アズールレーンRe:LIFE (うええええ)
しおりを挟む

graphite

AIのべりすとで小説を作ってみました。
この話の直前にアニメ版第1話~4話前半までと似た出来事が起こった設定です。


水が地表の7割を占めるとある星。そこには、セイレーンと呼ばれる謎の存在の侵略を受けていた。人々は、セイレーンに対抗すべく、軍事連合組織『アズールレーン』を結成。別世界の艦船の魂を宿した少女達『KAN-SEN』を主力とした艦隊を編成し、セイレーンとの熾烈な戦いを繰り広げていた。

しかし、アズールレーンの2国家、鉄血と重桜は、セイレーンの技術を取り入れた組織『レッドアクシズ』を結成し、アズールレーンと袂を分かつ。

世界は、アズールレーン、レッドアクシズ、セイレーンの3勢力に別れて争う混沌の時代を迎えることとなった。

これは、そんな時代に生まれた1人の少年の物語である。

 

 

ここは、重桜陣営にある母港。ここに新たな指揮官が着任することになる。

「…ということで、君には我が艦隊の指揮官として着任してもらう」

「……」

廊下を歩く二人の人影があった。一人は重桜艦隊の元帥補佐、立花ユウゴ。もう一人は、この艦隊に新しく配属される指揮官、鷹山チヒロだ。

「…………」

チヒロは険しい顔をしながら立花の後ろをついていく。やがて、二人はある部屋の前に立ち止まる。

「ここが君の執務室になる。中で君の秘書艦が待機している。その後は好きに過ごしていい。今のうちに親交を深めておくのもいいだろう」

そう言って立花はその場から去っていく。残されたチヒロは立花を軽く睨むように見ると、ドアノブに手をかける。そして扉を開けると、部屋の中に入る。

中には一人の少女がいた。銀髪のポニーテール、丈の短いノースリーブのセーラー服のような衣装に身を包んだ小柄な少女だった。彼女は入ってきたチヒロに振り向くと、表情を変えずに口を開く。

「指揮官……ですか?」

「……」

チヒロは無言のまま。やがて少女の方から手を差し出す。

「綾波…です。鬼神とよく言われるのです。」

チヒロは差し出された手を見ると、軽く微笑んで綾波の手を握る。

「鷹山……チヒロだ」

軽く自己紹介を済ませたあと、チヒロは窓から外を眺める。

「今日から俺は重桜艦隊……レッドアクシズの指揮官になったわけだ……」

「……」

「セイレーンだけじゃない、状況によってはアズールレーンとも戦うことになる……。」

「………」

それを聞いた綾波は少し俯きながら黙り込む。

「………出来ることなら戦いたくない」

その言葉を聞いて綾波は驚いた様子で目を丸くする。

「……って顔してるな。何かあったか?」

綾波は思い詰めたような表情をする。

「……実は綾波、1か月前のユニオン襲撃に参加していたのです。」

それを聞いたチヒロはわずかに険しい表情を見せる。

1か月前のユニオン襲撃。それはアズールレーンを離反した重桜艦隊による、ユニオンへの奇襲攻撃だった。結果として奇襲は失敗し、首謀者の赤城、加賀は今もなお重桜を離れ行方をくらませている。

この事件により、アズールレーンとレッドアクシズの対立は決定的なものとなった。

チヒロにとっては、自分が指揮官になる目的を変えた事件でもある。

「……それで?」

「その時……綾波はユニオンの母港に潜入して、赤城さんたちに情報を流す任務を任されたのです。」

「……」

「でも、潜入中にアズールレーンの子と出会ってしまって、あまり情報は流せなかったのです。」

「………」

「あの子たちはとても優しかったです。素性もわからない綾波に普通に接して、とても楽しそうでした。」

「……」

「だから……もしまた会えたら、今度はちゃんとお話ししたいのです。」

「……でも、現実はそう簡単じゃない。レッドアクシズとアズールレーンに別れてる以上、敵同士だ。それに、俺達は戦争をしているんだ。情けをかけていられるほど余裕はない。」

「わかっているのです。それでも……!」

「………なら、逃げるか。」

「えっ……」

チヒロの言葉に綾波は再び驚く。

「俺も、アズールレーンとレッドアクシズの戦争なんぞに加わるなんてまっぴらごめんだ。」

「……」

「俺はセイレーンを一匹残らず狩り尽くすために指揮官になったんだ。こんなことをするために指揮官になったんじゃない」

「……」

「指揮官になったばかりだが、俺は今日重桜を抜ける。そのためにお前の船が必要だ。その気があるなら、今日の夜、港で待ってろ。」

それだけ言うと、チヒロは部屋から出て行く。残された綾波は呆然としながらその後ろ姿を見送る。

「綾波……は……」

 

その夜、チヒロは荷物と食料を持って港に走る。「はぁ、はあ……」

息を切らせながら、チヒロは港に着く。そこにはすでに綾波の姿があった。

「来たか……」

「本当にするのです?重桜を裏切るのですか?」

「さっきも言ったぞ。俺は戦争なんぞに手を貸す気はない。そんなのはセイレーンを狩ったあとでやればいい」

「……わかったのです。」

綾波はそう言って、自分の船に案内する。

「……艦艇を見るのは久しぶりだが、駆逐艦といってもでかいもんだな」

そう言うと、チヒロはそそくさと船に乗り込む。

「も、もう乗るのですか!?」

「早くしろ!追っ手が来てからじゃ遅いんだぞ!」チヒロに急かされ、綾波は慌てて自分も乗り込み、船を発進させる。

「よし、出せ!」

「了解なのです!」

綾波が船のエンジンをかけると、船はゆっくりと動き出す。

 

一方その頃、懐中電灯を持った人物が、綾波の艦艇の中を探索していた。

「スゲエ……直に見るのは初めてだが、こんなのが背負えるサイズにまで圧縮されるのか……」

彼の名は永瀬ヒロキ。チヒロの友人であり、重桜艦隊の整備兵である。彼はこの日、好奇心に駆られて、KAN-SENの艦艇内に忍び込んだのだ。

「鉄血には直接セイレーンの技術を応用してるらしいが、そっちもいつかお目にかかりてぇもんだ」

そう言いながら艦内を見て回っていると、艦艇全体が揺れ動き出した。

「ん?なんだ……まさか動いてんのか!?」

ヒロキは急いで外の様子を見に行く。既に、艦艇が重桜の母港から発進した直後だった。

「船が出港してやがる……一体誰が動かしたんだ!?」

ヒロキは不思議に思い、艦首の方に回る。すると、そこにいたのは……。

「あれは……チヒロか?」

「ふぅ……なんとか逃げられたのです」

「夜明けまでは真っ直ぐ進んでくれ。その後は……」

「チヒロォ!」

突然大声を出され、綾波は思わずビクッとする。

「な、何事なのですか!?」

チヒロは声がした方を振り向く。そこには、懐中電灯を手に持ったヒロキがいた。

「ヒロキ!?お前なんで……?」

ヒロキはチヒロの胸ぐらを掴み叫ぶ。

「なんでじゃねえよ!お前何やってんだ!こんなことしてタダで済むと思ってんのか!」

「わかってるよ!でも重桜にいてもセイレーンを狩れないだろ!」

「だからってどうすんだよ!ユニオンにでも亡命するつもりか!?」

「違う!ユニオンに行っても立場が変わるだけだ!それにマトモに扱われるかもわからないからな」

「だったらどうすんだよ!」

「行く当てはある。昔、母さんから聞いたことがあるんだ。どこの陣営にもつかない、地図に載らない島があるって」

「……そんな場所があるわけないだろ」

「あるさ。俺の母さんの故郷だ。そこなら、アズールレーンともレッドアクシズとも関わらずにセイレーンを狩れるはずだ」

「……」

「この際だ。ヒロキ、お前も来い!」

「はぁ!?なんで俺まで!」

「どうせもう重桜には戻れないんだ。それに人数は多い方がいいからな!」

「お前だからって……!」

「大丈夫!食料はたくさん持ってきた!4割がたゼリーだけどな!」

「ウチの指揮官はギガトン級のバカだアアアアアアアァァァァァ!!!」

ヒロキは頭を抱え絶叫した。

 

 

一週間後。

「………あれから一週間、水平線しか見えやしねえ……」

ヒロキは呆れた顔で海を見渡す。そこに綾波がやって来た。

「あの……ヒロキさん」

「あん?」

「その……ごめんなさいです」

「……なんでお前が謝んだよ」

「だって……」

「もういいよ。アイツのセイレーン嫌いは筋金入りだからな。」

「……ヒロキさんは、指揮官とお知り合いなのです?」

「あぁ、ガキの頃からの付き合いだ。」

「指揮官は、どうしてあそこまでセイレーンを憎んでいるのです?」

「……アイツは母親をセイレーンに殺されてんだ。」

「えっ?」

「元々、アイツは親父が指揮官でな。それもあってガキの頃から指揮官になるって言ってた。」

「そうだったのですか……」

「だが、5年前だったか、チヒロの親父の任務に母親も同行することになったらしい。」

「同行?どうしてなのです?」

「さぁな。だが、その時にチヒロの母親はセイレーンに襲われたらしい。」

「そんなことが……」

「その時に母親が庇ったおかげで、父親は助かったみたいだがな。それ以来、チヒロはセイレーンを毛嫌いするようになったんだ。」

ヒロキは食料のゼリーを吸いながら言う。

「アイツの家は近所でも有名な仲良し家族だったからな。母親の死が相当応えたんだろうよ。」

「……」

「まぁ、それでこんなことするたぁ思わなかったがよ……」

と、苦笑いをしながら、艦首でゼリーを美味しそうに吸うチヒロを見る。

「しかし、本当にこの先に島なんてあるですか?」

「知らね。もうここまで来たら破れかぶれだ」

その時、チヒロがハッとしたように海を見渡す。

「どうしたのです?」

「来るぞ!」

すると、先ほどまで晴れ渡っていた空が急に曇り始め、禍々しい船が綾波の艦艇を取り囲む。

「んだこりゃ!?」

「まさか、鏡面海域です!?」

「知ってんのか?」

「セイレーンが作り出した特殊な空間のことです!ここではセイレーンだけじゃなく艦船のコピー体……『駒』が出現するのです!」

「おいおい…どうすんだよ!」

「セイレーン………!!」

チヒロは怒りに満ちた顔でセイレーンを睨み付ける。その左目は稲妻を走らせ、金色に光っている。

「綾波!艤装を展開しろォ!」

「ちょっと待てチヒロォ!」

「なんだよ!?目の前に敵がいるんだぞ!」

「今俺たちはその艤装の上に立ってんだぞ!?艤装を展開したら俺たちは海に投げ出される!」

「……あっ」

「……お前ホントバカだろ!」

「……ッ!なら今は逃げるぞ!」

「逃げ切れると思うのか!?」

「やって見なければわからないだろ!」

「無茶言うなァ!」

「とにかく、このままではまずいのです!早く逃げるです!」

「やべえぞ!こっちに主砲向けてきた!」

その時、突如爆撃機が飛来して、セイレーンの艦隊に向かって爆弾を落とす。

「なんだ!?」

「あれは……ユニオンの空母部隊です!」

「ユニオンだと!?」

爆撃機が飛んできた方向を見ると、そこには銀髪のKAN-SEN……エンタープライズがいた。

「ユニオンのエンタープライズ!?なんでここに!?」

それだけではない。今度は雷鳴のような轟音が響き、砲撃音と共に、砲弾が降り注ぐ。

ヒロキは砲撃が飛んできた方角を見た。すると、そこにいたのは、巨大な剣を構えた、少女のような体格のKAN-SEN、ウォースパイトがいた。

「あの格好…まさかロイヤルか?」

「どういうことだ……まだ重桜からそう遠くはないはず…」

そして、今度は魚雷がセイレーンの艦艇を貫いていく。

「あれは……重桜の駆逐艦だ!」

「え?」

「あれ?綾波だ!おーい!」

「あれは……吹雪!?」

そこにいたのは綾波の姉、特型駆逐艦ネームシップの吹雪だった。

「どうなってる……?なんでユニオンと重桜の艦が一緒にいるんだ……?」

「わかんねえ……」

3人は呆気にとられている。

「吹雪、すまないが、今はセイレーンを殲滅するのが先決だ」

「よーし!」

突如現れた3人のKAN-SENは、セイレーンを次々と沈めていった。

その様子を見ていたヒロキは呟く。

「すげぇ………」

数分後、セイレーン艦隊は全滅していた。

そして、エンタープライズが綾波の艦艇に近づき、チヒロの顔を見ると、少し懐かしむような顔をして、口を開いた。

「教えてくれ」

「え?」

「あなたが……私たちの指揮官か?」

「……は?」

その後、彼は知ることになる。この出会いが、やがてセイレーンとの戦いだけでなく、アズールレーン、レッドアクシズの戦争をも終わらせることになろうとは。




Q.タイトルのRe:LIFEって意味あんの?
A.ないよ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

指揮官

AIのべりすとを使ったと言ってもAIくんが何がなんでも舞台をユニオンにしようとしてくるので7割くらい自分で文章考えるハメになりました。


あの後、エンタープライズたちに助けられたチヒロたちは、彼女らの本拠地に連れて行かれた。

「すげぇ……一通り設備が揃ってやがる…」

ヒロキは思わず呟いた。

事実、そこは重桜の母港ほどの規模こそないものの、ひとつの艦隊を編成できるほどの設備が整っていた。

「ここなら安心して過ごせるだろう?」

エンタープライズの言葉を、チヒロは素直に受け取ることはできなかった。

チヒロにはひとつ不安要素があった。だが、それは後でいいと思い、まずはエンタープライズについていくことにした。

 

一方、綾波はチヒロたちと少し離れた位置で吹雪と話していた。

「ね、あの人が指揮官なんでしょ?どんな人なの?」

「……それがよくわからないのです。ただ、悪い人では無いと思うです」

「え!?ここに来るまで一緒に居たんじゃないの?」

「そうなんですけど、着任初日に重桜を抜けてノープランで出港したり、とにかく無茶苦茶なのです……」

「へー……でもそんなところも面白そうだよね!」

「そ、そうですかね……?」

綾波はいまいち理解できなかった。

そうして二人が話していると、一人の少女が駆け寄ってきた。

「あ!吹雪おかえりー!……って、もしかして綾波ちゃん!?」

「え……響!?どうしてここにいるですか!?」

そこに現れたのは、重桜に所属している駆逐艦・響だった。彼女は数ヶ月前、任務中に行方不明にになっていたのだが……。

「いやぁ、なんか気がついたらこの母港にいてさー。まあ、みんながいるから別に良いんだけどね!」

「……」

あまりにも軽いノリに、綾波は言葉が出なかった。

それを遠巻きに見ていたチヒロは、改めてエンタープライズに声をかけた。

「お前らはユニオンの艦船なのか?」

「いや、私たちはどの陣営にも所属していない。いわゆる無所属だ」

「……」

チヒロは違和感を覚えていた。響はともかくとして、吹雪もエンタープライズも、つい最近までそれぞれの陣営に所属していたはずなのだ。

なのになぜ彼女たちはこんなところで自由に過ごしているのか。そんな疑問をよそにエンタープライズは足を進める。

建物に入り、廊下を進むと、メイド服の女性が現れた。

「お帰りなさいませ、エンタープライズ様。……あら、そちらの方は?」

「ああ、指揮官だ。…いや、まだ確定してはないか」

「なるほど、ではご主人様とお呼びすればよろしいでしょうか?」

「え」

「お初にお目にかかります。メイドのベルファストと申します。以後、よろしくお願い致します」

ベルファストと名乗った女性は深々と頭を下げてきた。

「あ、あぁ……」あまりに丁寧すぎる対応に、チヒロは戸惑いながら返事をした。

「メイドって……。重桜じゃ縁もゆかりもなかったな……」

ヒロキが呟く。

 

やがて、エンタープライズはある部屋の扉の前で止まった。

「ここだ」

そう言って部屋に入るエンタープライズに続き、チヒロたちも入室する。

するとそこには──

「うわっ……なんだこれ……」

そこには、重桜のよりも広く、豪華な家具が置かれていた。

「ここが執務室だ。ずっと使われていないが、あなたが来るこの日のために掃除をしておいた」

「……」

ヒロキは言葉が出なかった。

「さて、早速だが、何か聞きたいことはあるか?」

チヒロたちに問いかける。

「当たり前だ。状況が全然飲み込めてないからな。まず、ここはどこだ?」

「…そうだな、ここは……鏡面海域の中だ」

「鏡面海域!?まだ出れてねえのかよ!」

ヒロキが驚く。

「まあ、落ち着け。この母港がある場所は安全だ」

「安全?どういうことだ?」

「この鏡面海域は十年以上放置されている。たまにセイレーンが湧いてくることもあるが、大体は私たちで対処できるレベルだ」

「……それだ」

チヒロが口を開く。

「ん?」

「俺が一番聞きたいのはお前らのことだ。鏡面海域に母港を構えて、指揮官もいないまま戦ってる。そんなことできるもんなのか?第一、エンタープライズはユニオンのエースだ。無所属なんてあり得ないだろ」

「それは……」

エンタープライズは少し言い淀んだ。

「当てようか。お前ら……『駒』だろ?」「「!!」」

その言葉に、ヒロキと綾波は驚いた。

駒、それは鏡面海域で時折現れる艦船のコピー体。自分や仲間と同じ顔が敵として立ち塞がる。鏡面海域という名はこのことから名付けられた。

「それなら鏡面海域に母港を構えることができるし、指揮官がいなくても問題なく活動できる。違うか?」

「……正解だ」エンタープライズは静かに答えた。

「今さらお前らが敵だなんて思っていない。こんな状況でわざわざ騙し討ちなんてするメリットがないからな。……だから、なおのこと気になるんだ。なんで俺が指揮官なんだ?」

エンタープライズは少し考えた後、話し始めた。

「約束なんだ……彼女との」

「彼女?」

「……鷹山……ナナハ」

「!」その名前を聞いた瞬間、チヒロの表情が変わった。

「……母さん……!?」

「……やはりな」

エンタープライズは納得したように言った。

「最初に顔を見たときに確信したんだ。その髪と瞳の色、そして角……。あなたがナナハの息子だと」

「ちょっと待て、母さんのことを知ってるのか?」

「ああ、知っている。ここが……彼女の故郷だから」

「……!?」

「ここがいつから鏡面海域だったのかはわからない。私たちが生まれたときにはこの島には誰もいなかったからな。ただ、この母港だけは残っていた。だが、ナナハだけはたびたびこの島にやって来て、私にいろんなことを話してくれた。……この世界のことを」

「……」

チヒロは黙って聞いていた。

「彼女は……とても優しかった。自分の境遇に悲観することなく、いつも笑顔を絶やさなかった。私はそんな彼女が好きだった」

「……」

「最後に会ったのは5年前だ。その時に、彼女は言ったんだ。『もし、この島に私の息子が来たら、その時は、どうかその子を支えてあげてほしい』と」

「……」

「あの時、なぜそんなことを言うのか分からなかったが、今なら分かる気がする。きっと、あなたに会うためだったんだろうな」

エンタープライズはチヒロを見つめる。

「あなたは、ナナハによく似ている。見た目も、性格も。……いや、もしかしたら、中身も似ているのかもしれないな」

「……」

「……私たちはは彼女との約束を果たしたい。だから……私たちに、力を貸させてくれないか?」

エンタープライズは頭を下げる。

「……」チヒロは考え込んだ。

「……分かった」

やがて、彼は決断を下した。

「やってやるよ、指揮官」

「!本当か!」エンタープライズは顔を上げた。

「おい!いいのかよチヒロ!」

ヒロキが叫ぶ。

「あぁ、決めた。俺はここでセイレーンを狩る」

「……しゃあねえ。乗りかかった船だ」

「……」

綾波は何も言わず、チヒロを見ていた。

「そう言えば、あなたも指揮官なのか?」

エンタープライズはヒロキの方を見る。

「俺は指揮官じゃねぇ、整備兵だ」

「でもお前、メンタルキューブの適性あったよな?指揮官やれるぞ」

チヒロが意地悪な笑みを浮かべる。

「うるせぇ、俺は艦船の整備ができればそれでいいんだよ!」

「整備兵か……。なら、明石と話が合いそうだな」

「明石?アイツの駒もいんのかよ…」

「まあ、とにかくよろしく頼む」

エンタープライズが手を差し出す。

「あぁ」

チヒロはその手を握り返した。こうして、重桜の少年は、どの陣営にもつかない『独立軍』の指揮官となった。

 

続く




チヒロ以外にも指揮官はどんどん出てきます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

狩り、開始

AIくん艦船の所属がガバガバ過ぎる


「ん……」

チヒロは目を覚ました。

自分の体格には大きめのベッドに、白いシーツと毛布が掛けられている。

「ここは……」

起き上がり、周囲を見渡す。

その時、部屋のドアがノックされ、開いた。

「あら、お目覚めですか、ご主人様」

メイド服を着た女性が入ってくる。

「……ベルファストか」

チヒロは昨日の出来事を思い出す。

「そうか、俺は指揮官になったんだったな」

「はい。これからよろしくお願いいたしますね」

「ああ」

「では朝食の用意が出来ておりますので、食堂へどうぞ」

「分かった」

チヒロはベッドから降りて着替える。

「あ……そうだ」

ふと思い出し、ベルファストを呼び止める。

「何でしょうか?」

「ここって食料とかはどうしてるんだ?俺が来る前はどうやって生活してたんだ?」

「はい。母港の中に畑がありまして、そこで饅頭たちが野菜や果物を育てています。あとは海産物も取れますよ」

「そうなのか」

「はい。ですが、肉類に関しては自給自足は難しいですね。どうにか安定して供給したいのですが……」

「肉がないのか?」

「はい。この島には動物があまり生息しておりませんので」

「そうか……」

「その事で、一部のKAN-SENから不満の声が出ております」

「なら、まずはその辺をどうにかするか」

「よろしいのですか?」

「ああ。だが、すぐにどうこうできる訳じゃないからな。しばらくは我慢してもらうしかないだろ」

「かしこまりました」

ベルファストは一礼すると部屋を出て行った。

「さて、行くか」

着替えを終えたチヒロは食堂へ向かった。

食堂に入ると、既に何人かのKAN-SENが集まって食事をしていた。

「おはようです、指揮官」

真っ先に気付いた綾波が挨拶する。

「あぁ、おはよう」

チヒロは空いている席に座った。

「指揮官は何を食べるです?」

「どうするかな……」

「じゃあ、綾波と同じもの食べるです」

「何を食うんだ?」

「刺身定食です」

「うっ、生魚か……」

「指揮官は苦手ですか?」

「まぁな」

「なら、焼き魚にするといいです」

「そうさせてもらうか」

「はい!」

綾波は嬉しそうな顔をした。

しばらくして、ベルファストが料理を持ってくる。

「お待たせいたしました」テーブルの上に並べられたのはご飯と味噌汁、そして焼いたアジの開きだった。

「いただきます」

箸を手に取り、食事を始める。

「美味いな」

「ありがとうございます」

チヒロの言葉を聞いて、ベルファストは微笑む。

その時、背後から呻き声が聞こえた。振り返ると、そこには犬耳を携えた銀髪の少女がいた。

「ぐぅ~……」少女のお腹が鳴る。

「うぅ~……肉…肉が食べたい……肉……肉……肉……」

虚ろな目をしながらブツブツ呟く少女を見て、チヒロはベルファストに問いかける。

「あいつが肉食えなくて困ってる奴の一人か?」

「はい……。夕立さんと言いまして、駆逐艦の子なのですが……」

「そうか」

チヒロは再び夕立を見る。

「肉……肉……肉……肉……肉……」

「……これは重症だな」

「はい……」

その後、朝食を食べ終えたチヒロは食堂でくつろいでると、KAN-SENが二人やって来た。

「綾波ー!一緒にご飯食べよ!」

「あ、吹雪に響……」

二人の姿を見て、綾波は立ち上がる。

「ごめんなさいです。もう食べたです」

「そっか~残念……」

「じゃあ食べながらお話しようよ」

「うん、いいですよ」「やった!」

二人は綾波たちの向かい側に座る。

「……で!」吹雪はチヒロの方を向いた。

「あなたが新しい指揮官なんだよね!?」

「ん?あぁ、そうだが」

「私、吹雪型一番艦の吹雪だよ!よろしくね!」

「私は特三型二番艦の響だよ」

「ああ、知ってる」

「おぉ~!私たちのこと知ってるんだね!」

「そりゃあ、俺はお前の素体と会ったことがあるし、響が行方不明になった件も聞いたからな」

「そうだったんだ!」

「なるほど!」

「ねぇ指揮官さん!ちょっと聞きたいんだけど」

響が手を上げる。

「何だ?」

「重桜の母港で、暁ちゃんたちはどうしてた?元気にしてる?」

「いや……そこまではわからないな。特三型は中央の所属じゃないだろ?」

「そっか……」

少し落ち込んだような表情をする響。

「大丈夫です。きっとまた会えるです」

「そうだよ響!」

「うん、ありがとう」

「ところでさ、指揮官はどんな戦い方するの?」

「ん?どういう意味だ?」

「ほら、指揮官は執務室で指揮を執るか、一緒に海に出て指揮を執るかのどっちかでしょ?だから、戦闘の時はどうなのかなって」

「ああ、そういうことか。俺は海に出て指揮を執るつもりだ。俺はどういうわけか、セイレーンの居場所がなんとなくわかるからな」

「へぇ〜そうなんだ〜」

「なら、指揮船はどうするの?」

「あー……そういやそんなのもあったな」

「持ってないの?なら、どうするの?」「代わりに誰かに乗せてってもらうか……?」

「でも、誰が乗せるの?」

「うーん……」

三人は考え込む。

「それなら、戦艦か空母に乗るといい」そこに現れたのは赤い軍服を纏った金髪の美女。

「あ、ウェールズさん!おはようございます!」

「ウェールズ……まさかプリンス・オブ・ウェールズ!?」

「あら、私のことを知ってるのね」

「そりゃあ、KAN-SENの有名どころは大体知ってるさ」

「ふっ、それは光栄だわ」

「それで、戦艦か空母に乗ればいいというのは?」

「そのままの意味よ。戦艦か空母なら敵に近づく必要もないでしょう?」

「確かにそうですね」「じゃあ、指揮官にはそのどちらかに乗ってもらって、私たちは指揮官の指示に従う感じかな?」

「あぁ、そうさせてもらう」

こうして、指揮系統がある程度決まった。

 

 

朝食を済ませたチヒロたちは、工廠に向かっていた。

「工廠に何か用でもあるのですか?」

綾波が尋ねると、チヒロは答える。

「明石に特注で作ってほしいモノがあってな」

「何を頼む気です?」

「なに、ちょっとしたもんさ……ん?」

チヒロは広場でなにやら踊っている少女たちを見つける。

「あれは……」

「一人は見たことがあるです。確か、ユニオンのサラトガさんだったはずです」

「残りの3人は誰だ?」

「うーん……知らない子たちです。格好から見てロイヤルの人だと思うのですが……」

「そうか……」

チヒロは少しだけ見つめた後、その場を去った。

「……?」

チヒロの行動に首を傾げる綾波。

「どうかしたです?」

「いや、単純にああいうキラキラした雰囲気が慣れないだけだ。それより、早く行くぞ」

「はいです」

チヒロたちは再び歩き出した。

「あれが工廠です」

綾波の言葉を聞いて、チヒロは目の前の建物を見る。

「デカいな……」

「艦艇の格納庫もありますから、かなり大きいです」

「なるほど……」

二人は中に入る。

すると、見覚えのある人影が見えた。

「おや、指揮官」

「エンタープライズか」

「こんなところで会うとはな」

「お前こそ、ここで何してるんだ?」

「私は艦載機の整備をしてもらっている」

「よう、チヒロ……」

「ヒロキ?なんだか疲れた顔してるな」

「まぁな……。あの後ここに来て、ずっと艤装のメンテやってるからな」

「大変そうだな」

「あぁ……」

「お、指揮官が来たにゃ!」

奥から出てきたのは、猫耳と尻尾をつけた小柄な少女だった。

「明石だな」

「そうにゃ!よろしくにゃ!」

「ああ」

「それで、今日は何の用かにゃ?」

「特注のヘッドホンを作ってほしい」

「特注?なんでまたそんなものを?」

「これを見れば大体わかるだろ」

そう言うと、チヒロは右側の髪をかき上げて見せた。

「……おぉ、なるほどにゃ〜」

「わかったか?」

「わかったにゃ。指揮官の角は右耳位置から生えてるにゃ。そりゃあ普通のヘッドホンなんて使えないにゃ」

「そういうことだ」

「でも、それで音はどうやって聞くのにゃ?」

「骨伝導っていうのかな。角が直接振動を感じ取るんだ」

「へぇ〜、面白い構造になってるにゃ」

「で、できるのか?」

「それだけ分かれば十分にゃ!任せるにゃ!」

「助かる」

「それじゃあ、設計図を書くから待っててにゃ〜」

「ああ」

明石は紙を取り出し、何かを書き始める。

「右耳の代わりに角が生えているのか。重桜人はやはり変わっているな」

「俺みたいな生え方は珍しいけどな。母さんは普通に耳があったろ?」

「そういえばそうだったな」

「……よし、できたにゃ!」

「早いな」

「このくらい朝飯前にゃ!」

「どれ、見せてくれないか?」

「いいにゃ」

チヒロは受け取った設計図を見てみる。

「ふむ……悪くないんじゃないか?」

「そうか、ならこれで頼む」

「了解にゃ!それじゃあ2日ほど待っててにゃ!」

「ああ、頼んだぞ」

「はいにゃ〜♪」

明石はスキップしながら去っていった。

「んじゃ俺も寝てくるわ……」

ヒロキも欠伸をしながら去っていく。

「さて、俺たちも戻るか」

「はいです」

チヒロたちも工廠を後にした。

戻る途中、広場に目をやると先程の少女たちがいた。

「まだいたのか」

「随分熱心に踊っているですね」

チヒロはしばらく眺めていた。

「ホラホラ、ここでクルッと回ってターン!」

「こう!ですか?」

「そう!上手よ、コメットちゃん!」

「はい!」

「ふえぇ、いつの間にうち達も踊ることになってるのぉ……」

「諦めなさい、シグニット。どうせ逃げられないわ……」

「うぅ……」

「はいそこ!私語は終わった後で!さぁ、もう一回!」

「ふえぇ!?」

「こうなったら最後まで付き合うしかないわね……!」「うう……」

少女たちは踊り続ける。

その様子をチヒロはじっと見つめている。

「楽しそうだな」

「はいです」

チヒロは広場を離れ、宿舎に戻る。

 

 

「うがー!!肉を食わせろー!!」

「だーもう!夕立!あんたうるさいのよ!」

「だってもう何ヵ月も肉食べてないんだぞ!時雨もそう思うだろ!?」

「暴れても仕方ないでしょ……」

「アイツ……まだあんなこと言ってるのか……」

「あはは……」

食堂では、騒ぐ夕立とそれを抑える時雨の姿があった。

「はぁ……しょうがないな」

「指揮官?」

「ちょっと行ってくる」

「はい、行ってらっしゃいなのです」

チヒロは騒ぎ立てる夕立に近づく。

「おい」

「わう?誰だ!」

ガルルルと夕立が唸る。

(犬かよ……)

「バカ夕立!昨日エンタープライズさんが言ってたじゃない!」

「あっ、そうだった!」

「全く……」

「でだ。お前そんなに肉が食いたいのか?」

「当たり前だ!」

「そうか。なら食わせてやる」

「本当か!?」

「ああ。ここに来る時に持ち込んだ食料がある。確か肉もあったはずだ。ベルファストに言っておいてやる」

「やったぜ!ありがとうな!」

「それから……」

「ん?」

「肉なら安定して取れる方法を見つけてやるからもう暴れるのはやめろ」

「わかった!なぁなぁ時雨、指揮官っていい奴だな!」

「はいはい……よかったわね……」

(チョロいな)

「ねぇ、指揮官」

「ん?」

時雨と呼ばれた少女は、チヒロに声をかける。

「あんた、名前なんて言うの?」

「鷹山チヒロだ」

「ふうん……。私は白露型駆逐艦の2番艦、時雨よ。よろしく」

「あぁ」

そう言って時雨は大はしゃぎしている夕立を引きずりながら去っていった。

「賑やかな連中だな……」

「でも、みんないい子たちなのです」

「そうみだな」

その後、執務室に戻ったチヒロは、ベルファストに食料の件を伝えると、彼女はすぐに手配してくれた。

「さて……執務室に来たはいいものの、何をするか……」

これが軍の指揮下なら、何かしらの報告書をまとめるなどするべきだが、正式な軍でない以上、そこまでする必要もない。

「とりあえず、その辺にある資料でも見とくか」

チヒロは適当に書類を手に取る。

「これは……セイレーンの技術についてまとめたものか?」

そこには、セイレーンの兵器などについてまとめられていた。

パラパラとめくっていく。

「『メンタルキューブ』……」

艦船を作り出すことのできる謎の物質。

「メンタルキューブと鏡面海域……この条件が揃えば……」

チヒロは呟く。その時ーー

「!!」

チヒロは何かを察したように顔を上げる。

それとほぼ同時に、母港全体にアラームが鳴り響く。

「これは……!」チヒロの左目が金色に光る。

その時、執務室にエンタープライズが現れた。

「指揮官、セイレーンだ!」

「……害獣どもが……!」

チヒロは立ち上がり、窓から外を見る。

空には、黒い雲が広がっていた。

「指揮官、出撃準備はできているか?」

「ああ!綾波!」

「はいです!」

「よし、行くぞ!」

3人は執務室を出て、港に向かう。

「ご主人様!」

途中で、ベルファストとすれ違う。

「状況は?」

「ロング・アイランド様の偵察機によりますと、敵は人型が2体、艦艇型がそれぞれ空母が2隻、戦艦1隻の計6隻とのことです」

「6匹か……。ならこっちは綾波、吹雪、ベルファスト、エンタープライズ、ウェールズの5人を連れてそのロング・アイランドと合流する!あとは臨機応変に対応だ!」

「了解しました!」

「指揮官!」

「なんだ!?」

「気をつけてくれ!」

「わかっている!」

チヒロたちはそのまま港に向かい、それぞれの艦艇に乗り込む。

「指揮官指揮官!」

その時、明石がチヒロを呼び止める。「どうした!?」

「これを持っていくといいにゃ!」

そう言って渡してきたのは、右側が外されたヘッドホンだった。

「これは……」

「例のモノが完成するまではこれで我慢してほしいにゃ!それじゃ、頑張ってくるにゃ~!」

「わかった!ありがたく使わせてもらう!」

そして、チヒロはウェールズの艦艇に乗り込んだ。

「早速の出撃ね。あなたの指揮、見せてもらおう」

「あぁ、失望はさせないさ」

チヒロは通信機を起動し、全員に指示を出す。

「これより、セイレーンの迎撃に出る!目標は敵の殲滅!1匹残らず狩り尽くせ!」

「「「「「了解!」」」」」

「行くぞ……抜びょ「狩り、開始ィッ!!」……えっ!?」

エンタープライズの言葉を遮り、チヒロが叫ぶ。

「ちょ!?」

「ちょっと指揮官!?狩りって何よ!?」

「害獣を狩るんだ、何も間違ってないだろ」

「………」ウェールズは絶句した。

「……ここまでの憎悪を募らせるなんて、それだけ愛されたのね、ナナハは」

「?」

「なんでもないわ。もうすぐロング・アイランドが合流する。」

「わかった」

しばらくして、空母の艦艇が合流した。

「お待たせ〜!ロング・アイランドの到着だよ〜」

「お前がロング・アイランドか」

「そだよ〜。よろしくね指揮官さん!」

「あぁ」

その時、レーダーが反応する。

「来たぞ、指揮官」

ウェールズが呟くと同時に、チヒロたちの目の前に黒い雲が現れる。

「あれが……」

「害獣だ」

チヒロはヘッドセットを耳につけると、マイクに向かって話す。

「こちらチヒロだ。聞こえるな?」

『はい、聞こえています』

「狩りの時間だ。エンタープライズ、ロング・アイランド、まずは艦載機で敵を牽制しろ。その間に綾波と吹雪が接近する」

「任せて~」

「了解した」

2人の返事を聞くと、チヒロはウェールズに言う。

「ウェールズ、お前は艦艇のまま、タイミングを見てブチ込め」

「了解した」

「よし……行くぞ!」

そう言ってチヒロは通信を切る。

「エンタープライズ、エンゲージ!」

ウェールズを除く5人は艤装を展開。それぞれ戦闘態勢に入る。

先にエンタープライズとロング・アイランドが艦載機を飛ばし、セイレーン艦隊に攻撃を開始。

セイレーンもそれを迎撃しようと動き出す。

「今だ!」

チヒロの指示を受け、綾波と吹雪が飛び出す。

「行くです!」「ふっふー!特型駆逐艦の力を見ろ!」

「ウェールズ!」

「了解した!」

エンタープライズたちが放った艦載機がセイレーン艦隊の航空機と激突。

何機か落とされてしまうが、残った艦載機がセイレーン艦隊に襲いかかる。

その隙に、綾波と吹雪がセイレーン艦隊に接近した。

「鬼神の力、見せてやるです!」

綾波が魚雷を放つ。

「当たれー!」

続いて吹雪も砲撃するが、それは外れてしまった。

「まだまだ!」

綾波は主砲を放ちながら、さらに近づく。

「そこ!」

すれ違い様に、手に持った刀で空母のセイレーンを切り裂き、続けて艦載機の爆撃が空母に直撃、爆発を起こす。

「やったです!」

「私だって!」

吹雪は主砲と魚雷を連射しながら進む。「この距離なら当たるもんね!」

吹雪の砲弾と魚雷で戦艦が1隻撃沈される。

「次!」

「ベルファスト、頼んだ!」

チヒロの声を合図に、ベルファストが主砲を放つ。

放たれた弾丸はセイレーンの最後の艦艇に命中し、ダメージを与える。

「ウェールズ!やれ!」

「了解した」

ウェールズが主砲を構え、放つ。

その一撃は、空母のセイレーンに命中。

その衝撃により、空母はバランスを失い、海の底へと沈んでいった。

「さて……」

チヒロは人型セイレーンを見る。

人型は2体とも無傷だった。

「残り2匹!一気に仕留める!」

「「了解!」」

エンタープライズたちは再び艦載機を飛ばす。

だが、セイレーンは艦載機を撃ち落としていく。

「……!!」

「なら!」

綾波が飛び出し、セイレーンの懐に飛び込む。

「これで!」

そして、そのまま刀を振り下ろす。

しかし、セイレーンはすんでのところで回避し、反撃に蹴りを入れる。

「うぐぅ!?」

綾波は吹き飛ばされるが、なんとか体勢を立て直す。

「大丈夫!?」

「平気です!」

綾波を庇うようにベルファストが前に出る。「今度はこちらの番ですね」

そう言って主砲を構える。

「行きます!」

ベルファストの主砲が火を吹き、1体の人型のセイレーンにダメージを与えた。

「やりました!」

「まだだ!ウェールズ!もう一発ぶち込んでやれ!」

「了解した」

ウェールズは再び主砲を放つ。しかし、もう一体の人型セイレーンが盾となり、ウェールズの攻撃を防いだ。

「くっ!」

「いや、それでも向こうにダメージは入った!このまま畳み掛けるぞ!」

チヒロの言葉通り、セイレーンはダメージを受けていた。

「……!いや待て!綾波!吹雪!ベルファスト!一旦距離を取れ!」

突然、チヒロが指示を出す。

その時、セイレーンが全身から弾幕をばら撒いた。

「きゃあ!?」「うわぁ!?」

「くっ!」

綾波たち3人は咄嵯に回避行動を取る。「これじゃ近づけないよ!」

「どうするのですか指揮官様!」

「……」

チヒロは考える。

(……これだけの弾幕だ、一発一発は大したことはないはず。ゴリ押しでならやれるかもしれないが、そんなことをすれば一人の負担が大きくなる。)

チヒロが考えている間にも、セイレーンは弾幕を緩めない。綾波たちもなんとか弾幕を避けてはいるものの、ジリ貧であることに変わりはない。

「……ん?」

チヒロはふと気づく。

「……エンタープライズはどこに行った?」

さっきまで近くで艦載機を飛ばしていたはずのエンタープライズがいなくなっていた。「まさか……」

嫌な予感がする。

「エンタープライズ!どこに行った!」

『私はここだ』

エンタープライズの声が聞こえる。

「エンタープライズ、お前まさか……!」

『そのまさかだ』

エンタープライズは自身の甲板を盾に、セイレーンめがけて突っ込んでいた。

「エンタープライズ……また無茶を!」

ウェールズが叫ぶ。

エンタープライズはセイレーンに近づき、盾にした甲板でセイレーンを殴りつける。

「エンタープライズ様!?」

「何を考えてるんですかあの人!」

「あっちゃー。またやった」

「今だ!みんな!」

エンタープライズが叫んだ。

「弾幕が弱まったです!」

「チャンスだよ!」

「……!」

3人が一斉にセイレーンに向って突撃。

「これで終わりです!」

ベルファストが主砲を放つ。

続けざまに吹雪が魚雷をゼロ距離で撃ち込み、とどめとばかりに綾波が斬りつける。

「……!!!」

セイレーンは断末魔を上げ、爆発を起こした。

「やったです!」

「よし!」

「やったね!」

「……」

エンタープライズは静かに空を見上げる。

チヒロは通信機を手に取って呟いた。

「……狩り、完了」

 

 

「いえーい!完全勝利ー!」

母港に戻り、大はしゃぎする吹雪。

「……初めてにしては上出来だ」

「お疲れ様でございます」

エンタープライズとベルファストも労う。

「よ、勝ったみてぇだな」

「ヒロキ、起きてたのか?」

「あんなバカでけぇアラーム鳴りゃ誰だって起きる」

「そうか」

「……で、だ。チヒロ。どうだったよ?」

「何が?」

「エンタープライズだよ」

「ああ……」

チヒロはエンタープライズを見る。

「正直、かなり危なっかしい戦い方をしてた。自分の艤装を盾に弾幕に突っ込んだりな」

「……やっぱりな」

「どうかしたのか?」

「いや、実はな、あの時お前らが来るまでエンタープライズの艤装を整備してたんだ」

「それで?」

「あいつの艤装、かなりボロボロだった。いつブッ壊れてもおかしくない程にな」

「マジかよ」

「ああ。だから、アイツはあまり戦いに出さない方がいい。下手すりゃ死ぬぞ」

「……」

「ま、とりあえずは初勝利、おめっとさん」

「あぁ……」

チヒロはエンタープライズを見る。

「……」

エンタープライズはじっと海を見ていた。

チヒロはエンタープライズに何か不穏なものを感じるのだった。

 

続く



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

母港探索

小説だと吹雪と響の違い出すの難しいな・・・


指揮官として初めての出撃から2日、チヒロは明石からヘッドホンが完成したという知らせを受け、工廠に来ていた。

「どうにゃ?ちゃんと聞こえるかにゃ?」

特注のヘッドホンは、左側は普通の形状だが、右側は刺股のような形状で、チヒロの角を挟み込むようにできていた。

「あぁ、音質に少し差はあるが、これなら支障はないな」

「改善の余地アリと。それならちょくちょくメンテナンスとバージョンアップするにゃ」

「わかった。それで代金の方なんだが……」

「別にいいにゃ」

「……え?」

「こんな絶海の孤島で金なんか大して意味ないにゃ。せいぜいぬいぬいの店で買い物するくらいしか使わないし、それも今ある金で十分足りるにゃ」

「そうか……」

「まあ、どうしてもって言うなら、金の代わりに今度セイレーンの残骸とか持ってきてにゃ。それでチャラにするにゃ」

「ああ、わかったよ」

「ところで指揮官はこのあと何か予定はあるにゃ?」

「あぁ、綾波と一緒にこの母港をブラブラしてみようと思ってるんだが……まだこの辺りのことはよく知らなくてな」

「だったら永瀬も連れて行ってあげて欲しいにゃ」

「うお、いきなり話振るなよ!」

たまたま通りがかったヒロキが突然話を振られ驚く。

「永瀬も暇を持て余しているみたいだし、ちょうどいいと思うにゃ」

「まぁ確かに、俺もあんま外出てなかったからな……」

「案内役は明石が呼んでおくにゃ。じゃあまたにゃ〜」

そういうと明石はそそくさとどこかへ行ってしまった。

 

 

それからしばらくして、工廠の前で待っていたチヒロたちのもとに綾波がやってきた。

「お待たせです」

「あぁ……ってなんで吹雪と響までいるんだよ」

綾波と一緒に吹雪と響がいることを指摘するチヒロ。

「ふっふーん!明石に呼ばれて来ました吹雪と……」

「響でーす!」

「あぁ、案内役ってお前らだったのか……」

「綾波と同じ特型の私たちなら綾波も少しはリラックスできるでしょって」

「なるほどね……。それじゃ行くとするか」

「まずはどこ行きたいとかある?」

「あぁ、前にベルファストから聞いた畑を一度見ておきたいな」

「了解!こっちだよ!」

元気よく先頭に立って歩き出す吹雪。

その後ろをついて歩く3人。

 

 

「ここが畑だよ!」

しばらく歩いてたどり着いたのは、大きなビニールハウスが並ぶ農場だった。

「すごい数ですね……」

「確かに、これなら肉以外はなんとかなるな……」

「お肉はねー……。魚ならなんとかなるんだけど……」

「肉か……」

チヒロは夕立との約束を思い出す。

「セイレーンの技術ならどうにかできるか…?」

「どうかしたですか?」

「いや、なんでもない」

「それにしても、饅頭までいるんだな。鏡面海域だってのに」

「あぁ、あの饅頭ね、元はナナハさんが連れてきたらしいよ」

「!」

チヒロが目を見開く。

「『人手が足りないなら』って何匹か連れてきて、それが繁殖したのかこんなに増えちゃった」

「母さんが……」

(この母港を発展させて、母さんは何を考えてたんだ……?)

「……まあいい。とりあえず次に行くか」

「じゃあ次は広場に行こう!」

歩き始める5人。すると、向こうから人影が近づいてきた。

「向こうから誰か来るな」

「うわっ!みんな逃げよう!」

突然吹雪と響がチヒロたちの背中を押して走り出した。

「おい!?」

「どうしたんですか急に!!」

「いいから早く!!捕まったら大変だから!!!ほら走って!!!」

3人は訳がわからないまま走らされる。

しかし、吹雪が躓いて転んでしまう。「痛ッ……」

「大丈夫か!?」

「うん、ちょっと擦りむ「うおおおおおおおおおおおお!!!大丈夫か駆逐艦の妹よおおおおおおおおおお!!!」

「うわああああああああああああああああ!!!!???」

青い軍服を着た女性が猛スピードで駆け寄ってきた。

「大丈夫か怪我してないかもし怪我しているなら私が舐めて治してやるぞおおお!!!」

女性は涎を垂らしながら吹雪に抱きつこうとする。

「気色悪りいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」

ヒロキは思わずその女性を蹴り飛ばした。

「ぐぼああああああ!!!」

「ハァ……!ハァ……!正当防衛だよな!?」

「た、助かった……」

「なんなんだ、今のは……」

「空母のアーク・ロイヤルさん。すごく強くて頼りになるんだけどね、その……駆逐艦が好きすぎて時々暴走しちゃうんだよね……アハハ」

「……笑えねぇ」

「む、そこにいるのはもしや指揮官閣下ではないか!?」

「うわもう復活した!」

「これは失礼した!私は航空母艦、アーク・ロイヤルだ!よろしく頼む!」

「あ、あぁ……」

チヒロは引きぎみに挨拶する。

「それにしても閣下も駆逐艦に負けず劣らず可愛らしいな……どうだろう?今度私と一緒にお茶でも……」

「アーク・ロイヤル様?駆逐艦に近づくのは禁止でしたよね?」

いつの間にか背後に立っていたベルファストが笑顔で問いかける。

「ひぃっ!」

「少しお話がありますのでこちらへ」

「ま、待ってくれ!まだ妹たちと話してない!」

「ご安心ください。すぐ終わりますから」

「いやああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

そのままズルズルとどこかへ連れていかれるアーク・ロイヤル。

「……おい、チヒロ。アイツお前も範囲内っぽいぞ」

「勘弁してくれぇ……」

「……とりあえず、行くか」

「そうだね……」

「そうですね……」

チヒロたちはその場を後にした。

 

 

「ようやく広場に着いたよ!」しばらく歩くと、広い芝生が広がる公園のような場所に出た。

「まあ、ここは来たことあるよな」

「工廠の近くだしな」

「ここはねー、みんなでピクニックとかバーベキューしたりして遊ぶところなんだよ!」

「なるほどな」

「しばらくここでのんびりするか。さっきのアレでどっと疲れた」

「賛成です」

5人が腰を下ろして休んでいると、泣き声が聞こえた。

「うえーーーーーーん!!!」

「今度はなんだ?」

「あれは……」

泣いていたのは小さな女の子たちだった。

「園児?」

「ううん、あの子は睦月ちゃん、卯月ちゃん、三日月ちゃん。あれでも立派なKAN-SENだよ」

「マジかよ……」

「でもいつもはあと一人如月ちゃんがいるんだけど……あっ!」

響が木の上を指差す。そこには木の枝にしがみついて動けない様子の如月の姿があった。

「助けてぇ~~!!」

「あの子、高いところが苦手みたいで……」

「早く行かないと……!」

チヒロは立ち上がって走り出す。

「あ、ちょっと指揮官!」

チヒロは睦月たちの元に駆け寄るが、如月は今にも落ちそうになっていた。

「まずい!」

「あ、危な……!」

「…………あ」

如月はついに耐えきれなくなったのか、手を滑らせて落下してしまった。

「きゃああ!!」

「うおおおおお!!」

チヒロは咄嵯に如月に手を伸ばす。

そしてなんとか受け止めることに成功した。

「ふぅ……」

「大丈夫か?」

「あ、ありがとうございます……」

「そうか、良かった」

チヒロは如月の頭を撫でながら微笑む。

「如月~!」

睦月たちが駆け寄ってくる。

「だいじょうぶ!?」

「けがはない?」

「怖かったよぉ……」

「よかったぁ~!」

睦月たちは如月の無事を喜ぶ。

「ありがとうおにいちゃん!……えーっと……あ、しゅきかん!」

「あぁ。もう大丈夫だからな」

「うん!」

「それじゃ、俺たちはそろそろ行くぞ」

「ばいば〜い!」

「またね〜」

「ありがと〜!」

「気をつけて帰れよ」

チヒロは4人に手を振り、再び歩き出した。

その後、チヒロたちは母港を散策し、艦船たちとも交流を深めるのだった。

「今日は楽しかったです」

「そうだね!指揮官はどう?」

「俺もいい気分転換になった。明日からも頑張れる気がするよ」

「また一緒に遊ぼうね!」

「あぁ」

5人は別れてそれぞれの部屋に向かった。

 

 

「……ん?」

チヒロは自室の前に誰か立っていることに気づいた。

それは、黒い軍服に身を包んだ長身の女性。

「あら、ようやく来たわね」

その女性はチヒロに気づくと、不敵な笑みを浮かべた。

「……誰だ?」

「私はプリンツ・オイゲン。鉄血の重巡よ」

(鉄血……。そういえばヒロキが鉄血の船が一隻だけいるって言ってたか)

「それで?何の用だ?」

「新しく来た指揮官がどんな子か見に来たのよ。なかなか面白そうな人じゃない」

「そりゃどうも」

「フッ。これからよろしく頼むわ」

オイゲンは不敵に笑うと、そのまま去ろうとする。

「……オイゲン」

チヒロはオイゲンを呼び止める。

「何かしら?」

オイゲンは立ち止まったまま振り返ろうとしない。

「下手な作り笑いはやめとけ」

「……っ」

「これでも、表情から感情を読み取るのは慣れてるんでな」

「……ふぅん、ナナハの息子なだけはあるわね」

オイゲンはそのまま去っていった。

「……さて、寝るか」

チヒロは部屋に入っていった。

 

 

その夜。

「……加賀……加賀!」

「ん……」

「起きなさい、加賀!」

「……姉さま?……っ!これは……!」

「えぇ、鏡面海域よ」

「セイレーンか……!」

周りには既に大量のセイレーンが囲んでいた。

「行きましょう、加賀」

「はい、姉さま」

二人はボロボロの艤装を展開し、セイレーンの艦隊に向かっていく。




本当は今回で一航戦加入させるつもりでした


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一航戦との再会

ここの赤城はCWよりの性格


「セイレーンの群れはこの辺りか!」

チヒロたちは、鏡面海域内に現れたセイレーン艦隊を狩るべく艦隊を引き連れていた。

「……妙だな。いくらなんでも動きがなさすぎる」

エンタープライズはレーダー画面を見て呟く。

いくら統率力のないセイレーン艦隊であっても、何かしら動きがあるものだ。しかし、今回の敵艦隊はレーダーを見る限り艦隊に大きな動きはなかった。

「……いや、待て。これは……戦闘の動きか?」

チヒロはレーダーの画面を拡大すると、セイレーンがある地点で固まり始めていることに気付く。そこにはセイレーンとは違う反応があった。

「これは……艦船の反応だ!」

チヒロの言葉に皆が驚く。鏡面海域で艦船に出会うことなどありえないからだ。

「迷いこんだのか……?」

「なら早く助けないとです!」

「……」

チヒロはすぐには応じなかった。なにか胸騒ぎを起こさせるものがあるのだ。その正体を確かめるべく、セイレーン艦隊のいる場所へと近付いた。

 

 

「セイレーン艦隊、確認!」

「あれと戦ってるのは……重桜の艦船でしょうか?」

「あれは……!」

「うわっ!ちょっと綾波!?」

綾波は突然スピードを上げてセイレーン艦隊……いや、セイレーン艦隊と戦う艦船のもとに急いだ。

そして、セイレーンを斬り捨てながらその艦船の側に降り立つ。

「赤城さん!加賀さん!」

「っ!……貴女は……綾波!?」

そこにいたのは重桜所属空母『赤城』と正規空母『加賀』だった。

「……!」

チヒロは無線で拾った声を聞き取る。

「綾波……どうしてここに」

「綾波!」

遅れてエンタープライズもやってきた。

しかし、彼女の姿を見た途端、加賀は敵意を剥き出しにした。

「……!貴様ァ!」

「!!」

加賀がエンタープライズに向かって殴りかかり、エンタープライズはそれを避ける。

「いきなり何を……?」

「とぼけるな!貴様のせいでどれだけ我々が被害を被ったと思っている!」

「……?どういうことだ?」

「ダメです加賀さん!この人は味方です!」

「なぜ止める綾波!お前も今の重桜とユニオンの関係は理解しているだろう!」

「……そうか、あなたたちは私の『素体』と会っているのだな」

エンタープライズは納得したように言う。

「……どういうことだ」

加賀は少し落ち着いた様子を見せる。

その時ーーー

「赤城!加賀!」

近づいてきたウェールズの艦艇から、大きな声が聞こえてきた。

「その声は……!」

赤城と加賀は声の方向に顔を上げる。

そこには、複雑な表情を浮かべたチヒロがいた。

「「チヒロ……」」

2人の口から無意識のうちにその名前が漏れる。

 

 

チヒロたちは赤城、加賀を連れて母港に戻った。

その間も、母港に戻ってからも、チヒロは

赤城たちと目を合わせようとしなかった。

「指揮官?どうしたです?」

綾波は心配になってチヒロに声をかける。

「赤城さんたちと会ってから様子が変ですよ?」

「……あいつらがやったことを考えたらわかるだろ」

チヒロはぶっきらぼうに答える。

「チヒロ……」

背後から声をかけられた。チヒロは振り返らない。それが赤城の声であるとわかっていたからだ。

「……なんで、ユニオンを襲撃した」

チヒロは怒りを押し殺したような声で尋ねる。

「……それは」

「お前たちがあんなことをしなかったら、俺は重桜を抜けずに済んだ。レッドアクシズの指揮官として戦えた!」

「……アズールレーンとレッドアクシズに分かれた以上、いずれこうなる運命よ」

「セイレーンを狩るのが先だろ!こんなこと天城だって望んでない!」

「あなたのためよ」

「ふざけるな!国同士の衝突がなんで俺のためになるって言うんだよ!」

「それは……」

チヒロの怒りは収まらない。赤城たちも言い返す言葉がなかった。

「……俺はお前たちのしたことを許さない」

チヒロはそれだけ言って立ち去る。

「指揮官!」綾波は慌てて追いかけていった。

「チヒロ……」

赤城たちには、チヒロの背中を見送るしかできなかった。

 

 

チヒロは寮舎の屋上でゼリーを吸いながら海を眺めていた。

「……はぁ」

チヒロは大きなため息をつく。

「指揮官」

そんなチヒロに誰かが話しかけてくる。振り向くとそこには綾波の姿があった。

「綾波……」

「指揮官、赤城さんと加賀さんとはお知り合いだったですか?」

「ああ……」

チヒロは答えづらそうにする。

「……アイツらは父さんの艦隊にいたからな。子供の頃から、ちょくちょく面倒を見られてた」

「そうなんですね……」

「まあ、士官学校に入ってからはあまり会わなくなったけどな」

「……赤城さんたちのこと、やっぱり許せないです?」

「……あぁ」

「でも……二人は悪い人じゃないと思うのです」

「……」

「だから、ユニオンを襲撃したことも、何か理由があるはずです」

「……知ってるよ。そんなこと」

チヒロは俯き気味に答える。

「……子供の頃から一緒にいたんだ。あいつらがなんの理由もなしにあんなことをするわけがないことも、重桜を想ってのことだってのも、全部わかってる」

「……」

「それでも、俺はアイツらのやったことが許せない」

「……やったことだけ、です?」

「……?」

「赤城さんたちのこと、嫌いになったですか?」

「……」

「本当に赤城さんたちを許せないなら、あの時見捨ててたはずです」「……」

「本当は、赤城さんたちと会えて嬉しかったんじゃないです?」

「……!」

チヒロはハッとする。

「……そう、なのかもな」

「きっとそうです」

「……ありがとうな、綾波。少しスッキリした」

「綾波こそ、今日は指揮官のことが少しだけ知れて嬉しいです」

綾波は微笑む。チヒロはそれを見て少し驚いたような表情を浮かべる。「指揮官?」

「お前……笑えたんだな」

「失礼です!」

綾波は頬を膨らませる。

「ハハ、冗談だよ」

「指揮官は意地悪なのです」

「ごめんって」

「……ふふっ」

「フッ」

二人の間に穏やかな空気が流れる。

チヒロの顔に、もう怒りの感情はなかった。

 

 

翌日。チヒロは赤城、加賀を執務室に呼び出した。

チヒロは2人と話をつけなければならない。

「……チヒロ、入るわよ」

赤城と加賀が部屋に入ってくる。

「来たか」

チヒロは椅子から立ち上がる。

「それで、私たちを呼び出した用件は?」

赤城は尋ねる。チヒロは真剣な表情で言った。

「もう一度聞く。なんでユニオンを襲った?」

「……ごめんなさい。それだけはどうしても言えないわ」

赤城は申し訳なさそうに答える。

「私も同じだ。今は言えん」

加賀も同様に答える。

「なら……質問を変えよう。お前たちはセイレーンと結託したわけじゃないな?」

「えぇ、それは誓って言えるわ」

「……わかった」

チヒロは席を立ち、赤城たちに歩み寄る。

「俺はお前たちのしたことを許せない。だから、責任を取ってもらう」

「責任……?」

「俺たちと一緒にセイレーンを狩れ」

「……」

赤城と加賀は何も言わなかった。しかし、その目からは強い意思が感じられた。

「……いいでしょう。あなたの望み通り、私たちはセイレーンを倒しましょう」

赤城はそう言って手を差し出し、チヒロはそれを握り返した。

「それから……」

チヒロは顔を赤らめて言う。

「久しぶりに会えて……嬉しかった」

赤城たちは一瞬キョトンとした顔になるが、すぐに笑顔になって言う。

「私もよ、チヒロ」

こうして、重桜の空母、赤城・加賀はチヒロたちの艦隊に加わった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。