拍子もない手段に出る。そして、疲労が祟ったのか気絶する。

 

「ごめんなさいねサグメ、私にこの病は治せないわ。でもまぁ、少なくとも死に関わる病気じゃないから安心なさい」

 

 永琳の言葉にサグメが安堵したのと同時に、行去永は雰囲気を一変させて起き上がる。

 

 ゾアッ

 

「ほう、、、酒以外でも気を絶つことがあるとはな」

 

「「「「!!」」」」

 

 神が、行去永の身体を再び乗っ取った。

 

「? なんだここは、薬臭いな」

 

「行去永、、、?」

 

「ん? あぁ、違う違う。私は行去永だが、貴様らの知る男とは別だ」

 

「神降ろし、、、とも違いますね」

 

「貴様らが相手にしていたのは、半神半人なのだよ。まぁ、もうじき半では無くなるがな」 

 

「言っておくけど、ウチは元々不干渉のつもりよ。敵対するならばその限りではないけれど」

 

「フハハハ。そのように殺気を漏らされては、説得力に欠けるというものだな」

 

 神をその身に降ろせる依姫だからこそ感じれる、おぞましい気配。八百万の神のどれにも一致しない"ソレ"は敵意を向けずともその場の空気を支配する。

 

「しかしまぁ、貴様がサグメか、、、」

 

 道祖神はサグメの顔をまじまじと見つめながらニヤニヤと笑みを浮かべる。

 

「この男の最近の様は実に傑作だったぞ?」

 

「、、、何が言いたい?」

 

 サグメは普段行去永に見せる柔らかい表情と打って変わって、怪しさを含めた表情で道祖神を見る。

 

「あれは私が内にいると気づいた時からだったな。わざわざ夢の管理者の元まで行き、自らが眠ったときに悪夢を見せて起こしてくれと懇願したり、自分の身体に鞭を打ってまで寝ないよう努めたり、挙げ句には、毒を飲んで身体を動かせない状態に仕立てあげたり、数々の自傷のせいで私の身体はボロボロだ」 

 

「貴方がその身体から出ていけばいい」

 

「断る。向こうから連れてくるのは中々に面倒なのだ。それに、元々外の世界とやらでコイツはゴミ同然の人間。拾ったゴミをどう使おうと当人の勝手だろう?」

 

「ッ!! お前は──!!」

 

 ガッギリィッ! 

 

「カハッ」

 

 サグメが変声機を外して能力を使おうした瞬間、道祖神はサグメの首を掴んで締め付ける。

 

 同時に刀を抜こうとした依姫に片方の手を向けて動きを制御する。思いがけない事態の転換に、さすがの四人も動けない状況を作られる。

 

「動くな、動けばこいつの首を折る。私を舐めるなよ、高貴な月人様とやら」

 

 ギリリッ

 

「ぐ、、、ァ、、、」

 

「サグメ様!!」

 

「さて、教えてやろうか稀神サグメ。なぜこの男がそこまでして私を呼び出したくなかったかを」

 

「だ、、、ま、、、れ!!」

 

 怒りに任せたサグメは自らの能力を忘れて口走ってしまう。

 

「おやおや、それは喋ってほしいという裏返しか? ではお言葉に甘えさせてもらおうか。それは貴様だ

 

 、稀神サグメ。無論、幻想郷の者に迷惑をかけたくないという思いもあっただろう。しかし所詮はこやつとて一人の男、心の内を満たすことのできる女に牙を向く可能性のある私を出さない。そして、願わくば一ヶ月の間、たったそれだけの期間寝ずに過ごし、その後に自らの首を掻き切るつもりだったのだ。どんな気分だ? 自分が友を苦しめていた最たる要因だと知るのは!!」

 

(こんなのは行去永じゃない、、、!! 私の知る行去永は、、、!!)

 

 サグメは不安と怒りが入り交じる瞳で道祖神を睨みつける。

 

「何だその顔は? 現実を見ろ愚か者が。貴様の目の前にいるのは、声も顔も、記憶も全て八和道行去永だろうが」

 

 声も顔も記憶も。文字通り全てがサグメの知る行去永であった。いつも笑顔で犬のようについて回る人間が、想像を超える程に別人格へと変わり自分へと牙を向いている。気づくとサグメの頬には一筋涙が伝っていた。

 

「ッ──!! いい加減に離せ!!」

 

 キインッ! ブアッッ!! 

 

 我慢の限界を向かえた依姫は刀を抜いて腕へと斬りかかる。道祖神は、あたかもそれを知っていたかのように狭い部屋でそれを回避する。

 

「躾のなっていない駄犬だ。ここは一つ、理解させるとしよう。己の非凡さを」

 

 道祖神は体制を変えて後ろからサグメの首を掴み、さらに首を握る手に力を込める。

 

 サグメも抵抗するが、行去永本人の男の力に逆らえず、景色がぼやけ始める。

 

 ギリギリギリィッッ

 

「あ、、、が、、、!!」

 

「やめなさい!! それ以上は本当に許さないわよ!!」

 

「今すぐ離せ!!」

 

「これ以上は冗談では済ませられない領域よ!!」

 

「やめて! お願い!! やめて行去永さん!!」

 

 四者四様に道祖神へと乞うが、それでも握る力は強くなり、サグメの顔は血の気が引いて青ざめていく。

 

「新たな死が一つ、ここに誕生するぞ。祝えよ。月人共」

 

 ゴキンッ

 

「、、、?」

 

 一同が痛々しい音の瞬間に目を瞑る。恐る恐る目を開けるが、結果は予想と反するものだった。

 

 骨が折れた音が室内に響く。しかし折れたのはサグメの首ではない、道祖神の右指だった。

 

「ここで邪魔して見せるか、面倒な知恵をつけおってからに」

 

 ガリリリリッ! 

 

 道祖神の左腕は首を掻きむしり、反対の意を示す。

 

「フンッ、いいだろう。貴様も現実を見るといい」

 

 フワッ

 

 道祖神が放っていた異質な気配は消え失せ、首から血をボタボタと流した元の行去永が膝をつく。

 

「ッ、、、サグメッ! 怪我は──!」

 

 見上げた四人の顔は、異質な化け物を見るそれであった。手を伸ばして駆け寄ろうとしたサグメもそれは例外ではなく、首に浮かんだ右手の痣と、怯えて震えた少女の表情が、男に後悔を引き寄せる。

 

「あッ、、、ごめん、、、本当にごめん、、、」

 

 ガラッ

 

「ちょっとー、えーりーん? なんの騒ぎー?」

 

「いやー、悪いんだけど、怪我しすぎちゃったから治してくれないかな」

 

 先程まで竹林にて、日課である密会をしていた二人は、血だらけの服と色々飛び出した身体で部屋に入る。

 

「って、行去永じゃないか。膝なんてついてどした、怪我か? ていうか、なんであんたらもいるんだ?」

 

「あら、生き残れたのね? 賭けに負けてしまったわ」

 

 さっきまでのビリビリとした空間が二人の参入で沈下され、全員が我にかえる。

 

「行去永っ! 違う今のはっ!」

 

 カラカラカラカラカラ

 

「ごめん、、、クズでごめん、、、」

 

「行去永ッ!!」

 

 行去永は能力で足元に道を作り、サグメの伸ばした手をとることなく地下へと落下するようにして、その場から消え去った。

 

「あー、なんか、お取り込み中だったのかな、、、?」

 

「永琳、説明なさいな。他の皆も黙ってちゃあ、分からないわ」

 

 その日、事の顛末を全て話した。そして、現状における幻想郷の危険物である行去永を、彼女が監視していないはずはなかった。

 

 幻想郷の創設者にして妖怪の賢者、八雲紫がついに彼の排除に乗り出した。

 

 ──ー

 

 あの事件から二日。そう、たったそれだけの時間は事態を急変させるのに充分すぎた。

 

 結論から話すと、八雲紫は負けた。弾幕ごっこや殺し合いではない、根本から違ったのだ。異界の神のやることは、常軌を逸するものだった。

 

 幻想郷における重要な要素、気質。

 

 相性の良し悪しや、その天秤が傾くことによって気候や妖精も変化する。

 

 道祖神は九割方、行去永の身体の乗っ取りに成功し、好き放題に暴れている。

 

 本来あるべき流れを、自分の好きなように道を作って改変し、夜も明日もわからないほどに天気や時間を入れ替えて混沌を作っている。

 

 紫の想像を遥かに超える事態。この騒動に対し、頼みの綱の博麗の巫女は風邪をこじらせて動けないという噂が人里で更に不安を呼んだ。それさえも道祖神の策略だった。

 

 ──ー

 

「、、、とりあえず博麗神社に集まったはいいが、何をどうするんだぜ?」

 

「知らないわよ、貴方が非常事態だって私達を呼びつけたんだから」

 

「私は新聞のネタになればと思ったのですが、よく考えたら今読む人なんて誰もいませんね」

 

「、、、紫さんの言うとおり、本当に行去永さんのせいなんでしょうか、これ」  

 

「そんなわけないでしょ、あれにそこまでの力があるとは思えないもの」

 

 博麗神社の鳥居の前に、五人の少女が集まっている。

 

 霧雨魔理沙、十六夜咲夜、射命丸文、東風谷早苗、アリス・マーガトロイド。

 

「、、、ちなみに言うと、お嬢様方は明朝に出かけていったわ」

 

「あぁ、今日はいつぞやの紅霧が出てるからか」

 

「正確にはあの時の霧限りなく近いなにかなんでしょうが、、、どうやったんでしょう?」

 

「昨日は季節外れの雪が降って今日は紅霧、明日はなんだ? 槍か?」

 

「冗談でもそんなこと言わないで頂戴。血まみれの幻想郷なんて見たくないわ」

 

「それに関しては同意ね。お嬢様のおやつが大変なことになるわ」

 

「これだから吸血鬼のメイドはよぉ、、、」

 

「ちょっとアンタ達、人ん家の前でうだうだ言わないで頂戴。うっとおしくて敵わないわ」

 

 博麗神社の主、博麗霊夢がいつも通りの巫女姿で登場する。

 

「霊夢さん! 治ったんですね!」

 

「あややや、流石は博麗の巫女ですねぇ、頑丈でいらっしゃる」

 

「、、、えぇ、もうバッチリよ。とっととこんな異変解決しましょう」

 

 霊夢は遅れた挨拶を済ませて空を飛ぼうとするが、魔理沙と咲夜が肩を掴んで止める。

 

「「嘘つき」」

 

「っ、嘘なんてついてないわよ、ほら! 弾幕だって!」

 

 ビタッ! 

 

「ッー」

 

 フラッドタンッ

 

 博霊の札を出そうとした霊夢のおでこに、咲夜はナイフを突きつける。それに反応できなかった霊夢はフラついて地面に倒れる。

 

「この程度の速さも見えずに何がバッチリよ。やっぱり体調良くないんじゃない」

 

「霊夢、流石に今の状態は私も行かせられないぜ」

 

「ッー!! うっさい! 邪魔よ!」

 

 再び立ち上がろうとする霊夢を、アリスの上海人形が魔法の糸を絡めて捕まえる。

 

「どう考えても無理よ。貴方、目眩でまともに前も見えてないんじゃないの?」

 

「どう考えても風邪なんて生易しいものじゃありませんね。もしや一服盛られましたか?」

 

「勝手なことばかり言わないで、私は博麗の巫女なの! 私の甘さが招いたこの異変は、私が解決しなきゃいけないのよ!!」

 

 珍しく霊夢は責任を感じているらしく、年頃の少女相応の表情で、焦点の合わない視線で五人を睨みつける。その霊夢の前に、膝をついて早苗は語る。

 

「霊夢さん、、、貴方だけのせいじゃありません。これは、私達幻想郷の住人の甘さが招いたものです。この場の全員、行去永さんの体質のことを知っていました。そしてそれでも尚、表面でしか見れてなかった。私達は、そんなの嘘だと、本当でもなんとかなると、高をくくっていたんです。貴方は確かに幻想郷を守る博麗の巫女なのかもしれない、でも、私達も同時に幻想郷を守りたいと思う住人なんです。だから、護らせてください。私達が愛した幻想郷を」

 

「頼むぜ、霊夢。今回ばかりは任せてくれ」

 

「霊夢さん、私からもお願いしますよ。次の一面、博麗神社にしてさしあげますから」

 

「、、、元、異変の首謀者が言うのもあれだけど、私にもプライドがあるのよ。瀟洒なメイドとして、完璧でなければならないという意地がね。そのために、今のこの行為は必要だと断言できるわ。お願い、今回は私達に任せて。貴方はここで無理をして散るべきではないの」

 

「一応、幼馴染として言わせてもらうけど、これ以上暴れるなら、縛ってでも置いてくわよ。もう少し私達を信用なさい」

 

 五人の少女は頭を下げ、願う。博麗の巫女の弱る姿を、決して下に見ることなく、絶対の信頼を得る言葉を繋いだ。

 

「、、、、、、、、、、、、、、、けよ」

 

「なんだって?」

 

「今回だけよ、、、今回だけ、譲ってあげるわ。だから、あのバカを連れ戻して、一発くらい殴らないと気がすまない」

 

 ブチチッ

 

 涙目の霊夢は、魔法の糸を千切って立ち上がり、俯いたままに五人に手を払う。

 

「よし! 任せろ!」

 

「元よりそのつもりよ」

 

「博霊代行! 東風谷頑張りまぁす!!」

 

「糸を素手で千切るくらいには元気なんじゃない、、、もう、身体をあったかくして寝てなさいよ」

 

「特ダネの予感がしてきましたよー! では、行ってきます!!」

 

 ギュンッ!! 

 

 五人の少女は、意気揚々と湿った曇り空へと消えていった。



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第九歩 僕は意気地なしのヘタレです

今回は色々東方好きには納得できない場面が多々あるかと思われます。正直、大した構想も練らないまま始めた話なので展開などは酷いものでした。ですがそれでも最後まで見てくれる皆様、ありがとうございます!!



「クッハハハ、どうした? 幼き真紅の姉妹よ。その程度か?」

 

 行去永の顔。しかし、その背丈は以前より伸び、服装も袴のようなものに、背中には円陣を描くように矢印が回っている。

 

 道祖神は高らかに笑う。幻想郷の上空に自分だけの空間を作り出し、そこで異変の解決者を待ちわびている。ただ、暇をつぶすためだけに。

 

「せっかくここのルールでやっているのだ。私を失望させるな」

 

 道祖神の力は圧倒的だった。弱体化された状態でさえ月の精鋭にも劣らずの能力、それが80%も発揮されている。幻想郷でも実力者に名が挙がる二人でさえ、苦戦を強いられていた。

 

「お姉様!」

 

(くっ、ここまでなんて、、、)

 

「、、、フラン、生け捕りはやめよ。ここからは、純粋な殺し合い、、、!! 行去永は二の次に考えなさい!」

 

「クッハハハ!! 夜の女王とその妹君、僭越ながら私がリードを取らせていただきましょう」

 

「[紅符]スカーレットシュート!!」

 

「[禁忌]カゴメカゴメ!!」

 

「[道符] 燃ゆる怒りは修羅の道」

 

 姉妹の技はいずれも道祖神に当たる寸前に軌道を曲げる。そして、二人の横に豪炎が作られ、道祖神に向かって一本道が出来上がる。

 

「[紅符]不夜城レッド!!」

 

 レミリアのスペカによって炎の道に穴ができ、二人はそこから脱出する。

 

(ありえない、私の弾幕が当たらない! 運命が、、、無理矢理捻じ曲げられた!?)

 

「運命を操る能力、とてつもないチートだ。だが、私はあらゆる因果関係に道を作り好きな順序に入れ替えられる。つまりは無駄なのだ」

 

 道祖神はそこまで言うと、姉妹の頭上へと歩む。

 

「生憎、見下されるのは好きじゃないの。私が上! 貴方が下よ!! [天罰]スターオブダビデ!!」

 

「お兄様を返せ!! [禁忌]フォーオブアカインド!」

 

 ブオッ!! 

 

「禁忌──!!」

 

 真紅の弾幕と共に、フランが四人に分身してさらに空中へ上昇する。フランが道祖神を囲み、スペカを放とうとした瞬間。

 

「愚かだなぁ、妹君よ」

 

 ズドドドドッ! 

 

「ガハッ、、、」

 

 四人のフランに、先程自らが撃った弾幕とレミリアの弾幕が背中から直撃する。

 

「先程自らが宣言したのだ。純粋な殺し合いと。退屈しのぎにはなった。が、そうだな、神らしく天罰でも下そうか。今から貴様等の館を破壊するとしよう。これも神に逆らった運命というやつだ」

 

(、、、!)

 

 満身創痍な二人は、それでも立ち塞がる。自分等の尊厳を保つために、家族を守るために。

 

「私以外が運命を決めるのは許さない、、、!」

 

「[禁忌]レーヴァテイン」

 

「[神槍]グングニル」

 

 フランが作った槍をレミリアが受け取る。

 

 レミリアも同時に自ら槍を作る。

 

「クハハハ。弾幕ごっこの外の技、ゲームや漫画なら認められんだろうな、、、いいだろう、来たまえ。避けはせんさ」

 

「[禁槍]クレイジアスカーレット!!」

 

 ギュルルルッッ

 

 二つの槍はレミリアの周りを高速で回転して飛び回り、無数の紅い弾幕を生み出し道祖神へと投げられる。

 

 ギュオンッ!! 

 

「、、、見事、、、」

 

 道祖神は言った通り、姉妹の技を回避しなかった。

 

 技を真正面から受けた道祖神は弾幕を受け、身体は焼け爛れている。しかし、その状態でさえ道祖神は神たる立ち振る舞いであった。

 

 道祖神は涙を流しながら、道祖神は姉妹を褒め称える。

 

「これが血の絆、姉妹というものか、、、! 非常に美しい」(あんな大技を真っ向から食らって、、、!? 狂ってる、、、!)

 

「気に入った!!美しい姉妹愛だ!今日のところはもう帰りたまえ、なにも私はこの幻想郷を破壊したいわけではない。今は美を模索しているのだ」

 

「美を、、、模索、、、?」

 

 フランに肩を貸しているレミリアの疑問の呟きに、道祖神は答える。

 

「そう、万物を拒まず、受け入れる幻想郷。だからこそ異界の私でさえ入れたわけだが、まだこんなものではないはずだ。かつて料理人が間違えて花火を生み出したように、科学者が放置したものが叡智の炎となったように、あらゆる可能性を探すべきなのだ。この幻想郷なら尚の事、美のためだ、受け入れろ」

 

「腐ってるわね、貴方。貴方ほどじゃないけど、私も長生きなの。永く生きてると、必要なものばかり増えていく、日常のどうでもいいことが大事になってくるのよ」

 

「、、、、、、何が言いたい?」

 

 道祖神は顔を曇らせ、不機嫌を顕にする。

 

「日常にある美しさも見えていない愚者が、私の幻想郷を語るな。そう言ったのよ」

 

「お兄様の方がよっぽど幻想郷について分かってたわ、神様ってのも大したことないのね」

 

 ビキキッ

 

 満身創痍の二人は道祖神に向かって悪態をつく。

 

 道祖神は、怒りと共に二人に対する興味を失った。

 

「はぁ、、、お前達なら分かってくれると思ったのだがな。残念だ。せめてもの手向け、骨も残さん」

 

 サァァッ

 

 紅い霧が晴れていく。道祖神は紅霧を、雲を晴らし、二人に太陽光を当てようとしたがその瞬間、光のレーザーと星型の弾幕が道祖神に向かって放たれた。

 

 ギュゥーン!! 

 

「ノンディレクショナルレーザー!!」

 

「グレイソーマタージ!!」

 

 タタタタッ

 

 道祖神は空を走ってそれを避け、天に足を向けて彼女らを見上げる。

 

「これはまた、、、大人数だな」

 

「やっっっっと見つけたぜ行去永!!」

 

「行去永さん! なんですかその変な服は!?」

 

「あややや、随分変わりましたねぇ」

 

「魔理沙、早苗、突っ走りすぎよ」

 

「ご無事ですか。お嬢様、妹様」

 

「「咲夜!」」

 

「遅れてしまい申し訳ございません。この場は私めらにお任せを」

 

 咲夜は二人に肩を貸し、ひとまず下へと降ろしながら話す。

 

「パチェリー様の魔法でも紅霧を維持するのは難しいらしく、ここはこの咲夜めにお任せを」

 

「、、、えぇ、そうね。主のできぬことをこなすのが使用人だものね。なら、命令よ咲夜。あの馬鹿を引きずり下ろしなさい」

 

「御意に」

 

「絶対だよ!?絶ッッ対ね!」

 

「ご安心ください、強力な助っ人もいますので」

 

 チュドドーン!! 

 

「! では、行ってまいります」

 

 咲夜は空へと飛び上がり、四人の元へと向かった。

 

「さぁ! ここで会ったが百年目!! この妖怪退治の専門家! 霧雨魔理沙がお前を退治してやるぜ!」

 

「お決まりの口上ね」

 

「別にいいだろ、言わないと盛り上がらん!」

 

 魔理沙の口上にアリスは冷静にツッコミをいれる。

 

「二人の魔法使いに、そこの姉妹のメイド、天狗と巫女か。、、、どうした? 紅白がいないようだな?」

 

 ニヤニヤと道祖神は五人に問いかける。

 

「そこまで隠す気がないといっそ清々しいわね」

 

「クハハハ、奴の能力は私の天敵なのだ。可能であればスキマ妖怪も無力化しておきたかったが、余程ここが大事なのだろうな。正面から真っ赤な顔で挑んできたぞ」

 

「結果は、、、聞く必要もなさそうですねぇ」

 

(どう見たって満身創痍なのに、なんでそこまで平然としていられるの、、、?)

 

「私が強い理由を教えてやろう。私は異界の神ゆえ、能力を外側から見れる。お前達とは認識能力が違うのだ。お前達の弾幕をこの一ヶ月、たっぷり観察したが、どれも散らすには惜しい。私が作る新しい幻想郷の美の一部となる気は──」

 

 ビュンッ!! ビュオウ!! バラララッ! 

 

 アリス、咲夜、文のジャブ程度の弾幕が道祖神に向かって放たれ、ダメージを与えられずとも話を遮る。

 

「話が長い、精神が年寄りはこれだから」

 

「取材の時なら話してほしいんですがね」

 

「貴方の自分語りに興味は無いわ」

 

「全く、、、神を崇めよ、愚か者共が。不届き者には天罰をくれてやろう」

 

 パキキキッ

 

「[六道]廻る輪廻と果てなき渇望」

 

 ゴオッ! 

 

 道祖神の背から無数の弾幕が展開される。球形からレーザー、尖弾までそれは形を選ばない。

 

「幻想郷のルール! それは弾幕ごっこ!」

 

「単純明快、分かりやすいわね」

 

 5人はそれぞれ重なることなく弾幕を避ける。

 

(なんて密度! でも弾幕ごっこなら)

 

(私達に分がある!)

 

「[幻符]殺人ドール!」

 

「[旋符]紅葉扇風!」

 

 ヒュヒュンッ! ビュォッ! 

 

 咲夜の時間停止からの、文の突風によるナイフの加速、道祖神も歩いてそれを避けるが、避けれずに身体に掠る。

 

「おっと、そういえば当たってはいけないんだったな。避けなければ」

 

(? おかしいな、霧雨魔理沙ならもっとアグレッシブに攻めてくるものだと思ったが、いやに大人しい)

 

(やっぱり、永琳の言うとおり身体はまだ人間!!)

 

 5人は行去永を探す道中、目撃証言のあった永遠亭で話を聞いていた。

 

 永琳の予想では、道祖神はまだ身体の主導権を完全には握っておらず、身体もまだ人間のまま。付け入る隙はそこともう一つある。

 

(、、、ここまできたら力じゃどうにもならない、だから、彼女の力を借りる!)

 

 バァンッ!! 

 

 魔理沙はなにもないところに弾幕で花火を打ち上げる。それは事前に決めていた作戦の合図であり、アリスと文はスペルを宣言する。

 

(((合図!)))

 

「「「スペルカード」」」

 

「む? なるほど、、、弾幕ごっこだと思っていたのは私だけだったようだな」

 

 回避不可能、超高密度弾幕! 

 

 人形と自然と奇跡が入り惑う美しい弾幕、通常の弾幕ごっこならば許されない、逃げ道のない弾幕である。

 

「幻想風靡!!」

 

「グランギニョル座の怪人!」

 

「[奇跡]客星の明るすぎる夜!」

 

「ならばこちらも遠慮はせんぞ。[道符]刀道理反(とうどうりはん)!」

 

 ギュンギュンッッ! ズバァンッ! 

 

 二人の弾幕の中央を切り裂くように刃の弾幕が道祖神から放たれる。

 

「妖怪と人間が神に勝てるとでも、、、他のニ人は、、、?」

 

 咲夜は弾幕に隠れて時間を止めた、そして道祖神の後ろに魔理沙と共に回り込んだ。

 

「魔理沙、絶対に堕としなさいよ」

 

「分かってるぜ、、、覚悟しろよ行去永!! とっておきだ! [彗星]ブレイジングスタァー!!!!」

 

(三人は囮!! 狙いはこっちか!ふむ、防げないな)

 

 魔理沙は八卦炉を後ろに構え、数多の星の弾幕と共に道祖神に、さながら本物の彗星が如く突撃する。

 

 ドスッ、ゴォォォッ!!!!! 

 

「ッッぐぁッ!!」

 

 そのまま道祖神を連れて幻想郷最南端、道祖神が拡張し、荒野と化させたエリアへと向かっていった。

 

「、、、大丈夫かしら」

 

「永琳さんが考えた作戦ですし、問題ないんじゃないですか?」

 

「奇跡は起こすものです。きっと上手くいきますよ」

 

「だといいんですがねぇ」

 

 四人の少女にできるのは祈ることのみ。

 

 ──ー

 

 ゴォォー! 

 

(もう少し、、、後少しだ!)

 

「、、、そろそろ止まれ、不愉快だ」

 

 クンッギュンッ

 

「うぉわっ!?」

 

 意識を飛ばしていた道祖神が目を覚まし、直線から真上へと道を作り出して路線を変更する。

 

(やべっ、止まんなきゃ!)

 

 急ブレーキをかけた魔理沙に対し、道祖神は空中をゆうゆう歩いて語り出す。

 

「さて、霧雨魔理沙。お前の弾幕は星を模したもので特段美しい。知っているか? 人類は昔、星は手の届かぬものとして神秘的に考えていた。しかしながら、現代技術の発展により、星はただの物質となったのだ」

 

「うげ、まーた長い話か? 勘弁してくれよ」

 

「そう言うな。続きだが、そんな中でも、魔法使いという概念は、星に対して魔力や魔術の思いを馳せる。私としては実に美をくすぐられるわけだ。やはりお前は、私が作る新しい幻想郷に──」

 

 ボボボンッ!! 

 

「、、、、、、」

 

「うるさいぜ、バーカ。私は今の幻想郷が気に入ってんだ。これは異変! だったら! 異変解決の専門家の私が負けるわけにはいかないのぜ!」

 

「、、、、、、ならいい、、、貴様が辿るのは、破滅だ」

 

 ゾッワァ、トンッ

 

 瞬間、魔理沙の背筋が凍りつく。同時に身体がその恐怖から開放される。魔理沙の背を押したのは、紅白の巫女。異変解決のスペシャリスト

 

「霊夢!?」

 

「ボサッとしない! 前見なさい!!」

 

「身体を推してきたか!! [滅禁]無我痛快、破邪の道!」

 

 ギュイーンドドドドッ!! 

 

 道祖神が腕を下から振り上げ円形に広げる。その腕の軌跡から、無数に破魔矢を象った弾幕が二人へ襲いかかる。

 

 ヒュンヒュンッッ!! 

 

「細かいことは無し!! 話は永琳からもう聞いてる! やることはいつもと同じよ!」

 

「ーッ! 分かったぜ、出し惜しみは無しだ!」

 

 魔理沙と霊夢はマジックミサイルとホーミングアミュレットで道祖神の動きを制限しながら弾幕を避ける。

 

 ガガガガッ!! ググ、、、! 

 

「チィッ! 私と接近戦をするのは貴様だけだぞ博麗の巫女!!」

 

「あら、ここまで彗星に吹き飛ばされたのはどこの誰かしらね!」

 

「減らず口を、、、!」

 

 バチィンッ! 

 

「さっきまでの余裕が消えてるぜ? 笑顔はどうした、神様さん?」

 

 ビキキッ

 

 道祖神は手を上げて交錯し、振り下ろす。

 

 霧が晴れた夜空から、高密度の蒼い隕石が落ちてくる。

 

「これは弾幕ごっこではないぞ、、、[隕符]天穿つ蒼き夜(あまうがつあおきよる)

 

(規格外、、、!!)

 

(隙間がない!?)

 

「回避不能、最大限のズル。死にはせんさ、人としての形を保ててるかは知らんがな」

 

 キュンッドドドドドォンッ!! 

 

 地上の荒野にクレーターが出来上がる。道祖神の拡張した擬似空間が崩壊寸前で止まり、それを道祖神は見下ろしている。

 

「クハハ、、、美とはいつも崩壊と維持のギリギリを保つものだな、、、私がいた世界は、その崩壊に耐えられなかった、、、お前のような能力を持つ者がいれば、結末は変わったかもしれないのに、なぁ? 紅い館のメイドよ」

 

 カチッコチッカチッ

 

 懐中時計の音が響く、メイドの両脇には二人の少女が抱えられていた。

 

「咲夜!?」

 

「お前! こっち来てたのかよ!?」

 

「嫌な予感がしたのは当たりみたいね、、、今回だけよ、私の世界に貴方たちを連れるのは」

 

 カチンッ

 

 咲夜の能力で世界の時間が停止する。道祖神でさえ逃れられない、絶対の理。

 

「私の身体から手を離しちゃだめよ」

 

「お、おぉ、、、」

 

「私は動けるから問題ないわ」

 

「、、、そう。じゃあ、ありったけをぶつけましょう」

 

 カチンッ

 

 時計が再び刻を刻みだす。道祖神の目の前に広がる無数のナイフと御札と星の弾幕。

 

「私の能力を知らぬはずあるまい!! どれだけ弾幕を重ねようとも! 私が道を作ればいいだけの話だ!!」

 

 道祖神は真っ直ぐに道を作る。その前には、箒に乗り、八卦炉を構えた魔理沙と、お祓い棒を向けた霊夢の姿。

 

「道の神様の癖に知らないんだな!」

 

「いいことを教えてあげるわ」

 

「「道っていうのは! 歩んだ後に出来るものよ(だぜ)!!」」

 

「[魔砲]ファイナルスパァーク!!!」

 

「[霊符]夢想封印!!」

 

 霊夢の巨大な光弾と魔理沙の極太のレーザー、二つが道祖神が作った道をなぞるように放たれる。

 

 ビキビキ

 

「私を崇めぬ愚か者共が、、、!! 塵すら残さんぞ!! [道符]──」

 

 ギリィッ!! 

 

「「「!!!」」」

 

 道祖神は自らの首を絞め、技の発生を防いだ。

 

 神の中にある人間が反旗を翻したのだ。

 

「ッッ! 八和道行去永ァァ!!!」

 

 ボッ、、、ギュォォォー!!!!! 

 

 二人の技は直撃、道祖神は墜落していった。

 

「よっしゃ異変解決だぜ!」

 

「、、、それは彼女次第でしょう」

 

「そう、、、ね、、、」

 

 ガクッ

 

「おっと、気絶したのか」

 

 霊夢は身体をダラリと預け、眠りに入る。

 

「永琳が薬を作ってるらしいわ。次に霊夢が起きるときには、異変の影はきっと無くなっているはず」

 

「月の賢者様が頭下げてきたんだ。私らはこれ以上は無粋だぜ」

 

 道祖神と戦う前、5人は永遠亭へと赴き事の全てを知った。彼女らに頭を下げたのは、他でもないサグメ。ある意味で行去永と最も近い人物。彼女の後悔を知った5人の少女は、協力することにしたのだ。

 

 行去永を退治せずに異変を解決することを。

 

 ──ー

 

 ザリ、、、ザリ、、、

 

「ゲッホゴホ、、、振興を集めればこの程度の傷など、、、!!」

 

 道祖神はボロボロの身体を推し、荒野を足を引きずりながら歩く。しかし、眼の前に現れた白髪で片翼の賢者が立ち塞がる。

 

「稀神サグメ、丁度いい。私の運命を逆転させろ。そうすれば、こいつの完全な消滅は避けてやろう」

 

「、、、行去永、聞こえているだろう?」

 

「先の抵抗で完全に沈黙している。語りかけるだけ無駄だぞ」

 

 サグメの語りかけに答えるのは道祖神。サグメは首を摩りながら再び言葉を紡ぐ。

 

「この跡、君に対して怒っているわけではない。君はなんだかんだ責任を背負いすぎだ」 

 

「五月蝿い、そんなもの聞こえ──」

 

「打算だなんだと言いながら、君は結局いつも無償で人助けをする。手を貸しすぎないように程々に、私のことも、店主に何も言われなくても君ならきっと助けに来ただろう」

 

 ビキキ

 

「、、、その変声機を壊せば多少は口が減るか?月の賢者よ」

 

 道祖神は敗北と幾度とない話の中断と不敬さに苛立ちが止まらない。殺気と神気を漏らしながらサグメを睨みつける。

 

「やればいい、出来るとは思えないが」

 

 ビタッ

 

「!?」

 

 道祖神が手を振り上げた瞬間、身体が停止する。

 

「覚えているか?君が初めて私に教えてくれた手話だ」

 

「ぐっ、、、!? アァ!?」

 

 サグメはありがとうやこんにちわなど、とても初歩的な手話を混乱する道祖神を前に続ける。

 

「茶屋で君の話を聞く時、月の団子を喉に詰まらせた時、下らないジョークで滑った時、、、全ての時間が愛しいよ」

 

「やめろ、黙れ!」

 

 サグメは変声機を取ることなく、道祖神の顔に右手を伸ばす。

 

「私の声はお前(道祖神)に届けるつもりはない。そろそろ起きてくれないか?、、、私は行去永の声が聞きたい」

 

 道祖神は両手をサグメに伸ばし、そして

 

 グイッ、ガクッ

 

 肩を強く、優しくつかんで膝を着いた。

 

 神気は消え失せ、サグメの眼の前にいるのは穢れを纏った一人の友人。

 

「、、、危なすぎるよ、、、少しは俺の気持ち考えてくれない?」

 

 ボロボロの行去永はへニャリとした情けない笑顔をサグメに向けた。サグメはそれを見て安堵したように笑う。

 

「これで借りは返せたか?」

 

「元々借りなんて思っちゃいないよ、、、」

 

「私の眼の前で延々と居眠りをされては溜まったものではないな」

 

「ハハッ、だったらディズニーよろしく熱いkissでもして起こしてくれれば良かったんじゃない?」

 

 行去永はいつものように軽い冗談を吐きながら立ち上がり、踵を返す。

 

「色んなところに謝りに行かなきゃなぁ、、、もしかしたら紫さんに殺されるかも」

 

「、、、行去永」

 

「はいはい、行去永です、、、」

 

 サグメは変成機を取り外し、行去永の口に手を当ててその上から自分の唇を当てた。

 

「よ、、、? へ、、、? は、、、?」

 

 サグメは唇を離し、変声機を再びつける。

 

 耳まで赤く染めながら、サグメは行去永の前へと歩き出す。

 

「、、、私は君からされるのを望んでいるんだ。待っているから頑張ってくれ」

 

「ふぁ、、、ふぁい、、、 」

 

(いや、今しかないでしょうが!)

 

「サ、サグメ!」

 

 ヒュンッ

 

 行去永がサグメの名前を呼んだ瞬間、上空から6人の少女が現れる。

 

「あら、成功したのね。その間抜けな顔は行去永だわ」

 

「わー! 行去永さんお帰りなさい!!」

 

「よぉ! 随分遅かったな!!」

 

「あややや、これはもしや、、、お邪魔でしたかね?」

 

「早く神社に戻りなさいよ、紫がカンカンよ」

 

 戻るやいなや、咲夜は痛烈な言葉を行去永に浴びせ、気絶した霊夢を背負いながら魔理沙は笑い、とびきりの笑顔で早苗は帰還を喜び、ニヒルな笑顔で文ははにかみ、呆れた顔でアリスはため息をつく。

 

「、、、、、、ごめんサグメ、また今度」

 

「ふふ、楽しみに待ってるよ」

 

 絶好のチャンスを行去永は逃し、博麗神社へと連れて行かれた。

 

 ──ー

 

 それからの一週間は大変だった。

 

 博麗神社に戻ると、待っていたのは紫さんを含めた幻想郷の重鎮達。最初は紫さん直々の処刑モードだったのが、終わりよければの論で怒りは沈下されて助かった。

 

 俺はは道祖神が暴れた二日間の修正の為、使い慣れていない力をフルに活用し気質を頑張って元通りにした。

 

 霊夢さんの薬は完成していたらしく、起きた途端に俺は本気の拳骨を頭にもらい、しばらく気絶したらしい。なっさけね。

 

 今回の件、異界から来たアイツは一つ大きな勘違いをしてたらしく、実はそこまで強大な神じゃなかったらしい。

 

 幻想郷を狂わせられたのは、前の世界の貯蓄を使っていたに過ぎなかったそうだ。

 

 あの時、消えたように見えたその肝心な神はというと、今も俺の身体の中に住み着いてる。はた迷惑に変わりはないけど、そのお陰で能力をありがたく使わせてもらってるけど。

 

 んで、今日は異変解決祝いの宴会をするらしい。

 

「おーい、遅いぞ行去永ー!」

 

「病み上がりに持たせる量じゃないでしょ、、、」

 

 行去永の両手には大量の酒瓶、そして魔法を使ってさらに大量の酒樽が行去永の横を進んでいる。

 

「仕方ないだろ、今回の首謀者なんだからよ」 

 

「なんも言えねぇ、、、」

 

 魔理沙は宴会の時間まで暇を潰すために行去永にちょっかいをかけている。

 

「、、、、、、ハハ」

 

「薄気味悪い笑い方だな」

 

「まぁ、アレが中に入ってるし」

 

「ふーん、、、おっと、そういやアリスに呼ばれてたんだった、じゃあなー」

 

 魔理沙は箒に乗って魔法の森へと向かっていった 

 

「? なんだ急に、、、あぁ、気が利くようになったじゃん」

 

 風が爽やかに吹き抜ける平原、博麗神社へと向かう道の一つだ。

 

 行去永の前方にいたのはサグメだった。

 

 サグメは行去永を見て手話で話しかける。

 

「良い天気、ね。そうだね、宴会日和だ」

 

「、、、、、、私はいつまで待てばいい?」

 

「ゔ、、、もう少しだけ待ってください。実感沸かないんだよ、、、」

 

「はぁ、、、ヘタレ、意気地なし」

 

「ごめんなさい、すいません」

 

「そんな君だから、私は隣にいたいと思うんだがな」

 

「、、、そっか」

 

 行去永は唐突に魔法で酒瓶を浮かせ、片手の親指と人差し指を立てる。そして少し上に持っていき、指をくっつけながら下におろす手話をした。

 

「? まだそのページは見てない」

 

「だろうね、だからしたんだもん」

 

「意味は?」

 

「秘密〜」

 

 酒瓶を再び手に持ち、少し早足で博麗神社へと歩きだす。

 

(我ながら情けない、、、まぁでも、時間はいくらでもある。君の隣に立つ男に相応しくなるまで、もう少し待ってくれ)

 

 外の世界で生を否定された男は、幻想郷で与えられた新たな生に希望を抱いた。彼は神がいることを除けば、彼は普通に友達を作り、少し働き、それなりに毎日を謳歌し、普通に恋をする、普通の男だ。

 

 そんな人間の、ほんの短い幻想郷録でした。

 

 〜fin〜

 

 




はい、かなり駆け足で終わったと思いますし東方のファンの方には中々申し訳ないような描写も多かったと思います。
ですがまぁ、初めての完結ということで作者的にはめでたいです!
ここまで見てくれた方、ありがとうございました!
因みに次は一次創作?っていうんですかね、を、投稿しますので、そちらの方も是非是非よろしくお願いします!
それでは改めて、ありがとうございました!


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