こんな風に生活しています (眠り足りない)
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変わったような日常
「わふっ」


とりあえず勢いで書いてみました。
続くかは未定。


「やっほーい。みんな大好きクーちゃんだよー。すごくすごく寂しかったから会いに来ちゃったー。さあハグしようハグ。今まで会えなかった分のぬくもりを私にちょーだーい」

「わふっ」

 

 入学式及び初日の授業を終え、疲労困憊の中ようやっと寮の自室に辿り着いた僕を出迎えたのは感情のこもってないような平坦な長台詞とぬくもりと柔らかさだった。

 初日から授業があるなんて恐れ入ったが、まあさすがエリート学校と言ったところだろうか。

 

「…………」

「……ふぇ、ふぁ」

 

 なんて冷静に考え事をしている僕だけど、突然起こったこの出来事に対応しなくてはならない。

 おそらく僕の顔を覆っている柔らかな感触と背中に回されている手のようなものから推察するに、僕は抱き締められているのだろう。それも女の子に。

 しかしそれはおかしい。なぜなら、先ほど僕は山田副担任から一人部屋ですよと言われて鍵を渡されたのだ。この部屋には、僕以外に誰かがいるはずもないのだ。

 でもまあ、自分で名前言ってたから分かるんだけど。

 そして、こうしている間にも僕の窒息は進んでいるので、早々に引きはがしにかかることにする。

 

「…………」

「…………」

 

 取れねぇ! 力強っ!

 

「ふぁ、ふぉ」

「……? ああ、息ができないの」

 

 いい加減やばくなってきたところで背中をタップすると、女の子はぱっと離してくれた。

 ぜえはあぜえはあと言いつつ、息を整える。

 

「大丈夫?」

 

 誰のせいだ誰の、と文句の一つでも言いたかったところだが、まあ正面から抱き締められていたということは、つまりそういうことで、役得だったのでそれに免じて黙っておくことにした。

 

「はあ、はあ……。んで、クロエはなんでこんなところにいるの?」

 

 ここはIS学園の学園寮であり、ということは生徒が使う場所である。まさか目の前のクロエは生徒でもあるまいし、なんで、というかどうやってこのセキュリティまみれの場所に潜入したのだろうか。

 

「束様の命令。きっと大変なことになってるだろうセンを見て来てって。ついでに、あの女狐から守ってって」

「女狐って……束さん……」

 

 女狐なんて呼ばれてるのは僕の姉のことなんだけど――それは一度おいておくことにする。

 ちょっと複雑な事情を持った目の前の少女。クロエ・クロニクル。年齢不詳。容姿は僕とそう変わらない。一見色素が薄めの儚い少女だが、先ほど僕が振りほどけなかったように力が尋常じゃなく強く、さらにはその頭脳も折り紙つき。

 なんせ、あの篠ノ之束の弟子なのだから。

 

「それで、どうやって入ったのか教えてほしいんだけど」

「ここのセキュリティと、ついでにこの部屋の鍵なんて私の前では無力」

「ああ、それもそうか……」

 

 無表情に手でブイ、なんてやっているけどそれ犯罪ですからねクロエさん。

 クロエにも束さんにも甘々だと自覚のある僕は、別に咎めはしない。クロエも、それに束さんもこんなことをするなんていつものことだし、まあ他の人に迷惑をかけなければ問題ないだろう。

 僕は部屋の奥へとクロエを促す。

 

「とにかくお茶くらい出すよ、好きなとこ座って――っても、あんまりないけど」

 

 言わずもがな、さっきこの部屋の鍵をもらったばかりで、この部屋の鍵を開けたのはさっきが初めてで、つまりこの部屋にはほとんど何もない。

 備え付けられた家具たち(見える範囲で言うと、ベッドがなぜか二つとクローゼット。丸いテーブルが一つと椅子が二つ)と、ベッドの上に乱暴に置かれた僕のカバンくらいなものである。

 まあしかし。

 お茶を出すからと言ったものの、今言った通りこの部屋に入るのは初めてである。つまり、お茶はない。僕が常日頃から持ち歩いていれば別なのだけど、そんなやつはいないだろう。

 仕方ないと、台所へ向かう。ここも綺麗に整備されていた。流行りの(?)システムキッチン。多少料理はするけれど、作れればいい精神なので、あまりそういうことには詳しくない。基調が白で跳ねたりしたら汚れそうだなぁと、そんな感想だ。

 予測の通りにいくつかあったコップの一つを棚から取り出し、蛇口を捻りーー実際には蛇口じゃないけれどーー水を入れ、椅子に座っていたクロエの前に置く。

 『お茶を出す』と言った手前、適当に取り繕った水道水でいいものかと思ったが、クロエは特に気にした様子もなく飲んだ。

 「それでーー」クロエは言う。

 

「友達はできた? いじめられてない?」

「お前は僕の母親か」

 

 律儀にツッコミを入れた僕は、続く言葉を待つ。

 

「それが今回の目的だもん。本当は束様に頼んでこの学校に入れてもらおうとしたんだけど、だめって言われたから」

「あー、まあそりゃあそうだろうな」

 

 生活力皆無の束さんは、そのほとんどをクロエに依存して生きている。つまり、クロエがいなくなると困るのだ。食事を栄養摂取ついでぐらいにしか考えてないような人だけど、それでもそのうち死んでしまう。世界一の天才科学者が餓死とか笑えない。

 もしそうでないとしても、猫可愛がりしている子をこんなところに送り込むような人ではない。今おつかいを頼んでるけど。

 

「私だってセンと一緒に学校行きたかったもん」

 

 口を尖らせて抗議の意を示す。

 

「って言われてもなあ」

 

 先ほども言った通り、ちょいと複雑な事情を抱えてしまっているクロエが学校に通うというのは、まあ容易いことではない。クロエもそれを分かっていて束さんにそう懇願したということは、相当に学校に行きたいのだろう。

 僕にはどうすることも出来ないのが歯がゆいものである。

 一瞬の間停滞した空気が流れたが、「あ、そうだ」の声でかき消された。

 

「これ、お土産。ご近所の美人なお姉さん系天災の束様から」

 

 と、テーブルに置かれたのは、『近所のお姉さんとボクの背徳的な日常』と書かれた、一冊の雑誌。

 いわゆるエロ本であった。

 

「……これを?」

「『大変でしょ?』って」

「あいつはバカなのか」

 

 天才はどこかおかしいとよく言うが、僕は束さんのおかしくないところを見たことがないので、その説には同意できない。

 天才は寸分の狂いなくおかしい。

 9割9分が女の子の学校に、女の子にエロ本を持ってこさせる程度には。

 しかもクロエに『ご近所の美人なお姉さん』とか言わせてるあたり、作為的なものを感じるしよりおかしい。おかしいer。

 

「クロエもこんな世迷いごと真に受けなくても」

「それは見立てが甘いよセン」

 

 いつも通りの無表情で、僕に指をさしぴしりと言ってくる。

 

「大変なんだよセン。ここはほとんど女の子。偶然にセンは一人部屋だけど、一人部屋じゃない可能性だってあったの」

「ほうほう」

「しかし思春期男子であるセンの欲望はそんなこと関係なく溜まりゆくばかり。つまり」

「つまり――?」

 

「――この小説が学園凌辱ものになってしまうということ」

「帰れよお前」

 

 無表情で何を言い出すかと思えば、こんなことであった。

 昔のピュアピュアなクロエはどこへ行ってしまったんだろうか……。言い終わった後に少し頬を染めているのが救いか。かわいい。

 あれもこれも束さんのせいである。僕のクロエをこんな風に染め上げやがって。この世界のキーワードは『大体篠ノ之束のせい』。

 

「凌辱対象には事欠かない。幼馴染・姉・妹・担任教師・メガネ巨乳教師・なんてことはないクラスメイト・委員長気質のあの子」

「それはまあ、否定しない」

「否定しない……!? それはつまり、私が言うまでもなく学園凌辱ものにする計画がセンの中にあったということ……。恐ろしい子……」

「うるせえよ」

 

 何故だかは分からないけど、この学園の子にはかわいい子が多い。顔が入試選抜の基準になってるんじゃないかというぐらい、女の子がかわいい。

 クロエの言葉を否定しないというのは、そういうことである。エロゲとかでよくある、『なぜか超絶にかわいい子しかいない』というのが、現実にありえてしまっているということだ。

 ……違うよ? 学園凌辱ものがいいなとか、思ってないよ?

 「とにかく」とクロエは言う。「そのために、これを持ってきた」

 したり顔でエロ本を指さすクロエ。やめろ、持ち上げるんじゃない。嬉しそうに眼前でそれを振るな。

 

「『これがあればセン学園凌辱ものの主人公とはならない。そしてご近所の美人なお姉さん系の束さんにメロメロ』って、束様が」

「捨てなさい。今すぐ」

 

 篠ノ之束の存在は基本的に害にしかならないのである。

 

「……確かに、束様にセンがメロメロになるのは、少し癪」

「いや、ならないからな。なる前提で話を進めるんじゃない」

 

 篠ノ之束(あれ)に惚れるということは、人生を海に投げ捨てるに同義である。僕はまだ生きたい。

 ということで、とクロエがまた何かを取り出す。

 エロ本の上に置かれたのは、DVDだった。『無表情な彼女の淫らな裏の顔』とパッケージに書かれたそれ。

 AVであった。

 

「無表情系美少女の私が」

「お前もか!」

 

 この後クロエを帰すのにとても苦労した。

 エロ本とDVDは置いてかれた。

 ……どうしよう、これ。



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更識楯無の場合

続きましたね
タイトルは毎回なにも考えておりませぬ


 翌日。朝。

 兎に毒されたクロエをどうにか帰したのち倒れるように眠った僕は、十分に睡眠がとれたのか、爽快な気分での目覚めを迎えていた。

 身支度をして、ふらふらと食堂に向かう。

 と、向けられるのは好奇の視線。まあ、それもここにおける僕の希少性を考えれば仕方ないだろうと思う。希少性なんて言っておきながら、実際はそこにプラスの意味はほとんど含まれていなく、こうしてIS学園に入学したからいいものを、そうでなければ実験動物になってる自分の姿が目に浮かぶから嫌になる。

 今だって、遠巻きに僕を見つめるのはあまり好印象とは言えない目が大量に、である。女の花園に単身(もう一人いるけど)乗り込んだ男なんて、こんな扱いなのかな、なんて。

 券売機で食券を買い食堂のおばちゃんに渡す。おばちゃんは僕やもう一人、一夏のことを快くというか、不快に思っていないようで、「男の子だからね! 少し多めにしといてあげるよ!」なんて快活な笑顔を向けてくれた。厚意は嬉しいのだけど、朝に弱い僕としては大量に盛られた白米を見ると少し重かった。

 運が良かったのか、周りが避けてくれたのか、混み合っていたのにも拘らず偶然空いていた近くの席に座り、食事を開始する。

 こんなことならば一夏でも誘えばよかったか。いやでも、確か一夏の同室は彼に恋するほーきちゃんだった気がするから、邪魔になるだけかもしれないな。ということはこれから先朝食はずっとこうか。

 なぜ朝から陰鬱な気持ちを抱えなければならないのか。いやむしろ朝だからか。

 咀嚼を繰り返し、些か僕には多い朝食に立ち向かっていると、隣に人が座ってきたのが分かった。

「朝からそんな暗い表情してると暗い一日になっちゃうぞ☆」

「すいません人違いです」

「ちょっと待ってまだ何も言ってない」

 席を立とうとすると、腕を掴みとめられた。

 手元に『非道』と書かれた扇子を広げた女生徒。

 再会を望んでいなかったと言えば嘘になるが、関わると大抵面倒に巻き込まれるのであまり積極的に会いたくはなかった。特に朝は。

 というよりは、よくよく考えてみると僕の周りにはそんな人しかいない気がしてきた。退屈はしない。と言うとすごく聞こえがよくなるけど、事実波乱万丈と言える人生をたった15年で送ってきているのは、周りの人たちが破天荒だからに他ならないと僕は思う。類は友を呼ぶというけれど、本当にそうなら僕の責任と言うことになるのか。なんてこった。

「ちょっと酷いんじゃない?」彼女は不満げに言う。「会えない間に私がどれだけ寂しい想いをしたと思ってるのよ」

「たった一ヶ月じゃんか……」

「一日が千秋になるぐらいなんだから一ヶ月なんてその30倍よ。つまり私は30000年もセンくんに待たされたことになるの。分かる?」

 こいつなに言ってんだろう。正直よく分からなかったけれど、「そっか……ごめん」と謝っておいた。謝罪は日本人の美学である。

 僕のことをセンくんと呼ぶこの人は、更識楯無。正直見た感じだと女の子に付ける名前じゃねーだろと思ってしまうが、まあそこは彼女にもちょっとした事情があるのである。

 今はここで生徒会長なんてものをやっているほか、自由国籍をもっていてロシアのIS国家代表まで務めあげている超人である。その上、街行く人が10人中9人以上は振り返る程度の美少女。天は二物も三物も与えるいい例である。

 ちなみに僕の実姉。

「おねーちゃんであるという事実がさらっと流された気がするわ……」

「何言ってんのさ」何気なく心が読まれた動揺を見せないように僕は言う。「早く食べないと遅刻するよ。僕はもう食べ終わったから行くね」

 「ちょ、ちょっと待ってよ!」という言葉を僕は無視して、食堂を後にした。

 

 

 

 

 

 そもそも誇りってなんなのだろうかと思考したところで、僕のような人間に答えが出るわけもなかった。

 思えば昔から僕に誇れるようなことなどなかったようだ。『誇りって何?』という答えが出せないと自分で言っている以上、その認識もまた間違いなのかもしれないけれど、おそらく世間から見ても僕に誇りがあるとは到底見えないのだろうと、それくらいは想像がつく。

 人は誇りを傷つけられることをひどく嫌う。それは家柄だったり友情だったり時には物体だったりするけれど、自分の誇りという領域に他人が無遠慮に足を踏み入れることを拒絶したがる。それはもちろん目に見えないもので、意識のしようはあるけれど認識のしようがない。

 故に、『誇りを傷つけた』と言えるのである。

「うあー。よーわからんなこれは」

「右に同じだ。どうしてこう科学者様はもっと簡潔に物を述べられないかね」

「全く同感だ」

 授業が終わった放課後の教室。隣り合わせの席で僕とその親友織斑一夏は教科書を手にうなだれていた。

 教科書と言っても侮るなかれ。その厚さ大きさ共にタウンページを軽く凌駕する。その程度の知識を身につけなければ『兵器』たるISを扱ううえで不具合が生じるのだとは分かっているけれど、これはどうにも勉強意欲を削ぐものだった。

 さて、まずはなぜ僕と一夏がこんな苦労をしているのかから説明せねばなるまい。

 IS。正式名称を《インフィニット・ストラトス》という、元来宇宙開発用に開発されたマルチフォームスーツである。宇宙開発用ではあったのだけど、《白騎士事件》により露わになった過大も過大すぎる兵器としての価値に、現在世界中に拡散しているISだが本来の使用目的ではなく大抵の国が戦力として軍事的に保有しているのが現状である。

 けれどそんなことをしたら世界中に戦争が起きるに決まっているので、表面的には《競技用》としてISは使用されている。その《競技用》ISの操縦者や技術士を育成するのが、この僕や一夏の在籍するIS学園なのである。

 《競技用》なんて、ほんとに建前だけだけど。

「『集団の中で生きるのが人間だから、それが嫌なら人間をやめろ』って千冬姉に言われたけどさあ、俺別にIS学園の受験をした訳じゃあないからここにいる必要ないと思うんだよ」

「それには確かに同感だけど、一夏。現実逃避にしかならない字句を並べてもやはり現実は変わらないよ。それに、君の場合高校の受験が出来てない訳だから、良くて高校浪人になる訳だけど」

「千冬姉の安定した収入源が分かったことだし、働きながら勉強してー、かな。大学いかないことには就職もきついしな」

 僕の場合、ここに来なければならないと分かったのは高校の合格通知をもらってからなので、まあなんとかごり押してもらおう。それに、高校浪人と言ったけど、高等学校相当のIS学園に通っているわけだから、転入と言う形になって編入試験に受かれば高校には入れる。はずだ。

 しかしまあ、諸問題を抱えている僕たちとしては、うだうだ言ってもやはりここ(IS学園)から離れるわけにはいかないのだった。

「あ、そうだ」うなだれていた一夏が、立ち上がり僕を指さし言う。「あれだ、刀奈さん。頼ろう。センを溺愛してるあの人ならセンが涙で潤んだ上目づかいでもすれば一発で落ちるだろ。んで、俺もご相判にあずからせてもらう」

「姉さん、ねえ」

 僕の姉。更識刀奈。日本の名家更識家(僕もこの家の子なので、自分でこう言うのは少し気が引ける)の当主であり、その名、十七代目《楯無》を襲名しているので表向きには更識楯無となる。朝も僕に絡んできたあの変人である。文武両道才色兼備を地でいくような人で、昔から周囲の羨望を集めていたがこの学園でも生徒会長をやっていることから見ると、昔とそう変わってないらしい。

 人はあまりある才能を持つ人に嫉妬する。自分にできないことをできるあの人に嫉妬をする。自分が苦労したことを容易に達成するあの子に嫉妬する。しかし、僕の姉はそれに限らず、ゼロとは言わずともその身が嫉妬の炎に囲まれたことはないと言っても差し支えない。皆が皆「彼女の人柄ゆえだろう」といい、それ故に《人誑し》と揶揄する。

 純日本人の癖にロシアの国家代表まで務めてしまっている彼女にISに関しての教えを乞おうというのは決して間違っていなく、むしろ褒められる発想なのだけど、今回に限りそれは少しまずい理由があった。

「あー、でもだな一夏。僕らが今回戦う相手はイギリスの代表候補生なんだよ。それは少しまずくないか?」

「……ん? なんでだ?」

 わからない、と言った風に首をかしげる一夏。

 だからだな、と、僕も一夏につられて立ち上がる。男子にして平均的な172cmという身長を持つ一夏と、それより少し低めの169cmの僕。僕も決して低すぎるわけではないけど、男なのだからもう少し身長が欲しかったと一夏の隣に立つたびに気が沈んでいたのを今思い出した。立ち上がらなきゃよかった。

「これは言ってしまえば、日本対イギリスの試合なんだよ。そこに、ロシアの、それも国家代表様が手を出したらあかんだろ、ってことだ」

「でもそれってあんまり関係なくないか? 俺は単にあのオルコットさんとの試合を、って感覚だったんだが」一夏は眉をひそめる。「それに、刀奈さんはセンの姉だろ? 姉に弟が教えを乞うことがそんなに悪いか?」

「確かに姉さんは僕の姉だけど、それ以上に国家代表なんだよ。一夏、良くも悪くも僕らの立ち位置を決めるのは僕らじゃない、周りなんだ」

 評価と価値は絶対にはなり得なくて、いつだって相対的なものだ。

 自分の価値は、他人が決めるのだ。

「んー、そんなものか」僕の言葉に納得いってないような顔で一夏は座る。「でもやっぱり、さっき言ったようにセンが頼めばあの人ならやってくれる気がするぞ?」

「だから怖いんだよ……」僕は顔をしかめた。

 唐突だけど、ここに断言しよう。更識楯無はブラコンである。それも重度の。

 姉さんの僕に対する態度は姉弟間のそれとは大きくかけ離れていて、甘やかすとか仲が良いとかそんな言葉じゃとてもじゃないが語れないほどのものである。恋人のそれともとれるのである。僕だってこんなこと言いたくないが、朝、起きたら隣に裸の姉が寝ていた時の衝撃は今でも思い出すと体が震えるほどのものである。

 そんなわけで、姉さんは僕に甘々なので頼めばやってくれるというのは間違いではない、きっと。そのあとのことがいろいろと怖いのでそんなことはしないけど。

 それに、姉さんじゃなくても頼るあてはある。最初から頼るのを前提に話を進めているのは少々情けない気もするが、僕たちはISに関して全くの初心者で、相手は超の付く上級者。出発したばかりの職業のない勇者とラスボス前のほとんどの職業をマスターし終えた勇者ぐらい差がある。そのぐらいのことは許されるだろう。ちなみにどちらも勇者である。

 まあ他にあてはあるよ、並々ならぬ勢いで扉が開かれたのは僕がそう言おうとするのと同時だった。

「話は聞かせてもらったわ!」

「うわ、来た……」

 ぎらぎらと輝く瞳を引っ提げて登場したのは件の人、更識楯無その人だ。いつも手に持っている扇子には『颯爽登場!』と書かれていた。

「偶然、ええ偶然この教室から漏れ聞こえていた音声を私の耳が拾ってしまったんだけど。そう、これは偶然よ。計らずも思いがけず私の耳に飛び込んできてしまったのよ。センくんと一夏君の会話が。あ、ちなみに一夏君私の名前は《更識楯無》だから、そこんとこよろしく」

「あ、はい……」

 突然現れてなにかを必死に捲し立てる姉さんに一夏は圧倒されていた。

 てか引いていた。

「何度も繰り返し言うようだけど、これは偶然にして偶発的なことだったのよ。だってそうでしょ? 私は二年生、君たちは一年生。まさかまさか二人の会話が私の耳に届くはずないもの。ならどうして届いたのかって話だけど、それもまた偶然なのよ。まず、この教室の廊下側の扉がすべて閉まっていて、なおかつ窓が一か所だけ開いていたこと。加えて、この教室にあなたたちの他にはあまり人がいないことね。窓から適度に離れた距離に二人ほどいるわね。どうも、お邪魔しているわ。生徒会長の更識楯無よ。すこし騒がしくなるけど許してね」

 言葉と共に教室の端にいた女子生徒二人にウィンクを飛ばし、撃沈させた。相変わらずカリスマと言うか、変な魅力を持っている姉さんであった。

「それでどこまで話したっけ。ああ、そうそう、あとはこの教室の作りもそうね。机や教卓の配置も起因しているかもしれないわね。とにかく、そんなもろもろの諸条件をクリアした二人の会話は教室内を反射し、そして窓から出て行ったという訳なの。さながらスピーカーのように何倍にも増幅されてね。そして、これも偶然なのだけど、そんな増幅された音が飛ぶ方向に私がいたの。偶然でしょ? 偶然に他ならないわよね。だって、今ここであなたたちが会話していることも教室が巨大なスピーカーの役割をしていたことも、私がたまたまそこを歩いていたことも、確かに狙ってできることだけど示し合わせていたことじゃないもの、ね? それでここからは事実確認なのだけど、私の耳に入った衝撃の事実を会話していた当の本人たちに確認するだけの簡単な作業なのだけど――センくんが私に『涙目で』『上目遣いで』『お願い』するってホント?」

 そこまで一息に話し終えた姉さん。実に気持ち悪いとしか表現のしようがなかった。ほら、隣の一夏だってめちゃくちゃ引いてる。さっき気絶させられた二人は運が良かったかもしれない。尊敬する生徒会長が()()()()だったら、さぞ嫌だろう。

 息継ぎがなかったせいなのか興奮しているせいなのか全体的に呼吸の荒い姉さんが肩で息をしながら瞳を怪しく光らせてじりじりとにじり寄ってくる。やめて。

「ほら、早くお姉ちゃんに言ってごらん? 『涙目で』『上目遣いで』!!」

「うわぁ……」

 思わず声に出してしまった。きもい。

 去年一年間の話だけど、この姉はロシア国家代表に就任したり1年生にして生徒会長の座に付いたりとそれなりに多忙な日々を送っていた。対して僕はと言うと、そんな劇的な日々がある訳もなく、平和に一中学生としての日常を謳歌していたので、家で姉さんに会うことはあれど()()()姉さんを見るのはずいぶんと久しぶりだ。別に見たかったわけではない。

 目つきやら何やらがここだけを切り取ると犯罪者にも見えなくない姉を目の前に弟の僕はどうすればいいのだろうか。非常に対処に困る。

 そこから先に繰り広げられた姉の独壇場というべき、僕にとっては地獄絵図にも等しいような光景についてはできることなら口を閉じたいけれど、せっかくなので一言だけ言っておくとする。

 一夏の中での姉さんのイメージがストップ安だそうだ。

 

 

 

 

 

 寮に向かうまでの間、少し恥ずかしい独白をします。

 更識楯無こと更識刀奈のことを一番よく知っているのは言わずもがな本人であり、そこにもしかしたら生みの親である更識厳一・美鈴夫妻も入るのかもしれない。

 何が言いたいかと言うと、僕が姉さんのことを語るのは少しだけ筋違いというものだけど、僕も一応、他人より接する時間の長い親族な訳でもっと言えば姉さんからしたら弟というのは僕一人だけだから、僕の、弟の視点から更識刀奈について少しだけ話したいと思う。

 既にご存知かとは思うが、更識刀奈は僕の姉である。実姉。実は義理でした! だからセーフなんだよ!(なにが?)みたいな安物のエロゲのような展開は今後一切ないことを了承いただきたい。

 はっきりとした自我の芽生えた小学校時代から姉さんは僕の憧れだった。代々世襲式の《更識家》は特に男女のしがらみなく一番に生まれた子が《楯無》の名を継ぐことになっている。優秀な姉は一族からの期待ももちろん大きく、僕が小学校に上がるころには既にISが世に知れ渡っていたこともあって指数関数並みに姉さんへの重圧とも呼ぶべきそれは増加していった。

 しかし、それに潰されることもなく、僕や妹が外で遊んでいるときにも家で勉強をしていたような姉はむしろ周囲の期待を力に変えたようにめきめきと成長していった。決められたように育ったからと言ってその性格が鬱屈することもなく、《人誑し》の異名からも分かるように人望も集めていった。

 それに僕が嫉妬していなかったと言えば嘘になるが、いつだってまっすぐと前を向ける姉さんに僕は憧れていた。僕にはない()()()()を、ただただ純粋に羨望の眼差しで見ていたのを覚えている。

 思えばこれが『誇り』かと、懐古することもある。今はちょっと残念系美人である姉さんだけど、確かにその身に宿す能力と魅力は目を見張るものがあるのを僕は他の人よりは知っている自信があるし、なんだかんだ言っても僕は姉さんのことを嫌いになれない。

 僕とその他の間の空白期たる中学二年の一年間を除いて、姉さんは姉として僕と妹をちゃんと見守ってくれていた。それを実感している今、照れくさい気持ちをどうにか持て余しているのである。

 恥ずかしい独白終わり。

「お帰りなさい、あ・な・た。私にします? 私にします? それとも……わ」

 ばたんっ! 僕は自分の持ちうる力の限りに扉を閉めた。

 ここはIS学園寮。夕飯時少し前と言うこともあってある程度の人が帰ってきているらしく、僕のたてた音に何事かとざわざわし始めている廊下だが、そんなことがあまり気にならないくらいに僕は動揺していた。

 襲撃してきた更識楯無という異物を除去したのちに、一夏はほーきちゃんと剣道のけいこがあるらしく、剣道場へと向かった。来週に備えて鈍った体を動かす、と言う名目のことらしいが、一夏を呼び出しているほーきちゃんは一夏にぞっこんラブ(古い)なので、それ以外にも目的があったりするのだろう。一夏に来るかと僕も誘われたが、恋路を邪魔するものは翌日から陽の光を浴びれなくなるらしいので(姉さんが言っていた)遠慮しておいた。

 んで、今。

 そのぞっこんラブなほーきちゃんのために朝は一人で寂しく食べることを決めたけど晩飯ぐらいは一夏と食べようかと思い、まず部屋に戻って着替えようと思っていたところのこれである。

 ドアノブを持ち扉の向こうの光景に恐怖していると流石に視線が集まってきた。居心地が悪いので、さっと開けてさっと中に入る。自分の部屋に入るのにこんなに周囲を気にしなければならないのか、僕には解せない。

 僕の部屋に何故だかいたのは僕の姉、更識楯無なのだけど、そもそもなぜここにいるのかということもそうだが(昨日のクロエもそうだがここの鍵は変えたほうがよさそうだ)、それ以上に解せないことが一つあった。

「もう、いきなり閉めておねーちゃん驚いちゃったわよ」

 腰に手を当てて、唇をとがらせている。擬音をあてるとしたらぷんすかだろうか。ここは僕の部屋なので先に侵入していた姉さんに怒られる意味が分からないけど。

 さて。ここで突然だけど、色おにをしよう。鬼が指定した色に触っていればタッチされても鬼が変わらないという、あれ。あれって子供が原色に近い色しか名称を知らないという前提で作られている気がする。例えば、かの500色の色鉛筆にある“ポンパドゥール夫人の笑顔”(薄めのピンク)なんて言われたらそもそもその色があるのか分からないし、認識できる人なんていないんじゃなかろうか。最早色おにの体をなしていない。無色おにである。ただの鬼ごっこじゃねーか。

 話がずれた上にひとりツッコミをしてしまった。

 例えば、僕は今IS学園の制服を着ているのだけど、白を基調に赤のラインが入っていて一部に黒が使われている。もっと言えば僕の水色がかった髪とあとは肌の色があるので、この五色を言われても僕は鬼になる必要はないということだ。

 同じ基準で姉さんを見てみる。

 肌色。肌色肌色肌色肌色肌色。そして肌色。

 圧倒的肌色だった。

 有り体に言えば全裸であった。

 なんと僕の姉は僕の部屋で全裸だったのだ!

「そ、そんなに見つめられるとお姉ちゃんでもこ、困っちゃうかも……」

 僕の視線を受けて顔どころか首筋まで赤く染めて、もじもじと視線を虚空に彷徨わせる。なにやってんだこの姉。

 すらりと伸びた肢体に、女性らしい丸みを維持しつつ細やかな線を持った体躯。客観的に見れば確かに魅力的なのだろうけど、僕は弟でこの人は姉。そこに性的興奮を覚えるはずもなく(だったらやばい)、

「とりあえず服を着よう。話はそれからだ」

 姉さんを部屋の奥に押し込む作業に取り掛かった。

 姉さんの肩に触れる。「っんぁ……」なんて色っぽい声出しやがって。そんなのに騙されんぞ。騙されたら人としてどうなんだという気もするが。

 少し力を込めると、思いの外姉さんが軽くて、二人して体勢を崩してしまった。

「うわ――」「きゃ――」

 ほとんど同時に発された声。一度ずれた重心は決して戻ることはなく重力に従って僕らのバランスを崩していった。そのまま崩れるように倒れる僕と姉さん。幸いにもそんなに速度もつかなかったため音を立てることなく倒れた。

 が、どうしても姉さんに覆いかぶさるような形になってしまう。

 こんなところを誰かに見られでもしたら――

「おーいセンー。飯いこうぜ――いやなんでもないです失礼しました」

「…………」

「…………」

 姉さんを押し倒している僕。

 全裸の姉さん。

 ノックもせず部屋に入ってきた一夏(鍵をかけていなかった僕も悪いけど)。そのまま何かを察したように出て行った一夏。

 もう、だめかもしれんね。

 目の前でにやにやと笑う姉さんが鬱陶しかったので、とりあえず、ぺしりとおでこを叩いておいた。

 




来週に続くといいなぁ

あ、書き方を変えてみました
そのうち前話も手直しします


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許婚

またもや続いた3話目
この章は、とりあえず現時点で思いついている設定をひたすら書きなぐる、風呂敷拡げの章となっております。
自分でも続くか分からずびくびくしながら週一投稿している現状の中、この章で拡げた風呂敷と張った伏線の後々の章で一つずつ回収していく予定となっております。
なので、設定と文章が雑めいてしまうことをお許しください。
(駄文なことをプロットのせいにする屑の鑑)


 今回は俺こと織斑一夏がお送りする。

 時は翌日。『親友が裸の姉を押し倒していた事件』についての弁明を朝まで聞かされ(ひたすらからかっていた俺も悪い)、セン共々極端な寝不足で登校するIS学園生活3日目である。

 俺と幼馴染の箒、そして件のセンと共に談笑しているなう。

「まったく……僕があの姉を押し倒すとかどんな勘違いだよ」

「ははっ、悪い悪い。なんつーかまあ、ありえない光景だったしな。からかっちまった」

「なんだセン。ついにお姉さんを押し倒したのか」

 箒が言う。ついに、なんて確かに俺もその場では思ったものだが、冷静に考えてみればそんなことはありえないよな。センが刀奈さんを押し倒すなんてのは、センの度胸的にも肉体的(力的な意味で)にも無理だ。

 あるなら逆だな。

「ついにってなんだよついにって」センは不服そうな顔をする。「何もかも一夏の勘違いだ」

「押し倒していたのは事実だろ」

「そりゃ結果論だ。……ふわぁ。そのせいで寝不足だ。逆ならまだしも僕が押し倒すわけないだろ」

「そうだよな。逆ならまだしもな」

「まったくだ。センは押し倒される側だもんな」

「え、待って。理解できない」

 はっはっはっ、と笑う俺たちに、近くのクラスメイトがツッコミをいれてきた。

 名前は確か――

「相川さん、だよね?」センが言った。

「う、うん。覚えてくれたんだ」

「まあ、クラスメイトは大体」

 すげえな、と感心する。今センに言われなければ目の前の相川さんの名前を俺はしばらく知ることもなかっただろう。

 なんというか、やはりどうにもこの学園の女子には距離を取られている気がする。俺たちが物珍しい存在であることは重々承知だがもう少し親しくしてくれてもいいんじゃないかと思う。箒や更識一家など知り合いがいなければ俺はどうなっていたことか……初日から面倒なのに絡まれるし……。

 それに、愉快ではない視線を感じることも多々、だ。大方女性至上主義者なのだろうが――先行き不安な学園生活に背を向けたくなる。一生に一度の高校生活なのになあ。

「で、それで」相川さんは興味があるのか、少し身を乗り出して言う。「更識君、お姉さんに押し倒されたの?」

 最初から話に入ってきていたわけではないので、少し間違って伝わっていたようだ。悪いけど、面白い。その勘違いは面白いけど、ちょっと笑えない。

 センが俺を一瞬睨んでから相川さんに向きなおる。

「それは一夏のバカの勘違い。まあ、昨日いろいろあったんだよ」

「そ、そっか」

 バカとはなんだバカとは。そう文句を言ってやりたかったが、直後のセンの悲壮な顔を見て、言葉を詰まらせた。ほら見ろ、相川さんだって引いてるじゃないか。

 何もかもに疲れたような表情を見せるセンに労わるような表情を見せつつも、相川さんはもう一つ質問した。

「それで、もう一つ聞きたいんだけど。て言うか、多分教室のみんなが聞きたいと思ってることなんだけど」

 時計を見ると、そろそろ始業のチャイムが鳴るだろうという時間。視線を時計から教室に移すと大半の生徒が自分の席についていた。まあ、一組(うち)の担任は千冬ね――織斑先生だからな。かのブリュンヒルデの鉄拳制裁(しゅっせきぼ)を食らいたくないのだろう。俺だって食らいたくない。すでに何発かもらっているけど。

「その、膝に抱えてるのは――なに?」

 センが膝に抱えているもの。相川さんの視線をなぞるように、センの膝に視線を移動させる。

 相当大きいものだ。実のところ、『それ』――いや、『それ』という表現はあまり褒められたものじゃないな――をセンが教室に入ってすぐに膝に抱えてから、センの顔が半分くらいしか見えていないのだ。

 色は、白を基調に赤のラインと黒。つまるところまるでIS学園の制服と同じようで、ていうか同じものだった。形状は人型、というか人。

 センは一人の人間をその膝に抱えていた。無論女の子。

 俺はその子を知っている。

「んー、あんまり気にしないでー」

 袖あまりにも程があるだぼだぼの腕を振って、気の抜けるようなスローペースの声で応える女の子。そういえば昔からこんなので、学校では癒しキャラとしてマスコット扱いを受けていたか。

 名前を布仏本音という彼女。

 周りの男からは(というか俺もだけど)本音ちゃん、女子からは本音と呼ばれる彼女は、独自の雰囲気で周りをほわほわさせる達人である。その雰囲気から男子はみんな『本音ちゃん』とちゃん付けで呼ぶのだけど、なぜかセンだけは『本音』と呼び捨てにする。これが意外に違和感がなくて不思議だ。そういえば、家族以外でセンのことをあだ名じゃなく呼ぶのも本音ちゃんだけだな。

「そうそう、気にしたら負けだよ。――ほら、本音。そろそろ降りないと」

「はーい」

 センに促されて素直にぴょこんと膝から飛び降りる。そんな本音ちゃんの顔は幸せに満ちたような笑顔を発している。

「えっとその、更識君と本音は付き合っているの?」

 相川さんは質問好きのようで、今日三つ目の質問である。そういう訳でもないか。

 確かに、本音ちゃんとセンの関係は気になる。昔から異様に仲が良かったし、今だってそうだ。長く共に過ごしているうちに慣れてしまったが、やはりこれは違和感なのか。多感なお年頃の皆さん、恋愛ごとには興味があるということなのか。

 思えば昔からセンは《更識》の血統の女の子たちと仲が良かった気がする。姉であるか――楯無さんとも仲が良いし、妹の簪もそうだ。今の本音ちゃんだってそうだし、本音ちゃんの姉の虚さんとも仲が良かった記憶がある。なんだこれ。ハーレムか。ハーレムという単語に直接の血縁を含むのは我ながらどうかと思うけど、センはハーレムを築いていたとしか思えない。羨ましいにも程がある。

「……今一夏から《お前が言うな電波》を受信したよ」

 なんだその奇怪な電波は。そうセンに問う前に、本音ちゃんが口を開いた。

「二人の関係? うふふ、それはね――」「え、ちょ本音」

 

「なんと! 許婚なのです!」

 

『え』

『ええぇぇぇぇぇええええ!!!!』

 

 教室中が、驚愕に包まれた。

 

 

 

 

 

 さて、一夏の出番は終わりだ。

 布仏本音。

 僕の中では一線を画した存在の少女である。

 僕の実家である《更識家》の分家である《布仏家》の次女である。《更識家》には多数の分家があり、俗に言う裏稼業をやっている本家のサポートをするのが分家の皆さんのお仕事である。……っつっても、当主という立場とはほとんど無関係の僕からしたら、よく分からないものである。であるである言いすぎだな僕。

 その中でも《布仏》の家は身辺の世話、つまり従者のような役割を担ってる。長女である虚さんは姉さんの、そして次女である本音は簪のお付きの人となっているのだ。ちなみに僕にそんな人はいない。いいよね、メイド。僕にもメイドがいれば――おっと、遠くからの本音の視線がきつくなってきた。

 彼女本人のことに少し触れてみることにする。一言でいうと癒し系。二言目を必要とするならマスコット。そんな子である。自身の周りに固有のフィールドを展開して、他人に流されず周りを片っ端から癒し笑顔にしていくその様は究極のマイペースと評していいかもしれない。

 マイペース。とにかく彼女はマイペースだ。ついでに事務仕事もほとんどできない。一応生徒会の書記という立場にいる彼女だけど、「あなたがいると仕事が増える」とバッサリ切られたらしい。姉の虚さんとは全く正反対である。

 そんな彼女と僕の関係はというと、朝にあった爆弾発言の通りに許婚だ。と言ってもそんな堅苦しいものでもなくて、本当に昔に子供ながらに「結婚しようね!」と口約束を交わしたことが双方に家に伝わり、なんだかんだで幼馴染から許婚へとランクアップしたという訳なのである。

 確かに《更識》の本家や分家はしがらみや陰謀の渦巻く組織ではあるけれど、互いに家を継ぐ立場にはない僕と本音にそんなものは関係なく、純粋な許婚である。中世のヨーロッパでもなしに、自分の娘を政治利用しよう、なんてことは少なくとも《更識》内部にはない。

「という訳だ。こういう表現はあまり好きじゃないけれど的確に表すなら“保険”だ」

 怒涛の午前を過ぎた昼休み。食堂に僕と一夏とほーきちゃんは同テーブルに会して食事を摂っていた。

 いや、まあほんとに怒涛の午前中であった。僕としてはこの女の園、噂話には事欠かないだろうから正直黙ってというか、隠しておきたかった話なのだけど、まあばれてしまったものは仕方ない。後で本音にはお仕置きだ。

「“保険”なぁ。まあ、確かにあんまりいい表現じゃないな」

「珍しいな、セン。お前がそんな物言いをするなんて」

 僕の釈明(こういうと悪いことをしているみたいに聞こえる)に同意する一夏と、窘めるように指摘するほーきちゃん。

 僕は頷く。

「残念ながらこれ以上に適切な表現が見つからないんだよね、僕の語彙の中では」

 僕と本音の関係を“保険”と称した。それはつまり、一応許婚という繋がりがありこそすれそこに強制力はなく、例えば本音が他に愛する男性(ひと)を見つけたときには解消される程度のものである、ということを意味する。僕の場合もまた然り、だ。まあ所詮、子供の頃の口約束に過ぎない。

 しかもこの表現を本音自身が気に入ってるときた。

 そんな僕の言葉に顔をしかめる二人。

「ということは――お前と本音は愛し合っていないということか?」

 不快感を隠そうともせずにいうほーきちゃん。

 良くも悪くも武士気質であるほーきちゃんは、その感性たるもまた少し古めかしい部分がある。許婚と言っておきながら互いに思い合っていないととれるような現状に、少し反感を覚えてしまうのだろう。

「うーん。愛し合ってはいないかな」なんて言ったって僕たちは子供だし、僕は苦笑と共に言う。「でもまあ、本音のことは好きだよ。これが愛に発展するのかと聞かれたら、まだ分からない」

 もう一度、子供だからね、と締めくくった僕を、ほーきちゃんは困ったように笑った。

「ずるいな、それは」

「まあね。僕はずるいんだ」

 今も、昔も。

 いつも、いつまでも。

 一夏が口を開く。

「でも、そんなこと初めて聞いたぞ俺。言ってくれればよかったのに」

 そういう口は少しとがっていて、不満げだ。

 友情を大切にする一夏。それは一夏の美点でもあるけれど、少々いきすぎなところも多々ある。今だって、昔から知り合いの僕と本音に隠し事をされていたのが気にくわないのだろう。

 それに、僕だってこのことを母親から聞かされたのは大体一年前のことだ。ある日突然「あなたと本音ちゃんは許婚なのよ」なんて、どこのエロゲだというのだ。こうして本音が暴露してしまったから仕方ないものの、今は受け入れてるとはいえ心の整理なんかつくはずない。許婚という事実は若干中学生から高校生の男子には少々重いものである。

「ほら、なんか、恥ずかしいじゃん。それに、言ったら言ったで、君ら遠慮するだろ?」

「それは、まあ」

 僕の言葉に詰まらせる。

 なんか、恥ずかしいじゃないか、許婚なんて。そりゃ、今でこそ慣れてしまったが、小中学生の頃なんて異性というだけで恥じらいの対象にあったのに、そこに恋人をも飛び越すような許婚という言葉は、少し破壊力が大きすぎた。

 別に、本音のことを恥じるわけではないけれど。

 本音は美少女だ。それは、身内贔屓を抜きにしても言える事実である。それに、気遣いもできる。マイペースすぎるのが玉に瑕ではあるけれど、いい奥さんになることは必至だ。って、言ってて恥ずかしくなってきた。

「ま、いいんだ。この話は。とりあえず目下のことを片付けよう」

「目下のこと?」

 丼の最後の一口をかき入れて一夏は首をかしげた。

「まさか、忘れた訳じゃないだろ。来週の話だ」

「あー、なるほど。了解」

 来週。

 一夏(このアホ)が短絡的思考で喧嘩を買ってしまったがために、僕と一夏はそう、イギリスの国家代表候補生様と試合をすることと相成ってしまった。

 セシリア・オルコット。それが彼女の名だ。まさにお嬢様と言った雰囲気を持つ彼女は、今の世相を反映したような性格をしている。

 つまり、女性至上主義。ぽっと急に増えた新参の女性至上主義者とは違い、どうにも彼女の男性への態度には家柄とか今までの環境とかが関係しているような気がするのだけど――まあそれは今関係ないか。とにかく男性のことが嫌いで嫌いで仕方がないらしい。

 そういう手合いには関わらないのが吉だと知ってはいたが、運命は残酷か、このイベントから僕と一夏は逃げられなかった。一夏は自分から向かって行ったようなものだから、僕は逃げられなかった。

 クラス代表(クラス委員のようなもの)を決める折のこと。クラスのみんなが一夏や僕――もの珍しさからだろう――を推薦したことがオルコット嬢は気に食わなかったらしく、食ってかかり、やれここは極東の辺境だとやれ男は猿だのと罵倒をぶちかましていたところに一夏が、

「あなたの国だっていい所ないように思われますが。とても食べれたものではないものを平気で食べることで有名な国ですよね」

 なんて言ってしまったものだから、火に油。一夏としては丁寧な言葉遣いで遠まわしに言ったつもりらしいが、この男は慇懃無礼という言葉を知らないのだろうか。

 それが言うまでもなくオルコット嬢の琴線に触れ、その後は売り言葉に買い言葉。決闘することとなった。なぜか僕も。織斑担任からは「同じ男だろう? 連帯責任だ」と理不尽な言葉を投げかけられた。訳が分からない。

 まあ、そんなわけで僕と一夏はオルコット嬢と相見える次第となった。

 のだけど。

「初心者が代表候補生に勝つなんて無理だよなぁ」

 これである。相手は代表候補生。勝てる道理など一分も一厘もなかった。

 けれどこれでも僕も男の端くれ。意地はもちろんあるし、負け戦を挑むつもりなどさらさらない。

 という訳で。

「まあ、一夏には前に言ったけど、姉さんに頼るのは無理だ」

「そうなんだよなあ……」

 一夏が遠くを見て言う。国のしがらみがある、ということは説明したとおりだけど、それ以上に一夏は昨日のことを思い出しているのだろう。

 どんどん評価の下がっていく姉さんだった。

「ならどうするのだ? 言っておくが女ではあるが教えられることなど何もないぞ」

「いや、ほーきちゃんにはそのまま一夏の鍛錬を続けてほしい」

「じゃあ」

 箒ちゃんが向ける怪訝な視線に、僕は真っ直ぐと向かう。

「国同士のしがらみがあるって言ったよね?」

「ああ。日本と、イギリスか?」

 僕にほーきちゃんは答える。一夏より理解が早くて助かる。

 なら、と僕は言う。

「だったら、日本に頼ればいいんだ」

 ふしぎな顔をしている一夏と、納得したような顔をしているほーきちゃん。

 二人を一瞥する。

「――簪のとこ、行こう」

 

 

 

 

 放課後に簪のところに行こう。

 そう約束して、今は放課後。午後の授業も午前のテンションを引きずって混沌としたものになりはしたけれど、それなりの心労を抱えたりはしたけれど、無事に授業を終えることが出来て現在だ。

 放浪癖のある簪を探すために一先ず部屋に戻ってきたのだけど。

「えへへー」

 本音に絡まれていた。物理的に。

 初日、二日目ときて、三日目の今日。そろそろ僕は自室は呪われているのではないと思うくらいに、帰ってきたときにいろいろなものに遭遇していた。おかしいなあ。ここカードキーで同じものは二つとないはずなんだけど……。

 とにかく、本日の顛末をお話ししよう。

 と言っても特に山もオチもあるわけではなく、帰ってきたらもともと部屋にいた本音が飛びかかってきてそのまま離れない、というだけのことである。絡まれている。物理的に。

 さすがに着替えたかったので一度シャワールームに押しやったが、着替えが終わると再び、今度は後ろから僕に飛び乗ってきた。さっきもそうだったのだけど、本音はどうにも着やせする性質らしく、柔らかな二つの母性的なふくらみがむにゅむにゅと押し付けられているのがよく分かった。「んふふー」なんて笑っているところを見てもわざとなのか違うのかの判断に困る。

「さて、行くか」

「お? どこにー?」

「あぁ、そういえば本音は昼一緒じゃなかったか。ちょっと用があって簪のとこに」

「おー、かんちゃんのとこかー」

 簪。なのでかんちゃん。

「んじゃー、れっつらごー」

 さて、と意気込んで、そんな気の抜けた掛け声で部屋を出たわけなのだけど。

「…………」

「……んー? どうしたのー?」

「……いや、なんでもない」

 重かった。背中に乗っかってる本音が割と本気で重い。今現在おんぶしてる訳でもなくて、似たような体勢だけど本音が一方的にしがみ付いているような感じになっている。よくしがみ付けるもんだ。力強いなこいつ。

 ……じゃなくて。本音が重い。女性に体重(ウェイト)のことを言うのはタブーだと分かっているけれど、心の中でくらい言わせてほしい。重いよ本音。歩くのがいつもより遅くなるよ。てかなってるよ。

 これは別に本音が平均よりふくよか(遠回りな表現)という訳ではなくて、純粋に人ひとり背負って歩くのは虚弱貧弱な僕からしたら厳しい。高校一年生の女子の平均体重が51.4kgらしいので、大体50キロのものを背負って歩いていることになる。筋肉とは縁遠い僕の体重が大体52キロ。つまり、自分とほとんど同じ重さのものを運んでいることになるので、そりゃ重いわな。

「えへへへ」

 背後から聞こえる本音の幸せそうな声。思えば、昔から僕たちはこんな感じだった気がする。じゃれついてくる本音と、それにかまってあげる僕。かまってあげるなんて言っているけど、それがやけに嬉しくて、でも恥ずかしいからかっこつける僕。

 僕と本音の距離は1年間空いても変わっていないようだった。

 いつまでも、変わらないのだろうか。

 てかほんとにおっぱい大きいなこの子。一応簪を探して歩き回っているけれど、後ろから伝わる暖かい感触に気が気ではない。僕も本音も今年で数えで16歳。心も、無論体も大人になってきているので、昔のようにじゃれつかれると、いろいろと問題がある気がするのだけど――

 ぎゅむ。

 頬を抓られた。

「……やらしいこと考えたでしょ」

「……そんなことないよ」

 低めの声を出す本音に、努めて冷静な声で返す。

 女の子って、変に勘が良いから困る。本音と一緒にいて考えていたことをあてられなかったことがない。もしかして僕って分かりやすいのだろうか。

「ほんとに?」

 僕の回答に納得いかなかったらしく、追撃してくる本音。「ほんとにほんとだよ」と返すと、「んー、そっか」と言って僕の頭に顔をすりすりし始めた。

 

「ただ、本音のおっぱい大きなーって」

「も、もー!」

 

 

 




今回から、ちょっと後書きにて補足をば

『みんなの関係』
→後々わかります。今でもわかる、のかな。

『刀奈さんと主人公』
→襲われたり押し倒されたり。

『相川さん』
→これから先、出番が割と多い。(予定)

『許婚』
→現時点で分かってる方も多くいらっしゃるとは思いますが、この章は(主要人物は)一話一人形式でスポットライトを当てていく感じです。相川さんを筆頭にモブの方々は、ちょっと長めの一話に収めようかなあ、なんて考えていたり。ちなみに、この許婚設定、割とがばがばで、この先生かされることはあまりない、かも。

『ほーきちゃん』
→おとなしめの大和撫子。

『本音ちゃんは美少女』
→ISで一番かわいいのってのほほんさんだよね。

『おっぱい』
→主人公のおっぱいへの情熱と作者のおっぱいへの執念により、言及する機会が増える。確実に。

『作者の無計画』
→ゆえに、今後の計画はほとんど未定。おっぱいは確定。

14/6/10
感想で指摘のあった場所を含め、細々と修正
精進せねば


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ワイドダブルのベッド

4話目です。
頑張ります。


 ここで、更識簪に関する詳細な情報を開示しよう。

 更識簪。性別女。髪、水色。光に反射して輝くその様を見ると、クリアブルーシルバーと形容してもいいかもしれない。性格は極めて内向的。緩くカーブのかかった髪型と、眼鏡の奥の垂れ下がった瞳が気の弱さを表現しているように見える。人見知りのきらいがあり、初対面の人物に心を開くなどもってのほか。そもそも身内とそれ以外とで口調も語気も態度も違う。

 《更識家》次女。僕とは数十分の差で誕生したため、所謂僕の双子の妹に当たる。破天荒かつ大胆な姉と、大概の場合において考えなしの僕と、この二人の傍で育ったからか、堅実で慎重な意見を持ち、確実な選択肢を選ぶことが多々ある。つくづく共通点のないキョウダイだ。

 といった感じで記号的な特徴を並べたところであのいろいろな意味で難しい簪を表現できるなどとは微塵も思っていない。

 百聞は一見にしかず。である。

 

 

 

 

 

 思ったより早く簪は見つかった、らしい。らしいというのは、放浪癖を持つあの妹を見つけることなど至難の業だと経験則から判断した僕は、放課後に簪に遭遇(エンカウント)するために、一夏・ほーきちゃん・僕で三手に分かれて捜索を開始した。幾分か改善されたとはいえ、簪の放浪癖はそれはもう筋金入りのもので、『ちょっと散歩に言ってくる』なんて言って引き留めることが出来なかった日には、そのまま一ヶ月は簪の姿を見ることはなかった、なんて時期まであったくらいだ。

 今では些か改善された放浪癖で、おそらくこの学園から出ることはまずないのだろうけど、ふわりふわりと僕らの手のひらからすり抜けるように移動を続ける簪を見つけるのには苦労するだろう。最悪、今日は見つからないかもしれない、とまで考えていたが、ほーきちゃんが偶然簪を補足したらしい。グッジョブ、ほーきちゃん。

 カフェスペース(そんなものまであるのかこの学園は)で待っている、とのことなので、未だに背中に引っ付いたままの本音とそのぬくもりと共に、カフェスペースに向かった。

 カフェスペースに入り視界内に簪を補足するや否や本音はぴょんと僕の背中から飛び降りて「かんちゃーん!」と抱きつきに行った。黙って鬱陶しそうな顔をして本音からの愛撫を享受していたが、僕にはわかる。あれはかなり喜んでいる。表情こそ無愛想そのものだが、拒絶しないところを見ると、本音に構われるのが嬉しくてたまらない、と言ったところか。さすがに仲が良い主従コンビだ。本音はほとんど仕事してないけど。

 僕の思考を読み取ったのか、簪が僕を睨んでくる。はいはい、そんなに照れるな妹よ。

 とりあえず楽しんでいる二人は放置して、周りを見渡す。簪を確保したほーきちゃんはいるが、一夏がいないし、ついでに人もほとんどいない。連絡を受け取ったのがカフェスペースから割と遠く、かつ本音を背負っていたのでずいぶんとゆっくりここに着いたはずだったんだけど……何をしているのだろうか。

「大方、女生徒にでも捕まっているのだろう。一夏は優しいからな、声をかけられると無視できない」

 ほーきちゃんが言う。その声には待たされて少しイラついている雰囲気と、それ以上にやさしい一夏に対する自信のようなものがみて取れた。昔なら「軟弱者!」と言って問答無用で竹刀を振っていただろうほーきちゃんも、今は大人な女性になっているようだった。ほーきちゃんは正妻ポジ。これは決定事項。

「……それで、用事ってなに」

 私服姿の簪が言う。なんてことはない白が下地のTシャツに、制服を模したような明るい色のチェックのスカート。こう言ってしまっては何だけど、年頃の女の子らしいオシャレ感0(ゼロ)の服装だった。特筆すべきは、そのTシャツ。『見敵必殺』と達筆な字体ででかでかと書かれていた。物騒である。

「ちょっと待って――って、来たか」

 そしてちょうど、一夏が到着する。

 何やら疲れたようで、汗をかいている一夏。その服装は私服でラフなものだが、見るともみくちゃにされたような感じにも見える。

「いやー、悪い。よく分かんないけどいろんな人に絡まれてさ」

 本気で困ったように言う一夏。

 このIS学園では『いろんな人=全員女子』なので、羨まし事この上ない。それを本気で困っているとは、一夏、お前にはいつか天罰が下るだろう。僕だってできることならそんな風にモテ――おっと、なんでもない。なんでもないよ本音。だからそんなに睨まないで。

「ふむ、そうだな一夏。首輪なんてどうだ」

「は? なにがだ箒?」

「だから、そんな風に絡まれたくないなら首輪をつけようと言っているんだ。『私は犬です。ご主人様以外にはなびきません』と書かれた首輪を、な?」

「な? じゃねーよ。誰が付けるかそんなもの」

「ほら、ここに偶然それがあるのだが、な?」

「計画的犯行だろお前!」

「冗談だ。そんな怖い顔をするな」

 一夏が立ち上がり、箒から距離を取る。いつも通りの夫婦漫才だ。ちなみに、首輪を取り出した瞬間のほーきちゃんの野鳥のような鋭い眼光を僕はきっと忘れることはない。彼女はいつか必ず一夏に首輪をつける。

 そんな二人を見て、漫才見せられるなら帰るけど……、と簪が呆れた顔をする。ああ、悪い、と一夏が手近な席に座り話し始める。

「簪にお願いがあるんだけどな――」

「試合のことを手伝ってっていうんなら、嫌」

「ぐはっ」

 撃沈だった。

 一も二もないようなきっぱりとした拒絶だった。

 思いの外ショックを受けて倒れた一夏の代わりに、本音が簪に聞く。

「かんちゃん、なんでー?」

「面倒だし、私に得がない」

 更識簪は、こういう人間だ。不真面目、態度不良。そんな風に悪く言えばきりのない性格をこの妹はしている。慎重で堅実なその意識は確実に内々に向いており、損得の感情が年齢にしてはシビアだ。他人に流されない、と兄である僕としては擁護したいところではあるけれど、それ以上にこの簪は自由だ。なまじ賢く、なまじ実力があるだけに、簪のことを止められる外部の人はいない。

 さらに、猫を被っているのも問題だ。3つの顔を持つ簪。一番辛辣なのが今の簪なのだけど、それだけ気を許してくれている――と判断するには少し時間がかかるほど、辛辣だ。

 辛辣で、自由。説得には当たりたくない性格だ。

「得ならあるぞ!」と簪に反論するように起き上がる一夏。「ほら、教えることは自分の確認になるって言うだろ? 俺とセンに教えることで、俺たちは技術が上がる。簪は自分の確認ができる。ほら、どうだ」

「初心者の中の初心者に教えることくらい確認するまでもなく出来なきゃ代表候補生は務まらない。却下」

「ぐふっ」

 二度目の撃沈だった。

 簪のにべもないという態度に、今度はほーきちゃんが説得にあたる。

「簪。昔の好というやつで受けてはくれないのか?」

「んー、それでもやっぱり、私に得がない。初心者に教えるだけならともかく、最悪外交問題に発展しそうなものだから、リスクが大きすぎる」

 なるほど、と頷きたい意見だった。ほーきちゃんも納得したように目を閉じて腕を組んだ。

 相手はイギリス代表候補生。一夏が日本人だから、日本の代表候補生である簪に頼んだらいいのじゃないかと思ったが、そう簡単ではないらしい。きっと、『織斑一夏とセシリア・オルコットの試合』という側面と『イギリス対日本』という側面を、うまく使いこなされることへの怪訝だろう。正直ずるいというか、やりかたがこすいが、そんなものなのかもしれない。

 自分の評価は他人が決める。盛大なブーメランだったか。

「なら、仕方ないか」

 僕は立ち上がる。

 簪側の事情を少なからず理解してしまったから、これ以上の深い説得はできないだろうと諦めようとしたのだけど――「待って」と簪に腕を掴まれた。

「協力してあげるのに、条件がある」

「え、だって今お前」

「だから、それなりの条件を提示させてもらうよ。嫌なら交渉は決裂」

 簪の言葉に僕は座り直す。下手すると自分の立場が危うくなるかもしれないというのに、協力してくれるらしい。妹が優しい子に育ってお兄ちゃんは感激です。

「条件は二つ。これは、二人に関すること」 

 そう言って簪は人差し指を立てて、うなだれている一夏と僕を順に指さした。

「必ず勝つこと。もしくは、誰が見ても善戦したと言えるような試合をすること。無論、そのレベルまで私が引き上げるけど」

 とのこと。まあ、男としてはこんな風に発破をかけられると燃えるものだけど、残された時間と相手との戦力差を考えると、そう単純にも受け取れない条件だった。そもそも時間があったところで、代表候補生に善戦以上を出来るのは代表候補生以上なので、どちらにしろ厳しい条件だ。

 簪の言葉に、一夏は難しそうな表情で頷く。

「二つ目」

 今度は、僕だけを指さす。

「二つ目の条件は――」

 

 

 

 

 

 僕は自室が鬼門なのだと言ったが、その言葉は寸分違わず正確であって、事実であって、針の筵状態の僕や一夏にとって安らげるはずの自室が、なぜこうも僕を苛めるのだろうと、疑問に思えて仕方がない。

 放課後、と言っても確かに現在も放課後と言えば放課後なんだけど、現時刻は7時ジャストになろうかというところ。簪と協力を要請したのがほとんど終業と変わらない時刻だったため、あれから大体3時間ほど経過している。

 IS学園に来て三日目だ。初日はなぜか部外者であるはずのクロエが自室で僕が入るより先に待機しており、二日目は姉さんが全裸待機しており、そして今だ。前日までの事件と違うのは、今日は誰がこの部屋の中で待っているのかを僕が把握していること。僕がそうなるように依頼した、のだ。僕が。他人に教唆されてはいるけれど。この事実が僕に現実から逃避させることを妨げている。

 以下、回想。

 

「えっと、姉さん?」

「ん? なにかしらセン君。何かお願いがあるって聞いたけど」

「そうなんだけど……」

「なんでも言ってみなさい。お姉ちゃんが9割9分9厘のお願い事を何としても叶えてあげるわ。《更識》の名誉をかけて」

「そ、そっか……こほん。お姉ちゃん」

「……お、お姉ちゃん?」

「お姉ちゃんにお願いがあってここまで来たの。あのね、僕、どうしても簪と同室になりたいんだ。できる……かな?」

「お姉ちゃん呼びの真意はさて置いて――簪ちゃんと同室になりたいのね? できないことはないけど、えっと、理由を聞いてもいいかしら」

「うん、あのね。この学校って女の人がいっぱいだから、アウェー感が半端なくて、心細いんだ。だから、なんだけど……」

「なるほどね……ん? 待って。それだったらお姉ちゃんと同じ部屋でもいいんじゃない? ほら、お姉ちゃんならセン君と一緒にお風呂入ってあげられるし、一緒の布団で寝てあげることもできるわよ? 私と同じ部屋のほうがいい気がするわよね? うん、そんな気しかしないわ」

「なんていうか、お姉ちゃんは、僕の憧れだから。だから、近くにいるというよりはお姉ちゃんの背中を追いかけたいんだ。って話を前簪と――」

「分かったわ! 今日このときたった今からセン君と簪ちゃんが同じ部屋で過ごせるようにいろいろと手回ししてくるわね! セン君! 仕事をしていてかっこいいお姉ちゃんの姿見ててね!」

 

 以上、回想。姉さんがちょろすぎる。弟として心配だ。

 これが事の顛末である。簪の提示した時二つ目の条件は言うなれば単純で、だからこそ難解だった。

 簪が口にした言葉を一字一句違わず書き記すと、『更識兄妹が寮で同室になれるように、生徒会長に掛け合うこと。その時に、必ず甘えた口調で「お姉ちゃん」という語句を用いて、その一部始終をこのボイスレコーダーに記録して私に渡すこと』。正直なところ、こいつ何言ってんだと思わなくもなかったが、簡単そうな条件だと思ったので承諾してしまった。要は姉さんに僕と簪を同室にしろと頼みに行けとそういうことなんだろうと、単純化して咀嚼してしまった。

 この結果が上記の通りである。後半は僕も興が乗ってきて、姉さんを持ち上げることが楽しくなってきていた――なんてのは秘密だ。しかも、今手に持っている、会話の一部始終を録音したボイスレコーダーを提出しなきゃいけないらしい。生き恥だ。というか、そんなに同じ部屋が良かったのなら素直に言えよと思わないこともない。

 すべて終わった後に、これを僕がやらなければならない道理はないことに気付いた。一夏に押し付ければよかったか。くそ。

 ま、とにかくこれでいいのだろう。自室前についた僕はカードキーを差し込む前に一つため息を吐いた。

「ただいまー」

 昨日までなら確実に返事の返ってこない言葉に、おかえりーとやる気のないような返事があった。声から判断するまでもなく簪だろう。

「おつかれさまー。あれ、その辺に置いといて」

 部屋の中まで入り、ベッドに横たわりながら雑誌のようなものを読んでいる簪の姿を確認する。あれ、とは言わずもがな僕の痴態(声だけど)の入ったボイスレコーダーだろう。これを渡したくない気持ちは山々あるが、まあ約束なので仕方ないとする。

 ベッドのそばにあるサイドテーブルにボイスレコーダーを置き、僕に一瞥もくれない簪に手近にあったクッションを投げつける。僕の腕から離れ水平投射の軌道をとったクッション――(´・ω・`)の顔文字が縫われているやつ――は見事簪にヒットした。

「なんだよー」

 体に当たったクッションを僕に投げ返してくる。読んでいた雑誌に暇つぶし以上の意味はなかったのか、寝転がったまま仰向けがちになって僕の方に顔を向けた。

「そんなだらしない格好してないで、この状況を説明しろ。そして、女の子としてその格好はどうなんだ」

「だらしなくないでしょ。これ」

 そう言って自身の格好を見る。

 その姿、下着。上下白で揃えられたブラとパンツだけを身にまとった妹の姿である。

 下着、真っ白。今時珍しいんじゃないか、これ。

「女の子に幻想抱きすぎなんだよねー」

「そんなことはないぞ」僕はすぐさま反論する。「というか、そういうことじゃないよ。間違ってもそんな姿で出歩くなよ」

「そんなことするわけないでしょ。お姉ちゃんじゃないんだし」

 呆れた顔で僕を見る簪の言葉に、確かになと納得――してしまいかけたけど、身内に一人痴女がいることを僕は簡単には認めたくはなかった。いや、流石に姉さんでも下着姿で公衆の面前を闊歩するなんて、しないか。

 ――とも、言い切れないなあ。

「あー、話が逸れた。この状況は何だと聞いてるんだ愚妹」

「この状況って何よ駄兄。部屋ならまだ綺麗でしょ。一週間後には汚くする自信あるけど」

「そんな自信持ってもらっても困る」

 投げ捨ててしまえ、そんなもの。

 とは言いつつ、既に室内には簪の私物が複数散乱している。脱いだ制服と、室内着と思しき衣類だ。脱いだなら畳め、着ようと思ったなら着ろ。

 なんて小言、去年一年間の間に言い飽きてしまったほどだし、簪も聞き飽きていることだろう。

 簪は思ったより、思った以上にだらしない。気弱そうに見える瞳と幸薄く儚げに見える雰囲気を纏っているのは、フェイクだ。掃除片付けの出来ない女、それが更識簪というものだ。

 しかし、料理だけはできる。それはもううまい。うまいしおいしい。そこら辺のプロ(そこら辺にプロがいるのかという疑問は受け付けない)より格段にうまい腕を持っているのだけど、いかんせんずぼらでやる気がないので、振る舞われる回数はそう多くない。なんでそんな性格で料理ができるのかと、雑さと料理の腕は関係ないのだろうか。

 今でこそ主夫とまで言われる我が親友織斑一夏なのだけど――その原点は簪にある。小学校のいつだったか覚えていないが、簪に料理を作ってもらった一夏は、衝撃を受けたらしい。当時先進的シスコン軍曹であった彼は決意した。こんな料理を自分の姉にも振る舞ってあげなければ、と。加えて、簪の部屋に立ち入り魔窟と呼ばれるそれを発見した一夏はまた決意した。こうはならんぞ、と。言ってしまうと、今の一夏の家庭スキル満載っぷりは全て簪に起因するものなのだった。良くも悪くも。

「お前の来た服くらいは僕が片してやるから、せめて下着は自分で管理しろよ」

 下着。下着。白の下着。

 簪の部屋に下着が散らばっているなんて日常茶飯事だ。今は僕の部屋でもあるのでどうにかして欲しいところではある。けど、期待はしない。無駄だから。

「なんでよー。下着も一緒に片付けてくれれば――あ、わかった」他力本願な言葉を吐いた簪は、にやにやとこちらに詰め寄る。「興奮しちゃうんでしょ。妹の下着で興奮しちゃうんでしょ。いやー姉も兄も変態な私はどうすればいいんだろーなー」

 さらりとここにいない姉さんも変態扱いされている。事実だけど。

「欲情するわけないだろうが。もっとスタイルよくなってから出直せ」

「今死にたいって聞こえたんだけど、気のせい?」

「気のせいだ。僕は妹の起伏のない体型を神に嘆いただけだからね」

「この兄死ねばいいのに」

 さらりと死を願われた。酷い妹だ。

 じゃなくて、じゃないよ。そんなもうどうしようもない簪のスタイルについて言及している暇なんかないんだよ。

 と言ったところでそろそろ簪の視線が僕を射殺せそうなほどまでにはきつくなってきたので、今度こそは脱線しないうちに問う。

「ベッドの話をしたかったんだよ。昨日までこのベッドじゃなかったよな? もっと言えば、つい数時間前までこの部屋には簡素なシングルベッドが二つのみ、だった気がするのだけど」

 先ほどから簪の寝転がっているベッドを見やる。大きかった。少なくともこの部屋に備え付けられていたベッドではなく、なんだろうこの大きさは。俗に言うセミダブル、なのだろうか。寝具に対して造詣の深くない僕にはよく分からなかったけれど、とりあえず大きかった。

 大きいベッドが、それも僕と簪に寄り添って寝てくださいねとでも言わんばかりに、一つのみ置かれていた。

「正確にはワイドダブルだね」簪が言う。「家で使ってたやつがダブルベッドのロングサイズだから、幅があれよりも15.4cm長くて、縦が10cm短い。幅に関しては広くなってるから問題ないけど、縦もまあ、問題ないよね」

 説明口調というか、すらすらとサイズの差まで出てくる簪はどうやらベッドのサイズに一家言あるようだった。そういえばこいつは小さいころから睡眠に重きを置いていたか。

 ちなみに、たった数センチでも眠り心地には歴然たる差が生まれる――というのがいつだか販売員のお姉さんから聞いた話なのだけど、確かに簪の言うとおり実家で使っているベッドは縦幅が余り気味だったので、足がはみ出なければ別に問題は――

「いや、そうじゃねえだろ」自分に言い聞かせるように言った。簪は不思議な目で見ている。「なんでこの部屋にはベッドが一つしかないんだ。これをやった犯人――というか実行犯は見当がついてるからいいけど」

 どうせ姉さんだし、という言葉は飲み込んだ。

「てかなんだ、僕は床で寝ろということか?」「え? 一緒に寝るんでしょ?」

 僕が少々雑に投げた質問は、多少のタイムラグもなく打ち返された。

 こんな気はしていたのだけど、と僕は内心でため息を吐く。この学園に来てからため息ばかりだなあ。本当にため息一つで幸せが逃げていくなら、今頃僕から逃げて行った幸福で億万長者が量産されていることだろう。

 誤解を恐れずに言うなら、僕は簪と寝たことがある。――って言うといかがわしく聞こえるけれどそうではなく、単純に添い寝をしたことがあるという意味だ。

 実家では言うまでもなく、家が無駄にだだっ広く部屋も多数余っていたこともあり、思春期で多感な僕たちには自室が与えられていた。のだけど、ズボラ・オブ・ズボラな簪の部屋はほとんどが物置と化していて、一方私物をほとんど持たない僕の部屋は小奇麗としすぎて生活感のない部屋になってしまっていて、寝るだけの部屋だった。それを埋めるためにさっき簪の言っていたダブルベッドのロングサイズとやらを部屋にポン、と置いてみたのだけど、逆に空しさが募った。

 『部屋が汚すぎて寝れない』と『寝るだけの部屋』がうまいこと重なった結果、簪は僕の部屋を寝室として使い始めるようになった、という訳である。そろそろ思春期だからという理由で部屋を与えられたのが小学5年生にもなろうかというとき、簪が僕の部屋で寝泊まりするようになったのがその一週間後のことだった。いつだかこのことを簪は「利害の一致だよ」なんて言っていたけど、僕に利があるのか未だに悩む。

 今まで散々一緒に寝ていたのだし、特に思うところはないのだけど、ここは寮。ついさっき他人に評価されるということを改めて実感したばかりなので、多くの他人の眼がある学生寮(ここ)で実家と同じように振る舞うのは、些か抵抗があった。

「じゃあ床で寝る?」

 挑発的な笑みを浮かべる簪。

 普段なら頷いていたところだけど、流石に心身ともに疲労の蓄積するIS学園(ここ)での生活で、睡眠を疎かにはしたくなかった。

 だから。

「まあ、いいか」

 簪と寝ることを決めた僕だった。

 これは決して妹に甘いわけではなく僕自身の健康を損なわないための必要措置である、とここに強く明記しておく。




『クリアブルーシルバー』
→そんな色あるのか知らない。キラキラ輝いている髪、程度の認識。

『堅実で慎重で確実性を重視する態度不良で不真面目な簪ちゃん』
→一次・二次・三次……に関わらず物語の登場人物というのはその性格なり所作に統一性があるものですが、現実にはそうそうそんな人なんかいないと思っています。だからこの簪ちゃんに限らずこの話の登場人物には、キャラ立てというか、確立された芯のようなものが見えないかもしれませんが、それはリアルさを追求しているということにしてもらえませんかね(震え声)。

『カフェスペース』
→そんなものあるんですかね。

『簪ちゃんのTシャツ』
→刀奈さんで言うところの扇子ポジション。書いてある文字は基本的に物騒か辛辣。

『二人のお部屋』
→物語の展開としては少しどころか大いに無理矢理感がありますが、一応意味があります。

『ボイスレコーダー』
→ネットオークションで『たっちゃん』という名の人に高額で落札された模様。

『ベッド』
→染○家具店様(名前を出していいのかわからなかったので伏字で)のホームページによりますと、ダブルベッドのロングサイズが、幅1400mm×長さ2050mm。ワイドダブルのベッドが幅1540mm×1950mm。だそうで。

『主夫一夏君』
→全部簪ちゃんのせい。

『展開の遅さ』
→遅いです。意図的に遅くしております。セッシー戦まであと最短で4話最長で6話といったところかもしれないです。テーマは『これをISでやる必要はあったのか』です。


14/6/17
細々と気になったところの修正


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相川清香

まだ続くようです。



 翌日。

 久しぶりに簪と寝たのでどうにも深く眠りに入ることが出来ず早くに目が覚めた僕は少しだけ早く登校した。食堂の開いている時間と合わず朝食を摂っていないけれど、まあ問題ないだろう。朝に弱いのだ、僕は。

 教室の前よりの扉をくぐるとそこから一番近い席――今は教室の後ろから見て右前から順に出席番号順に並んでいるので一番の人、つまりは相川嬢がいるのが確認できた。

「あ、おはよう更識君」

「おはよう相川嬢」

 自分のことは棚に上げておいて、なぜこんなに早く彼女が来ているのか不思議でならない。食堂が開いてすらいないのだから、彼女も何も食べていないのか、自分で作ったのか。見ると、彼女の机には参考書が広げられていた。ということはこんな朝早くから来て自習か。なんともまあ、勤勉なことだなあと他人事ながらに思う。

 相川清香。

 確かそう、自己紹介の時には運動が好きだとか言っていた気がする。短くそろえられた髪、快活そうな笑顔。軽そうなフットワークを見る限り、確かに彼女は運動が好きでかつ得意なのだろう。

 運動が得意な場合、よくありがちなパターンは勉強が苦手というものだが、早朝から自習する気概を見る限りそうでもなさそうだ。苦手だから自習しているということも考えられるが、少なくとも勉強に意識を傾けることが出来る少女だ、ということだ。

 もっとも、IS学園(ここ)に入学している時点で並み以上の文武両道であることは確実なのだけど。

 邪魔しては悪いととっとと自分の席に引っ込もうとしたが、相川嬢に呼び止められた。

「更識君早いね。いつもは織斑君と一緒に来てるのに、どうしたの?」

「どうしたのってことはないんだけど」机(席は一夏の左隣、教卓から見て目の前の右側だ)に鞄を置きつつ答える。「ちょっと目が覚めちゃってね。やることもないし、来ちゃおうかなって。相川嬢は自習みたいだね」

 机の上の参考書を指して言うと、少し照れたように相川嬢は笑った。

「私って運動が好きで、そんで勉強があんまり好きじゃないからさ。みんなに置いてかれないようにしなきゃなーって」

「なるほど。偉いね」

「偉くないよ。いろいろと必死だし」

 また照れたように言う。

「いや、偉いと思うよ。がんばれるのはどうにも埋めようがない才能の一種だからね。少なくともどっかのバカ(いちか)よりは、格段に偉い」

「あー……」僕の言葉に苦笑する。「まあ、織斑君はね。仕方ないよ。更識君もだけど、今までISとあんまり関わりなかったんでしょ?」

 それでも参考書を捨てるのはどうかと思うけど、社交辞令のようにフォローする彼女の顔にはそう書いてあるのがありありと読み取れた。

 僕も表紙に赤字ででかでかと『必読』と書かれたものを捨てる奴を庇う言葉は見当たらない。

「――あー……、勉強の邪魔、かな? ごめんね」

 僕と会話していることにより相川嬢の自習が進んでいない。まあそれは僕がここに来なければ起こらなかった事態な訳で。

 そう言うと、相川嬢はぶんぶんと大袈裟に手を振った。

「いやいや、そんなことないって! あんまり進んでなかったし、更識君とも仲良くなりたいし!」

 これもまた社交辞令なのかもしれないけれど――まあ彼女の気遣いを無駄にするわけにもいかないので、もう少し談笑していることにした。こんな環境ではあるのでどうしても女の子の友達を作っておかないとやっていけない気がするから。

「そういえばさ、あれ知ってる?」相川さんが言う。「IS学園にもあるんだって、七不思議!」

「七不思議?」

「七不思議!」

 七不思議、らしい。唐突な話題だった。

 七不思議と言えば、あれか。学校の怪談の定番で音楽室のピアノがひとりでに鳴るとか、登りと下りで段数の違う階段とか、そんなやつ。決まって七つ目は『七つ知ると不幸なことが起こる』とか言う、矛盾したあれ。

 たった今僕たちのいるここIS学園は大学と院を含んだ、確かに世間一般で言うところの高校に相当する学術機関であり、どうもその特殊性故に僕が想像していた雰囲気とは違うところが多かったのだけど、こういうところは思春期の少年少女らしいというか、一般的であったらしい。

 かくいう目の前の相川嬢も目を輝かせて軽度に興奮しているあたり、こういう『高校らしい』ことに興味ありありのようだ。

「昨日知り合いに聞いたんだけど――22個あるんだって! 七不思議!」

「え、待って。待って待って」

 一瞬理解できなかった。

 22個の七不思議。それ自体がもう不思議な気がするのだけど。

「22個って……それ七不思議って言えるの?」

「んー……そっか、そだよね。じゃあ二十二不思議だ」

 相川嬢は難しいことは考えない性格らしかった。

「例えば、どんなのがあるの?」

 七不思議と言えば、その名の通り不思議であれば条件を満たすのだけど、どうにもその実必ずと言っていいほど怖い話になりがちだ。

 不思議であればこそ七不思議なのに、怖ければその仲間入りできるというあたりむしろ怖さを感じない。これはどうなんだろうか、人間は不思議やら未知を無意識化で恐怖に分類するという心理学に結びつくような話なのかもしれない。ねーな。

「例えばかあ……」相川嬢は考えるそぶりをする。「あ、こんなのがあるよ。『夜の校舎をひとりでに疾走する――」

 ひとりでに疾走する――とくるとありがちなところだと人体模型なんかが有名か。ちなみにIS学園(ここ)の人体模型はそれはそれはリアルなもので、本当にあれが疾走してるとしたらそこらのホラー映画など目ではない代物だ。

「――i○hone』」

「iPh○ne!?」

 想像の斜め上だった!

 少し情報の整理に時間のいる僕を後目に、相川嬢は嬉々として語る。

「ある日とある女子生徒が忘れ物をしたって言って、先生に無理言って夜中に校舎を開けてもらったんだって。非常灯の明かりしか点いてないなか、誰もいない校舎に不気味さを感じながら借りた教室の鍵を使って無事に忘れ物を回収したのはいいんだけど、廊下の先に光って浮いているものが。それが――」

「○Phone?」

「――うん。どう考えても浮いているのが不自然で怖くなって走って逃げだしたの。そしたら、後ろからなにか音が迫ってくる。怖いけど、確認できない。だんだん音が近づいてきて、はっきりと聞こえる位置にまで来たら、こう言ってたんだって『なぜ私から逃げるのですか?』『私にはそれが理解できません』『なぜ私を捨てたのですか?』『私にはそれが理解できません』って」

 はい、こんな話、と相川嬢は満足げに言う。

「え。あれ。オチは?」

「ないんじゃない? あるのかもしれないけど、少なくとも私は知らない」

 なんだそりゃ、そう言いたくなったが、相川嬢がこの話の発端であるわけでもないので、呑みこんだ。

 それにしてもまあ、怪談なんてこんなものなのだろうか。そもそも、忘れ物をした生徒に教師が付き添わない時点でおかしいし、なんだiPhon○って。

 やはり細かいことを考えない性格の相川嬢は話し終えたことでとてもとても満足げだ。ミーハーとも言うべきか。

「それでそれで、更識君にお願いがあるんだけど」

 ずい、と身を乗り出す相川嬢。今僕は相川嬢の後ろの席を借りて座っているのだけど、彼女が身を乗り出し僕との距離が近づいたおかげで、なんとも言い知れぬ甘い香りが僕の鼻腔をくすぐった。

「お願いって?」

 不意の出来事に心臓が跳ねたことを隠すように、僕は少し身を引きつつ問い返す。

 日頃から疑問に思うことを一つ。なんであんなに女の子っていい匂いがするのだろう。本音とかもそうだけど、シャンプーとか使っている石鹸の匂いなのか本人の体臭なのか分からないけれど、甘い、いつまでもかぎたくなるようなにおいを持っているような気がする。種としての本能なのかもなんて思ったりするけれどそれじゃあ味気ないよね。

 相川嬢はにい、と笑う。

「部活を、作りたいんだ」

 

 

 

 

 

 IS学園の他の高校との相違点は部活動にも表れる。

 さすがに授業や実習一辺倒では年頃の少女たちの迸るリビドーを抑えることはできない、ということで部の設立及び活動が容認されている。けれどIS学園にある部活動はいわゆる公式試合に参加することはない。できない。それを認めてしまうと部活に青春をささげるような人が出てきてしまうという学園側の危惧が見て取れるけど、そんな人はそもそも受験したりしないんじゃないかなあ、なんて思ったり。

 そんな背景がある中、いつだかパンフレットで見た情報によると、IS学園の部活動は往々にしてレベルが高いらしい。確かに言われたら納得する情報で、IS学園(ここ)に世界中からは同年代の中で勉学・ISへの知識・運動能力の秀でた者たちが集まりに集まる訳だから、それはレベルも必然的に上がるのだろう。

 その一方で、公式試合不参加というのはその決まりの出来た下地から考えられないような自由を生んでいた。結果を出せない出さなくてもいいというのはつまり、部活動においてどうしても付き纏う義務感を排除するものだった。とにかくIS学園にはお金が集まることも手伝って、部活動の数はそれはもう多いそうな。その中でまともに活動しているものの数なんてたかが知れているのだけど。

「部活は厳しいから同好会ってことにしとくね。とりあえず今のところメンバーは私と更識君だけ」

 放課後。珍しく何もなく授業を終え、珍しく部屋に帰っても何もなかった平和をかみしめていたところに、相川嬢が突貫してきた。ちなみに簪は徘徊中。捕まえられない場所に行ってしまってない事を願うばかりだ。

 ノックに応えて扉を開けるやいなや相川嬢は僕を部屋に押し込んで一枚の紙を僕に見せた。

「部活動設立についての諸条件……?」

「うん。今これ生徒会室に行ってもらってきたんだけど。どうにもいろいろと面倒らしいんだよね。人数とか経験者とか顧問とか。それに対して同好会なら部費が出るわけでもないし文化祭とかの集団での参加資格はあるけど、要は勝手にやってねって話だったからそっちの方がいいかなって」

「ちょ、ちょっと待って」

 生き生きとした様子でぺらぺらと口を動かす相川嬢を制止する。

「僕もその同好会とやらに入るの?」

「入らない訳があるだろうか」

 反語で返された。

 こういっては何だけど、確かに相川嬢の名前は知っていたし会話もほんの少しとはいえしたけれど、正直なところまともに話したのは今日が初めてな訳で、まあ嫌ではないんだけど素直に首を縦に振り辛いというか。

 というと、快活な笑顔で相川嬢は答えた。

「んー、大丈夫だよ。更識君優しそうだし、その実外道そうなところが好印象だから、大丈夫」

 『外道そうなところが好印象』とはこれいかに。というか僕って外道そうに見えるのか。好印象って言われても全然嬉しくないぞ。僕の疑問を差し置いて相川嬢は続ける。

「それにほら、部活ぐらいやっとかないと暗い青春になっちゃうよ? こう言っちゃあなんだけど、存在が珍しい更識君の将来なんて明るいかどうかも分からないし、ここでぱーっと年頃の少年少女らしく、ね?」

 本当に明け透けに、相川嬢は言った。

 僕とて、この後の自分の扱いなど分からないし、明るくもない未来が見えることも重々承知だ。承知で、進んでIS学園(こんなところ)に来たわけではないし、相川さんの言葉に納得というか、見ないように考えないようにしていた部分をズバリと言い当てられたような気分だ。まさにその通りかもしれない。

 傷口をやすりで削って塩を塗りこまれたようだった。

 だからまあ。

 だからこそ。

 ここまでズバリと物を言える相川嬢とは仲良くなれそうだなと、ほんのちょっとだけ思ってしまった。

「はぁー……」

 期待するように僕の顔を見上げる相川嬢を目の前にして、これ見よがしにため息をついてみる。

「む」不服そうな顔をした。「その溜息はなにさ。こんな美少女と一緒に部活が出来るなんていい機会だと思わんかね!」

 自分から美少女って言うなよ――なんてツッコミはもはやマンネリ化してるきらいもあったので言わなかった。

「いやね、これから先相川嬢に振り回されるのかと思うとね」

「振り回すだなんて失れ――これから先?」

 ぽかんとする相川嬢に、僕は少しキザっぽく笑いながら手を差し出した。

「僕でよければ、よろしく」

 すると手を握り返すわけでもなく、ぽかんとした表情のまま僕の顔と手を何度も交互に見る相川嬢。

「……ほんとにいいの?」

「いや、別にいいんだったらこの話はなかったことに――」

「わーっ! ありがとうありがとうありがとうっ!」

 引っ込めようとした手をがしりと掴んでオーバーに何とも上下させる相川嬢を見て思わず苦笑が漏れる。

 少し、少しだけ悔しいけれど。

 楽しくなりそうだなと、思ってしまった。

「本当にありがとう更識君!  そうだ! お礼にちゅーしてあげる! ちゅー」

「いいっ。それはいらない!」

 

 

 

 

 

 

 僕に抱きついてキスをしようとする相川嬢に『女の子とはいかに貞淑にあるべきか』という説教を小一時間程した。簪には「うるさい。古い」と幾度となくあしらわれたもので、あの姉さんにすら「ちょっと考え方が固いね」なんて言われてしまったものである。相川嬢も初めのうちは「そんなのいつの時代よ」みたいな目で僕のことを見ていたが、僕の並々ならぬ気迫に押されたのかちゃんと話を聞いてくれた。 

 現在僕のベッドに座っている相川嬢だが、説教の間ずっと正座だったこともあって涙目で僕を睨んでいる。

「ここで一つ。親睦を深めるべきだと私は思うの」

「親睦ったって……」だからそもそもまともに会話したのが今日が初めてでしょう、なんて僕の言葉に反論する。「それにしたって、だよ。二人しかいない同好会のメンバーなんだし、なんていうかもっと、性別を超えた友情! みたいなものが私は欲しい」

 欲しい、と言われても。

 僕の出した麦茶を相川嬢はあおり、続ける。

「いつも一緒にいる時間が増えて周りからは『お前ら付き合ってるの? むしろ付き合えよ』なんて言われるような、ゆるふわ日常系ラブコメみたいな関係が私は欲しい!」

 相川嬢は壊れてしまったようだった。と戯言として無視できればよかったのだけど、その瞳は至って真剣本気真面目。だからこそ余計心配になる光景だった。

「そういえば」一先ず相川嬢の願望は端にでも置いておくことにする。「何の部活――いや同好会なの? 内容を知らないんだけど」

「あ、この流れで私の聞かなかったことにするんだね――えっと、特に何かしらの特定の指向を持って活動するわけじゃないんだけど、あえて名前を付けるとするなら――《探索部》」

「《探索部》?」 

「そ、《探索部》――いや、まだ部じゃないから《探索同好会》か。さっきも言った通り別段目的がある訳じゃなくて、言ってしまえば私がそこそこ青春を楽しむためにやりたいってだけなんだけど」

 ぽてん、と後ろに寝転がるように倒れた。そこには僕が座っていて、距離と体勢の関係で僕が相川嬢を膝枕するような格好になった。――さっきから思うのだけど、相川嬢は少し無防備にもほどがある。それは僕を信頼しているというプラスな考え方もできるし、最悪相川嬢は僕に対するハニートラップ要員であるという可能性も否定できない。一つ言えることは、さっきまでの僕の説教はてんで意味を為していなかったということだ。

「頭重いんだけど」

「女の子が膝枕ねだってるんだからそれくらい我慢してよ――活動内容としては、朝話した七不思議もとい二十二不思議を追及するとか、この無駄に広いIS学園を探検するとか、そんな感じ。別にやらなくてもいいけど、私としては更識君と仲良くしたいしね」

 僕がすっと足を引くも、相川嬢はその動きに合わせてずるずるとベッドの上を這ってきた。気持ち悪かった。背を使って這う姿とか初めて見たし、それを上から観察したというのがまたもう。

 なるほどねー……、と相川嬢の説明に相槌にもならない相槌を打つ。

 なんとまあ、益にも害にもならないような部活であること。入るデメリットは感じないが、メリットもまるで感じない。

 けれど、それもまあいいかな、とは思う。僕は今高校生の癖にゆったりとした平穏な時間なんて送った記憶がほとんどないから、こういうのもたまには。

 それよりさー、と相川嬢が体を起こしてこちらを見る。

「私のことは清香って呼んでほしいわけよ」

「好感度が足りません」

「睾丸度?」

「なんだその奇妙な度合いは」

 はあ、とため息を吐いた僕に、相川嬢は朝の教室のように迫ってくる。今度は僕と相川嬢の間に机がないので、相当に接近している。

「真面目な話さ、呼び方から変えてみると仲良くなれるかなーってさ。私も君のこと名前で呼ぶから」

「名前で呼ぼうが呼ぶまいが関係ない気がするんだけど」

「これは私の気分の問題でもあるからさ――ほれほれ、まいねーむいず清香。せいっ」

「相川嬢」

「うがーっ!」

 少しからかってみると相川嬢は叫び声をあげてごろごろと僕のベッドの上で縦横無尽にのたくっていた。のたくっていたという表現が人間に当てはまるのが怪しいところだけど、確かに相川嬢はのたくっていた。

「てかさ、『相川嬢』なんて初めて呼ばれたっていうか、そもそも名前の後に“嬢”つけて呼ぶ人初めて見たっていうか」

「まあ、これは僕のアイデンティティだから」

 嘘である。こんな安っぽいアイデンティティ聞いたことがない。

 僕が呼吸をするように吐いた嘘に相川嬢は「ふーん」とだけ言って黙ってしまった。

「まあ、少しだけ譲歩して清香嬢って呼んであげてもいいかも」

「ほんとっ!?」

 僕の言葉に飛び上がる相川嬢――もとい清香嬢。

「うん。これから先そこそこ長い時間を共に過ごすんだしね。僕も仲良くしたいとは思うし」

「デレた……こんなに早くデレるなんて……。もしかして攻略難度低い……?」

 でれてません。そこまで行くには好感度が足りてません。

 そんな言葉を吐き出そうとしたのだけど、できなかった。どっ、という音と共に清香嬢が飛び掛かってきたからだ。

「デレたー! 嬉しいからちゅーしてあげよう! んーっ」

「だからそういうのはやめろと言ってるだろ!」

 懲りない清香嬢であった。

 ちなみに、ここに簪が帰ってきてまた一騒動あったのは別のお話。





『相川嬢/清香嬢』
→他のモブたちより多少、1.01倍(当社比)だけ優遇される立場のはずが、何やら一話まるまる使ってしまった。しかも同好会まで立ち上げてしまっている。今後の活躍に期待。

『iPho○e』
→そう、iPh○neならね。

『部活動/同好会』
→本当にこんな感じなのかはわからないです。ただ、インターハイとか大会とかはエリートが集まってきているIS学園無双になっちゃうんじゃないかなあと思ってこの設定にしました。原作で言及されていたかも覚えていない。そもそも前に読んだのいつだっけ。

『外道そうな主人公』
→私もそう思います。

『IS学園』
→原作で人工島って明言されていたようないなかったような。モノレールが走ってることも覚えている。しかしあとは覚えていないので、不快に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、うまいこと改変します。

『現場を目撃した簪ちゃん』
→正妻の圧倒的余裕。


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