かしこなりましてかしこ。 (風梨)
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ぴっぴかちゅう

風梨と申します。
よろしくお願いします。






 

 あ、ども。はじめまして。

 わい、ピカチュウ。

 元人間のピカチュウやで。

 

 普通の人間やない。

 このポケモンっちゅーコンテンツがゲームやった世界の人間や。

 俗に言う異世界転生って奴やな、うん。

 

 え? 違う? 

 細かいことはええんや、ハゲるで。

 人間おおらかに生きていかんと。

 

 そんなことを考えながら『わい』はゴミ箱を漁る。

 都会の醍醐味やな。

 漁っていたゴミ箱の中から、状態の良いパンを見つけた。

 

──おぉ、ええやんええやん。うまそーなパンや。

 

 『わい』が目を輝かせた瞬間に『しゅたっ』と泥棒猫が奪い去っていった。

 喜びからの絶望で『わい』はちょっと唖然とした表情を見せてしまう。

 華麗に地面に着地した犯人を見た『わい』の心中は穏やかやない。

 

 ──……わいのご飯盗むたぁ良い度胸やないかい! このニャース! 

 

 自分が見つけたパンを咥える一匹のニャースと、その周りに集う四匹のニャースがバカにしたように『にゃー』と笑った。

『ぶちん』と何かがキレた音がした。

 

 ──ええわ、その喧嘩勝ったろかい!! わいは普通のピカチュウとは一味違うでぇ! 

 

 『わい』は血の滲むような鍛錬を繰り返したんや。

 ポケモンの体に人間の知性。その組み合わせは驚異的な結果を生み出したわ。

 

 ──来る日も来る日も、キャタピーやらポッポやらビードルやらオニスズメやらを狩り尽くしたわいの実力。見せたろやないかい! 人呼んで『なにわの黄色い閃光』やで!! わいに追いつけるもんなら追いついてみぃ! 

 

 

 全身を稲光させながら、路地裏で見つけた残飯のパンを巡って攻防を開始する。

 『わい』は普通のピカチュウとは一味違うで。

 

 ──ほな、はじめよか!

 

 初速の差は圧倒的である。

 努力値の存在を知る『わい』は生まれて間もない頃から独自に訓練を開始し、戦える年齢(レベル)に達すると速攻で努力値の回収に勤しんだんや。

 その数510体。

 メモがないので正確な数字はわからんかったから、実際には700体近く狩ったんやないか?

 そんなこんなで鍛え上げた『わい』の素早さは尋常ではないんや。(野良ポケは戦闘不能にしただけや)

 振った努力値は『HP』と『素早さ』。

 

 野生で生きるには何よりも継戦能力(HP)と回避力(素早さ)と行動力(HPと素早さ)が求められる。

 決断の早い『わい』は生後すぐにそう決めて勤しんだんや。

 

 ま、考えが深くない代わりに決断が早いのが長所やな。

 それは戦闘においての、もっと言えば高速戦闘においての長所になるんやで。

 

 

 ニャースは群れで行動する。

『わい』の目の前でうなりを上げるニャースは五匹。

 ペルシアンに率いられればもっと増えるが、所詮は路地裏での残飯漁りの戦闘。

 数はそう多くないわな。

 

 その全てが『わい』の動きを捉えることが出来とらん。

 

 雷速と言っても良いくらい速いんや。

 帯電した『わい』の速度はその表現が近い。

 路地裏の左右に立つ建造物の壁を蹴り付けて跳ね上がり、五匹の頭上から『でんきショック』を落とした。

 

 けど『わい』のレベルはまだ高くない。

 まだ『10まんボルト』を覚えていない程度のレベルや。

 ほんで『とくこう』に振っていない『でんきショック』一撃では、ニャースと言えど確殺を決めることはできん。

 それでも五匹は全身に走った電流に身を固めた。

 電撃の強みやな。

 

 そして、一手分有利を作った『わい』がとった攻撃は特攻や。

 こんな相手にチマチマやってられるかい!

 

 ──いてまろかい我ぇ! 

 

 空中に浮いたままであった『わい』はそのまま落下。

 真下にいるニャース一匹に対して、しっぽを『たたきつける』!

 頭部にヒットした攻撃で、まずは一匹のニャースを戦闘不能にした後、続けてしっぽを振り回す。

 

 以前拳を握ったこともあったんやが、あまりのリーチのなさに絶望してしまってなぁ。

 それからはしっぽがメインやで。

 ってなわけでな!『ガンガン』振り回して行くでぇ!

 

 「オラオラァ! 喧嘩買ったるねん、もうちょい根性見せんかい!」

 

『せいでんき』の特性は持っていないため、ニャースが麻痺になることはない。

 せやけど、『わい』の圧倒的な素早さから繰り出されるしっぽを避ける事はひっじょ〜に困難や。

 

 あっという間にさらに二匹のニャースを戦闘不能にさせた後、復帰してくる残り二匹を察知して『わい』は即時離脱。

 数は力や。

 こないしょうもない戦いで傷を負うなんてアホらしいわ。

 最大限警戒しながらフルボッコにさしてもらうで。

 

 意外やと思われるけど、クレーバーな判断は大事や。

 野生はちょっとした傷が致命傷になりかねんからな。

『キズぐすり』なんちゅー便利なもんはないんや。

 退いた『わい』はさらに足で掻き回す。

 

 目にも留まらぬスピードで壁を蹴り跳ねる『わい』を捉える事はニャースには不可能や。

 飛び跳ねとる時のスピードが、平地の『でんこうせっか』並みに素早いんやから、当然やな。

 んで、そのスピードを自在にコントロールする『わい』は天才や。

 我ながら恐ろしいまでの才能やで。

 

 ──なんたらと天才は紙一重ってな。あっはっは。って誰かバカじゃい!

 

 おほん。

 ま、こうなれば『でんきショック』はもう必要ないわな。

 

 実力試しでもするかのように飛び跳ねながら『たいあたり』を敢行して、それから十数秒でニャースたちは余す事なく戦闘不能になった。

『ぽてん』とお尻を地面につけて、やりきったと言わんばかりの表情を見せる『わい』だけが生き生きしとる。

 

 

 ──ま、わいに掛かればこんなもん、ちょちょいのちょいや。

 

 死屍累々(死んでない)と目を回して積み重なるニャースを尻目に、残飯のパンを食べ終えて『わい』は満足げに息を吐いた。

 

 ──ま、人間様の食事も悪かないわな。かっちゅーて、飼われるつもりはあらへんけど。

 

 『わい』は基本的にストリートで暮らしとる。

 森の中でも暮らせるけど、人間やった名残やろーな、パンやら何やらが恋しくなる。

 せやけど。

 もちろん、飼われるつもりはない。

 

 ──飼われる? モンスターボールの中やて? 蕁麻疹出るわ、考えられへん。わいは野生で生きるで。

 

 『わい』は自由人なんや。

 せっかくお勤めもない気軽な立場となったのに、わざわざ捕まる必要なんざあるかい。

 好き勝手できる実力があるんなら、野生も悪くないで。

 とはいえ、それも始めたばかり。

 少しすれば人間も良いかも、と思うかもしれんがな。

 

 ──まぁ、サトシみたいな奴がおるなら、追々で力になってやらんでもない。せやけど、ふっつーの奴になんざ願い下げやで。わいの短いポケモン人生、棒に振ってたまるかい。

 

 ピカチュウの平均寿命は知らん。 

 せやけど、ネズミというくらいなんや。

 長くはないやろ。

 半ばそう思っとる。

 

 生きるなら鮮烈に、矢のように駆け抜けたいんや。

 人間であった頃はつまらない生き方しか出来んかった。

 それだけにその願望は強いで。

 

 ま、人様に言うことじゃないわな。

 心に秘めていればそれで良いんや。

『わい』の生き方なんて、『わい』が意識してればええんや。

 そんなもんや。

 

 

 ──ほな、行こか。

 

 ちょっとおっさん臭い仕草で『よっこら』と起き上がった『わい』が、活気付き始めた都会の喧騒の中に消えていった。

 

 

 終わり。

 

 

 




続き書きやすい構成にしたので、余裕ができれば続くかもです。


追記
:三人称>一人称にしました。


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