Kung-Fu / Box (勿忘草)
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『戸的高での出会い』

この度、ハーメルンで投稿させていただきます勿忘草《わすれなぐさ》と申します。
にじファンでは山茶花というユーザ名で投稿しておりました、またよろしくお願いします。


俺の名前は楊鉄健。

読み方はヤナギテッケンって言う。

 

高校1年生で今日からこの東京の戸的高へ転校して来た、その理由は親の仕事の都合による転勤で、そして俺は初日にして俺は目の前に居る女性に絡まれている。

 

見た目は背が高く、髪の毛はそこまでめちゃくちゃに長いわけではなく可愛いというよりは綺麗といった表現が似合う。

 

何故絡まれたのかというと実は転校初日の朝から不良と喧嘩をしてしまったからだ、だといっても不良が女性にからんでいたのが理由だったんだけど。

 

それで俺が不良を相手に戦い普通に倒したら今目の前にいる女性に見られていたのだ、それが理由で絡まれることになっている。

 

「で、どういった用なんです?」

「ああ……美菜ちゃん助けてくれてありがとう」

「それだけですか?」

 

変だな……お礼を言うような雰囲気じゃなかったぞ、今のは。

どちらかといえば戦うのが好きな奴が出す雰囲気だ、スパーリングでも喧嘩上がりの奴が出してるのを見た事があるが一際とこの人は濃いな、戦いが本当に好きなようだ。

 

俺はとっさに身構えていた、もし今攻撃されても大丈夫なように。

 

「それだけだよ、あんたが戦う気ないみたいだしやめた」

 

成る程戦う気がないからアウトって訳ね、まあ、俺としては万々歳なわけだが。

 

俺は不良が他の人に迷惑をかけない限りは自分から攻撃する気はない、例外として自分にどうしようもない危機とかだったり、相手が聴く耳を持たず手を出してきたら別だけどな。

 

「待ってくれ……あんたの名前は何って言うんだ?」

「私の名前か? ……『相川(あいかわ)摩季《まき》』だ」

 

そう言って去っていく女性、なるほど相川さんか。

 

とりあえず今日はもう帰るか……

 

……ただこの日から自分の転機が訪れるなどわかるわけもなく、とてつもない強敵と出会い続けることになるなど思いも寄らなかった。

 

そして次の日、転校初日から喧嘩をした俺は憂鬱な気持ちのまま学校へ行く。

 

「ハアッ……」

 

ため息をついている自分はきっと情けない顔をしているんだろう、正直な所不良を相手にしてふんだんに使う必要はなかったと思う。

 

自分が六歳の時から始めた『立ち技』の『武術』である『ボクシング』は不良を倒す為とはいえ本気を出す為にはいかない、手の速度がプロでは時速三十キロは出る。

遅いと思うなかれ、『体感速度』と基本的に近距離で放たれるため三十とは言えどとてつもなく速いのだ、今の俺は三十ではなく二十前半だ。

ボクサーのパンチを掴むには度胸が優れていて反応速度が速い奴、純粋に危険を顧みたりしないクレイジーな奴、もしくはめちゃくちゃ珍しいだろうが瞬きよりも速い打撃を見切れる奴。

といってもどれもこれも出会える可能性は低いだろう、それこそ『人生に一人』でも出会えたら幸運だ、そして三種類だから『三人』だろう。

 

それから放課後になるまで俺はのんびりと授業を受ける。

 

「せっかくだから夜の公園でも回るか?」

 

ちょっとした好奇心が心の中にあった、青森とは違ってここの夜はどういったものなんだろう?

俺はそう思って家に電話を入れて遅くなる事を伝えた後にある繁華街へと向かっていった。

 

「随分と騒がしいな……」

 

そう感想が自然に出るほどの光景だ、街行く人たちが男女問わず綺麗な格好をしている、そして一際うるさい場所を感じ取った。

その場所とは路地裏だった、喧騒の声が飛んでいるのが聞こえてくる、俺はその声の方向へと走って行った。

 

目に飛び込んできたのは多くの男性が女性を囲んでいる光景だった、喧嘩かなにか知らないが戦っていて、その中心に立っていたのは相川さんだった。

 

「何やってんだ、あの人……」

 

俺は気になってその喧騒の中に入る、なんか男が数人がかりで相川さんを攻撃していた。

 

「幾らなんでもそれは男としてどうなんだろうな」

 

俺はとりあえずその集団の攻撃を食い止めるために動く、絡まれる以外にこういう一人相手に複数という手合いも嫌いなのだ。

 

「やらせてもらうぜ、『エアマスター』!!」

「残念だがそこで終わりだ」

 

囲もうとする男達の一人の前に立つ、案の定男達はイラついたようにこちらへ言葉を投げかけてきた。

 

「お前、なんのつもりだ!!」

「こういうつもりだ、大声出して恥ずかしくないのか?」

 

俺は構えて言葉を投げかける、これが恥ではないならば大概の事が恥ではないだろう、武器とかでも装備してこいというものだ。

 

「なめてんじゃねえぞ!!」

 

男が苛立っている状態で攻撃をしてくる、そんなものでやられるほど俺は甘くなんてない、俺は普通に攻撃を避けてダメージが通りそうな『肝臓』へ右の拳によるブローを見舞う。

 

「グハァ!!」

 

見事にクリーンヒットした為呻いている、残念だけどそうなって動きを止めたら集中狙いだぜ、そうやって呻く前に肝臓を防御したほうがいいんじゃあないのか?

 

「オラ!!」

 

続いて握りこんだ左の拳を先ほどと同じ『肝臓』へ叩き込む、これで一人男が倒れたが感想としては随分あっけないといった感じだ。

 

「てめえ!!」

 

後ろから攻撃してきたのかは知らないが、こちらは振り向きざまカウンターで顎へアッパーを決める。

アッパーで顎を揺らした所に顔へストレートを見舞ってダウンさせる、幾らなんでも防御ぐらいはしないといけないだろう、無用心すぎる。

 

俺が二人を倒している間に相川さんは他の男を倒していた。

そんな俺に近づいて相川さんは言ってくる。

 

「お前……私ともやってみないか?」

 

その『目』は昨日感じた気配と同じ『戦闘好き』の『目』だった。

 

「どうやら……逃がしてはくれないみたいですね」

 

俺は後ろに下がろうとするがじりじりとつめてくるのが分かる。

これは厄介だ……

友達か知らないが観戦してるし。

 

「来ないなら……行くぞ」

 

相川さんはビルを三角飛びで登る。

 

「何処から来る!?」

 

俺は腕を十字に交差して攻撃を待つ。

 

「これで終わりだ!!」

 

膝を高い打点から落としてくる、まるで流星か隕石かと思うほどに勢いをつけて落下してくる、俺は腕に力を込めて防ぐが腕のガードが崩れてしまう。

 

「グッ!!」

 

再び構えを取ろうとした腕の片方をつかまれていた、そしてそのまま俺を抱えてビルを駆け上っていく、まさか、ここから落とす気かよ!!

 

「はぁ!!」

「……舐めるな!!」

 

首を下げて首を固められるのを防ぎ、捻られる方向とは逆に体を捻って強引に拘束をゆるくする、

最後に落ちる際に足から落ちて衝撃を吸収してことなきを得る、当然強引に技を外したせいで少し体の節々が痛んでいるが、アレを食らうことに比べたらましだろう。

 

「いやはや怖かった!!」

「あんな強引に『エアスピンドライバー』を外すなんてね」

 

相川さんはそういった俺に軽く言って綺麗に着地する、この人…空中戦が得意とか面倒だな……厄介なタイプだ。

 

「まだいけるだろ?」

 

満面の笑みを浮かべながら着地して一番に言う言葉がそれかよ。

仕方ない人だ……こうなったら『試合』としてではなく、何でもありの『喧嘩』と考えてやらせてもらうしかないな、そう思って俺は腕に力を込めてさっきよりも気合を入れて構える。

あの人に効きそうな場所は何処だろうか?

といっても速度重視ならあまり動かない顔や腕ぐらいか、もし捕らえられるのならその都度に肝臓とかボディを中心に攻撃して速度を奪うのも良いかもしれないな。

 

「あの……やめて下さい」

 

俺が構えて相川さんを睨みつけてから数秒後。

後ろからある声が聞こえた。

無視しようとして拳を出そうとする、それに相川さんが反応して迎え撃とうとした瞬間……

 

「マキちゃんも本気でやったらダメ!!」

 

美菜さんがわざわざ割り込んで俺と相川さんの勝負を止めてきた……せっかく熱を持っていたというのに、この行動により張り詰めていた空気が一瞬で霧散する、体から力が抜けてへなへなしてしまいそうだ。

 

「悪いけど美奈《みな》ちゃんもこう言ってる事だし……お開きにしよう」

「はい、またいつか機会があったらやりましょう、マキさん」

 

そう言って路地裏を抜けて少し歩いた先に見えた人間がいた、そいつの印象は一言で言えば……

 

「やあ、『エアマスター』のあの技を初見で外せるとは中々の人間だろうからね、声をかけさせてもらった」

 

見た目が凄く、そしてなんだか不思議な奴がそこには居た。

 

格好を言うならば頭にはニット帽、服はポケットが沢山ついたコート、頭に被ったニット帽の下にはバンダナ、そして表情を悟られにくくする為かサングラスをかけている。

 

「一体何のつもりだ?」

 

怪しすぎる外見の為身構えて応対をする、着いていく事は着いていくが警戒心は解かない方が良いだろうな。

 

「単刀直入に言おう、楊鉄健……君に話が有ってね、喫茶店まで来て貰えないだろうか?」

 

この言葉が自分を後に大きく変える戦いに発展するなんてその時は知る由もなかった。




こちらでは初投稿なのでノウハウが分かっておらず至らぬ点があるかもしれません。
何か知らして気がありましたらどうかお願いします。


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『深道ランキング』

あるキャラが出ますが彼はこの話だけです、ご了承ください。


俺は変な人に話が有ると言われて喫茶店へ行った、一体なんの用だ?

俺はこの人とは面識がないから全然分からない、冷静に考えたら俺の名前を知っているのもおかしな話だ。

 

「名前を知っているからと言ってそこまで身構えなくて良い……」

 

男がそんな事を言ってくる。

 

「あそこに座ってくれ、先客が居るんでね」

 

そう言ってある席を指差す。

 

「深道《ふかみち》、こいつは?」

「ケアリー、名前は明かさないでくれよ。 まあ、新しいリザーヴ候補で上位ランカーの素質持ちかな」

 

目の前にいたのは百キロを軽く超える巨漢、そして相撲取りのように髪の毛を()っている。

 

それにしてもリザーヴやランカーとはどういう意味だ?

 

「とりあえず座ってくれないか、鉄健くん」

 

そう言われたから座る俺、するとケアリーとか言う人がメニューを渡してきた。

 

「なんか飲めよ。 どうせ深道の奢りだ」

「おいおい……払うのは間違いないがすすめるなよ」

 

とりあえず飲み物を頼むか、流石に話をするのに飲むものがないと面倒だ。

 

「なら紅茶を……」

「分かった、ウェイトレスに言って運んでくる間に話を始めよう」

 

そう言って深道とか言う人はノートパソコンを取り出す、そして俺にある機械を見せてこういってきた。

 

「これはある市販のものを俺が改造して作った『人ナビ』だ」

「ハア?」

 

変な声が出たのは仕方ない、一体それを使って何をするつもりかの説明がないと困る。

 

「まあ、これだけでは分からないだろう。 そして本題だ……」

 

そういった瞬間空気が変わる、さっきまでとは少し違うぞ。

 

「楊鉄健。 君が『深道ランキング』に欲しい」

「『深道ランキング』?」

「ああっ、それは説明させてもらうから気にしないでくれ」

 

そう言ってノートパソコンをクリックして戦っている映像を見せてくる、なるほどそういった企画なのか。

 

「人が誰しも戦いたいとかそう言った欲があるのは分かるかな?」

「分かることは分かりますが……俺もプロボクサー志望ですし」

 

質問に答える、正直な所自分の力を試したいとか言うのはあるし、スパーリングじゃない場面で本気で人に拳を入れたいという願望が無いといえば嘘になる。

 

「そう言った人の要望を満たしながらそれらの戦いを動画として配信する、君達選手に対する報酬は現金であり、基本的にランキング戦であればその対戦相手を倒した時にお金が入るというわけだ」

「なるほど、選手の強さを端的にしめすためにランキング制にした、そして主催者である貴方の名前をつけて『深道ランキング』というわけですか」

 

話を聞いて理解が出来た、としても一体どのような人達が参加しているのか分からない。

 

「その通りだが、君の意見が聞きたい、参加するかどうか、強制をする気もないしな」

「参加するのは出来るだけ早いほうがいいですか?」

「そりゃそうだ、かと言って君の試合は今すぐではない、おおよそ……二ヵ月か、遅くて三ヵ月後ぐらいだな」

 

参加の表明に関しての質問をする、二ヶ月後か、その間に少し体を作っておくかな……戦いやすいようにしておいたほうがいいだろうし。

 

「参加は良いんですけど、いくらか聞いていいですか?」

「こちらの答えられる範囲ならば問題ない、どうぞ」

「まず一つ、これは『試合』ではなく『喧嘩』と見ていいんですかね、反則とかというのは?」

「特に反則はないし、まあ…ストリートファイトだから『喧嘩』だが」

「そして万が一の事でしょうけど将来に悪影響を与えるのは?」

 

俺も流石に少しやりすぎてプロの道が閉ざされたら洒落にならんからな、質問はしておかないと。

 

「流石に悪辣な試合内容でもない限り、そうはならないだろう……少なくても腕や足を圧し折ったりがないなら無問題だ」

「そりゃあ良かった、でもうひとつはその順位ってどうやって決まるんですか?」

「勝利した場合、その対戦相手の順位が手に入る、まあ、当然高ければそれに比例して強いけどね」

「そうですか、よく分かりました、少しね……さっきの言葉を聞いて安心してるんですよ、こっちも『喧嘩』ならばなりふり構う気はないんでね、で……今からケアリーさんを倒してその順位を貰ってもいいんですか?」

 

ファイティングポーズを取ってステップを踏む、さっきまで篭っていた熱がまた吹き返す、狙うのは肋骨、もしくは肝臓、腹そのものは効きそうに無いから側面を集中的にやったほうが効率はいいだろう。

 

「面白い坊主だ、本当に今すぐやってもいいんだぜ!!」

「おいおい……思ったより血気盛んだな、楊鉄健」

 

そう言って椅子から立ち上がった俺とケアリーさんが睨みあう、さて……やるか、しかしそう思った瞬間、深道さんがパソコンを閉じて俺たちの間に入った。

 

「待て待て、そんなに慌てなくてもお互いが戦うチャンスは作ってやるから気にするな」

 

その言葉を聞いてお互いに離れる、まあ今すぐやると言っても戦うチャンスをもらえるのなら構わないしな。

 

「それなら良いですよ、だってこんなに大きい人と戦えるチャンスはないですからね」

「ボクサーは階級別だからな、まあ、いつでも挑戦は待っているぜ」

 

そう言って俺達は店を出て別々の道へと分かれて帰っていった。




少ないですが申し訳ございません。
なにかしら指摘する点がありましたらどうかお願いします。


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『襲来!! 黒正義誠意連合』

作者の好きなキャラが登場します、そしてもう一人のオリキャラが登場します。


深道さんとケアリーさんから話を聞いてから一週間も経ったある日の事、学校帰りで俺は街中を歩いていた、すると奇妙な光景を見る事となる。

 

「なまら弱い奴ばっかりだな、内地の男は」

 

ガクランを来た男が沢山の群れとなっていた、言葉遣いから北海道から来たんだろう、俺はとりあえず無視する事にした、ただこの十分後にとんでもない騒動が巻き起こるとは知らずに。

 

「悪いけど兄ちゃんよぉ」

「何です?」

「俺達は『黒正義誠意連合』っていうんだ、まあ、用件は黙ってやられとけって事だ!!!」

 

いきなり声をかけられたと思ったら襲撃って何だよこいつら、流石に無抵抗って訳にはいかないしこちらもやらせてもらうけどよ、これは『喧嘩』って事でいいんだよな!!

 

「ていっ!!」

「甘いんだよ!!」

 

いきなり飛び掛るような攻撃をしてきた奴に対して右のストレートを顔面にぶち込む、そしてそいつのがら空きになった所にもう一発。

まだまだ居るみたいだが普通こうも簡単にやられたら少しは躊躇しないか?

 

「こっ、こいつ……」

「掘り出し物だぜ、やっちまおう!!」

 

不良が構えている、人数はおおよそ十人ほどだ、こっちもそれだけいたら多少は楽しめそうだな、俺は壁を背に出来たらいいのにと少し高望みしていたが相手がここまで来ていたらそれは無駄だろう、構えて迎撃の姿勢を見せた。

 

「シッ!!」

 

目の前にいる奴に左のジャブを浴びせる、すかさず横へ移動し、そして脇腹に狙いを定めて……

 

「フンッ!!」

 

脇腹へのブローを食らわせて一人目を倒す、ここはリングでもないし今やっていることはスポーツの側面を持ったボクシングではない、ただいかに効率よく相手を倒すか、紳士的な要素を排除したボクシングだ、普通に考えて顎にアッパーをするなどマウスピースを持っていない奴にやればただではすまない。

空手家が正拳突きを、相撲取りが張り手を素人相手にやらないように、ボクサーが素人相手にパンチを打ち込むなどは本来ご法度である。

 

ただ、今の俺はその様なご法度(はっと)などという気持ちを排除している、正直素人相手に本気でパンチをぶち込める機会を心の奥底で俺は待っていた、威力を試すサンドバックより手に返ってくる感触が良いからな。

……とは言っても一気にトップギアにはもっていけないだろうがな。

 

「オラ!!!」

「グアッ……」

「まだまだ行くぜ、オイ!!」

 

鼻に一発、腹に二発入れて二人目の奴も終わり、そこからギアも少しずつ上がり始めて、側頭部と顎に一発ずつで三人目、そして大技の『ハートブレイクショット』を決めて四人目を順調に倒す、少しずつ相手にもあせりが出始めたのをきっかけに更に倒すスピードが上がっていく。

 

「甘いな、二人同時にやるにも焦ってずれてるぜ、ソイヤ!!」

「カッ…」

「ウエッ……」

 

二人のうち一人がゲロ吐いて倒れたけどどうでも良い、あと四、五人ほどだが一人が電話をかけ始めた、なんだか嫌な予感がしはじめたので逃走の準備をする、これで何十人も来たら面倒だ。

 

「逃げたぞ、追いかけろ!!」

「待ちやがれー!!」

 

声が聞こえるが気にしない、行き止まりは何処にあるんだ?、壁を背にして一対一の状況を意図的に作りたい、そしたらトップギアに入る前とはいえど楽にこいつらを全滅させられるだろう、しかし残念な事に逃げ回っていたのは狭い方向ではなく見渡せる場所の方である、そこで見たのは自転車を使って上手く不良たちをやっつけている男と美菜さんだった。

 

「あっ、あなたは!!」

 

美菜さんは俺の顔を見て驚くが今はそんな時間なんてものはない、自転車に乗ってる人に頼んでこの状況から皆さんだけでも逃がしてもらおう。

 

「美菜さん、こっちからも来てるから話してる暇は無い!!、俺が引き寄せた分はどうにかするから自転車の人、逃がすのを頼む!!」

 

そういうと自転車、よくよく見たら本当はBMXだが細かい事は今のところはいい、それをこいで美菜さんを乗せて逃げていった、さて人数の方はどれほど増えたんだ!?

 

「さて……兄ちゃん、もう逃がさないぜ」

「今度は三十人ほどかよ、こいつら底なしに増えやがるんじゃないのか?」

 

そう思って振り向いて見たが目に入った人数に口が塞がらない、幾らなんでも多すぎだろ……これ。

 

「これは厄介だぜ、だが……」

 

構えてステップを踏む、そして一気に前にいた奴の顔面めがけて右ストレートをぶち込む!!

 

「ガハッ!!」

「なっ、さっきよりも強くなってる!?」

「吹き飛んだか……まあ、逃げている間にようやくエンジンがかかってきたからな」

 

相手が驚いている隙に更に二人ほど倒す、携帯で呼び出せないように全員やっておかないとな、ハデにぼろぼろにしたら相手の方はどう出てくるか楽しみだな。

 

「シッ!!」

「ヌガッ……」

「ラァ!!!、フッ!!!、ハイァ!!!」

 

瞬く間に四人を倒して七人がダウンした、さてエンジン掛かってきたから体も軽い。

おかげで相手が飛び出すよりも速く迎撃できるぜ。

 

「こっ、こいつ……」

「残りは二十五、総人数は三十二人だったってわけだ、行くぞ」

 

冷静に人数を数えて相手へパンチを繰り出す、今頃美菜さんたちはどうしているだろうか?

 

「なんだ、なんだ……このお祭り騒ぎは?」

 

そんな事を考えていると声が聞こえてある人にぶつかった、振り向いたらそこにはちんちくりんな男の人が立っていた、身長は百六十五ぐらいだというのに異様に着膨れしたようなそんな感じの格好をしている、それに加え目つきが悪いから道行く人からは誤解されていそうだ。

 

「なんだ、このチビが……」

「こいつもどうせだからやっちまおうか?」

「そうだな、面倒だし」

 

不良たちはその人を見て俺を含めてやってしまおうとか言っている、俺に手も足も出ていないくせに何を言っているのだろうか、他の人に構っている暇なんて存在しないというのを思い知らせてやろう。

 

「スゥウウウウウウウ……」

「やっちまえー!!」

 

その人が大きく呼吸を吸うと不良たちが群がるようにその人へと向かっていく、しかし次の瞬間俺の目に入ったのは驚愕の光景だった。

 

「フン!!!!」

『うわぁああああああああ!!!?』

 

足の踏み込みと気合だけで十人以上を吹き飛ばす、一体どれだけの鎌度があればこんな風になるというんだ!?

 

「一体今のは?」

「ただの震脚をやっただけさ、全く……お前ら弱いんだな」

 

一瞥して再び構える、そして俺の方を見て言葉を発した、笑顔をしたら牙みたいな歯が見えていた、絶対笑顔も怖がられてる人なんだろうな。

 

「急いでるならさっさといきな、こいつらが抵抗するなら足止めしておいてやるからよ」

「あっ、ありがとうございます、できれば名前聞かせてもらえませんか?」

「長枝、逢間(おうま)長枝(ちょうし)

「分かりました、では言葉に甘えて行かせて貰います」

 

長枝さんがそう言って俺は行く、そして数十分後、不良達が一際群がってる場所を見つけた。

一体何が起こっているというのだろうか?

 

「すまないが通してくれよ」

 

俺は気になって不良たちの間に割り込んでいく、すると中心でマスクマン達が倒れていてハチマキをつけた学生が立っていた、きっとアレが一番偉いやつなんだろう。

 

「悪いが……次の相手させてもらおうかね」

 

俺はそう言ってハチマキをつけた人の前へ躍り出る、こちらとしてはせっかくのチャンスなんだから強い奴とやりあいたい、それにここまでよその人間にやられて黙ってられるほど甘い気は無いんでな。

 

「誰だ、お前は?」

「この騒動に巻き込まれたもんだ、そちらがしでかした事なんだからけじめとしてやってもらうぜ」

 

理由を言って構える、相手もこちらの考えを理解したのか、お互いが同時に拳を出していた。

 

「オラ!!」

「シッ!!」

 

クロスカウンターのようにお互いの頬へと拳が叩きこまれる、速度での優勢はここまで近い距離でお互いが同時に放てば拳の速度というよりはリーチの差が明暗を分ける。

 

「面白ぇ!!」

「同意見だ、あんたもなかなかやるじゃねえか」

 

相手は口を切ったのか口元を拭って大声で叫ぶ、耳に響くがとても気合のある人だと感心する。

 

「まだまだ行くぜ!!」

「上等!!」

 

再び構えて同じタイミングで動き出す、大きく張り上げて気合を全面に押し出すようにお互いが叫んだ。

 

『おおおおおおお!!』

 

顔に拳が当たるが俺のも当たる、こちらとしては先に当てているので引くに引けない。

 

「もう一丁!!!」

「おぉおおおおお!!!」

 

三度(みたび)クロスカウンターが入る、拳によって顔は腫れている、相手も振りかぶっている、こちらとしては休んではいられない、すると相手が腕を動かしている一体何のつもりだ?

 

「オラァ!!!」

「おおおおお!!!!」

 

クロス・カウンターで両方の顔が弾けと舞踊に動く、すると相手から声が聞こえてきた。

 

「お前が相手ならばルチャマスターとやらの心意気は悪いが戻させてもらう」

「なっ……今まで片手だった!?」

 

クロス・カウンターの衝撃に加えて更に逆の拳が顔面にめり込んでいく、顔面に手痛い一撃を喰らい顎が揺れて崩れ落ちる、体がろくに動かずに平衡感覚を失って地面に倒れこんだのだった。

 

「てめえは強かった、ただ俺の方が根性があった、面白かったぜ」

 

そう相手が言うと歓声が沸き起こる、しかしその歓声は次の瞬間驚きの声でかき消される事になる、何が有ったのか見てみると不良が群れを作っている所へ綺麗に相川さんが降り立ってきた、良いとこをとられてしまったな。

 

「アレがエアマスターか……」

「もしかして、目当てだったのか?」

「そうだ、お前との決着が着いていてよかった」

「わかった、じゃあ俺は帰るよ、どうにか足が使えなくても誰かの足につかまれば立てるしな、そういえばあんたの名前聞き忘れていたな、名前はなんて言うんだ?」

北枝(きたえだ)金次郎(きんじろう)だ、お前は?」

「楊鉄健だ、よろしくな」

 

とりあえずいつかは闘えるだろうしな、あまり気にする事ではないだろう、俺は不良達の輪からなんとか抜けて家路へとついた。




次回は鉄健ではなくもう一人のオリキャラが主役の話です。
オリキャラはあの大勢を吹き飛ばした男です。
なにかしら指摘する点がありましたらどうかお願いします。


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『逢間長枝 深道ランキング参戦の道のり』

オリキャラ、長枝はかつてにじファンでの小説でも出てきましたが少し設定が変わっております。


俺の名前は逢間(おうま)長枝(ちょうし)

 

俺は小さい時から武術をしていた、始まりのきっかけとしては微々たる物で、家のしきたりが厳しく勉学においても何をするにおいても上でなくてはならない。

 

俺はそのしきたりから逃げ出すように、それらの行動を成功させる重圧によって積み重なる苛立ちを別のものへと昇華する為に武術を始めた、それはもう来る日も、来る日も…。

雨が降りしきる日も、雪が降り積もる日も、雷が遠くまで音を轟かせる日も、太陽が照りつける灼熱の日も、台風の日も、四歳の時から延々と続けていた。

 

現在、二十二歳になるまでの間、只ひたすらに『気』を練って放ち、己の周りが『気』で陥没した時に俺は鍛錬の充実を感じた。

 

しかし逢間の家はそれを許す事はなかった、武力に換算しては余りにも異質なほどの強さ、心に空洞が出来たかのようにその強さを練磨する事に没頭する息子。

このような存在を家に置くのは危険極まりない事であり名家の血に支障をきたしてしまう、そう考えた親は俺を十二の時に逢間の家から追い出した。

 

それから俺は放浪をしながら自分が鍛錬をしてどの地点へいるのかを知るために他人への組み手に赴いた。

空手を、柔道を、剣道を、テコンドーを、ボクシングを、サンボを、カポエイラを、骨法を、自分が知りえる限りの拳法や武術を己が持つ拳法でねじ伏せてきた。

 

中にはプロや有名な奴もいたが一撃で結果が出てしまい、戦いが終わるといつも相手が地面に横たわっていた。

今まで培ってきた鍛錬の行動を実戦に使った、すると対戦相手の意識がなくなりそのまま眠るように倒れこむ、対戦した中には希望のホープがいてそれを軒並み倒してしまう為、俺は瞬く間に周りの道場やジムから『問題児』と呼ばれるようになった。

 

そして生きていくお金を稼ぐ方法として行っていたのはもう一つ、武術だけでは昇華しきれない欲求を発散させる為にしていた『将棋』である、ちなみに時間の比率は武術の方が大きかった。

 

なぜなら頭のトレーニングによって疲労した頭は、少し休憩する為に次に体を動かせと指令を出す、糖分を取るという効果的な方法をまだその時は知らなかった為、頭の回復の間大きく鍛錬に時間を費やしていたからである。

 

そしてある所へ行き一局分のお金を出して『真剣』を挑み増やしていく、それを続ける事で俺は日々生きていくお金を稼いでいた、そして俺はそれを生業にすべく十三の時に『奨励会』の門を叩きプロを目指したのである、今は武術の方がメインの話題をしているのだから、結果は別に良いだろう。

 

そして現在俺は一ヶ月前に倒した不良達が言っていたある言葉を聞き北海道へと向かっていた、もとより方向音痴な俺は警察の人に道を聞いてから確実に北海道へと行く為に空港へと向かっていった。

 

.

.

.

 

 

「さて、ここが不良達が言っていた男がいる学校か」

 

随分と大きい所だ、不良達が守っているだろうから警備が厳しそうな気がするが別に構わないだろう。

普通に真正面から侵入すればいい、邪魔をするなら一撃で沈めてやる。

 

「おい、お前」

「なんだ、礼儀がなってない奴だな」

 

いきなり顔を近づけて睨みながら喋ってくる不良に嫌悪感を示しながら批判の言葉を言う、目上と分からなくても『お前』は無いだろう。

 

「お前は一体此処に何の用だ?」

「此処にとても強い人間がいると聞いてな」

「ほう、お前が金次郎さんに挑戦するって言うのか?」

「名前は金次郎って言うのか、だとしたらどうする気なのかな、挑戦する為に東京くんだりしてここまできたんだぞ」

「金次郎さんにお前を会わせてもつまらないだろうからな、俺が…」

「とりあえず一言いうと……ごちゃごちゃ言わずにさっさと通せ」

 

礼儀がなっていなかった警備の不良は軽い腹への一撃で気絶をした、別にそこまで深刻なダメージが残るように打ってはいないから問題ないだろう。

 

しかし一難去ってまた一難、侵入してどこにいるかと探し始めたら不良が四人ほど降りてきやがった、速く倒さないと騒動になって多くの援軍が押し寄せるかもな。

 

「おい、挑戦でもしに来たのか」

「そのつもりだが……何処に居るんだ?」

 

階段から降りてきた奴らが聞いてくるが、訪問する人間が他人だった場合は普通は挑戦に来るぐらいしか用が無いだろうに、それなのに聞くなんてこいつらはそれ以外にどういう理由で来ると思っているんだ?

 

「悪いけど、俺たちに勝てなけりゃ金次郎さんには会わせられねぇな!!」

「そこらに居る二束三文の不良が束になったからと言って俺に勝てるとでも思ってんのかよ……あんたら相当おめでたい頭してるんだなあ!!」

 

偉そうな事を言ってくる不良達に大声で言ってやりながら構えて迎撃する。

 

「オラッ!!」

「ハッ!!!」

「甘いわ!!!」

 

雑な蹴りを放ってきたのを見てそのまま腹に一発、それを見て拳を突き出してくるが頭を下げて避けた、そして喉へ肘をめり込ませて更に一人。

 

「さて……次はお前らだが用意は良いか?」

 

 

そのまま終始一撃で昏倒していく不良たち、お前ら幾らなんでも脆すぎるだろうが……。

 

そして……

 

「とりあえずは片っ端から行けば良いだろ」

 

そう言ってドアの前へと立って勢いよく引いてみる。

 

ガラッ

 

「何だ、外れか……」

 

そしてドアを開けて無人だというのが分かったので別の場所を探す、それにしてもここは窓が割れているのがところどころ有ったり本当に学校なのだろうか?

 

「おいおい、金次郎って人は居ないのか?」

「こら、お前何金ちゃんの事呼び捨てにしてんだ」

 

そう言われて振り向く、すると後ろに居たのはおおよそではあるが二メートルをはるかに超える男だった。

 

「上の名前が分からないし、顔を見た事も無い奴にさん付けする必要がないだろう?」

「……お前は処刑だ、金ちゃんを侮辱した罰として……」

「んっ、こいつ……さっきとは少し雰囲気が変わったか?」

(はりつけ)の刑にしてやる!!」

 

ゴォッ!!

 

風を切る音とともにとてつもなく長い腕の一撃が飛んできた、攻撃してきた際の構えはどこかで見た事はあるのだが……とにかく俺はその攻撃をまともに食らう気は無いので一歩後ろに下がる……しかしその後ろに下がった時に間髪いれずに腕よりも長い足が伸びてきた。

 

「くそっ!!」

 

俺は悪態をつきガードする、まさかここまでのリーチがあるとは……素直に驚嘆するしかない、懐に入るのも一苦労、そして骨太に見える外見からのタフさ、はっきり言って何かしらの格闘技をやっていれば良い所までは至れるだろう。

 

「どうだ、俺の足は長いだろ?」

「ああ、全く持ってその通りだ、余りにも長いから驚いたよ」

「そうか、唐突だが一つだけ話をしてやる、俺の夢はな……」

「いきなり始められても困るんだけどな、俺は夢を聞く趣味は無いんでね……」

 

まぁ、乗り気ではないにしろ懐に入り込むための作戦を練る為にもせっかくのチャンスだから利用させてもらうのも悪くは無い。

 

「金ちゃんと並び立つ強さになって……」

「ほうほう」

 

適当な相槌を打ちながら考え抜く、腕や足が伸びきった所を狙っていくか?、コイツの腕と足のリーチは長いがブラジリアンキックなどといった技術的な要素はなく、攻撃は直線的だから十分その方法を考える余地はある。

 

「金ちゃんの子供を産む事なんだ」

「いっ!?」

 

衝撃の一言によりせっかく考えていた方法も頭からすっぽりと抜けた、そして少し固まっていた俺に対して容赦なく攻撃を繰り出そうとする、無論まだしゃべりは続いていた。

 

「俺の敵は金ちゃんに近づく半径十メートル以内の女だ、それを人知れずやってきた。其のおかげで……」

「来るっ!!」

「腕も!!」

 

大きく振り子のように揺れて襲ってくる長い腕を避ける、しかし最初の時から何かしらの事をやっていると思っていたが、どうやらこいつは長拳使い、そして感情によって大きく力が変わる男だ、全く持って厄介なタイプの人間である。

 

「足も、こんなに長くなっちまったぁ!!」

 

足の一撃を再び避けるが作戦が一度飛んだ以上、ここからはアドリブになる。

 

「劇も筋書きが無い方が楽しめるし問題は無いな、いや……一つだけあるか」

 

「そしていつか俺は……」

 

言葉を喋りながら苛烈さを増す連撃、というか夢のお話ってまだ終わってなかったのか。

 

「金ちゃんとドロドロになるまで愛し合って金ちゃんの子供を産む!!」

「このゲイが……ぶっ潰してやるよ!!」

 

俺は最後の言葉に呆れてため息を吐く、伸びてきた足を避けて戻すその瞬間を待っていた、そのまま懐へと踏み込む。

 

「残念だったな……磔の方法はまだある!!」

「いや……遅かったよ、『裡門(りもん)頂肘(ちょうちゅう)』!!」

 

足を避けて懐に入っただけでは優位ではないというような事を言われたが、人間が戦う以上は間合いがある、この男とは違い俺はとても短い、ただ一度でも入り技が炸裂すると……その一撃で男は気絶してそのまま崩れ落ちていった。

八極拳の一撃は鍛錬により洗練されていけば最終地点は『二の撃ち要らず』と化す、文字通り二撃目を必要としない一撃必殺の拳へと変わるのだ。

 

「さて、倒したのはいいが、とりあえず金次郎とやらを探さないと……」

「あれは……」

 

 

ハチマキを巻いた男が少しづつ近づいてくる、そして気絶したとても大きな男を見つけると背中に抱えている俺を見ながら一足飛びの速さで俺に近づいてきた。

 

「長戸!、大丈夫か?」

「き……金ちゃん」

「おいおい、気絶からもう復帰しやがるとは……まぁ良い、こいつの知り合いか、あんた?」

「そうだが……長戸をやったのはお前か」

「そうだ、金ちゃんって事はお前が『クマ殺し』だろう、俺はあんたに挑戦しに来たんだがその過程でコイツと戦う事になったんだ」

「そうか、悪いが待っててくれ、こいつを治療のために運んでくる」

 

その言葉を聞き俺は金次郎とやらを待つことにした。

 

.

.

.

 

保健室で長戸を下ろした金次郎は事情を聞く。

 

「長戸、すまなかったな、俺が速く異変に気づいていればよかったんだが」

「金ちゃんは悪くない、あいつに負けないでくれよ、金ちゃん」

「任せろ、とりあえず保健室で休んでおいてくれ」

「わかったよ……金ちゃん、頑張ってきてくれ」

「あぁ、お前の敵は取ってきてやるからな」

 

そういって金次郎は保健室から出ていった。

 

.

.

.

 

「待たせたな」

「かまわない、一応聞くが……『熊殺し』をしたのはお前か?」

「そうだ、俺の拳による一撃で熊は死んだ」

「なら俺の目的は出来たな、お前を倒す事だ」

「お前の目的は知らんが、お前は俺の仲間達を傷つけた……」

 

息を大きく吸い込み金次郎は俺に接近する。

 

「何だ?」

「相手になってやるゼェエエエ!!!!」

「くっ……耳がいてぇじゃねえか」

「悪いが性分でな、さっさと始めようぜ」

「いや……少し待て、お前はまずその下駄とか重いものを外す所から始めろ」

「あぁ、そうか。 済まなかったな」

 

そう言って鉄下駄とリストバンドを外す……なるほど、俺が言わなければこんなものつけたままやっていたってわけか。

 

金次郎は腕をだらりと下げ、足は肩幅に広げる、そこから低く腕を大きく振りかぶるように上げて、片足を前に出して今にも飛びかかろうとするような構え、特徴的といえば特徴的だ。

こちらもいつもどおりの構えで対抗する、右手を軽く握り腰に添えて、左手を前に突き出す、左足を前、右足を後ろにしてこれで俺の構えが終わり。

 

どちらが先に動くかなのだがこちらとしては先を制する、待ち続けるのは好きではないしな。

 

「いくぞ、『猛虎(もうこ)』!!」

 

完全に決まった一撃、勝負はあっけなく終わったかと思えたが……

 

「面白ぇ!!」

「何!?」

 

完全に棒立ちのまま受けきっていた、なんて野郎だ、まさか『気合』で俺の一撃を軽減したのか!?、もし仮にそうだとした一体らどれほどの『気合』だろうか。

成る程な、コイツは確かに大将の器だ、こりゃあ遠路はるばる北海道にまで赴いた甲斐があるってもんだ。

 

「『面白い』のは同意する、だが…次の瞬間には笑みを浮かべたその面を消してやるぜ!!」

「上等だ、来いよ!!」

 

振りかぶって放つ一撃、俺はそれを硬気功で弾き、再び懐に入って腹にめがけて攻撃をした。

 

「『猛虎』!!」

「うぐっ、おえっ、おおおおおおおおおお!!」

 

モロに腹へと技を喰らっているというのに、その威力と『通った』感覚から見て吐きそうになっているというのに、平然と拳を俺に食らわせて立ち向かってくる、『気合』だけじゃない筈だ。

こいつは一体何なんだ!?、何故こうも耐え抜ける!!

 

「おおおおおおおおおおおおおおお!!」

「ぐぁっ!!」

 

八極拳が撃てないまま拳の一撃を食らっただと!?、足が竦んでいるわけでもないのに何故だ!?

 

「おおおおおおおおおおおおおおお!!」

「おおっ!!!!」

 

意地で耐え抜いているのは分かっている、こいつのパンチははっきり言って異常だ。

ひたすらに筋肉を鍛えたそれでもなくて俺のように気の鍛錬でもなくただの当てるだけの一点突破、そしてこの男の愚直さが意図せず無意識のうちに俺の八極拳を封じている。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「ただ、分析をしたのは良いがこいつは不味い、技をうたないと……うぉおおおお!!」

 

鉄山靠(てつざんこう)でどうにか拳を押し返す、そして猛虎で腹に勁を打ち込む。

 

「ハハハッ、ハハッ」

 

今のはなんだったのだろうか、自分の中で何か目覚めたのを感じた、窮地を『必死さ』でくいとめる事ができた、しかし先ほどと同じように金次郎はそのまま向かってきた。

この突破方法は一撃必殺を信条とする八極拳士である者には衝撃的だろう、そして俺もその例に漏れず驚きを隠せずにはいられなかった。

タネは極至極(ごくしごく)単純なもので、硬気功や内功といった技術や鍛錬の末につけた筋肉で防いだわけでもない、ただの『気合』である。

 

その理不尽なまでの根性と気合に俺は今までの己の『一撃必殺』の戦い方を一時的とはいえ捨てさせられた、これから先このようなタフな人間が出てくるかもしれないと、内心笑みを浮かべたいほど嬉しいがそんな事は今のところはどうでもいい。

絶え間なく連続して打撃を撃ち込む、二撃、三撃、四撃と打ち込み、遂に耐久に限界がきたのか金次郎は気絶した。

 

「一応勝てた事は勝てたが、本人は負けてるか分からないだろう。 まさか俺が引っ張られるとはな…()(かく)凄まじい男だった……」

 

「金ちゃん……嘘だろ、金ちゃん!!」

 

俺は勝ったというのもあって座り込み安堵する、すると保健室に連れていた筈の男が金次郎に駆け寄る。

 

「ぐっ、長戸……すまん」

 

そしてその長戸とやらの呼びかけに気絶していた金次郎が起きた、驚きのため息をつく。

 

「お前ら二人してタフだな……」

「これで俺の敗北は二回目か、残念だ」

 

起き上がれないのだろう、顔をこちらに向けて悔しそうに呟いていた。

 

「俺の力が引き出されるとは、まさかこんなにも速く強い奴に出合えるとは思わなかった、有難う」

「金ちゃんが強いのは当然だ、それはそうとお前は何でここに来たんだ?」

 

長戸の質問へ腕を組んで俺は月並みな理由で答えるのだった。

 

「強い奴に会いにいく、つまり武者修行みたいなもんだ」

「そうか……お前、どうせなら俺たちの『黒正義誠意連合』に入らないか?」

「別にやることないし良いぜ、宜しくな」

 

これが後に親友となる北枝金次郎と長戸との出会いであった。

 

.

.

.

 

 

勝負が終わって数日後のこと、俺たちは喫茶店で話す事になった。

 

「で、そのエアマスターとか言う奴に負けたと?」

「そうだ、女であそこまで強いのは初めてだった」

 

「長戸はその時どうしていたんだ?」

「坂本とか言う奴に蹴り飛ばされていた」

「でもすぐに復帰したんじゃないのか?」

「まぁな、俺から見てもこいつはタフだよ」

 

「金ちゃん、何か頼んでも良いか?」

「あぁ、構わないぜ」

「店員さん、呼ぶぞ」

「あ、頼む」

 

そういって呼び出しボタンを押す、店員さんに注文をしていくが……

 

「俺はダージリンで良いや、金ちゃんは?」

 

長戸に呼び捨ては辞めろといわれたので同じ様に金ちゃんと呼ぶことになった

 

「俺はあんみつ、長戸は?」

「チョコレートパフェで良いや」

 

そして注文が通る、それにしても長戸のガタイでチョコパフェって……スプーンが爪楊枝みたいじゃないか。

 

「まぁ……食ったし帰るか」

「そうだな、金ちゃん」

「予定はねぇしな」

 

そして普段、黒正義誠意連合が集まる場所へと戻る、すると仲間になった男たちが金次郎へ近寄り大きな声で話し始めた。

 

「金ちゃんにお知らせだよ!!」

「何だ?」

「エアマスターと戦えるようにしてくれる人がいるんだって!!」

「何!?、本当か!!」

 

金次郎が驚いた顔で立ち上がる、まさか意図せずにこんな美味しい話が飛び込んでくるとはな。

 

「長戸を蹴り飛ばした奴については何か話してくれていたか?」

「いいえ、それについては何にも言ってませんでした」

 

一応強さとしては金次郎を倒したのでそれなりに敬語を使ってくれる。

 

「場所はどこだ?」

「東京の○○って言う喫茶店です」

「じゃあ行くぞ、長戸も長枝もついて来い」

 

そして俺達は北海道からその目的地へと向かっていく、その事を端的に話すのならば朝から待っていた金次郎と俺達はその男に出会った。

 

『深道』という男は金次郎が深道ランキングに欲しいといった、俺についてはそこまで目を走らせていなかったから興味が無いのだろう、もしくは今の所は必要じゃないのかもな。

長戸が深道の『欲しい』という言葉の意味を勘違いして戦いが勃発、深道の奴は長戸の猛攻を鉄指功(てっしこう)を使って(さば)き、腕を折ったが金次郎が庇い長戸は助かる、一悶着はその間にあったが俺は金ちゃんに言われてそのまま長戸を病院に連れて行った。

 

これは俺が深道ランキングに入る少し前の話である。




次回からは深道ランキングが始まります。
なにかしら指摘する点がありましたらどうかお願いします。


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『深道ランキング 前哨戦 逢間長枝VS坂本ジュリエッタ』

最初は鉄健視点です、紛らわしくてすいません。


あの騒動から二ヵ月半。

 

俺の電話に着信が入る、着信の主は『深道』と出ていた、どうやら前回言っていた『深道ランキング』の準備が出来たようだ。

 

「わざわざすまないな、楊鉄健」

 

「全く……随分と待たされた気分だよ」

 

「悪い悪い、六位と十位がようやく開いたんだ」

 

「それで俺はどちらの席が渡される?」

「十位だ、六位には当てが有ってな、ちゃんと呼んである」

「いつ来る予定なんだ?」

「もう少ししたら来るな、新しい八位と一緒に」

 

新しい八位という言葉に衝撃を受けた、ケアリーさんを倒せる奴が居ると言う事だが一体どのような奴だろうか?

 

「深道センセー、連れてきたわ」

「ああ、有難う、屋敷《やしき》」

 

入ってきたのは細い男性と一ヶ月半前に見た小さな男の人、確か名前は長枝さんだったかな?

 

「わざわざ呼んでくれて有難うよ、長戸の仇でも打たせてくれるのか?」

 

長枝さんが深道さんと向かい合わせに座って睨みつけている、何かしら因縁でも有るのか?

 

「ハハハッ、随分と恨まれたみたいだな」

「おいおい、笑ってごまかせると思うなよ」

 

笑って殺気を受け流しているが……この人胆力凄すぎるだろ、俺でもじわりと汗を握らされたぞ。

 

「あの程度で汗を開かれても困るぞ、屋敷と……鉄健だったかな?」

「えっ、俺はあの時名前を言ってないはずじゃ?」

「深道が教えてくれていたんでな、まあ、あの時会ったやつだと言うのは知らなかったが」

 

もとい長枝さんはテーブルに手を着きながら笑みを浮かべて喋っている、さっきとは違って殺気も無く、緊迫感がなくなっていた。

 

「まあ、順位を与えてもいいかというのを試す試合だけどな、当然負けた場合はリザーブからスタートさ」

 

「対戦相手としては……楊鉄健は屋敷(しゅん)、まあ、目の前にいるコイツだ」

「宜しくお願いします、屋敷さん」

 

そう言って俺は手を差し出して握手を求める。

 

「こちらこそ、宜しく頼むで、兄ちゃん」

 

そう言って手を差し出していた俺の手を快く握る、ふむ……手の皮が厚くないところを見ると拳をメインとした戦い方をしていないと言う事、合気道、柔道、足系の格闘技が候補として挙がる、奇特なタイプじゃなければ万々歳だ。

 

「そして逢間長枝は、坂本(さかもと)ジュリエッタだ」

「ぶっ!!!」

 

その言葉を聞いた瞬間、屋敷さんがいきなり噴出す、一体どうしたんだ?

 

「深道、あいつはアカン、あいつはアカン……シゲオでええやろ、思い出したら三日前の怖さがぶり返してきたわ」

「悪いがシゲオでは止められはしない、確実に六位の椅子をとるだろう」

 

長枝さんは平然と手を組んで待っている、そして一息ついたかのような顔をして話を始めた。

 

「悪いが誰が相手でもやらせてもらう、その深道が言う坂本ジュリエッタであろうが、屋敷の言うシゲオであろうがな」

「そうか、坂本ジュリエッタの方が強いと聞けばどちらが良い?」

 

その言葉を聞いて満面の笑みを浮かべる、そして深道さんの質問には間髪もいれず答えていた。

 

「無論、坂本ジュリエッタの方を選ばせて貰う」

 

その答えを聞いて深道さんも満足したのか、頷いてノートパソコンのキーボードを叩く、そして……

 

「二人とも参加ということでいいんだな」

 

そう言われて俺は頷く、ここまで聞かされて拒否するのは少しばかり気が引ける。

 

「そうか、そうならば戦いの場所は順次伝える、これで今日の所は解散だ」

 

それから一週間後、鉄健と長枝は深道に教えられた場所へと向かっていた。

 

.

.

.

 

場所は変わって喫茶店、深道とその弟である深道(ふかみち)信彦(のぶひこ)がノートパソコンのウィンドウを見てこの勝負を配信しようとしていた。

 

「さて……と、もう良い時間だし始めるか」

 

そう言って深道がパソコンのキーボードを叩く。

 

「今回お届けするのはランキング七位:坂本ジュリエッタVS逢間長枝」

「兄貴、本当にいけるのか?」

「大丈夫だ、そしてもう一つはランキング八位:VS楊鉄健」

「そう言うんなら俺は黙って見とくか……」

「さぁ、始めてくれ」

 

その言葉で戦いの火蓋は落とされた。

 

.

.

.

 

戦いの場所は長枝へと移る。

 

「あいつが深道の言っていた奴、そして長戸を蹴り飛ばした奴か……」

 

向こう側にたたずんでいる背の高い男は両手をポケットに入れて何かを口ずさんでいる、どうやら相手もこちら側に気づいたようだ、こちらも即座に構える。

 

「飛べ」

 

そんな言葉がまだ蹴りが届く範囲でもないのに聞こえた、しかしその直後見たのは信じられない光景だった。

 

「何っ!?」

 

気が付いたらとてつもない衝撃を伴い蹴り飛ばされていた、一体どんなカラクリだ!?

一応当たる瞬間に腕で受け止めて、後ろに下がったがそれでも軽く五メートルは飛ばされたぞ。

 

「飛ばないのか……生意気だな、お前」

「間合いは関係ないのか、こいつの蹴りは……厄介だぜ」

 

腕をブラブラさせて驚いていた心を整える、次はさっきより間合いが近いから余計に気を引き締めなくてはいけない。

 

「今度こそ……飛べ」

「こいつの蹴りは受け止めれば良いが、何か嫌な予感がする……」

 

そういって吹き飛ばされても大丈夫なように、クッションになりそうな木を探す為に見渡したら女性がベンチに座っていた、高校生のようだが威圧感がそこいらの奴とは文字通り桁違いだった、金ちゃんから伝えられていた特徴が当てはまっている。

 

「あいつがエアマスターか……因縁の相手が二人揃ってとは、運がいいのか悪いのか?」

 

エアマスターと思わしき女を見る、しかし次の瞬間、俺は嫌な風を感じ振り向く、すると蹴りが飛んできていたのだ。

 

「なっ!?」

 

顔を掠める蹴り、避けたのはいいけれど頬が僅かに切れていた、さっきより明らかに速度が上がったがこりゃあヤバイな。

 

「お前がマキを見るな……マキは、マキは俺のものだ……」

 

そんな声が聞こえてきた、よく見ると涎を垂らしている、もはや俺など眼中に無いのだろう。

 

「見るとかそういうのじゃない、まだまだ勝負は続くぞ、涎を拭いたほうがいいぜ」

「生意気な奴だ、俺の蹴りを受け止めるだけで、並ではないのは分かるが余り図に乗るなよ」

 

まだ始まったばかりだが戦いの熱は早くも最高潮へと達している、かたや異常な蹴りを持つ者、そしてかたやその蹴りを受け止めた者。

画面の向こうの視聴者達もこの戦いの末を見届けようとしていた。

 

.

.

.

 

場所は喫茶店へと戻る。

 

「良い始まり方だが…しかしここで最悪の事態が起こり始めたな」

「どういう事だ、兄貴?」

「坂本ジュリエッタにとってこれ以上無いステージが出来上がったという訳だ」

「何だって言うんだよ」

「エアマスターが見ているのさ……ここからが正念場だぞ、どうする?、逢間長枝」

「あいつは後で屋敷から聞いたが『気』を使うファイターだぜ、逢間長枝が同じタイプでもない限り勝つ事は出来ねぇよ、兄貴」

「逢間長枝は同じベクトルのファイターだ、そういった面での不都合は生まれないさ、しかしもし坂本ジュリエッタのからくりが解いて、なおかつそれを破る方法がなければジリ貧だ、どうするかな、逢間長枝」

 

.

.

.

 

戦いの舞台は長枝の方へと移っていく、上の空の坂本ジュリエッタは少しずつゆっくりと言葉を発していた。

 

「気をつけるんだな……お前」

「幾らなんでもそれは今涎出して言う台詞じゃあないだろうが」

「あそこにマキが居るのは分かっているよな?」

「エアマスターだろ、分かっているさ」

「残念な事だが俺はマキが見ていたらさっきまでの倍の力が出る」

「倍の力だと、ふざけるんじゃあねぇ」

 

荒唐無稽な事を言ってきたので否定の言葉をはき捨てるように言う、怒りとかのアドレナリンとか脳内麻薬、また気合や叫びによる戦闘能力の向上は目の当たりにしているから理解できるが、さすがに二倍にまで上がるというのは想像できない。

 

「事実だ、マキに良い所見せたいからな……とりあえず今度こそ飛べ」

「じゃあ見せてもらうか、仮に倍になっていたとしたら只でさえヤバイあの蹴りをどう捌くかが鍵だな……どうする」

 

構えて思案する、しかしそんな悠長にあの男が待つわけも無いだろう、ここは少し誘いをかけるか。

 

「おい、倍かどうかは分からんが来いよ……」

「あぁ……飛べ」

 

ブン!!

 

そして再びあのとんでもない蹴りを放つ、しかしこちらとしては手をポケットに入れている時点で、防御面が甘いと感じている、そこへ一撃を入れるためにまずはこれを回避する。

 

回避する方向としての選択肢で当然後ろは駄目だ、受け止めてアレなら掠っていたらそれだけで致命傷になる、左右ももし上げた足を振ってきたらそこまで良い選択とはいえないだろう、それなら一種の博打ではあるが威力が乗り切る前に突っ込む。

 

「うぉおおおお!!」

 

ギリギリを避ける、それだけなのにこんなに熱くなるのはきっと金ちゃんの影響なんだろう。

 

「なっ……」

「喰らいやがれ!!、『猛虎』」

 

腹に一気に打ち込む、しかしこの感覚は金ちゃんとは違いとんでもないものだった。

 

「そんなに動いてないだと……」

「くっ……」

 

二メートルほど後ずさってからよろめいた、こいつは……

 

「成る程、そういう訳か、お前のからくりを見破ったぜ……お前も同じ『気』の使い手だったのか」

 

俺は驚きながらも笑みを浮かべて坂本ジュリエッタのからくりを見破った。

 

.

.

.

 

喫茶店では長枝が坂本ジュリエッタのからくりを見抜いたのを聞いて驚いていた、と言っても驚いていたのは深道信彦だけだが。

 

「兄貴、長枝の奴平然と見破ったぜ……」

「まあ、これ位は一応解いて貰わないとな、正直解明できないとは思ってなかったんでな」

「しかし兄貴としては山場はココからなんだろ?」

「その通りだ、見抜いた所で坂本ジュリエッタの防御を破らない限り勝てはしない」

「そうか、それはそうとして鉄健の方はどうなっている?」

「いい勝負だな、想定内だからそれほど驚く事でもない」

 

.

.

.

 

再び場所は変わって長枝とジュリエッタの戦いへと移る。

 

「そういえばあの変な喋り方をする奴も言ってたな……」

硬気功(こうきこう)を練ってるんじゃなく莫大な量の集気(しゅうき)が練られていて、無意識に体中に行き渡らせている、そして使う時は瞬発的だから同種かある一定以上の強者でもないと見抜けない……十分化け物の域だな」

「説明は良いからもう飛べ……目障りだ」

「避けてやるよ、今からその集気の壁を破る一撃を放つ、そしてお前に勝つ」

「小癪な事を言うな……」

 

大きく息を吸い込み硬気功を練る、一撃当てる為にはあいつの一撃をやり過ごさなくてはならない、さらにあいつの集気の壁を破るにはこちらも莫大な『気』の一撃を放たなくては話にならない、ミスをしてしまえばこちらが蹴り飛ばされて負けるだろう、全くいきなりこんな化け物と当たれるなんて最高ってもんだ!!

 

「……」

「カッ!!」

 

とんでもない速さで放たれた蹴りを再びギリギリで避ける、これで懐に入り込んだ……って何だこの足は?

 

「飛べ……」

「ぐあああっ!!」

 

なっ……体を反転させたのか!?、あのどうしようもないタイミングで!!、こいつはやっぱり化け物だな。

 

蹴りが炸裂する、硬気功を練っていたためそれほど飛びこそはしないが、とてつもない衝撃が体を襲う、痛みのせいで呼吸が途切れて満足に気を集中させる事は出来なかったか……

 

「でも、勝てるならな……この程度の痛みはくれてやるよ!!」

 

俺は呼吸を整えて立ち上がる、地味に初めてのダウンだがこいつにはどうでも良いことだろう、俺はもう一度体の中にある気を使い硬気功を練り防御を固める。

今の所やる事は己が集めた最高の気を、現在の状態で叩き込める最高の技を坂本ジュリエッタの心臓に放つ。

ただ、一種の禁じ手ではある、鍛えてもない場所へ全力で叩き込んだら気によっては気絶で済まずにそのまま心臓へ異常をきたして最悪死ぬ場合があるだろう。

 

「さて……喰らいやがれ!!」

 

ただ、死ぬ場合はあくまで最悪の時であって必ずそうなるわけでもない、そしてこいつを倒すにはそういった方法しか俺には選択肢が無かった、せっかく掴んだこの間合いを無駄にしたくも無いからな。

 

「なっ……お前」

 

零距離で放ったその掌は着弾する、十分に『気』が通った感覚もある、あとは倒れるかどうかだ。

 

「効いたか……効いたかぁ!!」

 

俺は声の限りに叫ぶ、鍛えられない心臓へと一撃を喰らった坂本ジュリエッタを見て、決して倒れそうに無いこの男に向かって、己の一撃は効いたのか問いかけた。

 

「ガッ……」

 

呼吸を吐き出すようにして少し体が揺らぐ、足で踏ん張ろうとしているが滑るように地面を掴めないまま、少しずつ前のめりになっていく、その目は俺を見るのではなく、エアマスターを捕らえてそして離れなかった。

 

そして意識を僅かに手放していくように瞼が閉じていく、するとエアマスターが坂本ジュリエッタの方へと駆け寄ってきた。

 

一言、二言声をかけて去っていこうとする、その後姿を俺は呼び止めた。

 

「おいおい、そのまま帰る気かよ」

「どういう意味だい?」

「此処に居るんだ、どうせなら俺とやってみないかい、エアマスター」

 

俺は構えて戦う意思を見せる、しかしエアマスターはそんな俺の言葉を耳に入れずに去っていった、どうやら眼中にも無いみたいだな、少し鼻で笑っていたみたいだし。

 

とりあえず、勝った事は勝ったんだし……って何だよ、この足を掴む腕は?

 

「おい、お前……」

 

坂本ジュリエッタが気絶から醒めていた、お前はどれだけタフなんだよ。

 

「気絶した以上は負けなんだろうが、とにかく起き上がるから少し手伝え」

 

そう言ってきたから腕を引いて起こす、しかし足がガクガクしてしまっていてまともに立ててはいない、集気を治癒にあてても消せるのは痛みであって足がガクガクしてるのは治せないからな。

そして結局なぜか俺が坂本ジュリエッタをおんぶする流れになってしまった、まあ立てないし、肩を支えようにも高さが違うからこれが最善なんだが。

 

「全く……何で俺がこんな事を」

「ごちゃごちゃと文句を言わずに運んでいけ」

 

「お前な、普通は俺とお前が逆だろうが」

「お前が俺をこんな状態にしたのが悪いんだろう」

 

「それもそうだな」

「お前は俺に勝ったのに嬉しくないのか?」

「嬉しいとか思った事は無い、俺はただ自分がどれ程かを知りたいだけだからな」

「そうか……お前も自分に押せないスイッチが有るのか?」

 

その質問には何故かシンパシーを感じずには居れなかった、俺はできるだけ沢山の理解者や友人を作ったりする為努力していた。

 

しかしそんな上手くいくわけもなくどう頑張ってもどこかにあるスイッチを押してしまうとそいつらは全員ぼろぼろの状態になっていた。

 

その為俺の理解者や友人は……まあ、世渡りをする分には困らない人数なだけましだろう。

 

「黙った所を見るとお前もあるようだな、満足した事がない人間か……おい、お前」

「どうした?」

「酒でも飲みに行くか?」

「やめとく、飲みたいという気がないからな」

「じゃあ、飯はどうだ?」

「そんなの良いって、何でいきなり気を使っているんだよ?」

 

さっきのような棘というか危ない感じが無くなっていたから聞いてみる、すると平然とちゃんとした答えが返ってきた。

 

「同じ人間を見てしまったからだな、辛い事があったのは想像に難くないから余計にな」

「そういうもんかよ」

「悪いが下ろしてくれ、もう十分だ」

 

そう言って俺の背中から下りる、足のガクガクが無いから問題は無いだろう。

 

「お前も俺と同じ様にマキの様な奴を見付けられるといいな……」

 

そう呟いて坂本ジュリエッタは歩いて繁華街の中へと消えて行った。




次回は鉄健戦です。
なにかしら指摘する点がありましたらどうかお願いします。


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『深道ランキング前哨戦 楊鉄健VS屋敷俊』

今回は鉄健戦です。


長枝と坂本ジュリエッタの試合の始まりと同時刻……、屋敷と鉄健の試合も熱を持って始まりを告げていた。

 

俺は深道さんが教えてくれた場所へと向かって行った、するとそこには屋敷さんがすでに構えて待っていた。

 

「さて……始めましょうか?」

「お前は幸せもんや、この『天才』屋敷といきなり戦えたんやからな」

「『天才』?」

「そうや、行くでぇ!!」

 

左手を顔の高さまで、右手を胸の高さまで添えるように、掌をこちらへ見せる、それは合気道や柔術のようにも見えるが雰囲気がそうでないと告げている、あいにくその場合に考えられるものを俺は知らなかった。

 

「何で来るんだ?、この構えは読めないぞ」

「さあ、一気に決めたるで、『双按(そうあん)』!!」

 

屋敷さんが両手を突き出すように前へと出す、その攻撃を俺はパーリングで弾いて直撃を避ける、僅かに掠ってしまったが懐に入ればこちらのペースに引きずり込めるだろう。

 

「そして一気にカウンターで……なっ、これは!?」

 

腕が思ったように上がらない、一体何が起こったというんだ、まさかさっきの技がこの結果を生んだというのか!?

 

「残念やったな、『双按』は浸透勁(しんとうけい)や、受けてもうたその腕はちょっとの間上がらんで」

「くっ、触れられただけで腕がだるくなるとは……予想が外れてしまった、まさかそんな技術をここまで身につけているとはな」

「浸透勁を喰らったからって気にすんなや、相手がワイな時点でお前の運は無かった、何せ『天才』屋敷やからなぁ!!」

「そうかよ……でも『天才』だからって余裕かましたらいけないぜ、オラァ!!」

「なっ、なんやて!?」

 

俺はだるくなった腕を鞭のようにしならせて屋敷さんの顔を叩く、『フリッカージャブ』なんて滅多にするものじゃないんだけどな。

 

「兄ちゃん、なかなか根性据わってるやないか……でもだるい腕で無茶したら結構来るやろ」

「勝てるなら無茶でも何でも押し通すのがスタンスでね」

 

俺は構えなおして屋敷さんに向かって言う、勝てるならばだるくなるくらいどうって事はない。

 

「なんや、今のは変な手応えやったで!?」

「悪いが触れる瞬間にだるい腕を盾にして下がったんだ、元々通ったのにもう一回やったら手応えが変になるもんでしょ」

「成る程な……腕一本を犠牲にして付け入るすき作らんのは良い考えや、けどそっちを重点的に狙われたらどないする?」

「俺がそんな事させるとでも思ってますか」

「なるほどな、半身だけこっちに向けてしもたらだるくなった腕は隠せるわ、しかしそれでいけるもんか、相当上手い事せなワイに攻撃は通らんで」

 

「ハッ!!」

「くそっ!!」

「そうあ……」

「フッ!!」

 

俺は屋敷さんが攻撃する僅かな間を縫って顔にジャブを入れる、針をちくちく刺すように僅かなダメージを積み重ねる、大きな技をやる際に隙を作れるだろうし更に距離感を奪う事で攻撃を外しやすくする。

 

「くそっ、チマチマと……」

「KOを狙うのはまだ速い、少しずつ……じわじわと体力を奪っていく」

 

屋敷さんの攻撃を受けないように避けていく、瞼が腫れている為そこまで警戒しなくてもいいが念には念を入れておいて損ではないだろう。

それにこちらも僅かづつしかダメージを与える事ができない、カウンターを入れたければもう少しダメージを与えてそれに見合った状況を作り出すしかない。

 

「このまま長引くんやったら速く決めたらええ……チマチマ当るだけならこわないんやからな」

 

屋敷さんの手には気が集中していくのが分かる、流石にこんなチマチマされていたら苛立ちもあるし、瞼が腫れている以上長くなれば余計に不利になるだろう。

 

「んっ……これは?」

 

俺はだるかった手が少し動くのが分かる、なるほど軽く触れるだけで直撃を避けたから今になって動くようになったのか、しかしこの感覚なら一発フルスウィングしたらまただるさがぶり返すだろう。

 

「双按!!」

「うぉおお!!」

 

俺はその一撃に対して体を反らす、速い速度でやってくるけどもしこれを避けれたらカウンターで入れる事が出来る、

 

「グッ!!」

 

僅かに掠ったのだろうか、体に少しだるさがくる、しかし俺は屋敷さんの顎めがけてアッパーを振るう、その上に見える空ごと打ち抜くように全力を尽くして。

 

「どうや!!、これは通ったやろ!!」

「……それはどうかな?」

 

顎めがけて放ったアッパーは勝ち誇った屋敷さんへと見事に当たる、顎を跳ね上げられて驚きの表情を浮かべていた。

 

「何でやねん…通ったはずやろ……」

「通った事は通ったんですけどね、俺がスウェーバックで直撃を避けた、そしてカウンターを狙ったって訳だよ」

 

足がガクガクしながらもどうにか体勢を整える屋敷さん、俺がだるくなっていたはずの腕を使ってくるとは予測しなかったからか、そのせいで普段なら簡単には成功しないようなスウェーバックからのカウンターに成功して屋敷さんはモロに顎へとアッパーを貰っていた。

 

「それはそうと何でそっちの腕が……?」

「パーリングをした事で直撃しておらず通りが浅くなっていた、そのおかげで時間が経った今なら一発だけフルスウィングできたって訳さ」

「成る程な、そういう訳かい……」

 

こちらがどのような理由で受けた腕でフルスウィングできたかを言う、すると屋敷さんは納得の言葉を言う、納得こそしているものの屋敷さんの足はガクガクして足に来ている、俺も俺で通りが浅いとはいえ少しふらついていた、先に一撃を入れれば勝ちだろう。

 

「双按!!」

「速いが、避けられる速度でそこに固定しているなら怖くは無い!!、オラァ!!!」

 

両手を伸ばすが足のふらつきからか動いて放つ事ができず直線的な一撃となる、俺はそれを避けて最後にストレートを顔へと叩き込んだ。

 

「ストレートが一番到達するのが速いから頼っただけだが、まだまだ万全の状態までには持っていけてないか……もっていけてたならあのアッパーで終わっていただろうしな」

「ガッ……」

 

そう俺が言ってから鼻血を流して屋敷さんは倒れこんだ、とりあえず勝ちって事でいいんだよな。

 

そんな事を考えていたら後ろに気配を感じた、一体誰なんだろうか?

 

「おめでとう、楊鉄健、君が今日を持って新十位だ」

 

振り返るとそこには深道さんが居た、その手には初めて会った時に見せていた『人ナビ』が有った。

 

「さて、今から逢間長枝に渡しに行かないとな、ちなみに次の対戦はまた後日送るから気にしなくていい」

 

そう言って去っていくが正直今まで戦ってきた不良なんて比べ物にはならない。

今回だって防御させないようにジャブの多用だったし、もしがっついてパンチを繰り出していたらもう一方の腕もだるくさせられて立場が変わっていたはずだ。

屋敷さんで八位という事は強いのが最低でも七人は居ると言うことだ、どうやらこのランキングは長丁場になるだろう、速く自分に馴染む体重にもっていかなくてはいけない、二ヶ月で筋力を増やしたりしたがまだその感覚は無いからな。

 

「とりあえず勝ったんだし今日は飯食って帰るかな」

 

俺はとりあえずその場から立って伸びをしたあとその場所から去って栄養補給のために繁華街へと向かっていった。

 

.

.

.

 

場所は変わって長枝に渡し終えた後に喫茶店へと戻る深道達。

 

「さて……次の対戦はこういくかな」

 

そう言ってキーボードが叩かれる、そこから出てきた勝負は……

 

「十位:楊鉄健VS三位:小西良徳と六位:逢間長枝VS八位:屋敷俊か、一つは少し面白みがあるが長枝の方は少しな……」

「坂本ジュリエッタに勝てる奴が屋敷に負けるはずがないし、それに屋敷の高みには至っているだろ、兄貴?」

「まあ、それは間違いない、とにかく俺としては予想外の事さえあればそれで十分だがな」

 

そう言って深道たちもまた鉄健の様に夜の繁華街へと消えていったのだった。

 




次回は長枝です、一話ずつ交代とか続く場合がありますのでご了承ください。
なにかしら指摘する点がありましたらどうかお願いします。


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『怒りに身を任せて』

今回は作者の好きなキャラが出てきます。


坂本ジュリエッタとの戦いが終わってから数日後……深道はとある駐車場でキーボードを叩き『深道ランキング』の戦いを中継していた。

 

「今回お届けするのは八位:屋敷俊VS六位:逢間長枝」

「今回のこの試合は消化試合な気するんだけどな」

「大丈夫だ、そしてさらには三位:小西良徳VS十位:楊鉄健」

「それにしてもこれは可哀想な気しかしねぇわ……」

「そして今行われているのは四位:皆口由紀VS九位:北枝金次郎」

「さぁ、ここに負けないほどに熱い戦いを各自で始めてくれ」

 

その言葉で戦いの火蓋は落とされた。

 

.

.

.

 

深道が宣言している一方、その頃長枝は深道に渡された地図を便りに屋敷との戦いへと赴いていた。

 

「地図さえあれば正確に道ぐらいいけるって言うのに……深道の奴俺を馬鹿にしやがって」

 

俺は悪態をついて教えられた場所に到着、どうやら場所の指定が出来たのだろうが変哲も無い場所にしたようだ。

 

「おいおい、芸が無いな、お前の得意なペースを掴める場所を選べばいいものを……」

「そんなもん考えてもあんまり無いわ、あんたが坂本ジュリエッタにまぐれとはいえど勝っとる時点で小細工は無駄なんは悟ったしな」

 

屋敷は近寄らず俺に一定の距離から言葉をかけてくる、一体何を企んでいるのだろうか?

 

「悪いけど、すぐに終わらせる、足は腕の三倍力があるんやからな!!」

「そうだな、俺もそういった事はちゃんと知識として知ってるよ」

 

相槌を打って構える、攻撃予告かは知らんが気をつけておかないとな。

 

「そしてこれがワイの新技……本邦初公開やで、『蹴按(しゅうあん)』!!」

 

一気に屋敷が駆けてきて『気』を目一杯込めているであろうドロップキックをしてくる、助走が大きくなくあっけに取られる形で避けられず受けてしまったが……これは屋敷の持つ『気』の量が元々少ないのだろうか?

本当にそうだとしたら大変残念だが…

 

「おい、お前本当に今のが全力なのか?」

 

俺は頬をかきながらいささか拍子抜けであるのを態度で示した、当然純粋な感想を述べておくのも忘れずに。

 

「なっ!?」

 

その風景に屋敷は驚いていた、全力の一撃といえど発展途上だったのかもしれない、しかしそれでも全く効いてないとなったらショックだろう。

 

「じゃあな、『捜下(そうか)崩捶(ほうすい)』!!」

「うぐぅ!!、おえぇええええ!!!」

 

俺の一撃は驚いている屋敷へと無防備に直撃していく、屋敷は足を地面に着けることができず勢い良く後ろへと飛んでいく、どうにかギリギリ当たる瞬間に後ろに下がってさらに『気』で防御したが完全に出来たわけではないようだ。

 

「その様子だと、どうやら『通った』ようだな」

「お前も坂本ジュリエッタと同じ様に攻撃の時に使って『気』を『爆発』させるんかい……」

 

うつぶせの状態から顔だけを動かして喋る屋敷、気絶する前の質問のようだが一応答えておくか。

 

「まぁな、お前のあの技はさながら体全体に拡散する『爆発』の『気』と違って一点集中の『貫通』の『気』ってところか、勉強になった」

「坂本ジュリエッタに勝ったんはまぐれちゃうんかい、お前も十分化けもんやで……」

「失礼な奴だ、流石に俺はあいつみたいに三十メートルも蹴り飛ばすような力はねーよ……って返答は無しかよ、つれない奴だ」

 

俺はそう言って座り込み手を振る、屋敷の目は睨みつけながら俺を見ている、しかしこれは意識がなくなる前の意地だろう、俺は立ち上がって見下ろす形で屋敷を見届ける事にした。

 

「(言いたくないけど、こいつはわいをはるかに凌ぐ『天才』や……)」

「さて……なんか嫌な予感がするが行ってみるか、予感が正しいか確かめないといけねーしな」

「(だんだん意識が遠のいていく……こいつ性質(たち)が悪いで、多分自分の才能を知らんのや)」

「じゃあな、屋敷、また逢おうぜ」

「(こいつには『敗北』の感覚がないんや、もし誰かこいつに『敗北』を教えられるなら頼む、こいつのような奴にはきっと必要なんや……)」

 

屋敷の意識が無くなったのを見て俺は歩き始める、地図がどこかへいってしまったがそんな事は後でどうとでもなるって物だ。

 

「消化試合どころか燃える展開ばかりだな。一方は一撃KO、一方は『サブミッションハンター』を相手に……いやコレは後で言えば良いか」

「兄貴、でも九位と四位は……」

「予測していた結果だ、目の前で言うのもなんだが『最強の女』が相手でも無理は無い」

 

俺は迷って数分後、ある駐車場についていた、俺は目の前に広がっている光景を見て苛立ちを募らせる、金ちゃんが気絶した状態で負けていたのだ。

 

「着いたと思ったら、何やってくれてんだよ……こら」

「逢間長枝……想像していたより速いな」

 

深道がキョトン顔でも無く平然と言い放つ、その態度にも怒りを感じるが俺は目の前の女へと矛先を向ける。

 

「金ちゃんに何やってくれてんだよぉ!!」

 

俺はそのまま駆けていく、踏み込んでそのまま腹に一撃を加えて悶絶させてやる。

 

「おぉ!!」

「くそっ!!」

 

俺は怒りのままに一撃を繰り出す、しかしその一撃を繰り出す前に閃光が眼に入り目を眩まされてしまう、そして晴れたときには女が目の前からいなくなっていた。金ちゃんをやったあの女性を倒す、そう思っていたのだが一体誰が邪魔をしたのだろうか?

 

「悪いが……これから始めるのは皆が見たいエアマスターVS皆口由紀の『最強の女』を決める戦いだ、邪魔をしないでくれ」

 

振り向きざまに再び目を眩ませられる俺、なるほど邪魔をしたのは深道だったのか、しかしお前もあの女も逃がしはしない、深道が使った花火の匂いが漂っているのでその方向へ走っていく。

 

「見つけたぞぉ……深道」

「なっ、方向音痴なはずだろ!?」

「花火を使ったのが仇となったな、で、あの女性はどこにいる?」

 

数分後、俺は深道の目の前にいた、深道も方向音痴なのを分かっていたからこそ予想外だったのか、少し汗をかいている、とりあえず速くあの女の所在を教えろといわんばかりに眼前へと詰め寄った。

 

「悪いが乱入はさせられないんだ、こちらがもう試合を取り付けたんでな」

「お前の都合で怒りを納めろというのか……?」

 

こちらが今にも噛み付こうとするのに対して深道が答えるが、急に取り付けたなどなんだか作為的なものかと邪推をしてしまう。

 

「全くだ、こっちも予定を崩されてしまったら溜まったもんじゃない」

 

俺の不満に賛同するように深道が座っているベンチの後ろから白髪の背が高い男が出てくる。

 

「『JHONS LEE』、全員が見たくて仕方ないものを捨てるのはな……」

「『お前が』だろ、俺も適当だがお前の適当にはユーモアが無い」

 

深道の説明を『ユーモアが無い』と一蹴する『JHONS LEE』、読みは『ジョンス・リー』だろう、少なからずそう聞こえたからな、まあ…正直ユーモア以前にこちらの苛立ちや戦いの欲求を度外視して話を進めるのは余りにもよくないだろう。

 

「お前が俺とあの女性を戦わせておけば俺から痛い視線を受けることはなかったけどな」

「ハハッ、それは手痛い意見だな、お詫びと言ってはなんだが急遽ここで二位対六位の戦いでもやってみるか?」

「深道、流石にそれは断る、俺は『エアマスター』と戦えなかったからそういう代替の戦いをさせろと言っているんじゃないんでな」

「俺もだ、そういうので敵討ちの欲求を満たさせようなんて甘いぜ」

 

俺は正直な意見を言う、あの『エアマスター』と相対する女とさえ戦ったならば深道に怒りをぶつけることは無かっただろうし、ジョンス・リーも『エアマスター』と勝負していたならば深道にここまで言わないだろう。

 

「流石に乗らないか」

「ユーモアにしても不完全燃焼同士ぶつけてもそこまで良いもんは見れないだろうよ」

「その提案が幾ら楽しくて魅力的だったとしても、俺はお前に踊らされるだけじゃ納得はできねぇって訳だ……」

 

肩をすくめて『残念だ』というような反応をする、きっとポーズだけで別に問題は無いのだろう。

俺はそう言ってベンチの横に立って戦いを見ておく事にした、どちらにせよ始まりが決まっているならごねても無駄だろう、そして髪留めが潰れた後の戦いぶりやそこからの展開を見届けた。

 

「結局は……こうなったか」

 

正直一目見た時から俺は四位の女が勝つというのを感じた、『エアマスター』よりはるかに戦いに飢えているのが分かってしまったし、髪留めが壊れた時に見せた目が感じていたものを確信へと変えた。

 

「そうだな、お前はどうするんだ?」

「どうするも何も帰るだろ、普通だったら」

 

深道につっけんどんに答える、快調な時ならいいけれど、アレだけ傷ついた奴に勝っても『当然』としか受け取れないからな。

 

「折角なんだ、少しだけだが鬱憤晴らさせてやるよ」

 

ジョンス・リーがベンチの裏から俺の横に近寄ってきて一言言う、一体どういった形で晴らさせてくれるんだ?

 

「どういうつもりだ、勝負してくれるのか?」

「そういうわけじゃあねえが、ちょっと待ってろ」

 

そう言ってジョンス・リーが深道に言葉をかける。

 

「深道、あそこのアルバイトの奴らの面貸せ」

「別に良いが……」

「おいおい、何する気なんだよ?」

「まあ、とりあえず見てろよ」

「一体何がしたいんだ……」

 

深道が思案している間にカメラのまん前に立って声を放つ。

 

「さてと……お前ら暇なランカー、俺が相手してやる」

「おいおい……いきなりだな」

「俺だけじゃない、ここにいる奴も一緒に相手になってやる」

「はぁ!?」

 

まさか巻き込まれてしまうとは思わなかった、憂さ晴らしってそういう意味かよ!!

 

「退屈しのぎにはなんだろ……」

「あんた、思ったより強引だな……」

 

呆れてしまうほどの強引さ、まあ、別に帰るだけだったし少しはこの気持ちが晴れるだろうから断る理由なんて無いのだが。

 

「おい、深道、俺とこいつに勝てば賞金は幾らぐらいなんだ?」

「それは細かくか?」

「大雑把で良いよ、細かく言ったら面倒だしな」

「まぁ、大雑把で良いならこんな額だな」

 

そう言ってデスクトップを見せる、ここまで俺の賞金膨れ上がっていたのか。

 

「そうか……俺に勝てば860万!、こいつに勝ったら170万!!、あわせて1030万だ、何でも好きな車が買えるぞ!!、今から時間厳守で十分以内に来れるやつだけに挑戦させてやる!!」

 

そしてその宣言から丁度十分後……

 

「こいつら……」

「まさかこんなに来るとはな……」

 

俺はこの状況を見てユーモアとか云々の前に頭を抱えたくなった。

 

「これだけの数全員を相手にする気だったのか?」

「いや、こんなに集まるのは予想外だった」

 

ジョンス・リーが正直な一言を言う、俺もここまで集まるとは思いもよらなかった。

 

「しかしあいつらが勝ったら860万と170万は本当に出るんだろ?」

「まぁな、しかしここに居るのは二桁ランカーとリザーバーだ」

 

二桁っていえばぎりぎり屋敷より下って奴らか、それくらいなら十分だな、もしかしたらリザーバーで掘り出し物があるかもしれんが。

 

「なら、俺たちが負ける事は無いな」

「しかし金が好きなんだな、焚きつけた俺が言える事ではないけどよ」

「とりあえず始めて良いか?」

「で……本当に俺も負けたら取られんの?」

「まぁ、そうなるな」

「巻き込まれて良い気はしないがな、とりあえず負けたくもないしどいつをやろうか……」

 

とりあえずアタフタする前に戦わないとな、控えのランカーに回るのは真っ平ゴメンだぜ。

 

「良い気しないと言いながらノリノリじゃねぇか」

「とりあえず俺は林の中を行ってみるか……」

「良い判断だ、俺も行くぜ」

 

そう言って進んでいく、俺とジョンス・リー……しかし敵が見つけられず反対側の方に出て行く事となった。

 

「おい……」

「何ですか?」

「道間違えてねーか?」

「一応反対側だ、敵に会ってないからそう思うだけだよ」

「だが俺がいる」

 

抜けた先にいたのは守を立てた道着を来た男、見た目は何かやっているのがわかるんだが……とりあえずどんな奴か聞こう。

 

「お前は誰だ?」

「駒田シゲオ、お前の前の六位だ、ジョンス・リー、八極拳士としてあんたと戦いたい!!」

「それは俺じゃなくてこいつがやるさ」

「そう来るのかよ、さて……やるか?」

「俺はジョンス・リーとやる為にここへ来た、お前の様なまやかしの八極拳士は眼中に無い!!」

「だってさ、どうする?」

 

俺は相手がジョンス・リーを指名しているので戦う気を無くしていた、腹が立っているのはあるがせっかく制限時間内に来ているんだから、少しは汲んでやらないといけないよな。

 

「やってやるか、こいよ」

「構えないだと、バカにしているのか!?」

 

構えないのは一つの狙いがあるからだ、それも見抜けないのか、お前が試したいというからどんな攻撃が飛んでくるかを待っているんだ。

 

「良いから来い」

「良いだろう、望みどおり行ってやる『躍歩(やくほ)頂肘(ちょうちゅう)』、『捜下(そうか)崩捶(ほうすい)』、そして『阿修羅(あしゅら)破壊(はかい)豪華山(ごうかざん)』!!」

「フッ!!」

 

三回続いた連続攻撃を僅か一呼吸で弾き返す、あの男も強いんだろうがそれよりもジョンス・リーが圧倒的に強いだけの話だ。

 

「なっ!?」

 

驚きを隠せないのは無理もない、自分の自信の有る技をわずかワンモーションで無効化されたわけだからな。

 

発勁(はっけい)で弾いたか、防御も一級品だ」

 

俺は拍手をしながら今の無効化した一連の流れをたたえる、あそこまで綺麗にできるなんて、流石は二位という高順位に存在するだけはある。

 

「褒め言葉ありがとよ、だがお前にも出来ることじゃねえかよ、さて元六位だったか、勉強させてやる…お前が自分の事を八極拳士の一人だと思っているなら…八極拳士に二の撃はいらない…」

「えっ?」

「実際そうだよな、ジュリエッタじゃ無理なのは同じタイプだからなんだけど」

「八極拳士は一撃で相手を倒す……『八極』とは『大爆発』の事だ」

 

そう言って構えた動きから踏み込む動作を始める、この講座をのんびりと聞いている暇は無い、即座に距離をとるべきだろう。

 

「一撃で倒すには相手に接近する、その時目指すのは常に相手の正面、中心」

「なっ!?」

「終わりだ……リーは間合いに入った」

 

一撃が届く間合いに入ると言葉の通り、駒田の体の中心へと一撃を見舞う、その一撃はとてつもなく重く、駒田を一撃で倒していた。

俺とは違うものをその一撃に見てしまった、同じ正統派八極拳なのに…なぜこうも眩しく俺の目に映るんだろうか?

 

「一撃……か」

「そんなに驚く事じゃねぇだろ?、無粋な今日明日もまだ面白ェ、ホント生きてて良かったよ」

「これでもう帰るのか?」

「そういう訳だ、じゃあな」

 

片手をヒラヒラさせてリーは公園から消えていった。

 

「一体あの眩しさは何だったのだろうか?」

 

俺は自分の戦い方と照らし合わせる、何故同じはずの技なのにあんなにも眩しく映ったのだろうか、その理由を知りたい。

 

「戻ってきたぜ、六位がよ、やっちまえ!!」

「お前らは少し俺の気持ちの整理の為の犠牲だな……」

「なっ!?」

「おおおお!!」

「うわああああああ!?」

 

俺は次々と技を出して一心不乱に戦い、気づいた頃には公園に居た奴らも一人残らず気絶させていた。

 

「ふぅ、殲滅完了……しかしまだ俺との違いが上手く分からないな、ジョンス・リーと何が違うのだろうか……」

 

そう言って俺はこの場所から遠ざかっていく……夜まで結局ジョンス・リーと己の違いが分からなかった、納得できるものは『鍛錬の年季』、『実戦経験』という年のアドバンテージだ、それともそれとは違った俺にはない何かがアレだけ眩しく映すのだろうか。

 

「……結構な距離歩いたかな、でなんでお前はわざわざそんな所にいる?」

 

俺はアレから公園を横切って帰ろうとしていたが、その途中で木の向こう側にいる長髪で腕に三本の傷がある男に話しかける、先ほどから見られているのは分かっていた。

 

「さぁ?、僕は『あなたに引き寄せられたんです』から、前に引き寄せられたのは太っている人でしたけれど」

 

見当違いの言葉が返ってくるがこういう系統の奴は結構知っているから別段驚くことは無い。

 

「成る程ね……精神(オカルト)系か、でお前は何者だ?」

「『時田新之助』」

「そうか、お前は俺の今求める問いに答えられる存在か、時田!!」

「行きますよ」

「来い!!」

 

そう言って俺と時田の戦いが始まった。




現在ハチワンにも出てきていたジョンス・リーです、作者はこのキャラがとても好きです。
なにかしら指摘する点がありましたらどうかお願いします。


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『同撃酔拳』

今回が終わったら鉄健戦があります。


俺は構えて足に力を入れて踏み込む、すると奇妙な動きが時田から見られた。

 

「はっ!!」

「くっ!!」

 

ゆらゆらしたモーションから直後に速い攻撃が飛び出す、避ける事はたやすいが出所が掴みづらい、顔に掠りそうだったのを避けて再び踏み込む距離へと動く。

 

「どうしたんですか?、攻撃もしないで」

「俺が目指すのは常に相手の正面……だ」

「一体それは何のつもりですか?」

 

正面を目指し一撃を喰らっても前に進む、のらりくらりした動きを止める方法は考えていない、食らわせれば一瞬でも止まる、その一瞬でケリをつければ良い。

 

「喰らえ、『裡門(りもん)頂肘(ちょうちゅう)』!!」

「残念ですがその攻撃は通りませんよ」

「くっ!?」

 

時田はのらりくらりからのギアチェンジで惑わせる。

ただ速いだけの攻撃だと思っていたがどうやら勘違いらしく、先に放ったはずのこちらの技が着弾せずに拳が当たっていた。

 

『同撃酔拳(どうげきすいけん)』」

「聞いた事も無い奇怪な武術だな、全弾カウンターできるというのか?」

 

名前から推測できた俺は冷静を装うが、内心では初めて見聞きする武術に驚きを隠せなかった。

 

「来てくださいよ、まだ当たってませんよ」

「カウンター主体だから『待つ』というのか、まだカウンター以外にも攻撃手段があるだろうに」

「そりゃあ有りますよ、でも待つ事でこちらの体力は温存できますからね」

「そうかよ、随分と慎重な奴だな」

 

当たらなかったのはそれだけお前の武術が素晴らしいって事だ、ただ待つばかりだったら俺はダメージを消すまで休むだけだぞ。

 

「それに見え見えの攻撃が相手だったら見てからカウンターできますからね」

「随分と舐めてくれやがって……一撃を受けやがれ!!」

 

そう言って再び強く踏み込む、しかし踏み込みを見ても一撃を出す事はしない、完全に俺の攻撃と同時に合わせる気か、面白い、だったらこの一撃を……

 

「さあ、喰らいやがれ!!」

「ハッ!!」

 

こちらが思い切りの一撃をする、しかし足の運びを僅かに違わせる。

それを悟られぬように慎重に繰り出す、時田の腕が動くと同時に逆の腕と踏み込みの足の運び方を次に繋がるように調整する。

 

「くそっ!!」

「残念でしたね……」

「それは……お前の方だがな、時田ぁ!!」

「くっ、これは!?」

 

一瞬気を抜いたがそれは間違いだぞ、『初撃こそ肝要』の八極拳だが当たらなければ、繰り出しただけならば、それは初撃に有らず。

まあ、かなりの屁理屈なんだがな。

上手くしのいだようだがそれでも結構きただろう、時田?

 

「チッ、掠っただけか」

「『裡門(りもん)頂肘(ちょうちゅう)』……」

 

掠っただけという俺の言葉を聞き一気に時田は後退する、その判断は間違ってはいない、なんせこのままいては追撃の危険性があるからだ。

 

「次は直撃させるぞ、時田」

「どうにか距離をとる事ができた、掠っても腕が少し上がりにくくなったんだ、モロに食らったら……」

 

時田は最悪の事を考えたのだろうか、ぞっとした顔を浮かべている、まあ、拠り所でも有った武術の攻撃を釣って、その刹那に喰らわされるなんて信じられない事が起これば無理もないだろう。

 

この男は決して弱くはない、仮にこちらが閃いていなければ一方的にカウンターを取られて痛い目を見ていただろう。

 

「この距離なら……」

 

時田は腕をしならせて顔を狙う、しかし待っていたのは予想外の事だった。

 

「腕をしならせて一体何を企んでいるんだ、時田?」

 

パンッ!!

 

そんな事を首を傾げて思案していたら、いきなり時田の拳が顔に当たる……なんだ、これは軽いぞ、接近してきた所を合わせたカウンターに頼る算段で、今の間は威力は度外視して牽制を考えているのか?

 

「なんだよ、コリャ……」

 

そういって俺は時田へと向かっていた、その間にも幾度と顔へと拳が当たる、数にして二十発かそれ以上、しかしこんな一撃じゃあ倒れはしない。

 

ザッ…ザッ……ザッ………

 

前へと延々と向かっていき辿り着いた時、眼前で俺は怒りの形相のまま言ってやった。

 

「こんな軽い一撃ばっかりやって、お前は俺をナメてんのか……」

「なっ!?」

「とんだ小細工しやがって、やっとお前を捕まえたぞ」

「くっ!!」

 

危険を感じ取ったのか、嵐のような散打での撃退を狙って拳を延々と繰り出す、しかし距離が近すぎる為に威力があまり乗らない。

 

「あいつら……ジョンス・リーやジュリエッタみたいに完全に弾いたり、痛みをシャットアウトして無効化できないが、この距離だったならば嵐のような散打を耐えてやるぜ!!」

「くっ、倒れない!!」

 

幾度と無く体に当たるが威力が乗らないせいか、少しずつじりじりと俺は時田との距離を縮めていった。

 

「中心だ、これで三回目だな」

「でも、またカウンターの餌食ですよ……」

「それはどうかな、流石に零距離は無理だろう?」

「なっ!?」

 

カウンターとは言えど密着した手から放たれる一撃は対処できない、距離をとっても踏み込みで追いつかれてしまう為事実上詰みに等しいのだ。

 

「あんまりやりたくないんだよな、これ……なんせ場所次第じゃ『死ぬ』かもしれないからよ」

「後ろに……下がっ…」

「遅いぜ、『零勁(れいけい)』!!」

「うぐっ!!」

 

謎の男、時田新之助はこの一撃で目を反転させて白目をむいて意識を手放したのだった。

坂本ジュリエッタでさえこの一撃は対処できなかったからな、しかし今回は心臓ではなく、腹だから命に別条はないだろう。

 

.

.

.

 

「……」

「流石に中心に辿り着く為とはいえどアレは無茶だったな、ちょっと腫れちまっている」

 

俺は少し腫れた顔を撫でて言う、相手の攻撃が距離をとる戦法の為に軽くなっていたがもし威力の高い攻撃を続けられていたら結構ダメージは与えられていただろう。

 

「………」

「立てないようだし気絶しているのか……仕方ないな」

 

俺はそう言って時田を背負う形で持ち上げた。

 

「おんぶとかまたかよと言いたいが、こいつは一体どこに行こうとしていたんだ?」

「…………」

「それにしてもなんか凄い拳法だったな」

 

初めに見た時はまるで相手を探す為に町を徘徊していたようにも思えるからこその疑問である、そして戦った際の拳法の凄さは正直な感想だ、あんなものはお目にかかったこともない。

 

「うぅん……」

「起きたか…揺られてたから気絶の時間も雀が鳴く程度のもんだな」

 

背負って歩いているとあっという間に目を覚ました、まあ、揺られているから無理もないんだろうけどな。

 

「僕は一体…この状況は?」

「背負われてるだけだ、気にしなくてもいい」

「もしかしてどこかに連れて行く気ですか?」

 

時田の質問はごもっともだが別にどこかに連行していくつもりはないぜ、あんな場所に寝そべらせるのは良くないから俺なりの気遣いだよ。

 

「いーや、ベンチに寝かしとけば良いとおもってな」

「そうですか、すみません、邪推してしまって」

 

ベンチに座らせる為に背中から下ろしてやる、別に邪推された所でなんとも思わないしな、正直俺だっていきなり背負われてしまったら邪推してしまうだろう。

 

「そんな些細な事は気にしなくてもいいさ、それにしても凄い拳法だったな、アレは」

「『同撃酔拳』はマキさんを……」

「エアマスターへの秘策か……羨ましいね、そんなものを開発するほど戦ってくれる奴がいて」

 

秘策を編み出したり、見てるだけで倍の力出してくれる奴がいたり引く手数多(あまた)な女だな、エアマスターの奴は。

 

「そんな優しいものじゃありませんよ……」

「とりあえずベンチに着いたしなんかあるみたいだが、話したくは無いようだから別に強引に事情は聞かないぜ」

「すいませんね、気遣っていただいて……わざわざ有難うございました」

 

少し暗い顔をして否定してくる時田に対して俺は嫌なら言うなと言っておきベンチから立ち上がる、すると感謝の言葉を言ってくる時田、俺はその言葉を背中で受け止め、手を振りながらカプセルホテルへと向かって行くのだった。




次回は鉄健の話です。
なにかしら指摘の点がありましたらお願いします。


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『捕食者と本性』

今回は鉄健の勝負です。


屋敷さんとの戦いから数日後、時間は長枝と時田との戦いに決着がつく数時間前である。

俺は深道さんから喫茶店に呼ばれていた、理由は今回のランキング戦についてだ。

 

「少し大きくなったか、楊鉄健?」

「ええ、ようやく自分の体を作り上げましたよ、体重の増加も停滞したのできっとこれがベストウェイトです」

「そうか、前回の屋敷の時はまだ出来上がっていなかったのにすまないな、普通ならベストコンディションで挑ませるべきなのにそれを怠っていた」

 

そう言っているが少し笑みを浮かべている、勝負にそういう理由は持ち出したらご法度だし肉体の管理ができていなかったと言われればぐうの音も出ない。

 

「で、今回の相手は何位ですか?」

「深道ランキング三位だ、場所はそちらに選ぶ権利があるがどうする?」

 

深道さんがそう言うがこれはストリートファイトだからな……得意な場所なんてリングぐらいしか思い浮かばないし、ここは……

 

「場所についてはなんとも言えません、仮に希望を言わなかったら何処ですか?」

「言わなかった場合は前回と同じ場所だな」

 

前回と同じ場所って事は公園か、まあ、場所としては問題ないしそれで良いだろう。

夜の七時ぐらいに始まるみたいだが、一体対戦相手はどんな人だろうか?

 

.

.

.

 

夜の六時半に俺は対戦の場所へと来ていた。

シャドーで体を温めるのを目的として、俺は速くに来ていたのだ、それから二十分もした頃……前方から百八十センチほどの人が歩いてきた、風貌はメッシュで髪を固めていて肘と膝にはレガースをしている。

 

「さて……と深道の奴も何でこんな奴を当てたのかね」

「貴方が俺の対戦相手ですか?」

「あぁ……俺がそうだけど?」

 

どうやら間違ってはいないようだがなんだかけだるそうな顔をしているな、まあ、三位が十位とやるのは不本意だろうけど……。

 

「質問に質問って…なんだか話が噛み合いそうに無いですね……」

「話は噛めねーよ、何言ってんだ、お前?」

「はぁ……」

 

なんだか上手く会話が成り立たない、とりあえずは気を取り直してみるか。

 

「とりあえず、俺が三位の小西(こにし)良徳(よしのり)だ」

「俺の名前は楊「いや、言わなくていい」」

 

名乗ってきたのだからこちらも返そうとしたら遮られる、幾らなんでもそいつはないだろうに。

 

「ちゃんと名前ぐらいは把握している、楊鉄健だろ?」

「そうですけど、俺も此処にいる以上は目的が分かってますよね?」

「分かってるさ、やるんだろ、来いよ」

 

そう言うと小西さんは体勢を低くして構える、考えられるのはレスリングだが……どのプレイスタイルなのだろうか、気になるが今は目の前に集中だ。

 

「いきます、小西さん!!」

「おう、せめて少しぐらいは楽しませろよ!!」

 

距離にしてボクシングでもミドルレンジより少し遠いほど、体重が乗って威力は上がるが速度はショートレンジよりは遅くなる間合いで俺は呼吸を整える。

 

「シッ!!」

 

小手調べでもなく最初から気合の入ったジャブを放つ、距離はそれほど近くはないが速度はなかなか乗っている、それなのに俺は出した直後に冷や汗が滲んでいた。

 

「甘いな、その程度なら取れるんだよ!!」

「嘘だろ、クソッタレ!!」

 

嫌な予感は当たり、こちらのジャブが当る前に腕を取る動きが見えたので悪態をついて回避をする、しかし何だろうかこの手をかいくぐっている俺が見えている、一体何が起こっているんだろう。

 

「オラッ!!」

 

今度は少しだけ近づいて速い一撃を放つ、しかしその一撃にも敏感な反応を示して手を伸ばす、再び腕を取る動作が見えて、そして先ほどと同じ様にかいくぐる幻影も見えていた。

 

「今度は貰うぜ、この腕!!」

「そうは問屋がおろさないんだよ!!」

 

ギリギリの所で再び腕を引いてかわす、当てる事がこんなにも難しいだなんて……これが三本の指に入る人の強さだというのか。

そして今ふと思ったがかいくぐっているのはベストな選択をしているという事なのではないだろうか?、試してみる価値はありそうだな。

 

「掴まれないために健気に逃げているがそれじゃあ俺を倒せないのは分かってるはずだ」

「まだだ……まだ『隠し玉』は出しちゃあいけない」

 

俺は指摘されている言葉に同意をしながらも距離を離れる、『隠し玉』をやるにも速い段階だろう、そしてなおかつ俺の攻撃を掴ませてはならない、『隠し玉』の意味がなくなってしまうからな。

 

「更に言うならばお前は不幸な事に完璧に強くなった俺と戦う、少し前だったらこれほどの絶望感はなかっただろうがな」

「グッ……息が詰まるほどのプレッシャーだな」

 

こっちの考えに入り込むように話し始めた完璧だという言葉の口上が終わると同時に押しつぶすのではなく剃刀(かみそり)の様なプレッシャーが皮膚を切るように容赦なく降りかかる、これほどやばいと感じたのは初めてだ、やはりこの人は普通じゃあない。

 

「俺に即バキバキにされずに済む方法でも今から頑張って考えるんだな」

「じゃあ、考えながら行きますかねぇ!!」

 

せいぜいできる限りの虚勢を張る、精神面で負けてずるずるとあちらのペースに引きずりこまれたらお終いだ。

 

「シッ!!」

「それなりに速いがまだまだ甘いぜ、オラ!!」

 

掴まれそうになった腕をすばやく引く、しかしその一瞬の間に手首を締め上げていたのか痛みが走った。

 

「グアッ!!」

「折れなかったが少しだけ捻った、筋が違えて痛いだろ?」

「ううぅ……」

 

うめき声を上げてしまうがどうして腕の痛みが先行する、こちらの思考を奪っていく。

 

「さて、逃げても俺の関節技は確実にお前へダメージを蓄積するぞ」

「折られてはいない、でも……さっき見えたものが本当に最高の俺ならば掴まれるより早く懐に入り込んでいるんだ」

 

距離をとって落ち着く、冷静にさえなればもう少し楽だろう、別に俺の隠し玉は早い出入りではない、最高の俺になるために動いて目に物を見せてやる。

 

「シッ!!」

「遅い遅い!!」

 

蛇のように絡み付いて俺の関節を取ろうとする、それより速く前に行き絡み付くよりも早く懐へと忍び込む、肩の筋を僅かに違えさせられた、距離を詰め寄ったという事は最高の自分へと近づけた結果だ。

 

「グッ……」

「筋を違えればその分遅くなっていく、足がまだ生きているから逃げているがそろそろ限界が近いな」

 

小西さんは冷静な分析をして次の俺の攻撃へと照準を合わせる、俺はもう一度理想へと近づくために次の拳を出す、しかし次の動きは先ほどと違って一気に力を込めて折りにきていた。

 

「さて、終わりだな……バキバキだ!!」

「フンッ!!!」

 

その折りに来た攻撃を俺は力任せに腕を折られる寸前に体ごと捻って逃げる、ただ腕の痛みは一気に体の奥を突き抜ける、息が一瞬止まりそうになったがどうにか呼吸を整えて小西さんを睨みつけた。

 

「随分な力技で逃げたが……その腕でのパンチはもはや蚊が止まる速度にまで落ちた、随分と粘ったみたいだけどな」

「確かにその通りだ、流石にここまで差があるとは思わなかった」

「強い奴は強いからな、仕方ないもんだ」

 

心理を言ってくる小西さん、確かに元々強い奴は強い、弱い奴は弱い、それを覆すのは努力やそれ以上の才能、この人は紛れもなく強い、俺よりも確実に強い、でも……

 

「逆にここまで見せ付けられたら心が躍るものさ!!」

 

俺はそう言って意気揚々とステップを踏む、高揚感と腕の痛みがごっちゃになって俺の鼓動を速める、この感覚……肩と腕の筋肉が限界近くまで捻られているかもしれないな、折られることに比べたらましだろうが。

 

「このまま、このまま……届け、理想の俺へ、腕をかいくぐる俺に追いつけ!!」

「捕らえ……」

「よしっ!!、ようやく届いた、そしてかいくぐれ、俺!!」

「んっ、からぶったか…って事はまさか!?」

 

ようやくかいくぐって懐へと入る事に成功した、ここから延々と顔を腫らしたりして視界を塞ぐパンチは打てない、でも反則技ならば一回でそれを可能に出来る。

 

「俺のキャッチをかいくぐっただと、テメェ……何をした?」

「それは単純にあんたに引っ張られたからさ、そのおかげでくぐれたんだ、喰らえ!!」

 

俺は頭突きをする、狙うのは小西さんの(まぶた)だ、切れるように強く擦るように放つ。

そう、一発で可能にするのはボクシングの接触行為であるパッティングである、当然故意にしたら反則だ、そして今回のは明らかに故意である、これが試合なら警告ものだがストリートファイトだからな。

 

「さあ……これでどうにかあんたを攻略する細い糸は出来たな」

「パッティングをわざとするとか、てめーはボクサーのルール内でやらないのかよ…」

「ハア、『ボクシング』はやってますがこれは『喧嘩』でしょう、だから使ったんですよ」

「そりゃあそうだ、ボクサーだからボクシングのルールでだけって言う輩よりはお前は強いな」

 

そういうと俺は小西さんから離れる、さてまだまだこれから隠し玉を使わないとな、小西さんは利き腕を壊したと思っているみたいだからパンチを出せない場所へとポジションを取る。

 

「塞がっている目の方向ばかりいきやがって……」

「シッ……!!」

「動いたな……その腕は貰いだ!!」

 

筋を違えた腕をピクリと動かす、その様子を凝視して手をとりに行く小西さん、しかしこれは罠なのだ、今こそ俺の隠し玉を炸裂させる時!!

 

「オラァ!!!」

「なっ……」

 

一気に重心を変えて半身を翻し逆の腕で強烈なパンチを放つ、逆の腕でパンチをしたという時点で気づいてもらえると思うが俺の隠し玉は『両利き』である、これなら片方の腕の筋を捻られても片方の大砲がまだ残っている。

 

「くそっ!!」

 

そのストレートは顔面へとクリーンヒットする、その為小西さんはよたよたと後ずさりする事になった、ようやく一発当てる事が出来た……、隠し玉が見事にはまったおかげだな。

 

「てめえ、それは珍しすぎるだろ……出し惜しみしなければ腕が両方無事だったろうに勿体無いぜ」

 

確かに両利きのボクサーはとても珍しい存在だ、元々両利きだったのだが屋敷さんの時にはまだ解禁しなかった、上位の人に動画で見られて対策を練られたら洒落にならないからな。

 

「出し惜しみせずに使っていたら今の一撃は産まれません、これで十分です」

 

そう言って構えなおす、目と顔をせわしなく動かす所を見ると掴もうとしているのが分かる、この人だったら長引けば片目でも掴みそうだな……初見じゃなければそこまで劇的な意味は持たないって事か。

 

「こっちか!?」

「シッ!!」

「逆かよ!?、威力は低いから別にいいけど地味にきついぜ……」

 

筋を違えたほうは威力は低く、更に遅いせいで普通に遣っただけなら何の意味も持たないだろう、しかし今の小西さんの状況かつスイッチならば中々の有効打へと化ける。

 

「地味だとか掠らせておいてよく言う……」

 

僅かに人差し指が掠ったのだ、学習能力と体の身のこなしで打開してくるとは、流石にそう簡単には勝たせてくれないか。

 

「ハッ!!」

「フェイントでもう一発こっちか、甘いぜ!!」

「そっちがですよ!!」

「なっ!?」

「シッ!!」

 

続けて筋を違えた腕を使う事をにおわせておいて俺は側頭部を蹴りぬく、これは『喧嘩』だからルールなんてあってないようなもんだからね、深道さんも言っていたし。

 

「今度は蹴りまで出すか、何処までボクシングを逸脱する気なんだよ……」

「無論、勝てるまでです、でそっちの目は貰います」

 

驚いている小西さんを横目に俺は平然と答える、蹴りだろうがなんだろうがわざとパッティングした時点でラフファイトをする覚悟は出来ていた、そして遂にパッティングの矛先は逆の目へと向いていた……。

 

「うぅ……見えねぇ」

 

目が血によって塞がっていく、そこで俺は更にアッパーをし、その返しのストレートで瞼を打つ、限界ギリギリまで視界を奪ってやる。

 

「ガハッ!!」

「シッ!!」

「ガッ、今度はラビットパンチか……」

 

不意打ちの後頭部への一撃で更によろめく小西さん、頭がその衝撃で下がるタイミングに合わせて膝を叩き込む、顎が跳ね上がってダウンを取った。

流石に精神的にも肉体的にも少しずつ追い詰められていったのか、冷や汗を僅かにかいているのが見えた。

 

「背中をがら空きにして良い訳ないでしょう?」

 

俺はそう言って肘を思いっきり突き刺すように打ちつける、小西さんが苦悶の顔を浮かべるがすかさずパッティングをして顔に一撃を加える。

 

「テメェ……」

 

怒りをあらわにした顔で俺を探している、目が見えていないくせに的確に俺を狙って手を伸ばす、

避けて一撃を入れていくが気が気ではない、いつ掴まれるのかを考えると鳥肌が止まらない、しかしここで追撃を止めるわけにも行かない、俺は腹にアッパーをぶち込んだ。

 

「もう一発!!」

「オエッ……」

 

少し体をくの字に曲げながら距離をとって呼吸を整える小西さん、そして苛立ちを集約したような低い声を出して俺に喋り始めた。

 

「目が塞がっただけでこの俺が苦戦するとはな……お前には特別にバキバキ免除してやる、そしてこれを使う」

「えっ?」

「オラァ!!」

「わぷっ!?、これは服……一体何処に居るんだ!!」

 

服を脱ぎ、それを投げつける事で視界が奪われた、一体何処にいったんだろうか、腕や足が動き、地面が背中に着いてない所を考えると壊されてもいないしマウントポジションではない。

 

「さて……もうこうなったら俺の勝ちだ、距離感もクソもねえ」

「くっ……後ろか!!」

 

服による目晦ましで一瞬の間に後ろを取られていた、勝利宣言の理由は分かっている、スリーパーホールドのポジションに小西さんがいた。

 

「オラッ!!!、落ちやがれ!!!」

「ギギギ……」

 

そう言ってギリギリと締め付けてくる腕を外す為に腕を持って力を込める、しかし小西さんはそれを交わすように体を動かし少しづつ力を強くしていき頚動脈を的確に抑え始めた。

 

「ウガァアアアアアアア!!!!」

「無理無理……外せるわけねーよ」

 

足をバタバタとさせて腕をかきむしるようにもがき、頭も動かしてどうにか逃れようとするが全然拘束は緩まなかった、やばい……落ちる……視界が暗転し始める、外せね…え…

 

「……」

「さて、絞めおとして勝負が決まった以上はバキバキには出来ねえな……」

 

俺は目を覚ました時……首に絞められた跡と筋を違えた痛みだけが残っていた、それを見下ろすようにしていたのは深道さんだった。

 

「やっぱり負けたか……」

「どういう意味ですか、それ?」

 

深道さんの言葉に苛立ちを感じた、『やっぱり』というのは負ける事が分かっていてこの勝負を組んだということではないか。

 

「正直な所、今回の勝負は予想外が起こればいい程度だったんでな、起こったから万々歳だ」

「そうですか……」

「ハハハッ、そうむくれるなよ、リザーバーになったとは言えど今一番十位に近いリザーバーなんだから」

 

そう言われた所で嬉しくはない、リザーバーになったら戦う相手に不自由しそうだからな、今回の収穫はある程度の高みに引張り上げられてレベルが上がったってことぐらいだろう。

 

「まあ、小西に壊されなかっただけでも良かったじゃないか、次勝負したら今回ほどの成果は出ないだろうけどな」

「そんな事分かってますよ、学習能力が半端じゃあない、だから今回はかなりの引き出しを使ったんです」

 

あの人はクレバーな人だというのは十分分かった事だし、今回でやった事はもう覚えられただろうから次は上手く立ち回らないといけないのが厄介だ、思いつく限りではキドニーブローが残っているぐらいだな、ただ腎臓は最悪人生に支障を及ぼすから使いたくは無いや。

 

「じゃあな、次に挑戦したければ電話で頼む」

 

そう言って深道さんは帰っていった、起き上がるが腕の痛みがはしって上手く起き上がるのに苦労する、戦うのに電話するぐらいならば何かしらの方法があるはずだろう、『ランカーを狩る』とかな。

そうと決めたら俺は標的を探す、上位でそれなりに強い奴……よし、元七位『深道(ふかみち)信彦(のぶひこ)』だ、彼を狩ろう。

俺は強いものを受動的にではなく能動的に探す為、痛い腕を押さえながら繁華街へと向かっていった。




作者はこの戦いはどうにか上手くかけたらなーと思いながら書きました。
指摘する点がありましたらお願いします。


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『乱入 スカイスターとの戦い』

次回に引き続き鉄健の勝負です。


「おいおい、気絶してるじゃないかよ……」

 

カラオケボックスの屋上へと上がるとそこには倒れている深道信彦が居た。

アレから探してせっかく見つけたと言うのに、これじゃあ消化不良もいいところだ。

これなら探すのをやめて家に帰ろう、腕の痛みもだんだん我慢できなくなってきていたし良い頃合だ。

.

.

.

 

次の日になると筋の違えはなくなって痛みも消えていた、とりあえず他の奴を探すか……最近の奴なら元九位の『サンパギータ・カイ』と新九位となって今はリザーバーの『北枝金次郎』。

俺はすぐに身支度をして家を出る、現役復帰したのかテレビでも出ている為『ルチャ・リブレ』の使い手というのを知っている、そしてプロなら巡業か近くで試合を試合をしているはずだろうからそこへ乱入してしまえば良い。

 

家を出て駅へ向かい、切符を買って改札を出て電車に乗り込み揺られる事数分。

駅から降りて俺はチケットを試合会場で買い、会場受付の警備員に見せる、怪しまれる格好でもないから厳しくチェックされる事もなく半券をきられた。

 

「A席でございますね、どうぞ」

 

そう言われてチケットを渡された俺はチケットの番号を見ながら観客席まで入っていった、試合の乱入の計画は順調だ。

 

「それでは今日のメーンイベントを開始します、シングルタイトルマッチ、まず入場するのはチャンピオン『スカイスター』!!」

 

おぉ、丁度試合が始まる前だったか、良いタイミングだな、俺は駆けていって観客席からリングへと入る、というか深道ランキングでの登録は普段使われる名前でリングネームは違っていたんだな。

 

「なんと、乱入だー!!」

「どけどけー!!」

 

俺は瞬く間にリングへと辿り着きコーナーロープを飛び越える、実況の言葉から一気にリングの中心にいた人を殴り倒す、身のこなしの向上はきっと小西さんの戦いで引っ張り上げられた結果だ、相手にリバーブローと顔面へのストレートで対戦相手であろう人をノックアウトしてチャンピオンである『スカイスター』もとい『サンパギータ・カイ』の方を見る。

 

「平然と挑戦者をノックアウトー!!、一体この観客は何者だー!?」

「おいおい、何ぶち壊しにしてくれているんだよ、せっかくの防衛戦だったって言うのに」

「俺はそんな事抜きであんたと勝負しに来たんだ、元九位『サンパギータ・カイ』」

 

乱入に対して非難するような事を言ってきたが俺が深道ランカーだと分かったからか目つきが変わっていた。

今時分の目の前に居る相手が強いと分かったからだろうか威圧するように殺気が噴出す、ただそれでも小西さんには到底及ぶことはなかった。

 

「そうかよ、良いさ、来いよ」

「じゃあ、言葉に甘えて行かせて貰う!!」

 

乱入してきた俺の行為を咎める事もなく、スペシャルマッチとして試合が始まる、俺の構えを見て即座にカイさんがコーナーロープへと動く。

 

空中戦が相手でも打ち落とせば良い、俺は逆のコーナーへと進む、相手が飛ぶ攻撃をしても反撃が出来るように、ファイティングポーズでステップを踏んでリズムを取った。

 

「スカイツイスタープレス!!!」

「なっ、いきなりかよ!!」

 

コーナーポストから高々と跳躍をして回転しながら落下をしてくる、そのとてつもない威力と見受けられる一撃を避けてその場をやり過ごす、アレは食らってはいけない、あの技の威力は高さから推測して……もし喰らったとしたら体重の十倍ほどの衝撃が襲い掛かってくるだろう。

 

俺はいきなりの大技に驚いたが俺はコーナーロープから一気にダッシュをして距離を詰める、いきなり眼前に現れるほどの加速に驚いたのか目を見開いていた、起き上がるまで隙だらけというので俺は大きく振りかぶって勢いをつける。

 

「喰らいやがれ、顔ががら空きだぜ!!」

「グッ!!、避けられていたか!!」

「オオオオオオオオ!!」

 

雄たけびを上げながらカイさんの顔をめがけて打ち抜いた、手応えは十分、なかなかの好感触だった

 

「この腰の入ったパンチは……ボクサーか?」

 

しかし平然と起き上がってきたカイさんを見て驚く、おいおい十分良い手応えだったんだぞ……

幾らプロレスラーがタフだと言っても結構ショックだぜ。

 

「単発でのフルスウィングだぞ、効いてないのか?」

「効いている事は効いている、悪いが気合が入った一撃だったら前にしこたま貰ったんでな」

 

こっちの質問に対してカイさんはにやけて言葉を返してくる、まあ、順位を調べれば分かる事だが、あの男と勝負していたらそれもそうか、俺は再び構えなおしてステップを踏んだ。

 

「さて、いけるかな?」

 

そう言ってコーナーロープに足を乗せるカイさん、飛んできたところをカウンターで打ち落としてやる。

 

「おい、何処見ているんだ?、私はここだぞ」

「なっ!!」

 

いつの間に後ろに!?、そう思って向かいのロープを注視すると僅かに震えていた、なるほど……コーナーロープからコーナーロープへと飛び移ったってわけか。

 

「私のリングネームは『スカイスター』だ、空を駆ける星を捉えられるか!!」

 

そう言って滑空してエルボーを落とす、俺はそれを避けて着地を待つ、すると再び俺の視界から消えた。

 

「横だよ!!、『居酒屋ボンバー』!!」

「ヌッ……!!」

 

今度は後ろではなく横から現れてラリアットをしてくる、なるほど打撃技の威力は悪くない、このままいけばいいようにされて負けるだろう、一体どの様にして打ち落とそうか……。

 

「それっ!!」

 

空中で戦う為にはコーナーロープを確実に経由している、まずはこれを頭に置いた上で方法を考えなくてはいけない。

 

「次こそは決めてやる!!」

 

コーナーロープを次々と飛び移って大きな技のためのよび動作を始める、だがどうにか打ち落とす方法を子供だましながら思いついたので実践する。

 

「付け焼刃でやるには心もとないが……セイッ!!」

 

カイさんが乗り移る前に俺はある場所へと駆けていく。

コーナーロープを叩いた所だけでは一箇所しか揺れず完全には打ち落とせない、しかしコーナーポストならば一気に振動が全てのロープへといきわたるだろう、俺は全力でコーナーポストを叩いた。

 

「くそっ……お前、よくもこんな真似してくれたな」

 

着地地点が振動を伴ったから着地できなかったのか、苦々しい顔でカイさんが俺を睨みつけていた、さて、地上になったら逃がしはしないぜ。

 

「シッ!!」

「速いっ!?」

 

俺のパンチの速度に驚いていた、こっちも一応プロを目指しているんだからこれくらいの速度を持っていて当然だ。

 

「ハッ!!」

「左か!!」

「甘い!!」

 

カイさんが腕を交差して防ごうとするが逆の拳でがら空きの脇腹を打つ、出来れば顎とか狙いたかったんだが交差していた腕が崩れなかったから残念だ。

 

「フッ!!」

「こっちか!!」

「外れだ!!」

 

今度は右かと予想したみたいだが残念な事にこちらは両利きだったから再びがら空きの脇腹へと喰らう。

 

「まだまだ!!」

 

相手の予測を外してそれから、脇腹、顎、ボディ、こめかみ、とコンビネーションをつなげて着実にダメージを蓄積させていく。

 

「くそっ、左と思えば右、右かと思えば……」

 

上手く防御できずに打たれ続けるカイさん、まあ、予測してもそっちと逆を撃ってくるから受けようがないのだが。

 

「お返しをしてやる……」

 

そう言ったかと思うと一気にバックステップで距離をとり再びコーナーロープへと動いていく、そして跳ねるようにして動き続けていたが次の瞬間、恐ろしい光景を目の当たりにした。

 

「どうだ、お前のパンチに対してのお返しだ」

 

後ろかと思えば前、前かと思えば後ろ、左と右に関しても同様だ、カイさんがコーナーロープの反動を使って何人にも見えるほど高速移動をしていた。

 

「なっ……これは!?」

「新技だ、『デス・ロープ・ダンス』!!」

 

その言葉を口火に鋭い一撃が入る。

カイさんは四方八方に動きまくってそのロープの反動でダメージを与え続ける、受け止めようにもフェイントに反動が使われてぼんやりとしか読めない、はっきりとしていたなら捕らえられるんだろうけど。

 

「クソ、目で追っても反応できても全然守れないぜ……」

「トドメだ、次で終わらせる」

 

そう言って一際大きな反動をつけてリングの周りを往復し始める、目線とコースで読むがどうやら腹を狙っているみたいだ、俺は腰を落とし腹筋に力を入れ受け止める準備をした、もし顔面とかならばKOされるだろう。

 

「『ファイナル・ランス・シュート』!!」

「ぬぅうううううう!!」

「くそっ、この感覚は……」

「はあはあっ……」

 

俺は腹への一撃を渾身の力を入れた腹筋で受け止めて足を掴んでいた、衝撃の大きさから息が苦しいが、どうにかパンチを打ち込める、こんなチャンスならば全力でぶち込むのもいいかもしれない。

 

「チッ、少し急いで腹を射抜こうとしたのが間違いか……」

「喰らいやがれ……オラアアアア!!!」

 

技の後に有る僅かな硬直で足を振りほどこうにも一瞬の遅れを生み出す。

俺はそれを見逃さず限界まで力を振り絞ったパンチを叩き込んだ、後で力尽きて倒れこんでもいいほどに、腕がビリビリとする一撃を叩き込んだ。

だが次の瞬間、俺の目の前に有ったのは体で受け止めて俺の股下に手を差し込んで、辛いながらも『取ったぞ』という顔をしたカイさんだった。

 

「ぐっ、喰らうことなく上手く受けられたか……」

「いや、思いっきり喰らったよ、普段の私ならKOされてたさ。 でもみおりの前では私はもう負けられないんだ!!、喰らえ、『ランニングライガーボム』!!」

 

そう言って俺を抱えてボム投げを放つ、こっちもさっきのが最後のパンチだ、小西さんの勝負と違ってストリートファイトじゃなくリングの上だから意識して、反則をしない清廉潔白な試合運びをさせてもらったがそれがかえって仇となった。

 

「なっ、なんと乱入者がとてつもない戦いを見せてくれました、チャンピオンを限界ギリギリまで追い詰める名勝負でした!!」

 

意識が落ちていく中実況のその言葉を聞く、目は霞むがカイさんはどうやら足もガクガクでロープに捕まって耐えているだけでお互いに力を使い果たしていたようだ、とりあえず今度は誰を狩ってしまおうか……そこで俺の意識は途切れたのだった。

 

.

.

.

 

その頃喫茶店では深道が鉄健とカイの試合を見ていた。

 

「ハハハハッ、最初テレビで見た時はやけになったと思ったらそういう訳か、話題に事欠かない奴だ」

「兄貴、笑っているがこれでランカー狩りが増えたんだぜ……」

「ああっ、だがこういう不確定要素になりえるのは面白い、それにもう『最後の戦い』も近いだろうからな」

 

そう言って紅茶を飲み干す深道、そして遂に幕が開く『最強の女』である皆口由紀と『第二の八極拳士』である逢間長枝の対決。

まあ、こうなった流れは少し時間を遡らなければいけない、それは次の話から説明を始めよう、俺の視点ではないだろうが。

 

そして喫茶店の中に静かにエンターキーを押す音が響いた。




次回は長枝の話が連続します、ご了承ください。
何が指摘の点がありましたらお願いします。


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『敵討ちの長い夜』

今回は長枝の話です。


カプセルホテルから出て朝日を浴びながら伸びをする、さて……今日は誰と戦うのだろうか?

 

「良い朝日だ……今日はまだ試合の予定も無いみたいだしうろつくか」

「やあ……君は逢間長枝だね」

 

いきなり声をかけられたので振り向く、俺の名前を知っているって事は深道ランカーの可能性が高い。

 

「お前は誰だ?」

「私は深道ランキング十五位の…」

 

敵意むき出しの眼差しで見る、すると相手は少しひるみながらもどんな奴か素性を伝えてくる、って十五位ってリザーバーでもそこまで強くないじゃないか無視だな。

 

「悪いが俺が今探しているのはランキング四位なんだ、十五位のお前に用は無い」

「そういう訳にもいかんのだ、私と戦え!!」

 

大きな声で戦いを願ってくる、仕方ないな……戦うか。

 

「しょうがねぇ奴だ……名前だけは聞いとくか、何って言うんだ?」

「私は『スナイパー空手』の創始者で戸叶(とかのう)と言う」

「スナイパー空手ねぇ……来いよ」

「なっ……この構えは」

 

いつもの構えをすると驚く、まあ……仮に前回のジョンス・リーと俺の暴れっぷりを動画で見ているのならば仕方ないか。

 

「どうした?」

「えぇい、行くぞ!!」

「来い!!」

 

ジャブを出してきたが難なく避けて相手の正面へと立つ、そして踏み込……

 

「膝の狙撃、そして……そこから」

 

成る程ね、足を止めようと……アホか

 

「そこからなんて与えねぇよ!!」

「なっ!?」

 

俺は蹴りを出してきたのに合わせる形で一気に踏み込む、バランスを崩そうとしたら逆にこっちの踏み込みによって足が弾かれて己がバランスを崩す。

 

全く…踏み込んでくる膝を狙ってやるのは良いけど、そのスローな蹴りはこっちの踏み込みには太刀打ちは出来ないぜ。

 

結果は無防備に一撃を受けて吹っ飛びながら意識を手放すという惨事になった、とりあえずは自販機で缶コーヒーでも買って飲むかな……

 

「やあ……長枝」

「深道か、どうした?」

 

缶コーヒーのタブを起こして今から飲もうとした時に深道に声をかけられる、よく俺の居場所が分かったな。

 

「話があるんだ、来て欲しい」

「いや、缶コーヒーを飲むんだが」

「今すぐ来てもらう、拒否は許さない」

 

有無を言わさぬ深道に何事かと思って俺はついていくのだった。

 

暫くして深道に連れられて俺は五つ星の判定をした喫茶店へと入る、まったく缶コーヒーを飲みたかったんだが……まあ、深道がおごったり紹介する所のコーヒーは美味しいから別にいいんだがな。

 

「おぉ、長枝を見つけたのか、兄貴」

「まぁな、そっちは楊鉄健を見つけたか?」

 

元七位の深道信彦がいたので隣に座る、一体どんな話なのだろうか?

 

「見つけられなかったが情報は掴んだ、鉄健が狙っているのは現在と元の一桁ランカーだ、俺を含めてももう数えるぐらいしかぐらいしかもう残っていない」

「で……何の話なんだ?」

「今日は大きな試合がある」

「そうか、俺はやってみたいものだな」

「残念だが、お前はその戦い及び観戦は欠席させると言う結論に達した」

「何だと!?」

 

俺は立ち上がって憤った声を出す、何事かと客が見ているが関係ない。

大きな試合なんだから戦わせろよ、観戦ぐらいさせろよという思いが胸を満たす。

 

 

「その代わりお前には四位の試合を用意する、それで良いだろう?」

「本当……なんだな、深道、二回目は無いぞ」

 

その条件を聞いて俺は静かに席へ座る、ココで言質でもとっておかないとな、後で『やっぱりダメ』とか言われたらしゃれにならん。

 

「そして楊鉄健は事情を聞くためにここへきてもらうか、じっくりと話してみる良い機会だ」

「それを俺がしたら良いんだな、兄貴?」

「ああ、連れてきてくれ、信彦」

 

そう言って信彦を調査に向かわせる、ランカー狩りは知っている限り、時田ただ一人だがあいつは別に言わなくても良いだろう。

 

「一応また夜にでも此処に来て欲しい、その時に詳しく話をする」

 

そう言われて俺は店を出て行った、とりあえず時間に空きでもあれば俺も調査して見るか。

 

そして数時間後月が出る時間に俺は再び喫茶店へと赴いていた。

 

「深道、さて……四位の所を教えて貰うぞ」

「座ってくれ、とは言っても時間が必要だ、午前中には言ってなかったが上位が観戦している」

「そうか、じゃあランカー狩りを一目見てきて時間をつぶそうかな」

「それは良い案だな、行って来いよ、すでに屋敷を向かわせているからそこまで被害は無いだろうけどな」

「あぁ……それでも嫌な予感がするぜ、少しは警戒はしないといけないよ」

「そうか、早く帰れないとお前と四位の試合がどうなるか分からんぞ」

「分かっているさ、できるだけ速く帰って場所を教えてもらう」

「一応楊鉄健は信彦とこっちに向かってきているから、すれ違いになるだろうな」

「それはそれでどうでも良い事だ、じゃあな」

 

そういって俺は喫茶店を出て行く。

 

「どうやら屋敷の発信を見ると居るのは公園の様だな……迷わずにすみそうだ」

 

.

.

 

「あそこにいるのは二十二位と二十一位ね、雑魚だわ」

「そないな事言うなや、あんたらやろ、ランカー狩り」

「えっ?」

「でもまぁ、ええわ、月雄がおるんや」

「あいつは誰だ?」

「確か一桁ランカーの屋敷ね、十分な相手だわ」

「ルチャ、危ねぇ!!」

「なっ!?、ぐふっ!!」

 

数分後、公園に着いた俺はおかしな光景に立ち会っていた、屋敷とマスクマンとマッチョマンの三人が一堂に会していたのだ、とりあえず最初に目の中には言っていた面子の中で一番怪しいマスクマンを倒しておいた。

 

「悪いな、ランカー狩りかどうかわからんから一応やってしまった」

「お前は……六位の」

「お前が此処に来たか……こりゃあ出る幕無いわ」

 

そう言って肩をすくめる屋敷、こちらとしてはお前も協力して欲しい限りなんだけどな。

 

「チャンスね、シズナマン!!……シズナマン?」

「まぁ、よく見たらどう考えてもお前だろ、ランカー狩りさん……」

 

そう言って指差すのは機械的なスーツを着込んだ奴……よく辺りを見渡せばどう考えてもこいつだったろうな、俺は構える、それを見て相手も構える、ただ構えた瞬間目の前にいるランカー狩りの正体が分かってしまった。

 

「構えて分かったよ……何してんだ?、金ちゃん」

「なっ、なんで分かるんだ!?、俺の事!!」

「分かるさ……そんな格好をしている経緯は知らないけれど金ちゃんが『強い奴』だってのは分かっている」

「まさかこんな形で再会するとはな……」

「……来いよ、やろうぜ」

「おぉ!!」

 

見事な低空タックルだが俺の足を取るには間合いが足りていない、だから俺は息を吸い込んで手を下にして気を行き渡らせる。

 

「かあっ!!」

 

気合と共に弾くように気を発する、それを見て金ちゃんは僅かに足をもたつかせていた。

 

発勁(はっけい)か、お前もお前で強くなったんだな、マウントは取れないか?」

「アマレスは凄いが俺が簡単にマウントを取らせると思うなよ、さぁ地上戦だがお互いの間合いだ、攻撃して来いよ金ちゃん」

「くっ……」

 

何かを考えている、きっとあの装甲のせいでワンサイドゲームになるのを危惧しているのだろうか、随分と甘く見られているんだな。

 

「どうした、攻撃してこいよ?」

「こんな姿は……俺じゃ…でも俺は」

「金ちゃん……弱くなったな」

 

俺は冷たい声で言い放つ、あの戦った時とは全然違う、こんなものじゃあないとわかっているからこそ俺は発奮させる為にに嘲笑うように言ってやった。

 

「くっ!!」

「甘い!!」

 

避けると同時に腹へと一撃を叩き込む、今回はただの鉄拳だ。

 

「おぉ!」

「喰らえ!!」

 

もう一発腹へと叩き込む、やはり装甲のせいであまり効いてないか、というより踏み込まずに放っている時点で俺も相当頭に血が上っているな、冷静にならないと。

 

「ぐっ!!」

「そんなんじゃ、そんなものを着ても、そんなことじゃあ意味が無いだろう!!!」

 

踏み込んで一撃を加える、装甲にヒビが入ったからか少しうめいていた、しかし俺が八極拳を出さないのを疑問に思ったのだろうか、仮面の奥に映る目に少し疑いを持ったのが見えた。

 

「……!?」

「どうした、反撃してみろ!!」

 

何故八極拳を使わないのかなんて理由は簡単だ、今の金ちゃんには必要ない、こんな金ちゃんに使うなんて俺が勿体無い。

 

「クッ!!」

 

俺の言葉を聞いた事と八極拳を使わない事で舐められていると思ったのか、金ちゃんの拳は的確に俺の顔を打っていたが何のダメージも俺には感じない、だからこそ俺は突っ込んでいった。

 

「違う……」

 

二回目の攻撃も……

 

「くそっ!!」

「違うんだよ……こんなのは…」

 

三回目の攻撃……

 

「うぉおおおお!!」

「違う、こんなのは金ちゃんの拳じゃあない!!!、俺が知っている金ちゃんはもっと…強いはずだー!!!!!」

 

叫びながら攻撃していくがカウンターのアッパーで迎撃される、俺は無事なようだが…声は届かなかったのだろうか、俺は体を起こして、長戸に話しかける。

 

「やぁ、長戸……」

「金ちゃんじゃないって言ってくれたな」

「あぁ、気に障ったなら謝る」

「いや、俺も同じだ、あんなのは金ちゃんじゃない」

「根性って言うかギラギラしてたものが無くなっているんだ」

「強さと引き換えに失ったのか……」

「大丈夫だと思いたいぜ、お前がいたら安心していれる」

「任せろ、金ちゃんは俺が何とかする」

 

そう言って長戸と別れて俺は公園の出口へと向かう、そして出口で電話が掛かってきた。

 

「どうだ、終わったか?」

「深道か、終わったぜ」

 

丁度良いタイミングで電話がかかってきたもんだと感心する、とりあえず用件を聞かせてもらおうか。

 

「そうか、人ナビで結構離れている奴がいるだろ?」

「こいつが……」

「そう、皆口由紀だ」

「それならこの表示されている方向へと向かうが、動画公開は?」

 

突発的な試合を取り付けているんだとしたら無いだろうが一応聞いてみた、まあ、俺からしたらどうでも良いことなのだが、なんとなく気になったので聞いてみた。

 

「当然している、なんせいきなり飛びかかろうとした男が、どこまで『最強の女』に通用するか見たい奴らが多いんだ」

「そうか、じゃあな」

 

暫く歩いているとビルから出て別の公園へと向かう皆口由紀が見えたので殺気を出して話しかける。

 

「やぁ……皆口由紀、やっと逢えたな」

「あの時飛び掛ってきた子ね、深道さんから聞いてるわ」

「戦ってくれるのか?」

「断っても強引に戦わせる気でしょ、良いわ」

 

こっちの考えを見透かされていた、仇討ちだから絶対に戦わせてやるという意気ごみが合ったんだが顔にでも出ていただろうか?

 

「じゃあ(かたき)討ちだからよ、心置きなく……」

「えぇ、全力で……」

「行くぞ」

「来なさい」

 

その言葉を聞き一気に踏み込む、すると……

 

「成る程、合気道が武器というわけか」

「ご名答、分かった所でもう一度来てみなさい」

 

あっという間に投げ飛ばされていた、ちゃんと着地はするがどうやって戦うかな……

 

「ハッ!!」

 

再び踏み込んで攻撃を放とうとする……が投げられそうになる。

 

「無駄だわ、それは」

「どうかな?」

 

しかし踏み込んだのはフェイクでこっちが本命の攻撃だ、喰らえ!!

 

「俺流……『蹴按』!!」

「なっ!?」

 

ジュリエッタのノーモーションの蹴りと屋敷の双按の融合させた技、多分今の持ち技の中では一番隙が無いだろう。

 

「くっ!!」

「掴めなかった様だな、どうする?」

「あの子に次いで二回目ね……髪留めを取ったのは、いえ…貴方の場合は蹴り千切ったって所かしら」

 

そういうとヒラヒラと髪留めが落ちる、間合いや技の硬直次第では掴ませずに済むようだな。

 

「そうだな、エアマスター戦で外れていたのを俺を見ていたよ」

「わざわざ落ち着く為に付け直したというのに……ここからはスタイルを変えるわ、思う存分来なさい、第二ラウンドよ」

 

そういうと殺気が体中からあふれ出す、これは先ほどのお嬢様然とした見た目からは考えられないな、まあ、目の奥のウズウズしたものが消せてないけどな、前回のエアマスター戦でも知っているが今ここで再認識が出来た。

 

「こりゃあまた随分と雰囲気が変わったな、俺も少し脅かしてみるか…」

 

一気に噴出した殺気を感じ取り仕返しといわんばかりに俺も殺気を放出する、威嚇になれば良いな程度の考えだ。

 

「一体何の威嚇かしら?」

 

しかしそこは残念な事に涼しげな顔でやり過ごされて意味を成さなかった、予想通りではあるが何かしらのリアクションは欲しかった。

 

「揺るがない殺気か、思った以上に厄介だな」

「行くわよ……」

 

そう言って構えを変えてエアマスターとの戦いで見た時と同じ飢えてる戦士の雰囲気を漂わせる、俺は僅かに口元を吊り上げて再び踏み込むのであった。

 

「ハアッ!!!!」

 

接近をする為に踏み込む、するといきなり風を切るような音を立てて何かが頬を通り過ぎた。

 

「踏み込んだけれども上手くはいかなかったようね……」

 

そう言って構えなおす、成る程……今のは貫手(ぬきて)だったのか。

 

「フッ!!!」

 

再び蹴按を放つ、しかし流石に同じ相手、しかも上位のランカーにそうそう通用する訳も無く……

 

「グアッ!!!」

「フフッ……地面の感触はどうかしら?」

 

受身も取れずに地面へと叩きつけられる、感触なんてただの固いコンクリとしかいえないっての。

 

「まだまだ行くわよ」

 

そう言って貫手を次々と倒れている俺に放つ、俺は転がりながら回避していく、随分と無様なものだと苦笑いせずにはいられなかった。

 

「くそっ!!」

「硬気功と化勁(かけい)で無効化してるのね、でもこれはどうかしら!!」

 

こちらが起き上がると同時に攻撃を放つ、距離を取れば回避できる……ってあれ、滅茶苦茶足が長いんですけど、何これ、反則級じゃない?

 

「ぐあっ!!」

「久々なのだけれどどうかしら……まあ、聞く必要もないでしょうけど」

「まさかの蹴りかよ、一発一発が重い上に射程距離が長すぎるだろ、それ……」

 

どうにか硬気功で衝撃を緩和したがそれでもまだずっしりと響いていた、この人合気だけが武器じゃあなかったんだな、多彩すぎるだろ。

 

「そう……あの子との再戦に取っておこうと思ったの、でも貴方には負けたくないわ」

「なぜ、そう思う必要があるんだ?」

 

分かっていても聞いてしまう、この人もきっと俺と同じ答えを言うはずだから俺があんたの中に見た『飢え』は俺にもあるものだから。

 

「同じにおいしか貴方からはしないもの、『戦い』を好む『獣』のにおいが貴方からとても濃く発されているの」

「それは俺も同じだ、『戦い』を好む『獣』のにおいが、髪留めをなくした時のあんたから強く発されているのを感じてしまった、だからこそあの髪留めをやったんだ!!」

「そうだったの、ならば次に言う言葉は分かるわね?」

 

そんなもの百も承知だ、鏡のように互いが同じ様な存在ならココでやることは後悔を残さないようにする事。

決して遺恨や後悔を残さないように自分の全てを尽くし相手の心に報いる事、忘れないように刻み付ける事。

 

「全てを出し尽くす事で貴方の誠意に報いらせて貰う、皆口由紀!!」

「その通りよ、全力で……全てを使い切る気持ちで来なさい」

 

その言葉が放たれた瞬間、俺は踏み込む、狙うはど真ん中、そこに猛虎を叩き込むだけだ。

 

「フッ!!」

 

鋭い蹴りが放たれる、それを俺は硬気功で耐えて中心を狙う、さあ、どう出るんだ!!

 

「ハッ!!」

 

貫手か……蹴りの次に投げるには射程距離がまだ足りてなかった様だ、ここで一撃を加える。

 

「今だ……!!」

 

そう言って俺はで貫手を僅かに弾き、そのほんの少しの隙を縫うように接近をする、細い糸を手繰り寄せるような緊迫感、ここを逃すと再び僅かな綻びを見つける為に身を削らなければいけない。

 

「フフッ……!!」

 

僅かな隙による危険性を感じ取っていたとして、もしこれが並の奴ならば距離をとって難を逃れようとする。

 

俺が追いつくのが先か、取られて体勢を立て直すのが先か、その一つでこの戦いの結果に繋がる、それ程に大事な場面だ。

だからこそ『普通じゃない』奴はここぞという時に安全策をとらずに無謀な賭けで強引に勝利を掴みにくる、俺にとって今目の前にいる女がその『普通じゃない』奴だった。

 

「なっ!?」

「残念だったわね……」

 

今まさに放とうとした瞬間、足を弾かれ体勢を崩される、そして体を巻き込み転ばせるまでの所作は僅かな戸惑いの時間さえも与えない。

 

「投げられる時にがら空きの腹に叩き込むしか……蹴按!!」

 

時間にしてとてつもない短い単位かもしれないが、俺はそれに対抗して地面に叩きつけられる前に足を出す。

 

「ガハッ……!!」

 

俺の足が当たったかどうかは分からないが容赦なく叩きつけられて衝撃と共に溜まっていた息を全て吐き出してしまっていた。

 

「ただでは……転ばないわね」

 

そう言いながら足を僅かにもつれさせる皆口由紀、どうやら掠る程度ではあるが当たっていたようだな、できれば起き上がるまではその状態でいて欲しい。

 

「とにかくお互いがこれで手負いという事ね」

 

笑みを浮かべているがここまで来たら消耗戦だろう、どちらが上手く立ち回って決定打を入れるか、それに目的は決められていく。

 

「ハァ!!!」

「終わりね、なかなか楽しめたわ」

 

貫手を出すよりも速く踏み込み腹に攻撃をする、しかし腕に手を添えて軌道を逸らされる、なるほど最後は投げで決めるから先に貫手を出さなかったわけか。

 

「これは大ピンチだが懐でチャンスだろう……滅茶苦茶なギャンブルだが意地見せてやるぜ」

 

腕を逸らされて背中に回られる、それから投げられて首を吊り下げられるこの一瞬、俺は投げに身を委ねて勢いを味方につける、そして落下に任せて肘を……

 

「ガアアアッ!!!!」

 

強引に背中へと叩き込んだ、それは気絶させるには到底至らず皆口由紀は体勢を崩すだけだった、しかしこの大きなチャンスを今度こそ掴む、俺は着地を決め即座に踏み込み俺は腹を狙う。皆口由紀は振り向きざまに左胸に向かって腕を出す、これが最後の一撃になるだろう、俺は歯を食いしばって放っていた。

 

「『猛虎』!!」

「届きなさい!!」

 

お互いの全力を尽くして一撃が放たれたが結果はどうだ……、すると目の前に有ったのは皆口由紀の顔、そして口を開き始めた。

 

「『今回は』貴方の勝ちよ……」

 

毅然な態度でそう言いながらこちらの頬に手を置く、そして意識を手放した皆口由紀、最後に子ども扱いされたがどうやら攻撃の方は当たっていたようだ…。

痛みがはしり左胸に違和感を感じる、するとそこには血が滲んでいた、もう少し深くしていたならば倒す事もできただろうに……。

俺はその毅然とした態度と誇らしげな姿に頭を下げてこの場所から去っていったのだった。




次回も引き続き長枝のバトル回です。
何か指摘の点有りましたらお願いします。


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『現代最強』

作者は元々オリキャラを全勝で終わらせる気は有りません。


鉄健の最後のランカー狩りの前に、深道ランキングにおける最後の戦いが行われていた、その始まりはある朝の電話だった。

 

「ランカー狩りが出没か……」

 

先日喫茶店で深道から聞いていたが正直二人もいる時点で相当ランキングに支障が出ているだろう、なんせ正体は金ちゃんと時田だ。

拳を合わせて分かったが正直な感想で言えばこの二人が居れば深道ランカーの上位層は容易くやられてしまうだろう。

 

「幾らなんでもイレギュラーすぎるもんだ」

 

苦笑いを浮かべているとは言えどその様に自由に戦う二人が羨ましいと思っている俺がいた、そんな中ポケットに入っている携帯から音楽が鳴り響く、俺は取り出してディスプレイを見て発信者の名前を調べると深道とあった。

 

「深道か、一体どうしたんだ?」

 

俺は電話を取って通話ボタンを押して応答する。

 

「こんな朝に何か用でもあるのか?」

 

まだ九時に差し掛かっている頃に呼び出すなど普段では考えられない、だから少し疑問を持って話しかけた。

 

「ああ、実は試合の用があってな、喫茶店に来て欲しい」

「分かった、何処の喫茶店だ?」

 

俺が待ち合わせの場所を聞こうとしたら、一瞬間が空いた、そして電話の向こうで深道が笑ったような物音を立てる。

 

「場所は信彦に案内させる、そっちに向かっているはずだ」

 

そう言われて目の前を見ると手を振っている奴がいた、とりあえずあいつについていけば良いんだな。

 

それから数分後、俺は信彦に道案内をされて喫茶店へと到着する、すると深道は窓際の席でコーヒーを飲んでただずんでいた。

 

「深道、で試合の詳細を聞かせてくれ」

 

俺は席に着き開口一番、最優先事項を深道に言う、その姿を見て深道は少し笑いながらこちらの方へと向き直った。

 

「とりあえず言っておくが今回が深道ランキングにおける最終戦だ」

「随分といきなりだな」

 

爆弾発言を放つが俺は驚きもしなかった、いきなりだっただけで別に問題事ではない。

 

「だから今回はお前が満足するであろう相手を用意しておいた」

 

自信満々に深道が言ってのける、俺が満足する相手……ランキング一位の奴だろうか?

 

「もしかしてランキング一位の奴か?、最後だからって随分と羽振りが良いな」

「ああ、お前の思っている通り、『一位』の奴で間違いない」

 

そう言って深道は紙を出す、それは地図だった、もう場所まで決まっていたのか。

 

「此処に書いている場所、そして相手は夜の七時に待っている、俺は伝えたぞ」

 

夜の七時、俺は深道から貰った地図を頼りにその場所へ到着していた、それは広々とした公園で思いっきりやりあっても問題がなさそうな場所だった。

 

「深道の奴が戦える奴を用意するって行ってたがあんただったのか、リー」

「そうだな、俺もお前だとは思っていなかった」

 

目の前に居たのはジョンス・リー……なるほど、深道の奴が一位の部分を強調したのは『新一位』という部分があったからか。

 

「やろうぜ、それ以外の言葉が見付からないんだ」

「そうだな……俺も四位を倒せるような奴、しかも同じ八極拳士として興味はあった」

 

俺はもはや逸る気持ちを抑えられそうになく言う、するとリーも少し口角を上げて正直な気持ちをいってくれていた。

 

「まやかしかどうかか?……いやそんな事今更どうでも良いか」

「それは戦っているうちに分かる、お前の言うとおりどうでも良い事だ……」

「そうだな、じゃあ……」

「あぁ、そうだ……」

 

ダンッ!!!

 

合図など交わさずお互いが踏み込み、肩と肩がぶつかり地面にはお互いを中心にして、蜘蛛の巣のようにヒビが広がったクレーターが出来る。

 

それに伴って砂煙が舞い上がる、俺は場所を動かずにすんでいる、リーの方はどうなったんだ?

 

暫くして砂煙が僅かに晴れるとそこには倒れこんだリーが居たのだった。

 

「どうやら俺の方がファーストコンタクトは成功したようだな……だが」

「カハッ……ゴホッ、ヒュー……ヒュー」

 

起き上がったはいいがどうやら声が出ないようだ、ヒザを着き咳き込みながら深呼吸を始める、そして少しした後喉に手を添えて調子を確認しながら少しばかり頷いた。

 

「起きるか、やっぱり伊達(だて)じゃないな」

「そっちも……ナカナカやるな」

 

こっちが賞賛の言葉を投げかけると相手も不敵な笑みをして返してくる。

 

「こっちとしては二撃目にすぐ入りたいが、その前に疑問がある」

「おいおい、何だよ、勝負熱を冷まさせるのは勘弁だぜ」

 

すぐに攻めてくると思ったのか俺が疑問があると言い中断するとに少しガッカリしたような声色で言って来る。

 

「大丈夫だ、一言で済む、本当にそれが本気なのか?」

「まぁ、自分よりでかいのをぶち込まれたってのもあるが……思うよな」

 

俺は真剣な目で問いかける、仮にも一位がああも簡単に吹き飛ばされる訳が無い。

 

「そりゃあこっちは最初(はな)から全開だ、片道切符なんだ、勝負の後に倒れたってかまわないしな」

「そうか……それだけやる気があるのか」

「そりゃあ、そうだろう……だからこそ手加減されて勝つなんて真っ平ごめんなんだよ」

 

構えながらもこの戦いに対する心意気があることを声高に言う、己と同じ八極拳士

であり鏡のように手足が逆なだけで構えも全く一緒、そこまで刺激されて黙ってられはしない。

 

「ならば俺もその気持ちに答えるかな、お前にも分かるだろうがこの世界に居る以上…その道じゃあ負けたくないって事があるよな」

「ああ、それは痛いほどに分かっている、『負けたくない』、その思い一つに縋った結果、今まで負けずにここまで昇ってきた」

 

俺は構えて気を満たしていく、いつでも踏み出せるように、一撃を放つ準備を万全なものにしていた。

 

「そうか、それは良い事だ、できればもう少し語り合いたかったが」

「これ以上長引かせて勝負熱を冷ましたくは無いってわけだな」

「その通りだ、まあ、ただ一言だけ言うのであれば……」

 

その瞬間、リーから立ち昇る気が先ほどとは異なる密度を誇っていた、これこそがリーの……

 

「本気にさせたな」

「これは楽しみだ……ぞくぞくして来た」

「さっきとは桁違いだろう、悪かったな…行くぞ!!」

「あぁ…こちらも行かせて貰うぜ!!」

 

ダンッ!!

 

再び俺とリーの肩がぶつかる、そして再び地面にひびが入り大きな音を立てていく。

 

「がぁあああ!!」

「どうした……踏み込みがヌルイぞ」

「ぐっ!!」

 

俺は叫んで力を振り絞るが、威力に差が出た為にほんの少しだけ後退させられる形となった。

 

なんなんだ……こいつは、俺が…押されてる?

俺が!?、押されてる!?、今まで負けてこなかったのに!?、押された事などなかったのに!?

ふざけるな!、俺は負けない!!、負けるわけにはいかないんだ!!!

 

しかしその思いとは裏腹に額に汗がにじみ出て息が荒くなり、顔の筋肉が僅かに動いている、こんな事は俺が今まで戦ってきた中で知る事はなかった。

 

「はぁはぁ……」

「全開とだけあってマジででかいな、かなりの『勁』だが……んっ?」

「くそっ!」

 

俺は空を見上げて悪態をつく、なんでこんな行動をとったのかは自分でも分からない。

 

「どうしたその顔は?」

「初めてだぞ、なんだこの気持ちは……」

 

胸を中心に苦い水がジワジワと染み渡るような感覚というか洗い落とせない何かがまとわりつくような感覚が広がる。

 

「そうか、打ち合って初めて気づいたか、それが『屈辱』って奴だ」

「こんなに苦い感じがするものなんだな」

「そういうもんなんだよ、お前は『安いプライド』は持っているようだから説明不要だな」

 

リーが不敵な笑みを浮かべて俺に言う、『安いプライド』とはなんなのだろうか、分からない俺はオウム返しに聞いていた。

 

「なんだと……『安いプライド』?」

「そうだ……俺はコイツにしがみついてる。フッ、お前みたいな若い奴にはまだピンとこないか?、でもお前は言ったよな、負けたくないってよ……それはプライドだろう?」

「いや、あんたが言うようにピンとは来ない、でもこれだけは守りたい境界線なんだよ」

「そうか、そこまで思っているなら上等だ」

 

最後まで譲ることは出来ない、『負けても良いや』なんて気持ちの奴なんてこれから先勝っていく事はできない。

そう思うからこそ、『負けたくない』、『負けてたまるか』という気持ちを持って今までやってきた、それがプライドだと言うのならば受け止めよう。

 

「さて、三撃喰らって立たれてるのはいやだからな、終わりにしようぜ……さぁ、打たれ、ろ!!!!」

「ふざけるなよ、負けてたまるか、おおおおおおおお!!!!!」

 

三度、俺とリーの肩がぶつかる、とてつもない音と共に地面へ今までよりも大きなひびが入る。

俺の今出せる全力をこめた一撃だ、これがこの勝負の最後の一撃になる、そう決め付けても良いほどに力を込めた。

 

「やるか……だけど、まだ足りないな、長枝!!!」

「ぐはっ……………」

 

最後にまさに爆発したような一撃を受けて吹っ飛んでいく、クリーンヒットではないが受けた攻撃が重い為に体が動かない。

 

「吹っ飛びやがったか、お前が最初から全開だった分、単純に最後に残っていた量の違いで勝ったんだな……認めてやるよ、まやかしなんかじゃねぇ、お前は正真正銘『八極拳士』だ」

 

そう飛んでいった俺に言ってリーはひびが入っている地面を見たまま公園から出て行った。

 

俺はどうにか最後のぶつかり合いが僅かに拮抗していた為、気絶を留めてくれていたようだ、体が動かないだけで危険なんだが気絶する事に比べればまだ良い、気が練れたら回復していけば良いのだから。

 

「負けたのか……俺が、初めて…」

「戦いを見る事はできなかったけどなんだか全力を出したって顔ね?」

「皆口由紀……」

 

転がっている俺の目の前に陰が落ちる、見上げるとそこには皆口由紀が立っていた。

 

「畏まらなくて良いわ、呼びやすいように呼びなさい。」

「なら由紀さんで良いか」

 

呼びやすいように呼んで良いらしいのでフルネームで呼ぶのをやめる。

 

「まぁ、それで良いわ、貴方は今回の勝負良くやったんじゃないかしら」

「良くやっただと、負けたのにか?」

「誰も敗北を知らずに前に進み続ける事はできないのよ」

 

負けたのに良くやったなど慰めは俺の中では意味を成すとは思えないが、それでも次の言葉は何かしら感じるものが有った。

 

「でも俺は……俺は…」

「悔しいのかしら、悲しいのかしら、私には貴方の気持ちなんて分からないわ」

「分かられていたら、それはそれで不気味だろう」

 

心の中を読むことができるなら先日の勝負で負けるはずもない、それに読まれていたら背筋が凍りそうだ、気持ちなんてそうすぐには簡単に分からない。

 

「貴方はそのまま逃げるの、雪辱を試みたいと思わないの?」

「逃げる訳が無い、負けたら次は勝つ、それしかない」

 

負けたなら次はそれを相手に叩きつけてやれば良い、負けてこなかった俺はその選択肢が一番先に浮かんだ。

 

「前に進む気があるのはどうしてかしら?」

「負けて良い気はしないだろう」

 

何故前に進むのか、このままやられてそれで良い訳ないからな、理由なんてものはまだうっすらとしか分からないが。

 

「良い気はしないってどういう意味なの?」

「あの時に比べて饒舌だな、気持ちは悲しいとか……はっ」

 

質問攻めの中、俺は負けたという感情の中から生まれたものを知ることができた、負けたことが無いからこそ、悲しいなどと感じる事もなかった。

他人に言うような『負けて悲しくないのか』など(しん)に知らないから今までは薄っぺらだったが、自分が知るとこういうものなのかと思う。

 

「そうでしょ、それを知っただけでも貴方は成長したのよ」

「リーが言ってたけど『屈辱』とか『敗北』って奴か?」

「そうよ、あと深道さんから伝言ね」

「何って?」

「○○日後に廃ビルへ集合らしいわ、私は伝えたから」

 

動けない俺の為に顔を低くして伝わるように伝言を言ってくれた。

出来れば深道の奴が伝えてくれればこのような場所に赴く事も無かったのだろうが、まあ、口が裂けても本人の前で言う言葉ではないよな。

 

「あの、由紀さん……」

「何?」

「わざわざ有難う……言葉をかけてくれて」

 

俺は自分でも気づかない事を気づかせてくれた女性に感謝の気持ちを述べていた。

 

「簡単な事だったし、良いの、さよなら」

 

そう言って軽やかに去っていく姿は確かに美しかった。




次回は鉄健の戦いです。
何かご指摘の点がありましたらお願いします。


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『ハンターズ・ボルテージ』

今回は鉄健の話です。
時間軸としては長枝がジョンス・リーと戦う前日です。


サンパギータ・カイとの戦いから数日後……次の標的は特に決まってはいない、一桁ランカーならばそれだけで満足だ。

 

俺は林が生えている場所へ居た、当ても無くただ相手を探していたのだ、人ナビをとられている今の状態では満足に見つけることもままならない。

そんな中後ろに気配を感じる、振り向くとそこに居たのは深道ランキング元七位『深道信彦』だった。

 

「楊鉄健だよな?」

「あぁ、そうだがどうかしたのか」

 

深道信彦が俺の名前を聞く、俺はその質問に同意をしながら構えを作り始めていた。

 

「ランカーを狩っているって聞いてな、悪いが着いてきてもらう」

「もし嫌だといえば?」

「当然『実力行使』だな」

 

そう言ってポケットから何かを取り出す、俺はその動きを見て即座に踏み出していた。

 

「速いが甘いっての」

 

フィンガースナップをすると火花が散る、何かと思えば花火だったのか!!

 

「くっ……」

「目晦ましになったか……さぁ、蹴りで鼻血の海に沈むんだな!!」

 

そう言って駆ける音が聞こえてくる、花火のせいで深道信彦が見えていない、すると一瞬目の前が真っ暗になると次にきたのは大きな衝撃だった。

 

「がっ……!?」

「クリーンヒットォ!!、俺もやる時はやるんだぜ、どんなもんだ!!」

 

顔面に良い蹴りが入ってしまう、鼻は折れていないが血が出ているのは分かった。

少しばかり後ずさりをしてしまうが相手との距離感が分かった、駆ける音を計算に入れれば至近距離ではない、おおよそミドルレンジと言った所だ。

 

「まだ海には程遠いからな、もう一発いっとけよ!!」

「くっ!!」

「防御しても遅いんだよ、もう一発ぅ!!」

 

どうにか声のおかげで後ろに下がって衝撃を緩めたが、それでもやはりダメージはある、鼻は折れていないが結構血の方は出ているな、口の中で鉄の味がしている。

 

「どんな気分だ、着いてくる気になったかよ!!」

「好き放題言いやがって……」

 

花火の時に瞬きをしなかった為まだ目がチカチカする、チカチカする原因は花火だけではなく蹴りのせいもあるかもしれない、しかし深道信彦の姿はおぼろげながら見えている。

 

距離感もさっきと今の蹴りで完全に掴む事ができたから、一気に眼前へと迫っていく。

右に動いたから左へと俺から逃れる為に、逆周りの方向へ迂回しようとしている、しかし次第に接近していくせいで足音が大きくなってきた。

 

その為余計に場所を悟らせる結果となり、俺は信彦の輪郭が見えるほど目が回復していた。

 

「何で的確に場所が……」

「花火の攻撃は良かったが、その後に細かく当てずに二回も大技の飛び蹴りをしたのが良くなかった、アレで場所を不用意に漏らしてしまったんだ、距離感もご丁寧にな」

 

そう言って体重を乗せたフックを顔面に叩き込む、そこから顎にアッパー、脇腹にフック、腹にストレートを叩き込んでくの字に折れるまで叩きのめしておいた、とりあえずビルの方へ行かないとな。

 

「さて……あのビルの方へと向かうか」

 

俺は目をパチパチとさせて向かっていく、そしてビルへと入って行くと長髪の男が屋上のドアの前にいる、俺も屋上へ行くか。

 

「なっ……小西さん?」

 

くぐった先にいたのは芋虫のようにビクビクした男と小西さんだった、つまり圧勝って訳か。

あんたに勝てれば俺は満足できるだろう、だからこそ次は負けない、俺は思考を変えて今すぐにでも攻撃を繰り出せるようにした。

 

「鉄健…そしてお前は誰だ?」

「時田新之助」

 

謎の男は名乗る、しかしこの雰囲気は尋常ではない、この男は強い、そう俺は肌で感じていた。

 

「で、お前のその腕の傷は何だ、クマにでもやられたのか?」

 

俺は時田から離れて聞く、射程距離に入った状態で話そうとするなんて無茶な話だ。

 

「クマは無いです」

「何だ、勝負か?」

「言っているのはあなた達ですよ」

「?……」

 

小西さんはキョトン顔をする、もしかしてこいつ『精神(オカルト)系』の奴か、このタイプは話が伝わるのに返し方を理解するのが面倒なんだよ。

 

「コイツはいささか面倒な相手だな……」

「そっか……精神(オカルト)系だったか、どうでも良いや、鉄健もそう思うだろ?」

 

まあ、俺と違って小西さんみたいに割り切ったら簡単なんだけどな。

 

「確かにどうでもいい事でしたね……もしかして少し興奮してますか?」

「興奮って言うな、昂ぶっているんだよ、なんせこの瞬間だけは……時間が止まる!」

 

そう言って笑みを返してくる、まあ、こんな三つ巴で少しぐらい熱くならなきゃもったいないよな。

 

「もう全員話す必要もないしやりあいますか?」

「そうでしょうね、二人とも行きますよ」

「おう、お前ら頑張れよ!!」

 

そう言って始まる三つ巴の戦いの中、初めに動くのは小西さんだった、足を取る為にタックルを繰り出す、すると奇妙な動きを時田はしていた。

 

寝そべる形で小西さんに一撃を加える、俺はその隙に打ちおろしのパンチを繰り出していた。

 

「ラァ!!」

「はっ!!」

 

打ち下ろす軌道と同じ軌道に蹴りを繰り出す、カウンターだと思い、速く攻撃が当ると予感する、しかしそれは間違いだというのを知った。

 

「ぐぅ!!?」

「『同撃酔拳』」

 

このワードを聴いた瞬間、さっきのは全く同じタイミングで出されたカウンターと知る、なんて高等技術の拳法だ……。

 

「今貰ったのはパンチか……?」

「俺が貰ったのは蹴り……」

 

俺と小西さんは距離をとって驚きながらも相手を見据える、コイツも倒さなくてはいけないな、小西さんだけだと思っていたんだが、ここに居る以上は倒させてもらう。

 

「シッ!!」

「遅いですよ……」

「えっ……」

 

こちらが攻撃を出すと同時に攻撃を出すのが見える、こちらはもう拳を出した為に引けない、そして時田の拳の方が速く着弾する、その衝撃は複数感じられて、同時に放っていながら何発もあるとは驚きだ。

 

「くそっ……」

「貴方では僕を倒せない」

「おい、よそ見してんじゃねぇぞ!!!」

 

小西さんが低空タックルを再び試みる、するとそれに合わせて馬蹴りを放って飛ばす、相当な速度有ったって言うのにあれも合わせるかよ。

 

そこから背中へ着いて小西さんの動きに合わせて動く、掴もうとしても酔拳の動きでつかめないようにして一撃を放つ、俺はそこで時田へ接近して攻撃を仕掛けた。

 

右のストレートを出して時田の挙動を良く見る、打開策を見つけるには若干の犠牲を伴わないとな。

 

「さっきより速いがその速度でも貴方は僕を倒せない……」

 

時田が小西さんから離れてカウンターの為に攻撃をする、フェイントのつもりだったんだがな、逆に体重をかけて左のストレートを一気に振りぬく。

 

「オラァ!!」

「くっ!?」

 

カウンターブローに対するカウンター……クリス・クロスの成立がなされて顔が跳ね上がる、こっちも顎先に掠っているから最高の結果とはいかなかった。

 

「ハァッ!!!」

「……まずはこっちだな」

「こっち見ろつってんだろうが……よぉ!!」

 

小西さんが距離をとった状態から再び助走をつけて走り出す、それに対して背中を向けて飛んで予想外の行動をする、それを掴む為に小西さんが指を動かした瞬間時田の連撃が始まった。

 

「くっ……」

 

延々と時田が小西さんに攻撃を加える、俺もようやくバランス感覚を取り戻した、飛び上がって攻撃をしようとする時田へと駆けていき振りかぶる。

 

「喰らいやがれ!!!」

「なっ!?」

 

攻撃が小西さんへ届く直前に俺の拳が時田へと命中する、飛んで蹴りを放っていた時田はうめき声を上げて着地をする、あのまま放置していても外しそうだったが少しぐらい痛い目を見てもらわないとな。

 

「さて……どうするんだよ、時田、まだ小西さんも戦えるし俺も居るんだぜ」

「何もこれ以上はしませんよ……」

 

そう言って時田が去っていく、ああは言ったが俺と小西さんはそれなりのダメージを負っていた、あんな拳法は初めてだったな。

 

「あいつ、わざと外すつもりだったな……」

「そうですね……」

「お前はどうするよ?」

「やりますか……、お互いぼろぼろですけど」

 

小西さんの問いかけに答えて、お互いが前回のように構える、するとドアが音を立てた……

 

「ようやく見つけたぞ、信彦の通信が途絶えていたが此処に居たとはな」

 

深道さんがそこにいた、一体なんだと言うんだ。

 

「おい、深道」

「何だ、小西?」

「ありゃあ、お前の伏兵か?」

 

確かに気になる所だ、アレが深道ランキングの隠し玉ならずいぶんとヤバイだろう。

 

「あれもランカー狩りだよ、おれも知らない奴だからな、それにしても『ランカー狩り』が四人も入り乱れていたりしたら、ランキングが思うようにはいかないわけだ」

「そりゃあご愁傷さまだな、俺もコイツもお前の言う通りに動くのが煩わしくなっていたのさ」

「そうだったのか、まあ…どちらにせよこちらとしては役者は十分なほど揃ったから良いんだけどな」

 

笑っていた顔から一転、深道さんは説明する穏やかな口調となる。

 

「一体どういう訳なんですか?」

「最大の規模を用いた最後のイベントを行うんだ、参加資格はリザーバーを含めた深道ランカーだ、そして賞金の額は八千万だ、これが理由なわけだよ、鉄健」

 

役者が揃った意味を聞くと驚愕の台詞が次々と飛び出す、それから一拍置いて小西さんが『待て』と手を突き出した。

 

「おいおい、待て待て……ちょっと質問をさせろ、いきなり言われても困るんだよ」

「まあ、このイベントは賞金目当てで勝てるような安易なものではない」

「どういう訳だ、トーナメントとかそういったものじゃあないのか?」

 

形式を聞いておかないと後々厄介になってしまうからな、きちんと抑えておかないと。

 

「形式はバトルロイヤル、場所はある廃墟、そして参加者の中には『現一位』ジョンス・リーと『新二位』逢間長枝、そして渺茫(びょうぼう)が参戦するだろう」

「いや、渺茫って誰だよ?」

 

俺が聞いた事の無い名前が飛び出した、順位が無いって一体そいつは誰なんだよ。

 

「元一位だ、鉄健」

「そうですか……有難うございます、小西さん」

 

小西さんが言ってくれているから分かるが……この調子ならばかなり順位が高い面子も来そうだな。

 

「じゃあな、参加するなら○○日後の○時に来てくれ」

 

そう言って深道さんは去っていった、参加するならって……あんなにやられて黙っていられるほど甘くは無いんだよ、参加するに決まっているじゃないか。

 

「どうする、鉄健?」

「俺は帰って万全にしときます、小西さんにも時田にも勝ちたいんで」

「そうか、俺もあいつには勝ちたいしさっきの戦いはそのバトルロイヤルまでお預けにしとくか、またな」

 

俺はそう言って小西さんより先にビルから出て一目散へ家へと向かっていったのだった。




次回から深道バトルロイヤルが始まります。
どこかご指摘の点がありましたらお願いします。


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『化物対峙』

タイトルは誤字ではありません。
今回から深道ランキングが始まります。


深道から後で聞いたがランカー狩り同士による三つ巴戦が有ったらしい。

リーとの敗戦から数日後…俺は廃校舎にいたが、すでに廃校舎にとんでもない数の人が殺到していた。

 

ここにいる全員は深道ランカー……ではなく、主催者である深道の計らいによって特別参加を認められた奴が数人まぎれている。

 

例を挙げるならばビッグゲストとしては格闘家にして『エアマスター』の父親で有る佐伯四郎。

もしくはランカー狩りであった楊鉄健、小西良徳、時田新之助、北枝金次郎、そして金次郎のそばにいる長門がそういった類だ。

 

全ての参加者が入って行くのをきちんと確認をすると息を大きく吸い込んで深道は叫ぶ、エンターテイナーとして申し分ないほど焚き付ける言葉をつらつらと述べていく。

 

「全員、ちゃんと入ったな!!、今から花火が打ち上がればそれが合図だ!!!、それからは延々と戦って、戦い続けて、いいか、…もうそうなればこの戦いは止まらないぞ!!!!そして『勝つ』のは最後に立っていた一人だけだ!!!!」

 

その次の瞬間、花火が上がり炸裂する、それから一拍置いてすさまじい音が聞こえる。

 

この戦いに参加した以上誰彼にも大きいものか小さいものかは知らないが目的は存在しているだろう。

 

俺はジョンス・リーへの雪辱の為にひた走る、その道を邪魔する奴らを殲滅する事は厭《いと》わない、例えそれがジュリエッタでも、時田新之助でも、エアマスターでも、そして……由紀さんが相手でも。

 

俺は前回のジョンス・リーとの戦いでの敗戦からどうにか精神面としての落ち着きは取り戻した、『屈辱』と『敗北』は俺でも気づかない心の奥底にあった『慢心』を消した、『毒』にも等しいその存在は同時に『薬』でもあった。

 

「とにかく探さないとな、今度こそは勝ってみせる……雪辱をする」

 

俺は校舎の中へと入っていく、するとそこには先に入って待ち伏せしていた大勢の男達がいた。

 

「待っていたぜ……逢間長枝」

「……お前ら何もんだ?」

 

とりあえず一体どういう因縁で待ち伏せされているのだろうかだけ聞いておかないと名、わけも分からずやられるのはゴメンだ。

 

「お前に前回の集合戦でやられた奴だよ!!」

「そうか……それで?」

 

一体どういったつもりなんだ、負けた雪辱の為にさっきの入場からずっと此処に

とどまって待つよりは疲弊した状態を待てば良いのに。

大勢でやっている時点でリーの言う『安いプライド』はこいつらにはないはずだろうからな。

 

「何があったかはしらねぇが潰してやるぜ、覚悟しな!!」

「……一体なんな…」

 

返答する間もなく拳が顔にめり込む、三人がかりで叩こうというわけだ、こっちとしてはエンジンも暖まらないようなやつを相手にしたくはないんだけど仕方あるまい。

 

「オラァ、恨みだぜ!!!」

「受け取りやがれ!!!」

 

拳は絶え間なく腹や背中にめり込む、たとえ余りにも軽く痛くもない攻撃だからといって『気』で体の強化だけは怠らない。

 

「今、敗戦のショックを引きずっているだろうお前を倒して後は時間を稼げば楽になるんだ!!!」

「どうせ二位になったのも深道に賄賂でも渡したんだろ!!!」

「負けやがれ!、このくそが!!!」

 

こいつら、言いたい放題も良いところだな、さて……構えていくか、気の練り具合のコンディションを確かめるのは終わりだ。

 

「これ以上は攻撃もさせないぞ……お前ら」

 

不敵な笑みを浮かべて手を閉じたり開いたりする行為を繰り替えす、フム、今日のコンディションは最高だな。

 

「ひぃいいい……」

 

いかんいかん、怯えるという事は殺気が漏れていたか、ジョンス・リーを見つける前に絶好調だと知って少し先走っていたみたいだ。

 

「負けたくないんだよ、だから『獅子搏兎《ししはくと》』の思いで戦う、俺の場合は鬼だが……お前らを捻りつぶすのに決して手加減はしない」

 

俺が構えて宣言をすると相手は逃げの姿勢をとって背中を向け始める、おいおい……そんなつれない真似はやめろよ、お前らもやってきたんだから当然やられる覚悟があって此処にいるんだろ?

 

「オラァ!!!」

「ウェ……」

 

背中を向けていたからその無防備な背中へ向かって踏み込んで『猛虎《もうこ》』を打ち込む、すると苦しそうに体を曲げて崩れ落ちていった。

 

「さてと、残り二人……」

「くそぉ!!!」

「逃げろ逃げろ!!」

「ハァッ!!!」

「おげぇえええええ!!!」

 

急いで逃げているが遅すぎて背中に余裕で照準を合わせられる、踏み込んで一撃を加えて意識を手放させる。

 

「さて、残りは一人か」

「うぁ……」

「逃がさないぞ、待ちやがれ!!」

「うわあああああああ!!!!」

 

逃げる相手を追いかけて、少し時間が経ちその追いかけっこが終わった頃、そこに居たのはよだれとも汗とも、吐瀉物《としゃぶつ》とも涙とも区別できないものにまみれた、深道ランカーの姿だった……

 

「よしっ、階段でも探すか、早くジョンス・リーを見つけないと」

 

俺は倒れている奴らには目もくれず、すぐに階段を探し始めた、しかしその途中で出会うのは今まで見た事がない奴ら、つまりリザーバーでも弱い部類なのと町の喧嘩自慢の奴らというわけだ。

 

「お前ら、本当にここに来て勝てると思っていたのかい?」

「ぐっ……」

「俺も喧嘩なら出来るんだ、八極拳ばっかりするわけじゃないんだぜ」

「うあぁ……」

 

俺はそういった奴らを軽々と八極拳を使わずに目潰しだの金的で倒していく、相手に対して不誠実ではあるかもしれないが極力八極拳をジョンス・リーと戦う時にとっておこうという訳だ。

 

出し惜しみをして勝てる相手でもないし、戦う時に不備があってはいけないから石橋を叩いて渡るほどの姿勢で臨んでいる。

 

体の調子を見ながら調整をして進んでいく、体を慣らす為の相手には困らないのが嬉しい限りだ。

 

「それにしても下位ランカーばかりとは……もしかしてこのフロアは外れなのか?」

 

辺りを見渡してみても他の奴らの気配を感じはしない、そんな事を考えていたら校舎が揺れる、どうやら勝負の途中でとんでもない衝撃が有ったようだ。

 

「この振動、かなりパワーがある奴じゃなくちゃあこんな芸当は無理だろう、考えられるのはジュリエッタかリーと言ったところか?」

 

そう思って階段が目の前に有った為のぼって行き、視界が開けた階層へと出る、すると目の前には二人の男女がいた、どちらも見覚えがある人だった。

 

「アレは由紀さんとジュリエッタか、じゃあさっきのはリーか?」

 

俺は二人の方向とは逆方向へ行く、しかしよく通る声であるため声が聞こえてきた、それも赤裸々な真っ直ぐすぎる言葉が。

 

「私は、坂本さん……あなたに抱かれたいわ」

 

その声が聞こえた瞬間、この場所にはいられなくなるほどに顔が火照るのを感じる、これ以上このような言葉を聞くのは毒というものだ。

 

奇跡的にすぐに階段を見つける事ができた為、すぐにのぼってその場所から俺は遠ざかり廊下を歩き始める、しかし次の瞬間、とんでもない衝撃と共に床に穴が開いた。

 

突き出てきたのはジュリエッタの足だというのが分かる、つまり由紀さんがジュリエッタを投げたという事だ、その穴は思った以上に大きい、穴をよけて通ろうとしてもジュリエッタの蹴りの威力からか、結構ヒビが入っているため万が一の事があれば落下する、そしてこの状況で落下すると由紀さんの怒りを間違いなく買う、それは怖い、怖すぎる、頚動脈を貫手でざっくりとかやられかねない。

 

「仕方ない、降りて別の階段探すか……」

 

そう言って降りると今度は衝撃的な光景を探している途中に見てしまった、ジュリエッタに強引にキスをする由紀さん、心臓が凄い速度で鳴っていやがる、見なければ良かったか、刺激が強すぎる。

 

「とりあえず冷静になれ……階段は見つけた、俺が見たあの光景は強引だった、つまり合意の上じゃあない、だから深刻に考えなくても良い……」

 

俺は目の前にある階段を見ながら息を整え、刺激的な光景を思い出さないように首を振る、もやもやしたような気持ちが胸の中に渦巻くがそれはこの際ほうっておこう。

 

「って何で俺はこんな事をぶつぶつ言ってるんだろうな、訳が分からん……」

 

しかし何故に俺はこんなにも動揺しているのだろうか、全く初めての感覚だから分からない、どう対処すればいいのだろうか?

 

「のぼるんだ、そして切り替えていこう、こんな精神じゃあリーに勝てなくなってしまう……」

 

俺は気持ちを切り替えて目の前に有る階段を登って行った、次の瞬間目の前に広がった光景は、無惨にも装甲が破壊されたスーツを着て気絶した金ちゃんと、倒れこんでいた長戸だった。

 

俺はその瞬間もやもやも刺激的な光景も全て頭から飛んでいき、怒りの感情が噴き出すのを感じる、近くにいる泣いているナースに誰がやったのかを聞く。

 

「おい、あんた……一体誰が金ちゃんと長戸をやったんだ?」

「佐伯《さえき》四郎《しろう》よ、いきなり強くなってそのまま金次郎をこんな状態に」

 

佐伯四郎といえば『軟派な精密機械』の異名を持つ現役の格闘家ではないか、参加していたのか。

 

「メソメソ泣いてんじゃねぇ、一応確認するが金ちゃん達は大丈夫なのか?」

「大丈夫よ、ただこの戦いで起きるかどうかは……」

 

そう言って心配そうな目をする、とにかく最悪ここで二人とも脱落って訳か、長戸は金次郎が原動力だから、金ちゃんを守る為に復帰するかもしれないが。

 

「無事ならば良い、俺は佐伯四郎を……やってくる」

「何で金次郎の為にそこまでするの?」

 

俺が佐伯四郎を倒す事を告げるとナースが理由を聞いてくる、そんなもの聞く方が野暮ってものだろうが、単純なもんさ。

 

「金ちゃんの為だけじゃない、長戸の為でもある、何でってお前、そりゃあ……二人が俺の『親友』だからさ、それ以外に理由なんざ必要か?」

「男の友情って訳ね……」

「そうだな、それが適切な表現だろうよ、行ってくるから二人の事ちゃんと頼んだぞ……、えっと、あんたの名前は?」

「久坂静菜よ」

 

名前を言われた後、俺は佐伯四郎が行ったであろう方向と教えてもらったフロアの階段へと行く、許さないぞ……佐伯四郎。

 

俺は速度を上げて早々と階段へと向かっていった。

 

.

.

 

 

長枝が階段を登る数分前に時間は遡る、鉄健は階段を登りながら絡んで来る相手を倒して、ある一つの階層に出てきていた。

 

「誰も目ぼしいのがいねぇじゃんかよ、この道は外れだったか?」

 

辺りを見回してもよさげな奴が一人もいない事を確認して落胆する、とりあえず倒して邪魔者を消しておくか……

 

「おいおい、ここに居るのはあいつ一人か?」

「そのようだな、月雄」

 

俺が全員倒したら後ろから声がしたから振り向く、そこにいたのは懐かしい顔ぶれの人たちだった、金次郎と戦っていたであろうマスクマン、麗一さん、そして長髪のマッチョマンに、マッチョマンよりゴツイ人、背の高い学生帽の男が立っていた。

 

「おいおい、コイツは久々な顔ぶれじゃあないか……でも」

 

俺は更に体を動かして今振り向いた方向と逆の方向を見る、そこには時田ではないもう一人の待ち人が来ていた。

 

「来たか、小西さん」

 

しかしその目は俺を見てはいない、遥か向こうの方を見ている、それにつられて見るとそこには時田が居た、仕方ない、眼中に無いならばあの二人に横槍は入れないで置こう。

 

そして二人の戦いが始まっていく、まるで取り残された虚しさを感じていた、しかし二人の戦いを見ると口角が上がり血が沸いていく、筋肉が脈動して臨戦態勢をとる事を余儀なくされる。

 

「とりあえず、あんたらはやるか?」

 

俺はマスクマン達に問いかける、こんな状況でほったらかしなんて良い気はしないだろうしな。

 

だけれど、この質問の答えはかき消される事になる、なぜならばとてつもない存在が近づいてくるのが分かったからだ、小西さんや時田とはまた違うタイプの『強者』、坊主頭で頭に刺青の有る男、あれがまさか『元一位』の男『渺茫』か?

 

瞬く間にゴツイ人と学生帽の人を倒す、これは今まで見た奴に比べても全くもって異常、あまりにも化物じみていやがる、目の前にすると良く分かるぜ、俺は近づいてきたその男へ質問をしていた。

 

「おい、お前が渺茫か?」

「そうだ」

 

俺からすれば目的である小西さんと時田との戦いは完全に蔑《ないがし》ろにされているんだから、俺は別の相手と戦う事しかこの状況をどうかする方法はない。

 

「お前自身に用はない、弱いと思っているならば隅で震えておけ」

 

渺茫がそう言って俺に見向きもせず小西さんと時田へと向かう、二人の勝負を邪魔するつもりなら許せないな、というか今回の俺はそこまで眼中にない存在か?

 

「邪魔したら殺すし、あいつに手を出すんじゃねえぞ、あいつも俺の獲物だ」

 

小西さんが乱入しようとした渺茫に釘を刺す、って俺も獲物って事はできるだけ全力を出せる状態で時田と戦いたかったって訳か、納得。

 

ただ、こちらとしてはそうなったら邪魔者は消さないとな、この坊主をここから遠ざけるか。

 

「おい、こっちを向けよ、渺茫」

「弱いが胆力は備わっているか、邪魔な男だ」

「お前はこの場ではミスキャストなんだよ、『壁の花』なのさ」

 

そう言って構える、ちなみに壁の花とはダンスパーティーなどで踊る相手がいない淑女の事をさす、この場合は男女問わず相手が居ないということを暗に示した。

 

「何が言いたい……?」

「つまり邪魔者同士、消えようってわけだ!!」

「ふん……」

「お前さんのパンチは雑だな、カウンターを取られやすい」

 

俺の主張に呆れた様な顔でパンチを二発放ってきた、どちらも最短のストレートなのだがどうも腕のモーションが大きく、普通にカウンターが取れる。

 

「それは一体なんだ?」

「何だって……ただのボクシングだよ」

 

すると質問の隙に俺の答えを若干無視するように時田へと攻撃を放つ、しかし俺のようにカウンターを決められる。

しかし俺のとは違って完全に同時、それを感づいたのか俺のとは同一視をせずに渺茫は聞いていた、名前を聞くと曲芸のようだがこれはたまらないと言っていた。

 

だが、渺茫……邪魔して良いなんて言ってないよな、俺は手をついた渺茫へ駆けていきその勢いを活かして顔面へ強烈な膝蹴りを入れた、するとその一撃で鼻血を出しながら顎が跳ね上がる、すると即座に怒りの目を向けた小西さんが渺茫の腕を極める。

 

「なっ、これは……」

「お前さ……邪魔したら殺すって言ったよな?」

 

小西さんはその言葉と同時に渺茫の腕を壊す、相変わらず鮮やかなものだな。

 

「とりあえず左腕を破壊しといた、片手のお前なんて鉄健にも勝てないだろうよ、やってみれば分かると思うぜ……今度邪魔したら次は首だ、肝に銘じとけよ」

 

そう言って小西さんは俺に後を任せる、時田との勝負にどれだけ集中したいんだよ、気持ちが分からないわけじゃあないけどさ。

 

「さっきはよくもコケにしてくれたな、コラ」

「お前はさっきでもう実力の差が分かったのではないのか……?」

「あいにくそんなもんで諦めるような性分じゃないんでな!!!」

 

マッチョマン、あのマスクマンが言っていたのを聞いていたが確か月雄とか言う名前だったな、年は上のようだからさん付けが良いだろうな。

 

月雄さんが連続させたパンチを渺茫に対して放っていく、さっきまでは時田に受け流されて変な事になっていたのが印象的だった。

 

「むっ……」

 

手数の多さにさっきまで効いていなかった筈の渺茫が避けていく、これを手で受けたら次に来る俺の一撃を無防備に喰らうだろう、どうやらそれが嫌なようだ。

 

「避けようにも片手が不自由だったら両利きは上手く捌けないぜ、坊さん」

「ぬぅう……」

「シャオラァァアアアアア!!!!」

「ぐっ……」

 

渺茫が避けている時に気合一閃、動かない腕の死角を狙い顎を叩く。

それによって頭が揺らされ、よろめいた時に頭へ打ち下ろしの一撃を与える、そして下がってきた顔面へ幾度と無く体重が乗ったパンチを食らわせる、鳩尾や肝臓といった部分にも満遍なく浴びせていきダメージを蓄積させる。

 

「こっちの方も気にしろよ、だらっ!!!!」

「ぬっ…邪魔な真似を……」

「ぐあっ!!!」

 

渺茫は月雄さんの攻撃を片腕で受け止めようとする、しかし手数が多いからか、少しながら腕が顔に押し込まれる形となり徐々に下がっていく、渺茫はこの状況を打開する為に、顔に喰らうのを引きかえに月雄さんを攻撃するが俺の存在を忘れたらいかんだろ。

 

「ちゃんとこっちの事を気にしろよ、坊さん、時田や小西さんを見たり随分と浮気性なもんだな」

「ぐっ……」

「そのまま一気にやっちまえ!!!」

 

殴り飛ばされながらも俺を応援する月雄さん、声に答えて俺は深く踏み込んで照準を渺茫に合わせる、そして勢いに任せて拳を出した。

 

「オラァアアアア!!!!」

 

月雄さんの攻撃で僅かに下がった顔にベストパンチであろう一撃を全力で打ち下ろして振り抜く、最後に渺茫のカウンターがアバラに入ったがこっちの方が一瞬速かったのと、渺茫自身が意識を手放す瞬間だったおかげで、動くのが無理になるほど折れているわけではなかった。

 

「……流石に気絶したか、随分と疲れる相手だったな、アバラが想像以上に折れちまってる分、この先はそこまで激しくは戦えないだろうな、なるべくやばい奴と遭遇しないように気をつけないと」

 

結構激しく戦ったから息が荒い、深呼吸をしてうつぶせに倒れこんだ渺茫を見下ろす、深呼吸をするとズキズキと体が痛む、こちらのアバラは随分とやられているな。

 

まあ、それでも歩ける事に変わりは無い。

向こう側を見ると時田が居なくなっていた、という事はどうやら小西さんはやられてしまったようだ、俺はとにかく目的だった時田を探そう、まだ今ならば間に合うし、コンディションとしても戦えるはずだろうから…。

俺はアバラを押さえながら時田が行ったであろう階段へと向かうのだった。




次回は短いですが信彦を再登場させようと思います。
何かご指摘の点がありましたらお願いします。


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『アホの花火、バカの拳』

今回は信彦が再登場します。


上へのぼっていくと戦いの雰囲気が流れてきていた、誰かが戦っている、そう思い角を曲がると、ケアリーさんと誰かが戦っている、すると俺が来た事を見抜いたのかケアリーさんがこちらを向いてきた。

 

「お前、久しぶりだな」

「えぇ……全くですよ」

 

そう言うとケアリーさんが目の前にいた相手から俺の方へと向かってくる、近づいてくればくるほど体の大きさに驚く、この体に打撃を通そうと思ったら思い切り振りかぶった一撃や的確に場所を叩かなくてはいけないはずだ。

 

「フンッ!!」

 

ケアリーさんが張り手の一撃を繰り出してくるが避ける、風が通り過ぎていくほどの勢いである、まともに喰らうと大きくダメージを受けるだろう。

 

「よく避けたな、でも次は当ててやるぜ」

 

そう言ってもう一度張り手を繰り出す、張り手の勢いは良いのだが思いっきり足がお留守だから脛を思いっきり蹴り飛ばしてやる。

足腰がしっかりしているから崩れないというのは分かるが足腰がしっかりしていてもこの場所は痛いはずだ。

 

「オラァ!!!」

 

避けて回り込み、がら空きの脛に思い切り蹴りをかましてやる、小気味良い音を立てたし手応えは十分だ。

 

「てめえ、脛を……」

 

痛みからか一瞬動きを止める、絶好のポジションが空いたので俺は大きく踏み込んだ。

 

「動きを止めちゃあ……いけんでしょうが!!」

「ぐはっ!!」

 

振りかぶった右の一撃を肝臓にぶち当ててケアリーさんの動きを止めにかかる、体

 

勢を立て直そうとしている所に悪いが俺は顔を下げさせる為に、ケアリーさんの股

 

間を蹴り飛ばした。

 

「あぉおおお………」

 

股間を押さえてしまい痛みのあまりうずくまる、俺は降りてきた顔を蹴ってやった、ケアリーさんの顔に血が滲んでいく。

 

「一発じゃあ終わらないぞ!!」

 

顔面に膝をぶち込み、後頭部に拳を何度も振り下ろす、膝を幾度もぶち込まれたケアリーさんの顔はいつの間にかパンパンに腫れあがっていた、言葉が喋るのを聞いていたがうわごとだった。

 

「さて……次はあんただな」

 

俺がケアリーさんをやっている間に起き上がっていたであろう人を見る、随分とケアリーさんにはやられていたようだな、所々にあざが見受けられた。

 

「お前にスナイパー空手の講座を始めよう」

 

そう言って構えてきたのでこちらは踏み込んで顔面を狙ってストレートを出そうとしたが次の瞬間、驚きに包まれたのだった。

 

「なっ!?」

 

踏み込むはずがバランスを崩していた、まさか俺の動く足を狙って蹴ってきたというのか!?

 

「どうやら感づいたようだな、その通りだ。 膝の狙撃……そして一撃必殺!、それが『スナイパー空手』だ!!」

 

顔面に迫る攻撃を捻って避けたが……相性はバカ正直にいけば凄く悪い、踏み込まずに近づかなくてはいけないのだ、そんな芸当なんぞできるわけがない。

 

「攻撃の回避だけなら狙撃射程外に出れば良いだけだ……それに破る方法はおぼろげながら見つけた」

 

その方法とは相手が俺の膝を狙撃するその一瞬の間よりも速く、俺が逆の足で相手の方を狙撃する、それが俺の考えた攻略法だ。

 

「シッ!!」

 

相手が狙撃の様子を見せるように踏み込んでパンチを打とうとする、そうしたら踏み込んだ瞬間に相手の足が伸びてきた、コレをあいつのように蹴れたならあいつも俺と同じ思いをするはずだ。

 

「オラッ!!」

 

そう思い踏み込んできた足を狙ってきたのでその足とは逆の足でその狙ってきた足を蹴ってやったのだった。

 

今の作戦は成功しただろうか、成功していたなら相手のバランスを崩れて、失敗していたらこちらが無防備に相手にやられるだけである。

 

「何かしたかったのかね?」

 

しかし相手の動きが止まる事は無く逆に俺の体勢が崩される結果となっていたのだった、クソ……失敗してしまったか。

 

「くっ……」

「甘いわ、ただ足を乗せて蹴っただけで止まるとでも思ったか!!」

 

そう言われて顔を蹴り抜かれる、ヘッドスリップで衝撃を逃がすが頭がじんじんとする、上手くいかないものだな。

 

「ハッ!!」

 

再び踏み込んで狙撃される一瞬を狙って、逆の足で狙撃してくる足を止めようとした。

 

「まだまだ!!」

 

しかし今度も失敗してしまい、今度は蹴りではなく拳が顔面にめり込んで嫌な味が口中に広がる、どうやら口を切ったようだ。

 

感覚としてはもう少しなのである、乗せるタイミングと崩すための威力が分かれば十分だろう。

 

「シッ!!!」

 

三度目の攻撃を繰り出す、相手は若干呆れ顔で俺の攻撃を流そうとしていた。

 

「全く……無理だと言うのを理解しろ!!」

 

そう言った瞬間狙撃の足が見えた、さっきよりも俺はワンテンポ速く逆の足で蹴ってやったのだった。

 

「今だ!!」

 

タイミングとしては問題はないようだ、後は崩れるかどうかである、崩れてくれればこっちの価値で、崩れなければもう一度トライするだけだ。

 

「どんなもんだい?」

「コレは……スナイパー空手!?」

 

バランスを崩したのが見えた、結果は成功したようだ、本当に成功してよかった、成功しなければ辛い戦いを強いられていただろう。

 

「そういう事さ」

 

三回目にようやく成功した、コレまでに食らった顔面への蹴りと拳の分を込めて返してやる。

 

「オラアアアア!!!」

 

体勢を崩していた相手の顔面を思い切り叩き込む、顔が歪んで跳ね上がる、手応えが十分だと感じ取れた。

 

「ぐは……」

 

鼻血を撒き散らして倒れていったのを見届けると俺は安堵のため息を吐いた、まさかあんなにも相性の悪い相手に出会うとは予想すらしていなかったからである。

 

「とりあえず二人倒した…上の階に行くか…」

 

ケアリーさんとスナイパー空手の人を倒したので階段を探す為に動こうとした、すると後ろから声が聞こえたのだった。

 

「待ちなよ」

 

その声に振り向くと声の主は小さな女の子だった、おいおい……こんな子供まで参加しているのか?

 

「ようやく追いついたか……馬場、用意できてるか?」

「ああっ、出来てるぞ」

 

女の子の後ろにいたのは深道信彦ともう一人男の人だった、一体どういう事だ、はじめの時に入ってなかったら失格じゃないのか?

 

そんな事を考えていたら深道信彦が前に来て、真剣な顔でこちらを見ながら言葉をかけてきた。

 

「お前はあの子に手を出そうとしているのか?」

「あんな子も参戦していたみたいだな、別に俺はあの子を相手にする気は無いんだが……」

「そうかよ、しかし万が一の事もあるんでな、質問した所で意味は無いんだ、とにかく念には念を重ねさせて貰うぜ、イッツ・ショータイム!!」

 

掌を打ち合わせると火花が散る、前回と違い寸前で目を瞑(つぶ)るが後ろに気配がしたので転がってその場所から少し離れた。

 

「エアマスター!!」

「相川さんか……」

 

離れてから振り向くとそこには相川さんがいた、そりゃ離れたのは正解だったな。

 

しかしこんな所で会うとはな、正直悪化はしてないが疲れているからどうしたものだろうか、そんな事を考えていたら一つの影が俺の前へと進んでいた。

 

「お姉ちゃんをやっつける!!」

「ダメだ」

 

幾らなんでも無茶な事を言っている、こんな子が相川さんに勝てる訳がない、それを考えている間に今にも女の子が相川さんの方へ走ろうとした。

しかし男の人が無理だといって女の子を抱える、とりあえずコイツがあの子を引き離す為に別の場所まで運んでいく係ってわけだな。

 

「逃がすための時間稼ぎをする、ここから出たらひとまず安心だろう、頼んだぜ、馬場」

 

信彦さんが両手に花火の束を持って準備を始める、まさかやる気かよ……仕方ないな、さすがに俺も此処にいるわけだし、見捨てられないしな。

 

「んがぁあああああああ!!!」

 

信彦さんが両手に火のついた花火を持ち、口に火のついた花火をくわえてマキさんの方へと歩いていく、じゃあ俺も協力をするかな。

 

「それは通用しない、前にも分かってるはずだぞ」

 

空を舞って相川さんは花火を避けていく、しかし着地寸前に俺がいるのが見えたのか、少し後ろの方へと着地する、残念だな……閃光に紛れるように入ったのに。

 

「お前も相手をするのか……」

「いや、見てみぬ振りは出来ないんでね…なに、手助けだけですよ…この状態であんたと戦うのは無謀だからな」

 

こっちはアバラがやばいのに怪我もしてない相川さんと戦って勝てるはずもない、俺の目的を果たすためにはこれ以上コンディションを悪化させるわけにはいかない。

 

これからはとんでもないイレギュラーが起こらない限りは、望む戦い以外はスルーしていく方向だ、さっきのケアリーさん達との戦いで動きの切れもさほどよくはないというのが把握できたしな、正直大丈夫だと思ってやったけど全然そんな事はなかった。

 

俺が構えてじりじりと迫る動きをして時間を稼ぐ、最もコレはモーションだけでいつでもバックステップを踏めるようにしておく。

 

「それっ!!」

「くっ、花火の爆弾か!!」

 

今にも相川さんが飛び掛ってくる瞬間、信彦さんからのサポートが入る、閃光で目晦(くら)ましをしている間に俺は安全圏へと避難する。

 

「流石に俺もやる時はやるぜ、ナイスタイミングだったな」

 

そうかっこよく決めている信彦さんだったが花火の煙が晴れたら女の子が近くに居なくなっていた。

 

「おいおい、信彦さん、何してんだよ……」

「いやいや、俺に言うなよ……俺はみおりちゃんを抱えてなかったんだからさ」

 

腕から抜けられたのかみおりとかいう女の子が相川さんの前に立っていた、勝てる訳が無いのを分かっているくせに……

 

「来な、エアマスター」

 

女の子が涙を流しながら相川さんに向かってそう言うと戦いが始まった、と言ってもその戦いは瞬く間に終わりを告げていた。

床に足を付いて相川さんが女の子の攻撃を避けると、その降りてくる際に側頭部へと軽く一撃を加えていた、その一撃で女の子は意識を手放したのか緩やかに倒れた。

 

「お前は倒しておかないとな……あいつらと違うし、何より『エアスピンドライバー』を外すぐらいの腕前だしな」

「えっ……」

「はあっ!!」

 

相川さんが俺に向かってくる、あの女の子を連れて帰るためのサポートだって言ったのに目を付けられてるのかよ、しかしこの距離では逃げる事は出来ない。

 

さっきはイレギュラーと目的以外は相手にしないと言っていたがこの状況では相手にしなくてはこちらがやられてしまう、そうなれば本末転倒だ。

 

コンディションを悪化させない程度に相手をして隙ができればその間に女の子を回収してさっさとトンズラでもするか。

 

「シッ!!」

「遅いッ!!」

 

俺が拳を出すと相川さんは即座に空を飛んで回避をした、そして技を繰り出そうとしてくる、俺は即座に腕を引いて防御の体勢をとった。

 

「『エア・カット・ターミネーター』!!」

「くっ!!」

 

頭を下げて回避をする、なるほど……意識を断ち切る為の技か。

 

「フッ!!」

「はあっ!!」

 

俺は再び拳を出す、すると長い足の一撃が飛んできた、狙っているのは顔面だというのが分かる、すぐにKOさせるつもりだがそう簡単に負けてはやれない。

 

「カッ!!」

 

蹴りの一撃を首を捻る事で衝撃を逃して避けきる、そしてその一瞬の隙を狙ってカ

 

ウンターの一撃を繰り出そうとした、すると頭を挟む動作が見えた。

 

「『エア・カット・ターミネーター』!!」

「縦……だと…!?」

 

縦から繰り出されるというのは予想外だった為、俺は防御や回避が一瞬遅れてしまう、首に足がかかり力が込められて次の瞬間には捻られてしまうだろう、そのギリギリというところで……

 

「くそっ!!」

 

信彦さんが再び花火の爆弾を放って閃光で視界を奪う、相川さんの力が一瞬緩んだのが分かった為、俺はその隙に技から抜けて気絶している女の子を抱えて信彦さんに渡した。

 

「信彦さん、パス!!」

「OK!!」

 

ちゃんと受け取ったのだろう、こちらへと返事を返してきた、そして俺達は全速力で相川さんから逃げていた、今の俺だったら勝てるような光明が一つもない、それを考えれば良い選択だっただろう。

 

まあ……全員に共通していることだろうけど目的を果たすまでは終われないというのが理由としては大きいのだが。

 

「で、これからどうするんだよ?」

「俺は無傷といえば無傷だし任務は果たした、リタイアしてこのままみおりちゃんを連れて帰るがお前はどうするんだ?」

 

信彦さんがわざわざ俺に聞いてくる、ここに居て途中で降りる訳にはいかない、寄り道こそしたものの俺は上の階や先に進まなくてはならなくてはいけないのだから。

 

「俺はまだ続けますよ」

「そうか、頑張れよ」

 

俺はそう言って信彦さんと別れたのだった。

 




今回の話での上手い勝ちパターンが考えられなかったため、こんな仕様になりました、すいません。
何かご指摘がありましたらお願いします。


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『精密機械と大爆発』

今回で最後へと秒読みになります。


俺は階段を登る、上に『気』を感じるが人数は二人、そこから近づいているのが一人、階段の下には一人。

 

少し怒りのせいで『気』を感じやすくなっているのだろう、普段は集中したりしないと分からない、そしてここまで細かく分かるなど片手で数える程度だ、怒りなどの感情やこの環境が引っ張り上げているのだろうか。

 

「上にいるのは、あのナースの情報が正しいなら佐伯四郎と知らない奴が一人、そして近づいてるのは覚えのある奴だがリーではない所から考えてジュリエッタだろう、下にいる奴も知らない奴だな」

 

階段を登っていくとなかなか悪くない場所に出る、廊下から曲がり角が近くに有って、通る奴らも多そうだ。

 

「お前は……?」

 

坊主頭の奴が俺を見て声をかけてくる、随分とでかい奴だな、俺も俺でコイツの事は知らないんだけどな。

 

「俺は逢間長枝、こっちは答えたんだからお前の名前を聞かせてもらうぜ」

「俺は渺茫(びょうぼう)…名前を聞いて分かったが…二位の男か、興味深い」

 

そう言って構える渺茫、俺からすればお前はどうでも良いんだよ、こっちの奴が重要なんだよ。

 

「おい、お前が佐伯(さえき)四郎(しろう)だよな」

「そうだが……お前は何者(なにもん)だ?」

 

こちらが名前を尋ねると振り向いて、こちらへ目線を向ける、見下ろす形になっているのは佐伯四郎の背が俺よりも随分と高いからである、差にしてみれば三十ほどはあるだろうか?

 

「お前にやられた奴の友人だ、よくもやってくれたな……」

「そうか…俺からすればお前の友人の事なんぞ知らん」

「それもそうだな、俺もお前がどうなろうと知らん、敵(かたき)を討たせてもらう」

 

俺はその言葉を言い終えた瞬間に踏み込む、狙うのは中心、一撃で終わらせてやる。

 

「ハアッ!!!」

 

佐伯四郎の腹へ『猛虎(もうこ)』を放つ、それを避けるが即座に踏み込んで次は『鉄山靠(てつざんこう)』を放って逃がさない、相手の得意な間合いにさせてしまえばペースを取られる、ましてや相手は現役格闘家だ、そういう自分のペースにするのはお得意だろう。

 

「なかなかやるじゃねえか」

「……黙っていろ、お前に喋る暇は与えはしないぞ」

 

そう言って再び踏み出す、それに合わせてタックルをして片足を取ろうとする、踏み込みの最中なんて一歩間違えれば掠って鼻とかいかれるだろうに。

たいした度胸だ、しかし片足ならば取れると思ったのか、外見で判断したとしたら甘い甘い、俺の体はそんじょそこらの奴とは別もんだぜ。

 

「なっ、全く動かんだと……」

「お前、見た目で判断したみたいだがどんな奴を想像していたんだ?」

 

がっしりと掴んで動かそうとするが全然動かない、俺の身長は百六十五、それに対しての体重は六十、体脂肪率は十一。

 

つまり現役の第一線で活躍する格闘家と同格、もしくはそれ以上の肉体なのだ、まるで根付いた大木のように俺の体は動かない。

 

「お前、ただのチビじゃあないのかよ……」

「そうだよ、お前さんの想像以上に鍛えてるんだぜ……フン!!!」

 

その状況に驚いた顔で俺を見上げる佐伯四郎、俺は大きく息を吸い込み『気』を練り上げ、手を下げて勢いよく息を吐き出し、『発勁(はっけい)』をする。

 

「ぐあっ!!」

「『猛虎』!!」

 

佐伯四郎が『発勁』で弾き飛ばされると同時に、俺は踏み込んで一気に佐伯四郎の懐へと辿り着く、そしてためらいも無くある場所へと一撃を繰り出した。

 

「がっ……」

「崩れ落ちただけか、狙い通りだな」

 

わざと『気』が充実している場所、しかもなおかつ頑丈な部分を狙って放った一撃は行動不能に留めた、この一撃は元々倒す為に放ってはいないから十分な結果である。

 

俺は気が済んでいないから追い討ちをする準備をする、まあ、無抵抗になった奴とはいえど復活されたら面倒だしそういった可能性を摘み取る点としては良い判断だろう。

 

「体……が動か……ねえ」

「さて……言った事はさせてもらうか、その顔をズタズタにしてやる」

 

俺は佐伯四郎が顔を上げたり抵抗する前に事を成す、照準を定めると勢いよく足を下ろして顔面を踏み砕く、その拍子に少し吹っ飛んで仰向けになる。

 

「ぐあっ……」

「良い感触だな、心配する事はないぞ、一度では済まさないからよ」

 

そう言って再び踏み込む、良い感触だしグチャっという音が聞こえる、よく見ると鼻が折れていやがるな。

 

「ううう……」

「オラッ!!」

 

うめき声が聞こえるが構わずに踏む、まあ、鼻血で息がしづらいからこんな声が出るんだろうけど。

 

「ぐっ……」

「掴んでやめてくださいってか?、俺の友人をボロボロにして虫が良いにも程があるだろうが!!」

 

掴んできた手を振り払い、知らない奴が俺を殴り飛ばすまで俺は幾度も佐伯四郎の顔を地面に見立てて踏み込む事で顔面を延々と痛めつけていた。

 

「誰だ、お前?」

「楊鉄健、で……何で渺茫が此処にいるんだ?」

 

俺は知らない奴にお前は誰なのかと聞く、するとそいつは俺には目を向けずに質問に答えて渺茫を睨みつけていた、そして即座に構えて近づいていく。

 

「目的としては時田を見つける為に先に進まなくてはいけないんだが……最大級のイレギュラーは別物だ!!」

 

勢いよく拳を出す鉄健、なるほど…こいつはボクサーだったのか。

しかしアバラを痛めているのか腰の回転が若干鈍い、そこを見抜いた渺茫がその攻撃をいなして避ける。

 

「くっ!!」

 

避けた瞬間を狙って逆の腕でも一撃を出す、しかし渺茫が腕を交差させて鉄健の腕が戻る隙を突きカウンターを放つ、すると鉄健の奴が不敵な笑みを浮かべて……

 

「オラァ!!」

 

痛みを我慢したのか先ほどよりも腰を捻ってそのカウンターの一撃にカウンターをあわせる、『クリス・クロス』を意図的にやるとは実力は立つ様だな。

 

「……ぐっ!?」

 

苦しそうな顔をして下がる、よく見ると拳が砕けていた、何が原因か見てみると丁度鉄健が拳を出した地点に渺茫の頭が有った、あいつ……あのタイミングで頭突きをしたのかよ。

 

「流石だな」

「そうか…もう時田と戦う気はなくなっちまった…お前に全てを注がせてもらう」

「そうか、少しは楽しませてくれるか?」

「まあ、退屈はさせないつもりだ、行くぜ、おい!!!」

 

そう言って渺茫へと駆け寄る鉄健、痛みがあるはずだが戦いの興奮でアドレナリンが出たのだろうか、平然と懐に飛び込んで行った。

 

「シィアアアア!!!」

 

連打をして渺茫へダメージを通そうとする、しかし渺茫はその攻撃を機敏な動きですべて避ける、それを見て更に回転数を上げていく、コイツなかなか良いじゃあないか。

 

「残念だが、さっきの俺とは違う……」

 

そう言って攻撃に合わせてカウンターを出す渺茫、しかし相手は本職のボクサー、片手になっても相手との射程を計算に入れて捌いていく。

 

「これは……何故当らない?」

「お前、舐めてんのか、それとも天然でそんな疑問を言うのか……俺は何年とやってきているんだぜ」

 

渺茫が驚いているが鉄健の主張はもっともである、本職の奴が少し見よう身まねしたような奴に負けたら元も子もない。

 

「そういうものか……歴代の渺茫の中にそれを扱うものが此処(ここ)に居たならばお前と渡り合えただろうに」

「『歴代』なんてまるで渺茫が『称号』で今までの奴らが『憑依』するような口ぶりだな」

 

鉄健の言う事は理解できる、『歴代の中で扱うならば渡り合える』という事は歴代の『渺茫』はある条件下でならば『憑依』する事が出来るというわけだ、それこそ降霊術のように、しかも『此処(ここ)』という事はもはやすでに居るという事だ。

 

「実際そういう意味だ、行くぞ……」

 

そう言って攻撃をする渺茫、鉄健は懐に入って隙を伺う、ギリギリのところで紙一重の争いを繰り広げる、風圧だろうか鉄健の顔には少しずつ傷が入る、そして鉄健の体勢が崩れる。

 

まあ……第三者の視点で見たらどうにか分かるが渺茫を釣るための餌だな、そして渺茫は少しばかり大振りに構えてしまう、今のは絶妙なくらいのさじ加減で崩していたから相当な試合巧者でもないと見抜きにくいだろう。

 

鉄健が少し足に体重を乗せたのが分かったから、見抜けたが渺茫のように目の前でやられたらどうだったか。

 

「まんまと釣られやがって……よ!!!」

「なっ!?」

 

拳を避けて折れた手で拳を作っていたのか顎へとフェイントをかける、渺茫はそれに対して防御をするが、鉄健はがら空きになった胸の場所へと、先ほど以上に腰を捻り勢いをつけて拳を放っていた。

 

「かっ……」

 

その攻撃は無防備になっていた渺茫の心臓へと直撃する、すると渺茫は驚愕の顔を浮かべたまま一瞬動きが止まる、なるほど『ハートブレイクショット』か、確かにこれなら一発逆転を狙うことはできるよな。

 

「おおおっ!!!」

 

一瞬の隙を突いて鉄健が顔へと一撃を放つ、すると渺茫も鏡合わせのように腰を捻って鉄健の顔へと放っていく。

随分と速い復帰だな、並の奴なら反撃は出来ないだろうに、この点は流石は『元一位』といった所だろう、まあ……それ以上に分厚い筋肉が渺茫の心臓を守ったのだろうが。

 

「ハッ!!」

 

渺茫の拳が鉄健の放った拳に対してぶつかる、すると鈍い音が聞こえてきた、そして次の瞬間鉄健の悲痛な叫び声が聞こえてきた。

 

「ぐああああああっ!!!!」

 

声から察するにもう片方の拳も今の衝突で渺茫に破壊されたのだろう、先ほどの頭突きとは違いこちらは力任せの拳で壊されている。

壊された事でアドレナリンが切れて痛みが戻ったのか、苦しそうな叫び声を上げている。

 

「フンッ!!」

 

腹にもう一撃を加えて吹っ飛ばしていく、後ろに下がったみたいだがあれなら威力は結構なものだろう、渺茫は勝利を確信したのか、後ろを向いている。

 

「おいおい、相手に失礼じゃあないのか?」

「何がだ、奴は倒れた、俺の勝ちだろう」

「そう思っているのはお前だけだ、よく見てみろよ」

 

俺は渺茫が吹っ飛ばした方向を親指で指す、その向こうでは足をガクガクさせながらも鉄健が立っていた。

 

「その…通り…だぜ、どこ見て…やが…る」

「なっ!?」

「……来…い…よ」

 

もはや意識も絶え絶え、両手も砕けている中睨みつける鉄健、渺茫は驚いていたがすぐに近寄り構えて拳を放つ、それは鉄健の顔へと吸い込まれるように当たる、そしてそのまま吹っ飛んで意識を失うのであった。

 

「あの男はこの俺に驚愕を与えたがお前は俺に何を与える?」

「何を与えるだと、決まってるだろ……『敗北』だ」

 

俺は構えて渺茫を睨みつける、驚愕なんてだけじゃあ物足りないものを与えてやるよ、構えに驚いてももう遅いんだぜ、渺茫。

 

「待てよ、長枝……そいつは俺が先だぞ、『順番守れ』」

 

その声に振り向く間もなく一撃を喰らう、そんな……俺はあんたと戦いたかったのに、あんたはそいつの方が良かったって事かよ、逆鱗に触れたのかよ……。

 

リーが俺に喰らわせた一撃は壁を容易く破り、俺は必死に動こうとするが体は弱弱しく震えて立ち上がるのも一苦労だ、捕まるものもないとは不便だな。

 

「必死に這い出ようとするのをみれば奴はお前と戦いたかったのではないのか?」

「あいつには悪いがお前と戦ってからあいつじゃあ苦しいんでな、だからご退場してもらったのさ、逆も然りだ」

 

俺の耳はその言葉を拾うが次の瞬間、渺茫とリーの肩がぶつかって床が崩れていく、速く動いて追いつかなければいけない、そう思い俺は必死に体を芋虫のように動かすのだった。

 




今回で鉄健が脱落します、これから先少し原作の部分が色濃く入りますがご了承ください。
何かご指摘ありましたらお願いします。


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『最後へ進む者』

バトル回ではなく解説回で有り気絶回です。


アレから十分かそれぐらいは経っただろうか、芋虫のように這()い蹲(つくば)

必死に動いているが一向に体が進まない、立ち上がろうにも支えになるものは無い壁へと転がってどうにか立とうと試みるが練り上げる『気』が少ないのか、体がつるりと滑ってうまく立てない。

 

「こいつは非常に困ったぞ……速くここから出て移動しなくては」

 

どうにか出る事を最優先にして立ち上がる為に深呼吸で多くの『気』を練り上げる、リーの奴の一撃は余りにも強烈で、更に付け加えるならばあの場面では若干不意打ち気味だったのでとてつもなく効いている。

 

「生まれたての小鹿じゃあるまいし……ガクガクしすぎにも程がある」

 

深呼吸をする事三回、どうにか立ち上がる事ができる、歩くのは少し不自由なものだがどうにか壁に手を突いて吹っ飛ばされたところから出て行く。

 

「んっ……出たのは良いが心なしか大きな音が聞こえてくるような」

 

よたよた歩きで時間を掛けながら出たが、どうやらまだジュリエッタはここから出れてはいないようだ、俺は一体何処からこの大きな音が聞こえるのかを確かめようとする、まるで壁を突き破ってくるような音がだんだん『下』から迫っている。

 

「なっ……、『下』って言う事はまさか突き破っているのは『壁』というわけではなく下の階の『天井』!?」

 

するとその大きな音は近くなり考えたとおり……下の階から延々と天井を突き破り、ついには俺の目の前の床をを突き破って崩壊させた。

 

「危ないな……一体誰がここまで飛ばされたんだよ?」

 

砕かれた床の砂煙で一体誰が飛ばされたのか分からない。

しかし視界が晴れるにつれ足元が見えてくる、その足元は見覚えがある、足の太さも見覚えがある、服の色も、肌の色も、印象的な髪の色も含めて全てに見覚えがある。

砂煙が完全に晴れる頃にはその人間が誰か分かっていた、しかし俺はそれが夢であって欲しいと願った、目の前に居る横たわっている人間は別人であって欲しいと願った。

 

「リー……嘘だろう、嘘なんだろう?」

 

俺は歯を食いしばりながら嘘だと己に言い聞かせた、眉間(みけん)に皺(しわ)を寄せ頬(ほほ)を抓(つね)り、壁に頭を打ち付けて『幻想(まやかし)』かどうかを確かめた、結果としていうならば……痛みが走るため現実であると認識する。

 

「つまりあの坊主が勝ったのかよ……」

 

言葉を口にしたとたん、何だか虚しい気持ちになった、俺はあの坊主と戦う為にきたわけではないから、俺はジョンス・リーと戦う為に来たのだから、友を傷つけた佐伯四郎は別にしても、俺はジョンス・リーとの戦いを切望してそこで全てを出し切るつもりだった。

 

それが今目の前で根底から崩れてしまいこの戦いにおける目的を見失ってしまった、俺はどうすれば良いのだろう、今先ほどまでの状態からは考えられないほど噴出す『気』を、見失った戦いの目的をどこに、誰に、どこにぶつければいいのだろう

 

 

「誰にぶつければ良いのか……別に悩む必要はないか、あの坊主だ」

 

できる事なら喉が嗄れるほど怨嗟の声を出したい、己より強い八極拳士が負けたという驚きも哀しみも、戦いたいと心から願ったものに届かなかった悔しさも一緒くたにして叫んでやりたかった、ただそんな事をしても何も意味はない。

 

「あの坊主さえ居なければ……あいつさえ居なければ……」

 

あの坊主がいなかったなら俺は戦えただろう、それなのにその思いをあの坊主が台無しにしやがった、此処に来た意味を、ここで戦う理由をあの坊主が奪っていった……だから俺はあいつにその分を叩き込めば良いんだ。

 

一刻も早くあの坊主の元へ辿り着く、そのためにはもう階段には頼らない、穴ぼこだろうがなんだろうが飛んで降りてやる、待っていやがれあの坊主、ちゃんと俺の怒りをぶつけてやるよ。

 

「俺から大事なものを奪った事を罪として、その分を渺茫(びょうぼう)、テメェに…

…償わせてやる!!!!」

 

その叫びのまま俺は下へと飛び降りて行く、一度降りて次の穴からも降りると次は床のところどころが穴ぼこだらけ、丁度一撃の際に踏み込んだぐらいの大きさだ。

 

「これはリーの踏み込みだろうな、こうも綺麗にできるのは熟練の賜物(たまもの)だ」

 

そして俺は次の場所へ飛び降りようとする、すると雄()(たけ)びが聞こえてくる、この雄叫びは余りにも懐かしく感じるものだ、俺は急いで飛び降りたのだった。

 

「おおおおおおおおお!!!!」

 

降りてみると金ちゃんが雄叫びを上げて渺茫へ一撃を当てていた、鉢巻を巻いて精神面が復活したんだろう、あのパワードスーツとは違う、これこそが本当の北枝金次郎であって、あのような物を着るよりもはるかに強いのだ。

 

「ハッ!!!」

 

渺茫が勁《けい》の一撃を金ちゃんに叩き込む、残念だが金ちゃんに勁は通用しない、効いていても『気合』で無効化してしまうからだ。

 

着地してから勁が『通って』いる為吐く動作をするが、叫びと『気合』と今まで閉じ込めてきた感情の爆発からか無効化して、渺茫に更に一撃を叩き込む。

 

「おっ、おっ!、おっ!!、おっ!!!」

 

まるで呼吸のように気合を発する金ちゃん、驚いている渺茫へ一撃を放つ、渺茫が逸らして金ちゃんを天井へと打ち付ける、リーをこのようにしてからとてつもない一撃を浴びせたというわけだな。

 

金ちゃんが落下する際に右手で一度、左手で更に追撃、そしてまた右手で一撃を加え、渺茫は合計四回もの勁を通す、見るからにかなりの量だろうな、しかしそれでも……

 

「おおおおおお!!!!」

 

効かないんだよ、渺茫。

 

この状態の金ちゃんを倒すには勁を通すだけでなく八極拳の重い一撃も使わないと効果的なダメージを与えるのは難しい、だって勁の一撃なら吐くだけで気合で乗り切られるとダメージが無いからな。

そしてあのパンチが余計に戸惑いを生む、技術でもなく鍛錬の果てでもなくただ『当てる』だけの一点突破、何故それを当てられるのかといえばきっと渺茫にはまだ備わっていないものがある、それを金ちゃんが持ち合わせていると言う事だ。

 

「やっと金ちゃんは戻ったんだな、長戸」

 

俺は長戸の横に言って話しかける、長戸は嬉し涙を流して金次郎を見守っていた。

 

「そうだ、今だ!!、決めろ金ちゃん!!!」

 

大きい一撃を見舞おうとしているのが見て取れる、すると渺茫は驚愕の顔をうかべているのがわかる、このタイミングと距離ならば化勁では間に合わないからだ。

 

「おっ……おぉ!!!!」

 

気合というか感情をあらわにして八極拳の一撃で相殺をする、その後僅かに微笑む、渺茫の奴……金ちゃんに引っ張り上げられていやがるな。

 

「おおおおおおおお!!!」

「おおっ!!」

 

そして金ちゃんが雄叫びを上げて拳を出すと、渺茫も同じく雄叫びを上げて互いの拳がぶつかる、するととんでもない音を立てて金ちゃんの腕が折れる、そして若干押し返されて無防備となった体に渺茫の勢いをつけた一撃が入ってしまう。

 

「金ちゃん!!」

 

長戸が驚いている間に渺茫に殴り飛ばされた金ちゃんを受け止めるが、衝撃が余りにも大きい、俺は後退していき壁に強(したた)かに体を打ち付ける。

 

「ぐっ……」

 

衝撃が一時的に意識を失わせる、長戸が代わりに金ちゃんを抱えるのが分かる、少しの間視界がはっきりとしない間に何が有ったのだろうか、長戸が渺茫の前に立っていた、渺茫が睨みつけるような目線で長戸に問いかける、それに対しての長戸の答えは。

 

「俺は金ちゃんへの『愛』で動く、お前みたいな糞坊主にゃあ分からないだろうがな」

「分かりたくもない、その様なくだらない冗談で戦えるのか!?」

 

渺茫が問いの答えに対して疑問を抱く、すると上から誰かが来る、この気配はジュリエッタか。

 

「そう、愛だ、愛は素晴らしい、あと……お前はそこに居たら邪魔だ」

 

降りてきて早々ジュリエッタに蹴られてしまう、幾らなんでもそれはやめようぜ、それ

にそこまでここ重要なポジションじゃあないし……。

 

まさかの不意打ちで意識が暗転する、思いっきり来る前に受け流したが衝撃で顎が揺れて脳震盪を起こしていたのだ。

 

「すまなかった、良く見ればそこまで重要ではなかった、まあ、紛らわしい所にいた

 

お前が悪い」

 

意識を失う前に聞こえたのはジュリエッタの謝る言葉だった、全く謝るくらいなら最初からするんじゃねえよ……。




次回はバトル回です。
何かご指摘ありましたらお願いします。


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『全力全開』

バトル回です、次回が最終話になります。


少し時間は過ぎて意識が戻る、時間にして十五分かそこらといったところだろうか、全く……強烈な蹴りをかましやがって。

 

「ってなんだ、この惨状……」

 

俺は目の前に広がる光景を疑った、アレから起き上がると長戸と時田、そしてジュリエッタがこの場所で倒れこんでいた、長戸の場合は金ちゃんの膝枕だから少し違うんだけどな。

 

「ここもまた酷い有様だな……」

 

何が有ったのかと思って飛んで降りていくとそこには地下の階層が有った、そこで目に入ったのは壊れた柱や大きな陥没、そして横たわっている奴らだった。

 

起き上がった時もかなり驚いたが此処に居て横たわっているメンツにも驚いた。

尾形(おがた)小路(こうじ)、サンパギータ・カイ、屋敷(やしき)(しゅん)、武(たけ)月雄(つきお)、そして深道(ふかみち)の五人がぼろぼろの状態だった、そしてその遠くにエアマスターが居た。

 

とりあえず、俺の目的は金ちゃんとリーの敵(かたき)をとる事だ、白目をむいて首から血を垂れ流している渺茫へと近づいていく、近づけば近づく分、渺茫から放たれている重圧(プレッシャー)が強くなっていく、弱い奴らならこの重圧だけでやられるだろうな。

 

まあ、仮に弱かったとしてもどんなに強くても引かないような奴らでも、大丈夫だろうけどな。

 

目の前に来た時こちらを見て途切れ途切れの言葉を喋り始める、もはや理性などはあまり存在せず戦う事に意識が向いているのだろう。

 

「キサマ…如きが…いまさら……来て勝てるか…」

「どうかね…今の俺は気が立っているし、この勝負に全てを尽くす気で来た、片道切符なんだよ…それしても随分化け物じみた姿になったもんだな」

 

渺茫が俺では勝てないと言ってくる、よく目を凝らせば見えてしまう、十四人もの人間が幽霊となり思念体として渺茫の体に巣くっているのが分かる、確かにこんな状態なら誰も勝てないだろう。

 

「確かに難しいかもしれないだろうよ……でも、だからって逃走なんて出来るわけ無いだろうが!!」

 

でも戦う前から勝敗を決めつけられたくは無い、どんな奴が相手でも『負けたくない』のだ、リーは言っていた、安いプライドが有れば例えどんな化け物が相手でも戦えると。

 

俺はそれを心に宿して全てを尽くすだけだ、少し歯を見せるように口角を上げながら構えて臨戦態勢をとった。

 

「キサマにはわからんだろう……『最強』の執念が……散れ」

 

渺茫が手を目の前に出すと一拍おいて発勁(はっけい)が直線状の光の帯となって目の前に迫ってくる。

弩級(どきゅう)の一撃だが流石にこっちもそう簡単に出会いがしらの一撃ででやられはしないぞ、俺は息を吸い込み手を下げ渾身(こんしん)の発勁をする。

 

「ハアアッ!!!」

 

気合一閃、渺茫の放った発勁を拡散させて無傷でその場を切り抜ける、それにしても暴走しているからか上手く制御が出来てないのが今のでわかった。

 

これだったら量が多い極太のレーザーなだけだ、帯の所々にむらがあるせいでそこを突かれると切り抜けられるものになっている、と言っても『気』の事を知っていなければ無理な芸当だが。

 

「で……さっき暴走して撃った発勁がこんなものか、お前を倒して俺はジョンス・リーの敵(かたき)討ちを果たさせてもらう、俺には見えてるんだよ、お前らが…行くぞ、渺茫『達』よ!!!!!!」

「どうしてもやる気か……良いだろう…どれ…程身の程知らずか…思い知るが良い」

 

渺茫が構えて拳を放つ、思念体が何人か拳に宿った状態での突き、勢いはすさまじいが暴走しているから狙いが見えやすく平然と逸らして避けられる。

 

「フッ!!」

「そら……したか…」

 

渺茫は途切れ途切れの喋り方をしてもう一度突きを放つ、しかしさっきと同じで狙いが見え見えすぎて平然と避ける、そして俺は懐へ飛び込んで『気』を練り上げて『猛虎(もうこ)』を放つ、これだったら暴走しないほうがまだ良かったかもしれないな。

 

「かぁ!!!!」

「ほぉ……やるな」

 

八極拳の一撃を腹へと叩き込む、岩をも超えるほど硬い感触に驚いて即座に離れる、その感触から察するに、どうやら腹筋などのフィジカルは普段よりも断然上がっているようだ。

 

「コレはどうだ……?」

 

腕をしならせて拳を出してくる、しならせた時に生まれた空気が拳のように顔へ迫るのが分かる、それを頭を下げて避ける、それに対して渺茫は少し怪訝な顔をしてこう言った。

 

「なぜ……読める」

「風の拳って奴か?……読んでるのとは違うね、勘だ」

 

野生の勘という漠然としたものだが俺は攻撃のコースを肌で感じ取れる、次は発勁がくるか?、もしそうだとしたら後ろに下がるか前へ強引に突っ込んで隙を見せた直後に決める……。

 

「……喰らえ」

「残念だな、避けてやる」

 

雨あられのように連続して風の拳を放つ、しかし感じ取って威力を殺すように動けば良い、そしてあのアクションを起こしている間はきっと発勁を使うことは出来ないはずだ、だから俺は速く駆け抜け風の拳が一度やんだ時渺茫の懐へと潜り込んだ。

 

「くっ……」

「一撃だ、喰らえ!!!!!」

 

引き離す為に発勁をしようとするがそれより速く腹へ俺の一撃がめり込む、しかしそのめり込んだ腹の筋肉は瞬く間に隆起(りゅうき)していき、そして豪快に息を吐き出したのだった。

 

「フゥ!!!……」

「俺には見えている、今防御したのは三代目の渺茫だろう、胸の字で分かった、どうやら八極拳士でもなければまた勁の使い手でもないようだな」

 

仮に八極拳士の奴が出てきていたなら、最初の風の拳から踏み込んで決めにかかっていたはずだろうし、今の一撃を硬気功で即座に弾けたはずだが『気』の充実が感じられなかった。

 

そして勁の使い手ならば化勁をして逸らすはずだが同じく『気』の充実が感じられなかった。

 

「こうも…あっさりと見抜く…か……」

「そりゃあ見えるんでな、筋骨隆々ではあるが……普通、俺の一撃はそれだけでは防げないぞ、流石はと言った所だな」

「く……あ……」

 

構えて渺茫がタメを作る、まだそれを続ける気か、いい加減別の奴が出て来いと心底思う。

 

「それでも耐えたお前にくれてやる……坂本ジュリエッタ以来の禁じ手を」

「やって…見せろ……そして浅はかだと知れ」

 

そう言って風の拳を放ってくる、再び距離を取っていくが体勢とタメを作った所から攻撃の瞬間がわかった、あの三代目の渺茫で普通の拳を放てばいいのに何をしているんだ?、そう考えて俺は回避する。

 

「どうした……近づけても…いないぞ」

「お前だってバカの一つ覚えだぞ、それしかできないのか?」

 

こちらに近づかない事に何か言ってくるが、うかつに懐に飛び込む気はないぞ、流石に今さっきに喰らっておきながら同じ手を打つわけがないからな。

 

「何が…言いたい?」

「別の技術を見せたらどうなんだって事さ」

「貴様に幾らも見せると思ったか…速く散れ……その身に強さを噛み締めろ」

 

三回目の正直とでも言いたいのか、まだ風の拳を撃ってくる、いい加減うんざりしてきた俺は避けて逸らし弾いて攻撃を捌いていた。

 

「だから……効かないんだっての、渺茫っていうのは十五人も居るくせに今やってるこいつにおんぶに抱っこの弱虫共なのか、さっきみたいに弩級の一撃をやってみろよ」

 

渺茫の目の奥から怒りが感じ取れる、怒って当然な挑発をかましたんだから仕方ない、さて……手から溜めて溜めて今にも弩級の一撃を見舞おうとする、別の使い方があるだろうに暴走しているからこうなるんだろうな。

 

「消えろ……」

 

渺茫が手を前に出した瞬間、レーザービームのような発勁が放たれる、俺は真正面から相殺する為に大きく踏み込んで発勁をして難を逃れる、その代償として衣服の大半が破けてしまったが今になってもそんなものどうでも良い。

 

「何故わざわざ挑発したと思う……お前の今やった技が一番隙が出来るからだよ!!!!」

 

発勁の一撃がやんだ時、俺は渺茫の体に触れていた、狙う場所は左胸、心臓がある場所だ。

流石の渺茫もここは鍛えてはいられない、それにあの時ジュリエッタに放った時よりも数段レベルアップしている為無駄な一撃にはならないだろう。

 

「これは、零…距離……」

「そうだ……禁じ手を喰らいな、心臓へと…腕が砕けるほど強く、歯が砕けるほど噛み締めて……『零勁(れいけい)』!!!!」

「…がっ…」

 

渺茫の体勢が崩れていく、流石にこの一撃は渺茫にも通用するか、でも完全に崩れ落ちるわけが無い、そんな簡単に崩れ落ちるようにはなっていないはずだ。

 

「暴走して近距離戦を挑まず中・遠距離で横着したからだな……でもまだ終わらないんだろ?」

「……」

 

崩れ落ちそうになるギリギリで踏ん張って立ち上がった、流石だな。

まあ、このまま崩れ落ちても拍子抜けだったから丁度良いんだ、さて……暴走はどうなったのかな?

 

「俺の腕は今のでヒビいっただろうな……しかし『現代最強』を倒した奴らには悪いが敵(かたき)を討たせてもらわなきゃな…だからよ…ジョンス・リーに勝った渺茫達……やろうぜ、サシでな」

「……良いだろう、やろうではないか」

 

今の衝撃で途切れ途切れだった喋り方もなくなり目が白目ではなくこちらを見据えていた。

そして雰囲気が変わる、暴走は収まっていたようだが、どうやら暴走を続けて全員の人格がところどころででしゃばるんじゃあなくて一つの憑依していた思念体が主人格になったようだ。

 

「そう来なくちゃな…誰だ、お前は」

「勁使いの渺茫だ、いくぞ……」

「発勁や化勁って訳か……」

「その通りだ……」

 

そう言って手を前に出す、すると弩級の発勁が放たれた、後ろに下がって発勁を返す事で何とか回避をするが、流石に最初からやられると驚くな。

 

「いきなり弩級の発勁……しかしこのヒビがいった腕を、次の一撃で完全に圧し折るほどの一撃をぶつけて、お前に勝たせてもらう!!!!」

「来るがいい…、主人格が私になった今、私の技は発勁だけではない」

「そうなのか、さっきと同じ様に発勁の後の隙を狙いたいが普通に拳があるというわけだ……まあ、どうせエアマスターとは戦う予定なんて無いから別にボロボロになってもいいんだがな」

 

腕に勁を纏(まと)わせて槍のように突きを放つ、速度もかなりのものだが一撃の重さと射程が凄すぎる、一撃を避けるたびに風が通り過ぎていき少しでも掠ると皮だけでなく肉ごとやられそうだ。

 

「しかし、やはりさっきよりも手応えがある……暴走なんてろくな事がねぇ」

「カッ!!!」

 

勁を足に纏って地面を砕く、それによって俺の足場が崩れて隙ができる、その瞬間に渺茫が遠ざかって手を前に差し出した。

 

「なっ……」

「隙が出来たな……ハッ!!!」

 

発勁が光の帯のようになってこちらへ迫り来る、さっきに比べて段違いに洗練された一撃であるのが目だけでなく肌で感じ取れた。

 

光の帯の一撃はイメージで言うと人をのみ込むほど強烈な『気』のバズーカだった。

『気』に精通した奴や軌道や風や空気を感じ取れる奴、もしくは同じ発勁の使い手、しかもかなりレベルの高い奴でもないとコレをのがれる事は出来ないだろう。

 

俺はその二つに該当していた為、逃れる事は不可能ではなかった、どうやってのがれるかが重要だった、後ろに下がるかそのまま真っ直ぐ行くか、それを考えた時……『常に相手の中心』というリーがあのシゲオとの勝負で言っていた言葉が脳裏によぎった。

 

その一言は俺の行動を決定付ける、俺は前に無謀だが突っ込む、一度ならず何度も息継ぎのように発勁をしてその距離を最短で懐、中心を目指した。

 

「残念だったな、最短で懐に来させてもらった……」

「『波動の帯』の中を突っ込むとは……正気の沙汰ではない!!」

 

服はもはや下半身のズボンたちしか残っては居なかった、上半身の服は全て今の一撃で破れ散っていた。

 

「勝たせてもらう……おおおおおおおお!!!!!」

「くっ、体が動かん……コレはあのハチマキの男と同じ」

「そうだ…お前らはあの時に渺茫の中で見ていたんだったな…、お前らみたいに『自分』が負けた事がない奴らにはわからんが『喧嘩は根性』なんだよ、成長には『屈辱』が、『敗北』が必要なんだよ」

 

驚愕の顔を浮かべたまま勁使いの渺茫は迎撃の構えを見せる、しかし指の一本さえも動くことは無かった、もしあの時のまだ支配されてない渺茫なら金ちゃんで体験している分、この状態になるのを何とかできたのだろう。

しかしあの人格が気絶している今、他の憑依している渺茫は感性というものに触れてしまって僅かな間動けなくなってしまうのだ。

 

「あの時代にあの男やお前のような奴に出会いたかった……」

「俺も出来れば思念体じゃないお前らと戦いたかったさ……『零勁』!!」

「距離が全くなくては化勁で受け流せん……な」

 

勁使いの渺茫の腹に一撃が入る、受け流すこともできず無防備に等しい状態で喰らった為、勁使いの渺茫は少し後退をして体をゆらりと揺らしたのだった。

 

「先ずは一人だ……次は誰だ?」

 

崩れ落ちるものだと思っていたがそう上手い話は無かったようだ、渺茫は顔を下げて背中を曲げてから、一気に反動を利用して伸びをしてこちらを睨みつけるのだった、雰囲気が変わっているから別の奴が憑依したようだ。

 

「俺だ……」

「お前は八極拳士の渺茫か」

 

構えを取ろうとする体の運びで看破をする、こいつが歴代最強なのならば凌駕するまでだ、俺は再びリーと戦うまで八極拳士に負ける気はまったく無い。

 

「……お前に真の二の打ち要らずを見せてやろう」

「上等………見せてもらう!!!!!!」

 

俺と八極拳士の渺茫は合図など交わさずお互いが同時に踏み込む。

 

肩と肩がぶつかり地面にはお互いを中心にして、蜘蛛の巣のようにヒビが広がったクレーターが出来る。

 

「血気盛んは美なり……喰らえ」

「そっちこそ…喰らいやがれ!!!」

 

リーの時とは違い言葉を交わす暇も無く再び肩がぶつかり合う、するとやはりお互いを中心にクレーターができる。

 

息切れが起きるようなペース配分でもない、ここに来てこの戦いで俺の中の勁の量はさらに成長しているようだ、こいつらに引っ張り上げられているというわけか、まあ……考えれば十四人もの『最強』なのだから不思議でもなんでもないことである。

 

「見事……勁の力も踏み込みも重さも申し分ない」

「嬉しくないね!!!、オラァ!!!!!!」

 

賛辞の言葉さえも今の俺には嬉しくない、例え歴代最強といえどリーの方が輝いている、それゆえに賛辞が嬉しいとは感じられなかった。

 

「ふんっ!!!!!」

「幾らやっていても、俺は退かない……故に俺の勝ちだ!!!!!!」

 

何度もぶつかるが八極拳士の渺茫の足が少しずつ後ろへと動く、踏み込みがヌルいのだろう、俺は一撃ごとに踏み込みを強くしていき更に詰め寄っていった。

 

「くっ、何故にこうも詰められてしまう!?」

「この打ち合いで下がった時点で、あんたじゃあ気持ちで俺に負ける……」

 

距離が徐々に詰まっていき八極拳士の渺茫は一撃を出す前にこちらの一撃を喰らいそうになっていた、その為かいくぐって難を逃れようとするがどうしても己の間合いをつかめずに俺の一撃を喰らう事になるのだった。

 

「負けんぞ…俺が負ければ何のためにいる!?」

「さぁ…そんなものは分からないな、吹っ飛べ…そして思念体は静かに空の上で見守るんだな!!!!!!」

「がっ……」

 

最後に一撃を放とうとするが、あの顔に浮かんでいたのは『屈辱』だったのだろう、

 

俺の一撃を腹に受けて俯(うつむ)いたように顔を下げていた、しかし三度(みたび)雰囲気が変わる、どうやら二人目も倒せたようだ。

 

「チッ、今ので踏み込んだ足がいったか、次に倒さないといけない奴はお前のようだな、胸に三とあるから怪力の渺茫だな、リーを倒したのはあの二人とお前以外にいるのか?」

 

足に痛みがはしるが今の俺は目の前に居る男に注目していた、雰囲気は偉丈夫が纏う空気そのもの、どうも見えていた時から分かっていたがどうやらイメージ通りの人間のようだ。

 

「……居ない、俺が最後だ」

「ずいぶんと今までの渺茫も無表情だったが輪を駆けて無表情だな、顔があまり見えないからか?」

「……悪いな、こういうものなんだ」

「そうか…最後なんだからな、早く決めさせてもらう!!!!!」

 

俺は最後と言うことで性急に事を運ぼうとしていた、その為足がいかれている事も厭(いと)わずに大きく踏み込み、有無を言わさぬ速度で怪力の渺茫へ一撃を叩き込んでいた。

 

「ふふっ、かなり良い一撃だな……」

「効いていない……だと?」

 

怪力の渺茫はこちらの攻撃をまともに受けておきながら、顔色一つ変えずに少しだけ口角を上げて攻撃の評価をしていた。

 

「お前の勁は確かに強いが……今までの間に二人の渺茫を相手にして無事でいられるとでも思ったのか?」

「なっ!?」

 

言われればそれもそのはずだ、全て出し尽くすからと言って、片道切符だからと言って、無尽蔵に『気』が使えるわけではない、冷静になれば分かる事だったはずだ。

 

「お前は自分でも気づかないほどに消費していたんだ、こちらの反撃だな」

「くそっ!!!!」

 

自分のこの体(てい)たらくに悪態をつき、硬気功と後ろに下がって威力を軽減する、しかし肋骨にいやな感覚が広がった、今の一撃でアバラが結構いかれたようだ。

 

「少しだけしか浮かなかったな、硬気功を使ったか?」

「やっててこれかよ……アバラが四本か五本いったな、こりゃあ」

 

浮いていた俺はちゃんと着地をするがやはりアバラ部分がちくちくと痛む、逸らさなかったにせよ普通ならアバラが折れる訳が無いのにな、

 

「そんな事を気にするたまではないだろう……」

「当然だ、お前、表情は薄いが饒舌なんだな」

「そういうものだ、顔はあまりにも語ってしまう……」

 

お前……そりゃ、気にはしないが痛みを鎮めるのは苦労するんだよ、表情の事については確かに正論だ。

そのためにポーカーフェイスなどと言う言葉が生まれたのだからな、さっき笑みをこぼしていたのは嬉しいのか、それとも勝てる事への自信の表れだろうか?

 

「出来ればお前の時代でお前そのものと戦いたかったな、その方が楽しそうだ」

「ここに憑依できただけでも僥倖、お前のような奴に逢えて良かった」

 

俺は憑依している状態より楽しいだろうと思ってそんな事を口走っていた、すると笑みを浮かべて怪力の渺茫は感想を言ってきた、お前からそんな言葉が出るとは予想外だったな。

 

「そうか、そんなのを話している所、悪いが俺は提案する……」

「なんだ……?」

 

この提案を蹴られたらジリ貧での勝負になるだろう、そうなれば勝てる可能性は低くなる、この提案をのんだ場合の勝率が五割ならば、蹴られた場合は二割か一割といったところだろう。

 

「俺は今のでアバラが折れて勁をうまく練る事ができん」

「それもそうだな……」

 

表情を変えずにこちらの言葉を淡々と聞く、さて……どう動いてくれるだろうか?

 

「だから、だから…俺は次の一撃に全身全霊をかけよう……」

「ほう、とてつもないほどの一撃であるのか?」

「ああ……全てを使い果たすからな、その後にぶっ倒れるかもしれないし、使った腕が折れるかもしれない」

 

偽りではなく本当にそうなるかもしれない、なぜならば『気』を使い果たすような戦いはリーの時にやっているが、体を省みずに打つのは初めての事だからだ。

 

「そんな次の一撃だ……コレが成功したら俺の勝ち」

「失敗したらお前の負けか、分かりやすい、受けて立つ……そういう奴は嫌いではないしな」

 

微笑んで承諾する、さてここからが大変だ、今からこの目の前にいる男を倒すだけの『気』を練り上げなくてはいけないんだからな。

 

「いくぞ、三代目渺茫、コレが俺の……」

「来い……全力を持って受け止めてやる」

 

俺は構えて『気』を充実させていく、大きな呼吸を何度もして練り上げて集中させていく、全部を出し切る為に……もはや雑音も一切聞こえない、『気』は完全に満ちた、さて……いくか。

 

「……コレが俺の全身全霊だぁ!!!!!!!」

「ヌッ………」

 

今までに無いほど大きく踏み込む、するとその衝撃に足が耐え切れず折れる、その痛みに呻く間もあってはならない、俺は全ての『気』をこの一撃に集中させている、痛くても集中を切らしてしまってはいけない。

使う技は今まで一番多く撃ってきた『猛虎』、俺は怪力の渺茫へと勢いよく手を突き出して一撃を放った。

 

「はぁあああああああああああああああ!!!!!!!!!!……………」

 

この一撃の代償は足だけにはとどまらなかった、腕にヒビが入った鈍い音が耳の奥に響いて頭に警鐘を鳴らし続ける、全身全霊を込めた俺の一撃は怪力の渺茫の防御を弾き飛ばし、体へと突き刺さり吹っ飛ばした。

 

「全力で受け止めたがこうなったか……お前のような奴と戦えてよかった……現代に生きる八極拳士よ、さらばだ」

 

そう言ってついに渺茫の体が片膝を付き怪力の渺茫は成仏したのだった、また白目をむいているが俺との戦いで成仏したのと体へのダメージの蓄積、そして三人の渺茫を倒したという危機感からか再び他の渺茫が暴れだしたのだろう。

 

「最後に大きな声が聞こえやがった……気絶して成仏したか、流石に関係無しに次の奴が出てきたらやばいな」

 

そういうと駆ける音がする、エアマスターが壁を横切り重力を無視して延々と勢いをつけていく、仕方ない、ジョンス・リーの敵(かたき)はとったしこの体ではもう渺茫とも戦えない。

 

「結局最後はエアマスターに任せる事になるか、目的は果たせたし俺はこれで十分戦えた、じゃあな…楽しかったぜ…」

 

そう言ってボロボロの俺は崩れ落ちていき、意識を手放すのだった。




次回が最終回です。
何かご指摘ありましたらお願いします。


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『愛は戦争』

今回が最終話となります。
短い間でしたがお付き合いくださり有難うございました。


最後に気絶した俺は深道ランキングの決着を見る事が出来なかった、そのため俺は『久坂医院』のベッドの上で結果を聞く事になった。

 

「優勝者は屋敷よ、あいつ、エアマスターと渺茫の戦いが終わって暫くしたら居なくなっていたわ」

「離脱して屋上に行っていたのか、らしいといえばらしい」

 

話を聞く所によると屋敷は最後に残っていた三人が、屋上で今にも同士討ちで賞金を山分けしようとしていた所へ乱入、瞬く間に三人を倒して賞金と+αの報酬を手に入れてその後家を買ったらしい。

 

「それにしてもこんな拘束衣を着せやがって……暴れられるわけないじゃん」

 

拘束衣を着ていては体を動かそうとするが全然動かない、もっとも渺茫との対戦の時にイかれてしまったのは右腕のヒビに始まり、その他にも左足にヒビ、左腕と右足が骨折、それに肋骨が六本、どう考えても安静確定の大怪我である。

 

「まあ、念には念よ、坂本ジュリエッタの例があるから」

 

そうナースが言ってくるが弁解してやりたい、あいつは化け物じみているのだ、あいつのように痛みを軽減させられて立てたとしても普通はそこで終わり、動く事はできないものだ、動けるあいつがおかしいのである。

 

「そうかよ……しかしギブスでよく腕動かせるな、ただ足は全然動かせない、更に言えば寝返りが打てないのが辛いところだな」

「そりゃあ腕を動かせるのは俺の処置がいいからだ、本当だったら腕を動かす事もできず、もっと悲惨な事になっているところだったんだぞ、お前」

 

処置の感想をいうと白衣を着た男の人がカーテンを開けて入ってきた、別に飯が食えるから良いんだが足が動かないのは結構辛いものだ。

 

「あんたがここの院長なのか?」

「ああ、俺が院長の久坂だ」

 

この院長……あのナースと同じ名前って事は何かしら関係はあるんだし少し気になる事を聞いてみるかな。

 

「そういえばあのパワードスーツについてどう思ってます?」

 

あのナースとの関係を考えて俺は金ちゃんが着ていたあのパワードスーツについて聞いてみた、すると意外な答えが返ってきたのだった。

 

「正直嫌だな、二度としたくはない」

「えっ?」

「後で静菜に聞いて分かった事なんだが…あの若い奴が気の毒だよ、二代目シズナマンにされて」

「あれ、シズナマンって言うんですか、って……えっ?、二代目って事は初代ってまさか……」

 

金ちゃんが二代目ってことはかつては誰かがしていたという事だ、そしてシズナマンの存在を知っているという事は……

 

「そのまさかだよ、初代シズナマンは俺さ」

 

なるほどね、予測どおりだったわけか。

アレをどういう経緯でやったのか知りたいものだが……顔をよく見ると本人も出来れば少し触れないで欲しいみたいなので、その事に触れるのはやめておこう。

 

「あ、深道から貴方へ預かりものよ」

「一体何だ?」

「コレ、深道から聞いたけど現金入れたバッグらしいわ、疑わないでね、私はノータッチよ」

「どれ位あるんだ?」

「うわ……見たところ帯のついた束が三十だから三千万入ってるわよ、あと手紙があるわ」

 

それを見えるように折って首の所に置く、首を捻って黙読するとこんな事が描いてあった。

 

『長枝へ 

お前がこの手紙を見ているという事は俺は別の病院にいるだろう、わざわざお前にお金を払ったのは最後に歴代の渺茫を三人倒したからだ、エアマスターにも病院で聞くだろうが多分あいつは拒否するだろう。

人の限界を見せてくれたという事で討伐のボーナスを出させてもらった。

またいつの日か逢おう 深道より』

 

「アイツ……わざわざこんな真似しなくていいのによ」

「手紙で思い出したわ、金次郎達からも受け取っているの」

 

そう言って渡される、読みやすい字な事は嬉しいけれどせめてナース、読みやすいポジションに置くなりなんなりしてくれよ。

 

『親愛なる友 長枝へ 

お前がこの手紙を見ているという事は今頃俺と長戸は北海道にいるだろう。

お前を一緒に連れて行かなかったのは、お前を背負った時のお前の顔はまだこの場所に居たいと言うのを、またやり遂げていない事があると感じさせたからだ、これは言い訳に聞こえるかもしれないがそう感じたのは事実だ。俺たちの心は信じて欲しい、俺のハチマキと長戸のジャケットをお前に餞別として渡す。

どんなに遠く離れていても俺たちは親友だ、だからどこかこの遠い空の下でまたいつの日か逢おう 親愛なる親友 北枝金次郎 長戸より』

 

「はい、金次郎達から受け取っていたハチマキとジャケット……」

 

手紙を読み終えるとナースから二人の餞別の品を見せられる、とりあえずコレは持ち帰らないとな、それにしても長戸のジャケットはぶかぶかだろうな、俺が着るとあいつの腰の部分から下を引きずってしまいそうだ。

 

「それはそうと俺が治るまで……何ヶ月ぐらい掛かるんですか?」

 

寝返りが打てないので首だけ動かして院長の久坂さんに聞く。

 

「お前の回復力には少し驚いている、骨折が普段なら四ヶ月から五ヶ月かかるものが三ヶ月にまで減ったんだからな……まぁ、コレもたびたび言うが俺の処置が良かったからだろうな」

「分かりました、寝るんでカーテン閉めてもらって良いですか?」

「おう……っておいおい、偉く懐かしい顔がきてくれたな」

 

そう言って久坂院長が扉へと駆け寄る、せめてカーテンを閉めてから行ってほしいものだ。

 

「由紀さんまで……」

「ん、知り合いか?」

 

ドアが開くと患者の顔が見える、髪の長さで女性と感じ取っていたがそれ以上に雰囲気で分かっていた、顔をその方向にむけて話しかける。

 

「由紀さんはどういった理由で?」

「私はアバラに軽くヒビがはいってるの」

「参加者全員がやっぱりそれなりの怪我は負ったって事ですか」

 

無事に済んだのって一体誰なんだろうか、なんだかリーとかああ見えてぴんぴんしてそうだな、ジュリエッタも。

佐伯四郎と鉄健の二人は結構酷いだろうな、まあ、佐伯の場合は酷い有様になるように意図的にしたんだけれど。

 

「フフフ……重症のランカーは少しこっちにまわして荒稼ぎよ」

「静菜、貴方、少し腹黒くなったわね」

 

もしかして知り合いなのだろうか、少し呆れた表情で由紀さんはナースの人と話していた。

 

「このナースさんって由紀さんの知り合いですか?」

「えぇ、そうよ、高校生の時にね」

 

なるほど……一応信用して此処に来たっていう訳か、それならあの腕だけがシズナマンだった時の金ちゃんにこのナースが関与してるのはバレバレだったわけだな。

 

「そっちこそ『由紀さん』だなんて年下の子を誑《たぶら》かせて何をしてるのかしら?」

「私はこの子が呼びたいように呼ばせてるだけよ、人聞きが悪いわ」

 

二人の女性の殺気が漏れ出して医院の中へ充満していく、人を改造して劣化させるのに比べると由紀さんのはまだましな感じがあるけどな。

 

「あの女の殺気を少しの間受けると思うと、主治医として頭が痛いぜ……」

 

.

.

 

それから三ヶ月経って退院をした俺は、完全に体の調子を整えた上である人を公園へと呼び出していた、あの言葉をくれた日、戦った日から心を締め付けて苦しめる女性《ひと》を。

 

「で、どう言った用なのかしら?」

「由紀さん……重要な事なんです」

 

俺は真剣な目で目の前の由紀さんを射抜き、言葉を発する、その眼力は睨みころさんといわんばかりだろう、正直緊張のせいでうまく力加減が出来ていないだけである。

 

「もしかして戦いたいのかしら?」

「……そうなんでしょうね、きっと言葉以上に雄弁に語ってくれると思います、真剣な気持ちを伝えてくれるでしょう、正直きっかけでしかないでしょうけど」

 

そう、戦いはきっかけであって本来伝えたい事に、上っ面でないと自覚させる雄弁さをくれるだろう。

 

「もし、この戦いで勝てたなら!!」

「勝てたなら?」

 

俺は構えながら伝えようと声を張り上げる、大きな声ではあるが小さな声でこの言葉を伝えるほうが無礼というものだ。

 

「勝てたなら……」

「何かしら、もったいぶらないで言いなさい」

 

言葉に詰まったようにあと一言が出ない、うう……緊張するな、一瞬だけだ、踏み込めば良いんだ、『GO FOR BREAK』……『当って砕けろ』、別に無様でも良いじゃないか、俺は大きく息を吸い込んで決心を固めてその言葉を発した。

 

「俺と付き合って欲しいんです!!」

「えっ!?」

 

喉が張り裂けんばかりの大声で俺は告白をする、顔はトマトのように赤いかもしれない、顔に血が集まるのが感じ取れる、心臓が今までないほどに早鐘を打つ。

 

「俺のような人間には貴方しかいないんだ、あの日俺に気持ちをくれた言葉は俺の心を貫いた、戦いの中で見せた美しさに目を奪われ、そしてどうしようもないほど貴方に心奪われた!!」

「随分とストレートな言い方ね、聞いてるこちらが恥ずかしいわ」

 

顔を赤らめて俺の主張を聞く由紀さん、仕方ない、だって本当の事なのだから、本当に心を奪われてしまったのだから。

 

「だから……俺はそんな貴方が欲しいと思えた!!、これに嘘偽りはない、貴方を愛しているんだ!!!!」

 

この言葉に嘘偽りがない事を強調する、真剣な眼差しで由紀さんを見る、俺が余りにも真剣すぎたのか、簡単に折れないと感じ取った由紀さんは、微笑みながら構えて優しい穏やかな目をして俺にこう言って来た。

 

「そこまで言うのなら…良いわ……勝てたらよ、勝てたら私を貴方の好きにして良いわ!!」

「ありがたい……その言葉が!!、今!!、何よりも!!」

 

俺はその言葉に対し大きな声で叫び、心からの嬉しさに涙ぐむ、しかし涙だけで終わらせる訳にはいかない、勝って俺はこの人と恋をするんだ、俺を見てもらうんだ、俺を愛して欲しいのだ、ずっとこの人の心の中に居させてほしいのだ。

 

「全てを思いのたけ、この思いを貴方に、ぶつける!!」

「ええ、来なさい!!」

 

そう言って踏み出す俺、それに足をかけて投げようとする由紀さん、足が交錯するその一瞬の攻防に心を熱く燃やす。

 

……こうして俺の深道ランキングは終わった。

 

そしてこの戦いの結果は三年後の2009年を舞台にしたある物語に持ち越される事となる、それは……『川神』という場所で始まる物語である。




最終話と言っておりますがコレは次回作のつながりを最後に書かせていただきました。
次回作は一度この作品の時間軸から時間を大きく遡る事になります。
そしてプロフィールを書いてなかったので後日投稿させていただきます。
最後に一言、本当に有難うございました。
何かご指摘のほど有りましたらよろしくお願いいたします。


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『プロフィール』

書いていなかったのでプロフィールを書かせていただきます。


逢間長枝

年齢:21歳

誕生日:7月7日 かに座

一人称:俺

身長:165cm

体重:60kg

血液型:B型

好きな食べ物:カレー

好きな飲み物:飲むヨーグルト

趣味:鍛錬

特技:記憶力を使うもの(道の記憶は例外)

苦手なもの:水泳・複雑な機械

尊敬する人:強い人

 

定住するべき場所を持たずにカプセルホテルなどで寝泊りをする男。

友の敵を討つだけではなく戦闘力において己がどの地点にいたいのか知る為に『深道ランキング』へと参加。

戦闘スタイルは一撃必殺の『正統派八極拳』。

一直線へ相手の懐へと飛び込み昏倒させる一撃を叩き込むというもの。

ちなみに肉体は異様なまでに鍛えられており素手の一撃も相当のものである。

今作ではジョンス・リーに負けるまでは無敗を貫いていた。

 

 

楊鉄健

年齢:17歳

誕生日:8月9日 しし座

一人称:俺

身長:174cm

体重:66kg

血液型:A型

好きな食べ物:ささみ

好きな飲み物:野菜ジュース

趣味:読書

特技:枯葉掴み

苦手なもの:ペース配分

尊敬する人:歴代のボクシングチャンピオン

 

戸的高に通う高校生。

学校では成績も悪くはなく少なからず男女に好かれている好青年。

ある日ストリートファイトの存在を知ってその世界に入りそのまま『深道ランキング』へと参加。

戦闘スタイルは『ボクシング』。

ボクサーとしては珍しい両利きのタイプでリング内では試合のルールにのっとる紳士。

だが『深道ランキング』が何でもありのためストリートファイトではボクシングにおける禁止行為を平然と行う。

またその際のラフファイトも決して弱いわけではなくかなりのものである。

 

 

ちなみにパラメータは感情や精神面については考慮されておりません。

 

逢間長枝 パラメータ

 

パワー:88 スピード:83 精神力:86 テクニック:87 耐久力:88 総合力:432

 

五つの項目において全てが高い水準である。

参加者の中では総合力で三本の指に入るほどの実力者。

ちなみにジョンス・リーにかろうじて勝っているのは耐久力のみである。

 

深道ランキング戦績

七戦 五勝 二敗

 

勝った相手

 

坂本ジュリエッタ

屋敷俊

皆口由紀

佐伯四郎

暴走モード渺茫

 

負けた相手

 

ジョンス・リー

十五漢渺茫(その内の三人は撃破)

 

※十五漢渺茫との戦いについては負けを認めてはいないが気絶の為負け扱い。

 

楊鉄健 パラメータ

 

パワー:73 スピード:80 精神力:70 テクニック:82 耐久力:68 総合力:373

 

決して低くはないバランスの取れた能力でスピードとテクニックが上位に食い込むほどの高い数字でなかなかの能力である。

小西や時田といった上位陣との相性がよかったため好成績を残す事ができた、ちなみに小西に壊されていないキャラは原作にはいません。

それを考えれば鉄健は快挙を一つ成し遂げていたのである。

 

深道ランキング戦績 (ランカー狩りの時を含む)

七戦 三勝 三敗 一分け

 

勝った相手

 

屋敷俊

深道信彦

渺茫 ※(月雄との共同戦線)

 

負けた相手

 

小西良徳

時田新之助

十五漢渺茫

 

引き分けた相手

 

サンパギータ・カイ

 

二人の比較対象としてはこうなっております。

 

逢間長枝 比較対象 ジョンス・リー

 

パワー:90 スピード:84 精神力:88 テクニック:89 耐久力:86 総合力:437

 

耐久力以外は長枝に勝っている為『現代最強』にふさわしい実力だというのが分かります。

精神面でも先輩であり鍛錬の年季の違いが僅かな差を生んだのが今回の小説での戦いの結果に繋がりました。

 

楊鉄健 比較対象 小西良徳

 

パワー:86 スピード:90 精神力:78 テクニック:90 耐久力:85 総合力:429

 

全てにおいて鉄健を凌駕している『サブミッション・ハンター』。

彼が何故今回の小説で苦戦を強いられたのかというと大変珍しい両利きのボクサーである為に彼の定跡に当てはまらなかった事。

さらにボクサーでありながらラフファイトにも長けていたのが理由だった。

仮に小西が過去に両利きのボクサーとの対決を豊富にやっていたらあのような闘いにはなっていなかったと思います。




戦績やパラメータを載せさせていただきました。
次回作の話にもこの二人は三年経った姿で出てきます。
もしかしたら身長などが変わっているかもしれません。
それではこのお話を最後まで見てくださった皆様、本当に有難うございました。
ご指摘がもし有りましたらよろしくお願いします。


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