核で一度滅んだ世界に転生した瞬間なんか死んだ件について (rikka)
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001:死んだ男の物語

 死んだと思ったら見知らぬ世界で目を覚まして、その瞬間また死んだ件について。

 

 何を言ってるか分からないだろう? いや俺も本当に分からなかった。

 唯一分かるのは、自分が確実に二度死んだという事だと、ここが自分が最初に死んだ世界ではないということだ。

 最初に死んだってなんだ。

 

 なにせ二回目に死んだ時など、目が覚めたらなんか緑だか黄色だかに光ってる変な嵐の真っただ中にいて、ビビって息を吸い込んだ瞬間に全身がカッと熱くなって倒れてなんやかんやあってまぁ……死んだ。

 

(まぁ、そりゃあ死ぬよなぁ)

 

 目の前に広がるのはだだっ広い荒野と廃墟がほどよくミックスされた光景。

 これはひどい。

 まずそもそも全く壊れていない建物という当たり前のが一つもない。

 焼野原になった街をそのまま放置していた感じだ。

 

「核関連技術が異常発達した世界が核で滅んだ世界とかそれなんてポストアポカリプス?」

 

 街の残骸の向こう側からは、乾いた火薬がさく裂するような音がずーーーーーっと聞こえている。

 うん、それはもうっずーーーっとだ。

 どういう人がどういう人かモノに向けて撃っているのか。

 

 うわぁ、考えたくねぇ……。

 

「大丈夫か? まさか、キミの意識や記憶に不具合が? かなり無茶な実験だったと記録には残っていたが……」

 

 後ろから、女性にしては少し低めのかっこいい声がする。

 

「あぁ、いや、大丈夫。ごめんねグローリーさん。状況にめちゃくちゃ混乱しているけど、まぁ大丈夫」

 

 とりあえず状況を整理しよう。

 俺は一回死んでこの核バンザイ世界に来た。

 もうこの時点で十分トンチキすぎて吐きたくなる。

 

 問題はその後だ。

 核バンザイ世界にまったく適応していないクリーンな体だったためか、俺はすぐにゲボ吐きながら倒れた。

 そこまではうっすら覚えているが……。

 

 なぜか『人造人間』とかいうロボット兵士が、俺を今まさに後ろで燃え盛っている施設の地下へ運んでいたらしい。

 まったく記憶にないというか、自分が9割死んでいた時の話のようだが。

 

 これはついさっき知ったことだが、身体が完全に死ぬ前に色々調べ回ろうとした挙句に、自分の人格というか記憶を知りたがった『インスティチュート』とかいう連中の手駒っぽい奴が、自分の脳みそを機械の疑似脳にまるごとコピーしようとしたらしい。

 それまで一回も成功していない実験で。

 

 で、その結果生まれたのが、俺の記憶を受け継いだ俺のそっくりな俺という『人造人間』というわけだ。

 

 ……もう! 全然! 俺じゃないじゃん!!

 

 いや俺ではあるんだけどさ!!

 

「グローリーさん。俺の元の体は……」

 

 当然その連中――インスティチュートとかいう奴らは俺をなんらかの形で利用しようとしていたみたいなんだけど、そいつらと敵対していた組織の人がたまたまその施設を襲撃。

 ちなみに実験内容その他もろもろは、その施設の中を調べて分かったことらしい。

 

 で、その際に俺を助けてくれたのがこのバカでかいガトリングガンを持った銀髪サイド刈り上げで褐色肌の美人さん。グローリーという人だ。

 

「あの地下施設は敵もろとも爆破した。……キミの体はおそらく燃え尽きただろう。すまない、もう少しこっちが数を用意できていたら運び出せたのかもしれないのに」

「あぁいや、むしろ燃えてくれてよかった。鏡越しとかじゃなく直接自分の死体を自分で見るなんて、自分でもどういう感情を持つか分からない」

 

 自分が自分とほぼ変わらない人造人間という頭ぶっ飛んでるとしか言えない事態だって上手く呑み込めている自信はない。

 ここで自分の死体なんて目にしたら……考えたくないな。

 

「それにしても、よく施設が分かりましたね」

 

 なんでも昔の金持ちが自分用に作ったシェルターを改造した場所だとか。

 ほとんどロボットと言っていい古い人造人間の目撃情報が出ていたためにここを調べていたら発見した――ということらしい。

 

「元々インスティチュートが新しい施設を作ろうとしていたのは知っていた。どうしてそんなことをしたかは分からないが……。それで襲撃をかけてみたら、ちょうどキミが目を覚ます所に出くわしたというわけさ」

「偶然だったか」

 

 どちらも秘密結社っぽいのが少々気にかかるが、少なくともこちらはある程度自由を保障してくれるというから、まぁ当たりを引いたのだろう。

 

「それで、これからキミはどうするんだ?」

「正直、右も左も分からないしなぁ。ここがどこなのかも分かってないし」

「あぁ、そこからか。ここは連邦。コモンウェルスさ」

 

 連邦。コモンウェルス。なるほど。

 ……なるほど?

 

「つまり、どこの連邦なんです?」

「……キミは本当に、一体どこから来たんだ?」

「とにかく遠い所……だとしか」

 

 マジでまったくここがどこか分からん。日本ではさすがにないとは分かるけど……。

 ラノベやアニメによくある異世界なのか――いやまぁ、異世界なのは間違いないんだけどほら、こう――ほら!

 

「他の地名とかあります? その、例えば核が落ちる前とか。変わってません?」

「あぁ、なるほど。そうだな……ここはかつて、ケンブリッジと呼ばれていた地域だ。川の向こう側はボストン」

 

 ケンブリッジ。イギリスか?

 

 いや、向こう側がボストンって事は……ここアメリカかい!

 そういやなんか普通に英語話してたわ。

 なんか勝手に翻訳してるというか、耳とか口とか頭が勝手に動いてるというか。

 

 あぁ、意識してないと忘れるけど、自分もう自分っていう人間じゃなかったわ。

 自分と全くおんなじ人造人間だ。

 

「ちなみに、そちらの……組織? に面倒みてもらうってのは難しいですかね」

「ふむ。ボスがどう思うかというのもあるが……私としてはオススメしない」

「理由は?」

「戦う事になる。……いや、こんな世の中では暴力は必須なのだが……」

 

 滅茶苦茶重そうなガトリングガンを軽くノックしてみせるグローリーさん。

 

「私の組織に入れば、キミの選択肢はかなり限られるだろう。私としては、出来る事ならばキミには自由になってほしい。……せっかく奴らの手から逃れて、この連邦で目を覚ましたんだ」

 

 そういう事を言ってくれるから、組織というか貴女の世話になりたいというのが本音だ。

 優しくて強い美人とか最強すぎる。

 

 情けない事この上ないが、マジで右も左も分からないから誰かについていってせめてある程度の知識は教えてほしい。

 

 その旨を伝えると、グローリーさんはしばらく考え。

 

「なら、一つ私に考えがある。幸い、キミは生前よりもはるかに体は頑丈になっている。それを利用して、私のツテで働ける所があるかもしれない。とりあえずはそこで働いてみるのはどうだろう?」

 

 それはかなりありがたい。この人の紹介なら信用できるし、働く事でとりあえずココの常識だって学べるだろう。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

「グローリー! あぁ、『死の天使』! 戻ったのね」

「ああ、今戻ったよ。デズデモーナ、報告した通り少々特殊な人造人間を一人解放し、実験設備を破壊した。P・A・Mの予測は正しかったな」

 

 レールロード。

 謎の科学組織『インスティチュート』と敵対し、彼らが作り出す人造人間の『解放』を目的としている組織。

 それがグローリーが所属する組織だ。

 

「それじゃあ発電設備もあったのね? 奴らがエネルギーに関して問題を抱えているというのが確認できたのは大きいわ。でも、特殊な人造人間って?」

「インスティチュートは、どうやら連邦市民と人造人間のすり替えをより効率的にしようとしているようだ」

 

 グローリーがあの地下施設で見つけたのは、大昔の大規模な自家発電設備。そして何度も改修したのだろう人間の頭に接続する何らかの装置だった。

 彼女が見つけた人造人間と、その元だったのだろう『彼』の死体が繋がれていた。

 

「記憶を完全な形で移植しようとしていたんだ。余りに危険な研究だったので爆破した。トムからすれば持って帰るべきだったかもしれないが……」

「いいえ、よくやったわグローリー。そんな危険な研究の芽を残すわけにはいかない」

 

 グローリー達レールロードを率いる女性、デズデモーナの言葉に、頭に奇妙なヘッドギアを付けた黒人――『なんでも屋のトム』が頷く。

 

「あぁ、デズの言う通りだ。……いやまぁ、興味がなかったかって言われると嘘になるが……」

 

 連邦に知らないものはいないとされている恐怖。人造人間(シンス)

 これの最大の恐怖は、気が付いたら隣人が中身の違うものに入れ替わっているという恐怖だ。

 

 その入れ替わり方も惨く、入れ替わる人間を攫った後、凄惨な尋問と拷問によって情報をすべて抜き出していることが判明している。

 

「それで、その特殊な奴っていうのはどうしたんだ? 察するに、生前の記憶をまんま受け継いでるんだろう?」

 

 それがここから先、生前の記憶と人格をコピーされるようになったら、あるいはいつの日か自分でも知らないうちに人造人間になっていた――などという事が起こり得たのだ。

 

「ああ、彼はバンカーヒルのストックトンに頼んだ。本人も仕事を求めていたし、キャラバンの手伝いから始めるようだ」

「あら、随分と真面目な人格なのね。ちなみに名前は?」

 

 デズデモーナの質問に、グローリーは小さく笑った。

 

「ロスト……と、名乗るそうだ」

迷子(ロスト)? また随分な名前を付けたものね」

「思うところがあったんだろう。人造人間として生まれた人格ではない」

 

 グローリーは、自分でも気づいていないほどにあの人造人間の事を気に入っていた。

 話した時間はわずかだったが、それだけで十分に人の良さがグローリーには伝わっていた。

 

「解放した以上あまりこちらは関与しないが……念のために個人的に時々様子を見に行きたいんだ。構わないか、デズデモーナ?」

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

 この世界には、たくさんの人間が住んでる大きな町というのは数か所しかなかった。

 

 かつての大きな野球場に手を加えた頑丈な拠点。連邦のグレートグリーンジュエル。ダイヤモンドシティ。

 

 連邦のならず者やグールが住む連邦のごみため。多くのギャングの根城。暗黒街グッドネイバー。

 

 そして、それらの街や小さな居住地をつなぐキャラバン隊の多くを傘下に置くここ。交易中心地バンカーヒル。

 

 グローリーさんから紹介されたのは、ここバンカーヒルを中心に活動するキャラバンの手伝いだった。

 ここを拠点とするキャラバンは、当然のことながらここで十分に用意を整えてから売買の旅へ出発する。

 

 その旅のための水や食料の管理と用意、その荷を運ぶバラモン(突然変異して首を二つ持つようになった牛)の世話。ついでに装備品で修理が可能なモノなら直したりと……まぁ、雑用である。

 

 もっとも、こういう世界だから雑用がすごく大事になっている。

 雑用だから幅広い事をやらなきゃいけないし、たまに自分でも銃を握る必要が出てくる。

 

「出て来いクソ野郎ども!」

「頭ねじ切って玩具にしてやるぜーー!!」

「バラモンを殺せ! 中の荷物を奪え!! 女は足撃って捕まえろ!」

 

 

 ――今みたいに

 

 

 

「あっはっはっはっは! 見なよロスト、ちょうどいい的が湧いて出てきた! さぁさぁ! アタシらのコレクションをぶっ放そう! 胴体は5点、手足は10点、頭ぶっ飛ばしたらジャックポットさ!!」

「すいません隠れて横から行こうとしていたところだったんでちょっと黙っててくれませんかねクリケット姐さん……」

 

 

 グローリーさん、マジで俺を雇いませんか。

 この頭の中に炸薬しか詰まってないトリガーハッピー・キャラバンに同行するくらいなら絶対貴女の方が――っぶねぇ喉元に跳弾かすった!!!!

 

「ンのクソボケレイダーどもが! 死んだらどうするんだボケコラァ! 殺してお前らの着ている物も全部はぎ取ってキャップに変えてやるぁぁぁぁぁぁ!!」

「そうだよロスト! 派手にぶっ放しちまいな! キャッホーゥ!!」

 

 グローリーさん、貴女に拾ってもらっておよそ二か月。

 

 すっかり私もウェイストランドに慣れ申した。

 

 

 

 



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002:ウェイストランドでの初仕事

もう5年は前のゲームだというのに、未だにめちゃくちゃ遊べるゲームってすごいと思うんですよね


「お前を近々キャラバンに同行させるという話は聞いていたが、まさかクリケットとは……。大変じゃなかったか?」

「正直、ルーカスさんから差し入れで頂いた防具なかったら死んでた気がします。……光りまくってるフェラルの大群に追っかけられて、逃げた先でデスクロー三匹がラッドスコルピオンとヤオグアイの群れとキャッキャウフフしてるのが見えた時は絶対死んだと思った……」

「キャッキャ?」

「あぁ、すいません。地元でのスラングみたいなモノです」

 

 トータルで三か月ほどかけた俺の初遠征は散々なものだった。

 クリケット姐さんという、ただの雑用係だった時から『頭飛んでるなぁ』と思ってたトリガーハッピーな武器商人さんと旅に同行した。

 そしたらもう襲われるわ襲われるわ。

 

 バンカーヒルを出てちょっとしたら待ち伏せていたレイダーに襲われるわ、建物が多い街中に入っていったらガンナーとかいう奴らに襲われるわ車やガレキの下からフェラル(放射能でゾンビ化した人間だ)が這い出して来るわ。

 

 ダウンサイズした特撮怪獣みたいなのがいればアホみたいにでかい熊やサソリもいるし、最悪だこの末法世界。

 

 完全に安心できたのなんて、補給で立ち寄ったダイヤモンドシティだけだ。

 ……まぁ、あそこは人造人間による疑心暗鬼が強すぎてそれがめちゃくちゃ怖かったけど。

 

 あの街で雑貨店開いているマーナっていう女は酷かった。

 目に入る人を全部人造人間だと疑っていて、俺も初対面でなぜかエラい罵られた。

 

 ……実際自分は人造人間だから、正直殺されるかもしれないと冷や冷やものだった。

 なに? 家族を人造人間に殺されたの?

 

 ……いや、実際問題として気が付いたら入れ替わっていた人がいるし無理もないか。

 

「しかし、今回はVault81への行商だったか。不幸中の幸いだったな、ロスト」

「……え゛っ!? これで良かった方なんですか!!?」

 

 vault(ヴォルト)とは、いわゆるデカい核シェルターのことだ。 

 この国に核が落ちる前にそこに移動し、共同体を――一つの社会を作りあげて200年近く世代を交代しながら稼働させている。その一つがVault81という居住地であり、今回の行商一番の取引相手だ。

 

 確かに稼ぎはデカかったんですけど道中ヤバかったんですが!?

 

「普段アイツはクインシーを経由して南のワーウィック農園の方に向かうからな。今あそこは危険だ。状況が混沌としている。下手したら今回以上のトラブルも起こりえただろうな」

 

 あぁ、そういう。

 てっきり、あれくらいは笑って乗り越えろって言われるのかと思ったわ。

 

「南の方で何かあったんです?」

「ガンナーの動きがやけに活発になっている。他の危険生物もあの一帯は強いし数も多い。ミニッツメンが走り回っているようだが、どうなることやら……」

「あぁ……。そういえばガンナーってアイツらなんなんです? レイダーとはまた違うようですけど」

 

 ちゃちな――クリケット姐さんから言わせれば貧乏な農民の武器である手作りパイプ銃を撃ちまくって火炎瓶投げてくるレイダーとは違い、アイツらはレーザーライフルなんて未来兵器をばかすか撃ってきてガチ手榴弾投げてくるからマジで怖かった。

 

「ガンナーとは傭兵だ。一応はな」

「傭兵なのに別に敵対してるわけじゃないキャラバンを撃ちまくるんですか」

「まぁ、な。だが金で動いてくれる……時もある」

「それもうただのレイダーでいいんじゃないですかね」

「……ふっ、まぁな」

 

 こうして無事にバンカーヒルに帰ってこれたけど、アイツら道中で銃突きつけながら通行料要求してくるからな。

 なお、それを挑発しまくって身を隠すところがあんまない所で防具カッチカチに固めたレーザーライフル持ち複数相手に戦う事になった。

 

 姐さんホントさぁ……。

 

「まぁ、今回のお前の旅は話を聞く限りかなりのものだ。それを超える危機などそうはないだろう」

「そうあってほしいですね。姐さんの商品の銃も勝手に使っちゃって……。まぁ、本人大喜びでしたけど」

「だろうな。アレはそういう女だ。銃を使いこなせるなら男だろうが女だろうが惚れ込む」

「物騒すぎる美人だなぁ……」

 

 やっぱり今回の旅は飛び切りおかしかったか。

 道理で戦闘の専門職だったガードの人たちがビビりまくって錯乱しかけた訳だ。

 正直二度とこんな目には遭いたくないわ。

 

 ……となると、そんな状況でキャッキャ笑ってマシンガン撃ちまくってたクリケットの姐さんってば戦闘職のキャラバンガードよりも強いキャラバンなんじゃあ……。

 

「お前と一緒に働いたガードの連中がサボルディのバーでお前の武勇伝を話していたぞ。とんでもなく腕の立つ奴が入ってきたとな」

「ガードじゃなくて雑用なんですが」

「これから先はどうなるかわからんぞ?」

「そうなる前に独立してやるので」

 

 とにかく出来るだけの知識とノウハウ吸収したら、さっさと独り立ちしてここから離れよう。

 ……離れられるのかな。商売っていう形だとどうしてもここが絡みそうだし……。

 俺がまっとうな人間ならダイヤモンドシティにキャップ積んで市民権得る所だけど中身が中身。

 

 マジでマーサさんあたりに気付かれたらあの人にスワッターでぶっ飛ばされかねない。

 

 ……逆に街――とまではいかなくても集落作れば行けるか??

 

 いやでも、一か所にいるってのも危険だしなぁ。

 

「そういえば、あの人ってどうやって生計立ててるんですかね」

「あの人? どの人だ?」

「名前は知らないですけど、ルーカスさんとかクリケットさんのようにそこのトレード場を使ってる女の人です。ほら、青いシャツを着ている」

「青いシャツ……あぁ、トラシュカン=カーラか?」 

 

 トラシュカン=カーラ。

 

 ……くず入れ(トラッシュカン)

 

「本名じゃないですよね?」

「あぁ、単に奴が気に入って名乗っているだけだ。扱っているのは……まぁ、その名の通りだ」

「ジャンク品、ですかね。売れるんですか?」

「居住地にもよるな。それこそ、お前が今回立ち寄ったVault81のような一定レベルの技術を持っている場所だと、意外に大量購入してくれるらしい」

 

 マジか。

 

「ジャンク品かぁ」

「言っておくが、スカベンジャーのように廃墟を漁るのは危険だぞ?」

「危険? ……あぁ、まぁ、そりゃそうか」

 

 隠れ潜んでいるレイダーやらガンナーは言うに及ばず。

 マンホールやらトンネルからはフェラルが這い出して来るし、道を歩けば犬が喉元目掛けて飛び掛かってくる。

 

「仲間がいればまた違うんだがな」

「……ルーカスさん、なにかいいツテあります?」

「信頼できる人間を見つけることは、手つかずの新鮮で綺麗な水源を見つけることに匹敵するものだ」

「ないかぁ」

 

 防具商人なら戦闘や探索に長けた人とそれなりに知り合っていると思ったんだけど……。

 

「その理論で言うとクリケットがツテを持っていることになるが?」

「仮に持っていたとしても、あの人の思う信頼と俺の思う信頼ってきっとボストン湾よりも広い差があると思うんですよ」

「……すまん、そうだな」

 

 マジでクリケットさん、トレーダーとしては優秀らしいけど色々大変な人だよなぁ。

 

「あの人、居住地の人が買い物してくれるって言うのにそれがパイプ銃だと、去り際にわざと聞こえる声で嫌味吐くんですよ……。『ここには農民しかいないのか! 奴らが欲しがるのはパイプピストルやふざけた弾薬ばっかり!』って……」

「……迷惑をかけてすまんかったな……」

 

 苦笑しながら酒を飲むルーカスさん。

 完全に慣れちゃってるなぁ。

 

「……ちなみに、だがロスト」

 

 なんでしょう?

 

「ガードの話、どこまでが本当なんだ?」

「……まずガードの連中はなんて話しています?」

「光りし者とフェラルの群れに慌てず殿(しんがり)を務めて足止めをし、返す刀で襲い掛かってきたデスクローやヤオグアイ、スコルピオン達を相手にライフルとマグナムで大立ち回りをして、キャラバン全員を守ったという話だ」

「……正直内心滅茶苦茶慌ててましたが、行動としては一応間違っていないですね」

 

 ガードの人たち、デスクローに慌てている内に後ろに回り込んでたスコルピオンに挟まれてもうヤバかったからな。

 間に合ったのは本当に奇跡だった。

 

 つくづく思うが、身体も頭も完全に俺じゃない。

 

「ロスト」

 

 話を聞いて何か考えていたルーカスさんが、真面目な顔をしている。

 

 ……あ、これ面倒な話だ。

 

「お前に一つ仕事を頼みたい」

 

 断りづらい話なんだろうなぁ。

 やっぱこの人もここのキャラバンだわ。

 

「……報酬には当然、色を付けてくれるんですよね?」

「そこの話を付けようじゃないか。とりあえずバーに行こう。一杯やりながら話したい」

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

「このバンカーヒルの北東――橋を越えた先に、カウンティー・クロッシングという小さな居住地がある」

 

 サヴォルディー親子がやってるバンカーヒル唯一の飲み屋。珍しく人がいないバーのカウンターで酒を奢られながら、仕事の話を聞かされている。

 

(この薄らハゲ、絶対厄介な話だぞコレ絶対)

 

 交渉の際に酒を飲ませて判断力を低下させるのはコイツらの十八番だ。

 アタシは知ってんだからね!

 

 この身体はアルコールの分解を意識的に加速できるから効かんぞぉ!!

 

「距離は?」

「橋を渡ってすぐだから……そうだな、大体隊を率いているなら二日。一人で荷物量が少なければ一日でたどり着ける所だ。それもあって、便利な所でな」

「便利?」

「これを見ろ」

 

 そうして薄らハゲのクソ鎧商人野郎のルーカスは、懐から手書きの地図を取り出してカウンター台の上に広げてみせる。

 

 こら、バーの親父。客の持ち物を覗き込むんじゃない。

 

「ここがバンカーヒル。先ほど言ったように北北東方面の橋を越えればすぐにカウンティー・クロッシングだ」

 

 指で紙を上をなぞり、場所を指し示していく。

 

「ここは、その周辺にある居住地を訪ねるキャラバンのための前哨拠点として使える。さらに北東に進めばフィンチ・ファーム、その先にはグールが経営しているスロッグの農場。北にはグリーントップ菜園と、どこも取引相手として申し分ない」

「……だが? なにかあるんでしょう?」

 

 話を持ってきた切っ掛けが今回の行商でのトンデモ騒ぎだからな。

 まず間違いなく銃を抜く話だろう。

 

 ……この薄らハゲ! ニヤリと笑うんじゃねぇ!!

 

「このカウンティー・クロッシングだが、その近辺にデカい戦前の施設が二つある」

「戦前のって事は、結構ガッシリした施設か」

「そうだ。一つは昔の州軍の訓練施設。もう一つは……ほら、塔の上からならここからでも見えるデカいアンテナがあるだろう」

「あぁ……あそこか」

 

 バンカーヒルの中央にはバカ高くておまけに真っ白という滅茶苦茶目立つ塔がある。

 ある意味でバンカーヒルの象徴ともいえるモノで、自分もグローリーさんにここに連れてきてもらった次の日には空き時間に一回登ってみた。

 

「そういえば確かにあったな」

「実は、最近その周辺でグールの姿を見かけたという情報が入ってきた」

「キャラバンの人?」

「ああ。……いや、正確にはカウンティ・クロッシングの住人がそう話しているのを聞いたと言っている」

「……ちなみに誰?」

「Dr.ウェザーズだ」

「あの変人かぁ」

 

 自分のパック・バラモンに間抜けと名付けている人だ。

 いや、医者としての腕前は確からしいけど。

 

「ようするに、その二か所を見てきて危険があるようならそれを排除してその居住地の安全を確保してこいって事ですか」

「そうだ。話が早くて助かる」

「報酬はどれくらいキャップ積んでくれます?」

 

 この世界、どういうわけかウチでいうコカコーラ的な奴の瓶についてるキャップが通貨として出回っている。

 マジで何がどうなったらそうなったんだこの世界。

 

「……200キャップでどうだ」

「安すぎます」

 

 コイツ、マジでふざけんなよ! それ一回の仕事での相場だろうが! 高めでは確かにあるけど!

 

「二か所回るし、戦闘が起こらなかったとしてもそこに変なものが入り込まないようにしろってなるんでしょう? いくらなんでも200はないです。弾代、あるいは資材代ですぐに吹っ飛ぶのが目に見えてる」

「む。……なら、250は?」

「500」

「それはあんまりだ!」

「Dr.ウェザーズにもキャップ出してもらえばいい。というか、連名での依頼にすればいいでしょう? どうやらあの人が回る所の安全性に関わることみたいですし」

「……300じゃあ駄目か?」

 

 そこのレベルで渋るんかい!

 

「……腕が立って信頼できる人を一人か二人付けてくれるんならいいですよ?」

「…………」

 

 300キャップでのせめてもの条件出したら腕組んで考えだしやがったぞこの薄らハゲ。

 

「装備じゃダメか?」

「というと?」

「防具は俺の秘蔵品を。銃もクリケットと交渉してお前に合う物を弾薬とセットで渡す。返さなくていい。完全にお前のものとしてだ」

 

 むぅ……。

 

 正直それはちょっと悩む。

 先日までの旅で、アーマーの大事さは身に染みて分かっている。

 銃もそうだ。

 支給品として渡されたパイプライフルだと、人間や脆くなってるフェラル相手なら問題ないけど弾道は安定しないし、なにより化け物連中相手だとまずダメージが入らん。

 

 パイプライフルを一発も外さず当てまくってるのにまっすぐこっちに突っ込んでくるデカい熊とか怖すぎたわ。

 

 10mm拳銃……に加えて、出来ればせめてコンバットライフルくらいは欲しい。

 けど高い。銃もそうだけど弾が高い。今の自分の稼ぎじゃ金を貯めるのにも時間がかかる。

 

 

「……実物を見せてもらってから改めて考える。金もそうだけど命に係わるモノだし」

「あぁ、だろうな。むしろ、それだけ慎重な人間じゃなければ困る。死なれても困るしな」

 

 だったらだれか役に立って信頼できる人間連れて来い!

 

 …………。

 

 レイダーとかガンナー以外で!

 

 

 

 




なお、こいつら大体初手は100キャップでドンパチやらせて来ようとする。
そして食品一個の値段相場は20~30キャップ


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003:ソルジャー

「マジで一人で放り出されるとは思わんかったわ」

 

 ライフルを構え、腰に拳銃をぶら下げていつ化け物が飛び出してきてもおかしくない荒れた土地を歩いている元人間一人。

 

 ……ガードの一人か二人位は貸してもらえると思ったんだけどなぁ。

 

(薄らハゲがどうこう、じゃなくてバンカーヒルって街が俺を見定めているって所かな……面倒な)

 

「まぁ、装備には満足してるけどさ」

 

 汚れていない綺麗な旧軍の戦闘服にちょっと強化されたコンバットアーマー一式。

 ライフルは取り扱いやすいコンバットライフルを、クリケットの姐さんが俺の満足いくまで改造と試射に付き合ってくれた。

 おまけに拳銃は10mm拳銃だが、この地域で流通してる少しゴツい銀色の拳銃じゃなくて、全体的にスマートで黒い拳銃だ。弾は同じのが使えると言っていたし、こっそり動く時が多いかもしれないと言ったら一番いいサプレッサーまで付けてくれた。

 

 なんかアレだ。ルパン三世が使ってる奴にちょっと似てる気がする。

 

 ……やっぱり信頼されるトレーダーではあるんだなぁ。

 今度から、弾薬なら多少サービスしてもいいとか言ってくれるし。

 

 文字通り手取り足取り撃ち方の基本とか教えてくれたからすごく助かったのは事実。

 

 帰ってきたら飯奢ってくれるって言うし、本当にいい人だと実感できた。

 グレネードと火炎瓶、それに緊急用の薬品類一通りも分けてくれたのもポイント高い。

 

 これでガチトリガーハッピーという一点がなければ真面目に口説いている所だ。

 

「さて……橋を越えたらすぐだっていう話だったけど……」

 

 実際しばらく歩いて――ついでに襲い掛かってきたクソデカいハエとかトンボ……トンボ? を拳銃で撃ち落しながら歩いていると、それらしいものが見えてきた。

 

 マットフルーツ……あの謎果実が生った木々が、金属フェンスに囲まれた中で規則正しく並べて植えられている。

 

 その向こうの小屋に男性が二人……二人……。

 

 二人!? だけ!? それも男だけ!?

 

「あのー……すいませーん!」

 

 とりあえず声をかけてみよう。そしたらあの建物からもう二人くらいは……四人住むには小さすぎるなアレ。

 

 ……あれ? どうしたの?

 なんかすっごい手をバタバタさせて慌てて……

 

 

――ウ゛ゥァア゛ァァアアアア…………

 

 

 ……自分の後ろや横から、どこかで聞いた聞きたくない声が聞こえてきた。

 

 あらぁゾンビ(フェラル)さん、先日ぶりですね。

 

 ……そのままどこかに帰っていただけませんか??

 

 

――グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!

 

 

「やっぱダメかあああああぁっ!!!」

 

 反射的にライフルを足元目掛けて乱射して、近づいてきていたフェラルの足を破壊する。

 すると、結構離れている物影や草むらの中からゾンビ映画よろしくワラワラと他のフェラルが起き上がって走ってくる。

 

 小屋の中にいた二人がなにか叫んでいる。

 

「アンタ、早く逃げろ! ここらは昨日からフェラルがうろつくようになったんだ!」

 

 それなら目立つところに『フェラル注意』って看板下げておいてくれ!!

 

「クソが! 流れ弾に当たらないように小屋の中入ってろ!!」

 

 10体……13体か! 一部なぜかアーマー着てる奴がいるけどこの間山ほどいた光ってる奴はいねぇ!

 よし! いける!

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

「あ、アンタ強いんだな……。あの数を倒すなんて……」

「まぁ、以前のに比べたらね。……バンカーヒルから頼まれて来た者だ。もう十分に体験したが……フェラルがアホみたいに集まってきてたのか」

 

 今後を考えると弾を無駄に出来ないために、とりあえずVATSを起動して拳銃で全員の足をぶち抜いて全員まともに動けなくした後に、適当な鉄パイプとかコンクリートブロックを使って頭を潰した。

 これで、万が一あの光る奴が出てきても大丈夫だろう。

 

 アイツ、本格的に光りだすと一回死んだはずのフェラルが復活するからなぁ。面倒くさい事この上ない。

 

「あぁ、目の前の施設に元々少しはフェラルが居ついているのは知ってた。だけど、襲ってきても数体だったしフェンスもある。だから、たまに来るキャラバンに手伝ってもらって間引くくらいでなんとかやっていけてたんだ」

 

 いやそれでも危険だろう。

 

「元々いたのか……。逃げようとは思わなかったのか?」

「ここで育ったんだ。それに作物は十分育ってくれるし、ここは汚染されているとはいえ水場もある。……捨てられなかった」

「あぁ、まぁ……そうか。すまない」

 

 俺はまだそこまで他の居住地を見た訳ではないが、この世界の作物は滅茶苦茶強くてすぐ育つけど、その分俺の知っている作物以上に大量の水を必要とする。

 

 地下水を汲み上げるポンプなどが大量にあればどうという事はないが、そうでないならため池を掘るなどいろいろな手段を取らなければならないようだ。

 

 そういう物をポンポン設置できる職人でもいればまた話は違うんだろうが。

 

「すまないが、ちょっとしたテントを張ってもいいか? 元々俺の仕事はあの施設の調査と脅威の排除だ。捜索の拠点にしたい」

「あぁ、だが大丈夫なのか? 一人なんだろう?」

 

 ……正直、狭いだろう屋内でのフェラル相手の戦いは不安な所はある。

 他の連中ならリアルFPSかリアルモンスターハンターなんけど、フェラル相手はリアルホラーゲームになる。

 ホント勘弁してほしい……。

 振り返ったら腐った身体が立っているとかもうホントやめてほしい。

 元の身体と頭だったらチビってたね絶対。

 

 ただ、あの光る奴に比べるとやっぱりほとんどのフェラルは脆い。アーマー着てる奴でも隙間を狙えばあっさり足が砕ける。

 

(こそこそ動いて寝ている奴らに頭をこっそり潰していけば楽かもしれん)

 

 クリケット姐さん特性のサプレッサー装備のピストル、今回は大活躍だな。

 もし、後ろを気にする必要がない狭い廊下なら、コンバットライフルの方も出番が多くなるかもしれない。

 

「正直に言うが、あのレベルのフェラルだけならそこまで脅威じゃない」

 

 あの光る奴がいたとしても、それまでに倒したフェラルを念入りに処理していけば大丈夫。

 問題は潰し方か……。音が出ると不味いし、弾の消費が増えるがやっぱり必要経費という事で頭を撃ち抜いていくか。

 

「もし失敗したとしても上手く反対側につって奴らを遠ざけることはたやすい」

 

 アイツら、瞬間的な足はクソ早くても長く走れんしな。

 

「ただ、万が一俺が死んだり、あるいは撃ち漏らしが出たりしたらそっち側に漏れだすかもしれない。だから、今のうちにフェンスの補強をしておいてほしい。最悪でも対処しやすいように、数だけは必ず減らす」

 

 今の自分が買えそうにない装備欲しさに結局あの条件で引き受けてしまったけど、やっぱ人員が欲しかったな。

 せめてもう一人。

 それこそグローリーさんみたいな人がここに残ってくれていたら安心して潜り込めた。

 

「あぁ、そうだ。ちなみに他になにか変わったことは?」

「そうだな……。これも昨日の事なんだけど、スーパーミュータントを見かけた。なんだか走って遠くに行っちまったから、とりあえず安心はしているんだけど」

「……そういや橋の近くにいたなぁ」

 

 そん時は核爆弾を片手で握りしめてるなんか豪快な奴の『ソレ』を狙撃して、周りにいた奴を巻き込んでぶっ飛ばしたから強さがよく分らないんだよなぁ。

 

 見た目からして弾が通りにくそうだとは思うが。

 

 持ってる武装次第か。

 俺が見た奴は、多分そこらのレイダーから奪い取ったんだろうパイプライフルとか木の板持ってる奴らだったから、撃ち合っても勝てたとは思うが……。

 

「ちなみに、走っていったってどちらに?」

「あっちのデカいアンテナの方にだ」

「……例の場所かぁ……数は?」

「分からない。ちょっとした数はいたと思うが……気づかれないように息をひそめるのが精一杯だったんだ……」

 

 バンカーヒルの連中、ここに人手を出せよ!

 重要な拠点になりうるのに周辺がヤバすぎるだろうが!

 

 重要な交通要所である橋とその周辺もほったらかしだったし、あそこをレイダーとかそのスーパーミュータントとかに占拠されたらどうするんだよ!

 

「……フェラルがうろつきだしたのは昨日からなんだよな?」

「あぁ、そうだ。」

 

 仕事だからってことでこっちまで来たけど、自分の目で見ておいて良かった。

 

「よし、テントを張ったらすぐに様子を見てくる。後は任せてくれ」

 

 さすがにこれは放っておけんわ。

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 ブラザーフッド・オブ・スティール。

 通称、B・O・S。

 戦前の技術の収集と保存を目的とする、かつてのアメリカ陸軍が姿を変えた組織。

 

 そんな組織にとって、未知の技術の出元と思われるここ――連邦の調査は重要事項の一つだった。

 

 第一次調査隊は、最精鋭を部隊に入れていたこともあって成功を収めた。

 もっとも重要な事項――人造人間とそれを生み出す存在に関しての調査こそ進まなかったが、それでも多くのテクノロジーを持ち帰る事に成功。

 そして今回、続けて部隊を派遣した。

 

 パラディン・ブランディス率いる第二次連邦偵察部隊。

 通称アルテミス偵察隊。

 

 今度こそ人造人間の謎に関してなにか掴むことを期待されていたその精鋭部隊は、連邦に到着したその直後に失敗していた。

 

「はぁ……はぁ……っ」

 

 ロックをしただけの木製の扉は、今にも破られそうになっている。

 所々空いた穴から、すでに腐っている腕が伸びてくるのを、武装した女がレーザーライフルによる正確な射撃で撃ちぬく。

 

 フェラル特有の耳に障るうめき声と共に腕が引っ込むが、すぐにまた新しい腐った腕が伸びて扉を破ろうとバタつかせる。

 

「あぁ、パラディン……! パラディン・ブランディス!」

 

 鍛え抜かれたB・O・S兵士であっても、この極限状態ではその精神も崩れかけていた。

 

 手にしたレーザーライフルも、もう弾はほとんどない。

 彼女の他にいた七人の仲間のうち五人は、到着直後の謎の勢力による奇襲を受けて殉職した。

 生き残った三人もこうしてバラバラになっており、どこにいるかもわからない。

 

 どうにか逃げ込んだ先で守りを固めて救援を待とうとしていたが、結局それはフェラルグールという新たな脅威を呼び寄せる事になってしまった。

 

――ヴァァア゛アアァァッ!!!

 

 ドアをたたく音がさらに強くなり、鍵の金属部分がきしむ音がする。

 もう破られることは確定した。

 

 ここで死ぬのだと。

 一発で一匹確実に仕留めたとしても弾は足りず、ライフルの銃底で殴り殺すにしても数が多すぎる。

 

 ライフルを構え、覚悟する。いや、覚悟をしようと努力する。

 それでも手は震え、顎は震え、足が震える。

 

「あ、アド……」

 

 アド・ヴィクトリアム。

 勝利のために。

 

 B・O・Sの敬礼の言葉であり、合言葉であり、その魂である言葉。

 

 兵士を勇気づける統率の言葉。

 死を覚悟した女性兵士は、それを口にしようとする。

 

 次の瞬間、確実に鍵が壊れた。

 そう思わせる破砕音がした。

 

 絶望が彼女の指に不必要な力を入れて、発砲してしまう。

 それがドアに穴を空け、向こう側の一体を偶然撃ち抜くが、新たな穴からさらに腕が突き出る。

 

 

――ドンッ!!!

 

 

 それが一斉に、大きな炸裂音と共に消えた。

 伸ばされていた腕の一本は千切れ、血をまき散らしながら兵士が立てこもっていた部屋に吹き飛ばされる。

 

 外からまだ、フェラルの呻きが聞こえる。

 

 

 

――タタン! タタン! タタン!

 

 

 

 それも、続くリズミカルな発砲音で次々にかき消えていく。

 いや、正確には高い位置から聞こえていたうめき声が、地面近くから聞こえてくるようになった。

 

 それに対して、次々に聞こえる生々しい破砕音と消えていく気配。

 

 兵士は呆然と、それを聞いていた。

 

 

 

 

 

 

「おい、部屋にいるのは誰だ? ……というか生きてるか? 怪我をしているなら薬も包帯も綺麗な水もある」

 

 

 

 

「……おい、ドアを開けるぞ? 開けるからな? ゆっくり開けるから撃つなよ?」

 

 

 

 

 そうしてほぼ破砕されているドアを丁寧に開けたのは、特徴らしい特徴がない東洋の血が入っているように見える男だった。

 

 少なくとも、レイダーからは程遠そうな男だ。

 

 

「……無事みたいだな」

「ええ」

 

 兵士は、大きく息を吐いライフルを下げた。

 

 

「B・O・S所属、アルテミス偵察隊。ナイト・アストリン。……救援に感謝します」

 

 

 




今更ですが、原作の三年前。アルテミス偵察部隊が到着した辺りがスタート時期になっております


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004:人造人間

 大量のフェラルが一枚のドアを大勢で代わる代わるバンバン叩きまくっていた。 

 祭りかよ。

 いやまぁ、誰かが襲われている所だったんだけど一瞬そう思ってしまった。

 

 それも死ぬ一歩手前だ。

 部屋に籠っているならまだ生きてるだろうが、狭い閉鎖空間に大量のフェラルが流れ込むとか死亡確定事項なので、慌ててグレネードぶん投げて連中を吹っ飛ばして残ったのを片づけた。

 

 で、声をかけながら扉を開けると、呆然とレーザーライフルを構えている美人さんがいた。

 レーザーライフルを持っている事でガンナーかと思ったが、それにしては装備がおかしい。

 

 なんか変わったオレンジ色の……なんていうんだ? ジャンプスーツ??

 ……あ、やっぱ何発かやられたな? 怪我してるわ。

 

 俺の身体だとそこまで問題ないんだけど、普通の人間にはコイツらの一撃は辛いだろう。

 RAD値が地味に上がっていくって言ってたなあ。

 

(それに、ビーオーエスってなんだったっけなぁ。バンカーヒルでちらっと聞いた覚えがある単語だけど)

 

 とりあえず女性兵士――アストリンと一緒にフェラルの死体処理を終わらせ、弾が切れてるレーザーライフルの代わりにコンバットライフルを持たせてさらに施設の探索を続行。残ったフェラルを掃討。

 あの光る奴が現れた時はちょっと焦ったけど、この女性兵士は射撃の達人だった。

 フルオートのライフルで綺麗に光る奴の頭を撃ち抜いて足を止めた。

 

 それでアイツが死ななかったのは正直ビビったが、奴がたたらを踏んだ瞬間に素早く足を撃ち抜いて完全に無力化していた。

 

 そして完全に施設を制圧、とりあえず報告のためにカウンティー・クロッシングに戻りながら、話を聞くことにした。

 

「改めて名乗らせてもらうわ。私はアストリン。アルテミス偵察隊に所属するB・O・Sナイトよ」

「すまん、そのビーオーエスってのは?」

「あぁ……ええ。連邦じゃあ余り知られてないかもね。B・O・Sというのは、私が所属している組織で――」

 

 話を聞くと、発達したテクノロジーの回収とその管理を目的とした軍隊。……という認識でいいのだろうか?

 

「で、ここにはまだ貴重なテクノロジーが大量に残っている可能性が高いからその調査に来たと」

「そういう事よ。……でも、到着した瞬間奇襲を受けて……」

「……他に生存者はいないのか?」

「パラディン・ブランディスと……スクライブ・ファリスはおそらく生きてる。いえ、生きていたわ。だけど、今はどこに行ったのか……」

「ちなみに、何に襲われたんだ?」

 

 なにせ偵察部隊とは軍隊の一軍だ。

 そう簡単に負けるとは思わんのだが……。

 

「……レイダー……だと思う」

 

 …………。

 嘘やろ?

 

「貴女の腕前だけでも、レイダー程度ならば切り抜けられると思うんだが……」

「数が多かったのよ。敵の数はこちらの五倍以上だった」

 

 確か部隊は八人だったか。それで五倍以上……四十人を超えるレイダー集団?

 そんな大勢の仲間だが部下を食わせられるほど活動的なレイダー集団なんていたっけか??

 

 バンカーヒルでいくつかの大きなレイダー集団の話は聞いているが、一番デカい昔の車工場に籠ってる集団……あー、え~~と……ジャレドのグループか。

 あそこでも二十人をちょっと超えるくらいだ。

 レキシントンを完全に制圧すれば増えるかもしれないけど、今の所はそういう気配はない。

 

「武装は? 略奪かなにかで、たまたまいい装備を持ってたとか?」

「……服装は普通のウェイストランド人と変わらなかったわ」

 

 普通か。ってことはガンナーでもないな。

 

「でも銃が……」

 

 あぁ、やっぱいい装備を手に入れてたか。

 マシンガンあたりでも手に入れてたか?

 そう聞くと彼女は頷き、

 

「半分くらいはそう。マシンガンとかアサルトライフルを……でも、後の半分が変わった銃を使っていて」

「変わった?」

「レーザーライフルよ。私達が使っている物とは全然違うの。威力は低いけど速射性が高くて……」

 

 ……どこかで拾ったか?

 念のためにそれもバンカーヒルに報告しておいた方がよさそうだな。

 

「それにレーザーの色だって変だったわ。赤じゃなくて青だなんて……」

 

 それはマジで見たことないな。

 レーザー装備を多用する連中ってなるとやっぱりガンナーだけど、アイツらは統率のために装備を全部軍製で統一しているって話だったし、実際クリケットの姐さんと一緒に頭吹き飛ばした連中は、アストリンと同じタイプの――つまりは赤いレーザーを発射する銃を使っていた。

 

「すまないが、こっちも仕事があるのでもう一か所行かなければいかない所がある。あれだったら、今から行く居住地で待っていてくれ」

 

 今の稼ぎでも、一人や二人分くらいは養えるだろう。料理が出来る俺は重宝されているから食材は少しまけてもらえているし、宿代くらいならなんとかなるだろう。

 

 そのためにも、今回の仕事をさっさと終えてまた次の仕事に取り掛からないと。

 

「いいえ、私も貴方の仕事を手伝うわ。合流の目途も立ってないし、助けてくれた恩を返す程度の人間らしさまで失いたくはないわ」

 

 その言葉を待っていた。

 いや、善意に付け込むようで申し訳ないんだけど、この人の腕はすごいわ。

 後ろを守ってくれる人材としては最適すぎる。

 

 幸い、ライフルを貸していてもこっちには拳銃があるし、自分にはVATSがある。

 アーマーもあるし、仮にさっきの施設みたいに敵がいてもやり方次第ではいけるだろう。

 

「助かる。一度態勢を整えたら、あっちのデカいアンテナの調査に行く。……スーパーミュータントがそっちに向かったという話もある。警戒しておいてくれ」

「そういう話は得意よ。任せて頂戴」

 

 そうして特に襲撃もなく、無事にカウンティー・クロッシングに到着。

 だが、出迎えてくれたのはここに入植していた二人の男性だけではなく――

 

「ハァイロストボーイ! 聞いたわよフェラル共ちゃんと吹っ飛ばした? 銃に弾薬は足りてる!?」

 

 クリケット姐さん! アンタホントに最高だな!!

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

「随分とその……個性的なキャラバンね?」

「腕はいいんですよ。弾もこうして毎回毎回どこからかガッツリかき集めてくれるし、銃の改造の腕前もいい。自分の銃も、あの人が用意してくれたものですし」

 

 うん、やっぱ最初は戸惑うよね。

 自分も最初はこの人どうなんだと思ってたけど、付き合いが重なれば重なるほど細かい気遣いが見えてくる人だ。

 

「そうね。私としても、フュージョン・セルがある程度補充できたのはありがたい」

 

 そういう彼女が手にしているのは、自前のレーザーライフルだ。

 ただし、少し外見が変化している。

 クリケットの姐さんがパーツを譲ってくれて、セットまで手伝ってくれたのだ。

 念のためにとアストリンが試射をしていたが、感覚は全く変わらずに射程が伸びていたらしい。

 

 マジでいい腕してんなぁ姐さん。

 

「とりあえず、明日に備えて寝ておきましょう。幸い、貴女が使ってた寝袋がそのまま使えるから、簡単なシェルターを作ればそのまま眠れる」

 

 基本的にキャラバンは大体居住地で休むものなんだけど、たまに野営をする時なんかは自分がシェルター作りをやらされていた。

 

 おかげでそこらに適当な材料さえ転がっていればその場で作れる。

 今回は、居住地の人が補強に使おうとしていた資材をそのまま使わせてくれたからすぐに作れた。

 

「そうね。……ねぇ、Mr.ロスト」

「ミスタは付けなくてもいい。なんです?」

「ええ、じゃあロスト。貴方ってキャラバン隊の一人ってことでいいのかしら?」

「いや、どっちかというと雑用だな。三か月くらい前まで行く当てがなかったんだけど、ある人の紹介でバンカーヒルに預けられてそこで仕事をしているって所だ」

「そう……」

 

 そういうアストリンさんは、少し残念そうだ。

 

「どうかしましたか?」

「こんなことを言うのは、正直恥ずかしいのだけど……人手が欲しいの」

 

 あぁ、生き残りがいるかもしれないとしても、それでも半数以上を失ったのは間違いないからか。

 

「生き残っているかもしれない二人の捜索のため……ですか」

「ええ、それもある。同時に、生き残った以上本隊と連絡を取る必要があるの。それに、救援を待つ必要も」

 

 あぁ、まぁそうだろうなぁ。

 どこかに立て籠もるにしても滅茶苦茶信頼できる――それこそ完璧に生き残っているシェルターくらいじゃないと安全とは言い切れないし、当然ながら水や食料の調達は必須になる。

 

 なにもかもが汚染されていて当然の世界では、とくに水の調達には居住地との取引がないと苦労するだろう。

 

「そっちも安心してほしい。いきなり放り捨てることはしない。約束する」

 

 自分もグローリーさんがアレコレ手を回してくれてようやくある程度安定した生活送れるようになったしなぁ。

 そんな自分がレイダーでもない人間を見捨てるのはまぁ……ちょっと寝覚めが悪すぎる。

 

 だから養う事にはまったく異論はなかったのだが、なぜかアストリンは警戒している。

 なぜだ。

 

「なんというか……貴方、ウェイストランド人らしくないわね」

「……まぁ、自覚はある」

 

 稼げるときは出来るだけ稼げ、というのは分かる。

この世界ではどうあっても放射能の蓄積が避けられないので、薬品を取り扱う商人か医者との取り引きは必須と言っていいから、マジでキャップは生命線と言っていい。

 

 ただ、相手を嵌めて蹴落とそうとかそういうのはどうも苦手だ。

 機械の脳のおかげか、人を殺すことにはまったく忌避感はない。

 

 グローリーさんの推測だけど、おそらく強いストレスを感じた時に機械脳がそれを一種のエラーとして勝手に処理してくれているんだと思う。

 だから、もし自分が気の進まない汚い事をした時も、結局何も感じない可能性は高い。

 ただ――

 

 うん、少なくとも率先して見捨てる選択肢を選ぶのは無しだ。

 

「ごめんなさい。貴方の行動に裏がないだろうとは思っているの。ただ、こんな……良くも悪くも――より文明的な人間は珍しいから」

「それなりに俺もウェイストランダーだと思うんだけどなぁ」

 

 法外な通行料要求してきたアホは血祭に上げたし、基本レイダーは片っ端から潰してるし……コソコソ戦法で。

 

「まぁ、とりあえず交代で寝よう。閉鎖されていた区域のフェラルも排除した上で再閉鎖したから大丈夫とは思うけど、どこかにフェラルがいる可能性はまだある」

 

 虫と並んで奇襲が大好きなゾンビ連中だ。

 ……羽音がない分もっとやっかいかもしれんな。

 

「なら、悪いけど先に眠らせてもらうわ。疲労が溜まっているのは事実だし」

 

 ライフルを側に置いたまま寝るのは、兵士としての本能なのか、あるいはこういう世界での女としての本能なのか。

 

(前途多難すぎる)

 

 半壊している建物――何かに使おうとしておそらく使えなかったのだろうその壁に背中を預けて、周辺の気配を探る。

 正確には音を探る。

 そう意識した途端、聴覚感度が異常に高くなるのを感じる。

 

 聞こえていた風の音、草のこすれる音、その他の音の出元を聴覚で把握し、その音を脳が自動的に解析していく。

 

(あぁ、やっぱマジで疲れていたんだな)

 

 当然、すぐ近くにある音源も勝手に解析してしまう。

 簡単な骨組みとブルーシートで作った即席のテントの中で寝袋に包まっている女性兵士の呼吸音なども。

 

 呼吸のワンブレスの時間とその変化のなさが、彼女が熟睡状態に入ったことを示している。

 

 それだけではなく。周囲への警戒という事で視界がVATS使用時と同じ状態になっている。

 彼女の頭や四肢、胴体のそれぞれに今発砲したら何%の確率で弾が命中するかが表示される。

 いらねぇ。

 

(……日に日に自分が人間じゃなくなったって実感が強くなるな。いや、日本人だった自分は死んだんだったな)

 

 人造人間。

 ウェイストランダーに紛れ込み、時に襲うとされる謎の存在。連邦のブギーマン。

 

(人造人間として生まれた連中は、自分という存在についてどう考えているんだろうな)

 

 そういう物だと思っているのか。

 あるいは、自我に疑問を持っているのか。

 

 前者ならある意味ごく普通の人間らしく、後者ならばらしくない。

 

 だが、どちらにせよ周囲からは異質なものと思われている。

 ひょっとしたら、――いや、多分作り出した人間にも。

 

 

 

 

(ひ弱だな。この頑丈なだけの身体は……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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005:スーパーミュータント①

 リビア衛星アレイ。

 目的地である、あの巨大なアンテナ施設の正式名称はそういうらしい。

 B・O・Sについては朝起きてから現地に行くまで一通りアストリンから詳しい説明を受けた。

 

 戦後――大規模核戦争を生き延びた合衆国陸軍が姿を変えた組織。

 

 テクノロジーの悪用による悲劇を繰り返さないために、テクノロジーの収集と管理を第一とする軍隊。

 

(いやぁな予感をさせる組織だなぁ。下手に腐敗が始まったら手に負えなくなるタイプの組織と見た)

 

 その組織の中で飛び切りの『上級射手(マークスマン)』だった主力歩兵。それがアストリンということだ。

 実際、昨日の対フェラル戦、そしてつい先ほどうろちょろ飛び回っていた虫を一発で仕留めた腕前は「スゲェ」の一言しか感想が出ない

 

 飛び方が非常にうざったい虫の変異体相手。正直、VATSなしではこの身体でも一発では当てられない自信がある。

 ニ、三発その方向に撃って、一発当たるかといった所だろう。

 面倒だし弾が無駄なのですぐにVATS射撃に切り替えるが。

 

 むしろ無駄弾を減らす意味でも普段からかなりVATSを多用しているな、俺。

 

「っと。アストリン」

 

 止まってくれと言葉を続ける前に、アストリンは自ら立ち止まってすぐにライフルを構えて、周囲を警戒してくれる。

 やっぱり場慣れしているから、こういう時助かる。

 

 ともあれ、だ。

 地面を出来るだけ荒らさないように、静かに四つん這いになって顔を地面に近づけ、視線を低くする。

 

「デカい足跡だ。五本指……人型でこのサイズってことは」

「スーパーミュータントね」

 

 ついに出やがったかあの緑ゴリラ。

 いやゴリラっていうより……ファンタジーに出てくるオークか。

 

 武器は斧とかじゃなくて銃か木の板――木の板はまだそれっぽいかもしれない。

 

「アストリン。わずかだがこう……焦げ臭さが残っている。ひょっとしたら、レーザー系の武装で撃たれてたかもしれない」

「……どちらかしら」

 

 誰に撃たれたのかという事だろう。

 味方か、あるいは襲ってきた敵か。

 

(ガンナーって可能性もあるか。あちこち歩き回ってる連中が、スーパーミュータントと遭遇戦を起こしたとしてもおかしくない)

 

 足跡からして目的地の方向だとは思うのだが、ちょうどよく落ち葉などが進行方向にあって続きの足跡が消えてしまっている。

 すくなくとも、見える範囲に人間の足跡――というか靴跡は見当たらない。

 

 耳を澄ませて昨日と同じ状態を再現する。

 もしそういった部隊とそれなりの数のスーパーミュータントが戦っているのならば、聴覚機能を最大限まで上げたら戦闘音ぐらいは聞こえるかもしれない。

 

 

――ドォォォォォォォォォォン!!!!!

 

 

 その途端、巨大なアンテナの一部で凄まじい爆発が起こった。

 轟音と爆炎が立ち上がり、同時にここからでも聞こえる銃声が鳴り響く。

 

「今のは……フュージョン・コアの爆発!? ロスト!!」

 

 

 

 

 

 

 

「――あああああああああああ耳が!! 耳がーーーーーーーー!!!!!!!!!」

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

「なにこれ、戦争でも始まってんの?」

 

 一度耳が死んだ俺だが、復活するのも早かった。人造人間ボディマジでやべぇ。

 

 そして走って急行した現場の様子もまたやべぇ。

 

 三つあるデカいアンテナ塔の内の一つ、その高層部に向けてスーパーミュータントの群れがレーザーやらパイプガンやらミサイルをやたらめったら撃ちまくっている。

 

 ザっと目に入る連中を脳内リコンセンサーと温度センサーの併用でマーキング。

 

 これでどこに敵がいるか勝手に追尾……見えてる分だけで八体!?

 高い所にいる敵しか見えてないんだぞ!?

 

 その隙を縫うように、高所から誰かがレーザーで応戦しているが、射線が全然安定していないしこれじゃあ焼石に水だ。

 

「ファリス!」

「B・O・Sの仲間か? ……っておい! 待てアストリン!!」

 

 持っていた双眼鏡で上を――つまり集中砲火を食らっている所を確認したアストリンはレーザーライフルを構えて走り出してしまった。

 おっま! ばっか!!

 

「ホントに軍人なんだろうなB・O・Sは!?」

 

 アストリンは上へと昇る一本道。そこに向かって真っすぐ走っていく。

 その道を塞いでいる――おそらく殴る系の得物しか持ってなかったためにたむろしていたのだろうスーパーミュータントの腕にレーザーの一撃を的確に叩き込んで、武器を落とさせた。

 

(VATS起動。同時に視覚センサー計測処理レベルを2.0から3.5に)

 

 上層階にいる人間をVATSを起動させた目視で確認。センサー感度も合わせてズームアップして姿を確認する。

 いた、男性兵士だ。アストリンのとは細部が違うが、似たような服を着ている。

 

(死角になってて見えないけど体勢がおかしい。やけに低い。座っているというよりは……下半身のどこかを負傷して立てない? 無駄弾が多いのは、それで射線が安定しないためと推測)

 

 アストリンが上に続く通路に突っ込もうとしているが、素手にこそなったがほぼ無傷のスーパーミュータントと……なんだあれ。緑色の毛無しマッチョ犬が食いかかろうとしている。

 

(VATSターゲット、ally02(男性兵士)からenemy10(マッチョ犬)へと変更。ターゲットの頭部への集中射撃を選択)

 

 ピン付けしたエネミーの位置と行動予測から、自分の存在がまだバレていないことが分かる。

 武器をライフルからサイレンサー付き10mmへと変更、物影からマガジン一つ分をすべて撃ち尽くす動作を選択、決定する。

 

 気の抜けた射撃音だが、威力には何一つ変わりがない。

 

 一発二発程度の弾丸では見た目通りのタフさで牽制にしかならないが、アストリンの腕に飛び掛かり噛り付く直前で弾丸によってその動きを押さえられる。

 

 続く連続射撃がさらに五発入った所でようやく骨にダメージが入り、続く二発が脳を貫通しターゲットを沈黙させる。

 

(射撃行動をキャンセル。マガジン残弾確認。残弾五発。VATSターゲットをenemy09(素手ゴリラ)に再設定。同時に視覚センサー及びターゲットシステムを最大レベルまで起動)

 

 ゴリラ犬は、当然緑のガチゴリラよりも体も頭も小さいが、それでも無茶苦茶固かった。

 となると残り五発を全弾頭に当ててもおそらく殺せない。

 

 いきなりお供の犬が死んだ事に、ガチゴリラは『ナンダァ????』と気味の悪いカタコトで驚いて足を止めた。

 

(……喋れたんだ、あのゴリラ)

 

 頭をフルで動かして無理やり超精密射撃を可能にする。

 …頭と身体の使い方に慣れた今なら二発はイケるかと思ってたけど、やっぱ一発が限界か。

 

 視線が犬の方を向いているが、すぐに脇を抜けて上へと走り去ったアストリンの方を向くだろう。

 

(VATSターゲット、enemy09頭部から左眼球部にセット。行動予測開始)

 

 素手ゴリラが振り返る時に、こちらの射線が敵の左眼球とその向こう側の右眼球に並ぶ瞬間がある。

 そこを狙って射撃。……今。

 

 

 

「グワアアアアアアアアアアアアアアア!!!! 目ガ……っ! 目ガアアアアア!!!」

 

 

 

 ――命中。

 

 最悪片目だけでも奪えばいいと思ってたが、ラッキーヒットもあって綺麗に両目潰せたみたいだ。

 ちょうどアストリンが昇って行った通路の入り口をふさぐ形で、でたらめに暴れている。

 

 視覚センサー、ターゲットシステムの感度をデフォルトに戻して再度VATS起動。

 ちょっとした嫌がらせにしかならないだろうけど、残り四発を両足にそれぞれ叩き込んでマガジンを交換。

 

(リコンセンサー再起動、地上部の敵の配置を追加、更新)

 

 アストリンは鉄骨やアンテナ塔自体を上手く使って射線を切っているが、このまま撃たれ続けたら不利だろう。

 特に他の塔の高所から撃っている重武装のスーパーミュータント。

 こいつらをどうにかしないとアストリンもあの兵士も嬲り殺しだ。

 

(アストリン……頼むから、もうちょっとどうにか持ちこたえてくれ)

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

(よしよし、まだ持ちこたえてるな!)

 

 射撃はさっきからずっとあのアンテナ塔に集中している。

 その隙にこっちは物影に隠れながら、目当ての場所までこっそり移動していた。

 

(一番不味いのは、射撃戦に有利な位置に重武装を持ってる奴らのほとんどが集まってしまってることだ)

 

 この緑のゴリラ共がどういう生き物かは知らないが、言語を使ってる以上やはり知恵はある。

 木材やらデカいハンマーといった近接武装持ちが地上に多いのは、高所にいる重武装持ちに近づけさせないためなのだろう。

 ……いやまぁ偶然かもしれないけど、少なくとも現状はそうなってしまっている。

 

 不幸中の幸いなのは、他の近接ゴリラズが注意だけアストリン達のアンテナ塔に向けてあんまり動いていないことだ。

 

 一番最悪だったのは、近接持ちが雪崩れ込んでアストリンが閉じ込められること。

 無駄に暴れるミュータントを足止めとして入口で置いてけぼりになるようにしたけど、それでもいざってときは自分がさらに乗り込んで近接勢をアストリンと俺で挟み込んで削る予定だった。

 

(さて、それじゃあ頂くか)

 

 10mm拳銃を構えながら、先ほどの超精密射撃で負荷のかかった機械脳がパフォーマンスを取り戻すまで息を整える。

 

 その銃口の先には、柱の向こう側に身を隠したまま出てこないアストリンを今か今かと待ち構える――

 

 

 ミサイルランチャーなんて物騒なものを持っている、ちょおっと頭の足りないゴリラがいる。

 

 

 

 

 

 おめーいいもん持ってんな。よこせよコルァ。

 

 

 

 

 




崩壊杯終了までは感想返しは控えておりますが、皆さまの感想キチンと読ませていただいております

主人公は実際、作中設定でのコーサーの強さを実際に再現したらこうだろうなぁ、というのを描いております

……装備が。
インスティチュート装備と111のパパ、ママ達の寄り道による超強化があかんねん……。


※書き溜めが尽きたため、次回より少し更新が伸びる可能性があります。


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006:スーパーミュータント②

「ファリス、しっかりして!」

「驚いた……ナイト・アストリン。生きていたのか……っ」

 

 アンテナ塔の内の一本。その高所に破材などで無理やり作ったような小屋。

 その中で、B・O・S兵士――スクライブ・ファリスは身を隠しながら応戦していた。

 

 その太腿からは、比喩ではなくあふれるように血が流れ続けている。

 布で傷口部分をきつく縛っているがその布もすでに赤黒く染まっており、吸いきれなかった血がしたたり落ちている。

 

「ナイト、来てくれてありがとう。だが……逃げろ。自分はもう助からない」

「何を言っているの!」

「見たら分かるだろう? 大腿部動脈から出血が止まらない。……致命傷だ」

「ファリス!」

 

 弱気なことをいう同僚に業を煮やしたアストリンはファリスの腕を掴み、そして驚愕した。

 スクライブ・ファリスの身体からほとんど熱を感じない。

 

「頼む、ナイト。……もう、瞼を開けているのも正直、キツいんだ」

 

 粗雑な木材の壁が、外からの射撃でみるみる削られていく。

 射撃武器を持っている連中からここが少し遠い事が唯一の救いだが、時たま発射されるレーザーの弾丸がどんどん壁に穴を空けていく。

 

「駄目、駄目よファリス、気をしっかり持って! すぐにアボミネーションを片づけるわ」

 

 現地のキャラバンに改造してもらったライフルは射程がかなり伸びている。

 スナイパータイプほどではないが、この距離ならば当たるはず。

 そう計算したアストリンは壁から身を乗り出そうとするが、パイプライフルやコンバットライフルの連射によって頭を押さえられる。

 

(もし、パワーアーマーを一台でも残していれば……っ)

 

 銃だけを物陰から出して、マークスマンとしての勘で数発撃ってみるが、やはりそう簡単には当たらない。

 このままではすり潰されると、緊張から手に汗を握るアストリン。

 

 次に弾幕が薄くなった瞬間に、確実に一体倒して圧を減らす。

 そう考えてアストリンは耳を澄ませる。

 敵の位置をより正確に把握するためだった。

 

 だからこそ、アストリンはその音に気がつけた。

 

 独特の発射音。

 独特の空を切る、飛翔音とでもいうべき音。

 

「っ! ミサイル!」

 

 先ほどから砲撃はなかったため、弾切れだとアストリンは判断していた。

 とっさにスクライブ・ファリスを庇うが、着弾の爆発音は全く違う所から響く。

 

 

――アアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 

 

 外から聞こえてくるスーパーミュータントの絶叫。

 弾幕が止んだことに気が付いたアストリンがそっと覗き込む。

 

 そこには、おそらく今の今まで自分達に銃を向けていたのだろう緑色のうすのろが、地面にたたきつけられて絶命している姿だった。

 

 その向こう側には、頭の半分が砕けている別のミュータントの死体が転がっている。

 その側には――

 

「ロスト!!」

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「うし、ミサイル持ちも含めて一番ヤバイ所は潰したか」

 

 唯一のレーザー装備持ちを叩き落した。

 ……いや、まさかミサイルの直撃食らっても死なないとは思わなかった。

 

 頭が弱点っていうのは他の生物と同じだったけど、こいつらやっぱ身体が滅茶苦茶固いわ。

 ひょっとしたらデスクローとかあのデカサソリとかとも殴り合えるんじゃないかと思うくらい。

 

(VATSに先ほどのミサイル弾頭の爆発、爆風のデータを追加。再計算)

 

 それでも地面に叩きつけられたら死んだ。

 高所から落下させるのが一番確実な殺し方というなら。

 

(足場の強度は思ったより固い。手すりの高さも計測データに追加。VATS再起動)

 

「足元注意だ」

 

 アストリン達のいる掘っ立て小屋をいい位置から狙っていた奴の足元を狙ってミサイルを発射。着弾。

 それなりに重そうな図体だが、さすがに衝撃と爆風のWインパクトには耐えられんだろ。

 

 

――オノレェェェェェェェェ!!!!

 

 

 爆風に煽られ、もう一体地面に叩きつけられて絶命する。

 残りのミサイルは二本。

 リコンセンサーに残っている敵の数は十体。

 

 動揺しているためか、動いている奴は一体だけだ。

 

(確認できている敵武装から脅威度を計算。上位四体をリコンセンサーの視覚情報に色分けして表示)

 

「ミツケタゾ!」

 

 高所からこちらかアストリンへの射撃を続けようとしている奴を叩き落そうとしてたら、ガチゴリラが近づいてきた。手にはクッソ重そうなスレッジハンマーを持っている。

 

「シネェ! ニンゲェン!!」

 

 ドス! ドス! とくそうるさい足音を立てて走ってくるガチゴリラ。

 アパートとかで大家さんから文句言われるタイプの足音だ。

 

 ちょっとこっちは脅威度と射角の再計算で忙しいから黙っててくれないかな。

 

 ガチゴリラがハンマーを振りかぶって走ってくるが――

 

 

 

――ピピピッ

 

 

 

「だから足元注意だってば」

 

 

 

 次の瞬間、ミサイルほどではないがゴリラだろうと足吹っ飛ばすには十分すぎる爆発が起こる。

 

 

「アアアアアアッ! アシガアァァァァァ! ニンゲンメェ! ナマイキナァァァ!!」

 

 

 

 

 

「……両足ちぎれても死なないのはさすがですわ」

 

 あのゴリラ犬は見当たらなかったけど、近接ゴリラが来る可能性が高かったから、昨日の軍施設で拾った地雷をばら撒いてたら綺麗にかかってくれた。

 

 爆風で下半身――ついでにハンマーもどっか飛んでって失ったガチゴリラが腕の動きだけでにじり寄ってくるけど無視無視。

 

 今の爆発に気が付いた奴が、高い所からこっちを無警戒に覗き込んでいる。

 よし、落ちろ。

 

 

――ドォォォン! ドォォォン!

 

 

 パイプ銃じゃない、ちゃんとした武器を持ってる奴を優先してミサイルで叩き落す。とりあえずこれでミサイルランチャーも弾切れだ。捨てても大丈夫。

 

 そうしていたら、ようやく敵もバタバタ動き出す。

 アストリンへの攻撃を続行するやつもいれば、こっちに向かってくる奴もいる。

 

 だいぶ近い所まではい寄って来ていた先ほどのスーパーミュータントの頭に、動かなくなるまで拳銃の弾を叩き込む。

 

 ここからは直接見えないが、地雷を仕掛けてきたところで爆発が起こり、そこでマーキングしていた敵が動きを止めている。

 おそらく、コイツと同じように足が吹っ飛んだけど死んでない奴だ。

 

 拳銃を腰に戻して、コンバットライフルを抜いてマガジンを装填する。

 

「うし、こっちに来る奴を適当に相手しながらアストリンと合流するか」

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 後は消化試合だった。

 スーパーミュータントはフェラルに比べて足が遅い。

 重武装してる奴は確かに脅威だけど、そうでないなら距離さえとればいい。

 

 特に今回は、高所の連中を撃ち合いで片づけたアストリンが援護射撃してくれるから楽だった。

 ある程度引き付けて射線が通るところにおびき出せばアストリンのレーザーが狙う。

 アストリンの狙撃を恐れて隠れたら火炎瓶に火を付けて放り込んで炙り出す。

 

 これを繰り返すだけでほとんど倒せた。

 

「アストリン、彼は?」

 

 問題はこの兵士だ。

 アストリンが傷口を洗ってその上の所をキツく縛っているが……。

 

「大腿部の動脈が破れているみたい……上の方できつく縛って、なんとか止血を試みているけど……」

 

 そんな細い紐じゃ止血にも限界があるだろ。

 

「アストリン、コイツを使え。止血帯(ターニケット)だ。クリケット姐さんから緊急用に渡されていた」

「ありがとうロスト!」

 

 アストリンが慌てて再度止血に取り掛かるが……兵士――確か、スクライブ・ファリスだったか――の顔色はもう真っ青だ。

 すでに意識を失っている。

 

「……一刻の猶予もない、か」

 

 軍人って言うなら、ドック・タグに血液型が書いてあるはず……あった。この型なら一応緊急用の血液パックを持っている。

 

(……問題は、やっぱり傷口だな。動脈がやられているとなると……)

 

 血管そのものを縫うか何かで元の形にしなければならないハズだ。

 だけど動脈となると、ただ縫うだけだとダメだ。

 血管をどんなに細くても針穴だらけにしたら、そこから血液が漏れ出すのは当然だ。

 

(いや、だが俺なら……)

 

 普段はそっちのほうが人間らしいと思って行動全部に特に制限をかけていないが、VATS起動時に一緒に作動してしまう精密身体操作モード。――まぁ、勝手にそう呼んでいるが、要するに思い描いた通りに完全に身体を操作できる状態だ。

 

 コレを起動させ続ければ、あるいは血管を突き破らないように縫い合わせて修復出来る……かもしれない。

 タンパク質で構成された綺麗な糸……そうだ、持ち物の中に絹糸がある。

 あれを煮沸消毒すれば、他の適当な糸よりはまだ可能性はある。

 縫い針は……スティムパックの針を外せば使えるかもしれない。

 

(ただ、道具と手段があっても、そんな長時間機械脳をフルで稼働させたら……)

 

 多分しばらく動けなくなる。

 さっきの精密射撃時での機械脳の消耗具合から考えると、手術を終えるまで起動させっぱなしの後にデフォルト設定に戻したら、しばらくの間動けなくなる。

 多分、人間としては不自然な形で。

 

 どうする。

 多分、手術――いや、延命作業も今すぐやらないと間に合わない。

 

 すでに逃げ道がないとかコレ卑怯すぎませんかね。

 

「アストリン、代わってくれ。なんとかしてみる」

「ロスト……貴方、医療技術が?」

「代用できるモノがある。そっちが要所要所で助言をくれたら、ある程度はどうにかなるかもしれない」

「代用?」

「ああ。……まぁ、それでも賭けになるけど」

 

 どうする? と目で問うと、止血を終えたアストリンが素早く立ち上がって、俺と位置を入れ替わる。

 

「アストリン、麻酔は可能か?」

「えぇ、大丈夫。キットの中にあるわ」

「OKだ。……で、アストリン。一番大事な話がある」

「なに?」

「手術を終えたら多分、しばらくの間自分はフリーズする」

「……フリーズ? それはつまり、疲労困憊って意味のスラングかしら?」

「いいや、文字通りの意味だ。つまり――」

 

 

 

 

 

「自分は、人造人間だ」

 

 

 

 

 




なお、実際にノーマルミサイルはクソ弱なため、絶対買えるユニーク武器の★スプレー・アンド・プレイか★オーバーシアー・ガーディアンに加えてパワーアーマーがないと結構苦戦するリビア衛星アレイ

オススメはダイヤモンドシティで★ビッグボーイを買って小型核弾頭による集中砲撃をくらわす事


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007:The Synth

厳密にいうと主人公が使っているのはVATSではないです


人造人間であるロスト君の人口脳を利用したターゲットアシストシステムを、グローリーがVATSのようなものだと説明しているので本人もそのままVATSという言葉を使っている……という設定で書いています


……pip-boyというものを知っている人間はダイヤモンドシティにもグッドネイバーにもそこそこいるし、テクノロジーの専門家がいるレールロードならその機能を詳しく知っていてもおかしくないハズ……


 ナイト・アストリンは、ナショナルガード訓練場からの出来事を思い返していた。

 

(ヒントはいくらでもあったのね……)

 

 常人をはるかに超えた精密射撃。

 グレネードの爆発範囲を正確に計測した上での正確な投擲。

 放射能汚染を引き起こしかねないフェラルの爪や歯による攻撃にまったく怯みもしなかった事。

 

 遠くでの爆発音に、まるで耳元で爆発を起こされたような反応をして少しの間動けなかったこと。

 戦闘時に微妙に変化する口調や人格。

 

 それらに違和感を覚えていたナイト・アストリンは、これまでそこに踏み込まなかった事に対して複雑な思いを抱いている。

 

(ええ、そうね。考えれば確かに彼は人間らしからぬ所が多かった)

 

「…………ロスト」

 

 迷子(ロスト)なんて変わった名を名乗るものだと思っていたけど、ひょっとしたらその名前は、まさしく彼の存在を表すのに適格な名だったのかもしれない。

 

「ナイト、そろそろ野営の準備に入ろう。そろそろ日が暮れる」

「えぇ……えぇ、そうね、スクライブ」

 

 未だに足は動かないが、あの助っ人が持ってきた車イスのおかげで足に負荷をかけずにスクライブは移動できる。

 

「それにしても、クソッ。俺としたことが……アボミネーションに助けられるとは情けないにもほどがある……」

「その話は止めて、ファリス」

 

 アストリンにとって、『彼』は最高の助っ人だった。

 自分達だけではどうしようもない事態を解決してくれて、はぐれた仲間と引き合わせてくれて、さらには死の運命を覆してその仲間を救ってくれた。

 

「ナイト、まさかまだ気にしているのか?」

「…………」

「奴は人造人間だ。テクノロジーの悪用によって産み出されたアボミネーション。我々B・O・Sの敵だ」

「でも我々の命の恩人よ。彼がいなければ、私も貴方も死んでいた!」

「……恩は感じている。だから見逃した。……そうじゃなきゃ、あの瞬き一つしない気味の悪い人形になってる時に頭を撃ち抜いている所だ」

「ファリス!」

「事実だろうナイト!?」

 

 言い返そうとするアストリンに、ファリスは叫ぶ。

 

「彼にはB・O・Sという物を教えていた。自分の身が危険になる事を知りながら、貴方の身を救ってくれたのよ」

「あぁ、そうだな。アボミネーションにしては……あぁ、ご立派だ」

 

 だから見逃がしてやったんだと再び息巻くファリスに、アストリンはうんざりした顔でため息を吐く。

 

(……出来る事ならば、彼の助力が――助けが欲しかった)

 

 アストリンとしては、ロストの助けを得ながら仲間と合流し、その間に人格に問題なければB・O・Sに迎え入れたかった。

 

 だが、ロストの告白。そしてファリスの手術を終えた後の『フリーズ』を見たら、彼女も信じざるを得なかった。

 

 そして目が覚めたファリスが、人形のように固まっている彼の姿を見て騒いだことによって……起きてから別れを切り出したロストを、彼女は止められなかった。

 

(ロスト……。バンカー・ヒルに戻ると言っていたけど、もうカウンティー・クロッシングにはたどり着いているかしら)

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

「アンタが酔っぱらうほど飲むなんて珍しいじゃないか。いつものアンタは滅茶苦茶酒に強いのに」

「う゛~~~あ゛ぁ~~。ごめんね姐さん。いや、うん、なんか今日は酔いたい気分で」

 

 やっぱダメだったかぁ。

 いや、アストリンはすっごい俺を庇ってくれたんだけど、あのファリスって男がすっっっごいキレてたんだよなぁ。

 

『人造人間が俺の身体に何をした!?』とか

 

 

『部隊の軍医に調べてもらって異変が一個でも見つかれば連邦中を焼野原にしてもお前を殺してやる!!』とか

 

 

『優秀な作り物の脳だな! 媚びを売ることを学習したのか!』とか

 

 

 実際、ひょっとしたら目こぼしをもらえるかもしれないという下心がなかったかとは言い切れないので、最後の奴はあながち間違っていないが……うーむ。

 

 想定以上に長時間フリーズしていて、固まっていた姿を見られたのはやっぱ致命的だったか。

 事前に説明できたアストリンはともかく、いきなり人形みたいに硬直している俺の姿を見たスクライブ・ファリスは……うん、まぁ、間が悪かったと切り替えていくしかない。

 

 にしても、アストリンから聞いていたB・O・Sの目的からしてこれはヤバいかもしれんと思ったが、思った以上だったわ。

 ……駄目だ、ピルスナーじゃあ足りないわ。酔えん。

 

「姐さん、ウイスキー……バーボンある?」

「アッハハハハ! いいねいいねぇ! まさかロストボーイの酔った顔を見れるなんて、バンカーヒルでもアタシくらいじゃないかい!?」

 

 焚火の火に照らされて笑うクリケットは、いつものように元気そうだ。

 ……この人、メイク変えればクッソ美人だと思うんだけどなぁ。

 

「しっかしまぁ、あのロストボーイがフられたかぁ」

「フられたって……」

「おんやぁ違うのかい? 一緒にいたあの嬢ちゃん、アンタを置いて行っちまったんだろ?」

「……本来の仲間と合流して、もう一人を探すために北に行くんだ。俺は仕事が終わったし、バンカーヒルに戻らなきゃいけない」

 

 ……おい姐さん、そのニヤニヤやめろ。

 マジでそういうのはなかったんだしそもそもクッソ真面目に面倒な事になってるんだから。

 

「アンタは腕が立つ割にマッチョじゃないからね。だからモテないのさ」

「筋肉つけてムキムキマッチョマンになれって?」

「そうじゃなくて! もっと男らしく傲慢になれって言ってんのさ」

「それ男らしさか?」

「ルーカスを見なよ。アイツが口数少ないのは自分の腹黒さと傲慢さを隠すためさ」

 

 散々な言われようだな薄らハゲ。

 確かにアイツは地味に腹黒いが。

 

「コベナントを知ってるかい?」

「噂だけは。入る前に変なカウンセリングを強制される街だろう? なに、ルーカスの奴何かやらかしたの?」

 

 あの薄らハゲ、仕事の依頼とかの暗躍はともかく商売には真面目だと思うんだけどな。

 

「違う違うコレさ」

 

 そういってクリケット姐さんは小指を立てる。

 

「……マジで?」

「どうもあそこに、遊び人の女がいるみたいでさ。酒をしこたま飲ませたときにポロっとアイツが吐いたのさ」

「うぅ……っわ。マジか。マジかぁ」

 

 うぅわぁ、あの薄らハゲ。……うっわぁ。

 この身体になってそういう欲求は薄めることが出来るようにはなったけど……うわぁ。

 うらやましい。死ね。

 

「ほら? 肉体的な話じゃなくてそういう傲慢なマッチョさってのは大事なのさ。じゃなきゃなんでアイツが女抱けるのさ」

「姐さん、言うねぇ」

「あの野郎、人の商売の邪魔をするからね」

 

 そう言って姐さんもビールを呷る。

 ……そうか、防具商人と武器商人か。

 

 場合や場所によっては小さい諍いとか起きたのかもねぇ。

 

「アレだったらアンタも顔を出してくるかい?」

「そういう気分じゃないのでパスします」

「あっはっはっはっは!!」

 

 この人ホントいつも楽しそうだなぁ……。

 カウンティ・クロッシングの人たち起きるよ?

 

「アンタもこういう酒を飲めたんだねぇ」

「こういう酒?」

「騒いで楽しむ酒さ。アンタはそういうのが苦手な男だと思ってた」

「俺普段どういう男だと思われているんですかね?」

「どういう男かって? あー、ほら! ほらほらアレだよ。アレ!」

 

 アレ?

 

「ダイヤモンドシティに住んでる人造人間みたいな感じさ!」

 

 

 

 

 

「……待って姐さん。なんて?」

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

「どうしたのニック? 急にバンカーヒルに関しての最近の資料なんて引っ張り出して」

「ああ、エリー。すまんな、大量の資料の整理なんてやらせて」

「構わないわニック、それでどうして?」

 

 電気というものが貴重なこの時代、室内を照らす照明も最低限のものだ。

 薄暗い部屋の中、椅子に座った一人の男のもとに、いくつものファイルを抱えた女性が近寄る。

 

「バンカーヒルでキャラバンワーカーとして働いている知り合いから、さきほど依頼の手紙が届いてな」

「あら、誰か行方不明でも出たのかしら?」

 

 男の肌は、人らしい肌の色からは程遠い汚れた灰色だった。

 人なら骨や肉は皮膚で覆われているハズで、そうでなければ血が出たり肉が腐ったりするものだ。

 

 だが、その男の顔は皮膚が所々破れていて、そこから青や赤のケーブル、さらには肉や骨の代わりの機械仕掛けが見えている。

 片手はまんま義手と言っても通じそうなギミックハンドが剥き出しだ。

 

「いやそういう事ではない。どうやら、少し前からあそこの水源にトラブルが起こっているようだ。急激に水質が悪くなったとな」

「水が? それは……他人事じゃないわね」

 

 綺麗な水は極めて貴重なものだ。

 汚染された水しか取れない所でも浄化自体は可能だが、目的の量の綺麗な水を作るためにおよそ三倍の汚れた水が必要になる。

 

 これはあくまで平均値での話で、水がさらに汚染されればさらに浄化に手間がかかることになってしまう。

 自分が住んでいるこのダイヤモンドシティでそんなことが起これば。

 そのもしもを想像して、女性は眉を顰める。

 

「あぁ、最近バンカーヒルには凄腕のガンマンが現れたという話題で盛り上がっていた所でコレだ」

「そのガンマンは動けないのかしら?」

「特に記述はないが、おそらく違う仕事を任せられたんだろう。暴力の可能性が高い所にこそ、バンカーヒルもそのガンマンを送り込みたいはず」

 

 果たして必要性があるのか、どう見ても機械の塊である男は煙草に火を付け、一服する。

 

「あぁ、でもなるほど。あの人がバンカーヒルに向かったのもそれが理由かもしれないわね」

「あの人? 誰だ?」

「彼女です。ほら、パブリック・オカレンシズの――」

 

 

 

 

 

「パイパー・ライトです」

 

 

 

 

 

 

 

 



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008:新聞記者

感想欄が荒れまくることも覚悟していた前話ですが、ファリスへの擁護はあれどBOSってこんなんだよね! っていう意見が多くてすごく安心したw






「水の値段が上がってる? 気付かなかったな」

「アタシもジョーから聞くまで気付かなかったね。アタシらが出かけている間に水源の汚染がひどくなったってさ」

 

 カウンティー・クロッシングで一晩過ごして、俺はクリケットの姐さんと一緒にバンカーヒルへと戻る道を歩いていた。

 

(姐さん……まさかガードも連れずにこっち来てたとは思ってなかったよ)

 

 姐さん曰く、俺が通った後の道ならしばらくは絶対に安全だといって少しでも身軽でいたかったんだとか。

 

 姐さん……、今度時間が作れた時は俺も奢らせてもらうね?

 昨夜は貴重な度数高い酒をめちゃくちゃ奢ってくれたし。

 

「ちょうどアンタが出た後にウェザーズのキャラバンが出発しようとしてたんだけど、補給品の関係で滅茶苦茶揉めててね。それが気になってジョーに店で話を聞いたんだ」

「水の汚染はさすがに不味いな。確か、西側の水場から古い下水道を利用して引き込んでるんだっけか」

「ああ、そんな話を聞いたことがあるねぇ。……行くのかい?」

「しょうがないでしょ」

 

 揉めてるって事は調査隊を編成するほどの余裕がないって事だ。

 

 ケスラーの姉御め。レイダーに金払うよりも、気に食わないけど一応傭兵のガンナーとかと取引して確実な戦力を増強させた方がいいんじゃないか?

 

「水が汚染されていれば汚染されているほど浄化に必要になる水と時間、ついでに燃料か電気が必要になる。姐さん思い出してくれ。俺は銃を持つより厨房で肉切って鍋かき回してる方が多い人間だよ? そりゃあ気にするさ」

「安心しなロストボーイ! アンタが独立するまで厨房に立つ暇がないくらいアタシが引っ張り回してやるさ! 一緒に吹っ飛ばしたり吹っ飛ばされたりしようよ!」

 

 アンタはどんだけ俺を死地に追いやりたいんですか。

 ……おい、まさかと思うけどこの間の行商、わざと危険なルート選んだんじゃないだろうな?

 

 あと吹っ飛ばすのはともかく吹っ飛ばされるのはお断りです。

 

「まぁ、真面目に水にトラブル抱えたままだとヤバイし不味いんで何とかしますよ」

「……ロスト」

 

 はいはい?

 

「ケスラーに交渉吹っ掛けて、最低でも200キャップくらいは引き出しておきな」

「姉御に?」

 

 ケスラー。バンカーヒルのリーダー。女性ながら門番もやっている女傑。

 

「アンタが『バンカーヒル』のガンマンって噂を流しているのはあの女狐さ。アンタがバンカーヒルの人間だという印象を強めて既成事実にしようとしてるの」

「…………つまり、姉御は俺を手放すつもりはない?」

「安心しな! アタシがアンタはいつか独立して、新しいキャラバンなり居住地を起こす可能性が高いって噂を流しておいたの! ……あぁ、もちろんアタシの足が付かないようにね!? キャラバンワーカーもケスラーを良く思っていないのは多いから、上手く流れに乗ってくれたよ!」

 

 姐さん! クリケット姐さん!!

 アンタ本当の本当に最高だな!!

 

「まぁ、だからケスラーにはなるだけ対等の存在って感じで接してやりな。たとえは悪いけどレイダーやガンナーと一緒さ。ケスラーはアンタの力を利用しようとしている。だからアンタも奴を利用すればいい」

 

 姐さん、なんというか……。

 俺にとってはグローリーさんと並ぶ大恩人だなぁ。

 変人とか思っててマジでごめん。

 俺、貴女には足を向けて寝られないし貴女には正直嫌われたくないです。

 

「ねぇ、姐さん」

「なんだい?」

「……その、やってみるさ。ケスラーの姉御に仕事として請け負わないか、上手く仕掛ける」

 

 人造人間であることを告白しようかとも思ったけど、二度も同じ轍を踏むこともあるまい。

 ただ、あの二人。アストリンはともかくファリスが漏らす可能性はゼロじゃないからなぁ。

 

 ……いや、アストリンも上への報告は避けられないか?

 

 となると、どこかで先にカミングアウトする必要が……なに姐さん。人の顔覗き込んだりして。

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

――なんだって!? 水が汚染されているのに、この街は調査も碌にできていないのかい!?

 

 

 えっちらおっちら、道中でどこからか飛んできていた蟲を撃ち落としたり、クリケット姐さんとキャッキャしながらはぐれレイダーの頭をポップコーンみたいに弾きながらバンカーヒルまでたどり着くと、聞き覚えのない女性の声が響く。

 

「姐さん、聞き覚えある?」

「いいや、ないねぇ。まぁいいさ。中から女の罵声が響いて銃声が響いていないってのはアタシの嫌いな平和の証って奴だよ。いっそバンカーヒルの塔が突然爆発したりしないかね」

「それバンカーヒルの人間ほとんど死にますからね?」

 

 相変わらずこの人の頭の中は銃をぶっ放せるシチュエーションのことしかない。

 かと思えばたまに名札を付けた木の苗を植えたりするし、かと思えばそれを吹っ飛ばしたりしている。

 

 まぁ、姐さんだしな。

 

「外の人間だとすると、相手をしてるのはケスラーの姉御かな」

「ちょうどいいね。ほら、いい感じに恩を売ってきな」

「へいへい、出来るだけ高値で買ってもらうわ」

 

 不用心に開けっ放しになっているゲートをくぐり、パックバラモンを戻して来るという姐さんと別れて奥に行くと、そこにはケスラー相手にメモ帳片手に詰め寄っている、赤いコートを羽織った若い女がいた。

 頭には少しボロになってるハンチング帽を被っている。

 

(安全ピンで何か書いた布を帽子に付けているな……press……新聞記者? ……あっ)

 

「なぁ、失礼。そちらの――」

「あ、ああロスト! 戻ったのね!?」

 

 姉御、そんな助かったみたいな顔するなよ……。

 

「ロスト? あぁ、ひょっとして最近噂になってる流れの凄腕ガンマンかい?」

 

 ほら、この女も変に興味を持っちゃった。

 だが……うん、やっぱ姐さんのおかげか。

 バンカーヒルの人間じゃなくて流れの人間となっている。

 ……姉御に対するジャブにはちょうどいいか。

 

「自分はガンマンという意識はないんだが……あぁ、流れの人間だ。知人の紹介でしばらくここに身を寄せている」

 

 姉御の顔が少し歪んだな。

 まぁいい、この人が新聞記者って言うなら、上手くいけば流れ者のうわさが広まってくれるだろう。

 

「あぁ、話がそれたな。――なぁ、ひょっとしてナットのお姉さんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「驚いたな。わざわざ売れ残ってた新聞をたくさん買ってくれた上に印刷機の様子を見てくれた奇特な客がいることはナットから聞いてたけど、それが噂のガンマンだったなんて」

「いやいや、あれはナットの営業が上手かったのさ」

 

 ダイヤモンドシティに入ってすぐ左手にある小さな新聞社。

 その入り口で、小さな箱にピョンと飛び乗って、大きな声で新聞を売っていた女の子は、自分がダイヤモンドシティにいる間に色々と教えてくれた、俺にとって貴重な協力者だった。

 

 ……断じて人造人間絶対殺すウーマンのマーサの勢いに当てられて、素直で話しやすい子供に逃げた訳ではない。

 

 

――ハロー、ミスタ。見たことない顔ね、新聞はどう?

 

 

 

――ミスタ、貴方まるで狼の群れの中に紛れた羊みたいに何も知らないのね。新聞を読まないからだよ。

  ほら、どこの部分が分からないの? 私がくわしく教えてあげる。

 

 

 

――ミスタ、他にやることないの? もしパイパーが目当てなら、しばらくは帰ってこないよ。

 

 

 

――どうしよう、パイパーがいないのに印刷機が変な音立ててる……ミスタ、手先が器用なら直せる?

 

 

 

 

「……うん、ナットには世話になったな。世間知らずな所があった俺に、買った新聞の分からなかった所を色々教えてくれた」

「ナット、そんなことしてたのか。あぁ、印刷機の件は助かった。私はまだ大丈夫って思ってたんだけど、確かにすごく調子が良くなった」

「インク滓を落として、一部の部品を取り換えただけだ。まぁ、ナットへのお礼にな」

 

 いや、ホントにいい子だった。

 ダイヤモンドシティには補給や情報交換、現地トレーダーとの売買で三日ほどいたけど、その時はまだクリケット姐さんやキャラバンの面子とは関係の構築中だった。

 仕事がある時は皆と一緒に働いたり酒飲んでたりしたけど、暇な時はナットの所に顔を出していたな。

 

 怪しまれずに素直に色々教えてくれる人物というのが、都合がよかったって言うのもあったけど。

 

「しかし、噂のガンマンが護衛とは……私も偉くなったもんだ」

「おかげでこっちも250キャップの仕事と弾薬の補給を得られた。win-winだな」

 

 そして今、俺はナットのお姉さん――パイパー・ライトと共に水源の調査へと向かっている。

 ケスラーから彼女の護衛を受けたのだ。

 まぁ、厳密にいえば水質汚染の原因を排除しろという事だが、のらりくらりと交わして報酬を釣り上げた。

 

 やり取りを聞いていたのか、ゲート側にいた姐さんがウィンクしてくれて、サヴォルディの親父が酒の入った瓶をこっそり渡してくれた。

 姐さんやジョー・サヴォルディからしても満足いく結果だったのだろう。

 サヴォルディの親父は爺さんがミニッツメンという民兵組織に加わっていたらしく、俺がミュータントやレイダーたちを蹴散らしているという話を聞いてすごく喜んでくれていたようだ。

 

 ひょっとしたら、クリケットの姐さんに手を貸して噂を流したのは彼かもしれない。

 

「アンタ、いい性格してるね。気に入ったよ」

「そりゃどうも。そちらもいい度胸をしているな」

 

 水場のトラブルとなると、大体は虫かマイアラーク――蟹とか海老の怪物が関わっているのが相場だ。

 つまりはやっかいな荒事なのだが、パイパーは慣れた様子で10mm拳銃を構えて慎重に歩いている。

 

「記者は命を狙われて、初めて成功と言えるのさ」

「つまりアンタは?」

「大成功さ」

 

 ニヤリと笑うパイパーは、なるほど美人だ。

 あの時のナットの言葉からして、多分何度か言い寄られているんだろうな。

 で、適当にあしらっていると。

 

「しっかし……こりゃあなんだい?」

 

 大本の水源まではまだまだある。だがその道中の所々にレイダーやらガンナーが転がっている。

 数は多くないため、おそらく偵察としてウロウロしていた連中なのだろうが……。

 

「外傷らしい外傷が見当たらないなんて……」

「あぁ、他のレイダーやらなら撃たれた跡があるはずだし、ミュータント共なら噛まれるなり切られるなり……あるいは食われた跡があるものだけど」

 

 近寄って調べようとするパイパーを押さえてこちらで調べる。

 たまにだけど、死体のそばに地雷を仕掛けて、死体から使えそうなモノを剥ぎ取ろうとした奴を吹っ飛ばすという性質の悪い奴がある。

 

「……近寄らなくて正解だったな、パイパー」

「なんだい? ソイツらはなんで死んでるんだい?」

「強いRAD反応がある。こいつら、放射能を浴びすぎて死んだんだ」

 

 虫の中にRAD攻撃してくるタイプもいたけど、それは同時に虫の毒を食らうから肌が焼けただれていたり、あるいは防具の一部が溶けていたりするものだ。

 

(俺がまだ見たことない、放射能を吐くタイプのミュータントがいるのか?)

 

「パイパー、これをやった奴に心当たりはあるか?」

「いや……そんなに強い放射能を吐く奴なんて記憶にないね」

 

 となると……うわぁ、面倒なタイプの奴か?

 とりあえず水場まで行って何もなければ今日はそこでキャンプ。

 で、明日起きたら旧下水道の調査って所か。

 

(これが終わったら、ケスラーの姉御に次のキャラバンについてちょいと相談しよう)

 

 ちょいとダイヤモンドシティまで行って、姐さんの言っていたニックって探偵と話してきたい。

 前にナットから、会ったらびっくりする人間だとは聞いていたが……そういう事ならあの時に会っておくべきだったな。

 探偵ってことしか知らなかった。

 

(前よりは不審者感はなくなったはずだし、今度はゆっくりダイヤモンドシティを見て回るのもありかもしれないな)

 

 一度、じっくりその探偵には話を聞いてみたい。

 どうやって人からその存在を認められるようになったのか。

 

 

 

 



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009:祝福を授ける者

「不審なモノって言うか……動いている物もなにもないね」

「ですなぁ。……どういうこったこれ?」

 

 水の汚染トラブルというのは、たまにあることではあるらしい。

 以前バンカーヒルや他の居住地で起こった水関係のトラブルを一通り同僚のキャラバンワーカーや暇そうだったサヴォルディの息子とかに聞いて回ってみた。

 

 一番多かったのは、放射線の影響を受けすぎて放射能汚染を巻き散らすようになってしまったマイアラークが水源に移り住んできてしまったパターンだ。

 マイアラークはこれまで数体見てきた。

 その大体は色の濃さに違いはあれど緑色の殻に覆われていたが、中には、その緑色の殻や体が光っている個体がいるらしい。

 コイツが水源に入ると、当然そこの水は汚染される。

 ……ただ、浄水装置の負担が激増するレベルにまで汚染されるかというと首をかしげるレベルだそうだ。

 ならばそういった特殊個体が大量に住み着いた可能性があると見て警戒していたのだが、水場には特に何もなし。

 

 ある意味で奴らの特徴である大量の白い……まるで鶏卵みたいな卵も見当たらない。

 

「となると下水道内に住み着いたか、あるいは中で崩落か何かが起こったか……」

「崩落? どういうことだいガンマン?」

「ロストだ。ようするに、下水道の中に昔の老朽化した発電設備とかその補給品が落っこちまって水を汚染している可能性があるって事さ」

 

 ちょくちょくある事らしい。

 例えば古いトンネルとか街中の下水道の中に、その上層にあった発電機やイエローケーキ(ウラン粉末)をギッシリ詰め込んだバレルが落ちてとんでもなく汚染されていて、水に触っただけでヒデェ事になるとか。

 

 おまけにそういう所に限ってちょいと時間が経ってしまった結果、フェラルやらマイアラークやらの群れが住み着いてしまってる事が多々あるとかなんとか。

 

「もうちょっとしたら日が暮れだす。近くの建物の安全を確保して、簡単な拠点にしよう。いいか、パイパー?」

「とりあえず今日は一夜明かして、改めて調査しようって事? あぁ、構わないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 近隣のしっかりした建物を探して中を探ると、見事に空っぽのビルを見つけた。

 パイパーに手伝ってもらって小窓などを塞ぎフェラルや虫が忍び込んでくる可能性を潰した上で、適当な鉄板や廃材で焚火台を作って火を起こす。

 

「器用だねアンタ。ライター無しで火を起こすなんて」

「店で売っているライターも基本的にはジャンク品だ。いつ使えなくなってもおかしくないから出来るだけ温存していたいのさ」

 

 適当な形をしていた木材をいくつか見つけていたので、それと糸くずを使って火を起こす。

 もう慣れたものだ。

 キャラバンの連中、ライターあんま使わないというか、アイツらライターを煙草専用の発火器具と思ってるんじゃないかというくらいそれにしか使わない。

 

「しかしパイパー、本当に俺が先に寝てていいのか?」

 

 俺には驚異の人造人間ボディがあるから多少どころかかなり無茶が利くんだけど。

 

「聞いたらアンタ、大量のフェラルを片づけてすぐに大量のスーパーミュータントと戦争をして帰ってきたところにこれだろ? さすがにソイツは無茶じゃないかい?」

「……この前の行商の方がきつかったなぁ」

 

 デスクローの爪を文字通りミリ単位で躱しながら銃弾を叩き込んだら真後ろから突然ラッドスコーピオンが飛び出して毒針ぶっ刺そうとしてきて、それをなんとか避けたと思ったら二匹目のデスクローによる奇襲である。

 

 冗談抜きであの旅で俺が通った道はかなり危険度が下がったのではないだろうか。

 かなりの数のレイダーをちぎっては投げ、ミュータントをちぎっては投げ、光りし者を爆砕してきた。

 

「いいねぇ、アンタの事もぜひ記事にしたい。ねぇ、今度取材を受ける気はあるかい?」

「ん? あぁ、別に構わないよ。ちょうどダイヤモンドシティに行きたいと思ってたし」

「へぇ、そうかい。なら力になれるさ。案内は任せて」

 

 頼みますわ。久々にナットにも会いたいし。

 

「ま、それも今回の取材――というか調査が無事に終わればだね。ほら、とりあえずお湯でも飲んだら?」

「あぁ、ありがとうパイパー。もらうよ」

 

 焚火台から取り出した炭を他の鉄板に移して、それで温めていた金属製のケトルの注ぎ口から湯気が上がっている。

 パイパーは、それをゆっくり木製のカップに注いで差し出してくれた。

 

(優しい所は妹のナットに似てるなぁ、やっぱ。あの子よりもかなり気が強いけど)

 

 とりあえず、お言葉に甘えて白湯で体を温めたら少し眠ろう。

 実際、脳も含めて身体機能を限界まで酷使したのは事実だ……し……?

 

(……おい)

 

 とりあえず二,三口飲んで、人造人間ボディがそれがなんなのか素早く解析して結果をブレインに叩き付けた。

 

(なんで睡眠薬が混ぜられてるんですかねぇ、こんにゃろう……)

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

「……よし、寝たね」

 

 ロスト。ダイヤモンドシティでも少しずつ噂が広まっている謎のガンマン。

 

(だけど、あのケスラーという女は言葉の端々に、彼が自分の味方であるかのように振舞っていた)

 

 無論、流れ者の彼を自分の所に引き込むための布石という可能性はあるだろう。むしろ高いとパイパーは考えていた。

 でも、本当に彼がバンカーヒルの人間で、彼が一人で自分に付けられたのは護衛と同時に監視している可能性も彼女は無視できなかった。

 

(バンカーヒルそのものに被害が出ているからその可能性は低いと思うけど、何か隠したいことがあって彼を付けている可能性だってなくはない)

 

 パイパー・ライトは真実を暴き、それを広める事を自分の使命だと信じている。

 たとえわずかだろうとも、その邪魔になりうる要素は――すなわち自分へのお目付け役の可能性があるあの男には一度黙ってもらう必要があった。

 

(そもそも、一人で調べる予定だったしね)

 

 使い慣れた10mm拳銃を構えながら、下水道の通路をゆっくり歩いていく。

 

(大丈夫、多分マイアラークやフェラル・グールはいない)

 

 とにかく固い事で面倒なマイアラークだが、その住処にはいくつかの特徴がある。

 まずは卵。奴らは大体土のある所に四~八個ほどを産み付ける。

 これがあちこちになるのがマイアラークの住処の特徴だ。

 

 これがこういう地下によくいるフェラルなら、道の途中に奴らの死体が。――耐えきれなかったグールの死体が少しは転がっているハズだ。

 

(……悪い奴じゃない。それは分かってるんだけどね)

 

 ロストは万が一の時にと、回復用のスティムパックとは別に決して安くはないRADーXとMED-Xを二本ずつ渡していた。

 それぞれ対放射能と対毒の薬品である。

 事前に打っておけば、そういうものを武器とする敵との戦闘を多少は有利に進めてくれる。

 

 それらをパイパーは一本ずつ打っておく。

 不意打ちを受けたとしても、逃げるくらいの体力は残るだろう。スティムパックもある。

 

(起きたらキチンと謝ったうえで、なにかお礼しないと割に合わないね)

 

 パイパーから見て、ロストという男は極めて善性の男だった。

 比較的大人しいダイヤモンドシティでも中々お目にかかれない善人だ。

 それも腕の立つ善人。

 

 仲良くしておけば(・・・・・・・・)役に立つ場面は多い(・・・・・・・・・)

 

 咄嗟にそう考えてしまう自分に嫌気がさしながら、パイパーはさらに足を進める。

 

(昼の間にロストが水の汚染度を測ってたけど、それほど汚染はされてなかった。となると、ロストが言うように中になにかあるのかも)

 

 昼間にロストが言っていたように、下水道の内部で何か起こってるというのが正しいのだろうと、ピストルを握る手に力が入る。

 ミュータントの気配を感じたら撤退。

 もし、ロストが言うように崩落による事故の痕跡を見つけても同じく。

 

 そう決めてパイパーは身を低くして、ジリジリと下水道の通路を歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 時間にしておよそ三十分ほど。

 足音を立てないように慎重に慎重にパイパーは歩き続けている。

 

 だが、一定だったその足は、徐々にリズムが狂いだしていた。

 

(肌がピリピリする。汚染源が近い)

 

 いつもはパイパーも持ち歩いているガイガーカウンターは、今回はロストの枕元に置いてきた。

 放射線に反応すれば音がなる装置だ。

 いわゆる犯人がいるとして、それが放射能をまき散らす生物ならば警報装置代わりになるだろう。

 

 それにこんな所で下手に音を立てれば、いるかもしれない敵対存在の気を引いてしまう。

 

 ジリジリと、ジリジリと。

 少しずつ歩く女性記者。

 

 下水道の奥へと集中していたその意識は――

 

 

 突然走った後頭部への強い衝撃によって掻き消えた。

 

 

 

 

 

 

 



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010:祈りを捧げる者達

実は一回しかクリアしてないんですよねFallout4。
BOSが来たあたりからはアチコチ歩き回って建築してるだけで滅茶苦茶楽しい。


 

 

 

 

「う……おぇっ」

 

 パイパーが目を覚ますと、まず手足を縛られているのに気づいた。

 口は自由なため声を上げようとするが、強烈な吐き気に襲われえづく。

 

(クッソ、肌がピリつく! 体が燃えるようだ! なんだ……なんだこれ……放射能?)

 

 パイパーが一言一言言葉を思いつくたびに、彼女の思考が鈍っていく。

 側に積まれた大量の黄色いドラム缶の山から発せられる凄まじい量の放射能が、彼女の身体能力はおろか思考能力まで奪っていく。

 

「やはり儀式の邪魔をしに来るものがいたか」

「アトムの輝きを理解しない者たちめ……」

「導きが足りぬのだ、もっと増やさなければ……」

 

 仮にパイパーが縛られていなくても立てないだろう濃厚な放射能の中、多数の男女が平然としていた。

 そのほとんどの人間は髪が所々まばらに抜け落ちており、服も妙にボロボロだ。

 

「ち……チルドレン……オブ……アトム」

 

 思い当たった答えを、パイパーはかすれそうな喉を震わせ口にする。

 

 チルドレン・オブ・アトム。

 いつのころからか連邦に居ついた、文字通り放射能を信仰する宗教団体。

 

 穏やかな者は、自ら放射能汚染の濃い地域に籠り自らの信仰心の元静かに生きている。

 だが、過激な者は――

 

 こうして、異端の者を『アトムの輝き』の下に導こうとする。

 

「我らもまたアトムへの信仰が足りなかったのだ。真にアトムの輝きの祝福を受けていれば、このような邪魔は入らなかった」

 

 もうほとんど髪が抜け落ちて、目も不自然なほどに充血している女が、もうほとんど身体が動かないパイパーを見下ろす。

 

「この異端者をアトムに捧げましょう。そうして今一度アトムの輝きへ感謝の祈りを捧げるのです」

「おぉ……。それはいい、ジーロット。是非そうしよう」

 

 パイパーが苦しそうにうめき声を上げるのも気にせず、十数人いる中の一人の男が彼女の髪を掴み上げる。

 そして下水道に。

 大量の放射性廃棄物によって、もはやうっすらと輝いてすらいる汚染された水の中に叩き落そうとし――

 

 

「ぐあああああああっ!!」

 

 次の瞬間、髪を掴んでいたその手に穴が空き、パイパーは湿った床に落とされた。

 

 

 

 

 

――あ、やっべ。……まぁ、人の酒に一服盛った罰としてそれくらいは我慢してくれ。

 

 

 

 

 

 

「また異端者だと!? 誰だ!」

 

 ジーロットと呼ばれたグループの指導者が一本道の入り口にライトを当てる。

 

 そこにいたのは、人の形をした物だ。

 人と同じように考え、行動し、動き回る瓜二つの造形物が、サイレンサーのついた拳銃を構えている。

 

「やぁ、こんばんわ。申し訳ないが『迷子』でね。案内人のその子、返してくれないかな」

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 この野郎、人に一服盛ったあげくになにやってんだ。

 よりにもよって酒に滅茶苦茶な量の薬入れやがって、分解にクッソ時間かかったぞボケがコルァ。

 

 飲んだ振りじゃあ怪しまれると思って人造人間ボディでどうにかしようと思ったら想像以上だったわ。

 

 常人なら死んでいたぞ!

 ……いや、ウェイストランド人だとアレが常識の範疇なのか?

 

「ロ……スト……」

 

 コンクリートに打ち付けられたパイパーが、小さくつぶやく。

 さっきからヤベェ量の放射能を検知してるし、生身のパイパーにはキツいだろう。

 

 さっさと連れ出してRADアウェイ打ってやらねぇと死ぬ……まではいかないだろうけど体に変化が起こりうるしグール化……最悪フェラル化だ。

 

……逆にコイツらはなんでピンピンしてるんだよ?

 

「異端者め!」

「貴様もアトムの下に送ってやる!」

 

 短気ってレベルじゃねぇぞコイツら。本当に宗教家なのか?

 すげぇな狂信者って。

 

 というか、いきなり銃を抜いたけどなんだアレ?

 実弾が出るような形じゃねぇし、レーザーライフルとも違う。

 ……まさか、アストリンが言ってた青いレーザーの奴――

 

 

――バシュッ!

 

 

「はぁぁぁっ!!?」

 

 射線からとっさに身体を逸らしたけど、コイツらがトリガーを引いた瞬間とんでもねぇ勢いで放射能量が跳ね上がった! というか飛んできた! バカなのコイツら!?

 

「避けるな! 裁きを浴びろ異端者め! 貴様のような愚者にこそ、アトムの輝きは必要なのだ!」

 

 そういうお前らに必要なのは寛容さと教養だよボケ共ォッ!!

 

(リコン・センサー並びにVATS同時起動。敵14体、並びに護衛対象・パイパー=ライトを確認、リコン登録……完了。行動予測からally01(パイパー)へ敵対行動を取る可能性の高い物からリストアップ。数3)

 

 手近な彼女から片づけようとあのオモチャみたいな銃を抜き始めた連中。特に俺から見て後ろの方にいる奴を優先してターゲッティング。

 頭――いや、水源地を下手に汚すのも不味いか。

 放射能だらけで今更かもしれんが、あんまりコイツらの血を飲み水になりうる水に入れたくねぇ。

 

(enemy08,11,13の所持兵装にターゲット。交戦開始)

 

 使い慣れた拳銃はやはり良い。

 しかもクリケット姐さんが俺の手に合わせてグリップからトリガーまで調整カスタムをしてくれた装備だ。

 

 十分馴染んだトリガーを三回引く。

 小気味よく、ちょうどいい反動が手のひらを通して感じると同時に後ろ三人の武器を破壊する。

 

(先ほどの射撃データをメモリーから計測。射出放射線レベル……問題ない)

 

 この身体なら敵の放射線銃は大して脅威じゃない。

 

(このまま格闘戦に移行する)

 

 銃を手にしている敵は銃にこだわることが多い。

 あちこちに逃げ回れないこの下水道なら、インレンジに踏み込めば身体能力で勝るこっちが有利だ。

 

「き、きさ――」

 

(enemy04、インサイト)

 

 この距離でも放射線銃を握ったまま放さない女の腕を掴んで、軽く足をかけてバランスが崩れた所を引っ張って地面に叩きつける。

 

(装填音確認。距離10。2時の方向。リコンデータからenemy07と推測)

 

 頭を打ち付けて気を失ったenemy04()を引き上げて盾にすると、それでも怯むことなく容赦なく放射線銃をバンバン撃ってくる。

 お前ら宗教家だろうが仲間は大事にしろよ!!

 

 女を盾にしたまま一気に走る。

 普通は無理だが、この身体なら余裕で出来る。

 念のため、盾にしている後ろで女にRAD-XとRADアウェイを打っておく。

 命が大事……というよりは、唐突なフェラル化を防ぐためだ。

 これだけの放射線量だと死ぬ可能性が高いが、唐突なフェラル化だってありうる。

 

 ……いや、やっぱ命も大事だな。死なれるともっと重くなる。

 

 

(目標接近。水源から離れているenemyを選択。数5。選択したエネミーにアーマー装備は確認できず。選択個体胸部、または頭部にターゲット)

 

 わずかな壁や崩壊した障害物を盾に放射線銃を撃ちまくっている。即死さえさせれば水を汚さないだろう連中の胸部か頭に向けて素早く5回引き金を引く。

 

「なんだ……なんなんだお前は!?」

 

 無駄弾なし。

 サイレンサーで発射音がしないのもあって相手はかなり不気味に思ってくれているようだ。 

 バカスカ撃ってる連中の半分くらいの頭か心臓に突然穴が開いて倒れればそれもそうか。

 

(敵残数8)

 

 さすがにもうきついだろう女狂信者を敵の方に押し出して、敵をさらに散らす。

 向こうも慌てて距離を取ろうとしている。

 

 よし、少なくとも敵の意識はパイパーから外れたな。――おっと。

 

enemy08,11,13(最初に武器を取り落させた奴ら)接近)

 

 放射線で髪が抜け落ちるくらいボロボロになってるハズなのに、さっきの女と言い存外力がある。

 武器を持ってない素手の攻撃なんて別に食らっても問題ないが、殴られるのは普通にムカつく。

 

「アトムの輝きの下にィィィィィッ!!!」

 

 enemy11が殴りかかってくる。

 その拳の先、手首に手を添えて勢いを流し、水路の中に叩き込む。

 コイツは後回し、さらに殴りかかってきている二人を先に……オイオイオイオイ! 弾! 放射線! 後ろの連中が撃ってる弾全部お前らに当たってんぞ!!?

 

(VATS再起動、残存エネミーをすべてターゲッティング)

 

 なんだろう。

 修羅場の数はともかく質ならかなりのものだと思うんだけど、こんな不毛な連中初めてだわ。

 

 レイダーとやり合ってる方がまだマシなんだけど、厄介さではこっちの方が上というのがまたしょうもない。

 自分はともかく、他の人間にはコイツらの兵装は面倒くさい事この上ない。

 

 そして思考が理解できない狂信者とかどうしたらいいのさ。

 

「死ねぇ! 異端者ぁぁっ!」

 

 だから死にそうなのお前らの方だろ!

 殴り掛かってくる二人のうち一人をとっ捕まえて先ほどのように盾にする。

 同時にもう一人に足かけて転ばせて、顔を思いっきり踏みつけて沈黙させる。

 

(ちょうどいい所に移動してくれたか。なら問題ない)

 

 そのままVATSのターゲットを頭部に固定。

 残弾にも問題なし。

 生かしておく理由はない。

 

「死ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまない、ロスト……助かったよ」

 

 手足に力が入らないパイパーを抱きかかえたまま下水道の中を歩いている。

 とりあえず死体は水から離れたところで燃やした。

 しっかり処理しようにも長時間その場にいるにはイエローケーキの山をどうにかする必要があるし、そのイエローケーキにせよ死体にせよ、運び出して処理をするには人手が欲しい。

 

 となると、バンカーヒルに報告する必要がある。

 

「ったく、なんで俺に薬盛ろうとしたのさ。どうにかしたけどさ」

「悪い。アンタがバンカーヒルのお目付け役だと思ったのさ。なにか都合の悪い物があったらそれを隠そうとするか、あるいは口封じをしようとするんじゃないかってね」

 

 とりあえず薬を一通り打ったら、喋れるくらいには回復したようだ。

 ……一応、バンカーヒルに戻ったら医者のケイに診てもらうか。

 キャラバン以外の人間に設備を使わせるのはいい目をされないが……。

 まぁ、彼女なら診てくれるだろう。メグの遊び相手をやってるからか印象はいいようだし。

 

「にしてもロスト、アンタ本当にすごいね。バンカーヒルが手元に置いておきたがる理由がよく分かるよ」

「まぁな。それに、手持ちの装備は全部連邦一のガンマニアによるカスタム品だ。おかげで手に馴染む」

 

 サンキュー、クリケット姐さん。

 今回の話をしたら、また姐さん喜んでくれるだろうなぁ。

 

「DCセキュリティに、アンタほどの腕前があればもっと安心して暮らせるんだけどね」

「前の行商であそこの周りはかなり片づけたから、少しは静かになったと思っていたけど……まだ?」

「ああ。人がいるって分かってるからね。レイダー、ガンナーは当然……最近だとスーパーミュータントも群がりだしてる」

「うげぇ……あのマッチョ共もかぁ」

 

 2,3体……せめて5体くらいまでなら、まぁどうってことはないけど……群れてどこかに拠点を持ってると厄介だな。

 せめて重火器の一つでもないと切り崩すのに時間がかかる。

 群れるとなると、あのゴリラ犬もいるだろうし。

 

「ナットには借りがあるし、今度の行商の時にもダイヤモンドシティには補給諸々で寄るだろうしそん時には念入りに掃除しておくか」

 

 子供というのもあったが、恩人と言っていい人間でもある。

 他のキャラバンワーカーやガードの連中は俺を胡散臭い目で見ていて、距離を近づけるのに時間がかかると思っていた所に色々この連邦の事を教えてくれた子だ。

 

 命の恩人――いやまぁ、本来の俺は死んでるんだけど――はグローリーさんで、生活面での恩人はクリケット姐さんを始めとするバンカーヒルの面々。

 

 そうしたらナットは、知識面での俺の恩人と言える。

 

「……なんか、ホントにアンタはこう……」

「なに?」

「ここの人間らしくないね。……あぁ! その、悪い意味で言ってるんじゃないよ!?」

「悪い意味で言ってるんならここで頭から落とす所ですわ」

 

 これはもう、そういう世界だから仕方ないと思うんだけど……ここの女性ったら皆強気というか勝気よね。

 

「……薬を盛ったことも含めて、悪かったよ。借りは必ず返す」

「ああ、そうしてくれ」

 

 とはいえ、借りを返すと言われてもなぁ。

 キャップをもらっても仕方ないし、もっとこう……なんかないかな。

 

「でも、体で返せってのは無しだよ?」

「まず女の子がそういう事を口にするんじゃありません。美人だから手籠めにしようって奴もいるんだろうし、気を付けないと」

「………………」

「なんだよ?」

「いや……ホントにアンタはこう……」

「こう?」

 

 

 

 

「変な奴だね?」

「落とすぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 






《チルドレン・オブ・アトム》
 敵としてはクッソ面倒だけどドロップ品の武器が微妙というクソうざい敵。
 高レベル帯になると更に固くなるから面倒すぎる。

 その最大の理由が作中では放射線銃と描写しているガンマ線銃。
 通常のダメージではなく、放射能ダメージを与えて最大HPを低下させるといううざすぎる兵器な上に、割と連射性もいいため敵側に数が揃っていると即座にぬっ殺される。

 と、強い武器に思えるがこれは対人間用。ウェイストランドの生き物には効果なし! フェラルグールにいたっては回復する!
 きっと誰もが絶望しただろうグールスレイヤー・ガンマ線銃!
 このネタ武器め!!

 防護服やパワーアーマーで放射能ダメージを軽減。ひゃっはーそんな豆鉄砲効かないぜー! と近寄ったらヌカグレネードを投げてきたり、核地雷がセットされてたりする。
 クソどもめ。

 DLC『Far Harbor』では彼らの装備としてラジウムライフルという武器も追加された。
 これも放射能ダメージ武器だが同時に実弾ダメージも通るという……

 敵に回すと本当に面倒な連中。



 なお、『Far Harbor』にてある程度仲良くなると爆発ユニーク版のラジウムライフルをもらえるらしい。(なお、私は未だFar Harborプレイ中でそこにはたどり着いていない模様)

 拠点建築と住人の選別と水商売だけで無限に時間が溶けるゲーム。それがFallout4である。

 ……76はDLC含めて買ったけど、どうしようかなぁ。
 連邦と島の開拓だけでバニラでも無限に遊べる。





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011:DCへの出発前日

色々話を聞いてみたところ、ダイヤモンドシティに行く前に他のマップほぼ埋めてる人とか結構いてすごいゲームだなぁと改めて思う


 歩けるくらいまで回復したパイパーと共にバンカーヒルへと戻ったのが三日前だ。

 その間、医者のケイに診てもらいながらパイパーは記事の草案を書いている。

 

「それでルーカス、カウンティ・クロッシングの方はどうなってる?」

 

 で、俺はまたこの腹黒薄らハゲと一緒にサヴォルディの小さなバーで飲んでるわけだ。

 なんで天下のバンカーヒル唯一のバーが、こんな立ち飲み屋みたいな吹き曝しの店なのか。

 

 ……せめて風よけ付けない?

 

「あぁ、作業のための人員を向かわせた。お前の言う通り、あの訓練施設にオートタレットが数機あったそうだから、それを居住地側の防衛に使うそうだ」

 

 アストリンから教えてもらっていたのが役に立った。

 元々あの州軍の訓練施設のモノで、手動スイッチ式のモノだったらしい。

 アストリンも対フェラル用に無傷だったタレットを使おうと思っていたのだが、その前にあの群れに追い詰められてしまっていたという事だったとか。

 

「バンカーヒルは、こう……もう少し外に人をやったりしないのか? 集積所(デポ)とか、あるいは別の拠点作ったりとかさ」

 

 カウンティー・クロッシングの件も、結局防衛のための資材といくつかのキャップを出して終わりという事になるそうだ。

 あそこは重要交通路であるあの橋を見張るのにもちょうどいいし、絶対人をやるべきだと思うんだけどなぁ。

 

「そういう話もなかったわけではないが……。まぁ、見ての通りだ」

「なんでさ」

「そうだな、なるだけこのバンカーヒルから人を割きたくないというのもあるが……」

「人が一番替えの利かない資産だから?」

「というよりはな、目の届かない所に置いていたくないんだ」

「……中抜きみたいな不正とか、勝手な独立とかを恐れて?」

「それと『入れ替わり』をな」

「……人造人間(シンス)

 

 俺を作った奴と同一犯なんだろうけど、マジで何を考えて『入れ替わり』なんてやってるんだろうな。

 目的がよく分らん。

 忍ばせて一斉蜂起……とかが目的ならとっくにやってるんじゃないかなぁ、とか考えてしまうんだけど……。

 

 おかげで俺は自分の身の振り方に死ぬほど悩んでるんだけど。

 

「なんだいアンタら、男二人で酒盛りかい?」

「……なんだ、ダイヤモンドシティの跳ねっ返りか」

「ご挨拶だね、ルーカス。サヴォルディ、アタシにも一杯くれよ。あと灰皿も」

 

 おっと、パイパーか。記事に目途がついたのかな?

 

 軽く酒の入ったグラスを掲げると、「やぁ、ロスト」と手を振ってきた。

 

「お前さん病み上がりだろうが。それで酒に煙草とはロックだねぇ」

「ロスト、連邦一のガンマンのアンタにそう言われるとは、それこそ最高の箔さ。最高にロックな新聞記者、パイパー・ライト!」

 

 お前さんひょっとしてもう大分入れてらっしゃる!?

 

「おお、パイパー。ガンマンに救われた物語のヒロインじゃないか。ほれ、スタウトでいいか?」

「サンキュー、サヴォルディ。……にしても、今日は随分機嫌がいいじゃないか」

「そうか? いや、そうだろうな」

 

 そういえば確かに機嫌がいい。

 実は俺の酒、最初の一杯はサヴォルディの奢りだしな。

 

「前に話したかな……。俺の祖父――ブレント・サヴォルディはミニッツメンだった」

 

 ミニッツメンって、……あぁ、例の民兵組織か。

 

「当時のミニッツメンは勇敢だった。レイダーはもちろんアチコチで暴れているミュータント、そしてインスティチュートの人造人間にも負けなかった」

 

 話を聞きながらグラスを空にしたら、サヴォルディがなにも言わずに同じ酒を注いできた。

 おいおい、いいのか? ご馳走になっちゃうよ?

 

「私にとってそれは誇りだ。私の身体の中には、ミニッツメンの血が流れている」

 

 本当に機嫌よさそうなサヴォルディ。ジョー・サヴォルディに対して息子のトニー・サヴォルディは少しむくれている。 

 ……親子仲に問題あり、か?

 

 ダイヤモンドシティのボブロフ兄弟といい、同じ箱で酒場担当と宿担当で店やってる奴らはぶつかりあうのかねぇ。

 

「ロスト。お前の活躍は実にミニッツメンだ。多くの危機を銃を持って切り抜け、キャラバンや連邦市民を救う。あぁ……クリケットはもちろん、ケイやメグが気に入るのも分かる」

「? あの親子が?」

 

 医者――というか、家畜の様子をみていた獣医がそのまま人も見るようになった。が正しいが――のケイと娘のメグ。

 確かに、最初はよそよそしかったけど行商終えてからはケイは薬品関係の補給にも協力してくれるようになったし、生意気なのは変わってないけどメグも懐くようになった。

 

「あぁ。ケイは医者だからな。人を助ける者を信じるのは当然だ」

「……まぁ、ロストが変わり者だって言うのは確かだね。わざわざ死体を処理したりさ」

「? 普通じゃないのか?」

 

 変に死体を残してたら虫やらフェラルが寄ってくる可能性があるから危ないだろう。

 特に虫。

 あれはヤバすぎる。

 すぐに湧くし育った奴は弾が当たらない上に固いとかいう地獄のコンボ発揮するし。

 

「……そういやアンタ、ウチのナットに色々教わるくらい世間知らずだったね」

「普通は使えそうな物や売れそうな物を剥ぎ取ったらそれでおしまいだ。その場に置いていくか、罠や餌に使うか、あるいは玩具にされるかそのまま食われるか……」

 

 ルーカスが浮かんだ光景を振り払うように酒を呷り。サヴォルディは小さく頷いている。

 

「ロスト。バンカーヒルに流れ着いたガンマン。私はお前のそういう所に期待しているのだよ」

 

 そう言って、俺達の席にイグアナの串焼きを乗せた小皿を出したジョー・サヴォルディは、歳に似合わないウィンクをしてみせた。

 

 ……いやホント似合わねぇ。

 見ろよ、パイパーもルーカスも苦笑してんじゃねぇか。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「それじゃあ、少しの間離れるっていうこと?」

「あぁ、姉御やキャラバンの皆には申し訳ないんだけど、ちょいと個人的なことでダイヤモンドシティに行きたいんですよ」

 

 パイパーの身体能力も完全に戻り、大丈夫だろうという所でケスラーの姉御に話を持ち掛けてみた。

 

「正確に言うと、しばらくの間ダイヤモンドシティに居たいんだ。少し話を聞きたい人たちがいる」

「……それは、貴方のプライベートな事?」

「ああ」

「……そう」

 

 ケスラーの姉御は、なんとか俺をバンカーヒルの所属にしたいのだろう。

 そうなると、外堀を埋めるためにも俺がバンカーヒルの一員に見えるようにキャラバンに同行させたいはず。

 

(パイパーの護衛も兼ねてどっかのキャラバンについていって、ダイヤモンドシティで別れるって感じか)

 

 まぁ、仕方ないかと思ってると近づいてくる人がいた。

 ストックトン爺さん?

 ここの責任者じゃないか。

 

「それなら、ちょうどいい。ロスト君、カーラのキャラバンに同行してくれないかね」

「ストックトン?」

 

 ケスラーが怪訝な顔をするが、ストックトンはニコニコしたままだ。

 

「カーラ。トラシュカン=カーラでしたっけ?」

 

 前々から気になってたあの人か。

 ジャンク品の売買について是非とも話を聞いてみたい人だったから、こちらとしても好都合だ。

 

「君も知っていると思うが、バンカーヒルに正式に所属しているキャラバンは四隊。アーマーを取り扱うルーカス。医師のDr.ウェザース。武器弾薬を取り扱うクリケット。そして雑貨商のフレッド・オコネル。彼らを定期的に回すことで我々は利益を上げている。そのため彼らには身の安全のためにガードをつけているが……」

「確か、カーラさんはあくまでバンカーヒルの協力者であって、正式なキャラバンではないんですよね?」

「その通りだ、ロスト君」

 

 だから気になってる人だったんだよなぁ。

 そこらへんの事を色々と詳しく聞きたかった。

 

「だから彼女にはガードが付いていない。いや、人手不足というのもあるが……。事実、フレッド・オコネルの隊にはキャラバンガードではなく傭兵を雇って護衛に付けている」

「そうだったんですか……」

 

 自分はまだフレッド・オコネルには出会ったことがない。

 雑貨商というだけあって様々な商品をあちこちの居住地に届ける、少々特殊な隊というのは聞いていたが。

 

「うむ、カーラはこれまで自前のキャラバンを運営してきたベテランなので心配はしていないが、最近ダイヤモンドシティの周りはなにかと物騒になりつつある。もしそこまで行くというのであれば、彼女の護衛をお願いしたいのだよ」

「はぁ……。まぁ、ダイヤモンドシティ周りは少し片づけるつもりだったからこちらとしては構いませんけど」

 

 レイダーのようにグリーンゴリラ(スパミュ)も死体や肉を無造作に飾る悪癖というし、そういうのを放置してるとまた虫が増殖する。

 さすがに全勢力を一気に片づけるとかは無理だろうけど、せめてダイヤモンドシティ周辺と大通り周りに略奪や餌目的で屯ってる奴らは片づけておきたい。

 

「……なるほど。ロスト君、君は聞いていた通りの男のようだ」

 

 なんかしきりに頷いているストックトン爺さん。

 どう聞いていたのかすごく聞きたいけど聞きたくねえ。

 

「なら話は早い。カーラは明日の昼にはここを出発するそうだ。それまでに用意を整えておいてくれるかな?」

「分かりました。パイパー・ライトにも話を付けておきます」

「あぁ、頼む。君ならば大丈夫だろう」

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「向こうに着いたらニックを紹介してほしい?」

「そうだ、頼むパイパー」

 

 夜になり、風よけもないサヴォルディのバーでは少し寒い日だったので風よけのあるキャラバンの営業所にあるカウンターでパイパーと一杯やっていた。

 

 すぐそばではデブ――日本語的には酷い名前だがそうじゃない――が自分のジャンク品店の店仕舞いをしている。

 キャラバンの営業所にいるのは今日はルーカスだ。

 そういえば、ルーカスも明日出発だったか。

 

「そりゃあ別にいいけど、なんだか驚きだねぇ。アンタが探偵に用事があるなんてさ」

「探偵であるのと同時に便利屋だろう? ある意味で同業者さ。前から話をしてみたかった」

 

 ニック・バレンタイン。

 この連邦では極めて珍しい探偵業をやっている――人造人間。

 クリケット姐さんの話だと、俺みたいな完全に人間な見た目とは違って所々皮膚が破れて中身が見えているという話だ。

 そういう『明らかに人間と違う』っていうのもある意味で受け入れられた原因かもしれないが、彼の経験と歴史は俺にとって有益な情報のハズだ。

 

「あぁ、確かにそうかもね。……ちょうどいい、その時はアタシのオフィスにも来てくれ。ちょうど詳しい取材をしたかったのさ」

 

 灰皿に短くなった煙草を押し付けて、パイパーは笑っている。

 うん、食欲もちゃんとあるようだし問題はないようだな。

 

「あぁ、記事にしたいって言ってたけか。いいよ、べつに。独立するつもりだっていう事のアピールにもなるし」

 

 しかしなるほど……。

 こうして一日一日積み重ねていくと実感するが、娯楽が酒と煙草とドラッグしかないな。あと女というか異性。

 パイパーもやけに煙草を吸うヘビースモーカーだなぁと思ってたけど、案外これが普通なのかもしれない。

 

(メグやナットが大きくなった途端に煙草吹かしてジェットキメ出したら俺マジで泣くかもしれんな)

 

「独立ってことはやっぱり自分でキャラバンを?」

「いや、まだそこまでは決めてない。まぁ、キャラバンというか店を持つか、あるいはどっかに畑開くかのどっちかだろうけど」

「ロストが銃じゃなくて鍬持って地面を掘り返してる姿は、ちょっと想像できないな」

「ソイツは俺もさ。……そういえば、ダイヤモンドシティの食料面はどうなんだ? 足りてるのか? バンカーヒルでは特にそういう話は聞かないけど」

 

 食事担当の時には食糧庫の残りから計算して七日分くらいの献立を立てて料理していたけど、ダイヤモンドシティだとどうなんだろう?

 

「ダイヤモンドシティじゃあ、食料は月に二回ちょっとした配給があるけど……大体は、パワーヌードルさ」

「……あのロボットの?」

「そう、タカハシ」

 

 ひどく馴染のある名前だったのでちょっと店に立ち寄ったが、『ナニニシマスカ?』しか話せないという悲しいロボットが営業する店だった。

 出しているのはヌードルだけ。

 うん、その……パスタとかそういうのでもなくラーメンっぽいものだ。

 具なしラーメンというか……、味も不味いというほどではないが美味い物では決してない。

 

「ナットから、『はい(Yes)』以外は理解できないって警告されていたけどアレは本当に……奇妙だったよ……」

「でもあれが本当にダイヤモンドシティの主食だからね」

「じゃあ、あの肉屋は? ポリーさんが捌いてただろう?」

 

 ダイヤモンドシティ・マーケットに入って右手に、ポリーという女性店主が一人で切り盛りしている肉屋、『チョイス・チョップス』。

 割といろんな肉が仕入れられていたので、自分もいくつか買って料理の練習に使ったが、思い返せばあんまり人は来ていなかった。

 

「特別な時に肉料理を出すために買うって感じかな……。一週間を乗り切った時とか、あとは誕生日とか18歳になった時とか、それか結婚式みたいななにかの式典とか」

「……やっぱ高級品か」

「そこまで高価ってわけじゃあないけど、まぁね。コッドマンファミリーの牧場からバラモンの肉は定期的に仕入れているみたいだけど、それ以外が入手できるかどうかは運次第だからね」

 

 ダイヤモンドシティまで来たキャラバンがそういったものを仕入れているか、あるいは道中でそういったミュータントと遭遇,交戦して解体して商品として持ってきていれば……って所か。

 

(……ダイヤモンドシティで猟師にでもなってみるか?)

 

 肉の仕入れがネックになるけど、そこらの広い水場の中に肉放り込んで群がって来たマイアラークを片っ端から狩ればそこそこ良い仕入れになりそうだし、銃と狩場を選べばかなり安全に狩れそうな気がする。

 

(まぁ、身の振り方も含めてそこらへん、ぜひとも例の探偵とじっくり話してみたいな)

 

 状況によっては、バンカーヒルとの間にケジメを付けて身を寄せるのもありかもしれん。

 

 

 

 




ダイヤモンドシティはアルトゥーロの店とマーナとハンディのダイヤモンドシティ・サープラスはほぼ絶対に使うと思うけど、他の施設を把握している人って結構まばらだと思うんですよ私。

服飾店『ファロンの地下室』を発見したのがついこの間というrikkaでした


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012:ダイヤモンド・シティへ

「あぁ、よかったロスト。まだ出発する前だったね?」

 

 出発まであと二時間ほどという所で、クリケットの姐さんに呼びかけられた。

 メイクで隠れているが、よく見ると隈が出来ている。

 規則正しい姐さんにしては珍しい……。

 

「アンタに渡したい物があってね。ほら、コイツを持っていきな」

 

 そう言ってクリケット姐さんが渡してきたのは、拳銃だ。

 だが愛用している10mm拳銃とは全く違う。

 

「44マグナム?」

「スーパーミュータントとやり合ったって聞いてからずっと手を加えていたのさ。今の10mmやライフルじゃあ無理でも、コイツならばあの分厚い緑の筋肉だって一発でぶち抜ける。まぁ、代わりにただですらデカい反動がさらにデカくなったけど……アンタの腕なら余裕で使いこなせるだろ?」

「姐さん!」

 

 ホントにハグしていいか!?

 この間の報酬代わりの装備といい今回といい、ホントに俺がこういうのあればいいなぁってモノを完璧に持ってきてくれる!!

 

 姐さんホント最高だ!

 

「それで? カーラに同行するって言ってたけどルートは?」

「あぁ、とりあえずはグッドネイバーまで行く形になる」

「てことはまっすぐ南下して、グッドネイバーで荷下ろしや商売、補充をしたら今度は西に直進って所か」

「あぁ、前とは違うルートだからまた厄介な奴がいるかもしれない。正直、助かったよ姐さん」

 

 マジで。

 威力の高い銃が欲しいと思ってた所だった。

 

 最初はそれこそコンバットショットガンを軽量化したモノ……それが無理ならダブルバレルのショットガンを短く切り詰めた物を注文しようと思ってたんだが……もっといいベストなチョイスをしてくれるとは。

 

(ショットガン吊るすよりも断然軽いし、今の装備にそのまま加えても行動が鈍るほどじゃない)

 

「アンタは滅多にいない最上客だからね。はい、とりあえずの弾20発。それで使ってみて、今回の行商から帰ってきたら感想を聞かせてくれ」

「ありがとう。で、いくら?」

「今回はサービス。ただ戻って改造する時の代金とそれからの弾代はいただくさ」

「言い値を払わせてもらうさ」

 

 いやもう世話になりすぎてるしボッタクリ価格でも文句ないさ。

 だけどクリケットの姐さん、基本適正価格かちょいと安くでしか売ってくれないからなぁ。

 いっそのこと、今度デカく稼いだ時に投資という形でキャップ押し付けるか。

 

「あぁ、それとアンタにお客が来てるよ」

「俺に?」

「友達だとさ。アンタとお似合いの女だよ。ミニガンなんて分かってるじゃないか」

 

 ……ミニガン?

 

「やぁ、ロスト。久しぶりだね」

 

 姐さんの後ろから、すごく久々に聞いた声がする。

 

「グローリーさん!」

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

 

「へぇ、ロストの言ってた恩人かい。確かに強そうだ」

「そう言ってもらえると嬉しいな。パイパー・ライト。パブリック・オカレンシズはいつも読ませてもらってるよ」

 

 

 

 

「やれやれ、気楽な一人旅も随分騒がしくなったもんだ」

「騒がしくてすみませんね、カーラさん。まぁ、少なくとも銀髪の彼女はかなりの腕利きです。道中の安全は保障しますよ」

「はっ。あったばかりの人間を信用する奴はすぐに死体になってそこらに転がる。私が信用しているのはお前の腕と実績だ」

 

 グッドネイバーへの道中に、グローリーさんという予想外の同行者が出来た。

 なんでも、こちらまで俺の様子を見に来てくれたんだとか。

 そのまま話してると、ちょうどグローリーさんも俺の様子を確認した後はグッドネイバーに向かう所だったらしく、途中まで俺達の旅に同行することになった。

 

「……なんというか、自分、よくそこまで信頼されてますね? まだこなした仕事なんて数回なのに」

「あぁ、お前は例の行商で逃げなかったからな。致命的な状況でも絶対に逃げないと分かっている奴は、信頼されるに決まっている。特に、バンカーヒルのガードが役立たずになるような状況を切り抜けた奴はな」

 

 この人、地味に発言が辛辣だなぁ。

 多少歳を取ってるが綺麗な人に分類されると思うんだが……。

 

 まぁ、そう言って褒めたら爆笑されたけど。

 

「あぁ、私も君のうわさを聞いて驚いたよ。まさか、そこまで君の腕が立つとはね」

「自分も正直驚いています。……いやまぁ、あんなアホみたいにヤバい状況だったから、自分の身体を酷使するしかなかったんですが」

 

 今でこそバンカーヒルでの生活には満足しているし、このままこの路線でやっていこうとは思ってはいるが、案外あのままグローリーさんの所の世話になっても上手くやって行けたかもしれない。

 

「確かに、あの地下水道でのドンパチは凄かった。ガンマンと呼ばれるだけはある」

 

 なんでお前がちょっと誇らしそうなんだよパイパー。

 

「あぁ、それでカーラさん」

「名前に一々余計なものは付けなくていい」

「……わかった、カーラ。具体的に、ジャンク品の売れ行きというか、どういう事に使われているか聞きたかったんだ」

 

 他の商品はもう何に使うかなんて一目瞭然なんだけど、ジャンク品だけはピンとこない。

 

「ああ? ああ、そうだな。……先日お前が立ち寄ったvault81なんかだと、一番需要があるのは工具やネジだ」

「工具?」

「そうだ。戦前の建物を探るとレンチやドライバーなんて簡単に出てくる。で、地下の連中はそれが大量に必要なんだとさ」

「……意外と詳しい所まであっさり教えてくれますね」

「あぁ、真似してもいいよ。奴らはとにかくそれらが大量に必要らしくてね。高値でいくらでも買い取ってくれるよ」

 

 まじかぁ。

 というか、そんなに工具って見つかるもんなのか。

 良い事聞いたわ。

 

「ま、興味があるなら実際に持ち込んでみるといい。そして他のジャンクだが……まぁ、要するに分解できるものは大体人気だ。複雑な動きをする昔のおもちゃとか、あとは……昔の機械のパーツ部品なんかね」

「Vault81は昔の技術が残っている。だから、そういう物の利用法もたくさんある。……それで需要があるということか」

「あぁ、だからVault81はキャラバン隊に人気なのさ。大抵のものは買い取ってくれるし、逆に商品の補充に立ち寄る奴もいる。アンタが会ったかは知らないけど、フレッド・オコネルとか、向こう側で売り物が無くなったらVaultに行くようにしている」

 

 うーむ、逆に言うとそういう技術がない大半はほとんどのスクラップ品に価値を見出さないって事か。

 ……商品としちゃあ、ちっとキツいか。

 

「ダイヤモンドシティだと、戦前の品だとそのまま使う物がよく買われてるね」

「使う物? っていうと……?」

 

 少し考え込んでいると、パイパーが横から入ってきた。

 

「ほら、例えばアルファベットが6面に書かれている四角い積み木とか、車のおもちゃ……あとはまぁ、ボールペンとかどこかの農場が売ってきた余り物の食糧とか」

「あー、やっぱそういう系か」

 

 となると、どこかに拾い集めに行く必要があるなぁ。

 前にルーカスと話したように、やっぱり仲間が必要だなぁ。

 

「なんだいロスト。君の独立計画の話かい?」

「えぇ、まぁ。ただ、まだ具体的なものが思いついてなくて」

「何を売っていくか、かい?」

「……モノを売って生きるか、モノを育てて生きるか……それか、猟師? として生きるか、決めかねてて」

「ヘイ、ロスト。ガンマンらしく銃の腕前一本で生きるんじゃないのか?」

 

 馬鹿野郎パイパーお前! 弾薬の補充だけでもどれだけ大変だと思ってんだ!

 クリケット姐さんに頼りっきりならやれるかもしれんけども!

 

「正直、傭兵みたいな生き方はちょっとなぁ。襲ってくる奴はキチンと頭吹っ飛ばしてやるけど、こっちから殺しに行くのは……いやガンナーはともかくレイダーならいいか。邪魔だし気が付いたら湧いてるし、むしろ積極的に間引いた方がいいのか?」

「君は……、しばらく見ないうちにずいぶんと連邦に染まったな」

「……できるだけそれについては考えないようにしていたのに、とうとう言っちゃってくれましたねグローリーさん」

 

 でも実際、レイダーは無駄に血肉や臓物で遊んで面倒な野生動物や虫を寄せかねないし、積極的に排除して拠点は片づけて玩具にされた遺体は燃やして片づけたいんだよなぁ。

 

 もうね、意識的にはちょっと前まで現代社会に生きてた人間だから、できるだけこう、汚れていないというか汚染されていないスペースを確保したいというか……。

 

 ぶっちゃけ、住処になっていて居心地は悪くないんだけどバンカーヒルも結構劣悪な環境だから色々手を加えたいしなぁ。

 うん、そうだ。

 

「でもまぁ、バンカーヒルで生活して色々と見て……やってみたいことは増えましたね」

「そうか」

 

 

「それはなによりだよ、ロスト」

 

 

 

 




※44マグナム
威力こそ高いが当然単発だし装弾数は少ないし、店で買える弾も少ない。おまけにリロードがちょっと長い。
ぶっちゃけ趣味の人が使う銃だけど自分は好き。
ただし、これを完全に使いこなそうとすると多分8割の人はVATSビルドになる気がする。

これをバニラでいいから最速で手に入れたいという人がいるなら、サンクチュアリの対岸を縁に沿って歩きましょう。
なぜか起動しているポンプ。そのコードを辿ると一応拾えます
なお、弾は()




今から初のサバイバルモードやろうとかと思ってるんですが、たまに道を歩いてるとまだユニーク買ってないキャラバンの死体が転がっていることがまれによくあるとか聞かされて震えている


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013:良き隣人の街での一夜

 退廃と暴力の街と呼ばれる物騒な場所がある。

 争いに慣れたキャラバンガードの面々でもうんざりだという街。

 

「にしても、マフィアの街の名前が『グッドネイバー』ってのは何? 最大級の皮肉か?」

「入った途端に絡まれたね、ロスト」

「その直後に刃物を取り上げて地面に叩きつけるあたりさすがだよ、ガンマン」

 

 まったく、キャラバンガードの連中――特に女性がグッドネイバーを嫌がる理由がよく分かる。

 金を要求されるくらいは想定していたが女を置いていけとかいう、こっ恥ずかしいB級映画の三流悪役みたいな台詞を聞くとは思わなかったよ。

 

 これなら道中野宿でも一直線にダイヤモンドシティに向かった方がマシだったんじゃないかと思うくらいだ。

 

「まぁ、通過儀礼みたいなものだ。銃を頭に突きつければ大体引き下がる」

「……引き下がらなかった時はどうするんだ? カーラ」

「そのまま穴を空けてやればいい。そうすれば静かに通れる」

「……紳士的な回答、どうも」

 

 カーラもやはりキャラバンだなぁ。

 なんだかんだで銃の腕も悪くないし、一人で連邦を歩き回るだけはある。

 

「それで、カーラ。ここでは何を仕入れるんだ?」

「あぁ、弾薬だ。ちょいといい弾と引き換えに安い弾を大量にもらうのさ」

「安い弾の方を?」

 

 レクスフォードホテルという、寂れているにはやけに内装が豪華な宿――まぁ、文字通り戦前のホテルだったんだろうが――の一室に一同で集まっている。

 というか、俺が頼んだ部屋だ。

 

 男と女なんだから一応部屋を分けた方がいいだろうと思ったのだが、コイツらは一緒に寝ても問題ないらしい。

 

 まぁ、並みの男よりも強い女性三人に男一人じゃそうもなるか。

 

「私の商売相手はそこらの農場や小さい居住地が主だ。そうなると軽機関銃みたいな高いしある程度まとまった数がいる弾薬よりは、修理も改造も簡単なパイプ銃向けの弾薬の方がキャップになるのさ」

「……逆に、ちょっといい弾が売れるのは?」

「そりゃあここだろうな。.45弾の需要が最も高い。そして居住地やダイヤモンドシティでは.38弾や10mm弾。……まぁ、たまに流れのガンナーがフュージョンセルを欲しがることがあるけど、アイツらは取引じゃなくて要求をしてくることが多い」

「……今度から優先的に排除するか」

 

 あの傭兵集団、やっぱり問答無用で叩き潰して装備回収してダイヤモンドシティとかに回した方がいい気がしてきた。

 そっちの方がよっぽど人のためになるだろう。

 

(あるいは、いっそ俺がそういう部隊を作ってみてもいいかもな)

 

 生活で最も驚異となる怪物。アストリン達が言うアボミネーションの討伐を優先する傭兵。

 問題は補給に困らないくらいキャップを稼げるのかという話だが……。

 まぁ、他の居住地を見て回ってから考えるか。

 

「それで、ロスト。さっきからやけに念入りに銃を整備してるけど、何するつもりさ? 旗揚げかい?」

 

 もはやお気に入りとなりつつあるクリケット姐さん特製の10mm拳銃の分解整備と組み立てを終えて、弾薬のチェックに入っているとパイパーが覗き込んでくる。

 

「旗揚げって部下一人もいない状態でなにを旗揚げするんだ……。一応、念のためにだ。ここは欲望に正直な連中の溜まり場で、連れは皆美人揃いときたらそりゃあ万が一に備えるでしょ」

 

 割と洒落になっていない。

 こんな時代だ。ただの売春はともかくとして、人身売買のための誘拐なんて散々聞いている。

 

 パイパーにせよグローリーさんにせよカーラにせよ、三人とも腕っぷしは立つけど不意を突かれたらどうしようもない。

 それこそ、先日はイカれた宗教団体に襲われたパイパーみたいに。

 

「カーラはダイヤモンドシティまでの護衛対象でもあるし、ここでそれなりに仲良くなった人間が突然いなくなったりしたら悔やんでも悔やみきれないからね。まぁ、一応全力は尽くさせてもらいますから」

 

 念のために脱出口も確保してあるし、グローリーさんやパイパーを嫌な目で見ていた奴らはこっそり起動しておいたリコン・センサーでタグ付けしてある。こいつらがこのホテルに近づいたらすぐに分かる。

 

「相変わらずアンタはウェイストランドの香りが薄い男だね、ロスト。そんなんでやって……いや、やっていけるだけの腕があるからこうなのか……」

 

 パイパーは、手を出さずにじっと、先日クリケット姐さんから頂いたマグナムを見つめている。

 

「まったく、アンタみたいな男がウチにもいればね」

「……ダイヤモンドシティは、以前の行商で見た時はいい街に見えたんだが……」

「見かけだけさ。今でもあそこの住人はレイダーやミュータントに怯えて壁の中に籠っている。……いや、別にそれが悪いってわけじゃないんだけど……」

 

 パイパーのつぶやきは、おそらく新聞記者として色々見て、そして聞いてきたダイヤモンドシティ市民の潜在的な不安なのだろう。

 

「現状を打破しようっていう意気込みがないんだ。……それも、上に行けば行くほど」

「パイパー、ダイヤモンドシティのセキュリティは今どういう状況なんだい?」

 

 パイパーの話に興味が沸いたのか、グローリーさんが会話に参加した。

 

「そこまで士気は高くない。……まぁ、少し前からちょっと周りは静かになったし、それはいいんだけど……」

 

(……ひょっとして俺のせいか?)

 

 ナットのいる場所を多少でも安全にしたくて、目につくレイダーやミュータントは念入りに倒した。

 でも、それで防衛力に影響が出るのならやはり問題だな……。

 

「うん、だから外回りの連中が多少緩んでるのはまぁ、仕方ない。でも内回りの連中ですらサッパリだ! 行方不明者が出たって事件もあったのに、アイツらさっぱり動きゃしない!!」

「行方不明者?」

 

 滅茶苦茶物騒な話が出て来たな。

 そんなこともあるのか……。

 

「ああ、チャーリー。チャーリー・ファロン。分かるかいロスト、『ファロンの地下室』の旦那さ」

「奥さんのベッキーなら知っている。ダグアウトインで一杯やっていた時に少し話した」

 

 ファロンの地下室とは、ダイヤモンドシティ唯一の服飾店だ。

 ……思えば、俺の知る服飾の専門店はあそこだけだな。

 ほとんどはアーマー装備とかのついでに衣服も売っている所がほとんどだ。

 

「帰ってこなくなったその日に、ベッキーはもちろんセキュリティに捜索を依頼した。なのに、マクドナウの奴大したことじゃないだろうとか、そのうち帰ってくるとか適当な事抜かしやがって!」

 

 パイパーの嫌悪感MAXのボヤキに、グローリーさんもあるいはそこらの話を知っていたのか『あぁ、彼か……』と少し嫌そうな顔で酒を呷った。

 

「確か市長だったっけ。俺は見た事ないけど」

「あぁ、人をイラつかせる天才だよ。あのデブは」

「デブ」

「そうさ。むかつくだろう?」

 

 まぁ、気持ちは分からなくもない。

 正直、このご時世で太ってる奴ってマフィアの幹部くらいしか見た事ねぇ。

 

 お偉いさんと肥満体の二つがセットになると、なんとなくムカついてしまうのはよく分かる。

 まぁ、顔が良くて人が出来てるお偉いさんとかもムカついてしまうけど。

 

「割とダイヤモンドシティは市民の不満が溜まってる……そんな感じか」

「だと思う。肌で感じるんだ。口ではウチの新聞をデタラメだって叫ぶ連中だって毎回毎回ウチの新聞を買っているんだ。……買ってるんだよ? 包み紙代わりに買われて捨てられた奴を拾うんじゃなくてだ」

「……なんか、マジで傭兵というか雇われ警備員とかやったら儲かりそうな気がするな……補充も含めて」

「アンタなら絶対稼げるよロスト! なんていったってバンカーヒルのガンマンって看板があるんだ!」

 

 ……ちょっと心が揺らぐな。

 あんま戦闘には関わりたくないけどそうも言ってられない環境だし、どうあがいても変異生物(ミュータント)の脅威からは逃げられない。

 

「……銃弾安く売ってくれる所があればなぁ」

 

 結局これに尽きるんだ。

 銃そのものも消耗品だけど手入れ次第でまぁ長持ちさせることはできる。

 だけど弾だけはどうしようもない。

 こればっかりは数がいる。相手がレイダーならパイプ銃でもどうにかする自信はあるけどこの間の筋肉ダルマみたいな連中だと、それなりの弾をかなり消費する必要があるから面倒くさいんだよなぁ。

 

 いっそ、ガンナー襲ってレーザー装備と弾薬を確保するか?

 ……いかんいかん、さすがにそこまで行くと蛮族だ。

 

「そうだな。今一番簡単に弾薬を入手できるのはこのグッドネイバーかダイヤモンドシティだろうが……そうだな」

 

 この面子の中で唯一にしてベテランの商人であるカーラが、少し考え込んでいる。

 

「ガンマン。もしお前がここやダイヤモンドシティ以外のどこかに拠点を構えたのなら、クリケットとお前の補給について話し合ってやってもいい」

「デカい街以外?」

 

 また妙な事を言い出すなと思ったが、カーラは真面目に小さく笑っていた。

 

「お前が常駐している居住地だか農場だかがもしあるのならば、それはいい取引場になりそうだ。それならば、投資としてある程度の弾薬を定期的に、多少は安く持ち込んでやっても構わない」

「……居住地、ねぇ」

 

 小さい居住地にでも世話になって、農作業を手伝いながら時折周りの脅威を排除する生活、か。

 

「悪くない……かもな」

 

 俺がそう呟いた時に、好奇心に目を輝かせるパイパーと対称的に静かに、だけど少し嬉しそうに小さく微笑んだグローリーさんが、なぜかすごく印象的だった。

 

 

 



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014:奪い取る者、守る者

 ダイヤモンドシティ。

 連邦で最も華やかな街。連邦のグレートグリーンジュエル。

 

 最も人が安心して暮らせる地域であり、だが同時にその周囲は――

 

 

――キャラバンと女だ! 全部奪え!

 

 

――馬鹿違う! フェラルだ! 後ろから……っ

 

 

――ぎゃあああああああああああああっ!!!

 

 

――待て撃つな! アタシだ――あ゛あぁっ!

 

 

 その周囲は、連邦屈指の激戦区でもある。

 こっちを襲おうとしたレイダー共とどこからか湧いたフェラルの群れが入り乱れてきゃっきゃうふふしてる。

 わーおカオス。

 

「パイパー、皆と一緒に下がって。グローリーさんは援護――いや、近づいてくるフェラル達の足止めをお願いしていいですか?」

「あぁ、任せてくれロスト。こういうのには、私の武器の方が向いている」

 

 フェラルの迎撃どころか誤射からの同士討ちまで始めちゃったレイダー共はフェラルとまともにやりあえていない。

 まぁ、無駄に足の速いあのゾンビもどきを相手にするのにストップ能力が低いパイプ銃じゃあ無理があるのも分かる。

 パイプ銃一丁だけでフェラルの群れを相手に出来る奴は、俺並みの精密射撃と素早いターゲッティングが必要になるだろう。

 

「パイパー、カーラ、建物の上からフェラルが降ってきているから気を付けろ。ほとんどはそのまま死ぬか足砕けて動けなくなってるけど油断はするな」

 

 旅慣れているだろうカーラはともかく、パイパーが少し不安だったが顔に緊張はあっても不安はない。

 念のためにセンサーをフル稼働して呼吸音などを確かめるが、落ち着いているようだ。

 うん、これなら大丈夫だろう。

 

(リコン・センサー起動、enemy01~07(無駄に暴れているレイダー共)までを、enemy08以降(フェラル共)と分けてタグ付け)

 

 こういう混戦は経験した事がない。

 足が速くてどこから襲ってくるか分かりづらいフェラルと、混乱していてどこに弾を飛ばすか分からないレイダー。

 

(グローリーさんのミニガンの弾幕のおかげでこっちを目当てにしているフェラルはそこらに転がっている)

 

 グローリーさんとこうして肩を並べて戦うのは初めてだが、やはり戦い慣れていると分かる。

 すごい勢いで走ってこられるとついつい胴体を狙ってしまうしそれが正解なのだが、彼女はミニガンの制圧能力を最大限に生かして片っ端から足を潰している。

 被弾率が低い足元を狙いながら、まぁ見事に押さえている。

 

(……とはいえ束になってかかられると不味い。先にフェラルから減らすか)

 

 視界に入るフェラルは片っ端からタグ付けしているが、二,三体倒したらまたどこからか同じ数がフラフラと歩いてくる。

 もしフェラルが同時に、しかも全員こっちに向かってきたらさすがに無理だ。

 不安要素もあるが、レイダー共はフェラルの餌になっていてもらおう。

 

(建物の向こう側から聞こえる銃声は五つ。音の発生源をunknown01~05に設定、レイダーと仮定して放置。)

 

 音がする以上、そちらにもそれなりの数がいるハズだ。

 とりあえず音が止むまではある意味で安心できる。

 

(VATS使用。目標、enemy09,14,15各頭部。……ターゲットインサイト)

 

 手に握っているのは、もはや使い慣れたサイレンサー付きカスタム10mm。

 姐さんからもらったマグナムをドカドカ撃ってみたいんだけど、さすがにこいつらにマグナムは過剰火力だ。

 ついでに音もデカいし、今の状況には向かない。

 

「交戦開始」

 

 本当にもう……ダイヤモンドシティは目と鼻の先だっていうのに。

 

 俺達の後ろにはパイパーとカーラがいる。

 負傷して(・・・・)動けなくなった(・・・・・・・)DCセキュリティの一隊(・・・・・・・・・・・)を守ってだ。

 彼らは皆、耳が千切れていたり、妙な焼き印のようなものがどこかに付けられていた。

 

(一月前にここら一帯片づけたのに、もうこうなるのか。地獄かよ)

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

 

「お帰りパイパー! ……あれ? ミスタも来たの!?」

 

 ちょっとしたレイダーの一団と、どこからか湧いてきたとんでもない数のフェラルを切り抜けてようやくたどり着いたダイヤモンドシティでは、久々に聞く声が俺達を出迎えてくれた。

 

「ただいまナット。あぁ、向こうで偶然出会ってね。そのまま連れてきたのさ」

 

 なぜお前が俺を引っ張ってきたことになっている、パイパー。

 

「久しぶりだね、ナット。あれから印刷機はどう? おかしくなってない?」

「大丈夫。あれから変な音はしないし、インクが滲んだりもしないよ」

「……ヘイ、ロスト」

「なんだパイパー」

「普通、そういうことは私に質問することじゃないのかい? ええ?」

「お前、大雑把な性格だろ。それなら細かい事に気を配ってるナットに聞いた方が二度手間にならん」

「い、言うじゃないのさ」

「あぁ、後先考えずに一人で地下水道に潜入しようとする奴には釘を刺しておかないとな」

 

 そう言うとさすがにパイパーもグッと言葉を詰まらせた。

 よし、反省しておけ死ぬほど反省しておけ。

 

「しかも唯一の護衛に薬盛ってまで」

「わかったわーかった! 私が悪かったよ」

「ん、それが分かっていればいい」

 

 目を離したら無茶するタイプだからなコイツ。

 たまにはこうしてイジめておいてやろう。

 

 別にパイパーの事を思ってやってるわけじゃないんだからね! 勘違いしないでね!

 

「さて、パイパー。とりあえず見知った顔に挨拶してくるよ」

「あぁ、わかった。終わったらここに来なよ。ソファーで良かったら泊まればいい」

「もう、パイパー! それじゃあさすがにミスタが辛いでしょう? ミスタ、一応寝袋があるからそれ使って」

「あぁ、ありがとうナット。んじゃ、行ってくるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っと、もう揃ってたか」

 

 ボブロフ兄弟の酒場宿、『ダグアウト・イン』

 このダイヤモンドシティ唯一の酒場――というわけではないが、まぁ……俺が飲めるのはここだけだ。

 

「あぁ、どうも事態は無視できるものではないようだ」

「私としちゃ、売る物売ったらさっさと次に行きたいんだがね……まぁ、そこの女が言うように無視できる話ではない」

 

 本来ならばここでもう別れるハズだったグローリーさんに、商品を卸し終わったカーラがソファに腰を掛けて俺を待っていた。

 他のダイヤモンドシティの住人は、余所者の俺達を遠巻きに眺めている。

 

 まぁ、そんなものだろう。

 カーラもあんまここには来ないらしいし、グローリーさんも顔が利くわけではない。

 そして俺は以前一度ここに来たことがあるだけの男だ。

 

「それで、セキュリティからの話は聞けた?」

「あぁ、聞いたさ。まったく、エラく胸糞悪い話さ」

 

 あの妙な負傷が目立つセキュリティは、碌に口を利くことも出来なかった。

 最初は負傷による痛みのためかと思っていたが、フェラルやレイダーを片づけてダイヤモンドシティに向かう道中でも、彼らは怯えるばかりで会話にならなかった。

 

「街の中に入れて、ようやく安全だと分かったんだろう。それでこちらのセキュリティ仲間にポツポツと話し始めてくれたんだが……どうやらレイダーにとらえられて、仲間になるように説得されていたらしい。……いや、その、説得というか」

 

 言いづらそうにしているグローリーさんだが、大体は分かる。

 あの奇妙な負傷の事だ。多分――

 

「拷問されていた?」

「…………あぁ、そのようだ。彼らの他にも何人かセキュリティや……それにトレーダーと思わしき人員がいたらしいんだが……今現在どうなっているかは分からない」

「少なくともセキュリティの仲間は一人殺されたらしい。アイツらの目の前で、生きたまま皮を剥がされた。アンタが担いで帰った男が、泣きじゃくりながら話してたよ」

「……惨いな」

 

 問題は、そういった真似をするレイダーがグッドネイバーからダイヤモンドシティの間に存在しているかもしれないという事実だ。

 互いに仲の悪い街同士だがそれでも行き来はあるし、ライフラインでもある。

 

 危険だ。放置しておくわけにはいかない。

 

「本拠地はあるのか?」

「いや、今はないらしい。どうやら誘拐と拷問を繰り返しながら拠点になる場所を探している所だったらしく、先日までは干からびた地下水道を拠点にしていたらしい」

「お前たちが助けたあのセキュリティ達は、引っ越しのタイミングでどうにか逃げ出せたということだ。餞別に弾丸をもらってな」

「……それでどうにか逃げ切った所で、今度はレイダーに襲われて……俺達とフェラルが到着したということか」

 

 危機一髪だったな。

 もし俺達が彼らを助けていなかったら、その危険なレイダーの存在に誰も気づかず、その連中は隠れ住んだまま誘拐と拷問による戦力増強を続け、下手したら一大勢力となって近隣の居住地を脅かしていたかもしれない。

 

 叩き潰すには、今しかない。

 いや、今じゃないと駄目だ。

 

「グローリーさん、カーラ、他に何か情報は?」

「……まずロスト、さん付けはもう止めてくれ。君は私と、肩を並べて戦ったんだ」

 

 お、おう。

 俺にとってグローリーさんは大恩人だから、出来るだけ敬称は付けたいんだけどな。

 

 まぁ、大恩人の言う事ならば仕方ない。

 

「OK,グローリー。で、情報は?」

「どうやら連中は、まだ戦力が足りないと言っていたようだ」

「……となると、また誘拐か」

 

 わざわざ武装しているセキュリティを攫って拷問する連中だ。

 多分だけど、即戦力の連中を求めているんだろう。

 そして拷問して心を折って自前の戦力にして、また誘拐して拷問して……を繰り返すのだろう。

 お前ら質の悪いブラック企業かよ。

 

「狙われるのはセキュリティかキャラバン、そのガード……グッドネイバーのギャングやレイダー、ガンナーも条件に沿うか」

「略奪者を誘拐する略奪者か。お笑いだね」

 

 笑えねえっす、笑えねぇっすよカーラの姉御。

 そんな連中がこの近くに潜んでる可能性大なんですから。

 

「他に居場所が分かるような手掛かりはなしか」

「ああ、強いて言うなら、ボスらしき男が『ゼラー判事』と呼ばれていたという事しか……」

 

 判事? 変な名乗りをする奴だな。

 まさか、旧裁判所を拠点にするつもり……なわけないか。

 そういうこだわりがある奴ならば、引っ越しなんて繰り返さずにもう占拠しているはずだ。

 

「この周辺の地図はあるか?」

「あぁ、一応あるよ。……戦前の地図に、私が商売しながら色々書き込んだだけのものだが」

「充分すぎる。ちょっと見せてくれ」

 

 カーラがテーブルの上に広げた地図には、やはりというか当然だがグッドネイバーとダイヤモンドシティの場所がちゃんと書かれている。

 

 以前たまたま拾って、前の世界と言う戦前の感覚で捨てられなかったお金――紙幣をクルクルと巻いて簡単な棒にして、グッドネイバーとダイヤモンドシティをつなぐように置いて、それを潰す。

 

「ロスト、君はその連中がこの線の辺りにいると?」

「いや、それはない。この一直線のエリアは、多分連中の狩場だ。連中は拠点を作るには数が足りていないと思っている。なら、繋ぎの仮拠点は狩場から離すはずだ。誘拐した連中はそこに置いているだろうし、混戦になったら逃げられる可能性が高まる」

 

 そうだ、連中の目当てはまだ戦闘そのものじゃないし、誘拐だけでもない。

 誘拐したうえで、拷問で心が折れるまで確保しなきゃならない。

 

「この線からある程度離れた所に拠点がある。……ハズなんだが」

「範囲が余りに広すぎる。これだけのエリアを一人で歩き回るつもりか? ガンマン」

「……必要なら」

 

 カーラさんが呆れたように言うが、マジでやるしかない。

 誘拐と拷問のノウハウがあるなら、いずれ子供も攫う可能性がある。

 こんな時代だ、子供ですら見捨てられる可能性はあるが、それが出来ない人間だってそれなりにいる。

 その可能性があるなら、こういう連中は必ず付け込む。

 

 つまり放置すれば、ここのナットやバンカーヒルのメグのような子だって危険な目に合う可能性が格段に高まる。

 

 それなりにこの世界に染まってきた自覚はあるけど、これを許容できるほどにはまだ染まっていない。

 

 カーラはそんな俺に呆れたのか、軽いため息をつく。

 

「馬鹿かお前は。一人で時間がかかるのならば、複数人でやればいい」

「いやでも、カーラにこれ以上は」

「誰が手伝うと言った。もっと簡単な方法がある」

 

 カーラは胸ポケットから、大好きな手巻き煙草を取り出し火を付ける。

 

「こっちの女兵士はしばらくこの街の防衛を手伝うんだろう? 私は商人で、今のお前に手を貸してくれそうなのはあの女記者くらいだ。どう考えても人が足りん。なら、余所から持ってくればいい」

「雇うっていうのか? でも……あんまりキャップはないぞ?」

 

 今の手持ちキャップは200とちょっとくらいだ。

 本当はもうちょっと持っていたのだが、先ほどアルトゥーロが開いている武器店で弾薬を補充したおかげでほとんど使ってしまった。

 

「金がなくてもやりようはある。まぁ、とりあえず今日は互いに一杯飲んで解散といこう」

「……任せろってこと?」

 

 カーラは美味そうに煙を吐くと、ニヤリと笑って見せる

 

「朝になればわかるさ。とりあえず今日は飲んで寝て、疲れを取ればいい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてカーラの言う通り、後からやってきたパイパーも交えて一杯やって、その後ナットが用意してくれた寝袋に包まって寝て、朝を迎えた。

 

 そして、またもや集合場所だった『ダグアウトイン』に行くと、そこにはカーラやグローリーに加えて四人の男女がいた。

 四人とも揃って似たような服を着て、頭にはカウボーイを彷彿とさせる民兵帽を被っている。

 背中に背負っているマスケットっぽい長い銃は、どうやらレーザー兵装のようだ。

 

「話を伺い、駆け付けた。君が噂のガンマンか?」

「さて、自分がどういう噂をされているか知らないからなんとも言えないが……」

「ああいや、失礼。自己紹介が先だったな」

 

 少しだけ他の三人よりも小奇麗な服装をしている黒人男性が、ニッコリ笑って握手の手を差し出す。

 

「プレストン・ガービー。コモンウェルス・ミニッツメンだ」

 

 ミニッツメン?

 話だけ聞いていたけど、警察というか自警団のような真似をしている民兵組織だったっけ。

 そうか、カーラが言っていたのは彼らの事か。

 

「危険度の高いレイダーの捜索、および排除のために駆け付けた。こちらは仲間のエマ、ジョシュ、それにアンソニーだ。ミニッツメンの中でも、特に偵察任務に長けた人員を連れてきた」

「心強い。暴れるだけなら意外と得意なんだが、探すのは苦手でね」

 

 心からの本心だ。

 特にここは、住み慣れたバンカーヒルではない。

 土地勘のない所での、しかも最悪単独での探索をするかもしれないというのは正直怖かった。

 

 差し出された手を握って、俺も名乗ろう。

 

「俺はロスト。今はバンカーヒルに身を寄せている、流れ者だ」

 

 

 

「よろしく頼む、プレストン」

 




ガービーに着いてきているミニッツメン三名。
名前でピンと来た方は大正解、スーパーウルトラマーケットの三名です。


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015:略奪者

(なるほど、こりゃ確かに精鋭だわ。アストリンとはさすがに比べられんけど、それ以外の今まで見てきた戦闘職の中では余裕で上位だ)

 

 少なくとも、キャラバンのガードよりは役に立つ。

 唯一気になるのは、装備による隠密性が皆無な事くらいか。

 

「ありがとうロスト、おかげで被害はゼロだ」

「いや、俺がいなくても大丈夫だったろうさ。ミニッツメンの兵士は、下手な護衛よりも頼りになる」

 

 そして問題の連中らしき武装グループだが、あっさりと見つかった。――というかこっちに奇襲を仕掛けて来やがった。

 武装集団だから目を付けたのか?

 普通は逆だと思うんだけどなぁ。

 

「プレストン、ジョシュ達は?」

「先行偵察を頼んでいる。もし何者かに襲撃を受けたら、フレアガンを上空に放つように言いつけてある」

「……なら大丈夫か」

 

 今探索しているのはダイヤモンドシティの東部エリア。

 建物が多く、身を隠す所が多いためにトレーダーもあまり通らないか、あるいは警戒する場所だ。

 

 いるとしたらこういう所なのだろうと思っていたら……いやまぁ大当たりを引いたのはいいんだけどさ。

 

「それにしても、なんなんだコイツらは……」

 

 俺と行動を共にしているミニッツメンの指揮官――プレストン・ガービーは、一枚の汚い紙きれを忌々しそうに見ている。

 ちなみに、自分も同じ物を持っている。

 

 奇襲をかけてきた連中が懐に持っていた、血液で書かれた誓約書だ。

 

 

 

『自らの血をもって、拷問と死を覚悟の上で』

 

『自らの命をかけて最後まで判事と彼の部下に誓います』

 

 

 

 とまぁ、なんというか……世界観に合ってるような合わないような文章が血で書かれている。

 おそらく、書いた本人の血なんだろうが……読んでいるだけで気が滅入るメモだ。

 

 

「『ゼラー軍を恐れろ!』とか叫んでいる奴がいた。……おそらくだけど、拷問に耐えられなくてそのゼラー軍っていうレイダーグループに加わった奴らじゃない……かな」

「イカれているとしか思えない。一刻も早く連中を排除しなくては」

「ああ、俺もそう思うよプレストン。だから冷静に、な」

 

 この男は、かなり正義感の強い男のようだ。

 正直、驚いている。

 この手のタイプなんてこの世界にはもういないんじゃないかと思っていた。

 

「ロスト、君はこの近くに連中がいると思うか?」

「思う。……というか、多分待ち伏せている」

「待ち伏せ?」

「戦う事を知っている人間を出来るだけ生け捕りにしたいのならば、手っ取り早いのは大人数で囲んで戦意を喪失させる事だ」

「……なるほど。それで念入りに建物のクリアリングをしていたんだな?」

「一応、な」

 

 更に念を込めるために、定期的にセンサーをフル起動して定期的に後方のチェックを行っている。

 どうやら、今の所は尾行されていないらしい。

 

「あんまり人間がいないのかもしれない。いたとして、10人に届くか届かないかくらい」

「根拠は?」

「一つは、救出したセキュリティが聞いた『数が足りない』っていう証言だ」

 

 これは自分の経験則だけど、この近隣のレイダーは10人くらい集まって一つの集団として活動を始める。

 実際10人の武装集団がいれば、それが全員パイプピストル程度の装備しか持っていなくても脅威だ。

 

「それに、それなりに数の揃ったレイダー集団になっているんなら補給の必要が出る」

「襲撃の話が出ているハズだと?」

「多分ね。引っ越し繰り返すような連中なら猶更だと思う」

 

 まぁ、今の拠点で食い物大量に見つけたとかじゃあない限りだけど。

 

「で、最大の理由だけど」

「ああ」

「数が揃っているなら、とっくに仕掛けていると思うんだよね。中途半端な奇襲とか仕掛けず」

「……なるほど」

 

 何か所か包囲に向いている地形はここまでにあった。

 あそこで奇襲に来た要員も含めて、出せる戦力を全部出していれば包囲出来ただろう。

 数が揃っていたのならば、だけど。

 

「いや待て、それなら相手は戦力を捨てたのか?」

「あのイカレ具合を見るに、多分ちゃんと戦力として使えるのはアレが全部だったんだろう。要するに……拷問による洗脳が終わった新しい連中は」

「つまり、残っているのはその……『新人』と元々の戦力ということか?」

「まぁ、推理に過ぎないけど」

 

 それなら分からなくもない。

 戦力として一応数えられるが、外に出せばまだ逃げ出す可能性がある。

 そういった『新人』を確実に手元に残すには、『新人』に確実に手を汚させる必要がある。

 

「多分、どこかの建物に立て籠もっていると思う」

「『新人』の監視と教育のためか」

「それに、やり方によっては少人数で効果的にこちらの退路を塞げる」

 

 というわけでプレストン。正確にはミニッツメンの皆さん。

 

 ……装備、変えない?

 いやもうこの際そのレーザーマスケットはいいよ。

 射程はあるし、3,4人で並んで一斉発射すりゃ強いだろうけどさ。

 

 でも一発ずつしか撃てないじゃん。

 威力を高める改造は出来ても連射は出来ないじゃん。

 

 せめて屋内戦に備えて拳銃くらいは腰に差していて欲しい。

 もうこの際パイプピストルでいいからさ。

 物陰に身を隠した相手の頭抑えられるくらいの制圧力持った武器を持ち歩かない?

 

(――って、言えたらいいんだけど……どうもあのマスケットはミニッツメンのトレードマークみたいだしなぁ)

 

「それらしい所を見たら、ミニッツメンは一旦下がってくれ。壁役も兼ねて、俺が最前線を受け持つ」

 

 俺ならやろうと思えば弾丸を見て避ける事もできるし最適解だろう。

 実弾なら見てから避けることも出来るし、仮になにかの間違いでレーザー兵器持っててもこの体なら多少は耐えられるはずだ。

 カウンティー・クロッシング周囲の一件でルーカスから報酬代わりにもらったアーマーも、それに耐性がある奴だ。

 

 被弾したことないから、直撃もらってどんくらいのダメージになるかは分からないけど。

 

「……なぁ、ロスト」

「ん?」

「君は今、流れの傭兵だったな。どうだ? この件を乗り切れたら、ミニッツメンに来ないか?」

「……ん~~~~~~~」

 

 とりあえず、この件終わらせて、ちゃんと探偵と話合ってからだな。

 

 というかさ、予想しないじゃん。

 入れ違いで探偵が出かけてしまってるなんてさ。

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

 

「……舐められてんのかな」

 

 一度、交代で見張りをしながら夜を過ごしたりしてたどり着いた、人の気配がする建物を発見した。

 そこの壁には、拾ったのだろうペンキで「Free Water!」「Welcome trader!」なんて書かれていた。

 入り口を示す矢印と共にだ。馬鹿か?

 

「なぁ、その……エマ、ジョシュ、奴らはこの中に?」

 

 偵察役を買って出てくれたミニッツメンに声をかけると、彼らは自信満々に頷く。

 

「ええ、間違いないわ。連中の一人が中に入るのを確認した」

「それに、そこまで古くない血痕がこの周囲にチラホラあった。弾痕もだ」

「……何人か襲ったか」

 

 どういう拷問をしていたかは聞いている。

 生皮剥がすような分かりやすい物から、鼠を捕まえて対象の腹の上に置いて金属ボールを被せて、その金属ボールの上で火を付けたそうだ。

 

 熱を恐れた鼠は逃げようとするが、金属のボールを突破できない。

 すると、柔らかい所を掘って逃げようとする。

 つまり、腹を食い破ろうとする。

 

 恐怖を植え付けるために、捕えられたトレーダーの一人がその方法で、他の皆の目の前で殺されたらしい。

 

(……今まさに、レイダーへと教育中かもしれないな)

 

 聴覚,並びに視覚センサーを最大まで上げて建物へと目をやる。

 ……叫び声の類は聞こえないが、確かにそこに誰かがいる。

 

「プレストン」

「なんだ?」

「話していた通りミニッツメンの面々と一緒に、周囲の警戒を頼んでいいか?」

「なんだって?」

 

 プレストンは頷いてくれたんだが、ミニッツメンの一人――ジョシュが驚いて……いや、ちょっと不満そうな顔をしている。

 

「まさか、一人で乗りこむつもりか? 俺達がいるんだぞ?」

「そうじゃない、聞いてくれ皆」

 

 いや、あからさまに中狭そうだから、数いるとかえって邪魔だなって言うのもあるけど!

 

「もし本当にあそこが敵の今の拠点なら、仮に突入した時に他の所から逃げられる可能性がある」

「……退路を確保してあると」

「あるいは、俺が突入した後に出入口を固める奴らがいるかも」

 

 いやまぁ、いるかもというか間違いなくいるんだが。

 対象の建物の隣に、アンブッシュしてる連中がいるのが分かる。

 この人造人間ボディは伊達ではないのだ。

 装填音くらい、これだけ離れていてもしっかり聞こえる。

 

(パイプ銃の装填音じゃないな……ちょっといい装備を持った連中がいる)

 

 金属の摩擦音が軽くなかった。多分、トレーダーの商品で武装したんだろう。

 

 本当なら今頃安全な壁の中で、同類の探偵と未来について話し合ってるハズだったのが、実際はこうしてドンパチの話し合いとは泣けてくる。

 

 しかもあの探偵、どうも例の水の件でバンカーヒルに旅立っていたらしくてすれ違い。

 しばらくはダイヤモンドシティの中で小銭稼ぐしかないとか……。

 

 ナット、パイパー、いっそ俺を印刷機の整備士みたいな役職で雇わないか?

 

「俺が建物の中を荒らして鼠共を追い出す――あるいは呼び寄せる。多分、その時真っ先に動くだろうそいつらは例の……あぁ、判事だったか? そいつの手持ちの中の古参組だと思う。つまり……」

「精鋭ってこと?」

 

 唯一の女性兵のエマの発言に頷いて見せると、他のミニッツメンもある程度納得したようだ。

 

「よし、分かったな皆? まずはロストが攪乱する。俺とエマは見つからないように移動して、反対側を押さえる。ジョシュとアンソニーはここで待機。それぞれ怪しい奴を見かけたら撃て」

 

「「「了解」」」

 

 よし、決まり。

 それじゃあ行くか。

 クリケット姐さんへの、ちょうどいい土産話を作りに行くとしよう。

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

 

(うん、ひょっとしたら違うレイダー集団の拠点だったかもしれないと思ってたけど……これは当たりだ)

 

 入っていきなり仕掛けられていたワイヤートラップを解除し、もし引っかかったらぶっ放されていただろうダブルバレルのショットガンも取り外してから一番手前の部屋の鳶をそっと開けて覗くと、腹部が抉られて血まみれになっている女性の死体が目に入ってきた。

 

(例の鼠の拷問を食らったのか。ここでもやってるって事は、どこかに誘拐された人間が他にいるハズだな……)

 

 よく見ると、顎が無くなってる死体や、顔を焼かれた死体がその周囲に転がっている。

 全員拷問に耐えられなかったのか。

 

(死体置き場ってかゴミ捨て場みたいだな……いや待て、ってことは)

 

 視線を上の方へと向けるとそこは割と大きな穴が開いていて、少しだが上の階の様子が分かる。

 

(檻っぽいのがあるな。上は収容所兼拷問部屋――)

 

 

 

――そこにいるのは誰だ!!

 

 

 

(来たか!)

 

 上から撃たれかねないためにそこを飛びのき、通路へと目をやると物陰から二人飛び出してきた。

 

(VATS不要!)

 

 44.マグナムを引き抜き、二連射。

 それぞれ真っすぐに、飛び出してきた二人が引き金を引く前にその頭を吹っ飛ばす。

 

「ジャックポットだ! お次はまだか!?」

 

 いつもの10mmではなくマグナムを使ったのは、ひとつにデカい音を立てて外の連中――敵にも、プレストン達にも開戦を知らせるため。

 

 そしてもう一個は、いるかもしれない拷問による教育が終わったばかりの連中をビビらせるためだ。

 

「戦う気がないなら銃を捨てて隠れていろ!」

 

 もし銃を捨てて投降してくれたのならば、なんとか助けたい。

 

 外からレーザーマスケットの独特な射撃音がした。

 入口を押さえようとした連中を、プレストン達が押さえてくれているんだろう。

 

 上から怒号とバタバタ足音がする。

 

(リコンセンサー起動、足音の発生源にタグ付け)

 

 自分は仕事上屋外での戦闘が多かったが、屋内戦の方が得意かもしれない。

 一度に出てくる数が限られているのならば、仮にVATSを使う場面があったとしても負担が少ない。

 

 アストリンと出会ったあの軍施設のようにそこそこ広い所だと話は変わるが、普通の建物ならば背後さえ確保されていれば問題ない。

 

(まぁ、そういうこと考えてると背後から襲われるんだけどな)

 

 

――死ね! 死ね! 死んでくれぇぇぇぇぇぇっ!!

 

 

 通路を突き進んで上へ上がろうとしたら、階段の所で弾幕を張られていた。

 パイプライフルじゃない、サブマシンガン持ちが1名。

 狙いは全くあれだけど、うっとうしい事この上ない。

 

「足止めか」

 

 先ほど覗いていた部屋から重い物が落ちた音がする。

 死体の上に落ちるのは避けると勝手に思っていたが、考えたらその程度で止まる連中じゃないか。

 

(リコンセンサー再計測、移動している音源の数……8)

 

 幸い壁は古く、薄く、そして俺の手元に勝利の女神(姐さん)特製のマグナムがある。

 

「そこっ」

 

 音源に付けて視界に映るタグを目安に、壁越しにマグナムを一気に叩き込む。

 最初の数発は壁に阻まれるが、それで更に脆くなった壁を抜いた弾丸が、遮られた視界の先にいたターゲットを貫いたのが音で分かる。またもやジャックポットだ。

 

(万が一、今のルートを通って外に逃げようとしてもミニッツメンが待ち伏せしてる。だったらさっさと上を押さえるべきか)

 

 念のために、緊急時の退却用に持っている地雷のスイッチを入れて部屋の入口辺りに放り投げてマグナムを構える。

 ……弾幕が厚くなった。増員が来たか。

 

(今1人倒して残り7。上でマシンガンばら撒いているのが多分2人)

 

 一番怖いのは捕まえている人間を盾にされることだけどその様子はない。

 それもそうか、連中からすれば大事な戦力候補だ。

 

(さっさと上を押さえるか。VATS起動)

 

 オートターゲットをオフ、精密射撃モード過去の経験データから10mm拳銃の弾道を予測、目標、階段手すりの金具を経由したenemy05(上層の敵のうち1名)。インサイト!

 

「落ちろっ!」

 

 マグナムじゃ威力がありすぎるし計測するにはデータが足りない。

 空気の抜けるような音とほぼ同時に階段折り返し部分の手すり飾り――金属製のそこに火花が散り、そして更に上の方で、肉が貫かれる鈍い音がする。

 

 

――え、あ……?

 

 

 着弾は間違いない。床に倒れ込む音がした。ただ生死は不明。

 

 段差ではなく、壁と手すりの柱を左右交互に蹴って踊り場まで一気に駆け上がり、呆気に取られている男の眉間を狙ってもう二発。ついでに倒れている奴の頭にも二発ぶち込んでおく。

 

「……よし、死んだな」

 

 外からレーザーの音も消えた。

 あの面子が負けるとは思えんし、とりあえず片づけて念のために包囲を維持している感じか。

 

 さて、あとは……

 

 

――面白いな、貴様

 

 

 ……来たか。

 

 入口にわざわざ生首を飾っている部屋から、4人のレイダーを引き連れた男が出てきた。

 無駄に貫禄のある男だ。

 

「お前が『判事』か?」

 

 返事の代わりに、四人がそれぞれ得物を構える。

 とっさに目の前の部屋のドアを蹴破って中に飛び込むのと同時にサブマシンガンやらショットガンの弾丸が轟音を立てて吹き荒れる。

 

「貴様は、他の手ぬるい連中とは違う。勇気ある者だ。俺が求める勇者だ」

 

 

 

「俺の下に来い、勇者。お前ほどの勇者を使いこなせるのは、このゼラーだけだ」

 

 黙れサイコ野郎。

 勇者ってなんだよ。勇者がいるっていうんならついでに魔王も連れてこい。

 

「違うぞ、自称判事の拷問狂」

「なに?」

 

 

「俺を使いこなせるのは俺自身か、いい女のどちらかなのさ」

 

 

 




レーザーマスケットは正直スナイプ以外で運用したことがないですね……
結構あのデザインは好きなんですが……その、普段使いにはちょっと(

大体いっつもスプレー・アンド・プレイかオーバーシアーが主力になる

熟練将軍の方いらっしゃいましたら、ぜひバニラマスケットの使い方教えてください……


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016:決意

「プレストン! 隣からさらに出てきた! レイダーよ!」

「分かっている、手を休めるな!」

 

 建物の中の銃声が一瞬途切れた瞬間に、さらにワラワラとレイダーの集団が現れた。

 むろん、例のゼラー軍である。

 

「どうなっているの……準備が良すぎる!」

 

 レイダーは当然ながら、略奪でしか物資を補給出来ない。

 下手に強そうな人間や、数の多い人間を襲うと人員が減る可能性も高いし、医薬品も消耗――最悪全滅する。

 

 そのため襲うのは個人のトレーダーや、少人数で運営しているファームが主で、そこで手に入る銃弾なんてたかが知れている。

 

 にも拘わらず、今ミニッツメンが戦っているレイダーは、まるで弾薬を湯水のように使っている。

 

「エマ、物影から頭を出すな。落ち着いて、確実に数を減らしていこう」

 

 反対側でも音がしているという事は、そこそこの数が分かれた仲間を襲っているのだろうとプレストンは判断する。

 そして反撃の音からして、二人ともまだ無事だと。

 

「クランク数は最低にしておけ。とにかくしっかり当てて行けば負けはない」

「分かったわ。……彼の方は大丈夫かしら?」

 

 一方でミニッツメンは皆、今回の一件の発端となった男の身を案じていた。

 突然名を上げ始めたガンマン。

 

 バンカーヒルのキャラバンを守るガード達が、『最高』の一人と声を揃えて語る男。

 

 曰く、銃を持たせれば一発で確実にレイダーを仕留める。

 

 曰く、銃弾の雨の中を何でもないように歩いて一発も被弾しなかった。

 

 曰く、ホルスターの中の銃に手を掛けた瞬間、完全装備のガンナーの一団全員の頭に穴が開いた。

 

 普通に考えれば箔付のハッタリが独り歩きしたと考える所だが、ミニッツメンは実際にその実力を見ている。

 

 物陰から飛び出したばかりのモングレルドッグが、次の瞬間頭が無くなった状態で自分たちの目の前に力なく落下したのを。

 

 高所に潜んでこちらを狙っていたはぐれレイダーが、まず一人殺そうと身を乗り出した瞬間額に穴が開いて目の前に落ちてきたのを。

 

 今回の発端となった大量のグールとの戦闘でも、拷問で心がボロボロになっていたセキュリティが 気力を取り戻すほどに鮮やかで、力強かったと言う。

 

 大本である判事と呼ばれているレイダーが籠っているのだろう建物からは、先ほどから銃声が続いている。

 銃声が続いているという事は、やはり交戦中という事だ。

 

「……ロスト、まだか?」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「……おかしい」

 

 部屋の中に逃げ込み、壁だけじゃあ不安だから更に盾になりそうなベッドを引き上げてその影に隠れたが正解だったな。

 

「弾が切れる気配が全然ない。……あの判事とか言う奴、どこでどうやって弾薬を補充した?」

 

 あれかな。顔の知られてない普通っぽい奴にキャップ持たせてダイヤモンドシティかグッドネイバーで弾薬買ったとか?

 

 

――どうした勇者! お前の腕はこの程度の攻撃で止まるものではないだろう! 立ち上がれ! 

 

 

 

――そして立ち向かえ! この私に! そして(くだ)れ! この私に! このゼラーに!

 

 

(いや、あれにそんな頭はないな……)

 

 無駄に拷問知識は持っているようだけど、コイツは典型的な奪う事しか知らないタイプだわ。

 

(パイプ銃ご用達の.38弾ならまだわからんでもないが……45弾とかコイツらどこでこれだけ手に入れた?)

 

 珍しい弾ではない。

 主にグッドネイバーのギャングが好むサブマシンガン用の弾だ。

 クリケットの姐さんの主力商品だし、グッドネイバーやダイヤモンドシティでもそこそこ売っている。

 

(カーラも向こうでよく売り捌いているって言ってたしな)

 

 だが、これだけ長々と弾幕張るほどの45弾となると……キャップ4ケタは普通にいくだろう量だ。

 それだけのものをこうも無駄に使うとなると……。

 

(誰かが裏にいる。目的は分からないけど、コイツラの補給を請け負ってる奴が)

 

 出来る事ならばこのレイダー達を捕まえて全部吐かせてみたい所だが、その余裕はない。

 

(タグの移動は見られず。マジでこのまま撃ちまくって俺をあぶり出すつもりか)

 

 部屋に飛び込む前に起動していたリコンセンサーでタグ付けしていたゼラーとその取り巻きに、動く様子は見られない。

 

(普通のレイダーならとっくに一人二人くらいは部屋の入口側に回ると思うんけどな)

 

 というか、あまりに動きがなさすぎる。

 ついでに言えば、マガジンの交換も少し遅い。

 

(使い慣れていないって所か。普段はパイプ系ばっか使ってたって感じか?)

 

 となれば、この弾幕は訓練の一種かもしれない。

 そうか、判事が直々に率いているから古参とは限らないか。

 むしろゼラー本人が睨みを利かせて新米を仕上げる方が効率的だ。

 

(で、教材が俺か。いや、俺レベルは予想外だったんだろうが)

 

 言っちゃ悪いが、これが並みのガードやミニッツメンならもう死んでいただろう。

 アストリンくらいの腕があってようやく切り抜けられる、それくらいにはこの狭い屋内での戦闘は難易度が高い。

 身を隠す場所も限られているし、その場所もだいぶ脆くなっている。

 爆発物の一つでも投げられたら即アウトだ。

 自分ならば爆発物自体に銃弾当てて爆発させられるだろうが……。

 

(人を操るには、罪を犯させて罪悪感抱かせるのが一番だからなぁ。殺しが最初の第一歩か)

 

 レイダーみたく何度も殺人をしている連中でも、『一緒に殺人を行う』という行為は大事だ。

 なんとなく、理解はできる。

 

「……うん。ここで確実に終わらせよう」

 

 二人ほどマガジンの装填を行わなかったレイダーがいる。

 装填の音がしていたタイミングで、布と皮が固い物でこすれる音がした。

 

 拳銃を抜いたか。

 

 仕掛けてくるな。

 

(まずは牽制)

 

 マグナムで狙いを定めて、先ほどと同じように壁越しにぶち抜く。

 頭を狙うのは難しい。狙いは胴体。発射。

 

 轟音と共に壁にいびつな穴が開き、半開きだったドアを押し開ける様に、胸に赤い穴が開いた男が倒れ込んでくる。

 その後ろにいた拳銃――10mm拳銃なんて豪勢な物を持っている奴が二の足を踏んでいる。

 

(VATS待機、一気に決着をつける)

 

 後ろにいた4人とは別にゾロゾロ動き出した連中がいる。

 おそらく、こいつらが精鋭だろう。

 

(音源確認、想定人数計8)

 

 だが、敵は人間だ。

 成長、変異の具合によっては弾を数発当てた所で止まらないミュータントとは違う。

 

(リコンセンサー起動、チェック開始……完了。VATS起動)

 

 目標は呆けている奴だ。

 あぁ、目を見たらすぐに分かる。

 人を撃ったことがない奴だ。撃たずに済んでいた奴だ。

 

 それに耳が片方ちぎれている。拷問の跡だ。

 こいつは、心が折れてしまった一般人なんだろう。

 

「すまん」

 

 この距離でこの判断の遅さなら、VATSは使うまでもない。

 だが、ミリのズレも起こしたくなかった。

 

(精密射撃モード同時起動、ターゲット……インサイト)

 

 一番確実に、額――脳幹を撃ち抜いて、痛みもなく即死させたかった。

 

 引き金を引くと、10mmの方ではまずない衝撃が右腕に響く。

 それと同時に、一切の断末魔もなく――男は肉の塊になる。

 

「……安心しろ」

 

 お前をそうさせてしまった馬鹿共は、俺が全員地獄に叩き込んでやる。

 

(接近警報確認、数2)

 

 左手で10mmを引き抜き、部屋を飛び出す。

 そこにいたゴルフクラブや適当な板に有刺鉄線巻きつけたモノを手にしてる連中に10mm弾をお見舞いする。

 額に、その脳幹に一発だけ。

 

「残り5」

 

 廊下に飛び出した途端に、他の部屋に身を隠しながら狙ってる連中がサブマシンガンを乱射してくる。

 

(視覚センサー計測処理レベルを2.0から2.5に、聴覚センサーを1.5から3.0に調整。軌道予測データ……取得、最適行動予測計算……完了)

 

 サブマシンガンはとにかく連射性能に優れた武器だが、弱点として弾速がやや遅い。

 自分の目と耳なら、高低差も特にない所で2,3人の弾幕を張られてもこうして歩いていける(・・・・・・)

 

「う……そだ……うそだうそだうそだ!」

「当たれ! 当たれ当たれ当たってくれっ! じゃないと……じゃないと……っ!」

 

(構え方がなってない。コイツらも撃ち慣れていないクチか)

 

 戦前の建物とはいえそこまで大きい建物じゃない。

 十数歩も歩けば目の前までたどり着く。

 

「動くと苦しむぞ」

 

 まぁ、動く前に殺してやるが。

 左手の10mmを二回、右手のマグナムを一回ぶっ放してそれぞれ頭を撃ち抜く。

 

 断末魔が聞こえない事に少しホッとする。

 こういう連中の死に際の言葉なんて聞いたら、さすがの自分もしばらく寝れない気がする。

 

 更に一人、一番奥の部屋に気配があったからマグナムで撃ち抜く。

 こっちは配慮の必要がない。おそらく判事のお付きだ。

 

 苦しもうがそうでなかろうが、死んでくれればそれでいい。

 

 奥までたどり着き、上半分が崩れているドアを蹴り破る。

 

「来たか、勇者」

 

 もうホントこいつなんなんだよ。

 無駄に堂々としやがって……さっさと撃ち殺してやろうかとも思ったけど――

 

「一つ、聞きたいことがある」

「なんだ、勇者」

「お前ら、弾薬をどうやって補給した?」

 

 これだ。コイツラの奇妙なまでに潤沢な弾薬と武器。

 間違いなく、補給を担ってるやつがいる。

 善人を装える奴ならともかく、このどう見てもネジ吹っ飛んでいる野郎と取引している奴がいるなら、ソイツもどうにかしないとまたゼラー軍みたいな組織が再編される可能性がある。

 

「……軟弱者はいつも頭数しか気にしない。2,3人ほど多ければ勝ち目はあると勘違いする」

 

 ええからはよ。

 

「そうだ勇者。弾薬に関しては気にすることはない。お前が己の能力を生かすのに十分な環境を、この判事が整えた」

「……思った以上に潤沢か」

「ああ、そうだ」

 

 

 

「このゼラーの後ろには、バンカーヒル(・・・・・)がついている」

 

 

 …………。

 

 

 お前、今なんつった。

 

 

「そう、バンカーヒルだ。あそこの女と取引をした。勢力を拡大して、奴らの販路に拠点を移せばさらに弾薬が手に入る」

 

 

「そうすれば我がゼラー軍はさらに強靭に、さらに頑強になる! いずれはバンカーヒルも制圧し、この時代を乗り越える力を――」

 

 気が付いたら、装填したばかりのマグナムを四発叩き込んでいた。

 頭に二発。心臓に二発。

 ボスらしく話を聞いてやろうかとも思ったがコイツは駄目だ。

 ここで今絶対に死んでもらわないと困る奴だ。

 

 こんなことになるとは思っていなかったが、俺だけで乗り込んでいて正解だった。

 ミニッツメンは来ていないだろうが、一言も発さず崩れ落ちた元判事に念のため10mmをもう二発撃ちこんでおく。

 

(……女、だと)

 

 一瞬銃弾の販売を扱うクリケットの姐さんかと思ったが、違う。

 あの人はエキセントリックな発言をするだけで、それなりに筋や道理を弁えている人だ。

 後いる女は……カーラは除いて医者のケイに娘のメグ、雑貨店のデブ、ストックトンの娘のアメリア……そして、

 

「……ケスラー」

 

 アンタか?

 確かにどこかのレイダーと繋ぎを持ってるって話は聞いていた。

 だけど、ここまでのイカレ野郎の援助なんて、正直どうかしているとしか思えない。

 

(というかよぉ……姉御、意味分かってるのかい?)

 

 外からはまだ銃声がする。

 プレストン達がまた戦い始めたって事は、外にまだゼラー軍がいる。

 バンカーヒルが(・・・・・・・)育てたレイダーがいる(・・・・・・・・・・)

 

 部屋の一部、壁が崩壊している部分から外を覗くと、やはりそれなりの数のゼラー軍がチラホラいた。

 プレストンが何人かマスケットで仕留めているが、相手の位置が悪い所でばらけていて応戦に苦慮している。

 

「リコンセンサー、再起動。補足(タグ付け)開始」

 

 もう決まりだ。俺はバンカーヒルから離れる。

 ケスラーの姉御とは話をしなきゃならんから一度戻るが、バンカーヒルを家にするのはそれが最後だ。

 

 ただ、それでも世話になったのは確かだ。

 サヴォルディ親子には寝床と飯、それに酒を出してもらったしケイはいつもスティムパックを始めとする医薬品を売ってくれたし、娘のメグは遊んでくれた。

 

 これが真実ならばバンカーヒルに汚点のけじめは必要だ。

 だけど、この汚点をいたずらに広げるのも……上手い単語が見つからないが、強いて言うなら俺なりの『義』に反する。

 

「VATS起動。目標(ターゲット)ゼラー軍(All enemy)

 

 せめて、バンカーヒルが危うく育ててしまう所だったこの狂気の略奪者は俺が止めよう。

 ミニッツメンでもセキュリティでもなく、俺が止めなくちゃいけない。

 

「インサイト」

 



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