HUNTER×HUNTER世界でハーレムを目指す! (sakurano)
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第一章:転生からの幼少期
第1話:神様転生


第1話:神様転生

 

(ん……? 

 白い……知らない天井? ここはどこだ?)

 

 ハヤテが目を覚ますと真っ白な天井が見えた。

 周りを見渡しても、見える範囲は全て白、白、白。見渡す限りの一面真っ白だった。

 自分自身を見ようにも、手や足どころか体の一部すら見えない。

 

(俺はいつも通りコンビニへ買い物に行って……

 そうだ、強盗がやってきて撃たれそうになっていた可愛い女の子をかばって撃たれたんだ。

 病院ではないようだが……やはり死んでしまったのだろう。

 そんなことよりもあの子は無事だろうか……。

 死んでしまってはもう助けることも出来ないというのに俺は……!)

 

 明らかな非日常である風景を見渡すことで逆に冷静さを取戻し、直前の記憶の整理を始めることで、自分が既に死んだ可能性が高いことにはもはや疑いなしとして無力な自身を嘆き、徐々に怒りが込み上げてくる。

 

(一体なんのために今まで体を鍛えてきたというのだ! 

 このような理不尽な暴力から美少女を守ってハーレムを築くためだろう!! 

 そのいざという時がまたきたというのに殺されてしまってはハーレムの夢が!!! 

 一度も彼女ができないまま終わってしまうというのか!!!!)

 

 怒りが落ち着くと今度は後悔が押し寄せてくる。

 

(もっと……体を鍛えておけば守れたんだろうか……。

 体だけではなく武器を常備しておくべきだったんだろうか……。

 頼れる仲間と行動をともにしていれば良かったんだろうか……。

 むしろ彼女を早く作って声援をもらえば鍛錬速度が2倍になっていたはずだ……。

 彼女が作ってくれたお弁当やご飯があれば間違いなく鍛錬速度が3倍にはなったのに……)

 

 

 誰もいない一人の空間では、思考があっちにいったりこっちにいったりなかなか落ち着かず、逆に迷走し始めている。だが、それでも長い間思考にくれていると徐々に落ち着いてきたのか今の状況についてようやく目を向け始める。

 

(そういえば結局ここはどこなんだろう。

 現実世界ではないとして、夢落ちというのも今更ないはずだ。

 今まで銃撃される痛みは味わったことはないし、想像する痛みよりも全然痛かった。

 あんな痛みを妄想で感じるほどの妄想力は俺にはないだろう。

 

 もしかしてWEB小説の世界でよくある、天使様か神様のミスで亡くなりお詫びに異世界への転生をするために、神様の世界へ呼ばれたのだろうか)

 

「そこまで察してくれるとは地球の日本人は本当に話が早くて助かるわね。

 あなたの思考がなかなか面白かったから、つい聞き入ってしまっていたわ。

 ちなみに私は人が女神と呼ぶもので、大筋は君が考えている通りで正解! 

 とはいえ、別に私達の管理ミスで君が亡くなったという事実はないわよ!」

 

 突然聞こえた声に振り向くと、先ほどまで誰もいなかったはずの空間に絶世の美少女といっても過言ではない金髪碧眼の女神様が降臨されていた。

 

(神様転生!!! 

 美少女が女神様でないはずがない……!

 でも、いきなり神様に不埒な考えをしてしまったことがばれてる!? 

 違うんです! 

 美少女を助けようと思ったのも! 美少女のために体を張ったのも! 

 間違いなく自分自身の意思であることは間違いありません!! 

 先ほどの考えはただ小説の設定のことを考えただけで、自分の行動や結果を女神様達のせいにしようとしたわけではないのです。誤解を招く思考で本当に申し訳ございません……)

 

 ここは謝罪一択。体さえあれば土下座せんばかりの勢いで謝罪をしていた。

 女神様に喧嘩売るなんて無茶なことはしない。

 なぜなら女神さまが美少女だから! 

 ただただ崇める! それが漢ハヤテの生きざまである! 

 

「大丈夫よ、あれぐらい気にしてないわ。

 私はあなたのことを良く知っているのだから。

 それよりもそろそろ本題に入らせてもらうわね。

 いろいろ疑問を感じるかもしれないけど、まずは私の説明を聞いてね」

 

 ニコニコ笑顔な女神様を見て、本当に怒っていないことを察してハヤテは安心した。

 むしろちょっと。いや、かなり見ほれてしまって思考が飛んでしまうところだった。

 だが、神様転生となると特典含めた説明がかなり重要になるので、すぐに集中して話を聞くことにした。

 

 ちなみにハヤテはよく思考して計画立てて行動しようとする(女性関係以外)が、自分の知識では理解が及ばないことも世の中に溢れていると考えているので、直感に従い行動することが多いタイプである。

 相手が神様であること、及び管理ミスでないというのはあくまでも相手の申告でしかないがそこは疑っても明確な証拠が出せるものではないし、このような未知の空間に召喚できるほどの相手に対して無駄に喧嘩を売るだけバカを見る事を直感で察しているので、それを前提として対応することにしたようだ。

 

 

 

 それはさておき、神様の話を整理すると以下の通りだった。

 

 ・神様は人々の暮らしを見守っているが、生きている人々への直接的な介入は行わない。

 ただし、亡くなった人々の来世を管理しており、善行や悪行を基に来世の種族や特性を自動で判定しているが、特別気になる人生を送った者を、善意或いは懲罰、または気分で神様空間へ呼んでいる。

 

 ・ハヤテの生涯が不幸の連続だったことと、それにもかかわらず前向きに己の信念(ハーレム)を貫き通すために必要な努力(体力向上や武術含めたスポーツ全般に勉強)して生き続け最後にも人を救って亡くなった事がたまたま目に留まり転生対象として呼ばれた。

 神様は複数存在し、それぞれの神様が気になるものを転生させているため、特に同じタイプの人だけが転生対象として選ばれるというわけではない。

 

 ・異世界転生に拒否権はあるが、その場合は通常と同じく記憶を洗い流し現世に輪廻転生する。

 異世界転生を行う場合は、現在の記憶を維持して、いくつかの特典を貰ったうえで0歳から新たな生を得る。

 

 ・転生先は漫画HUNTER×HUNTERの平行世界で原作とはいくつかの相違がある。

 同世界への転生は3人程度の予定となる。

 特に目的は与えず、どのように生きるかは各自の判断に委ねる。

 

 ・転生特典は本人の希望を聞くが最終的には神様の判断で決まる。

 

 

(ふむふむ、要は神様の遊戯として、既存世界に気に入ったスパイスを投入することで二度楽しんでみようという感じかな。悪い言い方をすれば駒のように弄ばれるということになるが、実際のところは通常と同じく輪廻転生するか神様転生するか選択権が与えられるので、転生者も神様もお互いにWIN-WINの関係と言えそうだ。

 直感では特に悪い神様には思えないし、HUNTER×HUNTERの世界に特典付きで行けるならメリットしかないし、これは行くしかない! 

 

 転生対象が3人程度ということは前後はあるだろうが、少なくとも1人はいるから原作介入が難しいようなら観戦者ムーブして楽しむ選択肢もあるかもしれないな。いや、むしろ敵側についてやりたい放題暴れる転生者がいて危険が増す可能性の方が高いだろうか……。となるとある程度戦えるような特典と努力は必要だな。それを考慮した特典は……)

 

 思考に没頭するハヤテであったが前提情報が少なすぎてなかなか纏まらないようだ。

 

 

 

「色々考えているようだけど、転生自体は了承したと判断するわね。

 特典を考えるための質問があるなら3つまで可能な範囲で答えてあげるわよ」

 

(ありがとうございます! 

 それでは一つ目ですが特典はいくつまで貰うことが可能か規則があれば教えてください)

 

「転生者に与えられる特典の数は最大で10個までよ。

 転生者が希望した特典の数や内容によって変動するけれど、最低でも1個の特典は保証されているから安心してね」

 

(10個とはずいぶん多い!? 

 いや、これはもしかして欲望を試されているのかもしれない。10個希望したら10個もらえるとは限らないし、逆に [10-希望数]の計算になっていて5個希望したら5個しか貰えないという規準になっていて、そのため説明時にあくまでも要望は要望でしかなく、決定権が神様であると言っているのかも。

 

 それでは二つ目の質問ですが、特典として与えられなかった場合の境遇、例えば才能や年齢、容姿、家柄等は決まっていますか?)

 

「身体能力、念能力の才能は与えられるけれど、どの程度の才能になるかはランダムよ。

 年齢は原作主人公と1歳年下から10歳年上までのランダムで、容姿は前世と同じ、家柄はランダムになるわね」

 

(なるほど、ほとんどがランダムになるということか。

 才能は特典で選択することがほぼ必須と考えよう。

 原作に介入する可能性が高い以上、それに付き合うために原作主人公と同レベルの念能力の才能は最低限必要と言える。念能力だけではなく身体能力も必要だが、人類最強は武神とも呼ばれるネテロ会長だろうか。だが、それはあくまでも長年の修行によるものだと考えられるので、才能としてはどうだろうか。それに才能だけで念と身体能力の二枠を消費するのもできれば避けたいし、両方とも際立った才能があるとわかってるキルアが理想かな。普通に一番好きなキャラだしね。

 さすがに蟻王メルエムや、ネフェルピトークラスの才能だと何枠消費するのか、そもそもそれだけで上限超える予感がしてならない。

 

 容姿はイケメンになれるにこしたことはないが、特典枠を消費するほどではない。

 家柄が不安要素だな……以前読んでいた二次創作だと暗黒大陸で生まれる小説もあったが、さすがにそれは即死フラグが強すぎてどうしようもない……。

 

 最後の質問ですが、特典を少なく希望した場合に神様が指定する特典に何か規則性はありますか?)

 

「転生者が今回送った人生を鑑みて、私が与えようと思った特典を与えるわ」

 

(答えてくれた!! 

 これで希望する特典が少ない時は神様が特典を選んでくれる事が確定した! 

 逆に希望する特典が多かった時に減らされるかどうかは未知数のままだけど、確実性を考えると希望特典数は減らした方が結果的に貰える特典数が多い可能性が高い!! 

 

 後、考えるべきは神様が与えてくれる特典が良いものか悪いものか。

 これは女神様の性格次第……。

 最初の説明時に語ってくれた内容的に「不幸な人生」がヒントだろうか。

 不幸な人生を見て面白かったと判断するようであれば再度同じような人生を送らせようとするだろうし、同情してくれるようなら幸運を与えてくれるだろう。

 まぁこの女神様は迷うまでもなく後者だ! 

 間違っていたとしてもこんな美少女になら騙されてもいい!)

 

 

 

「うふふふ。じゃあ、これで質問時間は終了するけど、希望する特典は何かしら」

 

(めっちゃ笑顔! 可愛い女神さまが更に可愛くなった! 

 今更ながら質問以外の思考も駄々洩れだという事に気づいて恥ずかしくなってきた……。

 

 わ、私の希望は、全て女神様に与えられる特典が良いです!)

 

 

「あらあらあら。ここまで嬉しいこと言ってくれる人も久しぶりね! 

 腕をふるってハヤテのために特典考えるからちょっと待っててね~。

 

 最初は……そう、やっぱり才能よね! 

 見た目的にクロロが一番相性がよさそうだけど、同じような顔で同じような才能だと二番煎じで面白みにかけるし……いっそゴレイヌ? うーんゴリラはちょっと好みが……そうね、あなたが大好きなキルアの才能をあげるわ! 

 

 

 次は……今度こそ悲願達成できるようにハーレム向けの特典をいくつか与えなきゃいけないわね! 

 たくさんの女の子との約束をしっかり覚えたり、容姿の変化に気づけないようでは女の子にはモテないからまずは完全記憶能力ね。

 甲斐性がないのもイヤだからある程度、家柄もよくしてあげるわ。

 それでも気遣いができない男は論外だから相手の感情が多少わかるような特典も必要で……

 出会いがないと始まらないから人脈運と豪運と直感力向上も欲しいところよね。

 

 これで合計7個ねーー! 残りも考え甲斐があって楽しくなってきたわね! 

 

 私は俺様系より優しい系の子が好きだから、異性をナデナデすることで相手がリラックスして体力とオーラの回復効果が上がる癒し系男子の効果もいいわよね! 

 同時に複数の女性を幸せにしないといけないから並列思考力も大事よね! 

 最後に愛に関する念能力のメモリ消費を半分に抑えて習熟度も上昇しやすくしておくわ! 

 

 

 ふふふふ。もう大奮発してあげたわ。

 最後に纏めると特典はこうなったわよ。

 

 ・キルアの才能

 ・完全記憶能力

 ・家柄良

 ・相手の感情がなんとなくわかる

 ・人脈運

 ・豪運

 ・直感力向上

 ・癒し系男子(撫でている異性の回復力向上)

 ・並列思考力向上

 ・愛に関する念能力のメモリ消費半減し習熟度も上昇

 

 10個の特典を与えたのも久々だったのだけれど、これだけで楽しめたわ。

 ハヤテ、ありがとう! あなたも気にいってくれるといいのだけれど?」

 

 かなりのテンションで早口になり特典を決めていく女神様。

 途中で完全に女神様の嗜好が混ざっていたし、最後に言い切った後の笑顔を見る限り、転生者のその後の動向を見守るよりも、この特典を考える方が女神様の趣味といっても過言ではなかったのだろう。

 その女神様にとって、10個も特典を考えさせてくれたハヤテの評価が上がったように見える。

 ハーレムの最初の一人が女神様というのはやはり神様転生の醍醐味であろう。

 

 

(女神様ありがとうございます!! 

 正直、自分で考えるよりも全然いい特典になったんじゃないかと嬉しく感じてます! 

 あの……もしも聞いてよければなんですが、特典数は10個が基本なんでしょうか?)

 

「いいえ、特典数は元々ハヤテが考えていたように減点方式よ。

 [10ー本人希望数ー不愉快な発言数]で決まることになってるの。

 大概の人は亡くなったことの心の整理もつかず暴言を吐いたりするし、最近になってからは特に亡くなったことを私達のせいにしてきたり、奪取系や吸収系の能力や最強の武器という努力しなくても最強に成りうる特典もらうのが当然というスタンスで話してくる頭の痛い人たちが増えてきたのよね……。

 そういうわけで、特典で希望を何も言わない人はまれだから、ハヤテみたいに10個の特典が与えられたのは、他の神様からの転生者含めてもかなり久々だったはずよ! 

 ちなみに特典数が多くてテンションが上がっていると普通よりも良い特典を与えやすくなるから数以上に差がつくこともあるわね」

 

(発言もカウントされてるんですね……。

 最初失礼なことを言ってしまった気もしますし、途中いろいろ考え事ばかりしていたので失礼なことを考えていなかったか正直不安です……。

 なので結果として特典10個も貰えたのは女神様の恩情のおかげだと思っています! 

 私の担当が女神様で本当に良かったです、ありがとうございます!!!)

 

「あらあらあら。本当に良い子ね。

 あれぐらいはいいのよ。基本的には人間は皆私たちの子供だと思っているから、多少のことは全然気にならないし、むしろ微笑ましいぐらいよ」

 

 まさに聖母のような発言を聖母のような笑顔で言い切る女神様。

 女神様から神託貰って会話できるような特典を選ぶべきだったかもしれない。

 

 

「他に質問がなければいよいよ転生にとりかかるけど、質問はあるかしら? 

 特に数の制限はないから雑談と思って気軽に聞いてくれていいわよ」

 

(そうですね……。

 興味本位の質問なんですが、蟻王メルエムの能力を希望することは可能だったんでしょうか)

 

「蟻王メルエムの念能力かしら? 食べた相手のオーラを自分のものにする能力はさすがに無理ね。

 人間に転生してから自身の念能力として開発するのも人間の限界を超えてしまうから無理といっていいわ。

 言うまでもないと思うけど、肉体面はそもそも人間じゃないから暗黒大陸で人外転生せざるをえなくなるわ。

 あ、でも学習能力であれば特典の5枠を消費すれば与えられたわね」

 

(なるほど……。

 チェス国内一の人に、数十局打つだけで勝利する学習能力に魅力は感じますが……

 では例えば……別の漫画の技を希望することもできたんでしょうか)

 

「できるかできないかでいえば可能ね。

 ただ、世界観が壊されすぎるのも好ましくないから、1つの希望で3枠消費とか通常よりも判定が厳しくするようにしてるの。メモリが許す範囲で能力を作る分にはもちろん構わないのだけれど」

 

(じゃあワンピースの覇気とかハリーボッターの即死呪文とかスーパーロボットとか、そういう特典もらっている転生者はいなさそうですね。安心したような、ちょっと残念なような)

 

「あら、そういう世界に行きたいの? 

 しょうがないわねー。ハヤテがHUNTER×HUNTER世界で私を楽しませてくれたら、将来的にその世界に転生させてもいいわよ!」

 

(え……マジですかっっ!? 

 じゃ、じゃあ美少女が多いxxxxxの世界でぜひお願いします!!!」

 

「あらあら。若いわねー。

 でも、先のことよりまずはHUNTER×HUNTERの世界で頑張ってね! 

 ハヤテの来世が素晴らしい人生になることを祈っているからね!」

 



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第2話:幼少期1

1983年5月4日 誕生

 

 

 生まれた時点では前世の記憶は持っておらず、3歳の誕生日に記憶を取り戻した。

 記憶を取り戻した俺は、暫く記憶の奔流に戸惑ったが、落ち着き次第、今までの三年間の記憶整理と現状確認を行った。

 

 ・特典通り剣術道場三男という成長しやすくもしがらみの少ない身分という良い家柄だ。

 兄が二人いるが10歳以上離れていることと、二人とも十分な剣術の才能があることから、俺は既に後継者候補から外れているので、自由にハンターとして旅に出ることが可能だ。

 

 ・両親と兄との仲は良好で遊んでもらうこともある。とはいえ、各々自身の修行や指導で多忙となり、会う機会はそこまで多いとも言えない。兄は三歳から木刀を使った稽古を始めたらしく、俺も同じ年齢で始めると言われている。それに向けた体力向上のための運動は行っていたので年齢を考慮すればある程度動ける方だと思う。

 俺の才能の素となった原作主人公の親友であるキルアは、最高の暗殺一家でエリート教育を受けていたから、スタートとしては出遅れていると言えるだろう。

 

 ・まだ念には目覚めていないが、記憶を取り戻してから体の中に違和感がある。前世にはなかった不思議なエネルギー、もしかしてこれがオーラだろうか? 俺自身がまだ使えないこともあり、家族含めた周囲に念能力者がいるかは現状判断できない。

 

 ・原作開始は1998年12月で、1999年1月7日がハンター試験だったはずだから、今は約15年以上前ということになり、原作主人公の4つぐらい年上になる。

 

 ・原作知識は問題なく覚えていた。完全記憶能力の特典により忘れることはないので安心だ。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇目標決め

 

 現状を把握したところで、今後の目標を決めよう。

 最終的には今度こそ幸せな家庭を築くことだけど、そのために必要なこと、必要なことを達成するためにすべきことを決めておかないと、この世界では死亡フラグが多すぎて何もできないまま終わりそうな予感がする。

 

 

 ▽長期的な目標

 

 長期的な目標としては、HUNTER×HUNTER世界で最大の敵と思われる蟻王メルエムを倒せる力を手に入れることだ。

 漫画HUNTER×HUNTERは大好きだったが、キメラアント編だけはグロすぎるし、原作キャラの死亡率も高すぎて見るのが辛い時期でもあった。何よりポンズが亡くなったのは悲しかった! ついでに……カイト、ネテロ、ポックルあたりも(男はついで、常識だね)。

 

 それに原作ではかなりぎりぎりの戦いになり、勝てるかどうかに博打要素が高く、今回は転生者が俺を含めて3人程度存在するはずだ。それによるイレギュラーが発生して敗北すると人類滅亡一直線だ。何が起きても倒せるよう、俺が蟻王メルエムを倒せるようになるのが確実な対処法ということになる。

 

 ただし、蟻王メルエムは、ネテロ会長以上でゴンさんクラス。

 俺と才能が同程度のゴンが、その後に念が使えなくなるほどの厳しい制約を設けることで、倒すことが可能な年齢まで成長した状態がゴンさんだ。ゴンは11歳で念を覚えたから、ゴンさんを多分25歳ぐらいだと推測すると、念を14年修行した集大成がゴンさんと仮定する。

 俺は、キメラアントの登場する2000年5月時点では17歳になるから、今からなら念を修行できる期間が14年。ぎりぎりいけるか? いや、幼少期にできる修行には限界があるし生命力もまだ乏しいだろうから厳しい。でもハーレムのためにはやるしかない……! 

 

 とはいえ、ゴンさんが25歳くらいで蟻王メルエムが同じくらいの強さというのも仮定でしかないのでもっと強くなるに越したことはない。

 強化系であれば肉弾戦に特化して脳筋スタイルでいく予定だ。特質系であれば修行用の空間を念能力で作れるかもしれないのでサポート特化でもいいかもしれない。俺が蟻王メルエムを倒せるようになる、というのはあくまでも手段であって、目的は討伐なので周りを強化できるならそれでも良い。

 他の系統だと……その時に改めて考えるしかない。

 いずれにしても今の段階で考えるのも情報が足りないから考えるのはここまでだ。

 水見式で系統は早めに確認して方向性だけでも決めたいな。

 

 

 

 ▽中間目標

 

 今から一年以内に念の基礎である四大行を鍛えて系統を確認し、より具体的な計画を立てる。

 四大行の修行に終わりはないので早めに開始するに越したことはないし、具体的な方向性を決めることでそれに向けた修行に特化した方が良い。

 

 

 五歳までに心源流拳法の道場にも通って、念能力をより実践的に鍛えたい。

 これは剣術スタイルの場合でも同様だ。心源流拳法は拳法と名がつくだけあって主に肉弾戦にはなるが、念能力を鍛える知識では心源流に勝る場所はあまりないだろう。なぜなら武神ネテロが創始者だから。

 五歳ではさすがに習えない可能性はもちろん高い。

 理想は修行にぴったりな念能力を習得しているビスケに弟子入りすることだが、心源流拳法で師範をやっているという情報以外では、どこで何やっているか原作知識でも情報がないし、二つ星の称号を持つダブルハンターだから世界中を飛び回っている可能性が高いし、子供の身としては報酬を用意することが難しい……。

 

 

 六歳までに戦闘スタイルの方向性を確立する。

 HUNTER×HUNTERの世界では肉弾戦、または念能力メインの戦いばかりで武器を使用することが極端に少ないように感じる。特に前世である現代社会は、肉弾戦よりも剣術、剣術よりも銃撃と進化していったが、このHUNTER×HUNTER世界では、剣術といえばノブナガぐらいしか使っていないし、銃撃は雑魚キャラが使っているイメージしかない。

 

 とはいえ、肉弾戦特化の武神ネテロですら、蟻王メルエムを相手にほとんど有効打を与えられていないのもまた事実。単純に老齢化により顕在オーラ量が減少し不足していた可能性もあるが、人の肉体における限界かもしれない。そう考えると剣術を鍛えるのも有だと思う。幸い剣術道場の息子だから習う機会は充分に設けることができる。

 後は才能次第だ。キルアが剣を使う機会はなかったから未知数。剣術の才能がないのであれば潔く見切りをつけて肉弾戦、というかキルア同様に暗殺術スタイルを鍛えた方がよい。

 

 

 10歳になったらジャポンを出て天空闘技場でより実践的な訓練をしたい。

 原作では雑魚しかいないイメージだが、一日四千人の腕自慢が集う戦闘好きの聖地と言われるぐらいだから、本当の猛者もいるはずだ。遊んでいたとはいえヒソカの両腕をちぎるようなカストロもいたぐらいだから、行く価値は0ではないだろう。それにハーレムのためにお金も必要だ。

 

 それにジャポンから旅だった際にはハンターとしての修行も考えなければならない。

 原作で行われたハンター試験の一次試験では長距離走だから、この世界であれば修行により自然と体力は身につくはずだからいいとして、二次試験の崖から飛び降りて卵収集、三次試験のトリックタワー、四次試験の一週間サバイバルなんかは普通に街で生活しているだけでは達成するために必要なスキルは身につかないだろうことは明白だ。アマチュアハンターとして活動するなり、プロハンターに師事して活動するなりチャンスを逃さないようにしたい。

 

 

 16歳にはネテロ会長とある程度戦えるようになりたい。

 15歳と半年ぐらいで行われる、原作主人公が受験したハンター試験を一緒に受けようと思うが、その際にネテロ会長と戦う機会がある。

 

 そこでネテロ会長に、俺に追い越されるかもしれないという危機感を与えることでネテロ会長が鍛え始めれば万々歳だ。少しでも全盛期に近づけば蟻王メルエムとの戦いで心強い戦力になってくれるかもしれない。ここから最終決戦まで二年ないのだから、できればこの時点でネテロ会長に勝てるようになりたいと思う。

 

 

 そして忘れてはいけない、最も大事なのが嫁候補だ! 

 前世では結婚すらできなかったが、今世では修行や戦い含めてかなり辛いものもあるから、ある程度の楽しみがないと頑張れないかもしれない。だから自分への餌として可愛い子と結婚、あわよくばハーレムだって目指す所存! 

 幸い神様特典にも豪運含めて恋愛方面でも有用なものがいくつかあったし、可能性はある! 

 ……あるよね? 

 少しでも可能性を上げるために、強さが必要だ。日々修行を怠ってはならない。

 

 

 

 他に考えることは……他の転生者だろうか……? 

 いや、味方になるか敵になるかもわからないし、性格も予想がつかないからこれは考えても仕方ないだろう。原作の流れから明らかにおかしいことがないかを気に掛けておくぐらいでいい。同年代であることはわかってるので、ハンター試験で合う可能性は高い。最悪、他の転生者の刺客なり偵察なりがハンター試験に出る俺を探して、異分子として処分しようとするかもしれない。そんな強硬派がいたら危険だが、怯えているだけでは何もできなくなる。とはいえ、思考放棄して無視するのも危険なので、原作主人公ゴン、親友のキルアには早めに接触して嫌な兆候が出ていないかは確認した方が良いだろう。

 俺を狙ってくるというなら跳ね返す強さが必要だ。日々修行を怠ってはならない。

 

 

 

 ある程度、思考が一巡したところで現時点での目標を纏めるとこうなった。

 

 ・長期目標

 17歳で蟻王メルエムを倒し、可愛い嫁(達)と幸せな家庭を築く。

 

 ・中間目標

 4歳までに四大行を鍛えて、習得する念能力の方向性を決める。

 5歳をめどに剣術に専念するか心源流で学ぶ道筋を得る。

 10歳までに戦闘に使うための念能力を習得する。

 10歳までに天空闘技場の200階で戦える程度の実力を身につける。

 10歳から嫁を探しに、ついでに実戦を経験するために旅立つ。

 15歳のハンター試験までにネテロ会長を倒せるようになる。

 

 これはあくまでも仮の目標だ。

 実際にどれくらい修行できるのか、成長できるのかもまだ未知数なのである程度、臨機応変に対応していこうと思う。

 



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第3話:幼少期2

 1987年 4歳

 

 記憶を取り戻してから早くも1年が経過した。

 この1年の主な出来事は以下だ。

 

 ・無事に三日で精孔を開くことができた。

 

 ・精孔が開いたことで家族のオーラも見えるようになり、全員が念能力者であることがわかった。つまり、俺の精孔が開いたことも早速ばれた。話を聞く(というより子供だからか勝手に話してくれた)と、この家系では5歳から戦闘訓練を開始するのだが、そのぶつかり合いを経て精孔が開かれることがほとんどらしい。このような無理やり精孔を開くやり方は命の危険があるというのに……思ったより戦闘民族の家系に生まれていたことに気づいてしまった。だが、念能力者の成長に必要な修行方法なんかも聞けるので、あまりデメリットはない。

 

 ・纏、練、絶ができるようになり、精度や質、切り替え速度を上げる事を意識して日々訓練。

 原作主人公たちは、原作開始から1年半ぐらいで練の連続発動時間を3時間まで伸ばしていたが、一年間続けてもまだ30分しか続けられない……。やはり才能だけではなく年齢、或いは肉体強度も必要だろう。運動も並行して行っている。

 

 ・水見式を行った結果、系統は特質系であることがわかった。

 

 ・リオンという少女(7歳)を保護した。

 

 ・リオンが俺の世話役としての仕事を任された。可愛いから嬉しいよね。

 

 ・リオンの口調を「~ですの」にするようお願いした。可愛いから仕方ないね。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇リオンとの出会い

 

 オーラが見えるようになってからは、家族で年に数回行っていた道場破りにも同行させてくれるようになり、凝をしながらしっかりと観察し、同じ動きをするためにはどうすればいいか、そしてその動きを打ち破るにはどうすればいいか、この武術はどのような相手に強く、そして弱いのか等々考えるようにと両親から言われている。

 

 俺まだ四歳なんだけど……理解できると思ってんの? という眼で両親を見ていると、「俺達の息子だから、できて当たり前だろう?」とさも不思議そうな顔で俺を見返された。解せぬ。思ったより優秀すぎる家族のもとに生まれたようだ。

 

 

 そして、うちの家族と別大陸へ道場破りにいった帰りに、出会った。

 

 その少女は、誰かを待っているようには見えず、濡れることに抵抗もなく、ただぼんやりとどこかを見ていた。雨の中、傘もささず、歩こうともせず、無表情なのにどことなく泣いているようにも見える様子でただただ立ち尽くしていた。

 

 うちの家族は警戒した。明らかに厄介事か面倒事だと思ったのだろう。僅か10歳にも満たない少女が雨の中で立ち尽くすというのは普通ではない。ましてやその少女から非念能力者ではありえないほどのオーラが吹き出ている様を見れば警戒するなという方が無理だろう。

 

 だが、俺は一目見た時に目をそらすことができなくなり、両親の手を振り払って少女に駆け寄った。俺は偽善者だ。しかも前世からも変わらない筋金入りの偽善者だ。ただし女性に限る。

 泣いているように見える少女を放っておくなんてできないし、見ているだけで心が痛くなる。

 だからこそ、俺は声をかける。

 内容が妥当かは考えてもわからない。だが、声をかけないよりはましだ。

 

「こんにちは! 僕はハヤテ。友達になろう!」

「…………?」

 

 その少女は警戒心もなく、ただただ理解できないことを言われたといわんばかりに俺の方を見てきた。まるで友達って何だろうとでも思っているように感じた。多分、神様特典の効果だろう。少女が感じている虚無感も自らのことのように感じるようだった。

 

「友達っていうのはさ、一緒に遊んで楽しいことや悲しいことを共有し助け合うんだ! 

 君が今、辛いというなら一緒に泣くし、やりたいことがなければ楽しめることを一緒に探すよ! 

 だから……だからもしも行くところがないならうちに来ない?」

 

 少しでも少女に興味を持ってもらえるように声をかけながら手を差し出す。

 暫くそのままぼんやりしていた少女だが、俺の手をとってくれた。というより、お手をされたワンコのように俺の手に重ねてきた。

 その少女の手は冷え切っており、かなりの時間ここで雨にうたれていたであろうことが偲ばれる。少しでも温めようとそのまま抱きしめた。

 

 あ、やべっっと思ってしまったがどうやら少女は気にしなかったようで、されるがままになっていた。良かった。前世だとここでキャ──ーって叫ばれて周りから変質者呼ばわりされるのがいつものパターンだった。神様特典の豪運のおかげかな。

 

 あ、やべっっっっと思って後ろを振り返ったら家族みんながニヤニヤしながらこっちを見ていた。恥ずかしすぎて頭が茹で上がりそうだ……。豪運もっと仕事して! でもこの少女を抱きしめている手は離さないけどな! 

 

もう雰囲気的に聞くまでもないとは思ったが、建前として「この子をうちに連れて行ってもいい?」と聞いてみたら、「友達なんだろ?なら仕方ねーな。友達だもんな友達。うんうん」「あらあら今夜はお赤飯ね」「まさか10歳年下の弟が先に家に女性を連れ込むとはな」「光源氏計画とはさすがハヤテだ。おれたちにできない表現を平然とやってのけるッ! そこにシビれる! あこがれるゥ!」と全力でからかわれた。

 いや、俺よりこの子は年上だからね!? 

 あれ、前世考えたら俺の方が20歳ぐらい上か?

 …………精神年齢は絶対ばれないようにしないといけないと改めて心に決めた日であった。

 

 

 その後、少女には両親や親戚もおらず帰る家もない事も再確認し、うちに連れて帰ることになった。少女の身体から見える多数の傷跡にはやはり疑念を感じたようだが、実際に接してみると、本人はそこまで危険な性格ではないことも分かってもらえた。

 ただ、困ったことに、少女は自分の名前も言えなかったので、俺がリオンという名前を付けた。某ゲームで見覚えのある容姿をしており、左手の傷がそのキャラの固有紋章にも見えたからなのは俺だけの秘密である。

 

 その後、うちで過ごすようになったが、気づいたらぼーっとして悲しそうな瞳をしていたので俺の世話役という仕事を与えて色々振り回すようになった。といっても俺の生活の大半は念の修行しているのでそれに付き合ってもらうことも多い。やっぱり念能力のことは知っていたようだ。

 

 修行開始したばかりの俺に比べたら、かなりオーラの流れが精錬されているし、俺の知らないことも知っているので、「すげーっ!」って子供らしく大絶賛したら「ありがとうございます」とは言ってくれるもののちょっと悲しそうな顔をしていた。どうも好き好んで得た力ではなく、嫌な思い出があり、この力を使うことに多少の抵抗があるようだ。

 それに気づいてはいたが敢えてオレは褒め続けた。どんなに辛い経緯があったとしても得た力はリオンちゃんのものだ。過去を嫌っても、リオンちゃんの力自体を嫌悪する必要はないのだから、嫌な思いをして手に入れた分、幸せになるためにその力をふるってほしいと思っている。

 

 ついでにちょっとリオンちゃんの語尾を「~ですの」に変更するよう洗脳中だ。

 感情を出すのが苦手で、真面目過ぎて口調も堅いことが多いので、周りが取っつきにくいように思って離れてしまうことを避けるためだ。周りに馴染みやすいよう可愛らしい口調から始めたらどうだろうかと思い、この口調を勧めた。

 べ、別に俺の好みだからってわけじゃないんだからなっ! 

 

 ……ごめんなさい……でも後悔はしていない! 可愛いは正義! 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇系統把握

 

 念能力はまだ開発していない。

 特典で愛に関する能力だとメモリ消費が半減するからその方向で考えているが、相手がまだいなかったこともあり、いまいちイメージがわかず見送った結果だ。イメージが曖昧だと開発できないか、開発できても微妙な能力になるだろうから今はまだ避けている。

 とはいえ、リオンちゃんと徐々に仲良くなってイメージしやすくなっているから開発するのはそう遠くない未来だと思っている。

 

 

 とりあえず俺の得意な系統が特質系であることははっきりした。

 一応説明すると、念能力には6つの系統が存在している。

 

 強化系 :オーラでモノの持つ働きや力を強くする。自身の肉体も強化可能。

 変化系 :オーラの性質や形状を変える。例としてゴムや電気の性質へ変化も可能。

 具現化系:オーラを物質化する。念獣などの非現実的なものも具現化可能。

 特質系 :他に類のない特殊なオーラ。千差万別で人によって全く異なる能力。

 操作系 :オーラでモノを操る。自身の肉体も操作可能。

 放出系 :オーラを飛ばす。銃撃のように飛ばすことも瞬間移動も可能。

 

 

 系統が特質系、これは特質系の習得率、精度が100%であることを示す。

 異なる系統の念能力を使用する場合、自身の系統から離れるほど有用性が下がっていき、その相関性を示したものに六性図がある。特質系の場合、特質系100%、操作系と具現化系80%、変化系と放出系60%、強化系40%と言われている。

 

 習得率:修行し100の経験値を得た場合、何%の効果を得られるかという割合。特質系は

     特質系修行なら100LVになり、強化系修行だと40LVにしかならない。

 精度 :100LVの念能力を使用した場合、何%の効果を得られるかという割合。特質系は

     特質系能力で100ダメージを与え、強化系能力では40ダメージにしかならない。

 

 つまり、強化系の能力を発動することを考えると、系統が強化系の原作主人公に比べ、特質系の俺は、修行量×習得率(40%)×精度(40%)で16%の効果しか得られないということになる。

 もしも肉体を強化して戦うのであればこの割合を何とかする必要があり、その可能性があるのもまた特質系だ。

 

 原作キャラの念能力としては、クラピカの<絶対時間(エンペラータイム)>があり、これは全ての系統を100%にするというチート能力だが、種族特性である緋の目が必要であることと、寿命が発動時間1秒あたり1時間寿命が縮むという恐ろしい制約になっているらしいので、俺では実現不可だし、実現できたとしても長期目標にそぐわない。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇念能力の検討

 

 まずは特質系で、かつ愛に関連する念能力を満たす修業向け念能力の開発が最優先だ。

 一人で戦う必要性も理由もないから仲間も一緒に鍛えられるような空間が欲しい。

 

 蟻王メルエムとの最終決戦までに成長が間に合うかという時間との勝負なので、精神と時の部屋のように、現実時間よりも長く修行できる空間が欲しい。

 

 神様から愛に関する念能力の特典を貰ってるから、愛した人だけが参加できるように、等の制約もつけることでメモリ削減や効果上昇を狙った方が良いだろう。

 

 …………原作キャラの女性って誰がいたかな……ミトさんはゴンの育ての親だから年齢的に……マチ、シズクは盗賊だし、戦える仲間陣営としてはポンズとビスケぐらいしかすぐに思いつかない。……制約つけすぎて仲間が誰も対象に指定できなくなった、ということになると悲惨だ。

 

 いや、愛か……。

 よくよく考えると愛と一言とっても、恋愛だけではない。家族愛もあるし親愛もある。

 そう考えれば対象に指定できる幅が格段に広くできる。視野狭窄に陥ってしまうところだった、気を付けないと。

 

 

 これらを踏まえて現状で考えている能力としては以下だ。

 

 

─────────────────────────────────────

<愛の修行場(ラブトレ):強化系、特質系>

 特別な領域を構築し、領域内にいる発動者及び対象者は修行による能力向上量を増加させる。更消費オーラ量を増やすことで、領域内で身体及びオーラに負荷をかけたり、時間の経過も緩やかにできる。

 

 ▽制約

 領域は発動者の円が及ぶ範囲までしか広げられない。

 発動者は能力発動中常に領域内にいなければならない。

 発動者が愛していないメンバーは対象にできない。

 ただし、愛しているメンバーが範囲内にいる場合に限りその家族も対象となる。

 発動者への愛がないメンバーは対象とならない。

 発動者以外に対象となるメンバーがいなければ発動できない。

 発動者への愛が少ないほど本能力による能力向上量が低くなる。

 対象者のうち誰か一人でも希望した場合は発動者の意思を無視して解除される。

 

 ▽誓約

 領域内に対象となるメンバーがいない状態で発動した場合、30日間絶となる。

 発動者以外の意思で一月に3回解除された場合、この能力は永遠に失われる。

─────────────────────────────────────

 

 

 そう、ボッチだとなんの効果もない念能力だ。

 リオンちゃんと結ばれる時にこの念能力も開発完了するといっても過言ではない。

 

 ……結ばれるよね? ……結ばれるはずだ……お蔵入りしたらごめん……

 

 ついでに能力向上量を増加という、俺と相性の悪い強化系要素もつけてはいるが、これは無いよりは有った方がまし、という気持ちでつけている。最初は効果を発揮しづらくなるだろうが将来的に念の得意系統をなんとかした時のことを考え、効果に加えたいと考えている。

 本命の身体及びオーラに負荷をかける領域構築には強化系は関係しないから問題ない。

 

 

 

 次に戦闘用の念能力も必要だ。

 いくらサポートメインでいくとはいえ、戦闘用の念能力がないと肉弾戦するしかないが、特質系なので強化系とは相性が悪く足手まといにしかならない。

 

 とはいえ、特質系だと特殊な念能力で有利に立てる可能性もあるが、強化系が向かない以上は蟻王メルエムクラスに接近されると、オーラの攻防力的に勝負の土台にすら立てずにやられてしまう可能性が高い。そうなるとクラピカの<絶対時間(エンペラータイム)>のように他の系統も手に入れる等で習得率と精度をなんとかするための念能力を作ったほうがいいだろう。これは要検討だ。

 




一応補足すると、幻想水滸伝Ⅴのリオンは「~ですの」口調ではありません。
普通に真面目な喋り方です。
ただ、作者が真面目な口調でキャラ個性を発揮させる文才がないので、
口調を変えさせてもらいました。リオンちゃんファンの方申し訳ない。

また、本文に何人か原作女性キャラを上げていますが、サブヒロインは他にも
登場予定です。
ちなみに劇場版 HUNTER×HUNTER 緋色の幻影に登場するレツは残念ながらでません。これは私が未視聴だからです…。
本作のような底辺小説すら読み漁る皆様なら絶対見ているであろう二次創作小説で存在を知ってからレンタルして見ようかなとか考えながら今に至ります…。


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第4話:幼少期3

 1988年 5歳

 

 あれからまた1年が経過した。

 この1年の主な出来事は以下だ。

 

 ・練の連続発動時間が一時間まで伸びた。

  成長率が上がらなかった悲しさ。

 

 ・基本技として纏と絶は寝ながらでもできるようになった。

  応用技として凝、周、円ができるようになった。

 

 ・リオンと親愛の関係になった。

  合わせて<愛の修行場(ラブトレ)>ができるようになった。

  今年は練の連続発動時間爆上げ確定だ! 多分。

 

 ・ミアキスという少女(10歳)をスカウトした。

 

 ・両親から5歳になったら剣術の修行を開始すると宣告された。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇念の修行状況

 

 念の修行では円を優先的に修練した。

 これは<愛の修行場(ラブトレ)>の効果範囲を、円と同じ範囲にするという制約にする予定だからだ。円が小さいと意味がないから最低でも複数人でトレーニングできるように5mには広げられることを目標に努力している。

 

 才能の基となったキルアは、原作の中で円がとても小さいことが記されていたので不安だったが、単純に練習していなかっただけのようで、もう3mまでは広げられるようになった。オーラ量自体がまだそこまで多くないから限界があるけど、オーラ量も徐々に増えていけば円の範囲ももっと広げられるという手ごたえは感じている。

 

 その反面、他の応用技はまだ使えるようになっただけ、というレベルでさほど修練が進んでいないのも時間が足りない故の問題だから仕方がないと考えている。

 時間について、勉強しながらでも纏・練・絶を問題なく行えるようになったので、今までよりは念の修練に費やせる時間が増えつつあり、改善の兆候はある。

 来年から学校が始まるので本来であれば時間がなくなるところだが、学校で習うようなことの大半はもう勉強しおわっているので、飛び級で速攻卒業する予定だから問題ない。

 

 神様、完全記憶能力の特典に感謝です……!! 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇リオンとの進展と念能力開発

 

 リオンとの仲は良好だ。

 だんだん感情表現も顔に表れるようになったし、笑顔を見れるぐらいには進歩している。

 元々真面目な顔も可愛らしかったが、時折見せる笑顔にも見惚れてしまった。

 それになによりリオンがこの家庭に馴染めているようで本当に良かった。

 

 まだまだ年齢の問題か、異性としては見られておらず、弟に向けるような、どちらかというと保護者的な愛情だと感じているが、愛は愛である! 

<愛の修行場(ラブトレ)>の発動条件は無事に満たせたようで問題なく発動できるようになったことは実に喜ばしいことだ! 

 

 これでリオンちゃんを守るためにムッキムキになってみせるぞ──────!! 

 

 …………将来的に小柄なリオンちゃんの隣にムキムキボディビルダーがいたら通報案件だろうか? 

 細マッチョを目指そう。うん、そうしよう。ちょうど、操作系は習得率・精度が80%だからそんなに悪くはないから大丈夫だ。多分。

 

 

 と意気込むのも束の間、能力発動しながら体力向上のために走り続けると5分もたたずにダウンしてしまうふがいない俺……。一度倒れたら30分は立てない……。

 というか重りで立ってるのも辛い……。

 同じように能力による負荷をかけているリオンちゃんも多少疲れてはいるけどまだまだ動けそうで、俺を心配そうに見ている。

 というか膝枕してくれてる。優しい。リオンちゃんまじ天使。

 

 ま、まだ5歳だし5分で倒れても仕方ない……! 

 

 ……「まだxxxだし」という言い訳を始めるやつは、心のどこかで諦めているから、大きく成長することはないだろうって昔誰かが言ってた気がする……。

 

 諦めない! 

 ネバーギブアップ!! 

 俺達の戦いはこれからだ!!! 

 

 いいだろう、認めよう。体力が現時点でないのは事実だ。

 それでも俺は倒れても倒れても不屈の闘志で何度でも立ち上がる! 

 明日の俺はもっと強く、いや、1時間後の俺はもっと強くなって見せる! 

 

 うぉぉぉぉっしゃ──────────ー! 

 全てはリオンちゃんを守る力を得るために!!! 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇念能力開発2

 

 覚悟を決めて特訓を続ける事、二週間。

 今では俺の特訓時間と休憩時間の割合は 9対1 ぐらいでほとんど休憩をとらずに特訓を続けられるようになった。

 

 成長した? 

 皆、俺を見直してくれたかな? 

 

 違うんだなー! 

 俺を心配したリオンちゃんが無意識に独自の念能力を習得してしまったんだ。

 膝枕して頭を撫でている時に、リオンちゃんのオーラを俺に流し込めば回復しないかなと思ってうっかり開発してしまったらしい。

 

 

──────────────────────────────────

<メイドの抱擁(エンブレイスメイド):強化系>

 抱きしめている対象者と発動者の体力・精神力・オーラの回復力を強化する。発動者にとって対象者が大切な人であるほど、抱きしめている時間が長いほど効果が上昇する。

 

 ▽制約

 抱きしめた時に不快感を感じる相手に対しては発動できない。

 発動者に好きな異性がいる場合、好きではない異性に対して発動できない。

 完全に切断された部位の再生はできない。

 対象者から拒絶された場合は効果が発動できない。

──────────────────────────────────

 

 

 ありがたいけど! 

 抱きしめられるのは嬉しいけど!! 

 俺の介護のために念能力作ってもらったのは申し訳ない!!! 

 

 でも、リオンちゃんはうっかりと言っているけど、制約もしっかりと組み込んであるし、実は俺の役に立ちたいという思いで考えて開発してくれたんじゃないかなと思っている。

 俺が気にしすぎないように言葉を選んでくれたんだろうな。リオンちゃんマジ天使! 

 

 なんにせよ実際、<愛の修行場(ラブトレ)>と<メイドの抱擁(エンブレイスメイド)>の相乗効果で特訓効率が格段に上昇しているのは事実。

 

 過去を後悔するよりも未来に生きようっ! 

 既に念能力はできているのだからどう活かすかが重要だ。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇ミアキスとの出会い

 

 今年も戦闘民族であるうちの家族と別大陸へ道場破りに行った時の話。

 

 ジャポン以外では珍しいことに刀をメイン武器に使用している道場だった。

 しかもただの刀ではなく、小太刀二刀流! かっこいい。

 スピード重視の美しい戦い方なんだろうと憧れをいだいていたものの、道場にいたのはむさくるしいおっさんばかりだったのでさほど美しいとは感じなかった。強さも大したことはなく、うちの家族の全勝で終わるといういつも通りの結果だ。

 

 ちなみにこの道場破り旅行は、俺が使いたい武術を見定めることも目的だったりするらしい。

 うちは全員が見るだけで学んで活かすことを特徴としているので、うち独自の武術だけでなく、自分にあった武術も修練を積むことになっている。そしてうちの武術と新武術を良い感じに組み合わせることで世代を重ねるごとにより洗練していく。

 ジャポンということもあり、猿真似一家と呼ばれることもあるが、実際にそれで強くなれてるのだから文句を言われる筋合いはないというものだ。もちろん当主によっては技術が中途半端になる可能性はあるが今のところそういうぼんくら当主はいない。

 うちの兄も優秀なので安心して当主を任せられるというものだ。

 

 

 今回も俺が使いたい武術とは出会えなかったなーと思いながら帰郷の準備を進めていたところ、10歳ぐらいの娘さんが道場の陰からこちらを見ていることに気づいた。

 ……あれ、あの娘の方が今日戦っていた人達より強いんじゃないだろうか? 

 

 道場の方に話を聞いてみると、ここは男性しか武術を学ぶことを認めていないらしい。

 あの娘は、道場主の次女でミアキスちゃんというらしく、よく道場での稽古を見学しながら、見よう見まねで訓練をしているそうだ。

 お弟子さん達も、年若くして自分より強くなっている才能を活かせないミアキスちゃんに同情の眼を向けてはいるものの、長年続いているこの道場の決まりに不満を声高に言うこともできず、それとなく話を振っても道場主は頑なに認めようとしないので静観しているらしい。

 

 ならばうちの道場に引き取って活躍の場を与えてはどうだろうか? 

 両親も巻き込んで道場主とミアキスちゃんを説得し、無事にスカウトに成功した。

 お互いに道場主の子供ということで婚約の話もでたが、「私より弱い人とは結婚する気ないですぅ~」と軽く振られてしまった。

 ……泣きたい。でも、強くなればOKってことだよね!!! 

 俺、ミアキスちゃんの為ならもっと頑張れる! 

 

 

 なお、俺はこの次にいった道場の武術を学ぶことに決めた。

 順番が逆だったらミアキスちゃんと出会えなかったと思うと豪運に感謝感謝! 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇ミアキスの能力

 

 同性、同年代ということもあり、リオンちゃんと力試しすることになった。

 10歳のミアキスちゃんと、8歳のリオンちゃんの戦いは、ミアキスちゃんに軍配が上がった。

 まぁこの年代だと2年の差はかなり大きいよね。

 

 また、ミアキスちゃんは既に独自の念能力も習得していた。

 

──────────────────────────────────

<秘める想いの誘導(ブレインインダクション):操作系>

 自身、或いは手を握った対象者の思考を誘導する。自分以外への最長効果時間は手を握った時間によって変動する。

 

 ▽制約

 思考を誘導するだけで強制力はない。

 自身以外に発動するには対象者の手を最低でも10秒は握る必要がある。

 対象者本来の行動からかけ離れるほど効力及び効果時間が短くなる。

 発動者よりも対象者の意思が強ければ無効化される。

 同時に発動可能な人数の上限は10人までとする。

──────────────────────────────────

 

 

 能力名から感じられるような凶悪な効果はなく、元々対象者が抱いていた一部の感情や考えを隆起させる能力になっているそうだ。

 例えば人殺しを快感としているような犯罪者に対して「人の為になる行動をする」よう誘導しようとしても、対象者にその想いが一切なければ効果は発揮できないということになる。

 

 元々いた道場だと、指導もしてもらえず、対決もしてもらえず、成長を褒めてもらう機会もないので修行するモチベーションの維持が難しかったらしい。

 それでも女の子というだけで仲間に入れてもらえない反感から、そしてお弟子さんや父親よりも強くなってやるんだ! という思いから、メモリ消費が激しくならない程度に、無意識に修行しようと思考を誘導するための念能力を開発したらしい。

 

 むしろこの能力でお義父さんに修行をつけてくれるよう誘導すれば良かったのでは? 

 と聞いたら、全く効果を発揮しなかったそうだ。頑固爺はこれだから……。

 

 ちなみに自分だけを対象者にするという制約でメモリ消費と効果を下げることも考えたそうだが、将来お婿さんができた時に一緒に修行するために他人も対象者にできるようにしたらしい。

 お婿さんと言った時のちょっと照れてる感じが実に可愛らしかった! 

 でも意外と脳筋だ! 

 

 でも結婚願望が強いなら、俺も早くミアキスちゃんより強くならないと、他の人に盗られてしまうかもしれない……! 

 

 おおぉぉ────────! 

 待っててくれミアキスちゃ────────ーん!!! 

 

 

 あ、ちなみにミアキスちゃんの系統は操作系でした。

 この念能力単体では直接戦闘には向かないが、大した欠点もなく相手の操作系能力への対策になるという点は非常に利便性が高いと思う。

 

 操作系能力は早い者勝ちというルールがあるので、この能力で操作されている間は、敵対する操作系能力者の能力にかからないメリットがあるからね。操作系能力は対象者を思うがまま操るような、食らったら即敗北が決定するような能力が多いから、この恩恵はかなり嬉しい。

 

 参考までに原作に登場した危険な操作系能力の例としては、以下がある。

 

 ・シャルナークの<携帯する他人の運命(ブラックボイス)>

  アンテナを刺した対象者を完全に操り遠隔操作までできる。

  心身の自由を強制的に奪われるため即敗北決定となる。

 

 ・ヴェーゼの<180分の恋奴隷(インスタントラヴァー)>

  キスをした相手を180分強制的に下僕とする。

  180分という制限付きではあるが、この間は抵抗することができない。

 

 A級賞金首である幻影旅団に所属するシャルナークが強力な念能力を持つのは当然だが、ただの脇役として登場したはずのヴェーゼですら、受けると負けが確定になる凶悪な念能力を持つのが操作系だ。

 俺のような女性好きの天敵と言ってもいい。恐ろしい……。

 

 信頼できる味方に操作系能力をかけてもらうことで、これらの能力が効かなくなる。この恩恵のデカさが理解できない人はいないだろう。まぁ対操作系能力を使う相手以外だと戦闘に役立てないことに違いはないのだが。俺もリオンちゃんもミアキスちゃんも悉く必殺技とは言えないような念能力ばかり習得してしまっている。これが子供の頃から念能力を学ぶ弊害だろうか? 

 

 

 せっかくなので、俺も修行により積極的になれるようにこの能力で思考誘導をかけてもらった。リオンちゃんもこっそり何かを依頼してかけてもらっていたが、女の子の秘密は探るものじゃないと判断して何も聞かなかった。

 




ミアキスの喋り方は基本的に幻想水滸伝Ⅴに沿ってるつもりです。
本当は親子間の仲は悪かったわけではないと思いますが、父親が所属する竜馬騎士団は男性しかなれなかったので女王騎士としての道を歩んだことと近しい感じにするために、本作だとこんな感じにしました。


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第5話:幼少期4

 1989年 6歳

 

 あれからまた1年が経過した。

 この1年の主な出来事は以下だ。

 

 ・練の連続発動時間が四時間まで伸びた。

  今まで一年で30分しか増加しなかったことを考えるとこの一年は3時間と飛躍的に増加した。

  これは体力トレーニングで大量のオーラを内蔵するための下地ができたことと、3つの念能力による効率上昇によるものだと思われる。

 

 ・基本の四大行と、応用技(周・隠・凝・堅・円・硬・流)が一通りできるようになった。

  そのため、発の訓練を水見式だけではなく本格的な系統別修行を開始した。

 

 ・両親から剣術を学び始めた。

 

 ・リオンから暗殺術を学び始めた。

 

 ・ミアキスと親愛の関係になった。

 

 ・戦闘用? の念能力を開発した。

 

 ・学校はもう飛び級で卒業しました。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇念の修行状況

 

 円の範囲が10mを超えたことで優先的な修行は中止し、バランスの良い修行に戻したことで、他の応用技もそれなりの練度になってきたと思う。

 身に着けたとはいっても、隠はすぐバレてしまうレベルだし、硬・流もまだまだ未熟だ。

 リオンちゃんとミアキスちゃんが立ち合いで硬・流の練習をしてくれるので、日々ボコボコにされながら自分の未熟さを痛感させられている。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇剣術の修行状況

 

 特典でもらった完全記憶能力とキルアの才能のおかげか、型はすぐに覚えることができ、体も思った通りに動かせるので、特に問題なく実践することができた。ただ実際に家族と立ち会って比較してみると、剣の振りも遅いし、足さばきもまだ拙い。フェイントにも引っかかりボコボコにされてしまうのが現状だ。

 

 俺自身が納得できる体の動きと剣速に流によるオーラを適切に乗せることができるようになるのが今の目標だが、動きや剣速自体にも納得がいっていないのでまだまだ修行が足りていない。もちろんどんなに速くなっても修行を止めるつもりはない。ネテロ会長の百式観音と同じく人外の速度を目指したいところだ。百式観音は蟻王メルエムに対しても速度では十分対応できていたので同じ速度を実現できれば俺でも当てることができるということになる。もちろん威力がないとダメージを与えられないので、百式観音レベルの速度で百式観音を超える威力が最低限の目標になるが……先は長い。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇リオンちゃんから暗殺術を学ぶ

 

 リオンちゃんに心境の変化があったのか、うちへ来る前に学んだという暗殺術の稽古をつけてくれるようになった。といっても暗殺者として仕立てようという事ではない。俺がハンターを目指していることはもう教えているので、ハンターとして暗殺者と相対した時、或いは狙われた時に防ぐことを目的にしているそうだ。敵を知り己を知れば百戦危うからず、という孫氏の兵法と同じ考えがこの世界にも当然のように根付いている。そのため、学ぶ主な内容としては、敵を惑わして不意をつく歩行術や瞬歩、視線誘導、フェイント、毒だったりと虚をつくような技術が多い。

 

 蟻王メルエムは学習能力も思考力も高いので、こういう奇策はあまり効かないとは思うが、この世界の敵はキメラアントだけではないのだ。幻影旅団を始めとする盗賊や賞金首、暗殺者等々もこの世には残念ながら溢れている。

 ハーレムを築いた場合は当然妬まれることもあるし、人が多い分、危険に巻き込まれる可能性もでてくるだろうからそれを防ぐ手段としてその技術を学ぶことが有用であり、リオンちゃんからボコボコにされたり毒にやられたりして学んでいるのもそのためだ。

 

 

 ちなみに<愛の修行場(ラブトレ)>による負荷は、現在全身(両手、両足、上半身、下半身の合計6箇所)に50kgずつまで増加している。

 覚えたてのころは各10kgの負荷で5分走ることが限界だったが、今では負荷量をあげても2時間は余裕で走り回ったり武術の修行を続けることができるようになっている。

 

 なお、原作主人公ゴンもキルアの自宅であるゾルディック家の敷地に入るための扉を開けるために筋トレ修行を行っていたが、4tの扉を開けられない状態から、使用人用の家で扉200kg、湯呑20kg、上着50kg(上着は更に重くなっていく)を使った修行を行うことにより二週間で扉を開けることができるようになった。

 

 6歳でそれより強い負荷をかけて日常を過ごすことができているので、11歳時点の原作主人公を超えていると言ってもいいだろう。なお、俺の才能の素になったキルアは11歳でオーラを使用せず16tの扉を開けていたので、まだそこまでの領域には至っていないと思う……。

 

 子供の頃に過度な筋力トレーニングをすると成長に影響を及ぼすという説もあるが、HUNTER×HUNTER世界の空気にはプロテインが混ざっているので何ら問題はない。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇日常

 

 俺はいつも通り空き時間に念の修行を続けながら掃除をしていた。

 

「……ん?

 なぜ俺は無意識に掃除してるんだ……?

 いや、掃除は前世からやっていたからやってること自体はおかしくないが、こんなに頻繁にやる必要はさすがにないし、つい最近までそんなにやってなかったよな……。思い返してみれば、他にもお菓子作りやスキンケアなんかも無意識にやっている。うーん…………」

 

「あれぇ、ハヤテちゃんどうしたのぉ?」

 

 ちょうどミアキスちゃんがやってきたので、俺の行動を振り返って感じた違和感を説明した。

 

「あ~。気にしなくていいんじゃないかなぁ~。

 ハヤテちゃんも女の子にモテたいでしょぉ~~?

 私は良いと思うなぁ。掃除もできてお菓子も作れて、お肌も綺麗にしている男の子!」

 

 誤魔化すように早口でまくし立てるミアキスちゃん。

 眼を合わせようともしないし、確実に何か知っているな?

 

 とはいえ、俺も前世でいろいろ調べた時に損な情報もあったので、言ってることは間違いなさそうだ。

 じゃあ気にする必要はないか。

 

「あら、ハヤテ様とミアキス様どうかしたの?」

 

 今度はリオンちゃんがやってきたので、改めて説明してみた。

 説明しながら、無意識に女の子にモテる行動をとりだしたんだって説明するなんて、変な自己アピールになっていることに気づいてちょっと恥ずかしくなってきた。

 

 説明中、若干顔が険しくなっていくリオンちゃんと、そろりそろりとこっそりどこかへ行こうとしているミアキスちゃん。

 とりあえずミアキスちゃんを捕獲しておいた。

 

「ーーーというわけなんだ。

 ミアキスちゃんも知らないというし、困っているわけではないから気にしないことにしようかなと考えていたところでリオンちゃんが来てくれたんだ」

 

 もう読めた気がするけど、敢えてリオンちゃんに任せることにした。

 

「……ミアキス様? 

 どうして、ハヤテ様と、私に、こんな、嘘を、つくの?」

 

 一言一言区切って圧力をかけるように詰問し近寄るリオンちゃん。

 見慣れない姿に、これもありだな、と思ってしまったが何気に練まで使って圧力をかけているようだ。

 怒らせたことはなかったけど、怒ると怖い子だったようだ。

 

「ごめんなさい……。

 ハヤテちゃん、実は<秘める想いの誘導(ブレインインダクション)>の効果で無意識に男を磨く修行も行うように誘導していたの……。

 リオンちゃんも嘘ついて情報を聞き出してごめんなさい……」

 

 素直に謝罪するミアキスちゃん。

 これまた見慣れない、申し訳なさそうなそれでいて許してくれるかなと不安そうなミアキスちゃんの姿に、最高にありだな、と思ってしまったが俺もドSになりつつあるのかもしれない。自重せねば。

 普段軽い態度が多いミアキスちゃんだが、悪いことをしたら真剣に謝ってくれる根は素直で良い子である。

 

 まぁ武術の修行時間が多少減っていたというデメリットはあるが、掃除をしながらでも念の修行はできるし長期的な目標を考えるとメリットになるから、特に怒ることもなく普通に許した。一応二人に話を聞いてみると、ミアキスちゃんの逆光源氏計画だったらしい。俺が女の子にモテたがっているけどどうすればいいのかわからなくて困っている、という話をリオンちゃんに振って、交互にこういう男の子が良いという話を出し、その結果で聞き出したことを<秘める想いの誘導(ブレインインダクション)>を使って無意識に磨くように思考を誘導していたらしい。

 

 ミアキス:お菓子を時々作って食べさせてくれる子

 リオン :家族を大切にしてくれる子

 ミアキス:綺麗好きでお掃除を代わりにやってくれる子

 リオン :いつも一緒に居てくれる子

 ミアキス:お肌がぷるぷるな子

 リオン :笑顔がとてもカッコいい子

 

 うん、話を聞いたらミアキスちゃんが真っ黒だった。ジト目で見つめると

 

「えっへっへぇ~、ハヤテちゃん。

 お詫びに、ぎゅーってしてあげるから許して、ね?」

 

 うん、許す。

 あざとさが前面にでているけど可愛いから許す。

 ぎゅーっと抱きしめてほしいから許す。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇戦闘用? の念能力を開発

 

 というわけで念の修行でも剣術の修行でも暗殺術の修行でも、実践での訓練が増えてきたことで体は毎日ボコボコにされている。一日一回のボコボコではなく、一日十一回ぐらいはボコられている。最初に剣術の修行でボコられて、念の修行で五回ボコられて、暗殺術の修行で五回ボコられるという計算だ。

 

 というのも、リオンちゃんの<メイドの抱擁(エンブレイスメイド)>の効果で回復力がかなり向上しているので、一度ボコられても30分あればある程度回復することができる。そのため、すぐに修行を再開できるのですぐにボコられるというコンボである。ちなみに家族には<メイドの抱擁(エンブレイスメイド)>のことは秘密にしてあるので、剣術の修行は一回ボコられたらそこで終了だ。

 

 まぁ家族も薄々察しているとは思うけどね。朝ボコボコにしたはずなのに食事時になったら完全回復している状態に違和感を抱かない人の方が珍しいだろう。特にうちの家族は剣術道場をやっているので指導で門下生をボコる機会は多いはずなので比較すれば容易に判断できる。

 とはいえ、念能力者は自分の念能力を秘密にするのが当たり前なので、今後も基本的には詳細を聞いてくることはないし教えることもないだろう。もちろん家族が傷ついたときは、優しいリオンちゃんが念能力を使って回復すると思うので、バレるまで秒読みに入っているともいえる。

 

 

 話が逸れてしまったが、毎日毎日繰り返しボコられている俺を見ていた(むしろ主にボコる側だ)リオンちゃんとミアキスちゃんは庇護欲が増したのか回復休憩時間は今まで以上に甘やかしてくれるようになった。そしてリオンちゃんに至ってはそのための念能力をまた習得してしまった。

 

 ……今まで開発した二つの念能力が二つとも俺の為の能力になっているがそれでいいのかな、と思いながらもそこまで想ってくれる可愛いリオンちゃんに今日も癒されます! 

 

─────────────────────────────

<進化する侍女(グロースナイト):強化系>

 対象者へ尽くすために必要な能力の成長力を強化する。

 

 ▽制約

 大事だと想える対象者がいない場合には発動できない。

 対象者を一度決めたら変更できない。

 一度発動した後は絶以外の状態であれば常に発動する。

 

 ▽誓約

 対象者と一カ月会話できない場合はこの能力を永遠に失う。

 対象者が寿命以外で殺された場合は発動者も死亡する。

─────────────────────────────

 

 

 重い! 

 重すぎるよリオンちゃんっ!? 

 

 リオンちゃんとしては武術、念能力、料理を含めた家事、医療知識等々の成長力向上を意識したそうだ。本来であれば幅広すぎるから効果がかなり下がりそうなところだけど、制約と誓約がかなり重いことで、効果はかなり高まっていると思われる。将来依頼で別行動になった時にうっかり一ヵ月会話できない状態にならないよう注意しないといけない。

 

 正直何でここまで尽くしてくれるのかわからないけど、これ以上ないほどに思われていることをはっきりと自覚させられてしまう能力だった。しかも何でこんなに制約と誓約を重くしたのか聞いてみた時も「何もおかしいことはないですの」と首をかしげて言うリオンちゃんに驚かされた。

 

 

 ここまで想われているなら、いい加減俺も漢を見せねばならないと想い二人に告白した。

 

 ミアキスちゃんは

「もぉ、私だけじゃないんですかぁ? 

 しょうがないですねぇ。

 でも、ハヤテちゃんならいいかぁ。ね? リオンちゃん」

 と頬を膨らませて怒ったフリをしながら嬉しそうに了承してくれた。

 

 リオンちゃんは

「もちろんミアキスちゃんともども喜んでお受けしますの! 

 私、これからもずっとずっとハヤテ様をお守りしたいと思っていましたの。

 でも、時々ハヤテ様が遠くを思い詰めた瞳で眺めていることも知っていますの……。

 危険なことはしてほしくないけど、逃げるわけにはいかない場合だってあるかもしれないの。

 だから私達が……! 

 いつもハヤテ様のそばにいるの!! 

 何があってもお守りするの! 

 してほしいことは何でもするの! 

 それが……雨の中、自分を見失っていた私を見つけてくれて、両親に頼んで引き取ってくれて、一緒に遊んでくれて、楽しいという気持ちを体感させてくれたハヤテ様へのご恩返しにもなり、何より私がそうしたいと思えますの!」

 

 と笑顔で応えてくれた。何でもしてくれるらしい! 

 まだ6歳だから何でもと言われて期待するようなお願いはできない、残念……。

 

 そしてまだ9歳だというのにどこまでも愛が重いリオンちゃん。

 将来ヤンデレ化しないよね? 

 ハーレム作って浮かれる俺を、俺じゃないとか言いながら刺そうとしないよね? 

 

 ちょっとした心配を胸に抱きながら、それすらも愛として受け止められるように強くなろうと改めて決心した6歳のハヤテであった。

 

 

 

 二人も可愛い恋人ができたと喜んでばかりもいられない。

 リオンちゃんともミアキスちゃんとも元々かなりの実力差があり、才能にも大きな差がないのに、リオンちゃんは強化系だから肉体強化が得意で、かつさらに成長力を念能力で強化されると差が広がるばかりで、ハーレム主としては情けない話だ。

 

 というわけで、俺も前々から考えていたオーラによる攻防力向上のため、他の系統を手に入れる念能力と合わせる形で念能力を習得した。

 

─────────────────────────────

<俺達は運命共同体(ディスティニーシェアー):特質系、ジョイント型>

 発動者と対象者はお互いの得意な系統を共有することができる。

 また、その際に念能力の一つをコピーすることもできる。

 

 ▽制約

 発動者と相思相愛の相手しか対象者に指定してはいけない。

 能力発動時に対象者から許可を貰う必要がある。

 能力発動後は解除できない。(誓約から逃げられない)

 コピーする場合は対象者本人からコピー対象念能力の全てを聞く必要がある。

 コピーする念能力を実際に目視、或いは体感する必要がある。

 一人の対象者から同時に複数の念能力をコピーすることはできない。

 コピーした対象者の念能力を使用する際には2倍のオーラを消費する。

 コピーした対象者の念能力を使用する際には発動に通常よりも時間を要する。

 

 ▽誓約

 条件を満たさない相手を指定した場合、30日間絶となる。

 コピーする念能力の情報に誤り、或いは発動者が忘れると30日間絶となる。

 コピー中に対象者が死亡した場合、発動者も死亡する。

─────────────────────────────

 

 修行相手が念能力で強くなるなら俺も同じ能力使って強くなればいい!! 

 ちなみに、効果「お互いの得意な系統を共有」は、例えば俺の特質系と、リオンちゃんの強化系で考えた場合は、習得率と精度が以下のようになる。

 

<発動前>

 オレ  :強化 40 変化60 具現化80 特質100 操作 80 放出60

 リオン :強化100 変化80 具現化60 特質  0 操作 60 放出80

 

<発動後>

 オレ  :強化100 変化60 具現化80 特質100 操作80 放出60

 リオン :強化100 変化80 具現化60 特質100 操作60 放出80

 

 特質系能力を使用しないリオンちゃんにはあまり意味はないが、俺は念願であった強化系の習得率、精度を手に入れることができる。しかも<進化する侍女(グロースナイト):強化系>も使えるようになるので成長率もアップするということだ。

 

 

 つまり、クラピカの<絶対時間(エンペラータイム)>と、幻影旅団団長クロロの<盗賊の極意(スキルハンター)>を合わせたような念能力になっている。

 エンペラータイムのように発動中全系統を100%引き出す効果や、スキルハンターのように強制的に念能力を奪うことに比べたら効果は低くなっているがその分、制約と誓約は軽くなっている。これで軽くなっているのかという想いもあるが、エンペラータイムでは寿命が発動時間1秒あたり1時間寿命が縮むという恐ろしい誓約になっていた。

 

 俺の最終目標がハーレム生活だから寿命を減らすのは論外だし、愛する妻を放って一人で死んでしまい悲しませるなんてハーレム王の風上にも置けないだろう。もちろん妻に危険が迫っているならば命を投げ出すことも厭わないが、それと自ら命を捨てるような能力を作ることは別の話だと思っている。

 それに発動時間が短いと、習得率に影響が生じるので、それなりの時間、発動できることを前提とした能力を考えた結果だ。

 

 

 なんにせよ、これで俺の成長率は現時点で「キルアの才能×ラブトレ×グロースナイト」となり、更にラブトレによる時間経過変更、エンブレイスメイドの回復力強化による修行効率上昇、ブレインインダクションの修行優先思考による修行時間最大化とかなりのブーストがかかっている! 

 

 これならきっと闘いの時までに、蟻王メルエムに勝てるレベルまで成長できるはずだ!! 

 そしてモテモテになってハーレム生活だって営めるはずだ!!!  

 

 

 

 そして俺達に触発されたミアキスちゃんも念能力を習得した。

 

─────────────────────────────

<風使い(フリーダムウィング):操作系・放出系・強化系>

 発動者のオーラを混ぜ込んだ空気を意のままに操ることができる。

 また、操る空気に混ぜるオーラの量を増やすことで威力・強度を上げる事も出来る。

 

 ▽制約

 発動者の円の範囲から遠くなるほど操るために多くのオーラを消費する。

 空気が流れない密閉空間では能力を発動できない。

 雨や雪が降っていると新しくオーラを空気に混ぜることができない。

 能力発動中は練ができなくなる。

─────────────────────────────

 

 

 これは前世で読んだ「風の聖痕」というライトノベルをふと思い出し、創作話として聞かせた結果、興味を持ったミアキスちゃんが念能力にまで昇華させた能力になる。

 

 ミアキスちゃんはどこにでも存在する空気を操るという発想に驚きつつも、操作系の自分ならできるはずだと考え、暫く風と一体化するように精神集中を心がけたり、風が強い地域があると聞いては出かけたり、台風が来ると聞けば出かけたりと、普段はマイペースな行動が多いのに珍しく精力的に動いていた。そしてその結果が無事に実り念能力の習得に至ることができた。

 

「やったあぁぁぁぁぁぁっっ!!!」と言いながら手をあげて飛び跳ねるというミアキスちゃんの珍しい姿もとても可愛らしかったです。その後、喜びを共有しようと抱きしめてくるミアキスちゃんはとても柔らかかったです。

 

 制約で条件をつけたということも理由の一つではあるが、ジャポン特有の台風による風の脅威を体験する機会が多く、イメージもしっかりしているため、全力でかまいたちのように風を収束して打ち出した時の威力もそれなりのものになっている。

 

 攻撃だけではなく、移動時には追い風を起こし、向かってくる敵には向かい風で抵抗を強くし、敵の攻撃に対しては空気の密度を上げた障壁をはったり、声を飛ばしたり、声を収集したり、修行中は空気を薄くして疑似的な高地トレーニングの再現をするということもできる。

 つまり攻撃だけではなく、移動や防御、索敵や伝達にも使える万能な能力となっている。

 

 制約により雨や雪の日は弱体化してしまうが、普段から余剰オーラを空気にまぜて、オーラ量の多い切り札となりうる空気群と、通常使用のための空気群を少しずつ貯えておくことはできるので、よほどの大群や耐久力の高い相手でなければ大きな影響は生じないだろう。

 

 

 それにしても、3人の中で初めて念能力らしい念能力に仕上がっている。

 本作の主人公(俺)以上に、主人公らしい能力になってるけど俺の存在感は大丈夫だろうか? 

 きっと大丈夫だ。多分。

 それに美少女が風になびく姿は絵になるので何も問題はない。

 実に美しい。天使は実在したのだ。

 






唐突に別作品(風の聖痕)の名前を出しましたが、HUNTER×HUNTER世界には原作でもボボボーボ・ボーボボが出てきたりと、他作品が普通に実在する世界観だと思っています。なので名前使うぐらいならクロスオーバー扱いでタグ入れなくても大丈夫だよね。多分。
なお、本作には精霊も神器も出てきません。

告白シーンでリオンちゃんの返答が唐突すぎて何言ってるかわからない?
それがリオンちゃんたる所以だよ!(暴論)
まぁ幻想水滸伝のとあるシーンでの発言を無理やり取り入れたせいです。



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第6話:幼少期5

誤字報告ありがとうございます!(お名前も書いた方がいいのかな…)
予想以上の誤字量に冷や汗がでてきます…
誤字どころじゃない文章力のなさをスルーしてくれている方々もありがとうございます!

今のところ1/8まで予約投稿していますので亀更新になるのはその後の予定です。



 1991年 8歳

 

 あれから2年が経過した。

 この2年の主な出来事は以下だ。

 

 ・練の連続発動時間が12時間まで伸びた。成長は1年で大体4時間増加ペースだ。

 

 ・家族からの剣術修行、リオンちゃんからの暗殺術修行で一通り技術習得し合格点を貰った。

 これによりサバイバル修行と他流試合への参加を指示された。

 

 ・サバイバル修行の中、マチとシズクに出会った。

 

 ・心源流拳法との他流試合の中、ビスケに出会った。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇マチとシズクとの出会い

 

 それぞれが念能力を習得し、より一層修行に明け暮れていた7歳のとある日、両親の指示により三人で一ヵ月ほど山でサバイバル生活することになった。サバイバル生活といっても獣を狩るのも、魚を釣ることも慣れているし、俺とリオンちゃんの<進化する侍女(グロースナイト)>の恩恵で二人とも料理のスキルも日々成長しやすくなっているし、ミアキスちゃんも普通に料理ができる。そのため、主に集中して特訓できる期間としか思っていなかった俺達は、刀に周でオーラを纏わせてから流をしながらの模擬戦を繰り返している。

 

 

「あら。あらあらあらぁ」

「ミアキス様、何かありましたの?」

「ん~~、二名ほど強い方が近づいて来てるみたいですねぇ~」

 

 午後の修行を終え、料理の準備を進めているタイミングで、ミアキスちゃんが周囲に放っていた風が誰かが接近している情報を掴んだようだ。

 

「どうしますぅ? 

 会ったことない方々ですが、殺気とかは感じませんよぉ~?」

「料理しながらここで歓迎の準備でも進めておこうか。

 嫌な感じはしないし、強い人との知己はいざという時に大事だからね」

「それは勘ですの?」

「あぁ、勘だ」

「ハヤテ様の勘なら大丈夫ですの! 

 私は晩御飯の準備を進めておきます」

「ん~。じゃあ私は飲み物の準備でもしておこうかなぁ」

 

 ハヤテが警戒を解いたことで二人も多少は安心したようだ。

 それなりに付き合いも長くなっていることもあり、ハヤテの直感には二人とも信頼を置いている。

 それに強い人が近づいてきただけで逃げ出すような性格の人はここにはいない。戦闘狂ではないが、武人として強い人には皆それなりの興味がある。

 

 

 そして少し待ったところ、森の中から二人の人影が歩いてきた。

 一人はミアキスちゃんぐらいの年齢で黒いセーターにジーパンをはいて眼鏡をつけたぱっとみ地味そうなお姉さんで、もう一人はもう少し年上に見えるピンク色の髪をポニーテールに纏めた釣り目で強気そうな半袖の着物……というよりくノ一っぽい感じのお姉さんだった。

 

 それにしても二人をどこかで見たような既視感を覚える。

 でもこんな強くて可愛い人達を見かけたら忘れないと思うから初対面のはずだ。

 それにもかかわらずこの既視感……もしかして前世の知り合い? 転生者だろうか? 

 いや、原作の登場人物の可能性の方が高いか。

 事前の直感通り、危険な感じはしないし、こちらから話しかけることにしよう。

 

「こんばんは、お姉さん達、何か御用ですか? 

 食事であれば多少なら分け合えますよ」

 

 出来る限りにこやかに話しかけてみた。

 山の中で、丁寧に話す8歳児に出会う……逆に怪しいかもしれないと後から気づいた。

 

「どうもー。君達に用事はないけど、美味しそうな匂いがするのでご飯は食べるよ」

「……」

 

 眼鏡お姉さんは気軽に遠慮のない返答をしてくれたけど、ポニテお姉さんは何も言わずにこっちをガン見したまま考え事をしているように固まってしまった。ん-……なんだろう。ここまで見つめられるとドキドキしてくるけど、目を逸らしたら負けな気がするので見つめ返してみる。かっこ可愛い。

 

 スルーしてしまったが眼鏡お姉さんも、もう少し警戒したりとか、遠慮したりとかしなくていいのかなと心配になってしまった。マイペースすぎる眼鏡お姉さんの一人旅だと危険が多いかもしれないけど、そこを強気でしっかり者っぽいポニテお姉さんが補ってるのかもしれない。まぁ実際には何かされても対応できるという自信の現われかもしれない。

 

「あれ? マチどうしたの? 

 死んだと思ってた想い人と再会できたみたいな面白い顔で固まってるけど」

「はぁ!? 想い人なんていねーよ! 

 ちょっと昔の知り合いがガキだった頃に似てたから驚いてただけさ!」

「そっか、初恋の人の一目ぼれした頃に似てたんだね」

「ぐ……シズク、いい加減にしないと本気で怒るよっ!?」

「はーい、ごめんごめん。それはそれとしてそろそろ挨拶でもしない?」

 

 面白い人達だった。

 そしてマチとシズクということは、A級賞金首の幻影旅団メンバーだろうか。確かに見た目としては、原作からちょっと若返らせたらこんな感じになる気がするし、初見で感じた既視感はそれゆえだろう。原作開始までまだ10年あるから、既にA級賞金首になってるかはわからないけど、それでも十分な実力を持った人達と思った方がいいだろうな。勘でも俺よりは格上だと感じている。

 

 あれ、そうすると俺に似てる人って幻影旅団のメンバーだろうか。

 団長クロロなのかな? オールバックはさすがにする気はないが、髪をおろした状態なら前世の俺はそれなりに似ていると学校のクラスメイトにからかわれたこともある。

 さすがに髭つきちょんまげノブナガ、変態ピエロのヒソカ、ミイラ男のボノ、イケメンかもしれないけど拷問大好きでチビなフェイ、フランケンなフランクリンらに似てると言われてしまったらショックがデカすぎる。フィンクスやシャルなら許容の範囲内ではあるが……きっと団長だ。多分。

 

 いずれにせよ、マチとはこれがファーストコンタクトなので、シズクと同じようにからかって怒らせりして敵対した結果、旅団が攻めてきてお国が滅びましたとかになったら笑えないので、普通にコミュニケーションとるぐらいの方針で行こうと思う。

 

「そういえば名前を名乗ってませんでしたね。

 ジャポンのとある武術道場の三男でハヤテと言います。

 今は修行のために、仲間であるリオンとミアキスと一緒に一ヵ月ほどここに滞在予定です」

「ミアキスですぅ。お料理はまだだけどぉ、お茶の準備はできたからいかがですかぁ?」

 

「ありがと。私はシズク、一応プロハンター。ここにはマチについてきたの」

「いただくわ。アタシはマチ。同じくプロハンター。依頼が終わって暇していた時に、なんとなく面白いことがありそうな予感がしてここにきただけよ」

 

 ミアキスちゃんの砕けた話し方も特に悪印象は与えなかったようなので、俺もちょっと言葉を崩して話すことにしよう。

 

「やっぱり! お二人はハンターなんですね! 

 実は俺たちもプロハンターを目指して修行中なんだ。

 良かったら食事をしながらでも話を聞かせてもらえないかなっ?」

 

「まぁそれぐらいなら構わないさ。

 アタシもあんたらの年齢にそぐわないオーラには興味あるから交換条件として色々聞かせてもらおうかしら」

「あはははは……。悲しいことに年齢についてはよく言われてるんだよね……。

 そろそろ料理もできたようなので、続きは食後ということで冷めないうちに食事にしましょう」

 

 俺と、主にマチが会話している間にも着々と準備を進めてくれていたリオンちゃんに感謝だ。

 それにしてもプロハンターか。はったりではないということなら、原作と異なり幻影旅団には入ってないということだろうか。とはいえ、なぜかハンターに追われるべきである賞金首がハンター資格を取ってる例もある世界なのではっきりとはしないが、少なくとも原作でハンター資格を持ってる幻影旅団メンバーはシャルだけと言ってたはずだから歴史が変わってる可能性は高い。

 

「もぐもぐ」

「それでアンタ達は誰から念を習ったんだい? 

 普通はハンターになってから教えられるものだけど、よほど幼い頃から習ってないとそこまでのオーラ量にはならないはずだよ」

 

 いきなり突っ込んできた。

 さて、どこまで話すべきか。俺の勘ではやっぱり二人が悪者ではないと感じてるし、特典でもらった感情を読み取る力でも、俺自身に対する悪意や敵意は感じない。ただ、幼い頃から危険な力を教えていたであろう指導者に対しては不信感を抱いているようにも思える。原作では残酷な面の描写もあったが、ここで心配してくれてるのであれば、やっぱり根は優しい人だと思う。

 

 返答はどうしようかな。

 今は主にリオンちゃんとミアキスちゃんから学んでいるけど、それを伝えて二人に嫌悪感を抱かれるのも嫌だ。そもそも二人に出会った年齢よりずっと前から修行してこその今のオーラ量だからマチの心配事に対する返答としては不適切だ。マチ自身、直観力が俺と同等かそれ以上だと思うから、嘘ととられかねないことは言って警戒されたくはない。ここは、敢えてある程度の事情を話すことで、明らかな強者であり思いやりもありそうな二人を味方につける方がメリットが高いと感じた。長い付き合いになる気がするしね。

 

「俺が念を覚えたのは5年前の3歳の時ですよ。

 誰から教えてもらったというわけではないですが、身体の中に違和感があったのでそれを意図的に動かそうと遊んでいたら徐々に増えていき、その後は家族だったり隣にいるリオンとミアキスを目標に鍛錬してきた感じかな」

 

「もぐもぐもぐ」

「自力で精孔を開いたのかい……(そんなところまでクロロと……)。

 しかし、よくもまぁ3歳のころからそんなことをやるきになったもんだね」

「え、だって面白いでしょう? 

 その時までなかったものが見えるようになったり、動かせるんだからさ。

 リオンやミアキスと出会うきっかけや守るための力にもなるんだから、面白いだけじゃなくて俺にとってなくてはならない力だと確信しているよ」

 

 楽しい思い出を思い浮かべたような笑顔でリオンちゃんとミアキスちゃんを自慢げに振り返ると、リオンちゃんは恥ずかしそうに両手で顔を覆いながら伏せているし、ミアキスちゃんはニッコニコだ。

 やっぱり二人とも可愛い……! 

 

「……アンタ、その歳から複数の女の子を弄んでたら碌な大人にならないよ?」

「え? 

 あぁすみません。

 二人の反応を見たいという気持ちも確かにありましたが、できるだけ自分の気持ちは正直に二人に伝えるようにしているんです。恥ずかしい気持ちよりも二人を不安にさせないことが大事なので!」

 

「もぐもぐもぐもぐ。うん、この国は一夫多妻制」

「あー……。そういやそうね。

 一夫多妻制だからといって8歳の時点で恋人二人が普通かはさておくけどさ」

 

 さっきからマチばっかり喋って、シズクはもくもくと食べ続けていたけど一応話は聞いていたようだ。料理を気に入ってくれたなら嬉しいが、意外と食いしん坊キャラだったのかもしれない。

 

「まぁアンタ達がいいならそれでいいさ。

 それじゃあアンタ達は念についてははっきりと師匠と言えるような人はいないわけね」

「ですね」

「ふむ……」

 

 マチが眼を細めて面白そうな獲物を見つけたような感じでこちらを見ている。

 もしかしていつの間にか師弟フラグでもたってた? 

 

 マチが師匠になってくれるなら実力的にも見た目的にも全然ありだと思う! 

 原作知識によると、変化系だったとは思うけど幻影旅団の中でも腕力含めて身体能力はかなり鍛えられていたので、学ぶことは多いはずだ。

 それに綺麗だし! 

 もしかしたらシズクもついてくるし! 

 もしかしたらこの世でも原作同様犯罪者集団の一員かもしれないという懸念はあるが……。

 

「ふぅ、ご馳走様ー。美味しかったー」

「でしょう? リオンのご飯は最高なんですよ!」

「えへへ……。ハヤテ様のために毎日工夫してますの」

「うんうん、リオンちゃんはいいお嫁さんになるよぉ」

「アンタ達は油断するとすぐイチャつくわね……。まぁ確かに美味しかったよ」

 

 シズクの満足した顔を見る限り本心で褒めてくれていたので、リオンちゃん特製ご飯信者を増やそうと布教活動してみたら、なぜかマチは呆れていた。解せぬ。

 

 実際のところ、ますます腕に磨きをかけており、ハンターやメイドにならなくても十分お店を開いて料理人としてやっていけるレベルに達している。その分、自信も出てきたようで誇らしげだ。

 俺も二人にお返しするために料理することはあるので、<進化する侍女(グロースナイト)>の恩恵もあり、それなりにできるようにはなっているとは思うが、実家にいるときとかはさすがに侍女の仕事を奪えないので実践する機会が少なくまだ満足できる領域には至れていない。どっちかというとお菓子作りの時間の方が長いまである。前世料理再現のためにも将来的には頑張っていきたい所存だ。

 

「ところでマチはなんでハヤテを見つめてたの? 惚れた?」

「そんなわけないでしょ! 

 こいつらは師匠らしい師匠がいないらしいからアタシ達がなってやろうかと考えてたのよ」

「え、達? 私も? 教えるとか面倒だからやだよ」

「面倒なのは確かだけど他の有象無象よりはましなはずさ。

 以前話したはずだけど、アタシ達も弟子を取る必要があるのよ」

「何だっけ、それ?」

「アンタはもう……。

 二つ星ハンターになるための条件よ。

 アタシ達ハンターは資格をとって念能力を覚えることで正式にプロハンターとして認められ、

 1つの分野で大きな成功を残したハンターが一ツ星ハンターの称号を贈られ、

 弟子を一つ星ハンターにまで育てると二ツ星ハンターの称号が贈られる。

 そして複数の分野で大業績を達成すると三ツ星ハンターの称号が贈られる。

 一人前程度でその辺の有象無象と十把一絡げにされて舐められたくないし、情報を集めやすいように二人で二ツ星ハンターか、最低でも一つ星ハンターを目指すよって言う話をしたでしょ」

「やっぱりウソだよ。いくら私でも目標を忘れないよ」

「あーはいはい、どうせアンタが一度忘れたことを思い出すことはないことは知ってるからアタシの勘違いってことでいいさ。

 とりあえずそういうわけで弟子はいずれとるつもりだったし、こいつらなら才能的には問題ないでしょ。この歳でここまで成長できてるから、長時間指導しなくても暇なときに見れば勝手に育つはずよ」

「うーん。まぁいいんじゃない?」

「そ。で、アンタ達はどうなの?」

 

 呆れて疲れたように呟くマチ。

 

 これが伝説のシズク節……! 

 原作でも一度忘れたことは思い出さない様子は書かれており、説明しようとする他の幻影旅団メンバーが諦めるというシズク最大の面白い性格を実際に目のあたりにできるとは……俺は……俺は今、猛烈に感動しているっ!! 

 名作シーンと似たような光景にジーンと感傷に浸っていたいところだが、返答しないといけないと思って頭を切り替えて考えることにする。

 

 マチとシズクは聞いてる感じ、普通にハンターやってる印象を受ける。

 二人で目指すとも言ってたから、幻影旅団含めた団体に属しているわけでもなさそうだ。

 何があったんだろうか。原作を改変する要素としてはやはり転生者。

 彼らの出身地である流星街には俺が関わる要素がなかったはずだから、他の転生者ということになるかな。とすると転生者が幻影旅団に入ってる可能性があるから、原作主人公寄りで行きたい俺とは敵対する可能性がある。原作のかなり大きなイベントであるヨークシンシティ事件は幻影旅団側に伝わってたら一気に原作崩壊するレベルだから何かしら備えが必要になりそうだ……。これはまだ仮定の話だし、今考えても仕方ないから強くなることだけとりあえずは考えることにしよう。

 

 そう考えると幻影旅団メンバー並に成長することが確定している二人を師匠にして学べるのは比較のためにも有だし、もしも幻影旅団メンバーと喧嘩別れして旅をしていたら味方になってくれる可能性もある。もちろん敵になる可能性もあるわけだけど、そこはこれからの関係次第。情報を集めているということから何を探しているか聞き出せればもう少し判断しやすくなるだろう。

 

 

「えーと……。マチさん大変そうですね……。

 先ほどの私達の師匠になるという提案についてですが、私達としてもお二人ほどの実力があり、目標が高い方々が師匠になってくれるなら嬉しいと思っています。ただ、さすがに山の中で出会った見ず知らずの人達を師匠になってもらうのも不安がありますので、明日手合わせをお願いできませんか?」

「まぁそれが手っ取り早いのは確かね。

 いっとくけど、それでアンタらに見込みがないと判断したらこっちから蹴るよ?」

「えぇ望むところです! リオンとミアキスも勝手に決めちゃったけど大丈夫?」

「ええ、大丈夫なの! 

 ハヤテ様を守るのは私の仕事だということを証明してみませますの!」

「私もいいよぉ。

 私達より弱かったとしても師匠という建前上の名前は貸してあげますからねぇ」

 

 笑顔で話を聞いていたから安心していたけど、なぜか話をふったら挑発し始めるリオンちゃんとミアキスちゃん。いきなりどうしちゃったの!? リオンちゃんはただフンス! といきこんでいるだけだけど、マチとミアキスちゃんは威圧感のある笑顔で、アハハハハとかウフフフフとか笑っている。……ちょっと怖い。

 

「あれ、なんか知らないうちに決まってる……。まぁいいかー」

 

 シズクだけは平常運転である。

 




11000文字超えていたので二話に分割することにしました。


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第7話:幼少期6

前話で中途半端に切った8歳までの出来事の続きです。

そして練を錬に誤字っているミスは悲しくなりました。゚(゚´Д`゚)゚。
眼が悪いので細かい違いに気づけず最後まで誤字っていた可能性があります…
報告ありがとうございました!


 マチやシズクと模擬戦をした結果はこうなった。

 

×リオン  ー 〇マチ

 接近戦闘特化のリオンが若干優勢に戦いを進めたが、隠で展開されていたマチの念糸に絡めとられ敗北。念を使った戦闘の経験値が結果に繋がったようだ。

 

〇ミアキス ー ×マチ

 先の戦いで念糸がばれたマチが積極的に使用して有利に進めていたが、ミアキスが<風使い(フリーダムウィング)>でマチ周辺に真空状態を作り出し呼吸困難に陥ったのを見て審判の判断で決着。やはり念能力の把握有無は勝負に大きな影響を与える。

 

×ハヤテ ー 〇マチ

 リオン戦と同じ内容

 ミアキスからコピーしている<風使い(フリーダムウィング)>を使おうとはしたが発動に時間がかかるデメリットのため、その隙を見いだせず使用できなかった。並列思考に慣れていけば闘いながらでも発動はできるようになるはずだ。

 

〇リオン  ー ×シズク

 シズクがデメちゃんという掃除機を具現化して武器として使ったが、特殊な効果を発揮できないまま、強化系のリオンが力押しで勝利。

 

×ミアキス ー 〇シズク

 リオン戦と同じく剣対掃除機で戦っていた時はミアキスが優勢に戦っていたが、トドメとばかりに仕掛ける風を、デメちゃんが吸い込んだことに驚いたミアキスの隙をついて仕掛けたシズク勝利。念能力は吸えないはずだと思ったけど、空気は吸えるらしい。

 

×ハヤテ ー 〇シズク

 リオン戦と同じ展開になったが顕在オーラ量の差で惜敗。

 

 

 俺が全敗したのは残念ながら想定通りだとして、全勝した人が居なかったのは意外だった。見る限りでは実力が一番高いのはマチだと思う。これは才能や今までの努力の結果というよりは単純に年齢差による研鑽の差だと思う。

 

 ちなみに全員の年齢は以下の通りだ。

 マチ  :14歳

 シズク :12歳

 ミアキス:12歳

 リオン :10歳

 ハヤテ : 7歳

 

 そんな中、ミアキスちゃんがマチに勝てたのは初見殺しである念能力ゆえだ。

 空気という見えない攻撃ではあるが、直感に優れるマチなら次からは勘で事前に察知して攻撃範囲から逃げることも可能かもしれない。直感がなくとも、張り巡らされた糸の状態から空気の流れを読むこともできるかもしれない。

 空気にオーラを混ぜ込んだせいか隠をすると、凝を使っても見えづらいが対策のしようはある。

 

 そんな初見殺しのミアキスちゃんの相性が悪い相手がシズクだった。

 念能力であるデメちゃんは、無生物を吸い込むことができる掃除機で、その無生物には空気も含まれるため、相性が良かったようだ。今までは空気を吸うという発想はなかったようだが、ミアキスちゃんの使い方を見てできそう、と思って試したようだ。やはり成長力が高い。

 何気に吸引力が上がれば、空気を吸うことで真空を作ってミアキスちゃんと同じようなこともできるようになる可能性もある。ミアキスちゃんは<風使い(フリーダムウィング)>が格上のマチにも通じたことと、直前のしずくVSリオンちゃん戦で何の特殊能力も発揮しない掃除機のまま終わったことで油断が生じていたことも要因になるだろう。

 

「リオン大金星おめでとー!」

「えへへ。ありがとうございますの」

 

 シズクに勝利したリオンちゃんが駆け寄ってきて抱き着いたので、いつも通り頭をナデナデしてあげた。普段真面目な顔をしていることが多いけど、こういう時は素直に喜びをあらわにしているのが可愛らしい。

 

「あ~~~。ハヤテ様ぁ、リオンちゃんだけずるいですよぉ。

 私だって頑張ったんですからねぇ?」

「うんうん、ミアキスも恰好良かったよ! おめでとー!」

 

 マチに勝利したミアキスちゃんも寄ってきたので、リオンちゃんを撫でている左手とは別に、右手で撫でてあげることにした。

 

「ハヤテ様に撫でられると疲れが癒されるのー」

「そうですねぇ〜。安心しますぅ~~」

 

 俺こそ二人の可愛さに癒されてます!! 

 今更だけど、二人がここまで好意を向けてくれるのは転生特典の「癒し系男子」の効果なのかもしれない、と思うことがある。

 仮にそうだったとしてもそれはそれ。もちろん悪用するつもりはないけど、好意には好意を返し、俺が二人を幸せにできるように頑張って責任を果たすことだけを考えることにした。

 

 

「アンタら……いつまでいちゃついてんだい!」

「とかいいながらちょっと羨ましそうな顔をしている14歳マチ=コマチネ恋人無」

「はぁっっ!?」

 

 負けたことでイライラしているマチが声をかけてきたから、そろそろ元の話に戻ろうと振り返ったら、天然系美少女シズクがさらに怒らせる発言をして口喧嘩が始まってしまった。喧嘩といってもシズクは何を怒っているかわからない顔しているが……。

 

 やべぇ……話しかけづらい……。

 未来の嫁候補の喧嘩を止めるのもハーレム主の義務だろうか……? 

 そんなことを考えていたら、シズクが近寄ってきて首をかしげながら尋ねた。

 

 

「ところで、私達も一勝したんだけど撫でるの?」

 

 

 …………

 

 あなたはマチとシズクを撫でますか? 

 

   はい or YES

 

 

 撫でさせてもらいました! 

 本当にありがとうございます!! 

 神様特典癒し系男子の効果によりマチとシズクの好感度が上昇した! (多分)

 

 

 

「大分話がそれたけど、結局どうするんだい?」

 

「ぜひ師匠になってほしいです!」

「宜しくお願いしますの!」

「よろしくお願いしますぅ」

 

 師匠になってもらうかどうかの話に戻して問いかけるマチを目の前に、ハヤテはリオンちゃんとミアキスちゃんと顔を合わせて、二人にも不満がないことを確認し頷いて返事した。

 

 弟子になったからには情報共有は大事だ、ということで今までの修行内容の説明を求められた。

 念能力については説明する義務はないと言われたが、修行用の念能力は知られてもデメリットはないのでついでに説明した。

 

<愛の修行場(ラブトレ)>と、<進化する侍女(グロースナイト)>、<秘める想いの誘導(ブレインインダクション)>のネーミングセンスには呆れられたものの、マチ達の修行にも使えそうだということで、師弟兼修行仲間扱いになることができた。

 ちなみに<愛の修行場(ラブトレ)>は、いわゆる恋愛的な愛だけではなく、友達に対する友愛や、家族のような親愛、師弟愛も対象になるので、問題なく効果を発揮できた。

 

 マチは<愛の修行場(ラブトレ)>の能力について何か気になることがあるようで、何か考え込んでいたようだが、特に何も言われなかったのでそこは俺からも触れなかった。探し物と関係があるかもしれない。

 

 

 シズクは、同年齢でかつ操作系と自分と同じく強化系の習熟率が低いはずのミアキスちゃんに完全に技術負けしていたのが無表情ながら悔しかったらしく剣術を学び始めた。

 まぁ掃除機で殴るとなったら腕力が大切なので強化系と相性の悪いシズクでは大した威力が出せないのでそれを技術でカバーできるようになる剣術を学ぶのは有だろう。あわよくば剣も具現化できるようになれば嬉しいと考えていたりする。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇心源流拳法との出会い

 

 出会い、といっても同じジャポンに本部があり、お互いに念能力者を有する道場であるため、心源流拳法とは昔から多少の交流はあった。

 

 とはいえ、ここで行われているのは拳法だ。そして、俺の家族がやってるのは剣術だ。

 であるからして、今までは積極的に立ち合いをするということはなかった。

 

 しかし、ある時ハゲが言った。

「あいつらって剣がないと何もできないんだろ? 

 おれらみたいに己の体一つで戦える拳法使いから見れば格下だよな(笑)」

 

 それに対し、チョンマゲが返した。

「あいつらって武器持てないんだろ? 

 人は武器を使って進化してきたというのにもはや退化した猿に違いない(笑)」

 

 そして始まる門下生同士の闘争! 

 彼らはもはや命が尽きるまで止まることはないだろう! 

 

 

 もちろんお互いの流派の幹部クラスはそんなことを思うわけもなく怒ることもない。

 異種戦闘技戦も刺激になるだろうと、最低限のルールを取り決めして自由にやらせることにしたようだ。そうでなければプロハンターの多くが所属し全国に支部がある心源流拳法に、ジャポンにしか存在しない小さい剣術道場のうちは瞬殺されていただろう……。

 

 

 そんな環境下で、俺も8歳を過ぎてからは決闘に参加するようになった。

 最初に戦ったのはウイングという25歳ぐらいの冴えない男性で、俺の見た目が子供だったので戦う事に抵抗を覚えていたようだが、金髪の可愛らしい少女に命令されて拒否はできずに戦闘相手に決まったようだ。嫌そうなウイングさんとは違い、俺は名前を聞いた瞬間はっとした。

 

 ウイングさんきた────!! 

 ウイングさんといえば原作主人公ゴンとキルアが最初に念能力の基礎を習った師匠だ! 

 

 登場時は、心源流拳法の師範代で、謎の力を操り、最強格ヒソカが威圧している中からゴンとキルアを連れ出したりと強キャラ感を若干醸し出していたが、ゴンたちの成長力に怯え、才能の高さを説明したりと解説役に収まり、特に活躍の場も戦う機会も与えられないまま退場した悲しいキャラだ! 

 おまけにその後、本っ当ーっに念能力の基礎の基礎しか教えていなかったことがその後の展開で明らかになったり、師匠であるビスケから「ひよっこウイング? 眼鏡をかけた寝ぐせボウヤ」「覚えが悪い」と散々に称されてインフレが続くこの世界ではもう登場しないんだろうなぁ……とどこまでも救いのないキャラでもあった……。それでも覚えが悪いと評されながらも心源流拳法の師範代を任されるほどの努力家だった。

 

 知ってるキャラの登場にちょっとテンション上がったけど、よくよく考えたらそこまで思い入れはなかったな。男だし。

 

 いや……待てよ。

 ということはということは……。

 今ウイングさんと会話している可愛らしい金髪の少女は、ウイングさんの師匠であるビスケット=クルーガーなのか!!! 

 

 本当に美少女だ……! 

 弟子であるウイングさんの前だからか、道場の中だからかはわからないが、ぶりっこスタイルの喋り方ではなくお母さんじみた喋り方と表情になってはいるが、見た目は美少女であることに一片の疑いもない! いや、本来の姿は筋骨隆々だから疑いあるけど、普段美少女ならいいじゃない!! 

 俺が見つめすぎたことで、ビスケもそのことに気づいてこちらを見て、はっ!? とした顔をした後オホホホホと取り繕おうとしているところも含めて可愛かった。

 

 これは良いところをアピールせねばと意気込んで戦った結果、余裕で勝てた。

 ウイングさんは見た目通り特筆すべき点はなかったが、基礎はしっかりこなしているようで流の練度も高く、拳法を学ぶいい機会として役立った。だが、拳法使いVS剣術使いという触れ込みの決闘にもかかわらず、剣術使いが剣を封印して見よう見まねの拳法で勝ってしまったことでウイングさんがめっちゃ怒られてた。正直、すまんかった……。

 

 俺のことは褒めてくれるかなーとビスケさんの方を見ると、俺を見ながら人差し指を立てていた。

 これは……

 

【おめでとさん、随分強いのね。私ともやってみる?】

「是非お願いします!」

【あたしはビスケット=クルーガー。プロハンター! よろしく】

【ビスケでいいわよ。何かつけて呼ぶならビスケちゃまにして♡】

「ビスケちゃま!ご指導ご鞭撻のほど、宜しくお願い致します!」

 

 ビスケちゃまは原作のようにオーラを操って文字を描いており、俺はそれに凝を使って気づいたのでつい嬉しくなって叫んでしまった。ビスケは磨けば光る原石を見ると我慢ができなくなって指導してくれる性格なので、才能アピールのために素直に今の全力をぶつけて戦った結果、合格点を貰えたようで、その後も道場で会う度に指導してくれるようになった。「これは青田買い決定ね。うふふふふ」という声が聞こえた気がするのは気のせいだろうか。

 普段はストーンハンターとして世界を飛び回っているらしく、会える機会が少ないのが残念だ。

 

 

 ビスケちゃまのついでにネテロ会長にも会えた。

 子供なら遊びも混ぜた方がよかろうと誘われて、儂からボールを取れたらハンター資格やるぞいと言われたので、俺、リオンちゃん、ミアキスちゃんが全力でかかったが取れなかった。悔しい! 

 

 なお、ネテロ会長はハンター協会会長で、かつ原作主人公が受けた際のハンター試験審査委員会会長をやったり、心源流拳法の開祖で武神と呼ばれていたりと非常に忙しい立ち位置の人類最強候補だ。120歳を超えてなお元気なエロ爺なので、俺のハーレム計画の巨大なライバルになるかもしれない。

 

 蟻王メルエムとの強さの指標にもなりうるので俺の目標規準にもなっており、強さの面では尊敬しているがエロ爺っぷりは敵だ。女性の胸を凝視したり、お尻を触ろうしてくるので、俺の恋人たちにまで手を出そうとしてくる可能性が高い。何としても倒せる実力を身に付けねば!! 

 

逆に美少女ハーレム作ったら嫌がらせしてきそうだなと思ったら、ひゅんってしちゃった。でも諦めない。はねのけて見せる!

 



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第8話:幼少期7

とあるvtuber見てたらリオンの語尾をござるに直そうかと思い始めたでござる(’ ’


 1993年 10歳

 

 マチやシズク、ビスケに出会ってから約2年が経過し、俺は10歳になった。

 

 現在の状況を整理すると以下だ。

 

 ・練の連続発動時間が18時間まで伸びた。成長は1年で3時間増加ペースだ。

  ちょっとペースが下がってしまった。オーラの増大に従い、全消費するまでに時間がかかるようになったことが原因だと思う。仮にこのペースを継続できても後7年で39時間にしかならない。これでは心許ないし、同じ速度で成長できるとも限らない。

 

 ・肉体面での成長は今のところ順調に育っている。

  <愛の修行場(ラブトレ)>の負荷も全身(両手両足首腰)に500kg(合計3t)で日常を過ごせている。ただし、原作では11歳のキルアがオーラ無で16tの扉を開けた事を考えれば、まだ負けているかもしれない。ネテロ会長は果てしなく遠いだろう。幅広い修行に手を出している事もあり……時間が足りない。

 

 ・家族からの剣術修行、リオンちゃんからの暗殺術修行は順調に進んでいる。

  ただし、まだリオンちゃんとミアキスちゃんには勝てていない。

 

 ・上記の対策のため、10歳になる前に更に念能力を開発した。

 

 ・10歳の誕生日にマチとシズクに襲撃された。

 

 ・そろそろ旅に出る事にした。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇念能力の開発

 

 俺は焦っていた。

 このままでは目標とするオーラ量に到達できず、肉体面でもネテロ会長に届かないまま蟻王メルエムとの決戦になってしまう可能性が高い。

 

 せっかくハーレムを築きつつあるというのに、これでは死んでしまう。

 もう諦めて原作主人公にすべてを委ねる? 

 いや、マチやシズクのことから幻影旅団に転生者がいることがほぼ確定である以上、原作は壊れてしまう可能性が高いから、いかに原作主人公といえども任せることはできない。希望的観測で言えばマチかシズクに憑依転生している可能性も考えたが、2年の付き合いでそれは否定できる。

 

 どうすればいい? 

 修行のやり方を変える? 変えるといってもどこを変えればいい? 

 

 師匠はマチ、シズク、ビスケとこれ以上を望むことも難しい。

 修行仲間もリオンちゃん、ミアキスちゃんという同レベルからちょっと高めと理想に近い。

 修行の質も、<愛の修行場(ラブトレ)>、<メイドの抱擁(エンブレイスメイド)>、<進化する侍女(グロースナイト)>、<秘める想いの誘導(ブレインインダクション)>、<魔法美容師(まじかるエステ)>の併用でかなり高くなっている。

 

 それでも足りない。

 時間が足りない。

 勉強なら神様特典の並列思考で同時に鍛えられるのに……。

 

 ……ん? 

 並列思考があるから2つの学習ができるなら、身体が二つあれば2つの鍛錬が同時にできるのでは!? 

 そう、つまりナルトにでてくる多重影分身の術だ! 

 

 これで修行がはかどる! 

 なにより複数の女性と同時にデートだって行ける!!! 

 

 閃いた瞬間、俺の目標に合致して最優先で習得すべき念能力はこれだったと悟った。

 

─────────────────────────────────────

<俺は全員を愛する(ラブアンドピース):全系統>

 自立型の分身体を作り、毎日0時或いは分身体消滅時に経験や記憶を発動者に回収する。

 分身体の身体能力は発動者と同等になるが、耐久性は込められたオーラ量に依存し、込められたオーラ量までであれば念能力を発動することもでき、異性と触れ合っている間は徐々にオーラを吸収することができる。分身体は基本的に発動者と同じ容姿となるが、任意で変更も可能となる。

 

 ▽制約

 分身体は発動者が好きな異性の数×2までしか生成できない。

 分身体は作成時に発動者の最大オーラの半分以上を消費しないと生成できない。

 分身体は発動者または好きな異性から500m以上離れて1時間経過すると消滅する。

 分身体は部位欠損又は行動不可になると消滅する。

 分身体は込められたオーラ量を全て消費すると消滅する。

 分身体は発動者が気絶又は死亡した場合は消滅する。

 発動者の意思以外で消滅した分身体が持っていたオーラは回収できない。

 発動者の思考力を超える分身体を作成できない。

 

 ▽誓約

 経験と記憶回収時に発動者の思考限界を超えた場合、一週間意識を失う。

 好きな異性から大嫌いと言われた場合、一ヵ月この能力を発動ができなくなる。 

─────────────────────────────────────

 

 

 やはりこれはハーレム生活には不可欠と言ってよいだろう! 

 もちろん修行のためというのも嘘ではない。……本当だよ? 

 

 好きな異性は今のところ、リオンちゃん、ミアキスちゃん、マチ、シズク、ビスケの5人だ。

 そのため、10体まで生成可能だ。生成数が多いほど経験と記憶の回収時にパンクして誓約通り一週間意識を失うことになってしまうが、俺には元々並列思考があるので多くの情報を処理することには慣れており耐性がある。にもかかわらず誓約を軽くしているのは<俺達は運命共同体(ディスティニーシェアー)>の対象者となる嫁達は主にこの能力を俺からコピーすることになると思うので、嫁達の安全を心配しているためだ。念のために分身体にはできるだけ単純作業だけやらせるようにしてフィードバックが軽くなるようにしようと思っている。もちろん俺は例外だ。

 

 

<俺は全員を愛する(ラブアンドピース)>習得後は、分身体に以下の役割を与えている。

 

 ▽分身体の役割

 01:マチとシズクに同行しアマチュアハンターとして行動

 02:ビスケに同行しアマチュアハンターとして行動

 03:剣術修行(感謝の一日一万居合斬り+α)

 04:電撃、火炎、水流、毒の拷問耐久

 05:系統別修行:変化

 06:系統別修行:具現化

 07:系統別修行:特質

 08:系統別修行:操作

 09:系統別修行:放出

 10:系統別修行:強化

 

 ※系統別修行用の分身は隙間時間に「燃」の四大行やインターネット等で情報収集を担当

 

 本体はオーラの消費が激しい念の修行だ。

 筋トレは本体及び全ての分身体が実施する。

 

 系統別の修行は一日一系統が原則じゃないかって? 

 それは時間的な問題によるもので、時間さえあれば問題はない。

 

 原作でもビスケは「系統別の修行は一日一系統が原則! 基礎修行がおろそかになっては意味ないからね」といっただけだ。系統別修行は出来ないことを修行するものなので当然時間がかかり、それを複数やろうとすると一日作業になり基礎修行をする時間がないことを問題視していただけだろう。

 実際、俺は一日に全系統訓練しているが問題は起きていない。

 

 全系統の系統別修行をマニュアル通りにやらなくても、<俺は全員を愛する(ラブアンドピース)>が全系統を使っているので、日々全系統の練度は上昇していくだろうが、オーラを自由自在に操れるようになりたいから修行をやめるつもりはない。

 

 例えば、放出系修行レベル1の『玉飛ばし』をひたすら練習すればより大きなオーラをより速く、より長時間、より遠くまで飛ばせるようになり、オーラを単純に飛ばす能力に必要な練度としては問題がなく優れた放出系能力者Aになるだろう。

 だが、仮に『玉飛ばし』を適当なところで止めて、放出系修行レベル5の『浮き手』の修行をしている放出系能力者Bがいたとしたら、Aは『玉飛ばし』が上手だが『浮き手』は使えない、Bは『玉飛ばし』がAより練度が低いが『浮き手』は練度が高い、ということも起きうるだろう。

 

 単純に強くなるだけなら、自分が使用する念能力にあった修行だけを行った方が効率がいいのかもしれないが、幅広く使えるようになることで成長できる面もあると考えている。

 そのため、心源流拳法の系統別修行を全て成し遂げたいと考えているし、あわよくば原作33巻で登場したイボクリ遊びみたいなこともできるようになりたいと思っている。まぁそういう遊び心はさすがに蟻王メルエムを倒した後になるだろうと想定している。

 イボクリ遊びをジンクラスまで成長させると正直見た目が気持ち悪いとしか思えないので極めるつもりはないが、できないことがあるというのが嫌だ。

 

 

 ところで一つ変な分身体がいることに気づいただろうか? 

 

 そう、「電撃、火炎、水流、毒の拷問耐久」をしている四番目の子だ。

 これはもちろん耐性を身につけるためでもあり、変化系としてオーラをそれぞれの性質への変化させるために実施していることだ。

 

 この子は度々死んでいる。その苦痛も含めてフィードバックされるので、正直きつい。<秘める想いの誘導(ブレインインダクション)>による修行脳がなければ妥協していたかもしれない。

 リオンちゃんとの格闘術もどきでも、軽いスタンガンとか毒は体験していたので多少の耐性はついていたが、それでも限度はあるということを思い知らされた。

 だが、俺の才能の素となったキルアも幼い頃から電撃を浴びせられた結果、オーラを電気に変化させて戦う技術を身に着けているので、俺にできないはずはない! という一念で継続させることにした。

 

 今、苦痛に耐えて修行することで、将来ハーレムを満喫できることが確定しているのであれば、何度か死ぬような苦痛を味わった程度で耐えられないはずがないというものだ! 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇マチとシズクの襲撃

 

 <俺は全員を愛する(ラブアンドピース)>の習得前は、マチとシズクの仕事についていくことができないため、ジャポンに滞在している時間しか一緒に居ることができなかった。習得後は分身体を仕事に同行させることができるようになったので、ほぼ毎日一緒に過ごすことができるようになった。

 

 つり目でぱっと見怖いマチと、マイペースで自由に行動するシズクとの旅路は正直不安もあったけど、マチは何気に心配りもできて優しく面倒見も良い、シズクは自由に行動しているように見えても事前に決めたルールは守ってくれるので師匠として指導してくれる。

 

 ハンターの仕事で戦闘があった時や疲れた時には、リオンちゃんからコピーしている<メイドの抱擁(エンブレイスメイド)>で二人の回復力も強化できるし、料理もできるので、ちゃんと役にも立っている。普通の実力としても中堅ハンターは優に超えているしな。

 

 そうして交流も深めていると、シズクが夜に俺の布団の中に入ってくるようになった。

 何でも、俺に抱きしめられるといつもよりリラックスできて落ち着けるらしい。

 神様特典の『癒し系男子』効果でした。

 

 スタイル抜群のシズクに抱きしめられると俺も気持ちいいから嬉しいんだけど、シズクは寝るとき下着姿だから正直興奮している。そんな風に悶々として過ごしていたある日、シズクも俺が興奮していることに気づいたようだ。お互い見つめ合った後、シズクがキスしてきて「ハヤテならいいよ」と囁いてきた。思わず俺からもシズクにキスをした。そしてそのまま……

 

 

 :

 :

 

 

 ん……どこからともなく小鳥のさえずりが聞こえたような気がして目が覚めた。

 ぼんやりした頭に、「朝」という言葉が浮かび、窓の外からは、小鳥の声がチュンチュン聞こえる。

 

 はっとして隣を見ると、シズクの顔と綺麗な素肌が目に入り、急激に意識が覚醒してくた。

 

 そうだ! 

 ついに俺は大人の階段を登ったんだ!! しかもシズクと!!! 

 

 あれは夢ではなかった。完全記憶能力持ちの俺が言うんだから間違いはない。

 柔らかかったなぁ。またやりたいなぁ。と思いながらシズクの寝顔を眺めていると、シズクも目を覚ましたようで「ん……ふぁ……あ、ハヤテ……おはよう」と、はにかんで笑って来るシズクにより一層見惚れてしまい、思わずキスをしようと顔を近づけるとシズクも抵抗せず目をつむり受け入れてくれた。

 

 あぁ神様……この世界に転生させてくれて本当にありがとうございます! 

 俺は今、とても幸せです!! 

 

 

 

 その後、一緒にシャワーを浴びてからは普通に過ごした。

 

 しかし直感に優れるマチにバレてしまったようで、すごい顔でこっちを見ている……。

 直感恐るべし……。恥ずかしくて顔を見れない……。

 

 そしてその晩はなんとマチが夜這いにきた。

 これはもしかしなくても二日連続ムフフな展開きたーと期待して話しかけようとすると……

 

 

 :

 :

 

 

 ん……どこからともなく小鳥のさえずりが聞こえたような気がして目が覚めた。

 

 はっとして自分の身体を見ると、昨日意識を失う直前と同じく念糸で縛られていた……。

 

 あ……ありのまま今、起こったことを話すぜ! 

 おれはマチに話しかけようと思っていたらいつのまにか縛られて色々弄られていた。

 そして気づいたら朝だった。

 

 な……何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をされたのかわからなかった……。

 気持ち良すぎて頭がどうにかなりそうだった……。

 催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ。

 もっと恐ろしくて新しい性癖の片鱗を味わったぜ……。

 



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第二章:少年期の冒険
第9話:くじら島1


新年あけましておめでとうございます!

去年は評価5件もらえたことに評価バーに色がついて気づきました。
基本前書き後書きは記載しないようにしていますが、誤字報告、評価、ブクマ、ココ好き、アクセス諸々感謝しています。未熟者ですが今年もよろしくお願いします。



 1993年5月5日 10歳

 

 ついに迎えた旅立ちの日! 

 といっても俺、リオンちゃん、ミアキスちゃんの分身体を一体ずつジャポンに残して剣術修行させているので、特に別れの寂しさとかはない。

 

 残念ながらマチとシズク、ビスケは今日もハンター任務の為、ここにはいない。

 お供につけている分身体から特に問題が起きていないという情報が来るのでその点は安心だ。

 というわけで今回旅立つのは、俺、リオンちゃん、ミアキスちゃんの3人だ。

 

 ちなみに旅の計画は特にない! 

 両親にも数年ほど武者修行行ってくるとしか伝えていないが普通に許可された。

「男ならだれもが通る道だからな」と、うちの脳筋家族は全員同じ道を通ったのかもしれない……。

 

 計画は臨機応変に行動しやすいようにしてある。つまり行き当たりばったりだが、やりたいことは主に以下だ。

 

 ・くじら島で原作主人公ゴンと会う

 ・天空闘技場で200階を目指すキルアと会う

 ・天空闘技場に分身体を数体突入させてお金稼ぎ

 ・天空闘技場では他流派を参考に自分の流派をさらに磨く(ただし刀不可)

 ・どこかでポンズと会う(キメラアント編で死亡するプロハンター志望の可愛い女の子)

 ・どこかでピヨンと会う(十二支んに所属する可愛いバニーガール)

 ・どこかでサンビカと会う(選挙戦で登場したウイルスハンターの女医)

 ・グリードアイランドを入手する(購入費用は最低170億)

 

 

 最初の行き先について、ジャポンから行ける場所を調べていたところ、くじら島が見つかったので迷わずに選んだ。ここは原作主人公ゴンの出身地なので、ぜひ一度行ってみたいと思っていたが、思ったより早く向かうことができたのは僥倖だ。

 

 くじら島とはその名の通りクジラの形をしたあまり大きくはない島になる。

 主に出稼ぎの漁師が長期滞在するための島で、純粋な島民は僅かしかいない。原作主人公ゴンと、その父親である二つ星ハンタージンの出身地で、原作開始当時に島にいた子供はゴン以外にはノウコという小さな女の子しかいないぐらい人口は少ない。遠くからは緑色一色に見えるぐらい自然豊かで多くの野生動物も生息しているという隠居生活に最適な島だ。

 

 

 ゴンは、このころはまだ父親の職業も知らないはずだから、それほど強いわけでもなく、目標もないただの野生児だとは思うがそれでも原作ファンとしては一目見たいと思わずにはいられなかった。

 

 そんなミーハー精神なんて捨てて修行すべきという意見もあるかもしれないが、俺とリオンちゃん、ミアキスちゃんなら場所や道具に依存せず修行することができるので、そこまで大きな影響はない。対戦相手が固定になってしまうのはネックだが、くじら島の次は天空闘技場に向かう予定なので、そこでいくらでも経験は積めるだろうという目算もある。

 そんなことを考えてると遠くに、大きな影が見えてきた。

 

「お──ー! あれが、伝説のくじら島っ!!」

「ふふふっ、伝説ですの? でも綺麗で気持ちよさそうな島ですの!」

「うんうん。老後に静かに暮らすのにぴったりですぅ」

 

 初めて見るくじら島に言葉は違えども皆が好印象を抱いたようだ。

 まもなく訪れる原作主人公との出会いに対する期待や興奮も合わせて変なセリフがこぼれたが、そんなことは気にならないぐらい目が釘付けになっている。

 

 

 思い当たりで寄ってみることにしたけど、ゴンとはどういう出会いと関係でいこうかな? 

 

 ライバル枠? 

 親友枠? 

 頼れるお兄さん枠? 

 立ちはだかる悪人枠? 

 実は私が親父だ! 説をふりまく? 

 

 どれも魅力的ではあるが、蟻王メルエムとの共闘を考えたら後半二つはないな。

 ゴンを鍛えた方が戦力になってくれるだろうから、頼れるお兄さん枠として指導者になることが成長を考えると現実的だし、何より一番面白い気がする。何よりライバル枠はキルアがいるしな! 

 

「老後はさておき、綺麗な景色を見た若者としてやることは一つだ! 

 やっほ────!」

 

「ハヤテ様!? 

 それは山びこなの! 

 山で叫ぶものであって、海でやるものじゃないの!?」

 

「常識? そんなものはとうに捨ててきた! 

 やっほ────!」

「リオンちゃんったら堅いなぁ~。海なんだからはっちゃけないと! 

 やっほ──────ーいぃ!」

「さすがミアキス! 良い声してるな!」

「でしょぉ? うふふふ。楽しいわねぇ」

 

 ただの冗談で叫んでみただけだが突っ込み役のリオンちゃんのために繰り返してみた。

 ノリの良いミアキスちゃんはからかうようにリオンちゃんの顔を見ながら同じように叫んだ。

 

「え? えぇっ!? 

 リアキス様まで!? 

 うぅ……や、やっほ──ですの!」

 

「「やっほーですのって何!?」」

 

 リオンちゃんの謎の謎の掛け声に思わず問いかける声が揃った。

 まぁ俺が語尾に「~ですの」をつけるようにいったせいで、それを律儀に守ってくれた結果だという事はわかっている。それでも「もぉ! もぉ!」と言いながら顔を真っ赤にして胸を叩いてくる可愛いリオンちゃんを想像したら、からかわずに居られない気持ちはわかってくれるだろう。

 ミアキスちゃんも同じ気持ちみたいで、リオンちゃんの頭をヨシヨシと撫でている。

 

 

「やっほ──」

「やっほー」

 

 可愛いリオンちゃんを愛でていると、それなりに大きな可愛らしい山びこと、その後にもう一つ小さな山びこが返ってきた。

 

「あ! 返ってきたの!」

「くじら島の方からだ。ということは俺達の声も島民に聞こえたんだね。これは歓迎間違いなし」

 

 ちょっとやらかしたかなーと思ってしまう。

 まぁ多分大丈夫だろう。

 

 それにしてもくじら島に女の子は二人もいたのか。

 ゴンの旅立ちの時(6年後)に小さい女の子が一人いたことは記憶しているが、他にはいないと言われていたはずだが……。

 

「こんな可愛らしい歓迎なら嬉しいわねぇ」

「あぁ、楽しみだな」

 

 リオンちゃんはまだ口を尖らせて拗ねたままだった。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇くじら島到着

 

「ねえねえ! さっきやっほーって叫んでたお兄さんたちだよね!?」

 

 船から降りると、5歳くらいの女の子二人組が寄ってきた。

 話しかけてきたのはそのうちの元気そうな方だ。もう一人はその子の後ろに隠れてこちらを覗き見ている。

 

「そうだよ。

 初めまして、俺はハヤテ、10歳だ」

「私はリオンなの。13歳なの」

「ミアキスですぅ。15歳だよぉ」

「もしかして君達がくじら島から返事をくれていた二人かな?」

 

 隠れている方の女の子はちょっと怖がっているように見えたので、しゃがんで目線を合わせてからできるだけ笑顔を心がけながら三人で挨拶を返した。

 

 

「うん! よかったー、聞こえたんだ。ボクはゴンだよ、ゴン=フリークス! 

 横にいるのはリンという名前でボクの妹なんだ!どっちも6歳だよ」

 

 リンちゃんもぺこりと合わせて挨拶を返してくれる。

 そしてやっぱり原作主人公のゴンだった! 

 年齢的にドンピシャだし、好奇心旺盛なところもそうだし、見た目は髪のツンツンっぷりがないので違和感あるもののそこはかとなく元気な感じがゴンって感じだ! 

 

 でも女の子? 原作では名前から分かる通り男の子だったけど……。

 いや、可愛いから何の問題もないな。むしろこれがゴンだ! うん。

 

 そして、リンという名前の女の子は原作にいなかったし、ゴンに兄弟姉妹自体いないはずだ。

 もしかしてリンが転生者で、転生特典でゴンを女の子にした? 

 いや、男の子なら、好きなキャラを性転換させて恋人を狙うとか考えられるけど、リンも同じ女の子だからそれはないか? 

 それに転生者なら転生特典もらってるはずだから、俺みたいにやりたいことやって楽しむだろうがリンはそんな感じには見えない。オーラも纏すらできていない垂れ流し状態。特典で高望みしすぎて全然貰えなくて落ち込んでいるというパターンなら考えられるだろうか。今考えても結論は出ないから、機会をうかがって試してみようかな。

 いずれにしても可愛いは正義だ! 

 

「ゴンちゃんとリンちゃんの二人分、ちゃんと聞こえていたよ。

 可愛らしい声だから会えることを楽しみだねって三人で話をしていたんだ。

 暫くこの島に滞在するつもりだから良かったら時々でも一緒に遊んでくれると嬉しいな」

「うん、任せて!」

 

 思考の内容はさておき、せっかくの機会なのでゴンちゃんとリンちゃんの頭を撫でてみた。

 6歳くらいの可愛い子供が笑顔で話しかけてきたらとりあえず撫でたいよね。

 

 それから少し雑談していると、リンちゃんも落ち着いてきたのか少しずつ会話に参加してくれた。

 同じ子供の知り合いが少なかったのと、リンちゃんも馴染み始めたのが嬉しかったのか、ゴンちゃんが宿が決まってないならうちに留まると良いよって誘ってきたので、ゴン宅まで挨拶しにいくことになった。

 

 ゴン宅ということは、原作主人公の育ての親であるミトさんにも会えるので楽しみだ。

 泊まれるかどうかはその挨拶結果次第だが、野宿経験もあるのでそれでも問題はない。

 

 

 ミトさんは、ゴンの父親であるジンの幼馴染(従妹)で、ハンターになると宣言して島を飛び出していったまま戻ってこないジンを心配しつつもそのもとになったハンターという職を嫌悪し、10年後にジンが赤ん坊のゴンを連れて島に戻ってきた時は親権の裁判を起こしてゴンの養育権を奪い取り、ゴンに対しては両親が交通事故でなくなったと嘘を教え、大きくなったゴンが苦労して取得したハンターのライセンスカードを折り曲げようとしたりするとちょっと変わった人だ。

 

 ……これだけ聞くとひどい人に思われるかもしれない。

 しかし実際にはジンだけでなくゴンもまっすぐな優しい子に育てて、そんな成長したゴンから「オレにとって母親はずっとミトさんだから。他にいないんだ。最高だよ。ちょっと口うるさいけど」と讃えられることからも、根が良い肝っ玉母さんであることは分かってもらえると思う。

 

 敢えて一言付け加えるのであれば、美人だ。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇ゴン宅到着

 

「ミトさんただいまー!」

「ただいま」

「おかえりー。今日は早いわね。

 あら、お客様かしら」

「うん、友達連れてきた!」

 

 朗報! 友達認定されてた! 

 ゴン宅についたらちょうど洗濯物を取り込もうとしているミトさんがいたので挨拶を交わす。

 

「こんにちは。ハヤテと言います。

 突然お邪魔して申し訳ありません。私達は先ほど船でやってきたばかりなのですがちょうど港で遊んでいた同じ子供の二人と知り合い、誘われたので遊びに来ました。

 もしかして二人のお姉さんでしょうか?」

「あら、嬉しいこと言ってくれるわね。

 もうお姉さんなんて呼ばれる歳じゃなくて二人の叔母なのよ。

 二人の両親は亡くなっているから私が預かって育てているの」

 

 まだコンちゃんとリンちゃんは六歳だろうに、既に親が亡くなっていると伝えているようだ。

 赤ちゃんの時に預かったならそのまま母親を名乗ることもできたと思うが、さすがに島中の人が知っているだろうから、親のことも伝えることにしたのだろう。

 

「それと、この島には子供が少ないから遊んでくれるなら歓迎よ。他所から来た人達にとってはあまり娯楽のない島かもしれないけど、コンとリンが一緒なら騒がしくて退屈はしないはずよ」

「確かに二人とも良い子で話してるだけでも楽しいですし、自然の中だからこそできる遊びもいろいろあると思いますので島に滞在中は二人と遊べるのが楽しみです」

「そう言ってもらえると嬉しいわ。なんだかんだで私も大好きな場所だから」

 

 そう言ってほほ笑むミトさんはいい笑顔だった。

 幼馴染でありゴンちゃん達の父親であるジン=フリークスとの思い出を想像しているのだろうか。

 

 それにしても美人だ。

 ジンの幼馴染ということは1967年頃生まれで26歳ぐらいかな? 

 今が女性として最も輝くだろう年齢なのに噂が立つ相手もいないとはもったいないと考えてしまう。

 

 ならば俺が? 

 16歳差……別にありじゃないか? 

 手を出さない理由なんてもはやないといっても過言ではないだろう? 

 いや、さすがに相手にされないだろうから妄想するだけだけど。

 

 

「ミトさん、三人ともまだ宿が決まってないんだって! 

 うちに留まってもらおうよ。リンとも仲が良くなったし遊ぶ約束もあるんだ」

「あははは。一緒に居られるのならもちろん嬉しいんですが、私達は旅をしており野宿でも全然かまわないのでご迷惑をおかけすることになるなら断っていただいて問題ありませんよ」

 

 初めて見るゴン宅やミトさんに原作ファンとして感動はするものの、さすがに追加で三人泊まれるスペースはなさそうなので断りやすい雰囲気を出してみた。もちろん女性四人(曾祖母もいる)で暮らしている家なので、セキュリティ面としての問題もあるだろう。

 

「うーん。ごめんなさいね。

 うちもそんなに大きくはないから三人は厳しいかな。

 港まで戻れば宿はあるけど……遠いわよね……。

 昔、私の幼馴染が作った小屋なら近いし空いてるはずだから、今晩の食事が終わったらそこまで案内しましょうか?」

 

「ありがとうございます、是非お願いします!」

 

 野宿のつもりだったが、くじら島での住居が決定した。

 

 なんと、ジンが使っていた小屋! 

 といっても10歳前に作った小屋だろうし、16年も前だからあまり居住性には期待できないだろう。

 そして泊めないまでも今晩の食事を作ってくれて小屋を教えてくれるミトさん天使! 

 

 

「それにしても三人で旅をしているの? 

 言いづらいことなら申し訳ないけど、親は一緒ではないの?」

 

 ミトさんが聞きづらそうに尋ねてきた。

 子供だけで旅をしていると聞いたら普通は心配するよね。

 そして悲しい事情を想像しているのだろう。

 

「先にお伝えすると両親はジャポンに健在で仲はいいので安心してください。

 うちの家族は剣術道場を切り盛りしているんですが、10歳ぐらいで世間を知るために武者修行という名の旅行に行かせる家訓だそうです。リオンちゃんとミアキスちゃんは門下生というわけではないのですが幼いころから一緒に過ごしてくれていて、今回の旅にも同行してくれているんです」

「そう、家出ではないのなら良かったわ。

 でも変な家訓ね。私なら子供に旅なんで出さずに健康でいてほしいと思っちゃうわ」

 

「あははは。そうですね、元々年に数回別大陸に道場破りに行くような特殊な家族なので、そこは気にしないで貰えるとありがたいです。俺としてもいろいろ世界を見て回りたいと思っていましたし、こうしてコンちゃんやリンちゃん、ミトさんのような気持ちの良い方々とも出会えたことは素直に嬉しいです」

「ハヤテ様や私達に世界を知って大きく成長してもらいたいという違う形の親心なの」

「私の両親とは違ってハヤテちゃんのご両親は良い方々ですよねぇ~」

 

「あら、その言い方だとミアキスちゃんのご両親は悪い方々なのかしら?」

「ふっふっふ~~、聞いちゃいますかぁ? 

 良いですよ~~語っちゃいますよぉ~~!」

 

 俺も知らなかったが、ミアキスちゃんは俺の両親が見せる優しさを知ったことで、自分の両親に対する評価がより下がっていたようだ。ちょっと脚色もあるようだが、女の子であることを理由で迫害されていたことを笑顔で語った。親に対する不満はあれどもう吹っ切って笑い話にできるぐらいには心が落ち着いているようで安心した。

 

 

「それはまたひどい親ね……。

 ひどい親と言えば聞いてよ! 

 コンとリンの父親がまたひどいやつでね、コンの性別も考えずに名前つけてたのよ! 

 だから女の子だっていうのにゴンという名前になって、そのせいか男っぽい娘に育っちゃったのよね……。あたなみたいな女の子らしい娘になってくれるといいなと思って、私はもうゴンじゃなくてコンって呼ぶことに決めてるの! なんなら島中の人たちにコンと呼ばせてるわ!」

 

「あ、私もそれ思っていましたぁ! 

 でもコンちゃんなら可愛い呼び名ですよねぇ~」

「でしょ? 

 本当にもうジンときたらいつまでたってもダメなやつなのよ!」

「苦労されたんですねぇ……」

「そうなのよ! 全っ然ここにも帰ってこないしハンターなんて碌な仕事じゃないわ!」

 

 くいっくいっ。

 ミトさんがミアキスちゃんと意気投合してすごい勢いで喋りだしてからどうしたものかと考えていたら、袖を引かれたので振り返ってみると、丁度話題のコンちゃんだった。

 

「ねー、あぁなると長いから外に行って遊ばない?」

「そのようだね、あははは……。

 よし、じゃあここはミアキスに任せて遊びに行こう!」

「おー!」

 

 



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第10話:くじら島2

 ◇◇◇◇◇森探検中

 

 愚痴という名の長話をミトさんとミアキスちゃんが始めてしまったので、俺とリオンちゃん、ゴンちゃん、リンちゃんの四人で森を探索して時間をつぶすことになった。リンちゃんはあまり発言がないが、嫌がってるというわけではなく無言を苦にしないタイプのようだ。嫌がってないかなと思って顔を見つめてみると、首をかしげて?? と不思議そうに見つめ返してきた。

 なにそれ可愛い! 

 

「ところでゴンちゃん。ミトさんはコンと呼んでいたと思うんだけど、俺達もコンちゃんと呼んで良いのかな?」

「もちろん! 

 ゴンという名前も強そうで嫌いじゃないけど、ゴンと呼ばれるとミトさんがちょっと悲しそうな表情を浮かべることが多いから、コンって呼んでもらったほうがいいかも! 

 まぁ実名がゴンだから、初めて会った時の自己紹介ではうっかりゴンで名乗っちゃったんだよね」

「……コンの方が可愛い……」

 

「りょーかい。改めてよろしくなコンちゃん!」

「コンちゃんとリンちゃん合わせてコリンちゃんなの!」

「コリンも可愛いね! 基本的に僕はリンと一緒にいるから纏めて呼ぶときはそれでいいよ。

 リンもいいよね?」

「……別に良い……。……コリン……? コリン星……」

「ハヤテさん、リオンさん、ミアキスさん……ん────ー三人は纏め方が思いつかないやっ!」

「あははは。確かに難しいな~。

 むしろリンちゃんとリオンの方が似てるよね」

 

 コンの呼び名の話をしていたと思ったら、いつの間にかセット名の話になっていた。

 これが女の子の会話というものだろうか? 

 まぁ可愛いし呼びやすいから便乗するけどね! 

 

 そしてコリン星という発言、もう確実に転生者ですね。ありがとうございました! 

 

 

 

 景色を楽しみながら雑談していると、ヘビブナの群生地が見えてきた。

 そしていくつかの木々にはクロスした爪痕が刻まれている。

 

「おや。この辺りに子連れのキツネグマがいるんだな」

「子グマなの!? ハヤテ様、見たいの!!」

「残念だけどダメだ。

 コリン。この島に住んでいる二人ならダメな理由がわかるかな?」

 

 恐らくコンは知らないはずだ。

 原作開始三年前にコンがカイトというプロハンターと出会い、父親ジンの職業を知ることがプロハンターを目指すきっかけになったのだが、そのカイトとの出会いがこの子連れキツネグマだ。

 コンはこの危険性を知らないままに踏み入れてしまい襲われ、そこをカイトに救われることが出会いのきっかけとなっている。

 そう考えると原作だと今から二年後のゴンもキツネグマに怯えることしかできない少年だったんだな。

 

 

 ……あれ、ここで教えたら出会いのきっかけがなくなってしまう? 

 いや、まぁ俺がコンちゃんに父親であるジンの職業を教えればいいだけか。

 

 そして今更ながら思う。その事件で倒されたキツネグマの子をゴンが育てることになるのだが、その子グマの名前がコンだった。ゴンがコンと呼ばれてる時点でこの世界ではもうキツネグマのコンは存在しなくなるだろうと思うと、原作ファンとしてはちょっと哀しくなってしまった。

 

 

「はい、わかりません!」

「……クロスした爪痕は縄張りであることを示すシグナル……。

 ……このシグナルを見たら即撤退が常識……出会ったら問答無用で襲われる……」

「そうなの!?」

「そうなんだー! リンはやっぱり物知りだね」

 

 コンちゃんは原作通りキツネグマのシグナルを知らなかったようだ。

 意外と博識なリンちゃんが常識として説明したことで、素直なリオンちゃんとコンちゃんは知らなかったことを普通に認めてリンちゃんを褒めている。

 あ、リンちゃんがちょっとどや顔してる。可愛い。

 

「うん、リンちゃん正解。良く知ってたね。

 コンちゃんは知らなかったようだけど、知らないこと自体は恥ずかしいことじゃない。

 単に知る機会に恵まれなかっただけだからね。

 この島に住む以上は今後も出会う機会があるかもしれないからしっかり覚えて次に活かそう」

「わかりました、ハヤテ先生!」

「うん、コンちゃんも良い子だ。よしよし」

 

 いつの間にか先生呼びになってたけど、可愛いから思わず二人とも撫でさせてもらった。

 

 

 

 次は綺麗な湖に付いたので一旦ここで休憩することにした。

 時々コンちゃんとリンちゃんが釣りに来る場所で、大人五人でも歯が立たない主と呼ばれる巨大魚が生息しているらしい。

 

 休憩中にコンちゃんからハンターという職業について質問された。

 ミトさんから、父親であるジンは交通事故で亡くなったと聞いていたらしいが、先ほどの出発前の会話で実は生きていて帰ってこないだけという事を知って、やっぱり……と思いつつも興味を持っていたらしい。

 

「一言でハンターといってもそのありようは様々だね。

 人を傷つける危険な生物を倒すこともあるし、貴重な生物や遺跡の保護、食材や宝石を求めて世界中を旅する人もいる。ただし、どんな役割を目指すかにかかわらず、毎年百万人程度の候補者から数人しか合格できない厳しい試験を乗り越えないとなれないのがプロハンターだ。

 なることが難しい分、偉業を達成するプロハンターが多くいるので、ほとんどの公共機関を無料で使用できるようになったり、立ち入り禁止地域にも入れるようになったりと世界的にかなりの信用を得ている職業とも言えるんだ。だからコリンちゃん達の父親がハンターであるということは恥ずべき事ではなく、誇っていいことだと俺は思うよ」

「へーすごいんだー! 

 それって子供を捨ててでも続けたいと思う仕事なの?」

 

 う……答えづらいことをはっきりと突かれた。

 それでこそ原作主人公! とは思うけど、答える立場になると悩ましいものがある。

 でも父親を恨んでいるという感じではなく、単純な疑問として聞いているようだ。

 

「うーん……俺もまだ10歳だからそういうのは難しいところかな。

 当時どういうやりとりがあったのかもわからないからね。でもその子供を信頼できる幼馴染に預けているということは嫌われてたり、子供のことをどうでもいいと思っているという事はないと思うよ。それにハンターには危険も多い。凶悪な犯罪を起こした人達を捕まえたり、護衛の一環で暗殺者と戦うこともあるから、子供を連れていると人質として狙われる可能性もあるから、子供が大事だからこそ敢えて別行動するということも考えられるだろうね」

「うんうん!」

「なんなら、コンちゃんもハンターになって一人前になったことを証明してから父親にその理由を直接訪ねにいくことを目標にしたらどうだい? ジン=フリークスといえばかなり凄腕のハンターで世界中を飛び回っていて所在も謎に包まれていると聞いたことがあるからかなり難易度の高い任務だけどね」

「うん、それ楽しそう! 

 でもそうすると、ミトさんがハンターという職業を嫌っているようだから説得が大変そうだなぁ……」

「確かにあの時の反応はなー。

 よし、俺達もハンターを目指してるし説得には力を貸すよ。

 ところでリンちゃんもハンター目指すのかい?」

「……コンがいくなら付いていく……」

 

 あまり興味なし……か。

 今までの会話から転生者であることはほぼ確実だけど、もしかしたら原作知識がなく危険性を理解してないのかもしれない。転生者ばれすることによるリスクはあるが、悪い子じゃないのは間違いないだろうから事情をある程度説明して協力者になってもらったほうがよさそうだな。

 

 日も暮れたことだし、話の続きはコン宅に戻ってからにすることにした。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇再びコン宅

 

 戻った頃には、ミトさんとミアキスちゃんによるトークも一段落ついており食事の準備も整っていたので、皆で美味しくいただいた。

 

 ミアキスちゃんも、ミトさんの味付けや料理を学んだようだから、これでいつでもこの味が食べられる。つまり、ゴンちゃんやリンちゃんがハンターになって島を出てからもお袋の味として料理を振舞えるので安心してくれるだろう。

 

 そして食後の団らんというタイミングで俺はミトさんに話を切り出すことにした。

 

「ミトさん、実は謝罪しなければならないことがあります。

 さきほどコンちゃんとリンちゃんに森の中を案内してもらっているときに、父親であるジンが生きているということと、ハンターという職業のことを伝えました。伏せていたであろうことを伝えてしまい申し訳ありません……」

「っ!?」

 

 初手謝罪。

 ジャポン以外では土下座の文化はないのでそこまではしないが、姿勢良く頭を下げることで出来る限り誠意が伝わるよう心掛けた。

 

 原作知識から、ミトおばさん的にはジンのようになってほしくなくて意図的に伏せていたことを知っていたにもかかわらず、少しでも早く強くなってほしいという俺の勝手な願い故に行動してしまったからだ。これに関しては本当に申し訳ないと思っている。

 仮に俺が伝えなくても数年後にカイトが教えることにはなるのだが、今伝えることでコンちゃんの旅立ちが早くなるかもしれない。そうするとミトさんはまた大事な人に置いて行かれる苦しみを味わうことになる。

 

 それでも俺はコンちゃんに強くなってほしかった。

 蟻王メルエムを倒さないことには俺の幸せな家庭は築けない。一人で倒せるように努力は続けていくが、キメラアントとの戦いでは敗北は死と直結するし、俺はともかく嫁が傷つけられるのも可能な限り避けたい。そのために原作主人公とはいえ、女体化してしまった年下の女の子を巻き込んでいいのかという葛藤もあったが、コンちゃんは主人公であるがゆえにどのみち危険には巻き込まれる。

 

 実際に原作においては、ハンター試験では変態ピエロはさておけば適正レベルだったということにしても、天空闘技場では危うく念能力を知らないまま洗礼を受けるところだったし、洗礼を避けれると思ったら基礎の基礎である纏だけ習った翌日に戦って全治四ヶ月の大けがを負ったり、必殺技と呼べる念能力も習得していない初心者の時に世界でも上位の実力を持つであろうA級賞金首の幻影旅団と戦い捕まったり✖2、多くの念能力者が集ったグリードアイランドの中でも最凶と目されるボマーと戦い両腕と喉を壊されたり、キメラアント編では仲間を殺され自身も廃人になったりといつどこで死んでもおかしくない人生を送ることになる。そしてその行動をとったことを本人は後悔しない。つまり同じ状況になれば確実に同じ行動をして命を散らせる可能性があるということだ。

 

 このことを考えれば、早めに修行させた方がコンのためになる可能性の方が高い。とはいえ、そんなことをミトさんには説明できるはずもなく、ただただ誠意をもって謝ることしかできない。

 もちろん、原作の流れを変えることで起きる不測の事態というリスクが高まることも懸念材料だ……。

 

 

 ミトさんは鬼気迫る表情で立ち上がり、その勢いで倒れた椅子がガタガタッと音をたてて響き渡る。その勢いで怒鳴ろうとしたのか口を開いたが、思いとどまったのか少しの間、静寂がおとずれた。

 

「……はぁ。

 いいわ。あなたたちには口止めしてなかったわけだし。

 コン、リン、嘘をついてごめんね。確かにジンは生きてると思うわ。音沙汰はないけどね」

「うん、ウソだって気づいてた。

 ミトさん僕達に嘘つくとき絶対顔を逸らすからね。

 だからお父さんが僕達を捨てたわけじゃない事も知ってたよ」

「…………。

 ところで、なんであなた達はジンのこと知ってたの?」

 

(((((ごまかした)))))

 ミトさん以外全員の思考が一致した瞬間である。

 

 ジンがコリン達を捨てたわけじゃないという疑問さえ持てば、当時何があったかなんて調べればわかることだ。隠蔽技術に秀でた裏世界の人間が溢れる大都市ならさておき、ここは住民が全員知り合いという小さな島である以上、周りに聞くだけですぐにわかったであろう。あまりしゃべらないリンちゃんだけだと無理だったかもしれないが、好奇心旺盛でコミュ力お化けなコンちゃんなら余裕で聞き出す姿が思い浮かんでしまった。

 

 ミトさんもそれを察したのか、誤魔化しきれない、でも認めたくはないという想いから話を逸らそうと思い、俺達へ質問をしたんだと思う。

 

「実は俺達もハンターを目指してるんです。

 そしてジン=フリークスといえばプロハンターの中でもかなりの凄腕として有名なんですよ」

「……え? 

 聞き間違いかしら。あのバカが凄腕として有名? 問題児としてじゃなく?」

「あははは……。

 問題児として有名なのも間違いではないらしいですよ。

 ただその問題を加味してもハンター協会の最高幹部である十二支んに選ばれるくらいに功績をあげる実力があり、達成した実績を知って尊敬しているハンターもそれなりにいると聞きます」

「はぁ……世も末ね……」

 

 ミトさんのあまりの言いように、苦笑いしてしまった。

 やっぱり、くじら島にいては他大陸のハンター事情なんて情報は回ってこないのだろう。

 ミトさんからしたらジンに大してそういう印象を持ったままでも仕方ない。

 そしてその印象がハンターという職業につく全ての人達の印象になっても仕方がないのだろう。

 だが、この印象を覆さないとハンターへの挑戦権がコリンちゃん達に与えられない。

 

「それにジンさんの行動がハンターの全てというわけではないです。

 むしろジンさんはハンターの中でも特殊な問題児であることはミトさんが言った通りで、ちゃんと家族を築いて大事にしているハンターもそれなりにはいます。俺達もハンターを目指してはいますが、これも自衛のために力と仲間を手に入れるためなので、最終的な目標は大事な嫁達と平和にのんびり暮らすことですから!」

 

「…………言われてみるとそうよね……。

 なんで私はジンみたいなやつが標準だと思ったのかしら……」

 

 徐々に説得できているようだ。

 こっそりリオンちゃんとミアキスちゃんを安心させるように笑顔で振り向いたら、顔を真っ赤にしてうつむいていた。あれぇ……褒められると思っていたので驚いてしまったが可愛いのでよしとしよう。

 代わりにコリンちゃん達に今がチャンスと目配せした。

 

「それでね、僕達もハンターを目指したいんだ! 

 ミトさんをいつまでも困らせているお父さんを代わりに叩いてくるよ!」

「……ぶん殴る……!」

「あなた達……。

 もぅ……わかったわよ。

 親に似て行動的だとは思っていたけど、やっぱりジンの子よね……。 

 ただし! 

 ハヤテさん達に十分な力があると認められるまでは島からは出ないこと! 

 島から出ても疲れたり困ったらちゃんと私のところに戻ってくること! 

 何もなくても年に一度は二人揃って私のところに戻ってくること! 

 私の眼を見て約束できる!?」

「「もちろん、僕(私)達はミトさんの子供だからね!」」

 

 無事に説得できたようだ。

 俺は必要なかったかもしれないな。

 血の繋がりはなくてもミトさんとコリンちゃん達はちゃんとした母娘だ。

 

 そしてちゃっかり、約束事に俺達も巻き込まれていた。

 半年ぐらいでくじら島からは出る予定だったんだけど、定期的に様子を見に来ればいいのかな? 

 それなら約束がなくても可愛い二人と美しい一人に会いにくるつもりだったから問題はないな。

 

 

「ところでさっきさらっと流してしまったけど、嫁……達?」

「あ、はい! 今のところ恋人が五人いますよ! 自慢の恋人達です!!」

「「「五人!?」」」

 

 ノリと勢いでごまかせないかなと笑顔で言ってみたけどダメだったようだ。

 これはコリンちゃんとミトさんも嫁にする計画が早速暗礁に乗り上げてしまった……。

 いや、まだいける! 

 美女と美少女のために頑張るんだ俺! 

 リオンちゃんとミアキスちゃんに目配せしてから悪あがきを始める。

 

「えぇ。五人ですね。

 ジャポンは一夫多妻制ということもありますが、俺はちょっと特殊な力が使えるので何人に増えても平等に接することができるので、ここにいない三人とも実は毎日会って過ごしてので皆仲良しですよ」

「うん、それは私も保証するの!」

「えぇ、ハヤテ様にしか出来ない方法だけど嘘ではないですよぉ~」

 

「う~ん……。

 そんな嘘をつく子達じゃないとは思ってるけど……信じがたい話なのよね……」

「ねぇ、ハヤテさん! 

 その特殊な力というのを僕達にも見せてよ!」

「……見たい……」

 

 ミトさんは疑わし気に、コンちゃんは眼をキラキラさせて面白そうに、リンちゃんも言葉は少ないけど期待した眼で俺を見ていた。念能力は、基本的にハンター以外には教えてはいけないことになっていたはずだけど、教えないとごまかせないか……? 

 

 あれ、そういえば原作では心源流で門下生以外に教えてはいけないとウイングさんが言ってただけで、ハンター全員が心源流というわけじゃないよな。

 ハンター十カ条にも念能力を知らない人に教えてはいけないというルールはない。

 

 俺は別に心源流の門下生というわけでもないし、今世では誰からも教えてはいけない、なんて言われたこともないぞ。そもそも両親は俺に普通に教えてたしな。

 

 もしかして教えちゃって問題ないのか? 

 いや、これはもう問題ないだろう。

 問題になったとしたら、心源流道場でネテロ会長と会った時にも何も言われなかったということでネテロ会長のせいにすればいいだろう。うん、問題ない。

 

 

「……わかりました。

 ただ、いろいろ衝撃的な話になると思います。

 今日はもう遅いので明日からで良いですか?」

「あら、ごめんなさい! 

 時間のことも小屋への案内も忘れてしまっていたわ……。

 これから案内するわね」

 

 ……なんだかんだ能力の方に気を取られてうやむやにできた気がする! 

 



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第11話:コン達との念教室

ほとんど説明会なので、興味ない人は分身体見せるところぐらいまで見たらもうブラウザバックで良いですよ。独自解釈の内容も若干含みますのでよっぽど暇なときとか気が向いた時に見てもらえたらと思います。

なお、本文は3742文字と他話より少ないですが、後書きも3742文字といういつも以上に頭が悪いことになってるので合計したらいつもより多めです。

 ※ゴン達に説明してもおかしくないことを本文にして、
  説明するようなことじゃない独自解釈を後書きにしています。




 翌朝、コン宅に再び集まり、早速能力を披露することになった。

 ちょうど四号が昨日も消滅したので空きが一つある。

 なぜ消滅したかは役割を考えれば言わずもがなであろう。

 

 ……あれ、空きが七つになってる。

 そうか、能力発動条件は俺の好きな異性の数✖2だから、コンちゃん、リンちゃん、ミトさんも含まれたことで分身体の召喚可能数が増加したんだ。

 気を付けないと魅力的な女性が多いほど増えてしまいそうだな……。

 いや、増えて困ることはないからむしろ良いのか? 

 

 

「こほん、では早速昨日軽くお話しした能力を見せますね。

 <俺は全員を愛する(ラブアンドピース)>発動!!」

 

 ……幼い子供たちの前でこの能力名を叫ぶことがちょっと恥ずかしかったのは秘密だ。

 ミトさんのジト目も地味に辛い……。

 それはさておき、発動したことで、俺と全く同じ姿の分身が隣に現れた。

 コリンちゃん達の反応がないと思って振り返ってみると、三人とも口を開いて固まっていた。

 

「まぁなんの事前説明もなく分身したらこうなるのも分かる気がするな、四号よ」

「そうだね、本体。

 でもオーラも見えていない状態だと説明しても信じられないだろうから仕方ないよ」

「うーん。それもそうだね。

 じゃあ暫く待つしかないか。

 四号はもう行ってきていいよ」

「うーい。行きたくはないんだけどしょうがないかぁ。

 ミアキスちゃんいつものよろしく!」

「はぁい。本日もお勤めご苦労様ですぅ。

 <秘める想いの誘導(ブレインインダクション)>」

「お──! 

 修行だ修行だ、やってやんよー!」

 

 修行脳になった四号が今日も苦行に向かっていった……。

 ありがとう四号。オマエの犠牲は無駄にしないよ……。南無南無。

 

 ちなみに四号に今かけた<秘める想いの誘導(ブレインインダクション)>は効果を発揮していない。俺の操作系能力がかかっているようなものだから、早い者勝ちの法則で、ミアキスちゃんの能力にはかからないのだ。

 ただ、能力がかかるかからないにかかわらず美少女に応援されたらやる気出すよね。

 だって俺だもの。

 

 

 

「はっ!? 

 起きたばかりのはずなのにこんなところで夢を見てしまったわ……」

「いえ、分身したことなら現実ですよ。ミトさん」

 

 ミトさんは現実逃避をし

 

 

「ハヤテさんハヤテさん分身できるの!? 

 僕もできるようになるかな!?」

「うーん。どういう能力を身に付けるかは人によるけどお勧めはしないなぁ」

 

 コンちゃんは分身体に憧れ

 

 

「……多重影分身の術……?」

「君、実は隠す気ないでしょ」

 

 リンちゃんはナルトを知っているようだ。

 ナルトを知っているのに、HUNTER×HUNTERを知らないなんてあるのだろうか? 

 まぁHUNTER×HUNTERはちょっとグロいところもあるから、若い女性だと見ない可能性はあるか。

 

 

 

 それから三人が落ち着いたところで改めて念能力について説明を開始した。

 説明した内容を纏めると以下の通りだ。

 

 

 今使ったのは、オーラと呼ばれる生命エネルギーを操る念能力と呼ばれる力の一端である。

 

 念能力は誰でも習得することが可能であるが、使い方を誤ると自身、及び周囲の人間に大きな危険が生じるため、心身ともに鍛えられたプロハンターや軍人などの一部でしか存在を知られておらず、一般人には基本的に教えないようにされている。

 

 念能力者以外は誰もが微量ながらオーラを垂れ流しの状態になっており、このオーラの出口である精孔を開くことでオーラが見えるようになり、修練することでオーラを自在に操ることができるようになる。

 

 精孔を開くには、瞑想などで自分の中に存在するオーラを感じ取り少しずつ開いていく方法と、他者がオーラを送り込み無理やり精孔をこじ開ける方法の二種類が存在する。

 前者で開ける場合には十万人に一人の才能を持つものでも三か月、一千万人に一人レベルの天才で一週間程度と言われている。後者の場合は即時開かれるが体中の精孔から噴出するオーラを制御できない場合には、生命エネルギーが放出し続けることで尽きて最悪命を落とすことになる。

 

 精孔を開いた後は、四大行と呼ばれる念の基礎修行を開始する。

 

 四大行

 纏:全身の精孔から噴出しようとするオーラを体の周囲にとどめる技術。

   オーラを垂れ流しにせず体に纏うことで身体が頑丈になり、若さも保つことができる。

 

 絶:全身の精孔を閉じることで発散されるオーラを断つ技術。

   気配を断つことができ、体内の生命エネルギーの密度が上がるため疲労回復もできる。

 

 練:体内で練ったオーラで精孔を一気に開き通常以上のオーラを放出する技術。

   多くのオーラを放出できるほど攻撃力や防御力があがり多才なこともできる。

 

 発:オーラを自在に操る技術で下記に分類され、得意な系統は人それぞれ異なる。

   強化系:オーラで纏ったモノが持つ働きや力を増強する。

       纏や練で身体能力が上がるのは無意識に強化した結果となる。

   変化系:オーラの形状や性質を変化させる。

   放出系:オーラを飛ばす。

   操作系:オーラで纏ったモノを操る。

   具現化系:オーラを物質化する。

   特質系:オーラで上記に該当しない特殊な効果をもつ。

 

 

 四大行を修めた次は応用技の修行を開始する。

 なお、四大行は生涯を通して修行し続けることになるため、一人で発動し修練を積めるようになった時点で修めたものとして扱う。

 

 応用技

 周:纏の応用技で自身の体だけではなく物にオーラを纏わせる技術。

   主に強化系や操作系で使用する。

 

 堅:練で増大したオーラを体の周囲にとどめる技術。

   練を継続した状態を堅と呼び、どれだけ維持できるかが継戦能力の鍵となる。

 

 凝:オーラを体の一部に集中させる技術。

   眼にオーラを集中させることで隠を見破ることができる。

   拳などに集中させてその部位の攻防力を増加させることもできる。

 

 硬:オーラを体の一部にのみ集中させる技術。

   凝とは異なり集中させている部位以外は絶状態にするほどの超強化となる。

   半面対象部位以外は生身の為、オーラによる防御力がなくなる。

 

 流:凝や硬によるオーラ移動を素早く的確に行う技術。

   戦闘時は防御箇所に集中させて守り、攻撃箇所に集中させて攻撃を行うため

   流が未熟だといくら武術に優れていても活かすことができなくなる。

 

 隠:自分のオーラを見えにくくする技術。

 

 円:オーラを自分を中心に薄く広範囲に拡大する技術。

   範囲内にいる生物を把握できる感知術となる。

 

 

 以上の修行で練度をどれだけあげたかで念能力者としての実力は大きく異なる。

 

 また、発の各系統の修行をすることを、系統別修行といい、初めは大きなことはできないが修行を積むことで徐々にできることが多くなってくる。そして、その集大成となる自分の必殺技という強い想いと覚悟、及び想い入れの強いアイテムとともにオーラを操ることで練で放出する以上のオーラを用いた個別能力にまで発展させることができる。

 この個別能力のことを、言葉が重複するが発や念能力、必殺技と呼ぶこともある。俺は念能力と呼んでいる。

 

 個別能力を習得する際に、制約(ルール)と誓約(違反時のペナルティ)により、自身の覚悟をはっきり定めることでより莫大なオーラを操ることができるようになるが、これは能力の幅を狭めることにも繋がりメリットだけではなくリスクが大きくなる。

 個別能力にまで昇華させた能力は魂に刻まれ取り消すことができないため、若さや知識不足で自身に向いていない系統の能力を習得してしまったり、ルールにより使い道のない状況に陥ったりとすることもある。はっきりとした目標を決め、そのために必要な能力を考えるまでは、四大行、応用技、系統別修行のみに取り組むことをお勧めする。

 

 どの程度の個別能力を習得できるかの指標としてメモリという言葉がある。

 人それぞれ異なるので具体的なメモリ限界を判断することは難しいが、苦手な系統であるほど、複雑なオーラ操作を必要とするほど、多くのメモリを使用することになる。他のオーラ操作ができなくなったり、多少動揺しただけで発動すらできなくなるような不相応な個別能力を習得してしまった人はメモリ不足として嘲笑の対象となってしまうので特に要注意であることを念押しする。

 

 

 オーラ量にはMOP(最大オーラ量)、POP(潜在オーラ量)、AOP(顕在オーラ量)という分類が存在していることも覚えておいた方が良い。MOP(POP)が多いほど長くオーラを使用し続けることができ、AOPが高いほど攻撃力や効果を高めることができる。オーラを消費していれば自然とMOP(POP)は増加していくがAOPはそれでは増加しない。

 練のように通常より多くのオーラを放出し続けることでAOPも増加させることができるため、練や多くのオーラを消費する個別能力を使用することでMOP(POP)とAOPを双方伸ばすことができるのでお勧めする。逆にこのような修行を日々しないと精孔が徐々に狭くなっていきAOPが減少する可能性もある。

 

 その他、水見式、系統別修行の具体的な内容、除念、死者の念の説明は一旦保留とした。

 

 

 

 一通り説明が終わって、三人を見ると、頭から煙が出そうなぐらい混乱していた。コンちゃんは既に爆発していた。

 

 まぁ当たり前だろう。

 今の段階ではオーラも見えていないので何が何やら状態だろう。

 とりあえず聞かれたので教えたが、今後必要になった時に改めて説明する予定だ。

 




後書きはただの独自解釈。
原作ファンが違和感感じているかもしれないところに、作者は意図的にこういう独自解釈しているという説明です。特に考察厨ではないので質問されても私なりの解釈は言えても、理論だてた説明はできません。ご了承ください。


■応用技
隠は独自解釈しようにも理屈が全く想像できないのでそのままの説明としました。公式には絶の応用技ということになっていますが、絶はあくまでも精孔を閉じてオーラを絶つ技術というだけで、気配を消すのはただの副産物という認識です。

精孔を閉じてオーラを絶つ技術をどう応用すればオーラが限りなく見えにくくなるんでしょうね。
個人的にはオーラの性質変化ということで変化系の発ではないかなと妄想していますが、それだと得意系統的に隠が苦手な人が多発するので妄想だけで終わらせて本作には出しませんでした。
円も変化系の性質・形状変化の一環ではないかなと妄想していま(ry


■個別能力
前話まで見ていて気付いていた人が多いと思いますが、私は発=個別能力としての表現は基本的に使わないようにしています。発は四大行、つまり基礎です。応用技も知らないうちから個別能力の修行することは違和感がありますので、発=系統別オーラ操作のようなイメージで扱っています。ウイングさんも「発とはオーラを自在に操る技術」と言っているので原作改ざんではないと思ってます。
とはいえ、個別能力が発の集大成には変わらないので、発と表現することを否定するつもりはないです。

応用技(硬)を知らずに、硬と同じ効果、更に隙だらけにして個別能力にまで昇華させてしまったゴンが可哀想だと思ったこともあります。しかし、覚悟を決めやすいジャジャン拳はゴンに合っていると思うこともあります。硬を事前に知っていたらゴンはどういう個別能力を習得したんだろうと妄想したこともあります。


■メモリ
原作ではヒソカの発言で少し出てきただけで定義も不透明なので各作品で独自解釈しており私もよくわからなくなっていますが、本作では基本下記で扱っています。

RAMとROMどちらにも使える処理可能なタスク量をメモリとして扱います。
四大行(系統別修行含)や応用技は、RAMとして一時的にメモリを消費しますが、修練により呼吸するのと同じように無意識に発動できるようになるとほぼメモリ消費せずに処理できるようになります。

個別能力は、制約や誓約のような覚悟、想い、効果を刻み込んでROMとして保存するので、覚えた時点でメモリの一部を固定的に確保します。固定的にメモリが確保されてしまうので、個別能力を発動していない時でも、使用可能メモリが減少することになってしまいます。逆に、効果が大きくなる以外のメリットとしては、ROMからの読込のためRAMよりも速く、安定して発動しやすくできます。

なお、個別能力発動時にはRAMも別途必要としますので、同時に発動可能な個別能力数には制限がかかってしまいますし、ROMのせいで元々の残メモリが少なくなっている状態で、混乱による消費RAMも多いと個別能力も発動できなくなってしまいます。個別能力で使用されるRAMも修練していけば減少します。

RAM/ROMともに、苦手系統だったり複雑な処理であるほどタスクが多くなるため必要なメモリが多くなり、修練に要する時間も長くかかるようになります。

こんな設定だと、本作主人公の念能力無理じゃねとか、<俺達は運命共同体(ディスティニーシェアー)>でコピーした分のメモリはどうなってんのって言う意見もあると思いますが、そこはご都合主義で見逃してください。コピー分はRAMの一時領域を使用するだけであることと、全系統得意であることと、神様特典のメモリ半減や並列思考によるメモリサイズ増加がなんかしている程度で流してください。


■堅
本作では堅=練として扱います。
原作では「纏と練の応用技、堅。全身を通常よりもはるかに多いオーラで覆う」とあるので本来は異なるのかもしれないが「ゴン練をやってみて。この状態をずっと維持するのが堅」とビスケが説明している場面もあるため、同じ扱いにすることにしました。
これを応用技にすると、原作の「戦闘に入れば凝、流、堅など応用技を使うため、消費量は増大し基本の約6倍~10倍のスピードで減っていく」と基本技の練を維持するだけなのに練より堅の方が数倍消費量が多いと思われる描写があります。
普通に考えれば練でオーラを全力で放出するより、堅でその状態を維持して留めた方がオーラ消費量が少ないのでは、と思い混乱したため同じとしました。
少なくとも練は臨戦態勢時よりオーラは消費するでしょうから、「戦闘に入れば凝、流、練などオーラ消費が激しい技を使う」と置き換えてもさほど違和感はないかなと考えています。


■MOP(最大オーラ量)
体内に保持できるオーラの上限。
原作では、臨戦態勢時オーラは基本1秒に1オーラ消費するといわれているが、この臨戦態勢がどの状態かは明示されていない。堅を3時間超維持できるゴンが約21500オーラと分析されていることから、纏でも練でもない状態と推測される。
本作における計算としては『通常時における堅を維持できる時間×60(分)×60(秒)×2』と適当に定めます。

原作では練を10分間伸ばすだけで1か月かかると言われていますが、原作主人公達の成長ペースは以下なので、どれぐらいにすべきか悩ましいですね。
 1999/04/12に練習得し毎日練
 1999/11/15で練の継続時間 2分間
 1999/12/15で練の継続時間30分間(ビスケとの修行)
 2000/05頃 で練の継続時間55分間
   10日後で練の継続時間180分間(ビスケの念能力有修行)

原作主人公レベルの才能があれば、特別な念能力無くても真面目に修行すれば一ヵ月で30分間(3,600オーラ)伸びるように見えます。しかし、そのペースで伸びたら5歳開始としても、12年✖12か月✖3600で、518,400オーラ増えることになりますし、修行用念能力併用するだけでチート級オーラ量になります。それは意図してないので、幼年期の増加オーラ量は屁理屈こねて微調整しています。
今のところ、感想でも誰も突っ込みいれない優しさにこっそり感謝してました。



■POP(潜在オーラ量)
体内に残っているオーラ量。
MOPから消費したオーラを差し引いた量となり0になるともう回復するまで使えません。
つまり後どれだけ戦えるかを示す指標になりえます。
オーラを一切使用していない状態であればMOP=POPのため、同じ扱いにすることがあります。


■AOP(顕在オーラ量)
練によって一度に放出できるオーラ量。
つまり攻防力に直結する指標になりえます。
AOPが桁違いの相手には基本ダメージを与えることができません。

キメラアント編の修行後ゴンのAOPが約1800と言われています。
堅で1800のオーラを身にまとっている場合、肉体強化は強化系になりますので、強化系統であればそのまま1800、変化系統だと1440の肉体強化になってしまいます。
また、堅の状態では全身にオーラを身にまとっているので更に分散されて、攻撃力50%防御力50%になります。硬の状態だと攻撃力100%防御力0%になるので、AOPに2倍差があり、系統が同じであれば硬を使っても堅で防御している人には念によるダメージを基本的に与えられないということになります。
なお、纏の状態では10%になりますので、AOPが10倍差未満であれば油断している相手になら念による攻撃も通るという事になります。

ただし個別能力では制約や誓約などにより更に高いオーラを纏った攻撃をすることが可能です。ゴンもAOP1800の時にジャジャン拳が4000オーラと表現されてますね。個人的には硬も他部位の防御力を捨てているので制約と誓約レベルで覚悟が増して、AOP以上のオーラを纏っている可能性もあるんじゃないかと思っています。


■AOP/MOPの具体的な指標
とあるブログに多大な影響を受けている参考値です。

中堅ハンタークラス  MOP 20,000以上、AOP 1500以上(ツェズゲラ、陰獣等)
上位ハンタークラス  MOP 50,000以上、AOP 2000以上(幻影旅団、モウラ等)
最上位ハンタークラス MOP 100,000以上、AOP 4000以上(レイザー、ヒソカ、団長等)
蟻王直属護衛軍ユピー MOP 700,000  、AOP10000
蟻王メルエム     MOP1,000,000  、AOP12000

10歳時点のハヤテは練を18時間継続できるため、18✖60✖60✖2でMOPが129,600です。(……なんか多いね……あれ?)
つまりもう最大オーラ量でいえば最上位ハンターの仲間入りしていたりします。練や消費量の多い念能力を多用しているため、AOPも順当に増加しており 5000ぐらいにはなっていると想定されます。
戦闘経験や戦闘技術、念能力の戦闘不向きを考慮すると実際に最上位ハンターと戦ったらまだまだ勝てないです。

ついでに、本作では主人公以外の練時間を考えて記載するつもりは基本的にはないので、登場キャラクター達のMOP/POP/AOPは想像にお任せします。



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第12話:くじら島3

 念教室の後、コンちゃん、リンちゃん、ミトさんは瞑想修行でゆっくり精孔を開くことになった。コンちゃんとリンちゃんが幼いことと、ミトさんは万が一があった時に幼い二人だけになってしまう事の影響を考えた結果だ。俺のオーラ操作が信用されなかったというわけではない。多分。

 

 そしてコンちゃんとリンちゃんは一週間、ミトさんは一ヵ月で精孔を開くことができた。転生者疑惑が濃厚なリンちゃんは原作主人公と同じく一千万人に一人の才能ということになり、ミトさんも常人に比べれば十分な才能をもっていることがわかった。家事やら仕事やらで二人ほど瞑想の時間がとれてなかっただけで、才能に四倍差があるわけではない。

 

 オーラが見えるようになったコンちゃんとリンちゃんは大はしゃぎだ。可愛い。天使かな? 

 改めて念能力の危険性を説いて、オーラを一般人に向けないよう注意しておいた。

 二人とも素直だからそれほど心配はしていないが、さすがにまだ6歳だからね。

 

 ミトさんは……そう、静かに燃えているようだ。

 お酒飲んでる時の独り言を聞いていると、「これであのバカを殴れる……」とか呟いていた。

 ヤンデレ説あるかな……? 

 優しいお母さんに戻れるように大人の姿でお酒に付き合って慰めるようにしている。

 

 各自の念能力の系統は以下であることもわかった。

 コンちゃん:強化系(原作通り)

 リンちゃん:放出系

 ミトさん :具現化系

 

 

 三人はまだオーラ量が少ないので修行するとすぐに尽きてしまうため、回復を待つ時間で格闘術も教えている。ジンを殴る為には格闘術も鍛えないと当てることもできないことを説明したらミトさんとコンちゃんがやる気を出していた。

 リンちゃんも意外と格闘術にも興味あったみたいでやる気は高かった。「……これで私も術式兵装 雷天大壮で戦える……」という呟きが聞こえてきたのはきっと気のせいだ。いや、キルアが似たような念能力を習得するけども。

 

 三人が瞑想や四大行等の修行で時間が少なくなったので、ミトさんの代わりに家庭農園や漁網の補修の仕事を俺がやったり、コンちゃんリンちゃんの勉強をみてあげたりしている。もちろん分身体だ。

 家庭農園は<愛の修行場(ラブトレ)>で全力で負担をかけた筋トレを兼ねており、周で固めた大地を周で耕すことで農園の拡張も行っている。漁網の補修は<進化する侍女(グロースナイト)>の効果で器用さが成長している。こっそりマチからコピーした念糸も補修時に混ぜて具現化しようともしているので、変化・具現化・放出系統の修行にもなっている。

 

 ちなみに今の分身体の役割は以下になっている。

 

 ▽分身体の役割

 01:変動  :マチとシズクに同行しアマチュアハンターとして行動

 02:変動  :ビスケに同行しアマチュアハンターとして行動

 03:ジャポン:剣術修行(感謝の一日一万居合斬り+α)

 04:くじら島:電撃、火炎、水流、毒の拷問耐久

 05:くじら島:系統別修行:変化

 06:くじら島:系統別修行:具現化

 07:くじら島:系統別修行:特質

 08:くじら島:系統別修行:操作

 09:くじら島:系統別修行:放出

 10:くじら島:系統別修行:強化

 11:くじら島:家庭農園の手伝い(主に強化系修行)

 12:くじら島:家庭農園の手伝い(主に強化系修行)

 13:くじら島:漁網の補修の手伝い(主に変化・具現化・放出系修行)

 14:くじら島:コンちゃん達の念修行や学業の手伝い

 15:くじら島:本体との戦闘訓練

 16:くじら島:本体との戦闘訓練

 

 

 

 ◇◇◇◇◇リンちゃんの転生

 

 一緒に過ごすことで、リンちゃんと二人っきりで会話する時間もとれた。

 そのため、早速お互いに転生者であることを確認し、情報共有を行った。

 

 リンちゃんは10歳という若さで銃に撃たれて亡くなったらしい。

 死因が俺と同じだった。もしかして同じ死因の人が選ばれるのだろうか。

 

 転生時の流れは同じで、最初に3つの質問ができたらしい。

 

 ・私を助けようとしてくれたお兄ちゃんも転生されるの? 

  →はい、今回の転生者候補にも含まれています。

 

 ・無敵の体をもらうことはできるの? 

  →いいえ、大きすぎる力は赤ちゃんという器に入りきれず壊れます。

 

 ・これは必須で貰うべきというお勧めの特典はあるの? 

  →いいえ、特典がなくても生きていくことはできます。

   リンちゃんにはお兄さんがいるらしい。

   こんな可愛い妹がいるとか、なんてリア充だ! 

 

 

 そして特典には「お兄ちゃんに必ず会える」を選んだらしい。

 その結果、女神様から9個の特典をもらったらしい。

 

 ・前世で知り合ったお兄ちゃんと10歳までには必ず会える。

  →ブラコンとかではなくお礼を言いたかったそうだ。天使すぎないか? 

 

 ・原作主要キャラの家族

  →原作知識がないことで原作の流れに関わらないことを懸念して与えられたそうだ。

 

 ・原作キャラ一部女体化

  →幼いころに男性に殺されたトラウマを気にして、身近な原作キャラと仲良くなれる

   よう女体化してくれたらしい。……え? 

 

 ・家族となった原作キャラと同じ才能

  →仲良くなるためには同じ才能がいいよねと言われたそうだ。確かに。

 

 ・料理の才能だけ更に向上

 →お兄ちゃんへのお礼に料理を作りたいという気持ちから与えられたそうだ。

  お兄さんのリア充度が憎いです。

 

 ・豪運

  →今度は長生きできますようにと言われたそうだ。

   経緯は違えども俺と同じ能力だ。

 

 ・保護欲向上

  →年上の人達が自然と保護したいと思うようになるらしい。

   なるほど、俺の気持ちはこの特典によるものか……! 

 

 ・空間認識能力向上

  →よく迷子になっていたらしく心配して与えられたらしい。

   物体の位置、方向、距離、大きさなどを素早く正確に把握できるらしい。

   円と似ているが、自身を中心とした把握ではなく通ったことのある場所を把握できるそうだ。

 

 ・放出系に関する念能力のメモリ消費半減

  →魔法少女に憧れている女の子へのプレゼントらしい。

   今まで放出系が何のことかわからず宝の持ち腐れだったそうだ。

 

 

 憎きお兄さんとやらのことを聞くと、どうも実の兄妹ではなく結婚できるらしい。

 リンちゃんの普段の喋り方はたどたどしいのに、お兄さんの話の時だけはきはきと喋っている。

 

 まじで……もう、さ…………。

 10歳になるまでに会えるらしいから、それまでリンちゃんを見守って、出会う前にこっそりどつくしかないか? 

 いや、でもそれじゃあリンちゃんが悲しんでしまう。

 それに結局そこまで思われていながら結局若いまま亡くなったと考えれば別にリア充じゃないな? 

 

 

 いざという時のためにもう少し話を聞いてみると、義理の兄妹というわけでもなく、兄が欲しいと思っていたリンちゃんが何度か助けられて憧れていた男性をこっそりお兄ちゃん呼んでいただけだった。

 ちなみに20歳ぐらいで髪型はミディアムぐらいのセンターパートで、額に白い包帯を巻いた優男らしい顔立ちだそうだ。

 

 ……それはどこのクロロ? 

 

 いや……もしかして俺か? 

 亡くなる少し前にも暴漢に襲われそうな女の子を守って額を怪我したから包帯は巻いてたはずだ。

 というか身体を鍛えるときに怪我することも多かったからわりと巻いてることの方が長かったかもしれない。……クロロに憧れたからという理由もなくはない。

 

 ワンチャンあるなと思って、俺の死亡日時と場所を伝えたらピッタリ一致することがわかった。

 

 最後に念のためと思って<俺は全員を愛する(ラブアンドピース)>で召喚する分身体の容姿を当時の俺そっくりにしたところ「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん……うぅ……ごめんなさい、お兄ちゃん……」と泣かれてしまった。

 

 喜んでくれるかなと思ってやったことだけに泣かれてしまい驚いてしまった。

 どうやらリンちゃんは自分を庇ったせいで亡くなった俺に謝罪したい気持ちに溢れてしまったようだ。

 

 実はその前にも何度か俺が助けたこともあったらしくお礼を言われたが、記憶になかった……。

 落としもの拾ったりとか転んだ時に手を差し伸べたりとかならしょっちゅうあったので覚えてない。

 もしかしてあれもハーレムフラグだったのか? 

 もしかしてフラグを自ら踏みつぶしてただけで前世でもチャンスはわりとあった? 

 

 うぉぉぉ……なんてこったぁぁぁ……

 生まれなおしてやり直したい……

 

 あ、まさに今生まれなおしてやり直し人生歩んでるところだった! 

 今度こそ平和なハーレム人生を歩むぞー! 

 蟻王メルエムなんぞなにするものぞ!!! 

 

 

 ちなみにリンちゃんの前世はわりと箱入りお嬢様のような生活で運動も苦手だったことから、今世のコンちゃんと同じく力強さ溢れ吸収力の高い肉体に新鮮さを感じて格闘術を楽しんでいたそうだ。

 やっぱり前世でできなかったことができるようになるのって嬉しいよね。

 俺も前世で呼ばれたことがなかったお兄ちゃん呼びに大喜びです! 

 

「お兄ちゃん……結婚しよ……?」とか抱き着かれながら上目遣いで言われて断れる男はいるだろうか? 

 

 

 もちろん俺は自制した。安心してくれ。

 YESロリータ、NOタッチの精神溢れる紳士を甘く見ないでくれ! 

 ちゃんと「大人になったらすぐにでも結婚しような」と答えたよ! 

 

 



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第13話:くじら島から出発

 くじら島での生活を半年ほど続けてから、また旅に出る事にした。

 メンバーは俺、リオンちゃん、ミアキスちゃん、リンちゃん(分身体)の四人だ。

 

 そんな俺達の新しい目的地は天空闘技場だ。

 そのため、くじら島からさらに北に進みミンボ共和国の港へたどり着いた。

 ミンボ共和国には特に原作での関わりがないので、さっさと東にある天空闘技場へ向かうつもりでいる。

 

 

 ちなみに、くじら島には分身体11号~14号までの四体を置いてきた。他の人から見られてもいいように姿は少しずつ変えている。

 

 11号:適当な姿 :主に家庭農園と漁網の補修手伝い

 12号:25歳の姿:ミトさんのお手伝い

 13号:20歳の姿:リンちゃんのお手伝い

 14号: 6歳の姿:コンちゃんのお手伝い

 

 ミトさんとリンちゃんは好みの姿で希望があったのでそれに合わせている。そのため13号は前世により近い髪型や格好をさせている。

 コンちゃんは特に希望がなかったので同い年ぐらいに見える俺の姿にしている。

 

 なお、リンちゃんとは前世からの繋がりがあったこともあり、相思相愛となっているので<俺達は運命共同体(ディスティニーシェアー)>の効果対象にもなっている。分身体を使えるようになったことにも喜び、修行もより捗ることでより喜んだ。基本表情に出さない美少女からこぼれ溢れるようにでてくる笑顔っていいよね。

 ただ、リンちゃんの放出系は具現化系能力とは相性が悪いので1体だけ、しかも補助なしでは1時間しか具現化できず姿も変化できないからまだまだ要修行段階だ。逆に放出系は発動者から離れることの影響が少ないので俺達に同行しても問題ないのはメリットだ。俺とリオンちゃんが<メイドの抱擁(エンブレイスメイド)>で回復できるから長時間の具現化もなんとか維持できている。夜は抱き枕にならざるを得ないからむしろ俺にとってはとてもラッキーだ。

 

 

 ミトさんともかなり仲良くなれているつもりだけどまだ恋愛関係までには至っていない。

 コンちゃんは……ちょっと無理かもしれないと思っている。

 6歳だからということもあるかもしれないが普通に友達枠に収まっている。

 まぁ原作で親友枠のキルアがいるから、異性となった今世では多分コンちゃんとキルアがくっつくんじゃないかなと思っていたりもする。

 

 ……あれ。

 その場合、俺は暗殺一家ゾルディックと親戚関係になるのかな? 

 オレ ⇔ リン 結婚

 コン ⇔ リン 姉妹

 コン ⇔ キルア結婚

 

 ゾルディック家に恨みを持つ者達にバレたら命を狙われそうだから、蟻王メルエムを倒しただけでは安全を確保できないかもしれないな……。だからといってリンちゃんを諦めるつもりは毛頭ないし、俺にできるのはいざという時に備えて強くなることだけだ。

 

 話がそれたが、分身体を置いていることもあり俺にはあまり寂寥感がない。

 毎日0時には皆と過ごした経験と記憶が返ってくるので、昨日も一緒に過ごしているようなものだ。

 

 

 

 ▽リオン視点

 

 ハヤテ様とミアキス様、リンちゃんとの次の目的地は天空闘技場というらしいのです。

 私は行ったことがないけれど、一日四千人の腕自慢が集う戦闘好きの聖地と呼ばれるすごいところなの。とはいってもハヤテ様が言うには、私達が全力で戦うと余裕すぎるらしいので、いろいろと能力に制限をかけたうえで戦い技術向上を目指すことが目的らしいの。

 

 この港はほぼ大陸の西端で、天空闘技場は東端らしいので飛行船に乗って移動するの。

 そのために飛行船がある街まで走りながら修行しようとするハヤテ様はいつも通りなの。

 リンちゃんはまだ体力に不安があるので交互に背に乗せることになるの。

 

 

 さて、ここから走っていき

 

「よぉ」

 

 ましょう、と思っていたら、目の前にオーラを害意全開にした野生の 不審者が 現れた。

 

 ハヤテ様もミアキス様も含めて、不審者が声をかけてくるまで気づかなかったことに冷や汗を流しつつ武器を構えて警戒する。

 

 不審者はターバンとマフラーらしきものを巻いたどこかの民族衣装のような恰好で、ポケットに手を突っ込んだまま仁王立ちしてこちらを睨んだまま動かない。トサカ頭も含めて強者感溢れるいでたちなの……。

 

 

 護衛としてハヤテ様とリンちゃんを守るため、ミアキス様と目配せして前に出ようとすると、ハヤテ様が手を広げてそれを制してきた。

 

「これは、俺がやらないといけないことだ。下がっていてくれ」

「ハヤテ様!? お一人で戦える相手ではないの! 

 私は……私は誓ったの! 何があってもハヤテ様をお守りするの!」

「そういうことよねぇ~。

 誰かは知らないけど、そんな殺気巻き散らかすなんてそれなりの覚悟をしていただかないとぉ」

 

 なぜか一人で戦おうとするハヤテ様。

 私達を守ろうとしてくれていると思うと嬉しい気持ちもあるけれど、私は守られるより守りたいの! 

 私のために傷つくハヤテ様なんて見たくないの! 

 

 

「そういう次元の話ではないんだ。

 俺にとってこの人の相手は譲れないんだ。すまないが、ここは引いてほしい!」

「ハヤテ様……

 わかったの。私はハヤテ様のお志もお守りしたいから……応援しているの!」

「もぉ~。

 そんな顔で言われたら何も言えなくなっちゃいますよぉ~」

「…………?」

 

 それでも引いてくれないハヤテ様……。

 どうやら相手のことを知っていたようで一人で戦う決意を覆すのは難しいの。

 

 今までハヤテ様がこんな真剣な顔をしたことがあったかな? 

 見惚れつつも、私を守ろうとしているという思いが勘違いだったかなと思うと赤面しちゃうの……。

 

 

 私達の前に出ていくハヤテ様の横顔を見ると緊張感が高まってくるのです。

 ハヤテ様が深呼吸の後、意を決したように不審者へと話しかけた。

 

 

「こんにちは。既にご存知のようですが、私の名前はハヤテです。

 無駄話はお好きではなさそうなので単刀直入に言います。

 

 

 

 娘さんを私の嫁としてください!!!

 

だが断る!!!

 

そこをなんとかお義父さん!!!

 

 

「ふざけんなこの野郎!! 

 人が苦労して生んだ大事な娘をテメーみたいな色ボケクソガキにやれるかよ!」

「大事な娘ならちゃんと愛情込めて育てろや! 

 色ボケでも実際に大事にしている分、隠れながらこっそり覗き見ているだけのストーカークソ親父より全然ましだろうが!!」

「テメーに親父呼ばわりされる筋合いはねー!! 

 あーーー! うっせ! うっせ!!! わかったよ!!! 

 そこまで言うなら覚悟を示せ! 娘が欲しくば俺を倒すんだな!」

「はっ、やってやるよ!!」

 

 そうして二人の殴り合いが始まった。

 お互いに足も動かさず防御もせずにただただ殴って殴らせる。

 そして口汚く言い合う。ただそれだけの醜い争いだった。

 

「……ハヤテ様は一体どうしたの……?」

「うふふふふ。いいわよねぇ〜こういうの! 

 リンちゃんは僕のものだ! オヤジには渡さないっ! みたいなぁ〜。

 私も言われたいなぁ~」

「あ! ようやくわかったの! 

 あの方がリンちゃんのお父さんであるジン=フリークスなの!」

「せいか~~い! 

 娘のリンちゃんを誑かしたハヤテちゃんに会いに来たみたいねぇ~」

「……なんかヤダ……」

 

 少し前から相手を不思議そうな目で見ていたリンちゃんは気づいていたみたいなの。よくよく考えたらコン宅にあった写真の男性に似ているの。リンちゃんも話したことがあるわけではないから半信半疑という感じだったみたいですの。

 そんな親子の感激の初対面! とはならずに、娘に一言もなく、想い人と罵り合う父親を見たらどう思うのだろう? 彼女の瞳から光沢が消えて焦点が合わない虚ろ目が全てを物語っているの…………。

 

「でも結局何であぁなったのかまではよくわからないの……」

「それはぁ〜多分雰囲気に酔ってるんじゃないかしらぁ。

 少年漫画なんかでよくある、娘が欲しければ俺の屍を越えていけぇ、とか土手で殴り合う少年達なんていうテンションになってるのよぉきっと~? 

 とりあえず危険もなさそうだし、長くもなりそうだし、あそこでケーキでも食べましょぉ?」

「うん、わかったの……」

「……(コク)……」

 

 いまだに何が起きているか理解はできないものの、女には理解できない世界もあるんだなということを今日学んだの……。ミアキス様は生暖かく見守るような眼差しでいまだに殴り合ってる二人を一瞥してから近くのケーキ屋さんに誘ってくれた。

 後ろから「オメーの想いはそんなものかー」とか「俺のリンちゃんへの想いはまだまだこんなものじゃねー」とか聞こえてきた気もするがきっと気のせいなの。リンちゃんの教育に悪いの。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇和解

 

 三人でケーキ屋さんに行って二時間ほど経過したところで、先ほどの場所に戻ってくると、二つのぼろぼろになった人間が転がっていた。

 

「あらあらぁ、引き分けだったのかしらぁ」

 

「は? どう見ても俺の勝ちだが?」

「フラフラのおっさんが何言ってんだか、俺はもう普通に立つ余裕があるけどな!」

「あ”!? 上等だボケが!!!」

「ハヤテ様もジン様ももうやめるの! 

 悲しんでいるリンちゃんが目に入らないの!!

 それ以上やるならミトさんに電話しますからね!」

 

 ミアキスちゃんの発言でジンが跳ね起きて挑発してきたので俺も煽り返したら、リオンちゃんがガチギレしてきた。怖い。可愛い。

 ジンさんも拍子抜けしたように戦意を失っていった。

 というかリオンちゃんの隣で見ているリンちゃんは興味なさそうだ。

 

 

「あ~~~~わかった。

 いや、あんまわかってねーけどまず落ち着こうや。

 あれだろ? 

 オヤジと婚約者には仲良くなってほしい乙女心的なやつだろ? 

 それは前提が間違ってる。

 

 そもそも俺はオヤジだと思われてねぇ!

 

(((確かに……)))

 

 これにはさすがに全員の意見が一致した。リンちゃん本人も頷いている。

 生後一年もたたずにミトさんが預かり育てることになったので、ジンと会った記憶もないだろう。居間にジンの写真も飾られていたので顔ぐらいは知っていると思うが、リンちゃんからジンの名前を聞いた覚えが一切ない。コンちゃんは時々言ってたけどね。

 

「それをさておいても、最初から本気で怒ってはねーよ。

 6歳児に念能力を教えようとするバカがどういうやつか気になって見に来ただけだしな。

 ついでにオヤジらしく一度は目の前に立ちふさがってみるのも面白そうだと思ったんだ。

 息子ができていたら親子喧嘩もしてみてーと考えてたし一石三鳥の思い付きだな」

 

 少し毒気が抜けた感じのリオンちゃんの追及をのらりくらりと躱し続けるジン。まぁ確かに娘に恋人ができたからといって止めに来るようなのはジンらしくないだろう。原作で息子のゴンがキメラアントとの死闘で意識不明の重体に陥っていた時ですら見舞いにいかなかったし、復活したゴンを前にしても普段通り飄々としていた男だからなぁ。

 

 それがわかっていて何で茶番を繰り広げたかって? 

 相手がだれであれ、父親である以上は筋を通す必要はある。6歳の娘に手を出した以上は殴られる覚悟はあった。殴り合いになったのは流れだ。それにリンちゃんコンちゃんミトさんを寂しくさせてるやつを殴らずにはいられなかったんだ。まだ真正面から殴りつける実力はないので、せっかくのチャンスだと思って全力で私情込めて殴らせてもらったのでちょっとすっきりした。リンちゃんはすっきりしてなさそうだからもっとやるべきだったかもしれない。

 

 

「えーと、それでジンさん。

 結局リンちゃんとの結婚は認めてもらったということでいいんですか?」

「あ? そんなもん知らねーよ。

 リンが付き合いたいと思ったなら付き合えばいいし、結婚したいならすりゃあいい。

 俺は止めねーよ。まぁ困ってて助けを求めるなら考えなくはないがな。

 何事も経験だ。道草を楽しめばいいさ、大いにな」

 

「……(言っても無駄か)ありがとうございます!」

「……(何様のつもりなのか)うん……」

「ハヤテ様、リンちゃんおめでとうなの!!」

「あらあらぁ、今夜はお赤飯かしらぁ」

 

 リオンちゃんとミアキスちゃんとハイタッチで喜びを分かち合う。

 ジンの発言は全スルーして認められたことだけピックアップしたようだ。

 自分のことじゃないのにわがことのように喜んでくれる二人は本当に嬉しい存在だ。

 

「あ、せっかくなのでご祝儀くれませんか!?」

「おう、ずうずうしいやつだな。とりあえず言ってみろ。

 それなりに楽しめたから気が向いたら考えてやるよ」

「グリードアイランドが欲しいです! 

 ハンター専用ゲームという事で諦めてたんですがもしかして持ってたりしませんか!?」

「ん? 

 これが欲しいのか。

 ほらよっ」

 

 言うなりジンが何かを投げてきたので、一瞬慌てつつも壊さないよう慎重に受け取った。

 念のために表面を見るとグリードアイランドの文字があった。

 半ば冗談で言ったつもりだったけど本当に持ってて、しかもくれるなんて思ってなかったから驚いた。

 

 このゲーム、1987年の発売当初58億ジェニーだったというのに100本限定販売だったということもあり、入手が困難になっている。おまけに発売翌年に世界の大富豪バッテラ氏がゲーム自体に170億、クリアデータに500億ジェニーの懸賞金をかけたにもかかわらず、名乗り出るものは一人もあらわれず、幻のゲームとして不動の評価を得たことでその筋では有名になっているほどだ。

 そんな幻のゲームを持っていて、初見の相手にポンっと渡すなんてさすが開発者の一人だ。

 

「ハヤテ様、これは何ですの?」

「あぁ~、多分ジョイステーションのゲームソフトだと思うよぉ。

 門弟の子がこんな感じのソフトを持ってるのを見た気がするぅ」

「……あぁ。

 さすがに驚いたよ。なんと驚愕の170億ジェニーする幻のゲームだ! 

 ジンさん、本当に貰うよ、ありがとう!」

「構わねぇよ。

 俺はもうやらねーし、最近、中が停滞しているって噂も聞いたから、刺激物を放り込んだらちったぁマシになるだろ。あ。コンにはそれでやらせんなよ。もし頼まれたら、俺に会いたいならこれぐらい自力で手に入れてみろって伝えといてくれ。

 リンは正直ハンターとしての資質はなさそうだからこっちから会いに来たが」

 

 俺達を見ながらにやっと笑いかけてくる。

 なんだかんだ俺達の実力も認めてくれていたようだ。これはレイザーと本気で戦わないといけないフラグか? 楽しそうだし、良い修行になるから大歓迎だけどな! そして意地でもコンちゃんに会おうとしないジンは原作同様こじらせているようだ。

 リンちゃんは確かに冒険とか謎の解明とかが好きというより好きな人達と一緒に居たいという感じなので、多分自分からジンを探して会おうとは思ってなかっただろう。でも全然合っていないのに娘二人のことを知りすぎているしストーカー説は肯定されたようなものだ。

 そしてにやっと笑いかけられても誰も同意できないよ……。

 

 

 

「これで用事も済んだし、俺はもういくぞ」

「ああ、リンちゃんは……いや、リンちゃんとコンちゃんとミトさんは大事にするよ!」

「そりゃいいな! それでミトのやつもちったぁましになりゃ、くじら島に帰りやすくなるんだがな」

 

 そういって去っていくジン。

 リンちゃんが何か言いたそうにしていれば引き留めようかとも思っていたが、話したくなさそうにしていたので、ジンを黙って見送ることにした。

 

 

 

「ところでリンちゃん。

 全然お父さんと喋ってなかったけど本当に良かったのかい?」

 

「……会ったら言いたいことはあったけど今はいいの……」

 

 そう言って顔を伏せるリンちゃんに、やはり娘を手放すような父親に対する不満や悲しさが溢れそうになっているのかと胸が苦しくなった。思わず優しく抱き締めたその体は華奢で頼りなく、そのまま泣いてしまうのではないかと思わせ、決して手放さず保護しなくてはいけない存在なんだと感じさせる。

 

「えと……別にあの人を恨んだりとかはしてないからね……?

 話さなかったのは……神様からもらった保護欲向上がかかって連れていかれたりしたら、お兄ちゃんと一緒に居られなくなるかなって思ったの……」

 

 顔をほんのりと赤く染めながらそういって抱き締め返してくるリンちゃんが可愛すぎて、さっきとは真逆の方向で胸が苦しくなってきた今日この頃でした。

 



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第14話:天空闘技場編1

 1994年2月1日 10歳

 

 ジンさんという思わぬ出会いがあったものの、元々の予定通り天空闘技場へ到着。

 グリードアイランドは早くやってみたい気持ちはあるけど、まだ後回しだ。

 急がないとキルアが天空闘技場卒業しちゃって会えなくなるからな! 

 

 さすがに世界最高の暗殺一家ゾルディックに挨拶にいけるほど俺はこの世界を嘗めていない。

 少なくともゼノ=ゾルディック(キルアの爺)とシルバ=ゾルディック(キルアの父で現当主)、マハ=ゾルディック(長老)はまだ厳しいだろう。潜在オーラ量だけならある程度追いつけているんじゃないかと思うが、戦闘技術にはまだ雲泥の差があるとみている。

 

 というわけで、キルアに会うのは原作開始以降でなければここが最初で最後のチャンス! 

 

 

 なお、天空闘技場は勝者のみが上の階に進むことができる仕組みで、地上251階、高さ991mというHUNTER×HUNTER世界で第4位の高さを誇る建物だ。一日平均4000人の腕自慢がより高い階層を目指してやってくる。観客動員数は年間10億を超え、内部にはサービス用の各種施設も完備、100階以上を戦場とする闘士には個室が与えられ、200階を超えし者にはフロア丸ごとが与えられる戦闘狂の聖地。

 試合報酬のファイトマネーが上の階ほど上がり、190階勝利時には2億ジェニーが与えられる。ファイトマネーが貰えるのは200階未満で、200階以降は名誉を賭けた闘いとなる。また、200階以上を戦場とするものは念能力者のみとなり、念能力を知らずに200階に到達したものには、オーラを纏った攻撃による洗礼が与えられ大半が死、或いは五体不満足という結果になる。

 

 原作ではキルアは6歳の時に150階まで2か月、200階まで2年で到達したと言っているので、恐らくキルアは150~200階にいると思われる。ゴンとキルアは11歳の時にストレート勝ちし続けて15日で200階まで到達しているので恐らくこれが最短タイムと思われる。

 

 

 

「うわぁーすっごい人だかりなの!」

「すごいわねぇ~~~~」

「……人がゴミのよう……」

 

 人ゴミに感嘆の声を上げてキョロキョロしている可愛いリオンちゃんとミアキスちゃん、リンちゃんを眺められる特等席はここです! リンちゃんだけサブカルチャーに染まってるような発言をしているが、顔を見れば普通に感心しているのが見て取れる。

 

 というわけでやってきた天空闘技場に十五人とも登録。さすがに低階層では大した実力がないものが多いため、100階まではさくっとあがると説明している。個室も欲しいしね。

 

 ちなみに十五人の内訳は以下だ。

 

 俺

 俺(分身体5号)

 俺(分身体6号)

 俺(分身体7号)

 俺(分身体8号)

 俺(分身体9号)

 俺(分身体10号)

 俺(分身体15号)

 俺(分身体16号)

 リオンちゃん

 リオンちゃん(分身体)

 ミアキスちゃん

 ミアキスちゃん(分身体)

 リンちゃん(分身体)

 

 なお、分身体は基本別行動をしており、姿形もいろんな姿に変化している。

 リオンちゃんとミアキスちゃんはまだそこまで変化系を鍛えていないので年齢を上げた程度の変化だが、俺は老若男女様々に変化させ、戦闘スタイルもわけている。これだけ多くの分身体と一緒に参加する目的は、一に戦闘経験、二にファイトマネー目的、三に勝者を当てるギャンブルを使ったお金稼ぎ、四にキルアと戦える可能性を少しでも上げるためだ。

 試合自体は一日多くて二試合となり時間はあるので、戦闘以外の時間は引き続き系統別修行等を続けてもらうことになっている。

 

 100階からは<愛の修行場(ラブトレ)>による負荷を最大限にして、最初5分間ぐらいは回避のみで相手の攻撃を見切り、技術を盗むことを意識して戦い、時に苦戦を装い負ける演技もはさむようにしている。

 もちろん全ての分身体が同じく5分間回避のみにしたら違和感を覚えられてしまうので、相手の実力に合わせて反撃をしたり、敢えて受けて防御の練習させたりと分身体によってバリエーション豊かに戦闘時間を長引かせている。

 

 なお、リンちゃんはさすがに負荷無しでの挑戦だ。まだ格闘技経験半年でキルアと同い年だから無理させないようにしているので100階ぐらいで戦っている。

 

 そうやって試合回数を重ねていたところ、ついにキルアを発見! 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇キルアとの出会い

 

「こんにちは、俺はハヤテ。今日はよろしくね!」

「……あぁ」

 

 170階でキルアに出会えた俺は闘技場で相対している状況だというのについ笑顔で挨拶していた。

 残念ながらキルアからは袖にされてしまったが……まぁ仕方ないね。

 

 場所が場所だからということもあるだろうか、キルアは原作通り幼いころからの暗殺一家による英才教育で心が閉じてしまっているように見える。僅か6歳で天空闘技場のような戦闘狂の聖地と呼ばれるような場所に一人で放り込まれここまで勝ち登ってきた実力の裏にどれだけの過酷な修行があったのだろうか。

 

 会って会話してみたいという考えだけでここまできたわけだけど、俺の一押しキャラであるキルアの顔色がくもっている様子は見るに堪えない……。円で探ると、ゾルディック家の執事と思わしき人物が陰から睨んできていることもわかったので、試合が終わるとこちらから積極的に介入するのは厳しくなりそうだ。洗礼浴びせると命を狙われそうだから、オーラも使わないように垂れ流しの状態を意識しておこう。試合しながら少しでも興味持ってもらえるといいんだが……。

 

 

「さぁ、お客様! お待たせいたしましたァ──────────ー‼

 次は異色の組み合わせ‼

 かたや、現在最年少6歳にして170階クラスにまで登り詰めた天才児キルア‼

 かたや、10歳という若さで毎試合5分間攻めさせながらも余裕で登ってきた天才少年ハヤテ‼

 天才同士が彩る戦いの決着はいかに──ー」

 

 天空闘技場でお馴染みのアナウンスが始まりギャンブルスイッチが押された。

 さて……賭けの倍率はキルアが 2.075、俺が1.500 と俺が優勢と観客からは判断されたようで、キルアは額に青筋を浮かべ睨んできている。

 

 いや、これは仕方ないだろう……。キルアの戦績を見ると170階まで上がってきてからは負けが続いており、いかに天才児でもこの階層では勝てないことが証明されている。俺もこの階層では勝ってないがそれは初めて上がったからであり、160階でも余裕で勝利しているのだから、どちらの期待値が高いかは冷静に考えれば分かる話だ。まぁ分身体が俺にそれなりの金額を賭けていることも一因だが、それはキルアには知りようがないことだ。

 

 

 アナウンスの開始宣言と同時に、高速で近づいてきて首を薙ごうとするキルアに対し、俺は上半身を逸らして回避し、一旦距離をとった。

 

 なるほど。やはり俺の6歳の頃よりは上……どころか8歳の頃と同レベルの速度だと思われる。さすがに今の俺なら問題なく対応できるレベルではあるが、さすが暗殺一家で天才と呼ばれるだけある。

 

「速いなぁ。これでまだ6歳とか自信なくしちゃうよ」

「ふん……アンタ、年いくつ?」

「10歳だよ、誕生日迎えたら11歳だね」

「あー豚君と同じ年なのか。

 そう考えると余計に負けたくはねーなぁ……」

 

 キルアにとって豚君といえば、兄のミルキ=ゾルディックしかいない。

 誕生年で言えばミルキが1982年生まれだった気がするから、そうすると俺が1983年生まれで1歳ずれていることになるが、多分あまり豚君に興味がないキルアは細かい年齢を覚えておらず勘違いした可能性もあるだろうな。

 

 なんてことを考える暇もなく、今度はキルアが俺の周囲を歩いて……あれ、キルアが複数人に見えるが……分身している? 

 あ、これが原作で出てきた肢曲か! 暗殺術の一つで、足運びに緩急をつけることで残像を生じさせて幻惑させる技で、暗歩と呼ばれる無音歩行術を応用した高等テクニックだ! 

 

 速さ的には俺の方が上で、動体視力もついていけているというのに油断すると惑わされてしまうようだ。だが、そうと理解した上で相対すれば対処はできる。周囲を歩いているときはともかく、攻撃のために向かってくるときは残像がないのだから慌てる必要もない。

 

 落ち着いて対処を繰り返しながら、並列思考と完全記憶能力をフル活用してこの肢曲を学ぼうと全力で観察していた。暗歩はリオンちゃんから習っているが、肢曲は知らなかったので学べなかったのだが、これはチャンスだ! こういう知らない技術を学ぶために天空闘技場に来ているのだから、喜んで観察をしているとだんだん俺もできそうな気がしてきた。一度実践してみようと思いキルアの肢曲からの攻撃の合間にこちらからも肢曲を仕掛けてみた。

 

「な……!? 

 アンタ! もしかしてウチの関係者か!?」

 

 無事に成功したことを、キルアが驚愕して教えてくれた。そして変な勘違いをしていた。

 関係者だと勘違いされると仲たがいしそうだから否定しておくべきか。いや、そういえば闇家業の専売特許みたいな技術ではあるから公に見せて良いものではなかった……反省だな、これは。

 

「いや、キルアと会ったのはここが初めてだよ。

 もしかしてこの歩法を一族の秘伝技術とでも言われてたのかな? 

 だとすれば特定の一族に限られる技術ではないよ。世界は広いんだ」

「……」

 

 キルアは疑わし気にこちらを睨みつけながら攻撃を継続する。

 さっきから気になってたけど、キルアの指先が明らかに尖っている。これも技術の一環ではあるのだろうが観察するだけではマネできる気がしないなぁ……教えてくれないだろうか……。

 攻撃が当たらない状況に痺れをきらしたのか、今度は両腕がムチのようにしなりだして、届かないはずの位置まで引いてもなぜか伸びてくる。これ人間やめてないだろうか、と思いながらも回避に専念していたおかげで何とか躱しきった。そういえばあったね、蛇活……! これもできるようにはなってみたいけど、まずは関節を瞬時に外して嵌めることができるようになるところからか……。

 

 

 っと、そろそろ5分だ。もう少しゾルディック家によって磨かれた暗殺技術を学びたいところだけど、キルアの不機嫌さが増しそうだからそろそろ終わらせようか。

 

 少しずつ位置を調整しつつ……

 

「ところでさ、キルア。

 驚かないでほしいんだけど、君から見て俺の頭より少し上の先をみて何か気づかない?」

 

「ふん、そんな手にひっかかるわけが……

 あ、あいつっ!? ぐぁ……て……めぇ……」

「おやすみ、キルア。また後で話をしようね」

 

 俺の発言をブラフと読んで警戒しつつも意識を奪われない程度に俺が言った方向を見たキルアは、ゾルディック家の執事として見覚えのある姿を発見して驚愕の声を上げた。

 そして意識が俺から逸れたと同時に、意識の隙間を縫うような位置取りで、かつキルア以上の速度で接近し首に手刀を食らわせて気絶させることに成功した。

 

 普通に戦っても確実に勝てたとは思うが、こうやって終わらせた方が、後日キルアからの接触が期待できるから敢えて卑怯な終わらせ方にさせてもらった。ごめんよ。

 

「決まったぁ────────! 

 キルア選手、失神によるKOとみなし、勝者ハヤテ選手‼」

 



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第15話:天空闘技場編2

 キルアとの闘いを終えてリオンちゃんとミアキスちゃん、リンちゃんに合流すると、その闘いを見ていた三人から祝福の言葉をもらった。既に結構戦っているけど、その都度こうやって祝福してくれる三人がありがたい。

 祝福のキスまでしてくれるともっと嬉しいんだけどダメかな? 

 嫌われたら嫌だから言い出せないチキンハートは今日も絶好調です。無念。

 

 

 三人も肢曲には興味を持ったようで、後で行う模擬戦で使ってほしいとお願いしてきた。リオンちゃんは暗歩まではできているから、俺と同じくさほど時間をかけずに実践できるだろう。もちろん強敵との実戦で使えるレベルまでには時間がかかるかもしれない。

 ミアキスちゃんは余りこの手の技術を使用するイメージはない。話した感じでも実際に自分で使用することは考えていないようだが、相対する敵が使用した場合に備えて対策を考えたいようだ。

 リンちゃんは分身に憧れるお年頃だ。可愛い。

 

 

 そんな話をしていると、キルアが近づいていることに気づいたので話を止めて部屋の方へ移動する。

 

「ねぇ、さっきの話の続きしたいんだけど?」

「うん、構わないよ。

 その前に改めて自己紹介させてもらうと、俺はハヤテ。

 ジャポン出身のハンター志望で現在修行兼お金稼ぎ中ってところだね。

 隣の三人は俺の仲間でジャポンとくじら島から一緒に旅をしてきたんだ。よろしくね」

「私はリオンですの、よろしくなの!」

「私はミアキスですぅ、よろしく~~」

「……リンです、よろしく……」

 

 他人に興味なさそうだったから、戦闘中に名乗った名前を憶えてないかもしれないと思って挨拶を交わし部屋の中に入る。ついでにジャポン出身なので、ゾルディック家とも関係ないよアピールもしておいた。

 

「オレ、キルア。 

 それで、なんでアイツが俺ん家の関係者だってわかったの?」

 

 リオンちゃんとミアキスちゃんリンちゃんという美少女二人組を目の前にしながら、三人の挨拶を軽く流して俺との会話を続けるキルアはどうなってるんだ? さすがに天使リンちゃんにはちょっと見惚れていたようだ。嘘です、同年代だから少し気になったようだ。

 

 

「ん-、家の関係者とまで特定はしていなかったよ。

 ただ、時々俺に向ける視線や、キルアに向ける視線の違いから、恐らくキルアの護衛か何かかなとあたりをつけていたんだ。キルアとの対戦が決まってから情報収集した限り、キルアが普段一人で行動していることは知っていたから、密かにつけている人だと判断して動揺を誘うのに利用させてもらったというだけの話さ。

 普通に考えて6歳の子供をこんな危険なところへ護衛もなく放り出すような家族がいると思いたくなかったから気づけたのかもしれないね」

 

「ふぅん、普通の家族じゃないからやりかねねーと思ったけど。

 まぁ教えてくれたのは感謝するよ。いることがわかってればやりよーはあるだろうし。

 ……ちぇっ、せっかく家から解放されてのんびりできてると思ってたのに……」

 

 最後の一言は普通なら聞こえないようなボリュームだったがなんとか聞き取れた。

 

「あー……聞いていい話かわからないが、家族と仲が悪いのかい?」

 

「控えめに言って最悪さ。

 毎食毒を混ぜてきたり、電流流してきたり、普段から暗殺予定の話をしているような親だぜ? ヒデーおやだべ? ぐれるぜフツー」

 

「確かに普通の家庭ではなさそうだな……。

 なんなら、家出して俺達と一緒に旅でもしてみるかい?」

 

 キルアを連れて家出するということは、確実に今の俺達より強いのが数人いることがわかっているゾルディック家を敵に回すことになる。それに原作崩壊は将来の危険を増加させるばかりであることも理解しているが、それでも言わずにはいられなかった。毒や電流については俺も分身体4号で日々経験しているがまともな神経では耐えられない。

 

 俺はミアキスちゃんの<秘める想いの誘導(ブレインインダクション)>の効果で修行脳になっているからこそ継続できているといっていい。それを6歳の時点で家族から強制される? 普通はイルミのように精神が逝くか、ミルキのようにやけ食いでぽっこりお腹になるだろう。 

 

 リオンちゃんやミアキスちゃんも怒りを顔に宿した顔で、一緒に旅する案に同意してくれている。二人とも幸せな家庭を過ごせなかった身として自分に重ねてみてしまっているのだろう。キルアの方に駆けよってヨシヨシと頭を撫でたり、ぎゅーって抱きしめたりしている。このような直接的な愛情表現に耐性のないキルアは赤面しつつ顔を横に振った。

 

 リンちゃんはさすがに想像できない世界なのか首を傾げていた。

 ただ、キルアが苦労しているという事までは理解したようで、ポケットからチョコロボくんを取り出して渡していた。

 

 

「あ~~~いや、まだ家出はいいよ。

 かなりガチな家族だから、余計に面倒なことになって旅を楽しめない気がするから。

 ま、気が向いたら一緒に行動してやってもいいけどさ。

 

 ていうかさ─。良く信じたね。

 どこまで本気で言ってるかわかんない子っていうチャームポイント狙ったつもりだったんだけどなー」

 

 さりげないツンデレを発揮しつつ、もうこの話は終わり! と言わんばかりにあからさまに話題を変えてきた。キルアがそれでいいというならこれ以上言うつもりはないので、話題転換に乗ってあげる。

 

「これでも人を見る目には自信があるからね。

 ここにいる三人も信頼しているし、キルアとも親友かそれ以上になれると思っているよ!」

 

「……変わったやつだよ、本当に」

 

 満面の笑みでグッと指を立てながら言うと、キルアは少し固まってからちょっと照れたように目をそらして呟いた。

 

 

 

 それから五人でいろいろ会話した。主な内容は下記だ。

 

 キルアはゾルディック家の一員で家族は全員暗殺稼業を行っていること。稼業自体はどうでもいいけど、強制するようにレールを引かれた人生を歩むことはまっぴらごめんだと考えていること。

 →わかるわかると頷きながら頭を撫でた。殴られた……。

 

 俺が肢曲を使えたのは、リオンちゃんが今は壊滅している暗殺集団で幼い頃から修行させられていたのでその際に培った技術を俺も学んでいたためであること。

 →今まで一度もゾルディック家と絡んだことはないのは本当だよと肩を掴んで真剣な瞳で見つめ続けていたら殴られた……。

 

 俺達がハンター志望といっても具体的に狩りたいモノを決めているわけではなく自由に行動できることに魅力を感じているからで、やりたいと思うことができた時にやりやすくするためであること。

 →特にゾルディック家を狩ろうとしているわけではない。

 

 キルアが実は女の子だと気づいていること。

 →俺っ子可愛いよね、ナデナデ。殴られた……。

 

 俺には六人の恋人がいること。

 →もちろんキルアも恋人候補として考えているよと伝えて抱きしめた。殴って蹴られた……。

 

 俺達は天空闘技場の戦いと並行して四人で戦闘訓練を続けていること。

 キルアは家族から200階到達したら戻るように言われているので、敢えて天空闘技場の戦い以外では修行を少しさぼって到達を遅らせていること。

 →慰めるようにナデナデしながら抱きしめた。殴られ……なかった! 

 

 世の中にはチョコロボ君という素晴らしいお菓子があり、さっきリンちゃんがあげたのはこのお菓子であること。

 →一粒食べさせたら感動していたので、あーんさせてくれるなら追加であげるよって言ったら少し考えてから受け入れてくれた! 

 

 キルアの家族がたまに見せる不可思議な内容は念能力によるものと思われ、対抗するためには同じく念能力を身に着けることが必須条件であること。

 →一緒に修行することになった。

 

 ハンター志望でキルアと同年齢の女の子がリンちゃん以外にもう一人いること。

 →戦闘技術としてはキルアがかなり格上であることを伝えると当然と言わんばかりのどや顔をした。

 念能力者としては半年前から修行しているので二人の方が格上と伝えると青筋をたててやる気をだしていた。

 隣でリンちゃんがちょっとどや顔してた。可愛いから頭を撫でたらふにゃっと笑ってくれた。

 

 

 

 キルアと仲良くなるために密かに集めていたチョコロボ君500万ジェニー分で無事に餌付けできた。

 

 原作キルアは男の子にもかかわらず4年間で2億ジェニーをチョコロボ君に費やすぐらいのチョコロボ党だ。さすが豚君ミルキの弟といえよう。本人は全力で否定するが。

 そんなキルアが女の子になったら? 原作以上にチョコロボ君にはまらないわけがない! 

 

 計画的すぎてずるい? 

 キルアの笑顔を見るためには仕方のないことだ! 

 それにリンちゃんもはまっているのでちょうど良かったんだ。

 

 キルアも女の子だったことには驚かないの? 

 ゴンが女の子になった時点で薄々察していた! 

 リンちゃんの特典は身近な原作キャラを女体化するものなので、同年齢でかつゴンにほぼ同行しているキルアも対象になるということは当然の帰結だ。

 

 

 

 キルアと一緒に修行することになったが、強くなりすぎては軽く200階を突破するので、ゾルディック家へ連れ戻されることになってしまう。そこで<愛の修行場(ラブトレ)>だ。これによる負荷で強くなっても今と同程度の動きしかできないように制限することで監視者の眼を誤魔化す。

 

 そう、キルアの観察者である執事が邪魔なのだ問題だ。

 もう一つの手段として、<秘める想いの誘導(ブレインインダクション)>の力で念能力の修行していることに気づきづらいよう注意力散漫にしようとしたり、天空闘技場内の遊戯施設で遊ぶように誘導を試みているが、強制力が弱いし、さすがゾルディック家の執事というべきか忠誠心が高く、なかなか大きな効果が発揮できないでいる。暫く一緒にいるから少しでも効果が出る事を祈るばかりだ。

 

 <俺達は運命共同体(ディスティニーシェアー)>の対象になれば、キルアに<俺は全員を愛する(ラブアンドピース)>で分身体を作らせて、監視者の眼を誘導することもできるようになるだろうが、まだ相思相愛の関係にはなっておらず実現できていない。

 6歳だから当たり前だ。リンちゃんは転生者で前世からの付き合いがあったからこそ6歳で恋人になっているが普通は無理だ。認めよう。俺にはまだ無理だ。

 

 だが。だがしかし! いつの日かパパと結婚したい! と言われるようになってみせる!! 

 もちろん冗談だよ。

 



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第16話:天空闘技場編3

 1995年7月7日 12歳

 

 キルアが今日8歳の誕生日を迎え、5人で盛大にお祝いをした。

 

 去年の7歳の誕生日もお祝いとしてチョコロボ君1000万ジェニー分をプレゼントしたら、「オレお前らにあえて、本当によかった……」と言いながらちょっと涙ぐんでいた。もしかしたらゾルディック家では誕生日祝いとかないのかもしれない。まぁ暗殺一家が頻繁にお祝いしてたら違和感しかないが、子供は皆ひねくれそうだ……。あ、ひねくれてたな。

 

 そして今年のプレゼントはなんと……俺自身だ! 

 嘘です、ごめんなさい。

 

 せっかくなのでチョコロボ君以外にも興味を持ってもらおうと思い、世界各地の銘菓詰め合わせ1000万ジェニー分をプレゼントした。だが、「えーチョコロボ君じゃねーのー?」と言われたので、念のために用意していたチョコロボ君1000万ジェニー分を今年もプレゼントしたら「分かってんじゃん!」と喜んでくれたので良しとしよう。

 

「何でそんなにチョコロボ君が好きなの?」って聞いたら、虚をつかれたようにポカンとした顔で俺を見つめて少し固まったと思ったら、徐々に頬が赤くなっていき「……知るかよバカっ」と呟いて、顔をそらしてしまった。何この子、可愛い! 

 

 

 そんなイベントもはさみながら交流を深めつつ、<俺達は運命共同体(ディスティニーシェアー)>を発動できるようになった。俺は既に変化系能力者であるマチにもこの念能力を発動しているから変化系統の習得率は100%になっているし、キルアはまだ念能力がないので恩恵はない。

 恩恵を受けるのは俺ではなくキルアだ。本来は全く習得率のない特質系も得意系統となり、更には俺の念能力である<俺は全員を愛する(ラブアンドピース)>を発動することができるようになった。

 つまり200階到達により天空闘技場を卒業しても、ゾルディック家に帰ることになる本体はともかく、分身体は俺と一緒に行動することで自由を楽しむことができるようになる。

 

 そう、ついにキルアが天空闘技場を卒業するときがきた、ということだ。

 そして俺達の天空闘技場での稼ぎも一旦の区切りを迎えたということでもある。

 

 200階未満で止まっていたキルアとリンちゃんはともかく、俺とリオンちゃんとミアキスちゃんは200階に到達後10勝を勝ち取り、フロアマスターに至ってからも何度か防衛戦に勝っている。負荷をかけて、かつ念能力も使わずに余裕で勝てる相手しかいないというのはちょっと戦闘経験上残念だったが、自身の念能力を見られずに、様々な念能力を見る機会に恵まれたことは良いことだ。原作随一の戦闘狂ヒソカがいたらさすがに危なかっただろうが、まだいなかった。

 

 分身体は200階フロアで何度か戦闘を重ねたらフロアマスターになる前に行方を眩ませて、また新たな分身体を作成することで1階からやり直すことを繰り返していた。もちろん当初の目的通り、お金稼ぎと戦闘経験のためだ。さすがに一年もするとほとんどの流派と相対することができた。キルアとも結構な回数戦う事になったけどね。

 最初に当たった時は、分身体のことを伝えていなかったので違和感を持ったものの何も言わなかったが、二度三度と似たような、でも見た目は完全に別な相手との戦闘を繰り返すうちにさすがにおかしくねと思ったのか問い詰めてきた。「ごめん、あれ全部俺なんだ」と優しく教えてあげたら、少し固まってから優しくないパンチを貰った。解せぬ。

 

 相対した流派の中には原作で登場するカストロと同じ虎咬拳の使い手もいたので、時間は多少かかったものの模倣して使えるようになった。虎咬拳を、キルアから学んだ指先を鋭利にそして強固に操作する肉体技術と併用し、更に硬を重ねて発動すると切断力が跳ね上がる。人を相手に使用するには過剰威力だがキメラアントと戦うにはこれぐらいは必要だと思っている。俺が鍛え続けている剣術の取り柄と被っている気がするが、剣には剣の役割がある。多分。

 

 

 それにしても、ゾルディック家からの干渉もなく無事に天空闘技場卒業までできて良かった。

 

 もちろんキルアがゾルディック家に戻れば、精孔も開いて念能力者として修行を積んだこともばれるが、200階の戦いを見る機会も多くあったので、天才キルアならそれで覚えたといえば、不自然ではあるが絶対に無いとは言い切れないだろう。本来ならそれを防ぐための執事なのに、何度もキルアを見失ってしまった責任を取らされるかもしれない。正直すまん……。

 見失ったのはキルアの技術にもよるところがあるので、ゾルディック家なので逆に喜んで終わるかもしれないという期待もなくはない。

 

 結局、この執事は<秘める想いの誘導(ブレインインダクション)>が最後まで効かない程度には優秀だったが、周りの短気そうなヤンキーに喧嘩売らせたり、周りのおばさま方に魅力的に見せてちょっかいかけさせたりと周囲を誘導して隙を作らせていたのは永遠の秘密だ。

 洗脳は嫌いだけど、キルアとの生活には代えられないんだ……正直すまん……。

 最後のほうは俺達が何もしなくても、ヤンキーを簡単にあしらう真面目そうな好青年としての人気からおばさま方やお姉様方が自発的に声をかけるようになり、それを妬んだヤンキーが更なるちょっかいをだすようになっていた。だから俺達がしたことは、いつか訪れるこの日を少し早めただけで、洗脳じゃないんだ。きっとそうだ。

 

 

 今のところキルアには女の子だからか、当主にするという話は上がっていないそうなので原作ほどの執着心がないことを期待している。とはいえ、愛情に狂っている母親だったり、才能に目をつけて近親相姦を狙ってもおかしくないイルミとかいるから油断はできない。

 できればこちらからも監視役として分身体をつけて送り出したいところだが、さすがにばれるだろうし、ばれたことで余計に大変なことになる未来が見えたので、今は諦めることにした。

 

 そうして、卒業を決意したキルアが190階を軽く突破してゾルディック家へと一人で帰っていった。

 俺達の隣へ分身体を二体残しながら。

 

 ちなみにキルアの得意系統は変化系だから、放出系が苦手な系統となり、かつ系統別修行もあまり進んでいないので、遠く離れることになる分身体はかなり弱体化することになる。そのため、模擬戦をやっただけでも消滅する恐れがあるぐらいなので、本当に自由を楽しみつつ軽い修行をするためだけの分身体とする予定だ。修行をメインでやるのはあくまでゾルディック家へ帰る本体のキルアになる。

 半面、変化系を得意系統としているので姿形は完全に化けている。まぁ詳細はいいだろう。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇今後

 

 旅立ちの日に定めた目標の達成状況を整理しよう。

 

 ・くじら島で原作主人公ゴンと会う

 ・天空闘技場で200階を目指すキルアと会う

 ・天空闘技場に分身体を数体突入させてお金稼ぎ

 ・天空闘技場では他流派を参考に自分の流派をさらに磨く(ただし刀NG)

 ・グリードアイランドを入手する(購入費用は最低170億)

 →達成

 

 ・どこかでポンズと会う(キメラアント編で死亡するハンター志望の可愛い女の子)

 ・どこかでピヨンと会う(十二支んに所属する可愛いバニーガール)

 ・どこかでサンビカと会う(選挙戦で登場したウイルスハンターの女医)

 →未達成

 

 グリードアイランドが豪運のおかげか既に手に入ってるのは嬉しい誤算だが、他は想定内だ。

 豪運と人脈運でもしかしたらポンズやピヨン、サンビカにも出会えないかなと期待をしていたことは否定しないが、運だけでどうにかなるものでもない。

 

 まぁポンズは薬品と蜂で戦うタイプで肉弾戦が苦手だから天空闘技場とは無縁だろう。

 もちろんハンター試験で四次試験まで進められるくらいだから200階まで進める潜在能力はある。ただ、それは4年後のハンター試験である20歳頃の話であって、今の15歳頃ではそれすら厳しいだろう。そろそろアマチュアハンターとして活動を始めている可能性はあるので、その方向で調べたら見つけられるかもしれないと思ったが見つからなかった。残念……。

 

 ピヨンは古文書ハンターだから、天空闘技場で戦うタイプではないことは明らかだが、じゃあどこで何をやっているかと言われると想像もできない。無念だぁ。古文書が眠ってそうな遺跡でもめぐるしかないか? 

 

 サンビカはハンター協会の女医と呼ばれていたぐらいだから、ハンター協会本部の専任女医かもしれない。だとすると会うのは大分難しいなぁ……。

 

 

 

 三人と会うことを諦めるしかないと思った? 

 

 大丈夫、俺にはまだ秘密兵器がある! 

 そのためのグリードアイランドだ!! 

 

 そう、グリードアイランド内で入手可能なカード No.010 『黄金るるぶ』だ!!! 

 <旅情報の雑誌。持ち主の好みの異性に出会える場所と時間を数多く掲載している>

 好みの異性に出会える場所と時間を! 数多く!! 掲載しているのだ!!!! 

 これで会える! これで勝つる! 

 

 

 他にもグリードアイランドは将来の快適なハーレム生活のために必需品といっても過言ではないアイテムが大量に存在している。しかし残念なことに、グリードアイランドから持ち出せるアイテムは三つだけだ……。

 今の優先度的には、『美肌温泉』と『長老の精力増強薬』は欠かせない。異論は認めない! 

 

 たが、他にも欲しいと思うのもまた事実。というわけで新たな念能力を習得しなければならない時期がきたといっても良いだろう。<俺は全員を愛する(ラブアンドピース)>を習得した際に、正直メモリ限界がきたんじゃないだろうかと感じていたが、最近になってまだいける気がしてきた。

 

 もしかしたら神様特典の並列思考能力が成長していることと関係しているかもしれないと考えている。元々、並列思考ができることは、PCに例えるとCPUのコア数が多いイメージだったからメモリには関係ないんじゃないかと思っていたけど、コア毎にメモリが存在するとしたら、コア数が増えるごとにメモリ最大サイズが増加することに繋がる。ありえないだろうか?

 

 もちろん全て勘だ。

 ただの勘だが、神様特典で直観力が向上している俺の勘だ。

 ありえない机上の空論と切り捨てて良いと思うだろうか? 

 

 まぁ最終的には単にゲームのアイテムがたくさん欲しいだけだけどね。

 屁理屈こねて、こんな能力が欲しいと願っただけだ。

 本人の願望が強く影響する個別能力。思いついて願った以上は作らない選択肢はない。

 

 

 

 というわけでこれから行くのはグリードアイランドに決定だ。

 修行にも最適な環境なので、他メンバーにも招集をかけようと思っている。

 

 特にストーンハンターであるビスケにはブループラネットを欲しがるだろう。

 原作でもそのためにグリードアイランドに参加したほどだ。

 

 一度ここで恋人たちの状況を分身体含めて整理しようと思う。

 覚えきれない。いや、俺は忘れないんだけど。

 ついでに整理の時だけグリードアイランド=G・Iと略すことにした。

 

 ▽本体の予定

 ハヤテ :G・I突入予定

 リオン :G・I突入予定

 ミアキス:G・I突入予定

 マチ  :G・I突入予定

 シズク :G・I突入予定

 ビスケ :G・I突入予定

 コン  :くじら島

 リン  :くじら島

 ミト  :くじら島

 キルア :ゾルディック家

 

 

 

 ▽分身体の予定

 ハヤテ

 01:G・I :マチとシズクに同行

 02:G・I :ビスケに同行

 03:ジャポン:剣術修行(感謝の一日一万居合斬り+α)

 04:ジャポン:剣術修行(感謝の一日一万居合斬り+α)

 05:G・I :ゲーム内カード集め及び系統別修行:変化

 06:G・I :ゲーム内カード集め及び系統別修行:具現化

 07:G・I :ゲーム内カード集め及び系統別修行:特質

 08:G・I :ゲーム内カード集め及び系統別修行:操作

 09:G・I :ゲーム内カード集め及び系統別修行:放出

 10:G・I :ゲーム内カード集め及び系統別修行:強化

 11:くじら島:主に家庭農園と漁網の補修手伝い(適当な姿)

 12:くじら島:ミトさんのお手伝い(27歳の姿)

 13:くじら島:リンちゃんのお手伝い(20歳の姿のまま)

 14:くじら島:コンちゃんのお手伝い(8歳の姿)

 15:G・I :流を含めた高速戦闘訓練

 16:G・I :流を含めた高速戦闘訓練

 17:G・I :電撃、火炎、水流、毒の拷問耐久

 18:G・I :ゲーム内カード集め

 

 リオン、ミアキス、

 01:ジャポン:剣術修行

 02:G・I突入予定、その後流を含めた高速戦闘訓練

 

 マチ、シズク、ビスケ

 01~02:G・I突入予定、その後各々修行含め自由行動

 

 コン、ミト

 <俺達は運命共同体(ディスティニーシェアー)>の発動条件を満たしていないため未発動

 

 リン

 01:G・I突入予定

 

 キルア

 01:G・I突入予定

 02:くじら島に向かい、コン、リン、ミトと合流予定

 

 

 コンちゃんとミトさんがまだ分身体を召喚できないこともあり、くじら島組は不参加だ。キルアは話して聞かせた同年代のライバルの動向が気になるようで、くじら島に片方の分身体が移動することになった。

 

 また、グリードアイランドはゲームソフトであり、本体はジョイステーションというゲーム機を使うことになるが、1P、2Pそれぞれにマルチタップを使用することでメモリーカードを8個さすことができるのでセーブデータを記録できるのは8人だ。本体6人、キルアとリンの分身体1体ずつで使用する予定だ。ゲームソフトが1本しかないから仕方ないね。

 

 セーブデータさえ気にしなければ何人でも突入できるので、他の分身体も同じように突入することになっている。ただし、この場合は離脱時にカードが全損することになるので保存できるメンバーにカードを渡す手間が必要になることは注意しなければならない。

 

 

 グリードアイランドを始めるにあたって、もう一つ重要なことがある。

 

 それはゲームの開始場所だ。

 グリードアイランドを始めると、身体ごとゲームの中に取り込まれるので、ジョイステーションが無防備な状態で放置されることになる。このゲームを開始したジョイステーションは電源なしで動作し続け、強い衝撃を与えても壊れないようになるのでその点は心配いらない。

 

 ただし、破壊できないだけで持ち運びはできてしまうのだ。

 170億ジェニーもするゲームソフトと聞けば想像できるだろうが、当然のように盗もう、奪おうとする者達が溢れてくることになる。しかも一般人ではなくハンター等の実力者だ。

 そのため、持っていること自体も秘密にしなければならないし、万が一に備えた防御策を考える必要がある。

 

 住民の少ないくじら島でひっそりプレイすることも考えたが、少ないからこそ人が集まって消えたとなると噂が広がるのも速いし、コンちゃん、リンちゃん、ミトさんに迷惑はかけたくない。

 というわけで、せっかくなので里帰りを兼ねてジャポンの実家でプレイすることにした。

 あそこなら久しぶりに帰ってきた三男坊が引きこもってるように見えるだけで、そこまで注目を浴びる可能性はないだろうし、何かあっても戦闘民族である家族が喜々として守ってくれるだろう。

 

 

 というわけで開始場所はジャポンに決定したので、皆を招集しながら、ジョイステーションとメモリカード×8、マルチタップ×2を用意しておこう。

 

 諸々準備が整ったらいざグリードアイランドの世界へ! 

 



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第17話:グリードアイランド編1

 1995年9月10日 12歳

 

「三人とも、良く来てくれたね! ありがとう」

 

 予想以上に早く全員が集まってくれた。

 まぁずっと分身体は一緒に居たから久々に会えたという感じは全然ない。

 

 

「まぁちょうど暇だったし。それより全力で殺り合える敵が多いって本当だろうね?」

「私は試し斬りもしたかったからね」

 

 マチとシズクは戦闘機会の多さを伝えたことで釣れた。

 分身体からの情報で、二人は、他者の念能力発動を問答無用で抑止できる何らかの念能力を持つ者を探していることがわかっている。そんな強力な念能力者と知遇を得るために、自身もそれなりに有名になり力もつけようとしていると聞いているので、修行の場としてグリードアイランドの話をもっていったわけだ。

 団長クロロに盗んでもらえばいいんじゃないって思ったが、盗まれるのはNGで、あくまでも抑止する効果が必要らしい。抑止したい相手の制約か誓約に関係するんだろうけど、そこまではまだ教えてもらっていない。俺の<愛の修行場(ラブトレ)>によるオーラ負荷での抑止も手段の一つとして考えているそうだ。オーラ制御の負荷を限界まであげたとして念能力を発動できないほどまでの効果を得られるだろうか? いや、嫁に期待されて出来ないとは言えないな。

 

 シズクは俺達と出会ってから訓練を続けていた刀の具現化をできるようになったようで、実際に切り刻むことを楽しみにしているようだ。決して辻斬りに目覚めたわけではない。多分。ちなみに具現化した刀に付与している特殊効果はまだ教えてもらえていない。

 

 

「あたしでも見たこともないような宝石があるという情報はマジだわさ!?」

 

 猫を被ることすら忘れて問い詰めてくるビスケもいつも通りだ。

 言うまでもなく、原作知識をいかして『ブループラネット』の情報で無事に釣れた。

 噂程度には元々聞いていたそうだが、確定情報ではないことと、ゲームソフトの金額、拘束時間を諸々考慮してチャンスをうかがう程度に留めていたところに俺からの連絡があり、これ幸いと乗ってきたそうだ。

 

 

 ちなみにグリードアイランドの攻略までは目指さない。やっぱり原作ファンとしてはコンに初めてのゲームクリア達成者になってほしいという想いがある。

 幸い、三人の願い自体はクリアしなくてもゲーム内なら達成はできる。ビスケが宝石を現実に持って帰りたいと言い出したらクリアする必要があるが、そうならないようにするための対策は考えてある。

 

 そんな三人にいつものリオン、ミアキス、キルア、リン、俺を足して八人(+分身体)でグリードアイランドに挑戦する。ゲーム開始時は中に入ってから一人ずつ説明を聞く必要があるので、待たされる時間を考慮して一人ずつ順番に練を使ってゲームの中に入ることになる。

 

 最初は俺の分身体だ。

 ゲーム開始場所は固定だから、変なやつが待機している可能性があるので、露払い目的だ。

 転送された際の着地時に裸のおっさんが踏まれるために待機していたらさすがにトラウマものだろう。もちろん俺だってそんな汚物を踏みたくはないが、嫁達が踏むよりは断然ましだ。

 

 二番手はマチが行くことになった。

 短気すぎて待ちきれない様子だったので行かせた。睨みが怖かったわけではない。

 

 三番手はシズクだ。

 マチがゲーム開始後に一人で行動して万が一があると嫌なので付き合いの長いシズクを続かせることにした。

 

 四番手が俺だ。

 残りのメンバーは順番を気にしておらずまったりお茶を飲んでいた。

 練をしてゲームの中に入ると、ノースリーブで肌面積が少し広い美少女がゲームの説明を行ってくれた。もちろん原作知識を完全記憶している俺は聞く必要がないが、美少女の声はいくらでも聞いておきたいので説明を断ることはなかった。

 最後に名前を聞くと記憶の通りイータさんと名乗ってくれた。

 また逢いに来ていいですか? と聞いたらにっこり「お待ちしております」と言ってくれた。可愛い。

 社交辞令であることはわかっていても可愛いことには違いはない。

 ここに住めないかな? 邪魔ですか、諦めます……。

 

 

 説明部屋から抜けて階段を降りると見渡す限りの草原! 風! 触感! 現実感! 

 これらをゲーム世界として体感させるほどの技術を身に着けるためにはどれだけの苦労が必要になるのだろうか。実現できれば間違いなく18禁VRゲームとしての金字塔を打ち立てる事は間違いない。やれるか? やるしかないだろう! 

 蟻王メルエムを倒した後の一生を費やす価値がある目標といっても過言ではない! 

 ……あれ、リアルハーレムが築けているから必要ないか。やめておこう。

 

 

「マチ、シズク。お待た……マチ!? 大丈夫か!?」

 

 少し先にいた二人に声をかける。

 その瞬間、マチの目の前から身体が切り裂かれるような音とともに血煙が上がったのを見て、焦って声をかけた。

 

「あん? 

 あ──こいつかい? 

 アタイも何が起きたかわかんないが、いきなり飛んできたかと思ったら、カードをかざして"追跡使用マチを攻撃"とかほざいてオーラを飛ばしてきたから念糸で縛ったんだが、"再来使用マサドラへ"と叫んだと思ったらこうなったのさ。全く何がしたかったのやら」

 

「説明にあったバインダーを開いてたからゲーム特有の呪文っぽいよね。

 言葉の意味をそのまま捉えれば、マチをストーキングする能力を使って、どこかに移動しようとしていただけだろうから問題はなさそうだけど」

 

 どうやらマチが切り裂かれたわけではなかったようだ。良かった……。

 それにしても念糸で縛られた状態で移動系のカードを使うと、移動しようとする力とそれを止めようとする念糸の力が合わさって身体がばらばらに切り裂かれることになるなんて怖すぎないか? 

 それだけ強靭なマチの念糸がすごいというべきかなんというか……。

 そんな惨殺死体を生み出したというのに気にした風もないマチや、我関せずと岩に腰かけて読書したままなシズクはさすがの安定性だ。俺も念糸使えば同じことができてしまうことは胸の中にそっとしまっておこう……。

 

 なお、ゲーム内の遺体はすぐに消えるので、幼少組が見なくてすむことはせめてもの救いだ。

 いずれにしてもメンバーが集まってから一応注意喚起だけはしておいた。原作知識のことは説明していないので、カードの効果までは説明できなかった。

 

 

 

 注意喚起後、まずはほぼ全員で開始地点である『シソの木』から北10kmにある『懸賞の街アントキバ』に向かい、そこからさらに北90kmにある『魔法都市マサドラ』へ向かう。

 

 分身体は各方面にばらまかせて地理の把握から行う。さすがに原作でも島の形と一部都市しか所在地を把握できていないので、把握する目的だ。もちろん最終的にはカードで街の移動をすることにはなるが、眼で見ないと気づけないカード入手の可能性があるから虱潰しに調べるのも仕方ない。

 

 指定カード『ブループラネット』目的のビスケには、魔法都市マサドラで呪文カードを購入し『道標』を手に入れてから本命アイテムの入手場所を調べることから始めるよう勧めている。

 

 その他の修行目的メンバーは、魔法都市マサドラまでの道中に出てくる多種多様な魔獣や、マサドラから西50kmにある港までの道中に出てくる無限湧きの魔獣で戦闘経験を積む予定だ。

 もちろん素の強さはキルアとリン以外は全員問題のないレベルだし、観察眼的にも弱点を見抜き戦うことも容易なことだろう。だが、そこに<愛の修行場(ラブトレ)>の効果で負荷をかけることで、より高度なオーラ操作や戦闘技術を求められるようにできる。

 原作で登場する魔獣としてはこの無限湧きする『群狼の長』が最強クラスではあったがCクラスでしかないので、分身体がより強敵となりえる魔獣を見つけたらそちらに移動するつもりだ。

 

 なお、分身体が地理の把握を最優先にする本当の目的はもちろん『恋愛都市アイアイ』に少しでも早く行くためだ。ここには眼鏡を落として慌てるドジっ子青髪美少女や、パンを咥えて曲がり角でぶつかってくるメスガキ転校生美少女、悪漢達に壁際へ追い詰められる短髪美少女がいることがわかっている。ここまで美少女が集まっている都市に行かない理由があるだろうか? いや、ない!! 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇懸賞の街アントキバ

 

 懸賞の街アントキバまでは邪魔も入らず辿り着くと、毎月15日に何らかの大会が開かれており今月はジャンケン大会が行われることがわかった。

 

 五日ぐらいなら、という事で一旦待機することになり、巨大パスタ早食い挑戦の報酬により無料で食事しつつお金になるカードをゲットし、街の付近に出る魔獣退治で更にカードをゲットしてお金を得る。

 

 そんなことを繰り返しつつ街に戻ると、5人組のプレイヤーが待ち構えていた。

 見覚えのある顔だと思いつつ会話をすると、原作で登場したハメ組の初期メンバー達だった。

 25人という大人数でゲームに入ってきた様子から、大富豪バッテラの依頼で開始したものと勘違いしたことによる勧誘であった。もちろん勘違いであることを説明して協力は断った。

 

 

 グリードアイランド内はなかなか攻略の進捗が進まない停滞状態が続いた結果、1994年ごろからプレイヤー狩りという殺してでもカードを奪おうとするものが続出し、見かねた一部メンバー(先ほど登場したハメ組)が報酬である大金を得ることよりもゲームクリアを優先し大人数でのプレイを開始するという、ちょうど分岐点のようなタイミングで俺達はゲームを開始したことになる。

 

 まぁ繰り返しになるが今回のメンバーはキルアとリン以外は全力で戦えばグリードアイランドにいるプロアマ混在のハンター達のレベルを超えているので、負荷さえかけていなければ、爆弾魔ゲンスルーと相対しても勝つことができるので大きな問題はない。

 むしろ襲ってきた奴からはカードを奪っても罪悪感は感じないのでむしろ有り難いまである。コンがいたらオヤジが作ったゲームで殺しや奪い合いなんて……と一悶着あるかもしれないが、今回はいないので不満を持つメンバーはいないだろう。というよりジンが開発者であることはまだ知らない情報か。

 

 暗殺一家で育ったキルアはともかく、平和なくじら島で育ったリンは天空闘技場で多少の荒事に慣れたとはいえ、プレイヤー狩りと聞いてちょっと怯えている様子だったので「何かあっても俺が絶対守るから」と言いながら頭をポンポンと撫でてあげたら抱き着いてきた。可愛い。

 それを見て近づいてきたものの何も言わないキルアも頭を撫でてあげた。リオンとミアキスとビスケはその姿を見てほっこりしているようだ。マチは何か言いたげに睨んできたけど何も言わなかった。シズクは特に反応は見せなかった。

 

 その後、行われたジャンケン大会で俺が優勝して報酬の『真実の剣』を手に入れた。勘の鋭いマチや負けん気の強いキルアがイカサマを疑ってきたが、知らんぷりした。普段は相性が悪そうな二人だけどこういう時は息ぴったりだ。同族嫌悪というやつだね。ちなみに知らんぷりしたのはジャンケンの必勝法はきっといつかエッチなお願いをするときなんかに役立つと思ったからだ。

 本来なら誤魔化すことが難しい二人ではあるが、ちょうどプレイヤー狩りの集団が現われカードを奪おうとしてきたので、捕まえてカードや情報を貰ったことで話題が変わり助かった。

 

 あ、ついでに最初から地理が埋められている方の高い地図も買っておいた。

 完全記憶能力と分身体のおかげで地図は脳内で徐々に出来上がりつつあるけど、皆に説明するために手書きするのはめんどくさいし見づらいと思ったんだ、仕方ない。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇魔法都市マサドラ

 

 道中の魔獣を蹴散らしながら問題なく辿り着いた魔法都市マサドラ。

 

 原作ファンなら誰もが知っての通り、ここには真っ先にいかないといけない大事な場所がある。

 そう、呪文ショップだ。この呪文ショップの店員であるお姉さんも結構可愛いのだ! しかもため口だから友達か恋人感覚で会話できる! これは定期的に通うしかないよね! 

 

 そして、残念ながらここまできたらメンバーは解散になる。

 

 マチとシズクは港の方に向かい、Cクラスの魔獣で最強の体力と攻撃力を誇る無限湧きの『群狼の長』を相手にひたすら実戦的修行だ。

 

 ビスケは呪文ショップで手に入れた<道標>と<解析>のカードで宝石カードを探し自由に行動することを選択した。どうやら『闇のヒスイ』『賢者のアクアマリン』『美を呼ぶエメラルド』『レインボーダイヤ』『ブループラネット』を狙うようだ。

 

 キルアとリンはまだ『群狼の長』と戦える実力がないため、アントキバとマサドラの中間地点である岩石地帯で念の修行を行う。

 

 もちろんそれぞれに俺の分身体をつけている。

 

 最後に俺とリオン、ミアキスはひたすら三人で模擬戦だ。

 天空闘技場でありとあらゆる武術の流派を学ぶことができたので、それらを組み合わせて自分なりの武術への昇華を目標とした特訓だ。ある程度は天空闘技場で試しているが、リオンとミアキスとのより高度な模擬戦の方が弱点や問題点が浮き彫りになりやすいから改めて見直すのだ。

 



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第18話:グリードアイランド編2

 1997年5月4日 14歳

 

 14歳の誕生日を迎え、俺達のグリードアイランド活動に終止符を打つ時がきた。

 

 そう、グリードアイランドのスタート地点にいるイータさんと、帰還地点にいるエレナさんの双子同時攻略達成だ! 

 

 もちろん冗談だ。

 SSランク指定カード『一坪の海岸線』の入手、つまり俺的な区別にはなるが最上位ハンタークラスと目されるレイザーとの闘いを区切りとした。闘いと言ってもドッジボールによる戦いだ。レイザーは放出系能力者だから相手の土俵で戦うようなもので、油断して頭にボールを直撃されたら余裕で爆ぜる威力がある……。

 

 そのようなリスクを踏まえても、最上位ハンタークラスと戦いたい時に戦える貴重な場となるので見逃す選択肢はなかった。原作開始まで後1年半しかないので、ネテロ会長との闘いの前哨戦としてちょうどいい場だと思って挑ませてもらい、真正面から打ち破ることができるまで成長していることを実感できた。

 

 

 レイザーに挑戦する前にはもちろん過酷な修行を複数乗り越えてきた。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇過酷な修行の日々

 

 まずは『恋愛都市アイアイ』だ。前世でハーレムを目指し女心を理解しようと思って挑戦したギャルゲーマーとしての力を遺憾なく発揮して眼鏡を落として慌てるドジっ子青髪美少女、パンを咥えて曲がり角でぶつかってきたメスガキ美少女、悪漢に壁際に追い詰められる短髪美少女、お城のお姫様と無事に交際することができた。

 

 交際できて結婚まで秒読みだと思ったのに、なぜかアイテムくれてそのまま消えてしまったんだ……。悲しい。

 最初に出会った場所まで戻ると記憶が全部リセットされており忘れられてしまっていたんだ……。悲しい。

 しかも交際中も一定範囲から外にはいけないようで連れ出すこともできなかった……。悲しい。

 

 悲しすぎて何度も攻略したのは秘密だ。というか、分身体が好きな異性から離れられない制約のせいで、街近くで魔獣ハントする以外では、アイアイで攻略し続けるしかなかったわけだが。結婚まで攻略できない美少女をあの手この手で何とか攻略しようとしてはまた存在を忘れられてしまう。まさに過酷な修行といっても過言ではなかった。

 

 

 

 次に港に向かいエレナさんと初顔合わせを行った。

 こちらもイータさんと同じく泊まり込みで住むのはやんわりと拒否されてしまったが、また会いましょう、と笑顔で言ってくれたので、港(エレナ)→ジャポン→イソの木(イータ)→港(エレナ)のタイムアタックを繰り返した。残念ながら10分程度会話したら部屋から出されるので、長時間話すためには繰り返し入りなおすしかないのだ。

 リオンとミアキスの分身体も誘って、負荷を解除し、<風使い(フリーダムウィング)>の力で追い風を起こしたうえで、両足に凝でオーラを集めて全力疾走するほどの本気具合だ。片道100㎞以上で30分を切っていたので時速200㎞位は出ていたと思う。

 

 だがキメラアント編にでてくる蟻王メルエムの直属護衛軍のネフェルピトーは2㎞の距離からカイトが反応できない速度で接近してくるほどだ。人外すぎてそこまでは無理だし、移動速度と戦闘に必要な瞬発力は別物なので気にしすぎるつもりはないが、差を埋められるならそれに越したことはないと思って、より速くなれるように走り続けた。

 

 あれ、そういえばキメラアントの自称スピードキングであるヂートゥは時速200㎞以上と言われていたな。もしかして俺達の身体能力はキメラアントの師団長並になってるのか? 

 いや、念能力使ってようやくというレベルなのでまだまだだろう。これからもイータ・エレナ参りの旅は継続しなければならないだろう。年中限界を超えた速度で走りまわるなんて実に過酷な修行だ。

 なお、どれだけ周回しても二人との進展はなかった……。

 

 

 

 活動はグリードアイランドの中だけではない。

 当初の目的であった『黄金るるぶ』を手に入れたので、旅情報の雑誌をもとにした女性探しも並行して動いている。

 プロハンターになったばかりのメンチ、センリツ、アマチュアハンターのスピーナ、ヴェーゼ、軍儀世界チャンピオンのコムギ、名もなき天空闘技場の受付嬢、同じくリピーター等々多くの女性と会うことができたが、残念ながらハーレム候補になってくれそうな人とはなかなか出会えなかった。

 

 そんな中、ついに出会えたポンズ! 

 アマチュアハンターとして行動し始めた情報を見つけたので、アマチュアハンター仲間として一緒に行動できるように計画し実現できた。ミッションの合間の雑談で、プロハンターを目指してハンター試験も受験予定と言っていたので、力試しがてら模擬戦して完封勝利した。

 蜂や薬品が使えたら……と負け惜しみを言っていたので、敵が銃のように遠距離攻撃してきたらどちらも意味がないし、接近戦タイプであってもある程度鍛えていれば蜂が反応する間もなく攻撃して離脱することは容易であることを説明し実践して見せてあげたら愕然としていた。この前あった美食ハンターの二人組でさえもっと身体能力に優れていたことを教えてあげると口をあけたまま愕然としていた。可愛いキスしてもいいかな? やめておいた。プロハンターでもない年下の俺に完敗したことがショックだったのだろうからそっとしておいてあげよう。

 

 そんな自分を見失ってもおかしくないポンズは意外なことに翌日には復活し、俺に弟子入り志願してきた。絶望を前にしても立ち上がる気概を見せてくれたポンズならばと、肉体強化と念について指導することにした。念の才能としてはリン・キルア未満、ミト以上といったところだろうか。ちなみに得意系統は具現化系であった。<愛の修行場(ラブトレ)>と<メイドの抱擁(エンブレイスメイド)>、<桃色吐息(ピアノマッサージ)>を併用した(ポンズにとって)過酷な修行の始まりだ。

 原作でも作中随一の戦闘狂ヒソカが参加するハンター試験に多分二年連続参加し、毒蛇が大量に潜む洞窟に閉じ込められ、年下に救われ騙され、翌年も年下に力の差をこれでもかと見せつけられてもアマチュアハンターとして諦めない姿勢を見せてくれたポンズであればきっと耐えきってくれるだろう。耐えれず断念するのであれば、それはそれで美少女が生き残れるから大丈夫だ。

 

 

 

 実力は各自で順調に成長し、キルアとリンも『群狼の長』の無限湧き相手でも半日は余裕で戦えるようになった。分身体なので頑丈さに問題がある二人だが当たらなければ問題ないのだ。そのため、錬を維持する必要もなく攻撃時のみ強化する最小限のオーラ消費で長期戦を可能にしている。とはいえ、二人は実戦慣れよりも、基礎修行で総オーラ量と顕在オーラ量を増やした方が強くなれる段階なので、半日戦い続けさせることは滅多にない。

 

 マチとシズクは『群狼の長』も一ヵ月たたずに慣れがでてしまい何の修行にもならないと判断してやめてしまった。それからは、情報を集めていたBランク、Aランクの魔獣情報をもとに狩りに行ったりしていた。負荷を全力でかけたままAランクの魔獣としてドラゴンが出てきた時はさすがに苦戦したようだが、攻撃パターンと攻略方法を見切ってしまえばさほど苦労することもなく倒せるようになったそうだ。

 

 というわけで結局、俺、リオン、ミアキス、マチ、シズク、ビスケで本番さながらの実戦を繰り返すことになった。軽微な怪我であれば、俺とリオンの<メイドの抱擁(エンブレイスメイド)>、ビスケの

<魔法美容師(まじかるエステ)>で回復することができ、致命的な障害を負ったとしても、マチの念糸を使って縫合したり、最悪な場合でも指定カード『大天使の息吹』で治すことができるのでほぼ全力で戦うことができ良い修行となった。

 ビスケは本来修行組ではなかったが、戦闘のバリエーションを増やすために、俺達の分身体の一部をブループラネットの調査、取得に協力させることを条件に、修行にも参加してもらえることになった。

 

 

 

 そして、グリードアイランドのアイテムを持ち出すための新たな念能力も習得した。

 ……ミトさんが。

 

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<空想の家(ファンシーハウス):具現化系、特質系>

 理想の住居として必要だと考えるモノを取り込むことができる特別な念空間を構築し、構築されているファンシーハウスに出入り可能な扉を自由に設置・撤去できるようになる。別途、スペアキーも構築することで発動者がいなくても出入りが可能になる。

 第三者に所有権があるモノは相応のオーラを消費することで、モノが持つ能力と合わせてコピーし取り込むこともできる。

 

 ▽制約

 念空間を構築する際は発動者及び手を繋いでいる者の最大オーラ量の半分を消費する。

 念空間を長時間維持する場合は中央にある宝玉にオーラを注ぎ込んでおく必要がある。

 念空間にコピーして取り込んだモノは念空間から取り出すことはできない。

 念空間は誰かが入った場所からしか出ることができない。

 

 ▽誓約

 構築時、及び宝玉のオーラが具現化必要量に不足した場合、発動者は30日間絶となる。

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 プロハンターになるために旅立つ覚悟を決めているコンとリン、ついでに自身が少しでも安全に、より快適に過ごせるように、という親心を込めて作られた念能力だ。旅の先達としてどういうことができれば助かるか意見を求められたので、俺と相談しながら考えた結果となる。

 

 オーラ消費量がそれなりに激しいので戦闘時の緊急避難用としては使用できないし、オーラ消費量を考慮して取り込む家やモノを検討する必要があるが、オーラ消費量にさえ問題なければ何でも取り込める念空間を構築する能力だ。

 

 そして出会ってから4年の期間を経てミトさんと恋人関係になれた俺も<俺達は運命共同体(ディスティニーシェアー)>の効果で、<空想の家(ファンシーハウス)>を発動することができる。なお、俺が構築した念空間にも、ミトさんが自由に出入りできる扉やスペアキーを作ることができるという共用空間になっている。俺の方が系統別修行もオーラ量も格段に進んでいるので、基本的には俺が構築してオーラも十二分に補充しておくようにしている。

 

 

 能力を作成するにあたって悩んだのがアイテムを取り込む方法だ。原作ではコルトピの念能力を使ってカードをコピーしてもアイテムに戻すことはできなかった。そのため、カードではなく、アイテム化したモノ(物や者)を取り込むことを目的として考えて作っている。

 

 早速この念能力を使って、グリードアイランドの以下アイテムを取り込んだ。

 これはビスケの希望の美術品なので、取り込まないことにはビスケがグリードアイランドから卒業できないため最優先で取り込んだ物だ。これからは念空間に入れば遠隔地への依頼中であってもいつでも愛でられるようになることを伝えたら眼をキラキラと輝かせて涎を垂らしていた。現実世界で集めた他の宝石も取り込みを希望するだろうが、それらは所有物だからコピーではなく普通に持ち込めるためオーラ消費量増大に繋がらず問題はない。

 

073 闇のヒスイ    :悪魔の加護を受けた宝石。危機が迫ると他人にその厄災を渡す。

074 賢者のアクアマリン:賢者の宝石。知性豊かな友人を得ることができる。

077 美を呼ぶエメラルド:女神の宝石。美の奉仕者が集いやすく、自身も魅力的になれる。

079 レインボーダイヤ :7色の宝石。このダイヤを渡してプロポーズすると成功率100%。

081 ブループラネット :唯一無二の宝石。宇宙からの贈り物と言われている。

 

 

 他にも以下のアイテムは取り急ぎ取り込んでいる。生活の必需品だ。

 

003 湧き水の壷   :1日で1440Lの綺麗な水が湧き続ける壺。

004 美肌温泉    :肌に関する悩みを全て解消する温泉。1日30分で赤ちゃん肌へ。

006 酒生みの泉   :この泉の水を汲んで一週間おくと酒になる。種類はランダムだが絶品。

008 不思議ヶ池   :池に放した魚が翌日に放した分増える池。どんな魚も生息・混泳可能。

009 豊作の樹    :1日で樹いっぱいの果物が実る樹。種類と数はランダム。

065 魔女の若返り薬 :500粒入りで1粒で1歳若返る薬。若返るのは肉体のみ。

068 長老の精力増強薬:500粒入りで肉体の一部が元気になる薬。回数・持続力ともに文句無。

150 豪邸      :100LDK。お城レベル。庭付きでとても広い。防音もばっちり。

 ※『豪邸』は本作独自の設定です。モタリケさんが『家に帰れば』と言っていたので

  ゲーム内で購入できると思い適当な番号をつけています。

 

 

 もちろん以下の人達も取り込んでいる。

 住居に美少女はかかせないし天使もかかせない。お世話役の小人やパンダちゃんもかかせない。

 恋愛都市アイアイの美少女達は取り込むと何かがエラーになるのか動かなくなった、怖い。

 

017 大天使の息吹  :傷・病なんでも一息で治す天使。一度治すと消えるため、治させない。

026 7人の働く小人 :主人が寝ている間に代わりに働く小人。小人の能力は主人の能力に依存。

046 金粉少女    :1日1回の入浴で約500g金粉をふきだす少女。内気で家からでない。

047 睡眠少女    :主人の代わりに眠る少女。主人は眠ることなく24時間行動可能。

048 発香少女    :主人にとって最も心地よい香りを出す少女。ストレス解消。

049 手乗り人魚   :手に乗る大きさの人魚。住み心地次第でとても美しい声で歌う。

099 メイドパンダ  :綺麗好きで料理趣味なパンダ。洋裁、ガーデニング、子供の世話も得意。

— クッキィちゃん :マッサージ魔法美容師。様々なマッサージは至福の一時をもたらす。

 

 

 

 以下のアイテムは取り込まず、分身体で少しずつ孵化させることにした。

 

037 超一流スポーツ選手の卵 :1日3時間手で暖めると1年~10年後に対象の才能を得る。

038 超一流アーティストの卵 : 〃

039 大物政治家の卵     : 〃

040 超一流ミュージシャンの卵: 〃

041 超一流パイロットの卵  : 〃

042 超一流作家の卵     : 〃

043 大ギャンブラーの卵   : 〃

044 大俳優の卵       : 〃

045 大社長の卵       : 〃

 

 

 

 以下のアイテムは、最大オーラ量と消費オーラ量をみて徐々に取り込む予定だ。

 

010 黄金るるぶ   :旅情報の雑誌。持ち主の好みの異性に出会える場所と時間を掲載。

012 黄金辞典    :持ち主へ得になる言葉を教える辞典。黄金色に輝く言葉は翌日役に立つ。

023 アドリブブック :毎回違う物語を楽しめる本。付属のしおりを挟むと同じ物語を維持。

024 もしもテレビ  :指定したIFを1~30時間の番組として放映するテレビ。

033 ホルモンクッキー:1箱20枚入りの10箱セット。1枚食べると24時間性別が変わる。

036 リサイクルーム :壊れた物を入れると24時間後には新品同様まで修理される部屋。

054 千年アゲハ   :伝説の蝶。この蝶を捕まえるとその後何代にも渡り繫栄するといわれる。

061 コインドック  :500ジェニーで体の異常有無を診断するドック。

066 魔女の痩せ薬  :200粒入りで1粒で1kg体重が減る薬。

067 長老の背伸び薬 :100粒入りで1粒で1cm身長が伸びる薬。

069 長老の毛生え薬 :200㎖(頭なら10人分)で塗った所がフサフサになる薬。手袋必須。

090 記憶の兜    :被っている間に見聞きしたことを忘れなくなる兜。非常に重く大きい。

093 人生図鑑    :持ち主に関わった人々を全て収録する図鑑。エピソードや会話録も完備。

097 3Dカメラ   :撮影対象を立体のまま現像するカメラ。サイズ調整可能で質感も維持。

 

 

 

 以下のアイテムも興味はあったが、条件である「理想の住居として必要だと考えるモノ」に該当しなかったようで残念ながら無理だった。

 

011 黄金天秤   :二者択一を迫られた時、持ち主の将来に友好な方法を選んでくれる。

 →自分の選択をアイテムに委ねることへの抵抗があったからだと思われる。

  黄金辞典も近しいが、あれは知識を与えてくれるだけなので問題ないのだと思う。

 

014 縁切り鋏   :会いたくない人の写真を切ると二度と会わずにすむ鋏。

 →会いたい人しか存在しない住居だからだろうか?

 

016 妖精王の忠告 :足りないものを的確にアドバイスする妖精が時々現れる。

 →妖精王が男性だったので弾かれたのだろう。間違いない。

 

021 スケルトンメガネ :物が透けて見えるメガネ。メモリの強弱の加減も可能。

030 コネクッション  :クッションに座った人が、1回だけ願いを聞いてくれる。

034 なんでもアンケート:質問を書いて渡すと、全ての質問に正直に答えてくれる。

035 カメレオンキャット:様々な動物に変身するカメレオン。体積は変化不可。

058 レンタル秘密ビデオ店:他人の秘密を知ることができるビデオ店。

062 クラブ王様    :店内の誰もが命令に従うお店。ただし店内の1時間は外の1日。

064 魔女の媚薬    :意中の相手に飲ませると一週間虜にできる。

071 マッド博士のフェロモン剤:異性にとてもモテる薬。モテすぎてストーカー発生注意。

 →紳士なので……ごめんなさい。

  レインボーダイヤもこの仲間だけど、あれは使うつもりはなくビスケ用。

  3Dカメラもこの仲間だけど、思い出を残したいという想いが勝ったのかも。

 

027 顔パス回数券 :1000枚入りで、券を渡すとどんな場所でも入ることが可能。

029 強制予約券  :商品名を書くと市販物ならどんなものでも必ず手に入る。

055 仕返し商店  :店主に恨みを告白すると相手に報復してくれる。金額で上乗せ可。

060 失くし物宅配便:専用ダイアルに電話して説明すると次の日には届けてくれる。

 →コピーは家から持ち出せないからだろうか。

 

031 死者への往復葉書:亡くなった人の名前と内容を記載すると、次の日に返事が来る。

 →死者への冒涜に感じているからだろうか?

  考えたくはないが実際に嫁がなくなったら持ち込めるかもしれない。

 

 

 

 取り込まなかったアイテムも一部はグリードアイランド内で使用している。

 一例としては、ビスケが『マッド博士の筋肉増強剤』を使って本来の姿をムキムキのゴツい体型から、スリムな体型へとこっそり肉体改造していた。更に『魔女の若返り薬』で20歳まで若返っていた。

 幸い腕力自体は低下せず見た目だけの変化で済んだようだ。もちろん、本来の姿で模擬戦をしていたメンバーはその変化に気づいたが、マチとキルアですら一切そのことに言及することはなかった。言及したら確実に殺されると思ったのだろう……。空気を読まないシズクなら言ってしまうのではないかという事を懸念したが、そもそも変化したことを気にもしておらず何もいわなかった。これで平和は守られた、と思ったら純粋なリンが真正面から「お姉ちゃんすごい綺麗……」と見惚れたように近寄って抱き締めたことで空気が固まった。

 

 全員が注目した。ビスケの一挙一動に。

 ビスケの握りしめられた右手が徐々に上がり、俺はいざとなったら身をていしてリンを守ろうと動く準備を万全に整えてぎりぎりまで見守り続ける。ビスケが切れていたら俺は止められるか? 止められたとして俺は生きていられるか? ビスケの全力パンチはいまだに未知数だ。最上位ハンタークラスであるレイザーの全力ボールを一人で真正面から受け止めた俺でも受け止められる気があまりしない。模擬戦でもビスケは凝も硬も禁止してもらっているのだ。ビスケの堅ですら、俺の硬による防御を貫いてダメージを与えてくるほどだ。だが止められなければリンが死ぬ……! 行くしかないのだ……! 

 

 覚悟を決めながら固唾をのんで見守り続け、そしてビスケの右手が開かれてリンの頭を撫でる姿を見た瞬間、安堵故に緊張が途切れへたりこんでしまった。目の前で「でしょー!? 誰も言ってくれないからどこかおかしいのかなと心配になってただわさ! 本当にリンちゃんは良い子ねー!」「人はあまりにも美しいものを見ると言葉を失うもの」と和やかに会話する二人をみて段々落ち着いてきた。

 はっ!? いけない。せっかくのリンの援護を活かさなくては! と思って「うんうん、元の姿も良かったけど今の姿はますます見惚れちゃったよ。とても綺麗だね」と会話の輪に混ざった。なお、「本当にな。前の姿はゴリラっぽ……」と言いかけたキルアは、張り手で飛ばされて消滅した……。

 

 

 

 

 正直、ここまできたらもうHUNTER×HUNTER世界の人生をやり切ったという思いが少なからずある。

 キメラアントが世界征服したとしても、この<空想の家(ファンシーハウス)>で念空間に閉じこもっていれば影響もないし、自給自足もできる。

 

 とはいえ、それでは両親や兄を守れない。

 嫁達の家族も守れない。

 嫁達と駆け巡った思い出の地も守れない。

 そして何より、嫁達と笑って過ごせる気がしない! 

 

 原作開始まで一年半、そして難敵キメラアントとの決戦まで残り三年。

 

 俺達の闘いはまだまだこれからだ! 

 




まだ終わりませんけどね。
原作にもまだ入ってないのでここで終わったらあらすじ詐欺になってしまう……。
ただ、書き溜めが尽きたので、あらすじ守って亀更新になります。


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第19話:セラス湖の遺跡1

約半年ぶりの投稿ですね、お久しぶりです。
感想で数か月練り直せと言われたので嬉々として読み専してました(練り直さず)。
戻ってきたときにはもうその感想がなくなっていてびっくりですね。
一応、あらすじは変更しました。タイトルも変えようかと思ったものの良い案が思い浮かばなかったのでそのままです。

運対で消されてる感想はもしかして、コンのヒロイン化希望の方かな?
申し訳ないですがコンは作者が考えている展開とは違う方向に進んでしまいそうなので今のところヒロイン化の予定はないです。五次試験で危うくヒロイン化しそうになりましたが気の迷いです。

というわけでハンター試験編まである程度は書き終わってますが、投稿する前にいろいろ書き直したりしたくなると思いますので、更新間隔は二日にしておきます。ハンター試験が終わったらまた半年か一年か数年ぐらい休眠します。





 俺達の次の目的地はヨルビアン大陸のサヘルタ合衆国にあるセラス湖だ。

 

 湖とはいえ視界の大半が、ちゃぷちゃぷと心地よい音色を奏でる青い水面で埋まるほどの大きなものだ。水平線の彼方にはうっすらと映る山々の雄々しい姿。そして美しい景観を更に際立たせる水着姿の美少女たち! 

 あぁ、最高の楽園はここにあったのだ……! 

 

 なんてことはもちろんなかった。

 HUNTER×HUNTER世界では海や湖にも魔獣がいるし、荒くれ者も多いため、うら若い女性が水着で遊ぶなんてことは普通できない。

 なんて夢のない世界だ。絶望したよ。

 

 

 

 悲しい情報はさておき、セラス湖を次の目的地と定めたのは、『黄金るるぶ』の旅雑誌情報によるものだ。セラス湖の左側にある岩石地帯の一角に遺跡の入り口があり、そこで何らかの出会いがあるという情報があった。その程度の情報しか記載されていないので詳細は不明であるが、聞き覚えのある名前ゆえに、俺達の次の目的地となった。

 

 シズクのハンターライセンスを使って、ハンター専用サイト『狩人の酒場』にアクセスしてこの遺跡についての情報を検索したところ、現代技術でも再現できない古代技術が使用された仕掛けが複数存在しており、ところどころにハンター文字でもない未知の言語らしきものが刻まれているということで発見当時は騒がれていたが、文字の量が少なく解析が難しいことと、奥にある扉がどうやっても開かず壊せず探索系の念能力を使ってもオーラが遮られて奥を探ることができず、しかも魔獣ではないモンスターと呼ばれるものが邪魔してくるので、費用対効果を考慮して調査は断念したらしい。

 発見者がプロハンターであったことから今でもハンター協会が管理しており、古代文明の遺産となりえる遺跡の可能性も残っているため、実力と品性の信頼に足るプロハンターが同行する場合に限り、破壊・盗掘禁止の誓約を書くことでようやく入ることができるようになっているそうだ。

 

 ということで今回はプロハンターのマチとシズクにも同行をお願いした。

 二人は犯罪者であった原作とは逆に、ブラックリストハンターとして五年以上行動しており、大きな問題も起こさない美少女二人はもちろん合格基準を満たしている。

 そして、先人が諦めるしかなかった古代文明の遺産遺跡の秘密を解き明かすことができたら、プロハンターとしても実績になるという期待も若干あるようで二人ともついてきてくれることになった。すまない、好みの異性探しが載っている旅雑誌を見て行きたくなっただけなんて今更言えない……。

 

 なお、ビスケは<空想の家(ファンシーハウス)>に入り浸って美肌温泉に入りつつブループラネットちゃんにうっとりしているので今回は不参加だ。……今後引きこもりになる気がしてならないな……。もちろん俺の分身体もビスケの美肌をうっとり見ながら一緒に入っているから問題はない。

 そんな引きこもりビスケだが、分身体での修行は欠かさないのでオーラの量も凄味が日々日々上がってる。

 

 

 

「ようやく見張りのハンターが見えてきたね」

「見張りのせいで入口が丸わかりっていうのは警備としてどうなんだい?」

「自分がいれば問題ないと思ってるんでしょ。実力を過信しているハンターって多いよね」

「あの程度のハンターなら、俺でも勝てる気がするぜ?」

「……『纏』を限りなく薄くするオーラ操作と、素人に思わせる素振りの練習……?」

 

 遺跡の入り口についたことに気づき発言すると、いきなりマチ、シズク、キルア、リンが見張りのハンターのことをディスり始めた。そんな未熟なハンター達にライセンスを見せると、ハンター達はライセンスよりも俺の嫁達に見惚れていたので、ついつい全力の『練』で威圧をかけてしまうと泡吹いて気絶してしまった……。

 さすがにこれはまずいなと思って、マチからハンター協会に忠告を入れてもらうことにした。俺は悪くない。未熟すぎるハンター達が悪いんだ。そこは報告時に間違えないでほしい。

 

 

 遺跡の中に入って少しすると、小部屋の正面に続く道は、鍵のかかった扉の代わりといわんばかりの勢いで吹き出しウォータージェットと化した水の扉が遮っていた。

 

 ……湖や遺跡の名前から薄々思っていたけど、ここって幻想水滸伝Ⅴに出てきたセラス湖の遺跡そのものだよな。となると、左右の道から進んでスイッチを順に踏んでいけばこの真正面の道を進めるようになるはずだ。

 シズクの<デメちゃん>で真正面の道を遮る水を吸い上げてショートカットできないか試してみたが無限のように水が出てきたので途中で諦めた。『堅』で防御力を上げれば、ごり押しで行けそうな気もするけど、遺跡探索を楽しみにしているリンとキルアもいるので順番通り攻略していくことにした。

 

 そうして先に進もうとする俺達を遮るのはスケルトン、ゾンビを含むモンスター達。HUNTER×HUNTER世界なので魔獣だけかと思っていたけど、幻想水滸伝Ⅴのモンスターが出てくるらしい。どういう扱いになっているのかと事前に『狩人の酒場』で調べていたシズクに聞いてみると「古代人が製造した守護者説や、死者の念が暴走している説があるらしいよ」と教えてくれた。まじか、念能力万能だな。

 

 

 スケルトンとゾンビは、動きは大したことがないが、特にゾンビに対しては触りたくもなく武器も汚したくないという思いから全員が念能力を使ったり、念弾をぶっぱなしたりとオーラを無駄に消費しつつ戦わざるをえなくなっている。これがただの遭遇戦であれば汚れや匂いをそこまで気にはしないが、遺跡というほぼ密閉空間に長時間こもることを考えると清潔を意識したい乙女心だ。

 

 他にも2m程度の大きなタイヤの内側に出産前の赤ちゃんのような奇妙な物体が張り付いているモンスターだったり、丸盾に人の恐怖顔が浮かんでいるように見える気持ち悪いモンスターばかりだ。それだけではなく、動きが人や魔獣と違いすぎることから動きが読みづらく、多少は速いので後衛をいきなり狙われたり、斬りつける場所とタイミングを考えないと回転で受け流されたりと慣れるまでは少し苦労した。慣れてくると行動パターンも分かってきたので、大したオーラの消費もなく倒す事ができるようになり、こちらはゾンビほどの問題はない。

 

 他の皆も潜在オーラ量にはまだ余裕があるが、道のりはまだまだ長いから戦闘回数はかなり多くなりそうな見込みで、さらにダイヤモンド並みの堅さを誇るボスである阿吽像と戦うことを考えると、ボス戦の途中で何人かガス欠になる可能性もでてくるかもしれない。

 

 この遺跡の攻略なら大丈夫だと判断していたが、遺跡探索を舐めすぎたか……? 

 否。オーラが尽きる可能性があるのは本来見学で来ている10歳のリンとキルアだけだ。余裕をもって戦闘を控えさせて他のメンバーで戦えば問題はないし、厳しいようならギミックを解き終わってボス戦前に休憩をとればいいだけの話。

 ハンデを抱えた状態とはいえ、この程度の遺跡を探索しきれないような修行はしていない。

 

 油断して女性達を危険にさらすことにになったら後悔が募るだろうが、だからといって危険から遠ざけられることを喜ぶような女性達ではないし、むしろそれは侮辱だろう。

 

 

 

「ハヤテ様、先ほどから何かを考えられているようですが、何か問題があったんですの?」

「うん? ああ、方針変更の有無について考えていたんだ。

 さすがに事前情報を十分に集めていない遺跡探索にもかかわらず、<愛の修行場(ラブトレ)>で負荷をかけたままで問題ないだろうか、とね」

「あぁ~~それは私達も思ってましたぁ〜〜。

 修行厨な主を持つと大変だねぇ~~ってリオンちゃんと話してたよぉ」

「ち、違うんですの! 

 そんなことは言ってないですの! 

 それに、いざという時は私達がハヤテ様を守るから大丈夫なの!」

 

 俺が何かを考えている事を最初に察してくれたのは、付き合いの長いリオンだった。

 俺も忘れがちというか意識自体ほとんどしてないけれど、リオンとミアキスは護衛という立場も意識しているのか人が多い時は発言をあまりしない。それでも本当によく俺のことを見てくれているということを嬉しく感じる。でも、自己犠牲精神は止めてもらいます。

 

 そしてちょうど良いと思って返事を皆に聞こえるように答えた。そう、探索の方針は基本的に俺が決めている。これは 同行する人数が増えてからは指揮者がいないことによる不都合が生じるようになったためだ。他にリーダーを希望する人もいなかったので俺が指揮することも増えてきてはいるが、絶対的なリーダーなんてのは柄じゃないので至急の状況でなければ皆の意見を聞きつつ対応を決めるようにしている。今回も意見を聞きたいと思ったのだ。価値観の相違による別れなんて考えたくはないから皆の考えを知ることは重要だ。

 

 そしてミアキス、俺が修行厨なのはミアキスの<秘める想いの誘導(ブレインインダクション)>の効果だよ……。あと三年程度はかけてもらうことになっているので、よくよく考えないと修行優先で安全を蔑ろにしてしまう危険性すらある。強制力は強くないから、俺の強い願望である原作愛とハーレムに関する思考自体は阻害されないけど、それ以外は修行のため強い相手と戦いたがったり負荷をかけて厳しい状況に身をおこうとするので、気を付けておかないと大事な人達が危険にあうことになる。

 

 なんにせよ、二人が忠言もせずに受け入れて行動し、意見を聞いてもこうして茶化してくるということは、さほど負荷をかけたままの探索を危険視しておらず、このままでも良いと判断しているのだろう。

 

 

「うーん、負荷がある状態だと……あと、1時間ぐらいで分身体の維持が厳しくなるかも……。

 でも……リオンさんの力で回復してもらえば大丈夫かな」

「このメンバーならまだまだ余裕じゃね? 

 リンも俺が守るしな」

 

 リンはモンスター相手に念弾で戦っておりオーラ消費が激しいこともあり、負荷ありであと1時間しか継続戦闘は難しいと判断。リオンによる<メイドの抱擁(エンブレイスメイド)>による回復を前提に考えて、このままでも大丈夫だと判断しているようだ。確かにボス前に確実に休めるならそうかもしれない。だが、休憩前にボスと戦うことになった場合は辛いものがある。とはいえ、記憶通りならボス前にまた小部屋があったから休むことは可能だろう。

 それにしても、平和な日本の女子小学生だったリンがグリードアイランドでの修行により、こうして自己分析も状況判断もできるまでに成長していることは感慨深い。……まだ10歳なんだけど無茶させすぎただろうか。

 

 そして、まだ修羅場を経験していないキルアは楽観的だ。ちゃっかりリンの頼れるお姉ちゃんポジも確立しようとしている。実際、キルアは念能力に頼らない戦闘技術がリンよりも優れているので、ここのモンスター相手でも群琅と同じくオーラを無駄に使用せず半日は戦い続けられるだろう。負荷ありだとしても3時間はいけそうだ。「リンも」と言ったことに自分で首を傾げているのはアルカのことを思い出しかけているのかもしれない。

 なお、キルアの頭の中にある針を取り出すタイミングと、アルカの救出についても後々考えたいところだが、取り出すと確実にブラコンのイルミに気付かれるので今はまだそのままにしている。

 

 

 

「もしかしてひよってる?」

 

 シズクは強気に煽ってくる。

 歯に衣着せぬ物言いは相変わらずだけれど、別に嫌味とか仲が悪かったりするわけではなく、彼女の性格によるものだから気にしない。強気なのはプロハンターとしての10年近くの経験と今までの修行で身に着けた実力に対する確たる自信があるからだろう。

 

 

 

「負荷をかけないと、この程度の敵は歩いてるだけで終わるわよ。

 それともアンタの勘が危険を訴えているわけ?」

 

「嫌な予感はしないよ。

 実際に戦ってみた結果を踏まえて状況分析していたんだ。

 ということは、マチの勘でもこのままで良さそうだね」

 

「まぁね。

 戦闘に関してはそうだけど、それ以外で嫌な予感がするのは気のせいよね?」

 

 マチの頼りになりすぎる勘と、俺の神様特典で与えられた直感でどちらも危険を感じていない以上は、やはりこのままで問題はないだろう。

 

 最後に嫌な予感といってジト目でこちらを見つめるマチは、新しい女性目的であることを察しているのかもしれない。勘の良いマチは頼りになるけれども、反してこういう時は恐ろしい。マチの発言の意味に気付いた他のメンバーも呆れたような視線を向けてきているのを感じるが、きっと気のせいだ。

 

 結局、全員が賛成したので負荷をかけたままで探索続行だ。

 

 

 なお、安全を最優先で考えるなら分身体で調査することが最善ではあるが、さすがにそれでは危険がなさすぎてゲーム感覚になってしまうため、分身体に頼り切るのはマチとシズク、ビスケに反対されている。これに関しては今更だけどな。グリードアイランドも分身体で冒険しまくってたけどあれはゲーム内だから! 本当は現実世界だけど、皆は知らないから気にしてないようだ。

 そんな事情もあり、今回は分身体を連れてきていない。いざという時に召喚できるよう2枠開けているが、他は世界各地に散らばって必要なことをやって+いる。もちろん<空想の家(ファンシーハウス)>で修行している分身体もいる。

 

 



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第20話:セラス湖の遺跡2

 

 探索を進め、左右の仕掛けを解除したことで、ようやく最初の部屋にある正面扉代わりのウォータージェットを止めることができた。新たに進むことができるようになった正面の道を進むと、小部屋と紋章が刻まれた扉があった。

 

 ここが『狩人の酒場』の情報にあった、開かず壊せない扉だ。

 一旦ここで休憩してから探索を再開することにしたので、<空想の家(ファンシーハウス)>に出入り可能な扉を設置して食事休憩だ。美肌温泉に入り、発香少女の香りを嗅ぎ、手乗り人魚の歌とメイドパンダの手料理を堪能してクッキィちゃんのマッサージを受けてリフレッシュする。至福の一時だ。

 ビスケもいまだに寛いだままだったが動きそうになかったので今はスルーだ。

 

 また、軍儀世界チャンピオンのコムギもひたすら俺の分身体と軍儀を打っている。コムギはまだ嫁ではないが、軍儀の師匠で必要なモノ(者)として扱われたのか<空想の家(ファンシーハウス)>に入ることができた。軍儀に集中できる環境として気に入ったようでそれ以来ずっと居座っている。対戦相手は俺とシズクと俺とキルアと俺とリンぐらいなのでコムギが満足できているかはわからないが、俺の戦術思考向上に役立ち助かっている。多分。原作ではラスボス蟻王メルエムもコムギと一か月程度軍儀を繰り返すことで予知のごとき先見を可能なまでに成長させていた。俺にそこまでの才能はないと思うが、長く繰り返すことで少しでもその領域に至りたいものだ。

 

 ちなみにコムギが一番懐いているのはミトだ。

 コムギは12人家族で、その中でも盲目ゆえにゴミ扱いされて育ち、チャンピオンになったとはいえマイナー競技ゆえに賞金も少ないため、家の中での扱いは改善されることがなかった少女だ。HUNTER×HUNTER世界随一の人格者といっても過言ではないミトと一緒に居て懐かない理由はなかった。ましてや、この家に招かれることになったきっかけも旅雑誌で境遇を知ったミトの一声と知ってからは崇め奉ろうとし始めるほどだった。なんか俺よりミトの方がハーレム主人公している気がするがきっと気のせいだ。

 頻繁に美肌温泉に入り、美容マッサージも受けているがゆえに、原作では垂れ流しだった鼻水も改善され、ボサボサで雑にまとめられていた髪型もミトによって綺麗にまとめられたことで普通に可愛い村娘と思えるぐらいにはなっている。

 

 

 休憩を終え、先ほどの小部屋に戻り全員で調べて回ると、やはりというべきか幻想水滸伝Ⅴと同じ展開となった。リオンが例の紋章が刻まれた扉に似て非なる紋章が刻まれた左手を近づけると、黄色に少しの藍色が組み合わさったような光が左手から点滅するように発光し、それに共鳴するように扉の紋章からも淡い藍色で紋章の形をした光が浮かび上がる。そしてともに一際強烈な光を発すると、なぜか俺の右手に光が収束し、扉が開いていく。

 

 まさか俺にも紋章が宿るなんて……強烈な光で目を潰されないように皆が目をつむっていたから、電撃自殺の特訓により光に慣れまくった俺でなければ見逃しちゃうね。

 

「あらあら、あらあらあらぁ~~」

「おおー-、すっげぇっ! 

 リオンのその紋章どうなってんの!?」

「……光る紋章……ぴかーって……かっこいい……」

 

 あまりの光景にミアキスと幼少組のキルアとリンが驚いてはしゃいでいる。子供らしく可愛い。

 リンはまだ一つしか念能力を習得してないから光を放出するような念能力を新たに習得すればいいんじゃないかな。放出系だからありだと思う。いや、オーラを光に性質変化させたり紋章の形に形状変化させることになるならむしろ変化系向きなのかな? ……系統別修行の応用として遊ぶぐらいで諦めてもらおう。

 

 

 

「……ねぇ、あの光、似てなかった?」

「うん、似てた。というか、色以外は点滅とか一緒? 紋章もあったしね」

「ということはあれが……眷属の紋章の可能性も……」

 

 マチとシズクは何か二人で話していた。

 紋章に心当たりがあるのか? 

 黄昏の紋章と繋がりのあるもので考えれば太陽の紋章だろうか。大陸ごと焼き尽くすといわれる太陽の紋章を相手にすると今のオーラ量どころか生涯成長が見込まれるオーラ量で考えても防げないだろうから勘弁してほしいところだが……。そういえば、リオンと出会う前、あの辺りで何か大きな事故が起きたとニュースで言っていたな。実はリオンの黄昏の紋章が暴走していた? 或いは近くに太陽の紋章があった? 

 

 関連する紋章といえばもう一つ黎明の紋章もあるが、なぜか先ほど俺の右手に紋章が宿ったから他で見た可能性はないだろう。というか、誰も俺の紋章に気づいてない。まぁリオンと扉の紋章の光で眩しかったから仕方ないのかもしれないが、少し寂しい……。自分から言うのも負けたようで悲しい……。

 

 

「あははは……実は私もこの紋章のことをよく知らないんですの。

 気づいた時には左手に刻まれていて……一度だけ同じように発光した時は皆寝ちゃって私も疲れ果ててしまっただけですので、私の体力を代償に睡眠効果を広範囲に与えるだけの念能力だと思ってすっかり忘れてましたの……名前は当時、頭に浮かんできた<黄昏の紋章(トワイライト)>と言うんですの」

 

「しょっぼ……見た目と名前のわりに睡眠って……しょっぼ……」

 

「あのさ、本当にその効果だけなのかちゃんと調べない? 

 それとは別だけど、以前見たことがある紋章が宿った念能力者は、紋章にオーラを込めて集中することで、なんとなく効果の詳細が脳裏に浮かんできたと言っていたわ」

 

 効果を聞いて、さっきの興奮が冷めたようにテンションが急降下するキルアをよそに、マチがアドバイスしていた。それは実感のある言い方であった。

 俺は突然念能力に目覚めて個別能力を習得していたという人とはまだ会ったことがないが、もしかするとそのように詳細を調べる手段はあるのかもしれない。確かにそのようなケースでは、制約や誓約が把握できないことで致命的な事故を巻き起こすことになるかもしれないので、把握する手段はあってしかるべきだと思う。占った結果を見てはならず見た場合は念能力を失う、という誓約を知らなかったら発現と同時に消失という事態になりかねない。

 他人事だったら笑い話だが、自分や嫁でそんなことが起きたら笑い話にならないだろう……。

 

 なんにせよ、マチのアドバイスに従い瞑想を始めたリオンは少しして、はっとしたように眼を開いて慌てたように説明してきた。

 

 ────────────────────────────────────

<黄昏の紋章(トワイライト):特質系・放出系>

 発動者のオーラを周囲に放出し、オーラに触れたメンバーを眠らせる。

 その際、低確率で即死させる。宿主が亡くなると近くにいる適格者へ移る。

 黎明の紋章と重ねて発動させると効果が変動する。

 

 ▽制約

 領域は発動者の『円』が及ぶ範囲までしか広げられない。

 領域内にいるメンバーは全員が対象となり任意で取捨選択できない。

 放出したオーラよりも顕在オーラ量が多いメンバーに対しては効果が減少する。

 発動者または大切な人が殺されると強制発動する。

 

 ▽誓約

 能力発動時に規模に応じて寿命を消費する。

  ────────────────────────────────────

 

 

 本来の効果だけであれば対集団戦であれば便利かもしれないと思ったものの、制約にある「発動者または大切な人が殺されると強制発動する」と誓約の「能力発動時に規模に応じて寿命を消費する」が凶悪な組み合わせだった。

 例えばリオンが致命傷を与えられると強制発動し、基本的に近くにいる俺やミアキス、他の仲間達もオーラに触れて即死する可能性が少なからずある。特に顕在オーラ量が仲間内で比較的少ないリン家族やキルアは危ないだろう。

 

 というか、雑魚であれば殺気を込めたオーラを『練』で放出すれば気絶させることができるので、それを少し強化しただけでデメリットが強すぎるこの能力は産廃レベルだ。幻想水滸伝Ⅴでも使えない紋章であったのは確かだが、それは本来物理攻撃で戦うリオンしか装備できないためであり紋章自体の攻撃力は非常に強力だった(紋章の威力は攻撃力ではなく魔力依存のためリオンが使っても威力が低い)。まるで急造でHUNTER×HUNTER世界にもってきたかのような雑な設定。

 もしかしなくても俺に宿った紋章もこんな感じなんだろうなぁと思いながら、こっそりと能力を確認する。

 

  ────────────────────────────────────

<黎明の紋章(ドーン):特質系・放出系>

 発動者のオーラを周囲に放出し、オーラに触れたメンバーが発動者に対して敵意を持っていなければ軽い状態異常(毒・マヒ・睡眠)を回復する。

 その際、低確率で細胞が活性化しすぎて老ける。宿主が亡くなると近くにいる適格者へ移る。

 黄昏の紋章と重ねて発動させると効果が変動する。

 

 ▽制約

 領域は発動者の円が及ぶ範囲までしか広げられない。

 領域内にいるメンバーは全員が対象となり任意で取捨選択できない。

 

 ▽誓約

 能力発動時に規模に応じて最大オーラ量が減少する。

  ────────────────────────────────────

 

 

 さすが幻想水滸伝Ⅴの主人公が宿す紋章らしく、多少はましな能力だと思ったものの、可愛らしい嫁達が老けるのは断固拒否したいので使用することはきっとないだろう……。

 思うところの多い紋章についての考察を続けたいものの、リオンの様子がおかしいので打ち切ることにした。

 

 

「わ……たしが……ハヤテ様を……皆を殺しかねない……?」

 

 さすがにショックだったのか、出会った時のようにハイライトを失った虚ろな目をして俯いており、これはまずいと声をかけようとするが、その前にリオンの目にハイライトが戻ったことで安心してしまった。……おや、刀を見ながら何かつぶやいている。

 

「私はハヤテ様に助けられ、人生を楽しむことを教えてもらったの。

 少しでも恩を返すために尽くそうと思っているのに、近くにいると困らせてしまう。

 ならここで命を絶つことが最後の恩返しになるの……!」

 

 ────全然安心できる状態じゃなかった。

 周りの皆もさすがにドン引きしている様子。

 慌てて抱きとめて説得を続けることでなんとか刀を手放すところまでもってこれた。

 

「ハヤテ様……こんな私……でもお仕えさせてくださいますか?」

 

「もちろん!」

 

「ハヤテ様……あ……ありがとうございます……。

 ありがとう……ございます……うっ……ぅぅ……」

 

 眉を下げて怯えたような顔をしながら上目遣いでの問いに、安心できるよう笑顔で力強く答える。

 すると、泣き崩れてしまったリオンを撫でてなだめる。

 

 

 

「ハイ、終わり! 

 いい加減に辛気臭いのは止めにして、さっさと先に進むよ! 

 まったく、誰も死ななきゃいいだけの話だってのに難しく考えすぎさ」

 

「ふーん、マチが誰も死なないように守ってくれるってことだよね? 

 もう少し素直にわかりやすくいいなよー」

 

「よっ! 姐御かっこいー!」

 

「バカ言ってんじゃないよアンタたち!」

 

 リオンへの配慮ゆえに動きづらくなっていた空気を姐御、いや、マチが切り裂いた。

 このような空気を作ったリオンを批判するかのようなセリフではあるが、ただ口が悪いだけで励まそうとしていることは付き合いの長い皆はわかっている。シズクとキルアもそれがわかって茶化し、すっかりいつもの雰囲気に戻り今度こそ一安心だ。

 

 今度こそ誰も死なさずにハッピーエンドを迎えてみせるさ。

 そのために考えた分身体の能力なのだから! 

 え、それにしては技名が、だって? 勘の良い子は嫌いだよ。

 




幻想水滸伝Ⅴにおける紋章効果

▽黄昏の紋章
1 逢魔が刻   敵全体  眠りを付加(20%)
2 落日     敵単体  基本ダメージ300の太陽属性魔法攻撃即死効果(70%)
3 静かなる残照 敵横一列 基本ダメージ600の太陽属性魔法攻撃
4 朱の天    敵全体  基本ダメージ1300の太陽属性魔法攻撃

▽黎明の紋章
1 目覚めの刻  味方全体 バッドステータスを治療(一部を除く)
2 曙光     敵縦一列 基本ダメージ400の太陽属性魔法攻撃、アンデッド特効
3 払暁の輝き  味方単体 HPを999回復、戦闘不能を含むバッドステータスを治療
4 紅の天    敵全体  基本ダメージ1200の太陽属性魔法攻撃、アンデッド特効

→1200/1300ダメージは作中最強クラス。
 ただし宿主のリオンと主人公の魔力が低く使う機会が乏しい。
 そのまま全部の効果を使うとチートすぎるし、1つの念能力では無理そう
 なので一番軽い効果だけ流用しました。

 なお、黄昏の紋章を宿した人は基本的に作中で死んでます……。


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第21話:セラス湖の遺跡3

 落ち着いたリオンを連れ、開かれた扉の先へ進む。

 

 記憶の通り道を先に進むと、壁面から次々に水が流れ落ちている貯水池が広がっていた。そして貯水池の真ん中にある部屋へと続く道。明らかに自然にできた場所ではなく、水が流れ込むことを含めて計画的に設計されていることがわかる。そしてセラス湖へと流れ込む川があるのに流れ出す川がないにもかかわらず溢れない理由も、ここに流れ込み、その後地下水脈に流れているからだろう。つまり、この遺跡だけではなくセラス湖も合わせて設計された人口湖の可能性が高い。

 

 

「リン、キルア。すまないが二人は一旦ここで待機してほしい。

 あまり広くない道で、池から魔物が出てくると不意打ちをくらうことになるから、分身体の二人はここで様子を見て、有事の際は援護に徹してほしい」

「あいよ」

「……うん」

「ありがとう。

 じゃあ、いよいよこの遺跡も最奥が近そうだから、『凝』を怠るなよ」

「……この遺跡だと『凝』は意味ないんじゃない?」

「シズク、思っときな」

「…………」

 

 

 少し先に進むと道の途中で地震のようにぐらぐらと揺れたので、少し下がって様子を見ていると道の両側にある貯水池から水が吹き出し、そこから二体の仁王像が現れた。向かって左側は口を開いた怒り顔、向かって右側は口を閉じている怒り顔をしており、どちらも図体のでかさもあり迫力のある登場だ。見るからに敵対の意思をあらわにしている。

 

 幻想水滸伝Ⅴではこの遺跡で登場するボスはこの二体だ。

 向かって左側がダイアモンドサン阿、打撃に強く口を開いている。

 向かって右側がダイアモンドサン吽、魔法に強く口を閉じている。

 どちらも座禅を組んで浮いている。

 ダイアモンドの名を冠するだけあってどちらも堅いため物理攻撃が主体のこの世界ではやっかいだが、難易度をあげているのは全体攻撃魔法を頻繁に撃ってくることだ。阿吽の呼吸で同時攻撃されると更に威力があがるので一体ずつ倒したい。

 

 

「阿吽像か。

 ジャポンに昔から伝わる阿吽像がモチーフになったモンスターみたいだね。

 左側の口を開いているのが阿像。右側の口を閉じている方を吽像と呼称するよ」

 

 意思疎通を図りやすいよう適当に見たままの名称をつけて攻撃準備を整える。

 阿吽像は座禅を組んだまま浮いてはいるものの、貯水池から出てきた後は道の上に留まっているので攻撃を仕掛けることができるのは幸いだ。まずは小手調べに、腕と刀を中心にオーラを貯めて、居合の構えから剣撃とともにオーラを解き放つ! <居合流:飛剣>

 

 飛剣はその名の通り、剣撃を飛ばすものだ。

 感謝の一日一万居合斬りを毎日繰り返す中で、居合の態勢を整えて放つ時は音を置き去りにしていることに気づいた。マッハ2、マッハ3と徐々に剣速が上がっていくなかで気づけば斬撃すら飛ぶようになっていたのだ。そこに放出系の応用でオーラも合わせて飛ばすことで火力も上げたのが、この飛剣である。

 なお、居合流とつけてはいるが別に居合の型からじゃなくても放つことができる。技名にこだわりはないし、叫ぶ趣味もないので適当に自分がわかりやすいようにつけているだけだ。

 

 

 

 飛剣が阿吽像に直撃した結果は──────

 

 阿像には刀傷はついていないがオーラがぶつかったところが少し削れて見える。

 吽像には刀傷がついているがオーラによる傷跡は見受けられない。

 

 負荷があるので全力が出せないとはいえ……傷がほとんどつかなかったのはショックだな……。

 さすがはダイヤモンドの硬度というべきか、修行が足りないと嘆くべきか。

 

「阿像は斬撃耐性が高そうだね。

 マチは念糸で、リンは念弾で時間稼ぎ。他で先に斬撃耐性が低そうな吽像を倒そう」

「任せなっ!」

 

 刀や剣をメインで戦う俺、リオン、ミアキス、シズクは吽像と比較的相性が良い。攻撃されると厄介なことになるので一気に決めるつもりで仕掛ける。眼にも止まらぬ速度で近寄って相手の膝を踏み台に飛び上がり、最後に腕組みしているところを足場に、ほぼ全力の一撃<居合流:一閃>を吽像の首元へ放ち、切断に成功する。

 

 …………あれ? 

 

「ヒュー♩ やるじゃん! さすがハヤテ!」

「かっこいい~~、お姉ちゃん惚れ直しちゃうわぁ」

 

 意外なことに一撃で倒せてしまったことに自分で驚きつつも警戒を怠らず残心していると、援護を指示していたキルアと、逆側から斬りかかっていたミアキスから声をかけられる。

 

 一閃はその名の通り、一振りに全力を尽くした一撃だ。

 足の指、足首、膝、腰、肩、肘、手首、剣先と、刀を振るう上で関連する部位に均等にオーラを配置するのではない。マッハを軽く超える居合を振るう際に、必要な部位へ必要なタイミングで最適な割合でオーラを移動させることで回転の力を極限まで高めるという『流』の神業的制御能力をもって放たれる切断力及び破壊力重視の一撃が、この一閃だ。要は対蟻王メルエムを想定したただの全力攻撃である。

 とはいえ、実戦で使用するのは初めてだったので、斬れ味に自分で驚いてしまった。

 

 ちなみに、飛剣や一閃は修練の積み重ねで身に着けた技術であり念能力として開発したものではない。強化系の素質も手に入れた俺なら、戦闘に下手な念能力を使用するよりは単純な強化こそが最高の武器になりえる。念能力では何でも斬れる剣が具現化できない? ならば俺自身が何でも斬れるように修行を積めばいいという簡単な話だ。

 

 

 吽像に動き出す気配がないことを確認し、もう一体に目を向けると……炎の嵐が吹き荒れていた。元から知っていたとはいえ、ターン制のゲームでは攻撃のタイミングでだけエフェクトが表示されるだけだったからここまでだとは思っていなかった。吹き荒れ続ける炎の嵐と、そこから感じる熱風は想像以上にやっかいであった。

 

 

「マチ、無事か!?」

「当然! 

 いくら相性が悪いからってこんなウスノロには負けないよ。

 念糸で縛って身動きを封じたにもかかわらず、炎で自分ごと焼き切って解かれたのはさすがに驚いたけどさ。強靭さと鋭利さを重視して性質変化させてたけど不燃糸も考えないとね……」

 

「あ〜それは指示ミスだね、ごめん。

 とはいえ、あの炎の中、どうやって近づいたものかな。

 俺は炎耐性も大分育ってるからごり押しでいけなくはなさそうだが……。

 シズクのデメちゃんであの炎は吸えないか?」

「あ、そうか。『凝』でもオーラが見えないから、ミアキスの風と同じでいけるかも。

 というわけでいくよ、デメちゃん。この通路にある炎全てを吸い取れ!」

 

 シズクの念能力発動を見て、それなりに期待して見ていたが、残念ながら炎には全く変化がなかった。この遺跡の中では本来のHUNTER×HUNTER世界とは異なる法則が働いているのかもしれない。

 本当になんで幻想水滸伝Ⅴの遺跡があるんだよ……。紋章までついてきてるし、誰かが神様特典で希望したのかもしれないと思うものの、どんな願いをしたらこんな部分的なクロスオーバーになるのか想像するのも面倒だ。ただでさえ他漫画関係の希望は特典に選んだ場合のデメリットが大きいので、今頃その転生者は苦労している可能性が高そうだ。

 敵陣営(幻影旅団)の可能性が高い転生者が苦労する分にはラッキーなのかもしれない。

 

 

「……だめだった。

 私達みたいな念能力じゃなさそうだけど、この遺跡の法則? モンスターの法則? にとっては念能力みたいな扱いになって吸えないのかも」

「りょーかい。

 仕方ないから遠距離から念弾でちくちく攻撃しながら相手の燃料切れを待つか、炎の比較的薄い場所を探そう」

 

 俺達の主な遠距離手段としては、

 俺の飛剣 →斬撃に念弾のせているだけで相性が悪い

 ミアキスの<風使い> → 炎を煽って逆効果になる可能性。そもそも密封空間では使えない

 マチの<念糸> →相性最悪

 ぐらいだ。悲しいほどに遠距離は弱い。

 

 放出系のリンが育てば一番の遠距離高火力になる見込みだが、まだまだ発展途上。習得した念能力も威力より手数と厄介さを重視したものなので今回はあまり有用ではない。

 もちろん弱いとはいっても俺達は素のAOPがかなり多いので、ただの念弾であってもスーパーバズーカ砲並みの威力はある。炎の壁で威力が減算された後に、ダイアモンドのように堅い防御を貫く必殺技になりえるものがないという意味だ。

 

 短期決戦は諦めるしかないか。この狭い通路で炎の嵐を躱し続けるという無謀、そして幻想水滸伝Ⅴでダイアモンドを名に持つ防御力に秀でた阿吽像で、そのうち斬撃耐性というか物理耐性の高い阿像を斬るという苦難を乗り越えていく必要がある。ダイアモンドだろうと、蟻王メルエムの方が堅いだろうからこの程度斬り倒せないようだと未来がないというものだ。

 

 

「と、思った? 

 ここで私の新念能力、いくよ、<コテっちゃん(コテっちゃん)>!」

 

 シズクがデメちゃんを消していつの間にか刀を具現化していた。具現化した刀であるコテっちゃんを振るうたびに炎と、コテっちゃんが纏うオーラが少しずつ減っていく。道中では普通に物理的な攻撃手段として使っていたが、どうやらコテっちゃんにため込んだオーラの分だけ念能力を消去できるような、特殊能力がついているようだ。とはいえ、阿像がどれだけの炎を生み出せるかはオーラが見えず未知数なので、シズクのオーラが尽きる方が速いかもしれない。つまり、今のうちに接近して仕留める必要がある! 

 

 同様に判断したリオン、ミアキス、マチとともに一斉に接近しフルボッコにして勝利を収めた。

 戦利品として身体を構成していたダイヤモンドを大量にゲットしたので<空想の家(ファンシーハウス)>に収納しておいた。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇勝利後に一度帰宅

 

「「「「「おつかれ(さま)ー!」」」」」

 

 勝利のハイタッチをして喜びを分かち合う。

 元々はミアキスが始めたハイタッチだが、いつの間にか苦労した時の恒例行事となっている。

 付き合いの良いリオンと俺はもとより、今ではキルアもちゃっかりと、リンはちょっと恥ずかしそうに、でも楽しそうな笑顔で混ざってやってくれている。

 

 マチからは睨まれるけどね。でもきっとあれは混ざりたいけど恥ずかしくてできないという照れ隠し的な睨みだと思ってるから気にしない。

 シズクは無表情だけどぱちぱちぱちと拍手しているので参加してくれているようなものだ。

 

「でも、思ったより手こずったな。

 吽像をすぐに倒せた時は余裕かなって思ったけど、あれも先手とれてなかったら阿像と同じように炎か何かを巻き起こして二重に面倒なことになっていたかも。今日のMVPはシズクだよね」

「どうもー。

 こんなこともあろうかと! 習得した甲斐があったよ」

「敵の必殺技を破るための隠し玉って感じでカッコよかったな! 

 俺もああいう奥の手的な念能力にしようかな〜。変化系だから具現化系もありっちゃありだし」

「というかぁ~~あの念能力ってぇ、もしかしなくても私対策だったりするぅ~~?」

 

 シズクの念能力を見て、まだ何も習得していないキルアが参考にしようとしていた。

 真似したい気持ちもわかるけど、できれば原作通り雷掌(イズツシ)、落雷(ナルカミ)、神速(カンムル)を習得してほしいというのが正直な気持ちだ。あれは正直痺れるし憧れる。このうち、雷掌と落雷は今の俺でも実は変化形と放出系の応用で真似ることができるが、神速だけは無理だ。これは念能力にまで落とし込まないと発動できないだろう。まぁ俺の都合で縛る気はないから、どのように成長するかはキルアに任せるけどさ。

 

 そしてミアキスは、これが対自分用の念能力じゃないかと疑っていた。

 シズクはあまり表には出さないけど、同年齢のミアキスのことをライバルとして認識しており、時々模擬戦を挑んでは負けている。初対面の時こそシズクが勝ったものの、それはミアキスが能力発動の事前準備としてオーラを混ぜ込んで武器とするつもりだった空気を、念能力発動前に<デメちゃん>で吸い込まれたことによる驚愕の隙をついてのものだった。<デメちゃん>はオーラが込められただけの空気は吸い込めるけど、念能力<風使い(フリーダムウィング)>で操作されている空気は吸い込めないので、タイミング勝ちとなった形だ。

 

 それ以降はミアキスも油断せず常に<風使い>を発動させ続ける徹底ぶりで、念能力を有効に使い、かつ武術道場の娘ということで近接戦闘力も高いミアキスが順当勝ちすることが多い。かすり傷でも負うとデメちゃんで血を吸い込まれて貧血に追い込まれるのでたまにシズクが勝つこともあった。

 そんな関係性に<コテっちゃん)>が加わることで、<風使い>は抑え込むことができ、勝率が低下するかもしれない、という思いからの問いかけだろう。

 単純に掃除機より刀の方が傷をつけやすいので、傷をつけるまでは<コテっちゃん>で、傷をつけたら<デメちゃん>に切り替えるという戦い方もできる。

 

 

「え、うん。

 デメちゃんの苦手分野を自覚できたから対策しようとは思ったよ」

「なるほどねぇ〜。

 まぁ味方が強い分には頼もしい限りだしいいんだけどねっ!」

 

 シズクは相変わらず誤魔化そうともせずに素直に気持ちを告げる。こういうところ可愛いよね。でも、照れたりはずがしがったりしているところを見たいという欲求も出てくる。たまに見られるけどね。

 ミアキスは無邪気仲間の成長を喜んでいるようだ。ええ娘や。でも負けず嫌いでもあるから、きっと陰では対抗心を燃やして更なる修行を積むのだろう。

 

 実際のところ、具現化系統は強化系と相性がよくないので、刀を具現化して接近戦をするのはあまり良いことではない。とはいえ、放出系も六性図で考えると真逆なので相性が悪く遠距離攻撃苦手となる。具現化系統のシズクは本来真正面から戦うことを考えるのは接近戦でも遠距離戦でも得策ではないだろう。その分、ハマれば強い一撃必殺ものが具現化系の真骨頂だ。それを考えればシズクはかなり珍しい部類の能力ばかりだ。

 それでも俺はシズクを止めるつもりはない。仲の良いライバル関係は望んでも得難いものだ。

 

 

 休憩を終了し、見えていた道の先にある小部屋に入ると、次に進む扉はなく、真正面の壁には先ほどと同じ紋章が刻まれていた。その壁の前には三つの台座があり、部屋の両側にはこの遺跡で時々見かけた未知の言語で書かれた石碑が点在していた。

 

「どうやらここが終着点だな」

「そのようね。

 あの紋章を見る限り、またリオンの紋章をかざせば何か動き出しそうな気はするけど、前回の扉と違って影響もわからないし、まずは言語学者でも呼んで石碑の文字を解析してもらったほうがよさそうね」

「実績として報告するなら、扉を開ける方法として紋章のことを説明する必要があるけどいいの?」

「はい、それは構わないですの。

 調査のためにずっとここにいなさいと言われるとお断りするしかないですけれど、扉に紋章をかざすだけであれば、紋章の効果は発動しなかったので安心ですの」

「協会が理不尽な要求してくるようなら<空想の家(ファンシーハウス)>に引きこもればいいしな」

 

 ここでも便利な<空想の家(ファンシーハウス)>。

 仮に退屈しても、見た目をかえた分身体で普通に出歩けばいい。

 ハンター協会に報告する内容を相談しながら帰途についた。

 

 ちなみに紋章によって開かれた扉は、俺達が出ていくと勝手に元の施錠された状態に戻った。

 幻想水滸伝Ⅴでは黎明の紋章をかざすことで開錠されていたから、黄昏・黎明・太陽の紋章のいずれかをかざした時だけ開かれる仕組みだろう。扉が閉まる前につっかえ棒を挟むとどうなるんだろうという興味もあったが、遺跡を壊したら面倒なことになる未来しか見えないので、今回は実験しなかった。

 そしてセラス湖の遺跡の出口までたどり着いた。

 

 

 




ダイヤモンドは靭性(じんせい)が高くないので叩くと砕けやすいのでは、という意見もあるかもしれませんが、そういうのは考えるのが面倒なので、そういう専門知識はさておき、一般的な認識通り単純に堅いとだけ認識してもらえると助かります。


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第22話:皆勤賞の少女

「くしゅんっ!」

 

 出口の外で何かが光ったと思ったら、そこからくしゃみの声とともに女の子が現れた。茶髪ロングで身長よりも長い杖を持ってローブを着た16歳ぐらいのかわいい子だ。

 

「あれ……? 

 あれあれあれ? 

 …………あ! 

 ねえねえ、そこの人達! 

 ここってなんていう国?」

 

 周りをきょろきょろと見た後にこちらに気づいたようで近づいてきて尋ねてきた。

 言わずと知れた幻想水滸伝シリーズに毎回登場する公式公認美少女キャラのビッキーだ。

 感動に浸っている間に周りの会話が進む。

 

「おかしなことを聞くやつだね。

 なんで自分のいる国の名前がわからないんだい?」

「いや、あの……ちょっといろいろあって……。

 教えてくれると嬉しいかなって……」

「はぁ……まぁいいさ。

 ここはヨルビアン大陸のサヘルタ合衆国よ」

「ええっ!? 

 まだあるんだ……。

 まいったなあ、またごちそう食べ損ねちゃった。

 どうしようかな……」

「電波少女かな。

 下手に関わらずさっさと帰ろうよ」

 

 マチが相手をしてくれていたが、変なことを言い出したビッキーを見て、シズクがそんなことを言い出した。シズクもなかなかの電波少女だぞ、と思ったのは俺だけじゃないはず。

 

「うん、決めた! 

 わたし、ビッキー! 

 ここであったのも何かの縁だし、私を守ってくれません?」

「いや、悪いけど、急いでるのよ」

「ええ~っ! 

 わたしのテレポート便利だよ? 

 試しにどこか飛んであげる! 

 どこにいきたいか心の中に思い浮かべてね! 

 いい? いくよ? 

 そぉれっ!!」

 

 ビッキーに見とれていたら、いつの間にか全員テレポートで飛ばされていた。

 天然さんが勢いに乗ると誰も止められないってよくわかんだね。

 転送先は────

 

 

「のほほんとした見た目でいきなり何をしやがんだゴラァア!」

「ん~~~ここはハンター協会の本部前だね。

 次の目的地ではあったから楽できたね」

「そんなに怒らないでよー。

 行先はここであってるみたいだね。は~~~よかったぁ」

「……は? 

 いやいやいや、何の準備もなく、記憶を読み取り、この人数を、この距離へ問答無用で転送……? 

 規格外過ぎて野放しにするわけにはいかないね!」

 

 いきなり能力を仕掛けるという敵対行為と思われるであろう行動にマチが久しぶりにブチ切れし、シズクは冷静に周囲を見回して場所を判断する。

 

 これまで話していたマチがキレて収集がつかなくなりそうだったので、代わりに話をまとめることにした。

 

 ・出会った時の「まだあったんだ」はサヘルタ合衆国のことではなくビッキーの役目のこと。

 役目が続く限り故郷に帰ることができず、一つの役目が解決すると、次の役目と関連する場所へテレポートされてしまい、最後の役目が完了すると故郷に帰れるという宿命がある。

 俺達が役目に関連している可能性が高いので同行したい。

 

 ・俺達がハンターとして活動しており、賞金首や魔獣の討伐という危険を伴う仕事であることを説明。

 ビッキーも戦闘手段はあるので一緒に戦ってくれる。主な戦闘手段は転送。

 タライを敵の頭上に出したり、巨大建築物を頭上に出したり、敵自体を空高くに転送するらしい。

 何それ恐ろしい。

 

 ・近くにいる人が知っている場所であれば一日10回まで自由にテレポート可能。

 たまに失敗して一度も行ったことがない場所にテレポートすることもある。

 特に寝ぼけていると失敗確率が上昇する。

 対となる『瞬きの手鏡』を使えばビッキーのもとにテレポートで戻ってくることも可能。

 

 ・リオンの紋章については見覚えはないらしいが、ビッキーが元々いた場所では紋章が多々存在した。

 紋章は封印球に閉じ込められているが、紋章師の力を持つものが、人の右手、左手、頭に宿すことで紋章の力を発動できるそうだ。例外はあるが紋章師がいれば取り外すことも可能。

 ビッキーの転送も紋章の力。

 

 ・ビッキー自身がやりたいことはあまりない。

 強いて言えば毎回のように祝勝会のごちそうを食べ損ねるので美味しいものが食べたいそうだ。

 非常食として持ってきていたチョコロボ君をあげると美味しそうに食べたがキルアほどではなかった。チョコロボ党には加入しなさそうだ。

 だがしかしパンダメイドの食事、俺のお菓子、リンの神料理で満足させることを確約しよう。

 

 

 

 ビッキーを仲間に加え、改めて今後について話し合う。

 

 マチとシズクは、セラス湖の遺跡で見た文字を解析できる可能性があるハンターに心当たりがあり、ハンター協会にいる可能性が高いと思い、ちょうどここにくるつもりだったそうだ。

 

 名前はピヨンで言語学者や通訳もやっている古文書ハンターだそうだ。

 そう、会長選挙編で登場したバニーガールのミニスカートをはいた兎っ娘美少女である。

 ついでにハンター協会の幹部にあたる十二支んの一人でもある。

 幹部になるほどであればもう少女じゃないのではないか、と思う人もいるがバニーガールが似合う人がおばさんなわけがないから美少女だと前世から確信していた。確信していたが、実際に美少女であることを確認できて安心できたことは言うまでもない。

 

 役職上はプロハンターでもない俺からすると雲の上の存在ということになるが、マチとシズクはプロハンターの同期として面識を持っていたらしい。特にマチは未熟者達の愚痴に共感して結構仲良くなりホームコードも交換するほどだそうだ。主にブラックリストハンターとして行動するマチとシズクと任務を共にすることはなかったため、今まで出会えなかったことは残念だ……。

 

 

 というわけでマチにピヨンを呼び出してもらい協力を打診すると────

 

「いいよ~~~~~~。

 前に行ったときは文字のサンプルが足りなくて解析できなかったから、サンプルが増えるのは歓迎なのよ~~~~~~」

 あっさり了承がもらえた。

 

 マチとの繋がりもあるのだろうが、未知の言語への探求心が見え隠れしているようだ。神様特典により感情が大体わかってしまうので、まず間違いないだろう。さすがプロハンター、人一倍の探求心が強い姿勢は見習いたいものだ。

 

「もちろん、いつも自慢していたお弁当もお菓子も期待しているのよ~~~~~~」

 

 ……単に遠足気分かもしれない。

 あれ、神様特典もしかして劣化している? 

 なんにせよ、これはお菓子作りの腕で魅了するチャンスだ! 

 

 どういう味が好みなんだろう。

 兎をモチーフになりきっているからやはり人参だろうか。

 となると、シンプルにキャロットケーキかな。

 キルアは野菜嫌いだから、シンプルで持ち運びしやすいマフィンも作っておこうかな。

 マチとシズク経由でも好物をヒアリングしておかねば。

 

 

 

 翌日改めて集合し、ビッキーのテレポートでセラス湖の遺跡までいき、最奥の小部屋までたどり着くと、ピヨンは過去の解析資料と新たな石碑の文字から解析を完了させた。その結果わかったこととして、セラス湖、及びセラス湖の遺跡は、シンダル族(現在ハンター協会でも情報が存在しない)が彼らの居城を守るために設計したもので、台座へ紋章をかざすことで遺跡の絡繰りを操ることができるようだ。

 

 ・すべての台座が下がっている状態

 セラス湖から外部の河への流水が行われることによって水位が下がり、中心にある居城に入ることが可能になる。

 

 ・左右の台座が上がり真ん中の台座が下がっている状態

 外部の河への流水が止まり、セラス湖の水位が急速に上昇し居城が見えなくなる。

 限界まで水位が上昇すると、自動的に真ん中の台座が自動で上がる。

 

 ・すべての台座が上がっている状態

 外部の河への流水は止まったまま地下水脈へ最低限の放水が行われ現在の水位を維持する。

 (今はこの状態)

 

 ・その他の状態

 侵入者と判断され部屋が水で満たされる。

 

「ふぃ~~~~疲れた~~~~~~。

 頭脳労働の後は甘いものが欲しいのよ~~~~~~」

 

 まじめな解析モードから一転、だらけモードになったのかぐでーっとした表情になりつつも、こちらに期待するような上目遣いをしてくるのが可愛かったので、気づいたらイージーチェアとテーブルを取り出し、キャロットケーキとジュースを差し出したりと全力奉仕をしていた。

 リオンから共有している<進化する侍女(グロースナイト)>で成長力を増しながら修行した奉仕力に死角はない……! 

 

 

「それで、これからどうするの~~~~~~?」

「セラス湖の水が放出された際のシミュレーション結果から、おそらく昔使われていたと思われる枯れた河跡が近くに確認できたが、その周りには現在、街は存在しない。そのため放出してもさほど影響はなく、むしろ内陸の水不足に陥ってる村々の助けになることがわかっています。とはいえ、地形を変える以上は国への根回しは必要になるでしょうし、セラス湖の中心にあるだろう居城の保護体制も整える必要があります。居城には──」

「長々語ってんじゃねーよ~~~~~~。

 簡単に言うと~~~~?」

「近日中にセラス湖の水を開放するけど、居城にもシンダル語で刻まれた文字があると思うのでもう少し協力してほしい」

「いいよ~~~~~~」

 

 いいの? 

 とちょっと驚きつつも分担して行動に移す。

 地形に影響が生じる可能性があるサヘルタ合衆国、遺跡保護のノウハウのあるハンター、失われた古代文明の遺跡ということでウイルス対策のハンター、遺跡の所有者になっているハンター協会そのもの、河が出来上がる経路周辺に存在する村々や、比較的近隣にある流星街への根回し、待機してくれるピヨンへのお菓子作り等々、手はいくらあっても足りない。

 そもそも居城の所有権や、探索優先権等、決めなければならないことも多岐にわたる。

 

 もちろん、俺がいろいろと積極的に動いている理由は、行動リストにこっそり混ぜたウイルスハンター募集でハンター協会の女医さんであるサンビカが来てくれれば会える可能性を上げることだ。プロハンターでもないモブだと近寄るのも難しいから、役立つモブを目指している。

 シングル持ちのウイルスハンターだから来てくれる可能性はあるだろう。あるはずだ。

 俺には『黄金るるぶ』様のご加護がついている! 

 

 

 会えませんでした……無念。

 サンビカには会えなかったけど、ピヨンにはお世話という形で交流もできたので一勝一敗だ。

 とりあえずは料理とお菓子作りが上手でサポート力があることを覚えてくれれば、いつか仕事のお誘いがきて交流をより深められるだろう。深められるはずだ。多分。

 

 

 その後、なんやかんやあって、無事にセラス湖の放水にこぎつけることができた。

 所有権等々は迷わず破棄した。お城とかもらっても領地経営やら戦争とかしないので普通に要らない。

 ビッキーが複雑そうな顔をしていたのはきっと気のせいだ。シンダル族だったならすまない。

 

 セラス湖の水位が下がり、そこから現れたのはグリードアイランド城を二回りも大きくしたような居城であった。探索したそうにしているキルアとリンの腕を掴んでおく。むしろ抱きとめておく。柔らかい。

 俺も興味はあるが、ここから先はお役御免だ。欲を出しすぎて藪蛇になったらたまらない。サヘルタ合衆国にはマフィアがごろごろしているヨークシンシティもあるので、ここまで立派なお城だとそっちからの口出しも面倒なことになりそうだ。後々ヨークシンシティ編で行くことになるので、今の時点で揉めるのはまずい。

 

 それよりも、水の行く先を眺めているマチとシズクが気になる。最初は出身地である流星街を気にしているのかなとも思ったが、心配している顔というよりは何かを期待しているようにも思える。出会った時から何かしら目的があることはわかっていたが、それに関係しているのかもしれない。 いつか二人が打ち明けてくれることを信じて今は少しでも彼女達の希望が叶うことを祈るばかりだ。とはいえ、心配であることに変わりはないので、ハンター試験とゾルディック家訪問が終わったらしばらく時間があくこともありそれまでに相談がなければこちらから聞いてみようと思う。

 




ビッキーさんの「まだあったんだ」は幻想水滸伝Ⅴの登場シーンからコピーしていますが、その意図ははっきりしておらず諸説あります。本文に記載した意味であれば、紋章世界と関係がない本作でコピペして使っても意味が通じそうだと思ってそのようにしました。ただ、別にこの設定は伏線とかではないので忘れてもらって大丈夫です。(幻想水滸伝シリーズも新作が出ないので真相は闇の中へ……)


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第23話:閑話-とある転生者





 ◇◇◇◇◇第三の転生者視点

 

 気づくと私は白い世界にいた。

 周りを見ても一面の白で無機質な世界に思える。

 ここはどこなのかな。

 

 直前の記憶を呼び覚まそうとすると、不愉快な記憶を思い出してしまった。

 ブサイクだ、デブだ、と苛められるのは昔からの日常で、痩せようとダイエットを試みてもなぜか実ることもなく、親からも見放されたことでもはや周りへの興味をなくしたので、一人黙々とオタ活したり身体を鍛えることだけに集中していた。とりあえず体格を活かして一人でもお金を得られそうな格闘技の道を進もうと思っていたからだ。

 あの日も……そう、「おデブちゃん相撲しようぜー! その体格なら強いんだろ?」と言いながら突きかかってきたので、反撃して何人か倒したものの人数差はどうにもならず暴行されて、その帰宅時に痛みから足元がふらふらして駅のホームから落ちてしまった結果、頭を思いっきりぶつけてしまい気を失った記憶……。

 

 今更、暴行される程度のことで傷つくことはない。だけど、それ以降の記憶はないので、恐らく線路に落ちて気絶したまま列車に轢かれてしまい、解放されたのだと思う。これでやっとあいつらに関わらないで済むと思えば心も安らいでいく。

 

 そんなことを考えて佇んでいると、いつの間にか筋骨隆々のいかついおじさんが目の前に現れて説明を始めていた。神様? 転生? HUNTER×HUNTER世界? 特典? 記憶保持? 

 

 いつも通り聞き流そうとしていたら、気になるワードがいくつか飛び出してきたので、久しぶりに真剣に聞き入った。欲しい特典を聞かれたので思いついたものを言ってみた。

 

 ・容姿のせいで似たような人生を歩みたくないので、容姿端麗になりたい。

 ・助け合える家族が欲しい。

 ・多人数で苛められても反撃できるように複数相手にも使える最高威力の魔法が欲しい。

 ・ゴンと同じように成長できる才能が欲しい。

 ・経験値を通常の10倍得られるようにして欲しい。

 

 結果、いくつかの特典を貰えた。

 

 ・容姿端麗

  →希望通りだ。

 ・優しい家族

  →辛いことがあっても助け合える家族を得られるそうだ。

 ・太陽の紋章の類似能力

  →私の記憶にある複数相手にも使える最高威力の能力を選んだそう。

   確かに幻想水滸伝Ⅴでは睨むだけで燃やしつくしたり、大陸毎焼き払ったりしていた。

   危険なので10歳からしか使えないと言われた。

 ・経験値10倍

  →これも才能の扱いになるらしい。

   二種類の才能は渡せないらしく後に選んだ方になると言われゴンの才能は貰えず。

   ……詰んだかもしれない。(全体的な才能と一分野特化の才能なら貰えたらしい。なぜ……)

 ・盗難拒否

  →危険な能力を危険な人に奪われないようにするためらしい。

   能力以外にも私の所有物を盗もうとした場合も太陽の紋章が自動発動するらしい。

 

 才能についてはかなりの想定外……。

 私はHUNTER×HUNTERを何度か読んだことがある。こんな能力使えたら、という妄想でどれだけの回数、復讐を遂げたことだろう。

 

 そんな夢溢れるHUNTER×HUNTER世界では才能差がとても激しい。10万人に一人の才能を持つズシが精孔を開くまで3カ月で『纏』を身に着けるまで更に3カ月。1000万人に一人の才能を持つゴン達だと精孔を開くまで一週間程と言われ、無理やり精孔を開かれてからは数分で纏を身につけている。180日と7日の差だ……。経験値が10倍貰えたとしてもどうしようもなく才能面では劣ることがわかってしまう……。

 

 つい呆然としていると、気づいた時には既に転生が始まっていた。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇幼少期

 

 1979年。3歳の時に記憶を取り戻すとゴミ山で暮らしていた。

 HUNTER×HUNTER世界においてゴミ山といえば、何を捨てても許される街『流星街』……? 

 

 優しい家族の特典はどうしたの!? 

 優しい家族からも捨てられるほど私はどうしようもない人間ですか!? 

 神様の特典はその程度なんですか!? 

 

 第二の人生も始まりとともに終わりを告げたのかと思っていると、少しずつ3歳までの記憶がよみがえってきた。2歳ぐらいまでは普通に愛されていたけれど、ある時強盗が入ってきて盗みを働こうとした時に、盗難拒否の特典のせいで太陽の紋章が発動し燃やし尽くした。強盗だけでなく両親も。結果、親戚一同からも化け物を見るような目で見られ、眠っている間に流星街に捨てられていたようだ……。

 

 神様の特典(優しい家族)は神様特典(盗難拒否/太陽の紋章)に勝てなかった。

 一対二ならしょうがないってよくわかんだね、うん。大丈夫、この手の理不尽にはもう慣れてる。そう思おうとするも、子供の体に引きずられてしまっているのか涙が止まらない……。

 

 

「アルー! 

 良かった、ここにいたんだな。家に居ないから心配したよ!」

 

 そう言いながら近寄ってくる青年。

 顔を見ると最近の彼、フェリドとの思い出も蘇ってきたわ。

 そう、私は流星街に捨てられてから少し年上と思われる女の子とともに、フェリドに拾われて育ててもらい、一緒の家で三人で暮らしていたの。

 

 フェリドは私が泣いているのを見て慌てて慰めようとしてくるので、大丈夫、と言って笑顔をいつも通り返した。そう、いつも通り。転生しても手に入らないと思った優しい家族は、もう私の傍にいてくれたの。悲しい涙が止まっても嬉し涙が止まらず余計に心配をかけてしまった。大丈夫、私はあなた達と一緒ならどこでも頑張れる、という想いを抱きつつ笑顔を浮かべてフェリドに抱き着いた。

 

 それにしても、何で幻想水滸伝Ⅴのキャラクターであるフェリド様がHUNTER×HUNTER世界にいるのかしら? 私の推しだから居てくれて嬉しいんだけどね! あぁ神様、転生させてくれてありがとう! 

 

 私の名前も本当は別だったのだけれど、流星街に捨てられて名前を失い、フェリドに出会ったことで、思わず幻想水滸伝Ⅴでフェリドと結婚したアルシュタートの名前を名乗ったことを思い出した。名前の力を借りて結婚してみせるわ……! 

 記憶を取り戻す前だったのに、私の潜在記憶グッジョブよっ! 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇少女期

 

 1986年、私は10歳になった。

 フェリド(義兄)と、パクノダ(義姉)との暮らしは当然豊かとは言えないものの、そこには確かに家族の絆があった。

 

 ある時は「離せー--!」と暴れまわる女の子の襟元を掴んだまま「わっはっはっはっ!」と笑いながらフェリドが拾ってきたわ。フェリドから盗みを働こうとしたので捕まえて保護するために連れてきただけで、体目的で拉致してきたわけではないらしい。良かった、ここでは110番通報がないからどうしようかと思っていたの。今回は勘違いで良かったけど、今後フェリドが犯罪をしないように私の魅力に気付かせないといけないわね。だから今後はもっと積極的に誘惑しちゃいます、これは仕方のないことだから許してね。

 

 流星街では珍しいことではないが、この女の子も保護者になりえる人はおらず、一人で盗みで生計をたてて暮らしているとわかったので「俺が生き方を教えてやる!」とフェリドが宣言し、新しい私の家族が増えた。普段はツンツンしているけれど、困っている時にはなんだかんだ言いながらも手伝ってくれる優しいツンデレ女の子マチです。同じ年齢でした。

 同じ年齢ですが誕生日的に「私がお姉ちゃんよ」とか「知らねー」というやり取りを繰り返した後、呆れたように「わかったわかったアネキって呼べばいいんだろ」と投げ捨てるように言ってくれた。お姉ちゃんと呼ばれたかったのに。

 

 ある時は「…………」と何も語らず虚ろな表情をした女の子を抱えて帰ってきて、今度こそ事案かと心配してしまったわ。どうやら私と同じく元々は外で暮らしていたものの不思議な力を持っていることがばれたことで迫害されて、ついにはここに捨てられたそうなの。何でも奇妙な声で鳴く掃除機をどこからともなく取り出すことができるらしい。なにそれ、ペットとして一人でも寂しさを紛らわせつつもいつでもお掃除できるすごい力じゃない! 私も貸してほしかったけど、彼女の手から離れると消えてしまうらしい、残念。普段はあまりしゃべらないし、しゃべったと思ったら意外な毒舌で心にダメージを与えられたりもするけれど、綺麗好きでなんだかんだこの家族を大事にしている女の子シズクです。2歳年下でした。

 年下なので「私がお姉ちゃんよ」と言ったら「……お姉ちゃん?」と呼んでくれた。嬉しい。

 

 

 パクノダは就寝時や食事以外の時間はフェリドとは別の青年と一緒に居る事が多い。

 パクノダの影響でこの家族全員がその青年クロロと一緒にいる機会が増えている。フェリドはクロロのことを警戒しているようだけれど、マチとシズクは普通に近所のお兄さんとして懐いているように思えるわ。

 私? 私はクロロの裏の顔を見たことで苦手意識を持っているの。欲しいと思ったものは盗んででも手に入れようとする姿勢は流星街では当たり前だと私も思うようになっていたけれど、クロロのように争い殺すことを前提に作戦を立てているように見える姿には慣れることはないし怖いと思っていたわ。

 原作でのクロロがA級賞金首集団の団長であることも知っているしね。

 

 対してフェリドは盗みや殺人は基本的にしない。

 ゴミ山に捨てられる廃棄物からリサイクルできそうなものを探して売ったり、たまに外の世界からくる護衛の依頼で食い扶持を稼いでいる。周りと友好な交流関係を築いているフェリドだからこそ、流星街から出た人達との交流も継続でき、こうした生活を送れるのだと思う。私は流星街であってもそういう姿勢を維持できるフェリドだからこそ惹かれているの。フェリド一人であれば流星街を出た方が幸せになれると思う。私が、私達がいることでここに縛られていると、本人は決して認めないけれど、そうなのだろうと思ってしまう。

 

 だからこそ、私も力になりたい。フェリドの足手まといになりたくないし支えられるようになりたい。そう思って日々修行を続けている。決して、修行中一緒にいられるからとか、褒められたいからとか、ご褒美になでなでしてほしいからとか、汗だくフェリドの匂いや見た目が素晴らしいとか、そんなよこしまな想いはまったくないのです。勘違いしないでほしいものですね。たまにマチとシズクが変な目で見てくる気がしますがきっと気のせいです。

 

 フェリドが身を守るために力は必要だからと、私、マチ、シズクにも指導してくれているので、念能力だって身につけることができた。習得する過程の中で、残念ながらマチやシズクほどの才能がないことを見せつけられてしまったけれど、そこは愛と努力と姉の意地でなんとかカバーして威厳を保っている。保ててる。多分。もちろん料理だって一番私が上手い。これこそ愛の力。

 

 

 そうして戦闘力を鍛えつつも家族四人で仲良く暮らしていたある日、パクノダが寝ている間に襲われるという事件があったの。フェリドが護衛で日を跨いで出かけている間に襲撃するという計画的な犯行で、事前に気づいて私とマチとシズクで協力して戦わなければ危なかったほどの実力者。事前に気づくことができたのは、マチが鳴子のように家の周りに張り巡らせていた念糸(『隠』状態)のおかげだ。女性ばかりであることと、元より危険な流星街ということもあって警戒を怠らないように備えていた結果。頼りになるのがお姉ちゃん(私)ではなくマチの方だということが明らかになってしまったけど、もう気にしないわ。

 

 でも……

 もしもマチがまだ念糸を覚えていなかったら? 

 もしも誰かが出かけていて戦力が少なかったら? 

 もしも襲撃者が念糸に気づいて回避し、私たちが気づかないまま接近を許していたら? 

 もしも襲撃者がロケットランチャーや爆弾を持ってきていたら? 

 もしも襲撃者が複数いたら? 

 

 パクノダが殺されていた可能性が高い。私達も全滅していた可能性もある。

 自身の力不足を嘆くとともに、襲撃者に対しての怒りが込み上げてくる。

 この世に誕生してここまでの怒りを覚えたのは初めてだった。

 姉として怒りを抑えて冷静に対策を考えないといけないことはわかっている。

 でもできない。

 

 私が怒りに打ち震える中、パクノダが念能力を使って襲撃者の記憶を読み取ると、流星街から少し離れたところにある名もなき里で育てられた『幽世の門』という暗殺者集団の一員で、クロロが里から盗んだ秘伝のテープに対する報復のため、最も仲が良いと思われるパクノダを見せしめで殺す決定をしたことがわかった。パクノダを殺した後も仲の良いものを順番に殺していき、最後にクロロを殺すつもりだったそうだ。

 

 元凶がクロロだったことがわかり、パクノダはしょうがないわねという苦笑いの表情を見せ、マチとシズクは複雑そうな顔をしていた。

 私はそんなことよりも組織だった報復であれば今後も襲撃が続く可能性が高いことと、パクノダ以外にも「仲の良い」に該当するかもしれないうちの家族全員に危険があるということで、より怒りが高まり何も考えられなくなって──────

 

 

 

 ◇◇◇◇◇マチ視点

 

「ふ……ふふふふ…………」

「アネキ……?」

 

 家族が襲撃され、今後も巻き添えで襲撃され続ける可能性が高いという厄介な状態になったにもかかわらず、突然笑い出したアネキに、かつてない威圧を感じながらも怪訝な顔で問いかける。

 

「ああ……そうでした。

 わらわはなんと愚かだったのでしょう……。

 耐える必要などなかったのに。

 わらわが神になればよいのです。

 わらわは常に正しく! そして神にふさわしい力があるのだから!」

 

「「「……」」」

 

 アネキが壊れた? 

 そんな気がする発言ではあったが、私の勘はすぐに逃げろと言っている。

 私の勘が、ここは、アネキの前は、居てはならない場所だと告げている。

 

 勘を裏付けるように、アネキが発言を重ねるごとに、アネキの額に浮き出てきた紋章から黄色に近い白色の光が点滅のたびに広がり続け、光が徐々に強くなっていく。『凝』で見ると、アネキ自身からオーラが出て額にどんどん集中していることと、アネキから放出できるオーラ量を不自然なほどに上回っていることがわかる。

 明らかな異常事態ではあるものの、アネキ自身に危険はなさそうだと考え、一旦シズクとパクを連れ離れて様子を見守ることにした。

 

 

「ふふふふ……まずは……わらわを、大事な我が家族を愚弄してくれた『幽世の門』とやらを生み出している里に裁きを下さねばなりませんね! 

 わらわに牙をむく悪しき民よ! 太陽の裁きを受けるがいい!! 

 あーはっはっははははは!」

 

 言い放つと同時に額の紋章の前にオーラが凝縮された球体が生じて、更に少しずつ大きくなっていく。

 やばい! やばいやばいっ! あれは絶対やばいやつ! 

 この地を攻撃するつもりじゃないだろうが近くにいると熱で焼け死ぬ可能性もある! 

 この程度の距離じゃ足りない! もっと離れないと! 

 わき目もふらず一目散に二人を連れて逃げる。

 

 暫く走った後、少しずつ周りの温度がましになったことを確認し、後ろを振り返ると空高くに、太陽が浮かんでいた。もちろん今は夜だ。つまりあれはアネキが生み出した……疑似太陽? 

 アネキの顕在オーラ量どころか、潜在オーラ量全てを費やしてもあれだけのものを創り出すことができるわけがない……一体どんな制約・誓約を設定したらあんなものができるのよ……。

 アネキ……死なないで……! 生きてさえいたらアタシ達がなんとかしてやるから……! 

 

 そんなことを考えていると、疑似太陽は『幽世の門』が生まれた里があると聞いていた地域に向かって堕ち、噂に聞く核爆弾どころではない轟音、熱波、黒煙が遠く離れたここからでもわかるほどの惨状を生み出した……。 

 

 ────はっ!? そんなことよりもアネキは無事なのっ!? 

 少しの思考停止の後、急いで元の場所に駆け戻ると、倒れこんでいるものの息もしているし怪我もないアネキを発見し、安堵の溜息をついた。

 

 まったく、心配かけやがって。色ボケアネキだと思ってたのにまさかこんな……。

 なんにせよ、もうアネキを怒らせないようにしようと固く誓うマチであった。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇家族会議

 

 目を覚ました私は、泣きつきながら「このバカッ!」と叫び、頭をはたいてくるマチに驚いてしまった。その声を聴いて駆けつけてきたフェリド、パクノダ、シズクも私の姿を見て安心したように声をかけてくる。話を聞くと、あの日から一週間も気を失っていたらしい……。心配かけてごめんなさい……。

 

 その後の経過詳細を改めて聞くと、『幽世の門』を生んだ里は周辺一帯の村も含めて焼野原になっているそうだ。草木一本残らず荒涼とした更地となり、雨が降っても大地がすぐに吸収してしまい水たまりもできない不毛の地となっているそう。

 幸い私が犯人であることはほとんどの人は気づいておらず、家族を狙う暗殺者達もいなくなったということで結果として私達にはいい形で事件は収束している。

 

 だからといって私は素直に喜ぶことができないでいた。

 正直なところ、あの時、私はまともに思考できない状態だったの。

 つまり感情に翻弄されて、その後の影響も考えないままこの惨状を生み出してしまったということ。

 里の中に『幽世の門』と関係無い人々がいたかもしれないし周辺にあった村にも罪はないというのに、私が全て壊して殺してしまったという事実が私の心を苦しめる……。

 それに能力発動時、近くにいた家族も危なかった。近くにいるだけで焼き殺せるだけの熱量を生み出していたので、マチが皆を連れて離れなかったら私が家族を殺していた可能性すらある……。

 

 

「過ぎたことはどうしようもない! 

 幸い俺達は無事だった。次に起こさないためにどうすればいいか考えよう!」

「そうね。

 まず、あの疑似太陽はオーラの流れからもアネキの念能力で造っていたと思うわ。

 アネキはあの能力について何かわからない?」

 

 沈み込んだ私を見かねたのかフェリドとマチが話題を変えてくれた。

 あの能力……多分、神様特典の『太陽の紋章の類似能力』だと思う。

 念能力だというのならメモリに刻まれているはずだし、さすがに神様も詳細不明の能力を渡して「はい、さよなら」というような性格では……なかったと信じたい。集中して自身に問いかけてみる。いろいろ試行錯誤してみた結果、紋章にオーラを集中しているとなんとなく効果が脳裏に浮かんできた。

 

 ─────────────────────────────────────────

<太陽の紋章(ジャッジメント・サン):特質系・放出系・変化系>

 発動者の怒りが一定を超えた場合、または生命の危機で自動的に発動する。

 発動中は別人格に切り替わり、怒りの対象を十分に焼きつくせる疑似太陽をオーラで形成し、対象に向かって放つ。

 眷属となる二つの紋章が近くにある状態で発動させると効果が変動する。

 

 ▽制約

 別人格になると眷属となる紋章が無い場合は意識を失うまで破壊衝動が止められない。

 ▽誓約

 他の念能力を生成することはできなくなる。

 疑似太陽生成にオーラが不足した場合は不足分の寿命を消費する。

 疑似太陽の規模に応じて寿命を消費する。

 疑似太陽の規模に応じた期間、意識を失う。

  ─────────────────────────────────────────

 

 

「……え……? ええええぇぇぇ……詰んだ……」

「お、おい……アル? アル!?」

 

 ありえないほどの制約と誓約に絶望を感じてしまう……。

 使うたびに寿命を失う? そんな念能力はさすがに使いたくない……。

 でも、他の念能力を生成することもできない……。

 眷属の紋章なんて覚えてないし、HUNTER×HUNTER世界に存在しているとも限らない。

 特質系だからオーラによる肉体強化も苦手になるというのに、他に念能力を生成できないなんてもう無理よ……。

 制約と誓約が厳しいからこそ、一人のオーラでは絶対に無理とも思えるような威力の疑似太陽を生成できたのだろうけど、そこまでは望んでなかったわ……。

 もしかして最高威力なんて曖昧で高望みしすぎた特典を願ったことによる罰だというのかしら……。 

 

 今回の『幽世の門』の里を壊滅させるのにどれだけの寿命を消費したの……? 

 これからも怒りを感じるたびに発動して更に寿命を消費しないといけないの……? 

 夫婦喧嘩や親子喧嘩をすると相手を殺してしまうの……?

 ねえ、私はあと何年生きられるの……? 

 ねえ、私はあと何年大好きな家族と生きられるの……? 

 ねえ、私、そんなに悪いこと……したのかな……? 

 ねえ、私はあと何回ヒトを殺せばいいの? 紋章は私に何も言ってはくれない……。

 ねえ…………暴走に巻き込んでしまった村の人たち……ごめん……ごめんなさい……。

 

 

 

 あれ、いや、待って。

 優しいフェリドなら、こんな不憫な娘を見捨てたりしないわよね。

 幻想水滸伝Ⅴでも、太陽の紋章を宿したアルシュタートを嫁にしたままサポートし続けたぐらいだ。

 むしろフェリド様に終身介護してもらうチャンスかしら? 

 そもそも私は別に最強願望なんてないし、転生特典の時点で諦めているから強さはいらなくない? 

 フェリド様の足手まといになるのはゴメンって感じだけど、私のせいじゃないし? 

 

 そう考えるとだいぶ気が楽になってきたわ。いろいろ考えこんでいると、どうやら皆の会話では私のこの能力をなんとかするためにいろいろと動こうという話になっていたみたい。……一人だけ心が汚くてごめんね。そんな優しい家族がやっぱり私は大好きです! 

 

 

 

 なお、その後クロロに目をつけられて能力を狙われることになり、不幸だーー-! と叫ぶのは分かり切った話だ。助けてフェリえもん!

 



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第24話:閑話-神々

「今回の転生者はとても良い子だったわ!」

「今回の転生者には幸せになってほしいかな~」

「今回の転生者は……原作にも関われないかもしれんな」

 

 担当する転生者を見送った神々が合流し、今回紡がれる世界に対する期待値を話し合おうとしたものの、出だしから3柱の神々の意見は見事に割れた。

 

 金髪碧眼の美少女がハヤテを転生させた創造神。

 ピンク髪の美女がリンを転生させた魔法神。

 筋骨隆々のいかついおっさんがアルシュタートを転生させた武神。

 

 異世界の書物をも閲覧する権限を持つ創造神が見事に地球のオタク文化にはまったことから全ては始まった。転生物が流行っている? よろしい、ならば神がその願いを叶えてあげましょう! 

 

 初めは自身が管理するいわゆる異世界ファンタジーへの勇者転生を楽しみ、次に悪役令嬢転生を楽しみ、そのあとは漫画やアニメを再現した模倣世界への憑依転生を経て、オリ主転生といくつもの物語を堪能している。自身が選んだ転生者だけだとワンパターンに感じてきたのでアクセントをつけるために、別の神様も誘い、複数の転生者達が織りなす物語を楽しむことが最近の個人的流行になっている。

 

 

「あら、武神の担当は残念な子だったのね」

 

「うむ、身の丈に合わぬ過ぎた望みを言ってきたから、現実的ではない制限を付けた状態で付与してやったわ。不幸を乗り越え一人で黙々と肉体を鍛えていたから期待しておったのに、よりにもよって武神であるこの私に魔法を望むとは、敵対行為といっても過言ではあるまい」

 

「過言に決まってるじゃない! 

 私達は何を司るとは名乗っていないし、転生者が知りえないことでマイナス補正を与えるなんてつまらないじゃない……。まったくどうしようかしら……。

 ──ーってこの能力やばいわ! 

 確かにこの能力を特典1枠で貰うならこれぐらいの制限は必要になるわね……」

 

「フン、ならば問題あるまい?」

 

「問題あるわよ! 

 こんな制限つき能力のどこが特典なのよ! 

 神としての威厳が失われるわよ! 

 大体、他作品の能力は消費枠3倍とかのルールも完全無視してるじゃない!」

 

 

 武神のあまりの適当さ加減に創造神が怒っている間、魔法神は今回の転生者に関する纏め情報を見ながら他に問題がないか確認をしていた。

 

「……あら、創造神様の担当した子もおかしくないかな~?」

「え? ……そんなことはないはず……だけど?」

 

 基本的に間違ったことは言わないはずの魔法神に指摘されたことで、大丈夫だったわよね? と心配になってしまった創造神は自信なさげに返す。

 

「十数回前の転生の時、特典数が少ない人が続いてるから、次に特典10個獲得できる人が現れたらボーナスでもう一つプレゼントするというルールを追加されたでしょ~?」

 

「……あ! 

 そんなこともあったわね……ごめんハヤテ……」

 

 やらかしたー! といわんばかりに額をぽんと叩いて転生させたお気に入りのハヤテに謝罪する。

 神聖なる美少女の神々しさが台無しではあるがそれもまた似合う美少女だ。

 

「ふんっ! 

 我に言うだけ言っておいて、お主もミスしておるではないか!」

 

「何よっ! 

 いつもの通常ルールを忘れるのと、気まぐれで追加した特別ルールを忘れるのを一緒にしないでくれるかしら!」

 

「我からすれば全てお主が気まぐれで設定したルールである!」

 

 

 魔法神は、いがみ合う創造神と武神を笑顔で眺めつつ、二つのミスをどのように帳尻合わせしようかしらぁと考え込み、まずは太陽の紋章の元になった幻想水滸伝Ⅴの設定を確認してみることにした。

 

 原作でも太陽の紋章を宿した人に別人格が宿り破壊衝動を抑えられなくなることは同じだったが、黎明の紋章と黄昏の紋章を揃えることで抑えることも可能であることがわかった。太陽の紋章は破壊と再生を司っており、基本的には破壊の力をふるうことが多いものの、この眷属となる二つの紋章があれば動植物に活力を与えるような繊細な制御もできるようになるらしい。

 ただし、当然この世には紋章は存在しないのでこのままではそんなことはできない。逆に考えれば、二つの紋章さえ存在すれば改善されるということになる。その際に威力もこっそり抑える感じにさせてもらえばいいわね。

 

 創造神様の担当している転生者に紋章を与えれば、特典不足も解消できる。

 とはいえ、二つの紋章を与えることはさすがに過剰なので、もう一つは出会う可能性の高い誰かにあげるしかないかなぁ。

 こんなところで大丈夫かしらぁと考えを纏めた魔法神は、未だに罵り合っている創造神様と武神を止めて話して聞かせることにする。

 

 しかし、筋骨隆々のいかついおじさん(武神)と、金髪碧眼の美少女(創造神)が罵りあう姿はもはや事案である。人間界であれば通報まったなしであることは疑いない。

 

 

「──────という感じでどうかしらぁ」

 

「うん、いいんじゃないかしら。

 転生者達に協力を強いるような特典は好ましくはないのだけれど、今回はしょうがないわね」

 

「我も構わぬ。魔法神よ、ありがたい」

 

「でも出会うまでが心配ね。

 下手したら特典の家族ですら失う可能性がありそうに思えるわ……。

 ここまでしたなら、せっかくだしその幻想水滸伝Ⅴのキャラを何人か記憶無しで持ってくるのもいいわね。私の転生者に黎明の紋章を与えるつもりだから、黄昏の紋章を宿しているリオン、その親友ミアキスと……最も太陽の紋章の持ち主と長く付き合えたフェリドでいいかな」

 

「……お主、やけになっておらんか?」

 

「……転生者以外の異物を混ぜたくないと仰っていた創造神様がそれでよいのなら、私には異論はありませんわぁ……」

 

 魔法神の提案に了承したものの更なる考えをドヤ顔で披露する創造神に、武神と魔法神が呆れたように告げる。もちろん、他作品の能力は消費枠3倍というルールを考えたのも創造神だ。ルールを考えた当時は、作品の世界観を大事にしたい、壊したくない、原作者をリスペクトしたいという主張をしていたわけだが、今回のこの提案は当時の主張と真逆の提案になる。

 

 武神の適当な行動から始まった話ではあるが、仮にも創造神の名を冠するものがそのような主張をころころ変えていいと思っているのだろうか? 

 

 もちろん問題ない。

 堅苦しいルールに縛られて有事の際ににっちもさっちも行かなくなるのは人間界の国だけで十分だ。

 新しいものを創造する側は何事も自由であることが重要。何者にも縛られない自由な発想こそがより素晴らしいものを生み出すための源になるのだろう。

 転生者達が今回の提案により面白い人生を歩んでくれるのであれば、神々としても喜ばしいことだ。

 

 そう自らを無理やりにも納得させつつ、どうせ既存ルールに飽きてきただけなんだろうなぁと呆れてしまう武神と魔法神であった。

 

 

「はいはい、じゃあ決定ね! 

 リオンの魂にはもう黄昏の紋章が紐づいているから生まれつきにするしかないとして、ハヤテに黎明の紋章を授けるのは太陽の紋章か黄昏の紋章の発動に居合わせてからにしようかしらね。自分で身に着ける念能力が紋章に引きずられると面白くなくなるかもしれないわよね。その時にメモリが既に上限まで使われているかもしれないからメモリ消費は無にしちゃいましょう! 

 ここまでやったんだからちゃんと楽しませてよね、ハヤテっ!」

 

「うふふふふ、お兄ちゃん大好きなうちのリンちゃんも一緒に行動するだろうから楽しみねぇ~」

 

「……やれやれ、じゃな……」

 




無理やり幻想水滸伝Ⅴを入れた言い訳会です。神様のせいにしました。
ちなみに作者はそこまで幻想水滸伝Ⅴが大好きというわけではありません。
最初リオンとミアキス枠はオリキャラの双子で考えていましたが、半年もの製作期間中に幻想水滸伝Ⅳ、Ⅴに手を出してしまい、キャラ設定考えるの面倒だからパクるか、とじゃあもうこのキャラとクロスオーバーでいいや、と適当に考えた産物です。クロスオーバーの方がこのキャラどういう喋り方だっけとか調べる方が面倒だったんじゃねということに最近気づいて後悔している今日この頃です。(幻想水滸伝ファンの方、ごめん)
なお、ビッキーはⅤではあまり使ってませんが、Ⅳでは美少女攻撃という協力攻撃が強力だったので愛用していました。好きなキャラグラはⅣがミレイ、Ⅴがフェイレンですが、原作で登場シーンが少なすぎてキャラが全くわからないので諦めました。シリーズごとに108人の仲間がいるので好みのキャラとも出会える可能性が高いのが魅力的ですよね。そして108人もいるせいで好みのキャラに大した出番がなくて嘆くところまでがワンセットです。


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第25話:原作開始前キャラ紹介1

HUNTER×HUNTERキャラではない4名については、
スマホアプリ「ピツメーカー」を利用してキャラクター絵を作成しています。
なお、ピツメーカーでは以下の案内があることを確認しており、ウォーターマーク削除は購入していますが、何か問題がありそうならご指摘ください。
------------------------------
著作権の案内
ピツメーカーの全シリーズはウォーターマーク削除及び商品を購入した場合、自由に使えることができます。
使用範囲:創作企画、ユーチューブ、オリキャラ、ストリーミングなど、全ての分野で
使用可能使用不可の範囲:有料販売及びアプリの製作は不可
------------------------------
クロロに全然似てないじゃんという突っ込みはあると思いますが、さすがにアプリにも限界が……。いっそPSO2でならもっと似せて作れる気はしましたが著作権大丈夫なのかよくわからなかったのでやめました。
手書きはもっと無理なので最初から選択肢より除外しています。




■主人公:ハヤテ(オリキャラ)

出身 :ジャポンのとある武術道場の三男

家族 :両親存命、兄が2人

年齢 :原作主人公の4歳年上

容姿 :元はクロロ似(原作11巻41P)だが犯罪者にそっくりだと困るため

    髪は伸ばしてポニーテールに纏めている

一人称:俺

喋り方:優しめ

系統 :特質系

能力 :

<愛の修行場(ラブトレ)>

 能力向上量が強化され、肉体及びオーラ負荷が上昇し、時間経過が緩い空間を構築する。今世こそ女性を守りたいという強い想いが込められている。

 

<俺達は運命共同体(ディスティニーシェアー)>

 お互いの得意系統を共有し、念能力も一つだけ(変更は可)コピーする。

 ├リオン :<進化する侍女(グロースナイト)>

 │     or<メイドの抱擁(エンブレイスメイド)>

 ├ミアキス:<風使い(フリーダムウィング)>

 ├マチ  :<念糸(ネンシ)>

 ├シズク :<コテっちゃん>

 ├ビスケ :<魔法美容師(まじかるエステ)>

 ├ミト  :<空想の家(ファンシーハウス)>

 ├リン  :未コピー

 └キルア :未コピー

 

<俺は全員を愛する(ラブアンドピース)>

 好きな異性の数×2の分身体を生成し、特定タイミングで経験や記憶を共有する。

 分身体は異性と触れ合うことで徐々にオーラも回復できる。

 ├ 現在50体の分身体召喚可能

 ├(恋人)リオン、ミアキス、マチ、シズク、ビスケ、ミト、リン、キルア

 ├(恋人)ドジっ子青髪美少女、メスガキ美少女、短髪美少女、お姫様

 ├(将来に期待)コン、ポンズ、ピヨン、コムギ、ビッキー

 ├(片思い)イータ、エレナ、大天使、クッキィちゃん

 └(片思い)金粉少女、睡眠少女、発香少女、手乗り人魚

 

<黎明の紋章(ドーン):特質系・放出系>

 オーラを周囲に放出し状態異常(毒・マヒ・睡眠)を回復する。低確率で老ける。

 

主な技術:

 縮地(初動から最速で移動する技術)

 暗歩(無音歩行する暗殺術)

 肢曲(暗歩を応用し残像を生じさせ幻惑させる暗殺術)

 鋭指(指先をナイフよりも鋭利に肉体操作する暗殺術)

 蛇活(両腕をムチのようにしならせて幻惑させる暗殺術)

 手刀(気絶するぎりぎりの手加減を極めただけの手刀)

 虎咬拳(両手で虎の牙や爪を模して戦う拳法)

 居合流:飛剣(斬撃とともにオーラを飛ばし攻撃する剣術)

 居合流:一閃(流で必要なタイミングで必要な箇所をオーラで強化して放つ剣術)

 居合流:無拍子(予備動作無で抜き斬り納刀し抜いたことすら気づかせない剣術)

 属性変化:雷、火、水、毒

 

神様特典

・キルアと同レベルの才能

・完全記憶能力

・家柄良

・相手の感情がなんとなくわかる

・人脈運向上

・豪運向上

・直感力向上

・癒し系男子(撫でている異性の回復力向上)

・並列思考能力

・愛に関する念能力のメモリ消費が半減し習熟度も上昇

・黎明の紋章

 

紹介 :

前世から、容姿、学力、武術、家事、優しさをそれなりのスペックで所持していたが、ハーレム願望を隠さなかったこと、目移りが激しいこと、自己研鑽の時間で友人と遊ぶ時間をとれていなかったこと、草食系ゆえに自分から告白できなかったことから恋人は一人もできず、溢れるハーレム願望が二次元へ侵食し多くの美少女を嫁と言い出し余計にモテなくなったまま、25歳の時にコンビニ強盗から中学生の美少女(リンの前世)をかばって死亡し、転生した。

 

転生後は一夫多妻制に理解がある世界で、堂々と撫でることができる幼少期に癒し系男子特典により居心地が良い男の子としてのポジションを確立し、家事力、成長力強化、回復力効果で多くの嫁を迎えることができている。ただし、成長するにつれ、撫でる機会が失われたことと生来の草食系性格からあまり嫁は増えなくなっている。

戦闘面では、打刀での居合術を最も好んで使用している。全力疾走中でも最速の居合を放ち、かつ『周』と『流』を最適に使いこなせるレベル。また、通常の剣術や暗殺術、虎咬拳も分身体を用いて高い次元で使いこなせるよう修行を重ねている。

 

なお、並列思考能力でマルチタスクは得意だが、素の思考力が高くなってるわけではないので、いろいろと勘違いしていたり、視野狭窄に陥ったりしている。コムギとの修行で思考力を磨いているため、将来的には予知のごとき先見を可能になるかもしれない。

また、かつて嫁にしていたこともあり、原作美少女キャラに会うともれなく惚れていく。

 

{IMG98892}

 

 

 

■ヒロイン:リオン(幻想水滸伝Ⅴキャラ)

出身 :幽世の門の隠れ里

家族 :孤児

年齢 :ハヤテの3歳年上

容姿 :黒髪のお団子ヘアで動きやすい中華風の服装

一人称:私

喋り方:「~の」という語尾をよく使う。誰にでも丁寧過ぎて堅い(語尾除く)

系統 :強化系

能力 :

<メイドの抱擁(エンブレイスメイド)>

 抱きしめた対象者と発動者の体力・精神力・オーラの回復力を強化する。

 結果として休めば治るような怪我や軽い病気にも効果がある。

<進化する侍女(グロースナイト)>

 対象者へ尽くすために必要な能力の成長力を強化する。

<黄昏の紋章(トワイライト)>

 オーラを周囲に放出し眠らせる。低確率で即死させる。

 

紹介 :

ハヤテ一家が他大陸の道場破りに行った帰りに雨に打たれているところを発見され、保護された少女。自身を見失い茫然としている中、話しかけて友達になってくれたハヤテに感謝しており、恩を返したいと考えている。基本的にハヤテ至上主義で習得した念能力も尽くすためのものになっている。また、ハヤテに撫でてもらうことが大好きで褒められているときは自然と頭を差し出してくる。語尾もハヤテから「~の」にするよう幼い頃から言われたので癖づいている。

7歳で保護される前から、暗殺術や念操作を習得させられていたため、ハヤテよりも経験は長い。ただし暗殺術を使う事には抵抗を感じたため、ハヤテ一家に保護されてからは正々堂々と戦う意思表明のため長巻を主武器として力重視の戦い方を用いる。ハヤテがカッコイイと気に入っていることやキルアも使用することから暗殺術への抵抗も薄れ、場面により使い分けて戦うようになっていく。

 

幻想水滸伝Ⅴの名前と武器、黄昏の紋章を借用しています。

語尾は独自ですが、台詞も時々借用させてもらっています。

 

{IMG98893}

 

 

 

■ヒロイン:ミアキス(幻想水滸伝Ⅴキャラ)

出身 :パドキア共和国

家族 :武術道場主の両親が存命だが不仲

年齢 :ハヤテの5歳年上

容姿 :茶髪ショートで後ろ髪だけ軽く纏めており、服は緩い感じ

一人称:私

喋り方:「ですかぁ/~~」のように伸ばすことが多い。丁寧語だけどからかい好き

系統 :操作系

能力 :

<秘める想いは溢れる(ブレインインダクション):操作系>

 自身、或いは手を握った対象者の思考を誘導する。

<風使い(ウィングスティグマ):操作系・放出系>

 発動者のオーラを混ぜ込んだ空気を意のままに操ることができる。

 

紹介 :

家族が営む道場では女性だからという理由で習うことも許されないことに不満を抱き、家族に内緒で修行し独力で高い実力を身に着けた天才だが、それによりさらに不仲となった。

道場破りにきて自分を連れ出してくれたハヤテに感謝をしている。それもありハヤテをとても可愛がっており甘やかすこともあるが、リオンを撫でていると「しょうがないなぁ」と言いながら自分も頭を差し出してきたりと逆に甘えてくるところもある。

10歳でハヤテの家に居候することになるまで、実家の武術道場の訓練を参考にしていただけあって正統派剣術の使い手としては仲間内でも随一。念能力の風による速さと小太刀二刀流による手数重視の戦い方をする。

 

幻想水滸伝Ⅴの名前と武器を借用しています。

喋り方もわりと近い感じにしているつもりですが、まだ謎な発言は真似できていない。

 

{IMG98894}

 

 

 

■ヒロイン:リン=フリークス(オリキャラ・転生者)

出身 :くじら島

家族 :父ジン 母不明(育ての親ミト) 双子の兄コン

年齢 :ハヤテの4歳年下

容姿 :濃い目の茶髪ロングで前髪により左眼が隠れている

系統 :放出系

一人称:私

喋り方:「……」がよく入る。物静か

能力:

 未登場

 

神様特典

・ハヤテと10歳までには必ず会える。

・原作主要キャラの家族

・原作キャラ一部女体化

・ゴンと同レベルの才能

・料理の才能だけ更に向上

・豪運

・保護欲向上

・空間認識能力向上

・放出系に関する念能力のメモリ消費半減

 

紹介 :

前世からハヤテと面識があり、転生時はハヤテに謝りたいとだけ考えていた女の子。

とても内気で、前世でも何度か親切にしてくれたハヤテを慕っていたが一度も話しかけることができなかった事を後悔している。その分、現世ではできるだけハヤテと共にありたいと願って積極的に行動している。

神様特典の『保護欲向上』のおかげか周りが父親以外はとても優しくしてくれて、運動神経も向上しているので、無表情だがとてもこの世を楽しんでいる。

自分の気持ちを喋ることには慣れていないので会話時には「……」が入ることが多い。

原作知識がないため、6歳でハヤテと出会うまでは特に戦闘訓練はしておらず念も習得していなかったこともあり、戦闘力は仲間内では一番低く(コン、ミト、ポンズよりは上)、サブマシンガン等の銃器を併用し中長距離で戦う。(前世では10歳という若さで銃撃により殺されたが、トラウマにはならず、むしろ強い武器としての印象が強く残っている)

 

{IMG98895}

 

 

 

■ヒロイン:ミト=フリークス(原作キャラ)

出身 :くじら島

家族 :祖母、子供コンとリン

年齢 :ハヤテの10歳年上

容姿 :茶髪オールバック

一人称:あたし

喋り方:強気。怒り口調の中にも優しさが垣間見える

系統 :具現化系

能力 :

<空想の家(ファンシーハウス):具現化系、特質系>

 理想の住居として必要だと考えるモノを取り込むことができる特別な念空間を構築する。

 必要だと考えていれば戦闘道具や念獣含めわりとなんでも取り込むことができる。

 二か所に入り口を設置することで遠距離転移すら可能になるほどのチートで、家族への愛が天元突破しているミトがその想いを限りなく込めたからこそ実現できた能力。

 

紹介 :

コンとリンの父親であるジンの従妹。

祖母(コンとリンの曾祖母)と子供二人で暮らしていたため、男性との出会いに恵まれなかった。比較対象がジンと荒々しい船乗りしかいなかったこともあり、一緒に居てくれる優しいハヤテに惹かれていった。

赤ん坊二人を島において戻っても来ないジンを殴るためだけに中級ハンタークラスのオーラ量となっているが戦闘技術はそれほど鍛えていない。

 

コンとリンの幸せだけを考えて開発した<空想の家>ではあるが、より生活を充実させるために、ハヤテの分身体複数に高級魚や家畜を収集させたり、『メイドパンダ』や『7人の働く小人』を複数取り込んで確保した人材を用いた農業を始める等、強かにスローライフ人生を極めつつある。

 

 



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第26話:原作開始前キャラ紹介2

■ヒロイン:マチ=コマチネ(原作キャラ)

出身 :流星街

家族 :孤児

年齢 :ハヤテの7歳年上

容姿 :ピンク色の髪をポニーテールに纏めた釣り目でくノ一みたいな着物

一人称:アタシ

喋り方:姐御肌

系統 :変化系

能力 :

<念糸(ネンシ):変化系>

 オーラを糸状に変化させる。

 

紹介 :

ハヤテ、リオン、ミアキスのサバイバル修行中に出会い、三人がシングルハンターになりえる才能であると判断し、ウィンウィンな取引で師匠の立場に収まった。

アルシュタート事件後、義姉であるアルシュタートの呪いのような念能力による制約を何とかする手段を探すためにプロハンターになり、いざという時の依頼料としてお金を稼ぎ、実力を高め功績を積み重ねることで人脈を広げたりと、気を休める暇もなかったがハヤテの癒し系男子効果により久しぶりにリラックスしそれ以外にも目を向けるようになった。

 

原作登場キャラだが、ハヤテの<愛の修行場(ラブトレ)>等の併用や、修行時間の差により、筋力、オーラ量、戦闘技術のいずれもが大きく増加している。戦闘方法には変化がない。

幻影旅団には加入していない。

 

 

 

■ヒロイン:シズク=ムラサキ(原作キャラ)

出身 :流星街

家族 :孤児

年齢 :ハヤテの5歳年上

容姿 :黒髪ボブで眼鏡をかけてセーターにジーパンを着用

一人称:私

喋り方:緊張感や容赦がない発言が多い天然系

系統 :具現化系

能力 :

<デメちゃん:具現化系>

 生物と念能力以外であればなんでも吸い込める掃除機を具現化する。

<コテっちゃん:具現化系・特質系>

 名刀を具現化し、『周』で込めたオーラの分だけ他者のオーラをも斬れるようになる。

 

紹介 :

マチと同じ目的で行動している。

当時は比較的幼かったことと、戦闘用の念能力ではないことから基本的にマチに同行していることが多く、今でも単独で行動することは少ない。負けず嫌いな一面もあり、初めての出会いでミアキスに負けたことを気にして、同じ刀術を鍛え始めている。

幼少期に飢えて過ごしていたため食への拘りは強く、特にハヤテの作る料理、お菓子に目がない。<デメちゃん>が目覚めたのもその食への強い渇望ゆえである(捏造)。幼いころに流星街へと取り残され一人ぼっちになったことがトラウマとなり、今の居場所を失わないように仲間内でのルールは絶対順守している。

 

原作登場キャラだが、ハヤテの<愛の修行場(ラブトレ)>等の併用や、修行時間の差により、筋力、オーラ量、戦闘技術のいずれもが大きく増加している。戦闘方法は刀を使用するようになった。

幻影旅団には加入していない。

 

 

 

■ヒロイン:ビスケット=クルーガー(原作キャラ)

出身 :??

家族 :??

年齢 :永遠の20歳

容姿 :金髪ツインテール

一人称:私

喋り方:基本ぶりっこだが怒ると「~わさ」という語尾を使う

系統 :変化系

能力 :

<魔法美容師(まじかるエステ):具現化系・変化系>

 └派生:<桃色吐息(ピアノマッサージ):具現化系・強化系>

 エステティシャンを具現化し様々なマッサージを行う。

 派生技では30分で8時間睡眠と同等の疲労回復効果を得られる。

<????>

 

紹介 :

実年齢57歳、筋骨隆々とした大女だが、念の力で若くかわいらしい少女の姿を保つ。

……だったが、グリードアイランドの『魔女の若返り薬』で20歳まで若返り、『マッド博士の筋肉増強剤』でスリムな体型かつ若返る前の筋力を宿した奇跡の肉体を持つに至った。

磨けば光る原石を青田買いして育てようという願望からハヤテの師匠についたが、コンプレックスだった肉体改善や宝石入手への協力により、ハヤテ株が天元突破中。

 

原作登場キャラだが、ハヤテの<愛の修行場(ラブトレ)>等の併用や、修行時間の差、若返りによる成長率活性化等により、筋力、オーラ量、戦闘技術のいずれもが非常に大きく増加している。戦闘力では、今でもハヤテの大きな壁として立ちはだかっている。

原作通りストーンハンターでダブルハンター。

 

 

 

■ヒロイン:キルア=ゾルディック

出身 :パドキア共和国のククルーマウンテン

家族 :両親、祖父、曾祖父、兄二人、弟一人、妹一人

年齢 :ハヤテの4歳年下

容姿 :女体化したが原作通り

一人称:オレ

喋り方:女体化したが原作通り生意気

系統 :変化系

能力 :

まだ未習得だが原作では下記

<雷掌(イズツシ):変化系>

<落雷(ナルカミ):変化系・放出系>

<神速(カンムル):変化系>

  ├派生:電光石火:自分の意志で肉体を高速操作する

  └派生:疾風迅雷:相手の動きに呼応して自動的に肉体が高速動作する

 

紹介 :

伝説の暗殺一家として暗殺術の英才教育を受けて育った少女。

6歳のころに天空闘技場へ放り出されていた時にハヤテ達と出会い、原作よりも早く念を習得し、近い年頃のライバルもできたため暗殺術の修行もより熱心に取り組み成長している。なお、リンについてはライバルというより妹という保護対象としてみている。

 

相変わらずのチョコロボ君好きで、オススメしてくれたハヤテに懐いている。

実はチョコロボ君よりハヤテが作ったお菓子が好物になっているが、恥ずかしくて言えないためチョコロボ君至上主義だと思われている。

 

作者が<神速(カンムル)>をコピーしたいなーという邪な想いから女体化された犠牲者。

 

 

 

■原作主人公:コン(ゴン)=フリークス

出身 :くじら島

家族 :父ジン、曾祖母、育ての親ミト、双子リン

年齢 :ハヤテの4歳年下

容姿 :ポニーテールと短パンが似合う活発系

一人称:ボク

喋り方:活発系

系統 :強化系

能力 :未定

紹介 :

言わずと知れた原作主人公が女体化した人物。

ハヤテ達がくじら島を訪れた6歳から修行を開始しているので、原作よりは大きく成長している。ただし、原作のような危機的状況、曲げられない信念のために命をも賭して貫き通すという強烈な意志の発露もまだないことから異常な成長速度には至っていない。

そのため、分身体でも修行しているリンよりも成長できていないが、強化系であることから単純な組手では大きな差が出ないため、そのことに気付けていない。

 

ゴンが男の子だったらヒロインを取られてしまうと危機感を抱き女体化された犠牲者。

 

 

 

■ヒロイン予定:ポンズ(原作キャラ)

出身 :??

家族 :??

年齢 :ハヤテの5歳年上

容姿 :翠髪のミディアムヘアー。布目が開きやすい大きな帽子に蜂が潜む

一人称:私

喋り方:常識人(突っ込み担当)

系統 :特質系

能力 :

 未登場

紹介 :

原作のプロハンター試験編で登場した美少女受験者。

アマチュアハンターを少し経験してからプロハンター試験を受験にいくという堅実な計画をたてていたが、出だしにハヤテから現実(実力不足)を見せつけられ弟子入り中。

原作開始2年前からの弟子入りという、修行期間の短さゆえに他のメンバーよりは弱い。

 

 

 

■ヒロイン予定:ピヨン(原作キャラ)

出身 :??

家族 :??

年齢 :秘密

容姿 :バニーガール

一人称:アタシ

喋り方:キレると口が悪くなる。キレてないと脱力系で~~~~~と伸ばす

系統 :放出系

能力 :

 未登場

紹介 :

原作の会長選挙編で登場した十二支んに所属するウサギ担当(可愛いバニーガール)。

言語学者でもあるため、セラス湖の遺跡で文字解読のためにハヤテ達に同行した。

その後もお菓子作り担当としてちょくちょくハヤテを呼びつけていたが、ハヤテの持つ完全記憶能力が言語解析にも役立つことがわかりアシスタントとして同行させるようになった。それ以上の進展はまだない。

 

 

 

■ヒロイン未定:コムギ(原作キャラ)

出身 :??

家族 :12人家族

年齢 :ハヤテの2歳年下

容姿 :適当に結んだボサボサの髪

一人称:ワダす

喋り方:いなかっぺ

系統 :??

能力 :未登場

紹介 :

原作のキメラアント編で登場した軍儀世界チャンピオンの女の子。

12人家族で、その中でも盲目ゆえにゴミ扱いされて育ち、チャンピオンになったとはいえマイナー競技ゆえに賞金も少ないため、家の中での扱いは改善されることがなかった悲しい過去を持つ。そんな境遇からハヤテが救い出し、現在は<空想の家(ファンシーハウス)>の中で主にハヤテと軍儀を打っている。

密かにミトをお母さんのように慕っており、時々女子会と称して買い物をともにするキルアやリンとも仲が良い。(コンはくじら島からでないので不参加)

 

 

 

■ヒロイン予定:ビッキー(幻想水滸伝Ⅴキャラ)

出身 :??

家族 :??

年齢 :見た目は16歳

容姿 :茶髪ロングで身長よりも長い杖を持ってローブを着ている

一人称:ワタシ

喋り方:天然で不思議系

系統 :??

能力 :

<テレポート魔法>

紹介 :

幻想水滸伝シリーズに毎回登場する公式公認美少女。

その正体は謎に包まれているが、太陽暦307年~太陽暦475年まで変わらぬ見た目のため、不老者なのか、時空間転移できるのかと推測されるが解明できたものはいない。

 

瞬きの紋章を右手に宿している、テレポート魔法の使い手で、原作では制限なく何度も転移できていたが、さすがにチート過ぎるので一日10回までと制限をつけられた。

テレポート魔法は、自身、あるいは近くにいる人が知っている場所であれば自由に転移可能。

 

 

 

■転生者:アルシュタート(オリキャラ・転生者)

出身 :??

家族 :??

系統 :特質系

能力 :

<太陽の紋章(ジャッジメント・サン):特質系・放出系・変化系>

 怒りで自動発動し対象を焼き尽くす。気絶するまで破壊衝動が止められない。

 

神様特典

・容姿端麗

・優しい家族

・太陽の紋章の類似能力

・経験値10倍

・盗難拒否

 

紹介 :

転生者。ゲオルグガチ恋勢。

マチとシズクの姉を自称している。

幻影旅団団長クロロに能力を狙われている。

 

 

■その他

 

イータ&エレナ

 グリードアイランド製作者の二人。

 グリードアイランドの入り口と出口に常にいるため、

 邪魔にならない程度に走力特訓がてら会いに行っている。

  原作13巻P182

  原作15巻P114

 

大天使

 グリードアイランドのSSカード『大天使の息吹』で具現化された美女。

 傷・病なんでも一息で治す天使だが、治すと消えてしまうため、

 治療等はせずに<空想の家(ファンシーハウス)>の中で過ごしている。

  原作18巻P103

 

クッキィちゃん

 ビスケの<魔法美容師(まじかるエステ)>で具現化された美女。

 至福の愛撫を行うマッサージ師。<空想の家(ファンシーハウス)>内で

 美肌温泉とエステの組み合わせはあらゆる女性を虜にしている。

  原作17巻P130

  原作20巻P034

 

ドジっ子青髪美少女、メスガキ美少女、短髪美少女、お姫様

 グリードアイランドの『恋愛都市アイアイ』にいる美少女。

 都市限定イベントキャラのため恋愛都市から出ると消えてしまう。

 イベント完走でも消えるためイベント途中で止めることで結婚できた。

  原作16巻P117

 

金粉少女、睡眠少女、発香少女、手乗り人魚

 グリードアイランドのカードで具現化された美少女。

 それぞれ、お風呂で金粉を発生させる、睡眠の肩代わり、いい香り。

 <空想の家(ファンシーハウス)>の中で過ごしている。

 

サンビカ

 ハンター協会の選挙戦で登場したウイルスハンターの女医。

 残念だがまだ出会えていない。今後も出てこないかも。

 常にマスク姿なので眼しか見えないが、これは美女間違いない。

  原作31巻P109、P173

 

メンチ

 シングルもちの美食ハンター。

 巨乳美女だが、ブハラと仲が良さそうなので諦めた。

 

スパー

 原作主人公が受験したプロハンター試験にいた受験者。

 原作では発言がないままイルミに殺されたためサングラス銃使い以外の情報がない。

 旧アニメの軍艦島編ではかなりカッコイイ美女になりほんのわずかだが発言もある。

  原作3巻P109

  旧アニメ『第20話「大波×大砲×大あわて」』18:10~

 

センリツ

 ヨークシンシティ編でクラピカの仲間として登場するミュージックハンター。

 昔魔王が作曲したという呪いの独奏器楽曲「闇のソナタ」を聞いた事で頭頂部がハゲて、出っ歯になってしまった女性。心はとても清らかなので元の姿に戻れればきっと美女である。

 センリツのモデルは『ナウシカ』と冨樫先生が語っていることからも間違いない。

 呪いを解くような念能力作ってナウシカになったセンリツといちゃいちゃする二次創作をだれか書いてくれないものだろうか。

 

ヴェーゼ

 ヨークシンシティ編でクラピカの仲間として登場する女性。

 唇をうばった者を180分間自分の下僕にする恐ろしい能力の持ち主。

 キスを発動条件にするようなビッチは願い下げなので惚れなかった。

 

スピーナ=クロウ(愛称スピン)

 キメラアント編序章にカイトに同行していたアマチュアハンター。

 コクハクチョウが生息可能な鉱山一帯を買い取ったカイトに感謝をしている。

 お金を返すためにハンターを目指している。カイトに夢中だったので諦めた。

  原作18巻P172、21巻P73 

 

シーラ

 原作0巻で登場するクルタ族の村に迷い込んだ女性。

 作者は0巻を読んだことがないので今後も登場予定はありません。

 

天空闘技場エレベーターガール

 原作では目立つところはないが、旧アニメではヒソカより上だとキルアが認めた実力者。

 気になる人はyutubeで「天空闘技場 エレベーターガールの念能力」にて検索!

 

レツ

 劇場版HUNTER×HUNTER『緋色の幻影』に登場する美少女。

 作者は劇場版を見たことがないので今後も登場予定はありません。

 気になる人は「毎日ひたすら纏と錬」を読めば良き。

 

ネオン=ノストラード

 原作でクラピカが所属するノストラードファミリーのボスで占い師。

 容姿はとても可愛らしいがマフィアの娘で人体収集家という悪趣味で我儘な性格。

 ヒロインにする予定は多分ない。

  原作8巻P133、11巻P22

 





P.S.
なんとなく 8/6 からアンケートを開始しました。
特に評価0~1もらってショックーーということはないので気にしないで大丈夫です。今後に備えて実験的にアンケートしたかっただけで内容は何でもよかった。
別に票数が多かった項目の内容を、本作品で意見としていただいた、みたいに重く受け止めるつもりはないので気軽に意見聞かせてもらえればと思います。


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第27話:ハンター試験会場への道のり

「あんた達! 私の分までジンのやつをぶん殴ってくるのよ!」

「うん、親父に会いに行ってくるよ!!」

「……正直、もう関わりたくない」

 

 くじら島の港近くで声をあげるのは、すっかり考えがばらばらになってしまったコン一家。

 ハヤテ達と出会って早5年超。ついに原作同様1999年1月7日開催のハンター試験を目指して旅立つときがきた。つまり、俺も15歳になってるわけだ。

 15歳とはいっても、<愛の修行場(ラブトレ)>の効果で修行中だけとはいえ時空の流れが異なる空間で過ごしているので、身体は20歳相当だと思う。分身体の修行時間も単純合算すれば100年近い修行期間を経ているようなものだ。

 

 

 原作主人公であるコンは原作以上の筋肉トレーニング、及び溢れんばかりのオーラにより成長が活性化した結果により、もはや11歳とは思えない体格まで成長している。とはいっても、身長が高くなっているだけで、決して漢女のような成長をしているわけではなく、ポニーテールと短パンが似合う活発系美少女の見た目なので安心してほしい。

 ミトさんがコンちゃんというかわいい名前をつけなければどんなゴンさんになっていたことか……。

 

 そして、もちろんリンも年相応に成長し、髪もショートヘアーから腰まで届くロングヘアーの美少女になっている。可愛らしく育ってくれたことに感謝だ。

 リン本人としては、前世では10歳で亡くなるまで小学校でずっと先頭に並べられるぐらいチビッ子だったので年相応の身長まで育ったことにとても感謝していた。神様に感謝の祈りを笑顔で捧げる美少女っていいよね! 

 会話もだいぶ慣れてきたので、見ず知らずの強面おっさんでもなければ、だいぶ普通に話すことができるようになっている。

 

 ミトさんは今日も今日とてミトさんだ。

 魔女の若返り薬を飲んでいるわけでもないのに、見た目が全く変わらない。

 これぞ美魔女だけに許された神秘の特権であることは間違いない。

 

 なお、発言からわかる通り、ミトさんはくじら島でお留守番だ。お婆さんがいるから仕方ないね。

 それにジンを殴るために念能力を習っただけでプロハンターになる理由もないからね。

 プロハンターにならなくても、どこからでも入ることができる<空想の家(ファンシーハウス)>でいつでも会えるから安心だ。俺はもちろん分身体で毎日会っているからさらに安心だ。

 

 

 

 コンは原作同様、船旅でまずはドーレ港を目指す。

 そこから原作同様、キリコと出会い、試験会場まで連れて行ってもらえるだろう。

 その中で原作での初期仲間パーティーともいえる存在、クラピカ、レオリオとも出会い、成長に大きな影響を与えることだろう。

 

 

 ……クラピカには申し訳ないと思っている。

 俺は転生特典を与えられながらも、クルタ族の虐殺を阻止することはできなかった。

 事件が発生する時期は原作でも明確に記載されていないが1994年後半と思われる。その頃は天空闘技場にいたわけだ。じゃあクルタ族のところに向かえたのでは、という声が聞こえてきそうだが、リオン、ミアキス、リンを連れてA級賞金首が猛威を振るう場所に行く気はないし、分身体だけ行かせるにしても制約の都合上、好きな異性がいる場所でないと1時間で消滅してしまう。さすがに1時間で隠れ里を探し当てるのは無理だった。クラピカ似の美少女もきっといただろうに……。

 

 ……レオリオにも申し訳ないと思っている。

 おっさんに興味がなさ過ぎて今までほとんど思考の片隅にも出てこなかったよ。おっさんといっても俺の四つ上で19歳なんだけどね。分身体で一度すれ違ったことはあるけど、もっと若くてもおっさんだった。さすがだ。そこに痺れない惚れない憧れない!

 

 

 そして一時期くじら島にいたコンの親友キルア(分身体)も今はここにいない。

 実家である暗殺一家ゾルディックから本体の家出サポートのために、一度実家近くまで戻っている。

 俺の分身体も一緒に行かせているので、最悪そこでキルア分身体が消滅させるぐらいの威力で攻撃すればキルア死亡説もいけるかなと思ったが、ハンター試験でイルミ(キルアの兄)と出会って気付かれるだろうから断念した。

 コンとキルアはどっちが先に試験会場までたどり着けるか勝負だ! と笑いあっていた。

 笑顔は可愛いけど俺も入れてよ、と内心泣いてしまった。もちろん泣き顔は見せない、微笑ましく見守り頼れるお兄さんの体裁をとる。

 

 

 残りの俺、リオン、ミアキス、リンは走ってドーレ港を目指す。

 俺の居合で海水を割って海底を走るのだ。

 

 ……ごめん、嘘をついた。まだそれは無理だ。海を割ること自体はできるが、すぐに元に戻ってしまうため、連続で居合を撃ち続けなければならない。おまけに正面のみならず、後方、頭上とあらゆる方向に撃ち続けなければならないため難易度が高すぎる。とはいえ、諦めるのもしゃくなので、最近は感謝の一日一万居合斬りを海に少し入ったところで行っている。<愛の修行場(ラブトレ)>での負荷にも最近慣れがでてきてしまったからちょうどいい機会だった。この世界では不可能は不可能ではないと信じている。

 

 じゃあどうやってドーレ港まで走っていくのか? 

 そう、俺たちは海面走りを実現したのだ。幸い四人とも得意系統は放出系に近いので、この手の技術はやり方さえコツを掴めば得意分野といっても過言ではない。距離は長いが、一次試験よりも少し長い程度だから体力は問題ないし、オーラ量にも自信がある。これはほどよい修行になるだろう。

 リオンとミアキスが苦笑いしていた気もするけどきっと気のせいだ。リンは疲れたら肩車してあげるから安心してほしい。お姫様抱っこでも可だ。

 代わりと言ってはなんだがスクール水着を着てほしい。だめ? そっか……。

 

 ドーレ港からは直接試験会場まで継続してランニングだ。

 本来のハンター試験会場案内ではザバン市のどこか、であることしかわからず、そこから試験会場を探すことも受験者には求められるが、俺は原作知識により、ツバシ町2-5-10にある定食屋であることを知っているので、キリコのような案内役に頼る必要もなくたどり着ける。

 

 試験会場までの道中にいるはずの、受験者を振るいをかけるという試験官をスルーしていいのかは少し心配もあったが、そのようなルールは記載されてなかったし、俺達の道中に試験官を配置できなかった方が悪いと開き直ることにした。

 

 さぁ、頑張っていこう! 

 こうして四人のひたすら飛んで走り続けるだけの旅路が始まった。

 

 あ、ちなみにセラス湖の遺跡で仲間になったビッキーは本拠地である<空想の家(ファンシーハウス)>でくつろいでいる。ビスケやコムギ、金粉少女達と徐々に常駐する人数が増えつつある。増築を検討する日も近いかもしれないな。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇ポンズ視点

 

「この飛行船で本当に大丈夫なんでしょうね?」

「大丈夫だ、問題ない」

「はぁ……もう。

 修行に付き合ってくれたのは感謝しているけど軽すぎて逆に心配になるのよね……」

 

 ここはパドキア共和国からハンター試験会場となるザバン市へと向かう飛行船の中。アマチュアハンター仲間であるはずのハヤテに修行をつけられ、ぎりぎり及第点をもらえた私はこうして二人で飛行船に乗せられている。

 

 試験日が 1/7 なのに、及第点を告げられたのが1/3であり、試験申込日も過ぎていたから来年の受験を考えたのだけれど、素知らぬ顔で申し込みはしておいた、とか、一時間以内にあの飛行船に乗れば間に合うはずだ、とか、無茶ぶりが過ぎるのよ……。

 

 修行をつけてくれたことは感謝しているけれど、私には私のやり方があるのよ! 

 受験するなら、道中の対策を考えて、ライバルたちの動向も確認して、合格するための計画を立てて、そのために必要な武器や道具を十二分に用意してから行動するのが私のやり方だというのに、本当に困った師匠ね……まいったわ。

 ま、そうは言いながらだんだんと彼のやり方にも慣れてきたと感じるのも否定できないのがまた腹ただしい。

 

 プロハンターになったら突発的な対応が必要になるのは当たり前で、事前準備できるとも限らないのだから、これぐらいこなして見せろってことでしょ? 

 いいわよ。やってやるわよ。私のやり方を否定されて早二年。改めて鍛えなおした私の実力をこのお気楽師匠に認めさせてやるわ! 

 

 

 

「あー、大体100人ってとこか。

 まさかこんな人数が一つの飛行船に集まるとは思わなかったぜ。

 さぁ~~てテストはどうしたものかな……。

 ん~~、お前ら殴り合うか?」

 

 飛行船に乗って座禅を組みながら精神統一していると、サングラスをかけた怪しいおじさんがそんなことをいい始めた。テスト? つまりこれもハンター試験の一環かなと思い、隣に目をやるとハヤテはぐっすりと寝ていて起きる気配がない。

 

 こんのバカっ……! 

 青筋が浮かびそうになりつつも、これぐらい一人で切り抜けろってことね、と頭を切り替えて考えることにした。ハヤテだけ不合格になったら面白いなんて思ってはいない。気配を確認したところ、私達以外の実力者は3人。しかも内二人が念能力者で、かつ私よりも強そうな気配に早速怯んでしまいそうになる。しかも一人はハヤテクラスじゃないかしら? 

 

 こんな考えじゃだめね。念能力者の戦いに絶対はない。私は相手の能力は知らないけど、相手も私の能力を知らない。ほんの一瞬の弛み、怯みで一発逆転することもできる。ましてやバトルロワイアルである以上、どこかしらで隙が生じないはずがない。そこを狙えさえすれば……! 

 

 

「時間は飛行船がザバン市に到着するまでだ。

 それまでに勝ち残っていた三人が合格だ。

 もしも三人を超えて残っていたら全員不合格とする。

 わかったな? 俺があの扉から出たら試験スタートだ」

 

 そういって扉から出ていく試験官らしきおじさん。

 

 受験者同士の小競り合いが始まる前、というか最初から『絶』で気配を消していたので、恐らく周りからは気づかれてないだろう。ハヤテのいびきがなければ。

 ハヤテから距離をとりつつ、先ほどの実力者の様子を伺う。

 

 非念能力者である茶髪サングラスの女性は『絶』ではないものの気配を消し物陰からライフルで狙うスナイパースタイルで様子を伺っているようだ。しかし銃声により見つかることを避けるためか、まだ動きはない。高威力のライフルは以前の私だったら即死させられただろうけれど、今の私は念能力者。『円』で狙いを見切って躱すなり、『堅』で1〜2発耐えることができ、その間に接近すればいい。彼女は所詮、非念能力者だから不意を打たれてもこちらは問題ないわね。

 

 念能力者である銀髪の少年と、もう一人のローブをきた人物は……『絶』をしているようでほとんど気配を感じないが、最初から視界に入れていたのでなんとか補足できている。見失っても『円』をすれば見つけられるけど、それをすれば私も見つかってしまうから避けたいところね。銀髪は狩りを始めていたので隙を窺おう。近づいてきた場合に備えて毒を周囲に撒いておかなきゃ。

 

 ハヤテ? 放置よ。

 さすがに危険になったらなんだかんだで起きるでしょう。寝ている人を守りながら相手をするのは、今の私では難しい。とはいえ、合格者が3人である以上、私とハヤテが合格するなら残りは1人。あちらの念能力者二人に仲間意識があるなら片方だけを不合格にしても、恨みつらみで戦いが終わらない可能性がある。

 

 なら、私が二人を倒す方法を考えなきゃ。

 あーもう! ハヤテのバカのせいなのに、なんで私がこんな苦労しなきゃいけないのよ! 

 

 

 

 試験開始から約1時間。

 

 あの銀髪なんなのよ……。

 全然本気出しているようには見えないけど、動きがトリッキーすぎて全然攻撃する隙を見つけられないまま残り人数もわずかになっちゃったわ。おまけに確実に散布していた毒の範囲内に入っていたにもかかわらず、全然効いているようにも見えない。以前の私だったら毒が効かない相手だとどうしようもなかったけれど、今の私ならそれでも戦う手段があるのが救いね。

 

 銀髪を相手に一切の隙も作れなかった受験者が全て倒れ、自身でなんとかするしかないと考えを改めて、一度状況を整理する。

 

 残っているのは私と銀髪、ローブの3人。……3人? あれ、ハヤテはどこいったのかしら。

 もしかして寝たままほかの受験者にやられてしまったの? 

 そんなわけないか、それより、逆にこれはチャンスだと考えなきゃ。3人なら合格人数だもの。これで終わったと思ってくれれば……。

 

「あなた、強いのね。

 私はポンズよ。あなたのおかげで楽して合格できたわ、ありがとう」

 

「ふーん。ところでお姉さん、何もしてないから物足りないだろ? 

 オレと遊ばない?」

 

「ちょっと、怖い怖い! 

 見ての通り、私は直接戦闘は専門外なの。

 だから私と戦っても面白くないわよ」

 

 できるだけ笑顔を心がけて銀髪の少年に手を差し出し握手を提案すると、それに応じながら物騒なことを言い始めた。

 笑顔が怖いわ……。怯えを顔に出さないように意識しながら交渉を続けましょう。

 

 

「少なくともその辺に倒れてる有象無象よりは面白そうだけど? 

 まぁいいけどね」

 

「もちろんプロハンターを目指すんだから多少の心得はあるわ。

 残念ながら戦闘特化の受験者ほどではないのよね。

 よかったら、試験会場についてからも私と組まない? 

 薬もいろいろ持ってきてるし、いろいろと便利だと思うわよ?」

 

「あははははは。

 なるほど、薬ね。毒薬もその一種ってわけ? 

 残念ながらオレにはその手に塗っている毒は効かないよ。訓練してるから毒じゃ死なない」

 

 急ぎ手を放して飛び退りながら、やっぱりばれちゃった上に効かないか、という思いもあるものの、本当に効かないなんて、とどちらかというと驚きのほうが強い。

 

 握手ついでに、散布していた軽い毒どころではない巨獣ですら一秒で倒れるぐらいの麻痺毒(私は解毒剤を飲んでいる)を塗り付けたのに効かないなんて本当にもう……。

 でも、私が驚いたおかげで、帽子に住んでいた蜂達にも攻撃スイッチが入ったわ。

 帽子から飛び出た蜂達に驚いて作れる隙はわずか一瞬のはず。この最後のチャンスでやってみせる! 

 

 そう判断し、飛び掛かるために足に力を込めた瞬間、別方向から殺気を感じ、更に後ろへ飛び退る。

 しかし、その位置にも追撃で銃弾が追ってくるので下がり続け、壁際まで追い込まれてしまった。

 

 まだ残ってたのね、茶髪サングラス! 

 銀髪の印象が強すぎて他の警戒が薄くなりすぎ、かつ『円』ができないことで見失ってしまっていた。しかもこの連射速度、スナイパーライフルじゃありえないわ。まさか副武器を持ち込んでるなんて……。ライフルの一撃による威力は弾に依存するものの AOP1500と同等程度でかなり高めだけど、この銃はどの程度? 私は何発耐えられる? 情報が少なすぎて反撃に移れない。真正面からの戦いなら負ける気はしないのに、先手をとられて態勢も崩し、更には距離も離れている状況ではすぐに反撃ができない。この距離から接近するまでには数発覚悟しなきゃいけない。でも耐えられるかはわからない……。

 

 

 壁際まで追い込まれたものの銃撃が止まり、弾が尽きてチャンスがきたのかと振り返ると、茶髪サングラスがアサルトマシンガンを下ろし、代わってスーパーバズーカ砲を構えていた。

 

「いやいやいやいや、何でそんなもの持ってきてんのよ! 

 違うでしょ! 

 それは人に対して撃つものじゃないわよね!? 

 対戦車や集団戦で使うものでしょ!? 

 この飛行船だって爆発の余波で墜落する危険すらあるのよ!?」

 

 あまりの凶行につい呼びかけてしまったが、答える様子もなく淡々とバズーカ砲が放たれた。

 一瞬、足が竦んだもののなんとか着弾点からはぎりぎり移動することができた。しかし、着弾点が爆発したことで、飛行船の横っ腹に巨大な穴が開いてしまい、近くにいた私も気圧の差で崩落に巻き込まれて飛行船から落ちてしまった。

 

 

 やだよ……。

 私、こんなところで死んじゃうの? 

 念能力者になったことで弱点も克服して、これからは華々しいプロハンター生活をおくれると思っていたのに、まさか試験会場にまで辿り着けずにやられてしまうなんて……。私の二年半の修行はなんだったのかしら……。銀髪ならともかく茶髪サングラスなんかにやられるなんて……あっ!? 

 

 私はいつからこんな傲慢になっていたのだろう。

 やられるはずがない? 相手が非念能力者だから? 

 念能力が使えるようになったことで、無意識に非念能力者を格下だと思い込んでしまうようになり、結果として茶髪サングラスへの警戒が疎かになってしまっていたことを今更ながらに自覚した。

 無敵になるような力ではないと散々ハヤテから言われていたはずなのに。それに肝心の念能力だって私は使っていなかった。具現化した蜂を『隠』状態で索敵に用いていれば、茶髪サングラスも見失うことはなかったし、射撃されているときにも反撃は容易だったはずだ。

 なんて未熟だったのだろうと唇をキュッと噛みしめる。

 

 最後に……最後に、ハヤテにも別れを告げたかったなぁ。

 なんだかんだこの二年半の修行は過酷ではあったものの楽しかった。

 できなかったことができるようになる喜び。

 念能力によりさらに強い絆で結ばれるようになった蜂達。

 疲れが吹き飛ぶような美味しい料理。

 あとは……その、ちょっと気持ちいいマッサージとか……。

 せっかく鍛えてもらったので、これから恩返しできたらいいなと思っていた矢先にこれかぁ。

 ごめんねハヤテ……。

 多分、私はハヤテのことが……。

 

 でも、よく考えたらハヤテが寝てたことで私がピンチになってこうなってるのよね! 

 

「本っ当ーにもう、ハヤテのばか──-っ!!」

「『堅』!!」

 

 隣から聞こえてきたのはまさかのハヤテの声。

 飛行船からの落下中なのに、誰もいるはずもない隣になんでハヤテがいるの!? 

 驚愕を隠せないまま、修行中に癖づけられた指示に従い、渾身の『堅』を使っていた。

 そして『堅』を使うと同時にハヤテの回し蹴りを食らって吹き飛んだ私は飛行船の内壁に叩きつけられた。『堅』を使っていなければ内臓破裂していたかもしれないというレベルの衝撃だ。それぐらいの威力がなければ落下中の状況から飛行船まで戻ってくることはできなかったとはいえ、痛いものは痛い。

 

「きゃんっ……もう、助けるにしてもやりかたってものが……ハヤテ!?」

 

 そう、確かに私はハヤテの蹴りで飛行船の中まで吹き飛ばされて助かった。

 じゃあ、蹴ったハヤテは? 

 状況に思考が追いつくと同時に、私の代わりのように落ち続けているハヤテが叫んでいる姿が目に入る。

 

「ポンズ! 

 試験会場まで連れていけなくてすまないが、お前ならきっとなれるだろう! 

 いいお嫁さんにな!! がんばれよー!」

「ハヤテー--------!」

 

 その言葉を最後にハヤテの姿は見えなくなってしまった……。

 

 ハヤテは生命を失おうという状況にもかかわらず、最後までいつも通りの笑顔だった。

 そしていつも通り空気が読めない冗談を言っていた。

 なのに、今、あなたは傍にいない。

 

 

「……嘘だよね……。

 私がどんなに強くなっても全然届かなったあなたが……。

 どんな相手でも余裕そうで傷をつけられたことすらないあなたが……。

 きっと落ちてもピンピンしていて、心配した私を笑ってくるに決まってるわ……。

 なら、私は……」

 

「あーあ、ありゃ落下の衝撃で消滅確実だな。

<念糸>を飛行船と自分に結びつけていたら助かったのに、わざわざ相方に巻きつけるなんてな。

 おまけにそのせいで『堅』による防御も間に合わない、と」

「まぁあいつはハヤテの中でも最弱。女性を守れただけで満足して逝ったのだろう」 

 

 溢れかける涙をこらえていると、隣から声が聞こえてきた。

 そうだ、ハヤテのことがあって未熟にも状況を忘れてしまっていたけれど、ここはハンター試験の受験資格を得るための予備試験中で、実力者の銀髪とローブ、そして落下のきっかけとなったスナイパーの四人がまだ残っており試験は終わっていないのだ。

 

 発言内容に思わずかっとなって攻撃を仕掛けようと思ったものの、ふと疑問が生じた。

 私はそれなりの時間、茫然自失としていたはずだが、なぜ彼らは仕掛けてこなかった? 

 今もすでに戦闘態勢を解いているように見える。

 

「ふーん。

 この状況で感情的にならずに周りを見れる冷静さはあるんだ。

 ハヤテが選んだだけあるじゃん」

「だろう? 

 ポンズはいいハンターになるよ!」

 

「……あなたたち、ハヤテと私のこと知っているの?」

 

 銀髪とローブの会話は明らかにハヤテを知っていた。

 ローブに至っては私のことも知っているようだ。というか聞き覚えがありすぎる声だ。

 

「つれないなぁ。

 さっきまで一緒にいたじゃないか。俺もハヤテだ」

 

 ローブを脱ぐと、そこから現れたのはやはり声通りハヤテだった。

 どういうこと……? 

 さっき落ちたのは別人だった……? 

 

「!?!??!?!?!?」

 

 

 

 それから銀髪、改め、キルアとハヤテに説明をしてもらった。

 確かにハヤテの念能力は教えてもらってなかったけれど、飛行船から落ちて消滅したのは<俺は全員を愛する(ラブアンドピース)>による分身体のうちの一体だったらしい。というか、むしろ私は本物と会ったことすらなかったらしい。

 

 え?? 

 私の初恋はゴーストですか?? 

 分身体にすら全然敵わない私はなんですか?? 

 まったくもう……本体はどんだけ強いのかしら。というか技名ふざけてるのかしら? 遠回しの告白? なんだか考えるのもばかばかしくなってとりあえずハヤテをぶん殴っておいた。回避も防御もしなかったのは反省の証かしらね。感情の高ぶりによって蜂達もハヤテに襲いかかったけど私のせいじゃないわ。フンッ! 

 

 ついでに残っていたハヤテも分身体らしく、本体は別コースで向かっているからここでの試験は対象外だったらしい。つまり銀髪、スナイパー、私の三人で合格だった。何のために最後戦って落とされたのかしら……。

 そういえば、スナイパーさんは全然喋らなかったけど名前ぐらい教えてほしかったわ。多分少ない女性受験者仲間なのだから。殺されかけた恨みは忘れないけどね! 

 





朗報:ポンズは死亡フラグ(逃亡中に視線外からの射撃死)を回避できる力を身につけた!

とりあえずハンター試験終了の34話まで完成しましたが、予約投稿日時変更するのが面倒なのでこのまま隔日更新にしておきます。
(話数が短いことから内容はご察しください)


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第三章:ハンター試験
第28話:一次試験と二次試験


 特に問題なく試験会場の入り口が隠されている定食屋に辿りついた俺、リオン、ミアキス、リンは、合言葉であるステーキ定食の弱火でじっくりを注文する。そして案内された個室兼エレベーターの中で改めて方針の認識合わせを行った。

 

 ▽基本方針

 ──────────────────────────

 去年のハンター試験では多数の殺人を行った危険人物ヒソカが不合格となり、今年も受験してくる可能性が高い。試験官すら半殺しにしていることから念能力者の可能性が高いため、俺達は『纏』すら使わない垂れ流しの状態で一般人を装う。更に卓越した戦闘能力者と思われるのも危険なので天空闘技場150階程度の身のこなしを心がけた偽装も行う。

 プロハンターになられるとあまりに危険だと判断した場合は機会を窺い討伐する。

 なお、この方針はコンやキルアとポンズも含まれる。

 ──────────────────────────

 

 

 事前に話し合っていたこともあり、会場入りする前から偽装している身なので誰からも質問はなく、エレベーターは地下100階に到着した。エレベーターが開くと目に入ってくるのは約200人近くの殺気立った受験者達と豆っぽいビーンズ。

 未熟な初受験者として動揺し息をのむ振りをしつつ、内心ではビーンズの愛らしさに感動する。

 彼が女の子だったらきっと惚れ……ることはないな。ただのマスコット豆だ。

 

 できるだけ目立たないように脇に移動しているとポンズがやってきた。

 原作ではもっと到着が遅かったポンズだが、キルアと合流して早々と到着したことで受験番号もかなり若くなっている。

 

 ポンズが多少殺気だっているのは、分身体を隠していたことと死んだふりしたことからだろうことは容易に想像がつく。とはいえ、すでに分身体が蜂でぼろぼろに刺されているのでもう許してほしいというのは贅沢な望みだろうか。なお、この刺された記憶が日を跨いでいないのに俺(本体)にあることからわかる通り、分身体はそのまま消滅させられてしまったよ……。

 改めて謝罪しつつ今回の試験では協力しあうことで同意できた。良かった。このなんだかんだいって引きずらずに許してくれる優しさはさすが俺の嫁であるポンズだ。

 でも、飛行船試験での失点については改めて指摘し反省会を行った。仮にも師匠だからね。

 

 ・キルアを恐れるあまり機を失った

 ・目前の敵に集中しすぎて周りの警戒を怠った

 ・毒か効かない可能性が高いことはわかっていたのにそれでも頼ったことで先手をとれなかった

 ・銃弾の音で武器を判断できず必要以上に警戒した

 ・落下中に早々に諦めた

 

 そんな中でも、視覚外からの殺意を察知し銃弾を回避できたことは素晴らしいと褒め称えた。指導には信賞必罰が大事である。照れるポンズを見たかっただけとかそんなことはない。それに視覚外からの銃弾回避は、原作でのポンズ死亡要因回避に直接繋がるから殊の外、嬉しい成長だった。

 

 

 試験開始までおとなしく待っていると、35回も不合格になっていることで、いや、新人潰しで有名なトンパが超強力下剤入りジュースを持って挨拶にきたのを無視し、ハンゾー、ギタラクルという強者が会場入りしたのも目をつけられないようにスルーしていると、ようやくコン、レオリオ、クラピカが到着し、その後すぐに一次試験開始の合図が出された。なお、コンとキルアには事前に試験会場では基本的に別行動することを伝えていたので無事到着したことを目礼で伝えるにとどめた。

 一応気にかけていたが、他の転生者と思われるような人物は見当たらなかった。もし転生者がきているなら、明らかに受験番号の異なるポンズと一緒にいる俺達は疑われるだろうが、それで何かしら接触してくるなら好都合だ。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇一次試験

 

 一次試験の内容は、二次試験会場まで試験官についていくこと。

 前半はただひたすら長い地下道を走り続ける。

 後半は詐欺師の塒と呼ばれるヌメーレ湿原を騙されないように走り続ける。

 ただそれだけの単純な試験だ。

 

 

 一次試験ではとりあえず目立たないことが最優先。

 最後尾をのんびり走りつづけているが退屈すぎる……。

 修行脳のせいで、<愛の修行場(ラブトレ)>で負荷をかけつつスタート地点と現在地をダッシュして修行したい欲求にかられるがなんとか我慢する。我慢しているのが伝わったのかリオン達が若干苦笑いしているように見えるがきっと気のせいだ。ポンズにいたっては可哀そうな子を見るような眼をしているのはもっと気のせいだ。

 

 一次試験の前半は最後尾にいたことでレオリオの脱落未遂からの奮起猛ダッシュをかっけーなーと眺めているだけで無事に終わり、ヌメーレ湿原を前に小休止となった。休憩と警告があるなんて優しいね? 

 

 

 小休止中に人面猿が試験官を装って騒ぎを起こそうとしたが、危険人物ヒソカが試験官と偽試験官に攻撃を仕掛けて人面猿をあぶりだし解決。ヒソカに面白い人物であると目をつけられていると、ここで一緒に攻撃される可能性が高いと思っていたが、特にそういったことはなかったので今のところ偽装はうまくいっているようだ。一安心。

 

 ヌメーレ湿原では先頭にいき試験官の真後ろを確保。最後尾では途中の受験者が騙されて道を間違うとつられてしまうことになる。それでも<念糸(ネンシ)>を使うなり、『円』を使うなりすれば合流することは可能だが、そうするとヒソカに目を付けられる可能性が高いから避けたい。それにヒソカもここでは最後尾周辺で試験官ごっこと称して遊びだすから、それに巻き込まれたくはないのであれば先頭を行くのがベターという判断だ。

 

 先頭グループにはコンとキルアもいたが、途中で後方からレオリオの悲鳴が聞こえたことでコンとキルアが戻っていった。原作ではコンだけが戻って、キルアは逸れたらアウトだと判断して戻らなかったが、どうやらキルアは気配察知能力の向上(はぐれても戻れるという自信)と仲間意識向上により一緒に戻ることに決めたようだ。

 

 俺達は戻らなかった。優しい皆はもちろん心配していたが、こっそり分身体を作って万が一の時は助ける用意があることを伝えて安心させた。この霧なら『隠』しながらであれば念能力を発動しても気づかないという判断だ。気づかれたとしても嫁の命には代えられないからこの選択に後悔はない。

 

 ここでヒソカを討伐する選択肢もあったが、そうするとヒソカが戻ってこないことに気付いたギタラクル(キルアの兄であるイルミ)に余計な警戒をされてしまうので纏めて殺れる機会を待つ。そもそも、真正面からヒソカと戦うと負ける可能性や、二次試験開始に間に合わない可能性もある。ヒソカはこの世界における最強格の一角であるため過信はできない。

 

 その後は何事もなく無事に二次試験会場に到着し、一次試験は終了した。ヒソカとコン達も無事に合流し、ここまでは原作通りであることに安堵する。なお、分身体も気づかれずに済んだので、合流せずに<空想の家(ファンシーハウス)>に待機させている。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇二次試験

 

 二次試験の内容は料理だ。

 前半は試験官ブハラのメニュー:豚の丸焼き

 後半は試験官メンチのメニュー:スシ

 

 

 豚の丸焼きは、現代世界でやるには豚を焼くだけでは当然美味しくならない。

 討伐後、血抜きを行い、内臓その他の不要物を取り除いた代わりに野菜やハーブを詰め、豚を焼くための台をちょうどいい高さで作り、火をおこし、火力を調整し、全体的にまんべんなく焼くための工夫をし、8時間程度じっくりと火を通すという、ほぼ一日作業といってよいほど手間のかかる料理だ。

 

 だがここはHUNTER×HUNTER世界。

 狩りが当たり前の世界なので、丸焼きの技術もより発展した漢の料理として熟成されている。

 そのため、現代世界の三倍程度の大きさがある豚であっても、討伐含め一時間もたたずに完成するという素晴らしい世界だ。きっと空気に混ざっているプロテインも良い調味料兼匂い消しとなっていることだろう。

 

 というわけで料理好きが集まっている俺達だが、いつも通り丁寧に作っていると他の受験者に後れをとることになるので、今回は手抜き料理をせざるを得ない。料理の試験なのになんでだろうな。

 

 

 無事に豚の丸焼きをクリアし、メンチの試験が始まる。

 

 メンチとは『黄金るるぶ』による導きにより以前一度あったことがある。彼女も覚えていてくれたのかこちらをちらっとみてきたが、平等に試験するという気持ちの表れか、何のアクションもなく視線が逸れた。

 

 以前あったときから素晴らしいスタイルのメンチはとても魅力に溢れていたが、いつもブハラと一緒にいるぐらい仲がよさそうだったので泣く泣く諦めた過去がある。行動が遅すぎたのだろう。残念だ。

 

 試験の内容はスシづくり。ジャポン出身の俺達はもちろん、前世が日本人であるリンは当然スシを知っているし、作ることもできる。通常であれば周囲に海がなく川魚しかとれないためスシネタがネックにはなる。ただし、<空想の家(ファンシーハウス)>に設置してある『不思議ヶ池』には、俺の分身体を世界各地に向かわせて確保した美味しい魚を大量に放してあるので、そこからスシネタを持ってくれば問題もない。どこから持ってきたのかという追及は避けられないが、ハンターが秘密を持つことは当たり前なので黙秘するだけだ。

 

 なんなら先ほどの試験と同じ豚肉を使って豚塩カルビのにぎり寿司を作ってもよい。

 この時期だとまだマイナーなので試験官メンチが知っているかは不明だが、実際に存在する以上、議論すれば勝つ確率はそれなりに高い。そもそもジャポン出身の俺達とスシ論争するのか? という話だ。俺は絶対に譲らないし出身地であるがゆえに周りからの賛同は得られやすいし、論争に負けたら美食ハンターの名が廃れることにもなる。

 もちろん、肉を乗せるという異質なスタイルわにぎり寿司とは認めないというジャポン人もいるわけだが、この場にはいないから問題はない。

 

 そのため、合格することは容易だが、今回は敢えて合格しない。

 誰も合格しないことで別の試験が行われることを知っているし、下手に合格してヒソカに目を付けられることも避けたい。最悪だととコン達が不合格のまま今年の試験が終わる可能性もある。

 何もせずに待つのも暇なので、自分達用にスシを大量に作ってお昼ご飯として堪能することにした。ちなみに一番美味しいのはミアキスだ。神様特典が与えられているリンが才能では一番だが、くじら島ではミトが料理していたから経験年数が少なすぎた。

 ちなみに皆は俺のが美味しいと言ってくれた。やはり愛情が一番の調味料なのだ。

 

 なお、このように不合格になるという、変な指示にも従ってくれるリオン達だが、彼女らはそもそもプロハンターにどうしてもなりたいという想いはないからな。もちろん俺への信頼もあるだろう。……あるよね? 

 

 

 そのまま、無事に? 二次試験後半の合格者が0で終了し、メンチの判断を問題視したネテロ会長が急遽かけつけて別試験が行われ、知り合いは全員合格できた。良かった良かった。

 

 ついでに俺達が作って余ったスシを受験者全員に配り歩いた。この試験が原因でスシ嫌いになられたら、ジャポン人として耐えられない。

 まったく、スタイルが良いとはいえ、性格の悪いメンチのフォローは大変だぜ。

 

 ……メンチから殺気が零れてる気がするがきっと自分の至らなさを自覚したのだろう。やれやれ。

 





ヒソカに実力がばれないように行動するのは無理じゃねって意見が出そうですね。
まったくもって同意です!

という本音はさておき、下記のような理由で何とかなってると思ってください。

・ヒソカは選挙戦のように一人ひとり見た上での品定めをしていない。
 予め分析が終わってしまうと長いハンター試験がつまらなくなるので、
 予期せぬ出会いを後の楽しみにしようとしている。
 原作でもハンゾーには最後まで絡まず、ゴン達とも直接相対してから
 注目しだした感じですよね。

・転生特典の完全記憶能力で天空闘技場150階にいる闘士の動きを覚えている
 ので、それを完全に再現し、他メンバーの動きも監修している。

・多少はできるように見られても、見た目20歳ぐらいなので
 年齢を考慮して評価が下がっている。


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第29話:飛行船とネテロ会長

 二次試験終了後、飛行船に乗って次の試験会場に向かう。

 20時から翌朝8時までが移動時間となるため、この時間は試験が始まって最初の睡眠時間となる。

 

 そしてこの時間には重要なイベントが行われる。

 そう、コン&キルアVSネテロ会長だ。

 

 といっても単純な戦闘ではなく、ネテロ会長が持つボールを奪うことができるかどうかというボール遊びのような内容だ。原作ではキルアが肢曲(暗歩を応用し残像を生じさせ幻惑させる暗殺術)を使っても、二人で協力してもボールを奪うどころから、片手片足で対処されてしまうほどの実力の差を見せつけていた。

 

 今世ではコンは6歳から鍛えてきているしキルアに至っては分身体も使って鍛え上げているので、原作とは比べものにならないぐらいの実力を持っていることもあり両手両足を使わせるぐらいにはなるんじゃないかと思っている。

 

 

 では、俺ならどうだろうか。

 転生直後に掲げた目標である、15歳でネテロ会長を倒すところまで成長できているだろうか? 

 目算では十分に勝算があると思っている。少なくともオーラ量だけみればMOPもAOPも既に俺が勝っているだろう。最盛期ならともかく、老化により最盛期の半分程度にまで落ちているネテロ会長であればオーラ量に限定すれば負ける気はない。

 問題はネテロ会長の念能力<百式観音>を回避する、または耐えることができるかどうかだ。

 

<百式観音>も、俺の居合もどちらも不可避の速攻といえるほどの眼にも止まらぬ必殺技だ。不可避とはいっても、絶対に切れる剣が具現化できないように絶対回避できない攻撃も念では実現できない。つまり、念の力だけではなく、不可避とも思えるほどに鍛え上げられた人間としての武の極み、それが<百式観音>であり、俺の居合だ。

 

 だが、その攻撃範囲で考えれば<百式観音>のほうが断然広い。そのため先手を取るのは基本的にはネテロ会長になる。つまり、それを回避するか耐えるかできなければ勝ち目はない。

 もちろん、不意打ちを前提に考えれば、分身体と同時に攻撃すれば良いし、居合流:飛剣で仕掛けるという手段をとることもできるが、それで勝っても意味はない。目的はあくまで蟻王メルエム討伐で、それを実現可能な実力を身につけることができているかの確認だ。

 

 ゾルディック家の先代当主をして不可避といわせるほどなので、素の力だけであれば回避することは不可能だろう。キルアが<神速(カンムル)>を覚えていれば、それをコピーして疾風迅雷の効果で回避できたかもしれないが、残念ながらまだそこには至っていない。そのため、耐えることができるかどうかが勝敗の分け目ということになる。

 

 居合流:一閃のために鍛えた俺の『流』の技術であれば、攻撃箇所に合わせて『硬』をすることができるかもしれないが多分無理だろう。そこまで反応できるのであれば不可避とは言われないはずだ。『硬』が間に合わなければ『堅』の状態で受けることになる。つまり、攻撃された部位のオーラによる防御力はAOPの半分ということになる。

<百式観音>はネテロ会長の長年積み重ねた修行による強力な想いと覚悟が込められているので、AOPを軽く越えるオーラ分の威力を生み出すだろう。

 

 それでいて勝算がなくはないと判断したのは、ネテロ会長の系統は恐らく強化系か特質系だからだ。

<百式観音>は自身から離れた位置に具現化して操っているので、放出系、具現化系、操作系も必要としていると思われる。長年の修行で習得率を全系統高水準まで鍛え上げてはいるだろうが、精度ばかりは鍛えようがないはずなので得意系統以外はどうしても低下する。つまり本来の消費オーラ量のわりに威力が下がる。あとは俺の鍛え上げた肉体でオーラの不足分を耐える算段だ。

 

 まぁ、ネテロ会長であれば、クラピカのエンペラータイムのように全系統を100%使えるようになる手段を持っている可能性は否定できないが、仮にそうであれば蟻王メルエムにもダメージをもっと与えられていただろうと思う。もしネテロ会長が100%の精度で使えていた上でダメージ0だったのなら、俺も蟻王メルエムを倒すのは諦めるしかなくなる。

 

 つまり<百式観音>に耐えられるかどうかで蟻王メルエムへと挑戦するに値するAOPを得られているかどうかの参考にするということだ。そのため、耐えられたら今までの方針で今後も動く。耐えられなかったならもう蟻王メルエムを倒すのは諦め、原作通りネテロ会長の自爆特攻に期待して、嫁達の安全を最優先として行動する。もう一人の転生者が幻影旅団を連れてキメラアントに特攻し餌になり、敵が強化されるような馬鹿なことをしなければそれでも大丈夫なはずだ。

 

 そういうわけで、今後を決める重要な勝負。

 まぁ、受験者という立ち位置なので、<百式観音>を使ってくれるかはわからないんだけどな。

 

 長々と考えたが、そもそも、厳密な威力計算式が確立されているわけでもないので妄想計算だ。ゆえに、<百式観音>に耐えられたからといって、<百式観音>を超える攻撃力を俺が持っている証明にはならず蟻王メルエムにダメージ与えられるとは限らないし、その逆もまた然りだ。

 

 <妄想計算>

 ネテロ会長攻撃力=ネテロAOP × 百式観音倍率(2~3倍?) × 系統補正(精度0.4~1.0?)

 ハヤテ防御力  =ハヤテAOP × 堅(0.5) × 強化系補正(1) × 筋肉

 ハヤテ攻撃力  =ハヤテAOP × 硬(1.0) × 強化系補正(1) × 筋肉 × 居合威力

 ハヤテ攻撃力  =ハヤテ防御力 × 2倍 × 居合威力

 ゆえに

 ネテロ会長の攻撃に耐えられた場合、ネテロ会長の2倍以上の攻撃力が

 あるかもしれないから、蟻王メルエムにもダメージ与えられるかも!

 かも! かも! かも! つまりただの妄想。 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇ネテロ会長との接触

 

「キルアはさぁ、プロハンターになれたらどうするの?」

「んー-? 

 まずは実力を高める必要があるけど、うちの家族とっ捕まえるんだ! 

 きっといい値段で売れると思うんだよねー」

 

 飛行船の窓際に設置されたベンチで、コンとキルアが夜景を見ながら今後について会話している。くじら島で一緒にいたため、キルアの家族がゾルディック家という暗殺一家として有名という話は聞いていたコンもさすがに苦笑いだった。原作と異なり念能力も覚えているキルアは、現状だと不意打ちしても家族を捕まえるだけの実力がないことを悟っていたのでまずは実力をつける方針でいる。

 

 そんななごやかでいてかつ物騒な会話をしていると左後方から殺気を感じて二人は瞬時に振り返る。しかしそこには誰もいない。

 

「どうかしたかの?」

「あれ?」

「ネテロさん、ハヤテ兄ちゃん。

 こっちの方から誰か近づいてこなかった?」

 

 左後方ではなく右後方からネテロ会長が歩きながら声をかけてきた。ネテロ会長の動きを眼で捉えることができなかったコンは素直にそう問いかける。

 

 動きをなんとか察知できていたキルアは冷や汗をかきながらネテロ会長を、そして更にその後方から現れた俺を見ている。ネテロ会長も驚きは顔に見せないまま振り返り俺の方を見てくる。

 

「いたね。十代前半である美少女達の歓談を舐めるように見つめる不審な爺さんを見かけたから、いつでも取り押さえられるように警戒していたところだ」

「ふぉっふぉっふぉっ、なんのことじゃろな?」

「今の一部始終を記録したカメラがあるんだけど、少し編集してから信者の十二支んに送ったら面白くなると思わない?」

「まぁ待ちんさい……。

 あやつらは冗談が通じんのじゃからやめてほしいのぉ……」

 

 意外と弱気なところをみせてきた。

 強いだけではなく、こういった愛嬌もネテロ会長の魅力であろう。

 

 十二支んというより、そのうちの一人である副会長パリストンを気にしているのだろう。

 小さな種火でもネテロ会長と遊ぶために大火炎にまでしてくれそうな気がする。

 

 なんにせよ、弱気を見せてくれるなら、せっかくなので欲を出してみよう。

 

 

「会長が隠し持ってるピヨンの盗撮データ全部くれるなら止めますよ?」

「なんじゃと!? 

 ワシが長年ばれないようにあの手この手を工夫して撮りためた秘蔵データを持っていくつもりか! 

 くぅ~~~~!! 

 素直だったあのガキンチョが僅か五年でこうも変わるとは!」

「あ、覚えていてくれたんですね。

 どういう挨拶しようか迷ってたんですよ」

 

 そう、愛しのピヨンのことだ。武神ネテロ会長のスケベっぷりはとても有名な話なので、ハンター協会本部に何もしかけていないとは思えない。ましてや十二支んとして本部にいることも多いピヨンであれば、そのデータを取得する機会はかなり多かったことだろう。俺の妻(未定)のあられもない姿を、俺以外に見られたくはない。だが俺は見たい。そのためデータは欲しい。データさえあれば、そのカメラの角度等でどのような手段が使われているかがわかるので、ピヨンにつけている俺の分身体で対処することができる。そして情報戦に長けたピヨンであれば、ネテロ会長が持つデータをハッキングして削除することも可能だろう。

 

 

「あれ、ハヤテ兄ちゃんとネテロ会長は知り合いなの?」

「ああ、ネテロ会長が起こした心源流拳法の本部はジャポンにあるから、ジャポン出身の俺は小さいころに何度か出稽古に行く機会があって、その時に顔合わせはしているよ。

 ちょっとした勝負をしたこともあるからね。そういえば、あの勝負まだ有効ですか?」

「ふむ、ボール遊びのことかの? 

 今のお主とは遊びで済むとは思えんがのぉ。

 それに遊ぶなら女の子がええわい。

 どうじゃ、お嬢ちゃんたち。ワシとゲームをせんかね?」

「「?」」

「もしそのゲームでワシに勝てたらプロハンターの資格をやろう」

「「!」」

「この船が次の目的地に着くまでの間に、この球をワシから奪えば勝ちじゃ。

 そっちはどんな攻撃も自由。あぁ、ただし飛行船が墜落するような攻撃はなしじゃ。

 また、ワシの方からは手を出さん」

「補足すると、10歳の俺が一度も勝てなかった勝負でもある。

 胸を借りるつもりで全力で挑むといい。

 もしも勝てたら、同年齢だった当時の俺を超えているという証明にもなるからね」

 

 その言葉を聞き、コンは楽しそうに満面の笑顔となり、キルアは不敵な笑みを浮かべる。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇VSネテロ会長

 

 ネテロ会長とコン&キルアの勝負が始まり6時間、結局ボールを取ることはできなかった。

 

 コンが奇策として、ブーツを脱ぎ蹴りの間合いを伸ばして攻撃をヒットさせた時は「ウヒョッ~~~! 生足じゃあ!!!」と言わんばかりに変態顔になった爺がボールそっちのけでガン見した隙にキルアが後一歩というところまで迫ったが、最終的に爺が大人げなくオーラで全力強化してボールを確保してしまった。

 対蟻王メルエムの戦力として期待できる実力者じゃなかったらここに死体が転がっていただろう。

 

 なんにせよ、20時に始まったのでもう朝2時だ。ネテロ会長は目的地に着くまで(朝8時)が勝負時間とはいったが、夜更かしは美容の天敵だ。良い子は寝る時間ということで、俺が無理やりそこで勝負を終わらせて二人を眠らせた。

 まぁ<桃色吐息(ピアノマッサージ)>を使えば30分で8時間の睡眠効果を得ることもできるのだが、普通に寝られるならその方が人間的だと個人的に思っている。俺はともかく皆には人間性は捨てさせたくない。

 

 そして早々に? 終わらせた理由はもちろん俺も勝負するためだ。

 この時間ならさすがにヒソカもギタラクルも休息に入ってるであろう。周囲に気配も感じない。

 

「さて、そろそろ俺の番ということで良いですよね?」

「うーむ……

 若い女子ときゃぴきゃぴ楽しんだ後はその余韻に浸りたい気持ちがわからんかの?」

「させねーよ?」

 

 もはや語ることも無いと、縮地で急接近して殴りかかる。

 真正面からの単純な行動ゆえに、それはネテロ会長の右手で軽くいなされ、左手で掌底を放ってくる。躱されて反撃がくることは想定通りだったので、それを弾き、いったん距離をとる。

 

「やれやれ、独占欲の強いやつじゃ。

 少しは高齢者を敬う気持ちはないものかのぉ」

 

「もちろん、敬っているつもりですよ。

 50歳で当時の人類における武の頂点を極め、それから半世紀に渡り道を切り開いてきた今までのネテロ会長の軌跡を敬わない人はいないでしょう。だからこそ、次世代が育っていることを伝えるためにも教えを受けた俺達があなたを超えていく。それ以上の恩返しはないと思っています」

 

「ホッホッホッ。言葉ほどの実力があれば嬉しいんじゃがのぉ。

 それはワシに勝ってから言うべきじゃな。

 それに……いままでの、と言うたか? 

 とぼけた顔をしおって、まるで今のワシは敬う価値はない言いたげじゃな!」

 

 言葉とともに急速に膨れだした、針で突き刺されるような研磨されたオーラが俺を襲う。

 半世紀以上も研ぎ続けたオーラによる圧力はやはり武神といわれるに相応しいと感じる圧力だった。

 

 だが。だが、それでも俺の方が上だ。

 単純なオーラ量で比較すれば既に俺は武神を超えていると確信できた。

 相手に応えるように、俺も『練』に殺気を込めて返しつつ鞘に手をかける。

 あわよくば、それで攻撃を仕掛けてこないだろうかと期待したものの動き出す気配はない。

 

「相変わらず、相手の攻撃を待つつもりですか。

 あまり舐めていると首とさようならをすることになりますよ?」

 

「……あ? 

 クソガキが……! 

 舐めてるのはどっちだ! 上から物言ってんじゃねーぞ!!」

 

 『百式観音 壱乃掌』

 

 ネテロ会長から急速に闘気が溢れ、瞬時に現れた観音様から横なぎに放たれた手刀が俺を襲う。

 仮に地面に叩きつけた場合にはクレーターが生じるほどの威力、飛行船の床に直撃しないように横なぎにしたのであろう一撃は、俺をたやすく吹き飛ばした。

 

「おっ!? ……お?」

 

 

 吹き飛ばされはしたもののダメージもなく、空中で態勢を整え壁に着地した。

 実際に食らってみた感想としては、いろいろな意味で衝撃だった。

 

 まず、開幕早々<百式観音>が放たれたのは想定外だった。

 俺の目的を考えるとありがたい話ではあるのだが、この技はネテロ会長にとっての必殺技。自身の武術に絶対の自信をもつ武神が、五年ぶりにあった15歳の若輩者に対していきなり必殺技を放つだろうか? 普通はどれくらい成長したのか腕試ししてやろうという姿勢を見せてくるものだと思っていた。そこで実力を示しつつ、こちらもある程度の手の内を見せることでようやく<百式観音>を見られると考えていた。

 予想以上に短気だったのか、或いは俺を試す理由があったのか。

 

 次に『硬』による防御が間に合ったことも想定外だった。

 ネテロ会長が両の手を合わせることで観音様が出たと知覚したときには、既に無意識で『流』で移動させたオーラによる防御を固めることができた。そう、防御はできたのだ。身体を動かす時間はなかったので今の俺では回避はできなかったが、それでも反射的に動かせる『流』は間に合いすぎて『硬』になった。つまり、<神速(カンムル)>が使えるようになったら回避もできる。そして回避できない蟻王メルエムよりも速度では有利に立てるということだ。(希望的観測)

 

『硬』による防御は間に合い、かつオーラ量でも上回っていたにもかかわらず、なぜ俺は吹き飛ばされたのか。それは『硬』が間に合ったが故だ。10m近くもある観音様は、見た目通り質量が大きいので、オーラを完全に受け止めても、その質量×速さによる運動エネルギーまで受け止められることはできなかった。結果として腕を『硬』で守っていた俺は、全くオーラを纏っていない足で踏ん張りがきかず吹き飛ばされた。だが、壁に当たる前に態勢を整えることができたのでダメージはない。

 

 叶うならば、『堅』だったらどうなるのか、それと攻撃位置を予測して<コテっちゃん>で斬れるかも試したかったが、残念ながら時間切れだ。並列思考で見張っていたヒソカの気配がこちらへ向かっていることがわかったので、実力がばれないようにさっさと撤退しなければならない。

 

 それに今更ながらこの時点のネテロ会長と比べてもあまり意味がないことに気付いてしまった。ネテロ会長は蟻王メルエムと戦う前に二か月間は勘を取り戻すための修行を行っていたので、少なくとも今は年齢による実力低下以上に錆がついて弱体化しているような状態ということになる。負けない実力を身につけられていることを実感できたことに意味はあるものの、続きをやって倒せたところでそれ以上の証明にはならない……。

 

 いわば、今の老いたネテロ会長は第一形態。今のうちに発破をかけて第二、第三形態へと進化させることが出来れば、キメラアント編では第五形態となり活躍してくれるのではないだろうか。(人間なので変身はしません)

 

「いやいや、まったく年齢を感じさせない恐ろしい速度ですね。

 無礼の数々、大変申し訳ありませんでした。

 腕が痺れてしまいこれ以上は難しそうなので、お先に失礼させてもらいます」

 

 

 

 ◇◇◇◇◇ネテロ会長視点

 

「……は? 

 なんでピンピンしてんだ、あいつは……」

 

 意気揚々と撃ち込んだ<百式観音>で吹き飛ばし、これで決まったと判断したにもかかわらず、さして怪我もなくぴんぴんとしており、<百式観音>をこんなものか? と言わんばかりに首をかしげて不思議そうにしたかと思えば、軽い嫌みだけ言って立ち去るハヤテを見てつい言葉が零れ落ちる。

 

 なんらかの能力で無効化された? 

 いや、目の前で発動されて気付かぬほど耄碌はしておらん。

 

 コンやキルアと遊んでいる間に何か仕掛けられた? 

 いや、<百式観音>は間違いなく発動したし、ハヤテにも直撃したことは確かじゃ。

 

 ならば普通に受け止められた? 

 確かにオーラ量は凄まじかったが、ビスケに聞いた話では特質系じゃったはずだが……。

 

 

 ふむ、ハヤテか……。

 出会ったのは8歳の時じゃったか。8歳にして心源流拳法の師範代候補を難なく打ち破るほどの神童という噂がたった。才能があるものほど調子に乗っ堕落することを懸念し何度か相手をして未熟さを思い知らせてやったのに、10歳で旅に出ると聞いたときは、こいつも基礎をないがしろにして凡庸な使い手で終わってしまうのだろうと思ってしまったが、なんだあれは! 

 十で神童、十五で才子、二十過ぎればただの人? ふざけんじゃねぇ! 

 

 ビスケが鍛えてんのは聞いてたが、それだけじゃあ説明がつかねぇ。相対していてもまったく隙が見えねえし、オーラ量は格上、接近速度はぎりぎり反応してなんとか手をかすらせるのがやっと、刀を構えて殺気を向けられた時には首が飛ぶイメージまでわいて躊躇しちまった……。

 

 さらには、あらゆる戦士をその自信ごと叩き潰してきた<百式観音>まで耐えやがった。先日直弟子であるビスケに破られたばかりだというのに、孫弟子にまで耐えられるとは……。

 長年修行をつけていた弟子であるビスケに破られたときはついにこの時がきたんかと寂しさとともに多少の喜びを感じたんじゃがの。

 

 とはいえだ。壱乃掌とはいえ15歳の若造に軽く耐えられるようじゃあ、問題じゃろうが。

 去り際の、この程度かと、期待値以下だった、といわんばかりの建前だけ取り繕ったセリフ……!

 

 

────いったい、いつからだ。

<百式観音>さえ使えば負けることはねぇと驕っていたのは! 

 

────いったい、いつからだ。

神童の噂を聞いても所詮ガキと思うようになったのは!  

 

────いったい、いつからだ。

衰えゆく身体を仕方のないものだと諦めてしまったのは! 

 

そんなんじゃねぇだろ!! 

俺が求めた武の極みは! 

敗色濃い難敵にこそ全霊を以って臨むこと!!! 

生涯現役、勇往邁進!!!

 

 感謝するぜ、ロリババアと調子に乗ったクソガキに出会えたこれまでとこれからの全てに!! 

 

 ほっほっほ。嬉しいのぉ。この歳で挑戦者か。血沸く血沸く……!

 

 

 

 一人で興奮し続けるネテロ会長を、扉の奥から眺める人影。

 そう、強烈なオーラを感知して駆けつけていたヒソカだ。

 ネテロ会長から溢れるオーラと闘気にそのまま戦いを仕掛けたいという気持ちを抱きつつ、さすがにまた試験官を襲って不合格になり来年も受講する面倒さや、今回受験している青い果実達と同期になって接点を増やしたほうが面白そうという好奇心を秤にかけ、後者をとった。

 

 だが、戦う姿を妄想しているのか「興奮しちゃうじゃないか……」と呟きながら目が逝っちゃっている姿は、まさに性犯罪者のそれであった。

 

 





ネテロ会長の得意系統や、百式観音の系統については諸説ありますが、本作ではこう扱いにしました。

オーラで大仏の形状に変化しているだけで具現化はしておらず、変化系、強化系、放出系のバランスのいい念能力じゃい!という意見も個人的にはありだと思っています。


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第30話:三次試験

 飛行船が試験会場に到着したのは朝8時。

 原作では朝4時半まで粘って睡眠をとったゴンを気遣って飛行船はゆっくり進んだが、今世では朝2時にコンを眠らせたので予定通りの進行になったようだ。

 

 三次試験の内容は、飛行船から降りた場所であるトリックタワーの最上階フロアから72時間以内に生きて下まで降りること。この試験ではコースによって試験内容が大きく異なるため、コン達に同行しない限りは原作知識は役に立たない。まぁ最悪、床を壊していけば到着はできるから失格の恐れはほぼほぼない。

 

 とりあえずは、俺、リオン、ミアキス、リン、ポンズで行動できればそれでよしと考えていたが、5人で共に降りる場所だと原作主人公グループのルートを奪うことになり原作が破壊されることが怖い。仕方がないので、リオン&リン、ミアキス&ポンズの2人組で先に進んでもらうことにした。

 

 組み合わせの理由?

 ポンズの毒とミアキスの<風使い(フリーダムウィング)>の組み合わせが有効だからだ。まぁトリックタワーは密室空間だからミアキスの能力は使いづらいだろうが、今後もよく一緒に行動してもらう可能性が高いから仲良くなる機会があるに越したことはない。

 リオンとリンは名前が似ていたから……ではなく、近距離のリオンと遠距離のリンの組み合わせだ。俺がぼっちなのは、72時間も男女が一緒にいると問題しかないので自重した結果だ。そう考えると、男達と行動することになるコンとキルアが心配だな……。

 

 4人を見送り、周りを見回すと既に半数以上の受験者がいなくなっていた。一人ルートで行こうとして、実は既に降りていた受験者と同行するルートだと足を引っ張られるリスクが怖い。さてどうしたものか。

 ヒソカとギタラクルも既に居ないから、キルア達と行動しても目を付けられることはないか。原作知識のおかげで、キルア達が5人ルートの隠し扉に4人で突入することはわかっているので、それを待ってから近くの隠し扉を降りれば合流ができる。さぁ行ってみよう。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇多数決の道

 

「おっと、待たせてしまったかな? 

 ……なるほど多数決の道ね。つまり君達と行動を共にする必要があるわけだ。

 初めまして、俺はハヤテ。よろしく」

 

「ボクはコン! よろしくね!」

「オレはキルア」

「俺はレオリオという者だ、昨日はありがとな」

「私の名はクラピカ。スシは民族料理の可能性を感じられる素晴らしい料理だったよ」

「そう言ってもらえるとジャポン人として嬉しいよ」

 

 とりあえずコンとキルアに初対面を装いますよーという意味を込めて先行して挨拶をする。意図をくみ取った二人も普通に返してくれた。冷静で知性も高いクラピカは気づく可能性もあるが隠していることを暴くようなことはしないだろう。口が軽そうなレオリオはそもそも気づかないだろうから安心だ。

 

 原作ではトリックタワーで行動を共にするトンパとレオリオの諍いが目立っていたが、幸い二次試験の終わりにスシを配って歩いたこともあってクラピカとレオリオとも面識が多少はあるし、残り一人がくるまで二時間待たされなかったことでレオリオが落ち着いているという相違もあるから、無駄な諍いは起きないだろう。

 しかしレオリオのポケットに両手を突っ込み腰を若干落としてサングラスをきらっとさせる名乗り(原作1巻P48)はかっこいいと思ってるのだろうか。俺とはセンスが合わないようだ。

 

 

 

 いくつかの多数決にて道を進むと四角く開けた場所に出た。

 俺達がいる入り口から先のフロアは大きな空洞になっており、その中央にいかにも戦闘スペースという言わんばかりの舞台があった。舞台を挟んだ反対方向には手錠で繋がれた囚人と思われる集団がいた。顔まで覆うローブのような囚人服を着ており顔まではわからない。

 

 その集団の内の一人が囚人服を脱ぎ去り、見えたのはきらりと光るスキンヘッド。

 スキンヘッドの説明によると1対1を5回戦い、3勝以上すれば通過することができるらしい。

 勝負の内容は自由で、勝敗をつける条件も含め、対戦者同士の同意で決まるそうだ。

 

 

 囚人側の一番手に名乗りをあげたスキンヘッドに相対するのは俺。

 原作ではトンパが出ていき即降参した戦いだ。このスキンヘッドは傭兵上がりでそれなりの実力者でもあるが、念能力者ではないので、俺がどんなに手加減しても負けることはない。クラピカとレオリオに実力を知られたくはないのでほどほどの力で降参させ勝利した。

 仲間たちは初戦勝利に歓声をあげてくれた。うんうん、仲良きことは素晴らしきかな。

 キルアからはあんな雑魚に時間かけやがってという冷たい視線を感じた気もするが気のせいだ。反抗期だなんてことはありません! 

 

 

 

 囚人側の二番手に名乗りをあげたのはてっぺん禿げでその周りに少しだけ毛が生えた河童ヘアー。

 左目はつぶれ、右目は瞼がないのか開きっぱなし、歯もほとんどが抜け落ちており、怖さよりもまず哀れさを感じてしまうようなムキムキゴリラだ。

 彼と相対するのはクラピカ。原作通り、復讐対象である幻影旅団を模倣したマークを目にしたクラピカが、ガチギレして全力で殴り河童は気絶した。ただし、勝負は一方が死ぬか負けを宣言するまで続く。クラピカは河童が眼を覚ますのを待つことを選択し、しばしの待機時間が生じることになった。

 

 何もできない待ち時間が続くにつれてレオリオの苛立ちが増していき、クラピカに引導を渡してこいと食ってかかるが、それでも待ちの姿勢を変えないことで喧嘩まで始まってしまった。喧嘩するほど仲がいいという迷信もあるのでスルーだ。男同士の喧嘩に興味もないし、コンとキルアも落ち着いているから問題はない。

 

 しかしその後も10時間動きがないことから、河童がもう死んでいるのでは? という意見があがった。

 生死を確認させろと切れるレオリオと、気絶しているだけだと主張する囚人側。そして生死に『時間』を賭けるという囚人側の提案により三番目の勝負が始まることになった。お互いが賭けられるのは50時間のチップ。生死だけではなく複数回の賭けを行いチップが0になったほうが負ける勝負だ。

 

 

 ▽一つ目の賭け:河童の生死確認

 

 囚人が出題し、レオリオが生きていることに10時間を賭ける。

 医者志望でもあるレオリオが、脈があることと瞳孔の様子から生きていることを確認したため、レオリオの勝利(レオリオ60:囚人40)

 

 

 ▽二つ目の賭け:河童が本当に気絶しているかの確認

 

 レオリオが出題し、囚人は河童が気絶しているほうに20時間をかけると宣言。

 レオリオは気絶しているかを確認する方法として、河童を戦闘スペース脇にある空洞へ落とした時の反応を提案。(底が見えないほどの高さ)

 囚人は、前のクラピカ戦が決着ついていないことから確認方法に拒否の姿勢を見せたが、もしも河童が気絶したまま無抵抗に落下したらクラピカ戦ともども受験者の負けでよいと伝えると、手のひらを返し、その確認方法でよいが、河童が気絶していないほうに40時間を賭けると宣言。

 結果、河童がチキって起きたので囚人の勝利(レオリオ20:囚人80)

 

 

 ▽三つ目の賭け:囚人が男か女かの確認

 

 囚人が出題するとともに囚人服を脱ぎ去ると、中からは釣り目ツインテールの美女が現れた。

 

「おっ!!」

 

 案の定、女好きのレオリオがだらしないにやけ面をしながら声をあげた。

 

「次は、あたしが男か女か賭けてもらうわ」

「なにっ!? 

 まさかオカマちゃん……? 

 いや、あんな美女が男のわけがない……。

 そいつは構わねーが……オレがはずれたばあい、どうやって確かめさせる気だ?」

「あなたの気が済むまで調べていいわよ、あたしの体をね」

 

「レオリオの奴……、男に賭けるな」

「うん」

「え?」

 

 囚人に明らかに見惚れていたレオリオから、クラピカが男に賭けると予想し、キルアも同意する。

 ここまであからさまな女好きであるレオリオが合法的にお触りできる機会を逃すわけがないので、明らかに間違いである男に賭けるというのは誰でも予想がつく話だ。紳士レベルが足りないのだよ。

 仕方がないので声をかける。

 

「レオリオさん、当然ですが女である方に20時間賭けますよね? 

 まさか11歳の淑女達が見ている前で敢えて外して教育によくないことしたりしませんよね?」

 

「うっっっ! 

 …………ま、まぁ確かに普通に考えれば女だろう。

 しかしそこまであからさまな問題を出すとは思えないぜ? 

 若輩者の君達にはわからないだろうが、これは非常に高度で複雑なひっかけ問題なのだよ! 

 この決断には決して邪な想いは一切ねえ!」

 

 レオリオが自己弁護しだした。

 内容自体はほんの少し、確かに……と言えなくもないが、さまよい続けている視線から、邪な想いしかないという魂胆がまるわかりだった。

 

 原作のレオリオは、法外な手術代を支払えず友人を死なせてしまったことから、医者になることを決意し、更に医者になるために必要な資金をためるため過酷なプロハンター試験を受けに来るほど義理人情に篤い熱血キャラであった。

 そんな良い漢であるレオリオだが、女性が絡んだ時だけただのエロ親父(19歳)になってしまうのがこの場面である。良い漢というだけではないところに親近感を感じて更なる人気に繋がっていたようにも思えるが、俺は嫌だ。そんなレオリオは見たくない! だからなんとしても止めてみせる! 

 

「レオリオさん、噂で聞いた話ですが医者志望ですよね? 

 医者ともあるものが、立場を悪用して女性の体に触りまくるのは最低最悪だと思いませんか? 

 あ、別にレオリオさんがそんな変態だといってるわけじゃないですよ。

 でも、俺はもしそんなことをする医者の噂を聞いたら、プロハンターとして持てる力を全て使ってハントしようと思ってるんですよね。いや、別に特定の誰かのことを言ってるわけではありませんよ? 

 同じ医者希望としてどう思うのか意見を聞きたいなぁーと思っただけです」

 

「お、おぅ……。

 (やべぇ、後ろからの殺気がやべぇ……)

 (ハヤテだけじゃねえ。コンやキルア、そしてクラピカの視線まで厳しくなりつつある……)

 (つーか、囚人達にすら犯罪者を見るような眼で見られてるのは納得いかねー……)

 (だが、確かに俺が目指しているのはそんな藪医者じゃねぇ!)

 (法外な手術代で泣きをみている子供達を救うためだろうが!)

 いや、わりぃ。目が覚めたわ。

 しゃあっ! 決めたぜ、女に20だ!」

 

 結果はもちろんレオリオの勝利(レオリオ40:囚人60)

 

 その後も覚醒したレオリオが、らしからぬバクチ強さを見せつけて勝利……とはいかず、残念ながら結局負けてしまい、受験者側は仮にここを通過できることになったとしても、50時間ここで待機せざるをえなくなってしまった。

 まぁ根がまじめで賭けに慣れていないレオリオが、賭博法違反で懲役112年にもなっている犯罪者に賭け事で勝てるはずがないので仕方のないことだろう。レオリオの犯罪者予備軍化を阻止できただけで目的は果たせたので問題はない。

 

 なんにせよ、クラピカ戦は勝利したことになるので、レオリオの負けを含めても2勝1敗。

 あと1勝すれば通過はできる。

 

 

 

 囚人側の四番手で登場するのはもやしっ子。

 受験者側はコンだ。勝負内容は囚人側が用意した2本のローソクをお互いが1本ずつ持って火をともし、先に火が消えた方が負けになるというもの。2本のローソクは明らかに長さが異なるため、普通であれば長いローソクを持った側が勝利する。しかし仕掛けがあり長いほうが先に燃え尽きる可能性も考えられる。その考えを逆手にとり、短いほうに仕掛けがある可能性もある。

 

 そんな不自由な二択を前に、コンが選んだのはもちろん長いほうだ。その理由は、

「だって長いほうが長時間火が消えないに決まってるじゃん!」と自信たっぷりに答えるコン。

 あまりに素直で可愛らしい答えにコンにますます惚れなおしてしまったね。

 

 案の定コンが持っているローソクが異常な速度で溶けていき、負けそうになるものの、コンが囚人を見てニコって笑いかけると、そのキュートな笑顔に見惚れている隙に囚人に近寄り、持っているローソクに息を吹きかけて消し去った。自分の顔面偏差値を理解した実に小悪魔プレイだ。

 まぁ実際は、いいこと考えついちゃったー♩という笑顔だったんだと思う。

 

 これで3勝となり、通過決定だ。

 しかし勝負は5人が戦い終わるまで続く。

 

 

 

 囚人側最後は細マッチョな髭ダンディだ。

 レオリオが語る。

 

「キルア、俺達の負けでいい。あいつとは戦うな! 

 解体屋ジョネス。ザバン市犯罪史上最悪の大量殺人犯……。

 殺された146人全員がそれぞれ50以上のパーツに分解されていたという異常犯罪者……。

 あんな異常殺人鬼の相手をすることはねぇ。幸い試験は3勝で通過確定してるんだ」

 

 それを聞いてもキルアは気にすることもなく戦闘スペースへと進み、死んだほうが負けというデスマッチに同意する。そして戦闘開始直後にジョネスの横を通り抜けざまに心臓を抉り取って笑うキルア。懲役968年とはいえただの大量殺人犯と、プロハンターですら手が出せない暗殺一家のエリートの格差はでかかった。

 

 嫁(キルア)の殺人を止めないのかって? 

 いや、相手は凶悪犯罪者だし、止める理由はないよね。下手に見逃すと復讐で襲ってくるような奴らだ。憂いを残さないように敵は殺す。なんなら俺だってもう人を殺したことはある。アマチュアハンターとしての活動の中で、盗賊や密猟者等の犯罪者と相対する機会は山ほどあったのだ。前世の価値観による葛藤はとっくに乗り越えている。嫁の安全が第一である。

 

 

 なんにせよ、これでこの場の勝負は終了。

 レオリオの賭けの結果によって50時間を小部屋で過ごしてからトリックタワー一階を目指し進む。

 50時間はレオリオの夢の話や、クラピカの幻影旅団への復讐心を聞きつつ、コンとキルアの安全を見守り過ごした。俺はまだ目立ちたくないから当たり障りない話をしただけだ。

 

 以降は原作通り全員で突破だ。

 一階には既にリオン、ミアキス、リン、ポンズもいたのであちらも問題なく突破できたようだ。

 





アンチ・ヘイトタグを入れたのはこの三次試験のレオリオに対する扱いのためです。
なお、作者はレオリオが嫌いというわけではなく、変態医者が許せないだけなので誤解なきようお願いします。



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第31話:四次試験1

 四次試験の内容は、6点分のナンバープレートを一週間かけて奪い合うサバイバル。

 ターゲットとなる受験者のナンバープレート及び自身のナンバープレートが各3点。それ以外のナンバープレートが1点となり、試験終了時点で6点分を確保していた受験者が試験突破になる。

 

 参加者は原作と同じ24名に、俺、リオン、ミアキス、リンを加えた28名。

 各自のターゲットも、ミアキスの<風使い(フリーダムウィング)>で確認した。この能力は、風に微量なオーラを混ぜるだけなので、人が多い場所では垂れ流しになっているオーラとの見極めがとても難しい。ゆえに『凝』で見ても気づきづらいのが大きなメリットである。

 ヒソカとギタラクルは視線だけで感知してくる可能性が高いので、この二人だけはターゲットを確認できていないが、消去法で考えればよいので問題ない。その結果として、原作主要キャラは原作通りのターゲットであることがわかったので大きな作戦変更せずにすんでよかった。

 

 

 俺のターゲットは 118ソミー。

 新人潰しトンパの相棒だ。

 猿と仲良しだ。

 

 リオンのターゲットは281アゴン。

 胴体を覆うマントが特徴のサーベル使いだ。

 軟弱そうな顔のわりに、狂気に染まったヒソカの接近に気付き迎え撃とうという気概をみせたものの、何の見せ場もなく即死したキャラだ。

 

 ミアキスのターゲットは053ポックル。

 ターバン帽を被った弓矢使いの青年で原作における合格者の一人だ。

 おめでとう、君の落選とキメラアント編での死亡回避は確定した。

 

 リンのターゲットは198イモリ。

 アモリ三兄弟の末弟だ。

 典型的なやられ役だ。

 

 コンのターゲットは044ヒソカ。

 言わずと知れた奇術師であり戦闘狂だ。

 

 キルアのターゲットは199ウモリ。

 アモリ三兄弟の多分次男だ。

 典型的なやられ役だ。

 

 

 さて、四次試験での目標は、突破は最低条件として、理想はヒソカとギタラクルの暗殺だ。

 

 原作でも最強キャラ候補として名を連ねる二人だが、唯一この試験だけは暗殺チャンスが巡ってくる。そのために俺はここまで力を隠してきたといっても過言ではない。こんな不意打ちじみた襲撃をしたことがばれてしまってはコンからの非難を免れないが、嫁の安全のためなら汚名も敢えてかぶろう。

 

 ヒソカは強い人と戦いたがる戦闘狂で、実力が不十分でも将来性があると見込んだ相手には唾をつけておき、育つのを待ってから戦いたがるという粘着質な危険人物だ。そして男相手でも興奮する変態だ。当然才能あふれる美少女なコンとキルア、リンは眼をつけられることになるので、ここで始末をつけなければ今後の人生でずっと付きまとわれる危険性が非常に高い。

 変態ではあるが、なんだかんだ存在がメリットになることも多いヒソカである。だが、9/1に幻影旅団がヨークシンシティに集まるという情報や、幻影旅団一部メンバーの能力密告程度であれば俺が情報提供すればいいだけなので問題はない。コンが強くなりたいと想うきっかけまで俺が代替できるかはわからないが、それでも嫁の安全性が最優先だ。

 

 ギタラクルの正体は、キルアの兄であるイルミだ。イルミはキルアをいろんな意味で愛しているので、俺がキルアを嫁にもらうための大きな障害である。非常に危険な操作系能力者でもあり、彼の念が込められた針を刺されたら完全催眠となってしまい操られてしまう。操作系能力は早い者勝ちルールがあるため、<秘める想いの誘導(ブレインインダクション)>で操作されて修行脳になっている俺を含めた一部メンバーは基本的に大丈夫なはずだが、イルミの怨念が込められた特殊な針だけはさすがに怖い。本当にすべての操作系能力に早い者勝ちルールが適用されるのか、それを試して失敗したら人生終了だから試せるわけがない……。早い者勝ちルールはあくまでも保険程度に考えるべきだろう。それに俺が大丈夫でも、俺の大切な人たちにその毒牙を向けられる可能性もあり、不意を打たれると勝負にすらならずに大事なものを失ってしまう危険性が高い。

 長男のイルミを殺し、優秀なキルアを嫁としてさらっていくことになるので、ゾルディック家を完全に敵に回すことになってしまう可能性も考えられるが、失敗したやつが悪いという完全実力主義の暗殺一家だろうからきっと大丈夫だ。……大丈夫か? 

 おデブちゃんのミルキはともかく、優秀なカルトがいるからきっと大丈夫だ……(震え声)。

 

 

 

 何はともあれ始まった無人島サバイバル生活。

 三次試験を突破した順番で上陸していくことになるため、ビリで突破した俺は必然的に最後だ。

 そしてナンバープレートも隠していないので、俺をターゲットにしている人はそれに気づき狙ってきてくれるだろう。探しに行く手間が省けるから助かる。リンとポンズは隠しているが、リオン、ミアキス、コン、キルアは隠していないので同様に狙い待ちか何も考えていないかのどちらかだ。

 

 リンとポンズの二人組以外は、敢えて狙われるためにばらばらに行動している。合流するかどうかは状況次第だ。だが、残念ながら俺を狙っている受験者がいないのか周囲に試験官以外の気配を感じない。仕方がないので諦めることにした。

 

 

 待ち伏せを諦めて次の作戦。コンの応援だ。

 直接ヒソカを捜索・監視するのは逆に見つけられる危険があるので、ヒソカを狙うコンを遠くから応援しつづける方が安全だ。そしてかわいいコンを常に見て癒されることもできて、コンの危険を防ぐこともできるという一石三鳥の作戦である。

 実際に受験番号384ゲレタという黒人が、コンを付け回しニヤニヤとしていて犯罪臭を感じたので気絶させて遠くの砂浜に埋めておいた。まったく許しがたい大罪である。

 

 コンはなぜか持ち込んでいた釣り竿で獲物を捕る練習をしている。これは原作同様、ヒソカが攻撃する瞬間の隙をついてターゲットプレートを釣り上げる作戦で間違いなさそうだ。これには安堵した。原作と比べて念能力も習得し、戦闘技術もそれなりに身に着けているので、己を過信してヒソカに真っ向勝負を挑もうとされるとさすがに面倒なことになっていた。実力が上がったことで、よりヒソカとの実力差を感じとれるようになっていることと、まだこの時点ではヒソカとの因縁もあまりないことが要因だろう。

 コンを応援し続けること早二日、ついにヒソカを見つけることができた。

 

 二日間応援したといっても、コンの水浴びやお花摘みの時は目を逸らしていたから安心してほしい。時々こっそり覗き見ていた試験官の目もつぶしておいた。リオン、ミアキス、キルアは試験官のストーキングに気付ける実力はあるから大丈夫であろう。リンも大丈夫だとは思うが、最悪一緒にいるポンズが蜂を操って周囲の安全を確保しているはずだ。コンも俺が守るから、俺の嫁(と候補)は安心だ。安心できたところで目の前の観察に集中した。

 

 

 ある時は、ヒソカの隙を隠れて窺うコンの後ろから、受験番号371ゴズがヒソカに襲いかかった。だが、ゴズが戦う前から致命傷を負い、目からも生きることを諦めていることを見抜いたヒソカは、相手にする価値がないと判断して攻撃する様子を見せないため、コンも攻撃する瞬間という隙を狙うことはできず隠れ続けた。そしてギタラクルが登場しゴズは死亡。今世でもヒソカとギタラクルは仲良しである。

 

 ギタラクルは自分の3点、ターゲット(ゴズ)の3点で試験突破点数を獲得したため、試験終了まで寝るとヒソカに宣言して地面に穴を掘って、中に身を潜めた。

 

 

 辺りが静かになったことで、ついにヒソカがナンバープレートを求めて動き出す。そして見つけたのはクラピカとレオリオ。二人の場所へ駆け寄りプレートを要求したが、クラピカの機転により一点分にしかならないナンバープレート一枚を差し出すことで切り抜けこの場を去った。

 

 ヒソカが目の前に迫っている状況、更には一次試験でヒソカに殺されそうになったにもかかわらず、この突発的な緊急事態で冷静に頭を回転させて有効な回避策を提案するクラピカの知性と胆力は賞賛に値する。レオリオもそれに合わせる協調性と覚悟には成長を感じさせる。この時のレオリオが魅せたナイフ捌きと表情には、三次試験で感じさせたエロ親父の欠片も宿っていない真剣さを感じる。常にこのモードでいたら人気投票上位間違いなしだったであろう。いや、さすがにないな。

 

 なんにせよ、この短期間で戦闘狂ヒソカが満足するレベルで成長を遂げたことは素晴らしいことである。これで目的を果たすことができるというものだ。

 そう考えた瞬間──────

 

 

「くっくっくっ……。

 たった数日でみちがえるほど成長する……♠

 だが、まだまだ♣

 しかし、青い果実ってのはどうしてああも美味しそうなんだろうねぇ…… 

 

 うーん、残念♠

 もらったプレートはハズレか

 あと二点……♣

 

 も~~~やだなァ♠

 あの二人のせいで欲情してちゃったよ……

 鎮めなきゃ

 

 笑顔を浮かべていたヒソカから、殺気とともに暗黒のオーラがあふれ出す。

 俺に向けられているわけでもなく、そしてこれだけ距離をとっているにもかかわらず、正気を削るような、怖気が走るような、思わず逃げ出したくなるようなオーラを感じてしまったが、それでも冷静さを保ち、『絶』を維持して観察を続ける。これから逃げ出すようでは、より邪悪で、巨大なオーラを操るキメラアントの王直属護衛軍と相対することもできないだろう。今まで戦ったことのある賞金首程度の悪では経験することもできない性質のオーラを事前に体験することができたことは、俺の目的を考えれば有意義だったといえるかもしれない。

 

 それより、俺よりも近くにいたコンが気絶してしまわないか、後ずさりして音を出して気づかれてしまわないかが心配になってしまったが、原作同様、かすかに震えながらもなんとか耐えていた。万が一ヒソカが『円』を使っていたら確実に気づかれていただろうが、今回は単に興奮してオーラが溢れだしただけだったから気づかれずに済んだのだろう。俺もその前提でこうして観察していたのだから、その点は原作知識のおかげだ。

 

 

 獲物を探しに動き出したヒソカがある程度離れるのを待ってから、コンは次に狙われるであろう受験者を先回りして探し始めた。もちろん俺もこっそり見守り続ける。

 

 そうしてコンが見つけたのは、受験者番号281アゴン。

 リオンのターゲットなのに、特に大きな怪我もなく行動しつづけているのは、俺の指示である。

 原作を変えないように、アゴンは無視して三人のナンバープレートを集めるようにお願いしたのだ。

 つまり、ここで原作通りアゴンがヒソカに殺されるのは俺の責任でもある。リオンが相手であれば致命傷を負うことなくリタイアできただろう。

 

 正直すまないとは思っているが、この狂気に満ちたヒソカが嫁に向かったら最悪なので、原作通り生贄としての役割を果たしてもらうことにした。数年前からマチ達プロハンターに随行して行動している俺にはもう前世ほど殺人は絶対ダメという忌避感はない。もちろん、助けられる人は助けたいと思っているし、美少女は何が何でも助けるけど、ここでいってるのは優先順位の話だ。見ず知らずのおっさんが確実に殺されるのと、大事な嫁が襲われる可能性を秤にかけたら、嫁の安全を優先して行動するのが俺だ。

 



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第32話:四次試験2

 ◇◇◇◇◇ヒソカ視点

 

「見~~~つけたっ

 

 名前も知らない小物だが、この昂った気持ちを抑えるためだけの狩りなんだから、逆にちょうどよい相手、そう判断して、ニィィと口角が上がってしまう。

 

 恐怖で気絶したら興ざめでしかないのでオーラは控えめに♣

 怯える姿もスパイスとして添えるために敢えて動きが見えるようにゆっくりと♠

 無抵抗なんてつまらないことはしないで、少しはあの二人のように楽しませておくれよ 

 

 獲物に駆け寄っていると、残り20mというところでようやくこちらに気付いたようだ。

 さぁどう出る? 

 

 獲物は硬直したまま、残り15m。

 

「ヒ、ヒソカ!? 

 うぅ……っ。

 くそ!! きやがれ!」

 

 ようやく剣を構えて待ち構える獲物、残り10m。

 反応が遅すぎる、これじゃあつまらないよ♣

 

 さぁ、せめて踊り狂って死ぬといい 残り5m。

 

 ゾクリ

 

 ……なんだ。嫌な予感がする。

 あれか? 

 いや、あれはただの雑魚♣

 

 右側か? 雑魚の相手は片手間に、瞬間的に『凝』でのオーラの確認、『円』での潜んでいる者の確認を試みようとしたが、その前に左側から何かが飛んできて胸元からナンバープレートを奪われてしまった。

 

 雑魚の血しぶきを背景に、視線を向けた先に居たのはコン。

 二次試験から注目していた、しかしまだ戦う価値はないと思っていた今後に期待できる青い果実。

 

 それがまさか気配を悟らせないまま着いてきていた? 

 あまつさえボクが誰かを攻撃する一瞬の殺気に自分の殺気を紛れ込ませて攻撃を悟らせなかった? 

 

 お見事

 素晴らしい

 ああ~~、コン! コン!! 

 良い!!! 

 その瞳! その表情! その心意気! 

 キミ、すごくいいよ! 

 

 あぁ、今すぐ……キミを壊したい

 

 あぁ……でもダメダメ♣

 もっともっと熟れてから……

 崩すのがもったいなくなるぐらい高く積みあがるまでの……ガマン

 溢れだす衝動を必死に抑えている間に、コンが逃げ出してしまった

 彼女にご褒美上げないと

 

 ゾクリ

 

 !! 

 再び感じた悪寒に冷静さを取り戻し、『堅』で防御を固めつつ、コンとは逆方向に振り向くと、木陰から殺気とともに刀が襲いかかってくる。

 

 なんだ、嫌な予感がしたわりに大したことのない速度じゃないか♠

 

 軽くサイドステップで回避してから片付けようと思ったが、攻撃以上にヒソカの移動速度が遅かった。おや? 行動遅延系の念能力でもかけられたかと思い改めて『凝』で確認しようとするも、オーラの移動すら時間がかかる。とはいえ、刀にもさほどオーラは込められていないように思える。

 

 これなら最悪でも『堅』で耐えられそうだけど、正体不明の能力の可能性も……

 

 <伸縮自在の愛(バンジーガム)>縮め!! 

 

 念のため事前に元居た場所へと貼り付けていたゴムを縮めて高速後退で、まずは回避しつつ距離をとって態勢を……後退できない? 

 

 一体何が、それを考える間もなく後方に佇む新たな気配に気付いた。

 後方へと張り付けていたゴムのオーラが感じられなくなっていることから、その人物が何かを仕掛けてきたのであろう。振り返って確認しようにも、相変わらず身体の動きは遅く、前方からの攻撃が迫り続けている状況ではその時間的余裕もない。

 

 それにしてもこの不自然なまでに遅い攻撃。気配を悟らせないまま接近した実力者がなぜ……♣

 

 ──────いや、違う。

 こちらの行動も遅くなっていることから考えると、相手の動きも遅く感じられているだけ。

 だけど、お互いの動きを遅くするだけならなんの意味が……

 

 ──────そして、気づく。

 ヒソカをして想像を絶するほどのオーラ量が、徐々に刀先へ集いつつあることに。

 

 素晴らしい……

 現在ヒソカの『流』が動かせる速度よりも断然速い速度であることを踏まえると、実際はどれほどの速度で行われているのか、そしてそれを実現させるほどの実力、実にエクスタシー

 

 ……おや? ボク、死ぬのかな……? 

 

『凝』のため目にオーラを移動させようとしていたがゆえに、防御のために攻撃予測位置へと改めてオーラ移動を行う必要があるが、明らかに着弾まで間に合わない。そして、あれだけのオーラ量が込められた攻撃は『堅』でも防ぎきれない。そして後方にも存在する未知の戦力。

 

 どうせ死ぬなら……この最高の攻撃を最後まで見届けよう……

 

 なんて潔く諦めるのはボクらしくないよね♣

 

 恐ろしく綺麗な斬撃であることを考えると所詮は体が真っ二つになるだけだから、死後強まる念によって斬られた半身をゴムとガムでくっつければ蘇生できる可能性はある。どうせ死ぬなら……試してみるか

 

 あぁ、待っててねボクの玩具(オモチャ)達!

 幻影旅団団長クロロ、その他団員達、武神ネテロ、イルミ、今回であった青い果実達、そしてボクを殺そうとしている最高の玩具(オモチャ)! まだまだ遊び足りないから絶対にボクは戻ってくるよ! その時は二人っきりで濃厚な時間を楽しもうね

 

 ヒソカが最高の愉悦を感じている間に体感速度が元に戻り、その刹那、首に衝撃が走り、視界が急速に下がっていく。

 あぁ、実に美しい攻撃だった

 地面に転がる生首の状態でも至福を感じているような狂気の笑顔のまま、ヒソカは亡くなった。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇とある老人暗殺者の独り言

 

 確かにある。

 ありえない? いや、ある。走馬灯のようなもんじゃ。

 死ぬって瞬間に時間が超スローになって、自分の人生振り返る感覚あるじゃろ? 

 あれに近い。

 むしろ、それより信憑性は測りやすいぞ。

 ある武道では心滴拳聴とよばれとる現象よ。

 真の強者同士がぶつかり合う瞬間にはよくある時間間隔の矛盾じゃ。

 

 ハヤテとヒソカの戦闘でもそれが起こったんじゃろう。

 マッハ3を超える速度で振るわれる刀は、ワシでも予測しておらぬ限り回避は不可能じゃよ。

 ましてやろくに警戒もしておらず狂気に溢れている状態で、視覚外から襲われてはどうしようもない。

 

 ゆえに、思考が追いついておらんでも、脳がすでに死を認めておったんじゃろうな。

 それでもなお、心滴拳聴を引き起こし、限界までその神業を見届けることができたのじゃから、バトルジャンキーとしてはこの上ない最後を迎えたといえるじゃろう。

 

 まぁワシクラスじゃと予測できない攻撃を食らうことなんてないんじゃがの。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇通常視点

 

 やっぱりヒソカは化物だった。コンに見惚れている隙をついて俺が全力で放った居合すら察知して振り返ったと思ったら<伸縮自在の愛(バンジーガム)>による回避まで行おうとしてきた。この速度なら回避される可能性は無いと思いつつも、念のために周囲に配置しておいた分身体で<コテっちゃん>を発動し縮む前のゴムを切断してなかったら危なかったかもしれないな。

 

 というか死ぬ間際に見せた、謎の狂気に満ちた笑顔が怖すぎる……。

 原作みたいに死んだと見せかけて蘇らないよね? 

『死後強まる念』とかいって、切断したはずの首から上と下をゴムとガムでくっついたりとか、首から下をすべてゴムにしてゴム人間になったりしないよね? 

 うん、念のために四肢をばらばらにしてから焼却しておこう。

 

 

 

 そして処理を終えた俺は、アゴンのナンバープレート(リオンのターゲット)と、ヒソカがクラピカ達から奪っていたナンバープレート118(俺のターゲット)、コンのストーキングしていたやつのナンバープレート371(ゴミ)を持って、リオンとミアキスに合流だ。残りの警戒すべき相手はギタラクルだけだ。ギタラクルがいる場所もわかっているので、感知されない程度に『円』を広げることもできるようになったことで、二人を探すことにそれほどの苦労はなかった。

 

 リオンは、キルアがアモリ三兄弟を殲滅している様子を目撃してから、余ったナンバープレートについて、1枚はリンのターゲットで、もう1枚は近くでストーキングしているハゲのものだから渡してあげるようにアドバイスしたそうだ。アモリとウモリは自身のターゲットプレートも持っていたのでそれをお持ち帰りしてきたそうだ。ついでに道中にいた狙撃手スパーのナンバープレートも手に入れている。ミアキスは自身のターゲットである受験番号053ポックルが保持していたナンバープレートを手に入れていた。

 

 これで俺、リオン、ミアキス、リン、キルア、コンはほぼ突破が確定したのは朗報である。

 準強キャラのハンゾーも突破点を満たしているので余計な争いは避けられるだろう。

 

 ▽ナンバープレートの状況整理

 044ヒソカ :コンのターゲット   (コンが入手)

 281アゴン :リオンのターゲット  (俺が入手しリオンに譲渡)

 384ゲレタ :ゴミ         (俺が入手)

 118ソミー :俺のターゲット    (クラピカ→ヒソカ→俺が入手)

 197アモリ :ハンゾーのターゲット (キルアが入手しハンゾーに譲渡)

 198イモリ :リンのターゲット   (キルアがリンに渡しに行ったらしい)

 199ウモリ :キルアのターゲット  (キルアが入手)

 089シシトウ:ゴミ         (アモリが奪っていたが今はリオンが保持)

 362ケンミ :ゴミ         (ウモリが奪っていたが今はリオンが保持)

 080スパー :ゴミ         (リオンが入手)

 053ポックル:ミアキスのターゲット (ミアキスが入手)

 105キュウ :ゴミ         (ポックルが奪っていたが今はミアキスが保持)

 

 嫁(候補含む)達の中で残りはポンズだけなので、仮にターゲットの蛇使いバーボンを倒せなくてもゴミ分のターゲットプレートで突破点を満たせる。ただし、そうするとポンズを狙っているレオリオが不合格になってしまうので、それは最後の手段だ。いや、ギタラクルとそのターゲットゴズ二枚を回収すればいけるのか。

 

 スパーは原作だとギタラクルをターゲットとして銃で狙撃した結果、反撃を受けて死亡している。今作ではリオンが気絶させただけで終わらせたので生存している。数少ない女性キャラだから頑張ってほしい。むしろ点数が余ったらナンバープレート返して合格させるか? いや、試験会場に向かう際にポンズと諍いが生じているからやめておこう。

 

 

 

 なんにせよ、他にやるべきことはギタラクル討伐だけだ。

 こちらはヒソカよりも断然楽な予定だが、そのために下準備がいろいろと必要がある。

 

 第一に土の中に潜伏するまで待機。

 第二に潜伏場所の特定。

 これについては原作知識でコンを見守っているうちに把握できたので既に達成済みだ。

 

 第三に人海戦術。

 つまり分身体の大量生産。分身体1体召喚時には最大オーラ量の半分を消費するので大量生産は本来難しいが、<空想の家(ファンシーハウス)>で待機させていたので時短できる。待機させてなければ、リオンから<メイドの抱擁(エンブレイスメイド)>を受けてオーラを急速回復しながら生産することになったであろう。

 ……あれ、能力を理由にリオンに抱きしめてもらえる機会を失ってしまったのか……? 無念♠

 

 第四に試験官の排除。

 四次試験では各受験者に試験官が採点のために隠れて同行している。

 ゾルディック家長男であるギタラクルを殺すところは見られたくないので、気絶してもらう。

 もちろんヒソカを殺すところも見られたくはなかったので気絶してもらっていた。ヒソカであれば試験官の気配に気付かないわけがないので先に気絶させるとばれてしまう。そのため、俺、コン、アゴンについていた試験官は先に気絶させておき、ヒソカについている試験官だけは俺の姿を見られないぎりぎりのタイミングで気絶してもらった。

 残りはギタラクルについている試験官だが、ギタラクルは他人を操るタイプの操作系能力者なので、最悪操作されている可能性がある。操作されていた場合、近づいていることにばれるとギタラクルに伝達されるかもしれないし、試験官を気絶させても気づかれる可能性が否定できない。試験官にばれないように気を付ける必要がある。

 

 第五に『死後強まる念』の対策。

 ギタラクルは愛妹であるキルアに操作系能力の針を刺している。

 これを放置したままギタラクルを殺した場合、死後強まる念としてキルアの意志で動けず解除もできないレベルまで強化される可能性すら考えられる。

 対策としては、予め『除念』してくこと。或いはキルアの身体の中から針を抉り出すこと。失敗する可能性のある手段も含めれば、強い未練や恨みなどの感情を抱く間もないように瞬殺するという手段も考えられる。今回はギタラクルが四次試験で上陸してからこっそりキルアの針を抉り出した。もちろん<メイドの抱擁(エンブレイスメイド)>で回復力を強化し治療済みだ。

 

 

 

 思ったより準備済みのことばかりでやることなかった。基本的にはヒソカ戦と同様で、待ち伏せするか、強襲するかの違いだけだ。とはいえ、失敗するとイルミを中心としてゾルディック家を完全に敵に回すことになる。もちろん成功してもバレたら同じことだがその時はその時だ。今はもう怯えるだけだった子供ではない。守りたい者達が多い状況で暗殺一家を敵に回したくはないのでできるだけ慎重に、用心を重ねて殺っていこう。

 

 まずは『絶』と暗歩を使ってリオンが試験官の後方へ潜む。

 残りも全員、『絶』と暗歩を使ってギタラクル周辺に潜ませる。

 

 次に、リオンが試験官に偶然の出会いをよそおい話しかけながら、その間に他の全員をギタラクルが潜んでいる場所に接近する。この時点で気絶ではなく話しかけた目的は、操作されていることを前提に考えると、気絶だと即察知される可能性があり、話しかけて気を逸らすだけなら数舜遅らせることができると考えたためだ。数舜もあれば余裕で接近できる。

 

 最後に、リオンが試験官を気絶させ、ミアキスが<風使い(フリーダムウィング)>と『円』でイルミの気配を掴み、俺の本体と分身体で『硬』を使って疑似<ビッグバンインパクト>20連!!! 

 

 ズドォー------ン! 

 

 元祖である幻影旅団随一のパワー自慢であるウボォーギンを超える筋力に、より膨大なオーラを纏わせて発動させる疑似的な<ビッグバンインパクト>を俺と20体の分身体で放つ、ただの脳金戦法。脳金を突き詰めた攻撃は、直径50m近いクレーターと、鳴り響く轟音、島ごと揺れているようにも感じる衝撃を引き起こした。

 

 巻きあがった砂煙で視界を奪われるのは想定通りなので、探知はミアキスに専念させていた。ミアキスを見ると、無事に討伐は成功したサインをだしていた。砂煙が収まり目視でも確認すると、ギリギリ人の形を保った遺体が見つかった。原作では<ビッグバンインパクト>の一撃で、世界中のマフィアを束ねる十老頭の実行部隊である陰獣でも跡形もなく吹き飛んだというのに……原型が残るなんて穴の中で眠っていたとしてもさすがはゾルディック家の長男。試験官の気絶が伝達されたのか、ミアキスの『円』を察知したのか、俺達の接近を察知したのかまではわからないが、瞬時に起きて『堅』で守りを行ったのだろう。戦闘狂ヒソカが95点と評する実力は確かだったようだ。

 思わぬ幸運としては、ギタラクルの遺体とともに2枚のナンバープレートが無事に見つかったことだ。ギタラクルが即死するほどの攻撃を受けてなんで残ってるのか逆に不思議だ。神様特典の豪運によるものなのか、ハンター協会が秘匿している超技術の賜物なのか。

 

 いずれにせよ、これで四次試験で自らに課したミッションは全て完了だ。

 

 

 

 その後は何事もなく、リン、ポンズ、キルアとも合流した。

 

 キルアは、リンにターゲットのナンバープレートを渡した後、そのままリンと一緒にいたようだ。

 まぁ一週間は長いし、狩りが終わってからは暇だから仕方ないね。実際俺も会いたくて合流しているわけだ。そろそろ飢えているころかなと思ってチョコロボ君を取り出したら二人仲良く駆け寄ってきた。ヨシヨシ。

 

 ポンズも既にターゲットである受験者バーボンからナンバープレートを奪い終わり、合格点を確保していた。原作ではバーボンが操る大量の蛇が潜む洞窟にいたことで、ボンズは脱出すらできずに諦めていたが、今世では『堅』状態の二人に傷をつけることができる蛇はいなかったので無傷で脱出できている。とはいえ、大量の蛇がニョロニョロと纏わりついてきて、シューシューと舌をチロチロさせてきた時はさすがに気持ち悪くなって、放出系の応用で、身体から全周囲に攻撃性をもったオーラを放出し全滅させたらしい。ポンズは放出系を苦手としていたはずだが、今回の出来事で覚醒したようだ。ヨシヨシ良くやった。

 

 そして、ポンズのナンバープレートを狙っているはずのレオリオはまだ来ていないようだ。

 まぁポンズが持っている薬品の臭いをもとに辿ることができるコンとの合流をしたかしてないかぐらいのスケジュールだから、当然ではある。

 修行は試験官に見られたくないし、かといって何もせず待つのも時間の無駄だから<空想の家(ファンシーハウス)>でのんびりしてもいいけど、何度も試験官を気絶させるのも申し訳ないから、今回は六人でキャンプ生活を満喫することにした。

 

 

 

 試験最終日、レオリオがまだ来ないので、こちらから出向くことにした。

 

 ハヤテ、リオン、ミアキス、リン、キルア、ポンズ。総勢6人での移動はその人数ゆえに、普通であれば目立つはずのものだ。だが、全員が暗歩と『絶』を使いこなせるため、物音を立てず、誰にも気づかれることのない移動を可能にしている。

 

 気づくことができるとすれば、『円』以外では目視と匂い。目視されれば視線で気づけるから問題はない。匂いについては、コンの嗅覚であれば辛うじて嗅ぎ分けられるかもしれないが、原作と異なりポンズが薬使いであることは知られていないだろうから、薬品の匂いを辿って来ることはないだろう。

 ……まだ来ていないのはそのせいか。

 

 そもそも隠れる必要はあまりないけれど、キルアがせっかくだからびっくりさせてやろうぜって言い始めてリンが乗ったので隠密行動をしている。二人が元気に飛び回って探しまわった結果、最初にコンを発見したのはキルアだった。さすがにリンよりも一日の長がある。キルアに案内されて向かったところ、木の上にいるコンの視線の先にレオリオとクラピカの姿を見つけた。どうやら、ちょうど合流するところだったようだ。

 

 

 ◇◇◇◇◇コン達との合流

 

「どうだ? 誰かいるか?」

「いや……さすがにすぐ見つかるような場所にはいないな」

「くそ~~」

「落ち合う場所と時間を決めて、二人ばらばらに探したほうが効率がいいな」

 

 最終日だというのに未だに試験突破分のポイントを集められていないレオリオの顔には焦りが浮かんでいた。トンパにはめられて自身のナンバープレートすら奪われるという危機は、合流したクラピカのおかげで回避できたものの、それはスタートラインに戻れただけだ。そのままクラピカと協力体制をとることになったが未だに成果は得られていないため焦りはどんどんつのっていっているのだろう。

 

 焦るレオリオをクラピカが落ち着かせ、建設的な意見を出しているさなか、二人の後ろにある木からコンが下りてくる。

 

「三人ならもっといいでしょ?」

「っ!! コン!」

「やっぱりみんな考えることは一緒だね。

 上で見てたら他にも何人かこの近くに来てたよ」

「そうか、上から探せば良かったのか!」

「ムリムリ……。

 コンの野生溢れる視力があってはじめてできる芸当だ。

 コンはもうプレートを集めたのか?」

「うん。まぁ、ね」

 

 そう告げるコンの表情は、合格点を集め終わったにしては少し陰を感じる。

 そういえば、ヒソカがコンを見つめて興奮しているときに逃げ出したから、ヒソカが死んだことを知らなかったな。ということはいつあのヒソカがやってくるかわからず怯え……いや、警戒している感じなのだろう。

 

「くそぉ、じゃ、オレだけかよ……。

 オレ達が探しているのは受験番号100のポンズって女だ。

 上から見つけた奴らの中にいなかったか?」

 

「えーと……、女性はいなかったよ。

 そっか、レオリオのターゲットってポンズさんなんだね……」

 

「おっ、コンは知ってるのか? 

 いやー、オレは全然覚えてなくてよ、トンパとの交渉で女性ってことはわかったんだが、初受験らしくてそれ以上の情報ないんだよなー」

 

 やっぱりコンはポンズのことを把握していたようだ。ハンター試験ではコンと基本的に別行動していたし、一緒に行動していたときはポンズはいなかったはずなんだけどね。実は俺のことを気にしてみていたのだろう。つまり────俺に惚れている! ないか。

 

「ポンズさんは、三次試験で一緒にいたハヤテに……さんと一緒に行動している人だよ。

 他にも三人とよく一緒にいたし、もしかしたらキルアも一緒にいるかも……」

 

「うげっ!? 

 まじかよ、くそぉ~~! 

 見つけさえすればなんとかなると思ってたんだが……。

 あ~~ここまでこれたのにどんどん絶望的になってきたぜ」

 

「とりあえず近くで見つけた受験者のところにいってみる?」

 

「待て。悲観的になるのはまだ早いだろう。

 それだけ仲間がいるということは、試験中狙われることも多かったはずだ。

 そしてその受験者を狙う人もさらに集まる。

 つまりハヤテ達は余分にナンバープレートを持ってる可能性もあるのではないだろうか?」

 

「なるほど! 

 余分があれば交渉して貰おうってことだな!」

 

「へぇ。

 レオリオはナンバープレートの対価として何を出せるんだい?」

 

「そりゃーあれだよ。

 えーと……、良い女が揃ってるパブの情報とかどうだ!?」

 

「その手のお店には興味はないな。なにより、幸いなことに恋人達がいるからね」

 

「……ん? うげっ!?」

 

 三人の会話に途中で割り込むと、クラピカとコンはすぐに気付いたが、レオリオだけは気付かないまま会話を続けていたが、ようやくこちらを見て反応してくれた。レオリオとクラピカは武器に手をかけようとして、諦めたのか、こちらに敵意がないことを察したのか、いずれにしても手を下げた。

 

 まぁ6人(ハヤテ、リオン、ミアキス、ポンズ、リン、キルア)もいたらそれも妥当だろう。念能力は見せていないものの、俺とキルアは二人よりも明らかな強者であることは示したつもりだ。戦うよりも交渉した方が建設的であることは馬鹿でなければわかるし、ちょうどそういう話をしていたところだからね。交渉の結果としては「レオリオが医者になったら格安で受診・治療してもらう」ということで話がついた。

 

 なんだかんだ優しいレオリオなら治療特化の能力を習得してくれると信じている。

 ……その前にセクハラ医者として名をはせるようなら引導を渡すことも視野に入れておこう。

 

 

 ヒソカとギタラクルがいなくなり、何の垣根もなく仲良くすることができるようになったメンバーで食事や雑談をしているとあっという間に試験終了の時間となった。

 

 ■四次試験合格者

 受験者名     ターゲット名  点数配分

 099 キルア   →199 ウモリ  3+3

 100 ポンズ   →103 バーボン 3+3

 191 ボドロ   →034 リュウ  3+3

 221 ハヤテ   →118 ソミー  3+3

 222 リオン   →281 アゴン  3+3 

 223 ミアキス  →053 ポックル 3+3

 224 リン    →198 イモリ  3+3

 294 ハンゾー  →197 アモリ  3+3

 403 レオリオ  →100 ポンズ×  3+1+1+1

 404 クラピカ  →016 トンパ  3+3

 405 コン    →044 ヒソカ  3+3

 




原作最強格という噂もあるヒソカとイルミがあっけなく退場したことへの苦情は覚悟していますので、感想に不満を書かれてもかまいませんが、変更する予定はなく、返信も多分しないのでご了承ください。
ちなみに作者はイルミが嫌いですが、ヒソカは普通に気に入ってる方です。ただ、本作のようにゴン、キルア、マチをハーレムに加える場合、どうしても居てもらっては困るもので……。文才がある方なら、襲いかかるヒソカから守ることで仲の良さアピールしたりと良いアクセントとして使いこなせるのでしょうね。

あとヒソカに攻撃するタイミングについて。
最初はコンと同じく、ヒソカの殺気に紛れて攻撃するつもりでしたが、その場合、コンに見られるため『なぜ殺したのか』と詰め寄られたりとか、ヒソカのナンバープレート受け取ってくれない等々の暴走をしだして喧嘩になってしまうところまで執筆したところで、こりゃだめだと全部消してタイミングを遅らせることにしました。
それにアゴンに接近して攻撃するヒソカを刀で攻撃できる距離だと、さすがにアゴンに見つからないのは無理だと思いました。アゴン攻撃して止まるであろう少し先ならまぁなんとかならないこともなくはないよねってことで見逃してください。


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第33話:五次試験(最終)

「えー-、これより会長が面談を行います。

 番号を呼ばれた方は2階の第1応接室までお越しください。

 最初に受験番号99番の方ー」

 

 :

 :

 

▽面談の内容抜粋

 

221 ハヤテ

 なぜハンターへ:守りたい人達がいる。そのため賞金首、猛獣の情報を得やすく、

         共に戦う仲間を得るためにハンターを目指しています。

 注目している人:294番ハンゾーです。忍者カッコイイですよね。テカってます。

 戦いたくない人:女性陣は何度も戦ってますので試験では他の人と戦いたいです。

 

222 リオン 

 なぜハンターへ:ハヤテ様がハンターになるからです。

 注目している人:ハヤテ様です。

 戦いたくない人:もちろんハヤテ様です。(ご主人様ですから)

 

223 ミアキス

 なぜハンターへ:ん~~楽しそうだからかな~~?

 注目している人:221番のハヤテちゃんかな~。

 戦いたくない人:必要であれば誰とでも戦いますよ?(ニッコリ)

 

224 リン

 なぜハンターへ:大切な人の隣に立つために。

 注目している人:221番。

 戦いたくない人:405番。(私のせいでコンが不合格になるのは嫌)

 

100 ポンズ

 なぜハンターへ:乱獲されている蜂を保護する区画を作り護りたい。

 注目している人:221番、まぁ一応師匠みたいなものですから。

 戦いたくない人:99、221~224。(全員ハヤテの修行仲間でしょ?無理……)

 

294 ハンゾー

 注目している人:わかんねえ。元々44番を危険視していたがいつの間にかいねえ。

  つまりあのヤバイやつよりヤバイやつが潜んでいることになるんだが全くわかんねえ。

  上忍であるこの俺がだぜ? 絶対ヤバイ。 

 戦いたくない人:さっき言ったヤバイやつだ。

  逆に戦いたいのは221番だ! ハーレム野郎は敵だ!

 

 

 

▽トーナメント

 

 最終試験は1対1。

 トーナメント形式で勝てた者が合格、負けた方が次の戦いへと進む。つまり一度でも勝てたら合格、最後まで負け続けた一人だけが不合格という原作通り。勝者としての判断基準は相手に「まいった」と言わせることだけ。拘束したり骨を折ったり気絶させても試合は継続される。相手を殺してしまった場合は負けとなる。

 

 メンチ曰く「会長の性格の悪さときたら私たちの比じゃないわよ。気軽にまいったなんて言える奴がここまで残れるわけないじゃない。一風変わったどころかとんでもない決闘システムだわ……!」

 

 ハンゾー─┐

      ├─┐

 ハヤテ ─┘ ├─┐

 コン  ───┘ ├─┐

 ポンズ ─────┘ ├─┐

 リン  ───────┘ │

              │

 リオン ─────┐   ├─不合格

 クラピカ───┐ ├─┐ │

        ├─┘ │ │

 レオリオ───┘   ├─┘

 ミアキス───┐   │

        ├─┐ │

 キルア ───┘ ├─┘

 ボドロ ─────┘

 

 

 組み合わせは今までの試験で判定された身体能力値、精神能力値、印象値の評価で決められている。二回しか戦闘する機会がないリンが最低評価ということになるが、俺の指示で実力を伏せていたし、積極的な行動もあまりなく、ハンターになりたいという意思も微妙だから仕方がない。同じような俺がなぜか高評価になっているのは、四次試験の行動から実力がばれているからだろう。監視者を気絶させていたとはいえ、ヒソカとギタラクルを退場させたのは状況的に判断して俺しかありえないし、監視者を気付かぬ間に気絶させている時点で実力がばれるのは仕方がない。それまではリンと同じように行動していたミアキスとリオンの評価が少し高いのもそれゆえだろう。

 

 実力がばれるのを承知の上でもあえて気絶させたのは、実力の全容までは明かしたくなかったのと、俺が殺したという確証を与えないためだ。確実に殺した奴と、殺したかもしれない奴では小さいようで全然違う。幻影旅団やゾルディック家を相手にごまかせる気はしないが、その差が大きな影響を与えるかもしれないと思っている。勘だ。

 

 さて、どうしたものかな。普通にハンゾーを倒してしまうと、原作通りハンゾーVSコンとなり三時間の拷問となってしまう。実力的に原作以上となっていることもあり余計に「まいった」なんて言わないであろうコンを見ながら考える。あの戦いを経て成長できるようなものでもないので、俺が負けあがりするしかないか……。

 

 

▽1回戦第1試合ハンゾーVSハヤテ

 

 まずは小手調べがてら、コンレベルの速度で背後をとろうと移動を試みる。

 

 するとそれ以上の速度で目の前にハンゾーが現れ「おおかた足に自信アリってとこか。認めるぜ、ハーレム野郎にしちゃ大した速度だ」と言いながら、首に手刀を放ってきた。

 するとあっさり手刀を回避しつつハンゾーの後ろに俺が現れ「おおかた足に自信アリってとこか。認めるぜ、ハゲにしては大した速度だ」と言いながら、首に手刀を放ち、ハンゾーは地に伏した。

 

 決まった……!

 原作リスペクトな俺はもちろんハンゾーのファンだ。

 男だから惚れることは絶対にないが、その振る舞い、その実力は大いに認めている。当然のように一挙手一投足を完コピで再現できる俺は、ついに本家を超えるべく挑み、そして勝った。

 謎の達成感を味わいつつも、決闘は「まいった」というまで続くことになる。

 

「さて、普通の決闘ならこれで勝負アリなんだけどね。

 手加減をしたから起きてるよね? 脳みそがグルングルンゆれるように打ったからね。

 わかったと思うけど差は歴然だよ。素直にギブアップしてくれないかな」

 

「ぐ……。見えなかった、だと……。

 油断させるために手を抜いてやがったのか!

 さすがハーレム野郎は陰湿なこったな!」

 

 パシンッ!

 手を抜いていたのは事実だけど、ハンゾーリスペクトゆえに脳を更に揺らす。

 決してイラっとしたからではない。リスペクトゆえだ。

 

「よく考えてから喋ってね。

 今なら次の試合に影響は少ないはずだよ。

 意地はってもいいことはないことはわかるでしょう」

 

「ふざけんな!

 生まれた時から18年、忍者としてどんな拷問であろうと耐えられる修行を重ねてきた!

 例えここで死んだとしてもハーレム野郎を合格させるつもりはねぇぜ!」

 

素直に降参されなくてよかった。いや、予想以上に嫌われてそうなのは困るけども。

ここで「まいった」と言われてしまったら勝ち抜けしてしまうから更に困るところだった。

 

 勝つと困るのになぜここまで実力を見せたのか。それもこれもハンゾーリスペクトゆえだ。

 相手が格上だったとしても、簡単に任務放棄してしまったら忍者の信用爆下がりで廃れてしまうだろうし、同じ裏家業を営むハンターや暗殺者が普通に存在するこの世界で、忍者という希少種が生き残るためにはそれ相応の信頼と実績がないと無理な話だ。今回の優秀な受験者の中で最初に合格を決めたという実績は、今後受験者が名をはせるために便乗して忍者の名をあげるチャンスにもなる。だからこそ、この戦いでの勝利が欲しいはずだ。

 と、そんな建前はさておき、ハンゾーなら諦めないという信頼ゆえの攻勢だ。

 

 俺が憧れたハンゾーが女にうつつを抜かすわけがない。つまり、この口撃も本心ではなく、俺の動揺を誘うことが目的のはずだ。大丈夫、俺はまだ嫌われていない。

 汚いな、さすが忍者きたないな。(濡れ衣)

 

「ふぅ……、仕方がないね。じゃあ取引をしよう。

 三回まで忍者としての君に無料で依頼できる権利をくれるなら俺がギブアップするよ。

 もちろん無料というだけで、依頼を受けるか受けないかは内容で判断して構わない」

 

「…………ちっ、わかったよ!

 ただし二回だけだ」

 

「ありがとう、一緒に戦える日を楽しみにしているよ。

 審判、『まいった』。俺の負けだ」

 

 お手軽に戦力ゲット!

 さすがに現時点で非念能力のハンゾーは八か月後の対幻影旅団戦では役に立たないだろうが、一年半後のキメラアント編ではそれなりの戦力として期待できる。俺にはここで負けを宣言してもデメリットはない。負けられないという熱い想いもないし、実力を高める相手としては今のハンゾーでは不足しているから戦う価値はそこまでない。更に下手にハンゾーを負けあがりさせて嫁を傷つけられるリスクもなくすことができるといいこと尽くしな取引だ。

 

 

 

▽2回戦第1試合コンVSハヤテ

 

 まさかの連戦。

 ネテロ会長にまで嫌われてたりする……?

 

 それはさておき、コンと事前取り決めもなく戦っても勝てるわけがない。

 数時間の拷問を受けても「まいった」と言わない偉大なるゴンの血脈はもちろんコンにも受け継がれている。どんな困難に直面しても曲げないその精神は俺には眩しすぎる。が、素直すぎるコンゆえに、やりようがないわけではない。

 

「コン、予め勝敗条件を決めておこう。

 勝負内容はコンが自由に決めて良い、ただし1時間以内に終わるようにしてほしい。

 そして負けた方がギブアップを宣言する。どうだ?」

 

「いいよ!

 うーん、どんな勝負にしようかなー!」

 

 

「コンが1時間殴り続けて一歩でも動かせたらハヤテの負けとかどうだ?」

「それはちょっと……」

 

 レオリオは鬼畜な提案をした。

 『硬』も使えるコンに1時間殴られるのはさすがに嫌だなぁ……。

 耐えることはできるだろうけど、下手したらコンの拳が壊れてしまう。

 オーラを布団のように柔らかく性質変化させれば問題はないけど。

 君、俺達がナンバープレート譲ったから四次試験通れたこと忘れてないよね?

 

 ちなみにオーラを布団のような性質にするのは実用的ではない。

 打撃系の攻撃に対する守りとしては強いが、斬撃等の攻撃に対する守りとしては貧弱だからだ。それに自身の攻撃にまとうオーラまで布団のようになってしまうから威力も出ない。念能力として極めれば瞬時に性質を数種類の中から最適なものに切り替えすることもできるだろうが、それに能力を全振りするのはさすがに好みではない。

 

 

「長所を活かすなら釣り勝負で先に5匹釣ったほうが勝ち、というルールにするのが良いのではないだろうか?」

「うーん……」

 

 クラピカは冷静に勝算が高い勝負方法を提案した。

 確かに釣り竿持ってくるほどのコンなら釣り勝負で負ける可能性は低いと思うだろう。

 だけど、念能力者である俺なら『円』で魚の位置を把握して、『周』で釣り針を強化しつつ操作系で操って魚に突き刺して釣り上げることができるので、俺が勝つだろう。

 実際にくじら島でもその方法で釣ったことがあるからコンも察しているだろう。

 

「……ジャンケンなら……」

「むー-」

 

 リンは運要素の高い勝負を提案した。

 確かに俺相手に勝率50%にできそうな勝負という意味ではいい考えだろう。

 ましてやコンはジャンケンの裏技を把握としているので、リンはジャンケンでは全敗中だったりする。正々堂々を座右の銘にしていそうなコンなのに汚いな。

 

 だけど、残念ながらその裏技は原作知識で把握しているし、その裏技を攻略したキルアのやり方も把握しているので、俺が勝つだろう。コンとはジャンケンで勝負したことはないが、裏技が動体視力に頼っている以上、俺に分があるかもしれないと考えていそうだ。

 

 

「愛してるゲームなんて面白そうじゃな~~い?」

「愛してるゲーム? 面白そうだね!」

 

 ミアキスは………………え?

 いやいやいや、ローカルルールによる決戦とはいえ、これハンター試験だよ!?

 釣りも正直あれな意見だったけど、魚の捕獲と考えればハンターっぽいからスルーした。

 でも愛してるゲームにハンター要素ないよね!?

 相手の心をハントすると考えればありか? 

 …………いや、ないわ!

 

 女性へのやさしさをかなぐり捨てて全力抵抗したが、ネテロ爺が面白がって賛成したことで『愛しているゲーム』が衆人環視の中で開催され、大恥をかき、敵を増やしつつ、俺はギブアップすることになった。いや、だってコンちゃんは全然恥ずかしがらないんだもの! 純真すぎる美少女を相手に永遠と告白するなんて元々草食系の俺には荷が勝ちすぎる!

 

 

▽2回戦第2試合クラピカVSレオリオ クラピカ勝利

 

 二人の戦いは接戦であったが、自力で勝るクラピカが順当勝ち

 レオリオは負傷した!

 

 

▽2回戦第3試合ミアキスVSキルア  ミアキス勝利

 

 暗殺術を交えて攻勢をしかけるキルアだが、もともと速度重視の戦いをするミアキスの虚を突くことは難しく、ましてや俺やリオンの相手で暗殺術への対処に慣れていたこともありミアキスが捌ききり勝利。

 

 キルアの頭に入っていた針を抜いたことによって格上に対する過剰な恐怖は感じなかったようなので単純な実力差だ。キルアが<神速(カンムル)>を覚えたら覆る可能性はあるが、今の段階ではまだミアキスの方が強い。

 

 

▽3回戦第1試合ハヤテ VSポンズ  ハヤテ 勝利

 

 師匠の貫録勝ち。

 

 ポンズなら勝率を冷静に判断できるので無茶する心配はない。

 そしてレオリオ、ボドロにはほぼ確実に勝てる。

 だから安心してポンズを負けあがりさせることができた。

 

 コンと私で扱いが違う!

 という視線を浴びた気がするので後でフォローはしよう……。

 

 

▽3回戦第2試合リオン VSレオリオ リオン 勝利

 

 決闘前に、リオンが恐ろしく速く華麗な剣舞を披露し力を見せつけたことで、レオリオが「女子供に向ける刃なんてもってねぇぜ」とかっこつけて呟きながら降参。いや、冷や汗が隠せてないぞおっさん。

 

 まぁリオンはどちらかというと速さよりも威力が強力なんだけどね。

 

 

▽3回戦第3試合キルア VSボドロ  キルア 勝利

 

 ミアキス戦で貯めたストレスをキルアが全力で発散し勝利。

 ボドロは瀕死になった!

 

 

▽4回戦第1試合ポンズ VSリン   リン  勝利

 

 リンがダブルマシンガンを構えたことでポンズが戦意喪失。

 そういえば念能力は禁止していたままだった。そりゃあ『堅』無で銃の相手はまだ難しいよね……。原作では最終試験で銃使いはいなかったけど、いたらよほどの実力差がないと勝てなかっただろう。いかに空気にプロテインが混ざっている世界とはいえ、筋肉だけで銃弾をはじくことも、秒間数十~数百発もの銃弾を躱すことも容易ではない。銃使いが弱ければ認識できない速度で接近することもできるが、リンもなんだかんだ修行は重ねているし空間認識能力も優れているので、銃を持たせたら念能力無では俺も厳しい。回避に専念するつもりでも跳弾まで弾道計算してくるから読み切れないだろう。

 

 あ、銃は最終試験場への移動中に念空間から取り出して渡しました。(戦犯)

 

 

▽4回戦第2試合レオリオVSボドロ  レオリオ勝利

 

 キルア戦でのボドロの負傷により、レオリオが延期を要求したが、先にできる試合が他にないことから認められなかった。ボドロがレオリオの男気を称えギブアップ。

 

 

▽決勝     ポンズ VSボドロ  ポンズ 勝利

 

 決闘開始後、ボドロができれば女性に武器を向けたくないと降参するよう呼び掛けていたが、その隙にポンズが痺れ薬を散布していたことに気付けなかったボドロが罠にかかり何もできないままギブアップ。

 

 ボドロは「決闘を毒で勝とうなど戦士としての誇りはないのか!」と吠え、「ないわ」と冷静に返すポンズへと更に激昂する一面もあったが、「ポンズはツンデレだから負傷しているボドロ氏の体調を考慮して動かずに済むような戦い方を選んだのだろう」と教えてあげると、「なんと慈悲深い聖女だ……!」と手のひらくるーっとしていた。絶対こいつは強化系だな。

 

 もちろんポンズはそんなことを考えていなかったが、必要以上に諍いを残したくはないので「そ、そんなわけないじゃない……」と本音がばれて恥ずかしがっている風に帽子で顔を隠しながら言い、その聖女として称える感じの空気に同調する。計算高さは健在である。

 

 

 なんにせよ実力差のあるがゆえに最初から結果が見えていたトーナメントではあるが、ボドロが失格で他全員が合格するという結末で第287期のハンター試験は幕を閉じることになった。

 

 ハンゾー─┐

      ┌─┐

 ハヤテ ─┘ └─

 コン  ───┘ ┌─┐

 ポンズ ─────┘ └─┐

 リン  ───────┘ │

              │

 リオン ─────┐   ┌─不合格:ボドロ

 クラピカ───┐ ┌─┐ 

        ┌─┘ │ 

 レオリオ───┘   ┌─┘

 ミアキス───┐   

        ┌─┐ 

 キルア ───┘ ┌─┘

 ボドロ ─────┘

 





トーナメント表の罫線文字、PCで書いています。
私からはちゃんと見えますが、XXXだと崩れて見えない!
ということあれば教えてほしいです。
見えない人が多そうなら、罫線文字での修正が難しいと思いますので、トーナメントを画像にして貼り付けようと思います。


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第34話:ハンター試験合格後

 合格者10名中7名が身内という結果で終わったハンター試験の翌日、ハンター協会からの講習を受けてハンターライセンスを受け取り解散となった。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇クラピカ

 

「クラピカ、三次試験の時は諸事情であまり話せなかったけど、蜘蛛を追ってるんだよね」

 

「……それがどうした? 

 その話は私にとって軽々しく触れてもらいたくない内容なのだが」

 

 他の人に会話が聞こえないように移動してから蜘蛛(幻影旅団)の話題を出すと、クラピカから殺気が零れたものの自制できたようで、手は出さず、しかし突き放すような返答をもらった。

 

 三次試験でともに行動したことで、クラピカの幻影旅団に対する確執を目にしている。

 本人からも簡単な説明はあったものの、その迫力と変容に誰もが話題に出さないように避けていた。むしろそれを狙って説明したのであろう。下手に事情がわからないままにすると、軽い気持ちでの接触をされることになりクラピカにとっても、そして話題に出した人にとっても気まずい状況に陥ってしまうからだ。そう……まさに今のように。

 

 クラピカの真っ赤に染まった視線を受け、俺は素直に手を上げ、悪ふざけでの会話ではないことをアピールする。あれれ~? おっかしいぞぉ〜? 緋の眼になるのは蜘蛛を見た時だったはずなのに、蜘蛛の名前を出しただけで緋の眼になっちゃった。もしかして嫌われてる? 

 

「まてまてまて。一旦落ち着こうじゃないか。

 からかうつもりはなく、俺は蜘蛛の情報を持っている!」

 

 クラピカからの圧力が多少下がったものの疑いの視線は消えないまま無言で先を促される。

 ピヨンの時のように長々と説明して刺激してしまうことがないように三行で単純に説明してあげることにしよう。

 

「四次試験でヒソカと戦い彼のケータイを奪って中身を見た。

 9/1ヨークシンシティに全員集合というメールが送られてきていた。

 ヒソカの背中には数字の4が入った蜘蛛の刺青が刻まれていた」

 

 完璧に伝わったやろと、どや顔でクラピカを見てみると視線は冷たいままだった。あれぇ……。

 三行説明最強論、仕事して! 

 

「ヒソカを? お前が? 倒したと? 

 お前程度の身のこなしでは大言壮語が過ぎる。

 この話題に関してこれ以上茶化すつもりならもうお前と話すことは────」

 

 あれ、なんかいきなり貶してくるね。クラピカはそういう性格じゃなかったよねと思ったけど、そういえば蜘蛛が関わると沸点がかなり下がるんだったな……。

 

 悲しいことに三次試験までの手加減ムーブの弊害か、クラピカの中では大した実力がない者として扱われているようだ。いや、ヒソカの評価が高すぎるのか。五次試験ではそれなりの実力があることは見せたつもりだったけど、もしかして愛してるゲームのインパクトが強すぎて忘れられてしまった可能性? 

 なんてことを考えながら話を聞いている間に事態は動いた。

 

「いい加減にしないとコンのお友達でも許しませんよ?」

「冬の海は冷たいですよぉ~~?」

 

 リオンとミアキスが瞬時に近づきクラピカの首に剣を当て、ニコリと脅していた。

 クラピカとレオリオには全く見えていなかったようだな。

 

「……いつの間に」

「うそだろ……五次試験の動きすら本気じゃなかったのか……」

 

「おそろしく速い寸止め、オレでなきゃ見逃しちゃうね」

「いや、俺もギリギリ見えたけどな」

 

 原作ファンとして思わず言ってしまった独り言にキルアが張り合う。

 ギリギリしか見えなかったなら張り合えてないけど、とりあえず撫でておく。

 普段はツンツンしてるけどこういう時は受け入れてくれてちょっと恥ずかしそうに照れてるのが可愛い。

 

 まぁもう実力を隠す必要はないし、可愛い二人が怖いという間違った印象を上書きするために、俺も『練』による圧力をクラピカとレオリオに浴びせる。もちろん全力ではなく殺気も軽くしか込めていない。

 

「ぐっ!?」

「なん……だ、こりゃ!?」

 

「動けないよね。

 根本的に身体能力が足りていないし、この圧力を跳ねのける術も知らない。

 これがヒソカを含む幻影旅団と戦うなら最低限クリアすべきスタートライン。

 クラピカが本気で仇をとりたいなら、まだそこに至っていないことを自覚した方がいいね。

 そして俺達が既にその先にいることは分かってもらえたと思うんだけどどうだろう」

 

 二人が実感したころを見計らって『練』は解除しておく。

 そういえばレオリオに殺気をぶつける必要はまったくなかった。まぁいいだろうレオリオだし。

 

「…………わかった。いや、すまない。

 確かにハヤテは強い、そして私にはない技術を持っていることを認めよう。

 だが、ヒソカが幻影旅団員であることはどうやって知ったのだ? 

 プロハンターですら奴らの情報は掴めていないはずだ」

 

「前提として幻影旅団員の多くは流星街出身だ。

 だからこそ情報が出回らず、多くのハンターでも情報はつかめない。

 俺は流星街出身のプロハンターとの付き合いで多少情報は持っている」

 

「流星街か……なるほど。

 情報提供感謝する。私に何を望む?」

 

「特には。

 コンやキルアと仲良くしてくれた感謝の気持ちだと思ってくれていいよ」

 

「ありがとう。

 情報をもらってばかりで申し訳ないがもう一つ聞きたい。

 先ほどの技術は私でも身に着けることができるのか?」

 

「できる。

 大丈夫、プロハンターに成った以上は必ず機会は与えられるよ。

 俺が教えようにも、向こうで監視しているネテロ会長が怖いんだよね」

 

 先ほど『練』を放った辺りから、それを察知したネテロ会長がこちらへ向かっていることには気づいていた。ネテロ会長が創始者である心源流拳法では門下生以外に念能力を教えないように定めている。例外としてハンター試験に合格した者には裏試験として念能力を教えており、念能力を覚えることで本当のプロハンターとして認められる。俺が勝手に教えないよう監視に来たのだろうか。

 

「ほっほっほ。構わんよ。

 お主なら指導の実績もあるし問題もなかろう。

 それに既に好き勝手に教えまくっとるじゃろ?」

 

「あー……やっぱり俺だってバレてましたか。

 まぁ隠せるとは思ってませんでしたが、相手はしっかり選んでますよ。

 悪逆非道に手を出す者には教えてませんし、手を出すようなら責任をとる覚悟はあります」

 

 飄々とした顔で考えを見通そうと見つめてくるネテロ会長にまじめな顔で返す。

 クラピカに関しては幻影旅団が関わると暴走するので、師匠になると暴走時の責任をとらされるかもしれないというデメリットがある。逆に、より効率的に強化して幻影旅団戦やキメラアント編への参加が期待できるというメリットもある。

 メリットとデメリットを考慮し、俺はクラピカの、ついでにレオリオの師匠となり念能力を教えることになった。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇コンの悩み

 

「ねぇ。ハヤテ兄ちゃんならどう判断するのは聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

 

「うん、構わないよ。

 試験で気になることでもあったのかい?」

 

 クラピカ達との話が一段落し、次の目的地の話を始めようかと考えているときに、コンが神妙な顔をして尋ねてきた。ヒソカ暗殺事件を追及されたら困るけど、コンからの質問を却下したくはないので、ドキドキしながら覚悟を決める。

 

「試験会場に入る前の話なんだけど、ドキドキ2択クイズっていう試験があったんだ。

『娘と息子が悪党につかまり一人しか助けられない①娘②息子どちらを助けるか』①か②しか選択できない状況になったらどうする? という内容なんだけど……」

 

 それかー。

 ハンター試験でもいろいろあったのに、会場入りする前の試験の内容を気にするなんてよっぽど答えが見つからなかったんだろうな。

 

「それは試験で問われた時の対応という意味ではなく、実際に直面した時の話だよね?」

 

「うん。

 試験の時は『沈黙』を選んで正解と言われたんだ。

 でも、もし本当に大切な二人の内、一人しか助けられない場面に出会ったら、と考えてしまうんだ。どちらを選んでも本当の正解じゃないけど、どちらか必ず選ばなくちゃならない時が……いつか来るかもしれない。ハンターになるならその覚悟も決めないといけないんじゃないかなって……思うんだけどどうしても選べなくて……」

 

「ふむ、なるほどね。

 コンはどれだけ考えてもその前提なら答えは出せないと思うよ。

 キミは誰かが犠牲になる答えを認められるほど素直な性格じゃないだろう。

 

 どちらかしか助けられない? 

 それは誰が決めたんだい? 

 決まるとすればコンが助けることを諦めた時じゃないかな。

 本当に二人を助ける手段はないのだろうか? 

 自分で助けられないとしても手伝ってくれる人はいないだろうか? 

 緊急性の違いで順番に助ければ二人とも間に合う可能性はないだろうか? 

 そもそも助けるまでもなく一人でなんとかできる可能性はないだろうか? 

 

 等々、その時の状況によってどう動くことが最善かは異なるよね。

 だから俺は詭弁だとしてもいざという時にどちらを助けるかではなく、皆を助けることしか考えていないね。そのために強くなったし、そのために人脈も広げているし、そのための能力も習得した。

 コンもいざという時にどちらかを切り捨てるのかを今の段階で考えても結論は出ないと思うから、いざという時に皆を助けるために必要なことはなんだろうと考え成長していく方がコンらしいと思うよ。

 

 コンも皆に死んでほしくない、護りたいと思っているならまずは強くなろう。

 今のキミだと皆を護るどころか一人も助け出せずに負けてしまう可能性だってある。

 でも、コンだって俺の大切な存在の一人なんだ。

 だから、今後のキミの人生を俺にも守らせてほしい。

 そして、お互いが困っているときは助け合えるような関係になりたいんだ」

 

 コンの相談に乗りつつ、さりげなくプロポーズをねじ込む! 

 前から似たようなアプローチを繰り返してきているけど、残念ながら実りはない。

 でも、今ならハンター試験で興奮した吊り橋効果もまだ残ってるかもしれない! 

 

「うん、もちろんいいよ! 

 だって、友達ってお互いに助け合えるような素敵な関係だもんね! 

 

 でも、そっか。

 確かにどちらかしか助けられないという時点でなんかしっくりこなかったけど、二人を助けられるように成長すればいいという考えはしっくりきたよ! ハヤテ兄ちゃんのあの能力なんてまさに皆を助けるためのものだもんね! ボクもそんな感じの能力が欲しいなぁ。うーん……」  

 

 そうじゃないんだよ……。

 純粋すぎるコンには遠回しなプロポーズが効かずに今日も心の中で泣いてしまった。

 かといって根が草食系な俺にこれ以上の直接的なプロポーズは難しい。今回の返答的にも俺のことは異性として認識されている気がしないし、愛してるゲームでもそう、転生特典の感情がわかる力でも同じく、脈なしと言わざるを得ない……。

 

「ぷっっっくっくっく。

 あのイケメンハーレム野郎、告白失敗してやがるwwwww」

 

「言ってやるな、レオリオ。

 あいつがどれだけ情けなく無様な玉砕をしたところで……ふっ」

 

「…………レオリオ、クラピカ。

 聞こえているからね? 

 今日からの修行、期待していてくれ」

 

 

 

 ◇◇◇◇◇リンの挑戦

 

「あ……メンチ……さん。

 美食ハンターとして弟子入りしたい」

 

「ん? 

 あんたは……リン=フリークスね。

 いきなりね。すでにハヤテの弟子になってたと思うんだけど」

 

「ん、お兄ちゃんに戦い方は教えてもらってる。

 一緒に行動してたからハンターについても見て学んだ。

 でも、お兄ちゃんは美食ハンターじゃない」

 

「なるほどね、美食ハンターになりたいと。

 なんで?」

 

 魂胆を見極めてやろうといわんばかりに鋭い眼光で睨みつけるメンチ。

 

 同じプロハンターになったとはいえ、前世の会社のような同僚・仲間のような関係になったわけではない。むしろ同じ事業を営むライバル企業のような関係だ。美食ハンターとしてシングルハンターになるまで長い苦労の末、ようやく身につけた技術や知識を簡単に教えるわけがない。

 

 ハンターが弟子を求めるとすれば、師匠側が余命僅かとか、人手を必要にしているとか、ダブルハンターになるために優秀な弟子が必要とか、なんとなく面白そうとか、よっぽど気にいるような相手だった場合ぐらいだろう。

 

 メンチはブハラという仲間も既にいるので人手には困っていない。

 よほどのことがない限りは断るつもりだったが一応聞いてみることにした。

 若干21歳にして食文化への貢献が認められシングルハンターに選ばれたメンチだ。当然その審査は厳しい。ハンター試験ですら一切の妥協を許さなかったメンチの弟子入り審査がどれだけ厳しいのは言うまでもないだろう。

 

 

「お兄ちゃんに美味しい料理作りたい」

 

「……は?」

 

「……何?」

 

 何か変なこと言ったかな、と言わんばかりに首をかしげるリン。可愛い。

 

「ふざけんなー-!! 

 美味しい料理作りたいだけならその辺の料理店にでも入んなさいよ!」

 

「ん?? 

 メンチさんは世界有数の料理人と聞いてたんだけど……ハンターとしての活動抜きだと料理の技術はその辺の料理店レベル……?」

 

「んなわけないでしょーが!!! 

 好きな人に料理ふるまうためだけに美食ハンターやるバカがどこにいるのかっていう話よ!」

 

「ん、ここにいる」

 

「……はぁ、もう……。

 大人しそうな子だと思っていたけど、やっぱりフリークスなのね。

 もうそこはいいわ。

 弟子入りするってことは数年以上ハヤテと離れるけどいいの?」

 

「もちろん、ハヤテも一緒に来る。

 それにメンチさんの技術を学びつくすのは一年あれば十分」

 

「フゥーッ! フゥー-ッ! 

 放せブハラ! こいつ殺せない!!」

 

「メンチ、落ち着きなって。

 子供の言うことだよ。

 リンちゃんも。

 とりあえず弟子入りの話はなかったということで」

 

 包丁を両手に持ちリンを殺そうとするメンチを必死に止めるブハラ。

 これ以上は危険が過ぎるということで、リンにも話は終わりにしようと持ち掛ける。苦労人ブハラ、その名に陰り無。

 

「よくわからないけど、わかった。

 それじゃあ、さようなら」

 

 

「……危なかったね、メンチ。

 向こうにいる四人からの殺気もそうだけど、メンチが殺気向けた時に『隠』で周囲にばらまかれていた念弾見えてた? そのまま漂うだけだったから何をするつもりだったのかはわからないけど、もう少し近づいてたら多分襲われてたと思うよ」

 

「もちろん知ってたわよ。

 殺気もなく淡々と狙ってきてたわよね……」

 

 

 

 ◇◇◇◇◇キルアの悩み

 

 所かわって俺、リオン、ミアキスで修行計画を立てているところに、キルアがやってきて質問をしてきた。

 

「なぁ、修行ってどこでやんの?」

 

「修行先は天空闘技場だね。

 念の基礎修行だけならどこでもいいけど、まだ二人、そしてコンは体の鍛え方から不足しているからちょうどいいと思ってね。守銭奴のレオリオもいるし」

 

「天空闘技場ぉ? 

 俺が六歳の時に登りきったとこじゃん。修行になるの?」

 

「あれから五年近くたってるんだから戦闘狂達の聖地のレベルが上がってないわけがないだろう。それに何より……いや、これ以上は行ってからの楽しみにしておこうかな」

 

「ふーん……。

 なぁ、俺は別行動でもいいよな? 

 他にやらないといけないことがあんだけど」

 

 深刻そうな表情で、しかしはっきりとした決意を浮かべ別行動したいと切り出すキルア。

 

 原作知識がなければ遠回しのお別れを告げられているように聞こえなくもない。

 原作知識のおかげで勘違いで話をややこしくせずに済んで助かった。

 

 これは決してお別れをやんわりと告げているわけではない。

 だからフラれたと悲観する必要もない。大丈夫だ、きっと大丈夫。(自己暗示)

 

「もちろん構わないよ。

 マチやシズクもそうだけど基本全員自由行動だからね。

 でも、できればやらないといけないことを教えてもらえないかな? 

 俺なら分身体でクラピカ達の修行をつけつつ、本体含めてキルアの手伝いもできるから遠慮なく言ってほしいな」

 

「それは……そうだけど……。

 うー-ん……いや、これは俺がやらないといけないことだから大丈夫」

 

「なるほど、ゾルディック家への反逆か。

 わかった、俺とリオン、ミアキスも手伝うよ」

 

「なっ!? なんでわかった!?」

 

「キルアの考えならある程度はわかるさ。

 そもそもキルアは天空闘技場以外は俺達と行動していたか、ゾルディック家にいたかしかないじゃないか。そこにきて天空闘技場以外へ行く必要がある、となればゾルディック家しかないよね。大方、ゾルディック家に関わらせると俺達にまで危険が及ぶと考えて一人で行こうとしたんだろう? 何があるかは知らないけど、キルアの求めているものがあるなら俺たちは協力するよ。コンとの話にもあったように、俺達はそのために鍛えてきたんだからさ」

 

 リオンとミアキスも「もちろん行くよ!」と意気込んでいる。

 6歳のキルアからゾルディック家の教育内容(毎食毒を混ぜてきたり、電流流してたり等)を聞いた時からリオンとミアキスもオコである。ゾルディック家にカチコミに行くときは一緒だと約束していた。

 

 リンとコンはさすがに連れていかない。

 二人がいない間に話かけていたのはキルアもそれを一番心配したのだろう。

 

「チェッ、変わったやつらだよ、本当に。

 ゾルディック家舐めてない? 

 家族にまで危険が及ぶよ? 

 一応身を隠すように伝えた方がいいんじゃない?」

 

「いや、それは……。

 うちの家族は戦闘民族だから、多分、事情を説明すると一緒にカチコミに参加しようとすると思うんだよね……。元からそういう殴り込みは歓迎する一家だから別に説明はなくていいよ、うん」

 

 家族の心配までしてくれるキルアに大丈夫だと告げる。

 グリーンアイランドに入る時に一応挨拶はしたけど、その時はお互い猫かぶっていたから戦闘民族であることはバレてなかったようだ。

 

 

「あ~~~、もうわかったよ! 

 じゃあ俺の大事な妹を幸せにするために力を貸してくれ!」

 

「「「任せて!」」」

 




試験の最後は適当さ加減がMAXでしたがいつも通りですね。
これで連続更新はしばらく終わりで、半年か一年か数年更新が止まります。
次に公開するとすればゾルディック家と天空闘技場書き終わってからだと思います。

正直この後の展開は全然プロットがないです。ここまでもないけどね。
この後の展開で書きたい話もそんなにないし(全くないとは言ってない)、いっそHUNTER×HUNTER世界が終わったという体で続編の別作品書いてもいいんじゃないかとすら思ってる適当な作者です。

ここで終わればキリが良いしね。
え? ハンター試験で終わっただけで全然キリが良くないじゃないか?
違うよ。文字数20万ジャストという記録がキリが良いんだよ。
まぁ元々予定していたのはコンの話までで、あとちょっとで20万であることに気付いたから無理やりリンの話とキルアの話を突っ込んだんですけどね。
なんにせよ、HUNTER×HUNTER原作で20万文字だと多分文字数ランキングで37位ぐらいだし、適当な私にしては頑張ったよ、うん。もう十分だ。

それではここまで読んでいただきありがとうございました。
プレッシャーにならないよう、今後とも本作の続編に期待しないようにご配慮いただけたらと思います。


P.S.
アンケートのご協力ありがとうございました!

「その他」の回答が三番目に多かったのは残念でした。
もっと他の可能性を思いつけなくて申し訳ないです。
事後に思い付いたのは下記ぐらいです。
アンケート項目は事後に修正できないので反映はしません。
 「具体的な線引きはないけど読了感次第」
 「自己評価と比べて平均評価が高すぎると思った時」
   ※流石に後者はないと信じたい

それはさておき、答えてくれた人の中ではやっぱり
「個人的に読んで気持ち悪くなる最悪の作品」が多いみたいですね。
最新話まで読んでくれた上で、それで0~1つけられたなら致し方なし。
甘んじて受け入れましょう。

あ、ちなみにどんな理由であれ私の作品に評価1つけるのは別に構わないです。
評価1つけないでくれっていう作者もいますが、軽い気持ちで評価1つける人も確かにいるとは思いますが、同じくらい軽い気持ちで評価9つける人もいますからね(私もそうです)。それを平均することになって本来の評価に近づくのでちょうどよいかなと個人的に思ってます。

とはいえ、作者によっては平均評価次第でモチベーションが変わりますので、私自身は他作品に評価5以下は入れないようにしています。続き見たいからね。

無駄な余談が長くなってしまいましたが、また気まぐれで更新したらよろしくお願いします。


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