ダンガンロンパ・scripter~絶望の舞台劇~ (月乃と星乃)
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開幕の前のツマラナイ茶番劇
プロローグ 1


☆必読!注意点☆

・この作品はダンガンロンパシリーズの二次創作です。

・原作のネタバレがあります。また、作者は『絶対絶望少女』は未プレイ。
 アニメは未視聴。『ダンガンロンパゼロ』を読んでいません。
 そのため、原作との矛盾点があるかもしれません。

・他の創作論破のキャラ。本家様のキャラと才能の被っている子がいますが、
 意図的では無いのでないのでご容赦ください。

・この物語はフィックションです。原作様や現実世界とは何の関係もありません。



   

 

『私立 希望ヶ峰学園』

 

全国のあらゆる分野で超一流の高校生を集め、

将来を担う「希望」を育てることを目的とした、政府公認の超特権的な学園。

 

学園にスカウトされた生徒のみが入学を許可され、この学園を卒業すれば

人生の成功を約束されたのも当然とまで言われる。

 

 

…そんな凄い学園の門の前に『僕達』は立っていた。

 

 

まずは自己紹介からさせてほしい。

 

僕の名前は『江ノ本 望夢』(エノモト ノゾム)

 

最初は物語を創ることはただの趣味だった。

色んな物語を作るのが好きで、頭に浮かぶ限りの世界を、湧いてくる物語を、

どんどん作っていくうちに、気が付いたら沢山の人に仕事や手伝いを頼まれ

映画やドラマ。劇。たまにアニメなどの脚本をどんどん書いていった。

そんな僕の所に、希望ヶ峰学園から通知が届いた。

 

『江ノ本 望夢様  あなたを【超高校級の脚本家】として我が校にスカウトします。』

 

その通知を見て、僕は自分の目を疑った。

体力もないし、あまり力もない。それほど頭がいいわけでもない。

 

そんな僕があの希望ヶ峰学園に!?

驚きずぎてしばらく石像のようにその場に固まっていた。

 

 

─そして現在。親や友人達に背中を押して貰いここに立っている。

…さすが有名な学園だ。威厳というか、オーラがあり、ちゃんとスカウトされたのに

思わず入ることをためらってしまう。

 

「入らないの?入ろう。」

 

僕のすぐ隣に立って声をかけてきた人は…

 

『有馬 唯輝』《超高校級の俳優》

 

様々な役を完璧にこなし、そのたびに素晴らしい演技で観客全員を魅了している。

今話題の人気俳優。僕の脚本したドラマや映画にも自分から進んで出てくれている。

僕の自慢の幼馴染であり親友だ。

 

「唯輝は緊張しないの?」

「全然。」

 

僕の質問に唯輝は迷うことなくハッキリと即答する。

唯輝は緊張どころか楽しみで仕方ないみたいだ。

ここが漫画やアニメの世界だったら周りに花が散っているであろう「楽しみ!」という雰囲気を感じる。

 

「自分の高校生活の始まり。それに…」

 唯輝は一度言葉を止めると…。

 

「望夢も一緒。嬉しい」

 

言葉通り嬉しそうな笑顔を浮かべながら僕の頭を撫でた。

唯輝が僕の頭を撫でるのは、小さいころからで、もはや癖みたいなものだろう。

 

「僕も嬉しいけど、頭を撫でるのはやめてよ。」

「手触りがいい。位置もちょうどいい。」

 

僕はいつものように、ムッとしながら唯輝の手をどかすと、

これからの学園生活に対する不安や希望を胸に一歩を踏み出した。

 

─その直後。僕は意識を失った。

 




《登場人物》
~男子生徒~
【名前】江ノ本 望夢(えのもと のぞむ)
    『主人公』
【身長】155㎝  【体重】43㎏ 【胸囲】70㎝
【誕生日】10月17日【血液型】A型
【好きなもの】物語を創ること。映画鑑賞。観劇。
【嫌いなもの】苦いもの。料理を作ること。スポーツ全般。
【一人称、二人称】「僕」 男性に対しては「名字+君」 女性に対しては「名字+さん」有馬だけ下の名前で呼び捨て。
【容姿】クルクル、フワフワの胡桃色のくせ毛。特徴的なアホ毛が一本ぴょんと立っている。小柄で童顔。目は亜麻色
    学生服、明るい茶色で長袖のカーディガンを着ている。
【性格】少し?気弱だが心優しく友好的。意思は強い。
【才能】超高校級の脚本家。



【名前】有馬 唯輝(ありま いつき)
    『江ノ本の幼馴染で親友』
【身長】183㎝ 【体重】71㎏ 【胸囲】90㎝
【誕生日】3月19日 【血液型】O型
【好きなもの】仕事。和物。和菓子。
【嫌いなもの】絵を書くこと。しつこい人。美術の授業。
【一人称、二人称】「俺」 男女ともに名字で呼び捨て江ノ本だけ下の名前で呼び捨て。
【容姿】目つきが悪いが美形。目は檸檬色。こげ茶色の短髪。着物を着ている。
【性格】普段は表情に乏しく寡黙。面倒見の良い兄貴分。
【才能】超高校級の俳優。


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プロローグ 2

ストックがまだあるので続きを投稿させてもらいます。



「あれ…?ここどこ?」

 

僕は目を覚まし体を起こした。あたりを見渡すと沢山の机と椅子。

 

大きな黒板。どうやらどこかの教室みたいだ。僕は床に倒れてたのかな?

窓をふさいでいる鉄板や、監視カメラが気になるけど…。

 

黒板にはまるでパソコンで打ったみたいに綺麗な字でメッセージが書かれている。

 

《キャストの皆様へ 

         

         舞台の準備は整いました。

                

                 体育館に集合してください

                         

                             監督より。》

 

キャスト?舞台?どういうことだろう?

まぁ、ずっとここで考えてるわけにもいかないし体育館に行こう。

キャストの「皆様」ってことは何人か人がいるってことだよね?

何かこの状況のことが分かるかもしれないし。

一人だと心細いしな…。

僕は教卓の上に分かりやすく置いてあった地図を見つけ、体育館に向かった。

 

 

 

体育館のドアを開けると中には15人の人がいてドアを開けた僕を見た。

 

?「あ!また人が来たっスよ!」

?「これで16人目やな」

 

見たところ皆、高校生くらいの人たちだ。僕と同じ新入生かな?

 

「望夢。」

 

自分を呼ぶ声の方を向くと、唯輝が早歩きでこっちに来た。

 

「怪我はない?具合は?」

 

僕を心配してくれているのが分かる。

 

「うん、ありがとう。大丈夫だよ。唯輝は?」

「大丈夫」

 

唯輝がそう言った。ちょうどその時。

 

 

?「はいはい、アンタらちょっといいかい?だいぶ人が集まったし、今後のためにもここらで自己紹介をしとかないかい?」

 

褐色肌の柔道着を着た女子が皆に呼びかけた。

 

 

 

?「アタイは鬼澤 凛 (オニザワ リオン)才能は柔道だよ!アンタ達も自己紹介を頼むよ!」

 

『鬼澤 凛』《超高校級の柔道部》

 

柔道の大会で何度も優勝し、今では大人や男子でも敵わない。

素手で熊を仕留めたとか… 

名前の通り鬼のように強い!とスレに書いてあったな。

 

希望ヶ峰学園は有名なので注目度が高く、専スレは毎年新入生の情報で沸いている。

自分と同じ新入生の人たちの事を知っておきたくて入学式の前に見てきた。

当然、僕のことも色々書いてあった。顔が真っ赤になるくらい恥ずかしかったなぁ。

 

 

 

?「いいだろう、ならば吾輩も名乗ってやろう!吾輩は人間という種族で生物学者をやっている 生原 命(イクハラ ミコト)だ。」

白衣のコートを着た三白眼の少年が大胆不遜な態度で大声で名乗った。

 

『生原 命』《超高校級の生物学者》

 

生物学はもちろん生物学に関連する分野でも豊富な知識や技術を持つ天才。

彼の論文や研究は世界中の学者が注目するという。

 

 

 

 

?「じゃあ次は私っスね!五十嵐 俊穂。(イガラシ トシホ)さいのーは走るヤツっス!みんなよろしくー!」

赤いジャージの女子が元気いっぱいに自己紹介をした。

 

『五十嵐 俊穂』《超高校級の陸上部》

 

数々の陸上大会でぶっちぎりで優勝し、オリンピック選手候補にもなっている。

だが…。

 

「せーぶつがくって何っスか?」

 

…本人の頭はすごく悪く。(失礼だけど…)学校の先生たちは手を焼いているらしい。

 

 

「うむ。よくぞ聞いてくれた!いいか。よく聞け、生物学は生命現象を研究する

自然学科の一分野であり、広義には医学や農学など応用学科、

   総合学科も含まr

 

        「うるさいから黙りなさい!」

 

喜々として語りだした生原君をかなりぽっちゃりした女子が止めた。

 

 

?「さっさと自己紹介を終わらせるわよ。私は喰田 奈味。グルメリポーターよ」

 

『喰田 奈味』(ショクタ ナミ)《超高校級のグルメリポーター》

 

適切で細かいコメントが人気のグルメリポーター。

まずい料理には遠慮なく厳しく言うけど美味しい料理は素直に賞賛する。

彼女が紹介した店は必ず行列ができるらしい。

 

「あんたも自己紹介をしなさい。こんなところで寝るんじゃないわよ」

 

喰田さんはそう言うと隣の床で寝ていたパジャマ姿の女子を無理矢理引っ張って起こした。

 

 

?「えー、眠い~。意地悪~。小鳥遊 架澄。(タカナシ カスミ)

              ゲームクリエイターだよー。(・ω・)ノシ」

 

『小鳥遊 架澄』《超高校級のゲームクリエイター》

 

数々の神ゲーを創作している有名人。彼女が作ったゲームは必ず完売するらしい。

僕もゲームを買ってしてみたけどすごく面白かったな。

 

 

?「じゃあ、次はオレでええか?木柳 修哉、(キヤナギ シュウヤ)超高校級の大工や。よろしゅう頼むで!」

 

筋肉ムキムキの大男が明るい笑顔で自己紹介をした。

 

『木柳 修哉』《超高校級の大工》

 

手際がよく、人間離れした体力と怪力を持つ超高校級の大工。

彼一人で5人分くらいの働きをするらしい。

…いいなぁ。強そうだし男らしい。僕は体力も力もあまりないからな。

 

「なんや、オレの顔になんかついとるんか?」

 

あっ、じっと見ちゃったかな?どうしよう…。

嘘つくと心が痛むし、僕は嘘が下手だし。本当のことを言おう。

ちょっと恥ずかしいけどしょうがない。

 

「ごめん、強そうだし男らしいからいいなぁって…」

「なんや!うれしい事言ってくれるやないか!お前ええ奴やなぁ!」

 

木柳君は上機嫌で僕の背中をバシバシと叩いてきた。正直痛い。

 

「木柳、力強い。やめろ」

 

唯輝が木柳君に話しかけて止めてくれた。

 

「おお、そうやな。すまん」

「大丈夫?」

 

唯輝は軽くしゃがんで僕の背中をさすってくれる。

 

「お前はそいつの保護者かい!」木柳君が鋭いツッコミを入れる。

 

「違う。親友兼、幼馴染。俺は有馬 唯輝。俳優」

 

唯輝はぶっきらぼうにそっけなく自己紹介をした。せめて少し笑えばいいのに…。

 

 

?「あっ!テレビで何度も見てるよ。こんな所で会えるなんてさすが希望ヶ峰学園だね」

 

髪を真ん中分けにしているセーラー服の女子が話しかけてきた。

 

?「私は晴天 四葉。(セイテン ヨツハ)超高校級の幸運だよ。抽選で選ばれただけだけどね…。有馬くん。私、ファンなんだ!えっと…、嫌じゃなかったら握手してくれないかな?」

 

晴天さんは言いにくそうに照れながらおずおずと言ってきた。

 

『晴天 四葉』《超高校級の幸運》

 

希望ヶ峰学園は、毎年全国の高校生から抽選で「幸運」枠を選んでいるらしい。今年は彼女ってことだろう。

 

「…別に」唯輝はそう言うと晴天さんと握手した。

 

晴天さんはとても嬉しそうだ。

 

「えっと、江ノ本 望夢。脚本家だよ。みんなよろしくね」

 

もう少しなんか言うべきだったかな?でもこんな大勢の前で自己紹介なんて緊張するし…。

 

?「ほう、お前さんがあの脚本家か」

 

床につきそうなほど長いサラサラのロングヘアーの女子がこっちを見て言った。

 

「僕を知ってるの?」

 

僕は世間に顔出ししていないはずだ。名前だけ世間に公表している。

 

?「名前だけじゃがな。最初は原作を知っている映画を見た。登場人物の魅力を細かく描写できていたし。世界観を忠実に再現していて見事じゃった。それ以来儂はお前さんの作品のファンじゃよ。映画だけじゃなくアニメやドラマ、劇の脚本も書いとるじゃろう?すべて見たが、全部素晴らしかったぞ」

 

まさか僕の作品のファンがいるなんて、嬉しいけどなんか恥ずかしいな。

 

「そうなんだ、ありがとう。でも僕なんて大したことないよ…」

 

これは本心だ。僕の作った作品をほかの人たちが評価してくれているだけだし。僕なんかが書いた作品を評価してくれている人たちは神様かもしれないな。

 

?「そう謙遜するでない。儂は綾織 博夏。(アヤオリ ヒロカ)図書委員じゃ。この学園生活という物語がどんな結末になるのかを楽しみにしておる。」

 

『綾織 博夏』《超高校級の図書委員》

 

博識で瞬間記憶能力を持ち、図書室の掃除や本の管理をしている。超高校級の図書委員。

本の内容や位置を全部覚えていて、彼女に頼めばその人にピッタリの本を紹介してくれるらしい。

 

?「なんですかそれ?嫌味ですか?皮肉ですか?あなたが大したことないならボクはただのゴミですね…。」

 

そのセリフが聞こえた方を向くと、どんよりと闇のオーラを放っている少年がいた。

黒い学ランに大きなマスク。包帯をまいてる。怪我してるのかな?

 

「そんなつもりじゃないよ。気を悪くさせたならごめんね。名前を教えてくれるかな?」

 

オロオロと話しかけると少年はさらに暗いオーラを放って喋りだした。

 

 

?「へぇ、こんなゴミ虫の名前が聞きたいんですか。いいですよ。ボクのようなカス野郎に拒否する権利もありませんしね。

時間がもったいないですし。ボクは秋雨 彦吉。(アキサメ ヒコヨシ)才能なんて素晴らしいもの持っていません。ただの不運ですよ。」

 

『秋雨 彦吉』《超高校級の不運》

 

商店街の福引をすれば残念賞のティッシュすらもらえず、目の前の信号は赤になり

よく怪我をする。まさに不運の塊のような人らしい。

 

?「じゃあ、次はオイラがするぜっ!超高校のマジシャン。若鳩 空智。(ワカバト アキトモ)自己紹介なんてつまんねーなぁ。誰か面白い事しろよぉ。体の穴、すべてから鳩をだすとかさぁ」

 

糸目と八重歯が特徴的なタキシードを着ている少年がすごいことを言っている。

 

『若鳩 空智』《超高校級のマジシャン》

鮮やかな演出と多様のトリックで人気の超高校級のマジシャン。

最近たくさんテレビに出てるな。僕も見たけどすごかった。トリックも全然分かんないし。魔法みたいだったな。

 

「いや、できへんわ!できたら怖いわ!!」

「オイラは出来るぜぇ、手始めに五十嵐の頭を巨大な肉に…」

「やったー!食べ放題っス!トモありがとー!」

「いいんかい!アホかお前は!」

 

?「うるせぇ。お前ら黙れ。」

 

ドスの利いた声で睨みつけながら真っ白いスーツを着て髪の右側に狼のへアピンを付けている少年が言った。

鋭く冷たい雰囲気に威圧感のあるオーラ、正直怖いな…。

 

?「俺はマフィアだ。ウルフでいい」

 

『ウルフ』《超高校級のマフィア》

 

麻薬や武器など危険な物を取引を行い。暗殺や殺人まで行っている警察ですら止められない問題児。

大きなマフィアの組織の一員で裏の世界ではかなりの有名人らしい。

 

?「では、次は私でいいでしょうか?」

 

その声の方を振り向くと真っ黒な修道服に左側の髪に羊のヘアピンを付けている少年がお辞儀をした。

 

「…!!??」

 

その少年を見たときに僕たちはびっくりした。だって…。

ウルフ君と同じ顔、同じ目。体格も身長も肌の色も声も髪型も髪色も全部同じ。

ウルフ君のクローンです!とか言われても信じてしまえそうなほどそっくりな少年が違う服装でそこにいた。

 

?「先ほどはお兄様がすみません。お兄様は他の方には厳しいですが、私の大事なお兄様です。どうかお許しください。私は未熟者ですが牧師をさせていただいております。シープとお呼びください。」

 

暖かく優しい雰囲気に穏やかなオーラ。さすが牧師さんだなぁ。

 

『シープ』《超高校級の牧師》

 

彼に懺悔した人は老若男女を問わず。皆、彼に感謝しているらしい。

他の教会の人たちと一緒に教会の運営や管理もしている。

彼の歌う讃美歌や聖歌は心が洗われる様にとても上手だと評判だ。

 

?「わオ!ジャパニーズ忍者!分身のジュツ!」

 

ウェーブのかかったロングヘアーをハーフアップしている外国人の女子が目を輝かせている。

 

「ちげーよ。ただの双子だ。考えればわかるだろ。馬鹿かお前」

「お兄様、大切なクラスメイトにそのような言い方はよくありませんよ。

私達は一卵性の双子です。お兄様共々お世話になります。

どうかこれからよろしくお願いいたします」

 

「性格は真逆やな」

木柳君がまたツッコミを入れた。

 

 

?「ワタシはソフィー・リエーティ!ピアニストですヨ!よろしくお願いしマス、デス、ゴザル!!」

 

『ソフィー・リエ―ティ』《超高校級のピアニスト》

大会に出たら必ず優勝し、どんな曲でも完璧に演奏し聞く人全員を虜にする超高校級のピアニスト。

彼女の出るコンクールなどは観客席が満員になるらしい。

 

 

?「す…すみません。私が最後ですね…。綿古里 安麻依。(ワカコリ アオイ)手芸部です…」

 

眼鏡をかけていてニット帽を被っている。長い三つ編みの女子だ。

 

『綿古里 安麻依』《超高校級の手芸部》

 

手際の良さ、手先の器用さ、センスの良さが有名な超高校級の手芸部。

彼女の作るバックや服。ぬいぐるみなどは高額で売られてるらしい。

 

とりえず皆が自己紹介を終わらせて一息つこうとした時…。

 

?「はいはーい!皆様方、注目!!」

 

大きな声が体育館に響いた。僕達がその方を一斉に振り向くと。

 

?「キャストの皆様ようやく揃いましたね!これからこの学園生活という名の舞台を盛り上げる為に頑張りましょう!私は駄作が嫌いですし、観客の皆様に満足していただきたいですからねぇ!」

 

ステージから勢いよく飛び出してきたピエロのぬいぐるみ?が楽しそうに喋っている。

真っ赤な鼻にカラフルな衣装。遊園地とかにいそうな可愛らしいピエロのぬいぐるみだ。

 

?「私はジョーカー。皆様の監督です。敬い、言うことを聞くように!」

 

「ジョーカー…さん?舞台ってどういうこと?私達、劇でもするの?」

 

晴天さんがもっともな質問をジョーカーにする。

 

「安心してください。才能溢れる素晴らしいキャスト…皆様にはここで、この学園内で共同生活をしてもらうだけですよ。一生ね!」

 

!!?えっ?今なんて言った?冗談だよね?

 

「ふざけんなや!一生なんておられるかい!家に帰せや!」

「そんな話は聞いてないヨ!帰れないくらいならワタシは入学を辞めるネ!!」

 

木柳君とソフィーさんが激しい態度でジョーカーに迫る。

 

「大丈夫ですよ~。生活に必要な物は全て用意してますし。不自由な思いはさせませんからね。まぁ、帰りたくても監視カメラで監視していますし、出口は全て塞いでますから帰れませんけどね!」

 

つまり僕達は監視・監禁されてるってことだよね?なんで??普通に学園生活を送るつもりだったのに…。

僕が混乱していると…。

 

「ジョーカーだっけ?あんたが何者かは知らないけどあんたのしてることは犯罪よ。今すぐ警察に連絡…!!」

 

ポケットに手を入れた喰田さんはそのまま固まった。

 

「どうかしたんですか?ボクのようなマヌケにも分かるように説明してください」

「携帯や、スマホ等、外との連絡手段になりそうな物は私が没収しました」

 

秋雨君の質問にジョーカーがさらりと答える。

 

「そんなに帰りたいんですかぁ?いいですよー。私はキャストへの心遣いも出来る。一流の監督ですからね。一つだけここから脱出する条件…この舞台から退場する方法を教えてあげましょう!」

「ほ…本当ですか…!」

「やったー!帰れるっス!」

 

綿古里さんが安堵し、五十嵐さんが喜ぶ。ここから出られる方法があるんだ。良かった!

 

 

       

         「この中の誰かを殺してください。」

 

 

 

 






【名前】秋雨 彦吉(あきさめ ひこよし)
【身長】161㎝ 【体重】57㎏ 【胸囲】74㎝
【誕生日】7月7日 【血液型】AB型
【好きなもの】静かな場所。動物。
【嫌いなもの】騒音。目立つこと。
【一人称、二人称】「ボク」 男女ともに「名字+さん」
【容姿】ザンバラの灰色の髪。頭や腕に包帯をまいてマスクをしている。学ランを着ている。目は藍色。
【性格】ネガティブ。卑屈。根暗。
【才能】超高校級の不運。



【名前】生原 命(いくはら みこと)
【身長】180㎝  【体重】70㎏ 【胸囲】88㎝
【誕生日】6月4日 【血液型】AB型
【好きなもの】生物全般。とにかく甘いもの。研究。
【嫌いなもの】特になし。
【一人称、二人称】「吾輩」 男女ともに肩書き。
【容姿】ふわふわの赤色の天然パーマ。紅色の三白眼。
    白衣のコートを着ていて前のボタンは止めていない。その下は地味な赤色のTシャツ。
【性格】常に上から目線。大胆で傲岸不遜。変人。
【才能】超高校級の生物学者。



【名前】木柳 修哉(きやなぎ しゅうや)
【身長】195㎝  【体重】110㎏ 【胸囲】115㎝
【誕生日】1月21日【血液型】B型
【好きなもの】スポーツドリンク。白米。力仕事。
【嫌いなもの】オシャレ。わさび。
【一人称、二人称】「オレ」 男女ともに名字で呼び捨て。
【容姿】筋肉ムキムキの大男。髪は栗色、スポーツ刈り。学生服のような白いワイシャツを着ている。
    目は茶色。
【性格】よくツッコむ。常識人。感情で動くタイプ。
【才能】超高校級の大工。



【名前】若鳩 空智(わかばと あきとも)
【身長】178㎝  【体重】66㎏ 【胸囲】81㎝
【誕生日】11月1日【血液型】O型
【好きなもの】人をからかうこと。面白い事。スリル。イタズラ。
【嫌いなもの】つまらない事。退屈。
【一人称、二人称】「オイラ」 男女ともに名字で呼び捨て。
【容姿】髪はオールバックの群青色。糸目。八重歯。黒いタキシードを着ていて青いネクタイをしている。
    普段はシルクハットをかぶってる。
【性格】陽気で飄々としている。
【才能】超高校級のマジシャン。



【名前】ウルフ
    『シープの双子の兄』
【身長】175㎝  【体重】67㎏ 【胸囲】83㎝
【誕生日】8月5日【血液型】A型
【好きなもの】戦闘。ブラックコーヒー。
【嫌いなもの】歌を歌うこと。偽善者。
【一人称、二人称】「俺」 男女ともに名字で呼び捨て。シープも呼び捨て。
【容姿】シープと瓜二つ。真っ白なスーツを着ている。髪の右側に狼のペアピンを付けている。
    白髪の黒目。
【性格】冷徹で合理的。時々頑固。シープとは仲良しで甘い。
【才能】超高校級のマフィア。



【名前】シープ
     『ウルフの双子の弟』
【身長】175㎝  【体重】67㎏ 【胸囲】83㎝
【誕生日】8月5日【血液型】A型
【好きなもの】歌を歌うこと。会話。花や植物の世話。
【嫌いなもの】喧嘩。炭酸飲料。
【一人称、二人称】「私」(わたくし) 男女ともに「名字+様」 ウルフには「お兄様」
【容姿】ウルフと瓜二つ。真っ黒な修道服を着ている。
 白髪の黒目。十字架のネックレスを身に着けて、髪の左側に羊のヘアピンを付けている。
【性格】純真で慈悲深い。癒し系。ウルフとは仲良し。
【才能】超高校級の牧師


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プロローグ 3

今回は文字数少なめです


…え?そんなとんでもないことを

「近くの自販機でジュース買ってきて☆」みたいに軽く言われても…。

 

「何を呆けているんですか?自分に与えられた役もこなさず、観客を楽しませることもせずこの学園から脱出、この舞台から退場できるとでも?」

 

ジョーカーはこいつら馬鹿か?とでも言いたそうな態度で僕達に言ってくる。

 

「ふざけるな、このポンコツ野郎。ぶっ壊すぞ。」

「こんなことはしたくないけど仕方ないね」

「力尽くでも帰らせてもらうで!」

 

ウルフ君、鬼澤さん、木柳君が戦闘態勢に入る。

だがジョーカーはそんな3人の前で慌てることなく余裕綽々だ。

 

「皆様はご自分の立場が分かってないようですねぇ。いいでしょう。分からせて差し上げましょう!」

 

ジョーカーがそう言った直後、どこからともなく数本の鉄槍が発射され3人の足元に勢いよく突き刺さった。

 

「今のはただの警告です。次からは問答無用で死体として舞台から強制退場して頂きますね~。1人くらいなら見せしめ役として歓迎しますよ!ちなみに私には腐るほどスペアがあるので壊しても無駄です。試してみますか?」

 

ジョーカーが挑発的な態度で話してくるが圧倒的な力の差を見せつけられた僕達はうかつに動くことが出来ない。

 

「さて、皆様にこの電子生徒手帳をあげましょう。起動させて校則をちゃんと読んでくださいね!後で「知りませんでした」じゃすみませんよー!校則違反の方にはお仕置きですからね。」

 

「私、漢字全部読めないっス!」

「そうか、なら儂が読もうか?」

「本当っスか?ヒロありがと~」

 

綾織さんは五十嵐さんの隣に行き電子生徒手帳を起動させた。

すると開いた瞬間僕の名前が表示された。

僕も読んでおこう。えっと…。画面にタッチすればいいのかな?

 

『1:キャスト達(生徒達)はこの学園内で共同生活を行いましょう。

   期限は一生です。

 

 2:夜12時から朝の7時までを《夜時間》とします。

  夜時間は立ち入り禁止区域があります。

  夜時間に立ち入り禁止区域に入ったらお仕置きします。

  今行ける所での立ち入り禁止区域は体育館。倉庫です。

 

 3:就寝は学園内に設けられた個室でのみ許可します。

   他の部屋で故意の就寝をした場合にはボイコットと見なしお仕置きします。

 

 4:希望ヶ峰学園について調べるのは自由です。

   特に行動に制限は課せられません。

 

 5:ジョーカー(舞台監督)への暴力。

   監視カメラ、鍵のかかっているドアの破壊を禁止します。

 

 6:キャスト達の誰かを殺したクロは舞台から退場。

  (学園から脱出)となりますが

   自分がクロだと他のキャストに知られてはいけません。

 

 7:キャスト達で殺人が起きた場合。その一定時間後に

   キャスト達全員参加が義務付けられる、学級裁判が行われます。

 

 8:学級裁判で正しいクロが指摘された場合はクロだけがお仕置き、

   正しいクロを指摘できなかった場合は、クロだけが舞台退場し

   残りのキャスト達は全員お仕置きします。

 

 9:電子生徒手帳の他人への貸与を禁止します。

 

  ※なお校則は順次増えていく場合があります。』

 

 

「小鳥遊さん、横になるくらいならいいですけど寝たら問答無用でお仕置きしますからね。」

「え~、ケチー。分かったよ~。お仕置きってなにするの~?廊下に正座とか~?」

 

小鳥遊さんが渋々と起き上がって尋ねた。

 

「良い質問ですね!まぁ、分かりやすく言うと処刑でーす。電気椅子でビリビリ!刃物でブスッ!上から圧をかけてプチッ!豪快に人間の丸焼き!等々…皆様に相応しい処刑をさせていただきますので感謝していいですよ~」

 

「いや!感謝できるかい!ふざけんなや!!人の命をなんやと思っとるんや!!!」

 

木柳君がジョーカーを怒鳴りつける。しかしジョーカーは…。

 

「何度も言わせないでください。あなたたちは「キャスト」なんですよ?

消しゴムが文字を消すために存在するように、ペンが字や線を描くために作られるように。私と観客を楽しませるだけにここにいるんですよ?

私と観客が楽しめればあなた方がどれだけ苦しもうが悲しもうが死のうがどうでもいいです。分かったら頑張って盛り上げてくださいねぇ。」

 

とサラリと言ってのけた。

 

「テメェ!」

「止めな!」

 

ジョーカーを殴るために近づこうとした木柳君の肩をつかんで鬼澤さんが止める。

 

「アンタの気持ちは分かる。でも今のアタイ達には抵抗できる力も知恵もないだろう。無駄死にしたくないなら止めな。」

 

「木柳君、命拾いしましたね。では、このコロシアイ生活を楽しんでください!」

 

ジョーカーはそう言い残すとどこかに行ってしまった。

 

ジョーカーか去った後、僕はただ頭の中が真っ白で立ち尽くすことしかできなかった。

どんなに認めたくなかろうと、信じられなくても現実は変わらない。

僕達はここに監禁されコロシアイ生活を送らなくちゃいけないらしい。

茫然と立ち尽くす僕に唯輝は優しく力強い口調で声を掛けてくれた。

 

「望夢。大丈夫、安心して。俺がいるから。全力で力になるから。」

 

そう言って僕の頭をなでる。この絶望的な状況の中、自分の知っている人が、

仲のいい親友がいてくれるだけでとてもありがたかった。

 

「うん、ありがとう。僕も頑張るよ。」

そう言うと唯輝は「ん」と言って頷いた。

 

辺りを見渡してみると皆、混乱していたりほかの人と話していたりした。

 

「木柳、さっきは止めるためとはいえ少し言い方がきつかったね。すまなかった。」

 

鬼澤さんはそう言って木柳君に頭を下げた。

 

「いや、ええよ。オレこそ考えもなしにあんなことしてすまんかったな。とめてくれてホンマ助かったわ。おおきに。ありがとな。」

 

 

 

「おいシープ。そんな顔してんじゃねぇ。俺が守ってやる。

お前は何の心配もしなくていい。」

「すみません。お兄様…。ありがとうございます。」

 

ウルフ君とシープ君は仲睦まじい兄弟の会話をしている。

 

こうして僕たちのコロシアイ学園生活という最悪の舞台が始まった。いや…、始まってしまった。

 

 

 

【プロローグ】開幕の前のツマラナイ茶番劇。【END】

    

           生存者 16人。

 

 




~女子生徒~
【名前】晴天 四葉(せいてん よつは)
【身長】165㎝  【体重】60㎏ 【胸囲】82㎝
【誕生日】9月16日【血液型】B型
【好きなもの】可愛いもの。友達と遊ぶこと。カフェオレ。
【嫌いなもの】激辛料理。虫。
【一人称、二人称】「私」女性は「名字+さん」男性は「名字+くん」
【容姿】長髪で肩の位置で一つ結びにしている。前髪は真ん中分けの若葉色。
    半袖、ミニスカートのセーラー服を着ている。目は薄緑色。
【性格】どこにでもいそうな平凡な子。
【才能】超高校級の幸運。



【名前】五十嵐 俊穂(いがらし としほ)
【身長】163㎝  【体重】58㎏ 【胸囲】79㎝
【誕生日】12月23日【血液型】O型
【好きなもの】スポーツ全般。アニメ。少年漫画(漢字は他の人に読んでもらう)
【嫌いなもの】難しい事。勉強。
【一人称、二人称】「私」 男女共にあだ名をつける。ウルフとシープ、ジョーカーは呼び捨て。
      『みんなのあだ名』

・江ノ本→モト
・有馬→ツッキー   ・鬼澤→リンちゃん
・秋雨→アキ     ・綾織→ヒロ
・生原→ミコちゃん  ・小鳥遊→カナ
・木柳→ナギ     ・綿古里→アオ
・若鳩→トモ     ・晴天→ヨツバ
           ・喰田→ナミ
           ・ソフィー→ソラ
【容姿】外ハネのボブヘアー。赤いジャージを着ている。
    髪は山吹色。目は黄色。
【性格】天真爛漫。元気なバカ。
【才能】超高校級の陸上部。




【名前】鬼澤 凛(おにざわ りおん)
【身長】170㎝  【体重】67㎏ 【胸囲】91㎝
【誕生日】2月28日 【血液型】AB型
【好きなもの】特訓。ボリュームのある食べ物。
【嫌いなもの】幽霊。細かい作業(不器用だから)
【一人称、二人称】「アタイ」 男女ともに名字で呼び捨て。
【容姿】スポーツ焼けした褐色肌。髪は黒色のポニーテイル。柔道着を着ている。
    目は紫色。
【性格】男前の姉御肌。少しがさつな所も。
【才能】超高校級の柔道部。




【名前】綿古里 安麻依(わたこり あおい)
【身長】150㎝  【体重】41㎏ 【胸囲】69㎝
【誕生日】4月22日【血液型】A型
【好きなもの】細かい作業や地味な作業。裁縫。小動物。
【嫌いなもの】牛乳。犬。
【一人称、二人称】「私」男女ともに「名字+さん」
【容姿】腰まである長い茶色の三つ編み。黒縁眼鏡。ニット帽を被っている。
    毛糸のセーターを着ている。目は桃色。
【性格】引っ込み思案。人見知り。いつもオドオドしている。
【才能】超高校級の手芸部。




【名前】ソフィー・リエーティ。
【身長】160㎝  【体重】55㎏ 【胸囲】85㎝
【誕生日】12月15日【血液型】O型
【好きなもの】ピアノの演奏。日本の文化。音楽を聞くこと。
【嫌いなもの】納豆。爬虫類。
【一人称、二人称】「ワタシ」男女ともに「名字+サン」
【容姿】ウェーブのかかったプラチナブロンドのロングヘアーをハーフアップにしている。
    胸元にリボンがついてるシンプルなワンピース。目は水色。
【性格】何事も積極的で明るい。前向き。天然。
【才能】超高校級のピアニスト。




【名前】喰田 奈味(しょくた なみ)
【身長】173㎝  【体重】101㎏ 【胸囲】111㎝
【誕生日】5月12日【血液型】A型
【好きなもの】料理を作ること。食べること。綺麗な場所。
【嫌いなもの】散らかっている部屋。だらしない人。
【一人称、二人称】「私」男女ともに名字で呼び捨て。
【容姿】制服(ブレザー)髪は橙色のセミロング。かなりのぽっちゃり系。目はこげ茶色。
【性格】真面目でしっかりもの。毒舌。
【才能】超高校級のグルメリポーター。




【名前】綾織 博夏(あやおり ひろか)
【身長】177㎝   【体重】65㎏ 【胸囲】80㎝
【誕生日】2月6日【血液型】O型
【好きなもの】書物。勉強。映画やドラマ(特に江ノ本が脚本したもの)
【嫌いなもの】説教。大声を出すこと。
【一人称、二人称】「儂」 男女ともにフルネーム。
【容姿】床に届きそうなほど長いストレートな黒髪。前髪はかなり短いパッツン。
    長袖、長いスカートのセーラー服を着ている。目も黒色。
【性格】博識で温和、マイペース。少し不思議ちゃん。
【才能】超高校級の図書委員。




【名前】小鳥遊 架澄(たかなし かすみ)
【身長】168㎝   【体重】53㎏ 【胸囲】78㎝
【誕生日】2月18日【血液型】B型
【好きなもの】日向ぼっこ。昼寝。動かずにできること。
【嫌いなもの】忙しい事。面倒くさい事。
【一人称、二人称】「私」男女ともに名字で呼び捨て。
【容姿】眠そうなたれ目。黒髪で長髪。寝癖でボサボサ。パジャマを着ている。目は栗色。
【性格】ものぐさでめんどくさがり屋。怠け者。
【才能】超高校級のゲームクリエイター。


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舞台の開幕は絶望と共に。
【CHAPTER1】〈探索編〉


あの後、僕達はいったん自分達に用意された個室で休むことにした。

ドアには名前が書いてある。

 

ちなみに「地図なんて読めないっス!なんせ私は簡単な漢字もよめないっスからね!」と言った五十嵐さんは、

「いや、威張って言えることじゃないやろ!しゃーないわ…。オレが案内したる」

と木柳君がツッコミを入れた後に部屋まで案内してた。

 

 

自分の個室を調べてみた。監視カメラがあるし窓に鉄板もあるけど

一通りの家具が揃っているし、シャワールムもあるカーペット敷きの部屋だ。

家具の地味な所もカーペットの色や手触りも僕の好みだ。

ジョーカーが完全防音って言ってたな。

 

電子生徒手帳を再び再起動して調べてみたら学園の地図と僕も含めて皆のプロフィールも見れた。

 

あっ、ウルフ君とシープ君は本名、載ってないな。

身長、体重、血液型、好きな物、嫌いな物は分かるけど………。

胸囲は必要ないでしょ…。

 

しかもこの僕の身長アホ毛と靴底含まれてないし!

うぅっ…ほんの少しでもいいから高くしてよ。

まぁ、もう載せられてしまったものは仕方ない。

気を取り直してもう少し部屋を調べよう。

 

机の上には大量の原稿用紙や万年筆にインク。机の下の棚の中には書きかけの脚本など…。僕の私物まである。

それに机の横に大きめの棚がありその中にDVDがぎっしり詰まっている。

目を通してみたけど全部僕の好きな映画に舞台のDVDだった。

シリーズ物も全て揃えられている。

ベットの横に大きめのテレビがあってDVDレコーダーもある。

 

普通に入寮してたなら喜べたのにな…。

この部屋は僕の為だけに用意されたような感じがして気味が悪い。

どうやってここまで僕の好みを調べて用意したんだ?

 

いろいろなことがあって疲れた。もうさっさと寝てしまおう。その前に…。

 

僕は机の前の椅子に座ると日記を書くために万年筆を取った。

寝る前に日記を書くのは僕の物心が付いた時からの習慣だ。

ノートはそこらへんに売ってある普通のノートだけど。

この万年筆が無くなってなくてよかった。

 

この万年筆は僕の脚本が初めて映画に使われる事になったとき唯輝がお祝いにプレゼントしてくれた大切な物だ。

 

ちなみに僕の両親は大喜びで僕の家族と唯輝の家族で高めのお寿司を食べに行った。

 

唯輝が初めて劇の主役に抜擢されたときには僕は着物の帯をプレゼントした。

唯輝は和物が好きなので着物にしようと思ったけどまだ成長するかな?と考え直し帯にした。

 

無事に喜んでくれて、その日以来普段は着物を着るようになった。

 

 

昔の事を思い出しながら今日の日記をサラサラと書いていく。

字だけじゃなくて簡単なイラストも描いておく。

 

よし、書き終わったしもう寝よう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈ピーンポーンパーンポーン♪〉

 

 

チャイムで目が覚めたらやっぱり自分の用意された個室だった。

 

夢じゃなかったか…。

これが全部夢だったらよかったのにな。

時計を見ると朝の7時だ。まだ眠いなもうひと眠りしよう。おやすみなさい。

 

 

〈ピンホーン♪〉

 

しばらくすると部屋のインターホンが鳴って目が覚めた。

時計を見ると8時になってた、誰だろう?

 

「はーい、今開けるよ」ガチャ…。

 

「江ノ本くん、おはよう。まだ寝てた?ごめんね」

ドアを開けると晴天さんが申し訳なさそうな顔をして立っていた。

 

「いや、もう目が覚めたからいいよ。どうしたの?僕に何か用?」

 

「うん、食堂でご飯の準備が出来てるから、まだ起きてない皆を

一緒に起こしに行くように、喰田さんに言われたんだ」

 

食堂でご飯の準備ができている?ということは…!

 

「皆、起きるの早いんだね。ご飯の準備手伝えばよかった…。待たせてごめんね…」

 

「気にしなくていいよ。約束してたわけでもないんだし、こんなことになったんだから疲れてたんでしょ?まだ寝てる人だっているんだし。

小鳥遊さんなんて一回ドアを開けてくれたけど、

 

「無理~。返事がないただの屍のようだ…。(つ∀-)オヤスミー」

 

              って言ってからまた部屋にこもってるんだよ。」

 

落ち込んた僕を晴天さんは優しくフロォーしてくれた。

 

「そうなんだ…。

小鳥遊さん、ちゃんとご飯食べてくれるといいのにな。大丈夫かな?」

 

「ああ、大丈夫だよ。喰田さんが「私に任せなさい。この怠け者を叩き起こしてやるわ」って言ってたから。」

 

 

そう晴天さんと話をしながら食堂に向かっていたら、

途中で小鳥遊さんを引きずってきた喰田さんと合流した。

 

 

食堂につくと料理がきちんと綺麗に並べられており皆が揃っていた。

 

「おはようさん、よっしゃ。そろったからさっさと飯食うで!」

「駄目。望夢達、手洗いから」

「いや、お前はオカンか!」

 

早速木柳君が唯輝につっこみを入れている。朝から元気だなぁ。

 

「はいはい、皆いったん席に座りな!綿古里、そんな隅っこにいないで、

こっちにおいで。とりあえず今後について話し合うよ!」

 

鬼澤さんが声をかけると綿古里さんはオドオドしながら他の皆もそれぞれ席に座った。

 

「まずはこれからは朝の8時、昼の12時、夜の7時に食事会をしようとアタイは思うんだ。理由は情報の交換をしたり親睦を深めたりできるからだね。

それと食堂には料理器具や材料は沢山あるけど料理がない。料理ができない人が困るだろう?」

 

「俺は反対だ。お前らで勝手にやってろ。料理なんぞ自分で勉強して練習すればいいだろうが。俺はここからシープと脱出する為にお前らを利用する。

お前らも俺を利用すればいい。お前らと仲良くしたいなんて思わねえ」

 

鬼澤さんの提案にウルフ君は冷たく反論する。だが…。

 

「お兄様、そんな悲しい事言わないでください。私は皆様と仲良くしてほしいです…」

 

シープ君が悲しそうな顔をしてそう言うと

 

「チッ、分かった。俺も朝食会に参加する。一応料理も出来るぞ」

 

あっさり意見を変えた。ウルフ君。シープ君には甘いんだな。

 

「なんでやねん!お前ちょろいな!」

「あの…なら料理当番はどうしましょう…。今日は喰田さんとシープさんと有馬さんがしてくれましたけど…」

 

綿古里さんが消え入りそうな声で言う。

 

「ん、料理苦手な人の分。俺がやる」

「おっ、有馬。ええんか?」

「刃物と火。危ない」

「いや、だからお前はオカンか!」

 

木柳君よくつっこむな。

 

「あんたばっかにやらせるわけにはいかないわ。私もするわよ。

勘違いしないでよね!私が料理作るのが好きだしあんたらのまずいご飯ばっかり食べるのがいやだから作るのよ!」

 

喰田さん言い方は少しきついけどいい人そうだな。

 

「ふべらっ!!!!」

突然秋雨君が奇声を発するとおにぎりを噴出した。

 

「わオ!ジャパニーズ霧吹き!!」

「いや、違うと思うよ…。霧雨君大丈夫?どうしたの?」

 

僕はソフィーさんにツッコミを入れて秋雨君近づいて背中をさする。

顔が真っ赤で涙目だ。

 

「いや~。良い反応だなぁ、秋雨!種も仕掛けもありません。オイラ特性わさびおにぎりでーすっ!手伝うふりをして一個だけ作ったのに当てるなんて…

いよっ!さすが超高校級の不運!!」

 

そんな秋雨君をみて若鳩君は楽しそうにケラケラと笑っている。

 

「若鳩空智、なぜこのようなことをしたのじゃ?」

「おっ、なんだぁ綾織。オイラに説教か?

      だってただ飯食うだけなんて退屈だろうが!」

 

「儂は説教はせんぞ。説教は嫌いじゃからな。それに、どんな物語にもこのような茶番は必要じゃからな。このようなイタズラには好感が持てる。」

 

綾織さんは微笑みながらそう言った。

その後、皆で話し合って料理当番は4人一組を作って5日ずつすることになった。

今後のためにもまずは探索することになって解散したけど、食べ物で遊んで秋雨君に迷惑をかけた若鳩君は、喰田さんにお説教されていた。

 

小鳥遊さんは「話し合い、疲れた~(´ぅω・`)ネムイ」とすぐに個室に帰って行ってしまった。少しくらい協力してくれたらいいのに…。

 

後片付けはシープ君と唯輝が進んでしてくれた。僕も「手伝おうか?」と言ったけど

 

「ご親切にありがとうございます。私はよく片付けや掃除をしているので慣れていますよ。それに、有馬様も手伝ってくださるので大丈夫です。」

とシープ君に優しく言われ、唯輝には「別に」と言われた。

 

ちなみに唯輝の「別に」は「別にこれくらい。いいよ。気にしないで」っていう意味だ。

よし、なにか役に立つ情報を得られるように僕も頑張って探索するぞ!

 

 

 

まずは食堂から探索することにした。大きなテーブルクロスのかかっているテーブルにいくつもある背もたれ付きの椅子。カフェ風のオシャレな食堂だ。

 

奥に厨房もあるみたいだし行ってみよう。

 

 

厨房にドアを開けて入ると両手に角砂糖や氷砂糖の袋を抱えたまま目を輝かせて秋雨君に話している生原君がいた。秋雨君はあきらかに嫌そうに顔をしかめている。

 

二人とも僕が入ってきたのに気付いて振り返った。

 

「おお!脚本家か!貴様にも糖分をやろう。不運には断られてしまったからな。」

 

生原君はそう言うと僕に両手に持っている袋を押し付けてきた。

 

「いや、ごめんね。僕はいいよ。生原君は何で甘いものが好きなの?」

 

僕がそう尋ねると秋雨君は「おいばかやめろ」と言いたげな表情になった。

対照的に生原君はさらにいい笑顔になる。

 

「うむ!よく聞いてくれた!同じ質問を不運にされたので、糖分の素晴らしさを語っていた所だ!脚本家の為に最初から語ってやろう。貴様も聞いていくといい。

いいかブドウ糖のもとになる糖質は脳をしっかり働かせるために欠かせないのだ。

その必要量は人の身体が消費すr

「ごめん。今、探索中なんだ。秋雨君も一緒に行かない?」

 

話が長くなりそうだし生原君には悪いけど途中で止めた。

秋雨君は一瞬キョトンとしたものの首が落ちるんじゃないかってくらい何度も頷いている。

 

「そうか。ならば吾輩も貴様ら生物のために探索しておいてやろう。感謝するといい。」

 

生原君はそう言うと食堂から出て行った。

探索しておいてやろう?貴様ら生物のために?生原君は出たいと思ってないのかな?

そんなはずないよね…?

 

「…ありがとうございます。こんなゴミを助けるなんて脚本家様は物好きですね」

 

さっそく皮肉かぁ。へこみそう…。いや、簡単に諦めちゃだめだよね。

 

「僕は仲間の事をゴミなんて思ってないよ。一緒に探索するのが嫌だった?」

「別に。嫌ではないですよ。早くこんな所脱出して両親に会いたいですし…」

 

そのセリフに少し驚いた。秋雨君なら「ボクみたいなクズが帰っても…」とか言いそうなのに。

 

「なんですか。その顔はボクみたいなゴミにはもったいないくらい両親はいい人なんですよ。兄さんは大嫌いですけど…

ウジウジ悩んでるときに根気強く励ましてくれたり、よく怪我をするボクの為にわざわざ病院の近くに引っ越してくれたり…」

 

自分の両親をそっぽむいて語る秋雨君の耳は真っ赤だ。恥ずかしがっているのかな?

 

「そうなんだ。なら早く出れるように一緒に頑張ろうね!」

「言われなくても出来ることはしますよ。さっさと探索を終わらせましょう。」

 

秋雨君にそう言われ僕は厨房の探索を始めた。

大きな業務用冷蔵庫がある中を開けてみてみると食材がパンパンに詰まっていて、

隣の貯蔵棚に食料が山積みになっている。

 

棚には調味料がたくさんあった。生原君はここの上の段から砂糖を取ったみたいだ。棚に空きができている。

 

壁には綺麗な色々な種類の包丁がサイズ別にズラリと並んであり、

包丁のほかの料理器具も充実していた。

 

「とりあえず食料はたくさんあるみたいだね。よかった」

「いくら今食料があっても16人もいるんですよ?すぐになくなりますね。

そうすれば皆、餓死ですね」

 

うぅ…、そうだよね。どうしよう節約するとか?

でもいくら節約してもいつかはなくなるよね。

 

「心配にはおよびません!!」

「わっ!」

「!!?」

 

ドシン!!

 

いきなり現れたジョーカーに僕達は驚いた。

秋雨君は何も床に落ちていなかったのに転んで尻もちをついている。

 

「食料・食材・調味料など切れたら自動的に私が補充しまーす!深夜3時にね」

 

あっ、「少なくなったら」じゃなくて「切れたら」なのか。

 

「いや~。さすが私!やっさしい!感謝してコロシアイに専念してくださいね」

「優しい監督様。本当に優しさがあるならここから出してくださいよ」

 

秋雨君が嫌味を言う。

 

「あれ?秋雨君。無様に床にすわってどうしたんですか?それにコロシアイ学園生活をしてくださいって言ったのを忘れたんですか?三流並みの頭の悪さですね!」

 

「…」

 

明らかに馬鹿にしたような態度で行ってくるジョーカーを、秋雨君は立ち上がって睨みつける。

 

「きゃ~、こわ~い!私は暇ではないのでこのへんで!では!」

 

ジョーカーはそう言い残すとどこかに行ってしまった。

 

「秋雨君、大丈夫?」

「慣れているので大丈夫です。もうボクは部屋に帰ります。

 やる気がなくなりました」

 

秋雨君は早口にそういうとさっさと行ってしまった。

 

厨房から出ていく前に「気を付けてね!」って言ったんだけど聞こえたかな?

厨房の奥にさらに部屋があった。

 

中を覗いてみると大きな台所のシンクと食器乾燥機があり、

シープ君と唯輝が手際よく片付けをしている。

 

邪魔をしたら悪いな。こっそり立ち去ろう。

 

 

僕が廊下に出ると

 

「ちょわーーー!必殺っ!飛び蹴りっス!」

「いや、殴っとるやん!蹴りやないやんけ!!」

 

窓の鉄板を殴りつけている五十嵐さんとツッコミを入れている木柳君がいた。

ちょうどよかった。何か分かったことがないか聞いてみよう。

 

「二人ともちょっといい?分かったことある?」

「モト!分かったことっスか?私が走り回って確かめたけど窓全部に鉄板が固定されてたっスよ。」

「オレは二階に行こうと思ったんやけど階段前にシャッターが降りていて上に行けなかったんや。あといたるところに監視カメラが配置されとるで。」

 

「そうなんだ、ありがとう。僕、他のところに行ってくるね。」

僕がそう言って歩き出した後、

 

「お~、気ぃ付けるんやで」

「モトー、ファイトっス!よーし私も頑張るっスよ!馬鹿馬のように働くっス!」

「いや、それを言うなら馬車馬や」という会話が聞こえていた。

 

 

二人と別れた後、移動しながら電子生徒手帳を起動させて地図を見てみた。

あ、ズームとかもできるんだ便利だなぁ。

今行ける一階にあるのは倉庫・食堂・厨房・個室・ゴミ処理室・ランドリールームか

ここから一番近いのは倉庫みたいだな。行ってみようっと。

 

「わっ!?」

ドン!

 

誰かにいきなりぶつかり尻もちをついてしまった。

しまった。地図を見ながら歩いてたから全然気付かなかったな。

恐る恐る見てみると喰田さんがもの凄く不機嫌そうな顔をして僕を見ていた。

 

「ふん。よそ見をしてるからよ。あんたの目は飾りなの?それとも頭が悪いの?情けないわね。気を付けなさい」

 

確かに喰田さんの言う通りだちゃんと周りを見てなかった僕が悪いし、同級生の女子とぶつかって倒れるなんてかっこ悪いし情けない…。

 

「ごめんね喰田さん。次からは気を付けるよ」

「おい、喰田ぁ。そんな台詞つまんねぇよ。『種も仕掛けもありません!この自慢の脂肪と贅肉で人を吹き飛ばして見せます!』くらい言わねぇと笑えねぇぞ。」

 

曲がり角からひょっこりと現れた若鳩君が堂々と失礼なことを言う。

 

「若鳩、あんたもう一回説教ね。」

 

「いや~、オイラが悪かったっ!もう反省したぜっ。江ノ本、喰田、一緒に探索しようぜぇ。倉庫が近くにあるからよぉ。ほらほら早くー!」

 

若鳩君は早口でまくし立てると僕と喰田さんの腕を掴んで強引に倉庫まで引っ張っていった。

 

 

倉庫にはインスタント食品・雑貨・生活用品・衣服類・菓子類等々が大量に貯蔵されていた。

いくら整理されていても何か取りに来るとき探し出すのが大変そうだな。

 

「あんたら、これを見なさい。」

喰田さんの指さす先を見ると入ってきたドアのすぐ隣の壁に見取り図と備品リストが貼ってあった。

 

「え~、品ぞろえわりいなぁ」と早速若鳩君が文句を言う。

「…?そうかな色々な物があるけど?」

「おいおい、江ノ本ぉ、お前の目はちゃんと機能してんのか?マジックの道具もシルクハットもねーよっ。オイラの部屋にはあるのに、無くしたりしたらどうすんだよぉ。なんで無いんだ?」

 

若鳩君に言われて備品リストを見直す。本当だ。

色々な帽子があるけどシルクハットはない。

 

あれ?メモ帳や厚紙。折り紙とかいろんな紙があるのに原稿用紙がない。

インクやボールペン。シャーペンに鉛筆にクレヨンなど品揃え豊富なのに万年筆がない。どうしてだろう?僕の部屋にはあるのに。

 

「はーい!疑問にお答えしま~す!」

 

「わぁ!?」

 

ジョーカー!?また?いつのまに?

 

「おー、ジョーカー。地味な登場だなぁ。せめて爆発と共に現れろよ。」

 

「いいですよ!近くの人が巻き込まれて怪我しますけどねぇ。

 運が良ければ死人が出ますよ。」

 

「おお!ドキドキするなぁ。いいぜっ!」

 

「よくないよ!」

 

若鳩君もジョーカーもとんでもないことを楽しそうに言う。

冗談に聞こえないよ!

 

「ジョーカー。さっさと答えて消えなさい。目障りよ。」

「きゃ~。喰田さんひっどーい。悪役も顔負けの冷たさ!

はいはい、答えますよ。すでに気が付いたとは思いますが、倉庫にはなくて

皆様の個室にはある物がいくつかあります。理由は簡単です。

その人の個室にはその人くらいしか使わない物を置いているということです。

安心してください。切れたらちゃんとその人の個室に持ってきますよ~」

 

なるほどね。まぁ別に困ることもないだろうしいいか。

奥のほうに行くと右の隅の壁に白いエレベーターがあった。

 

上のプレートに大きく

『荷物用エレベータ』

下のプレートに

『最大重量68kg ※注意事項。

・手などを挟まないように気を付けてください。

・遊ばないでください 

・最大重量をオーバーしないように気を付けてください。』って書いてある。

 

右横には縦に赤いボタンが二つ上のには「開」下には「閉」って書いてある。

 

「ジョーカー何よこれ?」

 

「喰田さん、見ればわかるでしょう?荷物用のエレベーターですよぉ。目が見えないんですか?」

 

「なんでこんな物があるのかって意味よ。あんたの頭の中にはガラクタが詰まってるの?」

 

ジョーカーはやれやれとばかりにため息をついてから答えてくれた。

 

「今はまだいけないですけどこの学園は6階まであるんですよ!わざわざ上の階に物を持って行く時に大変でしょう?なのでこのエレベーターを使ってくださいねー」

 

なるほど。重い物とか多くの物を上の階に持って行きたい時に便利だな。

 

「ねぇ、なんで開け閉めのボタンしかないの?」

「簡単ですよ!4階の荷物置き場にしか行けませんから~。」

「えーっ、使えねぇなぁ!」

「はい!若鳩君!文句言わない!では、私はこれで!」

 

あっ、ジョーカーどっか行っちゃった。足が速いなぁ。

 

「僕は他のところも調べてくるよ。二人は?」

「私はもう少しここにいるわ」

「オイラも。なんかおもしれ―モンがないか漁るぜっ!」

「そっか、ならまたね」

 

僕はそう言うと倉庫から出て行った。

 

若鳩君がボソッと「ど派手な爆弾でもねーかなぁ」と呟いていたけど

喰田さんがいるから大丈夫だよね…?

 

 

次に来たのはゴミ処理室だ。

 

鬼澤さん、ウルフ君、綾織さんがいた。

 

「あれ、三人ともここを調べていたの?なにか分かったことを教えてくれる?」

「自分で今から調べればいいだろ。」

 

やっぱりウルフ君は冷たい…。

 

「ウルフ。そんな言い方はないだろ。すまないね江ノ本。アタイが教えるからさ!」

「ふむ、儂にも話をさせれくれ。いいじゃろ」

 

僕が落ち込むと鬼澤さんと綾織さんが話しかけてくれた。

 

「この部屋の真ん中には焼却炉があるんだけどね。シャッターが閉まっていて入れないんだ。倉庫にゴミ袋があるからそれに、ゴミを入れてシャッターの前に置いとけってさ、ジョーカーが「掃除当番に鍵を渡しますよ!」って言ってたよ。

ちなみに今日は特別にジョーカーだって。明日からアタイ達になるみたいだね。」

 

なるほど。溜まったゴミはここで処分するんだ。

掃除当番かぁ。ゴミが集まるならここは臭くなるだろうし面倒くさいな。

でもちゃんとやることはやらないといけないし…。

 

「儂たちはジョーカーにここを開けてもらって調べたのじゃ。焼却の時は、焼却炉の横についているカードリーダーを電子生徒手帳に読み込ませればいいらしいぞ。

実際にやってみたが出来たしの。火を消す方法も同じじゃ。」

 

ここの情報はこれくらいかな?

 

「二人ともありがとうね。他にも調べたいところがあるからもう行くね。」

 

僕は二人にお礼を言って言ってゴミ処理室から出て行った。

 

 

最後に来たのはコインランドリールームだ。

 

ドアを開けるとソフィーさん、綿古里さん、晴天さんがいた。

 

「江ノ本サーン!らっしゃいマセ!!」

「ソフィーさん店じゃないんだから…」

 

晴天さんがツッコミを入れる。

 

「あの…。江ノ本さん…。私達もさっき来たんです。一緒にここを調べませんか?」

 

綿古里さんにそう言われ僕達はさっそくコインランドリールームを調べだした。

真っ白なタイルに水色の壁の清潔感のある部屋だ。

16個の乾燥機と洗濯機。長くて太い物干し竿に数えきれないくらい

沢山のハンガーがまとめてかけてある。

棚の中を見てみるとアイロンが16個あった。こんなに要らないんじゃ…。

 

もう今行ける所は全部調べたな。

結局、外へ出る手がかりや黒幕の手がかりもなかった…。

 

「はぁ…」

「江ノ本サン、悲しそうネ。ため息でてルよ。明るい事考えまショー!」

 

僕がため息をつくとソフィーさんが慰めてくれた。

 

「明るい事?」

「yes!ここから出たらワタシのコンサートに皆サンを招待するネ!それから皆サンといろんな所に遊びに行くヨ!」

 

ソフィーさんは親指を立てて太陽のような笑顔で話している。

 

「ならピクニックにも行こうよ私、お弁当作るよ。

得意ってほどでもないけど普通に美味しいのならできるから。」

 

晴天さんも笑顔で話しに応じる。

 

「でも…。ここから無事に出れますかね…?」

 

綿古里さんが泣きそうな声で弱弱しく言う。こんな状況じゃ無理もないな。

 

「大丈夫デース!案ずるより産むがタカシっていう言葉があるヨ!皆サンでやってみたら意外と簡単に出来るかもしれないネ。」

「ソフィーさん。案ずるより産むが易しだよ。綿古里さん。出来ないって思ってたら出来ることもできなくなっちゃうよ。一緒に頑張ろう!」

 

ソフィーさんは元気に晴天さんは優しく励ます。この二人は前向きだな。

 

「晴天さんの幸運でなんとかなるかもしれないね」

 

僕が何気なくそう言うと、

「ごめんね。江ノ本くん私の幸運は人よりちょっとだけ運がいいくらいなんだ。それに何回も起こるものじゃないよ。」

 

晴天さんは申し訳なさそうにそう言った。

 

「そうなの?それでも幸運ってすごいと思うよ。」

「ありがとう。私は世間に認められる才能を持ってる皆のほうがすごいと思うよ。」

 

晴天さんはさらりとそう言った。

 

「そうかな?ありがとう」

なんか褒められるとやっぱり照れるな。

 

「thank youー!うれしいヨ!」

「あ…あ、りがとうございます。」

 

僕達がお礼を言い終わったちょうどその時。

 

「あんた達ここにいたの」

 

喰田さんがドアを開けて声を掛けてきた。

小鳥遊さんを引きずっている。

 

「昼食の準備が出来たらしいわ。食堂に行くわよ」

 

喰田さんに言われて壁の時計に目をやるともう11時30分くらいになっていた。

 

「うん、分かった。呼びに来てくれてありがとう。皆で一緒に行こうか。」

「お礼なら私じゃなくて準備をした有馬とウルフとシープ、綾織に言いなさい。

一緒に行くのはいいけど遅いと置いてくわよ。」

「うん、分かった。小鳥遊さん、自分で歩いたら?」

「めんど~い」

 

相変わらず怠け者だなぁ…。

 

 

 




【名前】ジョーカー
【身長】60㎝   【誕生日】?
【好きなもの】喝采。自分。金。他人の不幸。
【嫌いなもの】駄作。無駄な事。責任を負うこと。
【一人称、二人称】「私」 男性は「名字+君」女性は「名字+さん」
【容姿】派手な衣装とメイク。赤い鼻。ぽっこりと出たお腹。
    遊園地にいそうな可愛いピエロのぬいぐるみのような見た目。
【性格】生徒たちに殺し合いを強要している。悪趣味のクズ。
【自称】監督。


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【CHAPTER1】〈日常編〉

食堂に着くと料理が綺麗に並べられて皆が揃っていた。

残りの皆の目線がこっちに向く。

 

「おっ、これで全員揃ったね。食事をしながら探索結果を発表しようか」

 

鬼澤さんが笑顔でそう言うと皆が席に着き会議が始まった。

 

 

「結局なにも進展はなかったな。」

 

ウルフ君が無表情にバッサリと言う。

はぁ…。僕は情けなくため息をついた。

これだけ時間をかけて全員で探索したのに糸口が見つからなかったのだ。

落ち込んでいる場合じゃないと頭では分かっていてもため息が出てしまう。

 

「ん」

 

そんな僕を慰めるように唯輝が優しく頭を撫でてくれる。

 

「…ありがとう。大丈夫だよ。」

 

そう言って手をどかす。

どうすればいいんだろう?コロシアイなんてしたくない。

出口はないし、仮に方法があるとしても、何か不審な行動をすれば監視カメラでばれてしまう。

 

 

「ふふふふ…。絶望的ですね…。ボクみたいなゴミはここで死ねという事ですか。そうですか…」

「秋雨。落ち込んでてもしゃーないやろ。何が気になる事とかあらへんか?」

 

不気味にやけ気味に笑う秋雨君にフロォーを入れて木柳君が皆に問いかける。

 

「え、えっと…。ならいいですか?ジョーカーの言っている『観客』って誰の事でしょう?」

 

確かに綿古里さんの言う通り気になる。最初にジョーカーが『観客の皆様』って言ってたから一人じゃなく複数いるって事だよね?

 

「ジョーカーの嘘では?見ている方がいるなら助けに来てくださると思います。

皆様、希望を持ってください。16人もの高校生がいなくなったんです。

希望ヶ峰学園の方や友人やご家族様。警察が今頃探してくださってるはずです。」

 

落ち込んでいる僕達をシープ君が安心させるように優しく微笑みながら言う。

さすが牧師さんだ。言葉に意思というものが感じられ説得力がある。

 

「あーーーっはははは!!!」

 

今までの雰囲気をぶち壊すようにジョーカーが大笑いしながら机の上に現れた。

…もう慣れたな。

 

「警察?そんなものに期待してるんですかぁ?あんなただの咬ませ犬がここに来れるわけ、この舞台に上がれるわけないですよ!期待するだけ無駄ですよ~。

まぁ、キャストの皆様のやる気があるのは嬉しいですけどねー。」

 

声を聞くだけで明らかにこっちを煽っている態度を見るだけでむかつくのは僕だけじゃないだろうな。

 

「うむ、要するに警察等には手が出せないように吾輩たちを監禁・誘拐をしてコロシアイ生活を強要しているのだな?礼を言ってやる。ジョーカーよ。よくやった!」

 

 

は…?

 

 

僕達が目線を向けると生原君は目を輝かせていた。本当に心の底からお礼を言っているのだろう。演技には見えない。

 

「おいおい、どうしちまったんだい生原。アンタ正気かい?」

 

鬼澤さんが尋ねる。僕だって同じ気持ちだ。冗談だよね?

 

「?吾輩は正気だぞ?逆に貴様らがこの状況で何故外に出たいのかが分からんな。」

 

「が、学園内に閉じ込められてコロシアイを強要されてるんですよ…!出たいに決まってるじゃないですか…!!」

 

綿古里さんが涙目で反論する。僕だって早く出たい、早くここから出て両親や友達にあって、いつもの平和な日常を取り戻したい。

 

「コロシアイを強要されているからこそいいのではないか!

吾輩はあらゆる進化の可能性に満ちていて神秘的な生物が大好きだ。

害虫でも悪人でも善人でもどんな見た目であろうと関係ない。

生物であれば吾輩自身も含めて全部大好きだ。

特に生物たちが必死に努力し足掻き死ぬ物狂いで進化する姿が好きなのだ。

まぁ、分かりやすく言うと、大好きな生物(監督)の監視のもとで、大好きな生物(生徒達)と共同生活出来るのだぞ?素晴らしい!

特に大好きな生物である貴様らがもがき苦しんで進化する、努力する姿を近くで見てたなら最高だな!!」

 

恍惚しながらべらべらと喋っている。

だからあの時

「検索してやろう」

「生物の貴様ら生物のために」って言ってたのか…。

 

「ふざけんなや!お前はどっちの味方やねん!!」

 

木柳君が生原君の胸倉を掴んで怒鳴る。しかし生原君は

 

「なにを言っている?吾輩はすべての生物の味方だぞ?

クラスメイトだろうが黒幕だろうが初対面であろうが関係なく大好きだ。

喜べ大工よもちろん貴様も大好きだぞ。」

 

「テメェ…!!!」

 

「おっ、吾輩を殴ってくれるのか?超高校級の大工に殴られるなんて初めてだな。

いい経験になるだろうし痛みに対して耐性ができ進化できる。ぜひ殴ってくれ。

どうせなら、一思いにではなくじわじわと嬲るように痛めつけてほしいものだな。

吾輩は苦痛も絶望も大好きだ。痛いのも苦しいのも「生きている」証拠だからな。

吾輩も大好きな生物の一員だという証拠だし実感が得られて興奮する。」

 

怖がりも怯みもせずに目を輝かせて興奮気味だ。

ああいう人の事を変人って言うんだろうな。

 

「黙れ。木柳そんな奴にかまうな時間の無駄だ」

「…っ!」

 

ウルフ君の威圧によって木柳君は生原君を一度睨みつけてから手を放す。

 

「生原、テメェがろくでもない変態だってことは分かった。

お前がなにしようが勝手だが俺らに迷惑はかけるな」

 

「うむ、心掛けてやろう。」

 

「はいはい、これで一件落着!キャスト同士無駄な喧嘩をしないでくださいよ。共に学園生活を送った仲間でもあるのに!」

 

えっ?

 

「ジョーカーどういう意味?共に学園生活を送ったって…。

僕達入学してからすぐにここに閉じ込められたんだよね?」

 

僕の質問にジョーカーは一度キョトンとすると

 

「あっ!いっけない☆口を滑らせてしまいました~。まぁわざとですけどね。だって江ノ本君達が学園に入学してから3年はたってますよ?」

 

おでこに拳をコツンとあてて舌をぺろりとだしながら言った。

 

「そ、そんなの嘘っス!私は学校生活を送った覚えはないっスよ!!」

「記憶力に自信のある儂も覚えとらんぞ。嘘をつくならもっとましな嘘をつくんじゃな。物語がつまらなくなるじゃろう。」

 

綾織さんと涙目の五十嵐さんが反論する。

 

「やだなぁ、覚えてるわけないじゃないですか!

私が皆様の記憶を奪ったんですから」

 

「そ…そんな嘘つかないでくださいっ。信じられませんし、証拠がないですよ…」

「綿古里さん。そんなつっまんない反論しないでくれます?

信じられないんじゃなくて信じたくないんでしょう?逆に記憶が奪われてないって証拠もないくせに~。」

 

ジョーカーのセリフに空気が凍り付く反論したくても出来ない。

僕達の記憶が奪われていないという決定的な証拠がない…。

 

「あるぞ」「ありますよ」「ある」

 

ウルフ君とシープ君。唯輝が同時に反論する。

 

「俺とシープはずっと一緒に育ってきたんだ。」

「はい、ですので3年も経っているのならお互いに変化に気付くはずです。」

「ん、望夢。変わってない。」

 

そうか、3年もたってるなら唯輝もどこか変わってるはずだ。身長も伸びてないしどこにも変化がない。

 

「それには秘密があるんですよ」

「えっ?それってどういうこと?」

 

僕が聞き返すとジョーカーはめんどくさそうにこっちを向いた。

 

「そんなホイホイネタバレするわけないでしょう?どんな名作だって予告はあってもネタバレするとつまんなくなっちゃうじゃないですか!なんでも私に聞かないでせいぜい考えて悩んでくださいよ。」

 

そう言い残すとまだどっかに行ってしまった。逃げたのかな?まぁ、どうせまた会うことになるんだしいいか。

 

ガタっ…。椅子が引かれる音がして目を向けると秋雨君が椅子から立って食堂から出ていこうとしていた。

 

「秋雨。話途中。どうした?」

 

唯輝は「話の途中だけど、どうしたの?」と少し心配そうに聞いている。

 

「話し合いで決まったことがあったら後で教えてください…。こんなゴミに教えたくないでしょうけどね。貴方達のような信用できない人と一緒にいたくありません…。ボクは先に部屋に行って極力こもってますよ…。」

 

「それは死亡フラグやで!!」

 

木柳君のツッコミを無視して振り返ることなく出て行ってしまった。

 

「何。今は物語のプロローグくらいじゃからな。まだ登場人物の退場は早い。大丈夫じゃろう。」

綾織さんは、のほほんと気楽なものだ。

 

「秋雨様、お待ちください…!」

「ほっとけ、どうせ後でまた会えるんだし。あいつから一緒にいたくないって言ったんだろ。なにがあっても自業自得だろうが。」

 

追いかけようとするシープ君をウルフ君が止めた。

ウルフ君の言い方は厳しいけど今追いかけても追い返されるだろうしな。

 

「さっさと話し合いを終わらせるわよ。私の提案を聞いてもらってもいいかしら?」

 

「お~!いいぜぇ。オイラも提案があるんだっ。倉庫に色々あったんだけどよぉ。誰かおもしれーもん作れねぇか?花火とか爆弾とか、自動パイ投げ機械とか…!」

 

「若鳩、黙りなさい。私の提案は新しいルールの追加よ。夜間時間は出歩き禁止。

何か理由があるときは誰かを誘ってから一緒に行動すること。」

 

若鳩君は台詞を遮られて不満気だ。喰田さんは無視している。

 

「おっ、なるほど。この状況下で夜に一人は危ないからね。少しは安心できるようにもなるし。アタイは賛成だよ!幽霊とか苦手だしね。正直助かる」

 

「なんや、ごっつ強いのにお化け駄目なんか?」

 

ニヤニヤ笑いながら木柳君が茶化すように尋ねる。

 

「そうだよ。アタイは怪奇現象とか幽霊とか駄目なんだ。

夜は一人では出歩けないんだよ。悪かったね!」

 

顔を赤くして鬼澤さんは恥ずかしそうに言う。意外だなぁ。

普段はあんなに頼もしいのに。

特に反論する人もいなくて、喰田さんの意見は採用された。

 

「ね~。も~いいでしょー。これ以上話したって進展しないだろうし。また今度でもー。面倒くさいし(´ぅω・`)ネムイ」

 

小鳥遊さんが机に突っ伏しながら言う。

確かに結構時間がたってるな。早くご飯を食べてしまおう。

他の皆も残りのご飯を食べ始めた。

 

後の片付けは当番になったシープ君と綾織さん、若鳩君、喰田さんが

してくれるらしい。

僕も手伝うと言ったら、喰田さんに「5人もいらないわ。それにあんたじゃ邪魔になるだけよ」と冷たく言われてしまった。

 

話し合いも終わったし、これから何をしようかな。コロシアイを終わらせる解決方法もなく、疑問だらけだ。

 

憂鬱だな…。あれ?

行く当てもなく歩いていたら秋雨君を見つけた。先に居室に戻ってるんじゃなかったっけ?

キョロキョロと何かを探しているみたいだ。僕も手伝おう。

 

「秋雨君!」

 

「!…チッ。」

僕が少し離れたところから呼ぶと秋雨君は舌打ちをして一目散に逃げていった。

 

傷つくなぁ…。何か気に障ることでもしてしまったかな。

 

「望夢」

 

呼ばれて振り返ると唯輝がいた。

右腕に透明の袋を掛けていて中にはお菓子やジュースがたくさん入っている。

じっと見てみると皆僕の好きな物ばっかりだ。

 

「追う?」

 

う~ん、どうしようか。心配だけど余計なお世話かな?

舌打ちまでされたし…。

 

「アタイが行くよ」

 

振り返ると鬼澤さんが歩いてきた。

 

「すまないね。たまたま通ってたら一部始終を見ちまったんだ。

有馬、江ノ本に用があるんだろ?ここはアタイに任せな!」

 

鬼澤さんは唯輝の背中を笑って軽く叩いてから僕らがお礼を言う前に秋雨君を走って追いかけて行った。

 

「行っちゃったね…。僕に何の用なの?」

「気分転換。部屋行く。どっち?」

 

唯輝はそう言いながら僕を小脇に抱えて歩き出した。

僕の元気がないから気分転換しようってことだろう。

僕はあまり体力がないから体を動かすんじゃなくてくつろげる部屋に行こうって言ってくれている。

優しいな。ありがたい。

 

「僕の部屋でいいよ」

「ん」

「唯輝」

「?」

 

「…ありがとう」

 

「別に」

 

そう言った唯輝は安心したみたいに少し微笑んでいる。

他の人から見たらあまり分かんないだろうけど。

 

僕の部屋で唯輝とお菓子を食べながら雑談した。

気が付いたらもう晩御飯の時間だ。

 

「唯輝。片付けてご飯行こう。」

「ん」

 

唯輝がベットから腰を上げて片付けを手伝ってくれる。

全部終わって二人で部屋を出た時。

 

「望夢。若鳩に気を付けて。」

 

どういう意味だろう?そんなに危ない人に見えないけどな?

 

「…分かった?」

 

僕達は食堂に向かって行き、晩御飯を食べた結局鬼澤さんは、秋雨君に追い返されてしまったらしい。

 

鬼澤さん本人が申し訳なさそうに言っていた。

後は当番の人に任せて居室に帰る。

いつも通りに日記を万年筆で書くと僕はベットで横になって寝た。



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【CHAPTER1】〈非日常編〉

どなたからでも感想を受け付けるようにしました。
ハーメルンや小説を書くのが初心者ですが温かい目でお願いします。



〈ピーンポーンパーンポーン♪〉

 

「おっはよーーーーーーございまぁ~すっ!!!」

 

「!!!???、いたっ!え?何で??!」

 

チャイムの後の大声に驚いて飛び起きたらベットから落っこちた。

何で若鳩君がいるの!?僕、ちゃんと鍵は閉めてたよね?

 

「何でって驚かすために決まってんだろっ!いやぁ、ジョーカーにしつこく頼んで鍵を開けてもらったかいがあったなぁ。!ナイスリアクション!オイラはさらにご機嫌になったぜぇ!」

ケラケラとそれはもう楽しそうに笑っている。

 

「…若鳩君、おはよう。ご機嫌だね」

「そりゃあ、いいことがあったからなぁ。オイラは先に朝飯食ってるぜっ。じゃあなぁ!」

 

僕を驚かしたことで満足したのだろう、満面の笑顔で風のようにさっさと出て行ってしまった。

 

目が覚めてしまったな。

早いけど食堂に行こうっと。

 

部屋から出ると小鳥遊さんを引きずっている喰田さんに会った。

生原君も一緒だ。

 

「おはよう。二人とも早いね。小鳥遊さん意外と早起きなの?」

「ちが~う。朝ご飯作りに行くついでって喰田に起こされたの~ヽ(`Д´)ノしつこくインターホン鳴らされて~。江ノ本早起きだねー」

 

「違うよ。若鳩君に起こされたんだ。ベットのそばで大声出されてね。」

 

僕がそう言うと喰田さんが呆れた顔に、小鳥遊さんはきょとんとした顔になった。

生原君は笑顔のままだ。

 

「あんた、この状況で部屋に鍵閉めてないの?馬鹿なの?」

 

喰田さんは僕の頭を心配している。しまった!勘違いされている!

 

「違うよ!ちゃんと閉めてるよ!若鳩君がジョーカーにしつこく頼んで開けてもらったらしいんだ。」

 

「あぁ、なるほどあの迷惑な馬鹿がやりそうね」

 

良かった。分かってくれたみたいだ。

 

「ふむ、良いことを知れた。感謝してやろう脚本家よ。さっそく吾輩もジョーカーに

頼み込もう!大好きな生物を四六時中監視出来るな!」

 

生原君が目を輝かせて興奮している。

 

「黙りなさい。あんた常識とプライバシーって知ってる?」

「愚問だな。吾輩ほどの常識的な生物はいないぞ!」

「寝言は寝て言いなさい。変人」

 

その後、喰田さんの毒舌の言葉攻めを生原君はとてもいい笑顔で聞いていた。

生物と話せるだけで、嬉しいのかな…。

 

食堂に着いた。

特にすることがないので食事の準備の手伝いをした。

時間が経つと皆が集まってきた。特に話すこともないので適当なところに座ってご飯を食べた。

 

さて、ご飯も食べ終わったし何しようかな。

唯輝と話そうかと思ってたんだけど「ごめん。少し、用事ある」と断られた。

大した用じゃないらしいけど…。

 

一人で散歩でもしようかなと思っていると廊下で話している綾織さんと五十嵐さんがいた。

 

「二人とも何話しているの?」

「あっ、モト!ヒロと本の話をしてたんっスよ!」

 

五十嵐さん、本好きなのかな?意外だな…。

 

「私は少年漫画が好きなんスよ!いくつか居室にあったんっスけど漢字が読めないからヒロにお願いしている所っスね」

なるほどそういうことか。

 

「儂でよければいいぞ。江ノ本望夢よ。儂らと一緒に読書会でもするか?お勧めの本の話をするぞ」

 

超高校級の図書委員の本の話か!聞きたいなぁ。面白そう。でも女子二人に僕一人はちょっと気まずいな。

 

「皆様。何の話をされているのですか?よろしければ私にも聞かせていただけませんか?」

 

振り返ると穏やかに微笑んでいるシープ君と相変わらず不機嫌そうなウルフ君がいた。

僕がさっきまでの話を説明すると、「それは、楽しそうですね。」とシープ君が目を輝かせていた。

そうだ!「よかったら、一緒に行く?皆がよければだけど…」

 

「儂はかまわんぞ。」

「私も全然オッケーっス!よ~し私の部屋までレッツゴー!!」

 

五十嵐さんはそう言うと走って行ってしまった。流石超高校級の陸上部。めちゃくちゃ早い。

 

「さっさと行くぞ」

「あれ?ウルフ君も参加するの?」

「俺が参加したらまずいのか?」

 

ウルフ君がギロリと睨んで言う。やっぱり怖い!

 

「いや、意外だなぁって…」

「いつシープが危険な目に合うか分からねぇからな。出来るだけ傍にいたい。」

 

なるほどそういうことか本当にシープ君の事大切に思ってるんだな。

 

 

その後、僕達は五十嵐さんの部屋で読書会をした。

五十嵐さんの部屋は滅茶苦茶に散らかっていたので皆で掃除した。

大きな棚に沢山の少年漫画。アニメのDVDがあり、隣にテーブルがある。

ベットの横にはテレビにDVDレコーダー、プロティンシェーカーもある。

ランニングマシーンに小さな冷蔵庫。中はスポーツ飲料や炭酸飲料だ。

皆が本を何冊か読み終わると、シープ君が聖書の話を、五十嵐さんが自分の好きな漫画の話を綾織さんが色々な本の話をしてくれた。

 

気が付いたらもうお昼の時間だ。

僕達は部屋を片付けてから食堂に向かった。

 

食堂で皆で自由に過ごしながらご飯を食べた。皆が食べ終わってぼちぼち帰ろうとしたとき

 

〈ピーンポーンパーンポーン♪皆様!監督命令です!体育館に集合ー。〉

いきなりアナウンスが鳴った。あのジョーカーのことだろくでもない用だろうな。行きたくないなぁ。

 

でもずっと行かないわけにはいかないし…。

五十嵐さんは「とりあえず行くっスー!」と走って行ってしまった。

木柳君が「ちょいまて!五十嵐!迷子になるやろ!」と追いかけて行った。

 

ウルフ君はシープ君を気遣いながら。生原君は「何があるのか楽しみだ!」とご機嫌に鼻歌を歌いながら。

綾織さんはいつものように微笑みながら、若鳩君もいつものようにニコニコしながら。

秋雨君は僕達を避けるように、喰田さんは舌打ちをしてから、

鬼澤さんとソフィーさんは、不安そうな綿古里さんと晴天さんと一緒に皆体育館に行ってしまった。

 

「とりあえず。行こ」唯輝がそう言って僕の頭を撫でる。

「行くから撫でないで」

「運ぼうか?」

「子ども扱いしないでよ!」

僕が言い返すと微かにだがいたずらっ子みたいに笑っていた。

 

「冗談」

「分かってる」

「流石」

 

僕達は話しながら体育館に向かった。

 

 

体育館に着くとステージの上でジョーカーか偉そうに腕組をしてふんぞり返っていた。

 

「アタイ達に用があるならさっさと言いな。」

 

鬼澤さんは明らかに嫌そうな顔をしてから言っている。

 

「はいはい。分かりましたよ~。皆様。なんでコロシアイをしてくれないんですか?

舞台もキャストも、道具も揃っているというのに!ずーっとプロローグじゃ私も観客も飽きてしまいますよ。さっさと物語を進めてください。」

 

何言ってるの?コロシアイなんて絶対にしたくない。さっさとここから出してほしい。

 

「観客も生物なのか?ならば吾輩が一肌脱ごう!」

「生原黙りなさい。余計なことをしたら、ただじゃおかないわよ!」

 

喰田さんが生原君を睨みつけて黙らせる。

「なんじゃ?用事はそれだけかの?それなら儂は帰って本でも読むかの」

「私は昼寝した~い(´ぅω・`)ネムイ」

 

綾織さんがあくびをしながら言うと小鳥遊さんはのろのろと出口に向かって歩いて行く。

 

「ちょっと待ってくださーい!偉大なる監督の話をちゃんと聞く!せっかく考えてきた動機なんですから!皆様覚えてますか?食堂で話した記憶の件について。」

 

動機?あぁ、僕達の学園生活の記憶を奪ったって話か。

 

「それがどうしたの?」

 

晴天さんの声掛けに対してジョーカーは待ってましたとばかりに、笑って言った。

 

「ほらっ、百聞は一見に如かずっていうじゃないですか!皆様が信じてないようなので証拠をお見せしましょーう。」

 

証拠を見せる?それってもしかして…。

 

「今から24時間以内に殺人が起こらなかった時にランダムで1人を選びその人の記憶を消しま~す。どの記憶をどのくらい消されるのかはお楽しみってことで☆」

 

…!!!

 

「おやおや、その反応?どうしたんですか?信じてないんでしょう?せいぜい自分の記憶が消される前にコロシアイが起きるか、起こすかしてくださいね~。」

 

ジョーカーはそう言い残すとどっかに行ってしまった。

なるほど。一気に皆のを消すんじゃなく、あえて1人ずつにすることによって

見せしめにして、他の皆の不安。焦り。ここから出たいという思いを煽ってるわけか

いやらしい方法だな。

 

記憶を消されたくない。嫌だ。家族や友人。

唯輝の事も忘れてしまうかもしれないってことだよね?

それだけじゃない。自分自身の事も忘れるかも…。

どのくらい消されるのが分からないのが更に恐怖心を増加させる。

 

今は自分が選ばれないことを問題が解決されるのを祈ることくらいしかできない。

この状況をどうにかできる知恵も力もない。

 

「…」

「綿古里サン!大丈夫?」

 

力なく床にへたり込んでしまった綿古里さんにソフィーさんが駆け寄って話しかけている。

ソフィーさんも顔色が悪いな。

 

「クソっ!待たんかい!ぶっ壊したる!」

「ナギ!やめるっス!」

「頭を冷やしな」

 

ジョーカーを追いかけようとする木柳君を五十嵐さんと鬼澤さんが止める。

 

「…!」

 

秋雨君は真っ青な顔で走り去ってしまった。

 

「秋雨君!」僕は秋雨君を追おうとしたその前に「ん」「秋雨様!」

唯輝もシープ君も一緒に追いかけようとしていた。

 

「ありがとう。僕だけで大丈夫だよ。他の人のこともあるし。」

 

綾織さん、若鳩君、生原君。ウルフ君。小鳥遊さん以外の人は顔色が悪い。

喰田さん。唯輝は冷静な振りをしていることが分かる。

僕はそう言い残すと全速力で秋雨君を追いかけた。

 

 

秋雨君にはすぐに追いつけた。何もない廊下で転んでいたのだ。

 

「えっと…大丈夫?」

 

そう言っておずおずと手を伸ばす。

だか秋雨君は僕の手を取ることなくうっとうしそうに睨みつけて立ち上がりそのまま無視して立ち去ろうとした。

 

「待ってよ!怪我してない?こんな状況だからこそ協力しないと。」

「協力…」

「うん、皆で力を合わせて頑張ればなんとかなるよ。大丈夫。秋雨君の気持ちも分かるけど…。」

 

最初のセリフは自分に言い聞かせるものでもあったと思う。

 

「うるさい…」

「え?」

「黙れ黙れ黙れええええええ!!!」

「!!」

 

僕は吃驚してその場で尻もちをついてしまった。

あの秋雨君が大声で怒鳴っている。

 

「気持ちも分かる?分かるわけないでしょう!世間に認められる素晴らしい才能を持っていて、こんなコロシアイ生活の中でも自分の事を思ってくれる友人がいる貴方に!ずーっと不運まみれの、何の才能もない数日前に会ったばっかりの!ボクの何が分かるんですか!!ふざけないでください!!!もうボクに構わないでください!!」

 

「…待って!」

 

走り去ろうとした秋雨君の腕を急いで掴んで止めた。

もの凄く不愉快そうに顔を顰められた。

今言うより後で落ち着いたときに話をすればいいかもしれない。上手く伝わらないかもしれない。

でも…!

掴んだ腕を放して頭を下げる。

 

「ごめんね。秋雨君。秋雨君の言う通り人の気持ちなんて完全に分かるわけもないのに無責任な事言っちゃって。でも、僕は皆でここから出たいし。秋雨君の事も大事な仲間だと思ってるんだ。だから…友達になってくれないかな?」

 

「………はい??」

 

「今からでもいいから秋雨君の事。色々教えてくれないかな?」

 

「馬鹿じゃないですか?ボクの話を聞いてなかったんですか?アホですか?日本語が分からないんですか?」

 

うぅ…。やっぱりそう言われるよね。何も言い返せない…。

 

「………。」

 

僕たちの間に沈黙が流れる。き、気まずい!秋雨君の顔すらみれない。

ずっと俯いたままだ。ここから逃げ出してしまいたい。それができないから困ってるんだけど。

 

「…。すみませんでした。」

「え?」

 

驚いて顔を上げる。

 

「だから…。すみませんって言ったんです。怒鳴って八つ当たりして。ボクみたいなゴミ野郎でも。仲間に謝ることぐらい出来ます。も、もういいでしょう!また話せるんですから。こんなクズでも仲間なんでしょう?ではまた!」

 

途中から早口で捲し立てると逃げるように走り去っていった。

よかった…。仲間だって言ってもらえたし少しは仲良くなれたみたいだ。

とりあえず皆がいる体育館に戻ろうっと。

 

 

体育館に着くと皆が何か話し合っていた。あれ?若鳩君。小鳥遊さんがいないみたい。部屋に帰ったのかな。

 

「皆。何話してるの?若鳩君と小鳥遊さんは?」

「おっ、江ノ本かい。あの後五十嵐がなんか体を動かしたいって言うからさ色々道具もあるし、皆でスポーツをするところなんだ。」

 

「小鳥遊は、めんどいゆーて帰ったわ。

若鳩は「皆がど肝を抜くような予想外の事をしてくれるならいい」ってぬかしおったから叩きだしたんや。」

 

あぁ、なるほど。だから晴天さん、唯輝、シープ君、生原君、喰田さんはジャージを着ているのか。

 

嬉しそうに話す鬼澤さんには悪いけど僕はあまりスポーツは得意じゃないんだよな。体力はないし。運動神経もよくないし…。

 

「見学する?」唯輝が気遣って言ってくれる。

 

「江ノ本サン!一緒に見学しヨー!」

「儂らも見学じゃぞ」

「わ…私も見学です…。すみません…。」

「…。」

 

良かった。見学するのは僕だけじゃなかった。ソフィーさん、綾織さん、綿古里さん、ウルフ君もか。でも意外だなぁ。ウルフ君が見学でシープ君がスポーツなんて。逆のイメージだったな。

 

「あら、ウルフあんたは見学なの?シープが参加するのに」

「黙れ。お前らと慣れあう気はない」

 

喰田さんの言葉をウルフ君が一刀両断する。

 

「へぇ、あんた運動音痴なの?体力ないの?」

「黙れって言っただろうが。テメェこそなんで参加してんだよ。運動してる体型じゃねぇだろ」

「お兄様。喰田様に失礼ですよ」

 

シープ君が優しく注意するとウルフ君はバツが悪そうに顔を背けた。

親に叱られた子供みたいだな…。本人に言ったら怒られそうだから言わないけど。

 

「別に気分転換よ。高校生にもなってコミュニケーションもとれないの?弱い犬ほどよく吠えるのよね。あんたの事「ウルフ」じゃなくて「ポチ」って呼ぶわよ」

 

「喰田様。お兄様は私の唯一の血の繋がった家族です。悪く言わないでください。」

「シープ。お前は黙ってろ。喰田。テメェよりも俺の方が上手いってこと分からせてやる。吠え面をかくなよ。」

 

あっ結局参加するんだ。この二人相性は悪そうだな。

 

皆がバスケやテニス等をしてる間。僕達は見学した。

ちなみに参加しない理由はソフィーさんと綿古里さんは「指を痛めたくないから」

綾織さんは「見てるほうが面白いから」らしい。

 

途中から少しだけ僕も参加した。運動なんて体育の授業以来だ、すごく疲れた。

 

 

時間がある程度たつと僕達は食堂に向かい。皆とご飯を食べた。秋雨君も来てくれていた。

いつもより美味しく感じる。空腹は最大の調味料って本当だな。それとも皆揃っているからかな?

全員が食べ終わり雑談している。その時。

 

「あー。お腹一杯!満足っス!食後の運動に行くっスよー!!」

「ふべらっ!!!」

ガッシャーン!!!

 

一瞬何が起きたのか分からなかった。だけど何とかして今の状況を整理する。

弾丸のように走り出した五十嵐さんの前に秋雨君がいて勢いよくぶつかった。

秋雨君は飛ばされテーブルにぶつかり床の上で悶絶している。五十嵐さんは秋雨君がクッションになったみたいで無事だ。

テーブルの上から落ちた食器が割れて、倒れたソース、醤油が容器から沢山出てテーブルクロスを汚している。大参事だ。

 

「わーーーー!アキごめんっス!」

「秋雨様!大丈夫ですか?」

 

五十嵐さんとシープ君が真っ青な顔で秋雨君の様子を見る。

 

「あっははははは!五十嵐!ナイス!いやぁー大参事だなぁ。結構面白かったぜっ!」

 

「若鳩、黙りな」大爆笑している若鳩君を鬼澤さんが叱る。

 

「ふむ。どれ」皆が騒いでいる間に生原君が秋雨君に近づいて話しかける。

 

「不運よ。どこを打った?答えるといい。そこを見せろ」

「後頭部ですよ…。こんな屑の頭を見るんですか…どうぞ」

 

秋雨君がゆっくり手をどける。生原君はじっと見た後に触る。

 

「なるほど、たんこぶができているな。出血もしてないしこの程度ならしばらく冷やして安静におけば大丈夫だ。」

「ホンマかいな」

木柳君が疑わしそうな目つきで見ている。

 

「吾輩は大好きな生物達に嘘はつかんぞ。医療の技術も知識もあるどこが信用できんのだね?」

「人間性と人格よ。」

 

喰田さんがきっぱりと言う。

 

「吾輩はまともだぞ?さて不運よ。大丈夫だと思うが貧血のような症状。吐き気や嘔吐。発熱。打った所以外での頭痛があったら吾輩の所に来い。言えば治療してやろう。遠慮するな!大好きな生物である貴様が苦しんでいる所を近くで見たいのだ。」

 

言わなくちゃ治療してくれないってことか…。自分から治療するって考えはないのかなぁ。

 

「分かりました…。どれだけ悪化しようともあなたの所には来ません…。」

 

その後、秋雨君はシープ君に処置してもらうことになり、シープ君の個室に行くことになった。

若鳩君と五十嵐さんは喰田さんに正座させられ説教されていた。途中で若鳩君が逃げたが鬼澤さんに捕まりさらに説教される事になった。

 

説教が終わった後、唯輝と僕。晴天さん、綿古里さん、鬼澤さん、ソフィーさんが片付けをしようしたが、喰田さんが「自業自得でしょ。五十嵐にさせなさい」

と冷たく言い放った。

 

一人でやるのは大変だろうという僕達の説得と五十嵐さんの必死の泣き落としでソフィーさんと綿古里さんの二人で手伝うことになった。

 

 

他の皆は解散して食堂から出ていく。僕は自分の部屋に戻った。

日記を書いて、シャワーを浴び、着替えてベットに横になる。

疲れていたのですぐに眠りに落ちた。

 

 

〈ピーンポーンパーンポーン♪〉

もう朝の7時かぁ。早いな。ベットから上半身を起こし大きなあくびをする。

まだ眠いな。二度寝しよう。

…あれ?ドアの前に紙が落ちてる。誰かがドアの下の隙間から入れたのかな?

なんだろ?

 

ベットから起きて、二つ折りにされている紙を拾って中を見てみる。

 

『江ノ本さんへ

 

この前はゴミの分際で本当にすみませんでした。口では言えませんでしたが、ボクも友達になりたいと思っています。

なので親睦を深めるためにも江ノ本さんのこと色々教えてください。

ボクのようなクズの事でよければお話しします。

早朝の6時15分に食堂で何か軽く食べたり飲んだりしながらお話しをしたいです。

他の人に知られると恥ずかしいので、読み終わった後この手紙を処分してから、一人で来てください。ゴミ虫からのお願いです。     秋雨 (カス虫)より。』

 

えっ!!?どうしよう!もう7時だ!秋雨君の誘いを無視したってことになるよね!?

 

急いで、ジャージ(寝間着)から普段着に着替える。

部屋から飛び出て走って食堂へ向かって食堂のドアを勢いよく開ける。

食堂は荒らされているように滅茶苦茶だ。なにがあったんだ!?

 

「ねぇ!誰かいないの!!?どうしたの!?」慌てて、大声を上げながら食堂を見渡すけど誰もいない。

 

まだ7時ちょっとすぎ位だから来てないのかもしれないけど。秋雨君もいない。怒って一旦自分の個室に帰ったのかな?

 

なにげなく、厨房のドアを開けて、ふと目線を下にすると僕の目にさらに信じがたい光景が飛び込んできた。

 

 

…嘘だ…。

なんで…?

 

「………!!」

 

腰から力が抜けその場で尻もちをつく。悲鳴すら上げることが出来ないまま、立ち上がることすらできないまま後ずさる。

そんなことをしても、何をしようともこの絶望的な現実は変わらないのに。

 

「江ノ本?あんた早いわね。食堂が荒れてたけど何があったの?……!」

「おっ!江ノ本いたのかぁ。どうした。………!」

 

後から来た喰田さんと若鳩君が何か言っているけどそんなのは分からなかった。

これは夢だと。何かの冗談だと必死に自分自身に言い聞かせる。

 

 

〈ピーンポーンパーンポーン♪死体が発見されました!一定の捜査の後、学級裁判を開始します!〉

 

 

そんな僕を嘲笑うかのようにアナウンスが鳴る。

 

秋雨 彦吉君が…。

 

頭部を黒い液体に沈めて、床にうつ伏せで物言わぬ死体に変わり果てていた。

 



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【CHAPTER1】〈捜査編〉

放送を聞いた他の皆が厨房に集まった。

 

「ひいっ…!」

「そんな…。秋雨サン…!」

 

綿古里さんが小さな悲鳴を上げ床にへたり込む。

ソフィーさん、晴天さんは真っ青な顔で今にも倒れそうだ。

シープ君は今にも泣きそうな顔で微かに震えている。

その隣でウルフ君は冷めた目で秋雨君の死体を見ていた。

鬼澤さんと小鳥遊さんはただ茫然と立ち尽くしている。

綾織さんはじっと秋雨君の死体を無表情で見つめていた。

唯輝は目を見開いて「嘘…」と小さく呟いた。その声は無理矢理絞り出したかのような声だ。

喰田さんは冷静そうに見えるが顔色が悪い。

 

「アキ…。そんな!嫌っス…。こんなのって…!」五十嵐さんは隣にいる木柳君にしがみ付いて震えながら呟いている。

若鳩君はこんな状況でも相変わらずニコニコしている。

何で笑えるんだ?仲間が死んでいるのに…。

生原君は僕達がこれからどんな行動をするのか楽しみでしかたないみたいだ。

秋雨君の死体を無視して楽しそうに僕達を見ている。

 

「クソっ!誰がこんな事したんや!このボケが!!」

 

木柳君が怒りを露わにして怒鳴る。

 

「決まってるでしょう?皆様の内の誰かですよ!いや~。やっと殺人が起きましたねぇ。」

 

ジョーカーが現れとても嬉しそうに喋りだす。

そんなこと聞きたくなかった。この中の…。数日とはいえ一緒に過ごした仲間たちの誰かが秋雨君を殺したってことになってしまう…。

 

「黙れ。消え失せろ。目障りだ。お前なんて見たくもない。二度と現れるな。」

 

唯輝は本気で怒ったり焦ったり、もの凄く落ち込んだり悲しんだり。

不安になったり等、精神的に追い詰められたり不安定になったら普段より喋るようになる。

 

いつもの唯輝なら「消えろ」くらいしか言わないだろう仲間の死体を見て動揺してるみたいだ。

 

「はいはい、そんな冷たい事を言わないでくださいよー。いいものを持ってきたんですから!ジャジャーン!事件ファイル~!」ジョーカーはそう言うと僕達に劇などを演じる役者達が見るような台本(脚本)を渡してきた。

 

シンプルな表紙には筆で書いたような見本のような綺麗な字で『事件ファイル①』と書いてある。

 

「本当はタブレットにしようと思ったんですけど、こっちの方が雰囲気が出ると思いましてね!

皆様の為に死体や今回の事件の情報が書いてあるんですよ。

いやー、流石、私!皆様。学級裁判の為に捜査を頑張ってくださいね~。

文字通り命が掛かってるんですから!」

 

学級裁判?……あぁ、校則にあったやつか。

仲間に疑われて、仲間を疑って、糾弾して投票してから処刑する人を決めなくちゃいけないってことだよね?

 

そんなことしたくない。もうなにもしたくない。早く帰りたい。もう嫌だ…。

 

「なにやってんだテメェら。さっさと動け」

 

ウルフ君が僕達を睨みつけて言った。

 

「む…無理ですよぉ…。だってどうすればいいんですか?捜査なんてしたこともないしこんなのって…。」

 

「綿古里あんた馬鹿?脳みそ使いなさい。裁判で失敗したら私達死ぬのよ?ウルフの言う通り動きなさい。」

 

喰田さんが厳しく言う。

 

「テメェに同意されても嬉しくねぇな」

「黙って動きなさい。ポチ」

「んだと、テメェが動け喰田。少しは贅肉を落とせるようにな。」

「黙って動けって言ったのが聞こえなかったの?その耳は飾りかしら?駄犬でも動くことくらいできるわよ?」

 

「あんたら口喧嘩してる場合じゃないだろ!捜査をしな!」

 

鬼澤さんが一括すると二人ともしぶしぶ口喧嘩を辞めた。

 

「貴様ら頑張るといい。大好きな貴様らが頑張って捜査して学級裁判で生きる為に全力を尽くすのだろう?その姿を傍で見れるなんて吾輩は幸せ者だな!学級裁判とやらも楽しみだ!」

 

「生原、あんたも働きな。検死は出来るかい?」

「もちろんできるぞ。なぜしなくてはいけないのだ?」

 

鬼澤さんの言葉に生原君はきょとんとした顔で疑問で返す。

 

なぜしなくてはいけないのか?

 

皆の命も自分の命も掛かっているのに何でそんなことが言えるんだ?

ふざけているわけではなく本当に理解できていないみたいだ。

 

「ふむ。言葉が足りなかったようだな。吾輩の疑問を話してやろう。貴様らは砂漠の中で砂粒一つを調べたいと思うのか?ジャングルの中で足元の雑草を調べたいと思うのか?不運の死体なんぞどうでもいい。興味すらない死体を見る時間があるなら大好きな生物達の姿を見ていたいのだ。」

 

そう言いながら秋雨君の死体を一瞥した生原君。本人が言う通り仲間の死体だというのに悲しみも怒りも感じられない。

ただただなんとなくそこら辺の石ころをたまたま見た程度の反応にぞっとした。

捜査の時に厨房で目を輝かせながら秋雨君に話しかけていたのに。

どれだけ大好きな生物であっても、死んだらただの道端にある石ころのようにしか思えないのだろう。

 

それに焦りもしていない自分が死のうが皆が死のうがどうでもいいのだろう。

いや、違う。大好きな僕達の大好きな姿、必死に努力する姿を見れて嬉しい。

だけれど死ぬならまぁ仕方ないや程度にしか思っていない。

…狂っている。異常だ。

 

「生原様、どうか、お願いします。皆様の命が掛かっているのです。協力してください…。」

 

「いいだろう。気は進まないが生物の頼みは聞いてやりたいからな。」

 

生原君は、涙目で頭を下げて頼むシープ君を満足そうに見てから検死に取り掛かった。基本的には大好きな生物の為なら何でもするような人のようだ。

 

 

「まずは現場の見張りを決めるぞ。二人立候補しろ。」

「一人じゃダメなんっスか?」

「大馬鹿かテメェは。そいつが犯人だったら証拠隠滅できるだろうが。」

 

五十嵐さんを不機嫌そうに睨みつけてウルフ君が話す。

 

「…そ、それなら私がしますぅ…。捜査で役に立てそうにないですし…。」

「オレもええか?そんなに頭もよくあらへんし。ばっちり見張っとくで!」

 

見張りは綿古里さんと木柳君になりそうだな。

 

「ん…なんやコレ?」

 

秋雨君の死体に近づいた木柳君がそばにあった紙を拾い上げた。

二つ折りになっている紙が秋雨君の右腕のすぐ近くに落ちていたんだ。

気が付かなかったな…。

紙を広げて中を見た木柳君が目を見開いて僕を凝視する。

え…?どうしたのかな??

ズンズンと大股で僕に近づいてきた木柳君は、広げた紙を僕の目の前に突き出して尋ねた。

 

「おい、江ノ本。これは…どういうことやねん。」

 

恐る恐る、木柳君から紙を受け取って目を通す。

 

 

『大事な話があるんだ。

なるべく他の人に知られたくない話なんだよね。

お願いだから、一人で早朝の6時に食堂に来てくれないかな?そこで話そうと思う。

 

                江ノ本より  』

 

 

なんだ…これ…?僕はこんな手紙書いた覚えなんかない。

何でこんな内容が〈原稿用紙〉に書かれているんだ…!?

 

皆の目線が僕に集まる。疑われている?そんな…僕は犯人じゃないのに!

 

「待ってよ!僕はこんな手紙かいてないよ!!こんなの知らない!」

「知ってる。望夢の字じゃない。落ち着いて。」

 

気が付くと唯輝が後ろから僕の頭を撫でて言った。

 

「皆。頼みがある」

「なんだい有馬。江ノ本を疑うなって言うのは流石に無理だよ」

 

鬼澤さんの言う通りだむしろこんな状況で僕を信用できる方がおかしいよね…。

 

「違う。本当は望夢は絶対に犯人じゃないから信じてくれって言いたい。でもそれが無理だってこと知ってる。だから…。決めつけないでほしい。」

 

皆の視線が唯輝に集まる。

 

「疑ってもいい。信じてくれなくてもいい。でも絶対に犯人だって思いこまないで…決めつけないで協力してほしい。力をかしてほしい。俺は望夢にも皆にも死んでほしくない。…頼む。」

 

皆の前で唯輝は深く頭を下げた。

 

「したくない。」「何もしたくない。」「早く帰りたい。」馬鹿か僕は。

頑張らないと皆も死ぬんだぞ?皆のためにも、僕がなにもやらないわけにはいかない。なにより、殺された秋雨君(友達)のためにも…。やるしかないだろ…!

 

 

 

 

            《捜査開始!》

 

まずは事件ファイルから見てみよう。

ファイルを開くと左のページの上半分に秋雨君の顔写真と体全体の写真が貼ってあり、怪我をしてるところに赤いバッテンが書いてある。

下半分には死体と死体の近くの状況が分かる写真が貼ってある。

入口に足を向けてる状態で倒れてるんだな。

右のページには文章があるな。

 

『被害者は「秋雨 彦吉」

 

死体発見現場は「厨房の入り口付近」

死因は「後頭部の打撲」

死亡推定時刻は「早朝6時30分から7時前の間」

補足:「膝に擦りむいた跡がある」

入口に足を向けた状態でうつ伏せに倒れている。』

 

 

 

 

【コトダマ入手:事件ファイル①】

被害者は秋雨彦吉。死体発見場所は厨房の入り口付近。死因は後頭部の打撲。死亡推定時刻は早朝の6時半から7時前の間。

膝に擦りむいた跡があり、入り口に足を向けてうつ伏せの状態

 

 

 

 

 

秋雨君からもらった手紙とさっき木柳君に見せられた手紙の事も覚えておこう。

重要な手掛かりかもしれないし。

 

 

 

 

【コトダマ入手:秋雨からの手紙?】

江ノ本の個室のドアの前にあった江ノ本宛の手紙。差出人は被害者の秋雨。

内容は…『江ノ本さんへ

この前はゴミの分際で本当にすみませんでした。口では言えませんでしたが、ボクも友達になりたいと思っています。なので親睦を深めるためにも江ノ本さんのこと色々教えてください。ボクのようなクズの事でよければお話しします。

早朝の6時15分に食堂で何か軽く食べたり飲んだりしながらお話しをしたいです。

他の人に知られると恥ずかしいので、読み終わった後この手紙を処分してから、

一人で来てください。ゴミ虫からのお願いです。    秋雨(カス虫)より』

 

 

 

 

【コトダマ入手:江ノ本(偽)からの手紙】

 

秋雨の死体の右腕付近に落ちてあった手紙。差出人が江ノ本になっていて原稿用紙に書かれている。

 

内容は…『大事な話があるんだ。

なるべく他の人に知られたくない話なんだよね。

お願いだから、一人で早朝の6時に食堂に来てくれないかな?そこで話そうと思う。

 

                江ノ本より』

 

 

 

 

あれ?この手紙…なんで宛て先の名前が書いてないんだ?

秋雨君の名前を書いたところで困ることがあるわけでもないだろうし。

それに、どうして原稿用紙に書かれてるんだろう。

原稿用紙は倉庫にもなくて僕の部屋にしかないはずなのに盗みに入られたのかな?

いや、いつも鍵の開け閉めはきちんとしているばずだ。

ジョーカーが犯人に頼まれて開けたのかな?

後で聞いてみよう。

 

秋雨君の手紙は「この前はすみませんでした。」「ボクも友達になりたいと思っています」あの時に隠れて見ていた人がいれば話は別だけど、この部分からしてとりあえず秋雨君本人が書いたとみていいかな?

 

…疑問だらけだ。とにかく裁判まで情報を集めないと。

 

 

「望夢」

「!唯輝。どうしたの?」

 

ビックリした…。考え事してて気が付かなかったな。心配そうに見ている。

 

「大丈夫?捜査。一緒にしよう」

「うん、大丈夫だよ。ありがとう行こうか」

 

唯輝は黙って頷いた。まずはアリバイを聞こうか。念のために昨日の夜から秋雨君の死体発見の時までの事を聞いておこう。

 

「ねえ、昨日の夜から今日の朝7時まで何をしてたか教えてくれる?」

「ん、夕食後。真っ直ぐ自分の部屋に行って朝までずっと部屋。厨房に来たのは一番最後。」

 

なるほど、ということは唯輝はアリバイがないってことになるのか。

 

 

 

【コトダマ入手:アリバイの無い有馬。】

昨日の夕食後、すぐに個室に向かい朝までずっと一人で部屋にいたらしい。

個室を出て、厨房に着いたのは一番最後だった。

 

 

 

次に僕らは現場…。厨房の捜査をすることにした。

秋雨君の死体の周辺を見てみるとタイルの床に茶色い厚めのガラスの破片が散らばっている。

あっ!乾いた血痕の他に乾いた黒い液体の後もある。

なんだろう?

 

「それ、醤油よ。」

 

振り返ると喰田さんが立っていた。

 

「何でわかるの?」

「臭いで分かるでしょ。それと醤油の瓶が割れたみたいね。瓶の破片が散らばってるし瓶の口もあったわ。」

 

喰田さんが指さす方を見ると瓶の口の部分が落ちていた。見たところ一升瓶だな。あっ、離れたところに包丁も落ちている。包丁は綺麗だな。

 

「なるほど。ありがとう」

「お礼はいいから成果を上げなさい。アンタが一番の犯人候補なのよ。」

 

うぅ…。相変わらず厳しいなぁ。

 

「喰田。言い方」

「なによ。有馬、文句あるの?本当の事言ってるだけじゃない」

 

二人が睨み合う。まずい!喧嘩になるかも…!

 

「唯輝。喰田さん喧嘩はやめて!お願い…」

「…。ん。喰田。アリバイ」

 

唯輝は少しムスッとした顔をした後に尋ねた。

 

「分かったわ。昨日は五十嵐達にきちんと食堂と厨房を片付けるように言ってから、個室に小鳥遊を引きずって帰ったわ。8時30分くらいね。それから朝、食堂に行く途中で若鳩に合ったから二人で向かったわ。

7時を少し過ぎたくらいよ。」

 

 

 

【コトダマ入手:醤油瓶(一升瓶)】

死体の周辺に醤油瓶の破片が散らばっている。血痕と醤油の染みもある。

 

 

 

【コトダマ入手:包丁】

秋雨の死体から離れたところに落ちていた。汚れもついていない綺麗な状態。

 

 

【コトダマ入手:喰田の証言】

夕食後、五十嵐にきちんと食堂と厨房を片付けるように言ってから、

小鳥遊を引きずって個室に向かった。

時間は8時30分頃。朝の7時を少し過ぎたときに食堂に向かう際に若鳩と合流した。

 

 

あれ?厨房の机の周りの床に沢山の割れた瓶が落ちてる。

うわっ液体とかもそのままだ。

ガラスで出来た瓶以外は割れて無くてそのまま落ちてる。

ん?よく見ると食器の破片もある。

色と形から見てコップみたいだ。

 

「望夢。これ」

 

唯輝が指さす方を見ると取っ手の部分が落ちてた。よく見ると他の所にも落ちてる。

少なくても5個以上は割られてるみたい。

 

「ちゃんと片付けろって言ったのに。後であの馬鹿どもは説教ね。頭にゴミでも詰まってるのかしら?」

 

喰田さん怒ってる…。怖いなぁ。

 

 

 

【コトダマ入手:厨房の机の周りの床。】

沢山の瓶と割れた瓶が落ちている。調味料などの瓶だろう。

液体とかもそのままになっている。

中には数個の割れたコップの破片がある。

 

 

見張りの二人にも話を聞こう。

 

「木柳君、綿里古さん。アリバイと気になることがあったら聞かせてくれるかな?」

「ええで。オレは夕食後からすぐ居室にいって、朝厨房に来るまでどこにも行っとらへん。アリバイがないっちゅーことやな。捜査も進んどらんし、なんも手がかりもあらへん。もう話せることはないで。」

 

木柳君は僕を警戒してるみたい。

なるべく関わりたくないって顔と雰囲気が物語ってる。

傷つくなぁ…。

 

「わ…私は夕食後ソフィーさんと五十嵐さんと片付けをしましたぁ…。

9時を少し過ぎたくらいに終わったので居室に3人で帰ったんですぅ。

朝の6時30分過ぎにソフィーさんとコインランドリールームに洗濯して乾燥機に入れておいたテーブルクロスを取りに行きました…。

すみませんっ…。誰ともすれ違ってないし見ていません…。

二人でお話してたら死体発見アナウンスがなったんですぅ。

すぐに食堂に行ってれば秋雨さんを助けられてたかもしれないのに…」

 

綿古里さんは、泣きそうな顔で話してくれた。

木柳君の後ろに僕から隠れるようにしてだけど…。

犯人だと思われてるのかな。仕方ないよね…。

食堂は防音になっていたから、綿古里さんも、耳が良いであろうソフィーさんでも聞こえなかったんだろう。

 

「過ぎたこと嘆いてもしゃーないやろ。お前は悪くないで!」

「…ん、気に病まないで。」

 

木柳君と唯輝が慰める。

ソフィーさんと綿古里さんにはアリバイがあるってことだな。

 

 

 

【コトダマ入手:綿古里とソフィーのアリバイ】

6時30分過ぎに二人でコインランドリールームに向かい。

死体発見アナウンスが流れるまで一緒にいた。

 

 

【コトダマ入手:綿古里の証言】

綿古里。ソフィー。五十嵐で食堂を掃除した。終わったのは9時過ぎ。

その後3人で居室に帰っている。

 

 

 

 

次に僕達は食堂に向かった。

鬼澤さんが捜査してるみたい。僕達に気が付いたみたいだ。

やっぱり滅茶苦茶に荒らされているな…。割れた食器に倒れたいくつもの椅子。

秋雨君と犯人が争ったのかな?

 

 

「ああ、あんたらかい」

「鬼澤さん。捜査中にごめんね。

アリバイや気づいたことがあったら教えてくれるかな?」

「すまないね。何も見つけてないんだ。

アタイは夕食後から朝の死体発見アナウンスまですっと自分の部屋にいたから、

アリバイはないよ。他に話せることもないね。」

 

う~んどうしようかな。これだけ荒らされてるなら調べるには時間が掛かりそうだし別の所に行こう。

 

「…鬼澤」

「?なんだい有馬」

「本当に。何もない?」

 

唯輝は鬼澤さんをじっと見つめた。

………。無言のまま二人が見つめ合って気まずい時間が流れる。

 

「はぁ…。分かった話すよ。事件に関係あるか分からないけど後で言うことになったほうが悪いしね。秋雨のためにも内緒にしておきたかったんだけどね。」

「秋雨君?どういうこと?」

「ほら江ノ本。アンタが有馬といる時。秋雨に逃げられてアタイが追いかけただろう?」

 

ああ!あの時か!でもその後。食堂で秋雨君に追い返されたって言ってなかったっけ?

 

「しつこく問い詰めたら。黒い手帳を無くしたから探してるって言ってたんだよ」

「…。何で?あの時も聞いた」

 

あの時「も」?

 

「唯輝。それって朝ご飯の後「ごめん。少し、用事ある」って言ってたよね?その時に鬼澤さんに聞きに行ってたの?」

 

「…何か隠してるか嘘ついてる感じがした」

唯輝は頷いて答えた。

 

「すまないね。嘘をついて。秋雨に中に他人に見られたくないことを書いてるから絶対に他の人には言うな。見つけても中身を見るなって言われてたんだ。」

 

鬼澤さんは深く頭を下げて謝った。

 

「いいよ。そんな…。ちゃんと理由があったんだし。気にしてないし。」

「…別に。」

 

 

【コトダマ入手:秋雨の手帳。】

秋雨が無くした黒い手帳。どこでいつ無くしたのか。

どこにあるのか未だに不明。

中には絶対に他人には見られたくないことが書かれてるらしい。

 

 

 

【コトダマ入手:荒らされた食堂】

食堂が小物が落ちてたり椅子が倒されたりと荒らされている。

 

 

 

次に僕達は被害者の秋雨君の居室に向かった。

あっ。でも鍵がかかってるよね?どうしようかな。

部屋の前でそう思い足を止めた。

 

「心配ご無用~~~~です!」

 

!!?ジョーカー!何の用だろ…。隣の唯輝は露骨に顔を顰めている。

 

「秋雨君の部屋は捜査の為に、鍵を開けています!

死人にプライバシーなんてないですからねぇ」

 

そうなんだ。さっさと入って捜査しよう。あっでもその前に質問しておこう。

 

「ねぇ。いくつか質問あるんだけどいいかな?」

「俺も」

「きゃっ!何を聞かれるんでしょう?好みのタイプ?趣味?100万円で答えてあげましょうか~?」

 

…イラッとくるな。でも我慢しよう。ツッコムのもめんどくさいし。

 

「黙れ。あのアナウンス何?」

「あのアナウンス?あぁ。死体発見アナウンスですか?3人以上の生徒が死体を発見するとなるんですよ」

「犯人も含めて?」

「………。まぁ、いいでしょう。今回は犯人は含めていませんよ!」

 

ジョーカーは最初は黙り込んでたけど唯輝が無言で睨みつけると答えてくれた。

 

「今回は」か。僕も質問をしておこうっと。

「ねぇ。僕の部屋に誰か入れた?」

 

「入れてませんよぉ。入れるのは捜査の時や部屋の主が死体になったときですかね。」

 

なるほど聞きたいことはこのくらいかな。

僕達はジョーカーを無視して秋雨君の部屋に入った。

 

 

【コトダマ入手:死体発見アナウンス】

 

3人の生徒が死体を発見すると鳴る。今回は3人の中に犯人は含まれていない。

 

 

 

ドアを開けるとウルフ君とシープ君がいた。

 

「なんだテメェらか。ちょっとこい」

「?」

 

ウルフ君に手招きをされたので近くに寄ると机の上のメモ帳を見せてくれた。

一番上のページを鉛筆で擦ってある。

 

あっ。文字が浮かび上がっている。

内容は僕が持っている秋雨君からの手紙と同じだ。

 

やっぱり秋雨君本人が書いたんだな。

 

「教えてくれてありがとう。二人のアリバイとか教えてくれる?」

「俺は夕食後からアナウンスが鳴るまでずっと部屋にいたアリバイはねぇぞ。あと質問があるこのメモ帳のページを鉛筆で擦ったのはテメェらか?」

「えっ?僕はしてないよ唯輝は?」

「違う」

「そうか。俺達が秋雨の部屋に来た時にはもうメモ帳の一番上が鉛筆で擦ってあったんだ。テメェらじゃないのかそれならもう聞きたいことはねぇ。

いったい誰だ?俺達は捜査が始まって真っ先に来たのに。」

 

ウルフ君はそう言い終わるとどこかに行ってしまった。

もうこの部屋は調べ終わったのかな?

 

「江ノ本様。有馬様。私からもいいですか?

昨日の夕食後。私の居室で秋雨様の傷の処置をしました。

10時頃によくなったからご自分の部屋に戻ると言われ、出て行かれました。

お部屋までご一緒しようと思ったのですか断られてしまいまして…。

それからはアナウンスが鳴るまで部屋にいました。私にはアリバイがないですね。」

 

「ありがとう。シープ君。」

 

そうなんだ。他に聞けることはないし部屋を僕達も捜査しよう。

あっ念のためこのメモ帳は僕が持っていこうっと。一応証拠品だしね。

僕はメモ帳を自分のズボンのポケットの中に入れた。ちょっとはみ出すけど気をつけておけば大丈夫だろう。

 

その後、捜査をしたけど特に何もなかった…。

 

 

【コトダマ変化:秋雨からの手紙? → 秋雨からの手紙】

江ノ本の個室のドアの前にあった江ノ本宛の手紙。差出人は被害者の秋雨。

内容は…『江ノ本さんへ

この前はゴミの分際で本当にすみませんでした。口では言えませんでしたが、ボクも友達になりたいと思っています。なので親睦を深めるためにも江ノ本さんのこと色々教えてください。ボクのようなクズの事でよければお話しします。

早朝の6時15分に食堂で何か軽く食べたり飲んだりしながらお話しをしたいです。

他の人に知られると恥ずかしいので、読み終わった後この手紙を処分してから、

一人で来てください。ゴミ虫からのお願いです。

    

                    秋雨 (カス虫)より』

秋雨の部屋の机の上にあるメモ帳の一番上をこすってあり同じ内容が浮かび上がっていたが誰がしたのかは不明。内容からしても本人が書いたものだろう

 

 

 

【コトダマ入手:シープの証言】

シープの居室で秋雨の傷の処置をした。10時頃に霧雨は自分の居室に戻った。

 

 

 

 

秋雨君の部屋から出ると生原君と若鳩君がいた。

楽しそうに話してるな…。

 

「生原。検死は?」

「!俳優と脚本家か。愚問だな。とっくに終わってるぞ。検死結果と吾輩の行動を教えてやろう。ありがたく思え。」

 

生原君あいかわらず上から目線だな。まぁ、でも情報をくれるのはありがたい。

 

「まずは検死結果からだな。死因も死亡推定時刻もファイルに乗ってる情報で間違いないだろう。膝に擦りむいた後があるが吾輩が見たところ転んでできた傷だろう。殺される前に転んでるみたいだな。恐らく殺される直前だろう。死因をもっと詳しく言うなら昨日の夕食の時に不運は頭を打ってただろう?」

 

あぁ、五十嵐さんがぶつかったやつか!

 

「同じところを殴打されているぞ。さすが不運だな!傷を見たら瓶みたいなので殴られてるようだな。」

 

頭を打ってシープ君に処置してもらって同じところを犯人に殴られて結局僕とも話せずに…。本当に不運だな…。

 

「昨日の10時過ぎに吾輩は小腹が空いたから食堂に行ったのだ。そしたら厨房から出てきた不運がいたぞ。何かを服の中に隠しているみたいだったな。すぐに出て行ったが…。」

 

シープ君の証言とあってるな。部屋に行かないで食堂に行ってたんだ。

何を隠して出て行ったんだ?

 

「11時までお菓子を食べて砂糖を多量に入れたココアを何杯も飲んだな。砂糖が全部なくなってしまったがまぁいいだろう。

後はずっと吾輩は自分の部屋だったぞ!アリバイはないな!」

 

砂糖が全部なくなったのか…。生原君は甘いの好きだもんね。それに16人もいたし無くなるのは早いか。

 

 

【コトダマ入手:生原の検死結果】

死因も死亡推定時刻も事件ファイルと同じ。膝の擦り傷は殺される少し前にできた傷らしい。凶器は瓶みたいなもの。夕食の時に頭を打った同じところを殴打されている。

 

 

【コトダマ変化:シープの証言 → シープと生原の証言】

シープの居室で秋雨の傷の処置をした。10時頃に秋雨は自分の居室に戻ると言ってたが厨房に行っていた。食堂で厨房から出てくる所を生原が目撃している。

服の中に何かを隠しているようだったが何かは不明。

11時まで生原は食堂にいた。砂糖が全部なくなったらしい。

 

 

 

 

「お~。オイラもアリバイはないぜっ!捜査もしてないから話せることはないなぁ」

「捜査しろ」

 

唯輝がきっぱりと言う。

 

「えー。だってつまんねーだろっ。裁判は楽しそうだけど捜査は無理だぜ。地味な捜査とかねーわぁ。生原と話してた方がおもしれぇ!」

 

何でそんなことが言えるんだ?そういう問題じゃないだろ…。

皆の命が掛かってるのに。

 

「二人とも仲良しだね」

 

いつの間に仲良くなったのかな?

 

「こいつは話が分かるやつだからなっ!普通とは違う狂ったとこが気に入ったぁ。

それに扱いやすそうだしなぁ」

「ふむ。吾輩も貴様が好きだぞ。生物だからな!」

 

二人で笑いあって肩を組んでいる。

若鳩君はろくでもない事考えてるのかな?いたずらとか…。

今は捜査に集中しよう。

 

 

次はゴミ処理室に向かった。

犯人が証拠隠滅を燃やしてしている可能性があるからだ。

 

あれ?ゴミの袋がなくなってる。結構な量があったのに。

中にいたのは晴天さん、ソフィーさん。綾織さん。五十嵐さん。小鳥遊さんだ。

 

「あっ!モト。ツッキー!ちょうど4人も来たからお話するところっスよ!」

 

僕がモト。唯輝がツッキーかな?

 

「そうなんだ。僕達にも話を聞かせてくれる?」

「もちろんっス!私からいくっスよ!昨日の夕飯の後ナミに怒られてからはちゃんとソラとアオと一緒に片付けて帰ったっス!食堂9時過ぎっスね。」

 

えっと…。ナミが喰田さん、ソラがソフィーさん、綿古里さんがアオだよね?

綿古里さんの証言とあってるな。あれ?ちゃんと片付けた?

 

「五十嵐さん、厨房の瓶とかも片付けてた?」

「もちろんっス!調味料とかの瓶は次の朝使いやすいように机の上にキレ―に並べて置いたっス!」

 

綺麗に並べた?やっぱりあれは犯人がしたことなんだろうな。

 

「次は儂でいいじゃろう。儂は夕飯後から自分の居室にいたぞ。今日はゴミ当番じゃったからな。

6時にゴミ処理室でゴミを片付けてから自分の部屋に帰ってシャワーを浴びたんじゃ。臭うのは嫌じゃからのう。ちょうどシャワーが終わって服を着てた時にアナウンスが鳴ったんじゃ。でも一人で片付けをしたし誰とも会ってないからアリバイがないのう。まぁ、儂のアリバイがなくとも他にもアリバイのない登場人物たちがいるじゃろうしな。」

 

あぁ。ゴミ当番は綾織さんだったんだな。朝から綺麗にしてくれたのか。

 

「今度はワタシだネ!昨日食堂と厨房を片付けて3人で帰ったヨ。6時30分過ぎに綿古里サンと二人でコインランドリールームに向かって死体発見アナウンスが流れるマデ一緒にいたヨ。」

 

ソフィーさんの発言は綿古里さんと同じだな。

 

「私はずっと部屋にいたから、アリバイも話せることもないよ。」

 

晴天さんは僕をチラリと見ると慌てて目線を逸らして他の皆に話しかけた。

………。僕は犯人じゃないのに…。早く皆に分かってもらいたいな。

最後は小鳥遊さんか。

 

「私~。ずーーーーっとアナウンスが鳴るまで寝てたよ~(´ぅω・`)」

…アリバイがないってことだよね。これで皆の話を聞き終わったな。

 

【コトダマ変化:アリバイのな無い有馬 → アリバイのない人達。】

 

有馬。喰田。木柳。鬼澤。ウルフ。若鳩。五十嵐。晴天。小鳥遊は夕飯後から朝までアリバイがない。

シープは晩の10時過ぎから生原は11時過ぎからのアリバイがない。

綾織は6時からゴミをゴミ処理室で片付けていたらしいが証人がいないのでアリバイ無し。

最後に食堂に着いたのは有馬。

 

 

 

【コトダマ変化:厨房の机の周りの床 →厨房の机の周りの床と五十嵐の証言】

 

沢山の瓶と割れた瓶が落ちている。調味料などの瓶だろう。液体とかもそのままになっている

中には数個の割れたコップの破片がある。五十嵐の話によると机の上に綺麗に瓶を並べておいたらしい

 

 

 

〈ピーンポーンパーンポーン♪皆様ー。捜査の時間は終わりです。1階の赤い扉の前に集合してください。あっ寄り道は駄目ですよ~。〉

 

これで捜査終了か…。情報はあるけど真実は分からない。

赤い扉って体育館の隣にあった大きい扉か。

高価そうな扉でなんか不気味な感じがしたから開けなかったんだけどね。

裁判なんて初めてだ。無事に終われるのかな?不安でたまらない。

 

「ぎゃーーーーー!もうっスか!?誰か糖分を頂戴っス!!」

 

五十嵐さんがオロオロしながら皆に言う。なんで糖分?裁判にどうやって使うの?

 

「…何で?」

「ふっふっふ。ツッキーよくぞ聞いてくれたっスね!糖分は頭にいいってミコちゃんが言ってたっス!

 

頭を良くして裁判に挑むっスよ!」

そんなガッツポーズしながら言われても…。ミコちゃんって生原君だろうな。可愛いあだ名だなぁ。

 

「五十嵐俊穂。確かに頭にはいいが頭がいきなり良くなるわけではないぞ。それに恐らく誰もお菓子とか持っとらんじゃろ。」

 

「今から厨房や倉庫に取りに行くわけにはいかないしねー。めんどいし~(´Д`)」

 

綾織さんと小鳥遊さんに言われ五十嵐さんはしょんぼりする。

 

「なら、裁判が終わったらミンナでお菓子食べヨー!どうせならソーコのじゃなくて手作りがいいネ!」

「いいね!なら皆で作ろうか。クッキーくらいなら私、作れるよ。いっぱい砂糖とか小麦粉もあったし沢山作れるね。」

 

ソフィーさんと晴天さんが五十嵐さんを励ます。お菓子作りか…。僕は料理はとても下手だ。

でも甘いものは結構好きなんだよな。食べたい。でも食べるだけなのも悪いし…。

 

「僕も手伝うよ」

「望夢。下手。大丈夫?」

 

うっ…。純粋な唯輝の心配が逆に傷つく。唯輝はプロほどじゃないけど十分に料理が上手いもんな。

皆で裁判が終わったらどんなお菓子をどのくらい作るか話しながら向かった。

裁判が終わったら手作りお菓子会をする約束をした。

できるだけたくさんの人を誘おう。ウルフ君とか小鳥遊さんは来てくれるかな?

若鳩君はイタズラしそうだ。

 

電子生徒手帳のプロフィールに載っていた、甘いものが好きな生原君と食べることが好きな喰田さんは参加してくれるだろう。

 

 

僕達以外の皆はもう集合していた。

扉を開けると中には巨大な特に装飾もない真っ黒で地味なエレベーターが待っていた。

 

皆でエレベーターに乗り込むと降下していくのが分かった。

他の人の顔を見る余裕も話をする余裕も僕にはなかった。

 

怖い。帰りたい。自分が微かに震えているのが分かる。でも…。死にたくない。

 

 

秋雨彦吉君。

最初は人と関わり合いたくなさそうで距離を置いていた。

だけど僕の事を「仲間」と言ってくれて手紙で「友達になりたいと思っている。」

と書いてくれた。両親の事をとても大切に思っていて一緒にここから出て両親に合わせてあげたかった。

彼が生きていたら友達になって僕以外の人とも交流を深めて仲良くなっていたかもしれない。

でも秋雨君の未来と命は簡単になくなってしまった。

 

そんな秋雨君を殺した犯人がこの中にいる…!

信じたくないけどもうやるしかない。

皆の為にも、自分の為にも、殺された秋雨君の為にも、犯人がどんな理由でどんな方法でこんな事件を起こしてしまったのか真実を暴かないといけない。

 

 

エレベーターが止まり降りてきた僕達が見たのは見たことがない光景だった。

広い部屋にドラマとかで見る裁判で被告人の人が立たされる柵付きの席が16個円形に並べられている。

周りの壁紙は上が灰色で下が青色になってる。なんか暗い感じだ。

真ん中には大きなスクリーンが下がっていた。

少し奥には小さい豪華な玉座がありそこにジョーカーがふんぞり返って座っている。

 

「はいはい。さっさと自分の席に座ってください!時計回りで五十音順ですよ!」

 

席に名前くらい書いてくれてればいいのに。

皆が自分の席に着く。僕も席についた。

 

「あの…。これはなんのつもりですかぁ…?」

 

綿古里さんが見つめる綾織さんと綿古里さんの間の席には、秋雨君の遺影が括り付けられた立札が置かれてある。

遺影には赤色でバッテンが書かれている。そのせいであまりよく秋雨君の顔が見えない。

写真の秋雨君は死装束を着てマスクを取っているようだ。

生きているうちに素顔を見てみたかったな。

 

「あぁ?それですか。ほら死んだからって仲間外れは可哀想~でしょう!だからこうして参加させてあげているのです」

「悪趣味やな…」

「はいはい、木柳君黙って!じゃあさっそく簡単な学級裁判の説明をします。

学級裁判は100%公平に行われます。ここでの不正や贔屓なんてせっかくの学級裁判がつまらなくなってしまいますからねぇ。学級裁判の結果は皆様の投票によって決まります。

正しいクロを指定すればクロだけがオシオキ!ですが間違った人物を指定してしまった時は~!

クロ以外の全員がオシオキされ皆様を見事に欺いたクロだけがこの舞台から退場…。この学園から外に出ることが出来ます!では…さっさと始めてくださーい。」

 

 

命懸けの議論。命懸けの騙し合い。命懸けの推理。

命を懸けた学級裁判が今。始まる。いや…始まってしまう。

でも僕(キャスト)にはどうしようもできない。最悪の絶望的な舞台が幕を開ける。

 

 

 

【幕間】

パンパカパーン♪皆のアイドル、ジョーカーでぇす。という冗談は置いといて…。

いや~。遂に学級裁判が始まりますねぇ!楽しみ楽しみ♪

まぁメタ的に言ってしまうと1章なのでもう聡明な読者の皆様には犯人が分かってるでしょうけどねー。

え?犯人が分からない?またまた御冗談を!それとも謙遜ですかね?では心優しい私からヒントをあげましょうか!

まずは発想を転換してください。そして犯人はもう失言をしてしまっています。それを見つけてください。

………もう犯人は分かりましたね?

分かった人も分からなかった人も学級裁判を見て行ってください!

           暇潰しにでもなれば幸いです☆

 

 

 

 

                            

 

 




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【CHAPTER1】学級裁判〈前編〉

《席順》

秋雨 →綾織 →有馬 →五十嵐 →生原 →ウルフ →江ノ本 →鬼澤 →木柳 →シープ 

→喰田 →晴天 →ソフィー →小鳥遊 →若鳩 →綿古里

あいうえお順で時計回りになってます。


《コトダマ一覧》

 

【 事件ファイル① 】

 

被害者は秋雨彦吉。死体発見場所は厨房の入り口付近。死因は後頭部の打撲。死亡推定時刻は早朝の6時半から7時前の間。

膝に擦りむいた跡があり、入り口に足を向けてうつ伏せの状態。

 

 

【 秋雨からの手紙 】

 

江ノ本の個室のドアの前にあった江ノ本宛の手紙。差出人は被害者の秋雨。

内容は…江ノ本さんへ

 

この前はゴミの分際で本当にすみませんでした。口では言えませんでしたが、ボクも友達になりたいと思っています。

なので親睦を深めるためにも江ノ本さんのこと色々教えてください。

ボクのようなクズの事でよければお話しします。

早朝の6時15分に食堂で何か軽く食べたり飲んだりしながらお話しをしたいです。

他の人に知られると恥ずかしいので、読み終わった後この手紙を処分してから、一人で来てください。

ゴミ虫からのお願いです。

    

                           秋雨 (カス虫)より

 

秋雨の部屋の机の上にあるメモ帳の一番上をこすってあり同じ内容が浮かび上がっていたが誰がしたのかは不明。内容からしても本人が書いたものだろう。

 

 

【 江ノ本(偽)からの手紙 】

 

秋雨の死体の右腕付近に落ちてあった手紙。差出人が江ノ本になっていて原稿用紙に書かれている。

宛ての人物の名前は書かれていない。

 

内容は…大事な話があるんだ。

なるべく他の人に知られたくない話なんだよね。

お願いだから、一人で早朝の6時に食堂に来てくれないかな?そこで話そうと思う。

 

                江ノ本より

 

 

【 アリバイのない人達。】

 

有馬。喰田。木柳。鬼澤。ウルフ。若鳩。五十嵐。晴天。小鳥遊は夕飯後から朝までアリバイがない。

シープは晩の10時過ぎから生原は11時過ぎからのアリバイがない。

綾織は6時からゴミをゴミ処理室で片付けていたらしいが証人がいないのでアリバイ無し。

最後に食堂に着いたのは有馬。

 

 

【 醤油瓶(一升瓶) 】

 

死体の周辺に醤油瓶の破片が散らばっている。血痕と醤油の染みもある。

 

 

【 包丁 】

 

秋雨の死体から離れたところに落ちていた。汚れもついていない綺麗な状態。

 

 

【 喰田の証言 】

 

夕食後、五十嵐にきちんと食堂と厨房を片付けるように行ってから小鳥遊を引きずって個室に向かった。

時間は8時30分頃。朝の7時を少し過ぎたときに食堂に向かい若鳩と合い、二人で向かった。

 

【 綿古里とソフィーのアリバイ 】

 

6時30分過ぎに二人でコインランドリールームに向かい。

死体発見アナウンスが流れるまで一緒にいた。

 

【 綿古里の証言 】

 

綿古里。ソフィー。五十嵐で食堂を掃除した。終わったのは9時過ぎ。

その後3人で居室に帰っている。

 

【 秋雨の手帳。】

 

秋雨が無くした黒い手帳。どこでいつ無くしたのか。

どこにあるのか未だに不明。中には絶対に他人には見られたくないことが書かれてるらしい。

 

【 荒らされた食堂 】

 

食堂が小物が落ちてたり椅子が倒されたりと荒らされている。

 

 

【 死体発見アナウンス 】

 

3人の生徒が死体を発見すると鳴る。今回は3人の中に犯人は含まれていない

 

 

【 生原の検死結果 】

 

死因も死亡推定時刻も事件ファイルと同じ。膝の擦り傷は殺される少し前に転んでできた傷らしい。

凶器は瓶みたいなもの。夕食の時に頭を打った同じところを殴打されている。

 

 

【 シープと生原の証言 】

 

シープの居室で秋雨の傷の処置をした。10時頃に秋雨は自分の居室に戻ると言ってたが

厨房に行っていた。食堂で厨房から出てくる所を生原が目撃している。服の中に何かを隠しているようだったが何かは不明。

11時まで生原は食堂にいた。砂糖が全部なくなったらしい。

 

 

【 厨房の机の周りの床と五十嵐の証言 】

 

沢山の瓶と割れた瓶が落ちている。調味料などの瓶だろう。液体とかもそのままになっている

中には数個の割れたコップの破片がある。五十嵐の話によると机の上に綺麗に瓶を並べておいたらしい。

 

 

 

 

 

                                                     

            《学級裁判 開廷!》

 

 

「さっさと始めろって…何から話したらいいですかぁ…。だ、誰か助けてください。」

「綿古里。分かることから話していけばいいじゃない。それとオドオドしないでくれる?不安なのはあんただけじゃないのよ。目障り。」

「めんどくさーい。早く終わらせてよ~( ̄д ̄)」

 

いきなり丸投げされてもなぁ。裁判なんてやったことないし。

でも話し合わないと!

 

「はいはーい!!ストーップ!議論なんかしなくても犯人なら分かるっス!」

いきなり五十嵐さんが大声を張り上げた。

皆の視線が集まる。

 

「…本当か?テメェの頭は信用できねぇぞ」

「ウルフ酷いっス!ズバッと言うっスよ!犯人は……モトっス!」

五十嵐さんは僕をビシリと指さした。

 

「確かに一番怪しいのは江ノ本くんだよね」

「違う。望夢は「ハイハ~イ。有馬ぁ。晴天と五十嵐の言う通り江ノ本が一番怪しいだろうがぁ。犯人かどうかは議論で決めるからお前は黙ってようなぁ。」

「……。」

「そんな睨むなよ。おぉ、怖っ!」

 

若鳩君、ケラケラ笑っていて全然怖がっているように見えないな…。

まずは僕自身の無実を証明しないと!

僕が犯人じゃないってことは自分が一番分かってるんだ。

 

 

        【ノンストップ議論開始!】

 

五「犯人はモトに決まりっス!」

綿「た、確かに【一番怪しい】ですけど決めつけるのはちょっと…」

鬼「【アリバイ】でもあれば信じてあげられるんだけどね」

若「江ノ本ぉ。【お前が殺したのか】ぁ?小動物みてーな見た目の癖にやるじゃねーか!」

木「もう議論せんでええやろ!江ノ本が厨房で殺したんや!【秋雨を手紙で呼び出して】な!」

有「違う。ちゃんと議論しろ。一回俺は言った。あの手紙は【望夢が書いたものじゃない】」

 

 

木【秋雨を手紙で呼び出して】← 【秋雨からの手紙】

 

 

    「その台詞はおかしいよ!」論破!

 

 

僕が反論すると皆が僕に視線を向けた。緊張するけど…。

僕は皆に見えるように秋雨君からの手紙を広げて見せた。

 

あっ、見やすいように真ん中のスクリーンに映し出されているな。

 

「秋雨サンからの手紙?ナンデ?江ノ本サンが秋雨サンを呼び出したなら秋雨サンが江ノ本さんに手紙を出すのオカシイよ!」

「自分から容疑を外すために秋雨くんの名前を使って江ノ本くんが書いたとか?」

晴天さん…。僕はそんなことしてないのに。

 

「いや。それはちげぇぞ。秋雨の部屋にあるメモ帳の一番上に同じ内容が浮かび上がっていた。それに、人を避けていた、あの秋雨が自分の部屋に他人を入れたとは考えにくい。」

「それに筆跡からしても江ノ本様の手紙の字とは違いますので秋雨様が書いたと考えていいと思います。」

 

「ウルフ君、シープ君ありがとう。」

 

「勘違いすんな。お前を助けたかったわけじゃねぇ。自分で無実くらい証明しろ」

「いえ。困ったときはお互い様です。私に出来ることがありましたら何なりとお申し付けください」

 

「でもその手紙だけじゃあんたが無実って事にならないわよ。江ノ本」

喰田さんの言う通りだ…でも僕には無実だと証明できる証拠がある!

 

 

           コトダマ提示。

 

         →【死体発見アナウンス】

 

          「これで証明できる!」提示!

 

「皆、聞いてほしいことがあるんだ。秋雨君の死体を発見した時にアナウンスが鳴ったんだよね。

ジョーカーが言うにはそれは死体発見アナウンスって言って、今回は3人の「犯人以外」の生徒が死体を発見して鳴ったらしいんだ。」

 

「…それがどうしたんっスか?」

「五十嵐。あんたは相変わらずの馬鹿ね。脳みそ腐ってるんじゃないの?江ノ本と私と若鳩の3人が秋雨の死体を発見してからアナウンスが鳴ってるの。」

「つまりこの3ニンは犯人じゃないってコトだね!」

 

よかった!僕の無実が証明されたし。この二人が犯人じゃないってこともわかった。

 

「江ノ本~そういえば『こんな手紙かいてないよ!こんなの知らない』って言ってたよねー。それ本当~?(・・?」

「うん、もちろんだよ。小鳥遊さん、僕はこんな手紙書いてないよ」

「じゃあ誰~?(。´・ω・)?」

「恐らく犯人じゃろうな。原稿用紙を手に入れて江ノ本望夢を犯人に仕立て上げようとしたのじゃろう。

倉庫にもない原稿用紙を使えば怪しまれるのは火を見るより明らかじゃからのう。」

 

綾織さんの言う通りだ僕が疑われるのは当然だろう。問題は犯人がどうやって僕の居室にしかない原稿用紙を手に入れたってことなんだけど…。

犯人は僕を犯人に仕立て上げあげようと思って原稿用紙を盗んだのか。

たまたま盗める機会があったから僕を犯人にしようとしたのかどっちなんだろ?

今のところは分からないな。

 

 

「江ノ本くんが犯人じゃないって分かった今…。犯人らしい人がいるんだけど」

「誰っスか?」

五十嵐さんが尋ねると晴天さんは微かに震える手でゆっくりと躊躇いながらもその人物を指さした。

 

 

「…!」

皆の視線が一か所に集まる。その視線の先にいる人物…。

有馬 唯輝は微かに驚いたように目を見開いた。…がすぐに冷静に言葉を放つ。

 

「…何で?俺は犯人じゃない。人殺しなんて絶対しないし、していない。皆を裏切ることも絶対にしない。

お願いだから信じてほしい。」

 

実際には冷静にふるまっている。冷静である「演技」をしてるんだろう。僕には分かる。

他の人から見たらいつもの無表情に淡々とした言葉だろうけど。

 

「有馬ぁ。お前、いつもより良く喋るなぁー。日頃のお前なら『違う。』くらいしか言わなさそうなのに!何かやましいことがあるんじゃねーのぉ?」

 

ニヤニヤと笑いながら若鳩君は唯輝を煽っている。

 

「STOP!有馬サンが犯人とは思えないヨ!秋雨サンの死体を見たときに「嘘…」って呟いててその声は無理矢理絞り出したみたいな苦しそうな声だった!ソレニ、江ノ本サンを犯人だって決めつけないでくれっテ…皆に死んでほしくないって頭を下げて頼んでいたヨ!」

 

「唯輝は犯人じゃないよ!そんなことしない!」

僕はすかさず唯輝をかばった。親友であり物心がついたときから一緒にいた唯輝が犯人なんて信じられない。

ソフィーさんもかばってくれた。ありがとう。

 

「黙りなさい。感情論での反論なんて無駄よ。それにソフィー。有馬は「超高校級の俳優」よ。演技かもしれないじゃない。」

 

「有馬。アンタを信じたいとは思うけどね…。江ノ本と一番仲がいいのはアンタだろ?江ノ本の居室にも行ってたし信頼もされているから原稿用紙を1枚盗むなんて簡単なはずだ。それに証拠もアリバイもないだろう?」

 

喰田さんも鬼澤さんも正論を言ってくる。

 

「えっと…。な、なら有馬さんを犯人だと仮定して話し合ってみますか…。」

綿古里さんがおずおずと提案してきた。

 

本当に唯輝が犯人なのかな?いや。何を考えてるんだ。

親友の僕が唯輝を信じてあげれないで誰が信じるっていうんだ。

そんなことする人じゃないってことは僕が一番分かっている。

それにまだ解けてない謎も沢山ある。

このままじゃ唯輝が犯人だということ前提で議論が進んでしまうだろう。

唯輝が犯人として投票されたら最悪の場合全滅だ。

でもどうすればいい?アリバイも証拠も何もない。この流れを変える為に僕に何ができる?

 

仕方がない…。本当はこんな事したくなかったけど。

苦手だとかしたくないとか考えてる場合じゃない。

解けてない謎を解くために、全滅を避ける為に、唯輝を助ける為に、この議論の流れを変えないと…!

 

そう、たとえ…「嘘」をついてでも!

 

 

                《コトダマ変化》

 

      【アリバイのない人達】  → 【アリバイのない人達(偽)】

 

 

        【ノンストップ議論開始!】

 

晴「有馬くんが犯人だとすると江ノ本くんの部屋に行った時に【原稿用紙を盗んで】」

狼「江ノ本の名前を使った手紙で【秋雨を厨房に呼び出して】から早朝6時過ぎから7時までの間に殺害したことになるな」

綿「えっと…。そ、【その後】はどうするつもりだったんですかぁ…」

綾「江ノ本望夢に疑いを向け、あえて庇うことで【善人を演じ切る】つもりだったのじゃろう」

ソ「【トリック】とか使ったりアリバイ工作はしなくてよかったノ?」

木「そんなことせえへんでも【江ノ本が一番怪しまれる】やろうし自分の他にも14人も容疑者がおるんやからいけると思ったんとちゃうの?」

喰「だとしたら馬鹿ね。【アリバイがない】ならせめてトリックを使うかすればよかったのに」

若「俳優としては一流でも策士としては3流以下だったってことだろーよぉ」

 

 

 

喰【アリバイがない】 ←  【アリバイのない人達(偽)】

 

     「その真実を脚色する!」偽証!

 

 

「皆、待って!唯輝に犯行は無理だよ!アリバイがあるんだから!」

「…!」

「えっ!?そうなんっスか?」

唯輝が一瞬キョトンとしたけど僕の考えが分かったんだろう。微かに僕を見て頷いた。

五十嵐さん驚きすぎ…。

うぅ…。緊張するなぁ。言ってしまった。

信じてもらえるよう頑張れ僕!

 

「うん、だって唯輝は昨日から僕の居室に泊まってたんだから。僕が秋雨君の手紙に気が付いて部屋を出る0朝7時までずっと部屋にいたよ。」

唯輝は一番最後に厨房に着いたって言ってた。

ということは、唯輝が居室から出ていくところを見た人はいないはずだ。

 

「それが本当ならば脚本家。俳優なぜ先に言わなかった?」

やっと喋った生原君。

学級裁判中彼は自分から発言することなく僕達の議論する姿を楽しそうに眺めているから不気味だ。

 

でもそんなこと今はどうでもいい。

今できるもっともらしい嘘をつかせてもらうよ。

 

「ジョーカーが動機を提示した日だったからその…。不安で怖くて。僕から言って泊まってもらったんだ。それと皆には言わないで欲しいってお願いしたんだよ。僕の無実は死体発見アナウンスで証明できるって分かっていたしそれに男なのに、もう高校生なのに夜一人になるのが怖かったなんて言いにくくて…。」

呆れや慈悲、哀愁などをこめた目が僕に向けられる。

 

「…江ノ本望夢にもプライドがあるじゃるうしの。もうよい。よく言ってくれたな。また怖いときには儂がお話でもしてやろうか?」

「モト、可愛い~っス!」

綾織さんと五十嵐さんは子供を相手にしてるかのような口ぶりだ。

 

「みっともない。さっさと言っときなさいよ。ヘタレ毛玉。」

「そんなしょーもねーこと隠してんじゃねぇよ。アホ毛チビ。」

 

言葉の刃が心に刺さる…。酷い…。

 

「ウルフ、喰田。黙れ。話の続きをする。望夢が手紙に気付いて出ていく時に、

ついてこないでって言われた。秋雨の手紙を無視してしまったことになっていたし、

せめて一人で行って謝って誠意を見せたかったんだと思う。

それに俺は運動して疲れてたから気を使ってくれたんでしょ?

望夢、ありがと。皆。言わなかったのは俺も一緒…本当にごめん。」

 

唯輝…。話を遮って補足を入れてくれた。

言いにくそうに申し訳なさそうに自然に皆に謝罪もして流石超高校級の俳優。

アドリブと演技はお手の物か。

 

 

「江ノ本様…。その話は本当でしょうか?」

「…!?…えっ。勿論本当だよ、シープ君。どうして?」

「江ノ本様は嘘をついているような気がするのです。私の思い違いでしたら大変申し訳ないのですが…。ですが、有馬様は嘘をついている様には見えません」

シープ君は超高校級の牧師だった。

日頃から沢山の人とコミュニケーションをとって相談に乗っているからだろうか。流石に鋭いな。

でも唯輝の演技までは見破れないみたいだ。

本人が断言せずに泣きそうな申し訳なさそうな顔で言ってるからこのまま押し通させてもらおう。

ごめんね。

 

「こんな時に嘘なんてつかないよ!僕だって死にたくないんだから」

「…ジョーカー。もしも共犯者がいた場合そいつも学園から出ることが出来るのかい?」

「おっ、鬼澤さん良い事を聞きますねぇ。答えてあげましょう!どれだけ犯行を手伝っても出られるのは殺しを実行した一人だけです!私は鬼教師の様に厳しいですからねー。」

 

「モトは絶対犯人じゃないって証明されたんっスよね?そのモトが証言してるんっスからツッキーも無罪っスね!」

 

「え~、そうとはかぎらないんじゃないー。(-"-)」

「たしかに江ノ本なら死んでも有馬をかばいそうだな」

「他の証拠はないの?あるなら出しなさい能無し。」

「江ノ本ぉ。たまたま有馬と一緒とか都合がよくねーかぁ。怪しいなぁ~」

「確かに信用できないね。ごめん…」

「オレも信じれへんわ。」

「す…すみませぇん。信じてあげたいんですけど若鳩さんの言う通り都合がいいと…。ご、ごめんなさいっ!」

 

「おっ、7人も反対する人がいますねー」

なんでジョーカーは嬉しそうなんだ?

 

 

「吾輩は全生物の味方だからな。どっちでもいいぞ。」

生原君は今はほっとこう。

 

…どうしよう。僕なんかに7人も説得できるかな?

 

「望夢。協力する」

 

唯輝!

 

「ワタシも!ドンと屋形船に乗っタつもりで任せて!」

「儂もファンとして仲間として力になるぞ」

「モト!犯人扱いしてゴメンっス!今は信じてるっスよ!」

「江ノ本様、先程は大変失礼いたしました。私でよければ力にならせて頂きます」

「アタイも協力するよ!任せな!」

皆…!頼もしいな。ありがたい。

 

そうだ。僕は一人じゃない。皆の力を合わせればどうにかなる!

 

「ちょうど意見が二つに割れましたねー。ではいきましょうか!変形学級裁判場のお披露目で~す☆」

 

ジョーカーがそう言って自分の玉座のそばにある鍵穴に鍵を差し込んだ。

すると僕達の席が浮き上がり動いた。止まる時にはチームを二つに分けるかのような配置になっていた。

僕達の前の人達はさっき反対していた7人だ。

 

 

          《意見対立!》

 

         有馬唯輝は犯人か?

 

     【犯人だ!】 VS  【犯人じゃない!】

    ウルフ        綾織 博夏

    木柳 修哉      有馬 唯輝

    喰田 奈味      五十嵐 俊穂

    晴天 四葉      江ノ本 望夢

    小鳥遊 架澄     鬼澤 凛

    若鳩 空智      シープ

    綿古里 安麻依  ソフィー・リエーティ

 

 

         【議論スクラム】

 

狼「おい、有馬テメェが原稿用紙を【盗んで】秋雨を呼び出したのか?」

         ←有馬「違う。【盗み】なんてしてない」

 

若鳩「口だけならなんとでも言えるぜぇ。【証拠】を出せよぉ」

         ←綾織「それなら有馬唯輝が犯人という【証拠】を出してくれんかのう」

 

喰田「こいつ以外に盗んだ奴がいる【可能性】はあるの?」

         ←ソフィー「Yes!その【可能性】は十分あるヨ!」

 

晴天「でも二人の言うこと【信用】出来ないよ」

         ←江ノ本「皆の命が掛かってるんだよ?お願いだから【信用】してよ!」

 

小鳥遊「江ノ本が有馬を庇って【嘘】ついてるんじゃないの~(・・?」

         ←鬼澤「これから議論して【嘘】を暴いていけばいいだろ!アタイに任せな!」

 

綿古里「有馬さんが犯人だったら私たちはクロ以外【全滅】しちゃうんですよ…?」

         ←五十嵐「ツッキーが犯人じゃなかったら【全滅】しちゃうっス!まだ決めつけるのは早いっスよ!」

 

木柳「でも、どうすればええんや…?どんな【議論】をすればええのか分からへん」

         ←羊「木柳様、大丈夫ですよ。皆様で【議論】を続けていけば真実にたどり着けます。」

 

「「「「「「これが(俺)(儂)(ワタシ)(僕)(アタイ)(私)達の答え。(じゃ)(ダヨ)(だ)(だよ)(です)(っス)」」」」」」

 

 

                      完全論破!!

 

 

 

「皆、聞いてほしい事があるんだけど。裁判の前に僕と唯輝はジョーカーに質問を二つしたんだ。一つは死体発見アナウンスの事だよ」

「も…もう一つはなんですかぁ…?」

 

綿古里さんがおずおずと質問してきた。

 

「僕の部屋に誰か入れた?って聞いたんだ。答えは捜査の時か部屋の主が死体になるかしないと入れないって言ってたよ。ねぇ。君に聞きたいことがあるんだ。…若鳩君。」

 

皆の目線が一斉に若鳩君に集まる。

 

「おっ、そんなに見られると嬉しいなぁ~。後で期待に応えてとびっきりのマジックを見せてやろうかぁ?

江ノ本ぉ。質問ってなんだ?マジックの種と仕掛けは教えられねーぞぉ」

 

若鳩君は臆することも緊張することもなくヘラヘラと笑って話している。

 

「動機が発表される日の朝、僕の部屋に入って来たよね?」

「え?オイラそんなことしてねぇぞ。江ノ本。夢でも見たんじゃねーのかぁ」

 

……えっ?いやいやいや確かに若鳩君は僕の部屋に勝手に入ってきた。

そして僕を驚かせた後に笑って出て行ったはずだ!

若鳩君は嘘をついている。ここで認めてしまったら自分が疑われるからだろう。

他にも何か隠しているのかな?

それなら嘘を暴いて見せる!!

 

 

      【ノンストップ議論開始!】

 

五「モトとトモどっちかが嘘をついてるっス!」

若「江ノ本だろー。オイラは【何も知らねぇ】ぞ」

有「本当?何か知ってるなら話せ」

若「だーかーらぁー、知らねえって!原稿用紙の事も秋雨の手紙の事も」

狼「おい、【秋雨の部屋】で何かしたか?」

若「してねぇよ。捜査の時一度入ったけどよぉ。オイラ、床とか小物とか【机の上のメモ帳】とかなーにも触ってねぇよ」

 

コトダマ記録【何も知らねぇ】

 

若【机の上のメモ帳】←【何も知らねぇ】

  

  「その台詞はおかしいよ!」論破!

 

「若鳩君、議論中にウルフ君が「秋雨の部屋の」って言ってたけど机の上とは一言も言ってなかったよ。どうして机の上にあったって分かったの?

捜査の時じゃないよね?ウルフ君達が真っ先に来たって言ってたしその後来た僕がメモ帳を持って行ったんだから見れなかったはずだよ?」

 

「!」

 

僕がポケットからメモ帳を取り出して質問したとたんに若鳩君はピタリとまるで時がとまったかのように固まった。

裁判に静寂が訪れる。皆、若鳩君の次の台詞を待っているんだろう。

若鳩君本人は何を考えてるんだろう。言い訳か、嘘か。

 

 

「………っ、あーーーーっはははははははははは!!!」

 

裁判の静寂を破ったのは言い訳でも嘘でもない若鳩君の狂ったような大笑いだった。

「いやーぁ、江ノ本!お前意外と目敏いなぁ!このまましらばっくれてもつっまんねー話し合いが続くだけだし…いいぜぇ!大出血サービスだっ!良い事を教えてやるよ!お前の部屋で原稿用紙を盗んでお前の名前で手紙を書いたのはオイラだ!宛先は秋雨じゃなくて犯人だぜっ!」

 

「!!!?」

 

思ってもいない突然の自白に僕達は驚く。だが驚く僕達を無視して若鳩君は喋り続ける。

「あっ、それと質問にも答えてやるよっ!秋雨の部屋に入ってメモ帳の一番上を鉛筆で擦ったのもオイラだぜ!入った方法はピッキングだぜぇ!練習してたからなぁ!」

 

「まったく、若鳩君には困りましたねぇ。皆様安心してください。全てのドアにピッキング防止を裁判が始まる前にしておきましたから~。」

 

ジョーカーは楽しそうに笑っていてちっとも困ってるようには見えない。

監視カメラで見れるであろうにわざと止めなかったんだろうな。

若鳩君、ジョーカーに頼んで開けてもらったって…嘘をついてたのか。

 

「おい、お前宛先は犯人ちゅーことは犯人を知っとるんか?教えろや!」

「え~、嫌に決まってんだろ。バーカ!せっかくの学級裁判なんだからもっと楽しもーぜぇ」

怒鳴る木柳君を嘲笑しながら若鳩君は言う。

 

「そんなこと言って若鳩くんが犯人なんじゃないの?」

若鳩君を睨みつけながら晴天さんが言うでもそれはありえない何故なら…。

 

「晴天。あんた馬鹿ね。厨房の味噌でも頭につめれば?死体発見アナウンスで若鳩、江ノ本、私の3人は犯人じゃないって話したわよね。」

喰田さん、相変わらず言い方がきついなぁ。

 

「ちょっとイイ?手紙を書いたのが若鳩サンって分かっても犯人は分からないよネ?若鳩サンも言うつもりは無いみたいだし。別の事から議論シヨー。」

「ふむ。ソフィー・リエ―ティの言う通りじゃな。分かることから話していこうかの。若鳩空智は無視して、まずは凶器からでどうじゃ?」

綾織さんの提案により凶器から話し合うことにした。

 

 

          【ノンストップ議論開始!】

 

鬼「秋雨を殺した凶器はなんだったんだい?」

五「【包丁で頭をブスリ】っス!」

木「アホか!ちゃんと考えて発言しい!」

綿「えっと…犯人から逃げようとして転んで頭を【ぶつけた】とか…」

喰「【醤油瓶】で殴られたんじゃないの?」

 

喰【醤油瓶】←【 醤油瓶(一升瓶) 】

 

   「それに賛成だよ!」賛同!

 

「喰田さんの言う通りだよ!秋雨君の死体の周辺を見てみるとタイルの床に茶色い厚めのガラスの破片が散らばっていて乾いた血痕の他に乾いた黒い液体の後もあったんだ。

それに事件ファイルに死因は打撲って書いてあったし、生原君の検死結果も同じだったんだ…だから」

 

 

      「遅いっス!」反論!

 

 

「えっ?どこか変な所あった?五十嵐さん」

「死因が打撲でも凶器が瓶って決まったわけじゃないっス!モト!勝負っスよー!」

やけに自信満々だな…。えっと…。とにかく認めてもらえるように頑張ろう。

 

 

    【反論ショーダウン開始!】

 

「凶器はやっぱり【包丁】っス!」

「包丁の持つ木の部分で【殴った】っスよ」

「血なんて厨房の奥にある部屋の台所で【洗い流せる】っスから!」

「【犯人が証拠隠滅しようとした証拠】もないじゃないっスか!」

「どーっスか?反論できるっス?」

 

 

【犯人が証拠隠滅しようとした証拠】←【 厨房の机の周りの床と五十嵐の証言 】

 

     「そのシナリオ、書き直す!」斬!

 

「五十嵐さん、昨日ちゃんと厨房、片付けた?瓶は?」

「もう!モトしつこいっスよ!ちゃんとソラとアオと一緒に厨房と食堂の片付けしたっス!

瓶は厨房の入り口に一番近い机の上に綺麗に並べて置いたっス。捜査の時も言ったっスよー。」

五十嵐さんは怒りながら答えた。

 

「Yes!ちゃんと綺麗にしたヨ!」「は…はい、一緒に片付けましたよぉ」

ソフィーさんと綿古里さんも同意する。

 

「あら、おかしいわね。捜査の時には机の周辺にいくつかの瓶が割れてて中身もぶちまけられたままだったわよ」

「!!!?」

 

喰田さんが睨みながら発言すると3人とも驚いたようだった。

 

「やったのは犯人」

「ツッキーどういうことっス?」

五十嵐さんの質問に唯輝は答える。

「醤油瓶で秋雨を殴って破片と液が飛び散った。凶器を分かりにくくする為、自分が来たことを分かりにくくする為、残りの瓶とコップを割った。」

 

恐らく犯人は秋雨君がくるまで15分くらいの間に何かをコップで飲んで待っていたんだろう。

何を飲んでいたのかは分からないけど。

 

「でも、証拠隠滅するんやったら普通に綺麗にすればええやん。」

木柳君の疑問に今度はシープ君が答える。

 

「恐らく、犯人は焦っていたのでしょう。7時ぐらいに食事当番の方が来るでしょうし、綺麗にしても跡が残ってしまえば無駄です。それに液体を綺麗にするには雑巾かモップが必要です。二つとも立ち入り禁止区である倉庫にあるので取りに行けなかったのでしょう。」

 

「なるほど…。せやから諦めて逆に散らかしたんやな。それだけの証拠があるなら凶器はあっとるちゅうことやな。ん…。ほんなら何で包丁があったんや?」

木柳君の疑問はもっともだ。綺麗なままだったし犯人にとって都合が悪いなら処分する。

それができないなら見えにくいところに隠しておくだろう。

 

恐らく一番考えられるのは…。

 

「犯人から襲い掛かられて秋雨が包丁で応戦したんじゃないのかい?」

「えっと…。な、なんでそんなこと言えるんですかぁ…」

鬼澤さんが言うのにはあれを見たからだな。

 

 

   コトダマ提示。

 

  →【 荒らされた食堂 】

 

  「これだ!」提示!

 

「鬼澤さん、食堂が滅茶苦茶に荒らされていたからだよね?」

「そうだよ。恐らく、食堂に来たら江ノ本じゃなくて犯人がいた。驚いている秋雨に犯人が襲い掛かって包丁で応戦して厨房に逃げ込もうとしたところを殴られたんじゃないのかい?」

なるほど…。凶器は醤油瓶って結論が出ている。

包丁は綺麗なままだったし、犯人が醤油瓶と包丁の二つを持っていたとは考えにくい。

包丁を持っていたのが秋雨君なら犯人は自分とは関係ないし処分しないだろう。

ん?でもそうだとしたらおかしくないかな?

 

「ふむ。では何故秋雨彦吉は包丁を持っていたのじゃ?包丁は厨房の中にある。秋雨彦吉は厨房の入り口付近で殺されておった。包丁を取る暇なんてなかったはずじゃろう。」

綾織さんの問いに僕は考える。

 

僕はその答えを知っている。あの事を言えば…!

 

 

    コトダマ提示

 

   →【シープと生原の証言】

   

   「これで証明できる!」提示!

 

「逆なんじゃないかな?」

 

「?逆?ちゅーことは秋雨はもともと包丁を持って食堂に来たちゅうことか…?なんでそないなこと言うねん…。」

木柳君が信じられないように否定してほしそうに恐る恐る言う。

 

「シープ君、昨日の夕食後、秋雨君の怪我の処置をしたんだよね?」

「! はい。江ノ本様の言う通りです。私の部屋で処置をしました。10時頃にご自分の部屋に戻ると言われ出て行かれましたよ。」

「その後、自分の部屋じゃなくて真っ直ぐに厨房に向かっているんだ。」

「それは本当ですか?秋雨様が嘘を?」

シープ君が驚いて尋ねてくる。出来るなら嘘だよって言ってあげたい。

でも本当なんだ…。

 

「昨日の10時過ぎに生原君が食堂に行ったんだ。その時に厨房から出てくる秋雨君を目撃しているんだよ。ね?生原君。」

僕が促すと軽く頷いてから話してくれた。

「うむ。小腹が空いていたからな。だが不運は何かを服の中に隠しているみたいだったぞ。」

その隠しているのが包丁だろう。食材や小物だったら隠す必要がないはずだ。

 

なんで秋雨君は包丁を持って行ったんだ?

果物とかを食べたくなったのなら厨房で剥いてから部屋に持っていけばいいだろう。

もしなんらかの理由があって部屋に持って行ったとしても僕と…人と話すのに包丁を持ってくるか?

いや…、そんなことしたら警戒されるのなんて分かるだろう。

警戒されたり周りの人を不安にさせないために皆が集まっているときに返したり、

再び隠して持ってきてこっそり返すはずだ。

 

「秋雨は江ノ本を殺すつもりで呼び出したんじゃねぇのか」

「理由」

ウルフ君があっさりと言う。唯輝がどうしてそう思ったのか理由を尋ねる。

 

唯輝もその可能性はあるって思っていたんだろう。驚いてないし冷静だ。

でも死んでしまった仲間を疑いたくなくて迷っている。皆が、特に僕が傷つかないか心配してるんだろう。

不安そうな顔で僕達の顔色を窺っている。

 

「本当は何人か気付いてんだろ。秋雨は包丁を隠して持って行って江ノ本と合うときに持ってきてる。

それにあいつの手紙の内容。【読み終わった後この手紙を処分してから、一人で来てください】って少しおかしくねぇか?一人で来いなら分かるけど手紙を処分しろなんて、見られたらよっぽど困るみてぇじゃねぇか。」

サラサラとまるで紙にあらかじめ書いてある文を読んでいるかのように冷静だ。

 

パチパチパチ!

 

いきなり誰かの拍手をする音が聞こえた。そっちを向くと若鳩君がニコニコと笑いながら拍手をしていた。

 

「いやー。大・正・解!秋雨は殺しをする気、満々でしたぁ~。ほい、これが証拠だぜぇ!秋雨の手帳だっ!」

若鳩君が大声でそう言って懐から黒い手帳を取り出した。

 

そしてスクリーンに映っていることを確認するとそれをめくっていく。皆が見やすいようにゆっくりと。

その中に書いてある内容を見て僕は固まった。

 

なぜなら…中にトリックやアリバイをどうやってつくるか。凶器はどんなのにするか

殺しやすそうな人やリスク等、殺人の事がびっしりと書いてある。沢山考えて悩んで書き直したのだろう。書き直しの後まである。

僕がもらった秋雨君の手紙と字がそっくりだ。

 

 

     「その文は書き直すべきじゃ」反論!

 

「おいおい、綾織ぃ。なんだよ。」

若鳩君が迷惑そうに露骨に顔を顰めた。

 

「お前さんの言うことを鵜呑みにできるわけないじゃろ。それは秋雨彦吉の手帳なのか?」

綾織さん…。死んだ秋雨君を庇っているのか?疑いたくないのか?

そうだとしたら、僕だって同じだ。でも…。

 

 

     【反論ショーダウン開始!】

 

「それが秋雨彦吉の私物じゃと?」

「口だけなら納得できんぞ」

「【名前】でも書いてあるのか?」

「【写真】が貼ってあるのか?」

「中に【秋雨彦吉の情報】でもあるのか?」

「【何も根拠がない】じゃろう。他の登場人物の私物って可能性もあるじゃろうしの」

 

 

 【何も根拠がない】←【 秋雨の手帳。】

 

    「そのシナリオ、書き直す!」斬!

 

「根拠ならあるよ。そうだよね?鬼澤さん。」

僕が促すと鬼澤さんは軽く頷いてから話し始めた。

 

「実は動機が提示される前日に秋雨が探し物をしていてね。アタイも手伝う、何を探してるのか教えろってしつこく迫ったんだよ。そしたら黒い手帳を無くした。中には誰にも見られたくないことが書かれてるから誰にも言うな中を見るなって言われたんだよ。」

何人かが息をのむのが分かった。鬼澤さんの証言によって決定的になってしまったからだろう。

 

 

「江ノ本、お前は幸運だなぁ。手紙の通りに来たら死んでたのはお前だったかもなぁ。

たまたま気付かなかったおかげで無事だったんだから!どうした?喜べよぉ。」

そんなこと言われてもちっとも喜べない。

嘘だ。信じたくない。

秋雨君が僕を殺すつもりだった…?

 

少しだけでも仲良くなれたと思った。

仲間だと言ってくれて嬉しかった。

手紙に友達になりたいって書いてあったのも僕を殺すための嘘だったのか…?

 

そんな…。

胸のあたりが苦しい。目に涙が溜まっていく。

今は泣いてる場合じゃない。学級裁判を終わらせる。

真実を暴くって決めたじゃないか。僕の覚悟はその程度だったの?

自分で自分に言い聞かせ涙を乱暴に拭う。

 

僕を含めて何人か犯人じゃない人が分かった。秋雨君が加害者だってことも分かった。

このままいけばきっと真実を見つけられる。学級裁判を終わらせられるんだ!

 

 



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【CHAPTER 1】学級裁判〈後編〉

「とりあえず、今までの事をまとめるわよ。ついてこれてない馬鹿もいることだし。」

喰田さんがちらりと五十嵐さんを見て言った。

 

「酷いっス!ちゃんとついてこれてるっスよ!」

「なら、説明してもらおうかしら。」

「すみませんでした!」

「早いわ!少しは頑張れや!」

木柳君。ナイスツッコミ。

 

「秋雨が江ノ本を殺すつもりで手紙を使って呼び出した。

でも来たのは若鳩が原稿用紙に江ノ本の名前を使って呼び出した犯人だった。

秋雨が犯人に襲い掛かって争った。その後、厨房に入ろうとしたところを撲殺されたって所ね。」

喰田さんの説明に頷く。

 

「厨房に先に入ったのは秋雨さんですか?犯人ですか?」

確かにどっちなんだろう?綿古里さんの疑問を議論してみよう。

 

 

       【ノンストップ議論開始!】

 

綿「先に厨房に逃げ込んだのは…どっちでしょうか?」

鬼「死因は【後頭部の打撲】だろう?なら秋雨が先なんじゃないのかい?」

木「逃げ込もうとしたところを【後ろから】ドカーンやな!」

五「頭を殴られたってことは犯人はアキより【背の高い】人っスね!」

有「そうとも限らない」

羊「どうしてでしょうか?どうか説明をしていただけませんか?」

有「秋雨がどうにか【かがんだり】【倒れたり】【体勢を崩したり】すれば」

喰「は?逃げ込むにせよ追いかけるにせよ【そんな状況になるわけない】じゃない」

ソ「そうなるように【罠を設置していた】とカ?」

 

 

【そんな状況になるわけない】←【生原の検死結果】

 

       「それは違うよ!」論破!

 

 

「生原君、秋雨君は殺される前に転んでいるんだよね?」

「うむ、脚本家の言う通りだ。安心しろ吾輩は優秀だからな。検死結果に間違いはない。」

自信満々に言う姿が今は頼もしい。

 

「私達にも詳しく教えなさい。変態学者」

「いいだろう。グルメリポーター、他の生物達も聞いておけ。まあ大好きな貴様らの為なら何度でも説明してやるがな!」

ウルフ君が無言で睨みつける視線で人が殺せそうだなぁ。

生原君は逆に嬉しそうだ。木柳君に殴られそうだった時も嬉しそうだったもんな。

さすが変人…。

 

「不運の死体には様々な痣や傷があった。日頃から怪我をしているのだろう、その中で一番新しいのが死因の後頭部の打撲と膝の擦り傷だな。

後頭部の打撲は夕飯の時に陸上部がぶつかって打った所と全く同じ所を殴られているぞ。膝の擦り傷は殺される直前にできた物だ。調べたところ転んでできた物だろうな。」

生原君…。性格はあれだけど優秀だなぁ…。

 

「つまり秋雨サンは厨房に逃げ込んだ犯人を追いかけて転んでしまっタ。その時に犯人がとっさに厨房の入り口に一番近い机の上の瓶を掴んで殴っタ。

その後、証拠隠滅のタメに残りの瓶を割って出て行っタってコトだね。」

ソフィーさんがまとめてくれた。

 

「こ…これで大体の流れは分かりましたね!」

「せやけど、犯人が分からんなら意味がないやろ。」

木柳君が言いにくそうに言う。確かに、新しい情報でもあればいいんだけど。

 

「若鳩、まだ何か隠してるなら全部いいな。」

鬼澤さんが若鳩君に言う。

 

「おーいいぜぇ。ここまで謎を解いたオメーらにサービスしてやんよ。」

意外とあっさりだな。まぁ今はそんなこと気にしてられないか。

 

「オイラは秋雨の手帳を拾ってからあいつが殺人をしようとしてるのを知った…。だから楽しみに待ってたんだっ!」

 

「いや!なんでやねん!止めるか説得するかしろや!!」

 

「あー、はいはい。木柳うぜーよぉ。続きなぁ。

オイラは夕飯の説教が終わった後から秋雨を見つけてこっそりつけてたんだ。

あいつがシープの部屋から出ていくのも、食堂から何かを持って出てくるのも、

ぜーんぶ見てたんだ。あいつが自分の部屋を出て行った直後に部屋に入って、メモ帳の一番上のページを鉛筆でこすった。

そしてあいつがいつ、どこで、誰を殺すのか知ったんだ。

いや~。ワクワクしたなぁ。でもあいつは「超高校級の不運」だろぉ?

ちゃんと殺せるかそれどころかターゲットが来るかも不安だしなぁ。

だからオイラが一肌脱いでやったんだよぉ。

メモ帳をオイラの居室に持って帰って原稿用紙で江ノ本の名前を書いてから

犯人を呼び出したんだ。その後、秋雨が食堂に向かってるときにメモ帳を机の上に返しといたぜっ。結局、江ノ本は来なかったんだろー?オイラが手紙出しててよかったなぁ。そのおかげで殺しが起きたもんなぁ。」

意味が分からない。なんでそんなに楽しそうに嬉しそうに言えるんだ?

 

「ふざけんなや!何がおかげや、お前のせいやろ!最低や!!」

今にも殴りかかりそうな木柳君を見て若鳩君は…。

 

ため息をついた。いつもニコニコ笑っているのに、今は呆れたような表情でこっちを見てる。

「オイラはふざけてねーよぉ。逆にお前らがふざけんな。どいつもこいつもコロシアイを起こそうともしねぇでのんびりしやがって。」

僕達を無視して若鳩君は話し続ける。

 

「オイラはなぁ。ずーっとつまらなかったんだよぉ。だってそうだろ?

同じ時間に同じようなことをして同じような人と話して、

たま~に違うことが起きても予想の範囲内でしかねぇ。

だからコロシアイ学園生活に巻き込まれてすっげぇ嬉しかったっ!!

誰にいつ殺されるのか誰が誰を殺すのかワクワクしていた!

なのにお前らは積極的じゃねぇ。自分で殺そうかと思ったんだけどよぉ!

死んじまったら楽しめねーだろ?

誰に迷惑かけよーが、誰かが死のうが、大勢に嫌われようが、自分が死のうが、そんなの知るか!どうでもいい!!

オイラが大事なのは自分が楽しめるか!それだけだっ!!!」

本気だ…。

若鳩君は自分が楽しめれば僕達に嫌われようが、僕達が死のうがどうでもいいと思っているのだろう。イタズラや人をからかうのが好きな人だと思ってたのにこんな本性だったなんて。

いや、僕は若鳩君の事を何もわかってなかったんだろう。

唯輝は気付いてたんだろうな。

 

だから僕に「若鳩に気を付けて」って言ったんだろう。

 

「ほらほらぁ~。お前ら早く議論して犯人を見つけろよぉ。文字通り命が掛かってんだぜぇ。」

ケタケタと笑いながら僕達に言う。高みの見物をするつもりなんだろうな。

 

「若鳩、黙ってろ。とりあえず。今、犯人じゃねぇって分かってんのは喰田、江ノ本、有馬、若鳩だな。他にも犯人じゃねぇって証明できる奴はいるか?」

僕はウルフ君の質問に答えられるはずだ。

 

 

 

   コトダマ提示

 

  →【 綿古里とソフィーのアリバイ 】

 

    「これで証明できる!」提示!

 

「皆、綿古里さんとソフィーさんも犯人じゃないよ!アリバイがあるんだ。」

「yes!ワタシと綿古里さんは6時半過ぎにコインランドリールームに行ったヨ!それからアナウンスがナルまで一緒だったネ!」

ソフィーさんが親指を立てて言った。

 

「これで犯人じゃないって分かったのは6人ね。あと9人の中に犯人がいるのね。でもどうやって犯人を見つけるの?」

喰田さんが言うと皆黙り込む。これだけ議論をしたのに肝心なことが分からない。

 

「NO!諦めたらダメだヨ!どんなことでもいいから思い出ソー!きっとなんとかナルよ!」

ソフィーさんが慌てて皆を励ます。前向きだなぁ。

 

なんでもいい。どんなことでもいい。思い出せ僕。

手掛かりになるようなことはないか?

こんな所で死にたくない。家族に会いたい。友人たちに会いたい。

皆と帰って日常を取り戻したい。

今すぐ出るのは無理でも裁判の前に約束したじゃないか。

手作りお菓子会をするって。

 

 

………あれ…?あの時のあの人の台詞。おかしくないか…?何で…?

 

 

「望夢?」

僕が考え込んでいると唯輝が声を掛けてきてくれた。

 

「大丈夫だよ。ありがとう。ねぇ、唯輝。五十嵐さん、綾織さん、晴天さん、ソフィーさん、小鳥遊さん。ちょっといいかな?気になることがあるんだけど。」

「え~何何ー?早く~(・・?」

小鳥遊さんめんどくさそうだな。

 

「うん、裁判が始まる前にアナウンスが鳴ったよね。僕達が一緒にいたときに。アナウンスが鳴った直後の会話を覚えてる?気になる台詞があって…」

 

「儂に任せろ一字一句間違えなく覚えておるからのう」

綾織さん…!そうかたしか瞬間記憶能力をもってるんだっけ?良かった。安心して任せられる。

 

「手伝う。」

「そうか。有馬唯輝。すまんのう。」

 

 

 

     【ノンストップ議論開始!】

 

綾「五十嵐俊穂が「ぎゃーーーーー!【もうっスか!?】誰か糖分を頂戴っス!!」」

有「俺が「…何で?」」

綾「五十嵐俊穂が「ふっふっふ。ツッキーよくぞ聞いてくれたっスね!糖分は頭にいいって【ミコちゃんが言ってた】っス!

【頭を良くして裁判に挑む】っスよ!」」

有「綾織が「五十嵐俊穂。確かに頭にはいいが頭がいきなり良くなるわけではないぞ。それに恐らく【誰もお菓子とか持っとらん】じゃろ」。」

綾「小鳥遊架澄が「今から厨房や倉庫に【取りに行くわけにはいかない】しねー。めんどいし~(´Д`)」」

ソ「ワタシが「なら、裁判が終わったらミンナでお菓子食べヨー!どうせなら【ソーコのじゃなくて手作りがいい】ネ!」」

晴「えっと…。次はたしか私が「いいね!なら皆で作ろうか。クッキーくらいなら私、作れるよ。【いっぱい砂糖とか小麦粉もあったし】沢山作れるね。」だったよ」

五「?…どこも【おかしい所なんてない】っスよ?どこが気になるんっスかモト?」

 

 コトダマ記録→【おかしい所なんてない】

 

  【いっぱい砂糖とか小麦粉もあったし】←【おかしい所なんてない】

 

     「その台詞はおかしいよ!」論破!

 

 

「えっ?私の台詞、どこが変なの?」

晴天さん驚いてるなでもその前に確認したいことがある。

 

 

「ねぇ、料理当番の人に聞きたいんだけど砂糖と小麦粉ってどれくらい残ってた?」

「確か…小麦粉は7割程度で砂糖は少な目でした。」

シープ君の答えで疑問が確信に変わる。

 

「晴天さん、何でずっと部屋にいたなんて嘘ついたの?」

「は、はぁ?私、嘘なんてついてないよ!どうしてそんなこと言うの!?」

晴天さんは慌てて否定する。僕だって信じてあげたい、でも…。

 

「なら説明するね。昨日の10時過ぎに生原君が食堂に行ったって言ったよね?

その後11時までお菓子を食べて砂糖たっぷりのココアを何杯も飲んだらしいんだ。

そのせいで砂糖が全部なくなったって言ってたよ。ここにきて最初に僕と秋雨君で探索をした時にね。

そして食料・食材・調味料などがなくなって自動的に補充されるのは、深夜3時ってジョーカーが言ってたんだ。」

 

「なるホド!砂糖や小麦粉がいっぱいってコトは晴天サンは深夜3時過ぎに棚の中を見てるってコトだね!」

「言っとくけど、生原が嘘ついてるって言うのは無しだぞ。シープも証言してるんだからな」

「そ、それが何?たったそれだけの言葉で私を犯人にするの!?」

ソフィーさんとウルフ君の言葉に晴天さんが言い返す。

 

「他にもある。厨房の机の周りの床」

唯輝?

 

「沢山の割れた瓶が落ちてた。中には数個の割れたコップの破片がある。晴天。電子生徒手帳に載ってたけどカフェオレが好き。」

「あぁ。なるほど、秋雨が来るまでカフェオレを飲もうと思って、作る為に棚の中の砂糖を使ってそれで知っていたのね。自分が来たことを知られたくなかったから、証拠隠滅をした。

醤油瓶を割った後についでに割ったのね。そうすれば臭いも混ざるしコップがなくなったことを分かりにくくできるわ。」

喰田さんが補足をしてくれた。

 

普通に洗って元の位置に直せばよかったんだろうけどコップを乾かすために食器乾燥機を付けたらばれるだろうし。

そのまま元の位置に戻したら万が一誰かが触ったりしたら濡れていることが分かってしまう。

戻す位置が間違っていても誰かが気付いてしまうだろうし。

それとも犯人は相当慌ててたと思うからそこまで考えられなかったのかな?

 

「待ってよ!私は犯人じゃない!江ノ本君。超高校級の脚本家らしくないよ。こんなシナリオ面白くないし。ねぇ…。お願いだから考え直してくれないかな?私以外にも犯行が可能な人だっているでしょ?

皆、信じてよ…!」

 

「…ごめん。信じたいけど皆の、僕の命が掛かってるんだ。犯人じゃないなら何でもいいから反論をしてくれるかな?」

晴天さんが涙目で訴えてくる、彼女が犯人なんて思いたくないし疑いたくない。

いっそ皆が犯人じゃなくてこれが全部夢だったらどれだけいいだろう。

でもそんなことありえない。そんなこと分かってる。自分が涙目で微かに震えてるのが分かる。情けない。

 

「………何それ?私は犯人じゃないって言ってるのに!なんで誰も庇ってくれないの!?誰も考え直してくれないの!?酷い酷い酷い酷い酷い!!!」

「お…おい。晴天。どないしたんねん…?」

 

木柳君が話しかけるけど豹変した晴天さんには声が届いていないみたいだ。

 

 

「信じて信じて信じて信じて信じて信じて信じて信じて信じて信じて信じて信じて信じて信じて信じて信じて信じて信じて…。」

 

壊れたカセットテープみたいに何度も同じ言葉を繰り返している。

まともに話し合うことはできないだろう。

それなら、犯人だと確信のできる証拠があれば…!

 

 

 

 

「ねぇ、晴天さん。君の衣服類と靴下を全部見せてくれる?」

 

 

 

「……………えっ……?」

 

僕は晴天さんに、皆に語りかける。

 

「凶器の醤油瓶は割れてたし、厨房の机の周りの床にも調味料の中身がぶちまけられてたよね?

犯人の服についてるんじゃないかな?運よく服につかなくても足元の靴下についてるかもしれないし。

それにコインランドリールームにはソフィーさんと綿古里さんがいたから洗濯できないし、ゴミ処理室の鍵は当番である綾織さんが持っているはずだから処分もできないよね?

倉庫のタオルを使ったとかならゴミ袋の中に入れるだろうけど、自分の服や靴下なら決定的な証拠になっちゃうから、ゴミ袋の中に入れておくこともしたくないだろうね。」

 

ここでまで言えば分かるだろう。

一刻も早く、着替えたいだろうからどこかによる余裕もない、洗濯も処分も出来ない。時間もない。

ゴミ箱に捨てたならすぐに誰かに見つけられてしまう。

…なら、どこにあるのか?恐らく自分の部屋だろう。

 

「ま…待ってよ。今は裁判中でしょ?私の服なんて見にいけないよ!他の事を話そうよ!ねぇ!」

晴天さんが話をはぐらかそうとする。冷や汗をかいてるし態度が露骨だ。

 

 

「その心配はありません!はいは~い♪注目ー!」

その声の方を向くとスクリーンに誰かの部屋が映っていた。

可愛い丸みの帯びた家具に明るい黄緑色の四つ葉のクローパーの絵が描いてある緑色のカーペット。

可愛いピンクのクッションとか可愛い犬と猫の小さめのぬいぐるみが置いてある。

全体的に整理整頓されていて綺麗だ。

 

誰の部屋かと言うと…。

 

「駄目!やめてやめてやめて!!!今すぐ消してよ!お願いだから!やめてってばぁ!!!」

真っ青な顔で喚き散らす晴天さんを見れば火を見るよりも明らかだった。

 

「皆様ー!何処を調べてほしいですか~?」

ジョーカーの問いに皆が返事をする。

 

「棚の中を見てほしいっス!」

「クローゼットの中やろ」

「…ベットの下」「布団の中を調べなさい」

「儂は、カーペットの下を見て欲しいのう」

 

部屋の中のジョーカーが皆に言われた所を調べていく。

そして、ジョーカーがベットの下に手を入れて中にあるものを引きずり出す。

 

出てきたのは…。醤油の染みの付いたスカートと調味料の飛沫がついてる靴下だ。

 

「っ………!!!」

 

その映像が映し出された瞬間に晴天さんがその場に膝から崩れ落ちた。

さっきの映像が、晴天さんの状況が犯人であるなによりの証拠になった。

 

「望夢。…終わりにして。お願い。」

そう言った唯輝はいつもは無表情なのに…。

あまり感情を表に出さないのに今はつらそうな顔をしていた。

 

そうだ。皆の為にも自分の為にもこんな裁判はもう終わらせたい。

僕が終わらせないと。

最後に今までの事件の内容を、全部まとめて…。説明して…。

皆にこの事件の脚本を知ってもらうんだ。

 

 

 

          【クライマックス推理】

 

〈Act.1〉

 

「まずは、事件を最初から振り返ろうか。ジョーカーから動機が提示されて、元々から殺人をしようとしていた秋雨君は実行することにした。証拠は彼の黒い手帳と鬼澤さんの証言だよ。

その夕食の時に五十嵐さんが秋雨君にぶつかって食堂を散らかしてしまう事故が起こってしまったんだ。

怪我をした秋雨君はシープ君の部屋でシープ君に傷の手当てをしてもらって若鳩君、五十嵐さんは喰田さんに説教されていたんだ。

説教の後、五十嵐さん、綿古里さん、ソフィーさんの3人は9時まで食堂の片付けをして、

汚れたテーブルクロスをコインランドリールームで洗濯して乾燥機に入れた。

調味料の瓶を厨房の入り口に一番近い机の上に綺麗に並べて置いてから帰ったんだ。」

 

〈Act.2〉

 

「10時頃に手当の終わった秋雨君はシープ君に「部屋に戻る」って嘘をついて食堂の奥にある厨房に向かって凶器の包丁を取りに行ったんだ。

でも帰るときにたまたま食堂に来た生原君に目撃されてしまう。

包丁を隠してそのまま急いで出ていった。

その後、秋雨君自身の部屋で手紙を書いて僕の部屋のドアの隙間から入れたんだ。

でも僕と唯輝は運動して疲れていて熟睡してたから気が付かなかった。

秋雨君の手帳を拾って中を見た若鳩君は彼が殺人をしようとしていたのを知っていた。

夕飯後の説教が終わった後こっそりと秋雨君の後をつけていたんだ。

秋雨君が部屋を出た直後にピッキングで部屋に入り、メモ帳の一番上のページを鉛筆で擦って、いつどこで殺人が行われるのかを知ったんだ。

メモ帳を持って帰って自分の部屋で僕の部屋から盗んだ原稿用紙に僕の名前を使って犯人の部屋に入れた。僕が呼び出したと犯人に思わせるためにね。

食堂では11時頃までお菓子を食べ、砂糖をたっぷり使ったココアを生原君が飲んでいたから砂糖が全部なくなってしまった。」

 

〈Act.3〉

 

「恐らく6時少し前に犯人は食堂に着いたんじゃないかな?

待ってる間に好物のカフェオレを飲む時に棚の中を見て砂糖を取って使った。

その後、カフェオレを飲みながら待ってたんだよ。秋雨君が食堂に行ったときに若鳩君は再びピッキングで秋雨君の部屋に入ってメモ帳を戻したんだ。

15分後くらいに食堂に来たのは秋雨君で、犯人も秋雨君も来るはずだった僕が来なくて驚いたんじゃないかな?特に犯人はね。秋雨君は包丁を持っていたんだから。

自分の犯行がばれてると勘違いした、後に引けなくなった秋雨君は犯人に襲い掛かった。

犯人も秋雨君に応戦して食堂が荒れてしまったんだ。犯人が厨房に逃げ込むと秋雨君も犯人の後を追った。その時に秋雨君は不運にも転んでしまったんだ。

犯人はその瞬間、とっさに厨房の入り口に一番近い机の上の瓶を…醤油瓶を掴んで秋雨君の頭を殴って、その時に瓶が割れて液が飛び散ってしまった。」

 

〈Act.4〉

 

「その後、犯人は凶器を分かりにくくするために残りの調味料の瓶も割って何個かのコップも割った。

そして疑いを僕に向ける為に原稿用紙に僕の名前で若鳩君が書いた手紙を近くに置いてから急いで出て行ったんだ。料理当番の人が来るかもしれないから相当慌ててたんだと思うよ。

ゴミ処理室の鍵は当番の綾織さんが持っているし今更洗濯しても間に合わない。

だから犯人は自分の部屋のベットの下に汚れた服と靴下を隠し、死体発見アナウンスが鳴ってから再び厨房に向かった。」

 

 

「この事件の犯人は調味料の飛沫のついた服を隠していて、深夜3時にならないと補充されないのに砂糖が補充されていたことを知っていて失言してしまった。

誰にも目撃されることなく、犯行の一部始終を終わらせられたのも、自分を襲った秋雨君がたまたま転んだのも秋雨君の不運じゃなくて君の幸運のおかげだったのかな?

 

 

…君が犯人で間違いないよね?【超高校級の幸運】晴天 四葉さん。」

 

 

僕の問いかけに晴天さんは答えなかった。

いや、答えるどころか反応すらせずに膝をついて顔を伏せた状態のままだ。

でもこれが事件の全貌のはずだ。

謎が全部解けた。僕の疑いも唯輝の疑いも晴れた。

これで皆も僕も、生き残れるはずだ。

 

でも…ちっとも嬉しいと思えない。

 

「お~い、ジョーカーもう決まったみてぇだぞ。さっさと終わらせてくれよぉ。」

「はいはーい!ではっ!お手元の絵を押してください!あっ絶対に誰かに投票してくださいよ?

しなかったらお仕置きですからね!こんなつまらないことで死体役になりたくないでしょうし、

まだ出番がほしいでしょー?」

 

若鳩君に促されジョーカーが僕達に話しかけるとウィーンと音が聞こえる。

音のした方に目を向けると手元にある手のひらサイズのパネルに映像が映る。

僕達16人の似顔絵がドット絵に描かれていて縦と横に4個ずつ並んである。これを押せってことか。

 

………。

ただ押すだけ。押すだけなのに。押すことが出来ない。

自分の腕、自分の手、自分の指のはずなのにとても重く感じる。

 

震えが止まらない。

 

吐きそうだ。

 

「ほらほら!早く!!さっさと見せ場を始めたいんですから!」

 

ジョーカーにせかされ晴天さんの絵を押した。

ポチっと音がして晴天さんの絵が灰色になる。

押してしまった。

仕方がない。仕方がない…。

 

僕は、最低だ。

 

何もできない言い訳をして仲間を犠牲にして…。

 

 

「議論の結果が出たみたいですね!果たして投票の結果。クロになるのは誰なのか~?そしてその答えは正解なのかー!」

 

 

 

大きなスクリーンに大きなスロットマシーンが映る。

僕達のドット絵の似顔絵がグルグルと回っていて徐々にスピードが落ちていって

横一列に晴天さんの絵で止まった。

するとスロットマシーンが光ってスロットから大量のメダルが流れ出て、紙吹雪が舞う。

 

 

これで分かった、皆で出した答えは正解だったんだってことが。

 

 

 



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【CHAPTER 1】おしおき編

 

 

「大・正・解~~~~~!!!「超高校級の不運」秋雨彦吉君を殺した犯人は「超高校級の幸運」晴天四葉さんでしたー!皆様おめでとうございます!いやぁ、流石ですねぇ。

まだ舞台が始まったばっかりなのに全滅しなくてよかったですねっ!」

 

とても嬉しそうに高笑いをしながら拍手をするジョーカー。不愉快だ。

 

 

何も言えない。晴天さんに、彼女になんて言葉を掛ければいいのか分からない。

この場でどんな事を言えばいいの…?

 

 

「おいおい、晴天ー。これからお前はど派手な処刑をされるんだぜぇ。

よかったじゃねぇか!最期を華々しく飾れてよぉ。

裁判もなかなかスリルがあってよかったし。遺言ぐれー、言ってた方がいいぞぉ。」

 

若鳩君はケラケラとそれはもう楽しそうに、無邪気に笑って言っている。この状況でだ。

罪悪感なんてものは当然ないんだろう。

彼だってこのコロシアイ学園生活に巻き込まれた被害者で、僕達と同じ立場の仲間のはずなのに。

こんなことは思いたくないけど…。狂っている。彼、若鳩君が理解できない。

 

 

「………い。うるさいうるさいうるさい!!!!元はと言えばあなたのせいでしょ!

秋雨くんを説得していれば私を食堂に呼び出さなければこんなことにならなかったのに!!

私は悪くない!だって仕方なかったんだよ!あのまま何もしなかったら私が殺されていたんだよ!?

先に襲ってきたのは秋雨くんなんだよ!!正当防衛だもん!!私だって死にたくなかった!!

何で私にしたの!?私がなにかした!?答えてよっ!!」

晴天さんが勢いよく立ち上がって若鳩君に噛みつくように喚き散らす。

 

「おー。もちろん理由はあるぜぇ。お前、幸運だろ?

どんなことが起こるかなぁって結構楽しみにしてたんだけどなぁ。」

 

だが若鳩君は涼しげな表情でさらりと答えた。

嘘はついてなさそうだな、ただどうなるか気になった。どんな幸運が起こるか試してみたかった。

それだけの理由で晴天さんをターゲットに選んだのか。

 

 

「若鳩智空ではなぜ江ノ本望夢の原稿用紙を盗んで名前を偽ったのじゃ?」

 

涼し気な顔の若鳩君に綾織さんが問いかける。

 

「お~それはなぁ、当ててみな!もう分かってんだろぉ?」

「都合がよかったからだろ。」

「ウルフ?どーいうことっスか?」

ウルフ君の言葉に五十嵐さんは首を傾げた。

 

「五十嵐、あんた本当に馬鹿ね。猿の方が利口よ。少し考えたら分かるじゃない。

江ノ本以外の奴が手紙で呼び出したとして晴天が来るかしら?早朝に一人で来いって条件付きでね。

一番小柄で臆病であろう綿古里やめんどくさがり屋の小鳥遊なら違和感がある。怪力でがたいのいい木柳。マフィアのウルフ。柔道部の鬼澤。変態変人の生原なら警戒する。

残りの奴でも晴天よりも背が高いが同じような背丈だから警戒して来ないかもしれない。

でも江ノ本は綿古里の次に背が低くて小柄だし。才能も文系。動機が発表された後に

一人で秋雨を追いかけて行く位には仲間を大事に思ってるし、綿古里ほどは臆病じゃない。」

 

「それに晴天は有馬のファンでしょ~。

その有馬の親友であり幼馴染である江ノ本の頼みは断りにくいだろうねー。」

 

なるほど喰田さんと小鳥遊さんの言う通りそんなことで僕にしたのか。納得だ。

秋雨君が僕を呼び出したのは恐らく一番殺しやすそうだったからだろう。

それに僕から友達になりたいって言ってるからきっと来てくれるって思っていたんだろうな。

 

裏切った事になっちゃったかな…。

 

秋雨君は家族を、両親の事を大切に思っていたし才能が「不運」だ。

不安で不安で仕方なかったんだろう。動機が発表されたときに顔を真っ青にして逃げてたし。

この状況から、自分の不安や恐怖から両親に対する思いから皆を裏切って僕を殺そうと思っていた。

死んでしまう前に話し合いたかった。そうすれば思い留まってくれていたかもしれない。

仮に説得して失敗したとしても少しだけでも心が軽くなっていたかもしれない。

自分を裏切って殺そうとしていた相手だけど、死んでほしくなかった。

生きててほしかったと思ってしまっている。

 

 

 

「そんなことより!晴天さん、仕方なかった?正当防衛?よくもまぁーそんなことが言えますねぇ。皆様を犠牲にしようとしてたくせに!」

ジョーカーの言葉に晴天さんは固まる。

 

 

 

「学級裁判のルールは説明しましたよね?当然、晴天さん犯人を間違って選んだら皆様が処刑されるのも知ってたでしょう?それなのに、議論中、江ノ本君や有馬君、若鳩君を犯人扱いしたく・せ・に!

あっそういえば「信じて」って言ってましたね~!皆様があなたを信じて間違った犯人を選んだらどうしてたんですか?皆様が次々に処刑されるのを優越感に浸って見物でもしてました?

それとも「皆、ごっめん☆私の為に死んで♪」とでも言うつもりでした?

いやぁ、良い趣味していますね!素晴らしい!」

 

芝居掛かった口調と振る舞いをしながら晴天さんに話しかける。

 

「お前っ!オレ達を裏切ったんか!!!」

「やめな木柳。…晴天、アタイ達のことを見殺しにするつもりだったのかい?」

ジョーカーの後に鬼澤さんが問いかける。怒鳴った木柳君を軽く制して鬼澤さんは責めているようではないが少し怒っている感じだ。でも怒りを面に出さずにできるだけ優しく問いかけている。

 

皆がただ黙って見ている中、晴天さんは涙をポロポロと零しながら口を開いた。そしてそのまま自分の事もこの事件の事も喋り始める。

 

 

「………そうだよ。ごめんね。私はね、本当は限界だったんだ。

だってずっとずっと「普通」だったから私は見た目も美人でもなければ不細工でもない「普通」だし、

テストを受けたら平均点よりちょっと上か下か位。カリスマ性もないし秀でた才能もない。

家もお金持ちでもなければ貧乏でもない、「普通」の家。両親も平凡。

家族との関係は最悪でもなければ最高でもない「普通」の関係。

友人の数も多くもなければ少なくもない「普通」そんな私が人と違うのは「幸運」くらいなんだよね。

でもその「幸運」も大した物じゃない。一獲千金!は無理だし商店街の当たりくじで一等も無理。

何十回も同じ幸運を!も無理。本当に急いでいるときに信号が青だったり、

すごく落ち込んでいたときに飲もうとしたお茶に茶柱が立っていたり、

そんなあってもなくても変わらないささやかな「幸運」なんだ。

でも別にそれでよかった。

今の生活に環境に何も不満はなかったし、このまま「普通」に暮らして年をとって

「普通」に死んでいくんだなと思っていた。

…そんな私の所に希望ヶ峰学園からの通知が来て。正直あまり行きたいと思わなかった。

貴族の中に平民が天才に中に凡人が行くようなものでしょ?

でも家族も友人も大喜びしてたし私も将来にプラスになるだろうし今からでも頑張ればいいか、

そのうち学園での生活が私にとっての「普通」になるまで早く慣れればいいやって。

思い直して入学したんだよね。

 

 

………でもっ!こんな「異常」な生活になるなんて思ってなかった!

もう嫌!!!早く帰りたい!!「普通」を取り戻したい!!!」

そう言って晴天さんは喚き散らした。

 

 

僕も気持ちは分かる。

ずっと当たり前に過ごしてきた日々が普通の生活が奪われてしかも相手は唯輝以外初対面の人だらけ。

頼れる両親などの大人はいない。

外からの連絡手段もなく外の事を知るすべもない。

いつ誰に殺されるのか。また、いつ、どんな動機がくるのかも分からない。

新しい環境に対する戸惑いに恐怖。

ずっと「普通」の生活を送ってきてこれからも「普通」に過ごせるって晴天さんは思ってたんだろうな。

だから、家族や友人のいる平和な「普通」の日常を取り戻すために僕達を裏切った。

 

僕が秋雨君の手紙を読んで食堂に行ってたら殺されていた。

いや、晴天さんの立場に僕がなっていたかもしれない。

だからこそ他人事のように見れなかった。

 

 

 

「はいはい、もういいですか?早くお仕置きをはじめましょ~!!」

「お仕置きって………!!?」

「もう、綿古里さん!ちゃんと説明したでしょっ!処刑ですよぉ。」

処刑…!?まさか本当にやるの?秋雨君を殺してしまっている以上、

今更冗談なんてことはないだろう。

 

一体なにをするつもり?嫌だ!

これ以上誰にも死んでほしくない!

 

「待ってください!晴天様は罪を犯しましたが処刑なんてあんまりです!どうか許してください!

お願いします!」

 

「えー、嫌ですよー。人を殺しておいて罰がないなんてありえませんね。

お仕置きがないと私も観客もつまんないですし」

 

シープ君が涙目でジョーカーの足元に跪き懇願したがジョーカーは気にも留めてない。

 

「晴天、アタイが時間を稼いでやる。逃げな。」

鬼澤さんがジョーカーの前に立って晴天さんに言う。

 

「あーもう!流石に見殺しにはできひんやろ!オレも加勢するで!」

「OK!ワタシも頑張るヨ!」

「……。俺も」

「ヨツバを逃がすっス!」

木柳君、ソフィーさん五十嵐さん唯輝もジョーカーの前に立ちふさがる。

 

「微力ながら私も手伝わせて頂きます」

「やめろシープ。お前がやるくらいなら俺が行く。危険なことはするな。」

 

ウルフ君がシープ君の腕を掴んで引っ張る。そして自分が代わりに前に出た。

当然僕も加勢るすべきだろう。仲間を見殺しになんてできない。

助けてあげたい、力になりたい、死んでほしくない。

本心で心の底からそう思っているはずなのに僕は動けない。

 

怖い。

僕なんかが行っても迷惑だ。

力になるわけがない。足手まといだ。

そもそも晴天さんは皆を犠牲にしようとしていたんだぞ?自業自得じゃないのか?

言い訳ばっかり思い浮かぶ膝ががくがくと震える。

怖くて全然動けない。

 

「あーはいはい、おとなしくしててくださいね」

ジョーカーがそう言った直後に、どこからともなく無数の鎖が勢いよく伸びてきて

晴天さんの手足にからみつき皆の動きを封じた。

そしてその内の一つ首輪の付いた鎖が逃げる暇も与えずに、そのまま晴天さんの首をがっちりと捕らえる。

 

 

「死にたくない!助けて!嫌だ嫌だ嫌だっ!!嫌あああああああああ!!!」

 

 

晴天さんは必死に叫びながら身体ごと部屋の奥に暗闇の中に引きずられていった。

姿が完全に見えなくなった後に皆の鎖がほどけどこかに引っ込んでいった。

晴天さんはどうなったのか?そう考えたが考えるまでもなかった。

 

スクリーンに映っていたスロットマシーンの映像が真っ白に変わり大きな文字が書かれている。

 

 

 

        《セイテンさんがクロに決まりました。オシオキを開始します。》

 

 

 

その直後に再び映像がかわり晴天さんの状態が映った。

 

 

 

 

          【* 明日天気になぁれ ♪】

 

        《超高校級の幸運 晴天四葉 処刑執行》

 

 

大きな家の屋根に晴天さんは腰に縄を巻かれて吊るされている。

空は曇りでいつ雨が降ってもおかしくない。

 

晴天さんの近くの窓が開いている。中には母親の仮装だろうか?エプロンをつけているジョーカーがいる。

手には「遠足の注意事項と必要な物」と書かれた紙を持っていた。

そして3人の一回り小さめの園児服を着たジョーカーがいた。

3人ともパンパンのリュックサックを持って目を輝かせて、期待に満ちたかのような顔で

ぶらりと吊るされている晴天さんを眺めている。

遠足を楽しみにしている子供たちとその母親。晴天さんはてるてる坊主に置き換えている様だ。

晴天さんも理解したのだろう。真っ青な顔で手を前に組んで必死に晴れるように祈っている。

その祈りが届いたのかな?太陽が顔を出して晴天になる。

よかった…と晴天さんの表情にも安堵か浮かぶ。

 

だが太陽の光が晴天さんを照らしてしばらくたつと晴天さんが汗をかいてきた。

顔も赤い。どうしようこのままじゃ熱中症になっちゃう。

その直後!母親ジョーカーが縄を包丁で切った。晴天さんはそのまま悲鳴を上げながら地面に落ちた。

その後地面で痛そうに呻く、死んではないけど重症みたいだ。

逃げることなんてできない。母親ジョーカーが晴天さんに近づいて

そのまま晴天さんを肉切り包丁で切り始めた。

斬られている間ずっと晴天さんは暴れて叫んで全力で抵抗していた。

でもジョーカーは悲鳴も血飛沫も気にせずに手を休めることもない。

徐々に晴天さんがおとなしくなって力尽きた…。

そして晴天さんをバラバラにしてしまい楽しそうに鼻歌を歌いながら、

3人分の弁当箱につめると子供ジョーカー達に手渡しする。

子供ジョーカー達はそれを喜んで受け取り、リュックの中に入れると仲良く手をつないで

嬉しそうに青空を見上げながら遠足に向かった。

 

 

 

「うっひょーーーーー!初めてのお仕置きはいかがでしたか?いい仕事をしましたねぇ。私は!」

 

もの凄く楽しそうなジョーカーに何も言えなかった。

途中で映像から目を逸らしたかったけどそれすら出来なかった。酷い。酷過ぎる。こんなのって…!

人の命を人権をなんとも思っていないのか?言い返すどころか立てない。

地面に膝をついて俯いて吐いてしまわないように手で口を覆うので精いっぱいだ。

そんな僕のとなりに唯輝は来てしゃがみ込み何度も何度も優しく背中をさすってくれている。

唯輝自身もつらいだろうに…。

 

なんとか辺りを見渡すと皆、色々な反応をしていた。

泣きながら何度も誰かに向かって謝罪の言葉を発するシープ君。

そのシープ君の背中をウルフ君は優しくさすってもう片手で肩を抱いて何かを言っている。

 

「もう、もう嫌ですっ!解放してください!家に帰してくださいよぉ、うええええええええん!!」

なりふり構わず綿古里さんが泣き叫ぶ。

綿古里さんを泣いているソフィーさんと、綾織さんが優しく慰めていた。

喰田さんは怒りに満ちた目でジョーカーを睨みつけている。

 

小鳥遊さんはただスクリーンを見たまま茫然と立ち尽くしていた。

生原君は「ふむ、これがお仕置きか見てる分は楽しめたが贅沢を言うなら生で見てみたかったものだ。

終わってしまえばつまらんな。」

 

言葉の通りもう死んでしまった晴天さんに対して無感情だ。

見てるときに楽しんでいたって言うのも事実なんだろうな。

若鳩君はそれはもう満足げだった。アニメ好きの子供が自分の好きなアニメを見終わった後みたいな感じだ。

 

「ふざけんなや!!なんでこないなことすんねん!命をなんだと思っとるんや!!なにが目的やねん!!」

「そうっス!最低っスよ!!この外道!!!」

木柳君と五十嵐さんがジョーカーに怒鳴る。返事は…。

 

 

「うるさいですねぇ。まだこの舞台は始まったばっかりですよ?

出演者であるのに退場なんてできませんよー。私の目的なんてわざわざ言わなくてもどうせ分かりますって。例え皆様が知りたくないって言おうが喚こうがこの舞台の最後にはね!」

 

「どういう意味だい?」

 

「そのままの意味ですよ~。鬼澤さん。それまでせいぜい舞台を続けてください、

それと秋雨君の死体は綺麗に片付けておきましたからねー。それではまた!」

それだけ言い残すとジョーカーはどこかに行ってしまった。

出来れば二度と会いたくない。

いつまでも死体があるのは困るけど…せめてちゃんと埋葬してあげたかった。

この学園の中じゃ無理だろうけど…弔ってあげたかったのに。

それすらもしてあげられない。

 

 

その後、僕達は取り残された。

最初に喋り始めたのは若鳩君だ。

 

「あっはははははは!おいお前らぁなーんて面してんだよぉ!裁判もお仕置きも中々楽しめただろっ。

早く帰ってコロシアイ生活を続けようぜぇ!次はどうしようかなぁ、どうなるかなぁー。っ!!!!」

 

         ダンッ!

 

若鳩君はそれ以上喋らなかった。いや、喋れなかった。

目にも止まらない速さであっという間に鮮やかにウルフ君が若鳩君を床に組み伏せていた。

 

「おい、ウルフどうするつもりじゃ?」

「綾織、決まってんだろ。腕と足。一本ずつ折る。安心しろ若鳩。

腕は利き手じゃねぇ方を折ってやるよ。どっちだ?」

 

えっ!?いやいやそんなあっさりと当然の様に言われても!

 

「ウルフ、何のつもりだい?」

「今回の件はこいつにも責任があるだろ。ろくでもねぇ奴だって事も分かったしな。

逆に聞くがこれだけの事をやらかしてあんな本性を見て何にもしねぇのか?

殺されないだけ感謝してほしいくらいだな。」

 

鬼澤さんの問いにウルフ君が冷たく答える。

ウルフ君の言っている意味は分かる。

 

若鳩君が余計なことをしなくなるように処置をするってことだろう。

 

「言っておくが止めろとかやりすぎとか言うなよ。そんな綺麗ごと言うなら若鳩が次に同じようなことをしたときに責任がとれるか?」

僕を含めて何人かがウルフ君に何か言おうと口を開こうとしていた。

でもその前に釘を刺されてしまう。

言い方はきついけど正論だ…。

 

「お兄様!お願いですやめてください。どうかご慈悲を…!他の方法を考えましょう?」

シープ君が必死に涙目で訴える。

 

「…チッ」

ウルフ君が舌打ちをして若鳩君に手刀を叩きこみ気絶させた。

 

「シープに免じて止めてやる。こいつの、若鳩のこれからの処遇をどうするか話し合って決めるぞ。

お前ら、話し合いたいに参加したいならついて来い」

「……お兄様。ありがとうございます」

 

気絶した若鳩君を引きずってウルフ君がエレベーター向かう。その後をシープ君がついて行く。

 

「アタイも参加するよ」

「私も行くわ」

「オレも行くで!」

「吾輩も行くぞ!マジシャンの処遇はどうでもいいが。どんな結果になるのか見ておきたいからな!」

 

鬼澤さん、喰田さん、木柳君、生原君は話し合いに参加するみたいだ。

 

「もう終わったんでしょ~。さっさと帰って寝よーっと~(´ぅω・`)」

 

小鳥遊さんは大あくびをするとエレベーターに向かった。部屋で寝たいようだ。

 

「儂は本の続きでも読むとするかの。」

綾織さんあんなことがあった後なのに…。のほほんっとしている。

 

ソフィーさんと五十嵐さん、綿古里さんも行ってしまった。

こんなところにいつまでもいるわけにもいかないし、いるのも辛い。

 

 

最後に残ったのは僕と唯輝の二人だけだった。

なんて声を掛ければいいんだろう?

 

"大丈夫?"

そんなわけ…大丈夫なわけがない。

 

"なんとかなる?"

何をしようともこの最悪な状況は変わらないし変えれる案もないし無責任だ。

 

"気にしないで?"一緒に過ごしていた仲間が殺されて目の前でお仕置きされて、

しかもお仕置きされたのは僕達がボタンを押したからだ。

なのにそんなこと言えるわけがないし、言ったところで気にしないことが出来るわけがない。

それどころが…。

人に声を掛けるどころかまだ僕はしゃがみ込んだままで立ち上がることさえできていない。

背中をさすってもらっているままだ。

 

 

「……!」

唯輝は背中をさするのを止めて黙って優しく頷いてくれた。

今の僕は顔色が悪いだろうし、気分が悪い。いつ吐いてもおかしくないように見えてるだろう。

このまま吐いてしまったら唯輝も汚れるだろうに…。

 

…自分が惨めで情けない。

 

「ごめん……。」

それだけ言うと僕は泣いた。一度泣いてしまうと涙が止まらなくなってしまった。

散々泣いた後には色々なことを言ってしまった。

内容は覚えて無いけど不安や悲しみなんかを言葉にしてぶつけてしまっていたと思う。

でも唯輝はずっと黙って言い返すことも不満を言うこともせずに最後まで聞いてくれていた。

時々「ちゃんと聞いているよ」と言うように話に相槌を打つかのように優しく背を撫でてくれた。

いつもなら「子ども扱いしないでよ!」って手をのけていただろうけど今はそんなことしない。

 

 

僕は落ち着いた後に唯輝に謝った。

いつものように「別に」って言ってくれた。

そして一緒にエレベーターに乗って帰った。

 

…。もう二度とこんな事が起きないように頑張らないと

具体的には何をどう頑張ればいいのかは分からない。でも決意だけはしなくちゃと思った。

 

頑張ろう。

 

 

 

                  《生き残りメンバー》

 

           有馬 唯輝 【俳優】    綾織 博夏  【図書委員】

           生原 命  【生物学者】  五十嵐 俊穂 【陸上部】

           ウルフ   【マフィア】  鬼澤 凛   【柔道部】

           江ノ本 望夢【脚本家】   喰田 奈味  【グルメリポーター】

           木柳 修哉 【大工】    ソフィー・リエーティ【ピアニスト】

           シープ   【牧師】    小鳥遊 架澄 【ゲームクリエイター】

           若鳩 空智 【マジシャン】 綿古里 安麻依【手芸部】

 

         

                    《DEAD》

 

           秋雨 彦吉【不運】…晴天 四葉により撲殺。

           晴天 四葉【幸運】…学級裁判で敗北により処刑。

               

                                  ……残り14人。

           

 

 

 

               【CHAPTER 1 】舞台の開幕は絶望と共に。【END】



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【CHAPTER1。幕間】girl・boy last

『一章。シロ?編』

 

秋雨彦吉は「不運」だった。

何もない所でも転び。よく怪我をし。

新しい靴を履いたり新しい服を着れば必ずその日のうちに汚れる。

テスト前日に勉強すれば当日に具合が悪くなるかヤマが外れる。

目の前の信号は必ず赤。

じゃんけんで勝ったことがない。

性格と不運のせいで友達なんてものは一人もいない。

お気に入りの物は何回か使ったら壊れるか紛失する。

おみくじでは大吉どころか吉すら引いたことがない。

引いたことがあるのは凶だけだ。

 

そんな彼のもとにあの希望ヶ峰学園の通知が届いた。

信じられなかった。何度も何度も見直したし。顔を冷水で洗った。

これは夢だろうか?と思った。

だけど何度も見直しても、顔を洗っても通知は変わらなかったし。

ほっぺたをつねったらちゃんと痛かった。

 

両親は自分の事のように喜んでくれた。両親は良い親だし大好きだ。

兄は大嫌いだけど、両親は自分なんかにはもったいないくらいの本当に良い両親だ。

どうせこの通知は誰かのイタズラだろう希望ヶ峰学園に行ったら、

その誰かに笑われて馬鹿にされるだろう。

偽物だと証明するために希望ヶ峰学園に行ってやろう。

万が一、億が一にも本物だったら儲け物だ。卒業して親孝行しよう。

そう思って入学を決意した。

 

結果、通知は本物だったが…。

コロシアイ学園生活に参加することになってしまった。

 

初日の自分の居室にて彼は部屋を調べることなく、真っ先にベットの上に座り

頭を掻きむしりブツブツと独り言を言っていた。

まだ初日だが…。

秋雨彦吉は誰よりも不安で不安で仕方がなかったしイライラしていたし焦っていた。

(早く、早くここから出ないと…!どんな手をつかってもどんなことをしても、

何を犠牲にしてでもボクは死にたくありません!)

 

普段からネガティブでマイナス思考な彼が耐えられるはずがなかった。

それに自分がどれだけ不運なのかは自分自身が嫌って言うほどに知っている。

初日にて人を殺す決意を、皆を犠牲にする覚悟をした。

皆で協力する?外からの救助を待つ?そんな悠長なことを言っている場合ではない。

自分は「超高校級の不運」なのだ。

無人島に他の皆が武器や食料を持ってきている中に丸腰で挑むようなものだろう。

生きて生還できる、誰かに助けてもらえる。

そんな「幸運」が自分のようなゴミ虫に訪れるはずがない。

 

どうすればいい?

決意しても覚悟を決めても学級裁判とやらをして勝たなくてはいけない。

 

他の皆のような才能もないし他の皆を騙せるほど頭がいいわけでもない。

自分に出来ることをしようと思い手帳に殺人の事を色々考えて書き込んだ。

頭で思うことを字にして書いた方が後で見直せるしハッキリすると思ったからだ。

それに少しでも気を紛らわすために何かをしておきたかった。

その日はいつの間にか寝てしまっていた。

 

事態は好転するどころか悪化していた。

紛失するのが嫌で手元にないと不安だったので手帳をポケットに入れていたのだが

無くしてしまった。

 

探しても探しても見つからない。

さらにはジョーカーが動機を出してきた。記憶を消す、ランダムで一人を選ぶ?

 

(そんなのボクが選ばれるに決まっているじゃないですか…!)

頭が真っ白になり気が付いたら走り出していた。逃げる場所もないのに。

そしていつも通りに何もない所で転んだ。

 

「えっと…大丈夫?」

そう言っておずおずと手を差し伸ばしてきたのは

「超高校級の脚本家」の江ノ本 望夢だった。

心配で追いかけてきてくれたのだろう。意外だ。気弱そうなのに。

でもそんなことはどうでもいい。

睨みつけた後に無視して立ち去ろうとしたが呼び止められた。

そして「協力しないと」「皆で力を合わせて頑張ればなんとかなる」

「大丈夫」「気持ちもわかる」と綺麗事を言ってきた。

 

何でこの状況で、この期に及んでそんなことが言えるんだ…?

………。そうか恵まれているからだ。才能を持っていて。友人がいる。

不運な奴に対しての哀れみか。

自分はこんなゴミ野郎なんかにも優しくしてやろうという情け。

それか無様で情けない奴を気にかけることで優越感でも得たいのか。

 

周囲に対する点数稼ぎか。そんなところだろう。むかつく…!

大声で怒鳴ったら相手は尻もちをついた。

「構わないでください」と言ったのにも関わらず腕を掴んで止められた。

腕を放された後に頭を下げられた。謝罪をされて「仲間だと思っている」

「友達になってくれないかな?」と言われた。

訳が分からなかった。

何の才能もない「不運」の自分と友達になっても何の得もないだろうに。

それに悪いのは、謝るべきなのは明らかに自分だ。

心配してわざわざ追いかけてきてくれた人に怒鳴って八つ当たりして。

非難されても文句を言われても見棄てられてもいいくらいなのに。

 

「…。すみませんでした。」

「え?」

 

驚いた顔をした仲間に謝った後に逃げるように走り去った。

 

 

秋雨彦吉は江ノ本望夢を殺しのターゲットに決めた。

だけど勘違いしないでほしい。彼が憎いわけでも嫌いなわけでもない。

自分なんかを心配してくれて「仲間だと思っている」と言ってくれた。

気弱なのに、怯えたような…泣きそうな顔で

逃げたりせずに謝罪をして頭を下げてくれた。

こっちの方から友達になってくれと頼みたいくらいにいい人だ。

 

「不運」の自分が友達を殺さなくて済む「幸運」に恵まれるわけがない。

だから上手くいくはずだ。

失敗してしまうかもしれないがこのまま何もしないでいるよりずっとましだ。

 

準備をして食堂に向かうといたのは江ノ本ではなく晴天だった。

(!?…な、なんで晴天さんが?料理当番でもないのに!)

 

「え、秋雨くん?どうして?」

 

(それはこっちのセリフですよ…。どうしましょう。嘘をついて誤魔化しましょうか?)

いや、この機会を逃したら記憶をジョーカーに消されるまで二度と訪れないだろう。

誰かが殺したとしても学級裁判で死ぬかもしれない。

ここで殺るしかない…!晴天がここに来たのは偶然だろう。

その偶然を利用してやる。

 

「秋雨くん?どうしたの?恐い顔してるよ…?」

「すみません…。死んで下さい!」

 

懐に隠していた包丁を手に取って襲い掛かる!

 

「きゃっ…!」

 

間一髪で避けられた。

無我夢中で相手を殺そうとするが向こうも必死で抵抗してきた。

 

「冷静になって」「殺しなんてやめて」「落ち着いて!」

 

色々言ってきた。説得でもしたいんだろう。

うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!

殺しが悪いことなんてそんなの分かってる!

早く殺さないといつ江ノ本が来るのか、誰かが来るのか分からない!

証拠隠滅だってしないといけないのに!

 

相手が厨房に逃げ込んだ。

急いで後を追う。

 

この時、秋雨彦吉は急いで後を追うのではなく。一度冷静になるべきだった。

そうすれば少なくともすぐに死ぬことはなかったし、

もしかしたら晴天四葉を殺せていたかもしれなかった。

しかし恐怖心や焦りでまともな精神状態ではない彼にそんな余裕なんてなかった。

 

「…!」

 

何もない所で足がもつれて転んでしまった。

 

(まずい…!早く立ち上がらないと!)

そう思って立ち上がろうとした直後。

 

   ガシャン!!!

 

後頭部に痛み、衝撃が走る。

 

 

…失敗してしまった。計画も上手くいかなかったし殺しも出来なかった。

それどころか今ここで死にかけている。いやもうじき死んでしまうだろう。

でも悔しいとか思わなかった。

いや…。

友達を殺さなくて済んだと、他の皆に生きているときに裏切りがばれなくて良かったという安心があったのかもしれない。

最期の自分の墓場が厨房なんて思ってもみなかった。

 

走馬灯なんて見えない意識がだんだんなくなっていく…。

「家族」にも会えずにここから出られずに計画も失敗し殺される。

 

(ボクのような皆を犠牲にしようとしたクズにお似合いの最後ですね…)

ふと頭の中にあの時の事が思い浮かんだ。

江ノ本が友達になってくれと情けない声で言ってきた時の事だ。

こんな自分でも、もう一度同じセリフを言ってくれるだろうか?

もしも願いが叶うのなら、殺し合い学園生活じゃなくて

普通の学園生活を送りたかった。

少なくても何人か頑張って友達を作って両親を安心させてあげたかったし

人並みの青春をしてみたかった。

 

(…。本当にすみません。特に晴天さんと江ノ本さん)

もしも普通の学園生活を送れていたら、記念すべき友達一号は

江ノ本だったかもしれないとそんなことをぼんやりと考えながら

 

秋雨彦吉は嘲笑を浮かべて死亡した。

 




誤字報告ありがとうございます!


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【CHAPTER1。幕間】girl・boy last №2

『一章。クロ編』

 

晴天四葉は「普通」だった。

容姿も普通だし。体型も肥満でもやせ型でもない普通。

テストを受ければ平均点を少しだけ上回るか下回るかくらい。

平凡な家庭に家族。平凡な家庭。

あるのはあってもなくても変わらないようなささやかな「幸運」だけだ。

 

でも彼女は「特別になりたい」「退屈」「才能が欲しい」等、一切思わなかった。

今の自分や環境に不満なんてなかった。

自分より劣っている人も、自分より不幸な人もいるし「普通」すら手に入れることができない人もいる。

優れている特別な才能を持っている人は周りの期待とかが重いだろうし、

特別な環境で育った人はその影響を悪い方で受けてしまうかもしれない。

自分の好きなように不自由なく過ごせていける。

そんな自分は「幸運」だと思っていた。

 

そんな彼女のもとにあの希望ヶ峰学園の通知が届いた。

信じられなかったし、正直行きたいと思えなかった。

周りは天才だらけなのに凡人の自分が行くなんて悪い意味で浮いてしまうだろう。

でも周りの友人達や家族は大喜びだった。

気の強い性格だったら「行かない!」と断れていたかもしれない。

でも「普通」の彼女にはそれができなかった。

 

結果。

 

殺し合い学園生活に参加することになってしまった。

 

 

初日は自分の居室のベットの上に寝っ転がってぼんやりとすることしかできなかった。

いまだに現実を受け止めきれなかった。

学園側の悪趣味なドッキリだろうと思ったし、万が一そうじゃなくても大丈夫。

何とかなる。自分以外の人もいる。助けが来ると何度も何度も自分自身に言い聞かせていた。

 

しかし、事態はまったく好転しなかった。

ドッキリでした!っていうプレートは出てこなかったし脱出の糸口もないし非協力的な人達もいる。

動機まで出されてしまった。

でもまだ現実を直視できなかったし自分にまだ大丈夫って言い聞かせていた。

 

それくらいしか出来なかった。

 

…仕方ないじゃないか。

自分は力も知恵も才能もない普通の一般人なのだから。

 

ベットに横になっているといつの間にかドアの前に紙が落ちていた。

拾って見てみると差出人は江ノ本だった。

大事な話?何だろ?一人で来てほしい?

まぁいいか。

心細くて不安だったので誰かと話したかった所だったし相手が体力も力もなさそうな江ノ本なら安心だ。

せっかく大事な話をしてくれるのだから断るのも悪いし。

 

この時、晴天四葉はもう一度考え直すべきだった。

そうすればあの気弱な江ノ本が女子を一人で呼び出すなんておかしいと、

直接本人に言うんじゃなくて手紙でだすなんておかしいと気づけたかもしれなかった。

自分の置かれている現実にも目を背け楽観的に考えてしまっている彼女はそれをしなかった。

 

食堂に早めに向かい、自分の好きなカフェオレを作る。

カフェオレを飲んでのんびりとしていた。

もう6時過ぎたのにまだかなぁ。

後10分くらいたっても来なかったら一度自分の部屋に戻ろうとぼんやりと考えていた。

 

ガチャ…。

 

「え、秋雨くん?どうして?」

 

来たのは江ノ本ではなく秋雨だった。

マスクをしているため口元は分からないが、それでもはりつめたような雰囲気や

恐い顔をしていることは分かった。

 

「秋雨くん?どうしたの?恐い顔してるよ…?」

 

「すみません…。死んで下さい!」

 

声を掛けた直後に襲い掛かられた。

 

「きゃっ…!」

 

間一髪で避けた。いや避けられたのは本当にたまたまだ。

少し遅かったら運が悪かったら確実に殺されていた…!

 

必死に抵抗する。秋雨は本気で殺しにかかってきている。

 

「冷静になって!」

 

「殺すなんてやめて!」

 

「落ち着いて!」

いくつも言葉を投げかけるが。

相手が納得するには至らなかった。

 

死にたくない!殺されたくない!助かりたい!

 

無我夢中で厨房に逃げ込む。

当然相手は追ってきた、だがその後に転んだ。

 

「…!」

 

  ガシャン!!!

 

気が付くと近くにあった醤油瓶で殴ってしまっていた。

秋雨はぐったりとしていて動かない。頭から血が出ている。

自分が硬い瓶で殴ったのだから当然だ。

 

脳裏を過ったのは校則のことだった。7,8の校則だ。

 

人を殺してしまった。学級裁判で指摘されればお仕置き…。処刑されてしまう。

 

(嫌だ!嫌だ!どうしよう!死にたくない!!)

 

殺すつもりなんて毛頭なかった。必死に抵抗した。無我夢中だった。

 

こんなの不可抗力だ。

 

人を殺す決意も皆を犠牲にする覚悟だってしてないのに!

今更秋雨を手当てをしても無駄だということは素人でも分かる。

 

皆に事情を説明して助けてもらう?

いや、クロを指摘できなかったら残りの皆が死んでしまう。

出会って数日しかたっていない人の為に死んでくれなんて言えないし言っても無駄だろう。

人を殺してしまったという事実と学級裁判で負けたらお仕置きされるというルールで頭が混乱する。

だけど無情にも時間は過ぎる。

 

急いで証拠隠滅をしなければ。早くしないと誰かが来てしまう。

 

(どうしよう…!取り合えず床を綺麗にして)

 

そう思い厨房から出ようとした所で校則を思い出す。

床を綺麗にするにはモップか雑巾が必要だ、でも念入りに綺麗にする時間なんてない。

 

外に取りに行って帰ってくる時に誰かに見られてしまうかもしれない。

 

こうなったら…!

 

木を隠すなら森の中っていう言葉があるくらいだ。逆に散らかしてしまえばいい。

床に調味料の瓶を勢いよく叩きつけて割る。コップも割っておこう。

匂いとかでカフェオレを飲んでいたことがばれるかもしれない。

後は江ノ本に疑いが向くように手紙をわざと分かりやすい所に置く。

 

急いで部屋に帰って着替える。

この服はどうしよう?洗濯する時間もないし焼却炉で処分したくても鍵を持ってない。

自分の部屋に隠すしかないか…。

 

 

〈ピーンポーンパーンポーン♪死体が発見されました!一定の捜査の後、学級裁判を開始します!〉

 

捜査なんて碌にできなかった皆に対する罪悪感と、良心の呵責で泣きそうだし吐きそうだ。

今すぐ全てを話して楽になってしまいたい。

でも、皆に非難されたくない、怒られたくない、人を殺したことを知られたくない、認めたくない。

 

死にたくない。

 

…大丈夫だ。

14人もいるとはいえ、映画や小説のように探偵がいるわけではない。証拠隠滅だってした。

自分より江ノ本が疑われるはずだし、自分の部屋には入れないはずだ。

余計なことをしないでいつも通りに振舞っていれば、ミスをしなければ、ばれないハズだ。

 

(皆、ごめん。本当にごめん。でも私は死にたくない!)

 

 

結局、学級裁判に負けお仕置きされてしまった。

 

…でも殺人が、裏切りがばれても尚、庇ってくれる人達がいる。

これ以上に苦しむこともなく、悲しむこともなく、

残酷な真実を知る前に殺し合い学園生活を退場することができた彼女は幸運なのかもしれない。

 



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最期の餐はベノム味
【CHAPTER 2 】〈探索編〉前半


長い間投稿できずにすみません!やっと書けました!


〈ピーンポーンパーンポーン♪〉

 

 

朝が来た。昨日のことを思い出してしまい、よく眠れなかった。

こんな状態でも寝れそうな人も何人かいるけど。

…まだ早いけど食堂に行こう。

いつまでも部屋に籠っているわけにはいかないし、心配も掛けたくない。

他の皆の事が気になる。

それに、僕が行かなかったら他の人にも悪いしね。

 

そういえば若鳩君も料理当番だったはずだ。どうなったんだろう?

 

綾織さん、喰田さん、シープ君の3人で準備してるのかな?

 

足取りは重いけど、手伝いに行こう。

 

 

 

食堂に着いた。

料理当番の人だけと思っていたけれど、唯輝とソフィーさんも来て手伝っている。

 

ウルフ君と生原君も着ているけど、手伝わずに見ているだけで、

五十嵐さんは木柳君とお喋りしてるみたい。

 

……あれ?喰田さんは?彼女も料理当番のはずだ。

しっかり者の喰田さんが遅れるなんて珍しいな。

 

そう思った直後にドアが開き、喰田さんが現れ、引きずって連れてきた

小鳥遊さんを椅子の後ろに乱暴に置いてから食事の準備に行ってしまった。

 

なるほど呼んできたのか。小鳥遊さんは、放っておくとずっと部屋で寝てそうだもんな…。

 

何か手伝おうと思って来たけど、皆の手際の良さを見ていると

僕の手伝いはいらなさそうで、むしろ邪魔になるかもしれない。

おとなしく座って待っていよう。

 

その前に若鳩君のことを聞いておこうかな。

誰に聞こうか…?話し合いに参加していた人がいいよね。

邪魔したら悪いから、食事の準備をしてる人以外にしよう。

 

五十嵐さんと木柳君はまだ会話中で割って入るのも悪いし…。

ウルフ君は怖い。しょうがない、消去法で生原君にしよう。

 

「生原君、昨日の若鳩君の処遇の話し合いがどうなったのか教えてくれる?」

 

「勿論いいぞ!脚本家よ。教えてやるからありがたく聞け!

監視をすることになったぞ。監視役はマフィア、柔道部、

大工、吾輩で交代しつつ行う!当初は両手を縄で縛るだけの予定だったが

マジシャンの縄抜けもできるという言動から、監視を付けることになった!

夜には両手両足を拘束してから大工かマフィアの部屋で寝かせるらしいぞ。」

 

まぁ…。それだけの事をやらかしたもんなぁ。

 

武道系の2人と、体格のいい怪力の木柳君か、それなら安心だ。

 

生原君が不安だけど…。

 

「生原君も監視するの?」

 

「そうだぞ!マフィアや大工、グルメリポーター、柔道部は反対したが

マジシャンが吾輩が監視になるなら大人しくしていると、希望したのだ。

吾輩はマジシャンも好きだからな!大歓迎だ!」

 

成程ね。若鳩君は生原君を気に入ったって言ってたもんな。

 

今は若鳩君どこにいるのかな?

 

気になったけど、若鳩君が鬼澤さんと一緒に厨房から出てきた事で、その疑問はすぐに解決した。

 

「よーぉ、江ノ本おはよーさん!」

 

若鳩君は昨日の事なんて反省していない様で、いつもみたいにへらへらしている。

 

「おいおい、もう8時になるぜぇ。綿古里は?まさか死んだのかぁ?

死ぬんならど派手に面白く死ぬか生きてるときにオイラのど肝を抜くような…。」

 

「若鳩」

 

鬼澤さんが若鳩君の台詞を遮る。

目と有無を言わせぬ気迫が全身で「黙れ」と言っている。

 

若鳩君は軽く肩をすくめると大人しく近くの椅子に座った。

 

「…アタイが呼びに行ってみるよ。心配だし…」

 

ガタッ。

 

椅子を引く音の方を見ると喰田さんが立ちあがっていた。

明らかに不機嫌でピリピリとした感じだ。

 

「喰田サン?」

 

皆の視線も、話しかけるソフィーさんも無視して、荒れた雰囲気のまま食堂から出て行ってしまった。

「ちょっと!どこに行くんだい!待ちなって!…あー、もう!!

 ここはアタイに任せてアンタら先に食べときな!喰田と話した後に綿古里の所に行くから!」

 

鬼澤さんは僕達にそう言うと喰田さんを追いかけて出て行ってしまった。

 

どうしよう?僕も追いかけたほうがいいかな?

 

「おい、なにボーっとしてんだ。先に食っとくぞ」

 

「ウルフ、でも…ええんか?」

 

「せっかくの飯が冷めんだろうが。それにただ呼びに行くだけなのに大人数で行くのかよ。

 鬼澤が自分から任せろって言ってんだからいいだろ。」

 

まぁ、それもそうか。大人数で行くのも良くないだろうし、お腹もすいたしな…。

 

「時間が掛かるようダッタら、探しに行こうヨー!」

 

ソフィーさんの提案に賛成して、今いる皆で先にご飯を食べることにした。

 

「はーい!皆様おはようございますっ!」

 

うわぁ、ジョーカーかぁ。会いたくないのにな。

 

「消えろ。目障りだ。」

 

「どっかに行くっス!」

 

「お前なんか大嫌いや!」

 

ウルフ君、五十嵐さん、木柳君をジョーカーは無視して話し始めた。

 

「皆様に良い事を教えてあげようと思いましてねぇ。」

 

良い事?信用できないな。

どうせ、ろくでもない事だろう。

 

でも、このおかしい状況の情報が少しでもほしいから聞いた方がいいかな…。

ご飯の前に聞くだけ聞いておこう。

 

「二階へのシャッターを上げて行けるようにしておきましたよ!

 皆様への学級裁判に勝ったご褒美です。行動範囲が広くなるんですから感謝してくださいね~」

 

ありがたいけど、感謝はしたくないな。

僕達をこんな目に合わせている訳だし。操ってるのは、黒幕はどんな人だろ?

 

「学級裁判が終わるたびに上の階に行けるようにしてあげますからねっ。頑張ってください!」

 

頑張るも何も、学級裁判なんて二度とやりたくない。

言い終わった後、ジョーカーはまたどこかに行った。

 

「うむ、新しく2階に行けるのじゃな。物語が進むのう。探索に行くとするか。」

 

「ヒロ!ご飯を食べてからにするっスよ!後で皆で探索するっス!」

 

早速探索に行こうとする綾織さんを、五十嵐さんが呼び止めた。

綾織さんは黙って頷いてから席に座る。

 

さて、ご飯にしよう。やっと食べられる!

 

皆でご飯を食べていると食堂のドアが開いた。

 

あっ!喰田さんと鬼澤さん。そして、綿古里さんもいる。

綿古里さんも含めて3人が来てくれたことに対しては喜ぶべきだろう。

でも素直に喜べない。

 

何故なら…。

 

喰田さんと鬼澤さんの間に険悪な雰囲気が流れているし、綿古里さんは

目を真っ赤にして泣いている。

 

何があったんだろう…?

 

「わー!どうしたんっスか!」

 

「皆様、何があったのですか?綿古里様大丈夫ですか?」

 

「何?」

 

「何か力になれるコトがあったら言っテ!どうしたノ?」

 

「どないしたんねん!言ってみい!」

 

五十嵐さん、シープ君もソフィーさん、木柳君も食事を中断すると

席を立ち、3人に声を掛けている。

 

唯輝も「何?」としか言ってないし無表情だけど心配している。

 

ウルフ君はどうでもよさそうに見ている。小鳥遊さんは見てすらいない。

綾織さんはじっと見ているけど、何を考えているのか分からないな…。

若鳩君と生原君は楽しそうに見ている。

 

僕も3人の元に席から立って駆け寄る。

とりあえず何があったのか聞かないと!

 

「皆、心配してくれてありがとうね!でも大丈夫だから安心しな。」

 

「いや、喰田さんか、鬼澤さん。何があったか聞かせてくれる?気になるし。

話したくなくても…。時間が掛かってもいいから話してくれないかな?」

 

僕がじっと目を見つめて話すと軽くため息をついて話してくれた。

喰田さんはそっぽを向いたままだ。

隣では五十嵐さんとソフィーさんが綿古里さんを慰めている。

 

「あの後、喰田を追いかけたんだけどね。綿古里のドアの前で何度もインターフォンを鳴らしてたんだ。

 綿古里が怖がった様子で出てくると、

 喰田は「いい迷惑だからさっさと出てきなさい。」「あんた皆で決めたルールも守れないの?」

「つらいのはあんただけじゃないのよいい加減にしてくれる?」とか酷い事を言うんだよ!」

 

怒りを露わにして言う鬼澤さんに対して喰田さんは

 

「何よ。本当の事じゃない。うじうじして皆に迷惑をかけて綿古里あんたむかつくのよ。

 鬼澤、私は自分の言いたいことを言っているだけよ。

 わざわさあんたらと喋る度に気をつけないといけないの?そんなの嫌よ」

 

全くひるみもせずに堂々と言ってのけた。

 

「おい喰田!そんな言い方はないやろ!仲間なんやから助け合うべきやで!気遣えや!!」

 

「黙りなさい、木柳。」

 

「なんやと……!!」

 

「あんたの言う「仲間」は顔色を窺って機嫌をとらなくちゃいけないの?

 自分の気持ちを無視しても相手を立てなくちゃいけないくて、

 赤ん坊みたいにあやさなくちゃいけない奴?

 困っていれば自分はなんにもしなくても勝手にどうにかしてくれるロボット?

 そんなのならいらないわ。分かったら黙ってくれる?筋肉だるま」

 

「てめぇ…!!!」

 

「わーーーーーーー!ナギ駄目っス!」

 

「stop!!木柳サン!」

 

近づいて喰田さんに手をあげようとした木柳君の右腕を五十嵐さんが、

左腕をソフィーさんが掴み止めた。

 

「…」

 

唯輝は喰田さんを庇うように黙って前に立った。

そして「二人とも悪い。謝って」と言った。

 

だけど…。

 

「はぁ!?何でオレがこんなやつに強要されて、謝らんといかんねん!

 仲間が死んで悲しむのは当たり前のことやろ?なのにきつい事言っておいて

 何とも思ってへん喰田が悪いやろ!!!」

 

「私もあんたなんかに謝りたくないわ。私に命令するなんて有馬、

 あんたそんなに偉くなったの?うざいからほっといて。」

 

まずい…!

唯輝は木柳君には「暴力はよくない、喰田さんには皆に為に少しでいいから言葉に気をつけてほしい」

「皆大切な仲間だから喧嘩している場合じゃない協力してほしい」って言うのを言いたいんだろう。

 

でも、全然言葉が足りない上に、声が普段より大きめだし、淡々としている。

さらに目つきが悪いせいで威圧感があることも助長して、他の人から見たら

二人に謝れと強要しているように見えているみたいだ。

 

どうしよう…。なにか言うべきかな?

何を言おうか言葉を選んでいるうちに頭が混乱してきて、食堂が静寂に包まれる。

 

「………」

 

僕達の視線と雰囲気に耐えられなかったのか、喰田さんがため息をついてから、口を開いた。

 

「…一応謝っておいてあげるわ。ごめんなさい。これでいい?」

 

「いや、なんやねんその態度!オレも悪かった。…すまへんかった」

 

喰田さんの後に木柳君がいつも通りの切れのいいツッコミを入れて謝った。

だけど二人とも渋々謝った感じだ。

 

その後、揃った皆でご飯を食べた。木柳君と喰田さんも一緒に。

よかったぁ…。

一応とはいえ、仲直りしてもらえて。

 

 

焦りは禁物だし、無理やり仲良くしてもらおうとするのも良くないだろうから

時間は掛かるかもしれないけど、少しずつ仲良くなってくれるといいな。

 

 

さて、ご飯も食べ終わったし片付けも手伝って終わったし、早速二階を探索するぞ!

電子生徒手帳を起動させて地図を見ると二階のも見れるようになっていた。

 

新しく行けるようになった所は図書室。プール。保健室。大浴場(サウナ)。

トレーニングルーム(更衣室)か。

 

図書室は綾織さんが喜びそうだな。

大浴場は和風だったら唯輝、ソフィーさん。

トレーニングルームは五十嵐さんと鬼澤さんが喜びそうだ。

 

映画館とかあればいいのに。

 

まぁ、贅沢なんて言ってられないか。こんな所、長居もしたくないしな。

 

唯輝にさっそく大浴場に行こうと言われたけど探索したいからごめんと断った。

 

この前の学級裁判から、落ち込んでいるみたいだし、後で励ましにいこう。

一人でも探索くらいできるからね。

 

よしっ、時間は沢山あるし行くぞ!

 

最初に来たのはプールだ。別に泳ぎたいってわけじゃない。

僕は体力がないしそこまで酷いわけじゃないけど運動音痴だ。

 

そこには鬼澤さんと五十嵐さん、若鳩君がいた。

 

「あれ?二人とも泳ぎに来たの?」

 

僕の質問に2人は答えてくれた。

 

「違うよ。江ノ本、アタイと五十嵐はトレーニングルームでトレーニングしようと思ってきたんだよ」

 

「?」

 

「さっきジョーカーに聞いたら更衣室にトレーニング機器が勢揃いしてるらしいっス!

プールはその奥にあるらしいっスよ!」

 

へぇ、なるほどね。僕も少しくらいはトレーニングしようかな。

人並みの体力と運動神経は欲しいし。

 

「江ノ本~。ドアの横にあるカードリーダーに電子生徒手帳を重ねれば開くらしいぜぇ。

その赤の扉を開けてみ…いてぇ!!」

 

台詞の途中で若鳩君は隣の鬼澤さんに頭を叩かれた。え?何で?

 

「江ノ本、ドアに貼ってあるプレートを見てみな」

 

鬼澤さんに言われてドアに近づいて見てみた。

赤と青のドアがあるけど、赤でいいや。あっ、「女子更衣室」って書いてある。

 

ふと、ドアの上を見てみた。

そしたら天井にガトリング砲が設置されていて銃口がこっちを向いている。

 

ええええええ…!

何でこんな物が?物騒すぎるでしょ…これって…本物だよね?

 

「異性の更衣室に入ろうとしたらハチの巣にしてやる!って万が一全ての銃弾を躱しても

 お仕置きするってジョーカーが言ってたよ。」

 

いや、万が一ってそんな芸当出来る人いないでしょ。いたら人間か疑うレベルなんだけど。

 

「教えてくれてありがとう鬼澤さん、死んじゃうところだったよ。

 若鳩君、さっき僕に女子更衣室に入るように言ったよね?どういうつもり?」

 

「面白そうだからっ!人が目の前で撃たれる所なんて見た事ねーし!一度くらい見てみたいだろ?

 安心しろよぉ。マジックで生き返らせてやるからよぉ!」

 

悪びれる様子もなくケタケタと笑ってる。

人が目の前で撃たれる所なんて普通は一度も見たくないんじゃないのかなぁ。

 

「トモ!すげーっス!マジックってそんなことも出来るんっスね!!」

 

「おー。そうだろそうだろぉ。五十嵐ぃ、お前でいいから…」

「若鳩、あんたを女子更衣室に入れてやろうか?」

 

「すみませんでしたぁー。オイラが悪うございましたぁー。」

 

鬼澤さんに睨まれて若鳩君はあっさりと謝った。

まぁ笑っているから反省はしてないだろうけど。

 

「とりあえず、アタイが若鳩を見張っているから江ノ本が男子更衣室。

五十嵐が女子更衣室に入って中を調べてきてくれるかい?」

 

「了解!任せるっスよ!」

 

「うん、いいよ。ちょっと待っててね。」

 

女子更衣室は五十嵐さんに任せて僕は男子更衣室に入った。

 

 

男子更衣室の中は青色のカーペットに白い壁。

女子アイドルのポスターが貼ってある。

ランニングマシーンに色んな大きさのダンベルに名前の知らないトレーニング機器、

水色のベンチに普通のロッカー。

部屋の端っこの籠の中には清潔な真っ白いタオルが沢山あるな。

 

女子更衣室の事も聞いたけど大体同じだった。

違うのはカーペットとベンチが赤色。ポスターが男子アイドルなくらいらしい。

 

プールに行ってみたら大きな競泳用プールだった。

入り口近くの壁に床暖や暖房や冷房を入れれるスイッチがある。

浮き輪もビード版もビーチボールやシャチの浮き輪まで。本当に準備がいいな。

 

さて聞きたい事は聞けたし調べ終えたから別の所に行こうっと。

 

 

 

次に来たのは保健室だ。

ドアを押したけど開かなくて困ってたら、引き戸だった。ちょっと恥ずかしい。

部屋の左の方には大きな白いガラスケースの棚が3つ並んでいて、

左の方は水色のカーテンで仕切られている。

右側の隅には冷蔵庫かな?

 

真ん中には背もたれ付きの椅子が3つ並んでいて大き目のテーブルがある。

入口のすぐそばにはシンプルな洗面台が一台ある。床は真っ白なタイルだ。

 

あっ、ウルフ君にシープ君。生原君がいる。

 

「ねぇ、3人とも何か分かったことがあるなら教えてくれるかな?」

 

生原君は喜々として、シープ君は優しく教えてくれそう。

でもウルフ君は「自分で調べろ」って冷たく言うんだろうなぁ。

 

「左の方のカーテンの向こうはベットだ。4つ綺麗に並んでるし、

 カーテンで仕切れるようになってる。

 右の棚には包帯とか絆創膏ガーゼとか色々な医療器具にビーカーとかの実験道具。

 真ん中には栄養剤やプロティン、睡眠剤。左の棚には毒薬や劇薬が並べられてる。

 詳しい事を知りてぇなら生原に聞け。」

 

………!!?

 

えっ?ウルフ君?この前聞いた時には冷たく

「自分で今から調べればいいだろ」って言ってたのに。

 

ぶっきらぼうだけどちゃんと質問に答えてくれた!

 

「…なんだよその顔はお前が聞いてきたんだろうが」

 

「う、うん。ありがとうね。」

 

お礼を言ったら舌打ちをして保健室から出て行ってしまった。

 

 

「江ノ本様。お兄様は、前回の学級裁判で江ノ本様が活躍して

 勝利に導いてくださったのを感謝しているのです。私からもお礼を言わせてください。

 辛い中、皆様の命を助けていただきありがとうございます。」

 

そう言うとシープ君は頭を下げてきた。

あの学級裁判を思い出したのだろう、悲しそうな顔をしている。

眠れなかったんだろう、その眼には隈ができていた。

 

「いや、いいよ。僕だけの力じゃないし、皆のおかげだよ。」

 

成程。だからウルフ君はあんなに素直に質問に答えてくれたんだ。

意外と義理堅い人なんだな。

 

「ありがとうございます。では私もこれで。」

 

シープ君は軽く会釈するとウルフ君を追って出て行ってしまった。

 

毒薬に劇薬かぁ。そんな危ないものは処分しておこう。

ゴミ袋にまとめて焼却炉に放り込んでしまえばいいかな?

 

「脚本家よ。どうした?そんなにまじまじと左の棚を見つめて。

 毒薬に興味があるなら使ってやろうか?自分の身で体験したいか?

 吾輩が使っているところが見たいか?それなら吾輩がもがき苦しんで、

 生を実感している姿を見ててくれ!なんなら踏みつけてもいいぞ!」

 

そんな体験。こっちから願い下げだよ。

とんでもないことをいい笑顔で目を輝かせながら言っているから怖い。

 

「危ないから処分しようとしているだけだよ。」

 

「ふむ、そうか。でも無駄だぞ。」

 

え?無駄?

 

「何で?」

 

「説明してやろう。何らかの形で処分してもジョーカーが新しい物を用意すると言っていた。

 それに毒薬や劇薬がなくなっても作ればいいだけの話だ。

 ここにある薬と道具を使えば吾輩なら今ここでざっと数十種類は作れるぞ。」

 

恐ろしい事を平気で言うな…。

確かに生原君なら生原君の才能なら出来る。…いや、出来てしまうだろう。

 

彼には良心も常識もない。

「生物」だったら命令を聞き自分の好奇心のままに周囲なんて気にもせず何でもするような人だ。

 

「生原君。薬学の経験もあるの?」

 

「専門家ほどではないがな。調べても細かい成分じゃなくて大体の成分しか分からないが

 既存の薬品を混ぜて調合作ることは出来る。一から作るのは無理だな」

 

それでも十分にすごいと思う。

 

「絶対に毒薬や劇薬は作らないでね。」

 

「うむ、いいぞ。」

 

あっさり承諾してくれたけど、一時的なものだろう。

他の誰かが「毒薬がほしい」って頼んでもあっさり了承してしまう可能性があるな。

 

悪い意味で人の差別をしない。

「生物」であればみんな同じ、それが彼なんだろう。

 

冷蔵庫の中には輸血パックが沢山あった。血液型ごとに綺麗に並べて保管してある。

 

一通り調べたな。次の所に行こう。

 

 




いつも閲覧ありがとうございます。


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【CHAPTER 2 】〈探索編〉後半

移動中に廊下で木柳君と綿古里さんに会った。

 

「あっ、二人とも探索中なの?」

 

「ひぃぃぃぃっ!」

 

綿古里さんは悲鳴を上げて木柳君の後ろに隠れてしまった。

 

そ、そんなに驚かなくても…。

 

「おいおいビビり過ぎやろ。江ノ本なんてチワワみたいなもんやで?」

 

木柳君、その例え方どうなの?

 

「そ…。その例えはやめてくださいっ、私は犬がダメなんですぅ!

 小さい時に咬まれて死にかけたんですから…。」

 

そ、そうなんだ。綿古里さんは青い顔で今にも泣きそうだ。

 

「驚かせてごめんね。二人とも何してたの?」

 

とにかく話題を変えよう。

 

「何って、ただの雑談や!ここから出たら何をしようかちゅー話!

 オレはここから出たら両親や友人に会って、後はバリバリ働くんや!」

 

「木柳君って一人っ子なの?」

 

「せやで!」

 

そうなんだ。てっきり妹か弟がいそうって思ってた。

 

「僕も一人っ子なんだ」

 

「わ…私はお姉ちゃんが一人、弟が二人ですぅ」

 

「おっ、賑やかでええなぁ!」

 

3人で家族の話をした。

僕はお母さんがパートで働いていてお父さんが小説家だ。

あまり売れてないし知名度もそこまでない。

 

木柳君はお母さんが専業主婦。お父さんが大工らしい。

綿古里さんは小学生の弟二人に、美術系の専門学校に行っている

お姉さんがいるらしい。

 

家族に会いたくなってきた。お父さん、お母さんどうしてるかな。

元気だといいんだけど。

 

一区切りついたので二人との話を止めて探索の続きをしようとした。

 

その時。

 

「え…江ノ本さん!すみませんでしたぁ!」

 

何に対する謝罪だろう?

 

「学級裁判で江ノ本さんも有馬さんも疑ってしまって…。

 それにその後部屋に籠って心配かけてしまいましたぁ…。

 本当にすみません。申し訳ありません!」

 

涙交じりに震えながら謝るその様子に、綿古里さんの誠意が伝わる。

 

「いいよ。もう気にしないで」

そう言ったら、おずおすと微笑んで頷いてくれた。

 

「よっ!江ノ本、男らしいで!チビやけどな!!」

 

木柳君、一言余計だよ…。気にしてるのに。

 

 

 

 

次に着いたのは図書室だ。

うわぁ…。凄いな。

 

大きな木でできた沢山の本棚に本がぎっしり詰まってる。

2mいやそれ以上はあるとても大きな本棚だ。

上の方は、僕だと脚立がないと本がとれないな‥‥

 

本棚は右側と左側にきちんと並んでいる。本棚の上の真ん中のプレートには

「絵本」「歴史」「料理」「乗り物」とか種類が書いてある。

ちゃんと入口のそばの壁に木製の大きい脚立と小さい脚立があった。

……なんかボロいな。ジョーカー新しい物くらい準備しててよ…。

 

部屋の真ん中には大きな長い机に、いくつもの椅子があった。

 

喰田さんと小鳥遊さん、あっ、やっぱり綾織さんもいる。

 

入口から一番近い本棚の上、天井から吊るされているプレートには

「ジョーカーのおススメ・コーナー☆」と書かれている。

 

どんな本があるんだろう?

 

「猿でも作れる!毒薬・劇薬の作り方」

「殺人の勧め」「人体の急所図鑑」「簡単!爆弾作り」

「色々!殺人トリック」

 

ろくでもないものばっかりだな。

絶対に見たくないし見たいとも思わない。

 

3人とも椅子に座って本を読んでいる。

喰田さんは「絶品!世界の高級料理」かいいなぁ。

表紙の料理がおいしそう。

 

 

「なに見てるのよ。」

 

あっ、視線に気付かれた。不機嫌そうに顔を顰められている。

 

「いや、美味しそうだな。食べたいなって思って。」

 

「自分で作ればいいじゃない。あっ、あんた料理は苦手って

 電子手帳に載ってたわね。」

 

簡単に言わないでよ…。

探せば食材があるかもしれないけど僕じゃ作れる気がしない。

誰かに作ってもらおうかな。

 

「僕じゃ無理だよ。料理下手だし。」

 

「やる前から諦めてどうするのよ。少しは練習しなさい。

 ちなみにどのくらい下手なの?」

 

…うぅ…。言いたくないけど。

嘘をついてもばれるだろうし見栄をはるのもよくないな。

正直に話そう。

 

「中学一年の時に野菜炒めを一人で作ってみたんだ。」

 

忘れもしない、あのときには中学生にもなって料理を作るどころか

台所に立ったことすらない事に気が付いて、このままじゃ駄目だと思い

チャレンジしたんだ。

レシピとにらめっこしながら一人で一生懸命頑張った…んだけど

 

「魔界に出てくるゲル状のモンスターみたいな物が出来たよ。

味見で一口食べただけで吐いて…。その後トイレにずっと籠ってたなぁ…。」

 

僕の料理は見た目も味も最悪だ。

料理下手糞選手権があったら優勝できるんじゃないか?ってくらい酷い。

食材が可哀想に思えてきた。

 

それ以来、自信を無くして一度も料理をしていない。

 

「…あんた、ひっどいわね。」

 

「喰田さんはどのくらい上手なの?」

 

電子生徒手帳のプロフィールの好きなものに「料理を作ること」って載ってる上手なんだろうな。

 

「私はプロ級よ。和食も洋食も中華もイタリアも何でも作れるわ。」

 

うわっ、自信満々だな。何でもなんて凄い。

 

「凄いね。喰田さんは料理の才能もあるんだね!」

 

喰田さんは返事をせずに椅子から立ち上がって本を元の所に直して図書室から出て行ってしまった。

どうしてだろう?

返事くらいしてくれてもいいのにな、もう少しお話ししたかったのに。

 

綾織さんは分厚い本を涼しい顔で読んでいる。

「世界の殺人鬼」か見てるだけで頭が痛くなりそうだ。

って本の厚さからしてこの世界にはかなりの殺人鬼がいるんだなぁ。

知りたくなかった。

 

「…綾織さんそういうのが好きなの?」

 

「うむ、別に内容が好ましいわけではないぞ。珍しい本じゃったからのう。

 これを機に読んでみようと思ったのじゃ。」

 

こんな物騒な本がたくさんあっても嫌だけど。

 

「そういえば綾織さんって読んだ本の内容は全部覚えてるんでしょ?なら二回目は読まないの?」

 

「それはちがうぞ江ノ本望夢。美味しい食べ物は味を知っていても何度も食べたくなるし、

 面白い映画は何度も見たくなるじゃろう?それと同じじゃ。」

 

なるほどなぁ。

 

ガタッ…。

 

椅子を引く音に振り向くと小鳥遊さんが椅子から立ち上がち、図書室から出て行ってしまった。

綾織さんは気が付いていない。すごい集中力だ。

お腹ら辺を押さえていたからトイレにでも行ったのかな?

具合でも悪いのかな?心配だな。後でこっそり話してみよう。

 

「江ノ本望夢。どうかしたのか?」

 

「いや、なんでもないよ。せっかくだし僕も何か読んでいくよ。お勧めは?」

 

僕は綾織さんと少し読書をしてから図書室を去った。

 

 

次は…。大浴場、サウナだなこれで2階で行ける所は最後かな。

 

あっ、ここだ。

 

木製の扉に緑色の暖簾がかかっている。温泉マークが書いてあるな。

早速入ってみよう。

 

更衣室はとても広い。

キッチリと横一列に並べられたロッカーに、木でできた長めの椅子。

壁際にある綺麗な5つの洗面台には丸い鏡がついている。

洗面台には櫛とドライヤーが5つ置いてある。

籠の中には綺麗なタオルが沢山入っていた。

 

床は…。えっとなんていう名前だっけ?この床?見覚えはあるんだけど。

 

「それは籐タイルやで!」

 

「!」

木柳君いつのまに!?

 

「なんやねん、その顔は!気になるから見に来ただけやのに。」

 

「ご、ごめんね。びっくりしただけだよ。」

 

この床そんな名前だったのか。流石超高校級の大工だな。

 

「ここ…混浴みたいだね」

 

「せやなぁ。とりあえず中を見てみよか。」

 

中に入るとソフィーさんと唯輝がいた。

 

二人で何か話している。

 

「二人とも何を話しとるんや?」

 

木柳君が話しかけると二人とも話を止めて木柳君の方を見た。

 

「木柳サン!有馬サンにJapanese銭湯のマナーを教えてもらっていたノ!」

 

「マナー大事。ここの銭湯凄い。広いしちゃんと温泉。看板に効能も書いてある。サウナもある。」

成程ね。

目を輝かせてソフィーさんはとても嬉しそうだ。

唯輝も嬉しさで口数が多くなってる。

 

床は真っ白なタイルが敷かれていて、壁には大きな富士山が描かれている。

椅子に綺麗に並べられている桶。いくつのもシャワーに石鹸にシャンプー…。

大きな浴槽の近くには看板が立ってて温泉の効能が書いてある。

これがさっき、唯輝が言っていたものか。

 

奥の扉には「サウナ」って書いてある。

 

「ミナさんでサウナで我慢対決しヨー!」

 

「おっ、ええで!」

 

「…やる。でも無理は駄目。」

 

僕はどうしようか。

自信はないけど…よし!参加してみよう。

 

「僕も!参加するよ!」

 

皆で居室で半袖半ズボンに着替えて来てから我慢対決をした。

 

優勝は木柳君。次は唯輝。

一番最初にギブアップしたのは僕だ。

 

ソフィーさんにも負けた。なんだか悔しい。

 

男子更衣室で汗でぬれた服を着替えた後、木柳君は僕の背中をたたく。

 

「江ノ本、そんな落ち込むことないやろ。元気出せや!」

 

 

「十分頑張った」

 

頭を撫でてくる唯輝。

 

「そうそう!ナイスガッツだったヨ!」

 

水を持ってきて手渡ししてくれるソフィーさん。

 

3人が優しいのなんだか申し訳ない…。

 

決めた。少しは自分を鍛えよう。

 

服に着替えてから食堂に向かう。

 

そろそろお昼ごはんの時間だ。

お腹空いたなぁ。

 

〈ピロリン♪〉

 

ポケットに振動を感じた。電子手帳が鳴ったようだ。

足を止めて、起動させてみると校則が増えていた。

 

 

『10:夜時間のプールでの遊楽を禁止します。プールの水に触れた時点でお仕置きします。』

 

うわっ、厳しいな。まぁ、プールに行かなければいいか。

 

あと…2番の校則が少し変わったみたいだ。

 

『2:夜12時から朝の7時までを《夜時間》とします。

  夜時間は立ち入り禁止区域があり、夜時間に立ち入り禁止区域に入ったらお仕置きします。

  今行ける所での立ち入り禁止区域は体育館。倉庫。図書館です。』

 

立ち入り禁止区域が増えたのか。

これから行ける所が増えるたびに立ち入り禁止区域も増えるんだろうなぁ。

 

 

さて、見終わったしさっさと向かおうっと。

 

 

食堂に着いたらもう何人か揃っていた。

食事の準備も出来ているし残りの人が来るまで待っていよう。

 

皆が集まると会議が始まった。

結局2階の情報だけで脱出の手がかりはなかった。

 

大浴場で異性が風呂に入っている時に間違えないよう、倉庫からホワイトボードを持ってきて

前に置いておくことになった。木柳君が用意してくれるらしい。

皆でお礼を言った。

皆と言っても、ウルフ君、若鳩君、小鳥遊さん、喰田さん以外のメンバーだ。

 

会議が終わってご飯を食べる。

こんな状況だし、食べられるうちに食べておこう。

 

小鳥遊さんもいつもと変わらない様子で食べている。

お腹は大丈夫かな?僕の気にしすぎたかな。

 

あっ、目が合った。じろじろ見すぎたかな?

 

小鳥遊さんはふいと視線をそらし再びご飯を食べはじめた。

 

 

食事が終わると皆、どこかに行き始める。

 

僕は唯輝の所に行こうかな。元気がないみたいだし励ましに行こう。

 

綿古里さんやシープ君はソフィーさん、ウルフ君がいるから大丈夫だろう。

 

そう思っていると

 

「ねぇ~。江ノ本ー(=_=)おんぶ~」

 

「!」

 

いきなり小鳥遊さんが後ろからもたれかかってきた。

 

「…。1時間後くらいに浴場の更衣室に来てね~(/・ω・)/」

 

僕の耳元で小声でそう言うと、

「やっぱいいやー(´ぅω・`)自分で歩く~」と言いながら食堂から出て行ってしまった。

 

…どうしよう。呼ばれたからには行かないと。わざわざ呼び出すって事は大事な話だよね?

 

なんで僕で脱衣所なんだろう?

 

なんだか怖いな。

仲間を信じてあげたいけど秋雨君に殺されそうになっていたしな。

 

身を守る為に護身用の武器でも持っていこうかな?

でも、武器を持っていくのも嫌だし他の人に見られたら誤解を受けるだろうし。

それに仲間に会いに行くのに物騒な物を持っていきたくない。

 

小鳥遊さんには悪いけど誰かについて来てもらおう。

 

一人で来てって言われなかったし、一番信用できる唯輝にしよう。

 

倉庫から唯輝の好きそうな飲み物やお菓子を取ってきた。

「食べ過ぎは駄目」って言うだろうけど少しくらい今日くらい大目に見てもらおう。

この前と逆だな。

 

唯輝を探して廊下で見つけると「持つ、どこ?」って言って荷物を持ってくれた。

 

「唯輝の部屋でいいよ。ありがとうね」「ん」

 

一緒に唯輝の居室に向かった。

 

唯輝の部屋は綺麗に整理整頓されている和室だった。

 

長方形の座卓に並べてある座布団。綺麗に畳んである布団。

壁には鳥獣戯画の墨の絵が飾ってあり。小さい盆栽も数個ある。

テレビがあってDVDレコーダーもある。棚の中には映画や劇のDVDだ。時代劇が多めだな。

 

唯輝と雑談しながらお菓子を食べた。

 

「何か力になれることがあったら何でも言ってね!」って言ったら

 

「もう大丈夫。元気になった。ありがと」と微笑んで頭を撫でられた。

 

もうそろそろ小鳥遊さんとの約束の時間だな。

10分前に行っておこう。遅刻は駄目だもんね。ごめん小鳥遊さん。一人で来なくて…。

 

この場にいない小鳥遊さんに何度も心の中で謝罪する。

 

「ねぇ、唯輝。一緒に浴場に行こう」

 

「…」

 

僕をじっと見つめると「何で?」って聞かずに黙って頷いてくれた。

 

察してくれたみたい、流石だ。

 

大浴場に向かうと扉の右側にホワイトボードが置いてあった。

 

小さめの丸文字で『入浴中。誰もこないでね。by小鳥遊(/・ω・)/』って書いてある。

 

どうしよう、入りにくいなぁ。

入っている所を誰かに見られたら変態扱いされるんじゃ…。

 

本当に入浴していることはないよね?呼びだしたのは小鳥遊さんなんだし。

でもせっかく来たのにこのままじっと待っているのもなぁ。

 

目をつぶって少しだけ扉を開けよう。着替え中ならゴメン。

 

おそるおそる扉を開けると

「大丈夫だからー。さっさと入って~ヽ(`Д´)ノ」って言われた。

 

二人で中に入ると小鳥遊さんが椅子に座っていた。

 

あれっ、鬼澤さんもいる。

 

「いらっしゃーい江ノ本。…有馬も~(´・ω・)」

 

「ご…。ごめんね小鳥遊さん」

「いいよー。予想してたし(´-ω-`)あんなことがあったもんね~。

 逆に一人で来てくれた方が驚くよー(´ー`)有馬なら問題ないし~。」

 

良かった。怒ってないみたい。

 

「アタイも呼ばれてきたんだよ。小鳥遊が話があるみたいでね。」

 

「用件」

 

「有馬ー。早く用件を言えって事~(・・?。その前にここに呼んだ理由を話すね~。

 ここ監視カメラが無いんだよー。」

 

辺りを見渡してみる。言われてみれば確かに監視カメラがない。

成程。黒幕から隠れる為にここを選んだわけか。

 

だとしてもなるべく早めに出たほうがよさそうだ。

長い間いると黒幕に怪しまれてしまう可能性がある。

 

「そしてこれをみてねー(/・ω・)/図書館で見つけたの~。」

 

右下のロッカーからノートパソコンを取り出し、電源を入れてから見せてくれた。

あっ、あの時か!お腹ら辺に隠していたんだな。

 

「ファイルがあるんだけどー、ロックがかかっていて見れないんだよね~(ーー;)

 でも時間をかければ解除できるよー("´∀`)b

 めんどくさいけどね~(´;ω;`)起動時のパスワードも教えておくよー。218~」

 

ロックがかかっているってことは…。

何か重要な情報があるってことか?少しでも情報が欲しいから早く見たいな。

何か手伝いたいけどでも僕はパソコンは人並み程度しか出来ないんだよなぁ。

 

「小鳥遊。なんでアタイ達だけなんだい?」

 

「ん~。ほらー。(´・ω・`)ゲームでもこういう状況の時には味方の中に

 敵側のプレイヤーとか黒幕自身とかが紛れ込んでいるものでしょー?(。´・ω・)?」

 

「僕達は安心って事?」

 

逆を言えば他の皆は疑っているって事かな?…仕方ない事なんだろうけど悲しいな。

 

「それもあるけどー(´-ω-`)あとは頼りにしても大丈夫そうっていうか

 協力してくれそうで、まともそうなメンバーかなー(=゚ω゚)ノ」

 

「なるほどね…。綿古里は弱弱しくて、自分の意見を通せそうにないし頼りにくい。

木柳は感情的になると周りが見えないし、論理より感情を優先してしまいそう。

シープは優しすぎるから、疑うことをしたくないだろうし、裏切者がいたとしても庇いそう。

ソフィー、五十嵐は頭がよくなさそうだから、隠し事が下手だろうね。」

 

鬼澤さんは、納得したように頷き続けて言う。

 

「あと…ウルフは合理的にしか考えないだろうから、自分に得がないと協力してくれない。

 綾織は何を考えているのか分かりにくいし、何か他人事って態度をよくしているからね。

 喰田は自分にも他人にも厳しいし、信用されないと協力してくれそうにないし…

 生原と若鳩は論外だね。…。厳しい事を言うけどこんなとこだろう?小鳥遊」

 

「そのと~り(´-ω-`)このことは4人の秘密ねー(`・ω・´)ゞ」

 鬼澤さんも小鳥遊さんも、よく皆をみてるんだなぁ。

 

「ロック解除できるように頑張っておくよー(´;ω;`)

 解除ができたら右下のロッカーに入れておくね~|д゚)」

 

「ありがとうね。めんどくさがりの小鳥遊さんが頑張ってくれるなんて嬉しいよ。」

 

僕がそう言うと小鳥遊さんはため息をついた。

 

「う~ん(´-ω-`)。めんどくさいし本当はやりたくないけどねー。

 でもそんなこと言ってる状況じゃないでしょー?(。´・ω・)?

 出来ることは最低限しないとね~(´・ω・`)」

 

小鳥遊さん…。

普段はめんどくさがりだけれど、裁判の時も参加してたし捜査の時も

喰田さんに引きずられながらだけどしてくれてたもんね。

 

僕にもなにか出来ることがあればいいんだけど…。

 

黒幕に怪しまれないように鬼澤さん達はお風呂に入るらしい。

僕達は周りを確認してから出た。誰もいなくてよかった。

 

ホワイトボートの字は鬼澤さん達が風呂からあがってから消してくれるらしい。

 

 

その後、唯輝と本を読みに図書室行ったら綾織さんがいた。

3人で本を読んでから晩御飯を食べに行った。

 

晩御飯の後は自分の部屋に戻ってDVDを見た。

誰か誘えばよかったかな?まぁ、たまには1人で見るのもいいか。

 

いつも通りに12時になってから日記を書いて寝た。

 



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【CHAPTER 2 】〈日常編〉前半

〈ピンポーン♪〉

 

あれ?インターホンが鳴ってる。

身体を起こして部屋の時計を見てみると6時50分だった。

 

誰だろう?

 

「はーい。」

 

ガチャ。

 

「good morning!」

 

ドアを開けると笑顔でソフィーさんがいた。

 

「うん、おはよう。早いね。何の用?」

 

「江ノ本サン、料理当番だヨ!」

 

あっ、そうか。もう5日はたってるのか。

確か、次の当番は、僕とソフィーさん、生原君。五十嵐さんだっけ?

 

「分かった。わざわざありがとうね。すぐ行くよ」

 

僕は普段着に着替えてからソフィーさんと厨房に向かった。

 

厨房にもう2人は来ていた。

 

「よーし、早速作るっスよ!」

 

「OK!頑張るヨ!」

 

五十嵐さんもソフィーさんもやる気満々だな。

 

作る前に大事なことを聞いておこう。

 

「そういえば、皆は料理は作れるの?僕はすごい下手なんだ。

だから盛り付けとか食器の準備くらいしか出来ないよ。」

 

「…頑張るっス!」

 

「ワタシも!でも料理漫画見たことアルから大丈夫!」

 

「胃袋の中に入って栄養になれば問題ないだろう」

 

「…なんか不安だな。3人とも詳しく話してくれる?」

 

最初に話してくれたのは五十嵐さんだ。

料理はあまりしないらしい。調理実習では同じ班のクラスメイトに

「何もしないのが一番の手伝いだ」

家では両親と二人の兄に「何もしなくていい」と言われているらしい。

簡単な漢字すら読めないのでレシピも読めない。

料理の知識は「食べれる物を使えば大丈夫っス!」とのことらしい。

 

ソフィーさんは家では妹と母親が家事をしていて料理どころか

包丁すら持ったことがなく台所に立ったことすらない。

料理の知識は漫画で読んだのみ。しかもうろ覚え。

 

 

生原君はお腹が空いたときには買いに行くか、あるものを

適当に食べていてソフィーさんと同じく、包丁すら持ったことがなく

台所に立ったことすらない。料理の知識は皆無。

 

…嘘でしょ。

人のこと言えないけど、4人もいるのに一人もまともに作れそうな人がいない。

どうしよう。料理が出来る人を起こしに行って手伝ってもらおうかな?

 

 

「江ノ本サン、ワタシ図書室で本を取ってくるネ。見て作れば出来るヨ」

 

「うん、ありがとう。」

 

すぐに人を頼ろうとするのが僕の悪い所だな。

きちんとレシピを見てその通りに作ればきっとできる、4人もいるんだ!

する前から諦めてどうする!

 

4人で話し合った結果。ソフィーさんの強い希望で朝食は和食になった。

メニューは焼き魚に卵焼き。お浸しに味噌汁。

一人一品ずつ作ることにした。

よーし!やるぞ!!もう高校生にもなったんだ!

ちょっとはマシになってるはず!

 

「五十嵐さん!それ塩だよ!入れすぎ!!」

 

「あっ…。甘いものをたくさん入れればちゅーわ?

 されるはずっス!おっいい所に砂糖の塊が!」

 

ドボン!

 

「それ岩塩!!」

 

「生原君、なに入れてるの!?」

 

「栄養剤とサプリメントだが。足りないのか?」

 

「何で!!?具材を入れてよ!」

 

「料理とは栄養をつけるものなのだろう?具材もいれてるぞ。丸ごとな。」

 

「そうだけどさ…。具材を洗おうよ。あとちゃんと切ろう!」

 

「ソフィーさん、なんでそんなに沢山のお酒をフライパンに入れてるの?」

 

「フランべしてみたかったんダ。どのお酒が良いのか分からなかったカラ

 あるだけ入れたヨ。下手な鉄棒数打ち当たるって思ってネ。」

 

それ、鉄棒じゃなくて鉄砲だよね?

 

カチッ!

 

「わーーーーー!!火柱!!!」

 

「NO!!作り直すヨ…」

 

地獄絵図だった。

何枚もの食器を割り。電子レンジを爆発させ。何度も火柱を上げ。

具材を落とし。炊飯器からはバチバチって音がして黒い煙が出た。

 

それでもようやく出来上がった。

 

皿に盛りつけて食堂のテーブルに並べる。

 

焼き魚→少し焦げてる。ボロボロ。(ソフィーさん)

卵焼き→ドロドロのスライム状。黒と黄色とピンクの斑色。無臭。(五十嵐さん)

味噌汁→鮮やかな紫色。栄養剤?が浮いていて悪臭がする。(生原君)

ほうれん草のお浸し→濁った青色。酸っぱい匂いがする。硬い。(僕)

 

…これは酷い。

一番まともなソフィーさんのは食べられそうだけど他の僕を含めた人たちの物は

食べても良いものなのかすら疑問に思うレベルだ。

見ただけで食欲が失せる。食材の墓場だ。

お浸しって簡単そうに見えるけど難しいんだなぁ…こんなに変わり果てて…。

ほうれん草を育ててくれた人達ごめんなさい。

 

「おはよーさん。って…なんやねんコレ!!!?」

 

朝ご飯を食べに来た木柳君がツッコミを入れる。若鳩君も一緒だ。

 

「おー、すげえもんできてんなぁ!」

 

「ナギ!トモ!丁度ご飯ができたところっス!召し上がれ!」

 

「こんなん食えるか!!!」

 

木柳君がツッコミを入れた後に残りの皆が来た。

 

「料理当番のアンタら正座しなさい。」

 

地を這うような声の方を向くと般若のような顔をして

怒りのオーラを出している喰田さんがいた。

 

「ひぃ…。」

 

五十嵐さんは小さく悲鳴を上げ、ソフィーさんは涙目で俯いている。

僕は蛇に睨まれたカエルのように動けない。

 

生原君は「うむ、いいぞ!」と笑顔で正座した。

 

それからは散々だった。

喰田さんにみっちり説教され、ウルフ君に辛辣な言葉を投げられ、

木柳君と鬼澤さんに怒られて、綿古里さんが苦笑して、

若鳩君にからかわれて、最後に小鳥遊さんに呆れられた。

綾織さんは何も言わずぼけっとしていた。

 

説教の途中でシープ君、唯輝が庇ってくれたけど喰田さんの怒りは収まらない。

最後まで正座して説教された。

 

説教が終わり

 

「せっかく皆様の作ってくださった料理を無駄にできません。」

 

と言ったシープ君は自分の分の料理を食べた。

 

ソフィーさんの焼き魚は「少し焦げているみたいですけど美味しいですよ」と

微笑んで完食し、生原君の味噌汁と五十嵐さんの卵焼きは

水で流し込み時間をかけて苦しそうにしながらも完食したけど、

僕のお浸しを食べたら奇声を発して失神したから保健室に木柳君に担ぎ込まれた。

皆の視線が痛い。

ごめんね、シープ君…。

料理の練習をしよう。せめて食べられるくらいにはなりたい。

 

一番驚いたのが綾織さんだ。

「成程。変わった個性的な味じゃのう」と言って自分の分の料理を

涼しい顔で完食した。どんな味覚をしているんだろう?

 

残りの皆は倉庫でカップ麺や非常食を取ってきてそれを食べた。

 

皆と話し合った結果、料理当番は綿古里さん、木柳君、五十嵐さん、唯輝になった。

 

そして今、僕を含めた料理当番だった人達で滅茶苦茶になった厨房を掃除している。

 

「うぅ…。また掃除っスか」

 

「一緒に頑張ろウ。すぐに終わるヨ」

 

五十嵐さんとソフィーさんはこれで2回目か。

 

「うむ、料理をしたのは初めてだったな」

 

「生原君、またしたいって思う?」

 

「いや、どうでもいい。食材が生きている生物なら喜んでするんだがな…

 考えてみるといい、生きたままの方がじっくり釜茹でにしたり、

 じわじわと包丁で傷をつけて一生懸命生きようとあがく、

 苦しんでいる美しい姿を見れるだろうしな」

 

うん、共感できないな。皆と雑談しながら掃除を終わらせた。

 

 

掃除が終わった後に廊下でジョーカーから紙をもらった。

僕以外にも全員に配っているらしい。早速見てみよう。

 

 

         『皆の料理の腕前』

 

<プロ級>喰田

<上手>有馬 綾織 シープ 秋雨(不運が無ければw)

<普通>晴天 小鳥遊 ウルフ 綿古里 若鳩

<少し下手>ソフィー 鬼澤 木柳

<下手糞>生原 五十嵐

<論外>江ノ本

               

 

 

ああ!成程。これをみて料理当番を決めてってことか。

…もっと早く頂戴よ。

って僕は論外って‥‥!?

 

き…気持ちを切り替えて、掃除も終わったし何をしようか?

したいことと言えば、自分を鍛える為のトレーニングと料理の練習かな?

 

一人でするより誰かに教えてもらった方がいいよね。

トレーニングなら鬼澤さんかな。

五十嵐さんは教えるのは得意じゃなさそうだし、ウルフ君は断られるだろうな。

 

料理なら唯輝、綾織さん、シープ君かな。喰田さんは絶対断るだろうな。

さっきの僕の料理を見た時の怒った顔が頭に浮かんだ。

 

考えながら歩いていると鬼澤さんを見つける。

 

「鬼澤さん!」

 

「ああ、江ノ本か。アタイに用かい?」

 

「うん、僕を鍛えてくれないかな?」

 

「…は?」

驚いた顔をされてしまった。

まぁ、僕は運動するようなタイプじゃないし電子手帳にも

スポーツが嫌いって載っていたもんな。

 

実際にスポーツは嫌いだ。

体力はないし運動神経もよくないし。

特にチームでやるスポーツは嫌でも足を引っ張ってしまうのが申し訳なくて…。

でも苦手なままにしておくのも駄目だと思う。

 

「実は…」

 

サウナの件と自分を人並みには鍛えたいという思いを話したら

快く笑顔でOKしてくれた。

 

「なんだい!そういうことなら喜んで協力するよ!着替えて体育館に来な。

 アタイは厳しいよ!」

 

居室でジャージに着替えてから体育館で鬼澤さんに鍛えてもらった。

 

「も…もう無理動けないよ…」

「なんだい、だらしないね。ランニングと腹筋しかしてないじゃないか」

 

きつい…。疲れた。覚悟はしていたけど想像以上だよコレ!

 

鬼澤さんはピンピンしている。

僕が体力がなさすぎるのか、鬼澤さんが凄いのか。両方だろうな。

 

「さて…。そろそろ夕飯の時間だから、今日はここまでにして食べに行くよ」

 

「…無理。まだ、立てない…」

 

床に寝そべったまま鬼澤さんに目線で訴える。

 

「分かったよ、ならおぶさりな」

 

そういうと鬼澤さんは僕の目の前に背中を向けてしゃがむ。

 

「ええ!!?いいよ悪いし!」

 

「あんたくらい軽いもんだよ。アタイが良いって言ってるんだから

 遠慮せずに乗りな!」

 

いや…。気持ちは嬉しいけど誰かに見られたら恥ずかしいし悪い気がするし。

うう…でも善意を無駄にするのも悪いし…早くしろという目線が僕に刺さる。

 

「あ…ありがとう。重かったりしたらすぐに降ろしてね」

 

僕はそう言って鬼澤さんにおぶさる。

鬼澤さんは僕をおんぶしながら食堂に向かった。

 

まぁ、ここの学園は広いし2階も行けるようになっているから

誰かに会うことはないよね?

 

 

「♪~♪~」

鬼澤さんの鼻歌が聞こえる。機嫌がいいみたいだ。

 

「鬼澤さん、ご機嫌だね」

 

「まぁね。懐かしい思いもトレーニングもできたし」

 

「懐かしい?」

 

「ああ、アタイには弟がいるんだよ。泣き虫で甘えん坊でね。

 よくこうやっておんぶしてあげてたんだ」

 

へぇ、弟さんがいるのか…鬼澤さんは面倒見がいいし、いい姉さんなんだろうな。

僕が話を黙って聞いているとさらに続けて話してくれる。

 

「アタイの家族は親父と弟だけでね。親父とはよく喧嘩したよ。

 ちなみに弟は中学1年生なんだ」

 

誰にも会うことなく鬼澤さんとお喋りをして食堂に着いた。

鬼澤さんは食堂の前で僕を下ろしてくれた。

 

食堂に着くと小鳥遊さん以外の皆がいた。

 

「あれ?小鳥遊さんは?」

 

「何度もインターホンを鳴らしたんですけど、

 で…出てきてくれなかったんですよぉ…」

 

綿古里さんが泣きそうになりながら話してくれた。

 

「もうほっときなさい、餓死するなら勝手に死んでてもらいたいものだわ」

 

「ほっとけ。あんな奴知らん。死ぬなら一人で死んどけ」

 

ウルフ君、喰田さんが冷たく言う。

 

「二人とも訂正しろ」

 

「Yes!酷いヨ!」

 

「ツッキーとソラの言う通りっス!」

 

「何?迷惑かけるなうざいとでもいえばいいの?」

 

「なんだよ。俺とシープに迷惑をかけるな。消えろとでもいえばいいのか?」

 

「ウルフ私と同じ様なこと言わないでくれる?

 ぶよぶよのカップ麺を口にねじ込むわよ負け犬男」

 

「こっちの台詞だ。やってみろ。頭に銃弾をぶち込むぞ豚女」

 

この二人やっぱり仲が悪いなぁ。

 

「二人共やめてください。私が小鳥遊様にお食事を持っていきますね」

 

シープ君もう大丈夫みたいだな。良かった。

好意に甘えさせてもらうことにしよう。

 

昼御飯を食べた後、疲れていたので部屋に戻って

晩御飯の時間までDVDを見て過ごした。

 

せっかく綿古里さんとご飯を食べれるようになったのに

今度は小鳥遊さんが引きこもるなんてな。

 

恐らくパソコンをしてくれてるんだろうけど…。

明日も来なかったら居室に行ってみよう。

 

 



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【CHAPTER 2 】〈日常編〉後半

〈ピーンポーンパーンポーン♪〉

 

もう朝かまだ疲れているから寝よう。

8時に行けばいいだろうし…って、体が痛い!

筋肉痛だこれ!!保健室に行こう。

湿布くらいあるよね?

 

痛い手足を引きずって保健室に向かった。

 

「江ノ本サンどうしたノ?」

 

声の方を振り向くと、ソフィーさんがいた。

 

「どうしてここに?」

 

「目が覚めたかラ、散歩してたノ。江ノ本サンは?」

 

「筋肉痛で痛くて、保健室に湿布を取りに行ってるんだ。」

 

「OK、待ってテ!」

 

そう言うと走って行ってしまった。

えっと…。待ってればいいのかな?

立ってるのもしんどいし、壁際で座って待ってよう。

 

「おまたセーーーーー!」

 

ソフィーさんが両手に大量の湿布を抱えて帰ってきた。

気持ちは嬉しいけどそんなに使わないんだけどな…

だけど満面の笑顔のソフィーさんにそんなこと言えない。

 

「ありがとう。」

 

「どういたしまシテ!貼ろうカ?」

 

「朝食の後で自分でやるからいいよ。行こうか。」

 

「OK!肩かすヨ!」

 

ソフィーさんに肩を貸してもらいながら食堂に向かった。

 

食堂には小鳥遊さん以外の人達が来ていた。

 

小鳥遊さん…。心配だな。

 

喰田さんとウルフ君以外の皆は僕の事を心配してくれた。

鬼澤さんは申し訳なさそうな顔をして謝ってきた。

 

日頃から運動していない僕が悪いのに…。

 

綾織さんはリアクションが薄かったけど声は掛けてくれて、若鳩君は笑ってた。

 

生原君は苦しんでいる姿を見ていたいから傍にいる!って言って鬼澤さんと唯輝に怒られている。

 

 

 

 

 

丁度皆がご飯を食べ終わったときだった。

 

 

〈ピーンポーンパーンポーン♪皆様!体育館に集合してください!来ないとお仕置きですよー。〉

 

…行きたくないな。でも仕方ない。

 

フラフラの僕を見かねた木柳君が体育館までおんぶしてくれた。

湿布は机の上に置いておこう、また取りにこればいいし。

 

 

「皆様ー!来てくれてありがとうございます。良いキャストですねぇ。」

 

「消えろゴミ。」

 

「目障りよ、ポンコツ。」

 

「お前が呼んだんやろ!さっさと要件を言えや木っ端。」

 

ウルフ君、喰田さん、木柳君がジョーカーに文句を言う。

 

あっ、小鳥遊さんも来てる。眠そう。

 

「はいはい、じゃあ皆様に動機をプレゼントしま~す!」

 

動機なんていらないし、ほしくないんだけどな…

 

僕達が口を開く前にジョーカーが話す。

 

「問答無用です!ほらっ一人一枚受け取って下さい!」

 

そう言うと、どこから出したのか分からないけど14枚の封筒をばらまいた。

適当に近くに落ちているのを拾う。

 

皆が拾うのを確認してから、ジョーカーが説明をした。

 

「その封筒の中身の紙には皆様の「秘密」が書かれていま~す。

ちなみにランダムで一つ書いてますからねぇ。それに匿名でーす。

「誰」の「秘密」かは気になるなら、他の人に聞くなり自力で調べるかしてくださいね。

まぁ、暴露しますけど☆」

 

楽しそうな様子でジョーカーは続ける。

 

「‥‥そうですねぇ。2日後に「誰の」秘密かをハッキリさせてここにいる皆様に暴露してから、

さらに3日後にはチラシにして外で人の多い所でばらまきましょうか!

捨てたりしないでちゃんと中を見て下さいねー。さもないと、お仕置きですよ~。」

 

えっと…。つまりこの封筒の中には誰かの秘密が書いてあって、2日後にここにいる皆に、

3日後に外の世界に暴露されるって事だよね?

 

僕自身のだったらいいんだけど…そんな大した秘密なんてないと思うし。

あっ、でも恥ずかしいのだったら嫌だなぁ。どんなことが書かれているんだろう?

知りたいけど、ランダムだから、誰が僕のを持っているのかが分からない。

それに匿名だから僕の秘密を持っている人も、僕のって分からないだろうな。

 

2日後にははっきりするだろうけども…。

知られたくない秘密がある人だっているはずだ。

見ないほうがいいんだろうけどちゃんと中身を見ないとお仕置きされるらしい。

 

封筒を手にして色々考えていると…。

 

「皆、とりあえず一度部屋に戻ってから中身を見るよ!誰のかが分からないし知られたくな…。」

 

「お前らぁ!ちょっといいかぁ!」

 

皆に呼びかける鬼澤さんの言葉を若鳩君の大きな声が遮った。

 

「おい!ジョーカーこの秘密はオイラ達キャストのなんだよなぁ?」

 

「はい!若鳩君そのとーりで~す。」

 

「お前らこれを見なぁ!」

 

満面の笑顔で若鳩君が封筒の中の紙を広げ僕達に見せつける。

 

紙の真ん中には真っ赤な大きな字でこう書かれていた。

 

 

  『黒幕の内通者(裏切者)』

 

 

「はあああああぁぁぁ!!?なんやねんそれ!?」

 

「そ…そんな…!」

 

「誰っスか!?ジョーカーの嘘っスよね!?」

 

「信じたくないヨ…!」

 

木柳君と五十嵐さんが怒鳴り、ソフィーさん綿古里さんがうろたえる。

綿古里さんは泣きだしてしまいそうだ。

 

黒幕側の人がいるかもしれないって思ってはいたけど、きっといないって信じていた。

いや、僕は疑いたくなくて逃げていたんだろう。

でもこうしてはっきりと裏切者がいるってことが分かってしまった。

 

 

「黙れ。」

 

ウルフ君の地を這うような威圧的な声が響く。

それほど大きな声じゃないのに一言で4人は黙り込んでしまった。

 

「喚くな。2日後にはどいつかハッキリするだろうが。」

 

まぁ、その通りなんだろうけど。

 

「お兄様、その…裏切者がどなたか分かったらどうなさるつもりですか?」

「…両手両足を縛って監禁する。」

 

ウルフ君の答えにシープ君が反論する。

 

「そんな!確かに私達を裏切ってジョーカーの内通者になったのは罪深いことですが、

何かやむを得ない事情があったのかもしれませんし、話し合って説得してから…。」

 

「シープ。俺は本当は拷問して情報を吐かせてから監禁する予定だった、でもお前が

 そう言うと思い、手心を加えて両手両足を縛って監禁する事にした。

 いくら大事な弟であるお前の願いでも、これ以上譲歩するつもりはねぇ。」

 

「そんなこと言って…あんたが裏切者じゃないの?ウルフ。

 もしかしたら、シープかもしれないわね。」

 

喰田さん!なんでそんなことを?

 

「んだとテメェ…。」

 

「喧嘩しないデ、そんなことよリ…。」

 

「へー。ソフィー。そんなことねぇ、お前怪しいなぁ。お前が裏切者なのかなぁ~?」

 

止めようとしたソフィーさんを若鳩君が遮る。

 

「一番怪しいのはお前やろ!!」

 

「うわぁー。傷つくなぁ。」

 

木柳君に怒鳴られて睨まれても、若鳩君は動じずにヘラヘラしていた。

 

「面白くなってきたな!吾輩はワクワクしているぞ!」

 

生原君はこんな状況で、いや…こんな状況だからこそ目を輝かせて喜んでいる。

 

「も…もうやめてくださいよぉ。お願いしますぅ。」

 

綿古里さんは泣きだしてしまっていた。

 

 

「あんたらもう止めな!!!」

 

鬼澤さんが大声を出した。

 

「こんな事を話していても、今は裏切者が誰か分からないだろ。

 とりあえず一旦、自分の部屋に戻って頭を冷やしな!生原!あんたもついておいで!」

 

鬼澤さんはそう言うと、若鳩君の腕を掴んで体育館から出て行ってしまった。

呼ばれた生原君もついて行った。

 

綾織さんは「本の続きでも読もうかのう。」と涼しい顔で出て行ってしまった。

 

ソフィーさんと五十嵐さんは、泣いている綿古里さんに何か言っている。

恐らく慰めているんだろうな。

 

どうしよう…話しかけようかな?でも余計なことしない方がいいかな。

 

木柳君は足を踏み鳴らしながら出て行った。恐らく怒っているんだろう。

 

小鳥遊さんはあくびをしてから、顔を顰めたウルフ君は、顔色の悪いシープ君の手を引いて出て行った。

 

喰田さんも黙って出て行ってしまった。

 

とりあえず僕も、体育館から出て自分の部屋に行こう。

ずっとここにいても出来ることなんてないし、頭を冷やしたい。

それに封筒の中身を見ないと…見ないとお仕置きだなんて…。

 

 

「望夢、大丈夫?」

フラフラと放心状態で、部屋に帰ろうとした僕を唯輝が呼び止めた。

 

「…ごめん、少し一人にして。」

 

そう言い残してから、まだ筋肉痛で痛む体を引きずって自分の部屋に戻った。

 

 

 

部屋に戻ると、ゴロリとベットに横になる。

 

誰が裏切者なんだろう?

全く分からない…。

やむを得ない理由があるのかもしれないけど…今は疑っている場合じゃない。

 

黒幕の思い通りにならない為にも、このコロシアイを終わらせる為にも

皆で協力しないといけない…そんなのは分かっている。

 

でも…、皆を完全に信じることが出来ない。

裏切者の正体が分かった後はどうなるんだろう?

 

考えれば考えるほど気持ちが沈んでいく。

 

ため息をついてから、封筒の中を見る決心をつける。

 

誰の秘密か分からないけど、どうか大変な秘密じゃありませんように。

そう祈り、封筒の中の紙を見る。

 

「えっ…?」

 

僕の祈りは悪い意味で裏切られた。

 

 

『全ての根源(この舞台の立案者)』

 

なんだこれ!!?

 

裏切者だけじゃなくて黒幕が僕達の中にいるの?

 

でもなんで『黒幕』って書かずにこんな書き方をしたんだろう?

 

考えられるとすれば…黒幕の自覚がないとか。黒幕に利用されたとか?

 

黒幕にこの殺し合い学園生活のキッカケを与えてしまったとか?

そもそも誰の秘密なんだろう。

 

駄目だ。全然わからなくて、頭がぐるぐるする。

 

皆に相談するべきかなぁ。

 

でも…。

 

これ以上、混乱させたくない。でも一人で考えててもいい案が浮かばない。

色々考えているともうお昼ご飯の時間になってしまっていた。

 

しょうがない、まだ筋肉痛で痛いし、お腹空いてないけど行こう…。

 

その前に保健室によって行こうかな。

 

何かあったときの為に、どんな薬があるのかよく見ておきたい。

少しくらい遅れてもいいだろう。

 

保健室に着くと綾織さんとソフィーさんがいた。手に何かを持っている。

 

「二人ともなにしてるの?」

 

「毒殺対策だヨ!これでperfect!」

 

ソフィーさんがいい笑顔で胸を張って答えた。

 

「儂は暇な所を声掛けられたから手伝っておったのじゃ。こういうイベントも悪くないからのう。」

 

「対策って?」

 

「じゃーん!これだヨ!倉庫から探してきたんダ。」

 

ソフィーさんが見せてくれた手に持っているチューブを見ると

『超強力!瞬間接着剤!!』と大きく書いてある。

 

「これデ、左の毒や劇薬の棚を接着したヨ!」

 

「最初は全部処分してしまおうとしたのじゃが、処分した場合は

 ジョーカーが新しい物を準備するって言っとったからのお。」

 

 

なるほど、試しに左のガラスケースを開けようとしたけど、びくともしない。

 

「全部接着してしまおうと思ったけド、他の棚には栄養剤、頭痛薬、整腸薬、睡眠薬とか

 必要そうな薬とか包帯、ガーゼとか怪我の時にいるような物があったからやめたヨ。

 江ノ本サンはどうしてここ二?」

 

「あぁ、どんな薬や物があるのかよく見ておこうと思って。」

 

「なるほど、儂はもう覚えたから食堂に行っとるぞ。」

 

「ワタシもー。お腹すいたヨー。江ノ本サンまだ筋肉痛で痛いなら肩を貸すヨ。

 情けは人の旅にならずって言うもんネ。」

 

間違っているけど、ツッコまないでおこう。

 

「ありがとう、そんなに酷くないから大丈夫だよ。」

 

二人が出て行った後、棚の中をよく見ておいた。

品ぞろえがいいなぁ。僕の知らない薬や医療品がある。注射なんてあっても使えないけど。

 

メスなんて危ないし、皆と相談してどうするか決めよう。

 

 

 

 

食堂に着いた。

 

僕以外の皆が揃って…あっ、小鳥遊さんがいない。

心配だな…後で部屋に行ってみよう。

 

皆で食事を食べ終わってから話し合いになった。

 

「秘密はどうするっスか?見せ合うっスか?」

 

「それがいいかもしれないね。」

 

五十嵐さんの意見に鬼澤さんが同意した。

 

「はぁ!?なんでやねん!誰にだって秘密はあるやろ!

 それに深刻な秘密の奴だっておるかもしれへんやろ!!このまま何もせんのが一番や!」

 

怒りを露わにして怒鳴る木柳君に鬼澤さんは反論する。

 

「木柳、よく考えな。このままだと誰が自分の秘密を持っているのか分からないだろう?

 不安になるし疑心暗鬼になる。今、暴露してしまった方が情報共有ができるし、

 深刻な重い秘密の奴の相談に乗ったり心のケアができる。懺悔を聞いてきた経験を持つ

 シープもいる。それに…ジョーカーが暴露するなら同じだ。」

 

たしかに鬼澤さんの言うことも一理ある。

 

「私は反対よ。あんた馬鹿なの?」

 

喰田さんは反対みたいだ、すんなりと全員が賛成するはずがない。

 

「この中に裏切者がいるのよ?誰かも知らないのに、はいそうですかって

 信用できるわけないじゃない。他人の相談に乗ったりしている場合じゃないわ。

 どうせ暴露されるなら、自分の身を守ることだけを考えてればいいじゃない。

 あんたたちの身の上なんて知ったこっちゃないわ。」

 

「あんたはまた…!なんでそんなことばっかり言うんだい!」

 

「本当のことを言ってるだけじゃない。嘘ついてほしいの?」

 

喰田さんと鬼澤さんがにらみ合う。

 

「…アタイはあんたの事、好きになれそうにないね。」

 

「はっきり嫌いって言ったらどうなの?私はあんたの事嫌いよ。

 リーダー気取りの所が特にね。まぁ、ほとんどの奴が嫌いだけど。」

 

険悪なピリピリとした空気が流れる。

 

「ちょっ…、二人ともほら仲良くするっス!」

 

「五十嵐様の言う通りです、とりあえず秘密の事は多数決でどうでしょうか?」

 

五十嵐さんが二人を止めた後にシープ君が提案した。

多数決の結果、秘密は暴露しないことになった。

 

良かった。実を言うと僕も反対派だ。

ただでさえ裏切者の存在があるのに僕の持っている秘密を見せたくなかった。

 

この秘密はどうしよう…。

 

 

次に保健室の話になった。

ソフィーさんの接着した棚はそのままにしておくことになった。

僕が保健室で見つけた注射器や注射針、メスは袋か何かに入れて誰かの部屋に置くことにした。

 

生原君、若鳩君は論外で綿古里さんは危ない物を自分の部屋に置きたくないと涙目で言ってきた。

ここにいない小鳥遊さんも駄目だろうし、この4人以外になった。

 

今日は綾織さんの部屋になった。

晩御飯まで時間がある。心配だから湿布を部屋に置いてから、小鳥遊さんの様子を見に行こう。

 

湿布を貼って、残りを部屋に置いた後に小鳥遊さんの部屋の前に行くと

木製トレーの上に空の食器があった。

 

良かった。ちゃんとご飯を食べているみたいだ。

 

扉をノックする。…何も反応がない。

 

インターホンを鳴らしてみるけど…何も反応がない。

 

どうしよう?

寝ているなら起こすのは悪いしパソコンをしていてくれているなら邪魔するのも悪い。

食器を下げてまた出直そう。

 

僕はトレーを持って食堂に向かう。

 

 

食堂にて片付けをしている料理当番、五十嵐さんが嬉しそうに言った。

「モトありがとーっス!あとはタイタニックに乗ったつもりでお任せあれっス!」

 

いや、沈むよそれ。

 

食器の片付けは料理当番の人に任せよう。

 

何をしようかな?トレーニングの続き?いや、まだ筋肉痛が酷いし無理は禁物だからやめておこう。

料理もやめておこう。また食材を無駄にしたら怒られるだろうし…

 

うっ、立ちっぱなしだと筋肉痛が…。

治ってからまた鬼澤さんにトレーニングを頼もう。

 

せっかく行けるようになったんだし図書室で本でも読もうかな。

 

 

 

 

図書室にはやっぱり綾織さんがいた。

椅子に座って本を読んでいる。机の上には沢山の漫画が積まれていた。

 

「綾織さん、そんなに漫画読むの?」

 

「儂は何でも読むぞ。じゃがこの机に積まれている漫画は、儂が読むのではない。

 五十嵐俊穂に頼まれたのじゃ。」

 

積んである漫画を一冊手に取って表紙を見ると、どうやら少年漫画のようだ。

そっか五十嵐さん、少年漫画が好きって電子生徒手帳に載ってたもんな。

 

本を選んでから綾織さんの隣に座って読むことにした。

選んだのは「料理本~初心者向け~」だ。

 

 

本を読んでいると五十嵐さんが来た。

五十嵐さんは綾織さんに漢字を読んでもらっている。見ていて微笑ましい後景だな。

 

 

……僕たちの中に裏切者が本当にいるのかな?あの秘密からするに

最悪の場合、黒幕もいるかもしれない。

 

 

「モト、どうしたっスか?」

 

考え込んでいると心配そうな顔をした五十嵐さんが声を掛けてきた。

 

「何でもないよ、大丈夫。」

 

心配かけたくないし…もう少し黙っておこう。

 

「モト、楽しみにしているといいっス。いい事を思いついたっスから!」

 

「五十嵐俊穂、何を企んでおるのじゃ?」

 

綾織さんの問いに笑みを浮かべて答えた。

 

「後でのお楽しみっス!もうご飯の時間だから行くっスよー。」

 

五十嵐さんに言われて壁の時計を見てみると、晩御飯の時間の5分前だった。

随分と読みふけってしまったみたいだ。

 

本を本棚に直して食堂に向かう。五十嵐さんにおんぶしようかと言われたけど断った。

気持ちは嬉しいけど綾織さんもいるし…。

 

 

食堂に着くと大体の人が来ていた。やっぱり小鳥遊さんはいないか…。

 

あれ?喰田さんもいない。珍しいな。

もしかして小鳥遊さんを呼びに行ってくれているのかな?

 

「あ…あの喰田さんと小鳥遊さんが来てないみたいですね…。」

 

綿古里さんも気づいたみたいだ。

 

「秋雨みてーに殺されたのかもなぁ!」

 

バキッ!!!

 

若鳩君がそう言った直後に音がすると、吹き飛んで壁にぶつかった。

 

「トモ!!」

 

「若鳩サン!!!」

 

「若鳩様!」

 

五十嵐さんとソフィーさん、シープ君が、倒れたままの若鳩君に駆け寄る。

 

「ふざけんなや!いい加減にしろお前はっ!!!言うていい事といかんことがあるやろ!

 もう犠牲者が出とんのやぞ!!」

 

拳を握りしめ、木柳君が怒声を浴びせる。木柳君が若鳩君を殴り飛ばしたのか…。

 

「木柳!何してるんだい!暴力を振るうなんて最低だよ!若鳩に謝りな!」

 

「うっさい!そんな奴なんかに謝りたくないわ!

 晴天の学級裁判からずっとヘラヘラしとるやないか!」

 

鬼澤さんと木柳君が怒鳴りあう。

 

「木柳~。謝ればいいのかぁ?はいはい、ごめんなさーい。

 オイラが悪かったですぅ~。仲よくしようぜぇ。誰かに殺されるまではなぁ!」

 

いつの間にか若鳩君が起きていた。

お道化た態度や声色といい、おちょくっているのが分かる。

 

「若鳩!アンタは黙りなっ!!!みっちりと説教してやる!アタイと来な!!」

 

鬼澤さんが怒鳴ると、若鳩君の首根っこをつかん引きずり、食堂から出て行ってしまった。

 

「鬼澤様!お待ちください!若鳩様は怪我をされています。手当をさせてください!」

 

「シープ!そんな奴らほおっておけ!」

 

シープ君とウルフ君も追いかけて食堂から出て行ってしまった。

 

「木柳、後で話。」

 

「なんやねん、有馬。説教ならごめんやで。」

 

木柳君がしかめっ面で答える。

でも唯輝はじっと黙って見つめると木柳君のほうが折れた。

 

「…ちっ、しゃーないな。」

 

「ん。」

 

「あんた達、何があったの?」

 

「!!」

 

気が付くと喰田さんが来ていた。気が付かなかった。いつの間に…。

 

「喰田サン、心配したヨ!何処に行ってたノ?」

 

ソフィーさんが笑顔で話しかける。

 

「はぁ?何でわざわざあんたに教えないといけないの?

 それに心配してって頼んだ覚えもないし。いいからさっさと何かあったか言いなさい。」

 

「…!」

 

「…。」

 

「stop!ワタシが説明するヨ。大丈夫。」

 

何かを言いかけた唯輝と木柳君を制して、ソフィーさんが説明する。

 

 

「ハイハイ、説明は終わったっスよね?皆、注目!!私の素晴らしい提案を聞くっスよ!」

 

ちょうど説明が終わった後に五十嵐さんが声を張り上げて言った。

 

あっ、そっかいい事を思いついたって言ってたもんね。何だろう。

 

「明日、3時に皆でお菓子作り会をするっスよー!」

 

あぁ、そういえば前の学級裁判前にそんな話をしてたな。

でもこんな状況で皆が参加してくれるだろうか…。

 

「OK!楽しみだネ!!」

 

「吾輩も参加してやろう。」

 

「…ん。」

 

「儂はどうでもいいぞ。」

 

ソフィーさん、唯輝、生原君、綾織さんは参加してくれそうだ。

 

「アホかお前。」

 

「す…すみませぇん。」

 

木柳君と綿古里さんは反対みたいだ。

 

「あらいいじゃない。私も参加するわ。」

 

「えっ!?」

 

「…何よ。江ノ本、私は参加しちゃいけないの?」

 

「い、いや、意外だなって。」

 

「理由がどうであれ皆が一か所に集まるわけでしょ?互いに監視できるから、

 怪しいやつがいたら分かるし殺人が起きにくくなる。何かあった時のアリバイにもなるしね。」

 

なるほど…。そういうわけかぁ。

皆で仲よくしようとか絆を深めようってわけじゃないのか…。

 

「や…やっぱり私も参加しまぁす!仲間外れのほうが嫌ですし…。」

 

綿古里さんも参加してくれるのか。良かった。

 

「ナギも参加するっスよ!してくれると嬉しいっス!!お願い!このとーーーりっス!!」

 

五十嵐さんが勢いよく頭を下げて頼み込んだ。

 

「はいはい、参加したる。そのかわり作らへんで?オレは料理下手やしな。」

 

「大丈夫。僕が木柳君の分まで頑張るよ。」

 

フォローのつもりで言うと、皆が一斉に僕のほうを見た。

 

「あんたは食材に触らないでね。いい迷惑よ。」

 

「モトは手伝わなくていいっスよ!」

 

「ええか、江ノ本。食材を無駄にしたくないなら大人しくしとくべきやで。」

 

分かってても傷つく…。

 

「…。」

 

唯輝が黙って頭を撫でてくれた。

 

「さぁ!冷める前にご飯を食べるっスよ。」

 

五十嵐さんが机に着いて椅子に座ると、綾織さんは既にご飯を食べ終えていて、

のんびりとお茶をすすっていた。マイペースだなぁ。

 

 

その後、鬼澤さん達が戻ってきた。

そして晩御飯を食べ終わった後に、木柳君と若鳩君は形だけの謝罪をした。

 

最終的にはここにいない小鳥遊さん以外は、お菓子作り会に参加することになった。

僕は、小鳥遊さんの所へ、保健室の情報も報告するついでに誘いに行くことになった。

聞きたいこともあるし力になれたらいいな。

 

晩御飯を食べ終わった後、図書室で読んでいた本を最後まで読んでいると、

途中で五十嵐さんと綾織さんも来た。

 

二人と少し話してから小鳥遊さんの部屋に向かう。

部屋の前に着いてから、何度もノックをしてインターホンを押す。

 

あれ…?寝てるのかな。

 

何度も何度もノックをする。

 

「何~ヽ(`Д´)ノ。」

 

ガチャリとドアが開くと小鳥遊さんが、不機嫌そうな顔で出てきた。

 

「ごめんね。小鳥遊さん。心配だから顔を見たかったし、伝えたいことがあったんだ。」

 

「入ってー(-_-)。」

 

あっ、部屋に入れてくれるんだ。お邪魔します。

 

「う…うん、分かった。」

 

小鳥遊さんの部屋は散らかっていた。

白いカーペットの上に色々な大きさのクッションやゲームソフト、ゲーム機が散らばり、

テレビとその前に机がある。

机の上もお菓子の空の袋や空き缶が転がってて、トレーの上には空の食器が積んである。

晩御飯食べたんだな。

 

綺麗なのはベットだけみたいだ。

小鳥遊さんはベットの上にゴロリと横になった。

 

「で、何の話~(。´・ω・)?」

 

「うん、明日の3時に手作りお菓子パーティをすることになったんだ。参加してくれないかな?」

 

「えー、嫌( 一一)。」

 

即答された…。ふと、例の件が頭をよぎる。

 

「えっと、どうしてかな?忙しいなら手伝うよ。」

 

「手伝うって…。もう例の件は終わったよー('◇')ゞ

 時間があるときにでも見に行けば~(´Д`)めんどくさいから行きたくないよー(-_-)」

 

後で見に行ってみようか…。

 

「参加してくれると嬉しいんだけどな…。」

 

「しつこいよー(-_-)嫌って言ってるじゃ~ん(´Д⊂ヽ。」

 

顔を顰めて言われた。本当に嫌がってるみたいだ。

 

無理やり参加してもらうのも悪いけど…出来たら来てほしいな。

 

「分かった!なら小鳥遊さんが参加したくなるような話をするね!

 ついでにこの部屋散らかりすぎだから一緒に片付けようよ。」

 

足の踏み場の無い部屋は黒いあいつが潜んでても不思議じゃなさそうだ。

 

「はいはい、そういうのはいいからー(ーー゛)バイバーイ(@^^)/~~~」

 

小鳥遊さんが立ち上がり、僕の腕をつかんでドアまで引きずっていく。

 

あっ!部屋から出す気だな。

 

「ちょっ…!小鳥遊さんやめて!話を聞くくらいいじゃん!

 片付けだって二人ですればすぐに終わるって!」

 

抵抗したけど結局、廊下に出された。

僕が部屋から出た直後にドアがバタンと勢いよく閉められる。

 

あっ!食堂で話し合ったことを伝えてない!メスとかの危険物とか薬品の棚の事とか!

 

「小鳥遊さん!」

 

ドンドンと扉を叩いてインターホンを鳴らす。

それでも小鳥遊さんは出てこない。

 

うぅ…。パーティに参加してくれなくてもせめて話だけは聞いてほしい。

 

念のために、何度かインターホンを鳴らしてドアを叩く。

それでも小鳥遊さんはドアを開けてくれない。

 

しばらくすると眠気が襲ってきた。

お腹いっぱいご飯を食べてから結構時間がたつからかな?仕方ない、部屋に戻るか。

このままうっかり寝てしまったらお仕置きされるだろうし。

 

部屋に戻って時計を見るともう夜の11時だった。

普段は12時に寝るんだけど眠いものは仕方ない。

 

日記を急いで書いて着替えてからベットに横になると抗うすべもなく睡魔が襲ってきた。

そのまま僕は眠りに落ちた。

 



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【CHAPTER2 】〈非日常編〉

「………。」

目が覚めた。

時計を見るとまだ朝の6時半だ。

 

昨日は早く寝たせいか、早く目が覚めちゃったみたいだ。

二度寝するには微妙な時間だし眠くない。どうしようかな。

 

身体を起こすと、筋肉痛が大分軽くなっている。良かった…。

 

せっかくテレビがあるんだし見てみようかな。

外の情報が分かるかも!なんで今まで気が付かなかったんだ僕…。

 

リモコンを押すとテレビが映った。

チャンネルを変えたけど全部ジョーカーが映っている。

 

なにこれ!?

しかも映っているジョーカーはピクリとも動かない。

こんなの見ているだけで時間の無駄だ。

 

期待してたのに…。しょうがないDVDを見よう。

 

区切りのいいところまでDVDを見た時計を見ると7時15分だ。

なんか中途半端な時間だな。

 

そう思いふと目を向けると机の上に大量の湿布が置きっぱなしだ。

保健室に行って半分くらい戻してこよう。

 

保健室に着いた。

さて、湿布をさっさと返してご飯を食べに行こう。

そう思ってドアを開けようとした。

 

あれ?開かない。

 

力を入れてドアを横に引く。だけど開かない。

 

鍵が掛かっているんじゃなくて何かが引っかかってるみたいだ。

 

うーん、どうしようかな。

無理やり開けて壊そうものなら、ジョーカーに文句を言われそうだ。

急ぎの用じゃないし別にいいか。

保健室が使えないのは困るし、ジョーカーがどうにかしてくれるだろうし。

 

僕は部屋に湿布を戻してから食堂に向かった。

 

 

食堂に着くと小鳥遊さん以外の皆が揃っていた。

小鳥遊さんは来てくれなかったみたいだ。

 

小鳥遊さんのご飯をどうしようか考えていると、

「あの怠け者に説教してやるわ。」と喰田さんが自ら立候補してくれた。

 

 

さて、朝ご飯食べ終わったし何をしようか?

 

お菓子パーティの準備はお昼ご飯の後になっているからなぁ。

 

…小鳥遊さんの所に行ってみよう。

喰田さんもいるだろうし、やっぱりもう一度誘ってみようかな。

 

自分の食器を下げてから小鳥遊さんの部屋に向かった。

 

 

小鳥遊さんの部屋の前には、ご飯を乗せたトレーを持った喰田さんがいた。

 

「江ノ本なんで来たの?小鳥遊は顔だけ見せて"後で食べるから置いてて"って

すぐにドアを閉めたわよ。まだ眠そうだったし、二度寝でもしたんじゃない?」

 

「そうなんだ、ドアを開けてくれるまで二人で色々してみる?」

 

「いや、やめとくわ。待っておく義理はないし、入口に置いておけば、

 お腹が空いてからたべるでしょ。」

 

だから全部のお皿にラップをしてあるのか。

暖かいうちが美味しいのにもったいないなぁ。

 

「僕は少し待ってみようかな。」

 

「そう、私はもう行くわ。つまみ食いなんてするんじゃないわよ。」

 

「そんなことしないよ!」

 

喰田さんはトレーを置いてからさっさと行ってしまった。

僕はノックをしてみたけれど、小鳥遊さんが出てくる様子はない。

 

図書室に行こうかな。

 

図書室に着くと五十嵐さんと綾織さんが読書をしていた。綾織さんが読み聞かせていた。

そっか、五十嵐さんは漢字が読めないんだったな。

適当に本を数冊持ってきて戻ってくると食事の乗ったトレーが無くなってた。

 

あっ、僕が行ってる間に取ったのか、大人しく待ってればよかった。

 

うーん…どうしようかな。

 

 

「江ノ本!」

 

「うわっ!?」

 

いきなり名前を呼ばれて、びっくりした。

振り向くと、そこには鬼澤さんがいた。

 

「もうお昼ご飯の時間だし小鳥遊以外みんな揃っているよ。準備もできてるし来な。」

 

もうそんな時間になってるのか。本に集中してて分からなかった。

 

「分かった。本を図書室に返してから行くね。」

 

「貸しな。アタイが返してきてあげるよ。あんたは先に行って食べてな。」

 

鬼澤さんが僕の近くに来て言ってくれた。

 

「そんな…。いいよ。悪いし。」

 

「遠慮するんじゃないよ。厚意は素直に受け取っときな、それにアタイの方が早く着くだろ。」

 

笑顔で頭をわしわしと撫でられる。

確かに鬼澤さんの方が僕より体力もあるし足も速いだろうな。

 

「ごめんね…。ありがとう。」

 

本を鬼澤さんに渡して僕は食堂に向かった。

 

 

食堂で皆とご飯を食べた。もちろん後で来た鬼澤さんも一緒に。

 

小鳥遊さんには、五十嵐さんがご飯を持って行ってくれることになった。

 

片付けが終わった後、皆で話し合った結果。

本当は3時に始める予定だったけど早めにすることにした。

 

2時少し前にドーナツとイチゴ大福、クッキーを作ることになった。

 

僕を含め、料理が下手な人…。

生原君、帰ってきたソフィーさん、五十嵐さん、鬼澤さんが材料や料理器具の準備をする。

 

いたずらされたら困るので、木柳君は若鳩君の近くで見張っている。

 

それが終わったら残りの人がお菓子を作り始めた。

 

流石だ。手際がいい。

 

「僕にも手伝わせて!」って頼んでみたら

 

「寝言は寝て言え。」

 

「あんたは馬鹿なの?本気で手伝いたいなら大人しくしてて。」

 

「す…すみません、お願いですから大人しくしててくださぁい。」

 

ウルフ君、喰田さん、綿古里さんに言われた。

 

慰めているのか、唯輝が頭をポンポンと撫でて出来立てのクッキーをくれた。

一番最初に作ってた奴か。

美味しくクッキーを食べてるとココアを入れたコップを渡してくれた。

 

その後に、甘やかすなと喰田さんに注意されていた。

 

シープ君が「江ノ本様、落ち込むことはありません。練習すれば上達しますよ」と優しく慰めてくれた。

綾織さんは「江ノ本望夢の料理は個性的なだけじゃ」と言ってくれた。味音痴かな?

 

 

時間がたつとお菓子が全部完成した。

かなりの量だと思ったけど皆で食べてるとどんどん無くなってきた。

 

途中で綿古里さんが「小鳥遊さんに持っていきますねぇ。」と、

袋にいくつかお菓子を入れて食堂から出て行った。

小鳥遊さん食べてくれるといいな。

 

お菓子はどれも美味しかった。

五十嵐さんは綾織さん、唯輝とお喋りしていた。

ウルフ君と喰田さんは口喧嘩をしていてシープ君がそれの仲裁に入っている。

 

ソフィーさんと木柳君は楽しそうにお喋りしている。

若鳩君と生原君が楽しそうにお喋りしていて鬼澤さんは若鳩君のそばで見張っている。

途中で綿古里さんが戻ってきた。

 

お菓子は小鳥遊さんの部屋のドアの前に置いてきたらしい。

 

あっという間に時間が経った。もう3時かぁ。

 

晩御飯まで時間があるし湿布を戻しに行こう。保健室開いているかな?

 

部屋に帰ってから保健室に行くとドアはすんなりと開いた。良かった。

 

右のガラスケースの棚に湿布を戻してから保健室を出た。

 

さて…。

トレーニングは完全に筋肉痛が治ってからにするとして、料理の練習でもしようか?

それなら教えてくれそうな綾織さんがシープ君、唯輝。

いや、唯輝には内緒にしてこっそり練習しよう。そして驚かせたい。

 

綾織さんかシープ君を探そう。

あっ、探さなくても綾織さんは図書室にいるだろうな。よし図書室に行こう。

 

図書室には五十嵐さんと綾織さんがいた。

綾織さんが五十嵐さんに漫画を読んであげている。

 

「あっ!モトも本を読みに来たんっスか?」

 

僕に気が付いた五十嵐さんが話しかけてくれる。

 

「いや、違うよ。綾織さんに頼みがあって来たんだ。」

 

「儂に?何の用じゃ?江ノ本望夢。」

 

「うん、僕に料理を教えてくれないかな。」

 

「えっ!?モトが料理!!?無謀っスよ、無理っス!!!」

 

五十嵐さん…。そんなはっきりと…。

 

「そんな…すっごく上手くなりたいってわけじゃないんだ。

 せめて・・・皆が下手だなぁって笑ってくれるくらいになれれば…。」

 

「モト…。苦手なことを克服しようとするのは偉いっスけど、皆を病院送りにするつもりっスか?」

 

「それは違うよ!!!」

 

二人にどうして練習する気になったのかを説明した。

 

「なるほどのぅ。江ノ本望夢。儂は暗記したレシピ本通りに作っているだけじゃ。

 教えるのは上手ではないと思うぞ?それでもいいと言うのなら一緒にやってみるかのう。」

 

「ありがとう!助かるよ。今は五十嵐さんと読書してるみたいだから明日でいいよ。」

 

「うむ、物語において他の登場人物と交流を深めとくといい事があるしのぉ。

 儂が死んだ後、回想シーンを入れてほしいものじゃ。」

 

「縁起でもないこと言わないでほしいっス!」

 

五十嵐さんがすかさずにツッコミを入れる。

 

「あはは…。僕もせっかく来たんだし読書しようかな。」

 

「あっ、ならこの漫画がお勧めっス!」

 

五十嵐さんが進めてくれた少年漫画を読んだ。凄く面白かった。

 

「す、すみませぇん。3人共、晩御飯の時間ですよ…。」

 

綿古里さんが呼びに来てくれるまで皆、本に夢中になっていた。

 

食堂に着くと小鳥遊さん以外の人達が全員揃っていた。

 

また引きこもっているのか…。結局お菓子作りパーティにも来てくれなかったし。

ソフィーさんが自ら「ご飯はワタシが持っていくヨ!」と言ってくれたので任せることにした。

 

 

        バンッ!!!

 

皆で食事をしていると勢いよくドアが開けられた。

その音がした方を向くと血相を変えたソフィーさんがいた。

 

「どうしたんだい!?」一番近くにいた鬼澤さんがソフィーさんに駆け寄る。

 

床に力なくへたり込んでしまったソフィーさんが小さな震える声で

 

「小鳥遊サンが…小鳥遊サンが…」と言っている。

 

「小鳥遊がどうしたんだい?」鬼澤さんがそう尋ねるのとほぼ同時に、

五十嵐さんが走って食堂から出て行った。

 

僕も小鳥遊さんの身に何かあったのか気になる。

ソフィーさんは一先ず鬼澤さんに任せることにして食堂から出て行き

 

小鳥遊さんの部屋に全速力で走って向かう。その途中だった。

 

「きゃああああああああああああああああああぁぁぁぁ!!!!!」

 

耳をつんざくような五十嵐さんの悲鳴の直後に二度と聞きたくなかったあのアナウンスが流れた。

 

 〈ピーンポーンパーンポーン♪死体が発見されました!一定の捜査の後、学級裁判を開始します!〉

 

自分の耳を疑った。…え?嘘だ嘘だ嘘だ!そんなの嫌だ!

 

 

小鳥遊さんの部屋のドアが開けっぱなしになっている。

部屋に入ると、カーペットの上に横向きに倒れている小鳥遊さんと、

そばで真っ青な顔で腰を抜かしている五十嵐さんがいた。

 

おそるおそる近づいていく。冗談だよね?

あんなアナウンス、ジョーカーが嫌がらせで流しただけだよね?

 

小鳥遊さんはめんどくさがりだからカーペットで寝ているだけだよね?

 

近くで見てみると分かった。

小鳥遊さんの顔の傍にある血痕を見て気づいてしまった。

 

小鳥遊 架澄さんは、自分の部屋で永眠してしまったことを。

 

 

 

 




江ノ本の挿絵を貰いました!

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【CHAPTER 2 】 〈捜査編〉

感想ありがとうございます!すごく嬉しいです!


 

 

「望夢!」

 

 

唯輝の大声で我に返った。

どうやらボーっとしてしまっていたみたいだ。

 

辺りを見渡してみるともう皆が集まっている。

 

「ごめんね…。もう大丈夫だよ。」

 

謝る僕の頭を、唯輝は落ち着かせるように撫でる。

 

「小鳥遊架澄の物語は終わってしまったようじゃのう。」

 

小鳥遊さんの死体を見た綾織さんは、いつもと変わらない様子で言う。

 

「いぇーい!殺し合いが起きたぜぇ!今回はオイラは犯人を知らねーから、

 面白くなりそうだなぁ。やっぱり命がけのスリルは良いもんだなぁ!」

 

「嬉しそうだな。マジシャン。」

 

「お前もなぁ。生原!」

 

「そうだろう。大好きな貴様らの、努力する姿が見られるのだからな!」

 

若鳩君と生原君は楽しそうにお喋りしている。

 

綿古里さんは真っ青な顔で震えながら泣いていた。

ソフィーさんも顔色が悪い。

 

五十嵐さんは腰を抜かしているままだ。

 

シープ君は泣きながら祈るように手を組み「すみません…。」と謝罪を繰り返している。

 

「皆様ー♪また殺し合いが起きましたね!いぇ~い☆」

 

ひょっこりと姿を現したショーカーが小躍りを始める。

 

その様子を睨みつけるウルフ君が口を開く。

 

「消え失せろ。事件ファイルだけ寄越せ。」

 

そして僕達の方を一瞥すると、めんどくさそうに言葉を投げた。

 

「お前ら、さっさと捜査をして早く裁判を終わらせるぞ。」

 

 

 

「はいはい、どうぞ。死にたくなければ学級裁判頑張ってくださいねぇー。」

 

ジョーカーは次々に僕達に事件ファイルを手渡すとどこかへ去っていく。

 

またあの学級裁判をしなくちゃいけないのか。

二度としたくなかったのに…。

 

「さっさと捜査をするわよ。まずは現場の見張りを決めるわ。誰か立候補者はいるかしら?」

 

喰田さんが皆に話しかける。

 

「なんでや…。なんでお前ら人が、仲間が死んでるのにそんな態度やねん…。

 人の心が、良心はないんか…?」

 

木柳君が信じられないような目で綾織さん、若鳩君、生原君、ウルフ君、喰田さんを見つめると

問いかける。その声は怒りか悲しみか、震えていた。

 

「木柳、アンタの言いたいことは分かる。でも今は言い合いしてる場合じゃないだろ。

捜査をしないと…学級裁判で真実を突き止めないとアタイらは死ぬんだ。」

 

「…っ。」

 

鬼澤さんに言われて納得がいかない様子だが、木柳君は黙り込む。

 

「泣いても喧嘩をしても小鳥遊は生き返らないんだよ?

力を合わせて小鳥遊の無念を晴らすべきじゃないかい?喧嘩や言い合いは

生き残ったらいくらでもできるんだ。頼むから協力してくれ。」

 

「…分かった。ならオレは捜査をしておく。」

 

木柳君はそれだけ言ってからどっかに行ってしまった。

 

「私…。見張りをしとくっス。」

 

「ワタシも見張りに着くヨ。」

 

見張りは五十嵐さんとソフィーさんになった。

 

僕も捜査を始めよう。

 

「唯輝。一緒に捜査していい?」

 

「…。」唯輝は黙って頷いてくれた。

 

 

              《捜査開始!》

 

まずは事件ファイルから見てみよう。

 

表紙には『事件ファイル②』と書いてある。

 

『被害者は「小鳥遊 架澄」

死体発見現場は「小鳥遊 架澄の居室」

死因は「薬物の服用」

死亡推定時刻は「午後3時前後」

補足:「外傷なし」

居室のカーペットの上に横向きに倒れていた。』

 

薬物の服用?毒殺かな?服用ってことは注射で薬を打ったんじゃなくて飲んだってことか。

外傷が無いためか、左のページの顔と体全体の写真には前回と違い赤いバツ印が書いていなかった。

 

 

【コトダマ入手:事件ファイル②?

 

被害者は小鳥遊架澄。死体発見現場は小鳥遊架澄の居室。死因は薬物の服用。

死亡推定時刻は午後3時前後。補足は外傷なし

居室のカーペットの上に横向きに倒れている。】

 

次は小鳥遊さんの死体を見てみよう。

とても辛いけれど、何か手掛かりがあるかもしれない。

小鳥遊さんの死体に唯輝と近づくと、見張りをしていた五十嵐さんとソフィーさんが気付いて

話しかけてきた。

 

「どうしたんっスか?」

 

「何か気になることでもあるノ?」

 

丁度いいや。二人に色々聞いておこう。

 

「ねぇ、二人とも何か気になったことや気付いた事、

それと今日の朝から今まで何をしてたのか教えてくれるかな?」

 

「なっ…!もしかして私を疑ってるんっスか!?私は犯人じゃないっスよ!!」

 

「違うよ。少しでも情報が欲しいんだ。お願い。」

 

「頼む。」

 

僕と唯輝が頭を下げると五十嵐さんは納得したようだ。

 

「分かったっス。今日は6時に起きてトレーニングルームのランニングマシーンを使ったっス。

あっ、リンちゃんもいたっスよ。料理当番だから7時くらいに食堂に行って皆で料理したっス。

朝食の後はヒロと図書室で読書したんス。

昼ご飯の後もお菓子パーティの後もヒロと図書室で読書してたっスよ。」

 

まぁ、そうだろうな二人が図書室で読書していたのは僕も知ってる。

 

「………。それと、事件に全く関係ないと思うっスけど、昼ご飯をカナに持って行った時に

ついつい、つまみ食いしたっス。」

 

言いにくそうに顔を伏せて自白した。

 

「どのくらいしたの?」

 

昼ご飯のメニューはカレーとサラダと卵スープ。フルーツポンチだったな。

 

「全体的に。3分の1くらい食べたっス。その直後にカナがドアを開けて昼ご飯をあげたっス。」

 

「………。」

 

「うぅ…。だって自分の分だけじゃ足りなかったんスよ!

まだ少しお腹空いてたしバレないかなって私の分よりカナの方が量が多かったんス!

ずるいっスよ!それに、つまみ食いした直後だったから言い訳ができなくて謝ったら

「いいよ~( ´∀`)b」って許してくれたっス。」

 

僕らの視線に耐えられなくなった五十嵐さんが慌てて言い訳をする。

 

まぁ、一応覚えておこう。

 

【コトダマ入手:小鳥遊の昼ご飯

 

五十嵐が持って行ったものの全部3分の1程つまみ食いしている。

つまみ食いした直後に小鳥遊に食事を渡している。】

 

「OK、次はワタシが話すネ。朝の7時過ぎくらいに温泉に行って入ったヨ。

その時にドライヤーが4個になってたヨ。お風呂から上がってかラ、朝ご飯を食べて

綿古里サンとワタシの部屋でゴロゴロしたネ。

お昼ご飯を食べて自分の部屋でゆっくりしテからお菓子パーティに行っテ

パーティの後は喰田サンに料理を厨房で教わったネ。

教えてもらいながらプリンを作っタよ。

その後「片付けはあんたがしててね。」言われたから一人で片付けてから晩御飯を食べたんダ。」

 

 

「よくあの喰田さんが教えてくれたね。」

 

「最初は「時間の無駄よ。」って言われたケド3回くらい頼んだらOKだったヨ!

あっ冷蔵庫に人数分あるから食べてネ。」

 

あの喰田さんが?ソフィーさんのことを結構気に入ってたのかな?

 

それともたまたま機嫌がよかったとか?

 

「…ソフィーさんごめんね。最後に小鳥遊さんの死体を発見した時の事を教えてくれる?」

 

「……OK。ご飯を持って行って、ノックをしたけど無反応だったんダ。

そしたらジョーカーが隣にいテ「勝手に入ったらどうですか~?鍵かかってませんよー♪」っテ。

ドアノブを回してみたラ本当に鍵が掛かってなかったカラ…。

そのまま入って小鳥遊サンを見つけたんだヨ。

寝てると思って近づいて話しかけてみたら顔に近くに血痕があって

死んでるって気付いて、急いで皆に知らせないとっテ思って…。」

 

「そう、辛いこと思い出させてごめんね。ありがとう。」

 

【コトダマ入手:大浴場の脱衣所のドライヤー

 

ソフィーが朝の7時過ぎくらいに大浴場にて入浴している。

その時に5個あったドヤイヤーが4個になっている。】

 

二人から話を聞いた後に唯輝にも話を聞いた。

 

料理当番だったので7時に厨房で皆と料理をして、朝ご飯の後に大浴場に行って入浴したらしい。

その時はドライヤーは5個あったみたいだ。

その後にはちょうど廊下で木柳君、若鳩君と会ったから勇気を出して部屋に誘ったら

うまくいって唯輝の居室で3人で遊んで仲良くなろうと思ったらしいんだけど…

会話は続かず、全然盛り上がらない何を話していいかわからず、気まずい雰囲気になったみたいだ。

 

まぁ、そうだろうなぁ。

唯輝は基本は表情が乏しいし、口数が少ない喋ったとしても淡々とした抑揚のない感じだ。

 

対する木柳君は表情が豊かで自分の感情に素直で喜怒哀楽が激しい。

それにお喋りなタイプだ。

若鳩君はそんな二人を見てにやにやしていたみたいだ。

 

結局、3人でDVDを観賞して、僕の脚本した時代劇で夢中で見てくれたみたいだ。

その後お昼ご飯の後3人でDVD観賞の続きをしてから厨房に行ってお菓子作りパーティをした。

 

パーティの後には久しぶりに泳ぎたくなり、プールに行ったら鬼澤さんもいたので

勝負してみたら、いい勝負だったけど負けたそうだ。流石鬼澤さんだ。

鬼澤さんは勝負の後にどこかに行ったらしい。…。特に注意するべき所はないな。

 

小鳥遊さんの死体に近付くとちょうど検死を終えた生原君がいた。

 

さっきウルフ君に真面目に検死と調査をしろって言われてたもんな。

 

「!脚本家に俳優どうしたのだ?」

 

「生原君、何か分かったことある?」

 

僕が尋ねると答えてくれた。

 

「ふむ、いいだろう。今分かっていることを教えてやろう。

死亡推定時刻は事件ファイルと同じで外傷もない。でも、おかしいのだ。」

 

「?えっ、どこがおかしいの?」

 

「疑問の元はこれだ。」

 

生原君が指さした先を見てみると、小鳥遊さんの死体の真前の机の上に

メモ紙と薬品のガラス小瓶が並べて置いてある。

指さしているのはガラスの小瓶の方だ。

 

ラベルにデカデカと赤い髑髏マークがあり紫の字で『即効毒』と書いてあり…中身は空っぽだ。

裏側には薬の説明文が書かれている。

 

説明文には

『ジョーカー特性の即効性の毒薬です。液体状なのでこぼさない様に注意して下さい。

透明・無臭です。飲んだ瞬間に体に異変が起こり吐血してから死亡します。』と書いてある。

他には色々な成分が書かれていたけど僕にはさっぱりだ…。

 

「…!小鳥遊さんはこれを飲んで?」

 

「その毒の成分を見てみたが強力な成分だったぞ。脚本家達も見てみるがいい。

そして、その事実を踏まえてゲームクリエイターの死体を見てみろ。」

 

「…ごめん生原君。僕達、薬に詳しくないんだ。教えてくれるかな。」

 

「いいぞ。詳しい説明が必要か?」

 

生原君が尋ねると唯輝が首を横に振る。

僕も首を横に振った、詳しく説明されても分かんないだろうし、他にも調べたいところがある。

 

「ざっくり言うならば、飲んだ瞬間に体に異常が現れ吐血し死んでいるな。

説明書に書いている通りだ。だがかなり強力な毒だからな

苦しむ間もなく混乱した数秒で死んでいるだろう。」

 

どんだけ強力なの…。恐ろしい。

 

改めて小鳥遊さんの部屋を見てみると物が散らかっている、結局掃除はしなかったみたいだ。

 

小鳥遊さんの死体は横向けに倒れていて…まるで眠っているみたいだ。

 

クッションのちょうど真ん中に頭を乗せている。

それに死体の下にはゲームソフトもゲーム機もお菓子のゴミも何も下敷きになっていない。

 

「さて、話の続きだ。

カーペットに血痕があるが、人間は全体血液量の4分の1までなら出血しても死なん。

この程度の吐血ならゲームクリエイターは数秒で死んでないし、成分表に書かれてある通りならば、

これより吐血量が多いはずだ。そもそも口腔内に吐血した痕跡がないから吐血をしてないな。」

 

そういうと、生原君はくるりとドアの方を向く。

 

「さて、検死も終わったから吾輩は他の所を調べるぞ。

マフィアだけではなく、他の生物たちにも真面目にしろと言われているからな!」

 

そして居室から出て行った。

 

残された僕達は、小鳥遊さんの死体と周辺を調べていく。

 

小鳥遊さんの顔は穏やかだ。

口元に血痕が付いてるけど口腔内には血痕がなく、怪我をしている所もなかった。

小鳥遊さんの顔の近くにあるカーペット上に、生原君が言ってた大きめの血痕がある。

周りにあるクッションやゴミにも血痕が付着していた。

 

あれ?そういえば…。

おかしいぞ…毒がある保健室のガラスケース棚は、接着剤でくっつけているはずなのに。

 

後で見に行こう。

 

机の下には袋が置いてあった。中を見てみるとお菓子パーティで作ったお菓子だ。

クッキーが5枚、ドーナツが5個 イチゴ大福が3個だ。

綿古里さんが持って行ってくれたやつだな。

 

そういえばドアの前に置いてきたって言ってたな。

ここにあるってことは小鳥遊さんが部屋で食べたのかな?

 

ここに置きっぱなしなのもな…。

腐らせるのももったいないし。後で、回収しとこうかな。

 

【コトダマ入手:机の上のガラス小瓶】

 

机の上に置いてあるガラス小瓶。『即効毒』とラベルに書かれている、強力な即効性の毒薬。

透明、無臭液体状で飲むと体に異常が現れ吐血し数秒で死亡する。

しかし小鳥遊は吐血していないし、顔の近くに20㎝×15㎝程の血痕があるが、

血痕よりも吐血してないとおかしい。

 

 

【コトダマ変化:事件ファイル②? → 事件ファイル②】

 

被害者は小鳥遊架澄。死体発見現場は小鳥遊架澄の居室。死因は薬物の服用。

死亡推定時刻は午後3時前後。補足は外傷なし。

居室のカーペットの上に横向きに倒れている。

クッションのちょうど真ん中に頭を乗せ、眠っているかのようだ。

口元に血痕が付いているが吐血した痕跡はなし。顔の近くに20㎝×15㎝程の血痕がある。】

 

 

【コトダマ入手:小鳥遊架の部屋】

 

クッションやゲームソフト、ゲーム機、お菓子のゴミ、空き缶、ペットボトル等で散らかっている。

死体の下には何も下敷きになっていない。

 

【コトダマ入手:お菓子パーティのお菓子】

 

机の下に置いてあった綿古里が小鳥遊に持って行った物。

綿古里はドアの前に置いたと言っていたが机の下にあった。

中身はクッキーが5枚、ドーナツが5個、イチゴ大福が3個あった。

 

 

 

「ん。」

 

唯輝が机の上のメモ紙を指差す。

メモには『もう耐えられない。皆ごめんね~(´;ω;`)』と書いてある。

この小さめの丸文字。小鳥遊さんがホワイトボードに書いてた字と似ている。

でも何だろう…なにか違和感があるな。

 

 

【コトダマ入手:机の上のメモ】

 

机の上にあったメモ『もう耐えられない。皆ごめんね~(´;ω;`)』と書いてある。

この小さめの丸文字。小鳥遊がホワイトボードに書いてた字と似ているが違和感がある。

 

 

「望夢。」

 

考え込んでいたら唯輝に話しかけられた。

 

「わっ、ごめん。どうしたの?」

 

「ゴミ箱。あった。」

 

そう言って封筒を手渡してくれた。

 

 

この封筒ジョーカーの動機のやつだ!

 

封筒の中に、今回の事件に関わる情報があるかもしれない。

 

 

気は進まないけど中身を見てみよう。

封筒から紙を出して広げる。 

 

そこに書いてあった秘密は………。

 

 

『父親に重傷を負わせた。』

 

…誰のかも分からないけど一応覚えておこう。

 

この秘密はどうしようかな?

ここに置いていったら他の人が見てしまい、また争いの火種になるかもしれない。

 

「…行こう。」

 

唯輝がその封筒を懐にしまって言う。

預かってくれるみたいだ。

 

 

もう十分に調べたし他の所に行こう。

 

 

 

【コトダマ入手:小鳥遊が持っていた秘密】

 

小鳥遊がジョーカーに受け取っていた誰かの秘密。

 

内容は『父親に重傷を負わせた』】

 

 

 

僕達は僕の居室にお菓子を預かってから、ゴミ処理室に行った。

犯人が処分しようとした証拠品などがあるかも知れない。

 

掃除当番は唯輝だった。

寝る前に、まとめてゴミを処分するつもりで

今日は一度もゴミ処理室に行ってないことも教えてくれた。

 

ゴミ処理室に行くとシャッターの前にゴミ袋の山があった。

14人もいるし、この量にも納得だ。

 

「任せて。」

 

唯輝はそう言うと、ゴミ袋の山に近付いてしゃがみ、懐から出したビニール手袋をつけて

ゴミ袋を開けて漁り始めた。

 

なるほど、掃除当番だったから手袋を持ってたのか。

唯輝だけにやってもらうのも悪いし…

 

「僕も…「何やってんだお前。」

 

手伝おうかと言おうとしたら、後ろからの声に遮られる。

振り向くとウルフ君とシープ君がいた。

 

「お兄様、おそらく有馬様は証拠品や手掛かりを探してくださっているのだと思いますよ。

有馬様、私にも手伝わせてください。」

 

シープ君が唯輝の隣にしゃがんで話しかける。

 

「…。」

 

唯輝は無言で頷くと、シープ君にビニール手袋を渡す。

そして二人でゴミ袋を漁り始める。

 

「おい、シープ!そんなのこいつ等にやらせておけばいいだろ。」

 

「お兄様、私が手伝いたいのです。ここは私達に任せて他の所を調べてください。お願い致します。」

 

「…分かった。何かあったら言えよ。」

 

ウルフ君は渋々とゴミ処理室を出て行こうとする。

 

「ちょっと待って!」

 

僕が呼び止めると不愉快そうに顔を顰めて振り返った。

 

「ごめんね。何か気付いた事とか今日の朝からの行動を教えてくれるかな?」

 

「…朝は6時に起きて朝飯までトレーニングルームでトレーニングした。

朝飯の後はシープと俺の部屋で過ごしたな。

昼飯の後はシープの部屋で二人で過ごした。

菓子作りの後は生原とシープと俺でシープの部屋で過ごした。手掛かりとかは知らねぇな。」

 

「朝は少し早めに起きてからお祈りをしていました。

朝食の後はお兄様と私の部屋で過ごして昼食の後はお兄様の部屋で過ごしましたよ。

お菓子パーティの後は、生原様が話しかけてくださったので、

私の部屋でおもてなしをさせていただこうと思ったのですが、お兄様も来られました。

すみませんが、何も話せるようなことはないですね。申し訳ありません。」

 

 

僕が尋ねると二人とも答えてくれた。

ここは二人に任せて僕は別の所に行こう。

時間を掛けるわけにもいかないし、次は図書室に行こう。

 

 

図書室に着くと、綾織さんと喰田さんがいた。

2人共、僕に気付くと近づいてくる。

 

「ねぇ、二人とも今日の朝からの行動と、何か気付いた事があるなら教えてくれる?」

 

 

「いいぞ、儂は主に五十嵐俊穂と図書室にいたぞ。」

 

五十嵐さんもそう言ってたな。

 

「あと、毒に関する本はジョーカーのお勧めコーナーにある、

【猿でも作れる!毒薬・劇薬の作り方】本棚の上らへんにあったんじゃが、

あの高さは、少なくとも2mくらいはあるのう…木柳修哉くらいしかとれんじゃろうな。

脚立は二つとも位置がそのままじゃし使われた痕跡も無かったぞ。

他には…毒がある草や花。食べ物についての本じゃな。」

 

「ありがとう。綾織さん。」

 

綾織さんにお礼を言ってから脚立を見に行った。

 

確認すると、初めて図書室に来た時と位置が変わっておらず、使われた痕跡も無い。

 

「次は私が話すわ。朝ご飯を食べた後小鳥遊にご飯を持って行って

あんたとも会ったでしょ?その後は自分の部屋で掃除をして、DVDを見たわ。

昼食の後には、廊下で綿古里と生原に会って綿古里の部屋で3人で過ごしたのよ。

本当は嫌で、何度も断ったんだけど。

綿古里は二人きりになりたくないって必死にお願いしてきたからね。それに用事もなかったし。」

 

…綿古里さん話しかけてくる生原君をあしらえなかったんだろうな。

 

「お菓子パーティが終わったらソフィーに料理を教えてたわ。冷蔵庫にプリンがあるわよ。」

 

「分かった。ありがとうね。」

 

ジョーカーのお勧めコーナーにある本棚の前に着いた。

 

あ、あった【猿でも作れる!毒薬・劇薬の作り方】と背表紙に書いてある。

2mくらいの所にあるな。最初に見たときと位置が変わってない。

 

【コトダマ入手:図書室の脚立】

 

図書室にある二つの脚立。大きめのと小さめのがある。

二つとも木でできていてボロボロだ。位置も最初に見たときのままで使われた痕跡も無い。

 

 

【コトダマ入手:毒物についての本】

 

ジョーカーのお勧めコーナーの棚にある、毒物についての本。

タイトルは"猿でも作れる!毒薬・劇薬の作り方"

2m以上くらいの高さにある。最初に見た時から位置は変わっていない。

他にも毒についての本があるが、薬ではなく毒のある食べ物・花・草についての本だ。

 

次は倉庫に行こう。接着剤のことで知りたいことがあるし。

 

 

倉庫に着くと綿古里さんと鬼澤さんがいた。

あれ?綿古里さんが何か持ってる。

 

「綿古さん、何持ってるの?」

 

「ひぃっ!え…江ノ本さんも見ますか?」

 

綿古里さんが僕に持っていた物を手渡ししてくれた。

 

『超強力!瞬間接着剤!!』と大きく書いてあるチューブだ。

これってソフィーさんがガラスケースの棚をくっつけた物と同じ物だ。

 

裏側の説明文を見てみる。

 

『強力なので使うのは少量で大丈夫です。白色ですが空気に触れ時間が経つと透明になります。

剥がしたい時には熱に弱いので熱を与えて下さい。』

 

「ありがとう。綿古里さんちょっと話したいんだけどいいかな?」

 

綿古里さんに接着剤を返してから話を聞いた。

 

料理当番だったので7時過ぎ位に厨房に行き、朝ご飯の後はソフィーさんの部屋で雑談をして

昼食を食べたらしい。

昼食後に、小鳥遊さんのお昼ご飯を五十嵐さんがつまみ食いして、

小鳥遊さんにご飯を渡すところを目撃した。

その後に、生原君と喰田さんと綿古里さんの部屋で過ごし、お菓子パーティの後には

晩御飯の時間まで部屋で編み物の続きをしていたみたいだ。

 

他に気付いたことはないって言われた。

 

お菓子パーティの持っていたお菓子について聞いてみると。持って行ったのはクッキーが5枚、

ドーナツが5個、イチゴ大福が3個。

残っている枚数と同じだ…ということは小鳥遊さんはお菓子を食べなかったんだな。

 

綿古里さんにもお菓子が減っていなかったことを教えておいた。

 

「…江ノ本。悪いけど手掛かりとか見つけれてないよ。」

 

鬼澤さんは申し訳なさそうに言ってきた。

 

「うん、いいよ。ちょっと話したいんだけどいいかな?」

 

鬼澤さんから話を聞いた。

6時に起きてトレーニングルームでトレーニングをしていた五十嵐さんもいた。

朝ご飯の後にもトレーニングをして、お昼ご飯を食べに行く途中で

小鳥遊さんの部屋のドアの前にいる僕に会った。

 

そして図書室に本を戻してから昼食を食べて、

その後自分の部屋でのんびりしてからお菓子パーティをして泳ぎたくなったのでプールで泳ぎ、

プールにいた唯輝と勝負をした後に、自分の部屋に戻って晩御飯の時間までのんびりしてたとのことだ。

 

倉庫を色々探したけど事件に関わってそうなものはなかった。

 

 

 

【コトダマ変化:小鳥遊の昼ご飯 →小鳥遊の昼ご飯と綿古里の証言。】

 

五十嵐が持って行ったものの全部3分の1程つまみ食いしている。

つまみ食いした直後に小鳥遊に食事を渡している。その一部始終を綿古里が目撃している。

 

 

 

【コトダマ変化:お菓子パーティのお菓子 →お菓子パーティのお菓子と綿古里の証言。】

 

机の下に置いてあった綿古里が小鳥遊に持って行った物。

綿古里はドアの前に置いたと言っていたが机の下にあった。

中身はクッキーが5枚、ドーナツが5個、イチゴ大福が3個あった。

減ってないので小鳥遊は食べなかったのだろう。

 

 

 

【コトダマ入手:接着剤】

 

ソフィーが保健室の毒のガラスケース棚を接着した接着剤。

説明書には『強力なので使うのは少量で大丈夫です。白色ですが空気に触れ時間が経つと透明になります。

剥がしたい時には熱に弱いので熱を与えて下さい』と書かれている。

 

 

さて、次は保健室に行こう。時間は有限だから早く行かないと!

僕は小走りで保健室に向かった。

 

 

保健室に着くと生原君、木柳君、若鳩君がいた。

 

「よーぉ!江ノ本。ガラスケース棚を見てみなぁ。」

 

「?」

 

言われたとおりに見てみる特に変わったところは…。

 

毒の棚を開けてみるとすんなり開いた。

接着剤でくっつけていたはずなのに…もしかして。

 

棚の中を見ると、手前の列は綺麗に並んでいるけど奥の方は少し乱れている。

次に真ん中の栄養剤等が入っている棚を見てみると、液体の薬が半分減っている物や

少し減っている物がある。

 

誰か使ったのかな?薬品はどれも2つずつあるみたい。

 

「江ノ本、そのまま床を見てみい。」

 

木柳君に言われ、しゃがんで床を見てみる。

 

あっ、タイルの隙間にうっすらと茶色い液体の乾いた跡がある。

何かの薬だろうか?

 

「木柳君、若鳩君、聞きたいことがあるんだけど。」

 

木柳君と若鳩君は、唯輝が言っていた通りに一緒にDVD観賞をしていた。

それ以外はずっと一緒に行動していたらしい。

 

「おい、生原。なんか知っとるやろ?分かったことがあんならさっさと言えや。」

 

「もちろんいいぞ。聞くがいい!」

 

木柳君に促されて生原君が喋り始める。

右手に薄い水色の液体が少し入ったフラスコを持ってる。

 

「吾輩が薬に反応して色が変わる試薬を作った。吾輩の部屋にある器具と

この保険室にあった薬を使ってな。時間や専門ではない為、毒や栄養剤を見分けるのではなく

薬品全てに反応するがな!」

 

…いやいや十分凄いよ。

生原君の部屋には薬品を作れる道具があるのか、でも薬は保健室にしかないみたいだ。

 

「普通の水や、飲み物で試してみたが、試薬の色は変わらなかった。しかし、これを見てみろ。」

 

生原君がそう言いながら入口のそばにある洗面台を指さした。

洗面台をのぞき込むと所々、少しの範囲が赤色になってる。

 

誰かがここに薬品を捨たのか?べったりと付着はしていないし、あまり匂いもしない。

時間が経ってるのか、洗い流したのか…。

 

さっき見つけた、茶色い液体の乾いた跡に、試薬を垂らしてもらうと赤色になった。

毒か栄養剤かは分からないけど、薬品の乾いた後ってことか。

 

生原君に話を聞いてみると、朝食の後は一人で自分の居室で過ごし、

朝食の後は校内を散歩して、昼ご飯の後には綿古里さん、喰田さんと過ごして

お菓子パーティの後にはウルフ君、シープ君と過ごしたらしい。

それと、保健室にある、薬を調合する道具や器具にも試薬を試したが反応なしだったとのことだ。

 

うん、矛盾点はないな。

 

冷蔵庫の中を見てみると輸血パックが1個無くなってた。いつのまに?

 

【コトダマ入手:保健室の毒・劇薬のガラスケース棚】

 

保健室の毒・劇薬のガラスケース棚。

ソフィーが接着剤でくっつけていたはずだが開くようになっていた。

手前の列の薬品は綺麗に並べられていたが奥のほうは少し乱れていた。

薬品は2つずつある。いくつか減っている薬品があった。

 

 

【コトダマ入手:保健室の床】

 

保健室の毒・劇薬のガラスケース棚の近くの床を見てみるとタイルの隙間に

うっすらと茶色い液体の乾いた跡があった。試薬の色が赤くなったので薬品だろう。

 

 

【コトダマ入手:試薬の結果】

 

薬品に反応して色が変わる薄い水色の液体状試薬。

試した結果、薬を調合する道具や器具には反応なしだった。

しかし保健室入口の傍の洗面台には、少量反応があった。

茶色い液体の乾いた跡にも反応あり。

 

 

〈ピーンポーンパーンポーン♪〉

 

〈皆様。捜査の時間は終わりですよ~!1階の赤い扉の前に集合してください!〉

 

 

もう時間か…。

僕達は赤い扉に向かってエレベーターに乗った。

降下していくエレベーターの中で、俯いたり、話し合いをしている様子を僕は見ていた。

 

「見つけた。」

 

「?」

 

唯輝が僕に透明の袋を手渡してくれた。

中には空の透明なガラス小瓶と輸血パックの空が入っている。

 

空の透明のガラス小瓶表のノベルに『時間差で効く。オリジナル毒』と書いてあって…

急いで裏も確認すると文字が書いてある。

 

『茶色・無臭の液体状の毒です。溢さない様にご注意下さい。

また、大変落ちにくいので服などにつかない様にご注意ください。

3分の1で6時間後。3分の2で3時間後。全部で1時間後に効果が表れます。

強烈な眠気が襲い眠るように亡くなります。』

 

この瓶にも成分表もあるけど、詳しいことは分からない。

 

 

【コトダマ入手:空の透明のガラス小瓶】

 

唯輝とシープがゴミ袋の中見つけてくれた、透明な空のガラス小瓶。

表のノベルに『時間差で効く。オリジナル毒』と書いてあり。

裏の説明文には

『茶色・無臭の液体状の毒です。溢さない様にご注意下さい。

また、大変落ちにくいので服などにつかない様にご注意ください。

3分の1で6時間後。3分の2で3時間後。全部で1時間後に効果が表れます。

強烈な眠気が襲い眠るように亡くなります。』と書いてある。

 

 

 

【コトダマ入手:空の輸血パック】

 

唯輝とシープがゴミ袋の中見つけてくれた輸血パック。中身は空だ。

 

 

「ありがとう。」

 

お礼を言うとエレベーターが開いた。

もう裁判所に着いたみたいだ。

 

裁判所は前回来た時のまま…ではなかった。周りの壁紙が変わっている。

 

綺麗な青空にドット絵の鳥が飛んでいる。

晴天さんと小鳥遊さんの席には二人の遺影が括り付けられた立札が置かれている。

 

二人とも死に装束で顔に赤色でバッテンが書かれていた。

 

ぐっとこらえながら、僕を含めて皆が自分の席に着いた。

 

小鳥遊架澄さん。

 

めんどくさがりの怠け者だけど捜査にも協力してくれて、学級裁判もちゃんと参加していた・・

僕と唯輝、鬼澤さんのことを信用してパソコンの事を教えてくれて、

情報を得るために頑張っていた小鳥遊さん。

 

彼女は彼女なりに僕達に協力してくれていた。

沢山お礼を言いたい。でも小鳥遊さんはもういない…。

 

「学級裁判の説明は…。しなくていいですよね!

前にやりましたし♪時間の無駄ですし~。じゃあ開廷しましょう!」

 

嬉しそうなジョーカーをぐっと睨む。

 

生き残るため為に、死んでしまった小鳥遊さんの為に、これ以上誰も失わない為に。

 

そして真実を暴く為に…。

 

この学級裁判で負けるわけにはいかない。

 

 

 

 

2度目の学級裁判の幕が開ける。

 

 

                    




【幕間】
どーも皆さま!ジョーカーで~す。2回目の学級裁判ですね☆
さて、前回と同じようにヒントを言いましょう!

え?いらない?なら読み飛ばしてくださいねぇ。

自殺でしょうか?他殺でしょうか?
それは部屋で見つけたコトダマを見ればわかります。

なぜ脚立が使われなかったのか?それが分かれば犯人を絞り込めますよ♪

…犯人は分かりましたか?

学級裁判で答え合わせをしましょう。


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【CHAPTER 2】学級裁判 〈前編〉

《コトダマ一覧。》

 

 

【大浴場の脱衣所のドライヤー】

ソフィーが朝の7時過ぎくらいに大浴場にて入浴している。

その時に5個あったドライヤーが4個になっていた。

 

 

 

【机の上のガラス小瓶】

机の上に置いてあったガラスの小瓶。『即効毒』とラベルには書かれている。

強力な即効性の毒薬であり透明で無臭の液体。

飲むと体に異常が現れ吐血し数秒で死亡する。

しかし小鳥遊は吐血しておらず、口元に少量。顔の近くのカーペットに20㎝×15㎝程の血痕があるが吐血している様子はない。

 

 

 

【事件ファイル②】

被害者は小鳥遊架澄。

死体発見現場は小鳥遊架澄の居室。死因は薬物の服用。

死亡推定時刻は午後3時前後。補足は外傷なし。

居室のカーペットの上に横向きに倒れている。

クッションに頭を乗せており眠っているかのようだ。

 

 

 

【小鳥遊架の部屋】

クッションやゲームソフト、ゲーム機、お菓子のゴミ、空き缶、ペットボトル等で散らかっている。

死体の下には何も下敷きになっていない。

 

 

 

【机の上のメモ】

机の上にあったメモ『もう耐えられない。皆ごめんね~(´;ω;`)』と書いてある。

この小さめの丸文字。小鳥遊がホワイトボードに書いてた字と似ているが…違和感がある。

 

 

 

【小鳥遊が持っていた秘密】

小鳥遊がジョーカーに受け取っていた誰かの秘密。

内容は『父親に重傷を負わせた』

 

 

【図書室の脚立】

 

図書室にある二つの脚立。大きめのと小さめのがある。

二つとも木でできていてボロい。位置も最初に見たときのままで使われた痕跡も無い。

 

 

【毒物についての本】

図書室にある毒物についての本。ジョーカーのお勧めコーナーの棚に「猿でも作れる!毒薬・劇薬の作り方」が

2m以上くらいの位置にある。最初に見た時と同じ位置にあった。他にも毒についての本があるが薬ではなく毒のある食べ物・花・草についての本だ。

 

 

【小鳥遊の昼ご飯と綿古里の証言】

 

五十嵐が持って行ったものの全部3分の1程つまみ食いしている。

つまみ食いした直後に小鳥遊に食事を渡している。その一部始終を綿古里が目撃している。

 

 

【お菓子パーティのお菓子と綿古里の証言 】

 

机の下に置いてあった綿古里が小鳥遊に持って行った物。綿古里はドアの前に置いたと言っていたが机の下にあった。

中身はクッキーが5枚、ドーナツが5個、イチゴ大福が3個あった。減ってないので小鳥遊は食べなかったのだろう。

 

 

【 接着剤 】

 

ソフィーが保健室の毒のガラスケース棚を接着した接着剤。

説明書には「強力なので使うのは少量で大丈夫です。白色ですが空気に触れ時間が経つと透明になります。

剥がしたい時には熱に弱いので熱を与えて下さい」と書かれている。

 

 

【 保健室の毒・劇薬のガラスケース棚 】

 

保健室の毒・劇薬のガラスケース棚。ソフィーが接着剤でくっつけていたはずだが開くようになっていた

手前の列の薬品は綺麗に並べられていたが奥のほうは少し乱れていた。薬品は2つずつある。いくつか減ってる薬品があった。

 

 

【 保健室の床 】

 

保健室の毒・劇薬のガラスケース棚の近くの床を見てみるとタイルの隙間に

うっすらと茶色い液体の乾いた跡があった。

 

 

【 試薬の結果 】

 

薬品に反応して色が変わる薄い水色の液体状試薬。

試した結果、薬を調合する道具や器具には反応なしだった。しかし保健室入口の傍の洗面台

には所々、少量反応があった。

 

 

【 空の透明のガラス小瓶 】

 

有馬とシープがゴミ袋の中見つけてくれた空の透明のガラス小瓶

表のノベルに『時間差で効く。オリジナル毒』と書いてあり。

裏の説明文には

『茶色・無臭の液体状の毒です。溢さない様にご注意下さい。

また、大変落ちにくいので服などにつかない様にご注意ください。

3分の1で6時間後。3分の2で3時間後。全部で1時間後に効果が表れます。

強烈な眠気が襲い眠るように亡くなります。』と書いてある。

 

 

【 空の輸血パック 】

 

有馬とシープがゴミ袋の中見つけてくれた輸血パック。中身は空だ。

 

 

 

                《学級裁判 開廷!》

 

「早速だけど議論するよ。まずは…。」

「いや、議論なんてせんでええ。もうこの事件の全貌はわかっとる。」

鬼澤さんの話を木柳君が遮る。

「えぇ!?…ほ、本当ですかぁ!?」

綿古里さんが驚いている。

「ほんまや。今回は小鳥遊の自殺や。」

木柳君がはっきりと言い切った。

「NO!信じられないヨ!」

「そうっス!カナは自殺するような人じゃないっスよ!」

五十嵐さんとソフィーさんが反論するけど木柳君が自殺だと主張するのには理由があるんだよね。

 

             コトダマ提示。

 

             →【机の上のメモ】

 

            「これで証明できる!」提示!

 

「木柳君が自殺だって言うのは小鳥遊さんの部屋…机の上にメモがあったからだよね?」

「そうや。メモには『もう耐えられない。皆ごめんね~(´;ω;`)』って書いてあんたんや。

それに小鳥遊の死体が移動させられた痕跡はなかったし机の上に毒の瓶があったんや。

現場は本人の居室やし部屋は散らかっとったけど争そったちゅーかんじやなかったし          小鳥遊には外傷なしやろ?

それにカーペットや口元に血痕が付いとったんや!」

「ふーん、一応考えているみたいね。蟻と同レベルの知能と思ってたけど猿くらいはあるのね。」

「どつくぞお前!!!」

木柳君が喰田さんに怒鳴った。

「デモ、小鳥遊サンはどうやって毒を取ったノ?ワタシが接着剤でくっつけていたハズだよ!」

ソフィーさんの疑問に僕は答えられるはずだ。

 

 

             【ノンストップ議論開始!】

 

ソ「小鳥遊サンはどうやって毒を棚かラ取ったノ?」

鬼「う~ん…。【塩酸でとかした】とか?」

綿「す、すみませぇん、【熱を与えたんじゃないですか】?」

五「分かった!【力ずくでこじ開けた】んス!」

若「【マジックを使えば】余裕で出来るぜぇ。」

綾「ふむ、若鳩空智それは自白かのう?」

羊「【刃物を使って】接着剤を削ぎ落としたのではないのでしょうか?」

 

    綿【熱を与えた】←【 接着剤 】

  

       「それに賛成だよ!」賛同!

 

「綿古里さんに賛成だよ!接着剤の説明書には

強力なので使うのは少量で大丈夫です。白色ですが空気に触れ時間が経つと透明になります。

剥がしたい時には熱に弱いので熱を与えて下さいと書かれていたんだ。」

僕が説明すると皆が僕の方を向いた。

 

「なるほどのう、少量で効果が表れ時間が経つと透明になるのなら棚を開けた後に閉めなおせば

一見みただけじゃ…実際に開けてみるまでは分からんじゃろうな。」

綾織さんが頷いて納得している。

 

 

    「その推理は修築するべきや!」反論!

 

 

「ど、どうしたの?木柳君。」

「すまんな江ノ本、オレの意見を聞いてくれへんか?」

木柳君、なにか気になることでもあるのかな?とりあえず話を聞いてみよう。

 

 

                      

       【反論ショーダウン開始!】

 

「熱を与えるってどうしたんねん。」

「【熱湯でもぶっかけた】んか?」

「【部屋の温度を上げた】んか?」

「でも【棚に濡れた跡もなかった】やろ。」

「それに【部屋の温度も変わってへんかったし】」

「【熱い物や熱を与えれる物はなかったやろ】それともどっかから持ってきたんか?」

 

 

    【熱い物や熱を与えれる物はなかったやろ】←【 大浴場の脱衣所のドライヤー 】

 

                 「そのシナリオ、書き直す!」斬!

 

 

「木柳君、ソフィーさんが教えてくれたんだけど朝、7時くらいに大浴場のドライヤーが一個、     無くなってたらしいんだ。」

「yes!その通りだヨ!」

「……あー、分かった。ドライヤーの熱風を当てて接着剤を剥がしたんやな。普段、ドライヤーなんて使わへんから、まったく思いつかんかったわ。すまんな。」

あっさりと木柳君は納得してくれた。

「あんた、髪を乾かすのに使わないの?」

喰田さんが呆れた顔で木柳君を見ている。

「別にええやろ!髪が短いしタオルで十分や!」

「あんた本当にがさつね。髪が痛むわよ。」

「木柳、喰田、後にして。今、議論中。」

唯輝が二人を窘めた。

「そーそーさっさと議論を続けよーぜっ。命がかかってるんだからよぉ。               小鳥遊の自殺だったっけ?つまんねーなぁ。せっかくの学級裁判なのによぉ。」

「つまんないとか言わないでくださいよぉ…。部屋にもドライヤーはありますけど

生暖かい風しか出ないので大浴場のを使うしかなかったんですね…。」

不満を漏らす若鳩君に綿古里さんが消え入りそうな声でツッコミと補足を入れる。

本当に自殺なのか?いや、そんなはずない。皆に分かってもらわないと。

 

 

               【ノンストップ議論開始!】

 

狼「じゃあ、事件を振り返ってみるぞ。」

鬼「小鳥遊が朝の7時くらいに【大浴場からドライヤーを持ち出して】                保健室の棚を開けて毒を持ち出した。」

有「その後部屋に戻って。」

綾「机の上にメモ…遺書を書き残して【机の上の毒薬を飲んだ】んじゃのう。」

ソ「それデ晩御飯の時間にワタシが見つけたんだネ。」

 

 

  綾【机の上の毒を飲んだ】 ← 【 机の上のガラス小瓶 】

 

       「それは違うよ!」論破!

 

 

「ねぇ、聞いてくれる?

机の上に置いてあるガラス小瓶は強力な即効性の毒薬でね

飲むと体に異常が現れて吐血し数秒で死亡するらしいんだ。」

「怖っ!説明書に書いてあったんスか?」

「うん、そうなんだけどね。生原君、説明してくれる?」

「いいぞ。貴様ら安心するといい、大体の薬の成分性質や効果の表れは分かるからな。       まぁ、詳しくは知らんが。ゲームクリエイターは吐血していないぞ

していたとしても、成分表に書いてある通りの薬だとゲームクリエイターの吐血量が少ないのだ。    あれぐらいしか吐血してないならば数秒で死んでるはずがない。」

生原君が皆の視線に答えるように言った。                             詳しくは知らんってそんな自慢気に言える事じゃないよね?

「他にも、ある。」

唯輝が言っている他にも気になることってあの事だよね?

 

       コトダマ提示。

 

      →【 小鳥遊架の部屋 】

 

       「これだ!」提示!

 

 

「小鳥遊さんの部屋はね。クッションやゲームソフト、ゲーム機、お菓子のゴミ、空き缶、      ペットボトル等で散らかっていたけど

死体の下には何も下敷きになってなかったんだ。」

「?それだとおかしくないかい?数秒で死ぬほど強力な毒なんだろう?

吐血して毒で死にかけている最中にクッションを枕にしたり床のゴミを払う余裕があるとは思えないね。

小鳥遊は、わざわざ自分の倒れる所を予想してその部分だけを片付けておいたのかい?」

鬼澤さんの疑問にソフィーさんが答えた。

「それなら机の周り全部を毒を飲む前に片付けなイ?でも、小鳥遊サンなら「死ぬ前に片付け~( 一一)? めんどくさいしいいやー('ω')ノ」って思いそうなんだけド。」

「もう一つ気になることがあるのですか。」

シープ君が手をあげてから言った。

気になることって何だろう?

「その毒は数秒後には体に異変が現れ吐血するのですよね?ですが吐血をしておらず、していたとするともっと吐血しているはずだと生原様は言われました。」

「その通りだ。」

生原君が頷いてから肯定した。

「何故、小鳥遊様は吐血してないのでしょうか?していないとするとあの血痕の血はどなたのでしょう?」

シープ君にウルフ君が優しく話しかける。

「可能性は3つだな。生原の考えが間違っているか嘘をついていて小鳥遊はあの吐血で死んだか

二つ目は他の毒で誰かに殺されたか。3つ目は誰がか偽装したか。」

「?吾輩は嘘などついてないぞ?」

「信用できるか。」

ウルフ君がばっさりと言い切った。

前回の学級裁判でジョーカーは死体にはプライバシーがないから                   部屋の鍵が開いているって言ってた。

つまり午後3時前後には誰でも小鳥遊さんの部屋に入れたってことだ。

 

 

「あーもう!議論なんてしなくていいっス!ナギが自殺だって言ってたじゃないっスか!        理由と一緒に!」

五十嵐さんが大声をあげた。

「待ちな。でも、あのメモに書いてある文字、小鳥遊がホワイトボードに書いていた文字と似てるんだけど…違和感があるんだよ。」

鬼澤さんが五十嵐さんに話しかける。

「そんなの自殺する前だから心境が文字に現れただけじゃない?                   死体の下になにも敷かれてなかったのも偶然かもしれないじゃないの。

生原は薬剤師や監察医じゃないんだから間違えている可能性だってあるし。              それに口元に血痕が付いてたじゃない。」

「…。」

喰田さんの反論に鬼澤さんが黙り込んでしまった。

「吾輩は真実を言っている。まぁ、信じなくてもいいぞ。」

いいの!?そこは信じてくれ!くらい言ってよ…。                         命が掛かってるのに本人は全然気にしていなさそうな様子だ。

 

…五十嵐さん達の気持ちは分かる。痛いほどに。

小鳥遊さんの自殺ならこれ以上、学級裁判を続けなくていい、誰かに疑われることも誰かを疑うこともしなくていい。

そして何より、誰も処刑されずに、お仕置きされずに済む。

僕だってこんな学級裁判なんてしたくない。早く終わらせたい。

でもそれじゃ駄目だ。いくら辛くても悲しくても現実から真実から逃げちゃいけない。

小鳥遊さんが吐血してないって証明できればいいんだよね?

それなら…!

 

        コトダマ提示。

 

        →【 空の輸血パック 】

 

         「これで証明できる!」提示!

 

「皆、小鳥遊さんが吐血してないって証拠があるんだ。                       保健室にある冷蔵庫の中の輸血パックが1個無くなってたんだよ。

それにゴミ袋の中から空の輸血パックが見つかってるんだ。そうだよね?唯輝、シープ君。」

「ん。」

「はい、江ノ本様の仰る通りです。」

二人とも肯定してくれた。

「え…えっと、ということは小鳥遊さんは吐血してないしあの血は犯人の偽装なんですねぇ。

メモも倉庫にある物なので誰でも使えますし…。

事件ファイルに薬物の服用って載ってましたので別の薬を飲んだってことでぇ…。           あの机の薬は飲んでないってことですね。」

綿古里さんが説明してくれた。

「う…ちゅーことは自殺じゃないんか。オレは間違っとったんやな…。」

「ぷぷーっ!!なぁ!今どんな気持ち?ねぇ、どんな気持ち?教えてくれよぉ!」

「やめろや!!!」

「「いや、議論なんてせんでええ。もうこの事件の全貌はわかっとる」( ー`дー´)キリッ」

って恰好つけてたよなぁ?あっははは、やっべぇ!ウケる!!なぁもう一回言ってくれよぉ~。」

「ぶちのめすぞお前!!!」

爆笑してからかう若鳩君を木柳君が怒鳴りつける。

「喧嘩は後でにしなさい。あんたら、輸血パックが捨ててあったゴミ袋が誰のか分かる?」

「あっ、誰の捨てたゴミ袋か分かればその人が犯人っスね!」

喰田さんの後に五十嵐さんが気付いてから言った。

「無理。他の議論からして。」

唯輝…。言いたいことは分かるけど言葉が足りなすぎるよ。

「唯輝はゴミ袋はシャッターの前に置いてあるし放置してある。                   しかも鍵が掛かってるわけでもないから、誰でも開けれる。                     他人のゴミ袋を適当に開けて中に入れることができるからその人を犯人だと決めつけるのは良くないし、犯人だと断定するのは無理だから、その人が犯人の可能性もあるけどひとまず別の話題で         犯人を捜していこうって言いたいんだよね?」

僕が問いかけると唯輝は無言で頷いた。

「なーんだ!そういうことっスね。分かったっス!」

「そんならどないするんねん。」

「ふむ、それなら小鳥遊架澄は何の毒を飲んだかを話し合ってみるかのう。」

そうだな。綾織さんの言う通りにしよう。

もう、何の毒を飲んだのか僕には分かっているはずだ。

 

 

          【ノンストップ議論開始!】

 

綾「小鳥遊架澄は何の毒を飲んだのかのう?」

羊「保健室にある毒を使って【新しい毒】を作ったのではないでしょうか?」

ソ「なるほド!パイが無ければお箸を食べればいいって事だネ!」

木「いや、箸を食うやつなんておらんやろ…。」

鬼「毒なんてアタイには【作れないよ】。」

狼「【図書館で調べれば】誰でも作れるだろ。」

五「【洗剤とかボンドとかを食べ物に混ぜていた】とかじゃないっスか?」

 

     狼【図書館で調べれば】←【 毒物についての本 】

 

        「その台詞はおかしいよ!」論破!

 

「ウルフ君、それはおかしいよ。図書室にある毒物についての本はジョーカーのお勧めコーナーの棚に 「猿でも作れる!毒薬・劇薬の作り方」があるんだけど2mより高い位置にあるんだ。           木柳君くらい身長がないと届かないよ。脚立には使われた痕跡がなかったし、

本も最初に見た時と同じ位置にあったんだ。綾織さんも証言してるよ。                他にも毒についての本があるけど薬じゃなくて毒のある食べ物・花・草についての本なんだ。

つまり、図書室で毒の作り方を見た人はいないと思うな。」

「木柳が犯人じゃないのかい?」

「なっ!ちゃうわ!オレは図書室にはいっとらへんでほんまや。

今日は見張りの為にずっと若鳩と一緒におったんやからな!」

鬼澤さんに言われて慌てたように反論する。

「はいはーいずっといたぜぇ。全くこんなつまらねぇ筋肉デカブツと一緒とか拷問かよぉ…。」

「うっさいわ!オレやってお前みたいなムカつく喧しいやつは嫌いや!!               晴天達のことまだ怒っとるからなオレは!」

露骨に顔を顰める若鳩君に木柳君が怒鳴る。

「うわー。傷ついたぁ~。オイラは嫌われ者だぁー。」

若鳩君が泣きまねをする棒読みだし嘘泣きってバレバレだ。

まぁ、人を騙す為じゃなくて木柳君を怒らせる為にしてるんだろうけど。

「トモ、泣かないでほしいっス。トモは悪いことをしちゃったし許せないけど…。           傷ついてる所は見たくないっス。」

「ワタシも…。一緒に議論頑張ろウ。」

「若鳩様、私は若鳩様の事も大切な仲間だと思っております。共に罪を償いましょう。         いつかは分かり合えると信じていますから。」

「安心しろマジシャン!吾輩は貴様も大好きだぞ!」

五十嵐さん、ソフィーさん、シープ君は優しいなぁ。生原君は…いつも通りだ。

「あんたら、いい加減にしな。議論を続けるよ。」

鬼澤さんが止めてくれた。

「木柳修哉と若鳩空智は犯人じゃないのう。犯人は小鳥遊架澄の部屋でカーペットに血を付けたり小鳥遊架澄の口元に血痕を付けたり、机の上に毒の瓶とメモを置いたんじゃろ?                二人はずっと一緒にいたからそんなことは出来んじゃろう?」

綾織さんが説明してくれた。アリバイがあるしこの二人は犯人じゃないな。

「よっしゃー!オレは容疑者から外れたっちゅーことやな!」

「やったー。オイラは無実だぁ~(棒読み)。」

 

 

    「そんなんじゃ、納得できねぇな。」反論!

 

「ウルフ君?」

「おい、江ノ本。図書室で本が読まれてないだけで毒を作れなかったことにはならねぇだろうが。」

「?どういうことか説明してくれるっスか?」

「…あ゛ぁ゛?なんでだよ。他のやつらに聞け。バカ女。」

うわぁ、ウルフ君。苛立ちを隠そうともしていない。

「お兄様。お願いです。五十嵐様に謝ってください。」

「…分かった。悪かったな五十嵐。」

「おい!なんでやねん!!!」

「それと、お手数をお掛けしますが説明をして頂けませんか?」

「ああ、分かった。」

さっきまで不機嫌そうに顔を顰めていたのに今はシープ君に穏やかな声で話しかけている。

「あんた、本当、シープには甘いわね。」

喰田さんが呆れている。

 

 

         【反論ショーダウン開始!】

 

「図書室で読んでなくても【元々、毒の知識がある奴がいるかもしれねぇ】」

「【綾織なら】記憶力がいいからそういう本を見ていたら、覚えてるだろうし。」

「生原は薬学の知識があるんだろ?」

「【誰かに教えてもらう】こともできるだろ。」

「とにかく図書室で毒の本を見てなくても【保健室にある道具を使えば】毒を作れる訳だ。」

「いくつか減ってる薬品があっただろうが。」

 

 

       【保健室にある道具を使えば】←【 試薬の結果 】

 

 

          「そのシナリオは間違ってるよ!」斬!

 

「ウルフ君、生原君がね。薬品に反応して色が変わる薄い水色の液体状試薬を作ってくれたんだ。     そしてその試薬を試した結果、薬を調合する道具や器具には反応なしだったけど保健室入口の傍の洗面台には所々、少量反応があったんだよね。」

「つまり、犯人は薬を作るんじゃなくて洗面台にいくつかの薬品を捨てたんだね。図書室に長い間いる綾織や薬品を作れる生原に疑いを向けるために。

そして元々保健室にあった薬品を使った。でも洗面台の中を綺麗に洗い流せてなかった…。       というとこだろう。」

鬼澤さんが皆に説明してくれた。ありがたい。

「間抜けな犯人っスねー!」

「……お前が言える台詞やないやろ。」

木柳君が五十嵐さんにツッコミを入れた。

「いや、五十嵐俊穂よ。それは違うぞ。犯人は密室で小鳥遊架澄を殺し、自殺に見せかける偽装工作をしてから、バレた時にの為に保健室で薬品をいくつか捨てておき、どの薬品を使ったのか分かりにくくしておる。犯人は頭がいいのう。」

綾織さん、犯人をほめてどうするの…。

「とりあえず、どの薬品を使ったのかを突き止めるわよ。」

「…。知ってる。」

「?有馬さんどういう意味ですかぁ…?」

綿古里さんが唯輝に尋ねる。

あっ、僕も知ってる。あれを見つけたからだよね。

 

       コトダマ提示。

 

     →【 空の透明のガラス小瓶 】

 

       「これで証明できる!」提示!

 

「唯輝とシープ君がゴミ袋の中輸血パックと一緒に空の透明のガラス小瓶を見つけてくれたんだ。

表のノベルに『時間差で効く。オリジナル毒』って書いてて裏の説明文には

『茶色・無臭の液体状の毒です。溢さない様にご注意下さい。

また、大変落ちにくいので服などにつかない様にご注意ください。

3分の1で6時間後。3分の2で3時間後。全部で1時間後に効果が表れます。

強烈な眠気が襲い眠るように亡くなります。』って書いてあったんだ。」

 

それともう一つ…!

 

     コトダマ提示。

   

      →【 事件ファイル② 】

      

       「これだ!」提示!

 

「小鳥遊さんは居室のカーペットの上に横向きに倒れていてクッションを頭の真ん中に敷いて眠っているかのようだったよね?」

「説明文に書いてある通りに時間が経って強烈な眠気に襲われテ、近くにあったクッションを枕にして横になったんだネ!それなら辻褄があうヨ。」

ソフィーさんが納得してくれた。

これだけの根拠があれば十分だろう。

「あ…あのぅ。その毒が使われたのは分かったんですけど、いつ使われたんですか?」

綿古里さんが疑問を口にする。

確かに、それを明らかにしないと。

「怪しいのは料理当番のやつらね」

「それはないっス!ちょくちょく味見をしていたしお互いの事を見ていたっスから!」

「ん。」

「その通りや!毒が入っとるならオレらの誰かが毒を飲んどるはずや!」

「は、はい、私達はこの通り何ともないですよ…。」

料理当番の人達が反論する。

「あっ、分かったっス!カナの部屋にお菓子の袋があったから…。」

「いーや、それはねぇだろ。倉庫の中に沢山お菓子があったからなぁ。                 ピンポイントで小鳥遊が食うやつに毒を入れれるわけがねぇだろ。容疑者は~朝ご飯を持って行った五十嵐。昼飯を持って行った喰田。お菓子を持って行った綿古里だなぁ。」

五十嵐さんに若鳩君が反論したあとに容疑者を上げていった。

「待ちなさい。私は犯人じゃないわ。」

「私も犯人じゃないっスよ!」

「わ…私だって違いますよぉ!」

3人が反論する。

「犯人は「犯人じゃねぇ」って言うもんだろ。」

「犯人じゃなくても言いますよぉ!」

ウルフ君に綿古里さんが涙目で言い返す。

3人の話を聞いてみよう。

 

 

          【ノンストップ議論開始!】

 

綿「【私は犯人じゃない】ですよぉ…!」

狼「【証拠を見せる】か【理論的な反論】をしろ。」

五「私は【昼ご飯に毒なんて入れてない】っスよ!」

木「いや、口だけなら【何とでも言える】やろ。」

若「そうだそうだぁー!この嘘つきどもめ~。」

喰「黙りなさい、あんた嘘ついてたじゃない。【私も毒を入れてない】わよ。」

 

   五【昼ご飯に毒なんて入れてない】 ←【 小鳥遊の昼ご飯と綿古里の証言 】

 

       「それに賛成だよ!」賛同!

 

「五十嵐さんは昼ご飯に毒を入れてないよ、だって全部3分の1程つまみ食いしているんだから。     そうだよね?綿古里さん。」

「は…はい、その通りです。つまみ食いした直後に小鳥遊さんに食事を渡している所を目撃しましたぁ。」

僕が問いかけると肯定してくれた。

「えー!見てたんっスか!?恥ずかしいっス!」

「もう皆にバレてるからええやろ。」

五十嵐さんに木柳君がツッコミを入れた。

「要するに毒を入れてるなら五十嵐さんは死んでるか眠気に襲われているはずなんだ。」

「この通り!元気いっぱいっス!」

証人もいることだし五十嵐さんが昼ご飯に毒を入れたってことはないだろう。

「…ということは、容疑者は喰田サンか綿古里サンって事だよネ?」

「私は毒なんて入れてないわよ。」

「わ…私もですっ!皆さんが私を疑う理由は私が小鳥遊さんにお菓子を持って行ったからですよね?それなら私は無実を証明できますよぉ。」

綿古里さんが訴える。

「綿古里様。そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。落ち着いてください。

そしてからお話を聞かせてください。」

シープ君が優しく微笑んで話しかけると綿古里さんは深呼吸をしてから喋り始める。

「私はクッキーを5枚、ドーナツを5個、イチゴ大福を3個袋に入れて持って行ったんです…。

でも袋の中のお菓子は減っていなかったんですよぉ。つまり小鳥遊さんはお菓子を食べなかったんです。江ノ本さんと有馬さんが証人ですぅ…。」

「うん、僕と唯輝が数を確認したけど減ってなかったよ。」

「…。」

僕が綿古里さんの話を肯定すると唯輝も黙って頷いた。

 

「それは本当なの?」

…喰田さんどういうつもり?

「綿古里がお菓子を持っていく時にお菓子の数を数えていた人はいたの?

お菓子の数を嘘ついてるのかもしれないじゃない。」

「私は嘘なんかついてないですよぉ!」

綿古里さんが涙目で反論する。

まぁ、喰田さんの言うことも一理ある。                              この学級裁判では皆が協力してくれるわけでも本音を言ってくれるわけでもない。

でもいちいち全てを疑っていたらきりがないし議論も進まない。

仕方ない…。議論を進めるために、綿古里さんを犯人だと決めつけられない為に、他の謎を解くために…。嘘をつくしかない。

もしも嘘がばれたり議論に悪い影響が出るようなら正直に自白して沢山、誠意をこめて謝ろう。

 

 

《コトダマ変化》

 

【 お菓子パーティのお菓子と綿古里の証言 】 → 【お菓子パーティのお菓子と江ノ本の証言 】

 

 

【ノンストップ議論開始!】

 

綿「私は【嘘なんてついてない】ですよぉ!」

木「論より証拠って言うやろ。何か【証拠とかないんか?】」

五「アオが証言より多くお菓子を持って行ってて【捜査の時にお菓子を見て】嘘ついてるって事っスか?」

鬼「それなら、綿古里が【お菓子に毒を盛って】毒殺したって事かい?」

若「わー。毒殺犯は綿古里だったのかぁー。」

 

 

    鬼【お菓子に毒を盛って】 ←【お菓子パーティのお菓子と江ノ本の証言 】

 

          「この嘘で脚色する!」偽証!

 

 

「皆!待ってよ!お菓子に毒なんて入ってなかったよ!」

「?何で分かるノ?」

僕が反論するとソフィーさんが尋ねてきた。まぁ、当然の疑問だよね。

「捜査の時にお菓子を見つけた僕が自分の部屋に持って行ったんだけど                その時に残りのお菓子を食べたんだ。

毒は液体状だったしお菓子は一個ずつ包装されてたわけじゃなくてまとめて同じ袋に入ってたから

毒が入っているとしたら少しくらいは他のお菓子にもついてるはずだよね?でも僕は捜査の時もなんともなかったし、今もこの通り何ともないよ。」

 

「……。」

シープ君は心配そうな顔で僕の事を見た。でも何も言わないでいてくれている。            信じてくれているのかな?

若鳩君はニヤニヤと笑っているわざと黙ってるのかな?唯輝は僕を見て微かに頷いてくれた。      僕を信じて黙っててくれるって事だろう。

「…。」

鬼澤さんは何か言いたそうな顔だ。でも何も言わないでくれている。

「なら、一番怪しいのはナミっスね!」

「馬鹿じゃないの。私はご飯を小鳥遊に直接渡さずにドアの前に置いておいたわ。

だから小鳥遊がご飯を取るまでの間に誰でも毒を入れれるわよ。考えてから発言しなさい。無能。」

五十嵐さんに喰田さんがすかさず反論する。

「ど…どうしましょう…。それじゃあ今までの議論は無駄だったんですかぁ?これだけ議論したのに…。」

綿古里さんが泣きそうな顔で言っているけどそれは違う。

たしかにまだ犯人は分からない。でも…。

小鳥遊さんが自殺じゃないってことも分かったし、使われた毒も判明した。

確実にゆっくりだけど僕達は真実に近づいていってる。

…諦めるわけにはいかない。たとえどんな残酷な現実が待っていようとも。

 



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