地龍の娘 (玄米師匠)
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出会い

 
 アニメを一気見していた時に思いついて、そのまま勢いで書きました。なので色々とガバガバだと思いますが、あまり難しいことは考えずに読んでいただけると嬉しいです。
それと作者はアニメとネット小説は見ていますが、書籍は読んでいません。


 

 我の名はアラバ。最強の種族たる龍の一種、気高き地龍である。エルロー大迷宮下層の守護を任されている。

 守護、と言っても基本的にはただ生きているだけである。下層内を歩き回り、獲物を喰らい、寝る。それだけの変わらない日々である。

 

 だが、そんな変わらない日々がある日、突然変わった。

 

 卵を拾ったのである。それも地竜のである。

 普通なら、竜の卵は親に魔力を注がれて孵化する。だから親は孵化するまで卵を手放すことはまずない。

そのはずなのだが、なぜか無防備に卵だけが置かれていた。

 

 今更だが、なぜ我はこの卵を拾ったのだろうか。同族のだからか?それもなくはない気がする。この卵が地竜のだと分かったのは同族のものだからだ。

 だが、それだけではない。地竜は確かに同族だが、我にとっては何の興味もない者どもだ。

 

 なら何故だろうか?考える。ひたすら考える。だが、答えはわからない。いや、たぶん答えなどないのだろう。

 なんとなく、ただなんとなく不思議な縁を感じたからだろう。そう、まるで運命のような。

 

 

 

***

 

 

 

 私の名前は漆原美咲。ごく普通の女子高生。学校で古文の授業を受けていたら、急に激痛におそわれ、気付いたら真っ暗で狭い場所にいた。何を言っているかわからねえと思うが、私も何が起こったのかわからなかった。

 

 とりあえず現状確認しよう。まずはこのせまっ苦しい場所から出たい。さっきから押し開けようとしてるけど、もう少しで壊れそうな気がするんだよね。

 おっ、壊れた。外の光がまぶしい。

 急に明るくなったことで目が眩む。そうしてだんだん目が慣れてきたとき、異常に気付いた。

 

 龍がいた。空想上の生き物のはずの存在が目と鼻の先にいて、こっちを覗き込んでいる。

 怖い。今すぐ逃げ出したい。逃げ出したいのに、体が上手く動かない。それに奴の尻尾が周りを囲んでいて、動けたとしても逃げることは叶わないだろう。

 

 これは夢だろうか。そう、夢に違いない。こんな生き物がいるはずない。そう、思いたいのに。

自分の体にかかる奴の生温かい息と、やけに冷たい地べたと、そして本能的に感じる圧倒的な恐怖が、これはリアルなのだと、紛れもない現実なのだと告げてくる。

 死ぬのだろうか。このまま食べられて?こんなよくわからない状況のまま?

 

「****************」

 

 は?なんだ今の。確実に言葉を喋った気がする。少なくともただの鳴き声やうめき声などではなかった。だけど、全く意味が分からなかった。日本語どころか、自分の知っているどの言語とも似ても似つかない言葉だったと思う。

 でも、なんだろう。まったく意味は分からなかったのに、今の言葉からは温かみのような、こちらを安心させるものを感じた気がする。

 いや、相変わらず怖いけど。

 

 そうやって私があれこれ悩んでいると、龍はおもむろに立ち上がって、どこかに行ってしまった。

 

 え、どういうこと?さっきから理解不能なことが多すぎる。

 でも、これはチャンスだ。いまのうちに逃げよう。

 

 と思ったら、突然わたしの周りの地面が盛り上がって、あっという間にわたしを閉じ込めるような岩のシェルターのようなものが出来上がった。

 

 まじか。これ、さっきの龍がやったんだよね。

 なんだろう、今はお腹すいてないから、とりあえず捕まえておいて後で食べようってことかな。でもそれならわたしを仕留めるはずだろう。

 

 わからない。いまのこの状況のすべてがわからない。ひとつだけわかるのは、わからないことをあれこれ考えても頭がこんがらがるだけだっていうこと。

 

 だから、いまは現状の確認をしよう。

 とりあえず、いまの私自身から。

 

 さっきから気付いてたけど、なんか自分の体がおかしい。妙に視点が低いし、指の数が少ないし、尻尾あるし。

 おもむろに自分の手を見ると、指は前に三本と、その三本と逆向きに指が一本はえていて、指はまるで鳥のようだが、皮膚は青黒い鱗に覆われていて爬虫類のようだ。

 どうやらその鱗は手だけでなく体全体を覆っているようだ。

 もしかして私はトカゲにでもなってしまったのかと思ったが、すぐに違うと分かった

額に一本の角が生えているのだ。そういえば、さっきの龍にも立派な角が生えていた。それと比べるととても小さいが、たしかに角だ。

さっきの龍といえば、その鱗も私の鱗と似ていた気がする。

 

 そのとき、自分のまわりに卵の殻のようなものが落ちているのに気付いた。状況からみて、さっき私が入っていた暗く狭い場所は、この卵の中だったのだろう。

 ん?ということは、わたしはいまさっき、生まれたということか?いや、生まれ直したのかな?だって、私は正真正銘、人間だったはずだし。

 

 そういえば、いまのこの状況になる前、教室で授業を受けていたときの最後に激痛を感じたけど、あれはわたしが何らかの理由で死んだってことだったのかも。それで、わたしは今のトカゲもどきに転生したと。

 そんな小説みたいなことがありえるのだろうか。頭は、理性はありえないって言ってる。でも、さっきの龍に感じた恐怖はリアルだった。頭じゃまだ理解できないけど、心ではとっくにわかってる。これは現実なんだ。

 

 拝啓、お父さん様、お母さん様、娘は情けなくも死んでしまいました。でも私は元気です。

 

 お父さんお母さんと言えば、私の今の親は誰なんだ?

 そのとき、私の頭のなかで、点と点がつながった。

 私と似た身体的特徴、私を守るかのように囲っていた尻尾、言葉から感じた温かみ、なぜか私を食べなかったこと、今までの疑問はすべて、ひとつの事実を示していた。

 あの龍こそが、わたしの親なのだ。

 

 というか、こんな真犯人を見つけたみたいな言い方してみたけど、よくよく考えてみたら当たり前のことだよね。卵を持ってるのが親なんて。どうやら転生なんて異常事態のせいで頭が回ってなかったみたいだ。

 あれ、でも親が龍ってことは、私ももしかしなくても龍なのかな。龍と言えばどんなゲームやラノベでも最強格の選ばれし種族。人間じゃないことが少しショックだったけど、龍なら話が違う。

 前世では結構なオタクだったから、アニメやラノベもそれなりに読んでいた。そのなかには今の私と似たような、いわゆる異世界転生ものもあった。そういう話の定番は主人公がチートで無双する展開だ。

 もしや今の私ならそれができるんじゃないのか。しかもあんな強そうな親までいるんだ。これは勝ったな。

 そういえば、あの龍はどこにいったんだろう。

 

 

 

 ***

 

 

 

 数分後、龍が戻ってきた。しかも土産を持って。

 龍は戻ってくると岩のシェルターを崩し、私の前に口にくわえていたでかい猿をおいた。はじめは意味が分からなかったが、どうやら食えということらしい。

 なるほど。子を置いてどこに行ったのかと思ったら、餌をとってきてくれていたのか。ありがたい。ちょうどお腹がすいていた。

 

 でも猿か。いや、別にいいけどね。この龍は知能はあるようだけど、やはり野生の生き物だ。獲物を選り好みなんてしないだろう。でも、もうすこし良いものはなかったんだろうか。前世は日本で平均的な暮らしをしていたから、猿という食べたことのない、かつ未調理のものを食べるのには抵抗感がある。

しかし、背に腹はかえられない

 

 それじゃあ、いただきまーす。

 途端、口いっぱいに血の味と苦みがひろがり、獣の臭いが鼻を突き抜ける。

 うん、まずい。思わず吐き出しそうになるけど、何とか耐える。たとえ龍になったとしても私は乙女。吐き出すのはだめだ。

 

 なんとかまずさに耐えながらも完食したあと、改めて私の親である龍を見た。

 私の何十倍もある大きな体は青黒い鱗に覆われており、四本の脚で堂々と立っている。前足の付け根のあたりからは血のように赤い結晶のようなものが生えていて、強者の風格をより際立たせている。蛇のように長い尾は岩をも砕けそうなほどだ。そして、その額からは一本の鱗と同じ色の角が真っ直ぐに、後頭部からは二本の赤黒い角が少し反って、それぞれ生えており、他者を威圧している。

 自分の親とわかっても、やはりその圧倒的な強者のオーラには恐怖してしまう。というか、子どもの前なんだからもう少し威圧感を弱めてもらえないだろうか。そんなんじゃ懐かないぞ。

 

 そのとき、急に背筋が凍り、心の警報がビービーとうるさく鳴って、振り返る。そこには、龍と同じくらいの大きさの紫のコブラが、獲物を見る目でこっちを真っ直ぐに見据えていた。

 

《熟練度が一定に達しました。スキル『危険感知LV1』を取得しました。》

 

 コブラが口を開けて一直線にこちらに向かってくる。その口には鋭い牙が生えており、嚙まれれば私などひとたまりもないだろう。

 喰われる。死ぬ。思わず目をつぶって痛みに備える。

 

 しかしいつまでたっても痛みはやってこない。おかしいと思って、ゆっくりと目を開けると、そこには龍がいた。龍がわたしを庇ってコブラに噛まれていた。コブラは龍の首筋に力強く嚙みついており、血がしたたっていた。

 

 心配してとっさに龍の顔を見るが、そんな心配は一瞬で吹っ飛んだ。龍は真っ直ぐに私を見ていた。その顔には苦しげな色は全くなく、わたしを気遣うようですらあった。

 その顔を見た瞬間、私は理解した。この、目の前の絶対的な覇気を放つ恐ろしい龍こそが、

私の最高にかっこいい親なのだと。

 そして、私はその龍の娘なのだと、心の底から理解した。

 





 アラバと主人公の見た目が似ているのはアラバが孵化のために魔力を注ぎまくったからです。
 わざわざ毒耐性のない娘のために毒のない猿を捕まえてきたのに文句を言われるアラバ君、かわいそう。

 つづくかも


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名前

こんな思い付きの見切り発車の駄文を読んで、さらにはお気に入りしてくださる方がいらっしゃるなんて。感謝感激です。

追記 投稿してから確認したら、評価や感想までいただいていました。本当にありがとうございます。感想は返信はしませんがすべてしっかり読ませていただいています。返信しない分は執筆にあてるので許してください。


前回のあらすじ
古文の授業を受けていたら、異世界に転生しちゃった。しかも親は超怖いドラゴン。私はあんたなんかに懐かないんだから。でも、助けてくれたのは、す、少しだけ嬉しかったわ。


 襲ってきたコブラは龍にとっては敵ではなかったようで、龍は視線を私からコブラに向けた途端、一瞬でバラバラにしてしまった。それはもう、こちらが同情してしまうほどに容赦なく。

 いやー、強そうだとは思っていたけど、やっぱりこの龍、超強いわー。味方でよかったー。

 

 というか、いつまでも龍って呼ぶのはおかしいよね。お父さん、だよね?流石にお母さんじゃないと思うけど。

 あれ、そういえばお母さんはいないのかな。今のところお父さんしか見てないんだけど。母親はすでに死んでるとか?もしくは、異世界パワーで交尾なしでも繁殖できたりするのかな。うーん………、まあそのうちわかるか。

 

 お父さんに目を向けると、コブラにさっそく喰らいついていた。

 ………猿よりも蛇のほうが美味しそうだな。私も食べていいかな。いいよね。いいはず。

 食べちゃえ。

 

 私がコブラを食べる瞬間、視界の端に、あっやばい、という顔をしたお父さんが映ったが、私は関係なく食べてしまった。

 そこで私の意識は途絶えた。

 

 

 

***

 

 

 

 人は死の間際に走馬灯を見るという。それは今までの自分の生涯を振り返り、生き残る方法を見つけようとするからだという話をどこかで聞いた気がする。その時は人の生存本能というのは往生際が悪いなー、なんて他人事で聞いていた気がするが、まさか自分が見ることになるとは思わなかった。

 

 

 

「ちょっと美咲、早く起きないと学校おくれるわよ」

 

「もう五分、いや三十分」

 そう、あの日もいつも通りのごくありふれた日だったのだ。

 前日に徹夜でゲームをして、朝にお母さんに叩き起こされて、私は二度寝をしようとして。

 

「なんで増えてんのよ。お姉ちゃんはもうとっくに起きてるわよ」

 

 無理やり布団をはがされた私は、仕方なく起きて、リビングに行って、先に朝食を食べていた姉の美麗に憎まれ口を叩かれながらパンをかじって。

 

「いってきまーす」

 

 走らなければ遅刻確定な時間に家を出て、案の定チャイムが鳴るのと同じくらいの時間にクラスに着いた。

 

 クラスの光景もいつも通りだった。夏目君は男子の中心で威張っている。美麗は他の取り巻きの女子数人とともに若葉さんに嫌がらせをしていて、若葉さんはそれを意にも介さず、何事もないかのように振舞っていて、美麗はそれでさらにイラついている。教室の端では根岸さんが居心地悪そうにしている。私の隣の席では山田君が大島君と笹島君とゲームの話で盛り上がっていて、私に気付くと挨拶をしてくれたので、こちらも返す。

 そして、担任の岡崎先生が教室に入ってきて、出欠がとられる。すべてがいつも通りだった。そう、古文の授業の途中まではそのはずだったのに。

 

 

 

***

 

 

 

《熟練度が一定に達しました。スキル「毒耐性LV1」を取得しました》

《熟練度が一定に達しました。スキル「毒耐性LV1」が「毒耐性LV2」になりました》

 

 はっ。今のはまさか走馬灯っていうやつか。ということは、私は死んだのか。ここは天国か?

 

「************」

 

 違った。顔を上げるとそこには相変わらず怖い顔をした龍のお父さんがいた。そして相変わらず意味の分からない言葉をしゃべっている。

 でも、なんとなくこちらを気遣っているのがわかる。

 

 よく見ると自分の体がほのかに緑色に光っていた。さっき地面を自在に動かしてたし、これもなんかの魔法なのかな。状況的に考えて、回復魔法とか。

 もしそうなら、私はお父さんのおかげで死の淵から舞い戻ることができたのかな。

 

 そういえば、さっき熟練度とかスキルとか毒耐性とか聞こえたけど、この世界はもしかしてステータスとかスキルとか熟練度的なものがある感じなのかな。もしそうなら、少しだけ面白そうだな。いや、リアルでゲーム感覚は危ないとは思ってんだけどさ。

 

 それにしても毒耐性か。それって逆に言えば、わたしが毒を受けたってことだよね。あのコブラは毒があったのか。だからお父さんは私が食べたときにあんな顔をしてたわけね。

 というか私、短時間で二回死にかけて、二回ともお父さんに救われてるんだけど。しかも、うち一回は自爆って。間抜けにもほどがあるでしょ。

 

 でも、この世界はそういう世界ってことなんだ。ちょっと間違えれば簡単に死んじゃうような世界。あんなに強そうだったコブラだって、あっけなく死んでしまった。もしかしたら、敵なんていなさそうなお父さんだって、そのうち死んじゃうかもしれない。

 胸がチクッと痛む。そんなのは嫌だ。そうだ、お父さんにはもう二回も命を救われた。ならばその恩を返すためにも、強くならないと。

 

 都合よくこの世界にはゲームみたいなシステムがあるみたいだし、ガンガン鍛えて、お父さんを超えてやる。

 

 

 

***

 

 

 

Sideアラバ

 馬鹿な細長い魔物が突然、愚かにも我が娘を襲ってきた。咄嗟に我が代わりに攻撃を受けることで事なきを得たが、もし間に合っていなかったらと思うとゾッとする。それと同時に、こんな身の程を弁えない行動をした奴に怒りが湧く。

 

 ちらっと娘を見ると、怯えと驚きの混じった表情をしていた。無理もないだろう。まだ生まれたばかりなのに、早くも命の危機に晒されたのだから。だだ、ケガはないようだ。それだけは良かった。

 

 さて、まずは馬鹿を早急に殺そう。牙と爪を使い、魔物をズタズタに引き裂く。原型すら残さずに殺す。奴の血が飛び散って我の体を汚す。まったく、とことん不愉快な奴だ。

 しかもこの魔物は毒を持っているから、娘に食べさせるわけにもいかない。少し腹も減っていたし、こいつは我が食べておこう。

 

 そう思って、いつものように魔物の肉を貪って、娘から目を離した我が阿保だった。気付いた時には、娘は毒のある肉を食べる瞬間だった。

 毒耐性のない娘はひとくち口に入れた瞬間、予想通り毒のせいで倒れてしまった。

 

 ど、どうする。まだ幼い娘では、このままだと確実に死んでしまう。どうにかして、娘の体力を回復させなければ。そうだ、治療魔法があれば。

 

《現在所持スキルポイントは41100です。

 スキル「治療魔法LV1」をスキルポイントを100使用して取得可能です。

 取得しますか?》

 

 もちろん取得する。

 

《「治療魔法LV1」を取得しました。残りスキルポイント41000です》

 

 そのままスキルポイントを追加で900使って、治療魔法をLV10まで上昇させ、すぐさま娘に全力で治療魔法をかける。

 娘の心臓を確認すると、まだ動いていた。なんとか娘の命はつながったようだ。おもわず胸を撫でおろす。

 摂食でかかった程度の毒なら、治療魔法をかけ続けていれば毒耐性のない娘でも大丈夫だろう。これで一安心だ。

 

 一段落して落ち着いたところで、自分が娘の危機に対して相当あせっていたことに気付く。その前の魔物に襲われた時には、余裕をなくすほどに怒っていた。

 どうやら、我はこの血のつながらない娘をいつの間にか大切な存在とみなしていたらしい。

 なぜだろうか。いや、それは愚問か。そんなもの、決まっている。

 我が、この小さく貧弱な竜の親だからだ。

 おそらく、この子が卵から孵った瞬間、その愛おしい顔を見た瞬間から、我はこの娘の親となったのだ。

 

 そういえば、まだ娘に名前を付けていなかった。

 普通、我らが名前を授かるのは竜から龍となってからだが、この子の場合はいいだろう。この子は必ず龍となる。どうせもらうのだから、すこし早くあげても問題はない。

 

 そうだな、この子の宝石のように澄んだ青い瞳にちなんだものにしよう。

 毒が解けたのか、安らかな顔で眠る娘を、思いついた名前を心の中で復唱しながら見つめる。

 

 早く、その目を開けておくれ、我が娘、サフィ。

 

 




私の好きだった気高い武士のようなアラバが、いつの間にかただの親バカドラゴンになってしまった。でも、私が悪いんじゃありません。私の腕が悪いんです。すみませんでした。

読んでいただきありがとうございました。

つづけ


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鑑定


 今回、オリジナル設定が出てきます。苦手な方はご注意ください。あとでタグにも追加しておきます。

 
 見切り発車でかつ執筆速度がナメクジ並みの遅さなので、書き溜めとかほぼ皆無です、だから投稿時間が不規則すぎる。
 夢は予約投稿です(白目)。

前回のあらすじ
蛇が美味しそうに見えたので食べちゃったら、毒にかかって死にかけた。反省も後悔もしてる。


 

 私が毒から復活した後、お父さんは治療魔法を解いて、再び狩りに行った。え?なんで狩りに行ったのかわかるのかって?それは、お父さんが最初に狩りに行ったときをほとんど同じ言葉をしゃべっていたからだよ。

 意味は分からなくても、なんとなくこっちに向けている感情と繰り返し出てくる単語によって、推測はできる。こうやって赤ちゃんは言葉を覚えていくのかな。なんか赤ちゃんになったみたいな気分だ。いや、“みたい”じゃなくて、本当に赤ちゃんなんだよね。

 

 前回同様、お父さんは私を岩のシェルターに入れてどこかに行ってしまった。心なしか、このシェルターの壁も前回より厚くなってる気がする。

 

 さて、再び暇になったところで、先ほどの自分の決意について考える。

 

 強くなる、なんて簡単に言ってしまったけど、実際に何をすればいいのかは全くわからない。とりあえずは情報が欲しい。いまはスキルとかについてわからないことが多すぎる。

 せめて、今の自分の持っているスキルくらいは知りたい。

 

 お父さんに聞ければ話がはやかったんだけどね。言語とか魔法とかを使う知能があるみたいだし。でもまだ全然なに言ってるのかわからないからね。それは却下。

 前世で読んでたラノベとがだと、鑑定みたいなスキルで情報を得てたなー。

 

《現在所持スキルポイントは80000です。

 スキル「鑑定LV1」をスキルポイントを100使用して取得可能です。

 取得しますか?》

 

 え?なになに。どういうこと?スキルポイントなんてあるの?どこまでもゲームみたいだな。

 てか、私80000も持ってるの?基準がわからないから、多いのか少ないのか判断がつきにくいけど、多分かなりの量だよね。

 それで、鑑定を取るかだっけ?そんなの、取るに決まってるでしょ。

 

《「鑑定LV1」を取得しました。残りスキルポイント79900です》

 

 よし。これでスキルやらなにやら、すべて私にはお見通しだな。手始めに、この場所がどこか知りたいし、地面を鑑定する。

 

『床』

 

 は?いやそんなの知ってるよ。これは何かの間違いだろうか。いや、きっとそうに違いない。もう一度、地面を鑑定。

 

『床』

 

 いやいやいや、まさか鑑定は地雷スキルだったか?いや、そんなはずはない。きっと鑑定するものが悪かったんだ。今度は自分を鑑定。

 

『地竜』

 

 ………うん、もう何も言うまい。あ、いや、言うことあったわ。私って地竜なんだね。竜であることは分かってたけど、大地の属性だとは。

 まあ確かに、私もお父さんも翼がないしね。ここは洞窟みたいな感じだし、環境に合わせた進化をした種ってことなのかな。

 

 うーん、それにしても鑑定が使えないとなると、さっそく手詰まりなんだけど。さっき鑑定“LV1”って言ってたし、もしかしたらスキルレベルを上げたらもっと情報量が増えるのかな。どうにかしてレベル上げられないかなー。

 

《現在所持スキルポイントは79900です。

 スキル「鑑定LV2」をスキルポイントを100使用して取得可能です。

 取得しますか?》

 

 おお、天の声さん、まるで見計らったかのようにナイスなタイミングですね。というか、スキルポイントってスキルのレベル上げにも使えるのね。もちろん取得しますよ。

 

《スキル「鑑定LV1」が「鑑定LV2」になりました。

残りスキルポイント79800です》

 

 面倒だし、このままポイントで一気にレベルをあげてしまおう。できるだけ早く強くなりたいしね。

 

 そうして私は合計800ポイントを使って鑑定をLV10まで上げた。どうやら10でカンストらしい。

 

 さてさて、それではさっそく進化した鑑定さんの力を見せてもらおうか。

 やるぞ。やってやるぞ。三秒後に、3,2,1、って言ったらやるからな。いくぞ。

 ………やめよう。ボケても誰も突っ込んでくれないっていうのは、想像以上に空しい。

 

 こういう時、前世だとなんだかんだ美麗が突っ込んでくれてたけど、いまはいない。一体いまはどこでなにをしてるんだろ。

 前の世界で生きているのか、それともわたしと同じようにこの世界に転生してきているのか。転生してるなら、今は何になってるのか。人間かな、案外わたしと同じ竜だったりして。それとも、もう。

 いや、そんなことを考えてもしょうがないだろ。どうなっていても、今のままのわたしでは何もできない。

 

自分で勝手に盛り上がって、勝手にナイーブになって、馬鹿みたいだな。やめよう。とりあえず、いまは前だけを見ていよう。

 

では、自分を鑑定。

 

『エルローグレザード LV 1 名前 サフィ(漆原 美咲)

 ステータス

 HP:135/135(緑)

 MP:105/105(青)

 SP:120/120(黄)

   :100/120(赤)

 平均攻撃能力:85

 平均防御能力:80

 平均魔法能力:64

 平均抵抗能力:67

 平均速度能力:80

 スキル

 「地竜LV1」「龍鱗LV1」「命中LV1」「鑑定LV10」「危険感知LV1」「大地無効LV1」「毒耐性LV2」「暗視LV10」「孤独」「n%I=W」

 スキルポイント:79000

 称号

 なし』

 

 おおー。なんということでしょう。以前までは誰にでもわかることしか言わなかった鑑定さんが、今ではパッと見では何がなんだかわからないほどの情報量になりましたよ。これはスキルポイントを1000も使った価値があったね。

 

 とりあえず、一つひとつ見ていこうか。

 まず、エルローグレザードっていうのは、私の種族名みたいな感じかな。おっ、どうやら二重に鑑定できるみたいだ。

 

『エルローグレザード

 エルロー大迷宮に生息する下位の地竜。大地を操る。』

 

 おお。わたし大地を操れるの?というか、下位なんだね。お父さんは上位とかなのかな。

 まあ、それはいいとして、問題は種族名の横の名前だよ。

 括弧のほうは前世の名前だからいいとして、サフィっていうのは?もしかして、知らないうちにお父さんがつけてくれたのかな。そういえば、さっき狩りに行く時にそんな感じのよくわからない単語を言ってた気がするけど、あれって名前だったのか。

 

 サフィ。その名を何度も心の中で繰り返し唱える。今世の父親からもらった大切な名前。今日あったばかりの龍につけられた名前なのに、まったく不愉快じゃない。それどころか、どこか心地よい。

 わたしはサフィ。もう漆原美咲ではないんだ。その事実を心に深く刻みこむ。

 

 

 ……さて、そろそろステータスの確認に戻ろう。

 HPは体力、MPは魔法のためのエネルギーってとこだよね。二重鑑定してもおなじようなことが書いてある。

 SPはよくわからなかったけど、二重鑑定によるとスタミナのようなものらしい。

黄色は瞬間的スタミナ。ゲームでよくある、走るときに減るゲージみたいな感じだ。激しい動きをするとすぐに減るけど、ちょっと休めばすぐに回復する。

 赤色は長期的スタミナ。同じようにゲームで例えると、空腹ゲージみたいな感じ。常に段々と減っていくっぽい。それに、黄色のゲージがゼロになっても激しい動きをすると、こっちの赤色のゲージが代わりに減るらしい。しかも、こっちのゲージは食事をしないと回復しない。

 

 下の各能力は読んで字のごとく。唯一、抵抗能力がわかりづらいけど、これは魔法に対する防御力みたいなものらしい。ポ〇モンで言うところの“とくぼう”みたいなものだろう。

 

 ステータスの数値の基準が全然わかんないけど、自分の数値だけを見るなら、全体的に物理とスピードが優れてて、魔法は少し苦手な脳筋もどきだね。

 

 次にスキル。いろいろあるけど、ひとつだけ明らかに異色なものがある。この「n%I=W」ってなんだろう。鑑定しても鑑定不能って出てくるんだけど。すこし不気味だ。

 

 ほかに気になるのは地竜と龍鱗と孤独かな。

 地竜はレベルによってできることが変わって、LV1だと地面を少し揺らすぐらいしか出来ないようだ。

 龍鱗は特殊な鱗が生えて、防御力をあげる他に魔法を阻害する効果もあるらしい。

 

 そして最後は「孤独」だ。名前だけだとよくわからないので、これも鑑定する。

 

『孤独:孤独な者のみ発動できる。発動すると全ステータスを10倍にする。発動者は永久に孤独から逃れられない』

 

 なんだこれ。とりあえず、効果それ自体は強力だ。これ以上ないくらいに。でも、発動条件とか副作用がよくわからない。

 というか、なんでこんなスキルがあるんだ。他のスキルは種族の固有のものだったり、熟練度とかスキルポイントで取ったものだけど、これはどちらにも当てはまらないだろう。前者だったら、一人でいる地竜すべてがぶっ壊れステータスになるから、常識的にないだろう。後者だったら取得時に天の声が聞こえる。このスキルは天の声さんも言ってなかった。

 

 怖い。なんとなく、このスキルの存在が、このスキルについて考えることが、怖い。最初にお父さんに感じたのとは全く別の恐怖。もっとこう、自分の心の奥底の、自分でもわからない部分から湧き出すような、恐怖。

 誰かに会いたい。でも、ここには私しかいない。お父さんはまだ戻ってこない。

 

 今すぐお父さんに会いたい。一刻も早く。

 

 気付いた時には、わたしはシェルターの壁を壊して飛び出していた。

 

 





 スキルに関しては触れていないものもありますが、それは読者の皆様は原作を読んでらっしゃるだろうと判断した結果、いちいち触れるのはただ長ったらしいだけになると思ったからです。

 今回、オリジナルのスキルや地竜のスキルの内容を捏造などをしましたが、作者はステータス関連の理解度が低く、独自で考えるのも苦手なため、これからはもっとガバガバになっていくと同時に、ステータスを書くことも少なめだと思います。そういった面が好きな方には先に謝罪します。すみません。

 ネーミングセンスが皆無なので、今回の主人公の種族名とか前回の主人公の名前とかを考えるのにすごい時間がかかりました。
 しかも今回はステータスも出てきたから、かなりの難産でした。



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疑念


感想やお気に入りなど、皆さんありがとうございます。とても励みになります。


前回のあらすじ
鑑定はやはり神スキル。私は最初からその力を見抜いていたよ。ほんとだよ。
でもやっぱりお父さんがいないのは寂しいよー。うわーん。


 

Sideアラバ

 

 殺す。殺す。殺す。できるだけ原型をとどめたまま、それでいて確実に、群がってくる人型の魔物を、一匹残らず殲滅する。

 この種の魔物は、一匹殺せばその個体の群れすべてが勝手に自分からやってきてくれるため楽でいい。まあ、普段なら面倒であるため我も手を出さないが、今は大量の食糧が欲しいため都合がいい。

 

 いつもはブレスや大規模な魔法で一掃してしまうが、いまは食べることが目的だ。できるだけ、爪や尻尾、小規模な魔法で仕留める。

 右から飛び掛かってくる個体を右前足の爪で引き裂き、その隙に背中に飛び乗ろうとしてきた個体を尻尾で叩き落とす。全方位から一斉に攻めかかられれば、大地魔法で地面から岩の棘を生やして一気に串刺しにする。

 

 そんなことを繰り返していくと、みるみる数が減ってきた。はじめは視界を埋め尽くすほどの数がいたが、いまはもう数えられるほどしかいない。

 そんな数になっても、怯えたり逃げたりしないどころか、むしろより積極的に襲い掛かってくる。ここまでくると、むしろ哀れに思えてくるな。

 

 しかし、攻撃の手は緩めない。最後の一匹まで気は抜かない。こいつらと我の力は隔絶しているが、だからと言って一瞬の油断が命取りにならないとも限らないのだ。

 最後の一匹を爪で仕留める。もう増援もないようだ。まわりを見れば、死体の山ができており、まさに死屍累々といったところだ。

 

 さて、どうするか。今いる場所はこの下層のなかでは中規模程度の空洞。いまサフィがいる場所は安全を考えてあまり魔物のいない小さな空洞だが、そこまでこの量の死体を持っていくことは不可能。持って行けたとしても、あの小空洞ではこの量は入らない。

 

 いっそ、巣を移すか。この空洞はそれなりに魔物が通るが、通路を塞ぐなりすればその数も減るだろう。

 

 そうと決まれば、早くサフィのところに戻らねば。いまは我とこの人型の魔物の厄介さから魔物が近くにはいないようだが、そのうち戻ってくるだろう。そのとき死体だけが残っていたら、せっかく仕留めた肉が横取りされてしまうだろう。

 なにより、サフィをいつまでも独りにしておくのは心配だ。それに、先ほどから妙な胸騒ぎがする。一刻も早く戻らねば。

 

 

 

***

 

 

 

 巣に戻ると、そこはもぬけの殻だった。作っておいた岩の壁は壊され、サフィの姿はどこにも見当たらない。

 胸騒ぎが当たってしまった。それも最悪の形で。

 

「サフィ!どこにいる。サフィィ!サフィィイイイ!」

 

 叫びに対する返答は、空しく反響する我の声のみ。

狩りに時間をかけすぎた。己に対する怒りに、思わず力を爆発させてしまい、小空洞が一回り大きくなる。

 

 落ち着け。今するべきは己を責めることではない。サフィを探すことだ。

 まず、ここで何があったのか。

 他の魔物に襲われたという推測が浮かぶが、その可能性は低いだろうとすぐに考え直す。自分で吹っ飛ばしてしまったためすでに先ほどの痕跡は残っていないが、血の痕はなかった。大抵の魔物は仕留めた獲物はその場で捕食する。巣に持ち帰るとしても、生かしたまま何てことはまずない。それに、岩の壁は内側から壊されていた。

 

 サフィは自分から外に出たのだ。だが、何のために?なにかしらの危険を感じて逃げたのか?それとも、親がいないことに不安を感じて我を探しにいってしまったのか?

 答えはわからない。だが、まだサフィが生きている可能性は十分にある。ならば、それを信じて探すのみだ。

 

 今行くぞ、サフィ。

 

 

 

***

 

 

 

Sideサフィ

 

 もうどれだけ走っただろう。夢中で走ってきたから、自分がどんな道を通ってきたのかもわからない。今から戻るのも、まず無理だろう。

 この体で動くのは初めてなのによくスムーズに走れるなだとか、ここまで他の魔物に襲われないなんてラッキーだななんて、まるで他人事のようなことを思う。

 

 いまだにお父さんの影も形も見えない。たぶん道を間違えたのだろう。

 そもそも、お父さんに会いたいなら、あのままあそこで待っていればよかったのに。私は、何のためにこんなに苦しい思いして走ってるのだろか。

 

【私は、本当にお父さんに会いたかったの?】

 

 なんだその問いは。そんなの、そうに決まってるだろ。

 唐突に浮かんだ疑問をすぐに却下する。でも、一度浮かんだ疑念はなかなか消えず、私に語り掛けてくる。

 

【あんな怪物に会うためにこんなに走ってるのか?】

 

 五月蠅い。黙れ。子が親に会いたいと思って何が悪い。

 

【お前は本当にあれを父親だと思っているのか?こんなよくわからない状況で、言葉も通じない、人ですらない相手を?】

 

 でも、お父さんは私と同じ竜だ。鱗とか角だって似てる。私の卵を温めてたみたいだし。

 

【お前を育てて、都合のいい戦力として利用するつもりなだけかもしれないだろ】

 

 …………お父さんはそんなことはしない。

 

【なぜそんなことがわかる?それに、見た目が似ているのだって、ただ種族的に似ているだけかもしれない。もしかしたら血のつながりなんてないのかもしれない】

 

 っ、そんなこと言ったら、前世のお父さんとかお母さんとか、美麗だって私と血はつながってなかった。

 

【じゃあ、お前は前世の家族を、心の奥底から家族だと思っていたのか?】

 

 ………………………。

 

【ほら、なにも言えないだろう。結局のところ、お前は血のつながりだとかなんだ言ってごまかしているが、実際は】

 

 その瞬間、唐突に現実に引き戻される。どうやら、何者かに急に引っ張られたらしい。

 ついに私のラッキーも終わりか。最後に私を食べる奴の顔くらいは見ておこう。そう思って顔をあげると、そこには

 

 白い蜘蛛がいた。

 

 

 

***

 

 

 

 な、なんだこの蜘蛛。さっきからよくわかんない動きをしてるし、小さいけど鳴き声みたいなものを言っている。でもなぜかこちらを攻撃しようとしない。

 奇妙だ。さっき私を引っ張った蜘蛛糸もすぐに解いちゃったし。とりあえず、鑑定。

 

 鑑定によって頭に相手の情報が入ってくる。どうやら、この蜘蛛はスモールタラテクトというらしい。でも、私にとってそんなことはどうでもよかった。なぜなら、もっと注目すべきものがあったから。

 スキルの欄にある「n%I=W」の文字。あの意味不明のスキルを持っている。私と同じように。しかも、私と同じように鑑定のスキルも持っている。

 これはひょっとして。

 どうにかこの蜘蛛さんと意思疎通したい。なにか、念話的なものはないのか。

 

《現在所持スキルポイントは79000です。

 スキル「念話」をスキルポイントを100使用して取得可能です。

 取得しますか?》

 

 取得する。

 

《「念話」を取得しました。残りスキルポイント78900です》

 

 さっそく念話を使用する。相手はもちろん目の前の蜘蛛さん。

 

『もしもーし、聞こえますかー』

 

『えっ、なにこれ!頭の中に直接、声が聞こえてくる!』

 

 どうやら、念話は正常に作動しているらしい。

 

『聞こえてるみたいだね。しかもその日本語。やっぱりあなた、転生者でしょ?』

 

『えーと、目の前の地竜さんが語り掛けてきてるんだよね?やっぱりってことは、あなたも?』

 

『そーだよ。前世の名前は漆原美咲。今は地竜になってサフィって名前だけど。あなたは?』

 

『わたしは若葉姫色。危ないところ歩いてる魔物がいると思ったら、鑑定で漆原美咲って名前が見えたから、咄嗟に助けたんだけど』

 

 若葉さんか。微妙に気まずいな。なんといっても、姉が嫌がらせをしていた相手だ。私自身はほとんど関わりはなかったけど、関係がないというのは無責任な気がする。

 いや、それより、危ないところ?助けた?なんのことだろう。

 

 若葉さんの言葉に疑問を感じて、あたりを見渡す。

 広がっていた景色は、天井も見えないような大きな縦穴、そして人など簡単に丸のみにしそうな大きな蛇と人ほどの大きさの蜂の大群との、怪獣大決戦とでも言わんばかりの激しい争いだった。

 

 





オリジナルではないキャラの台詞を考えるのって想像以上に難しいんですね。他の作者さんを改めて尊敬しました。


ここまで読んでくださりありがとうございました。


つづいてほしい


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暴力の化身


 UA数1000突破ありがとうございます。皆さんのおかげです。これからもこつこつ頑張っていきたいと思います。
 それと投稿に少し間が開いてしまい申し訳ありません。毎日投稿は厳しいかなと思うので、これからは投稿頻度が段々と落ちていくと思います。



前回のあらすじ
アラバ は 親バカドラゴン から モンスターペアレント に 進化 した


 

 時間は少し遡る。

 

Side蜘蛛

 

 調子に乗って余裕ぶっこいてたら大きな穴から落ちちゃった。てへぺろ。

 いや、そんなふざけてる場合じゃないんだよ。

 

 周りでは蜂と蛇が争ってる。正直に言って、狙われればホームのない私なんてひとたまりもない。とはいえ、いまここにホームを作って迎え撃つなんて言うのも論外だ。蛇は単体でも厳しい相手だし、蜂は数が多すぎる。

 

 蛇も蜂も互いに夢中なおかげで、岩の陰にいる私には見向きもしてないけど、いつこっちに気付くかわからない。いまは、兎に角あいつらに見つからないようにしながら、この場を一刻も早くのがれないと。

 

 善は急げだ。さっそく逃げ道を探す。それと同時に、蛇と蜂が動向にも注意する。

 しかし、逃げ道を探す私の目に、この殺伐とした空間には場違いな存在が映る。

 

 小型犬ほどの大きさの、トカゲみたいな魔物。“みたい”というのは、その額に小さいが角が生えているからだ。見かけだけだととても弱そうだ。私でも倒せそう。

 ふらふらと心ここにあらずといった様子でゆっくりと、蛇と蜂に近づいていく。まるでそこで起こっていることが見えていないかのように。

 その魔物っぽくない動きに違和感を感じながら、とりあえず鑑定してみる。

 

 すると鑑定さんが信じられないことを告げてくる。

 そのトカゲもどきには、名前がふたつあること。ひとつはサフィという全く知らない名前。

 そしてもう一つは、漆原美咲という、どこかで聞いたことのある、そこらの魔物が持っているはずのない名前。

 

 そのサフィとやらは、私が驚いている間にも広間の中央に近づいている。

 気付いた時には、私は蜘蛛糸で彼女を自分のいる岩陰まで引き寄せていた。

 

 それが、この先で幾度となく出会うことになる、漆原美咲改め、サフィとの初めての邂逅だった。

 

 そして、後々に私が最も後悔することになる出来事である。

 

 

 

***

 

 

 

 時は戻って現在。

 

 

 いやーこの子まじか。まさか目の前で行われている怪獣たちの戦争に今の今まで気づいてなかったとは。よくいままで生きてこられたね。何回か死にかけてる私が言うことじゃないかもしれないけど。

 

 それにしても、私以外にも転生者はいたんだね。これはクラス全員転生してるのかもしれないな。異世界転生もののラノベでもありがちなやつだよね。

 

 でも、漆原美咲さん、か。前世じゃ学校は一応行ってた程度で、クラスの人の名前なんて半分以上は覚えてないけど、彼女のことは覚えてる。

 彼女自身は特別目立つほうではなかったと思う。でも、彼女の姉はカーストのトップみたいな感じで、なにより私によく嫌がらせをしてきた。妹の彼女はたまに姉の嫌がらせについて謝りにきたので、それで覚えていた。

 謝られた時には、自分は全く関係ないのに律儀な人だと思った。それと同時に謝るくらいなら止めろよとも思ったけど、コミュ障の私がそんなことを言えるはずもなく。

 その人とまさかこんな形で再会することになるとは。

 

『でも、漆原さんはなんであんなふらふらしてたの?』

 

 前世では話せなかったのに、なぜか今は自然に言葉が出る。相手が見た目は人外の魔物だろうか、それとも心で直接会話してるからだろうか。

 

『えーと、できれば前世の名前じゃなくて、サフィって呼んでもらってもいいかな?』

 

 そっか、妹ちゃんには今世の名前があるんだよね。でも、彼女も魔物のはずなのに、なんで名前があるんだろ?人間並みの知能がないと名前なんて付けないと思うんだけど。

 

『それなら、サフィちゃんでいいかな?それでなんであんな危険な場所をふらふらしてたの?』

 

『それなんだけど、実は私、お父さんを探してたんだよね。大きくて私と同じ色の鱗の地龍なんだけど、若葉さん見なかった?』

 

 ほう、地龍か。龍なら名前を付けるくらいの知能があってもうなずけるな。でも、地龍なんているのか。私じゃ絶対に勝てなそうだな。

 でも、それだけの知能の高さなら、交渉次第で味方にできないかな。こっちにはその娘がいるわけだし。大穴に落ちた時は大ピンチだったけど、これは不幸中の幸いかもしれない。

 

 その時、私たちの隠れている岩の向こうで爆発音がした。それと同時に背筋にゾワッとする感覚が走り、本能が全力で危険信号を送ってくる。

 

 慌てて覗いた岩の向こう側には、先ほどまで熾烈な戦いを繰り広げていた蛇と蜂の姿はなく、代わりに圧倒的な力そのものがいた。

 

『地龍アラバ LV31 ステータスの鑑定に失敗しました。』

 

 なんだあれ。

 大地を力強く踏みしめる四肢。

 さっきの蛇の何倍も硬そうな鱗。

 鞭のように長く伸びた尻尾。

 すべての存在を畏怖させる大きな角。

 まさに威風堂々と言った立ち姿。

 それらすべてがその存在の危険性をこちらに強烈に訴えかけてくる。

 

 あれはやばい。

 絶対に勝てない。

 生物としての次元が違いすぎる。

 あれの前じゃどれだけ足掻いても無駄だろう。

 

 なのに、それなのに、その圧倒的危険生物は真っ直ぐこちらに向かってきている。まるでここに私たちがいることに気付いているかのようだ。しかも物凄く怒っているように見えるのは私だけだろうか。

 

『あ、お父さんだ』

 

 え!?あれが噂のお父さんなの!?

 無理無理無理無理。あれと交渉なんて命がいくつあっても足りない。

 

 というか、もしかしてあの龍が怒ってるのって、娘を取られたと勘違いして怒ってるのかな。

 もしそうなら、非常にやばい。ターゲットにされたら絶対に逃げきれない。

 

 バゴンッ

 

 ひいっ。

 隠れてた岩が尻尾で一撃で破壊された。完全にこちらをロックオンしてるみたいだ。

 アラバは私が逃げ出すよりも早く、私を引き裂こうとその鋭い爪を振り下ろしてくる。

 

 

 

 

 

 が、爪はすんでのところで止まった。サフィちゃんが私を庇ってくれたからだ。

 危なかった。

 自分の命がなんとかつながったのだと認識する。途端に胸に広がる安堵と、生殺与奪の権利を相手に握られたことによる屈辱。

 でも、なにはともあれ助かったのは確か。サフィちゃんに感謝しなければ。

と思ったけど、もとはと言えば死にかけるような事態に陥ったのもこの子のせいだよね。なんというか、ちょっとはた迷惑な子だな。

 

 アラバはしばらく私とサフィちゃんを交互に見つめた後、何かを感じ取ったのか、クルッと振り返った。どうやら私を狙うのはやめてくれたらしい。

 

「サフィ、*****」

 

 最後にそう言って行ってしまう。名前以外はなにを言ってるか解らなかったけど、この世界の言葉なのかな。それとも龍特有の言語とかかな。まあ、どっちでもいいけど。

 

『ごめんね若葉さん。危ない目に遭わせちゃって。多分お父さんは私を守ろうとしてくれただけだと思うんだけど、若葉さんにとっては知ったこっちゃないよね。本当に、私のせいでごめんなさい。もう行くね。若葉さんとも一緒にいたいけど、下手したらお父さんに殺されちゃいそうだから、それは無理だよね』

 

 そんな洒落にならないことを言いながら、サフィちゃんはアラバの後を追っていく。さっきのことに呆気にとられていた私は、ろくに返事もできずに、ただそれを見つめているのみだった。

 

『またね』

 

 その“また”が、最悪なものであるとは、この時は私も彼女も、想像もしなかった。

 

 

 





ここまでご覧いただきありがとうございます。


つづく 多分


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背中

 前回からかなり間が空いてしまい、本当にすみませんでした。失踪しかけましたが、私は元気です。

 今回は急に随分とシリアスになるので、風邪をひかないようにご注意を。ただし、文字数はいつも通りの少なさなので、すぐにシリアスも終わります。


前回のあらすじ
原作主人公、登場した次の話で早くも死にかける。


Sideサフィ

 

 若葉さん(蜘蛛)と別れた後、私とお父さんは迷宮の道を縦に並んで歩いていた。      

 速くもなく遅くもない快適な速度。あくまでも私にとってのちょうどいい速度だから、体躯の大きいお父さんにとってはかなり遅いだろう。

 さっきはあんなに荒々しく他の魔物を蹂躙していたお父さんも、今はとても静かだ。喋らず鳴きもせず、ただ二頭の竜の足音だけが殺風景な迷宮に空虚に響いている。

 

 勝手に飛び出してきたわけだし、何かしらのお叱りでもあるかと思ってたんだけど、いまのところ何もない。まあ、例え何かを言われても意味は分からないんだけど。

 

 さっきの疑念が再び顔を出す。

 もしかして、私のことなんてなんとも思ってないのかな。本当に都合のいい兵士程度に思ってるから、私が死にそうになっても大して気にしないのかも。

 

 いや、若葉さんを攻撃しようとしたときの鬼気迫るようなものは、決してただの下等生物に向けるものではなかった。ああいうものを殺気と呼ぶのだと、そんなものとは無縁だった私にも理解できた。

 あれは確実に怒っていた。

 

 なぜ?

 どう考えたって、私のためだろう。どんなに鈍感だろうと、さすがに悟る。

 煮えたぎるような怒りを他の存在すべてに向けていても、唯一私にだけは違った。あの時、岩を壊して私を見つけた時のお父さんの目には、確かに安堵と慈愛の色が見て取れた。

 どんなにお父さんとの関係を疑おうとも、あの目だけは疑いようがない。

 

 では今のお父さんはどうなのか。後ろを歩いてるせいで顔が見えないから、どうにも感情が読み取れない。静かに怒っているような気もするし、安心して気を緩めているような気もする。

 せめて意味が解らずとも何か言ってくれれば、語気から伝わるものもあるのに。

 

 そういえば、子どもの頃にも似たような状況があった気がする。

 

 

 

***

 

 

 

 小学生の時、私はいじめに遭っていた。その当時の私は根暗でコミュ障で、学校で話す相手など姉くらいだった。その姉ともクラスは別だったから、教室では基本一人。そのくせ、自分で言うのもなんだけど顔はそれなりに整っているほうだ。女子たちにとっては格好の的だったのだろう。

 

 私は誰にもそれを打ち明けることはなかった。仕返しが怖かったのもあるけど、それ以上に自分の情けない姿を知られることを幼心に恥じたのだと覚えている。

 

 いじめる側は、子供ながら悪質なことに周りの人間にばれないようにするのが巧妙だった。しかも私自身も隠そうとして何もないかのように振舞っていたから、教師も両親も姉も、私の様子がおかしいとは感じても、いじめられていることには気づいていなかっただろう。

 

 ある日の放課後に、私がノートを職員室に運んだ後、帰るために自分の机に戻ると、教科書がビリビリに破かれて机の中に詰められていた。

 いま考えると、それまで証拠をできるだけ残さないようにしていたいじめっ子たちがついにぼろを出したわけだが、小学生がそんなことを考えるはずもなく。

 ただ私は、どうやって親に悟られないようにするか頭を回していた。

 

 そのあと、気付いたら近所の公園にいた。よくあるドーム状の遊具の中で、ただ静かに袖を濡らしていた。

 破けた教科書は乱暴にランドセルに詰めて持ってきた。それを一人で処分することはできる。でもなくなった教科書ばかりはどうにもならない。グシャグシャに引き裂かれた教科書はテープなどで直すのも無理がある。

 どれだけ考えても嫌な未来ばかり思いつく。たとえ親に隠しても、結局は教師にばれる。

 

 誰か大人がいれば、そもそも私が隠す意味などないのだと教えてくれたのだろうが、残念ながら私は独りだった。

 ただひたすら、必ず訪れる未来から目をそらして蹲ることしかできない子供だった。

 

 とにかく誰にも会いたくなかった。外界の何もかもシャットアウトしたかった。時の流れを感じたくなかった。そのまま存在ごと消えてなくなりたかった。

 

 それでも、世界は非情で残酷だ。太陽も月も勝手に昇るし勝手に沈む。人が歓喜しようが泣き喚こうがずっと同じ速度で時は流れる。

 

 そして、世界は残酷であると同時に平等だ。誰にでも温かな日の光を、恵みの雨を、美しい夜空を与えてくれる。

 こちらの望みに関係なく。

 

「やっぱりここにいた。あんたワンパターンだよね」

 

 突然うしろから聞こえた耳馴染みのある声に振り向くと、飽きるほど見た姉の顔が遊具の穴から覗いていた。

 

「早く帰ろ。あんたがいないとお母さんがご飯たべさせてくれないんだけど」

 

 相変わらずの憎まれ口だったが、声や表情から優しさが感じられる。どうやら帰りの遅い私を心配して探しに来てくれたらしい。

 

 私が驚きと不安から動けずにいると、美麗は無理やり私の手を引っ張って、暗い遊具の中から出してしまった。全く強引だ。そういうところはずっと変わらない。高校ではそれが悪い方向に行ってしまっていたけど。

 

 引かれるまま呆然と家路を歩く。そのうち自分がランドセルを持ってきていないことに気付くが、姉の右手を見て安心した。いつもは意地が悪いのに、こういう時はさりげない気配りをするのだから、ずるいと思う。

 

 私とほとんど身長は変わらないはずなのに、姉の背中はとても大きく見えた。握った手は力強く、放そうとしたって放してくれそうにない。なにも言わないのに、まるで“大丈夫だよ”なんて言っているみたいだ。

 不安も絶望も消えてなくなったわけではない。でも、ランドセルがないせいか体は軽い気がする。

 まだまだ怖いけど、美麗がいれば大丈夫だ。そう思えた。

 

 私は姉の横に並んで、握られた手を強く握り返した。いつか自分が姉の手を握れるようになろうと、心に誓って。

 

 

 

***

 

 

 

 あの時もいまと同じように沈黙だった。でも、今と違うのは相手が気心の知れた相手ではないことだ。竜の感情は竜なりたての元人間には難易度が高すぎる。

 

 でも、それがどうした。なにを私は疑っているんだ。お父さんは私を必死に探してくれたんだ。

 なら、今度は私が歩み寄る番だ。

 そもそも相手の感情がわからないなんて当たり前だ。なのに、うだうだと悩むなんて。美麗に怒られてしまう。

 

 あの時の誓いはいまだ果たせていないけど、諦めたわけではない。こんな私では、ずっと美麗に手を引かれるだけだ。その立場に甘んじてはだめだ。

 

 ゆっくりと歩調を速め、お父さんの横に並ぶ。そのまま、少しお父さんに寄り添う。ごつごつとした鱗の感触には安心感すら感じる。

 

 お父さんはやっと私が横に来たことに気付いたのか、止まってこちらに振り向いた。

 そうだ、この目だ。

 生まれた時にも、さっきの縦穴でも、ずっと私に向いていた目。温かみを感じさせるその目を見ただけで、疑念など吹っ飛んだ。

 

 言葉は通じない。けど、想いは通じる。

 お父さんは私を心配してくれていた。ただ無事を祈って探してくれていた。それだけは確かで、それだけ分かれば十分だ。

 

 唐突に浮遊感を感じる。でも、すぐにお父さんが尻尾で器用に私を持ち上げていることに気付いて、なされるがままに任せる。お父さんは私を自分の背中に乗せると、再び歩き出した。

 

 私のよりも硬い鱗は少しの不快感と多大な安心感を感じる。適度な揺れに誘われ、そのまま私は眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《熟練度が一定に達しました。スキル「並列意思LV1」を取得しました》

 

 

 

 




 サフィちゃんがすごいネガティブになってしまい、メンヘラっぽく感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、そんなことはない、はずです。ただ好きな人には尽くすタイプであるとは思います。


ここまで読んでくださりありがとうございました。


つづいて


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異世界にもニートはいるらしい

 皆様、あけましておめでとうございます。2022年も「地龍の娘」をよろしくお願い致します。
 これからものんびりと頑張っていこうと思うので、気長に続きを待っていただけると幸いです。




前回のあらすじ
 サフィとアラバの距離が縮まった。物理的に。 


 朝起きたら知らない天井だった。

 なんてね。この台詞、一度言ってみたかったんだよね。実際には仰向けで寝てるわけではないから天井なんて起きた時には映らないし、そもそも自分の部屋の天井なんて碌に覚えてない。

 というか、この場所で起きたの、もう初めてじゃないからこの台詞はもう遅いんだけどね。

 

 若葉さんと出会ってから、多分だけど数日たった。ここは日の光が届かないから、時の流れがわからない。

 

 お父さんは基本的に一日中この広いエルロー大迷宮下層を歩き回ってる。なんの目的があるのかはよくわからない。

 寝るときになってやっと巣に戻ってくる。といってもお父さんはスキルのせいか寝ていないようだけど。

 巣というのは、前の私が生まれたところじゃなくて、もっと広い空洞だ。なぜか猿の死体が大量に転がっていた。もうほとんど食べつくしちゃったけど。

 

 私もお父さんの後ろをずっとついていってる。お父さんに連れてこられてるのもあるし、私自身も離れたくなかった。

 あの日に背中に乗せてくれたのはどうやら特別だったらしく、私はずっと自力で歩いてる。まあ、ずっと親におんぶにだっこされてちゃ、文字通り自分の足で歩けなくなっちゃうもんね。

 でも、逆に歩く以外は何もしていない。餌はすべてお父さんにもらっているし、襲われても戦うのはお父さんだけだ。今の私は完全にニート。

 

 だけど、出来るようになったこともある。なんと、言葉がわかるようになったのだ。まだ意味不明な単語もあるけど、日常会話くらいなら支障はない、と思う。

 

 でも、まだお父さんに話しかけたことはない。常識的に考えて生後数日の子供が喋るわけはない。龍の世界でもそうなのかは分からないけど、どんなに少なく見積もっても数日は早すぎる。

 理由は、転生者であることを隠しておきたいから。嘘をついている罪悪感はあるけど、なんとなく、今はまだこの人にはごく普通の娘として見てほしい。

 純粋な、なんの汚れもない、普通の子供。親に助けてもらわないと生きていけないか弱い娘を演じている。

 その甲斐あってか、お父さんは私のことを喋れないけれど意味は理解できる程度に認識しているようだ。

 

 それと、鑑定でお父さんの名前とステータスなんかもわかった。どうやら“地龍アラバ”という名前らしい。

 私は地“竜”で、お父さんは地“龍”なのは疑問だったけど、どうやら龍は竜の上位種らしい。おそらく私も成長すれば龍になれるのだろう。

 

 ステータスについては、見た印象通りの化け物だった。

 数値でわかる能力は全て4000超え。出会った魔物を度々鑑定してるけど、1000を超えるのすらそうそういない。

 スキルの方も知らないものがズラーッと並んでいて、まだ異世界システム1年生な私には、よくわからないけど強そう位にしかわからなかった。

 それでも、ゲーム感覚で考えると物理と魔法とどちらも優れていて、守りも隙がなく万能で強そうに思える。

 

 まあ、とにかく私とお父さんの実力は月とすっぽんほどの差があるってことだね。追いつくためには、生半可な努力じゃ無理だ。

 長い時間を、それこそ人間の寿命とは比べられないほどの年月を掛ければ簡単なんだろうけど、そんなに待ってられない。

 私だっていつまでも守られている気はない。独り立ちしてもお父さんが安心できるようにならないと。

 その時こそ、私の嘘も打ち明けたい。

 

 強くなるために相当な努力が必要とは言ったけど、勝算はある。

 

 まず、私はお父さんの子供だってこと。親と同じ種族なんだから、同じくらい強くなることだって十分可能なはずだ。

 しかも、私には鑑定がある。生き抜くためにも効率的に強くなるためにも情報は不可欠。

 鑑定を持っている魔物はお父さんを含めて一切見ていない。つまり私は情報戦において何十歩も何百歩も先を行っていることになる。これは強みだ。

 

 ここ何日か鑑定を使っていて、スキルもいくらか勉強した。種族固有のものや魔法系のもの、感知系のものなど、多種多様のものがある。

 その中にはステータスに補正をかけるスキルも存在する。その中でも強力なものが成長に補正をかけるスキルだ。

 このスキルを早めに取れば、より早い強化が望めること請け合い。

 

 ということで早速スキルポイントでそのスキルを取得しよう、とはならない。スキルポイントは無限にあるわけではない。八万もあると感覚が狂ってしまうけど、計画性もなく使っていればすぐに終わってしまうだろう。

 この先スキルポイントがどのくらい手に入るのか、そもそも増えることがあるのかすらわからない。

 この世界はゲームのようではあるけど、れっきとした現実だ。攻略本や攻略サイトもなければ、セーブして巻き戻せるわけでもない。

 

 幸い、鑑定によって現在のスキルポイントで取得できるスキルは分かるから、今は何が必要か考えているところだ。

 

 それに、スキルは熟練度を溜める事でも得られる。熟練度はスキルにまつわる行動をすることでたまる、システム内数値みたいなもの、だと理解している。

 例えば、毒にかかると「毒耐性」の熟練度が溜まる。私が持ってる毒耐性も蛇の毒のおかげ、というよりせいで取得したものだ。

 このスキルのおかげで毒を持つ蛙みたいな魔物も食べられる。他の魔物の五割り増しでまずいし、ダメージも多少受けるけど。でも、その苦しみを乗りこえたことで、今の私の毒耐性はLV5まで成長した。

 

 スキルごとに必要なスキルポイントは変わってくるし、中には特殊で熟練度の溜め方すらわからないようなものもある以上、熟練度で取れるものにポイントを使いたくない。

 そう考えると鑑定もレベルマックスにしないで、途中からは自力でレベル上げすればよかった。

 

 そういえば、自分のステータスを確認していたら、知らないスキルがあった。「並列意思LV1」という、多重人格になるみたいな効果のスキル。

 取得した旨のアナウンスを聞いた覚えがないんだよね。寝てる間にでも取ったのかな。

 しかも、奇妙なことに私は第二の人格なんて目覚めていない。なんなんだろうか。

 

《熟練度が一定に達しました。『過食LV1』が『過食LV2』になりました》

 

 考えながら残りの猿をムシャムシャ食べてたら、過食のレベルが上がって思考が中断される。

 このスキルはSP(赤)の上限を超えて食べた分をストックできる優れもの。

 しかも食べてるだけでレベルが上がってすごい楽。魔法とかスキルなしだと熟練度の稼ぎ方の見当もつかないし。

 

 さて、そろそろ今日の巡回の時間かな。お父さんも食事が済んだみたいだし。

 今日はどんな魔物に遭うかなー。美味しい魔物がいいな。魚みたいのは見た目で少し期待させておいて毒持ちだったし、いまのところカマキリが一番マシな味かな。結局まずいけど。

 

「サフィ、今日は狩りだ」

 

 お父さんが口数少なく最低限の言葉で要件を伝えてくる。

 ほう、狩りですか。今までは偶然出会った魔物を狩ってたけど、今日は明確に魔物を狙うわけか。

 

「ただし、狩りをするのはお前だ、サフィ」

 

 へー、サフィさん大変だね、頑張って。………………ん?それ私じゃん!?

 

 こうして、私の予想外に、ある意味望み通りに、初戦闘の機会がやってきた。

 




 久しぶりの投稿なのにほとんど説明になってしまいすみません。ただこういう話がないと今後の展開がスムーズに進まないので、ご勘弁を。

 

 ここまで読んでいただきありがとうございました。


 つづ………………く


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