ガンマン・タイマン・ゴウマン・たいまん (YADANAKA)
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主人公は夜野剣慈(やのけんじ)
・割とすごい野球部
・坊主のせいで忘れられてるが、意外とイケメン
・弄ることが史上の喜び
ヒロインは鶫誠士郎


広くて白い大きな結婚式場。柔らかな空気と暖かい空気が混じり合い、旧友たちも集い、昔話に花を咲かせる中。

 

控え室にて、新郎新婦がそれぞれ緊張に身を強ばらせながら、向き合っていた。

 

 

「ど、どうだろうか……変じゃ、ないか?」

 

「───ああ、間違いなく世界で1番綺麗だよ」

 

「か、からかうな…!」

 

もう何年も連れ添ったこの新郎新婦は、まるで付き合いたての中高生のように見える。

 

当時と異なる事と言えば、二人の関係と新婦の髪型ぐらいだと言うことも中高生に見える一因だろう。

 

そんな2人を遠くから見守り続けている2人組がいた。彼らもまた、ついこの前挙式を上げたばかりである。

 

「つぐみ……すっごく可愛い…!」

 

「剣慈も見違えたよ」

 

柔らかい表情で見てくる2人は、新婦のかつての主人であり、かつ、新郎の親友の1人であった。

 

それぞれの関係こそ変化したものの、その事が彼らの間を引き裂くわけでもなく、より彼らの仲は深まっていた。

 

この場におらず、会場で昔話に花を咲かせてる者達も同じだ。

 

1人は野球選手で、1人はヤクザかつ公務員で、1人はモデルで1人はファッションデザイナー。

 

別々の人生を歩んできていた彼らが、初めて全員交わったあの場所から、再び集った高校生活、そして今。

 

それぞれがそれぞれの人生の主人公として生活してきて、2つが1つになり、もう2つも1つにこれからなる。

 

「お嬢まで……」

 

「見違えたって、どういう意味だよ…楽」

 

手を取り合って2人を見る新郎新婦の顔は、どちらも赤くなっているが、その顔に浮かんでいるのは全く別の物。

 

方や嬉しさと恥ずかしさ、方や不満さと喜び。どちらも緊張が溶けてないが故に、どこか固さを滲ませている。

 

だが、その心は決して悪いものではなく、むしろ心の底から明るい気持ちでいっぱいだった。

 

「──…そろそろ時間だな。行こうぜつぐみ。俺たち二人の新たな門出だ」

 

「…相変わらず、キザな所は残ってるんだな。───そこもいい所だが」

 

時間が迫ってきている事を確認し、式場へと足を進める二人。見守っていた2人とは別れて、1歩1歩足を進めて行く。

 

何処か神々しさを醸し出す結婚式場での式が、今、始まろうとしている。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

二人の出会いは突然のものだった。その日は何かイベントがある訳でもないにも関わらず、学校がザワザワしていた。

 

「え?今日転校生が来るのか?」

 

「こんな時期にか?」

 

「まぁなんか事情があんじゃないのか?───って随分と不機嫌そうだな集」

 

「だってよ…その転校生が男子ってだけじゃなく──美男子!これがテンション下がらないと思うか〜〜…?」

 

その理由は、転校生。

 

学校が始まって少したった今日、廊下を歩く見慣れない生徒にザワついているのだが、集曰く転校生がやって来るらしい。

 

普段ならどんな娘が来るのか?と、1番色めき立つ集がムッスーとしながら話す事に若干戸惑う3人組。

 

対して、一体どうやって情報を得ているのかは知らないが、そのネットワークのせいで「転校生」という、テンションが上がるイベントが台無しになった集。

 

集は溜め息を吐きながら、げんなり、というか、ガッカリ、という感じでだべっている男子組の輪に入っていった。

 

そんな集を尻目に見ながら席の近い3人組は会話を続ける。

 

「俺は一緒に遊べる子ならいいけどな〜2人は?」

 

その心中は察するが、気が合うやつなら良いなと思う夜野 剣慈(やの けんじ)。

 

「うーん、どんな子なのか気になるかなぁ〜!私は楽しみ!」

 

転校生を迎える立場に初めて立つ事に喜ぶ桐崎千棘。

 

「俺は転校生にいい思い出ないからなぁ…」

 

「なんか言った?」

 

「いえ何も」

 

ついこの前迎えた転校生にいい印象を持っていない一条楽。

 

のんびりだべって担任がやって来ることを待つ席の近い3人組。そんな穏やかな空気を吹き飛ばす者が、すぐそこまでやって来ていた。

 

「おーお前ら。今日は突然だが転校生を紹介するぞー。──入って、鶫さん」

 

 

「はい」

 

担任のキョーコ先生に呼ばれたのを合図に、入って来た転校生を見た瞬間に、教室が喧騒に包まれた。

 

「初めまして、鶫誠士郎と申します。どうぞよろしく」

 

長い手足に凛とした顔。制服は時間が足りなかったのか異なるが、この格好が正解だと言わしめているようだった。

 

そんなTheイケメンが登場すると沸き立つ女性陣の歓声。それと対象的に氷河期を呼び込む視線を生む男性陣。

 

空いてる席に座る為に隣を歩く横顔は、中性的に見えた者が大半のようだが、集と剣慈はすぐさま気が付いた。

 

楽の隣を通り過ぎた時に薄らと笑った…嘲笑ったかのような目になった時、近くに座っている千棘が驚きの声と共に立ち上がった。

 

 

「つ……、つぐみ…!?」

 

「お嬢…!」

 

 

瞳を揺らし、嬉しさと驚きで震える千棘と、喜び全開で、会えた事に感動をしているつぐみ。

 

ここまでなら「仲良しの感動の再開」と言うだけで済んだ。しかし、この物語はそんな優しい展開を用意していない。

 

 

 

次の瞬間、つぐみは千棘に思いっきり飛び込んだ。

 

「お嬢ーーー!!お久しぶりですーーーー!!!」

 

飛び込むやいなや、直ぐに千棘の体に手を回し抱きつくつぐみ。その行動に教室が再び大いに揺れた。

 

面白そうに写真を撮る剣慈。

 

ニヤニヤしながら観る集。

 

歓声を上げてキュンキュンする女子軍。

 

驚きで顎が外れそうな男子軍。

 

皆が混乱しながら騒いでいるなか、剣慈は最近の楽の行いを思い出す。

 

中学からよく遊んでいる仲の3人組。それなのに最近は彼女である千棘とばかりいる。

 

自分にはそんな可愛い彼女はおろか、恋愛話の1つもないと言うのに。

 

親友を捨てて彼女と仲良くする。悪い事だとは思わない。自分も同じ立場なら、間違いなくそうする。

 

なんなら、若干上から目線でいない奴らをからかう。

 

夜野剣慈。彼は弄るのは良くても、弄られるのは割と嫌がる面倒臭い男なのである。

 

 

そういうわけで、最近はとんでもない美人を彼女にした事もあって、男子軍から標的にされそうな楽の修羅場を求めて、剣慈は火に油を注いだ。

 

 

「オイオイ…!良いのかよーらっくちゃ〜〜ん?大事な、だ〜〜〜いじな彼女さんがぁ…………何処ぞの超絶ハイスペックイケメンに取られそうだゾォ〜〜〜?引き剥がさなくて、い・い・の・か・な〜〜〜!?ホラホラー戦い挑みなよー!───それともアレか?NTRの趣味をお持ちでぇ〜〜?」

 

「んなわけあるかぁーーーーー!!!!」

 

「こーら、一条。彼女取られたからって、ヒステリックに叫ぶな」

 

「別にアイツは俺のか……!!…か、彼女だからって束縛しないんだよ!!」

 

アイツは彼女じゃない。そう言いかけて、何とか踏みとどまった楽。色々込み上げるものを飲み込み、楽しそうに笑ってる剣慈を睨む。

 

中学時代にこの高校よりも良い他校からの推薦を、全て断ってまで一緒の学校に通っている剣慈。楽にとっても、集にとっても替えのきかない友人である彼。

 

野球部に所属していて、実力は折り紙付きだとか。弄るのが大好きで、弄られるのが苦手。

 

さらには飽き性で面倒臭がりで、気になる女子にはキザなセリフを吐くと言う謎体質。

 

 

楽は顔でこそ睨むが、馬鹿笑いにつられて怒る気も失せる。まだ千棘とつぐみは抱き合っているが、坊主頭を輝かせる剣慈を見て、楽は笑う事にした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

朝の大騒動の後、つぐみは特に周りを気にすること無く、廊下を楽と共に歩いていた。

 

周りの野次馬共は「修羅場か!?」と、主に男子が歓喜したり、「愛憎劇!?」と、主に女子が興奮していた。

 

2人がやがてやって来たのは、学校の屋上。本日は快晴という事もあり、絶好の日向ぼっこスペースである。

 

それもあって、夜野剣慈は普段からここで筋トレをしていた。休み時間は晴れなら屋上、雨なら教室で話したりしながら筋トレをする、それが剣慈のルーティーンだ。

 

ちなみに、放課後はプールが空いてる時に限ってそこでトレーニングする。結果、部活は基本途中参加である。

 

 

「…なんだよ、わざわざ場所まで変えて」

 

「いえ……。一つだけハッキリさせて起きたいことがありまして………その前に、そこのお前は何をしてる?」

 

屋上にやって来て、早速質問を始めようとしたつぐみの目には、そこらの高校生よりも高めの身長をした男が映っていた。

 

「天気がいいから筋トレ」

 

「意味がわからん」

 

そして何も通じなかった。筋トレしているのは夜野剣慈。彼はわずかな時間だとしても、体の酷使とメンテは怠らない。

 

剣慈は何やら重りをつけて腕立て伏せをしたり、拳をグーにして腕立て伏せをしていた。

 

真面目にしている剣慈を見たつぐみは、呆れながら指導する。体を鍛えてきた者として、こういうものは見逃せないのである。

 

「そんな程度で体が引き締まると思っているのか?」

 

「む……そんな程度とはなんだ」

 

「もっと、そこはこうしてだな────…これでやってみろ」

 

「ぐぅぅぅっ!?!?こ、これは……凄いぞ!」

 

1分ほどつぐみが剣慈の体の体勢をいじくると、剣慈は普段とは圧倒的に異なる負荷に苦悶の声を上げながら歓喜する。

 

「貴様はなかなか鍛えてるようだが、さっきのではもう殆ど効果がなかったはずだ。それでも楽にこなせるようになったら、また私に声をかけるといい」

 

「……俺お前のことめっちゃ気に入ったよ!どうだ?友達に何ねぇか?」

 

「友達?私はあくまでお嬢の為にいるのだ。お嬢と親しげに話していた貴様に手を貸したのは、使える身として当然のこと」

 

「……よく分かんねぇが友達は難しいって事か?」

 

「ああ…だが貴様の気持ちは受け取った。後でお嬢に聞いてから返答させて欲しい」

 

(今なら逃げられる…か?いや別にこのまま剣慈に押し付ける、なんてつもりじゃあない。それに俺はコイツと話す理由がないs「何処へ行くつもりだ?」……いやーーーちょっとトイレに」

 

つぐみと剣慈は息が合うのか、会って少しで親しげに話していた間に、千棘と合流しようとした楽。

 

そんな事をしようとしても、つぐみの手から逃れる事は出来るわけが無いのだが。

 

「話がそれだが…お嬢の事、あなたは本当に愛していらっしゃいますか?」

 

「っ……!あ、あったりめぇよ!(危ねぇ…!思わず否定しそうになった)」

 

 

穏やかな空気の中、剣慈の「イッチニーサンシー」という声をBGMに2人は向き合って話をする。

 

内心ヒヤヒヤしながら答える楽と、心は読み取れないがニコニコしているつぐみ。

 

「どのくらい愛していらっしゃるんですか?」

 

「そりゃーもう、とんでもなく愛してるよ…(剣慈!余計な事言うなよ!?)」

 

「お嬢のためなら、死んだって良いとお考えで?」

 

「おう!その覚悟だ!」

 

集と同様に楽の想い人を知っている剣慈。もしアイツが「アレ?お前、そういやお前小野寺の事好きなんじゃねぇの?」とか言ってきたら、正しく修羅場となる。

 

千棘と偽物の恋人になった時に、チャカされただけで、何も聞いて来なかった剣慈。

 

楽は何処か行動を読めない親友に「何も言うな」、と届くわけのない思念を送りながら話していた。

 

「……フッ!!……フッ!!……フッ!!」

 

送られている本人は一心不乱に素振りしていたが。

 

「野球のスイングなら、もう少し体を回しながら振れ」

 

「なんで見えてんだよ!?あとお前野球詳しいのかよ!?」

 

「そんな事はどうでもいい。それよりも、覚悟が有るのですね……安心しました」

 

千棘の事をお嬢と呼び、つぐみにとって大事な存在である「千棘」を心配して質問をして来ていると、誤解している楽。

 

ここで彼はすっかり忘れていた。千棘がどこの娘なのか、という事を。

 

「なら、死んでください」

 

見るものを落ち着かせるような、そんな穏やかなつぐみの笑顔の後。目にも止まらぬ速さで銃を引き抜き、楽を捻り拘束した。

 

顎は拳銃で押し上げられ、腕は内側に捻られている。その動作は見事の一言。この場の誰も、反応すら出来なかった。

 

拳銃を突きつけられた恐怖に体を強ばらせ、何も動けなくなっている楽を見て、つぐみは吐き捨てるかのように言い放った。

 

 

「……ガッカリだな。お嬢の恋人と聞いて、どんな人かと思ってきてみれば……注意力は散漫、反応も鈍い、オマケに無防備…」

 

 

先程までの暖かい顔からの豹変ぶりは凄まじく、つぐみの一挙手一投足の全てが、口も目も、楽を侮辱していた。

 

「今分かったよ。お嬢は偽りの愛に縛られ、貴様に騙されているのだとな…!」

 

予想外の言葉に楽は面食らいながら、喉まででかかった言葉を抑える。顎が動かせ無かったことが、幸いしたようだ。

 

「貴様の狙いは何だ。我らの縄張りか、それとも組織の乗っ取りか。惚けても無駄だ、吐け」

 

顎を突き破るんじゃないか、そう想像してしまうくらいに拳銃に力を込めるつぐみ。

 

楽は力仕事が得意な親友に助けを求めようと、視線を送るが今となっては痛みでそれすらも出来ない。

 

たとえ届いたところで、その救世主たる親友は踏み込みの反復練習に明け暮れていた。

 

「……こうか?……いや、こっちか?」

 

「それなら後ろ足に重心を乗せておけ。そうすれば貴様の軟弱な筋肉でもスタンドまで飛ぶようになる」

 

「いや、そうなんだけどさ、俺はホームランバッターじゃないんだよ。どっちかと言うとヒットメーカーっていうかさ」

 

「例えそうだとしても、ボールの芯を捉えやすいのは私が言ったやり方だぞ?」

 

「じゃあ、そうs「だから何で会話出来てんだよ!!」…集中してるってのに、叫ぶなよ楽。───てか、何してんの?告白されてたのか?コイツは失礼、良いこk「するかぁ!!!」おお、おお、何だ何だ?何してんだ?」

 

トレーニングに集中するあまり、つぐみの言葉以外何も聞いてなかった剣慈。その事に良かったのか、悪かったのかは分からないものの、楽はどさくさに紛れて脱出した。

 

つぐみとしても、本気で骨を折ろう等とは考えていなかったのだろう。何せ楽は千棘の恋人である。

 

とはいえ、問い詰めて吐かせるまでつぐみは終わらせる気は無い。再び楽を捕らえようと歩を進めるが、それを阻止した者がいた。

 

「ストップストップーーー!!」

 

大声で屋上に入ってきたのは千棘。二人の間に入って何とか止めようとするが、つぐみの暴走・回想は止まらない。

 

果てには楽に決闘を申し込むという。千棘いわく、つぐみは凄腕のヒットマン。

 

そんな奴に勝てるのなんて……と思った視線の先にはつぐみの指導を受ける「大親友」夜野剣慈がいた。

 

いっその事押し付けてしまおうか、そっちの方が勝率が高い気しかしない楽。

 

「──そうじゃない!そこはもっと長くグリップを……!」

 

「いや、こっちのがインパクトしやすいんだよ!」

 

「そんな持ち方でプロで通用すると思ってるのか!?」

 

しかし、自分の問題を気心知れた奴だとしても、押し付けるなんて事は出来ない。そんな事、楽には出来るはずもなかった。

 

かくして、楽VSつぐみの決闘が始まる。

 






楽頑張ってー


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