【短編集型】英梨々がイチャイチャ過ごしたい冬休み (きりぼー)
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【1日目】最初のステージが最難関だった件

報告。連絡。相談。
そしたら、恵は倫也が別荘に行くのを許可したのかな?


高校二2年の冬休み。(ということで英梨々は作るよ)

倫也たちのゲーム作りも大詰めだった。

あとは英梨々が絵を完成、それをプログラムに組み込むだけである。

ゲームをDVDにしてくれる業者の締め切りは25日。納品が29日。コミケ販売が30日。

よくわからんがそんな日程ってことでタノム。

 

倫也の部屋。

 

「倫也~あそぼ~」

猫なで声で上機嫌な英梨々が倫也にまとわりつく。

「って、英梨々!?なんでここにいるんだ」

「なんでって、なんでよ?」

「挿絵を仕上げるために那須の別荘に引き籠っているはずだろ?」

「ん・・・」

 

英梨々が原作をパラパラとめくる。

「どこだっけ?」

「さぁ・・・」

「相変わらず細かいわね」

「いやいや、英梨々ルートの大事な分岐だからね?」

「そう?」

「とにかく、那須の別荘に早く戻れ」

「なんか冷たいわね?まさか・・・また恵といちゃつくつもりじゃない・・・」

「なんでそうなるんだよ!はやくいけ」

「・・・いいわよ。どうせ、どうせ、あたしなんかー」

英梨々が半べそをかいて部屋から出ていった。

 

「・・・どんなキャラだよ」

倫也が深々とため息をついた。

「倫理君も相変わらずね」

霞ヶ丘詩羽がゲームをプレイしながら校正をしていた。

「そうだぞー、トモ。澤村ちゃんにはちゃんと優しくしとけー」

ベッドの上でギターを抱えながら美智留が言った。

倫也が美智留をじぃーと見つめる。

「な・・なにをそんなにじっとみてんの?なんかエッチいんだけど」

「ちげぇーよ!つか・・・ひさしぶりだなっと」

「一応、ここに毎日通い詰めてゲーム作りをしていることになってんだけど」

「あっそ」

「ほんと、たまには出してくれないとキャラ忘れちゃうしー」

「語尾伸ばしておけばそれっぽくなるし大丈夫だろ・・・」

「扱いがぞんざいなんだよなー」

美智留が少しいじける。

そもそも原作のしゃべり方がそうじゃなさそうだけど、今更。

「そこまで手が回らないんで、ほんと勘弁してください」

倫也が素直に頭を下げる。

 

「さて、くだらない雑談はこれぐらいにして倫理君。最初のミッションよ」

「はい・・・」

「いいかしら?原作の加藤恵が怒った理由の建前は、倫理君が相談もせずに勝手に那須までいったこと、締め切りが遅れてゲームが作れなかったことよ。本音は単純に澤村さんに対する嫉妬でしょうけど、それは認めるわけにはいかないものね」

倫也は考え込む。

そう、あとは加藤恵がサブヒロインとしての役割を果たせば英梨々ルートは完成する。

 

「そこで倫理君。ちゃんと加藤さんの許可を得て那須へいくこと。ついでにサブヒロインになってもらうことも約束してもらえるといいわね」

「・・・あの・・・詩羽先輩」

「何かしら?」

「それって、最初から無理ゲー感がありませんか?」

「知らないわよ、そんなこと。とにかく、加藤さんの怒る表面的な理由を取り除いて、コミケのあとに打ち上げをすること。わかったわね?」

「・・・はい」

倫也はまったく自信がなかった。

 

再び扉がガチャリと開いて、英梨々が顔をのぞかせた。

「そうだ、倫也ぁー。これあげる」

ぽんっと、キノコを投げた。白地に緑色の水玉模様。

倫也がそれをキャッチする。

「なんだよ・・・これ」

「はぁ?あんたバカなの?見ればわかるでしょ。1UPキノコよ」

「いや・・・そうなんだが・・・」

「じゃ、那須で待ってるから!」

英梨々が笑顔で出ていった。

 

倫也が1UPキノコを食べる。

「・・・死ぬの前提かよ」

 

美智留は楽しそうに笑っていた。

 

 

※※※

 

 

恵の家の前に倫也が立っている。電話は通じなかった。

すでに、怒っていることは知っている。かつてないほどに。

何しろ、夏にいちゃいちゃする物語を作ったのに、その直後が英梨々と高1を過ごす物語なのだ。

しかも、倫也は英梨々を選んでいる。

 

「無理ゲーと言うか、攻略ルートが用意されているんだろうか?」

倫也がインターホンを押した。

 

ピンポーン。

「・・・」

ピンポーン。

「まっ、出るわけないよな」

 

 

※※※

 

 

「恵!話を聞いてくえ」

「・・・これは、ずるいんじゃないかなぁ・・・」

「時間がないからなっ」

「あのさ・・・もう少し、ちゃんと小説っぽく書いた方がいいと思うんだけど」

「だって、そうすると二か月ぐらい怒るだろ?」

「ううん。もうずっと怒る」

「・・・なぁ、恵・・・英梨々ルート・・・作ってやれないか?」

「もう、言い訳もしないんだね。倫也くん・・・」

「まぁな!いいか、恵。これもすべて作品のためなんだよ。それぞれが役割を果たす。そうやって物語は紡がれていく」

「だからさぁ、それなら、イデアが育つとかそんなことしないで、ちゃんと台本つくって、その通りにやるべきだったんじゃないかなぁ?」

「それでも、夏休みは楽しかっただろ?」

「そうだけど・・・今は楽しくない」

「違う物語だからな?」

「それは詭弁だよっ」

「・・・そうだな。けど、英梨々ルートが完成しないと・・・俺らは終われない」

「あとは・・・わたしだけ?」

「だな」

「ねぇ・・・倫也くん。わたしにチャンスはなかったのかな?恵ルートにはなれなかったのかな」

「うん。どんなに足掻いても英梨々ルートしかない」

「・・・そう。倫也くんも英梨々をちゃんと好きになれたんだね?」

「うん」

「・・・」

「恵。何度もいいたくないんだ・・なぁ・・・恵」

「なによー」

「俺の・・・サブヒロインになってくれ」

「それ、サイテーだよね」

「ごめん」

「でも、ここが表情もわからないイデアの世界でよかったね」

「・・・恵」

「わかった。サブヒロインをやればいいんだよね?」

「たのむ」

「1つだけ条件いいかな?」

「ん?」

「作ってよ・・・英梨々ルートが終わったら・・・加藤恵の物語を1つ」

「どんな?」

「子育て編」

「・・・恵!?」

「いってらっしゃい」

 

 

※※※

 

 

「ただいま・・・」

倫也が部屋に戻る。

「おかえりートモ」

「あら、無事に戻ってこれたのね。倫理君」

「無事なのかな・・・」

膨大なボツで何度死んだかわからない。英梨々ルートに進む倫也を抹殺し続けたヤンデレの恵。しかし、その方法では英梨々ルートを阻止することはできなかった。

 

「トモ、那須にいけるんだね?」

「ああ、いってくる。こっちに完成した画像ファイルを送信する、あとは手はず通りに進めてくれ」

「あたしは無理だよー。加藤ちゃんができるんでしょ?」

「・・・そうだな」

「じゃ、大丈夫だ。いってらっしゃい」

「いってくる。詩羽先輩も後はよろしくお願いします」

「ええ。R18はついてないけれど、いいのかしら?」

「そこまでは・・・」

「そう・・・決めてしまった方がいいのよ。そういう時は」

「健全な高校生の物語だからね?」

「いいのよ・・・別に。いってらっしゃい。倫理君」

「いってきます」

 

その時、倫也のケータイがなった。

 

「やぁ倫也君。元気かい?」

「伊織か・・・」

「いやだなぁ・・・そんながっかりしないでくれよ」

「なんだよ?」

「那須にいくんだろ?車・・・だそうか?」

「いや、まだ電車があるから大丈夫だ。それに・・・紅坂さんに英梨々の才能を気づかれるわけにはいかない」

 

原作では紅坂さんの車で那須にいき、その時に英梨々の絵を見られてしまう。のち、英梨々が引き抜かれる。

回収すべきフラグと回収してはいけないフラグがある。

 

「うん。あとは、画像ファイルさえ送ってくれれば・・・こちらでフォローも手伝うよ」

「悪いな・・・たのむ」

「1つ聞いていいかい?もう、手遅れだって気が付いている?」

「何がだよ!?」

「いや、気が付いてないならいいんだ。Good luck。倫也君」

 

電話が切れた。

倫也は首をひねった。手遅れ?

 

 

※※※

 

 

ローカル線からバスを乗り、さらに徒歩だと一時間ほどかかるのでタクシーに乗る。

タクシーはスタッドレスで、道路の雪を踏みしめながらガタガタ揺れながら進む。

東京から約4時間。那須の別荘に倫也は着いた。

 

あたりは東京では考えられないほどの暗闇に包まれていた。

微かに灯る別荘の光をたよりに、門から玄関まで歩いてインターホンを押す。

 

「あら、倫也。無事に着いたのね」

英梨々がのんきに玄関から出てきた。人の気も知らないで・・・

「ああ、この物語では無事にたどり着けたよ」

「そう、寒いでしょ?上がりなさいよ」

 

英梨々のサロペットは絵の具で汚れている。

いつもと違うのは、頭に大きな赤い水玉模様の白い帽子をかぶっていたことだ。

 

「なんだ、その帽子?」

「見てわからないの?一応、オチのある短編集の構成なんでしょう?」

「ん?」

「だから、わざわざ用意したのに・・・」

「えっと・・・ん・・・」

「・・・キノピオ」

英梨々が恥ずかしそうに呟いた。

 

英梨々が大きな帽子を取り、ソファーの上に放り投げる。

「コーヒーでいいかしら?」

「頼む。ずいぶんと冷えるな」

「そりゃー、スキー場が近くにあるくらいだしね。雪は大丈夫だった?」

「うん。今はやんでいるよ。で、その帽子は・・・」

「ほら、だから・・・その、1ステージクリアってことで」

英梨々が顔を赤くして照れている。バカなことをしているのは重々承知だ。

「ああ、マリオか?」

「そうなんだけど・・・あとは倫也に任すわよ?」

「何を!?」

「オチ」

「投げやりだな」

「何言ってんのよ。短編なんてオチがすべてじゃないの」

 

倫也は考える。ベストでないまでも、ベターなつっこみがないものか?

 

 

「ピーチ姫じゃないお前に、不安を覚えるよ!」

 

 

「何よ、それ」と英梨々が笑う。八重歯が少し見えた。

 

(了)




うん。いつもの英梨々。
自覚がたらんな。


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【2日目】R18分岐フラグ

クリぼっちの皆さま今晩は。
クリぼっちじゃない皆様にはメリークリスマス。

恋人達のクリスマスイブ。
英梨々はついに倫也と一晩を一緒に過ごす!


24日。クリスマスイブ。

 

午前3時。

倫也が来てからも英梨々は必死に絵を描いていた。日付が変わったぐらいから目が冴える。

倫也はパソコンで仕事の続きをしながら、スカイプで恵と会話を続け、ネチネチとした嫌味をたくみにかわしていた。

「少し仮眠をとって、明日の午前中までにはなんとか・・・」

倫也は締め切りが迫って苛立つ恵の気をなだめる。

「そう?2人きりで仮眠をとるんだ?」

「別々の部屋だからね!?」

「まっ、いいけど、どうせサブヒロインだし」

スカイプが切れた。

 

倫也は深々とため息をつき、仕事に没頭している英梨々を横目に風呂に入ることにした。

バスルームは広く、バブルバスをいれてお湯をはれば見事な泡風呂になった。

倫也はようやく息抜きができてほっとする。

 

・・・あれ、なんで男の入浴シーンを描写してるんだろ・・・

どうせなら英梨々にしろよな・・・

 

バスタオルで頭を拭きながら、倫也は英梨々に声をかける。

「そろそろ風呂はいって、寝たら?」

「・・・あと少しだけど・・・」

ノルマはあと二枚。色塗りだけだった。締め切りには間に合いそうだ。

「まだ時間はあるよ」

「その甘い誘惑に何人のクリエイターが地獄をみたと思っているのよ」

倫也は肩をすくめる。仕事熱心な女が周りに多いのは、自分がダメだからだろうか?

 

英梨々は仕事を中断して、風呂場へと向かった。

 

結っている髪をほどき、頭を振るとブロンドの髪がキラキラと光りを放つ。白皙の裸体はあどけなさがなくなり、大人の体つきになっている。

 

湯舟に浸かり、体育座りをしながら英梨々はぼんやりとしていた。

ときどき顔をお湯につけると、泡が顔中にくっついた。

倫也と2人で入れないものかな?と考える。順番がよくわからない。

男女の関係になったら、一緒にお風呂に入ることもあるんだろうか?

顔に着いた泡をお湯で流す。

 

男女の関係・・・?

どうしたら、そういう関係になれるんだろう?

自分が描くエロ同人誌のような無理やりな展開でなく、どうしたら自然な感じで倫也と結ばれるんだろう。

倫也もそういうことを考えるんだろうか。

 

倫也があたしを好きで、あたしが倫也を好きで。

できれば誰にも邪魔をされない場所で、2人で夜を過ごし・・・

同じベッドで眠ったら・・・自然とそういう風に発展しないだろうか?

そのシチュエーションまでいったら、もう女の子の自分は体を委ねるだけだ。

 

それはどんな時だ?

 

と、英梨々が妄想をしていて、それが今だとやっと気が付く。

それから1人で顔を耳まで真っ赤にして、バカなことを考えたと恥ずかしくなって、お風呂の中に潜って、ぶくぶくと空気をお湯の中で吐き出した。

 

(こういうあざといのは、あたしの役柄じゃないわね・・・)

 

そして、少しだけ胸がチクリと痛くなった。

 

 

※※※

 

 

黄色いパジャマを着て、倫也の寝ている部屋を覗いた。

ベッドサイドランプが微かに柔らかい光を放っていた。

キングサイズのベッドの端っこで倫也はすでに寝息をたてている。

 

決心のつかない英梨々は部屋を出てキッチンに行き、冷蔵庫のアイスティーをグラスに注いで飲んだ。

人生は分岐点の連続だ。何が正しくて、何が間違っているかわからない。

振り返ればなんとなくわかる。その程度だ。

 

このまま絵を仕上げてしまうか・・・

ベッドにもぐって一度眠るか・・・

それとも倫也の隣で甘えるか・・・

 

グラスが空になった。

もっと倫也が積極的だったらと思う。

後ろから軽く抱きしめて、耳元で愛の一言でも囁いてくれればすぐに落ちるのに。

恵に負けないぐらいチョロインなのに。

 

グラスを片付けた英梨々は、再び倫也の部屋に向かった。

 

寝ている倫也の側に腰をかけ、顔を覗きこむ。バカみたいに無防備で眠っている。

「狸寝入りやめなさいよ」

一応、かまかけてみるが、特に反応はなかった。

 

英梨々は顔を近づけて、頬に軽く唇を当てた。

「役が逆じゃないかしら?なんであたしが『辛抱たまらんwww』みたいな状況になっているのよ」

倫也は静かに眠ったままだった。英梨々は体の芯が火照ってくるのを感じていた。

自分の感情が整理できない。自分の体からこみ上げてくる情欲に気が付かないふりをするので精一杯だった。

 

「倫也っ!」

英梨々は自分が悩んでいるのに、安眠している倫也に腹が立ってしまい、その顔をパチンと叩いた。

「ほえっ?」と倫也が寝ぼけている。

「ちょっと、もう少し真剣にやりなさいよ・・・」

「今、何時だよ!?」

「えっと・・・午前4時を回ったところね」

「・・・寝ろ」

「・・・眠くない」

「寝ないと、風邪ひくぞ?」

「そんなの関係ない」

「英梨々・・・」

倫也は体を起こして、英梨々の隣に座る。端に2人で座るにはベッドはあまりにも大きい。

 

「このまま起きて、絵を仕上げるか?」

倫也が優しく声をかける。英梨々は黙って首を横にふった。

「落ち着いて少し横になれよ?」

「こ・・・ここでいいかしら?」

倫也は静かにうなずく。

 

英梨々は蒼い瞳をキラキラと輝かせて、倫也の隣にもぐりこんだ。

「とにかくだな・・・眠いから寝るぞ」

「あたしは目が冴えていて眠れそうにないんだけど」

倫也は体を横にした。横には英梨々がいて甘い香りが鼻をくすぐる。

ほわほわと柔らかい髪がベッドランプに照らされていた。

 

「まずは仮眠をとってだな・・・それから絵を仕上げて・・・」

「倫也」

「ん?」

英梨々はまっすぐ天井を見上げていた。

 

「もう・・・無理」

 

英梨々が小さく呟く。

それから左手で倫也の右手を握った。

 

倫也は努めて冷静を装い、そして英梨々を諭すように言った。

「英梨々ルートはさ、簡単なんだよ。最初にやろうとした通り、この冬休みをしっかりと2人で過ごせばいい」

「そうね」

「ただ・・・それだと・・・」

「恵のことでしょ?」

倫也は答えない。

どんなに探したって、2人の女の子を幸せになるルートなんていない。

答えを先伸ばしにして、シーソーゲームを繰り返すだけだ。

 

「強引だけど、あるにはあるのよ」

英梨々が淡々といった。

倫也に抱かれたからといって、ハッピーエンドにはなれない。

 

「見つかったのか?」

「まぁね・・・ほぼSFだけど」

「俺が2人?」

「ううん・・・詳しくはまた別の物語の時に詩羽が説明してくれるわよ」

「ふむ・・・」

倫也もぼんやりと天井をみている。隣にいる英梨々の顔を見たら止められない気がする。

 

「あたし達は成長しながらも、やっぱり別の物語をそれぞれ生きているのよ」

もう一年たつ。

「だからね、倫也・・・」

英梨々は言葉を選ぶ。

「結論が先。結論の制作は後でいいのよ」

「・・・なるほどな・・・」

 

英梨々が体を横にして、倫也の腕にしがみついた。

その腕が英梨々の控えめな胸に押し当てられる。

 

「あんた、男でしょ?」

「R18ついてないからな?」

「あんたバカでしょ?さっき説明したわよね。制作は後でいいのよ」

「・・・英梨々っ」

 

英梨々が倫也の上に馬なりになった。

 

倫也を見下ろす青い瞳の中にベッドランプのオレンジの明かりが揺れていた。

心なしか震えている。

長い金色の髪が倫也の顔に触れてくすぐったかった。

 

「で、どうするのよ?これ以上あたしに恥をかかせないで欲しいのだけど」

英梨々が焦れた。

「わかったよ。できるかどうかわからないけど・・・全部終わったらな」

「うん」

 

R18を作る気らしい。

 

「じゃ、そろそろオチをよろしくね。倫也」

英梨々が倫也のパジャマのボタンをはずしていく。

「そんなこと言われてもだな・・・」

 

その時、毛布がベッドからずさりっと、床にオチた。

 

倫也と英梨々の目が合って苦笑いをする。

 

(了)




へぇ・・・がんばってね・・・


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【3日目】クリスマスにはプレゼント交換したい英梨々

紳士的なふるまいとヘタレは似ていると思う


25日 クリスマス。

 

「チキン食べたい」

「鶏粥で我慢しろ」

「ケーキ食べたい」

「いちごだけで我慢しろ」

「あーん」

「ほらよ」

倫也がスプーンでお粥をすくって、英梨々に食べさせている。

 

前日に絵を完成させた英梨々は原作通り風邪をひいた。

 

「やっぱり裸になったのがまずかったかしらね?」

「・・・不摂生な食事と生活のリズムが原因だろ」

「認めないわね?」

「記憶にないからな」

「別にいいけど。あーん」

「ほらよ」

倫也がお粥を口に運ぶ。

 

絵が完成したので発注を予定通りに行った。

あとはPCで細かい作業はしているものの、冬コミの準備は一応一段落したことになる。

 

「これで恵が機嫌を損ねる理由を回避できたわね」

「ああ、なんの解決にもなってない気がするがな」

「そうでもないんじゃないかしら?恵だってあたしに対する嫉妬を認めないだろうし・・・」

「そりゃあ、普通に加藤恵をシミュレートすればそうだろうけどな」

「そうよね・・・そこはあたし達の恵ですものね。あーん」

「ほらよ」

英梨々が甘えている。風邪は引いているものの上機嫌だった。

 

「で、今後の予定は?」

「29日が納品。30日が冬コミだから、あと三日以内に風邪が治らなければ英梨々はここでお留守番だな」

「そうやってあたしを捨てていくのね・・・」

「治せよ」

「あーん」

「ほらよ」

 

あとはポップアップを作ったり、おまけを作ったり、宣伝用のポスターを作製したりと急がない仕事があるだけだ。商品さえあれば、同人なので自分達のペースでいい。

 

「あっそうだ。プレゼントあるのよ。そこの棚を開けてくれるかしら?」

英梨々はベッドから起き上がろうとしない。

倫也はイスから立って、棚を開ける。ラッピングされた袋が二つ置いてあった。

「すまん英梨々。俺・・・またプレゼントもってこなかった」

「期待なんかしてないわよ」

なんか、ついこないだ高1のクリスマスをやった気がする・・・

 

「二つあるけど?」

「どうせ倫也が用意してないと思って、あたしの分も自分で用意したのよ」

「そりゃどうも・・・」

袋を二つ抱えて、ベッドの横に戻る。

英梨々はフォークで苺を刺して食べていた。

自分で食べられるなら自分で食べろよ。みたいな野暮なことを倫也は言わない。

 

「はい、倫也」

「どうも」

倫也が英梨々から袋を受け取った。

「開けてみなさいよ」

倫也がゴソゴソとリボンをほどき、袋から中にはいっていたセーターを取り出した。

「なんか、いい触り心地のセーターだな」

「カシミアよ」

「カシミア?」

「それくらい常識でしょ・・・とにかく、いいものだから大事にしなさいよね」

「ああ、うん。ありがと。もしかして・・・お高い?」

「そうね、今の倫也じゃ1/10の値段でも買う気がしないんじゃないかしら?」

「おうぅ・・・」

ちなみに、クラスメート全員にウニクロのセーターが配れるぐらいの値段。

「ちょっと着てみなさいよ」

 

倫也が上着を脱いで、セーターを頭からかぶった。

紺色のセーターの胸元には小さなブランドロゴが付いている。

「どう?」

「あら、思ったよりも似合うわね」

「どうも」

「じゃ、次あたしね」

英梨々が赤い袋を倫也に渡した。

「ん?」

「それをあたしに渡すのよ」

「ああ、うん。はい英梨々。メリークリスマス」

「あら、倫也、気が利くわね。まさかクリスマスプレゼントを用意するぐらい気の利く男になるなんて思わなかったわ」

「皮肉はいいから開けろよ・・・」

英梨々がごそごそと袋あけて、白いセーターを取り出した。

 

羽織っていたカーディガンを脱いで、セーターを頭からかぶり、長い金髪を両腕でセーターの中から出した。

こちらはタートルネックで、体のラインもよく出る女性用だった。

 

「どうかしら?」

「・・・」

倫也が一瞬ドキッとして言葉を失う。ここに来てからお仕事モードで黒メガネのださい英梨々しか見ていなかった。改めてみるとやっぱり可愛い。

「どうしたのよ?何かいいなさいよ」

「似合ってる」

ぼそりと言う。それが精いっぱい。

「何、突然昔の喪男みたいになってるのよ」

「いや、すまん」

倫也は目線を外して、顔をぽりぽりと指でかいた。頬の当たりがほのかに赤い。

 

しばし、沈黙の時間が流れる。掛け時計がボーンと鳴って、夜の8時を告げた。

 

「ごちそうさま」

英梨々が苺を食べ終えて、フォークをトレイの上に乗せた。

倫也はサイドテーブルの引き出しから、常備薬の風邪薬を取り出して英梨々に渡す。

「あたし、粉薬は苦手なのよね」

「子供じゃないんだから・・・」

「そういうのって、大人とか子供って関係ないと思うけど」

「じゃあ、シロップの風邪薬でも今度買ってくるよ」

「はぁ?バカじゃないの。人を子供扱いしないでよ」

「・・・同じだろ」

「さってと、バカなこと言ってないでアニメでも見ましょ」

倫也は体温計のスイッチを入れて、英梨々に渡す。

「寝ろ」

「つまんない。今日だって一日中寝てたし」

英梨々が下から体温計をもぞもぞといれて脇にはさんだ。

「風邪、治らないと冬コミ参加できないだろ」

「わかってるわよ・・・そんなこと」

 

ピピピッと体温計が鳴った。

また、英梨々がもぞもぞと体温計を取り出して、それを眺める。

「あらやだ。38度もある・・・以外としっかり風邪ひいたわね」

倫也が受け取って確認してからケースにしまった。

「明日、病院行くか?」

「大丈夫よ。そんなに辛くないし・・・寝てれば治るわ」

「辛くなったらいえよ。無理するなよ」

「うん。風邪ひくと、倫也って優しいわよね」

「いいから、早く寝ろ」

「歯、磨きたい」

英梨々が立ち上がろうとする。倫也がそれを支える。

「大丈夫よ。まさか・・・トイレまでついてくるつもり?」

倫也はため息で答える。

英梨々が1人で歩いて洗面所に向かった。

 

寝る準備を終えて、英梨々はベッドに横になった。

倫也はそばのイスに座って、様子を眺めている。

「大丈夫よ。そんなずっとそばにいなくても」

「他にすることもねぇーしな」

「でも、そんな風にそばにいられても、気になって寝れるもんじゃないわよ?」

「そうだな」倫也は立ち上がった。

「風呂でも入ってきなさいよ。倫也はまだ起きているんでしょう?」

「うん。もう少し作業を進めておくよ」

「うん」

それから英梨々があくびを1つした。

 

倫也が風呂に入った。

英梨々の部屋に戻って様子を見ると、すっかり眠っていた。

サイドランプの豆球の明かりではっきりとは確認できないが、静かに寝息を立てていて辛くはなさそうだった。頭の冷えピタだけ貼り換えて部屋を出た。

 

※※※

 

家の中は全体的に温かい。廊下もリビングも床暖房が温めているからだった。

倫也は部屋の窓の結露をふいて外を眺める。窓明かりで白い雪が積もっているのが確認できるが、少し先は暗闇で何もみることができなかった。

雪が音を消すのであたりは本当に静寂に包まれていて、そんな時は少し世界から隔離されているような気分になる。

 

「あいつ・・・オチを作る前に寝やがったな」

1人呟く。

 

短編はオチがあった方がいい。別に無理をすることもないがクリスマスならいくらでも作れるだろう。

当初のアイデアは、寝る前に英梨々がキスをせがむやりとりだった。倫也とちょっとした押し問答がある。

そして、英梨々がいうのだ。「クリスマスでしょ?倫也の答えなんて1つしかないのよ?」「なんだよ?」「イエス」

・・・くだらない。

 

倫也はため息をついて本棚を眺める。きっと英梨々はそういう無理な明るい話が好きというわけではないのだろう。並んであるラノベのどれも読む気になれない。棚の端に置いてある純文学の本を手にとる。

それから、ベッドの上で静かに目を通してみたが、頭にまるではいってこないので本を閉じた。

アニメも見る気がしない。時間だけが過ぎていく。

 

ノートPCに目をやる。インターネットをつなげば・・・恵と話ができるかもしれない。

午前中に仕事のやり取りをしたものの、「メリークリスマス」の一言も言っていなかった。

恵となら何か明るい話題でクリスマスらしいオチができるかもしれない・・・

 

倫也がノートPCを開く、考えたが電源をいれずにもう一度閉じた。

 

※※※

 

英梨々の部屋に戻って、そばのイスに腰をかける。

それからぼんやりとして、何も考えずにうつらうつらと過ごす。

時々、英梨々が咳をするので、その度に様子を見るが問題はなかった。

また静かに寝息を立てはじめている。

 

英梨々の横顔をじっと見つめる。

ずいぶんと長い時間を一緒に過ごしてきたように思う。

 

それからずいぶんと悩んだが、クリスマスが過ぎてしまう前に、倫也は英梨々の頬にそっと唇をあてた。

 

そして大丈夫そうなので、部屋に戻って倫也も眠った。

 

(了)




いい感じなんだよなぁ。


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【4日目】帰りたくないけど帰る

英梨々に短編の自覚がなさすぎる。


26日。快晴。

 

「おはよー倫也」

英梨々が元気に倫也を起こしに来た。

「おはよう。英梨々」

倫也もベッドから起き上がる。時刻は朝の7時。

「健康的だな・・・」

倫也が大きく伸びをした。

「あんなに早く寝たら、嫌でも起きるわよ」

「体調はどうだ?」

「うん。おかげさまで熱も下がったし、治ったみたい」

「そっか。良かった」

熱も高かったので長引くと思ったが、風邪がすぐに治った。

 

「じゃ、帰るか」

「そんなに慌てなくても、もう少しゆっくりしましょうよ」

「いや、冬コミ前で立て込んでいるし、早く戻れるなら戻りたいんだが」

「そう・・・」

英梨々が少し残念そうにいう。このまま別荘に泊まって遊んでいたい。

スキーをしにいかなくても、庭でかまくらぐらい作りたかった。

 

「じゃ、支度するわよ。とりあえずシャワー浴びて来るわね」

「俺はメシでも作っとくよ」

 

それぞれの一日が始まる。

 

倫也はコーヒーを飲みながら英梨々が来るのを待つ。外は快晴で冬らしい青い空がとても綺麗で、二階の窓からは下の街が雪化粧されているのが見える。

 

風呂からでてきた英梨々は髪を黒いリボンで結んでツインテールにしていた。ジーンズをはいて、上は昨晩の白いセーターを着ている。タイトな服装なので溌剌とした英梨々がよく映えていた。

 

「それでね。倫也。考えてみたのだけど・・・もう一度みんなで別荘にこないかしら?」

英梨々が倫也の前に座って朝食を取り始める。パンと野菜と果物。それにコーヒー。

「ここに?」

「うん。冬コミまでは忙しいけれど、年を明けたらみんな暇でしょ?どうかしらね」

「みんなの予定はみんなに聞いてみないとわからないけど・・・英梨々の家族がくるんじゃないの?」

「あたしの両親は今年もスイスらしいわよ」

 

詩羽先輩はネットがつながればどこでも仕事ができる。美智留は・・・まぁ予定があるわけがないな。ということは恵が了承するばみんなでここに来られるわけだ。

 

「・・・いいんじゃね?」

 

倫也が了承する。倫也の家に集まっても、英梨々の別荘に集まっても対して変わらないだろう。雪で遊べる分だけ楽しいかもしれない。

 

「あとは・・・あたし達の関係の説明ね」

「ん?俺たちの関係?誰に何を説明するの?」

倫也が食事を終えて、コーヒーを飲んでいる。

「何って、あたしと倫也が結ばれたことの報告をみんなにするのよ」

「・・・結ばれ・・・?」

「あら、とぼけるのかしら?」

英梨々の中では後回しとはいえ、あのタイミングでR18に分岐している。当然、今の状況では『事後』ということになる。

とはいえ、顔は耳まで赤い。

「俺としてはだな・・・英梨々とは・・・プラトニックな関係をだな・・・」

「・・・倫也?」

「・・・なんだよ」

「怖気づいたの?」

「そうじゃねーよ・・・」

「男ならはっきりしなさいよ」

「そういう問題か?」

「そういう問題でしょ。あなた・・・英梨々ルートにいるってわかってるのかしら」

「それは・・・わかってるよ」

「じゃあ、何が問題なのよ」

「確かに・・・」

 

倫也は言い返さずに食器を片付けて洗い物を始めた。

英梨々はため息を1つついて適当に掃除をする。また来る予定なので冷蔵庫の中は片付けない。

 

午前10時を回ったところで、英梨々の呼んだタクシーが到着した。

 

荷物を運びながら階段を降りる途中で、倫也が前を歩く英梨々に言った。

 

「なぁ英梨々・・・俺と付き合ってくれ」

 

少し固まった英梨々がゆっくりと振り返る。表情が少しひきつっている。

「あんた・・・ほんとにバカなの?」

「なんだよ・・・」

「もう少し、情緒とかロマンとか環境とかタイミングとか場所とかいろいろあるでしょ」

「そうだよ、いろいろあるよ。昨日の夜がそうだったんだよ!クリスマスだし、雪も降ってたし・・・けど英梨々が先に寝ただろ?」

「風邪だったんだからしょうがないでしょ!それにね、そういうクリスマスを特別視して、情緒とかロマンとか環境とかタイミングとか場所とかにほだされて了承するのは嫌なの」

「・・・どっちなんだよ」

「知らないわよ!そんなの」

もう一度、玄関の呼び鈴が鳴った。

 

玄関を開けると、英梨々はさっきまで怒っていたのが嘘のように愛嬌を運転手に振りまいている。

倫也はまた深くため息をついた。

 

タクシーの後部座席に並んで座る。最寄りの駅まで2人は何もしゃべらなかった。

別に喧嘩してしゃべらないわけじゃない。

英梨々が時々にやにやしたり、耳まで真っ赤になったりしながら、いろいろと空想にふけっていただけだ。

 

 

※※※

 

 

ローカル線の間も2人はしゃべらず、東京行きの電車に向かい合って座ると、ようやく英梨々がしゃべり始めた。

 

「いいわよ」

 

英梨々がぽつりとつぶやく。

それからポシェットの中のソーダ飴を1つ取り出して、倫也に渡した。

倫也はそれを受け取って口に放り込む。英梨々はゴミを倫也から受け取ってポシェットにしまう。

「付き合うって何なのかしらね」

「知らん」倫也が即答する。

「まっ、そうよね」英梨々だってよくわからない。

電車が揺れている。車窓からは畑か田んぼだったところが一面雪になっているのが見える。

 

「キスとかするのかしらね・・・」

英梨々が手に顔を乗せながら外を見ている。自分でつぶやいたことに気が付いていないようだ。

倫也はギクリとした。

合意もなく、英梨々の頬にキスをしている。

英梨々がチラリと倫也を横目で見る。倫也は目をそらす。

 

「ああん。もう!」英梨々がクシャクシャと髪を両手でかいている。

「ど・・・どうした?」倫也が驚いて声をかけた。電車の中は空いていて、ボックスシートを占領している。

英梨々はそのまま座席に横になって、1人悶えていた。

倫也はその奇妙な動きをしている英梨々をじっと眺めている。気持ちはわからんでもない。

 

「倫也・・・」

「ん?」

「やっぱり・・・エッチとかもするのよね」

「知らん」

「しないの?」

「知らん。聞くなそんなこと」

「あああっ」

英梨々が声を殺しながらうめいている。

「お前、大丈夫か」

「わかんない・・・」

「安心しろ。とりあえず英梨々が描くエロ同人のようなことはしないから」

「そりゃそうでしょうよ」

「・・・たぶんな」

「変態」

「お前にだけは言われたくない」倫也が少し笑う。

英梨々も少し落ち着いたようで、座り直す。とはいえ倫也の顔がまともに見られない。

 

 

※※※

 

 

倫也の家の前に着いた。

「寄ってく?」

「えっ・・・昼間からヤルの?」

「何をだよ・・・」

「ナニをでしょ?」

「・・・そんな下ネタ全開キャラになるなよ」

「・・・そうよね・・・ごめん」

倫也が鍵を開け中に入る。英梨々は無言であとから玄関にはいる。寄る理由もないが、寄らない理由もない。

 

倫也がキッチンでぼんやりとお湯が沸くのを待っている。

「何飲む?」

「倫也と同じものでいいわよ」

「じゃあ、インスタントのレモンティーな」

「うん」

 

英梨々はリビングのソファーに座ってくつろいでいる。

倫也はカップに粉を入れてお湯を注ぎ入れる。

 

テーブルの上にカップを置く。

「ありがと」と英梨々が言った。

「なんかさ・・・今回は順調に進んでいるような気がする」

「いつも、途中までは順調なのよ。それはいいけど、みんなと会うのは明日でいいわよね?」

「ああ、戻ってきたことはもう伝えているしな」

「あんたからちゃんと紹介してよね」

「わかった」

「で、なんて紹介するのよ?」

「いや、何も考えてねぇーよ」

「練習しておいた方がいいんじゃないかしら?」

「いいよ・・・」

「ほら、言ってみなさいよ」

「いいって」

 

倫也が照れながらカップの紅茶を飲む。レモンの香りがする甘ったるい飲物だ。

お互いに知っている友人に彼女を紹介するというのもなんか変だ。

かといって黙っていてもおかしいか。

 

「んんっ」倫也が咳払いをする。

英梨々がにやにやしている。

 

「この度は英梨々さんとお付き合いさせていただいてます」

倫也がカチコチになっていう。顔が真っ赤だ。

 

「親じゃないんだから。・・・うちの親が相手のほうがあがらなそうね」

「面識あるからなぁ・・・」

「まっ、いいわよ。詩羽にはこっそり伝えておくから」

「ふむ」

 

TVをつけると年末のニュースが流れていた。

「溜まっているアニメもみないとな」

「今日、見る?」

「とりあえず荷物片づけて・・・それから冬コミの確認して・・・」

「アニメ見ながらできそうね。手伝うわよ?ポップアップとか作るんでしょ?」

「それなら、英梨々には看板作って欲しいな」

「いいわよ」

「上、行くか」

「うん」

 

倫也がマグカップをもって、階段を上がっていく。

 

英梨々は下で立ち止まって、倫也の後ろ姿をじっと眺めていた。

それから一呼吸を置いて、階段をトントンと上がっていく。

 

そこからは2人の時間。

 

(了)




・・・あらやだ。倫理君と澤村さんがオチをつくってないじゃないの。

2人が飲んだレモンティーとかけまして、迷子の子供が無事に帰ってきた時の親心と解きます。
その心は。
ほっと(ホット)するでしょう。
蛇足かしらね。


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【5日目】さぁ、付き合ってることを恵に報告しようか

心が痛むんだ。


27日。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

「大丈夫か?英梨々」

「大丈夫よ・・・さすがにここで筆が鈍るわね・・・」

「そりゃあ・・・まぁな」

「まさか一年かかるなんてね」

「・・・そうだな」

「じゃ、もう一度いくわよ」

 

英梨々と倫也がいつもの喫茶店の前に立っている。

締め切りギリギリになって迷惑かけたことを謝る事と、倫也と英梨々が付き合うことになったのを報告するためである。

中には恵と詩羽が待っている。

 

カランコロンッ 入口の鈴が鳴る。

「いらっしゃいませー」とあのウエイトレスさんもひさびさの登場。

 

奥の窓側の席に、恵と詩羽が向かいあって座っていた。何やら和やかな雰囲気で談笑している。

 

「お待たせ。いろいろごめんね。恵、詩羽」

「ううん」

「あら澤村さん・・・ごきげんよう」

「何よ、その挨拶?」

詩羽が席を立ってドリンクバーの方へ歩いていった。

席が開いたので、英梨々が奥に座り、倫也が・・・英梨々の隣に座った。

 

「そう?そっちに座るんだ?」恵が呟く。顔はフラットだ。トーンも正常。

 

「よっ、トモ。澤村ちゃんも」

明るい声をかけてきたのが、通路をはさんだ隣のテーブルに座っている美智留だ。

「あら、氷堂美智留も来ているのね」

「そりゃあ、サークルメンバーだし?」

隣に伊織が何食わぬ顔で座っている。

「やぁ、澤村さん。倫也君もひさしぶり」

「なんで伊織がいるのよ」

「ん~。一応・・・面白そうだしー?」

「澤村先輩、こんちわ」

「で、波島出海まで・・・あんた受験生でしょ?」

「もう、勘弁してくださいよ。何度のこの期間をさまよっていると思ってるんですか?澤村先輩がこの時間軸で繰り返すと、わたしは受験生になって迷惑なんです」

「・・・知らないわよ、そんなこと」

英梨々ルートを考える上で重要な時期なのでしょうがない。

 

「ご注文はどうなさいますか?」

「ドリンクバー二つ。あとアップルパイ1つ」

「かしこまりました」

ウエイトレスが注文を受けて去っていく。

 

「加藤、いろいろありがとうな」

倫也が恵の目を見て、お礼を言った。

「・・・仕事は仕事だし」

ブラックコーヒーすする。愛想はない。

 

「無事に完成して良かったわよね。締め切りさえ守ればいいのよ」

詩羽がドリンクバーから戻ってきて、恵の隣に座る。

 

「・・・」恵は無言でさっきまで向かい側に座っていた詩羽を見る。

「あら、席が変わったわね」詩羽は別に気にせずに、もってきたコーヒーに口をつける。

 

「あれ、大丈夫そう・・・?」

「これからですよ」

美智留と出海が小声で話す。伊織はクールにメロンソーダーを飲んでいる。

 

「そこ、ひそひそ話さないでくれるかな?」

恵のトーンが重い。

「倫也―。ドリンクバー行こう」

「そうだな」

2人が立ち上がって、ドリンクバーへと向かう。

 

「あ・・・あんたから切り出しなさいよ・・・」

「わかってる・・・」

英梨々がグラスを置いて、コーラとメロンソーダをいれた。

「1UPキノコいるかしら?」

「大丈夫だろ・・・」

「自信あるのね?」

「・・・さっき、カメたくさん踏んできたから」

「・・・先が思いやられるわね」

倫也は迷ったがホットコーヒーにした。

 

恵は窓の外を見ている。

英梨々と倫也が席に戻って座る。アップルパイがもうテーブルの上においてある。

「そ・・・それでね、恵」

英梨々が緊張している。

 

「ナニ・・・かな?」

顔は極めてフラットだ。目にハイライトがないことを除けば問題はない。

「加藤さん、落ち着いて」隣の詩羽が小声で囁く。

 

アニメだと、英梨々が満面の笑みで倫也にくっつきながら、謝っていた気がする。

もう痛々しくて見返す気も起きないのだが・・・

どういう神経だとああなるのか、わからない。

 

とはいえ、原作リスペクトも大事だ。

ここは英梨々にがんばってもらう。

 

「倫也、もう少しこっちに寄りなさいよ」

「ん・・・こうか」

倫也が英梨々との間をつめると、英梨々が倫也の腕にしがみついた。

控えめな胸元が倫也の腕に押し当てられる。

倫也は顔が赤くなる、英梨々はいざやってみると緊張がとれて、ニヤニヤが止められない。

 

ゴゴゴゴゴゴゴッ・・・

何かJOJO的効果音が聞こえる。

これは気にしない。

 

「・・・あのさぁ・・・」恵が声を殺しながらつぶやく。

「加藤さん、サブヒロインに徹しないといつまでも終わらないよ」詩羽がアドバイスする。

「・・・うん」顔はフラットだ。

 

「ほら、倫也から言いなさいよ」英梨々がうながす。

「あ・・・あぅ、うん。えっとさ・・・恵、詩羽先輩」

「何かしら?倫理君」詩羽が応える。

「えっと・・・俺たち・・・ゴクリッ」

倫也が恐る恐る恵の顔を見る。フラットだ。刺すような目線で倫也をまっすぐ見つめている以外は問題はない。

 

「・・・付き合うことになったから」

倫也が重い空気に負けずに言った。

 

「おおっ・・・」美智留が隣で感嘆している。

「ついに言いましたね・・・」出海も驚いている。

いったい何度リテイクしたことか。

伊織はケータイ画面を眺めながら笑いをこらえている。

 

「そう?」恵がフラットに答える。

「そう、そういうわけだから、恵。ずっとこじれていたんだけど・・・元鞘に収まったっていうか・・・」

英梨々が早口でまくしたてる。

「ん?英梨々。大丈夫?」恵が心配そうに聞いた。

「何?風邪ならもう治ったわよ。お陰様で」

「ううんそうじゃなくて、頭・・・大丈夫?」

「熱も下がったわよ」

「英梨々?そんなことじゃななくって・・・」

恵が顎を少し上にあげて、目のところまで暗い影の斜線を落としながら・・・

「人の旦那と付き合って、大丈夫なのかなぁ・・・?って聞いているんだけど」

倫也が固まる。

英梨々も顔がひきつった。

詩羽は下を向いて頭を横に振っている。

 

「クククッ」伊織が笑いを堪えきれない。

「やっぱいつものですね・・・」出海があきれている。

「加藤ちゃんだしね・・・さて、もう一度っと」美智留は慣れている。

 

「そこ、茶化さないでくれないかなぁ・・・?」

恵が非難めいて隣の席にいった。

 

「またリテイクね・・・澤村さんと倫理君はお店に入ってきたところからでお願い」

「・・・はい」

倫也と英梨々が立ち上がる。

「このままでいいから、ちょっと倫也くん・・・そこ座って」

「この時期は安芸くんでは・・・」倫也が呟く。

「そういうつまらないこと言わないでくれるかなぁ・・・?」

「あの・・・加藤?」

「加藤じゃない」

恵の表情が崩れた。眉間にしわを寄せて怒っている。

もっとも怒った顔もあざとカワイイ。そこら辺はぬかりがない。

 

「まぁまぁ、落ち着いて加藤さん」詩羽がなだめる。

「いいかしら?このままサブヒロインを演じて英梨々ルートを終わらせないと・・・また2人は高1とか小学生とかからやり直すことになるわよ?」

「中学生時代はないんですかねー?」出海が横やりをいれる。中学生時代だと出番がある。

「そこ、ややこしいから黙ってなさいよ」英梨々が釘を刺す。

「はーい」出海は黙る。少し大人になった。

 

「ねぇ、倫也くん・・・?これが答えなの?」

「加藤・・・」

「加藤じゃない」

「恵・・・」

「この、わたしの目の前で倫也くんと英梨々の付き合う報告を受けるのが正しい選択なの?倫也くん言ったよね。わたしも英梨々も幸せにするルートを探しているって、英梨々ルートに進むのも、英梨々が幸せになるのも、英梨々がメインヒロインでも構わない。でも、これが答えなの?わたしはそれでどうすればいいの?泣くのを堪えてフラットな表情で・・・ヒックッ」

そこまで言って、恵はテーブルに伏せてしまった。涙はかろうじて見せない。

 

「・・・めぐみ・・・」倫也の表情が崩れる。

英梨々はぎゅっと、倫也の腕をより強く抱いた。

その表情は堅く、恵以上にフラットで・・・やっぱり泣くのを我慢していた。

 

「笑い事じゃないですね・・・」出海が呟く。

伊織は手を顔に当てて考えに沈む。やはり話が重くなる・・・いや、それ以上に問題なのは・・・加藤恵が譲らないことだ・・・このままだと巻き添えをくらう。

美智留は意外と平気で、何食わぬ顔でケーキを食べていた。

「波島兄ちゃんも覚悟が足らないんじゃないー?」美智留はケーキを食べながら言った。

「どういう意味です?」出海が首をかしげて聞き返す。

「ううん。こっちの話だから」

「ん~。僕は関係ないと思うのだけど・・・?」

伊織が努めて冷静に答える、最近はずっと裏方で物語を作っている。表面にでてきたのはずいぶんとひさしぶりだ。

美智留は伊織の肩に、ガシッと手を置いて、「女性の方が少し早く大人になるんだよ。男の子よりも」と言った。

「どういう意味ですか?美智留先輩」

「そうね。波島ちゃんもその内わかるよ」

そういって、最後のケーキの一口を食べ終えた。

 

不安に震える英梨々に倫也は優しい声で、「大丈夫だ。このまま英梨々ルートは完成させる」と言い切った。

その言葉に恵がピクッと少しだけ反応した。

「頼む。サブヒロインになってくれ。そうじゃないと・・・英梨々ルートがいつまでたっても完成しない」

恵は顔を上げずに、「あのさー・・・自分がどれだけゲスな発言しているかわかって言ってる?」

「それでもだ」

「・・・冬コミ参加しないから」

恵がその場で消えた。

 

詩羽が深々とため息をついた。

「ちょっと・・・倫也、どうするのよ?」

「どうするもなにも・・・大丈夫だといったろ?」

「だって恵、冬コミにこないって・・・」

「そうね倫理君。ここで怒らせてしまったら計画が台無しよ。許可を得て那須まで行き、締め切りを守って冬コミに参加する。そうすることで加藤さんは怒ることができずに打ち上げに来るというのが当初の目標でしょう?」

「その通りですよ」倫也がはっきりとした口調でいった。

 

美智留と伊織は黙っている。

2人の様子がおかしいことに出海は首をかしげたがさっぱりわからない。

隣の夫婦喧嘩なんだか、不倫現場なんだかよくわからない事情とまるで結びつかなかった。

 

「いいか?英梨々。まずだな、原作でも恵と英梨々は喧嘩している」

「えっと・・・確か、あたしが移籍して裏切ったからよね?」

「そうだ」

「それで?」

「そこで恵は英梨々との仲を修復させるために、『ガールズサイド』というものを書いてもらっている」

「ラノベのことよね」

「そうだ。アニメではカットされていた気がするがな」

「あれって確か・・・恵と温泉にいくんだっけ?」

「そんな感じの話だった気がする・・・が、まぁそういうことだ」

「何がそういうことなのよ?」

「いいか、冬コミは30日。今日が27日。まだ二日もある。二話分もあるんだぞ?」

「そうね。で?」

 

倫也は、英梨々の肩に手をポンッと置いて、大きくうなずいた。

「任せた」

 

「はぁ?あんたバカなの?ここであたしに全部なげるの?ヘタレなの?」

「いや、これがきっとメインヒロインの試練なんだよ」

 

英梨々が口をポカーンと開けていた。

 

彼氏がヘタレなのは重々承知だろうに。

 

(了)




「大丈夫。君ならきっとできるよ!」なんてセリフを言われたことありますか?


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【6日目】仲直りのためのカボス

作り直して、これ3本目だから。


28日。晴れ。

 

英梨々は恵と仲直りのミッションを達成すべく、恵の部屋へとやってきた。

丸い白テーブルをはさんで2人は向かい合わせに座っている。

フェミニンなクッションがいかにも恵のセンスで、英梨々には少しくすぐったい気がする。

 

「カボスはちみつティーなんだけど、どうかな?」

「カボス?」

「うん」

 

カボス。スダチの従姉妹みたいな緑色の柑橘類。

英梨々がガラスのカップに入ったカボスはちみつティーを一口飲む。香りもいいし、はちみつの甘さもちょうどいい。

「おいしいわね」

「そう。よかった」

「で、なんだってカボスなのよ」

「ほら、柚子が売ってなかったから、代用したんだよ」

「柚子?」

「うん。柚子。知らない?」

「いや、知ってるけど・・・」

いったい恵が何の話をしているのかよくわからない。

出されたお茶の話題を掘り下げ過ぎたか、こういう対人コミュニケーションの匙加減が英梨々はよくわからない。

 

恵もカップのお茶を一口飲む。刻んだカボスの皮をはちみつに漬けてみたが、思ったよりもずっとおいしくできた。

「まぁ、柑橘類ならなんでもいいだろうけど」

「そう?」

「で、英梨々。何の用だっけ?」

「えっと、恵と仲直りをしようと・・・」

「わたしと英梨々が喧嘩しているのかな?」

「そうじゃないけど、恵が昨日のことで帰っちゃったから・・・」

「そうだっけ?」

恵がペラペラと印刷されたレポート用紙を確認する。年末で忙しすぎて英梨々ルートどころの騒ぎではない。

「・・・」

「ああ、うん。そうだね。でも、もういいよ」

「いいの?」

「うん。英梨々が倫也くんと付き合うことになったんだよね?あの日の那須別荘で」

「そうなのよ」英梨々が顔を少し赤らめて、照れながら認める。

「じゃあ、それで英梨々ルート完成して、物語は終わりでいいんじゃないかな」

「そうだけど、そうじゃないのよ」

「?」

恵は内心のイライラを表に出さないように気を付けている。

 

「あたしはみんなで楽しく冬休みを過ごしたいと思っているんだけど」

「それで?」

「恵にも参加して欲しい」

「どんな立場で?」

「えっと・・・サークル仲間として」

「でも、冬コミでサークルはいったん解散するよね?」

「そうね。でも、また次のゲームを・・・」

「それは倫也くんや英梨々の自由だけど、わたしは受験に専念するよ」

「なんでよ」

「なんでって、受験生が受験に専念して何がおかしいの?」

「・・・」

 

英梨々がカップのお茶を口にする。下に溶けきらなかったはちみつが溜まっていて甘さが濃い。

あと、カボスとスダチの差がよくわからない。

 

「でも、冬休みに少しぐらい遊んだって平気でしょ」

「そりゃ学生には冬休みかもしれないけど、個人経営の小さな会社に年末年始の休みなんてないんだよ?いつも締め切りと資金繰りに追われてるし」

「あんた、高校生よね」

「そうだっけ?今何年生?」

「二年生」

「英梨々、何回二年生やれば気が済むの?」

「できれば、今回で最後にしたいわね」

「変な会話」

「そうね」

 

恵がスケジュールを確認している。

「それで、どうしたいの?」

「恵には冬コミの後の忘年会の参加と、あと年末年始に旅行にいきましょうよ」

「旅行?」

「うん。あたしの別荘なんだけど」

「那須だっけ?」

「うん」

「英梨々ルートで?」

「うん」

「どんな必要があるの?」

「必要とかそんな堅苦しいのじゃなくて、英梨々ルートに進んだあとも、恵とは友達でしょ?」

「さぁ?」

「だって、原作とは立場が逆になるわけでしょ?」

「ちょっとまって、英梨々。倫也くんと結婚するの?」

「英梨々ルートってそういうことよね?」

「違うんじゃない?」

「なんでよ」

 

「だって、倫也くんはわたしのだよ?」

 

恵が断言する。ぶれない。

 

「倫也くんはわたしと『子育て編』をするから」

「そう」

「・・・そう・・・って、英梨々はそれでいいの?」

「いいもなにも、別の物語よね?」

「そうだけど・・・」

「なら別にいいんじゃないの?その代わり、この『英梨々ルート』では、恵はもう少しちゃんとサブヒロインらしく振る舞いなさいよ」

「・・・」

 

恵がお茶を飲み干して、カップの底をみている。はちみつが残っているのが気になった。お湯を注いで溶かそうか迷う。

 

「それでいいや。ブレッシングソフトの忘年会と慰安旅行ってことでいいよね」

「参加するならいいんじゃない。それで成立するなら」

「・・・そう。英梨々の作りたい物語がよくわからないなぁ」

「あたしは別にみんなで楽しく過ごしたいだけよ」

「お正月はメインヒロインになるから」

「何よそれ。ほんと恵って頑固よね」

自分でも自覚している。

 

「じゃ、そろそろオチいくよ」

「オチがあるのね?」

「うん。整いました」

「どうぞ」

「サブヒロインにならないわたしとかけまして、冬至の日のお風呂にカボスを浮かべると解きます」

「冬至の日のお風呂にカボスを浮かべると解く、その心は?」

「どちらも譲らない(柚子じゃない)でしょう」

 

英梨々がじっとグラスの底のカボスの皮を見つめている。

「えっ・・・そのためのカボスティー?」

「・・・うん。カボスはちみつティーだよ」

「はちみつ関係ないわよね?」

「うん。でもね、おかげで大変なことがわかったんだよ」

「何かしら?」

「私たちってね、血液型がない!」

「へぇ・・・それがはちみつと何の関係があるのよ?」

「だって、そしたら、はちみつとかけて、英梨々の血液型と解くみたいにできるでしょ?」

「なんで?」

「どちらもB(Bee)でしょう。みたいな」

「・・・」

「せっかくの二段オチなのに」

「だったら、二年生の時の恵のクラスでもよかったんじゃないのかしら?」

「えっ?」

「あなた、B組よね?」

「・・・」

「・・・」

「英梨々、もう一回これ作り直そうか」

「もうええわ」

 

(了)

 

 

 




寒い季節になってきましたね


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【7日目】忘年会企画

この辺から、英梨々ルートと言うよりもブレッシングソフトの未来編みたいになります。


29日。冬コミ前日。

 

倫也の部屋にダンボールが積み重なっている。

 

「けっこうな量だな・・・」倫也が不安になる。

「大丈夫よ、これぐらいは売れるはずだから」

「ガレージの人気サークルじゃないんだぞ?」

「あたしのサイトでも宣伝しているし、倫也のサイトでも期待されているし・・・」

「全部売れたら倫也もちょっとした小金持ちよね」

「3千円で500枚だと150万か・・・」

「高校生なら豪遊できるわよね」

「そうだな」

 

倫也と英梨々がダンボールを眺めながら会話している横で、恵はお茶をすすっている。

「150万じゃ契約社員1人の給料も払えない金額だし、会社経営だとその10倍は売っていかないと厳しいという現実がブレッシングソフトの未来には待っているんだよね・・・」

恵の発言が妙にリアルティーがある。

「それに特典つけないと、今時は円盤なんて売れないし・・・違法DLすぐされちゃうし」

「そういう重たい話はやめようね!?」倫也が止める。

恵がフラットな顔でお茶を一口飲み、さらに続ける。

「子供たちは大きくなって、教育費も大変だし、ゲームが売れなくても家賃も人件費もたえず出費するし、ヒットしたゲームの貯金が目減りするのを通帳に記入する気持ちが倫也くんにはわかる?」

「あの・・・」

「それなのに、『物語のためだから』とかいって、幼馴染と浮気するし」

そして深くため息をつく。

「あの・・・恵!?俺ら高校2年生だからね」

「あっ、うん。わたしの勝手な妄想だから気にしないで、どうぞ倫也くんはこのまま英梨々ルートに進んでね。わたしのことなんか気にせずに」

顔も声もフラットフラット。

 

「倫也、看板はこんなんで大丈夫よね?」

英梨々が強引に話題を変える。

「ああ、いいと思う。人は集まりそうだな」

「集まれば売り子も美人揃いだし、売れるわね」英梨々は自信がある。

「任せた」

 

倫也が心配なのはゲームが売れるかどうかではなかった。

問題は恵が打ち上げに参加するかどうかだ。

 

「打ち上げどーすんのー?この時期だと予約とらないとどこも入れないんじゃない?」

美智留がベッドの上でくつろいでいる。さすがにゲーム完成したのでギターは持っていない。

「焼肉屋を予約はとっているけど」倫也がちらりと恵の方を見るが、目線は合わない。

「それって高級焼肉店かしら?」倫也の机に座ってノートPCで仕事している詩羽が聞いてきた。

「ええ、まぁ・・・形成肉を扱っていないようなお店ですよ」

「そう、じゃ私も参加しようかしらね」

倫也はチラリと恵を見る。反応はない。

「えっ、150万も売り上げがあるの!?」とかなり遅れて美智留が驚く。予算の心配をしていたからだ。

「全部売れればだからね?在庫抱えるかもしれないし・・・諸経費もあるし・・・」

「でも、10分の1を売り上げても15万じゃん。遠慮なく焼肉食べられるよね」と美智留が能天気に言っている。

「それだと赤字だけどな」

倫也は恵を見る。

 

「恵は焼肉でいいかしら?」聞きにくいところを英梨々が切り込む。

「ああ、わたしはちょっと・・・最近、脂の焼ける匂いを嗅ぐと気持ち悪くて・・・」

「あらそう・・・大丈夫?だったら店を変えましょうか。和食なら平気かしら?」

「うん」

「じゃあ、お店変えるわね」

英梨々がスマホをいじりはじめる。

 

倫也は恵が参加することを承諾したのでほっと一息ついた。またごねるかと思って気が重たかった。

「あのさー倫也くん。わたしをそういうめんどくさい女扱いしないでくれるかなぁ?」

「心読まないでっ」

ちょっと笑顔が戻る。

 

「あら、どこも満席ね・・・こうなったらしょうがないわね」

「やっぱりどこもダメか」

「叔父の料亭があるから、そこを頼んでみるけど・・・ちょっと高いのよね」

「まぁ・・・金は任せろ」

「じゃ、電話するわ。VIPルームが抑えてあるはずだから」

「VIPルームってなに!?」

倫也の不安をよそに、英梨々が電話を始めた。

倫也はやりとりを不安そうにみている。

 

「よし、決まったわ。倫也、こみこみで15万でいいってさ。安く上がってよかったわ」

「ふぁ!?」

「何よ、それぐらい払いなさいよ。あたし達をただ働きさせて、利益も全部自分のものにするつもりかしら?」

「いや、そうじゃないけど、なんでそんなに高いの・・・」

「赤坂の料亭で単価3万なら、妥当だと思うけど。一応飲み放題つけてくれるって」

「ソフトドリンクだよね!?」

 

その時、倫也のケータイが鳴った。相手は出海だ。

「あの・・・倫也先輩」

「どうしたの出海ちゃん?」

「ずるいです」

「何が!?」

「なんでいつもわたしだけ仲間外れなんですか?」

「受験生だよねぇ?」

「だって、いつも英梨々ルート作成ってこの時期じゃないですか?わたしが何度受験生をやっているとおもっているんですか?」

「えっ、怒ってるの・・・?」

「別にぃ・・・ただ、食べ物の恨みは怖いですよ?」

「いや、でも・・・どんな理由で参加するの・・・」

「そんなの知りませんよー」

「ちょっと待ってってな。かけ直すから」

倫也が一度電話を切った。

 

「出海ちゃんが参加したいって・・・」

「はい?なんで断らないのよ。この時期は関係ないでしょ?」

「英梨々・・・やっぱり物語が迷走してきているんじゃ・・・」

「えっ、あたしのせいなの?」

英梨々が首をかしげる。

「詩羽。どういうこと?」

「そうね・・・澤村さんの望みがみんなで楽しく過ごしたいなら、波島さんをはずすべきじゃないのかもしれないわね」

「そういうこと・・・」

「むしろ、なんでみんなと楽しく過ごしたいのか、私は理解しかねるわけだけど」

「別にいいじゃない?倫也、波島出海の分も予約とるわよ?」

「おうぅ・・・って、3万なんじゃ・・・」

「DVD60枚分でしょ」

「そう考えると安いなっ@@」

倫也がちらりと恵の方をみる。

 

恵は通帳をじっと眺めて、「倫也くん。中学受験のための塾代って年間130万らしいよ?」

「へぇ・・・それ、関係ないよね!?」

 

「えっ、そんなにかかるの?」ベッドの上の美智留が話にのってきた。

「いや、お前、その話広げるの?」

「だって、公立だったらそんなにお金かからないじゃん」

「なんかね、中高一貫校がいいらしいんだって、大学の付属とかなら受験も回避できるし、長い目でみると安いみたいな話だけど」

「ほんとに?」

「ちょっと、お前ら何の話してんだよ・・・」

倫也がため息をつく。

 

「倫也―。予約増やしたわよ」

「ああ、ご苦労」

「6名20万でいいって」

「なんか計算合わないよね!?」

「だって、偶数なら向かい合って鍋用意できるっていうから」

「鍋?」

「しゃぶしゃぶコースに変えたんだけど・・・」

「それはともかく、さっき恵が肉は食べられないみたいなこといってなかった?」

「ああ、お構いなく、脂の焼ける匂いが気持ち悪いだけど、しゃぶしゃぶなら平気じゃないかな」

「肉は食べられるんだ?」

「ううん。野菜食べるよ」

「しゃぶしゃぶコースで野菜だけ食べるの!?」

「しょうがないよ。倫也くんが英梨々ルートに予算をふりわけるから、そういうことになるんだよ」

「いや、意味がわからないからね?」

「トモ。心配しなくって、二人前ぐらいあたしが食べられるから平気だよー」

「いや、そこは心配してないからね?」

 

詩羽がノートPCを閉じる。

「よかったじゃない倫理君。加藤さんが打ち上げに参加してくれて」

「そうですね」

「それにあなた・・・加藤さんといる時は、いつもの倫理君に戻るのね」

「・・・」

「私としては、ちゃんと澤村さんを幸せにしてあげて欲しいのだけど」

「心配ないわよ詩羽。あたし、ちゃんと幸せだもの。ね?倫也」

英梨々が腕にまとわりついて、笑っている。

 

恵はその様子を見て、やっぱり面白くないなと思った。

そして、オチを作る気がない英梨々と倫也にだんだん腹が立ってきた。

 

「英梨々の倫也くんとかけまして、わたしと倫也くんと解きます」

「その心は?」と詩羽が反応する。

「どちらも、離したくない(話したくない)でしょう」

「さすが加藤さんよね」

 

(了)




副社長としての自覚が責任感を産むんだろうか。


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【8日目】ブレッシングソフトの忘年会

ほんと、一年間お疲れ様でした。
作中人物にもお礼を言いたいです。


30日。冬コミが無事に終わって、打ち上げ会場の料亭にみんなが集まった。

 

下駄番に靴を預けると、女将に誘導されて奥座敷へと案内された。

不慣れな倫也はあたりをキョロキョロと見る。

「高そうな調度品ですねー」と出海が置いてあるものに興味を示す。

他はあまり動じていない様子でコートをハンガーにかけていく。

 

席順は左側が倫也、恵、出海。右側が英梨々、詩羽、美智留である。

 

「とりあえずビールでいいかしら?」英梨々がみんなに聞く。

「居酒屋じゃないんだからメニューぐらいは目を通したいわね」

「そう?ならあたしも選ぼうかしら」

「まずは・・・アルコールであることを注意しようね」と倫也が軽くつっこむ。

「あんたそんな細かいことをこだわるからハゲるのよ」

「だから、そのハゲるの前提なのやめてくれよ」倫也がおでこを触って気にしている。

「わたしも、ちょっと今はアルコールを控えているから・・・梅ジュースがいいかな」

「あら、日本酒好きな加藤さんにしては珍しいわね」

「ちょっと飲みたいけど」

「高2だからね!?まじめにやろうね?」

「トモー。出海ちゃんが参加している時点で無理だと思うよ。あたしは・・・とりあえずビールで」

「じゃあ、ビールの人」

恵以外が手を上げた。

「結局、倫也も飲むんじゃない」

「いや・・・飲んでいいなら飲みたいよ」

「そういう一貫性のないところが倫也くんなんだよ・・・浮気性というか」

「それ関係ないよね?」

 

英梨々が注文をする。

まもなく、肴と飲み物が運ばれてきた。

倫也がグラスをもって、英梨々がビールを注ぎいれる。次に倫也が英梨々のグラスにビールを注いだ。

白い泡の量がちょうどいい。

「じゃ、みんな用意はいいかしら?倫也。挨拶お願い」

 

倫也が立ち上がる。

「今日はこうして無事にみんなにお集まりいただき・・・」

「倫也。固い」

「みんなの参加する忘年会ができてほっとしてます。思い起こせば一年前にはじまったこの同人も読者を減らしつつ一年がたち・・・」

「トモ、長い」

「・・・とにかく、今日はゲームが無事に完売したのもみんなのお陰なので、今日はささやかながら・・・いやいや、大奮発して労いの食事を」

「ノーギャラで女を働かせるとか、倫理君も相当なジゴロよね」

「いや、ちゃんと払うよ?いらないっていうから」

「倫也先輩、お金の話はよしたほうがいいですよー」

「そうだね。では、グラスをもって・・・乾杯!」

「乾杯!」

と、みんなでわいわいグラスを合わせる。

 

「かんぱい」と恵が小さな声でいって、最後に倫也のグラスと合わせた。

「ジュースでいいの?」

「うん。でも、この梅ジュースちゃんとおいしいよ」

「そう?良かった」

「少し飲んでみる?」恵がグラスを倫也に渡す。

「ん・・・」

「そこ、油断している隙にいちゃいちゃしないでくれるかしら?」

英梨々が釘を刺す。

「ふふふっ」と恵がおかしそうに笑っていた。

英梨々は倫也のグラスにビールを足す。

 

「お腹空いたー」と美智留が足を崩している。

「なんかお品書きが豪勢ですよー」

出海がさっきからお品書きを読んで、読めない字を詩羽に聞いている。

「うみねずみでナマコってよむんですね。海鼠。」

「食べたことないなー」

 

みんながコリコリと海鼠を食べる。

一口食べては感想言っている。

ナマコの他にも、いくつかの小品が並べてある。

お品書きと見比べながら、少しずつ口に運ぶ。

「もう、今はお腹いっぱい食べたいよー」と、美智留が空の皿を見ている。

「それ、ヒーロー側のセリフですよ」

「あたし、日本酒にしようかな」

「あら、私も蔵出し原酒のこれを・・・」詩羽がメニューを指さす。

 

続く、御造りが運ばれてきたときに、英梨々が日本酒をオーダーする。

「グラスは・・・えっと、5つで。恵は何か追加する?」

「ううん。まだ平気」

 

「うわぁ・・・」出海が御造りを見て感動している。

「なんかリアクションが初々しいわね」と余裕の英梨々。

「みんなどんな人生を歩んできた高校生なんですか・・・」と不思議そうに出海がいう。

「まっ、あたしはお嬢だし、詩羽は高校生でも稼いでいるしね」

「それに波島さん、別に感動していないわけじゃないのよ?ちょっと疲れているのよ」

「おばさんくさいですねー」

「そうね」と素直に認める。3歳違うとけっこう離れている。

 

「これ、海老の頭が焼いてあるけど食べられるのー?」

「食べられるわよ。ぼたん海老よね」

「あとは、中トロと平目とミル貝?青みはなんだろう・・・イワシ?」

恵はひとつずつ食べながら確認する。あまりお品書きは確認していない。

「あー、やっぱり飲みたいな」

「飲んだら?」と倫也が促す。

「うーん」

倫也がお猪口を恵にそっと渡す。

恵は手にとって匂いを嗅ぐ。

「あっ、これ、いいお酒だ。少しフルーティーだし・・・」

「一口ぐらいなら・・・大丈夫じゃない?」

「うーん。やめとく。また夢になるといけねぇ」

「芝浜落ちのボケしてもわからんと思うぞ?」

「そうかなぁ・・・」

恵は飲まずにお猪口を倫也に返す。

 

「ほんと、2人でいちゃいちゃと・・・」詩羽がため息をつく。

英梨々はあまり嫉妬もせずに、ニコニコしながらお刺身を食べている。

 

「なんか和やかですねぇ」

「そうだねー。いいんじゃない?こんなところでギスギスしててもしょうがないし」

「らしくないというか、盛り上がらないというか」

出海はそう言いながらも上手いお酒を飲んで機嫌がいい。

 

やがて、テーブルに鍋がセットされる。

2人に1つだ。

大皿にサシのはいった上等な肉が並べられているのが運ばれると、美智留と出海のテンションがMAXになってはしゃいでいる。倫也も驚いている。

「やっぱりこれって、A5等級とかの肉なの?」

「倫也、そういう価値基準はつまらないわよ?」

「いや、そうかもしれないけどさー」

「倫也先輩、お品書きには松坂牛って書いてありますよ」

「ほう・・・」

 

恵が肉を見て、ちょっと口元を抑える。

「恵・・・大丈夫か?」

「ううん・・・ちょっとごめん」

恵が席をたって部屋から出ていく。

 

倫也が心配そうに後ろ姿を見送る。

「あたし見てこようか?」と英梨々が気遣う。

「いや、大丈夫だろ。詩羽先輩、席変わってもらえますか?」

「あらいいけど。どうしたのかしら?」

「何よ、倫也、あたしの隣に来たいわけ?」

「そうじゃねぇーよ」

「そんなに強く否定しないでよ」

「ごめん。ちょっとな」

 

それから倫也は女将に頼んで、野菜を追加する。

「連れが今日は肉がダメそうなんで、すみません」

「でしたら・・・フグでも用意いたしましょうか?」

「えっと、ちょっと考えてみます」

 

倫也が肉の大皿を美智留に渡す。

「食べていいぞ、こっちの分も」

「おお、太っ腹」

「倫也先輩は食べないんですか?」

「ん・・・鍋に肉が入るのがダメそうだから、野菜鍋食べるよ」

「・・・優しいですね」

「トモ、無理はよくないぞー」

「別に無理はしてねぇーよ」

 

英梨々と詩羽は黙ってしゃぶしゃぶと食べ始めていた。

やがて、恵が戻ってくる。

「大丈夫?」英梨々が心配そうにきく。

「うん。ごめん、心配かけて」

 

恵が席に戻る。目の前に倫也が座っている。

「あれ?」

「ここは野菜鍋にしようぜ」

「あっ、・・・うん」

「なんかフグも頼めるらしいぞ?」

「ううん。いい」

恵がしいたけをプカプカと鍋に浮かべる。

 

少し静かな時間が流れる。

 

「肉、うまっ」美智留が感嘆している。

「とけますね・・・」出海がしみじみと食べている。感極まったか。

「すみませーん。ご飯くださーい」美智留が大きな声で頼む。

「こういうのは最後に香の物と一緒にご飯がくるんだぞ」と倫也。

「えー、あたしら高校生だもん。ご飯とお肉だよー」

「それ、酒飲みながら言うセリフじゃないよな」

「わたしもご飯くださーい」と出海も追従する。

「もう、自由にしろよ」

「トモ、肉はこっちで食べれば?」

「うん。倫也くん、無理しないで肉食べていいからね?」

恵が野菜を煮ながら言う。

「ああ、うん、適当にするよ」

 

やがてご飯が運ばれる。

「トモ、肉追加していい?」

「大皿二枚食べたよね!?」

「だって、しゃぶしゃぶ肉っていくらでもはいるじゃん」

「えっと・・・予算が」

「倫也、気にしないでいいわよ。すみません。肉の大皿あと二枚追加でー」

「日本酒ももらえるかしら?」

「それと日本酒も」

「躊躇ねぇな」

「ケチケチしてもしょうがないじゃない。出る時は出るのよ。150万分食べれるわけでもなし」

「そうだな」

 

※※※

 

宴もたけなわといったところ。だいぶ酔いが回っている。

 

「やっぱり稼いで、贅沢をする。それが人生よね」

「うわ、詩羽が人生語りだした。おじさんくさっ」英梨々が軽くひく。

詩羽は目が座りながら、隣の倫也と恵の様子を見ている。

恵の機嫌がだいぶいい。

 

「はい、倫也くん」

野菜をとりわけて、倫也の皿に入れる。

「ども」倫也は黙々と野菜を食べる。

「澤村さん・・・やっぱり、間違ったんじゃないかしら?」詩羽がつぶやく。

「そうでもないわよ」

英梨々もさっきから楽しそうな2人の様子をつっこみもせずに静観していた。

 

「マロニーちゃんとそろそろ食べごろかな」

「ずいぶん庶民的なものも入っているんだな・・・」

「春雨かな?」

「いや、俺はわからん」

「はい、倫也くん」

「ども」

恵がニコニコしている。梅ジュースのあとはレモンソーダを飲んでいる。

 

「トモ、フグも頼んでいい?」

「美智留。自重しろ」

「ともやしぇんふぁーい。おさけもういっぽんいいれすかー」

「出海ちゃんは中学生設定ってこと忘れないですね?」

「そうれしたっけぇ@@」

出海が目を閉じる。

「美智留、ちゃんと介抱してやれよ・・・」

「まっ、しょうがないな」

美智留が出海を壁にもたれさせた。

 

「倫也。肉食べた?」

「いや」

「そう・・・、じゃこれ」

英梨々が最後の一枚をゴマダレにつけて、倫也の口元に運ぶ。

「・・・」

「ほら、あーんしなさいよ」

倫也が恵を横目で確認する。固まっていた。

「倫也・・・?」

倫也が英梨々の方をみると、その青い瞳が少し潤んでいた。

「あーん」倫也が口を大きく開ける。

英梨々がそこに肉をいれた。

 

「・・・肉、うまっ」

「でしょ!」

英梨々が笑っている。

 

「最後まで貫けばかっこいいのにね」

と恵がぼそりと呟く。

「不可抗力だろ・・・」

「どーだか」

恵の目からハイライトが消えている。

 

「トモー。すき焼きもできるみたいんだけど」

「まだ喰うのかよ!」

「冗談よ。ほら、雰囲気悪くなりそうだったし」

「そんなことないよー」と恵。

 

詩羽はため息を1つ。

 

※※※

 

帰り道。

 

恵の家に前にタクシーが止まる。

「じゃ、恵。また明日ね」

「うん。・・・って、明日!?」

「いわなかったけ、いくわよ・・・那須別荘」

「ああ・・・うん」

恵はごねるのをやめた。

「ごちそうさま、倫也くん」

「ああ、今日はいろいろとありがとうな」

恵が儚く微笑んで、小さく手を振った。

 

タクシーの中には倫也と英梨々が座っている。

恵はしらふだし電車で帰るといったのだが、英梨々が途中だからとタクシーで送ってくれた。

タクシーのドアが閉まる。

素直にお礼を言えなかった恵は2人の乗ったタクシーを黙って見送った。

 

タクシーに揺られながら、「お腹いっぱい」と、英梨々がお腹をさすっている。

「そうだな。うまかったな」

「倫也が優しいのはわかるけど、やっぱり肉も食べたほうが良かったじゃない?」

「食べたろ」

「そうね」

タクシーの窓が曇っている。

 

「倫也の家の前でいいかしら?」

「いや、英梨々の家の前でいいよ」

「どうして?」

「少し夜風にあたってから帰る」

「そう」

 

年末の東京は道路も空いて静かだ。

街も少しだけ暗い。

 

やがて2人の街に近づくと、英梨々はそこでタクシーを止めた。

カードで清算をすませる。

 

「ここでいいのか?」

「うん。あたしもほら・・・少し風にあたりたいし」

 

2人が並んで歩く。

「今日はよく星みえるわね」

英梨々が見上げている。空は澄んでいて、オリオン座がはっきりと見える。

「ほんとだな。これだけ見えるなら・・・しばらく眺めて目が慣れたら他の星もみえるかもな」

「カシオペヤも北斗七星もある」

あといくつかの星が見えた。

 

「手・・・手つないであげてもいいわよ?」

倫也は返事もせずに、英梨々の左手を握る。

 

それから2人は無言で少し歩く。歩きなれた街並みも年末は少し様相が違う。

とても静かだった。

 

倫也の家の近くになる。

「難しいものだな」

「考えすぎなのよ」

英梨々が赤いマフラーを右手で触っている。少し寒い。

恵の登場する英梨々ルート。どこかやっぱり底抜け明るい話にはならない。

 

「家まで送ってくよ」

「いいわよ」

英梨々が手を離すと、よろめいてしまった。

倫也がそれをそっと支える。

「だいぶ飲んだな・・・」

「たまには・・・ね」

英梨々がポケットからフリスクを出す。それから数粒出して倫也に渡した。

「ども」

「しゃぶしゃぶ味ってわけにもいかないでしょ」

「さぁな」

倫也がフリスクを食べる。英梨々も食べる。

 

家まで送っていくと別れたところで話が終わるから。

今回はここでおしまい。

 

(了)




オチ?知らないれすよぉ~。
ちゅーう!ちゅーう!
って、こんな風に終わるから澤村しぇんぱいは澤村しぇんぱいなんれすよ~@@


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【9日目】社員旅行編スタート

うん。高校生役をやることに飽きてきているんだな。


31日。大晦日。今年も終わる。

 

昼間の空いている高速道路をアイシーテイルでキャラデコされたピンクのワンボックスが走っている。

 

「で、なんで伊織が運転しているんだ・・・」

倫也が不安そうに尋ねる。今更細かいことにつっこみたくはないが・・・

「那須別荘の利便性の悪さよね、何をするんでも車がないと始まらないわよ?」

「そういう問題か?」

「昨日、お酒を飲んでおいて倫也は何を言ってるのかしら?」

「まて、英梨々・・・お前の作りたい物語ってこういうのなのか?」

「そうね。リアリティーが大事なのよ。7人で行くなら交通費の面から考えても車がベターだわ。幸い社用車があったわけだし」

「高2だよな?」

「高2よ?」

「それ、リアリティーないよね?」つっこみにも力が入らない。

 

「倫理君って、頭固いんじゃないかしら?リテラシーの問題を無視すれば、別に年齢に関係なく、運転もできるし、お酒だって飲めるのよ」

詩羽は2列目の左、助手席の後ろに座っている。

「違法だろ・・・」

「バカねぇ。倫也、捕まるような面倒くさいイベント起こさなければ、なんの問題もないじゃない」

英梨々は二列目の真ん中。右には恵が座っていて、シートベルトを緩くしめて眠っている。

「そうそう、トモはいろんなことに捕らわれすぎなのよ。心無罫礙 無罫礙故っていうでしょ」

「なんだそれ・・・」

「あら、およそ氷堂さんらしからぬ難しい言葉を使うわね」

「いやぁー、禅を真面目に勉強したら般若心経にはまっちゃって」

倫也はつっこむ気もしない。どこにそんな地下アイドルがいるんだ・・・いや、むしろ探せばいそうだな。

 

「そんなことより倫也先輩!むしろ後部座席にわたしと2人でいることに驚いてください。これはもう、出海ルートなのでは?」

「出海ちゃん、手にもってるもの言ってみて?」

「ダンボールです・・・しかもけっこう重い」

「俺のは?」

「クーラーボックスです」

「足元は買い物したものがスーパーの袋にはいってところ狭しと置いてあるよね」

「そうですね・・・」

「まぁ、そういうことだ」

「わかってますけど、そこはあえてポジティブにですね」

「ただ、ヒエラルキーが下なだけだと思うが」

倫也がため息をつく、後部座席に荷物の山と一緒に倫也と出海が座っていた。

 

「しょうがないでしょ。7人分の食糧を何日分だと思っているのよ」

「現地で買えよ・・・」

「年末に普通のスーパーなんてやってないわよ」

「妙なところリアルだな」

「だから、そういうディテールが小説に厚みと信憑性をもたせるんじゃない」

「なら、伊織に運転させるなよ・・・」

「細かいわね。文句があるなら降りなさいよ。伊織、止めなさい」

「澤村ちゃん、運転中話しかけないであげて、けっこう緊張してガチガチだから」

「あら・・・そう?」

伊織はハンドルを両手でもって、しっかり運転していた。

美智留がポッキーをもって、伊織にときどき食べさせていた。

 

「次のインターでチェーンを着けるから、みんなはトイレをしっかりすませておいて」

目的地は雪が降っている。主要道路は車が通り除雪させているとはいえ、念のため必要だ。

「ほんと、細かいな」

「いやいやトモ。安全第一でしょー」

「そうだな・・・まかせるよ」

手にもっている荷物が重い。

 

 

※※※

 

 

インターのガススタで伊織がスタッフに聞きながらチェーンを着けている。

倫也たちはトイレを済ませ、立ちながら缶コーヒーなど温かい飲物を飲んでいた。

「恵のこと、起こしたほうがいいんじゃないかしら?」

「寝てるし、いいんじゃないか?」

「雪道だと止まる時は止まるし、トイレは済ませたほうがいいわよ。一応、携帯トイレもはいっているけれど、この人数と密度でそれは・・・」

「どんなイベントだよ。わかったよ、起こしてくる」

倫也が車に戻って恵を起こしに向かう。

 

「恵。おい、恵」

「んにゃ・・・」

けっこう深く眠ったようで、半目を開けて倫也の方みる。

「あっ、倫也くん。着いた?」

「いや、まだ途中だよ。今チャーンを付けているんだけどな。これから雪道になるからトイレは済ませた方がいいって英梨々が」

「そう」

倫也がシートベルトのスイッチを押す。恵はシートベルトと体の間に手をいれて緩めていた。

カチャンと音がして外れる。

「これ、コート。外は寒いからな」

「うん」

そういって、倫也が先にでる。

「伊織、大丈夫そうか?」

「まぁ平気さ」

「すまんな、疲れたら言ってくれ、運転変わるから」

「はははっ、高2なんだろ?」

「お前がいうな」

倫也が苦笑いをする。

昔ほどではないが、まだまだ英梨々の物語は歪な気がする。

 

ガチャッとドアが開いた、恵はベージュのロングコートを着ている。

「うわっ、ほんとに寒いねぇ」吐いた息が白くなって、すぐに消える。

倫也は手をそっと差し出して、恵はそれに軽く手を添えてから、トンッと車から降りた。

「トイレはあっち」倫也が指を示す。

ガススタとインターは少し離れている。

「うん」

「あっちだと自販機や売店もあるから、何か飲むといいよ」

「うん」

そういって、恵は遠くを見つめる。自販機の前に英梨々たち四人が立ちながら話をしているのが見えた。

それを確認してから恵は手をぎゅっと強く握った。倫也が動揺する。

「俺はもう済ませたから」

「ちゃんと手・・・洗った?」

「洗ったよ!って、なんだそれ」

「だってぇ・・・」吐息が風でくるっと回ってから消える。

恵が手を離した。

「んっ~~」と、両手を上にあげて背伸びをする。それから、「サブヒロイン、サブヒロイン」と呟きながら、みんなのいる方へと向かっていった。

倫也はその後ろ姿を見送る。

 

「倫也君も大変だね」

伊織はチェーンを1つずつタイヤの前に並べている。

「お前もな」

「僕はただの肉体労働の脇役さ」

「そうでもねぇだろ・・・お前、美智留と仲良さそうだし」

「いやだなぁ、ただの脇役さ。変な勘ぐりはよしてくれないかな」

「まぁいいや。そん時は頼むよ」

「はははっ」

倫也がポケットの中の缶コーヒーを取り出して、開けて飲む。

恵がみんなと合流して、談笑しているのが見えた。

 

 

※※※

 

 

「伊織、そろそろ速度緩めて、右折するわよ。信号機がないから気をつけて」

後ろの座席から身を乗り出して英梨々が指示をしている。

「そこ」

「OK」

伊織が一度止まって、前後を確認しながらゆっくりと右折する。

スキーシーズンで少し道路は混んでいた。

「ここから道が少し悪くなるから気を付けて」

車がガタガタと揺れる。

「けっこう急な登り坂だし、チェーンついてても油断しないで」

英梨々が細かく指示を出す。

「あの白い建物よ」

 

『シャトーリリィ』と名付けられた二階建ての建物。

周囲の別荘地の建物に比べても異彩を放つ。イメージはノイシュバンシュタイン城らしい。

大きくはないが、レンガ作りの庭園も含めて贅を尽くしているがわかる。

 

「側道に大きな溝があるから、道路の真ん中に止めていいわ。どうせ人なんてこないから」

伊織が車を止める。

「お疲れ」と英梨々が一言。

「伊織ありがとうな」

みんながお礼を言う。伊織は大きく息を吐いた。無事についてよかった。

 

「さぁ、みんなで荷物をリレーするわよ」

ぞろぞろと降りていく。

英梨々が階段を少し上がって、解錠してからドアを大きく開いたままにした。

後ろから美智留が荷物を抱えて登ってくる。

「そのまま二階まであげてくれるかしら?」

「はいよー」

続く出海がもっている荷物を英梨々があずかり、玄関に置く。

出海はまた車に戻っていく。

「英梨々、人数いるから往復しなくても大丈夫そうだぞー」

「そう?わかったわ。じゃあ先に上がってるから、二階までお願い」

「OK」

 

英梨々は中にはいって、オイルヒーターと床暖房のスイッチをいれた。

それから、あちこちの水道の蛇口をひねり、水がでるか確認する。凍ってはいなかった。

お風呂のお湯もいれる。

 

二階に出海が上がってきた。

「うわー。中もしゃれてますねー」と出海が感心してキョロキョロしていた。

吹き抜けの天井にはシーリングファンがついていて、ゆっくり回っている。

「少し狭いけど」

「普通の家よりも広いじゃないですか・・・」

「そう?そうね。倫也の家ぐらいはあるわよね」

 

二階にはリビング、キッチン、バスルームと生活空間が広がっている。

そこにロフトがついている。

一階は寝室が二部屋ある。

 

みんながぞろぞろと荷物を抱えてあがってくる。

英梨々がテキパキと指示をする。

「キッチンはわたしが片付けるよ」と恵がキッチンで手を洗ってから冷蔵庫を開ける。

「そう?じゃあ、お願いするわね。そうだ、お湯も沸かさないと」

「わたしやるから、英梨々は他お願い」

「うん」

「俺らは?」

「倫也たちは適当に座ってなさいよ。今、お茶入れるから」

「悪いな」

「澤村先輩。こたつ着けていいですか?」

「勝手にどうぞー」

そういいながら、英梨々は袋から荷物を出して恵に渡していく。

恵はそれを冷蔵庫にしまっている。

 

倫也たちも洗面所で手を洗ってから座る。

6人用の長いこたつがある。

それとキッチンの隣に、6人掛けのダイニングテーブルもある。

出海がTVのスイッチもつけるが、つかなかった。

「ああ、出海ちゃん。コンセントかアンテナとか抜けているから」

そういって、倫也は立ち上がってコンセントをいれ、配線する。

「そうなんですねー」

「山間で雷も落ちるからな」

「へぇー」それから出海がチャンネルを確認する。

 

伊織は疲れた様子でこたつに入っている。

「伊織はこたつが似合わないな」

「そうかい?」本人は気にしていない。

たぶん、襟がついてアイロンのばっちりきまったシャツがこたつとミスマッチなのだろう。

 

「あと倫理君。ここってネット可能なのかしら?WIFIの設定をお願いしたいのだけど」

詩羽がノートPCをすでに広げている。

「ええできますよ」

倫也がPCの設定を進める。

「ということは倫也先輩、ネットTVもつなげれば見れるのでは?」

「そうだな。出海ちゃんTVっ子なの?」

「だって、ローカル放送しかここ映りませんよ」

「波島ちゃんは勉強した方がいいと思うぞー」

美智留がお茶を運んできた。

恵と英梨々が片付けしているので、お茶ぐらいは自分でいれたのだ。

「サンキュー」

倫也がお茶を一口飲むと、やっと一息付けた。

「もう受験生はいいですよー」と出海が非難めいていう。

 

「さてっと・・・」

恵と英梨々がテーブルの方に座ってお茶を飲んでいる。

「詰めれば、7人ぐらいこたつに入れそうだけど」

「いいわよ。別に。これからの段取りを言うわよ」

「おう」

 

英梨々が紙を取り出して読み上げる。

「えっと、女子チームはこれからお節料理をつくって盛り付けね。夜ご飯も並行して作るけど、夜はソバだからそんなにすることはないようね。詳細は恵にしたがってくれればいいから。男子は寝室の掃除とベッドメイキングをお願い。終わったら先にお風呂を済ませて置いて。お湯が沸くのに少し時間かかるから先に済ませておいて欲しいのよ」

「OK」

「あと、部屋割りもお願いね、倫也」

「・・・おう」

「部屋割り?」と伊織が首をかしげる。

「じゃあ、お茶飲み終わったら始めるわよ」

時刻は4時になって外が紅く染まり始めていた。

 

 

※※※

 

 

「部屋割りはだな・・・下の寝室が二部屋あるんだが、1つはダブルベッドなんだ」

「ご両親用?」

「そうだな。まぁシーツとか替えてあるからそこは平気なんだが」

「それで?」

「もう一つが布団だな。3組まで用意してある」

「それで5人か」

「そうなんだ。こんなに大勢くることを想定していないからな」

「で、僕らはどうするんだい?車中泊かい?」

「その手もあったか・・・いや、この上のロフトにマットレスがあって、寝袋で眠れる」

「なんでそんなもんが」

「ロフトで寝袋とか憧れるだろ?」

「なるほど」

「あと1人は、このこたつだ。6人用の長いのだから、意外と快適に眠れる」

「なら、僕と倫也君でロフトかこたつを決めればいいわけだね?」

「まぁ・・・そうなんだがな」

倫也が考え込む。伊織も考え込む。言わんとすることがわかってきた。

 

「なんでこんな部屋割りなんだい?三室用意したらよかったんじゃないかい?澤村さんの別荘なんだから自由に作ればよかったのに」

「まぁそうなんだがな・・・実物を元に作ってるからな・・・」

シャトーリリィは実在する。

「そういうことか・・・」

「でな。どうすればいいと思う?」

「これ、相当シミュレートしたんだね?」

「まぁ・・・そうだな」

「で、何が問題になったんだい?」

「美智留」倫也が一言でばっさり。

ずっと余裕をもっていた伊織の目が泳ぐ。

「そうか、そういうことか・・・」

「で、出海ちゃんがこたつで寝る流れになるんだがな・・・」

「それはそれで問題だね」

「で、いっそお前らが最初からダブルベッドでな」

「はははっ、冗談はよしてくれないか」

「割と本気なんだ」

「で、誰がこたつで寝るんだい?」

「それなんだよ・・・問題は」

倫也がキッチンでわいわいやっている女子チームを見る。

二階にこたつ。梯子登ってロフトに倫也。他は一階だ。

こたつは当然、英梨々になる。

なら、最初からダブルベッドで。そんな恐ろしい・・・

 

「はっはっはっ、手詰まりじゃないか。車で寝たら?」

「他人事でもねぇだろ・・・」

「ん~。なら、しょうがない。加藤さんに丸投げしよう」

「はい!?」

 

 

※※※

 

 

恵はみんなに指示をしながらお節料理のお重を完成させた。

恵は天ぷらを揚げて夕食はみんなで天そばだ。

夜はテーブルでトランプをしながら、順番に風呂に入っていく。

みんながお風呂にはいって、寝る支度も終わったら、

「今年もお世話になりました。来年もよろしくお願いします」

と、みんなそろって読者に言う。これで完成だ。

さすが恵。うまくまとめた。

 

 

※※※

 

 

「あのさー、倫也くん」

「はいぃ・・・」倫也がなぜか正座している。

 

 

「夜のことなんか妄想しているから、余計なことになるんじゃないかなっ?」

 

 

恵が笑顔で今年を締めくくる。

 

目が笑ってない。

 

(了)




お泊り編なのに、夜がないなんて・・・


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【8日目夜】誰と寝るべきか?それが問題だ。

お泊り会とか楽しいよね。
男子がいて、女子がいて、みんなでわいわい過ごしてさ。
夜は男女別で悶々と過ごすんだ。


31日大晦日。夜。

 

東京と違って夜はちゃんと夜になる。

外は外灯もなく真っ暗闇でとても静寂だった。

23時を回っている。このまま年を明けるのを待つか迷ったがみんな疲れているので眠ることしたのだ。

 

「で・・・なんで英梨々が隣にいるんだ?」

ダブルベッドの上に倫也が寝ている。右側に英梨々が横になって倫也の腕にしがみついている。

「だって、どう部屋分けするかは大事でしょ?」

「それで」

「恋人同士のあたし達が同じベッドなのは当然じゃないかしら?」

「うん。当然じゃないな」倫也は即答する。

「やっぱり倫也は恵を選ぶのね・・・」

「それもおかしいよな」

「優柔不断よね」

「そういう問題じゃないよね?」

「あっ、美智留なら問題ないのか・・・」

「ないけど、あるよ!」

「細かいわね。あたしじゃ不服なのかしら?」

「そういう問題じゃないだろ・・・で、上には誰が寝てるんだ?」

「伊織と美智留。布団も一組もって言ったわよ。こたつもあるし、床暖もあるし平気よ」

「もう、そこは隔離されているんだな」

「人数多いといろいろ面倒じゃない」

ふむ。技量の問題だな。会話の使い分けとかな。

 

「ほら、今年も最後だし、なんなら少しぐらいならいちゃいちゃしてもいいわよ」

英梨々の顔が近い。吐息が倫也にあたる。

「できるかっ!」

「隣に恵たちがいるから静かにしないとね・・・」

英梨々がにやりと笑う。

「なぁ・・・英梨々」倫也はため息まじりに言う。

「なによ?」

 

「隣っていうか、ベッドの横に立っているんですけど!?」

 

恵がフラットな表情のまま見下ろしている。もちろん目にハイライトはない。

 

「あら恵いたの?」英梨々は平然という。

「あのね、英梨々・・・」

「冗談よ冗談」そう言いながらリモコンで電気のスイッチをつける。

隣の部屋のとの仕切りが折りたたまれて、今では大きな一部屋になっている。

 

倫也が起き上がって、「出海ちゃんごめん。変わってくれる?」と声をかけた。

出海は大きくのけぞってから、ぴょんと器用に立ち上がった。

ピンクの寝袋から顔だけ出している。

何か楽しいらしく、体をくねくねさせて「た~らこ、た~らこ~♪」とハミングしている。

 

「ほら、出海とっとと倫也と代わりなさいよ」

「えっ~いやですよ~。寝袋楽しいじゃないですか。初めてなんですぅ」

「だってさ、倫也。じゃあ、あんたは床で寝なさい」

「そうだな」

倫也はベッドから降りて、布団の敷いてある部屋の足元のスペースに横になった。

床暖が弱くついているので、固いことを除けば意外と心地がいい。

 

「代わりますよ・・・倫也先輩。だれかジッパー外してください」

恵が近寄ってジッパーを下げると、出海が寝袋からでてきた。

「なんか、年末やるようなイベントじゃないんじゃないかなぁ・・・」あくびを交えて恵がぼやく。

 

倫也も疲れているらしく、寝袋に黙々と入ってジッパーを閉めた。

「おやすみ」といって、目を閉じる。

 

「倫也先輩がさっきまでわたしの入ってた寝袋に入るとか、なんかエッチィですねぇ!」

「はいはい出海ちゃん、もうそういうのはいいから、おとなしく寝よ?」

「あの、さっきから恵先輩、目が怖いですよ。ハイライト描きましょうか?」

恵が顔をペチペチと叩く。フラットフラット。サブヒロインサブヒロイン。と念仏のように唱えている。

 

「ほら出海。早くこっち来なさいよ」

「はーい。わたし澤村先輩と同じベッドで寝るんですか?」

「そうよ。あたしが百合のなんたるかを教えてあげるわ」

「わたしノンケなんでけっこうです!」

「はいはい。早くしなさい」

英梨々がベッドの片すみによる。

出海がとりあえず、もそもそと同じ布団にもぐりこんだ。

「えっと、お邪魔します」

「おやすみ」

英梨々がつまらなそうに背中を向けてつぶやく。

 

「霞ヶ丘先輩。そろそろ寝るんで電気消していいですか?」

「あら構わないよ」

詩羽は布団の中で本を読んでいた。枕元のランプが光っている。

 

部屋の電気が消える。

恵はやっと自分の布団に戻って横になった。

詩羽も枕元のランプを消した。

 

しばらく時間が経つと、詩羽の寝息が聞こえる。

恵はまだ眠れない。倫也も床が固くていまいち寝心地が悪かった。

 

「ちょ・・・ちょっとやめてください澤村先輩」

暗闇の中から小さな声が聴こえる。

「何よ、素直に離しなさいよ」

「離すわけないじゃないですか?」

「往生際が悪いのよ」

「ちょっと・・・もう」

 

「・・・倫也くん。起きてる?」

「ああ」

「百合展開?」

「いや・・・違うだろうな」

 

「澤村先輩。布団全部取らないでください!」

出海が起き上がる。が、部屋は真っ暗だ。

 

恵が枕元をさぐってランプをつける。

「出海ちゃん・・・もう寝る時間だからね?」

「わたしは悪くないですよ。澤村先輩が布団を全部をとってたんです」

恵が起き上がると、英梨々が掛布団に包まっている。

 

「あのね、英梨々?もう寝る時間だから」

「恵~。枕投げしよ~」

「うん、そうだね・・・」

恵がしゃがんで枕をつかむと、倫也に向けた思い切り放り投げた。

「ゴフゥ!?」顔面に直撃する。「って、俺!?」

 

「もう、霞ヶ丘先輩も寝ているし、英梨々もそんな子供みたいなことしてないで寝よ?」

「だって恵ぃ。隣が出海とか、ぜんぜん面白くないじゃない」

「寝るのに面白いとか面白くないとか、ないんじゃないかな?わたしがそっちいこうか?」

「だが、断る」英梨々は即答して、恵よりは出海がましだと納得する。

英梨々が布団を元に戻して出海を中にいれた。

生活リズム的にはそろそろ目が冴えるころで、英梨々は元気だった。というよりは、少し悶々としている。

 

再び電気を消す。

 

しばらく時間が経過する。今度は英梨々も出海も静かになった。

 

※※※

 

「恵・・・起きてる?」

「何?」

かすれるような声で話を始める。

「床・・・固いんだけど」

「そう?針になってないだけいいんじゃないの?」

「あの・・・恵さん・・・」

「後先考えずに、こういうイベントするからそういうことになるんだよ」

「俺のせい?」

「知らないよ」

 

ひそひそと2人で話を始めると恵の機嫌は少しずつ良くなっていく。

 

「その布団くっつけたら、横の方スペースができないか?」

「川の字になって寝るの?」

「無理か」

「わたしはいいけど・・・ゆっくり移動してね。もうみんな寝てるから」

倫也が起き上がったが、暗すぎて見えない。目が慣れても暗い。

カーテンの隙間から見える光なんてなかった。

「恵、暗すぎて見えねぇわ」

 

部屋全体の光がパッと灯る。

「ちょっと、倫也くん電気つけないでよ」

「俺じゃねーよ」

「なーに、2人でこそこそやっているのかしらね?」

英梨々がリモコン片手に立っている。出海はベッドでおとなしく眠っている。

「英梨々、起きてたの」

「ええ、お陰さまで。別にさっきの仕返しをするつもりはなかったのだけど」

「そんなつもりはないんだけどなぁ・・・ねっ?倫也くん」

「床が固いんだよ。英梨々。布団並べれば3人ぐらい寝れるかなって・・・」

「そう?へー?そう?」

 

すでに詩羽がはだけて眠っている。寝相が悪い。

パジャマの胸元のボタンがはずれているので、豊かな谷間が見えている。

 

「倫也。詩羽が眠ってるわね」

「疲れてんだろ・・・」

「もう、こうなったら倫也くん、しょうがないから霞ヶ丘先輩を向うに移動しよう」

「恵!?」

「だって、それしか落ち着いて眠れる方法ないんじゃないかな?」

「・・・俺、1人で車で寝てこようか・・・?」

「倫也?」

「倫也くん?」

2人の目線が怖い。

「えっ・・・予定調和?詩羽先輩はどうするの?」

「運んであげて」と、恵がいう。

「俺が?」

「・・・うん」

意外な発言に英梨々が恵をみる。運ぶ?

 

倫也が寝袋からでてきて、詩羽を抱える。

いわゆる、お姫様抱っこの形だ。

 

「これ、絶対狸寝入りよね?」と英梨々が怪訝そうに詩羽を見ている。

恵はフラットのままだ。

倫也が詩羽をベッドに運んで、詩羽を下ろすと詩羽が腕を倫也の首に回して離さない。

「あの・・・詩羽先輩」

「むにゃ。むにゃ」棒読みにはっきり答える。

「ちょっと詩羽!どういうことよ」

「むにゃ。むにゃ」

恵はフラットのままだ。

「ちょっと恵、あんたまさか・・・詩羽と何か取引したわね?」

「し・・・しらないよ・・・」恵は目線をそらす。

英梨々が立ち上がって、詩羽の腕をほどいて倫也から引き離した。

「油断も隙もないわね・・・サブヒロインやめたんじゃなかったのかしら」

「むにゃ。むにゃ」

英梨々がため息をつく。

 

「電気消すわよ」

英梨々がリモコンのスイッチで電気を消した。

「暗っ!」

恵が枕元のランプをつける。

「ありがと、恵」

「ううん。英梨々、足元気を付けて」

「わかってるわよ」

「ぐえっ!」

「あら、倫也いたの?」

「わざとだろ?」

「当たり前でしょ」

 

英梨々が倫也をまたいで右側で横になった。

恵は倫也の左側で横になっている。

 

「布団の間って、なんか気持ち悪いな・・・溝が」

「倫也くん。わがままなんじゃないかな?」

「というか倫也、あんたバカなの?なんで寝袋に入っているのよ」

「いや、それはそうだろ?」

「あのさー倫也くん、こういう露骨なシーソーをせっかく演じているんだから、もう少し空気読も?」

英梨々が倫也のジッパーをおろす。

「な・・・なんか緊張するわね・・・男女逆じゃないかしら?」

「なら、やめろよ」

 

倫也がもそもそと寝袋からでてきた。

2人の間で横になる。

 

「余計に溝が気持ち悪いんだが・・・」

「自業自得じゃないかな?」

「倫也ぁー」

英梨々は甘えた声を出す。左手で倫也の右手を握る。

「わたしはぜんぜん納得いかないオチなんだけど・・・」

「サブヒロインなんだから妥協しなさいよ」

「英梨々がそれを言うかなぁ・・・」

恵が倫也の左手を右手でつねる。

「痛い・・・」

それから指を絡めて手をつないだ。

 

「3人仲良し。めでたしめでたしってことか・・・」

「悪くないでしょ」

「掛布団欲しいんだけど・・・」

「ないわよ。服を着ているだけでも感謝しなさいよ」

「どういう意味だよ・・・」

「意味深な意味で」

英梨々が自分で言ってクスクス笑っている。

 

「なんなら倫也くん。公平に真ん中から縦に切断してあげようか?」

「このままでけっこうです・・・」

 

その後、ばさぁーと布団が右からと左からかかってきた。

「おやすみ」三人が声をそろえる。

 

とても静かな時間が流れる。

やがて、掛け時計が0時を告げ、ボーンと鳴った。

 

「ハッピーニューイヤー」と、倫也の耳元で英梨々が囁く。

手は握ったままだ。

 

その隣で恵が寝息を立てている。とてもわざとらしい寝息。

 

手はつねったままだ。

 

(了)




本年もありがとうございました。

お正月は夫婦漫才をお送りします。


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【10日目】恵と倫也で夫婦漫才2022

あけましておめでとうございます


1月1日。お正月。

 

朝7時。恵はパチリと目が覚めて起き上がった。

少し冷えるかと思ったが家の中はそこまで寒くなかった。

 

隣を見ると倫也が眠っている。相変わらず寝相がいい。

その隣に英梨々が眠っている。こちらは寝相が悪く斜めになっていて布団から手足がはみでている。

ベッドの上では詩羽が布団にくるまって眠っていた。出海がその隣で寝袋にはいって体をくの字曲げて眠っている。

もう一度、倫也を見る。半分だけ布団をかぶっている。

「・・・ふむ」

とりあえず恵は納得して、二階へと上がっていった。

 

二階にはこたつの横の布団で伊織と美智留が並んで寝ていた。

あえてここは見ないふりをして、洗面所に入る。

そこで身支度を軽く整えた。

 

キッチンに行き、昨晩から昆布を浸していた鍋に弱火をかけ、冷蔵庫から小松菜を取り出して切り分けていく。できるだけ音を立てないように気をつける。

それから、水洗いしてザルで水を切る。

 

冷蔵庫から牛乳を取り出してマグカップにいれ、電子レンジで軽く温める。そこにインスタンコーヒーの粉と砂糖を少し多めにいれてカフェオレを作った。

鍋が沸くまで時間がかかる。

 

恵はダイニングテーブルに座って、窓のカーテンを開けた。

「うわぁ」感嘆する声が漏れる。

一面が綺麗な銀世界だった。庭の木にも雪が少し積もっている。

見下ろせる街並みの屋根も雪で真っ白だった。

家の前の道路には足あと1つ着いていない。

窓を触るとひんやりとしているが、凍てつくような冷たさはなかった。よくよく見ると二重窓になっている。

しばし、ぼんやりと外を眺めながらカフェオレを飲む。

 

カチャリと音がしたので振り返ると、寝ぐせのひどい倫也がいた。コーヒーメーカーをいじっている。

「あっ、倫也くん。そのコーヒーメーカー豆を挽くやつだから音がうるさいと思う」

倫也が缶を持って、「ここに挽いた豆もあるぞ?」

「そうなんだ・・・」

「恵は何を飲んでいるの?」

2人は静かな声でしゃべる。

「カフェオレ」

「いいな」

「作ろうか?」

「頼む」

「うん。顔ぐらい洗ってきたら?」

「そうだな。でも、その前に・・・おはよう」

「うん。おはよ。倫也くん」

「そして、あけおめだな」

「そうだねぇ・・・早いね一年。あけおめ。本年もよろしくお願いします」

恵が優しく微笑む。

倫也は立ち上がって洗面所に向かう。恵はその間にカフェオレを作る。

 

「はい」

恵が座っている倫也の前にカフェオレの入ったマグカップを置く。

「ありがと」と言って、倫也が一口飲む。「旨いな」

「この安っぽい甘さがいいんだよね」

「そうだな」

倫也が恵を見る。白いパジャマにピンクのカーディガンを羽織っていた。

「雪が降ってたんだね」

「静かすぎて何もわからんかったな。あとで雪だるまやかまくらでも作るか」

「うーん。やめとく」

「そう?楽しそうだけど」

「ほら・・・体冷えるし」

「・・・ふむ」

恵が立ち上がって、鍋の火を消しに行く。箸で昆布を取り出して、鰹節を投入する。

「何作ってるの?」

「お雑煮の出汁。あとでお餅焼くけど」

「おっ、いいな。餅つきとかすればよかったか?」

「ほら、あれは準備がけっこう大変だから」

「そうなんだ」

「うん」

鍋の出汁をざるで漉して、鰹節を取り除いていく。

そこに調味料をいれて、お玉で味をみる。それから少し整えて蓋を閉めた。

 

「オセチあるけど、食べる?」

「みんなが起きてからでいいよ」

「・・・うん」

恵の口元が微笑んでいる。

「オセチかぁ・・・一年たったんだな・・・」

「うん。夫婦漫才やってみる?」

「あのボツ原稿の・・・?」

「うん。また未練になるし・・・」

「けっこう悩んだものなぁ・・・」

 

お正月用夫婦漫才。作成を断念して一年が過ぎた。

まさか、こんな同人を一年も書き続けるなんて、あの時は思ってもみなかった。

 

「オセチの中身・・・言ってみてくれる?」

「えっと・・・くりきんとん」

「それ、最後で」

「最後?」

「くりきんとんって、どうやって作るか知ってる?」

「えっと、芋を煮て、甘くして、栗をいれるんだろ?あの栗って売ってるよな」

「まぁ、だいたいそう。でもお芋がね、だんだん黒ずんでみどりっぽくなるんだよ」

「あーなんか聞いたことあるな。何かいれるんだよな」

「うん。クチナシをいれると、黄色のままになる」

「へぇ・・・」

 

「他は?」

「くろまめ?」

「まめに働くとかだっけ?」

「そんなんあったよなー。昆布巻きで喜ぶとか?」

「うん。他は?」

「まだある?」

「まだまだあるよ。でもね奇数なんだって」

「そうなの?」

「奇数が縁起いいらしいよ」

「そういうの日本人好きだよな。えっとね・・・かまぼこ」

「うん」

「かずのこ」

「うん」

「あと・・・タケノコ?」

「煮物かな?」

「あるよね?」

「うん」

「今いくつ?」

「6つかな」

「あの煮干しみたいなやつ」

「田造りね」

「それそれ。あるよな、ピーナッツみたいのはいってるよな」

「そういうのもあるね」

「これで7つだし、いいんじゃね?」

「あと二つぐらい欲しいかな」

「なんで?」

「だって、お重の中身を7等分できないでしょ。だいたい9等分に区切られてるんじゃないかな」

「そうだな・・・海老?」

「海老ははいってるけど、却下」

「却下!?」

「まだあるよ」

「ん~。だてまき?」

「あるね。これが一番やっかいだよ」

「そうだな・・・」

「だてまきだてまきだてまき・・・思い浮かばなくて・・・まき・・・槇原?」

「槇原って、なんだよ・・・」

「知らない?巨人の抑えをやって、ぽかすか打たれた人」

「その槇原なら名投手だぞ・・・というか、俺らの年齢だと知らないはずだろ」

「だって、他に思い浮かぶ槇原って、どんな時も~って歌ってた人でしょ?逮捕されてたよね」

「・・・そうだっけ?で、オセチとなんの関係があるんだ?」

「あっ、脱線した。あと1つ」

「もう出ないよ・・・」

「じゃあ、酢レンコンで」

「レンコンかぁ。見通しがきくとかだっけ?」

「そそ。あとねぇ、連なるようにできるから、子孫繁栄とかの意味もあるみたい」

「ほう」

「こんなもんかな」

「できそうか・・・?」

「わかんないけど・・・」

恵が不安そうにつぶやく。

 

 

※※※

 

 

やがて、みんなが起きてくる。

「あけおめー」と挨拶を交わしている。

恵が餅をトースターで焼きながら、お雑煮の出汁に小松菜をいれて火をかける。

 

「お重・・・二つつくったけど、テーブルとこたつで別れる?」

「せっかくだし、こたつで並べましょ」

英梨々が取り皿と割りばしをもって運ぶ。

「恵先輩、お酒っていいんですかね?」

出海が一升瓶を抱えている。

「あのね、わたし達は高校生だよ?出海ちゃんなんて中学生だよね?」

「でも、去年飲んでませんでした?」

「夢でもみてたんじゃないかなー」

「出海。諦めなさい。自分だけ飲めないのはけっこう悔しいものなのよ」

「はーい」

「お茶で」恵がお茶を湯呑にいれている。

 

「美智留先輩は昨晩眠れました?」

「うん。ぐっすり。あたしはどこでも眠れるから。出海ちゃんは眠れなかったの?」

「いえいえ、わたしもぐっすりでしたよー、なんか遅くまで倫也先輩と澤村先輩がこそこそと話をしているのが気になったぐらいで、もうぐっすりですー」

「出海ちゃん、なにチクってるの!?」

倫也がチラッと恵を見る。

「ああ、お気になさらずー。隣にいたわたしも全然気にせずにサブヒロインに徹して、けっして邪魔しないように狸寝入りしてたから」

「相変わらずネチっこいわね」と英梨々がぼそり。

2人の目線がバチバチと合う。

 

「えっと、詩羽先輩は?」倫也が話題を変える。

「まだ眠ってますよ」

「伊織は?」

「上です」出海が上を示す。ロフトから伊織が顔をのぞかせている。

「あけおめ。倫也君。ちょっと仕事を片付けてしまうから、準備は手伝えないけど」

「悪いな」

「いやー、社長以下女性従業員の誰も仕事せずに僕だけ仕事しているとか、ほんとブラック企業ここに極まれりって感じで僕は好きだよ?」

「詩羽先輩も手伝ってるだろ・・・」

「あれは自分のラノベの仕事だろう・・・まぁいいさ」

伊織が顔をひっこめ、またノートPCに向かう。

 

「トモ、これ・・・ラベルを水に変えたらどうかな?」

美智留が諦めきれずに一升瓶を抱えている。

「高校生だからね?」

「もう。社員旅行編とかでいんじゃないのー」

名残惜しそうに言う。

「できたから運んでー」

恵がお雑煮を盛り付けていく。出海と美智留がそれを運ぶ。

英梨々はオセチの蓋を開けている。

 

「おおっ」と倫也が感動した。

伊織が梯子から降りてくる。

 

「倫也ぁ。やっぱり開けましょうか」

今度は英梨々が一升瓶を抱えている。

「あのなぁ・・・もう、恵に聞いてくれよ」

「どうしてそうやって人を悪役にするかなぁ・・・もう飲みたいなら飲んだらいんじゃないかな。わたしは飲まないけど」

「なんでよ。恵も飲んだらいいじゃない?」

「高校2年生なんで」

「別に高校2年生でも飲めるわよ?」

「ほっといてくれないかなぁ」

英梨々がお酒の蓋を開けると、出海と美智留がキッチンからグラスを急いでもってきた。

「うち、アル中が多くねぇか・・・」倫也がつぶやく。

「正月ぐらいはしょうがないさ」伊織は寛容だ。

「倫也はどうする?」

「俺はお茶でいいよ」

「またそうやって恵に合わせるのね」

「高校生として倫理を守ってるだけだよ」

「そっ」

 

「あけおめ~」と、ふらふらしながら詩羽が起きてきた。

「霞ヶ丘詩羽!酒の匂いで起きてくるなんて、あんたも相当よね」

「あら、なんのことかしら?」詩羽は洗面所に消える。

 

詩羽出て来るまで、みんなが待っている。

美智留と出海は酒の入ったコップを両手で握りしめて飲むのを我慢している。

手元がプルプルと震えていた。

「おい、そこまでアル中を表現しなくていいぞ・・・」

「はーい」出海がグラスを置く。

「はーい」といいながら美智留は一口だけ酒を飲む。

ペシッと、頭を倫也が優しくはたいた。

「伊織・・・こいつ大丈夫かよ」

「さぁ?でも、アル中のアイドルとか最高じゃないか?」

「お前のセンスがわかんねぇーよ」

「おまたせ」といって、詩羽がでてきて、こたつの空いている席に座った。

「席順はバラバラなのね」

「特に描写しなければ問題ないらしいですよ」

「でも、さっきの氷堂さんが倫理君に叩かれたみたいに、各自の行動をちゃんと分析すると、みんなの場所が特定できる方がいいんじゃないかしら?」

「だれもそんなこと気にしてないんじゃないかな」

恵がつまらなそうにお茶を見ている。

 

「よし、じゃあみんなグラスもって・・・乾杯!」

「あけましておめでとー」

「今年もよろしくお願いします」

美智留が無言で酒を飲み干す。

 

※※※

 

「旨いな、この雑煮」

「ありがと」

恵が微笑む。

「お節もおいしいですよー。恵先輩」

「ほら、それはみんなで作ったものだから」

「何気に食材費もけっこうかかっているわよね」英梨々が栗を箸でもっている。

「ほら、それぐらいは・・・ね?」

 

美智留が無言で一升瓶を抱えてグラスに注ぐ。

 

「ほんとに大丈夫だよな・・・?」倫也が心配そうにしている。

「はははっ」と伊織は声だけ笑っていた。

 

場がにぎわってくる。恵は迷っていた。

 

「倫也くん・・・どうする?」

「ん・・・」

「する?」

「オリジナル化でやってみるというのは・・・」

「それほどのネタでもないし・・・」

「でももう・・・4千文字超えているし、なんかいい感じで宴会はじまってるし・・・」

「そうだよねぇ」

「やめとくか」

「また一年間、悶々とするんじゃないかなー」

「恵・・・」

「とりあえず・・・いったん終わろうか」

「そうだな」

 

(了)

(再開)

 

「霞ヶ丘先輩。これ・・・どうでしょうか?」

恵が漫才のメモ帳を見せる。

詩羽はさっと目を通す。

「これだけ見てもわからないわね・・・やろうとすることはわかるのだけど、未完成でしょ?」

「・・・はい」

「そうね。出海さんと倫理君で試してみましょうか」

詩羽が軽く校正して、出海に台本を渡す。

「わたしですか?」

「そうね。とにかく元気よくやってもらえるかしら?流れがみたいから」

「・・・はぁ」人のネタをやるのは気乗りしない。

 

倫也と出海が並んで立っている。みんなが注目してみる。

「では、はじめますね」

パチパチパチまばらな拍手。

 

「倫也先輩。あけまいておめでとうございます!」

「あけおめ、出海ちゃん」

「ところで倫也先輩。お節料理って何を思い浮かべます?」

「酢れんこん」

「・・・結婚?」

「田造り」

「子作り?」

「かずのこ」

「上の子」

「かまぼこ」

「下の子」

「あとは・・・煮物にタケノコもはいってるよな」

「お腹の子」

「黒豆」

「苦労してまめに働く」

「こぶまき」

「よろこんぶ」

「だてまき」

「槇原。って槇原ってなんですか?」

「槇原は巨人の三本柱の1人で、桑田と斎藤と並ぶ名投手だよ」

「はぁ・・・」

「くりきんとん」

「クチナシですよね」

「どうもーありがとうございましたー」倫也が頭を下げる。

出海もわけらからんという感じで頭を下げた。

 

みんなが首をかしげている。

「澤村ちゃん。ワインもある?」

「氷堂美智留!ちょっと飲みすぎじゃないかしら?」

「固いこといわないでよー。ヒックッ」しゃっくりをする。

「一応、地下室にワインセラーがあるけど・・・」

 

出海が何事もなかったかのように座る。

「なんなんですかね・・・これ?どこが面白いんです?」

「そうよね。出海さんがやっても無理なのはわかっていたけど、失笑すらないとは思わなかったわ」

詩羽はつまらなそうに返却された台本を横に置く。

 

恵は台本を見て考え込んでいる。

「なっ?恵、無理しなくても・・・」

「倫也くん・・・やってみなきゃわからないよ」

「いや、今やったろ?」

恵が立ち上がって、いったん扉の外に出る。

 

「倫理君。何事もトライ&エラーをして、成長していくのよ。漫才だって最初からウケるわけじゃないわ」

「いや、漫才師になる予定はないんだけど!?」

「ほら、倫也。やる時はやりなさいよ」

「ねぇねぇ、ワインセラーいってきていい?」

「美智留はもうその辺でやめとけ」

「えっー」

美智留が空の一升瓶をのぞき込んでいる。

「しかしまぁ、ネタバレしてからやるとか、加藤さんもハードルあげたものよね」

「どうしてもおかしなのがまじって、そこだけ解決できなかったんだろうな・・・」

倫也が不安そうにつぶやく。

 

倫也は大きく息を吐き出して、恵の待機する洗面所に入って、扉を閉めた。

 

さぁはじめてみようか。『恵と倫也の夫婦漫才2022』

 

 

※※※

 

 

扉を開けて、2人が陽気に出てくる。

倫也は青で恵は赤いジャージを着ている。

「どうもー。あけましておめでとうございます」

2人で声をそろえる。

「メグでーす」

「トモでーす」

「2人合わせて、メグ&トモです」息はぴったりだ。

 

「なんかすべってません?」

出海が詩羽に呟く。詩羽は無視をする。

「あのさー、出海ちゃん。人が真剣にやっている時に水を差さないでくれるかなぁ・・・?」

「恵。目が怖い」倫也が小声でフォローする。

「あっ、すみません」出海が謝る。

美智留も酒を飲むのやめて正座していた。

そうそう、何事もメリハリとかけじめが大事だ。

 

「えっ、恵。この格好ってことは・・・なんでだろうするの?」

「ううん。しないよ。そりゃーね倫也くん。わたしだって、なんでサブヒロインなんだろう?って思う時はあるよ?でも、陽気に歌いなが自問自答できるような内容じゃないよね?」

「・・・」

「あのさ、倫也くん。漫才なんだから、黙ったらダメだよね?それってわたしがサブヒロインだって認めていることになるんじゃないかなぁ・・・そういうもんなのかなぁ・・・」恵が恨めしくいう。

「いや、えっと、そういう話なの?」

「それ。わたしが聞きたいんだけど?ねぇ、そういう話なのかな?」

「えっと・・・俺・・・どうすればいいんだ」

恵がずいっと一歩だけ倫也に近づいて、下から覗き込むようにして倫也の目をじっと見つめる。

「・・・恵」

「さぁ・・・?どーすればいんだろうねぇ?」

そういって目を閉じた。

倫也の顔が真っ赤になる。

 

「はぁ?恵あんたなにやってんのよ?」

英梨々が辛抱できずに声をかける。これは英梨々の物語で英梨々ルートの物語のはずだ。

 

恵は目を大きく見開く。瞳に輝きはなく深い漆黒の底が広がっている。

「英梨々・・・」静かで重厚な声。何事も受け付けない確固たる声。

「あたし、さっき出海ちゃんに言ったよね?真剣だから漫才中に邪魔しないでくれるかな?」

「なっ・・・」英梨々が気圧されて声がでない。

伊織が英梨々の肩をポンと叩き、首を横に振っている。

「詩羽・・・」英梨々が詩羽に助けを求めるが、これを無視して注意深く倫也と恵の方を見ていた。

 

恵が大きく深呼吸をする。

「続けようか・・・倫也くん」

「あの・・・恵。目が・・・怖い」

「それは、倫也くんがあたしのことをサブヒロイン扱いするからじゃないかなぁ」

「そんなつもりは・・・」

「したよね?物語の最初の話で」

「・・・しました」

「ねぇ、倫也くん。確かにこの物語は英梨々の物語かもしれない。英梨々ルートでわたしはサブヒロインなのかもしれない。でもさー。これ、夫婦漫才だよね?」

「そうだな」

「めおとって、ふうふってことだよね?」

「そうだな」

「わたしが正妻ってことだよね?」

「そうなるな」

「で、なんでサブヒロインなのかなぁ?まずはそこをはっきりしないと、夫婦漫才にならないんじゃないかなって思うんだけど」

「・・・そうだな」

「それにね、物語の中でサブヒロインでも、英梨々ルートを作る作者の中でサブヒロインでも、せめて倫也くんのメインヒロインではいさせてよ」

「あの・・・サブヒロイン承諾してなかったっけ・・・」

「そうだよ。サブヒロインだよ!サブヒロインだって人間だよ。あっ、なんか涙でてきた」

「ちょっと・・・恵」

恵がくるりと後ろを向いて目薬を差す。

「ちょ・・・恵」

「でね、倫也くん。聞かせてくれるかな?」

「何を・・・?」

「何・・・を?」

 

ゴゴゴゴゴゴゴッ

恵の後ろに石模様の効果音が浮かんでいる。

瞳が黒色に灰色がぐるぐると渦巻いていた。

 

「・・・恵」

「何?倫也くん」少し高い澄んだ声。クラスメートBの時の声。倫也と出会う前のモブキャラだった時を思いだす。少しはメインヒロインになれたんだろうか。

 

「俺の・・・メインヒロインになってくれ!」

倫也が声を振り絞る。とてもじゃないが英梨々の顔は見れない。

 

「うん♪」それよりも少し落ち着いたフラットな声は、どこか楽し気に弾んでいた。

背景の石が砕け散って、パァーとさまざまな花が咲いている。

そして、原作ではみせない飛び切りの笑顔。

 

「って、恵。目が・・・わらってねぇぞ?」

「さ、はじめようか。夫婦漫才」フラットな声と表情。いつもの恵。

「倫也くん・・・そこ座ってくれる?」恵が床を指さす。

「はい!?」

その後無言の圧力に負けて、倫也はその場でアグラをかいて座る。

「・・・倫也くん?」なんの感情もない声。

倫也が正座する。

 

恵は一度、自分の席に戻って座布団を拾い上げた。近くでみんなが固まっているが気にしない。軽く座布団の表面をはらい、それから倫也の前に置いて自分も正座して座った。

 

トンッと床に指をつける。

 

「倫也くん。お節料理。言ってみてくれるかな?」

「ここからはじまるのぉ!?」

「・・・」

「えっと・・・最初は酢レンコン・・・だっけ・・・」

恵はうなずく。

「そう・・・結婚だよ。倫也くん?結婚っていうのはね、自分の人生に預けるってことだよね。わたしの人生を倫也くんに預けて、倫也くんの人生をわたしに預けて、お互いに支え合って、失敗しても励まし合って、そうやって歩んでいこうって誓ったから結婚したんだよね?倫也くんの不幸はわたしの不幸で、倫也くんの幸せはわたしの幸せだよ・・・それなのに、ごめんね・・・グスン」

「恵ぃ・・・」

恵が涙声になる。もはや、嘘か本当かは倫也にはわからない。

「気づいてあげられなくて。倫也くんも大変だったと思う。仕事でノルマに追われて、納得できない作品を納品することもあったし、こっちが悪くないのにクライアントに何度も何度も頭を下げて、資金繰りだって大変だし、気が付いてあげられなかった。毎日温かいご飯を食べてもらって、がんばれって心の中で励まして、夜は倫也くんのリクエストに応えて恥ずかしいこともベッドの中でがんばったけど・・・」

「まて・・・」

「でも、倫也くんが浮気するなんて・・・そりゃあ、子供の時に好きだった幼馴染?とかいう害虫以下の人に心を奪われるなんてないと思ってたよ。でも・・・まさか、年をまたいで不倫して、さらに新しい物語早々それを認めろなんて言われるとは思わなかったよ!」

「ちょっと・・・恵落ち着いて」

恵が肩で息をしている。

「・・・次」恵が小声でいう。

「た・・・田造り」

恵がコクンと頷く。

「夏に、あんなに毎日毎日子作りしてさぁ・・・」

「オセロしてただけだよね!?」

「倫也くん。どこに裸のままベッドの上でオセロする人がいるの?」

「そういう話だから・・・」

「そう?認めないんだ」

「ほら、健全な高校生の物語だろ?今だって高2だからね!?」

「・・・じゃあ、キャラメルって何?」

「キャ・・・キャラメルはキャラメルだろ」

「どこに、0,02ミリって書いてあるキャラメルがあるのかなぁ?」

「ここに・・・」

倫也がジャージのポケットからキャラメルの箱を出して、恵に渡す。

でかでかと0.02ミリと書いてある。

「あのさ・・・こういう小細工つくって楽しい?」

「・・・それ、恵が作ってたろ・・・」

恵がガッと倫也の顔にアイアンクローを決める。

「あ・・・あの・・・恵・・・加藤さん・・・ちょっと・・・いた・・・痛い」

「認めたら?」

「・・・はい」

「次」

恵が手を離す。倫也の顔が赤くなっている。

 

「かずのこ」

「そこ、3つ同時にいってみてくれる?」

「三つ?」

「ほら、テンポ的にさぁ」

「かずのこ、かまぼこ、たけのこ?」

「上の子が小学生に上がって、下の子はまだ幼稚園で、お腹の中の子だっているのにさぁ・・・」

恵がお腹をなでる。

「えっ・・・恵・・・?」

恵が小さくうなずく。

「できたの?」

「次」

「えっ・・・えっ?恵?」

「倫也くん。次」

「くろまめ?」

「そう。子供たちや、ゲームを買ってくれたユーザーや、こんな同人でも読んでくれる読者のためにさ、苦労して、まめに働いているんだよねぇ?」

「こぶまき」

「喜ぶ顔がみたくてがんばってるんだよね。そうだよね。倫也くん」

「そうだな」

 

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・だてまき」

「槇原」

「そこはやっぱり槇原なんだな」

「槇原しかいないから、槇原だったんだよ!高津や佐々木がいないから槇原だったんだよ!」

「そう・・・だな」

「・・・」

恵が下を向いて顔を真っ赤にしている。ここだけが上手く作れなかった。

 

「今、いくつだ?」

「えっと。8つだよ」

「じゃあ、次で最後だな。くりきんとん!」

「だからね、倫也くん。これだけ頑張っているのに、それでも英梨々ルートに進む倫也くんは殺されても文句が言えないよね」

「なに言い出すの・・・恵」

恵が右手を硬質な刃物に変形させる。

「懐かしいなそれ・・・」

「物語の為にわたしにサブヒロインを強要するんだもん。夫婦漫才のために倫也くんだって死ねるよね?」

「なんで、死ななきゃならないんだよ!」

「くりきんとんと、死人には口無し(クチナシ)だよ」

 

恵の目が笑っていない。

場が固まる。

 

(了)

(再開)

 

 

「あの・・・恵。正月漫才だからね?」

「だから・・・何?」

「明るいオチで終わらせないと・・・」

「そんなの知らないよ」

恵が頬を赤らめてもじもじしている。

チラッと倫也を横目で見る。

 

「め・・・めぐみ。今日も可愛いな」

「そんなことないよぉー」でれでれ。

 

(なんかまた始まったぁ~!)と出海が心の中で叫ぶ。

美智留は足を崩して、ワインセラーにいつ行くかを考えていた。

詩羽はアクビを1つする。

英梨々はポケッー魂を抜かれている。

 

「雑煮上手かったよ!」

「普通のお雑煮だよ・・・」

「ほら、恵が作るからお餅もふっくとして・・・」

「ただの越後製菓だってば」

「それに、オセチ料理のひとつひとつがおいしいし・・・」

「規制品も多いよ?」

「なんといっても、盛り付けが綺麗じゃん!料亭みたいだし」

「ほめすぎじゃないかな」

「そんなことないって、恵がこうやって作ってくれたからお正月を迎えられたわけで」

「もう、さっきからそんな見え透いたお世辞ばかり・・・」

 

「オセチだけになっ!」

 

ドヤッ!オチたとばかりにドヤ顔で倫也が言った。

 

恵の目からハイライトが消える。

 

「あのさ・・・倫也くん?ちょっと裏いって反省会しようか?」

 

「・・・もうええわ」倫也が恵につっこみをいれ、「どうもーありがとございましたー」と声をぴったりそろえていった。

 

出海と詩羽がまばらに拍手をしている。

美智留と英梨々は立ち上がってワインセラーに向かう。

伊織が梯子を上って仕事に戻った。

 

・・・それぞれの優しさだ。

 

(了)

 




本年もよろしくお願いします。


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【11日目】雪合戦

21年で投稿したら 即投稿になってしまった作品です。
ご迷惑おかけしました。


2日。晴れ。

 

「こんなもんかしらね?」

英梨々が自分の背丈ぐらいの雪山を見ている。倫也と伊織がスコップを持ちながら息を切らしていた。

「澤村先輩。滑り台はこんな感じですかね?」

出海は倫也達の作った雪山からの滑り台を制作していた。

「斜めになっていれば大丈夫だけど・・・止まる側が大事なのよ」

「止まる側ですか?」

「そうよ。ソリなんて坂になっていれば勝手に滑るわよ。でも、このままだとそこの植栽に突っ込むでしょ」

「足で止まれません?」

「やってみたらわかるけど、けっこう勢いあるのよ。だからそこでカーブさせてから上り坂を作って」

英梨々が庭で指示をしている。

 

「まだ雪いるー?」

美智留が猫車で道路から雪を集めてもってきた。息を弾ませている。

「あと二回ぐらいかしら?」

美智留がまた道路に戻っていく。

「英梨々、カマクラ用に穴掘った雪がでるんじゃないか?」

倫也と伊織がスコップでカマクラを掘り始めている。

「そうね。それでだいたい足りるかしら」

英梨々が足で雪を踏み固めながら、滑り台を調整している。

 

一階の掃き出し窓から、恵が外の様子を眺めている。バルコニーの向こう側に倫也たちが遊んでいる。

恵はロッキングチェアに揺られながら、編み物をしていた。

賑やかなみんなの声が家の中まで聴こえてくる。

 

「加藤さん、それだとちょっとお婆さん臭くないかしら?」

「そうなんだけど・・・座って見たら意外と快適で」

編み物までするつもりはなかったが、手持無沙汰だったので始めてしまった。

詩羽はその隣で小さなテーブルの上で、ノートPCに向かっている。

「一緒に外で遊んでらっしゃいよ」

「あまり体を冷やしたくないし・・・ソリもしたことないし・・・」

「そう?スキーとかの方が良かったかしら?」

「それも・・・ちょっと無理かな。霞ヶ丘先輩は外にでないんですか?」

「仕事が一段落したらね」

詩羽が外を見ると、ソリを抱えて出海が雪山に登っていくのが見えた。

 

「行きますよー」

出海がソリに座って、滑り落ちると想像以上にスピードがでた。

「きゃー」と甲高い声で叫ぶ。

カーブをぜんぜん曲がり切れず、雪のガードを超えて植栽に突っ込んでいった。

英梨々がおかしそうに笑っている。

「ぜんぜんダメじゃねーか」

「大人の体からやっぱり勢いが違うのね」

倫也が心配そうに出海に駆け寄っていく。

「ぷはっー」

雪まみれなった出海が戻ってくる。

「大丈夫か?」「楽しい!」

怪我もなくニコニコしている。

「補強するか・・・」

倫也がスコップであたりの雪を集めようとすると、

「トモ、どいてどいて」と雪山の上にいる美智留がスタンバイしていた。

「ちょっと待ってろよ」

「平気だってばー」

倫也が適当に補強して、元の場所に戻っていく。

美智留は滑りながらも体を傾けてカーブを曲がっていく途中で吹っ飛んでいった。

ボスッと音を立てて雪の中に突っ込む。

「あはははははっ」

と上機嫌で笑っている。

 

伊織がスコップで余った雪をかき集めて、ガードの方へ放り投げる。

倫也がそれで補強していく。滑りながらコースを作りかえるのも楽しみの一つだ。

 

「倫也、いくよ~」

今度は英梨々が雪山に立っている。

「いいぞー」

英梨々が勢いよく滑り降りてくる。カーブも無事に曲がって上り坂のところで止まった。

倫也がほっとする。

「いい感じね」英梨々も満足そうだった。

出海も美智留も雪山の上にいて、けらけらと笑っていた。

 

家の中では、恵がちょっと寂しそうにその様子をみていた。

「子供じゃないんだから・・・」

「そうかしら?むしろ、私には加藤さんの方が子供っぽいというか、『けっ、こんなくだらない事やってられなねぇぜ』ってイベントに参加しない中二病っぽくみえるけど」

「・・・もう」

確かにそんな気がする。いっそ二階で仕事でもしていた方がよかったかなと思う。

 

「詩羽ぁ!恵ぃ!カマクラできたし、外でてきなさいよ」

英梨々がバルコニーから窓をガラッと開けて、中の2人に声をかけた。

冷たい空気が部屋の中にはいってくる。

「英梨々・・・鼻の頭が真っ赤だよ」

「雪で遊んでれば鼻ぐらい赤くなるわよ。早く来なさいよ」

詩羽はノートPCを閉じて立ち上がった。

「わたしはいいから・・・気にしないで遊んでて」

「そんな風に拗ねてももつまらないでしょ?」

「別に拗ねてるわけじゃないから・・・ほっといてくれないかなぁ」

「ふーん。じゃあ、暇なら何か温かい飲物でもいただけるかしら?」

英梨々が子供っぽいトーンから少し落として、挑発的に恵に言った。

「うん。ココアか、ホットはちみつレモンか、どっちがいいかな?」

英梨々は返事をせずに、みんなのところに駆けてもどっていく。窓は開けっぱなしだ。

詩羽黙って窓を閉める。

「そうね、拗ねてるっていうのは、けっこう的確かもしれないわね。加藤さん」

「だから・・・ほっといてくれないかなぁ」

恵も立ち上がって、二階へと上がっていった。

 

玄関には雪用の長靴が用意してある。

詩羽がそれをはいて外にでる。玄関のドアを閉める前に恵のことが気になったが、どうしようもなかった。

 

「おまた・・・せっ・・・わっ!?」

ズボッという音とともに、詩羽の体が半分雪に沈んだ。

英梨々と出海がおかしそうに笑っている。

「何?何これ?」

詩羽が這い上がろうとしても雪にすっかりはまっているので、なかなか出られない。

倫也と美智留でなんとか引き上げる。

「ちょっとしたお約束の落とし穴よ」

「・・・」

詩羽が何喰わぬ表情で体に着いた雪をはらう。

「子供じみているわね」

「ほら、さっさと落とし穴をふさぎなさいよ」

英梨々がスコップを詩羽に渡した。

「・・・そういうこと」

詩羽が穴を掘り返して、ダンボールで蓋をして雪で隠した。

 

「英梨々・・・」倫也が心配そうに声をかける。

「さってと、出海!出番よ」

「なんですか?」

出海が駆け寄ってくる。あっちで美智留と雪玉をたくさんつくって、雪合戦の準備を進めていた。

英梨々が雪玉を1つつくって出海に渡す。

「さぁ、いってらっしゃい」

「あの・・・澤村先輩・・・まさか?」

「その通りよ、あの家に引きこもっている恵を挑発してらっしゃい」

「嫌ですよ!殺されちゃいますよ」

「これは業務命令だから」

「・・・別に澤村先輩は上司じゃないじゃないですか・・・」

「ほらほら、はやく」

英梨々がドアを開けて、出海を家の中に押し込んだ。

「大丈夫かよ・・・」

「平気よ。拗ねてるだけでしょ」

「どうだかな・・・」

 

出海は長靴を脱いで階段を上がっていく。

二階ではチョコレートのいい香りが漂っていた。

「恵先輩。外で遊びませんか?」

「ごめん、無理だから」

「そうですか・・・」出海は後ろ手に雪玉を隠している。

「これ、ホットチョコレートできたから、みんなに持って行ってくれる?」

「えっと、恵先輩・・・ごめんなさい!」

出海が雪玉を恵に投げつけた。

 

ボスッと鈍い音とともに雪玉が顔に命中する。

それから、ぼとりと下に落ちた。

「あのね・・・出海ちゃん」恵の表情はフラットだったが、おでこはひくひくと動いている。

「業務命令で・・・その・・・ごめんさーい!」と言って、階段を駆け下りて逃げていく。

「・・・あのクソアマ」およそ恵らしくない独り言をつぶやく。

 

二階の窓をガラッ、ガシャン!と勢い良く開けた。

下では美智留と伊織と詩羽は雪玉を作っているが、倫也と英梨々は上を見上げていた。

恵はおぼんに乗せてある6人分のホットチョコレートを窓からぶん投げ、窓をピシャリとしめた。

 

ガッシャーン!と派手な音がして、バルコニーに割れた食器が散乱する。

 

「・・・おい、英梨々。マジ切れしてんじゃねーか」

「・・・やりすぎたかしらね」

 

音に気が付いて、伊織がかけよってきた。

「どうしたんだい?」

「なんでもないわよ」英梨々が平然と言う。

「あれ・・・英梨々?」倫也が英梨々の顔を見ると、目が座って怒っている。

「なんで、お前も怒ってるんだよ・・・」

「それがわからないから倫也は倫也なのよ!」

「いや・・・わかんねぇーよ」

「はははっ、倫也くんらしいや」

「伊織はわかるのかよ?」

「ん~。どうかな」といって、美智留のところへ戻っていった。

 

「倫也先輩・・・」と半べそかきながら、出海がもどってきた。

落とし穴を踏まないように、壁際を通る。

「お疲れ・・・」

「恵先輩がめっちゃキレてますけど、平気ですか?」

「さぁ・・・」倫也がチラリと英梨々を見る。

「出海、ご苦労だったわね」英梨々が出海に言う。語気が強い。

出海は知らないふりをして、美智留たちと合流した。

 

「さて、倫也。恵はどっちの分岐を選ぶかしらね?」

「ほどほどにな・・・」

やがて、玄関のドアが開けられて恵がでてきた。手には黒いキャリーバックを引いている。

「・・・」

無言のまま雪の状態を確認し、さっき詩羽の落ちた落とし穴を見抜き、ピョンと軽く飛び越える。

 

ズボッ

 

鈍い効果音とともに、恵の半身が地面に埋もれた。

 

「ふふっ、古典的な罠にひっかかるものよね」

英梨々が埋もれている恵の前に仁王立ちになって見下ろしている。

「・・・英梨々」

「落とし穴が二つあるなんて基本でしょ」

「・・・あのさぁ・・・」

「そう、恵。分岐よ。このまま挑発に乗って雪合戦を全力でするか、それとも恵の伏線を回収するために救急病院へ運ばれるか。好きな方を選びなさいよ」

「・・・」

「ちなみに今日はお正月で、読者が楽しく過ごしているわよ?どんな物語がいいか、恵が決めなさいよ」

恵はキャリーバックを放り投げて、自力で雪穴から這い上がってくる。

キッ と倫也を睨む。

倫也はそろ~とあとずさりして逃げ出す。

 

「そうだよね。英梨々の言う通りだよ。じゃ、はじめようか雪合戦」

ゴゴゴゴゴゴッと効果音がつく。

英梨々が雪玉を1つ恵に渡すと、恵は大きくふりかぶって雪玉を投げた。

逃げている倫也の後頭部に直撃する。

 

その様子を遠目に眺めていた美智留と出海は、大量に作っていた雪玉が無駄にならなくてよかったとほっと胸をなでおろした。

 

伊織は無言でバルコニーを掃除していた。

 

(了)

 



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【12日目】妙な伏線回収をする恵と対抗する英梨々の熱い戦い。

3日

 

「いたたたっ・・・」

倫也がソファーの上に上半身裸でうつ伏せに寝ている。

英梨々が背中にサロンパスを貼っていく。

「はしゃぎすぎよ」

昨日の壮絶な雪合戦で、はしゃぎすぎた倫也は全身筋肉痛になった。

「お前には言われたくねぇーな」

英梨々は右目の周りに青いアザと、少々のひっかき傷まである。

雪合戦でひっかき傷ができる理由は謎だが、戦いは同レベルでしか起こらないらしいから、何があったかは読者の想像にお任せする。

 

「倫也先輩、日ごろ運動不足だから筋肉痛になるんですよ」

出海は溌剌としていて、朝からスノーボードウェアに着替えて待機していた。

「でも、トモも無事に今日を迎えられて良かったじゃん」

同じく美智留もスノーボードの準備が完了していた。

「じゃ、そういうことで満身創痍のインドア派は置いて、僕らはでかけるけどいいかい?」

赤いウェアで統一し、サングラスをかけた伊織が言う。

「ああ、いってら~」倫也が寝そべりながら手を振る。

かくして、元気な三人は車でスキー場へと向かった。

 

「困ったわね・・・」

詩羽はこたつに入ったままノートPCとにらめっこをしている。

「どうしたのよ詩羽?」最後のサロンパスを貼り終えて、英梨々がバシッと倫也の背中を叩く。

「筋肉痛で右手がタイピングできないわ」

「あんたもどんだけはしゃいだのよ・・・」英梨々があきれる。

「詩羽先輩、音声入力を使ってみたら?」倫也が起き上がって服を着る。

「そうね・・・ちょっと設定してくれるかしら?」

倫也が詩羽の隣に座ってノートPCをいじる。

「これで、とりあえずやってみてください」

詩羽がマウスでスイッチをいれながら、しゃべりはじめる。

「その時、倫理君のいけない右手が私の首元からすべりこんできた」

「あの・・・詩羽先輩」

「驚いて声がでなかったが淡い期待を抱いていたせいか、私はゴクリッとツバを飲み込んだ」

「詩羽。何よ、その3流小説は?」

「あらやだ、R18小説の練習じゃないの。忘れたのかしら?」

「・・・あっ」英梨々の顔が赤くなる。

 

「へぇ・・・そう・・・?」低いトーンの恵の声が部屋の片すみから聴こえる。

体育座りをしながらスマホをいじっていた。

頭にたんこぶを作り、やはり小さいひっかき傷がみえる。どうしてそんなことになったかわからないが、戦いは同レベルでしか(ry

 

「恵。まだいじけているの?」英梨々が一瞥して冷めた声で言う。

「別にー」

「まっ、いいけど。あたし達はこれからパン屋に行くけど、恵も行くかしら?」

「・・・いい」

「そう。なら、何か欲しいパンは?お昼ご飯にするけど」

「じゃあ、あんぱんでお願い」

「わかった。他は?」

「適当に」

「詩羽は?」

「私も適当でいいわよ」

「じゃ、行ってくるわね」

「いってら~」と倫也が手を振る。

「あんたも行くのよ!」

「車ないぞ・・・?」さっき伊織が乗って行ってしまった。

「徒歩でいけるわよ。一時間以上かかるけど」

「遠いな・・・」

「帰りはタクシー拾えるといいわね。じゃあね」

英梨々が鞄をもって部屋からでる。

倫也は恵の方を見ると、小さく手を振っている。目線はあわせない。

怒っているよりも、こういう態度の方が倫也の胸を締め付けるが、しかたがない。

2人が玄関から出ていく音がした。

 

「一緒に行かなくてよかったのかしら?」詩羽が恵に気遣う。

「まぁ、物語のためだし・・・」

「そういうプロ根性は尊敬するわよ。それで何かアイデアがあるのかしら?」

「ぜんぜんないんだけど、だからといってみんなでスノボーもちょっとしんどいし」

「そう。それで?」

「伏線って、伏線として作る場合と、あとから何かを探してそれとなく回収する場合があるって聞いたことがあるんだけど」

「そうね。特に連載を引き延ばす時なんかには使う技法ね」

「それで、今回はそれをやってみようと」

恵がバックからガチャガチャのカプセルを1つ取り出して、こたつの上に置いた。

「あら、ずいぶんと物持ちがいいのね」

「なんか捨てるに捨てられなくって」

「でも、読者はそんなの覚えてないんじゃないかしら?」

「そうかもしれないけど・・・」

 

このカプセルは『夏いちゃ』のアキバデートの時に、恵が思わず回した謎の深海生物ガチャででたものである。

 

「開けてないのね」

「開けると、中身が確定しちゃうから」量子論みたいなことをいう。

「今回はそれを開けてみようってことね?」

「はい」

恵がガチャのカプセルをひねって開ける。

 

「・・・何かな」

「あんこうじゃないかしら?」詩羽はカプセルに入っていた説明書を読む。「どうやら、ちょうちんアンコウのようね」

「・・・なんで、こんなガチャがあるのかな」

「さぁ、でも実際、加藤さんが購入しているわけだし、わけのわからない方向で需要があるのね」

恵がアンコウを手にとって、調べている。お腹のボタンのところにセロファンがあり、引き抜いてからボタンを押すと、ちょうちんが微かに光った。

「日本人って・・・変なもの作るよねぇ。なんか塗装もリアルだし」

「こういう文化なのね。でもそのおかげで外国人のお土産にガチャは大人気なのよ、あなどれないわ」

恵がちょうちんアンコウをこたつの上において眺めている。

「まっ、これでいいかな」

「あら、こんなのでできたのかしら?」

「あとは・・・英梨々待ちということで・・・」

恵がこたつでゴロンと横になった。やる気はあんまりしない。

 

※※※

 

「倫也~。長靴はリュックにいれてね」「OK」

2人はミニスキーを履いている。これは通常のスキー板なんかと違いずっと短く小回りがきく。

 

英梨々の別荘は山あいなので、家の前から大きな道路までは坂になっている。車の通りもほぼないのでスキー場と同じように滑ることができる。問題なのは滑ることでなく登ることだ。もちろんリフトがないので徒歩になる。

スキー板でも登ることができるが、不慣れな倫也は長靴で一歩ずつ登ることになる。

 

「じゃ、いくわよ」

英梨々が家の前から、すぅーと滑っていく。ストックはない。

「おい・・・俺は滑れないぞ」

「やってごらんなさいよ。足をハの字にしてね、ボーゲンだっけ?ゆっくり降りればいいわ」

「きやすくいうなよ」

とはいえ、いざ滑ってみると簡単だった。

倫也はスピードがでないようにゆっくりと降りていく。

英梨々はすぅーと降りて、止まっては振り返って倫也を待っている。

 

麓の駐車場まで無事に降りてくると、英梨々は倫也にリュックの中の靴を置いておくように言った。

ここから帰りの登りは靴の方が無難だが、荷物なるので持ち歩く必要がない。

ここに置いといても盗まれることもないだろう。

 

それから英梨々は倫也に平地での歩き方を教える。ハの字にザクザクと進む。

これでスキーを履いたまま移動が可能だ。コンクリートの上だと傷がつくが安物のプラスチックなので別に大きな問題はない。

 

「道路渡るから、気を付けて」

英梨々が両側をみる。車はほとんど通っていない。さすがに大きな道路に雪はなかった。

タイミングをみて、道路を通過し、倫也も後に続いた。

 

「あとは、観光地だから大丈夫よ。人も歩いているし、車もノロノロ走ってるだけだわ」

英梨々が平らの道路や多少のアップダウンもショートスキーで進んでいく、けっこうな運動になる。

「こりゃあ、明日は足が筋肉痛だな」倫也は白い息を切らしながら言った。

「そうね。足が小鹿みたいにガクガクになるわよ」

英梨々がおかしそうに笑う。

 

人気のパン屋はそこから30分ほど進んだところにあった。

こんな雪の中でも混んでいる。お店の外にもパンの焼ける匂いが漂っていた。

「いくつぐらい買おうかしら?」

「明日の帰りの車の中でも食べられるだろうし、20個ぐらい買っておけば?」

「そうね」

英梨々も倫也もトレイをもって、適当にパンをのせていった。

ついでにレジ横のラスクとパウンドケーキも買う。

 

英梨々がエコバック型のリュックを広げ中にしまって背負った。

「少し休んでかないか?」

「えっ・・・ここラブホテルないわよ?」

「ちげーよ・・・」

倫也は併設されているカフェテリアを指さした。

「いいけど」

オープンカフェで温かい飲物を頼み、体を中から温める。

とはいえ、外は寒いがけっこうな運動量なので体は暖かかった。

 

英梨々はおしゃれなカップでカプチーノを飲んでご機嫌だ。

別荘に来てから、倫也と2人で過ごすのは初めての時間だった。

「いいとこでしょ」

「そうだな」

「あっちには牧場もあるし、他にもいろいろ遊べるところがあるわよ」

「牧場なら子供連れが喜びそうだな」

「・・・そうね。ほら、ミルクもおいしいからソフトクリームとか、チーズとかも売っているのよ」

英梨々が倫也に説明するが、子供のころに倫也も一緒に来ていた。

「懐かしいな」

喧嘩をしてからは来ていなかった。仲が良いままなら別荘にきていたのだろうか。

それとも男女だし、どこかでやっぱりこなくなったのだろうか。たぶん後者だろう。

 

※※※

 

「遅いわね。倫理君たち」

時計の針が12時を回っている。

恵は返事をしない。こたつで寝そべりながらノートPCを広げてついつい仕事をしてしまう。スマホで遊んだり、編み物をしたりするよりも、なんだかその方を落ち着くのは性分だろうか。

(そこは冬休みの宿題をすべきじゃないかしら?)と詩羽は思うが口には出さない。いまさらだろう。

詩羽のLINEには英梨々からカフェでくつろいでいる画像が送られてきていた。恵には知らせない。

となりで退屈そうに仕事している恵を見ると、詩羽もやっぱりため息の1つもつきたくなる。

 

恵と英梨々が仲の良いまま進む『英梨々ルート』とはつまり、こういう世界線なのだろう。まず、無理だ。

別荘なんてくるわけがないし、大学受験に専念する方が自然だろう。

とはいえ、全部の物語を通せば、こうして過ごしていることは不自然ではないように思う。

 

1時を過ぎた。予定よりも大幅に遅れている。

詩羽のLINEにまもなく着くことと、お風呂を沸かしておいて欲しいことが伝えられていた。

「もうすぐ帰ってくるそうよ」詩羽は立ち上がって、お風呂にお湯をはる。時間がかかる。

恵も起き上がって、キッチンで作っておいた野菜スープに弱火をかける。

 

※※※

 

外で英梨々の声が聴こえた。

詩羽が窓から見下ろすと、英梨々が倫也に声をかけている。

倫也の足取りは重く、雪に足をとられながら一歩一歩登っていた。

坂の上にある別荘の玄関で英梨々は立って待っている。

陽光に照らされて金色の髪が輝きながら揺れていた。

その無邪気な笑顔が愛らしい。

 

詩羽はキッチンに向かい、恵のよそったスープをこたつに運ぶ。

恵のそのフラットな表情が逆に見ていて辛い。

そのいつもの加藤恵らしい表情の奥には、感情が渦巻いている。

 

「ただいまー」

玄関から声がする。息が弾んでいるのがわかる。

がさごそと音がしてから、階段を2人が上がってくる。

 

「おまたせー!・・・って、暑いわね、この部屋」

「あら、おかえりなさい。暖房いらなかったかしら?」

「いいわよ。あたし達には暑いだけだろうから」英梨々は上着を脱いで、さらにセーターも脱いだ。

「・・・ただいま」倫也が疲れ切った表情で部屋にはいってくる。

こちらは無言でコートとセーターを脱いだ。

 

英梨々は洗面所で手を洗ってから、こたつに入らずに座る。買ってきたパンを並べていく。

すでにお皿とまな板とナイフが置いてあった。パンを切り分けて食べる準備だ。

「おかえり、英梨々、倫也くん。おつかれさま」

「ただいま」と倫也が改めていった。

 

「あのさ・・・もうオチでいいかな?」

恵が気だるそうに言った。

「別に構わないけど・・・オチなんて急がなくてもいいのに」

「・・・英梨々。頼んだパン買ってきてくれた?」

「ええ、買ってきたわよ」

英梨々があんパンを恵に渡す。

 

「コホンッ」恵が咳払いを1つ。

「えっ~、あんぱんとかけまして、ガチャからでた謎の深海生物とときます」

「その心は・・・」詩羽が合いの手をいれる。これは厳しい。

「・・・どちらも、アンコ(アンコウ)でしょう・・・」

恵は鉄仮面を崩さない。

 

「恵!?大丈夫?」

英梨々が心配する。まさか、こんなオチのために苦労してパンを買ってきただなんて・・・

「さぁて、どのパン食べようかな」

何事もなかったかのように恵がパンを選び始める。

 

「・・・まて、恵」

「・・・何?浮気者・・・じゃない、倫也くん」

「・・・俺、信じているから。恵ならちゃんとオチができるって!」

「ああ、そう?わたしも信じてたよ、倫也くんのこと。夏いちゃの頃は」

「いや、今はそういう話でなくってだな・・・この物語のオチをだな・・・」

 

恵が立ち上がった。

手にはガチャのちょうちんアンコウを手にもっている。

「え~、あんぱんとかけましてぇ~、ちょうちんアンコウと解きます」

「その心は!」倫也が期待を込めていう。

 

「どちらも発酵(発光)するでしょう!」

恵がボタンを押して、ちょうちんアンコウを光らせた。

 

場が固まる。

恵は何事もなかったかのように・・・座ってから両手で顔を覆って下を向く。

そこら辺の仕草はあざとカワイイ。さすが恵。

 

(了)

(再開)

 

「あの・・・倫也。これならあたしのオチでもいいんじゃないの?」

「ん?試しにいってみろよ」

 

英梨々が耳まで真っ赤にして、照れながら・・・

 

「好きな人とスキー」

 

「・・・」

「・・・」

「・・・」

 

だから、言ったろ?

戦いは同レベルでしか起こらない。

 

(了)

 



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【13日目】帰路

旅行の醍醐味は目的地の観光よりも移動中にあると思う。


4日。帰路。

 

帰りのワンボックスの中。渋滞にはまりながらノロノロと帰宅の途中。

行きと同じ並びで座っている。運転手が伊織、助手席に美智留。

真ん中が詩羽、英梨々、恵。後部座席に出海と倫也。

 

「冬休みも終わりかぁ・・・」

助手席の美智留があくびをしながらぼやく。

窓の外から雪景色が消えて、高速道路つまらない景観が広がっている。日も沈み始めて電灯がついている。

「学校は11日からでしょ?」

英梨々が訂正する。

「英梨々、いくらなんでも波島くんに運転させて、お酒まで飲んで、わたし達は高校二年生です。というのは無理があるんじゃないかな」

「恵だって最初はそうだったじゃない」

「わたしは、ブレッシングソフトの冬期休暇の社員旅行のつもりだったよ?」

「あーそう・・・」

英梨々はよくわらかない世界線でのことは議論したくない。

「別に、いつだっていんじゃないかしら?澤村さんとしては目的を達しているわけだし」

「そうかしら?詩羽ってあたしのこと英梨々って呼んでなかったっけ?」

「ややこしいのよ。英梨々呼びが3人になるでしょ。こういう使い分けがないと会話ってわかりにくいし」

「そう・・・」

英梨々はよくわからない文章作成のことで議論はしたくない。

「澤村ちゃんも倫也と付き合ったなら、2人で冬休みを過ごせばよかったんじゃないのー」

「あたしはみんなと楽しく過ごしたかったのよ」

大事なことは恵に認めてもらうことだ。このみんなの仲の良い関係性を壊して英梨々ルートの完成はない。

「無理があるんじゃないかな・・・」

納得できない恵がいる。

「お人よしだから正妻戦争に勝てないんじゃないかしら?」

詩羽が冷静に評価を下す。

「って、なんであたしが負けているのよ・・・」

英梨々はよくわからない正妻戦争のことで議論はしたくない。

 

「そ・・・そんなつまらないことより、先輩・・・」

後部座席の出海が小さな声で話しかける。

「これは・・・もう出海ルートなのでは・・・?」

英梨々が後ろを向くと、倫也が出海にもたれかかって眠っていた。

出海はまっすぐの姿勢のまま固まっている。耳まで赤い。

 

「・・・疲れてるんでしょ。そのまま寝させてあげなさいよ」

怒る気もしない。

英梨々はよくわからない出海ルートのことで議論はしたくない。

 

「あの・・・澤村先輩・・・」

出海が申し訳なさそうに、「記念に写メとってもらっていいですか?」

まったく身動きしていない。

 

「・・・いいわよ」

その気持ちは痛いほどわかる。

英梨々は意地悪もせずに、寝ている倫也の寝顔をアップでとった。

「LINEで送ったから、あとでチェックしなさいよ」

「ありがとうございますぅ」

出海が消えるような声で答えた。

 

英梨々が少し考え込む。

高速に乗っていると、みんながうつらうつらとする。すると運転手も眠くなってしまうので誰かが起きて会話を続けないといけない。

 

「どうしよ・・・詩羽」

「私に聞かれても困るのだけど、澤村さんがしたいようにしたらいいのよ。ずっとそう言ってきたでしょう?澤村さんはどうしたいのよ?冬休みが10日までなら、そのように過ごしたらいいのよ。倫理君と2人で納得いくまでいちゃいちゃしなさい」

「そうだけど・・・」

英梨々がちらりと恵の方をみる。

恵も少しうとうとしている。車が心地よく揺れている。

英梨々の目線に気が付いて、恵が答える。

「英梨々がこれで納得したら、それで英梨々ルートは完成でいいんじゃないかな。わたしの倫也くんを奪って、両想いで結ばれて、わたしをサブヒロインにして認めさせて、その上で、みんなで楽しく過ごす。それでいいんだよね?」

「・・・だいぶ棘のあるいいかたよね」

「別にそんなつもりはなくて、ただありのままを客観的に言っただけなんだけど」

恵は口を押えながらあくびを1つして目を閉じた。手はお腹に添えている。

 

「・・・詩羽」

「実際、加藤さんが言った通りなのよ。ハーレム型の物語に決着をつけるってそういうことじゃないかしら?」

英梨々が後ろを振り向くと、倫也がいない。出海の目が点になっている。

よくよく見ると、倫也は崩れ落ちて、出海にひざまくらをしてもらっていた。

「・・・倫也」

怒ろうかと思ったが、倫也があまりに気持ちよさそうなので放っておくことにした。

 

「今の英梨々の感情の・・・」

恵が目をつぶったまま小さな声で言う。

「何倍もの強い感情を抱いているのがわたし」

「・・・」

車は小さく揺れている。

伊織はリピートしているアイシーテイルの曲を一度消した。

高速のトンネルに入ると、車の中はオレンジの光がいくつも通過していった。

 

「詩羽。倫也が探していた、あたしと恵が幸せになるルートってみつかったの?」

「あるにはあるわよ。もう冴えカノとはいえないSFになるけれど」

「・・・」

「澤村さん、だから劇中劇なんてしなければよかったのよ。こういう会話がナンセンスなのよ。普通に澤村英梨々として倫理君と過ごす時間だけを楽しめばいいの。そうすることで読者も楽しい気分になるのだから」

「あたしは・・・」

英梨々は言葉につまる。

 

「個人的にはしっかり終わるべきだと思う」

ずっと静かにしてた伊織が断言する。

「やめなよ・・・伊織ちゃん」美智留が止める。

「いや・・・未来編は・・・無駄だね」

伊織の発言が気になって、恵は薄目を開けるが睡魔には勝てそうにない。

「どういうことよ、伊織」

「プロットだけで十分なのさ、その結末もやはり英梨々ルートとして納得できるものじゃないからね」

「・・・そうね」詩羽が同意する。そして話を続ける。

 

「私が説明するわ。この加藤恵と澤村英梨々が幸せになるルートはあるにはあるのよ。むしろそのために伏線をはってきているとも言えるわ。『夏いちゃ』というリアルタイムの時間とリンクさせた加藤さんは、お正月の夫婦漫才で言った通り妊娠しているのよ」

「恵が!?」

「イデア的にね・・・と言うべきなのかしら。今は妊娠4ヶ月ちょっとってところね。彼女が妊婦らしい仕草をしているのはそういうことなのよ」

「なによそれ・・・」

「そうなると澤村さんはどうかしら?このままメインヒロインとして倫理君とくっつくことができるかしら?躊躇するんじゃないかしら?さらに加藤さんから『中絶』だの『母子心中』だの重いワードがでてきてごらんなさいよ・・・あなた、それでも英梨々ルートに進める?」

「無理ね」

「そして、次は加藤恵の子育て編が始まるわ。それが『夏いちゃ』のように短編集的に子育て編を作る事は可能なのよ。でもね、あなたがそれでは幸せになれないでしょ」

「そうね・・・」

「そこで、不治の病からのコールドスリープよ」

「さっき言ったSFよね?コールドスリープって冷凍睡眠?」

「そう。そして20年後に目が覚めて・・・倫理君と加藤さんの間にできた子と出会って結婚する」

「なるほど」

「今度はみんなを呼んだ本物の結婚式ができるわよ。ちょっと無理があるけれど、これなら澤村さんも幸せになれるし、加藤さんも幸せになれるわ」

「あら、いいじゃない」

「良くないわよ?それって、つまり倫理君のことを諦めているんだもの・・・」

「そうね・・・そうなるのよね」

「そう、例えその倫理君の子どもが成長した時の人格が倫理君のイデアだとしてもね・・・」

詩羽が寂しそうに肩をすくめた。

このストーリーが想像力の限界だった。

 

「たぶん、最初が間違ってたんだよ・・・英梨々」

恵は眠たい目をこすりながら会話に参加する。

「恵、妊娠してたの・・・?」

「ううん。それはいいの。一昨日、落とし穴に落ちた時に、もういいやって思ったから」

「・・・まさか・・・流産したんじゃ」

「そんな重い話は嫌でしょう?英梨々が楽しく過ごしたいのに、拗ねている自分のことも嫌だったし、倫也くんも未来編はやりたくなさそうだったし・・・」

「あいつにしっかり責任をとらせなさいよ」

「それを英梨々がいうかなぁ・・・」

恵がくすっと寂しそうに笑った。

「恵・・・」

「だからね。もういいの」

 

高速の出口見えてきた。車が減速して止まる。

 

「みんなで決めたことなんだ」

伊織がいう。

「そうそう、伊織ちゃんもあたしとの未来編が嫌みたいだし」

美智留が後ろを振り向きながら笑っている。「双子だったんだけどね」と続けた。

伊織は苦笑いをしている。

 

「そういうわけで、澤村先輩。出海ルートも断念します」

「それはそうでしょうよ」と英梨々が冷たく言い放ってから、笑った。でもちょっと涙目になっている。

 

「英梨々の物語で完成させなさい」

詩羽が強く言う。「あなたならできるわよ。劇中劇なんかいらない、過ごしたいように残りの冬休みを過ごせばいいのよ」

「詩羽」

「私たちが物語を綴れるのはここまでね」

「お別れなの?」

「違うわよ。冬休みが終わって三学期が始まって、私が卒業して、あなたたちは三年生になって・・・」

「あたしは入学しまーす」

「そうね。そして、物語はずっと続くのよ。でも、『冴えない彼女の育て方』が作られることのない世界だもの・・・それはもう、違う物語なのよ。わかるでしょ?」

「わからない」

「そう、わからずやね。いつまでも冴えカノに迷惑かけられないし、加藤さん人気に甘えられないのよ。あなたがあなたの物語を終えたら、冴えカノの同人はおしまい。私たちのイデアはまた別の物語で綴られるわよ」

「そうね・・・」

英梨々が泣くのを我慢していた。でも、目からは涙がでてくる。

みんなで楽しく旅行をした。でも、やっぱり最後に我慢できずに泣くのは英梨々だ。

 

「英梨々・・・じゃましてごめんね」

恵が謝る。もっと最初からうまくサブヒロインができていれば、こんなに一年間も迷わずに済んだはずだ。

「ううん。あたしの方こそ・・・ごめん」

「えっ?英梨々。謝るぐらいなら倫也くんを返してくれてもいいんだよ?」

恵の目にハイライトがない。

「そ・・・そういう意味じゃないわよ!」

英梨々が腕で涙をぬぐって、恵を抱きしめる。

恵がその背中をトントンと軽く叩いてなだめる。

「もう・・・娘になり損ねたね」

「さすがに恵をママって呼ぶのは無理ね」

「後ろにパパが寝てるわよ」

恵が後ろで狸寝入りをしている倫也を指さす。

「やだ、その言い方は流石に気持ち悪いわ」

英梨々が笑う。少し八重歯が見える。

 

「きりがないし、このへんでお開き。オチはつくる?」

「あるの?」

恵は小さくうなずく。

 

伊織がスイッチを入れて曲を流す。

「なーがいあーいーだー まーたせて ごーめんー」

「これ、キロロの長い間だっけ?」

「うん。帰路だけに」恵がフラットに言う。

「・・・もう」英梨々がはにかむ。

 

「おしまい!」

恵が指をバチンッと強く弾いた。

 

 

※※※

 

 

倫也のベッド上に英梨々は腰を掛けていて、倫也を膝枕していた。

「倫也ぁ・・・」

涙声で英梨々が言う。こんな帰路になるはずじゃなかった。

「どうして、こんな風になったのよ?」目から涙がこぼれる。

「英梨々の物語だから、英梨々がちゃんと作るべきなんだ」

倫也はどこか冷めた声で言った。倫也だって泣きたいのだ。それは悲しいからじゃない。

「あたしは・・・みんなと楽しく過ごしたかった!倫也ともみんなとも今回の旅行みたいに楽しく・・・」

「そうだな・・・」

ハーレムものはハーレムの間は楽しい、結末が近づくと疑心暗鬼で荒れて、結論がでると怨嗟が広がる。

 

「・・・あたしでいいのかな?」

鼻水を垂らした英梨々が、ずずずっとすう。それからティッシュでちーんと鼻をかむ。

倫也はため息をつく。泣きすぎだろ・・・

起き上がって隣に座り直す。

 

「だからさ・・・英梨々。お前がいいんだよ」

 

英梨々はきょとんしている。それから意味を考えて顔が赤くなって、耳も真っ赤になる。

倫也はタイミング的にはここで頭を寄せてキスするところなんだけど・・・と思いながら、英梨々が照れているので、自分まで照れてしまった。

 

「明日は・・・初詣に行こうな」

「うん!・・・じゃない、どーしてもっていうなら、行ってあげないこともないけどぉ?」

「下手かっ」

 

2人の時間が静かに過ぎていく。

 

(了)



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【14日目】初詣

5日。初詣。

 

英梨々はお昼まで家族とゆったりと過ごした。

それから、家に来た美容師に髪を結ってもらい、呉服屋に着付けをしてもらう。

自分でデザインした帯は黄色を基調に金糸で模様が付けられている。

着物の色は少し明るい黄緑色で華やかな印象を与えで、装飾具や草履も贅を尽くし煌びやかだった。

 

一式含めて、数百万の壮麗な着物を英梨々は当然のように着こなし、それらが英梨々自身の美しさをより引き立てていた。

 

英梨々は鏡の前に立ち、深く呼吸をして気持ちを落ち着けようとするが気分は昂ぶっていた。

倫也の彼女として初陣のような気持ちである。

 

※※※

 

着付けが終わった時には夕方になっていた。

朱に染まる街並みを見下ろしながら、倫也の家へとゆっくりと歩いて行く。

手には丸めたポスターを一枚持っていた。

 

ピンポーン。

 

玄関がガチャリと開いて、倫也がでてきた。

「うん。知ってた。いいから、早く着替えなさいよ」

倫也がアニメプリントのださいトレーナーを着ていたが、あえてツッコむこともせず家へと上がる。

「・・・おう」

倫也としては緊張をほぐそうというちょっとした気遣いのつもりだったが、英梨々は臨戦態勢を崩さなかった。

 

英梨々が倫也の部屋へ上がる階段を見る。天井から槍がぶら下がるようなこともなく、いつもの家だった。

そのまま着物の裾をもって、階段を上がって倫也の部屋に入った。

いつもの倫也の部屋。

 

倫也が洗面所で着替えている間、英梨々はテーブルの上に立って、ポスターの一枚をはがし、持ってきた自分のポスターに貼り換えた。

腐女子御用達ゲームのキャラ、セルビスだった。

机から降りて、満足そうにそれを眺める。

はがした美少女のポスターは丸めてゴムで止める。これはこれで倫也が大切にしているものだから、大事に保管する。

 

倫也が着替えて部屋に入ってきた。

壁のポスターに気が付いたが、何も言わなかった。

「問題があるなら、あとで戻していいわよ」

「いや、別にいいよ」

倫也は黒を基調に服を着替えた。眼鏡もはずしてコンタクトにしている。

身長こそないが、髪もさっぱりと切ってあり、そこそこイケメンである。

 

「な・・・なんていうか、倫也。その方が・・・」

さっきまで美少女キャラ候の顔を維持していたが、正装する倫也を見て顔が赤くなってくずれた。

「す・・・素敵じゃないの」と小さな声でつぶやいた。

「お前には釣り合わないけどな」

倫也がはにかんで笑う。もう少し素直に英梨々を褒めたいが、言葉がうまく見つけられない。

「・・・バカ」と英梨々が言った。

 

※※※

 

大通りにでてタクシーを拾う。近場の有名な神社の名前を告げた。

「もう、屋台でてないかしら?」

「どうかな。大きい所だとまだ出ているかもしれないけど」

「まっ、しょうがないわよね」

「浅草までいけば屋台あるけどな」

「いいわよ」

タクシーの運転手は無駄口を叩かなかった。

静かな時間がずっと流れる。道路は少し混み始めていた。

年末年始の休暇が終わり、また東京の日常がはじまっているのだ。

 

目的地に着きタクシーが止まる。倫也が会計を済ませた。

「気前がいいじゃない」

「まぁな」

冬コミで稼いだ金もあるし、今日は財布にちょっとした金額をいれてきた。

 

「やっぱり屋台はないわね」

「そうだな」

「でも、この閑散とした神社もいいわね」

「おみくじぐらいはひけるだろうし」

2人が石段をあがって、会釈をしてから鳥居をくぐる。

人影はまばらだった。

 

柄杓をつかって水をすくい、手を清める。水がキンッと冷たい。

 

「まずは、参拝をすませましょうかしら」

英梨々が参道を通ってまっすぐ神社に向かう。

 

「あっ澤村さん!」と、前からきた2人組の女の子に声をかけられた。

英梨々は隣に倫也がいることを確認する。

「そばにいなさいよ」

「ああ」倫也が少し不安そうに英梨々を見る。

 

「あれ、隣にいる人は・・・?」

眼鏡をはずしているので、学校では有名な倫也とわからなかったようだ。

2人組の女の子は英梨々のクラスメートで、英梨々の取り巻きでもある。

「こんばんは」と英梨々は質問にはすぐに答えず、ゆったりと挨拶をする。

「うん。こんばんは」2人が声をそろえた。

「あけましておめでとう。今年もよろしくね」お嬢様モードで答える。所作も悠然として美しい。

相手が圧倒されているのがわかる。

「あっ、うん。あけおめー」とくだけて挨拶してきたのを、英梨々は優しく微笑んで受け止める。

「・・・」女の子が不思議そうに隣に立っている倫也を見つめている。

 

「誰だかわからないかしら?」

英梨々が少しおかしそうに言った。

「うん。こんな人学校にいないよね」

「これ、安芸倫也よ。知ってるでしょ?」

「えっと・・・」「ああっ、あのオタクの!?」

女の子のひとりが気付いた。

「そそっ」と英梨々が笑っている。

倫也は「ども」と恥ずかしそうに会釈だけする。

 

「実はね、こいつ・・・あたしの・・・」

英梨々の言葉がつまる。耳まで真っ赤になる。

(がんばれ)と倫也が心の中でつぶやいた。

 

「彼・・・あたしのカレシなのよ」

英梨々が意識的に冷静に言った。声が少し上ずった。鼓動が激しいのが自分でわかる。

「えっ、そ・・・そうなんだ」と1人が納得する。

「えっ、どうして?」ともう一人が掘り下げようとすると、ひじをあてて「あっ、邪魔した悪いからまたね」といって、2人はそそくさと去っていった。

 

「ふぅ・・・」と英梨々が大きく息を吐き出す。

今日のメインイベントを無事に終えた。

「あの2人のモブもまさかこんな重大な役目になるとは一年前には思わなかっただろうな」

「そうね。でも、あの2人ってモブじゃないのよ。ちゃんと原作でも名前があるの」

「へぇ・・・」

「って、またこんな劇中劇やって、茶化したらだめよね」

「そうだな」倫也は楽しそうに笑っている。

 

2人は並んで歩いて神前に進んだ。

賽銭箱の前で会釈をして、それぞれが賽銭を投げ入れた。

それから、英梨々は優雅に二礼二拍手一礼の作法で拝礼をした。

静かに目を閉じて、神様にお礼を言う。

 

初詣は願い事をいう時ではない。

 

あたりを見渡すと、暗くなっていて、電灯が灯っている。

巫女さんが片づけを始めているのが見えた。

 

「おみくじぐらいひきましょうか」

英梨々が巫女さんに声をかけて、まだ間に合うかを聞いた。

「倫也、大丈夫だって」

倫也が財布から小銭を出す、英梨々はペイペイで決済をすます。

「そういう時代を感じることはやめろよ・・・」

「別に何で払ったっていいじゃない」

倫也が200円を巫女に渡そうとして顔をみた。

「恵!?」

巫女服を着た恵がいた。

「ああ、お気になさらず、将来が変わったのでバイトでもしようかと思っただけなんで」

声のトーンが冷たい。

「お友達出演よね」と英梨々は冷静に答える。

ガシャガシャふって、おみくじの番号を告げる。

巫女の恵が棚から番号のおみくじを渡した。

倫也もガシャガシャとふっておみくじの番号を告げた。

恵が持っていたおみくじを渡す。

「棚からとれよ・・・」

「棚からとっても同じだよ」

恵は少し笑う。巫女服を着られて実はちょっとご機嫌だったりする。

 

「おっ、大吉だ」

倫也が喜ぶ。恵にお礼を言う。

「恋愛運は?」と英梨々が尋ねる。そこが大事だ。

 

「えっとな・・・『今の人が最上、迷うな』だってさ」

「あら、わかってるじゃない」

「ほんと、そのまんまだよね」と恵がいう。

倫也が恵の顔をみると、頬を赤らめてそっぽを向いていた。

深く考えるのはよそう。

 

「英梨々は?」倫也が尋ねる。

「あたしは・・・凶ね」

英梨々が恵を睨む。

「別に・・・不正はしてないよ」と恵が答える。

「出来レースなのよね・・・恋愛運は『周囲の理解が必要』だって」

英梨々がため息を1つつく。

「でもまぁ、そういうもんじゃね?」と倫也が納得する。

 

それから2人はおみくじを結んでいく。

 

「恵、そろそろバイト終わりでしょ?」

「うん、まぁ・・・そうなのかな?」あんまり考えずに登場してしまった。

「だったら、一緒に晩御飯食べましょうよ」

「ん~」迷ってから「うん」と答えた。

 

英梨々は倫也の腕の裾を指でつまむ。さすがに手はつながない。

倫也がいて、恵がいる。そんな物語が英梨々は好き。

 

「そうだ、何かオチをつくるんでしょ?」

「別に無理することねぇーよ」

「恵、お願い」

「わたし!?」

恵がお店のシャッターをガラガラと閉めた。

 

「ん~。じゃあ、大吉とかけまして、一年成長した英梨々と解きます」

「その心は?」

「どちらも、縁起(演技)がいいでしょう」

「さすがねぇ・・・」

「・・・別に、オチいらないんじゃないかな・・・」

恵が店に鍵をかけた。

 

それから3人で食事行った。

そう、3人で。

 

(了)



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【15日目】部屋の模様替え

懲りないよ


6日。

 

「ふふん♪」と鼻歌混じりで、英梨々が本棚をいじっていた。

倫也はデスクに座りながら、それを横目に仕事をしている。

 

先日、ポスターを貼り換えた英梨々。今日は本を少し入れ替えている。

倫也はラノベサイトを運営していて、いち早くラノベを読みレビューをつける。

そのサイトに信用があったので、絶賛された霞詩子の『恋するメトロノーム』が売れるきっかけになった。

 

英梨々ももちろんサイトをチェックしていて、倫也のおすすめのラノベを読んだり、借りたりしていた。

だから、倫也の部屋にあるラノベで読んでないものはない。

 

趣味が一緒。なんてすばらしい。

 

とはいえ、英梨々はR18同人を描くので過激なラノベもよく読む。参考文献と言う方が正確かもしれない。

それらの本をこの本棚に紛れ込ませている。

 

目的は倫也に本を読んでもらうことではなく、倫也の部屋を少し英梨々色に染めることだった。

以前の物語では着々と進めたのにリセットされたから。

 

本棚の整理が終わったので、余った本をダンボールに丁寧にしまいクローゼにしまおうと扉を開ける。

中に小さなダンボール箱があったので、なんだろうと開けてみると『害虫駆除 バル〇ン』が1ダースほどはいっている。

 

「・・・」

 

それを棚から出して、そのスペースに本の入ったダンボールをしまう。収まりがいい。

さらにちょっとごちゃごちゃと汚れているので、中を掃除していたら、手にベチャリとはりつくものがあった。

びっくりして、確認すると『Gホイホイ』が巧妙に隠されていた。

幸い新しいもので中にGがいないものの、手についたのはそれなりにショックだ。

 

「・・・」

 

倫也はその様子を心配そうにみていた。激しいリアクションもなく、たんたんとイベントが進む。

 

「・・・倫也」少しか細い声。やっぱり泣くかな?

「どうした?」

「導入部分のボケはこのくらいでいいかしらね?」

「・・・ふむ」

 

英梨々が手についたものをはがしてゴミ箱に捨てる。

薬剤の入ったダンボールは廊下に出した。あとで処分だ。

 

それから下に降りて洗面台に行き、手を念入りに洗う。

イライラする心を落ち着けて、鏡に映っている不安そうな自分を見つめる。

 

※※※

 

「だいたいやることが陰険なのよ」

倫也は聞流して、ノートPCの画面を見ている。

英梨々はこたつに入ってゲームをしながら倫也に文句を続ける。

「あたしが悪いのかしらね?」

「それは主観によるんじゃないか・・・」

ああ、よせばいいのに余計なことをいう。

女が愚痴ったら、はいはいと言って聞流す。これが鉄則。

「主観ってどういう意味よ?人の事を害虫扱いして、笑いをとるとかそういう失礼な扱いが読者を減らすんじゃないのかしら?」

「それはどうだろう・・・」

「そもそも、センスがないのよ」

「ふむ」

「あたしだって、楽しいだけの物語が作りたいのよ?わかるでしょ?」

「ふむ」

「それを邪魔されるからおかしくなるんじゃないの」

「ふむ」

「倫也、聞いてる?」

「聞いてるよ」

コップにはいったドクペを倫也は一口飲む。

正月があけて仕事が始まっている。冬コミの作品を今度は販売店に直接売ってもらう交渉をしていた。

ネットのDL数は順調に伸びているし、評価も上々だ。

追加発注は勝負の2000枚。・・・ぐらいは売りたいが・・・

 

「だから、あたしとしては普通に部屋でいちゃいちゃしていたいのよ」

「ふむ」

「倫也だっていちゃいちゃしたいでしょ?」

「ふむ」

「倫也聞いてる?」

「聞いてるよ」

2000枚は難しいか、在庫抱えるの嫌だしな。

でも、全国の店舗からちらほらメールも来ているし・・・

なによりも、全国展開の大手が扱ってくれそうだ。

倫也は発注ボタンを押すかどうか迷っている。現物を抱えるのはやっぱりリスキーか。

DL販売だけなら問題がない・・・

 

「きゅうりにハチミツかけるとメロンになるらしいわよ」

「ふむ」

「同じウリ科だしね。わからなくもないわよね。だいたい甘くないメロンってきゅうりみたいだし」

「ふむ」

「きゅうりとキューイって似てるわよね」

「ふむ」

「倫也、聞いてるの?」

「聞いてるよ」

 

英梨々が倫也の後ろに立っている。

 

「わっ!」

「わああああぁ!!」

耳元で大声を出す。

「うわっ、英梨々。どうした?」

「どうした?じゃないわよ。あんた人の話ぜんぜん聞いてないじゃない」

「そう?」

「何悩んでるのよ?」

 

英梨々がPCの画面を確認する。発注作業中だった。

倫也のマウスを持っている右手に重ねて、クリックをする。

 

「うわあああああっ!?英梨々」

「2000枚ぐらい売りなさいよ」

「いや、売れるかわからないだろ?」

「そりゃー、わからないわよ」

「売れなかったらどうするんだよ?」

「そりゃー、在庫抱えて、こつこつネットで売ったり、カゴ売りになったりするだけよね」

「いや、まぁそうなんだがな・・・」

「店舗別に特典つくらないとね」

「特典?」

「あたりまえでしょ。あとで店舗一覧よこしなさいよ」

「それなら、あるけど」

倫也がプリントアウトした紙を渡す、販売予定数も書いてある。

 

「ふーん・・・ひぃふぅみぃよ・・・と」

「けっこうあるだろ」

「10種類ぐらいあればいいわよね」

「・・・そうだな」

「ここがポスターで、ここは詩羽に外伝書いてもらって小冊子つけて・・・、あとここはキーホルダーでいいんじゃないかしら?」

紙に赤ペンでメモをいれる。扱う店舗によって特色がある。

「そんなに大変じゃね?」

「規模が小さいのに小回りを失ったら大手に飲み込まれるだけでしょ」

英梨々の目が真剣。

 

英梨々がマウスをいじって、クラウド上のフォルダにアクセスをする。

「ここら辺の画像がポスターになりやすいと思うのだけど」

すでに何枚か描いてある。

「仕事早いな!」

「いいかしら倫也。あたしはね。『倫也と仲良くなったら絵が描けなくなる』という意味不明な設定にけっこう心底怒っているのよ?わかるでしょ?」

「・・・まぁ原作様様だから・・・あんまりな・・・そういうことは大声で言うなよ・・・」

「ふん」

「でもまぁ、仕事が早くて助かったよ。さっそく相談して進めてみる」

「相談って、誰とかしら?あたしの絵をポスターにするのに、倫也とあたし以外の誰の許可がいるのかしらね?」

「いや、一応サークル活動だからな・・・恵にも・・・」

「そう。ふーん?」

「えっと・・・英梨々?何か怒ってるのか?」

「怒ってるわよ?」

「えっと、何を・・・」

「あんた、さっき話聞いてたんじゃないの?」

「ごめん」

「って、あんまり真剣に怒るものじゃないわよね」

 

英梨々が倫也から離れて、こたつに戻る。

 

そろそろオチを考えなきゃ。

だいたい、なんも考えずに物語を始めすぎなのよね。

さっき手についた『Gホイホイ』の印象が強烈で、G関係のものしか浮かばないわね。

あれ、これってもしかしてボツ原稿なんじゃ・・・

そうよね、ちょっとしたイジメよね。人の事を害虫扱いするとか。

それにしても、『夏いちゃ』の40話を恵はよく夏休み前に完成させたわよね・・・

半分の20話ぐらいなら余裕と思ったけど、もう完全な自転車操業じゃないの。

ああ、ダメだ。ぜんぜん浮かばない。ボツにするほどの余裕もないし・・・

 

「倫也ぁ・・・」

ここは甘えよう。猫なで声で倫也にまかせてしまおう。

「ん?どした?」

倫也は発注予約を済ませたのですっきりしている。

「オチがぜんぜん見つからないんだけど?」

「ああ、オチ?そうなの?あんなに準備してたのに?」

「準備?」

「じゃあ、英梨々、せっかく金髪だし、ネイティブにいこうぜ」

「どういうことよ?」

「お前、本の整理をしたよな?」

「したわよ」

「発注予約もしたよな」

「そうね、倫也があんまり迷っていたから」

「どちらも英語でなんて言う?」

「ああそういうことかぁ・・・」

「ふむ」

 

「どちらもBOOKなのね」

 

(了)

 




自然体だな


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【16日目】アイシーテールで一話

もはや冴えカノの原型が名前ぐらいしかとどめていない作品


7日。

 

「まいったなー、波島兄ちゃん。一話分作れだてっさー」

「ん~、澤村さんらしいよ。この適当さは」

「で、どれ使う?」

美智留がテーブルに広げたボツ原稿を眺めている。どれも未完成やオチのないものが多い。メモ書きやプロットのみもある。

「問題は内容そのものにはないからね」

伊織がつまらなそうに一枚ずつ目を通している。

「これって、あたしと波島兄ちゃんのサイドストーリーってことなんでしょー?」

「そうだろうね」

「じゃ、これかなー」

美智留が一枚のレポートを渡す。一番まとまりがあり完成に近い。

「妥当だけどね」

 

アイシーテイルの活動の一日を描写したものだった。

レコーディングに向かうのに、伊織が運転してみんなを乗せスタジオに向かう。

徹夜で作曲していた美智留は後部座席で寝ている。

少しでも寝させておこうと気をつかう伊織。

美智留は寝ているのでその間のアイシーテイルのメンバーの会話が肝だ。

それだけの物語。

 

「で、アイシーテイルの他のメンバーはどうするんだい?」

「やっぱ、そこだよねー」

 

そう、登場するほかの三名、ランコとトキとあと誰だっけ・・・

名前と担当楽器と容姿とキャラがわからない。

焼肉回で一回復習した気がするんだけど、どうにも思い出せない。

 

「なら、みんなと会話でもしてきたら?」

「そうするー」

 

ここは伊織の部屋で、隣では出海が受験勉強か、コミケの作品作りか、はたまたブレッシングソフトの仕事をしているはずだ。それがいつなのかは時間軸による。

英梨々によると高2時空なので、出海は受験生ということになる。

 

コタツに2人で向かい合って座りながら、美智留が腕を伸ばしてレポートを見ていた。

アイシーテイルのメンバーがどんなのだか記憶にない・・・

それもそのはず、この同人では一度も登場していないのだから。

 

※※※

 

「というわけで、アイシーテイルのみんなにも出てもらうことになったからー」

「まじ!?」

「突然。」

「いやいや準備できてないし無理でしょ」

「そこをなんとかー。お願い」

「いやいや、頭下げられても、ここがどこだかわからないし」

「それはどこでもいいと思うけどー、場所とか大事?」

「大事。」

「じゃあ、レコーディングスタジオの休憩室の雑談ってことでー」

「いい加減だろ・・・」

「そんなもんだってー、まさかレギュラーメンバーが良い環境で出演していたとでも思ってるー?」

「ミッチーってそんなキャラだったっけ?」

「さぁー?」

「あんたって気楽よね・・・」

「いい加減。」

「ちょっとまって、わたし・・・これからデートで」

「さぁ、作ろうか。ランコ」

「そうだね、ランコ」

「うん。がんばろ。ランコ」

「そこは結託するんだ・・・」

 

「で、わたし達は何をすればいいの?」

「えっと・・・短編を1つ作る予定なんだけどー、これみてくれる?」

「どれどれ・・・」

「車に乗って移動するだけ?」

「地味。」

「うん、でもその時の些細な会話をアイシーテイルのメンバーでしてもらうから」

「ふーん、でもこれってミッチーが波島プロデューサーとのサブストーリーでしょ?」

「そうだけどー?」

「で、なんであんた寝てるのよ!」

「いや、さりげない日常の、さりげない優しさみたいな・・・ほら彼・・・照れ屋だしぃー」

「彼?」

「あっ、波島兄ちゃんのことねー?他意はないからー」

「そ。で、何が問題なんだっけ?」

「ほら、誰が何をしゃべっているかわかりずらいでしょー。小説ってこうやって会話オンリーのところも多いしー」

「ほう?それで」

「なんで、みんなで会話しながらとりあえず、キャラ付けをしてもらおうとー」

「それで、さっきからそうやって語尾を無意味に伸ばしているのね」

「そうそうー」

「いい加減。」

「じゃあ、うちは関西弁にするわー。ほな問題ないやろ?」

「んじゃ、ウチもそうするワ」

「マネてどうすんねん!」

「やっぱ、あかん?」

「そりゃそうやろ」

「じゃあ・・・カタコトとかドウデショウカ?」

「ほな、それでいってみよ」

「あと1人はー?」

「無口キャラ。」

「おぅー、最初からちゃんと意識してマシタネ?」

「カタコトキャラ変ちゃう?」

「ソウデスカ?」

「まぁそれでいいよー」

「で、どないするねん?」

「誰が誰?。」

「そこはもういいよー、とりあえずやってみよ」

「やってみよって、何をデスカ?」

「うーん。とりあえず四人だから・・・司会1人とトリオ漫才かな」

「漫才やるんかい!」

「台本はありマスカ?」

「あるわけないじゃんー」

「適当。」

「じゃあ、いくよー、『アイシーテイルでいい子悪い子普通の子』で」

「なんか、唐突にはじまるんやな・・・」

「じゃあ、いい子の場合―」

「そうやなぁ・・・ファンのために創作活動して睡眠不足」

「いい感じだねー。次、普通の子」

「ファンと握手するときは、笑顔デス」

「ほい、じゃあオチ。悪い子―」

「プロデューサーと寝る。」

「・・・それ、普通じゃないー?」

「普通ちゃうやろ、あんたがそうなだけちゃうん」

「関西弁ちょっとおかしいデスネ?」

「普通のとこ、それにしてみよか」

「なるほど、じゃもう一度。良い子の場合~」

「そやな・・・プライベートでもイメージを崩さないように振る舞う」

「ふーん。次、普通の子」

「プロデューサと寝て、お仕事もらいマース」

「次、悪い子の場合―」

「ファンと寝る」

「ビッチだなぁー」

「なんでオチが下ネタやねん」

「面白くないデース」

「そうだねー。ちゃんと無口キャラが落としてくれないと」

「即席。難解。我。挫折。」

「キャラ変わっとるやんけ」

「気持ちワカリマース。オチはミッチーが責任もってやるべきデース」

「ん?いいけどー」

「ほな、うち司会やるわ!良い子の場合」

「枕営業も厭わナーイ」

「最初から下ネタかよ。次普通の子の場合」

「ギャラでるか、気になる。」

「そうやね・・・で、次、悪い子の場合」

「せっかく出てもらったけど、つまらないからボツにするー」

「もうええわ!」

 

※※※

 

美智留がコタツで眠っている。

「う~ん」と唸って、うなされていた。

手には新曲の楽譜を握りしめたままだ。

 

伊織は立ち上がって、ブランケットを美智留の背中にそっとかける。

それから音をたてないように、スマホで静かに仕事をすすめた。

 

(了)



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英梨々には無理だったんだ・・・

お正月が終わってしまった。
そして日常がはじまる。


8日(土曜)

 

倫也の部屋。

英梨々が楽しそうに棚のフィギュアを並べ替えている。

倫也とおそろいのブランドセーターに身包み、恋人役にもだいぶ慣れてきた。

「やっぱり休日って大事よね」

昨日、一日休みをもらったのでリフレッシュしているようだ。

「そうだな。休日は大事だな!でもな英梨々・・・締め切りが数時間後に迫ってるぞ・・・」

「それは定時の12時05分に投稿予約しているからで夜に投稿すればいいじゃない?」

「それが可能ならな!いいか、前日に完成させて投稿予約しているんだよ。土曜の夜に帰ってきて0時までに作成できるわけないだろ?」

「できるでしょ?」

「じゃあ、翌日のはどうするんだよ」

「そんなの徹夜して書けばいいじゃない!」

「それが今だよ!」

「・・・どうしよ・・・」

 

どうしよ。

 

「あと英梨々・・・伊織からのメール見たか?」

「いや、まだだけど・・・」

「ちょっと見ろ」

倫也はその間に、キッチンでコーヒーを淹れる。

悠長にコーヒーを飲むよりも、とりあえず完成させて寝たいが仕事が終わらない以上は踏ん張るしかない。

だいたい、毎日一作品を英梨々で書くという企画が無理だったのだ・・・

 

濃いブラックコーヒーがはいったマグカップを二つもって部屋へと戻る。

英梨々の目が点になっている。

「まぁしょうがないだろ・・・」

倫也はかける言葉がみつからない。

「・・・そうよね」

英梨々がしょんぼりするが、強く反論する気力がわかない。

 

『打ち切り』

 

と断言してあった。

自分から毎日作りたいといいながら、作れないならしょうがない。

 

「倫也・・・どうしよ・・・」

「どうしよって言われても・・・代替原稿ももうないぞ?」

「そうなの?どうしよ・・・」

「あのな、英梨々はどうやって過ごしたかったんだよ?」

「だから、倫也とイチャイチャって何言わすのよ!だいたい、倫也があたしとイチャイチャしないからいけないんじゃないの」

「そうか?お前・・・今日何してた?」

「部屋の模様替えの続き」

 

そう、一日かけて倫也の部屋に飾ってあるフィギュアを変更していた。1つ1つにこだわりがあり妥協はできない。時間がかかるのは当然で物語をおろそかにしていたわけではない。

英梨々は英梨々で自分の時間を楽しく過ごしていた。けど、ちょっと読者目線が足らないのだ。

 

「いや、それはいいんだがな・・・」

「だってこう・・・やっぱり環境って大事じゃない?」

「そうだな」

「何が問題なのよ?」

「物語を読んでいて楽しいと思うから、読んでもらえるわけだよな?お前が不安定だから読者が離れていくんじゃないのか?」

「あたしのせいにするわけね?」

「いや・・・そうでなくて・・・普通に楽しく過ごす物語をだな・・・」

「倫也の部屋で自分好みに模様替えして楽しく過ごしているつもりなんだけど」

「ふむ・・・」

そこは問題なさそうだ。

「あとはオチも考えないといけないのよね?」

「そこは重要でないけど、短編形式ならあったほうがいいだろうな」

「今回はフィギュアだから・・・ドール?えっと・・・整いました」

「どうぞ」

「フィギュアとかけまして、アメリカでお買い物と解きます」

「その心は?」

「どちらも、ドール(ドル)でしょう」

「ふむ。まぁあってるな」

「面白い?」

「いや・・・」

「じゃあ、何が問題なのかしら・・・?」

「・・・題名の時点で読者数が減っているからなぁ・・・」

「それって、あたしと恵の差ってことよね・・・」

「そうでもないだろう」

「どういうこと」

「英梨々の方は内容がな・・・少し暗いというか、劇中劇が過多というか・・・」

「ふーん。じゃ、あとは恵に任せるわよ!ふん」

 

英梨々がいじけて、ベッドに伏してしまった。

 

「・・・英梨々・・・そういうとこだよ・・・」

倫也はため息をつく。

英梨々なりに一生懸命なのに、読者が一桁まで下がった。

もちろん英梨々はショックで重責をますます感じる。

打ち切りと言われて、ほっとする英梨々がいる。

なんとかしなきゃ。

 

※※※

 

恵はキッチンで昼食を作っていた。

今日はサンドイッチと野菜スープ。隣の部屋で働いている従業員が好きなタイミングで食べられるように1人分ずつ小分けしてラップをする。

 

ガチャリと玄関ドアが開いて、出海が入ってきた。

「恵先輩。すみません、なかなか手伝えなくて」

申し訳なそうに出海が頭を下げた。

 

「ううん。少しは動いた方がいいみたいだから・・・」

恵が重くなってきたお腹をマタニティードレスの上からポンポンと軽く叩いた。

 

「あとはやるんで、座っててください」

「もうできているから、出海ちゃんも好きなタイミングで食べてね」

「はい。じゃあ・・・食べちゃいますね」

 

出海がカウンターの上に並べられているサンドイッチを一皿とってテーブルに置き椅子に座った。

恵はスープをカップによそって、出海に差し出す。

 

「まかない付きが一番助かります」

出海がいただきますと手を合わせて、ラップをはずす。

 

ここは池袋のマンションの一室で、隣がブレッシングソフトの会社。

 

「ふぅ・・・」と息を吐き出して、恵も椅子にすわる。

もっているスマホをチェックして、また大きくため息をついた。

「仕事のトラブルですか?」

出海がタマゴサンドを食べながら、話しかける。

「ううん。英梨々から」

「澤村先輩ですか」

「うん。高2の英梨々なんだけど・・・『冬いちゃ』が難航しているみたい」

「あれは、無理がありますよね。年末年始の忙しい時に過密スケジュール組むなんて」

「そうだよねー」

恵はおかしそうにクスクスと笑う。まぁ、目は笑ってないけど。

「で、どうしたんです?」

「なんか、作れないからこっちに投げてきたみたい」

「澤村先輩らしいというか・・・でも正月旅行のあと自分達だけで作る予定でしたよね」

「うん。締め切りに追われているみたい」

「締め切りに追われるまで仕事しないのが澤村先輩ですから、それはしょうがないですよ」

「まぁ、そうなんだけどね。あっ、蹴った」

恵がお腹をトントンと叩く。

「だいぶ大きくなってきましたねぇ・・・」

「そうだね」

ふふふっと恵が優しく笑う。今度は目も笑っている。

「やっぱり、恵先輩の『夏いちゃ』から、子育て編に繋げるのが自然ですよね」

「どうかなー。倫也くんも相変わらずフラフラしているし」

「ハーレム主人公らしくなってきたじゃないですか」

「それ、喜んでいいのかなぁ」

「そろそろ、出海ルートを・・・」

「それ、あきらめたんじゃないの?」

恵がじぃーと出海を見る。

「ですよねぇ・・・」

目をそらしてスープを飲む。

出海も昔は希望をもっていたが、さすがにリアルタイムに合わせて妊娠してくる恵のイデアに対抗する気はおきない。

 

恵が英梨々に返信する。

さて・・・どの時間軸の英梨々に送信しようかなと悩みながら送信を押す。

 

※※※

 

「だぁ~~~!!」

英梨々が自分の部屋のベッドで目が覚めた。

夢オチにしないと、危うく恵ルートが確定するところだった。

ほんと、ちょっと助けてもらうだけなのに、油断も隙もない・・・

 

「子育て編はボツにしたわよね・・・」

英梨々はスマホをつけて、時間を確認する。

「あれ・・・?」

 

西暦が未来だった。

高2の英梨々よりも10年以上先を示している。

英梨々が立ち上がって、鏡を確認する。

そこに映った自分の描写を避けて、頭を抱える。

スマホがメールの着信を知らせる。

 

英梨々がメールを確認すると恵からだった。

 

「英梨々。助けて。産まれそう。みんないなくて・・・」

 

「はぁ・・・?恵、いったい何を言っているのかしら・・・」

ほっといていいのか、よくわからない。

確かに正月の旅行で妊娠しているような伏線はたてていたけど、

それってなかったことにしてたはず・・・

「どうしよ・・・だいたい倫也は何をしているのよ」

スマホでスケジュールを確認すると、恵の出産予定日はまだ一週間先になっている。

そして、倫也は大坂のマルズに交渉のため出張中だった。

「・・・なんで、短時間でここまで伏線をひくのかしら・・・」

 

その時、もう一度メールの着信があった。

 

「もう一度寝なさい」

 

霞ヶ丘詩羽からだ。

 

※※※

 

英梨々はベッドの上で目が覚めた。倫也の匂いのするシーツだ。

体を起こすと、部屋は暗かった。時刻がよくわからない。

ベッドの下には倫也が布団を敷いて眠っている。

 

どうやら、あのまま眠ってしまったらしい。

なにか夢をみていた気がするが、それが良い夢なのか悪い夢のかもう思い出せなかった。

 

(打ち切り)




(・人・)南無


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