SPIDER-MAN ~Girls band party~ (通りすがりのゴキブリ)
しおりを挟む

番外編
番外編 エイプリルフール回 シビルウォー勃発?!


キャラ崩壊注意です。


某日、海斗の家にて。

 

俺と千聖は海斗の家のリビングにて二人でドーナツを食べていた。

 

本来今日は、海斗の家族は家に居ないらしく、俺と海斗の二人だけで秘密のスーパーヒーロー会議を開催するつもりだったが、どうやら千聖もオフだったらしく、ここに向かう時に遭遇して行き先を話すと「私も一緒に行っていいかしら?」と尋ねて来たのだ。

 

ぶっちゃけ話を聞いただけならば、あの状況で千聖の同行を拒否する事も出来ただろう。だが僕には出来なかった。

 

だって千聖満面の笑みで「良いわよね?」って連呼して迫って来るんだもん。女優だから表情操るの得意だと思うけど、流石にずっと笑顔の表情から一切動かないのは引くわ。行きたいなら素直に言えばいいのに。

 

でもここで一つ問題が有った。そう、海斗についてだ。

 

アイツは何故だか知らないが、千聖を目の敵にしており、常に彼女に対して冷たい態度を取っている。もし俺が千聖を連れて行ったとしても、門残払いされるのがオチだろうし、最悪機嫌を損ねてスーパーヒーロー会議自体が中断されてしまう可能性がある。

 

だがそこは千聖、抜け目が無かった。

 

僕は彼女に海斗の事を説明すると、千聖は突如僕に御門違いの事を聞いてきた。

 

「ねぇユウ。海斗君が好きな食べ物とか、好きな物とか解るかしら?」

 

「う、うん…あいつはスイーツに目が無かったな…特にドーナツとか。」

 

それを聞くや否や千聖はミ〇ドまで猛ダッシュ。ドーナツの3個セットをマッハで購入すると、僕に案内させ、海斗の家の前にまで共にやって来たのだ。…何故そこまで僕にかまう?

 

因み今日のスーパーヒーロー会議、千聖も居る事は海斗にRINEで連絡済みだ。最初は凄く嫌がっていたが、ドーナツの話をちらつかせれば不承不承ながら了承した。

 

やはり海斗はドーナツなどの甘味物には目が無いらしく、千聖の事は納得していない様子だが、ドーナツには罪は無いと言わんばかりに何処か楽しみにしていた。

 

だがどうやら海斗は今日、外せない用事が有るらしくスーパーヒーロー会議に少し遅れるらしい。よって僕と千聖は先に海斗の家に行き、ドーナツを食べる事になったのだ。因みに先に家で食べている事に関しては海斗から許可を取っている。

 

しかし…海斗、いくら何でも怖すぎね? だってわざわざこっちに電話で「赤と白のスプリンクルの付いたドーナツは残しておけ、もし食おうものなら地獄の火が降るぞ」って言うんだから。地獄の火って…中二病的と言うか…でも海斗なら本当にやりかねないからな‥‥

 

 

そして現在

 

「千聖は何を食べてるの?」

 

「私はポン〇リングね。ユウはオール〇ファッションよね?」

 

「うん、やっぱりドーナツと言ったらこの二つだよね。」

 

「ふふふ、そうかしら。」

 

そして暫くリビングでドーナツを食べながら談笑する事数分、僕の食べるスピードが速いからか、僕の分のドーナツは殆ど無くなっており、千聖のドーナツも半分程になっていた。

 

 

…何と言うか…食い足りない。やっぱり一つだけじゃお腹が満たされないのだ。

 

そこで必然と目が行くのは残された海斗の分のドーナツ、あいつのお気に入りの赤と白のスプリンクルの付いたドーナツ。

 

「…食べたいなら食べればいいじゃない?」

 

「…良いの?」

 

「良いも何も遅れた海斗君が悪いんだし、買って来た私が良いって言うんだから良いんじゃないかしら?…それに…貴方の事なんだから足りないのでしょ?」

 

千聖が魔女を彷彿とさせる囁きで僕を誘惑する。

 

…そうだ、食べれば良いんだ。このドーナツ…こんなに美味しそうじゃないか。

 

僕は思うまま、箱から海斗の分のドーナツを手に取る。

 

そして自分の皿に乗せ、口の運ぼうとしたその時。

 

「…ただいまー、ユウ。白鷺が買ったドー…ナツ……」

 

まるで神様は俺がこれからすべき行動を嘲笑うかの様に、最悪のタイミングで海斗が帰宅してしまった。

 

リビングに入るなりドーナツを食べようとする海斗、だが海斗が見た光景は赤と白のスプリンクルのドーナツがテーブルに置かれている光景ではない、僕が…小林ユウがそのドーナツを食べようとしている光景だった。

 

部屋の空気が凍り付く。

 

「ユウ…解っているよな? 赤と白のスプリンクルが付いたドーナツの最後の一個…お前たちが食べたらどうなるか…俺が電話で言った事、覚えているよな?」

 

「…あまり良く覚えていないけど…確か、地獄の火が振る…だっけ?」

 

「ああ、その通り。」

 

お互い静かに受け答えする僕と海斗。

 

千聖はドーナツを頬張りながら僕達の様子を伺っている。

 

千聖…君はこのドーナツを食べて良いと言ってくれた。…君の厚意を無駄にはできない。

 

僕は静かに、自分の意思を込めながら赤と白のスプリングが付いたドーナツを口に運ぶ。

 

「……!」

 

「地獄の火…か…そりゃ傘も持ってないし、困ったな…」

 

瞬間、海斗の静かな瞳が、確な殺意と怒気に溢れた物に変わった。

 

「そうか?…傘くらいで済んだら良いな…俺は嵐が起こるのを感じているよ」

 

お互いの視線がぶつかり合う、正に一触即発。少しでも気を抜けばこの部屋が血の海になることを察したのか、千聖は絶望に満ちた悲鳴を上げた。

 

「…いやぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

自分のドーナツを守る為に戦う海斗、千聖から貰ったドーナツを守る為に為に戦う僕…

 

 

正義と正義の戦いが、今始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「始まらねーよ!何だよコレ!おい!出てこいや!ゴキブリ!」

 

は、はい…

 

「何だよコレ!何なんだよコレ!台本貰ったときから思っていたけど、マジ何なんだよ今回の話!」

 

 

いや、その…エイプリルフールなので、シビルウォーの特別映像を参考にしまして…

 

「いやいや!もっと他に有っただろ?! ホラ、例えばリサさんのクッキー女王とか、それこそ千聖の悪い魔女とか!マジカル蘭とか!」

 

いや、あの世界観は流石にぶっ飛び過ぎて作者にはキツ過ぎますって。

 

「…はぁ…まぁ良い、そんな事よりお前に苦情来てるぞ。」

 

苦情? 一体誰から?

 

「…リサさんから。」

 

……oh…

 

「…ねぇ…ゴキブリ…」

 

これはこれはリサ姉様。今日はどうもお日柄も良く…どんなご用事で?

 

「アタシってさ…この作品のメインヒロインだよね?」

 

も、もちろんでございます!

 

「じゃあさ…なんで本編に出てないの? ユウから聞くに、元から出す気なかったみたいじゃん。」

 

そ、それは…ち、千聖さんの方が個人的にこの話は書きやすく…

 

「……次の番外編‥‥アタシの事ちゃんと出してね、メインヒロインとして。」

 

……クレーム女王‥‥

 

「あ?今何か言った?」

 

い、いえっ!何もっ!畏まりましたっ!

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

本編
後悔したくないから


思いついたので挑戦しました、人気が有れば続けていきたいと思います。


ここは高層ビルがひっきりなしに立ち並ぶコンクリートジャングル、日本の中でも屈指の人口を持つ都市、東京都。  

 

時刻は午後17時程の帰宅時間と言う時間帯。

 

学校帰りの学生達や会社帰りのサラリーマン達も既に皆帰宅が住み、少々静かになった頃のとある裏路地にて。

 

「いいから大人しく乗れや!」

 

「ちょ、ちょっと!警察呼びますよ!放して!」

 

そこでは一人の女子高生と30代後半であろう大柄の中年男性が揉めていた。

 

そこだけ聞いていたのならば良くある事であろう、ましてや男女の喧嘩なんて都会では大して珍しい事では無いのだから。

 

しかしそこで行われていたのは喧嘩等とは比べ物になら無い程深刻な問題だった。

 

何故ならそこで行われていたのは誘拐だったのだから。

 

男性は女子高生の腕を掴み強引に傍に停車しているワゴン車に乗せようとしており、女子高生の方は懸命に抵抗しているが筋力の差が激しくワゴン車に乗せられるのは時間の問題だ。

 

「くそっ!生意気に暴れやがって…!ほら、大人しくしろ!」

 

「…っ!誰か!」

 

とうとう女子高生は力負けし、ワゴン車の後部座席に無理矢理押し込まれ、組伏せられて両手をバンドで縛られてしまう。

 

女子高生は両手を後ろに拘束された状態でも尚抵抗する素振りを見せていたが、その目のハイライトは消えており、内心諦めているかの様だった。

 

だが男が一仕事終えたとため息をつき、スライド式の後部座席ドアを閉めようとした瞬間、男は動きを止めた。

 

否、動けなくなったと言うべきか。男性の手は確かにドアノブに触れていた、しかしその手はクモの巣の様な白く半透明な物質が付着してドアノブに張り付いており、男性の右手の自由を完全に奪っていたのだ。

 

「…っ!どうなってんだ?!」

 

何度も力を込めて手を動かそうとしたり、クモの巣を剥がそうとするが、粘着力は相当な物らしく中々上手くいかない。

 

「やぁ、良いワゴン車だね。でもごめん、君の手垢でドアノブ汚れちゃったかも。」

 

突然聞こえた軽口に男性は体をビクッと跳ね辺りを見渡して警戒する。

 

 

声の主はすぐに分かった。

 

先程まで人が居るなんて考えられなかったワゴン車の屋根に片膝を付いて座っている男が一人。

 

赤色のボディスーツと覆面を着けており、胸には大きな蜘蛛のシルエットが存在し、クモの巣を彷彿とさせる黒色のラインで色付けされている。

 

「…お前は…!」

 

男性はその男の名前を知っていた。

 

「…えっと…スパイダー男?」

 

「違うよ!スパイダーマン!スパイダーとマンの間にハイフン忘れないでね?」

 

ただしうろ覚えだが。

 

「…ん”ん”気を取り直して…見た感じさっきの女の子誘拐しようとしてるみたいだけど、それは感心できないね。今すぐ彼女を解放して。」

 

上手いこと咳払いをして威厳を見せるかの様な口調で話しかけるスパイダーマン、しかし先程の軽口のせいで余り威圧感を感じない。

 

「フン…何を言うかと思ったら…スパイダー男だか「スパイダーマンだよ!」……スパイダーマンだか知らないが…こっちは商売なんだ…悪いけどこの娘の解放は出来ないよ。」

 

名前を間違えた事を話の途中で指摘されたのが勘に触ったのかイラついたかのような口調で返す男性。

 

「……あー、そっか。じゃあお仕置き。」

 

「………っ!」

 

 

刹那、スパイダーマンは中指と薬指だけを折り曲げる独特なポーズを男性に向けるとスパイダーマンの手首辺りに装着されている装置から蜘蛛の糸の様なものが放出される。

 

それは男性の顔面に命中し、視界を完全に封じた。

 

「……~!!~!!」

 

顔に命中したため視界は塞がれなにも見えず、鼻と口も塞がれ息も出来ない。剥がそうにも右手はドアに張り付いており左手だけでは満足に力が入らずもがくしか無い男性。

 

「あー、こらこら暴れないの。」

 

スパイダーマンは車の屋根から降りるや否や後ろ回し蹴りをもがいている男性の頭部に打ち込む、その威力は強力で、一撃で先程まで激しく左手を振り回していた男性を地面に沈ませたのだった。

 

「…さてと…おーいそこの君、大丈夫?」

 

男性の顔に着いたクモの巣を剥がし、呼吸が出来るようにした後、開けっ放しだったドアからワゴン車の後部座席にいる女子高生の安否を確認するスパイダーマン。

 

「………」

 

両手をバンドで拘束されている女子高生は男性にこのワゴン車に乗せられた時と同じ体勢のうつ伏せの状態のままで上体を起こしてスパイダーマンの顔ををじっとと見つめる。

 

「おっ!やっと目が合った!ん?どした?そんなに見つめて…もしかして僕に一目惚れしちゃった?!」

 

「………」

 

場を和ませるために冗談を言ったが、どうやら心に深刻なダメージを負っているらしく、俯いたまま怯えるばかりだ。先程まで誘拐されそうになっていたのだから、無理もない事だろう。

 

「これで良いかな?」

 

「…ありがと…」

 

どうにか彼女の気を晴らす方法は無いかと懸命に頭を回転させつつ、彼女の両手を縛るバンドを引きちぎるスパイダーマン、だが一向に答えが見つからない。

 

「ごめん、怖かったよね…今警察呼んで保護して貰うから。」

 

これは自分の手に余ると判断し、女子高生を警察に保護して貰おうと連絡するスパイダーマン。

 

だが…

 

「待って…」

 

 

女子高生はそこでスパイダーマンの腕を掴んで静止する。

 

「ん?どうしたの?」

 

「まだ怖いの‥‥お願い、一人にしないで…」

 

未だに拉致られそうになっていた恐怖が残っているのか、眼は潤んでおり、声は震えて怯えている。スパイダーマンは彼女の状況を考えた末、優しい声で一つの提案を勧めた。

 

「それじゃ…家まで送ろうか?」

 

その提案に女子高生は、

 

「…うん…」

 

と俯きながらも頷くのだった。

 

***

 

その後、女性からの要望で家まで送る事になったのだが…

 

「それで、僕はそいつをぶっ飛ばしてこう言ったんだ『引っ込んでろ、このカビゴンが』」

 

「あはははは!カビゴンってあのポケモンの?!犯罪者でも太っている人にそれは可哀想だよ~」

 

スパイダーマンと女子高生は意外にも意気投合し、まるで古くからの付き合いの様に打ち明けて、彼女の家までの道を談笑しながら進んでいた。

 

意気投合と言っても、これと言って特別な事をした訳じゃない。

 

スパイダーマンが女性に気を遣い、軽い冗談や簡単な話題を振っている内に、女子高生も徐々に気力を取り戻して行ったらしく、気が付けばこうして話せるまでに回復していたのだ。

 

いくらスパイダーマンの冗談や軽口などでケアをしていたとは言え、小一時間でここまで回復するとは女子高生もきっと強い心の持ち主なのだろう。

 

すると今度は女子高生の方から話題を振って来た。

 

「あ、そういえばずっと気になっていたんだけど‥‥」

 

「ん?何だい?」

 

「何でスパイダーマンってヒーローになったの?」

 

女子高生は「無理して答えなくていいけど」と念を押し、そう質問する。

 

「うーん…そうだね…」

 

スパイダーマンは顎に手を当てて考える素振りをする、だが何処か彼の纏う雰囲気は先程の軽いものではなく、何処か暗く重さを感じるものだった。

 

「強いて言うなら…後悔したくないからかな?」

 

「後悔…?」

 

女子高生からしてみれば意味不明な回答であろう、しかしスパイダーマンは明確な答えを知っているかの様な口調で答えたのであった。

 

すると女子高生は急に立ち止まる。

 

「あ、……ここで良いから。」

 

「あ、はいよ。」

 

どうやら家に着いたらしく、女性は玄関に向かい鍵を開ける。自分の用は済んだとスパイダーマンは背中を向けるが、直後女性の声で引き留められた。

 

「…あのさ」

 

「…ん?」

 

スパイダーマンは何事かと振り替えるが、女性は玄関を向いたままだ。

 

「助けてくれて…ありがとうね…」 

 

「…うん!」

 

彼女は玄関を向いたままだった為表情は解らなかったが、声色はどこか優しく、心の底から感謝している事が感じられた。

 

 

感謝の言葉を貰ったスパイダーマンは今度こそその場を去るべく飛び上がりながら再び手首からクモの糸を放出し、近くの住宅をスイングしながら何処かへと去っていった。

 

 

 

背後からそれを感じ取り、振り替えってスパイダーマンが去っていった事を確認した女子高生…今井リサは静かに遠くでスイングしているスパイダーマンの背中を見つめると、静かに呟く。

 

「後悔したくないから…か…」

 

その時の彼女の表情は、口角が上がり、頬が少し赤く染まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




スパイダーマンの小説を書くことにまだ慣れておらず、少々不安ですが、何とか書ききれました。

今の所ヒロインはリサ姉と蘭ちゃんにしようと考えていますが、作者の気まぐれで変わるかも

ご感想等お待ちしております。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

俺はちゃん解っているから。

案外読んでくれている人が居てほっとしました。

正直ヒロインをどうするか迷っています。どうしよ…


やぁ皆、初めまして。僕は小林ユウ。この物語の主人公でもあり、私立羽丘学園の生徒でもあり、そしてこの街でたった一人のスパイダーマンだ。

 

僕は高校1年の春頃、都内の科学研究センターに見学に行った時、特殊な放射線を浴びた実験体の蜘蛛に噛まれて、無機物にくっ付いたり、人間離れしたスピードやパワーや超感覚を手に入れた。

 

力を手に入れてから今までの間は色々あった、まぁその事については少し湿っぽくなっちゃうから後で話すとして…

 

さて、そんな俺だけど今はあれから一年の歳月が流れ、今は高校二年になり、将来研究者になる事を夢見て、羽丘学園で日々勉学に励みながらスパイダーマンとしての日々を過ごしている。

 

羽丘は進学校と言う事もあり、正直忙しいし、大変だ。だがその分やりがいもあるし、こんな日常でも楽しいと感じている。

 

「よぉ!ユウ!」

 

教室までの道のりを歩いていると、誰かに背中を叩かれる、犯人は誰だかもう知っているが。

 

「よぉ海斗」

 

コイツは沼田海斗、同じ中学出身でスパイダーマンになる前から世話になっている同級生だ。

 

「昨日も大活躍だったみたいじゃねぇか、売春に巻き込まれそうになった女子高校生、だっけ?それを救出するなんて。」

 

そしてこいつもスパイダーマンの正体を知る男であり、協力者だ。

 

「おい、余り大きな声で話すなよ。聞かれたらどうするんだ?」

 

「別に良いじゃんよ、お前ヒーローだぜ?知られたら皆に崇められてウハウハだろ?」

 

「そんな単純な話では無いんだよ。」

 

「まぁ、そうかもな…」

 

そうだ、スパイダーマンは見世物ではない、もし誰かが俺の正体を知ればその人間だけでは無く、その人間の家族や友人にまで危害が及ぶ可能性がある、何人かスパイダーマンの正体を知っている人間は居るが、正直危険に犯されていないか気が気で無いのだ。

 

やがて教室に到着し、自分の席に腰掛けると、黒板前あたりでグループを作っている一人の女子に目が行く。

 

今井リサ、クラスの人気者で中心人物。そして昨日僕が助けたクラスメイトだ。

 

彼女は何と言うか…俗に言うギャルであり、僕達とは真逆の人種で、話した事は片手で数えるよりも少ない。

そんな彼女は、女子同士でグループを作り、おしゃべりに夢中の様だ。

 

昨日家まで送った時、既に回復していたのは空元気じゃなくて、本当だったらしい。

 

なんせ、拉致られそうになっていたのだから、一生モノのトラウマを負うのではないかと心配だったけど…友達と話せるまで回復したみたいで、一安心だ。

 

「おい、何じっと見ているんだよ。今井さんがどうかしたのか?」

 

そんな事を考えていれば、隣から海斗がからかうような口調で視界に割り込んで来る。

 

「いや、昨日助けた女子高生、実は彼女なんだよ。」

 

「え?!」

 

「ちょっと、声がでかいぞ…!」

 

驚きの余り素っ頓狂な声を上げた海斗、俺はそれをどうにか抑えつつ、俺は昨日の事を正直に説明すると、海斗は俺の耳をぐっと引っ張り、耳元でささやいた。

 

「お前、彼女に正体バラせ。」

 

「は?!」

 

正体をバラす?!何を言っているんだ?!こいつは?!

 

「だって話を聞いてみるに、お前今井さんのヒーローだぜ?絶対惚れているに違いないって!」

 

「何度言えば解る?!スパイダーマンはそう言った事を目的でやっているんじゃないんだぞ?!」

 

「でも、お前今井さんみたいな子がタイプなんだろ?いい機会じゃん。」

 

「‥‥っ!でもそんな事の為にスパイダーマンを…」

 

最悪だ…何時だかこいつに「どういう子がタイプなの?」って質問をされた時、上手くはぐらかしておくべきだった…!

 

…駄目だ、流石に今のは冗談でも笑えない、一発ガツンと言わなくては。

 

「海斗…前から言ってるけど…」

 

キーンコーンカーンコーン

 

しかし続きを言おうとした瞬間予鈴が鳴り、クラス担任の女性教員が来ると同時にクラスの人々は静まり返る。

 

…くそ…大事な所で…

 

「大丈夫だよユウ、俺はちゃんと解っているから。」

 

海斗よ…その台詞は何回も聴いている、だがこいつがスパイダーマンの正体を今まで誰かに話した事は...一回も無いか…仕方ない、今回は授業の時間に免じて許してやろう。

 

はぁ…さっきの会話誰かに聞かれてないよな…ヒヤヒヤする…

 

***

 

そして午前の授業が終わり昼休み。

「やっぱり、警察の通信を傍受するだけじゃ足りないのかな?」

 

羽丘学園の食堂にてすっかり定番になった醤油ラーメンを啜りながら、俺は海斗にそう尋ねる。

 

会話の内容は勿論スパイダーマンについてだ。

 

昨日の一軒もパトロールの最中見つけた感じだったし、警察の通報を聞いて来てみても手遅れってパターンも有るかもしれない、そこで俺達二人は昼休みを利用してスーパーヒーロー会議を開催したのだ。

 

「うーん、他の情報収集方法と言ってもな…」

 

海斗は腕を組み、考える素振りを見せる。

 

まぁ、今までは海斗が警察の無線をハッキングして事件を察知していたが、最近になってそれだけでは足りなくなって来ている様な気がする。

 

なんせ、昨日の様な売春と言った性犯罪は、被害者が警察に相談しづらいと言う事もあって被害に遭っても中々通報できない例が多いと聞いている、現に警察の無線を傍受している時にそう言った通報が無いのが良い証拠だろう。

 

昨日の様な売春と言ったの犯罪が、僕の目の届かない所で行われていると考えると…ゾッとする。もいち早く察知できるように情報網を拡大しないと…

 

そんな事を考えつつ、醤油ラーメンを再び啜ろうとすると、ふと後ろの女子グループの談笑の声が聞こえる。

 

「そういえば昨日、また出現したみたいだよースパイダーマン。」

 

「うん、結構近くで出たみたいだよね。」

 

その会話を聞いて思わず苦笑してしまう、

 

何と言うか、「出た」とか「出現した」とか幽霊みたいな扱いされてるな…普通に「居た」とか「来ていた」とかあると思うけど…まぁ正体不明なんだし仕方ないか。

 

「でもスパイダーマンの正体って本当に謎だよねー。一体誰なんだろ?声からしてイケメンなのに…勿体ないよねー」

 

「えー、そうかな?覆面外したら中年のオッサンとかだったら怖くない?」

 

 

いやオッサンじゃないよ!同年代だよ!。しかも現在君達のすぐ近くの席に居るよ!

 

でもこう言った風に、他人からの視点で話されるスパイダーマンの話を聞く事は、悪い気はしない。

 

なんせ、自分のやっている事がこうして誰かの話題になっているのが、何と言うか、ちょっと嬉しいのだ。

 

「リサはどう思うの~スパイダーマンについて。」

 

え?リサ?もしかして後ろの席に今井さん居るの?

 

その会話を聞いた瞬間、思わず後ろに振り返ってしまう。

 

「あはは…アタシに来たか~」

 

すると、そこには案の状友達と会話をしつつ、弁当を突く今井さんが居た。

 

「うーん、アタシもスパイダーマンの正体は気になるカナー、その…色々助けられた事も有るし?」

 

ってヤバ!今目が合ったかも?

 

感づかれない様に慌てて前に向き直る。

 

眼が合うなり直ぐに目を逸らしちゃったけど…気持ち悪がられたりしてないよね…?

 

内心不安を感じながらラーメンを啜る中、海斗はニヤニヤした気持ちの悪い笑みを受けべながら俺の肩を叩く。

 

「今だ…!言え!スパイダーマンの事を話している今がチャンスだ!」

 

「は?!何言ってんだお前!」

 

おい!今朝言った「俺は解っている」って意味深な台詞は何だったんだよ!

 

「正体を明かす必要は無い!ただ自分もスパイダーマンのファンとか、色々スパイダーマンについての話題があるだろ?」

 

「‥‥!」

 

 

そうだ、そうだった。

 

スパイダーマンの正体が俺でも、スパイダーマンのファンや関係者等と言った形であれば正体をばらす事なく今井さん達の話に入れる筈だ、いやむしろ僕がスパイダーマンだからそれについての話題を独占できるかも。

 

でもな…それって友達を作る為にスパイダーマンである事を利用している感じがするんだよな…

 

確かに…海斗の言う通り今井さんは…可愛いし、その…友達になりたいとは思うけど、何と言うか、スパイダーマンである事を利用するのはな…

 

箸を進める手が止まり、ラーメンはすっかり伸び切ってしまっている。

 

うーん、そもそもここで話題に入っても「うわ、何コイツ」と思われて相手にされないと言うオチも考えられる。

 

でも上手くいけば今井さんと友達になれるかも…あー、でもスパイダーマンは友達を作る為にやっているんじゃ…

 

あー!どうしよう!

 

俺の頭の中で天使と悪魔が戦っている様に、心がグラグラと揺さぶられる。

 

すると俺の迷っている様に痺れを切らしたのか、正面に座っていた海斗が勢い良く立ち上がり、

 

「ユウが…小林がスパイダーマンと知り合いだって!」

 

今井達のグループに向かい、衝撃の一言を投げつけた。

 

案の状、俺と海斗と今井さんのグループの間に有る空気が凍り付く。

 

 

 

 

 

 

何やらかしてんだお前!

 

 

 

「いきなり何?」と言う驚きや、「嘘だよね?」と言う心情を目で表し、疑う気満々の女子達。

 

くそ…やっぱりこうなるのか‥‥いや、初めから解っていた事だ、俺達みたいなこれと言って目立つところも無く、陰気な印象が強い僕達が、陽気な今井さん達の輪の中に入れるわけが無いんだ…

 

いや、むしろこれで良かったのかもしれない、スパイダーマンであることを利用せずに済んだのだから。

 

俺と海斗の陰キャと、今井さん達率いる陽キャ女子グループの間で気まずい沈黙が流れる中、一番最初に口を開いたのは今井さん本人だった。

 

「それ‥‥本当なの?」

 

自分以外の二人の女子を代表するかの様な台詞だが、声色は決して冷たい訳じゃない。

 

 

疑いが全く無い訳じゃないが、どこか僕を…海斗が言った事を信じて、「確認」する為の質問に聞こえた。

 

さぁ‥‥どう答える?

 

少し思案した後、どうするか助けを求める様に、海斗の方向を見る。

 

「行け!今だ!」と海斗は口パクでエールを送ってくれている。

 

そうか‥‥今朝言った「解っている」と言う台詞‥‥それはきっと俺の気持ちを尊重しつつ、今井さんと距離を縮める事を応援する意図があったのか‥‥

 

多分今ここで「本当」と答えても、「嘘だよ」と答えても、どっちにしろ後悔するかもしれない。

 

でも…俺は意を決すると、答えを今井さんに向けて告げた。

 

「その…本当だよ。」

 

…言った…

 

 

言ってしまった。

 

 

凍る空気の中、相変わらず今井さんの友達二人は俺の事を疑いの目で見ている。

 

「ホント?マジで?!」

 

 

だがそんな中、今井さんは俺をまるで信じているかの様な目をして、席から立ち上がり、こちら側に寄って、食い気味に聞いてくる。

 

 

 

ゴメン今井さん‥‥スパイダーマンとは知り合いじゃなくて、僕なんだ…!って今井さん!近い、近いって!

 

何と言うか今井さんと居ると、こう…ドキドキする。まるで心臓が耳元に有るみたいで鼓動が聞こえてくる。

 

「ご、ゴメン!先生から頼まれていた事有ったの思い出したから‥‥!」

 

…駄目だ…!今井さん居ると何か落ち着かない!

 

早い所離脱しなきゃ…

 

俺はそう即興の良い訳を早口で言うと、急いでその場から立ち去って行ったのだった。

 

 

***

 

そして放課後。

 

「…ねぇねぇ。」

 

帰りのHRが終わり、荷物をまとめて海斗と共に教室を出ようとした時、クイクイと袖を誰かに引っ張られる。

 

「…ん?どしたの?」

 

誰か確認するために振り向くが、その瞬間に僕の頭の中は一瞬で真っ白になった、何せそこには昼休み話した存在、今井リサが居たのだから。

 

「あははー、お昼ぶりだね?えっと‥‥小林君だっけ?」

 

「う、うん、ユ、ユウで良いよ。」

 

「あ、そっか、それじゃヨロシクねーユウ☆アタシの事もリサで良いよー」

 

リサさんの方から話しかけて来るとは予想外で、思わず動揺し、どもってしまう。うん、滑舌が死んでいるってはっきりわかんだね。

 

おい、ニヤニヤするな海斗。僕がそんなに動揺しているのがそんなに面白いか。

 

「あ、それじゃあ俺はこれから用事あるので、ユウもリサさんに大事な話があるみたいだし先に帰るよ、じゃあな~!」

 

ってクソっ!海斗の野郎退路を断ちやがった!

 

「あははは…アタシも丁度ユウに大事な話があってさ…」

 

「うん…その…何かな?」

 

「お昼の続きなんだけど…スパイダーマンについて。」

 

内心「やはり」と呟く、実際に今日この子と、俺の間で出来た話題の架け橋は、スパイダーマンに関する事だけだから。

 

「うん、それがどうかしたの?」

 

「その…確認するけど、ユウってスパイダーマンの知り合いって本当?」

 

「うん、本当だけど。」

 

内心、「知り合い」ではなく「本人」と言えない事を歯痒く思ってしまう。

 

でもこれで良い、この子に僕の正体を明かせば、この子も危険に晒されるかもしれないのだから。

 

「マジで?!スパイダーマンと知り合いなんて凄いよ!アタシもさ…昨日スパイダーマンに助けて貰っちゃってさ…その、カッコ良くてすっかりファンになっちゃった。」

 

 

思わず口元がにやけそうになるのを必死に堪える。

 

 

 

こう言った助けられた人々の感謝の声が僕の活力源になるのだ。

 

 

 

スパイダーマンとして活動してかれこれ1年、当初は顔を隠していたり、壁に張り付いたりと人間離れした能力により、人々に気持ち悪がられたり、奇異の目で見られたりしたが、徐々に慈善活動をするにつれてそう言った物は減っていった。しかし、それは完全に無くなった訳ではない。

 

 

 

一年経っても未だに信用していない人々もいれば、僕を自己顕示欲の悪党と罵る声すら存在する。

 

そんな中でこう言った声は支えにもなるし、こう言った事が有るから頑張れるのだ。 

 

だから目の前に居るリサさんも僕を支える柱の一人、そしてそれに感謝を表す為のファンサービスも重要なヒーロー活動!

 

それにファンって言っていたし…これを機に出来るだけ距離を縮める事が出来れば…!

 

 

 

よしっ!ここは一肌脱ぐとしますか!

 

 

「その…リサちゃん…スパイダーマンのファンだったらさ、良かったら僕から写メとかお願いしてみる?」

 

 

「え、嘘!?マジで?!お願い出来る?!」

 

 

「うん、最近スパイダーマン忙しいみたいだから少し後になるかもだけど…」

 

「ううん、全然気にしないよ!ありがとー☆、まさかスパイダーマンのファンが同じ学校に居るなんて思わなかったよ~」

 

…可愛いな畜生…この子男を堕とす天性の才能でも持っているんじゃないのか?

 

 

「あ!そうだ。折角同じスパイダーマンのファンと会えたんだし…どっか遊びに行かない?」

 

 

突然のお誘いに思わずドキっとしてしまう。

 

 

さっきから思っていたが距離が近い…!

 

 

気のせいかと思っているがこの子確信犯だわ。

 

僕の方が背が高いからか上目遣いでこちらを見つめるリサちゃん、少し視線をしたに下げれば女子高生の平均よりもやや大きいであろう膨らみが良く確認できる。

 

全く…可愛い外見の癖してこの色気とは…何なんだよこの小悪魔は?!

 

だが次の瞬間に僕の脳ミソはシリアスモードへと以降した。

 

「ピコン」と俺のポケットに閉まってあるスマホからLINEの通知が鳴る、どうやらお仕事みたいだ。

 

 

「ごめん!リサちゃん。急にバイトが入っちゃったみたい、遊びに行くのはまたの機会ね?」

 

 

「え?ちょ…」

 

 

 

後ろでリサちゃんが戸惑っているようだが、今は一刻も早く現場に向かわなくてはならない、早歩きで教室を後にし、校門から校外へ出た後、誰にも見つからない様な路地裏へ大急ぎで向かい、バックパックからスーツを取り出した後、ウェブで壁に張り付け固定する。

 

回りを気にしながらスパイダーマンスーツに着替え、マスクの裏に装着されているインカムに手を当て、繋がっているであろう相手に話し掛ける。

 

 

「…海斗、何があった?」

 

 

すると無線越しに明らかにカッコつけている海斗の声が聞こえる。

 

 

 

『…こちら海斗…先程LINEで送信したように事件だ…警察の無線を盗聴したが…今回はデカイ仕事みたいだな…』

 

 

「警察はどうしている?」

 

 

『今から動く所だ…今からいつもと同じく警察から傍受した無線をそちらで聞こえるようにする。場所や事件の詳細はそちらから聞いてくれ。』

 

 

 

しばらくキーボードを打つ音が流れた後、警察から無線傍受でかき集めた情報が流れてくる。

 

「…こっちか…!」

 

 

どうやら今回は強盗事件の様だ、どうやら男性数人が近くの出張店舗の銀行を襲って金を盗もうとしているらしい。 

 

出張店舗であるため人がいないのが不幸中の幸いだが、強盗は放っては置けない。

 

 

飛び上がり、ウェブで建物の間をスイングしながら現場へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 




結構難産で、文字数もかなり多くなってしまいました。

皆さんはどれくらいの文量が丁度いいかな?

書くのは大体3000~5000位だけど、読む側はどれくらいなんだろ?

あ、次回登場人物紹介です。

ご感想等お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

主人公&登場人物初期設定

小林ユウ/スパイダーマン

 

脳内cv榎木淳弥

 

身長 170cm

 

体重 77kg

 

誕生日 12月8日

 

血液型 AB型

 

年齢 17歳

 

性別 男性

 

所属学校 羽丘学園

 

好きな物 ジャンクフード、機械いじり、科学の研究

 

嫌いな物 犯罪 

 

趣味 音楽 写真

 

この物語の主人公。

 

ご存じ1年前から突如姿を現し、自警活動を始めたヒーロー「スパイダーマン」の正体であり、私立羽丘学園高等部に所属する17歳の高校二年生。

 

1年前までは何処にでも居る科学オタクの冴えない男子高校生だったが、高校の社会見学で研究ラボに行った際、遺伝子操作された蜘蛛に噛まれた事によって怪力、無機物に張り付く、超回復等と言ったクモ特有の超能力を得て、紆余曲折の末スパイダーマンとなった。

 

性格は気弱で優しいが基本的に人並みの欲望や怒りもある、等身大な少年。

 

将来の夢は物理学者であり、自分でスパイダーマンの装備であるガシェットや、ウェブシューターを開発する等、物理学、力学、工学に秀でた才能を持っている。知能指数はかなり高く、IQ250もの頭脳を持つ。

 

クラスメイトの今井リサには好意を抱いており、彼女の前では挙動不審になってしまうが、徐々に落ち着いていき「仲の良い友人」と言う所まで治まる。

 

スパイダーマンとして活動する際は、普段の気弱さは陰を潜め、非常に良く喋る。だがこれは

余裕がある訳でもイカレているのでもなく、ジョークで自身の恐怖を和らげると同時に、ヴィランの攻撃によって周囲に被害が出ないよう自分に向けて注意を引かせるという二つの真っ当な理由がある。

 

「NO ONE DIES(誰も死なさない)」の誓いを立てておりヴィランに対しても不殺を貫くが、殴って解決できることは殴って解決する場面も多い。必要があれば脅しもする。また、本気で怒るとヴィラン達を震え上がらせるほどの苛烈な攻撃性を見せる場面も。

 

その為アンチも多くいるがファンも多く、ヴィランの中にもスパイダーマンのファンがいると言う噂が広まる程。

 

またヒーローとしての知名度は非常に高く、町の住人からも「1年前から現れたご当地ヒーロー」として認識されている。

 

しかし、基本は正体を隠しており、スパイダーマンの正体を知る街の住人は殆ど存在しない。

 

正体を隠す理由としては、知られた物の家族や友人がヴィランの被害を受けない様にする為の配慮であり、基本的に自分の私利私欲の為にスパイダーマンである事を利用する事は無い。

 

悲惨な過去からか、内心スパイダーマンとしての自分に対する重圧や葛藤を抱いており、悩み、迷い、苦しみながらヒーローとして成長していく。

 

名前のモデルは漫画版(池上版)スパイダーマンの主人公、「小森ユウ」から。

 

 

ヒーローとしてのスペックは以下の通り

 

1.怪力

 

30t以上の重りを持ち上げることができ、感情の高ぶりによって大きく力が増大する事もあるが、同時に感情が沈んでいたり、テンションが低かったりした場合は普段以上に力が出ない場合もある。

 

2.跳躍力

 

10m以上の高台に軽々と飛び乗る事が出来る。脚力全体が鍛えられており、走力も長距離を時速100km以上で走る程

 

3.吸着力

 

分子間の結合力を高める事により、壁や天井に張り付くことができ、2tまでの物なら指一本で支えることが可能、指先だけでなく足裏を自在に対象に吸着させる事が可能。これを利用して意表を突いた攻撃や、奇襲を仕掛けることが出来る。

 

4.耐久力

 

高速鉄道の直撃を食らっても数針縫う程度で済み、拳銃を食らっても筋肉の所で弾丸が止まり致命傷にならない。超高圧電流や超高熱にも耐え、水中や宇宙空間でも活動可能。またスタミナも強化されており、ハーフマラソンを全速力で走っても息を切らさない。

 

5.超回復

 

人間離れした回復力を持っており、仮に骨折等の重傷を負っても一晩で完全に回復できる他、ありとあらゆる毒(毒ガス、ウイルス、放射線、生物兵器など)を完封可能(スーツの機能のおかげもあるが、自身が直接これらに侵されても回復可能)。

 

 

6.敏捷性

常人の何倍もの素早さ、柔軟性、平衡感覚を持っており、人間離れしたアクロバティックな動きをすることが可能。どこに支点の糸をつけてどう振り子運動をしても現在位置を見失わない。

 

 

7.反射神経

 

常人の約40倍の速度で働き、至近距離で発射された弾丸を余裕で回避できる。また高い敏捷性と相まって抜群の回避力を誇る。

 

8。視覚等の感覚

 

戦闘時は感覚が鋭くなりすぎる為、ゴーグルやフィルター等でインプット量を抑えている。また、赤外線・紫外線が見え、不可視の相手でも対象の発する熱で感知可能。

 

9.スパイダーセンス

 

危険を察知する事の出来る”第六感”の様な感覚、精神状態により鋭敏さは変化するものの、視覚からの攻撃を予知・回避することが可能。

 

また、余談だが第4の壁を突破し読者の皆様に話しかけて来る事も。

 

 

ウェブシューター

 

スパイダーマンである小林ユウ本人が作成したスパイダーマンの武装アイテム。

 

両手首に装着し、掌のスイッチでウェブを発射する。

 

ウェブはぶら下がり移動手段にする他、対象物の確保や引き寄せ、標的の拘束等に使用され、構造物を繋げる程抜群の引っ張り強度を誇る。

 

カートリッジにはウェブの原液が入っており、シューターの大きさに比してかなりの量を射出できるが、稀に粘液切れを起こしたり、装置が不調をきたしたりしてピンチになることもある。

 

因みにウェブは空気に触れると固まり2時間で溶ける為、地球に優しい。

 

物語が進行するに連れて、何回もバージョンアップを施されており、それによって発射のバリエーションも豊富になって行く。

 

 

スパイダーマンスーツ

 

小林ユウと協力者である沼田海斗で共同制作したハイテクスーツ。

 

保護フィルターによってハイレベルの毒耐性があるだけでなく、ハッキングやコンピュータウイルスなども無効化、光学迷彩による不可視化、偵察ドローン搭載等と言ったハイテク機能が盛りだくさんであり、ただのコスチュームではない。

その他にもオートフィット機能が存在し、スイッチ一つで着脱が可能。

 

表情筋を反映した絞りのついたレンズは目に入る刺激物にフィルターを掛け、集中力を高める。

 

 

 

スパイダーマンの協力者&親族

 

沼田海斗(ぬまた かいと)

 

脳内cv中村悠一

 

ユウと同じく私立羽丘学園高等科2年に所属する17歳の男子高校生。

 

ユウのクラスメイトであり、親友である。ひょんな事からスパイダーマンの正体を知った事をキッカケに彼の協力者となった。

 

ぽっちゃりとした体形で、頼りない見た目をしているが、ハッキングや盗聴など情報系に非常に強く、スパイダーマンの「椅子の人」として活躍する。

 

 

小林鳴(こばやし めい)

 

脳内cv悠木碧

 

ユウの叔母であり、現在ユウのたった一人の家族。

 

ユウの両親が死亡すると、夫の弁と二人でユウを高校生まで育てあげた。

 

かなりの美人で商店街の人々からも人気、店によってはサービスしてくれる所も。

 

スパイダーマンの正体をユウとは知らず、何時も夜遅く出かけては帰ってくるユウを心配している。

 

また、温厚で誰に対しても博愛の心を持っているが、若いころは筋金入りの不良で、何度か逮捕経験もあったとか。

 

 

 

 

小林弁(こばやし べん)

 

脳内cv子安武人

 

ユウの叔父で物語開始時では既に故人。

 

正義感の強い人物であり、ユウがスパイダーマンになるきっかけを作った人物であり、多くの教えを残した。

 

ユウがクモに噛まれてから2週間後、強盗に遭遇して刺殺された。

 

彼の死後も、彼の残した「大いなる力には、より大きな責任が伴う」と言う教えは今でもユウの胸に刻まれている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今井リサ

 

脳内cv遠藤ゆりか

 

 

ユウと海斗と同じく羽丘学園高等科に所属する2年生で、クラスメイトでもある。

 

スパイダーマン原作で言えばMJ的な立ち位置。

 

性格や設定は特に原作と変わりない。

 

ある日にスパイダーマンに助けて貰ってから、彼に好意を抱き、スパイダーマンのファンになる。

 

スパイダーマンの正体がユウであると言うことは知らず、ユウとは仲の良い「友達」であり、スパイダーマンと自分をつなぐ架け橋として接している。

 

その為時折彼の挙動不審さに疑問を感じる事も。

 

 

 

 

 

 

 




余り人気が無いみたいですねスパイダーマン知っている人少ないのかな?

…一番最初のスーパーヴィラン誰にしよ…


一応クロスオーバー無しのバンドリ小説を今書いている所ですので、投稿されたら是非読んでみてください。


最後になりますが作者の大事なモチベーションに繋がりますので、是非感想や評価などお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

…何してるの?久しぶり

どうも皆さん、前回のアンケートで「つまらん、はよ止めろ」に2票入っていてこの上なく落ち込んでいる作者のゴキブリです。

中々お気に入りが増えませんな‥‥何が違うんだろ…

別小説の執筆も順調なので投稿され次第是非読んでみてください


ウェブを使い街中を飛び回ること約1分、強盗に入られたであろう出張店舗の銀行に到着する。

 

強盗に僕が来た事を悟らせないよう、街灯に向かってウェブを放ち、自身を頂上にまで手繰り寄せる、最近発見した新しいウェブの移動方、ウェブ・ジップだ。

 

頂上着地した後、状況を知るために目のレンズを調節し、窓ガラス越しに強盗の顔を確認する。しかし当然全員仮面を被っており素顔は確認できない。強盗の人数は4人、逃がしたら面倒な事になりそうだ。

 

それに強盗達は全員武装している、しかも皆銃の扱いは慣れているような雰囲気だ。

 

だが何時までも放っておく事は出来ない。そろそろ挨拶しても良い頃合いだろう。

 

街灯から飛び降り、銀行の入り口前に着地する。

 

ゆっくりと入り口の扉を開けた後中へ入ってみるが、作業に夢中で誰一人としてこちらを見ない。

 

「ん"ん"どうも、暗証番号忘れちゃったの?」

 

軽く咳払いをした後、冗談を言ってみると強盗達は気付いたのか一斉にこちらを見る。奴らが被っている仮面はアイアンマン・ハルク・ソー・キャプテンアメリカだ。

 

「お、アベンジャーズか!…ここで何してるの?」

 

直後ハルクの仮面を着けている男が殴り掛かってくるが、上体をひねり最小限の動きで回避し、顔面に拳の一撃を食らわせダウンさせる。

 

次にソーの仮面を着けた男が銃を向けてくるがウェブを銃に張り付け、取り上げて丸腰になった所頭部目掛けて後ろ回し蹴りを打ち込み沈ませる。

 

「ソー!ハルク!一度会いたかったよ!…もっとイケメンかと思っていたけど…」

 

しかし僕が軽い挑発をした瞬間、背後からむずむずとした感覚を感じる。この感覚は僕が蜘蛛に噛まれて手に入れた能力の一つ、「危険察知能力」が働いた時の物だ。

 

前に何かで聞いた事が有るが、蜘蛛は未来予知と言っては過言では無い程鋭い危険察知能力持っているらしい、蜘蛛の第六感って奴だ。

 

そして蜘蛛に噛まれた僕は何やら蜘蛛の能力を手に入れた様で、その蜘蛛の第六感すら我が物としていた。僕はこの危険察知能力を「スパイダーセンス」と呼んでいる。

 

「スパイダーセンス」が突然働いたため、警戒しながら振り返ると、アイアンマン仮面を着けた強盗の右ストレートが僕の目と鼻の先にあった。

 

「…おおっ!危なっ!」

 

ボクシングのスウェーの容量で素早く上体を後ろに下げて回避する。今のは流石に危なかった…「スパイダーセンス」が反応していなければこいつのパンチは僕の後頭部に命中していただろう。

 

「アイアンマン?!何で強盗すんの?金持ちって設定だよね?」

 

強盗は連続でパンチを放つが僕には無駄な事だ。スパイダーセンスと動体視力により全て避け、カウンターの拳の一撃を食らわせる。その力は強力無比でアイアンマンの仮面の強盗を一撃でノックダウンさせた。

 

3人のうち二人を倒し、残すは一人。

 

しかし、直後再びスパイダーセンスが反応する。

 

そこには、背後でキャプテンアメリカ仮面の強盗が銃の様な武器を構えていた。

 

「…やばっ!」

 

上に飛び上がり、回避しようとするも時既に遅し。何か超能力じみた力を身に受け、僕の身体は浮遊し、天井、床、天井、床と上下に叩き付けられる。

 

「…いてっ!コレってもしかしてストレンジ?!」

 

だが何時までやられてばかりの僕じゃない、床に叩き付けられ、再び俺の身体が天井目掛けて浮くタイミングを見計らい、床に右手を張り付ける、すると僕の身体は浮きはするものの、まるで右手が柱の様に体全体を支えており、天井にぶつかる事は無くなった。

 

そう、僕ことスパイダーマンの能力の一つ、「吸着能力」で、床と自分の右手をくっつける事で、僕の身体を浮遊させようとする力に耐えたのだ。

 

「まったく、強盗の癖に格ゲーのハメ技みたいな事しやがってー!」

 

そして僕は床についている右手とは逆の方、左手のウェブシューターで間髪入れずに相手の武器にウェブを飛ばし、張り付けて手繰り寄せる事で取り上げ、壁目掛けて投擲し破壊する。

 

人間の手って二つあって便利だよね?僕はクモだから本来は6本であるべきなんだけど。

 

「強盗の癖にハイテクな武器持っているね、オークションで買えるかな?」

 

そして武器がなくなった事で体が自由になった直後、強盗に一切隙を与えず、飛び上がり両足を強盗の首に挟んで、バク転する勢いで体を旋回させ相手を投げ飛ばす。プロレスで言う"ヘッドシザースホイップ"だ。

 

「…ふぅ…」

 

どうやら全員倒した様だ、先程の衝撃波を放つ銃は何だったんだ?回収して調べたいところだが壁ぶつけて壊した時の勢いが強かったのか木っ端微塵になってしまっている、あれじゃ修復は不可能だ。

 

だが今は取り敢えず終わった事を海斗に報告しよう。

 

「…海斗?片付いたよ。」

 

『ふぅ…ん?…終わったか?』

 

インカム越しに聞こえるのは、どこか疲れているかの様な海斗の声。

 

まさか何かしらのトラブルが有ったのだろうか、海斗が僕に協力している以上常に危険は付きまとう、例え現場に向かわない「椅子の人」であったとしても危害を受けない保証はない、そう考えると心配だ。

 

「...そっちで何かあったか?」

 

『え?急にどうした…?』

 

「いや、疲れているみたいな声しているから、何か有ったのかなって。」

 

『あー、お前が戦っている間見ていたから。』

 

「………」

 

次の瞬間僕は内心安堵すると同時に呆れによる溜息をついた。

 

…今ので何故快が疲れているのか想像はついた。だが一応最後まで聞いておこう。もしかしたら僕の勘違いかも知れないし。

 

「…一応聞くけど…何を?」

 

『エロ…動画を…』

 

あーやっぱり、心配した僕が馬鹿だった。

 

***

 

その後、街に何か犯罪や悪い事が起こっていないかパトロールを続ける。

 

警察からの通報じゃ情報不足と言う事もあるが、これもスパイダーマンとして重要な仕事だ。

 

うん、海斗の事はもう触れないでね、心優しい読者の皆さん。

 

「誰か困っている人~いる?」

 

そんな事を町の人々に聞きながら、ウェブを飛ばしてはスイングを繰り返し、街の中をひたすら巡回する。

 

でも僕も人間、ずっと腕の筋肉を使うスイングを続けたからか、少し疲れを覚え、休憩も兼ねて近くの喫茶店の屋根を借り、一休みしていた頃。

 

「みてみてー!巴ー!あそこにスパイダー男が居るー!」

 

「お、本当だ、明日は良い事有るかもな。」

 

自分の足元からピンク髪をした女子高校生と、赤いロングの髪をした女子高生が、まるでポケモンを見つけた様なテンションで僕の事を話している。どうやら二人とも僕と同じ制服…羽丘の制服を着ている。

 

でも、見つけたら「良い事有るかも」か…俺は何時からラッキーアイテムになったんだ?

 

でもまぁ正体隠して神出鬼没である以上、そんな扱い受けても仕方ないか。

 

「へへへ~、おーい!スパイダー男!!」

 

そんな事を考えていると、先程僕…いや、スパイダーマンを見つけて喜んでいたピンク髪の女子高生が、下からこちらを見上げつつ、声を掛けてくる。

 

「スパイダー男でしょ?!YouTubeで見た!」

 

「スパイダー男じゃないよ!スパイダーマンだよ!」

 

うん、最近よく「スパイダー野郎」だの「スパイダー男」と良く間違われるんだよな…と言ううか1年前からずっと間違われている様な気がするのは気のせいだろうか?

 

「そっか!スパイダーマンか!バク宙やって!」

 

陽気にそうリクエストするピンク髪、仕方ない、ここは一つ、僕の華麗なバク宙を披露してやる!

 

俺は内心意気込み、渾身のバク宙を披露すると、

 

「うおおお!」

 

「イエーイ!」

 

赤髪ロングとピンク髪の女子高生はそれぞれ感嘆のリアクションを取ってくれた。

 

なんかこう言う風に、リアクションしてくれるとファンサービスもやりがいがあるな…

 

「それじゃ!バイバイ!お二人さん!」

 

「うん、またね!スパイダー男!」

 

でもずっと、屋上で休んでいる訳には行かない。パトロールを再開しなくては…

 

僕は二人に別れを告げると、上空にウェブを放ち、スイングを再開して、再びパトロールに戻るのだった。

 

それからピンク髪ちゃん、僕の名前はスパイダー男じゃなくてスパイダーマン…ね?

 

 

 

 

 

それから数十間ほどパトロールを続け、日が沈み、すっかり周りが暗くなった頃。

 

僕は海斗との通信を切った後、一目が無いルートを使い建物と建物の間をスイングするなど気を遣いながらバレないようにバックパックを張り付けた裏路地へ戻る。

 

パトロールと言っても特に多きな犯罪や事件は無く、ばぁちゃんに道案内する等特に大きなトラブルは無く町は平和だった。

 

時刻は既に6時を過ぎており、既に日は沈み暗くなった高校にも人は数人しか居ないだろう。あまり帰りが遅いとおばさんに心配掛ける、早く着替えて帰らないと。

 

 

だが僕の考えを運命は真っ先に否定するかのような現象が起きてしまっていた。

 

確かに自分がそこの壁に張り付けてあるはずのバックパックがその場から消えていたのである。

 

えっと…確かここら辺の壁にバックパックをウェブで固定して張り付けているはずだけど…

 

「……あれ?無い…」

 

スーツの中で一気に冷や汗が吹き出るのが分かる。おかしい…確かにここに…!

 

「…まさか…!」

 

急いでスーツの隠しポケットからスマホを取り出し時間を確認する。確かウェブの効力は2時間…そして僕がスパイダースーツに着替えて、ウェブをバックパックに張り付けたのは学校が終わってすぐの16時間頃…そして今の時刻は18時過ぎ…

 

 

「……しまった!」

 

ウェブの効果時間はとっくに過ぎており、人助けに夢中になって僕はそれをすっかり忘れていたのだ。

 

「あー、本当に最悪…やらかした…」

 

最悪だ…今頃誰かに取られてしまったのだろうか…はぁ…教科書とか参考書もそうだけど…俺のお気に入りの服も入っていたのに…

 

「………!」

 

直後スパイダーセンスが反応し、反射的に右腕が真横から飛んでくるなにかをキャッチする。

 

何事かと飛来物を見てみるとそれは僕のバックパックだった。

 

盗られている物は無いか中身を確認してみるが間違いない、僕のバックパックだ…!有って本当に良かった…

 

体の力を抜き、安堵の溜め息をつく。

 

バックパックが無事で良かった…でも一体誰が取っておいてくれたんだろ?…まさか誰かに正体を感づかれたのか…?!

 

 

「探し物は見つかったかしら?」

 

その声を聞いた瞬間、マスクの中での僕の顔は驚愕に染まった。

 

驚きのあまりバックパックを落としてしまい、ジッパーを開けっ放しにしていたため中身が散乱してしまう。

 

だが今の僕にはそんな事気にしている暇はなかった。

 

聞き覚えのある声、首をバックパックが飛んできた方向に向けて声の主を確認する。

 

「…何してるの?久しぶり。」

 

そこには白鷺千聖(元カノ)がどこか寂しげな笑顔でこちらを見ていた。

 

「…千聖…」

 

「…相変わらずみたいね。」

 

 

 




取り敢えず今の所は一話で4000文字前後を目安に書いていきたいと思います。

作者のモチベーション上昇の為にも、ご感想,評価等お願します!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

誰も断るなんて言っていないわよ

中々UAが伸びませんな…

読者の方が中々増えないのはやっぱりスパイダーマンと言うネタがミスマッチなのかな…

バンドリ小説界は厳しいわ…

誰か―!オラの評価バーに色を付けてくれー!



きっかけはある会話からだった。

 

 

「…ユウ…私ね、昨日大きなドラマのお仕事を貰ったの」

 

そう言う彼女の真剣な眼差しを見て、僕は彼氏として支え、応援しようと決意した。 

 

「そうなんだ…女優とか芸能関係は大変かもだけど、僕も彼氏として全力で応援するから。だから…」

 

「ユウ」

 

けどそんな決意をした僕の手を彼女は、千聖は振り払った。

 

「私達…別れましょ?」

 

***

 

「…千聖…」

 

「…相変わらずみたいね…」

 

 

 

そして今、元カノである千聖は寂しそうな微笑を浮かべている。…でも違うだろ…君が何で寂しそうな顔をしているんだよ?あの時僕を突き放したのは君じゃないか。

 

でも…こんな状況でも会えて良かったと思っている事は、きっと未だに彼女に未練を抱いている証なのかも知れない。

 

でも、僕はもう‥‥

 

「…その…何でここに?」

 

 

「偶然よ、今から撮影行くって時に、貴方がそこに居たのよ。」

 

 

そうか、今日は撮影だったか、この半年一切の交流も無かったから忘れていた。

 

「…ごめん。」

 

 

 

「何も謝る事は無いわよ。じゃ私は仕事が在るから」

 

 

正直今彼女と居るのは気まずい、それはきっと半年前まで恋人であり、別れたという事もあるのだろう。

 

 

彼女から連絡する事も無かったし、僕から連絡する事も無かった。その理由もきっと純粋にお互い連絡するのが気まずかったからだろう。

 

 

でも今日、半年ぶりに会たのだ。彼女とは確かに別れた、けど完全に関係を終わらせたい訳ではない。せめて恋人じゃなくても良い、ただ友達としてでも話がしたい。

 

 

今ここで言わないと一生後悔するだろう。だから僕は全霊の勇気をもって彼女を呼び掛ける。

 

 

 

「…千聖」

 

 

 

「…何?」

 

 

 

立ち止まり怪訝そうな表情を浮かべる千聖。この表情が憤怒に染まるか、笑顔になるかは僕にも分からない、でも今ここで誘わないと。

 

 

 

「…仕事が終わったらさ…一緒に夕食でもどう?その…ミックで…」

 

 

 

「ミック」付き合っていた時もデートの待ち合わせ場所にしたり、よく一緒に二人で食事した馴染みの店だ。勿論別れてからは一度も行っていないけど、久しぶりに二人きりで話がしたいから僕はその場所を選んだ。

 

 

 

それを聞いた千聖は怪訝そうな表情から憤怒でも喜びによる笑顔でもなく。

 

 

「ミック?…はぁ…この半年間の事は帳消しで?」 

 

「…う…」

 

 

「それに私は今から仕事なのよ?帰りが遅くなることぐらい察する事が出来ないのかしら?」

 

呆れによる嘲笑を浮かべながらそう呟く千聖。それもそうだろう、僕は半年間ほったらかしにしていた男だ。食事に誘った所で今更だろし、彼女は売れっ子の女優、一日一日が僕と一緒にいられない程ハードワークなのだろう。

 

 

「…そうだよね…ごめん。僕ももう帰るから。」

 

 

…もう僕達の関係は終わっているのだ、だからこれ以上引き留めても彼女の邪魔になるだろう。

 

行き場の無い寂しさを必死に悟られないようにしながら、彼女に背を向けその場から立ち去ろうとする。

 

きっと彼女は女優になり、僕よりも良い人と結ばれるだろう。だがそれで良い、彼女の人生に僕という存在は不要なのだ。

 

でもそう考えると妙に苦しくて、その場に居る事が辛かった。

 

「待って」

 

 

「‥‥え?」

 

 

しかし、立ち去ろうと背を向けた直後、背後にいる彼女が僕の事を呼び止める。

 

 

「誰も断るなんて言っていないわよ」

 

そう言うと、千聖は肩にかけているカバンをごそごそと探ると、一枚のメモ用紙と筆記用具を取り出し、メモ用紙に何かを書くと、それを僕に突き出してきた。

 

「…これ、私の新しいRINEのID。」

 

「…え?」

 

「その…私の方も半年間連絡も何もなくてごめんなさい。…言いにくいのだけど、私…貴方と別れた後すぐにスマホを機種変して…」

 

あまりにも唐突なことで理解できない。

 

「…貴方との『恋人として』の関係はもう終わったわ、でも…『友達』としての関係なら続けても良いわよ…例えば…今日は無理だけど、暇なときに一緒に食事する事とかね。」

 

 

視線をこちらに向けず、そう呟く千聖を見て、僕は初めて彼女の意図を理解した。

 

 

…なんだ…彼女も僕と同じく「友達」として関係を続けたかったんだ…

 

「…ありがとう、千聖」

 

「ええ…あ…ごめんなさい、私もう行かなくちゃ。」

 

「うん、撮影がんばってね…」

 

「ふふふ、ありがとう」

 

千聖は僕に静かに微笑むと、少し急ぎ足で撮影現場へと向かって行った。

 

何だか今の、付き合っている時の会話みたいだったな…

 

内心昔を懐かしみつつ、空を見上げる。

 

正直少し彼女との会話はぎこちなかったが、何というか…悪い気はしなかった。

 

 

***

 

それから千聖が撮影現場へと向かった後。

 

僕は着替えを終え、ウェブを用いたスイングではなく徒歩で帰路へ就いている。

 

今の僕はスパイダーマンスーツを着ていない。

 

先程千聖が去って行った後、物陰で着替えたので、現在は羽丘学園の制服を着ている状態だ。

 

現時刻は19時、すっかり日が沈んでしまっている時間帯で、本来帰宅する予定より少し遅れてしまった。

 

あまり遅くなると、鳴おばさんに心配かける、早く帰らないと…

 

僕は急ぎ足で帰り、家まで到着すると、そっと、ドアノブを破壊しない様に身長にドアを開く。

 

力を手に入れた直後は良くドアノブをぶっ壊しておじさんやおばさんに迷惑を掛けた物だ。

 

 

「ただいまー!」

 

 

玄関に入り靴を脱ぐと、奥からドアの向こうからパタパタと足音が聞こえる。その際少し聞こえる雑音で料理中だった事が解るのは我が家だけだろう。

 

すると、20代後半程の女性が少し息が上がった状態で奥から出て来る。

 

僕はそれを苦笑いしながら、改めて口を開く。

 

「ただいま、鳴おばさん。」

 

「おかえりなさい、ユウ」

 

僕の唯一の家族、鳴おばさんは屈託のない笑顔で僕を出迎えてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、ユウ。今日の夕飯はユウの好きなカレーだよ。」

 

「やった、いただきまーす。」

 

テーブルに出されたカレーライスをスプーンで掬い、口の中で頬張る。

 

ぶつ切りにされてそれぞれ大きさが違うニンジン、小さく切られた肉、煮崩れしたジャガイモ。

 

あまり鳴おばさんは料理は上手じゃない、だが…なんかこの味は「我が家の味」って感じでほっとする。

 

 

「美味しい?」

 

「うん、旨いよ。おばさん。」

 

先程言った様に、僕の家族は鳴おばさん一人だけだ。

 

両親は僕が幼い頃に事故で亡くなったらしく、祖父母も若くして亡くなったらしい。

 

一応他の家族として1年前まで叔父さんも居たけど…去年…

 

 

「今日は随分遅い帰りだったわね、ユウ。」

 

ネガティブな思考へ至ろうとした所、唐突におばさんに話し掛けられ、ふと我に返る。

 

「う、うん。友達とゲーセンで遊んでいたら遅れちゃって…」

 

「あら、若いわねぇ…」

 

咄嗟に吐いた嘘をあったりと信じるおばさん。何やら昔は相当な不良で地元の人間からは今でも恐れられているらしく、僕の帰りが友達と遊んで遅くなっても、「高校生なら普通」とそれ程気にする事もなく、詳しく追及する事もない。

 

何と言うか、スパイダーマンで帰りが遅くなるたびに、こうして嘘を吐くのは、少し申し訳ない気がする。

 

 

でも、もしおばさんが正体を知って、犯罪者たちが目を着けたらって考えると…ゾッとする。

 

そう、これは周りを危険に巻き込まない為に必要な嘘、少し悪い事してるように感じてしまうのも、スパイダーマンの辛い所だろう。

 

心の中で一人愚痴りながらカレーをまた一口頬張るのだった。

 

 

***

 

そして午後11時頃。

 

「それじゃあ、僕はもう寝るから、おやすみー」

 

「ええ、そろそろ私も寝るわ、お休みなさい、ユウ。」

 

僕はおばさんへ挨拶を済ませ、寝室へ行くと、急いで再びスパイダーマンスーツを着る。

 

おばさんにはバレない様に自室の鍵を閉める事も忘れない。

 

さて、夜のパトロール開始だ!

 

 

僕は着替え終わってすぐ、僕は部屋の窓から外へと飛び出す。

 

『おお、深夜のパトロールか?スパイダーマン?』

 

するとインカムから海斗が話し掛けて来た。

 

「ああ、これから皆が寝静まる時間帯まで…大体2時間程パトロールを続けるよ。」

 

『解った、こっちも付き合うよ。警察の無線では今日は…』

 

海斗から伝えられた情報は隣町で喧嘩や強盗がちらほらと起きているらしい。

 

やはり夜となると、昼間よりも犯罪率は高くなる様だ。

 

俺は空に向かってウェブを飛ばすと、夜の街をスイングし、隣町へと向かうのだった。

 

 




ヴィランの登場順としては、今の所

リザードマン→グリーンゴブリン→ミステリオ→ライノ→キングピン→エレクトロ→ヴァルチャー→スコーピオン→サンドマン→ショッカー→Drオクトパス→ヴェノム(余裕が有れば)にしようと思います。

予定によっては所々入れ替わるかもしれませんが、今のところはこの順番で行こうと思います。

作者のモチベーションアップの為にも、感想、評価、お気に入り登録お願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一応進展は有ったみたいで良かったよ。

どうやらバンドリの小説の中で一番人気なのがこの小説らしいので、こちらをメインにするか考えています。


お気に入り登録して頂いた方々誠にありがとうございます。

そして評価を頂いた「藤木真沙」さん、「志無」さん、「マーボー神父」さん、「グルッペン閣下」さん、誠にありがとうございました。

また、仮面ライダーウィザードとのクロスオーバー「バンドリ!マジックパーティー」も良かったらご覧ください。


翌朝

 

「ふああ~」

 

羽丘学園の校門前にて、僕は歩きながら盛大な欠伸をかます。

 

あー、眠たい。なんせ昨日はパトロールに出て、隣町で強盗が発生した通報を聞いた後、無事に何とか止めたは良いものの、その直後に強盗が起きた場所の周辺でギャング同志の抗争が起きている通報が入ったのだ。

 

それを止めるのに少し手こずったせいか、撤収時間が遅くなり、本来ならば午前1時頃に帰宅し、就寝する予定だったが、昨日パトロールを終えて帰宅できたのは午後4時頃、日が昇りかけた時間帯で帰宅して、睡眠…いや、殆ど仮眠を取ってそのまま通学している感じだ。

 

学校に行きながらスパイディ業って本当にキツイ‥‥それが平日なら尚更だ。

 

あー、学校辞めてー‥‥

 

「なんだよ、もしかして睡眠不足か?」

 

心の中で愚痴りながら、教室へ向かっていると、後ろから海斗に声を掛けられる。

 

「あのな‥‥僕が昨日寝た時間、今朝の4時だぞ?!逆に睡眠不足にならない奴いたら化け物だろ?!」

 

「え?今朝の4時?おかしいな‥‥俺寝たの夜の1時頃だったぞ‥?」

 

「そりゃそうだろうな、何せ僕がギャング達の抗争を止めるために必死に戦っている時、お前は既に夢の中だったからな!」

 

「いや、ゴメンって‥‥一応寝ない様に我慢はしたんだよ?」

 

僕より3時間程早く寝て、スッキリしているであろう顔で言い訳を口にする海斗に殺意を覚える。

 

「何が『我慢した』だ!僕が戦っている中でグースカピースカ五月蝿いイビキかきながら寝落ちやがって!」

 

そう、昨日戦っている間にインカムから聞こえる海斗のイビキはマジで五月蝿かった。

 

こっちは神経を集中しているのに耳元の通信機からグースカピースカと騒がれ、たまったもんじゃない。

 

「まぁまぁ、昨日の今井さんの件に免じてその辺は許してくれや」

 

「まったく‥‥」

 

海斗の発言に呆れつつ、教室に入り、自分の席に着く。

 

くそ…今井さんの件で海斗に借りを作ってしまったから、寝落ちた事に強く言えない…!

 

もしや海斗、初めからこれが目的だったとかじゃないよな?だとしたら抜け目の無い奴だよホント。

 

「‥‥あ、俺ちょっとトイレ行ってくるわ。」

 

突然海人はそう言うと、椅子から立ち上がり、教室から出ていってしまった。

 

‥‥アイツ絶対にトイレでエロ動画見一発抜きに行っただろ‥‥

 

はぁ・・・・まぁ、どうであれ、あいつのお陰で僕と今井さんの距離が縮まったのは本当の話だし、その辺は感謝しておくか。

 

「お、ユウじゃん!おはよー!」

 

すると、噂をすれば影と言わんばかりに、黒板前で女子グループと話していたリサさんが話し掛けて来る。

 

「ああ、リサさん。おはよう。…その、昨日はゴメン急なバイト入っちゃって…」

 

「ホントだよー!急に帰っちゃうからマジでビビったんだからねー!」

 

私怒ってます! と言わんばかりに、リサさんがむっつりとした表情を取る。可愛い。

 

「本当にゴメン。昨日急に避けられない事情が有って…」

 

「あははー、良いよ。昨日凄く急いでいたし、避けられない急用が入ったんでしょ?」

 

「う、うん…まぁそんな感じ…」

 

確かに…昨日はいきなり通報が入り、大急ぎで現場に急行した為、リサさんを置いて行く形になってしまった。

 

まだ、話したい事が有ったのに…悪い事をしたものだ。

 

そう言えば昨日、何の話をしようとしていた時、出動したんだっけ?…そう…確か…スパイダーマンの写メが欲しいとか、写メあげるとか言った気がするけど…

 

「それで昨日話そうとしていた事なんだけどさー。」

 

「あ、うん…」

 

僕が昨日の事を内心反省していると、丁度その事についてリサさんが話題を振って来た。

 

「RINE交換しない?」

 

「え?」

 

写メの事を要求されるのかと思ったが、てっきり違う内容で思わずきょとんとしてしまう。

 

「RINE、お互い交換していた方が色々連絡とるのに便利でしょ?だから交換しよ?」

 

「え?別に良いけど‥‥昨日話した写メの件は‥‥」

 

「え?!もしかして、もう貰えたの?!」

 

「いや、一応写メの事は伝えておいたけど、まだ…貰ってないんだ…」

 

リサさんのリアクションに思わずビビってしまう、一瞬僕の両肩を掴んで詰め寄りそうな勢いだったからね。一瞬恐怖を覚えたわ。

 

「あ、あははー、まぁいきなりは厳しいよねー。最近のスパイダーマン忙しそうだし。」

 

「その…ゴメン。」

 

「いや、いーよいーよ!気長に待つし!」

 

先程の気迫からは信じられない台詞だな…なんか「一日でも早く欲しい!」と言うオーラが漏れているぜ、リサさんよ…

 

もしかしてRINE交換したいのも、スパイダーマンの写メ送るのに便利だからって理由かな?

 

でも今井さんのRINE‥‥

 

「ゴメン話が逸れちゃったね、えっと‥‥確かRINEだっけ?いいよ、交換しよ。」

 

「本当?やった!」

 

 

こちらもリサさんのRINEを貰えるのは嬉しい、ちょっと待ってね‥‥今QRコード出すから‥‥って近い近い!

 

 

…あ、やべ…リサさんからなんか良い匂いがする…シャンプーかな?って何を考えているんだ俺は?

 

「‥‥?どうしたの?ユウ?」

 

「え?!いや、何でもない!何でもないから!」

 

ヤバい!リサさんが良い匂いで呆けていたなんて知られたら絶対軽蔑される!

 

内心パニックになりながらも、僕とリサさんはRINEのIDを交換したのだった。

 

 

***

 

そして何時もの如く昼休みの食堂。

 

「まぁそう機嫌悪くするなよ、ユウ。」

 

「‥だって‥‥リサさんが‥‥」

 

僕は若干ブルーな気持ちで、学食限定のオムライスにケチャップを大量に掛け、スプーンでパクリと豪快に口に運ぶ。

 

‥‥しょっぱい、ケチャップ掛けすぎたか‥‥

 

僕がこうして半ばヤケクソ気味にオムライスを食べているのにも勿論理由は有る。

 

そう、僕は今日、昼休みに入った直後、全身全霊の勇気を出してリサさんをお昼に誘った。

 

でもリサさんは友達と食べる約束をしていたらしく、僕はあっさりと振られてしまったのだ。

 

 

畜生…一緒にお昼食べれたら、色々スパイダーマンについて話せたのに…

 

「まぁでも、お前と今井さん、一応進展は有ったみたいで良かったよ。」

 

「進展?何言ってんだよ、一応話せるようにはなったけど、そこまで距離は縮まっていないさ。」

 

「いや、そうでもないぞ、だってお前達名前で呼びあっているじゃないか。」

 

「そ、それだけで距離が縮まったなんて…それにアレは今井さんがフレンドリーだから…」

 

そう、全く話さないクラスメイト同士が偶然共通の話題を見つけて話せる間柄になっただけ、今井さんがフレンドリーだから進展が有る様に見えるだけで、海斗が期待している程距離は縮んでいないはずだ。

 

「でも、今朝みたいに話掛けられる時点で、今井さんからは友達として認識されているのは確かだと思うぜ。」

 

「そ、そうなのかな…」

 

確かに、リサさんなら話して10秒で友達とか有り得そうだ。

 

なんせ昨日、急に話し掛けて来た俺に対して驚いたり、引いたりする事も無く普通に話して、挙句はRINEすら交換‥‥

 

 

アレ?

 

 

 

「オイ海斗…何でお前今朝リサさんが俺に話しかけて来た事知ってるの?」

 

「え?あー…」

 

会話の途中で突如感じた疑問を口にすると、海斗は「やっちまった」と言わんばかりに頭を抱える。その姿はまるで悪戯が失敗した子供の様だった。

 

「さてはお前…今朝俺とリサさんの会話盗み聞きしていたな?」

 

「ゴメン!その…悪気はなかったんだ!」

 

思わず語気が強くなってしまい、海斗は僕が怒っていると錯覚したのか、勢いよく手を合わせて謝罪する。

 

「…あ、いや…別に怒っている訳じゃないんだ。でも、何故にわざわざトイレに行くなんて嘘を?普通にあの場で聞いていれば良かったのに。」

 

「それは‥‥その‥‥」

 

 

気まずそうに口ごもる海斗、何か言いずらい事情が有るのか?

 

 

「その…俺が居たら邪魔になるかもって思って…でもだからと言ってお前がリサさんが仲良くやれているか心配だったし…」

 

その答えを聞いた瞬間、頭に有った苛立ちが少しづつ消えて行く。なんだよ、そういう事だったのか。

 

「気を遣わせて悪かったよ、ありがとう。」

 

「お?!一つ貸しか?なら今度ラーメンでも…」

 

「奢らないよ。」

 

全く本当に調子良いんだから…

 

だが内心僕の事を気に掛けてくれた海斗に感謝を抱きながら、オムライスの最後の一口を頬張る。

 

やっぱりしょっぱいな…

 

口の中いっぱいに広がるケチャップの味を感じながら、少しずつ昼休みは過ぎていくのだった。

 

 

 




最後までご拝読ありがとうございます。

皆さんこの作品のスパイダーマンのコンセプトは「どんなに理不尽に叩きのめされても、何度も立ち上がり、強くなる。」です。それ故に、もしかしたら読者の皆様が、読んでいて辛いと感じる事も有るかと思いますが、このコンセプトは原作や映画にも有るように、「スパイダーマン」には欠かせない重要な点と作者は考えています。

勿論決して理不尽ばかりではなく、ちゃんと救済が有る様に書いて行きたいと思うので、そこはどうかご理解願います。

また、この物語の主人公で、ピーターパーカー的な立ち位置の小林ユウ君ですが、彼に関しては「ヒーロー」として華やかな一面だけでなく、男子高校生と言う思春期特有の自己顕示欲や性欲などと言った「人間」としての一面も多く書いて行きたいと思います。

ご感想や評価お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

…「親愛なる隣人」ってのはどう?

更新遅れて申し訳ございません!

作者が過労でぶっ倒れていたせいで執筆が停滞していました!




放課後、海斗の家にて。

 

海斗の家は父親が大企業の社長を務めており、非常に裕福な家庭だ。

 

その為、海斗の家は凄まじく豪華であり、僕達の様な一般家庭とは日にならない程の広さを持つ。しかもそれを別荘として幾つも持っているなんて…財力バケモノすぎるだろ…

 

週に2~3回、海斗の家に呼ばれてスパイダーマンに関する会議を二人で開催するけど、何と言うか…海斗の家の豪華さには何度見ても驚かされる。

 

「おい、聞いてるのか?ユウ。」

 

「ああ、ゴメン。何の話だっけ?」

 

思わずこの家を見て呆けていたせいで海斗に怒られてしまった。

 

「まったく…今日は今前話した問題の解決策を考える会議だろ?」

 

「ああ…そうだった…確か…警察の無線の傍受だけじゃ情報不足って点だっけ?」

 

「ああそうだよ」と海斗は首肯するが、やはり僕が家に見入ってしまっていたからか、少し不機嫌な様だ。

 

「悪い悪い、後でラーメン奢るからさ。」

 

「ラーメン三郎のにんにく油もりもり野菜マッタ―ホルンで頼む。」

 

はい、機嫌治った。うん、機嫌が悪くても大抵ラーメンで解決できるウチの相棒、チョロ過ぎる。

 

でもこんなにチョロ過ぎると、ヴィランとかにラーマン奢られて裏切られないか心配になるわ、まぁそんなことないだろうけど。

 

「解った、天地返し、失敗すんなよ。」

 

うん、意外とあのラーメン屋の量って多いんだよね、旨いけど油の量多いし、ぶら下がったり、スイングする前にアレを食べると、リバースする未来しか見えない。

 

 

 

閑話休題

 

 

「それで、情報不足の問題点だっけ? どんな解決策を考えたの?」

 

珈琲を啜りながら尋ねる。うん、何時飲んでも海斗の家で飲む珈琲は旨いな…やっぱり金持ちだから高級な豆を使っているのだろうか? インスタントの珈琲とは別の旨さが有る。

 

だが優雅に珈琲の香りを楽しんでいると、海斗は消臭スプレーを僕の顔に噴射して雰囲気をぶち壊してくれた。

 

「‥‥珈琲の香りを楽しんで優雅な気分になるのは後にしろ。」

 

「はいはい‥‥で? どんな事を考えた訳?」

 

「ふふ~ん‥‥まだ未完成だけど…こ、れ、だ、よ!」

 

優雅なコーヒータイムを邪魔されて内心イラつきながら、再びそう尋ねる。

 

すると海斗は助走を付けて顔面をぶん殴りたくなる程のドヤ顔を見せると、どこからかノートパソコンを取り出し、僕の前に突き付けた。

 

パソコンのディスプレイに写っている物は、何行もの羅列された英数字。

 

端から見たら何かしらの暗号としか思えないだろう、だが僕にはこの羅列された英数字が何なのか即座に理解できた。

 

「…これってアプリのプログラム?」

 

「YES!」

 

そう、これは携帯やパソコンにインストールできるアプリケーションのプログラム。しかもこの文字数の多さだと相当大規模なアプリになりそうだ。

 

だがこのアプリが情報伝達不足の解決策と何か関係があるのか?

 

「だが、海斗。一体アプリを制作してどうするの?」

 

「ふふーん…これはな、スパイダーマンに直接連絡し、犯罪も通報できるアプリさ!」

 

僕に直接で連絡できるアプリ、それを聞いた瞬間何となくだが海斗の意図が理解できた。

 

「なるほど…今までやっていた様に、警察の無線傍受だけじゃ、情報が足りなかったり、僕が通報を聞いて現場に着いても、『既に犯人に逃げられていた』と言う事もあったが‥‥このアプリを使えば通報した瞬間スマホのGPS機能により通報した者の場所を特定し、すぐその場に急行できる為伝達力不足を解消できる。更に無線傍受と併用すれば情報不足を解決できるって事か……」

 

「う、うん……なんか言おうと思っていた台詞全部取られちゃったけど…まぁ、そゆこと。」

 

成る程…僕にダイレクトで情報が伝わる連絡用アプリか…全く……このスーツと言い、毎回海斗の情報技術には驚かされるよ…ハッキングだけでなくアプリ制作とは‥‥それにこのアプリ…まだ未完成だけど相当なクオリティだぞ…

 

「アプリの名前はもう決まっているの?」

 

「いや…まだ決まっていないけど…お前はどんなのが良い?」

 

名前……スパイダーマンと住民達の架け橋となるアプリの名前…そんなの最初から決まっている。

 

僕の力が民間人の恐怖を招かないようにする事が出来る名前。

 

僕の…スパイダーマンの精神性が一般と変わらない事を示す事が出来る名前。

 

「…『親愛なる隣人』ってのはどう?」

 

考えた名前を発表する。だがそれを聞いた海斗は一瞬だけ目を見開くと、クスクスと笑い始めた。

 

「…え?もしかしてセンスなかった?」

 

「いや、俺も同じ名前考えていてさ。全く同じだったモンだから…つい……」

 

「え?マジ?!」

 

思わず僕も笑みを浮かべてしまう。

 

でもまさか海斗も同じ名前を考えていたとは‥‥やはりコイツとは気が合うのかな?

 

「まぁどうあれ、アプリの名前について話し合う必要は無いみたいだね。」

 

「ははは、違いない。」

 

そこから先は早かった。

 

僕もアプリ制作を手伝い、二人掛かりで作業する事であっという間にアプリは完成し、スパイダーマン連絡用アプリ「親愛なる隣人アプリ」は無事この日、実用化を果たしたのだった。

 

 

 

 

数時間後

 

リサside

 

バイトが終わり、練習も終わり、今日一日やる事が全て終わり、アタシは疲れた体を引きずりながら家に帰る。

 

「ただいまー。」

 

「やっと着いた」と内心呟きながら玄関を潜る、すると「あ、リサー、おかえりー」と台所で夕飯の用意をしているだろうお母さんの声が聞こえる。

 

お母さんに挨拶した後、そのまま部屋に向かいベッドに勢いよくダイブする。

 

「あー…今日も疲れた…」

 

学校生活とバンドを両立するのは大変だ、でも頑張らなきゃいけない。アタシが一番Roseliaの中で一番下手だから、皆の足を引っ張らない様にしなきゃ‥‥

 

でも今日は疲れた。

 

放課後バイト終わってすぐ練習だったんだから、もう体中くたくただ。

 

ベッドに寝転がりスマホでSNSを見る、そういえばこの前ひまりが餃子ポン酢とかやっていたケド…今日はどんなのを投稿しているんだろ…

 

ひまりのアカウントを検索し、今日の投稿を見ようとした時、アタシの手はぴたりと止まった。

 

「え?これって…」

 

アタシの目に留まったのは、ひまりが投稿したであろうSNSのつぶやき。

 

『「親愛なる隣人」アプリをインストールしたよ!これで何かあっても直ぐにスパイダーマンに連絡できるから夜遅い帰りでも安心安心!』

 

投稿されているつぶやきには、ひまりがスクショしたであろう写真が貼られており、その写真にはスパイダーマンの顔を模したであろうアプリのマークが書かれていた。

 

「親愛なる隣人アプリ…」

 

どうやら調べてみると、このアプリはスパイダーマンにダイレクトで連絡できる物らしい。

 

つまり何か事件や犯罪に巻き込まれた時、このアプリを持っていればすぐに彼を呼ぶことが出来ると言う事だ。

 

そう言えば同じクラスの小森ユウ君だったけ…確かスパイダーマンの知り合いらしいケド、このアプリの開発にも関わっているのだろうか?

 

でもスパイダーマンと連絡が取れるアプリか‥‥

 

って事はまたスパイダーマンと連絡を取って逢う事も…

 

頭をぶんぶんと振って、考えていた事を雲散させる。これは事件とかに巻き込まれた人が使ういわば緊急用の連絡アプリだ、アタシが考えているような個人的理由でスパイダーマンに迷惑を掛ける訳には行かない。

 

でも…このアプリを持っていれば、前みたいに事件に巻き込まれた時、もう一度スパイダーマンに逢えるかも知れない、アタシは心のどこかで淡い期待を抱えながら、この「親愛なる隣人アプリ」をスマホにインストールしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ノーウェイホーム見て見ました。

いやー、一言でいえば神でしたよ。

ネタバレになるかも知れないので、あまり多く話せませんが、今回もトムホ可愛かったです。

ご感想等お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二度と…私の前でソイツの話をしないで…!

今回少し紗夜の性格がおかしくなるかも。


今井リサside

 

アタシがスパイダーマンのアプリ、「親愛なる隣人」をインストールした翌日。

 

「ねぇりんりん!スパイダーマンって知ってる?」

 

あこがそんな事を言い出したのは、私達Roseliaの練習が終わった土曜日の夕方の事だった。

 

CiRCLEと呼ばれたオープンして数ヶ月ほどのライブハウスで、アタシ達はRoseliaと言う名のガールズバンドとして活動し、音楽の祭典と謳われる「FUTURE WORLD FES.」への出場を目標に、今日も私は自身と志を同じにする最高のメンバーと共に練習に励んでいる。

 

何度も衝突したし、バラバラになりかけた事も有った。でもアタシ達は何度も困難も乗り越え、Roseliaは着実に力を伸ばしつつある。

 

それを感じている今、彼女たちとのバンド活動をしている時間が楽しく思えるようになっていた。

 

故に、普段のように練習を終えて今日のように物足りないと感じたことは数知れない。

 

 そんな時だった。あこ…Roseliaのドラム担当の宇田川あこが珍しく、その話題を挙げたのは。余程夢中なのか、彼女の顔の横ではふわふわのツインテールが楽しげに揺れている。

 

「うん…知ってるよ…その‥‥ヒーローだよね?」

 

その話題は自分も知っているのか、少し嬉しそうに静かに語るのはRoseliaのキーボード担当、白金燐子。

 

それもそのはずだ、スパイダーマンが活動を始めてもう1年になる。何せSNSやニュースで引っ張りだこなのだから、この近辺でスパイダーマンを知らない者は殆ど存在しないだろう。

 

「あこ…もしかしてスパイダーマン好きなの?」

 

「え?! もしかしてリサ姉も知ってるの?!」

 

スパイダーマンの話題なら是非アタシも混ざりたい、そう思いつつあこに話しかけると、彼女は待ってましたと言わんばかりに興奮しながら声を弾ませる。

 

「知ってるよ~、あのアクロバットとか凄いしカッコいいよねー☆」

 

「うん!スパイダーマンはね!シュって手首から糸を出して、バシバシッてあっと言う間に悪い人達をやっつけちゃうんだ!」

 

シュシュ!とシャドーボクシングをしながら高いテンションでそう言うあこ、あこの言う事はたまに擬音だらけで意味が解らない時有るけど、今のは何が言いたいのかはっきり解る。

 

「友希那さんは知ってますか?! スパイダーマン!」

 

「ごめんなさい……名前は知っているけど、詳しくは知らないわ。」

 

あこは話題を広める為に、今度は友希那に問いかける。だが友希那はあまり知らない様で、静かに首を横に振った。

 

するとあこは、ならば自分が解説してやろうと一気に捲し立てる。

 

「それじゃあ!あこが教えてあげます!スパイダーマンはシュバって現れてシュッて糸を出すヒーロ―でね‥‥」

 

スパイダーマンの話題が本当に好きなようで、ぴょんぴょんと小さくジャンプしながらテンションMAXなあこ、そのテンションの高さに圧倒されて有希那は実感引き気味に「そう…」「凄いわね」と相槌を打っており、そこには年長者である友希那があこに圧倒される珍しい光景が広がっていた。

 

もう少し困っている友希那を見てみたい気もするけど‥‥そろそろ止めておこう。

 

アタシはあこをクールダウンさせる為に、あこに近づこうとするが、丁度一歩踏み出そうとした時、「ダンッ」と大きな音が耳に入った。

 

「‥‥‥‥」

 

皆が思わずビクッと肩を跳ねる程の音。

 

何事かと思い音のする方角を見てみれば、そこにはテーブルに置かれた紗夜のペットボトル。

 

先程の大きな音は、水分補給をしていた紗夜が勢いよくペットボトルをテーブルに置いた事による物であると、すぐに解った。

 

「…紗夜?」

 

明らかに様子がおかしい紗夜、アタシ同様それを有希那はそれを感じ取ったのか、少し怪訝そう表情で訪ねる。

 

「‥‥宇田川さん‥‥」

 

ペットボトルから手を放し、ゆっくりとこちらへ振り返る紗夜。

 

その時初めて見えた彼女の顔は、何処か苦虫を嚙み潰した様な悲痛な表情で染められていた。

 

「‥‥…二度と、私の前でソイツの話をしないで…!」

 

紗夜の口から苦しそうに、悲しそうに放たれた言葉。

 

その言葉にどんな意味が籠っているのか、アタシ達には理解できなかった。

 

「……もう遅い時間ね……あまり遅くなると家の人が心配します。今日はここで解散にしましょう。」

 

紗夜は感情を押し殺す様にそう言ったあと、そのままスタジオから出て行った。

 

紗夜が出て行った後、Circleのスタジオは何処か気まずそうな雰囲気に包まれていた。

 

きっと皆、予想外の事が起きて何を話せば良いのか解らないのだろう。

 

でもこの状況、何故紗夜があんな事を言っていたのか。

 

スパイダーマンを知っている者でも、あこの様なファンも居れば、同様にアンチも居る。

 

世間ではヒーローを求めている肯定派と、「犯罪者を倒すのは警察官だけ」「覆面を被って、得体の知れない奴に自分達を信用できない」等と言う考えの否定派も存在する。

 

スパイダーマンは非公式のヒーローであり、悪く言えば自警団まがいの事をやっている人間、紗夜が否定派の考えを持つのも解るけど…あんな苦しそうに、悲しそうにあんな言葉を口にするだろうか?

 

一体何が有ったのか聞いてみよう…もしかしたらアタシが力になれる事かも知れない。

 

「ゴメンみんな!アタシこれから用事あるから先帰っていて!」

 

アタシは有希那達に早口でそう伝えると、急いでスタジオを出て紗夜を追ったのだった。

 

 

***

 

「紗夜‼」

 

Circleを出て少し距離を歩いた道。

 

アタシが走りながら放った声に反応したのか、紗夜はピタリと足を止める。

 

「今井さん? どうして‥‥?」

 

『解散』と言ったにも関わらず、追ってきたアタシが以外なのか、紗夜は一瞬驚いた表情をするも、すぐに無表情に戻る。

 

短距離とはいえベースを持って走るのは流石にこたえる。アタシは息を整えると、すぐに口を開いた。

 

「あの状況で追いかけるなって…無理があるよ…」

 

「……」

 

それを聞いた紗夜は、少し不機嫌に目を逸らす。

 

「あのさ…一体どうしたの? いきなりスパイダーマンの話をした瞬間不機嫌になって。」

 

「別に……何でも有りません、ただ私が彼の事が…スパイダーマンの事が嫌いなだけです。」

 

不快感を隠そうとせず、顔を顰める紗夜。

 

「でも、それだけだったらあんな事言わないよ!あの時の紗夜…凄い苦しそうな顔してた…」

 

「お節介な人ね…」

 

「それは紗夜が良く分かっている事でしょ?」

 

呆れたように呟く紗夜、そんなの性分だって自分が一番解ってる。

 

「…あれは宇田川さんだけでなく、皆さんに向けて言った言葉なのですが……言葉が足りなかったようね…」

 

紗夜はそう呟くと、今度は苦しそうな悲痛さを感じない、怒りに満ちた表情で口を開いた。

 

「…貴方も…湊さんも白金さんも宇田川さんも!二度と…私の前でソイツの話をしないで‼」

 

今まで見た事が無い程の怒りが込められた言葉、この前「妹」の事についてあこが話した時、爆発した時も有ったけど…それと同じくらいの「怒り」。鋭く強い意志が込められているが深い闇を感じさせる眼光に、アタシは始めて紗夜に対して恐怖を覚えた。

 

「‥‥!話はそれだけです、ではまた……」

 

アタシのその様子を見て、紗夜は我を取り戻したのか、少し気まずそうに別れを告げると、再び背を向けて帰り道を歩いて行く。

 

アタシは何もできなかった。先ほどの紗夜の表情、そしてスタジオでの苦虫を嚙み潰した様な悲痛な表情が頭の中にこべりついて、アタシはただ紗夜の後ろ姿を眺める事しか出来なかった。

 

 

「‥‥‥」

 

紗夜の姿が見えなくなった後、思わず頭を抱える。

 

あの時なんで引き止められなかったのだろう…もしかしたらあともう少しで紗夜に何が有ったのか聞き出せたのかも知れない、少しでも紗夜の心を楽にできたかも知れないのに……

 

「‥‥何やってんだろ…アタシ…」

 

自分自身に問い掛けて見るが、答えは見つからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃スパイダーマンと海斗は

 

 

「おー!良いね良いね!」

 

「‥‥このポーズはどうだ?」

 

「おお!絵なる!最高だぜスパイダーマン!今度は蜘蛛が威嚇する様な奴プリーズ!」

 

 

呑気にも月曜日リサに渡す為の写メを撮影している真っ最中だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ご感想等お待ちしております。




次回「ふぇぇ…ここ何処~」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ふ、ふぇぇ…ここ何処~!

この話、結構主人公と千聖を虐めます。

多分読者の皆様にはだんだんユウ君の株が下がって千聖の株が上がって行くでしょう。


写真撮影を終えた翌日。

 

今日の商店街は休日と言う事も有ってか、昨日より人が多い。

 

やはり日曜日の昼間と言う事も有るのか通行人が多く、家族連れやカップルを見てみれば微笑ましいやり取りをしている。

 

「WAFOOOOOOO!!」

 

そんな中僕は、町中をウェブスイングしパトロールに勤しんでいた。

 

今更だが、こうして空をスイングするのは爽快だ。そこらのジェットコースターよりもスカッとする。海斗にもこの爽快感を知って貰う為に、以前彼を片手に抱えて飛んだ事も有ったが、終始海斗は叫び声を上げ続け、終いには半狂乱状態で号泣しながら爆笑する始末。あの時の海斗は某邪神もビックリな程SAN値がピンチな状態で、マジで精神状態を疑うレベルでトチ狂っていた。

 

『…なんかバカな事思い出してねぇよな?』

 

「いや、別に何も。」

 

すると噂をすれば何とやら、耳に取り付けた薄型のインカムから海斗の声が聞こえる。全くコイツは勘が良いのだからこう言う時に厄介だ。

 

「そんな事よりアプリの状態はどう?」

 

『おう!もうインストール件数は200人を超えてる!なぁユウ、これ広告収入付けて「ダメ!ゼッタイ!」‥‥だよな……言ってみただけ。』

 

まったく…油断も隙も無い奴だ…まさか広告収入を付けようとするとは…でも200人か…これなら問題視されていた情報不足も解決できそうだ。

 

すると丁度タイミングよくスーツのポケットに隠していたスマホから「ピピピッ!」と電子音が鳴る。

 

『仕事か?』

 

「ああ、丁度アプリからの通知だ。」

 

スマホを起動させ、どんなメッセが届いているのか見てみると、そこには「助けて」の一文字。

 

『…ユウ…』

 

「…解っている、行くぞ。」

 

たった一文字しかない文面、だがこの一文字は相当切羽詰まっている状況で書かれた物だと僕は感じた。

 

だが僕に、恨みを持っている犯罪者達がアプリを利用した罠かも知れない、十分警戒して向かわなくては。

 

「海斗、メッセージの主の居場所は!」

 

『今GPSの反応特定してる…見つけた。』

 

相変わらず仕事が早い…僕は海斗に道案内を頼むとメッセージの主へとウェブスイングを用いて急行するのだった。

 

***

 

 

 

案外目的地は遠かった。

 

そこは完全な商店街とは真逆の方角、住宅街のど真ん中。

 

一軒家がずらりと並ぶ中、一人水色の髪をした少女が立っている。

 

『発信源はここだ、多分お前の目の前に居る水色の子がメッセ主だろう。』

 

「わかった」

 

インカム越しにそう返すと僕はウェブスイングを中止し、彼女の後ろに着地する。

 

えっと…彼女はきっと怖い思いをしただろうし、何か安心できる言葉…この場合だとジョークかな?あーでもリサさんの時みたいに上手く行くかな…

 

いや…ちがう、そんな事を考えてる暇はない、まず彼女が何故僕を呼んだかを知らなくては、その為にも取り合えず彼女に話しかけてみよう。

 

そう考えて彼女の肩を優しく叩こうとしたその時。彼女は口を開き、同時に彼女から放たれた言葉に僕は安堵した。

 

「ふ、ふぇぇ‥‥ここ何処~!」

 

…なんだ…ただ道に迷っただけか…

 

一気に込められた緊張が体から抜けていく、良かった‥‥どうやら犯罪に巻き込まれた訳では無さそうだ。

 

でもメッセージに「助けて」の一文字だけとは‥‥何事かと思ったよ‥‥

 

てもまぁ、ただ迷子になっただけなら別に気を遣う必要はない、いつも通りの自分で行こう。

 

「もしも~し、そこの可愛いお嬢さん」

 

「ひゃぁっ!」

 

気軽に彼女の肩をトントンと叩き、話しかけてみるが、どうやらビックリさせてしまったらしい、彼女の肩がビクっと跳ねた。

 

「ごめんごめん!驚かせちゃった?」

 

「ふ、ふぇぇ…!スパイダーマン~!」

 

こちらを見るなり僕の名前を呼びながら助けを求める水色髪の女の子、うん‥‥この子小動物みたいで可愛い。

 

「あはは…どうしたの? 様子を見るに道に迷っちゃったみたいだけど。」

 

「は、はい…すいません。私方向音痴なので…」

 

成る程、ここの地形は複雑だ、それにここは東京都内、住宅地となると家の数はマンションから一軒家まで多い。そんな中なら混乱するだろうし、迷子になるのも仕方ないだろう。

 

「そうなんだ…目的地は何処か解るかな?」

 

「えっと…羽沢珈琲店って所です。…その…友達と待ち合わせしていて…もう行かないと間に合わない…」

 

 

え?マジ?

 

 

羽沢珈琲店って現在地と真逆の方角だぞ?

 

しかも結構ここから離れている距離だ。少なくとも歩いて40分以上は掛かるだろう。

 

もしそこに行くつもりで迷ってここに居るってなると、この子相当な方向音痴だな…

 

「解った、待ち合わせの時間は何時かな?」

 

「えっと…10時30分です。」

 

「え?マジ…」

 

「は、はい…」

 

ナンテコッタイ…

 

彼女のスマホから現時間を確認するが、今の時間は10時20分、あと10分以内に羽沢珈琲店に向かわなきゃいけない。

 

歩いて40分は掛かる道のり、羽沢珈琲店に僕が付いて行って案内しても時間通りには間に合わないだろう。

 

さてどうするか‥‥いや、手は有る。でもこれは…いや、手段を選んでいる暇は無い。

 

「…失礼するよ。」

 

僕は暫く考えると、彼女をひょこっと持ち上げた。

 

「え?ふぇあ!」

 

「ごめんね、これしか間に合う方法が無いんだ。それと口を閉じていて、下手に喋ると舌を噛むよ。」

 

「ふ、ふぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

あー、やっぱり悲鳴を上げるんだ…そんな下らない事を考えつつ、彼女を片手に抱え、僕は羽沢珈琲店へウェブスイングで向かうのだった。

 

 

***

 

そして10分後、待ち合わせ場所の羽沢珈琲店にて

 

「ふう‥‥何とか間に合った~」

 

「ふぇ、ふぇぇぇ…」

 

何とか待ち合わせの時刻に間に合った事を安堵し、溜息を吐く。

 

「大丈夫、結構スピード出てたと思うけど…」

 

「は、はい、平気です。」

 

「そっか、良かった…」

 

「その‥‥本当にありがとうございました。」

 

勢いよく頭を下げてお礼を言う水色髪の女の子、どうやら彼女の方も問題無い様だ、最初スイングを始めた時は「ふぇぇぇ…」と良く解らない叫び声を上げていたが、どうやら10分で適応したらしく、目的地が近くなるにつれて呻きはする物の、叫び声を上げる事は無くなっていた、この子意外と肝が据わっているのかも。

 

「あら花音、今日は時間通りに来ていたのね。」

 

そんな事を考えていると、後ろから聞き慣れた声が聞こえる。

 

 

‥‥ってアレ?この声って……

 

一瞬躊躇うが、振り返って見てみると、そこには遂先日会ったばかりの元カノ、白鷺千聖がそこに居た。

 

「うん、千聖ちゃん。スパイダーマンがここまで送ってくれたんだ。」

 

「ふふふ、そうなの。ありがとうスパイダーマン。」

 

にこにこ張り付けたような笑顔で僕にお礼を言う千聖。顔は笑っているが心は笑っていないとはこの事だろう。

 

「でもまさかこの子の待ち合わせ相手が君とは思いもしなかったよ。」

 

「あら、私を知っているの?」

 

おっといけない、思わず千聖の知り合いの様な口調になってしまった。もし千聖がスパイダーマンである僕と知り合いだと、この花音と呼ばれた女の子に知られたら色々面倒な事になりそうだし、ここは初対面で接する形を取ろう。違和感を感じられたら厄介だ。

 

「勿論!何せ僕は君のファンだから!」

 

「あら、ありがとう。」

 

「す、すごいよ千聖ちゃん!スパイダーマンがファンだったなんて!」

 

「ふふふ、そうかしら?」

 

今度は本心で笑っている様だ、先程の取って付けた様な陰は無い、本心から来る笑顔。だがそれは僕に向けられた物じゃない、この花音と呼ばれた水色の髪の女の子に向けられた物だ。

 

別にこの花音って子を羨ましいとは思わない、ただ少し、ほんの僅かだけ寂しい様に思えてきた。

 

「さあ花音、早く入りましょ、折角早く着いたんだし時間が勿体ないわ。」

 

「え?ちょ‥‥千聖ちゃん待ってよ~。」

 

千聖はそのまま喫茶店の中に入り、花音と呼ばれた子は僕に改めてお礼を言うと千聖の後を追い喫茶店の中に入って行った。

 

 

 

 

 

千聖side

 

花音の先を行く形で喫茶店に入った後、近くのテーブル席に腰掛ける。

 

まさか昨日今日でスパイダーマン(元カレのユウ)に会えるとは思わなかったわ…でも‥‥上手く()()()かしら?

 

「ち、千聖ちゃ~ん!お店に入るの早いよ~」

 

席に着いてほんの数秒後、彼にお礼を言って店に入ったであろう花音が私の座っているテーブル席を見つけて向かって来る。

 

「花音…ごめんなさい。貴方を置いてけぼりにする形にしちゃって‥‥」

 

「う、ううん!気にしてないから大丈夫だよ? でも…」

 

花音は何処かおどおどしながら、何か聞きたい事があるような素振りを見せる。

 

この子は勘が鋭い、彼女が疑問に思っているのか、何を私に聞こうと思っているのか、何となく解ってしまうのが少し辛い。

 

「…何かしら?」

 

「そ、その…」

 

花音は少し躊躇するが、意を決した様に顔を上げると、少し早口で私に問い掛けた。

 

「ち、千聖ちゃんはスパイダーマンと何かあったの?」

 

…やっぱりそうなのね…

 

内心頭を抱えつつ、必死に冷静を装う。全く自分が不甲斐無い、ドラマとかの撮影では普通に演技できるのに、彼の…ユウの前ではそうも行かないらしい。

 

「…どうしてそう思ったのかしら?」

 

「だって千聖ちゃん、スパイダーマンに対して少し態度が冷たかったから…それに…その、何時もと雰囲気が違ったし‥‥どこか苦しそうだった。」

 

やはり花音にはバレているらしい。花音はおどおどしつつ声を震わせながら言葉を続ける。

 

「その…私が千聖ちゃんの力になる事なんて、少ないと思うけど…私に話してくれるかな?」

 

花音の言葉に胸がギュッと締め付けられ、苦しくなる。本当に花音は優しい子なんだから…でも…

 

「それを知ってどうするの?貴方にはそれを知る勇気があるのかしら?」

 

そう、花音は優しい子。だからこそ彼女には話せない。

 

「…え?」

 

私の言葉が信じられないのか、花音は一瞬困惑するような態度を取る。

 

「…ごめんなさい。少し厳しい言い方になったかしら。でも、彼と私の関係は‥‥とてもじゃないけど人には言えない関係なの…」

 

そう、ユウと私は元恋人だけど、それ以上にこの関係は人に言えない程重く、深い。そして彼を裏切った私の罪も…

 

だから私は今後も彼を…ユウを突き放し続ける。

 

もう、私にはユウの傍に居る資格は無いのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告


皆さんは何かを抱えたり、何かを背負ったりした事が有るでしょうか?

悪い事をした時に背負う「罪」、そして仕事をする上で不可欠な「責任」、努力するうえで発生する「負担」、そして誰かと自分を比べられた時に抱える「劣等感」。

どれも生きていれば必ず感じるものでしょう。

さて、果たして彼は、スパイダーマンは一体どのような物を背負っているのでしょうか?




次回「何も背負っていないあの人が、正義の味方なんて…私は認めない。」


是非ご期待ください。

ご感想等お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

何も背負っていないあの人が、正義の味方なんて…私は認めない

「大いなる力には、大いなる責任が伴う。」

この言葉は「彼等は凄い力を持っているが、それ相応の責任を持った行動をしなければならない」と言う意味が込められており、原作スパイダーマンのヒーローとしての心構えです。

しかし、この言葉はヒーローのようなスーパーパワーを持たない守られる側の我々にも向けた言葉でもあり、「ヒーローは相応の責任を持った行動をしなければならない、だから気持ちはわかるが自己中心的な欲求や批判を彼等に押し付けるな」と言う意味も込められています。


紗夜side

 

「…ただいま‥‥」

 

今日の()()を済ませた後、私は家の玄関を開く。

 

「…あ、お帰りお姉ちゃん。」

 

「ええ、ただいま日菜。」

 

玄関から家に入り、リビングに行くとソファーでくつろいでいた双子の妹である日菜が私の事を出迎えてくれる。

 

私と日菜の関係は昔からあまり良いとは言えない。私が昔から日菜に劣等感…コンプレックスを抱えているからだ。

 

日菜は小さい頃から一度見た物を完璧に覚えることができ、ずっと私は日菜と比べられて育ってきた。私が色々な事に挑戦し、努力したとしても日菜は才能であっと言う間に私の努力を追い越してしまう。

 

私は…その日菜の才能が…憎くて仕方が無い。

 

「ねぇ…そのお姉ちゃん。今日も‥‥行ってきたの?お母さんの所。」

 

「……ええ。」

 

「その…元気だった?」

 

「…元気な訳ないでしょ!」

 

私が急に大声を上げたからか、肩をビクッとさせ驚く日菜。

 

「お姉ちゃんは‥‥まだ恨んでいるの?スパイダーマンの事‥‥‥」

 

「‥‥‥」

 

私は日菜の質問に答える事なく、そのまま自室に戻る。

 

そう、私と日菜が不仲であるもう一つの理由。それは私の母親の事であり、同時にスパイダーマンについてだ。

 

 

 

 

 

 

***

 

そう‥‥あれは私がまだ高校生一年の夏休みの頃。お金を引き下ろす為、私と日菜と母の三人で銀行に行った時の事。

 

母は銀行の窓口で手続きをしている最中、事件は起きた。

 

私の日菜が待合用の椅子に座って母の手続きが終わるのを待っていた時、私の隣を通り抜けてとある男が入って来る。その男が入って来た瞬間、私は本能的に危機感を覚えた。

 

何故ならその人は目の焦点が合っておらず、口元は歪んで薄ら笑いを浮かべており、何かをブツブツ呟いていたのだから。

 

一瞬脳裏によぎる「この男に近づくな」と言う心の声。

 

その不安が的中するまで10秒も掛からなかった。

 

「パァン」という思わず耳を塞いでしまうほど大きな破裂音。

 

怯える銀行の役員、周りの人も困惑している様で一気に静まり帰る。

 

「おい!この袋に有るだけの金をつめろ!警報に触れるな!ぶっ殺すぞ!」

 

店員に向けて銃を向ける男を見てフリーズし掛けていた思考が徐々にしっかりしてくる。

 

そしてその時、私は、私達は初めて「強盗に遭ったのだ」と自覚した。

 

「お、お姉ちゃん…!」

 

日菜が怯えている、当たり前だけど私も怖い。こんな時くらい姉としてしっかりしなきゃと、日菜を自分自身を奮起させ、日菜を宥めていた事を今でも覚えている。

 

だが次の瞬間、私の必死に奮起させていた心は見事に恐怖に染められた。

 

再び「パァン」と鳴る破裂音、今度は何だと顔を向けて見れば一人の店員がぐらりと体勢を崩し、倒れている光景が見えた。

 

再び頭の中が困惑し、パニック状態になる。

 

え?拳銃?今のは銃声よね?

 

なんであの人が倒れているの?

 

必死に思考を保ちつつ、パニックになっている頭を宥める。

 

そして私の脳が今起こった事について結論を出した時、私の身体から一気に血の気が引いて来るのを感じた。

 

人が撃たれた。

 

ゾワッと背筋が冷たくなり、頭では大音量で危険信号が鳴っているが、足がすくんで動けない。

 

私が恐怖の余り凍り付く中、遂に最悪の事態は起きた。

 

 

「お母さん!」

 

 

隣の日菜の絶叫に近い声を聴き、何とか正気を取り戻す。

 

だが私の目に映ったのは、強盗に羽交い絞めにされ、頭に銃を突き付けられた母の姿だった。

 

「お母さん‼」

 

漸く現状を理解し、日菜と同じ位の声が出た。

 

「さ、紗夜…日菜…!」

 

母は強盗に捕まり怯えている。

 

誰が何をしても五体満足で片付かない事が明らかである、この絶望的な状況。

 

「…お姉ちゃん!アレ!」

 

だが瞬間、日菜が何処か安心した様に呼び掛けて来る。

 

()()()が居たのは強盗の真後ろ。

 

()()()は蜘蛛の糸のような物に掴まり、逆さ吊りになりつつ、辺りをキョロキョロ見渡していた。

 

すると()()()はトントンと強盗の方を叩く。

 

「あぁん?!ンだよ!」

 

「…ハロー、ミスター犯罪者。」

 

肩を叩かれ、何事かと男が銃を向けた瞬間、その人は手首から蜘蛛の糸を拳銃の銃口目掛けて放ち、弾丸が放たれるのを防いだ瞬間、間髪入れずに逆さ吊りの状態から、元の大勢に戻る勢いを付け、踵落としを脳天目掛けて放ち、強盗を一撃で床に静ませた。

 

「ハイ、一丁上がり。」

 

「スパイダーマン!」

 

強盗を倒し一仕事終えた様に一息つくスパイダーマンに、日菜は駆け寄る。

 

そう、その時私達を救ったのは、当時町中に現れ一時期話題になっていた自警団ヒーロー、スパイダーマンだった。

 

「ありがとう…!本当にありがとう!スパイダーマン!」

 

「あ、ありがとうございます、ありがとうございます!」

 

日菜はスパイダーマンに抱き着きながらお礼を言っており、母はひたすら頭を下げて彼にお礼を言っている。

 

けど私は彼が嫌いだ。

 

個人的に自警団と言うのは法律で禁止されており、彼がやっているのは勝手に実力を行使するヒーロー気取りの犯罪だ。

 

でも彼が居なければ母は確実に死んでいただろうし、最悪私も日菜もあの場で射殺されていた。

 

彼は命の恩人だ、本当に助かった…そうだ、私もお礼を言わなきゃ。

 

「あの…スパイダーマンでしたっけ?妹と母を助けてくれて本当に有難うございました。」

 

命の恩人にこれだけの事で報いる事はできないだろうけど、精一杯の誠意を込めて彼に頭を下げて感謝の意を表す。

 

「‥‥…!」

 

だがスパイダーマンからは返事が無い。だが一瞬後彼が何かに気付いた様に倒れている強盗に振り返った。

 

「‥‥ぐ、ご‥‥が‥‥!」

 

地面に倒れ、這いつくばる様にこちらに近づく強盗。だが彼の手に持っている物を気付いた瞬間、スパイダーマンは声を張り上げた。

 

「‥‥!皆伏せろ!」

 

瞬間、スパイダーマンは母を突き飛ばし、右腕に私、左腕に日菜を抱えると、大きく飛び上がり、倒れている強盗から距離を取った。

 

「一体何―――!」

 

刹那、体を襲ったのは凄まじい風圧、熱、衝撃波。

 

そう、倒れた強盗が持っていたのは手榴弾だった。

 

 

 

 

 

 

独特な消毒液の匂いと、妙なふわりとした感覚で私は目を覚ました。

 

どうやらここは病院らしい。

 

「…お母さん…日菜‥‥!」

 

家族はどこだ? 痛む体をゆっくり起こし、左右をキョロキョロと見回すが、妹の姿はすぐに見つかった。

 

「あ、お姉ちゃん!目が覚めたんだね!」

 

「日菜…!貴方も無事だったのね…!」

 

日菜の話曰く、今はあの事件から数時間が経っており、どうやら私達は爆発のショックで気を失っていたらしく、あれから犯人は手榴弾で自爆したとして今回の強盗事件は警察に処理されたらしい。

 

危なかった…またスパイダーマンに助けられてしまった。

 

彼の事は余り好きじゃないが、助けられた事を内心嬉しく思う自分も居れば、悔しさを覚える自分も居た。

 

でも日菜は無事だったが、私の母が見当たらない事に気付く。

 

「そういえば日菜、お母さんは?」

 

「‥‥こっち…」

 

それを聞いた日菜は暗い表情でそう言うと、私に肩を貸しつつ、ある場所に向かった。

 

 

その場所は‥‥

 

 

 

 

ICU(集中治療室)だった。

 

 

「‥‥!」

 

ガラス越しに見える母の姿はそれは見るも無残な姿。

 

顔は包帯に巻かれており、体中にチューブや電線などが巻き付き、幾つもの装置に繋がれている姿。

 

日菜が医者から聞いた話曰く、手榴弾爆発の際、スパイダーマンが突き飛ばし、即死は避けられたが、一番爆心地から近くに居た事には変わり無く、短くても全治1年は掛かるそうだ。

 

「‥‥本来なら死んじゃってもおかしくないんだけど、スパイダーマンが助けてくれたんだって。」

 

日菜が少し暗い口調でそういう。

 

「違うわよ。」

 

その時、思わず言葉が漏れた。

 

そう、何故私達が五体満足で生きているのに、何故お母さんだけこんなに酷い怪我をしているの?

 

それはスパイダーマンが突き飛ばすと言う選択をしたせいだ。

 

あの時私や日菜と同じ様に抱えて爆心地から離れていればこんな事にはならなかった!

 

どうせなら私達だけではなく、お母さんを助けて欲しかった。

 

いや、こんな事なら私を見捨ててでもお母さんを助けて欲しかった。

 

「‥‥お姉ちゃん……どういう事?違うって…」

 

「スパイダーマンのせいよ。お母さんがこんな重傷を負ったのは。」

 

「ち、違うって!私達、きっとスパイダーマンが居たから皆助かって…」

 

「あんな姿のお母さんが『助かった』なんて言える?!」

 

 

なんでよ。

 

 

何であなたは、『助かった』なんて言えるのよ。

 

「1年くらいで治る怪我で済んで良かった」とか「3人とも命が有るだけ感謝しないと」と日菜はスパイダーマンに感謝していた。

 

でも私は違った。

 

スパイダーマンは…あいつは…あの状況でお母さんを助けられた筈……そもそも、あの場で犯人の手榴弾の爆発を防げていたら、こんな事にはならなかった筈だ。

 

私は彼が憎くて仕方なかった。

 

それは今でもそう、お母さんがICUを出た今でも、彼への怒りを抑えきれない。

 

この感情は私の我儘から来るものであり、私は身勝手な理由で怒っているのだろう。

 

それは解っている。でも私はスパイダーマンの話を聞くたびこう考えてしまう。

 

あの人の無責任なヒーロー活動のせいで、私の母の様な大怪我負う人間が居る。

 

病院での噂だが、あの事件で負傷した人は私たち以外にも何人かいるらしい。

 

なのにスパイダーマンは今、爆死した犯人に対して喪に服す為や、犯人の遺族や、お母さんの様に重傷を負った人達へ謝罪の意を表す為に活動を自粛する事もせず、彼のヒーロー活動のせいで悲惨な目にあっている人の気持ちも知らずに、のうのうと平気な顔でヒーローを気取っている。

 

 

 

そう‥‥何も背負ってないあの人が、正義の味方だなんて…私は認めない。

 

 

 




色々紗夜さんが狂っていると思いますが、いきなり強盗が現れて、気が付いたら母親が重傷を負っていて‥‥犯人である強盗も自爆して死んでしまい、怒りのはけ口が解らずスパイダーマンに当たっているのが現状ですので、どうかご容赦を。


次回予告

皆さんは相手との恋愛が成就する接し方を知ってますか?

今回良い機会なので皆様にお教えしましょう。

一つは相手の事を良く見て、気を配る事

二つは相手を信じる事

次回「言ってみてよ。‥‥僕は聞く事しか出来ないかもだけど。」

三つめは愛しすぎない事。












牙狼とバンドリのクロス小説も書き始めました!

こちらの息抜き感覚で投稿しますので、是非読んで見てください!

ご感想等お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

言ってみてよ。‥‥僕は聞く事しか出来ないかもだけど。

リサ姉「ねぇ、ゴキブリ。」

作者「ハイ。」

リサ姉「一応アタシこの小説のメインヒロインだよね?」

作者「ハイ。」

リサ姉「何でアタシの出番こんなに少ないのカナ~?」

作者「いえ、その…今の所千聖さんが原作で言うグウェン・ステイシー的な立ち位置なので‥‥その…今回はあなたがメインの回なので!」

リサ姉「ねぇ…ゴキブリ…」

作者「ハイ。」

リサ姉「アタシって本当にゴキブリの推しキャラなの?」

作者「‥‥‥」

リサ姉「千聖に鞍替えしたんだね…」

作者「すいませんでした!」





休日が過ぎ、平日の月曜日。

 

「おっす!ユウ!」

 

「ああ、おはよう海斗。」

 

朝の教室で俺と海斗はお決まりの挨拶を交わす。

 

「で?現像は終わった?」

 

「おうよ! ほらコレが例のブツだ。」

 

教室の端で闇の取引をしているかの様に、コッソリと例のブツを受け取る。

 

と言っても海斗から受け取った物は別に危ない薬でも無いし、豆腐以外に『丁』と数える黒光する物でもない。

 

「ありがとうな。」

 

「いや、これくらい御安い御用さ。そんな事より‥‥ほら、行ってきな。」

 

「ああ、ありがとう。行ってくるよ。」

 

そう言うと、僕はブツを手にリサさんの元に駆け寄る。

 

そう、会話から解ると思うけど、海斗から受け取った物は僕の「写真」。

 

と言ってもただの写真ではない。僕の‥‥いや、スパイダーマンの写真だ。

 

「リサさん!おはよう。」

 

「あ、ユウじゃん!おはよー!」

 

何時もと同じく明るい笑顔で挨拶を返すリサさん。でもその笑顔は何処か陰があり、少し暗さを感じた。

 

「えっと‥‥これ、約束してたスパイダーマンの写メ持って来たよ。」

 

「本当!?ありがとー!」

 

 

ポケットから写真を取り出し、リサさんに手渡す。

 

受け取ったリサさんは嬉しそうに笑っているが、やはりその笑顔は何処かに違和感があり、見ている側からすれば悩んでいる様にも、苦しんでいる様にも見えた。

 

 

「ねぇ‥‥リサさん。」

 

「何?」

 

「もしかして、何か有った?」

 

そう聞いた瞬間、リサさんの表情が少し曇った気がした。

 

…やっぱり何かあったんだな…

 

「あ、あはは…別に何もないよ?」

 

するとリサさんの瞳が一瞬だけ左下に移る。

 

この『瞳が左下に移動する』と言うのは心理学上、「嘘をついている」事を意味する。

 

つまりリサさんは、人には言えない何かを抱えていると言う事だ。

 

「リサさん…それってもしかして人には言えない事?」

 

「…えっと…何の事カナ?」

 

リサさんはクラスの中でも「頼れるお姉さん」的なポジションを取っている、本人もその役割が気に入っている為か余りリサさんは人に悩みを打ち明けられない性分なのだろう。

 

でも…

 

「その…僕で良かったらさ、言ってみてよ。‥‥僕は聞く事しか出来ないかもだけど。」

 

少しでも彼女の悩みや負担を減らしてあげたい。

 

お節介かも知れないけど…僕が出来る事なんてたかが知れていると思うけど。

 

「僕じゃ…役立たずかな?」

 

「…役立たず…か…何て言うか…アタシが役立たずだなぁって言うか‥‥」

 

するとリサさんは僕の手を掴み、席から立ち上がった。

 

「…ゴメン、あっち行こっか。」

 

 

***

 

教室から出た廊下にて。

 

「……ゴメンね、こんな所に連れて来ちゃって。」

 

「いや、良いよ。人には言いづらい事なんでしょ?」

 

「うん…まぁ、それほど大事って訳じゃ無いケドね‥‥」

 

リサさんはそう言っているが、その顔は暗く、彼女が悩んでいるのは只事では無い事を意味していた。

 

「それで…何が有ったの?」

 

「‥‥実は‥‥」

 

 

リサさんの悩んでいる理由はこうだった。

 

リサさんは趣味でバンド活動をしているのだが、どうやら先日練習をしていた時、バンド仲間がスパイダーマンの話をした途端、急に機嫌を損ねて怒ってスタジオから出て行ってしまったらしい。

 

スパイダーマンの活動をしてかれこれ1年、今でも僕の事をヒーローとして慕ってくれる人達もいるが、同時に僕の事を「覆面で顔を隠す悪党」だったり、「自警団気取りのイカれた奴」等と否定的な目で見ている人たちもいる。

 

でも…スパイダーマンの話をした途端スタジオから出て行く程怒るなんて……行き過ぎだ……

 

その子に何が有ったのかも気になるけど…

 

「それでアタシ‥‥スタジオ出て行ったその子を追って…何が有ったのか話を聞きたかったんだけど…アタシ…何も出来なくって…」

 

…成る程…それで責任を感じているのか…

 

「ねぇ‥‥ユウ。アタシどうすればその子の事助けられるかな?」

 

「‥‥‥バンドメンバーが大好きなんだね、リサさんは。」

 

こういった時、僕は何て返せば良いのかな……

 

一応聞いたは良いけど‥‥こういう時アニメの主人公とかならカッコよく返せるんだろうけど…

 

ううん、違う。こう言った事はちゃんと思った事を伝えないと。

 

「‥‥変に隠しても意味が無いから、僕が今思った事を正直に言うね。」

 

僕はリサさんの目を真っ直ぐに見つめる。

 

「リサさんには何も出来ないと思う。」

 

「…え?」

 

リサさんの表情が一気に曇り、思わず僕の言っていた事が信じられないのか、聞き返してきた。

 

それもそうだろうな…僕は静かに、出来るだけ彼女を傷つけられない様に言葉を選びながら口を開く。

 

「きっとリサさんは優しいから、そうやって責任を感じて自分を責めちゃうんだろうね…でもリサさんはスパイダーマンと言う正義のヒーローを『信じられる人』……たった17年ぽっちの女の子の人生、きっと今まで大きなトラブルも自分や周りの力で解決できるレベルの物だったんだと思う。」

 

「それは…!」

 

「自分でも解決できないトラブルが起きた時も、スパイダーマンと言うヒーローが助けてくれた、だからリサさんは何の不安や疑問も無くスパイダーマンを信じられる…違う?」

 

リサさんは反論しようと顔を上げるが、僕の言っている事が図星の様で、再び表情が暗く、俯いてしまう。

 

「バンド仲間のその子はきっと……ヒーローと言う存在を『信じられない人』…自分でもどうしよも無いトラブルが起きた時、ヒーローが助けてくれなかった存在…リサさんとはちょっと人種が違うと思うんだよ。」

 

「『信じられない人』……」

 

「傷つけたらゴメンね。でも優しい言葉で濁すのはフェアじゃないと思うから…」

 

「ううん…その通り…だと思う…」

 

俯きながらも気丈に返事するリサさん。でも声が震えており、瞼一杯に涙を堪えている事がすぐに解った。

 

「でもさ、リサさん。僕はリサさんより数か月くらいスパイダーマンのファン歴長いから、色々こういった手助けはできる。」

 

強い罪悪感を抱くが、これは大事な事。そう自分に言い聞かせつつ、僕は胸ポケットからボールペンとメモ帳を取り出し、ある電話番号を書くと、それをリサさんに渡した。

 

「…これは?」

 

「…スパイダーマンの連絡先。」

 

「え?!」

 

先程の暗さは何処へやら、目ん玉が飛び出る勢いでリサさんはビックリしている。

 

それもそうだろう、スパイダーマンは何時も連絡先を聞かれても茶を濁して終わりで有名だし、最近開発したアプリですらメールの様に一方通行の連絡しか取れない物。

 

そんな中、僕がスパイダーマンの連絡先を知っていて、それを自分に教えてくれる事に着いても驚いているのだろう。

 

「…でもこれで、その子がスパイダ―マンと何が有ったのか。聞く事が出来るんじゃないかな?」

 

「う、うん‥‥」

 

リサさんはそれを受け取ると、少し不安そうな表情をした。

 

「…大丈夫、スパイダーマンは誰かを傷付ける様な真似はしないよ。これは天に誓って言える。」

 

「うん…だよね…そうだよね…」

 

少し安心した様なリサさん。

 

僕はそれを見届けると、教室のドアを開こうとする。

 

「ま、待って!」

 

だがリサさんは、それを止める。

 

「…どうしたの?」

 

「その……話、聞いてくれてありがとうね。連絡先、後でスパイダーマンに電話掛けてみるから。」

 

「うん…役に立てたなら良かったよ。」

 

そう言うと、僕はドアを開き、教室の中に入って行った。

 

***

 

そして教室に入った後。

 

「おお、ユウ! 今井さんと二人で廊下に出てどうしたんだ? まさか上手くいったのか?」

 

「…海斗、少し調べたい事が有る。」

 

「ん?どした?」

 

「……過去に僕が関わった事件について、全て調べてくれ。」

 

「…は?! 全て?! お前気でも狂ったのかよ!」

 

「‥‥良いから、頼む。」

 

確かに正気を疑われるのも仕方無い、だが僕は本気だ。海斗もそれを理解したのか、静かに頷いてくれた。

 

「ありがとう。全部終わったら何か奢るよ。」

 

「そうだな…まずはチーズバーガ—だ。」

 

海斗はそう言うと、さっそく作業に取り掛かる為に鞄からノートパソコンを取り出し、キーボードを叩き始めるのだった。

 

 

 




次回も是非ご期待ください。

ご感想等もお待ちしております。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

…だから何が有っても、僕はまた立ち上がるんだ。

色々本作品のスパーダ―マンについて不満を覚える方も居るかもしれませんが、本作のコンセプトは、「どんなに辛い事が有っても、また立ち上がり、倒れる度に強くなる」と言う物なので、原作と違っていても、そこはご愛嬌と言う事でお願いします。


海斗と僕で過去にスパイダーマンが関わった全ての事件を調べてから僅か3日後。

 

「‥‥…」

 

僕は無言でとある目的地までウェブスイングしていた。

 

そう、今日は犯罪者狩りをする為ではない、自分自身が背負うべき『責任』を果たす為にある場所へ向かうのだ。

 

「…っ…」

 

ウェブスイングを中止して街灯に着地し、目的地に辿り着く。その場所は北にある町はずれの病院。

 

そう、ここで僕はとある人物を待ち伏せしていた。

 

病院に着いて、待つ事十数分。僕は街灯から降り、待っていた人物に話しかける。

 

「あの…氷川紗夜さん…ですよね?」

 

すると青髪を持ち、少し吊り上がった目をして、クールな雰囲気を醸した僕と同年代程の少女は、僕を見るなり、顔を顰め、僕を無視してそのまま通り過ぎようとした。

 

彼女の名は『氷川紗夜』今から1年前、僕が…スパイダーマンが銀行強盗が起きた現場に駆け付けた時、僕の不注意で強盗を手榴弾で自爆させ、そのせいで僕は彼女の母に重傷を負わてしまった。

 

さらに、強盗の仲間グループを追ったり、街で起こる様々な犯罪の対応していたせいで有耶無耶になり、海斗と僕が過去の事件を全て調べる数日前まで、僕が彼女の母について知る事は無かったのだ。

 

「あの…!待って!」

 

僕が止めても氷川さんは声が聞こえていないかのように、完全無視を決め込み、そのまま直進し続ける。

 

僕が今日すべきこと、それは彼女に…そして彼女の母について謝罪し、僕の罪をリサさんに知って貰う事。

 

世間では僕の事を良く思っていない人もいるし、リサさんに僕の罪を知られるのは勿論怖い。

 

でも…リサさんにはちゃんと解って欲しい。それに…彼女が紗夜さんが僕の事で喧嘩しているのが見ていられない。

 

全ては僕のエゴイズムだ。

 

「待ってって!」

 

僕は走って彼女を追い抜き、そのまま彼女の正面に立つ。

 

すると氷川さんは諦めたのか、俯き、静かに言葉を漏らした。

 

「…何ですか…今更…何をしに来たんですか…」

 

「その…君の母親について…話したいと思って…」

 

その事を聞いた瞬間、無表情だった氷川さんの表情が一気に怒りに染まる。

 

「だから…今更何なのです? 謝罪ですか?…それに関してはお構いなく、貴方には非が無い事で、悪いのは強盗ですから。」

 

「でも…その…」

 

『貴方には非が無い事で、悪いのは強盗』まるであの時の僕の不注意を許す様な言葉、だが彼女の表情や声色は憤怒に満ちており、心中で僕の事を許してない事は明らかだった。

 

「話はそれだけですか? 私は早く帰りたいので失礼します。」

 

そう言うと背を向け、スタスタと歩いて行ってしまう氷川さん。

 

『…退け…ユウ。今この女には何を話しても無駄だ。』

 

僕の視覚モニターからこの様子を見ているだろう海斗の声がインカム越しに聞こえる。

 

…そうだな…また、近い内にまた来よう。

 

僕のエゴイズムに付き合わせるのは悪いと思うけど、彼女に一言謝らないと気が済まない。

 

「…待ってください。」

 

今日の所は退こう、そう考えウェブスイングでその場を後にしようとした瞬間、氷川さんが僕の事を引き止める。

 

今度の彼女は僕に背を向けていない、己の意志を伝えるために真っ直ぐな眼差しで僕を見ている。

 

話を聞いてくれるのか?

 

ウェブを放とうとした腕を引っ込め、僕は彼女へ向き直る。

 

すると氷川さんは静かに、だが何処か威圧が籠った声で僕に訊いて来た。

 

「貴方…私の母について知っているって事は、私の母以外にもあの場に居た人達が怪我をした事を知っているのよね?」

 

「…ああ。」

 

自分が不甲斐なくて嫌になる。

 

あの時多少のけが人が出ていた事を知っていた。だがその事を気にするより僕は犯人の共犯者や他の犯罪を優先し、あの場の怪我人たちを無下にしていた。

 

怪我と言っても皆あの手榴弾の爆心地から放したし、悪くても骨折位で数か月も有れば元通りの生活に戻れる。そう甘く考えていた。

 

「じゃあ…何故貴方はその怪我人達の事を知っても、巫山戯けたコスチュームを着て、軽口を叩き、自己満足で犯罪者に暴行を加える自警団ごっこを続けているのです?…まさか正義の為なんて事言わないわよね…」

 

…僕がヒーローを続けている理由か…

 

「貴方…もしかして『自分の行動のお陰で万人を救っていた。』とでも思っているのかしら?…もし思っていたら‥‥それは正義ではなく…偽善よ。」

 

「…ああ…その通りだよ。氷川さん。僕がヒーローを気取っても皆が皆を助ける事はできない。…この活動をしていると気付かされる…」

 

「……」

 

氷川さんは無表情を貫いており、彼女が今抱いている感情が何なのか、僕には解らない。

 

「‥‥付いて来て。」

 

僕はそれだけ言うと、徒歩で向かいの廃ビルまで向かう。

氷川さんは僕の後ろ姿を黙って眺め、そのまま僕に付いて来るのだった。

 

 

***

 

向かいの廃ビル、4階のベランダにて。

 

「あそこにいる車椅子の女の人が誰か……解るかな?」

 

その子を見下ろしたまま言った僕に、氷川さんは眉を顰めながら首肯する。そう、窓から見えるのは彼女…氷川さんの母。

 

…そう、今から1年前、僕が…スパイダーマンが銀行強盗が起きた現場に駆け付けた時、僕の不注意で強盗を手榴弾で自爆させ、そのせいで僕が重傷を負わてしまった被害者その人だ。

 

 

「あの人…君の母は僕のせいでああなった…他にも…あの場に居て、僕の不注意のせいで重傷を負った人間は他にも居る。」

 

僕はマスクの中で唇を噛みしめながら言葉を続ける。

 

「スパイダーマンになって、事件や事故に遭った人を全員助ける事ができれば、どれだけ良かったかと思うことはあるさ。…でも…コレが現実…万人を助ける事なんて…僕には出来ない。」

 

犯罪者との戦いに巻き込まれた人々、自分が不甲斐ないばかりに悲劇的な結果になってしまった人々。

 

たまにふと思う。

 

”いっそ自分の様な存在(ヒーロー)なんて、ただの役立たずで、本当は誰も求めていない存在なのではないか?”と。

 

でも…

 

「でもね…氷川さん。一つだけこれは断言できるんだ。」

 

僕は振り返り、氷川さんを見据えながら、言葉を続ける。

 

「例え自分が無力でも。憎まれても、軽蔑されても。偽善だと言われても…僕の行いで助かる人が居るんだよ。」

 

そう…僕が屈したらその先で俺の助けを待つ人を見殺しにすることになる。いつまでもウジウジしていても何も始まらないのだ。

 

「…だから何があっても、僕はまた立ち上がるんだ。どんなに苦しくても、辛くても。氷川さんの母親の様な人を守れなかった罪に押し潰されようとも。…自分の信じた事を絶対に疑っちゃ駄目なんだ。」

 

僕だってマスクを脱いでヒーローを辞めたいと感じる時も有る。でも、そこで辞めたら何もかもが水の泡となる。

 

大いなる力には大いなる責任が伴う。

 

その責任を果たす意味を見失ってはならない。それがこの力を持った者の宿命なのだから。

 

「でも…君の母親がICUに送る程の重傷を負ったのは…あの時の僕のせいだ…だから氷川さん。」

 

僕は氷川さんの前に立つと、腰を90度に曲げ、誠心誠意の謝罪を告げる。

 

「…本当に…申し訳ありませんでした。」

 

頭を完全に下げている為、僕には氷川さんの顔が見えない、一体彼女は今どんな表情をしているのだろうか。やはり憤怒の表情を浮かべているのだろうか…それとも涙を流しているのだろうか…

 

「貴方も…ちゃんと背負っていたのね…」

 

僕が彼女に謝罪して何秒経ったか…もしかしたら数分経っていたのかも知れない中、氷川さんは静かに口を開いた。平静を装っているのだろうけど、その声は震えており、感情を抑えている事はすぐに解った。

 

「私は…まだ貴方を許す事は出来ないわ…でも…私は貴方の事を少し誤解していたみたい。」

 

僕の謝罪を受け入れない様な台詞。だが彼女の口調から僕の事を”まだ”という言葉から『許そうとしている』ものである事が解った。

 

「私は…貴方の事をただの無責任な自警団だと思っていた…でも…貴方は、しっかりとした『責任』を持ってこの活動を行っている。貴方を許すには‥‥まだ時間が掛かるかも知れないけど…私は…貴方を許したい‥‥」

 

「別に許して欲しいとは思っていないよ。…ただ…僕が1年間も事の重大さを理解していなかった事を…君に謝罪したかった…それだけなんだ。」

 

海斗と僕が氷川さんの母等と言った重傷者の現状を知ったのはつい数日前、強盗の仲間グループを追ったり、街で起こる様々な犯罪の対応していたせいで有耶無耶になり、一番重要な事から目が届いていなかった。

 

いや…それはただの言い訳に過ぎない。

 

僕は不注意のせいで、氷川さんの母に重傷を負わせ、その事を軽く見ていた事で今しっぺ返しを食らっている。……それだけなのだ。

 

「…強いのですね…貴方は…」

 

彼女の本心から言ったのか、皮肉のつもりで言ったのか解らない言葉。

 

氷川さんはそれだけ言うと、僕に背を向け、静かにその場から去って行った。

 

『…大丈夫か?』

 

「…ああ…」

 

インカムから海斗の心配する声が聞こえる。

 

『まったく…不器用だな。何もお前が謝る事じゃないのに。わざわざ1年前の事件に巻き込まれた被害者の家族に謝罪しに行くなんて。』

 

「…僕はただ…気が済まなかっただけ‥‥今回は僕のエゴに付き合わせて悪かったね…海斗…」

 

『…気にするな、お前は平気か?』

 

「…僕は平気…ただ…そうだね…」

 

『……』

 

「ただ…少し疲れたよ。」

 

僕はそれだけを海斗に伝えると、無線を切り、再びその場に蹲り、項垂れる。

 

すると突然、ポケットに入っているスマホが震えだし、着信音を鳴らし始めた。

 

そう…まだだ…まだ終わっていない‥‥

 

僕は自分自身を奮起させながらスマートフォンを取り出すと、通話ボタンを押し、耳に翳す。

 

そのスマートフォンの着信名は『今井リサ』と書かれていた。

 

 

 

 




紗夜さんがスパイダーマンに関して怒っていた理由をまとめると。

1つ目は『母親が重傷を負った事に対する怒りをスパイダーマンに当てていた』と言う八つ当たり的な理由。

2つ目は『多くの人がヒーロー活動のせいで怪我を負ったりしているのに、スパーダ―マンは構わずヒーロー活動をしており、みんなを助けたいと言うのなら、なぜ苦しんでいた自分たちを助けてくれなかったんだ』と言う憤り。

今回は紗夜さんの2つ目の怒っている理由を解消させました。


作者の文章力が拙い為か、解りずらいと思いますが、紗夜さんがスパーダ―マンに抱えている感情は、少々複雑となっています。


次回予告

今井リサに事件の全貌を告白し、自分自身を責めるユウ。

蹲り、苦悩する中、一人の少女がそこに現れる。

次回『僕…ちゃんとヒーローやれているかな?』

是非ご期待ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

僕‥ちゃんとヒーローやれているかな?

氷川さんへの謝罪が終わり、重たい気分の中、僕は携帯電話である人物に電話を掛ける。

その人は勿論、今回の出来事の発端となった人物の一人、今井リサさんだ。

 

そして今回の事件を解決させるに当たって僕が最後にやる事。

 

それは今井リサさんに全てを話す事だ。

 

紗夜さんが巻き込まれたよ銀行強盗の事件で僕が犯した過ちについて、そして隠していた僕…スパイダーマンの正体についてだ。

 

『も、もしもし?!』

 

少しの通知音の後、今井さんの声が聞こえて来る。やはり番号を見て、スパイダーマンから電話が来た事に緊張しているのだろうか、少し声が上ずっている。

 

でも今は彼女とお喋りする時じゃないし、ファンサビスの時間でもない。僕は呼吸を整えると静かに受話器に話し掛けた。

 

「もしもし、スパイダーマンです。」

 

『ス、スパイダーマン! その、お電話有難うございます!その…まさかそっちから電話、掛かって来るとは思わなくて…』

 

かなり緊張しているらしく、言葉を繋ぐように話すリサさん。でも…

 

「ゴメン、今日は君とお喋りする事じゃなくて、仕事の為に電話したんだ。」

 

『…え?あ…そ、そうですか…そのすみません、アタシ。一人で盛り上がっちゃって…』

 

少し気まずそうなリサさんの声。果たして紗夜さんの母親が巻き込まれた事件の真相を話せばこの声は怒気を含んだ声に変わり、僕を罵るのだろうか?

 

これから起こる先の読めない事に不安になりながら僕は静かに目を閉じる。

 

「……」

 

深呼吸。

 

「実は数日前、僕の友達の小林ユウ君から聞いた事なんだけど…その氷川紗夜さんの事だっけ?」

 

『あ、…ハイ…』

 

この話題を振った瞬間、リサさんの声のトーンが低くなったような気がする。以前バンドの練習の時、彼女が怒ってスタジオから出て行ってしまった事を考えているのだろう。

 

「実は―――」

 

僕は氷川紗夜さんがかつて巻き込まれた事件についての顛末を全て話した。

 

紗夜さんがかつて銀行強盗に遭遇した事。そしてその場に僕が駆け付けた事。僕の不注意のせいで強盗が手榴弾で自爆し、紗夜さんの母親が全治1年もの大怪我を負った事。そして僕がその事件を長い間知らなかった事。全てを話した。

 

「これで全部……かな?」

 

『そう…だったんだ…』

 

電話越しから聞こえる今井さんの声は、困惑している事が直ぐに解る程動揺しており、何処か震えているようにも聞こえた。

 

「今回の一軒は全部僕のせい…僕があの時もう少し警戒していればこんな事にはならなかった。」

 

『……』

 

僕の懺悔めいた言葉を聞いてもリサさんは何も言わない、ただ沈黙を貫いている。

 

「だから…ゴメン…今回の件は全面的に僕の責任だ…本当に…ゴメン」

 

電話越しに謝罪する僕、正直…これから言われるリサさんの言葉が怖い。今回の一件、彼女と紗夜さんの関係に亀裂を入れてしまったのは確かだ。

 

僕はこれから彼女に怒られるのだろうか? それとも悲しむのだろうか? もしかしたら呆れられるのかもしれない。

 

だがリサさんから発せられた言葉は意外なものだった。

 

『……スパイダーマンは悪くないと思うよ?』

 

それは僕の完全無罪を主張する様な言葉、その言葉を聞いてマスクの中の僕の瞳が開く。

 

『だって…スパイダーマンの話を聞くに紗夜のお母さんに怪我をさせたのも紗夜を傷付けたのも強盗じゃん? スパイダーマンが責任を感じる必要は無いよ。』

 

今のリサさんは微笑んでいるのだろうか、電話越しに聞こえる声色は明るく感じるものの、やはりどこか陰を感じさせ、無理矢理明るく振る舞っている様にも聞こえた。

 

…そっか…僕…慰められているんだ…

 

本当は僕が守ったり、慰めたり、励まさなくちゃいけない人間に、逆に慰められているんだ…

 

「…本末転倒じゃん」

 

『…え?ゴメン何て言ったの?』

 

思わず自分自身が情けなくって言葉が漏れてしまう、幸いリサさんには聞こえていなかった様だ。

 

「ううん、なんでもない。今日はこの事を話そうと思っただけだから。」

 

『…え? あ、うん…』

 

僕はこのまま彼女と電話しているのが辛くなり通話を切ろうとする、だがそれと同時に、僕は彼女に伝えようとしていた事を思い出した。

 

「あ、あの…リサさん。」

 

『ん?何カナ?』

 

言うんだスパイダーマン。僕の正体を、僕が一体誰なのか、結果的に僕は今リサさんを騙している状態なんだ、せめてものケジメとして正体だけはちゃんと言うんだ…!

 

「ぼ、僕は…!」

 

『…うん…』

 

リサさんは話を聞こうと黙って待ってくれている。ホラ、早く言うんだユウ!

 

だが喉元まで出掛かっていた言葉は何時になっても発せられず、結局僕がスパイダーマンの正体を明かす事はできなかった。

 

『…ゴメン、やっぱり何でもない。…じゃあね…』

 

「え?! ちょっと!スパイダーマン!」

 

突然別れを言われ、驚いているリサさん。でも僕は彼女とこのまま話すのが怖くて、電話を切った。

 

 

***

 

 

電話を切った後、僕はその場で蹲り、項垂れる。

 

自分が情けなくて仕方がない。

 

思い出すのは勿論先程の電話での会話、何なんだあの会話は。

 

リサさんに真実を話したのは良いものの、僕が罪悪感を感じているとリサさんに悟られ、挙げ句の果てには慰められる始末。

 

それにせめてものケジメとして、今まで騙していた事、そして正体を彼女に明かそうとした。だがいざ電話越しにその事を話そうとした時、もしリサさんが僕の正体を知ったらどうなるか、もしそれがヴィラン達…犯罪者たちにバレたらどうなるか、突発的に考えてしまい、躊躇して結局何も言わず逃げる様に電話を切ってしまった。

 

結局…僕は臆病なのだ。どんなに立派な事を考えても、所詮僕は実行できない臆病者だったのだ。

 

「僕は…意気地なしだ…」

 

自分で自分が嫌になり、溜息を吐いて項垂れる。

 

するとぽつぽつと体に冷たい水滴が落ちてきている事に気が付いた。

 

「…雨か…」

 

やがて小降りだった雨は少しずつ勢いを増し、本降りになり、数分もすればザーザーと音を立てて大雨が降り出した。

 

「……」

 

普段の僕なら急いで家に帰宅するだろう。けど、今の僕はどんなに雨で体を濡らしてもその場で蹲り項垂れたままだった。

 

何と言うか、このまま雨に打たれていると、気が楽だ。

 

今回の一件、全面的に僕に責任がある筈なのに、誰も僕の事を責めなかった。

 

何だかそれが苦しかった、彼女達の優しさが辛かった。…だから、こうして雨に打たれていると神様が俺を罰してくれている様で、少しだけ気が楽になった。

 

「……?」

 

だが突如、体に振っていた雨の感触が無くなる、上を見てみれば黄色い傘が開かれており、何者かが雨に打たれている僕に傘を差してくれたくれた事を察する事が出来た。

 

「…何をしているの? こんな所で。」

 

後ろから僕に傘を差してくれている人の声が聞こえる。

 

だがその声を聴いた瞬間、マスクの中の僕の瞼は涙に溢れ、胸がぎゅっと苦しくなった。

 

嬉しいようで、悲しいようで、悔しそうな混沌とした感情の中、僕は涙を堪え切れず、ぽろぽろと涙を流しながら振り返る。

 

「それはこっちの台詞だよ……千聖…」

 

後ろに居た千聖は喫茶店の前での様な冷たい態度は無く、まるで泣き出しそうな子供をあやす母親の様に慈愛の満ちた表情をしていた。

 

「風邪……引くわよ…」

 

すると千聖は肩で傘を支えつつ、鞄からタオルを取り出し、雨で濡れた僕の髪を拭き始める。

 

「もう、びしょびしょじゃない。 ほら、早く帰るわよ。家まで送ってあげるから。」

 

千聖は俺の腕を掴み、立ち上がらせようとするが僕は動かない。

 

「ゴメン…暫く…ここに居たい。…動きたくない…」

 

千聖の目には今の僕はどんな風に映っているのだろうか?

 

自分でも情けない姿だって事は知っている、でも……今は、誰にも責められなかった俺を怒ってくれるこの雨に打たれたい。

 

すると千聖は傘を置き、僕と同じく雨に打たれながら、僕の隣の地面へと腰掛けた。

 

「な、なんで…?」

 

「私も、貴方の気が済むまで一緒に居るわ。今の貴方を放っておく事なんて出来ないし。」

 

傘を差さず、ずぶ濡れになりながらそう言う千聖。

 

「…何も…聞かないんだね?」

 

「…ええ、私がこう言った事が苦手って、貴方も知ってるでしょ?」

 

「…そうだね…そうだったね…」

 

そうだった、付き合っていた時の彼女との喧嘩の原因も大抵僕に有って、千聖がそれを刺激するような事を言って始まる事が多かったっけ…

 

「…海斗君からある程度の事は聞いているわ…でも…私はこんな時、なんて言えば解らなくて‥‥私に出来るのはこれしか無いけど…」

 

そう言うと千聖はそっと俺を体を抱き寄せる。まるで子供を慰める母親の様に、僕と言う大きな子供をあやす様に。

 

そういえば付き合っていた時も、お互いに何か嫌な事が有るとこうして抱き合ってお互いの傷を舐め合ったり、慰め合ったりしてたっけ…

 

「ねぇ…千聖…」

 

「何かしら?」

 

僕は静かに千聖の背中に手を回すと、ずっと自問自答していた疑問を訊いてみた。

 

「僕…ちゃんとヒーローやれてるかな?」

 

今日1日の僕の行いや、紗夜さんが巻き込まれた事件を考えれば、今の僕はきっとヒーローではなく、ただの赤いタイツを着た偽善者だろう。

 

でも彼女と言う第三者から見た僕はどうなのか、知りたかった。

 

「…ええ…貴方は立派なヒーローよ、私にとっても、皆にとっても…」

 

千聖は僕を抱き締める力を強くしながら千聖はそう言ってくれる。

 

情けない。

 

自分が情けなさ過ぎて涙が出てくる。

 

女の子に抱き締められて、子供みたいに慰められて。

 

こんな情けない奴がヒーローなんて、お笑いだ。

 

でも少し…ほんの少し、彼女に慰めて貰えた事で、僕は自己嫌悪から抜け出せた様な気がした。

 

 

 




どうも、ご拝読有難うございます。作者のゴキブリです。

今回は皆様にご報告が有ってこの場をお借りしました。

実は私、最近バンドリ以外が原作の別小説の執筆を検討しいています。と言ってもこの小説と全く関係が無い訳ではなくMCUの様に『この小説と同じ世界観での物語』と言う設定で書いていこうと思います。名付けてGNU(ゴキブリ・ノベル・ユニバース)と言った所でしょうか。

そしてGNU二作品目の原作は『ようこそ実力至上主義の教室」と言う作品です。

原作小説は決まってますが、主人公のヒーローについてはまだ決まっていません。

そこで読者の皆様にアンケートで調査をして決めたいと思います。良ければぜひ協力してください。











次回予告

千聖に慰められるものの、罪悪感により意気消沈するユウ。

それを見かけた海斗はリフレッシュを兼ねてユウにある事を提案する。

次回『たまには良いんじゃない? ずっと肩を張ってるのはキツいだろ?』

是非ご期待ください。

ご感想お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

たまには良いんじゃない? ずっと肩張ってるのはキツいだろ?

遅れました。


翌日、学校にて。

 

あの後、千聖は泣いている俺を慰めた後。家の前まで送ってくれた。

 

何と言うか…昨日の千聖は喫茶店の時とは比べ物にならない程優しかった。

 

海斗から事情は聴いていたとは言ってたけど…まさかあんな雨の中まで来て、一緒にずぶ濡れになってまで来てくれるなんて…

 

「……」

 

内心勘違いしてしまいそうになるが、頭をぶんぶんと振ってその考えを捨てる。

 

そうだ…千聖とはもう終わった事、僕はもう振られているんだ。

 

すると後ろから海斗が声を掛けて来る。

 

「おう、おはようユウ。」

 

「あ、ああ…おはよう海斗」

 

昨日の事も有ってかテンションが低めな海斗。止せよ、らしくない。

 

「大丈夫だったか? 昨日の事。」

 

「うん、平気。ありがとね。その…千聖に連絡したのって海斗でしょ?」

 

「あ、ああ…お前が気を取り直すのに一番の適任は彼女だと思ってな…」

 

一応昨日も千聖に言ったけど、近い内に改めてお礼を言おう。

 

そんな事を考えつつ、教室へ向かっているとちゃぱつの女子生徒が挨拶して来る、昨日僕と…スパイダーマンと電話したリサさんだ。

 

「おっはよーユウ。」

 

「あ、う、うん。おはよう…」

 

「…あれ、どうしたの? 元気ないみたいだケド…」

 

リサさんは勘が良いのか僕の異常にすぐ気づき、心配そうに顔を覗いてくる。

 

普段の僕なら嬉しく思うだろうけど、今の僕にとって彼女に心配されるのは少し苦しかった。

 

「いや…何でもないよ。」

 

僕はリサさんから目を逸らし、否定する。リサさんも何かを察したのかそれ以上の追及はせず、新しい話題を振る。

 

「あ、そう言えば。この前話してたバンドの子との件、無事解決したよ。」

 

…昨日の紗夜さんの事だ。

 

 

「そうなんだ。」

 

「昨日丁度メールが来てさ、ギターの子、バンドのRINEグループでいきなり謝ってたんだ。」

 

「良かったね。」

 

「うん…それがね…ビックリした事なんだケド…」

 

きっと昨日僕がリサさんに電話して紗夜さんが関わった事件の顛末について話した事だ。

 

ぶっちゃけ言うと、今は聞きたくない。

 

ただでさえ昨日の事がメンタルに響いているのに、傷口を抉られる様で少し苦しい。

 

「ごめんリサさん、今から俺達ちょっと用事が有るので…これで失礼します!」

 

僕の様子を察したのか、隣で話を聞いていた海斗が横から口を挟み、僕の背中を押しながら教室へと連行する。

 

「あ、ちょっと! ユウ!」

 

「ゴメン、リサさん。話はまた後で…」

 

海斗に押されながら僕は教室へと連行される。普段の僕ならリサさんと話す時間を邪魔した海斗に不満を抱いていただろうけど、今は少しだけ海斗に感謝した。

 

「…大丈夫か?」

 

教室を向かう途中、海斗が心配そうに訊いてくる。

 

「…ゴメン…今はちょっと厳しいかな…放課後のパトロールまでには持ち直すよ。」

 

「‥‥」

 

海斗が心配そうにこちらを見る、実際放課後まで精神状態を持ち直せる自信は無い。

 

でも…パトロールを…ヒーローとしての活動を休むわけには行かない。僕がこうして落ち込んでいる時にも犯罪に巻き込まれたり、何かのトラブルに巻き込まれている人が居る筈なのだから。

 

「ユウ…」

 

「大丈夫だよ! こんな事でスパイダーマンを休む訳には行かないからね!」

 

気丈に笑顔を作りながらそう答える。でも表情を偽ることが出来ても自分の心までは偽ることが出来ない。声が震えており海斗が見ても、僕自身から見ても平気じゃない事は明白だった。

 

「ユウ…お前今日はヒーロー活動を休め。」

 

「…なんでさ。」

 

予想はしていたけど、やはり改めて聞くと苦しい。

 

海斗は今回の件で俺が結構メンタルを削られた事を知っているのだろうけど、改めて彼の口から聞くと『自分の心が弱い』『ヒーロー活動をする資格は無い』と言われている様で、自分が情けなかった。

 

「…悪いけど今のお前の精神状態はかなり危ない。…確かにお前はヒーローだが、同時に健全な男子高校生だ。お前にも欲求は有るだろ?お前千聖と別れてから全く息抜きしてないだろ?」

 

「…まぁ…そうだけど…」

 

欲求、それは勿論僕にもある。

 

僕だって人間だし、17歳の男子だ。自分の幸せだって守りたい。

 

毎晩深夜のパトロールに出ないでぐっすり眠りたい。

 

友達を多く作って皆でカラオケに行ったり、中学の頃に組んでいたバンド活動を再開してライブで思いっきり歌いたい。

 

リサさんを誘ってデートもしたい、ちゃんとお付き合いして恋愛を楽しみたい。…千聖とも機会が有れば復縁したい。

 

…でも…それはできない。

 

僕はヒーロー。僕はスパイダーマン。息抜きなんて名目で一日でもヒーローを休んだら? 前みたく僕が休んでいる間にリサさんが暴漢に襲われていたら? もし千聖が…おばさんが…海斗が襲われたら? もし被害に遭う人間が他人だったとしても、被害者の家族や恋人達はどんな気持ちを味わう? どれ程の苦しみを味わう?

 

現に僕はその苦しみを既に知っている、あんな思いをするのは二度と御免だし、他人にもその苦しみを味わって欲しくない。

 

だから僕はヒーローとしての活動を休む訳にはいかない。

 

「…はぁ…」

 

仕草や様子を見て、僕の考えている事を察したのか海斗は溜息を吐く。すると海斗はズボンのポケットからスマホを取り出し何か操作をし始めた。

 

「おーっとっと! この街の監視カメラ200台が全部ハッキングされてしまったー! 町の役人どもがこの異常に気付くのに少なくとも丸一日は掛かるー!」

 

まるで競馬の実況者の様な口調でスマホをこちらに向ける海斗、その証拠にスマホの画面には監視カメラの物と思われる映像が、何分割も小さく分けられており、この街のある程度の情報を表していた。

 

監視カメラのハッキング…基本的に市民のプライバシー侵害に繋がる可能性が有る為、余程の事が無い限り使わないと二人で相談して決めた手段。

 

「…お前…何でそこまでして…」

 

「…自分でも分かっている事だろ?今の精神状態でヒーローなんて出来ないって事…今日の放課後は俺がカメラの様子見てるし、何かトラブルが有ればアプリの方にもメッセが来るだろ?」

 

「……」

 

「たまには良いんじゃない? ずっと肩張ってるのはキツいだろ?」

 

…海斗…お前…

 

「でも・・・お前だけ悪いよ…お前こそ一日中パソコンと睨めっこするのはキツイだろ?」

 

「俺の事は気にすんな。それに…この前…お前がギャングの抗争止めている時寝落ちしちまったろ?あれ結構反省してるんだぜ。」

 

「俺がアベンジャーズの仮面付けた強盗と戦っている時はエロ動画見て一息吐いていたしな。」

 

「そ、それは忘れろ!」

 

慌てて会話を制止し、周りをキョロキョロと見て先程の話が誰かに聞かれていないか確認する海斗。

 

コイツにもエロい動画見ているの他人に知られたくないって言う羞恥心が有ったんだな…

 

 

 

 

「解った…今日一日は羽を伸ばすよ。」

 

「ああ! 町の事は俺に任せろ!」

 

「でも、休むのは今日一日だけ。それから…もう二度とこんな事で監視カメラをハッキングするのは止めて。」

 

「解ってるって!今回だけだ。」

 

どこか嬉しそうな表情でそう答える海斗、コイツ本当に解っているのか?

 

「でも一つ問題が有る…海斗。」

 

「ん?何だよ?」

 

「休みって何をすればいいんだ? 僕半年間休みなしでスパイダーマンやっていたから何をすべきか解らないよ。」

 

「‥‥‥‥」

 

暫しの沈黙。

 

廊下の端で話していたからか、同級生の話し声や笑い声が僕と海斗の間で反響する。

 

その沈黙が10秒ほど続いた時、突如海斗は堪え切れなくなったのか吹き出し、腹を抱えて笑い始めた。

 

「…ぷっ…あはははは!あーっはっは!いーっひっひ!」

 

それはマジで悶える感じの爆笑、そう…お笑い番組を見ている鳴おばさんと同レベルの爆笑っぷりだ。

 

「オイ何故急に笑い出す?! こっちは真面目に聞いてんだぞ!」

 

「いや…まんまお前ブラック企業の社畜みたいな事言い出しているから‥‥やっべぇ、ツボった!あーっはっは!」

 

手を叩きながら爆笑する海斗。解っているよ、どうせ僕は年中パトロールやっている社畜顔負けのヒーロー中毒者ですよ。

 

「そ、そんじゃあ。昼休みにゆっくり放課後どうするか考えようや!ほれ、もう予鈴なるぞ!」

 

「あ、ヤバっ!」

 

海斗がスマホで時刻を表示し、予鈴が鳴る5分前である事に気付く。

 

「早く教室行くぞ! 海斗。」

 

「…あー、先に行ってくれ。ちょっとトイレ行ってくる。」

 

急かす僕をあしらう様にトイレに向かう海斗。…まぁアイツの事だからサボるなんて事は無いだろう。

 

あー、1時間目日本史か…

 

僕は気怠さを堪えながら教室へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

海斗side

 

俺はユウと別れた後、急いでトイレに向かいスマホを取り出す。

 

基本的に学校でスマホはマナーモードにしており着信音は鳴らない様にしてあるが、現在俺のスマホは電話の着信を知らせる表示を映しており、その着信名を見た時、俺は小さく溜息を吐いた後通話ボタンを押し、スマホを耳に当てた。

 

表示された着信名は『白鷺千聖』ユウの元カノであり、かつてアイツの精神を安定させていた存在だ。

 

『…もしもし?』

 

「…何の様だ?」

 

 

正直俺はコイツが嫌いだ。

 

あれだけユウに求められて助けられても、ユウの気持ちに一切答えようとせず、挙句の果てはユウを一方的に振って捨てた。…それも自分の保身の為に。

 

『昨日はありがとう。ユウの事、教えてくれて。」

 

「…あの時、一番ベストな人材が誰か考えたまでだ。…要件はそれだけか?」

 

俺はそれだけ言うと耳からスマホを離し、通話終了ボタンを押そうとする。だが刹那『待って!』と白鷺はそれを制止し、俺は再び溜息を吐きながら再度スマホを耳に当てる。

 

「…なんだよ。」

 

『その…ユウの様子はどうかしら?』

 

「…お前にはもう関係の無い事だろ?」

 

『そうね…虫が良すぎるのは自覚してるわ。…でも…昨日会った時相当疲れていたみたいだから…」

 

…今更何を言っているんだ…コイツは…

 

「…昨日よりは多少マシになった…でも…相変わらず意気消沈している。」

 

『そう…』

 

「…得意のお芝居も効果が無かったみたいだな。」

 

『昨日のあれは…お芝居なんかじゃないわ。』

 

強い語気で否定して来る白鷺、だが俺は騙されない。

 

「いや、芝居だよ。もし本当にユウの事を気遣っているのなら復縁しようとするだろうし…第一あんな事で別れたりしない。何故一方的に別れを切り出した?! 普通相談の一つくらいするだろ?! お前はあの時自分がユウにとって重要な存在である事を知っていた筈だ、何故ユウを捨てた?!」

 

『…それは…』

 

「…白鷺…お前本当にユウの事が好きなのか?」

 

『…ええ、好きよ。…今でも。ずっと…』

 

「じゃあ何故それをユウに伝えようとしない?」

 

『‥‥…』

 

黙り込む千聖。…言えない…か…

 

「もういい、お前と話していると反吐が出る。」

 

結局コイツは自分の保身の事しか考えていない奴だった…少しでもこの女を信じた俺が馬鹿だった…そもそもこの女はユウを一方的に振り、裏切った。信用できない。

 

俺は電話を切り、行き場の無い怒りを堪えながらトイレから出る。

 

だが…違う…今白鷺に怒っても何もならない。大事なのは今の俺でどうやってユウを支えられるかだ。

 

ユウ…安心しろ。

 

俺はお前に助けられた事を忘れたりしない。

 

あの時…お前から貰った物、教えて貰った物は死んでも忘れない。

 

お前が立ち止まった時は背中を押してやる、迷った時は一緒に悩んでやる、転んだときは引っ張ってやる。

 

お前は俺にとって、唯一無二の『友』なのだから。

 

 

 

 

 




少し海斗君の胸の内を明かしましたが、友希那とリサ以上の強い友情をユウに抱いてます。

まぁ具体的に言えばユウを傷付けた奴は老若男女問わず顔面目掛けてドロップキックをかませるレベルですかね。



次回予告

ヒーローとしての休日をどう過ごすか話し合うユウと海斗。

考えた末、ユウは楽器を演奏する為にライブハウスへ行く事に。

だがそこに居たのは…

次回、「…辞めた理由知ってるだろ?」

是非ご期待ください。

ご感想お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

…辞めた理由知ってるだろ?

リサ姉「……」

作者「……」

リサ姉「何か弁明は有るカナ?」

作者「…有りません。」

リサ姉「一応聞くけどさ、前の話の事でアタシが怒っている理由、解るよね?」

作者「ハイ。」

リサ姉「なんでアタシ、ユウに逃げられているの?」

作者「その…アレは…色々ユウ君も傷心中でストレスが溜まっていて……決してリサさんがヒロイン脱落って訳じゃなくて……」

リサ姉「ねぇ、ゴキブリ。この作品のメインヒロインの名前を言ってみて。」

作者「白鷺―――」

リサ姉「あ?」

作者「い、今井リサ様です。」

リサ姉「だよね~☆ でも次間違ったら…解るよね?」

作者「……」

リサ姉「返事!」

作者「は、ハイ…」





その日の昼休み。

 

午前の授業が終わった僕と海斗は食堂にて、昼飯を食いながら今日一日の予定について話し合っていた。

 

「それで? ヒーローの休日って何をすれば良いんだ?」

 

「何も難しく考える事は無いさ。スパイダーマンになる前、白鷺と付き合っていた時、休みの日は何をしていた?」

 

千聖と付き合っていた時…スパイダーマンになる前の休日の過ごし方か…

 

「うーん、科学の実験…とか?」

 

「…フッ…」

 

必死に考えて辿り着いた答えを言ってみたが、海斗はそれを聞いた瞬間、鼻で笑われた。

 

「おいなんだよ、なにも笑う事はないだろ。」

 

「いや、お堅い奴だって思ってな。プロの学者でも休日まで研究してる奴なんて殆どいないぜ?」

 

「いや、そんな事は無いと思うぞ。アインシュタインにホーキンス博士、歴史的な学者はみんな休日返上で研究していたと思うけど。」

 

「俺が言いたいのは歴史的学者の真似をしろって事じゃない、もっと…何て言うか他にあるだろ?」

 

他の事…研究以外の事…うーん…

 

 

「あるとしたら…千聖と何処かに出掛けたりしていた…かな?」

 

「あー…だったら白鷺を誘ったらどうだ?」

 

「いや、当日誘っても予定が解らない以上断られる可能性が高いし。…それに千聖と俺はもう別れているから…」

 

「あー、そっか…あの役立たずが…」

 

おい、海斗。最後小声で言ったみたいだけど聞こえていたぞ。人の元カノを役立たず呼ばわりするなよ。

 

「逆に海斗はどう考えているんだよ。」

 

「うーん…今井さんを誘ってみたら…って言いたい所なんだけど、今のお前にそれは酷だろうし…何だろうな…ほら、口で言い表すのは難しいけど…パーッとした事をすれば良いんじゃないか?」

 

「それはまた抽象的な…」

 

うーん…パーッとした事…か。

 

何だろうな…どうしよう、皆目見当もつかない。

 

「んー…うーむ…」

 

僕が頭を抱えているのを見かねた海斗は少し考える素振りを見せると、少し遠慮がちに口を開いた。

 

「…その…音楽とかは…どうだ? ほら、楽器とか弾いてさ。」

 

「…辞めた理由知ってるだろ?」

 

僕は肩を竦めて答える。海斗はそれを見ると、何処か少し気まずそうに訊いてくる。

 

「やっぱり…まだ引きずってんのか?」

 

「…ううん、あれからもう1年経ってるし、あの時の事はもう大丈夫だと思う。」

 

「じゃあ何で?」

 

「ほら…この力で結果を出しても…そのフェアじゃないだろ?」

 

そう、僕は蜘蛛に噛まれた時、身体能力と同時に頭脳も強化され、物事を一度見ただけで映像の様に脳内で記憶できる能力を手に入れた。俗に言う「瞬間記憶能力」って奴だ。その為、楽器やダンスなどもこの力のせいで一度見たら完全に再現し、習得できてしまう。

 

それを聞いた海斗は呆れた笑みを浮かべると、静かに溜息を吐いた。

 

「フェアじゃないって…お前なぁ…プロの世界でも、アマチュアでも、才能ってのは重要なんだぜ? 一度聞いただけで曲を演奏できる人間なんて五万といるし、お前の記憶力だって十分な才能だと俺は思うけど。」

 

「まぁ…才能が重要なのは言えてるけど…この力で楽器を一回で演奏しても…なんかズルしてるみたいで嫌じゃん?」

 

「演奏にズルも何も無いと思うが…それに今日に目的はお前のリフレッシュ…今日くらいは良いんじゃないか? 力の事とか、ヒーローの事を忘れて一人の男子高校生として過ごすのも。」

 

一人の男子高校生として…か…この1年、あまり考えた事無かったな‥‥

 

「そうだね…それも良いかもね。…じゃあ、今日はライブハウスに行って見ようかな。久々にスタジオで楽器弾きたいし。」

 

 

***

 

そして放課後。

 

「それじゃあ、ちょっと行ってくるね。」

 

「ああ、気を付けてな。」

 

「海斗、解っていると思うけど…」

 

「おう、街は監視カメラで俺が今日一日見ているし、何か事件が有ったらすぐに連絡する。だからお前は目一杯楽しんで来い。」

 

僕は荷物を纏め、街の事を海斗に一旦任せると、学校を後にするのだった。

 

 

***

 

その後、学校を出発した後。

 

「えっと…スマホの地図アプリだとこの辺だけど…」

 

現在俺はスタジオの貸出が出来る近くのライブハウス『Circle』へと向かっていた。

 

学校からスマホの地図アプリに従って歩く事約30分、結構学校から遠いが、生憎スタジオを借りれる場所がここしかないのだ。

 

「でも…ライブハウスなんて何時ぶりだろ…」

 

最後に行ったのはもう1年前か…あの時はスパイダーマンとしての力も無く、何処にでもいる高校生だったな…

 

内心一人で感傷に浸りながらライブハウスまでの道のりを歩む。

 

街の方は今の所何の問題も無い様だ。アプリからの通知も無いし、海斗からの連絡も無い。

 

それから3分も経たない頃、スマホのアプリで現在地と目的地が一致し、僕の肉眼でもCircleの姿が確認できる距離まで辿り着く。

 

「ここがライブハウス『Circle』か…」

 

そのまま入口に向かい、中に入ってみる。

 

何と言うか…外装も内装もネットに乗っていた写真より綺麗だし、何処か写真と違っている場所もある。…最近模様替えしたのだろうか?

 

でも全体的に綺麗だし、所々ぬいぐるみが置いてあって可愛らしい。

 

「あ、いらっしゃいませ。一人かな?」

 

すると受付と思われるカウンターから、『月島』と書かれている名札を付けた女性に声を掛けられる。

 

「はい。そのスタジオを借りたいと思って…予約とかしてませんけど‥‥できますかね?」

 

「ちょっと待ってね…あ、うん。一部屋だけ空いているみたいだし、借りれるよ。」

 

よかった…どうやら今日の僕は運が悪い訳じゃ無いみたいだ。

 

あ、でも一つ重大な問題が有った。

 

「良かった…その…楽器の貸出とかしていますか?今日楽器持ってなくて…」

 

「あ、うん。できるよ。それじゃあ…借りたい楽器はこの書類に書いてね。」

 

月島さんから書類を受け取りながら内心安堵する。

 

良かった…ここは貸出可能だったか…できない場所だったら一回家に帰って楽器取りに行かなきゃだし、無駄に時間を使う所だった…

 

えっと…借りる楽器は…取り敢えずエレキギターとアコースティックギターにしとくか。

 

「これで良し…」

 

「ハイ、確かに。貸出時間は2時間だね。場所はBスタジオ、時間になったら連絡するし、設備に不備があったら、部屋に備え付けられている電話で連絡ください。それじゃあ、楽器取ってくるから待っててね。」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

時間分の料金を払い、楽器を受け取ると、僕は指定された部屋へと向かうのだった。

 

***

 

そしてCircle内、Bスタジオにて。

 

「よいしょ…」

 

僕は借りて来た楽器を置き、エレキギターにアンプやエフェクターを繋ぐ。

 

良く考えたらこうして楽器のセッティングをするなんて久しぶりだな‥‥そう言えば楽器始めたばかりの頃はアンプの扱いとか解らなくておじさんにセットして貰ってたっけ…

 

一弦ずつ音を鳴らしてエレキギターをチューニングする。因みにチューナーは使っておらず音を聞いて判断している。と言うかチューナー自体持っていない、一応おじさんが使っていたのは家に有るけど…そもそもアレって何の役割が有るんだ?

 

「これで良し…」

 

セッティングを終え、簡単なメロデイを弾いてみる。…うん…この音なら問題ない様だ。

 

さて、ギターをセッティングしたは良い物の、何の曲を弾こうか…

 

取り敢えず良く聞いている邦楽の曲でも弾くか。

 

「えっと…確かこうだっけ?」

 

僕は数日に見たアーティストの指捌きを脳内で再生し、実際その通りに左手を動かし、コードを弾いて行く。

 

良くこの曲のギターコードは難しいと有名だが、僕からすればそれ程難しいとは思わない。やはりこの力をお陰でもあるのか?

 

「こんなもんかな?」

 

一曲弾き終わり、ギターを抱えたまま一息吐く。

 

何と言うか…悪い気はしない。

 

世間で『カッコいいが演奏が難しい』と評判な曲を僕は脳内の記憶だけで弾いた。この力のお陰ってのも有るのだろうけど、一曲弾き終わった僕の心は何処か満足気で、充実感に満ちていた。

 

「……?」

 

暫く余韻に浸っていた僕だが、何処からか視線を感じ、ふと我に返る。

 

誰だ? スパイダーセンスが発現してないし害意を持っている訳じゃ無いみたいだけど…

 

何者か気になり、自分がこの部屋に入って来た出入り口にチラリと目を向けて見る。どうやらこの部屋の出入り口は一部がガラスになっているドアで、外側からも内側からもお互いの様子が見れるらしい。

 

そこに居たのは青髪で釣り目をしたキツそうな見た目をした花咲川の制服を来た女子生徒。

 

そう、昨日僕が…スパイダーマンが謝罪した人物。氷川紗夜がすんごい目でこっちを見ていた。




そろそろ別小説のヒーローについても決めたいと思います。


次回予告

遂に出逢ってしまった。

狂い咲く紫炎の薔薇

サッドネスメトロノーム

闇の波動がアレする黒っぽい堕天使

不動のスキルマ

そして‥‥ようやくヒロインムーブが出来そうで狂喜する慈愛の女神

次回「貴方…何者なの?」

作者が一番恐れていた事態、ユウはどう切り抜ける?!

ご感想お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

貴方…一体何者なの?

リサ姉「友希那! ねぇ友希那!訊いて!訊いて!」

友希那「解ったわ!解ったからリサ、階段をブリッジで駆け下りるのは止めて!」

紗夜「…何…あれ?」

燐子「その…今井さん、今回の台本読んで、ようやくヒロインムーブできるって、すごく喜んでいて…」

紗夜「アレは…喜んでいるの? まるで悪霊に憑りつかれたみたいだけど。」

リサ姉「アハハハハ! やったよ!アタシ遂にメインヒロインになったんだよ! 」

あこ「紗夜さん!大変です!リサ姉が機嫌良くしてスムージー作ろうとしているのですが、ニトログリセリンをミキサーに入れようとしてます!りんりんも止めるの手伝って!」

リサ姉「アハハハハ!ヒロイン!メインヒロイン万歳!」







ユウです…久々にリフレッシュしようと思い、スタジオを借りてギターを演奏していたら、先日謝罪した人と遭遇しました。

 

ユウです‥‥「まぁ世の中狭いモンさ」と自分に言い聞かせ、窓越しに感じる眼光を無視して演奏を続けていたら‥‥頭数が何人か増えていました。

 

ユウです…

ユウです…

ユウです……

 

とまあ、軽いギャグでも挟まないと僕の胃がキリキリする状況が続いています。

 

そりゃ紗夜さん一人ならそんなに気にならなかったと思うけど、少し目を離した隙に窓越しに居る人が何人か増えていたんだから、そりゃビビるわ。

 

今現在、何とか知らん顔をしながら演奏を継続しているが、やっぱり気になって扉をチラチラ見てしまう。

 

「「「……」」

 

うん…少し時間を置いたら帰ってくれるって思っていたけど…一人も減ってねぇ。

 

もう駄目だ。我慢の限界だ。一言言ってやろう。

 

内心苛立ちながら扉の前に行く、紗夜さんが居るのは少し気まずいけど…あっちは僕がスパイダーマンである事知らないんだし…問題ないだろう。

 

「すいません。扉の前でじっと見られると演奏しずらい――――え?」

 

扉を開き、いざ彼女達に文句を言おうとした瞬間、俺はとある人物を見て一瞬で言葉が詰まってしまう程動揺した。

 

「あ、あはは…やっほー。ユウ…」

 

「リサ…さん?」

 

 

***

 

場所は変わりCiRCLEの外にあるカフェにて。

 

何故か俺は今井さんや氷川さんの他に、灰色の髪をした羽丘の女子生徒と黒髪ロングの花咲川の女子生徒、そして中学生と思われるツインテールの女の子に囲まれていた。

 

「あはは…なんか覗き見しちゃってごめんねー☆」

 

「まさかリサの知り合いだったなんて…」

 

今井さんは気まずそうに笑いながら謝り、僕とリサさんが同じ学校で同じクラスである事を聞いた灰色の髪の女の子は意外そうな目で俺とリサさんを交互に見ている。

 

 

「……」

 

「……」

 

「さっきの演奏凄かったです! あこ感動しちゃいました!」

 

氷川さんはこちらをじっと見つめて目立った反応はせず、黒髪ロングの子はオドオドと俺から距離を取っており、対象的に中学生と思われるツインテールの子はぴょんぴょん跳ねながら俺の演奏を絶賛している。

 

‥‥どうしよ、この状況。

 

今現在、一番会いたくないランキングベスト3に入る人物が二人も俺の目の前に居るんだけど。

 

氷川さんとは別に『小林ユウ』として話すのは初めてだし、少し気まずい程度で済むけど、今リサさんと話すのは抵抗が強すぎる。

 

だって俺、今日一日リサさんから逃げていたんだもん。

 

逃げも隠れも出来ないこの状況、コミュニケ―ション能力が高くない僕からしたら地獄だ。

 

それにリサさんのバンドメンバーと思われる人達が居るのも辛い。知り合いの知り合いとか気まず過ぎる。

 

でも…一体何なのだろう?

 

スタジオの外で僕の演奏を聴いていて、気になるから一言言ってやろうとドアを開けばそこには知り合いがいて、が付いたらあれよあれよとスタジオから連れ出され、ここに来ていた。

 

僕の数少ないリフレッシュの時間を邪魔してまで一体何の様だ?

 

「有難う。でも…演奏を褒めてくれるのは嬉しいけどさ、こんな所に連れ出して何の様? そろそろ本題に入って貰えないかな?」

 

するとリサさんの知り合いと思われる灰色のロングの髪をした女の子が前に出て来た、どうやらこのバンドを代表しての話らしい。

 

「…解ったわ。単刀直入に言うけど、私達の技術コーチになって貰えないかしら?」

 

…え? 急に何この人?

 

名前も解らない人にいきなり技術コーチに抜擢され、内心ドン引きする僕。急にするにしては話がデカすぎるだろ。

 

「一応聞くけど…何で僕なの?」

 

「ある程度察しが付くと思うけど、さっきの演奏を聞いて。技量が高いと感じたからよ。」

 

文句有る?と言わんばかりに両腕を組み、椅子に座る僕を見下ろす様に言う灰色髪。

 

いや、僕は君達の名前すら知らないのですが。

 

「いや…名前も知らない人間にコーチしろって言われても…」

 

「そうね、言い忘れていたわ。」

 

いや、真っ先に言うべき事だとおもうのですが、それは。

 

「私は湊友希那よ。」

 

「し、白金燐子です…」

 

「氷川紗夜です。」

 

「宇田川あこって言います!」

 

「アタシは…知ってると思うケド…今井リサだよ☆」

 

それぞれ自己紹介をするバンドメンバーの皆様方。

 

「いきなりコーチになれと言われてもね…いくら僕の演奏技術が高かったとしても少し強引だと思わない?」

 

「そうね…それは謝るわ。でも私達のバンドにとってとても大事な事なの。…貴方…名前は?」

 

「小林ユウだけど…」

 

「そうユウ…って呼べば良いかしら。貴方…一体何者なの? …さっき言った様に貴方の演奏技術は極めて高いレベルに達してしるわ。それこそプロでも通用する位に。」

 

…それはどうも、でも上手に弾けているのは、この人たちの様に練習して手に入れたものではなく、蜘蛛に噛まれて手に入れた力だから…演奏に関して褒められてもそんなに嬉しくないんだよな…

 

「ギターの演奏テクニックも私を遥かに上回る腕ですし、歌唱力も友希那さんを遥かに凌駕するレベル…悔しいですが、貴方の実力は私達の遥かに上を行きます。」

 

悔しそうに顔を顰める紗夜さん。…今の俺の演奏って覚えていたコードをそのまま弾いただけなんだけど…

 

「…と言う訳だから、私達の目標の為にも私達のバンド、『Roselia』の技術コーチになって欲しいの。」

 

紗夜さんの言葉を繋げるように、湊さんが腕を組みながらそう言う。

 

もう返すべき答えは決まっている。だがその前に、湊さんが言った事で少し突っかかった物がある。

 

「目標って言ったけど…どんな物だか聞かせて貰える?」

 

別に聞いてどうする話じゃない。ただ友達と遊ぶ為にする事が目的と言う世間一般的なガールズバンドのイメージと、このバンドのイメージが違っており、少し気になっただけだ。

 

「よく聞いてくれたわね。」

 

すると湊さんは組んでいた腕を下ろし、それを話す。

 

 

「私達が目指すことはただ一つ…FUTURE WORLD FESにトップの成績で出場する事よ。」

 

 

…何だって?

 

瞬間俺の身体から冷や汗が一気に吹き出る。

 

 

FUTURE WORLD FES…プロでも落選が当然の音楽フェス。だが1年前、俺が興味本位で出場した音楽フェス。そして…俺が音楽を辞めるきっかけになった音楽フェス。

 

頭の中で『あの時』の出来事がフラッシュバックする。

 

そう、あれはフェスが終わり、手に入れた力の愉悦感に浸っていた帰り道。

 

道端に集まる野次馬と警察達。そしてその中で横たわる一人の男性。

 

僕の数少ない家族。もう会う事ができない家族。

 

そう…あの時フェスに出たせいで…おじさんは…

 

「――――ウ?ユウ!」

 

「……!」

 

リサさんの声に気付き、ふと我に返る。

 

「…大丈夫? 顔色悪いけど…」

 

「う、うん…大丈夫…大丈夫だよ…」

 

リサさんが心配そうに僕の顔を覗き込んで来る。一応「大丈夫」って答えたけど、実際の所結構キツイ。

 

けど僕の様子を気にする事なく、湊さんは話を続ける。

 

「それで? 答えを聞かせてくれるかしら?」

 

呼吸が苦しい、冷汗が鬱陶しくて、耳元で鳴っている心音が五月蠅い。

 

「…ゴメンっ!無理っ!」

 

「ちょ、ちょっと! ユウ!」

 

俺はそれだけを吐き捨てる様に言うと、リサさんの声を無視して、俺はその場を逃げる様に走り出し、あても無く何処かへ駆け出すのだった。

 

 




これから徐々にリサがヒロインになっていきます。


いつも挨拶を交わし、ちょっとした世間話をする程度の仲。

そんな人が何かを抱えていた時、貴方はどうしますか?

次回「リサさんには何も出来ないと思う。」

例え無力でも、力になりたい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

リサさんには何も出来ないと思う。

リサside

 

「逃げる様に出て行って、一体どうしたのかしら。」

 

ユウが何処かに走り去ってしまった直後、友希那が不思議そうに呟く。

 

「気にしても仕方ありません。惜しい人材を亡くしたのは事実ですが、やる気がなければ意味ありませんし。」

 

どこか冷たい口調でそう言う紗夜。ユウの事を軽視している様な台詞に、アタシは僅かだが怒りを覚えた。

 

今日、紗夜が練習に来た時、前の練習でいきなり大声を出して抜け出した事をみんなの前で頭を下げて謝罪してきた。

 

勿論アタシ達は謝罪を受け入れた、でも急に謝罪してきた事に疑問に思ったアタシは紗夜にその理由を聞いてみた。何やら紗夜はRoseliaの皆の前では言いにくそうだったし、二人きりの時、昨日同じくアタシが体験した事を話したら、すぐに話してくれた。

 

紗夜の言う、理由はこうだった。

 

昨日、母親の見舞いに病院へ行っていた紗夜だったが、帰り道、なんとスパイダーマンに直接会いに来て、紗夜の母や家族たちが巻き込まれた銀行強盗の事件について謝罪したそうだ。

 

どうやら紗夜はスパイダーマンに関して、それまで事件などの首を突っ込む無責任な自警団と言うイメージを持っており、その無責任さ故から母親が重傷を負ったと考え、彼の事を恨んでいたらしい。

 

紗夜の母が巻き込まれた銀行強盗事件。アタシがそれを知っている理由、頭の中で何かが繋がった様な気がした。

 

そう、それは紗夜にだけ話した昨日の出来事。急にスパイダーマンから電話が掛かって来て、急に謝られた事、そして紗夜たちが遭遇した強盗事件の事、強盗の手榴弾の爆風で紗夜の母が重傷を負った事を説明された事。

 

正直、事件の詳細を聞いた時、スパイダーマンが紗夜に恨まれる理由は無いんじゃないか? 紗夜が彼を恨むのは御門違いではないのか? と思った。でも電話越しから聞こえるスパイダーマンの声はまるで血を吐いてる様に苦しそうで、辛そうだった。

 

ただ辛そうに、『自分の責任だ』と語っており、ただ苦しそうだった。

 

何故辛そうな思いをしながら、紗夜やアタシにそのことを謝罪したのかはアタシには解らない。急に電話も切られちゃったし…きっとスパイダーマンの強すぎる責任感故なのだろう。

 

アタシが解る事はただ一つ。

 

スパイダーマンのお陰でRoseliaの皆がバラバラにならずに済んだ事だ。

 

かなりの規模の大喧嘩になるかと思ったけど、まさか一晩で片付き、翌日から多少の気まずさは有るものの、普通に練習ができるまで関係が回復するとは思わなかった。でも今この状況、喜んでいい物かと考えると、どうにも素直に喜べない。

 

だが、スパイダーマンに感謝はするべきだ。そしてもう一人、おそらく今回の騒ぎをスパイダーマンに伝えてくれたであろうもう一人の立役者。

 

小林ユウ‥‥

 

アタシが通う学校のクラスメイトで、普段は難しそうな本を読んだり、目立たないタイプの男の子。

 

何時もは挨拶を交わす程度の関係だったが、数日前に彼との関係は急変した。

 

学校にて、数日前のお昼休み。食堂でクラスの友達と昼食を摂っていた時。いきなりユウの友達が立ち上がり、何とユウがスパイダーマンと知り合いだと言う事をアタシ達に言ってきたのだ。

 

普通なら「急に何?」と困惑するのが普通だろう。でもアタシは違かった。

 

「…それ…本当なの?」

 

真っ先に口に出たのはその言葉だった、色々段階を吹っ飛ばしていたと思う。

 

でもその時のアタシは、暴漢に襲われそうになっていた所をスパイダーマンに助けられて、一言感謝の言葉を言うためにも、スパイダーマンに会う事で頭が一杯だった。今だって同じだ。

 

「うん…本当だよ。」

 

その日からアタシと彼の交流が始まった。と言っても、劇的に距離が縮まった訳じゃ無い。

 

ただ時折、彼からスパイダーマンの情報を聞き、アタシもネットで調べたスパイダーマンの情報を話すだけ。ただの情報交換だ。

 

だが今回の一件が起きた時、紗夜にどう言葉を掛けるべきか相談した時、ユウが言った言葉は衝撃的だった。

 

「リサさんには何もできないと思う。」

 

最初はその台詞に怒りも覚えたし、現状を突き付けられたようで苦しかった。

 

でも今ならユウがそんな事を言ったのか解る様な気がする。きっとあの時ユウは下手に紗夜を刺激せず、任せて欲しいって事だったのだろう。

 

Roseliaのメンバーではなく、スパイダーマンが今回の件を解決したのは少し悔しいけど…スパイダーマンとユウに今回アタシが助けられたのは事実だ。

 

彼がどんな手段を使ってスパイダーマンにこの事を伝えたのかは解らない。でも彼も今回の一件を解決へ導いてくれた者である事は確かだ。

 

今、そんな彼が辛そうな表情を浮かべながら何処かへ去っていく。

 

友希那達は残念そうな声を漏らしながら、カフェテリアを後にする。これから練習を再開するのだろう。

 

「全く、何故彼のせいで貴重な練習時間が削れてしまいました、早く再開しましょう。」

 

再び紗夜のユウを軽視するような発言。まただ、またその言葉にアタシはムッとした感情、怒りを覚える。

 

今回の一件、紗夜がバンドから離れずに済んだのはユウのお陰でもある。

 

なのに紗夜はユウの事をまるで相手にしてないかの様な発言をしているのだ。

 

正直、今すぐ紗夜を引き止めて、文句を言ってやりたい。でも、そうしたらまた紗夜は怒り出し、また喧嘩になるかも知れない。

 

大事なのは、今アタシが本当にするべき事。

 

このままスタジオに戻って練習を再開する事? 喧嘩する事を覚悟して紗夜に文句を言って、ユウのお陰で今回の一件が片付いた事を教えてあげる事?

 

ちがう。

 

理屈では説明できないけど、何となく違う気がする。

 

「……」

 

ユウが去って行った方向を見る。既にユウの後ろ姿は見えなくなっており、彼が何処に言ってしまったのかは、もう解らない。

 

解ってる。

 

今アタシの本当にするべき事。それは本能的に理解している。

 

「‥‥‥」

 

きっと、今までのアタシならすぐにユウの後を追っていたのだろう。でも、今は違う。いざ一歩踏み出そうとする時、どうしても躊躇ってしまう。

 

『リサさんには何もできないと思うよ。』

 

あの時、廊下でユウに言われた言葉が脳内でリフレインする。

 

もしアタシが今ユウの所に行っても意味はないのだろうか? 仮に行ったとしても紗夜の時みたいに逆に彼の怒りを買ってしまうのではないか? 

 

怖い、進めない、踏み出せない。

 

正直ユウの事が心配だけど、彼の元に行く勇気が出てこない。

 

だがその瞬間、ある人物の声が再びリフレインした。

 

『そうだね…後悔したくないからかな?』

 

その人物はユウではなく、アタシの恩人であり、今回の一件を解決してくれた張本人。

 

「スパイダーマンなら…どうするかな?」

 

自分自身に問い掛けて見る。答えは耳に聞こえなかったけど、頭の中に有った迷いが晴れた気がした。

 

「…ゴメンッ!友希那!アタシ、今日は早退するね!」

 

急いでスタジオに入り、アタシは有希那にそう言うと、楽器や学校の鞄を取って大急ぎでユウが去って行った方向へ駆け出すのだった。

 

アタシがユウの所で向かった所で、何ができるか。それは解らない。でも理屈ではなく、何となく本能で理解できる。

 

 

例えアタシが何も出来なくても、無力でも、何かを抱えているなら、力になりたい。

 

相談できるような事じゃなくても、アタシには無関係な事でも、このままユウを放っておいたら、きっとアタシは後悔する。

 

後悔は、したくない。

 

「ユウ…何処…?」

 

スタジオを出て、まずはCircleの周辺を探してみる。

 

ユウが出て行って数分しか経っていない今、そんなに遠くには行っていないはず。

 

でも居ない…何週も探してもユウの姿は見えなかった。

 

「本当に、何処に行っちゃったの…?」

 

少しずつ範囲を広めても、ユウは見つからない。

 

ユウ…もう帰ってしまったのだろうか…

 

ここはもう既にCircleから離れており、商店街も抜けて住宅街に入ってしまっている。

 

「学校で話すしかないのカナ…」

 

それでも会う事は出来ると思うケド、また何やかんや有って、理由を付けて逃げられそうだ。

 

「…どうしよう。」

 

アタシとユウはただのクラスメイトだ。ただ単に今回の一件で手を貸してくれた恩が有るだけで有って、友希那やRoseliaの皆の様に特に深い関係と言う訳じゃ無い。

 

でも…何なのだろう。この不快感は。

 

アタシ自身体験した事のない不快感に耐えながら、ひたすらユウを探す。

 

「やっぱり学校で話すしかないのかな…? …!」

 

そう呟き、内心諦めかけた時、アタシの目は一転に集中した。

 

そこは住宅街の真ん中に有り、良く子供たちが遊んでいる公園。だが今はもう夕方を過ぎ、遊んでいる子供たちはもういない。

 

だが一人、見覚えがある羽丘の男子生徒がブランコに揺られてながら俯いている。…アレ?一瞬デジャヴを感じたけど…気のせいカナ?

 

いや、今は目の前の事が優先だ

 

「ユウ…!」

 

アタシはようやく見つけられた喜びから、思わずそこに駆け寄る。

 

「リサ…さん?」

 

アタシに気付いたのか、顔を上げ、声を上げるユウ。

 

だがその表情は、学校に居る時や、楽器を演奏している時とは比べ物にならない程暗く。何かに怯えている様だった。

 

「ユウ…」

 

…彼の手が震えている。

 

それにこの怯え方…尋常じゃない。

 

一体彼に何があった? Circleに居た時から思ったけど、FUTURE WORLD FESの事を聞いてから様子がおかしくなった。

 

「ユウ…一体…どうしちゃったの‥‥?」

 

 

 




次回遂にユウの過去が明らかになります。

と言っても、あくまで一部ですが。


次回予告

今井リサ。心の準備はもう出来たか。

今から貴方が知るのは彼の深い闇の部分。そして彼の原点となる事

次回「大いなる力には、大いなる責任が伴う。」

後悔しても、もう戻らない。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大いなる力には、大いなる責任が伴う。

更新が遅れたのはモンスター博士って奴の仕業なんだ。


リサside

 

アタシ達が目標とされる音楽フェス、FUTURE WORLD FESの事を聞いてから酷く怯えているユウ。

 

「ユウ…一体…どうしちゃったの‥‥?」

 

アタシは今まで見たことが無い怯え様に、困惑しつつ、彼にその理由を尋ねた。

 

「別に…ちょっと嫌な事思い出しただけ。」

 

ユウは早口にそう言うと、再び俯いてしまう。

 

嫌な事…?一体何だろう?

 

勿論アタシがその事について知る資格はない。でも、その暈した様な言葉がどうしても気になった。

 

多分彼の言う『嫌な事』と言うのは、きっと口にしたくない事だろう。

 

 

「その…大丈夫?」

 

アタシは肩に背負っているベースを下ろし、ユウの隣に座る形でベンチに腰掛ける。

 

この様子、ヤブヘビである事は間違い無い、でもだからと言って、ユウを放って置くこともアタシには出来ない。情けない事に、アタシはユウの事を気遣う事しか出来なかった。

 

「うん、大丈夫…平気だから…」

 

本人はそう言うが、様子をからしてとても平気そうには見えない。

 

「…何も…聞かないの?」

 

隣に座っていると、ユウが不安そうな声でアタシに訊ねて来る。

 

確かに、気にならないと言えば嘘になる。でも下手に質問してユウを傷付けたくない。

 

「うん…アタシは…こういった事がちょっとニガテみたいで…」

 

彼に何もすることが出来ない歯痒さを覚えながら、アタシはそう言う。だが、それを聞いたユウは肩がビクリと上がった様な気がした。

 

「…そうなんだ…」

 

俯いたままでユウ表情が良く見えない。でも手の震えが少しだけ治まった様だ。

 

一体何が彼をそこまで怯えさせていたのだろう。一体何が彼を追い詰めていたのだろう。

 

駄目だ、やっぱり気になる。お節介だろうけど、アタシに話して‥‥それで少しでも気が楽になるなら…

 

「…その…何が有ったかアタシに相談できるカナ? その…お節介かもだけど…」

 

「‥‥‥」

 

黙り込んでしまうユウ。ずっと俯いているからか表情は見えなかったけど、更に雰囲気が暗なった様な気がした。

 

それから何分経ったのだろうか。

 

あれからずっとユウは俯いたままで、黙り込んでしまっている。

 

「その‥‥全部アタシのお節介だから、ムリならムリで良いんだけど…」

 

「‥‥だったらさ‥‥」

 

すると静かに消えそうな声だが、ユウは声を出した。

 

「これは‥‥全部独り言…ただ‥‥誰かに打ち明けた方が楽になると思って‥‥僕が言う独り言…」

 

ユウのその言葉を聞いて、不謹慎だが、アタシはほんの少し嬉しく感じた。

 

まるでユウがアタシを頼って、彼を助けられるようだったからだ。

 

例え、独り言でも。それを吐き出して気が楽にならそれでも良い。

 

 

「…今から1年前の話かな?FUTUREWORLDFES‥‥だっけ?あのフェス…実はさ、俺出場してたんだよ。」

 

「…え?!」

 

急な事で素っ頓狂な声が出てしまった。え?出場してたって…どういう事?

 

「うん…ピーター・パーカーって匿名で、ホラ…こんな白マスク付けて。こうみえてもバンドやっていたんだよ?」

 

「ピーター・パーカー…って、え?! もしかして、あの…『amazing』の?!」

 

「うん…そう…そのバンドの…」

 

バンド『amazing』…丁度1年前に結成され、FUTUREWORLDFESが終わると同時に突如解散した…巷では伝説と呼ばれているバンドだ。

 

「そ、そうだったんだ…」

 

色々リアクションが有ると思うけど、驚きが一周回って、これしか反応できない。

 

ずっと前から何となく『amazing』のボーカルとユウの声が似ていた様な気がしたけど、まさか本人だったとは。

 

そんなアタシの事を置いてけぼりにする様に、ユウは語り始めた。彼の過去について。彼の記憶についてを。

 

 

ごめん。色々急にこんな事言われても、ビックリするよね。最初から説明するよ。

 

今から1年前、僕はとある力を手に入れたんだ。

 

まぁ‥‥力と言っても色々あると思うけど…まぁ僕の場合、『才能を手に入れた』って言えば解りやすいかな?ホラ、テレビとかで良くやっているじゃん。雷に打たれて音楽の才能が開花したとか、雪山で遭難して死にかけたと思ったら超人的な計算力を身に付けたとか。

 

まぁ、僕の場合は雪山に遭難した訳じゃ無いし、雷に打たれた訳でも無い。ただ純粋にちょっとしたトラブルだったけど…僕はそのトラブルがきっかけで力を得たんだ。

 

僕が手に入れた力は色々有って‥‥全部を言うとキリが無くなっちゃうから大半は省略するけど…そうだね‥‥簡単に言えば『頭が良くなった』のかな? まぁ、それだけ聞いてもピンと来ないよね。

 

一言で言えば、『何でも一度見ただけで覚える事が出来る』って言えば解るかな?

 

そう、そんな感じ。自分で言うのも何だけど、僕はそのトラブルをきっかけに『天才的な頭脳』を手に入れたんだ。

 

ははは、僕が毎回テストで満点を取っている理由が解ったかな? なら…僕が何故FUTUREWORLDFESに出場できたか、ある程度解ったよね?

 

そう、僕は力を手に入れてから、音楽を始めたんだ。

 

と言っても、続け始めたって言えば良いかな? 力を手に入れる前からギターを少しだけ弾いたりしてたけど、やっぱり難しくてね…

 

あの時は…色々浮かれていたんだ。

 

だって何もかもが一度見ただけで完全にマスターできる様になったんだから、そりゃ誰だって浮かれる。

 

色んな事をした。

 

物理学の論文を色々読んで知識を身に付けた時も有った、学校のテストで良い点を取っている事を自慢している奴に、100点の解答用紙を見せて見返してやった時も‥そして‥‥

 

 

トップクラスの音楽フェスに出場したり。

 

 

そう…あの時は…朝早く家を出たんだっけ…

 

それで…確かおじさんに会場まで送って貰ったんだ。

 

俺には両親は居なくて、叔父さんと叔母さんで暮らしているんだけど、二人は俺の事を本物息子の様に育ててくれた。

 

でも…俺は馬鹿だった。

 

そう、あれは会場に着いて、車から降りようとした時だった。

 

「ああ、待て。ユウ。」

 

これからライブで気分が高揚感に身を浸していた時に、突如現実に戻され、その時の僕は苛立っていた。

 

「‥‥何?」

 

「聞く所によるとこのフェスはプロでも落選が当然らしく、出れるのは相当な実力者との噂も聞く。」

 

「ごめん急いでるんだ…それ今話さなきゃいけない事?」

 

「ずっとお前と話せていないから、お前の事が解らなくなって来た。家の手伝いもせず、部屋に籠って作詞作曲ばかりしている。話をするにもここ最近出来た彼女の話ばかり…他のバンドと喧嘩をしたって噂もーーー」

 

「あれは俺が始めた喧嘩じゃない!」

 

「でも相手を…殴り飛ばしたんだろ?」

 

「じゃあ、逃げれば良かった訳?」

 

「ユウ…俺もお前くらいの時は同じ様な経験をした。……お前の年頃でどう変わるかによって人間として生きていくかが決まる…どう変わるか慎重に決めるんだ。お前と喧嘩したアーティストも殴られて当然かもしれないが…お前に殴る権利が有る訳じゃない。…忘れるな。『大いなる力には大いなる責任が伴う』。」

 

「やめて、おじさん。父親でもないのに…」

 

「違うユウ。俺はただお前が心配ーーー」

 

「じゃあ父親の真似事をしないで。見ててイライラする。」

 

「……ああ…そうだな…すまない……20時には迎えに来る…」

 

「いや、自分で歩いて帰るから必要ない。さっさと帰って。」

 

僕が車から降りた後そう言う。おじさんは一瞬悲しそうな表情を浮かべると、車を走らせ家へと帰って行った。

 

でも僕は知らなかった…これがおじさんとの最後の会話になるなんて。

 

 

 

その後…会場に着いた俺は、リハーサルもせず、本番まで時間を潰す為に、控え室でバンドメンバーと共にくつろいでいた。

 

そして前のバンドの演奏が終わり、俺達の出番が目前となった時。

 

「おい、誰かー!誰か来てくれー!」

 

控室のソファーに横になっていると、突如廊下からそんな声が聞こえた。

 

今から本番だってのに、何なんだよ。

 

内心イラつきながら、一言文句を言ってやろうと控室のドアを開く。

 

「ちょっと!何?! 五月蠅いんだけど!」

 

だがドアを開き、廊下向かってそう言った直後、何者かが僕の前を全力疾走してきた。

 

「その男、捕まえてくれー!」

 

遠くから突如そんな声が聞こえ、突然の事に思考がフリーズしてしまう。

 

「…は?」

 

すると何処からかドシンと衝撃音が聞こえ、何事かと思い、音の聞こえた方向に振り返る。そこには先程全力疾走していたであろう男が転んでしまったのか、うつ伏せに倒れており、立ち上がろうとしていた。

 

 

「その男、泥棒だ! スタッフに化けて大勢の財布盗みやがった!」

 

「あっそう、俺には関係ない事だし。あんまり騒ぐなよー。」

 

そう言うと俺は、廊下から背中を向け、控室に戻ろうとする。この事は自分には関係ない事、多分俺の財布が泥棒に盗まれたら全力で捕まえるだろうけど、そうじゃない以上僕に関係ない事。

 

それに本番前にこんなくだらない事で労力を使いたくない。正直こんな事に関われば面倒な事になるのは明白だし、ファンが待っているのに時間の無駄だ。

 

「…ありがとう…」

 

泥棒はもう既に倒れた状態から立ち上がった様で、一言俺に礼を言うと何処かへと逃げ去って行った。そして、財布を盗まれた一人であろうフェスのスタッフはと言うと、こちらに辿り着くなり、大声で僕怒鳴りつけてきた。

 

 

「お、オイ!今の捕まえられただろ?!なんで何もしなかった!」

 

「なら、貴方が勝手にどうぞ。俺はこれから本番だから。」

 

「クソッ!」

 

スタッフの一人はそう吐き捨てると、何処かへと行ってしまった。

 

「ユウ。何かあったのか?」

 

すると楽屋で騒ぎ声が気になったのか、同じバンドメンバーである海斗が声を掛けて来る。

 

「いや、ちょっとしたトラブルらしい。俺達には関係ないことだよ。」

 

まぁ、何が有ったのか知らないが。俺には関係の無い事。取り敢えず今はステージの上の事だけをイメージしよう。

 

「そっか、それよりそろそろ本番だぜ。」

 

「ああ、まぁいつも通り。気楽に逝こうぜ、ハリー。」

 

「ははは、まぁそうだな。今日も頼むぜピーター。」

 

今回は千聖も見に来てくれている。特別気合を入れる必要も無いと思うけど、大勢のファンが待ってくれているし、ちょっとは本腰入れて取り掛かるか…

 

でも僕は気付かなかった。この瞬間、選択肢を間違えていた事に。

 

 

 

「じゃあ俺はこっちだから…」

 

「ああ、じゃあね海斗。」

 

千聖とも別れ、海斗とも別れ、ライブが終わった帰り道。それは起きた。

 

そう、あれは家から数メートルも離れない歩道のど真ん中だったか…

 

「…ん?」

 

妙な人集りに疑問を覚える。それに奥にはパトカーや救急車も居るようで赤いランプの光が見える。

 

事故でも起きたのか?でも救急車が来てるって事は、只事じゃないよな…

 

「まぁ、僕には関係ない事だけど。」

 

そう呟きながら他人事として片付けようとするが、突如隣から聞こえた会話に、思わず自分の耳を疑った。

 

「小林さんちの旦那さんが、通り魔に刺されたらしいよ。」

 

「この辺りで小林さんって…もしかして、鳴さんの旦那さん? 災難ねぇ…」

 

瞬間、冷汗が体から飛び出た。

 

通り魔に刺された、同じ小林って苗字、そして鳴さんの旦那という言葉。

 

…まさか…

 

心の中に出来た不安が徐々に膨れ上がり、俺はその不安を晴らして安心する為に野次馬達を退けてパトカーたちが集まっているだろう中心部へと走った。

 

駆け出してから人集りの中心部に向かうまで、距離は50mも無く、走って向かうのなら1分も掛からないだろう。

 

だが俺はその短い間に何度も、繰り返し心の中で願った。

 

 

どうか弁おじさんでありません様に…と。

 

 

だがその願いは無残に打ち砕かれた。

 

 

「…そんな…嘘だろ…!」

 

 

その場を囲っているテープを潜り抜け、警察官たちを押しのけ、中心部に倒れている人の前に駆け寄る。

 

この服、そしてこの体形。間違いない。

 

「お、おじさん‥‥!」

 

 

顔を見た瞬間、頭が真っ白になる。

 

何となくそんな気はしていたが、最後まで認めたくはなかった。

 

だが顔を見た瞬間、認めるしかなくなってしまった。

 

そこに倒れていたのは、俺の家族であり、俺にとって父親同然の存在、弁おじさんだったのだから。

 

「お、おじさん! 俺だよ。分かる? ユウだよ。…おじさん。」

 

震える声で必死に呼び掛けるが、おじさんは倒れたままで、目に光が無い。

 

仰向けに倒れており、お腹には通り魔に刺されたのであろう傷痕があり、そこからは大量の血が流れている。

 

何度呼び掛けても反応せず、この出血の量。

 

「おじさん、ねぇ…おじさんってば!」

 

返事はない、何をやってもただその場に冷たくなったおじさんが横たわるだけ。

 

おじさんは既に死んでいた。

 

ぽつりぽつりと雨が降り、神様が僕に天罰を落としている。

 

でも天罰が雨だけならどれだけ良かっただろうか。

 

 

 

 

 

 

犯人はもう捕まっていた、どうやら現行犯で逮捕されたらしい。

 

でもおじさんを殺したであろう犯人の顔写真を見た瞬間、俺の頭は衝撃に襲われた。

 

なんせその犯人はつい数時間前に会った男。そう、その男は俺が本番前に楽屋前を通り過ぎた男、あの時廊下でスタッフから逃げていた泥棒だったのだから。

 

あの時、俺がスタッフの言う事を聞いて、泥棒を捕まえていたらこうはならなかった。

 

いや、そもそも俺がフェスに出ず、家に居ればこんな事にならなかったかも知れない。

 

おじさんを喪ったあの日、降りしきる雨の中俺はずっと後悔していた。

 

でも後悔しても、もうおじさんは戻らない。

 

雨の日の旅に、僕はあの日を思い出し、自分の罪を悔いる。

 

雨は僕に罪の意識を改めさせ、僕を罰する。

 

この前の紗夜さんの時もそうだった。

 

でもやっぱり、あの日の事は、思い出したくない。

 

 

…雨の日は。嫌いだ。

 

 

 

 

 





最近、また新しいバンドリの小説を書こうかと思ってます。



次回予告

想像以上の出来事に唖然とし、途方に暮れるリサ。

休息の一時も水泡に返し、自分の罪を改めて意識させられ、打ちのめされるユウ。

だがそんな中、ユウはとある人物と出会う。

次回『今すぐ出来る事は何だろう?』

さぁ、立ち上がれスパイダーマン!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

今すぐ出来ることは何だろう?

遅くなったのは白鷺千聖って奴の仕業なんだ。

作者の脳内でのこの作品の主題歌

OP「ツキアカリのミチシルベ」歌:Roselia

ED「CQCQ」歌:小林ユウ


リサside

 

「ざっとこんな感じだよ。」

 

ユウがその一言で話を終えた時には既に夕暮れ時は既に過ぎ、公園は薄暗くなっていた。ユウはと言うと公園の薄暗さと相まって今にも泣きだしそうな程の哀愁が漂っている。

 

「馬鹿だよね…俺…」

 

絞りだした様で、今にも消えそうなユウの声。

 

そんな状況でユウが話してくれた事は、彼の過去について。だがその内容は耳を疑うような事ばかりだった。

 

ユウはかつて伝説のバンドと呼ばれた「Amizing」のボーカルで、アタシ達Roseliaの目標である「FUTURE WORLD FES」にも出場した事もあるなんて…

 

でも、それ以上に驚いたのはそのフェスの裏で起こっていた事だ。

 

彼はフェスに出る前に自分の育ての親である叔父さんと喧嘩別れし、フェスが終わり、仲直りする機会が有るかと思えば叔父は強盗に刺されて亡くなっていた。しかもそれはユウがフェスの本番前に逃がした強盗だったと言う事だ。

 

「…今日ライブハウスに来たのも、もう1年も前の事だし、またギターを弾けたけど。‥‥やっぱりフェスの話を聞いた途端思い出しちゃって…キツかったみたい。」

 

意気消沈しているユウ。どうにか励ましたり、慰めてあげたい。でも…

 

解らない。

 

何て声を掛けたら良いのか、解らない。

 

叔父さんが死んだのはユウのせいじゃない。でも、そんな無責任な事を言うのは慰めにならない。

 

ユウは今自責の念に駆られている。助けるどころか、多分逆効果だろう。

 

それに音楽を辞めた理由も、フェスでの事が絡んでいるのだろう。

 

でも…解らない。今のユウには何を話しても気付けてしまう、そんな気がする。

 

瞬間、アタシの頭の中に再びユウの言葉がフラッシュバックする。

 

『リサさんには何もできないと思うよ。』

 

そっか…そういう事だったんだ…

 

そう、アタシはヒーローを『信じられる人。』そして、ユウはヒーローと言う存在を『信じられない人』…いや、きっと紗夜ともアタシとも違うどちらでもない存在、『信じたい人』なんだろう。

 

ユウの言う通りだ。アタシの17年の人生、自分でどうしよもない事なんて滅多に無かった。いや…それはアタシ自身が気付いていないだけか…きっと有ったとしても、誰かが助けてくれていたんだ…

 

誘拐されそうになった時だって、スパイダーマンが助けてくれたのだから。

 

でもユウは違う。

 

自分どはどうしよもない事、誰も助けられない事を経験していて、心に深い傷を負っている。

 

今すぐ出来ることは何だろう?

 

ユウをどうにかしてあげたい。でも、その為には何をすればいいの?

 

…だめだ、どう考えても浮かばない。

 

「…ゴメン、気分が悪いから今日はもう帰るね。」

 

ユウはそう言うと、ふらふらとベンチから立ち上がるとそのまま公園から去って行ってしまった。

 

アタシは引き止める事も出来ず、徐々に遠くなっていくユウの背中を眺めている事しか出来なかった。

 

 

ユウside

 

行く当てもなく、フラフラと夜の商店街を歩く。

 

目的もなにもなく、雑踏の中を彷徨う様に。

 

重くて怠い体を動かしながら、意味もなく辺りをとぼとぼと歩く。

 

今日、久しぶりに楽器を楽しく演奏できると思った。だがその願いは悉く打ちひしがれた。

 

今日聞いた「FUTURE WORLD FES」という言葉、俺が一生引き摺って行くであろうあの日の出来事。それを思い出してしまった。

 

「…弁おじさん…」

 

過去に自分の過ちで喪った家族の名前を呟く。

 

おじさん…俺は音楽を楽しむ事すら許されないの?

 

「大いなる力には、大いなる責任が伴う。」

 

かつておじさんと僕が最後に交わした会話、おじさんの遺言ともいえる言葉が脳内で何度もリフレインする。

 

だがその言葉が響く度、この「責任」と言う物を果たさなくてはいけないような感覚…強迫観念の様な物に心が襲われるのだ。

 

自分は常に誰かの為に生きなければならない、例え自分の喜びも、幸せも、全てを投げ打っても誰かの為に尽くさなくてはならない。

 

自分の中で誰かがそう命令しており、その命令に逆らってはいけない様な感覚に陥る。

 

俺はヒーローだ、人々の為ならば命を捨てる覚悟だってしている。だが‥‥矛盾しているかもしれないが、自分の好きな事、音楽が出来ない事、それを突き付けられた様で、少しキツく心が締め付けられた。

 

「はぁ…」

 

歩く気力をも無くし、近くの建物の柱に寄り掛かる。

 

自分の好きな事をするのはそんなに悪い事なのだろうか? ヒーローは趣味を楽しんではいけないのだろうか?

 

「俺って…カッコ悪…」

 

本来ヒーローなら今日の僕みたく休まずに常に誰かを助け、周囲に気を配り、自分よりも他人を優先する。

 

でも…今の僕は果たしてそれが出来ているのだろうか?

 

もしかしたら、自分がヒーローとしての自覚が甘かったから、氷川さんの家族を助けられなかったんじゃないか?

 

もし、自分がもう少しヒーローとしてしっかりしていれば、氷川さんは悲しまずに済んだんじゃないか?

 

千聖の言うように、俺はヒーローなのだろうか。

 

柱に体を委ね、俺は頭を抱えながら崩れ落ちる。

 

なぁ…おじさん…俺は今ちゃんと『責任』を果たせているのだろうか?

 

頭を抱え、俯きながら天国のおじさんに問い掛けるが、勿論返事は聞こえない。

 

すると、何処からか足音が聞こえる。

 

誰だろう? リサさん? もしかしてまた千聖が慰めに来てくれたのだろうか? それとも海斗か?

 

いや、違う。 この足音は妙にトテトテとしており、凄い速さで此方に向かっている。

 

本来なら警戒する所だろうが…スパイダーセンスも反応しないし、何より今はどうでも良い。誰が来ようと、今の僕はそんな事を気にする気力が――――

 

「貴方、笑顔じゃないわね!」

 

…え?

 

思わず頭を上げ、話しかけて来た少女の顔を確認してしまう。

 

千聖と同じ花咲川の制服を着て、千聖よりもやや濃いめの金髪、だが胸のふくらみは千聖よりも豊かだ。それに彼女が纏っている雰囲気は何処か活発さを感じた。

 

「君は…誰だ?」

 

「私はこころよ! 貴方を笑顔にしてあげるわ!」

 

こころ…そう名乗った少女は俺の手首を掴み、グイグイと俺を引っ張り始めた。

 

「ちょ、ちょっと! いきなり何?!」

 

「貴方を笑顔にしてあげるわ!」

 

駄目だ、話が通じない。

 

一応抵抗してみるが、全くビクともしない。力ずくで振りほどく事も出来るけど、下手にそんな事をするとこの子が怪我しかねないから、渋々少女に身を任せる。…ってアレ? この方角って…

 

 

 

数分後、俺の予想は的中した。

 

「こっちよ!」

 

「ちょ、ちょっと!こころさん!今はダメ!今『CIRCLE』に行くと面倒な事になる!」

 

そんなこんなで、俺はまた、Circreへと来てしまった。

 

周りをキョロキョロと見回すが、Roseliaの姿はない。

 

…良かった…リサさんとあんな別れ方して直ぐに再会するとか恥ずかしすぎる。

 

一刻も早く何処かの部屋に入らなければ…!

 

そんな事を考えつつ、どうにかこころさんから離れようとするが、ずっと俺の手を握っているせいで迂闊に振り払えない。

 

そのまま、俺はあれよあれよとステージ前に連行されてしまった。

 

「全く…一体何なんだよ…あれ?こころさん?!」

 

ステージ前のアリーナに連れられたと思ったら、今度はいつの間にか隣に居た筈のこころさんが消えていた。

 

ステージ前には俺しか居ない、これはこれである意味不気味だ。だがこんな所に連れ出して、こころさんまさか観客が俺一人のこの状況でライブをする気か?

 

そして1分ほどが経ち、いい加減帰ろうと思った時。

 

「はじめるわよ! 笑顔のオーケストラ!!」

 

ステージが突如眩いスポットライトに照らされた。

 

 

 




次回予告

こころ達の演奏を聞き、ヒーローとしての矜持を見出し決意を固めるユウ。

そんな中、再びリサに魔の手が忍び寄る。

次回「今度は…お礼をさせてくれる?」



どうも、作者のゴキブリです。リアルでの事が忙しくて長く更新できず、申し訳ございませんでした。

同じ世界線での物語であるよう実のクロス小説ですが、キャプテンアメリカに決まりました。

また、新しく執筆しているバンドリの小説はゲームの「龍が如く」のクロスオーバーにしたいと思います。

あと、この小説ですが、次話辺りで1章の最終回となり、2章からはスーパーヴィランを出したいと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。