ぷよぷよテトリス2 ~ シュルッツの冒険者達 (アヤ・ノア)
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プロローグ

1章に当たりますが、しょっぱなからオリジナルシーンになっています。
なので、オリジナル要素が苦手な方は、ご注意ください。


 ある空間の中で、一人の少女が佇んでいた。

 

「……? 私は何故、ここにいるのでしょう……。そもそも、私は誰なんでしょう……?」

 

 少女は自分が生まれた意味が分からなかった。

 自分がここにいる理由も分からなかった。

 

「そして、この、後から後から湧いてくる、不思議な、強い使命感……。

 ……そうですか。私の名前は、マール……」

 

 少女は自分の名前を思い出す。

 「マール」という名前を。

 

「ああ、だんだん思い出してきましたよぉ……。ええ、貴方の言う通りですねぇ……」

 

 少女――マールは、何者かと話をしているようだ。

 その姿は、マールにしか見えないようだが……。

 

「私の力は世界のために。ふふ……。ならば……私がやる事は、一つなんですねぇ」

 

 マールは何かの使命を思い出す。

 表情は、良からぬ事を企んでいるようだった。

 

「行きましょう……あの子達のところへ!」

 

 そして、マールはどこかに向かっていった。

 彼女が何をしようとしているのかは、まだ、ここにいる者達には誰も、分からなかった。

 

 その頃、プリンプタウンでは……。

 

「……どうしましたか、エア?」

 少女の姿をした風の精霊エアが、青い髪の少女の肩に乗って震えていた。

 この少女の名前はアリア、シュルッツからやってきた召喚士である。

 精霊はマナでできた生命体であるため、マナの揺らぎを感じ取る事ができる。

 なので、危険が迫ると召喚士に知らせる事がある。

「いつも以上に怯えていますね。何かありました?」

 アリアは精霊語でエアに語り掛ける。

 するとエアは「怖い」と精霊語でアリアに言った。

「怖い……? 何が怖いのですか?」

 エアは何を怖がっているのだろうか。

 それをアリアが聞こうとすると……。

 

「大変なのだ、アリア!」

 尖った耳と褐色の肌を持つ黒髪の少女が、慌てた様子で駆け出してきた。

 少女の名はレイリー、同じくシュルッツからやってきたシルヴァンの踊り子だ。

 ちなみにシルヴァンとは、エルフの亜種である。

「レイリー、そんなに慌ててどうしたんですか?」

「プリンプタウンに無いはずのものがあるのだ!」

「ああ、それはもう異世界のものしかありませんね」

 プリンプタウンは次元の境目が曖昧なので、頻繁に異世界から何かが迷い込んでいる。

 すっかり慣れているのか、アリアは冷静だった。

 だが、レイリーは落ち着く事はなかった。

「違うのだ! その世界は、箱の世界なのだ!」

 この世界と混ざった世界の名前を叫ぶレイリー。

 箱の世界……別名テトリス世界と呼ばれるそこは、

 以前にこの世界と混ざった事があるが、異変解決後はもう混ざらなくなっている。

 ……その、はずだったのだ。

 

「おかしいですね。もうあの異変は起こらないはず。……この世界がまた歪んだんでしょうか?」

「多分……。アリア! ジルヴァを探して、この異変を解決するのだ!」

「分かりました、レイリー」

 そう言って、アリアとレイリーはジルヴァを探しに向かった。

 

 その頃、ジルヴァは……。

 

「ぷよぷよ~~~~~!!」

「くそっ、うじゃうじゃと……!」

 たくさんの凶暴化したぷよに囲まれていた。

 遠距離から矢を放って無力化しているものの、ジルヴァは物理攻撃はあまり得意ではない。

 ちなみに、色は全員三色ずつなので、オワニモの効果で消滅はしない。

「うおっ!」

 ぷよが体液をジルヴァにかけると、それに釣られてたくさんの魔物がやってくる。

 魔物はジルヴァを食おうとしていた。

 ジルヴァは弓矢で魔物を撃退しているものの、体液を被っているためきりがない。

 このまま魔物に殺されると思った、その時。

 

「エアトルネード!」

 アリアはエアを召喚し、ジルヴァを囲んでいたぷよを一掃する。

 真剣な表情で杖を構えている少女と、

 小剣を構えている少女の姿を見たジルヴァの瞳に希望の光が宿る。

「アリアに、レイリー!」

「わたし達が来たからには、もう安心なのだ!」

 笑顔でジルヴァを助けに来たと宣言するレイリー。

 一方で、アリアは冷静に呪文を詠唱している。

「ミスティレイン!」

 アリアが魔法名を言って杖を天に向けると、雨が降ってきてぷよの身体が溶け、

 ジルヴァにかかった体液も落ち、彼を狙っていた魔物も水に流された。

 水の精霊ミスティを召喚したのだ。

「これで大丈夫か……」

「今のうちに逃げましょう!」

「ああ!」

 アリア、レイリー、ジルヴァは大急ぎで逃げ、安全なふれあい広場へと向かっていった。

 

 だが、そこで見たものは衝撃の光景だった。

 なんと、アルカディアにないはずの、様々な色合いのブロックがあったのだ。

「これは箱の世界にある【テトリミノ】ですか?」

 アリアがブロックを分析すると、箱の世界のものである事が判明した。

「何故、プリンプタウンにこんなものがある」

「分からないのだ。でも、わたしはこれを異変だと思っているのだ」

「そうですね……」

 顎に手を当てるアリア。

 もうあの世界とは混ざらなくなったはずなのに。

 ジルヴァは、真剣な表情をしている。

「……分かっているな、アリア」

「ええ。……異変を解決するんでしょう?」

「当然だ、俺達冒険者がする事はただ一つ。この世界で起きた異変を解決する事だ」

 アリアは杖、レイリーは小剣、ジルヴァは弓を握り締めている。

 冒険者としての彼らの血が騒いでいるのだ。

 

「さあ、異変を解決しに行きましょう!」

「いっぱい踊るのだー!」

「……まずはプリンプタウンの調査からだな」

 

 今、アルカディアと箱の世界が、再び混ざろうとしていた。

 シュルッツの冒険者はそれに気づき、解決するために動こうとしている――




ストーリーがあるぷよぷよで、りんごメインなのに辟易したので、
りんご達が異変解決に回っている間、プリンプタウンでは何が起こっていたのかを書きました。
要するにプリンプも大事にしろという意味です。


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1 ~ 行方不明の生徒

今日はクリスマスイブ、おしゃれコウベの誕生日。
そんなわけで、これを投稿しました。


 アルカディアと箱の世界が再び混ざろうとした。

 そのため、アリア、レイリー、ジルヴァの三人は冒険者として、異変解決をする事にした。

 

「……でも、まずはどこに行くのだ?」

「プリンプ魔導学校に行こう。そこなら有力な情報があるかもしれないからな」

「そうですね!」

 まずはプリンプ魔導学校に行く事になった三人。

 果たして、待ち受けているのは何なのか。

 

「困ったわね……」

「うん、こうも続くとね~」

 その頃、プリンプ魔導学校では、

 薄紫の髪に眼鏡をかけた女性が顎に手を当てて困った顔をしていた。

 彼女の隣にいるクロスボウを持った男性も、いつもと違って深刻な表情をしていた。

 この二人の人物はアコール先生とルゥ先生、プリンプ魔導学校の教師である。

 

「アコール先生にルゥ先生じゃないですか。

 一体、どうしたんですか?」

 アリア、レイリー、ジルヴァがプリンプ魔導学校の校門に行くと、

 アコール先生とルゥ先生が待っていた。

 何やら困った事が起きているようだ。

「アリアさん、レイリーさん、ジルヴァさん、貴女達は冒険者ですよね?」

「ええ、そうですが……」

「実は、貴女達に頼みたい事があるのです。ルゥ、お願いします」

「うん」

 ルゥ先生はアリア達に情報を話した。

「この学校の生徒が行方不明になっているんだ~。

 探そうにも、ぼく達は教師だから動けないんだ~」

「そこで、貴女達冒険者にお願いしたんですよ。冒険者は自由に動けるらしいですからね」

「……それで、異変と何か関係はあるんですか?」

「四角いブロックが降ってからしばらくして、生徒達が行方不明になりました」

「!」

 どうやら、魔導学校の生徒が行方不明になったのはテトリミノが降ってきた時かららしい。

 有力な情報を聞いたレイリーは、冒険者セットから紙とペンを取り出し記入する。

「それで、生徒はどこに行ったのだ?」

「多分、ナーエの森に行ったと思います」

 ナーエの森にはよく生徒が行く事はあるが、それで行方不明になる事はあるのだろうか。

 疑問に思うアリア達だが、放っておくわけにはいかない。

 

「分かったのだ、わたし達が生徒を探すのだ」

「お願いしますね、冒険者さん。先生達はここで待っていますよ」

「必ず無事で帰ってくるんだよ~」

「朗報を期待してくださいね」

「……みんな、この異変を必ず解決するぞ!!」

 そう言って、アリア、レイリー、ジルヴァは、

 行方不明の生徒を探すため、ナーエの森に行く道を歩いていった。

 三人を笑顔で見送っていく中、アコール先生は何かに気づく素振りを見せた。

 ルゥ先生は、それに気づいていなかった。

 

「ぷよぷよ~~~」

 ナーエの森に行こうとしたその時、凶暴化した緑ぷよが不意打ちをしてきた。

「わっ、わっ、わっ!」

 三体の緑ぷよがレイリーに近付き、体当たりする。

 レイリーは身軽な動きで攻撃をかわして、アイソレーションで反撃するが、

 弾力溢れる身体なので大したダメージにはならなかった。

「ファイアーシュート!」

「ぷよよよ~~~」

 アリアは距離を取った後、呪文を唱えて炎の精霊フェーゴを召喚し、

 フェーゴが炎の弾丸を放ってぷよを倒した。

「食らえ!」

「ぷよぷよ~」

 ジルヴァは弓の弦を引いた後、ぷよに向かって矢を放つが当たらなかった。

「くそっ、こいつには刺突攻撃がよく効くのに……」

「うわぁっ!」

 ぷよが体当たりを仕掛けてレイリーを攻撃。

 何とかかわそうとするが、動きが速くなっておりギリギリで命中してしまう。

「クリケット!」

「ファイアーシュート!」

「うよよよぉ~」

 レイリーは小剣を構えて、舞うようにぷよを切り刻む。

 アリアが召喚した炎の精霊が火炎弾を放つと、ぷよは星になって消えた。

「食らえ!」

「ぷよっ!」

「くっ!」

 ジルヴァはぷよに矢を放ったが、ぷよはギリギリで彼の攻撃をかわし、体当たりした。

「えぇーい、大人しくするのだ! バタフライ!」

「三度目の正直だ!」

 レイリーは小剣でぷよを高く持ち上げる。

 そして、ジルヴァが矢でとどめを刺し、凶暴化したぷよを全て撃退した。

 

「はぁ、はぁ……」

「不意打ちに気づかなかったなんて、冒険者として失格なのだ」

「大丈夫ですよ、レイリー。次があります。もう少し冷静になればいいですから」

 アリアがレイリーを笑顔で元気づける。

「あ、ありがとうなのだ、アリア! よし、生徒がどこにいるか探すのだ!」

 レイリーは生徒の足跡を探していた。

 アリアに言われた通り、冷静に足跡を探している。

「見つけたのだ。こっちなのだ」

 どうやら、無事に生徒の足跡を見つけたようだ。

 アリアとジルヴァは、レイリーが見つけた足跡を辿っていく。

 しばらくすると足跡は消えていたが、三人はナーエの森に到着した。

「先生の言う通り、生徒はここで行方不明になったようです」

「……でも、おにおんが見張りにいるのだ」

 おにおんが見張っているので、迂闊に近づく事はできない。

 何とか忍び寄っておにおんをばたんきゅ~できればいいのだが……。

「……わたしに、任せるのだ」

 レイリーはこっそりとおにおんに忍び寄り、おにおんをばたんきゅ~させようとした。

 だが、彼女がおにおんの近くに近付いた瞬間、ガサッ、という草の音を鳴らしてしまう。

「オニ、オーン!」

 それに気づいたおにおんが、棍棒を構えて襲い掛かってきた。

 おにおんに見つかってしまった。

「しまった!」

 レイリーは慌てて小剣を持って身構える。

 アリアは杖、ジルヴァは弓を構える。

「レイリー、私達がフォローしますよ!」

「失敗した分は必ず取り戻す!」

「た、助かるのだ~~~!!」

 

「オーン……」

「す、すまなかったのだ」

 何とかおにおんをばたんきゅ~させた後、三人はナーエの森に入った。

 ナーエの森は何故かは薄暗く、かつ生暖かい。

 入口から向かって右には雑草があり、入口から見て正面の、つまり奥には道が二つある。

「まずは、どちらに行けばいいか調べましょう」

「わたしが調べるのだ。ふんふんふんふん……」

 レイリーはシルヴァン族*1なので、森に詳しい。

 彼女が森を探索していると、突然、何かを見て吐きそうになった。

「うぇ……」

「どうしましたか、レイリー?」

「こ、これ……」

 レイリーが赤い液体を指差すと、アリアは驚いた。

「……! 血じゃないですか!」

 それは、平和なプリンプタウンに似つかわしくない「血」だった。

 血はまだ温かく、左の道に点々と続いている。

「何という事でしょう……ここで激しい戦いが行われていたなんて」

「生徒の身に何かあったかもしれないのだ」

「二人とも、急いで追いかけるぞ」

「はい!」

 ナーエの森で戦いが行われていたとなると、なおさらゆっくりしてはいられない。

 アリア、レイリー、ジルヴァは急いで左に向かう。

 

「ここ……また、違う場所に……」

 左の通路を抜けると、別の場所に繋がっている通路が発見できる。

 レイリーが調べてみると、血が点々と奥の通路に繋がっていた。

 だんだん血の量が増えていて、レイリーは不快な気分になる。

「う……耐えられないのだ……」

「レイリー、少し休んでください。えっと……」

 アリアはレイリーを休ませた後、奥の通路に聞き耳を立てる。

 

「うぅ、どうしても勝負をしないといけないんです」

 奥の通路から、少女の声が聞こえる。

 その声は、アリア達には聞き覚えがあった。

 

「リデルさん……!」

 彼女は望んで勝負をしているわけではない。

 三人はリデルを助けるべく、通路を抜けた。

 すると、冒険者達に背を向けたおにおん達が何かを囲んでいる様子が見えた。

「助けてください!」

 リデルの服は、泥と血で汚れてしまっている。

 おにおんの目はつり上がっていて、リデルを一方的に攻撃していた。

 こんな事は絶対にありえなかった。

「よくもリデルを! 許さないのだ!」

 それに怒りを覚えたレイリーは小剣を抜き、操られたおにおんに先端を突きつけた。

 アリアとジルヴァも、レイリーに続いて戦闘態勢を取る。

「うっ……ううっ……うあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 アリア達は操られたおにおんとリデルと戦った。

 

「ファイアーシュート!」

「せいやっ!」

 アリアは炎の精霊フェーゴを召喚し、火炎弾でおにおんを燃やす。

 ジルヴァはおにおんの急所を矢で射抜き、一撃でばたんきゅ~させた。

「リデルさん、落ち着いてください! ウィンドカッター!」

「ヴェント!」

 アリアとリデルは互いに風を放出し、打ち消す。

「アイソレーション!」

「ウラガーノ!」

「痛いっ!」

 レイリーは高く飛び上がってリデルに斬りかかるが、

 かわされて暴風を起こす魔法で反撃を受ける。

「はぁっ!」

 ジルヴァはおにおんに狙いを定めて、矢を放つ。

 おにおんが接近してジルヴァを殴ろうとするが、ジルヴァはギリギリで攻撃をかわした。

「無理はするな、ヒーリング!」

 ジルヴァは傷ついたレイリーに回復魔法をかける。

「やめるのだ、リデル!」

「勝負はやめません……! ヴェント!」

「あうっ! グランストーン!」

 リデルはレイリーの攻撃をかわして、風の刃を飛ばしてアリアを吹き飛ばす。

 だがアリアは衝撃を利用して杖を銃のように構え、

 おにおんに大地の弾を放ち、ばたんきゅ~させた。

 これで残るはリデルのみとなった。

「リデルは、勝負の何が楽しいのだ?」

「勝負をする事が、楽しいんです。わたしの邪魔をしないでください。

 ティ・ティ・ティフォーネ!」

 操られたリデルは、勝負そのものを楽しいと称している。

 レイリーの言葉は、耳に入っていなかった。

「このわからずや! バ・バ・バタフライ!」

 レイリーは高速でリデルを切り刻む。

 リデルが怯んでいる間に、アリアは地の精霊グランを召喚して突撃させ、

 ジルヴァは回復魔法でアリアの傷を癒す。

「楽しい勝負を楽しみたいんです。トゥオーノ!」

「何するのだ!」

「グランディナーレ!」

 リデルは雷を落とし、レイリーを攻撃する。

 レイリーは怯んだために次の攻撃ができず、雹を降らせる魔法で追い打ちを受ける。

「うぅ、身体が寒いのだ……」

「無理はしないでくださいね、私達がリデルさんを止めますから」

「あ、ありがとうなのだ……」

 頼もしい仲間の姿を見たレイリーは一安心した。

「俺はお前の回復に専念する、アリアとレイリーはリデルを正気に戻せ!」

「はい!」

 ジルヴァが回復魔法を唱えている中、アリアとレイリーは操られたリデルを攻撃した。

 ダメージはリデルを殺さないギリギリだ。

「フェーゴボム!」

「アルコバレーノ!」

 アリアが放った炎の弾丸と、リデルが放った光線がぶつかり爆発する。

 ジルヴァは凍傷状態のレイリーに回復魔法をかけ続けている。

 だが、三人の魔力は尽きようとしていた。

 すると、凍傷から回復したレイリーはリデルの身体を掴み、小剣に魔力を込める。

「……レイ、リー……!?」

「ここまでやってきたアリアとジルヴァの行動を、わたしは絶対に無駄にしないのだ……!」

「な、何ですか……!」

「元に戻るのだ! リデル!!」

きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 魔力を込めたレイリーの小剣が、リデルを貫く。

 リデルの身体は震えるが、しばらくして、その場にばたりと倒れるのだった。

 

「お疲れ様です……みんな」

 アリアは仲間達に優しくそう言いかけるのだった。

*1
エルフの一種。森に詳しい。




某ぷよテト小説でもあったのですが、これくらい激しいバトルじゃないと、
私は今のぷよぷよに満足できないのです。
あ……それは魔導物語でしたか。

そんなわけで、次回もまた、生徒を救出します。


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2 ~ 暴走するライラック

次の相手はオリキャラです。
良くも悪くも、ウチのキャラの中では個性的な方です。


 アリア達はリデルをばたんきゅ~させた後、プリンプ魔導学校に運んだ。

 今の彼女からは不気味な気配は漂っていない。

 ルゥ先生は「お疲れ様~」と言った後、リデルをプリンプ魔導学校に引き取った。

 

「それにしても、テトリミノの落下といい、生徒の行方不明と暴走といい、どこかで聞いた事があるような……」

 アリア達は以前に起きたテトリス異変の事をりんごから聞いており、僅かながら知っていた。

 今回の異変はそれに類似していると推測する。

「考えても仕方ないのだ、今は行動あるのみなのだ」

「そうですね。ところで……アコール先生とルゥ先生は行かないんですか?」

「ごめんなさいね、アリアさん。先生達は学校を守るために忙しいの」

「だから、きみ達でプリンプタウンを調査して~」

 アコール先生もルゥ先生も、プリンプ魔導学校から離れる事はできない。

 この異変を解決できるのは、アリア達だけなのだ。

「分かりました、アコール先生、ルゥ先生」

「引き続き、行方不明になった生徒がいたら、救出と引き取りを頼みますよ」

 

 アコール先生とルゥ先生に見送られたアリア、レイリー、ジルヴァは、

 行方不明の生徒を探していた。

 道中ではテトリミノがあちこちに落ちており、レイリーがちらちらと確認している。

「あっちにもこっちにもテトリミノがあるのだ」

「誰がこんなものをばら撒いたんでしょうか」

「今はテトリミノに構うより、生徒を探すんだ」

 ジルヴァにとって、テトリミノの落下は生徒失踪の二の次だ。

 今は一刻も早く生徒を探すのが、アリア達冒険者の目的なのだ。

「とはいったものの、

 肝心の生徒はどこにいるんでしょうか……」

「プリンプタウンホールに行けば分かるか?」

「そうなのだ! あそこにいるレイくんなら、何か知ってるかもしれないのだ!」

 ユウちゃんとレイくんは、幽霊ネットワークで人間に友好的な不死者と情報交換をしている。

 レイくんはプリンプタウンホールにいるため彼に出会えば有力な情報が得られるかもしれない。

 そう思った三人はレイリーを先頭に、プリンプタウンホールに行った。

 だが、三人が見たのは衝撃的な光景だった。

 

「レイくん……僕と……勝負しろ……」

「い、嫌だ……」

 ライラックが杖を持って、レイくんと勝負しようとしていた。

 金のオーラを纏っており、目も金色になっている。

「ぼく……ユウちゃんと一緒じゃなきゃ……」

「問答無用……」

 そう言って、ライラックが杖をレイくんに振り下ろそうとした瞬間。

 

「グランスネア!」

「……!」

 アリアが地の精霊グランを召喚し、ライラックの地面を隆起させて転ばせた。

 レイくんは浮遊しながらライラックから逃げる。

 ライラックは勝負を邪魔されたと思い込み、鋭い目でアリア達を睨みつけた。

「よくも……邪魔をしたな……」

「理由もなく勝負をするなんて、ライラックさんらしくありませんよ」

 アリアが知っているライラックは、自分からぷよ勝負を仕掛ける事はない、

 陰気で内気な根暗少年のはずだ。

 何かに操られている……そう思ったアリアは、ライラックを止めるべく、杖を構える。

 

「殲滅……する」

「レイリー、ジルヴァ! ライラックさんを止めますよ!」

「もっちろん、なのだ!」

「倒せば解決する……単純だが、今はこうするしかないだろう」

 レイリーとジルヴァも身構えて、暴走するライラックと戦った。

 

「アイソレーション!」

「うっ……」

「いくぞ!」

 レイリーは回転しながら小剣でライラックに斬りかかる。

 一瞬だけ怯んだライラックに、ジルヴァが放った矢が突き刺さる。

「ファイアホイール!」

「そんな攻撃は……効かない……」

 アリアは炎の精霊フェーゴを召喚して炎に変えて突撃させるが、

 ライラックは泡の盾を作って防御した。

 水の魔法を得意とするライラックにとって、炎攻撃は簡単に防げるものだった。

「……フォールブラスト」

「うわわわぁー!」

 ライラックが杖を振り下ろすと、レイリーの頭上に巨大な滝が出現した。

 まともに浴びたレイリーの身体がずぶ濡れになる。

「服とかが濡れて気持ち悪いのだ……」

 レイリーは不快な感触に気分が悪くなる。

 戦闘への影響は少ないが、女性のレイリーには耐えられない事だ。

「わたしに恥をかかせた責任を取るのだ!」

「そんな事は……どうでもいい……。今は……勝負するのが……楽しい……」

 怒ったレイリーはライラックに突っ込んで、小剣でライラックの身体を突き刺す。

 ライラックは泡の盾を張ったため、急所を貫かれる事はなかった。

 ジルヴァはライラックの発言に耳を傾ける。

「今、勝負するのが楽しいと言わなかったか?」

「リデルさんと同じ事を言いましたね」

 暴走しているライラックも暴走していたリデルも、勝負を楽しんでいるような発言をしていた。

 異変の原因をある程度推測したが、今、ここでそれを考えるわけにはいかない。

「ですが、まずはライラックさんを止めてからにしましょう!」

「ああ!」

「せい! えい! やぁ!」

「……!!」

 レイリーはフェイントを仕掛けて、ライラックを困惑させる。

 隙を突いたジルヴァの矢とアリアの炎魔法がライラックに命中し、ダメージを与える。

「ヒール……オー……タ……間違えた」

 ライラックは呪文を唱えて傷を癒そうとした。

 だが、詠唱を間違えてしまい、回復魔法は発動しなかった。

「逃がすか!」

 そこを容赦なく、ジルヴァは矢で攻撃する。

「とどめです! ファイアホイール!!」

「許せない……! 僕の負けだ……」

 そして、アリアがとどめに放った炎がライラックを包み込み、彼をばたんきゅ~させた。

 ライラックの身体から黒い煙が出て、空に消える。

 この勝負は、アリア達の勝利に終わった。

 

「ヒールウォーター! ……大丈夫ですか? ライラックさん」

 アリアはばたんきゅ~しているライラックに回復魔法をかけた後、声をかける。

「……僕は一体何をしていたんだ……。……あ、この光景は、一体……」

 ライラックは、ずぶ濡れになっているレイリーを見て驚いていた。

 申し訳なく思ったライラックは、レイリーに杖を向けて、

 彼女の身体についている水気を消し去った。

「君を濡らして……ごめんなさい……」

「わたしを濡らしたのがきみの意志じゃないと分かったから、許すのだ」

「……ありがとう……」

「ところで、言いそびれた事があるのですが、どうして勝負したいと言い出したのですか?」

「テトリミノが降って来た時に……不気味な女の子が現れて……

 気が付いたら……こんなところに……」

「不気味な女の子? それは誰ですか?」

「よく分からない……」

 どうやら、暴走していた時の記憶はないようだ。

 アリアはライラックが言った「不気味な女の子」の詳細を聞こうとしたが、

 ライラックは、はっきりと思い出せなかった。

「そういえば、お前を倒した時、お前の中から黒い煙が出てきたな」

 ジルヴァはライラックをばたんきゅ~させた時、彼の身体から黒い煙が抜け出た事を思い出す。

「多分、あの黒い煙がお前をおかしくさせたんだと思う」

「そういう事だったのか……。ごめん……」

「……まぁ、とにかく、勝負は終わりました。早くプリンプ魔導学校に戻りましょう」

「うん……」

 アリアはライラックの手を引いて、レイリー、ジルヴァと共にプリンプ魔導学校に戻った。




次回は新たな仲間が加入します。


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3 ~ 勇者と共に

4人目の仲間が加入します。


 ナーエの森で、黒みがかった茶髪に茶色の瞳の戦士が凶暴化したおにおんに囲まれている。

「くそっ! なんでこんなに魔物がいるんだ!」

 戦士は剣でおにおんをあしらっているものの、あまりにも数が多すぎる。

「メガレイブ!」

 戦士は手を掲げて、呪文を唱え、雷を生み出す。

 それを投げつけると雷が広がりおにおんを包んだ。

「ファイナルクロス!」

 おにおんの体が痺れ、行動不能になったところに、戦士は十字に剣を一閃した。

 全てのおにおんがばたんきゅ~した隙に、戦士はその場を立ち去り、森を出ていく。

 

「急いでこの森を出なければ!」

「オーン、オンオーン!」

 戦士がナーエの森を脱出しようとした次の瞬間、森の奥から、たくさんのおにおんが現れた。

 消耗していたが、おにおんは容赦しなかった。

「勇者に敗北はない……その、はずなのに……」

 

 その頃、アリア達は行方不明の生徒の捜索をしようとしていた。

 だが、ジルヴァがふむぅ、と唸っている。

「どうしましたか、ジルヴァ?」

「俺達の仲間に、前衛はいるか?」

「それはわたしの事なのだ?」

「違う、俺達は正直言って打たれ弱い。

 だから、前に出て安心して戦えるように、壁役を仲間にしたいんだ」

 アリアとジルヴァは後衛型なので論外として、

 レイリーは前に出て戦うタイプだが、軽戦士なので防御力は低い。

 敵から攻撃を連続で食らえばすぐに倒れてしまう。

 それを防ぐためにも、壁役はパーティーに必須だとジルヴァは判断したのだ。

「確かに敵の攻撃を受けるための前衛は必要ですね。全然気が付きませんでした」

「それで、その前衛はどこにいるのだ?」

「分からん。色んな奴に聞いてみるしかないようだ」

 

 アリア、レイリー、ジルヴァは新たな仲間の居場所を探すべくプリンプタウンで情報収集した。

 有力な情報はある程度見つかったようで、仲間はナーエの森にいるという。

「またナーエの森か……」

 リデルもライラックもナーエの森で見つかったためジルヴァは若干うんざりする。

 だが、ここで探索を諦めるわけにはいかない。

「あ、これって薬草にマジカルハーブ?」

 レイリーはどこかに茂っている薬草を発見した。

 それをいくつか拾って、鞄の中に入れる。

 その後も辺りをくまなく見渡すと、床に白い羽根が落ちているのに気づいた。

「この羽根、どこかで見覚えがあるのだ」

「見覚えがあるって……誰の羽根ですか?」

「あの、すっごい音痴な鳥人なのだ」

「ああ、そうですね……」

 恐らく、この森には「あの鳥人」がいるだろう。

 だが、気付かれなければ戦う必要はないため、三人は鳥人に気付かれないように歩いた。

「あっ!」

「はらららら~♪」

 だが、レイリーがうっかり草の音を立ててしまい、

 それに気づいた鳥人が三人の目の前に現れた。

 そう……この鳥人の名は、ハーピーである。

 だが、彼女も不穏なオーラを身に纏っていた。

「わたしの歌を聞きながら~♪ 勝負してください~♪」

「そうはいかないのだ!」

 そう言って、レイリーはアリアとジルヴァの手を引いてハーピーから逃げ出した。

 今は彼女と戦う必要はない。

 前衛を探して仲間にするのが目的だ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……ここなら、大丈夫なのだ?」

 ハーピーから逃げながら、三人は森の奥に入る。

 すると、膝をついている戦士の姿を発見した。

 戦士は虚ろな目ながらも、しっかりと三人の顔を見てこう言った。

「キ、キミ達、ここに、来たのか……?」

「あなたは、ラグナスさんじゃないですか!」

 その戦士こそ、勇者ラグナス・ビシャシだ。

 だが、ラグナスは魔物の攻撃で傷ついていた。

「大丈夫ですか、ほらっ……! 逃げますよ!」

 アリアはラグナスの手を握って、起き上がらせた。

 そして、ナーエの森を出るために転移呪文を唱えようとするが、

 アリアの大きな声のせいで魔物に気づかれ、とべない鳥とこうもりギャルが姿を現した。

「くそっ……!」

「こいつらも凶暴になっているな……。ラグナス、戦えるか?」

「ああ、無理はしない程度にやる!」

 ラグナスは立ち上がって剣を構える。

 アリア、レイリー、ジルヴァもそれぞれの武器を構え、魔物を迎撃する体勢に入った。

 

「よっこらしょ」

「あつっ!」

 とべない鳥は足についている枷を振り回し、ラグナスを殴りつけて攻撃する。

「まあ、アナタ勇者気取りの生意気さん?」

「何だとっ!? 俺は本物の勇者だっ!」

 こうもりギャルはラグナスに嫌味を言って精神的なダメージを与える。

 ラグナスは激昂してしまったようだ。

「ド・オヴァ・デ・シー!」

「ファイアホイール!」

 ジルヴァはラグナスに近付き回復魔法で傷を癒す。

 アリアはとべない鳥に杖を向けて、フェーゴを召喚して炎に変えて突撃させる。

「えぇーい! 邪魔するんじゃないのだー!」

「はぁーしんど」

 レイリーはとべない鳥に小剣を振り下ろすが、とべない鳥はジャンプで攻撃をかわす。

「アタック!」

「どっこいしょ」

「そんな攻撃!」

 ラグナスは飛び上がってとべない鳥を切り裂いた。

 直後にとべない鳥がラグナスに鉄球を振り下ろすが、ラグナスは剣でとべない鳥の攻撃を防ぐ。

「よっこらしょ」

「何だとっ!?」

「おほほほ、慢心して大ダメージを受けるなんて、なんてお馬鹿さんなの」

 だが、もう一体のとべない鳥の攻撃を許し、大ダメージを受けてしまう。

 さらにこうもりギャルの悪口が刺さってしまった。

「ド・オヴァ・ラ・ホル・ド・テネブ!」

「た、助かる」

 ジルヴァはヒーリングより回復力が高いホーリーヒールを唱えてラグナスを癒す。

「とどめです、ファイアーシュート!」

 アリアは炎の精霊フェーゴを召喚して、弱っているとべない鳥に向かって炎を放ち倒した。

「ライトスラッシュ!」

 ラグナスの光を纏った剣がとべない鳥を切り刻む。

「どっこいしょ」

「クリケット!」

 レイリーはとべない鳥の攻撃をかわして、小剣で華麗な斬撃を繰り出し反撃する。

 ラグナスはこうもりギャルに嫌味を言われ、ジルヴァはラグナスの回復に専念する。

「ちょっとばかし、痛いのだ!

 シャープネス、シャープネス、シャープネス、バ・バ・バ・バタフライ!!」

 レイリーは力を上げる呪文を唱えた後、華麗な舞でとべない鳥を切り刻む。

 とべない鳥は魔力が込められた連続斬りに耐えられず、ばたんきゅ~した。

「ライトスラッシュ・ファスト!」

「きゃぁっ!」

 ラグナスはこうもりギャルに素早く斬りかかる。

「あらまぁ、肌が黒い癖に性格は黒くないのね」

「うぐっ……許さないのだ!」

 こうもりギャルに悪口を言われたレイリーは激昂してこうもりギャルに斬りかかる。

「ウィンドカッター!」

 アリアも風の精霊エアを召喚して風の刃を飛ばす。

 こうもりギャルが吹き飛び、ラグナスはこうもりギャルに突っ込んでいく。

「とどめだ! ファイナルクロス!!」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 ラグナスは剣に光を纏わせ、十字に斬りつける。

 こうもりギャルは強烈な攻撃に耐えられず、空の彼方に吹っ飛ばされていった。

 

「ふぅ……終わったな」

 ナーエの森からは、魔物の気配が消えていた。

 ラグナスは汗を拭っている。

 かなり身体を動かしたので、疲れているようだ。

 アリア、レイリー、ジルヴァも息を荒げている。

「……ちょっと休みましょうか」

「あ、ああ、そうだ、な……もう、くたくただし」

 流石に連戦が続いては、体力がもたない。

 四人は一旦、休む事にするのだった。

 

 こうして、ラグナスを仲間にしたアリア達は、ナーエの森を後にし、休息するのだった。




私の中でのラグナスはSS魔導版をベースにしています。
ぷよSUN版だとあまりにも自己中心的過ぎるから……。


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4 ~ 王子と従者

さかな王子&オトモ戦です。
オトモは脇役としては有能でしたが、最近は出てませんよね。
だから、それなりに活躍させました。


「調理されたものを食べると、元気になりますね」

 アリア、レイリー、ジルヴァ、ラグナスは、魔物との戦いで疲弊したため、

 今日は未完の塔の休憩室で食事を取っていた。

 今、四人が食べているのは、ジルヴァが作ったポトフである。

 柔らかく煮込んだ野菜がとても美味しい。

 とろとろに煮込まれているものの、決して煮崩れしていない、絶妙なバランス。

「うん、美味しいです!」

「具がたくさん入っていて身体があったまるのだ~」

「英気を養うには最高の料理だな、だが男のキミがこれを作れるとはな」

 アリアとレイリーは素直な感想を漏らす。

 一方、ラグナスは意外そうな顔をしていた。

「ふん、俺はシュルッツ魔導学校にいた時は家庭科の成績は優秀だったんだよ」

「すまなかったな」

 ジルヴァはむっとした顔で、ラグナスを見る。

 ラグナスはジルヴァに謝ると再びポトフを食べた。

「でも、キミ達はこうやって、プリンプタウンで起こる異変を解決してるんだな」

「ええ、ですが私達だけでは心許なくて……。

 勇者のあなたに来ていただいて、ありがとうございました」

「いいんだ、困った時はお互い様さ」

 わいわいと会話する四人。

 だが、しばらくするとアリアは険しい表情になる。

「……ですが、あなたを仲間にしたからといって、状況が良くなるわけではありません」

「ああ、世界の脅威はまだ払えていない」

 四人はあくまで休息を取っただけだ。

 まだこの世界は、テトリス異変の影響を受けて混乱している。

「準備をしたら、生徒を助けに行きましょう」

「生徒?」

「プリンプ魔導学校の生徒ですよ」

 アリアはラグナスにこれまでの事情を話した。

 テトリミノが降って来た事、各地で魔物が凶暴化した事、

 そしてプリンプ魔導学校の生徒が行方不明になった事……。

 彼女の話を聞いたラグナスはうむ、と頷いた。

「なるほど、勇者として放ってはおけないな」

 ラグナスは困っている人を助けるのが信条だ。

 異変が起きたため、迷わず彼は動いた。

「勇者ラグナス・ビシャシ。キミ達の仲間になろう」

「ありがとうなのだ、ラグナス!」

 ラグナスという心強い仲間を手に入れたアリア、レイリー、ジルヴァ。

 三人の冒険は、これから始まるのだ。

 

「それじゃ、生徒を探すのだー!」

「おー」

 四人は未完の塔を後にして、引き続き、行方不明の生徒を探しに行こうとした時だった。

 

「コレ、ソコノモノ。クルシュウナイ、チコウヨレ」

「苦しゅう……なんだ?」

 桃色の矢鱈と偉そうな魚が、殿様言葉を話した。

 ラグナスは訳が分からず、?マークを浮かべる。

「あぁ、この子はさかな王子といって、ちょっと変わった言葉を使うんです。

 今のは、近くに来てほしい、という意味です」

「こ、こうか……?」

 ラグナスがゆっくりとさかな王子に近付く。

「サヨウ。ヨクゾ、ヨノタノミヲキイタ。ホウビトシテ、オヌシヲヨノシモベニシテヤロウ」

「しもべだって? ふざけるな!」

 ラグナスはしもべ扱いされて怒るが、さかな王子は動じず話を続ける。

「タワケテナドオラヌ。ヨハオウジデアル。ヒトリヤフタリ、シモベヲツレテモヨカロウ」

「何だと!?」

「まぁまぁ落ち着いて、ラグナスさん……」

 アリアは何とかラグナスを落ち着かせようとする。

 その時、どこかから足音がこちらに向かって近づいてきた。

 

王子ーーーー!!

「ム! マサカ、コノアシオトトコエハ……!」

 さかな王子が振り向くと、大急ぎで走って来たのは彼の教育係であるオトモだった。

 オトモはさかな王子を見つけるとすぐに捕まえた。

「ナントイウフカク! ヨガトラエラレルトハ!」

「王子、今度こそ城に戻ってください」

「ハナセ! ハナセェェェェ! ソコノオヌシ!」

 さかな王子は大声でラグナスを呼んだ。

「お、俺か!?」

「ヨヲオトモカラカイホウセヨ!」

「オトモ、ちょっと待ってくれ。そいつを放してくれないか?」

「はっ! うっかりしてしまいました」

 オトモはさかな王子を掴んでいたが、しばらくして、彼を解放した。

 さかな王子はしばらくの間、大人しくしていた。

 

「王子がご迷惑をかけまして申し訳ありません」

 オトモはさかな王子が迷惑をかけた事をさかな王子の代わりに謝罪する。

 落ち着きを取り戻した後、ジルヴァはオトモに用件を聞いた。

「バタバタしてすまないが、プリンプ魔導学校の生徒はどこに行ったんだ?」

「生徒ですか? そういえば、眼鏡をかけた男の子が

 『楽しい勝負をしたい』と呟きながらアルカ遺跡に向かっていきましたよ」

「そうか、そいつも勝負病にかかっているんだな」

 眼鏡をかけた男の子といえば、クルークだ。

 彼も今まで行方不明になった生徒と同じく、勝負病(ジルヴァ命名)にかかっているようだ。

「情報提供、ありがとうございました」

「どういたしまして」

「コンカイハミノガシテヤロウ。

 ジャガ、ツギニデアッタトキハ、オヌシガシモベニナルトキジャゾ!」

 四人はさかな王子とオトモと別れようとした。

 すると突然、さかな王子とオトモを光の柱が包み込んだ。

「ウ……コノヒカリハ……」

「王子、いけない!」

 さかな王子とオトモは光の柱に抵抗しようとする。

 だが、光はますます強まっていき、やがて二人を完全に光で包み込んだ。

 光が消えると、さかな王子とオトモは不穏なオーラを身に纏っていた。

「ナンダカ、タノシイショウブガシタクナッタゾ」

「私も楽しい勝負がしたいです……」

 光を浴びたさかな王子とオトモは、勝負病にかかってしまった。

 獣のような目を四人に向ける。

「まさか、あなた達も勝負病に!?」

「くそっ、せっかく探そうと思ったのに!」

 アリアとジルヴァは武器を構える。

「なんでこうなるのだ!?」

「異変にどうもこうもないだろう! とりあえず、二人を正気に戻すぞ!」

 レイリーとラグナスも慌てて身構えた。

 

「アイソレーション!」

「はっ!」

 レイリーは舞いながらオトモを小剣で斬りつける。

 オトモは真剣白刃取りでレイリーの攻撃を防ぐが、僅かに左腕だけを切り裂いた。

「さかな王子……すまないが、覚悟!」

「王子、危ない!」

 ラグナスはさかな王子に剣を振り下ろすが、オトモがさかな王子を庇って攻撃を受ける。

 アリアとジルヴァは有利な間合いを取っていた。

「バッシュ!」

「うわぁっ!」

 オトモはレイリーに勢いよく剣を振り下ろす。

 レイリーはかわそうとしたが転んでしまい、隙を突かれて大ダメージを受けた。

 ぷよ勝負はできないオトモだが、剣の腕前はかなりのものだ。

「ライトスラッシュ!」

「王子、危ない!」

 ラグナスは再びさかな王子に剣を振り下ろすが、オトモは再びさかな王子を庇った。

「くそっ、こいつのせいでさかな王子に攻撃が当てられない!」

「なら、オトモから先にやっつけるのだ!」

「うっ!」

 レイリーは立ち上がった後、オトモに小剣で斬りかかる。

「フェーゴボム!」

 アリアは炎の精霊フェーゴを召喚し、爆発を起こしてオトモを吹き飛ばす。

 吹き飛んだオトモに対し、ジルヴァは狙いを定めて矢を射る。

 さらに、吹き飛んでいたためオトモの攻撃を食らう事もなかった。

「クリケット!」

「ファイアーシュート!」

「ぐあぁっ!」

 レイリーはオトモの防御の弱い部分を小剣で刺しアリアはフェーゴを召喚して体当たりさせる。

「よし、いくぞ! ライトスラッシュ!」

「何のこれしき……!」

 その隙にラグナスはオトモに近付き、光を纏った剣を振るが、オトモはギリギリでかわす。

 だが、オトモも手元が滑ってしまい、武器の剣を落としてしまった。

 ジルヴァは今のうちにレイリーに回復魔法を唱え、さかな王子を矢で牽制する。

「コシャクナ! ドルフィンスマッシュ!」

「おっと、ホーリーアロー!」

「ブレイモノ!」

 さかな王子はイルカのような動きをしながらジルヴァに体当たりしてきた。

 攻撃をかわしたジルヴァは、距離を取る。

「勝手に仕掛ける方がよっぽど無礼だろうが」

「王子には傷一つつけさせませんよ」

「メガレイブ!」

 ラグナスは手に雷を発生させオトモに投げつける。

「エアカッター!」

 アリアは風の精霊エアを召喚して風の刃でオトモを切り刻む。

 すると、オトモは目と剣をきらりと光らせ、アリアに向けて剣を振り下ろした。

「オトモの本気、いきます!」

「危ないのだっ! ぐあぁぁぁぁぁっ!」

 その時、レイリーがアリアとオトモの間に入って代わりに斬られる。

 本気というだけあって、大ダメージを受け、レイリーは激しい痛みに苦しむ。

「ぐ……っ」

「大丈夫か、レイリー! ド・オヴァ・ラ・ホル・ド・テネブ!」

 ジルヴァの回復魔法でレイリーの傷は癒されたが、

 痛みまでは治まらないようでレイリーの顔はまだ苦しそうだ。

「チッ……」

 ジルヴァは舌打ちして、さかな王子とオトモと距離を取る。

 その様子を見たラグナスは頷いて、一刻も早く戦いを終わらせようと思った。

 オトモはさかな王子より強いが、ここで諦めるわけにはいかなかった。

「これ以上、キミ達を苦しめるわけにはいかない!」

「うっ!?」

「ナンジャ、コノヒカリハ……!」

 ラグナスの剣が光り輝き、さかな王子とオトモが眩しさに目が眩む。

 その隙にラグナスはオトモに突っ込んでいき、必殺技を発動しようとした。

「ファイナルクロス!!」

うわぁぁぁぁぁぁぁ!!

 ラグナスが光の剣で十字にオトモを切り裂く。

 勇者の力によって強化された斬撃は、オトモにとどめを刺すほどの威力を誇った。

 そして、オトモがばたんきゅ~した後、残ったさかな王子は三人に反撃するが、

 四人の猛攻の前には耐えられず、こちらもばたんきゅ~した。

 

「ム、ムネンジャ……」

「王子……王子……」

「今のうちにアルカ遺跡に行って、クルークさんを助けに行きましょう」

「ああ、勝負病を治さなければ!」

 さかな王子とオトモがばたんきゅ~している間に、

 アリア、レイリー、ジルヴァ、ラグナスはラクティ街道に向かうのだった。




回復役は家庭的でなければという思いから、ジルヴァを料理上手にしました。
次回は以前にスルーされたあの子が登場します。


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5 ~ とっても音痴な鳥娘

五月蠅すぎる事で有名なあの鳥が登場します。


 アリア、レイリー、ジルヴァ、ラグナスの四人は、

 行方不明になった生徒を助けるため、ラクティ街道に向かった。

 さかな王子とオトモはばたんきゅ~しているため、今なら生徒を助けられる。

 速やかに、誰にも気付かれずに行動する。

 まるで、魔法の指輪を破棄しに行く小人とその仲間達のようだった。

 

「ここを真っ直ぐ通って行けば、ミル海岸に着くはずです」

 アリアと風の精霊エアの案内で、四人はラクティ街道を迷わずに進む。

 舗装されているため歩きにくかったが、魔物とはほとんど出会わなかった。

「アリア、キミのおかげで生徒探しは上手くいきそうだ」

「どういたしまして、ラグナスさん。……あっ!」

 アリアがラグナスに笑みを浮かべると、すぐに笑みが消えて驚いた。

「何があったのだ?」

「歌声が聞こえてきます! 耳を塞いで!」

 アリアは三人に耳を塞ぐ事を指示した。

 三人は困惑しながらも耳を塞いだが、自分の方までは手が回らなかった。

「あぁ、頭が、痛い……!」

 結果、アリアは歌声を聞いてしまい、集中力が切れてしまう。

 その歌を歌っていたのは……。

 

「は~ら~ほ~ろ~ひ~れ~は~れ~♪」

「ぷよっ!」

「ぷよ!」

「ぷよぷよ~!」

 ナーエの森でアリア達と出会ったハーピーだった。

 彼女を冒険者の魔の手から守るように、三体の凶暴化したぷよが立ち塞がっている。

「わたしを忘れないで~♪ 森であなた達と会ったでしょう~?」

「あ、そういえば……」

 アリア達は生徒を助けるためにナーエの森に入った時、ハーピーと遭遇した事を思い出した。

 彼女からは一旦逃げたのだが、今、再会してしまったというわけだ。

「これ以上歌わないでください、頭が痛いです」

「でも~♪ 歌うのが生きがいですから~♪ やめるわけにはいきません~♪」

「あぁぁぁ、頭が痛い……!」

 ハーピーのあまりの音痴さに、アリアは限界を迎えようとしていた。

 彼女の苦しんでいる姿を見たジルヴァは、弓に矢を番えてハーピーに放った。

「きゃっ!」

 翼に矢が命中し、ハーピーは叫ぶ。

 ジルヴァは鋭い目で彼女を睨みつけた。

「……俺の仲間を苦しめる奴は容赦しねぇぞ」

「ジ、ジルヴァ? あ、痛みが引いてきました」

「今のうちに、ハーピーとぷよを倒すぞ!」

「ああ!」

 ラグナスは剣、レイリーは小剣を抜いて、凶暴化したぷよとハーピーに勝負を挑んだ。

 

「うわっ!」

「ひゃっ!」

 ラグナスとレイリーは凶暴化したぷよの体当たりをかわす。

「何を歌おうかしら~♪」

「うぅぅっ!」

 ハーピーは音痴な歌声でアリアをさらに苦しめる。

「アリアから離れろ! ライトスラッシュ!」

「アイソレーション!」

 ラグナスとレイリーはぷよに突っ込み斬りつける。

「エ……エアカッター!」

「ホーリーアローレイン!」

「ぷよよよ~」

 アリアは苦しみながらも風の精霊エアを召喚し、風の刃を発生させて何とかぷよを倒す。

 ジルヴァは光の矢を広範囲に放ち、残ったぷよを撃退してハーピーだけにした。

「はらら~♪ ぷよぷよさんがばたんきゅ~♪ だったらこっちもばたんきゅ~させます~♪」

 ハーピーは歌声でアリアを攻撃していく。

 アリアの肌が青くなっていった。

「頭が……割れそう……」

 このままではアリアはばたんきゅ~してしまう。

 早めに決着を付けなければならない。

「ホーリーアロー!」

「やめてください~♪」

 ラグナスは光の矢を放ってハーピーを撃つ。

 ハーピーは歌って反撃するが、ラグナスは何とか抵抗する。

「いい加減にするのだぁ! バタフライ!!」

「やめてください~♪ ハロイトヘホニハ~……」

 レイリーは舞うようにハーピーを切り刻む。

 彼女の怒りは小剣の威力を増幅させ、ハーピーを一発で倒す事ができた。

 大ダメージだったが、ギリギリ殺さず、何とかばたんきゅ~に留めた。

 

「今度はこっちの頭がガンガンします~♪」

「私の頭をガンガンさせたお返しです」

 アリアはハーピーに杖を向ける。

 あまりに音痴だったので、アリアはハーピーを許さないのだ。

「ちょっと待て、アリア!

 確かにハーピーは音痴な歌を歌ってたけど、悪気があってやったわけじゃない!」

 ハーピーにとどめを刺そうとしたアリアを、ラグナスが慌てて止める。

「そうですか?」

「それに……さっきのハーピーは、何かに操られていたらしいんだ」

「どうしてそれが分かるんですか?」

「とても微量だったが、戦ってた時のハーピーから不穏なオーラを感じ取ったからだ」

「!!」

 不穏なオーラと聞いて、アリアは驚き、確信する。

 これは、勝負病にかかった者のオーラだと。

「もしかして、ハーピーさんは勝負病にかかったんですか!?」

「多分な」

「うぅ~……」

 アリアとラグナスがそんな話をしていると、ばたんきゅ~していたハーピーが目を覚ました。

 ハーピーは空に浮かんだあと、きょろきょろと当たりを見渡し、驚く。

「きゃ~♪ 何という事でしょう~♪ あなた達がここにいるなんて~♪」

「気が付いたか、ハーピー。何があったんだ?」

「女の子達に森で無視されて~♪ とぼとぼ飛んでいたら~♪ 光の柱が降ってきました~♪

 そこから先は覚えてません~♪」

 ハーピーはこれまでの事情を話した。

 どうやらハーピーも、さかな王子やオトモと同じ影響を受けていたようだ。

「そうか……」

「はらら~♪ なんだか気分が良くなりました~♪ またリサイタルを開きたいです~♪」

「やめてください、命に関わります」

 アリアは顔を青くしながら、ハーピーに言った。

 あんな歌を何度も聞けば、文字通りの事になる。

「はらら~♪ 分かりました~♪ それと~♪」

「なんだ?」

「ここから東に行けば、ミル海岸です~♪ それでは、さようなら~♪」

 ハーピーは歌いながら、その場を立ち去った。

 

「はぁ、まったく、五月蠅かったな……。アリアの頭がガンガンしたのも無理はない」

 ジルヴァがハーピーについて愚痴を吐く。

「大丈夫だったか、アリア?」

「は、はい、何とか……」

 ジルヴァは頭痛に苦しむアリアを起き上がらせる。

 短気なところはあるが、優しいところもあるのだ。

「み、皆さん、先に行ってください……。私、ついていきますから……」

「ああ」

 アリアを信じているレイリーとジルヴァは、ミル海岸に向かっていった。

 ラグナスはアリアをちらっと見た後、頷いて、二人の後を追っていった。

 

 数分後……。

 

「ふぅ、やっと頭痛が治まりました……」

 ようやくアリアの頭痛が引き、ミル海岸に向かう三人の後を追った。

 しかし、その途中で、アリアは少女の声を聞いた。

 

―せっかく楽しい勝負ができると思ったのに、あなた達の邪魔が入るなんて……。

 

「だ、誰ですか!」

 アリアは誰もいない場所に向かって叫ぶ。

 だが、声は反応しない。

 

―でも、あなた達のおかげで、私の計画は順調に進んでますから、結果オーライです。

 

「計画?」

 

―それを話すのは、また後でにしましょう。今は、楽しく、正しく、勝負してください。

 

 それを最後に、少女の声はぴたりとやんだ。

 アリアの険しい表情が、さらに険しくなる。

 

「何を企んでいるのかは分かりません。でも、あなたの計画を実現させるわけにはいきません。

 必ず、私達が阻止します……!」

 アリアは杖を持ちながら、レイリー達を追って、ミル海岸に向かうのだった。




ぷよもきっちり伏線回収しないと見限られますよ?
次回はアルカ遺跡に突入します。


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6 ~ アルカ遺跡で

アリア達を冒険者らしくしました。
セリリは戦いを好まないと思うので、ぷよチューのオトモポジションにしました。


 アリア、レイリー、ジルヴァ、ラグナスの四人は、

 生徒がいるアルカ遺跡に行くため、まずはミル海岸に行った。

 途中でアリアが謎の少女の声を聞いたのだが、まだレイリー達には話していなかった。

 幸い、道中には魔物はおらず、四人は順調に進んでいき、無事にミル海岸に辿り着いた。

 

「うっ……ううっ……ううっ」

 ミル海岸沖で、青い髪の少女が泣いていた。

 耳は魚の形をしており、人間ではない事が一目で分かる。

「セリリさん!」

「あ……あなた……わたしをいじめるのね!」

 その少女は、人魚のセリリだった。

 セリリはアリアの姿を見るや否や、被害妄想を発動して海に潜ろうとした。

「いや、俺達はお前をいじめに来たわけではない」

「お兄さん……本当なのね」

「ああ、嘘はつかない」

 ジルヴァはセリリを落ち着かせるため、優しい声でセリリに話しかけた。

 セリリは彼を見て、信頼できる人間だと確信し、警戒を解いて彼に優しく微笑んだ。

「俺の名はジルヴァ。

 ここにいる黒髪のエルフがレイリー、青い髪がアリア、黒髪の剣士がラグナスだ」

「よ、よろしくね」

 ジルヴァは三人の紹介をして、セリリの警戒を完全に解いた。

 かなりの好印象を与えたようだ。

「そういえば、どうしてあなた達はここに来たの?」

「最近、この辺でおかしな事は起きてなかったか?」

「おかしな事といえば……こんなものが落ちてきた事かしら。おかげで海が汚くなっちゃったわ」

 セリリはうんせ、うんせとブロックを持ち出す。

 その形は、テトリミノそのものだった。

「マーギンさんにも手伝ってもらって、これでこのブロックは最後。……それがどうかしたの?」

「もしかして、それはテトリミノじゃないか?」

「このブロックの名前はテトリミノっていうのね?」

「俺達はこの世界にテトリミノが降ってきたり、

 生徒が突然勝負をしたくなったりする異変を解決するためにプリンプタウンを回っているんだ」

「まぁ! それはお疲れ様」

 ジルヴァの声色を伺ったセリリは、自分も何か力になりたいと思った。

 そして、ジルヴァにキラキラ光る石を四つ渡した。

「これは……魔晶石か?」

「ええ、海辺で拾ってきたの」

 魔晶石は、魔法の消費魔力を軽減する特殊な石だ。

 小さかったが、そこそこの魔力がこもっていた。

「ありがとう、セリリ。大事に使うからな」

「喜んで!」

 ジルヴァは微笑んで、魔晶石を四人に配った。

「それじゃ、さようなら!」

「ああ、さようなら」

 ジルヴァがセリリに手を振ると、彼女は海に潜り、いつものように泳いだ。

 

 セリリと別れを告げた後、四人は改めてアルカ遺跡に突入した。

「本当にここに入ったのか、確かめてみるのだ」

 レイリーが周辺を捜索すると、足跡を発見。

 さらに足跡は遺跡内部に続いている事が分かった。

「足跡があるのだ。やっぱり、誰かが遺跡に入った跡があるのだ」

「一体誰が入ったんでしょう?」

「この靴を見る限り……多分、あの男の子なのだ」

 四人は慎重にアルカ遺跡の中に入る。

 レイリーは先頭に立って、聞き耳を立ててみる。

「あそこの扉から、魔物の声が聞こえてくるのだ」

「そうですか……」

 無人になっているアルカ遺跡にも、魔物が潜む。

 四人は冒険者として、そして戦士として、魔物を迎え撃つ事にしたのだった。

 

「バタフライ!」

「ライトスラッシュ!」

 レイリーは舞いながらゴブリンバーサーカーを斬りつける。

 ラグナスも続けて光の剣で斬りつけるが、ゴブリンバーサーカーはなかなか倒れない。

「エアウィンド!」

 アリアが風の精霊エアを召喚し、サムライモールを風の刃で切り裂く。

ウオオオオオオオオオ!!

 ゴブリンバーサーカーは勢いよくラグナスに斧を振り下ろす。

 狂化している一撃を食らえば、ただでは済まない。

「危ないっ!」

 ラグナスはギリギリで攻撃を受け止め、ゴブリンバーサーカーの攻撃を防いだ。

「ケケケ!」

「何だと!?」

 直後にホブゴブリンの強力な一撃を食らい、ラグナスはそこそこのダメージを受ける。

「成敗いたす!」

「ひゃぁっ!」

 サムライモールはレイリーに突っ込み、彼女を刀で斬りつけた。

 レイリーは反応できずダメージを受けてしまう。

「大丈夫ですか、レイリー!」

「こ、これくらい平気なのだ……」

「ふっ、だからこそ落ち着いて……エアカッター!」

 アリアは精神を集中し風の精霊エアを召喚した。

 エアは風の刃をエリートゴブリンに飛ばし、エリートゴブリンの身体を切り裂いた。

「そうなのだ、ここは落ち着いて……バタフライ!」

 レイリーは逸る気持ちを落ち着かせ、小剣で舞うようにエリートゴブリンを斬る。

 エリートゴブリンの体力は、残り僅かだ。

「これで……とどめだ!」

 そして、ジルヴァは弓から矢を放ち、エリートゴブリンにとどめを刺した。

 

「よし、俺も続けていくぞ! うわぁっ!」

 ラグナスはアリア達の活躍を見て、自分も活躍しようと思った。

 だが、剣を振ろうとした時、転んでしまい、うっかり武器を落としてしまう。

「ウィンドカッター!」

「あつっ!」

 ゴブリンシャーマンの攻撃を許してしまい、ラグナスは風の刃で切り刻まれる。

「ぐっ、だが勇者はここから反撃する!」

 ラグナスは立ち上がった後、剣を拾って構え直し、ホブゴブリンを光の剣で斬りつけた。

「ほいっ!」

「!?」

「フェーゴボム!」

 レイリーがホブゴブリンにフェイントをかけて撹乱した後、

 アリアが炎の精霊フェーゴを呼んでホブゴブリンにとどめを刺した。

 

「あと少し!」

「ダブルスラッシュ!」

「降参いたす……」

 ラグナスはサムライモールを二回斬りつけて倒す。

「クリケット!」

「ヴォルテックライン!」

 レイリーはゴブリンバーサーカーを小剣で突き、ジルヴァが雷を纏った矢を射る。

「とどめだ、メガレイブ!!」

 ラグナスは呪文を唱え、左手に雷の弾を作り出し、ゴブリンバーサーカーに投げつける。

 雷は周囲に広がり、ゴブリンバーサーカーとゴブリンシャーマンを一網打尽にした。

 これにより、ここにいた魔物は全員倒れた。

 

「後は奥に行くだけなのだ。む?」

「どうした」

「向こうの部屋から、魔力の流れを感じるのだ」

「魔力の流れ、か」

 つまり、向こうの部屋に魔法を使う誰かがいるという事になる。

「音を立てないように行った方がいいのだ」

「そうだな」

 四人は音を立てないように、忍び足をした。

 金属鎧を着ているラグナスはガチャガチャと音を立ててしまったが、

 何とか気付かれずに部屋に入った。

 

「あそこにいるのは……」

 部屋の中にいたのは、武装したスケルトンと、眼鏡をかけた帽子の少年だった。

 少年はハーピーやリデル同様に、不穏なオーラを纏っている。

 だが、まだこちらには気付いていないようだ。

「……不意打ちを仕掛けましょう」

「ああ、あいつらが気付いていないうちに早めに気絶させるぞ」

「勝負病を治すためにな」

 アリア、レイリー、ジルヴァ、ラグナスは音を立てないように身構える。

 そして、ゆっくり、ゆっくりと、少年に近付く。

 

「覚悟しろ!」

「うひゃーっ!」

 ラグナスが少年に斬りかかる。

「あなたは、クルークさんですね!」

 アリアは少年の顔を見て、少年がクルークだと確信した。

 恐らく、彼が最後の操られた生徒なのだろう。

「楽しい勝負をするのは、また後でにしましょう!」

「ああ、お前は必ず俺達が助ける!」

 少年、クルークとの戦いが始まろうとしていた。




今更ですが、次回までは1章~2章の裏側を書きました。
だってプリンプタウンの扱いが悪すぎるもの。

次回はクルーク戦です。


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7 ~ 救出、そして……

クルーク戦です。
公式で日に日に彼の扱いが悪くなっている事に私は不満です。
あのキャラは後に被害者じゃなくなったのに……。
誤解を防ぐために言っておくと、私は彼を好きでも嫌いでもありません。


 アルカ遺跡で、スケルトンを使役しているクルークとの戦いが始まった。

 

「たぁっ!」

「ネブラ」

 ラグナスが飛び上がり、スケルトンウォリアーを叩き切ろうとするが、

 クルークの目晦まし魔法で撹乱される。

 レイリーは素早くクルークに近付き、ジルヴァは弓から光の矢、アリアは杖から光の弾を放つ。

「フォッサ」

「あつっ!」

 クルークは素早く呪文を詠唱し、黒い波動をラグナスにぶつける。

 ラグナスはギリギリで抵抗し、ダメージを抑えた。

「うあぁっ!」

「きゃぁっ!」

 スケルトンウォリアーはラグナスを斬り、スケルトンアーチャーはアリアに矢を放つ。

「ド・オヴァ・デ・シー!」

「ルフィーネヒール!」

 ジルヴァはセリリから貰った魔晶石を使い、魔力消費を軽減したヒーリングでラグナスを回復。

 アリアは光の精霊ルフィーネを召喚し、同じく魔晶石で魔力消費を軽減し回復魔法を使う。

「ムーンウォーク!」

 レイリーは前に歩いたと見せかけて後ろに下がり、

 フェイントをかけてスケルトンウォリアーを斬る。

 スケルトンウォリアーはレイリーのスピードに反応できずダメージを受け、バラバラになった。

「たぁっ!」

「テクトニック」

 ラグナスはスケルトンアーチャーに剣を振り下ろそうとするが、

 テクトニックで行動を制限される。

「我に力を、ス・ステラ・イネランス」

「何するのだ~!」

 さらに、クルークは増幅呪文を唱え、星の弾をレイリーに乱射して攻撃した。

 スケルトンアーチャーも容赦なく彼女を矢で射る。

 何とかジルヴァに回復してもらいながらレイリーは小剣で舞うように斬るが、

 骨の身体なので剣が届かない。

「今度こそ……ホーリーアロー!」

「ミスティウェーブ!」

 ラグナスは体勢を整え直し、手から光の矢を放つ。

 アリアが水の精霊ミスティを召喚し、スケルトンアーチャーを流しばたんきゅ~させた。

 

「……キミ達は、楽しい勝負をしないのか……?」

「あなたが魔物を使役している時点で、楽しいとは言えませんよ」

 アリアは毅然とした表情でクルークに杖を向ける。

 彼の瞳は淀んでおり、暗い表情をしている。

 どちらかというと陰側の人間だが(失礼)、あやしくないのにこんなに暗い彼は見た事がない。

 そんな勝負をしたい感情に囚われているクルークを解放するために、四人は武器を構え直した。

「ならば、無理矢理にでも楽しい勝負をさせる! 我に力を、プ・プロミネンス!」

うあああああああああああ!!

 クルークは増幅呪文を唱え、強力な炎をラグナス目掛けて放つ。

 炎はラグナスの身体を包み、中から焼いていく。

「ラグナスさん!!」

「く……っ、油断してしまったようだ……。

 奴は魔力が尽きるまで、諦める事はないだろう。今は、勝負病にかかっているらしいからな」

「魔力が尽きる……そうか!」

「何を思いついたのだ?」

「水の精霊よ……」

 ラグナスの言葉を聞いたアリアは、呪文を詠唱し、水の精霊ミスティに呼びかける。

 彼女が何をしているのか、レイリーとジルヴァ、そしてラグナスは知らなかった。

 もちろん、クルークは訳が分からないまま、呪文を詠唱し、アリア達にとどめを刺そうとした。

「ウィス・アトラヘン……」

「マナリーク!」

 アリアが魔法名を言うと水の精霊ミスティが現れ、クルークの身体にそっと触れる。

 すると、クルークの顔が青くなっていった。

「な、何をした……」

「水の精霊ミスティに働きかけて、あなたの魔力を漏れ出させました。

 魔力がなければ、あなたはただの男の子と変わりませんからね」

 アリアはクルークの魔力を切らすために、水の精霊ミスティを呼んで魔力漏出させたのだ。

 その狙いは的中し、アリアは見事クルークを戦闘で倒さずに無力化に成功した。

「不服だけど、ボクの負け、だ……」

 クルークが降参すると同時に、残っていたスケルトンアーチャーは崩れる。

 戦闘は、終わった。

 

「どうもありがとうございました」

「これで生徒はみんな、助かったね~」

『感謝するニャ』

「どういたしまして」

 アリア、レイリー、ジルヴァ、ラグナスは、クルークをアコール先生に引き渡した。

 アコール先生とルゥ先生は四人にお礼を言い、四人はそれにお辞儀で返す。

「貴方達はどんな困難にも屈せず、乗り越えてきましたね。先生は嬉しいですよ」

「今のプリンプタウンには魔物もいたよね~? よく無事に帰ってこられたね~」

「わたし達は伊達に冒険者をやってないのだ」

 涼しい顔でレイリーが言う。

 そこそこ苦戦したのだが、仲間のおかげでここまで戻ってこられたのだ。

「うん、ならこれからも安心だね~。でも、もう生徒はみんな助かったんだよ~。

 きみ達はもう何もしなくていいからゆっくり休んで~」

「いいえ、それはできません」

 アリアはルゥ先生の頼みを穏やかに断った。

 今は、休息どころではないのだから。

「プリンプタウンが本当に平和になったのか、確かめたいですから」

「そうだね~、それがいいのかもね~。それじゃ、行ってらっしゃ~い」

「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 ルゥ先生は、アコール先生と共に、

 プリンプ魔導学校を後にするアリア、レイリー、ジルヴァ、ラグナスを見送った。

 そんな中、アコール先生は顎に手を当てていた。

「アコール先生、きみは何か知ってるの~?」

 ルゥ先生が、アコール先生に声をかける。

 彼女の表情はいつもの笑顔だが、ルゥ先生は微妙な表情の変化に気づいていた。

 アコール先生はこの異変の詳細を知っている……ルゥ先生はそう確信して声をかけたのだ。

「ここで全て話したら、面白くないでしょう?

 それに、誰かが感付く可能性も、ないとは限りませんからね」

『そいつが口封じをするなんて御免だニャ』

「そこまで考えていたんだね~」

 常に余裕綽々で厄介事は大きくしたがるアコール先生だが、

 その目は常に先の先を見通している。

 もし詳細が元凶に知られれば、間違いなく元凶は消しにくるだろう。

 だからあえて、アコール先生は何も話さなかった。

 アコール先生はまさしく、賢人に相応しい知を有しているのだ。

「私達にできる事は、あの子達を信じて見守り、そして生徒達と、この町を守る事です」

「うん。アリア、レイリー、ジルヴァ、そしてラグナス……」

『お前達がこの世界を救う事を信じているニャ……』

「美味しいところだけは貰っていくね~、ポポイ」

 

 その頃、アリア達は、魔物を避けながらプリンプタウン各地を回っていた。

 あちこちにテトリミノが落ちている。

「生徒は全員助かったのに……」

「まだ終わっていないだと……」

 プリンプ魔導学校の生徒を全員救出したのに、

 テトリミノはまだ残っているし、各地には敵対的な魔物がたくさんいる。

「どうして、魔物は姿を消さないんでしょう。どうして、世界は元通りにならないんでしょう」

 生徒は助けたはずなのに、異変は終わっていない。

 それに疑問を抱くアリア。

「でも、本当に生徒が行方不明になって、暴走しているだけだったのだ?」

「あの『不気味な女の子』が関わっていたようだが、そもそもあいつは一体誰なんだ?」

「というか、異変の元凶は誰なんだ?」

 不気味な女の子の正体は、一体何者だろうか。

 レイリー、ジルヴァ、ラグナスが原因を考えようとした、その時だった。

 

大変だよ!!

 赤ぷよ帽を被った少女、アミティが慌てた様子でこちらにやってきた。

「どうしましたか、アミティ」

「魔導学校のみんながおかしくなっちゃったの!!」

「ええっ!?」

 助けたはずの生徒が、また、おかしくなっている。

 アリアは驚きを隠せなかった。

「そんな、助けたはずなのに……。アミティさん、どうしてですか?」

「話は後でするよ! まずはあたしについてきて!」

「は、はい……」

 アリア達はアミティに連れられて、再びプリンプ魔導学校に向かうのだった。




ここから物語は3章に進んでいきます。
アリア達はプリンプ魔導学校に行きますよ。


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8 ~ 魔導学校の異変

3章、プリンプタウン編です。
原作に出てこないキャラも出ますので、ご注意ください。


「はぁっ、はぁ……」

「ここって……」

 アミティ達は息を切らしながら、プリンプ魔導学校に戻ってきた。

 アリアは見覚えがある様子で目を見開く。

「夢中で走って来ちゃったけど、今のところ、危険な感じはしないなー」

「いえ……」

 アリアはアミティの言葉に首を横に振る。

「どうしたの、アリア?」

「生徒達が行方不明になっていたのですが、私達が全員助けたところです。

 でも、本当にここで異変が起きたんですか?」

「うーん、それはよく分からないな。誰かに会えれば分かると思うんだけど……」

 プリンプ魔導学校に今いるのは、

 アコール先生とルゥ先生の他にも、アリア達が助けた生徒がいる。

 彼らに話を聞けば、詳細が分かるかもしれない。

 アミティ達が歩いていくと、ラフィーナ、リデル、タルタル、ライラック、ルゥ先生がいた。

 

「あっ! アミさん、アリアさん、レイリーさん、ジルヴァさん!

 あと……そこにいるお兄さんは誰ですか?」

 アミティ達の姿を見たリデルの表情が明るくなる。

 どうやら、リデルはラグナスを知らないようだ。

「俺は勇者ラグナス・ビシャシだ」

「わたしはリデルです、よろしくお願いします」

 ラグナスとリデルは互いに自己紹介をした。

「こんにちは~、なんだなぁ」

「で、でかい……」

 続けて、タルタルものそのそとやってきた。

 同級生とは思えないほどの大柄な体格で、ラグナスは圧倒されてしまう。

「アミティ~!」

「あら、アミティさんじゃない」

 そして、ルゥ先生とラフィーナもやってくる。

「あっ、あのねあのねっ、大丈夫?」

「出会い頭に突然、何を言ってらっしゃるの?」

「えっと、えっと!」

「落ち着いてください、アミティさん」

 アミティはラフィーナ達が心配になり、彼女達に声をかけようとした。

 だが、かなり慌てているようで、アリアはアミティを落ち着かせて彼女の代わりに話す。

「皆さん、無事なようですね」

「はい……わたしは、ちょっと……」

 リデルがおずおずと何か言おうとしたが、恥ずかしくて言えなかった。

 四人の無事を確認した後、アリア達が立ち去ろうとした時だった。

 

「さっ、リデルさん! もうひと勝負よ!」

「ひぇ……」

 突然、ラフィーナがリデルの腕を掴んだ。

 リデルは彼女の豹変に怯えている。

「楽しい楽しいぷよぷよ勝負……。トーゼン! 無限に続けてられるわよね?」

「何ですって……!」

 「楽しい」「勝負」と言ったラフィーナ。

 助かったはずなのに、再び暴走している……アリアは恐怖に震えていた。

「今日のラフィーナさん、なんだかちょっと変なんです……。

 ラフィーナさんは確かに頑張り屋さんですが、

 こんな風に強引にぷよ勝負を仕掛け続けるなんて、今までなかったのに……」

「そうなの、ラフィーナ!?」

 アミティはかなり驚いていた。

 確かに、ラフィーナは努力家で、時に相手と競い合う事もある。

 だが、相手に対して勝負の強要はしないはずだ。

「だって『楽しい』んですもの。私、何か間違っているかしら?」

「ううう……ずっと、この調子で……もう、ヘトヘトです……」

 リデルはラフィーナに延々と勝負に付き合わされてかなり体力を消耗していた。

 このままでは、リデルは疲労からばたんきゅ~してしまう。

 

 この異変はタルタルとライラックにも及んでいた。

「ライラック、オイと勝負するんだなぁ」

「やめて……僕は……戦いたくない……」

 タルタルはライラックと無理矢理勝負をしようとする。

 ライラックの表情からは、生気が消えていた。

「とにかく勝負を楽しみたいんだなぁ。だから、おまえもオイと勝負するんだなぁ!」

「やめて……やめて……!」

 リードという人格がまだ宿っていれば、きっとタルタルを襲ったに違いない。

 だが、もうライラックの人格は一つだけなのだ。

 リードに助けを求める事は、できない。

 

「ラフィーナ、タルタル、しっかりして~!」

 唯一、ルゥ先生は暴走していなかった。

 ルゥ先生はラフィーナとタルタルに呼びかけるが、二人は全く反応しなかった。

「あぁ~、しょうがないな~。元に戻って~!」

 ルゥ先生は二人をクロスボウで射抜こうとした。

 だが、次の瞬間、ルゥ先生を不穏なオーラが絡め取り、吹っ飛ばした。

「あぁ~、駄目だ~。止められない~」

 

「ラフィーナ、タルタル!

 それって、やっぱり変だよ!」

 アミティはルゥ先生同様に、暴走しているラフィーナとタルタルに叫ぶ。

 すると、ラフィーナとタルタルは淀んだ目をアミティ達に向けた。

「ふぅん……アミティさん」

「邪魔をするなら、相手はおまえでもいいんだなぁ」

「『楽しい』勝負をしましょうか?」

「邪魔っていうか……あの~、その~……」

(この威圧感……リデルさんやライラックさんと戦った時と同じだ……!)

 一方、三人は不穏なオーラを纏いながら、

 アミティ、アリア、レイリー、ジルヴァ、ラグナスを見据えている。

 アミティとアリアは思わず立ち竦んでしまうが、

 レイリー、ジルヴァ、ラグナスは物怖じせず身構えている。

 

「さあ、行きますわ!」

「覚悟はできてるんだなぁ?」

「わわわっ、ちょっと待って!」

「とっても楽しく勝負するわよ!」

 暴走しているラフィーナとタルタルとの戦いが始まった。




次回は二人の生徒を救出します。


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9 ~ ラフィーナとタルタル

二人のキャラを助けます。
本編で出てこないキャラにも出番を、というのが私のモットーです。


 勝負病にかかったラフィーナとタルタルとの戦いが始まった。

 

「バンギング!」

「おっと、危ないのだ」

 タルタルは思いっきり腕を振り下ろすが、

 レイリーは身体をくねらせてギリギリで攻撃をかわす。

「タートル!」

「ふごぉ~」

 直後にレイリーはタルタルに小剣で反撃する。

 たくさんの風の刃が飛んだ事で、タルタルは大ダメージを受ける。

「ライトニグ!」

「あら、呪文間違ってますわよ」

「しまった!」

 ラグナスはラフィーナに雷を落とそうとするが、呪文を言い間違えてしまい発動しなかった。

「光の精霊よ……ブライトボム!」

「いやーっ!」

 アリアは精神を集中し、光の精霊ルフィーネを呼び出す。

 ルフィーネは光の弾となってラフィーナに突進していく。

 そのスピードはかなりのもので、ラフィーナは反応しきれずダメージを受けた。

「ラフィーナ、元に戻ってよ! フレイム!」

「楽しい勝負に付き合ってからですわ」

 アミティはラフィーナに火炎弾を放つが、ラフィーナは魔法に抵抗して打ち消す。

「オイと勝負するんだなぁ~」

「食らえっ!」

「ふごぉ~!」

 タルタルがジルヴァに向かって襲ってきた。

 ジルヴァは鈍重なタルタルの攻撃を見切り、矢を放って反撃する。

「ネージュ!」

「ひゃぁっ!」

 ラフィーナの氷を纏った掌底をかわすレイリー。

「勝負しないなら、力ずくで勝負するんだなぁ!」

「わっと……」

 ラグナスはタルタルの攻撃をかわすが、タルタルはそれだけでは諦めない。

「逃がさないんだなぁ!」

「うわぁっ!」

 いきなり襲い掛かって来たタルタルに、ラグナスは反応しきれずに転倒。

 そのままボディプレスで押し潰された。

「隙ありなのだ!」

「シールド!」

 レイリーはその隙を突いてタルタルを小剣で突く。

 タルタルは初級防御魔法で彼女の攻撃を防いだ。

「連続攻撃!」

「エアカッター!」

 そんなレイリーをカバーするように、

 ラグナスは連続でタルタルを斬りつけ、アリアはエアを召喚して風の刃で切り刻む。

 ジルヴァはタルタルに狙いを定め、矢を放った。

 

「アミティ、楽しい勝負をするんだなぁ!」

「二人とも、そんな事を言う人じゃない!

 だから、あたしは今のキミ達と戦いたくない! ブラストビート!」

 アミティは手から風を放ちタルタルを吹き飛ばす。

 彼女は暴走している二人を、正気に戻したいのだ。

「楽しい勝負というのは、こんなはずじゃないのだ」

「レイリーさん、そんなに私と楽しい勝負がしたくないんですのね?

 フォルト、ディ・ディシャージ!」

「うわぁぁぁぁぁ!」

 ラフィーナの雷を纏った掌底がレイリーに直撃。

 大ダメージを受けたレイリーは身体が痺れる。

「レイリー、しっかりしろ!

 ド・オヴァ・デ・シー!」

「う……ジルヴァ……」

 ジルヴァは傷ついているレイリーに回復魔法を唱える。

「なんだか身体が痛いのだ……」

「レイリー、痛いのか……」

 回復魔法で傷は癒せても、痛みまでは癒せない。

 レイリーは痛みによっていずればたんきゅ~する。

 そうなる前に、ラフィーナとタルタルをばたんきゅ~させなければ、と四人は決意した。

「痛がる事は楽しくないけれど、痛みを乗り越えれば楽しいんだなぁ」

「そんな自分勝手な理屈で、俺達を巻き込むな! 究極の一撃!!」

 痛みを楽しむのは、常人の発想とは言えない。

 ラグナスは渾身の力を込めた剣を、叩き込む。

「ふごぉ~!」

 その一撃を食らったタルタルは、地に伏した。

 気を失っていて、動けない……ばたんきゅ~だ。

 

「後はラフィーナ、きみだけなのだ!」

「きゃぁぁっ!」

 レイリーの必殺攻撃が、ラフィーナに炸裂。

 衝撃波で彼女の内部にもダメージを与え、ラフィーナの体力を大きく減らした。

「ラフィーナ、あたしの声が聞こえる!? 聞こえるなら、ちゃんと返事して! フレイム!」

 アミティはラフィーナを見ながら炎を放つ。

 すると、ラフィーナの目が一瞬だけ元に戻った。

「……?」

「ラフィーナ、元に戻ったんだね!」

「と、見せかけて……フー・ダルティ!」

 ラフィーナは一瞬戻った素振りを見せたが、やはり暴走は治まっていなかった。

 濃密な気弾が、アミティに襲い掛かる。

「ラフィーナ!!」

「アミティ、危ない!」

 その時、ラグナスがアミティとラフィーナの間に割って入り、ラフィーナの攻撃を受けた。

「助かった……ありがとう、ラグナス」

「油断するなよ」

「クリケット!」

「お返しですわ」

「うわぁっ!」

 ラフィーナはレイリーの攻撃をかわし、反撃。

 アリアは光の精霊ルフィーネを召喚してレイリーの体力を大幅に回復した。

「食らえ、メガレイブ!」

 ラグナスはラフィーナに雷の弾を放ち、ラフィーナを痺れさせて動きを止める。

「ラフィーナさん……正気に戻って! エア・エンブレイス!!」

 アリアが召喚した風の精霊エアが、痺れているラフィーナを抱擁する。

 優しい抱擁はラフィーナの不穏なオーラを少しずつ取り除いた。

 そして、彼女から不穏なオーラは完全に消えた。

 

「おかしいですわね? なんだか、気分がさっぱりしてますの」

「オイも、すっきりしたんだなぁ」

「えっ!」

 ラフィーナは戦意を喪失し、ばたんきゅ~したタルタルが起き上がる。

 二人は不穏なオーラを纏っていなかった。

「いつものラフィーナとタルタルに戻った! 二人とも、どうしたの?」

「さっきまで、何か勝負しなくちゃならなくなって、それで勝負をしたくなっちゃって……」

「オイ、ラフィーナを追いかけたかったけど、それを忘れちゃったんだなぁ~」

 先程まで暴走していたラフィーナとタルタルがアミティ達に事情を話す。

 ラフィーナは白い目でタルタルを見ていた。

 

「ラフィーナさん、タルタルさん、元に戻ったんですね!」

「よかった……」

 正気に戻ったラフィーナとタルタルに、リデルとライラックが駆け寄る。

「ごめんなさい、二人とも大変でしたわよね」

 ラフィーナがリデルとライラックに謝罪する。

 普段は負けず嫌いなラフィーナだが、素直に謝る潔さも持っているのだ。

「すまなかったんだなぁ。自分でもなんであんな事になったのか、分からないんだなぁ」

「いいんです……! 皆さんが無事なら、それで最高です……エヘヘ……」

「いつものみんなが……僕は好き……」

 タルタルも暴走していた事を謝る。

 プリンプ魔導学校の外で起きた異変は、ひとまず解決された。

 

「皆はこの事について、何か知っているようだね~」

「詳しくは分からないんだけどね」

 アミティはルゥ先生に事情を話す。

 何らかの影響を受けた結果、ラフィーナとタルタルが暴走した事。

 それを引き起こしているのは、ジルヴァが言った『不気味な女の子』である事。

 そして、アミティはりんごやアルルと共に彼女を追いかけている事。

 それらを全て話すとルゥ先生は頷き、ラフィーナはやる気満々そうにこう言った。

「まぁ! それじゃ、私も行きますわ!」

「えっ? 手伝ってくれるの?」

 ラフィーナがアミティ達に同行しようとした時、タルタルがゆっくりと前に出る。

「ちょっと待つんだなぁ」

「何? タルタル」

「ラフィーナが行くならオイも行くんだなぁ」

「あなたはプリンプ魔導学校で留守番してなさい」

「ぐすっ……またお留守番だなんて……」

 タルタルは留守番を食らい、悲しむ。

「やられっぱなしなんて私のプライドが許さないわ。

 絶対捕まえて、ボッコボコにして差し上げましょう!」

「あ、あはは……; ほどほどにね」

 ラフィーナはぐっと拳を握り締めていて、アミティは苦笑いした。

「あの……わ、わたしは……」

「僕はどうするの……?」

 しばらくすると、リデルとライラックが呟く。

「リデルさんとライラックさんはここで待っているのがいいわ」

 ラフィーナは二人に留守番を命じた。

 タルタルは本気で嫌っているため態度がきついがこの二人は嫌いではないため態度が柔らかい。

「でも……わたしもお役に立てれば……」

「リデル、ラフィーナは君の事を心配しているんだ。

 ずっとラフィーナに付き合って……もうフラフラだろ? 僕も同じだよ……」

 先程まで、リデルはラフィーナと無理矢理ぷよ勝負をしていた。

 ライラックは消耗しているリデルを気遣ったのだ。

「わぁい! オイと一緒にお留守番なんだなぁ!」

「タルタル君……」

 たった一人で留守番をせずに済み、しかも友達と一緒なので、タルタルは喜んだ。

 

「それじゃあ、アミさん、ラフィーナさん、アリアさん、レイリーさん、ジルヴァさん、

 ラグナスさん、気を付けてくださいね……!」

「留守番は……ちゃんとする……」

「オイがしっかりプリンプ魔導学校を守ってやるんだなぁ」

「必ず異変を解決するんだぞ」

「ありがとう! ばっちグーで頑張るよ!」

 アミティ達はリデル、タルタル、ライラック、ルゥ先生と別れプリンプ魔導学校の中に入った。

 その道中で、アリアは何か考え事をしていた。

 

(……私達はあの女の子に騙されていたという事ですか……)




次回はあのキャラを助けに行きます。
アミティ、ラフィーナと来たら……やっぱり「彼」ですよ。


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10 ~ 青き少年

シグが登場します。
いい加減に公式は彼の伏線回収してください。
というか全部の伏線を回収してください。


 アミティ、ラフィーナ、アリア、レイリー、ジルヴァ、ラグナスは、

 プリンプ魔導学校の中に入った。

「シグ……クルーク……無事だといいんだけど……」

 アミティはシグとクルークを心配していて、特にシグを気にかけていた。

 クルークはアリア達が助けたばかりで、もう不穏なオーラは纏っていないはずだ。

「アミティ、そのシグという子とクルークという子が心配なのか?」

「うん、あたしと同じクラスなの。

 シグはぼーっとした虫が好きな男の子で、クルークはちょっと嫌味だけど頭が良い男の子だよ」

「なるほど、分かった」

 アミティはラグナスにシグとクルークについて簡単に紹介する。

「それで、その二人はどこにいるんだ?」

「確か、2年1組の教室はこっちだったはずだよ」

 アミティの案内で、五人は2年1組の教室に向かった。

 

 その頃、教室では……。

「……? うーん……」

 水色の髪に青と赤のオッドアイの少年、シグがぼんやりしていた。

 その姿を見たアミティは、大声でこう言った。

「あっ! あそこにいるのはシグ!」

「本当ですか! よかった……」

 シグからは不穏なオーラが出ていなかった。

 アリアは安心して、胸に手を当てている。

「不思議に赤い左手を眺めて首を傾げてますわね」

「ああ、先祖返りが進んでいるからな」

 シグはアルカ文明時代の紅い魔モノの子孫である。

 左半分から先祖返りが進んでいるため、異形の手と赤い目を持っているのだ。

シグーーー!!

「もう、アミティさんったら……」

 嬉しくなったアミティは、ぱたぱた走ってシグに近付いた。

 アリア達も、少々呆れながら彼女の後ろについた。

「あ、アミティ、と、冒険者、と、茶髪、と、らへーな」

「……いつになったら私の名前をちゃんと呼ぶのかしら」

「私にはアリアという名前があるんですよ」

「レイリーなのだ、いい加減に覚えるのだ」

「ジルヴァだと言ってるだろ」

「俺はラグナス・ビシャシだ」

 シグはアミティ以外の名前をよく覚えておらず、ラフィーナの名前を間違え、

 アリア、レイリー、ジルヴァ、ラグナスも名前で呼ばなかった。

 ラフィーナ達はシグに突っ込みを入れ、ジルヴァは苛々した様子だ。

「ラ、ラフィーナ、今はそれより……」

「分かってますわよ。いちいち突っ込んでられねえ、ですわ」

 ラフィーナは愚痴を吐きながら、後ろに下がった。

 代わりに、アリアがシグの前に立つ。

 ラフィーナは機嫌が悪いとこのように暴言を吐くのだ。

「シグさん、気分はどうですか?」

「え」

「例えば、不穏なオーラを纏っているとか……」

「うーん」

 シグの返答は単調だった。

 魂が半分欠けているため、常にぼーっとしており、まともに受け答えができないのだ。

「ミスティ、彼の様子を探りなさい」

 アリアは水の精霊ミスティを召喚し、シグの様子を調べてもらった。

 すると、シグは勝負病にかかっていない事が判明。

 彼とぷよ勝負をする必要はなくなった。

「大丈夫ですよ、アミティさん。シグさんは勝負病にかかっていません」

「じゃあ、大丈夫だね! ありがとう、シグ!」

「……左手」

 アミティはシグに別れを告げようとしたが、突然、シグに呼び止められた。

「シグさん、どうしましたか?」

「さっき通りかかった知らない子にぷよ勝負誘われて、終わって……それから、左手がなんか変」

 彼の左手は、不穏なオーラを纏っていた。

 アリアは少しだけ油断していた。

 あの力はシグ本人に影響はなかったが、彼の部位に影響を及ぼしたのだ。

「えっ!?」

「その人の特徴は分かりますか?」

 アミティは驚くが、アリアは落ち着いてシグに情報を聞き出す。

「ざわざわ……? ぞわぞわ……」

「ど、どうしよう、ラフィーナ!」

 慌てるアミティと、落ち着いたアリア、レイリー、ジルヴァ、ラグナス。

 ラフィーナは苛々した様子で、拳を握っていた。

「ええい、間怠っこしい!

 その謎の悪者の影響を受けていようがいまいが、一発勝負でボコってみれば同じ事ですわ!」

「ええ~~~っ!」

「な、なんと単純な……」

 殴れば解決する、それがラフィーナの結論だった。

 アミティは驚き、ラグナスは呆れていた。

「まぁいい、その左手を元に戻せばいいんだな? みんな、シグの左手だけを元に戻すぞ」

「はい!」

 アリア、レイリー、ジルヴァ、ラグナスは武器を構えて左手が暴走しているシグを迎え撃つ。

「行きますわよ、シグ!」

「もう、ラフィーナったら~~~~!!」

 アミティもラフィーナに巻き込まれながら、シグを元に戻すために戦った。

 

「こっちにくるなー」

 シグの左手から、たくさんの魔物が現れる。

 濃密な闇を纏ったクロヒョウに似た魔獣、シャドウビーストだ。

「炎の精霊フェーゴよ、矢となり敵を貫け! ファイアーシュート!」

 アリアは炎の精霊フェーゴを召喚し、無数の炎の矢を放って魔物達を攻撃する。

 炎の矢はかわそうとする魔物を正確に撃ち抜いた。

「バタフライ!」

「食らえ!」

 レイリーは小剣を持ち、舞うようにシャドウビーストを切り刻む。

 弱ったシャドウビーストにジルヴァがとどめの矢を放って倒した。

「くたばりなさい! フラーム!」

 闇を纏っているため、物理攻撃は効果がない。

 そこで、ラフィーナは拳に炎を纏わせ、明かり代わりにする。

 ラフィーナの炎を纏った拳がシャドウビーストに命中すると一瞬で灰になった。

「す、凄いね、ラフィーナ。あたしだって! アクセル、ブ・ブリザード!」

「メガレイブ!」

 アミティは増幅呪文を詠唱し、広範囲に吹雪を放って凍り付かせる。

 とどめにラグナスが雷を放った事で、シャドウビーストは一体ばたんきゅ~した。

「危ないですわきゃぁぁっ!」

「くそっ、当たらない!」

 シャドウビーストは次々と襲い掛かってくる。

 闇に覆われているため、ラフィーナは攻撃が当たってしまう。

 さらに、ラグナスの攻撃もかわされる。

「ええい、くたばりやがれですわ! オラージュ!」

 ラフィーナの雷を纏った回し蹴りがシャドウビーストに命中し、一撃でばたんきゅ~。

「ド・オヴァ・デ・シー! ラ・ナチュ・マ・ギ・ド・スカト!」

 ジルヴァは回復魔法で味方を癒しつつ、防御魔法でシャドウビーストの攻撃を防ぐ。

「アリア、いくよ!」

「ええ!」

「「ダブルフレイム!」」

 アミティが放った炎と、アリアが放った火炎弾が混ざり合い、

 巨大な炎となってシャドウビーストを包む。

 シャドウビーストは激しい勢いで燃え、炎が消えた時はばたんきゅ~していた。

 

「やったね、アリア!」

「あなたの炎も素敵でしたよ、アミティさん」

 連携が決まり、ハイタッチするアリアとアミティ。

 残っているシャドウビーストは一体、それも五人の猛攻で瀕死になっていた。

「これでとどめなのだ! バタフライ!!」

 そして、レイリーがフェイントをかけた後、二回目の斬撃でシャドウビーストを切り伏せ、

 ここにいた全ての魔物は倒れた。

 

「うーん……」

「おーっほっほっほ! 一件落着! ですわ!」

「勇者に敗北はない」

 魔物を全て撃退して、シグの左手は元に戻った。

 ラフィーナは腰に手を当てて高笑いし、ラグナスは鞘に剣を入れた。

「左手、おさまった」

「よかった、元に戻ったみたいだね」

 シグと直接戦わずに彼を元に戻せて、アミティは一安心した。

 アリアは彼女の様子を見て、余程彼が大事なんだな、と思った。

「あのね、シグ! 改めて……。あたし達、ある女の子を探してて……。

 アリア達も彼女を追いかけてるみたいだよ」

 アミティがシグに事情を説明すると、シグは頷く。

「そうか」

「協力してほしいの!」

「分かった」

「ありがとう!」

 シグが同行してくれると知って、アミティは喜ぶ。

 すると、アリア達はアミティにこう言った。

「これだけ人数が多いと、少し窮屈ですね」

「確かにそうだね」

「そうだ! 私達は他の人のところに行きますから、あなた達は引き続き学校をお願いします」

「うん! じゃあよろしくね、アリア、レイリー、ジルヴァ、ラグナス!」

 アリア、レイリー、ジルヴァ、ラグナスとはここで一時的に別れる事になる。

 アミティ、ラフィーナ、シグの三人は、別行動をする四人を見送っていった。

 

「じゃあ、行こう!」

「いってらっしゃい」

「シ~グ~~~!!」

「面倒なボケはいいから、つべこべ言わずついてきやがれ! ですわ!」

「うーへー……」

 ラフィーナの暴言に対し、流石のシグも従わざるを得なかった。




戦闘はできるだけ激しくしました。
次回はいなかったあの二人と出会います。


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11 ~ ナーエの森、再び

アリア達がレムレスと合流します。
プリンプも、もっと掘り下げてほしいなぁ。


 アミティ達と別れたアリア、レイリー、ジルヴァ、ラグナスは、

 これからどこに行くかを考えていた。

「プリンプ魔導学校はアミティさんに任せるとして、私達はどうしましょうか」

「あの女の子に繋がる情報を探すのだ」

 リデルやラフィーナをおかしくさせたのは、あの『不気味な女の子』だ。

 彼女を捕まえて話を聞けば、プリンプタウンは元通りになる。

 レイリーはそう信じていた。

「分かりました、レイリー。彼女を探しましょう。それで、どこに行くんですか?」

「ここらで一番近い場所といえば、ナーエの森だ。

 でも、俺には別の用事があるんだ。一旦、ここで別れよう」

「そうですね」

 どうやらラグナスには別の用事があるらしい。

「だから、アリアとジルヴァは俺と一緒に来てくれ」

「え? どうしてですか?」

「あいつが……ここに来てるかもしれないから。

 悪いけど、レイリー一人でナーエの森に行ってくれ」

「わ、分かったのだ。一人はちょっと怖いけど、頑張るのだ」

 

 レイリーは再び、ナーエの森に入った。

 すると、考え事をしている三人の男女を発見した。

 男は灰色の髪で右目が前髪で隠れている。

 もう一人の男は銀髪に先が分かれた前髪と紫の瞳。

 女は赤い巻き毛に緑ぷよのヘアピンを付けている。

 レムレス、ティ、そしてあんどうりんごだ。

「どうしたのだ?」

「実は、少し前からずっと怪しい視線を感じるようになったんだ」

「怪しい視線?」

 レイリーはその視線の主を推理しつつ、レムレスの話を聞く。

「それを調べていくうちに、どうやら、

 世界に混乱をもたらそうとしている人物がいるって事が分かってきてね」

「もしかして、わたし達が探してる人なのだ!?」

 生徒を暴走させた張本人、世界に混乱をもたらそうとしている人物。

 それが同一人物であるかもしれないと、レイリーはいきなりレムレスに叫んだ。

「わ、わ、わ、ちょっと待って! 怒鳴らないで! そもそも『奴』って誰なんだい?」

「『奴』……マールの事か。あの子は何なんだ?」

 ティはレイリーが探していた人物の名を言う。

 レイリーは頷きながら、メモを取っていた。

「あれ? きみもマールって子を知らないのだ?」

「ああ……ん、きみは見た事がない顔だな」

「わたしはレイリーっていうのだ。きみは?」

「おれはティ、こっちはオーだ」

「ピピーピー♪」

 ティとオーはレイリーに自己紹介した。

 レイリーも笑顔でティとオーに名前を名乗った。

「ところで、マールは一体何者なのだ?」

「ある人は彼女の事を『時空のバグ』って呼んでた」

「時空のバグ……」

「ピピッピ……」

 バグというのは、所謂不具合の事だ。

 マールは、時空の歪みが原因で、こんなおかしな事をしたのだという。

「ある人が誰なのかは分からないけど、マールが悪い奴なのは確かなのだ」

「で、ぷよぷよの世界とテトリスの世界を混ぜて、みんなを勝負させて力を蓄えて、

 やがて、もっと大きな混乱をもたらそうとしている」

 レムレスはマールの目的をレイリー達に話した。

 レイリーは皆に知らせるためにメモをしている。

「それを一人で調べたのか? 凄いな」

「あはは……流石に一人じゃないよ。学校の先生も手伝ってくれたんだ。

 それに、今言った事の一部は、僕の予想だよ。外れてるかもしれない。

 それに、僕が調べている事もバレてるみたいで、その女の子は僕の前に現れてくれないんだよ」

「そうなのか」

 アコール先生の推測は、当たっていた。

 レムレスの調査は、黒幕にバレていたようだ。

 だがその事は、周りは誰も知らない。

「でも、りんご、ティ、レイリー。彼女は何故か君達に、特に執着しているみたいだ」

「ふぇっ?」

「そ、そうなのか」

「どういう事なのだ?」

 レイリーが首を傾げると、レムレスは首を横に振った。

「手遅れだけど、それを話すわけにはいかないよ。

 でも、君達の傍にいれば、そのマールって子に会えるかなと思って……」

「なるほどなるほど」

 りんごとティは、理解したような、理解していないような顔をした。

 レイリーも、う~んと頭を捻っている。

 その時、レムレスが一瞬表情を変え、杖を構える。

「ど、どうしたのだ、レムレス?」

「誰か……来る……!」

 レムレスはこちらに誰かが来る事を予測した。

 何が起こったのか、りんご達は困惑している。

 すると……。

 

「ヘイヘイヘーイ! そこのユー達! 暗い顔してどうしたんでぃ?」

「おわっ! いきなり生足魚マン出たーーー!

「しかもちょっぴり魚臭いのだ……」

 手足が生えた、真っ赤な巨大な魚が姿を現した。

 ダンスが大好きな魚、すけとうだらだ。

 いきなり姿を現したため、りんごは驚き、レイリーは嫌そうな顔をした。

「詳しい事は置いといて、レッツダンシーン!」

 このすけとうだら、手当たり次第にダンスをしようとする迷惑な魚である。

 だが、今回のすけとうだらは、いつもと様子が違っていた。

「勝負! 勝負! 勝負なんだゼ!!

 なんだかよく分からねえが、とにかく、た・の・し・く勝負するんだゼーーー!

お注射でござるーーー!

 よく見ると、すけとうだらも不穏なオーラを纏っていた。

 さらに、すけとうだらの声に誘われて、ハニービーや首狩り兎など、魔物もわんさかと現れる。

「こいつや魔物も彼女の影響を受けてるのだ。

 盲目的に勝負を仕掛けてくるし、普段は大人しい魔物も凶暴になるのだ」

「ふおおぉ、分かりやすい」

 レイリーはりんご達に状況を説明した。

「治す方法は!?」

「……戦って、正気に戻すしかないのだ」

 レイリーはごくりと唾を飲み、小剣を構える。

「やるしかないのですか?」

「ああ、彼女は本気だ」

「おれ達も、やるしかない!」

 彼女の表情を見たりんごとティも、武器を構える。

 レムレスも、杖をすけとうだらに向けていた。

「ノリノリダンシーン! 俺様と踊ろうじゃねえか!

 レッツ! ホップステップダンシング勝負だゼ!」

 すけとうだらと彼を取り巻く魔物が、レイリー達に襲い掛かってきた。

 

「アイソレーション!」

「ピピーッ!」

 レイリーは素早くハニービーに斬りかかるが、ハニービーにかわされる。

 そこにオーが電撃を放ってハニービーを倒した。

 首狩り兎はレイリー達に気づかれないように、素早い動きでどこかに身を隠す。

「コサイン!」

「キャラメリゼ!」

 そうとも知らずりんごはハニービーを魔法で退け、

 レムレスは炎の魔法で魔物をまとめて攻撃する。

「ヘイヘイヘーイ! 俺様と踊ろうゼ!」

「イッツ・ダンシングなのだ!」

「と見せかけて、サーフビート!」

「何するのだ!」

 すけとうだらはレイリーと一緒に踊ろうとして不意打ちでレイリーを蹴り上げる。

「ホールド!」

 ティは光を放ってすけとうだらの動きを一時的に止めた後、円月輪を投げて攻撃する。

「せやっ!」

「ピピッ!」

「おっと、当たらないゼィ」

 すけとうだらはレイリーとオーの攻撃をひらりとかわす。

「ぬあっ!」

 二体の首狩り兎がティの首目掛けて襲ってくる。

 ティは急所を貫かれるのを避けたが、牙による一撃で大ダメージを受けた。

「よくもティを! サイン!」

「リソレ!」

 りんごが指先から電撃を放って首狩り兎を撃つが、

 首狩り兎は上手く彼女の攻撃をかわし、りんごの首を狩ろうとする。

 だが、レムレスが杖から炎を放って首狩り兎を焼き尽くした。

「くっ……」

 傷ついたティは、何とか回復魔法で傷を癒す。

「わたしの踊りに惚れるんじゃないのだ」

 レイリーは身体をくねらせてすけとうだらと首狩り兎に踊りを見せる。

 小柄ながらその動きはとても妙で、すけとうだらと首狩り兎は見とれてぼーっとした。

「今です、タンジェント!」

「メランジェ、リ・リソレ!」

 強力な首狩り兎が見とれたため、今がチャンスだ。

 りんごが雷の玉を放って首狩り兎を痺れさせ、

 とどめにレムレスが炎の玉を飛ばして首狩り兎を焼き尽くした。

「スピニング!」

「うおっ!」

 ティの指から無数の光が現れ、すけとうだらを取り巻くと爆発する。

 その攻撃によりすけとうだらは正気に戻ったが、隙だらけの彼に猛烈な攻撃が当たる。

「クリケット!」

「ピピピピーピ!」

「タンジェント!」

「コンフィチュール!」

ギョギョーーーーーーーーーーッ!!

 なすすべもなく連続攻撃を食らったすけとうだらはそのままばたんきゅ~するのだった。

 

「ピピピッ! ピピピッ!」

「……おや? 俺様は今まで何を……」

 レイリー達に敗れたすけとうだらは、不穏なオーラが消え、正気に戻った。

 襲ってきた魔物も、皆、ばたんきゅ~している。

「きみも正気に戻ったみたいなのだ」

「とにかく、勝負を只管繰り返さなきゃならねぇ、そんなモヤモヤがスッキリしたゼィ……?」

「よかった! レイリー、君の言う通りだったね」

 レムレスはレイリーの方を見てそう言い、レイリーはぺこりとお辞儀した。

「影響されたって事は、時空のバグ子さんにも会ってるって事かな」

「いや、マールって名前がちゃんとあるのだ」

 名前を憶えてくれないりんごに突っ込むレイリー。

 りんごはそれを聞き流しつつ、すけとうだらに話を聞こうとする。

「ねえ、踊る魚の人」

「このすけとうだら様の事かい?」

「怪しげに笑う知らない女子と会ったりしませんでした?」

「おう! 何故それを!」

「レイリーから、犯人はその子だと聞いたんですよ」

「どっちに行ったんだ、教えてくれ」

「んん~、森の奥の方に歩いてった気がするゼィ!」

 どうやら、マールはナーエの森の奥にいるようだ。

 そこで彼女はまた、何か企んでいるかもしれない。

 それを阻止しなければ、とレイリー達は決意した。

「ありがとう!」

「ありがとうなのだ!」

「よっしゃ、とりあえず追いかけてみましょう!」

「そうだね」

「ピッピピーーー!」

「事情は知らねえが、頑張れよ! なんかあったら俺様が力になってやるからな~!」

 レイリー、ティ、りんご、レムレスは、

 マールを追いかけるため、ナーエの森の奥に向かうのだった。

 すけとうだらはそんな彼らに手を振って見送るのだった。




次回は半人半竜と、あのキャラが登場します。
ヒント:ほほうどりよりも影が薄いです。


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12 ~ 真の美少女は誰?

原作には出てこないキャラも出すのが、私クオリティです。
今回は、ちょい役ですけどね。


 レイリー、りんご、レムレス、ティは、異変の元凶であるマールを追うため、

 すけとうだらに見送られてナーエの森を探索していた。

「うーん……」

「どうしたのだ、りんご。何か気になるのだ?」

 顎に手を当てているりんごに、レイリーが声をかける。

「気になってる事があるというより、気にならないところを探す方が難しいのですが」

「それもそうなのだ」

「おれもそうだしな」

「ピーピピピ!」

 ナーエの森はそこそこ広く、迷う事がある。

 そのため、一行は探索が得意なレイリーを先頭に、迷わずにナーエの森を進んでいるのだ。

「大体の事は少女を追いかけて本人の口から聞くとして、なんでティと私なのかなぁ」

「きみとおれ?」

「言われてみれば、そうなのだ」

 マールはりんごとティを執拗に狙っている。

 事の始まりがこの二人だったので、エックスも分かっていて引き立てただろう。

 

「マールは一体どこにいるんだろうか」

「う~む……」

 こうして四人がナーエの森を探索していると、

 何故か身体を引き摺っている褐色の肌の人物が現れた。

 ナーエの森に住み着いた料理人、ゴゴットだ。

「あ、あの子、強かった、ネ……」

 ゴゴットは四人の前に現れるとばたんきゅ~した。

「あのー、この人は一体誰ですか?」

 りんごはゴゴットを指差して言った。

「ばたんきゅ~してるのにそれは失礼なのだ」

「あ~、え~っと、ちょっと待っててね」

 レムレスはゴゴットを担いで安全な場所に移動させ、回復魔法を唱えた。

 ゴゴットは意識を取り戻して、四人に事情を話す。

「……それで、小屋に帰ろうと思ったら、

 いきなり角と尻尾が生えた女の子に『勝負しろ』って言われて無理矢理勝負させられたネ。

 逃げようとしたけど追いつかれて、ボコボコにされちゃったネ。

 でも、キミ達のおかげで助かったネ、ありがとネ」

「どういたしまして」

 レムレスは助けたゴゴットにお礼を言う。

「角と尻尾が生えた女の子か」

「この森に住んでるって話ですけど」

「うん、これからキミ達はどうするネ?」

「もちろん、その子を追いかけるよ。マールが見つかる可能性もあるしね」

 レムレスはゴゴットに目的を話した。

 りんごやティと共に少女を追いかければ、自然にマールが見つかるだろうと推測した。

「おお、それはありがたいネ!

 それじゃあ、いってらっしゃ……おっと、その前にこれを飲むといいネ」

 事情を聴いて放っておけなくなったゴゴットは、ズボンのポケットに手を突っ込んで中を漁り、

 何かを発見するとそれをりんごに手渡した。

 フラスコの中には、怪しい液体が入っていて、それを見たりんごの顔が青ざめる。

「これ、どう見ても毒薬じゃないですか」

「全然怪しくないヨ?

 ドクダミ、センブリ、アシタバ、毒を抜いたトリカブトで作った薬だヨ?」

「そ、そんな薬なんて飲みたくありません!!

「あ~~~れ~~~」

 りんごはフラスコに入った薬をゴゴット目掛けてぶん投げた。

 薬はゴゴットの顔にぶちまけられ、ゴゴットは森の外へ吹っ飛ばされた。

 

「……りんご、いくらそういうのが嫌だからって、そうする事はないと思うのだ」

「そうですか?」

 レイリーはゴゴットが吹っ飛んだ方向を見た後、りんごにそう突っ込んだ。

 

「うわっ、魔物が来ました!」

「アイソレーション!」

 マールを探している途中、ぷよやコウモリギャルといった魔物が襲ってくるが、

 レイリーが小剣で追い払う。

 ティは魔物の気配を感じ取ると、「そこか!」と言って円月輪を投げつける。

 すると、ばたんきゅ~したゴブリンが現れた。

「凄い……ティ、こんな魔物の気配に気づくなんて」

「今は警戒する必要があるからな」

「ピーピピピッ」

「……はい」

 魔物が凶暴化しているのは、事実らしい。

 りんごは気を抜かずにティ達と離れずに行動した。

 自分は戦いに慣れていないため、こういう時はティ達が頼もしく見えた。

 

「がおーーーっ!!」

 魔物を退けながら四人が歩いていくと、緑のショートヘアに金色の瞳の、

 頭に角、背に翼、尻に尾が生えた少女が立ち塞がっていた。

 半人半竜の少女、ドラコケンタウロスである。

 ゴゴットを無理矢理勝負に付き合わせていた少女と全く同じ特徴を持っていた。

「うわっ、なんだ!?」

「今日という今日こそ、決着をつけるわよ!」

 ドラコはティの話も聞かず、何かの決着をつけようとしていた。

「な、何の話なのだ?」

「このドラコケンタウロスこそ、最強の美少女だって証明するぞ! アルル!」

「……ここにアルルはいないのだ」

がっびーーーん!

 さっき、ぷよ勝負してそうな音がしたから、アルルだと思って駆けつけてきたのに!」

 ドラコはレイリーをりんごと勘違いしたため、ショックを受けてしまった。

「それじゃあ、これで……」

「がうーっ! 待てーーーっ!」

 りんご達が立ち去ろうとすると、ドラコはりんごの腕を掴んだ。

「な、何するんですか!?」

「あの巨人だけじゃ満足できない! この際、もう誰でもいいぞ!

 あたしはぷよ勝負したくてしたくてたまらないんだ!」

 そう言っているドラコは、不穏なオーラを纏っていた。

 ゴゴットの情報通り、彼女もマールの影響を受けているようだ。

 周りには暴走している魔物もいる。

「これは……」

「ああ、そうみたいだね。ゴゴットの言う通り、影響されている」

「そういう事なら見過ごせません。彼女を大人しくさせましょう!」

 レイリーは小剣、レムレスは杖、ティは円月輪を構え、りんごもゆっくり本を構える。

 暴走しているドラコケンタウロスと、彼女を取り巻く魔物との戦いが始まった。

 

「アイソレーション!」

 レイリーは小剣でゴブリンに斬りかかる。

 大した手ごたえではなかったが、ゴブリンの急所を狙ったためそこそこのダメージを与えた。

「せいっ!」

 ティは円月輪でゴブリンを切り裂き、倒した。

「ファイヤーブレス!」

「何するのだ!」

「ビーッ!」

「うっ」

 ドラコは口から炎を吐いてレイリーとオーを焼き、ティに軽い火傷を負わせる。

 りんごとレムレスはバリアを張っていたためダメージは受けなかった。

「リソレ!」

 レムレスは杖から火炎弾を放ち、ゴブリンを焼く。

 ホブゴブリンはレムレスとレイリーを棍棒で殴る。

「これくらいの痛み……」

 レイリーは痛みに耐え、小剣を構え直し、ホブゴブリンに斬りかかる。

 だが、ホブゴブリンにはかわされてしまう。

「ビッ!」

「コサイン!」

 ゴブリンが石をオーに投げつけて攻撃するが、直後にりんごが電撃を放ってゴブリンを倒した。

「ホールド!」

「ピピピッピ!」

 ティが光でホブゴブリンを動けなくした隙に、オーが強力な電撃をトロールに放つ。

「おお、ティもオーもいい連携なのだ」

「隙あり!」

 レイリーが連携に拍手していると、ドラコがレイリー目掛けて拳を振り下ろす。

「危ないっ!」

「ひょいっ!」

 だが、ティがレイリーに警告したため、レイリーは飛び上がって攻撃をかわした。

 ドラコが歯を食いしばっている間に、レムレスが呪文を詠唱する。

「シュ・シュ・シュクレフィレ!!」

 レムレスの杖から無数の光弾が放たれる。

 光弾は魔物達に全弾命中し、まともに食らった魔物達はばたんきゅ~し、

 ドラコの体力も大きく減らす。

うおーーーーーっ!!

「サイン!」

 諦めずに襲ってくるドラコに対し、りんごは電撃を放って一瞬だけ動きを止める。

「バーニングブレス!」

「ピピーッ! ピピー……」

 ドラコの口から、強力な炎がりんご達を襲う。

 オーはばたんきゅ~し、ティの顔も苦痛に歪む。

「こんなに熱い炎は初めてだな」

「でも、この攻撃を出したって事は、ドラコの体力も残り僅かって事だよ」

 レムレスの言う通り、ドラコは息を切らしている。

 防御せずに攻撃を受け続けた結果だろう。

「ドラコスペシャル!」

 拳と脚がレイリーに襲い掛かってくる。

 だが、疲労のせいで、切れが鈍っていた。

「バタフライ!」

「ネオスペル、タ・タンジェント!!」

「お手紙ちょーだい! ほえほえ~……」

 そして、レイリーがドラコを斬りつけた後、とどめにりんごが強力な電撃を放って倒した。

 

「しばらく大人しくしてもらうよ。手荒な真似はしたくないからね」

 レムレスは魔法で光の縄を作りドラコを拘束した。

「さあ、気分はいかがですか?」

「ん? そ、そういえば、なんか、心が軽くなった気がするぞ」

「それは何よりです!」

 ドラコを正気に戻し、喜ぶりんご。

 レイリーも笑みを浮かべ、オーは「ピッピピ~」と喜んでいる。

「質問だけど、マールって子を見かけなかったのだ? マールは、不気味な女の子なのだ」

「それなら、もっと奥の方へ行ったと思うよ」

「ご協力どうもありがとうございます!」

 ドラコから情報を手に入れたりんご達は、ナーエの森の奥へ急ぐ事にした。

 その間に、レムレスは顎に手を当てて考え事をしていた。

(あの子は時間稼ぎをしているみたいだね。

 こうしている間にも、計画を進めているかもしれない。

 でも、あの子を見つけるためには、森の奥に行かなきゃいけない……)

「どうしたんですか、レムレス?」

「ううん、何でもないよ」




レムレスは胡散臭いけどちょっとだけ頼りになる人物、を目指しました。
次回は問題児が登場します。


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13 ~ 異次元の旅人

今日はリデルの誕生日ですよっと。
ですが今回出てくるのは、彼です。


 レイリー、りんご、ティ、レムレスの四人はナーエの森の奥へ進んでいく。

 異変の元凶・マールを倒し、アルカディアと箱の世界を元に戻すためだ。

 襲ってくる魔物は、レイリーとティが退けていた。

 ある程度奥まで辿り着いたところで、ティが呟く。

「さて……いるのかな?」

「ピピーピピ?」

 ティとオーはマールがどこにいるか辺りを見渡す。

 レイリーも、額に手を当ててマールを探していた。

 すると……。

 

「わーわー! おっそいよー、りんごちゃん!」

 不定形で、頭に?を付けた謎の人物が現れた。

 様々な異世界を旅する時空の旅人、エコロだ。

「ぅ、エコロ!?」

 りんごは他人の名前を覚える事が苦手だが、何故かエコロの名前だけは覚えていた。

「なぁ、りんご、あれは知り合いなのだ?」

「う……うん。彼? あれ……の名前はエコロ。生業は、時空の旅人らしいよ。

 ふざけたふりして結構強いです」

「時空を超える力は厄介なのだ」

 レイリーはエコロを危険人物だと察した。

 様々な異世界を自由に行き来できる者は、経験上、何をするか分からないからだ。

「それは仲間になってくれたら頼もしいな!」

「ピピピピーピ!」

「そんな奴を仲間にしても碌な事なんてないのだ!」

 エコロを仲間にすると言い出したティに、レイリーは強く反対した。

 かつて世界をぷよで埋め尽くそうとしたり、サタンと共にトラブルを起こしたりと、

 レイリーはエコロに良い印象を抱いていない。

「碌な事なんてない? 実際に連れて行かなきゃ分からないよ」

「でも、何をするのか分からないのだ。危険だからエコロは放っておくのだ!」

「二人とも、喧嘩してる場合じゃないよ」

 ティとレイリーがエコロの処遇について言い合う中、レムレスはいたって冷静である。

 伊達に彗星の魔導師と呼ばれていないだけあった。

「あの子を追ってくるだろうからここで待ってたんだ~」

「そうだ、エコロ!

 時空のバグ子さん……じゃなくてマールって子の場所を知っていますか!?」

 どうやら、エコロはりんご達がマールを追いかけると思ってナーエの森で待っていたのだ。

 りんごはエコロにマールがどこにいるかを聞いた。

「暴れるだけ暴れてあっさり逃げちゃったよ。もうここにはいないよ~」

「ううっ……」

「僕の思った通りだったね」

 マールはまた別の場所に行ってしまったらしい。

 レムレスの言う通り、ここに来たのは無駄足だったようだ。

「そうですか……じゃ、失礼します」

 りんご達が帰ろうとすると、草むらから音が聞こえてきた。

「ん?」

「誰かいるのか?」

 音を聞いたレイリーとレムレスは身構えたが、りんごとティはきょとんとしている。

 その音は、こちら側にゆっくりと近付いていく。

 しばらくすると、音の主がりんご達の前に姿を現した。

 樹木が二足歩行した魔物、エントだ。

「普段は大人しいはずなのに、どうして……!」

「ほらほら、早くしないとみんなやられちゃうよ?」

 エコロがりんご達を見て楽しそうに煽っている。

 ここで挑発に乗ってもエコロの思う壺だが、

 マールの影響を受けているエントを倒さなければ森から出る事はできない。

「や、やるしかありませんね!」

「そうだな!」

「ピピーピー!」

 りんごとティも慌てて武器を構え、暴走しているエントを迎え撃った。

 

「エントは植物だから火に弱いし、斬る攻撃もよく効くよ」

 レムレスがエントの弱点をティ達に伝える。

「そうか、ならば……せいっ!」

「オオオッ!」

 ティは円月輪をエントに向かって投げる。

 攻撃はよく効いており、そこそこのダメージを与えた。

「キャラメリゼ!」

 レムレスの杖から火炎弾が放たれ、エントの身体を燃やしていく。

 燃え広がる炎は、エントを苦しめた。

「サイン!」

「ピーピピ!」

 りんごは手、オーは身体から電撃を放ち、エントを痺れさせる。

 すると、エントは森から力を借りて、自分の身体を光で包み、防御力を上げた。

「しまった、硬くなったのだ! うわぁっ!」

 エントの固い肌は、レイリーの小剣を軽く弾いた。

「くそっ、おれの攻撃も効かない!」

 ティの円月輪による攻撃も、通用しない。

「だけど、弱点は変わらないよ……アロゼ、キャ・キャラメリゼ!」

 レムレスは魔力を上げる呪文を唱え、エントに向かって火炎弾を放つ。

 炎がエントに命中すると、火柱が発生し、エントを包み込んだ。

 効果的な攻撃だったようで、エントの身体のあちこちが灰になる。

「うわっぁ!」

「ピピッ!」

「痛っ!」

 エントはあまりの痛さに理性を失い、暴れ回る。

 ティ、オー、レムレスはエントの攻撃を食らい、大きく吹き飛ばされる。

「後はわたしがやるしかないのだ! りんご、詠唱を頼むのだ!」

「ええ!」

「クリケット!」

 レイリーは小剣を構え、エントに突っ込んで小剣を突き刺す。

 りんごはエントを倒すため、呪文を詠唱する。

 エントは腕を伸ばしてりんごを攻撃しようとするがレイリーの攻撃に阻まれて通れない。

「とどめです! マ・マ・マグマチュード!!」

 りんごはマグマを呼び出して、エントを包んだ。

 エントは高温に包まれて灰になり、この森から邪悪な気配は消滅した。

 

「おめでとう!」

 エコロは、エントを撃退したりんご達を見てぱちぱちと拍手する。

 正直、彼に良い印象は無いが、だからといって攻撃するわけにはいかない。

「で、マールについて何か知ってるのだ?」

 レイリーはエコロに小剣を向ける。

 エコロは慌てて「嘘じゃないよ」と言ったため、レイリーは小剣をしまった。

「こほん。そうだ、お礼にいい事を教えてあげる。

 えっとね~、今回の事はそこの彗星の人だけじゃなく、

 おじさまとか時空の番人とか先生とか魔法使いとか、

 もちろん僕もちょっと早めに気付いてて、それぞれ対策をしてたんだよね」

 エコロはりんご達に事情を話す。

 どうやら、マールによる異変は、サタン、エックス、アコール先生、

 そして魔法使いも知っていたようだ。

 その中で最も対策が良かったのは、アコール先生だったという。

「ずばり、バグ子……マールの目的は?」

「その事なんだけど……彼女を助けてあげてほしいんだ」

「えっ、マールが被害者ってどういう事なのだ!?」

 皆をおかしくさせたはずのマールが、被害者だという事実を知って驚くレイリー。

 そんな事をエコロが知っていたなんて、という事も驚きを隠せなかったが……。

「これ以上はみんなが揃った場所で相談しよう。

 多分、そろそろみんな集まってくると思うから。僕達も行くよ、りんごちゃん!」

「わ、分かりました」

「ええっと、エコロ?」

「……」

 ティはエコロを睨みつけていたが、しばらくして、笑顔でエコロに手を差し伸べた。

「おれはティ、これからよろしく」

「……べーだ」

「ピピピピ、ピピピ?」

 急に友好的になったティに対して、エコロはアカンベーをするのだった。




次回はDLCキャラに焦点を当てます。
本編に出てこないキャラにも出番を当てたいのです。


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14 ~ 魔法使いローザッテ

DLCキャラにも出番を与えなければ、と思って書きました。
この二人が絡んだら面白いと思ったけどなぁ。


 その頃、プリンプタウンから遠く離れた町では、

 魔法使いの男性が今日も弟子に魔法を教えていた。

 彼の丁寧な教えは、弟子によく届いていた。

 

「以上で今日の魔法の授業は終了です。皆さん、自分の家にお帰りください」

 教え子達は次々と自宅に帰っていく。

 みんな話を聞いてくれたようで、魔法使いの男性はニッコリと微笑む。

「さてと……私は、そろそろ情報を他の人に伝えなければなりませんね」

 男性はそう言って、どこかに歩いていった。

 使い魔のゴーストは、ふよふよと浮きながら、男性の後についていった。

 この落ち着いた物腰の男性の名はローザッテ。

 五人の弟子に魔法を教えている、ベテランの魔法使いである。

 ある剣士が子供の頃に女装をしていたように、魔除けのために女性の名前を使っている。

「別の世界とこの世界が交わるのは結界が薄まった現在ではそれほど珍しくありませんが、

 ここまで大規模に繋がるのは初めてですね」

 ローザッテが辺りを見渡すと、テトリミノがあちこちに落ちていた。

 数はプリンプタウンには及ばないが、異変の影響が出ている事は事実だった。

「さてと、プリンプタウンは……」

 ローザッテがプリンプタウンに行こうとすると、オークの群れが襲い掛かってきた。

 マールの影響で魔物が凶暴化しており、見る者全てを敵視している。

「魔物ですか……サープルライズ」

 だがローザッテは落ち着いて初級呪文を唱え、オークの群れを闇の中に吸い込んだ。

「恐らく彼らも動いている事でしょう。ちょっと急がなければなりませんね」

 そう言って、ローザッテはプリンプタウンへ行くための道を進んでいった。

 

 こうして着いた先はピット砂丘。

 プリンプタウンと四つの町を繋げる、砂漠と見紛うほど広大な砂丘だ。

 ローザッテは辺りを見渡すと、集中して呪文を唱えた。

「レビテーション」

 魔法名と共に、ローザッテの身体が宙に浮いた。

 彼のように、優秀な魔法使いは箒や杖など棒状の発動体がなくても浮遊魔法を使う事ができる。

 しかも浮遊中は速度も上がるというおまけつきだ。

「プリンプタウンは、こっちでしたね」

 ローザッテは使い魔の導きに従って、プリンプタウンへ向かっていく。

 魔物と出会う事なく、順調に進む事ができた。

 そして数分後、無事にローザッテはプリンプタウンに辿り着いた。

 

「ここがプリンプタウンですか」

 ローザッテはまず、辺りを見渡す。

 テトリミノが散らばっているが魔物の気配はない。

「アコール先生、待っててくださいね」

 ローザッテは情報をアコール先生に届けるため、プリンプ魔導学校へ向かった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

『校内に魔物が現れるとは予想外だったニャー』

 その頃、プリンプ魔導学校では、アコール先生が魔物を撃退していた。

 ここで強力な魔法を無闇に使っては校内が崩壊する可能性がある。

 だから、アコール先生は大規模な魔法を控え、下位光魔法で応戦しているが、

 数は多く流石のアコール先生も苦戦していた。

「結界を抜けて入るとは、いい度胸ですね」

 アコール先生は魔物に黒い笑みを浮かべていた。

 大事な学校を荒らされる事は、アコール先生にとって許せない事だからだ。

(こうなった時のアコールは、怖いニャ……)

 流石のポポイも、今のアコール先生には恐怖せずにはいられなかった。

 それほどまでに、怒った時の彼女は恐ろしいのだ。

 

「きゃっ!」

『アコール、危ニャい!』

 その時、アコール先生に虎の姿をした魔物が襲ってくる。

 ポポイは咄嗟にアコール先生を庇い、爪で魔物を切り裂いて倒した。

『お前に投げられるだけの我輩じゃニャいニャ!』

「まぁ、ポポイったら、ありがとう」

 アコール先生はポポイを優しく抱きしめる。

 その時、こちら側に足音が近づいてきた。

「誰です!?」

 巨大な魔物が来たのかと思い、アコール先生は飛翔の杖を構えた。

 すると、星がついた帽子を被りマントを羽織ったいかにも魔法使いといった男性が現れた。

「貴方は誰ですか?」

 アコール先生は彼に見覚えがないようで、飛翔の杖を構えたまま動かない。

 すると、男性はにこりと微笑んでこう言った。

「緊張しないでください。私はあなたを助けに来たのですよ。……私は、ローザッテです」

「ローザッテさん……分かりました」

 アコール先生はローザッテに敵意がない事を感じると、彼の協力を受け入れた。

 

「サープルライズ!」

「アレ・クロア!」

 アコール先生は光の魔法、ローザッテは闇の魔法を使い、魔物を倒していく。

 ローザッテの使い魔とポポイも、二人が倒し損ねた魔物を仕留めていた。

「初対面ですが、あなたの魔法は素晴らしいです」

「ローザッテさんも流石ですよ」

 初対面であるにも関わらず、アコール先生とローザッテはお互いに魔法を褒め合っている。

 教える者同士、気が合っているのだろう。

「ぐっ……!」

 そうしていると、ブラックスパイダーがローザッテの腕に噛みついた。

 彼の顔が見る見るうちに青くなっていく。

「大丈夫ですか、ローザッテさん!」

「どうやら毒を浴びたみたいです……うぅっ……」

 毒に侵されたローザッテは、どんどん体力が減っていく。

 アコール先生はローザッテに解毒魔法を使おうとしたが魔物が襲ってきて呪文を唱えられない。

 ローザッテは毒で戦闘不能になろうとする。

 魔物も二人に襲い掛かってくる。

「エプルーブ!」

 アコール先生は杖を振って光の波動を飛ばし、魔物の群れを弾き飛ばして遠ざけた。

 その隙にアコール先生はピュリファを唱え、ローザッテの毒を治した。

「はぁはぁ、ありがとうございました」

「とはいえ、きりがありませんね」

「恐らく、魔物の親玉がいるのでしょう。そいつを倒すのが必要ですね」

「ええ。行きますよ、ローザッテさん!」

「はい!」

 そう言って、アコール先生とローザッテは魔物の親玉を探しに向かった。

 

(アコール先生に情報を教えたいですが、今はそれどころじゃない。

 早めに親玉を倒しに行かなければ……!)




次回も魔導学校編ですよ。


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15 ~ ちょっぴりダークな女の子

フェーリ戦です。
隣町も、もっと掘り下げてほしいなぁ。


「ここから不穏なオーラを感じます」

「そうですね……あら?」

 二人が向かった先は、二年一組の教室の中だった。

 そこでは、虚ろな目をしたフェーリが、クルークに何度もぷよ勝負を仕掛けていた。

 彼女の周りには、アコール先生とローザッテが相手していた魔物もいる。

 恐らく、彼女が校内に魔物を放った張本人だろう。

 

「もう一回、しょ・う・ぶ・よ……」

「なんなんだい、今日のキミは!? いい加減しつこすぎるぞ!

 ボクはキミとはなるべく関わりたくないんだがね!」

「う、うるさい……! アタシだって……そ・う・よ……」

 クルークとフェーリはレムレスを巡って仲が悪い。

 避けようとしたクルークだったが、フェーリに見つかってしまったのだ。

「でも……でも……」

「お、おいフェーリ? なっ、ななな泣くんじゃない!」

「泣いてないわよ!」

 クルークに泣いていると勘違いされたフェーリは、不穏なオーラを纏いながら去っていった。

 

「ひえぇ……」

(クルーク君……)

(この様子だと、いきなり入るのはやめた方がよさそうですね)

 クルークの様子を見たアコール先生とローザッテは一歩引いて、落ち着くのを見守った。

 教える者らしい、賢明な判断である。

 すると、クルークの周りを不穏なオーラが取り囲んだ。

「あの女の子と勝負してから何かおかしいぞ。

 フェーリはこんな感じだし、ボクの持っている本もなんだか落ち着かない感じだし、

 どうしたら……」

 本の魔物は暴走し、フェーリまでも暴走し、クルークは慌てふためいている。

 アコール先生とローザッテは、クルークを落ち着かせるべく、ゆっくりと教室の中に入った。

「どうしましたか、クルーク君?」

「アコール先生!」

 担任教師が入って来たクルークは、当然、驚いた。

「この辺に、魔物の親玉がいると思いましたが……」

「そうじゃないんだよ! なんだか身体がムズムズしてきて……」

「まずは落ち着いてくださいね」

 アコール先生はクルークに向けて満面の笑みを浮かべた。

 が、その目が笑っていない事は、誰もが分かっていた。

「……分かりました」

 クルークはアコール先生に威圧され、半ば強制的に落ち着いた。

 

「あっ、クルーク! それと、フェーリ! 後、アコール先生に……この男の人、誰?」

 しばらくすると、アミティ、ラフィーナ、シグが教室の中に入ってきた。

 アミティはローザッテを知らないため首を傾げる。

「あら、アミティさん、こんにちは」

「私はローザッテと申します」

 ローザッテはアミティに微笑みながら名を名乗るがすぐに微笑みを消して真剣な表情になる。

 アコール先生も緊張を崩していない様子だ。

「……アコール先生、これはどういう事なの?」

「校内に魔物が侵入したので、私とローザッテさんで退治したところです」

『大変だったニャー』

「えっ、そんな! よくここまで来れましたわね」

「そーか」

 良く知らないローザッテはともかく、アコール先生も苦戦した様子が伺え、

 流石のラフィーナも驚きも隠せない。

 シグは相変わらず、ぼーっとしている。

「それでアコール先生、どうすれば魔物はいなくなるの?」

「簡単な事です、親玉を倒すのですよ。しかし、親玉は一体どこにいるのでしょうか」

「う~ん……」

 アミティが、親玉がどこにいるかを考えていた時。

 

「何を……ゴチャゴチャ……言ってるの……」

 フェーリが魔物を従えてアミティ達に近付いた。

「い・い・か・ら、勝負なさい……!」

 フェーリは不穏なオーラを纏っている。

 恐らく、彼女を倒せばプリンプ魔導学校から魔物は退散するだろう。

「……フェーリさん、先程の私と一緒だわ。胸がとても苦しいのよ……」

「そんなの、ほっとけないよっ!」

「うん」

 隣町の魔導学校の生徒であっても、アミティはフェーリを放っておけなかった。

 ローザッテも「当然です」と言って頷く。

「皆さんはフェーリさんを元に戻してください。私とローザッテさんは魔物を相手にします」

「うん、分かったよ、アコール先生、ローザッテ!」

「やーるぞー」

 友達を助けるために、シグがやる気を出す。

 これは普段、虫にしか興味を持たないシグでは考えられない事だ。

「何だか分かりませんが、シグがやる気を出している!?

 これは私もやるしかありませんわね!」

 ラフィーナも、アミティとシグに感化されて共に戦ってくれるようだ。

 隣のクラスでありながらも、アコール先生はラフィーナの様子を見てニコニコと微笑んでいた。

 

(本当に、ここの子供達は健全ですね……)

 ローザッテもアミティ達を高く評価している。

 自分の教え子と重ね合わせているかのように。

 

「よく分からないけど……誰が来たって、た・の・し・く……叩き潰すワ……!」

「みんな、いくよ!!」

「さあ、来なさい……!」

 フェーリはそう言って、魔物の群れを呼び出した。

 お世辞にも頭が良いとは言えないフェーリだが、マールの力の影響で魔力が高まっている。

 こちら側にはアコール先生とローザッテがいるが、決して油断してはならない。

「うっ、身体が重いですわ!」

「……?」

 メデューサと彼女の頭の蛇は瞳を光らせる。

 ラフィーナとポポイは身体が重くなり、シグも気付いていないが足が少しだけ石になっていた。

「ブリザード!」

「う……やるわね」

 アミティは両手から吹雪を放ち、魔物やフェーリを凍らせる。

 特にメデューサには大きなダメージを与えられた。

「行きなさい……」

「きゃっ!」

「おっと……」

 フェーリに命じられたヘルハウンドがローザッテとアコール先生に噛みつく。

 この二人はフェーリにとって厄介だったため、先に仕留めようと思ったのだ。

「アレ・クロア」

 だがアコール先生はそれを見切っていた。

 アコール先生は杖から光の刃を放ち、ヘルハウンドを撃退した。

「エクスプロード!」

「アプライ」

 さらに、ローザッテがランタンから光を放ち、魔物の群れにぶつけて大爆発を起こす。

 フェーリはダウジングロッドを回し、魔力の盾を生み出して攻撃を防ぐが、

 他の魔物は吹き飛び、ヘルハウンドは倒れた。

「くたばりなさい、フー・ダルティ!」

「セルリアン」

 ラフィーナが炎を纏った気弾をぶつけ、メデューサを吹き飛ばした後、

 シグが青い光を飛ばし、とどめを刺した。

 そのおかげでメデューサの石化の瞳は解除され、ラフィーナ達は自由に動けるようになった。

「いっけー、サイクロワール!」

 アミティの風の刃がヘルハウンドを切り刻む。

「コンジャンクション」

「あらっ」

 フェーリがダウジングロッドを振り下ろすと、二つの星が交差してアコール先生にぶつかる。

 アコール先生はすぐに回復魔法を唱えて傷を癒す。

「ジェネラススピリア」

「コンジャンクション」

 ローザッテと使い魔が協力して光を放ち、フェーリが二つの星を交差させてぶつける。

 魔法は互いにぶつかり合うが、ローザッテの方が威力が高かった。

「後は私がやりますわ! シグ、いきますわよ!」

「やーるぞー」

 ラフィーナとシグは協力技の発動に入る。

 シグの両手から赤と青の光が現れ、ラフィーナの全身を取り囲む。

「「ファイアーンス・アーク!!」」

きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 ラフィーナが全身から光を放ち、フェーリにぶつけると大爆発が起きる。

 爆発に巻き込まれたフェーリは大ダメージを受け、吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。

 そして、身体から黒い煙が抜け出た後、意識を失い、ばたんきゅ~した。

 

「「ヒーリング!」」

 ローザッテとアコール先生は、ばたんきゅ~したフェーリに回復魔法を唱える。

 しばらくして、フェーリは意識を取り戻した。

「はーっ……はーっ……な、治った……!?」

 今のフェーリからは不穏なオーラが出ていない。

 魔物の気配も、校内から消え去った。

「……くっ、レムレス先輩に気を付けるように言われていた……のに、く・つ・じょ・く……よ」

 フェーリはアミティ達に助けられた事で、悔しそうな顔をする。

「それはそれは……ご苦労様です」

「レムレスに!? じゃあ、レムレスは知っていたのか!」

 フェーリを労うローザッテと、レムレスが知っていた事に驚くクルーク。

「ト・ウ・ゼ・ン……先輩が知らない事なんてないワ……」

「あら、それは私も知っていましたよ」

「私もです」

 もちろん、アコール先生とローザッテもこの異変の詳細を知っていたようだ。

 こういう時に、大人達はとても頼りになる。

「じゃ、じゃあ、怪しい女の子の事も?」

「……そこまでは」

「マールさんの事ですか? 今は落ち着いているので結界を張ってから詳細を話しますよ」

 そう言って、アコール先生はまず、認識阻害結界を教室に張った。

 そして、アコール先生とローザッテが情報交換をすると、アミティは非常に驚いた。

「えええっ!? マールとあの人ってそういう関係だったの!?」

「静かにしてください。とにかく、マールさんは被害者だったんですよ。

 皆さん、マールさんを止めるためにもまずは一旦ここを出ましょう」

「ああ、レムレスのところに行こう」

 アミティ達は一旦プリンプ魔導学校を出て、レムレスのところに向かうのであった。




ぶっちゃけて言うと、今のぷよぷよ公式に足りないのは、
伏線を回収するやる気としか言いようがありませんね。

次回はアリアとジルヴァのターンです。


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16 ~ ヘンタイ闇の魔導師

アリアとジルヴァのターン。
例によって原作にないシーンがあるのでご注意を。


 ラグナスの後についていったアリアとジルヴァは、やがてプリンプタウンの商店街に辿り着く。

 八百屋やパン屋、果物屋、お菓子屋など、たくさんの店が並んであり、

 おしゃれコウベが運営するおしゃれなお店もある。

 

「もしかして、あなたが探してる人って……」

「ああ、アルル・ナジャだ」

「やっぱりそうでしたか」

「だが、他に誰かいるかもしれない」

 ラグナスによれば、アルルはカーバンクルと共に商店街に向かっているらしい。

 だが、他にも悪影響を受けている人物がいるかもしれないと、ラグナスは考えているのだ。

「他に誰か来てるんですか?」

「ああ、そいつはな……」

 

 そして、アリア、ジルヴァ、ラグナスの三人は、アルルがいる商店街に辿り着いた。

「あっ、ラグナス! 久しぶり~!」

「ぐぐぐぐぐ~!」

「来たか、ラグナス。今回は小さくなってないな」

 そこには、アルルとカーバンクルの他にも、銀髪の闇の魔導師シェゾがいた。

 ラグナスが大きくなっている事に気づくシェゾ。

「ああ、メダルの力だからな。それで、アルル、大丈夫か?」

「うん、ボクは平気……だけど、ここにも魔物がやって来てね」

「ぐぐぐ~」

「くそっ」

 アルルによれば、商店街にも魔物がいるようだ。

 一見、商店街は安全なように見えるが、マールの影響はここにも及んでいた。

「ひゃぁっ、来たよ!」

「ぐー!」

 アルルに襲い掛かって来た魔物は、キャンディ。

 その名の通り、キャンディに混沌の力が宿り、魔物になった存在である。

「ファイ……あれ?」

 アルルは炎の玉を放とうとするが、何故か魔法が発動しなかった。

 アリアは落ち着いてキャンディについて説明する。

「キャンディがいる間、力が出なくなります」

「くそ……」

「幸い、キャンディの耐久力は低いので、迅速に攻めれば勝てるでしょう」

「そ、そうだな」

 キャンディを倒すのは気が引けるが、放っておいたら大変な事になる。

 アルル、ラグナス、アリア、ジルヴァ、シェゾは身構えてキャンディを迎え撃った。

 

「ふぅ……これでみんな倒したな」

「でも、これってお菓子でしたよね」

 危なげなくキャンディを撃退したアルル達。

 しかし、お菓子を倒したため、アリアは少しだけ罪悪感を持っていた。

「そ、そんなの気にしなくていいってば!

 とにかく、これで魔物はみんないなくなったはずだよ」

 アルル達が商店街を去ろうとした時、どこかからドスン、ドスンという音が聞こえてきた。

 恐らく、商店街の魔物の親玉なのだろう。

 戦闘に慣れている五人はすぐさま身構える。

 足音はどんどん大きくなっていく。

 そして、やって来たのは……なんと、巨大なウェディングケーキだった。

 しかも、そのケーキには牙が生えていて、目もつり上がっていて鋭い。

「……」

 シェゾはごくりと唾をのむ。

 以前、水晶の洞窟でケーキを作った事はあるが、

 ここまで巨大で凶暴なケーキは見た事がなかった。

 ケーキは今にもアルル達に襲い掛かろうとする。

「フェーゴボム!」

 アリアは炎の精霊フェーゴを召喚し、凶暴化したケーキを燃やす。

 ラグナスは斬りかかり、ジルヴァは矢を放つが、

 柔らかい身体を持つ凶暴ケーキにダメージは与えられない。

「どうやら魔法がよく効くみたいですね」

「そっか、じゃあボクの出番だね! ファイヤー!」

 アルルは手から炎を放ち、凶暴ケーキにぶつける。

 凶暴ケーキは叫び声を上げて、燃え上がっていく。

アアアアアアアアアアア!!

「ケーキは大人しく俺達に食われな! スティンシェイド!」

 凶暴ケーキは暴れ回るが、シェゾは攻撃をかわし、無数の闇の針で反撃する。

 アリアは炎の精霊フェーゴを召喚して炎を放つ。

「食らえ、連続攻撃!」

「フォトンアロー!!」

 そして、ラグナスが凶暴ケーキを連続で斬り、

 ジルヴァが光を纏った矢を放つと、凶暴ケーキは崩れ去る。

 最後にカーバンクルが舌を伸ばし、凶暴ケーキを丸呑みにするのだった。

 

「カ、カーバンクルはあんなのも一口で食べちゃうんですか!?」

「ぐぐぐ~~~」

 巨大な魔物を一口だけで丸呑みにしたカーバンクルを見て、アリアは驚いた。

「カーくんは好き嫌いなく何でも食べるからね、

 やっとの思いで買ったぷよまんアイスを食べられた時はショックだったよ……」

「ぷよまんアイスって……その、幻のお菓子?」

「うん」

 さぞ、ショックだったでしょうね、とアリアは苦い顔をして呟いた。

 ともかく、これで魔物はいなくなったため、商店街は平和になった。

「そろそろ帰ろうか」

「ああ」

「ぐーぐぐー」

 アルル達が商店街を後にしようとした、その時。

 

「……おーっほほほ!」

「こ、この声は……」

「チッ、もう来たのか」

 向こうから、少女の高笑いが聞こえてきた。

 アルル、シェゾ、ラグナスは、その少女について知っていた。

「ぐぐぐぐぐ……」

「まさか……キミなの!?」




最後のアルルのセリフは、別所の短い話を読めば分かると思います。
次回も魔導キャラが登場します。


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17 ~ 見習い魔女ウィッチ

今回はウィッチとの戦いです。
7ではハーピーと一緒に出たのに、先にぷよぷよ!!に出たのは彼女なんですよね。
ま、相当な人気だからだと思いますが。


 魔物キャンディと凶暴ケーキを倒し、商店街を後にしようとしたその時、

 向こうから少女の声が聞こえてきた。

 その声はアルル達には聞き覚えのあるものだった。

 

「おーっほほほ♪」

 長い金髪に青い瞳、青いとんがり帽子に同色の服。

 彼女は、魔女族の少女・ウィッチだった。

 ちなみに、ウィッチという名は真名ではなく、これは彼女が半人前である事の証明だ。

「シェゾさん、こんなところにいたんですのねぇ」

「ウィッチ……」

「いかにも♪ 可愛くて強く、頭もいいウィッチさんですわぁ! おいっス!」

(こういう奴こそ、こういう事をよく言うんだな)

 お馴染みの挨拶を言うウィッチに対し、ジルヴァは心の中で彼女をそう評価していた。

 一方、アルルとラグナスは少し困惑していた。

「え? え? どうしたの?」

「こいつがどうしたんだ?」

「見ていろ、アルル、ラグナス。すぐに分かる」

「シェゾさん……貴方が欲しいっ♪ ……ですわ!」

 ウィッチはシェゾの口真似をしていた。

 これは、以前にサタンが起こした、太陽が巨大化する異変で行ったのだ。

「ひぇ」

「ぐー?」

「こ、こんな事を言うんですか?」

「あっ!?」

 アルルの顔が青くなり、ラグナスは軽く頷き、カーバンクルは頭に?マークを浮かべる。

 アリアとジルヴァは、ウィッチの様子をじっと見ていた。

 彼女は、何故か不穏なオーラを纏っていた。

「おーほほほっ! 観念なさってくださいまし!」

「そうはいかない。ウィッチ、俺達に魔物をけしかけたのはお前か?」

「いかにもそうですけど?」

 ジルヴァはそう言って、ウィッチの前に立つ。

 ウィッチは、あっさりと悪事を彼に自白した。

「ああ、そうですわね……。自分でも、なんでこんなに焦っているのか分かりませんが……。

 シェゾさん! 貴方との終わりなきぷよ勝負で……『楽しい』勝利が欲しいっ! ですわ!」

 予想通り、ウィッチもマールの影響を受けていて、

 お菓子の魔物を呼び出して混乱に陥れたようだ。

 さらに、無限ぷよ勝負で楽しい勝利が欲しいと言っているようで、

 最早彼女は言い逃れできなかった。

 いや、言い逃れをするわけがなかった。

 

「……んん~? ウィッチって、そんな事を言う?」

「そこだ。先程から、ずっとウィッチに追いかけられている。魔物もけしかけられた。

 何かしらの力に影響されているのだと予想しているが……」

「それはマールさんの事ですね。私達は彼女を追っています」

 アリア達はシェゾに、マールを追っている事を打ち明けた。

 まだ詳しい事は知っていないが、彼女を止める必要があると説いた。

「癪だが、俺もお前達と一緒にマールを追いたい。だが、まずはウィッチを止めなきゃならない」

「ああ……そのマールという子の影響を受けてる奴を元に戻して、マールを追いかけよう!」

 シェゾとラグナスの二人が剣を構えた時、ウィッチが不満そうな顔をした。

「なぁにをのんびりお喋りしているんですの? 来てくれないなら、行きますわよ!

 おいでなさい、アイスクリーム!」

 ウィッチは呪文を唱えて、凶暴化したアイスクリームを召喚した。

 マールの影響で魔力が高まっているウィッチは、召喚術も使えるようになったのだ。

「また性懲りもなく魔物を呼び出すとは……。

 アルルさん、魔物を倒し、ウィッチさんを元に戻してから考えをまとめましょう!」

「うん、分かったよ!」

 アルルはアリア達と共に身構える。

 一方、ウィッチも殺る気満々の様子でこう言った。

「さあ♪ 楽しい楽しい……勝負!」

 

「フレイムストーム!」

「どんえ~ん」

 ウィッチはシェゾが放った炎の竜巻をバリアを張る魔法で吸収する。

「スラッシュ!」

 ラグナスはウィッチに斬りかかるが、アイスクリームがウィッチを庇う。

 そしてウィッチはさらにアイスクリームを二体召喚する。

「グラン、行ってください!」

 アリアは地の精霊グランを召喚し、

 グランが岩を呼び出してアイスクリームに投げつけ、身体を潰す。

 ジルヴァが光の矢を放ちアイスクリームを倒した。

「ファイヤー!」

「どんえ~ん」

 アルルが放った炎を、ウィッチは魔法で吸収する。

 その隙に、アイスクリームはジルヴァとシェゾに氷の塊を飛ばした。

「ぐっ」

「なんて力だ!」

「おほほほほ、そのまま倒れてくださいまし♪」

「そうはいかない! シェゾ、まずは傷を癒すぞ」

「ぐっ……」

 ラグナスはシェゾにヒーリングを唱えるが、上手く傷は癒せなかったようだ。

「メテオ!」

「あつっ!」

 ウィッチは箒を振って隕石をラグナスに落とす。

 彼女の十八番と言える星魔法で、ラグナスはそこそこのダメージを受ける。

「エアシュート!」

「ホーリーアロー!」

 アリアは風の精霊エアを召喚し、風の塊でアイスクリームを吹っ飛ばす。

 続けてジルヴァが光の矢を放った。

「アイスクリームは炎が一番! ファイヤー!」

 アルルが炎魔法でアイスクリームをドロドロに溶かした。

 これで倒れた……と思いきや、アイスクリームは瀕死の状態で復活した。

「何っ!?」

「ぐぐっ!?」

「わたくしの魔法で作ったアイスクリームは、ちょっとやそっとでは倒れませんわよ。

 さあ、お行きなさい!」

「小癪なっ! サンダーストーム!」

 シェゾはアイスクリームに殴られ、傷を負う。

 即座に雷を落として反撃し、アイスクリームはドロドロに溶けた。

「ヒーリング!」

 ラグナスは傷を負ったシェゾに回復魔法を唱える。

 アイスクリームはジルヴァに氷の玉を放ち、ウィッチはアイススリップで追撃する。

「ストーンブラスト!」

「ヒーリング!」

 アリアは地の精霊グランを召喚して岩弾を撃ち、ジルヴァはシェゾに回復魔法を唱える。

 アイスクリームがシェゾに攻撃を仕掛けるが、ラグナスが庇い、攻撃を受け流す。

「サンダーストーム!」

「ライトスラッシュ!」

「フェーゴボム!」

 シェゾは雷の嵐を呼び寄せ、アイスクリームをまとめて攻撃する。

 ラグナスがアイスクリームを真っ二つにして、アリアが炎で燃やして溶かした。

「シャープネス、ホ・ホーリーアロー!」

「ダイアキュート、ファ・ファイヤー!」

 アルルとジルヴァが増幅した魔法をアイスクリームにぶつけ、

 一方でアイスクリームもジルヴァとシェゾに冷気を放ち、体温を下げる。

「寒いから……これでどうだ! フレイム!」

 シェゾが炎を放って自分の体温を上げつつアイスクリームを倒し、

 ラグナスがアイスクリームに斬りかかり、ジルヴァとアルルがとどめを刺した。

 全てのアイスクリームが倒されたウィッチは慌てて、その場から逃げ出そうとしていた。

「そんな! わたくしのアイスが破れるなんて……」

「そこまでですよ、ウィッチさん。さようなら、ロックブレイク!」

いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 だが、アリアはそこを逃さない。

 地の精霊グランを召喚し、巨大な岩を落としてウィッチを倒した。

 

「ヒーリング!」

「痛いっす……」

 ばたんきゅ~したウィッチは、ラグナスの回復魔法で立ち上がった。

「ふぅ。落ち着いたか、ウィッチ」

「ウィッチ、大丈夫?」

「この様子だと、怪我はないようだな」

 ジルヴァがウィッチの様子を確かめる。

 ウィッチから不穏なオーラは消え去っていた。

「……あら? あらあらあら、何でしょう。不思議とモヤモヤが晴れたような……」

「フン……正気を取り戻したようだな」

「やっぱり、俺の予想通りだった」

「それで、ウィッチ、何があった?」

「えっと……とある女の子と会ってから、とにかく、ずっと勝負しなきゃ、勝負しなきゃって、

 そればっかりが頭にあって……」

 ウィッチは事情をジルヴァに話した。

 どうやら、マールと出会ってから、勝負病にかかってしまったようだ。

 当然、アルル達と戦っていた事は、覚えていない。

「ずっとずっと勝負しなきゃって……思った以上に危ないかも!」

「ぐーぐーぐぐ!? ぐぐぐぐぐぐ!」

 想像以上に、勝負病は強烈なようだ。

 放置しておけば、勝負病の影響で疲労困憊の者が多数出るかもしれない。

 一刻も早く治さなければ……とアルルは思った。

 

「やっぱりお前達が関わっていたんだな」

 シェゾはアルルとラグナスを睨む。

 今回の異変を起こしたのが、まるで二人のせいだというかのように。

「関わるっていうか、今回も巻き込まれたっていうか……」

「説明しろ」

「アルルさん? ラグナスさん? 何かあったのですか? そんな時には!」

 そう言うとウィッチはどこかから手帳を取り出す。

「ウィッチさん特製♪ 心が落ち着くお薬は……」

「それは、こうなる前に自分に使ってほしかったが」

「まあっ!? 何なんですの!?」

 言い争いになるシェゾとウィッチに、ラグナスは鋭い声でこう言った。

 

「そうなる前にお前らが飲め」




ウィッチが真名ではないという設定をぷよぷよ!!で出したのはGoodでした。
次回は、あの格闘女王と戦います。


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18 ~ 格闘女王ルルー

旧キャラ組のターンです。
キャリアも戦闘力も上だという事を表現しました。


 マールによって暴走したウィッチを正気に戻したシェゾ達は、アルルと情報交換をしていた。

 

「……なるほどな。マールと混ざった世界……か」

 アルルの情報でシェゾは二つの世界を混ぜた元凶がマールである事を完全に知った。

「事件の元凶らしきその少女、俺に覚えがある」

「えっ!」

「ぐぐっ!」

 なんと、シェゾはマールを見た事があるという。

 アルルとカーバンクルは驚きながらも、シェゾの話を最後まで聞いている。

「少し前の事だ。見覚えのない少女が突然現れて、笑いながらぷよぷよ勝負を仕掛けてきた」

「そ、それで、どうなったの?」

「かなりの実力があったが、俺が勝ち……気が付いたら、少女は消えていた」

「おお~、流石シェゾ。闇の魔導師を名乗るだけの事はあるね」

「ぐっぐぐー!」

「フン、当然だ……と言いたいところだが、多分、あの時は手を抜かれていたな。

 ただ、俺の力を知るために勝負をしている様子だった」

 シェゾはマールを退けたようだが、彼女から強い力は感じられなかったという。

 恐らく、時間稼ぎをするために手加減をしていただろう、とシェゾは推測した。

「そうなんだ……」

「ふむ……」

 ジルヴァは顎に手を置いて、マールの目的を推測していた。

 力を知るためにわざと手を抜いて勝負し、

 皆を勝負せずにはいられなくさせ、楽しさを得ようとしている……。

 その「楽しさ」の力を使って、この世界をさらなる混沌の渦に巻き込もうとしている……。

 それが、マールの目的だと、ジルヴァは思った。

「多分、マールは皆に楽しい勝負をさせて、

 そのエネルギーを使って世界を滅茶苦茶にしようとしているだろう」

「そうか?」

「うん、ジルヴァの言う通りだと思うよ。流石に、ボクもマールはちょっと許せないな」

「ぐーぐぐ!」

「当然! 心優しいわたくしも、流石に怒ってますわよ!」

(お前、心優しいって言える立場か?)

 ジルヴァの推測をちょっと疑うシェゾに対し、アルルは素直に受け止めた。

 同時に、アルル達の中に、マールに対する怒りの感情が湧いた。

 

「フン、くだらん……」

「シェゾ!?」

 一方で、シェゾは自分には関係ないといった態度を取っていた。

 シェゾ自身は暴走していない上に、関わるだけ損だと思っているからだ。

「やめろよ!」

「ちょ、ちょ、ちょっと待て! 冗談だ!

 俺の静かな生活をそんな形で脅かす存在は、見過ごしておけないんだ!」

 慌ててラグナスが胸倉を掴もうとすると、シェゾが両手を出して彼を止める。

 ラグナスは安心して、シェゾから一歩距離を置く。

「……ラグナスは冗談が通じないんだ、分かった?」

「ぐぐーぐ?」

「……ああ」

 アルル、シェゾ、ラグナスのやり取りを見ていたアリアは、くすくすと笑っていた。

 ジルヴァも「腐れ縁だな」と思っていたとか。

 

「それじゃ、そろそろ広場に戻るよ」

「ぐぐー!」

 情報交換を終えたアルル達は、そのまま広場に戻ろうとした。

 だが、そこに一人の女性が姿を現す。

「……あら? そこにいるのは、シェゾとウィッチ、それに、ラグナスと知らない方達と……」

「あっ! ルルー!」

 その女性の名は、ルルー。

 魔法は不得意だが、その分、体術に秀でているスタイル抜群な格闘女王だ。

「あら、この格闘女王ルルー様の永遠のライバル、アルルもいるのね!」

 アルルはカーバンクルと出会った事でサタンに求婚されたため、

 彼に好意を抱くルルーはアルルをライバル視している。

 もちろんアルルはサタンと結婚する気は毛頭ない。

「あのね、ルルー。実は……」

「それじゃあ、挨拶代わりに……勝負と行くわよ!」

 アルルがルルーに事情を話そうとすると、ルルーが腰に手を当てて勝負しようとした。

「えっ! う、嘘でしょ、ルルー、キミもなの!?」

「? 何の事だか分からないけれど、逃げようとしても無駄よ! おーっほっほっほ!」

「ルルー……」

「とにもかくにも勝負ですわ!」

「……とりあえず、ルルーを正気に戻すぞ」

 ラグナスが剣を抜こうとすると、アルルが「待って」とラグナスを止める。

「ボクに勝負を仕掛けたんだから、勝負は一対一でお願いね」

「ああ……」

 ラグナス達は、アルルとルルーのタイマン勝負を見守る事にした。

 何故か、ルルーは不穏なオーラを纏っていなかったが……。

 

「破岩掌!」

「ファイヤー!」

 ルルーは岩をも砕く掌底突きをアルルに繰り出す。

 アルルはルルーの攻撃をかわし、ファイヤーで反撃する。

「風神脚!」

 ルルーはアルルのいる方向にダッシュし、風を纏った蹴りで致命傷を負わせた。

 アルルは魔導師タイプなので、物理攻撃には弱いのだ。

「ふふっ、今度はこれを受けられて? 炎神拳!」

「ばよばよ!」

 ルルーの炎を纏った拳がアルルに命中する直前、アルルは時間操作魔法をルルーに放つ。

 すると、ルルーが一時的に老化し、筋力が衰えた。

いやぁぁぁぁぁぁぁぁ! 私の肌がぁぁぁぁぁ!

「ごめんね、ルルー。ダイアキュート、マ・マジックミサイル!」

 アルルは増幅呪文を唱えた後、無数の魔法の矢をルルーに放つ。

 この魔法の矢は相手を正確に追尾するので、攻撃はルルーに全弾命中したのだ。

「よくもやったわね、アルル! 私の攻撃は、近接攻撃だけじゃないのよ!

 はぁぁぁぁぁぁっ、ルルービーム!

 ルルーは間合いを取って構えを取り、両腕を構えてビームを放った。

 まともに食らったアルルは吹っ飛ばされる。

「ルルーさんって……あんな技を使えたんですね」

 アリアは、ルルービームを見て唖然とした。

 格闘技以外に使える技がないと思っていたからだ。

「鉄拳制裁!」

「ライトニング!」

 ルルーはアルルに突っ込んで拳をぶつけたが、ばよばよの効果で威力が低下している。

 アルルは呪文を詠唱し、雷を落として攻撃する。

「崩撃連脚!」

「うっ……ルルー、攻撃力が元に戻ったね」

 ルルーの連続攻撃を食らったアルルの表情が苦痛に歪む。

 ばよばよの効果が切れたため、攻撃力が通常に戻ったからだ。

「はぁ、はぁ、なかなかやりますわね、アルル」

「ルルー、キミだってキレは鋭いよ」

 アルルとルルーは互いに息を切らしている。

 このままでは、二人ともばたんきゅ~してしまう。

「うふふ、女王乱舞でとどめを刺しましょう」

 アルルはルルーが構えを取っている間、ゆっくりと場所を移動した。

 その後、小さな声で呪文を唱える。

「また魔法を使う気なの? そんな事をしても無駄ですわよ!

 そろそろ終わり! 女王乱舞!!

 そう言って、ルルーはジャンプして、アルルがいる方に突っ込んで奥義を繰り出そうとした。

 すると、ルルーの足元から煙が湧き出し、煙をまともに浴びたルルーは眠ってしまう。

「な、なんなの、Zzzzzz……」

 実は、これはスリープの遅延呪文である。

 アルルはルルーがこちらに向かってくるのを予測しあらかじめ呪文を唱えていたのだ。

 そしてアルルの予測は的中し、ルルーを見事に眠らせる事ができたのだ。

「これでとどめ! ジュゲム!!

いやぁーーーーっ!!

 そして、アルルの両腕から莫大な気が放たれ、ルルーに命中すると大爆発が起きた。

 

キィーーーッ、何て事!!

 アルルに敗れたルルーは、悔しそうな顔で叫んでいた。

「次はこうはいかないわよ! 覚えてらっしゃい、アルル!」

「ルルー!!」

「……少しは落ち着け、サニティ」

 ジルヴァは精神を落ち着かせる魔法、サニティをルルーにかけた。

 これにより、ルルーの気が落ち着き、アルルは彼女に声をかける。

「ねえ、気分はどう? まだモヤモヤしてる? どこか悪いところは?」

「な、何よ、気味が悪いわね。このルルー様はいつだって絶好調よ。何も問題ないわ!」

「……へ? じゃ、じゃあ、さっきの勝負は無理矢理やらされたんじゃなく……」

「したかったからしたのよ!」

「よ、よかったぁ……」

「流石は格闘家だな」

 どうやら、ルルーはマールの影響を強靭な精神力で跳ね返したようだ。

 伊達に彼女は格闘女王を名乗っていないようで、アルルとラグナスは一安心する。

「ちょっとシェゾ、どうしたのよ、このアルル……」

「ああ、それは……」

 シェゾはルルーに、これまでの事情を話した。

 

「……なるほど? その女の子については、私も覚えがあるわ。シェゾの話と大体一緒。

 あれは誰だったのか、少し気になっていたけれど、

 まさか、そんないけない子だったなんて、このルルーとサタン様が許さなくってよ!」

「そうだ、サタン!」

「ぐぐぐ!」

 ルルーもまた、マールを知っているようだ。

 アルルとカーバンクルは、ルルーが言った「サタン」という名前を聞いて驚く。

「サタン……ああ、あの傍迷惑魔王か?」

「傍迷惑魔王とは失礼な事を!」

「いて、いて、いてて、やめてくれ」

 ルルーはジルヴァの頭を両腕の拳で挟み込み、グリグリしてお仕置きする。

「……ま、まぁ、こんな事件、サタンが知らないはずないよね」

「あいつは今、どこにいるんだろうか。探すぞ」

「サタン様を探しに……? それなら、私もと・く・べ・つ・に、協力して差し上げるわ!」

「知っていたから恩着せがましく言うな」

 片思いしている魔王を探すのだから、当然、ルルーが行かないわけがなかった。

 

「さあ、とっとと行くわよ! おーっほっほっほ!」

「……ははは;」

 ちなみに、この時、まだルルーはジルヴァをグリグリしていたという……。




次回は閑話休題となります。


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19 ~ これまでのまとめ

閑話休題です。
こういうのもあっていいかな、と思って書きました。


 アミティ、アルル、アリアの三人は、

 これまでの情報をまとめるため、ふれあい広場にやってきた。

「りんご~~~! ティ~~~!」

「あっ、みんないる!」

 ふれあい広場には彼女達だけでなく、りんご、アコール先生、ローザッテ、ティ、オーもいる。

「アミティ! アルル! アリア!」

「あのねっ、あのねっ、大変だったんだよー! みんなが無理矢理ぷよ勝負をさせられて……」

「ボクのところも、多分、同じ事が起こっていたよ。気合で跳ね除けた人が多かったけどね」

「それ以外にも、魔物が暴れ回っていましたね」

 アミティ達はりんごに事情を説明する。

 マールの力によって無理矢理勝負をしていて、しきりに「楽しい」を連呼していた事。

 大人しいはずの魔物が凶暴になっていた事。

 これらを正確に、りんごに伝えた。

「りんごさん、そっちは何か分かりましたか?」

「その前に、みんなの情報を整理する必要があるな」

「そうでしたね……」

「コホン、それでは……報告する!」

 

 ティによれば、以下の事が分かったらしい。

 ・マールの力は、他人の闘争本能を刺激する

 ・これにより、大人しい者も凶暴になる

 ・今のマールは何者かによって利用されている

 

「……なるほど、そういう事だったんだね」

「そんなぁ……」

「私達を騙して、皆に無理矢理勝負させて、マールさんは一体何が目的でしょうか」

 彼女の目的は、まだはっきりと分かっていない。

 だが、放っておけば、世界がもっと混乱してしまう事は明らかだ。

「ところで、ボク達はサタンを探してここに来たんだけど……」

 アルルがそう呟くと、彼女の目の前に突然、男がテレポートで姿を現した。

「はーっはっはっはっは!」

「あ、いた」

「ぐ、ぐぐ」

 長い角に、尖った耳、緑の長髪に赤いマントと服。

 間違いなく、傍迷惑魔王・サタンだ。

「ア~ルル~、カーバンクルちゃ~ん♪ 困った時に颯爽と現れる闇の貴公子、満を持して!

 サタン様が登場だ~♪ カーバンクルちゃ~ん♪」

「ファイヤー」

 サタンはカーバンクルに抱き着こうとするが、アルルがファイヤーで跳ね飛ばした。

「悪いけど、そういうのはいいから。

 サタン、その時空のバグ……マールって子について知ってるんでしょ?」

「ああ」

「教えて?」

 アルルはサタンに、マールの詳細を聞こうとした。

 だが、サタンは首を横に振った。

「ふ……。時空のバグは何も知らない」

「え?」

 アルルは状況が理解できず、?マークを浮かべる。

「この世界のルール、『楽しい』『正しい』を忠実に守ろうとしているだけだ」

「な、何の話……」

「サタン様の言う通りですよ、アルルさん」

 そう言って姿を現したのは、アコール先生とローザッテ。

 二人はプリンプとプワープの賢者であり、マールの正体を正しく把握していた。

「マールさんは確かに世界を混乱させた加害者ですが、被害者でもあるのです」

「楽しさを象徴するマールさんの後ろには、正しさを象徴する何者かがいます」

「どういう……事?」

「先を急がないでください。やがて出会います」

「だから、皆さんで焦らず行きましょう」

 アコール先生とローザッテはニコニコと微笑む。

 だが、この微笑みが、ただものではない事をティとアリアは理解していた。

「アルル、今のままでは最悪の結末を迎えるだろう」

「ええっ!?」

「このサタン様が味方をすれば話は違うが! さあ、アルル! このサタン様の協力を仰げ!

 もっと、もっと、私を熱く欲しがるのだ! はーっはっはっはっは!」

「……頭痛が……」

「ぐぐぐぐ……」

 サタンは最悪の結末を予測していた。

 だが、アルルは正直、サタンを信用できなかった。

 まぁ、これがいつもの彼なのかもしれないが、

 やはり長年の付き合いからか、どうしても距離を取ってしまう。

「もうっ、こんな時なのにふざけちゃって」

「こんな時だからこそ、サタン様はふざけていると思うんですよ。

 悲しい態度だと、心まで沈んでしまいますからね。サタン様はそれを分かってるんですよね?」

「あ、ああ……」

 アコール先生は微笑みながらサタンにそう言った。

 10万年以上生きていて魔力も凄まじいサタンも、この時ばかりは逆らってはいけないと感じた。

『(アコールに逆らうと後が怖いニャリ)』

「うふふ……」

(これがアコール先生の性格なのか……)

(ピピピ……)

 常に微笑みを浮かべるアコール先生は、それ故に何を考えているか分からない。

 ティとオーも、アコール先生にたじろいでいた。

 

「あのあのっ、そ、そろそろ、その子の居場所を教えてほしいな~って……」

 アミティはマールの居場所を聞き出そうとした。

「ふむ、いいだろう。時空の旅人、準備はいいか?」

「ばっちりだよ、おじさま、先生、魔法使い!」

 そう言って姿を現したのは、エコロだった。

 どうやら、マールをおびき寄せるための罠を、あらかじめエコロが仕掛けておいたようだ。

 そして、見事に罠にかかったマールを、エコロが連れてきたというわけだ。

「というわけで、捕まえてきたよ~」

「「「「「あーーーー!!!」」」」」

 エコロが連れてきたマールは、アルル達の前に姿を現した。

 マールは不穏なオーラを纏っていて、目が虚ろだ。

「酷いですよぉ……。私をみんなでいじめるんですかぁ?」

「えっ、そっ、そう言われると……」

「あなたを放っておくわけにはいきませんからね」

「今すぐキミがこんな事をやめてくれれば、そうはならないよ!」

 たじろぐアミティに対し、アルルとアリアは毅然とした態度だった。

 だが、マールは首を横に振っている。

「それはできない相談です……ねぇ♪」

「なら、力ずくでもお前を捕まえる!」

 そう言ってティはマールに飛びかかり、彼女に組み付こうとしたが、

 時既に遅く、マールはテレポートで姿を消した。

 

「くそっ……逃げられたか」

「追うのだ、アルル」

「頑張って、りんごちゃん!」

「アミティさん、必ず彼女を捕まえてくださいね」

「これ以上の混乱は、阻止したいですからね」

 アルル達は急いでマールを追いかけていき、ラフィーナ達も後を追っていった。

 

「ここを逃したら、多少厄介な事になるだろう……」

「絶対に、マールさんを救ってくださいね」




アコール先生とローザッテは、あまりアミティ達に干渉しません。
あくまでこの二人は賢者、助言役ですからね。
次回はみんなでマールを追いかけます。


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20 ~ 楽しいとは何なのか

本日はぷよの日ですよー。
というわけでマールを追いかけていきます。


 アルル、アミティ、りんご、アリア、ティの五人は世界を混乱させたマールを追いかけていた。

 特に、アリアは自分達を騙したマールに対する怒りが一層強かった。

 そして、ついに五人はマールを追い詰めた。

 

「これ以上の悪事は、許しませんよ。私達を騙した事も、魔物を凶暴にした事も」

「困りましたぁ……。私はまだまだ『楽しく』なってほしいだけなのにぃ♪」

 アリアの鋭い声にも関わらず、マールはへらへらとしている。

「意地悪されて邪魔されてますぅ……♪」

「いいい、意地悪してるわけじゃ!」

「アミティさん、騙されてはいけません! いい加減に反省すればいいのに……」

 アリアはアミティと違い、敵に対しては容赦ない。

 たとえ利用されているとしても、まずは反省させるのが彼女のやり方だからだ。

 その証拠にアリアはまだ杖をマールに向けている。

「でも~、あの~、やっぱり~……」

「キミがどんっなに悪気がなかろうとも、ボク達はキミを倒す! 仲直りならその後だ!」

「恐らく、正義は我にあり! 遠慮はなしでいかせていただきます!」

 アルルとりんごも、マールに強い敵意を向ける。

 以前に誰かが裏切った際も、先に問い詰めたのはアルルとりんごなのだ。

「怖いですねぇ……。逃ーげちゃおっと♪」

「逃がしません、ミスティバインド!」

 アリアは水の精霊ミスティを召喚し、逃げようとしたマールを水の縄で拘束する。

「きゃっ! 何するんですか!」

「逃げるつもりのようですが、そうはいきませんよ。マールさん、覚悟してください!」

 アリアが精霊を召喚しようとすると、マールの両手が眩く光り出した。

「あなたって結構乱暴なんですねぇ……。それじゃあ、私も乱暴にいきますよぉ!」

「きゃっ!」

 そして、周囲が眩く光ると、風景が一変した。

 

「っ、ここは……」

 気が付くと、アリアは奇妙な森の中にいた。

 周りには、アルルも、アミティも、りんごも、ティも、そしてマールもいない。

 木々はちかちかと光っており、暗さは全くと言っていいほど感じられない。

「確か、私がマールさんを捕まえようとして、マールさんが光って……」

 いきなり風景が変わったため、アリアの周りにいた精霊が狼狽えている。

「グラン、ミスティ、フェーゴ、エア、ルフィーネ、大丈夫ですか? あの、あの、その……」

 アリアは言葉や態度により、何とか精霊を落ち着かせた。

「困りましたね……私と精霊以外に、誰もいないなんて……」

「そんな事はないのだ」

「!」

 アリアが辺りを見渡していると、後ろから声が聞こえてきた。

 聞き覚えのある声だったが、アリアは念のため身構えた。

「誰で……って、レイリーにジルヴァ!?」

 そこにいたのは、同じ冒険者のレイリーとジルヴァだった。

「二人とも、どうしたんですか」

「いきなり光ったと思ったら、こんな場所に飛ばされてしまったのだ」

「同じく」

 どうやら、レイリーとジルヴァもアリアと同じように巻き込まれてしまったらしい。

「そんな……捕まりたくないからといって、こんな事をするなんて……」

 困惑するアリア、レイリー、ジルヴァ。

 しかし同時に、三人の中に怒りの感情も湧き出る。

「……早く、ここを脱出しましょう」

「そうだな」

 

 アリア、レイリー、ジルヴァは、光の森の中を歩いていった。

 周りに魔物はおらず、ただ森の中を歩く。

 しばらく歩くと、目の前にマールが現れた。

 だが、その存在はどこか不確かであり、まるで幻影のようだった。

 しかも、何故か恐ろしい雰囲気ではなかった。

「あなたは、楽しいという気持ちが分かりますか?」

「分かりますよ……でも、こんな事をして、本当に楽しいと思うんですか?」

 アリアは優しくマールに話しかける。

「楽しいです、楽しいです。楽しいですが……」

 マールは混乱しながら頭を抱える。

 彼女はしきりに「楽しい」を連呼していて、レイリーとジルヴァは頭を捻る。

「楽しいって何ですか? 勝負を強行する事が、本当に楽しいんですか?」

「魔物をけしかけるなんて……本当に、きみは楽しいのだ?」

「楽しいは人それぞれだ。他人にそれを押し付けるなど、決して楽しくない行動だ!」

 アリア、レイリー、ジルヴァは、必死にマールを追い詰めていく。

 五体の精霊も、三人の周りを回って応援していた。

「それが正し……あっ!!」

 マールはうっかり「楽しい」以外の言葉を言った。

 とうとう彼女の本性が出てきた。

「正しい……それがあなたの考えですね。あなたは今のあなたではない……。

 大人しく、去りなさい!!」

きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!

 アリアが杖を向けると、虹色の光が放たれる。

 光がマールに命中すると、マールはそれに包まれ、跡形もなく消え去った。

 マールが消えると同時に、辺りの風景が元に戻る。

 気が付くと、アリア、レイリー、ジルヴァは元の公園に戻っていた。

 

「私達……戻ってこれたんですか……?」

「ああ、そうみたいだな……」

 三人はもう一度、辺りを見渡す。

 あの森は、マールが作り出した幻影の世界だったのだろう。

 そこから脱出したため、もうマールはいるはずなのだが、

 何故か、この公園にはアリア達を除いて誰もいなかった。

「そ、そんな……みんながマールさんの作った世界に閉じ込められちゃうなんて……」

 アリアの目から、涙がこぼれた。

 自分が良かれと思ってした行動で、皆を危機に陥れてしまった。

 あの時に魔法を使っていなければ、マールはただ逃げるだけで済んだというのに。

「私はマールさんを逃がしたくなかった。どうしても捕まえたかった。

 なのに、こんな事になるなんて……!」

「……確かにアレはアリアのせいだったのだ。

 でも、アリアがやろうとしてた事は間違いではなかったのだ」

「人間は何度も間違えるけど、そのたびに成長していくのも人間だ。

 しかも、お前はまだ14歳だし、俺達仲間がいる。だから、泣くんじゃない」

 レイリーとジルヴァは、アリアを慰めた。

 もし誰かが失敗しても、フォローしてくれる。

 いざという時は、一丸となって脅威と戦う。

 仲間とは、そんな大切な存在なのだ。

「ぐすっ……そうでしたね、レイリー、ジルヴァ。

 ……よし! 皆さんを信じて、私達はここで待ちましょう!」

「おうっ!」

「なのだ!」




パソコンの画面がちらつきすぎてイライラしています。
次回はりんごのターンです。


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21 ~ デバッガーりんご

りんごパートです。
例によって原作と違うところがあるのでご了承ください。


「ここは……どこですか!?」

 気が付くと、りんごは洞窟の中にいた。

 先程までは公園にいたはずなのに、別の場所に飛ばされるなんて、あり得なかった。

 しかも、洞窟の中は明かりがたくさんある。

 はっきり言って非科学的だが、そもそも魔法も非科学的なものなので、

 りんごはもう気にしなかった。

 

「りんごちゃ~ん!」

「あんどうりんご君!」

「その声は、まぐろ君にりすせんぱい!」

 洞窟の中から、まぐろとりすくませんぱいの声が聞こえてきた。

 二人がりんごのところにやってくる。

「協力を頼みます!」

「オッケー、把握★

 女の子を追い詰める事はしたくないけど、まあ、流石に詰めるしかない……よね★」

「あのお嬢さんはちょっと、よろしくないね。どどどどどどど」

 マールはこの世界を滅茶苦茶にした張本人だ。

 何があっても、彼女を捕まえて、懲らしめなければならない。

 流石のりすくませんぱいも、怒りを隠せなかった。

「イエス! それじゃあ、頼みますよ」

「うむ」

「うん★」

「りんごちゃーん、僕は?」

 まぐろとりすくませんぱいがりんごと協力する事を選ぶと、どこからかエコロがやって来た。

「適当に空気読んで振る舞って!」

「僕に期待してないって事?」

「期待するに足りる要素がないんだよなあ」

「ひっどーい!」

 エコロはトラブルばかり起こしているため、りんごは彼を全く信用していなかった。

 だが、このまま放っておいてはエコロが可哀想だと思ったりんごは戦力としては見る事にした。

「ていうか、味方してくれるでしょ? それだけは分かる」

「うん、それしかないよね~」

「では、足並みが揃ったところでそろそろ行きますよ!」

「行こうか★」

「よろしい」

「わーわー!」

 

 りんご、まぐろ、りすくませんぱい、エコロは、洞窟の中を歩いていった。

 明かりがあったため、魔法で明るくする必要はなかった。

「マールさんって、光の力を操れたんですね」

「だから、こんな明るい洞窟を作れたんだね★」

「ふむふむ、興味深い」

 りすくませんぱいは洞窟の中をじっくりと調査していた。

 彼は元々科学部に所属していたため、奇妙なものを見ると調査したくなるのだ。

「魔物の気配は……なさそうですね」

 この洞窟の中には魔物はいないようだ。

 安全と言えば安全だが、それが逆に不気味だった。

「時空のバグ子……じゃなくてマールはどこに……」

 りんご達は洞窟の中を進んでいく。

 エコロはきょろきょろと辺りを見渡し、りすくませんぱいはあちこちに目を付けている。

 周りの様子は不確かで、本当の洞窟のようには見えなかった。

「この洞窟、本物の洞窟なんでしょうか」

「さぁね★ ボクには分からないな★」

 なんでもできるまぐろでも、この世界が何なのかは分からないらしい。

 

 そして、数分後、四人はマールの姿を発見した。

 だが、何やらマールは困った様子だった。

「あ……あなたは……。私を……助けてくれるんですか……?」

「私を助けてくれるって、どういう事ですか?」

「そんなのどうでもいいでしょ! 早くこの子をやっつけてよね!」

 今はマールの事情など、知る由もない。

 すぐに彼女を倒して、この世界から脱出しなければならない。

「そ、そうでしたね! 世界のバグなそこの女子……勝負です!」

 

「そんなに私を止めたいんですかぁ?」

「当たり前です! 世界を元に戻すためですから!」

「じゃあ、これ、見破れますかぁ?」

 マールは光を操って自分の分身を作った。

「光の屈折を利用したものですか! でも、はっきりと姿が見えるような……」

「多分、マールの力だろうね★」

「つまり実体があって攻撃が届くという意味でもあるようだ、アイラブユー」

 りすくませんぱいは呪文を唱え、炎の渦を繰り出して分身を攻撃する。

 すると、分身の姿がさらに二体に分かれ、りすくませんぱいを連続で攻撃する。

「む、むむむむ」

「私の分身の一部は、攻撃すると増えますよぉ?」

「だから勝てませんよぉ?」

「くっ……だったらまずは他の分身から攻撃します! ネオスペル、サ・サイン!」

 りんごは増幅呪文を唱え、雷を落としてマールの分身を攻撃する。

 マールは光を操って分身をもう一体作り出す。

「攻撃すると増えるなら、大きな威力の技を叩き込めばいい! ジュテーム!」

 りすくませんぱいはどこかからフラスコを取り出しそれを分身の前に置き、爆発させる。

 その威力は高く、分身の体力を大きく減らしたが、まだ分身は消えていないようだ。

「おっと、危ないなぁ★ 隼返し★」

 まぐろは剣玉を巧みに操り、マールの分身の攻撃を受け流して反撃する。

「コサイン!」

「アロハアウイアオエ!」

 りんごが電撃でマールの分身を痺れさせた後、

 りすくませんぱいがフラスコを投げまくって無数の爆発を起こし、マールの分身を消し去った。

「よくもやりましたね! 光の力よ、アニュラス!」

「むっ」

「うわぁぁっ!」

 マールの分身は光速でりすくませんぱいに近付き、

 光によってまぐろとりすくませんぱいを攻撃する。

 何故か四角い光も混ざっていたが、りんご達は気付いていなかった。

「稲妻落とし!」

「サイン!」

 まぐろの雷を纏った剣玉がマールの分身に命中し、さらにりんごが電撃で追撃する。

「電圧がさらに増しましたね」

「痺れちゃうよね~。でも、もっと痺れたらいいよね~」

「あっ、エコロ!」

 いきなりエコロが乱入してきて驚くりんご。

「何しに来たんですか? 足を引っ張ったらタダじゃおきませんよ」

「僕がそんなヘマをするわけないじゃん。もっと痺れさせるよ、スウィンドル!」

 エコロの手からギザギザした電気が飛び、

 それが広範囲に広がってマールの分身を一網打尽にし、さらに分身が一体消滅した。

「やるじゃない!」

「ふふ~ん、参ったか~」

 正直、エコロは役立たずかと思ったが、魔法はかなり強力だった。

 置き去りにしなくてよかった、とりんごは思った。

 

「ふぅ……」

 りすくませんぱいは薬を飲んで体力を回復する。

「私を傷つけたのなら、愛で対抗しよう! ティ・ティ・ティ・アーモ!」

「きゃぁぁぁっ!」

 りすくませんぱいのフラスコから強力な光が放たれマールの分身の身体を焼く。

「りんごちゃん、分身の弱点はそこだよ!」

「見つけました! タンジェント!」

 まぐろが指差した場所に、りんごは強烈な電撃を放つ。

 そこがマールの分身の弱点だったようで、マールの分身に大ダメージを与えた。

「溢れる愛の力よ……アイシテール!!」

 りすくませんぱいは愛の力を爆発力に変え、大爆発でマールの分身を一掃する。

 残っているのはマールのみとなった。

 

「後は貴女だけです!」

「ふふふ……私を倒せるとでも思いましたか? 聖泡散り行き魍魎爆ぜよ、シャイニーバブル!」

 マールは笑みを浮かべながら呪文を詠唱し、光の泡をりすくませんぱいの頭上に出現させる。

 そのまま泡がりすくませんぱいに命中し、大きく弾けて光の粒になった。

ふんぬーーーーー!!

 その威力は凄まじく、りすくませんぱいは一撃でばたんきゅーしてしまった。

 

「そんな……りすせんぱい!」

「あとはあなた達だけですねぇ」

「そうはいきませんよ! ネオスペル、ネオスペル、タ・タ・タンジェント!」

 りんごは増幅呪文を二回唱え、強力な電撃をマールに落とす。

「これでとどめだよ、太陽極意!!」

いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!

 そして、まぐろの剣玉の玉が大きな光になると、大爆発を起こしてマールを吹き飛ばした。

 壁に叩きつけられたマールは、ばたんきゅ~した。

 

「いたたぁ……。もう……ぷんぷんです」

 マールはそう言うと、煙となって消えた。

 どうやら、彼女もまた偽物のようで、偽マールが消えると同時に風景も元に戻った。

「ふむ……あのマールという子は偽物だったのか」

「この洞窟も、偽物だったようですね」

 りんごとりすくませんぱいがそう言うと、アリア達がやってきた。

「あっ、アリア! まったくもう、どこに行ってたんですか!」

「申し訳ありません、りんごさん。

 マールさんを取り逃がした上に、皆さんを幻影世界に閉じ込めてしまいまして」

 アリアは失態をした事をりんご達に謝る。

「幻影世界……じゃあ、あの世界はマールが作った世界だったんですか」

「はい……」

 マールが作った幻影世界には、他の人は干渉する事はできない。

 りんご達は、飛ばされた人を信じて待つ事しかできなかった。

「でも、アリア。落ち込まないでください。私達でみんなを信じて、待ちましょう!」

「今更そんな事を言うんですか? りんごさん」

 りんごがアリアを励まし、アリアが微笑んだ事で、暗い雰囲気がすぐに明るくなった。

 まぐろ、りすくませんぱい、エコロ、レイリー、ジルヴァも釣られて笑うのだった。




自動保存(15日間)って……何? と言いたくなりました。
次回はアミティ編です。


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22 ~ アミティの思い

アミティパートです。
例によって原作で出てこないキャラも出しますのでご了承ください。


「うふふふふ……」

「ここは、どこだろう……」

 アミティが飛ばされた幻影世界は、雪原だった。

 しかも、遠くにはマールの姿がある。

「うぅ、寒いよぉ……。ウォーム!」

 薄着であるため、寒さが容赦なくアミティの身体に襲い掛かる。

 生活魔法で一時的に温まるものの、ずっと使い続けているわけにはいかない。

 何より、魔法を使えば魔力が目立つため、マールに狙われてしまうのだ。

 

「みんな、どこにいるの? 寂しいよ……」

 周りに誰もいないため、アミティは思わず寂しくなってしまう。

 その時、向こうから足音が聞こえてきた。

「だ、誰!?」

 アミティは慌てて身構える。

 足音の正体はすぐに判明し、ラフィーナ、シグ、クルーク、リデル、タルタル、

 フェーリ、レムレスであるという事が分かった。

「アミティ、だいじょうぶ?」

「おーっほっほっほ!」

「みんな……あたしについてくるんだね?」

「当然! 私を操ったんですから、覚悟はできておりますわよね?」

「はーっはっはっは! ボクが仕留めてみせよう!」

「クルークさん、調子に乗ってはいけませんよ」

「ぐっ」

 リデルは素直なので、時々鋭い一言を言う。

 いつも調子に乗りがちなクルークに対し、リデルはしっかりと注意したのだ。

「あ、あはは……; リデルって辛口だねぇ;」

「その、わたしは本当の事を言っただけです」

「リデルは素直なだけだから許してほしいんだなぁ」

「みんな……」

 タルタルがリデルの毒舌について弁解する。

 他愛ない漫才だったが、それだけで、アミティの暗い気持ちが一気に吹き飛んだ。

「僕達も手伝うからね」

「ト・ウ・ゼ・ン……アナタ、許せない、ワ……。アタシをおかしくした事、後悔しなさい……。

 キエエェェェーーー!!

「フェ、フェーリ、冷静にね」

 フェーリはレムレスの注意を受けたにも関わらず勝負病にかかってしまったため、

 元凶であるマールに怒りを隠せなかった。

 すると、今までいなかった彼女の召喚獣、バルトアンデルスが姿を現した。

アオーーーーン!!

「バル! どこに行ってたの!? もう……心配したわよ!」

「ハフハフ! ハフハフハフ!」

 フェーリはバルトアンデルスを撫でようとしたが体格に差があるため上手く撫でられなかった。

 バルトアンデルスはフェーリにかなり懐いている。

「あんまり……楽しく……ないですねぇ……」

 突然の援軍に、マールはさらに困惑していた。

 このままでは自分の目的が果たされないらしい。

「おっしゃー、頑張るんだなぁ」

 タルタルが両腕を上げて、皆の前に立つ。

 いつも留守番していたり、休んでいたりするタルタルにとって、これはチャンスなのだ。

「おや、タルタル、キミにしてはやる気満々だね」

「オイは、みんなの役に立ちたいだけなんだなぁ」

「いいかい、みんな? マールを必ず倒して、この世界から出るんだよ」

「いーくぞー」

「うん! マール、ちょっと大人しくしてね!」

 何としてでも、マールを倒さなければ、この世界を元に戻す事はできない。

 マールとの戦いが始まった。

 

「パルフェ!」

「私に光の攻撃が通じるとでも思いましたか?」

「くっ……」

 マールはレムレスの光魔法をバリアで跳ね返す。

「ガーウーッ!」

「ラウンドダンス!」

「リフリネイション!」

「プルアヴェント!」

 バルトアンデルスはマールに飛び掛かり噛みつく。

 マールは顔を歪ませて広範囲に光を放つが、フェーリとリデルは防御魔法で攻撃を防ぐ。

「ストリーム~!」

「グラッサージュ!」

「コンジャンクション!」

 タルタルが勢いよくマールに体当たりして上空に吹っ飛ばした後、

 レムレスが上から氷の塊を落とす。

 地面に叩きつけられたマールは、フェーリの光魔法で打ち上げられた。

「後は私にお任せあれ! ネージュ!」

 ラフィーナが氷を纏った掌底をマールにぶつけ、マールを凍らせて動きを止める。

「ブリザード!」

「ネブラ!」

「オラージュ!」

 アミティとクルークはマールの氷を解かさないよう炎属性ではない魔法で追撃する。

 ラフィーナは電撃を纏った蹴りでマールを攻撃。

「とどめだー、シレスティアル!」

 そして、シグが光と闇を混ぜた力を放ち、大爆発を起こした。

 それが治まると、ばたんきゅ~したマールがいた。

 

「勝った! みんな、ありがとー!」

「どういたしましてー」

 マールを撃破して喜ぶアミティ達。

 一方、ボロボロになっているマールは、アミティ達を睨みつけている。

「……なんでですかぁ。どうしてですかぁ」

「えっ……」

「オイの口真似はやめるんだなぁ。おまえこそ、何を言いたいんだなぁ?」

「私は楽しくしたいだけなのに、どうして、どうして……」

 マールはしきりに「楽しい」を連呼している。

 しかも、目は虚ろで、表情に生気は見られない。

 この幻影世界にいるマールは、まるで、本物のマールのようだった。

「あのね、あのね、ちゃんと話し合おうよ。そうじゃないと何も分からないよ」

「どうして……こんなに……」

「マール?」

「頭が痛いんですかぁ!!」

「ええっ!?」

 なんと、マールは何者かの干渉を受けていた。

 アコール先生とローザッテの言う通りだった。

「う、うう……。最後には必ず私が勝つはず。だって、私は『楽しい』んだもの。

 そうでしょ……ス……」

 マールがそう言いかけた瞬間、彼女の姿は煙のように消えた。

 そして、アミティも元の場所に戻った。

 

「ここは……」

「どうやら、元の場所に戻って来たみたいだね」

「よかった……」

 幻影から解放されてほっとするアミティ。

 周りにはりんご、まぐろ、りすくませんぱいや、アリア、レイリー、ジルヴァがいる。

「みんな、大丈夫? 怪我はない?」

「ええ、マールさんに攻撃されましたが何とか脱出できましたよ」

「ふむふむ」

「他の皆さんも、マールさんの世界に閉じ込められてると思いますが、信じる事はできます」

 今、この場にいる人達は、幻影世界に干渉する事は出来ない。

 しかし、彼らはマールにそう易々と勝ちを譲るような人ではない事を知っている。

 強い気持ちがあれば必ずマールに勝つ事ができる。

 りんご達は仲間を信じるという気持ちでも、マールと戦っているのだ。

 

「皆さんは絶対にマールさんに勝てます!」

「だから、自分を信じてくださいね!」




アミティは、未熟ながら成長していると私は思います。
でもどうして、公式では頭が弱くなってるんでしょうかね?
次回はアルルパートです。


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23 ~ アルルの絆

アルル組のターンです。
ベテランなので、それっぽい描写を目指しました。


「どうやら、またダンジョンに入ったみたいだね」

 アルル達は地底の洞窟に閉じ込められていた。

 光属性のマールが作った幻影世界のようだが、それにしてはかなり暗かった。

 だが、数々の冒険をこなしてきたアルルの前ではこんな暗さなど大したものではない。

「ライト!」

 魔法で明かりをつけた後、アルル達は洞窟を進む。

「カーくんは肩の上で大人しくしてね」

「ぐっぐー♪」

 カーバンクルはアルルの肩の上に乗る。

 ルルーとシェゾが前に出て辺りの様子を確かめる。

「どう? 魔物はいた?」

「周りに魔物はいませんわ。ですが、警戒するに越した事はありませんわ」

「これもマールの罠かもしれない……気を引き締めて進むぞ」

「うん!」

 常に警戒して進むのは、ダンジョン探索の基本中の基本である。

 だが、その基本があるからこそ、アルル達はダンジョンの中で生き残れたのだ。

 

 しばらく歩いていると、どこかから少女の声が聞こえてくる。

「皆さん、どうか私のところに来てください」

 声は苦しそうな様子だった。

 洞窟のあちこちから声が聞こえてくて、少女の声は反響していて気が狂いそうだ。

「みんな、気をしっかり保って。心を惑わされないようにして」

「当然ですわ!」

「苦しんでるってなら、こんな回りくどい事はしなければいいのに……」

 アルル、ルルー、シェゾは、気を引き締めながら、声がする方に向かっていった。

 足元はごつごつしていて歩きにくかった。

 歩きにくいサンダルを履いているルルーは、特に慎重に歩いていた。

 

 長い道を歩くと、頭を抱えて蹲っている金髪の少女――マールがいた。

「う、うう……」

「もう、楽しくないんでしょ?」

「そんな事ない! こんなに『楽しい』勝負ができて最高の気分ですよぉ。

 ほら、かかってきてください!」

 勝負を申し込むマールだが、とても正気とは思えなかった。

 それどころか、何かの干渉を受けて、苦しんでいるように見える。

「ぐーぐ……」

 カーバンクルはマールの様子をじっと見ていた。

 今のマールはあの時のようなマールではない。

 何故、彼女が苦しんでいるのか、カーバンクルはその目でじーっと見た。

「ぐー! ぐーぐぐー!」

 すると、カーバンクルは何かに気付いて、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。

「カーくん、何か分かったの?」

「ぐぐー! ぐっぐぐーぐぐーぐ!」

「えっ? マールの身体に糸が絡みついてる? そんなの、全然見えないけど……」

 アルルはきょろきょろとマールの様子を見る。

 マールの身体は特に変わったところがなく、糸があるというのは嘘ではないかと思った。

 だが、シェゾはアルルの言葉を聞いて剣を構えた。

「糸……か。確かに、こいつには糸が絡んでるな」

「えっ!? シェゾには分かるの!?」

「分からないのか? こいつにはアニメートという魔法がかかっている。

 気絶した奴を邪気で操る魔法だ」

「じゃあ、今のマールは、操られてるって事!?」

 なんと、マールは何者かに操られて世界に異変を起こしていたのだ。

 衝撃の事実を知ったアルルはしばらく固まり、シェゾも神妙な面持ちで頷いた。

「じゃ、じゃあ、どうすれば……」

「虫も殺さぬ顔をして極悪非道、それがお前だろう」

「なんだよ、それ!」

 アルルは最初のぷよぷよ地獄で、人畜無害のぷよぷよを殺戮し回ると言われていた。

 今でもアルルはちょっぴり好戦的なところがあり、巻き込まれながらも強かになっていた。

「おーっほっほっほ! ここに来て同情心を出すなんて、詰めが甘くってよ、アルル!」

「えっ」

 ルルーも弱気になりかけたアルルを叱咤激励する。

 アルル、ルルー、シェゾの三人は、仲が良いわけでも仲が悪いわけでもない。

 時に反発もするし、時に協力する事もある。

 だが、それは三人が腐れ縁――良くも悪くも、強い絆で結ばれている証だ。

 腐れ縁があるからこそ、アルルはアルルとしていられるのだ。

「癪だが、私も協力するぞ、アルル。そのくらいの衝撃がなければ、あの少女の目は覚めない」

「……って、サタン様もおっしゃってるわ」

「わたくしも一緒に戦いますわ」

「今度こそ負けないぞ! がおーーーっ!」

「わたしは~アルルさんを~応援します~♪」

「そ、その……月並みな言葉ですが……アルルさん、頑張ってくださいね」

「あんなシケた顔じゃ、ステップも踏めねえ。後で俺様が直々にダンシーン!」

 ウィッチ、ドラコ、ハーピー、セリリ、そしてすけとうだらも、アルルを応援した。

 彼らもまた、アルル達とは腐れ縁だという事が証明された。

「ほら、アルル」

「俺達と一緒に、戦うぞ」

「勇者に敗北はないからな」

 ルルー、シェゾ、ラグナスは、アルルと共にマールを止めようと協力した。

 彼らのたくましく頼りになる姿を見たアルルは憑き物が取れたかのような顔で頷き、

 苦しんでいるマールを真っ直ぐに見据える。

「誰もかれも私を否定する……。もう……」

「時空のバグ? っていうそこのキミ! 勝負してもらうよ!

 キミの苦しみは、ボクが取り除く!」

「油断大敵だからな、アルル」

 アルル、ルルー、シェゾ、ラグナスが身構えると、マールの身体から黒い影が飛び出した。

 黒い影は、マールを張り付けにして宙に浮かぶ。

「アレが、マールを操っている【糸】なんだね。

 断ち切れるかどうかは分からないけど……とにかく、やるっきゃないよ! ファイヤー!」

「うぅぅぅぅぅ……」

 アルルはマールに向けて炎を放つが、黒い影が張ったバリアで打ち消された。

「くっ、打ち消されたか!」

「魔法がダメならこれですわ! 破岩掌!」

 ルルーは岩をも砕く掌底突きでマール、いや、正確にはマールにとりついた黒い影を攻撃する。

 黒い影はルルーに向けて黒い光を放つ。

「な、何のこれしき……!」

「流石格闘女王ですねぇ。私を楽しませてくれますねぇ」

「あんたにそう言われると、逆にムカつくわ」

「ああ……お前は望んで楽しい勝負をしたわけではない……!」

 ルルーとシェゾは黒い影に攻撃し続ける。

 誰も望んでいない勝負を終わらせるために、彼らは操り糸を断ち切ろうとしている。

「スラッシュ!」

「あぁぁぁっ!」

 ラグナスの光の剣が、黒い影を一閃する。

 マールにとりついている影は闇……すなわち弱点は光属性だ。

「ラウンドダンス」

「ぐあぁぁっ!」

 黒い影はマールを操り、多数の爆発でシェゾを攻撃する。

「ファイナルクロス!」

「痛いです……!」

 ラグナスは光の剣で黒い影を十字に切り裂く。

 弱点属性の攻撃を受け続けたマールは瀕死になる。

「ダイアキュート、ア・アイスストーム!」

 アルルは増幅呪文を唱えた後、氷の嵐を起こしてマールと黒い影を氷漬けにする。

 とどめを刺すなら、今がチャンスだ。

「今だよ、ルルー!」

「ええ! マール……覚悟はできてまして? 大人しくしなさい! 女王乱舞!!」

きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 ルルーの凄まじい連続攻撃が、マールの黒い影に連続で命中する。

 黒い影はルルーの格闘術によって四散していく。

 やがて黒い影は完全に消滅し、残ったマールもばたんきゅ~した。

 

「……なんで? なんで勝てないんですかぁ。だって、私『楽しい』のに……っ!」

 マールはそう言うとアルル達の前から姿を消した。

 同時に、アルルも幻影世界から戻ってくる。

「後はティだけか……彼なら大丈夫だよね」

「ぐぐぐーぐ」

 幻影世界に囚われた残るメンバーは、ティだけ。

 アルル達はティに干渉する事はできないが、強い心でティを信じる事にした。

 テト号艦長ならば、時空のバグを止め、この世界を元に戻せる……と。

 

「今度こそ、終わりにしよう!」

「ぐっぐぐー!」

 マールとの戦いは、終わりを迎えようとしていた。




アルル達を繋ぎとめているのは絆、だと私は思っています。
次回はティ組のターンです。


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24 ~ 決意するティ

自業自得とはいえ、口に腫れ者ができて痛い痛い。
そんなわけで、ティのターンですよ。


 ティが閉じ込められた幻影世界は、かつてアミティ達が修行をしていた白の空間だった。

 ここには魔物の気配はなく、マールのみがティの目の前にいた。

 

「こっちにもいる……なんなんですかぁ。しつこいですよぉ! どいて……どいてぇ!」

 マールは虚ろながらも鋭い目でティを睨みつける。

 ティを排除しようとするが、彼は強い意志でマールの前に立っていた。

「報告する。これから時空のバグを捕縛、然る(のち)に保護する」

「ピピピピッ!」

 マールを逃がすつもりは毛頭ない。

 彼女を倒し、世界を元に戻さなければならない。

 ティとオーには、そんな決意がみなぎっていた。

「保護? うちの艦長は相変わらず甘ちゃんね。

 あんなのしばき倒して三日ほど吊るしておけば、

 自分から『ごめんなさい』って言ってくるわよ!」

「エス……それはちょっと」

 幻影世界には、航海士エスも閉じ込められていた。

 彼女はアリア達がプリンプタウンに行っている間、かなり苦労していたようで、

 ティとマールに暴言を吐いていた。

「見ちゃったよ!」

「見えちゃったよ!」

「「二人であの子を見てみたら」」

「みんなを操ろうとしたあの子こそ」

「操られて苦しんでる!」

 双子のきょうだい、ジェイとエルは、マールの裏に潜むものを見抜いていた。

 彼らは戦闘能力的には年齢相応だが、勘が鋭く、その場の状況を判断できるのだ。

 もっとも、普段は悪戯ばかりするため、そうは思えないのだが……。

「僕のダウンジングも、彼女を差してはいない。もっと別の……」

「はぁ!? みんなしてめんどくさい事言ってないで、とっとと……」

「エス、アノ少女ハホンライ、ワルイモノデハナイヨウダ。ランボウハヨソウ」

「はぁ~~~いっ♪」

 アイもマールが正気でない事を察したが、エスには全く理解できなかった。

 だが、エスの親代わりのロボット、ゼットがエスを宥め、流石の彼女も素直になった。

「もちろん、乱暴なんかよくないわよね! あり得ないわ!」

「……この変わり身の早さ、な……」

「ビビビビビ ビビビ……」

 某忍者ロボットのような変わり身の早さに、ティとオーは呆れてしまった。

「まあいい、とにかく始めるぞ。

 時空のバグの孤独と苦しみを取り除くため、爆発するほど熱い勝負を開始する!」

 ティは身構えて、マールに勝負を挑んだ。

 

「せいっ!」

「アニュラス!」

 ティは円月輪を操り、マールを切り裂く。

 マールは周囲に光の玉を発生させ、ティを吹き飛ばして近づけさせない。

「悪いが、おれも飛び道具の方が得意でね。距離を離しただけじゃダメだよ」

 マールにアドバイスしつつティは円月輪を飛ばす。

 彼女は今、何者かに操られており、できるだけ傷つけないようにしているのだ。

「楽しい勝負って、一体何なんですか? 何が楽しくて、何が正しいんですか?

 私には、何も分からない……!」

「可哀想に……ここまで影響が強まっているとは。今、おれが元に戻してやる。ホールド!」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 光の鎖でマールは縛られ、戦う気力を失う。

 分身に力を割いていたためか、本体の力は弱くなっていたのだ。

 

「よし! 問題ない!」

「ピピピ!」

「「わーっ! 凄いねー!」」

 危なげなくマールを戦闘不能にしたティ。

 ジェイとエルはぱちぱちと拍手し、オーは喜ぶ。

 もちろん、幻影世界は消滅し、ティ達は元の場所に戻って来たのだ。

「さあ、きみ、そろそろ……」

「うう……うーーーっ……!」

「まさか、おれの魔法が、マールの悪しき部分を引き出しているのか……?」

 光の鎖はマールを縛る力を強めている。

 マールの表情に生気はなく、彼女の身体からは黒い影や金のオーラがにじみ出ていた。

 前者はアルルと戦った時のものと同じで、後者は勝負病にかかった者の特徴だ。

 マールは明らかに正気ではなかったが、力を振り絞ってティにこう言った。

「……は、話を聞いてください……」

「えっ!? あ、ああ、もちろんだ!」

「……」

「ピピッピ……?」

 

 マールが言いたい事とは、一体何なのか。

 全ては、皆が集まった時に、明かされる。




次回はマールとの戦いです。
しかし……。


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25 ~ マールを救え

仲間達がマールを助けます。
戦闘シーンは、できるだけ派手に描写してみました。


「ティ! どうなったの?」

「勝ったんだよね?」

「ボク達、やっとマールを倒したんだよ!」

「ぐぐぐーぐぐ!」

「……」

 マールが作った幻影世界から戻って来たアルル達。

 幻影世界が消えた事で、マールは倒れたはずだが、何故かこの世界は元に戻っていなかった。

 気付いているのは、ティとアリアだけだった。

「みんな! 来てくれたのか。それが……ちょっと、この子の様子が……」

「ピーピピ……」

 ティはマールの様子がおかしい事を皆に伝える。

「あの……私……私……それでもやっぱり、勝負がやめられない。これが『楽しい』んですよぉ」

 黒と金のオーラを纏ったマールは、楽しさを求めて勝負をしようとしている。

 勝負病にかけた者が逆に勝負病にかかるという、自業自得のような状態になっていた。

「まだ駄目ですか……」

「……どうしよう」

 どうすればマールを正気に戻せるか考えるりんごとアミティ。

 一方、アリアは杖を持って、精神を集中していた。

「どうしたの、アリア? あ、話しかけちゃダメ?」

「……」

 アリアにはアルルの声が全く聞こえていなかった。

 ただし、操られているわけではなく、集中しすぎているだけである。

 アリアの周りにはたくさんの精霊がいて、レイリーにはその姿がはっきりと見えていた。

「……今、アリアは精霊の力を使って、マールを元に戻そうとしているのだ。

 あのオーラが、マールを操っているのだ」

 レイリーは小声でアルルに状況を話した。

 アリアはマールにとりついているオーラを、彼女から引きはがそうとしているのだ。

「そっか。じゃあ、アレを……」

 アルルがそう呟いた瞬間、アリアの周囲から虹色の光が放たれる。

 虹色の光が杖にまとわりつくと、光のレーザーがマールを貫いた。

 すると、マールにとりついたオーラが抜け出て、

 猿の頭、虎の体、蛇の尾をした異形の獣になった。

「こ、これって……鵺!?」

「はぁ、はぁ……」

 怪物になった影に、りんごは恐怖する。

 アリアは力を使い切ってへたり込んでしまい、マールも気を失って棒立ちになった。

「お疲れ様です、アリア」

「後はあたし達がやるよ!」

 アルル、アミティ、りんご、ティは、マールを操る影に戦いを挑んだ。

 

「サイクロワール!」

 アミティは呪文を唱えて、風の刃で影を切り刻む。

「サイン!」

「スピニング!」

 影に向けてりんごが放った電撃が飛び痺れさせる。

 続けてティが加速力を上げた円月輪を投げつける。

「うっ……あぁぁぁっ!」

 影にとりつかれたマールは、さらに苦しむ。

「大丈夫だよ、マール。ボク達は絶対に、キミを助けるからね!

 ダイアキュート、ア・アイスストーム!」

 アルルは増幅呪文を唱えて、強烈な氷の嵐を巻き起こす。

 氷の嵐は影を取り込み切り刻んで寒さを襲わせた。

「きゃっ!」

 影の獣がマールを操って大きく跳躍し、そのまま爆撃のように着地する。

 迸る電撃が地を這い、広範囲に広がった。

「シールド!」

「わっと!」

「いたたぁ~!」

 アルルは防御魔法で防ぎ、アミティは何とかかわしたが、

 戦闘慣れしていないりんごはまともに食らってしまう。

 ダメージは抑えられたが、身体が軽く痺れる。

「これ、ちょっと厄介だね……」

「ああ……」

「鵺は病気にするんじゃなかったんですか? こんなに激しい攻撃をするなんて……」

 りんごの伝承では、鵺は奇妙な鳴き声を上げて、人々を恐怖から病にしてしまうという。

 だが、この影はそれとは逆に、雷を纏った激しい攻撃を繰り出していた。

「まともに食らったら、タダじゃすまなそうだね」

「うん……」

 もし影の攻撃が直撃したら、体力があまりないアルル達は一撃でばたんきゅ~するだろう。

 アルル、アミティ、りんごは、ぐっと身構えた。

 

「ロックダウン!」

「ダイアキュート、ダイアキュート、ファ・ファ・ファイヤー!」

 ティが光の力で影を拘束した後、アルルは手からたくさんの火炎弾を放つ。

「ブラストビート!」

「コサイン!」

 アミティの風で勢いを増したりんごの電撃が鵺型の影に命中。

 影は大したダメージを受けなかったが、麻痺によって体当たりの勢いを削いだ。

「よし、この調子だ! ターンオーバー!」

「ブリザード!」

 ティが勢いよく円月輪を飛ばして影を切り裂き、アミティが吹雪を起こして影を凍らせる。

「タンジェント!」

「ダイアキュート、ダイアキュート……」

 りんごはさらに電撃で追撃し、呪文を詠唱するアルルを援護する。

「ジュ・ジュ・ジュ・ジュ・ジュゲム!!」

 アルルが呪文を唱えると、大爆発が発生し、影を勢いよく吹き飛ばした。

 距離は相当離れたため、体当たりの勢いは今ほど強くないはずだ。

「ヒョー、ヒョー、ヒョー」

「な、何?」

 影は天に向かって不気味な雄たけびを上げる。

 すると、天がそれに呼応するかのように、黒雲が現れ、アルル達に雷光が降り注いだ。

「まずい、あれをまともに食らったら……!」

 この攻撃をまともに食らえば、確実にアルル達は全滅してしまう。

 しかも、アルルとアミティには防御魔法を使う魔力が残っていない。

 もう、勝てないのか……と思った、その時だった。

 

「マール、正気に戻れ!!」

「ティ!!」

「ピピー!!」

 なんと、ティがマールに突っ込んでいき、マールの攻撃を代わりに全て受けたのだ。

「きみにとっての楽しさは、おれには分からない。

 だけど、みんなを苦しめて、

 きみ自身を苦しめる……そんな勝負なんて、楽しいとは言えない!!」

「そんな事はありません! 今、私は楽しいんです!

 楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて……全部、楽しいんですよ!!」

「『楽しい』を連呼するきみが、本当の『楽しい』を知るわけがない!!」

「あなたには全然分かりませんよ!!」

「ああ……おれにも分からない……だから……」

「こうするしかないんですか!?」

 ティとマールは互いに自分の思いを叫ぶ。

 楽しさを伝えようとするマール、本当の楽しさを教えようとするティ。

 理論も理屈もなく、思いだけがぶつかっていた。

「Tスピンバースト!!」

「ヘブンリースフィア!!」

 二人の思いはぶつかり続け、それは、ついに最終奥義となった。

 ティとマールの最終奥義がぶつかり、影が起こした以上の大爆発が起きる。

 そして、大爆発が治まると、黒い影は消えた。

 

「な、何とか勝ててよかった……」

「あ、ああ……」

 アルル達はボロボロになりながらも、マールにとりついた影を完全に消滅させた。

 すると、煙の中からマールが姿を現す。

 その姿は今までと違い、編んだ金髪に青い瞳、白と水色と黄色の服に白い雲と、

 神聖な雰囲気を醸し出していた。

 マールを操っていた影が消えた事によって、彼女は正気と姿を取り戻したのだ。

「はぁ、はぁ……」

「お、驚いたな。それが、きみの、本来の、姿か」

「ピピピピー!」

 四人の中で特にボロボロになったティも、元に戻ったマールの姿を真っ直ぐに見据える。

「あ……ありがとうございました。本当に、本当に……!」

 正気に戻ったマールは、影と戦ったアルル達に礼を言う。

 りんごはマールに手を伸ばし、笑顔でこう言った。

「そんな貴女にこの言葉を送りましょう。結果良ければ全て良し!」

「それを言うなら終わり良ければ総て良し、ですよ」

「そうとも言う!」

 アリアはりんごに真顔でそう言った。

「あなたはあの先生達の言う通り、別の存在の影響を受けていましたね。

 本当なら謝らせたいところですが、あなたはまだ調子が悪いのでね、とりあえずは許しますよ」

「ありがとうございます……!」

 アリアとしてはマールに罪を償わせたかったが、まだこの調子では目的を達成できないと判断。

 調子を取り戻してから、改めて罪を償わせる事にするのだった。

「それにしても、なんで時空のバグになっちゃったの?」

 アミティは重要な事をマールに問いただした。

 時空のバグ、と呼ばれてはいたものの、本当に彼女が時空のバグかどうかは分からなかった。

 だから、アミティは真相を知りたかったのだ。

 しかし、マールはアミティの質問に対し、首を横に振っていた。

「いいえ……私は時空のバグではありません」

「え?」

「私は……」

 マールが自分の正体を、アミティ達に話そうとした時だった。

 

「何をしているんだ、マール」

「あっ……!」

 マールの背後から、青年の声が聞こえてきた。

「どこからともなく謎の声が! だ、だ、誰ですか!?」

「……」

 アリアには、この声の正体が何となくだが分かっていた。

 アコール先生とローザッテが言った事を思い出す。

 

『マールさんは確かに世界を混乱させた加害者ですが、被害者でもあるのです』

『楽しさを象徴するマールさんの後ろには、正しさを象徴する何者かがいます』

 

「マールさんを操り、世界を混乱に陥れた、『正しさ』を象徴する、あなたは……!」




次回は真の黒幕が現れます。
不定期、ですが早めの更新を心がけます。


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26 ~ スクエアス

物語の黒幕が登場します。
やっぱり、こういうのには「大人」が必要だと分かってますかSさん?


「マールさんを操り、世界を混乱に陥れた、『正しさ』を象徴する、あなたは……!」

 アリアが声の主に向けて杖を構えた時。

 

「「ス、スクエアス……!」」

 マールの背後から、藍色の髪の青年が姿を現した。

 そう、彼こそが、マールを操って人々を勝負病にかからせた、真の黒幕――スクエアスだ。

「『楽しい』勝負を続けるのだろう? 『楽しい』は、お前という存在が司るもの。

 それなのに、何をしている?」

「スクエアス! もう、やめましょうよぉ!

 あなたのしている事には『楽しい』も『正しい』も見えません……。

 いくら私の心を奪って操ったって、この人達は思い通りになんかいきませんよぉ!」

「フン、お前もそこまでか。まあいい、少しは力を溜める役に立った。さらばだ、マール」

 そう言うと、スクエアスはどこかにワープした。

 

 マールとスクエアスのやり取りを聞いたアリアは、静かに杖を(おろ)した。

「な、何があったの?」

「マールさんの正体は、『楽しさ』を司る存在。つまり、精霊のような存在だったのです」

 アリアはマールの正体を皆に話す。

 今まで世界を混乱させていたマールは時空のバグではなく、

 むしろその逆で、神聖な存在だったのだ。

「そして、スクエアスという人物こそが、この異変の本当の黒幕だったんです」

「く、詳しいですねぇ……」

「まぁ、あなた達のやり取りを聞いただけですが」

「でも、あの、スクエアスは元々悪人というわけではないんです」

 マールが慌ててスクエアスの事をアリアに伝える。

 どうやら、彼は完全な悪ではないようで、

 マールを利用したのも何かしらの理由があっての事らしい。

「これは、もう少し落ち着いた方がいいですね……」

「ふふ、そうですね」

「「「「あっ!?」」」」

 ひとまず落ち着こうと思ったその時、アリア達の背後から男性と女性が現れる。

 プリンプの賢者、ローザッテとアコール先生だ。

「アコール先生!」

「それに……えっと……ローザッテさん!」

「私の事を、覚えてくれたんですね」

 ローザッテはアリア達が名前を憶えてくれた事が嬉しくて笑顔になる。

「やはり、私達の予想通りでしたね」

「予想通り……って?」

「マールさんの背後に正しさを司る者がいる、という事です」

「はうぅ……二人とも、頭良すぎです……」

 スクエアスがマールを利用していたというのは、この二人の賢者にはお見通しのようだ。

 マールは二人の頭の良さに脱帽していたが、それにより、逆に調子を取り戻した。

「ええと……私達は時空の遥か上から静かに、ずっとずっと皆さんの勝負を見守っていました。

 本来、こうして姿を現したり皆さんと喋ったりするはずのない存在だと思います。

 でも……ある時から異変が起こり始めました。

 それは、交わる事が決してないはずの二つの世界……アルカディアと箱の世界から、

 お互いに声が聞こえたんです」

 アルル達はマールの話を真剣に聞いていた。

 普段は難しい話を聞くと寝てしまうアミティも、アコール先生がいる前では寝なかった。

「それは、どんな声ですか?」

「『また会いたい』って……。出会った事なんて、なかったはずなのに……」

「……そんな事はないと思います。多分、皆さんは忘れてしまっているだけだと思います」

 以前、アルカディアと箱の世界が混ざってしまい、エックスを説得した事で異変は解決し、

 皆の記憶から異変に関する記憶は消えた。

 しかし、アリアのように、僅かながら記憶が残っている人もいた。

 彼らの思いが偶然、アルカディアと箱の世界に届いてしまったのだろう。

「そうです。この事について覚えている人のせいで、私達は混乱してしまったんです。

 特にスクエアス。彼は時空の『正しさ』を司る存在」

「マールが『楽しい』、スクエアスが『正しい』なんだね」

「その通りですぅ……」

 スクエアスもマールと同じく、何かを司る精霊のような存在なのだ。

 その話が終わると、マールは真剣な表情になる。

「スクエアスは恐らく……この矛盾を乱暴な方法で解決しようと考え、

 私を一方的に操って味方につけました。

 そして、皆さんのおかげで私を操っていた影が消えた今、一人で実行しようとしています」

 似た存在同士とはいえ、マールを操る事ができたスクエアス。

 そんな彼は、単独でも強力な魔力を持っているから世界をどうこうする事ぐらい簡単だろう。

「乱暴な方法?」

「はい……。交わる事のない二つの世界を強引に混ぜる事で、

 『また会いたい』という矛盾した存在を見つけ出して消し去り、

 その後、世界を分けて『正しい』形に戻す事です」

「矛盾した存在って……何の事?」

「言いにくいのですが、ここにいらっしゃる皆さん……あなた達の事なんです……」

ひゃっ!?

はっ!?

ビッ!?

「えっ」

なんて?

ぐぐっ!?

 この異変の間接的な原因は、アルル達だとマールは明かす。

 衝撃的な事実に、アリア、アコール先生、ローザッテ以外は驚きを隠せなかった。

「以前に起きた異変の記憶がほんの僅かに残っていたからでしょうか?」

「はい、そこにいる眼鏡の女性……ええと、アコール先生の言う通りです。

 異変が解決したら記憶が消えるはずですが、あなた達は強い思いで忘れないでいられました。

 だから、『また会いたい』と思ったのでしょう」

「スクエアスはその人達ごと、矛盾を全て消し去ろうと思っています」

「でも、本当に悪い人はもう分かってますから、皆さんは責任を取らなくても大丈夫ですよ」

「ホント!? ありがとう、アコール先生!」

 記憶に残っているだけでは、罪を問われない。

 アコール先生とローザッテは、落ち込もうとしているアミティを励ますのだった。

 

「なーるほどー、そういう事ね~!」

「なんて事だ……」

「まあ、知ってはいたが改めて聞くと許されん話だ」

 その時、エコロ、レムレス、サタンがアルル達に合流する。

 サタンはスクエアスに対し怒りを露わにしていた。

 流石のサタンも、世界を滅茶苦茶にしようとする外の存在は決して許さないのだ。

「それで、本当の時空のバグとは、お前ではなくあのスクエアスという奴だな?」

「はい」

 本当の時空のバグは、スクエアスだった。

 彼を倒せば、この世界の異変は解決するのだ。

「だが問題はない。このサタン様がアルルとカーバンクルちゃんだけは何があっても守……」

「ボクとカーくんだけじゃ意味ないのっ!!」

ぐぐーーーっ!!

「ム……」

 サタンの言葉を真顔で拒否するアルルとカーバンクル。

「みんな、甘~いスイーツでも食べて落ち着こう。何をするべきか考えようね」

 レムレスはそう言ってキャンディーを取り出した。

 普段は軽い言動が目立つレムレスだが、きちんと考えるところは考えるのである。




次回はスクエアスの処遇をみんなで考えます。
アコール先生とローザッテはあまり出しゃばらせない方向でいかせていきます。


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27 ~ 彼を追うために

いよいよスクエアスを探しに行きます。
アミティの考えって、ありていに言うと「甘い」です。


「次に何をするか……。スクエアスを説得する!」

 アミティは世界を滅ぼそうとするスクエアスを止める、と決意した。

「きっと、できるはずだよね。マールとだって仲良くなれたんだもん」

「いや、あれはマールを操っていた影を、きみ達が払っただけだ」

 仲良くなれた、と思っているアミティに、ティが真顔で突っ込んだ。

「マ、マール、あたし達と友達になるの、嫌だった!?」

「そんな事! あ、ああありませんっ!

 ただ、私、知らず知らずのうちに、皆さんにたくさんの迷惑をかけてしまいました。

 私なんかが仲良くなっていいのでしょうかぁ……」

 操られていたとはいえ、プリンプタウンに異変をもたらしたのはマールだ。

 その事実を、マールはアミティ達に謝罪した。

 嫌われるのではないかとマールは思っていたが、アルル達の態度は違っていた。

「安心して、マール。アミティはね、友達作りの天才なんだ。

 ……ちょっと、言うのは恥ずかしいけどね」

「ぐっぐ、ぐっぐ♪」

「本当に悪いのはスクエアスさんですからね」

「アミティが信じるっていうなら、私達に異存はありません!」

「ね? だから、友達だよ、マール!」

 そう言って、アミティはマールに手を伸ばした。

 精霊のような存在である彼女に対しても、アミティは物怖じせずに話す事ができる。

 それは、アミティに裏表がない証であった。

「み、皆さん……」

 そして、マールもアミティの手を取った。

 二人は今、「友達」として歩み出そうとしていた。

 

「それじゃ、早速! スクエアスのところへ行こう! ゴーゴー!」

「……」

 スクエアスを追いかけようとしたアミティだったがアコール先生は顔に人差し指を当てていた。

「どうしたの、アコール先生?」

「そもそも、スクエアスさんは、どこにいらっしゃるのかしら?」

「ほぇ?」

「スクエアスが今、どこにいるのか、残念ながら、私にも分かりません……」

 肝心のスクエアスの居場所が分からなければ、彼を追いかけて止める事はできない。

 マールとアコール先生は、う~んと唸っていた。

「ええっ!」

「ええ、まずはスクエアスさんの居場所を探す、そこからみたいですね」

『ルゥも頑張って調べてるみたいだからニャ』

「えっ、ルゥ先生はどうやって知ったの?」

「私がテレパシーで教えたんですよ」

 どうやらルゥ先生は、アコール先生からテレパシーで今までの異変を教わったらしい。

 そこから、自分でも何かできる事はないかと、スクエアスの居場所を調べていたのだ。

「えっと、情報はいつ着くの?」

「そうですね……」

 

 その頃、ルゥ先生は……。

 

「あ~、あのスクエアスって人は、マールが集めた力を奪っていたのか~」

 マールとスクエアスの関係について、調べていた。

 彼はお世辞にもアコール先生より戦闘能力は低いが情報を調べるのはルゥ先生にもできた。

「マールとスクエアスは、多分、表裏一体だね~。

 スクエアスが消えれば、どこの世界もどうなるか分からないね~。

 だから、迂闊に消す事はできないな~」

 スクエアスを迂闊に消せば、世界に悪影響を及ぼす可能性がある。

 だから、ルゥ先生は手出しができなかった。

「ぼくが集めた情報はここまでだから、届けるね~」

 そして、職員室を出たルゥ先生は、アコール先生の後を追っていった。

 

「はぁ、はぁ……」

「ルゥ先生!」

 そして、ルゥ先生は紙を持って、アミティ達のところにやってきた。

「こ……これが~、ぼくの集めた、マールとスクエアスの情報だよ~」

 ルゥ先生が突き付けた紙には、彼の柔らかい字で情報が書かれていた。

 アミティ達は、ルゥ先生の情報を読む。

 

 スクエアスは、マールの力の一部から生まれた。

 故に、マールとスクエアスは表裏一体である。

 スクエアスが消えた時、マールもまた消える。

 

「そ、そうだったの!?」

「流石ルゥ先生ですわね」

「ふふ……よく頑張りましたね、ルゥ」

 これだけの情報量を簡潔かつ具体的に記した事に、アコール先生は喜ぶ。

 伊達に彼も教師ではないという事を知った。

「それで、スクエアスの居場所は分かった?」

「う~ん、ごめんね~。分からなかった~」

「そんな……」

 ルゥ先生にも、

 スクエアスの居場所は分からなかったようだ。

 このままでは、二つの世界がスクエアスの思いのままになってしまう。

 アミティ達が途方に暮れた、その時だった。

 

「……いや、心当たりがある」

「ピー! ピー!」

 なんと、ティはスクエアスの居場所を知っているというのだ。

 オーも嬉しそうにティの周りを回る。

「みんな、テト号に乗ってくれ。

 この事件について知っていたもう一人のあの人、彼ならきっと力になってくれる。

 時空の番人、エックスのもとへ向かうぞ!」

 テト号の賢者、エックスならば、スクエアスが起こした異変の詳細が分かるはずだ。

「……テト号に乗るのですね?」

「みんな、十分に準備してから行ってね~」

 アコール先生とルゥ先生が、この場にいる全員に号令をかける。

 テト号に乗り込めば、ここから先、しばらくプリンプタウンに戻れなくなる。

 やり残した事はないかを、皆に聞いていた。

 すると、アルルが頭をポリポリと掻いて言った。

「あ……実は、やり残した事、あるんだよね~」

「む? 何をだ?」

「……ボク、お腹空いちゃったんだ。だから、カレー、食べてくるね」

「ぐぐー」

 ずこーっ、と皆がずっこけた瞬間であった。




次回は一行がテト号に乗ります。
楽しみに待っていてください。


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28 ~ テト号に乗って

みんなでテト号に乗り込み、スクエアスを止めに行きます。
例によって大幅に改変しているので、ご注意ください。


「いただきまーす!」

「ぐぐぐぐぐー!」

 アルル達はプリンプタウンに最近できたカレー屋に行き、みんなでカレーを食べた。

 カツカレー、イカリングカレー、フライドチキンカレー、チーズカレー、ソーセージカレー、

 エビフライカレー、ほうれん草カレーなど、みんなは思い思いのカレーを注文する。

「あたし、あまりカレー食べた事ないから斬新だね」

「そうかな? ボクやカーくんは冒険でしょっちゅう食べてたけどね」

「カリーとは、また違う味でしょうか……」

「あ、あたし、キノコ苦手なんだ……」

 キノコカレーを食べているアリアが、チーズカレーを食べているサタンに声をかける。

 アミティはキノコが苦手なので、アリアから離れているのだが。

「む? カレーとカリーの違いだと?

 カレーは元々、熱い国にあるスパイスをふんだんに使った煮込み料理だ。

 それをある国がメインディッシュとして洗練した。

 それをまた、倭国が大衆化して完成させた、簡単に作れて一皿で栄養が揃うご飯なのだ。

 冒険で減った体力も回復するぞ!」

 サタンがカレーについてアリアに説明すると、アリアは納得したように頷いた。

「ここは周りとの交流が不便だからねぇ」

 魔導世界に生きる者は、回復アイテムとしてカレーを食べている。

 アルカディアでも魔法調理で作る事ができる。

 しかし、プリンプは四方を海や砂丘が取り囲んでいるため、カレー文化がなかなか浸透せず、

 このカレー屋も最近できたばかりなのだ。

「ホント、ここに来てからもう二度とカレーが食べられないと思ったのに、

 こんなお店があるなんて、ボク感動したよ!」

「ぐっぐぐー!」

「うわ、アルル、あんなに食べるなんて……」

「流石カレーの世界の魔導師、ですね……」

 夢中でカレーを食べているアルルとカーバンクル。

 それほどまでに、プリンプタウンではカレーは珍しい食べ物だという事を、

 アミティとりんごは思い知ったのだった。

 

「……カーバンクルは、もっと食べてるけど……」

「ぐ~~~?」

 

「それじゃ、そろそろテト号に乗るぞ」

「うん!」

 お腹もいっぱいになり、少し休んだところで、

 アルル一行はスペースシップ「テト号」に乗り込もうとしていた。

 スクエアスの事を知っているという、エックスに出会うためである。

 ティを先頭にして一行はテト号がある場所に行く。

「これがテト号か」

 ジルヴァがきょろきょろとテト号を見渡している。

 こういうタイプの船には乗った事がないため、ジルヴァは興味津々だった。

 一方で、レイリーは何故か青い顔をしていた。

「どうした、レイリー。気分が悪いのか?」

「わたし……機械とか、難しいものはちょっと苦手なのだ……」

 シルヴァンで踊り子のレイリーは、機械などを見ると気分が悪くなる。

 どうにかレイリーもテト号に乗らせたい一行。

「……考えはあるぞ」

 すると、ジルヴァは何かを思いついて言った。

「え、なんですの? ジルヴァ」

「アイマスクをすればいいんだ。これを、こうして、こうやって……」

「……?」

 ジルヴァはレイリーに気付かれないように、彼女の後ろからアイマスクを付けた。

「い、いきなり暗くなったのだ!」

「しっかり手を繋いでくれ」

「え、え、え~?」

 レイリーは混乱しながらも、ジルヴァと共にテト号に入った。

 その後、アルル、アミティ、りんご、アリア、

 さらにはすけとうだらやウィッチも、テト号に乗り込んでいく。

 次々と乗客が増えていき、ティは呆れながらも、しっかりと乗客を導いていった。

 しかし、何故かアコール先生とルゥ先生、そしてローザッテは、テト号に乗る事はなかった。

 

「あれ? アコール先生は行かないの?」

「ルゥ先生、早くしないと遅れますわよ!」

「ローザッテ、いかないのかー」

 アミティ達が三人を心配するが、三人は首を横に振った。

「いえ、私達はもしもの時のために、プリンプタウンに残る事にします」

「ぼく達が解決したら、きみ達の株を奪うからね~」

「私も仕事が忙しいので……」

 アコール先生達は、何かあった時のためにプリンプタウンで待つ事を選んだ。

 この異変を解決できるのは、アミティ達だと信じているからだ。

「そっか……あたし達の事、信じてるんだね。じゃあ、アコール先生、行ってきます!」

「うふふ……皆さん、お達者で……」

 アコール先生達に見送られながら、アミティ達が乗るテト号は宇宙の彼方へと飛んでいった。

 

「スクエアスは確かに許せない存在ですが……」

「哀れ、でもあるね……」

「甘い考えで申し訳ありませんが、救えるといいですね……」

 アコール先生、ルゥ先生、ローザッテは、スクエアスについてそう口々に語った。

 

「スペースシップでもノリノリダンシーン♪」

「ちょっと、そこの貴方。魔法薬の実験台になってくれませんこと?」

 ノリノリで踊っているすけとうだらを、実験に付き合わせようとするウィッチ。

 

「あー、おやつが食べたいぞ! なんか、美味しいものないかなあ?」

「お姉様……その……テト号には、丸いもの……なかった、と思います」

 おやつを食べたくなったドラコケンタウロスを、リデルが優しく宥める。

 

「ふおぉぉぉぉ……ど、ど、ど、どっかーーーん」

「なんだ、ここは! 今まで読んだどの本にも載っていない……」

「星の法則が乱れる……キ・エ・エ・エ・エ……!」

「うーへー……」

「なんか……みんな、変」

 天体系の魔法を主体とするクルークとフェーリは、宇宙の姿を見て愕然としていた。

 りすくませんぱいも理解できずに爆発し、シグとライラックは頭を抱えていた。

 

「「きゃははははーっ!!」」

キャンキャンキャン、クゥーーーン!!!

「二人とも、おやめなさいな」

「「ごめんなさーい!!」」

 アイに悪戯をしているジェイとエルに、ラフィーナはグリグリで折檻した。

 

「みんな! この船はエスが導くから、ちゃんと信じるのよ!」

 航海士のエスは、テト号を実際に動かしていた。

 彼女がいなければ船が迷ってしまうため、皆、エスをしっかり信じていた。

 

「また、あのカレー食べたいな~」

「お前は本当にそればっかりだな」

「じゃあ、私が牛肉カレー作ってあげますわよ」

 アルルはカレーの味が忘れられないらしく、ルルーとシェゾに長々と語っていた。

 二人はアルルのカレー好きに呆れていたが、本人もカレーが好きなので言えなかった。

 

 こうして船は順調に進み、目的地に辿り着こうとした時。

 突然、テト号でけたたましいサイレンが響いた。

 

『お客様に申し上げます。テト号移動区域への魔物の侵入を感知しました。

 安全のため、乗客は船内に避難してください』

 

「ま、魔物ですって!?」

「今からおれが指令室に行くから、避難しろ!」

 ティは皆に的確な指示を出し、避難させる。

 テト号の窓に映っていたのは、翼を生やし、長い尻尾を持つ魔物、ワイバーンだ。

「よし……迎撃するぞ!」

 ティはテト号を戦闘形態に変え、テト号に攻撃してくるワイバーンを迎撃する。

 幸い、ワイバーンは外から攻撃しているため、テト号さえ無事なら乗客も無事だ。

 だが逆に言えば、テト号が破壊されれば乗客もただでは済まないため、

 ティは艦長として真剣に任務に臨んだ。

 

「こっちに魔物がいたよ!」

「早くやっつけて!」

 普段は悪戯好きなジェイとエルも、テト号を守るためにティを助ける。

 おかげで襲ってきたワイバーンも、主砲によって地に沈んでいった。

 こうして次々とワイバーンを撃ち落としたが、ワイバーンの数は減るどころか増えている。

 このまま攻撃していてもいずれ消耗すると判断したティは、横にあるボタンを押そうとする。

 それはワープボタンであり、

 莫大なエネルギーを消費するもののテト号を強制的に別の区域に移動する事ができる。

「これを使えば戻ってくる事は難しいかもしれない。

 だが、背に腹は代えられない……いくぞ! ワープだ!」

ピピーーーーーーーーーーーーッ!!

 ティがボタンを押すと、テト号は壁を抜け、目的地へ真っ直ぐに向かっていった。

 そのスピードは非常に速く、アルル達は思わず酔いそうになった。

「うぅ~、ガタガタする~!」

「ティが頑張ってるから、ボク達も頑張らないと!」

「ぐぐ~、ぐぐぐぐぐ~!」

「うぅ~、誰か助けてくださ~い!!」

「あぁ、酔ってしまう……!」

 アルル、アミティ、りんご、アリアは、ワープして揺れるテト号に必死に掴まる。

 激しく揺れていたが、根性で酔わないようにする。

 ワイバーンはテト号を追いかけ続けていたが、テト号が見えなくなると、やがて諦めていった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……ついた……!」

 そして、テト号は何とか、目的地となる「時空の狭間」に到着するのだった。




残った先生も、彼らなりにスクエアスについて考えている事を書きたかったです。
次回は時空の果てで、エックスに出会います。
スクエアスを倒す手段は見つかるでしょうか。


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29 ~ 時空の果てで

この小説で初めて、エックスと出会います。
二次創作の都合上、1章から2章までを丸々カットしましたからね。


 ワイバーンの群れから逃げた後、テト号は無事に時空の果てに到着した。

 そこで皆を待っていたのは、時空の番人・エックスだった。

「……待っていたよ」

「エックス!」

「ピッピピ♪」

「謎衣装のお兄さん!」

「……というには少し年を取っていますが」

 時空の番人と再会できたティとオーは笑顔になる。

「やあ、ティ、オー、りんご。それに、冒険者達。そして、仲間がこんなにも。

 嬉しいよ、君達は本当によくやっている。

 僕はここからなかなか動けないけれど、ずっと見ていたよ」

 エックスはティ、オー、りんご、アリア、レイリー、ジルヴァに挨拶する。

 りんご達の活躍は、時空の果てにいるエックスにも届いていたようだ。

 マールとスクエアスの情報も知っている事だろう。

「さて、知りたいのは、あの子達の事、だったかな」

「ああ」

 スクエアスが混乱した原因、ティ達に以前の異変の記憶が残った原因。

 責任感が強い彼は、それを一人で抱え込んでいた。

「りんごやアミティ、アルルやカーバンクル、アリアやレイリーやジルヴァ、他にも……。

 おれは、知るはずのないみんなに会った時、しっくり来た。

 何となくだが、『また会えた』って嬉しくなったんだ。

 でも、この気持ちが許されないものならば、どうすればいいんだ……」

 また会いたいという気持ちが、スクエアスにとって邪魔だったかもしれない。

 彼を止める方法を、エックスに聞きたいのだ。

 しかし、エックスはティの言葉に対し、首を横に振っていた。

「ティ、落ち着いて。それはね、悪くないよ」

「……そう、言えるのか」

「世界っていうのは、変わり続けるものさ。どう変わっていくのか、誰にも分からない。

 僕はね、ティ。

 君達の思いを否定せずにスクエアスを救う、そんな事を君達に期待しているんだよ」

「……エックス、ありがとう」

 エックスは時空の番人として、この時空の果てから動く事ができない。

 スクエアスを止める事を託している彼に、ティは悲しみながらも感謝した。

「あはは、お礼を言う必要はないよ。

 こんな事、君達から受けた恩からしたら、とっても些細な事なんだ」

 アリア達はエックスと出会うのは初めてだがエックスはまるで自分の子供のように接していた。

 行方不明になっている、本当の娘のように。

「まだ、分からなくてい……うぐっ!?」

 エックスが話そうとすると、突然、エックスが胸を抑えて苦しんだ。

「どうしたの、エックス!?」

「だ、駄目だ……スクエアスが送り込んだ力が、僕の中で暴走している……!」

「そんな、スクエアスはエックスまで操ったの!?」

「違うよ、彼は僕の事が邪魔になるだろうと思って、僕の中に邪悪な種を仕込んだんだ。

 そして、話をしようとすると開花して、僕の身体を食い潰す……!」

 つまり、放っておけば、エックスは魔物によって食い殺されてしまう。

 そんな事は絶対にさせてはいけない、と身構える。

「アリア、エックスから種を抜き取って!」

「はい!」

 アリアは精神を集中し、エックスに杖を向けるとエックスの身体を光線が貫く。

 すると、彼の身体から黒い影が現れ、薔薇を纏った巨大な竜の姿を取った。

「これが……僕を食おうとした魔物……」

 エックスが薔薇竜を見て呆然とする中、アルルとアリアは既に身構えている。

 アミティとりんごも、遅れて身構えた。

 

「お疲れ様」

「後は、私達に任せてください」

「頼むよ」

 アルル、アミティ、りんご、アリアは、薔薇竜になった黒い影を迎え撃った。

 エックスは四人に戦いを任せて、見守った。

 

「この竜は、炎に弱いようですね。行きなさい、フェーゴ!」

 アリアは炎の精霊フェーゴを召喚し、炎を発生させて攻撃する。

「サイン!」

「ファイヤー!」

 りんごは手から電撃を放って痺れさせ、アルルが炎を放って薔薇竜を燃やす。

 薔薇竜の身体に炎が燃え移り、広がっていく。

「よーし、このチャンスを逃さないために……サイクロワール!」

 アミティは薔薇竜についた炎を消さないように上手く魔力をコントロールして風の刃を飛ばす。

 風の刃は薔薇竜の翼を切り裂き炎もさらに広げた。

「わっ、危ない!」

 薔薇竜は口を大きく開けると暗黒のブレスを吐く。

 アルルはかわそうとするが、掠ってしまい、服が闇に飲まれてしまう。

「強烈だね。回復しておかないと。ヒーリング!」

 アルルは回復魔法を唱えた後、体勢を整える。

「ファイヤー!」

「フレイム!」

「フェーゴボム!」

 アルルの手から火炎弾が飛び、薔薇竜を燃やす。

 アミティとアリアも、炎属性の魔法でさらに薔薇竜の身体に炎をつける。

「いきますよ、マグマチュード!」

 りんごは呪文を唱え、マグマを発生させて薔薇竜を攻撃した。

ガアアアアアアアア!

「シールド!」

「リフレクション!」

 薔薇竜は口から暗黒の吐息を吐くが、アルルとアミティが防御魔法で跳ね返した。

 暗黒の吐息は逆に薔薇竜の身体を焼く。

「よし、このまま一気に行くよ!」

「了解! ネオスペル、マ・マグマチュード!」

「アクセル、フ・フレイム!」

「ダイアキュート、ファ・ファイヤー!」

「フェーゴボム!」

「ギャアアアアアアアアアアア!!」

 そして、薔薇竜はアルル達の炎魔法の前になすすべなく焼き尽くされ、消滅した。

 

「はぁ、はぁ……」

 薔薇竜から解放されたエックスは、胸を抑え、息を切らしている。

 魔物に取りつかれていて相当負担がかかっており、しかも年だから今にも死にそうだった。

 だが時空の番人は、簡単に死ぬ事はできず、エックスは苦しみ続けていた。

「大丈夫ですか、エックスさん! 光の精霊ルフィーネよ、彼の者の心身を癒せ!」

「う……ふぅっ……」

 アリアは光の精霊ルフィーネを召喚し、何とかエックスの苦しみを治した。

「ありがとう、冒険者さん」

「私にはアリアという名前があるのですよ」

「それで……エックス、スクエアスを止めるにはどうすればいいの?」

 アミティがスクエアスを止める方法をエックスに聞くと、彼はふぅと一息ついて言った。

「スクエアスは時空のバグと言われている。恐らく……なりふり構わず、攻撃してくるだろう」

 時空のバグ・スクエアスは誰の話も聞かず、邪魔する者を攻撃するという。

 これではスクエアスを説得するどころか、逆に倒されてしまうのがオチだろう。

「じゃあ、どうやってスクエアスを止めるの!?」

「アミティ……?」

「だってだってだって、今のあたし達じゃ、話さえ聞いてもらえない。そういう事でしょ!」

「アミティ……」

「……あなたの考えは、甘いですね……」

 何があってもスクエアスを止めたいアミティを、

 アルルとりんごは心配し、アリアは少し冷たい表情になる。

 エックスは一瞬だけ笑顔になるが、すぐに真剣な表情になる。

「うん、アミティ。君は素敵だ。でも、少し焦りすぎているかもしれない。

 今、みんな不安だろうけど、落ち着いて僕の話を聞いてほしい」

「ピッピピ……」

「こほん……」

 エックスは咳払いすると、アルル達にこれまでの事情を話した。

 

「結論から言うと、君達がスクエアスを圧倒する、そんな方法を僕は知らない」

「ええっ! そんなぁ……」

「……」

 スクエアスを力ずくで叩き潰す方法は、エックスすらも分からなかった。

 アミティは落胆し、アリアは強く杖を握りしめる。

「でも、この問題を解決する、鍵を握る存在なら知っているよ。マール、君の事だ」

「わ、私ですかぁ?」

 エックスに名指しされたマールは驚いた。

「マールは自覚していないかもしれないけれど、

 スクエアスと一緒にずっとこの世界を見守ってきた。

 君の力はそんなものじゃないし、忘れている事も、多分、まだあると思う。

 あの、ぼんやりした男の先生と……本の中の『あの子』に貰った力もあるね?」

「え、え、えぇ……」

 前者はルゥ先生、後者は本の魔モノだ。

 彼らのおかげで、マールは少しずつ力を取り戻しているらしい。

「マールが全てを思い出す事ができれば、スクエアスに対抗できると思うよ」

「エックス、それは予想なのか確定事項なのか」

「ビビビ……」

「さあね?」

「はあ……エックスはいつも、割と面倒くさいな」

「ちょっと分かります」

「同じく」

 話をはぐらかすエックスに、ティは真顔で突っ込みを入れた。

 りんごとアリアも、ティの言葉に頷いている。

「でも、やるしかないんでしょ?」

「ぐぐーぐぐ?」

「そうだね。……話は変わるけど、スクエアスはマールから奪った力を使って、

 炎・水・風・地・闇の五つの迷宮を作っている。

 迷宮を守っているガーディアンを倒せば、スクエアスへの道は開かれる」

 エックスはアルル達に情報を話す。

 つまり、五つのダンジョンを全て攻略すれば、スクエアスの野望を阻止する事ができるという。

「光の迷宮がないのはどうして?」

「流石のスクエアスでも、マールの力を完全に奪う事はできなかったようだ。

 だからマールの『光』だけがないんだ」

「なるほど……」

「じゃあ、誰がどこの迷宮を攻略する?」

「う~ん……」

 

 相談の結果、迷宮と攻略するチームが決まった。

 炎:アミティチーム

 水:ティチーム

 風:りんごチーム

 地:アリアチーム

 闇:アルルチーム

 

「闇属性って難しそうだから、アルル達に任せようかなって思って」

「分かってるんだね」

「あたしだって、そこまでバカじゃないんだよ!」

 アルルは五人の代表者中で、最もダンジョンの探索に秀でている。

 アミティが最も難しいと思った闇の迷宮を、アルルチームが担当するのは当然だ。

「異議は?」

「なしです!」

「他のチームも?」

「もちろん!」

 全員一致で、ダンジョン攻略が決まったようだ。

 

「決まったようだね。じゃあ、君達にこれを渡すよ」

 そう言ってエックスは、アルル、アミティ、りんご、アリア、ティにバッジを渡した。

「これは?」

「迷宮の邪悪な気配が消えた時、自動的にチームをここに送るバッジだよ。

 魔物が追撃してきたら困るからね」

「ありがとう、エックス」

「僕はここから動けないけれど、みんなを待つのも立派な戦いなんだ。

 アルル、アミティ、りんご、ティ、そしてアリア。

 君達なら必ず、スクエアスを倒してくれる……」

 エックスは迷宮に向かうアルル達を応援する。

 時空の番人であるエックスは、時空の果てから動く事ができない。

 しかし、強い心によって、アルル達を信じる事はできるのだ。

 これもまた、エックスの戦いと言えるだろう。

 

「じゃあ、行ってきます!」

「朗報を楽しみに待ってるんだ、エックス!」

「ピーピピーピピー!!」

 りんごとティはエックスに手を振って、時空の果てから迷宮に向かうのであった。

 

 スクエアスを止めるために、五人は彼と戦う決意を固めた。

 この戦いの勝者は、アルル達か、スクエアスか。

 それは、神のみぞ知る……。




次回はどんどん原作からかけ離れていきます。
ですが、最後まで見守ってください。


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30 ~ 炎の迷宮

原作では修行でしたが、ここではダンジョン探索となります。
この迷宮には、フィーバー組が挑みます。


「うぅ~、暑いよぉ~……」

「あぁ、そうだね……空気の熱が強いな……」

 アミティ、ラフィーナ、シグ、クルークの四人は、スクエアスが作った炎の迷宮に入った。

 予想通り迷宮の中は暑く、アミティとクルークはへばっていた。

「まったく、二人ともだらしないですわね。私とシグを見習ったらどうですの?」

「んー」

 アミティは、ラフィーナはそもそも体力があるし、シグは気にしてないだけだし、

 と言おうとしたが、他人を傷つけたくないため言わなかった。

 

「あつっ!」

 アミティが先に進もうとすると、うっかり炎の壁に触れてしまった。

 炎の迷宮というだけあって熱かった。

「これでは先に進めませんわね……」

「ん……?」

 ラフィーナが困っていると、クルークがレバーを発見した。

「これを動かせば、炎の壁が消えるのでは?」

「そうか!」

 クルークがレバーに近付いて倒すと、空気が涼しくなったような気がした。

 よく見ると、炎の壁が消えている。

「これを倒したら壁が消えるんだよ。さぁ、先に進もう」

「うん」

「ええ、もうこんな暑い場所は嫌ですわ」

 アミティ達が先に進もうとした時、シグが突然足を止めた。

 同時に、アミティとクルークも足を止める。

「ど、どうしましたの、シグ?」

「あっちにだれかいる」

 シグが指差した先には、三羽の火喰鳥がいた。

 今にもアミティ達に飛び掛かろうとしており、

 シグが気付いていなければ襲われるところだっただろう。

「これは……火喰鳥じゃないか!」

「とにかく、やっつけて先に進むよ!」

「火喰鳥の弱点は水属性か氷属性だからね」

「癪ですけど、助かりますわ……! ネージュ!」

 クルークから弱点を教わったラフィーナは、氷を纏った拳を火喰鳥にぶつける。

 火喰鳥は高く飛び上がって攻撃をかわすが、冷気が火喰鳥の身体を凍らせた。

「高いところにいると、攻撃が届きませんわね」

 フラームならば高い場所の魔物に攻撃が届くが、炎属性なので火喰鳥には効果がない。

 ラフィーナは悔しそうに歯を食いしばっていた。

「フォッサ!」

 クルークは手から闇の塊を放ち、火喰鳥を闇に飲み込んだ。

 アミティは火喰鳥の攻撃をかわしつつ、弱点属性のブリザードで攻撃する。

「ネージュ!」

「セルリアン」

「ブリザード!」

「テクトニック!」

 ラフィーナとシグが前線に出て、アミティとクルークが後方から攻撃する。

「うわぁ!」

「ゼニス」

 火喰鳥はいきなり飛び掛かってアミティを蹴った。

 この魔物は炎に耐性を持っているだけでなく、飛び蹴りの力も強烈なのだ。

 シグが守ってくれたおかげでダメージは小さかったが、腹を蹴られたため少し痛かった。

「いたた……か弱い女の子になんて事をするの!」

「もう、アミティさんったら、怒る暇があったら先に進んではどうですの」

「そうだぞー、ラピスラズリ」

 シグが放った瑠璃色の光が火喰鳥に命中し、火喰鳥はそのまま墜落してばたんきゅ~した。

 残った火喰鳥はアミティのブリザードとクルークのステラ・イネランスで倒れた。

 

「はぁ、はぁ……火喰鳥、意外と強かったね」

「……スクエアス……本当に、この世界を滅ぼしたいのかな?」

「わかんないー」

「でも、あたし達の目的はただ一つ、スクエアスを止める事だけだよ!」

 こんなに強い魔物を作れるスクエアスは、どれほどの力を持っているのだろう。

 アミティ、ラフィーナ、シグ、クルークは気を引き締めて、炎の迷宮を探索した。

 

「あっ、見て! あそこに誰かいるよ!」

 アミティが指差した先には、全身が炎で包まれた角の生えた頭がいた。

 これこそ、炎の迷宮を守っているボスなのだろう。

「よし、やっつけよう!」

「ちょっと待っ……!」

 クルークがアミティを止めようとしたが遅く、アミティは冷たい壁にぶつかってしまった。

「冷たっ! 今度は何なの?」

「熱さも冷たさも元は同じらしいからね、空気を涼しくしたらこっちの壁が出るんだよ」

「えぇ~……」

 また、空気を暑くしなければ、ボスには辿り着けないらしい。

 ただでさえ暑さで参っているというのに、暑くするなんてアミティにはできなかった。

「でも、あいつ、倒さなきゃ、スクエアスのところに、いけない」

「……シグ……」

 ボスを倒すまでは、元の場所には戻れない。

 シグに言われたアミティは踏ん切りをつけ、レバーを倒し、空気を暑くした。

「ちょっと、暑い、けど……頑張る、から、ね!」

「あ、つ、い、あ、つ、い」

 汗をかき、体力が減っているアミティとクルーク。

 ラフィーナとシグはそんな二人を引っ張りながら、ボスがいる場所に向かった。

 

「まったく、クルークの手を引くなんて、私らしくないですわね……」

「アミティー、だいじょうぶだからなー」

 

「グオォォォォォォ……」

 炎の迷宮の守護者、ザン・ビエはアミティ達を見て大きく唸っている。

 スクエアスのところに行こうとしている四人に強い敵意を抱いている事は明らかだった。

「勝てるかどうか……いえ、絶対に勝ちますわ!」

「アミティー、まもる、だから、まけない」

「はぁ、はぁ、はぁ……暑いけど、ま、負けないぞ」

「あたし達は、スクエアスを止めるために、キミをやっつける!!」

 アミティ、ラフィーナ、シグ、クルークは身構え、ザン・ビエを迎え撃った。

 

「ネージュ!」

 ラフィーナは拳に氷を纏わせてザン・ビエに突っ込むが、かわされる。

「くっ、高いところは不利ですわね!」

「こういう時こそ魔法の出番さ、ステラ・イネランス!」

 クルークの手から星型弾を放って空中にいるザン・ビエを撃ち抜く。

「うぅ……悔しいけど、魔法ならあなたの方が上ですわ」

 ラフィーナが悔しがっていると、いきなりザン・ビエはアミティとクルークに炎を放った。

「うっ」

「きゃぁぁっ!」

 アミティは炎に包まれて焼かれてしまう。

 しかも、周りが暑いため、動けなくなってしまう。

「あつい、あつい、あつい!」

「こまった~、水はつかえない~」

 アミティ達の中に水魔法を使える者はいない。

 何とかラフィーナ、シグ、クルークは技や魔法で攻撃したが、アミティを包む炎は大きくなる。

あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 熱さのあまりアミティはのたうちまわっていた。

 ラフィーナはネージュでアミティの炎を消そうとするが、焼け石に水だ。

「も、もうダメ、我慢できない!」

 火だるまのアミティはそのままザン・ビエに突っ込んでいく。

 そして、ザン・ビエを掴むと、そのまま自爆していった。

「「「アミティ(さーん)ーーーーーーー!!」」」

 大爆発がアミティとザン・ビエを飲み込む。

 ただでさえ強い炎を、ザン・ビエに諸にぶつける。

 待っているのは、最低一人のばたんきゅ~だ。

「「アミティ……」」

「アミティさん……」

 ラフィーナ、シグ、クルークは、自爆したアミティの生存を願った。

 ザン・ビエが生存すれば、アミティの自己犠牲が無駄になってしまうからだ。

 

 数分後、爆発が治まると、ボロボロになったアミティが、赤い欠片を握り締めていた。

 彼女の身体から、炎はすっかり消えていた。

「や、やった、よ……あたし、勝った、よ……」

 この欠片は、ザン・ビエが変化した証だろう。

 それをアミティが持っているという事は、アミティ達はガーディアンに勝利したのだ。

「そっか……ぼくたち……かったんだー」

「やった……!」

「私にたてつくからですわ! おーっほっほっほ!」

 ガーディアンに勝利し、喜びを表すラフィーナ、シグ、クルーク。

 特にラフィーナは腰に手を当てて高笑いしていた。

 すると、アミティ達のバッジが光り出し、次の瞬間、アミティ達の姿は消えた。

 

「お疲れ様」

 エックスは戻って来たアミティ達に労いの言葉をかける。

 そして、アミティが持っている赤い欠片を取る。

「どうするの?」

「これ、スクエアスがいる場所の扉を開く鍵だよ。何かとくっつくような形になってる。

 だから、僕が預かっておくね。大丈夫、絶対に盗まれないからね」

 そう言って、エックスはポケットに欠片を入れた。

 ラフィーナはなおも倒れているアミティを見て、ふむ、と顎に手を当てる。

「アミティさんがこうなるって事は……スクエアスは……」

「うん、相当強いよ。十分注意しないと、返り討ちに遭うだろうね」

 スクエアスが攻撃してこなかったのが幸いだったが今のまま彼に挑んでは殺されるのがオチだ。

 だから、十分に準備しよう、とラフィーナ達は思った。

「後は、茶髪と、赤毛と、青い髪と、銀髪だけー」

「……シグ、髪の色で覚えているのかい?」

「うん」

 

 残る迷宮は、水、風、地、闇。

 アミティ達は仲間を信じて、迷宮を攻略するのを見守るのだった。




迷宮のボスは某聖剣を参考にしました。
次回は水の迷宮を攻略します。


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31 ~ 水の迷宮

ぷよテト組のターン。
彼らもしっかり戦う事ができる、という描写を目指しました。


 スクエアスに挑むため、仲間達は彼が作った五つの迷宮に挑む。

 水の迷宮に挑戦するのは、ティ、オー、エス、ゼットだった。

 

「エス、紅一点かしら? もうちょっと華が欲しかったわ」

「そういう事になるな」

 テト号の女性クルーは、エスとジェイ&エルの片方しかいない。

 それは仕方のない事だが、エスは少し不満だった。

「オー、電気はあまり使うんじゃないぞ。こっちまで巻き込まれるからな」

「ピピー」

 水は電気を通す性質があり、しかも周りにはたくさんの水がある。

 ここでオーが電撃を放ったら大惨事になるだろう。

「何が起こるか分からない。油断大敵だ」

「ええ」

 二人、一匹、一体が身構えると同時に、あちこちから魚の魔物が現れる。

 ティ達はそれらを武器や魔法で撃退していった。

「エスも、艦長には負けないんだから!」

 負けじとエスは襲い掛かろうとした魔物を風の刃で切り刻んだ。

「やるじゃないか」

「ふっふ~ん、どんなものよ、っきゃあ!」

 エスはうっかり罠を踏んでしまい、身体がびしょ濡れになってしまった。

「ちょっと、エスに何するのよ!」

「ヨク周リヲ見ナイカラダ。油断大敵、油断大敵」

「パパ! ごめんなさい!」

 注意するゼットに、エスは素直に謝った。

 罠をよく確認しなかったのは自分だからだが、それ以上にパパと慕うゼットには甘いからだ。

「ティ! エスの身体をちゃんと拭きなさいよ!」

「はいはい」

 とりあえずティは布を取り出して濡れたエスの身体を拭いた後、再び先に進んだ。

 

「前ハ私ガ守ロウ」

「お願いね~、パパ」

 ゼットはエスの前に立ち、魔物の攻撃から彼女を守っていく。

「スピニング!」

「ピーピピー!」

 ティは円月輪を飛ばし、オーはティを応援する。

 エスもゼットから離れないように前に進んだ。

 魔物は増え、罠も多くなっていくが、四人とも気を引き締めて攻略する。

 

 しばらく四人が歩くと水が溜まった場所に着いた。

 歩いて進むのはほぼ不可能と言えるほど深かった。

「うわぁ、何よこれ! 先に進めないじゃない!」

「ピー! ピピー!」

 エスが文句を言っているとオーが何かを発見する。

「これは……ポケットボートか?」

 ティがポケットボートを水に浮かばせると、ポケットボートは見る見るうちに大きくなった。

「これで、先に進めるんだな?」

「残念ダガ、私ハ不可能ダ」

 ティの言葉にゼットは首を横に振った。

 ゼットはロボットなので、ボートに乗れず、また水に入ると錆びたり沈んだりする。

 そのため、ここから先に進む事はできなかった。

「パパ……」

 ゼットと離れ離れになる事で寂しげな顔になるエスだったが、ティが彼女の頭を撫でる。

「安心しろ、すぐに戻ってくる。ほら、エスもそろそろ行くぞ」

「そ、そうよね……じゃあ、パパ! 待っててね!」

「ピーピピーピー!」

 ティ、オー、エスはポケットボートに乗り、ダンジョンの奥へ進んでいった。

 

 道中に敵はいなかったため、ティ達は簡単に奥に進む事ができた。

 エスはゼットがいない寂しさから少々震えていたがティのおかげでそんなに怖がらなかった。

「はぁ……パパ、大丈夫かしら……」

「だから、大丈夫だって。必要以上に心配するな」

「そうよね! 絶対にやっつけるわよ!」

「ピ、ピピ、ピピ」

 やはり、エスはパパがいないと不安なようだ。

 そんな彼女をティは守りながら、ガーディアンがいる場所を目指す。

「きゃあぁぁっ! 来ないで!」

 エスは襲ってくる魔物に風の刃を飛ばし攻撃する。

 オーも、なるべく周りに被害が及ばないように最小限の電撃を放ち、魔物を倒す。

 ティは辺りを見渡しながら、危険がないかを探る。

「こっちだ」

 ティは魔物に遭遇しないように慎重にボートを漕いでいく。

 エスはティの横に立って、あちこちを見渡した。

 幼い子供ならティに抱きつくだろうが、生憎、エスはゼットにしか懐かないのだ。

 

「こいつが、水のガーディアンか……」

 ティはガーディアンの姿を見て絶句する。

 水かきがついた四肢と棘のある尻尾、鋭い牙を生やした半魚人のような魔物がいた。

 この魔物が水のガーディアン、フィーグムンドだ。

 水の迷宮を守護する、最も力ある魔物である。

「何あれ……気持ち悪い、トカゲ?」

「違う、この迷宮を守っているガーディアンだ」

「ピピー」

 エスにトカゲと言われたフィーグムンドは、彼女に冷たく鋭い視線を向ける。

 トカゲと言われる事は好んでいないらしい。

「げっ、禁句だった?」

「……そうみたいだな」

 後ずさるティとエスだが、フィーグムンドは彼らを逃がさなかった。

 フィーグムンドとの戦闘が、始まった。

 

ガアアアアアアアアアアアア!!

 フィーグムンドは氷を発生させ、ティとエスの体温を奪う。

「うぅ、寒い……!」

「これが水のガーディアンの力か、侮れないな」

「ピピー!」

「リップクリーム!」

 ティは円月輪、オーは電撃を飛ばし、それをエスが風に乗せて勢いを強める。

 弱点の雷属性の攻撃を受けたフィーグムンドに大ダメージを与えた。

「ウオオオオオッ!」

「ぐああぁぁっっ!」

 フィーグムンドは勢いよくティに体当たりして、ティを壁に突き飛ばした。

「よ、よくも艦長を! リップクリーム!」

 エスは風を勢いよくフィーグムンドに叩きつける。

 フィーグムンドの身体は大きく、吹き飛ばされなかったが、

 周りのものを巻き込みダメージを与えた。

ガアアアアアアアアアアアア!!

「ピー!」

 フィーグムンドの冷気がティとエスに襲い掛かる。

 オーがティとエスの間に入り、代わりに凍り付く。

「大丈夫か、オー!」

「ピピー!」

「今、回復してやる! ヒーリングオール!」

 オーの氷が砕け散ると、オーの身体にたくさんの傷がついている。

 ティは回復魔法を唱え、ティとオーの傷を癒す。

 フィーグムンドは再びティに体当たりしてティを壁に突き飛ばす。

「こいつ……相当攻撃力が高いな。早めに仕留めなければ!」

「ええ! アイラッシュ!」

 エスは風の刃を飛ばしフィーグムンドを切り刻む。

 フィーグムンドは吹雪を起こした後、自身の周囲に氷の壁を張った。

「ロックダウン!」

「ピピピッピ!」

「リップクリーム!」

 ティ、オー、エスは一斉に攻撃するが、氷の壁に阻まれて攻撃が届かない。

 さらにフィーグムンドはそれをいい事に、上から水を落としてティ達をずぶ濡れにする。

「く……何とかできないのか?」

 氷の壁のせいでフィーグムンドに攻撃が届かない。

 壁側にいるフィーグムンドに、どうやって攻撃を当てるのか、考えていた時。

 

ピーーーーーッ!!

グギャアアアアアアアアアアア!!

 怒ったオーがフィーグムンドの頭上に黒雲を発生させた。

 そして、黒雲が揺れると、巨大な雷がフィーグムンドに落ちてきた。

 その一撃は凄まじく、弱点を突いたのもあるが、威力はエスの攻撃魔法を上回っていた。

「そっか! 壁に攻撃が届かなくても、頭上から攻撃すればいいのか!」

 そう、あの氷の壁は、横への攻撃は強いが上への攻撃は弱いという欠点がある。

 オーはその弱点を突いて、フィーグムンドを倒したのだ。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアア……」

 雷に飲み込まれたフィーグムンドは、消滅した。

 この戦闘は、ティ達の勝利に終わった。

 

「おれ達の……勝ちだ……」

「やったわ! エス、勝ったのね!」

「ピーピピピーピー!」

 ガーディアンを倒したため喜ぶティ、オー、エス。

 スクエアスの脅威は、少しずつ減りつつあった。

 まだ油断はできないが、三人はひとまず、勝利を喜んだ。

 

「さ、パパのところに戻りましょ!」

「そういえば、そうだったな」

 フィーグムンドのところに行く時、「パパ」ことゼットを置き去りにしていた。

 そのため、三人はポケットボートに乗って、ゼットのところに戻るのだった。

 

「パパ~! 勝ったわよ~!」

「勝利、オメデトウ」

 エスがゼットに抱きつきゼットがエスを撫でた時、ティ、オー、エス、ゼットの姿は消えた。




戦闘シーンは私なりに工夫して書きました。
次回は風の迷宮です。


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32 ~ 風の迷宮

7ARS+αのターン。
原作から思い切り脱線してますが、これが私クオリティです。


 スクエアスが作った風の迷宮に入ったのは、りんご、まぐろ、りすくませんぱい、エコロ。

「うぅ、風が強いですね……」

 必死でスカートを押さえながら歩くりんご。

 吹き荒れる風のせいで、まともに前に進む事ができない。

「多分、ガーディアンがいるからだと思うよ★」

 風の迷宮には、ガーディアンが存在し、強力な魔物や罠で道を塞いでいる。

 なので、できるだけ慎重に進んでいかなければならない。

「まずは風をどうにかしなければいけませんね」

「それなら私に任せろっ」

 そう言って、りすくませんぱいは薬を取り出し、思いっきり地面に叩きつけた。

 すると、りんご達を白い煙が取り囲んだ。

 白い煙に風が当たっていて吹き飛びそうだが、りんご達は風の影響を受けていない。

「あ、りすせんぱい、これって?」

「しばらくの間、風の影響を受けなくなる薬だ。風の迷宮ではお世話になるだろう」

「おお!」

 りすくませんぱいのおかげで、しばらくは風の迷宮の探索が楽になるようだ。

「薬の効果が切れないうちに、ガーディアンを倒しましょう!」

「ああ!」

 

 風の迷宮を突き進むりんご達の前に魔物が現れた。

 鎧に身を包んだアーマーナイト、小悪魔のインプ、翼を持った亜竜・ワイバーン。

「サイン!」

「ふりけん★」

「アイラブユー」

 アーマーナイトは魔法に弱いため、りんごが攻撃して倒した。

 まぐろとりすくませんぱいが前に立って魔物の攻撃を引き付けていく。

「あの~、僕は?」

「エコロはその辺の魔物を倒してください」

「ヒドいっ」

 りんごの辛辣な言葉にエコロはへこんだ。

「ライアー!」

 りんごにワイバーンが襲い掛かろうとした時、闇の炎がワイバーンを包み、火傷で悶えさせる。

 続けてインプは混乱魔法によってりんごの頭を混乱させる。

「うっ、頭がくらくらします! あっち行けっ!」

 混乱したりんごは敵味方の区別がつかず、仲間に雷魔法を飛ばしてしまう。

「うわっ! 何するんだよ、りんごちゃん★」

「こっち来ないで!」

 りんごはあちこちに雷魔法を飛ばしていて、まぐろの話を聞いてくれなかった。

 りすくませんぱいは攻撃を受けないようにゆっくりとりんごに近付き、

 後頭部を思いっきり叩いた。

「はっ! わ、私は一体何をしていたんでしょう」

「混乱にはこれが効くと思ったからな、思った通りで助かったよ」

 りんごはりすくませんぱいに叩かれた事は覚えていなかった。

 まぁ、混乱していたので当然だが。

「これからは直接攻撃だけでなく、魔法にも気を付けるんだな」

「う、うぅ~……」

 知能が高いと、その分、混乱しやすくなる。

 りんごはその事を身をもって思い知ったのだった。

 

 四人は魔物を退けながら、風の迷宮の奥へと進む。

「!」

 すると、風でりんごのスカートが少しめくれた。

 幸い、まだ誰にも見られていなかったが、薬の効果が少しずつ切れている事が分かった。

「風が強くなってます、早くガーディアンのところに急ぎましょう!」

「そうだね、りんごちゃん★」

 薬の効果が切れると、いずれ風によって吹き飛ばされてしまう。

 そうなる前に、ダンジョンを攻略して脱出しなければならない。

 りんご達は気をぐっと引き締めていった。

 

 その後も魔物は次々と現れ、りんご達の行く手を阻むものの、協力して魔物を倒していく。

 エコロはというと、りんご達が討ち漏らした魔物をちびちびと魔法で倒していった。

「やっぱり僕の扱い悪いよねぇ~~~~」

「当たり前ですっ」

 エコロの愚痴を笑顔でスルーするりんご。

 メタ的な発言になるが、中の人もエコロは嫌いな部類に入る……。

 

「着いた!」

 そして、四人はついに風の迷宮の奥に辿り着く。

 そこには、赤い頭と青い頭を持つオレンジ色のグリフォンがいた。

 この魔物が、風のガーディアン・ダンガードだ。

「うぅ、風が強いね……★」

「そうだな……っ」

 まぐろとりすくませんぱいも強風の影響を受けている。

 風のように素早い決着が必要だ。

 りんご、まぐろ、りすくませんぱい、エコロは身構えて、ガーディアンとの戦いに臨んだ。

 

「コサイン!」

 りんごは電撃をダンガードに放つが、ダンガードはけろっとしている。

「雷属性が効かないみたいですね」

「ふ~ん、じゃあこれだね、ライアー!」

 エコロの闇の炎がダンガードに命中すると、ダンガードはあっという間に燃え上がる。

「雷はダメだから、ふりけん★」

 まぐろの剣玉の剣先から玉が飛び、ダンガードに命中する。

 空を飛んでいたため攻撃が届きにくかったが上手く急所に当たりそこそこのダメージを与えた。

 ダンガードは翼をはばたかせ、風を起こす。

「うわっ!」

「きゃっ!」

 風はエコロとりんごを煽り、二人は傍にあった壁にぶつかってしまう。

「あいたたた……」

「だが、こいつは魔法に弱いようだ。このまま魔法をぶつけよう、アイラブユー!」

 りすくませんぱいが投げたフラスコから炎の渦が現れ、ダンガードを包む。

 要するに、反撃の隙を与えないままに連続攻撃すればいいらしい。

「うぅ~、私は雷魔法の方が得意だから足手まといですね~;」

 りんごは悔しがりながら、まぐろ、りすくませんぱい、エコロの戦いを見守る。

 三人はダンガードの攻撃をかわしながら、剣玉と魔法をダンガードに命中させる。

 そうしているうちに、りんごは風に煽られて迷宮から落ちそうになっていた。

もうすぐ薬が切れますよーーーーー!!

 りんごが大声で三人に知らせると、三人の表情が一変し、迅速に倒そうとした。

 薬の効果が切れる前に倒さなければ、いずれ四人は吹き飛ばされてしまう。

 もうすぐとどめを刺せる状況になったが、

 ダンガードは空を飛んでいて攻撃がなかなか当たらない。

「くっ、どうすれば……あっ!」

 その時、りんごは何かを閃いて、本を開いて呪文を詠唱する。

 飛び回る敵には、この魔法が向いていると。

「マジックミサイル!!」

 りんごが魔法名を言うと、彼女の手から無数の魔法弾が飛び、

 動き回るダンガードに全弾命中した。

 この魔法は相手を自動的に追尾するため、動き回る敵には非常に効果的なのだ。

 ダンガードの体力はかなり減っていたため、これでとどめを刺す事に成功した。

 

きゃぁぁぁぁぁぁっ!!

 ダンガードが墜落すると同時に、りんごが風に煽られてゴロゴロと転がる。

 このままでは壁に激突して、ばたんきゅ~になってしまう。

「りんごちゃぁぁぁぁぁん!」

 まぐろがりんごの腕を掴んだと同時に、二人の身体を光が包み込む。

 そして、りすくませんぱいとエコロの姿も消えた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「た、楽しい冒険だったね……★」

「お疲れ様……」

 戻って来たりんごはまぐろの下敷きになっていた。

 エックスは戻って来た四人を見て、苦笑いした。

「の、残る迷宮は、後、二つですね……」

 残っているのは、アリア達が担当する地の迷宮と、アルル達が担当する闇の迷宮の二つ。

「あの子達なら、大丈夫だよ……ね★」

「問題ない」

 アリアチームもアルルチームも、何度も冒険してきたベテランだ。

 彼らならきっと、この迷宮も余裕で乗り越えられるだろう。

 りんご達は彼らを信じて待つ事にするのだった。




最近は7キャラばっかり優遇していてうんざりしました。
でも、だからといって出さないわけにはいかないので出しました。
次回はオリぷよARSのターンです。


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33 ~ 地の迷宮

オリぷよARS組のターンです。
彼らは初代ARSみたいに、RPGから始まったキャラなので、
アミティやりんごよりも戦闘に慣れているのです。


 スクエアスが作った地の迷宮には、アリア、レイリー、ジルヴァが挑んでいた。

 

「ここに挑むのは久しぶりですね。地属性で迷宮に限って言えばですが」

 アリア達は以前、地の国にある迷宮に挑戦した事がある。

 そこには強大な魔物がいたらしいが、アリア達は軽く退けられたので、

 今回も余裕をもって挑戦していた。

 だが油断してはならない事は当然である。

 

「おっと……」

 アリアが一歩歩くと巨大な岩が出現して道を塞ぐ。

「これは危ないですね。慎重に進みましょう」

「ああ、そうだな」

 レイリーによれば、岩が現れる前は、前兆があるという。

 その前兆に気を付ければ、怪我をせずに済むとか。

 

「おっと、魔物なのだ! アイソレーション!」

 レイリーが襲ってきたモグラの魔物を撃退すると、突然、地面がぐらぐらと揺れ出した。

「危ないのだ!」

「きゃっ!」

「うわっ!」

 アリアの足元に巨大な岩が現れ、三人はとっさに身をひるがえす。

 レイリーが教えてくれなかったら、きっとアリア達は串刺しになっていた事だろう。

「ここなら安全ですね……」

 アリアがそう言って足を踏み出した瞬間、彼女の身体に岩が突き刺さる。

「きゃああぁっ!」

「うあぁぁっ!」

「うわっ!」

 レイリー達も巻き込まれてしまい、全員、浅くない傷を負った。

「まずいですね……早めにダンジョンを突破しなければ」

「そうなのだ」

 アリア達は慎重かつ大胆にダンジョンを攻略していく。

 現れる岩を避けながら、レイリーが宝箱の罠を調べて開け、らっきょを入手する。

「これさえ食べれば、大丈夫なのだ」

 前に出て体力が減っているレイリーが、らっきょをもぐもぐと食べる。

「なかなかの味なのだ。アルル達はこうやって体力を回復してるみたいなのだ」

 森のエルフ(シルヴァン)であるレイリーは、野菜であるらっきょが好評なようだ。

 その後も歩いていくと、床一面に蛇が蠢いていて、今なら引き返す事が可能だ。

「うわ、気持ち悪いのだ」

「ここは避けよう」

 蛇を倒さなければ先に進む事はできないが、ガーディアンはいるはずだと思い、

 三人は北へ北へと移動した。

「危ないのだ!」

「きゃぁっ!」

 岩はたくさん出てくるが、全てレイリーの指示で回避したため当たらなかった。

 そして一番奥に進むと、手足を持たない巨大な岩のような魔物がアリア達の前に立ち塞がった。

 この魔物が地のガーディアン・ランドアンバーだ。

 

「大きいのだぁ~」

「だが、ここで怯んでは冒険者の名が廃れる」

「伊達に私達が冒険者でない事を、この魔物に思い知らせてあげましょう!」

 アリア、レイリー、ジルヴァは武器を構える。

 今、三人の冒険者と、地のガーディアンとの戦いが始まろうとしていた。

 

「アイソレーション!」

 レイリーは小剣を構え、真っ先にランドアンバーに突っ込んで切り裂いた。

 だが、刃は軽く弾かれてしまう。

「くっ、固いのだ!」

「ならばこれでどうだ、エレメントウィンド!」

 ジルヴァは補助魔法を唱え、レイリーの小剣に風を纏わせた。

「おお、なんだか身体が軽くなった気がするのだ」

 レイリーがランドアンバーに切りかかると、切りかかった場所から旋風が吹き荒れ、

 ランドアンバーを切り刻んだ。

 地属性のランドアンバーの弱点は、風属性だ。

「うわっ!」

 ランドアンバーはいきなりレイリーの目の前に岩を落としてきた。

 ギリギリで避けられたものの、当たっていたら押し潰されていただろう。

「ですが、幸い動きは遅いようで……きゃ!!」

 ランドアンバーは鈍足なので攻撃が当たりにくい。

 なので、早め早めの回避を心掛けたアリアだったがうっかり足を滑らせてしまい転んでしまう。

 その隙を突いたランドアンバーはアリアに大量の石ころを落とした。

「いた、いた、いたたたた!」

 石ころは一つ一つが小さかったが、何度も当たったため体力を減らされてしまう。

「ヒーリング!」

「エアカッター!」

 ジルヴァは回復魔法でアリアの傷を癒し、ランドアンバー目掛けて矢を放つ。

 怯んだランドアンバーにアリアが放った風の刃が命中、ランドアンバーを切り刻む。

「何するのだ!」

 ランドアンバーはアリア達に気が付くと、前にいたレイリー目掛けて突進してきた。

 レイリーがギリギリで回避し、剣舞で反撃すると、

 ランドアンバーはアリア目掛けて岩を落とした。

「プロテクション!」

 ジルヴァは瞬時に防御魔法を唱え防ぐが、次の体当たり攻撃は防ぎきれなかった。

「レイリー……」

 ジルヴァは距離を取り、弓を構えて矢を放つ。

 だが、ランドアンバーは応えておらず、そのままレイリーを握り潰そうとする。

 アリアはランドアンバーの腕がレイリーに届く前に風の刃を放って吹き飛ばした。

「次で決めますよ!」

「ああ!」

「「レインボー・シュート!!」」

 アリアが光の精霊ルフィーネを召喚してジルヴァの矢に虹の光を纏わせ、

 虹の光の矢がランドアンバーを貫く。

 その一撃で、ランドアンバーの身体は崩れ去った。

 

「終わりましたね……」

「ああ……」

「やっと勝ったのだ……」

 ランドアンバーを倒すと同時に、アリア、レイリー、ジルヴァの身体が光に包まれる。

 そして、光と共に三人の姿が消え去った。

 

「お疲れ様、よく頑張ったね」

 エックスは戻って来た三人を優しく労う。

 相当な強敵だったが、無事に帰ってきたためエックスは微笑みを浮かべていた。

「これで残る迷宮はあと一つ」

「闇の迷宮……」

 スクエアスが作った迷宮は、残り一つ。

 最後の迷宮にはアルル達が挑んでいる。

 闇というだけあって、この迷宮は恐らく最も難しい場所であろう。

 だが、アルルと仲間なら、きっと、闇の迷宮も攻略できるだろう。

 

「アルル……絶対に、生きて帰ってきてくださいね」

「あたし達の、約束だよ……!」

「きっと、きみなら、スクエアスを止められる」

「私達の努力を無駄にしないでくださいね」

 アミティ、りんご、アリア、ティは、アルルと仲間の無事を祈るのだった。




次回は魔導ARS組のターンです。
気合を入れて、いっきま~す!


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34 ~ 闇の迷宮

いよいよ魔導ARSのターンです。
昔からいるキャラなので、ここの描写は気合を入れました。


 アルル、ルルー、シェゾ、そしてラグナスは、ついに最後の迷宮、闇の迷宮に挑戦した。

 

「ここが……闇の迷宮……」

「ぐぅぅ……」

 迷宮から溢れ出る闇の力に気迫されるアルルとカーバンクル。

 恐らく、スクエアスが作った迷宮の中で、最も深く、そして強い魔物がいる場所だ。

 だから、皆で相談して、アルルチームを攻略に選んだのだろう。

「……震えていますの?」

「おい、こんなところでビビってんのかよ」

「勇者の名が折れるぞ」

 よく見ると、アルルの手足は震えていた。

「そ、そんなわけないじゃない! 武者震いだってば!」

「ふふっ、せいぜい私の後ろに隠れない事ね」

「ま、アルルなら余裕だと思うがな!」

「スクエアスの野望は必ず打ち破るんだぞ!」

 ルルーとシェゾ、ラグナスは、間接的だがアルルを勇気付けた。

「ありがとう、みんな! よーし、頑張るぞ!」

「ぐっぐぐーぐー!」

 アルルは迷宮に一歩踏み出す。

 ルルー、シェゾ、ラグナスも彼女に続いて歩く。

「来たよ!」

 四人の前には黒い煙が現れ、黒い煙が悪魔に姿を変える。

 アルル達は身構えて、襲い掛かる悪魔と戦った。

「破岩掌!」

 ルルーは前に出て、岩をも砕く掌底をぶつける。

「ファイヤー!」

 アルルが炎を悪魔の群れに放つが、悪魔は魔法で幻影を作り出す。

 魔法は幻影に命中し、幻影は消えてしまった。

「くっ、どうすればいいんだろう……」

「所詮幻影は幻影だ、本物には遠く及ばない。相手をよく見るんだ、サンダーストーム!」

 そう言ってシェゾは悪魔に雷を落とす。

 手ごたえはあったようで、悪魔は苦しんでいる。

「シェゾ! どうして分かったの?」

「ま、簡単に言えば、幻影は本物とちょっと違うってところだな」

「その『ちょっと』が分からないんですけど……」

 シェゾはアルルより実力はあるため、本物と幻影の違いが分かるようだ。

「ふん、よく見ますのよ! 風神脚!」

 ルルーが悪魔に回し蹴りをかますと、悪魔の姿が一瞬だけ揺らいだ。

 どうやらルルーが攻撃したのは、幻影のようだ。

「隣ですわ!」

「え……と、隣だね! ファイヤー!」

 ルルーの言う通りにアルルが隣を炎で攻撃すると、悪魔は勢いよく燃え盛り、灰になった。

「やった!」

「こいつの弱点は光属性みたいだな! ホーリーアロー!」

「ライトニング!」

「風神脚!」

 ラグナスの手から光の矢が放たれると、悪魔に効果的なダメージを与えた。

 続いてシェゾは電撃を放ち、小悪魔を怯ませ、ルルーが回し蹴りをぶちかます。

「ライトスラッシュ!」

「闇の剣よ、切り裂け!」

 ラグナスとシェゾが同時に剣を振り、悪魔を真っ二つにした。

「ケケケ!」

「よくもやったわねぇ! 鉄拳制裁!」

「ゲーッ!」

 ルルーの拳が悪魔にクリーンヒットし、悪魔はどこかに吹っ飛んでいった。

「サンダーストーム!!」

 そして、シェゾが雷の嵐を起こして全ての悪魔は一掃された。

 

「ふう……まだいるのかな?」

「この辺にはもう悪魔はいないようだ」

「よし、どんどんいこー!」

 

 アルル達は闇の迷宮を進む。

 だが暗いため、四人はかなり慎重に進んでいた。

「うぅ、暗いなぁ……」

「明かりをつける魔法があるじゃないか」

「あ、そうか、ライト!」

 アルルは呪文を唱え、迷宮に明かりをつけた。

「よし!」

 だが、その明かりはすぐに消えてしまった。

 この迷宮に満ちる闇が余程強い事が分かる。

「う~ん、やっぱり手探りしかないのかなぁ」

「俺達は暗視ができないしなぁ」

 明かりもつけられないほど暗い闇の迷宮は、不意打ちに気を付けなければならない。

 アルルはこの四人の中で最も体力が低いので、ルルー達の後ろに隠れて進んだ。

「! 待って!」

 先に進もうとしたアルルが突然立ち止まる。

「どうしたんだ?」

「後ろから……音が聞こえてきた……!」

「なんだと?」

 シェゾが後ろを見ると、闇の中から大量の悪魔が姿を現した。

「また悪魔か! サンダー……」

 シェゾが落雷で悪魔を倒そうとするが、数の多さで押さえつけられてしまう。

 ラグナスは壁にぶつからないように慎重に下がり、光の矢を次々に放って悪魔を蹴散らす。

「く、私も戦いたいですけど、こう暗いと攻撃が通りにくいですわね……」

 ルルーは悔しそうに歯を食いしばる。

 アルルはというと、巻き込まれないように精神を集中して魔法を放っていた。

 こうして、シェゾが傷つきながらも、アルル達は何とか悪魔を撃退した。

 

「もう、いい加減にしてよ。ボク達はスクエアスに会いたいだけなのに!」

「それは真実《まこと》か?」

「えっ!」

「ぐー?」

 アルルの後ろから、青年の声が聞こえてくる。

 すると、暗いはずの迷宮に明かりが灯った。

「何、何なの?」

「ぐぐぐ?」

 振り向くと、そこにいたのは、藍色の髪と金色の瞳を持つ青年だった。

「スクエアス……だよね?」

「ああ、だが今はお前達と戦うつもりはない」

「どういう事なの?」

「お前達と戦ってもらうのは……こいつだ!」

 そう言ってスクエアスは、ピエロのような姿をした魔物を召喚する。

 闇の迷宮のガーディアン、ゼーブルファーだ。

「お前達の存在は正しくない……だからこいつが消す事になった」

「そんな!」

「闇に飲まれるがいい! さらばだ!」

「待って……!」

「ぐっぐぐぐぐーーー!!」

 アルルが止めるのも空しく、スクエアスはテレポートで去っていった。

 ゼーブルファーはアルル達に襲い掛かる。

「くそっ、卑怯者め!」

「でも、こいつを倒さないと、ボク達はあの迷宮から出られないよ!」

「ぐっぐぐー!」

「こんな魔物、けちょんけちょんにして差し上げますわ!」

「勇者に敗北はない!」

 

「ファイヤー!」

 アルルが炎を放つと、ゼーブルファーは闇のバリアで防ぐ。

「こいつ、魔法が効かないのか!?」

「そうみたいだね……」

「なら、これでどうだ! 闇の剣よ、切り裂け!」

 シェゾは闇の剣を振りゼーブルファーを切り裂く。

 闇属性なので大したダメージではないが、

 ゼーブルファーはバリアを張らなかったのでダメージを与えられたようだ。

 どうやらゼーブルファーは、魔法攻撃に反応してバリアを張るらしい。

「そうと決まれば、いきますわよ! 破岩掌!」

「ライトスラッシュ!」

 ルルーは掌底、ラグナスは斬撃を食らわせようとするが、ゼーブルファーが闇の波動を放った。

「くぅっ……」

「頭が痛い……!」

 その衝撃でルルーとラグナスは一瞬怯んでしまう。

 ゼーブルファーはその隙に、ルルーとラグナスを闇の柱で包む。

「「ああああああ!」」

 攻撃を食らったルルーとラグナスは跪く。

「ルルー! ラグナス!」

「物理攻撃が得意な奴から潰してるのか……くそ!」

 シェゾは舌打ちした後、炎を飛ばすが、ゼーブルファーはバリアを張って防ぐ。

 魔法型のアルルはルルーとラグナスに駆け寄る。

「ちょっと、ルルーもラグナスもしっかりして! こんなのに負けてどうするの!?」

「う……その声は……」

「アルル……?」

 跪いているルルーとラグナスは、アルルの声に僅かに反応する。

「こいつはスクエアスが直接けしかけたんだよ! ある意味、スクエアスでもあるんだよ!

 スクエアスに負けを認めるの!?」

「そ……それは……」

「あり得ないぞ!!」

 アルルの激励によって、ルルーとラグナスは何とか立ち上がった。

「こんな奴に負けるものですか! 崩撃連脚!」

「ファイナルクロス!」

 ルルーは連続で蹴りをゼーブルファーにかまし、ラグナスが十字にゼーブルファーを切り裂く。

「ダイアキュート、マ・マジックミサイル!」

 アルルはゼーブルファーに魔法の矢を放つ。

 ゼーブルファーはバリアを張って防ごうとするが、

 マジックミサイルはゼーブルファーの頭上に降り注いだ。

 バリアを無視し、しかも無属性なので、ゼーブルファーは全弾食らって怯んだ。

「よし、一気にいくぞ!」

「うん!」

「女王乱舞!!」

「アレイアード・スペシャル!!」

「究極の一撃!!」

「ジュゲム!!」

 ルルー、シェゾ、ラグナス、そしてアルルはありったけの一撃をゼーブルファーに食らわせる。

 攻撃をまともに食らい続けたゼーブルファーは、ついに闇の迷宮から消滅した。

 

「勝ったんだね……」

「ああ……」

 ついに最後のガーディアンを撃破し、闇の迷宮を攻略したアルル一行。

 これで、スクエアスのところに行く事ができる。

 

「さあ、戻ろう!」

「エックスのところに!!」

 そして、アルル、ルルー、シェゾ、ラグナスは、闇の迷宮から姿を消すのだった。




やっぱり魔導ARSは頼りになる存在ですね。
次回はスクエアスの正体が明らかになります。


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35 ~ 真実

マールとスクエアスの正体が明かされます。
アルル達も覚悟しているよ、という描写を目指しました。


「ただいま!!」

「お帰り、みんな。その様子だと、闇の迷宮を攻略したようだね」

「うん! ホント、大変だったんだからね!」

「ぐっぐっぐぐぐー!」

 アルル達はスクエアスが作った五つの迷宮を全て攻略した。

 これで、スクエアスのところに行く事ができる。

 最早、アルル達を襲う脅威は、スクエアス以外に何もなかった。

 

「……うぅ」

 だがマールは、何故か頭を抱えていた。

 そういえば、とアルルはマールの事を思い出す。

「どうしたの、マール?」

 アルルがマールに駆け寄ると、マールは小声でこう言った。

「思い出しましたぁ」

「ホントに!?」

「はい。スクエアスが私の記憶にロックをかけていたようですが、

 ガーディアンを倒したおかげでロックが解除されました」

 どうやらスクエアスは、真実を知られないために迷宮を作って分散させたようだ。

 だが全ての迷宮を攻略した以上、マールの記憶は既に戻っていた。

「言うのが怖い、でも……言わなくてはなりません」

 マールは真実を話すのを怖がっていたが、

 りんごが彼女のところに駆け寄り、優しく肩に手を置いた。

 そして、りんごはマールに笑顔でこう言った。

「真実を明かすのは誰でも怖い事です。でも、もっと怖いのは真実を隠し続ける事。

 たとえどんなものでもいいから、真実を明かしてほしい……それが、私の考えです」

 りんごはマールから真実を聞く覚悟ができていた。

 アルル、アミティ、アリア、ティも、彼女に合わせて頷いている。

「ホントの事を言うのは、簡単そうだけど難しいよ」

「でも、マールとスクエアスの関係が分からないと、スクエアスを止める事ができないよ」

「……私達はとっくに覚悟ができています」

「だから、頼む……話してくれ、きみとスクエアスの正体を」

 頼み込む四人の態度は、真剣そのものだった。

 その姿を見たマールは、こほん、と一息つき、アルル達に全ての真実を話す事にした。

 

「私は、ずっと世界を見守っていた。所謂『時空の意志』と呼ばれるもの……。

 それがある日、人格を持った結果の存在です」

 マールの正体は、時空の意志が自我を持ったもの。

 世界を見守る、神のような存在だったのである。

「私は元々一人だった。

 でも、日々楽しそうに勝負をする皆さんを見ているうちに、話し相手が欲しくなりました。

 そうして、私は自分の力の一部を使って、スクエアスを作り出しました」

「ちょっ、えっ!?」

 スクエアスの正体は、マールの分身だった。

 それを聞いたりんごは、驚きを隠せなかった。

「えーっと、それって、つまり、つまり」

「はい、スクエアスは……私が作った弟のようなものなのです」

「「「え」」」

「えーーー!!」

「あ……」

 スクエアスはマールより年上の外見ながら、実は生まれたばかりの赤子同然だった。

 アミティ、アルル、ティ、りんご、アリアは唖然として、放心してしまった。

「スクエアスがいてくれるようになってから、私は嬉しかった。

 私は世界の『楽しさ』を象徴するから、

 スクエアスには世界の『正しさ』を見守っていてほしいと。

 そう、頼みました。スクエアスは喜んでずっと一緒にいてくれました」

「仲良しだったんだね……」

 放心が解けたアミティが震えながらマールに呟く。

 マールは頷いた後、続きを話す。

「でも、それからしばらくして事件が起こりました。

 別々だった二つの世界が、ある時、混ざったんです」

「アルカディアと箱の世界……ですね」

「……驚きました……。世界が混ざる事は、基本的にあり得ない事です。

 世界には『壁』があり、混ざるのを防いでいますからね。

 私達も、皆さんにはもちろん、誰にも気付かれないように、

 二つの世界が正しく分かたれるよう、裏で動いていました」

「そうだったんだ……」

 世界が混ざるというバグを修正するため、マールはひっそりと動いていた。

 混ざってしまえば不都合が起きるからである。

「結局、世界はきちんと元通りに分かれて、皆さんの記憶からこの事件の事は消えました」

「えっ!」

 ちなみに事件の記憶を消したのは、この物語には登場しないが、アデルである。

「でも、皆さんは……『また会いたい』って、そう願ったんです。

 自覚がないまま、心の奥底で、記憶はないはずなのに、絆が残っていた」

「心当たりが……」

「正直、ありすぎるな」

「これって……どこかで聞いたような……」

 りんごとティは顎に手を当てて、ふむ、と唸る。

 アリアは何かを思い出しそうになったが、思い出す事はできなかった。

「私はそれを見て言いました。『素敵ですね』って。

 そうしたら、スクエアスは『正しい事じゃない』と混乱して怒って、

 私の隙を突いて、力と記憶を奪っていったんです」

 スクエアスは正しさを司るが、それはあくまで秩序というだけで善ではない。

 また会いたい、という気持ちが、再び世界を混ぜ、混乱してしまう。

 それを嫌ったスクエアスは逆に混乱したのだ。

「私がいけないんですぅ……。

 スクエアスに世界の『正しさ』を見てってお願いしたのに、私が破ってしまった。だから……」

 スクエアスが暴走するきっかけを作ったマールは罪悪感に責め苛まれ、逃げようとした。

 だが、マールが逃げようとする直前、ティがマールの腕を掴んだ。

「マール、それ以上自分を責めないでくれ。悪いのはきみじゃない、暴走したスクエアスだ」

「ティ……」

 ここで逃げたとしても、問題は何一つ解決しない。

 それどころか、スクエアスのせいで、二つの世界が滅茶苦茶になってしまう。

 暴走するスクエアスを止める以外に、異変を解決する方法はない。

 

「……思い出したみたいだね」

 その時、エックスがアルル達の前に姿を現した。

「エックス! 何もかも知っていたのか!」

「とんでもない。ただ、マールに何かを感じていたしアレはただの予測だからね。

 しかし、想像以上の事件だったみたいだね。まさか、君が時空の意志とは」

「恐縮です……」

 マールの正体は、エックスでも分からなかったようだ。

「ねえねえっ、そんなに凄いならさ、スクエアスをどうにかできたりしないの!?」

 アミティはマールにスクエアスを止めさせようとするが、マールは首を横に振った。

「……うぅ、申し訳ありません。

 私の力は集めた分も含め、大部分スクエアスに取られてしまいました。

 まぁ、サポートくらいならできますが……」

 時空の意志であるマールの力を奪ったスクエアスは予想以上に強大になってしまったようだ。

 つまり、皆で協力しなければ、スクエアスを止められないという事なのだ。

「そっか……気にしないで。ボク達で何とかするから!」

「ぐっぐぐー!」

「ピッピピー!」

「スクエアスはあくまで暴走しているだけ。力ずくならば、解決できますよ?」

 アリアは微笑みながら杖を振る。

 スクエアスを倒すのに、相当な自信を持っているようだ。

 

「……誰を何とかする、だと?」

 すると、アリアの目の前に青年が現れた。

 この異変の張本人、スクエアスである。

「あっ!」

「来ましたね、スクエアス!」

「わーわー! りんごちゃーん! おっまたせー!」

「フッ、言った通り、捕まえてきたぞ」

 エコロとサタンもアルル達の前に姿を現す。

 どうやら、スクエアスはアルル達が五つの迷宮を攻略している間、

 サタンとエコロが連れてきたようだ。

「……捕まえた、だと? 違うな、直々に来てやったんだ。

 そろそろ何もかも正しい方へ終わらせる準備ができたからな」

「スクエアス!」

「つまり、世界を滅ぼすつもりですか!」

 スクエアスの野望を阻止するべく、アリアは彼に杖を向ける。

 対照的に、マールは震えながら彼に話す。

「私に怒っているなら謝ります。皆さんに乱暴をするのはやめてくださいぃ……」

 マールは必死でスクエアスを説得しようとした。

 自分が作り出した存在なのだから、マールの声はスクエアスに届くはずだった。

「チッ、思い出したのか、マール」

「皆さんのおかげです!」

 スクエアスは舌打ちするが、マールは真剣な表情になる。

 しばらくすると、スクエアスは宙に浮き、髪が伸び、邪悪なオーラを身に纏い、目は光り輝く。

「しかし、まだ何も分かってないようだなマール!」

「え……」

「お前達、まとめて消してやる。もう二度とこの世界に戻って来られないように!」

「ま、まさかぁ! スクエアス! 駄目です! それだけは……!」

コスモスレクタングル!!

 そして、スクエアスから闇の波動が放たれ、アルル達を吹き飛ばそうとした。

 突然の攻撃だったので、防御魔法は間に合わず、アルル達は攻撃を食らってしまった――




全体的に描写不足だった原作と比べて、細かい描写を目指してみました。
次回は7章編まで一気に突き進んでいきます。
遅くなると思いますが、私を見守ってください。


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36 ~ 世界を守るために

プリンプタウン組に力を入れたくて書きました。
留守番していても、彼らには出番があるのです。


 その頃、プリンプタウンでは……。

 

「空が揺れた……!?」

 アコール先生がこの世界に起きた異変を察知する。

「どうしましたか、アコール先生?」

「アミティさん達が危機に陥っているそうです。

 私も動かなければ……しかし、それでは、プリンプタウンを守る人がいなくなる……」

 生徒が危険な状況にありながら、珍しくアコール先生は迷っていた。

 自分が現場に赴けば、プリンプタウンの守りが薄くなる。

 だが、生徒を放っておくわけにもいかなかった。

 どうすればいいかと迷った時、ローザッテがアコール先生に激励した。

「だから生徒を行かせるんですよ!」

「でも……あそこは、生徒だけでは危険だと……」

「プリンプタウンを守るのは、私達の方ですよ。生徒を信じないとは、それでも教師ですか!」

「はっ……すみません、私とした事が……申し訳ありませんでした」

『迷う事は恥じゃニャいニャ、それが人間ニャから』

 ポポイはアコール先生をフォローしてあげた。

 アコール先生は「ありがとう」と言って頷いた。

 

「……では、いきますよ」

 ローザッテとポポイの激励によって迷いを取り払ったアコール先生は、

 早速、テレパシーの魔法を時空の果てにいる「ある人物」に使った。

 その様子を見たルゥ先生は、何かを感じ取って呟いた。

「じゃあ、ぼくも協力するね~!」

 

 その頃、4Aとティ側は……。

 

「……うぅ……」

「こ、ここ、どこ~!?」

 気が付くと、一行は真っ白な空間にいた。

 空間には青い四角や丸が浮かんでおり、まるで、以前に行った事がある白の空間のようだ。

「ここは……私とスクエアスしか来られない場所。時空を遥か彼方から見下ろす場所」

「えっ、えっ、えーっと、お空の上?」

「そうとも言えますがぁ、正確には、もっともっと上の……」

「異空間、というわけですね?」

 アリアの言葉にマールは頷いた。

 すると、スクエアスが一行の前に現れる。

「そんな事はどうでもいい。お前達にはここで消えてもらう。

 そして、全てを『なかった事』にする」

「そのために私達をここに飛ばしたのですね?」

 アリアは真剣な表情で杖をスクエアスに向ける。

 スクエアスはアリアを睨みながら、話を続ける。

「その通り。お前達はバグに等しい存在だ」

「え? 時空のバグってスクエアスの事じゃ……」

「しっ! アミティさん、今のスクエアスさんは暴走していますよ」

 小声でアミティの一言に注意するアリア。

 幸い、スクエアスにはまだ聞こえていなかった。

「お前達は『会いたい』と思ったのだろう」

「「……」」

「会えて楽しかった。会えて嬉しかった。そう思ったのだろう。

 本来なら『正しくない』時空の交わりで……」

 相変わらず高圧的な態度のスクエアスだが、アリアはただ杖を彼に向けるのみ。

 スクエアスは生まれたばかりの赤子なので、どうこう言っても仕方ないからだ。

「そっ、それのどこが悪いの!? 会えて嬉しかったなら、また会いたいって願っちゃうよ。

 そんな事もダメなの? スクエアス!」

「だから、スクエアスさんは暴走してるんです。

 自分が正しいと思った事を、押し付けているだけなんです」

 再びアリアはアミティに小声で注意する。

「何をこそこそ話している」

「な、何でもないってば! ね、アリア?」

「え、ええ……」

 アリアとアミティは引きつった顔で否定した。

 

「……で」

 スクエアスはこほんと一息つくと、話を続ける。

「お前の問いの答えだが、ダメに決まっている。

 そのせいで、マールは混乱したのだし、それは『正しく』ない」

「……正しくなきゃいけないの?」

「先程から話が堂々巡りだ。こいつと話しても意味はない」

 スクエアスは能天気すぎるアミティについていけないようだ。

 アリアは「はぁ」と溜息をつき、杖を下ろす。

「スクエアスの言う『正しい』とかってそんなに大事?」

「もちろんだ。『楽しさ』『正しさ』とは、つまり世界の秩序の事。

 それが失われたら、世界はどうなるか分からない」

 スクエアスが司る「正しさ」とは、やはり、秩序を指しているようだ。

 秩序が失われれば、待っているのは混沌のみ。

「どうなるか分からないって事は、悪くなるとも限らないでしょ?」

「悪くなるに決まっている」

「難しい事は分かんないけど、

 あたしは、みんなと会いたいって思う事の方がぜーーーんぜん大事!」

 アミティはAのイニシャルを持つ者の中では、何よりも友達を大事にしている。

 そのため、様々な人と出会い、交流する事の方が、アミティにとっては正しい事なのだ。

 だが、それを良しとしないスクエアスは首を横に振る。

「……そんな事は聞いていない」

「スクエアスだってきっと分かるよ~。みんなと仲良くなれば……」

「あり得ない。時間の無駄だ、こいつを相手にしろ」

 そう言って、スクエアスは魔物を召喚する。

 それは、禍々しい色合いの、巨大な蜘蛛だった。

 タルタルが直視したら、恐怖で卒倒するだろう。

「うわぁっ、蜘蛛!?」

「こいつの名は次元蜘蛛だ。時空のバグよ、こいつらの餌になるがいい!」

 そう言ってスクエアスはテレポートで姿を消した。

 

「おっきいねぇ……」

「こいつは糸を吐きませんが、牙には麻痺毒があります。噛まれないように気を付けて!」

「うんっ!」

 アミティとアリアは身構えて、次元蜘蛛と戦った。

 

「グランストーン!」

 アリアは地の精霊グランを召喚し、岩を落として次元蜘蛛を攻撃する。

 次元蜘蛛の姿が揺らぐと、姿を消した。

「いたっ!」

 次元蜘蛛はアミティに噛みつく。

 何とか麻痺しなかったものの、かなりのダメージを受ける。

「痛いじゃない、フレイム!」

 アミティは次元蜘蛛に炎を放つが、次元蜘蛛はけろっとしている。

「魔法が効いてない!?」

「どうやら魔法を弾くようですね。確実に私達を倒そうとするそうです!」

 アリアは風の刃を次元蜘蛛に放った。

 精霊の力により、風の刃は次元蜘蛛を切り裂く。

 いくら魔法を弾く次元蜘蛛でも、隙を突けば効果的なダメージを与えられるようだ。

「あ、危ない、アリア!」

「ふっ」

 次元蜘蛛がアリアの背後から襲い掛かろうとするがアリアは瞬時に水の壁を作り、攻撃を防ぐ。

「きゃぁぁっ!」

 だが次の次元蜘蛛の攻撃は防げず、噛まれて麻痺してしまう。

「うぅ……身体が動かない……。私とした事が……」

「アリア、今、治すよ! コンディア!」

 アミティはアリアに治療魔法を使い、麻痺を治す。

「助かり……ます……」

 アリアは身体が震えながらも、炎の精霊フェーゴを召喚して体当たりさせる。

 しかし、後遺症があったため、アミティの方に注意がいかなかったようで……。

「うわぁぁぁぁ~! 痛ぁ~~~い!!」

「アミティ……さん! ああぁぁぁ……」

 アリアとアミティは同時に噛まれてしまい、ばたんきゅ~してしまった。

 

シエルアーク!!

ウィス・アトラヘンディ!!

 二人が意識を失う直前、少女と少年の声が聞こえ、次の瞬間、次元蜘蛛が空に吹っ飛ばされた。

 倒れている二人の前に、二人の人物が現れる。

 すたっと現れたのはラフィーナ、上手く着地できなかったのはクルークだった。

「ラ、フィーナ……に……」

「ク、ルー、ク、さん……?」

「今は回復が先ですわ!」

「さあ、来るんだ!」

 ラフィーナとクルークは、ばたんきゅ~しているアミティとアリアを急いで運んだ。

 当然、その時はお互いにそっぽを向いていて、

 クルークはあまり筋力がないので、運ぶのに時間がかかったが。

 

「これで大丈夫だろ?」

 クルークはアミティとアリアに蘇生薬を飲ませ、ばたんきゅ~から復活させた。

「ありがと、クルーク……」

「まっ、せいぜいボクに感謝するんだねいだぁっ!」

「調子に乗らないでくださる? クルーク」

 偉そうに振る舞うクルークに、ラフィーナがビンタした。

「どうして……ここに……? ここには、私達以外は来られないはずなのに……」

 困惑するアリアに、ラフィーナとクルークが事情を話した。

「実はアコール先生がこの異変を感じ取りましたの。

 アコール先生の他にも、ローザッテとルゥ先生が手伝ってくださいましたわ」

「空間を無理矢理広げて、そこにボク達をぶち込むなんて乱暴だったけどね」

「「ありが……とう……」」

 それしか方法がなかった、と付け足すクルーク。

 突然の援軍だったが、アミティとアリアは素直に感謝した。

 

「……イレギュラーの存在など、正しくない!」

「スクエアス!」

 そんなアミティ達の前に、スクエアスが現れる。

 援軍は当然、彼が認めるものではないからだ。

「ラフィーナとクルークを消すつもりなの!? ダメだよ、あたしの大切な友達だよ!」

 アミティはラフィーナとクルークを守るため、二人の前に仁王立ちする。

「そんな事で誤魔化せるとでも思ったか。俺にはマールが集めてきた力がある。

 俺の力はお前達を消し去ってなおあまりある」

「えっ、そんな……」

「覚悟しろ」

 スクエアスが四人を攻撃しようとした時。

 

「そーんなの、分かんないもんね!」

「ぐぐぐーぐぐー!」

「「アルル(さん)!?」」

「アミティ達は、消させはしないよ!」

 直前でアルルとカーバンクルが割って入ってきた。




出番が少ないキャラにも出番を与えたいのが私の考えです。
そんなわけで原作を無視してますがご了承ください。

次回はバトル回です。


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37 ~ 正しくないのは

バトル回です。
やっぱりアルルとカーバンクルは強いな、と思いました。


「アルル!」

「ラフィーナ、クルーク、ボクとしばらく協力して」

「えっ……」

「この戦いはボク一人じゃ流石にきついから」

 アルルは真剣な表情でラフィーナとクルークに頼んだ。

 闇の迷宮はルルーやラグナスなど、前に立てる人物がいたから無事攻略できた。

 魔導師型のアルルでは、スクエアスが操る魔物に勝てるかどうかは分からない。

 だから、二人に協力を頼んだのだ。

「……私とクルークがあなたに協力?」

「今日は空から槍の雨が降ってくるのかい?」

「こんな時に喧嘩なんてダメだよ! こんな時だからこそ、協力するんだよ!」

 スクエアスがいるのに喧嘩する事はアルルにとっては望まない行動だ。

 ラフィーナとクルークの仲が悪い事を知っての上でアルルは二人にそう言ったのだ。

「仕方ありませんわね……」

「今回だけだからな?」

 流石にベテラン相手には反論できないので、ラフィーナとクルークは渋々従った。

「こういうのを、えーっと……」

「「呉越同舟」」

「あ、息ぴったり♪」

「ぐぐぐっぐぐ♪」

 

「……」

 スクエアスはアルル達を鋭い目で睨んでいた。

 彼にとって「くだらない」と映ったからである。

「ボクね、実はキミの立場もちょっと分かる。ダンジョンとか、色々見てきたからね。

 そんな風に自ら雁字搦めになっているキミを見ると、何か……感じるところがあるよ」

「ならば……」

「でも、ダ~~~~メ!」

「ぐ~~~~ぐ!!」

「なっ……」

 アルルはスクエアスに同情しながらも、悪事だけは決して見過ごせなかった。

 スクエアスは理由が分からず、困惑している。

「誰も望んでないルールなんて、べーーーっだよ!」

「ぐーーーーっぐぐ♪」

「そうそう、勝手に正しいを押し付けられるなんて私にとってはとっても不快ですわ」

「ああ! ボクなりに行動したいね!」

 ラフィーナとクルークもアルルに乗った。

 「正しい」を押し付けられる事は、誰にとっても不快な事である。

 そもそも「戦争」というのも「正しい」がぶつかり合うから起こる事なのだ。

「……は?」

「『正しい』とか関係ないんだ。スクエアス!!」

「ぐぐぐぐぐ!!」

「なっ、なんだ……」

「キミはどうしたい? 『正しい』って言葉に縛られないキミの言葉を聞きたいよ」

 アルルはスクエアスの本当の考えを知りたかった。

 今のスクエアスは、アリアが言った通り、頑なに「正しい」を貫こうとしている。

 いくらそれを司るとはいえ、本当にスクエアスが望んだ事なのだろうか。

 カマをかけるようであっても、アルルはスクエアスと交渉したかったのだ。

 

「マール……」

「……ふえっ? 今……私の名前を」

 その時、スクエアスは一瞬、創造主の名を呟いた。

「フン。『正しい』事をやり遂げる、それ以外に答えなんかない」

「ふぅーん、意地になってるんだ」

「ぐぐーぅ♪」

 アルルの言葉に、ラフィーナとクルークは一瞬だけお互いの目を見た。

「どういうセリフだ……」

「キミがもう少し素直になれるように、勝負だよ!」

「また勝負か……なら、こいつを相手しろ!」

 スクエアスは巨大ロボットを召喚し、去っていく。

「また逃げたな!」

(この行動、操られていた時のマールと同じ……)

 今のスクエアスは、以前にアルルが相手した、操られていた時のマールと同じだった。

 アルルはふとそう考えた後、頭を振って身構える。

「ラフィーナ、クルーク! こいつをやっつけて、スクエアスを追いかけるよ!」

「ああ!」

「ええ!」

 

「ネージュ!」

 ラフィーナは氷を纏った掌底を放つが、自動機兵にはダメージが通らなかった。

「フォッサ!」

 一方、クルークの闇魔法は効果があるようで、自動機兵の身体を蝕んでいく。

「こいつは見た目通り物理攻撃には強いからね、魔法攻撃には弱いのさ」

 眼鏡をくいっと上げて説明するクルーク。

 流石に魔法では自分より優秀とはいえ、ラフィーナは悔しそうに歯を食いしばっている。

「大打撃!」

 自動機兵は腕を大きく振り下ろし、アルルを勢いよく殴りつける。

 物理攻撃に弱いアルルは大ダメージを受けた。

「ヒーリング! アイスストーム!」

 何とかアルルは回復魔法で傷を癒し、氷魔法で反撃するが、自動機兵には効果がないようだ。

「氷が効かないなら……フラーム!」

 ラフィーナの炎を纏ったアッパーが自動機兵に命中し、吹っ飛ぶ。

「そんなもの、効きますか!」

「ステラ・イネランス!」

 自動機兵は態勢を整え直し、ラフィーナに反撃しようとしたが、

 素早く身をかわしたラフィーナの蹴りを食らう。

 直後にクルークの星型弾が命中、自動機兵は吹き飛んだ。

「よし、このまま行こう! ダイアキュート、サ・サンダー!」

「フォルト、ディ・ディシャージ!」

「我に力を、ウ・ウルサ・マヨル!」

 アルルは呪文で強化した雷を自動機兵に落とす。

 ラフィーナとクルークも、続けて自動機兵を技や魔法で攻撃した。

「うぐぅっ……」

 自動機兵はアルルに掴みかかると握り潰す。

 アルルは逃れようとするが、締め付ける力はどんどん強まっていく。

 何しろ、アルルは女性でしかも魔導師だ、簡単に振りほどけるはずがない。

「ぐー! ぐぐー!」

「どうしよう……解放したいけど、巻き込むかなぁ」

「クルーク! アルルさんを助けなさいな! 一番張り切ってるのはアルルさんなのに!」

「……そうだな、ちょっと癪だけど助けるか!

 我に力を、我に力を、我に力を、ウ・ウ・ウ・ウルサ・マヨル!!」

 クルークは増幅呪文を唱えると、手からおおぐま座を象った光が現れ、

 自動機兵に命中すると大爆発した。

 爆発で自動機兵が崩れると同時に、アルルが落下し、地面に激突しようとする。

「危ないっ!!」

「ぐぐぐー!!」

 ラフィーナとクルークは何とかアルルを受け止め、アルルは地面に激突しないで済んだ。

 

「はぁっ……はぁっ……やったね、ボク達の勝ちだ」

「ぐっぐぐー!」

 アルルは瀕死ながらも勝利宣言をする。

 倒したのはスクエアス自身ではなかったが、

 彼が魔物を召喚した事によって、スクエアスの力は僅かだが弱まっているはずだ。

「よくも倒してくれたな」

「スクエアス!」

 自動機兵を倒したアルル、ラフィーナ、クルークの前にスクエアスが姿を現す。

 彼は、自身が召喚した魔物が敗れた事で、悔しそうな表情をしていた。

「だが、こんな事を何回繰り返したところで、俺の計画を止める事はできない」

 スクエアスはそう言い残して、再び姿を消した。

 

「りんご……ティ……後は頼んだよ」

「ぐぐーぐー……」

 自分達が行けるのは、ここまでだ。

 アルルはりんごとティに後を託し、待つのだった。




このシーンにはラフィーナとクルークを、どうしても出したかったのです。
だって、アレだけの出番なんて、もったいなかったから……。
次回はテトリス組のターンです。


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38 ~ 二人の秘密

テトリス組も奮闘しているんですと書きました。
スクエアス……見ていて、哀れになりますね……。


 その頃、時空の果てでは……。

 

「まったく、艦長はどこに行っちゃったのよ! せっかく迷宮を攻略したのに!」

「落チ着クンダ、エス」

「はぁ~い、ごめんなさぁ~い!」

 ティがいつまで経っても帰ってこない事に腹を立てたエスを宥めるゼット。

 パパの前では、エスは変わり身するようだ。

「二人とも、どうしたんだい?」

「元気ないよー?」

「全然ないよー?」

 アイ、ジェイ、エルもテト号から降りたようで、エスとゼットに合流する。

「艦長がいきなりいなくなっちゃったの!」

「何? それは本当か?」

「ピンチだね」

「そうだね」

 エスは慌ててアイ、ジェイ、エルに事情を伝える。

 せっかく迷宮を攻略して、スクエアスのところに行けるはずだったのに、

 連絡もなしに消えてしまった。

 きっとティはピンチになっているかも、とエスは危惧していた。

「ジェイ! エル! ピンチなら、あんた達の力で何とかしなさいよ!」

 この双子は、手を繋ぐと不思議な力で未来をある程度予知する事ができる。

 双子の力を使えば、ティに迫る危機を感じ取れると思ったのだ。

「使おうかな」

「やめとこっかな」

「……」

 エスの背後からメラメラと炎が浮かび上がる。

 仲間の危機を救わない乗組員など、乗組員として認めたくないのだろう。

 ジェイとエルは震えて、すぐに手を繋いだ。

「……」

「……」

 ジェイとエルは精神を集中している。

 ティがどこにいるのかを、心で感じ取るためだ。

 エス、アイ、ゼットが見守っていると、ジェイとエルがびくん、と反応した。

「艦長は、空の彼方にいる!」

「男の人に倒されちゃうみたい!」

「……男の人?」

 その特徴が誰なのかエスには分からなかったが、とにかく、ティがピンチなのは変わりない。

「アイ、エスを艦長のところに連れてって」

「……ぼくの力でも異空間に行けるかどうかは分からないけど……やってみるよ」

 アイは大急ぎで小型異空間転送装置を作り始めた。

 そして、エスにそれを渡して説明する。

「即席で作ったから一方通行、決着がつくまではここに戻る事はできない。

 それでもきみは、使うのかい?」

「当然よ! 艦長がピンチならエスが助けないと!」

 もちろん、エスに迷いはなかった。

 エスは我儘で毒舌だが、その実、寂しがり屋でもある。

 パパだけでなく、乗組員がいなくなってしまう事をエスは誰よりも恐れているのだ。

「そんなに行きたいなら、どうぞ」

「よーし! 艦長、待ってなさい!」

 エスがそう言うと、彼女の姿は時空の果てから消えた。

 

「エス、パパだけが好きだと思っていたけれど」

「「ジェイとエルも大事なんだね」」

 

 その頃、りんご達はというと……。

 

「うーん……ずっと、何かが足りないんだよなぁ。モヤモヤするっていうか」

 りんごは、一人で何かをぶつぶつ呟いていた。

 スクエアスは本当に悪人なのか、りんごは疑問を抱いていた。

 「正しい」にこだわり続けるスクエアス。

 自分が生み出した存在なのに、裏切られたマール。

 その二人を繋ぐものを知りたくてたまらなかった。

 

「りんご! 落ち着いている場合か! 来るぞ!」

「ビービー!」

「あー……うん……」

 ティとオーがりんごに叫ぶが、何故かりんごはぼーっとしていた。

「上の空か!」

「にゃっ!」

 ティの一言でようやく我に返ったりんご。

「ご、ごめん、ティ。突っ込みさせて」

「……りんご、何を考えているんだ?」

「えーと……ここに来て、そもそも論で申し訳ないけど、マール」

「はい!? なんでしょうかぁ!」

「スクエアスはなんであんなにも『正しい』事やマールに執着してるのかな」

 りんごはマールを呼んで、スクエアスについて聞こうとする。

 マールがスクエアスを生んだのだから、彼を知っているかもしれないと思って聞いたのだ。

「そ、そんなの分かりませ……」

「スクエアスに近しいマールにしか分からない。

 色んな世界を見下ろしてきた存在にしては、スクエアスって思考が一直線すぎる気がする。

 私の勘が正しければ……マール……スクエアスって……」

 スクエアスは生まれたばかりの赤子だから、単純な行動を取るのは当たり前だろう。

 りんごはそう推測したのだ。

「なるほど。それは……」

言うな!!

「スクエアス!?」

 マールがりんごに何かを話そうとした瞬間、スクエアスが彼女を制止する。

 まるで、ムキになった子供のように。

「それはマールと俺の問題だ! どうせお前達は消えてなくなる。余計な事をするな!」

 スクエアスは再び「あの時」の姿になり、巨大な粘体生物・ウーズを召喚する。

 彼の姉的なマールは、スクエアスを憐れんでいた。

「お前の相手はこいつで十分だ!」

「なるほど、取り急ぎ勝負です! ……この魔物は、気持ち悪いけど」

 

「勝ちましたよ」

 実際のところ、勝負はあっけなく決着がついた。

 ウーズは雷属性に耐性を持っていたが動きは遅く、体力も普通よりちょっと高い程度だった。

 さらに、りんごはなるべく距離を取っていたので、攻撃をそれほど食らわずに済んだからだ。

「こんな事は何の問題でもない。この膨大な力は尽きる事はない。最終的に俺が勝てばいい。

 それが『正しい』」

「う~……」

 何が何でも正しい事を貫きたいスクエアス。

 意固地になるスクエアスを説得するのは難しいので結局は力ずくで止めるしかないようだ。

「バトンタッチだ、りんご」

「ティ!」

「なんとなく、りんごのしたい事が分かった。引き継ぐよ」

「……任せます!」

「ピピピピーピ!」

 りんごとティの手が共に触れた後、ティはすぐにマールとスクエアスを追いかけた。

 

「マール、教えてくれ」

「……? おい、お前の相手はこの俺だ。もう、雑魚を呼んでばかりで疲れるからな」

 追い詰められたスクエアスは、とうとう直接勝負を仕掛けるようだ。

「はい……」

「『楽しい』と『正しい』がきみ達の守るべき事」

「ピピピーピ、ピピピピ!」

「それをスクエアスに教えたのは、スクエアスを作り出したきみなんだろう」

「そ、その通りです」

 生まれたばかりのスクエアスは、まだ何も知らなかった。

 そのため、マールはスクエアスを彼らしくするために教育した。

 楽しい事が何なのか、正しい事が何なのかを、マールなりに、スクエアスに教えたのだ。

「それが今、何の関係がある!」

 再びムキになるスクエアス。

 見た目より精神年齢がとても幼い事が分かる。

「マール、何故だ?」

「へっ?」

「何故『楽しい』と『正しい』を守るべきものにしたんだ」

 マールとスクエアスが司るものが何故それなのか。

 ティはそれをマールに聞こうとしていたのだ。

 マールはこほん、と息をつくと、ゆっくりとティに話した。

「それはぁ……あなた達の世界に必要な、勝負の基本だと思ったからです」

「マール……?」

「ピーピ……?」

「ずーっとずっと、あなた達を見ていて、

 勝負には『正しい』ルールが必要で、それでいて『楽しい』。こうじゃなくてはいけません♪

 私、ずっとそれに憧れていたんですっ! 正しさと楽しさを分かち合える友達に!」

 プリンプタウンと箱の世界では、普段はぷよ勝負やテトリス勝負で揉め事を解決する。

 魔導世界やアルカディアでは実際に魔物と戦うが、

 ある事がきっかけで、直接勝負せず、形式的な戦いで解決するようになったのだ。

 勝負の楽しさ、死者を出さないルール……マールはそれを、守るべきものと認識したのだ。

「そして、スクエアスはそれを拒否した」

「ピピーピピ」

「ふう……不透明だった話がやっと見えてきたな」

「ピッピ、ピピピ!」

 スクエアスがマールの憧れを拒否した事で、

 箱の世界やプリンプタウンには魔物が溢れ出るようになり、実際に怪我もしてしまった。

 これが、世界で起こった異変の真相なのだ。

「おい、もう一度警告してやる。よそ見をするな」

「ああ、悪かった」

「いくぞ!!」

 ティとスクエアスの一騎打ちが始まった。

 

「スピニング!」

 ティは円月輪を飛ばしてスクエアスを切り裂く。

 スクエアスは闇を操り、ティを惑わす。

「くっ、攻撃が届かないな!」

 ティの円月輪はあらぬ方向に飛んでいく。

「テトラゴン」

 ティの地面から闇の刃が現れる。

 何とかかわしたが、闇の刃が掠ってしまった。

「ロックダウン! ターンオーバー!」

 上下から勢いよくスクエアスを押し潰し、円月輪を勢いよくスクエアスに叩きつける。

 その威力はかなりのもので、スクエアスを瀕死に追い込んだ。

「くっ……ソリッドメソッド!」

「そ、そんな!」

 スクエアスの身体を闇が包むと、傷が癒えていく。

 あと一歩のところまで追い詰めたのに、回復魔法で全てを水の泡にしてしまった。

「さあ、覚悟しろ! シンクボックス!」

「うあーっ!」

 呪いの波動がティを包み、体力を削る。

「ソリッドキューブ!」

 スクエアスは巨大な真空の爪で、ティを切り裂く。

 ティは回復魔法を使おうとするが、スクエアスの強大な力で詠唱が中断される。

「……いい加減に消えろ……」

「嫌だっ! おれはきみを止めるまで、絶対に消えないっ!

 きみのような子供には、負けない!!

誰が子供だ、誰が!!

「そうムキになるのが、子供の証だ!」

 攻撃を食らい続けているにも関わらず、ティは決して諦めなかった。

 スクエアスは生まれたばかりでまだ幼く、力の使い方を知らず、

 信念を貫くための心の強さも持ち合わせていない。

 だからティは、それとは逆に、信念を貫くための心の強さで、スクエアスに勝負を挑んだのだ。

 たとえ力で勝てなくても、心で勝てばいい。

 それが、ティの考えだった。

 

「……ダークネスブリック」

 スクエアスが手から闇の波動を放つと、ティは箱の中に捕らえられ、四つの闇の柱に貫かれた。

 それでもティは、決して弱気な顔を見せず、スクエアスを鋭い目で睨み続けた。

 そして箱が爆発し、ティは戦闘不能になった。

 

「みんな……スクエアスを止めてくれ……」

ダメーーーーーーーーーー!!

 ティが意識を失いそうになったその時、エスがいきなりティの前に落ちてきた。

「エ……ス!?」

「ピ……!?」

「くそ、またイレギュラーか!」

 再びイレギュラーが現れたスクエアスは困惑する。

「艦長を消させはしないわよ! テト号乗組員は、誰一人欠けさせないんだから!

 ほら艦長、逃げるわよ!」

「あ、ああ……」

 エスはティの手を引っ張り、オーも後を追った。

 時として、強大な敵から一目散に逃げなくてはならない局面もある。

 それは決して恥ではなく、何が何でも生き延び、最後には必ず勝利を掴むという証だ。

 

「逃げたくらいで俺から逃れたと思うなよ。

 お前達のような正しくない存在は、必ず消し去ってやるのだからな」

 スクエアスは去っていくティ、オー、エスを睨みつけた。

 まるで、虫を追いかけようとして逃げられてしまった子供のように。




最後の文章は某アニメの某キャラの行動を私並みに評価しました。
次回はスクエアスとの戦いです。


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39 ~ 楽しさと正しさ

マールとスクエアスがメインです。
何が楽しいのか、何が正しいのか、今の世の中にぶつけたいものです。


「ジェイとエルが予知して、アイがここに届けてくれたのよ」

「なるほど、納得」

 アルル、アミティ、りんご、アリア、ティ、オー、エスは、スクエアスから一旦退却した。

 既に空間は茶色に染まっており、中央には四角い物体が浮かんでおり、

 ワームホールのようなものも浮かんでいた。

 ちなみに、七人は既に回復魔法で傷が癒えている。

 

「スクエアスが幼いって、つまり……?」

「小さな子供だって事だね」

「ぐーぐー……」

 ティから事情を聴いたアミティは、ようやくスクエアスの行動の理由を理解する。

 スクエアスは赤子だったので、正しさを押し付けようとしていたのだ。

「ええっ!? だって、だって、スクエアスはあんなに怖そうなお兄さんだよ!?」

 アミティが驚くのも無理はなかった。

 見た目と実年齢が一致しないのはサタンなどもそうだったが、

 見た目より実年齢が低いのは初めて見たからだ。

「それはきっと、外見だけなんだよ」

「マールさん……スクエアスさんは初めから、ずっとあの姿なのでは?」

「……はい、その通りですぅ」

「考え方が一直線すぎるのも、マールに異様に執着するのも、つまりはそういう事だったんです」

 アリアがスクエアスの細かい事をマールに聞く。

 スクエアスが大人なのはあくまで見た目だけで、内面は生まれたばかりの赤子そのものだ。

「なーんだ。君、ただいじけてただけじゃないか」

「いじけ……?

 違う、俺はただ、世界とマールを元に戻して、今まで通り『正しい』世界を二人で……」

「いや、だからそれが『今まで通りじゃなきゃやだ』っていじけてたって事なんだけど」

 虚言癖のあるエコロが珍しく正論を言った。

 世界は日々変わるものであり、スクエアスはそれを認める事ができないだけ。

 それをエコロはスクエアスに指摘したのだ。

ハーッハッハッハ!

 それだけでこれだけの大騒動をよく起こせたものだ。その点は評価してやろう」

 サタンはしょうもない理由で異変を起こすため、スクエアスの行動をある程度認めていた。

「ふ、二人とも、その辺にしといてあげようよ」

 エックスがサタンとエコロに突っ込みを入れる。

 この二人と違って、エックスはトラブルメーカーではないからだ。

「な……ちょっと待て……!」

「そっかぁ……。ごめんね、スクエアス。

 私、目の前の事に精一杯で、あなたが本当は生まれたばかりだって忘れていました」

 マールはスクエアスを止められなかった事を謝る。

 スクエアスが赤子である事を、仕事をするあまりに忘れてしまった事も。

「う……うるさい、うるさい!! それでも俺はマールより強い! この通りだ!」

「スクエアス……」

 しかし、スクエアスは認めたくなかった。

 何が何でも、マールに自分の正しさを認めさせようとしていたのだ。

 

「アニュラス!」

「テトラゴン!」

「なんて戦い方……」

 マールとスクエアスの戦いは激しかった。

 世界を見守ってきた存在であるために、それは戦場とも思える光景だった。

 スクエアスが押しているように見えるが、

 実際のところ、マールは力を奪われたとはいえスクエアスと互角に戦っていた。

 伊達に時空の意志ではない、という事の証明だ。

「パステルサークル!」

「ソリッドキューブ!」

 マールとスクエアスの魔法がぶつかり合う。

 空間を揺るがすほどの衝撃で、二人は吹き飛ぶ。

「凄い戦いだね……」

「でも……なんだか、マールに力がないよ……」

 アミティの震える言葉に振り向くアルルとりんご。

 ラフィーナとクルークも、ごくりと唾を飲む。

「どういう事?」

「ぐぐぐ?」

「分からない……でも、スクエアスはやっぱり……」

 

「シャイニーバブル!」

「テトラゴン!」

 マールが水と光の上級魔法を放つが、スクエアスが闇の初級魔法で打ち消す。

 次にスクエアスが放たれる魔法にマールは気付き、急いで呪文を詠唱する。

「ダークネスブリック!!」

「パステルサークル!!」

 箱が現れる瞬間、マールは光の環で箱を消し去る。

「しま……」

「コスモスレクタングル!!」

 だが、先程の魔法はフェイントだったようだ。

 スクエアスはワープでマールに近付き、ゼロ距離で大魔法を彼女に食らわせる。

 マールは物凄い勢いで地面へと叩きつけられた。

 

「はあっ……はあっ……ど、どうだ! 見たか!」

 ばたんきゅ~したマールを見て、勝ったと思い込んだスクエアス。

 だが、ティは冷静に事を指摘した。

「……気が付かなかったか、スクエアス。マールは手加減をしていた」

「ピピピピピ!」

「……」

 自分が生み出したスクエアスを、マールは消したくなかった。

 寂しくて作った存在を自ら消す事は、当然、マールはしたくなかった。

 だから、マールはわざと手を抜いてやったのだ。

「なんでだよ、マール」

「話を聞いてもらうため……スクエアス、落ち着いてよぉく聞いてください」

 ばたんきゅ~から復活したマールは、真剣な表情でスクエアスの前に立った。

「ここで皆さんを力ずくで消したって、何一つなかった事になんかできません。

 世界は変化していく。

 あなたの考える『正しい』世界なんか、どこにもあり得ないんですよぉ!」

 マールは創造主として、正しさにこだわるスクエアスを止めようとしていた。

 世界は常に変わるのだから、スクエアスが抱く正しさなどありはしないと。

「あり得ない……?」

「はい。スクエアスが目指す世界はどこにもありません」

「そんなはずは……」

「私はあなたのしている事、怖がって否定するんじゃなく、

 もっと、ちゃんと考えを伝えればよかったんですね……」

 ただ力ずくで止めるのではなく、子供のあやし方も学ぶ必要があったと反省するマール。

 すると、スクエアスは頭を抱えて混乱した。

「マール……それじゃあ、何だったんだ。世界の『正しい』ってどこにあるんだ。

 あの時、君が俺に教えた事は何だったんだ!」

「納得してはもらえないかもしれませんが、今の私なりのメッセージを伝えます。

 行きますよぉ、スクエアス」

「えっ」

「楽しくて正しい勝負です!」

 マールはスクエアスに、今度こそ楽しさと正しさを教え込むために、彼に再戦を挑んだ。

 

「ラウンドダンス!」

「テトラゴン!」

 先程と打って変わって、今度はマールがスクエアスを押していた。

 スクエアスは強大な力を持っていたが、

 マールのスクエアスを止めたいという気持ちがスクエアスの力を上回っていた。

「凄い……あれが、マールの力なの?」

「ぐーぐー?」

 アルル達は二人の戦いを見守っている。

 スクエアスは宙に浮いて、バリアを張った。

 このバリアはどんな上級魔法も防ぐものだが……。

「アニュラス!」

「っ!?」

 初級魔法には効果がなかったようだ。

 バリアが緩み、その隙にマールは呪文を詠唱、強力な攻撃魔法でバリアは崩れ去る。

「私が頑張らなきゃ……私が、スクエアスを、助けなきゃ……!」

 マールはスクエアスの攻撃をかわしながら、スクエアスに攻撃を仕掛けようとしている。

 強力な魔法を使わせる暇など、与えるわけにはいかなかった。

「パステルサークル!!」

 光の環がスクエアスを捕らえる。

 今のうちに、スクエアスをばたんきゅ~させるとマールは決断し、呪文を唱える。

ヘブンリースフィア!!

あああああああっ!? な……何故だ……マー……ル……」

 マール最大の魔法がスクエアスに炸裂し、スクエアスは、ばたんきゅ~した。

 

「分かりましたか、スクエアス?」

「何を……」

「お互い正しいルールで、楽しく勝負!

 私が伝えたかったのは、守ってほしかったのは、それだけ!」

 それが、マールがスクエアスに教えたかった事だった。

 楽しいも正しいも互いに排除するものではなく、共存し合ってこその勝負である。

 どちらかに偏る事は、マールは望んでいないのだ。

「スクエアス! まだ、私達を消したいですか?」

「もし、マールと話して気持ちが変わったのなら、おれ達は嬉しいよ」

「あんたの望みなんてエスには分からないけど、世界を元通りにしてくれるわよね」

 もう少しでスクエアスが改心してくれると思うと、りんご、ティ、エスは思わず安心する。

 スクエアスは彼らの言葉に、困惑していた。

「なんで……」

「え?」

「何故、まだ俺に話しかけるんだ。お前達を消そうとしたのに、酷い事を言ったのに」

「分かります……びっくりですよね。でも、それがこの人達なんです。一部を除いてですけどね」

 自分は許されない罪を犯したのに、許してくれるなんて、と驚くスクエアス。

 そんな彼らの気持ちに、スクエアスは応えないわけにはいかなかった。

 ちなみに一部というのはアリアやレイリーなどだ。

 

「みんな、迷惑をかけてすまない。ごめんなさい」

 スクエアスは、とびきり素直に、皆に謝罪した。

 彼は良い意味でも悪い意味でも、子供だったのだ。




やっぱり、スクエアスって子供なんですね、と私は思いました。
次回はスクエアスと和解しますが……。


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40 ~ それぞれの理想

スクエアスとの和解、のはずが、なお話。
彼は良くも悪くも子供、でしたね。


「ス、スクエアスが」

「謝った……」

 スクエアスが謝罪した事に驚くティとりんご。

 一方、アリアとエスは「子供だから素直に謝るのは当然」といった顔をしていた。

「謝って済む問題ではない事は分かっている。しかし、俺が間違っていた。ごめんなさい」

「これは……」

やったーーー!!

 スクエアスが改心した事を特に喜んでいたのは誰よりも彼を止めたがっていたアミティだった。

「説得成功! ばっちグーでハナマルだよっ!」

「ちょ、いくら嬉しいからって、騒ぎすぎですよ!」

 アリアは慌ててアミティに突っ込みを入れた。

 彼女の周りにいた精霊も、騒いでいる。

「やれやれ、一件落着だね、カーくん!」

「ぐっぐぐー!」

「え……俺の言葉を疑わないのか」

「当たり前でしょ、あんたは子供なんでしょ?

 子供の言う事はみんなホントの事って、艦長が教えてくれたんだから!」

 エスはテト号乗組員の子供、ジェイとエルを思い出しながら言う。

 この双子は悪戯好きだが、決して嘘はつかないし、決して人を傷つける事はしないからだ。

 スクエアスは「ああ、本心だ」と言って頷いた。

「報告する。スクエアスの暴走の終息を確認、世界に平和が戻ったな。あはっ!」

「ピッピピー!」

「ありがとう」

 スクエアスの暴走は止まり、この世界も元通りになろうとしている。

 ティとオーは喜び、アリアもくすっと微笑む。

 

「な~んか期待してた展開と違うな~」

 一方、それを良しとしなかった者がいた。

 トラブルメーカーで異次元の旅人、エコロである。

「何を期待してたんですか」

「どっかーんと爆発オチとか?」

「ふっる」

「辛辣だなあ!」

「あの時の正論は何だったんですか……」

 せっかくスクエアスに何か言ったのに、とアリアは溜息をつく。

 これではますます、幸せが逃げそうだ。

 

「こんなにあっさり……」

「いやー、正直スクエアスのおかげで、また、みんなに会えたってところとか、

 マールと友達になれたってところもあるから、あたしは最初からそんなに怒ってなかったしぃ」

「そ、そうか。それでは、俺は、これで失礼する。皆に迷惑がかからないところへ……」

「駄目だよ! せっかく友達になったのに!」

 スクエアスは罪の意識に苛まれて、その場から去ろうとした。

 マールと同じ事をしようとしたアミティは、慌ててスクエアスの腕を掴む。

「と、友達?」

「そうだよー!」

「そんなものになった覚えは……」

「そうなの? じゃあ、今からなろうよ!」

 アミティは改心したスクエアスと友好関係を築こうとした。

 はっきり言って幼稚な考えだったが、それはスクエアスも変わらなかったため、

 アリアはあえて言及しなかった。

「楽しく勝負すれば、それでみんな、友達になれるんだから!」

「そんな簡単な……」

「簡単なんだよ。やろう、スクエアス!」

 

 ティとスクエアスの勝負はティの勝利に終わった。

「楽しかったな!」

「ねっ、スクエアス!」

「そうですね」

 満面の笑みを浮かべるアミティとティに、少しだけ微笑んでいるアリア。

 スクエアスは理解できず、困惑しているが、同時に友好関係も築こうと思っていた。

「あ、ああ……」

「どうしましたかぁ?」

「顔が熱い」

 よく見ると、スクエアスの顔は赤面していた。

 あの勝負のおかげで、スクエアスにも楽しい気持ちが目覚めたのだろう。

「あはっ、照れちゃった?」

「照れる……これが……」

「すっかり落ち着いたね、スクエアス。ふふふ、いじり甲斐のある人柄の予感がします!」

「もう、りんごさんったら……」

 アリアには最早溜息をつく気力がなかった。

 

「あ、あのぉ……」

「あはは、マール、大丈夫だ。

 みんながマールの事を思っていたように、スクエアスも思われているさ」

「ピピピ♪」

「……そうですよね」

 ようやく、スクエアスは勝負の楽しさを理解し、正しい事に縛られなくなった。

 もう彼が世界を破壊するような事はしないだろう。

 マールは創造主として、姉として、嬉しかった。

「嬉しいです! これで、全て良い方向に……」

 これで全てが丸く収まろうとした時だった。

 

そうはさせない……

「……う」

 スクエアスの身体を、黒いオーラが覆っていた。

 彼に宿っていた強大な力が、スクエアスの降伏を拒んでいるのだ。

「……はっ……はっ……」

「スクエアス! どうしたんですかぁ」

「身体が……上手く、動かない……。みんな、俺から離れてくれ」

 スクエアスの身体が黒いオーラに包まれる。

 黒いオーラは、彼の身体を乗っ取ろうとしていた。

世界を壊せ……世界を壊せ……

「う……う……うわあああああ!!

 スクエアスが叫ぶと、スクエアスは闇の力に身体を乗っ取られてしまった。

 

「こ、これってどういう状況!?」

「スクエアス、突然どうしちゃったの!?」

「ぐぐぐぐっぐぐ!?」

「力を溜め込み過ぎたんだわ。

 スクエアスは皆さんを倒すために、私を利用して膨大な力を用意していたんです。

 でも、それを使わないままでいたから、

 力が行き場を失って、スクエアスを乗っ取っちゃったんです」

 皆がパニック状態になる中、マールは慌てながらも事を伝える。

 スクエアスが溜めた力が自我を持ち、彼を飲み込んでしまったという。

「このままだとどうなっちゃうの!?」

「スクエアスを乗っ取った力は恐らく爆発します!」

んにゃーーー!!!

「落ち着け、みんな」

「ビビビビビ!」

「そうですよ!」

 りんごもパニック状態になる中、ティとアリアは冷静だった。

「マール、何か方法はないのか」

「スクエアスを乗っ取った力を、戦って解放できれば……」

「そういう事なら話は早い! アミティ、りんご、アリア!」

 アルルは4Aのリーダーとして、アミティ、りんご、アリアを先導する。

 最後はこの四人で決着をつけるようだ。

「え? つまり戦えばいいって事?」

「なーるほどー、です!」

「予想通りでしたね……」

 アリアはとっくに杖を構えている。

 この場から引くつもりは、全くないようだ。

「皆さん! ダメですぅ!

 スクエアスは今、桁違いの力に飲み込まれて、とんでもなく強くなっています」

殺してやる……!

 スクエアスの口から、彼の声ではない声が聞こえてくる。

 これは、闇の力が暴走している証なのだろう。

「それなら一層、早く終わらせないとな」

「闇の力なんて、エスが消し去ってやるんだから!」

「ビビッピ!」

「こいつと協力するのは癪だけど……」

「ボコボコにしてやる! ……ですわ!」

 ティが円月輪、エスが日傘を構える。

 ラフィーナとクルークも、やる気を出していた。

「ええっ……」

 闇に乗っ取られたスクエアスを止めようとする皆にマールは驚きを隠せなかった。

 今のスクエアスはマールでも制御できないからだ。

「どうして、スクエアスに立ち向かうんですか! なんで……逃げたりしないんですか!」

「ここで逃げたら、全部が無駄になるでしょ?」

「なんてったって、友達が困ってるんだもんね!」

「あっ……」

「私達は何があっても決して諦めません。それがたとえ、強大な敵であっても!」

「だから、ボク達は闇を消して、スクエアスを助けるよ!!」

 アルル、アミティ、りんご、アリアの、闇の力を消そうとする決意は固かった。

 マールはそれに負けて「分かりました」と言い、彼女達が戦うのを見守る事にした。

 

「報告する! これよりスクエアスを救うために……最終決戦を行う!」

「みんな、いっくよー!!」

「ぐっぐぐー!!」

 

 最終決戦が、始まろうとしていた。




こういう展開にしたのは、子供の頃に見た某アニメのせいです。

次回がラストバトルです。
最後まで見守っていてください。


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41 ~ 最後の戦い

スクエアスとの最終決戦です。
最後まで見守ってください。


 闇に乗っ取られたスクエアスとの最終決戦が、始まった。

 

「まずは私達が弱らせますわよ!」

「ああ!」

 ラフィーナ、クルーク、アリア、エスが前に出る。

 一番前にラフィーナ、彼女の後ろにエス、クルークとアリアは最後列だ。

 

「ネージュ!」

 ラフィーナは氷を纏った掌底を闇にぶつける。

 攻撃はクリーンヒットし、闇が少しだけ散った。

眠れ……

「ラフィーナさん!」

「きゃあぁ! Zzzz……」

 闇はラフィーナに向けて白い煙を飛ばす。

 白い煙がラフィーナを包むと、眠ってしまった。

「ラフィーナさん!」

 そのまま闇はラフィーナに黒い煙を飛ばし、抵抗できないラフィーナの力が弱まる。

「何をするんだ! テクトニック!」

 クルークは光の矢を闇に放つが、闇はスクエアスを隠すように覆う。

 光の矢は簡単に防がれてしまった。

「アイラッシュ!」

「エアブレード!」

 エスが風の衝撃波を放ち、アリアが風の刃を闇に飛ばすがそれも闇がスクエアスを覆って防ぐ。

「予想以上に闇の影響は強いようだな……。ラフィーナは眠ってるし……」

 四人はラフィーナの眠りを覚ます方法はない。

 なので、衝撃を受けて目覚めるしか方法はないのだが……。

石になれ……

「きゃあっ!」

 闇は彼女の身体を闇で包んだ後、鈍く光る。

 すると、エスの身体が灰色に包まれていく。

「な、何よ、これ……」

「石化が始まったんだ! 抵抗するんだ!」

「く、こ、この……!」

 エスは石化から逃れようと何とか抵抗している。

 だが、彼女を覆う灰色のスピードはそこそこ速い。

我が軍勢に下れ……

 さらに、闇がアリアを包んで鈍く光ると、アリアの表情が虚ろになった。

「どうしたんだ、アリア」

 クルークがアリアに近付くと、アリアはいきなり杖でクルークを殴った。

「ど、どうしたんだ、アリア!」

「これ……洗脳光線みたい、よ……」

 アリアはクルークの声に反応せず、無表情で杖を振り下ろし続ける。

 もうすぐ石像になろうとしているエスが、力を振り絞ってクルークに言う。

「洗脳光線……アリアは操られているのか!」

「そ……う……よ……」

 エスはそう言うと石像になり、地面に転がった。

 

「……エス……」

 ラフィーナは行動不能、エスは石化、アリアは洗脳光線で操られる。

 つまり、戦えるのはクルークだけだった。

「フン、ボク一人だけでやってやろうじゃないか。来なよ、スクエアス! ボクが相手だ!」

 クルークは闇に包まれたスクエアスを挑発する。

 スクエアスは漆黒に染まった瞳をクルークに向け、クルークに向けて闇の塊を飛ばす。

「デフェクチオルナエ!」

 クルークは防御魔法で放たれた闇を防ぐ。

「闇はボクには効かないのさ。それよりも、これがお似合いじゃないのかい?

 我に力を、ス・ステラ・イネランス!」

 クルークは増幅呪文を唱え、星型弾を飛ばす。

 光属性を持っていたので、闇属性のスクエアスには効果が抜群だ。

「……」

 スクエアスを包む闇は自身の形を大きな槍に変え、眠っているラフィーナ目掛けて突き刺す。

 ラフィーナは抵抗できず大ダメージを受けたが、その衝撃でラフィーナは目を覚ます。

「う……痛い、です、わ……」

「ラフィーナ!」

「よくもやっ……Zzzz……」

 ラフィーナはふらつきながらも攻撃しようとしたが再び白い煙で眠らされてしまう。

「く……またボク一人か……。アリア……」

 クルークは必死で闇の攻撃を避け続けていた。

 アリアも、杖を持ってクルークに襲い掛かるが、クルークは何とかアリアの攻撃をかわす。

 だが、体力のないクルークは、徐々に動きが鈍くなっていく。

「せっかく……一矢報いたかったのに……」

 クルークの手から、弱々しく光の矢が放たれる。

 光の矢は、ゆっくりとスクエアスの闇に向かった。

 攻撃は闇で打ち消される……はずだった。

 

「!?」

 攻撃が命中した事に、クルークは驚いた。

 あんな攻撃、簡単に打ち消せるはずなのに、あの闇は打ち消さなかった。

 何故だろうとクルークが見ていると、スクエアスの顔が青ざめていた。

「こいつらは……殺させない……!」

 スクエアスは自分を操っている闇に、必死で抵抗しているのだ。

 クルークは「ベタだな」と思っていたが、固唾を呑んでスクエアスを見守っていた。

貴様……抵抗する気か?

「ああ……こいつらを消す事は、正しくない。お前に操られるのも、正しくない。

 俺が俺として生きるのが、正しい!」

正しいのは我の方だぁぁぁぁぁっ!!

 闇は再びスクエアスを乗っ取った。

 だが、スクエアスは相当抵抗していたようで、クルークから見ればかなり弱体化していた。

「頼んだよ、アルル、アミティ、りんご、ティ!」

 クルークは四人に後を任せた。

 彼の号令で、アルル、アミティ、りんご、ティがスクエアスの前にやってくる。

 皆、真剣な表情で身構えていた。

「クルークが手伝ってくれたんだ……。だから、ボク達は絶対にそれに応える!」

「ぐぐっぐー!」

「これがホントに最後の戦い……絶対に負けない!」

「スクエアス、きみは本当によく頑張った。後は、おれ達が何とかするからな!」

 ホントの最終決戦が、始まる。

 

「フレイム!」

効かんな

 アミティの炎が闇に向かって飛ぶが、闇はスクエアスを覆って攻撃を防ぐ。

「ホールド!」

「アイスストーム!」

効かん

 ティは光の輪で一瞬だけ闇の動きを止め、その隙に円月輪を投げて切り裂く。

 アルルも氷の魔法で応戦したが効いていない様子。

「こいつ、炎と氷が効かないみたいだよ!」

「うわ……」

「炎と氷が効かないなら、これです! サイン!」

うぐぅっ!

 りんごは手から電撃を放ち、闇の動きを封じる。

 闇はアルル達を攻撃しようとしたが、りんごの魔法のおかげで攻撃を防げたようだ。

「やるぅ、りんご!」

「えへへ」

「でも、油断大敵だよ! サイクロワール!」

「スピニング!」

 アミティの風の刃とティの円月輪が闇を切り裂く。

「サンダー!」

「コサイン!」

 アルルは電撃放射、りんごは雷の玉で応戦する。

 闇はスクエアスの身体を包んだ後、翼のように広がり、衝撃波を放った。

「やったなぁー!」

「うわぁー!」

「きゃぁー!」

「ぐっ……!」

 衝撃波をまともに食らった四人は、体中から力が抜けていくような気がした。

「なんだか、力が出ないような……サイクロワール」

 アミティは闇に向かって風の刃を放つが、風の刃は明後日の方向に飛んでいった。

 ティ、アルル、りんごの魔法も闇に通らない。

食らえ……

「うあぁぁぁっ!」

 闇は巨大な腕の形になると、ティを思いっきり殴りつけた。

「ティ!」

「まだだ……まだ、諦めない!」

 ティは吹き飛ばされながらも、立ち上がる。

「ターンオーバー!」

 ティの円月輪が激しく回転し、闇を切り裂く。

「サンダー!」

「コサイン!」

 アルルとりんごが雷を放って闇を貫く。

 追い詰められた闇は、ティの身体を持ち上げ、思いっきり地面に叩きつけた。

「ティ!!」

「う……ぐぅ……」

 ティの身体からは血が流れ出ている。

 今まさに瀕死の重傷に陥っているが、ティは決して諦めず、立ち上がる。

「ティ! 今……私が治しますっ!」

 マールはティに近付き、彼に手をかざすと、ティが負っていた傷が全て癒えた。

 彼が負っていた傷も、見る見るうちに塞がる。

「ん? 力が戻ってきたような……」

「時間逆行の力を使用しました、これであなたは元通り。でも、使えるのは後一回です。

 その前に決着をつけてください!」

「ああ……ロックダウン!」

 ティは勢いよく闇を押し潰す。

 乗っ取られたスクエアスも潰れたが、そんな事はどうでもよかった。

「ダイアキュート、ヘ・ヘヴンレイ!」

「タンジェント!」

 アルルは増幅した光の柱で攻撃し、りんごは雷を落として攻撃する。

 すると、再び闇が腕を伸ばし、アミティの身体を掴んだ。

死ね……

「……あたしは死なないよ! エクリクシス!」

 アミティは掴んでいる腕ごと爆発魔法を放ち、腕から解放される……が、激突してしまう。

 ばたんきゅ~したアミティに、マールは時間逆行の力を使った。

「ふぅ……後は自分で頑張って!」

「うん!」

邪魔をさせるかぁぁぁぁ!

 スクエアスを乗っ取った闇は、何としてでもこの世界を壊したいようだ。

 闇は衝撃波となってアルル達を襲い、身動きを取れなくした。

 その後、闇がとどめを刺すため、無数の闇の槍を生み出した。

 あれに刺されば、全員、ばたんきゅ~するだろう。

 マールの時間逆行はもう使えない。

 このまま、闇に敗れてしまうのか……と思った時。

 

「ヘブンリースフィア!!」

 マールが広範囲に光の玉を放つと、

 鎖が砕け散ったような音がして、アルル達は闇から解放される。

「……マール……!」

「スクエアス……いえ、闇よ。この子達も世界も、壊させるわけにはいきません。

 この子達の邪魔は、絶対にさせません!!」

 すると、マールの身体が眩く光り出し、それと同時にアルル達の身体も光に包まれる。

「これは……!?」

「あなた達に私の力を与えました。

 この力を使って、スクエアスにとりついた闇を払ってください!」

「うん!」

「ありがとう、マール!」

 マールは四人を助けるために、自分に残された力を使った。

 神に近しい存在であるマールの力なら、スクエアスの闇の力を払う事ができる。

 アルル、アミティ、りんご、ティは精神を集中し、自分達が持っている最大魔法を解放した。

 

パーミテーション!!

Tスピンバースト!!

フェアリーフェア!!

ジュゲム!!

 四人の最大魔法が闇に向かって放たれると、闇を飲み込み、スクエアスに着弾した。

ぬああああああああああああああ!!

 光に包まれた闇は、ボロボロと崩れ去っていく。

 そして、光と共に、闇は完全に消滅した。




最終決戦なので、熱く! を目指して書きました。
次回でぷよテト2の二次創作は最終回です。


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エピローグ

ぷよクエも9年続けたものですね。
そんなわけでぷよテト2二次創作小説はこれで最終回です。
最後まで読んでくださってありがとうございました。


 アルル達は、ついにスクエアスから闇の力を払う事に成功した。

 ラフィーナの睡眠、エスの石化、アリアの魅了はとっくに解除されていた。

 

よっしゃーーーい!!

ボク達の勝ちだね……!

ぐっぐぐぐー!!

「み、皆さん、凄いですぅ……凄すぎます!!」

 勝利宣言をするりんごとアルルを褒めるマール。

 人間が神に近しい存在に勝てるなんて、という驚きの声もあった。

「これもまた……人の可能性というものです」

「人の可能性……ですか。よぉく分かりました」

 アリアは杖をしまって、マールにそう言った。

 人は神には遠く及ばないが、可能性は神を上回るとされている。

 人との間に生まれた異世界の神が、無限に成長を続けるように。

 

「スクエアス!! 大丈夫ですか!」

 りんごは倒れているスクエアスに駆け寄る。

「……ああ」

 スクエアスは怪我を負っていなかった。

 アルル達は本当に、スクエアスにとりついた闇の力のみを払えたのだ。

「みんな、ありがとう……」

 スクエアスはりんごの顔を見えて笑みを浮かべる。

 すると、スクエアスは気を失った。

「ス、スクエアス!?」

「大丈夫ですよぉ。ただ、力を使い果たして寝ているだけ……」

 時空の意志はそんなにやわじゃありませんよ、とマールは付け足した。

 そして、マールはアルル達の前に立つ。

「スクエアスに代わって、お礼を言わせてください。皆さん、ありがとうございました!」

 世界とスクエアス、両方を救ったアルル達に対し、マールは最大限の感謝を述べた。

 勝負を見守る者、世界を見守る者として。

「よかったーぁ!」

「ええ……」

「これも私達のおかげですわ、おーっほっほっほ!」

「それほどでもないさ、うひゃひゃひゃひゃひゃ!」

「あっはっはっはっは!」

 ラフィーナとクルークが高らかに笑い、エスも珍しく大きく笑っている。

「それじゃあ、みんな、これから……」

 アミティがマールに手を伸ばした瞬間、空間が音を立てて大きく揺れ出す。

 この空間が消滅しようとする証だ。

「ああ……世界が元に戻ろうとしていますねぇ……」

「あんまりゆっくりしている時間はなさそうだよ、みんな。さあ、二つの世界は分かたれる」

「えっ!!」

 二つの世界――アルカディアと箱の世界が分かたれる。

 それは、ティやマール達との別れを示す証だ。

「なんで、なんで、なんで……」

「元々、この寝てる子が無理矢理力を集めて世界を混ぜようとしてただけだから、

 それが終われば元通りって話だよね」

 異変の元凶はスクエアスと闇の力なので、彼が戦意喪失した時、世界は元に戻る。

 それが、エコロがアミティに打ち明けた現実だ。

「そういう事だ」

「そ、そんな……早すぎるよ~~~!」

 そして、アミティを含む皆の姿は、闇の空間から消えた。

 

 アルル達はプリンプタウンに戻って来た。

 だが、アミティはまだ、別れという現実を受け入れられずにいた。

「やだやだやだ……。

 まだまだティやエスやマール、スクエアス、みんなとしたい事、たくさんあるのに!

 いっぱい、いっぱいあるのに!

 これでお別れで世界も分かれて会えなくなって、

 しかも、みんなの事、はっきり覚えていられないかもなんて、そんなのやだよ……」

 今のアミティは、スクエアスのように駄々をこねていた。

 テト号乗組員や時空の意志と別れたくないあまりに自分がスクエアスと同類となった事を、

 アミティは全く自覚していなかった。

「アミティ……」

「ぐぐぐぅ……」

「アミティさん……」

 アルルとアリアもアミティに不安を抱いていた。

 そんなにティ達と一緒にいたいのか、と。

 

「アミティ、あんた、さっきからそればっかりね」

「うーん、今日のアミティー、なんかヘン」

 そんな彼女の前に、エスとシグが現れる。

 二人はジト目でアミティを見ていた。

「エス! それに……シグ!

 だって、あたし、まだ、エスとお散歩したり、歌ったり、一緒にお弁当食べたり、

 何もしてないのに……エスは寂しくないの?」

「寂しいわよ」

「そっか……って、え? ちゃんと寂しがってくれてるの?」

 エスの返答を、アミティは意外だと思っていた。

 何故なら、エスはいつも我儘ばかり言って、おまけに毒舌なので、

 いなくなってもいい、とアミティは思っていたからだ。

「当たり前でしょ。友達になったんだから」

「エスもそんな事、言うんだなぁ」

「ぐっぐぐ!」

「あの子、悪い子じゃない、わかって、アミティー」

 エスは悪い人物ではなく、根は子供っぽくて寂しがり屋だった。

 彼女もまた、アミティ達との別れを寂しく思っていたのだ。

 エスは恥ずかしくなったのか、そっぽを向いた後、もう一度振り返る。

「ふん、どうせ細かい事なんか忘れちゃうなら、最後くらい素直になってあげるわよ」

「ううう~~~……」

「確かに、アミティさんは別れという現実を認めたくないんですよね。

 でも、出会いがあれば、別れもあるもの」

 アリアはエスの背後に立って、小声で「エスさん、お願いしますね」と言った。

 アミティを元気づけるため、エスから直接アミティに何か言ってもらってほしいのだ。

 エスは頷くと、アミティの前に立ってこう言った。

「アミティ!」

「な、何っ!?」

「笑いなさいよ」

「だって、悲し……」

「じゃあ、会わない方がよかったわけ?」

「えっ?」

「こんなお別れするくらいなら、最初からエス達に会わない方がよかった?

 あの青い髪の子も言ってたわよ。出会いがあれば、別れもあるって」

 エスはアリアの言葉をもう一度アミティに伝えた。

 たとえ記憶が消えたとしても、

 また会いたいという気持ちがあれば、ティ達にもう一度会う事ができる。

 もし仮に、何かが暴走したとしても、その時はもう一度止めればいい、と。

「そ、そんなわけないよっ!

 みんなで冒険するのもハラハラドキドキ楽しかったし、嬉しい事も素敵な事もたくさんあった!

 あたし、エス達に会えてよかった!」

「でしょ。『別れが悲しい』じゃなく『会えてよかった』が正解よ」

「あっ! そっか……そっかぁ!」

 エスに説得されたアミティは、ようやく元気を取り戻した。

 悲しさよりも嬉しさの方が、良い記憶になる。

 それを、アミティは忘れかけていたが、エスとアリアの協力で思い出した。

「エス、ありがとう! もうもうもう大好きっ! あ、もちろん、恋人という意味じゃないよ!

 あたし、女の子なんだからね!」

「やっと笑顔になったわね。手がかかるんだから!」

 エスも満面の笑みを浮かべて、アミティに手を差し伸べた。

 そして、アミティもエスの手を握った。

「エスの言った事、ボクも大好きだな。ねっ、カーくん!」

「ぐっぐぐー!」

「そして、同じ事をキミ達にも思うよ。マール! スクエアス!」

 アルルはマールとスクエアスの名を呼ぶ。

「ありがとうございます、アルル、皆さん」

「……ありがとう」

 マールは安堵の笑みを浮かべ、スクエアスは口元に手を当てている。

「スクエアスのやり方はびっくりだったけど、キミ達がいなければ、

 みんなともキミ達とも会えなかったし……二人とたくさんした勝負、楽しかったよ!」

「ところで、これからまた、二人きりの場所に帰るのですか?」

「そうですねぇ……基本的にはそうしますがぁ、

 準備ができたら二人で色々な世界を見に行ってみようって話しています♪」

「そうなんだ!」

 マールとスクエアスは、これから様々な世界を見に行こうとしていた。

 それにはサタンとエコロ、それにエックスや他の異次元の旅人も協力するとかなんとか。

「私達、勉強不足みたいですから」

「俺はみんなに変えてもらった。

 その恩を返せる時が来たら、もしかしたらまた、姿を現すかもしれない。

 時間はかかると思う。そもそもできるかどうか、それでも……」

「できる、の間違いですわよ」

 ラフィーナはビシっとスクエアスを指差す。

 どこかの海賊団の船長が言ったように、言い切る方が絶対の自信を表すためだ。

「そうだよ、キミならできる。だから、ボクはその時を待ってるさ。

 せいぜい、ボクに追い抜かれないようにね。うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

「ああ……」

 スクエアスに対しても、クルークは嫌味な態度を取っていた。

 だが、クルークの人間味のある部分に、スクエアスは惹かれていた。

 そうしているうちに、世界が光に包まれていく。

「はあ……そろそろみたいですね」

「……りんご」

「ピピピー……」

 この光が世界に満ちた時、世界は元通りになり、アルル達は日常を取り戻す。

 同時に、ティやその仲間達、マール、スクエアスとの別れも意味する。

「なんか……あっという間だったな」

「そうですね、ティ」

 実際のところ、りんご達が冒険した日数は一週間に満たなかった。

 確かに、これはあっという間の出来事だった。

 しかし、りんご達が感じた時間はそれ以上に長い。

 この冒険の思い出は、ずっと心の中に残るだろう。

 たとえ、皆が記憶を失ったとしても。

 

「……あの!」

「あ、ごめん、そっちから」

「いえ、すみません、そちらから……」

「ピピー……?」

「……大丈夫です。強い思いは世界を超えられる。

 この先、ずっと会えなくても、上手く思い出す事ができなくなっても、心が覚えててくれる」

「……りんご」

「そうですよね? ティ」

「ああ、その通りだ!」

 そう言って、りんごはティに手を伸ばした。

 ティも、同じくりんごに手を伸ばした。

「全部、全部、その通りだ……。今回の事がそれを証明している。だから、大丈夫なんだ!」

 ティとりんごの握手は、とても熱かった。

 この世界に咲いた花が、実をつけたように。

 

「ふふっ、それじゃあ」

「別れの言葉は何にする?」

「なんだか、同じ事考えてる気がします」

「おれもだ。それじゃ、いっせーのーせで言おうか」

「はい、そうしましょう!」

 りんごとティは、お互いに手を伸ばす。

 二人は、満面の笑みを浮かべていた。

 

「りんご」

「ティ」

「「きみ(君)を、忘れないよ!」」

 

 そして、世界は光に包まれた――

 

 アルカディアと箱の世界が混ざる異変が起きてから今日でちょうど、一週間が経過した。

 プリンプ各地に落ちていたぷよぷよやテトリミノは綺麗さっぱりなくなっていた。

 まるで、それらが元からなかったかのように。

 

「後始末ができなかったのが」

「残念だったね~」

「そうですね……」

 アコール先生、ルゥ先生、ローザッテはその現実に少しだけ嘆いていた。

 とはいえ、自分達も活躍はできたので、それ以上、文句は言わなかった。

 何しろ、間接的だが世界を救ったのだから。

 

 アリア、レイリー、ジルヴァは、久しぶりにシュルッツに戻って来た。

「この町は、懐かしいですね」

「ああ……」

 すっかりプリンプタウンに馴染んだ三人だが、故郷に帰りたいという気持ちも強かった。

 今はもう、シュルッツに冒険者はほとんどいない、というか冒険者はこの三人のみだった。

 魔導学校も廃校になり跡地に遊園地が建っている。

 それはそれで楽しいのだが、ぷよ勝負もしたいという気持ちもあった。

「どうするのだ、アリア」

「ここでしばらく英気を養ってから、またプリンプタウンに行きたいと思います」

「ああ……その方が、いいさ」

 今頃、アルル、ルルー、シェゾは色々と喧嘩しているだろう。

 今頃、アミティ、ラフィーナ、シグは学校で仲良くしているだろう。

 今頃、りんご、まぐろ、りすくませんぱいは実験に巻き込まれているだろう。

 アリア達はそんな事を思い出しながら、シュルッツで休息をとるのだった。

 

 そして、英気を養ったアリア達はプリンプタウン、ふれあい広場にやってきた。

 そこには、アルル、アミティ、りんごがいて、皆、ぷよ勝負の準備をしているようだ。

「皆さん、もういたんですか」

「えっへへ、やっぱり平和になったらまずはこれをしようかなー、って」

「アルルさん、結構好戦的なんですね……」

「昔は結構巻き込まれてたんだけどね~」

 ぽりぽりと頭を掻くアルル。

「あの子達……今頃、元気にしてるかな?」

「アミティ……あの子って、誰ですか?」

「え? うーん、分かんない!」

 魔導世界やプリンプ、そしてチキュウの面子は、今回の出来事に関する記憶が消えていた。

 だが、完全に忘れ去ったわけではない。

 きっと、今でも心の中で、テト号乗組員、

 それにマールやスクエアスの事を、ずっと覚えているのだろう。

 今も、この時も、そしてこれからの時も。

 

「「いっきまーす!」」

「お相手いたします!」

「私でいいのですか?」

 そして、四人のぷよぷよ勝負が始まった。

 

 二つの世界が再び繋がったのは、幼い赤子が暴れたためだった。

 そして、赤子を生み出したのは、神に等しい存在でもあった。

 この存在により起こった出来事こそ、この世界の奇跡と言えるだろう。

 

 これは、いつかの時代、どこかの世界で起きた、二度目の奇跡の物語である。

 

 ぷよぷよテトリス2 ~ シュルッツの冒険者達

 The End




二次創作を書く人はいるけど、完結できた人はほとんどいないんだな、と、
書いていく中で思ってしまいました。
やっぱり、私って、才能があるんでしょうかね?

そんなわけでハーメルンでもこんな感じで、pixivで連載していたものを書こうと思います。


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