佐々木小次郎enhancedMOD (カラス男爵)
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最初からレベルMAX!

やる気さえあれば書く


導入なのでまだ隻狼要素は無いです、三話目には葦名に行っている予定です。

手探りです、許して~許して!破ァ!!
許して破を放ったのでみんな許しました。


毎日違和感があった。

それは畑を耕すとき、あるいは戯れに川へ釣りに出かけた時。

 それはふとした瞬間に訪れる一瞬の強烈な違和感、その度にこの人里離れた山の家で首をかしげては畑を耕し川へ糸を垂らす毎日。

 

 きっとこの違和感は生涯続くものだろうと納得し、そして墓にも一緒に入ってくるものだと思っていた。幾年と続いてきたこの平凡な日々に心地よさを感じつつ趣味の一つである釣りから帰宅する。

 

 ふと帰り道の途中でこの村の者ではない人影が見えた、しわがれているがかなりがっしりとした爺だ、その爺は川の主でも釣りにでも来たのか思うほどに細くやたらと長い筒をかついでいる。

 興味が湧いた男は冗談交じりに話しかけ、あわよくばその筒について聞いてみようという腹積もりだった。

 

「なんだ爺さんこんな辺鄙なところに一人できて、釣りならば川はあっちだぞ。せいぜい川の主に腕を食われぬようにな。」

 

爺は一瞬困惑したが得心した顔で何処か皮肉を含んだ笑みをこぼしながら答える。

 

「釣り?、ああいや釣りに来たのではない、そうさな近くに竹藪はあるか?」

 

「竹藪ならば我が家の裏手にあるが何をしに来たので?」

 

「ううむ、何処から話したものか、この頭ではまとめきれなんだ。どうかこのおいぼれの長話に付き合ってはくれぬか」

 

爺の顔を見るに困惑していることが分かったがそれは自身についてで俺に話すことについては何とも思ってないようだった。

ただでさえここは娯楽の少ない田舎村、旅人の話というのは貴重な娯楽の一つである。

 男はこれ幸いと爺を家に誘う。

 

「かまわぬ、我が家に来れば茶の一杯でも出そう」

 

 町にある刀鍛冶とその一派がいた、長年刀を打ち続け名のある武家にも卸されるようになった事で刀鍛冶もまた名のある一派へと昇格した。

 

爺は弟子も育ちあとはどう引退するかを考えるのみとなりその方法を考え何をしてやろうかと柄にもなく心を弾ませる。

 

 引退するからには何かでかいことをしよう

 

それは爺に残っていた小さな少年心に火をつけた、でかいこと、でかい事とは何ぞや?と考えた折、馬鹿正直にでかい刀を作ることにしたんだそうな。

 

 自身は雅な余生は望まぬ、それゆえ自身の今後が質素な生活になる程に金を使い鋼を取り寄せ数十にも及ぶ弟子を総動員してまで鋼を打ち、これが最後の刀鍛冶という気持ちで仕事をこなす。

 

あまりに長いその刀は川をせき止めて冷やし丘のような炉で熱して鋼を鍛える、そうしてできた六尺にも及ぶ大太刀。

 

「だがしかし、いくらこの、戦はびこるこの世とてこのような太刀の担い手はそうおらん。

作ったはよいがあてもなし、倉庫の肥やしになるくらいならば思う存分にふるってから寺か神社にでも奉納しようと考えていたところでな」

 

「なるほどそれがこの刀、実に美しい刃ではないか、名は何というのだ?」

 

「名は無い、使い手もいなければいずれ奉納する物、今はせいぜい物干し竿にしかなりはせぬ」

 

「そうか物干し竿か、ははっ!それはよい!どうだ振って見せてくれ」

 

男は快活な笑みでその名を笑うが明らかに熱のこもったまなざしで頼んでくる。

 

「振るのはよいがとても見れたものではないぞ?」

 

「いいや頼む振ってくれ」

 

目が離せない、あの筒の中からあらわになった野太刀を見てからというもの心臓が強く脈打ち、全身が熱を持ったかの様な錯覚に囚われていた。

目は爛々と輝き頭は熱にかかったように浮かされる。

これは明らかに異常、それは自身でも気づいてしまう程に強い感情の奔流に落ち着きのない子供のように体が動いてしまう。

 

爺が野太刀を担ぎ竹藪に打ち付けているのを見ているとさらにその感覚が強くなっていることにいやがおうにでも気づかされる。

 

 あの太刀、素晴らしい!!爺の太刀捌きは確かにつたないのだろう、しかし何かを感じる、大きな何か、それこそ運命ともいえるような感覚、もう居ても立っても居られない。

 

「爺すまないがその太刀握らせてはもらえないだろうか」

 

「む?、ああ勿論んだ、かまわぬとも」

 

不思議な感覚だった、剣は初めて握った。

ましてや野太刀など目にするのさえ今日が初めてだ、だというのに、、だというのにこの感覚はまるで今まで外れていた四肢がくっつき戻ったかのような感覚、むしろそこにあるのが当たり前だったと思わされ懐かしささえ覚える強烈な感覚。

 

ああ成るほど、理解した。

 

今まで感じていた違和感を。

 

それは鍬を握るとき。

 

それは釣り竿を握る時に感じていたのだ。

 

 あの強烈な違和感。

あれは今思えばなぜ太刀ではないのかと心が訴えたその疑問による違和感だったのだろう。

 

ああ、もう居ても立っても居られない!望むように斬ってやろうぞ!この手の望むように!この剣の望むように!

 

 ふっと少し息を吐いて()()()、切った、そう切ったのだ!この六尺にも及ぶこの太刀で!!

こんなに清々しい気持ちはいったい何時ぶりだろうか?例えるならそれは自身が幼き頃、釣りの成果を無邪気に親に誇ったあの童心溢れる気持ちであろう、ああ、口から歓喜の声が溢れてしまう。

 

 

「どうだ!どうだ爺!、この俺の剣捌きは!」

 

 

 

 

儂は信じられないものを見た。

 

きっと今生ではもう見ることのない神技、あるいは神そのものを見た。

 

その男は竹を切った。

 

三本の竹を

 

バラバラに

 

 ()()()で!!

 

儂はたまらず叫んだ。

 

「お主、お主何者だ!いかな神仏の化身か!?あるいは修羅の類か!?」

 

「否!否である!俺はこの小さな村に生まれたただのしがない農民!名を小次郎と申すもの!!願わくばこの太刀もらい受けん!」

 

「何のためか!?この世の太平か!それとも乱世か!?」

 

「わからぬ!ただ切ってみたい!(つわもの)を!剣豪を!この世を!俺の腕がどこまで通じるか見てみたい!」

 

「分かった、わかったぞ!わしも見てみたい!しかしその道が儂の刀で偏ってしまうわけにはいかぬ!よってその刀の名を物干し竿とする!」

 

「感謝を!ただ感謝を!かたじけない!」

 

それからというもの小次郎は日が暮れ月明かりが眩しいと感じるまでの間太刀を振り回した。

そしてその傍らでは爺が目を見開きただただその剣技に見惚れていた。

 

「爺、今日は泊っていけ、もうこの家は出ていくゆえ出せるものはすべて出そう」

 

「うむ、しかしもう決めたのか?」

 

「ああ、もう母も父もおらぬ、何より今はもう刀を振りたくて仕方がないのだ」

 

 翌朝、爺が旅に行くなら太刀の手入れを教えてやると促され、この人里離れた家から活気溢れる街にある爺の鍛冶場へと向かう。

 

あの田舎村から街までの結構な道のりの末、たどり着いた爺の鍛冶場兼屋敷。

 出迎えをした爺の弟子と思われる人物に爺が何やらあれこれと指示を出すと俺は部屋へと通される。

すると爺は今日はもう遅いので休んでいけ、明日、太刀に必要な手入れの道具を渡す。と言い俺に今日は泊っていくように頼んできた。

断る道理もなく、その言葉をありがたく頂戴し、一泊する。

 

 だが驚くべきことにその日の晩飯はかなり豪勢なもので、なんと鯛!しかも白米まで!こんなに豪勢なものをほんとに頂いてもよろしいのか?と聞いてみると爺はいたずらが成功した子供のような微笑で勿論と答えるのみ。

そして部屋に敷いてあった家にあったものとは比べ物にならない寝床で一夜を明けた。

 

 

 そこで簡単に太刀の手入れを教えられると爺が突然馬もくれてやると言い出した、俺に乗馬経験はないと断るが、長旅になるならば馬は必須である、乗れなくても荷物を持たせるだけでいいと押し通される。

 

 さらには爺は何処からか上等な紺色の袴(半裃と言うらしい)まで与えてくる。

しまいには湯にまで入れられる始末。

 

そしてようやっと剣を振るうため旅に出ようとした際にも声をかけてくる。

 

「まて小次郎」

 

「なんだ?まだ何かあるのか?もう湯にも入った。次は白粉でも塗るというのか?」

 

「まぁまてこれが最後だ小次郎、確かお主には名乗る家名が無いのだったな?」

 

「ああそうだ、正確にはあるにはあるが百姓故、名乗るようなものではない」

 

それを聞いた爺は見るからに頬を引きあげしてやったりというまるで少年のような笑みで告げる

 

「では佐々木と名乗れ、我が一派の家名である。貴様は今日から佐々木小次郎だ!その剣技でわが鍛冶場を名だたるものとしてくれ!」

 

「ああ!成るほど!成程!ハハハハハ!これはしてやられた!やけに尽くすと思ったがそういう魂胆か!あいわかった今日から佐々木と名乗ろう!今日から俺は佐々木小次郎である!」

 

 

馬も貰った。砥石に水筒そして上等な半裃、果ては握り飯に至るまでこれを取り上げられてはかなわぬ。もしや太刀までも取り上げる気でいたのやも知れん。

 

 こいつはまさしくしてやられた、これからあの爺は俺が名を挙げるたびにほくそ笑む事だろう。

そんな思案をしていると爺はまたあのにたりとした顔で今日はもう遅いから一晩泊っていくか?と尋ねてきた、これにはたまらずに自身も笑みがこぼれ、いいやこれ以上されても何も返せるものは無いと返し俺はようやく旅に出ることにした。

 

街に来たのは初めてだ、ましてやこんなにも人の多い場所なんて。

朝の澄んだ空気が過ぎ去り昼の暖かな陽光が差してきたころ、もうすでに爺の鍛冶場は見えなくなり周りには声を張る客寄せに店から漂う旨そうな香り。

 

 そして何よりもひと、ヒト、人。

なるほど、爺の屋敷のあった場所は職人街かそしてだいぶ離れたここはおそらく商業地であるのだろう。

握り飯はもう朝にたべてしまったし、小腹がすいたことだし、と何かと理由を付けて旨そうな香りに誘われることにした。

 

「うむ、旨い」

 

しかし近場の戦場までそこそこの時間がかかる。それまでに何か斬るものがないだろうか?

時代が時代ならとんでもない事を考えていた男だがそんなときに声をかけられる。

 

「そこの御仁お話が」

 

「む?もしや俺の事か?」

 

「そうです、その大太刀、腕が立つんでしょう?」

 

話をかけてきたのはそこそこな質の服を着ているがどこか小汚い男だ。

自身は行商の者でなんでも浪人に対して仕事があるとのこと。

 

話を聞くにこれから行商にいくが野盗が出るとの情報がきたので行商人の頭が部下に護衛を探してくるように頼んだそうだ。

しかしちょうど最近多くの浪人が戦場に稼ぎに行ったばかりで見つからず困っていた。

そんな時に俺を見つけたそうだ。

 

「あいわかった、さっそく向かうとしよう」

 

「ありがとうごぜぇます」

 

男について行くと目の間に人だかりが見えた、数頭の牛、それと結構な数の大八車も。

今は男からここで待っているようにと頼まれたので馬を撫でている。

 

そういえば、爺からもらったこいつ以外の馬をこの街で見ていない。

こいつは今のところ大人しいし言う事もよく聞く。

本当にもらってよかったのだろうか?

 

しばらくすると男が恐らくこの行商の頭となにやら話し込んでいるのが見え、彼らは近づいてくる。

 

「旦那ぁ!つれてきましたぜ!護衛でさ!」

 

「一人しかいないではないか!この間抜け!」

 

「無茶いわんでくだせぇよ旦那、旦那もほとんどの浪人が戦場に出払っているのはご存じでしょう?

なんなら今からその戦場に売りに行こうって言ったのは旦那じゃないですか?」

 

「ええいうるさい!だが、ううむ、、しかし、、」

 

「じゃあやめま「いや行く!」流石旦那!金にがめつい!」

 

「おい!お主腕は立つのだな?何人斬った?」

 

意を決したのかそれとも無策なのかはわからないが鋭い視線で問うてきた。

 突然の質問とその内容に多少の困惑はしたが正直に述べることにする。

 

「無論腕は立つ、だが斬ったことは無い」

 

「な、、は?」

 

「見ればわかる、何か斬らせろ」

 

行商人はとても不満そうな顔をしてそれを隠すこともなく口から漏らしながら俺を仕事に誘った男になにがしかを伝え刀をもち武装した男を連れてこさせる。

 

彼が言うに「気に食わないやつ」

 

「おいお前、名前は?」

 

「佐々木小次郎と申す」

 

「そうか、おい!荷運び!こいつを殺せ!小次郎、荷運びを殺せ!」

 

何!?と口に出す間もなく信じられないことに荷運びの男は何の疑念も持たずに俺に刀を振り上げ斬りつけてきた、その初太刀を驚愕はすれど難なく弾く。

激しい音がして相手の剣は空へと飛んで行った。

 

 商人はそれこそ品定めをするような目で見る、なんといか恐らくこの商人はかなり合理的、それこそ死ぬほど。

 

なるほど、つまり、俺が死ねばごねて金をたかられる心配がなく、何なら俺の持ち物を奪ってさっさと別を探すか行商を始める。

そして俺が荷運びを殺しても傷を負ってしまえば実力不足として雇わず、ごねても囲んで殺すだけ。

そういう魂胆なのだろう。恐らく俺が雇われるには圧倒するしか道はないというわけだな。

 

しかし人を切るのはこんな感覚か。

骨と肉、場所によってはすんなり切れるな。

 

「おい!荷運び!何をしている!」

 

俺を連れてきた男が動かなくなった荷運びに疑念を持ち声を上げるがもう遅い。

 

「あ”っがぁ」

 

瞬間ボトボトと人であったものが崩れ落ちる、周囲の人間が驚愕し恐怖している中、商人の男だけはニタニタと気味の悪い笑顔で目をぎらつかせていた。

 

「んふぅ、やるじゃないかごん蔵。よいものを見つけてきた」

 

「へぇっあ!?あっああ、でしょう?」

 

この商人、全く持って食えない男だ。

他の者はそれこそ鬼にでも会ったかのようにざわついている中こいつだけは飄々としなんなら笑みまで浮かべている。

 

「商人殿。俺は合格かな?」

 

「ああ、勿論だとも、佐々木小次郎どの」

 

ううむ実はこの商人、妖の類ではなかろうか?なかなかの怪人、怪人すぎる気もするが。

それからは迅速に事が進み、すぐに行商が始まった、というか行き先を聞いてない、まぁ馬もついてきてるしこれが終われば直ぐに戦場に向かおう。元々長旅だ、大して変わることは無かろう。

 

そんなことを荷馬車に揺られながら考えていると、たしかごん蔵と呼ばれていた男が近づいてくる。

 

「何の用だ?まぁちょうどいい、聞きたいことがあったのだ」

 

「へぇっ!なんでしょう!?」

 

「今どこに向かっているのだ?」

 

「戦場でさ、なんでもここら一体をおさめる武士が隣の荘園を奪うとかでまぁ人手が必要とかで」

 

「ほぉ、しかし普通は武士だけで片を付けるのではないか?」

 

「まぁ普通そうなんですがね、なんでも相手の武士が浪人は勿論、妖まで使うそうで」

 

「ほぉそれはそれは」

 

なんというか幸先がいい、戦場にも行けて金まで貰える、幸先のいい出だしと言えよう、そして何よりも妖、どんなのがいるのか中々に楽しみだ。

いかに斬ってすてようか。

 

「それでお主は何をしに来たのか?」

 

「へぇっ実はあなたの荷物なんですけどね旦那が何か売り買いするものは無いか聞いてこいとの事で、格安ですよ?」

 

「無い、それと俺の荷に勝手に触れば殺すと商人以外にも伝えておけ。」

 

「へぇっ勿論勿論!。しかと!伝えておきます。」

 

しばらく荷馬車に揺られ山道に入ったころ先頭から何やら騒ぎが起きているのが分かる。

 

賊を斬るころだろうか?そう考え立ち上がるとごん蔵がかなり慌てた様子で駆けてきて旦那ぁ仕事です早く先頭へとそう伝えてきたのでごん蔵に何人いたかと聞くと数十はいるとの事。

 荷馬車から降りて先頭に向かっている途中、何やら先頭から言い争っている声が聞こえてくる。

恐らく商人と野盗の頭目であろう。

 

「貴様ら浪人であろう!何故こんなところにいる!」

 

「うるせぇ!てめぇは黙って荷物を置いていけばいいんだよ」

 

「黙るのは貴様だ!浪人ども!もう戦は終わったのか!?言え!」

 

「ったくギャーギャーと、ほんとに殺すぞ?」

 

会話がなかなかに熱を上げ始めたころ会話を聞いていなかった俺はとりあえず商人殿にもう斬ってよろしいか?とそばまで行き耳打ちする。

商人はどこか不調そうな顔で思案している。

しかし頭目の後ろには数十の武装した賊が見えるがどこかおかしい、野盗にしてはかなり小奇麗な見た目だ。

 まさかここにいる野盗すべてが元浪人?戦はどうしたのか?

 

「数人残してあとは斬れ。おい!お前たち剣を抜け!」

 

商人は俺に命令をすると自身の仲間たちにも号令を出す。

彼らは慣れているのか手慣れたように荷物を置き腰に付けた武器を抜く。

 

「は?てめぇふざけんな!後ろの奴らが見えねぇのか!。くそっ、おいてめぇら!やるぞ!」

 

「よそ見をするなよ、全く」

 

頭目は苦悶の声を漏らすと頭蓋から股下までに一閃、真っ二つに肉塊へと変貌した。

しまった、待ちきれずにもう斬ってしまった。

 

「次!次はだれか!行くぞ!」

 

あいての動揺が収まるのを待つことなくすかさず次に斬りかかる。

 

 ハハッすごいぞ!こんなに斬っていいのか!素晴らしい!今俺は命のやり取りをしている!すごいぞ人をいっぺんに切ればこんな感触か!骨!肉!相手の武器でさえ!いづれもわが剣を遮るものなし!

 

 最初の一太刀は力強い踏み込みから横に真一文字に斬る、六尺にも及ぶ大太刀の力はすさまじく奇麗に斬ったつもりが彼自身の神にも届く剣技によって振るわれた大太刀は数人を切っても有り余る力をもって賊の斬り飛ばした。

 

 臓物をまき散らしながら飛んできた上半身はそれだけで幾人かの戦意を折るのに充分であったが更に返す刀で合わせて十数人ほどの賊を斬り殺す。

 

酷い光景だ。

人がまるで石ころであるかのようにぞんざいに扱われ臓物をまき散らしながら飛んでいく。

しかしそれでもまだまだ小次郎を切り殺そうとする輩は多くいる。

 

「そうだ!かかって来い!でなければ斬るぞ!」

 

ひどく高揚していた。

 

口から笑みがこぼれるほどに。

 

素晴らしい!素晴らしい!なんと楽しいことか!今俺は殺して殺されようとしている!

まだまだ生き残っている多くの賊は流石に警戒して一定の距離を取り斬りかかる隙を窺っているがまだ近い、この六尺にも及ぶ大太刀にとってはいずれも範囲内。

また強く踏み込みをして同じように斬り殺す。

 すると賊の誰かが叫んだ。

 

「槍だ!槍持ちと同じように相手しろ!それと消える術を使う!気をつけろ!」

 

確かにこの大太刀は長い、その対処であっているのであろう。

しかし消える術とは何か?

 

畜生!畜生!なんなんだこいつは!人を豆腐みてぇに斬りやがる!行商を襲って帰るだけのうまい話じゃなかったのか!あのバカ死んじまいやがって!

最悪、最悪だ!あいつが消えると人が死ぬ、腸をまき散らしながら飛んでいく。

いったいどういう仕掛けだっていうんだ!

目の前で不敵に笑う男を見て心底ぞっとする、いつ消えるのかとひやひやしながらふと足元を見た。

窪んでいる。

あんな跡あったか?違うな、違う、、あれは足跡!消えてるんじゃねぇ!早いだけだ!俊足の踏み込みが消えているように見せているのか!。

 

 !?また増えっ

 

「どうした?斬り返さねば死ぬぞ、もっと近くに来い」

 

あまりの清々しさと相手のあっけなさに思わず笑ってしまう。

相手はこんなにも骨のない輩だというのになんと楽しいのか、ああ強いものと戦ったらどれほど楽しいのだろうか。

 

「ちくしょおおお、鬼!鬼め!」

賊の何人かが叫びながらこちらに走ってくる、おそらく最初に走ったのだろう突出した男を賊の群れまで蹴り飛ばした後流れるように斬っていく、その刀身と剣捌きによっていずれもきれいに真っ二つ。

その見目に似合わないきれいな桃色を晒すことになった。

 

もう限界だった。

最初の攻撃で仲間の上半身が飛び散った時にすでに恐ろしかった。

だがその時はまだ結構な数の仲間がいた、だからまだその時は何とかなる、むしろ分け前が増えてちょうどいい、そんな風に思ったが間違いだった、近づく間もなく斬り殺され、斬ったあいつはいつ見ても不気味に笑っている。

 

俺達はしがない浪人の集まりだがそれでもこの世界で浪人として食っていけるだけの力はある。

牛一頭を丸呑みするほどの大蛇を倒したこともある、およそ四十にも及ぶ餓鬼の大群を五人程と協力して撃退したり、十五尺はある体躯を持つ剛腕の一目の化け物を一人で倒した記憶は新しい。

 

 だが目の前のこいつは何だ?まず攻撃が見えない、風が通ったかと思えば残銀が見え、腕が、足が、体が飛んでいく、あっけなく命が飛んでいく、そうだ、命が飛んでいく。

 

これが何よりも恐ろしい、なぜなら皆、仲間が死んでいるというのが理解しているはずなのに気にも留めていない、そう死んでいるはずだ、死は恐ろしい、それを理解しなければ浪人は長く続けられない。

 

だというのに、だというのに皆、退くことは無い。

 

 死ぬと分かるはずなのに、あれは戦ってはいけない存在だと理解しているはずなのにだ、俺もその内の一人だった、だが今は違う、思い出した、ちゃんと思い出した。

死ぬのは恐ろしいと。

だから今は心底恐ろしい、目の前の俺達を羽虫が如く殺すあの存在が心底恐ろしい。

 

「だ、駄目だ、勝てねぇ。あれは挑んじゃいけねぇ」

 

賊の一人が酷く顔色を悪くして男が絞り出すように言った言葉、おそらく最初に斬り飛ばされた仲間を見てすでに心が折られていた一人であったのだろう。

 

 その言葉は浪人たち長い事大切にしていた事を思い出させた、死ぬのは恐ろしいと。

たった一人の言葉は恐怖を伝搬し目の前の存在を理解させた、その結果、残った賊は我先にと脱兎のごとく逃げ出し恐怖を叫ぶ。

 

「化け物だぁ!」

 

「助け!助けて!」

 

あまりの突然な賊の豹変ぶりに一瞬の困惑。

だがその姿を見て怒りが湧いてくる、あんなにも楽しいかった殺し合いが終わってしまった、こんな結末で、こんな有り様で、ひどく不快だ、不愉快だ。

 

「は?ふざけるな、ふざけるなよ貴様ら、最後まで戦え、命尽きるまで戦え!」

 

激怒した小次郎は背を向けて逃げる賊に追いついては斬り殺していく。

殺して、殺して、殺したとき、多少の落ち着きができた小次郎はふと思い出した。

そういえば商人が数人残せと言っていたと、気づけば残った賊も三人だけ。

 面倒だが仕方ない、足元の斬り殺した賊から短刀をいくつか拾い上げ投擲、それらは残った賊に命中、賊は痛みに足をもつれさせ倒れてしまった。

 

「商人殿、これでよろしいか?」

 

「あ、ああ勿論だ、う、む、もしや貴様、本当は鬼神の類ではなかろうな?一度に三人以上を斬るのは勿論刃が飛んでいなかったか?」

 

「む?何?ははっ鬼神とな?、商人殿にそういわれるとは思わなかったな」

 

「、、はぁ、何を笑っている、この馬鹿め、荷車に戻っていろ」

 

まさかあの怪人な商人に鬼神か何かかと問われることになるとはな。

良いものが聞けた、あの賊の不快さを多少紛らわせてくれる。

 

む?いや、まてよ?答えを聞かなかったあたり本当に鬼神でも問題なく使うつもりであったか?実は商人こそ人ではないやもしれんな。

 

 

あの小次郎という男、まったく、掘り出し物だとは思ったがここまでの者だとは思わなかったぞ。

あまりのすさまじさに内の行商の人間は何もすることなく終わってしまった。

いや、まだやることはあるか。

 

「おい!、ごん蔵!何をぼさっとしている!さっさと自分の仕事をやれ!」

 

隣を見ると目の前で起きた虐殺を見ていたごん蔵が顔を青くしながら口を金魚のようにパクパクと動かして固まっていた。

この間抜けめ。

間抜けに声を上げて背中を強く叩くことで活を入れ間抜けを仕事に走らせる。

 

「いで!っは!」

 

「仕事をしろ、間抜け、あの三人はここに連れてこい」

 

「お前ら!仕事だ!さっさと死体をあされ!そこにいる賊はここに連れてこい!」

 

後ろにいる武器を抜いたはいいものの使う機会どころかあの刃がこちらに向かないか戦々恐々としていた奴らは死体あさり(臨時収入)と聞いて我に返り、大地を蹴飛ばすように走り出す。

 

さて、それで、今目の前にいるのが賊の生き残りだが明らかに様子がおかしい。

 まぁ無理もない、彼らが言ったように鬼のような理不尽に襲われ仲間だったものが見るも無残な姿で飛び散っていく光景は耐えられん。

だが問題はうちの旦那から話せるようにしろと命令されたことだ。

しかしこれは…

 

「鬼が、おにぃ、、」

頭を抱えぼろぼろと涙をながす者。

 

「許して、、許してくれ」

自身のパックリと奇麗に斬れ、ちぎれ掛けている腕の傷口を抑えて介錯を待つようにじっとしている者。

 

「大丈夫大丈夫大丈夫」

ブツブツと呟きながら脇の傷を抑えている者。

 

これは、かなり、骨が折れそうだ。

 

 

さて、賊を相手にして自分のいた荷車にまで来たのだが、そういえば太刀の手入れをしなければな、と自身の太刀を見るが刃こぼれ一つ無い、やはりこの太刀は名刀に属するそれであろう、感謝するぞ爺。

そんなことを考えながら自分の馬から手入れ道具を取り出していく。

 

よしよし、いい子だな今日はいっぱい斬ったんだぞーお前の名前も考えないとなー。

そんな事を考えながら馬を一撫でして、近くの荷車に腰を掛けて太刀の手入れをしている。

すると誰かが近づいてくる足音がしてそいつが俺の名前を呼んでいる。

 

「失礼します!、!?うわっ!あっ」

 

「?…何ようだ?」

 

「えぁ!あっ!しょっ、しょうにん、商人殿がお呼びです!」

 

恐らく行商の一人である男がそういうと、ひぇーと情けない声を上げて去っていく。

なぜ?そう思いながら血払いをしても残っていた血をぬぐった布と剥き身の刃をしまい荷車から立ち上がり、商人のいる最前列へと向かう。

 

「おい間抜け!これで本当に話せるようにしたのか!」

 

どうやら先ほど捕らえた三人の賊を尋問していたようだ、何を聞いたのかはわからないが彼を見る限り満足するような答えは無かったのだろうか?

 

「無茶いわんでくだせぇ、まだ数刻しかたっていないのにあそこから話せるようにしただけでもむしろ誉めてほしいくらいでさぁ」

 

いや、ほんとに、まじで。

三十は越えた大の男をあやすことになるなんて誰が想像つくことになるだろうか?

何なら傷の手当てをしながらだ、大変だった、ホントに。

 

「ふん、まぁいい聞きたいことは聞けた、さっさと始末しろ」

 

「へいへい」

 

「呼ばれてきたが何用で?」

 

「うわぁぁぁぁ!」

 

俺の姿を見た三人の変化は劇的だった、途端に絶叫を上げながら暴れだし、荒い呼吸になりその場にうずくまる奴。

しまいにはあぶくを吹いて倒れこむような姿を見て流石にぎょっとした。

 

「ああ!。もう、なんてことをするんですか。はぁ、ほらさっさと向こうに行くぞ」

 

いやまて、俺はまだ許した訳では…そう返答する間もなく三人を引き連れて(引きずって)どこかに行ってしまう。

 

「おお!来たか!小次郎」

 

だが、まぁ目の前の怪人はそんなことを気にすることもなく話を始める。

 その内容はやはりあの連中は戦場に出向いたはずの浪人たちで何でも相手の戦陣にひしめく妖を見て逃げ出してきた奴ららしい。

で、本題としてはこれからそれらと戦う武士たちの戦陣に向かう訳なのだがしかし、もう戦が始まっているかもしれない。

 だからとりあえず商い相手の戦陣まで追加で護衛をしてほしい、道中は妖との遭遇戦が予想されるからいてくれた方が心強い。どうか頼まれてくれないか?という内容だった。

 

まぁ元からその戦場に向かうのが目的であったので断る理由もないのだが、奇妙な点が一つ、元々行商の護衛として雇われていたはずなのにわざわざもう一度頼む理由は何だろうか?まぁ聞けばよいか。

 

「元からそのような依頼の内容ではなかったのか?」

 

「なに!?なんだって!ああくそっ!あの間抜け!、、、いや、しかし、、はぁ、まあ良いとにかくこれから戦陣までの護衛頼んだぞ」

 

「?分かった、では馬に戻っているぞ」

 

なんだかよくわからないが最後には商人が結構落ち込んでいるのは分かった、まぁとりあえず追加で金がもらえるのはよいことだな。

 

 む?あれはごん蔵と生き残り?

 

「ほら、いったいった」

 

「いいのか?おいらはてっきり殺されるもんだと」

 

「旦那は始末しろとは言ったが殺せとは言ってない、というか何で手当てした奴を殺さにゃならんのだ」

 

「うぅ、ありがてぇ、、ありがてぇ」

 

大粒の涙を流し顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにして泣いて喜ぶ浪人の一人

 

「うげっきたねぇな。ほら早くいかねぇと小次郎が「読んだか?」うおっ」

 

「ぎゃあああああああああ、おっおたすけ、お助けええええええ」

 

彼らの涙はすぐさま引っ込み絶叫を上げながら、なりふり構わず走っていく。

というか足を怪我した奴もいたはずなんだが?

 

「お、おお、お主腕がよいな。もうあんなに動けるようにしたのか」

 

「いや、あれはそういうのじゃ、あーあもうあんなに遠くに。それで?何ですか?弱い者いじめ?」

 

「何?俺にそんな趣味は無いぞ、いやまぁ商人がなぜか落ち込んでいたのでな」

 

「へ?何でです?というかあの人が落ち込むのは金で損した時くらいしか、、、」

 

「おい!何の騒ぎだ!」

 

後方から現れたのは商人殿だ、彼はごん蔵を見つけるや否やかなりの剣幕で怒鳴り始める。

 

「おい!ごん蔵!貴様なんといってあいつを連れてきたんだ!!」

 

「はぇ?そりゃ勿論、護衛としてですけど?」

 

「馬鹿者!わしが連れてこいと依頼したのは賊の討伐であって護衛ではない!

大体そんな頼み方をしたら金がかかるだろう!

いいか!本来なら賊を倒しているときにとんずらをするか討伐したところを後ろから「ああ、旦那?」そうすればお金を「旦那!!」なんだ馬鹿者!!」

 

「ほう、後ろから斬りかかる?」

 

そうつぶやくと商人殿の顔が面白いように変わっていく、まるで追い詰められた猛獣のような瞳だ。

ぎらついて何か一矢報いようとあるいは何か抜け道を探しているかのような目。

 

「ああ、これはこれは佐々木小次郎殿、、、クソが!するわけねぇだろ化け物が!」

 

なんという事だろう、まるで今から奥の手でもあるのかという悪だくみ顔からなんとも早い変わり身である。

商人は踵を返して先頭に戻っていく。だがさすがにここで逃がす俺ではない。

 

「ああ、そういえば金を踏み倒すとも言っていたなぁ?」

 

俺は今産まれて初めてする様な酷くあくどい顔をしているに違いない、とても楽しい。

 すると商人は立ち止まり汗をだらだら流し神妙な面持ちで懐に手を伸ばす。

 

「クソが!」

 

急に叫んだかと思うと懐から何かを剛速球で飛ばしてきたのでそれをすわ奥の手かと凝視しその正体にあっけにとられるがそれをはしッと受け取る。

それは小さなしかし笑顔がこみあげてくるような重さを持つ銭の詰まった小袋だった。

 

「ああ、クソ!クソ!」

 

まるで子供の様に癇癪を起し、何度もごん蔵をはたきながら罵倒し行商の先頭へと帰っていった。

 何だ今の嵐のような交渉術は!なるほどこれが世を生き抜くための術!

今まで片田舎でクワを振っていた自分はひどいカルチャーショックを受けながら行商は進んでいく。

 

 

 

 




お ま け



ごん蔵
本名ではない




商人
二十代後半




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