才囚学園生徒、17人目の超高校級 (御簾障子)
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プロローグ:蘇る超高校級
原作で元々あった以外の恋愛要素は入れないようにしています。
未だ、何も無い。
音も、光も、無く、
自分の声も、自分の姿も、無く、
自分が誰なのか、未だ誰も知らない。
自分はーーーおれは、誰?
誰がおれなのか?
目を開ける。
未だ誰のものでもない、この瞳を。
自分という存在を見つけ出す為にーーー
これが、自分だ。
おれの名前は、
今ようやく、おれは自分を認識した。
・・・・・・はじめまして、自分。
この狂った物語の
いるはずのない人。
どうか、宜しく。
朦朧としていた自分が、何か箱のようなものから出て、最初に取った行動は・・・・・・、受け身を取ることだった。ガンッと音がして、胴が床に落ちる。咄嗟のことで完全には取れてはいなかったからか、なかなかな痛みが襲ってきた。だが不幸中の幸いで、頭は打っていない。
起き上がると、近くに硬そうなパイプテーブルがあった。もしもこれがもう少し近かったら、頭を打ちつけていただろうことに青ざめる。下手をしたら致命傷だ。
そのぞっとしない発見のおかげか、頭が冷えて、今の異様な状況に思考が追いついた。
ぐるりと見渡すと、ベッドと大型のテレビ、一人がけのソファー、先程のパイプテーブルにデスクと椅子。自分が入っていたのは、空っぽだが、クローゼットだったらしい。そしてスピーカーが異様に付いた、壁掛けモニター。最後のものを除けば、よくあるワンルーム。ただ、こんな部屋を自分は知らない。クローゼットで目覚めたというのもおかしい。
誘拐。その言葉が頭に浮かんだ。ドアに手を掛ける。音を出さないよう慎重に・・・・・・、動いた。ドアは開いているらしい。完全に開けはせず、動くことだけを確かめすぐ閉める。
深呼吸。頭の中で行動すべきことをまとめる。それから、
ガシャン! ガシャン・・・・・・ ガシャン・・・・・・
・・・・・・どうやら、一息つくには早すぎたようだった。重機が動くような音。ただ、キャタピラやタイヤにしては音のリズムがおかしい。しかもなんだか近づいてきているような気がする。自分はわざと半開きにしてあるクローゼットの隅で、必死に息を潜めた。
・・・・・・駆動音が、止まった。しかもどう考えてもドアの方向に。自分の体力や身体能力の低さは自覚している。だからこんな偽装をしたのだ。どんな相手だろうと、見つかったら最後。足が震えてきた。
「きゃあああ! 部屋がめちゃくちゃだわ! ・・・・・・しかももう出てっちゃってるのね。音がしてからすぐ来たのに。きっと風のように速いんだわ。どうすればいいの、アタイの担当なのに! お父ちゃんに叱られる前に急いで探さないとまずいわ!」
ガシャン、ガシャンと音を立てて、おそらく機械なのだろうものは去っていった。息を吐いて、ずるずるとしゃがみ込む。あっさり納得して騙されてくれたのを思うに、正直「錯乱していました」の偽装は要らなかったのかもしれない。パイプテーブル乱打で実は意外と息が切れていて腕が痛いので、それが無駄だったと思うと少し後悔が募る。
とりあえず、あの駆動音が完全に聞こえなくなってから外に出てみることにした。
アカマツ カエデ
「とりあえず、キサマラにはさっさと “本当の自分” を思い出してもらわないとね!」
私には訳がわからなかった。誘拐されたと思ったら、変な学校に居て、ロボットに追いかけられて、その中から動くヌイグルミが出てきて・・・・・・。その上、「封印された才能」「超高校級狩り」? 何を言われているの?
「おキャワたんにしてやるぜー!」
どうやったのかわからないけど、服装まで変わった。あのヌイグルミたちはなんなの? 私達は、何に巻き込まれているの? ・・・・・・これから、どうなるの?
「さて・・・次はお待ちかねの “記憶” やな」
「ヘルイェー! 覚悟しろよッ! この封印が解けたら “コロシアイの世界” だぜッ!」
コ、コロシアイ・・・? 物騒な単語に、私は理解をしたくない。パニックになっていく。
「・・・・・・ヒトリ、足リナイ」
その言葉がやけに響いた。さっきまで一言も喋らなかった、緑色のヌイグルミ・・・。確かモノダムとか言っていたような気がする、それの言葉。一人、足りない? それはどういう…。
「えー? 全員いるよー? ほら、いーち、にーい、・・・・・・えーっとね、今いるのは、全部で16人」
「・・・・・・足りんなあ」
「足りないぜ!」
「足りないわ!」
「・・・・・・」
シン、と体育館の空気が静まる。それは・・・・・・。
「16人じゃない・・・・・・? それにまだ、逃げ続けてる人が、いるってことっすか?」
「なら、助けを呼んでもらえるかもしれない…!」
さっき名乗っていた、天海くんと最原くんが言う。そうだ! まだ希望はある。
「でも変だよねー。オイラの担当は全員いるよー?」
「ミーが担当してたヤツラもだぜ!」
「ワイの担当もや」
「・・・・・・イルヨ」
「勿論アタイだって・・・・・・。あっ。・・・・・・すぴー。すぴー」
「またモノファニーやないかい!」
「お父ちゃん多分カンカンだぜ!」
「しゃーない、探しにいかなあかんから、早めに終わらせるで!」
ヌイグルミたちはお互いに言い合っている。この時間で、その人ができるだけ遠くまで行ければ・・・・・・!
「まあ、ここからは出られないから、大丈夫だと思うけどねー。
ゴホンゴホン。さぁ、 “思い出しライト” で “わんだふるな才能” を思い出して貰ったら・・・、今度こそ、“わんだふるな物語”の始まりだよー!」
「ばーいくまー!」
ここから出られないってどういうこと!? それを問いただそうとする前に、カラフルな懐中電灯を、ヌイグルミたちが私達に向ける。その光が私達を飲み込んで・・・・・・。私の意識は、そこで消えた。
ヒトウ アガタ
機械の駆動音が遠ざかって、この建物の外に出てみることにした。出入り口は一箇所しか無く、見つかる危険性が高かったが、他にどうしようもなかったため、やむなくそこを利用した。見つかることはなかったが、肝が冷えた。
だが、結局見つかろうが見つかるまいが違いないのかもしれない。外に出て見えたのは、ぐるりと円形の高い高い壁。圧迫するようにそびえるそれには、出入り口になりそうなものは見当たらなかった。その壁から、鳥籠さながら鉄筋のようなものが伸びている。あんなものを意味もなく設置するとは思えない。ならばおそらく上空にも何かしらあるのだろう。
それにしても広い。機械の音がおそらく向かった方向であろう、一際大きな建物以外を見て回ったが、少なくとも自分の目では出口になりそうなものはなかった。
だから、最後にそこに向かわなければならない。他の探索中あの音はしなかったから、あの場所に、十中八九機械はいるのだろう。だがもう他にできることはない。行くしかない。そして意を決して・・・・・・。
「おはっくまー・・・・・・」
「ヘル、イェー・・・・・・。やっと、やっと見つけたぜ・・・・・・。こんなチマチマ逃げやがって」
「はあ、はあ、アタイたち、息切れなんてしないはずなのに」
「はあ、ふう。き、きっと精神由来なんやろうな。ワイら、ガラスのハートやから」
「・・・・・・」
「さすがに、オイラもうつかれたよー」
「だけどな、個室の準備もあるんやで? コイツが散々ボロボロにしてくれよった分」
「モノファニーがやればいいと思うぜ! ミーたちは関係ねえ!」
まさかの、この機械は5つあったらしい。その姿は二足歩行の重機といえばわかりやすいかもしれない。駆動音の謎は解けたが、この包囲されている現状全く嬉しくない。
一体が建物の上に登って俯瞰して、他四体が巡回していたらしい。そんな布陣を敷かれたら、遮蔽物の殆ど無いここで侵入できるはずがない。そしてここから、体力の低い一般高校生が足掻く術もなし。
「やっとこれで全員ね。もうこんなことはこりごりだわ」
「そうや! また逃げられる前にライトや、ライト!」
「うん行くよー。えーっと、ぽちっとー」
「ばーいくまー!」
そうして、自分の意識は暗転した。
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プロローグ:Re:蘇る超高校級
読もうとしてくださってありがとうございます
朦朧としていたおれが、何か箱のようなものから出て、最初に取った行動は・・・・・・、受け身を取ることだった。ガンッと音がして、胴が床に落ちる。咄嗟のことで完全には取れていなかったからか、なかなかな痛みが襲ってきた。ちょうど傷のあたりを強打してしまってはいるが、不幸中の幸いか、頭は打っていない。
起き上がると、近くに硬そうなパイプテーブルがあった。これがもう少し近かったら、頭を打ちつけていただろうことに青ざめる。下手をしたら致命傷だ。
そのぞっとしない発見のおかげか、頭が冷えて、今の異様な状況に思考が追いつく。
ぐるりと見渡すと、ベッドと大型のテレビ、一人がけのソファー、先程のパイプテーブルにデスクと椅子。自分が入っていたのはクローゼットだったらしい。そしてスピーカーが異様に付いた、壁掛けモニター。最後のものを除けば、よくあるワンルーム。家具の色はバラバラだが。ただ、こんな部屋を自分は知らない。クローゼットで目覚めたというのもおかしい。しかもそこには何着も、黄土色のラインの入った黒い長袖セーラー服に、同じ色合いのズボンが入っている。今着ている制服と全く同じものが、である。不気味だ。
誘拐。その言葉が頭に浮かんだ。ドアに手を掛ける。音を出さないよう慎重に・・・・・・、動いた。ドアは開いているらしい。完全に開けはせず、動くことだけを確かめすぐ閉める。
深呼吸。するべきことを考える。件のパイプテーブルの足をとりあえず掴む。そしてドアの方向に向かい・・・・・・。
「おはっくまー!」
「やめてっ! お願いもう壊さないで!」
「ほら、そーっと、そーっと、その手を放さんかい」
「もう後始末はこりごりだぜ!」
「連帯責任ってー、嫌な言葉だよね」
「・・・・・・」
わらわらと湧き出る五体の・・・・・・、何だろうか、これは。一つはロボットのようだが、それ以外はヌイグルミのような形状だ。膝あたりまでしかないサイズ。鼠? いや、尻尾からして熊だろうか。
桃色、青色の二体はおれの両足にしがみつき、黄色はパイプテーブルにぶら下がり、おれの手から引き剥がそうとしている。赤色と緑色はドアの前で仁王立ちだ。
ドアは動いていないのを確認する。ならば、
「・・・・・・たかが素人の即興バリケードに、何故そこまで警戒しているんだ?」
「バリケード用やったんか? 焦ったわ・・・・・・」
「ま、また偽装工作されるのかと思ってたの」
「ヘルイェー! それのせいで地獄の修理デスマーチだぜ!」
危害を加えられそうな気もしなかったので、疑問をぶつけてはみたが、思いの外あっさりと答えられた。ただ具体的なことはわからなかったが。
ドアを重点的に守る二体と、警戒されるパイプテーブル、偽装工作に修理。つまりは・・・・・・、何かの偽装工作に、誰かがパイプテーブルを使って、ドアを壊した、ということだろうか。そして、それをこのヌイグルミたちが直した、と。推測でしかないが。
まあ、誰か、というのがおれではないことは確かだ。覚えはないし、そもそもおれには嘘や偽装は出来ない。しようと考えるわけもない。幼少期、相手を騙そうとしても絶対にバレてきたので、おれが嘘や偽装をするだけ無駄だと知っている。
「ほっ。じゃあ、ここの説明をするわね。部屋の外に出てもらえるかしら?」
「じゃあオイラたちは他に行くね」
「ばーいくま!」
促されるまま外に出る。カラフルなヌイグルミたちは桃色を除き立ち去った。何処から出てきて何処に消えたのだろう。隠し通路でもあるのだろうか。
部屋の外はガラス張りの、ホール、だろうか? 今出てきたドアと同じものが、他に17枚。つまり全部で18枚ある。真向かいにあるドアは太い有刺鉄線で雑に封鎖されているが。
「今の部屋がキサマの部屋よ! ここは寄宿舎なの。キサマら超高校級の17人が寝泊まりするところね! シャワーもトイレもそれぞれの部屋にちゃんとあるわ。勿論鍵もかけられるわよ。
そういえば、ごめんなさいね、キサマの部屋だけ変な位置で。ちょっと、色々、あったのよ・・・・・・。うう、聞かないでちょうだい」
桃色のヌイグルミはしょぼくれながら茸を生やしている。芸が細かい。
今出てきたドアを見ると、その上にドット絵で、黒い
変な位置と謝られたのも納得する。ドアを開けてすぐ階段、しかもその裏だ。利便性は大分悪いだろう。頭が突っかかるほど階段との間が狭いわけではないが、それでも少し不便だ。
「あの向かいの、閉鎖されている部屋は、どうしたんだ?」
「きゃーっ! やめてちょうだい、聞かないでって言ったわよね!? ・・・・・・その、ちょっと扉が歪んじゃって。他にも色々あって。元々17部屋しか使わない予定だったから問題はないのだけれど、うう。・・・・・・失礼するわ! 周りを探索してみてね! 自己紹介は大事よ、ばーいくま!」
言い捨てて、桃色のヌイグルミも消えていった。本当にどうやっているのだろうか。
他の、封鎖されている以外のドアにはドット絵がついている。なら他人の部屋になるのだろう。わざわざ見るものでもないだろうし、失礼だ。他の部屋は見ずに、この建物の外に出てみることにした。
その時、おれの部屋の、隣のドアが空いた。
「ふむ、これはどういうことなんだろうネ。・・・・・・おや、他にも人がいるんだネ。あれらが言っていたことは嘘ではないかもしれないということかな?」
おれよりも背丈のある青年が、ドアから現れた。長く真っ直ぐな黒髪に、ミリタリー、といえばいいのだろうか? そんな学生服を着て、学帽を被っている。長袖の先から見える両手には包帯を巻き、口元は黒いマスクで隠している。
「おれもここでは初めて他の人に会った。はじめまして、宜しく。
「そうだネ。自己紹介は大事なことだ。はじめまして、僕は
確かにおれは、超高校級の肩書きを持ってはいる。他の超高校級に認定された人たちの噂を聞くと、それに比べればずっと大したことはない実績ではあるが。
「ああ、おれは一応、超高校級の合唱部という肩書きを持っている。どうしてわかったんだ?」
「君のところに来たかどうかはわからないけど、動くヌイグルミのようなものが17人の超高校級が集まっている、と言っていてネ。同年代であろう君もそうなんじゃないかと思ったんだヨ。
・・・・・・、そうだ、君だけに言わせるのも不公平だネ。僕も、超高校級。肩書きとしては、超高校級の民俗学者サ」
民俗学。正直に言うと、おれはそこまで詳しくはない。確かフィールドワークが多い、伝承や慣習を様々な観点から調査して、起源を探るような学問だった、気がする。学問の方向性からして、幅広い知識が必要そうだ。相当の知識人なんだろう。
それに、確かにあの桃色ヌイグルミは、超高校級の17人と言っていた。考えてみればその寄宿舎の部屋から出てきた真宮寺さんが超高校級でないはずがない。全く頭が回っていなかった。この混乱する状況でもすぐ考えが巡るのは尊敬に値する。
「浅学で申し訳ないが、確か大量の知識と実地調査が必要なんだろう? それを高校生で、政府に認められる程というのはすごいな」
「そこまで言ってもらえるのは光栄だヨ。まだまだ途上だけどネ。それにしても、民俗学のことを知ってくれているのは嬉しいネ。高校生では家庭によっては難しいし、興味も湧きにくい。存在を知らない人も多い。あまり同好の士がいないのサ。勿論僕は好きでやっているんだけどネ」
「フィールドワークとか大変そうだからな。勝手なイメージではあるが。
そういえば、ここの説明はヌイグルミから聞いたか? 寄宿舎だと言っていたが」
「聞いたヨ。僕の部屋はここだとネ。テレビは電源はついたけど、番組は見れなかった。これ以上ここにいても仕方なさそうだし、外に出ないかい?」
「ああ、賛成する」
一応他にも人がいないかと各部屋にノックをしたが、何処からも返事はなかった。つまり、あと15人の超高校級は、この外にいるのだろう。ガラス張りの自動ドアを通った。
「・・・・・・鳥籠、それに壁かな」
「壮大な建築物だ。よく自重に耐え切れているな、あれは。意味があるのか?」
「多分上空にも何かあるのだろうネ。そうでなければあんな巨大な建築物、作ろうともしないはずだヨ」
見えたのは、周囲を円形に囲う高い灰色の壁と、そこから伸び、湾曲しつつ頂点で合流する、言うなればスケールの狂った鳥籠。しかしそれが捕らえているのは文鳥でも鸚鵡でもなく、おれたち、17人の超高校級。非日常的なそれらは不穏さを醸し出している。
おれは、おれたちは一体何に巻き込まれているのだろう。
飛登の制服は、学生服でいうところのセーラー服というよりは、水夫が着ているようなものに近いと思っていただければ。ズボンですし。黒いけど。
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はじめまして超高校級 1
ヒトウ アガタ
「さて、どうするかい? とりあえず人影は見えないから、ここから移動する必要はありそうだけどネ」
「そう、だな。・・・・・・。左手の大きな建物に行ってみないか? あの中になら、誰かいそうだと思うんだが」
「賛成だヨ。あそこの城壁らしきものも気にはなるけど、あからさまに太い道が続いているからネ。重要なのは多分そちらだろう」
真宮寺さんと並んで歩く。その大きな建物までは、そこまで遠くはなかったがある程度警戒しながら進む。
・・・・・・特に何も起こらなかった。誰か他の人も見つからず、あのヌイグルミも現れない。周囲に監視カメラのようなものもなく、柵や木が道の両端に並んでいる。そんな普通らしい景色の中に、コンクリートの塊や、正方形の近未来的なコンテナがいくつかあるのは謎だが。
・・・・・・ガチャッ ガチャガチャッ
建物の扉を開けてみようとしたが開かない。中に何かあって開閉を邪魔しているというよりは、鍵のかかっているような感触だったので、素直に諦めた。押す引くスライドしてみるは全て試しはしたので、開け方が間違っているということはないと思いたい。
「ンー、これは、一時的に閉まっていると見るべきだろうネ。外の街路樹や建物も、ある程度人の手が入っていそうだから、一番大きなここが手つかずとは考えにくい」
「裏口を探すべきか? これが表玄関とすると、ここまでの大きさならあるだろう。そちらなら開いているんじゃないか」
「他の入り口みたいなものはあっちにあったけど、そこは開いていなかったよ」
急に掛かった声に顔を向けると、左の道から、とても背が高く筋肉質な人が出てきていた。茶色のブレザーは制服に見えるし、おそらくおれたちのような、超高校級の一人なんだろう。眼鏡に、崩さずしっかりと着た、落ち着いた色のブレザーと、並べてみれば大人しそうな特徴ではあるが、実際は背と体格やうねった長髪で、威圧感がある。
「ごめんね、急に話しかけて。困っていそうに見えたから」
「いや、情報はありがたいヨ。一回りするのは大変そうだからネ。その場所はどうだったのか、教えてもらってもいいかい?」
「えっとね、今、ゴン太が来た道をそのまま辿ると、途中でカフェのテラスみたいなところがあって、そこに扉があったんだ。でもゴン太の力でも開かなかったから・・・・・・。それに、そこの近くにもう一つ建物があったよ」
裸足の大きなその人は、その巨躯と筋骨隆々さからは普通の人はあまり想像しなさそうな人柄だった。穏やかな話し方に柔和な表情。最初に感じた威圧感はすぐに解れた。
「そうなのか、ありがとう。・・・・・・。そういえば、貴方の名前は?」
「あっ、ごめんっ! 最初に名乗らないのは紳士じゃないね。忘れちゃってたよ、聞いてくれてありがとう。
名前は、獄原 ゴン太で、超高校級の昆虫博士なんだ。
今は虫さんを探してて・・・・・・。虫さんを見てないかな?」
よく見れば、肩から下げているのは鞄ではなくて虫籠だった。だが空っぽだ。確かに、よく考えてみたら一匹も虫を見ていない気がする。木や草は多いが、反して虫がいないように見えるのは少しおかしい、のか? おれはわざわざ注目していなかっただけだろうし、そのうち見つかると思うが。
「・・・・・・。いや、申し訳ない、見ていないな。今気がついたばかりだから、まだ周囲を見れていないんだ。見つけたら教えようと思う。
それに、おれも遅れていた。おれは飛登 県。超高校級の合唱部だ」
「僕も名乗っておくヨ。真宮寺 是清。超高校級の民俗学者サ。宜しく頼むヨ。
ここはもう君が調べてくれているなら、僕たちは他の場所に行くヨ。手分けした方がいいだろうからネ」
「それならとりあえず、こことは逆方向に行こうと思うが、獄原さんはどうするんだ?」
「ゴン太はもう少しここで虫さんを探すよ! 探し終わったら他のところにも行こうかなとは思ってるけど」
「そうか。なら、ここで失礼する。教えてくれてありがとう。こちらも何かあったら教えにくる」
獄原さんと別れる。優しそうな人だった。しかしあの体格は正直なところ羨ましい。物凄く羨ましい。下に目線を向けて自身の腹を見る。薄っぺらい。腹筋が割れるどうこうのレベルですらない。背が獄原さんとは15センチは違うが、おれがそのまま伸びても絶対にああはなれないことはわかりきっている。せめて、せめて標準的な程度で十分だから体格が欲しい。筋肉が欲しい。むしろ贅肉でも問題ない。20センチ近く下の妹より軽かったあの絶望は二度と味わいたくはない。
「・・・・・・どうしたんだい? 体調でも悪いのかな?」
「顔に出ていたか。いや、体調が悪いわけではなくて、考え事を。・・・・・・その、獄原さんの体格が羨ましいと思ったんだ。心配させてすまない」
「顔に出ていたと言うよりは、どんどん君が俯いていったからネ。無表情のまま沈んでいったから余計に悪いのかと思ってサ。何もないならよかったヨ。
それと、彼についてだけど・・・・・・。まあ、僕も筋肉がある方ではないし、気持ちはわかるヨ」
顔には出ていなかったらしいが、急に俯き始めているのもそれはそれで不味い。気をつけようと思う。
それにしても真宮寺さんはそう言ってくれたが、真宮寺さんもおれよりはよっぽどがたいがいい。・・・・・・羨ましい。
真宮寺さんと軽く話しながら歩を進める。次は寄宿舎から出たときに目に入った、白い城壁のようなものへ向かう。異質ではあるが、この状況自体が異質なのだから、むしろ似つかわしいのかもしれない。
そこに続く細い道を思い切り塞いで、前述の正方形コンテナが四つほどあったが、道を外れて迂回して通った。その前になかなか立派な藤棚があったが、どう考えても西洋風の城壁あるいは城門の近くに何故公園にあるような藤棚があるのか。ますますここのコンセプトがわからない。あの熊だか何だかわからないヌイグルミといいこの乱雑さといい、これらの設計が同一人物なら、あまり趣味は合わないだろう。おれも美的センスには欠片たりとも自信はないが、これは稀なものだとはわかる。
コンテナの脇を通って、城壁に目を向けると、そこには先客がいた。あちらは城壁を見上げていて、こちらに気づいていないようなので、声を掛けた。
「はじめまして。そこの人、少しいいか?」
「ん? おお、なんだ、いいぜ! そっちも、超高校級の誰かだろ? 状況は同じってわけだ」
振り返ったのは、赤紫蘇のような色のコートを片腕だけ通して羽織り、何故か足元はスリッパを履いている、顎髭が特徴的な先程の獄原さんとは別の意味で高校生に見えない人だった。そして、背はおれと同じくらいか、少し高い。
何故ここまでおれよりも高い人ばかりなのだろう。真宮寺さんといい、獄原さんといい、この人といい。そこまでおれは小さい方ではないと思っているし、むしろ同年代なら背の高い方に分類されると思っていたのだがそれは驕りだったらしい。別におれが他より多少小さいからといって特に不便がありそうでもないが、何となく物悲しい。・・・・・・いや、そんなことを考えている場合ではなかった。
「ああ。超高校級の合唱部。飛登 県。そして、こちらが」
「超高校級の民俗学者、真宮寺 是清サ」
「おう、そうか!
オレは、宇宙に轟く百田 解斗だっ! 泣く子も憧れる超高校級の宇宙飛行士だぜ! よろしくな!」
両拳を突き合わせながら百田さんは言う。宇宙飛行士。なんと言おうか、スケールが大きい。泣く子も憧れる、というのも納得する肩書きだ。知らなかった。宇宙飛行士は高校生でも選考に参加できるのか。気象予報士の資格などと同じようなものなのか。完全に振り向いている今だから見えるが、コートの裏地は宇宙のような柄だった。
「おや? 宇宙飛行士試験は確か大学卒業が必要だったような気がしたんだけど、いつの間にか変わっていたんだネ」
「それで間違ってねーよ。本来なら大学卒業資格が必要だな」
「なら留学でもしていたのかな? 日本にはスキップがある学校がないからネ」
「いーや、そうじゃなくてな。知り合いに偽造して貰ったんだ。ま、色々とな」
選考には普通参加出来ないらしい。危なかった。間違った知識を覚えてしまうところだった。
それにしても、偽造なら・・・・・・。
「犯罪じゃないか? 普通に話していることからして、ばれたのだとは思うが」
「おう、結局はバレたな! そりゃもうエライ目に遭ったぜ。だけど上の連中が面白がって採用してくれたんだ。もちろん試験の結果が十分だったってのもあったけどよ。今は訓練生だな。十代では初なんだぜ」
「・・・・・・ん? 待ってくれ、終わった後にばれたのか? しかも十分な成績を残して?」
「そういうことだな。それがどうしたんだ?」
何人も受験生が来るとはいえ、宇宙飛行士は定員が少ない。狭き門だ。勿論重要な役職でもある。それの身辺検査はそんなほいと抜けられるようなものではないだろう。
そして百田さんは、大学卒業が最低条件であるはずの試験を、そんな特例を取っても構わないと上役から判断されたというわけで。つまりその結果は、並大抵のものではない。
「すごいな。相当精巧な偽造だったんだろう。父の知り合いにできそうな人もいるがそこまでのものとなるとなかなか無いと思う」
「それに圧倒的な成績だったんだろうネ。規則を曲げても欲しいと思うほどに。感嘆するヨ」
「おお、そこまで言われると照れるな。
っと、そうだ。本題に戻らねえとな。って言ってもこの城門のことだろ? 扉は完全に閉まってて開かねえな。扉も壁も固くて破れそうには無い。抜け穴っぽいのも無いぜ。おそらくそこの六角形が関係してくるとは思うけどな。まあ多分こいつは真面目に侵入を防ごうとはしてないだろ」
「どういうことだい? 理由を聞かせて欲しいな、興味深いヨ」
「ほら、この壁見てみろよ」
そう言いながら百田さんは白い壁を叩いて示す。
「よく見りゃわかると思うが、手がかりになるものが多い。窓みたいな物とかな。壁自体もレンガかどうかはわからんが組み上げがレンガ式でその間が凹凸になる。かえしもそこまで大掛かりじゃねーし、登ろうと思えば道具なしでもある程度いけるだろ。それに何よりも、高さだ」
「そうか、外を囲っているあの巨大な壁に比べれば、乗り越えてくださいと言わんばかりだな」
「本当に阻みたかったら妥協はしないだろうしネ。飾りみたいな物なんだろう」
「だから逆にわざわざ越えなくていいだろうと思ってよ。重要なもんはないだろうし、下手に入って出て来られなくなったらことだ」
成程。わかりやすいし納得がいく。それにしても、ここも潰れるとなると後は一方向しかない。寄宿舎から出て右側。太い道のもう一方。
「教えてくれてありがとう。助かった。もう一つ聞きたいんだが、誰か他の人を見ていないか? こちらはあそこの大きな建物の近くで、獄原さんという人にしか会えていないんだが」
「うん? オレはそいつには会ってねーな。その代わり、女子二人に会ったぜ。ここから見て、左側。そこに植物園みたいなものがあってな、そっちに向かってたぜ。多分お前らとは入れ違いになったんだろーな」
次の目的地が決まった。
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はじめまして超高校級 2
不定期ですみません
太い道に沿って、植物園があるという方向に進む。百田さんはもう少しあそこを調べるらしい。
それにしても人が少ない。あのヌイグルミは17人と言っていた。おれを含めて17人と考えても、真宮寺さん、獄原さん、百田さんとこの先にいる二人と、合わせても半分もいかない。
他の建物にまだいるのだろうか。あの城壁の先しかり、逆方向の建物しかり。行ける場所と、行けない場所。開けるトリガーがあるのだろうか。意味があるのかないのか。少なくとも今は机上の空論にしかなり得ない。
階段を降りる。その植物園の立地は他よりも低い位置だ。何故ここだけ下がっているんだろう。
降りた先にはまず円形の広場がある。右側に細い横道。瓦礫で塞がれていて、遠くに見えるのは、一軒家ほどの建物だろうか。駐車場のようなものがついているように見える。左側には、小さな謎の石像があった。デフォルメされた忍者で、狐面を被っている。石像部分は色がついていないのに面は青赤黄色で色づけされているのがアンバランスだ。本当にここの設計者のセンスは意味がわからない。むしろ相談なしで複数人が一斉に各々の場所を設計したと言われた方が納得がいく。
「地蔵を気取るならもう少し、こう何かなかったのか」
「道祖神と考えても位置がおかしい。ただの観賞用の石像だろうネ。もしかしたら何か意味があるのかもしれないけど、今は考えても仕方なさそうだヨ」
そういうことで満場一致でその石像は無視することになった。二人だけだが。そして正面に目を向ける。
「鳥籠か? 外のものに比べれば小さいが」
「そうだネ。僕もこれもドームというよりは鳥籠に見えるヨ。緑が覆ってるけど、上部はガラスも何も無さそうだ」
扉は動くようだ。まあ百田さんの口ぶりからして中には入れたのだろうから驚くことでもない。これを外側から見るだけで植物園のようとは思えないだろう。
「開けるが、いいか?」
「大丈夫だヨ」
大きな扉をゆっくりと開ける。腕力の低さで厳しいかもしれないと扉に手をかけた時思ったが、この大きさにしては軽く動き、安心した。そのまま扉を最後まで押す。
「おー! 初めて見る二人だねー」
「・・・・・・あら。はじめまして」
話をしていた二人が振り返る。白い髪の褐色の肌で、黄色のコートを纏った人と、銀髪の、白く長いワンピースに、黒いジャンパースカートを重ねた人の二人だ。
「ああ、はじめまして。おれは飛登 県、超高校級の合唱部だ。で、こちらが」
「超高校級の民俗学者、真宮寺 是清サ。宜しくお願いするヨ」
怪しまれてはたまったものではないので手早く自己紹介をする。おそらくこの二人も超高校級なのだろうし、警戒する意味もない。
にこにこと笑顔が明るい、白髪の人が口を開く。
「にゃはははははー! いい自己紹介だねー! 神さまも、ちゃんと名乗るのはいいことだって言ってるぞー。
アンジーは、夜長 アンジーだよー。超高校級の、美術部なのだー!」
「私も名乗らせてもらうわね。
私は、超高校級のメイド、東条 斬美よ。どういう状況なのかはまだ把握できてはいないけれど、困ったことがあったらいつでも言ってちょうだいね。私ができることなら、依頼として承るわ」
それに続いて銀髪の人も名乗る。夜長さんに東条さん。
驚いたのは、夜長さんの服装が、水着だったことだ。腹と足が出てしまっている。コートを羽織っているとはいえ寒くはないのだろうか。腰には工具を取り付けた布をぐるりと巻いているが、それでそこまで変わるはずもないだろう。褐色の肌からして温暖な場所の生まれなのかもしれないが、それだと余計にまずい気がする。心配だが本人は無理しているようには見えないし、他人が言っていいものではないだろう。
東条さんは夜長さんとは逆に、足首に届きそうな長さのスカートに手首まで覆う長袖。ヒールのついたブーツに黒い手袋と、肌を殆ど見せない格好だ。頭には黒いヘッドドレスをつけている。物腰も含めてメイド、という言葉を正しく具現化したような人だ。上品で格好良い。真宮寺さんもそうだが、同年代とは思えないほど落ち着いて大人びている。
「失礼じゃなければ聞きたいのだけれど、神さまが言っている、というのはどう言うことかな?」
「アンジーはねー、神さまの声が聞けるんだー。島の神さまがいつもアンジーの隣にいるからねー」
「! 成程、興味深い。ククク・・・・・・。是非詳しく聞かせて欲しいヨ」
「おー、是清は将来有望だなー。神さまも喜んでるよー」
いつの間にか真宮寺さんと夜長さんが楽しそうに会話している。それを邪魔したくはなかったので少し遠ざかると、東条さんも同じように横に避けていた。
「東条さん、今のうちにここのことを聞いてもいいか?」
「ええ。そうね、ここは公園に近しいものだと思うわ。噴水に花壇。ベンチもいくつかあって、どれも綺麗な状態よ。花も外の伸びるに任せたような植物と違ってしっかり手入れされている。軽く見て回っただけだけれど、萎れた花が殆どないわ。そうね、公園と称するには花壇が多すぎるような気もするけれど」
「そうなのか。あれは?」
「あのモニターね。私がここにいる間には何も映らなかったわ」
「おれも他にいくつか見たが映っているところは見たことがない。何に使うためのものなんだろうな」
「ごめんなさい、見当もつかないわ。それは、この状況そのものにも言えることだけれど・・・・・・」
「おはっくまー!」
前触れもなく大きな声が響き渡る。あのヌイグルミたちの声だ。軽い音を立てて、噴水のあたりに現れる。今回は青色と黄色の二体らしい。
唐突さに身体を固まらせていると、東条さんがおれの前に出て庇うように立つ。真宮寺さんと夜長さんは自然体で二体を見下ろしている。
「ヘルイェー! さぁて、大事な大事なお届け物だぜ!」
「ああ、キサマラがどっかになんか忘れ物したっちゅー訳ではないから安心してええで。ワイらモノクマーズからの素敵なプレゼントや」
「他の奴らには元々持たせてあるんだけどな、キサマラは目覚める場所が場所だから、壊しちまうかと思ってよ!」
「ワイらの心遣いってわけやな。頭地面に擦り付けて感謝せい」
そう言って短い足でちょこちょこと駆けて来て、おれたち四人に何かを渡す。小さなタブレット型の端末だ。白黒半々にカラーリングされていて、裏面の真ん中には、『才』の字だと思われるデザインが入っている。全員それは同じのようだ。
画面を押してみると、『飛登 県』と名前が映り、“マップ” “ツウシンボ” などといった項目がある。
「これは “モノパッド” やで!」
「超ハイスペックな優れものだぜ!」
「細かいことは時間ないから言わへんけど、大事にした方がいいってのは言っておくで」
他の奴ら? この場にいない百田さんと獄原さんか? それとも、おれたちがまだ会っていない超高校級?
いや、そんなことは後回しだ。このヌイグルミたちは用がなくなるとすぐ消えるのは経験済みだ。だから、これは今のうちにしておかなくてはならない。
おれはモノパッドを持ったまま、噴水に近寄る。腕を軽く捲る。
「なんやなんや?」
「ミーたちになにか用か!?」
そのままモノパッドを持った手で、ヌイグルミたちの方へ、否、それの奥、水が流れている滝にモノパッドを叩きつけた。
「へ? ・・・・・・ぎゃーっ! なにしてくれてるんや! さっき大事にした方がいいっていったはずやで!?」
「ミーもそれは覚えてるぜ!? モノスケはちゃんと言ってただろぉ!?」
いや、叩きつけたと言っても水が流れ落ちる部分の壁は更に奥にあるので、追突させたわけではない。ただ水に浸しただけだ。
「防水かどうかを確かめておこうと思って。言われただけだと納得できなそうだから試しただけだ。それで壊れても渡した奴がここにいるから直すなり交換するなりしてくれると思ったんだ」
「クレイジーだな! ならなんで振りかぶったんだよぉ!?」
「速めに終わらせないとすぐどこかに行くとわかっていたから、焦ったんだ」
「もう嫌やこいつ・・・・・・」
「しかも筋は通ってなくもないからタチが悪いぜ・・・・・・」
キノコを生やしているヌイグルミ二体を放っておいて、モノパッドを起動する。・・・・・・問題なく動くらしい。色々操作してみたが特に異常はないように思える。
「・・・・・・そうだ、ヌイグルミたち、水を被ってはいないか? 被るほどの勢いにはしてないと思うんだが、もしも被っていたら申し訳ない」
「なんやろ、良識はあるんか。むしろなにがなくてその考えに至るんや・・・・・・」
「濡れグマにはなってないぜ・・・・・・」
「・・・・・・もう失礼するで」
「ばーいくま・・・・・・」
ヌイグルミたちは消えていった。登場時に比べて大分暗い声だったが。
「クックック・・・・・・。面白いネ。これだから人間は素晴らしい・・・・・・」
「どうしたんだ? 真宮寺さん」
「いや、なんでもないヨ。それにしても、今の行動は助かったヨ。確かにあれらの言葉が本当かどうかわかりはしないということを失念していたヨ」
「そうだねー。県のことを神さまは爆笑しながら見てたよー。よかったね、神さまが気に入ってくれたみたいだー」
「飛登くん、大丈夫かしら? 濡れたままなのは冷えるわ。これを使って頂戴」
褒められている気はしないが馬鹿にされているようでもない。東条さんがハンカチを貸してくれたのでありがたく使わせてもらう。今気づいたが、いつも使っているハンカチを持っていなかった。
借りたものを畳んで返して、お礼を言うと、「気にしないで。メイドだもの、当然よ」と東条さんに言われた。凄い人だ。
「そうだ、真宮寺さん。獄原さんにここのことを教えに行かないか? 虫を探すなら花が多いここはいいと思うんだが」
「わかったヨ。今他に出来ることも無さそうだし、知らせに行こうカ」
「アンジーはまだここにいるよー。神さまがこの辺りにいるべきって言ってるからー」
「私はもう少ししてから出ようかしら」
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