わずかな勇気が本当の魔法 (メンマ46号)
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第一葱 魔法使いのお仕事

タイトル回収は物語中盤辺りになると思います。


 side???

 

 俺には家族というものがなんとなくの感覚でしか分からない。

 

 物心ついた時から俺には親はいなかった。当然兄弟もいない。血の繋がりのある家族なんていなかった。ほとんど一人で暮らしていた。

 

 その事について別に何か不満に思ったり、周囲の奴らは俺と違ってちゃんと親がいるからどうとか……そんな事は一切なかった。

 何故俺には親がいないのかとかもハッキリと考えた事はない。

 どうしてかと言うと親はいなくても面倒を見てくれる人はいたし、クラスに友達だっていた。だから別に現状に不満なんてなかった。

 

 強いて不満を言うなら()()()()()()()()()()()()()くらいか。俺の髪は金髪で顔は完全に外国人。もしかしたらハーフやクォーターなのかもしれないが、見た目が外国人なのに日本人の名前が付けられていた。

 

 それだけがちょっとしたコンプレックスだった。

 

 そんな日々を過ごしていたある日、保護者の学園長の知り合いであるタカミチ・T・高畑に女の子を紹介された。ここ一年くらい会ってなかったのにいきなり俺と同い年くらいの女の子を連れて来たのには驚いた。

 

 かわいい。それが初めてあいつに会った時に思った感想。

 

「紹介するよ、神楽坂明日菜ちゃんだ。友達になってあげてくれないかい?これから三人で暮らすわけだし」

 

 けどその女の子がどれだけ可愛くてもタカミチのとんでもない爆弾発言も大して気にならなかった。それ以上に強い違和感を感じていたからだ。

 

 タカミチの表情だ。

 

 その時のタカミチの顔は笑顔だったし、目もちゃんと笑っていた。しかし酷く複雑そうに見えたのを良く覚えている。

 まるで俺達を引き合わせて本当に良かったものか、迷っているようだった。

 それでもタカミチは俺に明日菜と友達になって欲しいと言ったのも事実だ。だから俺は彼女に向けて手を差し出した。

 

「俺、春場悠理!よろしく!今日から友達だな!」

 

「……ガキ」

 

「!?」

 

 そして……

 

 無表情で何考えてんだか分からない女の子(明日菜)の毒舌を前に、俺は物凄く戸惑った事も良く覚えている。

 

****

 

 side三人称

 

「……さん!…場さん!」

 

 心地良く吹く夜風に当たりながら春場悠理は世界樹に目を向けていた。意識が何だかぼんやりする。

 何処からか叫んでいるような声が耳に入って来て少しずつ意識がクリアになっていく。

 

「春場さん!いつまでもボサッとしていないで、所定の位置に移動して下さい!」

 

「……あん?」

 

 夜の麻帆良学園都市にて、悠理は隣を箒で飛ぶ魔法生徒としての先輩、高音・D・グッドマンにそう叱られた。

 そういや今夜は俺も学園の警備当番だったな……と現状を思い返す。だからこんな時間に出歩いているのだ。なのになんかボーッとしてた。

 

「全く……最年少の『偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)』ともあろう方が……」

 

 顔を真っ赤にするほど怒らなくても良いじゃないか。そう思いながら浮遊術の為の箒を肩にかけて歩き出す。

 

「来年にはあの千の呪文の男(サウザンドマスター)のご子息がこの麻帆良学園に修行にやって来るのですよ!?彼の身の安全の為にも学園の警備をより強化し、万全の態勢で修行ができるように……」

 

「分かった。分かった。分かりましたよ。それよか高音さんも持ち場に付いて」

 

 高音は何故か悠理への当たりが少しキツい。本格的に目の敵にされてるわけではないが、気にならないわけではない。

 高音の態度について考えられる理由としては彼女の目指している『偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)』の資格を歳下の悠理が先に取得したからだろうか。

 後輩に先を越されては面白くはないだろうけど、そればっかりは実力差だと思って割り切って欲しい。……などと無神経な発言は流石にできない。

 

「でしたら貴方ものんびりしていないで警備に集中して下さい!」

 

「……うっす」

 

 高音が箒の浮遊術でその場を去った後、悠理は周囲のパトロールをしながらこの警備の理由を思い返す。

 

 ここ最近は麻帆良学園都市の警備はより一層強化されている。その理由は先程高音が語った通り、千の呪文の男(サウザンドマスター)、ナギ・スプリングフィールドの息子、ネギ・スプリングフィールドがウェールズの魔法学校の卒業課題としてこの麻帆良学園に修行の為にやって来るからだ。

 ナギ・スプリングフィールドの息子という事もあってネギ少年は優秀な『偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)』の候補生としてその将来を非常に期待されている。それ故にその扱いは慎重に、そして大切にしなければならない。だからこそ、ネギ少年が何一つ不自由なく修行に打ち込めるよう、不安分子を少しでも排除しようという動きが麻帆良学園の魔法関係者にはあった。

 

(だからっつってもやり過ぎじゃねーか?将来に期待してんなら多少の試練は必要だろ。成長の芽を摘んでどーすんだ……。それにそれならまずあの吸血鬼をネギ君とやらに近付かせないようにするべきだと思うけどな。ジジイはその辺どう考えてんのか……)

 

 これらの動きはガンドルフィーニといったネギ少年の将来に強く期待している一部の魔法先生が主体となって行われているものだ。この件について麻帆良学園の長である近衛近右衛門は何も口出ししていないのだ。

 もしかしたら学園長も悠理同様、これらの動きは少々過保護過ぎて返ってネギ少年の為にならないと考えているのかもしれない。だからこそ、あの吸血鬼の真祖については魔法先生達に触れさせないようにしているとも考えられる。

 

(それに大戦の英雄ねぇ……何があったらそんな破茶滅茶な人生歩む事になるんだか……そんなのの息子に生まれた子も災難だよなぁ。絶対親と比較されるんだから)

 

 親がいくら優秀だからといって子供にそれが引き継がれるとは限らない。いや、件の千の呪文の男(サウザンドマスター)の息子は年齢にしては飛び抜けて優秀らしく、父親の名に恥じない天才であるそうなのだが、それでも千の呪文の男(サウザンドマスター)と比較しても遜色無い程とは限らないのだ。

 恥じない事と遜色ない事は似ているようで違う。

 

 時代が違えば環境も違う。正直ナギ・スプリングフィールドの息子がその才能を十全に伸ばせる環境下で育っているとは思えない。親の威光と重圧に押し潰されない事を祈るばかりだ。

 

(だからこそ、この麻帆良が修行場所として選ばれたんだろうけどな……)

 

 すると同じ魔法関係者である悠理の友人の一人が少しばかり心配そうに話しかけてくる。

 

「悠理、どうしたというのだ?仕事に集中していないなんてお前らしくもない」

 

「刹那か。んー、いや来年に来る千の呪文の男(サウザンドマスター)の息子、ネギ君ってどんな子かなーって」

 

 幼馴染の神楽坂明日菜のクラスメイトである桜咲刹那。正確には魔法使いではなく、京都神鳴流の剣士なのだが、悠理の幼馴染の一人であり、学園長の孫娘であり、西の長の一人娘である近衛木乃香の護衛としてこの麻帆良学園都市に滞在しているのだ。

 ぼんやりしていた理由を問われたので考えていた事を軽く、本当に軽くだが説明する。

 

「……今は警備に集中しろ」

 

「へいへい。高音さんにも言われたよ」

 

 しかし結局やる事はただのパトロールだ。この麻帆良学園都市に表立って襲撃を仕掛けて来る者など早々いないのだからこの時期にここまで色々とやる必要はないだろう。

 

「……!」

 

 悠理はある感覚を感知した。

 麻帆良の結界を魔力を持った何かが通り抜けた。年柄年中魔法関係者による警備こそある街だがこうして実際に魔法関係の侵入者が来る事自体は珍しい。

 

「……悠理」

 

「ああ。招かれざるお客さんって奴だな。今日は中々楽しめそうじゃねぇか。偶にはこーゆーのがなくちゃなぁ」

 

 春場悠理は魔力を迸らせ、麻帆良の夜空を魔法使いらしく箒で飛ぶ。

 

「そんじゃま、魔法使いのお仕事といきますか」




春場(はるば)悠理(ゆうり)
1988年6月22日生
血液型:AB型

主人公。史上最年少で『偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)』資格を取得した天才魔法使い。
見た目は外国人の為、日本人の名前との差にコンプレックスを持っている。


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第二葱 悠理の日常

あけましておめでとうございます。今年は投稿頻度を上げられたらいいなぁ……

出来はかなり微妙。ちょくちょく加筆していくかも。

一話で書くべきだったけど、この小説はアンチはなしです。

主人公の始動キーどうしよう。


 side三人称

 

 麻帆良学園の朝はとにかく騒がしい。通勤ラッシュなるぬ通学ラッシュという学園都市ならではの光景が広がる。中等部や高等部と一口に言っても男子と女子で学校が分かれているし、同じ学年でもクラスの数も桁違い。更にそれが何校にも分かれているのだ。ハッキリ言って生徒数が完全に飽和している。

 

 従って登校時間になれば麻帆良の学生達がそこかしこで走り回っているのだ。そこいらのテーマパークよりもよほど混雑している。

 

 しかし悠理が起床するのはそれよりも2〜3時間程早い。

 

「おはよーっ!悠理!」

 

「おう!おはよ明日菜!」

 

 春場悠理の朝は幼馴染と顔を合わせる事から始まる。中学進学頃より共に始めた朝の新聞配達のアルバイトがあるからだ。

 

「「おはようございまーす!!」」

 

 新聞屋に到着と同時におばちゃんから配達分の新聞を受け取ると早速配達の為に店を出る。

 

「じゃ行って来まーす!」

 

「まーす」

 

「よろしくねアスナちゃん、ユーリくん!」

 

 新聞屋のおばちゃんに見送られて仕事開始。二人共元々の身体能力が高く、体力もある為、バイトの中ではかなり早く全ての新聞の配達を終える事ができる。実を言うと二人揃って自動車並みの速度で走っているのだが、本人達にその自覚はあるのだろうか。

 

「ふあぁ……」

 

「寝不足か?珍しい」

 

「あ〜、悠理……その……お願いがあるんだけど………」

 

「言ってみ」

 

 明日菜の悠理へのお願い、それは定期テストに向けての勉強を教えて欲しいというものだった。

 神楽坂明日菜の学業成績は悪い。それも学年最下位レベルにだ。そのせいか、同じクラスの同レベルの馬鹿四人と纏めて、『バカレンジャー』のバカレッドという不名誉極まりない称号まで与えられている。

 

 あまりにも成績が悪いとバイトより勉強しなさいと学園長を始めとして教師陣からお叱りを受けるのがいつものパターンだ。

 成績下位を取り続けているからいよいよバイトを辞めさせられるかもしれない。故に昨晩は珍しく遅くまで勉強をしていたらしい。しかし悲しきかな、普段から勉強をする習慣が無い故に集中力が長続きしない上、理解度も低いのでちんぷんかんぷんだったらしい。

 だからこうして悠理に勉強を見て欲しいと頼み込んだようだ。

 

「少しでも学費を返したいし、バイト辞めるわけにはいかないのよ……」

 

「じっちゃんや高畑先生からすればそんなの良いから勉強して良い成績取ってくれってのが本音だろうけどな」

 

「う……」

 

 痛い所を突かれた明日菜は気まずそうに顔を逸らす。麻帆良学園がエスカレーター式で高校まで行けるとしても当然高校からは留年があるし、その高等部だっていくつかに分けられており、中等部での学業成績によってどの高校に行けるのかが変わってくるのだ。

 例えば共学の高校は男女どちらから見ても偏差値が高く競争率も高い。中等部から男女で分けられる為、恋愛に飢える生徒が多い故だ。異性との交流が欲しけりゃ良い成績取れ。そんな思惑が麻帆良学園都市の理事会にあったりする。

 勿論男子校、女子校のどれもが反比例して偏差値が低いというわけではないが、やはり競争率は低い。

 

 とにかく学年最下位レベルの明日菜ではいざ高等部への進学時に行ける高校への選択肢がほとんどないと言っても良い。希望する高校への進学枠は成績優秀者に優先されるのが当然だ。

 

「ま、良いや。そういう事なら力貸すぜ。放課後空いてるか?美術部は?」

 

「あ、今日は活動無いから大丈夫。いつもありがとね」

 

「気にすんな。俺とお前の仲じゃねーか。一緒の高校行こうぜ」

 

 そうして相談は打ち切り、悠理と明日菜はそれぞれの配達担当区域に向かう為に一旦別れるのであった。

 

****

 

 そして放課後、麻帆良学園都市にある小さな喫茶店で悠理と明日菜の勉強会は始まる。取り敢えず今日やるのは勉強のできない明日菜が最も苦手とする英語だ。

 

「つまりな?ここを日本語訳すると、こうなるわけだから、お前はこの文を日本語訳してみろ」

 

 Once upon a time Michael had big breasts.

 Tom said.

 "You are a fool! I stole only 80 yen!"

 "In fact, it is me"

 Tsutomu-kun flew in the sky for fart when he said so.

 

「これが『Johnny and rest room』のあらすじな(つーかなんだこの教科書……)」

 

「えーと、ミッシェルは……」

 

「マイケルな」

 

 一応英語教師であるタカミチ・T・高畑に育てられたはずだが、育ての親が英語を専門としているからと言ってそれが身に付くというわけでもない。

 それから数時間店内で英語を教えたものの、すぐに完全下校時刻になってしまう。

 

「寮に戻ったらこのかとあやかにも勉強見て貰え。このかは勿論、あやかだって頼まれたら無碍にする奴じゃねーだろ」

 

「うん。そうする……」

 

 数時間みっちり英語の勉強を叩き込んだが、科目は英語だけではない。放課後の限られた時間だけでは明日菜の勉強を見切る事などできはしない。基礎を教えたら後は寮を同じくするもう二人の幼馴染に頼むしかないのだ。

 慣れない勉強にぐったりしながら帰路に着く幼馴染を見送りつつ、携帯電話を取り出して時間を確認。

 

(帰りにスーパーに寄って飯の材料買ってくか……)

 

 突如背後に出現した魔力を感じ取って足を止める。振り向くとそこの空間が歪み、ズズズ……と音を立てながら何者かがその歪みから這い出て来る。

 

「……随分と楽しそうだねぇ悠理」

 

「師匠、来てたのか」

 

 そこに現れたのは中世の貴族の様な格好をした大柄な女性だった。しかしその佇まいと発せられる魔力から彼女が常人ではない事は明らかだった。そして悠理の口振りからして師弟の関係を匂わせる。

 よく見れば周囲に人がいない。魔法使いすらもだ。どうやら完全に人払いを済ませた上で悠理の前に顔を出したようだ。

 

「なんか用か?師匠」

 

「いいや、単に見ない間に弟子が腑抜けてないか様子を見に来ただけさね。『偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)』になったは良いけど、未だに従者(パートナー)もいないようだしね」

 

「愛の無い契約は認めない……だろ?」

 

「分かってるじゃないか。体裁ばかりを気にして愛を疎かにしちゃあ弟子失格さ」

 

 満足そうな顔をする師匠に悠理は相変わらずだと思う。

 悠理はとあるログハウスが建てられた土地のある方向に親指を向けて、師匠に尋ねる。

 

「あっちの弟子には会ってかねーの?なんだかんだで喜ぶんじゃねーの?」

 

「あの子は嫌がりはすれど喜びやしないよ。それに私もまだあの子に会う気は無いからねぇ」

 

「そんな事ねーよ。きっとアイツも師匠にゃ感謝してるよ。俺だって理由がただの気まぐれでも色々と昔の事とか教えて貰ったり散々鍛えて貰ったしな。そこまでしてくれたんだ。アイツも嫌ってるわけねーって」

 

 悠理の師匠はそんな悠理の発言を来て僅かにだが眼を見開く。しかしすぐに表情を俯瞰したようなものに戻し、煙管を手にどこか達観したかのように言葉を紡ぐ。

 

「……ふん、そうかい。アンタにはあの子と違って私の教えが伝わっていて安心したよ。何度も言うけど大切なのは愛と美だよ。じゃ精々見せて貰うよ。()()()()()()()をね」

 

「……ああ」

 

 美についてはどうとも言えないが、大切なのは愛。師匠のこの教えは正しいと悠理は思う。

 

 悠理の師は()()()()という意味深な言葉を残して再び次元の狭間に去って行った。

 魔法世界(ムンドゥス・マギクス)に対する旧世界(ムンドゥス・ウェトス)の事なのだろうか。

 どうやら何か隠してるらしいが、肝心の悠理はそれをしっかりと理解しているようだ。

 

 師匠が去った後、悠理は昔、明日菜の髪飾りと共に育ての親であるタカミチから貰ったペンダントを握り締め、祈る様にあの日の決意をもう一度告げる。

 

「明日菜は……俺が守る。()()()()()にはさせない」




ちょっと三人称が書きづらくていまいち主人公のキャラを出せてないな……。なんか明日菜の方も描写不足になってるし。
でもキャラ設定的にこの主人公は一人称をあまり使い過ぎるのは不味いんですよね。地の文が今後の展開の決定的なネタバレに繋がりかねない……。転生者なら楽なんですが。
いっそ明日菜やネギの一人称で書いていこうかな?

テスト勉強のとこはイナイレの番外編で使おうと思ってた文章をここで使いました。

因みに明日菜は定期テストで点を取れたとしても安心してそこから復習をしないと思うので結局身に付かないパターンだと思います。多分ね。


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第三葱 来日!子供先生!

もう色々面倒なので原作突入します。


 side三人称

 

 新年明けて中学二年の三学期のある朝、悠理は自分の通う男子校エリアではなく、麻帆良学園都市でも最奥部の女子校エリアに来ていた。

 

「遅刻遅刻ーー!!今日は早く出なきゃいけなかったのに!」

 

 共に走るのは幼馴染の神楽坂明日菜と近衛木乃香。彼女達もまた悠理と同じ事情で彼に同行していた。明日菜は全速力で走りながら半ば愚痴るように今回悠理に同行する理由について言及する。

 

「でもさ、学園長の孫娘のアンタがなんで新任教師のお迎えなんてやんなきゃなんないの?しかも男子の悠理を女子校エリアに呼び出すのも良くわかんないし」

 

「確かに。俺なんかその為に一限公欠扱いだぜ。わけわかんねーわ」

 

 女子校エリアと男子校エリアにはそこそこ距離があるので新任教師の迎えなどしていたら一限に間に合わない故の公欠だが、そもそも生徒にそんなお使い頼むなと言いたい。

 

学園長(ジジイ)の友人なんだからそいつもジジイかババアに決まってるじゃない」

 

「新任教師だから流石にそれは無いんじゃねーか?」

 

「そうやで。今日は運命の出会いありって占いに書いてあるえ。条件に当て嵌まっとるのはゆうり君やな」

 

「ウソ!!?」

 

 愚痴りながら走る幼馴染三人組だが、その中の一人である木乃香は器用にも占いの手帳を開いて読み上げながら走る。そして悠理に運命の出会いありと聞いて反応したのは悠理よりも明日菜であった。少し顔が青ざめている。

 

(ったく、夏ん時からサウザンドマスターの息子が来るとか騒いでんのに新任教師のゴタゴタまで押し付けてくんなよなあのジジイ)

 

 木乃香の占いを話半分に聞いている悠理は内心で学園長の近衛近右衛門への不満を述べる。

 そして木乃香は顔を青くする明日菜の反応を面白がって更に別の占いを述べていく。

 

「アスナの方は好きな人の名前を10回言って“ワン”と鳴くと効果ありやて」

 

(いやそんなんやる奴いねーだろ)

 

(ううっ……やってみたいけど悠理の前じゃできない……)

 

 木乃香の占いを切って捨てる悠理と鵜呑みにしながらも悠理を見て赤面し、実行を躊躇う明日菜。仮にもし悠理がこの場にいない事で明日菜が木乃香の占いの内容を実行していたら流石に木乃香もちょっと引いただろう。その直後に更におちょくるような占いを読み上げた事も想像が付くが。

 

「にしてもアスナもゆうり君も足速いなー。ウチコレやのに」

 

 木乃香の言う通り、明日菜と悠理は普通に走っている。それに対して二人と並走する木乃香はローラーシューズを履いて滑走していた。占いの本を読み上げながらローラーシューズで滑走するのは普通に危ないので良い子は真似してはいけない。

 

「鍛えてるからな」

 

「悪かったわね、体力バカで」

 

 それでも止まらずに走り続けられる三人。そんなこんなで良くも悪くも年頃の少年少女らしい会話をしているとそんな三人の隣に一つの小さな気配が並走していた。

 その気配に気付いたのは魔法使いである悠理と野生の勘を持ち合わせる明日菜。遅れて木乃香が二人の視線が同じ方向に向いている事に気付いてそちらを見やる。

 

 そこにいたのは赤毛で小さな眼鏡が似合う小学生くらいの少年だった。

 

(このガキ……魔法使い?でも学園の魔法生徒でこんな奴いたか?)

 

 少年から身体能力強化の魔法による魔力波長を感じ取った悠理は少年の正体にアタリを付けつつも困惑する。

 

「あのー、貴方……出血の相が出てますよ。それも大量出血です。多分そこの女の人に出血させられますから少し離れた方が良いですね」

 

 えらく具体的な予言を唐突に告げた。しかし無神経にも程がある発言だった。

 

「……は?」

 

「何だとこのガキャー!!」

 

 突然過ぎる忠告に放心する悠理。しかし対照的に初対面でいきなり危険人物扱いの発言を受けた明日菜は当然キレる。

 

「いきなり出て来て人を危険人物呼ばわりなんてテキトー言うと承知しないわよ!?」

 

「いえ、占いの話をしてたので良かれと思って……どうしてそうなるのかは僕もよく……」

 

 少年からすれば親切心で忠告したのかもしれないが、いきなりそれを言われた明日菜からすれば失礼な事を言って楽しむクソガキでしかない。

 

「アスナ、相手は子供やろー?この子初等部の子と違うん?」

 

「私ガキは大っ嫌いなの!!それにこのガキが言ってるのは私が悠理に大怪我させるって事じゃない!!流石に聞き捨てならないわよっ!!」

 

 アイアンクローで少年を持ち上げる明日菜。そんなんだから馬鹿力とか言われるのだが、そんなこたぁ知ったこっちゃねぇと言わんばかりに締め上げようとする。

 そんな明日菜を見て一周回って冷静になった悠理は明日菜の肩を掴んで落ち着かせようと言葉をかける。

 

「まぁ待て明日菜。流石にやり過ぎ」

 

「そうやでアスナー。ゆうり君は大怪我しても二、三日で治るえー」

 

「え?フォローすんのそこ?大怪我すんの確定?」

 

 サラッとブラックな発言をした木乃香だが、真意を掘り下げるのはなんとなく怖くなった悠理はポンポンと明日菜の頭を撫でて気分を落ち着かせにかかる。悠理に撫でられていくらか機嫌を直したのか明日菜はしぶしぶながらも少年を下ろして手を離す。単純な頭をした娘である。

 

「ところで坊やはこんな所に何しに来たん?ここは麻帆良学園都市の中でも一番奥の女子校エリアやで?初等部は前の駅やよ」

 

「そう!呼び出された悠理はともかく、ガキのあんたは入っちゃいけないの!分かった?」

 

「いや別に入る事自体は駄目じゃねーだろ。周りの視線と時間帯的な問題はあるけど」

 

 そうして女子校初等部云々の話はそこまでにして、元々の目的であった新任教師の迎えに行くべく、少年と別れてまた走り出そうとする三人を後ろから別の声が呼び止める。

 

「いや良いんだよ三人共」

 

 そうしてこの場にやって来たのは眼鏡と髭が似合うナイスミドル。その手に持つタバコが良い感じに渋さを醸し出す明日菜と木乃香の担任教師、タカミチ・T・高畑だった。

 

「高畑先生!?」

 

「父ちゃ……高畑先生」

 

「おはよーございます高畑せんせー」

 

「おはよう三人共。それにお久しぶりですね、ネギ君」

 

「久しぶりタカミチーー!」

 

「……!?知り合い!?」

 

 何やら親しげに挨拶を交わすタカミチと少年・ネギ。二人が知り合いである事に明日菜が驚くも、悠理は別の点に驚いていた。

 

(ネギ…?高畑先生と知り合い……まさかネギ・スプリングフィールド!?)

 

 数ヶ月前から散々この街に魔法使いの修行に来るからどーたらこーたらと言われていたあのサウザンドマスターの息子だ。まさかこんな形で会う事になると誰が思うか。普通は魔法関係者が集められてその前で紹介されるとかそんな形を予想するはずだ。

 

「麻帆良学園へようこそ。良い所でしょう?ネギ()()

 

「「「……先生?」」」

 

「あ、ハイ。そうです。この度この学校で英語の教師をやる事になりました。ネギ・スプリングフィールドです。よろしくお願いします」

 

「あ、ハイ。よろしく……」

 

 ペコリとご丁寧に自己紹介と挨拶、お辞儀をするネギに悠理は思わず同じくご丁寧にお辞儀を返してしまう。

 

(年齢的に初等部に編入かと思ってたけどまさかの先生と来たか……)

 

 あまりの事態に呆気に取られていると我に返った明日菜が色々とツッコミ所を的確に指摘していく。何故かネギ本人に掴みがかる感じだが。

 

「……って!先生ってどういう事よ!?ちょっと待ってよ!なんであんたみたいなガキんちょがーー!?」

 

「いや彼は頭が良いんだ。安心したまえ。出張の多い僕に代わって君達A組の担任になってくれるそうだよ」

 

「え?教師になるってそーゆー問題だっけ?」

 

「そんな事言われても私こんな子嫌です!さっきだっていきなり私が悠理を大怪我させるなんて言ってきたんですよ!?」

 

「いやでも本当なんですよ。過程は分かりませんけど……」

 

「本当言うなっ!縁起でもない事言うんじゃないわよっ!大体私はガキが大っ嫌いなのよ!あんたみたいにチビで生意気なミジンコが……」

 

 確かにネギが親切で言ったつもりでもその内容が縁起でもないものなので明日菜の怒りは尤もだろう。しかしそれを踏まえても言い過ぎではある。流石にネギ少年もムッときたのか若干膨れっ面になり始めている。

 

 何か反論しようとネギは口を開き、息を吸う。その瞬間、明日菜の髪が鼻元にかかり、ムズムズとしてくる。そのせいかネギは大きくくしゃみをしてしまった。

 

「ぶえっくしょんっ!!」

 

 ネギから親父みたいなどでかいくしゃみと共に魔力が開放される。悠理はくしゃみと同時に発動した魔法を瞬時に理解した。

 

(これって……武装解除!?)

 

 戦闘にも用いられる魔法の一つであり、それを呪文詠唱無しの……何故かくしゃみで発動したのだ。その魔力の向かう先にいるのは……明日菜。

 瞬間、悠理の視線は明日菜へと釘付けになる。

 

 彼女の着ていた麻帆良学園の制服とその上に着ていたコートが一瞬で消し飛ばされた。

 

 色白にも見える荒れのない綺麗な肌色。

 

 ピンクのブラジャー。

 

 毛糸のくまパン。

 

 下着姿の愛しの幼馴染、神楽坂明日菜。

 

「ブハッ!!」

 

 明日菜の下着姿を見た悠理は勢い良く鼻血を噴き出した。結構な量である。

 

「キャアァァ〜!?何よこれ!?って悠理ーーー!?」

 

 因みにネギ少年の占いの内容は大怪我ではなく、大量出血。ある意味当たっていた。

 

****

 

 その後、明日菜は悠理が着ていたコートを借りて寒さと周りの視線を凌ぎつつ、女子中等部の校舎で学校指定のジャージに着替えて、一同揃って学園長室に行く。

 到着したら当然明日菜は今回のネギと高畑に関する人事移動に関して学園長に物申す。

 

「学園長先生!一体どーゆー事なんですか!?」

 

「まぁまぁアスナちゃんや、少し落ち着かんか」

 

 質問を受けた後頭部の異様に長いぬらりひょんのようなこの老人こそがこの麻帆良学園都市の学園長にして関東魔法協会の理事、近衛近右衛門である。

 近右衛門が何処からか取り出した人数分の温かい緑茶を配ると一応は彼の図らいを汲んでが明日菜をそれを受け取り、落ち着こうと飲み始める。

 

 湯呑みを手にお茶を飲むとふと悠理と明日菜の目が合い、二人して咄嗟に顔を逸らす。

 

(ま、まともに明日菜の顔が見れねえ……!!)

 

 ティッシュを鼻に詰めて鼻血を無理矢理堰き止めたものの、未だに明日菜と目を合わせると互いに顔を赤くして視線を逸らしてしまう。

 

「ん?どうした悠理にアスナちゃん。二人して顔真っ赤にしておって。んん?フォッフォッフォッ」

 

(このジジイ、後でぶっとばす!!)

 

 腹の立つニヤニヤ顔で判り切った事を聞いてくる近右衛門に悠理は報復を決意した。このジジイの事だ。多分監視用の魔法で一部始終を見ていたはずだ。

 そしてようやく本題に入る。

 

「なるほど、修行の為に日本で学校の先生を……そりゃまた大変な課題を貰うたのぅ。まずは教育実習という事になるかの。今日から三月までじゃ」

 

「は、はい!よろしくお願いします!」

 

(てゆーかなんで魔法学校の卒業課題が教師なんだ?あ、でもこの学園都市には魔法先生もいるから年齢以外おかしくはないのか?)

 

 子供が先生だったり、教育実習生が三学期から担任と交代したり、そもそも教員免許無くねコイツといった疑問が次々と浮かぶが、考えるのが面倒臭くなった悠理はまぁいいかと思考を放棄した。

 

「でだ、結局なんで俺は態々女子校エリアに呼び出されたんだよじっちゃん」

 

「そうじゃ忘れとった。「オイ!?」悠理や、ネギ君はまだ住居が決まっておらん。お主の部屋は少し前にルームメイトの青山君が別の部屋に移動して実質一人部屋になっておったじゃろ?ネギ君を住まわせてくれんかの」

 

「え」

 

 確かに二学期の11月、悠理のルームメイトは男子中等部の魔法先生及び学園長からの指示で別室に移動になった。その事で悠理が住んでいる寮室は現在悠理一人で使っている。

 しかしよくよく考えてみれば同じ魔法生徒を態々別室に追い出すなんて事、それなりの理由がなければしないだろう。

 

(この妖怪ジジイ、最初から俺にこのガキんちょの面倒見させるつもりでいやがったな……)

 

 だが自明の理でもある。何せネギは英雄サウザンドマスターの息子にして『偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)』の候補生だ。優秀な人員をサポートとして就かせるのは当然だし、最年少で『偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)』となった悠理にその白羽の矢が立つのもまた当然だ。

 

 しかしハッキリ言ってさっきまでのやり取りから悠理から見たネギへの心象は微妙だ。悪くはないが良くもない。

 

(これまでウェールズの魔法学校でずっと育って来て、魔法使いとしての教育しか受けてない感じか……まぁそれなら一般常識とデリカシーがなかったりすんのはまだ仕方ねぇか)

 

 表社会で一般的な教育を受けていたとしてもこのくらいの年頃の少年が無神経な発言をしてしまうのは珍しくもない。それを加味すると礼義がなっているだけまだマシな方だろう。

 なんにせよたった10歳の子供の受け入れを拒否して放り出すのは流石に悠理としても良心が痛む。故に悠理は溜め息を吐きながらもネギの居候を許可する。

 

「……わーったよ。ウチに来なネギ君。んじゃ俺も授業あるし放課後またここに来るから」

 

「あ、ハイ!よろしくお願いします悠理さん」

 

 それに元々学園の寮だ。住人に関する決定権など生徒である悠理には無い。今のやり取りを見ていた明日菜はどうにも納得いかなそうな表情だが、男子寮に関する事を女子生徒の自分が口を挟めない事は分かってるので何も言わない。不機嫌そうな顔にはなってるが。

 

「さてネギ君、この修行は大変じゃぞ。駄目じゃったら故郷へ帰らねばならん。二度もチャンスは貰えはせん。その覚悟はあるんじゃろうな?」

 

 近右衛門は試すかの如くネギに尋ねる。確かにネギは優秀な『偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)』の候補でもあるが甘やかし過ぎるつもりはない。魔法使いであると同時に教師としての責任も伴うのだ。半端な覚悟ではこの先やって行けはしないだろう。

 

 そんな近右衛門の問いにネギはまっすぐな目をして答える。

 

「はいっ!やります!やらせて下さい!!」

 

(……良い目じゃ。やはり……)

 

 ネギの目を見てからチラリと悠理を見る。

 

「うむ。分かった!では早速今日からやって貰うとしようかの。しずな君!」

 

「はい!」

 

 近右衛門の呼びかけに合わせて入室して来たのは指導教員の源しずなだ。扉を開いて入って来ると同時に勢い余って近くに立っていたネギがその豊満な胸に顔を埋める形になってしまう。

 

「わぷ」

 

「あらごめんなさいね」

 

((羨ましい……))

 

 思春期の悠理とエロジジイの近右衛門の思考がリンクする。近右衛門はなんか良い感じにネギを試していたのに台無しである。タカミチは紳士なのでそんな事は考えない……ようにしている。

 

 しかし成り行きを見守りつつも既に決定している流れに納得していないのが明日菜だ。

 

「言っとくけど私はアンタが先生……しかも担任なんて絶対認めないからね!」

 

「ああん待ってーなアスナー」

 

 そう言い捨てて木乃香と共に一足先に学園長室を出て教室に向かう明日菜。彼女のお人好し具合は知っているので「これ最終的にはなんだかんだ認めるパターンだな」と結論付けた悠理も男子中等部に戻るべく学園長室を出て行った。

 そしてネギもしずなに連れられて職員室へ向かう。

 

「それではネギ先生、こちらへ」

 

「あ、ハイ」

 

 学園長室に残ったタカミチと近右衛門は悠理の気配が完全に遠ざかったのを見計らって重々しく口を開く。

 

「ネギ君の住居……本当によろしいのですか学園長。悠理君は……」

 

「これが本来あるべき形なのじゃよ。大人の勝手な都合で奪ってしまった時間を少しでも返さねばならん。例え当の二人が何も知らずとも……こんな事で償いにはならんがのぅ」

 

 何かを隠しながら話す二人の会話の意味を理解できる第三者はこの場にはいなかった。




・運命の出会いの占い

 ただし相手は男。

・明日菜の好きな人は主人公

 原作通り高畑先生だと振られた後振り向かせるという過程が面倒なので。ガトウの事があってもちゃんと理由があれば普通に同年代が恋愛対象になるだろうし。


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