ペロロンチーノの転生録【オバロ二次】 (taisa01)
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プロローグ
プロローグ


 小高い丘に生えたひと際大きな木の上。

 

 長い黒髪をたなびかせた少年は、遠くに広がる風景を眺めていた。

 

 周りには生命力を感じさせる美しい自然が広がり、空気も澄んでいる。ほのかな緑の香りにつつまれながらも、遠くには帝都の美しい街並み……人の営みが垣間見える。視線を上に向ければ、空はどこまでも高く蒼い。そして白い雲を従えてどこまでも広がっていく。

 

 なによりここには人がめったに訪れない。静かに過ごすにはいい場所だ。だからこそこの場所は、少年にとっての一番のお気に入りスポットだった。

 

 そんな場所に、今は二人ほど邪魔者がいる。

 

「ここがお前のお気に入りの場所か」

 

 金髪に濃紫の眼。見るからに高貴な雰囲気を纏った少年が、感慨深そうに呟いている。

 

 そしてもう一人は、齢二百年をゆうに超えている老人がフライの魔法でふわふわと浮いている。節くれた指で撫でつける白い髭。深いしわに覆われた顔。柔和な表情を浮かべるその姿は、はたからみれば好々爺然としたものだ。この老人がこの国どころか周辺国家における最大戦力と知ってしまうと、恐怖の権化以外のなにものにも見えない。

 

「ペロ。爺。俺の……いや、俺たちの手で帝国を変えてみせる」

 

 金髪の少年は、遠くに見える帝都に手を伸ばしながら物騒なことを宣言する。

バハルス帝国の皇太子ジルクニフの姿に、黒髪の少年、ペロロンチーノ・ヘッセンは、小さく「主人公乙」と、つぶやいた。

 

「ああジル。私のかわいいジルや。私の育てた中でもっとも優秀なお前ならば成し遂げるだろう。いやそれ以上の結果を出すであろう」

 

 ジルクニフの言葉に、フールーダは嬉しそうに頷く。たしかにジルクニフの頭脳はすごい。転生した結果、成熟した精神を持ったペロロンチーノよりも感情を制御し、理知的に考え、素早く最適な結果を導き出すのだから、本当の天才とはこんな存在の事をいうのだろう。その上で経験という血肉を得たらどれほどの存在になるのか……。

 

「お前はできると言ってくれないのか?」

 

 紫の瞳が、ペロロンチーノに問いかける。

 

「お前ならできるだろうよ」

 

 ペロロンチーノはそっけなく答える。ジルクニフは、やれやれとわざとらしい仕草をしながらもう一度問いを投げかけてくる。

 

「俺たちといったのだぞ。おまえがいなくては、面白くないではないか」

「はは、まるで手に入れるだけなら簡単だと言わんばかりだな」

 

 ペロロンチーノは茶化すように言うが、ジルクニフの頭にはすでに帝国を手に入れ、改革する道筋ができていることは分かっている。それを肯定するようにジルクニフは、当たり前だと言わんばかりに笑みを浮かべる。

 ペロロンチーノは足場の悪い木の上で、器用に臣下の礼をとりながら宣言するのだった。

 

「じゃあ、こうだな。ジル。おまえなら最優の皇帝になれる。でも俺たちならさらにその先まで行けるだろう」

「当然だ。ペロ、人類圏の立て直しだってできるさ」

 

 ジルクニフはそういうと、ペロロンチーノに満面の笑みを向けるのだった。

 

 

 

――ほんと、どうしてこうなった。

 

 




2021/12/11
 本日は2話投稿となります。


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転生したら貴族だった件
第一話 思い出されるのは最大の黒歴史


 

 転生もの。

 

 俺の知る限りで、結構昔からあったジャンルだ。そして俺が生きていた時代でもそれなりに人気のジャンルだった。

 

 記録としてしか残っていない自然豊かな過去や異世界に転生して、苦労せずに成功したい。異性にモテたい。安全に暮らしたい。外は汚染物質が蔓延し、防護服と強化心肺が無くては生きていけないような世界なんてもう嫌だ。こんな格差社会から抜け出したい。etc。etc……。

 

 転生モノなんてジャンルが流行るのは、現在に対する不満と願望の反映でしかない。偉い人はしたり顔で言っていた。

 

 そんなの当たり前じゃないか!

 

 大人になり社会構造の片鱗が見えるようになれば、否応なしに世界を統治する連中(怪物共)の思惑というものが透けて見えてくる。すでにこの世界は数十億の人類を抱えることができなくなっている。世界レベルの災害により人口減少が爆発的に進む中、さらに社会制度的に加速させ人口を調整しているのだ。いや、生物を減らすことで均衡を取り戻そうとしている。

 

 その方法論として知力・財力・権力などで様々な弱者を作り消費していくのだ。

 

 幸いなことに俺や姉貴はギリギリ中層にいた。それは両親のおかげだ。そして、その辺が割り切れないからこれ以上の勝ち組にはなれないし、なろうともおもわない。だから俺は、仕事(役割)仕事(役割)と割り切り趣味の時間を大事にすると決めた。姉貴のように趣味と仕事(役割)が一致してしまっているパターンも悪くは無いが、俺は分けるほうがより楽しめると感じたからそうしている。考え方の違い程度でしかない。

 

 だが……。

 

 

――そんな俺が転生するなんて

 

 

 転生なんてそれこそ科学的ではない。人体の科学的解析が完了し、アンドロイド(自動人形)と人類の違いをゴーストの有無と定義できるようになった時代。大人にもなれば、転生なんてものは夢物語と割り切っていた。

 

 その辺が割り切れて無かった子供時代。修練の合間に自分が転生した時に備えていろんなことを学んだものだ。

 

 たとえば同じ世界の時間軸における過去に転生したなら歴史知識の有無は、未来予知に等しくなる。災害を予想し、人物の趨勢を知る。同じ時代に生まれた道具の原理を知り先んじて再現できれば力になる。

 

 数学や物理も侮れない。数学的なアプローチは科学技術の根幹である。光と影、重力加速度。沸点、融点、単純な罠も物理法則であり、統計的アプローチはわかりにくい自然現象の乱数から傾向を浮かび上がらせる。

 

 もちろん魔法などの技術もそうだ。力ある言葉と内なる魔力の操作。外なる魔力への効率的な干渉も重要だ。

 

 果ては刀や簡単なアナログ計算機の作り方から、原始的な製鉄炉の図面。そんなものまで頭に叩き込んだのだからなんともいえない。

 

 副産物で学校の成績が上がり、大量の雑学はコミュニケーション能力を支える話題という下地になった。これがなかったら、逆に周りになんと言われたことか。

 

 でも大人になるにつれて理解してしまう。

 

 空想と現実は違う。

 

 なのに、今、おれは転生していた。

 




2021/12/11
 本日はプロローグと合わせて2話投稿です。
 明日からは1日1話で公開となります。


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第二話 転生したら貴族だった件

 

 最初は自分が何者なのかわからなかった。

 

 ただ本能のままに生きていたような気がする。

 

 実際にその通りなのだろう。誰かに抱かれた時の温かさが心地よく、ふと感じる風のようなものになぜか心が引かれた。お腹が空けばそれを訴え、気持ちが悪ければそれを伝えようと声を出す。

 

 三歳になる頃、自我という積み木がある程度積みあがった時、自分が誰だか理解することができた。

 

 ペロロンチーノ・ヘッセン

 

 現カッセル・ヘッセン方伯の三男である。長男のカールは九つ上の十二才。次男のパウロは十一才。間に姉フィアーネ、ジータの二人。俺で五人目。どうやら父上はあと一・二人を望んでいるらしい。そろそろ母上が限界じゃないか? 体力的に。

 

 ペロロンチーノが名前を自覚し、自分が裕福な家庭に生まれたことや、日課の散歩で自然が豊かなことを知った。乳母に抱き上げられ、兄や姉と触れ合い、半年もするとここが夢でもなんでもなく一つの世界であり、自分が別の記憶を持って転生したと言う風に考えるようになった。

 

「あの世界じゃないのか」

 

 最初の感想がこれである。

 

 初めて木に触れ、そのごつごつとしているがどこか柔らかい感覚。胸いっぱいに空気を吸い込めば、ほのかに感じられる不思議な香り。美しい青空を見上げれば優雅に飛ぶ鳥の姿をどこまでも追いかけることができる。

 

 裕福な家庭とかその辺を度外視にしても、この世界では人間がまだ生きること(・・・・・)を許されている。そんな風に感じることができた。

 

 とはいえ元はエロゲー イズ マイライフを座右の銘とした俺が転生したのだから、いろいろ考える。

 

 

 メイドさんの胸に抱かれてウトウトすることだけがすべてではない。ホントウダヨ。

 

 

 さて話を戻すと、実はすごい特典能力があるのでは? なんて考えてステータスとか、気の修行? などいろいろやってみたが何も起きなかった。

生まれが恵まれているといえばそれまでだろうが、家族や使用人たちに、子供の遊びと思われていたようなので、ひとまず問題なしとした。

 

 ただこの世界には魔法や武技という技、そして固有スキルとも言うべきタレントというものもあるというのだ。

 

 オラ、ワクワクしてきたぞ。

 

 だが、同時にひっかかる。

 

 

 ペロロンチーノ。

 

 

 他の兄弟とか家族とまったく関連性が見えない自分の名前。なにより、ペロロンチーノ自身に覚えがあるのだ。

 

 DMMO―RPG ユグドラシル

 

 前世で遊んだゲームの中で、たぶん一番長く遊んだゲームにおける、自キャラクターの名前だ。

 

 もっともゲームの中では、異形種のバードマンで、今のペロロンチーノとは似てもにつかない。一瞬、俺この後バードマンに変身でもするのかと考えたが、そんな雰囲気はもちろん無かった。

 

 結局名前だけかとおもったが、どうも違うようだ。それは次男パウロの魔法の授業を見学した時に判明した。

 

 この世界の魔法はどうみてもユグドラシルの低位階魔法なのだ。

とはいえ、三才児のペロロンチーノにできることなど、たかがしれている。家族、乳母やメイドが読み聞かせをしてくれる絵本やお話が中心となるが、できるだけたくさん触れるようにした。

 

 そのおかげで、いろいろ知ることができた。

 

 まずは生まれであるヘッセン家は伯爵。正確には方伯という地位の貴族であること。バハルス帝国建国前の時代から、この地を治めており、現帝国においてもかなりの高位貴族のようだ。現当主である父親の姉が現皇帝の妃の一人であり、俺と同じ年の男児を授かっていることからも、その権力の強さが伺える。

だが男児は他にも数名いるらしい。

 

 両親は家とこの地を守ることを第一としているようだ。権力欲についてはさすがに子供の視点からはわからない。だが、継承権第二位の男子が、血縁ということとなれば、確実に後継者レースにも巻き込まれる。てか、従兄弟が皇族って、ペロロンチーノ自身の身もヤバイのでは?と戦々恐々したものだ。

 

 さて家のことが出たので領地について少し。

 

 ヘッセン方伯家の領地は帝国の南方に位置する。かなり抽象化された地図っぽいものが、書庫にあった。しかしいわゆる世界地図のようなものは無く、帝国を中心とした周辺国家のものだけ。縮尺は分からないが正直いって狭いと感じた。人類の生存圏は、この地図にある程度というのが原因のようで、この地図の外にどれほどの大陸や異種族の国家が存在するかわかっていないようだ。

 

 決定的なことは人類は種として相当下位らしい。単純な戦力で言えば亜人・魔獣・魔物・異形・果てはドラゴン。いろいろいるようだが、人間は、それ以外の種とくらべて圧倒的に弱いらしい。

 

 そしてヘッセン領も他人事ではない。南西に位置するカッツェ平野がある。ここは一時期を除いて年中薄い霧に覆われ、その瘴気のせいか四六時中アンデッドが発生する危険地帯というのだ。

つまりヘッセン領は、対アンデッドの最前線。帝国守護の一端を担っている。

 

 こんな特色ありまくりのヘッセン家。貴族らしくしっかり家系図や先祖の記録というものがのこっている。

なにより実質初代様のお話を題材とした子供向けの絵本まであった。さてその中身だが、内容は単純明快。カッツェ平野のアンデッドを時の領主は放置していた。それはアンデッドの習性というものが、理解されていなかったからとされている。そんな時、集まり過ぎたアンデッドの中から強力な個体デスナイトが現れ、この地域は壊滅の危機に瀕した。それを救ったのは当時どこからともなく現れた冒険者の初代様。初代様がデスナイトをみごと打ち倒し、あまねくアンデッドを駆逐して平和を取り戻したそうだ。そして残された領主の姫君と結ばれました。めでたし、めでたし。

 

 まあ、先祖の偉業をこんな形で啓蒙するのは、ある意味で権力維持の一役を買っているのだろう。その上でアンデッドは放置してはいけないよ。という戒めにもなっている。ヘッセン領の村には必ずこの本があり、領民は最初にこのお話を学ぶそうだ。アンデッドが四六時中発生するような危険地帯に隣接しているのだ。アンデッドへの対策というわりと現実的なお話なのだから、二百年ほどたった今でも残っているのだろう。

 

 しかしデスナイトね~。ありきたりな名前だけど。ユグドラシルのアレを思い出す名前だ。レベルの割には面倒な特徴をもっていて、死霊系がメインの親友がよく盾役で使っていたよな。

 

 まあ、デスナイトもそうだが、魔法もそうだ。そこかしこにユグドラシルを彷彿とさせる名前が見つかるのだ。その片鱗は戦闘系の職種の名前にもでてくる。この世界は、あの世界に何か関係あるのだろうか。

もしかしたらあのゲームが終了して数百年後の世界に転生したというものだろうか。

 

 そんな仮説を立てながらペロロンチーノが四才になる頃、さすが貴族、毎日遊びの中に勉強や礼儀作法が組み込まれていくのがわかる。日々の会話や生活から習慣として学んでいくのだ。そんな中で特に驚いたのが武芸十八般ではないが、多種多様な武術を教えられることだ。

 

 貴族って自衛の武器さえ碌に持たない権力にふんぞり返った存在をイメージしていたのだけどな。

 

 兄姉に聞けば、全員共通なのは馬。一番上の兄は剣と槍。二番目の兄は剣と棒術。二人の姉も短剣と護身術という感じで、適性にあったものを学んだそうだ。もっとも、二人目のパウロ兄はちょっと特殊で魔法がメインとなっている。だから棒術なのだろう。

 

「パウロ兄様。なんで武術を学んでいるのですか?」

「ペロはまだ戦場に出たことないからわからないかもしれないけど、自分の身も守れないと、部下や周りの迷惑になってしまうのだ。だから自分の身を守れるぐらいに頑張りなさい」

「はい!」

 

 元気にペロロンチーノが返事をすると、パウロはにこやかに笑う。ん~これで十一才児。すでに対アンデッド戦の初陣を済ましているだけあって、言うことが違うな~。ちょっとお兄ちゃん風吹かせたい気配が見え隠れしているけど。ペロロンチーノも妹や弟ができたらそうなるのかな? でも兄が分かっていて言わなかったことが何となく理解できてしまった。

 

 貴族というより、権力を持つ側であるゆえのアレ。じゃなきゃ戦場にでない姉達も武芸に手をだしている理由はない。たぶんあるのだろうな~暗殺。あ~やだやだ。

 

 そんな勉強につぐ勉強。遊びという名の鍛錬の合間、記憶が薄れる前に覚えていることを吐き出すことが日課となっていた。

 

 どこまで役に立つかわからないから、ある程度優先度をつけてかたっぱしから書く。たとえばあからさまに過去の日本ではないため、日本の歴史などは後回しにして書きまくる。幸い三歳の誕生日に大きな鍵付きの日記帳を貰った。しかし謎の象形文字が数ページ書かれて放置されていたのは三歳児の限界だろうか? そいつを再利用するよう、日記のように知識を書き連ねる。足りなくなれば、また日記帳が欲しいとおねだりをする。寝るまでメイドのサーニャかメイのどっちかが付いているが、はたから見れば謎文字(日本語)を書いているのだから、子供の落書きにしか見えていないだろう。 

 

 そして最後に、他に転生者はいるのか? と探してみたがそこは貴族の子供。家の庭までしか行動できず、結局家族やメイドや執事、家庭教師など、特定の人物にしか会えず頓挫。家の中には文明レベルにそぐわないものがちらほらあるが、これが転生者の残滓なのか、それともそんな風に独自進化した結果なのかわからなかった。一番恐れていた姉や母親が転生前の姉であるという事態だけは避けたようなので、よしとすることとした。

 

 まあ、会いたくないかといえば、別だけどさ。

 



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第三話 俺TUEEEEの兆し

 ペロロンチーノが八才になった頃、年の離れた妹ヒルデガルドが生まれた。

 

 前世においても、今生においても年上の兄姉(けいし)しかいなかったペロロンチーノにとって、妹というのは無条件でかわいいものであった。

 

「ヒルダを泣かせるような奴から、僕が絶対守る!」

 

 と、家族の前で宣言するぐらい可愛がっている。しかし、ペロロンチーノは見落としをしていた。それは十二才になった兄や姉たちが次々と帝都にある帝国魔法学院に入学していることだ。ペロロンチーノも例外ではなく、そのあたりの年齢になれば放り込まれるため、数年後には強制的に妹離れをしなくてはいけないのだ。

 

 それはさておき、ペロロンチーノは表にこそださなかったが驚くことがあった。それは、この世界の人間の妊娠期間はいわゆる十月十日ではなかったのだ。実際はもっと短い。多分だが、この世界の人類はあまりにも外敵が多く、早く出産しなくては種が断絶してしまうほど過酷な環境だった名残なのだろう。

 

 ほんとこの世界、人類に厳しすぎやしませんかね?

 

 だが、妹ができたことでペロロンチーノは自重することを辞めた。

 

 まずは勉学。

 

 もともと日々の勉強の成果なのか、教師陣がすごいのか、まさしくスポンジが水を吸い込む勢いで成長して周りの大人を驚かせていた。子供の柔らかい脳に英才教育を施すか否かで、その子の知能のランクが変わることは科学的にも立証されている。しかし問題なのが子供の好奇心の前に、効率的な学習というものが大抵敗北するのだ。

 

 ペロロンチーノの場合は老成した精神が柔らかい脳を制御することで圧倒的な学習効果を生んでいた。勉強も武芸もどんどん覚えることができた。

 

 そして、前世の記憶から、「化学肥料もどき」「手押しポンプの井戸への設置」「バリスタとトレビュシェットの作り方」などなど。

 

 衛生面とか地味に魔法も含めて対策されていたのだけど、食料系は結構改善できた。本当は製鉄までの知識があるのに、どうも製鉄の本家はドワーフらしく、人間がつくっても質でまけるそうだ。とりあえず耐火煉瓦はあるようなので、改善案ぐらいを出しておいた。

 

 さて雑談はここまで。

 

 ペロロンチーノは、ついにチートらしきものを見つけることができた。

 

 言葉にするならば、

 

――遠距離武器完全適性

 

 初めて弓を持った時、この弓がどの程度の品質のものかわかり、どう扱うべきか理解できた。いざ構えれば、視界が広がり遠くの的がまるで目の前にあるように見えるのだ。そして一度矢を放てば、ほぼ百発百中。

 

 そしてこれは弓だけでなく、投げ槍、投げナイフ、石、果ては指弾にまで適用されるのだから恐ろしい。

 

 このタレントが判明してから、ペロロンチーノへの教育に変化が現れた。

 

 弓兵として超一流の素質。加えて、鷹の目ともいえる、自陣営を俯瞰し、だれよりも遠くの敵を捕捉できる視野。偵察兵や指揮官などの適性もある。さらに護衛としても、敵を近づけさせないという点においても優秀。

何より三男であること。

 

 長男や次男のような家を継ぐ存在ではない。これは卑下ではなく、純然たる事実であり区別だ。いざ戦場で誰を優先で守れとなれば、ペロロンチーノだって兄たちを守る。

 

 その代わり、兄たちよりも自由がある。

 

 もし許されるならこの自然美しい世界を旅してみたい。そんな夢を持つことも許されるかもしれない自由があるのだ。

 

 そんな勉強と鍛錬の中、無心に弓を射る日々。急にあるものがペロロンチーノの目の前に現れた。

 

ノーブル      レベル一

ノーブルファイター レベル一

ノーブルアーチャー レベル一

 

 ちょうど二十メートルほど離れた的に、二本の矢を同時に射ることができた時にその文字が脳裏にうかんだのだ。

 

「ステータス?」

 

 正直いえば中二病か? と笑いそうになった。しかし、もう一射すると、アーチャーに経験がわずかだが蓄えられたような気がした。

 

 何より、そのイメージはまるで

 

「ユグドラシルのステータス画面の一部かよ」

 

 この世界。あのゲームと関係があるのかもしれない。

 



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第四話 避けて通れないもの

 ペロロンチーノが九才になったある日、父親の執務室に呼び出された。

 

 執事に促され、はじめて入る父親の執務室。そこにいる父親は、普段のような笑顔はいっさいなく、厳格な貴族の顔で書類を確認していた。周りには書類を持ってきた担当者なのだろうか? 静かにその裁可をまっている。他には、ペロロンチーノの剣の師であり、騎士アレフもいた。

 

「この件は許可する。ただし先ほど指摘した予算の修正と、ブラウン卿への事前折衝を」

「かしこまりました」

 

 担当者が深々とお辞儀をして退出すると、父親のカッセルはペロロンチーノに向き直る。

 

「ペロロンチーノ。もう兄たちから聞いているかもしれないが、お前の初陣が決まった」

「はい」

「一週間後の間引きだ」

 

 ヘッセン家の男子の通過儀礼。

 

 バハルス帝国では十才になると社交界にデビューする。しかし、帝国の守りをその責務とするヘッセン家の男子は、デビュー前に初陣を済ますのが伝統であった。中央の貴族は、それを野蛮だというが、アンデッドやら仮想敵国でもある王国を前に、戦いを知らぬものが上に立つことこそ無様だというのが、こちらの考えである。なにより、騎士団を含む武門の貴族には受けが良い。

 

 そしてペロロンチーノもそれの重要性を理解している。

 

 このヘッセン領に住む人々の暮らしを守るために、日々行われているアンデッドの間引き、街道や森における亜人や盗賊の殲滅が必要であること。

人殺しというものへの忌避感はあるが、それでもこの世界では「やらねば、やられる」が普通に存在するのだ。そう教えられてきた。

 

「わかりました」

 

 だからこそペロロンチーノは力強く答えたのだった。

 

 

 

***

 

 

 熟練の兵士二十名が隊列を組み、薄い霧に覆われたせいで昼間なのにどこか薄暗いカッツェ平野を進む。

 

 今日から五日間。カッツェ平野で定例となるアンデッドの間引きが行われる。

 

 それがペロロンチーノ・ヘッセンの初陣だ。

 

「前方 一時の方向 スケルトン四。スケルトンアーチャー二 距離三百」

 

 鷹の目を使い、周囲を警戒していると敵はすぐ見つかった。

 

「隊をそちらに向ける。前衛はツーマンセル。スカウトは警戒を怠るな。ペロロンチーノ様。スケルトンアーチャーに初手を」

「わかった」

 

 ペロロンチーノが索敵結果を伝えると、守役の騎士アレフが細かい指示を出す。

 

 前衛たちは武器を構え、ゆっくり進んでいくと、まるで引きずるような足取りのスケルトンが見えてくる。スケルトンアーチャー以外は武器らしい武器を持っておらず、まるで何かに引きよせられるようにこちらに向かってくる。

 

 

 距離六十メートル

 

 隊列はいったん立ち止まる。前衛はなれたように待ち構え、他は周りを警戒する。ペロロンチーノは弓を構え二本の矢をつがえる。

 

 

 距離四十メートル

 

「フレイムウェポン」

 

 ペロロンチーノは第一位階の補助魔法が発動するやいなや、矢を放つ。

 

 四十メートルの距離を飛来し、向かい来るスケルトンのうち一体の頭を。そしてもう一体の左肩を吹き飛ばした。一体はそのまま砕け散るが、もう一体は、踏みとどまる。もっとも見るからに動きが止まっている。

 

 前衛は、それを合図に距離を詰め、残りのスケルトンを粉砕する。

 

 時間にして十秒もかからない。

 

 そんなあっけない終わりに、ペロロンチーノは深く息を吐き、弓を下す。

 

「なんとかなりそうだね」

「本来刺突武器ではどうにもならないスケルトンを弓矢で倒す。お見事です」

「フレイムウェポンが覚えられてよかったよ」

 

 ギースの賞賛に、ペロロンチーノは笑みを浮かべながら、まるで偶然のように答える。だが、実際は明確な方程式の下、このビルドが組まれていた。

 

 ステータスを意識したあの日、この世界はユグドラシル、または類する法則のようなものが存在すると認識した。職業を表す単語。位階魔法。様々なものに、その残滓が見て取れるのだ。

 

 ならば、人間種、アーチャーを中心としたガチビルドはどうだ? さらに遠距離武器完全適性というタレントと武技を組み合わせたら?

 

 その可能性に至った時、ペロロンチーノは喜びの叫び声をあげて、家族に驚かれた。

 

 そして九歳のステータスである。

 

ノーブル      レベル一

ノーブルファイター レベル一

ノーブルアーチャー レベル五

スナイパー     レベル一

ノーブルウィザード レベル二

コマンダー     レベル一

 

 人類種アーチャーガチビルドを目指すこととなる。

 

 仮説の、この世界がユグドラシルと同じスキル制である場合、限界レベルは百となる。そのため正直ペロロンチーノとしては、ノーブルやコマンダーのスキルなど取りたくはなかった。しかし、社会生活というものを考えると無視できず、こんな構成となっている。

 

 とはいえ、うちの兵士たちのレベルはだいたい十から十五レベル前後。うちで一番強いアレフも二十五レベルぐらいの感覚。

 

 タレントのおかげもあるかもしれないが、圧倒的な成長速度である。

しかしユグドラシルのプレイヤーがいれば……あいつらは基本レベル百。俺ツエーされるわけだ。

 

 まったく、プレイヤーの存在なんぞただの妄想であってほしいと考えるペロロンチーノであった。

 

 



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第五話 いくら準備しても想定通りにならないのが実践

 

 間引きも五日目。

 

 城砦が見えるレベルの範囲の間引きはすでに完了し、ヘッセン領から一日は離れている。休憩も三交代の戦闘。ここから一日が本番である。

 

「霧は、濃いけど見えないわけじゃないんだな」

 

 ペロロンチーノが鷹の目で警戒しながら漏らす。ノーブルアーチャーとスナイパーのレベルも上がり、より精度がでるようになった鷹の目だが、やはり霧のせいで視界が狭まっている。それでも、スカウトの耳よりも広く警戒できるのだから、タレントさまさまである。

 

 スケルトンやスケルトンアーチャーに加え、スケルトン・ウォリアーが交ざるようになる。こいつは兵士たちもスリーマンセルで油断なく戦わなくてはならないほどの強敵である。

 

「ユグドラシルなら十五・六の雑魚だろうに、こんなに苦労するなんて」

 

 ペロロンチーノは周りに聞こえないように独り言ちる。しかし自分もほぼ同レベル帯なので、見つけ次第積極的にダメージを与え続ける。

 

 だが、ふと違う気配を感じた。

 

 ざわざわと肌が泡立つような気配が迫ってくるのだ。先ほどまでの散発的な敵意のようなものと違う。

だが、まだペロロンチーノの鷹の目で敵を捕捉できない。

 

「嫌な予感がする」

「大当たりを引いたみたいですね。密集隊形。最低限の食料と水以外捨てられるものは捨てろ」

 

 ペロロンチーノと同じようにアレフも何かを感じたのだろう。今までにないような指示を出す。兵士たちも、一食分の保存食と水が入った革袋を背中や腰に括り付け、捨てられる荷物はすべてまとめて捨てる。

 

 前衛は盾を構え、後衛はいつでも魔法を発動できる準備が終わった頃、ペロロンチーノはついに敵の姿を捕捉する。その瞬間、ペロロンチーノは自分が九才の子供であることを忘れ、舌打ちをしてしまう。

 

「スケルトンが無数。スケルトン・ソルジャーが六。それに守られるようにリッチか?」

「最悪エルダーの可能性を想定しましょう。どっちにしろ、戦えるのは私とペロロンチーノ様だけです。もし、私が倒れたら全力で逃げてくださいね」

 

 アレフの言葉にペロロンチーノは答えず、弓を構える。その姿に、アレフが大きく息を吐く。

 

「放て」

 

 アレフの号令に合わせて同行したマジックキャスターがファイヤーボールの魔法を放つ。そしてペロロンチーノも、フレイムウェポンを付与した矢を時間差で放つ。

 

 ファイヤーボールはエルダーリッチを守るように進むスケルトン・ソルジャーに着弾。周りを巻き込むように爆炎と衝撃波が広がるが、エルダーリッチにはほとんどきかなかったのだろう。ゆうゆうと立ち、あざ笑うようにこちらを見ている。

 

 だが、時間差で射たペロロンチーノの矢が、その頭蓋と左鎖骨を砕くように突き刺さる。

 

――武技:魔力射撃

 

 本来刺突ダメージに分類される弓矢で、アンデッドにダメージを与えるために取得したのがフレイムウェポン。だが、もしフレイムウェポンでもダメージ効果が薄い相手がいたら。そう考え、ユグドラシル時代のメインウェポンに着想した武技だ。

 

「いくぞ!」

 

 魔力を宿した剣を構えたアレフを先頭に前衛が一気に距離をつめる。

 

 スケルトン・ウォリアーが振り下ろす剣を、盾でいなし反撃とばかりに切り返す。しかし今までと違いスケルトンの数が多い。いままではツーマンセルからスリーマンセルで余裕を持って戦っていたが、下手すれば一対一の状況である。さらに、スケルトンを一匹倒しても、すぐ次の敵が群がってくる。

 

「これが戦場かよ!」

 

 ペロロンチーノも、エルダーリッチに大型魔法を発動させるスキをあたえないよう、牽制しつつ、スケルトン・ウォリアーに攻撃を加えなんとか一体を倒す。

 

「左右の仲間から目をはなすな。離れすぎると孤立するぞ」

 

 仲間を援護し、仲間に守られる。兵士たちも過去にこんな経験をしたのだろうか、冷静に戦っているように見える。

 

 だが、そんな戦い方をあざ笑うように、エルダーリッチからライトニングの魔法が放たれる。味方のスケルトンもろとも放たれたライトニングは、数名の兵士を餌食にする。粉砕されたスケルトンと違い、何名かは軽傷を負う。だが一人は当たり所が悪かったのだろう。剣を落としてしまう。

 

 さすがに知恵のないスケルトンも、チャンスとばかりに腕を振りかぶる。

 

 それの攻撃を何とか盾で受けようと身構える兵士だが、いつまでたっても衝撃は来なかった。

 

 気が付けば、スケルトンは粉砕されていたのだ。

 

「次が来るぞ、早く武器をとれ」

 

 ペロロンチーノの声に、我を取り戻した兵士は素早く剣を拾い戦線に復帰する。砕けたスケルトンには矢は刺さっておらず、そして先ほど目にはいったペロロンチーノは矢をつがえる右手をなぜか兵士の方に向けていた。

 

 本当に何があったかわかるものは、ペロロンチーノ以外にいなかった。

 

「ファイヤーボール、次、いけます」

「味方を巻き込まないように、リッチの左集団をねらえ」

「はい」

 

 マジックキャスターの声に、ペロロンチーノは指示を出す。アレフが周りのスケルトンを薙ぎ払いエルダーリッチに接敵するところであった。

 

「アレフを孤立させないように、押し上げろ」

 

 兵士たちも盾を巧みに使い、強引に前線を押し上げ、アレフとエルダーリッチの戦いを援護可能な距離に収める。

 

 だが、そこまでだった。スケルトンとスケルトン・ウォリアーの増援があらわれ、戦線は膠着する。レベルでいえばエルダーリッチの上を行くアレフであるが、まわりに邪魔なスケルトン・ウォリアーがおり、決定打に欠けてしまう。

 

「五秒耐えてくれ」

「了解」

 

 ペロロンチーノは、このまま手を打たねば押し負けると判断し、兵たちに準備の時間を耐えろと指示をする。

 矢筒の横に括り付けていた特別な矢を取り出しつがえる。磨き上げられた白銀の矢じりが炎に包まれる。

 

――フレイムウェポン

――武技:魔力射撃

 

 ここまでは一緒である。エルダーリッチに多少なりともダメージを与えることはわかっている。多少ではだめだ。今必要なのは確実な大ダメージだ。

 

 そこで、ペロロンチーノはエルダーリッチを睨みながら、より集中下に意識を落とし、呼び出すはもう一つの武技。全力まで弓を引き絞り、全身全霊を込め、そのひと時を待つ。

 

 エルダーリッチは面倒な矢がとんでこなくなり、目の前の獲物に狙いをさだめる。アレフにもそれがわかったのだろう、剣筋がするどくなり、右横のスケルトン・ウォリアーの首を刎ね飛ばし、返す形で渾身の斬撃を放つ。

 

 もしエルダーリッチに表情筋があれば、笑みを浮かべたことだろう。アレフの斬撃をディレイマジックのシールドが防いだのだ。さすがのアレフもシールドの魔法を砕くことができず、剣を引き別の角度から攻撃をしようとする。

 

 だが遅い。ライトニングの魔法が完成し発動し……。

 

 

 

――武技:剛撃

 



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第六話 守ること

 今回の間引きも、負傷者こそいたが、死者もなく成功した。

 

 それだけなら、噂になることはなかったが、まだ九才のヘッセン家三男がエルダーリッチを仕留めたというのだ。

 

 最初こそ嘘というか誇張と思われていたが、数日後エルダーリッチから入手したというマジックアイテムと、杖、宝石、ローブが広場で立ち合いの下で公開されると、噂は本当だったのだと信じられるようになった。

 

 

***

 

 

 初の実戦というのは、本当に精神にも体力にも負担だったのだろう。西門を通ったあたりから記憶がない。たぶんアレフに支えられて戻ってきたのだろう。

結局まる一日倒れるように寝て、目が覚めた時には別人と思うほどに体が軽くなっていた。

 

 寝ずの番をしてくれたサーニャとメイにお礼をし、体を確認すればエルダーリッチのライトニングで受けた傷もなくなっていた。寝ている間に治療をしてくれたことに感謝しつつ、ステータスを見れば一目瞭然だった。

 

 

――三レベルの上昇

 

 

 たしかエルダーリッチはレベル二十台。格上との闘いで一気にレベルがあがったのだろうとペロロンチーノは推測する。

 

 とはいえ、何事にも後始末というものが待っている。

 

 まずは父親への帰還報告。右肩に手を置き「よく無事にもどってきた」という言葉だけだったが、父親として当主として、おかれた手の暖かさから、言葉にできないものを感じることができたのは気のせいではないはずだ。

 

 そのあと、家族に報告する。口々に無事を喜んでくれた。帝都の学院にいるパウロ兄とフィアーネ姉にも手紙を書くように言われたので、後で出すことにする。

 

 間引きは戦闘報告(いつ、どんな敵とどんな風に戦ったか)というものがまとめられる。今回のそれについては、すでにアレフがまとめてくれたとのことで、直に礼を言った。だが、アレフ曰く重要なことが終わってないそうだ。

 

 その夜、ペロロンチーノはアレフに案内され、兵舎に向かっていた。

 

「ペロロンチーノ様こちらです」

 

 そこには、一緒に間引きに参加した兵士たちと、数々の食事と酒が待ち受けていた。

 

「これは?」

「はい。これが重要な最後の仕事です」

 

 アレフは普段通りという感じで、さらりと回答する。

 

 兵士たちも待ちかねたのだろう、ペロロンチーノの下にあつまり、口々に礼をいったり、戦功をほめたりと、挨拶をしていく。そんな中、一人の若い兵士が深々と頭を下げるのだった。

 

「最後の戦いの時、エルダーリッチの攻撃で武器を落とした際、フォローしていただきありがとうございました」

「フォローは後衛の務めだ。むしろ守られた私がみんなに礼を言わなければいけない」

「こいつ今度結婚するんですよ。どうか礼を受け取ってやってください」

 

 若い兵士の真摯な礼に、ペロロンチーノは謙遜してしまう。そこでアレフが若い兵士の事情を説明してくれる。

 

 え? この戦いが終わったら結婚するんだってのを、素でやったのか? こいつ。とペロロンチーノはある意味で勇者な若い兵士の手を取る。

 

「そうか。では、礼は受け取った。家族とヘッセン領の人々を守るために、今後も力をかしてくれ」

「はっ!」 

 

 若い兵士は感無量といった感じでペロロンチーノの手を握り返すのだ。

 

「では、ペロロンチーノ様。最後のお仕事です。乾杯の音頭を」

 

 ペロロンチーノは席に案内され、飲み物を渡される。

 

「ヘッセン家三男 ペロロンチーノである。さっきも言ったが、家族とヘッセン領の人々を守るために、今後も力をかしてほしい。では・・・・・・乾杯!」

「乾杯!」

 

 その日、ペロロンチーノはこの世界で初めて飲んだアルコールは、華やかな香りとほのかな渋み、そしてどこか懐かしさを思い出す果実酒だった。

 



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帝国魔法学院
第一話 従兄弟


 バハルス帝国。約二百年前の魔神と十三英雄との闘いののち、当時人類種の中心的国家が分裂して成立した国家である。

 

 人類は生存競争で下位である以上、寄り添って力を蓄えるしかない。なのに人類種が分裂していては、滅亡することとなる。先帝は、そんな状況に立ち向かうためにより優秀なものによる富国強兵と専制君主制への移行を掲げた。

 

 加えて、人材を広く獲得・育成する目的で、帝国の誇る大魔法使いフールーダに協力を仰ぎ、帝国魔法学院を作り上げた。一般人であれば将来の栄達のために、一部の貴族や資産のある家の者は横のつながりのために入学する。

 

 だが、今年普段であれば数の少ない貴族が大量に入学するという異常事態が発生した。

 

 それは皇太子が帝国魔法学院に入学するというのだ。

 

 

「なんでまた?」

 

 

 その話を聞いた時のペロロンチーノの言葉である。

 

 

「皇太子のたっての希望だそうだ」

「いやいや、警備の問題とかいろいろあるでしょ」

「もちろん問題となる。そこでおまえにも白羽の矢が立った」

 

 

 父親の言葉に、いまいち理解が追いつかないペロロンチーノは聞き返してしまう。

 

 

「え?」

「学園内での護衛としてお前がベストだ。」

「いやいや、護衛騎士ぐらいいれればいいでしょ」

「十才にして冒険者ランクでいえばプラチナ級、近衛騎士にも引けを取らないお前が学園内で護衛をすればよい」

 

 ペロロンチーノは父親の言葉に、レベル上げが面白く、初陣からほぼ毎回間引きに参加した自分の軽率さを呪った。

 

「それに、昨年、本来の皇太子が事故死されたのは知っているな」

「はい」

「それもあってお前の従兄弟にあたるジルクニフ殿下は、皇太子指名と合わせて、帝城を出て大魔法使いフールーダ様の屋敷に一時的に居を移されている。表向きはフールーダ様による帝王学の教育となっている」

「それって……」

 

 ペロロンチーノは帝城が暗殺の危険があるという言葉を飲み込んだ。実際、皇太子の事故死というのも相当に怪しい。でなければ、ジルクニフ殿下が城を出る理由はない。

 

「とりあえず、殿下の護衛に戦力となる従兄弟がというのはわかったけど、なんで学院に?」

「殿下の派閥形成のためだ」

 

 本来であれば、母方の出身派閥が王子の派閥形成を支援する。しかしヘッセン方伯家は地方貴族であり武門である。地方、特に南方貴族や騎士団に親族やコネはあるが、中央、それに帝城内部の官僚には少ないのが実情だ。

 

 そして帝国魔法学院は、帝国の近衛、官僚、有力ポストの登竜門。相応の危険もあるが、いまここで派閥の形成が将来のために必須と判断されたのだろう。または、そのほうが暗殺しやすいという思惑で賛成されたとも……。

 

「しょうがない」

 

 ほんとうにしょうがない。家族やこの街に住む人々への恩や義理、愛情。それを考えると、血縁の殿下の護衛というのも普通にわかる話なのだ。

 

 

 

 だからしょうがないと腹を括る。

 

 

 

 

 

「おぬし、まだ力を隠しておるだろ」

「おのれ! くそ爺いいいいい」

 

 

 にこやかに微笑んでいるジルクニフ殿下の前で、フールーダの召喚した魔物に、追い回されることになった。

 

 

 どうしてこうなった?

 



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第二話 最強のくそ爺

 春になりペロロンチーノは帝都の帝国魔法学院に入学した。

 

 もっとも、帝都について最初のイベントは学校でなく、従兄弟であるジルクニフ殿下との顔合わせだった。

 

 大魔法使いフールーダの屋敷に設けられた一室でその顔合わせは行われた。執務用と思われる椅子に座るジルクニフ殿下。美しい金髪にどこか幼さを残す顔。その顔立ちとは裏腹に、濃紫の眼には高い知性を宿している。

 

 

「主人公乙」

 

 

 もちろん誰にも聞かれない程度のつぶやきだったが、これがペロロンチーノの最初の感想である。

 

 ペロロンチーノは礼節にのっとり、深々と礼をする。

 

 

「ヘッセン方伯の三男。ペロロンチーノ・ヘッセンにございます」

 

 

 ジルクニフの隣に立つ秘書官がペロロンチーノを紹介する。その反対側に、座るのはかの大魔法使いフールーダ。この二人に普通会うならば、どれほどの手続きをしなくてはならないのか。光栄と取るよりも、これからのめんどくささを感じずにはいられないペロロンチーノは、貴族らしくはないのだろう。

 

 

「挨拶を許す」

「お初にお目にかかります。ヘッセン方伯の三男。ペロロンチーノ・ヘッセンにございます」

「さて、堅苦しい挨拶はこれまでだ。従兄弟殿」

 

 

 ジルクニフの言葉に、ペロロンチーノはあっけにとられたように顔を上げてしまう。許された訳ではないのに顔を上げるのは厳密には非礼にあたる。あわてて元の姿勢にもどす姿はジルクニフには滑稽に映ったのだろう。にこやかな笑みを浮かべながら言葉が続く

 

 

「これからそなたとは学院に通う学友にして、血のつながりもある従兄弟なのだ。公式の場ではなければ普通に話してくれてかまわない」

「はあ」

 

 

 予想外の言葉にペロロンチーノは、顔をあげ中途半端な返事をしてしまう。

 

 もしここまでで終われば、立ち位置こそ違うが、後に親友となる二人の少年の出会いとしてはまずまずだっただろう。

 

 そうはならないのが、悲しい現実である。

 

 

「さて、ペロロンチーノといったか。貴様使えるのであろう?」

「え……。フールーダ様、何をでしょうか?」

 

 

 ジルクニフとの挨拶が終わったとたん、大魔法使いとはかくあるべしというような外見の老人、フールーダから言葉をかけられたペロロンチーノはその意味を理解できていなかった。

 

 

「なに、隠すことはない。ヘッセン方伯め。こんな逸材を隠していたとは。なぜもっと早くつれて来なんだか。ジルはその知性と判断力でゆくゆくは最高の皇帝となるだろうが、まさか、その血縁者にこんな人材が隠れていたとは」

「えー」

 

 

 いきなり興奮しはじめたフールーダの言動に、あっけにとられたペロロンチーノだが、ジルクニフは笑いながら補足をした。

 

 

「爺は、ペロロンチーノに魔法の才を見出したのではないか?」

「魔法ですか? マナ・エッセンスのような魔法を唱えられたようには見えませんでしたが?」

「爺の目は特別性だ。いわば看破の魔眼、魔法力が見えるそうだ」

「なんというチート、いやタレント」

 

 多分MPやらその辺の情報を見ただけで看破する。それこそフォールスデータ・マナをどれほどの人間が使えるのか? いや第三位階が一般の限界といわれているこの世界で、その魔法自体が希少。うん、チート級のタレントだなと、ペロロンチーノは納得する。

 

「してペロロンチーノ。貴様はどの位階までつかえる?」

「第三位階」

 

 ペロロンチーノの言葉は嘘ではない。レベル的には第五位階を修めることができる。しかし、習得している魔法は第三位階までの最低限のものなのだ。それはひとえにペロロンチーノなりの人間種アーチャーガチビルド計画によるものだった。もっともクリーン・オーダレス・リペアといった便利魔法を予定外に覚えているのは、生活する上で便利だからというほかない。

 

 しかし、フールーダへの回答としては間違っていた。

 

 

「ほう。ワシを偽るか。よろしい稽古をつけてやろう」

「護衛も兼ねる従兄弟殿の実力を見るのは良い機会だ」

「え?」

 

 

 フールーダの宣言に、ジルクニフが同調したことで、逃げ場のなくなったペロロンチーノであった。

 

 

 

***

 

 

 

 結論から言えば、フールーダに敵うわけもなくペロロンチーノはボロボロにされた。

 

 初手サモン・アンデッドで呼び出されたスケルトン・ウォリアーをフールーダにけしかけられるも、接敵前に弓矢で倒した。今度は数による飽和攻撃。平野なら距離を開けながら戦うが、あくまで鍛錬用の庭での戦いのため、ペロロンチーノはフライで距離を取り空中から射殺。

 

 このあたりからフールーダの笑みが怪しさを増す。スケルトンアーチャーを召喚し、自身もフライを駆使して魔法攻撃を始めたのだ。

 

 ここまでくると手加減とかそんな余裕もなく、武技にスキル、魔法とそれこそ接近戦の奥の手以外をさらけ出す羽目になってしまったのだ。

 

 

「ふむ。第三位階というのは嘘ではなんだか。だが、貴様は第四、いやもうそろそろ第五が可能に見える。なぜだ?」

 

 

 フールーダの質問に、ペロロンチーノは迷った。ビルド的に第四位階魔法にほしい魔法がなかったから覚えなかったというだけなのだ。どうやら、先ほどの模擬戦でノーブルウィザードがレベル五になっていたのはうれしい誤算だった。

 

 

「たぶん縁がなかったのではないでしょうか。アーチャー兼指揮官として、カッツエ平野の間引き作戦に参加してましたので」

 

 

 とりあえず嘘はいっていない。

 

 

「よろしい。ジルの合間……いや一緒に貴様も鍛えてやろう」

「いえ! 恐れ多い」

「なに、魔道の探求には一人でも多くの才あるものが必要だ。さあともに魔道の深淵をめざそうぞ!」

 

 

 こうして、ペロロンチーノは後に親友となるジルクニフと、後に師匠となるフールーダ(くそ爺)とであったのであった。

 



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第三話 帝国とは

 ペロロンチーノが帝国魔法学院に入学して一年と少しが経過した。学院では護衛という任務もあるため、ジルクニフと行動を共にしていたのだが、それが良くも悪くも良い刺激になっていた。

 

 ジルクニフとしては、将来に向け才能ある人材との縁を結ぶことを目的としていた。それは学院だけにとどまらず、優秀なものの兄弟で、現役の近衛兵や騎士団のものを夜会に呼び、友好を築くほどだ。

 

 逆にお眼鏡にかなわないものを遠ざける。そんな七面倒な事を、護衛騎士のアルベールと、スカウト技能持ちのメイド・ターニャにペロロンチーノは付き合わされる羽目になっていた。

 

 そんなある日、ペロロンチーノは久々の休みに帝都の繁華街にくりだしていた。

 

 

「おじさん。その二本」

「おう」

 

 

 広場の一角の店で、軽食を買う。黒パンに玉ねぎとタレに付け焼いた肉を挟んだもの。塩味のきいた肉に油と香辛料を中心としたタレが、玉ねぎのシャキシャキとした食感と苦みに相まって食欲をそそる。

 

 問題があるとすれば、二つ買ったはずなのに、一つがとられてしまっていることだろうか?

 

 

「なんで付いてきてるんですかね? 皇太子ともあろうお方が」

「別に初めてでもなかろう?」

 

 

 そう。なぜか皇太子ジルクニフもついてきているのだ。

 

 ジルクニフも肉を挟んだサンドを食べている。隣には毒見で一口たべたのだろう、口を拭っているメイドのターニャと、周りを警戒しながらアルベールが立っている。

 

 もちろん服装でいえば、ペロロンチーノと同じように多少上等ではあるものの一般人が着ていても問題ないレベルにおさめるなど、変装らしきものをしている。見る人が見ればバレてしまうが、一見金持ちの子弟が護衛をつれて歩いているようにしか見えない。

 

 

「市井を知ることは為政者として重要なことだ」

「まあ、そうなんですがわざわざ俺についてこなくてもいいでしょ」

「なんだペロは私が邪魔だというのか?」

 

 

 ジルクニフはどこかいたずらをする子供のように笑いながら、ペロロンチーノについてくることを宣言するのだった。

 

 

「ドワーフの国から先日もどったキャラバンの出物を探すのと、適当に掘り出し物探しかな。夜になったら一杯だけひっかけて戻るつもり」

「ではそうしよう」

「え? 最後まで付き合うの?」

 

 

 どうやら、ペロロンチーノは逃げるタイミングを逸してしまったようだ。

 

 

 

***

 

 

 

 日が暮れ始めた帝都を四人は歩いている。手には飲み物や食べ物を片手に市場をまわり、そろそろ戻ろうかと考えているころであった。

 

 

「いやーいいものが見れた」

「ドワーフの技術。やはりほしいな。」

「そもそも人間は製鉄に必要な鉄鉱石が潤沢とはいいがたい。そこから改善しないとどうにもな~」

 

 

 実際、バハルス帝国内でも鉄鉱石は産出しているが、良質な鉄鉱石の産地は山間部になる。しかしそこは人類圏とはいいがたいため、どうしても製鉄技術というものが遅れているのだ。それらも相まって、ドワーフの武器、防具、金属製の各種アイテムなど、人間が作るものより一段も二段も上のものとなっていた。

 

 

「あと、マジックアイテムの相場、ここ一年で少し落ちたか?」

「それは魔法省による安定供給のたまものだろう」

「少しずつ暮らしが便利になるといいな」

 

 

 他にも食料品などを見ていたが、値段はほぼ安定。むしろライトやテンダー、フローティングボードといったマジックアイテムが少し値がおちていた。もう少しすれば、一般帝国国民でも手が出るレベルになるだろう。そんなところまで来ていたのだ。

 

 おおむね平和。

 

 もちろん、表通りを回るようにして裏通りには近づかないなどの自衛の結果でもある。

 

 

―― ……

 

 

 だが、そんな時、ペロロンチーノの耳は嫌な音をとらえてしまった。

とっさに駆け出そうとするも、同行者の事を思い出し立ち止まる。

 

 そんな時、ジルクニフが露店で売られていたものを手に取りペロロンチーノに投げ渡す。どうやら、ターニャが何かあったのか伝えたのだろう。

 

 

「ペロ。見つからずに処理しろ」

「すぐに戻る」

 

 

 ペロロンチーノは路地裏に入ると同時にフライで屋根に上り、夕暮れの影に隠れながら疾走するのであった。

 

 



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第四話 平和とは

ペロロンチーノは念のため、ジルクニフがくれたどこぞの民芸品と思わしき仮面をかぶる。多少派手な仮面でその造形は鳥の顔をかたどったものであった。たしかにこれなら見つかっても、顔はわからないだろう。変態におもわれる危険性もあるが。

 

 そして鷹の目を使って音の出どころを探るが、思いのほか早く見つけることができた。

 

 裏路地の一部を塞ぐように止められた馬車。家紋は外されているが、その持ち主が貴族であることは丸わかりだ。

 

 

「いや! 家にかえ……」

「やっと捕まえたぞ」

 

 

 馬車の上に御者が一人。路地には女性が一人。その女性を取り押さえる男が一人と、貴族っぽいいい服を着た男が一人。あと護衛か同行者とおもわしき男が一人。どうやら馬車の扉が開いていることから、女性をそのまま誘拐でもしようというのだろうか?

 

 周りには、人だかりはできておらず、むしろ蜘蛛の子を散らすように人が離れていく。みるからに貴族による面倒ごと。一般人ならある意味で自衛として正解だろう。

 

 

「エロゲー イズ マイライフだが、リアルで凌辱モノは胸糞悪い」

 

 

 そういうと、屋根の上から右手を伸ばす。その手には小さな銅貨が握られている。

 

 見れば女性が口を布か何かで覆われ、馬車にひきずられていく。

 

 

――ライトニング・ウェポン

――武技:剛撃

 

 

 そして雷光をまとった銅貨は、ペロロンチーノのタレントと武技で強化されて普通ではありえない射程を飛び越え、男たちの頭に炸裂する。

 

 

「がっ」

 

 

 口々に悲鳴を上げるも、急所に雷属性の攻撃を受ければどうなるか?

 

 一般人であれば失神する。下手すれば即死であろうが、その辺りはペロロンチーノのタレントによる妙技ともいえる加減がされていた。

 

 女性も何があったかわからない風だったが、しばらくすると我に返り逃げ出す。ペロロンチーノはそれを見送ると、急ぎ親友の下へ戻るのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 屋敷に帰り、夕食のあとペロロンチーノはジルクニフに呼ばれ、彼の私室を訪れていた。

 

 開け放たれた窓から、気持ちの良い夜風がはいってくる。ジルクニフはペロロンチーノを迎えいれると、ワインを注ぎ一口飲む。ペロロンチーノも促されるままワインを口にする。

 

 

「女性を誘拐しようとしたのはサルト男爵の嫡子。相手は一般人、少々有名な商家の娘のようだが、無事に家にかえることができたようだ」

 

 

 ジルクニフは、指示をだし調べさせた情報を教える。女性が帰れたことに、ペロロンチーノは安堵の表情を浮かべるのだった。

 

 

「ペロ。あのような場を見たのははじめてか?」

「話は聞いたことあったが、出くわしたのは初めてだ」

 

 

 ジルクニフの言うように、今回のような現場に出くわしたのは初めてだった。ヘッセン領ではそもそもこんな話を聞いたこともなく、学院では風の噂程度だった。

 

 しかし自分がそんなに潔癖症だとはおもっていなかったのだが、実際に目にすると嫌悪感で押しつぶされそうになり行動を起こしてしまった。

貴族の行動への嫌悪。だがそれだけではない。一般人の行動もしょうがないと理解することはできるが、そんな行動ができるぐらいに、今回のようなことは日常的に発生していること。その事実に考えが及んだ時やるせないものを感じた。

 

 

「なあジル。お前はこんな経験はあるのか?」

「ある」

 

 

 ジルクニフはペロロンチーノの言葉に、あっさりと答える。いや、形こそ変わるだろうが、貴族に囲まれて過ごしてきたのだ。大っぴらにされるようなものではないだろうが、そんな現場や痕跡を見たことがあるのだろう。

 

 気が付けばジルクニフは、ペロロンチーノをまっすぐにみている。

 

 

「ペロ。なぜこんなことが起こると思う?」

「それは……」

 

 

 ジルクニフの問いに、ペロロンチーノは考えてしまう。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            

 

 ペロロンチーノは考える。しかしいくつもの原因や方法論は浮かぶが、これと特定することはできない。

 

 

「法とそれを正しく執行するもの。そして平等な裁判。それを妨げるのは無能と欲深いものだ。だいたいこれで大方の問題は片付く」

 

 

 ジルクニフは言い切る。ペロロンチーノも、反論はあるが、たしかに大方の問題が解決するだろう。

 

 

「ペロロンチーノ。私と共に来い」

「ジルといっしょに」

「そうだ。この帝国を立て直そう。一人でも多くの人を助けるために」

 

 

 そういうとジルクニフはワインを置き、ペロロンチーノに手を伸ばす。

 

 

――そう。この手を取り、帝国を立て直そう

 

 

 そう言っているのだ。

 

 

 ペロロンチーノは息をのみ、ジルクニフを見る。その顔には普段親友として話す笑みなど一切なく、真剣な表情であった。

 

 ペロロンチーノは一度目を閉じ、ゆっくりと一呼吸する。

 

 

「ああ」

 

 

 ペロロンチーノは、ジルクニフの手を取るのだった。

 



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第五話 積み上げるモノ

 ペロロンチーノが皇太子ジルクニフの手を取ってから二年の月日が流れた。

 

 学校では勉学もだが、コネクション作り。屋敷ではフールーダによる教育が行われた。そして最近になって軍権の一部を皇帝より移譲されたジルクニフの指示による軍務も行われるようになった。

 

 あと最近、ペロロンチーノは護衛だけでなく密偵というかアサシンのような仕事もするようになった。もちろん正体がバレないようにではあるのだが。

 

 ビルド的に、アーチャースキルとスカウトスキルのシナジーは高いのでペロロンチーノ的には問題なかった。レンジャー系に進むか、スカウト系に進むかの選択の結果であり、どちらが強いということはなく、条件が違うというだけなのだ。

 

 そんなある日。

 

 ペロロンチーノはジルクニフの護衛として、ジルクニフの公務に随伴していた。

 

 帝国内の治安改善を目的とした、普段の警邏活動では対応できない規模のモンスターや賊の対処だ。そしてその国内の軍事行動は皇太子の名の下で実施された。

 

 

「諸君らの働きのおかげで、帝国はまた一歩平和に近づくことができた。諸君らの功績は皇太子ジルクニフ・ルーン・エル=ニクスの名の下、報いよう」

 

 

 作戦に参加した騎士たちを前にジルクニフの演説は続く。この後、論功行賞があり、上位者には直接感状と金一封などが渡される。また隊長級以上にも同様の感状などが渡される。

 

 この感状というのが曲者だ。貴族・騎士が受け取れば、それはその家の格を補強するものである。もし一般人兵が受け取った場合、騎士への取り立てや再就職などの指標になる。

 

 

「ほんとジルは忠実(まめ)だよな。上位者だけでなく、功績をあげた一般兵の名前までしっかり憶えて、本人の前で一人一人労をねぎらうんだから」

「声をかけられた方は、一生の思い出。下手すれば一生の臣下になることでしょう」

 

 

 ペロロンチーノの言葉に、同じ護衛騎士であるアルベールが同意する。

 

 ジルがこの手の式典にでると、基本長い。それは二人の言葉の通り、功績が高いもの一人一人に声をかけるからだ。なにより、ジルの頭脳では一度覚えた顔と名前は忘れない。他の作戦で功績をあげ、再度同じ場に立った場合、しっかりとその件も含めて賞賛の言葉を贈るのだ。

 

 そんなことをされた騎士の心境はいかに。

 

 下手すれば貴族に顎で使われることさえあるのに、皇太子は名前まで憶えて報いてくれたのだ。

 

 そりゃあ人望が違うわ。

 

 実際、帝城の守備に専念する近衛以外の騎士団には多くの皇太子シンパがいる。いや、一部は、学院の縁で近衛にも増えている。それらは今後、ジルクニフの政治においてきっと味方になってくれることだろう。そしてそれを想定して軍権の一部を移譲した皇帝の戦略に恐れ入る二人であった。

 

 

 

***

 

 

 

 式典からの帰り、ジルクニフとペロロンチーノは馬車にのり帰路についていた。

 

 

「変わったな」

 

 

 ペロロンチーノは警戒がてら馬車からの帝都の町を見ていた。

 

 

「何がだ?」

「帝都の活気」

 

 ペロロンチーノはジルクニフの質問に簡単に答える。もともと帝都は多くの人口を抱え、活気はあった。だが、ここ数年確実に流通が改善し、人の流入がさらに増えている。もちろん人が集まりそれを支える食料基盤、治安、仕事、それらが順次改善。

 

 

「まだまだこれからこの国は良くなる」

「ああ」

「それで、二週間どうだった?」

「悪い意味で想像以上だった」

 

 

 ペロロンチーノは目を閉じ、直前の任務を思い出す。

 

 

「エ・ランテル経由で王都に入った。表向きは行商という立場でな」

 

 

 ペロロンチーノは、二週間という期間限定であったが、王国に潜入していたのだ。

 

 

「そこまで腐っていたか」

「住んでる国民は悪くない。個々の人間も悪いわけじゃない。しかし街道は低級のモンスターがいるどころか、食うに困り賊に落ちたものもみたよ。見かねて四回も戦うことになるとはおもわなかった」

 

 

 戦った賊は、死の間際に懺悔をするものもいた。理不尽を嘆くものもいた。もちろんペロロンチーノの責任など一端もない。だが、死にゆく姿は前世でみた下層で生きるモノたちと同じにみえた。

 

 

「都市を守る兵士の質も低い。うちの領なら、一兵卒から叩き直しになるレベルだ。なにより武器を含めた装備の質は最悪だ。あれは流通している数打ちの質も低いから、職人の数が少ない上、既得権になって職人人口も増えてないな」

 

 

 エ・ランテルや王都で見聞きした流通の話になる。人の絶対数こそ王国の方が多いようだが、そのほとんどが活かされていない。多くは開拓町のような場所で、一次産業に従事しているようだが、それは死と隣り合わせといってよいレベルだ。なぜなら、移動中見つけた小さな町はろくな防壁もなく各家がつくった柵程度しかないのだ。これでは、モンスターや、賊に襲われればひとたまりもなかろう。なにより、騎士団などの討伐など年に1度もないらしい。

 

 

「王都はどうであった?」

「行く先々で袖の下を要求されるわ、一本裏を見れば八本指の関連とおもわしき店が堂々とあるわ。そのくせ貴族は防諜のぼの字もない」

「ってことは、どこかに忍び込んだか?」

「まあね」

 

 

 王都にいけば少しはましになるかと思えばひどくなった。

 

 各所で袖の下を要求され辟易しながら、商品を卸し、仕入れるという体裁で、各所に接触を図った。だが、見かけばかり派手で価値のありそうなものばかり売れ、真の意味で価値のあるものは、むしろ裏社会のモノが買い付けていった。

 

 また王宮と貴族の館に、どの程度の防諜レベルかの確認を依頼されていたので、忍び込んでみれば、ほぼ防御なし。そして出るは出るは汚職やら交渉材料になりそうな情報の数々。

 

 

「で、あまりのレベルの低さに年端もいかぬ娘をさらってきたと?」

「まあ……タイミングがな」

 

 

 ペロロンチーノが最後に潜入した貴族の館で、その貴族が麻薬や他の領の村民を拉致して奴隷としたてあげているというネタを見つけたのだ。それだけなら、ペロロンチーノは情報だけ抜いてそのまま立ち去っていただろう。目の前で美少女が……まあ、エッチィことだけなら無視したのだが、さすがに嗜虐という単語がふさわしい状況だったので手が動いてしまった。

 

 

「面倒はみろよ」

「いや十三才の娘さんだから面倒はみるよ?」

「それでいい。お前の相手は俺が後々見繕ってやる」

「貧乳合法ロリでお願いします」

 

 

 つい本音がでたペロロンチーノだが、ジルクニフも動じず考えておこうとだけ言い、あっさり流してしまう。

 

 

「しかし、聞きしに勝る腐敗ぶりだな。王国は」

「帝国の貴族もむごいのは結構いるが、あそこまではひどくないとおもうぜ」

「じゃあ、結論を聞こうか」

「もし、帝国でなにかあっても二カ月は何もできない。最悪、ヘッセン領と六軍がいれば、一年はもたせられる。もちろん、それ相応の準備を今からすればという前提付きだが」

 

 

 ペロロンチーノの言葉に、ジルクニフは目を閉じ思惑をめぐらす。その姿を見ながらペロロンチーノは嫌そうな顔をしながら言葉を紡ぐ。

 

 

「なにかありそうか?」

「ある」

「回避はできないか?」

「これは最高機密だが、皇帝の病はすでにな」

「年始の謁見の時、元気そうだったんだが」

「そう見せてるだけにすぎん。それに近衛以外の軍権を私に与える理由がない」

 

 

 現皇帝にして父親の死期を前に、ジルクニフはさらりと答える。

 

 

「皇帝の病を治すには、三十年ほど前に王国領内で一度だけみつかった薬草が必要といわれている。薬も薬草も現物はなく、あやふやな記録のみ。一応探させてはいるが、可能性は低かろう」

「なおの事、帝城にもどって顔を出すなり一緒にくらしたほうが」

「人並の幸せを望むなら皇帝にはならぬよ。父上も私もな」 

 

 

 ジルクニフは当然のことのようにつぶやくと、馬車の外の流れる景色に目をやる。

 

 ペロロンチーノからすれば、そんな形で帝国を息子に継がせる皇帝も、すでに覚悟を完了している皇太子も、ひどくいびつな生き方に思えてならなかった。

 

 

「そんな顔をするな。今日は母上との半年に一度の夕食だ」

「第二王妃様はどうも…俺の年齢をお前と同じとおもってないようなんだが?」

「あれは母上なりの親族への愛情だろう」

 

 

 ジルクニフは小さく笑いながら答える。

 

 第二王妃様は、ペロロンチーノにとっては父親の姉に当たる。どうもペロロンチーノが父親の子供の頃にそっくりらしく、ご尊顔を拝見するようになると、どうも子供というか弟をかわいがるような雰囲気や行動があるのだ。

 

 叔母という血縁ではあるが、王妃という立場の違い。親友の母親。なかなか難しいものだとペロロンチーノはやれやれという仕草をして、次の話題にはいっていくのであった。

 

 こんな日々が続けばいいと思いながら。

 



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第六話 暗殺

 フールーダ邸についたジルクニフとペロロンチーノは、第二王妃の到着前に準備を進めていた。もっとも二人のする準備は身ぎれいにし、相応の衣装を身にまとうぐらいだ。他は家の者たちが準備をほぼ終わらせていた。

 

 二人は晩餐室に案内されると、先客がいた。

 

 

「げっ」

「爺か。珍しいではないか」

 

 

 この館の主であるフールーダが珍しく晩餐室にいたのだ。

 

 フールーダは白いひげを撫でつけながら、にわかに殺気をたたえた目でペロロンチーノを見る。

 

 

「たまには顔を出すのも家主の務めであるからな。それよりペロ。おぬしは明日特訓じゃぞ。どこまでできるようになったか、じきじきに見て進ぜよう。そろそろ第六位階に到達したか?」

「あ~。いける感覚はあるんだがまだだ」

 

 

 ペロロンチーノ的には第六位階でほしい魔法は二つ 転移(テレポーテーション)、そして大治癒(ヒール)だけだ。実際は転移(テレポーテーション)はすでに習得しているが、まだ習得していないことにしている。そしてそれ以外を習得する気がないのは、無駄な魔法を覚える理由がないからだ。

 

 かつての親友のビルドのように無制限とはいえないが、尋常じゃない数の魔法を覚えるというロマンを感じなかったわけではない。しかし最強の人間種アーチャービルドをめざしている以上、取得できる魔法の数はおのずと制限される。なら習得する魔法は厳選しなくてはならない。

 

 もし、第六位階を習得したことがこのフールーダにバレると、それこそ今まで以上に拘束されるかもしれない。いや、絶対に魔道研究に付き合わされることだろう。

 

 うん。音楽性の違いなのだ。あきらめてほしい。

 

 そんなだぼら話をしているが、第二王妃様は一向に到着しない。

 

 普段であれば時間前に到着し、時間通りに晩餐会が開催となるはずなのにだ。

 

 ペロロンチーノは外を見れば、雲で夜空は隠れ、いまにも雨が降り出しそうな風が吹いている。

 

 なにか嫌な予感がする。

 

 これは虫の知らせか? それともただの勘違いだろうか。

 

 ペロロンチーノがジルクニフの顔を見れば、同じ結論に達したのだろう。

 

 

「ジル」

「ペロ。考えすぎなら良い。行ってくれるか?」

 

 

 ペロロンチーノはフールーダの方に視線を送る。

 

 

「おぬし一人がおらずともジルの身を守ることなど造作もない」

 

 

 ふっと鼻で笑うようにフールーダが答える。すくなくとも人類国家で、この爺に正面切って戦いを挑むような愚かものはいないだろう。いたとしても、この屋敷はフールーダの魔道工房でもあり、防御陣でもあるのだ。

 

 

「母上をたのむ」

「いってくる」

 

 

 ペロロンチーノはジルクニフのめったに見ない表情と言葉を胸に、動き出すのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 悠長に準備をする時間はなかった。

 

 剣と矢筒を腰ベルトに固定し、左右の腕には手首のスナップで銅貨が出てくる暗器。そしてメインの弓をつかむ。

 

 部屋に三十秒もかからず最低限の武装を整えたペロロンチーノはフライの魔法を唱え、窓から飛び出す。

 

 帝城からフールーダ邸までのルートはいくつかあるが、警備を考えれば三つ程度。帝城方面に飛びながら暗視のスキルと鷹の目のスキルを駆使し、第二王妃様が乗った馬車を探す。

 

 気が付けば雨が降りだし、勢いを増していく。

 

 

「こんな時に」

 

 

 馬車は見当たらない。何かありルートを変えたことを想定し、馬車が通れそうなルートをかたっぱしから探す。

 

 

「あれか」

 

 

 本来であればありえないほど、遠回りした場所に横転した馬車と思わしきものを見つけた。なにより、周りに武装した者たちが取り囲んでいるのだ。

 

 

 「転移(テレポーテーション)

 

 

 ペロロンチーノは、悠長にフライで飛んで移動しては間に合わないと判断し、視線をトリガーに転移(テレポーテーション)を使う。

 

 転移先は、横転した馬車の真上。すでにフライの効果は切れ、重力に引かれ自由落下の中、状況を把握する。

 

 

――武技:剛撃

――スキル:レインアロー

 

 

 ペロロンチーノは問答無用で矢を放つ。

 

 放たれた矢は、二つ、四つ、八つ瞬く間に増え、雨のように馬車を囲むものたちに降り注ぐ。アーチャーレベル十で覚えた一日に五回しか使えない面制圧のスキルである。そこにこの世界特有ともいえる、ダメージを上乗せする武技まで乗せたのだ。取り囲んでいた者たちは、例外なく撃ち抜かれていた。

 

 地に着く瞬間にフライを発動し、着地の衝撃を消し飛ばす。

 

 見回せば、敵と思しき者たちの他に、馬車を守るように戦ったであろう者たちが血濡れで倒れ伏していた。いや。確認をするまでもなく、皆息絶えている。

 

 

「王妃様ご無事ですか!」

 

 

 ペロロンチーノはあえて声をあげながら、横転した馬車の扉に手をかける。よほどの衝撃で横転したのだろう。扉はひしゃげており簡単には開かなかったが、力ずくでこじ開ける。

 

 そこには。

 

 

――……

 

 そこには血まみれの第二王妃アーデルハイドの姿があった。

 

 

「王妃様!!」

 

 ペロロンチーノは横転した馬車の底に横たわるアーデルハイドの傍らに降り立つ。横転の際、頭を打ったのだろう頭部から血をながしている。しかしひどいのは下半身だ。普通に考えればありえないことだが、取り付けられていた座席が壊れ、押しつぶしていたのだ。それこそワザと崩れやすくし、さらに中には修理備品という名の重量物がはいっていたとしか思えない状況だった。

 

 

「王妃様」

「あっ」

 

 

 ペロロンチーノの声で、意識を取り戻したのだろう、か細い声でアーデルハイドが答える。

 

 

「いま応急処置をして人を呼びます」

「そこにいるのはペロね」

 

 

 まるで見えていないような反応をするアーデルハイド。

 

 ペロロンチーノは急ぎ応急処理をと、馬車に取り付けられていたカーテンをナイフで裂き、手早くアーデルハイドの頭に巻き止血をする。しかし

 

 

「もう無理だから」

「そんなことございません。いまお助けします」

「これでも武門の女。どんな状態かわかっています」

 

 

 そう。下半身はすでに……。

 

 そんな状態でなおアーデルハイドは、苦しいといわず言葉を紡いでいるのだ。

 

 

「ペロ。ジルに伝えておくれ」

 

 

 ペロロンチーノはアーデルハイドの手を握り、その言葉を一語一句記憶するのだった。

 



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第七話 鮮血帝

 ペロロンチーノがフールーダ邸に戻った時、その腕には帝国旗にくるまれた女性の姿があった。

 

 もちろんその姿を見て、ジルクニフは何がおこったか十全に理解した。しかしできたことは涙を流すことでも、叫ぶことでもなく、ただ静かにこぶしを血が滲むまで握りしめることだけだった。

 

 ペロロンチーノはフールーダに話をし、客間のベッドに第二王妃アーデルハイドの亡骸を横たえると、家のモノたちに清めるよう依頼した。

 

 最低限、整えるべきことが終わり、ペロロンチーノはジルクニフが待つ執務室に剣を持って向かう。

 

 そこにはジルクニフとフールーダが無言でたたずんでいた。

 

 待っていた。というものではないだろう。すでにジルクニフは状況を把握し、フールーダは意見を求められていない。だからふたりは無言でたたずんでいたのだ。

 

 ペロロンチーノはそんな状況の部屋に入ると、腰の剣を外すとジルクニフの前に置き、膝をつき首を垂れる。

 

 

「第二王妃様をお助けすることができませんでした」

「お前のせいではない」

 

 

 ジルクニフは静かに宣言する。

 

 

「いや。俺のせいだ。俺が変なこだわりをして治癒魔法をおろそかにしなければ。せめて、最低限のポーションなり持っていけば……」

 

 

 ペロロンチーノの言葉にジルクニフはため息をする。

 

 世間の一般常識であれば、魔法の習得は簡単ではない。たとえヒール系の魔法の習得を目標としたとする。それを目標に学び、修行して、多数の時間を研鑽に費やしやっと習得できる。下手すると勉強しても自分では確認できないスキルレベルが到達しておらず取得条件を満たせない。そんな可能性さえあるのだ。

 

 対してペロロンチーノは違う。転生したからなのか理由はわからないが自分のステータスというものを理解できているのだ。ゆえに効率的に学習し、イメージ通り経験値がたまるのだ。つまり、所有スキル的にもヒールを取得する下地はあったが、ビルド構成で下位のヒールはとらず、目標の第六位階になっても転移を優先したのだった。

 

 

「お前が取得する魔法やスキルを選んでできることなど、とうに把握している。むろん爺もな」

「えっ」

 

 

 ジルクニフの言葉にペロロンチーノは面を上げて聞き返してしまう。

 

 

「私はお前を知っている。おまえは最善を尽くしたこともだ。それで責任を問うなら命じた私にだ。それにな……」

 

 

 ペロロンチーノはジルクニフの濃紫の瞳を見る。そこに揺らぎはなく、もし何も知らないものがみれば、母親の死を悲しまない情のない男というだろうか。

だが……ペロロンチーノは知っている。

 

 

「両親の死に加えて、親友の死など見せてくれるな」

 

 

 ペロロンチーノは立ち上がる。

 

 

「母上がこうなった以上、フールーダに裏を取らせたが父上もであろう。ほぼ間違いない。朝までに動かせる騎士団を動かす。夜明けとともに帝城を含む重要拠点を抑える」

 

 

 ジルクニフは取り出した一枚の地図にいくつかの情報が書き込まれる。

 

 

「ペロ。あの時の約束。今こそ実現するぞ」

 

 

 ペロロンチーノは静かに頷くのであった。

 

 

 

***

 

 

 

 翌朝、日の出とともに500の騎士が隊列を組んで帝城に向かう。

 

 朝の早い帝国民は、その異様な光景に何が起こるのかと固唾をのんで見つめることしかできなかった。また、その光景は帝国議会。帝国情報局。そして帝都の出入り口たる四方門すべてが騎士団によって封鎖された。

 

 もちろん各所で小競り合いや混乱は起きていた。

 

 しかしもっとも大きな問題が起こるであろう帝城では、事情が違っていた。

 

 

「ジルクニフ・ルーン・エル=ニクスの帰還である。門を開けよ」

 

 

 先頭に立つ皇太子にそう宣言されれば、帝城の門番も否ということはできず迎え入れるしかなかった。

 

 そしてジルクニフが城門に入ろうとした時、付き従うペロロンチーノは馬上で素早く弓を構え、三本放つ。

 

 まるで打合せ通りといわんばかりに、弓を持った三人が落ちてくる。実際は純然たる弓の早打ちの技術で三人の狙撃者を射殺し、第一位階の風魔法でこちらに落ちるように押しただけなのだが、あまりに早すぎて何がおこったのかは、狙撃者が落ちてきてはじめて、ほとんどのモノは把握することとなった。

 

 ジルクニフは、そんな状況でも気にせず進み、城の前で馬から降りる。付き従う半分は帝城の入り口を封鎖し、残りはジルクニフに付き従う。

 

 もちろんジルクニフの歩みを止めようとするものもいた。

 

 

「たとえ皇太子様といえども、どのような権限でこのようなことをされるのですか!」

 

 

 ある近衛兵は叫ぶ。

 

 

「帝国の権威を、なんとお考えになりますか!」

 

 

 ある法衣貴族が叫ぶ。

 

 

「帝国の権威か……。実力あっての権威であって、権威あっての実力ではない。ゆえに皇帝は私に騎士団の指揮権を与えたのだ」

 

 

 しかしジルクニフは歩みを止めることはなかった。むしろ力づくで止めようとする愚か者は、例外なくペロロンチーノによって排除された。

 

 その中、一人のメイドがジルクニフの前に跪く。

 

 

「ターニャか。首尾は?」

「寝室にございます」

 

 

 ジルクニフは頷くとそのまま後宮に入り、王の寝室の扉をあける。

 

 そこには、静かに眠る皇帝の姿があった。

 

 

「大方朝起こしに来たものを第一発見者とするつもりだったのだろう。最後にこの部屋から出たのは?」

「夜番の者に確認したところ皇后様とのことです」

 

 

 ジルクニフはベッドに歩み寄り皇帝の状態を確認する。そして静かに跪く。

 

 わずかな時間。祈りの時間であったのだろうか。

 

 

「ペロ。確認を」

 

 

 もちろん医者でもないペロロンチーノだが、人の生き死にぐらい確認できる。喉の静脈、ライトの魔法を併用した瞳孔の確認。

 

 そして小さく首を振る。

 

 

「これより、亡き皇帝への弔いである。全貴族を集めよ。応じぬものは背信ありとして拘束せよ。これはジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス最初の勅である」

 

 

 その日、多くの貴族・関係者が拘束された。反乱を起こそうにも、夕方には第二騎士団。翌日には第三騎士団が帝城および帝都に到着し、治安維持と反乱をとらえてまわったのだ。

 

 その一週間後。

 

 

――帝国貴族の三分の一が処刑された。表向きは事故や病死と記録されているが……

 

 

 その中には、前皇后の一族も含まれていた。



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墓場の王
第一話 十年の月日


最終章です。
5話とおまけ2話で終わる予定


 小高い丘に生えたひと際大きな木の上。

 

 長い黒髪をたなびかせた青年は、遠くに広がる風景を眺めている。

 

 眼下には美しい自然が広がり、空気も澄んでいる。ほのかな緑の香りにつつまれながらも、遠くには帝都の美しい街並み……人の営みが見える。見上げた空はどこまでも蒼く、白い雲を従えてどこまでも広がっていく。

 

 なによりここには人がめったに訪れない。静かに過ごすにはいい場所だ。だからこそこの場所は、青年にとっての一番のお気に入りスポットだった。

 

 そして青年は一人たたずんでいる。

 

 

「さて。いきますか」

 

 

 フライの魔法を使って、蒼天の空に飛び立つのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 あれから十年。

 

 帝国は大きく変わった。

 

 厳格な法の施行。法にのっとった裁判。腐敗し犯罪に手を染めたものは貴族であろうと処罰された。逆に平民であっても有能であればどんどん取り立てられた。

 

 能力と順法意識、そして忠誠心があれば、どこまでも出世できる。例えば新に創設された第七騎士団と第八騎士団。そのトップである将軍はともに平民である。

 

 農業改革・街道治安・公衆衛生。租税一律化。改革を上げればきりはない。

 

 少なくとも帝国でまじめに働けば飢えることはない。

 

 そして余力もでき、収穫時期を狙って王国に戦争をしかけ、疲弊させる作戦も大々的にすすめている。

 

 では、有能なものしか生きられないのか? といえばそうではない。

 

 当初ジルクニフは無能ものをすべて排除しようとした。だが、それに待ったをかけたのはペロロンチーノであった。

 

 

「無能でも順法意識があり多少の忠誠心があるなら残すべきだ。かれらは経済という視点でみれば消費者なのだから。例えば料理人が生産者から食材を買い料理を提供したとしても、消費者がいないと成り立たない。あとは賢いジルならわかるだろ。ああ、もちろん執政に関わるモノに無能を残せなんていわないよ。でも手数が必要な分野というものは存在するはずだ。そうしないとジルの仕事が増えすぎて禿げるぜ」

 

 

 もちろん半分はペロロンチーノなりの詭弁も大いに含んでいる。すでに多くの血が流れている。ペロロンチーノ自身も相応の血を流した。だが、無能というだけで死ぬのはさすがにペロロンチーノの矜持からNOといったのだ。

 

 

「おまえに諭されるとはな」

 

 

 ジルクニフは笑いながらそんな言葉を残し、政策の変更を行うのであった。

 

 とはいえ、国力(経済、軍事、文化、資源、領土、人口)という観点でいえば、人口は五十%アップ。経済は百%アップ。軍事も四十%アップという文句なしの成長である。

 

 

「まったく……。ジルの手腕は、あの(前世の)化け物(支配層)を思い起こさせる」 

 

 

 ペロロンチーノは、そんなことをつぶやきながら、街角で串焼きを買いぱくつく。

 

 

 十年前も十分においしかったが、最近では食材の味の上昇、下処理といったことにまで技術がおいついてきたのだろうか、いまではしっかり肉を食べているという感じを楽しめるようになった。

 

 

 そんなことを考えながら帝城の門をくぐるのであった。

 



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第二話 隣国に現れた魔法詠唱者

 ジルクニフは執務室で執政官たちに囲まれ執務を行っていた。護衛の役目を全うする四騎士、そしてフールーダもそろっている。

 

 そんな中で部屋に通されたペロロンチーノの服装はある意味で特異なものであった。軽装といってよいほど最小限の皮鎧。背中には弓。腰には矢筒と短剣。よく知るものがみれば、ポーションや暗器なども備えている。帝城では異常な装備だが、その異様さを加速させるのは鳥をかたどった顔の上半分を隠す仮面である。

 

 異様な姿を見ても、だれも文句を言うものがいない。その程度にこの破天荒な恰好はいつもの事であり、皇帝の前で武装することが許されるという特権そのものを表しているのであった。

 

 

「遅いぞ。ペロ」

「今時期、内政に俺が何か忠言するようなことはないとおもうが?」

「ヘッセン卿!」

 

 

 ジルクニフの言葉に、軽口でかえすペロロンチーノ。そしてその口調を咎める四騎士のニンブル。ここまでが一セットである。執政官たちも気にせず次の報告に移る。

 

 

「では、次の報告です。王国の南方を暴れまわっていた法国の部隊ですが、どうやら一人のマジックキャスターにほぼ殲滅されたようです」

 

 

 外務を担当する執政官の報告に、ジルクニフの眉が動く。聞いている者たちもその言葉ににわかに信じられないという雰囲気を醸し出す。

 

 

「確認だ。今回の法国の部隊は?」

「陽光聖典の本隊と支援部隊です」

 

 

 執政官の回答に、ジルクニフは記憶との違いがないことを確認する。

 

 

「判明している情報を詳しく」

「法国の部隊は王国の開拓村を中心に襲撃を繰り返し、王国戦士長の部隊が後追いで救援に回るという状況でした。王国は救援の際、生存者をエ・ランテルに送るため人数を順次さいておりました。最後に陽光聖典に囲まれ打ち取られる寸前までいったところ、隠遁していたマジックキャスターが救助、逆に陽光聖典は殲滅されたと」

 

 

 ジルクニフは護衛として後ろに立つ四騎士に顔を向ける。

 

 

「我が四騎士に問う。陽光聖典を相手に殲滅は可能か?」

「ご命令とあらば」

「四人なら負けはしないでしょう」

「相性の問題で。取り逃がす敵がでるかと」

「四人なら負けるとは思わない。想定外があれば逃げるだけ」

 

 

 ジルクニフの言葉に四騎士はそれぞれ答える。おおむね勝てるが、殲滅は難しい。それは相性の問題である。帝国四騎士は、単純な武力で選ばれている。だが言葉の通り相性がある。今回はいわば広域殲滅のようなスキルなり魔法なりがあるかという点でしかない。

 

 

「爺とペロはできるとして、我が四騎士と同等以上の存在が現れたということだな」

「はい」

「そのマジックキャスターについてわかっていることは?」

「赤い仮面に肩には巨大な角と宝玉を付けた黒いローブ。名はアインズと名乗ったそうです。同行者は女性ですが漆黒のフルプレートを身にまとっていたとのこと」

 

 

 ジルクニフは記憶を探るが該当者はいなかった。

 

 

「爺、記憶は? あとどの程度と評価する?」

「陽光聖典は第三位階の使い手があつまった部隊。殲滅となれば第四……いや、第五位階の使い手と考えてよいでしょう」

「英雄の領域に踏み入ったマジックキャスターということだな」

「はい」

 

 フールーダはにやりと笑いながら答える。その性根をしるジルクニフとしては、フールーダが何を考えているか手に取るようにわかるが、いきなり暴走することもなかろうと判断し保留する。

 

 そして、普段であれば軽口の一つでもたたく男が何も言わないので水を向けるのだった。

 

 

「何か気になることはあるか? ペロ」

「ああ。たぶん気のせいだ」

 

 

 まず件のマジックキャスターの容姿を聞いた時、一人の親友のアバターが浮かんだ。そしてその名を聞いてあるギルド名を思い出したのだ。しかしあり得ないと否定した。

 

 

 

「ふむ」

 

 

 そのペロロンチーノの言葉に、ジルクニフは、ペロロンチーノ本人以上に、ペロロンチーノの内面を把握していた。

 

 

「ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスの名においてペロロンチーノ・ヘッセンに命じる」

 

 

 ペロロンチーノはジルクニフのまじめな雰囲気を読み取り、一歩引き首を垂れる。

 

 

「このマジックキャスターについて調査をせよ。急ぎ対処が必要であれば報告は後でも構わん。帝国の利益になるよう行動せよ」

「御意に」

 



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第三話 アインズ・ウール・ゴウン

 ペロロンチーノの名は、帝国内どころか王国・法国でも知れ渡っている。

 

 その名が最初にとどろいたのは現皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス即位前後の大動乱期、皇帝を殺しに来た暗殺者、腐敗貴族の私兵から皇帝を守り抜き、その多くを葬った。

 

 だが、字である、爆撃の王と呼ばれるようになったのは、皇帝ジルクニフが即位した年、王国は帝国の混乱を突く形で奇襲を仕掛けた。その数は1万。

 

 それをわずか千の兵で殲滅したのだ。

 

 カッツェ平野の霧の時期であったため、それを避けるように街道を進む王国軍。それをペロロンチーノを含む三百が森に隠れ、やり過ごし、夜明けとともに後方を遮断するように移動。ペロロンチーノは上空から比喩抜きの燃え盛る矢の雨を降らし、着弾と共に爆発するという苛烈な爆撃を行ったのだ。

 

 王国軍後方は、瞬く間に炎と爆風に包まれ逃げ惑うこととなる。なにより後方にいた今回の指揮をする貴族を巻き込み爆殺したのだ。そこからは一方的な虐殺といっていい状況となった。

 

 それ以降も、戦場で、魔獣狩りで、その圧倒的な戦力を誇示し、大魔法使いフールーダにつぐ帝国における抑止力の一つとなった。

 

 そんなペロロンチーノは、ジルクニフから勅命を受け一週間ほどたったある日、帝城からほど近い屋敷に転移で訪れていた。

 

 

――帝国情報局 局長室

 

 

「局長 来たなら声かけてください」

 

 

 ちょうど用事で訪れていたのだろう。金髪のハイティーンの女性が書類の束を持ちながら声をかけてきた。

 

 

「やぁアルシェ。今日も綺麗だね」

「お世辞はいいですから、来たなら決裁お願いします」

「はいはい。あと例の最優先のやつは?」

 

 

 ペロロンチーノは席に座ると、決裁箱の報告書に目を通しはじめる。簡単なものはその場で承認し、読み込みに時間のかかるもの、頭に入れておくべきものはより分けておく。

 

 

「昨晩報告があがってきたので、朝一でまとめておきました。とってきますね」

「うん。たすかる」

 

 

 アルシェはある貴族の令嬢であり、もともとは帝国魔法学院で在席し、優秀な成績をおさめていた。しかし両親の素行・金銭問題で辞めざるをえなくなったとき、ペロロンチーノが手を差し伸べたのだ。

 

 まあ、外見的な好みとかいろいろ下心はあったが、第三位階の魔法が使え、さらに有用な相手のMPの規模を見ることができるというタレントまでもっている彼女を、ただ闇雲に下野させるのはもったいないと考えたからだ。結果、自分の部下として頑張ってもらっている。

 

 決裁がひと段落する頃、お茶と共に、報告書をもってアルシェは再度入室してきた。

 

 

「お茶と、こちらが報告書です」

「ありがとう」

 

 

 ペロロンチーノは報告書をめくる。

 

 

「アルシェ。このアインズ・ウール・ゴウンという人物をどう思う?」

「在野にこんな人物がいたとは考えられません。加えて過去の記録を含めフールーダ様に匹敵する魔法使いでアインズという名前の方は存在しません。ならば偽名か、それこそ人間種でないと考える方が自然です」

 

 

 実際、魔法教育というものの効率は帝国が抜きんでている。素質管理という点について徹底した戸籍をもつ法国にはまけるが、教育、人口による規模という問題で法国を上回る。それでも推定第四位階以上の魔法使いというのはそれなりに名が残る。そしてアインズ・ウール・ゴウンという名前は存在しない。

 

 

「あと、変化という点で三つ報告があがってます。一つは件のマジックキャスターが現れた村で、人語を解するゴブリンが使役されているそうです」

「ゴブリンが?」

 

 

 人語を解するゴブリンというだけで、ペロロンチーノの記憶にはない。いたとしても相当レアな存在だろう。それを使役する……。モンスターテイマーなら0ではないだろうが、そうとう珍しい。

 

 

「続いて、近隣の都市エ・ランテルにおいてズーラーノーンによるアンデッド暴走事件が発生したとのこと。それをカッパーの冒険者モモンと第三位階の魔法をあやつるナーベが解決したようです」

「それはカッパーの冒険者が解決できるレベルのものだったのか?」

「はい。それなら報告にあがってきています。アンデッドは千近く。スケリトルドラゴンの討伐された証もあったそうです」

「ほう」

 

 

 スケリトルドラゴンはいろいろと面倒な特性を持つ。少なくとも新人冒険者がどうにかできる相手ではない。

 

 

「最後に、いままで平原だった箇所に複数の丘が生まれ、その一つに古代遺跡と思わしき墳墓が発見されました」

 

 

 その報告を聞いた瞬間、お茶の入ったカップをペロロンチーノは握りつぶす……。

 

 

「えっ?!」

「その墳墓はどんな外観だったか?」

「はい。朽ちた神殿で、みたこともないほど精工なものだったと。時代などはまだ専門家が入っていないのでなんとも」

 

 

 アルシェは台拭きを持ちペロロンチーノの机を拭く。幸いほとんどお茶はのこっていなかったため、大惨事だけは避けられたが……。

 

 

「アルシェ。調査は続行。ただし墳墓については誰も入るな。可能なら誰も近づけるな。俺が直接いく。他はいままで通りに。あと数日は戻れない想定で行動を」

「はっ。はい。直ちに」

 

 

 ペロロンチーノの何時にないまじめな声に、アルシェは急ぎ部屋を出るのだった。

 

 

「高位のマジックキャスター。アインズ・ウール・ゴウン。モモン。ナーベ。そして墳墓……まさかナザリックか?」

 

 

 その疑問に答えるものは誰もいなかった。

 



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第四話 ナザリック地下大墳墓

活動報告を記載いたしました。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=273135&uid=4151


おまけとして、どれが見たい?(12月末までアンケート)
を設置しました。
コミケが終わったらアンケートを見て書きます


 ペロロンチーノは想定できる最高の装備と野営道具。そして四日分の食料を持ちフライで件の墳墓に向かう。到着したときは昼過ぎであったが、丘の上、ちょうど墳墓の外周におり立つ。

 

 丘をくりぬいて墳墓をつくったような構造。墳墓の外壁の九割を覆うような丘。なんとも奇妙な構造をしていた。

 

 実際は逆なのかもしれない。

 

 もともとここ一帯はただの平野という情報しかなかった。そんな場所に丘がいくつもできた。もちろん現在の人類圏の技術では不可能だが、もしユグドラシルプレイヤーのレベル100なら? まあ、結論の出ない話とペロロンチーノは割り切った。

 

 

 ペロロンチーノはその場でフライの時いっしょに引っ張ってきたフライングボードを下し、野営の準備をする。

 

 丘の上で見晴らしがよく奇襲の危険もない。墳墓の地上部分を見る限りアンデッドなどのモンスターもいない。警戒するなら悪くない場所だ。

 

 

「転生して二十年ちょっと。転生前の時間やらなんやらを考えれば、記憶の彼方に葬られているかとおもったが、見れば案外思い出すものだ」

 

 

――ナザリック地下大墳墓 表層

 

 

 そんなことを考えながらペロロンチーノは小さな火をおこし、湯を沸かす。タオルにお湯の半分をかけ体を清める。のこった湯には適当に干し肉とスープの素の塊、香辛料。そして野菜のかけらのようなものを放り込む。固く焼いてかびないようにしたパンを切り分け、スープに浸しながら食べる。

 

 腹が減ってはというが、正直いえばどうしようか迷っていた。

 

 本当にここがナザリックであれば?

 

 たとえば、プレイヤーの誰かがいるのか? それともNPCの誰かがいるのか。すでに朽ちて本当にアンデッドになってしまっているのか?

 

 もちろん、この世界には異世界からの転生者のような存在がいると、フールーダから聞いている。圧倒的な強者。現在の技術では製造もできないようなアイテムや装備の数々を携えた存在。

 

 そんな中にナザリックが含まれていた……という可能性。

 

 

「俺という存在がいる以上、否定はできないんだよな」

 

 

 結局一晩、ペロロンチーノはその位置から動かず。思い出をかみしめる。

 

 そして翌朝、かるく仮眠をとったペロロンチーノはベースキャンプをそのまま、フル武装して墳墓の表層に降り立った。特に姿を隠すようなことをせず、あくまで堂々と、ただし罠などを警戒しながら歩く。記憶では中央の霊廟から地下にはいる。

 

 

 霊廟には数多の宝がおかれているが、ペロロンチーノは関心を向けず奥に進む。記憶をたどりに一番奥の女神像を台座ごと押すと、地下への階段が見つかる。

 

 とくに理由はない。ただペロロンチーノはふと言葉を吐き出す。

 

 

「ただいま。ナザリック地下大墳墓」

 

 

 

***

 

 

 

 ペロロンチーノは地下三階までほぼノンストップで歩いてきた。途中数多のトラップが見つかるが、記憶に沿って回避しながら歩く。また内部構造も迷宮と評価したほうが正しいというほどに複雑なものであったが、記憶を頼りに進む。

 

 もちろん多数の宝はあった。でも装飾として配置されているものか、罠と連動しているのをペロロンチーノは知っている。

 

 

「ナザリックの備品をわざわざ拾い集める理由はないよな」

 

 

 ペロロンチーノは苦笑いをしながら進む。

 

 もっとも記憶があるのは自分の理想ともいう存在が第一から三層の階層守護者であり、その設定をするためによく出向いていたという理由に過ぎない。そしてその関係で、ルートの各種罠にも記憶していたにすぎない。むしろ体感で数十年前のことなのに、昨日の事のように思い出せるのは不思議としか思えなかった。

 

 

「しかし、なんで迎撃用のアンデッドが襲ってこないんだ? 誰かに監視……」

 

 

 ペロロンチーノはそこまで独り言をいうと、ある意味で正解ということに気が付いた。

 

 

 そう

 

 

 誰かが自分の行動を見ている

 

 

 ならば

 

 

「そろそろか」

 

 

 だが、その快進撃も終わる。三階から一度二階にあがり、そして屍蝋玄室に入る。

 

 

 そこには……。

 

 

 

***

 

 

 

 そこには、一人のヴァンパイアがたたずんでいた。

 

 

「シャルティア……」

 

 

 長い銀髪に血のように赤い瞳。紫を基調としたドレスと大きなリボン。その手には、ドレス姿には似つかわしくない巨大なランスを携えていた。

 

 結構な歳月をかけて完成させたNPCが、いまゲームの中と同じ姿でたたずんでいたのだ。

 

 

「なぜ、わらわの名をしっているのでありんしょう」

 

 

 ペロロンチーノの前に立つシャルティアは、妖艶な雰囲気を醸し出しつつ、ペロロンチーノの言葉に質問で返す。

 

 まるで生きているように。

 

 その状況に一番混乱しているのはペロロンチーノだ。もちろんその生存本能は、いままでの生涯で最大の警告を放っている。

 

 

「シャルティアがいるということは、ここは本当にナザリック地下大墳墓なのか」

「ほんに、侵入者にこたえるギリはありんせん。しかしアインズ様より冷静に任務を遂行せよとのお言葉」

 

 

 流暢にシャルティアがしゃべる廓言葉を聞いて、様々な疑問はあるものの、この場を切り抜ける必要があるとペロロンチーノは切り替える。

 

 

「言葉を交わす時間をくれるのはありがたい。アインズ様とは誰を指しているのだい? アインズ・ウール・ゴウンはこのナザリック地下大墳墓を治めるギルドの名前のはずだが」

「それはむろん至高の四十一人の頂点にして絶対の支配者、モ・・・いえ」

「え? モモンガさん、名前かえたのか?!」

 

 

 シャルティアの言葉からモモンガが、アインズであると認識したペロロンチーノ。逆に、目の前の敵に主の名をばらしてしまったことに、シャルティアは血の気が引くのを感じた。

 

 

「ただでさえアノ御方と同じ名を持つ不届きもの……かくなる上は」

 

 

 シャルティアが、それこそ証拠隠滅のために目の前の男を葬ろうと、スポイトランスを構えようとするも、以前の失態もあり、アインズからの指示と相反するため、本当にここで目の前の存在を激情のまま殺してもいいのか迷ってしまう。

 

 

 もちろんその殺気とも言える気配の変化を敏感に感じたペロロンチーノは何とかこの場を切り抜けるべく、言葉を返す。

 

 そう。この場は誰かに監視されているのだ。

 

「シャルティア! モモンガさんと連絡はとれないか?」

「それ……わ……え? はい」

 

 

 先ほどまで悩み、最後は殺気さえ発っしていたシャルティアが急におとなしくなったのだ。

 

 

「五分後にアインズ様がお会いになられるでありんす」

 

 

 

***

 

 

 

 五分後ゲートによってペロロンチーノがつれてこられたのは、円形闘技場の真ん中。すなわち舞台の真ん中であった。

 

 そこにはすでに先客がいた。

 

 白いドレスを纏ったサキュバス。オレンジ色のスーツを着た悪魔。水色の蟲王。ダークエルフの双子。むろん全員からこちらを射殺さんばかりの殺気がただよっている。

 

 そして殺気という点では、案内役のシャルティアからも同じであった。

 

 まさしく針の筵のはずなのだが、同時になつかしさをペロロンチーノは感じていた。

 

 

「アインズ・ウール・ゴウン様の御なり」

 

 

 その言葉と共に一人のオーバーロードが現れる。この世界の基準で評価するならば、誰もが持ちえない伝説の防具を身にまとい、その手にはその一端さえ再現が難しい宝杖を持つ、比類なき死の王の姿であった。

 

 シャルティアは一歩横にずれ、アインズに向かって報告をする。

 

 

「単身でナザリック地下墳墓に侵入したこのものをお連れいたしました」

「うむ。私がナザリック地下大墳墓の主人。アインズ・ウール・ゴウンである。してお前はなぜ、この地に侵入してきた?」

 

 

 アインズの言葉には殺気こそないが、強烈な威圧感が含まれている。

 

 

「まさか財宝、名誉、なんてもののために我が友と……。我々が作り上げたこの地を土足で踏み込んだとは言わぬよな」

 

 

 アインズの言葉にペロロンチーノは、何をいわんとしているのか理解することができた。

 

「ここがナザリック地下大墳墓かどうか。確かめるために訪れたんだ。モモンガさん」

「まて!」

 

 

 その瞬間、周りに侍る者たちは一斉に戦闘態勢に移行した。

 

 だが、それをアインズは左手をすっと掲げ抑える。

 

 

「お前は誰だ?」

「ユグドラシルではペロロンチーノと名乗ったバードマン。今はこの世界に生きるただの人間。ペロロンチーノだ。親友」

 

 

 ペロロンチーノには一瞬、アインズが目を見開いたような姿を幻視した。いや、あれは多分

 



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第五話 帰還

感想にほぼ正解がいてドキドキしました

本編はここまで
後日談 1話
おまけ 1話
あとアンケート結果となります。


「おまえ……。いや貴様がペロロンチーノだと? 私の親友の名を騙るのか」

「この世界に転生して二十年と少し、人間だけどペロロンチーノだ。何をもって証明するかはむずかしいが。たとえば、ユグドラシル時代のことを話せばいいか?」

 

 自分以外にも似た境遇がいるかもしれないというわずかな希望と、いるわけがなく目の前で親友の名を騙る存在かもしれないという疑心暗鬼。アインズの頭には二つの相反する意見が思考を支配していた。むしろ親友の名を騙る目の前のモノを、激情の赴くまま殺すことさえ考えた。しかし感情の強制抑止のおかげで、冷静に判断することだけはできた。

 

 

「知っていることを申してみよ」

「モモンガさんが知ってそうなことだと、俺、ペロロンチーノの姉はぶくぶく茶釜。姉のリアル職業は声優。俺はシャルティアを。姉さんはアウラとマーレを作った」

 

 

 ペロロンチーノはアインズの顔をみるが、骸骨の顔なので表情は読めない。無言ということから、続けろということと判断し記憶を掘り返す。

 

 

「アインズ・ウール・ゴウンの前身はナインズ・オウン・ゴール。ペロロンチーノはバードマンの弓使いで、さっきのモモンガさんも含めてギルドの初期メンバーで、俺の座右の銘はエロゲ……」

「はい! わかった! それ以上いうな。NPCたちの情操教育に悪い」

「よかった。この辺で分かってもらえなければ、ギルドエピソードか、モモンガさんの性癖にいくところでしたよ」

 

 

 あんまりな言葉が出始めたので、全力でアインズはペロロンチーノの話に割り込む。いや、これ以上放置すれば、支配者としての品格に触れた可能性があるのだ。本当にあぶないところであった。

 

 むしろペロロンチーノの座右の銘よりギルドエピソードを先に言えよと突っ込むアインズであった。

 

「本当にペロロンさんなのか?」

「その通り」

「そっか……この世界に……いたんですね」

「まあ、転生だけどね」

 

 

 アインズがペロロンチーノの事を認めたことで、逆に周りに侍っていた守護者たちには動揺が走った。

 

 その中で一番の動揺をしているであろうシャルティアが震えるように声を絞り出す。

 

「ペロロンチーノ様で……」

「そうだよ。シャルティア」

 

 シャルティアとしては、以前感じていた創造主とのつながりのようなものが感じられず、ペロロンチーノのことを信じることができなかった。

 

 いや

 

 信じた場合、自分は敬愛すべき創造主に武器を向けようとしたのだ。

 

 そんな二律背反の感情、泣きそうな表情を浮かべるシャルティアを見て、ペロロンチーノは笑みを浮かべながら肯定し、力強く抱きしめるのだった。

 

「シャルティアと出会ったとき、本当にイメージ通りで驚いたよ。でも立ち位置を考えれば、いきなり抱きしめることなんてできなかった」

「でもわらわは、ペロロンチーノ様に武器を」

「許す。シャルティアは守護者として立派に役目をはたそうとしたのだから。それに、ああ本当にシャルティアは理想の嫁だよ」

「よ・・・嫁?!」

 

 ペロロンチーノの言葉と体温に、シャルティアも意を決したように、ゆっくりとペロロンチーノの背に腕を伸ばした。

 

「あ~~。ペロロンさん。砂糖吐きそうなんですが」

「え? モモンガさんアルベドを嫁にしてるんじゃなかったんですか?」

「まあ!」

 

 だだ甘の雰囲気を出しはじめたシャルティアとペロロンチーノの姿に、ついつい突っ込みを入れてしまったアインズだが、ペロロンチーノからとんでもない言葉がかえってきた。

 

「だって、アルベドってタブラさんの子でしょ? 外見はモモンガさんの性癖にぶっささるように調整したって、タブラさん言ってましたよ」

「なんであの人、そんな事知ってるんですか」

「俺が教えたから」

「お前か!」

 

 ペロロンチーノのやらかしに、激怒するモモンガ。しかし即冷静に戻ってしまう。

 

 だが、そのやり取りをみて守護者たちは、ペロロンチーノが本当に転生という行為でこの場に帰ってきた可能性が高いと認識することができた。

 

 なにより当のアルベドは、ペロロンチーノを逃がさないという評価にまでなっていた。なぜなら、目の前のペロロンチーノがいればシャルティアがライバルから脱落するのだ。

 

 加えてアインズとのやり取り。きっとお一人で心労をためられていたアインズのためにも必要と考えたからだ。

 

 確かに人間という下等生物であり、真の意味で至高の存在か疑わしい。しかし、アルベドにとってアインズの邪魔にならないなら、見逃しても良いというぐらいの寛容さはあった。けっして自分をアインズの嫁と評したからではない。

 

 その後、場所を移しアインズとペロロンチーノの会話は続いた。

 

「まずお前たちに命ずる。この者を我が友ペロロンチーノとして今後扱うように」

「御意に」

 

 守護者たちは一斉に跪き、首を垂れる。

 

「モモンガさん。それって必要なことなんですか」

「念のためです、ペロロンさん。ささやかな意見の行き違いでペロロンさんと仲たがいはしたくありませんから」

「まあ、そういうことなら……」

 

 アインズとしては、最低限こうすることでペロロンチーノの安全を確保するつもりであった。逆にペロロンチーノからすれば、なぜそんな状況になっているのかわからなかったが……関係はあとで理解すれば良いと判断し、いったん脇に置くことにした。

 

 アインズが指を鳴らすと、控えていたメイド達が給仕を始める。美味しそうな軽食。そしてさわやかな香りの紅茶が並べられる。

 

「ゲームの時はバフのために食べてましたけど、こんなに美味しかったんですね」

「ペロロンさんがおいしそうに食べるのはうれしいですが」

「あ……ごめん」

「いえ、この体も便利ですよ? 不眠不休で仕事できますし」

「いやいや。いきなりブラックに走らなくても」

 

 アインズとペロロンチーノの会話は続く。

 

「なにか食事ができるようなアイテムとかないんですかね?」

「声を変える口唇蟲とか、義手とかの代わりになるようなモノはあるんですがね」

「その辺研究すれば一緒に食事できるようになるかもしれませんね。その時は一緒に飲みましょう!」

「そうですね」

 

 こんな風に守護者たちの前で和やかに会話は進んでいく。

 

 転移後、モモンガは支配者としての姿を優先していたが、もともとはNPCたちの前では、このように普通に会話していたのだ。NPC達からすれば、至高の存在が下々の者に遠慮することなど、本来は不要とさえ考えているからこそ、静かに侍っているのだ。もっとも会話の中でペロロンチーノが本物かどうかを吟味しているという側面はあるが……。

 

 ペロロンチーノが隣国の帝国で重要な位置にいること。そして今生の親友が皇帝であること。

 

 この辺りは人間国家の場所で、人間はその地位が低いこと。

 

 この世界には本物のドラゴンを含めた異形種が多数存在すること。などなど

 

 様々なことを話した。

 

「モモンガさんがその姿で来るとはおもいませんでした」

「むしろペロロンさんが転生していることのほうが驚きですよ」

「まあ、どっちにしろワイルドマジックの影響かもしれませんね?」

「ワイルドマジック?」

「そそ。この世界には真なる竜という者たちが存在するってはなしましたよね」

「ええ」

「いわば、上位種たる竜王は、世界の法則さえかえることができるワイルドマジックを使えるって話です。そうでもなきゃ、ゲームのキャラが転移してきたり、俺みたいに転生したり……考えられないでしょ」

「なるほど」

 

 ナザリックの情報収集能力が人類国家のそれを超えるとはいえ、日も浅くまだまだ入手できていない情報が多い。ワイルドマジックの話や竜王の話は、モモンガにとっても興味深い内容であった。

 

「そういえば転生ということでしたけど、ペロロンさんあっちの世界でいつごろ?」

「実は病気になりまして、記憶にあるのは2138年頃ですね」

「え?」

「神経系と脳系の複合だったので、フルダイブを使った末期治療もできず。意識はその年までだったのでたぶん。両親にも、無理な延命はしないようにお願いしていましたし」

 

 

 2138年。モモンガの主観ではほんの少し前……ユグドラシルのサービス終了の頃にリアルのペロロンチーノも亡くなっていたかもしれないのだ。

 

 ユグドラシルサービス終了に向けて、モモンガからギルメンへ送った最後のメール。

 

 だがその場にペロロンチーノは現れなかった。もちろん仕事や家庭が忙しいとおもっていたが、心のどこかでは、無視されたと思っていた。それこそ引退したギルメンにとってユグドラシルのことなど、どうでもよくなってしまったと、諦めてさえいた。

 

 だが、すでにログインさえできない状態になっていた可能性に考えが至ったのだ。

 

 もっともモモンガの考えは推測というよりも願望に近い。それを確認したところで、どうにもならない。なにより、ペロロンチーノの言葉通りなら、自身の死亡日時を確認する術があるはずないのだから。

 

 だからだろうか。どうでも良い一言がこぼれ落ちてしまった。

 

 

「ペロロンさんにとってユグドラシルはどんなものでした?」

「主観で言えばもう20年以上前。前世で死ぬすこし前の話だけど、あの世界では代えがたいものだったかな。いろいろあって離れざるをえなかったけど、みんなとバカな事をしながら楽しい日々。リアルの事情さえなければ、ずっと続いてほしい時。情緒的な表現をすれば宝石のような日々かな」

「ペロロンさん……」

 

 

 ペロロンチーノの瞳を見ればわかる。そこに映るのは憧憬。彼にとってユグドラシル、ナザリックで過ごした日々はどうでも良い過去ではなく、綺麗な思い出ということを読み取ることができた。

 

 ならばいっしょに最後の時をと思わなくはない。しかし、死んでいた可能性さえある人間に対して、複雑な感情を飲み込む程度にはモモンガも大人であったのだ。

 

「そういう意味では、この世界でもう一度取り戻せるかもしれませんし」

 

 ペロロンチーノは可能性を述べる。

 

 あの時代の仲間が、もしかしたら他にもいるかもしれないという可能性。

 

 そして、この可能性こそモモンガが期待する未来だった。

 

 もっともペロロンチーノとしてはそれ以外、ギルメン以外に新たな出会いと冒険の可能性も含めているのだが、モモンガの反応を見てそれを明言することだけは避けた。この世界で自由に生きた20年。だからこそ言える言葉であり、あの世界から来たばかりのモモンガには、過去を思い出にして前を向けと否定的に説教するようなものだからだ。

 

 

「この世界もいいですよ。自然は豊かですし、未知がたくさんです」

「ほほー」

「できたら、ナザリックのみんなと一緒に世界をまわってみたいですね」

「そうですね」

 

 

 そして、この世界にふれて変わることができれば・・・・・・。

 

 

「とりあえず」

 

 

 ペロロンチーノは立ち上がり手を差し出す。

 

 

「こうやってあえてうれしいですモモンガさん。これからもよろしくお願いします」

 

 

 その手をアインズはとり答える。

 

 

「ええ。これからもよろしくお願いします」

 

 



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エピローグとおまけ
その後の帝国


「あっ。おれ結婚するから」

 

 

 帝国の双璧による結婚宣言はそれだけで各国を揺るがすニュースとなった。

 

 もともとペロロンチーノは知名度、年齢、地位の関係で、皇帝ジルクニフとどっちが先に結婚するかで賭けになるほどの有名人だ。とくに、社交界でもペロロンチーノの愛人といわれる存在が少なからず存在する。しかし愛人と目される女性たちの数は増えるが、まったくといってよいほど結婚の気配はなかったのだ。一部では皇帝との仲を疑われており、その偽装のために愛人を作っているという噂さえあった。

 

 そんな男がついに結婚するというのだから、相手は誰かということと話題となった。

 

 もちろんその裏に隠れて、帝国は王国に対し、ナザリック周辺、およびエ・ランテル一帯の割譲を要求しだした。それは後のナザリック独立国家樹立の後押しであった。

 

 また同時にペロロンチーノは皇帝の名を借り

 

 

「法国。うちの嫁を洗脳しようとしたって聞いたんだが、どういうことだ!」

 

 

 意訳するとこんな感じの問い合わせをする。

 

 

「吸血鬼の嫁など、認められるか! そもそも魅了でだまされてるんじゃないか? ワレ!」

 

 

 もちろん法国も言葉をオブラートに包みまくった回答が返ってくる。

 

 まあ、互いに事情を知らなければ当たり前のやり取りであった。

 

 しかし、そこで出てきたのが、ペロロンチーノの嫁が所属する組織の主、後の魔導王 アインズ・ウール・ゴウンの存在である。

 

 当初はアンデッドゆ゛る゛さ゛ん゛の方向で法国がまとまると予想されており、帝国側もある程度の力押しを検討していた。

 

 だが

 

 

――逆の論調となった

 

 

曰く 六大神、闇の神の再来だ

 

曰く え? 今度結婚する吸血鬼って眷属神(NPC)なの? 問題ありません。むしろうらやましい

 

 どうやらこの世界はすこしおかしな流れになっているようだ。最終的に、魔導国による多種族共栄、人間種だから、異形種だからといって排除しないという約定が結ばれた。裏ではユグドラシルプレイヤーの情報開示がなされ、真なる竜王との対立構図なども判明した。

 

 どうでもいいことだが、ペロロンチーノはどうやらユグドラシルプレイヤーの末裔の可能性が高いということも判明した。

 

 ペロロンチーノがステータスと認識していた事象は、プレイヤーの末裔共通のもので、見え方は人それぞれ。共通しているのは自分がどのようなスキルを保有しているかの知覚と、レベルの上がりやすさ、そして上限の高さ。そのことが法国からの情報で判明した。

 

 

「ああ、うちの初代様。やっぱり転生チート主人公だったんや」

 

 

 とペロロンチーノは納得するのだった。

 

 また、法国から、「プレイヤーの子孫なら、きっとすごいアイテムがあるはず」ということで、ペロロンチーノは、モモンガと実家の屋敷や倉庫を探したところ、当主(父上)の寝室の壁が二重になっており、その中の小さな保管庫を発見した。

 

 その中には武具やアイテムなど少々残っていた。もちろんこれはもう現在の人間の技術で再現ができないものばかりであったが、一番おもしろいものは初代の日記だった。

 

 それによると、ヘッセン領にはギルメン6名が名を隠してそれぞれ家庭を持ったらしい。しかも二人ほど相当なハーレム男がいたそうだ。プレイヤーの血は強者への切符。ヘッセン領のレベルが他の都市より一つ二つ上の原因はこれらしい。なによりカッツェ平野のどこかにギルドハウスがあるそうだ。

 

 そして初代様の日記の最後には

 

 

「俺たちの財宝が欲しけりゃくれてやる。探してみな。世界の欠片をそこに置いてきた」

「モモンガさん。これ……ワールドアイテム?」

「まさか、異世界にきて宝探しの冒険が準備されているとは、初代さんも粋なことを」

 

 

 というようなこともあった。

 

 

 

***

 

 

 そんなある日、ペロロンチーノはジルクニフを拉致るように、外に連れ出す。もちろん移動は上位転移(グレーター・テレポーテーション)を使うため誰にも見られることはなかった。

 

 そこは小高い丘に生えたひと際大きな木の上だった。

 

 周りには生命力を感じさせる美しい自然が広がり、空気も澄んでいる。ほのかな緑の香りにつつまれながらも、遠くには帝都の美しい街並み……人の営みが垣間見える。視線を上に向ければ、空はどこまでも高く蒼い。そして白い雲を従えてどこまでも広がっていく。

 

 そう。ペロロンチーノのお気に入りの場所である。

 

 

「ペロ、どうした? こんなところに急に連れ出して」

 

 

 最近ナザリックから人材交流として優秀な人材が数名帝国に所属している。もちろん情報漏洩という観点の問題はあるが、むしろ皇帝の命令ということで黙殺された。

 

 そのおかげかジルクニフの事務量が三割減ったため、さらなる協力体制への移行を皇帝特権で押し切ったのだった。

 

 

「最近やっと顔色がよくなってきたからな。抜け毛も収まってきたみたいだし」

「それは帝国の最高機密の一つだぞ」

 

 

 ペロロンチーノの言葉にジルクニフは睨みながら返すのだった。

 

 

「ここでの約束を覚えているか?」

「もちろん」

 

 

 あの時は三人であった。気が付けばフールーダが後任を選定し、アインズの下に弟子入りしてしまい、結局二人になってしまったが。

 

 

「目標。達成できそうだな」

「もちろんだ。それに」

「それに?」

 

 

 ジルクニフはもったいぶるように言いよどむ。むしろ笑いをこらえているようだ

 

「本当にお前といると退屈しないな」

 

 

 ジルクニフの言葉に、まったくだと思いながらペロロンチーノは笑う。

 

 実際はまだまだ課題は盛りだくさんだ。

 

 

 しかし

 

 

――きっと退屈をしない人生がこの先も広がっているのだろう

 

 



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おまけ

 ナザリック地下大墳墓 第九階層 ロイヤルスイートルーム

 

 ペロロンチーノがナザリックに帰還して半年が過ぎ、今では週の半分をナザリックで過ごすようになっていた。

 

 表向きはペロロンチーノにも人間世界での立場があり半分を帝国で過ごす。

 

 そしてナザリックの窓口という立場でもあるため、モモンガことアインズ・ウール・ゴウンとの各種折衝に加え、婚約を発表しているシャルティアとの逢瀬のために半分をナザリックで過ごすとなっている。

 

 もちろん表には出させないが裏の目的というものもある。それは現在(・・)のナザリックの把握と誘導である。

 

 誘導といっても悪い意味ではない。

 

 そもそもが、モモンガからの依頼である。モモンガがこちらに転移してから、人間時代の倫理観というものが、感情という心に根ざしたものから知識にまで落ちてしまったというのだ。それが原因で、「ナザリックがモモンガの指示のもと殺戮と圧制の集団」になってしまう可能性に行きついた時、モモンガとペロロンチーノの落ち込みようは酷かった。

 

 

「モモンガさん。これヤバくね?」

「ですよね。あんなクソッタレな支配層と同じ姿になるってことでしょ」

「まあ、俺もこっちの世界で戦争やらなんやらでそれなりに血はながしたけど、アレにはならんように気を付けているし。それに・・・・・・」

 

 

 ペロロンチーノが一瞬口ごもるのを、モモンガは水を向けることで聞き出す。

 

 

「それに?」

「ほら。法国からの情報でプレイヤーの存在もあるし、俺みたいな転生の例もあるっしょ?」

 

 

 100年に1度、プレイヤーがこの世界に流入してくるのだ。それなりに条件はあるのだろうが、それが判明していない以上、ナザリックと同時期に、他のプレイヤーが流入していたという可能性も否定できないのだ。さらにペロロンチーノの転生の可能性まで考慮すれば、警戒してもし足りないことはない。

 

 

「無用な敵対は避けたいですね」

「もしギルメンだったら?」

「ああああああああ」

 

 

 といった具合である。

 

 とはいえ、やるべきことは多い。

 

 すでに帝国、法国、そしてナザリックとの間でエ・ランテルからカッツェ平野一帯をナザリックの独立国家とする方向で基本合意がなされている。

 

 ではどのように実現するか?

 

 もともとナザリックの出現がなければ、数年以内に帝国は王国の三分の一程度を占領する戦略であった。そして十年かけて安定させ、その後さらに三分の一を占領。将来的に王国は都市国家レベルまで落とし、帝国にて人類の生存能力を上げる育成を進める方向としていた。

 

 それを異形種が、中心のナザリックが行えば・・・・・・。

 

 

「モモンガさん。エ・ランテルの方はどうですか?」

「順調ですよ。ペロロンさん」

「冒険者いいですよね。最近じゃあ任務としても遠出できないのが残念です」

「ペロロンさんもこっちの姿つくればいいじゃないですか」

「さすがに時間がね」

 

 

 そう。ペロロンチーノには時間が足りないのだ。

 

 

「仕事ですか?」

 

 

 モモンガが把握するだけでも、ペロロンチーノの仕事は多い。いまでこそもともとの部下に権限移譲したり、シャルティアの部下を各所に配置して代理としたりで回るようになったが、帝国だけではなくナザリックの窓口的な仕事もしているのだ。相当な仕事量だろうと心配さえしている。

 

 

「いや、仕事は回すからいいけど、シャルティアや愛人達とのね・・・・」

「あっ」

 

 

 しかしペロロンチーノから帰ってきたのは、まったくのプライべートな話だった。

 

 

「あの頃、四半期ごとに嫁が増えてましたよね。ペロロンさんは」

「さすがに現実なんでそんなに増えませんよ? とはいえ、モモンガさんにもアルベドがいるわけで、その辺の知識は必要か」

 

 

 ペロロンチーノの言葉にモモンガは反射的にそっぽを向く。まあ、いい歳した男同士の猥談である。モモンガも男としても気恥ずかしい面はあるが全く興味がないわけではない。なにより、言語化されてしまえば自覚してしまうのが知性というもの。

 

 

「まあ、デミウルゴスからも言われたけど、彼らもモモンガさんの世継ぎというか子供を期待しているからね」

「アルベド以外は面と向かっていってきませんけどね」

「そりゃー。気を使ってるんでしょ」

 

 

 ペロロンチーノはそういって紅茶を飲みながら笑う。

 

 

「とはいえ、アンデッドで子孫を残せるのは、せいぜい吸血鬼ぐらい? モモンガさんのオーバーロードという種は産まれるではなく、オーバーロードに成るといったところでしょ」

「ですよね。こんな体で生理現象なんてありませんし」

 

 

 モモンガはしみじみこたえると、ペロロンチーノとおなじように紅茶のカップを傾ける。つい先日、口唇蟲の改造で、やっと紅茶などなら嗜むことができるようになり、その味もフィードバックできるようになったのだ。

 

 

「まあ、モモンガさんが一時的に人間の姿をとれるようになるか、技術開発でモモンガさんのDNA情報をなんとかできるようになるまでは、アルベドを精神面で満足させてあげるようにしないとね」

「さらっと難易度の高いこといってません?」

「いやいや。重要よ? その辺を怠るとナイスボートになってしまうから」

「また古典的な表現を」

 

 ペロロンチーノの古典的な言い回しに、ついていけるモモンガもモモンガである。もっとも、それらの知識の大半はユグドラシル時代にペロロンチーノから貸し出されたゲームなど娯楽作品(エロ含む)に起因していたりする。

 

 

「とはいえ、精神的に満足ってどうすればいいんでしょう」

「んー。相手の欲しがる言葉や行動、つまり欲を満たすってのが一般的な回答だけど、そんなことじゃないですよね」

「まあ」

 

 

 モモンガが年齢=彼女いない歴なのは、ペロロンチーノも知っている話だった。前世という括りではペロロンチーノも同じであったわけだが、今生の場合、いろいろ吹っ切れて愛人がそれなりにいたりする。

 

 とはいえ、この半年でナザリックの危うさとパワーバランスを理解したペロロンチーノは、モモンガにこう提案するのだった。

 

 

「じゃあ実例をすこし。最初のデートでだけど……」

 

 

 

***

 

 

 その日、ペロロンチーノはシャルティアを連れてナザリックの外に連れ出していた。

 

 

「シャルティア。普段のドレス姿も美しいけど、素朴な姿も君本来の可憐さが際立ってすてきだよ」

「ありがとうございます。ペロロンチーノ様」

 

 

 シャルティアは満面の笑みを浮かべる。

 

 普段のドレス姿ではなく、ペロロンチーノが準備した仕立てこそ最高級だが帝都で一般的なデザインの服を着ている。もちろん、着心地や質という面では、普段のドレスのほうが雲泥の差で上等なのだが、ペロロンチーノのプレゼントであり褒められたことが、シャルティアにとっては何事にも代えがたいものであった。

 

 

「あのーペロロンチーノ様? 本当にナザリックの外に出てよろしいのでしょうか?」

「ああ、モモンガさんの許可も得ているし、今日はシャルティアの休日でしょ?」

「そうでありんすが……」

 

 

 シャルティアをはじめとするNPC達は至高の存在に奉仕することこそ存在意義としている。ゆえにアインズの指示で休日を取るように言われても、いまいち納得をすることができないのだ。

 

 

「モモンガさんの真意については、ゆっくり考えてね。自分の体や心、部下、まあ上司というとモモンガさんだけになっちゃうけど、その辺も含めて考えて、シャルティアなりの結論に至ることも目的だからね。でも、その休日のおかげで、今日はシャルティアと一日一緒にいれるんだから、モモンガさんに感謝しないとね」

「はいでありんす」

 

 ペロロンチーノは、シャルティアに微笑みかける。

 

 その微笑みを見たシャルティアは、顔が熱くなるのを感じる。その表情を見られるのが何故か恥ずかしくなり、ペロロンチーノから腕を差し出されたシャルティアは、その腕に縋りつくように顔を隠してしまうのだった。

 

 

「さて、ついた」

 

 

 シャルティアが促されるように見たそこは、地方都市の大広場であった。

 

 周りには多くの収穫物や工芸品を売る露店があり、舞台で音楽を奏で歌い踊る。人々の笑い声と、元気に走り回る子供の姿があった。

 

 

「ここが今生の故郷の領都ヘッセン。そして今日は収穫祭なんだ」

「ペロロンチーノ様の生まれ故郷」

 

 

 シャルティアは、今一度周りを見渡す。多くの人間が祭りの雰囲気に酔いしれ盛り上がっている。露店の方も多くの人でがあり活気がある。

 

 

「シャルティアとして人間種は下等種かもしれない」

「それは……」

 

 ペロロンチーノの言葉を否定できなかった。異形種で強者であるシャルティアの目線から見れば、力無き存在が、ひと時の平和に酔いしれているように見えてしまっているのだ。

 

「実際この世界で生きて人間がどれだけ脆弱か身に染みてるから、真祖のシャルティアがそう見るのは理解できるよ。でも彼らは、私の一族の民であり、ナザリックと同盟を結ぶバハルス帝国の民でもあるんだ。いわばモモンガさんや君の庇護下となる民だ」

「そう……でありんすね」

 

 

 ペロロンチーノは、シャルティアの手を引きカフェの一角のちょうど空いた席に案内する。

 

 

「どうぞお姫様」

 

 

 ペロロンチーノは椅子を引き、シャルティアは優雅に席につく。そしてなれたようにペロロンチーノはウェイターに2・3注文をして席につく。

 

 

 すぐにワインと、チーズが数切れ、そして鹿の燻製肉のスライスが机の上に並べられる。

 

 

 ペロロンチーノはグラスを取る。シャルティアもあわせグラスが静かな音をたてる。

 

 

「じゃ、乾杯」

「乾杯」

 

 

 シャルティアはペロロンチーノに促されるようにワインを口元に近づける。そこにはシンプルでブドウ本来の香りが鼻腔をくすぐる。そして一口ふくめばフルーティーな味わいが舌の上に広がる。

 

 

「ずいぶん若い味でありんすね。でもフルーティーで飲みやすい」

「うん。よくわかったね。この領で作ったヌーボーだから」

 

 

 ペロロンチーノがまるでクイズに正解したように喜び、その顔をみてシャルティアも自然と笑みが浮かぶ。

 

 

「今日はシャルティアのことをもっと知りたいというのもあるけど、私の事を知ってもらいたいとおもってね」

「ペロロンチーノ様のことを?」

 

 

 シャルティアは、なぜ今頃?というような不思議な表情を浮かべる。

 

 

「シャルティアも含めてNPCのみんなは、いままで言葉を発さずに静かに私たちに付き従ってくれていた。そしてシャルティアたちの性格は、それぞれの創造主がかくあるべしと書いた記述に準拠している。あの記述はシャルティアたちの生い立ちであり、性格の根幹となっている」

「はいでありんす」

 

 

 ペロロンチーノの言葉にシャルティアは頷く。その言葉通りNPC作成時のフレーバーテキストの内容が、それぞれの根幹となっているのだ。

 

 

「あくまであれは根幹であり、いわば始まりの感情だと私は思っている。だから今のシャルティアの育まれた思いを教えてくれないか? そして同じぐらい今の私を知ってほしいんだ」

 

 

 ペロロンチーノはグラスを置き、シャルティアの手を優しく包んでいる。それに気が付いたシャルティアは振りほどくことなどできず、なされるがままに俯いてしまうのだった。

 

 

「わ……わらわも」

「うん」

 

 

 ペロロンチーノは、シャルティアの反応一つ一つを愛おしく思いながら、言葉の続きを待つ。

 

 

「わらわもペロロンチーノ様のことをもっと知りたいです」

 

 

     ***

 

 

「って感じで、まずは何が好きか、どんなことをしてほしいか。どんなことがうれしいか。そんな話をしたんだ。ちなみに収穫祭だったから、シャルティアには文化体験っていってぶどう踏みに参加してもらって、来年できたワインを一緒に飲もうと‥‥…」

 

 

 ペロロンチーノの話がおわること、モモンガはなぜか突っ伏して今にも死にそうになっているのだった。

 

 

「紅茶ってこんなに甘かったんですね」

「そう? これ渋みがいい感じだけど」

 

 

 砂糖を吐きそうになっているモモンガの断末魔に、ペロロンチーノはさらりと返してしまう。

 

 まあ、何が言いたいかわかるし逆の立場なら同じリアクションをしただろう。

 

 

「まあ、とりあえず。アルベドと話すことから始めましょう。あと、できれば外がいいかな」

「そうですね。ってなんで外?」

「たとえばここ、でアルベドと話したらそのままお持ち帰り……いやそのまま押し倒される流れにならない?」

「あー」

 

 モモンガはペロロンチーノの仮説に、否定するどころかそのまま押し倒される姿が脳裏に浮かぶのだった。

 

「とりあえず、ゆっくり言葉を重ねてお互いを知りましょう。それが一番です。時間はいっぱいあるんですから」

「そうですね」

 

 そういって二人は紅茶に再度手を伸ばすのだった



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第二章
第二章 プロローグ および第一話


コミックマート100の初日に当選したので、
以前よりプロット(だけ)を練っていたので連載再開。

アニメ4期すばらしい!


 

 帝都アーウィンタールの郊外にある小高い丘に生えたひと際大きな木の上。

 

 鳥をあしらった特徴的な仮面を外し長い黒髪をなびかせた青年は、遠くに広がる風景を眺めていた。

 

 周りには生命力を感じさせる美しい自然が広がり、空気も澄んでいる。ほのかな緑の香りにつつまれながらも、遠くには帝都の美しい街並み……人の営みが垣間見える。視線を上に向ければ、空はどこまでも高く蒼い。そして白い雲を従えてどこまでも広がっていく。

 

 転生者ペロロンチーノ・ヘッセンのお気に入りの場所である。

 

 そんな場所に、いつも通りの息抜きのためと抜け出してきたのだが、同行者……いや、かってについてきたのだから同行者とは言えない二人が、同じようにくつろいでいた。

 

「アインズ殿ここがペロロンチーノのお気に入りで、よく息抜きに逃げ出してくる場所だ」

「ジルクニフ殿。それは良いことを教えてもらった。たしかにどこまでも見渡せる自然に風を感じることができる場所。とても気持ちがよいものだな」

 

 などと、のたまっている。

 

 こいつら、いつの間に仲良くなったんだ?

 

 そんなことを考えながら、森の向こうに見える帝都に目を向ける。人々の喧騒は聞こえないが、たしかにそこに人々が生きている。そんな気配を感じつつ、風に運ばれてくる緑の香りを胸いっぱいに吸い込む。

 

「さて。そろそろ仕事に戻りますが、二人は置いていっていいか?」

「いやいや、ペロロンさんに用事があってきたんですから」

「そうだぞ。わざわざアインズ殿がこちらにまで来てくれたのだ、持て成すことこそ道理では?」

転移(テレポーテーション)で一瞬でしょうに。てか、ちょくちょくモモンの恰好でこっちに来てますよね」

 

 そんなことを言いながら、二人に向けて手を伸ばしペロロンチーノは思うのであった。

 

 

――本当にこの世界は、退屈しそうにない

 

 

 

 

 

第一話

 

 

ナザリック 地下大墳墓 第九層 会議室

 

「さて、これより第四回目の打合せを行う」

 

 巨大な円卓に座るアインズ・ウール・ゴウンは片手をあげて会議の開催を宣言する。そのしぐさは支配者にふさわしい洗練されたものであり、この場における上位者であることを印象付けるには十分すぎる威厳を発していた。

 

「僭越ながら、このアルベドがファシリテートをさせていただきます」

 

 アインズの右隣、黒髪白い肌、純白のドレスを纏うサキュバス、アルベドが事前に決められていた通りに会議の進行を始める。

 

 この場には

 

 アインズ・ウール・ゴウン

 アルベド

 デミウルゴス

 

 ペロロンチーノ・ヘッセン

 ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス

 フールーダ・パラダイン

 

 護衛として外周を守るように階層守護者のシャルティア・コキュートス・アウラ・マーレ。

 

 そして会議参加者への給仕としてセバスが参加している。

 

「まず前回までの記録および決定事項は、お手元の資料にまとめてあります」

 

 アルベドに促され参加者は資料に目を落とす。

 

 そこには、前回までの会議できまった、ナザリックおよびバハルス帝国の今後戦略が、描かれている。

 

 例えば、アインズは今後冒険者モモンとしてのエ・ランテルを中心に実績を積み上げ人類の英雄という立場を強固なものとすること。

 

 例えば、アウラ・マーレ・コキュートスはトブの大森林内の亜人種・異形種の制圧。

 

 例えば、バハルス帝国は、ナザリックの活動に必要な現地通貨や立場、研究に必要素材など、有形無形の支援を行う。その代わりに、事務能力を持つものの人材支援(ヴァンパイアやエルダーリッチがマジックアイテムで擬態する予定)。

 

 などなど多くの決定事項が記載されていた。

 

「では本日の会議に伴い、大方針を確認させていただきます。アインズ様ひいてはナザリックの目的は、ナザリックの防衛。そして転生および転移される至高の御方々との合流となります」

 

 アルベドの言葉にアインズは頷く。

 

「続いてペロロンチーノ様、そしてバハルス帝国の目的は帝国の存続と、可能な限り人類生存圏の拡大」

 

 ペロロンチーノと同席するジルクニフは頷く。 

 

「方法論として、ナザリックを国家として昇格。異業種・亜人種・人類種を含む多種族国家の形成。その平和の治世により広く名を知らしめ、至高の御方々が合流、または捜索しやすくするというものでございます」

 

 全員が頷く中、ジルクニフが手をあげ発言をもとめる。

 

 アルベドは一瞥するも、ファシリテーターとして公平に処理するため、何食わぬ顔で発言を促す。

 

「将来の話になるが、人類種が平等に平和に生きることを享受できるのであればバハルス帝国は、アインズ・ウール・ゴウンが主導する国家のいち自治区、またはいち属国でも構わないと考えている」

 

 その言葉に、ナザリック側も頷く。そもそも下等種である人類の国家がこれほど厚遇されているのは、ペロロンチーノ様の母国であり所属国であるからにすぎないと考えているからだ。

 

 そしてジルもナザリック側の思惑を把握している。そもそもバハルス帝国の建国理念は、人類種の生存圏を確保するための分離独立。そしてナザリックの存在・戦力を知った今、このような反応になるのはしょうがないことである。

 

「すくなくともそうなるのはジルクニフ。そなたの死後となるだろう」

 

 アインズはペロロンチーノという親友を挟む形でジルクニフという男にも友好を感じての言葉である。

 

 しかし周りの存在からすれば、異形種と人類種の寿命を考えれば、ペロロンチーノという存在を加味すれば高々一代分の猶予を与えたとしてもそれは慈悲として問題ないと考えられているのだ。

 

「話をもどさせていただきます。最初のターゲットは王国。エ・ランテルを含む南東の地域の確保を目指します」

 

 

――話はすすむ

 

 

「では最後に至高の方々の捜索について」

「爺。情報を」

 

 ジルクニフの言葉に、フールーダは立ち上がりアインズに向かい深々と頭を下げる

 

「アインズ・ウール・ゴウン様 ご報告をさせていただきます」

 

 アインズはその反応に「こいつ、何やってるんだ? ジルクニフの部下だろおまえ」と考えつつも、手で軽く制止し座って発言を促す。

 

「まず、こちらのペロロンチーノ殿が転生を認識したのは、幼少の頃と聞きおよんでおります。そして私は転生とおもわしき存在を他に一人名知っております。そちらはタレントによるものでした。こちらも幼少の頃、自我が形成された頃に記憶を取り戻したようで、年齢にそぐわぬ知性を発揮しました」

「その下等・・・・・・いえ、その者らは?」

「私の高弟の一人で数年前に老衰でなくなりました。タレントによる転生であればいつしか知性ある存在に転生し、また魔導の研鑽に励むことでしょう」

 

 アルベドの質問でもう一人の転生者について概要は把握された。

 

「タレントか。ペロロンさんのタレントは確か別ものでしたね」

「遠距離武器完全適性だな。まあ転生とこれは関係なさそうだね」

 

 とはいえ、ペロロンチーノの転生理由を解き明かすものではなかった。

 

「何分、明確な事例は数少なく、文献や伝承には似た事例はありますが不明確。少なくとも自我が確立して、しばらくたたねば転生したと認識すらできないでしょう」

 

 フールーダの言葉に、ナザリック陣営は難しい顔をする。

 

 言っていることは至極当然なのだ。そもそも自我らしきものを持たぬ存在になったとしても、それを転生と認識することはできない。そして自我が目覚めたとしても、ある程度の情報や思考力が育たねば、やはり転生と判断・行動はできないのだ。

 

「明確なロジックがわかるまで幼少というと程度の差はあるでしょうが、知性ある種族の赤子、無垢な子供は保護する必要があるということですかな」

 

 デミウルゴスの言葉に、アインズは頷く

 

「すべてを拾い上げろとは言わぬ。が、手の届く範囲で保護せよ。なかなか大変な事業になるな」

 

 ナザリックの戦力は、現在の状態でも簡単に周辺国家を蹂躙することができるものである。しかしこの条件は単純な蹂躙戦略がとれないということだ。

 

「モモンガさん。逆に考えるんだ。子供を保護し、育成することで将来優秀な人材がナザリックや帝国を支えてくれる。そのような治世をこれから出会えるかもしれないあいつらに見せつけてやるとね。」

「そうですね。ナザリックのような転移のような例もあります。どのパターンでも、子供を虐待するような国に、あの人たちも喜んで名乗り出てくれるとはおもえませんから」

「そそ。あんな世界にはしたくない」

 

 だが、ペロロンチーノはアインズに対して前世の世界との比較をすることで、納得することができた。

 

 もっともアインズとペロロンチーノの会話に周りの者は、何に対して嫌気をだしているのか計りかねていた。

 

「ヘッセン卿。それはお前の前世の世界でのことか?」

 

 だが、唯一その話をわかるもの、ジルクニフが補足をするのだった。

 

「そそ。ってモモンガさん。このことアルベドたちに話した?」

「そういえばまだだったな」

「俺みたいなパターンを考えると概要でもつたえないと、みんなの件で齟齬がでるかもしれないよ?」

「そうだな」

 

 ペロロンチーノが言いたいのは、モモンガも含めて元人間であること。

 

 しかし、「元人間だって伝えても」とアインズは考えていた。なぜならナザリックのモノは人類種を下等な存在と認識している。実際、ナザリックに所属する者たちは、そのへんの人類種より天と地ほどの力量差が存在するのだから。

 

「まあ、その件はあとで相談にのるよ。っと」

 

 見れば1時間以上経過していた。

 

「モモンガさん。そろそろ冒険の時間でしょ。モモンの勇名はこの後の計画の要ですから」

「そうですね。では皆の者いってくる」

「冒険楽しんで来てください」

 

 席を立つアインズに、ペロロンチーノはにこやかに手を振りながら送り出す。

 

「シャルティア申し訳ないけどフールーダ殿と皇帝の帰りの道を」

「はいでありんす」

 

 そしてシャルティアはペロロンチーノからリング・オブ・アインズウールゴウンを借り受け、転移ゲートを開く。

 

 二人はその意図を理解したのだろう。退出の礼を取ると静かに去るのであった。

 

 会議参加者の退出により、場はいったん静かになる。

 

 ペロロンチーノはいままでの雰囲気とは打って変わり、両手を組み口元を隠すように肘をつく。

 

「さて、モモンガさんに言えない相談をしようか」

 

 アルベド、デミウルゴスをはじめ守護者の面々が頷く

 

「アインズ様に秘密で、という点にはいささか思うところがありますが」

「なに、誕生日プレゼントのサプライズみたいなものだ。せっかくのプレゼントがモモンガさんにバレてしまったら、喜びも半減してしまうだろ?」

「同じ口車で結果的に反逆とならぬよう」

 

 デミウルゴスは眼鏡の位置を戻しながら、葛藤を口にする。しかしペロロンチーノの言葉には一定の納得もあるため受け入れるのだった。

 

 もっともアルベドは納得しきれていないようだが……。

 

「でもモモンガさんの家族を作る方法。重要だろ? とくにアルベドには」

「ええもちろんよ。でなくてはペロロンチーノ様といえども、アインズ様に内緒で事を進めるなど」

「それがわかっていればいいさ。で実際どうなんだ?」

 

 アルベドの意見を聞き流しつつペロロンチーノは進捗を確認する。

 

「ナザリックの記録、文献、知っていそうなものへの調査を行った結果、オーバーロードという種の繁殖は存在しないと。それは多くのアンデッドに共通する事項という結論になりました」

「一応、亜人種と人間種は、確率は低いがヤレばできる。それはこの世界の常識だ。ハーフエルフなんてわかりやすい例だよ。だが、相手がアンデッド、それもオーバーロードではやっぱそうだよな」

 

 デミウルゴスの言葉にある種の納得の空気が支配する。そもそもアンデッドは生まれるより発生する、成る、進化するというたぐいのものなのだ。

 

「そもそもアインズ様はどのようにオーバーロードに成られたのですか? ペロロンチーノ様」

「システムの力というのは、今はわからないだろうけど。どっちかといえば進化した結果と言えなくないかな」

 

 アウラはある意味興味本位でペロロンチーノに質問するが、アインズがまだカミングアウトしてない事に絡むので、若干の情報も交えはぐらかした回答をすることとなった。

 

「やはりお世継ぎは難しいでしょうか」

 

 アルベドは落ち込むように言葉を漏らす。実際、アインズという存在がいまのナザリックの支柱であり信仰の対象ともいえる。もし失われれば崩壊は決定的なものとなることは、誰の目にも明らかなのだ。

 

「まあ、三つ案はあるんだ。こっちでも文献をあさって見つけたのだけど、擬態すると喉となり声を変える蟲や擬態すると義肢の代わりになる蟲が存在するって」

「たしかエントマの眷属にいましたね」

「あと、ナザリックのメイドにもいたとおもうけどホムンクルス。あと、マジックアイテムによるアルベドの相手が可能な種族への変身」

 

 ペロロンチーノの意見に、守護者たちはそれぞれの知識の範囲内で実現の有無を考える。

 

「モモンガさんのDNA情報を採取して第二の体をつくる。まああとはそれなりの魔法やアイテムを探すってのもあるけど」

「平行して研究することは可能ですね」

「それにモモンガさん この間、ナザリックの食事を食べたいって言ってただろ? 研究次第ではその望みもかなえられるんじゃないか?」

 

 ペロロンチーノの言葉はいちいちもっともであり、ナザリックの抱える問題だけでなく、アインズの望みさえ叶えることができるということでこの場で合意形成がなされていった。

 

 しかし、一人難しい顔をしていたマーレがおずおずと手をあげるのだった。

 

「あ・・・あの 一つ質問が」

「なんだい? マーレ」

「アインズ様はオーバーロードなのになんで食事をされたいと思ったのでしょうか?」

 

 その疑問に、他の者たちもそういえばと考える。

 

「いい質問だね。それはモモンガさんの秘密に関係しているから、ここでは言えないけど。とっても重要なことなんだ」

「はい・・・まだ秘密なのですね」

「かってにモモンガさんの秘密を暴露するわけにはいかないからね。でも、モモンガさんはみんなの事を大事に思ってるからタイミングを計っている。だから打ち明けるまで、待ってほしい」

 

 ペロロンチーノはマーレの頭を優しくなでながら、諭すように言葉を重ねる。マーレは守護者として相応の知性をもっているが、その精神性は幼くペロロンチーノの行動に愛情を感じつつ身をゆだねながら、ゆっくりと納得していくのだった。

 

 が

 

 ここまでは、いいかんじの雰囲気を醸し出しているのだけど、なぜか一人うずくまるアルベドに気付いたシャルティアが声をかける。

 

「ねえアルベド。どうかしたでありんす?」

「はぁ。はぁ。アインズ様との素晴らしい夜を想像して、すこーし下着がまずいことに」

「はぁ・・・・・・」

 

 アルベドのあんまりな回答にシャルティアは深くため息をつくのだった。

 

 シャルティアの反応は至極まっとうな反応だが、その反応に一人だけ違和感を覚えるものがいた。

 

「ねえ、シャルティア? 普段ならアルベドに罵倒の一つも言う感じじゃない? なにか違うような・・・・・・余裕?」

「そうでありんすか?」

「うん。やっぱり違う」

 

 二人と同性ということで交流のあるアウラは、シャルティアの反応の違和感に疑問をもつのだった。

 

「シャルティア。まさか・・・・・・」

 

 その言葉が天啓となったのだろうかアルベドはシャルティアから視線を外しペロロンチーノに向ける。

 

 かくいうペロロンチーノはデミウルゴスとコキュートスと何か会話をしているようだ。実際は視界の端で、確認をしているものの女子会の邪魔をしないようにしているだけだったりする。

 

 だがアルベドの反応に

 

「ふふ」

 

 シャルティアは余裕をもった笑みをみせるのだった。

 

 その反応に、アルベドは俯き肩をふるわせはじめる。それを見たアウラは慌てだす。

 

「アルベド落ち着いて!」

「そうよアルベド。わっちは別にアインズ様の御相手をしたわけじゃあありんせんし」

「シャルティア!」

 

 アルベドは涙を流しながら

 

「シャルティアに……女として先をこされた……」

 

 怒ると思いきやさめざめと泣き始めるアルベドの姿に、アウラとシャルティアはどうしたものかと顔をあわせる。

 

 そんな状況を見かねてペロロンチーノが声を掛ける。

 

「あーシャルティアとアウラ、アルベドをつれてBARで少し気分転換に飲んできなさい。飲む作法は覚えているね」

「はい! ペロロンチーノ様。BARで飲むときは酔いのバッドステータスを受けられるアイテムを装備してですね」

「そうそう。じゃあシャルティア。よろしくね。デミウルゴス。そんなわけだから少しスケジュールのフォローをお願いね」

 

 ペロロンチーノはデミウルゴスにお願いという指示をだすと、デミウルゴスは了解の礼をとるのであった。

 

「アレデヨカッタノデショウカ?」

「まあ、アルベドも女性ということだよ。どこかで吐き出さないとね」

 

 女性陣が出て行った扉を見ながらつぶやくコキュートスに、ペロロンチーノはさもありなんと答えるしかなかった。

 

 

 

 



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第二話 年貢の納め時、取り立て時(強制

コミックマート100の初日に当選したので、
以前よりプロット(だけ)を練っていたので連載再開。

アニメ4期
第二話 アルベドの新衣装万歳!
しかしOPみると、いろいろ想像が膨らんで素晴らしい。


帝都アーウィンタール 帝城 執務室

 

 帝城における皇帝ジルクニフの執務室は、多くの来訪者を迎え報告・検討・決済がなされている、ある種の戦場である。

 

 その日もジルクニフを中心に護衛が見守る中、ペロロンチーノはいつもと変わらぬ風に一つの宣言をしたのだった。

 

「あっ。おれ結婚するから」

 

 もちろんその言葉にジルクニフ以外は驚きを隠すことはできなかった。だが、報告を受けるジルクニフは当たり前のように確認をいれる。

 

「相手はシャルティア嬢でいいのかな?」

「まあな」

 

 護衛の四騎士を含めその場に居合わせた者たちは、「え? あの人秘書と結婚するんじゃなかったの?」「いや、〇〇伯爵のところの……」「メイドと立場違いの……」「一生ジルクニフ様のお隣に侍るものかと……」とぼそぼそと意見を交わしているが、当のペロロンチーノとジルクニフは我関せずで話をすすめている。

 

「今は対外的な婚約だけだ。正式な結婚はあちらの準備が整ってからでいいな」

「わかってる。あっちも王国方面で忙しいだろうから」

「今のうちに法国か」

「ああ。シナリオ通りにちょっと仕掛けてくるわ」

「やりすぎるなよ」

「正攻法で仕掛けるさ」

 

 と、ここからの噂の伝播は目をみはるものがあった。

 

 そもそも有名人の色恋沙汰の噂は出回るのも早いのに、ペロロンチーノは知名度、年齢、地位の関係で、皇帝ジルクニフとどっちが先に結婚するかで賭けになるほどの有名人なのだからなおさらだ。

 

 とくに社交界でもペロロンチーノの愛人といわれるものが少なからず存在する。しかし愛人と目される女性の数は増えるが、まったくといってよいほど結婚の気配はなかったのだ。一部では皇帝との仲を疑われており、その偽装のために愛人を作っているという噂さえあった。

 

 そんな男がついに結婚するというのだから、相手は誰かということと話題となった。

 

 最初こそ様々な憶測は流れたが、いつの間にかある噂に集束するのだった。

 

――某国の姫。それも異形の存在と……。

 

 

 

「ん? まあ当たらずとも遠からずかな」

 

 

 実際、シャルティアは真祖ということで異形種であり、ナザリックにおいても守護者という特別な存在であることから、姫というのもあながち間違ってはいないと考え、ペロロンチーノも問題ないかとコメントをしたのだが、それがより真実味を持って噂の拡散を後押しすることとなった。

 

 

 あとあと大問題に発展するのだが……

 

 だが、話題はこれだけではなかった。

 

 帝国双璧たるペロロンチーノ・ヘッセンを筆頭とするスレイン法国への外交使節団が発表されたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

法国 神都

 

 スレイン法国の指導層は対応に苦慮していた。

 

 もしこの世界でもっとも人類種の守護に貢献した国家を挙げるとすれば、スレイン法国と歴史を知る者は答えるだろう。

 

 そしてスレイン法国の長い歴史においても戦力が充足された時代を迎えていた。

 

 

――ついこの間までは

 

 

 陽光聖典の失踪。情報収集の中枢たる巫女を失い、そして漆黒聖典の一部離脱という状況に陥っている。その戦力回復には、最低でも数年はかかるのだ。

 

 加えて破滅(厄災)の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)の復活も予言されており対処せねばならぬ。しかし対処するために出撃した漆黒聖典を撤退させた存在。そしてその存在を倒したものまでおり事態は混迷をきわめていた。

 

 そんな時にバハルス帝国からの外交団の話が来たのだ。

 

 いや、法国と帝国は様々な懸案はあるものの関係は良好であり、外交自体は定期的に持たれている。

 

 法国は宗教国家の側面があり、労働よりも社会奉仕の側面が強い。ゆえにある程度自給自足が成り立つ計画経済となっている。しかし、何事も計画通りにはいかず、現在は拡大する戦線への対応もあり、有形無形の取引によって補われている。

 

 

 むしろ腐敗し頼りにならない王国よりも、帝国は理解した上で神殿を通じて援助さえされている。

 

 だが、今回は違う。

 

 急遽組み込まれたもので、防諜を鑑みて事前に明かせない重大案件の情報交換が提案されているのだ。本来なら事前で事務方との協議を経ない提案というのはある意味で暴挙でしかなく、即答即決できないため無駄足になる。今回はそれさえ加味して10日の滞在が申し込まれているのだ。

 

 そして外交団の筆頭は帝国の双璧の一人、英雄の領域を超え逸脱者に達しているのではと噂される人物である。

 

 この男だけなら問題にならなかったが、加えて異形種を1名同行とあったのだ。

 

 同行に対し、もし防衛以外でスレイン法国に被害があれば全額賠償。その保証金として、来月期限を含む半年分の貿易決済全額免除や金・資材などの先渡しまで提示されている。また話がまとまれば前渡し分についてそのまま提供という破格の条件だ。

 

 実際、昨今の被害における人的部分を除けばほぼ補填できるほどの財の提示。

 

「さて、どうすべきか」

「理のみ考えれば受け入れるべき」

「われらが教義は人類の守護。その敵たる異形種をこの地に招き入れろと?」

「過去において事例がないわけではない。あの竜王とも取引をしたのだ」

「厳密にいえば。あの御方もそうなのだから」

「そもそも異形種を事前告知で同行させるというのだ。殺してくれと言わんばかりではないか」

 

 スレイン法国 最高執行機関の12名が集まっての会議もすでに三回目。そろそろ回答を決めねばならぬ時期。

 

 いや。すでに結論は決まっている。

 

 

――ぷれいやー そして ユグドラシル

 

 事前提示された唯一の情報

 

 

「ぷれいやーが降臨する時期。この言葉を添えて異形種を我々と引き合わせる意味。もうわかっているのだろ」

「ブラフの可能性もあるのでは?」

「最悪討伐されたというヴァンパイア、もしくはその討伐者との関係も?」

「帝国とて国是は同じ。協力関係にあるのだ。それらを踏まえた上での提案であろう」

 

 

 いままで意見を聞くだけで、発言をしなかった最高神官長が静かに告げる。

 

 

「こちらも最悪の事態を想定し、交渉に臨めば良い。それだけのことだ」

 

 

 この瞬間 法国の将来が決定したのだった。



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第三話

アニメ第四期序盤最大の盛り上がりポイント 武王戦がそろそろですが
原作のジル君と 本作のジル君では能力の差はそれほどありません。
ただし抜け毛の差は顕著です。

あとヘッセンとヘッケンが混在していたのでヘッセンで統一するように修正中です 


スレイン法国 神都 郊外 迎賓館

 

 過去より外交の場として何度も使われた歴史ある建物である。そして今回、バハルス帝国の外交団を受け入れる場所となった。もちろん受け入れるにふさわしい建物ということもあるが、郊外ということで相手国の護衛もそのまま受け入れることができる数少ない場所という点が重視されているのは、なんとも皮肉な話である。

 

 とはいえ、近年稀に見る大規模な外交団に、神都の住人は興味深く、まるで祭りやイベントの山車を観覧するように遠巻きに眺めるのであった。

 

 見るモノが見ればその価値に驚きを禁じ得ない魔法武具をまとった近衛に守られたひと際目立つ馬車の隊列。スレイプニル4頭立ての馬車も見るからに豪華でありながら要人護衛という点も優れているのが素人目にもわかるほど。

 

 それだけでもバハルス帝国の財と権威を示すには十分だが、それ以上に注目を集める存在が今回は同行していた。

 

 

――爆撃の王

 

 

 帝国最大戦力と謳われる大魔法詠唱者フールーダに並ぶとされる存在。

 

 鳥をあしらった黄金の仮面を被り、射る矢は百発百中。高位魔法さえ使いこなす戦場の申し子。10倍の敵兵から帝国を守った英雄。法国ともつながりはあり、帝国と法国との国境沿いで発生した亜人種の大規模氾濫の時に共闘したことは、広く知られている。

 

 もっとも最近の話題は婚約話である

 

 娯楽の少ない世界だ。有名人の色恋沙汰は噂として広まりやすい。法国の、特に高位者は出産に厳しい条件があるので土地柄注目されやすいのだ。

 

 であるならば

 

 同じ馬車に乗る、純白のドレスと仮面を纏う貴婦人が、その婚約者ではないか?

 

 そんな憶測が広がるのであった。

 

 しかし、そんな民衆の状況を苦々しく見るものがいることを知る者は少なかった。

 

 

 

 

 

スレイン法国 神都 郊外 迎賓館 大会議室

 

 

 ペロロンチーノ達 帝国の外交団が迎賓館につき、一休みしたころ、第一回目の会合の準備が整ったという連絡があり、会議自体はつつがなく始まった。

 

 外交辞令の挨拶から始まり、事前協議で決まった案件の確認。普通であれば、この後個別案件の深堀や代表どうしの意見交換の流れになる。

 

 しかし

 

 突如口を開いた帝国側の代表であるペロロンチーノ・ヘッセンに視線があつまる。

 

「館を囲うように護衛を配置し、その上で隣部屋にも待機。なにより法国最大戦力のお一人が同室で警備とは痛み入る」

 

 先ほどまでににこやかに挨拶をしていた態度から一転、慇懃無礼に述べるペロロンチーノの言葉に、法国側は眉を顰める。

 

 もちろんペロロンチーノが事前調査やスキルで現状を把握したのではなく、今回のためにアインズから借り受けたマジックアイテムの一つを利用しての事でしかない。しかし、言い当てられた側の驚きは想像に難くないだろう。

 

「双方の安全のため、これからの議題の事を考えれば必要な措置かと」

 

 法国の立法機関長は切り返す。

 

「では、その議題。こちらからの提案をする前に、別室に待たせている彼女を呼びたいのだが?」

「婚約者が参加するのは、夜の園遊会が通例ですぞ」

 

 立法機関長の言葉は正しい。もっとも言葉の裏には異形種などこの場に連れてくるなという嫌悪があるだろう。しかし、その感情を微塵も出さないあたり政治を生業とする存在なのだろう。

 

「まあ、通常の会議であればそうだ。しかし、彼女はなによりも明確な証明であり、また真の会談を行う上で必要な存在なのだから」

「まるでこの場にいる者たちでは足りないと言いたげですな」

「プレイヤー……またはユグドラシル。あなたたちはどちらの単語で動いてくれるかな」

 

 ペロロンチーノの言葉に、ほとんどのモノは意味を理解することができなかった。むしろ理解できたのは三人だけ、立法機関長、行政機関長。そして護衛として会議室に入室していた漆黒聖典の第一席次である。

 

 そしてペロロンチーノは、第一席次のそのわずかな表情の動きを見逃すことはなかった。

 

「ではもう一度質問しよう。呼んでもかまわないかな?」

「わかった。しかし、こちらも何名か下がらせる必要がある」

 

 双方の合意の下、場の仕切り直しが行われる。

 

 法国側は二人の機関長に加え、先ほどまで同席していた漆黒聖典の第一席次に加え第二席次。そして

 

(老婆に……チャイナ服……だとっ)

 

 知らず知らずのうちに、法国はペロロンチーノの腹筋に大ダメージを与えることに成功したのだった。※

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 ペロロンチーノの腹筋へのダイレクトダメージも、控室の扉からシャルティアが現れたことで、なんとか切り抜けることができた。

 

 純白のドレス。屋内ということで帽子こそとっているが、美しい金髪(・・)が歩くたびに揺れ、見るモノを引き付ける。しかしその顔に仮面舞踏会で利用するような、一風変わった仮面で隠されている。だが、

 

 

――強烈な殺気

 

 

 そう称してよいほど冷淡な気配を漆黒聖典に向けているのだった。

 

 だが、その殺気がいけなかった。

 

 

「あの時の!」

 

 

 漆黒聖典 第一席次が、武器に手を掛けようとする。その声に反応するように、もう一人の漆黒聖典も構えを取ろうとする。

 

「待て!」

 

 しかしペロロンチーノは右手を第一席次に向けながら制止する。むろんペロロンチーノ以外はその右手の意味を分かっていないが、何等かの構えと認識し武器に手を添えるだけで動きを止める。

 

「シャルティア。冷静に。いいね」

「はいでありんす」

 

 ペロロンチーノの言葉に、シャルティアから発せられていた殺気はピタリと止まる。まるで先ほどまで何もなかったように。

 

「こちらの非礼を詫びよう。しかしそれ以上構えるなら会談はここで終了だ」

 

 ペロロンチーノの言葉に、漆黒聖典の二人は先に仕掛けたのはそちらだといわんばかりに怪訝な顔する。しかし機関長らの合図により、元の待機姿勢に戻るのだった。もっとも視線から、すこしでも怪しいことをすれば、即対応するという強い意志が発せられている。

 

 だがペロロンチーノはそんな雰囲気などお構いなしに会議を進めるのだった。

 

「まずは紹介しよう。私の婚約者 シャルティア・ブラッドフォールン」

「ナザリック地下大墳墓 第一・第二・第三階層守護者 シャルティア・ブラッドフォールン 真祖(トゥルーヴァンパイア)でありんす」

 

 

 ペロロンチーノの言葉に優雅に一礼するシャルティアの姿に、法国の面々は表情を取り繕うことさえやめたようだ。

 

 

「吸血鬼それも真祖(トゥルーヴァンパイア)だと! そんな存在認めることができるか! そもそもヘッセン卿、魅了でだまされているのではないかね」

 

 

 吸血鬼を婚約者といえば、むしろ騙されているとさえ思うだろう。法国の高官でなくとも、そう判断することだろう。

 

 

「ああ、ある意味で魅了されているのだろうな。もっとも卿らの意図するものとは違うがね」

 

 だが、ペロロンチーノはまるで恋愛劇のような切り返しで煙に巻く。帝国側の同席者たちは、また始まったといわんばかりに視線をそらしている。そんな周りの反応にペロロンチーノは肩をすくめつつ、指輪を外す。

 

 

「いま情報遮断の指輪を外した。どうせこの場にいないモノが、この場を監視しているのだろ? そして状態異常を確認する魔法ぐらいつかえるのだろ」

 

 事実、しばらくすると法国側のメンバーに動きがあり、確かに魅了はされていないと確認がとれたのだろう。その上で

 

「プレイヤー アインズ・ウール・ゴウン率いるナザリックとバハルス帝国は同盟を結び、多種族国家の立ち上げをめざす。もちろんバハルス帝国がその国是に従い人類存続と安寧を目指す。そのスレイン法国には我らが行うリ・エスティーゼ王国解体に向けて消極的でも同意をいただきたい」

 

 ペロロンチーノの要求に、立法機関長が答える。

 

「それは我らが立場を考慮してということかな?」

 

 立法機関長は何食わぬ顔で答える。ペロロンチーノも言質こそあたえないが、否定の雰囲気を出しはしない。だが立法機関長が意図せぬ形で、護衛の者たちには明らかに動揺の気配が浮かぶ。

 

「人類守護を可能とする戦力はまだ若いと見える。知っていることがバレるぞ」

 

 そんな護衛達の動揺を見透かすようにペロロンチーノは突き崩す。もっともそんなペロロンチーノと漆黒聖典第一席次に年齢的な差はなく、どの口がいうんだと突っ込みがはいるだろうが、ペロロンチーノの政治力は帝国歴代最高とも称されるジルクニフと共にフールーダに帝王学をたたき込まれ、その後も帝国の政治の一部を担った経験の差に過ぎない。

 

「ならもう一つ。シャルティアを王国内で洗脳しようとしたのは、貴様らだな」

「くっ」

 

 第一席次は己のミスに気が付く。シャルティアの殺気に反応し「あの時の」と言ってしまったことが、シャルティアとの面識を示す言質を与えたと気が付いたのだ。もちろんいくらでも言いつくろうことができる内容であるのに、場の雰囲気にのまれ弁明すれば、揚げ足を取られるとさえ考えていた。

 

「我が友に言わせれば、ギルドメンバーの子でもあるシャルティアに手を出しただけでも万死に値すると判断し、ナザリックの全軍をもって法国を攻め落とすというだろう。俺だって婚約者を洗脳し、二度死ぬ原因を作った卿らに敵対を宣言するのもやぶさかではないが……」

 

 ペロロンチーノは交渉相手ではなく護衛のメンバーの目を見ながら淡々と告げる。その内容は抗議というより脅迫となっているが、言葉には一切の感情が乗っていない。だが聴く側はその無感情こそ、言葉通りに実施するという凄みを感じさせていた。

 

「ゆえにもう一度問おう。我らが行うリ・エスティーゼ王国解体に向けて消極的でも同意をいただきたい。人類種の安寧のためにも」

 

 

 

 

 




※このお話ではシャルティアに殺され復活後、緊急事態ということでレベルダウン状態の強制参加


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