氷炎将軍だった長谷川さん (灰汁人)
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〔回り過ぎた走馬灯〕

本作に登場する設定は原作を読んで勝手に想像した部分が大半であり、公式設定と食い違う記述があったとしたら調査不足またはこいつ勝手に変えやがったなとお察し下さい。

共通点は意外と多いのに誰も書かなかったこの組み合わせ、私の認識や感覚が狂ってるだけなのでしょうか?


「何が、どうなって、やがんだよ!」

 

 突っ込み不在でまともな会話が成立しない日々、周囲の声が耳に入るだけで精神を削られていた私は変化を望んではいた。

 確かに変化を望んではいたが、それでも昔話に出て来るような妖怪変化に追い掛け回されるなんて超展開は決して求めてなかったし、藍色のスーツを着たサラリーマン風の中年男が言ったお嬢様とやらに近付く下準備の為に襲われるなんて冗談じゃない。

 

 走っても走ってもすぐ後ろにピタリと付いて離れず追走する金棒を持った赤鬼、煽るような関西弁と下品な笑い声が腹立たしいものの状況的に言い返せるだけの余裕はなく、授業以外でまともに運動してなかった足はそろそろ限界が近いし、呼吸も乱れまくって今すぐにもぶっ倒れたいのだが、その後どんな目に遭わされるかを考えたら無理な相談である。

 身の回りでお嬢様と言われ思い浮かぶのは委員長こと雪広 あやかだが、ルームメイトでもなければ特別親しかったりと言った接点がある訳でもないし、それこそ同じクラスに所属しているだけの私よりも先に狙うべき相手がいるはずだ。

 具体的にはルームメイトで親友と思しき那波や村上、他にも何かとぶつかり合ってる神楽坂やそのルームメイトである近衛もいるし、クラスメイトってだけならわざわざ私でなくても良いだろうにと余計な事を考えていたせいか、横合いから現れた小太りの黒鬼に気付くのが遅れ避ける間もなく腹を蹴り飛ばされた辺りで意識が途切れる。

 

 

*

 

 

「たっ、頼む……もう一度チャンスを……ミストバ!」

 

 勝てると思った戦いにあっさり敗れたオレ()は、宙に浮かぶ白衣の存在を見上げ恥も外聞もなく再度のチャンスを懇願したが、返されたのは踏み躙る靴の裏と言う屈辱的な拒絶、灼熱の怒りと凍える絶望が殺意となって噴出すよりも早く意識が拡散し、そのまま無に還るはずだったオレ()のあるかどうかも怪しい魂は人間に生まれ変わったらしい。

 それから記憶を失い無力な人間として生きた十数年間は、植え付けられた知識と価値観を元に1年足らずしか生きてなかった(オレ)の人格に多大な影響を与えたようだが、表面上の変化はあろうと根本的な部分で変わらぬまま今に至る。

 勢いの良過ぎた走馬灯が巻き戻るはずのなかった記憶を呼び覚まし、怯えて狩られるだけの無力な小娘でしかなった(オレ)は、氷炎将軍フレイザードだったオレ()へと回帰した。

 

 

*

 

 

「……フヒッ、ヘハハハ」

「チッ、あまりの痛みと恐怖に気ぃでも狂いよったか?」

 

 禁呪生物の粗悪な模造品じみた雑魚に怯え逃げ回っていた自分の間抜けぶり、そしてそんなガラクタを引き連れ勝ち誇った表情を浮かべる三下がとても滑稽で笑いを抑えられない。

 死して呪法核を失おうが、元よりこの魂はハドラー様が禁呪法で生み出した炎と氷の魔力から転じた異端、故にどんな因果か人間に生まれ変わろうとも付与された知識や技術は色褪せず残っており、記憶さえ取り戻せば肉体が貧弱でボロボロになった小娘だろうと勝算は十二分にある。

 訝しげな表情でこちらを見るサラリーマン風の中年男を無視し、よろめきながら立ち上がり左半身に業火を右半身に氷塊を纏った私は、息を吐き出すように口から燃え盛る火炎を撒き散らす。

 咄嗟に懐から紙切れを取り出した中年男は短く呪文を唱えてバリアを張り、昔話に出て来そうな妖怪の群れはまともな抵抗すらできず瞬く間に燃え尽きた。

 残るは高級そうだったスーツが焼け落ち下着姿になった中年男、ご都合主義的な超展開でもなければ死亡確定な状況を理解し煤と絶望に塗れた表情は滑稽そのものだが、オレの正体を見た者に生き延びられると後で面倒事が起こりそうだし、こいつを見逃してやる義理や理由もないので仕返しと証拠隠滅を兼ね跡形もなく焼き殺す事にする。

 

「オレの火球呪文(メラ)は灰も残さねえ地獄の業火だぜ」

 

 左腕を掲げて伸ばす指先に火球を生み出し、耳障りな悲鳴を上げながら驚くべき速さで走り去る中年男の背中へと振り下ろす。

 

「ニウィス・カースス!」

 

 聞き覚えのある声が響くと同時、オレの左腕が爆裂呪文(イオ)氷雪呪文(ヒャド)を組み合わせた爆発じみた冷気に包まれ、撃ち出そうとしていた火球呪文(メラ)が腕ごと明後日の方向に流された。

 どんよりとした曇り空に支えもなく浮かぶ小柄な人影、全身をすっぽり覆うローブは腹立たしい誰かを思い出すが、比べようもなくボロボロなそれを纏う中身は知り合いのクソガキ、加えて言えば今生のクラスメイトでもある。

 

「フンッ、身の丈に合わない使い魔の制御をしくじり暴走させたか?

 炎と氷の化け物とは、魔法世界(ムンドゥス・マギクス)で作られた実験体の類にしても珍しいな」

「……このオレを、魔王軍の切り込み隊長と呼ばれた氷炎将軍フレイザード様を、実験動物の類だと抜かしやがったか?

 バケモノにバケモノ扱いされるのも不愉快だが、使い魔ごときと間違えやがるとは、雑魚いクソガキ風情が地獄の業火で焼き尽くされてえかぁ!」

 

 思わず感情任せに怒鳴ってしまったが、人外であれ曲がりなりにもクラスメイトを消し炭にするのは後味が悪いし、かと言ってこれからお前を縊り殺すと言わんばかりな殺気を撒き散らす奴と話し合いもないものだ。

 憤怒と冷静の相反する感情を並列的に制御し、目の前に浮かぶ小さな怪物から放たれる魔法力と威圧感を観察した結果、クソガキの強さはチュートリアルに持って来いの中ボスと思われる為、適当にボコってからそれっぽい理由を付けて見逃す事にする。

 

「まずは小手調べだ」

「馬鹿が、リク・ラク・ラ・ラック・ライラック、サセプテンデキム・スピリトゥス・グラキアーレス・コエウンテース・イニミクム・コンキダン、サギタ・マギカ・セリエス・グラキアーリス!」

 

 言葉と同時に左人差し指の先部分を切り離し弾丸のように撃ち出す、これは氷炎爆花散(ひょうえんばっかざん)の小規模応用と言える技であり、どこぞの妖怪漫画を参考に即興で編み出した代物だが、クソガキの放った氷雪呪文(ヒャド)っぽい氷の散弾を散らすには力不足だったらしく、水蒸気爆発に巻き込み半数近くを相殺し、残り八発は右半身に当たるよう位置調整して食い尽くした。

 吸収した魔力の質は上々、せいぜい弓矢程度のスピードながらホーミング機能が付与されているらしく、単発の威力は見たまま氷雪呪文(ヒャド)と同格程度だが、最低でも十七発またはそれ以上に同時発射可能となると油断ならない。

 相手の攻撃手段が氷属性だけと考えるのはいくら何でも楽観的に過ぎるし、かと言ってこのまま小競り合いを続けても相手側に増援が現れるだけの可能性が高く、この世界の戦力調査も兼ねて殺さない程度に本気を出す事にする。

 

「クカカカッ、オレの炎を防いだ技量に応えて面白い手品を見せてやるよ?

 メ・ラ・ゾ・ォ・マ、五指爆炎弾(フィンガー・フレア・ボムズ)!」

「なっ、グガァァッ!」

 

 クソガキの正面にバリアみたいな幕が発生したのも一瞬、五連発の業火球に包まれビスクドールと見紛う容姿に似合わぬ絶叫が周囲に響き渡り、遣り過ぎたかと少し焦ったものの予想(期待)を裏切らない声が聞こえた。

 

「最後に死を想起したのはいつぶりだったか、どうやら私とした事が安穏とした生活に随分と平和ボケしていたようだ。

 感謝するぞ化け物、貴様のおかげで錆付き朽ち果てそうになっていた感覚を思い出せたよ」

「……妙な格好を付けてないで早く服を着ろよ露出狂、こちとらノンケでロリ属性は持ち合わせてねえんだわ」

 

 クソガキの被害は全身に軽い火傷を負った程度、服が焼け落ち全裸のまま艶然とした笑みを浮かべているが、先程まで滲み出ていた猫が獲物を甚振るような気配は拡散し、無理矢理に取り繕った風な余裕が感じられる。

 数秒の沈黙を挟み色々な感情を飲み下したような溜め息、恐らく彼我の実力差を推し量り勝てる相手じゃないと踏んだのか、少し砕けた口調で苦し紛れの時間稼ぎであろう舌戦を仕掛けて来た。

 

「生憎と着替えの類は持ち合わせてないんだよ。

 それはそうと貴様、大結界の影響を受けているようには見えないが、いったいどんな手品を使ったんだ?」

「手品師が種明かしをする訳ねえだろ。

 かく言う手前は、思いっきり影響を受けてるみたいだが、やっぱどこぞの勇者様とかに負けて本来の力を封印されたって口か?」

「この闇の福音をエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルを知らんだと?

 貴様、随分と物知らずのようだが……」

 

 大結界なる『氷炎結界呪法』じみた代物は、人間以外の生き物や外部からの侵入者を対象としているらしく、別口で力を封じられていると思しきクソガキもターゲットになっているようだが、魂の遍歴はさて置き肉体的には生粋の人間かつ地元民である(オレ)は対象となってない。

 何かのスイッチでも入ったのか、自分がどれだけ有名な賞金首であるかを延々と述べるクソガキ、長いので要約すると『シンソ』なる種類の吸血鬼で人形使いな闇と氷の魔法使いだとかで、数百年前から賞金首になって積み上がった懸賞額は何と六百万ドル、予想通り英雄と呼ばれた馬鹿の卑怯な罠に掛かって能力を封じられたとの事である。

 

「……そんな訳で今はジジイの顔を立てて警備の真似事をしてやっているのさ」

「はっ、勤労奉仕ゴクローサンなこって、最強だの何だの慢心してセコイ小細工を食らったんなら自業自得もいいとこだぜ。

 つーか、そろそろ時間稼ぎの長話に付き合うのも飽きたし、全裸の幼女に襲い掛かるなんて下手しなくても事案な真似をする気も起こらん。

 今日のところは手前の苦労話に免じて見逃してやんよ」

 

 捨て駒の試金石にされたオレ()と比べれば大分マシな末路、ロクに会話してなくてもクラスメイトを消し炭に変えるよりはと戦意を削がれた風を装い停戦を持ち掛けようとしたが、どうやらクソガキの時間稼ぎが成功したらしい。

 暗闇から軽快な靴音を響かせ乱入して来たのは、いつもの薄ら笑いが失せて何があろうと貴様をぶち殺すと言わんばかりな怒気を振り撒く担任教師(デスメガネ)、隙を見せない自然な動きでくたびれたスーツの上着を脱いでクソガキに差し出したが、煙草やら加齢臭を理由に振り払われ、苦笑いを浮かべつつ手早く着直しズボンのポケットに手を入れた。

 

 教師と生徒であるにも関わらず立場が逆転しているような短い会話の後、何故か両手をポケットに入れたまま油断なくこちらを睨み付けているが、さり気ない足運びでクソガキが視界内に入る位置に移動しており、自分がガン見されてると気付いてないクソガキは高みの見物を決め込んでいる。

 

 地面に両足を付け様子見している風だが、クソガキのガン見と平行してそこそこ練れた闘気を全身から垂れ流している辺りから察するに、武闘家のような肉弾戦タイプまたは魔法戦士の類である可能性もなくはない。

 見え透いたカウンター狙いと言うには構えがおかしく、呪文を唱える様子もない時点で何か策があるのは確定、馬鹿正直に殴り合いを仕掛けてやる義理もないのでまずは様子目がてらに軽く遠距離から攻撃して相手の出方を見る事にした。

 

「こちとら見逃す算段だったのに乱入してんじゃねえ!」

「シッ!」

 

 右手から撃ち出したソフトボールサイズの氷礫がいきなり空中で砕け散ると同時、担任教師(デスメガネ)の前方1.5メートル付近で注視しなければ気付かない程度に砂埃が舞い上がり、よれたスーツに浮いていた皺の群れが瞬時に増加する。

 見ていた限り闘気や魔力を放出した気配はなく、分かった事柄と合わせて考えるに動体視力を振り切る何かを繰り出したのではと考えた辺りで横に飛び退くや空気を引き裂き駆け抜ける衝撃波、闘気による身体能力の底上げがあるにせよ純粋な体術で成したとは思えない早さだが、回避先を誘導するでもなく場当たり的に打ち込んで来るだけなら対処はそう難しくなく、恐ろしいまでに高い技の完成度に対して立ち回りや戦い方がお粗末に感じた。

 

 怒りに頭が煮えている風でもなく、この程度の相手なら策を弄せずとも正面から楽に捻じ伏せれるとでも言いたげな攻撃、親に買ってもらった玩具を見せ付け自慢する子供じみた戦い方は、付け焼刃を実戦レベルまで高め強くなったと勘違いした雑魚の粋がりに思える。

 この手の輩は自信の根拠となる切り札を叩き潰してやれば面白いくらい簡単に崩れるが、相応の実力者を模倣しているだけに舐めて掛かると予想外の苦戦を強いられる事が多く、やる気満々なのは向こうだけでこっちは勝ち目のない勝負に挑むつもりなんてさらさらないし、戦って得られるものがないと来ればなおさらだ。

 とは言え、見た感じの体術は軍団長レベルとまでは行かないにしても良い勝負ができそうなのに対し、呪法核を失くした(オレ)の魔法力や身体能力は全盛期と比べ物にならないくらい劣化しており、全盛期なら苦戦はしても捻り潰せるだろう相手に押されていると認めるのは癪だが、現実問題として勝ち目のない状況で打てる手は少なく、人質作戦や刺し違え上等の自爆も考えてみたがここは大人しく逃亡を選択する。

 

「血気盛んなのは結構だが、こっちは巻き込まれただけの被害者なんでね。

 何より、戦闘中にガキの裸体をガン見するロリコンなんざ相手したかねえやな!」

 

 言い捨て溜め時間を短くした氷炎爆花散(ひょうえんばっかざん)でその場から離脱したが、これは爆発の反動と岩石操作で吹き飛ぶ飛翔呪文(トベルーラ)の劣化版みたいな代物であり、見た目こそ派手だが威力は爆裂呪文(イオ)と大差ない程度なのでクソガキや担任教師(デスメガネ)に何かしらの追撃をされるかもと少し不安だったものの足元で響く罵倒と弁明の声から察するにその心配は無用らしい。

 

 

*

 

 

 周囲に人気のない場所を選んで着地と言うか墜落して溜め息、あれやこれやの急展開にフリーズしていた長谷川 千雨()の頭が再起動し、とりあえずフレイザード(オレ)と入り交じった記憶の整理を兼ねた状況確認と今後の身の振り方について考える事にした。

 諸悪の根源であるスーツ姿の中年男と妖怪変化に関しては情報不足なので放置、フレイザード(オレ)の記憶にある世界地図と長谷川 千雨()が学校で学んだ世界地図は完全に別物だし、クソガキが唱えていた呪文からして聞き覚えのない言語だった事も踏まえれば、とんでもなく長い時間の果てに大陸の形すら変わった未来とかでもない限り、私に起こったこの現象は異世界転生の逆版ではないかと思われる。

 更に加えて、どうやら長谷川 千雨()フレイザード(オレ)は記憶こそ共有しているものの別人格に近いらしく、ハドラー様から植え付けられた諸々の知識や技術と魔王軍で過ごした1年にも満たない日々を覚えてはいるが、それは例えるならお気に入りのアニメやゲームと大差ないどこか他人事じみた代物であり、危うく死に掛け前世を思い出した瞬間こそ冷酷無慈悲で殺人に躊躇しない思考をしていたものの現在はそうでもない。

 とは言え、フレイザード(オレ)だった頃の記憶が長谷川 千雨()に与えた影響はかなり大きく、元からの性分に加え博打を外し痛い目を見たトラウマもあって身の丈に合わない立身出世を望む気こそないが、魔族と言うかハドラー様の価値観に触れお世辞にも高くなかった遵法精神は消え失せており、自ら進んで犯罪を犯そうとは思わないものの必要に迫られれば他者を傷付ける行為に欠片と躊躇しないだろうし、少なくともスーツ姿の中年男(諸悪の根源)と再会したら状況が許す限りの落とし前を付けるつもりだ。

良くも悪くも私こと長谷川 千雨は普通の女子中学生であり、魔王軍として人類の敵になった記憶はあっても世界征服やら人類抹殺なんて大層な野望は個人的に持ち合わせてないし、これまで抱えていた異常な周囲に馴染めない自分の方がおかしいんじゃないかって悩みも実は己の存在自体が異常側なのだと不本意かつ明確な答えを得て、前世から続く承認欲求の類もネットアイドル活動でそれなりに満たされている現状、わざわざ自分から騒ぎを起こしたり厄介事に首を突っ込むような理由はなく、とりあえず平穏な生活を維持する為にも可能な限り早くしっかりとした後ろ盾を確保したい。

 魔王軍が存在せず創造主であるハドラー様への義理も十二分に果たした以上、とりあえずマクダウェルが所属する組織にでも入ろうかと考えたが、妙な力を持ってはいても何の実績もない女子中学生が押し掛けても足元を見られ良いように使い倒されそうな気がする。

 舐められるのは論外だが、あまり高圧的な態度に出て相手側の機嫌を損ねたらそれこそ本末転倒だし、売り込む過程である程度こちらの情報を開示するにせよ何をどう話すべきかの基準すら分からないのは致命的であり、そこらの知識を仕入れようにも心当たりはつい先ほど戦ったばかりの担任教師とクラスメイトしかなく、普段の似非ダンディっぷりが嘘のように感情的だった高畑は本気で怒らせたら瞬殺されそうなのとおちょくった手前もあって却下、まだしも自意識過剰で高慢ちきな感じのするマクダウェルに頭を下げて交渉の仲介を頼む方が無難に思えた。

 少し話しただけでも色々と面倒臭そうに思えたが、あの手のタイプはこちらが通すべき筋を守る限り自分からは決して裏切らないだけでなく、悪ぶってはいても身内認定した者にはなんのかの言って甘い対応をしそうな気がする。

 そんな風に考え事をしていたせいか注意散漫になっていたようで、興奮気味な高い声と掛け寄って来る足音に気付き顔を上げた時には、まるで誕生日プレゼントを目前にした子供のように瞳を輝かせる知り合いの少女が目の前にいた。

 

「うわー、これってキグルミとかCGやなくてほんもんの怪人さんやんなー」

「怪人じゃねえってか、どうしてこんな時間に近衛がいるんだよ?」

「占い研究会の活動で星読みしようなって天文部にお邪魔しとったんよー。

 それはそうと怪人さんはウチの事を知ってるみたいやけど実は知り合いやったりするん?」

 

 我が事ながらどう考えても存在するはずのない怪物相手に平然と笑みを浮かべ話し掛けて来る近衛 木乃香(今生のクラスメイト)、能天気な表情も含めて危機感の危の字もないド天然だなと思ったが、呑気そうなのは上辺だけで視線はこちらを見据えてる上に思わず漏らした失言を聞き逃さない辺り頭の中は冴えているらしく、不本意ながら偶然と言い張るには少し厳しいこのシチュエーションを疑っている風に思える。

 まぁ、向こうからすれば部活で遅くなった帰り道に怪物と出くわした上、どうやら自分の事を知ってる風な様子に不信感を抱いたのだろうが、そもそも目の前にヤバい奴がいたら近寄るよりも気付かれる前に逃げ隠れしろと思うし、やはりこの世界の連中は危機感が足りてないようだ。

 

「そう言えば学園長って近衛の親戚か何かだっ 「斬岩剣ッ」ガァッ!」

「怪人さん!」

「お嬢様、私の後ろに、目的は知らんが覚悟しろバケモノめ!」

 

 どうやら危機感が足りてなかったのは私も同じだったらしく、咄嗟に飛び退きはしたものの避けきれず胸元を横凪ぎに斬られてしまったが、幸い本体までは刃が届かなかったものの生じた痛みに思わず悲鳴を上げる。

 長い刀を掲げ持った辻斬り女(桜咲 刹那)は獰猛な殺気を撒き散らしており、心配するような声を上げこちらに近寄ろうとした近衛の方を振り向きもせず下がるよう告げるやそのまま斬り掛かって来た。

 不意打ちこそ食らったが、桜咲の振るう剣は才能と努力に裏打ちされた力強さこそ感じ取れるものの狡猾さや駆け引きの概念がなく、アバン流に近い剣術も強力な技をひたすら繰り出すだけの力押し一辺倒であり、無駄に広い攻撃範囲と予備動作が少ない技にさえ気を付ければ弱体化した今の私でも何とか対処可能だし、ここで考慮すべきは下手をしなくても賞金首まっしぐらな現状の方である。

 普通に考えて正体不明の怪物が返り討ちを正当防衛と主張しても聞き入れられるとは思えないし、平和と思っていた世界が実はラノベもかくやだった時点で後ろ盾の確保は絶対必要、むしろ近衛を巻き込めるこの機会に襲われた被害者ポジションから恐らくマクダウェルが言ってたジジイと思しき学園長と有利に交渉したいのだが、そうなると今もしつこく斬り掛かって来る桜咲に大怪我を負わせるのはマイナス要素になるだけでなく、更に手間取ると増援が現われる可能性すらあった。

 何せ今も燃え盛る左半身は薄暗い周囲を赤々と照らしており、そんな目立つ存在が夜空を飛んで逃げるのは行先を教えているようなものだし、警備員の類を自称していたマクダウェルらに同僚がいないはずがない為、さっさと近衛を丸め込んで学園長と接触したいのに立ち塞がる桜咲が邪魔で仕方なく、いっそ手加減抜きの五指爆炎弾(フィンガー・フレア・ボムズ)で灰も遺さず焼き払いたくなる。

 

「止めぇ言うてるやろせっちゃん!」

「ひゃっ、ひゃいお嬢様!」

「せっちゃんがえろうすんませんでした。

 とりあえず何かウチに用事があったみたいやし、お詫びになるか分らんけれどお話を聞かせてもらえませんやろか?」

 

 どうやら桜咲を邪魔と思っていたのは近衛も同じだったらしく、普段のおっとりした様子とかけ離れた怒声を発してから私に向き直り深々と頭を下げつつ対話を申し出たが、震える手元やぎこちない笑顔を見る限り冷静さを装っているのが丸わかりだった。

 ここで下手に揚げ足取りをしても印象が悪くなるだけなのでそこらはスルーし、ここへ来る前の件も含めて交渉したいからと予想通り血縁者(母方の祖父らしい)だった学園長に電話するよう頼んだのだが、どんな流れでか近衛を交えた話し合いが行われる事になったらしく、更に迎えが来るまでその場で待つよう言われたと告げてからはひたすら桜咲を質問攻めにしている。

 

 

*

 

 

「お待たせしました」

「何や茶々丸さんとエヴァンジェリンさんが迎えやったん?

 おっきな刀を振り回してたせっちゃんも大概やけどウチが知らんかっただけでクラスメイトには秘密がいっぱいやなー」

「またお前かよ」

「それはこっちの台詞だ!

 ついでに桜咲、お前は話し合いの席に呼ばれてないから帰って良いぞ」

「そっ、それは……分かりましたお嬢様をお願いします」

「ほなら話の続きは後でしよなーせっちゃん」

 

 半ば予想していた通り迎えはマクダウェルだったものの相棒が絡繰に代わっており、予想外だったらしい組み合わせを見て困惑した風な表情を浮かべている桜咲に帰るよう促し、そのままついて来いとばかりにこちらの返答も待たず歩き出す。

 これから行われる学園長との話し合いに関しては、少なくとも吸血鬼かつ元賞金首のマクダウェルを受け入れる度量の持ち主である以上、肉体的に人間かつ今生での前科前歴がない私を初手から拒否したり極端に理不尽な対応はしないだろうと思いたい。

 こちらの要求は単純明快、面倒事と関わらず今まで通りの平和な生活を送れる保証、その対価として飲める範囲の条件を出した場合は受け入れるつもりだが、例え交渉材料に使えそうでもハドラー様から受け継いだ知識や技術を差し出すのは可能な限り避けたいし、どうしても折り合えないようなら全面戦争か相互不干渉のどちらかを選ぶよう通達する覚悟だ。

 

 日本妖怪の総大将かは知らないけれど相手はぬらりひょんと渾名される権力者、下手な脅しや駆け引きが通用するとは思えないし、交渉のテーブルに大物を引っ張り出せただけで御の字と考えるべきか、あれこれ思い悩んでいる間も案内役のマクダウェルは足を緩めず先に進んでおり、中等部の校舎前で立ち止まるやゆっくりとした動作で振り返り憂鬱そうな表情で小さく鼻を鳴らす。

 

「さて、ジジイとの話し合いは学園長室で行われるそうだが、後で後悔しないよう物知らずな貴様に少しだけ事前情報をくれてやる。

 麻帆良(ここ)にいる連中は、立派な魔法使い(マギステル・マギ)と言う称号に憧れ善き魔法使いを自称する英雄の信奉者(ヒーローマニア)が大半でな。

 正義の味方を気取ってはいるが、他人から教え込まれた価値観を自分の理想と錯覚している愚か者ばかり、名実共に悪の魔法使いである私を見てもジジイの言い付けで手出し無用だからと逃げるか身の程も弁えず見当違いな説教を垂れる始末、ついでに戦闘能力は最高でも貴様と対峙したタカミチから数枚落ちる程度、その気があるかは知らんが売り込み方を間違えなければ好待遇で迎え入れられるはずだ。

 少なくともジジイは貴様を本気で引き込もうと考えているようだし、日常生活が送れるよう表向きの身分と外見を誤魔化せる幻術系の高度なマジックアイテムに加えて、外部から呼び寄せた傭兵みたいなカバーストーリーを用意していたとしても私は驚かんよ」

「事前情報ってよりもお前の感想なんじゃと思えるし、いい年こいてヒーローごっこしてるような香ばしい連中とは関わりたくないが、トップの指示にきちんと従うってんなら関係を持たないよう絶対に近寄るなとでも学園長に命令させれば良いわな。

 つーか、ガラクタを引き連れて粋がる三下風情に侵入された理由、警備に回せる人手が足りてなく使えそうな奴はガチのバケモノでも引き込みたいってのと善き魔法使いとやらがそんなのは英雄の仕事じゃないとごねてるからってのと両方ありそうなんだが正直どうなんだ?」

 

 妙に陰気な口調で愚痴交じりな情報を寄越すマクダウェルの態度は気になるが、額面通りの好待遇で組織に引き込みたいと言うならこちらとしても望む所であり、話し合いの際に面倒臭さそうな連中と関わらせない事を追加で要求すると決めた私は、ついでとばかりにあの程度の雑魚が簡単に侵入していた理由を素直に問い掛ける。

 

「確かに、ここの警備体制は魔法教師と魔法生徒数名のチームに外部協力者や傭兵を加えても人手不足なのは否めないが、あんな連中でも割り振られた仕事は真面目に取り組んでいるようだし、貴様を引き込もうとしている主な理由は私がジジイにそうすべきだと言ったからだ。

 貴様を取り逃した後で気になったいくつかの疑問、結界の影響を受けずにいる方法、物知らずで魔王軍の将軍を自称していた理由、日本語に堪能と言うより口が悪い若者のような喋り方、どこかしら不自然でぎこちない動作、これらのヒントを総合すれば自然と答えは出て来る。

 察するに貴様は、かつて魔法世界(ムンドゥス・マギクス)に存在していた何者かの残滓……正確にはあの侵入者が何かしらのマジックアイテムで記憶と能力を上書きしようとして中途半端に成功した犠牲者と考えるべきなのだろうな」

 

 返答と絡めてあながち的外れでもない推理を披露するマクダウェル、少し前にやり合った事を考えればしてやったりの笑みでも浮かべてそうなものだが、痛みでも堪えるかのように表情を歪め喋っている途中から段々と声に抑揚のない棒読み口調となり、最後の方はほとんど聞き取れない独り言になっていただけでなく、名残惜しそうに桜咲の後姿を見送っていたはずの近衛も知らぬ間に両目から滝のような涙を流していた。

 更に感情を持たないロボットと思しき絡繰までも無表情ながら俯き気味に視線を逸らしており、妙な早合点で事情を察したつもりになって憐れまれるのは少し気に食わないが、理由はどうあれ味方してくれると言うならこちらはありがたく利用させてもらうまでである。

 更なる同情の材料に私がクラスメイト(長谷川 千雨)であると打ち明けようかとも考えたが、元賞金首かつ捕虜同然の外様で面倒臭い連中に囲まれ苦労しているマクダウェルはともかく、天然気味で桜咲への構いっぷりからして意外と強引な部分があるらしい近衛は秘密を守れるかどうか以前の問題であり、学校や寮を自称麻帆良のパパラッチ(朝倉 和美)下世話な快楽主義者(早乙女 ハルナ)が面白そうなネタはないかとうろついている時点で却下だ。

 ある日いきなり近衛の私に対する態度が変化すれば、朝倉は強引な突撃取材とそれを元にした飛ばし記事を書くだろうし、早乙女の方もラブ臭がどうのと妄言交じりの邪推を吹聴して回り、そこから周辺の連中を巻き込んだ騒動になるまでの流れは想像に難くない。

 

「平和に暮らせりゃそれで良かったのに、実は世界がフィクション顔負けなファンタジーだった上に私も普通の人間じゃありませんでしたとか、笑えない冗談じみた超展開の連続に驚きや混乱を通り越しちまったし、人間と魔物の記憶を持つ自分はどちらなのか思い悩む余裕すらないぜ」

 

 これから先に起こりそうな諸々の面倒事を考え思わず愚痴ってしまったが、スーツ姿の中年男と出くわした際に前世の記憶を思い出せなければそのまま誘拐されていただけでなく、最悪の場合はお嬢様に近付く為の手段として使い潰され廃人または命を落としていた可能性もあった以上、不幸中の幸いと自分を慰めこれから行われる話し合いに思考を振り向ける。

 少なくとも記録が残っているかも怪しい過去の罪なんて既に時効と言うか、そもそもフレイザードは立身出世を望んでこそいたが個人的な理由から人間と敵対していた訳ではなく、創造主であり生殺与奪の絶対的な権限を握るハドラー様とその上位者であるバーン様から下された命令に従っていただけであり、例えるなら作戦遂行の過程で命じられるまま敵兵を殺した軍人が裁判で裁かれないと似たようなものだと私は解釈しているし、オーザム平定などの武勲は近代的な社会常識に照らし合わせたらアウト判定を食らうと理解している為、自己紹介では魔族の将校として軍団を率い人類相手に戦うも敗死した程度の大雑把な説明で軽く流すつもりだ。

 右も左も分からず頼るべき相手すらいない私としては、頭を下げ忠誠を誓う程度で組織の後ろ盾を得られるのなら万々歳だし、学園側から余程に舐め腐った条件を突き付けられでもしない限り下剋上を狙う気はなく、人間に生まれ変わって諸々の柵から解放された以上はこのまま平穏無事な生活を送りたいと願っている反面、弱体化した分の埋め合わせも兼ねて本格的に鍛え直したいとも考えている。

 フレイザードの戦闘能力はハドラー様から与えられた力の延長線であり、交渉の席で戦闘技術や魔法に関して学びたいと学園長に頼むのも手だが、教師役として紹介される人物は性格的にまともそうでも十中八九監視役を兼ねているだろうし、余程のお人好しでもなければ呪文や暗黒闘気の存在を知られた際に口止めが難しく、下手に借りを作った上で見張られるくらいならまだしもマクダウェルを頼って相応の対価を請求される方が気分的に楽だ。

 

「こちとら博打はもう懲りてるんだが、自分の何倍も生きてる相手に下手な駆け引きやその場で考えた嘘は通用しないだろうし、例え交渉が上手く行ったとしても何も知らなかった以前までと同じ生活には色んな意味で戻れないんだよなあ……」

 

 これから先は宇宙人だの魔族みたいな設定で売り出しているネットアイドルの真偽を真剣に考えそうだし、トンデモ記事や都市伝説をネタと笑い飛ばす前に裏取り調査をしないと安心できなくなりそうな上、突っ込み所しかない一部のクラスメイトに対して妄想じみた疑念が浮かんでいる。

 不愛想ロリと思っていたマクダウェルが吸血鬼だった以上、異常なまでの幸運で知られる椎名 桜子は惑星レベルの超能力者かも知れないし、精神年齢一桁の佐々木 まき絵が実はタイムパトロールとか、超 鈴音の正体は葉加瀬 聡美が作った超精密アンドロイドで年齢査証疑惑筆頭の那波 千鶴が実は数百年を生きる大妖怪、地味な村上 夏美が暗殺者だったり騒々しい鳴滝姉妹が二人で一人の変身ヒーローである可能性もゼロではない。

 そうやって疑い始めれば誰も彼もが怪しくなるし、逆にあからさまなニンジャ娘の長瀬 楓とカンフーバカ一代な古 菲は一周回って普通の女子中学生だったりするかも知れないが、下手に確認すると余計な厄介事を引き寄せそうなので今後もスルーだ。

 

「何やら考え込んでいるようだが、夜も更けて来たしあれこれ思い悩むのはジジイと話を付けてからにしろ」

「あんなー、電話した時にお爺ちゃんは会って話しを聞きたいだけや言うとったし、ウチもせっちゃんが迷惑を掛けたお詫びにあんま意地悪せんといてなってお願いしといたから多分やけど心配いらへんはずやよ?」

「まあ確かに、ここで突っ立ってても何の解決にもならないどころか学園長への印象が悪くなるだけってか、正体を隠したままいるかどうかも分からない追手に怯える生活は勘弁だし、あんまり気は進まねえけど潔く腹を括って学園長殿へのお目通りを済ませるとしますかね」

 

 入学式の際に話している姿を見た程度で学園長との直接的な面識はないが、孫娘である近衛の口ぶりから察するに少なくとも身内には甘い人物のようだし、加えて悪の魔法使いを自称するマクダウェルとそれなりの信頼関係を築ける程度には清濁併せ呑めるタイプらしく、これなら話し合いの席で無理筋な被害者ポジションでごり押すより、要求と条件をすり合わせる方向で売り込みを掛けた方が良さそうに思える。

 事前準備できなかったからぶっつけ本番になるが、マクダウェルの言い分を信じる限りだと向こうは交渉に乗り気であり、このまま話し合いの席を蹴っても高畑や善き魔法使いを自称する連中を敵に回すだけと判断した私は、諸々の不安を振り払い中等部の敷地に足を踏み入れた。




タカミチの強さは旧作の劇場版に登場した豪魔軍師ガルヴァス(ハドラーの影武者、軍団長クラスかつアイテムを使いパワーアップする)くらいを想定しており、対する長谷川さんこと千雨ザードは転生で核部分が人間化した事とレベルリセット(公式資料によるとレベル35→引継ぎ要素ありのレベル1)もあって単純な戦闘能力は全盛期から大きく低下しており、氷炎結界呪法を使用したタイマンに持ち込んでも咸卦法を使われたらほぼ確定で捻り潰される程度と想定しています。
なお、タカミチがエヴァを見ていたのは彼がロリコンだからではなく連携を考えていたからですし、逃走時に怒られていたのは舐めプじみた力押しに対する説教であり、その後お仕置きを兼ねて物理的に頭を冷やされました。


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〔ぬらりひょんとの会談〕

お気に入り作品が久方ぶりに更新されたのでこちらも投稿、個人的な考察ってか妄想をそれっぽく書き連ねているだけなので間違っても真に受けないで下さい。



 学園長室に到着するまでも微妙な空気だったが、魔法の存在や裏世界に関する諸々を説明するとして近衛は副担任のしずな先生に連れ出され、絡繰は絡繰で移動中にマスターから用事を命じられたと電波的な発言を残していなくなり、サポートを期待していたマクダウェルも何故か別のくたびれたスーツに着替え不機嫌そうに待ち構えていた高畑のネクタイを乱暴に引っ掴んで退場した為、これから個人面談を行うかのような構図になっていた。

 

「ようこそ、歓迎するとまでは行かんが話し合いに応じてくれた事に感謝するぞい。

 とりあえずざっくり自己紹介させてもらうが、ワシは麻帆良学園都市の長にして関東魔法協会の理事も務める近衛 近右衛門、個人としては俗に言う陰陽師と西洋魔法使いを兼ねておるのだが、言うなれば互助会と自警団に社会奉仕系のボランティアサークルを足した秘密組織の首領となるかの?

 長くなるので細かい部分を省き関東魔法協会とは何かを大まかに説明すれば、日本政府と裏社会にそれなりの影響力を持った非営利団体であり、主な活動内容は裏社会で起こったトラブルの解決や魔法を使った違法行為の取り締まりなんじゃが、その際に行き過ぎた正義感といらぬお節介精神で細々とした揉め事を起こす者が定期的に表れる以外は問題ない組織だと自負しておる」

 

 椅子から立ち上がりこちらに目礼しつつ挨拶する学園長、執務机の上に並べられた書類とフレイザードの写真から察するに、私の存在は直接対峙したマクダウェルや高畑以外のルートからも報告されているらしい。

 

「定期的に面倒事を起こす時点で組織としてはアウトだし、マクダウェルから聞いた『善き魔法使いを自称するヒーローマニア』って愚痴じみた評価が実は的確だったとか勘弁してくれよな」

「正しくその通り、個人的な感情論と価値判断に任せて善行を成したから注意で済ませるなど言語道断、上辺だけ反省したら後始末をワシに丸投げして悪びれもせず同じような騒動を繰り返すなぞありえぬし、罰則をチラつかせただけで猛抗議するくらいなら監督不行き届きの責任も取るべきだろうに……」

 

 掴みと思しき自虐ネタに思わず突っ込んでしまったが、それを聞いた学園長は大きく頷きながら肯定の言葉を述べていたものの途中から誰かに対する愚痴のような代物になり、苦労してるんだなあと生温く見守っていたらバツが悪くなったのか小さく咳払いしてから姿勢を正しこちらへと向き直る。

 

「……オッホン、つい先日の騒動を思い出して愚痴のようになってしもうたが、とりあえず大事にならんかったから良いだろうと周囲の大人が味方したのに押し切られる形となり、今回だけは口頭注意に留めると譲歩させられたのだよ。

 ワシとしては罪に応じた罰を与えたかったんじゃが、将来ある若者だから寛大な処置をと嘆願されたのに退けようものなら遺恨が残るし、仕方なしに譲歩したらしたで今度はエヴァンジェリンからなあなあで済ませるのかと責められ、やらかした張本人に今後このような真似はせぬよう説教しても何が悪くて叱られたのかまるで理解しとらんような返答、加えてそろそろ隠居も視野に入れる年だのに後事を託せそうな者が誰もおらんと来よった!

 おっとすまぬ、ワシとした事が愚痴にかまけて招いた客人を立たせたままとは、この部屋にある椅子はどれも守りの魔法を掛けておるから遠慮なく座っておくれ」

「まあ、肝心な場面で手綱をしっかり握れるんなら多少は好きにさせて問題ないと思いますが、とりあえずごねるか頭下げてりゃ何とかなるみたいな流れをそのまま放置してたら確実に舐められるし、あんまり調子に乗られないよう締める部分はきっちり絞めて威厳を保つ努力くらいはした方が良いと思いますがね。

 それはそうと話し合いの席で正体を隠したままってのも感じが悪いし、せっかくの気遣いはありがたいけど室内で燃えてたら火事の危険があるのと信頼の証も兼ねて元に戻りますが、面倒事に巻き込まれたくないから私の正体は口外無用でお願いしますよ」

 

 どうやら学園長の権力は、絶対的な独裁体制を敷くどころか部下の突き上げに負けて自分が決めた処分を取り下げる程度に弱いらしく、この感じだと手出し無用を通達させても無名の外様者にどの程度の実力があるか知りたいみたいな理由で一方的な腕試しを仕掛けられたり、仲間の輪から外れるのは良くないとか組織に所属する以上は最低限の交流を持つべきと主張するお節介焼きが現われそうな気がしてならない。

 当座の後ろ盾になってもらうつもりでいる以上、私の正体が長谷川 千雨でフレイザードの記憶と力を宿している事くらいは説明しておくのが筋だろうし、ここからどのように話を持って行くか考えながら全身に巡らせていた炎と氷の魔力をカットした。

 

「君は確か……木乃香のクラスメイトではなかったかな?」

「はい、私はお孫さんと同じ1年A組に所属する出席番号25番の長谷川 千雨で間違いなく、それとは別に氷炎魔団を率いるエネルギー岩石生命体にして魔王軍の斬り込み隊長と呼ばれていた氷炎将軍フレイザードの記憶と力を持った……何になるんでしょうかね?

 とりあえず誤解されないよう先に言っておきますが、つい数時間前まで自分はどこにでもいる普通の女子中学生だと信じて疑いもしなかったくらいですし、フレイザードの影響が皆無とは言いませんけど個人的には妙な力と知識が増えたくらいの感覚なんで、そのつもりで対応してくれるとありがたいですね。

 と言うか、こっちはお嬢様に近付く為の下準備とやらで変な中年男に襲われ反撃してたらマクダウェルに邪魔された上、話し合いで解決しようとしたら殺意ギンギンの担任が乱入して来て一触即発になり、何とか逃げ延びた先で今度は勘違いした桜咲に斬り掛かられたりと散々な目に遭わされた被害者だし、見た目がまんまバケモノな時点で悪印象を持たれるのは仕方ないにしても問答無用で斬り掛かるのは短慮に過ぎるってもんですよ」

 

 実体を保てなくなった炎と氷の塊が空気に溶け込むように消え去り、走り回ったり蹴り飛ばされたりで薄汚れた私の姿を見て近衛のクラスメイトかと問う学園長に軽く会釈し、嘘ではないけどマクダウェルの仮説が正しかったと誤解されそうな自己紹介を行ってから高畑や桜咲の件を簡潔に報告する。

 転生したと話さないだけで私がフレイザードとしての記憶と力を持っているのは噓じゃないし、灰も残さず殺すつもりではあったがスーツの男に行った行為は反撃で間違いなく、マクダウェルと戦闘になったのを話し合いで解決しようとしたら高畑が乱入したのも事実であり、桜咲の不意打ちに関しては避けられなかったら首と胴体が泣き別れていた可能性が高く、絵面的に誤解させたのは認めるにしてもやられた側からすればただの殺人未遂だ。

 

「後で刹那君の凶行に関する謝罪と補償を本人にさせるのは当然として、非公式にはなるがワシからも個人的な謝罪と詫びの品を用意するので、今回だけは大事にせぬよう穏便に済ませてもらえぬじゃろうか?」

「私的には苦情こそ言ったけど学園長を責めるつもりはなかったですし、責任は見境なしに斬り掛かった桜咲本人とあいつをあんな風に育てた親とか剣の師匠にあると思うんですが、それはそれとして詫びの品をくれるってんならありがたく受け取りますけどね」

 

 軽いジャブ程度のつもりで行った被害者アピールがクリティカルヒットだったらしく、悲し気な表情と改まった口調で深々と頭を下げ謝罪して来た学園長だが、悪いのはどう考えても辻斬りじみた行動をした桜咲本人だし、次に悪い奴を挙げるとしたら気安く刃物を振り回してはいけない程度の基礎常識を教え込まなかった親であり、次いでいくら才能があるからと分別の怪しい未熟者に危険な技を仕込んだ誰かになる。

 桜咲のやらかしを組織のトップである学園長が謝罪するのはそんなにおかしくもない事だが、いくら身内の不始末だろうと個人的な謝罪に加え詫びの品まで渡す必要はないように思えるし、てっきり問答無用で斬り掛かったのは短慮だったとしても誤解されるような真似をしていたこちらも悪いみたいなどっちもどっち論で有耶無耶にされると思っていたのに予想外の反応だった。

 

「刹那君は彼女が修めておる剣術の宗家筋に当たるワシの娘婿が後見しておってな。

 婿殿の肝煎りで道場に通いめきめき頭角を現わしておったんじゃが、ずば抜けた才覚こそあれど人付き合いを苦手とする性分が災いし、実力的に格下となる同世代の者らと上手く馴染めず孤立を深めていただけでなく、どれだけ注意しても睡眠と食事以外の時間は修行漬けな生活を直さんと愚痴られたワシが、それならば生活環境を変えたらどうかと麻帆良への引っ越しを進めたんじゃよ」

「正直、クラスに馴染んでない自覚がある私よりも桜咲の奴は孤立してますし、最初は見兼ねた誰かが積極的に話し掛けたり遊ぼうと誘ってたけど辛気臭い仏頂面で迷惑そうに断るばかり、ここ最近じゃあ世話焼き連中も匙を投げたのかお義理程度に声を掛けるかどうかどうかですからね。

 引っ越す前もあんな調子だったらそりゃ友達なんかできるはずないし、護衛っぽい真似をしてるのに普段はお孫さんが話し掛けてもまともな返事はおろか近寄りもしないかと思えば、他の奴が隣にいるのを不機嫌そうに睨み付けてたり、私にはあいつが何をしたいんだかちっとも理解できませんよ?」

 

 私と桜咲はどちらもクラス内に親しい友人がおらず孤立しているが、なるべく角が立たないよう当たり障りのない態度や立ち回りで誰とも付かず離れずな距離感を保っている私に対し、相手の面子や気持ちなんて知るかとばかりな態度を貫いている桜咲は全方位に喧嘩を売っているようなものであり、それでもルームメイトの龍宮とはまともに会話しているのを何度か見掛けたが、それすら友人関係と呼ぶには親密さが足りてなかったように思える。

 入学から半年ばかり経った現在では、桜咲が人付き合いを嫌っているとクラスの皆も理解しており、近くにいたからとお義理程度に声掛けする事はあっても本気で遊びに誘おうとする物好きはそれこそ近衛くらいだったが、取り付く島もなく断られては落ち込み神楽坂に慰められる流れが定番化していた。

 

「どうにも刹那君は、自身が木乃香の非公式な護衛として麻帆良に送られたのだと思い込んでおるのだよ。

 これはワシの勝手な推察混じりだが、引っ越す際に婿殿が餞別として自身の愛刀を渡した事で何やら勘違いさせたらしく、本人の中では関東魔法協会に移籍した事も含め言外に組織間の枠を超えた密命が下されたと信じ込んだようで、木乃香を裏の世界に関わらせないと決めた婿殿がわざわざ護衛など命じるはずがないと言い諭そうにも聞く耳持たずなまま今回の事態を招いてしもうた。

 ここからは半ば愚痴になるが、刹那君はとても真面目で融通が利かん上に思い込みの激しい性格をしておるようで、自分の考えに矛盾があると指摘されてもワシの説明を頑なに聞き入れんかっただけでなく、木乃香の護衛は個人の意志であり誰からも依頼や指図を受けてはおらんと断言する始末、下手に事を荒立てて将来に差し障りが出るのを躊躇したのが間違いであったわい」

 

 私に斬り付けた以外で具体的な被害がなければ、組織の長として桜咲の付き纏い行為に注意や警告はできても公私混同を疑われるような処分を下すのは難しかっただろうし、どうやら学園長は無理矢理にでも止めておけば良かったと後悔しているみたいだが、そこらは結果論でしかないと言うかやらかす前に処罰したらしたで別の問題が起きるだけに思える。

 少なくとも私に対する殺人未遂を抜きにすれば、被害者の近衛からして桜咲を追い回していた時期があるので一方的に責められた筋合いではなく、そもそも勘違い云々に関しては元の所属から手紙を出させるなり電話を掛けさせるなりで誤解を解けば良かったし、ここまで拗らせる前に担任の高畑が気を利かせて本人同士の話し合いをさせれば解決していたんじゃないかと思えるが、出張ばかりで真面目に仕事する気があるのかも怪しい似非ダンディを教師として採用した事だけは庇いようもない学園長の落ち度だ。

 何せ高畑は、ここ半年で数日から数週間の短期出張を何度も繰り返しているし、その度に副担任のしずな先生や他の教師が代理で英語の授業を受け持つ為、教科書を読み上げる際に本筋と関係ない応用部分は時間がないからと端折られて終わりになるだけでなく、テストで赤点を取った者の補習にしてもミニテストだけして次は頑張れと飲み物やお菓子を振舞うのもいただけない。

 それこそ生活指導の新田みたいに厳しくやれとは言わないが、同じ内容のテストを何度も受けさせて合格点になったら終了みたいな勉強法は、間違えた箇所の解説や答えの導き出し方を事前におさらいしてこそ効果があり、何度やっても合格点を取れなかった奴にまんま答えなヒントを教えてたら無意味だし、A組の総合成績が連続最下位を更新している主な原因はお前の職務怠慢だぞと言いたくなる。

 とは言え、成績不良に関してはエスカレーター式だからと高を括り勉強しない生徒側にも責任があるし、教師の資質に欠ける無責任野郎だと私個人は思っているが、武闘派の広域指導員として有名(デスメガネだの笑う死神と呼ばれている)かつ誰に対しても紳士的な態度で接する好人物として高い評価を得ているのも事実であり、更に意外と沸点が低く純粋な近接戦闘力だけなら軍団長レベルに準じる実力者である事も考慮すれば、気に食わないけど敵対しても良い事はないので可能な限り付き合いを避けたい相手だ。

 

「詳細を語ると長くなるから枝葉は抜きにして、日本のオカルト組織は細かい派閥やら何やらはあるにせよ関東魔法協会と関西呪術協会のどちらかまたは両方に連なっておるが、それぞれの組織は名前から想像される海外から渡来した魔法使いと日本土着の魔法使いによる住み分けなどではなく、実際は駆け込み寺と出張所を足して割らない寄り合い所帯こそが関東魔法協会の正体なんじゃよ。

 そうなった原因に関しては、魔法世界や海外に生活基盤を持つ西洋魔法使いらが自身の価値感を振り翳すのに対し、日本で独自進化した東洋魔法使いたちは自分たちの縄張りに土足で踏み入り好き勝手な振る舞いをする侵略者と認識しており、更に加えて政治的な背景やら諸々の利権までもが複雑に絡み合い双方の納得する落とし所が見つからなんだのだ。

 現在は休戦しておるものの過去に刻まれた遺恨と根本的な価値観の相違は中々に埋まらんもので、争いの火種が再燃せんよう適度なガス抜きを入れつつ過激派連中の力を徐々に削ぐのが精一杯でな。

 そんな事情もあって関西から関東へ移籍した刹那君を送り返すのは最後の手段にせねばならんし、婿殿との連絡も揚げ足取りされんよう必要最低限に抑えておったんじゃが、よもや彼女がここまでの短慮を起こすとは流石に予想外じゃったわい」

 

 聞かされた内容から察するに、桜咲の後見人である婿殿とやらは関西呪術協会でそれなり以上の地位にあるらしく、そうなると刃傷沙汰を公式謝罪させるよりも握り潰した方が良さそうな反面、騒ぎ立てられる前に謝罪と和解を行い大した事件ではなかったとしたい学園長の算用にも思える。

 まんまと言質を取られる形になったが、元より疎遠な上に少しでも対処を間違えたら面倒事しか起こらないような厄種(桜咲)と深く関わるのは勘弁だし、ここはわざとそこらの話題に触れず学園長が少しでも負い目に思ってくれるなら儲けものだ。

 

「これは所属を問わない最低限の不文律なのだが、魔法を筆頭とする裏関連の諸々はそれらを知らない表社会に対し秘匿すべき事柄とされており、西洋魔法使いのルールだと違反者はペナルティーとしてオコジョの姿に変えられる決まりとなっておる。

 今では形骸化して相手を協力者に仕立てたり記憶消去の魔法を使えば軽い処罰で済ます風潮になっており、未熟な子供らはともかく本来なら責任ある行動をすべき大人までもがそんな対処法に疑問すら感じとらんようだが、表と裏の境界は今後の人生を左右する重要な区分線なだけに、十分な説明と本人の判断を尊重すべきなのにそれらもなく他者の記憶を無断で弄るなど言語道断、そのような軽挙妄動をする輩が正義の徒を自称するなど片腹痛い!」

「第三者視点で率直な意見を言わせてもらえば、内部事情がどうあれ煎じて詰めれば部下の手綱を握れてない学園長の管理責任になるし、能力の優劣に関わらず命令違反を繰り返したり組織の方針に従わないような奴はさっさと切り捨てるべきだと思うんですがね。

 正義の味方ごっこは趣味の範囲で好きなだけやってりゃ良いが、トップの言葉を無視して自分のやりたいようにやって責任も取らないってのは流石に筋が通らないし、あの組織は不文律を守れないとか噂にでもなったらそれこそ信用問題ですよ?」

「信用の棄損に関してはワシも頭を悩ませとるが、厳罰を下そうとする度に猛抗議とストライキ宣言で最後は有耶無耶にさせられよるもんでな。

 関東魔法協会は規模こそ日本最大級を公称しておるが、実際に所属する人員の大半は直接的な戦闘能力を持たない魔法関係者やその家族で、正規の魔法教育を受けた者は他所からの出向や籍だけ置いて独自に活動する外部協力者ばかり、子飼いの部下を育てようにも将来有望な若手は既に囲い込まれておるし、だからと言って表社会や外部の組織から気安くスカウトする訳にも行かんのだよ。

 折角フリーランスを口説き落としても一部の魔法先生と価値観が合わず脱退するか、籍だけ残して他所に活動拠点を移したまま寄り付かんなる始末、しかも出て行く原因を作った側は何が悪かったのか全く理解しとらんと来ておる!」

 

 学園長が本当に実感しているか怪しいけれど不文律ってのは地味に厄介なもので、フレイザード時代の私は女子供や非戦闘員に対し配慮するとか降伏したら命は助けるみたいな暗黙の了解を馬鹿にしていたが、因果応報じゃないけどルール違反する奴は同じようにやり返されても文句を言えた筋じゃないし、例え具体的な罰則がなかったり形骸化していようと反則行為を繰り返す組織に信用なんてあるはずもなく、そんな状況を改善せずに外部協力者を招き入れたら逃げられたり距離を置かれるのは当然である。

 関東魔法協会は想像以上にどうしようもない組織のようだが、ここまで部下にやりたい放題されていると学園長の管理能力を疑いたくなる反面、慢性的な人手不足さえ解決できればストライキに対し遠慮なく強権が振るえるこの状況は私を売り込む絶好のチャンスでもあり、少し悩んだもののここで日和るより伸るか反るかの大勝負に出るべきと腹を括った。

 

「……時に学園長、戦闘力は考慮しなくても良いんで秘密を守れそうな奴はどれくらい集められます?

 それと使い魔の類を貸与するのって、モラルや常識的にありですかね?」

「……使い魔の貸与は自分の手札が減ると嫌がる者はいても特に忌避される行為ではないし、前者の質問に関してはもう少し具体的な説明をしてくれねば何とも言えんの」

「自己紹介の際も言いましたけど私ってかフレイザードは、氷炎魔団って軍隊を率いてたんですけどこいつはエレメント系や岩石生命体なんかに属するモンスターが中心でして、手下をこさえて指揮権を貸し出したらちょっとした小遣い銭でも稼げないかなと思いましてね。

 金は欲しいけど学生のアルバイトを雇うよりかは安い値段にするつもりですし、戦闘力に関しては私が遭遇した侵入者の使ってた妖怪変化モドキよりも強いのだけは間違いないってか、論より証拠じゃないけど今から氷の力を持たせた眷属を創造するんで評価の参考にして下さい」

 

 話題の転換も兼ねて本来公開しない予定だった手札を切ってみたが、慢性的な人手不足と碌でもない部下に悩まされる学園長からすれば悪くない提案だろうし、返答時の察しているようでとぼけた口調から少なくとも交渉のテーブルに引っ張り出せたのは間違いなく、パフォーマンス代わりに生成した氷人形の核に魔法力を吹き込み眷属化させる。

 私が人間に転生(弱体化)した影響とハドラー様からの魔力供給を得られない事もあり、本来ならメインで使っていた『ブリザード』を創造したかったのに、全身氷のフレイザードみたいな『氷河魔人』っぽい『泥人形』モドキ*1でお茶を濁す程度に格落ちしているが、それでもスーツ姿の中年男が自慢げに引き連れていた有象無象どもよりは間違いなく強いし、流石に桜咲クラスと戦わせれば負けるだろうけどそこそこ良い勝負ができるはずだ。

 ハドラー様から継承した禁呪法を使い精製した核は例えるならPCのOSに近く、私の知識をベースにした仮想人格を構築しており、単独でも主人から命じられた内容に沿うよう行動する程度の思考力を持つが肝心の知能は幼児並みに低く、恐らくちょっとした小細工で簡単に騙されるし咄嗟の事態や曖昧な指示には対応できない。

 ハドラー様から継承した諸々の知識を応用すれば、氷炎魔団だけでなく魔影軍団や不死騎団に所属していた種々様々なモンスターを再現可能だとは思うが、流石に現代日本で『腐った死体』や『骸骨剣士』は素材の問題も含め論理的にアウトだろうし、同じく見た目的にアウトな『スモーク』とか自爆させるくらいしか使い道のない『爆弾岩』も駄目そうな半面、影使いがいるらしいので『怪しい影』や『影の騎士』に加えてゴーレムっぽい『彷徨う鎧』と『泥人形』は受け入れられそうな気がする。

 氷炎魔団からも『フレイム』は無理でも『メラゴースト』くらいなら作れそうだが、どうせなら魔炎気を元に新たなエネルギー生命体でも開発した方が強くなりそうだし、改めて考えると魔影軍団や不死騎団(ミストバーンとヒュンケルの手駒)をわざわざ劣化コピーしてまで使うのも業腹な為、基本的なコンセプトだけを参考にして中身や名称は別物にしたい。

 学園長に眷属の大まかな性能や用意できる種類と数量を説明した際、指揮権の貸与に関する設定は向こうが用意した術式を組み込む代わり作成と維持に必要な魔力コストも向こう持ちにする事で合意し、加えてテスト用に他属性や廉価版の眷属も追加するよう依頼された。

 

「ふむ、侵入者が防衛ラインを抜いて木乃香に接触を試みたとなれば、何かと反対したがる頭の固い連中も戦力増強に表立って否とは言わんだろうし、派閥や思想に染まっとらん魔法先生ですぐに動かせそうなのは神多羅木君と刀子君くらいじゃが、新たな警備体制を立ち上げ任せるとなれば瀬流彦君かシャークティ君、戦闘力を考慮しなくても良いとなればしずな君も候補としてありだの。

 とは言え、まずはこの氷人形が戦力となりえるかを検証せねばならんし……おっとその前に肝心な質問を忘れておったが、長谷川君は関東魔法協会に所属してくれるものと考えて良いかね?」

「正直、急展開と非常識の連続にそろそろ食傷気味なんですが、これから先も侵入者と遭遇したり裏関係のトラブルに巻き込まれる可能性がゼロじゃない以上、組織の後ろ盾は欲しいんですけど生き方や価値観にあれこれ口出しされるとか冗談じゃないし、私の扱いに関しては学園長個人に雇われた便利屋みたいな感じでお願いします」

 

 学園長の申し出を断った主な理由は聞くだけでも面倒臭い連中に絡まれる事を嫌ってだが、 それ以外にもまんま悪者っぽい力(暗黒闘気)公開すべきか見極めるべき情報(ハドラー様から継承した知識)などの探られたくない事情に加えて、私自体が人付き合いを苦手としているからだったりする。

 

 幼い頃から周囲と馴染めず人間不信を拗らせていた私は、まともな友達付き合いどころか雑談する程度の会話すら可能な限り行わないよう立ち回っており、振り返るにフレイザードの短い生涯で最も長く関わったハドラー様とはついぞ主従関係の域を越えなかったし、敵意丸出しでお互いに嫌っていたヒュンケルと会話しようにも常時無言だったミストバーンは論外、気に食わなかったけれど絡みに行くまででもなかったクロコダインやバランは距離感がある同僚でしかなく、曲がりなりにも交流していた相手は下心満載なザボエラくらいだった。

 そんなザボエラは品性下劣で自己保身と出世欲に塗れた本心を隠せない真正の腐れ外道だったが、割り振られた仕事はいつもきっちり完璧に仕上げていたし、敗退して後がなくなったクロコダインに策を授けたり敗死後は遺体を回収して蘇生液に漬けるなどのサポートも行っていたのに、他の軍団長からは前線に立つ気概を持たない臆病者と見下され邪険に扱われていたのだから報われない。

 とは言え、強い者に取り入り良いように利用しようしているのが丸分かりな言動に加え、危険な仕事を部下に押し付け自身は安全な後方から高みの見物を決め込んでいたり、戦況が有利になってから恩着せがましく後詰めの援軍を寄越したりしてれば嫌われもする。

 

 ザボエラの自業自得はさて置き、私が正義の味方を自称する連中の巣窟(関東魔法協会)に所属しても上手く馴染めるとは到底思えないし、気に入られようと節を曲げる時間があるなら最近やっとこ軌道に乗り始めたネットアイドル活動を頑張る方が有意義な為、駄目元で組織に所属しない代わり学園長と個人的な雇用契約を結びたいと願い出てみた。

 

「確かに長谷川君の抱える特殊な事情を考慮すれば、ワシが個人的に手配した木乃香の護衛も兼ねる傭兵としておくのが無難だろうし、頭の固い連中が文句を言うて来ようと防衛ラインを抜けられた時点で説得力は皆無じゃからな。

 今回の件は私的な雇用契約である以上、君に対する報酬などはワシのポケットマネーから用意するとして、支払い方法は年齢に考慮して学生バイト程度の小遣い銭を現金支給し、残る差額分は高等部の卒業または成人するまでを目安に預からせてもらうぞい。

 それと蛇足を承知で老婆心からのお願いじゃが、いきなり大きな力を手にしたからと無体な真似や暴力沙汰は起こさんでおくれよ」

「流石に自分の要求を通させといて面子を潰すような真似はしませんってか、そもそも面倒臭い連中に絡まれるのが嫌ってのが所属を断った主な理由だし、ムカつく相手はその場で捻り潰すよりじわじわ追い詰めて苦しめたいタイプなんで暴力沙汰の心配だけはありませんよ。

 それと私に対する扱いの確認ですが、これから先も長谷川 千雨は裏社会と関わらないまま日常生活を送り、学園長の私兵になったフレイザードの正体は秘密にしてくれると解釈しても良いんですよね?」

 

 学園長の出した条件は好都合過ぎて逆に怪しいが、組織への勧誘を断った上で相手の申し出に懐疑的な態度を見せるのは無礼が過ぎるし、例え報酬を出し渋り後で踏み倒す為の方便だったとしても私の正体を秘密にしてくれるなら安い対価と割り切れる。

 とは言え、こちらから協力を持ち掛け下手に出た状態で、わざわざ口利きした近衛やマクダウェルの面子を潰すような真似はしないだろうし、本気で待遇が悪ければ麻帆良を出て他の組織に乗り換えるなりフリーランスとして独立すれば良く、そこらを判断する為にも情報収集と状況の把握が終わるまでは大人しく様子見したい。

 とりあえず刺された釘に対する返答と条件の確認を行ったが、私に信用されてないと気付いたらしき学園長は小さく息を吐いた。

 

「こう見えてもワシは、マギステル・マギと呼ばれる名誉称号に憧れ正義の味方を志す者らを率いる身、清廉潔白とまでは行かぬにしても組織の長としてやましくない行動を心掛けておるし、何より君を囲い込む利益よりも将来的に起こりうる面倒事の方が遥かに大きく、正直エヴァンジェリンから頼まれねば当たり障りない対応で外部への転出を強引にでも推し進めておったよ。

 この件は対応を間違えると内部分裂の切っ掛けになる可能性を含んどるが、ワシは彼女に対する大きな負い目があるので真剣に頼まれればおいそれと断れんし、そこに戦力提供の申し出が加わらなんだら渋々で受け入れた後は何か言われるまでそのまま放置しておったじゃろうな」

「マクダウェルに対する負い目ってのは、英雄と呼ばれた馬鹿の卑怯な罠に掛かって云々とやらですかね?」

「……あれは今から十数年ばかり前、放浪癖のある知り合いにそろそろ腰を据えてはどうかと警備の仕事を進めたのじゃが、あやつは何をとち狂ったかエヴァンジェリンを捕らえ自身の代りにと推薦しよったのだ。

 しかも逃げられないよう麻帆良に縛り付ける呪いまで掛けており、最悪な事にどんな理由か定められた条件を満たしても解除されない不具合を発生させておったんじゃが、やらかした張本人は結果を確認せぬまま旅立ち音信不通になっておる。

 五度目の中学校生活を迎えたエヴァンジェリンの心情が安らかであろうはずもなく、こうなった責任を感じておるワシとしては解呪に必要なら多少の違法行為くらい目を瞑るつもりだのに、信頼されとらんのかついぞ今日まで頼られず悔しい思いをしておったのだよ」

 

 自分は信用されてないのだとぼやく学園長だが、元より間接的にだろうとマクダウェルが呪われる原因を作った時点で好感度はマイナススタートだろうし、更に加えて何かしら問題が起きても外聞を気にして誰かに助けを求めたり相談できなさそうな性格なのは明白であり、せいぜい付かず離れず貸し借りなしくらいの消極的な協力関係を結べたら御の字に思える。

 とは言え、本当にマクダウェルが学園長を信用してなければわざわざ私の事を頼んだりしないだろうし、魔法教師に対してもお仕着せの正義感や見当違いな行動を貶してこそいたが仕事は真面目に取り組むと評価しており、現状に対する諸々の不満はあっても折り合いを付けているように感じられた。

 

「お互い不信感はあって当然でしょうが、マクダウェルは自身に対する扱いに不満はあっても妥当なものだと理解してる様子だったし、愚痴じみた恨み節は言ってたけど学園長の顔を立てて大人しくしてやってると嘯いたり、魔法教師の事も馬鹿にするだけじゃなく仕事は真面目だと評価してましたからね。

 あの手のタイプは自分で定めたルールと交わした約束は余程の事がなければ反故にしない代わり、許容できるラインを踏み越えたら情け容赦なく潰しに掛かる苛烈さがあるし、本人の自己申告だと平和ボケしてたのが私とやり合った際に昔の感覚を思い出したらしいんで、なるべく早い内に部下連中の手綱を締め直すくらいはしといた方が良いですよ?」

「長谷川君とエヴァンジェリンの交戦に関してはタカミチ君から口頭で簡単な報告を受けておったが、拮抗しているように見えたと聞いておったのによもや平和ボケを自覚させるレベルであったとは、何にせよどちらも大きな怪我がなくて幸いじゃったわい。

 それとエヴァンジェリンの危険性は理解しておるが、ああ見えて女子供は殺さず交わした約束を違えぬ律義者でもあるから余程の事がなければおかしな真似はせんだろうし、仮に通達を無視した粗忽者が返り討ちにされたとしてもそれは正当防衛か最悪でも過剰防衛の範囲と判断されるだろうよ」

 

 私の言葉に対し数秒ばかり瞑目するや暗い笑みを浮かべる学園長、マクダウェルは気位の高いサディストだが自身に不利な状況でも焦ったり自棄にならず時間稼ぎの舌戦を仕掛けるくらい冷静で機転が利くし、余程の無礼や理不尽でもなければ格下相手に直接的な暴力を振るうタイプとは思えない。

 実際問題、呪われ弱体化したからと数百年を生きた怪物に隠し持った奥の手や切り札の一枚もないとは思えないし、下手に追い詰め形振り構わず暴れられるくらいならガス抜きも兼ねて多少のやんちゃくらいは見逃した方が危険は少なく、学園長の指示に従わずちょっかいを掛けるような奴が返り討ちに遭ってもそれこそ自業自得である。

 

「マクダウェルは呪いで麻帆良に縛られ能力の大半も封じられちまってはいるが、それでも窮地に陥った際は命惜しさにプライドを投げ捨てるよりも刺し違え上等で元凶の喉笛に食らい付く事を選ぶタイプだろうし、過去を思い出したとしても今までの付き合いがあればそう簡単に短慮や癇癪を起こさないと高を括るのは流石に楽観が過ぎるんじゃないですかね?」

 

 学園長はマクダウェルを随分と信頼しているようだが、付き合いの浅い私からすればそんな希望的観測で中学校に通わせるなと言いたいし、例え本人にその気はなくても見るからに不機嫌そうな態度を取っていれば事情を知る者から警戒されて当然、シンソの吸血鬼とやらがゲームや映画に出て来る怪物と同じような存在であれば尚更だ。

 とは言え、普通に登下校している以上は太陽光を浴びせても効果がないのは確定、何かしら特殊な魔法やアイテムを使い対策している可能性もあるが、流石に血を吸った相手を同族や眷属に変えられるなら討伐または封印されているだろうし、伝説に語られるような能力は元から持ち合わせてないか呪いで封じられているかのどちらかだと思われる。

 なお、ハドラー様から継承した知識にある吸血鬼(バンパイア)は、背中に蝙蝠の羽が生えている以外は人間と大差ない姿をした種族であり、夜行性だが日光を浴びても灰にならず氷雪呪文(ヒャド)を使うなどマクダウェルと共通する部分はあるが、対峙した限りだと不死系モンスター特有の陰鬱で無機質な気配はなかったし、確信こそないがエネルギー生命体に近い存在ではないかと思えた。

 

「そこまで念押しされずともワシはエヴァンジェリンを敵に回さんよう動いとるつもりじゃが、彼女に対する敵愾心を隠さず何か事あれば排除だの討伐だのと騒ぎ立てる魔法先生やその影響を受けた魔法生徒がおってな。

 連中は能力の大半を封じられ触媒なしではまともに魔法も使えん無力な存在だから恐れるに足らんと言うておるが、幾百年の歳月を通じ積み重ねた知識と研鑽が消え失せた訳じゃなし、弱体化した程度で滅ぼせるようなら大国や諸々の組織がマガ・ノスフェラトエと呼び恐れ自力討伐を諦めたりはせぬだろうに、結論ありきで捻り出した自分らに都合の良い解釈が正しいと信じ込んでおる。

 そもそも過去に掛けられた懸賞金の大半は既に取り下げられておるし、外部協力者と客分の中間じみた扱いながらも警備員として関東魔法協会に籍がある以上、彼女を糾弾する正当性はないと説明しても道義的責任がどうだの悪を見逃すのかと騒ぎ立てこちらの言い分を無視しおるのだ。

 ワシが許可を出さねばそれを理由に暴発しそうだった為、連中の要求に対しエヴァンジェリン討伐を黙認して成功した場合の後始末も引き受ける代わり、襲撃した者が結果的に大怪我または死亡する事態になったとしても全て自己責任、加えて副次的に発生する被害の弁済やフォローはせんと返答したら不満そうにしとったが、確たる勝算もなく眠れる獅子を起こす以上は失敗した際に巻き込まれぬよう距離を取るくらいの保険は掛けて当然だわい」

 

 私の疑念に対し裏事情を明かす学園長、詰め寄った連中はマクダウェルを討伐する際の正統性や確実に殺す手段も提示せず、弱体化した今なら勝てるだろう程度の甘い見通しで襲撃の許可を得ようとしていた辺り、もしかすると正義の味方が悪者を懲らしめる(ゲームやお伽噺を真似たごっこ遊びの延長線)くらいの感覚だった可能性もあるが、関東魔法協会からすればどう転ぼうが大損確定の貧乏くじでしかなく、何かしら遺恨は残るだろうが声の大きな厄介者を調子付かせるよりマシな対処と言える。

 

「関東魔法協会は後始末を引き受ける代わり傍観すると言ってるようなもんだが、マクダウェルからすれば返り討ちを正当防衛として認める免罪符みたいなもんだし、梯子を外される形になった連中は納得しなさそうだけど黙認も許可の内ですしね」

「フォフォフォ、呪われ弱体化したエヴァンジェリンは脅威たりえないと豪語しおった以上、こちらから頼んでもない討伐を助けてやる道理はないし、組織に所属する者が狙われているとなれば事前に警告くらいして当然、連中からすれば裏切られたように感じるじゃろうが、こちらの都合も聞かず手前勝手な理屈を並べ立てるような輩に配慮してやる義理はないのでな。

 これに納得できなんだ一部の者は、それまで行っていた関東魔法協会に対する寄付の減額や緊急でない協力要請の拒絶などに加えて実力アピールのつもりか危険な独断専行を頻発するようになり、運悪く格上と遭遇してもフォローが間に合っとるおかげで問題なく侵入者の撃退に成功してはおるが、いざとなれば事前の打ち合わせを無視して暴走するような者と行動したがる物好きはおらんし、かと言って優先度が低い場所に配置すれば勝手に持ち場を離れよるから始末に負えんのだ」

 

 溜息を吐きつつ表情を歪める学園長、個人の主観が多分に入った一方的な情報である事を差し引いても呆れた所業であり、周囲の迷惑も考えられない輩をフォローするのと慢性的な人手不足に悩まされるのではどちらがマシとも言えないし、理由はどうあれ自分の都合や個人的な感情を優先するような奴は嫌われて当然だが、計画性どころか正当性もないお粗末な要求やその後の意趣返しじみた行動はともかく、元賞金首のマクダウェルを警戒したり排除しようと画策する方が普通の反応に思えた。

 いくら学園長がマクダウェルと個人的な信頼関係を築いても周辺の者が納得しなければ無意味だし、お伽噺に語られる悪の魔法使い(本人談)を受け入れさせるには、魔法を完全に使えないようにして警備の仕事もさせず監視下に置くくらいしなければ納得しないだろうが、そこまでやったら暴れろと挑発しているようなものだから本末転倒である。

 

「私……じゃなくてフレイザードが所属してた組織では、魔法生物とかゴーレムの実戦投入に加えて通信能力持ちの見張り役をあちこちに配置してたんですが、慢性的な人手不足を解決するのに無人化は駄目なんですかね?」

「魔法生徒や後衛型の魔法先生に戦力を貸与するくらいなら反発も少なかろうが、麻帆良は英雄と呼ばれた男が幼い頃に修行した場所かつマギステル・マギの授与者を輩出したアジア圏における登竜門のような認識をされた弊害で妙な選民意識が芽生えており、ワシが傭兵や外部協力者の増員を図ろうとする度に自分らに不満があるのかと抗議する始末、そんな調子じゃから警備ではなくサポート体制の強化名目で様子見しながら段階的に導入するのが現実的な落し処であろうな。

 ワシからすれば噴飯物の考えなんじゃが、一部の者は関西呪術協会の過激派や図書館島に収蔵された希少な魔法書や研究資料の類を奪おうとする襲撃者らに対し、自分らを子供向けテレビ番組に登場する正義の味方と重ねておる節があり、傍から見れば真剣勝負の場でふざける不謹慎集団となっている事に気付いとらんのだよ」

 

 嘆かわしいとばかりに嘆息する学園長だが、私からすればそんな馬鹿げた奇行をやらかす変人どものトップがお前だろうと突っ込みたいし、自分は関係ありませんとばかりな態度で呆れられる神経が理解できない。

 とは言え、相互扶助を目的とした組織で厳しい処罰を下すのは難しいだろうし、慢性的な人手不足を悪化させる謹慎や除名はなるべくしたくないのだろうが、同時にストライキやサボタージュをチラつかされたら譲歩するしかないのも事実であり、私の提案は学園長からすると都合が良すぎて逆に怪しまれそうだ。

 

「建前や駆け引きを取っ払って要約すると学園長は慢性的な人手不足を解決する為の戦力が欲しくて、私は麻帆良の裏事情やそれに付随するトラブルに巻き込まれた際の保険と後ろ盾が欲しいんだから話は早い。

 この際だから取り繕わずに本音を言っちまえば、フレイザードとして切った張ったの鉄火場をいくつも潜り抜けた記憶はあるんですが、喧嘩の経験はせいぜい軽く小突き合う程度だった長谷川 千雨からすりゃ実感を伴わない他人事ってかいきなり生えた情報の羅列だし、選り好みできるなら前線に出るような仕事はしたくないですね」

「こちらも面倒臭い建前や駆け引き抜きに用意できる待遇を提示すれば、長谷川君の正体を隠せるよう変装用マジックアイテムとそれに合わせた架空の身分証を無償で支給する。

 先も言ったが、報酬は魔法生徒への慰労金(小遣い銭程度)と同額を現金支給した残り分は高等部の卒業または成人するまでを目安にワシの方で預からせてもらうぞい。

 所属に関してはエヴァンジェリンの警備チームに組み込む予定じゃったが、戦いに関わりたくないのであれば後方支援の仕事を紹介しても良いし、裏関係全般と距離を置きたいなら戦力提供だけでも構わんよ」

 

 実際問題、フレイザードとして戦った記憶は間合いや背丈に加えて根本的な身体の動かし方も違うので参考になる部分が少なく、格闘技の心得どころかまともな殴り合いすら経験してない私だと全盛期に遠く及ばない事はマクダウェルや高畑とやり合った際に痛感しており、下手な見栄を張るより我が身が大事と駄目元で注文を付けたらあっさり警備の仕事を免除され拍子抜けする。

 どうやら学園長の興味は私個人よりも提供可能な戦力にあるらしく、切っても惜しくない見せ札で思わぬ好待遇を引き出せたように思えるが、見方を変えると作った眷属が役に立たなかったり組織に貢献しなけりゃ小遣い銭で飼い殺すぞと宣言されたようなものだ。

 造られた時点で焼き付けられたハドラー様の知識や感情に振り回されアイデンティティの確立に必死だったフレイザードと異なり、この世界に生れ落ちた瞬間から築き上げた私だけの人格と断言できる記憶や経験がある長谷川 千雨は、鉄火場に飛び込み切った張ったの大立ち回りをするような度胸は持ち合わせてないし、危険と隣り合わせな立身出世より平凡でも面倒なトラブルと関わらない安穏とした日常を求めているが、同時に身を焦がす程の渇望とまでは行かない残り火程度の承認欲求も心に燻ぶっている。

 そんな臆病さと自己顕示欲を同時に満たせそうなのがネットアイドル活動であり、新しい衣装やPC環境の改善に必要な資金を稼ぐ意味でも仕事は積極的に受けたいが、いくら命の危険が少なくても面倒臭い連中に絡まれるのは勘弁だ。

 

「フレイザードは見た目通りのバケモノで退治される側だったけど最低限の仁義くらいは弁えてたし、私も筋は通したいタイプなんで多少の挑発くらいは聞き流すつもりですが、自称正義の味方に絡まれても我慢するかは別問題なんですよね」

「そんなに心配せんでも依頼する仕事の大半はワシからの連絡事項をエヴァンジェリンに伝える伝書鳩みたいなものじゃが、それはそれとして頭の固い連中に絡まれたりせんよう何かしらの対策を考えんといかんな。

 正直、大きな代償もなくゼロから使い魔の類を作れる技能持ちなだけで食客として迎え入れる価値がある上、おかしな思想や背後関係がないのも大きなプラスポイントなんじゃが、将来的に起こりうる面倒事を考えると差し引きトントンかマイナ「ジジイ、話し合いはどうなっ……長谷川だと!」こりゃノックくらいせんかい」

 

 交渉も大詰めに入ったタイミングで扉を蹴破り腕組みしながら入室するマクダウェルだが、ソファに座る私と目が合うや余裕ぶった不敵な笑みが崩れて硬直し、逆に形だけ注意した学園長は少しばかり考え込んでから意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「話し合いに関しては、関東魔法協会への所属ではなくワシと長谷川君が個人的な雇用契約を結ぶ事になったんじゃが、時にエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル殿、意図せずとは言え他者の秘密を暴いた落とし前はどう付けるつもりかね?」

「持って回った質問は止めろジジイ、下らん駆け引きなどせんでも私は最初から長谷川に協力するつもりだよ。

 フレイザードは見た目と言動こそ気に食わなかったが、こちらから攻撃を仕掛けそのまま返り討ちにされても文句を言えない状況で手心を加えられた以上、そこらの借りは清算しないと寝覚めが悪いからな。

 フィンガーフレアボムズだったか、お前の魔法は対象を灰も残さず焼き尽くす地獄の業火と豪語するだけの威力があったし、それでも私が無事だったのは大怪我しないよう手加減されていた事と手持ちの魔法薬を全て使ったニウィス・カーススによる相殺が重なっただけで、本来なら呪いで弱体化しても肉体の焼失から再生可能か試す破目になっていたかもと考えたら少しばかり手助けしてやる気にもなるさ」

 

 嫌味ったらしい口調で尋ねる学園長を睨み付けながら居心地悪そうに答えるマクダウェル、理由は不明ながら話し合いに口添えしてくれるつもりだったらしく、やはりこいつはクロコダイルやヒュンケル(武人気取りの面倒臭い連中)と同じく自分が定めたルールに縛られるタイプで間違いないようだが、本人が言うよう五指爆炎弾(フィンガー・フレア・ボムズ)の手加減くらいで借りに感じるとは思えないし、私に対し何かしらの負い目を抱いてそうなのは見て取れるものの内容までは分からない。

 呪いで麻帆良に縛り付けられ四面楚歌状態なマクダウェルからすれば、有形無形の借りを作っている学園長と揉めるのは避けたいだろうし、本人なりに角が立たない範囲で威厳ある態度を示しているつもりなのだろうが、睨み付ける鋭い眼光とドスの効いた声さえ無視すれば、祖父にからかわれ不貞腐れる子供にしか見えなかった。

 

「それとしたり顔で講釈を垂れているが、入って来い「これ、ウチも落とし前を付けなあかん流れやよね」とまぁ公平性の観点からすれば、他者の秘密を立ち聞きしていた者にも相応の責任は取らせるべきだよな?」

 

 意地の悪い笑みを浮かべ呼び掛けるマクダウェルに応え、開け放たれていた入り口のドアからひょっこり顔を出す近衛を見た学園長が硬直し、面倒事に関わらないようどう動くべきか算用していた私も思わず膝から崩れ落ちそうになったが、ここで会話のイニシアチブを渡すのは不味いと気付き情報を整理する。

 桜咲を怒鳴り付けていた際にも思ったが、おっとりのんびりとしたお花畑に見えて素の近衛は芯が強く豪胆な性格らしく、マクダウェルの意図を察して機転を利かせられるだけの判断力があるのに加えて、詳細は不明ながら学園長の説明だと関西の裏社会でそれなりに高い地位っぽい父親がおり、理由は不明ながら言動や表情からして私に対する哀れみ混じりの負い目っぽい感情を抱いているようだ。

 仮に近衛の実家が裏社会と関わらないよう蚊帳の外にしていたのだとすれば、何かしら要求した記録が残って裏関係に巻き込む原因と認識されるのは悪手だし、責任云々を言い出せば盗み聞きを防げなかった学園長や不用意に正体を明かした私も同罪であり、そこらを理解しているだろうにわざわざ混ぜ返すマクダウェルの意図は読めないが、下手しなくても面倒臭いトラブルに巻き込まれた事だけは理解できる。

 

「私としちゃ責任を取るとか言われてもクラスメイト相手にあんまり無茶な要求をする気はないが、それでも秘密をばらされると困るからこのまま無罪放免にはしたくないし、ここは近衛の保護者にして麻帆良関東魔法協会のトップでもある学園長の判断にお任せしますよ。

 それとマクダウェル、お前が口利きしてくれたおかげで学園長は私を好条件で向かい入れてくれるそうだし、これからは遠慮や貸し借りなしのイーブンな立場で仲良くしてくれるとありがたいな」

「……貴様がそれで納得すると言うのなら私もこれ以上は口出しせんし、裏社会で恐れられた闇の福音と友誼を結びたがる物好きがいるとは思いもしなかったが、悪い魔法使いと仲良くしたら正義の味方が黙ってないぞ?」

 

 話の腰を折られて悪態をつかれるかと思いきや満更でもなさそうに笑うマクダウェル、手加減したのは間違いないけれど私からすれば学園長に口利きしてくれただけでお釣りが来るくらいだし、負い目から生じた感情でも好意的なら利用しない手はなく、あってないような貸しをチャラにする代わり仲良くしようと持ち掛けてみたが、少し考え込むような素振りをしてから渋い顔で忠告された。

 

「仕事そっちのけでヒーローごっこに勤しむ奴らなんざこっちから願い下げだし、フレイザードだった頃ならともかく長谷川 千雨は少し不思議な力があるだけの一般人、そしてマクダウェルは元賞金首だけど麻帆良関東魔法協会ってか学園長の客分、例え親切心だろうと個人の交友関係に口出しされる筋合いはないわな」

「ウチもふたりのお友達になりたいんやけどええかな?」

「あまり個人的な付き合いにどうこう言いたくはないんじゃが、木乃香とエヴァンジェリンがクラスメイトの枠を超えて仲良くなれば、明後日な親切心から陰謀論じみた警告をする者が次々と現れるのは想像に難くないし、正義感を拗らせ実力行使に走る輩が現れる可能性もゼロではない。

 とは言え、闇の福音に関する伝説が事実を都合良く切り抜いたプロパガンダと知っておる者は少数じゃし、自らを悪の魔法使いであると周囲に公言しておった偏屈者がある日いきなり友達を作れば、何かしらの企みでもあるんじゃなかろうかと疑うのはそう不自然な反応でもないのだよ」

 

 実際問題、マクダウェルとの個人的な付き合いがなければ伝え聞いた評判くらいしか判断材料がなく、馬鹿みたいな呪いがバグって解けないまま放置された状況には少し同情するが、だからと言って協調性の欠片もない態度で周囲に対し壁を作って良いかは別問題だし、面倒な対人関係が嫌だとしてもやりようはある。

 例えば、周囲と問題ばかり起こすマクダウェルを放置できず学園長が動いたみたいなそれっぽい噂を流し、本人は変装のマジックアイテムを使い別人名義で適当な学校に通うなり、いっそ面倒臭く騒ぎ立てる連中とお互い納得が行くまで戦わせてやれば、勝って留飲を下げるなり負けて格の違いを思い知り大人しくなるのではと思えた。

 正義の味方を自称する連中からすれば、元賞金首で更生する様子どころか周囲に打ち解けようともしないマクダウェルはいつ爆発するかも分からない不発弾の類に思えるだろうし、例え本人が大人しくすると約束したとしても信じられるだけの根拠はなく、羊の群れに紛れ込んだ狼を牧羊犬が見逃すかみたいな問題である。

 学園長は近衛に私が聞いた内容よりもかなり端折った説明をしているが、マクダウェルは一般人に危害を加えないから問題ないとする結論ありきの語り口は公平性が乏しく、騒いでいる連中は疑心暗鬼に捕らわれた不満屋のように聞こえるし、今まで大きな問題を起こさなかったからこれからも大丈夫なんて理屈はただの楽観論だ。

 とは言え、私は顔も知らない他人をわざわざ庇ってやる程にお人好しじゃないし、元よりあらまし程度に事情を聞ただけの部外者が口を挟めた問題でもなく、親愛の証かマクダウェルに抱き着き頬を擦り寄せる近衛はこちらに矛先が向かない限り放置、学園長との交渉は口約束ながらお互い利益がある関係を結べたように思える。

 

「そろそろ眠いんで総括に入らせてもらいますが、私は学園長個人に雇われマクダウェルとの連絡係や戦力の提供を行う代わり、働きに応じた範囲で有形無形の支援を受けられる子飼いの部下みたいな感じですかね?

 参考までにフレイザードの能力を簡単に説明しときますが、単純な戦闘力はマクダウェルの見立てだと高畑先生から数枚落ちる程度、主に炎と氷の技や魔法を好んで使うけれど殴り合いもこなせて苦手な距離はなく、加えて実践経験こそ少ないものの魔法を筆頭に様々な分野で幅広い知識があり、研究施設といくらかの資金を用意してくれれば色々と面白いモノを提供できるはずですよ」

「雇用に関する細かい部分は後で詰めるが、ワシから長谷川君に提供できるのはちょっとした物件と暗証番号を伏せた銀行口座くらいのもので、それ以外の支援は身元保証と軽い口利き程度にさせてもらうぞい」

 

 私と同じく学園長も話を切り上げたいと思っていたらしく、にこやかに同意しながらもしれっと支援の内容を絞り込んで来たが、ビジネスライクな雇用関係か相互不干渉を引き出せれば御の字くらいに考えていたこちらとしては、理不尽な条件を押し付けられず後ろ盾が得られるなら万々歳だ。

 

「話し合いが終わったのなら次は私に付き合え長谷川、本来は麻帆良の裏事情に関する知識を授けてやる予定だったが、そこのゴーレムモドキも含め色々と聞きたい事ができたから拒否は許さん。

 その代わりと言ってなんだが、後で今のお前に必要な自主訓練のメニューを考えてやっても良いし、これから巻き込まれるだろう面倒事の相談に乗ってやらんでもない」

 

 契約成立の握手を交わす私と学園長に横合いから割り込むマクダウェル、自身の都合が優先されて当然とばかりな態度は気に障るが、こんな見た目でも中身は多額の賞金を懸けられながらも悪運しぶとく数百年を生き抜いた吸血鬼であり、更にこれから仕事で否応となく顔を突き合わせる以上はプライベートでも仲良くしておいて損はないし、こちらから迎合するつもりはないが少し馬を合わせてやるだけで後ろ盾を得られるなら断る道理はなく、考えてくれると言う自主訓練のメニューとやらにも興味がある。

 普通に考えてマクダウェルと親しくするのは有象無象を敵に回す悪手だが、自分の価値観を押し通そうとするような連中に好かれるくらいなら嫌われた方が気楽だし、何か言われても学園長に依頼された仕事とそれらしい大義名分で切り抜けられる以上は問題なく、それでもしつこく絡んで来るようなら相応に痛い目を見せてやれば良い。

 こちらの返事を待たず学園長に退室も挨拶なく歩み去るマクダウェル、本人的には悪の魔法使いとやらの格を見せたつもりなのだろうが、首元に抱き着いたままウチもウチもと繰り返す近衛を引きずっている点で威厳も何もあったもんじゃないし、傍から見れば一回り大きな日本人形を背負った西洋人形と言うのが正直な感想だ。

 無視される形になった学園長も似たような感想を抱いているらしく、フォフォフォと吐息が漏れるような笑い声を上げながらこちらに向き直り、執務机の引き出しから少し膨らんだ茶封筒を取り出す。

 

「有り合わせの図書カードと食券を入れただけで面白みはないが、刹那君の件に関する詫びの品とは関係ないワシ個人からの贈り物じゃから遠慮せず受け取ってくれんかの?」

 

 契約金代わりみたいな意図もあるのか、触った感触からして受け取った封筒の中身は綴り食券を帳面に閉じた豪華版と額面不明なカードが数枚ばかり、こちらとしても気を使ってくれるならそれに応える程度の義理は果たしたいし、雇い主との関係は良好に越した事はないので素直に感謝を述べる。

 

「好意には好意で応えたいし、お近づきの印に後でこっちからも何か返礼品を送らせてもらいますね。

 本音を言えば、精神的にも肉体的にも疲れて今すぐ寝たいんですが、無視して帰ったらマクダウェルが部屋に押し掛けて来そうだし、待たせてへそを曲げられたら面倒なんでそろそろ失礼します」

「うむ、長谷川君がエヴァンジェリンと良好な関係を築いてくれればワシの心労も幾分かは減るだろうし、エールの意味も込めて追加の贈り物をさせてもらうぞい」

 

 言い終えるや小声で何やらぶつぶつと呟く学園長、どうやら私に回復呪文(ホイミ)の類を唱えたらしく淡い光に包まれると全身に溜まった疲労と痛みが溶けるように消え去った。

 フレイザードだった頃はコアさえ無事なら問題なしと無茶もできたが、貧弱な人間に成り下がった今の身体で昔と同じように暴れるのは無理だし、桜咲みたいな血の気の多い奴に絡まれる危険性を考えたら鍛え直しと回復手段の確保は急務であり、そこらも含めてマクダウェルに呼ばれたのは渡りに船と言える。

 私の内心も知らず悪戯気に笑う学園長、気遣いはありがたいけど暗にマクダウェルのご機嫌取りをしろと言われたようなものだし、こちらとしては断るに断れず無理をさせられる方向に持って行きたかったが、折角の好意に文句を言うのもどうかなので黙礼だけして退室する事にした。

 

*1
氷岩疑人(ひょうがんぎじん)と名付けたオリジナルモンスター、能力的には『冷たい息』と氷結無効を入れた代わり痛恨率が普通で火炎弱点になった『彷徨う鎧』と言える。




長谷川さんは禁呪法で眷属を作成していますが、鬼岩城にあったラングの間や闘魔傀儡掌を使ったアンデットモンスター作成と似たような理屈であり、素体に魔法力を吹き込み動かしているものの作成時にどれだけのコストを掛けるかで性能が変化(例えばヒュンケル配下の……実はパプニカ王なんじゃと邪推してたモルグは腐った死体だけど明確な自我と知性があったように、素体の問題である可能性も皆無ではないんですが)する反面、自我を持たせる場合の性格は設定できない上に維持コストとしていくらかの魔力(自然回復の範囲内)が徴収される為、あまり頭数を揃えられないと言う欠点がありました。

学園長はエヴァンジェリンの封印が呪いによるものと思わせるような発言をしていますが、対する長谷川さんは学園結界の効果だと気付いており、安全対策の一環ならわざわざ指摘して警戒させる必要もないかと考えスルーしています。


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