異世界はダイアモンドドッグズとともに (ユウキ003)
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第1話 転生

楽しんで頂ければ幸いです。


突然だが、俺には前世という物がある。

 

俺には生まれた時から、前世より引き継いだ記憶と自我があった。何故自分が、そんな物を保持しながら新しい人間に生まれ変わったのか、理解は出来なかった。だが現実はそうだった。

 

どれだけ非現実的な事であっても、それが現実だった。

 

幸いと言うべきか。どうやら俺が転生したのは、俺の前世と似て非なる世界だった。

 

俺の知っている国があった。地理も歴史も、大まかには俺の知っている通りだった。だが、差異はあった。俺が率いた組織も、それが関わった事件も存在しない。

 

どれだけ調べても、この世界に俺達が存在した形跡は存在しなかった。

 

……俺の死後、BOSSたちはどうしたのだろうか。そんな疑問が、いつまでも俺の背中にのし掛かった。

 

だが、俺は今平和な国、日本で生まれた銃も火薬の匂いも、血なまぐさい戦場も知らない、無知な学生だ。だからそれを演じた。

 

前世の俺と今の俺。それは親子ほど歳の離れた存在だった。だから子供を演じるのには苦労した。

 

でも俺は、確かに平和に暮していた。

 

自分がこの世界にとっての『異物』のような。この世界に自分の『居場所』は無いと言う、そんな虚しさと居心地の悪さを感じながら。

 

毎日、鏡に向かうと映る自分。それが、自分じゃないような違和感を覚えながら。

 

 

だが、そんなある日。

 

 

「と言う訳で、お前さんは死んでしまった。本当に申し訳無い」

「……………」

 

今、俺はどこかも分からない空の上に浮かんだ四畳半の畳の上で、『神様』を名乗る爺さんと向かい合っていた。

 

俺がここにいるわけを簡潔に説明しよう。今目の前にいる爺さん、神様が誤って神雷を下界、つまり俺がいる人間界に落としてしまったと言う。運悪くそれに俺が貫かれ、俺は死亡。しかしそれは神のミスであったため、本来ならば人が来ることは絶対に出来ないこの場所、『神界』まで俺を呼び寄せたそうだ。

 

「成程な」

説明を聞いていた俺は、落ち着いた口調で頷いた。俺は前世もあるんだ。この世界には、科学では説明出来ないような事があることは、身をもって体験している。今更神が出てきた所で驚きはしない。バカでかい鉄の巨人を動かせる宙に浮く子供だって見た事があるんだ。本当に、神が出てきても今更だ。

 

「ほう?君はあまり驚きはしないのだな?……流石は、『転生者』と言うべきかな?」

「ッ!!?」

 

突如として耳に届いた転生者の単語。何故それをこの神様が知っているっ!?

 

俺は咄嗟に座っていた座布団から立ち上がり、後ろへと飛び退き拳を構えた。

『ズズッ』

しかし、爺さんは何をするでもなく、お茶を飲んでいるだけだ。

 

ここで、何故と問いかける事は出来るが、はったりか?と俺が思った直後。

 

「まぁまぁ落ち着きなされ。『天田 英雄』君。……いや、『パニッシュド”ヴェノム“スネーク』と呼んだ方が良いかな?」

「ッ!!」

 

間違い無いっ!この神様は、俺の前世を知っているっ!?だとしたら尚更、警戒を弱める訳にはっ!

 

「まぁそういきり立たんでくれ。ワシは君をどうこうする気は無い」

「……」

相手は神だ。恐らくその気になれば、俺の抵抗など無意味だろう。俺は静かに座布団に座り直した。

 

「それで、俺は今後どうなる?」

「お主はこちらのミスで死んでしまった。なので、こちらが責任を持ってお主には生き返らせる。ただし、こちらもルールがあっての。元の世界で、と言う訳には行かんのじゃ。お主には、第3の世界へと転生して貰う事になるだろう」

 

「第3の世界、か」

 

MSF、ダイアモンドドッグズとして戦った日々。平和な日本で育った日々。どちらも俺の前世になるが……。

 

「なぁ、神様に聞きたいんだが、何で俺は前世の記憶を持ってるんだ?その理由を、アンタは知ってるのか?」

「……」

 

俺の問いかけに、神様は無言で茶を飲むと、静かに話始めた。

 

「お主、カルマというものを知っておるか?」

「あぁ。サンスクリット語で言う『行為』。転じて、行為の結果自分に蓄積される宿命の事だろ?善き行いには善のカルマと幸福な転生を。悪しき行いには悪のカルマと悪しき転生を、って所か?」

 

「そうじゃ。じゃが、正確には少し違う」

「ん?どういうことだ?」

 

「古来より、歴史に名を残す程の傑物達は殆どが『時代の中心』だった。彼等の存在が時に『時代の転換点』となり、今後の未来を、世界の行く末を決定づけた」

 

そう言うと、神様は真っ直ぐに俺を見据えた。

 

「未来を決めるのは他でもない。人間なのだ。お前達の行動が、世界の未来を決めるのじゃ」

 

俺は静かに神様の話を聞いていた。

 

「そして、そうやって時代の中心にいた傑物の情報や記憶、存在は『世界に焼き付けられる』のじゃ」

「世界に焼き付く?どういうことだ?」

 

「善悪の違いなく、どのような形であれ歴史に名を残した傑物たちじゃ。歴史の教科書に名前が載るような英雄ともなれば、その『存在』は、『功績』は、文字となり、言葉となり、データとなり、どれだけ時間が流れようと、『情報』として人々に受け継がれるのじゃ。その世界の、大多数の人間の記憶の中に、『過去の偉人』として情報が保存される。つまり、お主が死んでも『お主の情報』は生き続けると言う事じゃ」

 

「成程。俺が死んでも、俺の情報は世界に残り続ける、か」

「左様。そして、ごく希に自らの情報、つまり前世の記憶を持ったまま輪廻転生を果たす者達がおる」

「その1人が、俺だと?」

 

「そうじゃ。特にお主は大規模な組織を率いていた。多くの人間に存在を、情報を認識されている人物ほど、転生後に前世の記憶を保持している者がおるが、お主は特にな。伝説の傭兵、『BIGBOSS』の影武者として、『BIGBOSSのサーガ』の一翼を担ったのじゃ。どれだけの人間に認識されていたのか、分かるじゃろう」

 

「そうだな。……自分がどれだけの事をして、仲間に慕われ、敵に憎まれたか。それは自分が良く分かっている。……そして、だからこそ俺は前世の記憶を持っていると言う事か」

「左様」

 

「それで、俺は第3の人生を歩む事になった訳だが、その世界はどんな世界なんだ?」

「簡単に言えば、お主の前世と比べて発展途上の世界じゃな。基本的な文明レベルは、お主に分かりやすく言えば中世レベルじゃな。まぁ、魔法がある分、完全に同じという訳ではないがな」

「なに?魔法があるのか?その世界は」

「あぁ、あるとも。しかし地理などはお主の世界とは全く別物じゃ。当然歴史、言語もな。お主にはその世界に転移して貰う」

「転移?転生と何か違うのか?」

 

「うむ。転移は今のままの年齢や肉体のまま、その世界で誕生すると言っても良い。対して転生は、その世界で赤ん坊からやり直すと言う事じゃ」

「成程な」

 

「それで、何か望みはあるかの?」

「望み?」

「こちらの不手際でお主を死なせてしまったんじゃ。それくらいはせんとな」

「成程」

 

しかし、望みか。俺はしばし考えたあと。

 

「よし。じゃあ二つほど頼みがある。構わないか?」

「もちろんよいぞ」

 

「じゃあまず一つ目だ。俺の体を、ダイアモンドドッグズ時代のそれに替えてくれ」

「ん?となると50代の肉体という事になるが、良いのか?」

「あぁ。……元々、この体には違和感しかなかった。まるで、他人の皮を被っているみたいで、ずっと気色悪かった。だからこそ、戻してくれ」

 

「分かった」

 

と、神様が言った直後、俺の体は光に包まれ、あの時の、あの姿へと戻った。もちろん、頭に刺さった『角』もそのままだ。左腕も、バイオニックアームとなっている。この機械の腕こそ、ある意味俺が、ファントムだった証。この幻肢痛もそうだ。

 

「これで良いのか?それはお主の正確な姿ではないぞ?影武者としての姿だ。望めば、お主がメディックとして、あの男の元で働いていた時の姿にも出来るが?」

「悪いがそれは良い」

 

どうやら肉体が変化した事で、声も、あの時の物に変わったようだ。

 

「この姿になった時から、俺はボスの影武者、ファントムになった。だからこそ俺は、ボスのファントムとして生き続ける。それが俺の『意思』だ」

「そうか。……ならば止めはせん。……それで、もう一つの願いは何じゃ?」

 

「それは、かつて俺が率いていた組織、ダイアモンドドッグズの力を俺がもう一度、使えるようにしてほしい」

「と言うと?」

「俺1人では出来る事にも限界がある。だからこそ、仲間達の力が必要なんだ。俺がもう一度、『BIGBOSSのファントム』となるためにな」

「……良かろう」

 

爺さんはしばし迷ったのち、静かに頷いた。

 

「ならば、これを持って行くと良い」

そう言って爺さんは何かを俺に投げ渡した。咄嗟に受け取ったそれは……。

 

「『iDROID』っ?何故これを爺さんが?」

「ワシは神じゃからな。過去にあった物を模倣し生み出す事など簡単じゃわい」

そう言ってほっほっほっ、と笑みを浮かべる神様。

 

「かつてのように、その端末、iDROIDから様々な事が出来る。武器、弾薬、防具に補給物資の投下指示からマップとしての機能。あらゆる機能に加え、こちらでも色々付け加えておいた」

「と言うと?」

「簡単に言えば投下出来る物資の数を増やした。今言ったように補給物資、医療品や携行食料などをな。まぁそれ以外にも追加したものはある。あとは自分の目で確かめてみよ」

「……助かる」

 

「それと、最後にこれだけは言っておこう」

「ん?」

 

「お主が今後、どのような事をしてもワシはお主に干渉出来ぬ。神は例外を除いて下界に干渉出来ぬからな。……じゃが、お主の今後の生き方次第で、お主の次の人生が決まると言う訳じゃ。心しておくように」

 

「……そんなもの、既に決まっている」

 

「ん?」

 

「ひとたび銃を手に、暴力で何かを訴えれば人は皆地獄へ落ちる。俺は一度、それを転生という形で免れた。だがそう何度も幸運が続くとは思って居ない。だからこそ、次は地獄へ落ちると、覚悟は出来ていた。あの、平和な国に生まれながらも前世のしでかした事を知っている俺はな」

 

「そうか。……じゃが、それを決めるのはお主ではない。お主の起こした行為、カルマがお主の未来を決めるのじゃ。達者でな、毒蛇よ」

 

「あぁ。神様もな」

 

その言葉を最後に、俺は意識を失った。

 

 

 

~~~~

「うっ」

 

そして、次に気づいた時、俺はどこかの草原で目を覚ました。すぐに体を起こすが、周囲に人影や人の気配は無い。それを確認すると、自分の格好へと目をやった。それは俺がダイアモンドドッグズ時代に着慣れたオリーブドラブの迷彩服だった。更にホルスターや装備に目をやる。

 

ホルスターには『ウインダージャ サイレントピストル』が入っていた。単発式の麻酔ハンドガンだ。こいつにはたくさん世話になった。だが、俺がダイアモンドドッグズの初期時代に使った、ほぼ無改造の物だ。腰のポーチの中などを覗いても、マガジンが予備の2つ。あとは中に入っている7発。計21発だ。更にホルスターにはナイフ。ポーチにはグレネードが4個。あとは水と簡易食料、医療キットなどだ。

 

さて、これから俺はどうするか。とりあえず町に行く、か。この世界の概要は神様の爺さんから聞いたが、詳細は何も分からない。

 

だがまずは、こいつの機能の確認だ。

 

俺はiDROIDを取り出し、起動した。すぐさま空中にディスプレイが浮かぶ。それからしばらく、俺は端末で今俺が投下物資で受け取れる物や情報を閲覧していく。幸運だったのは、このiDROIDに新しく、俺の前世に存在したネットへのアクセス権が与えられていた事。書き込みやメールなどは出来ないが、ネット記事の閲覧やアクセスが出来るのはありがたい。

 

更に、端末の中には分けられたカテゴリがあった。

 

それが、『戦闘班』、『警備班』、『研究開発班』、『支援班』、『医療班』、『拠点開発班』、『諜報班』の7つの部署の事だった。

 

どうやらこれらのレベルに応じて開発出来る武器やアイテムが揃うらしい。神様のじいさんのおかげなのか、今はどの班もレベル20となっている。

 

それらを確認し終えた俺は、端末の中にあった、恐らく諜報班が揃えたであろう情報を見ていた。加えて、少しだがこの世界の文字の事を学んだ。まだ迅速な読み書きが出来る訳ではないが、端末にデータがあれば大丈夫だろう。

 

また、現在俺がいる場所も分かった。俺が現在いるのは、『ベルファスト王国』と呼ばれる国の領土内部だ。更に、近くに町があるのも発見した。まずはそこを目指すところだが、目立つな、この格好は。

 

流石に迷彩服では悪目立ちするだろう。何か替えの服になりそうな物はないか?と端末の中を探すと、あった。レザージャケット。まぁ迷彩服よりはマシだろう。

 

俺はすぐさまこれの投下要請を出した。数十秒もすれば、どこからとも無く、パラシュートに括り付けられた緑のダンボール箱が落ちてくる。パラシュートが消滅し、ダンボール箱が落下する。

 

俺はすぐさま中に入り、着替える。それともう一つだけやっておくことがあった。

 

俺は迷彩服の袖口を破くと、バンダナにして額に巻いた。これで少しは角も目立たないだろう。

 

「さて、いくか」

 

俺は、誰にいうでも無く、ぽつりと呟くと遠くを見据えた。

 

この世界で何が俺を待つのか。

 

そして、ファントムの俺に、この世界に居場所があるのかを考えながら。

 

一つ前の、日本人としての前世は違いすぎた。俺の生きてきた世界と。だからずっと場違いさを感じていた。

 

さて、この世界にとって俺は場違いな異物か、そうじゃないのか。とりあえず、しばらくは旅をしてそれを判断するとしよう。

 

俺は端末でマップを確認する。そして、歩き出す。

 

 

そうして、俺、BIGBOSSのファントム、もう1人のBIGBOSS。『罰せられた毒蛇(パニッシュドヴェノムスネーク)』の、新たな物語が始まった。

 

     第1話 END

 




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第2話 双子姉妹との出会い

楽しんで頂ければ幸いです。


俺は異世界へと転生した。そして俺はiDROIDのマップで確認した町に向かうため、1人街道を歩いていた。

 

残念ながら歩いていても人とは出会わない。やはり文明レベルの違いか。この世界の基本的な状況はiDROID内部の諜報班が調べたデータベースを閲覧して学習済みだ。

 

この世界の移動の基本は徒歩、或いは馬とそれを用いた馬車だ。移動に掛かる時間は車や航空機のある俺の前世や更に前世と比べて雲泥の差だろう。となれば、物流も俺達の世界とは雲泥の差の可能性が高い。

 

とは言え実物を見ないことには何とも言えんな。とにかく今は町を目指すか。

 

と、歩いていた時。

 

『接近者あり』

「ん?」

耳に入れたインカムから響く声。それはiDROIDの電子音声だ。素早く前後と周囲を見回すと、後方から馬車が向かって来た。

 

俺は念のため、気づきつつも前を向いて歩き出した。やがて馬車が俺の横を通り過ぎる。その間も、突然の奇襲を警戒していたが馬車は何事もなく俺の横を通り抜けた。

 

ホルスターに伸ばしかけていた手を引っ込めようとした時。何やら前方で馬車が停車した。何だ?と考えていると、馬車から降りた男が一目散にこっちへ向かってくる。それを見て、戻し掛けていた手をホルスターの方へと再び伸ばす。

 

「君っ!そこのダンディな君っ!」

馬車は凝った装飾だったので乗ってるのは金持ちか貴族かと思ったが、降りてきた奴も良い感じの服を着ている事から見て、どっちかだろう。

 

「……なんだ?」

俺は駆け寄ってきた中年くらいの男を警戒しながら声を掛ける。

「君っ!その服はどこで買った物なのかね?」

「ん?」

 

何でこいつは、俺に服の事を聞く?

「こいつは、俺の仲間から貰ったものだが、それがどうした?」

「その服っ!是非私に売ってくれないだろうかっ!?」

「何?こんなのが欲しいのか?」

「無論だっ!見た事も無いデザインに縫製の仕方も、全くもって分からないっ!これ程の一品を見た事は無いのだっ!どうだろうか!?」

「……」

 

この服にそこまでの思い入れがある訳じゃないし、いざとなればまた支援物資として届けて貰えば良い、か。

「良いだろう。相場が分からないので、どれほどの金を出すのかはそっちで勝手に決めてくれ。ただし、見た所こいつは相当珍しい服だ。流石に安く買いたたこうとしたら、取引を中止させて貰う。構わないな?」

「あぁっ!もちろんだっ!適正な価格で買う事を約束しようっ!」

 

「もう一つ。生憎今の俺にはこれ以外、町中で目立つ服くらいしか持ち合わせがない。いくつか服を見繕いたい。出来るか?」

「可能だよっ!私は衣類の店を経営しているんだっ!なんて事は無いっ!」

 

「よし。取引はとりあえず成立だ」

 

こうして俺はこの世界の男に服を売ることになった。

 

その後、俺は男の馬車に乗って共に目的地の町を目指す事になった。幸いと言うべきか、俺もこの男、『ザナック』も目的地は一緒だった。

 

それから馬車に揺られること数時間。俺たちを乗せた馬車は『リフレット』と言う名の町へと到着した。外壁を越えて町中に入る。

 

窓から見える町並みは、確かに中世を感じさせる物だった。やがて、馬車は一件の建物の前に止まった。店の上に看板がある。確か、あれだと……。

 

『ファッションキングザナック』。それが店名らしい。読めない訳ではないが、まだまだだな。

「ここがアンタの店か?」

「そうさっ!ここは私がオーナーをしている店、ファッションキングザナックだっ!さぁこちらへっ!」

時間は掛かるが、間違い無く読めている事をさり気なくザナックで確認しつつ、俺は中へと入った。

 

俺はすぐに試着室に放り込まれ、レザージャケットなどを脱いでいくのだが、終いには服だけでなく下着まで買わせてくれと行ってきた。ただし。

 

「ッ!?き、君っ!その腕はっ!?」

 

ザナックは俺の鋼鉄の左腕、バイオニックアームと頭部の角、体中の傷に驚いている。さっきまでは裂いた布のターバンモドキとグローブで隠していたが、着替えるときに見られてしまった。

 

更にザナックが驚いた拍子にカーテンを引っ張ってしまい、近くにいた従業員にまで見られてしまった。従業員たちの女も、息を呑んで驚いた様子だ。……だが、気にして等いない。

 

「……昔、少しやんちゃをしてな。この様だ」

 

そう言いながら俺は代わりに用意して貰った服に袖を通す。

「し、失礼しましたっ!お客様の体をそのっ!」

「気にするな。もう過去の話だ。この傷も、失った左腕も、全部俺が俺である証だ」

「は、はぁ…」

 

ザナックは俺の言った事に戸惑っているようだ。

 

「それより下着まで売ったんだ。良い値段にはなっただろ?全部でいくらだ?」

「そ、それでしたら金貨10枚くらいかとっ!」

「ふむ。それくらいか」

 

この世界の通貨については調べてある。銅貨10枚で銀貨1枚分。銀貨10枚で金貨1枚分となる。その金貨が10枚か。悪くは無い。

「よし。じゃあその値段からこの服の料金を引いてくれ」

「いいえっ!その必要はありませんっ!あれほど色々貰っている以上、そちらの代金は必要ありませんっ!代わりと言っては何ですが、また何か面白い服があれば私どもの所へ持ってきて頂けると嬉しいのですがっ!」

 

ふっ、成程。流石オーナーか。商人らしい。

「良いだろう。だがならもう一つ、追加であれを貰って良いか?」

そう言って俺が指さしたのは茶色のトレンチコートだ。

「構いませんが、よろしいのですか?まだコートを買うには時期的に早いと思いますが?」

「あぁ構わない。値段はいくらだ?」

「い、いえっ。こちらも無料で差し上げますっ」

 

と言う事で、俺は追加でサンドカラーのトレンチコートを手に入れた。裾の長さは膝より少し上くらいのトレンチコートだ。

 

俺はそれを服の上から羽織る。こいつを買った理由は簡単だ。腰回りに集中するホルスターやナイフケース、左腰のポーチを隠すためだ。服の上からトレンチコートを着ればそれらを隠せる。

 

左腕のバイオニックアームに関しては、革製の手袋を買っておいたので嵌めておく。袖も長いので、これと長袖の服でバイオニックアームは隠れた。

 

これで服はOKだ。それで最後に金を受け取る。確かに金貨10枚だ。っと、そうだ。念のため聞いておくか。

「すまないがこの辺りに宿屋はないか?」

「宿屋、ですか。でしたら店を出て右へ。しばらく言った所に『銀月』という宿屋が一軒ありますが」

「そうか。ありがとう」

これで宿屋の情報も得られた。これで、ここでの用は終わったな。

 

「それじゃあ、金も貰ったし俺は行く。世話になったな」

「えぇ。また何かありましたらおいで下さいませ。またのご来店をお待ちしておりますっ」

「あぁ」

 

そう言って俺は店を出た。

 

それから俺はザナックに貰った情報を元に銀月という宿を探し始めた。だが……。

 

「ん?」

 

ふと歩いていると、近くの小道の奥から微かに声が聞こえる。どうやら何か言い争っているようだ。……片方は女だな?

 

チラリと周囲を見回すが、俺以外に気づいた者はいないようだ。……念のためだ。行ってみるか。俺としても婦女暴行を見て見ぬ振りは出来ん。

 

路地裏に入り、声がする方へと足を進める。そして見つけた。相手の数は4人。女が2人、姉妹、双子か?似た格好と顔立ちの女たちが、何やらガラの悪そうな男2人と向き合っている。

 

話に聞き耳を立てていると、どうやらあの2人は水晶鹿の角とやらを男達に金貨1枚で売るつもりだったようだ。だが、男達は傷を理由に銀貨1枚で買おうとしているらしい。

 

女の方が取引を止めようとするが、男達は角を返すつもりは無いようだ。全く。

 

「いい歳した大人が、セコいんじゃないのか」

 

「「っ!?」」

俺が突然現れると、男達は驚いた様子で振り返った。気配を消すにはもう馴れた者。こんなゴロツキに気づかれる程、柔ではない。

 

「な、何だジジイっ!なんか文句あるかっ!?これは俺とこいつらの問題だっ!」

「他人の努力を安く買い叩こうとする連中がいるようだからな。……大人しくそれを彼女達に返して、失せろ。怪我をしたくなければな」

 

「な、何をっ!ジジイがっ!!」

男の1人が、ナイフを取り出した。

 

 

「やめておけ」

 

「「うっ!?」」

直後、俺は静かに、しかし殺気と敵意を込めて呟く。すると、男達は唸り、後退った。

 

実戦で、戦場で培ってきた殺気と敵意。それは、チンピラ如きを圧倒するのに十分だった。

 

「それを抜いて向かって来たが最後、これから始まるのは本当の殺し合いだ」

 

そう言って俺も腰のナイフケースからナイフを抜く。ナイフを片手に構える。

 

「悪いが、俺は殺し合いとなれば手加減はしない。さぁ選べ。ここで命がけで戦うか、それとも、それを置いて大人しく失せるか。……どっちだ?」

「「う、くっ」」

 

唸り、冷や汗を流す男達。

『ガンガンッ!』

更に、俺から見て奥に居た少女の1人がいつの間にか、大きなガントレットらしき物を嵌めて、威嚇するように打ち付け合っている。どうやら、やるとなれば彼女も戦う気のようだ。

 

数秒、男達は躊躇ったようだが……。

「クソッ!」

 

男は近くの地面に角を置くと、俺の脇を通って逃げていった。俺はそれを見送り、奴らが表通りに消えていくのを確認するとナイフをケースに戻し、置いてあった角を拾い上げる。

 

「大丈夫か?」

「えぇ。ありがとう」

そして、近づいてきた長髪の彼女に角を手渡した。

 

「助けてくれてありがとう。私は『エルゼ・シルエスカ』よ」

「ちょ、ちょっとお姉ちゃん。相手の人は年上みたいだし、ため口は……」

すると、もう1人、短髪の彼女が戸惑った様子だった。

 

「気にするな。そんな事に目くじらを立てる程柔じゃない」

そう言って俺は彼女を安心させようとしたが、どうやら男に慣れていないのか、少し戸惑った様子だった。

 

「ごめんなさいね、妹はちょっと人見知りな所があって。妹の『リンゼ・シルエスカ』よ」

「そうか。俺はスネークだ」

「スネーク、ね。改めてお礼を言わせてもらうわ、スネーク」

「気にするな。こっちから勝手に首を突っ込んだだけだ」

 

っと、そうだ。一応聞いておくか。

「あぁ、礼代わり、と言ったら何だが。この辺りにある銀月って宿を知らないか?丁度探していた所なんだが」

「あら?そうなの?だったら私達が案内するわ。丁度私達も銀月に泊ってるのよ」

「そうか。そいつはありがたい」

 

と言う事で、俺はエルゼとリンゼに案内され、銀月へとやってきた。さっそく受付に居る女性のところへ向かう。

「いらっしゃい。お食事?それとも宿泊?」

「宿泊で。料金は一泊どれくらいになる?」

「ウチは一泊、朝昼晩と食事付きで1日銅貨2枚よ」

成程、となると1ヶ月で銅貨60枚と言った所か。まぁ幸い金貨が10枚もある。銀月に泊るのは、当面大丈夫そうだな。

 

「ならとりあえず1ヶ月ほど部屋を取りたい。生憎持ち合わせがこれしかないが、大丈夫か?」

そう言って金貨を一枚取り出し、テーブルの上に置く。

 

「大丈夫よ。ちょっと待っててね」

彼女からおつりを受け取る。

「あっ、それとここにサインを頂戴ね」

「あぁ」

 

俺は差し出された宿帳に、馴れないながらもこちらの文字で『スネーク』と書く。

「スネークさん、ね。はいこれ、部屋の鍵よ」

その後、宿の説明を受け、部屋の場所を聞き、鍵を受け取った。

 

 

その後、俺はエルゼ達と共に夕食を食べた。今は食後のお茶を飲みながら、話をしていた。

 

「それにしても、2人は何だってあんなガラの悪い連中と取引をしていたんだ?」

「ちょっとしたツテだったのよ。水晶鹿を倒して角を持ってたら、欲しいって言われて。でもダメね。ギルドを通さないとあんなトラブルに巻き込まれるし。まぁ、スネークでおかげで無事角は取り返せたから良いけど。……やっぱりギルドに登録した方が良いかしらね~」

「そうだよお姉ちゃん。明日にでも登録に行こう?安全第一、だよ」

 

ギルド、か。確か諜報班が調べたデータの中にあったな。個人の依頼とそれを受ける者を斡旋する仲介業者のような組織だったと。……そこでなら俺向きの仕事もあるか。

 

「なぁ、2人とも明日ギルドに行くのか?なら、俺も付いていって構わないか?俺もギルドに登録しようと思うんだが?」

「えぇ。良いわよ」

「助かる」

 

 

そうして、異世界に転生した俺の一日は終わった。2人と別れて部屋に戻り、銃のメンテナンスを行う。そしてそれが終われば、ベッドで横になる。やがてしばらくすると、睡魔が襲ってくる。

 

そして俺は目を閉じ、眠りに付いた。

 

 

 

~~~~~

『ボスッ!!』

 

「ッ!?」

 

突然頭の中に響いた声に、俺は目を開けた。そして、絶句した。目の前に広がるのは広大な海だ。そして足元に目を向ければ、見覚えのあるヘリパッド。

 

「ボスッ!」

「ッ!?」

また聞こえた声に振り返る。そこにいたのは……。

 

「お、お前達っ!」

 

かつて、共に戦い、共にダイヤモンドドッグズを育ててきた数多の仲間たちだった。

 

彼等が、戦友が、仲間が、そこにいた。

 

そして、『あの日』、俺が『隔離プラットフォーム』で、『この手で殺した仲間達』も、そこにいた。

 

「お前達、まで……」

 

「ボスッ!」

「お待ちしてましたっ、ボスッ!」

皆が俺の前に集まってくる。

 

……だが、俺はこいつらにボスと慕われて良いのか、疑問が脳裏をよぎった。

 

「ボス?」

「……お前達は、まだ俺をボスと慕ってくれるのか?」

「え?」

「……お前達だって覚えて居るだろう。あの日俺が、この手でお前達を、殺した」

 

「「「「「………………」」」」」

俺にあの日、撃たれた連中は黙り込んだ。その後ろで、他の奴らも緊張した面持ちだ。

 

「その上で聞きたい。どうだ?」

俺が問いかけると、皆、戸惑った様子だ。

 

「……確かに、あの時、死んだ事に不平や不満、憤りや悲しみが無いと言えば嘘になります」

 

そう答えたそいつを、俺は知っている。

 

「仲間が待ってます」

 

そう言って、俺の前で両手を広げたアイツだった。救助部隊の生き残り。一抹の希望。唯一の生存者になったかもしれない男だ。彼は真剣な目で俺を真っ直ぐ見つめながら語る。

 

 

「ですが、俺達はボスの言葉を聞いて、あなたをボスに選んで良かったと思って居ます」

不意に、彼とその後ろの連中が笑みを浮かべた。

 

「どういうことだ?」

「俺達には、あの時、死んだ時よりも後、自分達がどうなったのか記憶があるんです。燃え尽き、命を落とした俺達は、灰になった。でも、ボスがそこから俺達を『ダイヤモンド』にしてくれた」

「ッ」

 

~~~~

それは、スネークの選択だった。

 

声帯虫に汚染され、失意と絶望、無念の中で彼等は死んでいった。それを良く分かっているのは、他でも無い。手を下したスネーク自身だ。

 

だからこそ、彼等を、彼等だった遺灰を、ただ海に撒く事は出来なかった。それこそが、彼等にとっての永遠の別れ、『永訣』なのだから。

 

だからスネークはそれを拒んだ。

 

「俺達をダイヤモンドだと言ってくれた事。死しても傍に置いてくれた事。俺達はそれを、とても感謝しています。そしてまた、あなたの元で戦えるのなら、俺達の選択は決まっています」

 

仲間は、例え死んだとしても、多くを共にしてきた仲間だ。そして仲間を大切に思うスネークの思いが、彼等をダイヤモンドへと昇華させた。そしてその思いは、仲間たちを引きつけるカリスマ性となる。

 

「俺達はどこまでもボスに付いていきますっ!俺達の命は、この身はっ!例えもう一度死ぬ事があったとしても、どこまでも、例えダイヤモンドになろうともっ!ボスと共にっ!」

 

『『『『『『バッ!!!』』』』』』

 

 

~~~~

そう言って、皆、俺に敬礼をする。その姿勢は一切の迷いを感じさせなかった。そうか。ならば、俺から言うべき事は一つだけだ。

 

「分かった。ならばこれから、俺達はダイヤモンドドッグズとして、もう一度立ち上がる。みんなの力を、俺に貸してくれ」

「「「「「はっ!!!」」」」」

 

皆の敬礼に、俺も答礼を帰す。

 

そうして俺は、もう一度仲間を、ダイヤモンドドッグズという仲間たちを率いる事となった。

 

 

その後、仲間たちと少し話をした。

 

どうやら彼等の居るマザーベースはどこかの異空間に存在しているらしい。故に敵からの侵入は今の所ほぼ不可能だそうだ。更に俺は、かつての腹心であるカズやオセロットは居ないのか?と聞いてみたが……。

 

「実は、それに関してはミラー副司令から。『まだその時ではない』と」

「どういうことだ?」

「ミラー司令がいうには、『まだ俺やオセロットがあんたと会う訳には行かない。もっと人を集め、人との絆を繋げ、組織を多くし、ダイヤモンドドッグズが成長したらその時に会おう』、との伝言を預かっています」

 

「成程。分かった」

要は彼奴らと再会するためには、もっとマザーベースを大きくしないと行けないようだ。しかし……。

 

「絆を繋げ、と言うのはどういうことだ?」

「あっ、それだったらオセロット教官からも伝言が。どうやら、このマザーベースの各班のレベルアップには、これまでの人を集める事とは別に、人との絆が関係しているようです。何でも、多くの人と絆を深めればそれだけ班のレベルアップに繋がるとか、なんとか」

「……良く分からんな」

 

その後も、彼等と話をして現状の確認やお互いの立場の確認などをしておいた。

 

俺の状況は知らせた。

 

更にこいつらの現状も聞いた。もちろんこいつらの復活に神が関わっている事も、彼等は知っていた。

 

と、何だかんだと話していると、唐突に体を浮遊感が襲った。

「ぬっ?これは?」

「あっ!ボスっ!今ボスは眠ってる状況だったから、外とこっちじゃ時間の流れが違うんですっ!きっと意識が目覚めようとしてるんですっ!」

「そうか。うぉっ!?」

体が勝手に宙に浮く。そのまま上へと引っ張られていく。

 

「ボスっ!最後にこれだけっ!ボスのiDROIDに『移動用ワームホール』の発生装置が内蔵されてますっ!それがあれば、いつでもマザーベースに戻ってこられますっ!俺達は、いつでもボスの帰還を待ってますっ!

「分かったっ!」

 

彼奴らにも聞こえるように大声で答えた直後、俺の意識は途切れた。

 

 

「っ」

そして俺は現実世界で目覚めた。一瞬、さっきまでのは夢か?と疑ったが夢ではないようだ。ベッドを立ってテーブルの上に置いてあったiDROIDの傍に、置いた覚えの無い、見覚えのあるダイヤが、仲間たちの『メモリーズダイヤ』が置かれていたのだから。

 

俺はそれを手に取り、小さく笑みを浮かべてからポケットへとダイヤを入れるのだった。

 

「行くぞ」

 

俺は小さく呟き着替えると部屋を出た。これから先の旅は、仲間たちと共に行くのだから。

 

それから、俺はエルゼたちと朝食を取った後、ギルドへと向かった。

 

ギルドに付いた俺達は、そこで『冒険者』としての登録を行い、説明を受けた。冒険者にはランクがあり、受ける依頼にも難易度に応じた受注制限が掛けられている。まぁ、当たり前だろう。

 

そうして説明を受けたあと、個人を識別するギルドカードを受け取り、俺達は早速依頼を吟味し始めた。今朝も念のため、少しこちらの世界の言葉を勉強していたので読めなくは無いが、如何せんこの辺りには詳しくない。しかも俺達は冒険者ランクが黒。駆け出しだ。受けられる依頼にも限りがある。

 

「スネークはどう?何か良いの見つかった」

「いや。未だに吟味している所だ。この辺りの地理が殆ど分からんからな。そっちはどうだ?」

「それならこんなの見つけたわ」

そう言って依頼書の一枚を指さすエルゼ。

 

彼女が指さしているのは、討伐系の依頼書だった。東の、森。魔獣、狼?これを5匹、か。

「討伐。狼を5匹もか。お前達だけで出来そうなのか?」

と、聞いてみたが、2人はどこかキョトンとした。

 

「ん?どうした?」

「あ、えっと、どうしたって、スネークは一緒に来ないの?」

「なに?俺もか?しかし、俺が一緒に行ったら分け前が減るだろう?良いのか?」

「別に気にしないわよ。それに、折角一緒に冒険者になったんだし、どうせなら最初は一緒の依頼を受けてみようかなって思っただけよ。スネークはどうする?」

 

ふぅむ。同行の誘いか。こちらには断る理由も特にないし、構わないか。

「分かった。なら一緒に行かせて貰うとしよう」

「OKっ!じゃあ決まりねっ!」

 

こうして俺は2人と一緒に初依頼を受ける事になった。

 

とは言え準備は必要だ。2人はギルド近くの武器屋で、エルゼは足を保護する脚甲。リンゼは銀のワンドを購入した。

 

しかし、俺の持ち物で使えそうなのはグレネードが4。あとはナイフと麻酔銃のウインダージャだけだ。討伐系の依頼を考えれば、ウインダージャは不要だろう。しかし町中で補給を要請しても目立つだけなので、町を出て少ししてから補給を要請する事にした。

 

「2人とも、少し待ってくれ」

「ん?」

「どうかしましたか?スネークさん」

足を止めて振り返る2人。

「悪いが少しだけ時間をくれ。5分もいらない」

 

そう言って俺はiDROIDを取り出した。

「それは?」

取り出したiDROIDに興味津々のリンゼ。だが俺はそれを無視してすぐさま端末を起動し、メニューを開く。

 

「えっ!?」

「何それっ!?」

空中に浮かぶディスプレイに2人が戸惑っている。俺はそれを後目に、1つの武器を要請した。

 

ディスプレイにマップが表示され、俺の位置を示すマーカーの近くを投下ポイントに指定する。それが終わると、iDROIDを腰に戻した。

 

「ちょっとスネークッ!何今のっ!?それ何っ!?」

興味津々といった様子で目を輝かせながら俺に詰め寄るエルゼ。

「す、凄いです……っ!もしかして、スネークさんって凄い人、なんですか……っ!?」

リンゼもリンゼで、かなり興奮しているようだ。

 

「凄い人、かどうかは俺自身も分からんな。それと、こいつは俺の力の一端、と言った所だ」

「力の、一端?」

そう言って首をかしげるエルゼ。

 

「今は依頼の最中だからな、それ以上の事は話せない。まぁ、いずれ詳しく話す事があるだろう」

と、2人と話をしていると……。

 

「おっ、来たようだ」

「「え?」」

近づいてくる気配に気づいて空を見上げる。2人もそちらに目を向ける。

 

見るとパラシュートとボックスがこちらに向かって来ていた。そして、俺達の近くに落ちるダンボール箱。

 

「「えぇぇぇぇぇっ!?」」

突然の事に2人が驚いている中、俺はダンボール箱の傍に寄ると、中に入って投下された武器を回収した。するとダンボールが自然消滅する。

 

俺が投下を頼んだのはハンドガン、『AM D114』。こいつもウインダージャと並んで世話になった殺傷系ハンドガンだ。グレードは2。サプレッサーを装備している。装弾数は、7発。予備のマガジンを含めて弾数は56発。一匹に10発も使う事は無いだろうから、これで足りるだろう。それに、いざとなればウインダージャが使える。幸いポーチに余裕があったのでそちらにしまいこんだ。

 

「待たせて悪かったな。こっちは準備完了だ。さぁ、行くぞ」

そう言って俺は、ぽか~んとする2人を追い越すように歩き出す。

 

「あっ!ちょっとぉっ!」

「わわっ!待ってよお姉ちゃんっ!スネークさんっ!」

慌てて付いてくるエルゼとリンゼ。

 

その後、たどり着いた東の森。その中を進んでいくと……。

iDROIDが反応した。それは付近に敵の接近を知らせるものだ。と、同時に肌がヒリヒリとした感覚に襲われる。これは、長年戦場で戦ってきたからこそ分かる。『敵意』だ。それが徐々にこちらへ近づいてくる。

 

「止まれ。何か近づいてくる」

俺が声をかけると、2人とも足を止め臨戦態勢だ。どうやらそこそこの実戦経験はあるらしいな。2人の姿を横目に確認すると、俺もD114を抜き、構える。

 

『『ババッ』』

直後に草木の影から飛び出してくる何か。飛び出してきたのは黒い影。数は2匹。それは一角狼の名の通り、額から角の生えた狼のような存在だ。そして角は討伐の証として持ち帰られなければならない。となると、頭の付近を撃ち抜いて角を粉砕してしまう訳にもいかない。

 

『パスパスッ!!』

サイレンサーで小さくなった銃声が響き、俺の狙い通り弾丸は一角狼の喉の辺りを貫いた。撃ち抜かれ地に伏す2匹の一角狼。

 

『パスパスッ!パスパスッ!』

倒れた2匹に追い打ちでそれぞれ2発、たたき込んでおく。これで6発。残りは薬室の1発だけだ。そこから俺はすぐさま、タクティカルリロードを行う。

 

こうすることで、不意の攻撃にも即座に対応出来る。

 

すると、更に4匹の一角狼が飛び出してくる。動きは狼らしく素早い。が……。

『パスッ!パスッ!パスッ!パスッ!』

この程度造作も無い。かつて高速に動き回るスカルズを相手にしていた事に比べればっ!

 

放たれた弾丸が連中の胴を射貫く。痛みに倒れる一角狼。だが完全に倒した訳じゃない。

俺は振り返り叫ぶ。

 

「今だっ!トドメを刺せっ!」

「っ!わ、分かってるっ!」

「はいっ!」

 

俺が声を上げると、少し呆けていた2人が動き出した。

「このぉぉぉぉぉっ!」

エルゼの拳が、ヨロヨロと起き上がろうとしていた一角狼2匹を続け様に殴り飛ばす。

 

「『炎よ来たれ、赤の飛礫、イグニスファイア』ッ!」

更に、リンゼの放った魔法らしき物が別の2匹を焼き払った。

 

これが魔法か、と思いつつ周囲を警戒する。しかし、これで撃ち止めのようだ。周囲に敵の気配は感じない。

 

「……どうやら6匹だけだったようだな」

俺は周囲を警戒しつつもう一度タクティカルリロードを挟む。

「2人とも、怪我は無いか?」

周囲を警戒しながら声を掛ける。が、2人とも何やらぽか~んとした様子で俺を見つめている。

 

「ん?どうした?エルゼ、リンゼ?」

「あ、え、えっと。ごめんなさい。ちょっと、改めてスネークの武器が良く分からなくて、戸惑ってたのよ」

「……あぁ、そう言う事か」

エルゼの言葉に一瞬、思考をめぐらせた上で気づいた。さっきの武器屋もそうだが、銃はこの世界で普及していない。いや、そもそも銃という概念が存在していない可能性もある。そんな彼女達が銃を見て驚くのは当然だ。

 

「スネークさんの使ってるそれ、って。どんな武器なんですか?」

「早い話、爆発する粉で小さな鉄の塊を発射する武器だ。放った塊が相手の体を貫通しダメージを与える。そう言う武器だ。形や用途も色々あるが、こう言った武器を総じて『銃』と呼ぶ」

「銃。……それが、スネークさんの武器、なんですね」

「そうだ」

 

俺はリンゼに答えながらD114をホルスターに戻す。

 

「それより、依頼は完了したんだ。さっさと証拠の角を回収して町に戻るぞ。血の臭いに釣られて他の魔獣が来た場合、そいつらと戦う事になるぞ。だが、依頼はあくまでも一角狼の討伐だ。これ以上戦っても無駄に体力を消耗するだけだぞ」

「それもそうねっ!リンゼ、ちゃっちゃと回収してリフレットに戻るわよっ!」

「う、うんっ!」

 

その後、俺達は協力して証拠の角を回収。依頼は5匹だが、一匹多く倒してしまった。換金出来ないか分からなかったので、とりあえず6匹目の角も持ち帰った。

 

その道中。

 

「ねぇスネーク」

「ん?何だ?」

「スネークって、もしかして元々兵士か何かだったの?」

 

『ピクッ』

 

エルゼの問いかけに眉を一瞬動かしながらも平静を装う。

「それがどうかしたのか?」

「あ、えっと。なんて言うか。そんな不思議な武器を持ってるし。チンピラを威圧感だけで撃退しちゃうし。それに何か、顔とか傷も凄いし。……なんて言うか普通の人って感じじゃなかったから。どうなのかな~って思って。あっ!答えたくないなら別に良いんだけどっ!」

 

「そうか。……まぁ別に隠している事でもない。確かに俺は元々兵士だ。いや、今も、と言うべきか」

「どういうこと、ですか?」

 

「色々あってな。以前はとある人の部下をしていた。だが、今は自分で組織を率いる立場になった」

「あっ!もしかしてさっきの箱を送ってきたのっ!スネークの仲間なのっ!?」

「あぁ。そうだ」

 

「その組織、なんて言う名前なんですか?」

 

リンゼの問いかけに、俺は足を止め、振り返り答えた。

 

「≪ダイヤモンドドッグズ≫。それが俺と仲間たちの部隊の名前だ」

 

それだけ答えると、俺はもう一度歩き出した。

 

その後も、色々聞いてくるエルゼとリンゼに適当に受け答えをしながら俺達はリフレットへと戻った。

 

俺のこの世界での初仕事は、何とも簡単だったな、などと思いながら。

 

     第2話 END




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第3話 適性検査

楽しんで頂ければ幸いです。


討伐依頼を完遂した俺達は、リフレットへと戻りギルドに報告をした。無事依頼を終えた俺達は報酬を貰い、更にエルゼの提案で、お茶をすることになった。依頼を受けるに当って昼食は抜いていたし、かといって夕食には早い。俺としては断る理由も無かったので、一緒になった。

 

で、軽食とお茶を食べているときだった。軽食を食べ終われば、待っていたのは2人からの質問の嵐だ。

 

とは言え、ダイヤモンドドッグズの事を話すわけにも行かないだろうと、適当に曖昧な話をしておいた。

 

そんな中での事だった。

「スネークさんは、色々凄い武器を持ってます、し。魔法も使えるんです、か?」

「魔法か?生憎そっちはからっきしだ。適性とやらも調べた事が無いからな」

 

『魔法』。それはこの世界において普遍的な存在だ。だが前世がある俺からすれば十分驚くに値する存在だ。

 

その魔法についても事前に調べてある。魔法には火や水と言った属性があり、人間にはそれぞれ生まれ持った各属性への適性がある。火属性への適性があれば火の魔法が使える。だが、火属性の適性があっても、他の属性、例えば水の属性の魔法は使えない。

 

「へ~?じゃぁ、スネークは自分が適性あるかも分からないんだ」

「気にしたことが無かったからな。調べる方法があるのは知っていたが、試す機会も無くこの歳だ」

そう言って俺は茶に口を付けた。

 

「なら、調べてみる?」

「ん?」

「リンゼが魔石を持ってるのよ。これを使えば調べられるけど?」

「……」

エルゼの提案に俺は少し考え込んだ。

 

魔法、か。正直興味は無い。が、戦場では何が起こるか分かった物ではない。対応能力、と言う点に関して言えば、魔法は覚えておくべきだろう。まぁ、適性があればの話だが。

 

とにかく、調べてみるとしよう。

「分かった。ならリンゼ、すまないが少し魔石を貸してくれ」

「はい。分かりました」

 

 

と言う事で、場所を銀月の裏庭へと移した俺達。俺はリンゼが持っていた魔石を借りた。魔石を使って特定の呪文を唱えると、魔石から属性に応じた物が発生する。水の魔石で水の適正があれば水が溢れ、火の魔石で火の適性があれば火が噴き出す。

 

そうやって調べていたのだが……。

「「……………」」

どうやら俺には全ての属性の適性があったらしい。おかげで2人とも絶句していた。

 

しかも、先にリンゼがお手本として見せてくれた時、彼女は水の魔石から少し水を出しただけだった。対して俺の場合は、壊れた蛇口のように一気に水が溢れてきた。他の属性である火、土、風、光に闇。そのどれに対しても俺は適性を持っていた。

 

「す、すごい、です。6つの属性、全ての適性を持ってる人なんて初めて見ました……っ!」

「スネーク、アンタもしかして凄い才能持ってるんじゃないのっ!?」

「……才能、ねぇ」

驚く2人と対照的に、俺はどこか首をかしげていた。今の所、ただ火や水、風や土を出すばかりだ。

 

「最後はこれか」

そう言って手にしたのは無色の魔石。……ん?待てよ。

「リンゼ、そう言えば無属性魔法はどうやって調べれば良いんだ?確か無属性魔法は、個人魔法と呼ばれているのだろう?」

「あ、はい。そうです。無属性魔法は個人魔法とも言われ、例えばお姉ちゃんなら『ブースト』の無属性魔法が使えますが、それ以外の無属性魔法は使えません。似たような効果を持つ無属性魔法もありますが、全く同じ魔法を異なる人物が使えた、と言う話は、聞いた事がありません」

「……つまりブーストはエルゼだけの技、と言う訳だな。エルゼ、君はその魔法をどうやって覚えた?」

「う~ん、覚えたって訳じゃないのよね。ある日、なんて言うかこう、頭の中に魔法の単語?名前が浮かんできたと言うか。で、試しに使ったら、ホントに使えたって訳」

「……まるで天啓だな」

アバウトな会得方法に俺はそう言って静かに息を漏らした。そして目を瞑ってみるが、エルゼの言うとおり、何か単語や名前が浮かんで来る事は無かった。

 

「何も浮かばんな。俺には無属性魔法の適性は無いと言う事か」

「いえ。諦めるのは早いかと、思います。試しに何か無属性魔法の名前を口にしてみて下さい。適性があれば、魔石が光ったり、震えたりするはずですから」

「もしそれらが無ければ?」

「残念ながら、スネークさんには無属性魔法の適性は無い、と言う事です」

「……そうか」

 

とは言え、どうしたものかな。試しにエルゼのブーストを唱えてみるか。

「……≪ブースト≫」

そう小さく唱えた次の瞬間、魔石が光輝き、同時に力が漲るのを感じた。

「えっ!?」

「スネークさんっ!?」

 

まさかの事に2人が戸惑っている中、俺はゆっくりと四肢を見つめた後、魔石を手にしたまま握りこぶしを作り……。

 

『ブンッバッ!!!』

演舞のようにCQCの動きを繰り出した。短い動きでブーストの効果を確認するが、成程。これは便利だ。ブーストの魔法を解除し、2人の方へと向き直る。

「身体能力をアップさせるブースト、か。悪く無い」

まだまだ若い者には負けんが、それでもこの肉体はもう50代を迎えている。まだ無理は利くが、それでもこう言った補助によって身体能力を強化出来るのはありがたい。

 

「ありがとうリンゼ。おかげで俺の適性を調べられた」

「あ、い、いえっ、お役に立てて何より、です」

俺はリンゼに借りていた魔石を返した。

 

「それにしても凄いわねスネークッ!まさか全属性の適性持ちだったなんてっ!しかも無属性までっ!」

「どうやらそうらしい。おかげで随分な収穫だ」

「私の3属性でも希な方なのに、全部の適性がある人なんて、聞いた事無いですっ」

「ん?何だ?全属性の適性持ちというのは居ないのか?」

「はい。今の所、私達が知る限りではスネークさん以外、全ての適性を持つ人が居た、なんて聞いた事もないです」

「……となると、俺もそこそこ貴重な存在、と言う訳か」

 

そうなると、やはり情報は出来るだけ秘匿しておいた方が良いだろう。物珍しさから怪しい連中に目を付けられても困る。それに、俺の厄介事にエルゼ達を巻き込む訳にも行かんだろう。

 

「エルゼ、リンゼ。すまないが俺の適性の事はオフレコで頼む」

「え?どうして?」

「何時どこで、どんな敵と戦うことになるか、分かった物じゃないからな。出来るだけ俺の情報は秘匿しておきたい。そう言う事だ」

首をかしげるエルゼに答えると、2人とも顔を見合わせた後、頷いた。

 

「まぁスネークがそう言うのなら別に良いけど」

「はい。私も構いません」

「すまないが、頼むぞ」

 

 

と、こうして検査を終えた俺は、2人と共に銀月の中へと戻った。っと、時計に目をやるともう昼が近い。そのまま俺達は食堂に向かったのだが。

「ん?」

 

食堂に着くと、見慣れない女が宿屋の看板娘、『ミカ』と何か話していた。

「あぁ、丁度良かったっ!」

するとミカが俺達に気づいて近づいてくる。彼女と話をしていた女もだ。

「何だ?俺達に何か用か?」

「そっ、ちょっと3人に相談したい事があってさ」

「相談?」

 

「そうなの。っと、スネークさん達は知らないか。彼女の名前は『アエル』。パレントって喫茶店をやってるんだ」

「はじめまして。アエルと申します」

「俺はスネークだ。こっちは俺の仲間で双子の……」

「リンゼ・シルエスカ、です」

「私はエルゼ・シルエスカよ。よろしく」

 

「それで、俺達に相談というのは?」

「あぁ実は、アエルがね。お店で出す新商品のアイデアを探してるのよ。で色々考えたんだけど、私達だけじゃ良いアイデアが出なくてさ~。どうせなら旅人の3人に聞いてみようかな~って思ってさ」

「成程な。分かった」

「そう言う事でしたら協力します」

「良いわよ。って言っても、私達が良いアイデアを出せるかは分かんないけど」

俺とリンゼ、エルゼは順番に頷いた。

 

「ありがとうございます」

「それで、具体的にどんな料理を作るつもりなんだ?」

「そうですねぇ」

俺が問いかけると少し考え込むアエル。

 

「私としては、軽く食べられる物が良いですね。あとは、欲を言えばデザートのような、女性に人気の出る料理が良いですね」

「成程」

 

しばし思考をめぐらせてみる。……が、如何せん俺は男でこんな歳だ。菓子や女が好きそうな物とはてんで縁の無い存在だ。

「どう?スネークは良いアイデア出た?」

「いや。俺は特にない。逆にエルゼ、君はどうだ?」

「私もさっぱり。リンゼは?」

「ううん。私もダメ。パッとは思いつかないなぁ」

 

どうやら俺達3人、良いアイデアは出ないようだ。どうしたものか。と少し考えた後。

「……少し仲間に聞いてみるか」

「「「「え?」」」」

俺の言葉に4人が首をかしげる中。俺はiDROIDを取り出し、通信をマザーベースと繋げた。更に会話内容をiDROIDのスピーカーを通して周囲に伝える。

 

「こちらスネーク、聞こえるか」

『はい。こちらマザーベース、聞こえますよボス。どうされましたか?』

 

「えっ!?何これっ!?」

「小さな箱から人の声がっ!?」

突然の事にミカとアエルが驚いている。その隣で呆然としているエルゼとリンゼ。

 

俺はそんな4人に対し、口元に人差し指を当てた。まぁ、静かにしていろと言う事だ。少し慌てた様子でミカとアエルが口を塞ぐ。

 

「すまないがちょっとお前達の知識を借りたくてな」

『ハァ、俺達のですか?』

「そうだ。部隊の中で、誰か菓子作りに精通している奴は居ないか?ちょっとそう言った所で相談を受けてな」

『了解ボス。確か、菓子作りが趣味の奴が居たので今連れてきます。少しお待ちを』

「あぁ、頼む」

 

そう言うと、スピーカーから人が離れていく音が響いた。

「あ、あの。スネークさん。今のはは一体?」

戸惑いながらも興味ありげにiDROIDを見つめるリンゼ。

 

「こいつには遠く離れ場所に居る仲間と会話するための機能がある。それを使っただけの事だ」

「ホントスネークっていろんなの持ってるわよね~。それ、どこで作ったの?」

「悪いがそれは企業秘密だ」

エルゼの言葉に俺はそう返す。まぁ、これについてあれこれを語ったとしても、大半は彼女達が理解出来ない単語の羅列になるだろうからな。

 

すると……。

『お待たせしましたボス』

「あぁ。悪いな。それで相談の事だが」

『はい。ここに来るまでに聞きました。菓子作りに関係しているとか?』

「そうだ。実は町の喫茶店を経営している女性から新しい商品についてアドバイスが欲しいと言われてな。条件としては、軽く食べられる物。更にデザートのような女性に人気が出そうな物が良いそうだ。何かあるか?」

 

『女性に受けが良い、デザートのような、軽く食べられる物。ですが、ちょっと待って下さい。今そちらの状況とかを調べた上で良さそうなのをリストアップしてきます。リストアップが終わったら連絡しますので』

「分かった。通信終了」

 

やがてしばらくして。

『ブブブッ』

iDROIDが小さく振動した。それに気づいて通信に答える。

 

「こちらスネーク。どうだ。良いのは見つかったか?」

『はい。そちらで用意出来る物で調理可能な物を見つけました。ただ……』

「ん?ただ、どうした?」

『こちらから調理器具を持っていきたいのですが、ボスにゲートを開いて貰っても構いませんか?』

「まさかお前がこちらに来て直接教えるのか?」

『はい。その方が早いかと』

「分かった。すぐにゲートを開く。一旦通信を切るぞ」

『了解です』

 

 

正直、彼女達にゲートの展開機能を見せるのは一瞬迷った。だが考えた。これを奪った所で大体の人間は操作方法が分からないだろう。しかも文字は全て、この世界の人間からすれば異世界の言葉だ。

 

なので、俺はiDROIDを使ってゲートを開くことにした。システムを起動し、左上のアンテナのようなパーツを前方に向ける。

 

するとそこから一筋の光が走り、俺から数メートル前方でワームホール型のゲートが開いた。それに4人が愕然としている中、ゲートの中から現れたのは、いくつかの荷物を抱えた、軍服姿の白人女性だった。

 

彼女はダイヤモンドドッグズの創設初期から医療班で活躍していた部下だ。ちなみに、ダイヤモンドドッグズ創設に当ってMSF時代に存在した給糧班は医療班に統合されている。部下の食は士気や体調に関わるからだ。

 

「お待たせしましたっ、ボスっ」

彼女、『マリー』は開いている手で敬礼をする。

「よく来てくれた」

そう言って俺が彼女を出迎える傍らで、エルゼ達4人が愕然としていた。

 

「あっ、ボス。彼女達は?」

「あぁ。紹介しよう。俺の右から冒険者仲間のエルゼ・シルエスカ。エルゼの双子の妹、リンゼ・シルエスカ。この宿、銀月の従業員であるミカ。街でパレントと言う喫茶店を経営しているアエルだ」

 

「はじめまして。ダイヤモンドドッグズ、医療班所属、マリーと言います」

そう言って開いている右手でビシッと敬礼をするマリー。

 

しかし、肝心の4人は今も呆然としたままだ。

 

「あ、えっと?」

「気にするな。全員呆けているだけだ。おいっ、大丈夫か?」

そう言って俺が声を掛けると全員やっと我に返った。

 

「アエル」

「は、はいっ!」

「俺の部下のマリーだ。趣味が菓子作りらしいし、こうしていくつか調理器具や材料を持ってきて貰った。彼女から料理を教えて貰ってくれ」

「わ、分かりましたっ!」

 

その後、アエルはマリーから料理を教えて貰っていた。俺の方は、料理など大して出来ないので適当にくつろいでいた。

 

そんなとき。

「ホント、スネークってどういう人なの?魔法の適性に不思議な道具に武器。色々不思議すぎ」

「……ただ少し、戦場で長く生き延びてきただけの老人。そんな所だ」

俺はエルゼにそう言って、ミカが出してくれた茶に口を付ける。

 

しかしエルゼと彼女の傍に居たリンゼは、どういうこと?と言わんばかりだ。まぁ、今は彼女達に俺の素性を話すつもりは無い。

 

「お待たせしました、ボス」

すると、そこにマリーとアエルが来た。彼女達の手にある皿には、棒状の菓子が置かれていた。

 

「これは?星形のパン、ですか?」

「いいえ。これは『チュロス』って言う菓子よ」

首をかしげるリンゼにマリーが答えた。

「まぁ実際には揚げパンに近いんだけどね」

そう言って彼女はチュロスの乗った皿を俺達の前に置いていく。

 

「なんで星形なの?」

「それは爆発防止のためよ。丸くした状態で揚げると、生地が膨張して爆発したりするの。そうすると高温の油が飛び散ったりして危険だからよ」

「「「へ~~~」」」

と、マリーの説明にミカやエルゼ、リンゼ達が頷く。

 

「ボスも良ければどうぞ。砂糖を振りかけてあるので少し甘いかもしれませんが」

「あぁ、ありがとう。頂くとしよう」

俺は出されたチュロスを1本手に取り食した。

 

「ふむ。俺個人で言えば悪くはない。他の3人の反応は……」

ふとエルゼ達の方に視線を向けたが、エルゼとリンゼ、ミカの3人は美味しそうにチュロスを頬張っていた。この分なら採用だろうな。

 

と考えていると……。

「ボス」

「ん?何だ?」

「少しお話しがあるのですが、よろしいですか?」

「……分かった」

 

わざわざ話がある、と言うのだからエルゼ達に聞かれる訳にも行かないだろう。俺は席を立ち、彼女達から離れた所でマリーと話しをした。

 

「それで、話というのは?」

「はい。実は先ほど、アエルから『パレントで働いてくれないか?』と誘いがありました」

「ほう。理由はやはりその知識と腕か?」

「はい。加えて私が持ってきた調理器具や調味料にも興味を持っていましたから、私経由でそれらを得たい、と言う欲求もあるようです」

「ふむ。……アエルは労働報酬について何か言っていたか?」

「はい。私の賃金と、調味料や食材を提供してくれる場合、個別に相応の報酬を出すと言ってくれています」

 

その言葉を聞き、俺は少しだけ考えた。……そして。

 

「よし。ならばマリー。お前はこれからパレントに出向という形で彼女の店を手伝ってやれ。加えてお前がパレントとマザーベースの仲介役となって物資をパレントに卸す。また、お前はダイヤモンドドッグズの兵士だ。なので緊急時にはアエルや店を守るように」

「それについては了解しましたが、護衛は必要でしょうか?」

「一応は、な。お前がこの世界にとっては未知の道具や食材を卸せば、それは商品として売られ人々の注目を集めるだろう。そうなった時、秘密を探ろうと企業スパイのような者が送り込まれる可能性や、実力でレシピを奪いに来る輩もいるかもしれん。そう言った連中から彼女や店を守ってやれ」

「分かりましたボスッ、任務を拝命しますっ」

 

こうして、以降マリーはアエルのパレントで働く事になった。

 

ちなみにパレントで売り出したチュロスは瞬く間に大ヒット商品になったようだった。

 

また、マリーがパレントで働く事が決まった後にiDROIDを確認すると、少しだけ医療班のレベルが上がっていた。……人の繋がりがどうのと言って居たが、まさかアエルと出会い色々協力したからか?実際にそうとしか言えないが……。しかしおかげで、どうすればマザーベースの強化に繋がるかも分かった。

 

 

 

あれから数日が経ったある日。俺達はギルドで依頼を吟味していた。興味を引いたのは、メガスライムという魔物の討伐依頼だ。スライムに関しては日本の少年だった前世で学習済みだ。問題は奴らに俺の持つ銃の弾が通用するのか、だ。検証も兼ねて討伐に行きたかったのだが、他の2人に断固拒否されてしまった。……どうやらスライムは服を溶かしてくるそうだ。……これでは女性に嫌われても当然か。結局他の依頼を探す事にしたのだが……。

「ふむ。これなどはどうだ?」

 

俺が見つけたそれは手紙の配達依頼だった。依頼主はこの前俺が知り合ったザナック。交通費は支給され、報酬は銀貨7枚だった。

 

「王都への配達以来ねぇ」

「何だ?距離があるのか?」

「はい。王都までは馬車を使っても5日はかかりますね」

少し乗り気ではないエルゼに問いかけてみると、リンゼが答えてくれたが。5日か。俺ならばマザーベースより四輪駆動車の『ZaAZ-SB4/4W』くらい投下可能だが、この世界で車は悪目立ちするだろうから、まだその時ではないだろう。精々非常時に使うくらいか。

 

「どうする?幸い俺は依頼人と顔見知りだ。特に問題のある人間ではないが?」

「あっ、そうなの?じゃあ良いわ。どうせ他に良い依頼は無いし。リンゼも良いでしょ?」

「うん。私は大丈夫」

 

と言う事で、俺達はこの配達依頼を受ける事になった。

 

その後、俺はザナックの元へと行き手紙を受け取った。依頼は王都に居るソードレック子爵へ手紙を渡し、返事を貰ってきて欲しいとの事だ。急かしはしないが、出来るだけ早く持って帰って欲しいそうだ。

 

その後、馬車を駆り、移動中の食料などを調達したりした後、俺達3人はレンタルした馬車に乗り早速王都に向けて出発した。

 

その道中で、いくつもの出会いがある事を。その時に俺には知る由も無かった。

 

     第3話 END




感想や評価、お待ちしております。


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第4話 遭遇

遅くなりましたが、楽しんでいただければ幸いです。


俺はリンゼから魔法についての話を聞き、彼女の協力の下適性を調べた。更に仲間を町の住人に紹介したりしていたある日、俺は依頼と言う事でエルゼ達と共に馬車を借り、王都を目指した。

 

 

リフレットを出発した日、俺達は一つ目の町を素通りし、二つ目の町までやってきた。そこに付いた頃には日も暮れていたので、今日はここで宿を取る事にした。適当な宿を取り、馬車を預け夕食を取るために街に繰り出す。宿の主の話では、この辺りは麺類が有名らしいが……。

 

「ん?」

歩いていると、前方で何やら騒ぎが起きているな。

「何かしら?」

エルゼ達も気づいた様子だ。

 

興味があるのか、エルゼが真っ先に人混みをかき分けて前に行く。それに慌てて付いていくリンゼと、更にその後を追う俺。

 

そして人混みの最前列に出ると、状況が分かった。何やら木製の棍棒やナイフを手にした連中が1人の少女を包囲している。

 

その少女、と言うのが中世らしいこの世界の雰囲気の中で異質だった。なぜなら彼女の格好が、昔カズから聞いた昔の日本人の姿。つまり『サムライ』のそれだったからだ。そう言えば、東の方にイーシェンとか言う国があるようだが、そこの人間か?確か中世の頃の日本のような国だ、とデータベースに記述があったはずだが……。

 

『……成程。まだ若い少女とは言えそこそこの戦闘経験があると見える』

 

この状況でも物怖じしないところから見るに、戦闘経験はあるようだ。しかも余裕すら見せている。

 

漏れ聞こえる話の限りでは、あの男達の仲間が昼間から酒に酔って問題行動を起こし、その場に居たのであろう件の少女が問題を起こした男達を倒し、町の警備隊か何かに突き出したようだ。……あの連中は、捕まった仲間の仕返し、と言う事か。

 

そしてついに男達は少女に襲いかかる。……だが少女は体格的にも勝る男達を相手に、腰に下げた刀すら抜かずに体術だけで捌いている。成程、よく鍛えている。が……。

 

何やら、唐突に動きが悪くなったな。そして、その隙を突いて後ろから羽交い締めにされてしまう。……このまま婦女暴行を見過ごすのもあれだな。

 

俺は静かに前に出る。多くの者は彼女と男達の戦闘に気を取られていて気づかない。男達も、相手である少女の事しか頭にないのだろう。

 

それ故に、大衆の面前で気配を殺して近づく事は容易だった。

 

「ふん……っ!」

「がッ!?!?!」

 

後頭部への一撃。これだけで少女を抑えていた男は昏倒しその場に倒れ込んだ。

 

「ッ!?な、何だじじぃっ!?」

「邪魔するんじゃねぇっ!引っ込んでろっ!」

男達は、いきなり現れた俺に戸惑いながらも、敵意と殺意をぶつけてくるが、やはり素人か。この程度では話にならん。

 

「……お前達こそ消えろ。それとも痛い目に遭いたいか?」

「ッ!舐めやがってぇっ!」

男が1人、ナイフを手に向かってくるが、甘い。

 

突進を、半身を逸らして避け、がら空きの顎に掌打を叩き込む。

「がっ!?!?!?」

それだけで男は脳を揺さぶられた為に動きを止める。

 

更にその隙をついて男の手首を捻ってナイフを取り上げ……。

 

『グサっ!!』

「っ!?ぎゃぁぁぁぁぁっ!!!」

ナイフを左肩に突き刺した。男の悲鳴が響き、男は肩を押さえながらその場でのたうち回る。

 

その姿に、他の男達は驚き、二の足を踏んでいる。……畳みかけるか。

 

「もう一度だけ言おう。……消え失せろ」

 

俺は本物の殺気と敵意を交えながら、自分のナイフを抜き取る。それだけで、残った男達は顔を青くし、一部に至っては歯をカチカチと鳴らしている。

 

「……今のは手加減をした。だが、次襲いかかってくれば手加減などしない。……命が惜しいのなら、失せろ」

 

もう一段階殺気と敵意を上げる。すると、男達はのたうち回る男を見捨てて我先にと逃げ出した。……情けない連中だ。所詮自分より弱い相手にしか強気に出られない連中か。

 

しかし、何やら入れ替わるように反対側から男達の怒号が聞こえてくる。

 

「スネークッ!なんか町の衛兵が来てるわよっ!」

「そうか。ここで捕まると厄介だな。お前も来いっ」

「え?拙者も、でござるか?」

「あんな連中と関わってこれ以上厄介事に巻き込まれるのは不本意じゃないのか?」

俺の言葉に彼女は数秒迷った後。

 

「それもそうでござるなっ!」

 

そう言って彼女は俺達についてきた。……そして俺達は適当な路地裏に逃げ込む。

「……ここまで来れば大丈夫だろう」

周囲を観察し人の気配が無いのを確認する。

「このたびはご助勢、かたじけなく。拙者、九重八重と申します。あっ、八重が名前で九重が家名でござる」

 

「そうか。俺はスネークだ。こっちは俺の連れで同じ冒険者の」

「エルゼ・シルエスカよ。こっちは双子の妹のリンゼ」

「リンゼ・シルエスカです。はじめまして」

「改めて、よろしくでござる」

そう言ってぺこりと頭を下げる九重。ふむ。言葉も身なりなど、見れば見るほどかつての日本の、サムライのイメージそのものだな。

 

「そう言えば、さっき戦いの中で急に動きが悪くなっていたな?どこか悪いのか?」

「えっ!?そ、それはそのぉ」

「こんななりでも軍医としての経験がある。どこか悪いのなら、診てやるが?」

「い、いえっ!決してどこかが悪いとかそう言う訳ではなくっ!」

 

『グゥゥゥゥゥゥ~~~~』

 

顔を赤くしていた九重だが、その腹から響いた音に、九重は更に顔を赤くした。これに驚き目を丸くしているリンゼとエルゼ。

「あぅ~~」

 

「……飯にするか」

 

俺は小さく、そう呟いた。ちなみに、何故腹が減っていたのか話を聞く分だと、路銀を無くしたからだそうだ。

 

 

その後、俺達は九重を連れて適当な店に入って夕食を取る事にした。最初は『見ず知らずの、まして恩人から施しを受けるわけには行かんでござる』などと言っていた九重だが……。

 

「良いから。食えるときに食っておけ。食は人間が生きていく上で最も必要な事だ」

「し、しかし……」

「安心しろ。俺達4人が満腹になっても問題無いくらいの金はある。それに、ここで飯を食わなかったとして、他に食う宛や金を稼ぐ宛はあるのか?」

「うっ」

「食わなきゃ命に関わるぞ?良いから好きなのを頼め」

そう言って俺はメニューを彼女に差し出す。

 

「……よ、良いのでござるか?」

「あぁ」

俺は頷くが、彼女はまだ少し迷っているようだ。やれやれ。

 

「何度も言うが気にするな。……が、それでも気になると言うのなら、これは『貸し一つ』だ。いずれ別の形で借りを返してくれればそれでいい」

「……わ、分かったでござる」

 

そう言うと、ようやく彼女も食事を始めた。…………しかしかなり食うな。1人で何人分平らげたんだ?と思う程、彼女は料理を平らげていった。

 

その後も、路銀が無くなっていたので野宿するしか無い、と言う彼女を『今度故郷のイーシェンについて知っている事を教える』という条件で金を貸し、俺達と同じ宿に泊らせた。

 

ここからずっと東にある『イーシェン』については概要程度の事しか知らないので、現地の人間からの情報は貴重だ。

 

 

ちなみに、八重が元々イーシェンを離れて武者修行をしているのは食事の時に聞く事が出来た。また、王都に父親が世話になった相手が居るらしく、その相手の元を訪れる途中だと言う。なので、エルゼ達の提案もあって、俺達の馬車に八重も同行する事になった。

 

八重と出会った翌朝。俺達は馬車に乗り町を出た。

 

俺達4人が交代で手綱を握りながら、更に北を目指す。その道中、俺は前に購入していた無属性魔法が記された本を熟読していた。

 

無属性魔法は個人魔法と言われるだけあって、様々な物が存在する。例えば『パワーライズ』。あれはエルゼのブーストと似ているが、能力が殆ど被っている。能力の重ね掛けが出来るか検証が出来ていないのでまだ何とも言えないが、覚えるメリットは今の所ない。また、この法律関係の物のように分厚い本に全て目を通すのは難儀である。更に言えば有用な無属性魔法は少ない。大半は覚える意味をなさない物だった。

 

今の所使えそうなのは、小物を引き寄せる『アポーツ』と感覚を強化する『ロングセンス』くらいだろう。聴覚を強化すれば微かな物音にも気づける。アポーツなどは、万が一マガジンなどを落とした時に即座に手元に引き寄せる事が出来る。

 

「ふぅ」

しかし分厚い本を読んでいると目が疲れるな。俺は読んでいた本を閉じ、指先で目頭を揉む。……ついこの間まで若く健康な日本人の体だったからか、未だに慣れないこともある、と実感させられる。

 

今日で依頼を受けてから3日となる。相変わらず無属性魔法を調べ、有用かどうか確認している。

 

そして、その時俺は、ロングセンスを使って居たのだが……。

「ッ」

 

『その臭い』を、俺は戦場で嫌と言う程嗅いできた。場所は前方。俺達の進行方向だ。

 

「八重っ!」

「は、はいっ!?」

俺は手綱を握っていた八重に怒鳴る勢いで声を掛けた。

「今すぐ最大速度で飛ばせっ!前方の森林から血の臭いだっ!戦闘中と思われるっ!」

「ッ!承知っ!!!」

 

「せ、戦闘ってっ!?どういうことスネークッ!」

「状況はまだ分からんっ!今からロングセンスで確認するっ!」

エルゼの声に叫び返しながらロングセンスによる視覚の強化で、前方の状況を確認する。

 

そこでは人型の蜥蜴の魔物、確かリザードマンという魔物の群れに高そうな馬車が襲われていた。護衛らしき兵士達がリザードマン相手に奮闘しているが、数に押され1人、また1人と倒れていくっ。そして奥の馬車には、若い少女と老執事らしき燕尾服姿の男が見える。

 

「ちっ!」

俺は舌打ちしながらも、すぐに撃てるようD114を取り出し、マガジンを確認するとそれを戻して初弾を薬室に送り込む。

「総員、戦闘態勢を取れっ!前方で馬車がリザードマンと思われる魔物数体に襲撃されているっ!」

俺の言葉に、3人とも気を引き締めた表情を浮かべる。

 

そして、馬車は戦闘が続く現場にたどり着いたっ。既に残っている兵士は3人だけかっ!

 

『パンッパンッ!』

 

すぐさま2匹のリザードマンにヘッドショットを決める。初めて銃声を聞く八重や、兵士達にリザードマン達でさえ驚いているが、好都合だ。

 

『パンッ!パンッ!』

 

そのまま1匹ずつ、確実にヘッドショットを決めていく。が、視界の端に驚いて足を止めている兵士達が映った。

 

「おいっ!ボサッとするなっ!ここは戦場だぞっ!」

「「「っ!?はいっ!!!」」」

「お前達は馬車を守れっ!この魔物は俺達が対処するっ!」

 

「「「わ、分かりましたっ!」」」

戸惑いながらも兵士達は馬車の防衛に戻っていった。

 

そして俺は視線を前に戻す。

 

「『炎よ来たれ、渦巻く螺旋、ファイアストーム』ッ!」

リンゼの創り出した火炎の竜巻がリザードマンを飲み込む。

 

「おりゃぁぁぁぁぁっ!」

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

更にエルゼのガントレットが、八重の刀が。敵を次々と殴り倒し、切り倒していく。

だが可笑しいっ!数が減らないっ!?バカなっ!到着した時、咄嗟に大凡の数は数えたっ!どういうことだっ!?

 

そう思った直後。

「『闇よ来たれ、我が望むは蜥蜴の戦士、リザードマン』ッ」

 

ローブ姿の男が何かを唱えたかと思うと、リザードマンが現れたっ!?

「あれは……っ!?」

「あれは召喚魔法ですっ!術者を倒さない限り、何度でも呼び出されてしまいますっ!」

リンゼの説明で状況は把握出来たが、厄介なっ!

 

だが、潰す相手が分かればこちらの者だっ!

 

『パンパンパンッ!!!』

 

即座にD114でリザードマン数体の足を撃ち抜く。前衛が動けなくなった事で、後ろのリザードマン達の足が止るっ!今だっ!

 

俺は即座にD114をホルスターに戻すと、ポーチからグレネードを取り出し、ピンを抜き、召喚者目がけて投げつけた。リザードマン達の頭上を、放物線を描きながら越えていくグレネード。そしてそれが奴の足元に転がった直後。

 

『ドォォォォォンッ!!』

 

グレネードが起爆した。皆が突然の爆発音に驚く中、ローブの男はボロ雑巾のようにズタボロになりながら吹き飛び、動かなくなった。すると、リザードマン達が蜃気楼のように消えていった。……召喚者を倒したので、存在を維持出来なくなったのだろうか?だが油断は出来ない。俺は再びD114を抜き、周囲を警戒する。

 

「……クリア」

しかし敵影は無い。

 

「皆大丈夫か?」

「えぇ。大丈夫。……さっきの爆音には驚いたけど」

「拙者も大丈夫でござる。……ちょっと耳が痛いでござるが」

「わ、私も大丈夫、です」

「……すまん。念のために警告してからグレネードを使うべきだったな」

俺は彼女達に謝罪をしてから、護衛たちの方へと向き直る。

 

「あ、あなた達は?」

「タダの通りすがりの冒険者だ。それより、被害状況は?」

「……護衛は、10人中7人がやられました。残ったのは、我々3名だけですっ」

「そうか。護衛対象は?あの馬車の中か?」

「はい。そうですっ」

 

そう、3人の内の一人が頷いた時だった。

 

「誰かっ!誰か居らぬかっ!爺がっ!爺がっ!」

馬車の中から聞こえる悲鳴にも似た叫び。俺はすぐさまD114を抜き馬車へと近づくと周囲を一瞥してから扉を開いた。

 

中に居たのはまだ10代の金髪の少女と、胸から血を流し苦しそうに呻く老人だった。

「だ、誰か爺を助けてやってくれっ!む、胸に矢が刺さってっ!」

すぐさま周囲に視線をめぐらせる。すると見つけた。折れた矢の後半部分だ。……となると前方部分はまだ体内か。

 

「何してるのよっ!こういう時はぱ~っと回復魔法でどうにか出来ないのっ!?」

しばし沈黙する俺に、エルゼから急かすような声が聞こえる。

 

「……ダメだ。矢の前半部分が体内に残っている。このままでは処置が出来ない。可能ならまず、外科手術で矢の部分を取り出すしか無いが……っ」

 

目の前に居るのは老人。しかもかなり消耗している。もはや命は風前の灯火だ。かといって摘出手術用の道具も今は手元には無い。今から要請しても、到着まで確実に1、2分はかかる。……更に麻酔無しで手術をした場合、この老人の体力が保つかどうか。

 

「お、お嬢様っ、どうやら、私は、ここまでの、よう、でっ、ごほごほっ!」

「爺っ!爺ぃっ!」

 

クソッ!時間が無いっ!どうするっ!今の俺に出来る最適解は何だっ!考えろっ!思考をめぐらせろっ!

 

ふと、その時思いだした。アポーツ。小物を引き寄せる無属性魔法ッ。一か八か、やってみるだけの価値はあるかっ!

 

「悪いが場所を空けてくれっ」

「え?」

俺は呆ける少女の傍に立ち、退くように促す。

 

「こいつを助けられるかも知れないっ。一か八かだが、やってみる価値はあるっ。早く……っ!」

「う、うんっ」

泣きながらも場所を空けた彼女に変わって、老執事の前に膝を突く。顔色が悪いっ、もう長くは保たないっ!やってみるか……っ!

 

「『アポーツ』」

静かに詠唱をした直後、手の中に引き寄せられたのは、血でべったりと汚れた矢だった。

「ッ!?上手く行ったっ!!」

傍でエルゼの喜ぶ声と、他の奴らの驚嘆の声が聞こえる中、更に魔法で畳みかける。

 

「確か。……『光よ来たれ、安らかな癒やし、キュアヒール』」

一瞬、文章が合っていたか心配になったが、次の瞬間には白い光と共に老人の傷が瞬く間に塞がっていく。

 

「う、うぅ。……うっ?い、痛みが、消えて……?」

すると、まるで老人は狐に化かされたような顔でむくりと起き上がった。

 

「爺ッ!!」

その老人に、先ほどの少女が抱きついた。

「ふぅ」

俺は息を付きながらも、老人の様子を確認する。……今治療した矢傷以外に目立った外傷や出血の様子は無い。……ここでは精密機器も無いからちゃんとした検査は出来無いが、今の所は大丈夫そうか。

 

彼が大丈夫だと分かると、俺は馬車を降りた。

「どうだったスネークッ」

「大丈夫だ。矢は魔法で摘出して、傷口も魔法で処置した。流れた血の補給までは出来ていないから、当面は安静にしておいた方が良いだろうが、今の所命に別状は無い」

「そっか~~。良かった~~」

エルゼの言葉に答えると、彼女は安堵したように息をついた。他の2人もだ。

 

しかし、その時俺の視界に入った者があった。護衛連中の死体だ。そしてその一つの前で、生き残りの1人が茫然と立ち尽くしていた。……態度からして、兄弟か家族か、それほどまでに親しい相手だったのだろう。……やむを得ないか。

 

「リンゼ、お前は念のためあの2人の傍にいてやってくれ。老執事の体調が悪くなったら、治癒魔法を掛けるなり、俺を呼ぶなりしてくれ」

「は、はいっ」

「八重とエルゼは馬車の周囲で警戒を。敵が彼奴らだけとは限らない」

「承知したでござる」

「分かったけど、スネークはどうするの?」

 

「…………彼等の墓を作ってくる」

 

そう言って、俺は残った護衛3人と共に7人の墓を作った。彼等の遺体を持ち帰る事は出来ないし、ここに放置したとしても動物や魔物に食い荒らされるのがオチだ。だからこそ、小さな所持品をいくつか形見代わりに回収した後、彼等を埋葬した。

 

しかし、埋葬が終わっても1人は墓の前から動こうとしない。……兄さん、と漏らしていた辺り、兄が居たのだろうが……。

 

「おいっ」

「ッ」

「兄が死んで悲しいだろうが、今は気持ちを切り替えろ。ここはいつ敵が襲撃してくるか分からない、戦場だ。……どれだけ辛かろうとも、生き残ったのなら生き残った者としての責務を果たせ。お前にはまだ、守るべき人がいるはずだ。……違うか?」

「い、いえ。仰る、通りです」

 

俺の言葉に彼は涙を拭うと、すぐに真剣な表情を浮かべるのだった。

 

その後、改めて俺は馬車に乗っていた少女達と対面する。

 

「改めて、此度の救援、なんとお礼を申し上げてよろしいか。おかげで私の命もこうして無事に」

「気にするな。たまたま通り掛かっただけの事だ。……それより、失った血までは回復出来ていない。貧血を起こす可能性があるから、必要以上に動かず休んでいろ。良いな?」

「はい。分かりました。……そう言えば、まだ名前を伺っておりませんでしたな。貴方様は?」

「生憎、様なんて付けられるほどのモンじゃない。俺はスネーク。しがない冒険者だ。こいつらは俺の連れだ」

「エルゼ・シルエスカ、です」

「お、同じくリンゼ・シルエスカと言います」

「拙者は九重八重と申します。以後、お見知りおきを」

ん?なんだ?3人ともいつになく表情が硬い気がするが……。と考えていると……。

 

「スネークにエルゼに、リンゼ、八重じゃな?此度の助力は誠に大義であったぞっ!お主等4人は、爺とわらわの、命の恩人じゃっ!」

子供らしからぬ言葉使い。しかし身なりの良さに10人の護衛。恐らく良いとこの令嬢なのは確かだろうが。

 

「スネーク様。申し遅れましたが、私の名は『レイム』と申します。オルトリンデ公爵家にて、家令を務めさせて頂いております」

家令。確か貴族などに使える給仕たちのまとめ役のような存在だったはず。しかし……。

 

「公爵家の家令、と言う事はそちらの少女は?」

「はい。オルトリンデ公爵家ご令嬢、スゥシィ・エルネア・オルトリンデ様にございます」

「うむっ!妾がスゥシィ・エルネア・オルトリンデであるっ!よろしく頼むぞっ!スネークとやらっ!」

 

やはり公爵家のご令嬢だったか。更に言えば、彼女が名乗るとエルゼ達3人がその場に膝をついた。俺も即座にそれに倣う。が……。

 

「む?待て待てっ、皆顔を挙げてよいぞっ」

「よろしいのですか?」

「うむっ!公式の場ではないのじゃっ!何より、皆妾達の恩人も同然じゃっ!楽にしてほしいのじゃっ!」

……ここは、彼女の厚意に甘えさせてもらうとしよう。俺は周りの3人に目配せをして、立った。他の3人もそれに続く。

 

しかし……。

「レイム、一つ聞きたいのだが構わないか?」

「はい、何でございましょう?」

「……俺たちが倒したあの男、単なる盗賊だと思うか?」

 

俺の問いかけに、レイムはしばし沈黙し、周囲の面々も冷や汗を浮かべている。

「……質問に質問を返すようで申し訳ありませんが、スネーク様の見立ては、いかがでしょうか?」

「十中八九、単なる盗賊ではあるまい。魔法でリザードマンを襲撃してまで襲ってきたんだ。それも、完全武装の護衛が10人もいる中で、だ。これは立派な襲撃だ。目的は彼女の暗殺か誘拐か、そんな所だろう。……念のため先ほど、奴の遺体を調べたが、奴の素性などが分かる物は何一つ無かった」

 

「そうですか。……確かに、これは単純な盗賊ではありません。スネーク様の見立て通り、スゥシィお嬢様を狙った襲撃の可能性が高いと私も考えております」

「だろうな。……しかし、なぜ貴族の、それも公爵家の令嬢がこんな所を通っている?王都に戻る途中のようだが?」

「それは、妾のおばあ様の所に行っておったからじゃ」

俺の問いかけに令嬢、スゥシィが答える。

「成程。つまりそこからの帰り道を狙われた訳、か。……その情報、家族以外で知っている者はいるか?」

 

「え?」

「オルトリンデ公爵家に仕えている者ならば知っているはずですが、何か?」

首をかしげるスゥシィに変わってレイムが答える。

 

「そのおばあ様の所はどれくらい滞在していた?」

「でしたら一か月ほどです」

「……」

レイムの答えを聞き、少しわかって来た事がある。

 

「あの、スネークさん。それがどうかしたんですか?」

「あぁ」

リンゼの言葉に俺は答える。

 

「もし、仮に、という前提付きで話すが、俺がもし彼女の暗殺や誘拐を画策しているとすれば、まず情報を得て作戦を練る。そして情報を得るために、目標となる存在、この場合はオルトリンデ公爵家に諜報員を送り込むか、人を使って目標の動きを監視、状況を逐一報告させる」

「ッ、ではスネーク様は、公爵家に仕える我々の中に間者が居ると……っ!?」

 

「そこまでは言わん。あくまでも可能性であり、諜報員が居なくてもどこからか話が漏れ出た可能性もある。それに彼女たちは一か月、祖母の家に居たのだろう?ならばその一か月、黒幕に時間を与えた事になる」

 

「どういう事?」

「簡単だ。一か月もあれば準備期間として事足りる。俺だったら、まずその祖母の屋敷の周辺に人を配置して状況を監視させる。その間に彼女たちが王都へ戻ろうとするルートを下調べし、襲撃に適した場所、この場合待ち伏せに適した場所を選んでおく。更に自分への証拠を残したくない場合、カットアウト、つまり仲介人を介して暗殺者などの汚れ仕事を請け負う人間を雇い、待ち伏せ場所に配しておく。そして、馬車が王都への帰路に付いたのを確認すると、早馬か、伝書鳩などを使って報告させ、雇った人間に待ち伏せをさせる。……この程度、一か月もあれば用意に準備出来る、と言う事だ」

 

皆、俺の言葉を聞き、驚いた様子だった。

「つまり、妾は狙われているのだな」

 

すると、彼女はシュンとした表情を浮かべている。怯え切っている訳ではないが、やはり恐怖を覚えているのかもしれない。……しまったな、言葉を選ぶべきだったか、と今更ながらに後悔してしまう。

 

……ここは、俺の立場を生かすべきか。

 

「レイム」

「はい、何でございましょう?」

 

主を心配する彼に声を掛けると、こちらを向く。

 

「この先も襲撃が無いとは限らない。そこで提案がある。俺を雇う気はないか?」

「え?」

 

俺の言葉にスゥシィが反応する。

 

「俺は冒険者をしているのとは別に、大規模な傭兵組織を率いている。必要があれば、今すぐ完全装備の部下を呼び寄せる事も可能だ。どうする?」

 

「……見たところ、スネーク様は数多の戦場を生き抜いてきた豪傑とお見受けします。ですので、護衛を申し出ていただけるのはありがたいのですが、よろしいのですか?」

「問題ない。依頼があるのなら受ける。それだけだ」

「分かりました。ならば、スネーク様たちへ護衛の依頼、出させていただきます。どうかよろしく、お願いいたします」

 

「了解した。……その護衛依頼、俺たちダイヤモンドドッグズが受けよう」

 

こうして、俺は何の因果か貴族令嬢の護衛をする事になったのだった。

 

     第4話 END




感想や評価を貰えるとやる気につながるので、よろしくお願いします。

それと、私情なのですが現在仕事の関係で執筆時間が減っており、全体的に遅い投稿スピードが更に落ちてしまっています。なにとぞ、ご容赦いただきたくお願いします。


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第5話 護衛

仕事の関係で大変遅くなりましたが、最新話です。


冒険者ギルドで依頼を受けた俺達は、依頼をこなすために王都へと向かっていた。その道中、九重八重という少女と知り合い、目的地が同じ王都であった為に共に旅をする事になった他、襲われていた貴族令嬢、スゥシィを助ける結果となった。そして襲撃で護衛の大半を失った彼女達を守る為に、俺は彼女の執事のレイムから護衛依頼を受けたのだった。

 

 

「さて。じゃあ早速だが、俺の部下を呼ぶ。少し待ってくれ」

「呼ぶ、と仰いますと?まさか今からこちらへ?」

「そうだ」

 

俺の言葉にレイムや護衛達は少し戸惑った様子だ。如何せん、今から護衛を呼ぶのでは時間が掛かるだろうと考えているのだろうが……。

 

俺はそれを一瞥しつつもiDROIDを取り出し、通信を開いた。更に分かり易いよう、通話内容のスピーカーを通して彼等にも聞かせよう。

「こちらスネーク。マザーベース聞こえるか?」

 

『こちらマザーベース。何か御用ですか?ボス』

「な、なんじゃそれっ!?は、箱から人の声が聞こえるぞっ!?」

iDROIDに驚くスゥシィを一瞥しつつ、通信を続ける。

 

「移動の最中、縁あって貴族令嬢の護衛をする事になった。しかし俺1人ではカバー出来る範囲にも限度がある。応援を寄越して欲しい」

『了解です。しかし、となると四輪駆動車を投入しますか?』

「いや。あれはまだ早い。マザーベースに騎乗可能な馬は居ないか?」

『ボスのDホースなら居ますが、それ以外の馬となるとちょっと……』

「そうか」

 

人員を投入しても、騎馬と徒歩では行軍スピードに差が出る。どうするか?と考えていると……。

 

「あ、あの」

「ん?何だ?」

生き残りの護衛の1人が声を掛けてきた。

「もし、良ければ仲間の馬を使いますか?襲撃を生き残ったのが、4匹ほど居ますので」

「そうか。……分かった」

どうやら馬の方は問題なさそうだ。

 

「今の会話、聞こえていたな?」

『はい』

「ならば馬に騎乗出来る奴を4人、完全装備ですぐに用意させてくれ。それと、今から物資の投下要請も出す。そちらも頼むぞ」

『了解ですっ!』

「よし、では通信終了」

 

通信を終えた後、更にiDROIDを操作し投下物資の、武器リストを映し出す。

 

今までは目立つのを避けて、隠し持ちやすいハンドガンを携帯していたが、これからは状況が分からない。なので、火力に優れた武装を届けて貰うとしよう。

 

『AM MRS-4アームズマテリアル多目的ライフル』。こいつにも戦場で何度も世話になった。その投下地点を設定。あとは近づいてくるのを待つだけだ。俺はiDROIDをしまう。が……。

「何じゃ何じゃっ!それは一体何なのじゃっ!?」

お嬢様がiDROIDに深く興味を持ったようだ。今も目をキラキラと輝かせながらこちらに詰め寄ってくる。

 

「これは、俺の仲間が創り出した遠距離で仲間と会話したりする、様々な機能を備えた端末だ」

「でっ!?でっ!?他に何が出来るのじゃっ!?」

「例えば、指定した座標に物資を届ける要請をすることが可能だ。あんな風にな」

「ふぇ?」

 

視界の端に見えてきた投下物資を指さす。すると、スゥシィだけでなく八重や護衛にレイムまでそちらに視線を向け……。

 

「おっ、おぉぉぉぉっ!」

「あ、あれは一体……っ!?」

目を輝かせるスゥシィ。対照的に驚き冷や汗を流す護衛やレイム、更に八重もだ。

 

そうこうしている内に投下地点まで運んできたパラシュートは焼失。大きなダンボール箱が落ちてくる。そして、俺はそこに近づくと、いつも通り中へ入り武器を手に入れる。

 

俺が入った、かと思うといきなり出てきた事で連中は驚いていた、と言うより理解が追いつかない様子で唯々、茫然としていた。

「凄い凄い凄いっ!空から箱が降ってきたのじゃっ!」

ただ1人、スゥシィは興奮気味だが。

 

それを一瞥しつつ、俺はMRS-4の様子を確認する。マガジンを外し、コッキングレバーを引いて薬室の内部を確認する。マガジンの残弾も確認し、セット。レバーを操作し、『カシャッ』と音をさせながら初弾を装填。箱に同梱されていた他の装填済みマガジンは、腰のポーチへとしまい込む。

 

さて、あとは仲間が来れば移動準備は完了するが……。

『ピピピッ!』

 

その時、iDROIDから着信を告げる音が響き、通信チャンネルを開いた。

「こちらスネーク。準備は出来たか?」

『はい、準備完了です。それとボス、一つ確認がありまして』

「ん?なんだ?」

『兵員の輸送と展開にピークォドを使うのはいかがでしょうか?』

「ピークォドか?なぜだ?俺のiDROIDからゲートを展開できるが?」

『はいっ。万が一のために、情報漏洩は少しでも控えるべきかと思いまして。ゲートの展開能力は、あまり使わない方がよいのではないかと思い』

「成程」

 

確かに仲間の言う通りだ。ゲートは、俺の知る限りこの世界とマザーベースをつなぐ存在。それを外部の者に知られる危険性は極力避けたいか。今の所それを知っているのはエルゼ達数人だけだ。……ここは仲間の意見を聞くべき、か。

 

「分かった。ならば近くにランディングゾーンに出来そうな場所はあるか?」

『はいっ。そこから西へ数百メートルの地点で、森の一角が平野になっています。そこであればピークォドが降下できますっ。iDROIDの地図データにマーカーをセットしておきましたので、参考までに』

「よしっ。ならばピークォドは人員を乗せ次第発進。ランディングゾーンで合流する。通信終了」

『了解っ!』

 

 通信を終え、iDROIDをしまうとエルゼやお嬢様たちの方へと向き直る。

「ここから少し離れた地点に仲間がヘリ、あ~~。乗り物でやってくる。一度そちらに向かい、仲間と合流してから戻ってくる。お前たちはここで待っていてくれ」

 

 合流は俺一人だけでいい、と思っていたのだが……。

 

「乗り物で来るのかっ!?それはいったいなんじゃっ!?見てみたいのじゃっ!」

 お嬢様が目をキラキラと輝かせながら俺の傍ではしゃいでいる。どうしたもんか?とレイムへ視線を向けるが、奴は困ったように苦笑を浮かべるだけだ。 まぁ、正直な所傍にいてくれた方が守りやすい。それを考えれば仕方ないか。

 

「分かった。ならば俺から絶対に離れるな?」

「うむっ!」

「それと、念のためだがエルゼたちも来てくれ。いつまた、どこから襲撃を受けるか分からない」

「分かったわ」

 3人を代表するようにエルゼが頷く。

 

「レイムは、護衛のそいつらとここに残っててくれ。傷はふさがっているが、今は休んでいろ。血も流しすぎているからな」

「分かりました。ならば、お嬢様の事、どうかよろしくお願いします」

「あぁ」

 

 そう言うわけで、俺はエルゼたちとスゥシィお嬢様を連れて森の中を進んでいった。俺が周囲を警戒しながら戦闘を進み、後ろを歩くお嬢様の周囲をエルゼたち3人が固めている。

 

 とはいえ、距離はせいぜい数百メートルだ。こちらの方が早くランディングゾーンの近くにたどり着いた。周囲を警戒しつつ、ランディングゾーンの傍の木陰に全員をしゃがませる。

 

 周囲を一通り警戒した後、iDROIDを取り出しランディングゾーンを確認。よし、ここで間違いない。iDROIDをしまったその時、遠くから聞こえてきたそれは、ヘリの音だ。

 

「え?何?音が聞こえる?」

「獣の声、ではないでござるな?」

「でも、どこから?」

 彼女達は皆、戸惑いながら周囲を警戒している。まぁ、無理もないか。やがてピークォドが目視可能な範囲まで近づいてきた。

 

「見えてきたぞ、音の正体はあれだ」

「「「「あれ?」」」」

 俺が上空を指さすと、彼女達は異口同音の声を漏らしながら指の指し示す先へと視線を向け……。

 

「「「「えぇぇぇぇぇぇっ!?!?」」」」

 絶叫した。まぁ無理もない。初見でヘリコプターを見ればな。 

『こちらピークォドッ!ランディングゾーンに到着っ!』

そうこうしているうちに、ピークォドはランディングゾーン上空へと到着。ゆっくりと高度を下げてくる。 そして、俺の後ろではプロペラの風が巻き上げる砂から顔を守るように4人がこちらに背を向けている。

 

 それを一瞥し、警戒しつつも俺はピークォドの傍へと駆け寄る。同時に、機体のサイドドアが開き、すぐさま中から兵士たちが下りてきて周囲を警戒する。そして、全員が下りると一人がパイロットに向けてサムズアップを行う。ピークォドのパイロットもそれに答えるようにサムズアップをすると、ヘリは瞬く間に上昇、離脱していった。

 

 そして、周囲を警戒していた兵たちはすぐさま立ち上がると俺の傍に駆け寄ってくる。

「ボスッ!お待たせしましたっ!」

「あぁ、よく来てくれた。だがここに長居するのは得策じゃない。さっきのピークォドの姿を見られている可能性もある。すぐに移動するぞ」

「「「「了解っ!」」」」

 

 すぐさま兵4人を連れ、俺はエルゼたちの所へ戻る。

「待たせたな。部下と合流出来た。馬車のところまで戻るぞ」

 そう言って指示を出したつもりだったのだが……。

 

「ちょちょちょちょっ!ちょっと待ってっ!さっきの黒いあれ何っ!?」

 肝心のエルゼは混乱していた様子だ。リンゼと八重も、状況が分からないからかぽか~んとしている。あのお嬢様はというと……。

「なぁなぁスネーク!さっきのあれはなんじゃっ!?なんなのじゃっ!?」

 とても瞳を輝かせていた。が……。

 

「説明は後だ。さっきのは目立つ上に音も大きい。伏兵が俺たちに気づいて寄ってくるかもしれん。今は馬車に戻るのが最優先だ。行くぞ」

 そう言って俺が歩き出すと、彼女らが慌ててついてくる。

 

「あっ!ちょっ!せめてこの人たちの自己紹介はっ!?」

 エルゼが慌てた様子でついてくる。

「後だ。ここは戦場だ。そんな悠長なことをしてる暇はない」

 

 そう言って、俺は彼女らに有無を言わさず、馬車へと戻った。

「スネーク様、そちらの4名が?」

「あぁ。俺の部下で、今回の追加人員だ」

「な、成程」

 

 ライムも見たことのない装備の4人組に、引きつった笑みを浮かべていた。

 

 その後俺たちは、新たに『アルファ』、『ブラボー』、『チャーリー』、『デルタ』の4名を加え、馬車と馬でその場を離れた。

 

 俺はお嬢様の乗る馬車の助手席に座り、周囲を護衛の騎士と俺の部下2名が固めている。豪華な馬車の後ろを付いてくるエルゼたちの馬車。最後尾は部下2人が後方を警戒しながら続いている。

 

 夜もツーマンセルを基本として周囲の警戒をつづけた。が、これと言った襲撃もなく。俺たちは無事に王都までたどり着いたのだった。

 

「無事にたどり着いたか」

 俺は見えてきた王都、『アレフィス』を見ながらも一度息を付いた。とは言え、油断は出来ない。王都内でも暗殺者が待ち伏せしている可能性がある。王都アレフィスに入っても、俺たちは周囲を警戒していた。

 

 王都にも色々区画があり、一般市民が多く暮らす区画と、金持ちが暮らす、いわゆる富裕層が多く住む区画は壁で区切られていた。道中には検問所らしきものもあるが、レイムとスゥの姿を確認すると、即座に通された。流石は公爵家の娘と家令と言った所か。 それでも兵士たちは、自分たち以上に物々しい俺たちを目にして、不安と恐れを抱いているようにも見えた。 だが、俺たちに色々説明する義務はない。

 

 やがて、俺たちは富裕層区画にあって、周囲と比べても尚大きな屋敷へとたどり着いた。

「ここが?」

「はい、オルトリンデ公爵家のお屋敷になります」

 

 なんとも巨大な邸宅だ、などと思いながら俺はあまりに大きなへと目を向ける。

 

 その後、アルファたち4人は一度外に待たせて、俺はお嬢様、レイム、それにエルゼたちと一緒に屋敷の中へと通された。入って早々、豪華絢爛な内装と無数のメイドが俺たちを出迎えた。 まるでどこかの王族にでもなったような気分だ。

 

「スゥッ!」

「父上ッ!」

 その時、前方の階段の上から一人の男性が駆け下りてきて、スゥシィへと駆け寄る。彼女の反応からして、父親か。 男は安堵した表情で娘のスゥシィを抱きしめた後、俺たちの方へと歩み寄ってきた。

 

「君たちが娘を助け護衛をしてくれた冒険者たちだね?」

「あぁ」

「であれば、礼を言わねばならんな。ありがとう。本当に、ありがとう」

 そう言って男は頭を下げた。しかし身分の高い彼が頭を下げたからだろう。俺の後ろでエルゼやリンゼ、八重が驚いていた。が……。

 

「気にするな。頭を下げる必要もない。俺たちは彼女と一緒にいた家令に雇われただけの事。仕事を果たしたまでだ」

「そうか。であれば、当然報酬を支払わなければな。っと、その前に名前を聞いても?」

「俺は、傭兵組織ダイアモンド・ドッグズのリーダー、スネークだ」

「傭兵?という事は外に居る彼らは?」

「部下だ。襲われていた彼女達と合流したのは偶然だったんだが、警護を万全にするために呼び寄せ、ここまで護衛してきた」

 

 そうだ。護衛と言えば……。

 

「あと、これを」

 俺はポーチの中から小さな袋を取り出した。

「それは?」

「……戦死した7名の遺品だ」

「ッ、そうか」

 男は俺の取り出した袋を、悲しそうな表情で受け取った。そして口を開き、中にあった血に汚れたペンダントを取り出した。

 

「……7名の、遺体は?」

「搬送は無理だったので、襲撃地点近くの平野に墓を作って埋葬してある。必要なら場所を教えるが、無理に遺族と対面させるのはおススメしない」

「と言うと?」

「……戦闘で大きな傷を負った者が殆どだった上、時間が経てば肉体は腐敗する。そんな状況で遺族と対面するのは、考え物だ。自分の夫や父、兄弟がそんな姿で眠っている所を、見たくない奴もいるだろう」

「……そうだな。ありがとう、スネーク君。遺族には、私からこれを直接届けよう。娘を守るために命を懸けてくれた、勇敢な者たちの遺品だからね」

「分かった」

 

「ともかく、娘を助けてくれた状況も聞きたい。どうだろう?お茶でもしながら話をしてくれないかな?」

「構わない。こちらも急ぎの用があるわけでもないしな」

「そうか。では、すまないがお茶の用意を」

「かしこまりました」

 男はそう言って近くにいたメイドに指示を出す。

 

「っと、そうだ。まだ名前を名乗ってなかったね。私は『アルフレッド・エルネス・オルトリンデ』だ。改めて、娘を守ってくれた事、感謝する」

「あぁ」

 俺は差し出されたアルフレッドの手を取り、握手を交わした。

 

 その直後、俺たちはアルフレッドと共に屋敷の一角のテラスへ。アルファたちはとりあえず休んでおくように伝え、アルフレッドが別室を用意させたのでそちらで待機させておく。

 

 で、そのテラスに向かう道中。

「ちょっと、ちょっとスネークッ」

「ん?」

 後ろを続いていたエルゼから小声で声をかけれた。

「アンタ、ちょっとは敬語を使いなさいよっ。仮にも公爵家の相手なのよっ。それをため口ってっ。アタシ達の心臓に悪いんだけどっ」

「「うんうん」」

 エルゼの言葉にリンゼと八重が小さく頷く。

 

「そうか、すまないな。もうこの話し方がすっかり染みついてしまっていた。まぁ、出来るだけ気を付けよう」

「お、お願い」

 

 と、そんな事を言われつつもテラスに場所を移すと俺から公爵に状況の説明をした。

 

「そうか。君たちは王都に依頼で向かう途中、たまたま襲撃犯に遭遇したという事か」

「あぁ。本当に、偶然だった」

「であれば、君たちにその依頼を出した者にも感謝しなければな」

「そうか。ただ、本当に偶然と偶然が重なっただけだ。彼女、スゥシィ嬢の運がよかったのかもしれないな」

「うむ。……もし君たちが通りかからなければ、スゥは誘拐されるか、下手をすれば殺されていたかもしれない。そう思うと、背筋が凍る思いだ」

 そう言って、難しい表情を浮かべる公爵。 そういえば、念のため伝えておくべきか。

 

「一応報告をしておくが、襲撃者の男を調べた。が、主犯に通じる証拠や書類などは分からなかった。念のため絵心のある部下に似顔絵を描かせてあるが、名前も分からない似顔絵だけで犯人の特定は難しいだろう。そこから更に依頼主の特定となるとな。仲介人を介して襲撃犯と接触していた可能性もある」

「そうか。すまないね、そこまで調べてもらって」

「気にするな。自主的にやった事だ。……それより、犯人の目ぼしは付いているのか?必要なら部下に言って怪しい人間を内偵させるが?」

「ほう?そんなことも可能なのかね?」

 

「俺の部下は優秀だ。そういった偵察や諜報の訓練も積んでいる。……それで?どうだ?」

「その申し出はこちらとしてもありがたいのだが、残念な事に下手人には心当たりがない。いや、正確に言うのであれば『多すぎて特定できない』、というべきかな」

「どういうことだ?」

 

「知っての通り、私の立場は現国王の弟、スゥは兄上から見れば姪っ子だ。そして、だからこそ兄上への脅迫のネタとして兄上を目の敵にする連中から見れば、スゥは絶好の目標なんだよ。加えて私は王の弟だ。私の存在を邪魔に思う者もいるだろうから、そちらの線も捨てきれない」

「……現王に敵は多いのか?」

「少なくはない、というべきかな。『ミスミド王国』、という国は知っているかな?」

「聞いたことはある。多種多様な、人に似た人ではない動物の特徴を持った人型種族、亜人の国だと」

  

 ミスミドについては、俺も概要を知っていた。部下が調べた情報を閲覧したので、概要程度だが。

 

「そうだ。現王である兄上はミスミドとの同盟を考えているんだが、貴族の中には亜人を見下し、同盟に反対している者もいる。そういった類の連中が犯人の可能性がある」

「下手人の特定は難しい、か」

「残念ながらね」

 そう言って息を付く公爵。どうやら敵は多いようだな。しかしこうなると問題の根本的な解決には至らないという事だ。

 

 犯人を特定し逮捕なりなんなり出来なければ次の手に打って出てくる可能性もある。

「アルフレッド公爵、一つ提案があるんだが、良いか?」

「ん?何かね?」

「もしよければ娘であるスゥシィ嬢の護衛に俺たちダイアモンド・ドッグズを雇う気はないか?」

「何っ?本当かねっ?」

 俺の言葉に少し興奮気味に問い返してきた。

 

「もちろん仕事である以上、報酬をお願いすることになるだろうが、正式に契約を結んでもらえるのならすぐに部下を完全武装でこちらに寄越そう。首謀者が捕まっていない以上、再び襲撃される恐れもある。それを考えれば備えは必要だ」

「もっともな言葉だね。しかし、構わないのかい?」

 

「俺たちは傭兵だ。必要とされるのならばそこへ駆けつけ、依頼を達成するために最善を尽くす。それだけだ」

「なんとも頼もしい限りだな、ありがとうスネーク君」

「仕事だからな。気にするな。とにかく、こちらはいつでも依頼を受ける用意がある。必要だと判断したのなら、いつでも相談に乗ろう。それと当面の居場所も良ければ教えるが?」

「それはありがたい。であれば、あとで話の席を設けさせてもらうとしよう」

 

 と、話をしていると。

「父上」

「おぉスゥ」

 先ほどまでとは違う、ドレス姿に着替えたスゥシィ嬢がやってきた。

 

「エレンとは話せたかい?」

「うむ。しかし、心配させたくないので襲撃された件は黙っておいたのじゃ」

 そう話をして公爵の隣の席に腰を下ろすスゥシィ嬢。しかし。

「失礼だが、そのエレンというのは?」

「あぁ、私の妻でありスゥの母の事だよ。すまないね、恩人が来ているというのに顔を見せず」

「いや、別に気にしてる訳ではないが、何か問題でも?」

「実は、妻は目が見えなくてね」

 目が見えない?失明しているのか?

 

「それは生まれながらの障害か?」

「いや。五年ほど前に大病を患ってね。何とか一命はとりとめた物の、後遺症で視力を失ってしまったんだ」

 成程。そういうことか。

「魔法での治療は、されなかったんです、か?」

「無論行ったよ。国中の治癒魔法の使い手に声をかけた。しかし、無理だった。彼ら曰、怪我などの肉体の損傷は治癒する事は出来ても、病気などによる後遺症には効果が無いそうだ」

「成程。魔法も決して万能ではない、という事か」

 とつぶやいていると。

 

「スネーク殿。何か手立てはないのでござるか?確か拙者とお会いした時、軍医だったと聞いたのを覚えているのですが」

「確かに軍医としての経験はあるが、流石に失った視力の回復となると簡単じゃない。それにどんな理由で視力を失ったのか、何が原因なのか。原因を特定したとしてそれを修復、もしくは取り除く術はあるのか。あらゆる情報を収集してからでないとそもそも判断が出来ない」

「そ、そうでござるか」

 八重は俺の答えを聞くとがっくりと肩を落とした。

 

「ハァ、おじい様が生きておられれば……」

「ん?どういうことだ?」

 その時聞こえた、スゥシィ嬢の言葉に俺は興味を惹かれ問いかけた。

 

「実はね、エレンの父上、つまりスゥの祖父は特殊な魔法の使い手だったんだよ。この魔法は、体の異常を取り除く事が可能だったんだが。そもそもスゥが一か月もの間、王都を離れていたのも何とかしてその魔法を身に着けようとしていたからなんだ」

「成程。それで祖母の屋敷に、という事か。それで?」

 

「スゥは何とか魔法を取得するなり、解明するなりと頑張ってくれているのだが、その魔法というのが無属性魔法でね。個人魔法とまで言われる無属性魔法はただ一人が使えると言われている者だ。今も類似した効果を持つ無属性魔法の使い手を探しているんだが……」

 

 どうやら成果は思わしくないのか、公爵は項垂れスゥシィ嬢も悲しそうな表情を浮かべている。が、逆にエルゼ、リンゼ、八重の3人は驚愕の表情を浮かべていた。

 

「アルフレッド公爵、それについては一つ朗報がある」

「ん?なんだね?」

「どうやら俺は、様々な無属性魔法に適正があるようだ」

「……えっ!?」

 俺の言葉に、数秒してスゥシィ嬢が反応する。俺は、残っていた茶を飲み干し、席を立った。

 

「その祖父が使っていた無属性魔法の詳細な情報を教えてくれ。それと、そのエレンという奥さんの所へ連れて行ってくれ。……これも何かの縁だ。やれるだけの事をやってみよう」

 

 どうやら、まだ出来る事があるようだ。ここまで来たのなら、やれるだけの事をやろう。そうして、俺はエレンという女性の元へと向かうのだった。

 

     第5話 END

 




感想や評価などしていただけるとやる気に繋がりますので、よろしくお願いします。


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第6話 治療行為

更新が遅くなり大変申し訳ありません。最近は『カクヨム』という小説を書いて投稿すると、広告収入が得られるサイトをメインにしておりました。……まぁそれで生活できるレベルの収入を得られてる訳ではないんですが。

 とにかくこれからも時々更新していくので、よろしくお願いします。


 謎の襲撃者を倒した俺たちは、襲われていた公爵家の令嬢、スゥシィを警護する事となった。王都へ戻る途中だったスゥシィとその家来であるレイムに雇われた俺はヘリ、ピークォドで部下を呼び寄せ、警護のチームを編成するとリンゼら、スゥシィらと共に王都へと向かった。幸い、道中において第2の襲撃は無かったものの、オルトリンデ公爵家にたどり着いた後、話をしていた俺たちはスゥシィの母が大病の後遺症で失明していた事を知る。そして俺の中にある無属性魔法への適正で彼女を治療できるか、試す事になった。

 

 

「こっちだ」

 今、俺とエルゼたちはスゥシィを連れたオルトリンデ公爵に案内され、屋敷の中を歩いていた。彼の妻、エレン夫人の居る部屋に向かっている。

 

「スネーク殿。こういってはなんだが、妻の、エレンの目は直せるのだろうか?」

「……本音を言えば、分からない」

「分からない?」

 

 俺の曖昧な答えに戸惑ったのか彼は聞き返してきた。

「スゥシィ嬢より教えられた効果通りなら、無属性魔法の『リカバリー』で何とか視力を取り戻す可能性はある。だが、失明してから5年という時間が流れてしまっている。軍医としての経験上、確証が無い現状では安請け合いは出来ない。という事だ」

「そうか。……ともかく、やれるだけの事を、やってみてくれ」

「あぁ。最善を尽くそう」

 

 やがて通されたのは一つの部屋。そこは薄暗く、部屋の奥にあるベッドの上に一人の女性が腰かけていた。あれがエレン夫人か。

「あら?お客様ですか?」

 

 夫人は足音で俺たちに気づいた様子だ。だが、やはりと言うべきかその視線は定まっておらず、今も何もない場所を見つめるばかりだ。夫人に公爵が説明し、スゥシィ嬢が隣に腰を下ろす。

 

「スネーク殿、頼む」

「あぁ」

 

 公爵の言葉に頷くと、俺は夫人の前で膝をついた。

「失礼します」

 そう言って、夫人の目元に右手を翳す。さて、上手く行くかどうか。

「『リカバリー』」

 

 俺が魔法の名を口にすると、右手から淡く白い光が放たれた。それを確認し、俺は後ろへ下がる。すると、しばし瞬き、やがて夫人の視線が公爵やスゥシィ嬢へ注がれる。

「見える、見えますっ!あなたっ!スゥッ!」

「あぁエレンッ!」

「母上ェッ!」

 笑みを浮かべ、ボロボロと涙を流しながらしっかり夫である公爵を見つめる夫人。公爵やスゥシィ嬢も大粒の涙を浮かべ、傍に控えていたレイムや、何故かエルゼたち3人まで泣いている。

 

「やったわねスネークッ!」

「あぁ、成功だ」

 治療できるか確証は無かったが、これでとりあえずは何とかなったな。俺は笑みを浮かべるエルゼの言葉に静かに頷いた。

 

 その後、公爵たちが落ち着いた頃を見計らって、念のため検査をすることにした。

 

「のぉスネーク。なぜ検査をするのじゃ?母上の目は治ったのであろう?」

「確かに視力は戻った。しかしだからと言って何も異常が無いと判断は出来ない。とりあえず、一通りの検査はさせてもらう。公爵も、構わないな?」

「あぁ。軍医だったという君の手で調べて貰えれば問題ないだろう。よろしく頼む」

「そうか。なら、早速だ」

 

 その後俺は、一通り夫人への検査を行った。ライトを当てて瞳孔の動きを確認したり、視界に何か違和感や異物が映って見えないかなどの問診。色のある物を持ってきてもらい、ちゃんと色の判別が出来ているかの色覚判断。離れた位置の指の数が見えるかなど、一通りの検査を行った。

 

「ふむ。どうやら視力は正常なようだ。極度に視力が落ちている様子も無いな。この分なら眼鏡などでの視力補助も必要ないだろう」

「そうか。ありがとうスネーク殿」

「ただ、念のためしばらくは屋内で生活した方が良いだろう。光に慣れていない中で無理に外出するのは、あまりお勧めしない。もしそれでも外出が必要なら、日傘やヴェールを使って目元を守った方が良いだろう。それと、少しでも違和感を覚えたらまた俺に連絡をくれ。生憎俺は専門家ではないが、部下に詳しい奴がいる。そいつに診させよう。それと夫人も。違和感を覚えたらすぐに公爵か俺に相談するように。病というのは発見が早いほど良い。悪化してからでは手遅れになる可能性もあるからな」

「はい。ありがとうございます、スネークさん」

 

 幸い、視力も戻ってそれ以外の問題も無し、という事で最後にそう言った注意や指示だけを伝えて、俺はエルゼたちと共に一旦部屋を後にした。

 

 今度は応接室らしい部屋に通された。

「スネーク殿、貴殿には大変世話になった。なんとお礼を言ってよいか」

「たまたま知り合った相手の問題を、偶然俺が解決できたからそうした。それだけの事だ。スゥシィ嬢の一件も、偶然の産物だからな」

「そうか。しかし、謝礼はしっかりさせてもらおう。レイム、あれを」

「はっ。かしこまりました」

 

 公爵が指示を出すと、レイムが銀盆に乗せて大きな袋を二つ。更に小さな箱を持ってきた。

「まずはこの袋を。スネーク殿を含めた君たち4人に対する、娘の警護への報酬だ」

 そう言って差し出された袋を受け取ったのだが……。

「ん?かなり重いな」

 思っていた以上に袋が重たかった。額を聞くべきか迷っていると、公爵が口を開いた。

 

「その袋の中には白金貨が40枚入っている。君たちで分けてくれたまえ」

「「「えっ!?!?」」」

 額を聞いたエルゼたちが驚いていた。しかし無理もない。確か……。

「白金貨と言えば、金貨のさらに上の物だろう?それを40枚も。良いのか?」

「娘の命に比べればこれくらい、どうという事はないよ。それに、人の命に値段は付けられない、というだろう?スゥが無事に帰ってきてくれたのだ。娘に何かあれば、いくら金を積もうと命までは買えない。だからこれは、そんな価値すら付けられない物、大事な娘の命を守ってくれた私からのお礼の気持ちだ。ぜひ受け取ってくれ」

「……分かった。ならば素直に受け取っておこう」

 

 ここまで言われては、拒否する理由もない。俺は素直に袋を受け取った。が、エルゼたちは額の大きさに驚いたまま固まっていた。

 

「さて、次はこっちだ。これはスネーク殿の部下への報酬と、加えて今後、スゥの護衛を頼みたい。中にはその前金が入っている。報酬として今の袋と同じ白金貨40枚。それに依頼の前金として白金貨40枚の、合計80枚だ」

「「「「えぇぇぇぇぇっ!?」」」」

 

 最初の袋の、更に倍の額にエルゼたちが絶叫している。しかしその反応を見るに、相当な額なのだろう。それだけ出されたのでは、こちらも答えなければな。

 

「分かった。なら契約は結ぼう。内容は身辺警護で構わないな?」

「うむ」

「ならば、こちらから後追加で16人、部下を配置しよう。4人一組を1つの小隊として、5つの小隊を編成。1つを予備の隊として、残りの4つの小隊にそれぞれ、スゥシィ嬢の身辺警護、屋敷の防衛、公爵の護衛、夫人の護衛をさせよう」

「ッ。構わないのかい?」

「大層な前金を貰ったんだ。それに見合う仕事はさせてもらおう」

 少し驚いていた公爵だが、俺の方は言葉通りだ。貰った金に見合う仕事をさせてもらうだけだ。

 

「そうか。改めて、ありがとう。とても心強いよ」

 

 公爵は満足そうに笑みを浮かべると立ち上がり、俺に握手を求めてきた。俺はそれに応じ、右手で握手を交わした。

 

 その後、公爵家のレリーフと俺たちの名前が彫られたメダルが渡された。これを持っていれば検問所は素通り、貴族の身が使える施設も使え、更に言えば公爵家が後ろ盾になっている証だそうだ。これもまた、大層な物だな。

 

 ちなみにメダルには単語が刻まれており、俺のには『傭兵』と書かれていた。まぁその通りだからな。特に問題は無かった。

 

 

 その後、公爵と護衛任務についていくつか話をして内容を詰めていった。アルファたち4人にはこのまま屋敷に残ってもらい公爵たちの護衛を続行。残りのメンバーについては後日合流、という事にした。

 

これでとりあえず全て終わり、最後はスゥシィ嬢やエレン夫人、公爵に見送られながら俺たちは公爵家を後にし、本来の王都に来た目的、つまり手紙の配達をして、返事を貰った。これで依頼は終了だ。

 

「さて、これでとりあえず俺たちの仕事は終わったな」

「そうね。これからどうしよっか?」

「とりあえず数日は王都で過ごすとして、その後はリフレットの町に戻るしかあるまい?この馬車も借りものだからな、返さなければ」

 エルゼの言葉に答える。が、そうだった。

 

「そうだ。八重」

「何でござるか?」

「お前はどうする?とりあえず王都に来るのが目的だったのだろう?」

「はい、当面の予定はそうだったのでござるが、一つスネーク殿にお願いしたい事があるのでござる」

「ん?なんだ?」

 

「以前助けて頂いた時もそうなのですが、スネーク殿は戦い慣れている様子。どうか拙者を鍛えて欲しいのでござるっ!」

 八重は真っすぐ俺を見上げながら真剣な表情をしていた。しかし……。

「鍛える、と言うが俺が教えられるとしたら、精々が近接格闘戦やナイフを使った戦闘術が関の山だぞ?俺と八重では戦闘で使う武器が根本的に違いすぎるしな」

 

 俺は、戦闘では基本的に銃を使う。CQCやナイフで戦う事こそあるが、刀をメインに戦う俺と八重ではバトルスタイルが違いすぎる。正直、教えられる事があるとは思えんが。

 

「それでも構わないでござるっ。スネーク殿の顔の傷などからしても、歴戦の戦士である事は想像に難くありませぬ。そんなスネーク殿の元に居れば、何かを学べる気がするのでござるっ!どうか、お願いいたすのでござるっ!」

 そう言って頭を下げる八重。

「………分かった、良いだろう」

「ッ!よろしいのでござるかっ!?」

「こうして出会ったのも何かの縁だ。ただし、俺からお前に、確実に何かを教えてやれる保証はないぞ?それでも構わないんだな?」

「もちろんでござるっ!」

 八重は笑みを浮かべながら頷いた。

 

 

 こうして、何の因果か旅の仲間に八重が加わる事になった。まぁ、エルゼとリンゼも彼女と一緒にまだ旅が出来る事を喜んでいるようだし、良かったと言えば良かったのだろう。

 

 

 翌日。俺たちは王都を観光していた。ちなみに早朝の内に、王都郊外にピィークォドで残りの護衛メンバーをピストン輸送し、今朝には公爵と出会い部下たちを紹介し、護衛を任せた。

 

 護衛部隊は全員戦闘班のメンバーの中から編成した。全員が銃火器、ライフルやピストルで武装している。それと、町中ではまさか迷彩服で動き回る訳にもいかないので、公爵に頼んで俺と似たような衣類を用意させた。

 

 大き目のコートを羽織れば服の上に来た防弾ベストやホルスター、ナイフケース、ポーチなどを隠せるからだ。スゥシィ嬢や公爵、エレン夫人が出かけるときなどは、この隠密スタイルで周辺警護を密かに行う予定だ。

 

 ともあれ、これで護衛部隊の方は準備が出来た。そして肝心の今は、というと。今はエルゼたちと町中を歩いていたのだが……。

「ん?」

 ふと、町中を歩いていると自然と挙動不審な人物に目が行った。それは狐の物らしい耳と尻尾を備えた獣人の少女だった。獣人については資料でしか存在を知らなかったが、王都ではそこそこ見かける。なのであの獣人の少女自体は珍しくないのだが、問題は彼女の行動だ。

 

 しきりに周囲を見回し、不安そうな表情を浮かべている。……迷子だな、見るからに。

「スネークさん?どうしたんですか?」

「あの子がどうかしたの?」

 俺が足を止め、獣人の少女を見ている事に気づいたのか、リンゼとエルゼが問いかけてくる。

「3人とも、あの子に声をかけてやってくれ」

「「「え?」」」

「しきりに周りを見回し、不安そうな表情を浮かべている。迷子か、そうでないにしても何か問題が起こっているのだろう。だから頼む」

「それは別に良いけど、なんでスネークが直接声を掛けないのよ?」

 

「いや、こんな顔面傷だらけで髭面の男がいきなり声をかけてきたら、ただでさえ不安なのに恐怖で逃げ出すんじゃないかと思ってな」

「「「た、確かに」」」

 

 自分で言うのもなんだが、俺は強面だからな。下手をすると泣かれるかもしれん。3人もそれが分かったのか、納得した様子で頷くと彼女に声を掛けた。俺はそれを少し離れた所から見守っていた。

 

 が、やがてエルゼがヒラヒラと俺を手招きした。なので慎重に近づいていく。リンゼと八重が話を聞いている近くで、エルゼから小声で話しかけられた。

「どうやらスネークの読み通りみたいね」

「と言うと?」

「あの子、『アルマ』って言うみたいなんだけど、やっぱり迷子みたいなのよ。連れの人とはぐれちゃったみたいで。事前に合流する場所を決めてたらしいんだけど、それも分からないみたいで」

「そうか。その合流場所については聞いたか?」

「えぇ。ルカって名前の魔法屋らしいわよ?」

「成程。少し待ってくれ。調べてみる」

 

 ここは往来のある場所だが仕方ない。俺は懐からiDROIDを取り出すとマップを開いた。マップには諜報班に属する部下たちが集めた情報が記されている。どこにどんな店があるかなどもな。

 

「ッ、あの方は?」

 その時、狐の獣人らしい少女が俺に気づいたようだった。

「あぁ。あの人はスネークさんと言って、私たちの冒険者仲間なんですよ」

「とても頼りになる人でござるよ」

 

 アルマという少女と話すリンゼ、八重の会話を聞きつつ、iDROIDのマップを調べていくと。

「ん、あったぞ。ルカという魔法屋だ」

「え?ホントスネーク?」

「あぁ」

 

 エルゼの言葉に頷きつつiDROIDをしまう。

「俺が案内するから、3人は彼女と一緒に付いて来てくれ」

「分かったわ」

 

 場所が分かれば問題ない。俺が先頭を歩き、アルマを連れた3人が後ろに続く。しばらく歩いていると、前方に目的の店が見えて来た。そしてそのすぐそばで、アルマと同じような耳と尻尾を持った女性が不安そうに周囲を見回していた。もしや?と思ったのも束の間。

 

「お姉ちゃんッ!」

「ッ!アルマッ!」

 

 案の定だったか。アルマは俺たちを追い越して、その人物へと走り寄って行った。彼女の方もアルマに気づいて笑みを浮かべると走って来たアルマを抱きしめた。

「もうっ、心配したのよ……っ!?急にいなくなるからっ」

「ごめんなさいお姉ちゃんっ。でもエルゼさんやスネークさんに連れてきてもらったのっ!」

 

 アルマがそう言うと、姉らしい女性が俺たちに気づいた様子でアルマを放し、深く頭を下げてきた。

「この度は妹が大変お世話になりました。なんとお礼を言って良いか」

「気にしないでくれ。たまたま迷子になっていた彼女を見つけて、放っておけなかったから助けただけだ。それではな」

「あっ!せめてお礼にお茶でも」

「必要ない。ほんの人助けだ」

 

 踵を返して歩き出した俺は彼女に背を向けたままそう言いつつ、いらんと言わんばかりに手を軽く振る。そして、エルゼたちも一言二言言うと俺の後に続いた。

 

 

 その後、女性陣の要望もあって王都での買い物を付き合った。相変わらず女性の買い物は量が多いな。などと考えながらも、彼女達の荷物持ちなどをしてやった。

 

 買い物も終わり、とりあえず俺たちは王都を出発した。ある程度王都を離れれば、俺が無属性魔法の本で見つけた、離れた地点を一瞬で移動する『ゲート』という無属性魔法を試すつもりだ。

 

 それと、王都に居る護衛部隊のメンバーは全員が俺の物とは異なるiDROIDを装備していて通信が可能になっている。いざとなればゲートやピィークォドですぐに駆け付ける事も出来るだろう。

 

「王都でも色々あったものだな」

 

 俺は馬車の荷台で揺られながら、遠ざかって行く王都を見つめつつそんな独り言をこぼすのだった。

 

     第6話 END




楽しんでいただければ幸いです。

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