ぐだぐだテンペスト (禁断のノッブヘッド)
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ぐだぐだプロローグ

こんなのノッブじゃない!文章がウザい!なんて思おうかもしれないですが、人類史ぐらい心を広くしてお読みいただけると幸いです。

それにしてもスカディが出てこない。来たと思っても、すり抜けっていうね。
……くそがああああああああああああああああああああ!


 人気のない薄暗い道を歩く一つの影。

 

 

 影の名は『織田信長(ノブナガ・オダ)』。

 

 

 彼女は世界に十人しか存在しない“魔王”の一柱(ヒトリ)である。

 

 元人間の魔王なことと陽気な性格のせいか知名度と人気度では群を抜いていて、最古の魔王として挙げられるギィ・クリムゾンやミリム・ナ―ヴァと同時期に魔王になったこともあるのか、彼女は最も古き魔王の中に分類されていた。

 

 彼女の能力は色々あるのだが、その中でも最も有名なのは『三千世界(さんだんうち)』であろう。

 

 大量の銃による圧倒的な物量で敵を圧倒し、圧倒……圧倒し、とにかく圧倒するだけがゆえに、強力無比な無敵能力と化しているらしい。その戦いぶりを見た者は生きておらず、今では歴史書にかろうじて残っているだけなので、詳しい情報はないのだ。

 

 太陽の日差しを遮る帽子の下の顔は、口を一文字に結んであり何を考えているか悟らせない。

 

(え、ちょっと待って。ここどこじゃ。何か三日間ぐらいここ歩いとるけど、景色一向に変わらないんじゃが。え、迷子?ワシ、魔王なのに迷子になったのか?)

 

 まあ、まさか魔王がこんなバカげたことを考えているとは思いもしないだろうが。

 

 

 信長の足はとにかく人のいる方に行こうと進む。

 

 先ほど言った通り信長は永い時を過ごす最古の魔王である。

 その年齢はゆうに千年を超えており、下手すれば五ケタを超える可能性だってある。

 年齢を聞いた者は全て消息不明になったというのが歴史書に記されており、正確な年齢は分からないが。

 

 腐っても悠久の時を生きる最古の魔王、迷子になったときくらいの対処法なんて熟知している。

 

「おっ、ノッブ様じゃーん。ウチの肉食べてくー?」

 

「いやいや!こんな暑い日はキンキンに冷えた酒に決まってますよ。ね、織田さん」

 

 とても魔王にかけるような歓迎の言葉じゃないが、そんなことを気にしていては魔王はやっていけない。

 

 そう言わんばかりに信長は満面の笑みで「うむ、そうだな!ワシは米派なのじゃがたまにはパンに浮気してもよかろう、遠慮なくいただくぞ!」やら「ほう、キンキンに冷えた酒とな?それも真昼間からとは。お主も悪じゃのう、うりうり」と軽く返している。

 

 ちゃっかり貰っているあたり、そこらへんは魔王として譲れないものがあるのだろう。「家臣の献上品を断るわけにはいかんからな!」というのが某魔王の言い訳なのだが、それにしては家臣から舐めた態度を取られたものだ。

 

 両腕に色んな物を抱え、今日も大漁じゃとホクホク顔の信長。

 それを見ていた名も知らぬケモミミ男が、世間話のように話しかける。

 

「そういや、ノッブはどうしてこんな辺境の地にいるんすか?俺の記憶じゃ、イングラシアで隠居生活してるって聞きましたけど」

 

(あ、そうじゃったわい。ここが何処か聞きに来たんじゃった)

 

 思わぬナイスフォローに、はっとなる信長。

 もう認知症が始まっているかもしれない、なんて思ってはいけない。その魔王は、そういった悪感情を見抜き問い詰めてくるから。

 

 

 口に咥えていた焼肉を飲み込み、ケモミミ男に聞く。

 

「実はとあるお導きにより、この地に参ったのじゃが。生憎なことに迷ってしまってのう。ここがどこか教えてくれんか?」

 

 本当はお導きなんてなく、ただ迷っただけなのだが、そこは魔王。

 真実と嘘を織り交ぜて交渉するのが戦国時代的交渉なのだ。

 まあ嘘ばっかで真実といえど迷ったことぐらいだが。

 

「ここっすかー?獣王国ユーラザニアの辺境っすね、カリオン様が支配される土地っす」

 

「で、あるか。カリオン……ああアヤツか。あの脳筋男のことじゃな?てかお主カリオンには様つけるのにワシには様つけんのな。別にいいけど」

 

 どうやらここはユーラザニアだったらしい。

 といってもユーラザニアと聞いてピンと来るものはなく、場所も何も分からなかった。

 

 

「ありがとじゃ名も知らぬケモミミ男よ。褒美じゃ、受け取れ」

 

「お!ありがとっす……ってこれ骨付き肉(肉なし)じゃないっすか。こんなもん渡されてもゴミ箱にポイっすよ」

 

「ええい!今手持ちこれしかないから是非もないんじゃ!黙って受け取れい!」

 

 そう言って逃げるように駆けていく信長。

 戦利品を一つも落とさずに走るところは、流石は魔王といったところだろうか。コイツと一緒にしないでくれと他の魔王の苦情が聞こえてくるが、そこは気にしてはいけない。

 

 お世話になった者どもを背に、その姿はだんだんと小さくなっていった。

 

 

 ちなみに、骨付き肉(肉なし)をあげたのはその男が狼系の獣人だったからなのだが、どうやら一般人には魔王の考えが分からなかったらしい。

 

 是非もないよネ!

 

 

 

 

 

 1

 

 

 

 

 そしてまた迷った信長は、戦利品を片手に街をほっつき歩いていた。

 別段行く先もなく、適当に歩いているだけなのだが、そこはツッコんではいけない。この世には触れておかない方が安全なものもあるのだ。

 

(む?この“シュークリムル”とやらは甘くて美味いのう。ノッブ判定で満点本能寺をつけてやってもいいレベルじゃ!)

 

 暢気に食べ歩く信長も大したものだが、それを当然のように受け入れているこの国も大したものだ。

 国の中に天災級の魔王がいるのに、警戒する様子を一切見せることがない。

 それどころか信長を見た住民は笑顔になり、俺も俺もと貢げ物を持ってくる始末。

 

 完全にそれは捨て犬に食べ物を与えるそれだったが、現金な信長はそんなことには気づかず笑顔で「くるしゅうない、くるしゅうないぞ!」とか言いながら受け取っている。

 

 これもまた、彼らの日常の一つなのかもしれない。

 みんながみんな、顔に笑顔を浮かべているのを見る限り、彼らは幸せなのだろう。

 魔王というのは不幸なイメージがあるが、こうした例外も存在するのだという象徴が信長なのかもしれない。

 

 ――――――そんな幸せな一日が破壊されるのは、魔王としての因果か。

 

 

「――――――ッ!?こ、この魔力反応は、まさか!?」

 

 突如として険しい顔になる信長。

 その視線の先には黄金色に光る輝きがあった。

 

 やがて、その輝きは少なくなっていき、その代わりに……まがまがしい装飾が施された扉が現れた。

 

 その扉の中から出でるのは、青髪の美女。

 メイド服を着こなし、一歩一歩優雅に歩きだす。

 

 

「――――――お迎えにあがりました、ノッブ様」

 

 彼女は、悪魔族(デーモン)

 それも最上位の悪魔公(デーモンロード)である。

 そんな彼女が、この扉をくぐってやって来たということは、思い当たることといえば一つしかない。

 

 ――――――魔王達の宴(ワルプルギス)

 三人の発案者が揃った場合にのみ、発動される魔王による会議。

 その内容はピンからキリまでで、くだらない話や重要な話まで全てここで話されるのだ。

 

 当然、信長だって魔王の一人。

 出なくてはいけない、ということではないが、極力出席した方が身のためになるということは理解していた。

 

「ふっ……とうとうこの時が来おったか……」

 

 腹を括るように大きく深呼吸をして、一息。

 

 

 

 

 ダッ!と身を翻して全力疾走を始める信長。

 こいつ、普通にサボる気である。

 

 しかし、それを見逃す悪魔公(デーモンロード)ではない。

 今回の魔王達の宴(ワルプルギス)には、絶対に全員連れてこいと彼女の主人である魔王ギィから命令されている。

 信長が逃げることなど予想しており、油断は一切していなかった。

 

 悪魔公(デーモンロード)は躊躇なく魔法を発動する。

 発動する魔法は魔王達の宴(ワルプルギス)の会場を行き先とした、強制転移の魔法。

 

 それは、すたこらさっさぁ!と逃げる信長の体を起点とし、光で信長の身体を包む。

 

(し、しまった!?これは本能寺レベルでヤバいのではないか!?)

 

 やがてその光は、眩い閃光と化して信長を魔王達の宴(ワルプルギス)へと連れて行った――――――

 

 

 

2

 

 リムル・テンペストは魔王である。

 それは公式に認められたものではないが、その資格は十分にあった。

 

 知人であるミリム・ナ―ヴァやラミリスを始め、会場に入った他の魔王達もその妖気(オーラ)を見て実力があることは感じ取っている。

 ただ、その実力が魔王に似合わないという理由で今回の魔王達の宴(ワルプルギス)は発動されているので、そこについては誰も触れていないが。

 

「ミザリー、アイツ(・・・)はまだ来ていないのか?」

 

「はい。今レインが連れてくるはずですが……」

 

 

 ギィとその配下であろうメイドの話を横で盗み聞きしていると、十席ある椅子の二つが空席なのに気付いた。

 

(あれ?一つはカリオンさんのだから空席なのは分かるけど、もう一つのは誰のだ?ラミリスの話に出てきた魔王の中で、まだ出てきていないヤツなんていたか?)

 

 そう、リムルが不思議に思っていると。

 

「うおっ!?」

 

「来たか」

 

 突如として会場の扉に光が差し込む。正確には、扉の前であるが。

 

 光が一瞬強烈に輝いた後、その中から一人の少女が現れる。

 赤いマントを翻し、金の兜をかぶった黒髪の少女。

 

 なにより、その兜に付けられた金の紋様に、リムルの目が惹きつけられる。

 

 織田家の家紋として最も知られている。いわずも知れた『織田木瓜』。

 異世界に転生して久しいリムルにとって、それは驚愕するものだった。

 

 

 そんなリムルの視線に気づくことなく、腰に日本刀を差した少女はがっくりと膝をついて叫んだ。

 

「くっそおおおおおおお!拉致られたああああああああ!」

 

 だむだむと床を殴りつけるその姿は、はたして魔王としていかがなものだろうか。

 なんてツッコミを入れる者はおらず、ただただ眺めるだけである。

 

 とはいえ、そのまま床を破壊されては困るのでギィが声をかけた。

 

「よう。今日も元気みてぇだなノブナガ」

 

「嗚呼!?……なんじゃギィか。丁度いい、お主には言っておきたいことがある」

 

 声の主がギィであることに気づいた信長は、そう言ってギィの隣までツカツカと近づく。

 リムルの後ろを通った際には「なんだコイツ」みたいな顔でジロジロ見られたのだが、そんなことはどうでもよかったようだ。

 

 リムルを気にした素振りも見せず、信長は腰に手を当てて言う。

 

「お主のとこのレイン、昔より性格が酷くなっておるぞ。この前なんてキラキラした目でワシを見ておったのに、今じゃゴミを見る目じゃ」

 

「この前っていつだよ」

 

「そうさな……ざっと三千年前か?」

 

「初対面のときじゃねーか」

 

「うむ!だから、主として矯正せよと申しておるのだ」

 

「いやまあ、それについては注意しておくけどよ。お前のとこのカッツはどうなんだよ。前に会った時は『お前が姉上を誑かす男か、潰す』って言われたんだが」

 

 そんなん知らんわ!と憤慨する信長。

 それを見て俺が言われる筋合いはねぇんだよ!と反撃するギィ。

 

 ついさっきまで殆ど喋らなかったギィが饒舌になっているところを見るに、二人の仲は良好なのだろうか。

 

「黙れい!というかお前もお前じゃギィ、ワシが泊まってやっているというのに勝手に城から追い出しおって!寒かったんじゃぞアレ!」

 

「はあ!?テメェが勝手に住み着いてきたんだろうが!」

 

 きっと良好なのだろう。

 喧嘩するほど仲がいい、そう考えたリムルは一人うんうんと頷く。

 

「あーもうメンドクセェ。ほら、ババァはさっさと席につけ」

 

「どぅわっち!?」

 

 信長の頭を掴んで空席に放り投げたギィは、信長のことは無視して会議を始めることにしたようだ。

 投げられた信長もしばらくは抗議を続けたものの、これ以上言っても無駄だと悟ったのか隣のラミリスと『久しいのう、ラミリスよ』『おひさーノッブー』と談笑を始める。

 

 ……ぶれないな、アイツら。

 

 

 

 

 ギィによる信長の投法を宴の始まりだと受け取ったのか、今回の発案者であるクレイマンが席を立ち宣言する。

 シミ一つない真っ白のスーツをその細い身体に纏い、愉悦に口を歪ませながら。

 

 

「それでは始めましょう……ここに魔王達の宴の開催を宣言します!!」

 

 

 

 

 ―――――――――魔王達(二名ほど談笑で盛り上がっているが)の宴が始まる。

 

 

 

 




ギィ・クリムゾン

 ノッブとは古い友達。とある事件で知り合い、そっから仲良くなった。けどノッブのことは嫌いじゃないけど苦手で、いわざディアブロみたいな立ち位置。

ラミリス

 こちらもノッブとは古い友達。とある事件で知り合い、そっから仲良くなった。よくケンカするけど本当はただの仲良しなのでギィも止めることはない。



織田信長 

 言わずもがなノッブ。どこからどう見てもノッブ。圧倒的ノッブ。……気づいたらこの世界にいた。そんで自由気ままに家臣達と遊んでたら魔王になってた。


リムル

 え!?……聞き間違いか、そうだよな。だって信長がこの世界にいるわけないし。うん、そうに決まってる。





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ぐだぐだワルプルギス

 魔王クレイマンの話はこうだった。

 

 曰く、魔王カリオンは魔国の主(リムル)に魔王を名乗るように仕向けた。魔王の座に魅せられたリムルは箔をつけるためにヴェルドラの封印を解くことを提案し、その生贄に選ばれたのがファルムス王国。まんまと焚きつけられ(以下略

 

 つまるところ、

 

なんか魔王カリオンに魔王ならね?と言われた。……なりたい!魔王めっさなりたい!

人間の魂が必要だからファルムス王国と戦争やろっかな、でも戦力足りないからヴェルドラに任せよーっと

なったはいいけど魔王の席がない、ぴえん。けどカリオンが魔王クレイマンを潰せばいいんだよと言ってくれたので、共謀して潰しちゃおうかな

よーし魔王になるぞー!←今ここ

 

 

 というわけだ。

 

 

「これらの情報は全て、私の配下であるミョウランから伝えられたものです。しかし、残念ながら彼女はもうこの世にいません……。なぜなら――――――」

 

「え、ミョウランちゃん死んだん!?」

 

 続けようとしたクレイマンを気にした様子もなく、ただ純粋に驚く信長。

 実は信長、ミョウランとは何回か話す機会があった。

 それだけの会話だけでも彼女が優しい性格だと分かったし、なにより気安い態度を取らなかったので信長のお気に入りだったのだ。

 だからこそ、ミョウランの死を知ってひどく残念に思ったのである。

 

 

 それに勢いを削がれたのか、苦笑いを浮かべてクレイマンが頷く。

 

「え、ええ。そこのスライム――――――リムルに殺されて、ね」

 

 そう告げるクレイマンの表情は、自信に満ち溢れていた。

 しかし、そこでもまた他の魔王から質問が入る。

 

「おい、クレイマンよ」

 

「……なんですか?魔王ダグリュール」

 

「話の真偽は置いておくとして、肝心のカリオンはどこなのだ?陰謀の張本人であるカリオンに聞いたほうがよかろう」

 

「それは、無理なのですよ」

 

 なぜなら、その魔王カリオンはミリムの手によって殺されたのですから。

 

 そう続けたクレイマンの言葉を聞いて、会場の者の目がミリムに集まる。

 そのミリムといえば、無表情のままボーっとしているだけだ。

 普段のような元気溌剌とした姿とは程遠い。

 そのことに、信長始め各魔王は違和感を覚える。とはいえ、クレイマンの話の途中なので遮るような真似はしなかったが。

 

「ですが、ミリムを責めることはやめてあげてください。彼女は友人である私のことを思ってカリオンを滅ぼしたのです」

 

「カリオンを、のう」

 

「……以上で、私の話は終わりです。魔王を僭称するスライムなど、ここで始末するべきが当然かと」

 

 

 一礼するクレイマン。

 彼の話が終わったことで、次は来客であるリムルの説明となる。

 

 その場で立ち上がったリムルは、そっとテーブルに手をついて口を開いた。

 

「クレイマン、お前――――――」

 

「なんじゃ。つまりお主はそのリムルとやらが嫌いなのだろう?なら潰せばいいではないか、魔王らしく」

 

 しかし、それは信長の台詞でかき消されることになった。

 え?ちょ、ま。と困惑するリムルを横目に、信長は続ける。

 

「気にくわないものがあれば壊せばいい。欲しいものがあれば奪えばいい。それが魔王ではないのか?」

 

「え、いや、だからですね。これは私だけの問題ではなく」

 

「そんな細かいことを魔王は気にするのか?近年の魔王は理知的になったものじゃのう、ワシの世代なんぞ『好き勝手やるのが魔王の特権!』じゃったのに。まっことなげかわしい」

 

 はあっと溜息を吐く信長。

 彼女が生きた時代は前世(・・)も含め動乱の時代だった。強い者が生き、弱い者は死ぬ。そんなことは世の常識であり今更蒸し返すような話ではなかったのだ。

 彼女からすればクレイマンの話は一笑に伏すような内容だったのである。

 

 それに続くようにダグリュール達も言う。

 

「うむ。ノブナガの言う通りだ……この程度の問題、魔王達の宴(ワルプルギス)で取り上げるようなものでもあるまい」

 

「そうだねー。ぶっちゃけ俺からすればどうでもいいっていうか、ねぇ?」

 

「何で私に振るのよディーノ!いやまあ、アタシも途中から話は聞いてなかったけども!」

 

「我は下等なスライムなど認めたくないが……そこの不死族(デスマン)よりは些かマシか」

 

 

 罵詈雑言の嵐とまではいかないが、ちょっと角が立つ会話。

 

 それはクレイマンの計画が破綻しかけている証拠であり、事実上の死亡宣告であった。

 クレイマンはそのことを理解しているのか、あたふたと焦り始める。

 

 それを見たリムルは、振り上げた拳の先に困っていたのだがこれは丁度良いかもなと思い、今度は信長に邪魔されぬようにゴホン!とわざとらしい咳をして宣言する。

 

「いいぜ、クレイマン。正直俺もお前にはムカついてたんだ。武力で解決するってのがこの魔王達の宴(ワルプルギス)の仕来りってんなら、喜んで殴り合いで解決しようじゃないか」

 

 この時のために色々と情報を用意してきた自分のことは棚に上げ、リムルは拳を握る。

 リムルにとってこれは最も望んでいた状態だし、否定するようなことを誰がするものか。

 

 それに焦るのはクレイマンだ。

 計画では他の魔王の賛同を得て、正当な裁きをリムルに下すはずであった。

 クレイマンは戦闘に向いた魔王ではない、裏でコソコソする頭脳派魔王。

 はっきり言って戦闘だけでなら、事実上名ばかりのラミリスの次に弱い魔王なのである。

 

 そんな身体能力ナメクジのクレイマンに、さらなる不幸が舞い降りる。

 追い打ちをかけるように、ギィもその案に追従したのだ。

 

「別にいいじゃねえか、クレイマン。お前の力でもってソイツを倒してみせろ」

 

 弱者に“魔王”の名は相応しくない。

 それを暗にクレイマンに告げたギィの目は笑っていた。

 

 

「――――――ッ!?」

 

 唇を噛むクレイマン。

 予想外もいいところだ。こんな状況になるとは露ほど思っていなかった。

 

 

 ……しかし、だ。この状況は私にとって有利なのではないか?最強の切り札であるミリムが私の手の内にある今ならば、リムルさえも殺せるのではないだろうか?

 

 そのことに、わずかに開いた希望の光に、クレイマンは活路を見出す。

 そうだ、最古の魔王たるミリムならば、生まれて数年もしない魔王などに負けるわけがない。

 

 会期の兆しを得たクレイマンは、またもや饒舌に宣言する。

 

「……いいでしょう。ならばやっておしまいなさい、ミリムよ!その下賤なスライムを叩き潰すのだ!」

 

 

 

 

 1

 

 

 

「ぐああああああああああああ!お、おたすけー!」

 

 

 そう言って即落ち二コマのようにリムルに吸収されたクレイマンのことなどリムルたちはすっかり忘れ、思い思いに談笑に更けていた。

 哀れクレイマン、話のネタにもされないとは情けない。

 

「おいミルス、従者のしつけがなってないようだな。我が盟友たるリムルを侮辱するとは、我が教育してやろうか?」

 

「……私に話しておいでですか?私は魔王ヴァレンタインの侍女(メイド)にすぎませんが」

 

「えっ」

 

「ダメだぞヴェルドラ!バレンタインは正体を隠しておるのだ、今は代替わりが魔王をやっているのだ!それと名前はルミナスなのだ!」

 

「ばっ、おまー!言っちゃっとるじゃん、ミリムお主それほぼ言っとるから!あああああほれみろルミナスの顔面が(#^ω^)になっておるわ!」

 

 モロにバラすミリム(操られたのは演技でした)に、信長が追い打ちをかけてルミナスを怒らせたり。

 

「ベレッタ……これ何?」

 

「おおリムル様!よくぞ聞いてくださいました、これはですね、クレイマンが所有していたビオーラという人形に備わっていた武具の数々でございます!」

 

「はあ、それで」

 

「はい!もちろん全てリムル様に捧げますとも!これもどれもワレをこの世界に現界させてくださったリムル様のためのもの!」

 

「本音は?」

 

「ぶっちゃけこれと引き換えにテンペストに移住させてもらえないかななんて」

 

「わーお商魂たくましい」

 

 

 どんどん(ラミリス)に似てきたベレッタにリムルが恐れを抱いたりと、話が盛り上がっていた。

 

 ……それからしばらくして。

 皆が席に着いたのを見届けた魔王ギィが、グラスを片手に持ち尋ねる。

 

 

「――――――さて、今回の魔王達の宴(ワルプルギス)だが、問題は片付いた」

 

「まあ、ワシらほぼ何もしなかったけどネ!」

 

 横からのツッコミを無視して、ギィは話を進める。

 

「俺としてはこれで終わりにしてもいいんだが、せっかくの機会だ。何か言いたいことがあるヤツはいるか?」

 

「そうじゃな、ワシへの尊敬が最近薄れておるのが――――――」

 

「もうお前は黙れ」

 

「合点承知之助!」

 

 ギィからの睨みを受けて、ふんずりながら黙る信長。

 リムルやカリオン(しれっと復活した)などの比較的新参な魔王からすれば、それは肝が冷える行動だったのだが他の魔王がスルーするのを見るに、別段珍しいことでもないらしい。

 

 静寂が魔王達の宴(ワルプルギス)の間に降りて、雑音が消える。

 

「……そうだな、ここに俺がいるのはちょいと場違いみてぇだな」

 

 そう言ったのは、獅子王(ビーストマスター)カリオンだ。

 神妙な顔で呟いた後、はあっと心底悔しそうに溜息を吐く。

 

(え、何でカリオンさんが場違いなんだ?)

 

 リムルの頭の上に疑問符が浮かぶも、その後の言葉でそれは氷解する。

 

「俺じゃ、覚醒したクレイマンに勝つことは難しかっただろうし。とにかく、実力が不相応なんだよ俺には。だから俺は魔王を降りる」

 

「そうか?俺は後数百年もすればお前も覚醒すると期待していたんだがな」

 

「期待はありがとよ。……ってことで俺はお前の配下になることにしたから。よろしくなミリム!」

 

「はあ!?」

 

 なるほど、確かにカリオンさんの魔素量は、こう言ってはなんだが魔王にしては少ない。

 少ないといえどハクロウのように武芸が達者だという路線もあるだろうが、恐らくカリオンさんは力業での戦闘なのだろう。

 獣人族の王なんだし、魔王はやめなくても俺は良いと思うんだが……。

 

 でもまあ、カリオンさん本人がそう言っているのならしょうがない。

 カリオンさんがミリムの配下になるのも道理に適っているし、彼らが良いのなら俺達は何も言うことはあるまい。

 

「いやなのだ!こんな暑苦しい男などワタシはいやなのだ!」

 

「てめっ、俺の国を破壊しといて何言ってんだ!」

 

 

 ……何も言うまい。

 

 仲が良さそうな二人の主従を見て、不安になるリムルだったが、そこであることに気づく。

 

 

「――――――ってことは、十大魔王じゃなくなるのか?」

 

「「「「む!」」」」

 

「え?」

 

 またもや静寂が下りて、雑音が消える。

 俺の発言がダメだったのかと焦るリムルだったが、そんなものは杞憂である。

 なんせ、これから話されるのはただの名称決めなのだから。

 

 

 

 

 

「だ、か、ら!ここは『九人の妖精(ラブリーピクシー)』が妥当でしょうよ!」

 

「阿呆め。ワシやルミナスはまあいいだろう、だがダグリュールはどうなのだ!」

 

「それは、……ちょっと筋肉質な妖精ってことにするのよ!」

 

「こんな筋肉達磨な妖精がいてたまるか!」

 

 ギャーギャー騒ぐラミリスと信長。

 耳を塞いで逃れようとするルミナス以下一同。

 そして混ざりたそうにウズウズしているミリムとヴェルドラ。

 

 はっきり言ってカオスである。

 ここ数十分ほどずっと続いているのだが、一向に決まる気配は見えない。

 ……もう九大魔王で良いと思うんだが。

 

「そんなに言うんだったら、ノッブだって何か案を出してみるのよさ!」

 

「――――――そうさな、『超新星爆発ダイナマイト魔王9th(ノッブ親衛隊)』なんてどうじゃろか」

 

「アンタに聞いたアタシがバカだった!」

 

「なにおう!?」

 

 しかし、いつまでもこんな話をするわけにはいかない。

 

 リムルも必死に頭を回転させ、案を練る。

 九人の魔王だから……数字は欲しいよな。よし、九は決定。

 じゃあ、後はどうするか――――――?

 

 

 そう思って、なんとなく空を見上げたリムルに天啓が下りる。

 

 視界一杯の夜空。きらめく星々たち。

 なにより、燦爛と輝く恒星が九つ――――――

 

 

「……『九星魔王(オクタグラム)』、なんて」

 

 

 それは、何気なく放った小さな声。

 しかし、それは響き渡るように魔王達の宴(ワルプルギス)の間に響き渡る。

 

 気づけば、誰もがリムルの方を向いていた。

 

 ――――――あれ、なんか俺やっちゃいました?

 

「『九星魔王(オクタグラム)』、か」

 

「へえ……良いんじゃない?」

 

「うむ。それぞれが星に匹敵するという意味かのう」

 

「いいね!さっすがリムル!どっかの魔王とは違って!」

 

「なっ、それお主が言う!?いや良い案じゃとは思うけど!」

 

 言葉を噛み砕くように、うんうんと頷く魔王一同。

 あのレオンも満足そうな顔をしているので、これはかなり好評かもしれない。

 良かった良かった、一瞬静まったときは死ぬかと思ったよ。

 

 魔王ギィもこれにはご満悦。

 とびっきりの笑顔で、判決を言い渡したのだった。

 

 

「決まり、だな」

 

 

 

 

 

 メイドの原初の青(レイン)原初の緑(ミザリー)が口を揃えて言う。

 

 

「「改めまして、本日来客された方々をご紹介させていただきます――――――

 

 

 悪魔族、“暗黒皇帝(ロード・オブ・ダークネス)”ギィ・クリムゾン様。

 

「おう」

 

 竜人族、“破壊の暴君(デストロイ)”ミリム・ナーヴァ様。

 

「はーいなのだ!あ、ラミリスよ。そこの肉切れいらぬならワタシが食べてあげるのだ」

 

 妖精族、“迷宮妖精(ラビリンス)”ラミリス様。

 

「ちょ!?アタシが魂込めて育ててきた至高の一切れを取らないでよ!?」

 

 巨人族、“大地の怒り(アースクエイク)”ダグリュール様。

 

「うまいな。この酒の果実はユーラザニアのものか?」

 

 吸血鬼、“夜魔の女王(クイーン・オブ・ナイトメア)”ルミナス・バレンタイン様。

 

「……ふんっ」

 

 堕天族、“眠る支配者(スリーピング・ルーラー)”ディーノ様。

 

「働かないで食べる肉ウメー」

 

 人魔族、“白金の剣王(プラチナム・セイバー)”レオン・クロムウェル様。

 

「……肉と野菜は豆腐で分ける、それによって油がしみこま……だから適当に投入するな」

 

 魔人族、“人類の裏切り者(ノッブ・オブ・ノッブ)”ノブナガ・オダ。

 

「うまければそれでいい!以下略!」

 

 妖魔族、“新星(ニュービー)”リムル=テンペスト様。

 

「いや鍋パーティーやってるときにやることじゃないだろ……って、え!?オダ!?ノブナガ!?」

 

 

 ――――――この日より、魔王達は新たな呼称で畏れられることになる。

 

 その呼び名は『九星魔王(オクタグラム)』。

 

 新月の夜、真なる魔王達の時代が幕を開ける――――――

 

 

 

 




クレイマン

 死んでしまうとは情けない。

カリオン

 ノッブに対してはかなり気安い態度をとるが、同じ最古の魔王でもギィには堅苦しくなってしまう。是非もないよネ!

ディーノ

 ノッブとディーノ、二人してギィの城に泊まりに行ったのだが、二人仲良く追い出された。そして二人仲良く迷った仲。

ミリム

 例にもれず仲がいい。どれくらい仲がいいかというと、言葉には表せられないくらい。とはいえミリムはある事件でノッブに借りがあるので、たびたびそれを使われて酷い目に遭うことも多数。

ダグリュール

 すごく仲がいいわけではないが、悪くもない持ちつもたれつの関係。たまにその自慢の筋肉を触られる。傍から見たらロリとおっさんなので普通に事案。

ルミナス

 表面上はノッブのことを嫌う態度をとっているが、実はかなり好意的に見ている。そしてそれはノッブや他の魔王にもバレるぐらいには演技が下手。ただし、それが友情か劣情かは誰も知らない……。



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