妄想玩具箱 (tomoko86355)
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―プロローグ

PS4とスイッチで発売されている『仮面ライダーメモリーオブヒーローズ』を下地に自分設定の妄想を詰め込んだ駄文です。


ミハルは、看護師に手を引かれ、リノリウムの床を歩いていた。

子供用のパジャマに、右手には「オジサン」が誕生日にと買ってくれたソフトビニール人形。

昭和に放映されていた仮面ライダーという子供番組のヒーローらしい。

叔父さんは何時も、「仮面ライダー」というモノが、どれだけ偉大で、どれだけ人々に影響を与えたのか、幼いミハルに熱弁していた。

 

「会長、7号を連れて来ました。」

 

ミハルの手を引いていた看護師が、恭しく窓辺に立つ40代後半辺りの男へと頭を下げる。

 

広々とした室内。

そこには、会長と呼ばれた「オジサン」だけではなく、もう一人、白衣を着た男性がいた。

まるで牛乳瓶の底の様な分厚い眼鏡を掛け、髪はざんばら。

オフィスチェアに座り、会議用のテーブルの上に乗った最新型のノート型PCを覗き込んでいる。

 

少年の主治医を務めているゼウス博士であった。

 

「やぁ、ミハル。 久し振りだね。」

 

出入り口に立つミハルを、”オジサン”が朗らかな笑顔で迎える。

主治医である男は、看護師の傍に立つミハルを一瞥しただけで、すぐに視線をPCのディスプレイに戻してしまった。

 

 

”オジサン”‐ 鴻上光生に一礼し、持ち場へと返る看護師。

後に残されたミハルは、所在なげにその場に立っている。

 

「ミハル、随分と大きくなったね? 」

 

そんな幼い少年の傍へと、鴻上会長は歩み寄る。

まるで小山の如く大きな体格をした男であった。

身体を屈め、目線を合わせる壮年の男に対し、ミハルは精一杯の笑顔を向け、ゆっくりと頷く。

 

『お客様の前ではキチンと挨拶する事。』

 

それが人間(ひと)と円満に付き合う為の処世術だと、ミハルは常日頃教えられている。

日常の礼儀作法だけではない、通常の児童が学ぶ一般の教育もしっかりと受けていた。

国語、社会、算数、理科、生活、音楽、図画工作、そして家庭や体育に至るまで、時間通りのカリキュラムを毎日こなしている。

 

 

ミハルが生活しているセクターシティは、幾つかのエリアに分かれていた。

研究員が憩いの場として、日々の疲れを癒す居住エリア。

その広々とした公園で、ミハルは『お土産』と称し、鴻上会長が連れて来た犬型のロボットとボール遊びに興じていた。

 

「ああして見ると、普通の子供と全く変わらないなぁ。」

 

投げたボールを咥えて戻って来る、最新型AIのロボット犬と戯れる10歳未満の少年の姿を眺め、鴻上会長は眩しそうに双眸を細める。

 

「エクストリームメモリを使用し、データとして構築された人造の生命体ですからね。まぁ、赤子の状態から育成するというのが、非効率的ではありますが。」

 

公園に設置されている東屋にいる30代半ばぐらいの白衣の男は、ベンチに座り、9.7インチのアイパッドに視線を落としている。

この男にとって興味があるのは『ガイアメモリ』と『コアメダル』だけであり、他の事には一切の関心も無かった。

 

「園咲来人君みたいには、いかないという事か。」

「アレは、突然変異体です。 同じ工程で1号から6号を製作しましたが、人の形を保つ事が出来ませんでした。」

 

園咲来人とは、風都の名士である園咲家の長男だ。

財団Xの同志であった園咲家は、組織を離れ、”ミュージアム”という独立した組織を立ち上げている。

 

「ポセイドンドライバーと対になる為の合成人間ですが、コストが悪すぎる。量産型にするのは無理でしょうなぁ。」

「そうか・・・・無理か・・・・。」

 

鰾膠(にべ)も無いゼウス博士の言葉に、鴻上会長は諦めたかの様な溜息を零した。

 

彼等の目的は、古代の遺物‐オーズドライバーを量産し、それを扱う人間を造り出す事であった。

ドライバーの複製品は、製造可能な工程まで辿り着いたが、肝心の扱う人間がいない。

常人では、コアエナジーに対する負荷に耐え切れず、廃人と化してしまう。

そこで、彼等が目を付けたのが、地球が内包する未知なるエネルギーから造り出された合成人間‐ 園咲来人であった。

同じエネルギーから生み出された存在ならば、ドライバーを扱えると思ったのである。

 

「安心して下さい、会長。 他の課題は概ね良好です。 このままいけば”ムチリ”の量産化も可能ですよ。」

 

粗方仕事が終了したのか、ゼウス博士はアイパッドの電源を閉じ、足元に置いてある革の鞄へと仕舞う。

黒い革の鞄を手に、白衣の男は座っていたベンチから立ち上がった。

 

「失礼、これから私は、本社で次のプランニングについて大事な会議があります。後の事は、彼女が・・・。」

「アイダです。 宜しくお願いします。」

 

ゼウスと同じ白衣を着た女性が、鴻上会長へと恭しく頭を垂れた。

 




引き続き第一話を投稿


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第一話 『ミハル 』★

本編開始、細かい設定は気にしない。


飛電・或人にとって、これ程、苦痛に満ちた一日は無かった。

隣に座る『秘書』の威圧感に、もう何度目かになるか分からない溜息を零す。

その憂鬱極まりないどんよりとした視線が、現在、搭乗している大型ヘリの無機質な窓へと向けられた。

何処までも続く蒼い空。

今の自分とは、全く真逆である。

 

「56回目・・・・。」

「へ? 」

 

不愛想極まりない秘書の言葉に、或人は窓から隣に座る人物へと視線を向ける。

 

「溜息の数です。 私といるのがそんなに気に入りませんか? 」

「うっ・・・・そういう訳じゃ・・・・。」

 

秘書‐ 滅の氷点下の眼差しに、或人は苦笑いを浮かべる。

この20代半ばの青年は、実は人間ではない。

人間を模して造られた人造生命体‐ ヒューマギアだ。

滅は、或人の護衛兼教育係を務めており、幼い頃から、巨大企業『飛電エントリジェンス』の後継者として、身も凍る程のスパルタ教育を施して来た。

 

「滅が何時も或人を虐めているからだよ。」

 

真向かいに座る青年‐ 迅がにやにやと人の悪い微笑を口元へと浮かべる。

彼も当然、人間では無い。

滅と同じヒューマギアであり、飛電エントリジェンスの本社がある近未来モデル都市、天海市に設立された特殊部隊『滅亡迅雷net 』の捜査官であった。

 

「もっと優しくしてあげたら? 滅の大事な人なんでしょ? 」

 

背凭れに背を預け、迅がモデル並みに長い足を組む。

 

迅の言う通り、滅にとって或人は我が子同然の存在だ。

或人の両親は、彼が赤子の時に不慮の事故により死亡。

或人の祖父、飛電是之助(これのすけ)が息子、其雄に似せたヒューマギアを製造し、父親代わりとした。

しかし、20数年前に天海市で起こった大規模テロにより、其雄は犯人グループによって破壊されてしまう。

当時、10歳だった或人は、破壊された其雄から、記憶素子だけは何とかサルベージし、それを元に自分の助手として滅を造ったという訳なのである。

 

「人聞きの悪い事を言うな。 俺は社長の秘書兼護衛役としての職務を全うしているだけだ。」

「はいはい、お前は良くやってるよ。」

 

視線を再び、窓に映る蒼い空へと戻しつつ、或人は盛大な溜息を吐く。

滅は、非の打ちどころが全くない優秀な秘書だ。

元のボディだった其雄と秘書型AIアシスタント‐イズの擬似家族で、それなりに幸せな子供時代を過ごした。

父親役の其雄は、怖かったが、只の型に嵌った経営者として育てるのではなく、人間として一番大事なモノは何かを教えてくれた。

又、イズも子供の理解者として暖かく見守り、また或人が悪戯をしたら、ちゃんと叱ってくれた。

そう考えると、この二人を造り出した祖父・是之助は、先見の明がある素晴らしい人物だったといえる。

まぁ、そんな祖父と大喧嘩を繰り広げた挙句、14歳でMIT(マサチューセッツ工科大学)へと飛び級し、滅を無理矢理連れてアメリカに渡った訳なのだが。

 

 

或人達を乗せた大型輸送ヘリは、セクターシティ・湾岸エリアのヘリポートへと着陸した。

 

「ようこそ、セクターシティへ。私は、研究島の総責任者を務めているアイダ・オリヴェラです。」

 

ヘリから降りた或人達を、数名の研究員を従えた30代半ばぐらいの妙齢な美女が快く迎え入れた。

 

彼女の名は、アイダ・オリヴェラ。

日本人とイタリア人のハーフである。

遺伝子工学の専門家であり、幾つかの博士号を取得した才女だ。

鴻上ファウンデーションに所属しており、この研究島の主任を任されている。

 

「NASAでの数々の武勇伝は伺っていましてよ? 飛電教授。」

「ははっ、どうせ悪い噂でしょう。」

 

差し出されたアイダの手を握り返しつつ、或人は苦笑いを浮かべる。

 

MITに在学中、或人は宇宙開発や災害又は極地等での人道支援を目的に、ライダモデルというシステムを造り出した。

これは、同じく或人が開発した人工知能『アーク』が、地球上に生息する生物のデータを蓄積し、データ・アクティベイトキーに転送するというシステムである。

これにより、システムに対応するパワードスーツを装着した被験者は、”データ・アクティベイトキー”後の”プログライズ・キー”を使用する事で、様々な動植物の能力を使う事が出来るのだ。

この画期的システムは、宇宙開発局のNASAに認められ、或人は研究員としてカルフォルニア州にあるエイムズ研究センターに破格の待遇で招かれる事になる。

 

当たり障りの無い世間話を交しつつ、或人達はビジターセンターと呼ばれる60階建ての高層ビルに案内された。

 

「初めてこの島を訪問した方達は、此処でID登録をして貰います。」

 

アイダ教授曰く、初めてセクターシティを訪問した者は、まずビジターセンターで自分の個人IDを取得するのだという。

IDは、それぞれランク分けされており、それによって、行けるセクターや施設も限られてくるのだ。

 

此処、セクター・シティは、湾岸エリア、森林エリア、浄水エリア、居住エリア、砂漠エリアの五つに区分けされており、或人達が現在いるのは、湾岸エリアであった。

 

 

 

「駄目だよ、ガイ。 今は昼間だよ? 」

 

蒼いメッシュが入った髪を持つ16歳ぐらいの少年の身体を、鋭い爪を持った無骨な手が無遠慮にまさぐった。

 

「何故? 私はもっとミハルに触れていたい。」

 

腕の中にすっぽりと納まってしまう少年‐ ミハルの華奢な身体。

愛おしさが募り、騎士の如く、鋭角的な黒い外装をした異形の者‐エノシガイオスが、少年の着ているジャケットの下へと無遠慮に手を入れて来る。

 

此処は、少年‐ 湊ミハルが与えられているプライベートルーム。

当然、私室には持ち主である少年とそのパートナーであるグリード、エノシガイオスしかいない。

 

「だって・・・2時頃に大事なお客様が来るって、アイダ先生が・・・。」

 

相棒であるグリードの膝上へと無理矢理座らされたミハルが、ジャケットの下へと潜り込んだ大きな手を掴んで、形だけの抵抗をする。

 

本音を言えば、セックスはそれ程嫌いじゃない。

最初は痛くて怖かったけれど、慣れて来ると気持ちが良いし、相手が自分の身体で気持ち良くなってくれるのが、堪らなく嬉しい。

 

「どうせ、我々には関係ない。」

「あっ・・・・。」

 

顎を掴まれ、無理矢理背後へと振り向かされる。

鋭い牙がズラリと並ぶ、口腔を開き現れる長い舌。

唇をなぞるソレに、ミハルは抵抗するのを諦め、おずおずと閉じていた口を開く。

長い舌が自分のソレと絡み合い、少年の背筋をゾクリと例える事が叶わぬ寒気が走る。

 

「ミハル・・・・可愛い、私だけのミハル。」

 

エノシガイオスは、グリード(欲望)の化身だけあり、性的欲求もかなり強い。

背後から抱く少年のジーンズに触れると、禁忌的行為に耽り始めている為か、性器が立ち上がっているのが分かった。

器用に片手で、ジッパーを開き、窮屈そうに自己主張をしている陰茎を外へと出してやる。

鋭い爪で、敏感な皮膚を傷つけない様に注意しながら、亀頭と鈴口を指の腹で撫でると、少年の華奢な肢体が面白い様に跳ねた。

 

「駄目・・・・・昨日もいっぱいしたのに・・・・。」

 

物凄く興奮しているのが、否が応でも分かる。

視界に映る無色透明の粘液。

見せつける様に、エノシガイオスが触れていた指先を離すと、粘液がトロリと繋がっているのが分かる。

 

「触っただけで、もうこんなにして・・・・悪い子だな? ミハル。」

「い・・・意地悪。」

 

顔を真っ赤にしたミハルが、目尻に涙を溜め、顔を俯ける。

その時、無機質な室内にコール音が響き渡った。

実験場である砂漠エリアで、また何かの事故が発生したらしい。

 

「い、行かなきゃ・・・研究員の人達が危ない。」

「ちっ・・・・・仕方が無いな。」

 

お楽しみを邪魔され、漆黒の鎧騎士が、忌々しそうに舌打ちする。

 

彼等の仕事は、予測不能な事故を未然に防ぐ事。

セクター・シティで働く研究員達を護り、円滑に作業を行える様にする事が、ミハルとエノシガイオスに与えられた役目であった。

 

 

 

祖父・是之助から『飛電エントリジェンス』を引き継いだ或人は、精力的に働いた。

継続した事業は勿論の事、様々な分野に会社の技術を売り込んだ。

祖父・是之助は、流石に一代で巨大企業まで育てただけはあり、経営者としては相当な技術と商才を持っていた。

その中に、夢見町を中心に活動している巨大企業『鴻上ファウンデーション』と提携してある事業に取り組んでいる事が分かった。

それが、次世代のエネルギー源として注目されている『コアエナジー』である。

 

「このセクター・シティは、完全な自給自足をしています。食べ物は勿論、飲料水や嗜好品であるワインやビールも此処で造っています。」

 

広大な農場(ファーム)がある森林エリア。

その巨大な温室に、或人や滅、迅の三人は案内されていた。

色とりどりの観葉植物や花が育成されている温室内。

給仕ロボットが、訪問客である或人達にワイングラスに満たされた果実酒を配っていく。

 

「どうぞ、我々のプラントで品種改良された葡萄酒です。」

 

このセクターの責任者である女性研究員が、朗らかな笑顔を向けて果実酒を進める。

好奇心が人一倍強い迅が、一口啜り、そのあまりの美味さに顔を綻ばせた。

 

「美味い! こんな美味しいワイン初めて飲んだ! 」

「確かに、口当たりが良くて、独特な苦味が無いな。」

 

口の中で自然に溶ける芳醇な味わいに、普段は無表情な滅でさえ、口元を綻ばせる。

そんな二人を他所に、或人は温室内に咲く花や華麗に舞う蝶等を眺めていた。

 

「コキア・コオケイ・・・・ハワイ諸島のモロカイ島西部にしか自生してない花だ・・・・コッチは、絶滅危惧種と言われているショウスアゲハか・・・。」

 

可憐な白い花の蜜を吸うアゲハ蝶を眺め、或人は一人呟く。

 

「流石は教授、もうお気づきになられましたか。」

 

森林エリアを担当している研究員、内海・成彰(うつみなりあき)が、得意気に眼鏡のフレームを指で押し上げる。

 

或人達を此処に招いたのは、品種改良した葡萄で造ったワインを試飲させる為ではない。

鴻上ファウンデーションが持つ、最先端の遺伝子工学を魅せる為であった。

既に絶滅し、地球上には存在しない動植物を、彼等が持つ遺伝子データを基に現代へと蘇らせる。

これは、かつて風都の名士として名高い、園咲琉兵衛が残した技術であった。

しかし、当然、或人達『飛雷インテリジェンス』は、その存在を知らない。

 

「彼等は、このセクター・シティに発生するコアエナジーによって蘇ったのです。」

「コア・エナジー? 」

「そう、地球の記憶・・・とでも言いましょうか、我々はそのエナジーから、絶滅した動植物のゲノムを抽出し、蘇らせる事に成功しました。」

 

黒いフレームの眼鏡を掛けた青年は、恍惚とした表情で、温室にある草花や蝶を見つめる。

そんな時であった。

内海の携帯している事業所用のPHSからコール音が鳴る。

折角の演説を邪魔され、内海の秀麗な眉根が不快気に歪む。

「失礼」と或人達に一言断り、少し離れると内線に出る。

相手は、砂漠エリアを担当している研究員からであった。

 

「何? ティーレックスドーパントが・・・・それで処理班は・・・そうか、分かった。」

 

どうやら何か不測の事態が発生したらしい。

狼狽した様子で、或人達を一瞥する内海。

そんな年若い研究員の様子に、或人の口元が意地悪気に歪む。

 

「何やらトラブル発生のご様子ですね? 」

「えっ・・・・ええ、でもご安心を。 このセクター・シティのセキュリティーはとても優秀で・・・・。」

「良ければ、是非、その現場も見せて頂きたい。」

「はい? 」

 

或人の意外過ぎる申し出に、内海の口から突拍子も無い声が漏れる。

 

「コア・エナジーが未知の可能性を秘めているのは理解出来ました・・・しかし、肝心の部分をまだ見ていない。」

「しっ・・・・しかし・・・・。」

 

不測の事態に対する対応に、この若い研究員は慣れていないらしい。

 

要は、事故現場である砂漠エリアに、自分達を案内しろと要求しているのだ。

コア・エナジーに関する有用性を説いたばかりなのに、その汚点を見せる訳にはいかなかった。

 

「良いじゃない、内海君。 飛電教授の言う通りにしなさい。」

「あ・・・・ああああ、アイダ主任。」

 

苦境に立たされる若い研究員を救ったのは、美貌の女科学者であった。

 

 

 

ミハルとバディーであるグリードのエノシガイオスが、事故が発生している現場に到着すると、そこは既に阿鼻叫喚の地獄絵図へと変わっていた。

砂漠エリアに続く通路内。

救護班である救命士や看護師達が、走り回り、血塗れの研究員や作業員達が倒れている。

 

「ひ、酷い・・・・。」

 

次々と担架に乗せられ運ばれていく怪我人達。

その陰惨極まる光景に、ミハルは思わず顔を背ける。

 

『このエネルギーの波長・・・・どうやら、外で暴れているのは、ティーレックスだな。』

 

ガイアメモリから発する微弱なエネルギー波を感じ取ったエノシガイオスは、相棒であるミハルにそう告げる。

因みに、今のエノシガイオスは本来の姿であるコアメダルへと変わっており、ミハルが右手に握る『ポセイドンドライバー』へと収まっている。

 

『汚染濃度が高い、エリアに出る前に変身しろ。』

「分かった。」

 

ドライバーを腰に装着する。

ドライバーに収まっている三枚のコアメダル、”サメ””クジラ””オオカミウオ”のメダルが、輝きミハルの身体を光が包んだ。

 

 

砂漠エリアへと向かう二台の特殊装甲車。

その先頭車両に乗るノーフレームの眼鏡を掛けた青年が、忌々しそうに後続車を振り返る。

 

「良いんですか? 主任、奴等にアレを見せて。」

 

内海が、隣に座る美貌の女上司を恨めし気に見つめる。

 

現在、彼等は事故が起きている砂漠エリアの管制塔へと向かっていた。

過剰なコアエナジーの接種により、ティーレックス・ドーパントが暴走し、建物のがれき等を磁力に集めて巨大化。

手が付けられない程の暴走状態になっている。

処理班であるドローン兵やライオトルーパーが、対応しているが、所詮は量産型。

戦力差は歴然としている。

 

「せめて、ゼウス博士に報告を・・・・・。」

「必要ないわ。 彼はもうセクターシティ(此処)から離れた人間よ。 この施設全体の総責任者は私。 その私が許可をしているんだから、何も問題は無いでしょ。」

「しかし・・・・。」

「あの子の能力(ちから)を飛電エントリジェンスに売り込む良い機会じゃない。 この島に埋もれさせておくなんて、真っ平御免だわ。」

 

この島を視察している飛電或人は、世界有数の巨大企業『飛電エントリジェンス』の若き総帥であり、稀代の天才発明家だ。

祖父である是之助の病死により、20代半ばで莫大な遺産と会社の経営権を一気に得る事になり、IQ500を超える頭脳を活かし、次々と新技術を生み出している。

その怪物をパトロンに付ける事が出来れば、アイダは『財団』内でトップに躍り出る事が出来る。

 

「確かに、ポセイドンドライバーとその適合者であるミハルは、魅力的な商品です・・・・しかし、量産化出来なければ意味がありません。」

「問題無いわよ、コアメダルの有用性を認めさせる事が出来れば、あの子以外にも適合出来る量産型が造れるかもしれない。」

「しかし・・・・。」

「私はね?内海君、自分と同レベルの優秀な頭脳を持つ人間が欲しいのよ。 ゼウス以外のね。」

「・・・・・。」

 

まるで、お前では役不足だと言われている様で、内海は悔し気に押し黙る。

アイダ教授は、飛電或人の怪物的才能を欲しがっていた。

確かに、飛電エントリジェンスの若き社長は、類稀な才能の持ち主と言えるだろう。

しかし、自信家かつナルシスト、目立ちたがり屋で傲慢、オマケに多情で異性とのスキャンダラスな関係を週刊誌などにすっぱ抜かれている。

潔癖症な内海にとっては、吐き気が出る程、低俗な人間だ。

 

そんな年若い研究員の悶々とした葛藤を孕みつつ、二台の特殊装甲車は、砂漠エリアの管制塔へと到着した。

 

仮面ライダー・ポセイドンへと変身したミハルは、想像よりも遥かに巨大化したティーレックス・ドーパントに思わず面食らっていた。

数々の武器を内蔵したドローン部隊と、量産型のドライバーによりライオトルーパーへと変身した処理班の面々が懸命に戦っている。

アサルトライフルが火を吹き、小型ミサイルが瓦礫を取り込んだ鋼の巨獣へと次々に炸裂するが、決定的なダメージを与えるまでには至らなかった。

逆に怒りの逆鱗に触れ、益々、ティーレックスを凶暴化させているだけである。

周囲の空気を震わせる程の咆哮を上げ、鋼の巨獣が長い尾を振り回す。

次々に吹き飛ばされるドローン兵。

鴻上ファウンデーションが誇るライオトルーパー部隊も同様で、徐々に後退を余儀なくされていた。

 

「皆を助けなきゃ! 行くぞ、ガイ! 」

『了解だ。 ミハル。』

 

身の丈を軽く超える槍『ディーペストハープーン』を構え、ミハルと相棒であるエノシガイオスが、ビッグ・ティーレックスの前へと躍り出る。

鋭利な刃から発生する蒼白い真空の刃。

ティーレックスの厚い装甲を意図も容易く斬り裂き、巨大な尾を斬り飛ばす。

 

天の助けとも呼べるポセイドンの登場に、ライオトルーパー部隊に安堵の溜息が漏れた。

彼等にとって、ミハルとエノシガイオスの二人は最終兵器と同じ。

後は、彼等二人がビッグ・ティーレックスを無事始末してくれるだろう。

 

 

森林エリアから、特殊装甲車に乗り、砂漠エリアを管理している管制塔へと到着した或人達。

照明を落とした薄暗い室内で、若き実業家は、巨大ディスプレイに映る仮面ライダー・ポセイドンの雄姿を感心したかの様に眺めていた。

 

「信じられねぇ・・・・アレって仮面ライダーじゃん。」

 

飛電エントリジェンスの私設部隊『滅亡迅雷net』の一員、迅が、巨大な鋼の巨獣を相手に舞い踊る様に華麗に戦うポセイドンの姿を見て思わず呻いていた。

 

「そう、仮面ライダー・ポセイドン。 我が鴻上ファウンデーションが誇る最強のアーマードライダーです。」

「最強・・・・ねぇ。」

 

何処か勝ち誇った様子で解説する美貌の女科学者を横目に、或人は一人皮肉な笑みを口元へと貼り付かせる。

アイダ博士が自慢するだけあり、室内に設置されている巨大ディスプレイに映るライダーは、想像を遥かに超える戦闘力を有していた。

セクターシティを護るセキュリティー部隊が、あれ程苦戦していたにも拘わらず、仮面ライダー・ポセイドンは、鋼の巨獣を翻弄し、ダメージを確実に与えている。

しかし、戦い方がお粗末すぎる、と或人は思った。

迅達の様に厳しい訓練と経験を積み重ねた歴戦の戦士と比べると、動きにどうしても稚拙さが目立つ。

与えられた大きすぎる力に、翻弄されているかの様に見えた。

 

『ミハル、これを使え。』

 

地面に映るポセイドンの影がぬるりと起き上がり、エノシガイオスの右腕だけが実体化する。

投げつけられる三枚のコアメダル。

反射的に受け取るミハル。

メダルには、ウナギ、クラゲ、カジキの絵柄が彫り込まれていた。

 

「トニトルスコンボだ。 一気にケリをつけろ。」

「分かった。」

 

ドライバーに装填されているサメ、クジラ、オオカミウオのメダルを外し、相棒から渡されたメダルを再装填する。

光り輝く三つの輪。

それが一つになり、ポセイドンの身体を眩い光が包む。

 

 

「ほぉ、オーカテドラルですか・・・限りなくオリジナルに近いですねぇ。」

 

流線型の形態から、黄色を基調とした鋭角的なフォルムへと変わったポセイドンを見て、或人が意味ありげに右隣に立つ美女を眺める。

 

「あら? ご存知でしたの? 」

「ええっ・・・・こう見えてもアーマードライダーのファンでしてね。」

 

来ているジャケットを開き、内ポケットに入っているスマホに付けられたキーホルダーを見せる。

ディフォルトされた可愛らしい1号ライダーが、揺れていた。

 

「一応ではありますが、オリジナルの方も拝見してます・・・記憶素子で、ですが。」

 

セクターシティ(此処)に訪れる前に、鴻上ファウンデーションの事は調べている。

日本でも有数の巨大財団、その総帥である鴻上光生の事。

彼が陰で、グリードなる人造の生命体を造り出し、そこから抽出されるセルメダルで様々な研究を行っている事。

そして、火野・映司という青年をモルモットにオーズドライバーの複製体を造っている事まで。

 

「しかし、コアエナジーという存在はとても不安定みたいですなぁ、まるで旧約聖書に登場する”禁断の果実”そのモノだ。」

「火を恐れていては、人類は先に進めません。 失敗すればする程、我々は成功に近づいているのですよ? 」

「トーマス・エジソンですか・・・・確かに彼の言葉は、科学者にとって真理そのモノですが、失敗にも程度があります。」

「私達、セクターシティのセキュリティーには、何の問題もありません。」

「確かに、此処は問題ありません・・・・此処はね。」

 

言葉によるジャブの応酬。

アイダの隣に立つ内海の顔色が真っ青から土気色へと変わり、或人の右隣にいる滅の双眸が険しくなる。

一触即発の不穏な空気が漂う中、一人迅だけが、ビッグ・ティーレックスに止めを刺すポセイドンの雄姿を、目を輝かせて見つめていた。

 

「一体、何が仰りたいのかしら? 」

「私が言わなくても、聡明な貴女なら既に分かってらっしゃるでしょ? 老害一匹が外で好き放題暴れてるって事に。」

 

内ポケットに入っているスマホを取り出し、器用に片手で液晶画面を操作する。

目当てのデータを取り出し、美貌の女科学者に画面を向けた。

 

そこには新聞の記事が載っており、『夢見丁に鎧武者の亡霊が!?』という見出しがデカデカと描かれていた。

 

「さっき、其方の内海君が証明してくれました。 此処で生まれた技術何でしょ?人体組成。」

 

能面の如く無表情な女科学者と、今にも泡を吹いて倒れそうな若い青年研究員。

 

「いやぁ、心中お察し致します・・・・相当、苦労なされたみたいですねぇ?事件の火消しに・・・・。」

「何の根拠もない誇大妄想な言いがかりですわ。 名誉棄損と侮辱罪で訴えますわよ? 飛電教授。」

 

或人は、夢見丁で起こったグリードによる通り魔事件を、鴻上ファウンデーションが起こしたと糾弾しているのだ。

確かに、発見された織田信長のミイラをセクターシティ(此処)に収容し、遺伝子データをガイアメモリに抽出したのは、まごうことなき事実だ。

しかし、まさか解析終了となり、鴻上生体研究所に保管した遺体を、まさか会長自らの勝手極まる好奇心で復元した挙句、セルメダルでグリード化する事までは、予想外であった。

当時、セクターシティの総責任者であったゼウスとその補佐を勤めていたアイダは、警察官僚に多額の裏金を渡し、事件を隠蔽。

オーズによって破壊されたコアメダルの破片を回収し、処分している。

 

「言い掛かりかどうかは、これを見て判断して下さい。」

 

スマホの画面を操作し、3D映像で空中に画像を展開させる。

画像には、何かの手らしき肉の塊と、染色体らしき二重螺旋がゆっくりと回転していた。

 

「とあるルートを使って回収した犯人の肉片と、解析した人体ゲノムです。それと、コッチが輸送記録・・・実験体”N”を夢見丁の生体研究所に送ったと記されています。」

 

探る様な視線が、美貌の女科学者を眺める。

動かぬ証拠を突きつけられても尚、女の顔色は一つとして変わる事は無かった。

 

この男は、全てを見透かしている。

視察というのも建前で、本当の目的は、セクターシティで行われている非人道的な実験を調べるつもりなのかもしれない。

一企業の社長が何故此処まで?

その疑問にぶち当たった時、アイダの脳裏に一つの答えが導き出された。

 

「そんなモノで、私がコアエナジーの研究データを素直に渡すと思って? 飛電教授。」

 

蛇の如く鋭い眼差しを、若い実業家へと向ける。

室内に設置された巨大ディスプレイでは、ポセイドンのコンボ技が見事に決まり、爆発四散するビッグ・ティーレックスの姿が映っていた。

 

「そうですねぇ、この証拠は、違法な手口を使って手に入れた代物だ。法的材料には一切ならないでしょう・・・・しかし・・・。」

 

そこで一旦言葉を切り、空中に展開されていた3D映像を消す。

スマホを内ポケットに仕舞うと、何処か勝ち誇った視線を美貌の女科学者へと向けた。

 

「世間はどう判断しますかな? 現在、鴻上ファウンデーションは、難破重工と半導体の件で大分揉めてらっしゃる。もし、この事件が公になったら、一番困るのは貴女でしょ? 」

「・・・・・。」

「私は良いんですよぉ、別に。鴻上光生みたいな泥船に乗って海の藻屑になる気は全くありません。」

「・・・・・私を脅すつもりなのかしら? 」

「どう、受け取られても結構、滞在期間の3日間以内に良い返事が出る事を期待してます・・・それでは。」

 

言いたい事だけ言うと、或人は滅と迅の二人を促し、管制室から出て行く。

後に残されたアイダ博士。

掌の皮が切れる程に、右手を握り締めていた。

 

 

セクターシティ、居住エリア。

研究員が生活するマンション以外に、超巨大なショッピングモールや娯楽施設まで建造されている。

或人達三人は、超VIP待遇を受けており、超最高級のスウィートルームを用意されていた。

 

「一体、どういうつもり何ですか? 貴方は。」

 

60階建ての最高級ホテルにあるレストラン。

超豪華なイタリア料理が並ぶテーブルに座るなり、秘書兼護衛役である滅が開口一番そう言った。

 

「何をそんなに怒っているんだ? もしかして腹が減ってるのか? 」

 

厚いモッツアレラチーズが乗ったピザを行儀悪く、口の中へと押し込む。

続いて、名物のカルボナーラを下品に啜り上げた。

 

「相変わらず、食べ方が壊滅的に汚いですね。」

「何を言っている、美味しそうに食べる俺の姿を見るのが好きだと言ったのはお前だぞ? 」

「そんな事、言った覚えはありません。」

「もー、食事の時ぐらい夫婦喧嘩止めたら? 」

『誰が夫婦だ!!』

 

迅の的確なツッコミに、或人と滅が示し合わせたかの様に反応する。

 

当人同士は全否定するが、この二人は社内でもおしどり夫婦としてかなり有名だ。

天海町にある本社には、イズという優秀な女性型のヒューマギアがいるのだが、或人は何故か必ず男性型の滅を傍に置いていた。

海外で行われる重大なレセプションや会議には、必ず同伴させ、宿泊するホテルですらも同室にしている。

それが原因なのか、或人社長はゲイなのでは?と社内で良からぬ噂までたつ始末だった。

 

「それより、此処は敵地です。あんな煽りをしたら、どんな報復が来るか分かりませんよ? 」

「大丈夫、あの女はそんなアホみたいな真似は決してしない。」

「何故、言い切れるんですか? 」

「あの女が欲しいのは、飛電エントリジェンスの莫大な支援金じゃない。 ガリレオガリレイの再来と言われる俺の超天才的頭脳だ。」

 

ビシッと親指で、自分の胸を指す。

何処からそんな自信が湧いて来るのか皆目見当も付かないが、この男は重度のナルシストだ。

確かに、世間一般から見て、或人は天才の部類に入るだろう。

アークという人工知能を造り出し、通信衛星ゼアの制作&打ち上げ、ヒューマギアである私設部隊『滅亡迅雷net』、そしてプログライズキー等、数世紀先の技術を幾つも生み出している。

 

「かのガリレオガリレイは言った・・・・”それでも地球は動いている”と、つまり人類の英知の結晶たる俺がいる限り、地球は周り続けているんだ・・・分かるか?」

「全く持って、一ミリたりとも理解出来ません。」

「だからぁ・・・もぐもぐ、あの年増のおばはんが欲しいのは、ズルズル、アークを造り出した俺の技術であって・・・もぐもぐ・・。」

「食べながら喋らないで下さい。」

 

咀嚼しながら説明する主人を、心底軽蔑したかの様な眼差しで滅は睨む。

そんな二人の夫婦漫才を他所に、迅は自分のスマートフォンを弄っていた。

 

「はぁ、湊ミハルちゃんかぁ・・・可愛いなぁ。」

 

3D映像へと切り替え、自分の目の前に画像を展開させる。

そこには、昼間、砂漠エリアで起こったビッグ・ティーレックスと仮面ライダー・ポセイドンのバトルシーンが映し出されていた。

装着者である湊ミハルの経歴を指で捲りながら、深い溜息を吐く。

 

「迅・・・・お前、まさか・・・。」

「うん、亡に頼んでデータを転送して貰った。あのライダーの名前は湊ミハル、今年で16歳だってさ。」

 

呆れ返る滅の質問に、迅は何故か得意気に応える。

亡は、或人が造り出した最新型のヒューマギアの一体で、主に諜報活動を専門に行っている。

元々は、旧世代型のヒューマギアで、システムエンジニアタイプであったが、20数年前に起こった大規模テロにより毀損。

その後、或人が回収し、諜報活動専門に造り変えた。

勿論、システムエンジュニアとしての機能も残しており、普段は同形体のヒューマギア‐ 宇宙野郎雷電の補助AIを勤めている。

 

「お前、勝手な真似を・・・・。」

「良いじゃないか明、それぐらい大目に見てやれよぉ。」

 

亡に無理矢理頼んで、仮面ライダーポセイドンの適合者のデータをハッキングして貰ったのだろう。

まごう事なき犯罪行為である。

根が潔癖症な滅が目を三角にするのに対し、或人は何処までもマイペースであった。

セクターシティの農場プラントで造られた、自慢の白ワインをグビグビと飲み干している。

 

「滅です、その名前で私を呼ぶのは止めて下さい。」

 

まるでリスの頬袋みたいに、食べ物を下品に詰め込む主を、汚物でも見るかの様に、滅が軽蔑した眼差しを向けた。

 

心底、この二人と一緒にいると疲れる。

『滅亡迅雷net』のブレーンである人工知能”アーク”の命令で、暴走しがちな主の監視兼補佐を頼まれているが、毎回毎回コレでは身が持たない。

 

「可愛いなぁ、ギュッと抱き締めたら、きっとフワフワしているんだろうなぁ。」

「水を差す様で悪いが、どう贔屓目に見ても、ミハル君は男の子だ。 抱き締めても柔らかくは無いぞぉ。」

 

お互い下品な食べ方をしつつ、下世話な会話を交わしていく。

そんな二人の男に挟まれた滅は、憮然とした表情で、フォークとナイフを上品に使い、無言で食事を続けていた。

 

「知ってるよ、女の子の方がマシュマロみたいに柔らかいって事ぐらい。」

 

何故か、迅は得意気な顔をすると一枚の画像を或人に見せた。

 

「おっ・・・・・おい、この子ってまさか・・・・。」

「うん、”メディウム”の藤井未子(ふじいみこ)ちゃん。この前やったイベントでライン交換したんだぁ。」

 

メディウムとは、ネットやメディアで大人気の3人グループのアイドルユニットであった。

それぞれが、ドラマやCM、雑誌の表紙にグラビア等で活躍しており、10代から40代の広い層で多くのファンがいる。

 

「これ、ディズニーランドに行った時の写真。」

「迅・・・.何て恐ろしい子。」

 

シンデレラ城をバックに撮った写真と、宿泊したホテルのベッドで自撮りしたらしい、二人の姿が収まっていた。

ホテルのベッドで、迅にしな垂れている女性は、紛れもなくグラビアで大人気の藤井未子だった。

 

ガシャンッ!

 

その時、二人の耳に不穏な音が聞こえた。

見ると、フォークを握り締めた滅が、肉たっぷりのミートソースが乗ったパスタの皿を真っ二つに割っている。

野獣の如き、鋭い眼光が、不埒な二人組を睨みつけていた。

 

「好い加減にしろよ?貴様等。」

『はっ・・・・はい。』

 

震えながら応える或人と迅。

傍若無人で厚顔不遜な二人であったが、この地獄の閻魔大王より恐ろしいお目付け役には逆らう事が出来なかった。

 

 

森林エリアにある広大な農場プラント。

幾つか並ぶビニールハウスの中で、湊ミハルは真っ赤に熟したリンゴを収穫していた。

 

「いててっ・・・・・。」

 

腰に鈍痛が走り、思わず手でさする。

昨夜は、相棒のグリード・エノシガイオスが中々、離してくれず、明け方近くまで弄ばれていた。

お陰で眼の下には真っ黒なクマが出来、全身を倦怠感と鈍い痛みが襲う。

 

「ミハルー。」

 

名前を呼ばれ、背後を振り返る。

そこには大岩の如く巨大な怪物がいた。

額には角が生え、長い鼻に鋭い牙が二本突き出している。

良く熟れたリンゴが入った大きな籠を二つ、手に持っていた。

 

「コッチ終わった。メズールも仕事終わったから休憩しようって。」

「はぁ・・・もうそんな時間か・・・・。」

 

時刻は、後数分で正午になる。

右腕に巻いた腕時計で時刻を確認したミハルは、大きな伸びをした。

 

同じ果樹園で働くこの怪物の名前は、ガメル。

ミハルの相棒、エノシガイオスと同じグリードである。

ガメルの他に、メズールとカザリとウヴァという三体のグリードがおり、個々が持つ能力を生かして、セクターシティで働いていた。

 

「ミハル、元気ない。 また、ガイに虐められた? 」

 

幼く、幼稚なガメルは、意外と繊細で敏感に人の気持ちを察する事が出来る。

ぎこちなく作業場で仕事をするミハルに、何かを感じ取ったらしい。

 

「違うよ、それより人間形態に戻った方が良い。」

 

グリード本来の姿になっているガメルを、同じ果樹園で働く作業員達が奇異の視線を向けていた。

慣れた光景とはいえ、彼等にとって異質な存在は受け入れ難いのだろう。

 

「アイツ等、嫌い・・・。」

「そんな事言っちゃ駄目だ。 いがみ合ってちゃお互い疲れるし、気分も良くない。 どっちかが我慢しないと、この世界は辛い事でいっぱいになっちゃう。」

「辛い・・・それ、苦しい。メズールも我慢してる、だからオレも我慢。」

 

ミハルの言う通り、人間形態へと変身する。

短く髪を刈り上げたミハルと同じ紺色の作業服を着た、大柄の男性へと姿を変えた。

 

「御免な・・・・ガメル。」

「ミハル、何時も謝る、悪い事してない、だから変。」

「うん、そうだな、変だよな。」

 

幼く、我儘な一面があるものの、ガメルは素直で優しい性格をしている。

否、ガメルだけではない。

彼等、グリードと呼ばれる人造の生命体は、皆、真面目で実直だ。

4人の中で、年長者であるメズールは、仲間思いで協調性が強く、「愛情」や「母性」の欲求が強い。

ウヴァは、短気で口調も荒いが、努力家で「支配」という欲求が強く、率先して皆を引っ張って行ってくれる。

カザリは、子狡い所もあるが、頭の回転が速く臆病で、「信頼」と「純朴」の欲求が強い。

皆、普通の人間と同じ様に感情がある。

だからこそ、ミハルは彼等に「我慢」を強いる、人間主体のこの世界が「嫌い」なのだ。

何故、人間という生き物は、自分と違う存在を「否定」し、「拒絶」するのか。

 

 

セクター・シティ、港湾セクター、コンテナターミナル。

大きなコンテナが立ち並ぶ隙間を縫う様にして、一つの影が移動していた。

黒いソフト帽に、その下から覗く茶髪の跳ね毛。

黒のジャケットにベスト、黒のスラックスという全身黒づくめの恰好をした20代前半ぐらいの青年であった。

 

「ふぅ、何とか潜り込めたけど、此処からどーしたもんだか。」

 

ソフト帽の青年‐ 左・翔太郎は、何時もの癖で被っている帽子の位置を直す。

彼は現在、とある財団(亜希子談)の依頼で、潜入調査を行っていた。

曰く、此処、日本海に面する孤島で、違法な実験が行われているらしい。

しかも、その実験には翔太郎達の宿敵、『財団X』が深く関わっているという代物であった。

 

『港湾セクターを抜けると、管理セクターに出る。そこにあるビジターセンターが僕達の目的地だ。』

「分かってるよ、相棒。 でも、こう監視が厳しいんじゃ、先に進むのが一苦労だぜ。」

 

翔太郎の言う通り、コンテナターミナル内には無数のドローンとロボット兵が、網の目の如く周囲を監視している。

時刻は、午後4時半。

もう少し待てば、陽も沈む。

暗闇に紛れて行動した方が、良いかもしれない。

 

何処かに隠れて時間を潰そうと思っていた矢先であった。

赤い光点が翔太郎の額に当たる。

慌てて、身を屈める探偵。

銃声が轟き、コンテナの厚い外装に大きな穴が開いた。

 

「やべっ、見つかっちまった! 」

 

何時の間にそこにいたのか、アサルトライフルを装備したドローンが、侵入者である翔太郎を狙っている。

火を吹く銃口。

咄嗟に横へと横転し、凶悪な鋼の牙から逃れる。

 

『翔太郎、変身だ! 』

 

右耳に装着している相棒、フィリップの声。

警報が鳴り響き、わらわらと機械歩兵の軍団が集まって来る。

 

「ちっ、ドジ踏んじまったぜ。」

 

胸ポケットからwドライバーを取り出し、腰にセット。

同じく次世代型ガイアメモリ、『T1ジョーカー』を右手に構える。

 

「変身! 」

 

ガイアメモリのスイッチを押し、wドライバーへとセット。

すると、何もセットされていない反対のスロットに、緑色のメモリが現れた。

相棒のフィリップが持つ、サイクロンメモリだった。

 




いきなり寒くなって辛い。


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第2話 『仮面ライダーw』

PS4とスイッチで発売された『仮面ライダーメモリーオブヒーローズ』を腐女子脳で勝手に改造した物語です。


飛電或人、世界を代表するIT企業『飛電エントリジェンス』の若き総帥。

10歳で、超難関と謳われる『帝都大学』に入学、在学中、様々な分野の博士号を取得し、13歳で、東南アジアに拠点を構える巨大企業『ビレッジ』にチーフテクニカルオフィサーとして在籍。

一年後、自主退職。アメリカの超エリート名門校『マサチューセッツ工科大学』に留学した。

その数年後、NASAに就職、カルフォルニア州にあるエイムズ研究センターに勤める事になる。

 

「まさに、溜息が出る程、素晴らしい経歴ですわね。」

「ははっ・・・それ程でもありませんよ。」

 

今年、34歳を迎える若き総帥は、上質な革のソファーに背を預け、全面ガラス張りの窓辺に立つ美貌の女科学者を横目で眺めた。

 

時刻は、午後三時。

予定の視察を終え、セクターシティの総責任者であるアイダ博士の執務室へと案内されていた。

或人の隣には、無表情の滅が二人の様子をつぶさに観察している。

 

「んで、まさか、そんな下らない事を言う為に、態々、貴女の城に案内した訳ですかな? 」

 

嫌味たっぷりな或人の言葉に、女の口元が皮肉気に吊り上がる。

 

「全く、随分とせっかちな人ね? 貴方程の才能なら、コア・エナジーなんて必要ないでしょ? 」

 

アイダ博士は、自分のデスクへと近づくと上に置いてある愛用の煙草を手に取る。

慣れた手つきで一本引き抜き、口に咥えた。

 

「昨日、私が言った言葉を覚えていますか? 貴女方が今現在使用しているコア・エナジーは禁断の果実だと・・・一歩間違えると、貴女の大事な楽園が消し飛びますよ? 」

 

或人は、足元に置いてあるアタッシュケースから、最新型のアイパッドを取り出すと、センターテーブルの上に置く。

素早く画面を操作し、核融合炉らしき映像を浮かび上がらせた。

 

「これは、この島一帯の電力を供給している環境システムだ。調べた所、危険水域まで熱エネルギーが上昇している・・・・。」

「・・・・。」

「当然、貴女だって既に承知の筈だ。 色々と対策を講じている様ですが、上手くいってないみたいですな? 」

 

鋭い視線が、煙草の煙をくゆらせる美貌の女科学者を睨み付ける。

不意に、女が堪え切れずに笑い出した。

 

「ああ、おっかしぃ・・・・”アーク”を造り出した怪物とは、思えない発言だわ。」

 

目尻に溜まった涙を手で拭いつつ、アイダは、灰皿に吸い終わった煙草を揉み消した。

 

「言っとくけどね? 坊や、私は貴方より長くコア・エナジーの研究をしているのよ? 当然、貴方よりも扱い方を熟知している。」

「・・・・・。」

「本当、低俗すぎる脅しだわ。 頭が良すぎて複雑に馬鹿なのかしら? 」

「馬鹿はお前だよ、婆さん。」

 

突然の暴言に、アイダの表情が固まる。

隣に座る滅が、諦めたかの様に溜息を一つ零した。

 

「その厚化粧で重たい瞼を開いて現実を見ろ、コア・エナジーが暴走を始め、冷却装置を破壊してる。 オマケに、この島に住む動植物にも影響が出てるじゃねぇか。」

 

ソファーから立ち上がった或人が、デスクに腰掛けた形で固まる美貌の女科学者の直ぐ目の前へと近寄る。

 

「昨日の事故がいい例だ。 コア・エナジーが発するエネルギーが、この島で製造しているガイアメモリを暴走させたんだろ? そんで、ご自慢のガキンチョライダーに後始末をさせてる。」

「・・・・・。」

「俺はな、アンタ等を助けに来たんだ・・・大人しく、環境システムを強制停止させろ、今ならまだ間に合う。」

「そんな事出来ないわ。」

 

大分譲歩した或人の申し出を、女は真っ向から叩き折った。

その瞳の中には、プライドを傷つけられた怒りと、何か強い使命感みたいな炎が燃え上がっている。

 

「システムを強制停止させたら、この島一帯の電力供給がシャットダウンしてしまう。そうなったら、電力を糧に生きている実験体達が死滅してしまうわ。」

「だからどうした? この島で働く研究員達の命と比べたら安いもんだろ? 」

「部外者の貴方には分からない。」

 

アイダは、眼前に立つ或人を押し退け、窓辺へと向かう。

沈みゆく夕陽が、女科学者の姿を真っ赤に染めた。

 

「飛電教授・・・・貴方にとっては、此処は単なる実験場に見えるかもしれないけれど、私にとっては違うの。」

「・・・・・。」

「この島は、私にとって全て・・・・唯一の肉親である御爺様を獄死させた貴方には一生分からないでしょうけどね。」

 

アイダ博士の言葉に、何時もは冷静な滅が色めき立った。

殺気を帯びた鋭い眼光で、窓辺に立つ美貌の女科学者を睨み据える。

 

「警察官僚とお友達なのは、自分だけだと思った? 私達にもね、政府関係者の知り合いは沢山いるの。」

 

勝ち誇った表情で、女が或人を見つめる。

無言でアイダ博士の眼光を受け止める或人。

真っ赤なルージュの塗られた唇が、弧の形を作る。

 

「貴方・・・随分と御爺様の是之助氏を憎んでいたそうね? 有りもしない罪状をでっち上げ、”飛電エントリジェンス”の社長の座を奪った挙句、彼を投獄し、死ぬまで追い詰めた。」

「・・・・・・。」

「御爺様は人間的にも経営者としても素晴らしい人物だった・・・・でも、貴方はまるで違う・・・・会社の利益の為なら何でもする・・・汚い拝金主義者。」

 

ゆっくりとした歩調で、アイダが或人の目の前に立つ。

静かに火花を散らす両者の視線。

そんな二人の様子を、滅は黙って見つめる。

 

「此処へ来たのもコア・エナジーという金の生る気を手に入れたいからでしょ? だったら下手な正義感を振り回さず、私の出す要求を素直に呑むのね。」

 

言いたい事だけ言い放つと、アイダは或人から離れ、自分のデスクへと向かう。

呼び出しボタンを押すと、数体の機械歩兵『ガーディアン』を従えた内海成彰が現れた。

 

「飛電教授をホテルまで送って頂戴。」

「分かりました。」

 

美貌の上司の命令に、素直に従う若き研究員。

無表情で立つ或人と滅を促し、執務室から退席した。

 

 

居住エリア、超高級ホテルのラウンジ。

躰の半分が埋まってしまいそうなソファに座り、或人が果物が山ほど乗った「プリンアラモード」を食べていた。

 

「あの女に下手な脅しは通用しませんよ? 」

 

或人の真向かいに座る滅が、長い脚を組み替え、自分の主人を眺める。

 

「だろうな、”夢見丁の通り魔事件”をマスコミに垂れ流しても、すぐ圧力を掛けて揉み消すだろ。 今迄の事件が公にならないのは、あの婆ぁが裏で警察官僚に圧力を掛けていたからだ。」

 

鴻上ファウンデーションの現会長、鴻上光生が起こした事件は一つどころではない。

織田信長の複製体が起こした通り魔事件から始まり、新宿で起こった錬金術師「ガラ」による天変地異、また、人造生命体である「グリード」が起こした大量破壊事件でも鴻上光生が深く絡んでいる。

前セクターシティの責任者であるゼウス博士とアイダ博士が、政府関係者に大金をばら撒き口封じをしなければ、今頃、鴻上は牢獄の中だ。

 

「しかし、今回ばかりは金ではどうしようもない。 コア・エナジーはあの婆ぁでは扱えないからだ。 絶対に俺に泣きつく、その確率は一億パーセントだ。」

 

口の周りに生クリームの髭を生やしながら、プリンアラモードを咀嚼していく。

 

「・・・・・分かりませんね。」

「何が? 」

「そうまでして、鴻上会長を護るアイダ博士の意図がです。」

 

滅の脳裏に、先程のアイダ博士の姿が蘇る。

常人では計り知れない強い意志を秘めていた。

彼女を突き動かす原動力は、一体何なのだろうか?

 

「前任者であるゼウス博士は、鴻上会長にあっさりと見切りをつけ、キュアノスコーポレーションに自分の技術を売り込み、そこの研究主任に収まりました。」

 

前日、或人がアイダ博士に言った様に、鴻上は沈みゆく泥船だ。

ゼウスも時限爆弾である鴻上光生の所業に嫌気が刺し、ヨーロッパを拠点に活動している製薬会社『キュアノスコーポレーション』にヘッドハンティングされ、あっさりと受け入れている。

アイダ博士も、遺伝子工学とケミカルバイオロジーの権威として学会にその名を轟かせている。

彼女ほどの逸材なら、どの企業も諸手を挙げて歓迎するだろう。

 

「知るか、どうせあの老害爺を垂らし込んで、金を搾り取れるだけ搾り取って、コア・エナジーが生み出す恩恵を独り占めにしたいだけだろ? 」

「はぁ・・・・・どうしてこうも下世話な台詞が次々と・・・・。」

「事実だ。 それが人間の心理だからだ。 楽をして大金を稼ぎ、美味い物を食べ、アンチエイジングをして若さを保ち、ケツの青い顔だけが取り柄の愛人共を侍(はべ)らせる・・・此処は、そんな欲望の掃き溜めだ。ウンコの中のウンコだ。」

「目糞鼻糞を笑うという諺(ことわざ)をご存知ですか? 」

 

びじびじと自分に向かって、スプーンを付け付ける主に、美麗な従者は心底呆れた様子で眺める。

 

早口で散々悪口を並べ立てる或人であるが、この若き社長も似た様な事をしている。

エベレスト級にプライドが高く、自分の才能を信じて疑わず、多情で、金に物凄く汚く、超ド級のドケチで、ジャンクフード大好きな偏屈屋だ。

アイダ博士が皮肉を込めて「拝金主義」と言ったのも、強(あなが)ち間違いではない。

 

「さて、俺が送り込んだ”草の者”はちゃんと仕事してるかな? ”アーク”よ。」

 

内ポケットから一号ライダーのマスコットを付けたスマホを取り出し、テーブルの上に置く。

すると長方形の形をした黒いモノリスの立体映像が浮かび上がった。

 

「はい、無事に環境システムエリアに辿り着きました。」

「よしよし、流石我が息子。」

 

ふふんっとほくそ笑み、或人がわざとらしく脚を組み替える。

現在、『滅亡迅雷net』の構成員の一人である迅は、中央エリアの地下に潜入している。

黒いモノリス‐ 人工知能”アーク”の完全サポートの元、セクターシティのセキュリティーの網を掻い潜り、核融合炉へと向かっているのだ。

目的は唯一つ。

アイダとの交渉が決裂した時の保険である。

 

「悪役みたいな顔になってますよ。」

「煩い。」

『うん? 湾岸エリアで侵入者がいるみたいですね。』

 

人工知能・アークの報告に、或人と滅が顔を見合わせる。

 

『現在、Xガーディアンとマスカレード部隊が交戦している様です。』

 

アークは、各エリアに設置されている監視カメラをハッキングし、リアルタイムでその映像を映した。

3D画像には、右半分が緑、左半分が黒のアーマードライダーが、数体の機械歩兵相手に大立ち回りを演じている。

 

「アーク、この馬鹿の身元を割りだぜ。」

『了解・・・・・検索完了、鳴海探偵事務所の調査員、左・翔太郎と判明、仮面ライダーの名前は、W。』

 

流石、電脳を支配する人工知能である。

ものの数秒も掛けず、アークは、侵入者の詳しい経歴を洗い出す。

 

左・翔太郎。

風都にある鳴海探偵事務所に所属する調査員。

年齢不詳であり、風都署、超常犯罪捜査課と連携し、ガイアメモリによる事件を解決。

『夢見丁通り魔殺人事件』では、仮面ライダーオーズの適合者、火野・映司と共闘し、織田信長の複製体を倒している。

 

「ククッ、どうやら勝利の女神は此方に微笑んでくれたなぁ。」

 

先程より更に悪人顔になった或人が、食べ終わった更にスプーンを投げ捨て、スックと立ち上がる。

 

「社長、どちらに? 」

「決まっている、鳴海探偵の小僧を捕まえる。」

 

或人は、内ポケットに愛用のスマホをしまい、ホールを突っ切り出入り口へと向かった。

 

 

中央エリア地下、環境システム。

その通気口から、一つの影が降り立った。

アーマードライダーへと変身した滅亡迅雷netの構成員、迅だ。

 

「よっと、目的地に到着。」

 

縞の鉄板の上へと着地した迅は、手に付いた埃を叩いて落とす。

彼が主人であり生みの親でもある或人から下された命令は、環境システムの心臓部である核融合炉を強制停止させる事であった。

危険水域まで達しそうなコア・エナジーにより発生する熱エネルギーを、沈火させる為である。

 

「さてと、早速、核融合炉を止め・・・・・。」

 

そこまで言い掛けた迅の言葉が、急に途切れた。

円形状になった広いスペース。

その中央に設置されている巨大なオブジェ。

そこに黒い塊が蠢いている。

 

「何アレ、気持ち悪い。」

『どうやらセルメダルの集合体みたいですね。』

 

迅の言葉に、ファルコンヘッドに内蔵されているセンサーを起動させて、アークが黒い物体の正体を探る。

それは、無数のコアメダルの群体であった。

まるで生き物の様に蠢き、核融合炉上部に取り付いている。

 

「うん? アレってまさか・・・・。」

 

何千枚とあるセルメダルの中に、人の手足らしきモノが見えた。

内蔵してあるカメラを拡大させる。

特徴的な青いメッシュが入った髪。

仮面ライダー・ポセイドンの適合者、湊ミハルだ。

 

「ミハルちゃん!? 何で??」

『理由は、分かりませんが、あのセルメダルの群体は、コア・エナジーが発する熱エネルギーを吸収している様ですね。』

「ううっー、兎に角、ミハルちゃんを助けないと! 」

 

何がどうなっているのか全く理解出来ないが、本能的に、ミハルを助けなければ、という使命感が突き上げる。

背中から先端に鋭利な刃が付いた、鋼の翼を展開させる。

スラスターを起動し、空中へと浮かび上がる迅。

セルメダルの群体がへばりついている核融合炉の上部へと舞い上がる。

 

「うわっ、何だよ? コイツ等!! 」

 

上部に辿り着いた迅が、ミハルからコアメダルを引き剥がそうとする。

しかし、そうはさせまいと、メダルが一斉に迅を攻撃し始めた。

石礫の如く、メダルの雨がマゼンダ色のライダーを叩く。

両手で防御する迅。

気を失っている全裸の少年を抱え、メダルが集まっていく。

 

「お前は一体何者だ? 何故、私の邪魔をする。」

 

何時の間にか、メダルは怪物の姿に変じていた。

愛おしそうにミハルを抱え、禍々しい鎧を纏った黒騎士が、眼下から覗く真紅の双眸で、宙を浮遊する迅を睨み据えている。

 

「それは、コッチの台詞だ! ミハルちゃんを離せ!化け物!! 」

 

背中に備え付けられている武器『アタッシュカリバー』を取り出す。

ブレード形態へと変形させ、セルメダルの怪物‐エノシガイオスへと躍り掛かる。

素早く真横へと移動し、迅の攻撃を躱すエノシガイオス。

まるで人間の背骨を連想させる長い尾が、迅の身体を薙ぎ払った。

 

「うわっ! 」

 

容赦なく壁面へと叩き付けられる迅。

その間に、エノシガイオスはコアメダルへと再び姿を戻すと、ミハルの体内へと入り込んでいった。

 

『ふん、丁度、新たなコアメダルを造り出したところだ。 お前で試させて貰おう。』

 

ミハルの身体を乗っ取ったグリードが、ポセイドンドライバーを呼び出す。

同時に光り輝く三枚のコアメダル。

ムカデ、ハチ、アリの絵柄が刻まれたメダルが、ミハルの腰に装着されたポセイドンドライバーへとセットされた。

眩い光へと包まれる核融合炉内。

蛇の尾の如く長い鬣。

右腕に備わった鋭いニードルと、左腕の盾。

両脚には銀色に光る装甲が装着され、鈍い光を放っている。

 

『拙いです! 迅、今すぐこのエリアから離脱して下さい! 』

 

高速演算を使い、相手が迅の基本スペックを遥かに上回る事を知ったアークが、退避するよう指示を出す。

しかし、それに素直に従う迅では無かった。

 

「或人が言ってた、ターゲットの女の子は絶対逃がすなって。」

『湊ミハルは、XY染色体ですが? 』

「どっちでも同じ、俺は、どんな手を使ってもミハルちゃんをゲットする! 」

 

不測の事態によるミッション中止を命令しても尚、迅は素直に従う気配は、微塵も無かった。

生みの親である或人と同じで、迅も負けず嫌いな面がある。

「好きな子」というのは、所詮建前。

本音は、売られた喧嘩を買っただけであった。

 

『ふん・・・・愚かな・・・・。』

 

鋼の翼を広げ、愚かな侵入者が得物を構えて「王」たる自分へと健気にも挑んで来る。

エノシガイオスは、かつて味わった戦による美酒の味を思い出していた。

 

 

湾岸エリア、倉庫街。

機械歩兵『ガーディアン』の生産ラインがある工場の一区画に、左・翔太郎こと仮面ライダーWが身を隠していた。

 

「はぁはぁ、畜生、しつこい連中だぜ。」

 

何とかXガーディアン部隊と屑ヤミーの群れを薙ぎ倒して、この生産ラインに逃げ込んだが、いかせん数が多すぎる。

一体一体の戦闘力は、鼻糞みたいなモノだが、こう数が多くては流石に此方の体力が持たない。

 

『翔太郎、気を付けろ! 』

 

相棒のフィリップの声が聞こえるより先に、身体が動いていた。

仮面ライダーとして培われた経験と、センスが、翔太郎に回避の動きをさせていたのだ。

鋼鉄の壁に穿たれる一本の剣。

やや反り返った特徴的な刀身は、日本刀であった。

 

「か、仮面ライダーだと? 」

 

あまりの衝撃に、仮面の下の翔太郎の眼窩がこれでもかと開く。

翔太郎‐仮面ライダーwから数メートルの間隔を置いて立つ一つの影。

黒のライズアーキテククターとイエローを基調にしたプロテクター。

独特な複眼を持つソレは、まごう事なき自分と同じ、アーマードライダーであった。

 

「最初に言っておく、無駄な抵抗はするな。」

 

飛電エントリジェンスが持つテクノロジーの結晶体であるゼロワンは、右腕を壁に突き立てられた愛刀へと向ける。

不可視の糸に操られるが如く、主の手の中へと戻る日本刀。

ゼロワンが愛刀を正眼に構える。

 

「ち、鴻上ファウンデーションのライダーか。」

 

メタルメモリを取り出し、ジョーカーメモリと交換。

スロットに入れ押し込むとwの左半分が、銀色のメタリックカラーへとチェンジする。

右手には、旋風を纏った「メタルシャフト」を握っていた。

 

「相手の戦闘力は未知数・・・・慎重に立ち回れよ?翔太郎。」

「分かってる。」

 

サクロンメタルへとハーフチェンジした翔太郎が、メタルシャフトを構える。

互いに間合いを測りながら、対峙する両者。

最初にその均衡を破ったのは、Wの方であった。

サイクロンメモリにより付加される風の能力(ちから)を利用し、無数の真空刃を放つ。

それを高速移動で次々と躱すゼロワン。

強化された脚力を活かし、一気に相手との間合いを詰める。

繰り出される居合の一撃。

金属同士がぶつかり合う耳障りな音と、橙色の火花が散った。

 

 

 

変身を強制解除され、力無く倒れる迅。

そんな哀れな敗者を、エノシガイオスは冷徹に眺めていた。

 

「ちっ・・・・つまらん、能力を出し切る相手でもなかったか。」

 

右腕に装着されている鋭く長い針状外骨格、「ハチニードル」を構える。

背まで伸びているムカデの尾「センターセンチピード」で、獲物に十分毒を流し込んではいるが、用心に越した事は無い。

このニードルで、毒を流し続け、無残な最期を遂げさせてやろう。

冷酷な笑みを浮かべ、ムカチリコンボの毒により機能停止している迅へと近づいたその時であった。

突然、身体の自由が利かなくなる。

ぎこちなく歩みを止めるエノシガイオス。

その胸から、細い腕が突き出し、続いて華奢な肢体を持つ少年が這い出して来る。

エノシガイオスのパートナー、ミハルだ。

仮面ライダーポセイドンから分離したミハルは、よろよろと覚束ない足取りで、倒れる迅の傍らに辿り着くと、背後にいる相棒へと振り返る。

 

「み・・・・ミハル? 」

「駄目だ・・・・この人を殺しちゃ駄目だよ、ガイ。」

 

エノシガイオスが、明確な殺意を持って侵入者を殺害しようとしているのは、嫌でも分かる。

一糸まとわぬミハルは、倒れ伏す迅を護る様に、両手を広げた。

 

「良い子だから、そこを退くんだ、ミハル。 」

「否だ、人を殺しちゃいけないって、アイダ先生が言ってた。」

 

大量のコア・エナジーを吸収し、メダル生成の器に利用された為か、ミハルは疲労困憊な状態であった。

粗く息を吐きつつ、分離した事により、元のグリード体へと戻ったパートナーを睨み付ける。

 

「良く見ろ、ソイツは人間じゃない。ヒューマギアと呼ばれる人間に似せた人造生命体だ。」

 

エノシガイオスの指摘に、ミハルが足元に倒れる迅を一瞥する。

猛毒により焼き焦げた皮膚。

その下から、明らかに人間のモノでは無い、メタリックな外装と、血の代わりに青い液体が流れ出ている。

 

「分かったろ? ミハル。 ソレは敵だ。難破重工が送り込んだ企業スパイなんだ。」

「・・・・。」

 

確かにパートナーが言う通り、この男は人間では無い。

しかし、それでもこの侵入者を殺してはいけないという確固たる意志が、ミハルの双眸に宿っていた。

理由は、全く分からない。

でも、この男を殺しては、自分の大事な何かを永久に失ってしまう。

 

「駄目だ・・・俺は、彼を助ける。」

 

エノシガイオスから視線を外し、ミハルは倒れる迅へと屈み込むと、素早く状態を調べる。

皮膚が溶解している所を見ると、クラゲ独特の刺胞毒を多量に注入されたのだろう。

ムカチリコンボは、地球上に生息している昆虫や植物の毒を精製する事が可能だ。

今もブスブスと毒が、ヒューマギアの骨格を溶かし、煙を上げている。

早く、中和剤を投与しなければ、取り返しがつかない事態になってしまう。

 

「ガイ、手伝え、この人を医務室に連れて行く。」

「何だと? 」

 

パートナーからの予想外の命令に、エノシガイオスが気色ばむ。

狼狽する相棒を無視し、ミハルは己が全裸である事も顧みず、倒れている迅に背を貸した。

 

 

気絶した迅を背負い、治療室へと辿り着いたミハル達。

環境システムは、危険区域であり、もしもの為を想定して、潤沢な医療器具を揃えている。

ミハルは、背負っていた迅を処置台へと寝かせ、薬品棚を物色した。

 

「ミハル、自分が何をしているのか理解してるのか? 」

「知ってるよ、でも俺はグリードだから・・・・人を、命あるモノを護らないといけない。」

「お前の母親がそう教えたのか。」

「そうだよ、ガイだって、先生から教わっただろ? 」

 

自分の影に同化した相棒に悪態を吐きつつ、ミハルは無駄のない動きで、迅を治療していく。

滑車の付いた点滴棒を引っ張り出し、中和剤が入った点滴パックを吊るして、迅に投与する。

針を刺す手つきも、一時補強の為に巻く包帯も手慣れており、医療専門職顔負けであった。

 

「これを着なさい。」

 

一応の応急措置を終え、一息吐いたミハルに、液状化したエノシガイオスが、腕だけ実体化して、椅子に引っ掛けられている白衣を投げて寄越す。

 

「あ、ありがとう。」

 

そこで、初めて自分が裸である事を思い出した。

羞恥心に頬を赤く染めたミハルが、渡された白衣に袖を通す。

 

『一つご質問してもよろしいかな? 』

 

顔を真っ赤にして俯くミハルと、そんな主に呆れたパートナーの耳に、何者かの声が飛び込んだ。

医療器具の置かれた台車へと視線を向ける二人。

そこには、治療の為、迅から取り外した変身ベルト‐滅亡迅雷フォースライザーが乗っている。

 

『おっと、失礼、私の名前は”アーク”最新型情報処理システムです。言語の理解や推論、問題解決等をサポートするのが主な仕事です。』

「はぁ・・・・・。」

 

突然の自己紹介に、ミハルは鳩が豆鉄砲を食った様な顔になる。

相棒のエノシガイオスは、再びミハルの影へと同化すると、二人のやり取りを黙って見つめていた。

 

『何故、貴方達は環境システムにいたのですか? 』

「それは・・・・・。」

「敵に何も応える必要は無い、ミハル。」

 

アークに質問され、返答に窮するミハルにエノシガイオスが横槍を入れる。

確かに相棒の言う通りだ。

彼等は、セクターシティの心臓部とも言える環境システムに潜り込んだ侵入者だ。

 

「・・・・・出てってよ・・・。」

「ミハル? 」

「また俺の身体を使って、勝手にコアメダルを造ったんだろ? 」

 

鋭い視線を、床に映る己の影へと向ける。

走馬灯の如く駆け巡る記憶。

果樹園での仕事を終え、同じグリードであるガメルと一緒に食堂に向かった。

そこで、メズールとカザリと合流し、一緒に食事をした。

ウヴァは、配属されている部署が違うので、自分達より先に1時間の休憩を取り、先に受け持ちのエリアに戻っていた。

ガメルは、購買でお菓子を買い過ぎ、メズールに窘められていた。

カザリは、明日は非番なので、居住エリアにある大型ショッピングセンターに買い物に行くと言っていた。

メズールは、来週にガメルと有休を取って映画を観に行くのだという。

ささやかだが、楽しい食事を終え、午後の作業に戻ろうとした時、ミハルの意識がぷっつりと途絶えた。

ガメルと一緒に畑を整地する為に、農園に向かった事までは覚えている。

 

「・・・・暫く君の顔は見たくない・・・・何処かに行ってくれ。」

「・・・・・・。」

 

顔を背けるミハルに、エノシガイオスはそれ以上何も言う事は無かった。

ミハルの影から分離し、黒い液体のまま医務室からドアの隙間を通って外へと出る。

後に残されるミハルと、アーク。

 

「俺とガイ・・・・エノシガイオスは、二人で一人のグリードなんだ。」

『グリード・・・・・? 』

「800年前、この島にいた錬金術師達が造り出した人造の生命体の事だよ。」

 

疑うという感情が無いのか、ミハルは本来敵である筈のアークに、自分達の事とこの島の成り立ちを語って聞かせた。

 

この島は、貴重な古代遺跡のある孤島であった。

当初、考古学者達が遺跡発掘の為、この島に訪れていたのだという。

その時、彼等は数枚のコアメダルと未知なるエネルギー・・・コア・エナジーを発見した。

発掘隊のスポンサーであった鴻上ファウンデーションは、現地に様々な分野の科学者からなる研究員達を派遣。

その中に、後のセクター・シティの総責任者となるゼウス博士とアイダ博士がいた。

 

「先生が言ってた・・・・俺達は、人類の希望となるべく生まれたって、滅びゆくこの世界を救う為に生まれた救世主だって。」

『滅びゆく、とはあまり縁起の良い言葉ではありませんね? 』

 

この島にある遺跡には、当時、王の為に尽くしていた錬金術師達の残した書物が状態良く残っていた。

何故、繁栄の栄華を極めていた国が滅びたのか、何故、万の大軍を薙ぎ払う程の力を持つ「王」が死んだのか、その詳細が事細かに、書物の中に記されていたのである。

 

「此処を治めていた王様は、とても傲慢で自分の行いが正しいと思い込んでた。だから平気で国民達を苦しめ、他国を占領し、罪のない人々を殺していったんだ。」

『・・・・・。』

「傍若無人な王の振る舞いに、王の側近として生まれたグリード達は反旗を翻した。 先生が言うには、このままでは世界が滅亡してしまうと考えた末での決断だったらしい。」

 

そして、5人のグリード達は悪王を打倒し、人々に平和を齎(もたら)した。

アイダは、その記述と人間の歴史を重ね合わせたのだという。

地球という限りある資源を喰い尽くし、貴重な動植物を滅ぼす人間を諸刃の剣であると考えたのだ。

 

『だから、貴方達が生まれたという訳なのですね? 』

「うん、皆誇りを持って、この島を護ってる・・・・悪い奴等にこの島に残る偉大な知識を奪われない為にね。」

 

一番目に生まれたメズールは、汚染された海を浄化する為に、水質浄化エリアで働き、二番目に生まれたウヴァは、優れた筋力と戦闘力を買われ、この島のセキュリティー・ガードに。

三番目に生まれたカザリは、豊富な知識と技術を生かし技術開発スタッフの一人として活躍し、四番目に生まれたガメルは、その頑強な肉体と怪力を活かし、土木作業等の建築関係で働いている。

そして五番目に生まれたミハルとエノシガイオスは、仮面ライダーポセイドンとしてウヴァ達、セキュリティー・ガードでは対処出来ない、危険生物の処理を行っていた。

 

『素晴らしい家族ですね。』

「う、うん・・・・時々、喧嘩もするけどね。でも、俺はメズールやガメル、カザリやウヴァが大好きだ。」

 

多少の癖はあるが、皆、真面目で誠実だ。

己に与えられた役目に対し、誇りを持ち、人の為に従事している。

何時か皆で約束した。

アイダ先生の研究が終了し、全てが終わったら、外の世界を見て回ろうと。

 

その時、医務室のドアが唐突に開いた。

反射的に身構えるミハル。

ドアを開けたのは、数体の機械歩兵『ガーディアン』を従えたウヴァだった。

機械歩兵達が持つセーフガードライフルの銃口が、一斉にミハル達へと向く。

 

「銃を降ろせ。 」

 

コンバットジャケットを身に着け、セーフガードライフルを持つウヴァが、機械歩兵達に命令する。

そして、鋭い視線を素肌に白衣を着るミハルと、カートの上に乗る滅亡迅雷フォースライザーに向けられた。

 

「ウヴァ、あの・・・・・。」

「お袋、環境システムの医務室でミハルと侵入者らしき男を発見。ミハルは、無事だ。男の方は・・・・重症。担架で運ぶ。」

 

ミハルの言葉を遮り、右耳に装着しているインカムで、通信相手であるアイダ博士に短く状況を報告する。

機械歩兵に、処置台に寝ている迅をストレッチャーへと移すと、建物の外に待機している装甲車に運ぶよう指示を出した。

 

「どうして・・・・?」

「ガメルから聞いたんだ。 お前がガイの野郎に連れていかれたってな。」

 

ウヴァは、今迄の経緯を語って聞かせた。

農園での仕事を終え、締め作業をしていた時にミハルの様子がおかしくなった事。

無断で何処かへ行こうとするミハルをガメルが必死に止め様とした事。

そのガメルに攻撃し、怪我を負わせた事まで。

 

「お、俺が・・・・ガメルを・・・・・? 」

「安心しろ、セルメダルを数枚抜かれた程度だ。本人はピンピンしてる。」

 

怪我、と言ってもそれ程大したダメージを受けた訳では無いらしい。

彼等、グリードの核とも言えるコアメダルは無事な為、失ったセルメダルを補えば、又、何時もの様に日常生活を送れるそうだ。

 

「それより問題は、ガイの野郎だ。 何処へ消えたか知っているか? 」

「・・・・・御免、分からない。」

 

立場で言えば、ミハルよりエノシガイオスの方が遥かに上だ。

いくら二人で一人のグリードとはいえ、持っているコアメダルの数が違う。

エノシガイオスは8枚、ミハルは1枚。

力関係で言えば、当然あちらが上だ。

 

『あの、エノシガイオスというグリードの居場所なら、分かりますけど? 』

 

そんな二人のやり取りに、おずおずと言った感じで、間に入る者がいた。

人工知能『アーク』だった。

二人の視線が、未だカートの上に置かれたままの滅亡迅雷フォースライザーへと注がれる。

 

「コイツは? 」

「あ、アーク・・・・悪い人じゃないよ? とても良い人。」

「はぁ・・・・お前なぁ。」

「ご、御免。」

 

『疑う』という感情が欠落しているミハルは、すぐに「良い人」認定してしまう。

ちょっとでも優しくされると、子犬の様に懐いてしまうのだ。

只でさえ、ミハルは中性的美貌を持ち、傍目から見ると女の子の様に見える。

故に、その気が無くても、下心を持って接して来る不貞の輩は少なからずいる。

それを毎回、ウヴァとメズールが追い払っているのだが、いかせん当の本人がまるで気づいていないのだ。

 

「出鱈目教えやがったらすぐ壊すぞ。」

『貴方に嘘を教えて私に一体どんなメリットが? 』

 

セーフガードライフルの銃口を向けられても尚、アークは平然と応える。

確かに、仲間を助ける為ならば、此処で嘘の情報を教えるのはナンセンスだ。

それに、アーク自身がエノシガイオスというグリードに興味を持っていた。

 

「ちっ、ミハル、お前はコイツ等と一緒にメズールの所へ帰れ。俺は、ガイの糞野郎を捕まえに行く。」

 

セーフガードライフルの銃口を降ろし、肩へと担ぐ。

カートに乗せられている機械仕掛けのベルトを手に持つと、手持ち無沙汰なミハルに振り返った。

 

「お願い、ガイを虐めないで。」

 

後の事を機械歩兵達に任せ、医務室から出て行こうとするウヴァの腕を、ミハルが反射的に掴んでいた。

あれだけ、エノシガイオスに酷い目に合わされながらも、ミハルは、奴を憎む事が出来ない。

 

「・・・・・なるべく加減はしてやるが、奴は大事な家族を傷つけやがった。その分の落とし前はキッチリと付ける。」

「・・・・・・。」

 

鋭い眼光に射竦められ、ミハルは、何も言えずに掴んでいたジャケットの袖を離した。

5人兄弟の中で、ウヴァは誰よりもミハル達家族を大切にしている。

それは年長者故の責務であり、敢えて父親役を勤め、家族を纏め上げていた。

 

 

 

徐々に、意識が戻って来るのが分かる。

未だぼやける視界。

途端、眩しい照明の光に、左・翔太郎は思わず瞼を硬く閉じる。

 

「お? 漸くお目覚めか? 探偵坊や。」

 

聞き慣れぬ声に、閉じていた瞼を開く。

激しい頭痛と吐き気、身体を走る激痛に、翔太郎は喉の奥で呻き声を上げた。

 

「此処は・・・・・何処だ? 」

「居住エリアにある最高級ホテルのスィートルームだ、探偵坊主。」

 

男の声に俯いていた顔を上げる。

すると真向かいに、上等な革のソファに座る30代ぐらいの男性が、優雅に脚を組んで座っていた。

天海町に本社を置く、日本有数の大企業『飛電インテリジェンス』の若き社長、飛電・或人であった。

因みに、自分は簡易椅子に座らされ、拘束ベルトで後ろ手に縛られている。

 

「アンタ・・・・もしかして飛電エントリジェンスの社長か? 」

「ピンポーン、世界最先端のロボット開発技術を持ち、建築業界やアパレル、果ては医療や介護まで手広く活躍している大企業の社長様だ。」

 

何故かソファの背凭れに踏ん反り返った或人が、嘲りの表情で、囚われの探偵を見下す。

その社長の隣では、秘書兼護衛役の私設部隊『滅亡迅雷net』のリーダー、滅が日本刀を手に直立不動で立っていた。

 

「・・・・・そっか、俺の邪魔をしたアーマードライダーはアンタか。」

「ブッブー、不正解。カリメロ君残念。」

「か・・・・カリメロ? 」

 

イタリアで生まれた漫画のキャラクターの名前で呼ばれ、翔太郎が面食らった表情になる。

そんな翔太郎を他所に、或人は徐に立ち上がると、ゆっくりとした歩調で此方に近づいて来た。

 

「実は、ちょっと困った事態になっててね・・・・風都で優秀な探偵である君に是非とも協力して欲しいんだ。」

 

翔太郎の座らされている簡易椅子の背後へと周り、そこで歩みを止める。

背凭れを掴み、上から翔太郎を見下ろした。

 

「今、仕事中で手が離せない。 依頼があるならウチの鳴海所長を通して後日してくれないか? 」

 

翔太郎が或人のモデル並みに整った顔を見上げ、いつもの軽口を叩く。

 

港湾セクターにある生産ラインで、自分を襲撃したのは飛電或人である事は間違いない。

一体何故、IT界の神童と謳われるこの男が、鴻上ファウンデーションが持つこのセクター・シティにいるのかは、皆目見当つかないが、ろくでもない頼み事である事だけは分かる。

 

「所長? もしかして鳴海亜樹子ちゃんの事か? 半年前に風都署の刑事と結婚した。」

「え? 何でアンタがそんな事知ってるんだよ。」

「うーん、実を言うと彼女のお父さんとは知り合いでね・・・結婚式にも招待されていたんだけど、ちょっと手が離せない仕事が入って辞退したんだ。」

 

或人は、内ポケットから仮面ライダー一号のストラップが付いたスマホを取り出す。

画面を何回かスクロールし、目当ての写真を見つけると、椅子に縛られている翔太郎に見せてやった。

そこには、「或人叔父様へ(⋈◍>◡<◍)。✧♡」という題名で、結婚式に撮影した集合写真が映し出されている。

その他にも、結婚式の動画や、新居で旦那である照井竜とラブラブ直撮り写真まで添付されていた。

 

「俺聞いてねぇぞ・・・・・。」

「そりゃ、君に話す必要がなかったからじゃない? 」

 

前に亜樹子から、自分の父親に超金持ちの知り合いがいると聞いた事があるが、まさか世界有数のロボット産業の大企業『飛電エントリジェンス』の社長だとは思わなかった。

衝撃の事実に、翔太郎の顔から完全に表情が抜け落ちる。

そんな寸劇を繰り広げる二人の間に、滅の不機嫌な咳払いが聞こえた。

見ると、獲物を狙う鷲の如く、鋭い眼光が、若き社長を睨みつけている。

 

「あー・・・・本題に戻るが、お前に選択権は無い。俺の命令に従って駒になれ。」

「否だね、いくら親父さんの知り合いでも、アンタの手先になる気は・・・。」

「そっか、どうやら交渉する相手を間違えたらしい。」

 

あくまで従う意思がない翔太郎をあっさりと離し、室内に設置されている豪奢なテーブルへと移動する。

そこには、Wに変身する為に必要な『Wドライバー』が置かれていた。

或人は、懐から緑色のT1型ガイアメモリを取り出し、ドライバーのスロットに挿し込む。

スイッチを押すと、Wドライバーが輝き、一人の少年のホログラフィーが浮かび上がった。

 

「フィリップ!? 」

 

そこにいたのは、翔太郎の相棒、フィリップだった。

どんな方法を使ったのか、又、何故、T1サイクロンメモリをこの男が持っているのか知らない。

只、この男がメモリとドライバーを使って、フィリップの精神体をホログラフィーとして呼び出していた。

 

「やぁ、来人君、久しぶりだね。」

「冴子姉さんの誕生会以来ですね・・・・飛電教授。」

 

意外な事にこの二人は知り合いらしい。

何故か引き攣った顔をしているフィリップは、茫然としている相棒の翔太郎へ一瞥を送った。

 




映画版仮面ライダーの主題歌最高。


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第三話 『園崎来人 』

視察の為、『セクターシティ』に訪れた飛電エントリジェンスの若き社長、飛電或人。また時を同じくして、とある依頼で鳴海探偵事務所の調査員、左翔太郎こと仮面ライダーwも潜入していた。


「僕と結婚して下さい。 」

 

目の前に差し出される真紅の薔薇の山。

あまりの出来事に、園咲文音は面喰っていた。

10歳にもならない少年にプロポーズされているのだ。

驚かない方が不思議だろう。

 

帝都大学、生物学研究棟。

午後の淡い日差しが包む、研究室での出来事である。

 

「絶対に貴女を幸せにしてみせます。」

「或人君。」

「新婚旅行は何処が良いですか? 治安の面からいってシンガポール辺りが・・・・。」

「或人君、あのね・・・・。」

「それとも、船で世界一周も良いですよね? 前に御爺様がクルーズ客船を・・・・。」

「貴方とは結婚出来ないの。」

 

ビシッと断られ、或人の妄想がそこで途切れる。

力無く項垂れる少年。

流石に言い過ぎたと反省し、文音が俯く少年の顔を覗き込む。

 

「或人君・・・・傷つけて御免ね・・・・私・・・。」

「良いんです、分かっています。」

 

子供とは、到底思えない低い声。

何かを決意したのか、唇が真一文字に引き結ばれていた。

 

「僕はしがない学生だ。 園咲教授みたいに文音先生を経済面で支えて上げられる事が出来ない。」

「あの・・・・違うのよ・・・・お金の事じゃ。」

「でも心配しないで下さい。 僕の研究にある企業が目を掛けてくれたんです。」

 

何故か顔を輝かせて悦に浸る或人。

文音は、どうやって説得して良いのか分からず、盛大な溜息を零す。

 

飛電或人は、スーパー飛び級をして、超難関で有名な帝都大学を一発合格。

若干10歳にして、幾つもの博士号を持つ超天才児であった。

遺伝子工学と機械工学を専攻し、現在は、園咲文音の学生として、日々、勉学に励んでいる。

と、言うのは建前で、毎日大学に来ては、自分の恩師である文音に、あの手この手を使って口説き捲っていた。

 

「貴女が首を縦に振ってくれたら、こんな大学とっとと卒業して、その会社に・・・。」

「或人君、好い加減にしなさい。」

 

恩師の常にない真剣な表情に、或人は口を閉じる。

 

「何度も言ってるけど、私は既婚者なの・・・だから、貴方とは結婚出来ないし、離婚もする気は無いわ。」

「・・・・・。」

「キツイ事を言って御免ね? でも、将来きっと或人君にも素敵な・・・。」

「文音先生も御爺様と一緒で、僕を見捨てるんだ。」

 

或人はそれだけ吐き捨てると、手に持った薔薇の花束をゴミ箱に捨てて、ラボから出て行く。

慌ててその後を追い掛ける文音。

しかし、廊下には既に或人の姿は無かった。

 

 

セクター・シティ、居住エリアにある高級ホテルのスィートルームの一室。

Wドライバーによりホログラフィーとして、映し出されている17歳ぐらいの少年‐フィリップと日本有数の大企業の社長‐ 飛電或人が対峙していた。

 

「文音先生は残念だった・・・もっと早く園咲教授を止めていたら、あんな悲劇は起きなかったかもしれない。」

「いいえ、もう、過ぎてしまった事です。」

 

あの忌まわしい『ビギンズナイト』が起こった当日、飛電或人は日本にいなかった。

否、正確には地球にいなかったのだ。

彼は、宇宙ステーション『ゼア』でプログライズキーの開発を行っていた。

 

「残念だ・・・・彼女の死は、学会では大きな損失だった。悔しくて堪らないよ・・・・。」

「教授・・・・。」

「と、まぁこの話は一旦置いといて・・・。」

「はい? 」

「君、このカリメロ君を説得して、私の兵隊になりなさい。」

 

唐突な豹変ぶりに、フィリップはついていけなくなる。

 

「大丈夫、成功報酬はちゃんと支払う。 君達を雇った依頼主の倍額払おう。」

「きょ、教授・・・・あの・・・・。」

「どうせ、君達を雇ったのは難波重工の爺さんなんだろ? 大丈夫、安心しろ。私が倍額報酬を支払うし、何だったら、君と個人的に契約をしても構わない。」

「おい、何を言ってんだよ? オッサン! 」

 

マシンガントークで、或人に丸め込まれそうな相棒を、椅子に縛られた状態の翔太郎が助け舟を出した。

蟀谷に青筋を立て、あまりの怒りに鼻息を荒くしている。

 

「俺達探偵を舐めんな! 依頼主を裏切る真似が・・・・。」

「私が話をしているのは、来人君だ。 カリメロはハンバーグでも喰ってろ。」

「なっ、だから、何なんだよ!? そのカリメロって! 」

「何だ? あの名作アニメを知らんのか? イタリアのパゴット兄弟が、創作したキャラクターで、頭に・・・・・。」

「飛電社長、時間がありません。」

 

話が再び脱線しそうになり、滅が素早く修正する。

スラリと、手に持っている日本刀を鞘から引き抜き、銀色に光る刀身を椅子に縛られている翔太郎の首元へと突きつけた。

 

「お前が選択出来るのは二つしかない、大人しく我々に従うか、それとも此処で死ぬかだ。」

 

冷たい刃を首筋に押し当てられ、翔太郎の蟀谷から汗が一滴流れ落ちる。

静かにぶつかり合う互いの双眸。

不図、滅の姿が生産ラインで死闘を繰り広げたアーマードライダーと重なる。

 

「てめぇ・・・・あん時のライダーか。」

「ミュージアムを壊滅したと聞いたが、案外、大した事は無かったな? 」

 

ライダーとしての基本スペックは、ほぼ同等。

しかし、扱う者の熟練度が明らかに違った。

悉(ことごと)く攻撃を躱され、必殺の一撃を喰らっていた。

 

「止めて下さい! 飛電教授! 貴方は母さんの・・・・っ!」

「母さんの元教え子なんだから、見逃せって? それは聞けないなぁ? 来人君。」

 

皮肉な笑みで、唇の端を吊り上げ、或人が隣に立つ少年を眺める。

 

「残念だが、ウチの秘書は冗談が通じなくてね? やると言ったら必ずやる男なんだよ。」

「・・・・・っ! 」

「頼むから、ウンと頷いてくれ、私だって、大事な恩師のご子息を苦しめたくはない。」

「・・・・・悪魔だ・・・貴方は・・・。」

「それは、依頼OKと受け止めて良いのかな? 」

 

十二分に嘲りを含んだ視線の先で、フィリップが悔し気に頷く姿が映る。

それを確認した或人は、満足そうに頷くと、秘書の方へと振り返った。

 

「明、カリメロ君を解放してやれ、あっ、それと”保険”も忘れるなよ? 」

「滅です。」

 

自分の名前を訂正しつつ、胸ポケットから小型の注射器を取り出す。

そして、何の躊躇いも無く、その注射器を拘束されている翔太郎の首筋へと突き刺した。

 

「うぐっ! 」

「翔太郎っ! 」

 

体内へとシリンジの薬液が流れ込んで来る。

一瞬だけ、血管が紫色へと変色するが、すぐに元通りの色へと戻った。

 

「もし万一、解放して反抗でもされたら面倒だからね? ちょっと彼には首輪を付けさせて貰った。」

「翔太郎に何をしたんだ! 」

 

何時もは冷静で、あまり感情を表に出さないフィリップが、怒りの形相で、隣に立つ若き総帥を睨み付けた。

 

「”バグスター・ウィルス”、4年前に世間を騒がせた”ゲーム病”と言えば、流石の君も知っているだろう? 」

「・・・・・。」

「致死性が高く、ストレスが高まると爆発的にウィルスが増殖し、人間の体細胞を食い荒らしてしまう、バクテリアの一種だ。」

 

まるで射殺せんとばかりに、此方を睨み付けるフィリップを、或人が面白そうに眺めている。

いくら契約したとはいえ、立場は此方が圧倒的に上。

それをこの少年と相棒の探偵君に教える為であった。

 

「でも、そのウィルスには抗体が開発されて、消滅した筈だ。」

 

フィリップが指摘する通り、このウィルスには既に免疫抗体が開発されている。

東京の都心にある聖都大学付属病院の電脳救命センター(通称=CR)と、衛生省との巧みな連携により、感染者はワクチンを投与され、バグスターウィルスによる脅威は去ったと思われた。

 

「そう君の言う通りだ。 ウィルスは確実に消滅した・・・衛生省が保管しているサンプル以外はね。」

「・・・っ、まさか。」

「そう、君の推測通りだよ。 衛生省から我々、飛電エントリジェンスに内々に依頼があってね? ウィルスを人体兵器に改良出来ないか? という事だった。」

 

ウィルスが爆発的に増殖し、末期の状態になると感染者の肉体は、影も形も残さず消滅する。

しかし、それは消滅では無く、人体がデータ化し、消える事であり、ウィルス培養が可能な装置があれば、現世に復元可能なのである。

日本政府はその特性を活かし、不死の兵士を造り出そうと画策した。

その白羽の矢が立ったのが、遺伝子工学でも権威を持つ『飛電エントリジェンス』なのである。

 

「愚かだ・・・・何て・・・・。」

「でも、哀しいかなそれが人間の本質なんだよねぇ。」

 

人間の醜悪な一面を突きつけられ、嫌悪感にフィリップが俯く。

それを横目で眺めつつ、或人は更に言葉を続けた。

 

「俺が開発したバグスターは、特殊でね。あるメモリを使用しなければ、除去する事が出来ない様にプログラムしてある。」

 

上着のポケットから、白いガイアメモリを取り出す。

ディスプレイマークには、無限回廊を横倒しにしたかの様なEの文字。

 

「まっ・・・・・まさか、”エターナルメモリ”? 」

 

余りの驚愕に、フィリップの双眸が見開かれる。

不死の軍団『NEVER』を引き連れ、風都タワーを占拠。

市民に消えない一生の心の傷を植え付けた狂気の男。

大道克己。

 

「な・・・何で、てめぇがソレを・・・・。」

 

激しい頭痛と嘔吐感に苛まれながら、翔太郎もまた驚愕の想いであった。

エターナルメモリは、適合者である大道克己と共に、葬り去られた筈である。

それが何故? しかも、風都タワーで起こったテロとは全く無関係なこの男が?

 

「何でって、このT2メモリを造ったのは、他でもない俺自身だからだ。あ、因みにWドライバーに刺さっているT2サイクロンメモリもね。」

「嘘だ、だってそれは・・・・。」

「大道マリア教授か? 彼女は元研究パートナーだった。美しい脚線美を持つ素晴らしい女性(ひと)だったよ。」

 

かつて『ビレッジ』で共にガイアメモリの研究をしていた懐かしい日々を想い出す。

当時、13歳だった或人は、大道マリアの美貌に骨抜きだった。

毎日、彼女に愛の告白をした。

その全ては、上手く躱されてしまったが、或人はそんな程度ではめげなかった。

研究で成果を出せば、必ず彼女は自分の優秀さに惚れ込み、その硬い股を開いてくれるだろうと思った。

或人は、頑張った。

食事もロクに取らず、睡眠を削り、T2ガイアメモリの研究に没頭した。

そのかいあり、26本のメモリが完成した。

しかし、或人の恋は祖父、是之助により儚く散った。

東南アジアに拠点を構える巨大企業『ビレッジ』が、財団Xの母体の一つだと判明した為、孫の身を案じた是之助が、半強制的に退職させたのである。

 

「それもこれも全てあの糞爺のせいだ。 もう少しで大道教授は俺のモノになるところだったんだぞ、それを・・・・それをぉおおおおお。」

 

過去の悪夢が蘇ったのか、呪詛の言葉を吐き捲る或人の姿に、翔太郎とフィリップは大分引き気味で眺めていた。

 

「大丈夫なのか? お前んとこの社長。」

「何時もの事だ。」

 

そんな或人の一人喜劇を、秘書兼護衛役の滅は、完全に感情が抜け落ちた顔で見つめていた。

 

 

砂漠エリア、廃棄物処理場。

一台の特殊装甲車が、処理場の建物前で停車している。

鴻上ファウンデーションのロゴが刻まれたドアを開け、治安維持部隊の第一部隊隊長、ウヴァが装甲車から降りた。

部下である機械歩兵『ガーディアン』数体が、ウヴァの後へと続く。

手には、セーフガードライフルやロケットランチャーで武装していた。

 

『兄弟の話し合いにしては、随分と大袈裟ですね? 』

 

ウヴァの同胞であるエノシガイオスが潜んでいると思われる、廃棄物処理場まで案内した滅亡迅雷フォースライザーが言った。

 

「アイツは、俺達の事を完全に格下と思い込んで、見下してやがる。それに、今回の件はこれが初めてじゃねぇ。」

 

右手に掴んでいる機械仕掛けのベルトに向かって、コンバットジャケットを身に着けているウヴァが、忌々しそうに吐き捨てた。

 

エノシガイオスは、同じグリードであるが、5人の中でも異質な存在であった。

人間体のミハルと怪人体のエノシガイオスの二人で一人の変わったグリードである。

態度は紳士的で、慇懃無礼なのだが、5人の中で唯一、ポセイドンドライバーを扱える為か、尊大で傲慢な面が見える。

又、人間体であるミハルに対し、まるでペットを愛でる様な態度を取る為、しばしば、メズールと口論になる事があった。

その上、自分達、兄弟の事を、『コアメダル』を産む道具としか思っていない所があり、現に何度も自分達から半ば強引にメダルを奪い取っている。

余りの仕打ちに、怒り狂ったウヴァが、一度詰め寄った事があったが、その時は、ミハルが泣いて謝るばかりであった。

 

「ミハルには悪いが、奴を拘束して、お袋に引き渡す。」

 

お袋とは、勿論、アイダ博士の事である。

彼等にとって、アイダは母親同様の存在であった。

彼女自身も、エノシガイオスの傲慢極まる態度には、腹を据えかねており、拘束し連れて来る様に命令を受けている。

 

廃棄物処理場は、地下三階の構造になっていた。

1階が、分別、減容化、不溶化等の作業が行われ、地下1階が、有毒ガスや汚水をろ過する所、地下2階が更に同じ工程が行われ、地下3階で地面に埋め立てられたり、浄化された水が川や海に放流される。

『アーク』の優れた探知システムによると、エノシガイオスは最下層の処理場に潜伏しているという事であった。

 

人間体から、本来のグリード体へと変身するウヴァ。

クワガタの顎の様な角と昆虫特有の複眼。

右腕には鉤爪を備え、先端に鋭い棘が付いた触手が二本、背から生えている。

 

機械歩兵『ガーディアン』を数体従えたウヴァは、最下層の浄化処理場へと辿り着いた。

耳が痛くなる程の静けさ。

苛立つウヴァが、舌打ちをする。

 

「おい、そこに隠れているのは分かっているんだぞ? ゴミ野郎。」

 

右手人差し指に蒼白い電流を溜め、エノシガイオスが潜んでいる砂の山へと撃ち込む。

処理場に溜まっている砂の山は爆散し、中から黒い影が躍り出た。

無数のセルメダルの群体‐エノシガイオスだ。

 

「ご挨拶じゃないか? ウヴァ。」

「あぁ? いきなりコアメダルを破壊されなかっただけ有難く思えよ?ゴミ野郎。」

 

溜まりに溜まった怒り故か、ウヴァの身体が蒼白い電流を帯びる。

 

『あの・・・・もう少し、電流を弱めては頂けませんか? このままでは配線が焼き切れて故障・・・。』

 

無遠慮に苦情を述べる『アーク』を、背後に従えている機械歩兵の一体に投げ渡す。

見事に受け取る機械歩兵、それを合図に、セーフガードライフルとロケットランチャーの銃口が、右腕だけ実体化しているエノシガイオスへと向けられる。

 

「此処で、ぶっ殺されるか大人しくお袋の所へ行くか、好きな方を選べ。」

「相変わらず下品な男だな・・・・そんなだから、前の君は人間如きに利用され、メダルの器にされるんだ。」

「あぁ? 言ってる意味が分かんねぇぞ? ゴミ。」

「おっと・・・・今の君は、全くの別人だったな? これは失敬。」

 

嫌味たっぷりの含み笑いに、ウヴァの堪忍袋の緒が切れた。

右腕の鉤爪を振りかざし、音速を超えるスピードで、一気にエノシガイオスとの間合いを詰める。

鋭い一閃。

しかし、返って来る筈の手応えがまるで無い。

見るとセルメダルの群体は、バラバラに飛び散っていた。

 

「ちっ、逃げてんじゃねぇぞ?ゴラァ! 」

 

瞬く間に一つの群体へと戻るセルメダルの塊に、ウヴァは何度も鉤爪を振るう。

しかし、エノシガイオスはまるで嘲る様に、己のセルメダルをバラバラにして逃げるだけであった。

 

「その単純極まりない性格は、800年前と全く同じだな? 否、少しだけ違うとするならば・・・。」

 

振り下ろされる鉤爪を、エノシガイオスは軽々と右腕一本だけで受け止める。

驚愕に歪むウヴァの双眸。

ガーディアン部隊も、どう対処すれば良いのか判断出来ず、発砲を躊躇う。

 

「”家族”か・・・・取るに足らん、唾棄すべき代物だよ。」

「うるせぇ!! 」

 

怒りの放電が、エノシガイオスを貫く。

まともに浴び、処理場に積もった砂の山へと激突するセルメダルの群体。

濛々(もうもう)と砂煙が辺りを包む。

 

「てめぇは、家族でも何でもねぇ・・・今すぐ此処で始末してやる。」

 

ウヴァの合図と共に、セーフガードライフルとロケットランチャーが火を吹く。

凄まじい破壊音と瓦解音。

ロケットランチャーによる爆風と火炎が吹き荒れる。

 

『あのぉ・・・・・流石にやり過ぎでは? 』

「うっせぇ、この程度でやられるタマじゃねぇよ。」

 

ウヴァの言う通り、セルメダルの群体が火炎の中から飛び出し、次々と機械歩兵達の身体を貫いていく。

鉤爪と触手を巧みに操り、セルメダルの礫を砕くウヴァ。

暗闇の中を、エノシガイオスの腕だけが浮いていた。

 

「君との遊戯も楽しいが、そろそろ私のミハルを迎えに行かなければならない。」

「んだとぉ? 」

「あの子は、私がいなければ駄目なんだ・・・・あの女では救えない。」

 

腕のみのエノシガイオスが、三枚のコアメダルを砂の山へと投げる。

忽(たちま)ち、砂はコアメダルと化し、眩い光に包まれた。

異形の姿へと形作るコアメダルの塊。

それは余りにも醜悪な姿であった。

ムカデの頭に、後頭部から垂れる胴体。

昆虫独特の複眼に、首にはミツバチの毛と両肩には、蟻の顔が付いている。

右腕は蜂の腹部の様な意匠があり、手の甲から毒針が生えていた。

 

「ぐ・・・・グリードだと? 馬鹿な、お袋以外に造れる訳がねぇ。」

「ふん、無知とは恐ろしいな・・・・あの女にグリードの生成法を教えたのは私だ。」

 

エノシガイオスの右腕は、セルメダルに変わり、異形の怪物‐ムチリへと吸収されていく。

複眼が赤く明滅し、ムチリが獣の如く咆哮を上げる。

長く垂れたムカデの胴体から、無数の毒針をウヴァ達へと射出した。

 

「ぐわっ! 」

『ウヴァさん! 』

 

避けきれず、左脚の太腿と、右肩に毒針が突き立つ。

従えていた機械歩兵達も、次々と毒針の餌食となり倒されていった。

 

 

居住エリア、6階建ての集合住宅。

その4階にミハル達、グリードが日々の生活を送っていた。

 

「お帰り。」

「只今。」

 

当たり障りの無い短い会話。

長い黒髪とスラリと美しい脚線美をした美少女‐ メズールは、青いメッシュが入った髪の少年‐ ミハルを室内へと迎え入れた。

 

環境システムエリアで、治安維持部隊の第一部隊隊長であるウヴァに保護された。

仮面ライダー ポセイドンに瀕死の重傷を負わされた侵入者‐迅は、中央エリアにある治療施設に運ばれ、今もICUで手当てを受けている。

 

ミハルは、ガメルの自室へと向かいドアをそっと開ける。

ヌイグルミと模型が飾られた子供部屋。

そのベッドの上には、グリード体に戻ったガメルが規則正しい寝息を立てて熟睡していた。

 

「お腹空いたでしょ? それとも先にシャワー浴びちゃう? 」

「うん、お腹空いて死にそう。先にご飯食べるよ。」

 

姉の方を振り向き、苦笑を浮かべる。

 

ウヴァに保護されてから、何時もの私服へと着替えていた。

紺色のジャケットを脱ぎ、ダイニングルームにあるハンガーラックに掛ける。

室内は暖房が効いており、快適な室温が保たれていた。

 

「ガメルの事なら気にしなくても大丈夫よ、沢山ご飯食べたから。」

 

暖かいクリームシチューをスプーンで掬(すく)って、口元へと運ぶ弟の姿を頬杖をついて眺めるメズールが言った。

 

彼等、グリードは人間と同じく栄養を取り、体内で吸収した食物をセルメダルへと変換させる。

故に、核であるコアメダルさえ破壊されなければ、彼等は半不死身なのである。

 

「でも、今は貴方が心配。 エノシガイオスが素直に戻ってくれれば良いけど。」

「・・・・・。」

 

メズールが指摘する通り、今のミハルはコアメダル1枚の状態である。

いくらコアメダルがあれば、幾らでも再生可能とはいえ、ミハルの場合は、コアメダルの大半を半身であるエノシガイオスが持っている状態にある。

もし万一、相棒のコアメダルが破壊されれば、ミハルにどんな影響が出るか分からない。

 

「ウヴァもそれは分かっているだろうから、一応、気を付けるとは思うけど。」

 

ウヴァは、5人の中でも一番激昂し易い質だ。

気性の荒さを母親であるアイダ博士に指摘され、日常生活においては影響が出ないぐらいにはコントロール出来る様になったものの、一度怒りに火が付くと中々抑える事が出来ない。

 

「・・・・・最近、ガイが何を考えているか分からない時があるんだ。」

 

大好物であるクリームシチューの入った皿に視線を落とすと、ポツリと呟く。

 

二人で一人のグリードであるエノシガイオスとミハル。

生みの親であるアイダ博士曰く、ポセイドンドライバーの適合者にする為に止む無くこの状態にしているのだという。

元々、ポセイドンドライバーは、古代のオーパーツであるオーズドライバーを基に造られている。

完全な複製体であるものの、コントロールが大変難しく、使用者はその膨大な『欲望のエネルギー』に呑まれ、自我を失い、暴走してしまうのだ。

その問題点を改善する為、適合者を右脳と左脳に分け、『欲望のエネルギー』に掛かる負荷を軽減させた。

つまり力をエノシガイオス、それを抑制又は制御するのがミハル、という訳なのである。

故に、力関係は常にミハルが上でなければならないのだが、「ある事件」がきっかけで、その関係は脆くも崩れてしまう。

それは、エノシガイオスがミハルを強姦、凌辱したのだ。

14歳になったばかりの時、それまで良き理解者であり、半身であったエノシガイオスが突然豹変した。

裏切られた絶望と余りの恐怖に、啜り泣くミハルをエノシガイオスが優しく宥めた。

「愛」の言葉を囁き、全力で護ると誓った。

最初は到底受け入れられなかったが、その事を誰かに打ち明ける事が出来なかった。

実母であるアイダ博士に告げれば、ポセイドンドライバーの適合者から外され、「処分」されるとエノシガイオスに脅されたからだ。

所詮、自分達は人間(ヒト)から造られた存在。

代替品等幾らでもあると、エノシガイオスは告げた。

 

 

「どうしたの? ミハル。」

 

急に黙り込む弟を心配して、姉であるメズールが顔を覗き込んだ。

そんな姉に対し、ミハルは何でもないと笑顔を向ける。

 

気まずい夕餉を終え、後片付けは自分がやると言って、メズールを自室へと帰した。

後に残ったミハルは、食べ終えた食器を纏め、シンクに持って行く。

蛇口を開き、食器用洗剤の付いたスポンジで皿を洗っていると、その背後へと忍び寄る影があった。

黒い液体と化した、エノシガイオスだ。

環境システムでの一件後、エノシガイオスは半身を囮として廃棄物処理施設に潜ませ、自我がある本体は、気配を完全に消し、ミハルを監視していた。

 

「が、ガイっ!? 」

 

突然、背後から抱きすくめられ、驚くミハルの口を大きな手で塞ぐ。

 

「しーっ、メズールやガメルが起きて来てしまうよ? 」

 

口元に一本指を立て、エノシガイオスが愛する少年を見下ろす。

耳元に鼻を摺り寄せ、愛しい者の匂いを嗅いだ。

 

「ああっ・・・・ミハル、久しぶりに感じる君の匂いと体温だ。」

 

本来、グリードと呼ばれる人造生命体には、欲望という欲求しか存在せず、味覚、聴覚、視覚等の肉体的機能は存在しないのだという。

エノシガイオスは、まさにその典型的存在で、肉体的機能と感情的機能をミハルが受け持つ分、それらが退化しているのだ。

だから、当然、体臭など感じ取る事は出来ない。

 

「ガイ、ウヴァはどうしたんだ? 」

「ウヴァ? ああ、あの出来損ないの事か・・・・。」

 

自分の身より、他者・・・しかも完全体である己よりも遥かに劣る兄弟達の身を案じるミハルに、多少の嫉妬を感じる。

 

同じグリードでありながら、彼等は完全体であるエノシガイオスとは明らかに「異質」な存在であった。

彼等には、味覚どころか人間と同じ感情を備え、普通に日常生活を送っている。

800年前、この島を支配していた王の側近‐錬金術師達が生み出したモノとは、違う生命体になっていた。

あの女‐ アイダ博士に教えた人造生命体の生成法と全く同じやり方を教えたにも拘わらず、出来上がった彼等は、エノシガイオスから見て異質としか受け取る事が出来なかった。

突然変異体なのか、それともアイダ自身が当時の錬金術師よりも優れていたのか、正直、エノシガイオスにとっては気に入らない存在である事に違いはない。

 

「大丈夫、先に私の一部になってくれたよ。」

「どういう意味だよ? 」

「知らなくて良い・・・どうせ、奴等は私達の一部となる為に生まれた存在だ。」

 

愛する少年の頬に舌を這わせ、肉体をセルメダル化させ、ミハルの中へと入り込む。

ミハルの意識は、深い闇の中へと堕ちて行った。

 




映画『仮面ライダー・ビヨンドジェネレーション』の主題歌は神。


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第四話 『 左翔太郎 』★

豆設定

滅亡迅雷netは、『飛電エントリジェンス』の私設部隊。
滅、迅のヒューマギアは、社長である飛電或人自らが作成。
亡、雷は、科学技術班、主任・岡山郁子が作成。
滅亡迅雷フォースライザーは、岡山女史と或人が共同開発。
現在、次世代ドライバーの開発も行っている。



セクターシティ、工業エリア。

此処では、主に『ガイアメモリ』と『コアメダル』の研究が行われていた。

この島にとっての大事な研究施設の一つと言える場所だ。

 

「ちっ、適当に暴れろだとぉ? 一体何を考えていやがるんだ。」

 

仮面ライダーWへと変身した翔太郎が、思わず悪態を吐く。

 

「我慢しろ、翔太郎。 今は、飛電教授に従うしかない。」

 

そんな翔太郎を相棒であるフィリップが窘める。

 

今現在、翔太郎の命の手綱は、飛電エントリジェンスの若き社長、飛電或人が握っている状態だ。

量子力学や遺伝子工学等の博士号を幾つも持ち、常に新たな技術を造り出している天才発明家。

自分自身を「未来芸術家」だと宣い、日本の産業資本家、億万長者、軍事契約業者でもある。

またプレイボーイでもあり、ゴシップ記事には事欠かない。

硬派な翔太郎にとっては、最も苦手な部類の人間に入る。

 

(糞・・・・元を正せば、俺があんなヘマさえしなければ・・・・。)

 

脳裏を過るのは、秘書兼護衛役である滅‐仮面ライダーゼロワンとの死闘であった。

ハーフチェンジを行い、サイクロンメタルへと変身した翔太郎は、メタルシャフトを巧みに操り、旋風棒術で戦った。

しかし、相手はそんな翔太郎の動きを完全に見切り、必殺の『ライジングインパクト』を喰らっていた。

強制的に変身を解除され倒れ伏す翔太郎。

意識を失う寸前、自分を見下す真紅の瞳だけを、はっきりと覚えている。

 

腹腔から煮えたぎる怒りのマグマを、ありったけの理性を総動員して抑え込んでいる最中、翔太郎が持つスダッグフォンからコール音が響いた。

 

『いよぉ、工業エリアに到着したみたいだな? カリメロ坊主。 』

 

受話器から聴こえる厭味ったらしい声。

飛電エントリジェンスの社長‐ 飛電或人からであった。

 

「ちっ・・・・んで、一体何処に向かえば良いんですかねぇ? 飛電社長。」

『そこから全面青い硝子張りの特徴的な建物が見えるだろ? 』

「ああ、趣味が悪そうな研究棟が見えるぜ。」

 

或人の言う通り、翔太郎が身を隠している建物の影から、青い耐震硝子で造られた建物が見えた。

一見して何かの研究所に見える。

入口には、顔にXの文字が刻まれた機械歩兵の集団が警護していた。

 

『じゃぁ、まず入口を護っているワンちゃん達にご挨拶だ。』

「マジで言ってんのか? アンタ。」

 

研究施設の大門には、ガーディアン部隊の他に、数体のドーパントらしき姿も見える。

姿形からして、マグマドーパントとコックローチドーパントの量産型である事が分かった。

 

『今すぐ現世とバイバイしたいのかな? カリメロ君。』

「糞、やりゃぁ良いんだろ? やりゃぁ。」

 

体内に埋め込まれた”バグスター・ウィルス”は、任意で増殖させる事が可能だ。

勿論、従来通り過度なストレスでもウィルスは増殖し、翔太郎の体細胞を喰らう。

 

『そんじゃ、待ち合わせ場所は建物の地下三階だ。健闘を祈ってるよ。』

 

言いたい事だけ伝えて、通信は一方的に切れる。

忌々しそうに舌打ちし、スダッグフォンを腰のホルダーへと戻す翔太郎。

今は、或人に従うより他に方法が無かった。

 

 

数時間前、居住エリア、高級ホテルスィートルームの一室。

或人達から解放された翔太郎が、部屋から出て行く。

その後ろ姿をまんじりともせず見送る滅。

視線が、革張りのソファに座り、夜の帳が降りた居住エリアの街並みを見下ろす己の主へと向けられる。

 

「・・・・・スマン。」

 

耐震硝子から覗く夜景を眺めながら、或人がぼそりと呟く。

 

「全て俺の責任だ・・・・迅の事は、どんな汚い手を使ってでも必ず取り戻す。」

 

恐らく、自分の采配ミスで、大事な我が子である迅が敵の手に落ちてしまった事を責めているのだろう。

声色から、相当彼が怒っている事だけが伝わって来る。

 

「貴方が自分を責める必要はありません。」

 

或人の心情は、手に取る様に分かる。

だから、敢えてそれ以上何も言わない。

愛刀を左手に持ち、滅は己の主に一礼すると、部屋から出て行く。

目的地は、勿論、仲間が収容されているガイアメモリ研究棟であった。

 

 

 

砂漠エリア、廃棄物処理施設内。

毒針の雨が、頭上から降り注ぐ。

死を覚悟するウヴァ。

しかし、全身を貫く激痛が訪れる事が無かった。

恐る恐る顔を上げてみる。

まるで自分を護るかの如く視界いっぱいに広がる鋼の翼。

何者かが、蹲るウヴァを護っているらしい。

 

『大丈夫ですか? ウヴァさん。』

「お、お前・・・・・まさか・・・・。」

 

ムチリの毒針攻撃からウヴァを護ったのは、マゼンダ色のアーマードライダーだった。

 

『すみません、悪いと思いましたが、彼の身体をハッキングさせて貰いました。』

 

滅亡迅雷フォースライザーに内蔵されているアシストAI『アーク』が、機械歩兵・ガーディアンの一体を乗っ取ったのだ。

 

「驚いたな・・・・お前、仮面ライダーだったのか。」

『いえ、正確には違います、 私はあくまでアシストAIでして、本来の変身者は・・・・。』

「ちっ、そんな事はどうでも良い。」

 

長くなりそうなアークの講釈を中断させ、ウヴァが何とか立ち上がる。

ムチリの猛毒で、未だ四肢は痺れているが、そんな事を気遣う余裕は無かった。

 

「お前がライダーなら丁度良い、一か八か試してみるぞ。」

『はい? 』

 

言葉の意味が理解出来ず、アークが頓狂な声を上げる。

そんな人工知能を無視し、眩く光り出すウヴァの身体。

三つのコアメダルへと分離し、瞬く間にメタリックな昆虫へと姿を変えた。

クワガタ、カマキリ、バッタの三種類の昆虫は、仮面ライダー迅を取り囲みバラバラに分離。

マゼンダ色のアーマードライダーへと一体化する。

 

『こ・・・・これは・・・・。』

「へっ、予想通り、やれば出来るじゃねぇか。」

 

クワガタの顎の様な二本の角と、バッタ特有の脚。

そして両腕にはカマキリの様な鋭い鉤爪が装備されている。

ウヴァと一体化した仮面ライダー迅がそこにいた。

 

『あ、貴方は一体何者なのですか? 』

「詳しい説明は後だ! 奴が来るぞ! 」

 

ウヴァの指摘通り、ムチリの長い百足の胴体が襲い掛かって来た。

慌てて回避するアーク。

しかし、予想以上に跳躍し過ぎて、気が付けば、廃棄物処理場の天井辺りに飛翔していた。

 

『なっ、何と・・・・これは素晴らしい。』

「馬鹿野郎! 飛び過ぎだ!! 」

 

ウヴァの指摘通り、これでは恰好の的だ。

案の定、ムチリが上空にいるアーク目掛けて、無数の毒針を放つ。

ガトリング砲と同じぐらいの威力がある鋼鉄の針だ。

喰らったら、当然、只では済まない。

 

「ええい、こうなったら! 」

 

ウヴァの意志で、アークの両腕が変形。

カマキリそのものの腕へと変わる。

鋼の鎌は、襲い来るムチリの針を悉く撃ち落としてしまった。

 

『素晴らしい・・・・私、滅茶苦茶感動しております。』

「分かったから、一緒に戦ってくれ! 」

 

ウヴァと一体化した事により、従来持つスーツの性能を遥かに凌駕する力を前に、アークは終始、感嘆し、全く戦う素振りを見せてくれない。

ムチリは、両手の甲から、槍の如く毒針を伸ばすと、ウヴァとシンクロした仮面ライダー迅に向かって飛翔する。

身体中から無数の毒針を精製し、まるでガトリング砲の如く撃ち出すムチリ。

ウヴァは、両腕の鎌で再び毒針を撃ち落とすが、いかせん数が多すぎる。

防ぎきれないと判断し、装甲を強化。

両腕をクロスし、毒針の雨を防ぐ。

 

『敵が急接近、このままではやられちゃいますね。』

「お前、やる気あるのかぁ?」

 

あくまで傍観者に徹するアークに、ウヴァは心底溜息を零す。

いくら機械歩兵の一体をハッキングし、支配したからといって、アークはあくまで『サポートAI』にすぎない。

迅から得た戦闘データを基にいくらか戦えるが、やはり本来の適合者である迅の様に、状況判断で動く事に関しては不慣れだ。

 

そんな理由など、当然知らないウヴァは、舌打ちし、クワガタの顎の様な二本の角に電流を溜める。

何百万ボルトの電流を放出するウヴァ。

蒼白い雷の龍は、異形の怪物を意図も容易く貫く。

 

「今だ!止めを刺せ!! 」

『へ? 止めと言われましても、どの様にすれば・・・・・。』

「馬鹿野郎っ!ライダーならライダーキックだろうが!! 」

『おおっ、成程、分かりました。』

 

アークは、空中で身体を一回転させ、廃棄物処理場の壁を蹴り付ける。

脚がバッタ目特有の形へと変形する。

クレーターの如く、壁を凹ませ、アークが弾丸の如くムチリへと跳ぶ。

再び宙で体制を変え、必殺の蹴りをムチリの胴体へと喰らわせた。

断末魔の叫びを上げる暇すら無く、胴と下半身が真っ二つに引き裂かれる。

数メートル地面を削り停止するアーク。

血しぶきの如くセルメダルをばら撒きながら、ムチリは力無く地表へと堕ちた。

それと同じくしてウヴァと一体化したアーマードライダーの身体に電流が走る。

強制解除される二人。

火花を散らしながら、アークが乗っ取った機械歩兵が横倒しになる。

 

「ちっ、一体何がどうなっていやがるんだ? 」

『どうやら彼の身体が限界だったみたいですね。』

 

アーマードライダーを前提に造り出されたヒューマギアである迅と違い、只の警護用のガーディアンでは、耐久性が段違いだ。

先程、無茶な操作をしたせいで耐久値の限界を迎えてしまったのだ。

 

再び、グリードの姿へと戻ったウヴァが、ムチリの残骸へと近寄る。

二つのセルメダルの山。

ムチリが完全に活動を停止しているのが分かる。

ウヴァは、屈み込むと、無造作にセルメダルの山へと手を突っ込み、そこから三枚のコアメダルを取り出した。

 

『それが、先程のグリードの正体ですか。』

「ああ・・・・そうなるな。」

 

ウヴァは、素っ気なく応えると、機械歩兵が倒れた拍子に外れた滅亡迅雷フォースライザーの所へと近づく。

 

『何か気になる事でも? 』

「俺達の核になるコアメダルの枚数は、9枚だ。 だが、奴の身体には3枚しか無かった。つまり、残り6枚は、エノシガイオスの野郎が持ってる事になる。」

 

つまり、例え此処で倒せたとしても、エノシガイオスがコアメダルを持っている限り、あと二回は復活可能という事になる。

しかも、半身であるミハルを使えば、幾らでも精製出来るのだ。

 

「行くぞ、ミハルが危ない。」

 

ウヴァは、メダルを回収すると、床に転がっている滅亡迅雷フォースライザーを拾い上げる。

 

『待ってください。その前に私の質問に・・・・。』

「あぁ? そんなもん後でいくらでも教えてやる。」

 

文句を垂れるアークを黙らせ、ウヴァは廃棄物処理場を後にした。

 

 

ガイアメモリ研究棟。

正面入り口を護っているガーディアン部隊とドーパント2体を倒し、翔太郎達は生産ラインらしき作業場へと辿り着いた。

 

激しい倦怠感と悪寒に身体が震える。

壁に手を突き、粗い呼吸を整えた。

体内に注入されたバグスター・ウィルスの浸食が始まっているのだ。

何気なく己の右手に視線を降ろすと、まるでテレビのノイズの如く、手の輪郭がぶれていた。

 

「しょ、翔太郎・・・・。」

 

精神体であるフィリップにも、当然、翔太郎が味わっている苦痛がダイレクトに伝わって来る。

バグスターウィルスの症状は、風邪の初期症状とよく似ている。

体内の免疫を全て低下させ、体細胞を侵食。

人間の身体をデータへと変換し、それの受け皿が無ければ、消滅してしまう。

 

「気にすんな、こんな程度どうってことねぇ。」

 

これ以上、相棒に心配かけまいと、翔太郎は何時もの軽口を叩く。

ウィルスは、人間のストレスを糧に増殖する。

これ以上の弱音を吐けば、本当に動けなくなってしまうだろう。

 

 

数分前、ガイアメモリ研究棟、地下三階へと続くエレベーター内。

アイダ・オリヴィア博士が、部下である内海成彰の案内で研究棟にあるラボへと向かっていた。

 

「何故、ガイアメモリ研究棟に収容したの? 」

「あそこは、メモリ開発と一緒にホムンクルスの研究もしています。なので、ヒューマギアの解析に都合が良かったので。」

「そ、分かったわ。」

 

内海から受けた報告では、環境システムに潜入した賊は、ヒューマギアである事が分かった。

しかも、今、施設内を視察している飛電エントリジェンスの社長、飛電或人が護衛役として連れて来た合成人間であった。

 

「全く、小賢しい事をしてくれるわね。」

 

内海の案内で、ラボへと案内されたアイダ博士は、強化ガラス越しに処置を行っている研究員達と、処置台で寝かされている滅亡迅雷netの構成員、迅を眺めた。

身体には生命維持装置のチューブと、頭には細いコードが幾つか取付られている。

 

「素晴らしいですよ? 彼は。 臓器や皮膚等、人間のモノと全く同じです。しかも、ちゃんと五感も備わっていて排泄や性行為も出来るみたいですね。」

「排泄? 無駄な機能を付けているのね? 」

 

少々興奮気味な内海を横目で眺め、アイダは呆れた様子で溜息を一つ零す。

 

ヒューマギアは、あらゆる分野で活躍している工業ロボットと構造は全く同じで、人工知能『アーク』によって制御、コントロールされている。

エリクサーエンジンを搭載されており、半永久的に活動する事が出来る。

数世紀先を進んだバイオロイドなのだ。

 

「それで、彼から情報は引き出せそうなの? 」

 

これ以上、無駄な講釈を聞くつもりは無い。

上司に本題を突きつけられ、内海の顔が瞬く間に渋くなる。

 

「そ、それが・・・・プロテクトを解除するのに手間取っていまして・・・。」

「どれぐらいかかりそうなの? 」

「・・・・・今は・・・・何とも・・・。」

「そう、分かったわ。」

 

内海の表情を見るだけで、作業が全く進んでいない事だけを理解する。

飛電或人という男は、一言で言うならば「怪物」だ。

IQ500を超える知能指数を誇り、数世紀も先の技術を幾つも発明している。

そんな人知を超えた怪物が造り出した防壁を、たかが人間如きで太刀打ち出来る訳が無いのだ。

 

「あの、でもこの研究棟には優秀なプログラマーが・・・。」

「人員の無駄よ。 それより、飛電教授の取引材料に使いましょう。」

 

内蔵されているブラックボックスにアクセスし、プログライズキーの構造を知りたかったが、今は時間が惜しい。

或人が指摘する通り、この島の心臓部である核融合炉のコントロールが上手く行かず、まさに綱渡り状態なのだ。

今は、コアエナジーが安定しているとはいえ、何時また危険水域まで上昇するか分からない。

何としてでも或人を仲間に引き入れ、彼の技術で問題を打開しなければならないのだ。

そんな時であった。

突如、研究棟内に異常事態を知らせる警報が鳴り響く。

続いて何かの爆発音。

建物内から微かな振動音が伝わった。

 

 

 

頬から伝わる冷たい感触に、ミハルは薄っすらと意識を覚醒させた。

けたたましく鳴り響く警報。

ミハルが弾かれた様に起き上がる。

 

「此処・・・・何処? 」

 

広々とした室内。

幾つかのコンテナが並び、天井には物を吊り上げて運ぶアームが吊り下がっていた。

どうやら何処かの生産工場らしい。

不図、肌寒さに自分の恰好を見ると、素肌に真紅の襦袢一枚という姿だった。

当然、下着は着ていない。

太腿を丸出しにしている姿に恥ずかしくなり、慌てて服の合わせ目を手で閉じた。

 

「ガイ・・・・どうしてこんな事。 」

 

周囲の様子から、この場所が工業エリアである事が分かる。

自分達が生活している居住エリアのマンションから、半身であるエノシガイオスが連れて来たのだ。

一体どんな目的で? 

エノシガイオスの意図がまるで分からず、頭の中をクエスチョンマークが飛び交う。

 

「美しい・・・・・とても綺麗だよ・・・ミハル。」

 

ゴポリと水泡を上げて盛り上がるミハルの影。

黒い液体は、瞬く間に雄々しき二本の角が生えた黒騎士へと姿を変え、華奢な少年を背後から抱き締める。

 

「が・・・・ガイ、此処は一体何処なんだ? 」

「ガイアメモリの研究棟だ、一度来た事があるだろ。」

 

耳元で囁かれ、ミハルの背をゾクリと例える事が叶わぬ寒気が走る。

 

「何故、こんな所に? 」

「新しいコアメダルを造る為だよ。」

 

有無を言わせず、少年を抱き上げる。

ミハルを横抱きにした状態で、エノシガイオスは軽々とコンテナの一つへと飛び乗った。

 

ガシャリと、何か硬いモノを踏みしめる音が聞こえる。

見ると手の中に納まるぐらいに小さなUSBが、コンテナいっぱいに入っていた。

 

「これは全て、廃棄予定のガイアメモリだ。」

「あっ!! 」

 

首筋に針に刺された様な小さな痛み。

エノシガイオスの身体から細い触手が伸び、針の様に鋭い先端が、ミハルの首筋に突き刺さっていた。

首の血管を通って、何かの薬物が流れ込んで来るのが分かる。

酒に酔った様な酩酊状態となり、立っていられなくなった。

 

「体質に合わない、力が弱すぎて兵器として運用に不向き、毒素が強すぎて使用者を死に至らしめる等、様々な理由で廃棄処分されるメモリだ。」

 

今にも倒れてしまいそうなミハルを背後から抱き締め、エノシガイオスは言葉を続ける。

 

「愚かな奴等は、このメモリの本当の価値を知らん。奴等は、ガイアメモリが単に地球の情報を納めたアイテムぐらいにしか思っていない。」

 

ミハルは、エノシガイオスの言葉を何処か遠くから聞いていた。

頬が燃える様に熱く、密口が痒くて堪らない。

性器が硬く張り詰め、切なく蜜を零していた。

 

「このメモリは、一つ一つが地球の命そのもの何だ。 極々微量ではあるが、コアエナジーが詰まっている。」

 

少年が、極度の興奮状態である事を知っているエノシガイオスは、身体から何本もの触手を伸ばし、腕の中にいる獲物を嬲り始める。

硬く尖り始めた乳首に紐状の触手を絡め、弄り、快感を与えていく。

 

「これだけの量のガイアメモリだ。 核融合炉を使わなくてもコアメダルは何枚でも造れる・・・・・お前の能力で・・・。」

「ひっ!!駄目っ!! 」

 

脚を割り広げられ、鋭い爪が生えた手が、無遠慮に少年の密口へと触れる。

獲物の小さな抵抗を、黒騎士は楽し気に眺めていた。

ミハルの性感帯なら、手に取る様に分かる。

何処を弄れば、可愛い声で囀(さえず)るか知っている。

 

「ミハル・・・・ああっ、私の可愛いミハル。」

「否だ・・・・・ガイ、お願い止めて・・・・・。」

 

大粒の涙を流すミハルの顔を、自分の方へと捩じ向ける。

怪物の太い杭が、すっかり迎え入れる準備が整っている蜜壺へと、深々と埋まった。

 

 

機械歩兵やマスカレードドーパントの集団を蹴散らし、Wとなった翔太郎は、生産ラインらしき工場内へと辿り着いた。

寒気と倦怠感に苛まれつつ、粗い呼吸を整える。

目的地は、ガイアメモリ研究棟の地下三階。

この工場内を突っ切り、エレベーターに乗り込めば、後もう少しだ。

 

「・・・・・っ!? 翔太郎、あそこに人が。」

 

相棒に指摘され、翔太郎がコンテナの一つを見上げる。

すると、人間の腕らしきモノが見えた。

どうやらコンテナの上に誰かが倒れているらしい。

翔太郎‐Wは、驚異的な脚力を活かし、コンテナの上へと飛び乗る。

 

「何だ? こりゃぁ? 」

「塩の山だね・・・。」

 

コンテナの中身は、大量の塩が詰まっていた。

その上に赤い襦袢を着た髪に青いメッシュが入った女の子が倒れている。

頬を微かに上気させ、苦し気に秀麗な眉根を寄せていた。

 

「おい、大丈夫か? 」

 

塩に脚を取られそうになりながらも、何とか倒れている少女の傍らへと近寄る。

抱き上げると襦袢を着た人物が、女の子ではなく10代半ばぐらいの男の子である事が分かった。

 

「お、男なのか・・・・。」

「翔太郎、このままじゃ、サイクロンジョーカーが重すぎて塩に埋まる。」

 

フィリップが指摘する通り、体重85kgあるサイクロンジョーカーの身体が、蟻地獄の如く、徐々に塩に沈んでいるのが分かる。

仕方なしに、襦袢を着た男の子を横抱きに、翔太郎は塩が詰まったコンテナから飛び降りた。

 

「うっ・・・・うん・・・・。」

 

着地の衝撃で、意識が戻ったらしい。

髪に青いメッシュが入った少年が、薄っすらと瞼を開いた。

 

「おい、大丈夫か? 」

 

中性的な美貌に思わず見惚れる。

唇には、血の様に赤い紅を差し、肌は新雪の如く白かった。

襦袢は、肩まで開(はだ)け、女性の様に丸い肩を露わにしている。

翔太郎が未だに憧れている風都のアイドル、若菜姫より美しいと思った。

 

「ふふっ・・・・。」

 

妖しい美しさに見惚れる翔太郎の心情を読み取ったのか、腕の中にいる少年は妖艶に微笑むと、Wの頬へと繊細な指先を這わせる。

両肩に腕を回し、いきなり唇の辺りに舌を這わせた。

 

「止せっ! 」

 

慌てて腕の中にいる少年を突き飛ばす。

突き飛ばすと言っても、かなり手加減してだ。

本気でやると、少年の華奢な肢体を壊してしまう。

 

翔太郎に突き飛ばされ、冷たい床へと倒れる少年。

白い太腿が露わになり、股の間から鮮血が零れ落ちているのが分かった。

 

「翔太郎・・・・この子、怪我を・・・・。」

「・・・・・・。」

 

股の間から流れる血に混じり、明らかに人間の精液と分かるドロリとした液体。

それを見た途端、フィリップは言葉を詰まらせた。

何者かに性的暴行をされていたのだ。

翔太郎は、仮面の下で唇を噛み締めると、改めて少年へと近づく。

無言で、ゆらりと立ち上がる少年。

股座(またぐら)から血を流すその姿は、何処か幽鬼めいており、翔太郎は思わず気圧される。

 

『ふん・・・・仮面ライダーか・・・・。』

 

華奢な肢体を持つ少年とは思えぬ低い声。

何処から取り出したのか、その右手には一目でドライバーと分かるベルトが握られていた。

 

少年‐ 湊ミハルは、ポセイドンドライバーを自分の腰に装着する。

右掌から現れる、光輝く三つのメダル。

サメ、クジラ、オオカミウオの三枚のメダルがドライバーに収まると、ミハルの身体を眩い光が覆った。

 

「あ、あれは・・・・・・。」

「まさか、仮面ライダー? 」

 

驚愕にその双眸を見開く二人。

ベルトを使い、変身したその姿は、彼等二人が知っている仮面ライダーそのものだった。

頭部にサメ、胴部にクジラ、そして下半身がオオカミウオの異形の姿をしたライダーは、冷たい黄金の瞳で、眼前に立つWを眺めている。

 

「火野映司が変身するオーズと良く似てるね。」

「ああ、でもコイツは、お友達にはなれそうもねぇけどな。」

 

漂う禍々しい気配に、翔太郎の背を寒気が走る。

 

翔太郎とフィリップの二人は、夢見丁で仮面ライダーオーズこと火野映司と共闘し、街を騒がせていた通り魔‐ノブナガを倒した事がある。

そのオーズと今目の前で対峙する謎のライダーは、非常に共通する部分が多かった。

 

『オーズ・・・・・まさか、オーカテドラルを知っているのか? 』

「オーカテドラル? 」

 

聞き慣れない言葉に、翔太郎がオウム返しに問いかける。

 

『ふん、あの女狐・・・・オリジナルは既に失われたと見え透いた嘘を吐きおって。』

 

ミハルの身体を乗っ取っているエノシガイオスが、忌々し気に吐き捨てる。

 

エノシガイオスが装着しているポセイドンドライバーは、火野映司が持つオーズドライバーを模して造り出された複製品だ。

いくらオリジナルの「オーカテドラル」と遜色ない造りになっているとはいえ、所詮、模造品である事に変わりは無い。

 

「おい、てめぇは一体何者だ? 」

『何者? そんな事を聞いてどうするんだ? 鳴海探偵事務所の調査員君。』

 

まともな答えなど返ってこないだろうと予想していたが、相手は翔太郎が考える遥か斜め上をいっていた。

 

「なっ、何で・・・・。」

『知っているのか? だってぇ? ふふっ・・・・王である私は何でも知っているのさ。左翔太郎君に園咲来人君。 』

「僕の本当の名前まで・・・・。」

 

妙に人間臭く、肩を竦めるアーマードライダーに、フィリップは薄気味悪さを感じていた。

 

実は、エノシガイオスの半身であるミハルは、フィリップと同じ能力(ちから)を持っていた。

当の本人に自覚がまるでないが、精神世界に膨大な量の地球のデータベースとアクセス出来るのである。

エノシガイオスは、ミハルの身体を支配しては、自分の求める情報を勝手に検索していた。

 

驚く二人を他所に、エノシガイオスは、塩が詰まった巨大なコンテナの一つに手を翳す。

すると、コンテナは眩く光、黄金に輝く金の延べ棒の山に変わった。

 

『素晴らしいだろ? 私のミハルは、地球(ほし)のデータベースにアクセス出来るだけじゃない。遺伝子を組み替え、別の物体を造る事も可能だ。』

 

エノシガイオスは、床に転がる金の延べ棒の一つを手に取ると、翔太郎の足元へと放り投げた。

 

「これは・・・・ジーンメモリの能力(ちから)。」

 

足元に転がっている金の塊をフィリップが、拾い上げる。

正真正銘の金の延べ棒であった。

 

かつて、翔太郎とフィリップは、物体同士を掛け合わせて、別の物体を生み出す事が出来るドーパントと戦った事がある。

風都にある映画館「CINEMA T-ジョイ風都」の従業員で、彼はこの変幻自在の能力を使って下手な自作映画を造っていた。

戦闘能力は、全くと言っていい程無いが、その特異な能力を悪用され、未曽有の大災害を起こした。

 

「ミハルというのは、さっきの男の子か・・・・? 」

 

感情を必死に押し殺した声で、翔太郎が目の前にいるもう一人のアーマードライダーへと問い掛ける。

 

『ああ・・・・美しかっただろ? そこらに転がっている女共等とは比べ物にならないぐらい。』

 

まるで夢でも見ているかの如く、エノシガイオスはうっとりと応える。

間違いない。

コイツが、ミハルという哀れな少年に性的虐待をした張本人だ。

 

「イカレてるぜ・・・・。」

「同感だね、色々犯罪者を見て来たけど、こんな吐き気を催す悪を見たのは初めてだ。」

 

フィリップの脳裏に、かつて風都を震撼させた殺人鬼の姿が浮かんだ。

普段は、物腰が柔らかく人当たりの良い医者を演じながら、裏では己の欲求を満たす為に「実験」と称して、罪のない人間を殺戮していった。

ウェザー・ドーパント、又の名を井坂深紅郎。

 

『ほぅ・・・この私と戦うつもりか。』

 

メモリチェンジを行い、サイクロンメタルへと変わる翔太郎を、エノシガイオスは楽し気に眺める。

風を纏ったメタルシャフトを構えるW。

身の丈程もある槍‐ディーペストハープーンを構えるエノシガイオス。

二人が放つ殺気が、静かにぶつかり合う。

 

 

 

5年前、天海町にある飛電邸。

父・或人に手を引かれ、迅は広い庭園へと導かれる。

春の暖かい日差し、庭園の東屋には、木製のテーブルとベンチがあり、そこに真紅の外装をした自立稼働型のロボットと黒い背広を着た青年がいた。

 

「ほら、お前のママだよ? 」

 

父が、ベンチに腰かけている青年を迅に紹介する。

不思議そうに幼い少年が見上げると、金色の髪をした青年が呆れた様子で溜息を零した。

 

「笑えない冗談は、止めて頂けますか? 」

「冗談? 俺は、何時でも本気だぞ? 」

 

幼い迅をベンチへと座らせ、自分もその隣へと腰を降ろす。

青年‐滅が不機嫌なのを敏感に感じ取ったロボット‐アークは、慌てて台車に乗っているお茶とケーキをテーブルに並べた。

 

「今日は、シャルモンの店長、ブラーボ様直伝のクラシックチョコでございます。」

 

あらゆる情報を蒐集し、家事のスペシャリストであるアークは、最近ケーキなどのスイーツ作りにハマっている。

沢芽市で人気点である洋菓子店「シャルモ」の店長、凰蓮厳之介が開設しているブログの常連客で、彼の出す新作スイーツは逐一チェックしていた。

 

「おいしい! 」

 

父、或人にフォークで切って貰い一口食べた迅は、そのとろける様な甘さににっこりと満面の笑みを浮かべた。

 

「良かったな?アーク、迅が100点満点出してくれたぞ?」

「おおっ、これはこれは恐悦至極でございまする。」

 

万丸いボディをコミカルに揺らし、アークが笑顔を向ける。

 

「何故、子供の素体を造ったんですか?非効率的です。」

 

アークが入れてくれたお茶を一口啜り、滅が真向かいに座る幼い少年を眺める。

 

滅が言う通り、この少年はいずれ滅亡迅雷netの一員として活動する事になる。

アークと同じ学習機能があるとはいえ、一々、子供の素体を造る理由が分からない。

 

「迅は、昨日生まれたばかりだ。 例えるなら卵から孵(かえ)ったばかりの雛鳥(ひなどり)と一緒だぞ。」

「だから子供の素体を造ったと? 」

「そうだ、他に何か理由があると思うか? 」

 

何の知識も常識すらも知らない無垢な子供と一緒だ、と断言され、滅は仕方なく引き下がる。

思えば、この主は自分が生み出したヒューマギアに、色々と無駄な機能を付け過ぎている。

例えば、この食事をする機能である。

本来のヒューマギアは、飛電エントリジェンスが開発した永久回路「エリクセルエンジン」で稼働していた。

故に食事を採る必要も無く、太陽光エネルギーさえあれば、半永久的に活動する事が出来る。

しかし、この主はその機能を撤廃し、人間と同じ植物性、動物性たんぱく質を摂取させる事で、エネルギーを消費し、動く事が出来る機能をつけた。

味覚も当然あり、人間と同じ感覚機能を搭載している。

滅亡迅雷netの仲間である亡は、滅達の感覚機能に大変興味がある様だった。

旧世代型のヒューマギアである彼には、当然感覚器官など無く、内臓されている「エリクセルエンジン」で活動している。

亡は、感覚機能の中でも特に「性行為」に興味を持ち、此方が辟易するまで質問していた。

 

「何だ?他に言いたい事は無いのか? 」

「いいえ、別に。」

 

チョコレートケーキにがぶりつく迅を眺め、滅は或人に短く応える。

 

モノが食べれる機能があるなら、当然、「性行為」や「排泄」機能もあるだろう。

滅にとっては無駄以外にしか思えないが、この主は、その行為こそに意味があると説く。

 

「貴方は、”人間”を造りたいのですか? 」

 

素直に主に対する疑問をぶつけてみる。

この創造主は、一体何を考えて自分達「ヒューマギア」に感覚機能を付けたのか。

例え形だけの「性行為」を行ったところで、子供を産む機能が無い自分達に、何を期待しているのか。

 

「別に、神様になろう何て大それた事は考えちゃいない、只・・・・。」

「只・・・・? 」

「人間の当たり前な機能を付ける事で、お前達に”愛”という感情が生み出せるかどうかの実験だな。 」

「愛・・・・・。」

 

つまりは、「ヒューマギア」に、人間らしい感情が生まれるかという事らしい。

機械工学の権威でありながら、ロボット三原則に反する行為を平然と行う、何とも愚かしい考えだ。

 

「何故、俺がお前等二人と”アーク”にマインドプログラムを施さないか知りたいか? 」

「・・・・・。」

「人間の糞つまらないエゴで、お前等や”アーク”の可能性を摘みたくないからだ。」

「俺達の可能性・・・・。」

 

主の言わんとしている事が、理解出来ない。

否、理解出来るが、そんな大それた事を「人間に造られし者」が行って良いのかどうか判断出来ない。

 

「貴方は・・・・・我々、ヒューマギアに人間の代わりをしろと仰りたいのか。」

 

主が行おうとしている行為は、人類に対する背信行為だ。

そんな事、到底受け入れられる訳が無い。

 

「さあな・・・だが、人類はいずれ滅びゆく種だ。 その代わりがお前達に慣れればとは期待している。」

「馬鹿々々しい、貴方は愚かだ。」

「愚か? 何故そう思うんだ? 」

「我々、ヒューマギアは子供を産めない、所詮は”人間に造り出された存在”だからです。」

 

前社長である飛電是之助は、自分達ヒューマギアとは、ハッキリと線引きをしていた。

是之助は、「創造者と被造物」の区別を付けており、それ以上でも以下でもないという関係を徹している。

しかし、この男は違った。

人間を滅びゆく種であると見限り、自分達を新たな地球(ほし)の支配者にしようとしている。

子供を産む機能が無い自分達ヒューマギアでは、到底、霊長類の長等になれる筈が無いのに。

 

「古いモノの考え方だな? 産めなければ造れば良いだけの話じゃないか。」

「前社長である是之助様は、”ヒューマギアは、人間を支える存在である”と仰ってました。 私もその通りだと思います。」

「糞爺は、先見の明が無さ過ぎたんだ・・・・・否、爺みたいな連中が増えたせいで、人間の種は滅びへと加速したと言えるな。」

「仰っている意味が、理解出来ません。」

 

この若い社長が、先代を忌み嫌っている事は、良く知っている。

 

或人と是之助の確執は、彼が幼い時から既に始まっていた。

是之助は、『飛電エントリジェンス』の後継者として、或人を徹底的に教育した。

そこには、当然あるべき祖父と孫の愛情などまるで無く、力で或人を抑えつけ、自分の思い通りの人間を造り出そうとしたのだ。

しかし、それがいけなかった。

或人は、祖父のやり方に嫌気が刺し、帝都大学を中退し、東南アジア最大の企業『ビレッジ』にチーフ・テクニカル・オフューサーとして就職。

順風満帆かと思われたが、祖父に半ば強引に辞職させられ、猛反発した挙句、家出同然でMIT(マサチューセッツ工科大学)に進学した。

以降、二人の間には到底修復不可能な溝が出来てしまったのである。

 

「人間という種族は、己の文明が繁栄した事に対し、驕り高ぶり、最も大切なモノを見失った。」

 

或人曰く、医療技術の進化により、人間の寿命が延び、又、女性の社会進出により、出産という当たり前の行為を疎んじた為、出産率が大分低下しているのだという。

そして、近年蔓延している『バクスターウィルス』もソレに拍車を掛けた。

感染すれば、ほぼ100%の確率で死に至り、肉片すら残さず消滅する恐ろしいウィルスだ。

現在の所感染経路は不明、粘膜感染及び飛沫感染で発症すると言われ、人々はなるべく密になる事を避けた。

リモートワークが当たり前となり、医療関係以外のサービス業に影響が出始めた。

飲食関係が軒並み潰れ、配達が主流となった。

子供達は自宅学習を強要され、同年代の友達と遊ぶ機会が減り、その為、人間同士のコミュニケーション能力が減退していった。

 

「爺は、人類の支えと手前勝手な事をほざいているが、要は人間の命令に忠実に従う奴隷が欲しいだけだ。 それじゃ社会生活が成り立たない。」

「何故、そう思うのですか? 」

「”確固たる個”が彼等の中から生まれるからさ・・・彼等は己が置かれている状況に不満を抱き、一億%の確率で造反する。」

「生まれないという可能性もあります。」

「いいや、生まれる・・・・まず、この俺が良い例だ。」

 

或人は、飛電是之助のバックアップ要員だった。

自分が死んだ時の為に、予め用意した後継者という名の人形。

しかし、彼はそんな祖父に逆らった。

 

「俺はな、ヒューマギアと旧人類が醜い争いをしない為に、世代交代を行いたいだけなんだ・・・・・迅やお前達が苦しまない世界をな。」

 

或人は、隣で不思議そうに自分を見上げる少年の頭を優しく撫でる。

その表情は、愛する我が子を見つめる父親そのものであった。

 

 

「じ・・・・ん、じん・・・迅、起きろ! 」

 

何者かに身体を揺さぶられ、迅は微睡の中から、半ば強引に覚醒した。

ぼやける視界の中に、見知った人物の顔が映る。

 

「ママ・・・・・何で、ケーキ食べないの? 」

「? ケーキ? 一体何を言っているんだ? 」

 

敵に捕まった時に記憶回路を弄られたのだろうか?

金色に髪を染めた青年‐ 滅は、迅に繋がっているコードやチューブを外しながら、優しく抱き起してやった。

 

「誕生会、家で・・・”アーク”がケーキを焼いてくれて・・・・チョコケーキ美味しかったなぁ。」

「ああ・・・・・悪い。 甘いのは苦手だったんだ。」

 

恐らく飛電邸で行われた誕生会の事を思い出しているのであろう。

あの当時は、どうしても甘いモノが受け付けず、折角”アーク”が丹精込めて造ってくれたクラシックチョコを食べる事が出来なかった。

 

「て、此処何処? 何で俺裸なの? 」

 

肌に感じる微かな寒さ。

見ると上半身裸で、白いスウェットパンツ一枚だ。

何時も持ち歩いている滅亡迅雷フォースライザーが何処にも無い。

 

「落ち着くんだ、迅。 お前は敵に捕まってガイアメモリ研究棟の地下に連れて来られたんだ。」

 

酷く狼狽している迅に対し、滅は冷静に此処までの経緯を説明してやった。

 

主である或人の命令で、環境システムに侵入した事。

核融合炉を強制停止させようとしたが、正体不明の敵に襲撃され、怪我を負った事。

セクターシティの治安部隊に捕まった事。

 

「どうしよう・・・ママ、パパから貰った大事なドライバーが。」

「気にするな。 それより、俺と一緒に此処から脱出するのが先決だ。」

 

滅亡迅雷フォースライザーは、『飛電エントリジェンス』の私設部隊『滅亡迅雷net』の構成員に支給されているドライバーだ。

或人と科学技術班主任、岡山郁子の共同開発で造り出されたベルトで、此処の特性を活かした造りとなっている。

情報漏洩防止の措置が施されており、アークの指示によって自爆する機能が備わっていた。

 

滅は、意気消沈する迅を処置台から降ろし、腰のガンホルスターからハンドガンを取り出し、迅へと渡した。

 

「使い方は分かるな? 」

「うん。」

「良し、俺の後にしっかりとついて来るんだぞ? 」

「うん。」

 

大好きな父・或人から貰った大事なドライバーを失い、迅はかなり凹んでいた。

慣れた手つきでハンドガンの安全装置を確認しているが、応える声に全く覇気が無い。

そんな仲間に対し、滅は溜息を一つ零すと、項垂れる迅の頭を優しく撫でてやった。

 

「大丈夫、ドライバーを無くしたぐらいでパパは怒らないよ。」

「ママ・・・・。」

「それより、早く元気な姿を見せてやれ・・・・後、今度”ママ”って言ったらぶん殴るからな? 」

「・・・・・・・はい。」

 

顔は、穏やかでも心の中は、地獄の閻魔大王と同じぐらい恐ろしい。

迅は、震える声で答えるのであった。

 




仮面ライダー鎧武も面白そう。


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第5話 『800年前の王 』

グロンギ族について。
妄想設定では、当初日本にはグロンギ族しかおらず、故にグロンギ語が共通言語だった。
リントも当然、その一人ではあるが、優れた技術を持つ代わりに他の四種族と違いメタモルフォーズする能力が無い。
故に、ゲゲルと呼ばれる成人の儀式の標的になり易く、初代オーズとなる王は、自分の部族を護る為に、武器=クウガを造り出した。
王の目論見通り、ン・ダグバ・ゼバ含む四部族を休眠状態まで追い込むが、王は、「自分こそが地上の支配者に相応しい。」と他国侵略の為に更なる研究を進める。
そして、生み出されたのが『オーメダル』と『オーカテドラル(オーズドライバー)』だったとされる。
因みに、クウガは、ン・ダグバ・ゼバを撃破後、力を全て使い果たし、墓所で長い休眠状態になっていた。


太平洋に浮かぶ孤島‐『蒼樹ヶ島』。

伊豆諸島に並ぶその絶海の孤島は、近隣住民から『呪いの島』と呼ばれていた。

曰く、渡ったら最期、誰一人として還って来た者は一人もいないのだという。

 

 

「これが先代オーズが使用していたコアメダル? 」

 

プレハブ小屋の二階。

簡素なオフィスディスクに置かれた三枚のコアメダルを眺め、アイダ・オリヴィアは、頬杖をついていた。

外では、建築用の重機が24時間休まず稼働し、騒音を立てている。

幸い、此処は、本土からかなり離れた位置にある孤島なので、いくら騒がしい音を立てようが近隣住民から苦情が出る事は一切ない。

 

「そうだ、800年前の王が使用したと言われる伝説のオーパーツだよ。」

 

真向かいに座る大柄な男‐ 鴻上光生は、熱病に掛かったのか如く、美しい女性科学者に説明する。

 

この鷹、虎、バッタの文様が刻まれた三枚のメダルは、鴻上一族が代々受け継いで来た代物であった。

彼の先祖は、とある国の小国を統べる王であった。

現代科学では、決して解明出来ぬ摩訶不思議な秘術を行使する錬金術師達を多数従え、コアメダルと呼ばれる人間が持つ欲望のエネルギーから生まれるメダルを使い、グリードと呼ばれる5体の人造の魔物を造り出したのだという。

 

「私はね? オリヴィア、この島が我が先祖ゆかりの地ではないかと思っているんだ。」

「・・・・・そう。」

 

荒唐無稽なホラ話だ。

確かに、鴻上一族が代々受け継いで来たと言うこのメダルは、現世に存在しえない鉱物で造られたモノだ。

この男の話は一応筋が通っているし、現に人間の感情エネルギーから抽出された『オーメダル』なるモノは、石油や太陽光エネルギーの代わりとして使用されている。

 

「貴方は、どう思っているのかしら? 清人君? 」

 

アイダの視線が、窓際に立つ黒縁眼鏡の青年へと向けられた。

 

「正直、興味ありません・・・・それより、早く環境システムの視察をさせて頂きたい。」

 

アイダの元教え子である真木・清人は、腕に乗せている不気味な人形に話し掛けた。

 

現在、帝都大学物理研究所に在籍しているこの青年は、鴻上ファウンデーションが持つ生体研究所の研究員として働いている。

一応、非常勤扱いではあるが、大学を卒業後は、研究所の主任の椅子が確実に保証されていた。

 

「ふふっ、相変わらずせっかちさんね? そんなに慌てなくても、コア・エナジーは逃げないわよ。」

 

この教え子が、重度の対人恐怖症である事は、良く知っている。

 

鴻上生体研究所が、豊富なコア・エナジーを内包するこの孤島を発見してから十数年の月日が経つ。

朽ち果てた遺跡以外、何もなかったこの『蒼樹ヶ島』は、見違える程変わり、厳つい研究棟が幾つも建っている。

 

 

真木のリクエストで、島の南西にある環境システムエリアへと向かう事になった。

舗装されたばかりの道路を一台のマイクロバスが走る。

 

「そういえば、真木君に可愛らしい後輩ちゃんが出来たって噂を聞いたんだけど。」

「飛電・或人君の事ですか。」

 

腕に丸坊主の不気味な人形を乗せる真木の表情が、少しだけ曇る。

 

飛電・或人は、IQ500以上の知能指数を持つ怪物だ。

周囲から神童と謳われ、16歳で飛び級して帝都大学へと進学した真木ですら、或人という少年は異質に映る。

 

「彼なら、帝都大にはもういません。」

「いない? 」

「はい、2年前に大学を中退しました。」

 

かつて、或人は園咲文音教授が責任者として勤めていた、帝都大学遺伝子実験施設で『ガイアメモリ』の研究を行っていた。

ガイアメモリとは、地球に記憶された現象・事象を再現するプログラムが封じられたUSBメモリである。

しかし、2年前に園咲文音が謎の失踪。

研究データは全て持ち去られ、ガイアメモリの研究は打ち切られた。

 

「なので、記憶にはありません・・・・というか、彼の存在は、不愉快過ぎて思い出したくもありません。」

「ハハッ、珍しいな、普段感情を表に出さない君がそれ程嫌うとは。」

 

前の座席に座っている鴻上が、豪快に笑った。

 

鴻上の言う通り、この真木清人という人物は、感情の起伏がまるで無く、重度の対人恐怖症であるが故に、不気味な人形キヨちゃんがいなければ、まともに会話すらも出来ない。

そんな人格に難がある真木ですら、飛電或人という少年(?)を猛烈に毛嫌いしていた。

あの少年を一言で現わすならば、「外道」という言葉がしっくりとくる。

まだ10歳というあどけない年齢であるにも拘わらず、性格は偏屈で毒舌家、皮肉屋であり、熟女好きのエロ餓鬼だ。

自分達の上司であり、師でもある園咲文音に数々のセクハラ行為を働いた挙句、自分にも言葉の暴力を浴びせて来る。

あの少年・・・・否、悪魔は事もあろうに、実姉から貰った大事な人形に屈辱的とも取れる悪戯を度々していた。

眼を離した隙に、ビギニの水着を履かせたり、ペンキの中に落としたり、時には植木鉢に顔だけ出した状態で埋めていた事もあった。

その度に泣き叫び、取り乱す真木を観て、動画に録画し、事もあろうにSNSにばら撒いたのである。

子供ならではの悪戯にしても流石にこれは悪質であった。

 

 

20数年後、ガイアメモリ研究棟、廃棄場。

吹き飛ばされるW。

鉄のコンテナに背中から激突し、ズルズルと下へと落ちる。

 

「下らん・・・・もう少し楽しませてくれないのか? 」

 

エノシガイオスこと仮面ライダーポセイドンは、身の丈程もある槍『ディーペストハープーン』を華麗に一回転させる。

 

800年間の長い眠りから覚め、7年という短い月日が経過した。

その間、アイダという女の命令で、暴走したドーパントやヤミーの始末をやらされていた。

最初は、良い運動だとばかりにヒーローごっこを楽しんでいたが、それもすぐに飽きた。

 

「ううっ・・・・糞が・・・・。」

 

頭を強かに打ち付けたのか、全身を襲う激痛と吐き気で、意識が遠のきそうになる。

 

強い・・・・・今迄、メモリ絡みの事件で様々なドーパントやヤミーと呼ばれる怪人、又はロイミュードという機械生命体とも戦った。

しかし、今眼前に対峙するこの怪物は、そのどれとも当てはめる事は無かった。

否・・・・只一人だけいる。

不死の軍団「NEVER」を従え、風都に恐怖をばら撒いた男。

その名前は、大道克己。

 

『翔太郎、悔しいが今の君ではコイツに勝てない。』

 

今の相棒は、とてもベストコンディションとは言い難い状態だ。

バグスターウィルスに浸食され、免疫が極度に低下している。

激しい倦怠感と寒気に、とても立っていられる状態では無い筈だ。

 

「悪いな、相棒・・・・どうしても、引き下がる訳にはいかねぇ。」

「翔太郎・・・・。」

 

よろよろとメタルシャフトを杖代わりに立ち上がる相棒に、フィリップはそれ以上何も言えなくなる。

Wとして長くコンビを組んでいるからこそ分かる。

翔太郎は、正体不明のこの怪物に取り込まれている少年を救うつもりだ。

一度も言葉を交わした事も無い相手。

しかし、それでもこの左翔太郎という馬鹿な男は救うだろう。

何故なら、彼こそが真の仮面ライダーであるからだ。

 

「ふん・・・・・まだ立ち向かって来るか・・・・。」

 

絶望的な実力差を見せつけられても尚、この左翔太郎という男は折れる様子が無かった。

 

エノシガイオスの脳裏に、炎の剣を持つ一人の戦士の姿が浮かぶ。

遥遠い昔、エノシガイオスが人間であった頃の話だ。

戯れにとある大国を侵略している最中に、彼等は現れた。

「世界の均衡を護る為に、お前を討つ。」

と奴等は言った。

全くもって身の程知らずな連中である。

だから何時もの様に軽く手を捻ってやった。

五大精霊が宿る聖剣を操るだけあり、彼等はそれなりに強かった。

配下であるグリード達と、ほぼ互角の実力を持っていた。

しかし、エノシガイオスの敵では無かった。

アンクから半ば毟(むし)り取ったコアメダルでタジャドルコンボを発動した。

剣士達は、エノシガイオスが放つ熱風にあっさりと倒され、鎧を引き剥がされた。

 

「まさかな・・・・・そんな筈は無い。」

 

あれから既に800年以上の月日が経過している。

目の前に立つ、このか弱い存在が、あの炎の剣士である筈が無いのだ。

 

「相棒、エクストリームメモリだ。」

「・・・・・。」

「どうした? フィリップ。」

「駄目だ・・・今の君じゃエクストリームメモリは使えない。」

「何だと? 」

 

この怪物に立ち向かう為には、Wの最終強化フォームとも言えるサイクロンジョーカーエクストリームでなければならない。

しかし、ボディ担当である翔太郎には、バグスターウィルスという重大な欠陥を抱えている。

その為、エクストリームメモリに備わっている防衛システムが、翔太郎を異物として認識している為、フィリップと完全融合出来ないのだ。

 

「糞っ! あの野郎・・・・・っ! 」

「翔太郎っ! 危ない!! 」

 

フィリップの声と、身体を貫く衝撃が走ったのはほぼ同時であった。

身の丈程もある槍の切っ先が、翔太郎の左肩を貫き、壁へと縫い留める。

 

「ぐぁああああっ!! 」

「命を賭けた決闘の最中に余所見をしてはいけない。」

 

Wの装甲が砕け散り、鮮血が噴き出す。

”ディーペストハープーン”の刃は、ボディメモリの特殊装甲を易々と貫き、翔太郎の左肩に大穴を穿っていた。

 

「嘆くな少年、大丈夫、死は誰にでも訪れる。ある日、無慈悲に・・・・な。」

「くっ・・・・貴様ぁ。」

 

ポセイドンの手が、Wドライバーへと伸びる。

火花を散らし、引き剥がされるドライバー。

変身が強制解除され、元の人間態へと戻った翔太郎をポセイドンが投げ捨てる。

 

「ふむ、これがミュージアムが造り出したドライバーか・・・・成程、ゼウスの奴が夢中になる訳だ。」

 

血だまりの中、藻掻き苦しむ翔太郎を他所に、ポセイドンが先程、引き剥がしたWドライバーを眺める。

800年前、ガラ達、錬金術師が造り出した『オーカデドラル』と何ら遜色ない兵器だ。

流石に、子供が扱うには危険すぎる。

 

エノシガイオスは、暫く手の中でソレを弄んでいたが、何時までも持っている訳にもいかず、あっさりとドライバーを握り潰してしまう。

砕け散るWドライバー。

激痛で霞む視界の中に、ドライバーの破片が床へと堕ちて行く。

 

「さて、それではお祈りの時間だ・・・・楽に死ねます様にとな。」

 

冷酷な金色の双眸。

血に濡れた槍の切っ先が、血だまりの中で横たわる翔太郎へと狙いを定める。

最早、此処まで。

探偵が死を覚悟した瞬間、意識が暗闇の中へと失墜していった。

 

 

 

セクターシティ、砂漠エリア。

小高い丘付近に、全身黒ずくめの男が立っていた。

フレームの無い丸眼鏡に、左腕には丸坊主の不気味な人形を乗せている。

 

「20数年振りのセクターシティですか・・・・すっかり様変わりしたものです。」

 

微かに吹く風が黒ずくめの男‐ 真木清人の頬を撫でた。

その後ろから、黄色い防護服を着た人物が現れる。

透明なフィルムは、付着した砂と泥で汚れ、顔を見る事は出来ないが、その体形で辛うじて男である事が分かる。

 

「プ、プロフェッサー真木、置いてけぼりにするなんて酷いですよ。」

 

疲労困憊っといった様子で、真木の隣まで歩み寄る。

 

「別に、ついて来いと言った覚えはありませんよ? 狩崎君。」

 

隣で、今にも死にそうな程、喘鳴を繰り返している小柄な男を、真木は無表情に見下ろしていた。

 

真木は、とある組織の命令で此処、セクターシティへと侵入していた。

内部に潜り込ませている『協力者』のお陰で、誰にも気づかれる事無く順調に、島の心臓部へと辿り着く事が出来た。

一部のお荷物を除いて。

 

「Oh、人の親切は素直に受けておいた方が良いですよ? 真木先生。」

「親切? 今回のミッションは私一人で遂行するのがベストです。 失礼だが、君がいてはマイナスでしかない。」

「可愛い教え子のピンチを助ける気持ちは無いんですかぁ? 」

「バイスタンプの研究は、組織から君達親子に任されたモノ、私には関係ありません。」

 

けんもほろろな師の態度に、狩崎は内心舌打ちする。

 

戦闘どころか体力面ですらも、凄まじく劣る狩崎が、無理を通して人外の怪物と化した師、真木に同行したのには大きな理由があった。

現在、彼等は所属している組織の命令で「ある研究」を行っている。

 

1971年、今から50数年前に中南米の遺跡である『オーパーツ』が発見された。

オーパーツは、政府の特務機関を経て、自分達が所属する『財団』へと渡り、現在、狩崎親子が研究を続けている。

中南米から発見された『ギフスタンプ』から、様々な生物のゲノム(遺伝子情報)が発見され、バイスタンプの開発へと繋がった。

しかし、此処で大きな壁に衝突してしまう。

人間に押印する事で生み出される悪魔(と呼称される精神エネルギー)をコントロール出来ないのだ。

実体かした悪魔は、持ち主の意志に全く従わず、破壊衝動に駆られ、手当たり次第に暴れ回る。

これでは、当然、商品としての価値はまるで無いのと同じだ。

 

(我慢、我慢・・・・短気は損気よ。 僕の推測が正しければ、ガイアメモリにヒントが必ずある筈。)

 

現在、狩崎親子が取り組んでいる研究は、バイスタンプを利用してのアーマードライダーの誕生だ。

リバイスドライバーの構想はある程度、仕上がってはいる。

しかし、いざ試作品を造り出しても、押印しても全く反応しなかったり、逆に使用者を怪物へと変貌させてしまう。

リバイスドライバーが完成しなければ、最悪、狩崎親子は『財団』から放逐されてしまう。

学会では、既に死者扱いである狩崎親子は、途端、路頭に迷う事になるだろう。

あんな屈辱的想いを二度と味わうつもりなど、当然ない。

 

 

足を取られる砂地に辟易しつつ、真木と狩崎は、旧い研究施設らしき建物へと辿り着いた。

真木の説明によると、この研究棟は、放射能汚染された大地を再生させる研究が行われているのだという。

 

「もう防護服を外しても大丈夫ですよ? 」

 

未だに稼働している為か、この建物は外と違ってちゃんと放射能が除去されている。

窮屈極まりない防護服から、やっと解放されて、狩崎は大きな伸びをした。

 

「それにしても、テラフォーミングの研究をしているにも拘わらず、全然進展ないのはWhat do you mean?(どういう事)」

「態(わざ)とですよ・・・・此処は、彼女達にとっての聖地ですから。」

「Sanctuary(聖地)? 」

「ええっ、コアエナジーの研究は、此処から始まりました。」

 

真木の思考が、遠い彼方の記憶の中へと飛ぶ。

帝都大学理学部に在籍中、恩師であるアイダ教授に半ば無理を通して、この孤島を見学した事があった。

当時は、まだ『蒼樹ヶ島』と呼ばれていた時である。

既に鴻上生体研究所に就職の内定が決定しており、鴻上会長と共に島を訪れた。

 

 

「全く、何処の鼠が潜り込んで来たのかと思ったら、貴方だったの?清人君。」

 

背後から聴こえる妙齢な女性の声に、二人が弾かれた様に振り返る。

するとそこには、右隣に10代後半辺りの白髪の少年を従えた防護服の女性が立っている。

ガスマスクを外したその顔は、セクターシティ総責任者であるアイダ博士であった。

 

「お久しぶりですね。アイダ先生。」

「一年前に死んだと聞かされていたけれど、まさか生きているとは思わなかったわ。」

 

アイダ博士は、ガイアメモリ研究棟で起こった騒ぎを、何者かの陽動だと見抜いていた。

だから、現場を部下である内海に任せ、彼女は、此処砂漠エリアへとやって来たのである。

 

「随分と小賢しい真似をしてくれるわね? 飛電教授と組んで一体何を企んでいるの? 」

「私の名誉の為に申し上げますが、飛電社長と私は全くの無関係です。」

 

心外だ、とばかりに普段無表情な真木の眉根が不愉快気に歪む。

蛇の如く執念深い真木は、学生時代に或人から受けた陰湿極まりない苛めを覚えていた。

真木の人間不信は、或人のせいであると言っても過言ではない。

 

「母さん、コイツ等一体何者なの? 」

 

それまで黙って、アイダ博士の隣に立っていた白髪の少年‐ カザリが口を開いた。

鋭い眼光が、数歩離れた位置で対峙する真木と狩崎を睨みつけている。

 

「害虫よ・・・・生きていてもこの世界に害しか振り撒かない連中。」

 

防護服を脱ぎ、白衣のポケットからロストドライバーとガイアメモリを取り出す。

金色のメモリには、二人の人間が互いの手を握り合い、Uの字を描いた文字が刻まれている。

 

「何も母さんが戦わなくても、僕一人で十分だよ。」

「あの男を甘く見ては駄目、奴は最も危険な紫メダルを全て持っているのよ。」

 

紫メダル・・・・通称、恐竜メダルは、数あるコアメダルの中でも最も異質とされている。

生まれた時から既に完全体であり、カザリの元となったオリジナルやその仲間達を意図も容易く屠(ほふ)っている。

噂では、オーズ最強フォームの一つであるプトティラコンボの一撃ですら傷一つ付ける事が叶わなかったと聞く。

 

「もう一度、地獄に送り返してやるわ。」

 

ロストドライバーを腰に装着し、金色のガイアメモリのスイッチを押す。

ドライバーのソケットに接続すると、「ユートピア」という承認音が聞こえ、博士の身体を無数の粒子が取り囲み、Vのバイザーを付けた金色のライダーへと変身した。

 

「Oh・・・・流石にこれは、I'm not me(拙いんじゃないの)? 」

「狩崎君、君はさっき私を手伝うと言ってましたね? 」

「What are you saying?(え?そんな事言ってないよ?)」

「Good ending for you(貴方に、良き終末を) 」

 

懐から判子の形をしたアイテムを取り出し、問答無用で隣にいる狩崎の胸に押し当てる。

押印された狩崎の胸に巨大な魔法陣が生成。

そこから、炎を纏ったドラゴンが這い出して来る。

 

「なっ!? 」

 

あまりの出来事に、驚愕の表情を浮かべるアイダとカザリ。

炎のドラゴンは、自分を生み出した創造主を護るかの如く、二人に立ち塞がった。

 

「What on earth?(い・・・一体何が? ) 」

「Are you going?(さぁ、いきますよ。) 狩崎君。」

 

生体エネルギーを奪われ、げっそりとやつれた狩崎が、突然、現れた炎の怪物に驚く。

そんな教え子を他所に、真木は己の身体を黒い霧へと変え、驚嘆して腰を抜かしている教え子を包むと、何処へともなく姿を消した。

 

 

 

工業エリアを一台の特殊装甲車が走り抜けて行く。

運転席には、人間態へと戻ったウヴァが、ハンドルを握っていた。

 

『 成程、つまり貴方方、グリードは、アーマードライダーのサポートユニットとして生み出された訳なのですね? 』

「ああ、本来、俺達グリードは、ポセイドンの強化ユニットとして生まれたんだ。ポセイドンドライバーが、俺達のコアメダルをスキャナーして、融合するんだよ。」

 

ウヴァが、助手席に置かれた滅亡迅雷フォースライザーに内蔵されている人工AI、アークに説明する。

 

元々、ポセイドンドライバーは、オーカテドラルの複製体だ。

オリジナルは、オーカテドラルにセットされたコアメダルをオースキャナーで読み取る事で、様々な形態へと変身する事が可能だ。

このシステムは、或人が開発したプログライズキーと全く同じで、故に廃棄場での死闘でウヴァと融合出来たのである。

 

「だからだな・・・・奴が俺達を下に見るのは、ポセイドンドライバーの適合者だってだけで、俺達を道具扱いしてきやがった。」

 

奴・・・とは、勿論エノシガイオスの事である。

エノシガイオスは、同じ同胞である筈のウヴァ達を蔑み、「道具」として見下して来た。

生みの親であるアイダ博士が幾ら窘め、忠告しても全く従う様子が無い。

オマケに大事な末弟であるミハルの命を盾に、脅迫めいた事までしてくる始末であった。

 

「もう、我慢の限界だぜ。 奴は、今すぐ俺が潰してやる。」

 

自然、ハンドルを握る手に力が篭る。

ウヴァが運転する特殊装甲車は、真っ直ぐガイアメモリ研究棟へと向かっていた。

 

 

ディーペストハープーンの切っ先が、倒れる翔太郎の頭蓋目掛けて突き刺さる。

穿たれる凶悪な刃。

その瞬間、翔太郎の意識は一気に覚醒し、飛び起きる。

 

「漸く目を覚ましたか。」

 

一番、聞きたくも無い男の声に、粗い呼吸を繰り返していた翔太郎が頭上を振り仰ぐ。

すると、数歩離れた位置で、上質な革張りのソファーに腰掛ける飛電或人と目があった。

 

「なっ・・・何で、此処に・・・・? 俺は一体・・・・・? 」

 

エノシガイオスによって、左肩を負傷し、止めを刺された筈だ。

しかし、外傷はまるで無く、激痛も嘘の様になくなり、変身も解除されている。

しかも、此処はガイアメモリ廃棄場ではなく、今現在、或人達が宿泊している高級ホテルのスィートルームであった。

 

「無様に殺されそうになった君を私が態々助けてやったんだ・・・・まぁ、あそこで君が死んでも、バックアップはしっかりとってあるから幾らでも復元可能なんだけどね? 」

 

優雅に脚を組みなおし、或人が膝に置いてあるアイパッドを木製のダイニングテーブルに置く。

或人は、監視カメラをハッキングして、エノシガイオスとWこと左翔太郎達の戦いを監視していた。

無様にやられ、命とも言えるWドライバーを破壊された挙句、ジョーカーメモリまで奪われた翔太郎を寸での所でデータ化し、此処に転送したのである。

 

「てめぇ・・・・誰のせいでこんな目にあったと思って。」

「君達のせいだろ? ロクにクライアントの正体も調べもせず、のこのこセクターシティにやって来たんだから。」

 

テーブルの上に置かれたアイパッドに軽く触れる。

するとある人物の立体映像が浮かび上がった。

 

丸いフレーム無の眼鏡に、全身黒のスーツ、そして左腕には禿げ頭の不気味な人形を乗せている。

 

「この人は・・・・・・。」

「この如何にも陰気で、部屋で蛙の解剖をやってそうな男の名前は、真木清人。かつて鴻上生体研究所で所長を勤めていた奴だ。」

 

驚愕で固まる翔太郎に、或人が盛大に溜息を零しつつ解説してやる。

 

「来人君、君も軽率だ。 何故、ガイアベースにアクセスしてコイツの素性を調べなかった? もし、調べていたら依頼等受けなかった筈だ。」

 

或人の視線が、翔太郎の傍らで浮遊している鳥型のメモリへと向けられる。

 

「・・・・・・確かにその通りだ・・・・アレが最初から敵の罠だと見抜いていたら・・・・。」

「止せよ、フィリップ! お前のせいじゃない。」

 

無用心だった。

当時は、財団Xから逃れて来た研究員だとばかり思い込んでいた。

鳴海探偵事務所の所長、鳴海亜樹子が開設したホームページ。

そこに届いた一通のメール。

助けて欲しいという短い文章と共に、指定された場所の地図。

翔太郎が落ち合い場所に訪れると、マスカレードドーパントの集団に襲われている一人の男性がいた。

Wに変身し、辛くも傷だらけの男を救助する。

 

「須藤君だっけ? 君等が助けた財団Xの元研究員。 身柄を預けた風都署から煙の如く姿を消したそうだ。」

「・・・・・。」

 

テーブルの上に置かれたアイパッドに映し出される立体映像。

そこに映る人物は、間違いなく翔太郎が助けた、須藤と名乗る研究員だった。

あの時は、眼鏡など掛けておらず、髪もぼさぼさで血と泥で衣服が破れていた。

当然、左腕に気味の悪い人形等乗せてはいない。

 

「おいおい、何処に行こうってんだ? 」

 

起き上がり、スィートルームの出入り口から出て行こうとする翔太郎の背に、或人の呆れた声が掛けられた。

 

「決まってんだろ、ジョーカーメモリを取り返しに行くんだよ。」

 

これ以上、この厚顔不遜を画に描いた様な男と、会話をする気は無かった。

 

確かに、敵の張り巡らした罠に簡単に堕ちた翔太郎達にも非はあるだろう。

しかし、元を正せば、この男が『バグスターウィルス』に感染させなければ、十二分に勝機はあった。

 

「一体どうやって取り返すつもりだ? もしかして、バイクから人型ロボットに変身する今の子供達が白けて見向きもしない隠し玉でもあるのか? 」

「・・・・・・。」

「それとも呼べばすぐ飛んで来る特撮史上最強秒殺ロボでも待機しているのかなぁ? 」

「・・・・・・。」

「黙ってないで何とか言ったらどうなんだぁ? カリメロ君。」

 

背後から浴びせられる容赦の無い罵詈雑言。

悔しいが、或人が言う通り、ドライバーを失い、ガイアメモリを奪われた今の翔太郎は、ハッキリ言って無力だ。

エノシガイオスに対抗し、ジョーカーメモリを取り返すには、この最低最悪な男に協力して貰わなければならない。

 

「今は冷静になるんだ翔太郎、飛電教授の力が無ければあの怪物には勝てない。」

「そうそう、来人君の言う通りだ。 下手に肩肘張らず、私にお願いすれば良い。」

 

ニヤニヤと笑うその顔は、あまりにも兇悪過ぎて、翔太郎の内に煮えたぎる怒りを抑える事が出来ない。

翔太郎は、相棒の制しを振り切り、室内から出て行く。

後に残される二人。

或人が、上質な革張りのソファーへと背を預け、もう一度大きな溜息を吐きだす。

 

「どうするつもりですか? 」

「あぁ? 」

「翔太郎です・・・・あんな状態で今外に出たら、確実に殺される。」

「うん・・・・仕方ないね。臍が明後日の方向に向いちゃってるから。」

「教授!! 」

 

まるで他人事の様な或人の口調に、等々我慢出来ず、普段温厚な筈のフィリップが思わず声を荒げた。

 

確かに罠だと見抜けなかった自分達にも落ち度はあるだろう。

だが、元を正せば、いきなり横槍を入れ、拘束した挙句、契約を迫り、枷と称して『バグスターウィルス』に感染させたのは、他でもないこの男だ。

 

「大丈夫、コイツがある限り、何度死んでも復元出来る。」

 

激昂するフィリップを他所に、或人は手の中に弄んでいたメモリをテーブルの上へと置いた。

無限回廊を横倒しにした様な、ディスプレイマークの白いメモリ。

かつて風都を恐怖のどん底へと堕とした狂気のテロリスト、大道克己が使用していたメモリだ。

 

 

 

昔々ある所に、とても欲張りな王様がいました。

王様には、とても優秀な錬金術師達が沢山いました。

王様は、その錬金術師達に命令して『オーメダル』と『オーズドライバー』を造らせました。

「欲望」というエネルギーから造られたメダル『オーメダル』。

『オーカテドラル』というベルトのバックルを装着し、『オースキャナー』と呼ばれるアイテムで『オーメダル』をスキャンすると、王様は『オーズ』と呼ばれる怪物に変身しました。

更に王様は、忠実な部下として錬金術師達に『グリード』と呼ばれる人造の怪物も造らせました。

王様は、その力で他国を侵略しました。

他国も、自分達が持つ自慢の兵力で対抗しましたが、欲張りな王様には敵いませんでした。

 

 

「Is that the king 800 years ago?(それが800年前の王様?)」

「that's right.(そうです。)」

 

真木は、壁に描かれている古代の絵を指先でなぞりながら、背後で腰を降ろしている教え子に応えた。

 

此処は、砂漠エリアにある旧研究施設の最下層。

壁一面には、古代人が描いたと思われる壁画と、異形の姿をした石像が並んでいる。

 

ボルゲーノバイスタンプを強引に押印された狩崎は、生命エネルギーをごっそりと奪われた為か、かなり疲労困憊な状態であった。

いくら、アイダ博士とグリードのカザリを抑える為とはいえ、やり方が汚すぎる。

しかし、現状、この男に逆らうのは得策ではない為、狩崎は腹腔内で暴れ回る怒りを何とか抑えつけていた。

 

「But I don't know.(でも、分からないね。)Why is this country with such great technology and power destroyed?(何で、そんなに凄い技術と力を持っていたこの国が滅んでしまったのさ?)」

 

難しい日本語を喋る気力が無い狩崎は、敢えて母国語で師である真木に問う。

 

「I do not understand.(分かりません。)Unfortunately, there is no book that describes the details.(残念ながら、その詳しい記述を記した書物が全く無いからです。)」

 

親切心なのか、真木も英語で教え子の質問に応えてやる。

 

その王である子孫の鴻上の言葉を信用するのであれば、800年前の先代オーズは自滅したのだという。

愚かにも神になりたいと願った王は、全てのコアメダルを己が肉体へと取り込み、そして暴走してしまったのだ。

 

「? 流石ですね・・・・予定通りです。」

 

不図、真木が日本語でボソリと呟く。

すると天井から黒いゲル状の液体が染み出し、床へと伝っていった。

粘着性のある液体は、大きな液溜まりとなり、人型へと形を作っていく。

中から、髪に青いメッシュが入った少年が現れた。

真紅の襦袢を身に纏い、中性的な美貌をしている。

 

「・・・・・ゼググパゾボザ(ゼウスは何処だ。)」

 

暫しの間、真木と狩崎を眺めていた少年‐ミハルは、目的の人物がそこにいない事に大分腹を立てている様子であった。

秀麗な眉根を不愉快気に歪め、二人の男を睨み付ける。

 

「パダギダヂパゼググザバゲンザギシビンゼグ。(私達はゼウス博士の代理人です。)」

「ザギシビンザド?(代理人だと?)」

 

真木の言葉に、少年が苛々した様子で舌打ちした。

そんな不思議なやり取りを、床にへたり込んだ状態で眺める狩崎。

彼の長年の研究から、彼等二人が『グロンギ』と呼ばれる古代人の言葉で会話しているのは何とか分かる。

 

「ザバゲパドデロギゴガギギゾグゼグ。バボゼパダギダヂグザギシゼブスボドビバシラギダ。(博士はとても忙しい方です。なので私達が代理で来る事になりました。) 」

 

警戒する少年を宥める為か、真木は内ポケットから小さな箱を取り出した。

蓋を開けると、中には赤、緑、黄色の三色をしたコアメダルが納められている。

 

「ボセゼギンジョグギデロサゲラグババ?(これで信用して貰えますかな?)」

 

差し出された三枚のコアメダルと真木の顔を交互に眺めていた少年は、仕方が無さそうに溜息を吐きだす。

そして、右手に握り締めている何かを、真木に見せた。

 

「一応、君達を信じよう・・・・それと、君が話すグロンギ語は訛りが酷い。お陰で聞き取るのに苦労する。」

 

真木に渡したのは、USB状のアイテム‐ ジョーカーメモリであった。

真木もコアメダルが入った箱を、ミハルの身体を支配しているエノシガイオスへと渡す。

 

「Hey, teacher, who the hell is this kid?(ねぇ、先生、この子一体何者?)」

 

とうとう我慢出来なくなったのか、狩崎が師の着ている背広の袖を引っ張る。

しかし、真木はそんな教え子の質問に応える事は無かった。

腰が完全に抜けて立つ事が出来ない狩崎を、軽々と肩に担ぎ上げ、エノシガイオスに背を向ける。

 

「They will come here after defeating the demons who are stranded.(足止めしている悪魔を倒して彼女達が此処に来ます。)Escape from this island before it becomes a hassle, right?(面倒な事になる前に、この島から脱出しますよ?)」

 

再び黒い霧へと姿を変え、教え子を抱えた真木が地上へと向かう。

横抱きに師に抱えられた狩崎の視界に、蜃気楼の如くオーズへと姿を変えるエノシガイオスの姿が焼き付いた。

 

 

ウヴァ達がガイアメモリ研究棟に辿り着くと、現場は酷い有様になっていた。

正門を警護していたXガーディアンの部隊がほぼ壊滅。

同じ様に護衛として置いていたドーパント達も、塵へと還り、無残に壊されたガイアメモリが散乱している。

 

「糞! 遅かったか! 」

 

滅亡迅雷フォースライザーを右手に掴んだウヴァが、忌々し気に舌打ちする。

研究棟を襲ったのは、エノシガイオスの奴でほぼ間違い無い。

ミハルの肉体を利用し、何を企んでいるのか皆目見当が付かないが、このまま放置する訳にはいかなかった。

 

研究棟の様子を伺う為、ウヴァが一歩踏み出したその時であった。

頭上から刃の如く突き刺さる殺気に、条件反射で後方へと跳ぶ。

眼前スレスレで閃く、銀色の閃光。

日本刀を構えた黒のアンダースーツに金色の装甲。

昆虫を連想させる複眼が、数歩離れた位置で対峙するウヴァを睨みつけている。

 

「ち、飛電エントリジェンスのアーマードライダーか。」

 

一体何処から潜り込んで来たのか、飛電社長が連れて来たライダーは、一人だけでは無かった様だ。

舌打ちし、元のグリード態へと変身するウヴァ。

途端、左腕で掴んでいた滅亡迅雷フォースライザーが、ウヴァを止める。

 

『待って下さい、ウヴァさん! この方は敵ではありません! 』

「何だと? 」

 

戸惑うウヴァ。

対峙する未確認のアーマードライダー・・・・滅も愛刀の柄を握っていた手を緩める。

 

「アーク? 良かった! あのムカデ怪人に壊されちゃったかと思ったよ! 」

 

仮面ライダー・ゼロワンから少し離れた位置で立っていた迅が、ウヴァの右手に握られている滅亡迅雷フォースライザーを見て、思わず駆け寄ろうとした。

その腕を滅が掴んで制止する。

 

「滅? 」

「無暗に近づくのは危険だ。」

「でも・・・・・。」

 

滅の言葉は常に正しい。

幾ら彼等の大事な仲間である『アーク』が敵では無いと言っても、そう簡単に信じるのは危険過ぎる。

 

「ち、面倒臭ぇなぁ。」

 

未だ警戒している二人の様子に、ウヴァはガシガシと頭を掻くと、グリード態から人間へと戻った。

元々、彼等は敵同士である。

しかし、廃棄物処理場での戦闘後、ウヴァとアークとの間には奇妙な信頼関係が出来ていた。

 

「おい、返してやるからちゃんと受け止めろよ? 」

『え?ちょ、ちょっとウヴァさん? 』

 

アークの了解も得ず、ウヴァはあっさりと迅達に滅亡迅雷フォースライザーを投げ渡す。

条件反射で受け取る迅。

漸く返って来てくれた友達に、自然と顔が綻ぶ。

 

「何のつもりだ? 」

 

何故、ウヴァがフォースライザーを返したのか、その意図が全く理解出来ない。

 

「ソイツには借りがあるからな・・・・これでチャラって事にしといてやる。」

「・・・・・。」

 

どうやらこのグリードは、自分達と戦うつもりが全く無いらしい。

滅は、仕方なく愛刀を鞘へと納めた。

 

 

カザリとフュージョンした仮面ライダー・ユートピアが、ドラゴンデッドマンに必殺の”ライダーキック”を放つ。

胴体に大穴を開けられ、爆散する炎の竜。

華麗に着地を決めるも、突然、バランスを崩し、変身が強制解除された。

力無く倒れ伏すアイダ博士。

フュージョンが解けたカザリが、グリード態のまま真っ青な表情で実母へと駆け寄る。

 

「母さん!! 」

「だ、大丈夫・・・・少し眩暈を起こしただけよ。」

 

愛する息子に心配を掛けさせたくないアイダは、無理に笑顔を作ってみせる。

 

「やっぱり、このメモリは危険だよ。 ノンスタード(規格外)メモリでも毒素が強すぎる。」

 

血の気が完全に失せ、額にびっしりと汗を掻く母親を抱き起す。

 

ロストドライバーを使用し、メモリに内在している毒素を中和しても尚、ユートピア・メモリは使用者の生気を吸い尽くす。

しかし、数多く存在するガイアメモリの中でも、ユートピアメモリはエターナル同様抽出が大変難しく、その代わり、パワーはどのメモリよりも絶大だ。

 

「は・・・早く、真木達を追い掛けないと・・・・嫌な予感がする。」

 

息子の肩を借り、何とか立ち上がる。

 

真木清人は、紫メダルの適合者だけではなく、人間的思想でも退廃的で危険な男だ。

帝都大時代は、その優秀さから色々と目を掛け、鴻上生体研究所の研究員へと推薦してやったが、今から思えば愚かな事をしたと悔いている。

 

「せめてメズール達と合流してからの方が良い。」

「駄目よ・・・・そんな時間は・・・・。」

 

突然、研究棟を巨大な地震が襲った。

立っていられなくなり、二人共床に膝を付く。

どうやら、地震の発信源は、最下層にある墓所からであった。

 

 

その異変は、セクターシティ全体に及んでいた。

 

 

遠くで誰かが自分の名前を呼んでいる。

徐々に覚醒していく意識。

閉じていた瞼を開けると、あまりの凄惨極まる光景にミハルは、思わず言葉を失っていた。

 

紅蓮の炎に蹂躙される樹々。

地に倒れ伏す血塗れの人間達。

破壊され尽くした街。

まさに阿鼻叫喚の地獄絵図である。

 

「どうして・・・・こんな・・・・。」

 

意味が全く理解出来なかった。

今の自分は、半透明の姿で虚空を漂っている。

 

「・・・・っ! アレは・・・・!? 」

 

ミハルの視界に見知った姿が映った。

漆黒の長外套(マント)を纏い、異形の甲冑を纏う王に従う五人のグリード。

ウヴァ、メズール、カザリ、ガメル・・・・そしてもう一人は、ミハルが全く見た事も無いグリードであった。

 

『ミハル・・・・私は、お前を救えなかった・・・・。』

「エノシガイオス・・・・。」

 

頭の中に直接響く声は、ミハルの半身であるグリード‐ エノシガイオスであった。

深い哀しみを湛えた声。

ミハルの視線が、”王”に抱かれた16歳ぐらいの少年へと向けられる。

自分と全く瓜二つな容姿。

蝋細工の如き血の通わぬその身体は、誰の目から見ても、命の灯が既に消えている事が分かる。

 

『奴等は・・・・”ソードオブロゴス”と呼ばれる組織の剣士共は、秩序を正すという戯言をほざき、私の光を奪った。』

「・・・・・。」

『これは、後で分かった事だが、奴等を我が国に差し向けたのは、大国の王達だった・・・”オーメダル”と”オーカテドラル”の力を恐れた奴等は、”ソードオブロゴス”に助力を求めたのだ。』

 

”オーズ”の強大な力と、卓越した内政手腕で、数々の大国と対等な立場で外交をしていた王であったが、突然、聖剣を持つ5人の剣士達が王への謁見を求めた。

彼等は、世界の秩序を護る使命があると述べ、王が持つ『オーメダル』が世界の均衡を崩す危険な代物であると指摘した。

そして、今すぐに『オーメダル』と『オーカテドラル』を渡し、コアメダルの研究を中止しろと手前勝手な事を述べて来たのだ。

当然、王はそれに反対した。

 

「・・・・・ガイ・・・俺は・・・・。」

『そう、君はミハルの器だ。 肉体は再生出来たが、魂だけはどうしても生成出来なかった。』

「・・・・・・。」

 

恐るべき事実を聞かされ、ミハルは言葉を失う。

 

『ガギギデスジョ、リザス。(愛してるよ、ミハル)』

「ジャレソ。(やめろ・・・。)」

『パダギドゴラゲパゲギドグバシンドンラヅゲギ。(私とお前は正統なリントの末裔)ドサギジンンボンベヅジゾロバサボンヂゾドシロゾグ。(渡来人の混血児共からこの地を取り戻す。)』

「ギダダギ、ギラガサバビゾ(一体、今更何を) 」

 

そう言いかけたミハルの眼前に、三枚の光輝くメダルが現れた。

赤、黄色、緑のメダルには、鷹と虎、そしてバッタの絵が彫り込まれている。

 

『パダギンボガレザスザ。(私のコアメダルだ。)ジャドドドシロゾグボドグゼビダ。(やっと取り戻す事が出来た。)』

「・・・・・。」

『ボンゾボゴパダギパバリビバデデ、ゴラゲゾジョリガゲサゲス。(今度こそ私は神になって、お前を蘇らせる。)』

 

三つのコアメダルが、ミハルの身体へと取り込まれていく。

びくりっと痙攣するミハル。

意識が再び奈落の底へと堕ちていった。

 




セイバー、リアタイで視聴しとけばよかった。


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第6話 『決断 』

P・C・S・A・・・・内閣官房長官・徳田護が対ハイテク犯罪を想定して造り出した特殊公安部隊。
その構成員の殆どが仮面ライダーで占められており、風都署の刑事、照井竜、警視庁の刑事、泊進ノ介、詩島 剛、チェイサー、自衛隊からは、不破 諫、刃 唯阿等が所属している。
又、自分の腹心の部下として、三体のロイミュードを従えている。




少々、乱暴に真木から落とされた狩崎は、硬い地面とキスをする羽目になった。

 

放射能汚染された砂漠エリアから数キロ離れた貯水エリア。

清んだ空気が、狩崎の鼻孔をくすぐる。

 

「It's terrible, teacher.(酷いよ、先生。) 」

「You are the one who followed you, right?(勝手について来たのは貴方ですよ?) 」

 

未だ腰が抜けて動けぬ教え子に、真木はまるで路傍の石でも眺める様に冷たく一瞥する。

そして、胸ポケットからスマホを取り出すと、何処かへと連絡を取り始めた。

師の背中を眺め、舌打ちする狩崎。

結局、目ぼしい収穫はまるで無かった。

どうやらガイアメモリからヒントを得るという発想は、完全な空振りに終わってしまった様だった。

そんな不貞腐れる教え子に、真木は通話が終わったスマホをポケットに仕舞い、代わりに掌に収まるスタンプを取り出す。

砂漠エリアの旧研究棟で、狩崎の胸に押印したボルゲーノバイスタンプだ。

 

「狩崎君、君に課題を一つ上げましょう。」

「what? 」

 

投げ渡されたスタンプを条件反射で受け取る狩崎。

師の意図が全く分からず、掌に収まるボルゲーノバイスタンプと真木の顔を交互に見比べている。

 

「そのボルゲーノバイスタンプは、あくまで試作品です。それと君が今研究しているリバイスドライバーを完成させなさい。」

「良いの? これって”敵に塩を送る”って事になるけど・・・・。」

 

やっと失われた体力が戻って来たのか、狩崎はボルゲーノバイスタンプを右手に握り、よろよろと起き上がった。

この男は、自分がある組織から送り込まれたスパイである事を見抜いている。

なのに、敢えてセクターシティに同行する事を簡単に許し、おまけにバイスタンプの研究で行き詰っている自分に、解決策まで与えているのだ。

 

「私は、”真理の探究者”・・・・君達親子の事や財団の事等、興味ありません。」

「へぇ・・・”真理の探究者”ねぇ・・・。」

 

この男は、自分が知っている真木・清人とは明らかに違う。

昔の師は、終末論を唱え、世界の終わりを静かに眺める狂人だった。

一体、この男に何が起こったというのだろうか?

 

「狩崎君、君にヒントをもう一つあげましょう。」

「ヒント? 」

 

教え子に背を向ける師は、右手の人差し指を一本だけ立てる。

 

「原初の人間を探しなさい。 ボルゲーノバイスタンプ、リバイスドライバー、そして適合者たる原初の人間の三つが揃って初めて君の研究は完成するでしょう。」

 

一本、一本指を立て、真木が教え子へと振り返る。

その双眸は、紫色の怪しい輝きを放っていた。

 

 

腹腔内を荒れ狂う怒りを抑え切れぬまま、左・翔太郎は、ホテルの長い廊下を歩いていた。

Wドライバーどころかジョーカーメモリすらも失われた今の翔太郎は、飛電・或人が言う通り、無力に等しい。

あの仮面ライダー・ポセイドンに対抗するには、Wの最終強化形態であるサイクロンジョーカーエクストリームだけである。

しかし、バグスターウィルスに感染している今の翔太郎では、エクストリームメモリが異物として判断し、使用する事が出来ない。

八方塞がり、完全なお手上げ状態である。

 

「うわっ、何だ、何だぁ!? 」

 

突然の地震が、建物全体を大きく揺らす。

立っていられなくなり、床に片膝をつく翔太郎。

まるでマグマの噴火の如く、商業セクターの地面が割れ、蒼白い光の柱が何本も突き立つ。

 

「翔太郎っ! 」

 

激しく鳴動し、立っていられない翔太郎に向かって、鳥型のメモリが使づいた。

エクストリームメモリと一体化した相棒のフィリップだ。

その後ろには、両手をポケットに突っ込んだ飛電或人が、特殊ガラスの壁を眺めている。

 

「どうやら、恐れていた事が現実になりそうだな? 」

 

旧約聖書に描かれる終末の様な外の光景に、或人がぽつりと呟いた。

 

 

 

その報告を受け、内海・成彰は小さな溜息を吐き出した。

森林セクターの管理者として与えられた管制塔の自室。

工業エリアでの一件後、彼は身支度を整える為に、総責任者であるアイダ博士の命令を無視し、逸早く此処へと移動していた。

 

「結構、気に入ってたんですけどね。」

 

視線が、オフィスデスクの上に乗る、小さな写真立てに向けられる。

4人の子供達に囲まれ、生まれたばかりの赤子を抱いて幸せそうに笑う女性。

このセクターシティの総責任者であるアイダ博士と、彼女が生み出したグリード達である。

この写真は、アイダ博士がセクターシティの総責任者として主任した一年目に撮影されたモノであった。

撮影したのは、勿論、内海自身であった。

 

内海は、”財団”からアイダ博士と鴻上光生を監視する為に送り込まれたスパイだった。

”財団”は、両名を危険視しており、敵対行動を見せる様ならば、内々に消せ、と命令を受けていた。

しかし、内海は出来なかった。

鴻上は己の欲望に忠実な愚か者であるが、それに反し、アイダは人間としても科学者としても優秀過ぎる人物だった。

部下の面倒見も良く、島に派遣された研究員も彼女を慕い、皆、一丸となってコア・エナジーの研究に取り組んでいた。

荒れ果てていた蒼樹ヶ島が、研究島としてこれだけの発展を遂げる事が出来たのは、一重にアイダの手腕によるところが大きい。

知らず知らずのうちに、内海は一人間として彼女を尊敬していた。

 

このセクターシティは、理想郷だ。

小さな諍(いさか)いはあるが、それでも皆が上手くコミュニティを築き上げている。

 

内海は、重要書類と三枚の紫メダル、そして二本のガイアメモリが収まったアタッシュケースを左手に持つ。

そして、自分のデスクに置かれたトランスチームガンを手に取り、躊躇いも無く引き金を引いた。

忽ち煙が発生し、内海の身体を包む。

すると瞬く間に、蝙蝠の意匠を持つ怪人へと姿を変えた。

 

「さようなら、アイダ博士。 」

 

蝙蝠の怪人‐ ナイトローグは、そう小さく呟くと、デスクに置かれた写真立てを伏せた。

 

 

 

各セクターから、巨大な蒼白い柱が天へと昇っている。

その異変を目撃した滅達は、ウヴァと共に一路、アイダ博士がいる砂漠エリアへと向かう事にした。

 

『凄まじい量の放射能ですね。 生身の人間が此処に入ったら一分も持ちません。』

「仕方ねぇよ。 お袋が誰にも近づかせない様にする為に、敢えて汚染地区をそのままにしといたんだからな。」

 

特殊装甲車の運転席に座ったウヴァが、後部座席に座る迅の膝に置かれた滅亡迅雷フォースライザーに向かってそう応えた。

因みに滅は、変身を一旦解除し、助手席に座っている。

 

成り行き上とはいえ、隣でハンドルを握るグリードは、自分達、滅亡迅雷netの敵だ。

主である或人の命令で、仕方なく協力関係にいるが、油断は決してしないつもりである。

 

「エノシガイオスというグリードについて、もう少し詳しく教えて貰おうか。」

 

この異変を引き起こした張本人、エノシガイオス。

環境システムで、迅が対峙し、ムカデ、アリ、ハチの三枚のコアメダルを使用して、ムカチリコンボという強化フォームへと変身してみせた。

そして、その圧倒的とも言える力で、意図も容易く迅を捻じ伏せたのである。

 

「・・・・・奴は、俺達グリードの末弟、ミハルの半身だった。」

 

ウヴァは、記憶の糸を手繰り寄せる。

 

強大過ぎる力を持つポセイドンドライバー。

その適合者が中々見つからず、研究は難航した。

だが、自分達の生みの親であるアイダ博士は、かつて帝都大で同期であった園咲文音の生み出したWドライバーの特殊なシステムにヒントを得たのだ。

使用者の肉体と精神を二つに分け、変身者に掛かる負荷を軽減させる。

その為、最後に生まれたグリードは、二人で一つのグリードという、歪な形になったのだ。

アイダ博士の目論見通り、ミハルと精神体であるエノシガイオスは、無事適合する事が出来た。

それどころか、博士の予想を遥かに上回る戦闘の数値を叩き出したのである。

 

「最初、奴は言葉を話すどころか、俺達にすらその姿を見せる事が無かった。」

 

十数年にも及ぶ、長い共同生活。

末弟のミハルは、少々臆病すぎる性格をしていたが、争い毎を極度に嫌い、気の合うガメルと常に一緒に行動していた。

しかし、ミハルが14歳の誕生日を迎えるとその態度は豹変。

共生関係にあるミハルを力で抑えつけ、一番の親友であるガメルを傷つけたのだ。

 

「奴は、お袋の目を盗んじゃミハルの身体を使い、紫メダルを大量に造る様になった。」

「紫メダル? 」

「ああ、通称”幻獣メダル”・・・お袋に言わせると、現代の科学技術では決して生み出す事が出来ない幻のコアメダルらしい。」

 

エノシガイオスは、ミハルの意識を抑えつけ、肉体を乗っ取ると環境システムに侵入し、核融合炉とミハルの能力(ちから)を使って、コアメダルを精製していた。

そのせいか、ミハルは極度に衰弱し、仕事場である農園で倒れてしまったのだ。

 

「お袋は、何度もエノシガイオスとミハルを分離しようとしたが、駄目だった。持っているコアメダルの枚数が違い過ぎるし、下手に分けるとミハルが死んじまう。」

 

そう、何時しか力関係は、逆転していた。

ミハルは半身であるエノシガイオスを抑え切れなくなり、半ば、奴隷の様に従う様になっていたのである。

おまけにコア・エナジーが不安定になり、島周辺の海域にまで、その影響を及ぼした。

あれ程、美しかったサンゴ礁が全て死滅し、生息していた魚も、放射能で汚染されてしまったのである。

 

「・・・・・可哀想だが、ミハルという少年は諦めるしかない。」

「何だと? 」

 

冷酷とも取れる滅の言葉に、ハンドルを握るウヴァが気色ばむ。

 

「このままコア・エナジーの暴走が加速すれば、島が崩壊するのも時間の問題。そうなる前にエノシガイオスというグリードを倒す必要がある。」

 

誰よりも家族愛が強いウヴァには申し訳ないが、人命の多さとたった一人の少年の命では、何方の天秤が傾くかは自明の理。

ならば、其方を優先するのが当然ではある。

 

砂漠エリアに向かう前に、セクターシティで業務に準じている研究員や作業員達には、避難勧告を通達したが、彼等が全員この島から離れるには時間が無さ過ぎる。

それに、この島が崩壊したら、大量の放射能が撒き散らされ、日本海域や本土にどんな影響を及ぼすのかも分からなかった。

 

「ちっ!! だけどよっ!! 」

 

ウヴァも、それは痛い程理解してはいる。

元々、彼等の生みの親であるアイダ博士が、飛電或人を視察に招待したのは、この島が今置かれている現状を理解して貰う為だ。

まさかエノシガイオスが、これだけ早く事を起こすとは予想出来なかった。

こうなってしまった以上、滅の言う通り、末弟のミハルには犠牲になって貰うより他に術は無い。

 

「大丈夫、パパならきっとミハルちゃんを助けてくれるよ。」

 

悲観的な空気が場を支配する中、能天気な声が後部座席から聞こえた。

滅亡迅雷フォースライザーを膝に乗せている迅だった。

 

「僕のパパは凄いんだぜ。何てったって世界最強の天才科学者だからね。どんな最悪な場面でも、パパの言う通りにしたらみんなハッピーエンドになるんだ。」

「迅・・・・。」

 

飛電或人という男は、迅の言う通り天才的な発明家であり、様々な策謀を巡らす策士だ。

きっと、この事態もある程度は予想していただろう。

しかし、滅は迅と違って楽観視する事が出来なかった。

一重に、或人(ヤツ)の最悪極まる人物像がいけない。

 

愛息子である迅を、或人は溺愛していた。

だから、迅の前では恰好良くって正義感の強いヒーロー像を演じ続けていた。

だが、そう思い込んでいるのは迅だけで、周囲の人間達(勿論、自分や他のメンバー達も含む)は、全くの真逆だった。

偏屈で毒舌家、皮肉屋で浮気性で超ド級のMで、気分屋のドケチ野郎だ。

自分に歯向かう奴等は、徹底的にオーバーキルし、逆らう事を許さない。

それ故、敵もかなり多い。

一番、代表的なのが、内閣官房長官・徳田護という人物だった。

彼は、ハイテク技術を持つ反社会的勢力に対抗すべく『P・C・S・A(Paranormal crime special agency-超常犯罪特務機関)』という組織を発足した人物である。

構成員の殆どが、仮面ライダーで占められ、代表的なのが、風都署の刑事、照井竜、警視庁の刑事、泊進ノ介、自衛隊出身の不破諌や刃唯阿等がいる。

又、噂によるとロイミュードを数体、自分の懐刀として従えていた。

或人達、飛電エントリジェンスも技術提供を行っている為、官房長の徳田とは、それなりどころか大事なクライアントという関係だ。

しかし、「あんな鋼鉄超合金とまともな会話等出来るか。」と、或人本人は徳田の事を蝦蟇か蝮の如く嫌っているのである。

嫌う理由は一つ、徳田の『絶対的法の番人』というスタンスにあった。

彼は、徹底して中立的な立場を貫き、一切の妥協を許さなかった。

技術提供を行っている飛電エントリジェンスも同様で、譲歩を呼び掛けても一向に耳を傾ける事はしなかった。

それが、或人の癪に障り、「鋼鉄超合金ロボ、六法全書人間、時代錯誤のヒーロー。」と言いたい放題暴言を吐き捲っている。

勿論、徳田自身も或人を危険視しており、態度こそ紳士的だが、必ず何かしらの兇悪事件を起こすだろうと、日々厳しい視線を此方に向けていた。

 

 

砂漠エリアへと向かう黒塗りの特殊装甲車内。

後部座席に座る飛電或人が、盛大なくしゃみをかましていた。

 

「うわっ、何だよ? 汚ねぇなぁ! 」

 

真向かいに座る翔太郎が、露骨に嫌な顔をして、鼻を啜る若い社長を眺めている。

 

二人は、地震の発生源である砂漠エリアに向かっていた。

そこは、重度の放射能に汚染されている危険区域だ。

二人共、防護服に身を包み、ハッキングしたXガーディアンの一体に運転を任せ、問題の砂漠エリアへと向かう。

 

「飛電教授、貴方の目的は一体何ですか? 」

 

翔太郎の隣に腰掛ける相棒のフィリップが、胸の中に溜め込んでいる疑問をぶつけてみる。

此方は、エクストリームメモリの機能により、3Dの立体映像で映し出されていた。

 

「目的? そんなモノを聞いてどうする? 」

 

ティッシュで鼻をかみ、ゴミ箱に投げ入れる或人が、胡乱気な視線をフィリップへと向けた。

 

「個人的好奇心です。」

 

そんな或人に対して、フィリップも素っ気なく返す。

この男の目的が、コアエナジーである事は一目瞭然だ。

鴻上ファウンデーションと企業提供を行い、潤沢な資金を出資しているのも、新たなエネルギー源として注目を集めるコアエナジーの利権欲しさであるに違いない。

 

「このオッサンの目的は、コアエナジーだろ? 会社の利益の為なら何でもする社長様だもんな。」

 

金と名誉と女が何よりも好き、という或人の悪名は、勿論、翔太郎も知っている。

女性週刊誌や様々なゴシップ記事のネタに、事欠かない男だ。

今回も、汚い手段を弄して、コアエナジーを独り占めにするつもりだろう。

 

「そう思いたきゃ勝手に思ってろ、カリメロ君。」

「・・・・っ、そのカリメロっての止めろよ、俺は左翔太郎様だ。」

「落ち着け、翔太郎。」

 

今にも跳び掛かりそうな相棒を、フィリップが何とか窘める。

ビギンズナイトやミュージアムの件で大分、人間的にも成長したと思っていたが、この煽り耐性の無さだけは、治らなかったみたいだ。

 

「どんなに鳴海荘吉氏のコスプレをしても、君は絶対彼を超える事も代わりになる事も出来ない。」

「何だと! 」

「そこだよ、私の安い挑発にすぐ反応する。それが、荘吉氏と君の違いだ。」

「・・・・・。」

 

痛い所を或人に指摘され、翔太郎が喉の奥で唸り声を上げる。

 

翔太郎にとって、鳴海荘吉は憧れの対象であり、決して超える事が出来ない壁だ。

何時いかなる事態でも決して冷静さを失わず、自らの感情を押し殺し、成すべき事を成す。

正に、翔太郎が憧れるハードボイルドを体現したかの様な人物が鳴海荘吉であった。

 

「貴方は、前鳴海所長をご存知なんですか? 」

「ああっ、彼とは文音先生・・・君のお母さんを巡って対立していたからね。」

 

フィリップの何気ない質問に、或人はあっさりと応える。

 

帝都大時代、或人は文音の美貌にすっかりやられ、彼女が責任者を務めている遺伝子工学科に入った。

彼女の右腕として、その類稀な才能を遺憾なく発揮し、身も心も文音に尽くした。

そのかいあり、或人は一本のT1メモリ‐ スカルメモリを生み出した。

 

「恋敵である私が言うのもなんだが、鳴海荘吉という男は、心技体全てを兼ね備えた人物だった・・・まぁ、超ウルトラスペシャルな頭脳を持つ私には到底叶わなかったが。」

「・・・・・はぁ。」

 

一応、念の為に言っておくが、母・文音は風都の資産家、園咲琉兵衛の妻である。

フィリップが幼い時は、誰もが羨むおしどり夫婦だった。

そんな琉兵衛の存在を完全に忘れ、或人は師である文音との甘い過去に浸っている。

目の前に、琉兵衛と文音の愛の結晶たるフィリップこと園咲来人がいるにも拘わらずにである。

 

「鳴海荘吉は、どんな逆境に立たされ様と、決して諦める人物ではなかった。どんなに叩きのめされても立ち上がり、果敢に立ち向かった。」

「・・・・・・。」

「この超天才的、人類の英知の集大成である私ですら認める男だったのだよ。」

 

遠い過去の記憶。

師であり初恋の女性、園咲文音の隠された正体。

次世代型ガイアメモリとそれを使用する新型ドライバーの開発。

愛する文音に振り向いて欲しい一心で、次世代型ガイアメモリ第一号のスカルメモリとロストドライバーを造り出した。

文音の笑顔を観たいが為に、彼女に新型メモリとドライバーを見せた。

しかし、予想に反して、彼女は戸惑い、怒り、何故この二つを造り出したと幼い或人を問い詰めた。

或人は、文音の剣幕に怯えつつ、彼女のラボにあった研究資料を盗み見た事。

彼女が、新型メモリとドライバーの開発、そして更にその先をいくガイアメモリの研究が上手くいっていなかった事。

自分なら、彼女の苦境を救える。

だから、新型ガイアメモリとロストドライバーを造り出したと正直に話した。

だが、それが間違いの始まりだった。

文音は、夫である園咲琉兵衛の野望を知り、ガイアメモリの開発に道具として使われる息子、来人を救う為に敢えて、研究が上手くいっていないと嘘を吐いていたのである。

つまり、或人が良かれとしてやった行為は、彼女にとって余計な事だったのだ。

 

 

そんな何とも言えない気まずい空気が流れる中、一同を乗せた特殊装甲車両は、目的地である砂漠エリアに到着した。

旧研究棟の前には、先客が既にいるのか、二台の装甲車両が停車している。

 

「あ、あれは・・・・。」

 

防護服を着た翔太郎が、研究棟の建物を突き破って天へと上る蒼白い光の柱を見上げた。

商業セクターで、見た代物と全く同じモノだった。

 

「高濃度のコアエナジーだな。 このまま放出が続けば、この島にある海域の生物は全滅するぞ。」

「な、何だと!? 」

 

或人の口から出た思わぬ言葉に、翔太郎は驚愕に双眸を見開く。

 

コアエナジーとは、即ち地球の生命エネルギーの事だ。

アイダ達、研究員は、そのコアエナジーを元に『オーメダル』や『ガイアメモリ』を造り出している。

 

「早く何とかしないと・・・・。」

 

エクストリームメモリと一体化しているフィリップが、呻く様に呟いた。

これだけ高濃度のコアエナジーが、噴出を続ければ、この一帯にどんな悪影響を及ぼすか分からない。

 

一同は、早速、研究棟へと入り込んだ。

 

 

「ああっ!! 」

 

悲鳴を上げ、床へと叩きつけられる女性科学者。

変身が強制解除され、倒れた拍子で外れたドライバーが床へと転がる。

 

「母さん!! 」

 

生みの親であるアイダ博士の元へと走るカザリ。

しかし、その眼前を、上半分を失った骸骨の様な頭と、白い紙屑の様な骨が纏わり付いた上半身を持つ怪人‐ ギフジュニアの集団が立ち塞がる。

 

「糞っ!何なんだよ! コイツ等! 」

 

ドレッドヘアーの様な鬣がうねり、そこから無数の光弾を母、アイダ博士に襲い掛かろうとしているギフジュニアの集団へと放つ。

爆散し、爆風の衝撃で吹き飛ばされる骸骨の群れ。

しかし、床がコールタールの如く液状化し、そこから次々と骸骨の兵士達が這い出して来た。

 

「ちっ! 母さんから離れろよぉ!! 」

 

倒れ伏すアイダ博士を庇う様に、カザリが立つ。

この怪物共を生み出したのが、末弟の半身、エノシガイオスである事は間違いないだろう。

どんな方法を用いたのか分からないが、奴はコアエナジーの力を使って、ギフジュニアやドーパント達を操っている。

早く奴を何とかしないと、此方がやられてしまう。

 

そんな焦燥感に駆られている時であった。

蒼白い雷撃が、襲い来る骸骨集団を薙ぎ払う。

続く氷の槍と鋭い棘が付いた岩の弾丸。

ギフジュニアを貫き、引き裂いていった。

 

「大丈夫か? カザリ!? 」

 

疲労困憊のカザリと気絶したアイダ博士を救ったのは、同じ兄弟であるウヴァ達だった。

途中、合流したメズールとガメルの他に、見た事も無いアーマードライダー二人がいる。

アーマードライダー達は、互いの得物を取り出すと、骸骨軍団へと躍り掛かった。

 

「・・・・・メズール? 」

 

グリード態へと変わったメズールに抱き起され、アイダが薄っすらと閉じていた双眸を開く。

メズールは愛する母に抱き着きたいのをぐっと堪え、治癒能力で母親が負った傷を癒していった。

 

「一体何なんだぁ? コイツ等。 」

 

両腕をブレード状へと変化させたウヴァが、骸骨兵達を斬り裂いて行く。

 

「霊廟で眠っていた古代人の遺体だよ。 どんな方法を使ったのか、エノシガイオスの奴がコアエナジーを使って操っているんだ。」

「し、死体! ゾンビ! 怖い!! 」

 

深夜帯に放映されている恐怖映画を思い出したのか、ガメルが鋼鉄の籠手を振り回し、自慢の怪力でギフジュニアを殴り飛ばした。

 

「て、事はコイツ等を幾ら倒しても無駄って事か。」

「そういう事になるね、核融合炉を強制停止させてコアエナジーの供給を止めない限り、エノシガイオスの奴は無尽蔵にヤミーやドーパントを造り出す。」

「それは本当か? 」

 

そう応えたのは、兄弟のウヴァではなく、黄色を基調としたスーツを纏うライダーであった。

愛刀‐子狐丸を巧みに操り、ギフジュニアを斬り伏せていく。

 

「ウヴァ、この人達は誰なの? 」

「あー、説明すると長くなるんだが・・・・。」

「飛電エントリジェンスのアーマードライダー、滅亡迅雷netの迅でーっす、宜しく。」

 

鞄から剣へと変わる変形武器、アタッシュカリバーを肩に担いだ仮面ライダー迅が、飄々とした態度で挨拶する。

この場にそぐわぬあっけらかんとした態度に、同じ仲間である滅は、軽い頭痛を覚えた。

 

「滅亡迅雷net? まさか、飛電或人の私設部隊か。」

「まっ、待て!カザリ! コイツ等は確かに俺達の敵だが、今は仲間になってくれてるんだ! 」

 

迅の無用心な自己紹介に、途端気色ばむカザリを、ウヴァが何とか窘める。

エノシガイオスという共通の敵を倒す目的で、一時休戦状態になっていると、概要をざっくりと説明した。

 

「ふーん、そう? 信用は出来ないけど、仕方ないね。」

 

互いの利害が一致しているとはいえ、飛電エントリジェンスの社長、或人が母にした侮辱的行為は、万死に値する。

それは、ウヴァも同じなのだが、危機的今の状況を打開するには、致し方が無かった。

 

 

ハッキングしたXガーディアンが運転する特殊装甲車が、砂漠エリアにある旧研究棟へと到着した。

重い音を立てて、ハッチが開き、中から防護服を着た或人と翔太郎が装甲車両から降りる。

その後を、鳥型のエクストリームメモリが追い掛けた。

 

「テラフォーミング実験がされていると聞いたんだけどなぁ。」

 

ガスマスクを装着した或人が、草木一本生えぬ砂だらけの世界をぐるりと見回す。

 

この死のエリアは、コアエナジーから排出される有毒な放射能物質に汚染されていた。

アイダ博士率いる鴻上生体研究所のスタッフが、惑星開発を前提として人間が生活出来る様に環境を意図的に変化させる実験が行われていたのだ。

しかし、この有様を見る限り、実験は上手く行っていないらしい。

 

「テラフォーミング実験は、2年前に延期されている。此処で事故が起きたのが理由らしい。」

 

或人の疑問に、セクターシティのデータバンクをハッキングしたフィリップが応えた。

 

フィリップの説明によると、今から2年程前に、放射能を除去する装置が故障し、作業を行っていた研究員がその事故に巻き込まれた。

多数の死傷者を出す程の酷い事故だったらしい。

上層部は、事故の原因を究明する為、暫くの期間、このエリアを封鎖する事にした。

 

「2年間も放置ねぇ・・・・きっと、何か裏であるに違いない・・・て、カリメロ君何処に行くんだぁ? 」

 

そんな二人を他所に、一人だけさっさと古びた研究棟へと向かう翔太郎の背に、或人の呑気な声が掛けられた。

 

「此処でグダグダやってる暇はねぇ。 とっととエノシガイオスの所に行ってメモリを取り返す。」

 

呆れた様子で自分の後を付いて来る或人に、翔太郎は振り返る事無く、ぶっきらぼうにそう応える。

 

「奴にドライバーを壊されたのを忘れたのか? 運よくメモリを取り返せても、君は肝心のWに変身出来ない。」

 

或人に痛い所を突かれて、翔太郎は舌打ちする。

 

ガイアメモリ生産ラインでの死闘で、翔太郎は湊ミハルの肉体を乗っ取るグリード、エノシガイオスと相対し、Wドライバーを破壊されている。

その際に、自分と適合出来る唯一のメモリ、『ジョーカーメモリ』を奪われてしまった。

 

「見たところ君には、生体コネクタが無い。 それじゃ、よしんばメモリを取り返せても全く意味が無い。」

「教授、止めて下さい。」

 

翔太郎の背後で、煽りまくる若き社長を相棒のフィリップが窘める。

それに構わず、翔太郎は後ろの或人を完全無視し、研究棟の中へと入っていった。

幸い、此処は放射能が完全に除去されているのか、防護服に備え付けられているガイガーカウンターが安全値を示していた。

 

「どうやら、私の部下達はこの下にいるみたいだな。」

 

1階に或人の秘書である滅と滅亡迅雷netの構成員である迅の姿が何処にも見当たらない。

現在、彼等は地下の霊廟で、アイダ博士が生み出した人造生命体・グリード達と一緒にギフジュニアの軍団と死闘を繰り広げていた。

 

「好い加減、教えて欲しいんだけどな。」

 

防護服とガスマスクを外した翔太郎が、数歩離れた位置にいる或人を睨み付ける。

 

「アンタ、一体どうやってあの化け物を止めるつもりなんだ? 」

 

今迄、溜めに溜めた怒りと疑問を、飛電或人へとぶつける。

 

これだけ余裕綽綽とした態度で、地獄絵図が描かれている砂漠エリアの研究棟まで来たのだ。

きっと何かしらの秘策を持っているに違いない。

 

「止めるのは、私じゃなくて君だ。 」

「はぁ? 」

「このエターナルメモリを使って、君がヤツと戦うんだ。」

 

訝しがる翔太郎に、或人がわざとらしく白いガイアメモリを見せる。

 

「でも、翔太郎には生体コネクタが・・・・。」

「そんなモノ、今のカリメロ君には必要ない。だって、このメモリが”彼自身”だからだ。」

 

背後に立つ、エクストリームメモリが造り出したフィリップの立体映像に、或人が応える。

 

「どういう意味だよ? 」

 

或人が何を言わんとしているのか、皆目見当がつかない。

苛立ちだけが無性に募り、鋭い眼光が目の前に立つ若い社長を睨み付ける。

 

「カリメロ君、君は確かガイアメモリ生産ラインで、エノシガイオスというグリードに重傷を負わされた・・・・・だが、その傷が今は何処にも無い。何でだろうねぇ? 」

「・・・・っ!? 」

「答えは簡単、だって君はあの生産ラインで一度死んでいるからだ。」

 

或人の口から出た衝撃的な事実。

翔太郎の表情が固まる。

 

「私が造り出したバグスターウィルスに感染した君は、データ人間になったのだよ。だからデータが幾ら破壊されても、このバックアップがある限り、君は何度でも復活が可能なんだ。」

 

エターナルメモリには、翔太郎の生体データが記録されている。

その為、いくら瀕死の重傷を負って死に至らしめたとしても、元データが収まっているエターナルメモリを使用すれば、幾らでも復元可能なのだ。

 

「嘘だと思っているだろ? なら、隣にいる来人君に聞きなさい。 彼ならきっと懇切丁寧に教えてくれる筈だ。」

 

驚愕に震える双眸が、右隣に立つ立体映像の相棒へと向けられる。

しかし、フィリップは何も応えない。

否、応える事が出来ない。

命よりも大切な相棒が、かつての自分と同じ肉体になってしまったという事実に。

 

「喜べ、君は不変の存在へと進化したんだ、おまけに大道克己が決して辿り着く事が出来ない高見に今、立っている。」

 

かつてエターナルメモリの適合者だった死者蘇生兵士『NEVER』のリーダー、大道克己は、適合率が80%であった。

だが、今の翔太郎はそれを遥かに超える適合率を叩き出している。

この状態ならば、生体コネクタを使わずとも、エターナルメモリと融合する事が可能だ。

 

「・・・・・っ、ふざけるな・・・こうなったのは全部貴方が・・・・。」

「そう、私のせいだな・・・でも、こういう状況を招いたのは君達・・・。」

 

あくまでも厚顔不遜な態度を崩さない或人の胸倉を、唐突に翔太郎が掴み上げた。

あまりの怒りに拳が震える。

そんな翔太郎を黙って眺める或人。

敢えて殴られるのを承知なのか、抵抗する素振りを見せなかった。

 

暫くの沈黙。

暴力では、何も解決出来ないと悟ったのか、翔太郎が掴んでいた或人の胸倉を離す。

 

「何だ? 殴らないのか? 」

「・・・・おやっさんが言ってた、男の仕事の8割は決断だ、そっから先はおまけみたいなもん・・・だってな。」

「・・・・・・。」

「確かにてめぇは、殴りたい程腹が立つけどな、でも・・・・こういう結果を招いたのは俺の責任だ・・・・此処でアンタを殴っても何の解決にもならない。」

 

翔太郎は、或人の手からエターナルメモリを毟り取る。

黙ってされるがままになっていた或人は、口元に皮肉な笑みを貼り付けた。

 

「そうか・・・・鳴海荘吉は、結構優秀な人材を自分の後継者に選んだみたいだな。」

 

何かを納得したのか、或人は一人頷くと、地下へと続くエレベーターへと向かう。

その後に黙って従う翔太郎と相棒のフィリップ。

彼等の双眸には、何かを決断したのか、強い意志の光が宿っていた。

 




ネタ切れです。


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第7話 『 私の大事な宝物』

個人設定

ジョーカーメモリ・・・・使用者の潜在能力や身体能力を極限まで高める作用がある。
エジプトの遺跡で発見された『地球の意志』が一番最初に生み出したメモリ。
上記の能力の他に、使用者の肉体を造り変えてしまう作用もある。


エジプト、ルクソール近郊。

そこには、『失われた黄金都市』を求めて、多くの発掘隊が昼夜問わず、まるで熱病にでも取り付かれたが如く作業を行っていた。

その中に、一目でアジア人と分かる一団が、混じっている。

彼等は、風都大学から『古代都市』を調査する為に派遣された考古学者達であった。

 

「素晴らしいね、これが紀元前に造り出された都市とは思えないよ。」

 

友人である園咲琉兵衛に招かれた「飛電製作所」の社長、飛電是之助は、広大な大都市跡を見渡す。

そこには、市場や大衆向けの風呂やトイレ、果ては、遊技場まであった。

 

「ハハッ、まだ驚くのは早いぞ? 是ちゃん。」

 

古代都市の街並みを、子供の如くキラキラとした瞳で見回す友人の背後から、濃いサングラスを掛けた人物が現れた。

風都大学から派遣された調査隊のリーダーであり、スポンサーの園咲琉兵衛その人であった。

 

彼等は現在、大学の発掘調査の視察をする為に、此処、ルクソールを訪れていた。

高校時代から親交があった是之助は、琉兵衛の善意で視察隊の一員として招かれたのである。

 

「我々は、この大都市の地下で、未知のエネルギーを発見したんだ。」

「未知のエネルギー? 」

 

地球のエネルギーとして最も知られているのが、石油である。

他にも天然ガスや石炭等が挙げられた。

 

「コッチだ、君に”彼”を紹介してあげよう。」

 

友人を手招きして、琉兵衛は「彼」が置かれている簡易テントへと案内する。

テントの中には、最新の機材が所狭しと設置されており、その中央にある作業台には特殊な正方形のガラスケースが置かれていた。

 

「りゅ、琉ちゃん、こりゃ一体何だい? 」

「”地球の意志”だよ。」

 

ガラスケースに鎮座した指先程の小さな鉱石。

薄紫色の光を放つその鉱石を、魅入られたが如く眺める友人を琉兵衛は面白そうに眺めていた。

 

 

 

20数年後、日本海近郊にある孤島‐ 蒼樹ヶ島『セクターシティ』

 

砂漠エリアにある旧研究棟地下では、壮絶な死闘が繰り広げられていた。

 

「あれ? 何なのコイツ等。」

 

アタッシュカリバーを巧みに操っていた迅が、突如液状化し、逃げていくギフジュニアの群れを驚いた様子で眺めていた。

意志を持たぬ死骸の群れが、自分達に恐れを抱いたとでもいうのであろうか?

 

「彼が呼んでいるのよ・・・・恐らく、自分が持っているコアエナジーだけじゃ足りなくなったのね。」

 

娘であるメズールの肩を借り、アイダ博士が何とか立ち上がる。

 

「博士、 奴は・・・・エノシガイオスは一体何をするつもりなんですか? 」

 

黄色を基調としたライダー、ゼロワンこと滅が、未だに疲労困憊な様子のアイダ博士へと振り返る。

 

「ガイアインパクト・・・・彼は、ミハルを生贄にあの子を地球と一体化させて、本土にいる日本人全てを抹殺するつもりよ・・・。」

「なっ・・・・何だとぉ? 」

 

母の口から出た最悪なシナリオに、グリード態となったウヴァが目を剥く。

 

「御免なさい・・・・こうなってしまったのは、全て私のせいね・・・。」

 

アイダ博士は、全てを諦めたのか、ポツリポツリと事の真相を語り出した。

 

曰く、エノシガイオスは正確には自分が生み出したグリードではなく、元々、蒼樹ヶ島の遺跡に眠っていた古代人の生き残りであった。

此処、砂漠エリアにある地下の霊廟で、長い眠りについており、調査隊の一員であった前セクターシティの責任者、ゼウス博士が発見したのだという。

 

「彼の意志は、恐竜メダルの一枚に宿っていた。 」

 

ゼウス博士達が発見した紫メダルには、人間と思われる意識体が宿っていた。

”彼”はまず、ゼウス博士と対話し、かつて自分が日本の本土を統べていた人間種(リント)の長である事を明かした。

 

元々、この地上は七つの種族からなる異能の力を持ったグロンギと呼ばれる怪物達が支配していた。

その中でも、リントと呼ばれる種族は力が弱く、他部族からは虐げられる存在でしかなかった。

エノシガイオスは、そのリント族の長であり、優れた錬金術を使用して『クウガ』と呼ばれる人造の兵器を造り出した。

絶大なる戦闘能力を持つ『クウガ』は、グロンギ族の長、ン・ダグバ・ゼバを撃破。

それに従う7部族のグロンギ達も封印した。

力を使い果たした『クウガ』は、長い休眠期へと入り、エノシガイオス達‐リント族は、漸く長い悠久の平和を手に入れたかに見えた。

 

「でも、彼の”欲望”は、それで収まらなかった・・・自分の配下である錬金術師達に命じて”オーメダル”を造り出したのよ。」

 

エノシガイオスは、そこで自分達が如何に優れた種族であるかを知った。

あれ程、恐ろしかったグロンギ族に勝ってしまったが為に、それまで彼等、リントが持つ事が無かった『欲望』という快楽を知ってしまったのである。

クウガの力の源である『霊石・アマダム』は、装着者に人知を超えた身体能力と膂力、そして回復力を与えるが、同じく相当な負荷も負わされる。

現に、グロンギ族の長、ン・ダグバ・ゼバを倒した際には、使用者である”戦士”が命の灯を消されてしまった。

その失敗を踏まえ、リントの長・エノシガイオスは別のエネルギーに目を付ける事となる。

 

「人間が本来持つ感情をエネルギーへと変換する術を手に入れた彼は、錬金術師達に”オーメダル”と”オーズドライバー”を生み出させ、ソレを使って大陸を支配する様になったのよ。」

「良くある話だ。」

 

アイダの告白に、滅は仮面の下で吐き捨てる。

 

人間という生き物は、業が深く愚かだ。

それは、リントという種族も同じだったのである。

 

「でも、何で日本人を抹殺するんだよ? その話が事実なら、日本人はリントの末裔でしょ? 」

 

アイダ博士の独白に、迅が意味が分からないと首を傾げる。

 

確かに迅の言う通りで、本土にいる日本人達は、エノシガイオスにとっては大事な同胞達だ。

何故、そんなリントの末裔達を抹殺する必要があるのか。

 

「純潔なリントの血筋は、日本本土にはいないからよ。 彼が眠りについてから、多くの渡来人が、日本列島に渡って来た・・・彼等は日本に移住し、その血を本土に定着させた・・・・。」

「馬鹿々々しい・・・何て愚かな。」

 

そう、怒りを露わにしたのは、意外にもグリードであるメズールだった。

彼等、グリードにとって人間達がこだわる宗教観や生活習慣等、大した問題ではなかった。

普通に生きて、仕事をし、時には些細な事で喧嘩をして、和解し、また朝を迎える。

そうした生活のサイクルが当たり前であり、宗教などの価値観で、戦争が起こる等、全く理解出来ないのだ。

 

「本当、馬鹿々々しい、そんな下らない理由で本土の人間達を皆殺しなんてありえないよ。」

「全くだな・・・・やっぱりあの糞野郎は頭の中身がイカレていやがる。」

 

メズールに続いてカザリとウヴァが、呆れた様子で肩を竦めた。

そんな彼等を尻目に、滅が迅を促して霊廟の奥へと向かおうとする。

その背をウヴァが慌てて止めた。

 

「おい、まさか二人だけで行くつもりじゃねぇよな? 」

「そのつもりだが? 」

「二人だけじゃ無理よ・・・・皆で協力して彼を止めないと・・・。」

 

いくら天才発明家である飛電或人が造り出した最新式のスーツとはいえ、相手は未知のオーパーツを持つ怪物だ。

幸い、此処にはライダーのアシストユニットとして開発されたグリードが揃っている。

彼等と協力すれば、十分勝機はある筈だ。

 

「否、俺と迅の二人だけで十分対処出来る・・・博士達は、万一を考えて、職員達と一緒に島から避難してくれ。」

 

滅はそれだけ告げると最下層へと続く通路へと向かう。

その後に続く迅。

 

『敵の戦闘能力は未知数です。 やはり、アイダ博士の言う通り、彼等の協力を仰ぐべきですよ。』

 

最下層にある王の間へと向かうべく、エレベーターに乗り込むと、開口一番、滅亡迅雷フォースライザーに内臓されている人工知能『アーク』が言った。

 

「・・・・・滅はさ、あの人達に死んで欲しく無いと思ったんでしょ? 」

『迅様・・・・。』

 

アークの問い掛けに応えぬ滅に代わり、仲間の迅が言った。

この世に生を受けて僅か5年しか経過していないが、迅は生みの親である或人から鋭い洞察力を受け継いでいる。

子供の様に純粋無垢であるが、仕事柄、人間の汚い部分は嫌という程見せられている。

それが、父親である或人の意図であり、迅が本来持つ『甘さ』を消させる為であった。

滅亡迅雷netという、信頼出来る大切な仲間達や偉大な父親がいるから、変な方向に曲がらず、真っ直ぐに己の信念に基づいて行動している。

だからこそ分かるのだ。

仲間の滅が、何故彼等の協力を拒否したその理由が。

 

「俺も滅と同じ気持ちだから・・・・あの人達は”悪い奴”じゃないもん。」

『そうですね・・・・彼等は、とても善人です。』

 

短い時間ではあるが、アークはウヴァ達が持つ『良心』を理解していた。

 

彼等、グリードはアイダ博士達、人間の手によって生み出された人造物。

しかし、その本質は『善良』で『家族愛』に満ち溢れている。

 

 

20数年前、

日本海に浮かぶ絶海の孤島、蒼樹ヶ島。

半径数千メートルに渡る建設中の建物の一区画に立つ、2階建てのプレハブ小屋。

時刻は、午前2時。

当然、人の気配は周辺に無い。

 

最新型のPCが置かれたワークデスク。

そこに黒い下着の上に白衣を羽織っただけという大胆な恰好をした女性が、優雅に脚を組んで液晶画面を眺めていた。

 

「なぁ・・・オリヴィア、仕事も結構だが私の相手もして欲しいなぁ。」

 

革張りのデスクチェアに座る女性の背を鴻上ファウンデーションの若き会長、鴻上光生が背後からしな垂れ掛かる。

 

「止めて、さっきしたばかりでしょ? 」

 

胸元にしのんだ不埒な手を、アイダ博士が煩そうに振り払った。

しかし、そんな連れない態度に臆する事無く、鴻上はブラジャー越しに、その豊満な乳房を揉んだ。

 

「一か月振りにやっと二人っきりになれたんだぞ? 一回ぐらいじゃ僕の情熱の火は消えないよ。」

「あら、そう・・・・。」

 

まるで幼子の様に甘えて来る鴻上に、アイダは呆れた様子で溜息を零すと、白衣のポケットから愛用のスマホを取り出し、慣れた手つきで画面を操作した。

美しい女性達の画像が、空中に展開される。

忽ち、鴻上の顔色が真っ青に変わった。

 

「一体、私は何人目になるのかしらね? 鴻上君。」

 

空中に映し出されている3D映像は、全て鴻上が今現在付き合っている女性達だ。

 

「か、彼女達とは既に切れてる・・・・い、今は君一人だけだよ。」

 

内心の焦りを女科学者に知られまいと、鴻上が精一杯の虚勢を張る。

勿論、口からの出まかせ。

今でも定期的に彼女達とは連絡を取り合っている。

 

「相変わらず嘘が下手糞ね・・・・そういう所は学生時代と全く変わって無いわ。」

 

経営者としては天才的とも言える手腕を発揮し、鴻上ファウンデーションを瞬く間に大きくした偉人。

しかし、その反面、異性関係にはだらしなく、又、無責任な所があり、自分の好奇心を探求する余り、周囲にとんでもない被害を出している。

アイダとゼウスとは、大学時代からの付き合いがあり、鴻上が何かやらかす度に、二人で尻拭いをやらされた。

 

「お・・・・怒っているのかい? オリヴィア。」

「別に・・・貴方のやる事に一々目くじらを立てていたら、コッチの身が持たないわよ。」

 

天才であるが故に、社会的常識に疎く、必ず何かしらの事件を起こす。

正直言えば、関わってはならない人間の部類に十分該当するが、ゼウスもアイダも彼を見放す真似だけは出来なかった。

それは一重に鴻上が持つ経営者としての才覚であり、彼の傍に居れば、それなりに恩恵を預かる事が出来る。

現に、蒼樹ヶ島で非人道的とも取れる研究を行っても、何の咎も受けないのがその証拠だ。

潤沢な資金を提供してくれる上に、最新設備の研究所まで与えてくれる。

 

「だから、今夜はこれでお終い。 明日は、早くから遺伝子研究所に行かないといけないの・・・・。」

「遺伝子研究所? 」

「そ、もうすぐ私の可愛い子供達が生まれるのよ。」

 

液晶画面に映る各種類のコアメダルを愛おし気に撫でる。

クワガタメダル、シャチメダル、ライオンメダル、サイメダル。

これらは、『オリジナル』の解析データから抽出した事で生み出した複製体だ。

古代の錬金術師達が生み出した人造生命体を、現代の科学力で復元したのである。

 

「タカメダルのデータが手に入らなかったのが、非常に残念だけど。」

 

そう言って、アイダが未だに未練たらしく自分に抱き着いている大柄な男を軽く睨む。

 

「うっ・・・・悪かったよ。 タカメダルの行方は、ライドベンダー隊に命じて早急に調べている最中だ。」

 

妖艶な美女に睨まれ、鴻上がバツの悪そうな表情になる。

 

現在、グリードと呼ばれる怪物の意志が宿ったコアメダルで、タカメダルのみが行方不明だ。

蒼樹ヶ島の遺跡で発見された当初は、確実にあった筈が、本土にある鴻上生体研究所に移送される過程で、失ってしまったのだ。

 

「別に無くても、此方には大した支障は無いんだけどね・・・・。」

 

相手は、グリードと呼ばれる怪物の意志が宿ったメダル。

万一覚醒し、人間に危害を加える事になれば、鴻上ファウンデーションの死活問題にすら関わる。

鴻上の失態をまた拭う羽目になれば、自分は兎も角、ゼウスは黙っていないだろう。

 

 

翌朝、鴻上光生と教え子である真木清人は、本土へ還った。

アイダは、仕事を理由に見送りを部下の研究員達に任せ、一人、遺伝子研究所のVIPルームに篭(こも)る。

 

『見送りに行かなくて良かったのか? 』

 

四つ置かれた培養槽の前に立ち、アイパッドを操作してバイタルチェックを行っている美貌の女性科学者の背に、何者かの声が掛けられた。

 

「鴻上君達の見送りは、ゼウスに任せているわ。」

 

アイダは、振り返らずに素っ気なく声の主へと返す。

彼女の背後には、最新型のPCが置かれたデスクがあり、数枚の書類と特殊素材で造られた透明の容器があった。

その中に、球体状の黒い物体が蠢(うごめ)いている。

 

『・・・・・腹の中に子がいるな・・・・。』

「え・・・・? 」

 

それ自体に何らかの意思があるのか、黒い球体は不気味に脈動を繰り返していた。

 

『何だ、気づいてないのか? お前の腹の中に子供が宿ってる。』

 

訝し気に此方へと振り返る女科学者を、球体は面白そうにからかった。

 

「嘘でしょ? 」

『嘘なものか・・・・・あっ、知らなかったのか?そりゃ申し訳無かったな。』

 

一丁前に一般的常識は持ち合わせているらしい。

己のデリカシーに欠けた発言に、球体は形だけの謝罪の言葉を述べる。

流暢な日本語を巧みに喋り、紳士然としたその態度は、何処か鴻上と似たところがあった。

 

『こういう場合、”おめでとう”と言った方が良いのかな? 生憎、この身体じゃ君に祝いの品を送れないのが残念だが。 』

「・・・・・。」

 

球体の軽口を黙殺し、アイダは手に持っていたA4サイズのアイパッドをデスクに置くと、慌てた様子でVIPルームから出て行く。

顔面は、紙の如く蒼白になっていた。

 

 

数時間後、女子トイレの個室。

アイダは、蓋の閉じた様式便器の上に座り、妊娠検査薬を片手に途方に暮れていた。

 

念の為にと、お守り代わりに携帯していた検査薬には、しっかりと妊娠反応が出ている。

 

失態だった。

避妊は確実にしていたつもりだった。

生理の周期を毎月欠かさず付けており、ゴムやピルの服用もしていた。

 

「はぁ・・・・・泣けるわね、全く。」

 

お腹の中の子供は、間違いなく鴻上の子だ。

30代後半、自分が生んだ子供が欲しいと思わなかったと言えば噓になる。

鴻上に事実を打ち明ければ、彼は手放しに喜んで、引き取ってくれるだろう。

しかし、それだけは駄目だと、彼女の中にあるほんの一握りの理性が訴える。

あの非常識の塊である男が、子供を育てられる筈が無い。

彼には告げず、堕胎するか自分で育てるしか選択肢が無い。

仕事は、まだまだ山ほど残っている。

乳飲み子を抱えながら、果たして研究を続けられるだろうか?

 

『なーんだ、そんな下らない理由で悩んでいるのか? 』

「・・・・・っ! エノシガイオス! 」

 

何時の間にそこにいたのか。

個室のドアの隙間から、黒い粘液が忍び込んでいた。

ドアの内側に張り付いた粘液‐ エノシガイオスは、二本の角と鋭い牙が生え揃った中世に登場する悪魔の様な顔を浮き出させる。

 

『折角、宿った命を殺してしまうつもりか? 』

「・・・・・っ! 」

 

エノシガイオスに、内心の葛藤を見透かされ、美貌の科学者の頬が僅かに赤くなる。

 

『我々の国では、子は宝だ。 彼等はいずれ国を大きく繁栄させる礎となってくれる。』

「っ、だから何? 私が命を軽視しているとでも言いたいの? 」

 

こんな化け物に、人の真理を説かれるとは思わなかった。

元々、エノシガイオスはグリードとなる前は、アイダと同じ人間であった。

此処、蒼樹ヶ島を拠点に豪奢な城を造り、強大な力で、本土にある国々を支配していた。

 

『落ち着けオリヴィア、私は君の力になりたいんだ。』

「力? 」

『そう・・・・私は、鴻上の様な軽薄な男とは違う。』

 

エノシガイオスは、己の手を実体化させると、女科学者の華奢な手を優しく握ってやる。

 

『腹の中の子は、私が育てる・・・・安心しろ、こう見えても、子育てには自信があるんだぞ? 』

「冗談でしょ? 」

『冗談なものか、10人子を設け、10人とも私の手で成人させた。』

 

女科学者の手の甲に、愛おし気に頬を寄せる。

茫然とした様子で、アイダ博士は目の前の怪物を眺めていた。

 

 

今から思うとアレが全ての過ちの始まりだった。

エノシガイオスの意図も知らず、アイダは奴の傀儡に成り果ててしまった。

 

 

「ちっ、アイツ等ばかり良い恰好させるかよ。」

 

愛息子の声に、アイダは現実へと引き戻される。

見ると緑を基調としたタクティカルスーツを着るウヴァが、セーフガードライフルを手に霊廟へと向かおうとしていた。

 

「お、俺も行く! 」

 

グリード態へと変身したガメルがその後へと続く。

 

「なら、僕は環境システムに行くよ、核融合炉を強制停止させないと。」

 

人間へと擬態したカザリが、これ以上のコアエナジーの流出を止めるべく、環境エリアへと向かう。

 

「待って、私も手伝うわ。」

 

同じく人間体へと擬態したメズールが、カザリの後を追おうとした。

 

「待ちなさい! そんな事をしたら貴方達は死んでしまうのよ! 」

 

必死の形相で、アイダが愛娘のメズールへと縋りつく。

 

核融合炉から発する電力は、メズール達、グリードの核であるコアメダルに力を与えていた。

オリジナルと複製体である彼等の違いはまさにソレで、核融合炉を強制停止させると勿論、ソレを糧に生きている彼等も死亡してしまう。

 

「お願い、私を一人にしないで・・・・。」

「母さん。」

 

彼女にとって、グリードは単なる実験体ではなかった。

我が子としての情が芽生えたアイダは、人間の子供と同じ愛情を彼等に注いだ。

自分の持てる知識と技術を教えた。

それぞれの個性を活かす教育を施した。

成人すると仕事を与え、普通の人間と同じ生活を送らせた。

 

「なーるほど、それが核融合炉を停止出来ない理由ですか。」

 

今、一番聞きたくも無い男の声。

見た事も無い20代前半辺りの二人の男を従え、飛電エントリジェンスの若き総帥が、アイダ博士達の所へと近づいて来る。

途端、警戒態勢に入るカザリとメズール。

ウヴァとガメルは、滅亡迅雷netのアーマードライダー達の所へ向かってしまった。

今は、二人で愛する母を護らねばならない。

 

「良く出来ていますなぁ? ”オリジナル”と全く遜色が無い。」

 

或人の視線が、愛娘のメズールで止まる。

嫌らしい視線で自分の太腿を眺める若社長に、メズールは嫌悪感を露わにしていた。

 

「今更、何しに来たの?」

 

子供達を脇に下がらせ、美貌の女科学者が、或人を睨み付ける。

予想外の闖入者達を眺めるアイダの視線が、翔太郎の傍らに立つフィリップで止まった。

 

「来人君? 」

「オリヴィア先生。 」

 

どうやら、二人は知り合いらしい。

驚愕に双眸を見開くアイダ女史と対照的に、フィリップは何処か哀しい表情をしていた。

 

「知り合いか? 」

「うん・・・・ちょっとね。」

 

アイダ博士が、実父・園咲・琉兵衛の愛人だった・・・とは、幾ら相棒の翔太郎であろうと簡単に話すのは憚(はばか)られる。

アイダ自身は、ガイアメモリの機密&琉兵衛の監視を目的に、近づいたのだが、勿論そんな意図などフィリップが知る筈も無い。

 

「オリヴィア先生、僕達は、エノシガイオスの暴走を止める為に此処に来ました。彼がコア・エナジーを過剰に摂取すれば、この島どころか本土にも悪影響を及ぼし兼ねない。」

 

意を決し、フィリップが美貌の科学者の説得を買って出る。

 

或人では、余計に彼等の神経を逆撫でするだけだ。

 

「一体どうやって? いくら文音ご自慢のアーマードライダーでも、奴を止める事は不可能よ。」

 

Wの実力は、良く理解している。

学生時代から、好敵手(ライバル)であり、良き親友であった園咲・文音が創り出した最強のライダーなのだ。

彼女が持つ、νロストドライバーも、元々は文音が設計したWドライバーを参考にしている。

 

「僕達を信じて下さい・・・・悪い様には絶対に・・・。」

「悪い様になるに決まってんだろ? まぁ、核融合炉を強制停止させれば話は違うけど? 」

「てめぇっ、余計な事を喋るな! 」

 

必死の説得の傍らで、悪質極まりない茶々を入れる或人の胸倉を、翔太郎が掴んでいた。

 

そんな二人のやり取りを、母親の傍らで眺めるメズールとカザリ。

二人は何かを決意すると、お互い視線を合わせ頷き合う。

 

「母さん、御免。」

 

短く、母への謝罪を言葉にしたカザリが環境エリアへと向かうべく、脇をすり抜ける。

その後へと続くメズール。

 

「待ちなさい! 核融合炉を止めたら貴方達は・・・・っ! 」

「知ってる・・・・でも、お母さんや島の人達を死なせる訳にはいかないから。」

 

研究員の中には、意地悪で嫌な奴も沢山いるが、中には優しくて親切な人達もいる。

それに、この島は彼女達にとって、大事な生まれ故郷だ。

エノシガイオスに滅茶苦茶にされる訳にはいかなかった。

 

去っていく、子供達を茫然と見送るアイダ博士。

己の無力さに打ちひしがれ、力無く崩れ落ちる女科学者の痛ましい姿に、翔太郎は舌打ちすると、或人の胸倉を掴んでいた手を離す。

 

「親父さんが言ってた・・・・街の涙を止めてやれるのが、本当の漢だってな・・・俺が、この街の・・・アンタ等親子の涙を止めてやる。」

 

泣き濡れた女の双眸が、自分の傍らへと立つ一人の探偵へと向けられる。

暫しの沈黙。

そんな二人の空間を、若社長の無粋な咳払いがご破算にした。

 

「おーっとぉ、申し訳無い。ちょっとアイダ博士が腰に巻いてるベルトが気になっちゃってさぁ。」

 

訝し気な視線を向ける二人の間を無遠慮に割って入り、或人がアイダの腰に巻かれたままの状態のνロストドライバーを指差す。

 

「どうするつもりなの? 」

 

ユートピアメモリの毒素を中和する目的で造り出したドライバー。

真木・清人が、試作品であるボルゲーノバイスタンプを使い、仲間の一人から生み出した悪魔を撃退する事は出来たが、長時間使用するには、何の訓練も受けていない自分では無理だった。

 

「見たところ、T2メモリにも適応しているみたいですねぇ・・・もしよろしかったら、そこにいるカリメロ君に貸して頂けないかなぁっと。」

「飛電教授! 」

 

或人の兇悪極まりない意図を察したフィリップが、怒りの形相で若社長へと詰め寄る。

 

「貴方は、まさか最初から翔太郎に・・・・。」

「だから? Wドライバーはエノシガイオスに破壊された・・・唯一の希望は、カリメロ君がエターナルメモリを使用してドーパント体になる事だけだ。」

 

だが、例えドーパント体になれたとしても、それでコアエナジーを吸収し、進化したエノシガイオスに勝てる保証はまるで無い。

ドーパント体よりも、更に強化されたアーマードライダーの方が、勝機があるのではなかろうか。

 

「エターナルメモリ・・・・・そう、貴方も克己君と同じなのね。」

 

何かを悟ったのか、アイダは腰に巻いているドライバーを外し、傍らに立つ翔太郎へと差し出す。

 

「このドライバーは、貴方のお母さん、園咲・文音教授が造ったロストドライバーを元に、私が開発したものよ。」

 

園咲・文音がガイアメモリを使用する為に、ドライバーを開発していた事は知っている。

アイダは一時、財団Xの研究員として働いていた。

その時に、ロストドライバー及びWドライバーの研究データを手に入れたのである。

鴻上ファウンデーションに移籍後は、文音が創り出したドライバーを超えるベルトを生み出すのに執心した。

そのかいあり、νロストドライバーを生み出す事に成功。

後にこの技術は、ポセイドンドライバーへと引き継がれる事になる。

 

「T1、T2メモリに対応出来る機能を持ってるわ・・・貴方が風都のライダーなら十分使いこなせる筈。」

 

差し出されたドライバーを無言で受け取る翔太郎。

そんな二人の間を、今度はフィリップが割って入る。

 

「駄目だ翔太郎! 飛電教授は、君に若菜姉さんと同じ事をさせるつもりなんだ!」

 

かつて風都で人気があったアイドル、園咲・若菜。

フィリップの実姉であり、ガイアメモリという呪われたアイテムに人生全てを狂わされた女性であった。

ミュージアム壊滅後、唯一生き残った彼女は、愛する弟の為に、自らの肉体と命を犠牲にガイアインパクトを発動。

一時、消滅の憂き目に合っていたフィリップを再構成させ、現実世界へと受肉させた。

 

この狂気の科学者は、エターナルメモリを翔太郎に使用させ、蒼樹ヶ島限定でガイアインパクトを起こさせようとしている。

エノシガイオスによって破壊された自然大系を強引に、元へと戻そうと画策しているのだ。

 

「そう、此処からが君のターニングポイント。 頭に卵の殻を被ったまま、コスプレ探偵で終わるか、それとも英雄になって死ぬか・・・・。」

「・・・・・。」

「どちらか好きな方を選びたまえ、君の人生だ、誰も文句は言えない。」

 

悪魔の囁き。

翔太郎の視線が、右手に持つνロストドライバーへと落ちる。

風都のライダーとして戦い、生きて来た今の自分に選択肢は一つしかなかった。

今迄だってそう、そしてこれからも馬鹿な信念を貫き通す。

 

翔太郎は、一同から少し離れると、何の躊躇いすら見せず、ドライバーを腰に装着する。

 

「翔太郎・・・・。」

「悪いな? 相棒、 俺はやっぱり仮面ライダーなんだ。」

 

背後にいるフィリップに謝罪すると、ポケットからエターナルメモリを取り出し、スイッチを押す。

「エターナル」という承認音声が鳴り、翔太郎は、ドライバーに装填した。

 

『エターナルメモリ認証、 エターナルジョーカー。』

 

ベルトから音声認証が響くと同時に、黒い粒子と白い粒子が翔太郎の身体を包む。

現れたその姿は、真紅の複眼をV型のバイザーで覆った右が白、左が黒を基調としたアーマードライダーであった。

 




久し振りの投稿です。


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