文明監視員・ウルトラマンナイスのナ、ナ、ナ、ナイスな奮闘記 (Sashimi4lyfe)
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ウルトラマンナイス、一万405歳にして地球の文明監査員になる
ここはM78星雲、光の国。ウルトラの星とも呼ばれ、全宇宙の平和を保つ宇宙警備隊の本拠地である。宇宙警備隊に属し、真の平和を守るために奮闘する光の国の住人たちを人類はウルトラマンと呼んだ。
宇宙警備隊は様々な部署にわかれており、その中に別惑星の文明の発展とそれの保護を行う文明監査部がある。
そこへ一人のウルトラマン、ウルトラマンナイスが入部を志願したのは一か月ほど前のことだった。
彼は別のマルチバースでの活躍を宇宙警備隊に評価され、晴れて入隊のスカウトを受けてタロウ教官の厳しい特訓のもと一応一人前のウルトラマンになったのだが…
「はぁ…今時フォルムチェンジのできない俺のような冴えないウルトラマンは惑星防衛に就けないのかなぁ…」
ナイスがぶらぶらと歩きながらぼやく。入隊してかれこれ15年ほど経っていたのだが、命じられた任務と言えば科学技術局の資料の手伝いやこぐま座銀河のパトロールなど地味な作業ばかりだった。やりがいのある仕事と言えばたまに相方のウルトラマンゼアスとする漫才ショーぐらいだった。
彼がこの宇宙警備隊に入ったのはウルトラマンとして地球を守るためだったのに…
「よぉ!どうしたナイス?浮かない顔してよぉ?」
そう声をかけてきたのは同僚のゼアスだった。
彼とは一緒に漫才コンビを組み、心を通じ合わせた仲だったが、彼は特訓を繰り返していくうちににポテンシャルを発揮し、今やアンドロメダ銀河の惑星の大気洗浄を任されるようになった。彼の働きは高い評価を受け、今や「宇宙の洗浄者」としてちょっとした人気者になっていた。
「ゼ、ゼアスか!なぁに、ちょっと疲れただけさ。」
「嘘つくなよ。一緒にコンビ組んだ仲だ、お前の考えてることなんてすぐわかるよ。」
「やっぱりお前ならわかってくれるか、ゼアス!」
ナイスがほっとしたように返す。
「あったり前よ!あれだろ、技術局のメアリちゃんにふられたんだろ?」
「…違うよ!しかも俺が好きだったのメアリちゃんじゃなくてウィンダちゃんだし…」
ナイスの表情がまた暗くなってしまった。
「えっ、あ、そうだっけか…ハハハ!すまんすまん。」
笑ってごまかそうとするも、すさまじく気まずい空気をゼアスは感じ、コホンと咳払いをして話を切り替える。
「ところでさ、文明監査部がスケールアップするって話聞いたか?」
「いや、初耳だけど…」
「ほら、最近さ、別の宇宙、つまりマルチバースの地球で色々物騒なことが起きてるって話、よく聞くだろ?だからそれに合わせてうちの文明監査部も規模を広げてより多くのマルチバースの地球を守ろうってことらしいぜ。」
始めはうつむきながら聞いていたナイスも少しづつゼアスの話に聞き入っていった。
(もしかして、他の宇宙でなら地球防衛も夢じゃないかも…!)
「ん?どうしたナイス?」
ナイスは黙り込んで何か真剣に考えているようだった。
「よし、俺決めた。文明監査部に入部志願する。」
「えぇっ!?もしかしてお前…」
「他の宇宙だったとしても、俺は地球を守りたい。そのために俺はウルトラマンになったんだ!」
決心したように彼は言った。
「…そうだったもんな。お前、先輩方にあこがれてご両親の反対を押し切ってTOY一番星から一人出てきたんだもんな。よし、俺の知り合いに文明監視員の奴がいるから紹介してやるよ。」
「ゼアス、お前….」
「いいってことよ!その代わり、技術局の子との合コンには絶対誘えよな!」
「おう!何回でも誘ってやる!恩に着るぜ、相棒!」
それからめでたくナイスは文明監査部への入部が決まり、基礎的なトレーニングを受けた後、過去の飛球防衛の経験を買われてか別のマルチバースの地球防衛を任されることいなった。
今日は彼の晴れ舞台。大先輩の文明監査員、ウルトラマンマックスから目的地の指定と、別宇宙で監査活動を行うための最後の指導を受けてから地球へと旅立つのだ。
プラズマスパークの光がまぶしく輝く文明監視部の中庭でそれは行われた。
「よし、ナイス、ちゃんと休息は取ってきたか?」
マックスがナイスの体調を確かめる。
「それが、緊張して中々落ち着けなくて…」
「ハハハ。私も最初はそうだったよ。しかし、君の経験があればうまくこなせるはずだ。」
ナイスの緊張をほぐそうとマックスがナイスの方をポンと叩く。マックスの手の感触を感じ、ナイスは少し落ち着いた。
「さて、本題に入ろう。君がこれから行くマルチバースは平行宇宙N-51といい、まだコードネームとしてしか名称が付いていない。それほど我々もその地球がどのような文明を有していて、その宇宙にどんなウルトラマンがいるのかもわかっていないのだ。」
「未開の地…というわけですね。」
(うぉぉ!!なんかワクワクしてきたぞ!)
「そういうことだ。危険を伴う任務なので、我々からも君にプレゼントがある。右手を出したまえ。」
ナイスが右手を前に出すと、マックスは手をその上にかざし、少し念じたかと思うと彼の手首には赤とシルバーのラインが入ったブレスレットがはめられていた。
「こ、これは?」
「科学技術局長のウルトラマンヒカリが自ら設計した間宇宙移動用装置、アナザーブレスだ。この任務において君を大いに助けてくれるだろう。」
「てことは、ジャック先輩みたいにこれを武器にして…」
「いや、武装用ではない。あくまで監査員としての任務を進行するための道具だ。」
(なんだ、ウルトラスパークとかできないのか…)
それを聞いてナイスのテンションが明らかに下がったのをマックスは感じた。
「ま、まぁそう落ち込むな。それがあれば様々なマルチバースを行き来できるし、粒子状態にとどまって感知されずに監査作業を行うことができる。もちろん、私たちがやってきたように、有事の際には人間と同化し、共に戦うことも可能だ。」
それを聞いたナイスは気を取り戻した。あぁ、あの王道の「勇気ある人間との同化」をできるのだと心をワクワクさせた。
「ただし、人間と同化する際、またはその文明に干渉する前に三つ条件を課しておく。この三つの条件を君自身がクリアしたと心の底から信じない限り人間との同化はできないようにそのブレスは設計されてある。」
その「条件」とはこの三つだった。
一つ。人類が死力を尽くして戦ったのにも関わらず、戦況が一向に有利にならないとき。
一つ。人類同士の争いによって起きた戦いではないとき。
一つ。守るに値する、勇気ある人間の命が尽きようとしているとき。
「繰り返すが、この三つを君が心の底からクリアしたと思わない限り、量子状態は解除されず、君はその文明に干渉することができない。それと、人間と同化したときに変身のトリガーとなるアイテムを使用しないと変身できないようになっている。いざという時に素早く変身できるよう、目立たず持ち運びやすいものがいいだろう。」
「変身アイテム、ですか…なるほど、わかりました。」
「まぁ、私からは以上だ。N-51の座標はもうブレスにセットしてある。ブレスの使い方はブレス自身が教えてくれるだろう。さぁ、準備ができたら行くといい。行き詰った時や、苦難とぶつかったとき、ウルトラの光が君を導いてくれるだろう。」
「マックスさん…ありがとうございます!では…」
飛び立とうと気持ちを決めたその時、彼はふと思いとどまった。
「あの、先に挨拶しておきたいヤツがいるんです。その後でも構いませんか?」
「あぁ、別にいいが…」
彼が挨拶をしておきたかった相手、それは相方のゼアスだった。彼らが初めて会った場所、特訓場の前の公園へ、彼は無意識に足を運んでいた。
彼はそこで空を見上げていた。
「やっぱりここにいたか。」
ナイスの呼びかけにゼアスはゆっくりと振り返ると、軽く失笑しながら答える。
「どうせなら、ここでお前の飛び立つ姿を見てやろうと思ってね。」
「相変わらずキャラに見合わず粋なことをするねぇ。」
「お前こそ、早く行かなきゃいけないんじゃないのかい。」
「いや…ちょっと礼を言っとかなきゃなって思ってね。」
「やめてくれよ。水臭い。」
苦笑しながらゼアスは下を向く。
そこにすっとナイスの手が差し出される。
「お前が俺の相方で本当に良かった。それが伝えたかっただけさ。」
「…」
やけくそにゼアスはその手を握る。
「えぇい、アンドロメダで仕事をしてると目に硫黄が入って涙が出やすくなっちまう。ちくしょう、頑張って来いよ。お前が帰ってくる頃にはアンドロメダ中の惑星をピッカピカにして待ってっからな。楽しみにしてやがれ。」
「…あぁ!お前が磨き上げた銀河を見るのが楽しみだぜ!じゃあな。また会う時まで。」
「おうよ。行ってこい!」
仲間の視線を背中に受け、ナイスはM78星雲の宇宙へ飛び出していく。まっすぐ飛んでいくうちに、右手のブレスが赤く光り、自分の体が光へと変わっていくのを感じた。飛び慣れた星々の大海原が引き延ばされていき、虹色の光に包まれた不思議な空間の中に入っていく。なぜか恐れは感じなかった。このまままっすぐ飛んでいけば、必ずたどり着ける。そんな根拠のない自信が彼を動かしていた。
どれくらいたっただろうか。気が付くと目の前に再び星々が現れ始め、地球が目の前に現れた。
「あれが、この宇宙の…N-51の地球…」
彼がかつて守った、ウルトラマンにとってかけがえのない星。あの星をまた守れるのだと思うと、様々な感情が彼の胸にこみあげてきた。
「へっ。いけねぇ。俺の任務はこの星の文明監査だったな。」
ナイスが地球に近づいていくと、いくつもの衛星らしきものが地球の周りをまわっていることに気が付く。
「人工衛星か。それにしてもすごい数だなぁ。こんなに衛星を作ってどうするんだろう?」
しかし、地球の外見は彼の記憶通りだった。青い海に緑の大地。その上を雲が覆い、まるで宇宙に浮かぶ宝石のようだ。
「いやぁ、いつ見ても地球は美しい…どれ、ここの地球人がどんな文明を持ってるか、さっそく調査と行きますか。」
スピードを上げ、大気圏内へと入っていく。アナザーブレスのおかげで体を粒子状態のままにとどめられているため、空気抵抗が全くなく、とてもスムーズに飛行できる。
「手始めに日本から始めるか。それにしても、なぜ我々の同胞はみんな日本ばかり守ってきたんだろう。まぁいいや。どれどれ…」
成層圏を通り過ぎ、中間圏に入っていくにつれて視界が開け、日本の街並みが見えてくる。
「な、何だこりゃぁ~っ!!??」
そこには、彼が覚えている街並みとは全く違う光景があった。
400mはありそうな高層ビルが林のように建っており、その合間を旅客機を通り抜けている。ビルの表面は大きなスクリーンのようになっており、様々な広告が映し出されていた。地面の上は無数の自動車が地面から車体を少し浮かせながら走っている。電気自動車なのだろうか。電車も走っているが、モノレールのようにやはり少し車体を浮かばせながら、ビルの合間を縫うように走っている。
「こ、これが地球…?来る星を間違えたんじゃないか…?」
そう。この宇宙にはウルトラマンが存在しない。
人類は自分自身の手で異星人や地球外生命体から自分の星を守ってきたのだ。
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どこか頼りない一児の父、夢星輝
『ファンタジア・チェーンジッ!!』
映画館のスクリーンに女児アニメ特有の派手な変身シーンが映し出される。
今上映されているのは少女たちに大人気の女児アニメ、「劇場版ファンタジアガールズ・みんなで描こう、ハッピーエンド!」だ。観客の中には大きなお友達の男性たちも混じっているが、ほとんどは子連れの親子たちだった。
キャッキャとはしゃぐ娘の隣で、眠そうな目をしながら夢星輝はスクリーンを見ていた。
(ストーリーはまぁまぁだけど、エアコンが効いてて眠くてしょうがねぇや…)
そう思いながら輝はずずっとカップの中のドリンクを飲みほした。
(ちょっとトイレにでも行って顔洗ってくるか。寝るとまたすいちゃんに愚痴られるしなぁ…)
すいちゃんとは彼の娘、夢星彗星のことである。
「すいちゃん、ちょっとトイレ行ってくる。」
ぼそっと彗星に向かって輝がささやく。
「えぇ~?今ちょうどいいとこだよ、あっくん。」
「だから外でその呼び方はやめてって言ってるじゃん…すぐ戻るからさ。」
そう、彼は彗星から「あっくん」と呼ばれているのだ。彼の妻、夢星月子がつけたあだ名だったがいつのまにか娘にもその癖が移ってしまい、外出する際の彼の悩みのタネとなってしまった。
(ふぅ~。それにしても最近の女児アニメってストーリーが結構複雑なんだなぁ。)
用を足しながら輝は思った。
(たまにはこういうのも悪くないか。職場の人たちもみんなこの映画を見に連れて行かされたっていうし。)
手を洗い、顔を軽く洗っていたその時だった。
ウウゥゥ~ン!!!!
聞いたこともないような不気味なサイレンがモール全体に響き渡った。
輝の身の毛がよだち、思わず身震いをした。何事だと耳をそばたてて聞いていると、今度は恐ろしく遅いスピードで館内放送が行われた。
「異 星 人 が 急 接 近 し て い ま す 落 ち 着 い て 係 員 の 指 示 に 従 い 最 寄 り の シ ェ ル タ ー に 避 難 し て く だ さ い 異 星 人 が….」
まもなくして映画館の外から無数の走るような足音が聞こえた。みんな我先にと逃げ出そうとしているのだろう。
(や、やばい…すいちゃんと早く外に出ないと!)
トイレの外に出ると廊下は人であふれかえっていた。日曜の昼だからということもあって、映画館は混雑していたのだ。
(すいちゃんがいるのは7号館…一番奥の部屋かよ!ちくしょう、なんたってこんな日に!)
入り口も出口も人で詰まっているような状態の中、自分を押し込むようにして映画館の中をおぞきこむと、彗星が自分の席で膝を抱えながらぶるぶると震えていた。
「すいちゃん!!」
力の限り体を人の間に入り込ませ、7号館内に入り、娘へと駆け寄る。
「あっくん!!」
父の顔を見たとたんに彗星は泣き出してしまった。よほど不安だったのだろう。
「もう大丈夫、大丈夫だから。ここから早く出よう。」
彗星の手を引っ張るも、何か抵抗を感じ、輝が振り向く。すると彗星が両手を輝に向け、おぶってくれと言わんばかりに泣き顔で訴えていた。
「ったく…もぉ!!」
いらいらしながらも輝は彗星を背中に抱え、出口へと急ぐ。やっと映画館の外へ出れたかと思うと、今度はモールの出口も人であふれかえっていた。係員が必死に避難を促していたが、誰も彼らには耳を貸さなかった。
さらに不安をあおるように館内アナウンスは続き、そこにいる全員の顔がどこか青ざめて見えた。彗星の震えが背中から伝わってくる。
「くそっ。これじゃあ外に出られるまで30分はかかっちまうよ….」
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ナイスは街に響き渡る警報に気づき、いったん大気圏外に出て敵の姿をまず確認しようとした。
成層圏を出ると、そこには巨大な宇宙戦艦の群れがすぐそこまで迫ってきており、今にも大気圏に突入しようとしているようだった。
「このスケールの宇宙戦艦群…お目にかかるのは初めてだぜ….」
敵の数に唖然と立ちすくしていると、人口衛星が周りに集まりだし、なにやら砲撃の準備をしようとしているようだった。
「なるほど…だからあれほどの数の衛星が必要だったわけだ!待てよ、これほど異星人の侵略に備えているということは、もしかしてこの宇宙にウルトラマンは…」
ナイスが考えている間に衛星たちは砲撃準備を完了させ、敵艦隊に向け同時に無数の光線が発射された。
「うぉぉ、なかなかの威力だ!俺の弱光線ぐらいの威力はあるんじゃないか?」
宇宙圏内では音は発生しないため、まぶしい爆発の光と黒煙だけが巻き起こった。煙が消えかかったかと思うとまた砲撃が開始される。
二発目の光線が直撃したと思われた次の瞬間、黒煙の中から光の筋が現れ、それにあたった衛星は爆散してしまった。まもなくして黒煙が晴れ、敵の艦隊が再び姿を現すと、敵艦の数はまだ半分以上減っていなかった。
「あれほど食らってまだあの数が残っているのか…こりゃあ人間も苦戦するぞ…」
ナイスはマックスの忠告をしっかり覚えていた。
人類が死力を尽くして戦ったのにも関わらず、戦況が一向に有利にならないときにしか、彼は異星人との戦闘に干渉してはならないのだ。
「でも、これほどの戦力を持っているなら俺の力なしでもちゃんと戦えるかもな…」
ナイスは安心とがっかりした感情が入り混じった複雑な感情を感じていた。
そう考えている間にも衛星群と戦艦群との攻防は続いていた。
大気圏内にいれさせてたまるかと言わんばかりの人類の必死の抵抗。
着実に敵艦隊の数は減らせてはいるものの、まだ異星人側が優勢なのはナイスにも見て取れた。
ついに最後の衛星が破壊され、宇宙戦艦群が大気圏に突入する。
「やはりこのスケールの敵は退けられなかったか…って待てよ、この先にあるのって日本じゃないか!まったくなんで宇宙人はみんな日本を侵略したがるんだ!?」
ナイスはいち早く大気圏を抜け、地上200mほどの高さで状況を観察することにした。
大気圏外で起こった熱風のせいか、空が曇り始めていた。黒雲から敵艦が顔をのぞかせたかと思うと、それと同じタイミングで無数の戦闘機が敵艦に向かっていくのが見えた。よく見ると戦闘機には衛星に描かれていたものと同じロゴがついている。
『HTDF』―そう書かれてあった。
「それにしてもコックピットが見当たらないが…なるほど、無人戦闘機か!ははぁ、よく考えたもんだ。ん?建物の様子が…」
気が付くと彼の周りの高層ビルがどんどん縮んでいっていた。
「違う!これは地下に収納されて行ってるんだ!へぇ~、面白いことを考えたもんだねぇ。でも他の小さな建物たちはそのまま残るのか。」
感心しているのもつかの間、無人戦闘機による敵艦隊への一斉射撃が開始される。先ほどの衛星の光線砲ほどの威力はないが、数が多く攻撃の頻度が高い分侮れない威力を有していた。
「でもあの程度じゃああの数の艦隊は退けられそうにないな…ってことは俺の出番が来ちゃったかもしれんな!」
ナイスが調子に乗り始めた次の瞬間だった。
戦闘機に向けて発射された敵の光線が街に直撃した。
ドキューン!!!!
凄まじい爆音とともに、黒煙が立ち込める。
ナイスの耳には泣き叫ぶ人々の声がしっかりと聞こえた。
その悲鳴に、ナイスはこの下には地球人たちがいるのだという当然の事実に気づく。
「クッ!俺としたことが…自分の手柄ばかり気にしていたとは…」
体を実体化させ、応戦しようとするもうまくいかない。ナイスはまだ心の底から人類が死力を尽くしたとは思っていないのだ。
「くそぉ、死力を尽くすも何も、その最中に人が死んでるんじゃあ元も子もないじゃないか!ちくしょう、元に戻せ!頼む、俺の体を実体化させてくれ!」
その願いもむなしく、激戦は続いていく。
無残に撃ち落される無人飛行機の数々。大破される敵の戦艦。
そして巻き添えを食らい、破壊されていく街。
遅れて到着した陸上戦車の数々も戦闘に加わり、戦争の炎はどんどん激しさを増していく。
無数の砲撃を食らいながらも、じりじりと宇宙艦隊は地上からの距離を縮めてくる。
地上250mほどのところまで敵艦隊が降りてきた時だった。
敵艦隊の下から筒状の突起物が現れ、地上に向けて向きを変えたかと思うと、すさまじい速さで回転し、光線弾を発射し始めた。
その姿はまるで地獄のスプリンクラーのよう。射程距離が短いため、地上から一定の高さでしか使えない兵器なのだろう。街への被害は一層激しくなり、辺りが一面焼け野原になっていく。
ナイスはブレスの制御を必死に解除しようとするが、制御システムのメカニズムが分からない以上どうにもならなかった。なんとか実体化しようとナイスがあがいていると、耳をつんざくような少女の悲鳴が聞こえた。
「あっくーん!!!!」
なぜその声が他の悲鳴よりもはっきりと聞こえたのかは、彼にもわからなかった。
でもその声のするほうに向かわなくてはならない、そんな謎の使命感に押され、ナイスは地上へと急降下する。
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一体何が起きているんだろう。
そのことで輝は頭がいっぱいだった。
ふとそばを見ると、彗星が彼の体を揺さぶりながら泣いている。
(すいちゃん…そうだった…僕は…)
走馬灯のようにさっきまでの出来事がよみがえる。
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モールから何とか抜け出すことができた二人は、最寄りのシェルターに向かい走っている最中だった。無数の火の玉のようなものが頭上から降ってきて、周りの建物がどんどん破壊されていく。
早くシェルターに向かわなくては。
そう思うも、うまく走れない。彼のスタミナの限界が来たのだ。ばてながらも娘をおぶり、避難誘導員のこちらですよという誘導に従い、人の波にのまれるようにシェルターへ進んでいった。
「あっくん、あの火の球こっちに落ちてきてる。」
その彗星の言葉に気づき、上を見上げるとすぐそばまで火の玉が落ちてこようとしていた。
とっさに彗星を下ろし、彼女の体に覆いかぶさる。
ドグォーン!!!!
凄まじい爆音がし、彗星が目を開けると、服がぼろぼろに破けた父の姿があった。
「あ…あ…あ…」
言葉にならないような声で父の名前を呼ぼうとするも、あまりの衝撃に言葉が出ない。
よろりと輝が倒れこんだ時、彗星は心の中で光がすっと消えたのを感じた。
「あっくーん!!!!」
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(すいちゃん…ごめんな…僕がもっと動けてたら…)
誰かが近づいてくる。あの誘導員の人たちだろうか。
(どうか…すいちゃんだけでも…娘だけでも助けてやってくれ…)
彼らは彗星を自分の体から引き離し、シェルターの方へと急いで運んでいく。その間にも彗星はずっと泣き叫び、彼女の自分の名前を呼ぶ声だけが頭の中にこだましていた。
しかし意識は遠くなっていく一方だった。
(月子…すいちゃんを…頼んだよ…)
しだいに目の前が真っ暗になっていった。
もうここまでかとあきらめたその時だった。
赤い光が目に入ってくるのを輝は感じた。もう目を開けていられる力は残っていないはずなのに、はっきりと光が差し込んでくるのを感じる。
「おい…おい!聞こえるか、地球人よ!うまくいくといいんだが…」
しっかりと耳も聞こえる。
(あぁ…とうとう僕もあの世に来てしまったか。思えば短い人生で…)
「何勝手に死んでんだ!君はまだ生きている!」
(…!?)
その言葉に驚き、目を開けるとそこには銀色の巨人が立っていた。
(な、なんだぁ~っ!???何がどうなってんだ!??)
辺りを見渡すと、赤い空間にポツリと輝は浮かんでいた。どうやらまだ死んではいないらしい。
「驚くのも無理はない。しかし時間がないのだ。私に君の体を貸してくれ!」
(何言ってんだこいつ…それに、あんた誰?)
「うっ…馴れ馴れしいな、君…」
(それはこっちのセリフだ!初対面の相手に体を貸せだなんて…まさかお前、悪霊なのか!?)
「誰が悪霊だ!いや、自己紹介をしなかった私が悪かった。私はウルトラマンナイス。まぁ地球のピンチを救いに来たヒーローだと思ってくれ。」
(ヒーロー??お前が??うさんくさいなぁ…)
「えぇい、君が私のことをどう思ってるかなんて今はどうでもいい。いいか、よく聞け。君の命は今果てようとしてるんだ。君が生き残る手段はただ一つ。私と同化して、共に戦うことだ。」
あまりの急展開に、輝の頭はこんがらがっていた。
(同化…?戦う…僕がぁ?)
「そうだ!じゃないともっとたくさんの人が死んでしまう!」
(そんなこと急に言われたって…ん?僕の手が…)
輝は自分の手がどんどん透けていくことに気づいた。
いや、手だけじゃない。足も、腹も、体全体が透けて行っているのだ!
(お、おい!これってどういうことだよ!)
「だから時間がないと言っているんだ!いいか、今私と同化しなかったら君は死ぬ!君の娘さんにももう会えないんだぞ!」
その一言に輝は心を揺さぶられる。
彼にとって、他のことはどうでもよかったのだ。
ただ、また生き返って娘と妻の顔をもう一度見れる。
理由はそれだけで十分だった。
(わかった。僕は何をすればいい?)
「よぉし、よく言ってくれた。私は今から君と同化する。いいか、心を無にして、私を受け入れるんだ。」
(受け入れるって…)
心の準備ができぬまま、光が自分の中に入ってくるのを輝は感じた。
(う、うぉぉぉ!???)
「抵抗するな!もうちょっとの辛抱だから!!」
しかし、どこか心地いい感じがし、輝はそれをどう受け止めていいのかわからなかった。
すると徐々に視界が開けていき、意識がどんどん戻ってくるのを感じた。
「よぉし、これで準備オッケーだ!意識が戻ってくるぞ!」
まさに奇跡の瞬間だった。
夢星輝は今、命を吹き返そうとしているのだ!
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ウルトラマンナイス登場!ぶちかませ、ベリーナイス光線!
「しっかり、気をしっかり!」
HTDFの人命救助隊員、米田誠司はシェルター付近で倒れた男の人命救助に当たっていた。
HTDFとはHumanity’s Terrestrial Defence Force(人類による地球防衛軍)の略称で、異星人や地球外生命体から地球を守ってきた軍事組織である。
周りには他にも爆撃の巻き添えを食らった人たちがいたが、ほとんど皆即死だった。彼だけがかろうじて虫の息でもまだ生きていたのである。
「頼む、生き返ってくれ!あの子には父親が必要なんだ!」
誠司はその男の勇気ある行動をその目ではっきりと見ていた。娘をかばって重傷を負った父親を彼は放ってはおけなかった。
両手を倒れた男の胸に当てがり、強くリズミカルに押し込む。それでも男はぴくりとも動かない。
今度は男の鼻をつまみ、口移し人口呼吸法を試みる。粋を口に吹き込んだ次の瞬間だった。
「ん…んんん!!!?????」
男がいきなりじたばたと動き出し、誠司を突き放した。
「げっ、おえぇ…何してんだアンタ!?」
急な出来事に誠司はぽかんとしてしまった。
(さっきまでこの人瀕死状態だったよな…?)
「それよりすいちゃんは…娘はどこに!?」
「あ、あぁ、娘さんなら、我々がシェルターに…」
「そうだ、シェルターだ!あそこに早くいかないと…」
そういったかと思うと男はむくりと起き上がり、シェルターに向かって走っていった。
「まだケガをしてるんですから安静に…」
そう言う間も与えないまま彼は一目散に走っていった。
「なんだったんだ、あれは…」
その男こそ、この物語の主人公、夢星輝である。
なぜ自分が目を覚ませたのか輝ははっきりと覚えていなかったが、まずはシェルターに向かい彗星と合流することだけを考えていた。
近道をしようと裏路地に入ったその時だった。左胸のポケット辺りがうずき始める。
「ぐっ…なんなんだ今度は?」
思わずポケットを探ると、いつもポケットに入れているサインペンがあった。妻の月子が誕生日に買ってくれた、貴重な鉱石のビクトリウムが使われている彼のお気に入りのペンである。
「あれ、色が…」
ビクトリウム特有の綺麗な透き通るような青色のペンがいつの間にか赤とシルバーのカラーリングになっている。
「なんでだろう…このキャップを引き抜かなきゃいけない気がする…」
謎の使命感に駆られ、輝はキャップを勢いよく引き抜く。するとペンの先端から目がくらむようなまばゆい光が発せられた。
「うわぁぁぁ!!!!!」
光は輝を包んでいく。彼の意識が内なる誰か別の意識と入れ替わっていくのを感じた。意識が遠くなっていき、目の前が真っ白になっていく―
『ウルトラマン、ナーイスッ!!!!』
輝の体がナイスの体へと変化していき、ビルの合間から腕のN字に広げながらウルトラマンの姿になって現れる。
「待たせたな、悪党ども!このウルトラマンナイスが成敗してくれる!」
宇宙戦艦たちはナイスの存在に気づき、すぐさま集中攻撃を仕掛けた。
「させるか!」
エネルギーを両手に集中させ、バリアを展開させる。ウルトラマンタロウのストリウム光線を耐えれるほど磨きをかけた彼のバリアは、敵艦隊の集中砲撃をもろともしなかった。
敵の砲撃がいったん収まり、一瞬の隙ができた時だった。ナイスは腕をN字に広げ、光エネルギーを両手に集める。
急激に集まった光の粒子が虹色に輝き、一度ピカリと瞬いた時だった。
「ベリーナイス光線!!!」
腕をクロスさせ、くいっと頭を傾げると渾身の光線技が腕から発射される。
一隻、また一隻と次々と宇宙戦艦が撃ち堕とされていく。
反撃の間も与えず、宇宙船艦隊は壊滅していった。さすがにエネルギーの消耗が激しいのか、ナイスのカラータイマーが点滅を始める。
それでもナイスは光線を撃つ手を緩めなかった。もう誰も死なせはしない、そのためにも一隻残らず敵を倒す。その想いのままに彼は敵を撃墜していく。
「ヌァァァッ!!!!!!」
しかしさすがに限界が来たのか、光線は徐々に途切れていき、最後にはよろりとナイスが膝をついてしまった。
だがもうダメージは十分すぎるほどに入っていた。彼が光線を放つ手を緩めた次の瞬間、すさまじい爆音とともに敵艦隊が爆散した。
その爆風波は凄まじく、空を覆っていた黒雲を吹き飛ばしてしまうほどだった。
沈もうとしている太陽がまぶしく街を照らし、彼の勝利を称えているようだった。
ふとナイスが下を見ると、シェルターから避難していた人たちが出てきて彼の姿を見上げている。
彼らは未知の存在に戸惑っているようだった。それも無理はない。この宇宙にウルトラマンは存在しないのだから。
無人戦闘機が彼の周りを旋回し、陸上戦車が彼の方向に巨砲を向ける。
彼はあくまでこの地球では「未確認生命体」なのだ。
不気味なエンジン音とキャタピラ音がとどろく街の中、一人の子供の声がナイスの耳に届く。
「ありがとう!」
それに続き、何人もの子供たちが彼に感謝の念を伝える。
彼らとともにナイスに感謝を伝える大人もいれば、やめなさいと止める大人もいた。
しかし、そんなことはナイスにはどうでもよかった。
彼らがまだ生きて、そこにいてくれるだけで彼は満足だった。
子供たちの声援の中、ナイスは人々に親指ポーズをして見せると、光と化して消えていった。
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輝が目を開けると、そこはベッドの上だった。
右腕に違和感を感じ、ふと腕を見ると点滴の針が刺さっている。
その横には、妻の月子が娘の彗星と一緒にテレビを見ていた。
「月子…」
乾いた口を動かしながら妻の名前を呼ぶ。
「あ、あっくん!やっと目を覚ましてくれた!ほらすいちゃん、あっくんが起きたよ!」
「おはよう、あっくん!あっくんずーっと寝てたんだよ!」
「おいおい、病院であっくん呼びはよしてくれよ…ってなんで僕ここに寝てんだ?」
彼にはあのペンのキャップを抜いた後の記憶が一切なかった。自分がウルトラマンと同化していることも。
「あら、衝撃で記憶も飛んじゃったのかしら。あなた、すいちゃんを守ろうとしてすごいけがを負ったみたいなのに、けろっと治ってシェルターに行く途中の道で気を失っちゃってたんですって。本当に悪運強いのね。」
「あたし、すっごい怖かったんだからね!あっくん死んじゃったんじゃないかと思って…う、うぇぇ~ん」
あの時を思い出したのか、彗星は泣き出してしまった。それをなだめるように輝は頭をやさしく撫でてやり、その様子を涙ぐみながら月子は見ていた。
「あぁもう、よしよし。もうパパは大丈夫だから。だからせめて外にいる時ぐらいパパって呼んでくれ。」
その時、ふとテレビに輝の目が移った。
銀色の巨人が、巨大な宇宙戦艦の群れに向かって光線を放っている姿がニュースで流れている。
「なぁ、月子、あれって?」
「あぁ、あれ?まだよくわかってないらしいのよ。なんか急に街にあの巨人が現れたかと思ったら、宇宙人たちをやっつけてそのままどこかに消えちゃったんですって。」
その巨人の名前を輝ははっきりと覚えていた。今まで見たこともない光景のはずなのに、巨人の名前と姿だけは鮮明に覚えている。
「まだ名前も分かってないから、HTDFの人たちは彼をEO-04とまず呼ぶそうよ。でも巨人に名前なんてあるのかしらね。」
「ウルトラマン…ナイス。」
「えっ?」
「たぶん…彼の名前は、ウルトラマンナイスっていうんだと思う。」
「ウルトラ…なんて?ねぇ、頭大丈夫?検査してもらったほうがいいんじゃない?」
からかい半分で月子が茶化す。
「いや、たぶん適当に思いついた名前だよ!忘れてくれ。」
「あっくん、なんか変だよ。」
「だから外ではパパって呼んでくれよ~」
笑いが立ち込める病室の外で、何者かが輝の様子をじっと見ていた。
「ヤツが…あの巨人…」
そうぼそりとつぶやくとその男は病室を後にした。
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あの巨人はウルトラマンナイスというらしい
と言ってもちょっと遅れてしまいましたね。皆様はどのようにクリスマスをお過ごしになりましたか?
僕はカナダに住んでいるのですが友達と鍋パーティをしました。友人の多くは「鍋を囲んで食材を煮たそばから食べる」という習慣がなく、色々指導(?)しながらおいしくいただきました。
日本も寒くなってきたようですので皆様もお体に気を付けてお過ごしください。
Sashimi4lyfe
「それじゃ、行ってきま~す。」
一言挨拶をして輝は自宅の玄関から出る。
宇宙人の襲撃からはや1週間。街はかなり甚大な被害にあっていたが、政府の地球外生命体災害復興プログラムによってあっという間に町は元通りになり、いつもと変わらない日常が戻ってきた。
輝はイアポッドを付け、スマホから流れてくるニュース配信を聞きながらいつもの通勤路を歩く。社会人ならみんな聞いている人気のニュース番組だ。
『HTDF日本支部の総司令官、倉石氏によりますと、今現在EO-04の正体ははっきりとしておりませんが、知的生命体である可能性が高いとのことです。』
(またあの巨人の話か。)
EO-04とはHTDFによって命名されたウルトラマンナイスのコードネームのことである。輝にはナイスと同化したときの記憶が全くなかったが、彼にはあの巨人に対して根拠のない親近感を感じていた。
『視聴者の皆様に対してEO-04、通称「銀色の巨人」についてアンケートを取りましたところ、約44%が好感的な印象を持っている、約10%が信用できない、そして約46%がどちらでもないという返答をくださいました。これについて異星人・地球外生命体による災害の専門家、
耳から流れてくるニュースを聞き流していると、高校の制服を着た男の子が他の男子3人に囲まれているのに気が付く。
「オイ、ぶつかって来ておいてすいませんだけじゃ済まねぇだろ。謝るときはもっと誠意をみせるもんだろ、えぇ!?」
イアポッド越しからでも聞こえてくるほど大きな声でガタイのいい男が怒鳴り散らす。
「ご、ごめんなさい…」
(うわ、タチが悪そうなやつらだな…ここはなるべく目立たないように通り過ぎよう。あの子には気の毒だけど…)
「それじゃあ心がこもってるとは言えねぇなぁ。オイ、今いくら持ってる?量によっちゃあ許してやってもいいぜ。」
「も、持ってるって何を…」
「金に決まってんだろこのボケナス!財布出しやがれ財布!」
「は、はい…」
ちょうど輝が彼らの隣を通り過ぎようとした時だった。彼の左胸が急にうずき出す。
(うっ…いてて…何だんだ今度は…?)
痛みを無視して歩こうとするも、今度は目の前が白くなっていく。輝の意識は遠のいていく一方だった。しかし、心の奥のほうから別の誰かの意識が昇ってくるのを感じた。
輝の体が一瞬ぐったりとなったかと思うと、はっと目が覚めたように姿勢を正した。
(ふぅ。うまくいったな。やれやれ、見損なったぞ、輝。)
ナイスは体をちゃんと動かせることを確認し、肩をぐるりと回して体の感覚を確かめた。
説明しよう!
アナザーブレスの制約を力ずくで解除し、夢星輝と同化したウルトラマンナイスは輝と同時に意識を保つことができず、どちらかの精神を眠らせることでしか活動できないのだ!
目の前の悪に目を背ける輝にナイスは我慢の限界を感じ、やむを得ず彼の意識を強制的に自分の意識と入れ替えることで、一時的に輝の体を乗っ取ったのである!
(乗っ取ったとは人聞きが悪い!てかお前誰だよ。まぁいい、今はこの青年を助けなくては!)
ナイスは不良三人組に歩み寄っていく。
「やい、君たち!そこらへんにしといたらどうだ。この子は謝ってるじゃあないか。」
「ン~?誰だこのおっさん?」
「おっさん、引っ込んだほうが身のためだぜ。」
『おっさん』という言葉にナイスはカチンときた。年齢をいじられることが彼のコンプレックスなのである。
「誰がおっさんだ!!!私はこう見えてまだ一万歳前半なんだぞ!」
意味不明なナイスの発言に不良たちも思わずぽかんとしてしまう。
「誰だか知らねぇが、あんまりでけぇ口叩くとけがするぜ、お っ さ ん。」
わざとゆっくりと不良の一人がナイスを挑発する。
「やってみろッ!!正当防衛なら私にも戦闘許可が出ている!」
その瞬間、一番ガタイのいい男がナイスに向かって拳を振りかざした。
しかし、それをナイスは片手で受け止める。
「へっ!?」
男の顔から焦りが見て取れた。
「宇宙警備隊で鍛えたこの体を舐めるなよぉーッ!!」
不良の手をつかんだまま体をひねらせ、不良の胴体にハイキックを浴びせかける。
「キキキック!!」
あまりの勢いのキックにたまらず不良は倒れこんでしまった。
「ヒ、ヒエェーッ!!!」
後ろで様子を見ていた不良たちが急いで逃げ出す。
「お、おいてめぇら!俺をおいてくなぁ!ちくしょう、覚えてやがれ!」
床に倒れていた不良も慌てて起き上がり、一目散に逃げていった。
「フン!2千年早いぜ。」
背広の襟をシュッとただし、ナイスは逃げていく不良を鼻で笑った。
「あ、あの…ありがとうございます…」
さっきまでおどおどしていた青年が頭を下げた。
「いいってことさ!じゃあな、また会おう!」
親指ポーズをさわやかに決めると、ナイスは再び歩き始める。
(おっと、そろそろ輝とバトンタッチしないと…)
意識をすとんと落とし、自分の中の輝の意識を目覚めさせる。
(…!?今のは…)
輝が気がつくと、元居た場所に戻っていた。
振り返るとさっきの青年がまだこっちを見ている。
(さっきのって…僕がやったのか!??)
ナイスが使っていたのはあくまで輝の体であるため、輝にはさっきの出来事の一部始終がはっきりと見えていたのだ。
(僕の中に別の誰かがいるのか…ていうか、なんかめっちゃ恥ずかしいセリフ言ってなかった!?)
自分が絶対に言わないであろうセリフを言っていたことに輝は赤面し、せかせかと駅へと歩いて行った。
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午後12時44分。
輝は会社近くの公園で月子の作った弁当を平らげ、コーラを飲みながらほっと一息ついていた。
(それにしても、今日の朝はなんか変だったなぁ。なんだか自分の意志と関係なく体が動いてる感じで…)
不思議と輝は恐怖を感じなかった。他人が自分の体を動かしていたのにもかかわらず、なぜかそれを許していた。
(でも別に嫌じゃなかったんだよなぁ。それより誰なんだろう、僕の中にいる人って。)
そうぶつぶつと考えながらコーラを堪能していると、ベンチの上に置いた弁当箱がカタカタと音を立てていることに気が付く。
(なんだ…?地震?)
揺れはどんどん激しさを増していき、近くを歩いていた人たちが倒れこんでしまうほどだった。
揺れがピークに達したと感じた次の瞬間、少し遠くの場所から得体のしれない物体が地表を突き破って姿を現した。
(地下開発ドリルが間違って地上に出てきたのか…?いや、あれは明らかに機械じゃない…)
その物体はよく見ると輝が子供の頃よく見た怪獣映画にでてくる怪獣に似ていた。黒い体に一本の角が頭のてっぺんについており、しっぽのようなものが後ろについている。
そいつが天に向かって口を開けたと思った次の瞬間だった。
グアオゥォーーン!!!
生物が発したとは思えないような雄たけびを放った。それに続くようにあの不気味なサイレンが街中に響く。
あまりの防音のオンパレードに人々はパニックに陥り、最寄りのシェルターへと一目散に駆け出していく。
一方、輝は恐怖で身ががちがちに固まり、何をしていいのかわからなくなっていた。気が動転し、辺りを見渡すと逃げまとう人たちに気づき、正気を取り戻す。
「そ、そうだ、とりあえず逃げなきゃ!」
荷物をバッグに押し込み、走り出そうとしたその時、また胸のポケットがうずき始める。
「ぐっ…またかよ!?」
しかし今度は意識は遠のいていかず、胸に入っているサインペンが気になってしょうがなくなった。恐怖心はいつの間にか消え去っており、ペンをポケットから取り出し、それを輝はまじまじと見つめる。
「このペン…このキャップを抜けと言うんだな?」
キャップを引き抜こうとした次の瞬間、誰かの足音に気づき、とっさにペンを隠す。
「ここは危険です!早くシェルターへ…」
声をかけてきたのはこの前の人命救助隊員の男だった。彼の顔を見た瞬間あの時の記憶がよみがえる。そう、彼の名前は米田誠司。彼の名前を輝は知らないが、彼の顔ははっきりと覚えていた。
この男と初対面で疑似キスを交わしたことも。
「あ、あぁぁ!!アンタか!」
「アンタかじゃないですよ!早く避難してください!あれが見えないんですか!」
誠司は怪獣を指さして訴えかける。
「わかった!わかったから!トイレ行ったらちゃんと避難するから!」
輝はとっさの嘘でごまかそうとする。
「それどころじゃなーい!シェルターにトイレはちゃんとありますから!それまでちょっと辛抱…」
ふと彼が怪獣に目をそらすと、怪獣が逃げようとしていた女性を手でつかみ、顔に近づけながらぎろりと大きな目で見つめていた。
彼は一目でわかった。あれは食事にありつく前の獣の目だと。それに女性も感ずいたのか、必死にもがきながら叫んでいるように見えた。
(あのままじゃあの人が食われちゃうよ!他の班の奴らは一体何をしてるんだ...いや、考えてもしょうがない。ここはまず自分にできることを…ってあれ?)
輝だけでも助けようと振り返るとそこに輝の姿はない。
「まさか…本当にトイレに!?あの人頭おかしいんじゃないのか!?」
そんなはずはなく、輝は近くの茂みの中にひっそりと隠れていた。輝は彼が通り過ぎていくのを確認すると、ペンを胸のポケットから取り出し、キャップを勢いよく引き抜く。
するとペンの先端がピカリと光り、輝を包み込んでいく。無意識に輝はペンを宙に向けていた。
「うおぉぉ!!!!」
『ウルトラマン、ナーイスッ!!!!』
輝の体さえも光と化していき、大きな光の球体となった。その球体は怪獣めがけて電光石火のごとく飛び去っていき、怪獣の口に投げ込まれようとしていた女性を怪獣の手から奪い取った。
その女性が目を開けると、彼女は巨人の手のひらの上にいた。
その手は赤く、大きく、どこか温かみすら感じた。
「危ないところだった。もう大丈夫だ。」
ナイスは女性を落ち着かせるように語り掛けた。
「しゃ、喋ったぁぁ!!???」
ナイスは少し念じると、その女性の周りに光のシャボン玉のようなものができ、彼女はシャボン玉とともにふわふわとシェルターへと運ばれていった。
「ふぅ。5年前の忘年会で披露したこの一発芸がこんな役に立つとは…さて、怪獣退治と行きますか!」
ナイスが怪獣に向かって身構えると、それに応えるように怪獣もナイスに向かって雄たけびを上げ、ナイスに体当たりを仕掛けてくる。
「むっ!ぐぐぐ…」
それを力ずくで抑えようと踏ん張るも、怪獣の力に押され倒れこんでしまう。
「ぐあぁぁ!!」
大通りにナイスの体がたたきつけられ、大きな地響きが街に響き渡る。
「グウオァァアア」
怪獣は殺意に満ちたうなり声をあげ、覆いかぶさりながらながらナイスに噛みつこうとする。
「やめろぉぉ、狂犬病にでもなったらどうするんだ!」
ナイスは怪獣の額と角を抑えながら必死にあがいた。
敵の重心が横にずれた瞬間、隙をついてナイスは逆に敵に馬乗りになり、頭部に強烈なチョップをかます。
「チョチョチョップ!!」
しかし一発食らわせたはいいものの、その後の溜めが長く、角から発射されたビームをもろに食らってしまう。
「うわっ!?」
その隙に怪獣はナイスを押しのけ、体勢を立て直すと、ビームを再びナイスに向けて放った。するととっさにナイスはバリアを展開し、ビームを受け止める。
「二度も同じ手を食らうか!」
ナイスは体勢を立て直すと、左手を腰のあたりまで引き、それに右手を合わせて光線の構えを取る。しかし、間髪入れず怪獣もビームを発射する。
ナイスにまたビームが直撃するかと思われた次の瞬間、ナイスはひゅっと跪いて素早くビームをかわし、
「ミレニアムショット!」
光線弾を怪獣の角めがけて発射した。それは見事命中し、怪獣の角はあっけなく壊れてしまった。
「よっしゃあ!決まった!!」
歓喜するナイスだったが、それに激怒したのかまた怪獣は体当たりを仕掛け、ナイスはまた倒れこんでしまう。それと同時に、ナイスのカラータイマーも瞬き始める。
「い、いかん。調子に乗ってしまった…」
急いで体勢を立て直そうとすると、今度は怪獣のしっぽによる遠距離攻撃を頭部に食らい、再びダウンしてしまう。
「くぅ…このままでは…」
「ギャアアカカカ」
その様子を喜ぶように怪獣は不気味な音を立て、ナイスに迫る。ナイスにまたしっぽが振り落とされようとしたその時だった。
ドガガガガという連射音とともに、一瞬にして怪獣のしっぽが切られ、地面に落ちた。
ナイスが上を向くと、無数の無人戦闘機が空を舞っている。
「おぉぉ、ナイスサポートだ、HTDFのみんな!」
ナイスは戦闘機に向かって親指ポーズを作ると、むくりと立ち上がり、腕をN字に広げた。虹色の光を両手に集め、それをクロスさせると頭を傾げながらとどめの必殺光線を放つ。
「ベリーナイス光線!!」
光線は怪獣に命中し、あまりの威力に声も出せずに地面に倒れこんだと思った次の瞬間、とてつもない爆音とともに木っ端みじんに吹っ飛んだ。
「はぁ…はぁ…なんとか勝てた…」
ナイスは疲れ果てた体を癒すため変身を解除しようとしたが、さっき助けた女性の声に気が付いた。
「あの!!お名前、聞いてもいいですかぁー!!」
手をメガホンのようにして口に当てながら彼女が叫ぶ。ナイスは親指ポーズを作り、とびっきりのイケボで答えた。
「私の名はナイス。ウルトラマンナイス!」
そう言い残すとナイスは変身を解除し、輝の姿へと戻っていった。
----------------------------------------------------------------------------------------------------
「…はっ!」
輝が気が付くとさっきまでいた公園の茂みの中にいた。
右手にはさっきキャップを引き抜いたサインペンがある。しかし、なぜかキャップが付いたままになっていた。
(なんだんだろうな…このペンの色が変わってから身の回りで変なことばっかり起きてる…あっ!怪獣!怪獣が来てるんだった!)
慌てて茂みから出てさっきまで怪獣がいた場所を見ると、HTDFのヘリが何台か飛び回っているだけで怪獣の姿はどこにもなかった。
「あれ、おかしいな…?さっきまで怪獣が…」
念のためスマホを開くと、「緊急事態宣言」と「緊急事態宣言解除」というメッセージが届いている。
「じゃあ確かに怪獣は出たんだ…でもどうして…」
状況を把握するためニュースアプリを開くとあの巨人が怪獣と戦って勝利した画像が載っていた。
「未確認生物がT地区に出現。EO-04によって撃退される…あれ待てよ…この巨人が現れた時の僕の記憶がないってことは…もしかして僕が…?」
輝は色々と妄想を膨らませていた。
「そーんなことないか!あ、やっべ、もう昼休み終わっちゃうな…」
輝はせかせかと職場へと戻っていくのだった。
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こんな僕がヒーローでいいのかな?
貴重なご感想本当にありがとうございます!
投稿し始めた時は誰も読んでくれないんじゃないかと不安でしたが、お気に入りに入れてくれた方々やご感想をくれた方々のおかげでこれからも好きな作品が書けそうです!
お体に気を付けて、良い年末をお過ごしください!
Sashimi4lyfe
「ただいま~」
仕事から帰ってきた輝が玄関のドアを開ける。
「あっくんお帰り~。こらすいちゃん、『お帰り』は?」
「お帰りー。」
月子の声がキッチンから聞こえる。玄関からリビングに入ると彗星の目はテレビにくぎ付けになっていた。
「またこのアニメ?よく飽きないもんだなぁ。」
彗星が見ているのは彼女の大好きな女児アニメ、ファンタジアガールズだ。NETFLEXというドラマ配信アプリで全話限定配信をしており、それを毎日狂ったように見ている。
「すいちゃんが見てる間はあたしも好きなドラマが見れないから困っちゃうのよね。」
玉ねぎをスライスしながら月子がこぼす。まるで輝に「早く見るのをやめさせてくれ」と言っているようだった。
長年の付き合いからそれを輝は察し、彗星にアニメを見るのをやめさせようと諭す。
「ほらすいちゃん、僕が帰ってきたら見るのを休憩するって約束だろ?」
「えぇ~?でもそれからずーっとあっくんたちが好きな番組しか見れないじゃん。」
「さっきまですいちゃんだってずっと見てたじゃないか。いうこと聞かないと今週の土曜日にお食事連れてってやんないぞ。」
「ちぇ。ふこうへいだよこんなの!」
「不公平って…そんな言葉どっから習ってきたんだ?」
「ファンガーからだよ。あっくんこんな言葉も知らないの?」
ファンガーとはファンタジアガールズの略称である。
「こ、こら!今僕を馬鹿にしたな!」
少し生意気な態度をとる彗星を軽く叱ろうと輝は声を荒げたつもりだったが、少し大きな声が出た程度だった。それを聞いていた月子がくすっと失笑する。
「あーっ!月子まで!」
「ごめんごめん。なんか可笑しくって。」
月子に続くように彗星もくすくすと笑いだす。それを見て輝はこの状況が馬鹿らしくなってしまい、まぁいいかと軽く笑い飛ばした。
「さて、リモコンは僕がいただくぞぉ。」
「あっ、ずるーい!」
リモコンをソファーからひょいと拾い上げ、ニュースチャンネルに切り替える。案の定、ニュースではまだ昼起きた出来事を取り上げていた。
『-入った情報によりますと、巨人が助けた20代の女性は巨人がはっきりと日本語で発声していたと供述しており、巨人は「ウルトラマンナイス」と名乗った模様です。』
(ウルトラマン…ナイス?)
「あぁー!!そうそう、この巨人ね、あっくんが言った通りの名前だったのよ。ねぇ、なんで彼の名前を知ってたの?」
「あっくん、この人とお友達なの?」
「い、いや、別に…なんか彼を見た瞬間この名前じゃないかって…」
(なんで僕はこの巨人のことを知ってるんだ?そういえばこのサインペンもこの巨人と似た色をしてる…)
「ちょ、ちょっとトイレ!」
慌ててペンを確認しようとトイレへ輝は駆け込んだ。
「ふーん。変なの。」
輝は便器に座りながらペンをまじまじと見つめると、確かにナイスと同じ色をしていることに気づく。
(ってことは…僕が本当に…?)
それを確かめるべく恐る恐るペンのキャップを抜こうと力を入れる。
(あれ?抜けない…)
いくら力を入れてもキャップが抜けない。
(おかしいな…あの時は簡単に抜けたのに…)
しばらくキャップをどうにか外そうとあれこれ試したが、キャップはびくともしなかった。
(ふぅ…まぁ今は諦めるか。あれこれ考えてもしょうがないや。)
トイレから出てきた輝はソファーに座り、とりあえずニュースを見ることにした。
「ねぇあっくん、結局あのおっきな人とお友達なの?」
「い、いや、知ってるわけないじゃん。」
彗星を適当にごまかしながらニュースに耳を傾ける。
『さて、今日昼頃現れた巨大生物についてですが、HTDFの調査によりますと、先週襲来した異星人による攻撃で地盤が刺激され、地下およそ2キロメートルに眠っていた5000万年前の巨大生物が衝撃で目を覚ましたと考えられています。他にも似たような古代生物が地下に眠っていないか、HTDFは総力を挙げて最先端のソナー技術を駆使して捜査を続けるとのことです。これについて異星人・地球外生命体による災害の専門家、
『よろしくお願いします。えー、地球はこれまで人類史に残っているだけでも7回異星人や地球外生命体による襲撃を受けていますからね。まぁ人類が住む前の地球にこのスケールの地球外生命体が住んでいたという説もあるでしょう。知らんけど。』
『なるほど。貴重なご意見をありがとうございます。それではHTDF日本支部総監督、牧野氏による記者会見をご覧ください。』
「怖いわー。すいちゃん、あんなのがうちの地下から出てきたらどうする?」
月子が彗星を脅かすように言う。
「うーん、たぶんウルトラマンナイスがやっつけてくれる!」
(げっ、もう名前覚えたのか…)
ナイスの名前を聞くたびになぜか輝はビクッとしてしまうので、彗星に名前を憶えられたのは少し気まずかった。
「そうね。そうだといいわね。それにしても正義のヒーローって本当にいるのね。」
「正義のヒーロー?」
「だって、悪い奴が街を荒らしてるときに現れてそいつを退治してくれるんでしょ?まるでウルティメーターみたい。」
ウルティメーターとは少年アニメ「電脳戦士ウルティメーター」に出てくるキャラクターで、月子が大好きなアニメの一つである。実は輝もこのアニメの熱烈なファンで、ウルティメーターがきっかけでこの二人は知りあうことにだったのだが、それはまた後の話。
「ウルティメーター、か。確かにそうだよな。」
(僕がもし本当にウルトラマンナイスだったなら…)
ぶつぶつと考えことをしながら輝はテレビをぼーっと見続けた。
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その日の夜のことだった。
彗星と月子とともに床に就き、輝がちょうど心地よく眠りについた時だった。
目の前が急に明るくなり、赤っぽい光が目に差し込んでくる。どこかは思い出せないが、どこでか確かに体験したことがある感覚だ。
「輝…聞こえるか…輝…」
かすかに自分を呼ぶ声が聞こえる。ふと目を覚ますと、目の前にあの銀色の巨人、ウルトラマンナイスが立っている。
「う、うわぁ!なんだよ、びっくりしたぁ。」
突然の出来事に輝は驚いてしまった。
「なにビビってるんだ。私と君は同じ体を分け合っている仲じゃあないか。」
「君は…ウルトラマンナイス!?なんで僕の夢の中に!?」
「そんなフルネームで呼ばなくてもナイスって呼べばいいさ。なぁに、私と同化したときの記憶がないようだったから思い出させてやろうと思ってね。」
「そ、そうか…じゃあやっぱり僕の中にいた人は君だったんだな。」
「私も今回は少々乱暴に君と同化したからな。だから同化したときの記憶がないのだろう。よし、最初から話してやろう。」
ナイスが手のひらを広げると、ソリッドビジョンのように立体的な映像が彼の手から映写された。そこには見たこともない青く美しい惑星が映し出されていた。
「これは?」
「M78星雲、光の国。まぁ私の出身地だと思ってくれ。もっとも、この宇宙では存在しない惑星だがね。」
「この宇宙…ってどういうことだよ?」
「マルチバース理論というものがあってだな...とにかくこの世には今私たちがいる宇宙のほかにも色んな宇宙が共存してるんだよ。」
(マルチバース理論については詳しいことは私もよく知らないんだけどね。講義中寝てたから。)
「あぁ!平行宇宙ってやつ?マジか!本当にあったのか!」
平行宇宙の概念自体はこの宇宙でもSFなどのフィクションで取り上げられており、今やだれもが知る抽象的な概念となっていた。
「本当にあるとも!私は別の宇宙からこの宇宙にやってきたのさ。」
「すげぇ…こんなことが本当にあるんだな…ん?待てよ?じゃあナイスはこんなとこまで何しに来たんだ?僕たちを救うため…とか?」
「むむ…ちょっと答えづらい質問だな。まずはウルトラマンの存在について教えてやろう。」
ナイスは今度は無数のウルトラ戦士たちの映像を手から映し出した。
初代ウルトラマン、ウルトラマンティガ、ナイスを鍛え上げたウルトラマンタロウ、そして相方のゼアスなど、様々なウルトラマンを思いつく限り映し出す。
「みんなナイスみたいな見た目をしてる…君の仲間なのか?」
「そう。私たちウルトラマンは宇宙警備隊という宇宙の平和を守る勇士たちの集まりに属していて、日夜問わず悪と対峙してるのさ。」
「じゃあ、君はこの地球を守るために遣わされたヒーローってこと?」
「ま、まぁそういうことだ。」
(やばい…言えない…文明監視の任務をほったらかして規律も破って輝と同化しただなんて…)
そう、本当はナイスが輝と同化していること自体が隊律違反なのである。アナザーブレスの制御を力ずくで解除し、マックスの忠告を無視して輝と同化しているのだから。
「そ、そうだ!君がどうやって私と同化できたのか見せてやろう。」
今度は輝がぐったりと倒れこみ、その横で彗星が号泣している様子が映し出された。
「これは…僕?」
「そうだ。君は娘さんをかばおうと我が身を犠牲にしてまで重傷を負った。私はその姿に感動し、君に私の命を分けてやろうと決意したのだ。」
シーンが切り替わり、輝がサインペンのキャップを引き抜いてナイスに変身する様子が映し出された。
「ああやって僕は変身してたのか…って待てよ?なんで僕のペンをわざわざあんな風に変えたんだ?」
「そりゃあ変身アイテムだもの。ただのペンの見た目にしておくのはつまらないだろう。」
「変身アイテム?何の話だよ。」
「いや、ウルトラマンというのはだね、人間と同化するとなにかトリガーとなるアイテムを駆使しないと変身できないものなんだよ。そのためには隠しやすいちょうどいい大きさなものがちょうどいいんだけど、君の胸ポケットにたまたま入ってたそのサインペンがちょうどよかったんだ。」
「えぇ~?そんな理由?」
輝は明らかに腹を立てているように見えた。
「なんだ、そのリアクションは…」
「そのペン、月子がせっかく買ってくれたんだぜ!しかもビクトリウム製だったのに…」
「何、ビクトリウム!?」
説明しよう!
ビクトリウムとは、アフリカのナイジェリア付近で採掘できる鉱石のことである。
およそ400年前、ある隕石がアフリカ中央部に落下した際、超高熱の隕石が地球の地殻と激突したことで化学反応を起こし、辺りの地表をビクトリウムに変換させてしまったと言われている。
電子機器や電気自動車、軍事兵器にも使用されている多彩な活用ができる貴重な鉱物として重宝されているが、その美しい見た目からアクセサリーに使われたりもする。
しかし、ナイスがいた宇宙にもビクトリウムは存在し、地球の地下に隠された未知のエネルギーを秘めた鉱物と伝えられており、その力を駆使して戦うウルトラ戦士がウルトラマンビクトリーである。
ウルトラマン達が持つ光エネルギーはビクトリウムと特に相性がよく、輝のサインペンはナイスの光エネルギーに反応し、ナイスのエネルギーを蓄えた変身アイテム、ぺペペペンへと変換させたのだ!
「だからあんた誰だよ。しかし、まさかそのペンにビクトリウムが含まれていたとは…」
「じゃあしょうがないか…ナイス、最後にもう一つだけ聞かせてくれ。」
「どうしたんだ、改まって。」
「その…言いにくいんだけどさ。これって僕がヒーローになったってことなのかな?」
輝の言葉にはどこか迷いがあった。
「そう…だな。君は今、正義のヒーロー、ウルトラマンナイスを体に宿している。いざという時はそのぺペペペンを使って私に変身し、悪と戦うのだ!」
「僕じゃだめだよ。」
「え?」
「僕みたいな人間はヒーローにふさわしくなんかないよ。君も見てただろ、今朝の出来事。」
ナイスは今朝の出来事を思い出した。輝は不良に囲まれている青年を無視し、通り過ぎようとしたのだ。
「輝…」
「君が代わりに動いてくれなきゃ、僕はあの子を見捨ててたんだ。君が僕を助けてくれたのは本当に感謝してるけど、もっと他にふさわしい人がいると思うんだ。僕を必死に助けようとしてくれたあの救助隊員の人とかさ。」
「甘ったれるなッ!!!」
「へぇっ!?」
突然ナイスが大声を出したので輝は思わずビクッとしてしまった。
「いいか。君は確かにあの場を通り過ぎようとした。しかし、君の心の底で君はあの子をかわいそうだと、救ってやりたいと思っただろう。その気持ちがヒーローになるための第一歩なんだ!その気持ちさえ捨ててしまったら、君は愛する人を、月子さんや彗星ちゃんを守ろうとする心さえ失ってしまうんだぞ!」
輝の心にナイスの言葉は強く刺さった。説教をされているのに、どこか温かい感情が彼の心の中にあふれていた。
「誰だって初めからヒーローなんかじゃないんだ。でも大切なのは、『自分がなりたい自分』に向かって日々一歩ずつでも歩いていくことなんだ。私だってはじめっからウルトラマンとして生きてきたんじゃないんだぞ。」
その言葉は輝に希望を与えてくれた。もしかしたら、彼となら子供のころ描いていた大人の自分に近づけるかもしれない。そんな気持ちが彼を満たしていた。
「僕も…なれるかな。君みたいに…正義のヒーローに。」
「あぁ。きっとなれるさ!」
ナイスは親指ポーズを作ってみせた。単純なジェスチャーのはずなのに、それはなぜか輝を落ち着かせてくれた。
輝もナイスに向かって親指ポーズを作る。その次の瞬間、
「ほら、起きて!起きてってば!もう朝よ!」
「ん?んん…」
月子に体を揺さぶられ、輝は目を覚ました。あくびをしながらパジャマのポケットを探ると、あのペンがズボンのポケットに入っていた。
月子と彗星に見られないようにトイレに入り、ペンを見つめながら輝はつぶやいた。
「ありがとう、ナイス。」
ペンのキャップがきらりと光ったように輝は感じた。
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巨人からの挑戦状
今年も皆様にとってナ、ナ、ナ、ナイスな一年になることをお祈りします。
さて、2022年はウルトラマンエース50周年の年!
ギロチン王子の異名を持つほど豪快(?)な戦闘スタイルを持つことで知られるエース兄さんですが、実はその裏には立派な理由があったりします。エース兄さんの勇士を見たことがない方も、この機会に見てみてはいかがでしょうか?
僕のおすすめは「ウルトラマンメビウス」第43-44話を見た後に、「ウルトラマンZ」19話を見ることです。メビウスではヤプールや南夕子の存在をまとめて知ることができ、そしてZではエース兄さんのギロチンファイトを堪能できます。約一時間ちょっとで見れますので、興味のある方は是非。
長くなりましたが、改めまして今年もどうぞ本作をよろしくお願いします!
Sashimi4lyfe
午後6時3分。
太陽がもう沈もうとしており、オレンジ色の光が街を満たしていた。
輝は一日の仕事を終え、自宅に帰る途中だった。ぼーっと特に何も考えずいつも通る道を歩いていると、道の端に怪しげな格好をした人影を見つける。塀によりかかり、誰かを待ち構えているような様子だった。
(やばそうな人だな…声かけられないといいけど…)
輝がその人影の5メートルほどまで近づくと、輝の前へと姿を現した。
「うっ、何か御用ですか?」
気味悪そうに輝が訪ねる。相手は体が丸々隠れてしまうほど大きなマントにフードをかぶっており、体つきはおろか顔もはっきり見えないような恰好をしている。
―貴様か。-
「へっ?」
輝の脳内に女性の声が響いた。彼女は口を動かしていないはずなのに。
―貴様がウルトラマンナイスなのか。-
「あ、あなた今口を…」
ドンッ!!!
―質問に答えろッ!!-
謎の女性が塀を拳で一突きしたかと思うと、何かが砕ける音とともに塀に小さな穴が開く。血の気が輝の顔からサーッと引いた。
「あ、あ…」
何かを話そうとするも恐怖で体がこわばり、言葉にならない。
―さぁ、どうなんだ?-
「う、うぅ~ん…」
輝が白目をむいたかと思うと、よろりと膝をつき、その場に座り込んでしまった。
―コイツ、気を失っているのか?やれやれ、人違いだったようだ…―
ひらりとマントを翻し、輝に背を向けたその時、
「待てぇいッ!」
呼び止められ、ちらりと謎の女は肩から輝の方向を見る。さっきまで気を失っていた輝が膝をつきながら立ち上がり、さっきと同じ人物とは思えない顔つきでこっちを見ていた。
―やはり貴様がナイスだったか。―
「お前、何者だ!名を名乗れ!」
―私はM78星雲、
「この宇宙のM78星雲の住人か…私に何の用だ!」
―貴様に挑戦しにきたのだ。-
「挑戦?」
―我が一族は宇宙最強の戦闘民族を目指す巨人の一族。私は宇宙拳法、流星拳の使い手だ。流星拳の道を極めるため、天の川銀河に修業に来ていたのだが、地球という星にウルトラマンナイスという光の巨人が現れたという噂を聞き、腕試しをしにこの星にやってきた。―
「腕試しって..いや、君ね、こういうことはちゃんとアポを取ってからにしてもらわないと…」
―ふざけるのも大概にしてもらおう。貴様が断ればこの場で貴様のそのひ弱な器もろとも殺す。貴様もその器では本来の力を発揮できないだろう。-
テノの殺気をナイスは感じ、ごくりと唾をのんだ。
(断ったら輝もやられてしまう…ここは引き受けるしかないか…)
「い、いいだろう。受けて立つ!」
―そう来なくてはな。では行くぞ!-
「ちょ、待て、こんなところで変身したら…」
ナイスの言葉を無視し、テノが右手を胸に添えると胸が青く光りだし、その光に彼女の体が飲み込まれていく。見る見るうちにその光は巨人の姿へと変わっていき、テノは光の巨人としてナイスの前に立ちはだかった。その姿はウルトラの一族とほぼ変わらず、銀色のボディに青紫色のラインが入っている。
「くそう、こうなったら…」
ナイスはペペペンを輝の背広のポケットから取り出し、まるで刀を鞘から出すようにペンを腰に当て、勢いよく引き抜いて天に向ける。
『ウルトラマン、ナーイス!!』
夕暮れ時の住宅街に二人の巨人が現れた。ナイスはまず飛び上がり、すぐさま人気の少ない自然公園の方面へと移動した。
「ははぁ、人間どもがいない場所で戦おうというのだな。いいだろう。」
ナイスに続くようにテノも空へと舞い上がり、軽やかにナイスと同じ公園へと降り立った。人気が少ないとはいえ、公園には数人の人々が巻き添えを食らわないように避難していた。
「それにしてもこのような貧弱な民族に手を貸すとはな。」
逃げまとう人々を見下すようにテノは言った。
「貧弱な民族とはなんだ!お前は人類の本当の強さを知らないだけだ!」
「ほう。」
テノはナイスをおちょくるように足で地面を踏み、その地響きで何人かの人が倒れてしまった。その様子をテノは鼻で笑う。
「やめろぉ!!」
ナイスは耐えかねたのか、相手めがけて飛び上がってチョップをかまそうとするもひらりとよけられ、逆に腹に膝けりを食らってしまう。
「グッ…なんの!!」
膝けりをもろに食らったように見えたが、しっかり受け身を取り、体を押し出してテノを突き放す。その隙にテノのボディめがけ、ミドルキックを炸裂させる。
「キキキック!」
キックは腹に見事命中。体制を整えるため、テノは腹を抑えながら後ろに下がって距離を取る。
「クッ…やるじゃないか。少し本気を出さねばいけないようだな。」
テノが拳を腰まで引いたかと思うと、青色の光が彼女の周りに集まり始める。
「流星拳奥義…」
そうぼそりとつぶやいたと思った次の瞬間、テノの体は青い閃光と化し、まるで一筋の光になったようにナイスめがけて突進し、強烈なパンチをナイスの腹に炸裂させた。
『アルファ式・
「ガハァッ!!」
吹き飛ばされたナイスの体は池にザブンと落ちてしまった。衝撃で池の水があたりに飛び散る。何とかナイスは体を起こし、反撃の光線を撃とうと構えを取る。
『ミレニアムショット!』
頭部を狙ってナイスは光線弾を放ったが、いとも簡単にそれは弾かれてしまった。
「ならば…」
接近戦では勝ち目はないと判断したのか、今度は両手に光を集め、クロスさせるとともに必殺光線を発射する。
『ベリーナイス光線!!』
テノはそれに対し片方の腕に光エネルギーを集中させ、手のひらで光線を受け止めるように前に突き出すと、
『ベータ式・
ベリーナイス光線をそのまま片手で受けきってしまった。
「ベリーナイス光線を片手で防いだだとぉ!?」
間髪入れずテノは体をピカリと光らせると今度は姿を消し、ナイスの前に現れた瞬間ハイキックをナイスのあごに直撃させる。たまらずナイスはその場に倒れ、仰向けになってしまう。ナイスのカラータイマーも点滅をはじめた。
「ぐっ…体に…力が…」
ナイスは体を起こそうとあがいたが、起き上がることすら困難な状態だった。
「なんだ、この程度か?宇宙艦隊をその光線で撃墜させたと聞いたが…貴様、この星の守護神にでもなったつもりでいたのか?」
点滅するナイスのカラータイマーを踏みつけながらテノはナイスを嘲笑った。
「この宇宙の絶対的な法則―それは力を持つ者が持たざる者たちを滅ぼし、生き残ることができるということだ。こいつら人類が自分たちが力不足なために滅びるというのであれば、それは起こるべきして起こること。貴様のような弱者が首を突っ込んだとしてもそれは変わらない。」
その時、どこからか子供の声が聞こえた。
「がんばれー!!ウルトラマーン!!」
「まけちゃだめー!!」
テノが声のする方向を見ると、公園の周りのビルの屋上から子供たちがナイスに向かって叫んでいた。子供たちの声援に続き、ナイスを応援し始める大人もいた。
「気張れよー!!ウルトラマーン!!」
「負けないでー!!」
その様子を馬鹿らしそうにテノは見ていた。
「見ろ。戦うこともせずに遠くから見ていることしかでない輩が貴様の勝利を願っているぞ。こんな奴らのために…ん?」
自分の足に違和感を感じたテノが下を見ると、ナイスが力を振り絞り、テノの足を押しのけようとしていた。
「ぐぬぬ…ヌ゛ァァッ!!!」
「うわぁっ!!」
テノの体は吹っ飛ばされ、地面に激突する。テノが体を起こすと、よろよろと立ち上がりながらも体勢を立て直すナイスの姿があった。
「それでも構わない…彼らがいる限り、私は強くなれる!この地球を、この星に生きている人々を守って見せる!!」
「綺麗ごとを…そういうことは勝ってからほざけ!!」
テノはひらりと体を起こし、戦闘の構えを取ると再び体にエネルギーを溜め始めた。
(なんとか体勢を立て直せたはいいものの…あんなのどうやって避ければいいんだ?)
その時、脳内にかすかな声が響いた。
―ナイス…聞こえるか、ナイス!-
それは確かに輝の声だった。
(この声は…輝!君の意識は眠っているはず…)
―細かいことはいいから!とにかく上だ!あの巨人の体がピカッと光った瞬間に上に飛ぶんだ!-
(う、上にだな!わかった!信じるぞ!)
輝の助言通り、テノの体はエネルギーを集め終わると同時に一瞬だけピカッと光った。
『アルファ式・
―今だ、ナイス!-
「よいしょお!!」
ナイスは思いっきり地を蹴り、空高く垂直飛びをした。するとナイスがいた場所にテノが目にもとまらぬ速さで突進していたが、ナイスが上に飛んだおかげでその一撃は外れてしまった。
「外した!?」
「ナイスアシストだ、輝!食らえ、ゼアス直伝の必殺技―」
ナイスは体を回転させながら勢いをつけ、テノめがけて落下していく。テノに受け身を取る暇も与えず、ナイス渾身の力技が炸裂する!
『ウルトラかかと落とし!!』
「グアァァ!!?」
重力と回転力を活かした一撃を受け、テノの顔面は地面に激突してしまう。
―やった!よし、今度は投げ技を使って敵にガードを取らせる間も与えずに攻め立てるんだ!-
(な、投げ技だな!ようし、これ一度はやってみたかったんだ…)
テノの後ろに回り込み、ナイスは両足をつかむと、遠心力を活かして豪快にスウィングを決める。初代ウルトラマンが得意とする投げ技の型である。
「うぉぉ!!!」
勢いが十分につくとそのまま反対方向へとテノを投げ飛ばした。強烈な頭部への一撃を食らった後に投げ技を食らったテノは地面の上でぐったりしてしまった。
―チャンスだナイス!とどめの必殺光線だ!-
(お、おう!)
ナイスが腕に光エネルギーを集めようとしたとき、聞きなれたエンジン音が空から聞こえる。HTDFの無人戦闘機群だった。
―どうしたんだナイス!早くとどめを刺さないと反撃されちゃうよ!-
(….)
ある程度戦闘機群が接近してくるとテノに向かって集中砲火を浴びせかけてきた。ナイスは素早くテノの前に立ちはだかり、バリアを展開する。
「クッ…なんの!」
あまりの威力にバリアが壊れそうになるも、残った力を絞ってなんとか集中砲火をふさぎ切った。ナイスの様子がおかしいことに気が付いたのか、戦闘機群は砲撃をやめて彼らの上を旋回し始めた。
「ふぅ!なんとか防ぎ切った…」
「何の…真似だ…」
テノが体を起こそうとするも、腕に力を入れようとした瞬間に体が崩れてしまう。もう戦える力は残っていないようだった。さすがにあきらめたのか、仰向けになり、降参したように両手を広げた。
「殺せ…私は負けたのだ…」
「嫌だね。」
「なぜだ…今私を生かしておけば、私はいつでも貴様をまた殺しに来るかもしれないんだぞ!」
「そうなったらまた私が勝つさ。」
「この…私のような弱者は貴様に及ばぬというのか!」
「違う。私は一人で戦っているのではないからだ。」
ナイスは彼に声援を送ってくれている人々の方を見る。
「君は力を持つ者は持たざる者を滅ぼすといった。それは間違っちゃいない。でも、それだけが力の使い道じゃあないんだぜ。」
ナイスは人々に向かって親指ポーズを作り、感謝の念を伝えた。
(なんだんだ…なぜこんなヤツに私は負けたのだ?一人で戦っているのではない、だと?それはどういう意味なんだ?)
テノの脳内には答えのない質問が行き来していた。
「…」
何も言わないまま、テノは青い光となってどこかへ消えていった。
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変身を解いたナイスが輝と意識を入れ替えると、輝の脳内からナイスの声が聞こえてきた。
―おい、輝―。聞こえるか―?-
(うん、聞こえるよ…なんで急に君と意識を両立できるようになったんだろう。)
―私にだってわからんよ、そんなもん。-
いつもの帰宅路を歩きながら輝はナイスと会話を続けた。
―ところで輝、どうしてテノの動きが読めたんだ?-
(えーっと…ちょっと長くなるんだけど、いいかな?)
―長くなる?どういうことだ?-
(実は僕が好きなアニメで、『電脳戦士ウルティメーター』って言うアニメがあるんだけど、主人公のライバルで、あの巨人とそっくりの動きをするキャラが出てくるんだ。第4話に初登場して、終盤までずっとウルティメーターと対立することになるんだけど、あっ、ウルティメーターっていうのはね、
輝のウルティメータートークは自宅に着くまでずっと続いた。
どんな感想・評価でも構いませんのでこの作品の感想をお寄せください!
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異次元生命体ヤプロイド、現る!
たくさんの評価や感想、ありがとうございます!リアルでかなり忙しかったので中々次のお話しが投稿できず、前回の投稿からかなり間が開いてしまいました。
本当はこれからのお話しは長編になりそうなので3,4話一気に投稿したかったのですが、ここからの流れがなかなかまとまらなかったのでまずは序盤の今回のお話しだけ投稿することにしました。
ここからの展開を楽しみにしていただければなと思います。
雲一つない晴れ渡った朝だった。
朝日がまぶしくビルの合間から注ぎ込み、人々が職場や学校へと急ぐいつもの通勤路を歩きながら、いつものようにニュースを聞きながら輝は職場へと歩いていた。
―さて、続いてのテーマは突如T地区に姿を現した光の巨人、EO-04こと、ウルトラマンナイスについてです。視聴者の皆さまに改めてウルトラマンナイスについてアンケートを取りましたところ、約87%が好感的な印象を持っている、約3%が信用できない、そして約10%がどちらでもないという返答をくださいました。2週間ほど前のアンケートに比べ、皆さまの彼に対する評価がより好感的な方向へ変わっていったことが分かりますが、やはり本当にあの巨人を信じ切っていいのかという意見もありました。これについて異星人・地球外生命体による災害の専門家、
―えー、まぁ今のところ彼は我々に危害を与えるようなことはしてきていませんが、だからと言って信用しきってしまうのもいかがなものかと思います。我々の味方のふりをしてひそかに地球侵略をたくらんでいるやも知れませんからね。この前別個体の巨人が現れたばかりですし、この宇宙には彼らのような巨人がもっと存在している可能性がありますね。知らんけど。-
―なんだ、この紫蘭とかいうヤツは。偉そうに勝手なことばかり言いやがって。―
ナイスが紫蘭の意見に不満そうにヤジを飛ばす。
(仕方ないよ。君たちウルトラマンは僕たちにとってまだ未知の存在なんだ。)
輝がナイスを落ち着かせるように言った。と言っても、この会話は輝の脳内で行われているため、周りの人々には一切聞こえていない。
―それもそうだな…そのためにも私がもっとこの星の人たちを守らねば!-
(そうだね。実績が増えればきっとみんなも君のことを認めてくれるよ。)
―実績って…随分現実的な見方をするんだな…しかしそれには輝、君の力が必要だ。-
(僕の?戦ってるのはナイスの方だよ、僕は何にもしてないさ…)
―そんなことはない!私たちは一心同体、一つの体を二人で分け合っているのだぞ!現にこの前のテノとの闘いは君のアドバイスなしでは勝てなかった!―
(そ、そうかなぁ…)
照れながら輝が空を見上げると、何か異変に気付く。空からかけらのようなものが落ちてきたような気がしたのだ。
(…ナイス、あれ見た?)
―あれってなんだよ。もうちょっと具体的に言ってもらわないと…-
ピシッ!!
今度はナイスにもはっきりと見えた。にわかには信じられない光景だが、空にはっきりと亀裂が入ったのだ。
(なにがどうなって…)
バリィンッ!!!!
まるでガラスが割れるように、空に穴が開いた。いや、空が割れたのだ。空の向こう側から誰かが強引に空を突き破ってきたようだった。
空に空いた風穴はどんどん広がっていき、そこから異様な形をした物体が落下してくる。
機械なのか、生物なのか。それは輝にはわからなかった。体には毛と呼ぶには太すぎる突起物がびっしりと付いている。
―あ、あれは…間違いない…-
(ナイス、あの正体を知ってるのか!?一体ありゃなんだんだよ!?)
―あれは…ベロクロン…いや、ベロクロンに似てるけど違う。何者かに改造されたベロクロンだ!-
(だからベロクロンってなんだよ!怪獣か?)
―怪獣じゃない…あれは怪獣の上を行く生物兵器…-
謎の物体は目を開け、機械的な目玉をぐるりと回すと不気味な雄たけびを上げる。
―あれは…超獣だ!!-
グウオォォンン!!!!!
発された爆音とともに炎が超獣の口から噴き出る。瞬く間に街は火の海と化し、人々は逃げ惑うのだった。
「と、とにかくアイツをどうにかしなきゃ!」
―おう!私はいつでも準備OKだ!-
輝はビルの合間の路地に身を隠し、誰も見ていないか確認してからぺペペペンを引き抜き、天へと向ける。
「うおおぉぉぉ!!!」
ぺペペペンからの光に輝が包まれ、ウルトラマンナイスへと変身していく!
『ウルトラマン、ナーイス!!』
上空から巨人体へと変化したナイスは、超獣の頭部へと落下速度を生かして飛び蹴りをかました。
「キキキック!」
ドスンッ!!
キックは命中し、超獣は地面へと倒れた。
「超獣だろうが何だろうが、私が倒してやる!」
超獣が体を起こそうともがいている隙にナイスは超獣の上に馬乗りになり、連続チョップを食らわしていく。
「チョチョチョップ!」
しかしそれほどダメージが入っていなかったのか、ナイスの体はいとも簡単に押しのけられてしまった。
「く、くそう!」
急いで体勢を立て直すが、超獣はすでに立ち上がっており、背中からミサイルのようなものをナイスめがけて乱射してきた。なんとかバリアを展開して防ごうとするが、あまりの威力にバリアが打ち破られてしまう。
「グアァ!!」
たまらずナイスはビルに倒れかかり、ビルを崩しながら地面へと倒れた。
「し、しまった!」
慌ててナイスは体を起こし、誰も下敷きにしていないか確認する。幸いまだ早朝だったのでビルにいた人々は皆避難していたようだった。
「ふぃ…よかったぜ…」
「フハハハ!!!貴様もウルトラマンを名乗るだけあって人間には甘いのだな、ウルトラマンナイスよ!」
「何ッ!?超獣がしゃべった!?」
確かに超獣の方向からさっきの声は聞こえてきたのだ。
「我々は異次元生命体、ヤプロイド。貴様を抹殺するためこの生物兵器、ベロクロン
「抹殺…この地球を征服しようというのか!?」
「これから死ぬ者に我々の目的を教えても仕方あるまい。自分が死んだ意味も分からぬまま無様に散るがいい!!」
ベロクロンMK-IIはミサイルを再び浴びせかけてくる。それに対抗するべく、ナイスも光エネルギーを素早く腕に集め、敵めがけて発射する。
「ベリーナイス光線!!」
光線とミサイルはお互いに相殺しあい、ナイスは敵の総攻撃を何とかしのいだ。
―ナイス、今がチャンスだ!―
輝がナイスに脳内から語り掛ける。
―ヤツはきっとあのミサイル攻撃の後一定時間は動けないんだ!だからさっきはわざと君と会話することで時間を稼いでたんだ!-
「なるほど!よぅし、さっきのお返しだ!!」
ナイスは意識を集中させ、体中の光エネルギーを腕へと集中させる。
「今だ!」
光エネルギーの充填が最大級まで達したとき、腕をクロスさせ、必死の特訓の末編み出した必殺技を炸裂させる!
『ミレニアムクロス!!!』
ベリーナイス光線とは比にならないほどの勢いで光エネルギーが腕のクロスから放出される。光線は見事ベロクロンMK-IIに命中し、すさまじい爆音とともに辺りが煙に包み込まれる。あまりに大量のエネルギーを消費したためか、ナイスのカラータイマーが点滅を始めた。
「はぁ、はぁ…どうだ!私の最強の必殺技、ミレニアムクロスの威力は!」
勝利を手にしたと思った次の瞬間、
「何ぃぃ!?」
ミサイルの群れが煙の中からナイスめがけて突進してくる。何とかバリアを張ろうと力を籠めるも、エネルギーを使い果たしてしまったため展開できない。
「うわぁぁぁ!!!」
ミサイルの連射をもろに食らい、ナイスは倒れこんでしまった。
「う、うぅ….」
(だめだ、力が入らない…)
煙が晴れると、皮膚がはがれ、生々しい筋肉組織をむき出しにしたベロクロンMK-IIがナイスを睨んでいた。さっきの一撃はベロクロンMK-IIの外皮を焼き払ったが、内部までダメージを与えられなかったらしい。
―あんなになってまで戦えるなんて…-
「超獣は宇宙最強の生物兵器!!痛みや恐れなど感じぬ、我々の忠実なしもべなのだ!さぁ、とどめを刺せ、ベロクロンMK-II!」
ベロクロンMK-IIが口を開き、炎をため込んだその時だった。
HTDFの無人戦闘機たちが間一髪で到着し、ベロクロンMK-IIに一斉攻撃を仕掛ける。
「グギィィヤアア!!!!」
痛々しい悲鳴をベロクロンMK-IIが発する。戦闘機たちを撃ち堕とそうと空に向かって炎を吹くも、華麗なアクロバティックによってすべてかわされてしまう。
「ぐ、ぐぅぅ…」
立ち上がろうとナイスは力を振り絞るが、体を少し起こすのがやっとだった。
―もういいよナイス!あとはHTDFの人たちが何とかしてくれる!―
「私は…まだ…戦わなくては…」
そう言い残すとナイスは地面に倒れこみ、カラータイマーの光が消えてしまった。
―ナイス!?大丈夫か?なぁ、ナイス!!!-
ナイスの体は光へと変わっていき、しだいに輝の意識も薄れていった。
―ナ、ナイス…-
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目が覚めると、輝は病院のベッドの上にいた。腕を見ると、ナイスと同化した時と同じように点滴の針が腕に刺さっている。しかし今度は少し様子が違った。彗星と月子が自分の横で座りながら寝ている。よほどくたびれているようだった。
(何があったんだっけ…)
テレビに目を向けると、ニュース番組が流れていた。目を凝らし、画面に映っている見出しを何とか読もうとする。
「ウルトラマンナイス…死す…だって…?ウウッ!!頭が…」
強烈な頭痛と共にあいまいだった記憶が鮮明になっていく。
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戦いに敗れ、粒子状態と化したナイスは輝と共に空間をさまよっていた。なんとか残されたわずかな光エネルギーを集め、ナイスは輝と対話を試みる。
「輝…聞こえるか?」
「ナイス…?聞こえる、聞こえるよ!良かった、大丈夫だったんだね!」
「もう私に残された力はほんのわずかだ…すまなかったな、こんなことに巻き込んでしまって…」
「な、何言ってんだよ!まるでこれから死んじまうみたいじゃないか!」
「君は…生きろ…君の命まで果てさせる訳にはいかない…」
「お、おい!やめろって!何かいい策があるはずだ!」
「生きるんだ…君の家族のためにも…」
「やめろ!やめ…」
ナイスは残された力を使い切り、輝の体を実体化させ、輝の意識をその体へと宿したのだった。
「私がもっと強ければこんな別れにならずに済んだのだが…君と出会えただけでも私は…満足…だ….」
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「クッ…ウゥ…」
声にならない声で輝は涙を流した。友人が少ない輝にとって、ナイスは彼にとっても特別な存在だったのだ。
「ん…あっくん!?目が…目が覚めたのね!?」
輝の声で月子が目を覚ました。輝は顔を右腕で隠しながら震える声で答えた。
「あぁ…ただいま、月子…」
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一週間後。
輝は退院し、また今日もいつもと同じように通勤路をニュースを聞きながら歩いていた。
あの超獣、ベロクロンMK-IIはHTDFにより撃退され、その残骸を技術開発部が分析しているとのことだった。空が割れた原理など、あの日起こった謎の数々を解き明かす鍵になりうるかもしれないらしい。
(ナイス…本当に死んじゃったのかな。)
そう思いながら歩いていると、向かいの方から一人の青年が歩いてくる。赤、黒、白の独特なカラーリングをしたどこかの制服のような服を着ている。
「あなたが、夢星輝さん…ですか?」
急に本名で呼ばれ、輝は少し戸惑ってしまう。
「あ、はい…そう…ですが?」
「俺はソウマ・カイトっていいます。ちょっとお話があるんですが…」
「話?あの、失礼ですが、お会いしたことありますっけ?」
「ウルトラマンナイスの件について、と言えばわかってもらえますか?」
その言葉に輝はギクッとしてしまう。なぜこの男はナイスの話題を持ちかけてきたのだろう。
「説明するよりも目で見てもらったほうが早いので、一緒に来てくれませんか?」
彼の言葉に悪意は感じられなかった。輝はカイトの後をついていくと、薄暗い路地に案内される。
「あの…ここに何があるんですかね?」
カイトが不思議な形の機械を取り出し、ボタンをカチッと押すと塀に光の扉のようなものが浮かび上がった。
「さぁ、こっちへ。」
「いやいやいや、これって入ったらもう出られないヤツじゃないですか!」
入るのを嫌がる輝を説得するため、カイトは不思議なガジェットのようなものを右手首に着けると、カイトの体が光り、そこにはまったく違う宇宙人の姿があった。
(この人…見たことあるぞ!ナイスが一回見せてくれた人だ!)
「私の本当の名はウルトラマンマックス。私のことはナイスから聞いているかもしれないな。」
「あっ、はい!その節はどうも…」
「さぁ、誰か来る前にここに入ってくれ。」
そういうとマックスは光の扉の中に入っていった。それに続き、輝も恐る恐る扉の中に入ると、そこにはまるで鏡の世界のような光景が広がっていた。キラキラと光る光の中で、心地いい雰囲気が空間を満たしている。
「さて、本題に入ろう。私は部下のウルトラマンナイスを迎えに今日は来たのだ。」
「迎えに…ですか?」
「そうだ。彼は私と同じ、宇宙警備隊という組織に属していてね。彼が激闘の末敗れてしまったことを我々は聞きつけ、彼を我が故郷、光の国に連れ帰るため私は遣わされたのだ。」
「それが…ナイスは、もう…」
輝はぺペペペンを取り出し、寂しそうにつぶやいた。
「知っているよ。私は命を二つ持ってきたのだ。」
「はい?」
「今ナイスは、君の中で君を生かすために自らの光エネルギーを君の生命エネルギーに変えて君の中にとどまっている。彼を今君から無理やり分離させると君の命も果ててしまう。」
「ってことは…ナイスはまだ生きてる…ってことですか!?」
「あぁ。自らを犠牲にして君を生かすとは、君のことをよほど気に入ったんだろう。」
安心とうれしさのあまり、涙が輝の頬を伝う。
「良かった…本当に良かった…」
「うむ。ではこれから君たちを分離させよう。そのペンを貸してくれないか。」
「分離…?ナイスは帰ってしまうんですか?」
「そうだ。しかし心配ない。この地球にはまた他のウルトラマンが護衛に就くことが決まっている。」
「また…ナイスに会えますかね?」
その輝の問いにマックスは言葉を詰まらせてしまう。ナイスがこの地球に来て一か月足らずの期間だったが、彼と輝の間には強い友情が芽生えていたのだ。
「いつかまた会えるだろう。この宇宙は繋がっているのだから。」
そういうとマックスはぺペペペンを受け取り、少し念じるとぺペペペンが強烈に光り始めた。
「さぁ、これを君の胸にあてがってくれ。」
マックスの指示に従い、輝は光輝くぺペペペンを胸に当てる。すると光が輝を包み、体を満たしていくのを感じた。
「うわぁぁ!!!」
「大丈夫。もう少しの辛抱だ。」
だんだん輝の意識は遠のいていき―
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気づけば輝は同じ路地裏に立っていた。慌ててポケットに手を入れ、ペンを確認するとそれは元の青色のサインペンに戻っていた。
「ナイス…」
空を見上げると、彼方で星のようなものがピカリと光ったような気がした。
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強者の特権
ナイスが気が付くと、そこには見慣れた光景が広がっていた。
光輝くプラズマスパークに、空を飛び交うウルトラマンの数々。
ここはM78星雲、光の国。ウルトラマンマックスによって連れ戻されたナイスは、とある施設のベッドに横たわっていた。
「一体、何が…」
「あっ、目が覚めたんですね!」
声のするほうを見ると、一人のウルトラウーマンが立っている。胸には赤十字団のシンボルバッジを着けているため、ナイスはここが赤十字団の治療施設だと分かった。
「ちょっと待っててくださいね。マックスさんを呼んできますから。」
「ゲッ!マックスさんを!?」
(まずい、絶対怒られる…)
「どうかしました?」
「い、いやぁ、なんでも…」
そのウルトラウーマンはナイスの病室を後にすると、間もなくしてマックスがナイスの病室に入ってきた。
「ようやく目を覚ましたようだな、ナイス。」
「は、はい、その件はどうも…」
憂鬱そうにナイスは挨拶をする。
「なぜ自分が今ここにいるか、覚えているか?」
「え、えぇと…超獣ベロクロン
「それだけじゃないだろう。君は私との制約を破り、アナザーブレスの制御を無理やり解除して夢星輝という地球人と同化した。違うか?」
「は、はい…」
(やばい…やっぱり説教されちゃうよ…)
「君のそのとっさの判断が良好的な結果を生むことになったのだが…規律に違反する行動をしたことに変わりはない。」
「良好的な結果?」
「あぁ。あの異次元生命体、ヤプロイドの存在を君が明らかにしてくれた。近頃我々も亜空間にて異常なエネルギーの発生を観測していたところだったんだ。恐らく奴らが原因だろう。」
「そ、そうですか。」
こっぴどく叱られることを予想していたナイスは少し驚いていた。しかし、それ以上にベロクロンMK-IIに敗れた屈辱が彼の脳裏に渦巻いていた。圧倒的な力の差を見せつけられ、彼のプライドはズタズタにされていたのだ。
「まぁ、とにかく今は安静にしておくことだ。回復し次第、君には引き続き地球の文明監視、および防衛に当たってもらう。今回のような無茶な行動は起こさぬように。」
「…あの。一つ質問いいですか?」
「なんだ?」
「自分の持つ全てを出し切って戦っても勝てなかった時って…どうすればいいんでしょう?」
「…」
マックスはナイスが何を言いたいのか察しが付いた。実はアナザーブレスにはセキュリティシステムが内蔵されている。ナイスがブレスの制御を力づくで解除した時から彼の行動はブレスによって記録されており、その一部始終をマックスは把握していたのだ。
「超獣は宇宙警備隊の戦闘員でも手こずるほどの強敵だ。超獣と初対面であそこまでやりあえたのはなかなかだと思うぞ。」
「…なんだか力の差を思い知らされた気がするんです。私のようなウルトラマンもどきでは地球を守れはしないと。」
「ナイス…そうか、君は光の国の生まれではないのだったな。」
ナイスは元々別宇宙のM78星雲に位置する、TOY1番星という惑星で生まれた光の巨人であり、元からウルトラマンではないのである。ウルトラマンという存在に憧れ、ウルトラマンを名乗りながら地球を守ろうと奮闘していた時にたまたまその宇宙を訪れた文明監視員にその才能を見込まれ、宇宙警備隊にスカウトされたのだった。
「やはり私はおとなしく文明監視に努めていればよかったんですね。あんな思いあがったことをせずに…」
「本当にそう思うのか?」
「えっ?」
「あの青年、夢星輝は君がまだ生きていると知った時、涙を流して嬉しがった。あれほどの友情を人間と君は紡ぎあげたのだ。」
「輝が…?」
「彼との出会いは君をも大きく変えたはずだ。ウルトラマンを名乗るのであれば、彼のためにもう一度立ち上がろうとどうして努力しない?」
厳しくも気持ちのこもった言葉にナイスは返す言葉が見つからなかった。
「自分の非力を憎むのであれば、力を付ければいい。難しく考えすぎないことだ。」
(輝…君のためにも…ここで折れるわけには…)
ナイスの心の中で渦巻いていた暗い気持ちはどこかに消え去り、燃え盛るような闘志がメラメラと巻き起こっていた。
「マックスさん…誰か稽古をつけてくれるいい相手を知りませんか?」
マックスはナイスの闘志を感じ取ったのか、軽くうなずいてから答えた。
「いて座Z94星に、一人修業にいそしむウルトラマンがいる。そこに行けば君をいい具合に鍛え上げてくれるだろう。」
「Z94星ですね…ありがとう、マックスさん。私は必ず強くなって来ます!!」
ナイスは決心した。もう二度と自分を信じてくれた人を悲しませるようなことをしないと。そのためにも、もっと強くならなくてはいけないと。
----------------------------------------------------------------------------------------------------
いて座Z74星。
ビッグバンとともに生成された、宇宙に四つしか確認されていないホワイトホールの反重力圏に位置する無人の惑星である。
ホワイトホールとは、重力と対をなす反重力が時空の一点に収束する時に生まれる天体の一つ。重力がすべての物体を中心へと引きつける力であるのに対し、反重力はあらゆる物を反対方向へと押しのける力を持つ。そのため、ホワイトホールのある場所には光の屈折が引き起こすオーロラのような何とも神秘的な光景が見られるのである。
M78星雲から約二十万光年離れた場所にあるこの惑星へ、ナイスはウルトラマンヒカリに修復してもらったアナザーブレスの力を借りてやって来た。
「ここがZ94星か。うわっ、ホワイトホールがこんな近くに!すげぇ、いつかは観光に来ようと思ってたけどこんな時にお目にかかれるとはな...」
ナイスは粒子状態を解除し、一旦Z94星に着陸する。惑星の表面には生き物一つ見つからない。恒星も近くに存在しないため、気温は極端に低く、さらにホワイトホールの反重力のせいで体が地面に押し付けられているような感覚が常に彼を襲う。
「さ、寒い…それに歩きづらいったらありゃしないぜ…こんなところに誰がいるっていうんだ…」
「何の用だ?」
突然後ろから声がした。さっきまで後ろに誰もいなかったはずなのに。
「だ、誰だ!」
慌てて振り向き、ナイスは戦闘態勢に入ると、そこには銀色のマントに身を包んだウルトラ戦士が立っていた。
「俺が先に質問したのだ。俺に何の用だと聞いている。」
(まさか…この人は…ウルトラマンレオだ!!マックスさんの言ってたウルトラマンってまさか…)
あまりの驚きと感激のあまり、ナイスはうまく質問に答えられなかった。
説明しよう!
ウルトラマンレオとは、獅子座L77星出身のウルトラ戦士。かの有名なウルトラセブンの弟子であり、あのウルトラマンゼロを鍛え上げた宇宙拳法の達人である。
「わ、私はウルトラマンナイスと言います!ウルトラマンマックスにあなたがここにいると聞き、ここまでやって来ました!」
「マックス?あぁ、あの男か…それでお前は奴の何なのだ?」
レオは言葉では説明できない、独特の威厳とプレッシャーを放っていた。歴戦を戦い抜いた、孤高の戦士が持つ固有の雰囲気なのだろうか。しかし、ナイスは彼のオーラに押されてばかりではいなかった。
(気をしっかり持て!ここに来た理由を忘れるな!)
気を引き締め、大きく頭を下げてナイスはレオに弟子入りを志願する。
「お、お願いします!私を弟子にして下さい!」
「何ぃ?」
「私は強くなりたいんです!」
「ふん、マックスの奴め、この俺にお前を鍛えさせろと言うわけか…奴には借りがあるからな…おい、ナイスとやら。強くなりたいといったな。」
「はい!もっと力が欲しいんです!」
「どれ、俺といっぺん戦ってみろ。」
「あ、あなたとですか!?またまた御冗談を…」
「嫌なら帰ってもらおう。俺は冗談が嫌いだ。」
ナイスは緊張で固まった体を引き締め、戦闘の構えを取る。
「で、では、お願いします!」
レオはぴくりとも動かず、じっくりとナイスの動きを観察しているようだった。彼の鋭いまなざしからは宇宙拳法の達人の名にふさわしい、突き刺すような洞察力が感じられる。
「行くぞぉ!!」
その言葉と共にマントが投げ飛ばされたと思うと、一瞬の間にレオはナイスとの距離を詰め、ナイスの正面まで近づいていた。
「うわぁ!?」
パニックに陥り、ナイスは反射的にレオめがけてパンチを繰り出す。それをいとも簡単にレオは弾き、余った左手でナイスに一発強烈な突きを食らわす。
「ぐぇっ!!」
その一発はナイスを思わず後ずさりさせるほど強烈だった。その様子をレオは呆れたように見ながら言った。
「何だ、もっと鍛えがいのあるヤツをよこして来たかと思えば…これでは一から全部鍛えなおすのと同じではないか。」
これでもナイスは精一杯戦っているつもりなのだが、異常なほどの気温の低さと反重力の影響でうまく体が動かせないのだ。
(一体どんな鍛え方をしたらこんな星でこんなに動けるんだ…)
ナイスに体制を整える間も与えず、レオは追撃を開始する。空高く飛び上がり、ナイスめがけて急降下し、飛び蹴りを繰り出した。
それを転がることでかろうじて避けたナイスだったが、すぐさまレオに脇腹を蹴られ、まるでキックを受けたサッカーボールのように蹴飛ばされてしまった。
(うっ…この人…殺しに来てるんじゃないか?)
痛む体をなんとか起こし、ナイスはエネルギーを両手に集中させる。
(むこうがその気なら…こちらも容赦はしない!)
レオめがけ、腕をクロスさせ最強の必殺技が放たれる!
「ミレニアムクロス!!!」
しかし、それをレオは軽やかにバク転でかわしてしまう。なんとか命中させようとナイスはレオに標準を当てようとするが、あまりの動きの速さに腕が付いていけない。
そしてとうとうエネルギーが尽きてしまい、ミレニアムクロスがナイスの腕から徐々に途絶えていく。
「グッ…はぁ、はぁ…」
息を切らしながらナイスは光線の構えを解除し、必死に立ち上がろうとするが力が入らない。レオはナイスがミレニアムクロスを外した際に破壊した岩場をしめじめと見ていた。
「光線の威力はまぁまぁのようだが…使い手がこうではまともに使いこなせまい。」
「その言い方は…やめてもらえませんか…」
ナイスは息切れしながらも言い返す。レオはミレニアムクロスをナイスが誰かから譲り受けた技だと思っているようだ。
「ほう、この俺に口答えするか。」
「この技は…私がザゴン星人を倒すために必死に身に着けた必殺技だ…誰かに教わって身に着けた技なんかじゃない!」
「何、お前がこの技を…」
レオはナイスの言葉に驚いた様子だった。レオは知っているのだ。あれほどの威力の光線技を自分で身に着けるには、どれほどの努力が必要なのかを。
「ただの腑抜けた奴だと思っていたが…なかなか面白い男ではないか。よし、合格だ。」
「合…格?」
「お前は守るべきものを守るため、覚悟を決めてきた男と見た。俺とて暇ではない。お前がただ力を求めてやってきた奴だとすれば、すぐに追い払うつもりでいた。」
「ってことは...?」
「何をしている。修業を始めるぞ!」
「は、はい!ありがとうございます、師匠!」
ナイスはレオに向かって何度も頭を下げた。
「言っておくが、俺の修業は厳しいぞ!覚悟しておけ!脱落は許さんぞ!」
「はい!決してそのような真似はしません!!」
それからレオによる猛烈な特訓が始まったのだった。
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レオ曰く、ここZ94星は彼のトレーニングにうってつけの惑星らしい。
ホワイトホールによる反重力は体にかかる負担を増加させるだけではなく、時空を膨張させる働きがあるので、ここでの一か月は反重力圏外の一日に該当するそうだ。さらにエネルギー源となる光エネルギーも制限されているため、スタミナ持続の特訓にもなるらしい。
「だ、だからって、こんな特訓….無茶ですよぉぉ!!」
「黙れぇ!愚痴は終わってからいうものだ!!」
レオがナイスに課した一日のトレーニングメニューは想像を絶するものだった。
まずはZ94星の周りを1000周。ただでさえ反重力の影響で飛びにくいのに、Z94星の直径は約12.7万キロメートル。地球の直径の約十倍である。
それが終わると、体の疲れが癒えぬまま、今度はレオとの実戦訓練が始まる。訓練とはいえ、レオの戦闘能力はすさまじく、毎回ナイスは半殺しにされてしまう。これでも彼は手を抜いているつもりらしい。
これが終わって、やっとエネルギー補給のために小休止が許される。レオの監視の元、一番近くの恒星、いて座
しばしの休憩もつかの間、十分なエネルギー量を補給するとすぐにレオにZ94星に連れ戻され、今度は3万トンの岩を抱えたままレオの攻撃を避ける訓練が行われる。
「う、うわぁ!!!く、来るなぁ!!!」
「逃げるなナイス!!逃げるんじゃない!!!」
そう言いながらレオはナイスに容赦なく襲い掛かるのだった。その姿はまるでジープで隊員を轢き殺そうとする某防衛チームの隊長のよう。この特訓を終えてやっとナイスの一日が終わるのである。
苦しい訓練の中、ナイスは幾度となく倒れ、今度こそもう駄目だと思うことがあった。体に力が入らず、両手両足ともピクリとも動かせない状態になった時だった。
「どうした?早く立たんか!!」
「も、もう駄目です…体が動かせません…」
「力が欲しいのではなかったのか!!」
「もう…限界です!!」
「うるさい!!お前はまだ立てるはずだ!!」
「た、立てません!私には…私にはできないッ!!」
「黙れぇ!!」
レオは地面に倒れこんでいるナイスに近づき、見下しながら言い放つ。
「いいか、この宇宙は残酷だ。自分の信念を貫くには自分を拒むものより強くある他に方法はない!!お前が強くなりたいのも、それを心のどこかで認めているからだろう!」
その言葉はナイスにとってとてつもなく説得力のあるものだった。テノが言っていた言葉が彼の脳裏をよぎる。
―この宇宙の絶対的な法則―それは力を持つ者が持たざる者たちを滅ぼし、生き残ることができるということだ。-
その主張が間違っていることは彼は直感的にわかっていたが、なぜそれが間違っていたのかをナイスはわからないでいた。しかし、今彼は理解した。
この宇宙では、勝者の主張こそが真理なのだと。そのためにも、彼らウルトラマンは勝ち続けなければならないのだ。
「お前がどんな理由で、誰を守ろうとしているのかは知らん。しかし、誰かを守ろうとする意志を貫き通すには強くある他ないのだ!!さぁ立て、立つんだナイス!!」
「うぉぉぉ!!!!」
ナイスの体からもう使い果たしたはずのエネルギーが湧いてくる。よろめきながらも、彼は戦闘の構えを取り直し、レオを睨みつけた。
「よし、もう一度だ。行くぞナイス!!」
「はい!準備はできてます!」
過酷なレオとの特訓の中、ナイスは確実に強くなっていった。彼がどれほど強くなったのか、彼自身もまだ気づいていなかったのだった。
どんな感想・評価でも構いませんのでこの作品の感想をお寄せください!
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人類駆除計画《前編》
随分長い間投稿していませんでしたが、この一連の話しを全部一気に投稿しようという意地をなぜか張ってしまい、前・中・後編を全部執筆するまで今までかかってしまいました。
ちなみに異次元生命体ヤプロイドの由来は、おなじみのヤプールにオイド(-oid、ラテン語で「~を模したもの」の意味)を付けたものです。
何分文章量が多いので読みづらいかもしれませんが、自分なりに満足のいく話しになったつもりですのでお楽しみいただければ幸いです。
ナイスがベロクロンMK-IIに敗れてから、はや1週間の時が経った。
SNSではナイスの死を悲しむ投稿が一時流行し、人々は短い間であったが地球のために戦ってくれた英雄を称えた。とはいえ、何事もなかったようにいつものように地球は周り、時間は流れ、人々は元の生活へと戻っていったのであった。
しかし、ナイスの死がこれから迫りくる危機の予兆であったことを、人々は知る由もなかった。
晴れやかな晴天が広がる、すがすがしい昼のことだった。何の予兆もなく、大きな一本の柱が空から降り、都心の真ん中に爆音とともに突き刺さった。
明らかに何者かによって作られたその柱はそのてっぺんから何やら怪しい光を発し、その光は不自然な曲がり方をしながら空を覆っていく。世界中にその影響は及び、空は瞬く間に不気味なオーロラのようなぐにゃぐにゃと形の一定しない光に覆われていった。
そして、何かを映し出すようにその光がまとまった形になっていくと、人型の生命体の姿が空に現出される。
『地球人類よ、聞くがいい。我々の名は異次元生命体ヤプロイド。偉大なるヤプールの遺志を受け継ぐ者である。』
その生命体ははっきりと人の言葉をしゃべった。まるで頭の中に直接言葉を送り込んでくるように、その言葉はすんなりと人の耳に入っていく。
『我々がこの地球に来た目的は一つ。この地球に存在する宇宙鉱石、ビクトリウムのためである。大いなる目的のため、我々はビクトリウムの力が必要だ。そこで、我々は人類に要求する。この地球上のビクトリウムをすべて我々に献上せよ。』
人々は困惑した。一体何が起こっているのか。ヤプロイドとは誰なのか。なぜビクトリウムを欲するのか。質問ばかりが積もっていくが、空に映し出された幻影は淡々と話しを進める。
『我々はウルトラマンナイスを排除した。人類もろとも始末し、ビクトリウムを奪うのも造作のないことだ。しかし我々は貴様らに生き残る道を与えてやろうというのだ。24時間以内に少なくとも5千トンのビクトリウムをこの柱の下に献上するのだ。できなければ我々ヤプロイドに対する宣戦布告の合図とみなし、我々は人類駆除計画を実行する。賢明な判断を期待しているぞ。』
その言葉を最後に、ヤプロイドの姿が空からすっと消え去り、謎の光は柱の中へと戻っていった。
HTDFは、これに断固として抵抗する姿勢を表明し、地球上に点在する7支部すべての軍力を使いこれに対抗することを決定した。
怪しげな柱の周りを中心に、半径約100キロメートルの市街地を戦闘区域とみなし、日本政府はHTDFと連携し大規模な避難活動を行ったのであった。高層ビルはすべて地下に収納され、第三戦闘態勢に都市部は移行した。
23時間59分後。
刻一刻とタイムリミットが近づいてくる。現場にはカメラを搭載したドローンがを待機しており、その映像がテレビで生中継で放送されていた。その様子を、輝は月子と彗星とともに目を画面にくぎ付けにしながら見ていた。彼の住むマンションは幸い戦闘地域から離れた場所に位置しており、避難勧告は出されなかった。
柱は微動だにせず、まるでただの建造物のように建っている。
―後、10秒で24時間が経とうとしています。-
輝は思わず唾をのんだ。ごくりという音が部屋に響く。
アナウンサーが時間の経過をテレビから知らせてくれる。
5、
4、
3、
2、
1、
ゼロ。
突如、ドローンからの映像が途絶える。テレビ局のスタッフも動揺しているようで、砂嵐のようなノイズ映像の奥からスタッフたちのがやがやとした声が聞こえる。
「えぇっ!?ちょっと、どうなってんのよ!」
月子が思わずヤジを飛ばした。
―も、申し訳ございません!ただいま映像を...あっ、映像が戻りました!-
ノイズが晴れ、ドローンからの映像が再びスクリーンに映し出される。そこに映っていたのは、さっきまでぽつんと建っていた柱ではなく、人型の何かだった。
巨人、と呼ぶほうがいいのかもしれない。ひょろりとした体つきで、赤い目のようなものが頭部についており、体を前に傾け、猫背のような姿勢でただ立ちつくしている。体は金属製のような装甲に覆われており、特に目立った特徴はなかった。
巨人が少し体を動かした、次の瞬間だった。上空で待機していたHTDFの主力無人戦闘機、シムルグ079が一斉射撃を始める。地上部隊も引けを取らず、反電子砲を搭載したパンツァー23が同時発射を行う。
―ご覧ください!!人類の希望を背負い、HTDFの総攻撃が今行われています!巨人は微動だにしていません!!このままこの巨人を撃破することができるのでしょうか!?-
まるで怪獣映画のような光景に、夢星一家の面々はただ息をのんでその様子を見守ることしかできなかった。攻撃の第一波が終わったのか、HTDFの攻撃の手がいったん静まり始めた。巨人の姿は爆発による黒煙に包まれ、よく見えなかった。
黒煙が徐々に晴れ、巨人の赤い目の光がかろうじて見えてきた時だった。
『人類よ、あくまで我々に抵抗するというのだな。』
また、あの声だ。ナイスを葬った異次元生命体の声が輝の頭にこだまする。彼の脳裏にあの戦いの光景が蘇った。
(まさか、今度も…)
煙が晴れ、巨人の姿が露になる。金属製の体は熱で赤く変色しており、まるで溶岩を身にまとっているようだった。しかし、巨人は前より姿勢を一切変えていない。まるで先ほどの総攻撃が全く効いていないかのようだった。
『いいだろう。この星もろとも宇宙の藻屑と化すがいい!!さぁ、起動せよ、巨人超獣ラグナロンよ!!』
ラグナロンは口を開けると、周りの無人戦闘機たちを巨大な掃除機のように吸い込み始めた。一機、また一機とラグナロンの口の中に戦闘機が吸い込まれていく。そして、戦闘機が吸い込まれる度に装甲が元に戻っていくのだった。
残ったパンツァーとシムルグたちがまた総攻撃を開始するも、それらをすべてラグナロンは吸収し、どんどん前進していく。しかし、HTDFが用意していた対ヤプロイド用の防衛作戦はまだこれだけではなかった。
―ご覧ください!HTDFの新兵器、V-1729が積まれたヘリが戦闘区に到着しました!-
V-1729とは、ベロクロンMK-IIの皮膚組織の成分をHTDFが解析し、超獣を構成する異次元物質の化学構造を破壊するために開発した、対超獣用の新兵器である。それを積んだヘリがラグナロンから一定の距離を取り、V-1729を起動する。
まばゆい青色の光が砲口に集まり、ラグナロンに狙いを定めると、すさまじい勢いで青い光線がラグナロンに向け発射される。ラグナロンはそれを口で吸収しようとしたが、V-1729にはさすがにかなわないのか、口を開けたまま後ろへたじろいでいく。超獣の体勢が崩れ始め、口の周りの装甲がドロリと溶け始めた、その時だった。
突如光線の勢いが緩み、やがて一筋の光の波は消えていってしまった。V-1729を撃つためのエネルギーが果ててしまったのだ。それを嘲笑うように、ラグナロンの口がにやりと笑みを浮かべたかのように見えた。その直後、ラグナロンの口から発せられた炎によって頼みの綱だったV-1729を積んだヘリが炎上し、無様にも墜落してしまった。
それと共に、不気味な警音がテレビから発せられる。
―臨時ニュースです!!ただいま日本政府が本作戦における戦闘地域の拡大を発表しました!―
「臨時ニュース」という見出しが画面の上側に映し出される。
―ご覧の地域にお住まいの方は、HTDFの避難誘導員の指示に従って速やかに避難してください!HTDFは総力を挙げ、大規模避難用のコンヴォイを出動させています!繰り返します!日本政府は…-
アナウンサーがHTDFの表明を読み上げると同時に、拡大された戦闘指定区域のマップが画面に映し出される。そこには輝たちが今いるマンションも含まれていた。しかし、それだけではない。その周りの約50キロメートルほどの地域がすべて戦闘区へと指定されていたのだ。
(この家も、僕たちが住んできたこの町も、全部この超獣に壊されちゃうのか…一体…一体何を失えばいつもの平和な日々は戻ってくるんだ…?)
友、ナイスを奪われ、今ここに自分がいる家も住み慣れた町も失おうとしている今、輝の心に大きな闇が渦巻いていた。
「あっくん!!!」
気が付くと、月子が輝の肩をつかみ、必死に揺らしていた。
「しっかりしてよ!今は避難しないとでしょ!!」
「でも、家が…町が…」
「家ならまた探せばいい!町だってきっとまた元に戻るわよ!!あなたにはまだ死んでもらっちゃ困るんだから!!あなたは私の夫であり、すいちゃんのパパなのよ!!」
輝はゆっくりと彗星の方を見ると、彗星は輝と月子を見つめながら膝を抱えている。
「あの子のためにも、まだ生きててくれなきゃダメなの!ダメなのよ…」
月子が輝の肩をつかんだまま泣き崩れていく。彼女も今起こっている事態に相当なショックを感じているのだろう。それでも、彼女は一家の母として、娘のため、夫のためにやるべきことをしようとしているのだ。
「月子…」
その時だった。
ラグナロンがなぜか全身を止め、上を向き始めた。それに合わせてドローンのカメラもその方向を向いていく。
―落ち着いて避難してください!ただいまHTDFの…-
カメラははっきりと捉えていた。赤い球体が空の彼方から飛来し、その姿が見る見るうちに巨人の姿に変わっていくのを。
そして、その巨人は巨人の前に落下し、その衝撃で地面の土が吹き上がる。銀色の体に、赤いライン。そして胸の中央には青いカラータイマーがついている。
―な、何が起こっているのでしょう!?ウルトラマンナイスとは別の、光の巨人が現れました!!―
「月子、あれを…テレビを見るんだ!」
「だから今はそんな場合じゃ…」
ちらりと画面を見た月子の目はその光景にくぎ付けになった。
「あれは…?」
「ウルトラマンだ…ウルトラマンが来てくれたんだ…!」
「ウル…トラマン?」
ラグナロンはそのウルトラマンに向かい、口を大きく上げて威嚇するように雄たけびを上げる。
『なぜここに貴様がいるのだ、ウルトラマンエース!!』
そう、その巨人の名はウルトラマンエース。
銀河連邦をはるかに超え、異次元からの脅威から人類を守るために光の国から遣わされた平和の使者だ!
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人類駆除計画《中編》
人類の危機を救うべく、巨人超獣ラグナロンの前へと降り立ったウルトラマンエース。エースに対し、ヤプロイドは怒りのこもった声で怒鳴りかける。
『なぜここに貴様がいるのだ、ウルトラマンエース!!』
「ヤプールが生み出した敵ならば、私が倒す!それが私の宿命なのだ!」
『おのれぇ...我が主、ヤプールの仇…今ここで打ち取ってくれるわぁ!!!!』
ヤプロイドと共鳴するように、ラグナロンは狂暴化し、口から業火を吹き放つ。エースはすかさず光の壁を両手で描き、それを実体化させる。
「ウルトラネオバリアー!!」
ラグナロンの炎はバリアにより防がれ、ラグナロンの方向へと逆流を始める。火炎放射攻撃が効かないことを察してか、ラグナロンは口を閉じ、今度はすさまじい勢いでエースに襲い掛かってくる。
エースはバリアを解除し、襲い掛かってくるラグナロンにボディタックルを仕掛け、ラグナロンの猛攻を止める。すかさずがら空きになったボディに膝を叩きこみ、そこからさらに背中へとチョップをかます。
ラグナロンは体を起こし、一旦エースを押しのけるが、すぐにエースに首をつかまれ、背負い投げを食らう。ラグナロンの動きをエースは完全に封じ込んでいた。
「す、すげぇ…」
輝は戦いの様子をテレビで眺めながら思わずそうこぼした。落ち着きがないような動きだが、確実に相手の隙をつき、一方的に超獣に攻撃を与えていくエースの戦法は、まさに超獣退治の専門家の名にふさわしかった。
『くっ…この戦いごときにこれを使う気ではなかったが…やむを得ん!ラグナロン・フェンリル
ラグナロンがうめき声をあげると、両手からかぎづめのようなものが伸び始め、頭部が変形し狼のような形へと変わっていった。
「グルル….」
無表情な巨人の姿とは違い、今度は獲物を借る野獣のような形相でエースを睨みつける。エースも戦いの構えを立て直し、敵の様子をうかがっている。
次の瞬間、ラグナロンは目にもとまらぬ速さでエースに襲い掛かり、気づけばエースに馬乗りになっていた。エースの頭めがけ、ラグナロンは大きな爪を地面に突き刺す。それをエースはかろうじてよけながら、一瞬の隙を突きラグナロンを蹴飛ばした。
瞬時にエースは体勢を立て直し、両手を合わせ光線の弾を発射する。
「ダイヤ光線!!」
それをも華麗なフットワークでラグナロンはかわしていく。エースは覚悟を決め、少し念ずると手から小刀を作り出した。エースブレードである。
まるで時代劇のような、ラグナロンの爪による攻撃とエースの剣捌きによる拮抗した戦いが幕を開けた。目にもとまらぬ速さで両者の連続攻撃が行われ、あの質量を持つ生物がなぜあれほどの速さで動けるのか不思議なくらいであった。
そして、エースが優勢に立ったのか、ラグナロンが大きく後ろに飛んで距離を取る、そこで生まれた隙をエースは見逃さなかった。
エースブレードを投げ捨て、ラグナロンに向かって円状の光線を発射する!
「ストップリング!!」
空中ではさすがにうまく動けないのか、ストップリングは見事命中し、ラグナロンの動きを止めた。すかさずエースは両手を横にそらし、エネルギーを両手に集めるとL字に組み、
「メタリウム光線!!!」
メタリウム光線を叩きこんだ。しかし、ラグナロンは口を開けると、また光線を吸収してしまった。そのエネルギーを利用してか、ストップリングを自力で引きちぎり、またエースに襲い掛かる。
だが、エースも慢心してはいなかった。素早くキックを繰り出し、ラグナロンを退けると両手を空に掲げ、両手に光エネルギーを充満させる。
フラッシュハンドという戦法だ。しかし、この戦法は諸刃の剣。両手からの打撃攻撃に爆発的な破壊力を付与するが、連続的に光エネルギーを消費するため、長時間は使用できない。
エースがフラッシュハンドを発動するとともに、エースのカラータイマーが点滅を始める。残された時間はあとわずか。エースは先ほどとは違う、落ち着いた様子でラグナロンの様子をじっと観察する。
デヤッ、という掛け声とともにエースが前進したかと思うと、ラグナロンもそれに反応するようにエースへ飛び掛かる。エースはラグナロンの右手の攻撃をかろうじてかわすと、ボディに強烈なアッパーをかます。フラッシュハンドの影響で、エースのアッパーはラグナロンを空高く突き上げた。すぐさまエースはフラッシュハンドを解除し、右手からのこぎり状の光線を生み出すと、それをラグナロンめがけて放り投げる。
「ウルトラギロチン!!!」
ギロチンは3つに分離し、ラグナロンの首、胸、腰にそれぞれ命中。ズバッ、という痛快な音と共に超獣の体はバラバラになり、大爆発を起こした。
『おのれエース…我々を甘く見るなよ…』
苦し紛れにヤプロイドはそう言い残した。その途端、エースはガクリと体勢を崩してしまった。平行宇宙を移動し、強敵と激闘を繰り広げたためエネルギーを必要以上に消費してしまったのだ。エースはひとまず空に向かってウルトラサインを送り、上へ飛びあがるとそのまま空の彼方へと姿を消した。
輝は呆然としていた。突如現れたウルトラマンが、人類の手ではどうすることもできなかったであろう敵を一人で、しかもこの短時間で葬ってしまったのだ。
(僕がナイスとやってきたことはこれだったのか…?これが…これがウルトラマンになる、ということだったのか?)
「勝った…勝ったのね!?あのウルトラマン、勝ってくれたのね!?」
輝は月子と彗星を抱き寄せ、両手で抱きしめながら答える。
「あぁ…勝ったんだよ、月子…あのウルトラマンは勝ってくれたんだ!!」
輝はウルトラマンが戦う姿を第三者の視点から見たことがなかった。テレビやSNSなどでナイスの戦う姿を見ることはあったが、彼が「救われる側」として戦いを見るのは初めてだったのだ。絶望の中、たとえ一人であっても、勝利を信じて最後まで戦ったあのエースの勇士は、輝の目の裏にこびりついて離れなかった。
(この希望、この躍動感…僕がナイスと戦っていた時も、こんな感情を人々に与えていたのか…!?)
今、戦えずして輝は実感したのだ。ウルトラマンとして戦うことの本当の意味を。
そして、彼は再びもうナイスと戦えないことを悔いたのであった。
その夜、HTDFは戦闘区域周辺の半径100キロメール内の区域すべてに一時的な避難命令を出し、警戒態勢を緩めない体制をとった。輝たちは必要な日用品をスーツケースに詰め込み、避難の準備をしていた。
「ねぇママ、あたしたちこれからじぃじのとこ行くの?」
彗星はこれから輝の実家に帰省すると勘違いしているらしく、どこか明かるげな様子で荷造りの手伝いをしていた。
「ちょっと違うわね…でもすぐおうちに帰って来れると思うわよ!」
「じゃあ、明日は幼稚園はお休み?」
「そういうことになるんじゃないかしら…」
「やったー!ファンガ―見放題だぁ!!」
無邪気によろこぶ彗星の顔を見て、輝たちもどこかほっとした。
「こらっ、ちゃんとお絵描きとか絵本も読まないとだめだぞ!タブレットばっかり見てると頭がバカになっちゃんだぞ!」
「う、うぅ…わかったよぉ…」
しかし、平和な時は長くは続かなかった。テレビのモニターから再び不気味な警告音が鳴り響き、臨時ニュースの見出しが映し出される。彗星は思わず輝の足をつかみ、ぎゅっと握りしめた。彗星の体の震えが輝の足から伝わってくる。
―臨時ニュースです!先ほどの激戦区に未確認生物が再び姿を現しました!繰り返します、先ほどの…-
「くそっ、敵の攻撃はまだ続いていたのか...」
テレビの画面には二足歩行の竜のような神話生物を彷彿とさせる巨大生物が映っていた。体は青い結晶のようなものが露出しており、背中には白い翼のようなものが付いている。
『エースよ、出て来い!!ここで我々の決着を付けようじゃあないか!!!』
またあの声が頭に流れ込んでくる。ヤプロイドの攻撃はまだ終わってはいなかったのだ。
『出てこぉい!!!さもなくば、貴様らが大事にしているこの星もろともこの下等生物どもを駆除してくれる!!!』
その生物は口から白い破壊光線をまき散らし、見える物を手当たり次第にすべて破壊し尽くしていった。
(こんな時にナイスがいてくれたなら…)
輝は初めて自分から戦いたいと思うことができた。娘を守る父として、妻を守る夫として、そして何よりも一人の人間として、人々の心に闇を植え込むこの敵と戦いたいと。
その思いを胸に、彼はナイスに変身する際に使ったペンを取り出し、力強く握りしめるのだった。
----------------------------------------------------------------------------------------------------
ナイスがレオに鍛えられてから、4ヶ月の月日が経った。
と言っても、Z94星での1ヶ月は反重力圏外の1日間に相当するので、いて座
ナイスが今日のトレーニングに備え、気合を入れているとレオがいつもと少し違った雰囲気で近づいてくる。
「ナイス、出かけるぞ。」
「えっ、師匠、エネルギー補給ですか?まだ修業は始まって...」
「俺についてこい。質問はあそこに着いてからだ。」
何が何だかわからぬまま、ナイスはレオの後をついていった。反重力圏を脱出し、こんどはT45星雲方面に進んでいく。すると、レオが向かう先には太陽系にそっくりの惑星系があった。めらめらと燃え盛る恒星を中心に、いくつもの天体がその周りを周回している。その一つに、地球と同じぐらいの大きさの真っ青な惑星があった。
レオはその惑星にどんどん近づき、大気圏内へ入っていく。この惑星の大気の影響で、空気摩擦によりレオとナイスの体がどんどん過熱されていくが、ここ四ヶ月の訓練でナイスはこの程度の熱には余裕で耐えられるほどになっていた。
高度が下がるにつれ、どんどん惑星の表面が露になっていく。
「これは…」
まさに、宇宙の秘境とも言えるような光景がそこには広がっていた。深さ3メートルほどの湖が見渡す限りどこまでも続いているのだ。青い空が水面に反射され、まるで大きな球体の鏡の上をナイスは飛んでいるようだった。
レオは徐々に高度を下げ、ゆっくりと着地した。それに続いてナイスも着地する。
「師匠、この星は…」
「この惑星の名はアズラージュ。この惑星を発見した星人の言葉で『青い宝石』という意味なのだそうだ。」
「青い宝石…その名前にふさわしい…」
「しかし、俺たちはここに観光に来たわけではない。ナイス、今から俺はお前をもう一度試す。この星の重力は地球の重力場とほぼ同値。この四か月間、お前が俺から何を学んできたか、今一度見させてもらおう。」
(師匠のことだから絶対何かあるとは踏んでいたが…まさか抜き打ちテストとはね…)
ナイスは覚悟を決め、戦闘の構えを取る。二人のウルトラマンの姿がアズラージュの水面に映り、まるで二人の戦いを見守っているかのようだった。
「師匠、参りまぁす!!」
ナイスは一気に距離を詰め、パンチを繰り出す。それをレオは受け止め、そのまま勢いを使ってナイスを投げ飛ばした。投げ飛ばされる瞬間にナイスは地面を蹴り、空高く自分を放り投げる。
宙に舞ったまま、ナイスは右手からミレニアムショットを発射する。不意を突かれたのか、レオはよけようと体をそらしたが光線弾は彼の肩をかすり、そこから火花が散った。
「ぐっ。味な真似をするようになったではないか。」
ザブンと水面に着地し、ナイスは満足げにレオの方を見る。
「伊達に毎日しごかれてたんじゃないんですよ!」
「言ってくれる。どれ、俺も手を抜いてはいられんようだな!」
レオは空高く飛びあがり、ナイスに向かって急降下しながら手刀を作り、それを振り下ろす。かろうじてそれをよけたナイスだったが、彼はレオの至近距離に入っていた。レオはすかさず持ち前の連速打撃攻撃をナイスに繰り出す。
(やばい、この距離からは…ってあれ?)
レオの繰り出す攻撃をナイスは一撃、また一撃と華麗にかわしていく。
(軽い…軽いぞ!体が嘘みたいに軽い!!)
それもそのはず、反重力の影響を受けず、3万トンの岩を持っていない今、ナイスの体は重い束縛から解き放たれたのである。
しかし、避けているばかりでは勝負はつかない。ナイスはレオの連続攻撃を受け流しながら反撃の隙を探していた。
(これだけ動いても一向に疲れない…これも師匠の特訓のおかげなのか!!)
レオが少し強めにパンチを繰り出したその瞬間だった。彼の体は前のめりになり、ほんの一瞬だがボディががら空きになる。
「今だぁ!!」
左手で拳をはじき、右手の張り手で思いっきりレオを突き飛ばす。これにはレオも受け身を取れず、彼の体は後方に吹っ飛ばされた。
「や、やったぁ!!!!」
ナイスがレオに打撃を与えられたのは、これが初めてだった。あまりの嬉しさに何が起こったのか信じられず、自分の両手を見ながらナイスははしゃいだ。
「ふん、やればできたじゃあないか。合格だ、ナイス。俺がお前に教えることはもうない。」
「え…ほ、本当ですか、師匠!?」
「早く光の国へ向かえ。何やら物騒なことが起こっているらしい。」
「ってことは…修業ももう終わりですか、師匠!?」
「そうだ。お前は強くなったのだ。」
必死の訓練の末、ナイスはついにレオに戦士として認められたのだ。喜びより先に、感謝の気持ちがナイスの心に津波のように押し寄せる。
「師匠…今まで本当にありがとうございました!!この御恩は絶対に、ぜっっっっったいに忘れません!!」
ナイスは深々と頭を下げ、レオに礼を言った。
「早く行けと言っている。これが師匠としての、俺の最後の命令だ。」
「う、うぅぅ…師匠…」
「やめんか、みっともない。そうだ、これを持っていけ。」
レオは獅子の柄が描かれたブレスレットをナイスに渡した。
「いざという時役に立つだろう。さぁ、行け!俺の弟子よ!」
「は、はい!!行ってまいります!!!」
ナイスはそのブレスレットを左手に付けると、右手のアナザーブレスを起動させ、亜光速でM78星雲へと向かっていった。
「お前の意志を、正しいと信じる道をその力で貫き通せ。お前ならできるはずだ、ナイス。」
レオはナイスが去っていく姿を見届けながら、天に向かって旅立ちの言葉を伝えるのだった。
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光の国では、ウルトラマンエースからのウルトラサインを受け、緊急会議が行われていた。
サインの内容は、「援軍を要請する」との旨のものだった。平行宇宙を移動した際のエネルギーの消費と、巨人超獣ラグナロンとの激闘が重なり、エースは自分のエネルギー回復が次のヤプロイドからの逆襲に間に合わないと懸念したのだ。
宇宙警備隊隊長のゾフィーは宇宙警備隊の精鋭たちを集め、緊急会議を開いていた。
「一体、エースに何が起きたのでしょう?」
惑星軌道観測部のウルトラマンレグスが訪ねる。
「我々にもそれはわからない。ウルトラサインの内容は援軍要請のみだったが、自分の身の危機を知らせてこないところを見ると彼はまだ無事なのだろう。」
ゾフィーは冷静に状況を考察した。
「仮に彼が倒された場合、彼が装着していたアナザーブレスが自動的にSOSのウルトラサインを送るよう設定してある。彼は無事だろう。」
技術開発部のウルトラマンヒカリが補足する。
「エースさんからのウルトラサインが受信される直前に、我々の観測装置がN-51にて異常な量の反物質反応を検知しました。あの異次元生命体、ヤプロイドが本格的に動き出したと思われます。」
宇宙間エネルギー観測部のウルトラウーマンキャスはデータを空中に映し出しながら報告した。
「このエネルギー量は…小さな惑星を一つ壊滅状態まで追い込める量だぞ!」
文明監視部のウルトラマンマックスはその映し出されたデータを見ながら驚愕した。
「エース一人で向かわせるのは危険だったか…よし、ウルトラ兄弟の一人をN-51に向かわそう。」
レグスはその判断に賛成できないのか、身を乗り出してゾフィーに反論する。
「お言葉ですが隊長、我が宇宙警備隊の主力であるウルトラ戦士を二人も別宇宙に派遣すると…」
「この異次元生命体はかつてエースが倒したヤプールの持つ固有の波動と同じ波動を有している。間違いなくヤプールと関わりがある者たちなのだ。何の目的でN-51の地球を狙っているのかは定かではないが、野放しにしておくには危険すぎる存在だ。」
「私もそう思います。異次元生命体に関しては我々もまだあまり知識がありません。ベリアルのような脅威とならぬうちに倒すのが最善かと。」
「そ、そうですね…」
「案ずることはない。万が一の時は別宇宙のウルトラマンに要請を頼めばいいことだ。」
ヒカリはレグスに言い聞かせるように言った。
「よし、決定だな。では早速…」
「待ってください!!」
割り込んできたのはなんとウルトラマンナイスだった。アズルージュから亜光速で飛行してきたため、この会議にかろうじて間に合うことができたのだ。
「君は…確かウルトラマンナイスといったな?」
「はい!その任務…私に行かせてください!」
「おい、なぜお前のような漫才師がここにいる?この会議には我々宇宙警備隊の主要人物5人しか参加できないはずだぞ!」
レグスが不機嫌そうにナイスに言い放つ。
「レグスさん、彼の左手を…」
「何、左手?キャス、こんな男の身なりなど気にしている時では…それは…!」
彼の左手には、レオが授けたブレスが付いている。
「それはレオブレス!ということは…ナイス、君は認められたんだな、あのレオに!」
マックスはナイスを称えるように言った。レオがナイスに授けたのはレオブレスといい、レオに力を認められた戦士しか受け取ることができない代物なのだ。
「師匠に鍛えられて、私は強くなったんです!お願いです、ゾフィー隊長!私にエースさんの援護を務めさせてください!」
ナイスはゾフィーに頭を下げる。レグスはそれが気に入らないようだったが、レオブレスを見せつけられては反論のしようがなかった。
(なんだ…?この前まであのゼアスとかいうやつと漫才をしていた男が、なぜここまで強くなれたんだ…?)
「ふむ…実力は本物のようだな。」
「ゾフィー、私からも頼もう。彼の責任は、私がすべて引き受ける。」
「マックスさん…」
マックスには分かった。ナイスがレオとの特訓の末、どれほど強くなり、どれほどのことを学んだのかを。同じ地球を守り抜いた戦士として、ナイスにはもっと強くなってほしい。そう彼は願ったのだ。
「よし、いいだろう。レオが認めた戦士だ、きっとすさまじい可能性を秘めているに違いない。」
「あ、あ、あ…ありがとうございます!!!」
ナイスは歓喜した。あの失敗を挽回するチャンスが回ってきたのだと。
そして何よりも、輝とまた共に戦える日がやってきたことを、何よりも喜んだのだ。
「さぁ、もう時間がない。行くのだ、ウルトラマンナイスよ!!」
「はい!行ってまいりまぁぁす!!」
ナイスはアナザーブレスを起動させ、素早く飛び去って行った。
「大した男だな、あいつは。」
ヒカリがその姿を見守りながらつぶやいた。
「この前超獣に敗れたばかりだというのに。レオに認められるほど強くなるとは。」
「彼は出会えたのさ。そこまでして強くなりたいと思わせてくれる仲間に。」
マックスが空を見上げながら答える。
「仲間…か。彼もメビウスと同じなのだな。」
ヒカリはメビウスとの出会いを思い出し、それを懐かしみながら空の彼方へ消えていくナイスの姿を見送った。
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人類駆除計画《後編》
再び現れた巨大生物はその翼を広げ、飛翔しながら口からの白熱光線で辺りを火の海へと変えていった。
―避難指定区域にお住まいの皆さまは、急いで係員の指示に従い、コンヴォイに向かって避難してください。繰り返します、避難指定区域に…-
コンヴォイとは、HTDFが大規模避難用に使用する大型難民護送航空機のことである。
「ねぇ、ちょっと、あの方向ってうちの方じゃない!?」
「あ、あぁ…そうだな、早く逃げないと!」
輝と月子は詰めかけのスーツケースを急いで閉じ、月子の手を引きながら急いで玄関を出て、マンションの階段へと急ぐ。
息を切らしながら階段を下り終わると、マンションの前の通りは人々であふれかえっていた。遠くを見ると、あの巨大生物が接近してきているのが分かる。
「げぇっ、もうあんな所まで…」
「もたもたしてる場合じゃないでしょ!さっ、早く行かないと!」
輝の自宅はコンヴォイが待機している場所から約700メートル離れている。走れば5分ほどで間に合う場所にあるのだが、荷物や人の多さのせいでなかなかたどり着くことができない。輝はスーツケースを引き、月子はショルダーバッグと彗星の手をつなぎながらなんとかコンヴォイを目指していた。
向かっている合間にも、人々の叫び声と建物が破壊されていく音がどんどん近くなってくるのが分かった。焦る気持ちを抑えながら、なるべくパニックに陥らないように気を落ち着かせて前に進んでいく。
その時、誰かが叫んだ。
「あっ、あの光は何だ!?」
その瞬間、空中に光が集まり始め、その光はどんどん巨大化していき、やがて巨人の姿へと変わっていった。ウルトラマンエースがこの敵と立ち向かうべく、再び姿を現したのである。
「エースだ!ウルトラマンエースがまた来てくれたんだ!」
輝は歓喜したが、どこかエースの様子がおかしい。体の構えがどこか弱々しく見え、さっきの戦いのように相手を威圧するオーラがなくなっていた。
「あっくん、あのウルトラマン疲れてるみたい。」
「えっ?」
「仕事から帰ってきたあっくんにそっくりだもの。」
(そうか…きっとエースもあの戦いの傷がまだ癒えていないんだ!)
『やっと姿を現したな、ウルトラマンエースゥゥ!!!』
巨大生物はエースに向かい、白熱光線を発射する。それをまたバリアでエースは受け止めようとするが、光線がバリアに当たって間もなくするとバリアにひびが入り、光線はエースを直撃してしまう。
「グゥッ!!!」
エースが地面に倒れこみ、周りのビルが破壊される。
『ハァッハッハッ!!!見よ、これが超獣を超えた生物兵器、神獣の力だぁ!!!』
(くそっ、このままでは私の体が持たない…!)
エースは光の国からの援軍を待つべく、どうにかして時間を稼ぐことにした。
「ヤプロイド!貴様らは一体何者なんだ!」
『冥土の土産に教えてやろう。我々は元はN54星雲、ノルド星に住む知的生命体だった。我々は発達した科学的技術を持っていたが、それをつけ狙い、様々な異星人からの侵略や情報攻撃を受けていた。しかしある日、ヤプールという異次元生命体が我々の前に現れ、異次元からの素晴らしい力を使い、我々を敵から守ってくださったのだ!その代償に、我々はヤプールに仕え、超獣作成の技術をヤプールのために開発していった。エースよ、貴様が戦ってきた超獣たちは、ほとんど我々が作り出したものと言っても過言ではないのだ!』
(なるほど、ヤプールに弱みを付け込まれた知的生命体、ということか…)
怒りを抑えるように、巨大生物は拳を強く握りこむ。
『ヤプールこそ我々の主であり、我が救世主!我々はヤプールが貴様らウルトラマンに敗れたと知った時から、貴様らに復讐を誓い、我々は自らを一体化させ、異次元生命体へと生まれ変わったのだ!』
「無茶な真似を…自らを異次元生命体に改造したということか!」
『我々の技術力があれば、この程度のことは造作もない!そして、我々はついに、超獣を超える神の獣、神獣を作り上げることに成功したのだ!貴様が見ている神獣アスラ=ゼウスはその第一号。しかし、神獣の合成には大量のビクトリウムが必要だ。貴様をここで葬れば、この下等生物らを駆除し、この星の地下に眠る大量のビクトリウムをわが物とすることができる。神獣を大量生産し、貴様らウルトラの一族に宣戦布告を申し込むことができるというわけだ!!』
「そんなことは…私が絶対にさせん!!」
エースは体勢を立て直し、アスラ=ゼウスにタックルを仕掛ける。しかし、それを軽々と神獣は退けてしまった。
『フハハハ!!その程度の力で神獣を止めることはできん!ヤプールの怨念とヤプロイドの怒りの元に、ここでくたばるがいい!!』
アスラ=ゼウスは白熱光線を口から発射し、エースを追い詰めていった。エースはなんとか光線を避けきれてはいるものの、周りへと被害を最小限に食い止めながら戦おうとしているため、反撃の余地がない。
(ナイス…もし君がまだいてくれたなら….)
その時だった。輝の脳内に、あの懐かしい声が聞こえてくる。
―輝…輝!!-
(この声は…)
―私だ、輝!私が分かるか!!-
輝が目を凝らすと、ナイスの姿をした光が目の前から輝に語り掛けている。周りの人々はそれが見えないようだった。
(分かる、分かるよ、ナイス!!帰って来てくれたんだね!!)
―感動の再開シーンの最中だが今は時間がない!輝、私はもう一度君と戦いたい!-
(僕もだ…僕もだよ、ナイス!やっとわかったんだ。ウルトラマンとして戦うことの意味が!)
―そうか。そうと決まれば話は早い!輝、あのペンは持っているか!-
(あぁ、確かここに…)
輝はズボンのポケットからペンを取り出すと、澄んだ青色のペンが見る見るうちに赤とシルバーのカラーリングに変わっていく。
―やることはわかっているな、輝!-
(あぁ、この時を待ってたぜ!)
輝は振り返り、月子の肩をつかんで話しかける。
「月子、僕はすぐ戻るからね!」
「戻るって…どこ行くのよ、こんな時に!」
「僕にはやらなきゃいけないことがあるんだ!僕にしかできないことが…」
月子は輝の目の輝きを見て、言葉では表せない何かを感じ取った。さっきまでの輝と違う、別の誰かが彼の中に宿っているようだった。
「そ、そう…わかったわ。でも、絶対帰ってきてね!」
「あぁ、すぐに帰る。だからちょっとだけ待っていてくれ。すいちゃんも、ママと一緒に待っていてくれな。」
「あっくん、どこいくの?」
「僕はやることがあるんだ。いい子だから、待ってるんだぞ!」
そういうと輝は人を押しのけながら、人混みの中へと消えていった。
人がいなくなったビルを輝は見つけると、辺りを見渡してからペンを取り出した。そのサインペンはもうただのサインペンではない。変身アイテム、ぺペペペンに再び変わっていた。
「ナイス、共に行こう!」
刀を鞘から出すように、腰にぺペペペンを当て、勢いよくペンを輝は引き抜いた。
その瞬間、ペンの先端から光があふれだし、輝を包んでいく!
「うおぉぉぉ!!!!」
『ウルトラマン、ナーイス!!!』
ナイスはアスラ=ゼウスの頭上に実体化すると、神獣の頭に飛び蹴りを炸裂させる。その反動を生かし、空中でひらりと一回転すると、華麗に着地する。
「あ、あれは…」
突然の出来事に、人々はざわついていた。
「ナイスだ!ウルトラマンナイスだぜ!」
「生きてたのね、ウルトラマンナイス!」
「ナイスー!!あのウルトラマンを助けてやってくれ!!」
ナイスはその声援にこたえるように、親指ポーズを作って見せた。
『誰かと思えば、どこぞの雑魚ではないか!!ベロクロンMK-IIさえ倒せなかった貴様に、このアスラ=ゼウスにかなうはずがなかろう!!』
「私はもう昔の私ではない!レオ師匠に鍛えられた腕を見せてやる!!」
『ふん、口だけならどうとでも言える。葬り去れ、アスラ=ゼウスよ!!』
アスラ=ゼウスはナイスめがけ白熱光線を乱射するが、それを軽やかにかわしながらナイスは至近距離まで接近し、あごにアッパーカットを食らわせる。強引に閉ざされた口内に光線が爆発し、神獣は後ろへ倒れこむ。エースはナイスの左手に付けられたレオブレスに気づいた。
(その左手のブレスは…そうか、この短期間で君はレオに認められるほど成長したのだな…私も見ているだけではいられん!!)
エースは力を振り絞り、倒れているアスラ=ゼウスに飛び掛かると、神獣の体をしたから持ち上げ、空高く神獣を投げ飛ばす。
『こしゃくな真似を…』
アスラ=ゼウスは翼を広げ、空中に浮かび上がる。
「ナイス、地上で戦うとこの人たちに被害が及ぶ。空で決着をつけるぞ!」
「なるほど、了解です、エースさん!」
二人のウルトラマンは空高く飛び上がると、神獣めがけ接近していく。
『おのれ、神獣を舐めるなよ!』
アスラ=ゼウスは体の青い結晶からミサイルのような光の弾道を乱射し始めた。ナイスはそれを一発ずつ弾き飛ばし、飛行速度を上げて無傷のままアスラ=ゼウスに突進すると、渾身のパンチをアスラ=ゼウスに直撃させる。その一撃に敵はひるみ、その隙にエースも空中タックルを仕掛け、ナイスと力を合わせながらアスラ=ゼウスを成層圏まで追いやった。
『どうやら我々も神獣の真の力を使わなければならんようだな…やむを得ん!!』
アスラ=ゼウスは両手を広げると、背後の空間がどんどん歪んでいく。空間の歪みから大量の反物質エネルギーが神獣の体に集中していき、神獣の体が黒く変色していく。
『こコカらは我々モ戦いニ参加させテもらおウ…』
「エースさん、何が起こってるんです?」
「ヤプロイドがあの神獣と同化したんだ…ヤツの体からすさまじい量の反物質エネルギーを感じる!」
アスラ=ゼウスは両手にエネルギーを集中させ、黒いエネルギーの球を二つ作ると、それを二人めがけて投げつける。
『死ネぇ!!!』
「ナイス、あれに当たるとまずいことになる!とにかくあれをかわすんだ!」
二人はそれをよけようと飛行するが、そのエネルギー弾は追尾式なのか、避けても避けても二人を追ってくる。
(これじゃあらちがあかない!どう対処すれば…)
悩むナイスの脳裏に、輝の声が響く。
―ナイス、聞こえるか!?-
(輝!あぁ、聞こえるぞ!この状況をどう打開すればいい?)
―いいか、あの球から一定の距離を取って、素早く敵の背後に回り込むんだ!―
(背後に?わかった、君を信じよう!)
―敵は追加のエネルギー弾を投げつけようとしてる。時間がないぞ!-
ナイスは飛行速度を上げ、エネルギー弾から距離を取るとアスラ=ゼウスに向かって急接近する。
『邪魔ヲするナァ!!』
神獣は一回転し、ナイスにしっぽで打撃を与えようとするがナイスは体を横にそらし、その攻撃をよける。そして次の瞬間、アスラ=ゼウスの背後を取った。
ナイスを追尾してきたエネルギー弾はナイスを追い、そのままアスラ=ゼウスに直撃する。
『ぎぃヤァぁァ!??』
使い手自身さえも大ダメージを受けるほど、凄まじい威力である。その一撃が効いたのか、エースを追尾していた球が消滅する。
「でかしたぞ、ナイス!」
エースはすかさず額に両手を当て、神獣に光線を発射する!
「パンチレーザー!!」
体の青い結晶の一つに光線は命中し、悲痛な叫びが大気圏にこだまする。
『キぃぃアあアァァ!!!』
しかし、それと同時に二人のカラータイマーが点滅を始める。ナイスも連続して亜光速で飛行を続けていたため、スタミナの限界が近かったのだ。
『貴様らノ限界も近イようだナ…最後ノ力比べト行コうじャアないカ!!!』
アスラ=ゼウスは口に膨大な量のエネルギーを集中させ、体が紫色に怪しく輝き始めた。
「ナイス、今度の一撃で必ず仕留めなければ、私たちも負けてしまうぞ!」
ナイスの体に緊張が走る。地球や人類だけじゃない。ウルトラの一族みんなの運命がこの一撃にかかっている。その緊迫した感情は、輝にも伝わってきた。
その時だった。
「頑張って!」
はっきりと輝には聞こえた。月子の声だ。しかし、ここは地上4300メートル。人の声がここまで届くはずはない。
「頑張って、ウルトラマン!あなたが負けたら、地球はどうなっちゃうのよ!」
それでも、輝には月子の声が聞こえ続ける。
いや、月子の声だけじゃない。彗星の声も、その周りにいる人々みんなの声が!
―これは…君にも聞こえているのか、ナイス?-
(あぁ、聞こえるよ…私たちの勝利を信じ、声援を送ってくれている人々の声が!)
ナイスたちは気づかなかったが、彼らの戦いはHTDFの無人衛星により撮影され、全国にリアルタイムで放送されていたのだった。地上にいる人々は、町中のスクリーンから彼らの姿を見ながら、彼らに声援を送っていたのだ。
「ナイス、君にも聞こえるだろう?彼らの声援こそが、我々に奇跡を呼び起こす力を与えてくれる!この声に応えるためにも、この一撃に私たちの全てをかけるんだ!!」
エースはウルトラホールに虹色のエネルギーを集中させ、光の球を作り出した。それに続くように、ナイスの両手にも虹色の光が集まり、両手をクロスさせ、発射の準備をする。
『滅びロォ!!!!』
アスラ=ゼウスの口から反物質エネルギーを集中させた光線が打ち出される。それに続き、エースは両手に集めた光エネルギーを投げつける。
『スペースQ!!!』
スペースQが繰り出せれた直後、ナイスはすかさず必殺光線を撃つ!
『ミレニアムクロス!!』
スペースQとミレニアムクロスのエネルギーが共鳴し、光の刃のようになって敵の光線とぶつかり合う。しかし、二人の攻撃の威力が足りないのか、ナイスの腕から発せられる光線が徐々にナスの方に押されていく。
「く、くっそぉぉぉ!!!!」
「諦めるな!!!メタリウム光線!!!」
エースもメタリウム光線で加勢する。押され気味だった二人の光線は徐々に敵に向かって押し返されていく。ナイスは自分の持つ全てのエネルギーを腕に集中させ、X字にクロスさせていた両腕を少しずつL字に組み替える。
「うぉぉぉぉ!!!!」
二人の光線はどんどん神獣の光線を押し切り、ついに二人の合体光線は敵に直撃する!
『ば、馬鹿ナァぁぁァ!!!神獣ガ…ウルトラマンなンゾにィぃ!!!!!』
断末魔のような叫びをあげ、アスラ=ゼウスはヤプロイドと共に大爆発を起こした。あまりの爆風に、衛星からの映像にもノイズが入る。
数秒もするとそこにはもうあの禍々しい敵の姿はなく、二人の巨人の姿だけがスクリーンに映し出されていた。
異次元からの脅威にウルトラマンは勝利し、絶望の未来に終止符が打たれたのだ。
「勝った…んですか?」
「あぁ。勝ったんだよ。私たちは。ありがとう、ナイス。君は大した男だ。」
エースがナイスに握手を求めるように右手を彼に差し出す。ナイスはためらいながらもその手を握った。
「こ、こちらこそありがとうございます!!!」
ナイスは今起こったことが信じられないでいた。地球への任務はおろか、防衛任務さえまともに与えられなかった自分がウルトラ兄弟の一員に自分の実力が認められたのだ。
「だが、慢心してはいけない。ヤプロイドもヤプールの遺志を継ぐ者だ。また我々に挑戦を挑んでくるだろう。その時に備え、我々は常に強くなり続けなければならないのだ。」
「そうですね…でも、私には最高のパートナーがいますから!」
「パートナー...そうか、君とその人間は固い絆で繋がれているのだな。」
エースは嬉しかった。ヤプロイドを倒せたことよりも、星々を超えた友情がここに芽生え、花を咲かせたことを。
「最後に忘れないでほしいことがある。私は、ヤプールとの闘いの中で幾度となく信じた人に裏切られ、騙されてきた。それでもこの願いだけは変わらない。」
ナイスは心してそれを聞き入れた。
「やさしさを失わないでくれ。弱い者をいたわり、互いに助け合い、どこの国の人たちとも友達になろうとする気持ちを、失わないでくれ。たとえその気持ちが、何百回裏切られようと。」
そのエースの言葉は、衛星を伝い、全国へと放送された。
「それが私の変わらぬ願いだ。君と戦えて光栄だった。君になら、この地球を託せそうだ。」
「エースさん…この地球は、私が…いや、私たちが命に代えても守ります。」
エースは軽くうなずくと、宇宙の彼方へと飛び立っていった。
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戦いを終え、ナイスは自分の疲れを癒すべく輝の体の中へと身を潜めた。
自分の姿を取り戻した輝は、真っ先に月子たちがもといた場所へと走っていった。
「確かこの辺だったはず…あそこだ!」
月子と彗星は元居た場所にいた。輝は手を振りながら、二人の名前を呼びかける。
「おーい!月子―!すいちゃーん!」
その声に気づき、二人は輝のほうを向く。
「あ…あっくん!!」
月子は輝に走り寄り、輝に抱き着いた。遅れて走ってきた彗星も輝の足に抱き着き、父の顔を見て安心したのか、泣き出してしまった。
「うぅ…うぇーん…怖かったよぉ…」
「ごめんな、すいちゃん、月子。でも、ちゃんとすぐ帰ってきたろ?」
「うん…ぐすん…」
月子は輝の横顔を観察するようにじっと見つめていた。
「何だよ月子、そんな顔して。」
「うぅん、なんでもない。お疲れ様。」
「あ、あぁ…別に疲れるようなことは何にもしてなかったけどな!」
「ふふっ…」
「だから何だよ!」
「なんでもないって言ってるじゃない、もう!さっ、避難勧告はまだ解除されてないわよ! 早くコンヴォイに向かわないと。」
「お、おう。そうだったな!行くよ、すいちゃん。」
「うぅ…おんぶ。」
彗星が両手を広げながらねだる。
「まったく…お前って子は…月子、スーツケースを頼む。」
「はいはい。よかったねー、すいちゃん。おんぶしてもらえて。」
「うん!ありがとう、あっくん。」
「だから人前であっくん呼びはよしてくれよ…」
彗星をしぶしぶ背中に背負いながら輝はコンヴォイに向かって行った。
(まったく、相変わらず嘘が下手な人。)
月子はくすりと笑いながら輝の後を歩くのだった。
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賢者の導き
これまで実際のウルトラマンの作品の長さをイメージして各話を書いていたのですが、少し短めに区切りながら投稿したほうが読みやすいかなと思い、一話ごとの長さを短くしてみました。
さて、今回からかつてナイスと戦ったこの宇宙の光の巨人、テノにスポットライトを当てていこうと思います。大人の事情で本来ウルトラマンでは主人公の周りの人物を中心にストーリーが展開されていくことが多いのですが、この作品ではナイスと輝以外のキャラたちにもしっかり活躍させてあげたいと思い、テノという女戦士のキャラを取り入れてみました。
すこし従来のウルトラシリーズとは違った作風になると思いますが、気に入っていただければ幸いです。
ケンタウルス座
地球から最も近い惑星系に位置するこの惑星で、人型の宇宙生命体と巨大宇宙生物の群れが格闘していた。
その人型宇宙生物は、かつてウルトラマンナイスに敗れそのまま姿を消した、テノという青い光の巨人である。彼女を取り巻くのはコウモリのような姿をした宇宙生物たち。数々の異星人たちの宇宙船を群れで襲い、今でも宇宙航海士から恐れられているポポバウアと呼ばれる翼獣型宇宙生物だ。
ポポバウアはテノの周りを旋回しながら、テノに向かい火球を吐きつける。それをテノは慣れた手つきで華麗に一つ一つ弾いていく。
ポポバウアの一匹がしびれを切らしたのか、高度を落としながら急接近してくる。その瞬間、それを待っていたかのようにテノは構えを変え、敵に回し蹴りを食らわせる。その蹴りが炸裂したかと思った次の瞬間、テノの体は頭上を滑空している別個体の元に現れ、そいつの頭部に正確な正拳突きを繰り出した。頭部が急所なのか、それをもろに受け止めたポポバウアはよろめきながら落下していく。
あれよあれよという間にテノは空に舞っていたポポバウアたちに一匹ずつ瞬間移動しながら打撃を加えていき、ついには最後の一匹の頭にかかと落としを決めると、そのまま地上にしゅたっと着陸した。
「
説明しよう!
テノは宇宙拳法、流星拳の使い手。粒子封殺弾は打撃により生じる衝撃のエネルギーを用いて体を瞬間移動させ、次の攻撃に繋げる
流星拳は
「なにか聞きなれない奴の声が聞こえた気がしたが…まぁいいだろう。それにしても弱い!弱すぎるぞ!この銀河系にはナイスしか私の相手になるような輩はいないのか!」
テノはあの戦いの後、ナイスを倒すため天の川銀河のあらゆる宇宙生物と戦ってきたが、テノはそれらを難なく倒すことができた。
「これでは訓練どころか暇つぶしにさえならん…」
そこでテノは思い出した。天の川銀河の最果てにはザルバス星というかつて文明が栄えた惑星があり、そこには2億5千万年の知恵を蓄えた賢者がただ一人すむという噂を。彼女の一族の者たちもかつて、その賢者から導きを乞い、栄光を手にしたという。
「こんなくだらない噂話をまともに受け止めるつもりはないが…せっかく天の川銀河まで来たのだ、確かめてみても損はあるまい。」
テノがザルバス星を見つけるまでさほど時間はかからなかった。訓練相手を探すために天の銀河の星々をめぐり飛んでいたので、この銀河系のおおよその地理をすでに把握していたからである。
テノがザルバス星に降り立つと、そこにはかつての文明の痕跡が遺跡となって残っていた。奇抜なデザインの建物や、ここに住んでいた異星人で溢れていたであろう大広場、そしてゴーストタウンと化した街並みが広がっている。
今は無人の惑星と化したザルバス星だが、そこにそびえる山の頂上には青白い光が今も灯っており、殺風景な周りの風景とコントラストを醸し出している。
「なるほど、あそこに賢者が住んでいるというわけか…探す手間が省けたな。」
早速テノは山の頂上まで飛行し、そこへ着陸した。青白い光の正体はプラズマ融合装置であり、そこで生成されるエネルギーを使って賢者は生活しているようだ。ここでかつては儀式のようなものが行われていたのか、不思議な形の岩やトーテムのような彫刻物が並べられている。その奥に紫色の模様が入った岩で作られた建造物があり、そこに賢者がいるのではないかとテノは推測した。
「賢者殿!おられるか!」
テノは建物のドアの前に立ち、大声で尋ねた。するとドアは徐々に透けていき、しまいには消えてなくなってしまった。
その向こうには異様な姿をした老人の姿があった。肩幅が異常に広く、背は曲がり、それと対照的に細い手足が伸びている。頭部の皮膚はしなびれており、両目は閉じているがその中心にある緑色の結晶のようなものがぎらぎらと輝いており、部屋を不気味に照らしている。
あまりに異様な光景にテノは思わず固唾をのんだ。立ち尽くすテノに老人は震える声で言った。
「そなたが…テノ=トライアンギュリスだな。」
テノは驚愕した。半ば思い付きでこの場所を尋ねたというのに、この老人は自分の名をなぜか知っている。彼女はこの男こそがうわさに聞く賢者であると確信した。
「さ、さようでございます。」
これが真の賢者の持つ威厳なのだろうか。自分の一族の長と話すような言葉遣いを、無意識のうちにテノは使っていた。
「あのウルトラマンと対峙したと聞いた。強かったであろう。あの光の巨人は。」
「恥ずかしながら、まことに強うございました。賢者殿はあの巨人についてご存じなのですか?」
「ウルトラマン…あの一族の名は聞こえんとしても耳に入ってくる。そなたらと同じ、大いなる力を授かりし一族だ。」
「大いなる力…どうりであれほど強いわけだ…」
テノの一族、トライアンギュリスはウルトラの一族と同じ、プラズマ融合装置の光を浴びて巨人と化した者たちなのだ。
「賢者殿、私はあの男に勝たなければなりません。我が流派、流星拳の栄光のためにも。」
「ふふ…2万年前と同じよのう。そなたらの一族は己の流派を高めるために限りなく力を求め続ける…」
「それが我が一族の定め!流星拳を引き継ぐ私めに課された課題こそ、あの男を倒し、我が流派をより強くさせることなのです。それ故どうぞ、お導き下さい。力を求める、弱者の私を。」
賢者は重い腰を持ち上げるように杖を突きながらゆっくりと立ち上がると、手のひらから赤い光を放ちながら赤色の結晶を生成し始めた。光が消え、結晶が完成するとそれをテノに向かい、ゆっくりと宙に浮かべながら移動させる。
テノがそれを受け止めると、結晶はピカリと赤い光を放ち、ある方向を指し示した。
「そなたに必要なのは…自分と戦う相手ではない。そなたは自分に必要なものは全て自らの内にあると思い込んでおるようだ。」
(ともに鍛え合う仲間を探せ…ということか?)
「その光が指し示す地球人と共に暮らすがよい。なぜウルトラの一族ともあろう者たちが、人間たちを守りたがるのかわかるであろう。」
「地球人…ですか!?お言葉ですが賢者殿、地球人ごときと暮らせなどと…」
「我はそなたが導きを求めたので、そなたを導こうとしているのみ。所詮、老人の戯言だ。信じるも信じまいも、そなたの好きにするがよい。我の言葉を信じまいとするならば、その赤石を置いていくがいい。」
テノは赤石を見つめ、少し考えると赤石を握りしめ、くるりと振り返ると石が示すほうへと飛び立っていった。
「ほほ。礼も言わずに行くとは。威勢のいいものだな。」
賢者はそうつぶやくと、後ろの本棚から読みかけの書物を取り出し、静かに読書に耽った。本を開くと同時に、彼のいる建造物のドアが再び実体化し、建物への入り口が閉ざされた。
テノは賢者の導きに不信感を抱きながらも、赤石の導く方角へと粒子状態になりながら亜光速で飛行する。その示す先には、やはり地球があった。さらにその先へと移動すると、ウルトラマンエースとナイスが神獣アスラ=ゼウスと死闘を繰り広げている最中であった。
「あの巨人は誰だ?いやそれどころではない。ナイスのあの動きは何だ!?私が雑魚どもと戦っている間に、ナイスはあそこまで強くなったというのか!?」
粒子状態のまま飛行してきたので周りの人間にはテノの姿は見えないが、テノは二人の戦いを上空から見下ろしていた。テノの心に焦りが積もる。彼女とナイスとの力の差がどんどん開いていくのを実感したからだ。
テノは赤石の指し示すほうへと急いだ。
「もう、なんでもいい。この男との力の差を縮めなければ、私はこの男に勝てぬまま終わってしまう!」
赤石が示した先にあったのは、なんと一人の少女だった。がれきの中、今にも力尽きようと小さな息で呼吸しながら苦しそうに横になっている。塵や火傷のせいで顔つきさえもよくわからない状態だ。そのそばには、もう一人の人間が必死に少女を助けようと応急処置を施している。テノは赤石の導きが信じられないのか、驚愕しながらその光景を見つめた。
「この小娘を…赤石は示していただと…!?ふざけるな!私にはこんな弱小生物に構っている暇などないのだ!」
その瞬間、赤石の輝きは強さを増し、テノの粒子に干渉し始める。
「な、なんだ!?何をする―ッ!!」
テノの粒子がその少女に引きつけられていく。テノは抵抗しようと必死に体を実体化させようとするが、赤石の力には敵わなかった。テノの粒子が少女の体とどんどん同化していくのを彼女は感じた。
「くそっ!私の…意識が….」
遠のいていく意識の中、途切れ途切れにテノにはもう一人の人間の言葉が聞こえた。
「おい….だい…うぶか!?おい!!し..りしろ!!」
薄れていく呼びかけの声の中、テノの意識はこの少女の体の中に溶け込んでいくのだった。
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とある女子高生の日常
ここはT地区中央病院。
B病棟の一室で、宮田優香は目を覚ました。
口には呼吸器がはめられており、両腕に無数の点滴の針が刺さっている。
頭がまだぼーっとした感覚に包まれており、体もうまく動かせなかった。
ふと横を見ると、看護婦が何か機械で作業をしている。口だけならうまく動かせるだろうと思った優香は、震える声で看護婦に挨拶をした。
「お…お疲れ様です…」
看護婦の体がピタリと止まり、ゆっくりと優香の方を振り向く。彼女と優香の目が合った瞬間、叫びながら彼女は病室を出ていった。
「田中先生!!田中先生!!宮田さんが!!!」
とろんとした目つきで優香はその様子を見ながら、いったい何が起こっているのかと混乱していた。まもなくして、白衣姿の男が急ぎ足で優香の病室に入ってきた。この人が優香の担当医らしい。眉間にしわを寄せながらその医者は優香の目を親指と人差し指で軽く開き、小型のライトで照らし、瞳孔の収縮を確認する。
「宮田さん、私が分かりますか?」
見た目と反した落ち着いた声で彼は優香に問いかける。
「はい…」
「何ということだ…信じられん。宮田さん、体は動かせますか?」
優香は両手に力を込め、何とか持ち上げようとした。彼女はゆっくりと両手を持ち上げ、両手を閉じて開ける動作を何度か繰り返えすことができた。
「ありがとうございます。今度は足を少し動かしてもらえませんか?」
優香は足に力を込めると、わずかだが両足を左右に振ることができた。
「ほぼ神経に異常もなさそうだ…これは奇跡としか言いようがない。目黒さん、宮田さんのご親族に連絡を。」
看護婦が軽くうなずくと、急ぎ足で病室から出ていった。優香の家族に連絡を入れるのだろう。
「宮田さん、いいですか。落ち着いて聞いてください。あなたは三日前にこの病院に運び込まれたんです…」
田中という医者は淡々とこれまでの出来事を優香に話し始めた。優香はあの神獣が現れた際にある少年を助けるために重傷を負い、この病院に運び込まれたという。医師たちの必死の治療のおかげでなんとか一命を取り止めたが植物状態に陥り、回復のめどがほぼない状態にあったという。
さっきその事実を優香の家族に説明し、そのショックのあまり優香の母は泣き崩れ、今は別の看護婦が付き添っているのだという。
優香は医者の言葉をただ聞くだけしかできなかった。彼女には少年をかばった直後の記憶がほぼなかったのだ。思い出せることと言えば…そう、何か温かいものが体を満たしていく感覚ぐらいだった。
薄れ行く意識の中、優香は自分の中に違う誰かが入ってくるのをなぜか覚えていた。他の記憶は曖昧なのに、そのことだけは鮮明に記憶しているのだ。
(きっと走馬灯的なアレなんじゃないかな…死を目前にすると人って不思議な体験をするって言うし…)
そう適当にあしらい、優香は医者の話に再び耳を傾けた。
「…ですから、あなたがこうやって私と会話していることだけでも、すごいことなんですよ!」
「は、はぁ…」
「…なんだか微妙なリアクションですね…まぁいいでしょう。もうすぐご親族の方が来られると思うので、機密検査はその後にしましょう。」
「機密検査…ですか?」
「意識が戻ったとはいえ、あなたの体はついさっきまで植物状態にあった。何か異常がないかどうか、しっかり検査しないといけません。」
「ふ、ふぇぇ…血液検査とかですか…?」
「そのほかにもMRI検査とNBI検査も行わなくてはいけません。大丈夫。これで異常がなければ体の機能が回復し次第退院できますよ。それでは、私はこれで。」
そう言い残すと彼は病室から去っていった。優香は医者の言葉を頭の中で整理しながら天井をぼーっと見つめた。
そして、病室のドアが勢いよく開いたかと思うと、優香の母、藍羽と妹の友恵が優香のもとに走り寄ってくる。
「優香!!」
「お姉ちゃん!!」
二人は布団の上から優香に抱き着くと、安堵の涙を流した。
「母さん…友恵…心配かけちゃってごめんね…」
優香には父親がいなかった。いや、今はいない、と言ったほうが正しいだろう。優香の父親、純一は妹の友恵が生まれる前に失踪してしまったのだ。彼の行方については、優香は何も知らなかった。しかし、彼女は頑なに父はまだ生きており、必ず帰ってくると信じている。
それまで私が友恵を守らなければいけない。優香はそう心に決め、これまで生きてきたのだ。
今も彼女は涙をこらえ、ただ二人を見つめながら微笑んでいるだけだった。
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精密検査の結果、体に異常はないとみなされ、一週間後には優香は晴れて退院し、前のように学校に行くことができた。
彼女が通うのはT地区みのり高等学校。名門といわれるほどでもないが、決して格下の高校でもない。並より少し上、といったところである。優香はこの高校の二年生だった。今日も彼女のいつもと変わらない学校での一日が始まろうとしていた。
最寄りの駅で電車に乗り、T地区の都心の駅で別の電車に乗り継いでから、みのり町の駅で降りる。通いなれた通学路である。
ヤプロイドが破壊した町は、政府の復興プロジェクトによってほぼ元通りになっていた。HTDFの支援を受けたプロジェクトのため、復興のスピードがすさまじく速いのだ、と優香は社会の授業で習った。
しかし、街並みは元通りになっても、人々はどことなく暗い表情で街を行き来しているようだった。それもそのはず、昨今この周辺は地球外生命体や異星人たちの襲来が絶えないのだ。しかし、それは日本のT地区に限ったことではなかった。世界各地で同じように古代生物や異星人たちによる災害が勃発し始めてきている。
ウルトラマンナイスがこれらの脅威を退けてくれるとはいえ、侵略の爪痕は街から消え去ることはないのだった。
(なんで今になってこんなに酷いことが起こり始めているんだろう…私がまだ小っちゃかった頃は平和だったのに…)
学校に向かって歩きながら優香は思った。
これからこの周辺はどうなってしまうのか、またあのような化け物が襲ってくるのだろうか…そんなことを考えていると、いつの間にか優香は校門の近くまで来ていた。
優香のクラスは二年D組。校舎の階段を上がって、右から4つ目の教室だ。ドアを開けるなり、優香はクラスメイトたちに大きく挨拶をした。
「おはようございます!」
「あっ、優香ちゃん、おっはよー。もう退院なんだ。」
クラスの窓側に座っている女子が優香に尋ねる。その子の周りには他の女子生徒が二人集まり、談笑していたようだった。
「はい!おかげさまで。」
優香は家族以外の人と敬語で話す癖がある。たとえどんなに仲がいい親友とでもだ。
「ねぇねぇ、一時は生死の境を彷徨ってたってマジ?」
「そう…みたいですね。でも、今はこの通り!元気百倍です!」
「あはっ、まるでアンパンマンじゃん。」
優香の席はその女子たちがたむろしている席のすぐ横にある。優香は席に着くと、カバンを下ろし、一限目の準備を始めた。ノートと参考書を机の上に出し、前に配られたプリントに目を通す。
「あっ、そういえばさ。大西先生の宿題、やってきた?」
「げぇっ、そんなのあったっけ?」
「嘘ぉ~!アンタの写そうと思ってたのに!」
「そういえばあったような…ねぇ優香ちゃん、大西先生の宿題…やってきてたり…する?」
「あっ、はい。MINEで担任の前田先生から知らされてたので…」
MINEとは誰もが利用するメッセージアプリのことである。大西先生が教えている教科は歴史。今日の一限目の科目である。
「ラッキー!!さすが優香ちゃん、真面目ぇ~!ねぇ、その…悪いけど写させてくんないかな?」
「う、うぅ…しょうがありませんね….」
「やったー!!優香ちゃん最高!サンキューね!」
そう言うなりその女子は優香のノートをひょいと拝借し、宿題のページを写し始めた。他の二人もノートを自分たちの机から出し、急いで写し始める。
間もなくして一限目のベルが鳴り、時間ギリギリまで宿題を写し終わると、三人はノートをぶっきらぼうに優香に返した。
「はい!ありがとね~!」
「どう…いたしまして…」
そして大西先生が教室に入り、一限目が始まったのだった。
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六限目の授業が終わり、優香のクラスメイトが部活動の準備を始める中、優香はせかせかと参考書やノートをカバンにしまい、都内の予備校へと急ぐのだった。
優香の通う予備校はビデオ授業がメインとなっており、好きな時間に予備校に通い、そこに設置されてあるモニターから自分の好きなペースで授業映像を視聴し、勉強できるというものであった。
約一時間ほど予備校で勉強したら、今度は急いで帰宅し、妹の友恵の世話をしなければならない。藍羽は仕事で8時半ごろまで帰ってこないので、代わりに優香が夕飯の支度や明日の弁当作りをしなければならないのだ。
他の基本的な家事は家に搭載されている清潔度管理システムでなんとかなっているが、料理などの人間がやらなければいけない家事は基本的に全部優香が受け持っていた。
一通り家事を終えると今度は学校の宿題と戦わなくてはならない。高校生の勉強は学校が終わってから始まる、と言っても過言ではないのである。
そしてやっと一日が終わり、やっと一息つける時間がやってくる。優香にとっての至高の時間である。
優香はスマホを開き、小説投稿サイトにアクセスすると、お気に入りの二次創作の小説の新作が投稿されていないか確認する。彼女が特に好きなのは大人気のアニメ、「進撃の亜人」の同人小説だ。といっても、彼女が求めているのはボーイズラブ、いわゆるBLジャンルの同人作品なのだが…
「あっ、更新されてる!あの後二人はどうなっちゃうんだろう…」
早速更新された作品を見つけ、ものすごいスピードで読み進めていく。自分の好みのシチュエーションが書かれていたのか、顔を赤らめながら優香は絶句する。
「くぅ~…!!尊すぎるぅ~…!!」
挙句の果てに顔を机にうずめ、机をどんどんと叩く始末。しかしその時、
ドンッ!!
鈍い音が優香の部屋に鳴り響いた。よく見ると優香が叩いていた机の箇所がへこんでいる。木製の頑丈な勉強机に、優香の手の形がくっきりと押し付けられていた。
「え、えぇっ?」
机を叩いていた手を見てみると別にけがはなかった。
「まさか…これを…私が…?」
部屋の外からはすたすたと誰かが部屋に歩み寄ってくる足音が聞こえる。恐らく藍羽が突然の物音に気付き、優香の安否を確認しに来たのだろう。
「優香!大丈夫!?開けるわよ!」
(や、やばい!隠さないと…)
優香は慌ててスマホの画面を閉じ、ノートで机のへこみを隠すと、勉強しているふりをした。
ガチャリとドアが開き、藍羽が部屋を見渡すと参考書を読んでいる優香の姿があった。
「ゆ、優香?」
「なぁに?お母さん。」
「今なんか大きな音がしたような気がしたんだけど…気のせいかしら。」
「そ、そうじゃない?きっとそうよ!」
「そう…じゃあいいわ。あなた病み上がりなんだから、無理しちゃだめよ。そろそろ寝なさい。」
「う、うん。お休み、お母さん。」
「お休み。」
藍羽はそういうと優香の部屋を後にした。ドアが半開きのままだったため、優香はしぶしぶ席を立ってドアを閉めた。
「それにしても…」
優香はノートをどかし、机のへこみを見ながら思った。
「私が眠っている間に…何かあったのかな…?実は私、魔法少女になっちゃってたりして!…んなわけないか。もう寝よう。」
一日の疲れから、優香にはさっき起こったことについて考える余裕はなかった。優香は部屋の電気を消すとベッドに寝ころび、スマホのアラームをセットすると布団を胸までかぶり、すやすやと眠りにつくのだった。
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テノ覚醒!火を噴く流星拳!
投稿ペースが不規則になってしまい、申し訳ありません。これからの流れなどいろいろ試行錯誤しながらストーリーを組んでいったら思ったよりも長くかかってしまいました。(笑)
さて、新キャラの宮田優香ちゃんについてですが、実は宮田ゆまというモデルになったキャラがいます。遊戯王TF6という(ギャルゲー?)カードゲームに出てくるキャラなのですが、初めてプレイしたときに気に入ったキャラなので設定の一部を参考にさせていただきました。
人間が持つ「心の強さ」のようなものにテノが少しづつ触れていき、その中で優香も「他人を傷つける覚悟」のようなものを学んでいく物語にできたらな...と思ってます。
あっ、もちろんナイスと輝の話も忘れていませんよ?(笑)
これからの展開も楽しみにしていただければ幸いです。
午後6時25分。
太陽がそろそろ沈み切り、街に暗闇がさし始めた頃。
宮田優香はスーパーからの総菜や食材の入ったポリ袋を持ちながら帰路についていた。
街は優香のようにこれから家に帰る人たちで満たされていた。皆、一日の疲れを背負いながら誰かが待つ家にへと変えるのだろう。
「ふぅ…今日の勉強も難しかったなぁ…」
軽い独り言をぼそりと言いながら優香が歩いていると、誰かが優香の肩を叩いた。
「ねぇねぇ、君、これからどこ行くの?家?」
優香が振り向くとそこには背の高い金髪の男が立っていた。白いシャツに革ジャンを羽織っており、典型的なチャラ男のような恰好をしていた。
「ひっ…な、なんですか?」
「だからぁ、どこ行くのって聞いてんの。それ、重いでしょ、手伝ってあげるよ。」
「結構ですっ!警察呼びますよ!」
「まぁまぁ、落ち着いて…」
男はグッと優香の肩に力を込め、優香を裏路地へと突き倒すように押し込んだ。
「キャッ…何するんですか!」
「そんなプンプンしなくても。仲良くしようよ。なぁ、みんな!?」
その男の声と共に、物陰から同じような格好をした男が3人がむくりと立ち上がり、優香をぎょろりと睨みつけた。
「あなたたち…なんのつもり…きゃあっ!!」
目の前の男が優香を裏路地の奥へと突き飛ばす。ポリ袋からはトマトが転げ落ち、それを男は踏みつぶしながら近づいてくる。
振り返ると後ろの男たちもゆっくりと距離を詰めてきていた。
「なぁ、嬢ちゃん。声出したり変な真似すっとよォ…女だからって容赦しねェぞ…」
男はナイフをジャケットから取り出し、しゃがみこんで優香の顔と前まで距離を詰めてきた。
人間は境地に達したとき、頭の回転が普段の数十倍にまで早くなる。優香は頭をフル回転させ、ここから抜け出す方法を考えた。
まず思いついた策がが大声を発し、誰かに助けを求めることだ。しかし、声を発すればこの男たちは何をしてくるかわからない。警察がここにたどり着く間に、優香の命は奪われてしまうかもしれない。優香はここから生きて帰らなければならないのだ。
(私が死んだらお母さんと友恵は…だめ!絶対生きて帰らないと!)
次に思いついたのが、いっそ身を任せ、隙を見て逃げ出すこと。しかし、そんなことをしても助かる保証はどこにもない。
最後に思い付いたのが、この男たちを何とか退け、自力で脱出すること。しかし、彼女には到底そんなことができる自信はなかった。
「ふっ、震えてるねぇ。大丈夫。痛いのは始めだけだから。」
何とかしなくては。そう一心に思い続ける優香だったが、名にもいい策が思いつかない。それでも優香はこの状況を打破できるアイデアがあると信じ続けた。
(信じる者は…信じる者は救われなきゃいけないのに…!!)
その瞬間、すさまじい眠気のようなものに優香は襲われた。意識がどんどん遠のいていく。
(なんとか…しないと…)
優香の目が白目をむき、そのまま体ごと後ろに倒れていった。
「こいつ…気絶しやがった!」
「こいつぁ好都合だぜ。押さえつける手間が省ける。」
「オイ、俺が先だかんな!こいつを捕まえたのは俺の手柄だ!」
「サトル、お前いつもそう言うくせによォ。なかなか終わんねぇからこっちが萎えちまうんだよ。たまには俺にも先にヤらせろ。」
「おいコージ。抜け駆けはねぇぜ。じゃあここは公平にじゃんけんで決めようや。」
「チッ。しょうがねぇ。」
そういうと4人の男たちはじゃんけんを始めた。
しかし、彼らは気づかなかった。優香の体がピクリと動き、彼らの様子をうかがっていることを。
「じゃん、けん、ポン!よっしゃ、じゃあ俺からな!」
「くそっ。マサルのやつ、運だけはいいんだよなぁ。よし、続きやっぞ。」
他の三人がじゃんけんをする中、マサルという男は地面に仰向けに寝そべっている優香の寝顔を見つめ、ゴクリと唾をのんだ。目がだんだん見開いていき、息が荒くなっている。
「こ、こいつぁ俺のタイプだ…サトルの奴、いい獲物を捕まえてきたなぁ…」
にやりと欲望を露にしたような笑みを浮かべると、マサルは優香のブレーザーを脱がそうと手を伸ばす。
その時だった。
ガシッ。
何者かの手がマサルの手をつかんだ。
「な、なんだぁ…?」
よく見ると、それは優香の手だった。マサルが優香の手に気を取られていると、優香は身を起こし、もう片方の手でサトルの頬に一撃を食らわせる。
「グハァッ!!」
頬を抑えながらマサルは思わずあとずさりした。
「どうしたマサル!て、てめぇ…」
優香はゆっくりと立ち上がり、不良たちを睨みつけた。しかし、そこにいたのはさっきまで怯えていた女子高生の姿ではなかった。
敵を睨みつける、百戦錬磨の戦士の顔立ちだった。
「立ち去れ。今なら逃がしてやる。」
「な、何ィ!?」
「立ち去れと言っている。貴様らは頭だけでなく耳も腐っているようだな。」
「おい、てめぇ何があったか知らねぇがあまり舐めた口利いてっと…」
ナイフを持ったサトルが優香に近づこうとしたその瞬間、優香の体が一瞬青白く光り、目にも留まらぬ速さでサトルに向かって突進し、腹に強烈な打撃を打ち込んだ。
「グェェ!!??」
サトルの体は突き飛ばされ、後ろにいた男たちをもボウリングのピンのように倒してしまった。
『アルファ式…疾風破山拳。』
優香は床で頬を抑えながらマサルをぎょろりと睨みつけた。
「ひ、ひぃぃ!!!」
マサルは他の仲間のところへと逃げていったが、まだ優香の打撃を食らっていない男二人は起き上がり、優香に向かって殴りかかってきた。
「このクソアマァ!!!」
優香は彼らの攻撃を一撃ずつ華麗に捌き、一瞬の隙をついて二人とも同時に手のひらを使って押し返してしまった。
そして、くるりと体を一回転させるとその勢いを利用し、回し蹴りを二人に炸裂させる!
『アルファ式・鉄脚回し蹴り!!』
その威力に二人は吹っ飛ばされ、サトルとマサルの目の前まで彼らの体は転がった。
「ぐ、ぐぉ…」
「だから立ち去れ、と言ったのだ。貴様らのようなクズはいっそここで…グッ!!」
突然の頭痛が優香を襲う。
「失せろ…」
「え?」
「失せろと言っているッ!このゴミカスどもがぁ!!」
「は、はいぃぃ!!!」
不良たちは体を押さえながら一目散に逃げていった。
「き、貴様ぁ…何の真似だ?」
―あなただったんですね?あの時私を助けてくれた人は。-
「勘違いするなよ。私は好きで貴様を助けたわけじゃあない…あの賢者とやら…何をたくらんでいるんだ…?」
説明しよう!
今、優香の体を操っているのはトライアンギュリス一族の一人、テノである。
彼女は賢者の赤石の力により優香と一体化し、優香の命を救ったのだ。
しかし、これまでテノは心の中で潜み、自分の意識を優香に感じさせることすらできなかった。だがなんとか生き延びなければならないという優香の強い思いに同調し、一時的に優香の意識と自分の意識を入れ替えたのだ!
―わわわっ、何ですか今の説明!?-
「気にするな。すぐに慣れる。それよりも優香とやら。なぜ私の邪魔をした?あのような連中はここで始末してしまったほうが世のためなんだぞ。」
―いけません!人の命は、そんな簡単に奪っちゃいけないんですっ!-
「ふん。綺麗ごとを。貴様、さっきまで置かれていた状況を理解していないようだな。私が貴様の体を借りなければ今頃貴様は…」
―あぁんもう!わかってますよ!それは感謝しています!でもそれとこれとは話が別です!-
「何を言う!強者である私が弱者である奴らを打ち負かしたのだ。私が奴らに何をしようと勝手だろう!」
―じゃあ、なんで『弱者』の私を助けてくれたんです?-
「いいか、私は貴様を助けたんじゃない。貴様が弱いばかりに、何もできず好き勝手される私の身にもなれ!」
―あ、あぅぅ…ごめんなさい…-
「ちっ。あの賢者め。こんな小娘の体に私を閉じ込めて、どうするつもりだ!まぁいい。体を動かせるようになったんだ。久しぶりに外の世界を味合わせてもらおうか。」
―あ、あのぅ…-
「なんだ?悪いが、これまで私はずーっと貴様の生活を見ていることしかできなかったんだ。しばらくは体を好きにさせてもらうぞ。」
―それは…できません!-
「なんだと?」
―家に帰らなきゃ…友恵とお母さんの晩御飯を作んないといけないんですっ!-
「ふん。腹が減ったなら自分で食うものぐらい作ればいいだろう。大体なぜこの私が…
ぬおっ!?」
再び強烈な頭痛がテノを襲う。
「なんだ、この痛みはっ!?くそぅ…なぜ私が貴様なんぞに…」
―返してください!友恵が家で待ってるんですっ!-
「誰が…貴様に…がはっ…」
テノは白目をむき、地面に倒れこんだ。その直後に優香は体を起こすと、まるで昼寝から覚めたように優香はあくびをしながら背伸びをした。
「ふぁぁ~…やっぱり自分の体はしっくりきますねぇ~。」
―おい…貴様私に何をした!?-
「申し訳ないですけど…私やらなきゃいけないことがあるんで。あっ、そうだ。週末になら体、貸してあげてもいいですよ?」
―何をふざけたことを…おい、出せ!ここから出すんだ!―
「まぁまぁ。そのうち出してあげますから。そうだ、お名前….聞いてませんでしたね?」
―…名はテノと言う。テノ=トライアンギュリスだ。-
「テノさん…いい名前。よろしくお願いしますね、テノさん!」
―ふん、馴れ馴れしいぞ。―
床に転がる食材を拾い集めながら、優香はどこか楽しそうにテノと会話を続けるのだった。
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