気がつけばVの者 (魔女理化)
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初配信


 


 ピピピと枕元から朝6時を知らせるアラームが流れてくる。

 俺こと白川裕也は慣れた手付きでそれを止めると、ふぁと小さくあくびする。

 高校生がこんな早く起きるなんて部活の朝練か? と思われるかもしれない。

 だが、俺は部活や習い事はやっていない。ではなぜこんな早く起きるのか、それは朝食、昼飯の準備が必要だからだ。

 正確には弁当作りとその後片付けだな。

 うちには母親がいない。俺が中一の時に事故で死んだ。父親は毎日仕事で疲れ切っていて家事なんてやってられない。そして妹もいるが俺の3つ下。家事なんて当時の妹にやらせられない。

 そんなわけでこの家の家事は俺が全部やってる。

 朝は2人の弁当と自分の弁当プラス朝食。放課後は洗濯と洗い物とその他諸々。休日もあんまり変わらない。強いて言うなら時間ができるから食事が少し手が混むぐらいだ。

 高校生にして青春を捨てた枯れた生活だと言われるかもしれないが、俺は充実してるし毎日が楽しいつもりだ。

 そんなわけで今日も一日頑張るぞと気合を入れる。ーーーーそう俺はこの日が自分の人生の転換期になるなんてまったく予想もしていなかった。

 

 それは当然妹が渡してきた一枚の紙だった。

 

「これなんだ?」

「いいから読んで」

 

 事情を聞いても頑なに紙を読めとゴリ押してくる妹。根負けした俺はとりあえず渡された紙に目を通す。

 

「えーと、なになに……一次審査合格通知書 白川裕也様。株式会社レインボー……ん? 合格通知書!?」

「おめでとうお兄ちゃん!」

 

 妹は満面の笑みでお祝いしてくるが、当の本人である俺は頭が?でいっぱいである。

 

「何だこれ? まさか勝手にアイドル事務所にでも応募したのか?」

「違うよ。アイドルじゃなくてVtuberだよ」

「ぶいちゅーばー?」

「お兄ちゃんって本当に高校生? 実は転生した元おっさんなんじゃないの?」

「失礼だな妹よ」

 

 流行りに疎いのは認めるがおっさん扱いはないだろう。まだ酒もタバコもダメなビッチピチの高校生だぞ⭐︎。

 

「YouTubeってあるでしょ? あれで生計を立てるのがYouTuber。それでアニメみたいに絵を通じて配信なんかをするのがVtuber」

「??」

 

 YouTuberは何となく分かる。ヒカ◯ンとかはじ◯しゃちょーなどが代表的で、テレビでもちょくちょく見てる。

 しかし、アニメみたいにと言われてもあまりイメージ湧かないな……。

 ピンときていない様子の俺に痺れを切らしたのか、妹は携帯を取り出して画面を見せてきた。

 そこには可愛い女の子のイラストが泣いたり笑ったりと動きながら喋っていたのだ。

 

「はい、これがVtuber」

「お、おう。なるほど……」

「それでそのVtuberの事務所にお兄ちゃんを応募したってわけ」

「どうしてそうなった」

「ちゃんとお父さんの許可は取ったよ!」

「俺の意思という名の許可は!?」

 

 というか親父もグルかい! まあ当然か。未成年が保護者の同意なしに応募したりできるはずないからな。あの野郎、明日の弁当のオカズをピーマンの肉詰めにしてやる。

 2人のアホな行為に呆れが止まらず頭を抱えてしまう。

 

「あのなぁ……」

「強引なやり方でごめんね。でもこうでもしないとお兄ちゃんがママ業を理由に断ると思ったから」

 

 妹は申し訳なさそうにいう。

 たしかに妹が部活とか習い事を勧めるたびに俺は家事が忙しいのを理由に断ってきた。俺は別に苦には思ってないが、妹としては俺に家事を任せるのは負い目だったのだろ。

 それに妹に泣きそうな顔をされて怒れる兄貴などいるはずがない。俺は頭に手をおくと痛くならないように撫でた。

 

「別に怒ってないよ。ただ、次からこういうことする時は一言言ってくれよ?」

「うん、ごめんなさい」

「謝れてよし」

「お兄ちゃん二次審査はどうする? 気乗りしないなら辞退でもいいけど……」

「せっかく美雨がくれたチャンスだからな、挑戦だけしてみるよ」

 

 今更だが、妹の名前は美雨という。

 そう言うと妹は目にわかるように喜んだ。

 

「本当!?」

「ああ。まあ、受けるだけな。できるだけ頑張るよ」

「うん! 頑張ってお兄ちゃん!」

 

 妹には悪いがたぶん落ちるだろう。なんせ俺はVtuberの存在すら知らなかった人間だ。それに大それた特技もない。

 まあ、受けた上でダメなら妹も諦めるだろうな。

 

 

 □

 

 

 【初配信】はじめまして、私がジル=ホワイトだ。

 

 コメント わくわく

 コメント カッコいい顔やな!

 コメント よっしゃ! 正統派や! 

 コメント と言い続けて数年目

 コメント どうせそのうちレインボーに染まるんやぞ

 コメント あれ? というかこれ……

 

 

 どうしてこうなった。

 待機場には開始十分前だというのに一万を超える視聴者。そして画面には綺麗な顔をした白髪のイケメンが映されている。これが俺である。

 そう俺はあの後二次審査をパスして、なんと最終審査もパスしてしまったのだ。

 いやおかしいだろ。噂では今回の応募にはそこそこ名のある配信者の人もいたらしい。なのに配信経験もない俺をなぜ合格させた。

 いまだに機材の扱いもままならず、マネージャーさんの指導をうけて何とか配信枠をとったりする醜態ぶりだ。意味がわからない。

 ……まあ、受かってしまったものは仕方ない。やるからには本気でやるべきか。

 そう心に誓いつつ俺はジル=ホワイトの設定の確認をする。

 なんでもVtuberというのはキャラごとに設定が付けられており、それに応じて配信を行う、いわゆるロールプレイというのをするらしい。

 俺のキャラは異世界を救った勇者で、その戦いで命を落とし現代に転生したんだとか。壮大な人生だ。高校生で主夫ムーブ決めてる俺とは大違いである。

 

「えーと。私はジル=ホワイトだ。諸君よろしく頼む……うわぁ、初対面のやつにこんなこと言われたら殴りたくなるな……」

 

 勇者だが、元は王子なので少し話し方が偉そうらしい。設定が細かいな。

 開始5分前流石に緊張する。

 

「ふう。頑張ろう。期待してくれている人のためにも全力を尽くさなければ不敬というものだ」

 

 なんて小さく拳を握っているとマナーモードにしておいた携帯に大量の着信が来ていることに気がついた。

 表示はマネージャーとなっていた。

 

「え、なにこわい」

 

 困惑しつつ電話に出ると、焦った様子のマネージャーが。

 

『し……ジルさん! 配信始まってます!』

「……は?」

 

 血の気が引くのを感じながら、コメント欄を確認する。

 

 

 コメント 初手設定否定は草

 コメント 放送事故wwww

コメント くっそワロタwwwwww

 コメント これがレインボークオリティ

 コメント やっぱレインボーよ

 

 やらかしたぁぁぁぁぁ!?

 どうやら俺はどこかで操作をミスって配信を始めてしまっていたようだ。いつからだ? 名前とか入ってないよな?

 

「ど、どうすれば!?」

『とりあえず、一回枠を閉じて再度別の枠を取り直しましょう。枠の閉じ方は分かりますか?」

「はい! そのすいません。俺のミスで一回枠を取り直します。せっかく集まっていただいたのに申し訳ございませんでした」

 

 コメント ええよええよ

 コメント 謝れてえらい

 コメント 流れるような謝罪コメント。貴様本当にレインボーか?

 コメント もはやキャラ設定忘れ去ってて草

 

 





 簡単な設定集

 ジル=ホワイト
 身長180 体重65
  異世界を救った勇者で、死後現代に転生した。元王子のため金使いは荒い、そのせいで金が足りなくなり、稼ぐためにVになる。
 特技は料理 必殺技は【雷光の斬撃(ライトニング・スラッシャー)】
 絵師 にくだんご

 レインボー
 V界隈では大手の事務所。一期生二期生三期生までいる。今回の主人公組は四期生。
 基本的にタレント全員が一癖二癖ある。そして事務所も特に止めないので、さすがレインボー、レインボークオリティなんて言葉ができてしまう。

 





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初配信?


 


 【初配信】はじめまして、私がジル=ホワイトだ

 

 コメント 初?

 コメント さっき同じタイトルの配信を見た気がするんだけどなぁ〜?

 コメント さっきの配信非公開になってるから実質これが初配信やぞ

 コメント フォローしようとして墓穴掘ってて草

 コメント お? 始まったか?

 

「改めましてはじめまして。俺の名前はジル=ホワイトです」

 

 コメント 意外にまともな入り

 コメント 一人称ぅ!

 コメント ロールプレイしなくてええの?

 

「もうやらかしまくってるし、いいかなって」

 

 コメント 草

 コメント さては貴様意外に図太いな

 コメント 初配信からロールプレイ放棄する新人がいるらしい

 コメント さすがレインボー

 

 色々言われているが、あんなやらかしの後にコテコテの演技する方がキツいっての。

 

 コメント 大丈夫? 怒られない?

 

「心配してくれてありがとう。大丈夫だ、マネージャーからは特に電話はきていない」

 

 コメント 電話がセーフラインの基準なのかよwww

 コメント まあ、先輩たちもその辺どこえやらって感じだし

 コメント 守ってるの邪眼竜くんぐらいだもんな

 コメント あの人はガチって言われてるから(震え声)

 

「そんなわけでたしか初配信で決めることがあるんだよな。えーと」

 

 コメント 配信タグ?

 コメント リスナーの呼び方もかな?

 コメント あとファンアートタグも!

 

「そうそう、それだ。さすがみんな詳しいな」

 

 コメントがお前がちゃんとしろい!で溢れかえった。みんなVに慣れているだけあって返しがこなれている。面白いな。

 

「さて、配信タグだが何か案はあるかな?」

 

 コメント 生ジル

 コメント フライングジル

 コメント ジル観察期

 

「まあ、生ジルでいいかな? フライングジル書いたやつ後で裏来いな?」

 

 傷を抉るな。俺としてはトラウマレベルだぞ。まあ、誰が悪いかと言われれば100%俺だけど。

 

「次にリスナーの呼び方だな」

 

 コメント ジル民(たみ)

 コメント シロ人

 コメント 配下

 

「ジル民かな……というか配下ってなんだよ。俺そんな偉くないぞ」

 

 コメント 君勇者では?

 コメント あなた元王子ですよね?

 コメント もはや忘れてて草

 

「残念でしたー。転生して今は金のないただの一般人ですー」

 

 そんな誇ることでもない。むしろ今の設定の方が酷い。

 

「ファンアートのタグだが……」

 

 コメント ホワイトアート

 コメント ジル画廊

 コメント 白の博物館

 

「ホワイトアートかな……」

 

 コメント じゃあ、見られたくないのはブラックアートだな

 コメント おけ

 コメント 決定!

 

 何かコメント欄で勝手に決まってるんだが? まあ、収まりがいいからいいけど。

 

「それじゃあ、残り時間は質問箱に届いていた質問に答えていくぞ」

 

 質問箱、通称マシュマロというやつだ。匿名で色々かけるので、なかなか沢山の質問をいただいた。

 

「まずこれか」

 

マシュマロ

『Vtuberになろうと思ったきっかけは?』

 

「気がついたら妹が勝手に事務所に応募してた」

 

 コメント 草

 コメント ジャ○ーズかな?

 

 いや、本当に驚いたからな? お前ら何人生苦労してないんですよアピールしてんだイケメンどもって思ってたけど、少し見直したからな。まあ、ちんこもげろぐらいは思ってるけど。

 

 コメント 妹かわいい?

 

「かわいいぞ。目に入れても痛くない」

 

 コメント シスコンで草

 コメント お兄さん! 妹さんを僕にください!

 

「は? ぶっ殺すぞ」

 

 コメント ガチトーンやん……

 コメント これはガチのシスコンだ。妹ものアニメを見尽くした俺には分かる! 

 コメント 現実見ろ

 

 何かコメントがざわついたが無視。妹は相応の男にしかやらん。

 

マシュマロ

『尊敬してるVtuberはいますか?』

 

「すまんが、応募されるまでこの世界のことは知らなかったからな。まだ勉強中だ」

 

 コメント 珍しいな

 コメント ここで知らんって言わないだけ常識がある

 

マシュマロ

『特技はありますか?』

 

「掃除・洗濯・料理」

 

 コメント 主婦かな? 

 コメント ゲームとかじゃないのかよw

 コメント ゲームは好きじゃない?

 

「あまりやったことない。だが、配信をやってく上でどこかで挑戦することはあるだろう」

 

マシュマロ

『友達いますか?』

 

「同年代はいないが、ママ友なら多いぞ」

 

 コメント ワロタ

 コメント いらないではなく、ママ友をカウントする……新しいな

 コメント どういうこと?

 

 これって言っていいのか? まあ、俺は気にしないからいいか。

 

「いや、俺の家母親がいなくてさ。代わりに俺が家のことやってるんだよ。だから、同級生と遊ぶ時間は取れなくて、事情を知ってるママさんが仲良くしてくれるんだ」

 

 コメント えぇ……

 コメント 突然重い話をぶっこむなと……

 コメント それは笑えんて……

 

「もう四年も前の話だ。特に気にしてないよ」

 

 コメント そんなもんなのか?

 コメント 意外に当事者は割り切ってるもんだ

 コメント むしろ気を遣われる方がつらい

 

「そういうこと。だから、遠慮せずコメントしてきていいぞ」

 

 コメント 妹ちゃんのスリーサイズおせーて

 

「それは許さん」

 

 コメント コメントは削除されました

 

 コメント くさwwww

 コメント 遠慮するなと言ったな? あれは嘘だ

 コメント まあ、普通にキモいので残当

 

マシュマロ

『明日から初配信する同期に言うことはありますか?』

 

「強いて言うなら配信事故には気をつけろ」

 

 コメント せやなwww

 コメント 実感がこもってますね

 コメント わろたwwww

 

 まあ、同期は配信経験があるらしいので俺よりは安心して見ていられるだろう。

 

「まあ、こんなところかな。そろそろ時間だし終わるか。それじゃあ、お疲れ」

 

 コメント 乙

 コメント というか終わりの挨拶決めてなくね? 

 コメント なんなら始まりの挨拶も決めてないな

 コメント これはまた初配信するしかないなwwww

 

 

その後Twitterで挨拶を募集する白髪イケメンの姿があったのはまた別の話。

 

 

 

 





 もうバレとると思うけど主人公はまあまあポンコツです。


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同期配信


 何か書きたくなったから書いた。多分これからはこんなペースの投稿はない。


 またもポンコツをやらかし肝を冷やした翌日、俺はパソコンの前に座っていた。

 目的は同期の初配信を見るためだ。特に俺は時間の都合が合わず同期の3人とは顔合わせが出来なかった分、この辺りは確認しておかなくてはならない。

 マネージャー曰くこの世界では同期は大切にするべきで、興味が薄かったり絡みが少なかったりすると不仲と言われてしまうらしい。世知辛い世界だ。

 

【初配信】我が名はまるめろ、青魔族随一の魔術師なり!

 

 コメント 久々の中ニ系か

 コメント 邪眼竜くん以来だな

 コメント ロリ、中ニ、眼帯……推せる!

 コメント といか名前ww

 

 コメントを見る限りビジュアルは好評のようだ。妹もかわいいかわいいと連呼していたし、V好きには刺さるビジュアルなのだろう。

 そんな感想を抱いていると配信が始まった。軽快な音楽と共に作り込まれたムービーが流れる。これはオープニングか? すごいな。

 コメントでも関心する声が多い。初配信でムービーを作るのは特殊らしい。

 

『くっくっくっ、我が名はまるめろ! 青魔族随一の魔術師にして、いずれは最強の魔術師になるもの!』

 

 コメント きたー! 

 コメント 声かわいい、変な名前だけど

 コメント ロリっ娘かわいい、変な名前だけど

 

『おい、褒めるのはいいが変な名前はやめてほしい。私は気に入っているんだ』

 

 コメント すまんやで

 コメント すいませんでした

 コメント 名前もかわいい!

 

 続々と謝罪コメントが流れ続ける。……なんか俺の時よりも優しい気がしないでもないが、俺が妹に優しいように女Vにはコメントも優しいのだろう。

 その後雑談はほどほどに絵師の話になった。

 

「私のママさんはあのクロイ先生なのです!」

 

 どうやら有名な絵師らしくコメントでも反響が大きかった。それに気をよくしたのか。

 

「クロイ先生は〜」

 

 その後延々と好きな絵師について語り尽くした。それは初配信終了の時間まで……。勿論配信タグやファンネームなども決めていない。立派な配信事故だった。

 うん、ヤベェやつだ。

 

 

 □

 

 

 翌日、俺はまた別の同期の初配信を見ていた。

 

【初配信】こんにちわー! 三笠光です!

 

 コメント ギャルか

 コメント オタクに優しい正統派元気娘とみた! 

 コメント 性癖語りはやめてもろて

 コメント 勇者、中2ときてギャルとはどういうコンセプトなん??

 

 一応、俺とまるめろは転生組。後の2人は現世組で4人は同級生というコンセプトらしい。それでもよく分からんが。

 なんて考えていたら配信が始まった。

 

『キモオタのみんなこんちわー。あたしは三笠光。よろしくね』

 

 コメント 初手キモオタ呼びは泣いた

 コメント オオオオオタクじゃねーし

 コメント キモいは否定しないの草

 コメント ちょっと興奮した。

 

 いきなりリスナーをディスるとか大丈夫なのか? まあ、ロールプレイの一環ならいいのか? 喜んでる人もいるし。

 その後は滞りなく話は進んでいったが、マシュマロ読みのところで。

 

マシュマロ

『彼氏はいたことある?』

 

『あるよー。たぶん10人くらい付き合ったかな〜』

 

 コメント ビッチで草

 コメント まさかのビッチギャル

 コメント 大丈夫なん?

 

『別にビッチじゃねーし。というか付き合ってただけでやると思ってんの? だから童貞なんだよ』

 

 コメント どどど童貞ちゃうわー!

 コメント 何やこいつ

 コメント うざ

 

 わりとネタコメントもあったが、ちらりほらりと批判的なコメントが目についた。

 どうやら彼女は炎上したらしい。まあ、当の本人はけろっとした様子でTwitterを更新しているが。

 初配信で炎上とは……こいつもヤベェやつだな。

 

 

 □

 

 

 何だか嫌な予感がするが、最後の同期の初配信である。

 

【初配信】こんにちは。加志駒令子です

 

 コメント 黒髪ロング……見た目は清楚だな

 コメント 騙されるな。どうせ色物やで

 コメント もはやみんな疑心暗鬼になってて草

 コメント さすがに清楚やろ……?

 

 どうやらリスナーも俺と同じく嫌な予感を覚えているようだ。

 そんなことを思っていると、配信が開始した。

 

『はじめまして、みなさんこんにちは。加志駒令子です』

 

 コメント 清楚や!

 コメント 俺は信じてたぜ!

 コメント 俺もや!

 コメント 手のひらくるっくるだな

 

『ふふ、みんなありがとう』

 

 令子が笑うとガシャ! と何かが落ちる雑音が混ざった。

 

 コメント 大丈夫?

 コメント 機材が何かが落ちたか

 

『ごめんね大丈夫よ。ダメよみーちゃん、イタズラしちゃ』

 

 コメント みーちゃん? 猫かな?

 コメント かわいい名前

 コメント 注意の仕方も清楚や

 

『違うよ。みーちゃんは猫じゃなくて、座敷童子なの』

 

 コメント へ?

 コメント どゆこと? 

 コメント 意味がわからないよ

 

『私の実家はね神社なの。だから私も小さな頃から霊感があって、色々憑いてくるの。時々雑音が入ると思うけど気にしないでね』

 

 コメント ひぇ……

 コメント 設定だよな??

 コメント トーンが普通すぎて、ガチ感がやばいんだが……

 

 その後配信はつつがなく終わったが、雑音が入る度にリスナーは恐怖していた。

 うん、ヤベェやつだ。

 

 

 □

 

 同期の配信を見終わった後、俺はこんなツイートをした。

 

『もしかして、俺の同期みんなヤベェやつ?』

 

 そうしたら、お前も十分ヤベェやつというリプが大量に返ってきた。解せん。

 

 

 

 





 まるめろ
 異世界から転生したという設定の魔術師のコスプレをした女の子。主人公は中2病を知らずに転生組と勘違いしてる。
 アニメや絵師、ラノベなどオタク。人見知り。

 三笠光
 実はゲームが得意。同期のキャラが濃すぎて若干焦ってる。炎上も表では平気なふりをしているが、めちゃくちゃ取り乱した。

 加志駒令子
 霊感少女。見た目は清楚。ホラーげーむ、ホラー映画全般好き。





 


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Vtuberについて知ろう!


 


 

 【同期やばくね?】非公式wikiというのを見てみる

 

 コメント タイトル草

 コメント 一部配信に関係ないやんwww

 コメント よっぽどお前もやばいって言われたの納得いかんかったんやろなぁ

 

「こんジル。レインボー所属ジル=ホワイトだ。久しぶりだな」

 

 コメント こんジル〜

 コメント そんな挨拶ありました? 

 コメント 記憶にないなぁ(棒)

 

「うるせぇ。初配信で忘れてたからTwitterで募集したんだよ。悪かったな」

 

 ちなみに終わりは乙ジルだ。ほらそこ、安直とか言わない。

 

 コメント 謝れてよし

 コメント 犬かな?

 コメント 悲報 勇者犬だった

 

「人を勝手に犬にするな! 何かお前ら始めより俺の扱い雑になってないか?」

 

 同期の時はあんなにかわいいだのうざいだのこわいだの言ってたのに。あれ? そんなに優しくない?

 

 コメント まあ、たしかに

 コメント 何となく雑でいいかなとは思ってる

 コメント 人柄や

 

「そうかよ。まあ、いいや。今日の配信だが、タイトルにもあるように非公式wikiを見てくぞ」

 

 コメント 何で?

 

「初配信でも言ったが俺はあまりVtuberに詳しくない。だが、ライバーになった以上まったく知らないってわけにはいかないからな。要は勉強だ」

 

 コメント 偉い

 コメント だからって何で非公式wikiやねんw

 コメント 公式ホームページをスルーする公式ライバー

 

「いや、マネージャーから業界のこと知るならwiki見るのが手っ取り早いっていうから……」

 

 コメント 草

 コメント 非公式wikiを勧める公式

 コメント さすがレインボー

 

 まあ、俺もどうかと思ったよ?

 雑談もほどほどにwikiを開くと、一番はじめにレインボー四期生が出てきた。

 最初はここから行くかね。

 

 

「まずはまるめろから行くか」

 

 まるめろ

 身長134cm 体重?

 異世界の青魔族という種族で魔術師をしていたという設定のコスプレ少女。中二病。衣装は自前で、目はカラコンを入れている。

 必殺技は【爆殺魔法{ぶらすたー)】

 

「お前コスプレだったのか!? というか中二病ってなんだ?」

 

 コメント この男同期の設定も知らない

 コメント お? 不仲か? 

 コメント 中二病知らんの?

 

「自分のことで手一杯だったんでな。同期にはディスコで挨拶くらいしかしてないよ。あと中二病は知らないな。流行り病か何かか?」

 

 コメント まあ、ある意味流行り病というか……

 コメント 邪眼、封印……うっ、頭が!

 コメント あんまりネット文化には詳しくない感じ?

 

「そうだな。ネットは料理レシピを調べるぐらいしか使ったことない」

 

 コメントは俺を天然記念物かなように言っていた。世間知らずの自覚はあるが、そんなに珍しいかな?

 中二病の部分のリンクに飛んでみると、どうやら思春期特有の妄想の総称らしい。なるほど、痛いな。だが、この痛さも一つの魅力なのだろう。

 次は三笠だ。

 

 三笠 光(みかさ ひかる)

 身長160cm 体重? 

 おしゃれやメイクが好きの今時高校生。ノリがよく周りが見えてる。実はゲーム好きで、ゲーム友達が欲しくてVになる。

 初配信でリスナーを煽り炎上した。

 

「まあ、あれは煽りすぎだわな」

 

 コメント フォローなし?

 

「フォローも何もないだろ。イジリとイジメが違うように相手が不快に思ったらそれはどんな思惑があってもダメだろ」

 

 コメント マトモな意見

 コメント せやな

 コメント というか触れるのかw

 

「触れたらまずいのか?」

 

 コメント あんまり他のライバーの炎上に触れる人いない

 コメント アフィカスとか対立煽りするアンチとかわくしな

 コメント よほど仲が良かったり、当事者が触れるくらいだな

 

 なるほど。たしかに余計なこと言って延焼することもあるし、二次災害に巻き込まれる可能性もあるしな。最悪相手にも迷惑をかけかねない。

 

「そんなもんか。まあ、次から気をつけるわ」

 

 話はそこそこに次に行く。加志駒だ。

 

 加志駒 令子(かしこま れいこ)

 身長154 体重?

 実家が神社で、幼い頃から霊感がある。ホラゲ、ホラー映画などが好き。一押しは死霊の盆踊り。

 部屋にはみーちゃんという座敷童子が住んでいるらしい。

 すでに配信中に物音が数回入っている。

 

「……まあ、特に言うことないな」

 

 コメント 逃げるな

 コメント ツッコミどころ満載やろがい!

 

 無視無視。触らぬ神に祟りなしと言ったところだ。神社だけに。

 最後は俺だ。

 

 

 ジル=ホワイト

 身長180 体重65

 異世界を救った勇者であり、その戦いにより死亡。死後、現代に転生した。元王子で金使いが荒い。お金を稼ぐためにライバーになる。特技は料理

 必殺技は『雷光の斬撃』

 初配信でフライングをかまして放送事故に。あだ名はフライング。なお、その配信は非公開になっている。

 

「いや誰?」

 

 コメント 誰?

 コメント 知らん人やなぁ

 コメント 隠された四期生か?

 コメント 本人も知らんくて草

 

「あと、あの放送事故だがたぶんそのうち公開されるぞ」

 

 コメント ま?

 コメント なんでやw

 コメント よく事務所が許したな

 

「いや、むしろ事務所側がノリノリで公開しろって言ってきたが?」

 

 コメント ワロタ

 コメント さすがレインボー

 コメント 公式が病気

 

 まあ、事務所的には個人情報さえ出てないなら問題ないらしい。大丈夫か、この事務所り

 その後先輩のwikiを読んで行ったのだが、気になることが多々あった。

 

「なぁ、何でみんな設定の下に設定よりも長い文章が載ってるんだ?」

 

 コメント レインボーやし

 コメント レインボーやからなぁ

 コメント レインボーなら当たり前

 

 何を今更当たり前のことをという反応だった。

 

「……もしかしてこの事務所やばい?」

 

 コメント せやで

 コメント 芸人と狂人の巣窟

 コメント なんなら、事務所が一番頭ぶっ飛んでる

 

 ちょっとだけこの事務所に入ったことを後悔した。

 

 

 □

 

 

 配信を終えた俺は寝る準備をしようとしている時だった。ディスコに通知が来た。

 見てみると四期生のサーバーからだった。

 

 三笠 四期生コラボやらない?

 

 この文を見た俺は少し顔を引き攣らせた。

 

 

 



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【間話】朝雑談


 短いけど、一応ストーリーつながってるので間話としておきます


 

 とある日、俺はこんなツイートをした。

 

『明日から平日は毎朝6時半から雑談配信をすることに決めた。ぜひ見に来てくれ』

 

 

 □

 

【朝雑談】よっ!

 

「おはジル! レインボー所属ジル=ホワイトだ。よろしくな」

 

 コメント おはジル

 コメント おはジル

 コメント 何で朝雑談なんだ?

 

「いい質問だ。俺の事情は前に話たと思うが、正直家事とか通学とかしてるととてもじゃないが配信する元気はない。だがらと言って平日配信をしないのはよくないからな。だから、準備をしながら雑談でもやってみるかということだ」

 

 コメント なるほど

 コメント 配信してくれるのは助かる

 コメント 俺たちのこと考えてくれるなんていい奴かよ

 

「だから雑音が入ると思うがあまり気にしないでくれ」

 

 コメント ちなみに今は何やってるの?

 

「今は家族の弁当を作ってる」

 

 そう答えながら卵をボールに入れると菜箸でかき混ぜ始める。

 

 コメント いい音だ

 コメント 本当に作ってるんやな

 コメント ごめん。ちょっとだけキャラ付けだと思ってたわ

 

「気にしてないぞ。俺も同級生に自分で作ってるって言っても信じてもらえなかったからな。やっぱり男が朝から料理ってのはイメージつかないみたいだな」

 

 コメントの大半もまあ、難しいよねといった感じだった。

 

 コメント ちなみに今日の献立は?

 

「今日は卵焼きとミニトマト、それにハンバーグだな」

 

 コメント うまそう!

 コメント 豪華やな

 

「実は少し配信を意識して豪華にした。いつもはもう少し簡単なものだぞ」

 

 コメント へぇー

 コメント 写真見たいなぁ

 コメント Twitter載せてくれない?

 

「写真をか? ちょっと待ってくれ、マネージャーに確認するから」

 

 起きてるかな? と思いつつマネージャーにメールする。するとすぐに返信が来た。顔バレとか反射に気をつければOK! ついでに私にもハンバーグくださいと来た。

 後半は無視した。

 

「どうなら大丈夫なようだ。配信が終わったら載せておく」

 

 コメント よっしゃ!

 コメント 楽しみ!

 

 そこからはたわいもない雑談をしつつ時間が過ぎていった。そして1時間が経った頃。

 

「それじゃあ今日はここまでかな? 時間は別に決めてないけど、大体1時間ぐらいを考えてる。また見に来てくれ」

 

 コメント 時間が決まってるのは社会人には助かる

 コメント またくるよ

 コメント また明日〜

 

「それと土曜日に四期生でコラボすることが決まった。何をやるかは決まっていないが、楽しみにしていてくれ」

 

 コメント マジで!?

 コメント うおおお! 初コラボだ!

 コメント 楽しみ!

 

「そんなところかな。それじゃあ、社会人、学生さんは通勤、通学頑張って。主婦さんも一日頑張ってくれ。乙ジル!」

 

 コメント そしてニートは惰眠を貪る

 コメント 乙ジル

 コメント 乙ジル

 

 この後Twitterに載せた料理写真はそこそこに好評だったらしく、料理単体の配信も待ってるとのことだった。

 





 


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四期生コラボ

【四期生コラボ】桃◯やるよ! アタシが余裕で一位だし〜

 

「オタクのみんなこんにちは〜。レインボー所属三笠光だよ★」

 

 まずはチャンネル主であり、このコラボの発起人である三笠が挨拶を始める。

 さすがにキモオタは運営から注意が入ったのか、リスナーの呼び方は少しマイルドになっていた。

 

 コメント 初手オタク呼びなのワロタ

 コメント これいいのか?

 コメント もはや慣れたぞ

 コメント むしろギャルにオタク呼びされるとか萌える

 

 とまぁ、マニアックな層から一定の支持を得てるらしい。

 

「今日はね、四期生のみんなと初コラボってことで取れ高とかは二の次で親睦を深められたらいいかな〜。はい、じゃあ自己紹介よろしく★」

 

 ここは前もって打ち合わせしてある。まるめろが二番手だ。

 

「我が名はまるめろ! 青魔族随一の魔術師にして、いずれは世界一の魔術師になるもの! くくく、この出会いは世界により定められたもの。今日が繚乱の宴とならんことを願うばかり」

「えーと、どゆこと★?」

「今日のコラボを楽しみにしていましたみたいなニュアンスじゃないか?」

 

 俺が言うとまるめろはコクリと首を縦にふる。どうやら、合っていたようだ。

 

「よく分かったね」

「まあ、何となくだけどな」

 

 コメント 何となくでもすごい

 コメント 同士たちですら理解できなかったのに

 コメント さすが勇者か

 

 一応同期の配信は見れる限り見ている。そのおかげで、まるめろの中二語録は30%くらい理解できるようになった。

 次は加志駒だ。

 

「こんれいー、加志駒令子です。私も四期生コラボ楽しみにしてました。ただ、そのせいなのかみーちゃんたちのテンションも高いから、いつもより雑音が入るかもしれないけど気にしないでね」

 

 と言った瞬間、ガシャりという音が聞こえて来る。

 

「「ひぃ」」

「まあ、兆候が見えたら極力ミュートしてくれ。いちいち驚かれても面倒だし」

「ふふ、分かりました」

「ジ、ジルは怖くないのですか?」

「さすがに目の前にいたら逃げるが、通話越しなら別にそうでもないな」

 

 コメント 通話越しでも十分怖いんですが……

 コメント 無理無理無理

 コメント 他の枠のリスナーは初々しいなぁ

 コメント 俺らはもはやその恐怖感がクセになってるからな

 

 コメント欄も阿鼻叫喚のようだった。一部加志駒のリスナーが達観した様子でいるが。

 最後に俺だ。

 

「こんジル! レインボー所属ジル=ホワイトだ。名前以外特に個性はないが、よろしくな」

 

 コメント 個性がないとは?

 コメント 霊耐性と中二適性を見せたやつが言うことか?

 コメント フライングしてロールプレイ放棄したやつが何か言ってら

 

「とりあえずフライングって言ったやつ裏こいや」

「はいはい、そこまで。今日はコラボなんだから、いつものノリでプロレス始めるなし」

「そこの2人も十分内輪ノリしてるだろ」

「2人は可愛いからおけ」

「贔屓もここまでくると清々しいな」

 

 まあ、せっかくのコラボなのに1人で視聴者と盛り上がるなってことだろうな。当然か。

 

「そらじゃあ改めて、タイトルにも書いてあるけど今日は桃◯をやってくよ〜★!」

「「おお〜」」

 

 コメント 親睦を深める??

 コメント 友情が壊れる代名詞なんだがw

 

 三笠が言ったように今日やるのは桃◯だ。

 基本は人生ゲームに似ている。物件を買って収益を得たり、指定された駅に行きお金をもらったりして、総資産が多い人間が勝利する。それにボンビーなど様々なイベントが用意されていて、最後まで勝負が分からないのが特徴で、ゲームの腕より運が鍵になるゲームだ。

 その性質上、終盤に独走していた人間が一気に転落して最下位になるのもザラで、結果的に喧嘩になるなんてこともなくはない。よって友情破壊ゲーなんて揶揄されるそうだ。

 今日は三年決戦モードで遊ぶ。まるめろが10年やろうなんて言いだしたが、多数決で否決となった。さすがに時間がかかりすぎるからな。

 

「3人は桃◯はやったことあるの★?」

「私はないかな〜」

「俺は前シリーズは家族で2、3回やったことある。最新作はない」

「へぇー、まるめろは?」

「ふっ、愚問ですね。もちろんありますとも。意思なき相手と共に何度もやっていましたとも!」

「……通訳いるか?」

「……今のはアタシでも分かったし」

 

 コメント 泣いた

 コメント あれ? 俺ガイル?

 コメント 桃◯って1人プレイようのゲームですよね?

 

 要するにぼっちだから1人でプレイしてたらしい。

 どうりで打ち合わせ段階から妙にテンション高いし、10年やりたいなんて言い出すわけだ。

 少ししんみりとしたら空気になったが、ゲームを始めればそんなものは忘れてしまう。

 

「うぇーい! 一番乗り〜★!」

「あうう……どうして私の出目は一かニばかりなんですか〜!」

「光ちゃん強いねー」

 

 まずは三笠が駅に到着した。5億くらいの収益が入る。

 三年決戦は資金一億とサイコロの数が2つになる急行周遊カードが持たされる。

 三笠は最初からそれをふんだんに使い一番乗りを果たした。まるめろもそれにならってカードを使ったが出目に嫌われた。加志駒は様子見したいのかカードは使わず駅を目指していた。

 

「まあ、ボンビーは俺だよな」

 

 このゲーム、駅にゴールした時駅より一番遠い人間にボンビーというお邪魔キャラが取り憑くのだ。こいつはお金を減らしたり、物件を勝手に売り払ったり、カードを割ったりとかなり邪魔なやつだ。

 俺は駅に向かうよりもカードを優先していたせいで、駅から一番遠いところにいたようだ。

 そして早速ボンビーのせいで金をマイナスにされた。

 

「あれれ〜? ジル君大丈夫? アタシがわけてあげよっか★?」

 

 これ見よがしに煽ってくる三笠。

 いわゆるプロレスというやつなので別にムカつきはしないが、せっかくのコラボだノッテやるか。

 

「ふっ、今の言葉覚えておけよ三笠? 後で後悔させてやる」

「ええ〜怖いなぁ〜★プププ〜!」

「絶対泣かしてやるこいつ」

 

 コメント バッチバチやなぁ

 コメント 親睦を深めるとはw

 コメント こう言うのもおもろい

 

 その後は誰かしらゴールしながら2年目の後半に差し掛かった。

 現在の順位は1位三笠、2位加志駒、3位まるめろ、4位俺となってる。特に1位の三笠は1人だけ資産10億を越してぶっちぎりの1位だ。

 

「ふんふんふん♪」

 

 機嫌良く鼻歌を歌う三笠。もう勝った気でいるのか、余裕である。

 

「あ、ゴールだ」

 

 加志駒が新しい駅にゴールした。

 歓迎する絵と共にボンビーの取り憑き先が発表される。次のターゲットは三笠だ。

 

「あ〜アタシか〜。まあ、これだけお金あれば少し減るぐらい……え?」

 

 そんなことを言った時、ボンビーの様子がおかしくなった。

 

 コメント おや?

 コメント これはもしや

 コメント キングボンビーきたー!

 

 キングボンビーとはその名の通りボンビーの進化した姿だ。

 なので、役割もボンビーと同じくお邪魔キャラなのだが、キングボンビーはその比じゃない。所持金は余裕でマイナス二桁億円になるどころか、カードをいらないカードに変えられたり、果てにはボンビラス星という理不尽な極みとも言える場所に飛ばされる可能性まである。

 転落の危機にさすがの三笠も余裕が崩れている。

 

「やばいやばいやばい……あ、でも近くにまるめろいたよね?」

 

 ボンビーはマスが重なると、その重なったプレイヤーに擦りつけることができる。

 サイコロが四つになるカードを持っている三笠なら、擦りつけた上で擦りつけられない範囲まで逃げることも可能だろう。

 標的にされたまるめろは分かりやすく焦る。

 

「嫌です! こないだください!」

「ねぇ、まるめろ。困ってる時は助け合うべきだと思わない?」

「それは助け合いじゃなくて、一方的なものでは!?」

「ええー、何のこと? 三笠馬鹿だから分かんない★」

「こ、この人は!」

 

 惚ける三笠に、つっこむまるめろ。

 騒がしくするのはいいが、次俺の番だぞ?

 

「なあ、三笠」

「何? 大丈夫だよ、ジル君の方には行かないから」

「いいや、そうじゃない。俺こんなカード持ってるんだがなぁ」

「はっ……」

 

 コメント あ

 コメント あ

 コメント あ

 

 俺が言っているカードとは最果てカード。その名の通り、指定したプレイヤーを最果てに飛ばすカードだ。

 あとは分かるな?

 

「待って待って待って!」

「最初に言ったよな三笠。お前を絶対に泣かすって」

「いやージル君ってカッコいいよね! 本当に優しいと言うかああああああああああああ! ふざけんなぁジルゥゥゥ!」

「はっはっはっ! ざまぁ!」

 

 コメント wwwwwww

 コメント wwwwwww

 コメント がっつり台パンwwwww

 コメント 生意気ギャルをわからせるスタイル

 コメント みか虐助かる

 

 その後三笠はキングボンビーのせいで資産を全て失った。

 そして3年目が終了した。

 

「あれ? 私の勝ち?」

 

 1位に輝いたのは加志駒だった。加志駒は終始堅実な立ち回りで、ボンビーを一度もつかずにいたのが勝因だろう。

 2位は俺。序盤こそ下の方にいたが、カード集めを意識していたおかげで後半巻き返した。

 3位はまるめろ。終始運に見放されていた。新幹線カード使って全て1をだした時はさすがに吹き出してしまった。

 そして最下位は三笠。まあ、敗因はキングボンビーだろうな。あのダメージのせいで半年くらいまともに動けなかったし。何とか巻き返そうとしたが及ばすと言ったところか。

 

「令子ちゃんおめでとー★!」

「おめでとうございます」

「おめでとう」

「みんなありがとう」

 

 コメント 優しい世界

 コメント 四期生てぇてぇ

 

「じゃあ、締めようかな。まず令子ちゃんから」

「はい、桃◯をプレイするのは初めてだったのですが、みんな優しくしてくれて楽しくプレイすることができました。ありがとうございます」

 

 コメント 可愛い

 コメント 清楚や

 コメント 褒めてるから物音は控えてや……

 

「次、まるめろ」

「はい。私もすごく楽しかったです! 恥ずかしながらパーティゲームを人とやるのは初めてでして、至らない点もあったと思うのですが。また一緒にやってくれると嬉しいです」

「やるよぉ! いくらでも付き合うよ!」

 

 少し寂しそうに言うまるめろの可愛さに三笠が堕ちた。

 コメント欄はまるみかてぇてぇで溢れた。

 

「はい、次ジル君」

「あいよ。正直、最初コラボの話を受けた時は不安だった。全員癖が強いし、男1人だからな」

 

 仲良くできるのか、うまくやっていけるか、変な言動をしないか。色々考えたな……。

 

「だが、その不安はいい意味で裏切られたよ。すごい楽しかった」

 

 コメント あの最果てのくだりおもろかったぞ

 コメント また、コラボしてほしい

 

「3人ともありがとう。最後にアタシかな。アタシも初めてのコラボでちょっと不安だったんだ〜。でも、すごい楽しかった★! ありがとう!」

 

 コメント おもしろかった!

 コメント この4人のコラボ不安だったけどみんな面白かった

 コメント 四期生てぇてぇ

 

「それじゃあ、みんなのチャンネル登録とTwitterのフォローもよろしくね。またねぇ!」

「次の邂逅も楽しみにしています!」

「ばいれい〜」

「乙ジル!」

 

 

 □

 

 

 コラボを終えた翌日の朝、ディスコードにとあるメッセージが来ていた。

 

 まるめろ つきあっていただけませんか?

 

「は?」

 

 俺は目を丸くした。

 

 

 



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中二病でもラジオがしたい!

 まるめろ 『付き合っていただけませんか?』

 

「は?」

 

 一瞬目を丸くしたが、すぐに俺はこう返した。

 

 ジル『何にだ?』

 まるめろ『先輩のラジオにです!』

 

 ですよねー……。

 俺はお決まりの展開に脱力する。

 危なかった。一瞬お、おうとか照れながらOK出しそうになった。彼女いない歴=年齢の男子高校生は女の子にそんなこと言われたら変に期待してしまうものなのだ。

 

「あー、よかった。変なこと言って赤っ恥かくとこだった……」

 

 とりあえずラジオぐらいならいいだろう。要はVtuberとしてのコラボのお誘いなのだから。

 

 ジル『分かった。日にちと時間を教えてくれ』

 まるめろ『日にちは来週の土曜日、ラジオは14時からなので〇〇駅に13時ぐらいで待ち合わせしましょう!』

 

 ちょっと待て駅? 待ち合わせ? お前は何を言っているんだ?

 

 ジル『どうして待ち合わせする必要があるんだ?』

 まるめろ『だって収録はスタジオですから。最寄駅は一緒ですよ?』

 

 だからって一緒に行く必要があるんですかね? スタジオ集合じゃ駄目なの? 

 まあ、ここで断るのも変に意識しているみたいで気まずい。ここは合わせよう。

 

 ジル『そうだったのか。了解した』

 まるめろ『はい。当日はよろしくお願いします』

 

 そこで話は終わった。

 

「そういえば、誰のラジオか聞くの忘れたな……。まあ、そのうちツイートされるか」

 

 

 その後、TLにまるめろのリツイートしたものが回ってきた。

 

 『邪眼竜政宗の深淵ラジオに初のゲストが来るぞ! ゲスト・まるめろ、ジル=ホワイト』

 

 なお、邪眼竜政宗とはレインボー所属の二期生である。

 その独特な世界観とキャラクターで人気を博しているが、反面極端にコラボが少ないことで有名だ。凸待ちをして一時間半誰も凸待ちに来なかったのはもはや伝説になっている。

 そんなライバーと新人2人がコラボするとあってTwitterではお祭り騒ぎになっていた。

 なお、俺はまた癖の強いやつとのコラボかと頭を抱えたのだった。

 

 

 □

 

 

 土曜12時50分、俺は〇〇駅の時計台の下でまるめろを待っていた。

 その辺に買い物に行くなら適当な服でいいのだが、仕事とはいえ女の子との待ち合わせだ。いつもより少し外行きな服を選んだ。妹もカッコいいと言ってくれたので、見ただけで笑われることはないだろう。

 そんなことを考えていると、まるめろからメッセージが来た。

 

 まるめろ『そろそろ到着します』

 

 そう言われ俺は辺りを見回すが、よく考えたら俺はリアルでまるめろと会ったことがなかった。どのみち見つけることは不可能だったな。

 まるめろはどんな奴なのだろう。Vのキャラがロリ中二系と現実ではいないタイプなだけあって予想できない。まあ、あのキャラクターをやり切るのだからプロ意識が高い人間なのは理解できるが……。

 空を見上げながら考えていると、服をぐいぐいと引っ張られた。その方を見ると、中学生ぐらいのゴズロリを着た少女が立っていた。

 

「えっと、君何か用かな? 迷子にでもなったか?」

「ほう、初対面の同期を子供扱いとは、これは喧嘩を売られていると考えていいのですね?」

「は? 同期?」

 

 目を丸くしたが、今の声には聞き覚えがあった。

 

「もしかしてまるめろ!?」

「しー! 声がでかいですよ! 身バレしたらどうするんですか!」

「あ、ああ、すまん。……俺お前の名前知らないんだが?」

「はぁ、まったく。丸山 瑠奈(まるやま るな)ですよ。白川 裕也さん?」

「ははは……」

 

 ちくちくと棘のある言い方だった。俺が悪いので、苦笑を浮かべるしかできない。

 一応顔合わせの時に俺の名前と写真は見せたとマネージャーから連絡を受けていた。俺もその時聞けばよかったのだが、色々余裕がなくて後回しになっていたのだ。

 まるめろは時間を確認すると。

 

「少し早いですが集合もしたので行きましょう」

「おう」

 

 そう言って俺たちはスタジオに向けて歩き出した。

 それにしてもゴズロリの少女を横に連れていると視線が多い。特にまるめろは見た目もかわいいから、何であんな冴えない奴とみたいな嫉妬の混ざった視線をよく感じる。

 何となく落ち着かない。気を紛らわせよう。

 

「なあ、丸山。今日はどうして俺を誘ったんだ?」

「瑠奈と呼んでください。不思議ですか?」

「まあな。か……他の2人を呼ぶのが普通じゃないか? 丸山は女の子だし、同性の方がリアルで会うならハードルが低いもんだろ?」

「瑠奈と呼んでください。一理ありますが、今回のコラボ相手は邪眼竜先輩です。令子は怖いですし、光は相性が悪いです」

 

 まあ、少なくとも三笠は中二病談義についていけないだろうなぁ。加志駒はリアルに心霊現象起きたら、とてもじゃないが平静ではいられない。消去法で俺となったということか?

 

「丸山1人っていう選択肢はなかったのか?」

「瑠奈と呼んでください。私が初対面の異性と対面して話せるとでも?」

「そんな自信満々に言われてもなぁ……」

 

 そういえばこいつぼっちだったな。要はクッション役に1人は必須→その中で面識(コラボを面識というのかは不明だが)があるのは同期のみ→消去法で俺となったのか。

 

「なるほどなぁ。丸山なりに考えがあったのか……いででで!?」

 

 まるめろに頬を引っ張られた。不意打ちだけあって普通に痛い。

 

「何回言えばいいんですか! いい加減瑠奈と呼んでください!」

「分かった、分かったから手を離せ!」

 

 童貞が初対面の女の子を名前呼びとかハードル高いんだぞ。  

 まあ、後半は訂正が面白くて悪ノリしたのだが。

 

「瑠奈。これでいいか?」

「はい。100点です」

 

 照れ臭く名前を呼ぶ俺に、まるめろは満足げに笑った。

 いや、プラトニックな恋愛漫画か。

 

 

 □

 

 スタジオに到着すると、控室に通された。

 台本の確認とか色々説明があるかと思ったのだが、特になかった。公式番組ではなく個人のチャンネルでやるラジオだから、その辺りがだいぶ緩いようだ。

 

「裕也、裕也」

「何だ?」

「時間もありますし、ゲームでもやりませんか?」

 

 まあ、せっかく2人なのに黙って携帯を弄るだけでは物足りない。そのくらい付き合うか。

 

「いいぞ。何をやるんだ?」

「将棋にリバーシにチェスにトランプ……」

「持ってきすぎだろ!? というかどこに入れてた! お前はマジシャンか!」

「いいえ、魔術師です」

「ああそうだったな、ちくしょー!」

 

 ドヤ顔で言われたので、ヤケクソ気味に返した。

 結局、まるめろ一押しのリバーシをすることになったのだが。

 

「うぐっ!? あ、甘いですね!」

「ほい」

「ああう! ま、まだまだ……」

「ほれ」

「あうあうあう……う、打つところがない!?」

「はい、終わり」

「ああああああ!?」

 

 勝負あり。緑色の盤には黒一色で置かれている。俺の全染勝利だ。

 

「よっわ」

「もう一回です! もう一回!」

「何度やっても同じだと思うがな」

 

 その後まるめろは3連敗した。

 

「何でですかぁぁぁ!」

「お前が弱いから。はい、証明完了」

「ぐぬぬぬぬ」

 

 ぎりぎりと歯軋りが聞こえそうなほど顔を歪めるまるめろ。正直おもしろい。なるほど、これがV界隈の〇〇虐を楽しむ感情か。

 ある程度まるめろで遊び尽くした頃、控室がノックされた。

 先輩が到着したのだろうか?

 

「頼もう!」

「……!?」

 

 入ってきたのは全身を黒コートに包み眼帯をつけ金髪オッドアイというテンプレート中二病のような男が入ってきた。

 もはや聞くまでもない。

 

「邪眼竜先輩ですか!?」

「かっかっかっ、いかにも! 我が名は邪眼竜政宗!」

 

 ですよねー。もはやお前が邪眼竜先輩じゃなかったら、誰が邪眼竜政宗なんだと言いたくなるくらいまんまである。

 かっこいい? ポーズを決めながら名乗る先輩に俺は呆れながら思った。

 

「しかし、その名は仮の名前。あざなはアザエル=龍斗だ」

 

 あざなとは、どうやら本名のようだ。髪と名前的にハーフなのだろうか?

 

「貴様らは?」

「くっくっくっ、我が名はまるめろ! 青魔族随一の魔術師にして、いずれは世界一の魔術師になるもの! そして、あざなは丸山 瑠奈です!」

「いい名乗りだ! まるめろ、やはり貴様は我と同じ魂を有するもの! 貴様を我が宴に呼んだことは正解だったようだな」

「あ、ありがとうございます!」

 

 すると邪眼竜先輩は俺の方を見てくる。

 え? 俺もしなきゃだめ? もはや、空気的に蚊帳の外なんですが……。

 

「わ、我が名はジル=ホワイト! あざなは白川 裕也です。よろしくお願いします」

「いい名乗りだ! だが、まだ少し照れが見えるな! そこを直せば80点の名乗りになるだろう!」

「あっはっは、気をつけます〜」

 

 今世紀1の愛想笑いだった。

 とりあえず二度とやりたくないまである。

 

「それで貴様らは何をやっていたのだ?」

「リバーシですよ。こいつが遊べ遊べってうるさいんで」

「な、なあ! いいじゃないですか! こんな時くらいしかテーブルゲームなんてできないんですから!」

「ん? 先輩?」

「どうかしましたか?」

 

 俺とまるめろがじゃれていると、邪眼竜先輩がじっとこちらを見てきた。

 いや、これは俺を見ているわけではない。もっと先の……リバーシだ。

 

「……あの、先輩もやりますか?」

「ふ、ふっ! 我は孤独の存在故まったく羨ましくなど思っていないが、貴様がやってほしいと言うならやってやろう!」

「あ、じゃあいいです」

「待て、やらないとは言ってないだろう!」

 

 めんどくせぇ……。

 

「邪眼竜先輩! 裕也は手強いです! 気をつけてください!」

「かっかっかっ、安心しろまるめろ。我が瞳に宿る邪眼竜の力を持てば勝つことなど容易い!」

「さ、さすが先輩です!」

 

 どこがどうさすがなのか俺には理解できないが、とりあえず自信はあるらしい。

 そして打つこと数分。

 

「なぜだああああああああああぁ!?」

 

 盤には全面に黒が置いてある。要するに全染勝利である。

 信じられないとばかりにわなわなと震える邪眼竜先輩。驚くまるめろに、呆れる俺。

 普通に弱かった。まるめろといい勝負である。

 そんなこんなでラジオの開始時間が迫っていた。

 

「そろそろ時間ですね。終わりにしま……」

「もう一回だ!」

「しょうか」

「もう一回だぁぁぁぁ!」

「うるせえな! 聞こえてるよ!」

 

 耳元で言われたのでさすがにキレた。

 

「開始時間だって言ってるだろうが!? ラジオ終わったら付き合いますから!」

「約束だぞ!」

「ああ、ずるいです! 裕也私もやりたいです!」

「だああ、分かったよ! 気が済むまで付き合ってやるから、早く行くぞ!」

「む! もう、開始時間ではないか!?」

「だから焦ってるんだろうがああああぁ!」

 

 俺の叫びが控室にこだました。

 

 

 

 

 ラジオ【邪眼竜政宗の深淵ラジオ】

 

 コメント 遅いな

 コメント まだー?

 コメント 邪眼竜くんが遅れるのは珍しい

 コメント お、始まった

 

「待たせたな皆の衆! 開幕だ!」

 

 コメント ははー

 コメント ははー

 コメント ははー

 

 噂には聞いていたがすごいコメントの団結力だな。コメントが一面同じ言葉で埋まった。俺やまるめろのリスナーも困惑した様子だ。

 

「今日は我が宴に客人を招いてきた。歓迎してやってくれ」

「くっくっくっ、我が名はまるめろ! よろしくお願いします」

「こんジル。ジル=ホワイトです。すでに疲労困憊なので帰りたいです」

 

 

 コメント まるめろー!

 コメント つ、ついに邪眼竜様にもコラボ相手が(涙)

 コメント 帰りたがってるやついて草

 

「どうしてだジルよ!? なぜ帰りたがる! まだ我らの因縁に決着をつけなければならないのに!」

「そうですよ! 私とも決着をつける約束ですよ!」

「えー説明すると本番前控室でリバーシをやってたんだが、2人とも俺に一度も勝てなくてもう一回もう一回と駄々をこねてたんだ。開始時間になってもやりたがるから、ラジオ終わりに付き合うって約束で引きずって来た。以上」

 

 コメント ワロタwwwww

 コメント それは2人が悪い笑

 コメント 微笑ましいやんw

 コメント お疲れやで、ジル君w

 コメント というか全敗って2人ともリバーシ弱すぎww

 

「ふっ、甘いなジルよ! あれはいわば小手調! 次やれば我が邪眼竜の力の前に平伏すことは明白! 神の一手を見せてやろう!」

「邪眼竜の力なのか神の力なのかどっちだよ」

 

 コメント www

 コメント 言ってやんな笑

 コメント 設定ブレブレww

 

「はいはい、ただでさえ遅れてるんですからコーナー行きますよ」

「ふ、分かっているさ! では行くぞ、『今日の名言!』」

 

 今日の名言とは、リスナーから応募した言葉を邪眼竜先輩が独断と偏見でその場で選ぶという企画だ。このラジオの人気コーナーだ。

 

「今回は貴様らにも選んでもらおう。これが眷属たちから送られてきた言霊たちだ」

 

 置かれたダンボールの中には大量の葉書が入っていた。それにしても今時メールじゃなくて、葉書なんだな。

 

「私は決めました!」

「俺も決めました」

「ふ、そうか。では、我から行くぞ。我が選んだのはこれだ」

 

『あまり強い言葉を使うなよ、弱く見えるぞ」

 

「BL○ACHじゃねえか!?」

「かっかっかっ、カッコいいだろ!」

 

 たしかにかっこいいけども。それ名言なのか? 

 

「ふっ、では私も!」

 

『背中の傷は、剣士の恥だ」

 

「ONE ○IECEじゃねぇか!? というかお前剣士じゃなくて魔術師だろうが!?」

「くっくっくっ、カッコいいじゃないですか!」

 

 たしかにカッコいいよ? カッコいいけども……漫画の言葉のパクリでいいのかよ。

 

「はぁ、じゃあ俺が選んだのはこれです」

 

『神は死んだ』

 

「「あー」」

「え? ちょ、なにこの空気?」

「これはなぁ、まるめろ?」

「そうですね。例えるなら親に買ってきてもらった服が絶妙にダサかったような気持ちです」

「狙いに行ったら外したっていいたいのか!?」

 

 コメント あー、うん

 コメント 中二病を通ってないやつのチョイスだな

 コメント 分かってない  

 

 コメントでも不評のようだ。四面楚歌である。

 

「ジルよ。世界が貴様を否定しようとも、俺だけは貴様の味方でいてやろう。元気出せ」

 

 ……納得いかねぇ!

 

 

 □

 

 

「それでは、今日の宴はここまでにしよう! また貴様らと会うのを楽しみにはおるぞ! それでは閉幕!」

 

 コメント おもろかった! 

 コメント またコラボしてくれ!

 コメント 今度はゲームコラボ待ってる!

 

 無事ラジオは終了した。まあ、俺は色々火傷した気がするが。

 

「今日は2人とも来てくれたことを感謝する。眷属たちも我がコラボしていることに満足した様子だったからな」

「こちらこそありがとうございました。正直疲れたけど、楽しかったです」

「私も楽しかったです!」

 

 建前はない。ラジオ形式の配信というのは新鮮で楽しかった。今度自分の雑談でも応用してみようか? 

 

「かっかっ、そうか。我もまた貴様らとは宴をしたいものだ」

 

 まるでこれが最初で最後のコラボだと言いたげな雰囲気だった。

 

「いや、すればいいんじゃないですか?」

「またコラボしてくれるのか!?」

「え、ええ、時間さえ合えば。俺は歓迎しますけど……」

「そ、そうか。すまんな、毎回我とコラボしたものは二度とコラボに応じてくれない故、今回もそれとばかり」

「まあ、先輩とコラボするの疲れますからね」

 

 ガーンとショックを受けた様子だった。

 

「でも、楽しかったのでプラマイゼロです」

「そこはプラスと言ってほしいのだが……」

「その内なりますよ。たぶん」

「確定ではない!?」

 

 まあ、慣れれば平気そうだから自然とプラスになると思うが。

 

「ず、ずるいですよ裕也! 私だって邪眼竜先輩とまたコラボしたいです!」

「すればいいだろ。むしろ平日できない俺より、お前の方がしやすいだろ」

「ふ、2人でですか!?」

 

 そういえば、2人きりだと話せるか不安なんだっけか?

 

「どうせ、いつか異性と2人きりでコラボする機会はあるんだ。早めに慣れとけよ。先輩もコラボに飢えてるみたいだし、ボッチ同士ちょうどいいだろ」

「「ボッチじゃない(です)! 孤独なだけだ(ですから)!」」

 

 違いが分からん。

 

「じゃあ、コラボの予定はまた後日決まるということで。お疲れ様で……」

「ちょっと待て」

「裕也、何か忘れてませんか?」

 

 肩を掴まれ振り返ると、緑色の盤が用意されていた。

 

「ちっ、逃げられなかったか」

「かっかっかっ、裕也よ覚悟しろ!」

「くっくっくっ、次こそは負けませんよ!」

 

 その後、2人とも徹底的に負かしてやった。

 

 

 □

 

 

 後日談

 ラジオが終わった翌日、昨日のラジオの反応を見てみるかとTwitterを開くとやたらとフォロワーが増えていることに気がついた。

 コラボをすれば相手のリスナーが見てくれるので多少は増えるのだが、それでもこの増え方は異常だ。少し調べてみると……。

 

「は? トレンド一位? 電波組?」

 

 どうやら邪眼竜先輩のコラボがあまりに衝撃的だったのか日本のトレンドいりしていたらしい。電波組として。

 おそらく俺たちの3人のグループのことを指すのだろう。中二病の団体という意味なのだろうが、俺はノーマルだぞ!?

 

「どうしてこうなった……」

 

 こうして俺は自分の知らないところで新しいキャラを獲得したのだった。

 

 

 

 




 邪眼竜政宗
 邪眼竜の力が解放した最挙の存在。日夜闇の組織との戦いに明け暮れる。という設定のコスプレ高校生。とある出来事のせいで箱内のコラボを自粛していた。箱外のコラボは長続きせず、悩んでいたところ新人に同士の魂を感じたので、勢いでコラボをオファーした。
 
 丸山 瑠奈
 まるめろの人間界の姿。全身ゴズロリでミステリアスな見た目。黒髪短髪。
 見た目は少女だが、実は高校生。その風貌のせいでボッチ。
 元々別の配信サイトで配信者をしていたが、人とゲームがしたくてVを志す。
 友達付き合いの経験が浅いため距離感がバグりがち。
 好物はハンバーグ



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ホラゲーコラボ

 

 【カシジルコラボ!】呪いの家やってくよ〜

 

 コメント 急やな

 コメント まさかお嬢がコラボするなんて……

 コメント 四期生コラボから一回もなかったからな

 

 コメントにもある通り今日のコラボは急に決まった。どのくらい急かと言えば、当日の朝に打診されて昼頃に告知したのだ。

 どうしてそんなことになったのかと言うと……。

 

「こんれい〜。童(わらべ)のみなさんこんばんは〜。加志駒令子です」

 

 コメント そして安定の物音と

 コメント もはや日常

 コメント みーちゃんもいてこそお嬢

 

 コメントはもはや達観の域に達しているようだ。

 

「こんジル! レインボー所属ジル=ホワイトだ。今日は突発コラボとなったが、実は俺も何でこのコラボになったのか分からん」

 

 コメント 草

 コメント 何で知らんねんw

 

「いやー、今日の朝いきなりホラゲコラボしようと言われ、了承したら準備とか告知全部終わってたからな〜」

「私から誘ったし、ジル君色々忙しいだろうからね。セッティングと告知ぐらい当然だよ」

「……加志駒って意外と常識人だよな」

「そう?」

 

 コメント お嬢は常識人だぞ

 コメント 優しさもある

 コメント レインボー唯一の清楚枠

 

 その時加志駒の方からガシャリガシャリと音が聞こえてくる。

 

「あ、ごめんね。久々のコラボでみーちゃんもはしゃいでるみたいで」

「……そうか」

 

 せっかく持ち上げていたコメント欄が一気に沈黙した。まあ、無理もない。

 それにしても今日はいつもより音の頻度が多いな。

 

「前より音が増えてないか?」

「実はね前のコラボ以来みーちゃん、ジルくんが気に入っちゃったみたいなんだ。今日のコラボもみーちゃんがやりたいって駄々捏ねたから急遽誘ったの〜」

「……な、なるほど」

 

 コメント ジル君明らかに声震えて草

 コメント お前座敷童子がファンになったって言われて嬉しいか?

 コメント ご愁傷様やでギル君

 

 さすがに座敷童子に気に入られるは衝撃だな。嬉しくないわけではないのだが。

 

「OPトークはこのくらいにしてゲームを始めないか?」

「うん、そうだね〜。今日やるのは呪いの家だけど、ギル君はホラーはどのくらい見るの?」

「ゲームはほぼやったことない。ゲーセンのゾンビを撃つやつくらいかな。映画なら有名どころはある程度見てるぞ」

 

 呪○、着○あり、リ○グ、シャイニ○グ……etc。

 見る度に妹には怒られるがな。

 

「へぇー、好きなの?」

「嫌いじゃないくらいだな。家事ついでに映画を流すのが日課なんだが、その時たまに流してる」

「死霊の盆踊りは?」

「見たことないな? 面白いのか?」

「うん。世界一面白いよ!」

「ほう。今度調べてみるか」

 

 ホラー好きな加志駒が勧める作品なのだ。ハズレはないだろう。

 

 コメント や め る ん だ

 コメント はい、犠牲者増えました〜

 コメント 懲役刑を勧める清楚がいると聞いて……

 

「じゃあ、ジル君ホラー耐性ある人なんだ。このゲームじゃちょっと緩いかな?」

「初コラボだし、少し緩いくらいでいいんじゃないか?」

「うーん、そうだねー。今日は親睦を深める方向でいこう!」

 

 コメント 呪いの家って、怖いランキング上位なんですが……

 コメント これが緩かったら、大半のホラゲーは冷水だぞ

 コメント 所詮はレインボーか……

 

 ゲームが始まった。

 タイトルの通り、呪われたと噂の家に主人公が仲間と共に肝試しをするために入るところから始まった。探索しながら何もでないと不満そうにする主人公たち。そんな時、別行動していた仲間の悲鳴がこだまする。

 悲鳴の方に行くと変わり果てた仲間が倒れていた。そしてその側には目がない子供の化物がニヤリと笑っている。主人公たちは脱兎のように逃げ出すが、外に出るドアは何故か開かない。

 化物の足跡が聞こえてくる中、主人公たちは絶望の淵に立たされていた。

 というのが、大まかな最初のストーリーだ。

 悲鳴からの化物が現れたシーンはなかなか作り込まれていて迫力がある。

 

「んで、ここはこの化物から逃げればいいのか?」

「そうだね。それで逃げながら部屋を探索して脱出の手がかりを探すの」

「了解」

 

 コメント 何でそんな冷静でいられんの?

 コメント 怖すぎてコメント欄に逃げてきた人ノ

 コメント ノ

 コメント の

 コメント ノ

 

 適当に化物をあしらいながら、部屋を探索していく。

 するととある日記を見つけた。そこにはあの化物の親らしいものの記録が綴られていた。何でもあの化物は親に虐待されて死んだ結果産まれてしまった悪霊らしい。この書き手も化物に殺されたようで、日記には血の痕が生々しく残っていた。

 そこで小ムービーが差し込まれた。

 日記を読んでいるのに夢中になっていたせいで化物の接近に気がつかなかった。そのせいで仲間の1人が捕まってしまい助けるか、見捨てるかの選択肢が出てきた。

 

「見捨てるか」

「可哀想だけど助けようとしたらこっちが死んじゃうもんね〜」

 

 見捨てるを選択する。

 ムービーが再開すると主人公は残った1人の手を引っ張り部屋から逃げる。部屋からは絶望した声色で引き止める仲間の声と悲鳴が響いてきた。

 

「いい奴だったよ……名前なんだっけ?」

「さあ?」

 

 コメント モブー! 

 コメント モブ君名前も覚えていてもらえないなんて可哀想に……

 コメント いうて、俺たちも知らんけど

 コメント ワロタ

 

 正解の選択肢だったのか、ストーリーが再開した。

 

「そろそろ加志駒もやるか?」

「そうだね〜。けっこう進んだし、やろうかな」

 

 そこで加志駒がプレイヤーに代わった。

 加志駒はやり慣れているのか、さくさくと探索をしていきヒントを拾い集める。

 

「さすが慣れてるな」

「ありがとう。ホラゲはたくさんやったからね、これくらい当然だよ」

「他のジャンルはやるのか?」

「うーん、やらないわけじゃないんだけど……。みんなでやった桃○みたいなゲームも楽しいし。でも、結局何やってもホラゲーに戻ってきちゃうんだよね〜」

「根っからのホラー好きなんだな」

「そうだね〜」

 

 コメント のほほんとした会話してるけど、画面エグいんですが……

 コメント 後ろに後ろに……ひぃぃぃ!?

 コメント トイレ行きたいのにいけない……

 

「だから、なかなかコラボ組むのも難しくてね〜。ホラーNGの人も多いし」

「そうなのか」

 

 まあ、苦手な人は本当に駄目だからな。

 

「だからジル君には断られなくてよかった」

「暇だったからな。断る理由もない」

「そう? 私霊感ある女だよ?」

 

 あー、霊障がNGってパターンもあるのか。

 

「……まあ、まったく気にならないのは無理だな。だが、コラボNGだすほどじゃない。探せば俺と同じようなやついるんじゃないか? この箱頭おかしい人多いらしいし。まるめろや三笠もな」

 

 コメント 先輩を頭おかしいと言いやがったこの後輩

 コメント まあ、否定はしない

 

「それで断られたら、また俺誘えばいい。とりまチャレンジはしてみればいいんじゃないか?」

 

 ちょっとキザっぽいセリフになってしまった。恥ずかしい。

 

「……ふふ、そうだね」

 

 コメント お? てぇてぇか?

 コメント てぇてぇって打ちたいけど画面がー! 画面がー!

 コメント あ、漏れた

 

「そろそろクライマックスか?」

「うん。あとはこのお札で化物を封印すれば終わりだよ〜」

 

 そういうと加志駒は慣れたように札を貼ってゲームは終了した。

 案外早い気もしたが、すでに2時間経ってたのか。

 

「お疲れー。初のホラゲーはどうだった?」

「怖さはまあまあだったと思うが、ホラー要素以外にも謎解き要素もあって楽しかったな。これくらいならコラボしても大丈夫なんじゃないか?」

 

 コメント おいおい

 コメント コメント欄の惨状をご存知でない?

 コメント ホラーつよつよを基準にしちゃあかん

 

「そっかー。じゃあ、今度は同期の2人も誘ってみようかな〜」

「いいな。まるめろなんかボッチだから喜ぶだろ」

 

 何か泣きそうな声が聞こえてきた気がするが無視する。

 

「それじゃあ今日はここまで〜。ジル君のチャンネルは概要欄に載せてあるからチャンネル登録よろしくね〜。それじゃあ、おつれい〜」

「乙ジル」

『お疲れ〜』

 

 コメント ちょっと待て最後!?

 コメント え?え? 誰の声?

 コメント みーちゃんなのかな……?

 コメント ガクガクブルブル

 

 

 その後、しっかりと切り抜かれたのは言うまでもない。

 

 

 □

 

 後日加志駒からこんなDMがきた。

 

 加志駒『コラボお願いしたんだけど、ちょっと考えさせてって言われちゃった〜』

 ジル 『まあ、あんなガチの心霊現象起こしたらな……』

 加志駒 『ギル君はまたコラボしてくれる?』

 ジル 『配信でも言ったが、時間が合えばするよ』

 加志駒 『次はオフコラボで企画考えたんだけど』

 ジル 『……ちょっと考えさせて』

 

 

 




 


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ギャルと勇者

 オリジナルは初めて書いたのですが、評価いただき嬉しいです。これからもマイペースにやっていこうと思います。


 【ギャルと勇者】あそび盛りやってくぞ〜! 

 

「こんちわ〜★。あたしは三笠 光よろしくね★。そして……」

「こんジル! ジル=ホワイトだ。よろしくな」

 

 コメント ついにこの2人のコラボきたか

 コメント 他の四期生とはしてたのにな

 

「まあ、ぶっちゃけ気まずかったからな。あんなことあったし」

「触れる必要ないから! ……まったく。あれに関してはあたしも悪いから、今更気にしてないし。ジル君からも謝罪もあったから解決してます。はい、この話は終わりね」

 

 不毛な話を打ち切るような言い方だった。

 ちなみにあんなこととは、俺が三笠の炎上に触れてしまったことだ。あの場はリスナーの忠告で深入りはしなかったが切り抜きなんかで広まってしまい、少し話題になってしまった。

 一応三笠には悪かったとは伝えて、三笠も許してくれた。その後多人数のコラボはしたが、何となく対面での気まずさは残ったままだった。

 それが今回のコラボに繋がったのは皮肉だが。

 なぜかと言うと、三笠は四期生ではコミュ力が高いので色々な先輩とコラボを重ねている。俺は俺で他の四期生や先輩(邪眼竜)とコラボしている。それなのに俺と三笠は対面のコラボがない。

 もしや不仲なのでは? なんて憶測が出てしまったのだ。 

 実際は違うグループのクラスメイトぐらいの距離感で、嫌いあってるわけではないのだがリスナーには伝える手段はない。

 そんなわけで別に仲悪くないですよ〜とアピールするためにコラボする運びとなったのだ。

 

「そういえば、何であそび盛りなんだ?」

 

 あそび盛りはいわゆるパーティーゲームだ。

 それに比べて三笠は多くのゲーム配信をしているが、ミイクラ、○pexなどやりこみ要素の高いゲームを好んでいる。どちらかといえばこの手のゲームを触るイメージはない。

 

「ジル君ゲーム不得意なんでしょ? あたしのやってるゲームってゲーム慣れしてない人には難しいし、せっかくのコラボに一方的に得意なゲーム提案するのも憚れるし」

「何だ? お前いい奴なのか?」

「どう言う意味だし」

 

 コメント 三笠は案外いい奴

 コメント 初期はオタクに厳しいギャルだったのに、時間が経つとデレるタイプ

 コメント 面倒見がいいよな。コラボとかでも先輩の世話焼いてるし

 

 ソロ配信を何度か見たが、コラボでは気を回すタイプらしい。そういえば四期生コラボでも色々立ち回ってたな。

 と感心していると三笠はニヤリと笑い。

 

「それにこのゲームなら心置きなくギル君をボコボコにできるからね★」

 

 何とも分かりやすいプロレスだった。

 どうやら俺たちはこう言う方向で行くようだ。まあ、他の同期にこのプロレスは厳しいだろうからな。

 それならばしっかりと乗ってやろう。

 

「はっ。やれるもんならやってみな」

 

 某常務のようなせりふで挑発し返した。

 

 

 □

 

 

 なぜか勝負形式になった初コラボ。五番勝負で先に三本先取した方が勝ちだ。そして勝った場合相手に一つ罰ゲームを課すことができるという何ともVtuberらしいルールまで付け加えられた。

 最初の勝負は俺が選択した神経衰弱だ。

 特に得意とかではない。ルールを知っているゲームが目についたから選んだという単純な理由だ。

 

「ぷぷぷ、神経衰弱ってマジ〜。あたしめっちゃ得意だよこのゲーム」

「ほーん……」

「あ、今そうは見えないって思ったでしょ? まあ、見てなって!」

 

 三笠は意気揚々とカードを捲るが揃わない。まあ、当然だが。神経衰弱はカードを記憶することが重要だ。そのためある程度カードが見えた状態からが勝負になる。

 半分ほどカードが捲れた頃。

 

「よし、ワンペア!」

「お……」

「ツーペアー! ラッキー★、スリーペアー!」

「おいおい」

 

 すでに割れていた二組までならまだしもまだ割れていない三組目も揃えやがった。これで後二組取られたら負け確だ。

 その後俺も二組とったが以前劣勢。なんなら、一組は割れているためほぼ負け確だ。

 それに気がついているからか三笠は余裕そうだ。

 ……このままみすみす勝たせるのも癪だな。揺さぶってみるか。

 

「なあ、三笠」

「ん、どうしたのジル君? もしかして命乞いでもする気かな★?」

 

 ニヤニヤと煽り口調で言ってくる。

 

「ん? いや、大したことじゃない。今度加志駒にオフコラボに誘われているんだが、よかったら一緒にどうかと思ってな」

「へ?」

 

 明らかに三笠の声色が変わった。

 

「ちなみに企画内容は心霊スポットに行くらしい。なんでも昔取り壊されたホテルの跡地らしくてな、そこでは女性の殺人事件が実際に起こってるんだ。そしてその女性は身体をバラバラにされた状態で発見されたらしいんだが、夜な夜な失われた自分の身体を求めて彷徨っているんだとか……それでどうだ? 今なら見えるやつと座敷童子もついてるぞ」

「行くわけないでしょ!? って、間違えたんだけど!?」

「そうか。じゃあ、ほいほいっと俺の勝ちだな」

 

 俺は当然とばかりに残りの2枚を当てていく。

 

「あれれ〜? おかしいぞー? 神経衰弱得意なはずなのにあんな簡単な盤面で負けてるぞー?」

「えせコナン君やめろ」

「ちなみにさっきの話全部嘘な」

「は?」

「お前を揺さぶってワンチャンミスらせようとしたんだが、こんなに上手く行くとは思ってなかったな〜」

 

 ダァン! と何かを叩く音がマイクから響いてくる。

 

「このクソ勇者ぁぁぁ!」

「クソワロタ」

 

 コメント wwwww

 コメント えっぐぅwww

 コメント まあ、お嬢なら普通に企画しそうだよな。わかるわかる

 コメント 勝つためには同期さえも利用する勇者(笑)

 

 実は加志駒からコラボの提案を受けた時にこれも一つの案だったのだ。

 しかし、廃墟というのは入るだけでも危険。当然土地は私有地なので管理人の許可をとる必要があるのだが、それが大変。あと、深夜に高校生(俺)が外を徘徊するのはまずいなど色々ハードルが高かったためお流れとなった。

 心霊スポットというのに興味があったため少し残念だったが、こんなふうに役に立ったなら無駄ではなかったのだろう。

  

 その後、一進一退の攻防が続き2勝2敗のまま最終勝負にもつれ込むことになった。

 

「泣いても笑ってたこれが最終勝負だよ★」

 

 コメント 遂に最後か……

 コメント 三笠運ゲー全勝なの笑う

 コメント 五目並べ泣いて待った懇願するのおもろかったな〜

 コメント 早くない? あと10戦くらいやらない?

 

「最後のゲームはリバーシで行こう」

「いいのか? ヨットが残ってるぞ?」

「運ゲーしか勝てない扱いすんなやめろし。それにリバーシは小さい時から親と打ってたから得意だもんね★」

「俺は妹とよくうつけど大体負けてるな……」

「あれー? もしかしてジル君リバーシ弱い人?」

「まあ、強くはないんじゃないか?」

 

 まるめろや邪眼竜先輩には勝ったけど、あれは2人が弱すぎただけだろうし。

 そうしてゲームが開始した。

 

「はい……」

「ほい……」

「そこ大丈夫? よし」

「ほお」

 

 序盤は三笠がリードする展開となった。盤面はどんどんと黒色に染まっていく。俺の駒は端の方にまばらにあるだけだ。

 

 コメント 三笠強いやん!

 コメント 三笠の勝ちだな! 風呂入ってくる!

 コメント いや、これ……?

 

「プププ、大丈夫ジル君? 手加減してあげてもいいよ〜?」

「ああ、いらんいらん。もう俺の勝ちだし」

「え?」

「ほい」

 

 俺が置くと一気に白が増える。

 

「ま、まだ私の方が多いし」

「ほい」

「え、ちょ?」

「ほい」

「嘘でしょ!?」

「ほい」

「ちょっと待って! パスってなに!?」

「これでおしまいっと」

 

 最後の手を打つ頃には黒の駒は盤上から消え失せていた。要するに俺の全染勝利である。

 

「嘘でしょおおお! 何でよおおお!」

「よっわ」

「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ!」

 

 ダンダンダンダンと打楽器を叩くかのような音が聞こえてきた。実に愉快である。

 

「嘘つき! ジル君リバーシめっちゃ強いし!」

「そうなのか? 妹にはいつも負けてるんだがな〜」

 

 コメント 普通に強いんですが……

 コメント これより強い妹何者なんですかね……

 コメント 配信で対決してほしいw

 

「まあ、負けは負けだ。約束通り罰ゲームを課させてもらおう」

「何させる気? 告白ボイスとか? ももももしかしてエッチなセリフとか……言わせる気?」

「言わせるかアホ!? それにしても罰ゲームか……考えてなかったな……」

 

 エンタメの枠に収まり、視聴者が喜び、そして三笠にとった効くものか……あ、思いついた。

 

「ホラゲクリア耐久で」

 

 三笠の悲鳴がこだました。

 

 □

 

 結末というか後日談。

 三笠は立派にホラゲクリア耐久をこなしてみせた。同期のまるめろと加志駒を助っ人に呼んだようだが。

 別に助っ人を呼ぶなとも言ってないし、三笠がホラーが苦手なことは織り込み済みだ。

 

 加志駒『もしかして狙った?』

 

 ジル『さあな』

 

 コラボ終わりに来た同期のDMに俺はそう返信した。

 

 

 

 




 個人的にVのアソビ大全はレバガチャコンビと叶星コンビの回が好きです。


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【間話】朝雑談

 【朝雑談】あい

 

「こんジル! どうもレインボー所属のジル=ホワイトだ」

 

 コメント こんジル〜

 コメント こんジル

 コメント こんジル!

 

「まあ、今日も今日とで雑談なんだが、今回からTwitterでも告知した通りマシュマロを導入させてもらう」

 

 さすがにコメント拾って雑談だけじゃ視聴者も飽きてしまうだろうからな。

 

 コメント というかアドリブで一月持たせたのエグいけどな……

 コメント しかも週5回毎日欠かさずやで

 コメント 貴様本当にレインボーか? 

 

「正真正銘レインボー所属だよ。さて適当にマシュマロ食ってくか、まずこれな」

 

『最近したコラボの感想聞きたいです!』

 

「最近というと三笠と加志駒か? そうだな〜、三笠とのコラボは殴り合いが楽しいというか、気兼ねなく言い合えるのは気楽でいいよな」

 

 コメント 不仲不仲言われてたのが嘘みたいに殴り合ってたもんなw

 コメント みか虐おもろかった

 コメント またコラボしてほしいわ

 

「そんで加志駒か? ホラゲーっていう新しいジャンルを体験できたのは楽しかったな〜。まあ、死霊の盆踊りを勧めたのは一生許さないけどな」

 

 あれは映画じゃない。懲役刑と言われていたが的を得ている。

 

 コメント 草

 コメント あれは絶許

 コメント え? おもしろくない?

 コメント 異教徒いて草

 コメント 今後コラボの予定とかある?

 

「まだ計画段階だな。俺もソロのゲーム配信したいし、邪眼竜先輩とまるめろからも誘われてるしな〜」

 

 コメント そういや土日しか午後配信できんのや

 コメント 毎日見てるから感覚狂うな

 

「毎日見てくれてサンキューな」

 

 コメント べ、別にあんたのためじゃないんだからね

 コメント じ、時間が合うから見てるだけだし!

 コメント か、勘違いしないでよね!

 コメント ツンデレでワロタ 

 

「キッツ……」

 

 コメント は?

 コメント は?

 コメント お? 戦争か?

 

「すまんすまん。んじゃ、次のマロ行くぞ」

 

 適当に平謝りして次のマロを映し出す。

 

『ポクポクポク……ちん! こ!』

『今暇? もし暇だったらおばさんといいことしない? このアドレスまでめーるしてね?』

『今あなたの後ろたたないでゴルゴ13』

 

「ま、こんな中身がないのも多かったな」

 

 コメント これは純度100%のクソマロ

 コメント 意味わからんくて笑えてくるw

 

「せっかくメールしたのに返信ないんだよな〜」

 

 コメント おいww

 コメント メールすんなやw

 コメント 熟女好きなん?

 

「いいや〜。特に好みなんてないが、強いて言うなら胸はデカい方がいい」

 

 コメント 一文で矛盾すんなや

 コメント 高校生らしい素直な回答

 コメント 巨乳の良さがわかるとは貴様分かっているな

 コメント ひんぬーの良さを理解できんとはしょせんガキか

 コメント お? 戦争か? 

 

「戦争すんなって、そういや、多いで言うと……」

 

『前世何やってました?』

 

「なんか前世聞いてくるマロが多数あったんだが、お前ら俺のプロフィール見てないのか? 俺の前世は勇者だぞ?」

 

 コメント ………あー

 コメント なあ、これって……

 コメント たぶんそっちじゃないよな?

 

 ボケたつもりだったんだが、コメント欄の感触が思わしくない。こんな流れを俺は前も味わったことがある。

 

「もしかして、これ触れない方がいいやつか?」

 

 コメント うん

 コメント 何ならタブーまである

 コメント マジでやめとけ

 

 とりあえず俺はVtuber 前世で調べてみると……俺はマロの画像を消して。

 

「よし、今日はここまでかな。そうそう明日はレインボーの公式チャンネルで皇帝の部屋っていう番組に四期生全員で出る予定だ。ぜひ見てくれよな! それじゃあ、乙ジル!」

 

 コメント 乙ジル

 コメント 乙ジル 

 コメント 逃げたww

 コメント 公式番組楽しみ

 

 なお、この後しっかり切り抜きされてしまったのはいうまでもない。

 マネージャーからは爆笑されたのちに注意された。

 

 




 皇帝の部屋
 徹○の部屋的なノリの番組。レインボー所属のVtuber、アドラッシュ=ドラギオンが司会を務める番組。アシスタントに赤坂優菜がついている。

 アドラッシュ=ドラギオン
 異世界の皇帝。国の陰謀で現代日本に転移してきた。そしてこの日本にドラギオン帝国を作ることが目的であり、その資金集めのためにライバーになった。
 レインボー一期生にして初の企業所属の男性ライバー。登録者は100万人を超える原点にして頂点。ゲームセンス、歌唱力の評価が高い。
 ただ、あまり多くを語るタイプではないため、番組ではアシスタントが奮闘している。
 わりとポンコツ。

 赤坂優菜
 元々ブラック企業の会社員だったが、心機一転してライバーになる。
 レインボー一期生。わりと常識人枠でネジが吹っ飛んだ同期によく振り回される。BL好きで、自枠の配信ではよく暴走して色々なカップリングを妄想してはリスナーに話している。元ブラック企業所属の力なのか、耐久配信が得意。
 圧が強いドラギオンに躊躇なくつっこむ担力を持つ。ドラギオンとのコンビはリスナーからも評判である。
 
 


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公式番組①

生存報告も兼ねて


 

 以前枠で宣伝した通り、俺は公式番組に出演するため久方ぶりにレインボー本社を訪れていた。

 ここに来るのは、第三審査と邪眼竜先輩のラジオ合わせて三回目だ。いつ見ても大きな建物だ。都心の一等地にこの大きさのビルを建てれるのは相当すごいんだよな。運営の頭はおかしいが。

 ビルに入ると清潔感のある女性が受付から元気な声で挨拶してくれた。

 案内に従い、控室に通される。

 入ってみるとお弁当が二つ用意されていた。今日の本配信は19時からなのだが、入りは昼頃だ。昼ごはんということだろう。こんなものが用意されているとは知らず、自分でお弁当を作ってきてしまった。

 どうしたものか。わざわざ用意してくれたのに食べないのは悪い気がしてくる。なんていうのは建前で、楽屋弁当というものを食べてみたいミーハー心である。

 心を弾ませながらお弁当を掻っ込む。

 

「うまいな」

 

 冷えてるけど普通においしかった。ぺろりと一つ平らげてしまう。

 とはいえ、俺はそこまで食べれる人間ではないので、これでご馳走様としよう。一つ余ってしまったが、しかたあるまい。

 なんて考えていると、こんこんと控室をノックする音が聞こえる。

 誰だろうか? マネさんだろうか? 首を傾げながら、ドアを開ける。

 

「はい? ......!?」

 

 ドアを開けた俺は驚愕した。なぜなら、ドアの前にいたのはマネではなく身長180cmはありそうな体躯のイケメンが立っていたのだ。

 そして男はノックしてきたくせに何も言わない。じっとその圧のある目で俺のことを見てくる。

 一応社員証を首からかけているので関係者ではあるのだろう。

 さすがに気まずさが頂点に達したので、こちらから話しかけることにした。

 

「ええ、と......どちら様でしょうか?」

 

 ーーぐ~

 

 大きな腹の音で返事された。

 俺の戸惑いは増すばかりだ。

 どうするべきかと困っていると、男はじっと俺の方を見る。いや、違う。俺を見ているわけではない。俺の後ろにあるお弁当を見ていたのだ。

 俺はお弁当を指差して。

 

「食べますか?」

「食べる」

 

 ようやく言葉を話してくれた。しかし、今の声いやにいい声だったな。というかどこかで聞いたことがあるような?

 俺のことなど気にせず、男は椅子に座ると俺よりも勢いよくお弁当をかっこんだ。相当空腹だったようだ。

 数分でお弁当を完食した男は、今度は俺のバッグをじっと見つめる。

 

「どうかしました?」

「美味そうな匂いがする……」

「……あー、俺の弁当ならありますけど」

「食べたい」

「味の保証はできませんけど?」

「かまわない」

 

 俺は構うんだよなぁ。まあ、処理に困ってたところだからいいけど。

 弁当を手渡すと、男は前のお弁当と同じようにかっこむ。ちなみに今日のレシピはハンバーグと卵焼き、白飯である。

 少しして完食した男は俺を見て。

 

「おかわり」

「いや、ないですけど!?」

「なぜだ?」

「弁当だからですが!?」

「そうか、ないのか……」

 

 おかわりがないことを理解すると男は分かりやすく気を落としてしまった。

 俺は1ミリも悪くないはずなのに、なぜか罪悪感が刺激される。

  

「こんなところにいた!」

 

 気まずい空気を切り捨てるような大きな声がドアの方から聞こえてきた。そちらを見るとスーツ姿の綺麗な女性が般若の相で立っていた。

 今度は何だと雪崩れ込むような展開に俺は混乱している。

 しかし、女性は俺ではなく飯を食べている男の方に近づいた。

 

「もう、アドくん! 打ち合わせに来ないと思ったら、新人さんの楽屋に押し入って何してるの!?」

「弁当を食ってる」

「そうじゃないでしょ!?」

「しかし、腹を満たさねばいい配信はできないぞ?」

「打ち合わせをしなきゃ、そもそも配信もできないの! ほら、行くわよ! スタッフさんたち待たせてるんだから!」

 

 そう言って女性は男の腕を掴むとぐいぐいと引っ張って行った。そして去り際に。

 

「驚かせてごめんね、ジル=ホワイト君。私は赤坂優菜、この腹ペコモンスターはアドラッシュ=ドラギオンよ。今日はよろしくね」

 

 そう言ってきた。

 あの変人がアドラッシュ=ドラギオン!? 今日の番組のMC!?

 

「大丈夫なのか? 今日の配信……」

 

 とりあえず俺はTwitterを開き。

 

『腹ペコモンスターに楽屋凸されました』

 

 と書き込んだ。

 するとアドラッシュ先輩と察したファンが大量に草を生やしていた。これだけで察するって前科どんだけあるんだよ。

 

「というか、弁当箱返してもらってない……」

 

 あのポンコツ弁当持ったまま引き摺られやがった。

 けっこうお気に入りだったんだがなぁ……。

 

 

 





 


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公式番組②

こういうのって一つにまとめた方がいいんですかね? 分けた方が見やすいと思ってるけど、どうなんだろ


 

 嵐のような、どちらかといえば荒らしのような先輩の凸から少しして、打ち合わせをするとマネージャーから呼び出された。

 指定された部屋に入ると、そこにはまるめろ改め丸山と、知らない女性が2人座っていた。

 1人は気の強そうな金髪ツインテールの美人で、もう1人は穏やかそうな黒髪長髪の美人だ。

 

「三笠と、加志駒か」

 

 金髪ツインテール、黒髪長髪を暗に指しながら言った。

 俺が呟くと金髪の方は携帯から目を離して俺を見る。

 

「そうだけど、こっちでその名前で呼ばないで。芝鶴 命(しかく みこと)よ」

「うちは山家 風香(やまいえ ふうか)や。よろしゅうな」

 

 ツンツンギャルと、黒髪正統派京都弁とは、なかなかキャラが濃いな。

 

「そう……ですか。ジル=ホワイトこと白川 裕也です。よろしくお願いします」

「何で敬語なんですか?」

「いや、全員歳上っぽいから……」

 

 忘れられがちだが、俺は一応16歳なわけで。ぶっちゃけガキである。

 Vの時は、全員同い年設定でキャラもあるから普段通りの口調にしているが、オフの時はそうも行かない。

 人間としての最低限の礼儀は忘れてはいけない。

 

「別にタメ口でいいよ。表の時に敬語使われる方が困るし」

 

 というのは三笠こと芝鶴である。

 って言われてもなぁ。俺が困ったように頭をかいていると。

 

「お言葉に甘えとき。命ちゃん、裕也くんが気まずくならないように気を使ってるんやで」

「べべべ別にそんなことないけど!? 勝手な解釈やめてくんない!?」

 

 加志駒こと、山家の暴露に顔を真っ赤にして否定する芝鶴。どうやら図星のようだ。

 何だよお前。性格悪いロールプレイしておきながら実はいい奴かよ。いや、元から悪いやつではなかったか。

 

「んじゃ、ツンデレのお言葉に甘えて普通に話すわ」

「ツンデレじゃないし!」

 

 その否定は無理だろ。

 

「裕也、私にも気安く話していいんですよ!」

「いや、お前は元からタメ語だわ」

「なんでですか!?」

「お前が俺をラジオに呼び出した理由を思い出せ。このコミュ障め」

「んなぁ!? たしかに以前の私はコミュ障と言われても反論できませんでしたが、今は違います! この前だって邪眼竜先輩とコラボ出来ましたし!」

 

 そのコラボは見た。ミイクラをしていたのだが、初めの1時間はマジで気まずそうで、会話も天気デッキが精一杯という放送事故であった。途中2人から俺に救援要請がきたので、それとなく話題を提供してようやくコラボっぽくなったのだ。

 なぜ、作業ゲーを選んでしまったのか。FPS系統なら、勝手に会話できるのに。

 ちなみに2人が俺に救援要請したことを雑談で話したら、しっかり切り抜かれた。

 電波組てぇてぇらしい。絶許。

 

「歳下に話題提供頼んでおいてよく言えたな」

「ぐぬぬぬ……」

「ふふふ、仲ええなぁ。2人とも。ちなみにうちにもタメ語でええで、裕也くん」

「お、おう」

 

 さっきも呼ばれたが、美人に名前呼びされるのは少し照れるな。

 

「そういえば、今日はみぃちゃんはいないのか?」

「あの子は座敷童子やからなぁ。基本、家から出られないんや。だから、今日はお留守番やで」

「なるほどな」

 

 後ろからホッという声が二つ聞こえた。たぶん、警戒してたんだろうな。

 コンコンとノックする音が聞こえた。

 

「失礼します」

 

 ドアが開くと4人のマネージャーとディレクターが入ってきた。

 どうやら、打ち合わせが始まるようだ。

 俺たちは椅子に座り、ディレクターの説明を受ける。

 

 今回の番組の内容として、コンセプトは俺たち新人の顔合わせらしい。

 初配信から一月経って、ある程度配信にも慣れてきたところでより注目度を集めることが狙いらしい。要はこの配信で爪痕を残せれば、よりチャンネルが伸びると言うことらしい。

 その話になると女性陣の目が鋭くなる。やはり企業所属だけあって、人気云々に関しては気にしているようだ。というか、これが普通か。無頓着な俺が特殊なのだ。

 

「何か質問はありますか?」

 

 ディレクターの問いに、俺は手を挙げた。

 

「はい、白川くん」

「事前アンケートってありましたよね? あのアンケート、1つ消されてたんですけど、あれってなんですか?」

 

 番組内ではこう言う質問をしますよという例題的なものが配られた。それに答えて、マネージャーに見せてまずい答えが有れば修正するためだ。

 ただ、俺の質問欄だけ、1つ明らかに黒塗りされて隠されていた。いやな予感がするのでここで聞いてみたのだ。

 

「それでは質問はないようだね。話はここまでです。お疲れ」

「ちょっと、何で逃げる? おい!?」

 

 逃げるようにディレクターは部屋を去っていった。

 捕まえて吐かせてやろうかと立ち上がるが、そこに俺のマネージャーが阻む。

 

「まあまあ、白川さん。本番でのお楽しみってやつですよ」

「怖いんだが……。変な質問じゃないだろうな?」

「保障はできないです!」

「ぶっ飛ばすぞ」

 

 キメ顔でサムズアップしたマネージャー。ぶん殴りたい。

 そういえばこの会社、ライバーもやばいが運営もやばいんだったな。

 俺は不安を抱えつつ、本番を迎えるのだった、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 芝鶴 命(しかく みこと)
 23歳。身長163 体重? 金髪ツインテール。元々は別名義で配信者をしていた。性格はツンデレ オカン体質。胸は大きい方。

 山家 風香(やまいえ ふうか)
 20歳。大学生。身長155 体重? 黒髪ロング 切り目 京都の神社出身 普段は京都訛り ひんにゅ……スレンダー! 元々は別の会社でVをしていた。

 



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公式番組③

 

『皇帝の部屋』

 

 カラフルでポップな文字が配信画面に流れるが、BGMはやる気のない男の声で本家よろしくの例の音楽を歌っている。

 オマージュってことなんだろうが、もう少しほかになかったのだろうか?

 

コメント 歌助かる

コメント 相変わらずで草

コメント もはやこれを聞かないと夜しか眠れない

 

 どうやら好評のようだ。なんでやねん。

 そして画面がスタジオに移り変わると、アドラッシュ先輩と赤坂先輩の立ち絵が映される。

 

「ようこそ諸君。余こそこの番組の王であり、このレインボーの皇帝アドラッシュ=ドラギオンだ」

「アシスタントの赤坂優菜です」

 

コメント うおおおおおおおお!

コメント きたあああああああ!

 

 コメントが沸き立つ。同時接続人数を見てみると、4万人を記録していた。野球球場と変わらないレベルだ。自覚してみると緊張してくるな。

 

「そして今日は余の番組に招待された者たちを紹介しよう。レインボー4期生どもだ」

「は~い★! ご紹介されました! オタクのみんなこんばんはー! レインボー4期生三笠 光です★! よろしくお願いします!」

「くっくっく我が名はまるめろ! 青魔族随一の魔術師にして爆発魔法を操るもの! この度はこのような宴にご招待いただき感謝します!」

「こんれい~。加志駒令子です。今日はみぃちゃんはいないけど、みんながいるから寂しくないよ。よろしくお願いします」

「こんジル。レインボー4期生ジル=ホワイトだ。正直緊張で足が震えているので今すぐ帰りたい」

 

コメント 三笠かわいい

コメント まるめろは通常運転やなぁ

コメント ......そうか、今日は物音は聞こえないのか。残念

コメント ジルwwwww

コメント こいついつも帰りたがってんな

 

「そういえば、ジルよ。先ほどの弁当大変美味であったぞ」

「今言うことかよ!? あ、すいません」

「構わん。それで今度はいつ作ってくれるのだ?」

「作る前提かよ!? あ、すいません」

「構わん。それで......」

「はいはいはい! お弁当の話はあと! 自己紹介が終わったら、次のコーナー行く」

「分かった......ちっ」

 

コメント wwwww

コメント がっつり舌打ちしてて草

コメント どんだけお弁当食べたかったんだよwww

コメント 相変わらずMCが自由すぎるwww

 

 焦った……。いきなり番組の流れとかぶった切って世間話とかするか普通? いや、普通じゃねえからこの世界の頂点なのか。終わってんなこの世界。

 それは本音寄りの冗談として。

 アドラッシュ先輩は渋々次のコーナーに行く。

 

「次は貴様らのことを丸裸にさせてもらう。優菜」

「はい、説明するわね。今からみんなに質問をするから、その答えを手元のタブレットに書いてください。それじゃあどうぞ」

 

 question1. 尊敬する、又は好きなライバーは?

 

「そろそろ書けたか? それでは面をあげよ」

『真実 美波(みなみ みなみ)』

『邪眼竜先輩!!!』

『優菜さん』

『同期』

 

「……よし、次の質問は」

「こらこら、自分がいなかったからって飛ばそうとしないの。まず光ちゃん。何で美波なの?」

 

 真実 美波とはレインボー一期生で、その清楚(偽)さとクレイジーな企画が人気のライバーだ。

 

「やっぱりあのぶっ飛んだ企画も好きなんですけど意外に歌がうまかったりホラーが苦手なところが可愛かったり、一言で言うと推しです!」

 

コメント めちゃくちゃ早口で草

コメント 《悲報〉オタクに厳しいギャル、自分もオタクだった

コメント 赤ちゃんちょっと引いてるじゃんw

 

「あはは、後で美波にも伝えておくわね。じゃあ、次まるめろ」

 

 指名されると、まるめろは感傷に浸るように上を見上げ。

 

「そうですね、あれは雨が降る日でした。その日私は魂を損傷していたのですが、そんな時邪眼竜先輩が颯爽と私の目の前に現れました。その時私は奥底から共鳴する何かを感じたのです!」

「傷心中に邪眼竜先輩の配信を見て救われたのが理由だそうです」

「今のそう言う意味なの!? というか、よく分かったわね」

「まあ、何となく」

 

コメント 翻訳助かる

コメント まるめろの切り抜きより正確っぽくて草

コメント この勇者やはり同士なんじゃないか?

 

 何かコメント欄で名誉毀損されてる気がする。俺はノーマルだっての。

 

「次は令子ちゃん。まさか私が書かれるとは思わなかったらびっくりしたわ」

「私、元々レインボーの箱推しだったんですけど、優菜さんは個性的なメンバーをしっかり纏めるお姉さんって感じがすごい好きなんです。レインボーは優菜さんなしでは成り立たないとも思ってます」

 

コメント それはそう

コメント 皇帝と風紀委員の諍いを仲裁できるの赤ちゃんだけやし

コメント 公式番組でも自由すきる奴らしっかり纏めて時間通りに終わらすし

コメント 箱推しなら納得の人選

 

「あはは……ありがとう。嬉しいわ」

「語彙力がない時は本当に照れている時だ。良かったな幽霊娘」

「るっさい!」

 

コメント 赤ちゃん照れてて可愛い

コメント てぇてぇ

コメント この2人の絡みからしか得られない栄養素がある

 

 赤坂先輩は息を吐き心を落ち着かせた。

 

「じゃあ、ラストジルくん。同期ってことだけとこれは3人とも好きってことでいいかしら?」

「ライバーとしてですけどね。俺同期の配信しか見てないんで」

「ちなみにどんなところが好きなの★?」

 

 三笠からのキラーパスの攻撃! ジルには効果抜群だ!

 お前ふざけんなよなぁ……。よく見れば三笠はにやけ顔だった。何お前、ツンデレって言ったの根に持ってたの? 他の2人もじっと見てくんな。

 

「そっすね。まるめろは素直にゲームを楽しんでるのが伝わってくるし、リアクションも面白いんで見てて飽きないですね。もうちょい自発的にコラボ誘えって思いますけど。加志駒はホラゲーも好きなんですけど、歌がすごいうまいんですよね。最近出した歌ってみたもサビの力強さが気持ちよかったし。三笠は生意気な言動が悪目立ちするけど気遣いがすごい。先輩とのコラボでもさらっとフォローしてたり、プロレスに持っていったり、配信のメリハリをつけるのも上手いですよね」

 

コメント めちゃくちゃしっかり見てて草

コメント 営業なのかと思ったらw

コメント 同期大好きじゃん

 

「その……」

「えっと……」

「……んだよ、お前らリアクションしろよ! 本気で照れられるとこっちも気まずいんだぞ!」

「こ、こんなしっかりとした答え返ってくると思ってなかったんだから仕方ないじゃん! どうすんのこの空気!」

「知るか! 元々お前が変なこと言うのが悪いんだろ! バーカ、バーカ!」

「このクソ勇者……」

 

コメント バーカ、バーカってwww

コメント ジル君ヤケになってるの草

コメント 四期生てぇてぇな

 

「ふっ、勇者が同期を好きなことは伝わった。次に行くぞ」

「ふふ、そうね」

 

 くっ、微笑ましいものを見る目が痛い! だから言いたくなかったんだ!

 波乱はあったが、その後はテンポ良く番組も進行していく。そして、ついに最後の質問となった。

 

「最後の質問はこれだ」

 

『四期生歌ってみた楽曲製作中!』

 

 は、歌ってみた? というか質問じゃねえし!

 どう言うことだと周りを見るが、他の3人は知っていたのか驚いていなかった。え? 俺だけ知らなかったの? ハブ?

 

「はーい★! 今出た通り、デビュー1ヶ月を記念して4人で歌う歌ってみたを現在作成中です!」

「まだ、収録はしていませんが素晴らしい出来になることは間違い無いでしょう!」

「そのうち投稿されるからみんな聴いてね〜」

「ちょ、そんな話し聞いてないが!?」

 

コメント うおおおおお!

コメント 楽しみー!

コメント 1人ついていけてないやついて草

 

「一応ジル君のマネさんからはオッケー貰ってるよ★」

「本人は!? 本人寝耳に水だけど!?」

「最初はジルにも伝える手筈でしたよ。しかし、ジルのマネージャーがジルはたぶん歌は渋るから、先に逃げ道塞いじゃえって」

「あのやろおおおお! ふざけんなああああ!」

 

コメント wwwwww

コメント ライバーもライバーならマネージャーもマネージャーだな

コメント さすがレインボー

コメント これはジル君逃げられないなぁ

コメント お歌楽しみw

 

……おかしいと思ったんだ。不自然に質問黒塗りされてるし、ディレクターもマネージャーも露骨に誤魔化してくるし。何か答えづらい質問ぶっ込んでくるかと思いきや、ドッキリかよ。公式番組でドッキリしてくんなや。

 

「それでは質問コーナーはここまでだ! 最後に番組の感想を言ってみろ」

「じゃあ、光ちゃんから順に行こうか」

「はーい★! 今日はずっと憧れてたアドラッシュ先輩の番組にでれて夢のような時間でした! すごい楽しかったです! また呼んでください!」

「右に同じです!」

「同じく〜」

「考えろや! ……そうですね、番組は! すごい楽しかったです。ただこの後、マネージャーとお話しをする必要がありそうなのが残念です。主に報連相について説教してやろうと思います」

「ふふ、こってり絞ってあげなさい」

 

コメント 止めないんかい笑

コメント 推奨してて草

 

「あと歌に関しては発表してしまった以上仕方ないと思うので、精一杯頑張ります」

 

 ……たぶん。メイビー。おそらく。

 

「であるか。それでは今日の番組はここまで! MCはアドラッシュ=ドラギオンと!」 

「アシスタントの赤坂優菜でお送りしました!」

「次回も是非みに来るがいい! さらばだ!」

 

 

 





真実 美波(みなみ みなみ)
身長154 風紀委員にしてアイドルjk。黒髪セミロング、可愛い系。清楚(偽)。やばい企画をいくつもしており、レインボーの諸悪の根源と呼ばれている。
 アドラッシュとは犬猿の仲。コラボの度にいがみあい、赤坂が仲裁している。


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歌ってみた

 

 

 とある日の休日、めかし込んだ俺の姿を見てアイスを加えた妹が言った。

 

「あれ? どこか行くのお兄ちゃん? もしかしてデート?」

「違うよ。前に告知してただろ。四期生で歌ってみたを出すって。今日はその収録だ」

「本当に今からとるんだ!? てっきりすでにとってるもんだと思ってたよ」

「普通はそうなんだよなぁ……」

 

 何なら歌ってみたを出すことを知ったのすら視聴者と同時である。あいつら俺が意固地になったらどうする気だったんだ。

 同期の見通しの甘さに呆れていると、妹は俺を覗き込んで。

 

「でも、お兄ちゃんの歌は楽しみ! 公開する時は一緒に聞こうね!」

「あたぼうよ!」

 

 身内に聞かれることに恥ずかしい気持ちもあるが、妹と一緒にとなれば話は別だ。

 気合を入れた俺は妹に見送られて家を出る。

 正直気乗りはしていなかったが、妹に応援されたとなればやる気100倍である。

 これは収録も余裕でこなして……

 

 

 ……なんて甘い話はない。

 

『はい、ストップ。白川君、もう一回行こうか』

「はい……」

 

 男白川、人生最大の壁にぶつかってるNow。

 状況を説明すると他3人すでに撮り終わり→最後俺の番→現在take20突破→くそ時間かかってるという感じである。

 そもそも、つい最近まで普通の学生だった俺にとって人に聞かせる歌を歌ってみろって言うのはかなりの無茶振りだ。

 しかも少し歌えるレベルなら加工という手法を使えば誤魔化せはするものの、俺は少し音痴気味のようだ。色々とアドバイスをしてくれるのだが、どれも効果はない。小手先では治らないらしい。 

 もう1take撮ってみたものの、監督的な人は頭をかきながら、どうしたもんかと困った様子だった。対する俺もきっかけすら掴めず手詰まりと言ったところだ。

 

『マネージャーさん。ちょっといい?』

 

 監督的な人は、俺のマネージャーを呼ぶと何やら話し込んでいる様子だ。

 話が終わると監督的な人はスタジオを出て、俺はマネージャーに手招きされた。いつもヘラヘラしてるマネージャーが、少し顔を引き攣らせてるからいい内容じゃないんだろうな。

 

「お疲れです裕也さん」

「お疲れです。それでどうかしましたか? 監督さん出て行っちゃいましたけど」

「監督じゃないんですけど……まあ、いいか。その、監督さんは別の現場の仕事があるらしいので、裕也さんの収録は後日にしてほしいって言われたんすよ。まあ、まったく終わらなさそうだったすからね」

「そう……ですね……」

 

 変に気を遣われるのもくるが、はっきりとお前が下手すぎて時間足らんくなったわと言われるのもきつい。

 あからさまに凹んだ俺を見てマネージャーは。

 

「そんなに気にしないでほしいっす! 歌未経験の初収録なんてみんな似たようなもんっすよ! 同期のお三方が偶然歌が上手い人の集まりだっただけっすから!」

「はぁ……」

 

 どうにか励まそうとしてくれてるみたいだ。フォローになっているから微妙だけど。

 ……まあ、いつまでもくよくよしてられんか。次のチャンスも取り付けてもらっているのだし。

 そう割り切った俺は、マネージャーに連れられて3人が待っている控室に戻った。

 

「終わったの?」

 

 部屋に入ると、芝鶴が聞いてきた。

 

「いいや、終わってない。タイムオーバーで後日に持ち越しだ」

「マジ? はぁ、どうすんのよ? ……滝澤さん、時間間に合うの?」

 

 滝澤さんとは俺のマネージャーのことだ。マネージャーはメモ帳を取り出す。

 

「予定日からは少し遅れるっすね。でも、想定内っす。問題ありません」

「すいません……」

「ああ、いや気にしないでほしいっす。それにあくまで内部で決めた期日であって、表に公表してるわけじゃないんで、いくらでも調整可能っすよ」

 

 そう言ってくれた。それでも俺のせいで仕事か遅れてしまうのは責任を感じてしまうな。

 

「まあまあ、命ちゃんもそんなにピリピリせんといてな。裕也くんは歌が初めてなんやし、できないのも仕方ないやろ」

「そうかしら? 瑠奈だって初めてだし、私だって初めてだけど? 初めてだからできないは言い訳にしかならないと思うけど?」

「嫌味な言い方やな。京都人のうちでも真っ青やで」

「何ですって?」

「ふ、2人とも喧嘩はやめてください〜!」

 

 売り買い言葉でヒートアップしていた言い合いを丸山が止めに入った。

 しかし、芝鶴はメンチをきり、山家はニコニコしながらも目は笑っていない。鼻っ柱の強い2人だ。どちらも引かないだろう。

 証拠に丸山の仲裁はまるで意味を成してない。

 

「いいよ、山家。芝鶴の言う通りだ。初めてだからできませんは言い訳にならん。今回の件は俺が悪い」

 

 実際そう思ってる。学生の部活じゃないんだ、仕事なのだ。やるべきことを成せなくてどうするのか。

 そう考えれば、今回は完全に俺の落ち度だ。 

 

「と、とりあえず今日は解散ってことで! 裕也さんは後日予定を確認しましょうっす!」

 

 マネージャーはそう言って部屋を出た。

 芝鶴は荷物を持ってすぐ出て行く。それに少し遅れて山家は「また今度」と言って出て行った。

 険悪だった2人がいなくなると、丸山は緊張の糸が切れたようにヘナヘナと椅子にもたれ掛かる。

 

「うう……怖かったです……」

「災難だったなお前も」

 

 マジで丸山はとばっちり以外の何者でもないからな。ただただ可哀想だ。

 俺は妹をあやすように頭を撫でるのだった。

 

 

 □

 

 

 家に到着すると俺は作り置きしておいた夕飯も食べずに自室に入った。そしてこれからどうするかを考える。

 あれだけ回数を重ねても駄目だったのだ、このままでは次も同じことを繰り返して終わりだ。

 

「練習すべきなんだろうけど、歌の練習なんてどうすれば」

 

 カラオケに行く? 闇雲に歌っても素人に毛が生えた程度だ。意味があるとは思えない。

 しかし、現状それぐらいしか手がないんだよな……。

 マネージャーに相談してみるか? いやあそこで具体案出してこない時点でいい案が聞けるとは思えないしなぁ。

 先輩に相談? 中二病と腹ペコモンスターが浮かんだあたりで俺は考えることをやめた。

 なかなか打開案が浮かばず頭を抱えていると、ディスコードにメッセージが入っていることに気が付いた。

 名前は三笠となっていた。

 何の用だと俺は首をかしげながらメッセージを開くと。

 

三笠『付き合ってくんない?』

 

「ふぁ!?」

 

 突然すぎる告白に俺は目を疑ったが、確認してみても文字に誤りはない。俺は一通り混乱した後、なんか前も同じようなことあったなと思い直す。

 そして以前と同じような文を送る。

 

ホワイト『どこにだ?』

 

三笠『カラオケ』

三笠『歌の練習だからね? 変な勘違いしないでよ?』

 

ホワイト『しねえよ!』

 

 しましたけど何か(半ギレ)!?

 

三笠『あんた平日はダメなんだっけ?』

 

ホワイト『一日くらいなら何とか』

 

 晩飯は朝作り置きすればいいし。都合がつけられないわけではない。

 

三笠『じゃあ、明日。午後5時頃。ここにきて』

 

ホワイト『了解』

 

 明日とは随分急だな。まあ、三笠は動画を出す時間を気にしていたし、実際告知してから時間が空きすぎてしまうと視聴者も冷めてしまう。そのあたりを危惧してるんだろうな。

 その後立て続けに2件の通知が来た。

 

まるめろ『あの……もし困っていたら付き合いますけど。歌の練習……』

 

加志駒『裕也くん大丈夫か? うちでよかったら練習付き合うからな~』

 

 なんだよお前らいいやつばかりかよ。

 とはいえ、さすがに何日も時間を空けることはできないため、理由を話してお断りさせてもらうことにした。

 

まるめろ『そうですか……了解しました』

 

加志駒『やっぱりツンデレさんやな、命ちゃん』

 

 そう返信された。

 なんだかんだ他の同期も心配してくれていたのか。俺が不甲斐ないだけなのにな。それだけにしっかりと修正しなくてはな。

 俺は褌を締め直した。

 

 

 □

 

 当日。俺は指定されたカラオケに到着した。

 時間は集合時間10分前。いい時間だろう。少しして芝鶴がやってきた。

 

「待たせた?」

「いや、今来たところだ」

 

 嘘ではない。

 芝鶴は白っぽいニットに黒いジョグパンツ、そしておしゃれなメガネに肩からかけるバッグをもっていた。身長もそこそこあるため、素直にカッコいいという感想が浮かんだ。

 視線を感じたのか、芝鶴は怪訝な顔をして。

 

「何?」

「いや、すまん。カッコいいから見惚れてた」

「なぁ……べ、別にこのくらい普通だし。一丁前に女喜ばせようとしなくていいから! たくっ、マセガキめ」

 

 芝鶴はそう言ってつかつかとカラオケの中に入っていった。

 どうやら怒らせてしまったようだ。まあ、大して仲良くないやつが偉そうに評価するなってことかな。これは不用意だったな。反省反省。

 そう自分に言い聞かせながら、芝鶴の後を追った。

 

 

 中に入ると芝鶴はすでに店員と話していた。

 少しして店員からマイクとコップが入ったかごを渡された。俺はそれをとると、芝鶴は驚いた様子だった。

 

「どうした?」

「……別に、黙ってとるから驚いただけだし」

「ああ、悪い。いつも妹の買い物の時は荷物を持ってるからその癖でな」

「ふーん、そ」

「あと、受付ありがとな」

「別にこのくらい大したことじゃないし」

 

 そう言って部屋の方につかつかと歩いていく。まだ若干機嫌が悪そうだ。

 部屋に入ると、大きな画面に最近のアーティストのインタビューが流れている。固めなソファーに少し暗めな電灯。広さとしては、二人部屋とだけあって少し狭めだ。

 実はカラオケに来るのは初めてだ。行く友達もいなかった、時間もなかったからな。

 こんな感じになっているのか。きょろきょろと観察するように部屋を見回す。

 って、こんなことしてる場合じゃないか。

 

「それじゃあ、練習始めるか」

「そうね、時間もあまりないし。じゃあ、とりあえず一回歌ってみて。どこが悪いのか知りたいから」

「オッケー……ええっと、この機械に曲を打ち込めばいいのか」

 

 なんとなく聞きかじったカラオケ知識を頼りに操作していく。そして件の曲をいれた。

 そして歌い終えると、微妙な顔をした芝鶴の顔が目に入った。

 

「あまり聞きたくないがどうだった?」

「下手」

「ぐっ……」

 

 理解はしていたが、改めて言われると心にくるな。

 

「音程もあってないし、声も震えたりかすれたり安定しないし、ちょっとうまい素人の方がましだと思う」

「そ、そこまで言うか!?」

 

 泣くぞ? 高校生だけど幼稚園生みたいにわんわん泣くぞ?

 

「でも、声は出てるし地声は悪くないから修正不可能ってわけじゃないと思う」

 

 そう言うと、芝鶴はバッグからスマフォを取り出した。

 

「多分あんたは運動性音痴ってやつ。いわゆる自分の声帯をうまくコントロールできてない状態ってこと。つまり正解の音を確認しながら修正すればマシになるはずよ。これ見て」

 

 促されるまま画面を見ると、そこには歌詞一つ一つに抑揚や唄幅などを細かく記したものだった。簡単に言えば、歌の指示書と呼べるものだった。

 素人の俺が見てもとても細かく作られているのが理解できる。

 

「これ芝鶴が作ったのか!?」

「まあ……そうだけど」

「すげえ! 俺正直歌に対してはからっきしだけど、これがすごいものってのは理解できたぞ!」

「大袈裟すぎるし。あたしの母親が歌の先生やってるからノウハウがあっただけ」

「それでもすげえよ! ありがとう、これがあればやっていけそうだ!」

「そ」

 

 それからは芝鶴の指示書通りに歌い、ずれていたら芝鶴のアドバイス通りに直すというのを繰り返した。

 そしてその時間は部屋に備え付けられた電話が鳴り響くまで続いた。

 

「っと、もうそんな時間か」

 

 予約した時間は19時まで。つまり二時間もぶっ続けで歌っていたことになる。

 正直もっと練習したいが、これ以上遅くなると家族が心配する。それに芝鶴の身も危なくなるかもしれないからな。

 ここまでだ。

 

「物足りなさそうね。でも、あたしから見てもあんたの音痴はかなり改善されたと思うし。あくまで今回の曲に関してはね」

「まあ、そんな簡単に治ったら苦労しないしな」

 

 あくまで今回行ったのは歌ってみたをうまく歌うための練習。俺の歌下手をどうにかする練習ではない。

 要するに、突貫工事のようなものだ。しっかり基礎を固めなければまたいつか崩れ落ちる。

 

「ありがとな芝鶴。お前がいなかったら、多分俺は次も同じ失敗を繰り返してたと思う。お礼になるかわからないが、ここの部屋代は俺が……あた」

 

 デコピンされた。

 

「子供におごられるわけないでしょ。自分の分は自分で払うし。……たくマセガキめ」

「だって俺今のところもらいっぱなしだし……」

 

 不満げに言うと、芝鶴は呆れたように溜息を吐き。

 

「あのさぁ、あたしがただ親切心であんたを助けたと思ってるわけ? 今回の動画はあたしにとっても、伸び悩むかどうかの分岐点なの。だから、あんたにはしっかりしてもらわないといけないの。つまりあんたのためなんかじゃなくて、あたしのためにあんたを助けたの」

 

 なぜか山家の『ツンデレやなあ~』という声が再生された。

 なるほど、これがツンデレか。なんとなく理解できた。

 その後、会計を済ませ、外にでた。外はすっかり暗くなっていた。

 

「駅まで送ろうか?」

「だから一丁前に女喜ばそうとしなくていいし。あんたは子供なんだから、早く家帰りな」

「そうか。今日はありがとう。俺頑張るわ」

「そ。頑張って」

 

 そう言って芝鶴はつかつかと駅の方に歩いて行った。

 

「はあ、緊張した」

 

 女性、しかも自分よりも年上のさらに美人とカラオケなんて、彼女いない歴=年齢の俺には刺激が強すぎる。

 しかし、さすがというか芝鶴はまったく意識した様子はなかったな。

 まあ、あんな経験豊富そうなギャルが俺みたいな高校生を意識するはずないか。

 そう嘲笑して、俺は帰路に立った。

 

 

 

 □

 

 

 と、裕也は考えていたが。

 

「はあ、はあ、緊張した……」

 

 芝鶴は熱くなる顔を両手で覆いながらそうつぶやく。

 実は芝鶴は今ではギャルのような装いだが、中学高校と女子だけの空間で育ち、大学でも女子だけのグループで生きてきたため、男とかかわることがほとんどなかった。

 そのため、異性と二人きりで会うということも初めてであり、実は裕也よりも緊張していたのだが、それはまた別の話。

 

 

 □

 

 

 それから数週間後。

 

「ほらお兄ちゃん、はやくはやく!」

「待て待て、そんなにせかさんでもいつでも聞けるぞ?」

「わかってないなぁお兄ちゃんは。こう言うのはプレミア公開でリアタイするのが楽しいんじゃん!」

「そんなもんかねぇ」

 

 ちなみに妹が何を聞こうとしているかと言うと、俺たちレインボー4期生のデビュー一月記念の歌ってみただ。そう例の動画が今日公開されるのだ。

 俺はすでに完成品を聞いているため問題ないのだが、人に聞かれると言うのはやはりまた別の緊張があるな。

 そわそわと落ち着かない気持ちになっていると、プレミア公開が開始された。

 

 軽快な音楽が流れる。

 まずは歌い出し4人の合唱からだ。

 

『『『『ニッコリ調査隊!』』』』

『『おはこんちわ』』『How are you?』

『『今日も今日とても最高です!』』『うぉー』

『『『『わんだーほー!』』』』

 

 また軽快な間奏に合いの手が入る。

 そう俺たちが歌ったのは【ニッコリ調査隊のテーマ】だ。リズムゲーム発の曲らしく、ポップなリズムと軽快な雰囲気が特徴的な曲だ。

 まだ序盤だが曲を聴いた妹は目を輝かせながら。

 

「すごいよお兄ちゃん! 歌手の人みたい!」

「はは、ありがとうな」

 

 褒められるのは嬉しいが、他の3人が上手いのと加工でうまく誤魔化せるだけだろうな。

 実際落第寸前だったし。

 そして曲が進み2章に入ったところで。

 

「そろそろ俺のソロ部分だぞ」

「本当!」

 

『こっちの世界もまだまだ捨てたんもんじゃない……なんてね』

『にっこりこりこりこりおりこうさん! 隠キャも陽キャも!』

『『『『ウェルカム! ウェルカム!』』』』

『君の笑顔が調査対象さ〜!』

『『『『イェーイ、イェイェイ』』』』

 

 俺のソロパートが終わると妹はさらに目を輝かせる。

 

「すごいよお兄ちゃん! もう歌手さんだよ! すごいかっこいい!」

「はは、そうかなぁ」

「そうだよ! ほらコメント欄の人たちもみんなかっこいいって言ってるよ!」

 

 その言葉に誘導されコメント欄を見てみると、確かにコメント欄は俺の声をかっこいいと言ってくれる人がたくさんいた。

 これを見ると頑張った甲斐が少しはあったのかな?

 むず痒さと高揚感を感じながら、俺の歌ってみた初挑戦は幕を閉じたのだった。

 

 



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【間話】間違えコメントにはお気をつけて


 あ


 

 朝雑談【歌ってみたどうだった?】

 

 コメント タイトルで質問投げかけていくスタイル

 コメント 今日はタイトルがあるな! よし!

 

「タイトルはいつもあるだろ」

 

 『よっ』とか『ちっす』とか。

 え? ダメ? だって、毎回考えるのめんどいんだもん。

 

「まあ、それはいいとして。こんジル! レインボー所属のジル・ホワイトだ。よろしくな」

 

 コメント こんジル〜

 コメント こんジル

 コメント 今汁

 

「俺の挨拶漢字にすると変な意味にとられそうだな」

 

 コメント wwww

 コメント 今更かい!

 コメント どう言う意味なんですかね〜?

 

「ちなみにどう言う意味かについては言及しない」

 

 別に精力剤みたいだなぁなんて思っていませんよ? 僕16歳、ヨクイミワカラナイ。

 ちなみにコメント欄は草で溢れていた。

 君ら草生やすの好きね。そろそろ砂漠地帯にでも派遣すれば、地球救えるんじゃない?

 話が脱線しそうなので口には出さんが。

 

「そんなことよりどうよ?』

 

 コメント どう……とは?

 コメント うざい上司かよ

 コメント しかも粘着質そう

 

「君たち俺のリスナーだよね? 実はリスナーの皮被ったアンチ集団とかじゃないよね?」

 

 コメント リスナーだぞ

 コメント アンチには悪意がある。俺たちにはジルを揶揄いたいと言う悪意がある

 コメント つまりアンチで草

 コメント さてはアンチだな、おれー

 

 【悲報】俺の配信アンチしかいなかった。

 

「まあアンチのみなさんにも楽しんでもろて。歌ってみただよ。感想聞きたいなって」

 

 コメント よかったぞ!

 コメント 格好良かった!

 コメント 逝った

 コメント たぶん死んだ

 

「とりあえず死んだみなさんは地獄に行ってもろて」

 

 コメント さらっと地獄送りにされてて草

 コメント アンチに容赦する必要ないからね(棒)

 コメント お前も道連れじゃい!

 

「残念。俺は清廉潔白に生きてるので落ちませーん」

 

 コメント欄はダウトと嘘つけい!で埋まった。

 知らんなぁ~。

 

「そういえばこんなマシュマロも来てたな」

 

『歌みたの裏話聞きたいです!』

 

 コメント たしかに聞きたい

 コメント 話してほしい

 

「裏話か~。とりあえず、俺の歌がひどすぎて収録が延期した話する?」

 

 コメント くさ

 コメント そんなにひどかったのwww

 コメント 聞いてるときはそんなの感じなかったけど

 

「まあ、練習したしな」

 

 一応芝鶴との練習の後も当日まで最低二時間は自主練していたからな。

 

「ただ、最初の収録の時はもうそりゃひどかった。ベテランの監督っぽい人がお手上げって感じだったからな」

 

 コメント どんだけだよww

 コメント よく持ち直せたな

 コメント 頑張ったんだな

 

「まあ、そこそこな。でも俺一人じゃどうにもならなかった。今回うまくいったのは三笠のおかげだ」

 

 コメント みかみか?

 コメント 唐突やな

 コメント 何があったん?

 

「三笠はな俺が生き詰まってるのを察して、今回の曲の歌い方を細かく解説した解説書を作ってくれたんだ」

 

 コメント まじか

 コメント 三笠すげええええ!

 コメント 専門家レベルじゃね?

 

 さすがにオフでカラオケに行ったまでは言わない。向こうのファンが怒るからな。

 

「それに加志駒とまるめろも力になろうとしてくれてたし。すごい心強かったよ」

 

 コメント 四期生てえてえ

 コメント みんな仲間思いやな

 コメント やさしいせかい

 

「まあ、ただ今回の件ではさすがにスキル不足を痛感したよ。これからもVtuberとしてやってくんだし、歌の練習はしっかりしないとな」

 

 コメント 反省できてえらい

 コメント ということはまた歌ってくれるのか?

 コメント 歌枠してくれるのか

 コメント ライブでもええで

 

「どんどん話が飛躍していく。俺は震えが止まらないよ」

 

 またもやコメント欄には草が生い茂った。

 草じゃないが。

 

「まあ、歌みたの話はこのくらいで、あとはいつもの雑談すっか」

 

 そう言って俺は適当に選んだマシュマロを画面に映す。

 

『そういえば、もうすぐ10万人ですね。記念枠とかしますか?』

 

「10万人……ああ、チャンネル登録者か」

 

 一瞬、まじでなんのこと言ってるか気が付かんかった。

 ちなみに他の三人はとっくに10万人を突破してて、まるめろなんて15万人を超えている。マネージャー曰くこの業界は女性の方が伸びやすいから仕方ないとのことだった。

 別に俺の下らん雑談聞きに来てくれてるだけで俺は満足なんだかな。

 

 コメント こいつ本当に気が付いてなかったやろ

 コメント 興味なさすぎぃ

 

「そうでもないがなぁ。まあ、記念枠か。記念枠……」

 

 コメント やれ

 コメント やれ。そしてスパチャ投げさせろ

 コメント 結局収益化記念以来一回もスパチャonにしてないし

 

「だって君たち簡単に一万円とか投げてくるじゃん。あれけっこう怖いのよ?」

 

 一万円あれば10日は食いつなげるよ? 中には五万円とか平気で投げる人いるし。

 五万円とか、うちの父親の月給の何分の一よ。そんなもの受け取って平静でいられんて。

 

 コメント わかった投げないからスパチャonにして、本当に投げないから

 コメント 主の嫌がることはできんからな~(棒)

 コメント 一回やってみよう

 

「うそつけ」

 

 コメント ちっ

 コメント うるせぇ! 貢がせろ!

 冬城 菜月 そうだそうだ~

 コメント 菜月ちゃん!?

 コメント え? 本物? 

 コメント 公式マークついてるから本物やん!

 

 なにやらコメント欄がざわめきだす。どうやら有名人が登場したらしい。

 さすがに知らないはまずいから、調べるか。

 『冬城 菜月』ヴァーチャルボックス所属のVtuberで、チャンネル登録者100万人越え!? 思っていたよりも大物の登場に俺は驚きを隠せなかった。

 

 冬城 菜月 sssません! あくうんtまちがえました!?

 コメント 菜月ちゃん落ち着いて

 コメント めちゃくちゃ動揺して草

 

 どうやらプライベート用のアカウントと間違えてコメントしてきたようだ。そりゃ焦るわ。予期せぬ行動というのはたいてい碌なことがない。

 俺が身に染みて知ってる(フライング前科)。

 

「冬城さんおちついてください。別に気にしてませんので。アカウントを間違えたってことはいつも見てくださってるんですよね。光栄です、ありがとうございます」

 

 俺は精一杯動揺を隠して、できるだけ爽やかに聞こえる声色でいう。

 ここで少しでも平静を崩すと、悪意のある切り抜きをされかねんからな。ひと月もやってればさすがに俺も学ぶ。

 

 冬城 菜月 あ……

 コメント 死んだな(確信)

 コメント 【悲報】ジル・ホワイト 他社のVtuberを死なせてしまう

 

 とかうまぶってたら更に悪意のあるタイトルつけられていたでござる。

 どうすりゃいいねん!

 

「まあ、墓はヴァーチャルボックスさんに用意してもらうとして、そろそろ時間かな? それじゃ、みなさんよき一日を! おつジル」

 

 コメント おつジル~

 冬城 菜月 乙ジル!

 コメント 菜月ちゃん生きててよかったww

 

 

 その後しっかり切り抜きが作られたのは言うまでもない。

 

 

 □

 

 

 マネージャー『白川さん。冬城 菜月さんからコラボの依頼が来てるっす!』

 

 

 ジル『は?』

 

 

 

 





 まあ、気まぐれに書いていきます

 冬城 菜月(ふゆしろ なつき)
 ヴァーチャルボックスの二期生。ちょっと内気なオタクのJD。好きなアニメや漫画の話になると1時間は平気で喋る。ゲームも得意。コラボはあまりしない。
 最近推しているのはジル・ホワイト


 ヴァーチャルボックス
 レインボーに並ぶ大手Vtuber事務所。レインボーがVtuber界の吉本なら、ヴァーチャルボックスはVtuber界のホリプロと言われる。




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こんな清楚なアイドルがやばいオタクなはずがない

あい


 

 あくる日、二人のVtuberのtweetが世間をざわつかせた。

 

『〇月×日、冬城 菜月さんとコラボさせていただきます。コラボの際にマシュマロを利用するので質問マロ募集します。どしどしお送りください』

 

『します(ジルのtweetを引用しながら)』

 

 この発表にジル民は菜月ちゃんよかったねえと言い、冬城菜月のファン(冬人さん)たちは菜月ちゃんがコラボ!?と驚いた。そして二人のファンでもない人たちは、ヴァーチャルボックス所属なのに男とコラボして大丈夫なん?と杞憂した。

 

 

 □

 

 

 コラボを発表してから一時間ほどして、早くもTwitterは混沌としていた。

 これはマネージャーから事前に忠告されていたことだ。なんでもヴァーチャルボックスはアイドル事務所の色が強く、そのためファン層もレインボーとは異なるらしい。具体的にはガチ恋勢、その中でもめんどくさいユニコーンと呼ばれる人たちがいる。

 ユニコーンとは処女厨?の別称らしく、異性との絡みに激しい嫌悪を覚える人たちを指すようだ。

 前に仲良くしているママ友さんたちが、推してるアイドルが女性関係を匂わせたとき激しく文句を言っていたが、あんな感じなのだろうか。

 

「マシュマロもいつもより荒れてるな」

 

 ちらりと届いているマシュマロを覗いてみると、一割ぐらい口調の強いものが含まれていた。ちなみに五割はくそマロ、他が四割だ。ん? 普段からくそマロ五割はおかしくね?

 実はいつものリスナーの方が問題があるのではないかと疑問に思っていたところ、ディスコードに通知が届く。

 確認してみると冬城さんからだった。

 

冬城『そのすいません。こんな騒ぎになってしまって』

 

 正直、謝られるような騒ぎでもないと思う。たしかに賛否あるが賛の方が圧倒的に多いし。

 おそらく一部の方々の強い言葉を見てしまったのかな? そういえば中学の授業で先生が話してくれたが、人は百の賛の意見よりも一部の否の意見の方が印象に残ってしまうという。

 それこそ冬城さんほどの人気ライバーなら、そういう意見は山ほど見て聴いてきてるはずだ。この心配もおかしくない。

 とはいえ、これに冬城さんの落ち度はない。つまり謝られる理由もないのだ。

 

ジル『気にしないでください。こちらこそ是非とコラボを承諾したのは自分ですので。それにファンの皆さんは楽しみにしているみたいですから」

 

 そのメッセージを送ってから20分後、返信が来た。

 

冬城『ごめんなさい。気絶しちゃって返信遅れてしまいました』

 

ジル『き、気絶!? 大丈夫ですか? 体調が悪いならこんなことしてないで寝ていないと』

 

冬城『だ、大丈夫です! ちょっとジルさんに気遣われて昇天していただけなんで!』

 

 何言ってんだこの人? 

 ……ああ、なるほどジョークか。何か仕事の返信をしていたのを冗談で返したら本気で心配されたから、さらにジョークで返したと。なるほどな、我ながら名推理だ。コナン君もびっくりである。

 

ジル『そうですか。それなら安心しました。それでは当日よろしくお願いします』

 

冬城『はい。よろしくお願いします』

 

 

 □

 

【勇者とJD】雑談コラボすっぞ〜

 

 コメント きちゃー!

 コメント 菜月ちゃんがコラボとか珍しい

 コメント というかチャンネル登録者のみモードなんや

 コメント それでいいよ。面倒なのわくし

 

 そう今回は自衛としてチャンネル登録者のみモードを導入した。一見さんお断りみたいな雰囲気になるから、俺はあまり好きじゃない。

 ただマネージャーから今回は配信の雰囲気を壊すコメントが来ることが予想されるので、その方がいいと助言をもらったのだ。俺も同じ意見だったので、それを承諾した。

 

「こんジル! レインボー所属のジル・ホワイトだ。今日も今日とて雑談しようと思うが、今日はなんと話し相手がいる。それじゃあ、自己紹介お願いします」

「お、あはふゆ〜。ヴァーチャルボックス所属の冬城菜月です。今日はジルさんとのコラボということで、とても緊張していますが頑張ります!」

「そんな肩肘張らなくて大丈夫ですよ。うちのチャンネルテキトーな雑談が売りなんで」

 

 コメント きんちょうしてる菜月ちゃんかわいい

 コメント 基本内気やしな

 

 俺も緊張していたが、その100倍ぐらい冬城さんが緊張していたため一周回って冷静になれた。

 人気なライバーさんだし、コラボ慣れしてるかと思っていたがそうでもないのか? それとも男と絡むのがはじめてだからかってが違うのかな。

 

「まあ、冬城さんも緊張してるみたいだし、うちの空気に慣れてもらおうか。とりあえずマシュマロでも読みましょう」

 

『好きな食べ物と嫌いな食べ物は何ですか?』

 

「俺は豆腐が好きかな〜。そのままでも箸休めとして使えるし、調理すればおかずにもできるからな。逆に嫌いなのはくさや。あれ調理した後、キッチンの換気がめんどいんだ」

 

 コメント 草

 コメント 目線が主婦なのよ

 コメント そういうことではないww

 

「……と、豆腐が好きなんだ」

「冬城さんは何ですか? 好きな食べ物」

「はひっ!? わわ私はショートケーキが好きです。嫌いな食べ物は特にないです!」

「美味しいですよねショートケーキ。自分、いつも苺は妹に盗られるんで、クリームケーキになりますけど」

「お優しいんですね」

「そろそろやめてほしいですけどね。あの上目遣いでお願いされると断れなくて」

 

 コメント さすがシスコン

 コメント 妹なかなかに鬼畜で草

 

「次は冬城さんが選んでみますか?」

「そうですね。これなんてどうでしょう?」

 

『パンツの色は?』

 

「冬城さん?」

「すすすすいません! ついよくぼ……じゃなくて、間違えてしまって!」

「あ、ですよね」

 

 びびったー。いきなり俺を消し炭にしに来てるかと思った。  

 つい、よくぼ……まで聞こえてたけど気のせいだろう。

 

 コメント 答えないのか?

 コメント 残念

 

「アホか。俺のチャンネルで堂々セクハラすんな」

 

 コメント 別にジルだけでも構わんが?

 コメント むしろ推奨

 

「どこに需要あるんだよ……」

「ありまっ……視聴者さんも期待していますし答えてあげたらどうでしょう。私耳塞いでいますので」

「そこまでする必要あります?』

「あります」

「そっすか……」

 

 ないと思うけど、この世界で何年もライバーやってる人の意見だ。深い意味があるのだろう。

 何か圧が強かった気がするけど。

 

「じゃあ、答えるけど。黒のボクサーパンツだ」

「……っ」

 

 コメント 助かる

 コメント 本当に答えてて草

 コメント アイドルの隣で下着を教える勇者がいるらしい

 

 コラボ相手に耳塞いでもらって自分の下着言うってどう言う状況? 

 

「はぁ、次行くぞ」

 

『こんにちは! 珍しいコラボ嬉しいです! ちなみにお二人は好きなゲームやアニメってありますか? 私は魔界村と涼宮ハルヒのエンドレスエイトが好きです!』

 

「修行僧かな?」

 

 ちなみに魔界村はとても攻略難易度の高いゲームで、エンドレスエイトは虚無だ。

 

 コメント もしくはすごいドMなんだろ

 コメント わいなら発狂してそう

 コメント やばすぎて草

 

「好きなゲームとアニメねぇ。ゲームはあまり知らないが、アニメならブギーホップは笑わないが好きかな」

「旧作の方ですか? それとも新作の方?」

「個人的には旧作の方が好きですね」

「私もです!」

 

 コメント そもそも新作なんてあったっけ?

 コメント そんなの記憶にないが?

 コメント 新作……2019……うっ頭が!

 

 記憶を失う人が続出しているが、荒れそうなためスルーしておこう。

 

 

「私は好きなアニメはSAOですかね」

「あー、知ってます。同期に勧められたんで、アイクラッド編まで見ました」

「お好きなキャラを聞いても?」

「シリカですかね。妹に似てるんで」

「なるほど」

 

 コメント 理由で草

 コメント やはりシスコン

 コメント お前が妹離れしろ

 

 なんか言われてるけど無視する。

 

「ちなみに私はアスナちゃんが好きです。では、こんなマシュマロはどうでしょう」

 

『冬城さんって他人行儀なんで名前呼びなんてどうでしょう?』

 

「冬城さん?」

「すいません、間違えました」

「違う、わざとだ」

「まみまみた」

「わざとじゃない!?」

 

 コメント 元ネタは物語シリーズ

 コメント 解説助かる

 コメント というか菜月ちゃんがあらぶってるw

 

 つい乗ってしまったが、明らかにわざとだ。なんならこのマシュマロすら持参してる可能性すらある。

 さっきのは聞き間違えじゃなかったのか。

 

「リスナーさんもこう言っていますし、私はかまいませんので名前でどうぞ」

「いやいやいやおかしいでしょ!? というかこのマシュマロ冬城さんが用意したやつですよね!?」

「違いますが? どうしてそんな推理になったのでしょう? 私、気になります!」

「やかましいわ!」

 

 どこぞの好奇心に目を輝かせてる女の子をほうふつとさせるセリフを吐くな。

 おかしい。俺はヴァーチャルボックスのアイドルとコラボしているはずだ。レインボーの狂人軍団と絡んでいるわけではないはずだ。

 

「一回! 一回だけでいいんで、名前で呼んでくれませんか?」

「はあ……一回だけですよ?」

「やった!」

 

 呼ばないと収拾つかなそうだし。

 

「菜月さん」

「ううん……はあ、生きててよかった」

「そこまでですか?」

「あたりまえだよ!推しに名前呼んでもらえたんだよ!?」

「あ、はい」

 

 あまりの勢いにそれしか言えなかった。

 

 コメント あ、はいwww

 コメント 引いてて草

 コメント というか推しなんか

 

「というか俺推しなんですね」

 

 配信を見ていたのは知っていたが、推しと言ってくれるまで好かれてるとは知らなかった。

 

「はっ! 私そこまで言ってました?」

「はい。はっきり」

 

 あれを聞き逃すのはラノベ主人公でも難しいだろう。

 

「あうう、恥ずかしいです」

 

 恥ずかしそうに顔を俯かせる。

 正直もっと恥ずかしいことしてたと思うけどな。口には出さないけど。

 

「まあまあ、落ち着いてください。ちなみにどんなところで推してくれたんですか?」

 

 正直俺って熱烈に推される要素はない気がする。歌もゲームも不得意だし、ガチ恋営業?っていうやつも特にしてないし。

 そんな俺を推してくれてるというのは単純に興味ある。

 

「その最初は見た目が好みだなぁと思って初配信を見に行ったんですけどそこでミスで焦って敬語で謝罪したあたりでかわいいと思って。クールっぽいみためからのぽんこつがギャップ萌え? って感じできゅんとしちゃって。そのあと家の事情で家事手伝ってるって健気に家事してるところもかわいいし。リスナーさんとよく言いあってるけどなんだかんだ優しいし。それに毎日雑談してるのに毎回面白いですし。実は声もかっこいいですし……」

「す、ストップ、ストップ!」

 

 え? 今息した? これがアイドルの肺活量なの? 普通に怖いよ?

 

「もう終わりですか? あと一時間は余裕で語れますけど」

「ええ……」

 

 コメント 一時間はやばいwww

 コメント 推しどころかやばいオタクで草

 コメント 菜月ちゃんは推しのことになると大体こんな感じよ

 

 これデフォルトなのかよ。100万越えるようなVtuberは一癖ないとあかん決まりでもあるの?

 

「もう全部バレちゃったんで言っちゃうんですけど、ジルさんに言ってほしいセリフがいくつもあって」

「開き直りやがった……。セリフって? いくつですか?」

「1000個ほど」

「多いわ!?」

 

 しかもどれもこれも少女漫画のように甘いセリフばかりであった。絶対言いたくない。

 

「何でですか!? これを読むだけで助かる命があるんですよ!?」

「そんなんで左右される命なら死ねばいいと思う」

「酷い!?」

「どっちがだよ!?」

 

 コメント どっちもどっちww

 コメント ジル敬語取れてて草

 コメント 面白すぎるwww

 

 その後、根負けした俺がセリフを一つ読まされたのはまた別の話。

 冬城さん? 悶絶してたよ、ちくしょー!

 

 

 □

 

 

 終幕というか後日談

 

冬城『先日はありがとうございました。アカウントを間違えた時はどうなるかと思いましたが、結果コラボできて満足です。ヤケクソで行動するのも、時にはありですね』

 

ジル『やけくそだったんですね……。満足いただけたなら幸いです』

 

冬城『はい! 特にオリジナルボイスを頂けたのは感無量です! 毎朝目覚ましのアラームにします!』

 

ジル『今すぐけせい!』

 

冬城『嫌です』

 

ジル『ですよねー』

 

 もはや諦めている。

 

冬城『ちなみにまたコラボにお誘いしてもいいですか?』

 

ジル『俺はいいですけど、そちらのリスナーさんは大丈夫ですか?』

 

 今回は特別荒れたりしなかったが、導火線はいつ着火するか分からない。特に冬城さんの規模なら危惧はすべきだろう。

 

冬城『大丈夫だと思いますよ。私の方のマシュマロには特に杞憂する意見はありませんでしたし、むしろ私がジルさんに犯罪しないかの杞憂マロが来てるぐらいで』

 

 どうやら荒れたりはしていないようだ。一旦リスナーからは認められたと判断していいのかな?

 

ジル『ちなみにしませんよね?』

 

冬城『……それではまた誘わせていただきますね。失礼します』

 

ジル『ちょっと!? しないって言えよ!』

 

 

 ……やっぱり考え直した方がいいかな?

 俺は一抹の不安を覚えた。

 

 

 




ぶんぶんはなび


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【間話】朝雑談

あいう


 

 【朝雑談】どーも

 

「こんジル! レインボー所属のジル・ホワイトだ!」

 

 コメント こんジル!

 コメント こんジル~

 コメント こんジール

 

「てじなーにゃみたいに言うな」

 

 コメント なんで理解できるねんww

 コメント 高校生さん?

 

「テレビ見てると、昔流行った言葉の特集とか時々やってるんでな」

 

 コメント む、むかし……

 コメント あなたを傷害罪で訴えます! 理由はお分かりですよね?

 コメント 誹謗中傷ホームどこ? ここ?

 

「おじさんたち成仏してもろて」

 

 現実を突きつけると、コメント欄で絶命する人が続出した。さて次行こう。

 手元を動かしながら、片手間にマシュマロを操作する。

 

 コメント 今日の献立は?

 

「今日は肉と卵のそぼろご飯だ」

 

 コメント うまそう

 コメント ママ、僕の分は?

 コメント ばばあ、飯

 

「俺はママになったことはないし、引きこもりを養った覚えもねえ」

 

 コメント wwww

 コメント 辛辣で草

 コメント 泣くぞ?

 

「ほい、じゃあマシュマロ読むか」

 

 コメント欄は無視で草で埋まった。

 

『菜月ちゃんとのコラボどうだった? 正直』

 

「楽しかったぞ。いつも一人で雑談してるけど、他に人がいると会話にもメリハリがつくし。偶には人を呼んで雑談をするのも面白いかもな。……少し恐怖も感じたが」

 

 コメント 草

 コメント よりにもよって初めての雑談コラボがやばいオタクなの面白すぎだろ

 コメント またコラボする?

 コメント ほかのメンバーとの雑談コラボも見たい!

 

「またコラボするかについては分からん。予定も組んでないからな、適当なことは言えない。ただ俺は前向きとだけ言っておく」

 

 冬城 菜月 私はいつでも大丈夫ですよ!

 コメント 本人いて草

 コメント さすがガチ勢

 

 いつでもは噓でしょ。あなたこの先ひと月予定埋まってるって言ってたじゃないですか。

 リスケしてでも予定空けてきそうで怖いから言わないが。

 

「それに他のメンバーとの雑談か……赤坂先輩でいい?」

 

 コメント 絶対頭の中から消したメンバーいるやろ

 コメント 比較的安全なところ行くな

 コメント 電波組の雑談とか聞きたい!

 コメント 令子ちゃんとみーちゃんと雑談コラボしよう!

 コメント 大穴でアドラッシュ行こうぜ!

 

「俺に過労死しろと?」

 

 コメント wwww

 コメント 草

 コメント 迫真で草

 

 絶対俺が振り回されて無駄に疲れるに一票。

 赤坂先輩なら無難に会話盛り上がりそう。それか三笠だな。あいつなんだかんだまともな方だし。

 

「次はこれ読むか」

 

『ゲーム配信ってしないんですか?』

 

「これなんだがな、やりたいゲームはあるんだ。でも会社から借りてる機材だとカクついて見づらかったんだわ。だから、機材を揃え次第やるわ」

 

 つい先日初の給料もいただいたことだし。管理は親に任せてるから、いくらもらってるのかは知らんが。

 たぶん機材買うぐらいのお金はあるだろう。

 

 コメント じゃあ、いい機材買うためにスパチャせんとな〜

 コメント はよスパチャオンにしろ

 コメント というか記念枠はよ

 

「軽々言うなって。それに十分もらってるから、いい機材は買えるよ」

 

 前の冬城さんとのコラボが話題になったのか俺のチャンネル登録者は一気に3万人くらい増えた。10万人もとうに越してるので、マネージャーからも記念枠の提案がなされてる。

 ちなみに俺もやる気はある。一応。

 

「しかし、まあアマ○ンとか見てるけどどれがいいか分からんのよな〜。実際に店員さんに聞いた方がいいんかね?」

 

 コメント 事務所の人に聞けよ

 

「マネに聞いたら、詳しくないっす! って言われたわ」

 

 コメント wwww

 コメント さすがレインボー

 コメント マジレスするとマネジメントが本業だからな。機械に詳しいとは限らない

 

「そういうこと」

 

 しかし、事情を知らない人より、ライバーに聞いた方が安全か? 身バレにつながるかも知れないし。

 とか考えていたら時間になっていた。

 

「今日はこの辺かな。それじゃあ、今日も1日みなさん頑張って! 乙ジル!」

 

 コメント 乙ジル

 コメント おつじる!

 コメント 乙ジル〜

 

 

 □

 

 

 その後こんなメッセージが届いた。

 

加志駒『もしよかったらうちが教えよか? 配信機材』

 

ジル『本当か? 助かる』

 

加志駒『じゃあ、今週の土曜日12時に〇〇に集合な〜』

 

ジル『ん? 別にリアルで会う必要なくないか?』

 

加志駒『瑠奈ちゃんと命ちゃんとは出かけたのにうちとは嫌なんか?』

 

ジル『別に嫌ではないが……』

 

加志駒『じゃあ、大丈夫やな。待ってるで〜』

 

 いや、そうはならんやろ。

 

 

 





 なっとるやろがい!


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ご注文は大和撫子ですか?


 


 

 11時50分。俺は山家に指定された場所に到着した。

 今度は丸山の時とは違い相手の顔を知っているので、すでに来ているかどうか確認できる。なんとなくあたりを見回してみたが、山家はまだ来ていないようだ。

 しかし、山家もまたなんでこんな誘いをしてきたのか。丸山と芝鶴は分かりやすいが、山家はつかみどころがない感じだからな。正直目的が分からん。

 本当にただの親切だった時申し訳ないからあまり考えないでおくか……

 

「ふー」

「うひょえええ!?」

 

 突然耳に息を吹きかけられ変な大声が出てしまった。

 くすくすと笑う声と生暖かい視線が飛んでくる。は、恥ずかしい! 

 というか無防備な人の耳に息を吹きかけるなんて驚くにきまってる。もはやテロである。

 そんなテロリストもとい、腹を抱えて笑っている山家(元凶)をじろりと見る。

 

「いきなり何するんだお前……」

「堪忍なぁ。裕也くんうちが来たこと気が付いてないみたいやったからつい好奇心でやっちゃたわ」

「好奇心でやるには極悪すぎるだろ……。心臓止まりかけたけど?」

「その時はいい棺桶用意するわ」

「うち仏教なんで。知らんけど」

「知らんのかい」

 

 今どき自分の家の宗派を知ってる高校生っているのか? いやいるんだろうけど、そんなにいない気がする。

 

「あ、そうや。裕也くん、うちの今日のコーディネートどうや?」

 

 そう言って山家は全身が見やすいように手を広げてくる。

 山家の服装は肩のでた(オフショルダーというらしい)薄い黒のような上に白いふんわりとしたスカートに薄水色のパンプスだった。

 肩を出しているのにあざとさはあまりなく、むしろoffのお嬢様のような気品すら感じる。

 というかもともと美人な山家だが、服との親和性でさらに美人に見える。意識してしまいそうで怖いな。

 

「そうだな、服の色合いが山家の品のある雰囲気とあっていてすごいかわいいぞ」

「おおう、なんや普通に褒めてくれるやん」

「褒めたらまずかったか?」

「うちの予想では裕也君が照れてしょうもないこと言ってくれると思ってたんやけどなぁ。あ、裕也くんもかっこいいで」

「ありがとよ」

 

 とってつけたように言われてもなぁ。

 というか照れてますけど? なんなら心臓ドックンドックン言ってますけど?

 

「じゃあ、行こうか。お昼は抜いてきた?」

「ああ。言われた通り」

 

 事前に昼も一緒に食べようと提案されていた。というか半分強制だったが。

 そうして歩き出す。

 

「どこに行くんだ?」

「うーん、特に決めてないなぁ」

「決めてないのかよ……」

 

 わざわざ昼抜いてこいって言うくらいだから、てっきり行きたいところがあるのかと思ってた。

 どうやらそうではないらしい。

 

「サイゼでも行こか? リアルサイゼで喜ぶ彼女やったるで」

「流行りは終わったろそれ」

「お、知ってるんやな。自分、そういう流行りとか興味ないって思ってたわ」

「ファンアート見てる時に流れてきたんでな」

 

 サイゼに喜ぶ彼女に嫉妬して、俺の飯の方が美味いだろってキレながら厨房に押し入るジル・ホワイトとかいうファンアート。ツッコミどころが多すぎるが、3万いいねとかされてたんだよな。

 ちなみに俺もいいねした。正直面白かった。

 

「まあ、せっかくの初デートにサイゼはなしやな」

「ゴホッ!? ガホッ!?」

「どうしたん裕也くん?」

「デート!? 初耳だが?」

「男と女が出かけるならデートやん? うち何かおかしいこと言ったか〜?」

 

 にやにやと揶揄うような声色の山家。

 ちくしょー! 嵌められた!

 

「もう知らん……」

「ごめんごめん。うちも揶揄いすぎたわ。でも、裕也くんと出かけるの楽しみにしとったのは本当やで」

「はいはい嬉しいよー」

「今のは嘘やないんやけどな」

 

 信じられるか。これ以上弄られるのはごめん被る。

 そう思いつつ、スマフォを操作して辺りの飲食店を調べる。山家ががっつり食べるタイプか、小食なタイプか知らないな。

 

「山家好きな食べ物ってなんだ?」

「せやなぁ、家では蕎麦をよくゆでるで」

「それ家でよく食べるから、外では食べたくないっていう京都人特有のやつじゃないだろうな?」

「ふふふ、違うで~。うちかてそこまでひねくれ者じゃないわ」

「よく言うな。まあ、蕎麦か。それならここなんてどうだ?」

 

 そう言って見せたのは近くにある蕎麦屋。昭和からある伝統あるところらしい。

 

「ええなぁ。ここいこう」

「んじゃ、向かうか」

 

 意見が合致したので、マップを頼りに蕎麦屋へと歩き始めた。

 

「……?」

 

 気のせいか。

 

 

 □

 

 

 5分くらい歩くと、目当ての蕎麦屋に到着した。

 昭和感溢れる引き戸を滑らすとガラガラという音が聞こえてくる。

 

「いらっしゃいやせー! 何名様ですか?」

「二名です」

「ではこちらの席どうぞー!」

 

 元気のいいおじさんがテーブル席に案内してくれる。

 そしてすぐに水を二つ運んできた。

 

「お水どうぞ。ご注文決まりましたらお呼びください」

 

 そう言ってキッチンの方に戻っていった。

 店内にはまばらに人がいた。

 メニューを開いてみると、蕎麦にかつ丼に親子丼など、こんな雰囲気の店によくありそうなメニューが並んでいた。

 しかし、次のページを見た俺は目を丸くした。

 

「なんだこれ?」

 

 そこにはでかでかと『カップル限定! もりもり蕎麦! 一回は食べさせあってね(ハート)』と書かれていた。

 若者向けのキラキラとしたお店にありそうな文言が、厳かな雰囲気の蕎麦屋で見られたのだ。ギョッとしてしまうのも無理はない。こんなの頼むやつおらんやろ。

 

「裕也くん、これ頼まん?」

 

 いたわ。何なら目の前にいた。

 

「マジで言ってんの?」

「マジやで。おおマジや」

「俺らカップルじゃないが?」

「嘘でいいやん。男と女が2人で食事来ればカップルに見えるやろ」

「食べさせ合うって書いてあるけど……」

「一回ぐらいいいやん。うちは平気やで」

 

 俺は平気じゃないんですが!? 

 はっ! まさか山家のやつまたもや揶揄おうとしているな。

 たしかにその意図に気が付かなければ、まさかこいつ俺に気があるのか? とか無駄な勘違いをして変な態度をとっていただろう。しかし、金田一少年顔負けの推理をかました俺には無駄だ。

 むしろこれを逆手にとって仕返ししてやる。じっちゃんの名に懸けて。

 

「OK。頼んでやろうじゃないか」

「なんや、急に態度変えるやん」

「別に一回食べさせあうくらい大したことないってことに気が付いただけだ。それにこれの方が普通に二人前頼むよりお得だからな」

「ふーん」

 

 山家は特に反応を示さなかった。

 ふふ、当てが外れたな。俺の仕返しはまだまだ終わらんぞ。

 

「すいませーん」

 

 俺が店員を呼ぶと、おじさんが伝票とペンを持ってきた。

 

「はい。注文お願いします」

「カップル限定のもりもり蕎麦をお願いします」

「はいよ。この商品はお互い食べさせあう様子を撮影させてもらいますけど、それでも大丈夫ですか?」

 

 さ、撮影!? 知らなかった俺はメニューを確認する。そして詳細を確認してみると、どうやら撮影したうえで半年間ぐらいスペースに飾られるらしい。

 件のスペースを見てみるとあまり大きくはなかったが、写真数はそんなになかったのでだいぶ目立ちそうだ。

 うわぁ、いやd……いやいや仕返しをするためにはそんな恥ごときで辞められるか。

 

「はい大丈夫です」

「あいよ。ラブ盛り一丁ね」

 

 そう言うと、近くの席に座っていた常連さんらしきおじさんたちがほぉと言葉を漏らす。

 初々しいカップルを見るみたいな生暖かい視線を感じるが知らん。

 もう半分やけくそである。

 

「さすがに少し恥ずかしいなぁ」

 

 注目を集めたせいか、照れくさそうにはにかむ山家。べ、別にかわいいとか思ってないんだからね!

 少しして山盛りに乗せられた蕎麦が運ばれてきた。手にはコンパクトなカメラも添えて。

 

「はいお持たせしました、ラブ盛りです」

「美味しそうやね」

「そうだな」

 

 本当に蕎麦はうまそうだ。

 

「ではお願いします。笑顔でね」

 

 店員のおじさんは楽しそうに催促してくる。

 なんで厳かな雰囲気の店にあんなメニューがあるのか疑問だったが、絶対この人の趣味だ。明らかにうきうきしている。

 まあ、しかし俺も男だ。一度覚悟を決めたことから逃げることはしない。

 俺はわりばしを割ると、蕎麦を少しとる。

 

「ほれ山家」

「風情がないで裕也くん。しっかりあーんって言ってくれなぁ」

 

 なん……だと……!? すでにぎりぎりの俺にこれ以上を求めてくるのか!? 

 ぐぬぬ、しかしここでヘタレたら男が廃る! ええい、ままよ!

 

「あ、あーん」

 

 山家は蕎麦を口にするとちゅるちゅるとかわいい音を立てながら食べた。

 カシャっという音が聞こえる。

 そして飲み込むと。

 

「美味しかったで裕也くん」

「そうかよ」

「じゃあ、うちからもお礼の気持ちもかねて。あーん」

「なぁ……。一回したからもういいだろ?」

「別に一回だけなんて誰も言ってないやろ。なぁ、おじさん?」

「はい。言ってません」

 

 嬉しそうに答える店員のおじさん。

 どうやら逃げ場はないらしい。

 

「はい、あーん」

 

 黙ってそばを食べさせられる。

 

「裕也くんおいしい?」

 

 味なんてわかんねえよ、ちくしょー!

 

 

 □

 

 

 異常に疲れた昼食を終えて、俺たちは機材を買うために電気屋を訪れていた。

 商品棚にはパソコンやらがずらりと並べられている。

 

「どれがいいんだ?」

「せやなぁゲーミングPCを買うのが無難や。配信者やる以上、画面のグラフィック大事やし、できるゲームの選択肢も広くなるし」

「なるほど」

「予算はどれくらいなん?」

「一応、20万くらいかな」

「けっこう奮発したなぁ」

 

 少し調べたのだが、ゲーミングPCは平均でも10~15万前後するらしい。

 ちなみにこのお金は俺の初給料のほぼ全額らしい。社会人の初任給ぐらいじゃないのか? もらいすぎて少し気が引けてしまった。

 しかし、まあこれは見てくれているリスナーのおかげでもあるのだ。期待してくれているリスナーのためにも少しでもいいやつを買わんとな。

 

「それじゃ、このあたりなんてどうや?」

 

 山家が進めてきたのはデスクトップ型のゲーミングPCだった。

 

「ノート型じゃないんだな」

「配信で使う用やからな。たしかにノートパソコン型は場所も取らんし、持ち運びがらくやけど。デスクトップ型の方が高性能で拡張性が高いからおすすめや」

 

 たしかに家で使うのに持ち運びの利便は関係ない。それにこれから色々な機能を追加するときに拡張性があると長く使えて便利かもしれない。

 

「なるほど、じゃあこれにするか」

「簡単すぎん? さすがにうちも数十万する買い物そないあっさり決められるとびびるんやけど」

「まあ、俺は全く詳しくないし。さっきの説明も納得できたし。それに山家が俺のこと騙すはずないしな」

 

 揶揄いはしてくるけどな。

 というかこんなところまで来て騙してたらもはやサイコパスだろ。ないない。

 なんて一人で突っ込みしてると、山家はうつむいていた。

 

「ふふ、今のは少しドキッとしちゃったわ。裕也君も案外プレイボーイさんやな」

「なんだ? また揶揄う気か?」

 

 そろそろ揶揄い上手の山家さんって漫画書かせるぞ?

 

「どうやろなぁ~。まあ、みーちゃんが気に入るにも理解できるわ」

「そういや近くにいるよな? みーちゃん」

「え? 気が付いてたん?」

「まあ、待ち合わせの時視線を感じてな。そのあともなんとなく」

 

 本当になんとなくだったのだが、妙に確信が持てた。

 座敷童って特別な幽霊らしいからそのあたりなんかあるんかね。

 

「座敷童なのに家にいなくて大丈夫なのか?」

「あんまりよくないんやけど、梅雨が近いやろ? この時期って面倒な霊が多くてなぁ。対応するのめんどいから、みーちゃんに守ってもらってたんや」

 

 そういえば忘れてたが、山家は霊感持ちだった。

 みーちゃん以外にも霊には憑かれるか。

 

「そんな大変な時期に付き合ってくれたのか? またなんで」

「ふふ、それを女の口から言わせるのはあかんで?」

「どういう意味だ?」

「どうやろうなぁ? 考え見てや」

 

 いたずらっ子のような笑みをうかべて言った。

 

 

 □

 

 

 【四期生のサーバー】

 

加志駒『今日は楽しかったなぁ、裕也くん』

   

 その文と一緒に写真が添付される。

 その写真は山家が裕也にあーんしている写真だった。

 

ジル『おおおおおおおまえ!? なんでその写真持ってるんだ!?」

 

加志駒『おじさんにもらったんや。ええ写真やろ?』

 

ジル『消せ! 今すぐ!』

 

加志駒『いいやん、これも思い出やで~』

 

ジル『思い出なら胸にしまっとけ! よりにもよってここに張るな!』

 

三笠『なにこれ?』

 

まるめろ『は、はれんちです!』

 

ジル『ご、誤解だ!』

 

三笠『何でもいいけど、色恋沙汰であたしらに迷惑かけないでね』

  『今コンプライアンス厳しいんだから』

 

ジル『だから誤解だって言ってるだろ!?』

 

山家『また遊ぼうなぁ~』

 

ジル『二度とごめんだが!?』

 

 

 

 





 今更だけど蕎麦食わせあうの食べづらそう


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やはり電波組で料理番組をするのは間違っている

えん?


 

【公式】『レインボー闇ノキッチン! in電波組』

 

 番組が始まると某3分クッキングよろしくな音楽が、俺たちの声バージョンが流される。

 前も同じようなことやってたけど、これ恒例行事なのね。

 

 コメント 電波組きちゃー

 コメント 恒例のライバーの声BGM

 コメント ジルやる気なさすぎて草

 

 うるせぇ、他の2人がやる気ありすぎるんだよ。

 この番組はいわゆる料理番組だ。毎回人を変えて適当に料理名とメニューを提示して自由に料理を作らせる。とはいえ、レインボーのライバーを使ってただ料理ができたねおいしいーで終わるわけがない。

 包丁の持ち方が分からなかったり、調味料を間違えるのは日常茶飯事。挙句のはてにはカレーをまずく作るなんていう現代人かあやしい離れ業を見せてくる。

 つまり放送事故上等のとんでも番組なのだ。

 帰りたい……。

 

「かっかっかっ! うずく、うずくぞ我が封印されし右手が! 邪眼龍政宗だ!」

「くっくっくっ! うずく、うずきます我が封印されし瞳が! まるめろです!」

「レインボー所属ジル・ホワイトだ」

「ちょっとジル! 打ち合わせと違うじゃないですか! あなたのセリフは『ならば我が封印を解いてやろう! ダークフレイムマスターの名の下に!』ですよ!」

「嫌に決まってんだろ、そんな恥ずかしいセリフ」

「恥ずかしい!?」

 

 まるめろがショックを受けていると、邪眼龍先輩がポンと肩に手を置き。

 

「かかっ。ジルよ遠慮する必要ないのだぞ。貴様こそダークフレイムマスターに相応しい!」

「遠慮してるんじゃなくて拒否してるんですが?」

「なぜだ!?」

 

 コメント www

 コメント マジで拒否ってて草

 コメント マジおもしろいw

 

「というか、何で俺も呼ばれたんだ? 普段この番組って2人がデフォルトだろ?」

「ジルよ本気で行っているのか?」

「仮に私たち2人になってもしっかり番組が成立するとでも?」

「何で自信満々なんだよコミュ障ども」

 

 コメント 草

 コメント まあ、前のコラボ地獄だったからね〜

 コメント あれを公式番組でやったら流石にやばいww

 

 要は2人のお守り役として駆り出されたらしい。

 

「まあ、いいや。そんじゃ今日の献立を発表するぞ。今日の献立は『オムライス』だそうだ」

 

 コメント 意外に普通だな

 コメント この番組、メニューは馴染みがあるものが多いぞ

 コメント それがなぜかカオスになるんだよなぁ

 

「拍子抜けですね。もっと難しい料理が来るものとばかり」

「ふっ、我らを甘く見ているのだろう」

 

 とまぁ、甘く見ている意見が多いが、オムライスって案外難しい。

 ケチャップの量と調味料のバランス次第で味が濃すぎたり薄すぎたり、料理慣れしていないと調整が難しいのだ。

 

「ちなみに2人は料理はできるのか?」

「ふっ当然だ! 我が得意技マグナトロン電波によって数多の料理を錬成してきた!」

「ふふ、我が得意技agua calienteにかかれば数多の料理を復元可能です!」

「レンチンとインスタントを料理にカウントするなよ……」

 

 コメント 何であなたは一瞬で解読できるんですかね……

 コメント やっぱりこいつも同類だろ

 コメント 隠れたカルマ背負ってるのか

 

「とりあえず、2人がまったく料理ができないことが判明した」

 

 コメント やばくない?

 コメント 今までも料理できないコンビはいたけどここまでか

 コメント まあ、最悪ジルが全部やればいいだろ

 

「ちなみに俺は手伝わないぞ? 一般常識的なことはアドバイスするが、実践はしない。でも食べるところは参加させられるらしい」

 

 コメント マジかよ

 コメント オワオワリ

 コメント 食べさせられるのか笑

 コメント 一方的な被害者で草

 コメント まあ、手伝えたら全部お前でいいやんって話になるからね

 

 そういうこと。番組的に盛り上がらない展開になるから、俺は参加すんなって言われた。

 でも食べろって言われるんです。何たる理不尽。

 まあ、さっきも言ったがオムライスは味の加減が難しいだけで、基本は卵と米とケチャップが主の料理だ。

 ちょっと美味しくないくらいはあるだろうが、滅茶苦茶まずいなんてことにはならんだろ。

 

「ところでジルよ。玉ねぎの皮はどう剥くのだ? 桂むきか?」

「ん?」

「すいませんジル、炊飯器の使い方が分からないのですがどうすれば?」

「嘘だろ?」

 

 コメント 嘘だと思うだろ? 現実だ

 コメント ジル信じられないものを見たような顔してて草

 コメント 流石のワイでも炊飯器の使い方ぐらいわかるぞ……

 

 あ(察し)……。これはマズイわ、二重の意味で。

 どうやら2人の料理スキルは想像を遥かに下回るようだ。これは気合い入れて指示しないと、死ぬ。

 

「とりあえず邪眼龍先輩、玉ねぎの皮は手で剥けます。まるめろ米を炊きたくばまずは米を洗え」

「そうか手か……ところで桂むきのやり方を教えてもらえるか?」

「洗う? 洗剤を使うんですか?』

「お前ら俺が怒らないと思ったら大間違いだからな?」

 

 コメント wwww

 コメント これはキレていい

 コメント 信じられるか? これ真面目に言ってるんだぜ?

 

 信じたくない。

 しかし、こんなもの序章に過ぎなかった。

 

「邪眼流先輩、にんじんの皮むきはピーラーを使ってください!」

「まるめろ、水が少なすぎるそれじゃあ米が焦げる。おこげ? チキンライスにそんなアレンジはいらん! それにその量じゃ全体黒焦げになるわ!」

「邪眼流先輩、そのトマトをどうするんですか? ケチャップを作る? 頭わいてんのか?」

「まるめろ油を入れすぎだ! 酒はないのか? フランぺでもする気かドアホ!」

「ええい! 貴様ら我がダークフレイムマスターの名のもとに、言うことをきかんかぁあああ!」

 

 コメント ジルの負担えぐくて草

 コメント 自分でも食べるから必死やなww

 コメント やっぱりダークフレイムマスターじゃないか(歓喜)

 

「ぜぇ、ぜぇ……」

 

 カロリーがえぐい。

 どうして奴らはメニューに微妙なアレンジだったり、わざわざ難しいことをしようとするのだ。問いただせば、揃ってかっこいいからと返された時は我を忘れてしまった。

 何か変なこと口走った気がするけど、まあ大丈夫だろう。絶対この番組の切り抜きは見ないつもりだが。

 

「かっかっかっ、どうだ我らの魂のこもったオムライスは!」

「素晴らしい出来栄えでしょう!」

 

 コメント ちゃんと作れて偉い!

 コメント どちらかといえばジルの魂の方がこもってそうw

 コメント まあ、でもはじめの惨事から考えれば悪くないのでは?

 

 そう、悪くはない。

 卵の形が歪だが、しっかりチキンライスの色をしてる匂いも悪くない。

 苦労した甲斐があったのか?

 妙な感動に浸っていると邪眼龍先輩からスプーンを渡される。

 

「受け取れ。今回無事完成できたのはジル貴様のおかげだ。一口目は貴様が食べる権利がある」

「その通りです! ジルがいなければ完成できませんでしたから! 是非一口目はジルが食べてください!」

「お前ら……」

 

 コメント ええ話や

 コメント 電波組てぇてぇ

 コメント 電波組てぇてぇ

 

「じゃあ、お言葉に甘えていただくよ」

 

 スプーンを入れて、一口口に運んだ。

 

「ごばらぁ!?」

「ジル!?」

「大丈夫ですかジル!?」

 

 からいにがいなんか臭い……あらゆる苦しみが一斉に襲ってきた。16年ほど生きてきて初めての体験だった。

 

「何でこんなマズイんだ……」

「マズイのか!? なぜ、我がとっておきの調味料を入れたというのに」

「私もとっておきのものを加えたのですが……」

「ちなみに何を加えた?」

「我は鷹の爪」

「青汁の素を」

「何故!? メニューにないだろその二つ!」

「「かっこいいから」」

「よろしい戦争だ!」

 

 コメント やれやれ〜

 コメント これはキレてもしゃあない

 コメント 踏んだら蹴ったりで草

 

 

 □

 

 

 その後、何とか番組を終了させて俺とまるめろは帰路に立っていた。

 相変わらずゴスロリの目立つ服装をしている。ミステリアスな雰囲気を助長していてとても似合っている。

 とはいえ、今日は疲れすぎてそれを口にする気力はない。

 

「その……ジル……一つ聞きたいことがあるのですがよろしいですか?」

「聞きたいこと? 別にいいけど」

「その風香と付き合っているのでしょうか?」

「……ん? 今なんて?」

「ですから、風香と恋仲なのかと聞いてるんです!」

 

 は? 何で?

 

「付き合ってないが!?」

「そうなんですか。あんな写真貼っていてたのでてっきりそうなのかと……」

「あれは山家が悪ふざけで撮って、貼ったもんだ。別に俺たちはそういう関係じゃないよ」

「よかったです」

 

 何か露骨にホッとしてるんだけど、もしかしてそういうことか? そういうことなのか?

 いや、ここは一回探りを入れるべきだ。

 

「何でそんな気にしてたんだ?」

「いえ、その……私、今の四期生の雰囲気が好きなんです。それが、恋沙汰で崩れるのが怖くて……。昔、それ関連で酷い目にあったので」

 

 そう言って丸山は体を震わせた。

 トラウマということか。

 

「そうか。それは不安にさせて悪かったな。山家にもやめておくように再度言っておく」

「いえ、気にしないでください。恋愛は自由ですし」

「あん? だから、俺たちは付き合ってないぞ? あれは山家の悪ふざけで」

「はい、そうですね。裕也はそういう認識で大丈夫だと思います」

 

 何だろう。どうせお前には理解できないからいいと言われた気がする。

 

「……マーキングのように見えましたけど」

「何か言ったか?」

「いいえ、何も言ってません。ところで裕也、おすすめしたいアニメがあるのですが……」

 

 その後、たくさんアニメをお勧めされた。

 





 


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【10万人記念】凸待ち

 

 【10万人記念】凸待ちすんぞ

 

「こんジル! レインボー所属ジル=ホワイトだ。今日は10万人記念ってことで枠をとらせてもらった……って、ええ!?」

 

 コメント 10000円おめでとう!

 コメント 10000円スパチャ解禁あり!

 コメント 30000円このために貯金してたんだ!

 冬城 菜月 50000円

 コメント 菜月ちゃんwww

 コメント 無言上限スパチャは草

 

 赤色のスパチャが乱立していて、変な声が出た。

 軽く数えただけでも相当な額だ。前の収益化解禁配信の時もたくさんもらったが、今はそれを上回る勢いだ。

 祝ってくれて嬉しい気持ちもあるが、こんなにもらって申し訳なくもなってしまう。

 

「祝ってくれるのは嬉しいが無理するなよ? リスナーの屍を越えたくはないからな」

 

 コメント 15000円せやな

 コメント 30000円無理はあかんな。ちなみに今の全財産

 コメント 50000円明日からもやし生活や

 コメント 20000円この時期は蝉がいないから悲しい

 コメント 10000円パンの耳と水があればいけるやろ

 

「うん、まったく理解してないな? はあ、胃が痛い……」

 

 一応文面は冗談と受け取っておく。ただ、本当に俺のために身を持ち崩すとかやめて欲しい。

 素直に喜べればいいんだが、罪悪感が抜けない。

 これだから記念配信は渋っていたのだ。

 まあしかし、リスナーも喜んでいるしあまり辛気臭くなるのはよろしくない。気を取り直そう。

 

「とりあえず、今日はタイトルにも書いた通り凸待ちをやっていこうと思ってる」

 

 コメント ふむふむ

 コメント 凸待ち……邪眼……うっ頭が

 コメント 初めての凸待ちが0人のはずがないだろ! ふざけるな!

 

 コメント欄はネタと心配が半々になっていた。

 前に邪眼竜先輩が凸待ちをした際、2時間で0人という結果を出してからこんな杞憂(ネタより)が散見されるようになったらしい。

 まあ、あれはリスナーに煽られた邪眼竜先輩が本当に突発的に開始したせいらしい。

 普通の凸待ちは事前に来てくれる人にアポを取るものだ。それをなしに凸待ちは完全に人脈勝負になる。そしてコミュ障の邪眼竜先輩に人脈は皆無。唯一来てくれそうな同期も悪ノリを始めて意地でも来ない(さすがレインボー)。

 こんな奇跡が重なって伝説が生まれたのだった。

 ちなみに俺は事前にアポを取ってる。一応飛び入りもOKにしているが、基本は予定している人数で収まるだろうな。

 

「トークデッキはこんな感じな」

 

 トークテーマ1.第一印象と今の印象 2.今後やって欲しいこと(コラボ提案でも可)

 

 コメント ま、まともや……

 コメント パンツの色は?

 

「アホ言うな。普通にセクハラじゃ」

 

 凸予定者には女性もいる。それなのにパンツの色をトークデッキに入れるやつがどこの世界にいるんだ。無敵の人すぎるだろ。レインボーにいないと一概に言えないのがこわいが。

 

 コメント 10000円パンツの色をお願いします!

 

「やめろ? 赤スパ投げればいいってもんじゃないからな? はい、凸待ち開始します」

 

 なんか無理やり入れる流れを作られそうなので強引に開始した。

 俺は自分で用意した凸待ち用のサーバーとボイスチャットに参加する。すると一瞬でブインと誰かが参加してきた音が聞こえた。

 

「……きちゃった」

 

 コメント はっやwww

 コメント 光の速さで草

 コメント さすがガチ勢

 

 はよい、はよいよ冬城さん。ガチで1秒もかかってないじゃん。怖すぎるよ……。

 

「……はい、じゃあ凸者の方自己紹介をお願いします」

「おはふゆ〜。ヴァーチャルボックス所属の冬城菜月です! ジル君登録者10万人おめでとう!!」

「ありがとうございます。冬城さんとのコラボで一気に登録者増えたんで、この数字は冬城さんのおかげでもありますよ」

「そんなことないよ! だってジル君は……」

「はい、トークデッキ行きましょうか」

 

 コメント 延々語りモード止めてて草

 コメント 英断

 コメント 1人目で1時間かかったら放送事故確定ww

 コメント 扱い慣れてんな〜

 

「俺の第一印象ってどうでしたか?」

「好みの顔! って感じかな? アニメでも白髪のイケメンキャラがすごい好きなんです」

 

 たしかに金木君が好きって前に裏で話してる時言ってたな。

 

「じゃあ、今の印象は?」

「神」

「頭わいてます?」

「違うよ! いいジル君? 推しっていうのはその人にとって神に等しいの! その一挙手一投足全てが尊いの! つまり神と言っても過言ではないのよ!」

「ああ、手遅れですね」

 

 コメント 辛辣で草

 コメント 手遅れwww

 コメント うん、これは末期だ

 

 ヴァーチャルボックスさんは頭を抱えていることだろう。

 

「じゃあ、次に俺に今後やって欲しい配信とかありますか? コラボ提案でもいいですけど」

「何でもいいの!?」

「聞くだけならタダなんで。やるとは限りません」

 

 予防線は張っておく。

 ちぇー、と口を尖らせる冬城さん。何を言うつもりだった?

 冬城さんは少し考えた後。

 

「FPS系のゲームをやってほしいです。コラボする時誘いやすいので」

「FPSですか、いいですね。最近ゲーミングPC買ったんで今度やってみますね」

「本当ですか? 私大体のFPS系のゲーム触ってるので、いつでも教えますよ?」

「有難いんですけど、もうコーチ枠先約入っちゃってるんですよね」

「そう……ですか……」

 

 露骨にショックを受けた声が漏れ出た。

 流石に焦る。

 

「いやでも、慣れたら他の人とパーティ組んでみたいと思ってるんでその時はお願いします」

「そうですね! ジルさんの初めてをいただけないのは悲しいですが、私は2番目の女でも構いません!」

「誤解を招く言い回しはやめろ!?」

「何のことでしょう?」

 

 あっけらかんと惚けた声だった。

 この人急に火炎放射器撃ってくるから油断できんのよ。

 

「じゃあ、そろそろいいところなので最後に一言お願いします」

「はい。推しの記念日に呼んでいただいて感無量を通り越して昇天してました。今日は本当にありがとうございました。ちなみにパンツの色は白です」

「聞いてないけど!?」

「それでは失礼します」

「ちょっと!?」

 

 コメント 白把握

 コメント 清楚やな、解釈一致

 コメント ここはアイドルのパンツを聞く枠でよろしいですか?

 

「よろしくないが!? そんな質問俺は1ミリもしてない!」

 

 ざわめくコメント欄。とんでもない爆弾を落として帰っていった冬城さんを恨んだ。

 幸いなのは大半が助かるで埋め尽くされてることか。いや、普通にキモいけどな?

 とりあえず炎上してる雰囲気はないので先に進むことにする。

 俺は次の人にメンションを送った。

 するとまたブロンとボイチャに参加した音が聞こえた。

 

「それじゃ、自己紹介をお願いします」

「こんれい〜。童のみんなこんばんは〜、加志駒令子です」

 

 そして安定の物音が鳴った。

 

 コメント 令子ちゃんきちゃああああ!

 コメント みーちゃんきちゃああああ!

 コメント もはや誰も怖がってないな

 コメント こ、声はやめてな?

 

「来てくれてありがとな加志駒」

「ジル君には前に何度か助けてもらってるし、このぐらい大丈夫だよ」

「そうか……」

 

 最近裏での会話が多かったせいか、京都弁じゃないのがすごい違和感だった。

 よく使い分けできるな。俺には無理だ。

 

「んじゃさっそくトークデッキ行くか。俺の第一印象を教えてくれ」

「第一印象……うーん、やらかしてるなぁ〜って」

「がはぁ」

 

 加志駒のシンプルな口撃! ジルには効果抜群だ!

 たしかに今考えれば初配信の自分がどんなにヤバいことしていたか理解できる。あれがいい方向にいったからまだ良かったが、一歩間違えればネットの黒歴史になっているところだからな。

 いや、黒歴史ではあるんだけど。

 

「じゃあ、今の印象は?」

「優しいとか世話焼きとか色々言葉は思いつくけど、一番は寛容だよね」

「寛容?」

「うん。例えば冬城さんとかまるめろちゃんとか、個性が強い人でも引かずにちゃんと相手するじゃない? 私もそうだし」

「引いてはいるが?」

「でも避けたりはしないでしょ? 作業通話とか誘えばきてくれるし」

「偶然暇だったんだろ」

「ふふ、そういう事にしておくね」

 

 コメント てぇてぇ

 コメント ツンデレのジル……ありだな

 コメント まあ、ガチの心霊現象起こされても付き合ってあげるのはたしかに寛容やな

 

 くっ、むず痒い! この質問凸待ちのテンプレみたいだからいれたが、少し後悔してきた。

 

「それじゃあ、今後俺にやって欲しい配信はあるか? コラボ提案でもいいが」

「そうだね〜、何かあるかなぁ……あ、そうだ。心霊スポットに行く配信したいなぁって思ってるから、それに付き合って欲しいな」

「すー……」

 

 コメント 蕎麦啜ってる?

 コメント 霊感持ち……心霊スポット……何も起きないはずもなく

 コメント ホラー展開確定演出で草

 

「……そうだな。もしやるなら四期生全員で行こうぜ」

 

 三笠 光 ちょっと!?

 まるめろ 巻き込まないでください!

 コメント 道連れで草

 

「ええ……ゴホン。いいね〜、じゃあやる時は四期生の鯖で聞くね?」

「分かった。まあ、みんな忙しいからな〜。予定が合わないかもしれないから、気長に待ってるわ」

 

 できれば決まらないでもらいたい。

 加志駒はくすくすと笑っていた。

 

「んじゃいい時間だし、最後に一言よろしく」

「はーい。ジル民のみなさんお邪魔しました〜。さっき言ってた配信は運営さんに通しておくんで期待しておいてください」

「本気で叶いそうだからやめろ?」

 

 ノリノリで準備を進める運営が容易に想像ついてしまう。

 コメント欄は草で溢れた。いや、草じゃないが。

 

「ちなみに私のパンツの色は赤だよ」

「聞いてないけど!?」

「じゃあ、またね〜。ばいれい」

「ちょっ、待てよ!?」

 

 コメント 赤把握

 コメント えっっっっ!

 コメント 解釈不一致……逆にあり!

 

 言ってきた意図は理解できる。あいつのことだ、前の冬城さんの作った流れに悪ノリした形だろう。

 どうせ今言った色も冗談だ。あまり意識する必要は……

 と考えていると、DMに通知が来た。

 

 加志駒『ちなみにほんまやで〜』

 

 心を読むな、心を! 

 もうやだこの流れ。無駄に色々な方面でドキドキさせられるし、心擦り減るわ!

 

「次の人はこの流れを止めてくれると信じる」

 

 そう言って次の人にメンションを飛ばした。

 するとボロンとボイチャに参加した音が聞こえる。

 

「それじゃあ自己紹介お願いします」

「オッケー★! オタクのみんなこんばんは〜★! レインボー所属の三笠光です!」

 

 コメント みかみか来たぁぁぁぁ!

 コメント 三笠なら言いそう笑

 コメント ビッチギャルやしな〜

 

「来てくれてありがとうな」

「ありがとうなじゃないよジル君! あたし達を巻き込まないでよ!?」

 

 おそらく先ほど加志駒の企画に道連れした件の話だろう。

 

「せっかく同期の企画なのに仲間外れは可哀想だろ?」

「いい人ぶっても手遅れだけど!? あたしがホラー苦手なの知ってるでしょ!?」

「知ってるぞ。でも、俺だけ犠牲になるのは不公平じゃん? だから道連れにした」

「このクソ勇者……!」

 

 コメント 最低で草

 コメント クソ勇者www

 コメント 毎回言われてんなww

 

「んじゃトークデッキ行くか〜。俺の第一印象を教えてくれ」

「この人とうまくやっていけるかな〜って思った。いきなりやらかしてたし★」

「やらかしに関してお前に言われたくないがな」

「うっさい」

 

 初手炎上よりマシだろ。

 変わんない? まあ、たしかに。

 

「じゃあ、今の印象は?」

「クソ野郎」

「クソ女」

「はあ!?」

「え〜? 何ですか〜? あなたに言われたことそのまんま言い返しただけですけど〜。人に言われて嫌なことは言うなって親に教えてもらってないんですか〜」

「ほっんとムカつくこいつ!」

 

 コメント 煽り性能高くて草

 コメント 何で毎回バチバチなんこの二人www

 コメント お? 不仲か?

 

 バチバチにやるのが定番になっているせいか、三笠にはこういうムーブしやすいのよなぁ。まあ、スパイスってことで。

 

「それじゃあ二つ目、俺にやって欲しい配信とかあるか? コラボ提案でもいい」

「壺おじ魔界村ノーコンテニュークリア耐久配信」

「遠回しに死ねって言ってる?」

「え〜、三笠バカだから分かんな〜い★」

「きっつ」

「あ"?」

 

 コメント きっつwww

 コメント ドス効いてて草

 

「さっきのは冗談だとして。同期でミイクラとかやりたいかな〜。もうすぐ新鯖ができるらしいし」

「へぇー、ミイクラか。たしかにやってみたいと思ってたんだよな」

「やる時は声かけてね〜。案内するふりして罠に嵌めてあげるから」

「せめて案内はしろよ」

 

 ショシンシャイジメヨクナイ。

 イタズラっ子のような笑い声が漏れてきた。

 

「それじゃいい時間だし、最後に一言よろしく」

「はーい★。久々に絡めて楽しかったよ! 10万人おめでとう!」

「ありがとうな」

 

 コメント てぇてぇ

 コメント パンツの色は?

 コメント 流石に言わないか

 コメント 期待はずれやな

 

 やめろお前ら? 別に元々求めてないからな? 

 コメント欄に呆れていると三笠が言葉を詰まらせている事に気がついた。お前まさか変なこと考えてないよな?

 

「〜〜〜っ! パパパンツの色は水色! 以上!」

「何してんだお前!? お前はこの流れを止めてくれると信じてたんだが!?」

「るさい! じゃあね!」

 

 そう言ってボイチャから消えていった。

 

 コメント 水色把握

 コメント 意外に清楚

 コメント みんな言うやん

 

「君たちねぇ〜、期待を煽るようなことは程々にな? 他社のアイドルや同期の下着の色聞かされる俺はどうすればいいんだ……」

 

 コメント ガチで困惑してて草

 コメント まあ、ちょっと煽りすぎたわ

 コメント 悪ノリはあかんね

 コメント 反省します

 コメント 使え

 

「反省してくれ。あと使えって言ったやつ後で裏こいや」

 

 コメント 何に使うんですかねー

 コメント ナニにやろ

 コメント 大体通じる男言語

 

 使わんわ。本当だからな? 絶対に使わない(大事なことなので2回言っておく)。

 とりあえずこの話は一旦終わりにして、次の人にメンションを送った。

 ボインとボイチャに参加する音が聞こえた。

 

「それじゃあ、自己紹介を頼む」

「くっくっくっ、我が名はまるめろ! 青魔族随一の魔術師にして、爆発魔法を操るもの!」

 

 コメント まるめろおおおお!

 コメント 同期コンプきたぁぁぁ! 

 コメント 2人っきりで絡むの珍しいな

 

「今日は来てくれてありがとう、まるめろ」

「それはいいんですけど……ジル、異性にパンツの色を言わせるのは褒められたことじゃないと思うのですが」

「俺は言わせてねぇ!? 1人は勝手に言ったし、1人は悪ノリだし、1人は自意識過剰になっただけだよ!」

「そうですか。私は言わないのでご理解ください」

「それでいいよ。むしろそうしてくれ」

 

 コメント欄は草で埋まった。草じゃないが? 

 

「じゃあ、まず俺の第一印象を教えてくれ」

「ジルの第一印象ですか……そうですね、初対面で子供扱いされた時はぶん殴ってやろうと思ってました」

「それは悪かったが……ってあの時のお前そんなに殺意高かったの?」

 

 というか、それリアルであった時の第一印象じゃん。一応Vtuber的な意味の第一印象って趣旨で聞いてるんだけど。

 まあ、いいか。

 

 コメント 子供扱いは草

 コメント つまりまるめろはリアルロリッ娘……

 コメント 閃いた!

 コメント 通報した

 

「次に今の印象は?」

「ダークフレイムマスター」

「怒りの業火で焼き尽くしてやろうか?」

 

 だから俺はノーマルだっての。

 たしかに暴走して変なこと口走った切り抜きがバズってるけど、あれは俺であって俺じゃない。

 

「んじゃ、俺にやって欲しい配信とかあるか? コラボの提案でもいいが……って言ってもまるめろとはコラボすること決まってるけどな」

「そうですね」

 

 コメント マジ?

 コメント 何の配信?

 コメント 邪眼龍先輩来る?

 

「もう発表してしておくか?」

「私はいいですよ」

「おけ。さっき冬城さんとの会話で言ってただろ? FPSのコーチ枠は埋まってるって。そのコーチ役がまるめろなんだ」

 

 コメント おおお! 

 コメント コーチってまるめろだったんか

 

 まるめろはどのゲームもマスター〜ダイヤモンド辺りまでやり込んでるし、気軽に誘えるからコーチとして適任だったのだ。

 ちなみに邪眼竜先輩は未定だ。冬城さん同様、上達したら誘うこともあるだろう。

 

「時期は未定だが、近いうちやるつもりだ。楽しみにしておいてくれ」

 

 コメント 楽しみ!

 コメント ついにジルのゲーム配信が見れるのか

 コメント ゲームは他枠しかなかったからな

 

 何か凸待ちなのに告知枠みたいになったな。

 

「そんなわけで、いい時間だな。最後に一言よろしく」

「くく、この狂乱の宴に参加できたこと光栄に思います。しかし、汝の道はまだまだ続く。我と一緒に突き進もうぞ!」

「これからもよろしくか。おう、こちらこそ」

 

 コメント だから翻訳早いて

 コメント さすがダークフレイムマスター

 コメント ジルめろてぇてぇ

 

「それではまたの出会いがあらんことを! ありがとうございました」

 

 そう言ってまるめろはいなくなった。

 初めてまともに終われた気がする。サーバーを確認してみるが、飛び入りはいないようだ。まあ、そうだろうな。

 

「もう凸者はこなさそうだしここまでかな。久々に色んな人と話せて楽しかったな」

 

 コメント 10000円こっちも楽しかったで

 コメント 毎秒凸待ちしろ

 コメント ゲーム配信楽しみ

 

「スパチャ読みは後の枠でやるわ。とりあえずこの枠は閉じる。そんじゃあ乙ジル!」

 

 コメント 乙ジル!

 コメント おつじる〜

 コメント おつ

 

 




 
 ちょっとぐだってるね。こう言う話難しい


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