綾小路......誰さんですか? (せーちゃん)
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原作開始前
『原作主人公様』が“女の子”なわけないでしょ?


「R.I.P、そして、おはよう」

 

「...ああ、うん、おはようございます?」

 

 目が覚めたら真っ白な部屋に居た。

 条件反射で上半身を起こすと、飛び込んで来たのは草臥れた老人の顔面。────そして。

 

「おー? おう、えっと、何....? 転生?」

 

「正解じゃ。最近の若者は説明が省けて楽じゃのう。ここに来る内の三人に一人は起き抜けと同時に状況を把握しよるぞ」

 

「マジかよ。ヤベーな現代っ子。転生モノ好き過ぎだろ。てか、いつの間に死んだんだ、俺」

 

「生前については知らん。儂らもそこまで暇ではないのでの」

 

「オイオイ、アンタ神様だろ? そんな適当で良いのかよ」

 

「いや、そんな事言われてものぅ。そもそも儂、神じゃないし。どっちかというと、鬼とか悪魔の類いじゃし」

 

「は...? マジかよ。転生じゃないん? 鬼とか悪魔って、もしかしなくても地獄行きスか?」

 

「それも否じゃ。お主はセオリー通りこの後、転生する。転生関係の仕事が管轄上、神界ではなく獄界の住人に帰属するというだけの事。転生の理由は、死後に受ける閻魔様の裁定までの一時的な時間稼ぎじゃよ。お主は順番からして閻魔裁判まで数百年はかかるじゃろうから、既に基盤のある創作世界にブチ込んで黙らせとこうという話じゃ」

 

 えー、何?

 いきなり情報量多過ぎなんだけど......。

 

 ────話を額面通り、想像通りに飲み込むのなら、死者である俺のその後を決めるのにメチャクチャ時間がかかるから、とりま別の世界に転生させて待たせとけって感じか?

 

 

「うむ、その認識で間違いないぞ」

 

「ナチュラルに心読むなぁ。てか、ぶっちゃけアンタが神様だろうが悪鬼の類だろうが、死人の俺にはどうしようもない事だし、その辺の事情はカットでいいよ」

 

「む、そうか。現世は説明義務だの、倫理的行動だのと煩いからのぅ。後々文句を云われぬようにしたまでじゃよ。ホレ、説明が要らぬなら、さっさとソコに置いてあるダーツを持て。お主の転生先を決めるぞ」

 

「あいあーい」

 

 言われるがままに、さっさとダーツを持つ。

 うん、お約束過ぎて説明が無いのも、それはそれで味気無い。てか、さっきまで此処にダーツなんて無かったよね? いつの間にかルーレット板みたいなのも目の前にあるし。

 

 

「ホレ、はよはよ」

 

「急かすなよ、転生って事はこれからその世界で七、八十年は生きるわけだろ? 流石にちょっと躊躇う」

 

「ん? まぁ、そうじゃな、生きられると良いな、八十年くらい」

 

「怖い事言うなよ。急にキャラ変したな爺さん」

 

「いや、世界によっては生まれた瞬間死ぬような所もあるからのぅ。ゴッド◇ーターとか、バイオ◇ザードとか」

 

「......」

 

 怖すぎるんだが?

 

 

「別に良かろうて、死ぬくらい。どうせ、死んでも此処に戻って来て同じやり取りをするだけじゃよ」

 

「んー? まぁ、それもそっか」

 

「お主も、かるいのー」

 

 考えても仕方ない事は考えないようにしてるだけだし。

 

 ....そんなに言うならテンション上げてみるか。

 

「いけっ! 俺の運命! うぉぉぉぉおぉぉ!!」

 

「ダサいっ!」

 

 あらぬ方向に飛んでいきそうだったダーツが見えない力によって機動修正され、ギリギリ端の方にちょこんと刺さった。え? 俺、ダーツ投げ下手過ぎ...?

 なんて思っている俺を他所に、すでに爺さんはルーレット板に近づいていた。

 

「えーっと、なになに?」

 

 

 さて、そこに書かれていたのは

 

 『ようこそ実力至上主義の────

 

 

 

 

「ああ、“よう実”じゃの、死ぬ事はなさそうじゃな。ホレ、さっさ、転生特典の数を決めんか」

 

「......せめて最後まで読ませろよ」

 

 てか、よりにもよって“よう実”世界かぁ。

 俺、アニメ一期と二次創作しか読んでないんだけど。

 別に滅茶苦茶好きな作品とかでもなかったし......。

 来世では、もう勉強もがんばりたくないしなぁ。

 あーあ、出来れば“魔法科”とか、“禁書目録”とかの世界に行きたかったんだが......。

 あーあ! あーあ!

 俺も魔法とか超能力とか使いたかったなぁー!

 

 

 ......こうなったら転生した瞬間自殺して、人生リセマラでもするか。

 

「いや、最初から不満タラタラ過ぎじゃろ。ワクワクとかせんのかお主は......。あと、流石に自殺はやめよ。そういう命を粗末にする者は転生対象外じゃ。閻魔殿の前でそのまま数百年正座しとれ」

 

 はぁー、マジかよ。

 てか、お前、さっき“死ぬくらい”とか言ってたやろが。命がどうのとか言う資格ないだろ。

 

「さて」

 

 おい、思考抜き取れんだろ。無視すんなや。

 

「さて、次は転生特典じゃな。一つは好きな特典を自由に。残りは数も内容もランダムじゃ。はよダーツ投げよ」

 

「はぁー......あいあい」

 

 

 二度目は流石に掛け声なし。

 飛んでいくダーツ。

 

 刺さった場所は─────

 

 

「おお、みっつか。うむ。ふつーじゃな」

 

「ちなみに今までの最高記録は?」

 

「二千六百八十九個じゃな」

 

「ホンクソ。全然ふつーじゃねぇじゃねぇか。ソレ聞いた後だと、むしろ三個は少ないわ」

 

「まぁまぁ、大事なのは中身じゃから。ホレ、あと三回投げ投げ」

 

「......」

 

 怒りの全力投球。

 飛んで行くダーツ。

 

 グサリ─────結果は果たして。

 

 

「お? おお、ツイてるの。『才能全般A+』じゃ」

 

「ナニソレ」

 

「生まれつきの能力値と成長速度、成長限界値を底上げする“ぱっしぶ系統”の恩恵じゃな」

 

 なんかゲームみたいですね。

 

「まぁ、当然努力は必要じゃがの」

 

 えー、つかれるのはやだなぁ。

 それに、お勉強は前世でいっぱいしたからもういいでしょ。

 

「次」

 

 

 

 ─────グサリ。

 

 

「お? おお! さっきから汎用性が高いのばかりくるのぉ! 『美貌の人型A+』じゃ」

 

 もしかしてA+しか入ってないん?

 

「で? ナニソレ」

 

「分かりやすく言えば、優秀な肉体と、APP(外見的魅力値)の向上じゃの。だいたい数値的に十七後半くらいか」

 

「おー、クトゥルフ的にほぼ最大値じゃん」

 

「うむ、最高にイケメンじゃの。......女子に刺されんように注意せよ」

 

 

 ストーカー怖い。

 

 

「さて、さいごかー......」

 

「お主、なんか、どんどんやる気失せてないか? そんなに魔法使いたかったのかの?」

 

 

 当たり前じゃん。

 俺の子供の頃の夢は童話に出てくる“悪い魔法使い”だったんだよ。

 

「なんで幼少時から正義に憧れんのじゃ。歪み過ぎじゃろ」

 

 

 ─────グサリとな。

 

 

「さて、ランダムな特典はこれが最後なわけじゃが......ん? なんじゃコレ。こんな特典は用意しておらんかった筈なんじゃが......」

 

「なに? 魔法?」

 

「だから、魔法から離れよ......これは『幸運A+』じゃな」

 

「ナニソレ」

 

「運気が上がるタイプの恩恵、なんじゃが......おかしいのう。......功績点無しで運命に干渉出来るスキルが宿る筈が無いのじゃが───」

 

「あ、そのへんの裏話はいいです。どうせ聞いても分かんないんで」

 

「何じゃ、せっかく人がわざとらしい伏線を張って、後の展開にスパイスを加えてやっているというのに」

 

「いや、大変過ぎるのはNGなんで」

 

「やる気ないのぉ。......じゃぁ、最後じゃ。好きな特典を一つ選んで「魔法!」魔法は駄目じゃな。世界観を壊すものは特典に入れられん」

 

 は? ちょークソ。

 もう、閻魔殿前で百年耐久正座大会開くべ。

 

「やめぃ。すぐ自殺するのはやめよ。まったく......仕方ないのう。なら、条件付きで魔法を使えるようにしてやろう (噓)」

 

「マジで!?」

 

「うむ。条件は物語の舞台である“高度育成高等学校”に入学し、Aクラスで卒業する事じゃ」

 

「そうすれば、魔法が使えるようになるんだな!」

 

「もちろんじゃ (大嘘)」

 

「やったぜ!(無垢)」

 

「はぁ、よかったの。ホレ、さっさ最後の特典を決めんか。世界観を壊さんような、な?」

 

 

 マジかよ。やったぜ。ちょー嬉しい。

 魔法使いになれるって言うなら話は別だ。

 本気で勝ちに行く。

 

 そのためには─────。

 

 

 

 

 

「“よう実”世界から主人公である『綾小路清隆』を消してくれ」

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

 

「ん? いや、どう考えても邪魔だろ、清隆くん。Aクラスで卒業するのに、あんな公式チートがいたらラクして勝てないじゃん」

 

 それに、あいつ居るとそれだけでホワイトルームが攻めてくるしな。

 てか、もう危険な主要人物全員消して貰うか?

 “坂柳”とか“龍園”とか勝てる気しないし。

 ついでに仲間外れも可哀想だしBクラスいいんちょサマの“一之瀬”ともサヨナラするべ。

 

 うーし、これで大分ラクに魔法使いに成れるな。

 

 

 

「てことで、頼むぜ爺さん!」

 

「儂、世界観壊さんように言った」

 

「壊してないじゃん」

 

「ナシじゃ」

 

「ふぁっく」

 

えー、特典厳しくない? じゃあもう、これでいいや。

 

「“『綾小路清隆』から敵意を向けられないようにしてくれ”」

 

 これなら問題ないやろ。

 転じて好意的な感情を貰いやすくして、“道具”と思われないようにもしてくれ。

 

 これなら人類の極点たる、公式チート様も敵にはならんし、利用もされんやろ。上手く行けば味方として取り込めるまである。

 

 完璧だな。

 

「む? むー、まぁ、それぐらいなら良いか。うむ。お主の願い、確かに聞き届けた。では────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────裁定を待つ、一時の生。永く愉しむが良い」

 

 

 

 

 

 

 

 こうして俺、『名前はまだない』は“よう実”世界に転生を果たした。

 

 

 

 一つ致命的な見逃しを残して。

 

 

 

 

  さーて、魔法使いになるためにがんばるぞー(無理)。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「ふむ、行ったか......これも『幸運A+』の力かのぉ。まぁ、本当に刺されんように頑張るのじゃぞ。ほっほっほっほ」

 

 

 

 

────『ようこそ実力至上主義の教室へ

 

 

 

            ※綾小路清隆(♀)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




息抜き投稿なので投稿頻度は激遅です。
お、上がってんじゃーんくらいの認識でお願いします。

高評価チャンネル登録(違う)してくれるとモチベに繋がって投稿ペースが早くなるかもです。




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覚醒めたら“白部屋”! ....の筈なんだが『原作主人公』ドコ行った.....???

私の思うTS綾小路ちゃんはコレだッ!!
はい、ゴメンナサイ。
解釈違いのバッシング受けても今回はコレで通します(鋼の心)
異論は当然認めるけど、絶対に持論は曲げません(鉄の意思)


「おぎゃー」

 

 と生まれてこんにちは。

 どうも転生者0歳です。

 将来の夢は魔法使い(邪悪)でございます。

 はい。そんなこんなで無事、今世も生まれる事が出来ました。

 周囲一帯、真っ白だし、多分病院みたいっすね。取り敢えず今世では、五体満足なようで何よりです。

 

 そいじゃ、将来カッケー魔法使いになる為、お勉強と運動と喧嘩(一番大事)、いっぱい頑張るぞー!

 

 っと、それはそうと、いやー白い。

 白いなー、此処。

 なんでこんな無駄に白いん?

 ずっと居たら目痛くなってくるやろこれ。

 両親っぽい人の髪すら白いし、コレはお目々しょぼしょぼですわー。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 はい。

 三歳になりました。

 転生者(名前はもうある)で御座います。

 

 流石に三年も経てば自分の置かれている環境というのも呑み込めるわけでしてね......。

 

 

 此処、ホワイトルームですわ......。

 

 

 なんで? なんでなん?

 おかしないか?

 どうした幸運A+! 返事しろよ! お願いやから仕事して!?

 

 はーーお前、転生してから唯一役に立ってねぇよ?

 美貌Aプラちゃんは、まぁ、イケメンって事で、あるだけで素晴らしいんよ。

 両親らしき人は如何にも凡夫って感じのフツメンハーフさんだったのに、ボク様の見た目最高に美しいからな。

 三歳にして自己愛の発達がやべぇよ。

 将来、魔法使いになれたら、真っ先に偏在覚えて自分と結婚するわ(自分大好き人間壱号)

 

 で、これまたホワイトルームって事で、三歳初期からクソカスな勉強を叩き込まれるわけですが、これまた才能全般A+様のご活躍と、前世知識で全く苦にはならないという有難み。きっとコレから先もお世話になる事でしょう!

 

 いやー、素晴らしい!

 

 で?

 

 幸運A+くん?

 

 おみゃーだけちょいとサボり過ぎやしませんか?

 

 

「はークソ。ちょークソ。ホンマくそ。おべんきょ出来ても初期リスミスったら意味ねぇじゃん。

 

 な? お前もそう思うだろ? 茶髪ちゃん」

 

「なんのはなし?」

 

「生産性の無い無職のクソは宿主である俺に生活費ぐらい渡せって話」

 

「......? わからない」

 

「ははは、わかんにゃいかー。茶髪ちゃんはかわええなー」

 

「くすぐったい」

 

 コテンと首を傾げる茶髪ちゃんをなでりなでり、と。

 現在、大金積まれて白色育児放棄部屋に俺をポイ捨てしたクソカス両親に代わって話し相手になってくれている彼女の名前は茶髪ちゃん。(最近知り合ったばかりだから本名は知らん。そもそも此処じゃ、名前なんて有って無いようなものだし)。

 俺ほどではないが、そこそこ顔が整っている女の子だ。俺ほどではないがな! な!

 まぁ、言うて歴代アニメキャラ全員で美少女ランキングしたら六位くらいには入れそうなほど可愛い子だ。しかも三次元生命体なのにアニメキャラ基準で六位。

 ちょーっと、綾波レイかってくらい無表情過ぎな所もあるけど、人の話を静かに聞いてくれる良い子ちゃんです。

 

 あと撫でると目ぇ細めてかわゆす。

 喉とかメッチャゴロゴロ鳴ってる。

 猫かな? 仔猫かな?

 

 まぁ、いいや。

 

 

「さって、そろそろ行こうぜ。今日のカリュキュラムは運動メインだっけか」

 

「ん....もう行く....? まだ、時間ある......なんでそんなに頑張る?」

 

「あい?」

 

 茶髪ちゃんから話しかけてくるとは珍しい。

 いつもは実験動物を見るような目をして聞き手に徹してるのに。

 

「どゆこと?」

 

「頑張る理由......“熟す以上の事、する理由”...分からない。他の子はすぐに壊れる......“なんで壊れない”?」

 

 うーん、言葉足らず過ぎてびみょーに意味が伝わり辛い! ゆーてまだ、三歳やからなぁ。

 

 しかし、天才系転生者たるボク様俺様私サマにかかりゃ、このくらい余裕のよっちゃんで解読可能でさぁ!

 

 

 ───頑張る理由など、ただ一つ。

 

 

「夢があるからな、俺には」

 

「夢?」

 

 

 そう、俺には、夢があるのさ!

 此処を出て、邪悪な魔法使いになるという、どんな夢よりすんばらしい最高の夢がな!

 

 いやぁ、魔法が使えるようになったら何をしようか!

 考えるだけで活力が湧いてくるよね。というかもう、魔法って響き自体がロマンだよ! 憧れてたんだよ、前世から! ベッドの上じゃあ、本読むくらいしかやる事なかったからね! ファンタジー大好き!

 

 

 まぁ、ホワイトルームにブチ込まれたせいで何時出れるかすらわからんのやけど......うぅ、てか、今、西暦で何年だよ......。

 せめてカレンダーくらい寄越せよ。

 綾小路パパ厳しすぎてゲロ吐きそう。

 これ、原作メンバーと同じ世代なんか?

 自分が此処の四期生って事は知ってんだけど、原作読んでねぇから、綾小路くんがホワイトルームの何期生なのかが分からんのだ......。

 時系列的に今、どの地点だよ。

 

 とりま十六歳になるまでには此処から脱出しないと、高育入学出来ずに魔法使いどころかニートまっしぐらなんだが......。

 

 

 クソ! 早いとこ綾小路ボーイを探さなくては......!

 そして、仲良くなってそのままの流れで寄生して、松雄のおっちゃんに一緒に逃して貰えるように言って貰わなくては......!

 

 

 

 それなのに、はーーーー!

 清隆くんも見つかんねーし、ホワイトルームにもブチ込まれるしで、ほんっと、役に立たねーなぁ!

 幸運A+! オラ、お前は何時までもニートしてねぇで社畜のように働くんだよォ!

 はよ、清隆くんに会わせろやオラ!

 

 

 

「......」

 

 

 んあ? 茶髪ちゃん?

 なんで、そんなジト目で俺を見るのかな? かな?

 

 

 

 




美貌の人型A+「嗚呼、やはりワタクシが世界で一番美しいですわ」
才能全般A+「どの分野でも超一流。流石、私ですね(メガネクイッ」

幸運A+「ボクが一番働いてるのになぁ」


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パターン“ロリ”! 『坂柳』です!

大晦日ですね、こんばんわ。
思った以上に多くの方に見ていただけているようで驚いております。
一話のあとがきに激遅投稿と入れましたが、取り敢えずオリ主の“脱ホワイトルーム”までの計八話分は既に書き終わっていますので、その間は毎日投稿とさせていただきます。

また、二話までの評価、お気に入り、感想等々下さった方ありがとうございました。


 六歳!

 あれから三年ちょい!

 

 なんか、どんどん周りの奴ら脱落してて草。

 メッチャ苦しそうやーん。

 え、いやあれ、死んでないよね....?(素

 

 てか思ったんだけど、あいつらみたいに脱落すれば、そのまま施設の外出れんじゃない?(無理です)

 というわけで、胸抑えて口から泡吹きながら奇声上げまくって三回転半捻りでぶっ倒れてみたけど、だーれも助けに来やしませんのな。

 

 なんでやねん。

 

 ピクピク痙攣しながらチラリと薄目で確認したら、どいつもこいつも白けた目でコッチ見てるしマヂキレそ。

 なんでや。クッソ名演技だっただろ!

 

 こちとら演技系の才能も測定不能な化け物転生者だぞ。唯一駆け付けてくれたのが茶髪ちゃんだけって、どういう事や。

 

 しかも、たまたま視察に来てた清隆パパにメッチャ可哀想なモノを見る目で見られたんだが......その後、茶髪ちゃんに介抱されてたらくっそ睨まれた。真のえいゆうーは目で殺すって感じで。

 ....なんでや。

 一応、俺、此処の最高傑作(暫定)やぞ。

 

 

 って....ああ。嘘演が無視されたのってそれが理由か。そりゃ、一番優秀な奴が病気でもないのに急にそんな事したって相手にされないわなぁ。

 

 はぁーあー。

 

 ....まぁ、その嘘演がコレで五回目って事も理由の一つかもしれんが。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 あれから一年!

 七歳!

 ラッキーセブン!

 なのに幸運A+は今日も今日とて全く役立たない!

 もっと働け! このニート能力が!

 

 さて、嘘演し過ぎて自分で自分の心臓止めて仮死状態になれるほど練度が上がった今日この頃。

 

 なんか、銀髪のロリっ娘が施設にやって来たってよ!

 

 やった! 絶対、坂柳だ!

 ロリ柳見たろ! って思ってガラス越しに見に行ったんだけど......うん。

 なんか、前世でネットの画像漁った時の絵と七歳時点の容姿がまるっきり同じだった。

 特に胸部装甲の厚みとか......。

 

 うう、可哀想に......。

 彼女はこれから高校生になってもこの容姿のままなんやなって......一生ひんにゅーのままなんやなって......。

 そう思って泣き真似してたら、メッチャ睨まれた。

 

 なんでや。なんでわかるんや。

 

 視線だけで強化ガラス溶かして、コッチに来そうなほどヤベー眼力だった。

 コイツ、絶対身体弱くねーだろ。見ろよこの鳥肌。怖すぎんだろ。

 

 しかも原作綾小路くんがチェスやってて目ぇつけられたって聞いてたから、ワザと負けまくってたのに、その後ずっと睨まれっぱなしだったし......。

 これを期に、さり気なーく清隆くんが何処に居るのかを見つけるつもりだったってのにてんで見つからないでやんの。

 

 ふぁー、クソ。

 

 まぁ、いいっすわ。

 有栖ちゃんがこの時期に来たって事は、俺は原作キャラと同世代だって事が確定したわけやし。

 

 ついでにドラゴンボーイとリトルガールともヤり合わなきゃいけない事が確定したわけだけど......。

 

 ま、なんとかなるやろ。

 ボク様かなり最強だしな。

 

 白部屋の兵隊でも今じゃ相手になるの茶髪ちゃんくらいだし。つぅか、なんで相手になるんだよ。白部屋の理念一人で叩き折るレベルのチート持ちだぞ、俺....。

 

 まぁそれは置いといて、他にもいくつかの小グループに別れてるみたいだから、何れ綾小路ボーイの居るだろうグループとも合流するだろ。ロリ柳が来てるって事は彼も同じ四期生だろうし。

 今の脱落者のペースからして数年以内には全グループと統合されそうだしな。清隆くん含む四期生の他グループとは会えるまで気長に待つべ。

 

 

 なんて、そんな事考えながら適当やってたら予定通り負けまくってて、清隆パパにぶん殴られた。

 

 えー? なんでワザと負けたって決めつけるんですかぁー?

 

 

 はー、最近あの人、メッチャDVしてくんのよ。

 マジ有り得ないんですけどー。ですけどー。

 

 

 

 

 

 

 とか、巫山戯てヘラヘラしてたらロリ柳ちゃんに呼び出されました。

 

 なんで清隆パパもおk出すかなぁ?

 ホワイトルームは外部接触禁止の筈だろぉ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あー、つら。早く出たい。空が遠い....。

 これじゃあ、前世とまるっきり同じじゃねぇか....クソ。

 

 

 

 

 




ストレスでおかしな言動を取りまくるオリ主くん。
このテンションは作者もキツイのでホワイトルーム時代だけです。

また、“ホワイトルーム生は世代別に別れている”という記述が原作であったようですが、流石に効率上大人数を一つの部屋に押し込んだりはしないだろうという考えの下、本小説では世代別+少人数毎のグループ制度を導入しております。
ホワイトルーム関係は不透明な箇所が多いので、その辺りは作者が勝手に妄想を挿し込んで補完しますので御容赦下さいませ。


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コミュ症流、コミュニケーション術!

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。


 というわけで、強化硝子の向こう側へ。

 プルス・ウルトラつってな。

 因みにこの硝子一枚越えるのに、クッソ長え手続きと、これでもかって言う除菌作業と、校長先生の話を十倍希釈して百倍長くした清隆パパの嫌味たっぷりな注意事項を受けまくって、今、俺は此処に立っている。

 

 

 

「つーわけで、帰っていい? ボクこれからお勉強の時間なんよ」

 

「つれない事を言わないで下さい。それに今日のカリキュラムは全行程終了していると聞いていますが?」

 

 

 清隆パパホント嫌い。

 

 

「そっすかー。じゃー、なんでボクん事お呼びしたんすか? おじょーさま」

 

「ふふ、なんでだと思いますか?」

 

 質問を質問で返すなァー!!

 と、ロリっ娘に怒鳴り散らして涙目になった有栖たそを見てみたくもあるのだが、部屋の四隅に設置された監視カメラと付属の麻酔銃を見て断念した。

 

 

「あー、そうっすねー、お友達になりたかったとかそんな理由じゃないすか?」

 

「おや、お見事。正解です」

 

 

 パチパチと椅子に座ったまま可愛らしく拍手をする有栖お嬢様。

 

 

「マジかよ。ソイツは光栄だぜ。...さて、ところでオトモダチとしてお願いがあるんですがよろしくて?」

 

「......いきなりですね。鏡を持って来させましょうか? 今の貴方の目は父の隣で見る欲に染まった三下の目そっくりですよ?」

 

 ───とてもお友達に向ける視線とは思えません。

 

 なーんて、続ける有栖お嬢様。

 うーん、バレてーら。

 

「あーらら、手厳しい」

 

「....まぁ、此処に居る貴方にも欲があると分かったわけですし、収穫はアリですが」

 

 そう言って有栖嬢は、テーブル横に立て掛けられた紙袋を机の上に乗せようと手を伸ばす。

 

 伸ばす。

 

 伸ばした。

 

 伸ばしたんだよ。

 

 ──────しかし。

 

「...........................お願いしてもよろしいでしょうか?」

 

「あいあい、お友達ですからね。そりゃ手伝いますともさ。無理しないで座って紅茶でも飲んどき」

 

 

 身体の弱い七歳児の有栖たそにはその紙袋は重すぎたらしく、持ち上げる事は難しかったようだ。

 

「かわいいなー有栖ちゃんはー」

 

「......そうですか」

 

 ニヤニヤと顔を覗き込むと、目尻をピクピクさせてティーカップを呷るお嬢様のご尊顔を確認出来た。

 高校生になっても、こんな感じだったら良いのに。

 あんなドSロリにならないで。

 紙袋すら持ち上げられず、腕プルプルさせてる非力な有栖ちゃんでずっと居て。

 

 いや、閑話休題(そんな事はどうでもよくて)

 

 さーて、それで、それで?

 紙袋の中身はなんじゃらほい!

 

 

 

 .....って、あん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひとつ、勝負をしませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が紙袋を覗くと同時に有栖ちゃんから声がかかった。一瞬で雰囲気変わったな。ラスボスかな?

 

 

「ふーん? やった事あるの? “チェス”」

 

「“先程覚えましたので”」

 

 そーなんだ。

 天才って凄いね。

 

 まぁ、俺もだけど。

 

「それで?」

 

「賭けをしましょう。あなたが私に勝てたら、先程の“お願い”を聞きましょう。

 

 

          ─────お友達として」

 

 

「君が勝ったら?」

 

「そうですね─────

 

 

 

 

──────────────私の犬にでもなって貰いましょうか。人工の紛い物では天然の才覚を上回れない事の証明として」

 

 

 ....えぇ? その設定って、ホワイトルームで清隆くん見たから生えた設定じゃないのかよ。

 いや、原作読んでないからよく知らんけどさぁ。

 もしかして、俺より先に清隆くんと会ってたりするん?

 

 ─────それともただの口実かにゃ?

 

 

 まぁ、いいや。

 ホワイトルーム内だけじゃ自分の実力が───というか才覚が、どれほど高いのかイマイチ分かんなかったところだし。

 

 

「いいよ、ノッた」

 

 

 ─────さて。

 というわけで、坂柳有栖戦、スタートだ。

 

 

 

 



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『八年後』の“確定した未来”へ

あけましておめでとうございます(二回目)
年明けだというのに、前話が千五百文字を切っていたので追投します。


「─────リザイン。私の負けですね」

 

 そう言って白のキングを指で弾く有栖ちゃん。

 

「流石に付け焼き刃では勝てませんでしたか」

 

「いや、そんなのは有栖ちゃんも最初から分かりきってたでしょ?」

 

 

 そりゃ、そうだ。

 いくら天才だろうと、先程ルールを覚えたばかりの七歳児に負けるほど、俺ちゃんは弱くはない。

 

 だから、問題は勝ち負けじゃなくて。

 

 

「ええー有栖ちゃん、強すぎなーい? コレ、殆どのホワイトルーム生より強いだろー。あーあー、コレ白部屋、存在価値あんのかなぁ! 税金の無駄だと思いません!? ね、有栖おじょーさまー!」

 

 後半は態とらしくカメラに向かって叫んでやる。

 ブチ切れそうな清隆パパが幻視出来たが、多分気の所為だろう。

 

「ふふ、全くですね」

 

 乗ってくれる有栖ちゃんマジカワユス。

 

 そんな感じのやり取りを経て、その後三十分ほどお話してから有栖ちゃんとはバイバイした。

 

 

 また“いつか”って言ってね。

 

 

 

 

 

 ん? ────ああ、“お願い”はどうしたのかって?

 あー、あれね。

 最初は有栖パパの権力使って此処から出して貰おうとか色々考えてたんだけど、さ。

 

 うん、まぁ。

 ちょっと惜しくなっちゃってなー。

 

 魔法使い目指すのにはちょいと寄り道になっちゃったけど、別の事をお願いしたよ。

 素直になれない有栖お嬢様のツンデレに乗って上げる事にした。

 

 

 

 

 

 ....俺としても一人は友達欲しかったしね。

 

 

 

 

 まぁ、坂柳有栖がこの時期に来たって事で、原作通り進むならホワイトルームも機能不全になる事がほぼ確定してるわけだし、多分なんとかなるでしょ。

 

 俺の座右の銘は“ケ・セラ・セラ”だからね!

 

 

 

「......」

 

 

 ....残り八年。....の筈だ。

 確定した未来は既にある。

 なら、まだ大丈夫。

 

◇◆◇

 

 

 いっえーい! そんなこんなで我、十二歳也ー!

 生意気食べ頃ショタサマですよー!

 ますます俺の美しさとイケメソ具合に拍車がかかって鏡見るたびニヤニヤしちゃう!

 最近の趣味は、もっぱら監視カメラとバスルーム前でポージングを取ること! どうもイケメソ転生者でーす!(ヤケクソコール)

 

 

 ......う、うん。今のは無いかな。

 あ、あれぇ? おかしいな。ちょっと精神が身体に引っ張られてるのかな? それとも俺ちゃん、最初からこんな性格だったっけ?

 なーんか、中二病再発している気がしないでもないんですが。

 

 ま、まぁ、そういう時期だからね。

 そろそろ思春期だからかな? かな? かな?

 うん、思春期なんだよ、ボクは。(自問自答

 思春期なんだ。思春期、なんだよ。.....だからさ。

 

 

「茶髪ちゃん、ちょっと暑いんだけど?」

 

「わたしはさむい」

 

「そっか、施設の人に温度上げて貰おうぜ?」

 

「いい」

 

 

 いい? いいって、どゆこと?

 

 

「そっかー。うん。なぁ、茶髪ちゃん?」

 

「なに?」

 

「当たってんだよ! さっきから! お前の胸が!」

 

「? あててるのよ......?」

 

「何処で憶えたそんな言葉! 意味分かって使ってるのかねチミィ!?」

 

「......?」

 

 あー、コレは分かってやがりませんねぇ。

 ホンクソ。

 ホワイトルームの情操教育どうなってんだよマジで!

 普通、十二歳前後になったら、男女関係なく異性を意識し出すモンだろが! もっとモジモジしろ!

 

 はーーそりゃ、原作小路くんも世間知らずになるわけだなぁ! クソが!

 保健体育の授業は、ペーパーテストじゃどうにもなんねぇんだよ、馬鹿たれ!

 

「あー、茶髪ちゃん? おにぃちゃんちょーっとトイレに行きたいのでゲスが......」

 

「......zz Z」

 

「寝てる!?」

 

 嘘だろ、無防備過ぎだろォが!

 

 

 だーくそ、転生してから十二年。

 未だに綾小路くんも見つかってねぇってのにどうすんだよコレ。

 最近じゃ、数少ない休憩時間ずっと茶髪ちゃんがくっついて来て施設探索も出来てねぇのよ......。

 せめて名簿かなんかが見つかれば良いんだが......。

 うちのグループ含めて、四期生で施設に残ってるのって数組だけだし......もしかして、綾小路くん、ホワイトルームに来てなかったり? そもそも生まれてなかったり?

 

 

 あああああ!

 考えたくない!

 清隆くん居なきゃ、松雄のおっちゃんにおこぼれで拾って貰えねーじゃん!

 

 

 ホワイトルーム稼働停止まであと、三年弱くらいか......?

 

 や、やべーよ、なんとかしなければ......。

 

 

 

 




幸運A+「杞憂だって言ってるんだよなぁ」

美貌A+「嗚呼、美し過ぎるワタクシ(倒置法」
才能A+「完璧過ぎるのも問題ですね(メガネクイッ」

幸運A+「君たち嫌い」


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『彼』のキャンパスに未だ“色”は無く

書いてたデータ消し飛びました。キレそうです。
取り敢えず消えたのが今話だけで良かった....。
急ピッチで書き直しましたが、かなり雑になってしまったので、後々流れはそのままにちょいちょい微修整入るかもです。


あと、お正月ラッシュに上手くはまったらしく、日刊と週間の方でランキングを奪取出来ました。読んで下さっている皆様、ありがとうございます。


「イカサマ、してる....?」

 

「いや、茶髪ちゃんの前でバレないように細工するとか、普通に勝つより難しくね?」

 

「....襟、見せて」

 

「ちょっ、やめい。んな所にカード隠してねぇよ」

 

 鎖骨サワサワすんな、地味にくすぐったい....。

 

 

 あ、どうもみなさんこんにちわ。

 イカサマ系転生者、十三歳でございます。

 いやまぁ、能動的なイカサマは一つもしてないんだけどね?

 

 

 

 ────ゴソゴソと俺の服の中まで手を突っ込んでくる茶髪ちゃん。お前、羞恥心何処に置いて来ちゃったの?

 

「....な、い。....? ....?? ......???」

 

「いや、そんな顔すんなよ。やってねぇって言ってんじゃん。てか、手ぇ早く抜け」

 

 

 目の前で誤作動を起こしたかのように視線を彷徨わせる茶髪ちゃん。いや、言いたい事は分かるんだけどさ。

 

 

「おかしい....何かある。....流石に十二回連続で初手AKQJ10(ロイヤルストレートフラッシュ)はおかしい....服、全部脱いで」

 

「はい?」

 

 

 ────ぐいっ。

 っておい! や、やめろおぉおぉおおぉおおぉお!

 服! 服、脱がそうとすんな!

 おま、ち、力強っ! ちょ、それ以上引っ張ると破れて『ビリッ』ああ、ホラ! 変な音した!

 お前、この貫頭衣無くなったら次の支給日まで俺全裸になっちゃうんですケド!?

 つかなんで毎回俺と拮抗出来んだよお前は!

 

 

「わ、わかった、わかったって! 脱ぐよ、脱ぎますよオラ! これでどうだ!」

 

「......????? な、い....駄目、下も全部」

 

 

 ────ブチィ!

 

 

「まぢかる鉄拳! ───愛情的情操教育ッ!」

 

 ───────『ゴンッ!』

 

「───!? 〜〜〜ッ ....痛い」

 

「女の子に手を上げさせられた俺の心の方が痛ぇからお相子だ」

 

「それは不公平」

 

「この世に平等なんて無けりゃ公平なんてのも無いんだよ、茶髪ちゃん。また一つ賢くなれて良かったな」

 

「良かったかも」

 

 

 うーん、その返しは予想外。

 君、ロボットかなんかなのかな?

 

 

 ────『ザザ....ザザザ....』

 

 あ? またアナウンスか?

 

 ─────『三番、六番。早く席に戻って課題を続けて下さい』

 

 

 課題ほったらかしにして茶髪ちゃんに尊厳レイプされかけていると、室内に無機質な機械音声が流れ始める。

 恐らく記録係の人間だろう。

 

 ....俺、コイツら大嫌いなんだよね。

 ───────煽ったろ煽ったろ。

 

 

 

「えー、けどセンセー? なーんかボクがカード引くとぉ毎回最高点の手札しか来ないんですケドぉ〜、コレ、おかしくないですかぁー?」

 

 ──────『....直ぐに確認の為の人員を向かわせます。課題の進行を一時中断して下さい』

 

「はぁ〜い。早くしてくださいね〜? あ、ついでにコッチの表しか出ないコインと、ピンゾロオンリーのサイコロも変えて頂けますかぁ〜?」

 

 

 

 一体、これで何回目の課題中断なんでしょうねぇ(ニヤニヤ)

 

 

 

 さて、今茶髪ちゃんとやっていたのは、先月から新しくカリキュラムに導入されていた、洞察力他、対人能力の向上を目的とする“イカサマ有りの変則ギャンブル”だったわけなのだが......この分野での俺の成績は、計測不能の一言で纏められるほどに異常であった。

 

 どうやら、使い所の無いニート特典がようやく重い腰を上げたらしい。ぶっちゃけこんな所で力発揮されても困るんだけど....。

 

 

「ていうかぁ〜、さっきからセンセー達も分からないってぇ〜それもうボクが此処で学ぶ必要あるんですかぁ? 自分より馬鹿な人達にぃー、一体何を教わればいいんですかぁ? あ、それともボクのやってるイカサマ分かりますぅ? むずかちぃですかぁ? わかりませんかぁ? てんてー、おちえてくださぁーい」

 

 

 ────『....三番は口を閉じて待機状態を維持して下さい』

 

 

「おーてーぃーえーてーくーだーさーぁーいー」

 

 

 

 そんな感じで煽り散らす事、十分。

 

 

 ──────『....カリキュラムの見直しを検討します。三番と六番はそれぞれ自室に戻って下さい』

 

 

「はぁ〜い。無理だと思うけど解析、頑張って下さいねー」

 

 

 ─────俺は何もやってないし、カードからもコインからもダイスからも何一つとして異常性は出て来ねぇよ。

 

 

 

 そら、“運気”を数値化出来るならしてみろよホワイトルーム。出来ねぇなら役に立たねぇ資料片手にそのままずっと困惑してろ。

 

 

 

「戻るぞー、茶髪ちゃん」

 

 

「ん」

 

 

 て事で、今日の課題終了ー。自由時間が増えるぞー。

 

 まぁ、此処じゃやれる事なんて殆ど無いけど。

 ………………不毛だ。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 ───自室への道中、白紙の長廊下。

 

「....やっぱりイカサマしてた。....教えて。それか脱いで」

 

「脱がねぇし教えねぇよ。てか今までは随分拮抗してたが、取り敢えずギャンブルの分野なら俺の“完全勝利”だなァ、茶髪ちゃん」

 

「───── 」

 

 その言葉に、ピタリと背後の足音が止まる。

 振り向くと、俺の放った“勝利”という単語に彼女の目が一瞬だけ無機質なモノへと変わっていた。

 ────が、しかし直ぐに何時ものジト目へと戻った。

 

 

「....? ....?? ......???」

 

「あん? どったの?」

 

「....わからない。どういうこと....?」

 

 どういう事? え、なに? 何が?

 

「....おい、マジで大丈夫か? なんか最近、茶髪ちゃん誤作動多くね?」

 

「.........不思議」

 

「うん? うん、不思議だね。いや、俺からすると君のがよっぽど不思議ちゃんだけどね?」

 

「気になる」

 

「俺もお前が何考えてんのか超、気になるよ」

 

 ─────割と切実に。

 この子の頭の中はどうなっているのだろうか?

 

「おそろい」

 

「そうだね、おそろいだねー」

 

 

 

 

 ────なんて。

 十年以上も続けてきた彼女との遣り取り。その殆どが中身の無い無益と呼べるものではあったが、しかしこれはこれで毎回新鮮味があって悪くない。

 

 

 出来るだけゆっくりと────色の無い白紙の廊下を歩く。この時間だけは嫌いではなく......真っ白な俺にとって、茶色というのは悪くない色だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




幸運A+「ほら、ボクだってやれば出来るんだよ!」
才能A+「え? 何か役に立つんですか? それ?」
美貌A+「将来はパチンカス確定ですわね!」

幸運A+「キレそう」


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不確定な『七年後』と必要のない“答え合わせ”

ようやく白部屋脱出パートです。


 どうもイケメソ転生者十四歳です(挨拶気に入った

 

 さて、ワタクシは今、何処にいるでしょーか!(世界の果てまで逝ってみる番組風

 

 

 はーい、こっこでーす!

 こっこっこっこ!(ニワトリのモノマネ

 

 正解は〜ダルダルダルダル────ダン!

 

 

「逃がすな!」

「追え!」

「クソ! なんで撃とうとすると毎回ジャムるんだ!?」

「駄目です、これ以上人員、割けません!」

 

 

 ───じゃじゃーん.....! .....なんつって。

 

 

 いや、何処って、俺が知りてぇのよ(素

 何処の山ん中だよ此処は.....。

 

 あー、どうも、遭難系転生者十四歳です......。

 現在、山岳地帯にて、白部屋の兵隊とリアル鬼ごっこの真っ最中で御座います。

 

 

 

◇◆◇

 

 さてさて、回想シーンで御座います。

 

 結論から言うと、何故か原作でのホワイトルーム稼働停止イベが一年程前倒しになりました。

 いえーい!

 

 

 ただし────謎の襲撃という形でなァ!

 

 

 いや、意味不過ぎ。

 どうしてこーなった???

 い、いや、マジでなしてこーなったんや....完全に宇宙猫状態なんだが......。

 

 

 何はともあれ、ロリ柳襲来に次ぐ原作二番目のイベントであるホワイトルームの機能不全イベが何らかの要因で前倒しになったらしく、現在白部屋内は、警報装置の光で真っ赤に染まり、てんやわんやしてございます。

 

 あれー???

 

 稼働停止イベって、襲撃系なの?

 なんかもっとこう、綾小路パパ(パパレックス)の不倫がバレて、不祥事で一時的に経営が厳しくなった〜的なヤツを想定してたんだけど......。

 

 えぇ......なんも分からん。

 俺ちゃん、この後どうやって動けばいいんよ?

 

 あーくそ、今まで想定してた計画が全部おじゃんだよクソが。マジで、俺の何処が幸運なんだよ。ギャンブル以外でももう少し活躍が見たかったなぁ、幸運A+さん!

 

 ─────『ガコンッ』

 

「はい???」

 

 俺の嘆きに呼応するかのように発せられた音に思わず頭上を見ると、老朽化していたのかいきなり天井が落ちてきたようで。

 

 ─────これは....。

 

 なーんか、俺のゴーストがこの先に幸せが待っていると囁くので、天井にできた穴に向かって恵まれた身体で壁キック!

 ワン・ツーステップのリズムに合わせ、配管工が赤帽子バリの連続壁キックにて屋根裏空間へと俺参上!

 

 お、空いてんじゃ〜ん!

 

 俺が着地した瞬間、おかわりとばかりに何故か唐突に壊れる前面の壁。

 そこから流れる、自然のかほりと生命の風!

 

 これは出口のパルファム!

 

 ──良いよ! 良いよ!

 良い子出来る子! 運気の子!

 何だよ、役に立つじゃねぇか、お前〜。

 急にやる気出して来てさぁ〜!

 実は出来ますアピールですかぁ?

 これは、ニート脱却ですかねぇ! 幸運A+さん!

 

 

「んじゃ、さらばホワイトルーム! コンニチワ、魔法の深淵へと続く道筋!」

 

 

 外界の地上とは高さ的に四階近い高低差が有ったが、そんなんまるっと無視して、空いた穴からバンジージャンプ! ポージングと共に華麗に着地!

 

「ハッハーー!! 十四年ぶりのシャバの空気はうんめぇなぁオイ!」

 

 ビバ! 大自然!

 俺の心は今、最高にロギア系だぜ!

 

 

 

 って、んー?

 

 

「いたぞ! 三番だ!」

 

「おぁ? 誰だーキサマはー?」

 

 唐突に現れし不審者A。

 って、その制服は、ホワイトルームの関係者じゃねぇか。見つかっちまったら仕方ないよね。そいじゃナイナイしましょーねー。

 

「ぐがっ、な、なんだ、おい、はなせ!!」

 

「はーい、オネムの時間でちゅよー」

 

 ─────いちにぃさーん。ばたんきゅー。

 

「......かハッ」

 

「永遠に眠ってろボケ(豹変」

 

 あーあー、こんな所で寝ちゃって風邪引きますよー。

 仕方ねーから介抱ついでに服引っ剥がして診察したるでー。あー、これはアレだ、過労ですね、間違いなく。

 ホワイトルームは上も下もブラックだったから仕方ないね。あー、あと、この服貰って行きますね。診察料はツケといてやっから。

 

 

「──────こっちだ!」

 

 

 って、またかよ。

 

「いたぞ! 早く囲んで、麻酔銃を使え!」

「油断するなよ、熊なんかよりよっぽど危険だ......!」

「くそっ、毎回毎回カリュキュラムを修整させやがって!」

 

「いや、俺ちゃん化け物かなんかかよ」

 

 てか、最後の私怨だろうが。

 やめろよなー、そういうの。

 大の大人が寄ってたかってみっともない。

 というか包囲網が完全に対猛獣レベルなんですがそれは。テンプレ通りに油断とかしてくれないんですか?

 

 ....まぁ、チートオリ主サマがモブ相手に負けるはずがないんだけどさぁ。

 

「ちょーっぷ! きーっく! あそーれ、まぢかるぱーんち!」

 

「ぐっは!」

 

「この化け物が......!」

 

「せめて一発だけでも......」

 

「....く......そ」

 

 

 おい、マジでヤメロよ完全にコッチが悪者じゃん。

 俺ちゃん、アンタらの悪事は知ってんだかんなー。

 ホントは全員服とマスクひん剥いてネットに晒し上げてもええんやで?

 

 

「ま、時間ないからやらないけどな。そいじゃアディオスまた明日とか!」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 この日、遂に狂った歯車が軋みを上げた。

 蝶の羽ばたきもかくやな彼の存在は、本来の史実とは異なる未来を映し出す。

 

 手始めに、二つ。

 一つは、ホワイトルームの稼働停止が襲撃イベントにより一年ほど早まり、被害が原作よりも深刻化した事。

 二つ目は、十四年間、自身の理念を徹底的に否定され続け、しまいには遠くない未来で娘にも逃げられる事になる綾小路先生が、重度のストレス性胃腸炎を患った事で目出度く長期入院する事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 ....ん? あれは...もしかして、綾小路父と....松雄、か....? 何故、このタイミングで....。

 

 

 …………。

 

 

「──────ああ...そういう事....。まぁ、予想通りではあるか」

 

 …………最初から、知ってたけど。

 

 ─────────寧ろ安心したまである。

 

 

 

「そろそろ....俺“も”行くか」

 

 




幸運A+「どやぁ」
美貌A+「やっば」
才能A+「こっわ」




今回の襲撃イベントの裏側は、蛇足になるので今話では省いて三話後のキャラクター設定にて挿入します。説明不足な回で申し訳ありません。


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『運命』とは自らの手で手繰り寄せる“モノ”である by幸運A+

総合日間にて一位に名を残す事が出来ました。
今話まで読んで下さっている皆様、ありがとう御座います。


 どーも、逃亡系転生者十四歳で御座います。

 あれから体感一時間、人っ子一人見えやしません。

 

 

「まーじで、何処だ此処......」

 

 下山するにもこの辺はかなり険しいし、降り切る前に絶対足駄目にするだろうなぁ。靴も施設で履いてたのそのままだし......。

 俺ちゃんの白魚にも勝るふつくしい足に傷が出来るのは極力避けたいんだけど......。

 

「てーか、一人で逃げて来ちゃったけど、茶髪ちゃんとか大丈夫かね?」

 

 結局、清隆ボーイも見つかんねぇし。

 完全に四期生全員と顔合わせした筈なのに、なーんでいねーんだよ。

 最終的に残ったのも俺と茶髪ちゃん含めて片手で数えられる程度だったしよぉ......。

 今までの統計的に考えて、施設内で噂されてた過去最難関の課題とやらが出されてたら、多分最終的には俺と茶髪ちゃんくらいしか残らなかっただろうぜ。

 清隆パパ鬼畜スギィー。

 

「あー、思い出したらなんか心配になってきたわ」

 

 茶髪ちゃん、能力値バカ高いけど妙にぽわぽわしてっからなぁ。ちゃんと脱出出来ただろうか。

 てか、脱出出来たとして、あの子はその後やっていけるのだろうか......。

 世間知らずの無気力ガールなど、すぐに悪い大人に食い物にされてしまうのでは......?

 

 

 ─────なんて、思ってもいない事を考えてみる。

 

 

「いや、それはねーべ」

 

 何だかんだあの子は大丈夫な気がする。

 というか、裏社会のボス的地位について、御意見番とかやってそう。

 俺のゴーストがそう言ってるでな(適当丸)

 

 

 なんて──────本当に、馬鹿馬鹿しい。

 

 

「てか、人の心配してる場合じゃねーんだよなぁ、俺。このままじゃ餓死するし、何より戸籍と居住地の問題、どーすっべ」

 

 困った。

 超、困った。

 こんなに困ったのは転生してから初めてだ(大嘘

 長期的に見てお先真っ暗なのが丸分かりなんだよ。

 

 

「あー、困った時の神頼み───つーか、ニート頼りって事で」

 

 神は決して助けてはくれないからね。死後拾ってくれたお爺ちゃんも鬼やら悪魔だったらしいし。

 て事で、なんとかしてくださいよー、幸運A+さーん! ....なんて。

 いやまぁ、流石にこの状況じゃ役に立たんか───ん?

 

 ────『ばびゅん』と一つ、前触れの無い唐突な突風が。

 

「─────おっとと」

 

 

 

 一瞬、バランスを崩す俺氏。

 いや、まぁ、チートスペックのボク様が山道程度で転ぶとかありえないんですけ─────ど?

 

 更に────此処で突然の地鳴りが起こる!

 足を取られて倒れ込む俺ちゃん!

 

 ───────いや。

 

「なんでやねーーーーーーん」

 

 流石のボク様でも余震無しの直下型地震は予測出来んのだ。

 

 そのまま普通に体制を崩し、コロコロころりと、山道を握り飯のように転がる俺。そして流されるまま転がり続け、あっという間に山を抜け出し車道へと飛び出した!

 

 

 え───────?

 

 

 

 『キキィィィィィ』っと、大音量のタイヤの削れる音が辺りに響き、俺の鼻先でギリギリ停車する黒塗りの高級車。鼻孔を擽るゴムの焼けた匂い。

 そして、中から大慌てで飛び出してくる運転手らしき人影。

 いや、ホントゴメンなさい。まさかこんな事になるとは......。これも全部、ニートと地震と強風が悪いんで......ん?

 

 

 

 

 

「──────おや、あなたは」

 

 

 見なくても分かる、いつか聴いた鈴の音。

 その声に自然と口角が上がるのを感じる。

 

 は────ははは! マジかよ!

 コレは流石にもうニートとは呼べんなぁ!

 働き過ぎだろうよ。幸運サマ!

 

 

 

 

 

 

 呼吸を一つ───地べたに寝転がったまま、俺は彼女に言う。

 

 

「へい、マイフレンド七年ぶりだな。ところで風呂貸してくれん? 見ての通り泥だらけなんよ、俺」

 

「はぁ......早く乗ってください───ディアフレンド」

 

 

 運転手の後ろから出て来た杖持ちの小さなシルエットに、俺は寄生先を手に入れた事を確信したのだった。

 

 

 

 

 

 有栖ちゃん、マジ愛してる。

 

 




【実績解除】in有栖ルート!

トロフィー『運命的な再会』を獲得しました。
トロフィー『七年来の幼馴染』を獲得しました。

新ルート『有栖パパとの謁見』が開放されました。
新ルート『ドキドキ同居生活(父親同伴)』が開放されました。

『坂柳理事長』が新たに攻略可能キャラに追加されました。





そうだ─────────その為の幸運だ。
御都合展開は万人に分かりやすく、それでいてワザとらしいくらいがちょうど良い。

逆に考えるんだ。
開き直ってもいいさ、と。
オトウサン!

いや、すみません。松雄抜きでホワイトルーム産のオリ主が高育に入学するルートは非常に限られるので、本作では既に伝手のある坂柳家と無理矢理引き合わせました。

ので、幸運A+がここまで力を発揮するのは多分この回くらいです。幸運を物語の展開に組み込んで許されるのはダンガンロンパくらいでしょうし。


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茶髪のあの子「ん....なんか私の立場が脅かされているような気がする....」

坂柳理事長のキャラが分からなかったので、完全なオリキャラになってしまいましたすみません。


「お義父さん! 娘さんを貰いに来ました!」

 

「うん、ホワイトルームに帰ってくれないかな? 切実に」

 

 

 開口一番お巫山戯から入るクソガキとは俺の事よ。どうも居候希望系転生者十四歳であります!

 

「というか、酷い格好だね。取り敢えず話は聞いてあげるから、湯浴みをして来なさい」

 

「お義父さん! 娘さんをボクに────!」

 

「はぁ、その子、早く連れてって」

 

 

 はやらせこらー! って、使用人さん、力強!

 技術使ってない+二人がかりとはいえ、俺が振り解けないとかマジ? ボク様チート転生者だぞ?

 絶対改造人間かなんかやろお前ら!

 

 

 《オリ主移動中》

 

 

 

 ──────で。

 

 

「それでは此方で身体をお清め下さい。御召し物は私共で用意いたしますので」

 

「え? あー、うん。......どうもです(コミュ力E-」

 

 って、そうじゃない!

 くそッ! くそッ! 押しきれなかった!

 “何か急にやって来た娘の彼氏”って設定でそのまま同居まで持って行こうと思ってたのに!

 

 これじゃあ、理事長センセも冷静になっちまうじゃねぇか! コレ逃したら俺、戸籍無しの住居不定無職君だからな! 日本なら密入国と同義だぞオイ!

 今までにいないだろ! 高育入る前に無職になりかけた転生者!

 

 このままじゃ散って行った歴代チートオリ主達に顔向け出来なくなっちまうよ! てか、高育入れなきゃ俺の魔法使いライフが終わるナリ!

 

 ....認めんぞ......そんな未来、あっていい筈がないぃ....!

 寄生してやるぅ......どんな手を使ってでも....。

 なんとしてでもこの坂柳家にしがみついてやるぅ(こんなオリ主は嫌だ世界選手権筆頭優勝候補)

 

 

 

◇◆◇

 

 

 《オリ主入浴中》

 

 ばばんばばんばんばん(アービバビバ

 

 

◇◆◇

 

 

 良いお湯でしたー。

 久し振りに足伸ばしてお風呂入った気がする。

 てか、そもそもホワイトルームにはシャワー設備しか無かったし。何気にちゃんとお風呂に入ったのコレが初めてかもしれんわ。前世含めて。

 

 まぁ、そんな初風呂に対する感動はそのままに、進む展開が待ってくれるはずもなく。

 流される様に、入浴後すぐに通された応接室で。

 

 

 

「うん、いいよ。ウチに置いてあげる」

 

「マジすか!? 娘さん、貰っちゃっていいんすか!?」

 

「いや、そっちはあげねぇよ」

 

「すんません」

 

 これ以上は流石に有栖パパにも怒られるから撤退という事で.......てか、うーむ、なして?

 

「置いて貰う身で聞くのもアレなんスけど、何故にボクを? ぶっちゃけボクかなーり不審者ですぜ?」

 

「まぁ、うん。そうだね、話は聞いてるよ。山道で走行中のうちの車の前に、いきなり泥だらけで飛び出して来て、オマケに開口一番風呂まで要求してきたとか」

 

 うん、字面にするとマジでやべーな。

 時代が時代なら打ち首もんやで。

 

「いや、ホントにスンマセン。あの時はかなりテンパってまして」

 

「まぁ、そうだろうね。ホワイトルームに関しても一応話は聞いているよ」

 

 そうすか。

 俺の方は何も聞かされてなくて、白部屋の現状とか丸っきり知らないんですが。いや、今は白部屋云々じゃなくて....。

 

「うん、まぁ....理由。理由ね。理由はいくつかあるんだよね。私が綾小路先生のやり方に疑問を持っているだとか、ホワイトルームの在り方が気に入らないだとか、関係者としての罪滅ぼしだとか。君を保護する理由は挙げようとすればいくらでもある」

 

 有栖パパ、随分とぶっちゃけるなぁ。

 

「けど、結局今挙げたのもツマラナイ理由付けでしかなくてね。本当の理由としては、私の娘─────有栖の事だよ」

 

「やはり、娘さんをボクに託───」

 

「うん、違くてね。......あの子は賢い。とてもね」

 

「え? ああ、はぁ。そっすね」

 

 なんや急に。娘自慢か?

 

「それ故、対等な友人関係を築くのが酷く難しいらしくてね......」

 

 あっ(察し)

 流石に此処まで言われれば、転生オリ主としてこの後の展開は容易に想像出来る。

 

 なるほど、娘のお友達になってくれルートですねコレは。おkおk、有栖ちゃんとは、もはやズッ友レベルの信頼度だからな。全然問題無いぜ。

 これなら余程の事がない限り、追い出される心配も無いだろうし。

 このまま話の流れ的に戸籍と住居ゲットという感じにキレイに纏まるんだろうが......うん。

 

 ────俺は強欲なんだ。

 

 て事で、もう一声欲しいで、幸運A+サマ!

 

 

「それでね、私としては娘のレベルに見合った子達が集まる学校に入れたくてね。お誂え向きに私が理事長を務める高校がソレと合致するわけだ。しかし、やはり心配でね。全寮制という事もあって、理事の私でも軽々に連絡が取れないんだよ」

 

 つ、つまり?

 

「君には娘と共に『高度育成高等学校』に入学してほしいんだ。──────有栖の友達としてね」

 

 

 きたーーーー!

 世界が俺に味方しているッ!!

 コレは勝った! 第三部! 完!

 

「ふむなるほど謹んでお受け致しますとも。ぼかぁ娘さんの友達ですからね!」

 

「うん、目がすっごく濁ってるんだよなぁ、君。鏡見るかい? 立場上良く見る目だから全く信用ならないよ」

 

「そんな事言わないでよ! お義父さん!」

 

「君に父とは呼ばれたくないなぁ......」

 

 




あとがき

作者「おつかれ、君もう明日からこなくていいよ」

幸運A+「え?」

作者「いや、お疲れ様。無事オリ主も高育入学決まったわけだし、君もそろそろお役御免かなって」

幸運A+「え? え?」

才能A+「当然の結果ですね(メガネクイッ」
美貌A+「さよならですわ!」


幸運A+「 ....ゑ? 」


はい、というわけで次回キャラクター設定を挟んでから新章入学編で御座います。
大変お待たせいたしました。
ようやく原作一巻スタートです。

有栖ちゃんとの同居生活云々は蛇足になるので後々回想や閑話を使って一話読み切りの形で何話か書こうと思っています。なのでその時までカットです。流石にこれ以上入学前を引っ張る事は出来ない....。

入学までに十話近く使うバカタレが居るってマ...?


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幕章
『キャラクター設定』+“α”


現時点で出せるキャラクター設定になります。



 『菊白 蓮夜(きくしろ れんや)』

 本作主人公。何気に本名初登場。

 将来の夢は“悪い魔法使い”な転生系オリ主。

 

 オリジナル執筆の息抜きで最近読み始めた原作“よう実”とその二次創作に影響を受けた作者が、“あれ? 清隆くんTSさせたら可愛くね?”という軽率な発想の元、公式チートな綾小路たそに見合う転生者として生み出した“ぼくの考えた最強のオリ主”......の、はずだったんだけどなぁ。......最初は。

 

 転生特典として

 【才能全般A+】

 【美貌の人型A+】

 【幸運A+】

 【綾小路清隆に道具として見られない。また、随時発生する負の感情の無効】

 という、これでもかというほどのチート要素を引っ提げて悠々と転生。

 しかし、それでも原作綾小路くんに勝てそうもなかった為、作者の手によりホワイトルームにブチ込まれた可哀想なやつ。あと、清隆ちゃんと幼馴染みにしたかったってのもある。

 

 

 将来の夢は“悪い魔法使い”らしい。

 ちょっと何言ってるかわからないね......。

 

 作者も知らないうちに、何時の間にか魔法使いに成れる(させませんが)事をモチベに高育へと乱入する事を決意したイカれ野郎。

 

 ホワイトルーム内には、既に精神が出来上がっている状態でブチ込まれた為、他の真っ白な状態のホワイトルーム生よりも精神的ストレスが重くかかっていた。

 本人は露骨な幼児化と明るい口調で十四年間誤魔化し続けて来たが、神様チートと前世での闘病生活の記憶が無ければ原作入る前に首を括っていたかも。

 

 現在は、有栖たそとの同居生活にて自力でメンタルケアを行っており、そこそこ回復して来ている模様。精神状態もそれなりにマトモに戻って来ている。

 

 ──────前世の死因は衰弱死。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『綾小路清隆(♀)』

 無口無表情系電波型ヒロイン。巨乳。

 原作主人公たる綾小路清隆を一度分解した後、作者の独断と偏見を元に再構成した魔改造TSヒロイン。茶髪の誰かさん。

 

 

 

 

 当初の内訳はこんな感じでした。

 

 無表情キャラ?

 →おkおk、無口なクーデレキャラなんやな?

 

 tintinと筋肉(胸筋)がすごい?

 →ならおっぱいも大きいやろなぁ。

 

 ん? 情操教育が施されていない?

 →それって、幼いって事ですよね?

 

 友達が欲しぃ〜?

 →それ、恋人じゃ駄目なんですか?(迫真

 

 

 おあ? アニメ清隆君の回想シーン見てきたけど、ホワイトルームって全員丸刈りじゃないんだ。いやん意外〜。

 ん? じゃあ、あの場所、髪とかどうやって切ってたんやろ。いちいち、美容師呼んでんのかなぁ? それとも清隆パパが毎回切ってあげてんの? 

 もしかして、白部屋、そもそも頭髪検査とかないんでない?

 →なら生まれてから一度も髪切った事無いって、設定にしたろ〜。

 

 

 おー! ええんとちゃう? 出来たべ!

 超長髪無表情巨乳無垢少女イイネ!

 

 ....はい、ゴメンナサイ。

 

 現在、原作通りに松雄さんの所で保護されています。

 

 

 

 

 

 

 『坂柳有栖』

 今も昔も永遠のロリ。

 多分生まれた時からロリだった。

 原作綾小路くんとの遭遇イベが丸々カットされた上、時を同じくして挿し込まれるようにバグキャラ野郎とエンカウントしてしまった為、天才の在り方への拘りが若干薄まっている。但し闘争心は健在。

 オリ主の事は、凡人側ではなく天才側の人間だと考えてはいるが、彼の両親が凡人である事は知っていた為、遺伝的な天才とは別の例外的突然変異体として考えている。ぶっちゃけ間違いじゃない。

 

 現在オリ主と同棲中。

 一般常識をオリ主に教えてあげているが、あまりに順応の早いオリ主に若干懐疑的な目を向けている。そのうち転生者であるところまで突き止められそうで怖い。偶に嘘の常識を教えたりして、オリ主をからかって遊んでいる。曲がりなりにもホワイトルーム生であるオリ主は外の世界を知らないという設定上、分かっていても指摘出来ずに一方的に弄ばれているという。仲良いね、君達。

 

 裏話。

 ホワイトルーム内でチェスを行った後の三十分間の対話にて、魔法使いになりたいという夢を大真面目に語った主人公に深い哀れみを覚えていた。

 当時の有栖たそは、外に出れば魔法使いになれると本気で信じている様子のオリ主に、外の世界に魔法なんて無いとは言えず、曖昧な笑みしか返せなかったそうな。

 うん、コレは勘違いしてもしょうがないよね。

 

 

 

 

 

 『菊白夫妻』

 The凡夫。オリ主のパパとママ。

 父親は外資系企業の下請けで、母親は専業主婦という何処にでもある普通の家庭。

 主人公の髪色をシンボルカラーの白にしたいという作者のワガママにて、日本と北欧系の血が滅茶苦茶に混ざったクォーターという設定を持っている。容姿はどっちも普通で日本人寄りの顔立ち。

 

 会社上層部の伝手と凡人という経歴から清隆パパからお声がかかった。

 オリ主は金を積まれて捨てたと考えているが、一応息子の将来を考えての選択。

 設定上の辻褄を合せる事を目的としたキャラなので、多分もう出て来ない。

 

 

 

 

 

 『綾小路先生』

 しっかり下調べして凡人の子供を引き取った筈なのに、ソイツが自分の娘を越えるレベルのバグキャラだった為、発狂。作中はオリ主の一人称で進行する為露骨には語られなかったが、ストレスを抱えまくったオリ主からは完全に目の敵にされており事ある毎に粘着されていた。

 逆に上からグチグチ文句も言ってたりした。

 ある意味オリ主とは腐れ縁。けどお互いに嫌い。顔合わせたらどっちも文句しか言わん。

 生まれたのが息子ではなく娘だった事から多少親バカが表に出ている。本作被害者の会会長。

 一度はオリ主を例外的存在としてホワイトルームから追放しようとも考えていたが、その場合オリ主と拮抗する実力を持つ自らの娘にまで話が飛び火する可能性があった為、オリ主を切り捨てるという判断が下せなかった。仕方がないので他の生徒への悪影響を渋々黙認して何とかオリ主を対抗馬として利用出来ないかと考える。

 

 多分、ホワイトルームが完璧な一枚岩だったら、突き上げを気にせずオリ主だけを序盤で切り捨てていたと思う。

 当然、他の関係者からもオリ主の追放案は上っていたが、上記の理由から実行に移せなかった為、逆に理由を付けて握り潰していた。

 その為原作よりも大きくスキを見せた分、求心力が落ちてしまっている。

 

 現在は入院先にて、バグキャラのせいで宛にならなくなったカリュキュラムを新しく考え直し、他の時間はホワイトルーム内で急速に浮上し始めた邪魔な新興派閥を潰す為にせっせと頑張っている。

 

 

 

 

 

 

 『ホワイトルーム』

 現在稼働再開に向けて立て直しの真っ只中。

 凡人が才人を打倒するというコンセプトの下、創設された施設であったが、オリ主による度重なるカリキュラムの見直しとそれに伴う大幅な人員の移動が波紋を呼び、内部方針はぐちゃぐちゃ。元々存在していた反対勢力から一部が突き上げを食らう羽目に。

 

 加えて、バグ野郎の存在により、元々一枚岩ではなかったホワイトルーム内で無秩序に派閥が乱立し始め内部分裂が加速。小さなひずみを理由に、話は本筋とは関係の無い利権などの部分にまで飛び火し、ホワイトルームを舞台とした外部からの代理戦争(利権争い)へと発展。原作開始二年前の時点で小規模な襲撃(内乱)イベントを引き起こす羽目に。

 いや、人工的に天才を生み出すなんて言う金になりそうな施設、隙をみせればそりゃ多方面から喰われるやろ、と。国の上層部は一枚岩じゃないんだから。

 

 また、運営側以外の箇所でも原作との乖離が見え始めており、オリ主が常日頃から発していた研究員を笑い者にするという悪趣味な言動が施設内に一石を投じた事で、それらに影響を受けた子供達にホワイトルームに対する反抗心が芽生え始めている。それにより、本来絶対であった筈の施設内の上下関係が徐々に狂い始めている。うちのオリ主はガキ大将かテロリストか。

 

 後輩として入学してくる五期生の皆様が楽しみですね。(まぁ、2年生編まで続くかは分かりませんが)

 

 

 

 

 

 

 




小説書く時、一番難しいのって設定を何処まで出して良いかじゃないですか? ....こういうところで主人公に対するヒロインズの内心とか解説されても、え? ってなりますし。正直、何処まで書いて良いのか分からない....。

あ、誤字報告をくれた方、ありがとう御座いました。空耳の方も修整しておきました。


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原作一巻
『Hello world』


 ───────人生には目標が必要だ。

 辿り着くべき果ての無い道は、もはや道ではなく檻と同義だ。結末が無ければ過程は生まれ出ない。

 

 目指すべき到達点こそが、道中に意味を持たせるというのは言葉にするまでもないだろう。

 

 

 ────俺は窓の外に視線をやり、生まれる前の色褪せた記憶を想う。いや、あの無限に続く停滞に始めから色など付いていなかったのか。

 ならば今世の視界がこんなにも極彩色に輝いて見えるのは、やはり望む終わりが明確に見え、結末までのレールが途切れる事なく続いているからなのだろう。

 

 

 ──────今の俺には進む為の“脚”があり、行動する為の“理由”がある。

 

 それがどれだけ突飛で不合理なものだとしても構わない。寧ろ直ぐに達成出来ないという事にこそ意味がある。

 

 病室の白色を想起させるあの部屋を抜け出し、初めて見る色彩に溶けるよう俺は空白を着飾る。

 

 ──────世界よ識れ、今のオレは間違いなく生きている。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 窓から這入る春風の若い冷たさに、呆けた意識が研ぎ直される。────どうやら、俺は結局一睡も出来なかったらしい。

 

 回らない頭を抑え、木の香りが残る古びた時計に視線を移す。────時針の指し示す数は、五と十三。そろそろ彼女を起こしに行かなくては。

 

 

 朝日の混じる薄暗い部屋で、寝床を軋ませながら立ち上がる。身体を鳴らしてから、無駄に広い一室を五秒以上かけて跨ぎ切り、そのままドアへと手を伸ばす。

 ────────途端に光量を増す自室。

 

「....自室?」

 

 どうやら俺の白紙も、二年という時間で随分とこの場所に染められたらしく、自然と借り部屋の筈の此処を“自室”と称してしまっていた。

 

 ────いっそ苗字も変えてしまうか。

 

 そんな下らない戯言を呑み干して延々と続く廊下に出る。今日でこの廊下も見納めだと思うと、横切る速度も比例して遅滞していく。

 

 一つ。二つ。......そして、三つ。

 ゆっくりと扉の数を数えながら、大窓を横切り目的の場所へ足を進める。

 

 ────少し歩いてから、足を止める。

 他の部屋と比べて一際着飾った扉の前。

 親の愛情なのだろうか。俺が今世で得られなかった何かを感じるその装飾を意識的に切り捨て、扉を叩く。

 

 ─────コンコンコン。

 初めて訪れた時よりも一つ、音は減っていた。

 

 

「有栖─────入るぞ」

 

 返事は聞かない。

 ただ、何時もより力を込めて扉を開き───

 

 

 

「....はぁ。何時にも増して自分語りが恥ずかしいので話し掛けないで下さい。眠気が飛ぶ代わりに、聞いてて死にたくなります。流石に朝からセルフナレーションはキツ過ぎますよ蓮夜くん」

 

 

 

 ─────寝起き姿の彼女から何時も通りの罵倒を受けるのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 良い朝ですねー。

 どうも、おはようございます。

 居候系転生者、新一年生で御座います。

 いやー、ああいう意味も無く無駄に長い語りってのを一回やってみたかったんですよ。

 

「それにしても、冗長が過ぎますよ。入学初日から遅刻してしまってはどうするんですか」

 

「ほら、そこはパパさんの立場で握り潰してもらおうかなー、と」

 

「はぁ....まったく」

 

 そんな無益な会話をしながら、長い長いテーブルで隣り合って朝食を摂る。

 今日も、使用人さんの作るご飯は美味しいなぁ。

 

 

「「御馳走さまでした」」

 

 

 さて、食べ終わったら、それぞれ杜撰だった身支度を整え直して玄関前で待ち合わせる。

 

 ──────時刻は丁度、七時半だ。互いに時間管理が完璧なようで何より。

 

 

「そいじゃ、行きますかね」

 

「ええ」

 

 

 一度だけ振り返った後、俺の右手を彼女の杖へと変えて家を出る。さーて、ようやく原作一巻スタートですよ!

 

 

 

 




転生前のオリ主のスペック

【学 力 】:A
【知 性 】:C-
【判断力 】:D
【身体能力】:E-(F)
【協調性 】:E


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ようこそ、夢のような学校生活へ

“よう実”お馴染みのバス回です。


 四月───入学式。

 

 物語の舞台である“高度育成高等学校”へと向かう為、俺と有栖はバス停での待ち時間を他愛の無い話で埋めていた。

 

 否。他愛の無いなどと言ってはみたが、しかし俺のテンションはようやく始まる原作を目前にして極限まで高まっており、どうしても声のトーンは上ってしまう。心做しか隣に立つ彼女もロリっ娘らしく浮かれているようにも見え───うん。見えないね。親友がいつも通りな様で何よりですわ。

 

 なんか自分だけ変に盛り上がっていた事に気付き、途端に恥ずかしくなって顔を逸らす俺。しかし隣の白混じりな銀髪さんは下からSっ気の強い笑みを持って覗き込んで来る。

 

「ふふ、どうしたんですか? そんなに浮かれているなら、はしゃいでも良いんですよ?」

 

「....そーですか。ならお言葉に甘えてテンション上げて行きましょか」

 

 

 くっ....不甲斐ない! ....俺が二年も付いていながら、ロリ有栖ちゃんは原作通りのドSロリに育ってしまいました....ッ! ....うぅ、せっかく娘さんを任せてくれたのに....パパさんに申し訳が立ちませぬ....ッ!

 

 ─────『ドスッ』『ドスッ』『ドスッ』。

 無言で上下運動を続ける隣人の杖。その下には当然の如く俺の右足が。

 

 

「ジョークだっつの、地味に痛いから叩くなって」

 

 その杖、結構鋭いんだよ。

 

「何か失礼な事を考えていそうだったのでつい。申し訳ありません蓮夜くん」

 

 ─────『ドスッ』『ドスッ』

 

「うん、謝るなら叩くのやめてくんね? そろそろ足の甲穴開いちゃうから。いや、俺も悪かったって。仰る通り浮かれてたんだよ」

 

 

 なんて。この二年で随分と慣れた何時もの遣り取りをしている内に、俺達の前に一台のバスが到着する。

 

 ────しかし。

 

「これは....」

 

「あーマジか。結構早めのバスなんだが....」

 

 乗車入口に視線を移すと同時に、上っていたテンションが急速に下がって行く。

 どうやらバスの中はかなりの人数で溢れているらしく、満員とは言わずとも座れる席は一つも無い。

 

「あー。有栖、時間もあるし次待つぞ」

 

「いえ、乗りましょう」

 

 そう言って此方に手を伸ばしてくる白銀色の少女。

 だが、そういうわけにもいかない。

 知っての通り、彼女は身体が弱いのだ。

 この人数の中、長時間立ちっぱなしというのは、かなりキツかろう。

 

「この程度であれば問題ありません。早く乗らないと行ってしまいます」

 

 はぁ....もう少し乗車時間を早めるべきだったか。

 此方に伸ばしていた手を引っ込め、一人で乗り込もうとする有栖を静止し、彼女の身体に負荷がかからないようにエスコートする。

 

「ありがとうございます、蓮夜くん」

 

「あいあい、悪かったな。見通しが甘かった」

 

 車内を軽く見渡す。散見するは見覚え深い派手な制服。どうやらこのバスにはそれなりの数の高育生が乗っているらしい。

 

 ............仕方ない。

 入学前から変に目立つのは避けたかったが、誰かから席を譲って貰うか。有栖の持っている杖を見れば、大凡の事情は汲んでくれるだろう。

 

 そう考えた俺は、手近なスーツ服の女性に声をかけようとする。

 

 ────した。

 

「ね、ちょっといいかな? もしかして困ってる?」

 

 

 俺が声を出すタイミングと被せるように、見ていた向きとは反対の席から声がかかった。

 他者を慮る、小さめの声だ。その声色からでも慈愛に満ちた人間だと確信出来る。

 なにより、俺はそのカリスマ溢れる声音に心当たりが有った。

 初めて聞くはずの声。しかし俺は、その声を十六年も前から知っている。

 

「良かったら席くらい譲るよ? その娘、杖持ってるみたいだし」

 

 

 ─────一之瀬帆波。

 

 喉から漏れかけた彼女の名前を、俺は寸での所で抑えるのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「あー、マジ助かったわ。さんきゅーな」

 

「お礼なんて良いよ! 同じ学校の制服だったからね。実はこれを機に入学初日から新しい友達を作ろうと画策していたのだ!」

 

「へぇ、そうなのか。ん? ....って事は声をかけられなかった他の乗客はお前のお眼鏡には敵わなかったって事か?」

 

「にゃ!? ち、違うよ!」

 

「....じょーだんだよ。マジに助かった。お前は良い奴だな、巨乳ちゃん」

 

「巨乳ちゃん!?」

 

 

 さて、有栖に席を譲って貰ったお礼に、俺は一之瀬に対して忠告混じりの冗談を言ってみる。

 

 ────忠告。

 

 障害者に席を譲るという彼女の行動は、紛れも無く善意百パーセントのものだった。

 そして、彼女はそれを一切誇示しなかった。

 美しい。まるで聖人だ。自身の手柄を自慢するどころか、無償の善意に『入学初期から話せる相手を作りたかった』という自分本位な別の理由をこじつける事で、席を譲られた相手が気を使わないようにしようとまでしている。

 

 素直に凄いと思う。誰にでも出来る事じゃない。彼女はきっと本当に聖人なのだろう。

 “一之瀬帆波”は善意と徳で出来ているのだ。しかし、それは時に欠点にもなるという事を忘れてはいけない。

 自らの行いを自慢出来ないというのは、間違いなく欠点だ。例えば、もし席を譲ったのが一之瀬ではなくDクラスの“山内春樹”だったならば、奴は席を譲ったという行為を大声で車内に喧伝し、その上で有栖に電話番号とメールアドレスを要求するくらいはしてみせただろう。

 いや、改めてシュミレーションしてみてもクズすぎるだろ山内ェ....。

 

 ────じゃ、なくて。

 俺が言いたいのは手に入れたチャンスを棒に振るい、相手の事のみを考えていると後悔するという事であって、それを彼女に知って貰いたかったわけだ。

 

 まぁ、問題の一之瀬は俺の言葉に不快さを覚えるどころか、他の乗客を低く見なすような自身の発言の方に罪悪感を抱いているようだが。

 

 ....はぁ。

 

 

 

 

「あー、マジで冗談だから気にすんな。それに巨乳ちゃんが俺等の事を気遣ってくれたのも分かってるから。あんがとな」

 

「....にゃはは、そんなにお礼を言われると照れるんだけどな....って、お礼を言うならまずその“巨乳ちゃん”って言うのやめてくれる!?」

 

「....おぉ、巨乳ちゃんにも相手に対価を求めるという事が出来たのか。....意外だ」

 

「これ対価じゃなくて、当然のお願いなんだけど!?」

 

 こんな時でも周りの乗客の迷惑にならないように小声で叫ぶ彼女は本当に出来た人間だ。

 

「あいあいゴメンナサイ。それじゃあ君の名前を教えていただけますかな? おじょーさん」

 

「....一之瀬。一之瀬帆波だよ。....それで? 私もそっちの杖の娘とイケメン君の名前を教えて貰いたいかな」

 

 イケメンくん、だと....?

 

「ん、確かに俺は世界一カッコいいけどその呼び方は恥ずかしいから今すぐやめろください」

 

「え....? 自分で言っちゃう? それに世界一カッコいいを自称するのに、言われるのは駄目なの?」

 

「だめ。他人に評価されんのは嫌なんだよ。それに俺がカッコいいのは事実だろうが。見ろよこの真っ白な肌と白雪のような髪色を、まるで絵本に出てくる王子様だ。事実、俺は俺より顔の造形が整った人類をテレビでも見たことが無「恥ずかしいので黙って下さい、蓮夜くん」....だから叩くなよ有栖」

 

 痛い。そろそろ卸したての靴に穴が空き始める頃だぞ。

 

 

「あはは、仲良いんだね二人とも」

 

「ええまぁ、悪くはありません。....さて、お礼が遅れて申し訳ありません。....一之瀬さん、でよろしいですか?」

 

「うん、一之瀬で有ってるよ。何なら呼び捨てで帆波でも全然良いよ」

 

「ありがとうございます、“一之瀬さん”。私は“坂柳有栖”といいます。それで、こっちの残念な感じの白いのが“菊白蓮夜”くんです」

 

「どうも、ご紹介に預かりました“残念な感じの白いの”です、よろしく」

 

「あ、あはは....うん、なんか変わったコンビだね。よろしくね。坂柳さん、菊白くん」

 

 そんな間の抜けた自己紹介を通しながらも、俺達三人は学校へと着くまでの間、談笑に勤しむ。

 

 

 さて、一之瀬帆波に対する恩は一応これで返した形になる。彼女は善人であり聖人だ。

 ....しかし、これから向かう学校のルールに則って考えるのであれば、彼女は俺にとって潜在的な敵でもあるのだ。

 

「....。」

 

 ─────初めて顔を合わせた彼女の目には、俺はしっかりと道化として映っていただろうか。

 

 

 

 




有栖ちゃんを気遣って早めに出たオリ主には原作主人公とは違うバスに乗って頂きました。
脳内シュミレーションしたら櫛田と一之瀬の行動の差が顕著だった....。



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夢とは直ぐに醒めるもの

 一之瀬とは一旦別れ、俺と有栖は新天地たる“高度育成高等学校”の敷地内に足を踏み入れる。なんかちょっとだけ感慨深いものがあったりした。

 俺は隣を歩く親友と歩調を合わせながらも、この学校の全体図を脳内に描き始める。

 

 

 視界内の情報を元に大凡の面積を算出─────そこから平面図を土台に建造物を導入した三次元の図面を概算─────広いな。全容を知ろうとすれば、俺でも丸一月は容易に潰れる。これは目ぼしい箇所を優先して調べるべきだろう。よく二次創作などで一日ぽっちで全部の監視カメラを網羅していたオリ主がいたが、俺の優秀さは彼らに遠く及ばないらしい。

 

「────ん、有栖、コッチだ」

 

 大きく開けた道を二人で歩いていると、新入生歓迎の看板の横に、学内掲示板らしきものを発見した。

 

「どうやら此処で自分のクラスを確認するようですね」

 

 そう言って有栖は自らのクラスを確認しに行く。彼女は原作通りならAクラスの筈だが果たして....。

 

「どうやらAクラスだったようです」

 

「りょーかい。んじゃ行くか」

 

「....? 蓮夜くんは確認しないのですか?」

 

「え? する必要あんの? 俺。 有栖がAなら俺もAだろ? お前の付き添いとして入学したわけだし」

 

 俺の言葉に有栖は一度目を瞑る。

 ────そして。

 

「─────ああ、言ってませんでしたね。そういえば」

 

 そう言いながら、彼女は薄っすらと何時もの笑みを浮かべた。彼女を象徴する見慣れた笑み。

 

 あ、これ嫌な予感が....。

 

「父からは諸事情有って私と蓮夜くんは別々のクラスにするとの事らしいですよ?」

 

「はぁ?」

 

 付き添いの俺が有栖と別のクラスだぁ?

 何の為の付き添いだよ。いや、確かにパパさんからは娘の友達として入学してほしいとは言われたけど、付きっ切りで面倒見てくれとは言われてねぇな。

 

 どうやら俺は、彼女と二年間ずっと一緒に居たせいで感覚がバグっていたらしい。ホワイトルームから移った環境の変化というのも理由の一つだろうか。

 

 

 と言うか....え、じゃあ、なに?

 俺、Aクラスじゃないの?

 こんなに優秀なのに?(初期堀北並感

 

 いや、確かに意図的に入試テストの点数は下げたよ? 俺。全教科平均七十点くらいになるように調整もしたさ。しかも、原作主人公みたいに一部のクソ教師とシスコン生徒会長に目を付けられないよう、文系は八十点前後。理系は五、六十点くらいにバラけさせるという徹底的ぶりだよ。

 けどさ、そもそもこの学校の入試試験って参考程度の扱いだった筈だよね? しかもパパさんにも理事長推薦って事で、既に入学クラスは決まっているって言われてたんよ。なのに、Aクラスじゃない? どういう事だよ、オイ。

 

「おや、ありましたよ。蓮夜くんの名前」

 

「え? ああ、うん。おk。何処にあった?」

 

「彼処です。もっと奥ですよ、ほら。端の方に載ってるじゃないですか」

 

 奥? ──────端? ....ってまさか。

 

 

「Dクラス....だと?」

 

 

 悲報。俺氏、有栖パパに不良品と思われていたらしい。

 

 

 

 




有栖パパ「うん。彼も娘とばかり一緒にいないで、もう少し外の世界を知るべきだよね。──ん? 何故かDクラスの男子枠だけ不自然に空いているじゃないか。女子生徒の枠は一人多くてこの間整理したというのに。まるで本来男子として入る筈だった生徒が不思議な力で女子になったみたいだなぁ....はっはっは」





ジョークです。
流石に高育の審査組織もそこまで甘くはない筈。


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【Prologue】『こーる、“ゆあ、ねーむ”』

 どーも、全てに絶望した転生系オリ主です....。

 どこか懐かしい感じのする決して名乗りでは無い挨拶のような何かをしたところで、俺は机に顔を突っ伏した。

 

「なんか初っ端から出鼻を挫かれた気分だ....」

 

 俺が早く来すぎたのか、それともDクラスの奴らが時間にルーズな奴ばかりなのか。俺は一人、誰も居ない無人の教室で溜め息を零す。

 

「はぁ、ちょっと作戦練り直すか」

 

 俺は待ち時間を有効に消費する為、一度崩れたAクラスでの卒業プランを練り直す事にした。

 

 

 ────いや、Aクラスだとか魔法使いだとか、ぶっちゃけ今だけはどうでも良い....俺にはもっと考えなくてはいけないことがある....。

 

 

 机に顔を伏せたまま────深く、深く、意識を潜らせ、この先の事を思案する。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 ────さて。

 

 初めに来た白髪の生徒が机に顔を突っ伏している間に、クラス内には続々と新たな生徒達が入って来ていた。

 遠くない未来にて不良品と蔑まれる彼らであっても流石に入学初日での遅刻欠席は無かったらしく、すべての生徒が教室内に揃った頃には始業を告げるチャイムが鳴っていた。それとほぼ時を同じくして、スーツを着た一人の女性が教室へと入って来る。

 見た目からの印象はしっかりとした、規律を大事にしそうな女教師。髪型はポニーテールで歳は三十無いくらいの、教師としては若い女性だった。

 

「えー新入生諸君。私はDクラスを担当する事になった茶柱佐枝だ。普段は日本史を担当している。この学校には学年ごとのクラス替えは存在しない。卒業までの三年間、私が担任としてお前達全員と学ぶ事になると思う。今から一時間後に入学式が体育館で行われるが、その前にこの学校の特殊なルールについて書かれた資料を配らせてもらう」

 

 

 そう言って列毎に回される資料の束。

 若干一名は未だ机に顔を突っ伏したままだった為、彼の分の資料はそのまま後頭部へと置かれ、残りは隣に座る女子生徒の手によって後ろの生徒へと回された。入学初日から迷惑な生徒も居たものである。

 

 

 

 さて────此処で、担任教師“茶柱佐枝”の言う、この学校での特殊なルールについて少し語ろう。

 それは、本校───“高度育成高等学校”に通う全ての生徒に敷地内にある寮での生活を義務付けると共に、在学中は一部の特例を除き、外部との連絡を一切禁止するというものである。当然ながら、敷地の外に出る事も外部との連絡同様固く禁じられており、入学者の私生活は三年間、学校という鳥籠の中で完結する事になる。

 と、言っても敷地内は約六十万平米という小さな街が形成出来る程度の面積と、学校施設であるにも関わらず、娯楽設備などが充実している事も相まって、そこに文句を出す生徒は殆ど存在しない。

 

 

 ─────そしてもう一つ。

 

「今から配る学生証カード。これで敷地内にある全ての施設を利用したり、売店などで商品を購入する事が出来るようになっている。クレジットカードのようなものだな。ただしポイントを消費する事になるので注意が必要だ。学校内においてこのポイントで買えないものはない。学校の施設内にあるものなら、何でも購入可能だ」

 

 

 つまるところ、この学校では学生証自体がサイフの代わりであり、学校側から支給される“ポイント”が、そのまま現金の代わりになるわけだ。

 

 

「施設では機械に学生証を通すか、提示する事で使用可能だ。使い方はシンプルだから迷う事はないだろう。それからポイントは毎月一日に自動的に振り込まれることになっている。お前達全員、平等に十万ポイントが既に支給されている筈だ。なお、一ポイントにつき一円の価値がある。それ以上の説明は不要だろう」

 

 担任の放ったその言葉に、一瞬、教室内がざわついた。

 

「ポイントの支給額が多い事に驚いたか? この学校は実力で生徒を測る。入学を果たしたお前達には、それだけの価値と可能性がある。その事に対する評価みたいなものだ。遠慮することなく使え。ただし、このポイントは卒業後には全て学校側が回収することになっている。現金化したりなんてことは出来ないから、ポイントを貯めても得は無いぞ。振り込まれた後、ポイントをどう使おうがお前達の自由だ、好きに使ってくれ。仮にポイントを使う必要がないと思った者は誰かに譲渡しても構わない。だが、無理矢理カツアゲをするような真似だけはするなよ? 学校はいじめ問題にだけは敏感だからな」

 

 波のような情報量と十万円という支給額の多さに戸惑いの広がる中、茶柱佐枝は最後に一言だけ残して教室を後にした。

 

「質問は無いようだな。では良い学生ライフを送ってくれたまえ」

 

 担任教師が消えた事で、再び教室内に喧騒が戻ってくる。ある者は降って湧いた大金をどう使おうかと頬を緩ませ、ある者は新たな友人作りにやっきになる。そして、あまりに都合の良い話に何らかの意図が有るのではないかと訝しむ者が数人。未だに机に顔を突っ伏す不良品が一個。

 

 そんな混沌に満ち溢れた教室で、手を挙げる生徒が一人。

 

「皆、少し話を聞いて貰っていいかな?」

 

 声を上げたのは、如何にもモテそうな、顔の整った優しげな生徒だった。

 

「僕らは今日から同じクラスで過ごす事になる。だから今から自発的に自己紹介を行って、一日も早く皆が友達になれたらと思うんだ。入学式まで時間もあるし、どうかな?」

 

 その提案は教室内の大多数の生徒にとって渡りに舟であったらしく、一人の賛成を口火に次々と支持を集めていく。

 

「皆、ありがとう。僕の名前は平田洋介。中学では普通に洋介って呼ばれる事が多かったから、気軽に下の名前で呼んで欲しい。趣味はスポーツ全般だけど、特にサッカーが好きで、この学校でもサッカーをするつもりなんだ。よろしく(ニコッ」

 

 発案者であった好青年の、まるで見本のような自己紹介。サッカーというリア充鉄板の得意スポーツと、爽やかフェイスも相まって、教室内の生徒達───特に女子生徒からの支持を大きく集める事になる。早くもクラスカーストが定まりかけていた。

 

「じゃあ、もし良ければ、端から自己紹介を始めて貰いたいんだけど....いいかな?」

 

 その言葉に、端に座る女子生徒は一瞬躊躇いを見せつつも、ゆっくりと話し出す。

 以降、その流れが定着し始め、一人、また一人と自らの売り込みを終えていく。

 

 しかし、そんな流れもある生徒を堺に堰き止められる。

 

「俺らはガキかよ。自己紹介なんて必要ねぇ。やりたい奴だけでやれ」

 

 

 ──後のDクラスが三バカ代表、“須藤健”だ。

 

 

 彼の和を乱すような発言に、平田の顔が一瞬だけ悲痛に歪む。

 

「そう、だね....僕が君に何かを強制する事は出来ない。でも、クラスで仲良くしていこうとすることは悪い事じゃないと思うんだ。不快な思いをさせたなら謝りたい」

 

 如何にも不良といった風貌の赤髪に対して頭を下げるイケメン。その様子を見た数人の女子生徒から赤髪に対して野次が飛ぶが....。

 

 

「うっせぇ! こっちは別に、仲良しごっこする為に此処に入ったんじゃねぇんだよ!」

 

 そう吐き捨てた須藤が荒々しく教室を後にしたのを皮切りに、馴れ合いを好まない生徒が数人ほど立って教室を出て行く。

 

 そんな多少微妙な空気感を残しつつも、次の池という生徒のウケ狙いの自己紹介で先程までの流れが戻って来る。

 

 そのままクラスの雰囲気は順調に明るさを取り戻していき、自称御曹司のユニーク過ぎる自己紹介が挟まれ、順番は一人の女子生徒へと回って来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと、次の人────そこの君、お願い出来るかな?」

 

「........? ......ん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もはや進行役となっている平田少年。そんな彼に指名された女子生徒は、如何にも話を聞いてませんでした、という風に首を傾げる。

 

 彼女────床に付きそうなくらい長い茶髪と幼さの残る非常に整った容姿を持つ少女。その出で立ち故、登校から今までの間、一際教室内で目立っていた存在。

 

 そんな異彩を放つ少女の自己紹介にクラスの大半が息を飲む中。マイペースに一度周りを見回してから彼女はようやく事態を把握したのか、ゆっくりと立ち上がる。

 

 ────そして。

 

 

「....えっと、“綾小路清隆”....です。.........得意なことは特にありません........が、皆と仲良くなれるよう頑張ります........ので...........よろしくおねがいします」

 

 

 一瞬、シーンと静まる教室内。

 その優れた容姿に似合わない、反応に困る微妙な自己紹介に、周囲からは落胆や無関心、果ては安堵の感情が教室内を流れ始め──『ガタンッ!』──唐突にその雰囲気は断ち切られる事になる。

 

 その原因は一人の男子生徒であった。

 

 

 今までずっと眠っていたのだろうか。担任の話す学校説明の間もずっと机に顔を伏せていたままだった白髪の男子生徒が、突如頭に置かれた学内パンフレットを跳ね飛ばして勢い良く立ち上がったのだ。

 

 

「あ、起きたんだね。おはよう。えっと、丁度良いし、次は君にお願いしようかな」

 

「................。」

 

「....? えっと...自己紹介、いいかな?」

 

 

「ぇあ......? え?」

 

 その言葉にようやく眠気が飛んだのか、再起動を果たす白髪の美青年。先程の茶髪の少女同様、あまりに整ったその容姿に、女子を中心に期待の視線が飛び交い始める。

 

 ──────そして。

 

「あ、ああ、自己紹介....俺の番ね。うん、りょーかい。....えっと、名前は菊白 蓮夜(きくしろ れんや)

 

 

 

 

 

 

 

 ....将来の夢は“悪い魔法使い”だ。みんなよろしく」

 

 

 

 

 

 

 ─────しーん。

 一つ前の自己紹介に続き、非常に反応に困る一言に、またもクラスは静寂に包まれた。

 

 ....こうして、一年Dクラスの自己紹介は、一名のコミュ症少女と、何故か唐突に放心して余計な事まで口走った二人の戦犯によって微妙な形で終わったのだった。

 

 

 

 ────────ちゃんちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───────で、終わるはずがないだろう。

 

 

 

 

 俺は自己紹介が終わると同時に、その後の入学式を完全に無視して、渡り廊下へと“茶髪の少女”を呼び出していた。

 

 

 

 ────どういう事だ?

 ──────一体何故、彼女がこの場に?

 

 

 なんて、この期に及んで巫山戯た事は一つも言わない。だが、意に反して喉は干上がり、代わりの言葉はすぐには出て来てくれなかった。

 

 

「あー、えっと....その、だな」

 

 

 数秒を向かい合って過ごす頃。俺が何か意味のある言葉を発する前に、目の前の少女が口を開いた。

 

 

「....ひさしぶり」

 

「──────── ─ッ!」

 

 

 

 “茶髪ちゃん”───否。....そうじゃないだろ。

 既の所まで出かかった“現実逃避”の愛称を、俺は腹へと押し込んだ。

 ....分かってはいたのだ、始めから。

 それこそ彼女と出会った日である十四年前からずっと。

 

 

 ─────俺は天才系オリ主だぞ。 

 ─────運が良くて、顔が良くて、おまけに頭まで良い。

 ─────そんな俺が、分からない筈が、ないだろうが。

 

 

 故に、先程の────まるで原作の“彼”と辻褄を合せるかのような“彼女”の杜撰な自己紹介に、俺の心は全くと言っていいほど揺らいではいなかった。

 

 ....いや、別の意味で揺らいではいた、のか。

 二年ぶりだったし....Aクラスだと思ってたからいきなり顔合わす準備もしてなかったし。

 おかげで原作スタートのタイミングで、ずっと顔伏せっぱなしだよ....。

 

 

 ....なんて。つまるところ────俺は、彼女が今日この日、此処に来る事を知っていたのだ。

 

 

 だから最初から────彼女が何者なのかを、俺は当然把握していた。

 ....だが、あの真っ白な部屋で過ごしていた頃の俺に、“この事実”を認める事など到底出来る筈がなかった。

 ホワイトルームという閉鎖空間に閉じ込められていた当時の俺にとって、“綾小路清隆”が生まれた時から女だなんて、そんな事があっていいはずがなかったのだから。

 

 ───あっていいはずがない....?

 

 ....ああそうだ。....そうだよ。あっていいはずがない。....この世界が原作通りに進まないなんて、あっていいことじゃなかった。

 

 ────だってそうだろ....?

 

 此処は『ようこそ実力至上主義の教室へ』という名を頂く創作の世界なんだ。

 ......だからこそ、俺は原作開始の一年前に起こる“ホワイトルームの稼働停止”という“確定した未来”を希望に、二年前までの十四年をなんとか生きて来たんだから。

 

 だから......もし、もし俺以外の....俺の知っている未来を根底から覆すような要素が一つでもあったとしたら....確約された未来が、不透明なナニカに変わってしまっていたとしたら......二度と外に出る事は叶わないのだと......俺は今世でも何も成す事が出来ないのだと......希望が虚像に過ぎないのだと自覚してしまったら........俺は一体、その後の人生、何を理由に生きて行けば良いと言うんだ....。

 

 ....特に......“原作主人公の性別が違う”などという、当初の物語そのものを否定するような事など............あってはならない.....。

 

 

 

 

 

 

 

 いや──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────“ならなかった”、が正しい。

 

 

 ....過去形だ。

 既に十五年後の不確定だった未来は、俺にとって二年前までの過去でしかなくなっていた。

 

 ────今の俺はあの頃とは全てが違う。

 空虚な籠から外へと飛び出し、“坂柳有栖”と強固な友人関係を築き、この世界で生きる為の基盤を整える事に成功している今の俺にとって、その未来は昔々の事でしかない。

 

 ─────つまり。

 

 

 

 俺は此処に来て、十四年も時間をかけて....ようやくつまらない意地を捨てる準備が出来たのだった。

 

 

「───── ─」

 

 

 呼吸を一つ────一歩、前へ。初めて自分から距離を詰める。

 

 求め続けた“彼”への執着を消し、俺は“彼女”へと目を向けた。

 

 

 

 

「ああ、久し振りだな─────清隆」

 

 

 

 

 ───名前を呼ぶ。“茶髪ちゃん”なんていう巫山戯た仮称ではなく“彼女の名”で。

 

 ....まったく....こんな事を十年以上も引っ張るだなんて、心の底から馬鹿馬鹿しく、自分の女々しさに苦笑が溢れる。

 しかし俺にとって“その名”を“彼女”と認識するのは、十四年間縋り続けた未来の破棄でもあったのだ。

 

 

 

 

 生まれて初めて口にする彼女の名前は───

 ─────今、プロローグへと置き換わった。

 

 

 

 

 

 

             ──────Fin

 

 

 

 

 













いや、finじゃないですが。
なんかオリ主が勝手に終わらそうとしましたが、普通にこの後も続きます。まだ物語開始どころか、入学初日ですしね。
具体的に言うと原作一巻の45ページまでです。

取り敢えずオリ主が清隆ちゃんと再開出来たので、硬めの雰囲気は今回までにして次回からはギャグパート多めの明るめの雰囲気に戻ります。....代わりに彼にはこれからいっぱい修羅場って貰いますが。


また、今回の話を読んだ上で、今作をもう一度最初から読み直してみるとまた違った印象を受けるかもですので、時間のある方は良ければ試してみていただければな、と(宣伝厨)



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“大切な事”は何一つ教えてくれない『ホワイトルーム』をいつか必ず起訴する会

おお、う。感想欄での茶髪ちゃんネームへの拒否反応が皆様、凄い....。
....すみません。名前変更は大変なんでこのままでいきます。じゃなくて....あー、清隆パパがこの名前に滅茶苦茶思い入れがあったとかそういうのです、たぶん。


父小路「男なら清隆。女なら清隆(マダオボイス」
母小路「そ、そう....(ドン引き」


 つまりそういうことです(?????)

はい、すみません。
ただ、呼びやすい女の子らしい愛称とかがあったら感想の方にお願いします。もしかしたら後々そっちに呼び方変えるかもです。


 ────感動の再会。

 入学式という時間的空白。

 人の消えた渡り廊下で向かい合う二人。

 まるで映画のワンシーンの様に、こちらに向かって駆けて来る少女を受け止める為、俺は思い切り両腕を広げた。

 

 ─────さぁ、来い! 清隆!

 

 対する彼女はこちらに向かってくると同時に握り拳に溜めを作り─────

 

「───────ふんっ!」

 

「────ウボァ!?!?!?」

 

 俺に渾身の腹パンをブチかましたのだった。

 

「───!? かハッ....き、清隆ちゃん....様....な、なにか某がお気にさわりましたでせう、か....?」

 

 

 

「..................置いてった」

 

 ギクゥ!

 

「........一人で逃げた」

 

 ギギクゥ!

 

「....女の子と楽しく同棲してたって聞いてる」

 

 ギギギクゥ!

 

「どうして、一緒に来なかった....?」

 

「い、いや、あのそれはデスネ....ち、因みにそれ、どこ情報でせうか?」

 

「松雄」

 

 

 松雄ーーーー!! 誰を誤射ってるゥゥゥ! ふざけるなァ!!!

 

 おいッ!? 松雄さーーーーん!!

 なして!? なしてそういう事言うの!?

 俺、あんたに嫌われるような事したか!?

 してねぇだろ!? ふざけやがって!! あんのクソ執事が! 

 

 

「弁明を聞く」

 

 

 い、いや────弁明、というわけではない。

 しかし、俺は二年前のあの日、ホワイトルーム襲撃の真っ只中で、綾小路父と執事の松雄────それと清隆の三人が山の中で密会していたのをしっかりと確認していた。

 故に原作通り清隆は松雄の元に預けられたのだろうと確信していたからこそ、俺自身単身での脱出を決意出来たのだが....しかしそれは彼女には話す事の出来ない理由だ。

 俺目線での最善であっても、未来を知らない彼女からすれば、俺は自分を置いていった薄情者に他ならないだろう。

 

 

「あー、えっと....ですね。コレには止むに止まれぬ事情があったというかなんというか」

 

「どんな?」

 

「そ、それはもう、滅茶苦茶ヤバい理由ですよ。山より深く、海より高いような....」

 

「標高、零メートル。海抜、零メートルの理由。....低くて浅い?」

 

 ですよね、何言ってんだ俺は。

 ....コイツ相手に適当な嘘は通用しねぇし....。何故か有栖も清隆も嘘吐いてる時に限って俺の完璧なポーカーフェイスを貫通してくるし。はぁ....後が怖い。

 

「....いや、本当に悪かった。あの時は俺もかなり精神的に参ってて....一旦別れて別行動した方が再開出来る可能性が俺の見立てでは高かったと言いますか.........あの、なんでもするから許して?」

 

 ........................だ、駄目か?

 

「なんでも?」

 

「な、なんでも....っす」

 

「..............................許す」

 

「!」

 

 っし!!!! ホレみろ! 流石清隆! 話が分かる! いやぁ、やっぱり俺とコイツは以心伝心二人三脚なんですわ! もはや身体の一部....みたいな? みたいな!? そりゃぁ、自分の半身に許すもクソもないよなぁ!!

 

 

「....ほんとに反省してる?」

 

「してます!」

 

「....鏡持って来ようか?」

 

 どうして皆、そんなに俺に鏡を見せようとするんだ。見たって世界最高レベルのイケメンしか入ってねぇよ。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 ────で。

 裏庭にあるベンチの上からこんにちわ。

 どうも、不良系転生者の菊白蓮夜です。

 あー、なんか、まともな自己紹介とか今回が初めてな気がするわ....。ようやく全てが始まったって気がしてならない。いや始まるも何も開幕早々入学式とかボイコットしてるけど。

 

 さーてそんなDクラス代表の不良学生は今────

 

「あの、清隆さんや、そろそろ良くね? あんま触られんのも恥ずかしいのですが....」

 

 うん、デジャヴ。なんかメッチャ触られてんのよ、茶髪の誰かさんに....。何で俺、こんなにペタペタされまくってんの....?

 

「だめ、データ更新中」

 

 データ....? 更新中....? え、なに? 俺今、コイツにデータ取られてんの? ....こえーよマジで。この子会ってなかった間になんかまた電波具合増してね....?

 

「お、おう。そうなんか....データね、うん。それ、楽しい?」

 

「楽しい」

 

 ....そーですか。清隆ちゃんが楽しいようでおにいちゃんは何よりですよ。

 

 ....はぁ。

 

 

 と、そこで聞き覚えのある足音が....。

 

 

「おや、蓮夜くん。入学初日から式をすっぽかして女子生徒を誑かすとは良いご身分ですね」

 

 

 ───太陽遮る裏庭に現れたのは、おなじみ同居人たる坂柳有栖であった。

 

 

 

「んぁ? おお、有栖か。て事はもう入学式は終わったわけか....おつかれさ「あ.....昔、蓮夜にチェスで惨敗してた人」ちょっと待って清隆まだ準備が───」

 

 

 

 

 

「 は い ?」

 

 

 

 

 

 

 

 ....ああ、やだなぁ。怖いなぁ。

 ホームシックだ....もう一人で坂柳邸に帰りたい。あの家の暖かい布団と古時計の匂いが懐かしい。優しいお手伝いさんのご飯が食べたい。今頃、パパさんは元気にしているだろうか....。

 

 

 などと考えてはみるものの、しかし現実は非情であった。何時だって非情な現実に俺の逃避は意味を成さないのだ。

 

 

「...........ああ、なるほど。そういえばいましたね。貴女に良く似た方が。九年ほど前に見かけた覚えがあります。確か.....『ホワイトルームでずっと二番手だった方』、でしたよね?」

 

 

「.........かちん」

 

 

 ....ああ、う。

 

 ただでさえ冷たい季節に、陽の光が届き辛い裏庭の木蔭。それだけで既に十分寒いというのに、先程からこの場の気温は下降の一途を辿っております。心做しか、初春を迎えた筈の花達が一斉に俺から顔を背け始めた気がする。

 

 

「.....................。」

 

「....................。」

 

 

 お互い、無言のまま値踏みを始める二人。

 やめて。お願いだから喧嘩しないで。仲良くして。

 入学初日から早くも頂上決戦を始めないで。

 

 

「あのー」

 

 意を決して声を出す。

 ────瞬間、氷が砕けるような音がした。

 恐らく水素の音よりはしっかりと聞こえただろうソレ。<アー! ヒョウガキノオトー!

 ....いや、絶対幻聴じゃないわコレは。

 

 

「と、取り敢えず暗くなる前に日用品でも買いに行かね....? ほら有栖のとか俺らで手伝った方が....」

 

「問題ありません。そういった物は既に父が手配済みのようですので」

 

 

 あ、うんまぁそうだよね。

 おのれ子煩悩め、余計な真似を。

 

 

「取り敢えず蓮夜くんだけでも買い物に行って来てはどうでしょう? 私達は少し話がありますので」

 

「蓮夜....また明日」

 

 

 

「アッハイ」

 

 

 有無を言わさぬその重圧に、俺はただ頷く事しか出来ないのでした。

 

 



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『自由』の味は“納豆マンゴー味”

沢山の名付けコメントありがとう御座いますです。


 局所的な氷河期に見舞われていた俺は、クラスの奴らが入学式を終え、一通り敷地内の説明を受けている所にサラッと合流した。

 その後、説明の終わりと共に一人で敷地内の探索を開始。なるべく生徒会他、面倒な教師連中に目を付けられないように観光気分丸出しでキョロキョロしながら練り歩く。

 

 探検する事、数時間。

 大凡、今日のノルマを達成し終えたと考えた俺は、脳内マッピングを停止し、コンビニの前へと足を運んでいた。

 そう、原作では主人公である綾小路が最初に訪れたあのコンビニ前だ。

 

「何か聖地巡礼ツアーみたいだな」

 

 そんな事を思いながら入店。

 生まれて初めて入るコンビニに、思いの外店内が煩い事にビクリと肩を小さくする。コンビニってのは思った以上に機械音だらけの場所らしい。

 

 見たところ中に他の客は居ないらしく、都合の良い事に入店者は俺一人のようだ。

 俺はその物珍しさから、先程以上にキョロキョロしながらお目当ての物を探し始める。

 

 

 ────あった!

 すぐさま駆け寄ってしゃがみ込み、その特徴的なフォルムを確認する。

 錐台形の両手に収まる大きさ。

 思いの外軽く感じる発泡スチロールの外殻と、ラッピングに使われているビニールの手触り。

 間違いないコレこそがあの....!

 

 

「カップラーメ「何をしているのかしら?」」

 

 

 ................................誰だよクソが。

 人が人生初カップ麺に感動してるって時に....。

 俺は空気を読まないクソ野郎を確認すべく、首だけで後ろを向いた。

 

 

「で、誰? アンタ」

 

 既の所で飛び出しかけた相手の名前を意図的に伏せる。

 俺と彼女はこれが初対面であり、今の俺は相手の名前を知らないのだ。....いや、俺だけではないか。原作と違ってコッチの清隆が名前を尋ねていないのであれば、彼女の名前を知るのは現段階では同中の櫛田くらいのものだろう。

 

「人に名前を尋ねるのであれば、まず自分から名乗るべきじゃないかしら?」

 

「あ、じゃあいっす」

 

「....」

 

 俺は心底どうでも良い背後の少女────堀北鈴音を無視して、手の中のブツに目を輝かせる。

 

「────素晴らしい。ゴテゴテと書かれた『ソレ一体誰がいちいち読むんだよ』と言わんばかりの無駄過ぎるコラム。そして元の重量を記載してないのにパーセント表示であたかもお得感があるように演出するデカデカとした『大増量』の押し売り。全てにおいてチープだ。コレがカップ麺!! ....早速買おう」

 

「それ、褒めているのかしら?」

 

 俺は手前に置かれたオススメ商品を一つカゴへとブチ込んだ。どうやら納豆マンゴー味のようだ。一応、当たり外れも考えてスタンダードな醤油味と塩味も追加しておく。最初だし、こんな物だろう。

 

「....ん?」

 

 振り返ると、不機嫌そうな顔の黒髪美人が居た。

 

「なに? まだ居たの? なんか用?」

 

「いいえ。入学式には居なかったのに、何時の間にか施設説明を聞いていた不良生徒が万引きでもしていないかと見張っていたところよ」

 

「へー、ごくろうさん。金も出ないのにボランティアだなんて社会貢献性が高いんだな、黒髪ちゃんは。じゃ、俺は用事があるからもう行くわ」

 

「待ちなさい」

 

 しかし、去り際に買い物カゴを掴まれてしまった。

 

「ちょ、掴むな。折角のカップ麺が冷めちまうだろうが」

 

「お湯も入れていないのに冷めるわけがないでしょう? 巫山戯た事を言ってないで、いいから話を聞きなさい」

 

「何だコイツ」

 

 頭おかしいとちゃいますか?

 いや────

 

「あー、アレか。昔、漫画で読んだ逆ナンってヤツか」

 

 なるほど。俺はイケメンだからな。

 これもカップ麺同様、初めての体験だ。

 

 

「引っ叩くわよ」

 

「何だコイツ」

 

 ホント、一体、何なんだお前は。

 孤高少女じゃねぇのかよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 ────で。

 

「じゃあ、何? どーぞ、喋ってくださいな。渋々聞いてあげるから」

 

「そう、なら聞くけど」

 

「あ、ちょっと待った条件がある」

 

「..........何かしら?」

 

「コレの作り方、教えて」

 

 そう言って堀北に対し、籠の中のカップ麺を突きだす。奇妙なモノを見る目で俺を観察する堀北。

 しゃーないだろ? 病院じゃあ、カップ麺なんか食わしてもらえないし、今世の坂柳邸ではお手伝いさんに止められるんだもんよ。

 『坊っちゃん! 御夕食が食べられなくなるのでいけません!』って。いや、誰が坊っちゃんやねん。

 坂柳邸の人達は皆が皆優しいが、どうにも俺を子供扱いしてくる奴らが多くて困る。

 そんなわけで俺は、カップ麺というモノを前世でも今世でも食した事がないわけなのである。

 

 

「で? コレどうやって食うんだ?」

 

「はぁ....貸しなさい」

 

 言うよりも早く、俺の買い物籠と携帯端末を奪い取った堀北は、そのまま勝手に会計を済ませ、レジで店員とニ、三言話し始めた。

 暫くするとそのままコンビニを一人で出て行ったので、慌てて追いかけてみる。

 

 

「それじゃあ、話を聞きなさい」

 

 

 そう言って此方にレジ袋と携帯端末、そしてお湯の入ったカップ麺を突き付けて来る堀北。

 

「おお! 凄いな、お前! カップ麺作れるとはさては天才だな!? あんがとな、黒髪ちゃん!」

 

「その黒髪ちゃんというのを今すぐやめなさい」

 

「いや、俺アンタの名前、知らんのやけど」

 

「....堀北」

 

「あい?」

 

「堀北鈴音よ。二度は名乗らないから覚えておきなさい」

 

「へー、黒髪ちゃんは堀北って言うのか、よろしくー」

 

「で?」

 

 でってなに?

 でってう?

 

「貴方の名前を聞いていないのだけれど」

 

「あー、はいはい名前が聞きたかったのね。遠回りな事しますなツンデレ北ちゃんは」

 

「そろそろ引っ叩いても良いかしら」

 

 そんな事を宣うコミュ症北ちゃんに、俺は素直に答える。

 

「どーも菊白蓮夜です。よろしく」

 

「そう....それじゃあ、菊白くん、話を聞いていいかしら」

 

「良いよ。カップ麺出来るまでの三分間ね」

 

「........そのカップ麺は五分のやつだから五分は付き合いなさい」

 

「え?」

 

 あ、マジじゃん。カップ麺って全部三分じゃないのか。....知らんかった。

 

「おkおk、五分ね。はいどーぞ」

 

「それじゃあ聞くけれど、貴方。入学式には出ていなかったみたいだけれど、どうして?」

 

「ん。偶々知り合いが同じクラスだったからな。久し振りだったし話す時間も欲しかったからそのままサボった」

 

「....クレイジーね。貴方も相手も」

 

 草。

 俺もそう思う。

 

「二つ目。入学式にでていなかったのに、施設説明の時は居たけれど、アレは何?」

 

「え? 何って、寮の場所とか分かんないし、説明だけは聞いておいた方が良かったかなって」

 

「....そう。なら、次。さっきのカップ麺がなんたらって言うのは何?」

 

「ん? ああ、アレね。いやぁ、俺の実家が金持ちでさ。ああいうの食わせてくんないんだよね。それが嫌でこんな全寮制の学校まで来たってわけ。ま、殆ど裏口入学だったけど」

 

「裏口入学?」

 

「そ、俺理事長センセと仲良いのよ。だから親の金でちょちょいとね?」

 

「....呆れた。....どうやら本当に期待ハズレだったみたいね」

 

 うん。本人前にしてその言葉が出てくる時点で君も相当ヤバいけどね?

 

 

「最後。一応聞いておくわ。....この学校について、貴方はどう思う?」

 

「あん? 質問が漠然とし過ぎてて、イミフなんだけど....あ、カップ麺出来たわ」

 

「おかしいと思わないの? 高校生に対して、月十万円の支給だなんて」

 

「んー? 十万円って、大金なのか?」

 

「は?」

 

「いや、俺、カードしか使った事ねぇし」

 

 

 なんて勿論コレは嘘である。俺は十万円がどれだけの経済価値を持っているかをしっかりと知っている。

 ....知ってはいる。いるのだが....俺の買い物は脱ホワイトルームからの二年間、何故か全て有栖サマ管轄の下で行われていた為、ぶっちゃけ俺が自分で金を使わせて貰えるような機会は一度も無かったりする。そう、俺の買い物履歴に残るのは、彼女の事前検閲を通過したものだけなのだ。カップ麺などのジャンクフードや巨乳モノの写真集などは、一つたりとも入り込む隙間は無かった。

 

 なぁ────分かるか? 俺の気持ちが!!

 欲しい物が有ったらいちいち同い年の女の子に確認しなければならなかった俺の気持ちが!!

 思春期男子の欲しい物リストを見ながらニヤニヤと一つずつ説明を要求してくる同居人の悪辣さが!!

 ソレから目を逸らして尤もらしい理由を口に出す男の気持ちが!! 本棚裏が全部ロリ系で埋め尽くされてて、尚且ソレを女子に知られている俺の気持ちが!! お前らに分かるのか!!?

 

 

 なんて、俺が涙を堪えている間にも、堀北は勝手に話を進めていく。いや、もういいじゃないか。今の俺は完全な自由の身。好きにカップ麺を食す事だって、巨乳モノの写真集を買う事だって許された自由の使徒だ。

 

 

「はぁ、そうだったわね。お金持ちのボンボンにこんな事を聞いたのが間違いだったわ。もういいわ....私の目も何時の間にか随分と曇っていたようね」

 

 まったくでござる。

 俺の株価を内面外面含めて著しく下げまくるだけの会話がようやく終わったらしく、それと同時に、俺は付属の割り箸を割った。今こそ人生初カップラーメンを食す時である。

 

 ────いざ!

 

 

 

「それじゃあ、私はもう行くわ。時間を取らせて悪かっ「ぶっふぅぅぅぅぅぅぅ!!! マッッッズ!!! 納豆マンゴー味マッズゥゥゥゥゥ!!!!」........。」

 

 

 

 汁をたっぷりと吸った麺を口に含むと同時に理解不能な感覚に陥る。呼吸が出来ないのだ。

 そして、舞い散る毒々しいオレンジ色の液体。

 生まれて初めて食べたカップ麺であったが、俺には早すぎたのか、その独創的過ぎる先進的な味わいに、思わず口の中の物を全て吹き出してしまう。

 おまけに無駄に鋭い味覚がバグったせいで、他の五感にも影響が出たのか、思いっきり握っていた容器を前方へと投げ出してしまった。

 

『....ぴちゃ....ぴちゃ....ぴちゃ....』

 

「........。」

 

 ......わぉ、水も滴る良い女。

 じゃなくて、納豆の香る蛍光オレンジの塗料を全身に塗りたくられた妖怪黒髪女が、俺の前には姿を表していたのだった。

 

 あぅ....。

 

「あっと、あのえっとマンゴー北さん?」

 

「............何かしら?」

 

「........ハンカチとか使いますか?」

 

「コレがハンカチでどうにかなると思っているのなら、本当に御目出度いわね」

 

「そうっすよね。ははははははははは」

 

「ねぇ、菊白くん、三度目よ────」

 

「はいっす。なんすか、姉御」

 

「─────引っ叩いても良いかしら」

 

 うんまぁ、そうだよね。

 流石に今回は俺が悪かった。

 

 

 

「─────どうぞ、お殴り下さい」

 

 

 

 その言葉と共に、俺の視界は満点の星空へと変わり、頬には鋭い刺痛が走った。

 

 あぁ、ちょー痛ってぇ。

 

 

 痛ぇが....まぁ、俺の評価は下げられたみたいだし結果オーライだろ。監視カメラにも俺が馬鹿やってたのは映ってるだろうし。晴れて俺もDクラスの不良品ってわけだ。Dクラスの皆、コレから三年間よろしくね! まぁ、三年後Dクラスがまともに機能してるかは知らんけどな!

 

 



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『入学二日目』の他愛無い“日常”

 昨日はそのまま寮へと戻り、腫れた頬を庇いながら、足りていなかった睡眠をしっかりと取った。

 そして現在、学校生活二日目の朝。

 昨日の時点で既に時間割の発表も終わっており、今日から最初の授業が始まった。と、言っても初回という事もあり、殆どの授業が授業方針と教師の自己紹介程度に終わっていたのだが。

 

 しかし、本格的に授業が始まった所で、俺や清隆にとっては何年前の復習だよといった感じの内容なので、現状俺は別の事に気を割いている。

 

 それは、隣の席の女子生徒に対してだ。

 昨日、清隆との顔合わせから現実逃避して机に顔を伏せていた間、ちょちょいと再構成したAクラスでの卒業計画に彼女の協力が必須なのだ。協力を取り付けられないのであれば、早期にプランの変更を考えなくてはならない。期日は最長でも一週間。今のクラスカーストと彼女の印象が定まっていない時期に動かなくては間に合わなくなってしまう。

 そんなわけで、俺は必死に彼女を観察しているのだが、残念ながら欲しかった情報は得られなかった。

 

 

 明日からは授業も本格的に始まる。

 

 まだ、捨てプランにするには早いだろう。

 コレが出来ればDクラスは面白い事になる。

 

 

 

 何より、裏工作は早い内に終わらせてしまいたい。

 俺の原作知識モドキが通用する一年生編の間に、出来るだけ有利な舞台を整えなくてはならない。

 

 物語のスパンは飽くまでも三年間。

 原作展開により既知となっている一、二年生編だけでは物語は終わらないのだ。

 未だ見ぬ“三年生編”を含んだ原作未登場のキャラクターへのアプローチは、現段階では行えない。であれば今すべき事は、二年後の今、どれだけ自分に有利な舞台を整えられているかになってくる。

 

 出来れば、新しい敵キャラが原作で登場した瞬間に、既にコッチの世界ではソイツが詰んでいるような状況にまで持って行きたいものだ。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 どうも皆さん、こんにちわ。

 転生系オリ主の菊白蓮夜です。

 さて、お昼時の現在。俺は今────

 

 

「あ、菊白くんもどうかな? お昼。一緒に行かない? あと、左の頬が腫れているけどどうしたんだい?」

 

 

 ────うん、ありがとう。平田くん。

 けど今俺、画面の向こうに挨拶中なんだよ。

 誰かいるかは知らんけど、これでも一応転生オリ主だからさ。

 

 

 ....あと、頬の事は何も言うな。

 

 

「あー、うん、行く。行かせて貰いますともさ。あ、清隆も誘っていい?」

 

「清隆? ....ああ、綾小路さんか。勿論いいよ。知り合いかい?」

 

「あー、そんなとこ。幼馴染ってヤツだ」

 

「なるほど、じゃあ僕達は教室の外で待ってるから」

 

「あいよー」

 

 そんな会話をする。

 一人でボーッとしている俺を心配したのか、クラスの人気者たる平田くんが声をかけに来てくれたのだ。

 いや、俺は俺でそこそこ重要な事をしてたんだが....まぁ、いいや。

 

 

「おーい、清隆。飯行こうぜ」

 

「....ん。行く」

 

「平田達が一緒だが大丈夫か?」

 

「だいじょうぶ」

 

 了承が取れたので清隆を連れて平田の待つドアへと向かう。....向かうのだが。

 

「なんか、視線多くね?」

 

「......?」

 

 教室内の異様な雰囲気に、ヒソヒソと聞こえる声。

 そして山内と池の射殺さんばかりの憎悪の目。

 コレはアレか。俺がいきなり美少女に声をかけたからクラスの雰囲気がザワついたのか。

 それとも、自己紹介で“悪い魔法使い”になりたいなどと口走った男が行動を起こしたから揺れているのか。

 

 どっちも有りそうで判断がつかない。

 

 

「おっす、お待たせ平田」

 

「あ、ああ、うん。大丈夫、全然待ってないから。というか、本当に知り合いだったんだね」

 

「はい?」

 

 え、なに? 疑われてたの? 俺。

 

「ああ、いや。そうじゃないんだ。気を悪くさせてしまったらすまない。そうじゃなくて、自己紹介以降、綾小路さんの声を聞くのが初めてだったから、少しびっくりしちゃっただけだよ」

 

 はい?

 

「....えっと、清隆さんや。誰かに話しかけられたりした?」

 

「......した」

 

「そっか、それで? お前、なんて答えた?」

 

「............。」

 

 ああ、うん。これ、なんも答えてねぇわ。

 絶対相手の事、無視しただろ、お前。

 初期の堀北じゃねぇんだからさ....。

 

「で、誰に話しかけられたわけ?」

 

「......ん」

 

 彼女の示す視線の先へと目を向けると....。

 

「ああ、なんだよ山内か。じゃあ、別に何も問題ねぇな。行こうぜ」

 

「....ん」

 

 

「えぇ!? ちょ、それはどうなんだい!?」

 

「いや、どうせ山内がしつこく話しかけて来たとかそんなオチだろ」

 

「ん」

 

「ほれ」

 

「ほれって、彼女、否定も肯定もしてないけど!?」

 

 いや、ぶっちゃけ真偽とかどうでもいいし。

 山内だし、扱いもこんなもんだろ。

 その証拠に、平田の背後で話を聞いていた複数の女子生徒からは同意の視線を貰っている。

 入学二日目で女子にここまで嫌われるとか、流石過ぎるだろ山内。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 さて、他愛のない話をしながらも、数分ほどで食堂へと到着した俺達。途中、恋愛話大好きな女子生徒達に清隆との関係を根掘り葉掘り聞かれたが、のらりくらりと明言を避けて、適当に躱しておく。

 

「平田くん何食べる〜?」

 

「そうだね、僕は日替わり定食かな。ちょっと気になってるし」

 

「あ、なら私もそれにしよーっと」

 

 平田、人気者だなぁ。

 

「菊白くんは何食べんの〜?」

 

 あ、俺の方にも話回って来た。

 

「あー、じゃあ、俺はアレだ。山菜定食にする」

 

「え? そんなの無いよ?」

 

「いや、端っこの方に載ってるだろ」

 

「あ、あった! ....これかぁ。って、0円!? こんなのあったんだ....おいしいのかな?」

 

「さぁ? なんかこれだけ0円らしいし、面白そうじゃね? マズそうだけど」

 

「....菊白くんって、やっぱり変人さん?」

 

 いや、やっぱりってなんだよ。ノーマルだわ。失礼な。

 

「え? だって魔法使いになりたいんでしょ?」

 

「アレは忘れて下さいお願いします」

 

「あっは! なにそれ〜」

 

 うん。イイ感じに馴染めているのではなかろうか。

 だから、一つ問題があるとすれば....。

 

 

「清隆、痛い」

 

 

 有栖なら洒落で済むけどお前の握力で腕抓られるとリアルに肉が抉れるんですが....。

 

 

「あー、彼女さん嫉妬してるみたいだし、私もう行くね? 美味しかったら私にもわけてね?」

 

 彼女じゃないんだが?

 つーかタダなんだから自分で頼めよ。

 

 

 そう言って去って行く女子生徒Aさん。さようなら名前も知らないクラスメートさん....出来れば俺をこの状況で一人にしないで欲しかったんだが。

 

 平田の方へと駆け寄る彼女を早々に見送り隣の茶髪ちゃんへと向き直る。

 

「悪かったよ、誘ったのにほったらかして。そう言えば結局昨日はどうなったんだ? 俺が消えた後、有栖とは上手くやれてたか?」

 

「....ん。だいじょうぶ」

 

 だいじょうぶ。

 それは、どういう意味の大丈夫なのだろうか。

 いや、怖いから考えないけど。

 

「ま、いいや。で? お前は飯、何にすんの?」

 

「....蓮夜と同じものでいい」

 

「いや、絶対不味いぞ?」

 

「.........軍資金は多いに越した事はない」

 

 流石、清隆さん。分かっていらっしゃる。

 この学校のシステムも、既に大凡の目星はついているのだろう。

 

「おk、なら方針は今晩話し合おうぜ。情報共有もしておきたいし」

 

「分かった。部屋は?」

 

「後で部屋番送っとく....って、そういや携帯交換してなかったな....ほれ」

 

「ん」

 

 

 ピロンと、安っぽい音を立てて、俺の携帯端末に彼女の名前が表示される。

 

「....なんか、普通の学生みたいでいいな」

 

「新鮮味がある」

 

「なー」

 

 

 そういや色々有り過ぎて有栖とも交換していなかったな。今日明日中に聞いておかなくては。

 

 ....最悪、部屋凸される恐れがある。

 

 



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じゅんびちゅー

「ありがとう御座いましたァー!! 失礼しまーすッ!!」

 

 入学から二日目の放課後。つまりは平田達との楽しい昼食から数時間後の事。

 今頃は、体育館で部活動紹介が行われているのだろう。校舎内は人も疎らになり、辺りは閑散としていた。

 そんな中、職員室から顔をニヤけさせて出てくる世界一のイケメンが一人。

 

 ─────俺である。

 

「....まさかここまで上手くいくとはな」

 

 

 

 拍子抜けに驚きながらも、俺は手元にある二枚の紙を今一度確認する。

 

 

 

 

 

『部活動新設書類

         【eスポーツ部】

 

  部長 菊白蓮夜 部員他二名(坂柳有栖 綾小路清隆)の署名により、部活動新設に必要な最低条件を満たしたと判断し、上記の部活動設立を一年、学年主任“真嶋 智也”の立会の下、認める。 4月X日』

 

 

 

『部活動新設書類

         【資格取得支援部】

 

  部長 坂柳有栖 部員他二名(菊白蓮夜 綾小路清隆)の署名により、部活動新設に必要な最低条件を満たしたと判断し、上記の部活動設立を一年、学年主任“真嶋 智也”の立会の下、認める。 4月X日』

 

 

 

 

 

 そう書かれた書類には、赤色の丸で囲われた“受理”の判子がデカデカと押されていた。

 

 ん? 部活動紹介という重要な原作イベントを無視してまで何をやっているのかだって?

 決まっている。これからに備えての金策の一つだ。そんなわけで新部活の設立申請書を職員室で認めて貰えるように学年主任である“真嶋先生”に直談判して来た。

 涙を流しながら鼻水飛ばして、どれだけ自分達が本気なのかを力説する俺の名演技に真嶋先生も引き攣った顔を拭いながら折れるしかなかったようだ。その後もしつこく真嶋先生のスーツで鼻をかみ続ける俺に、なんと先生は自分から顧問になってくれると申し出てくれた。流石は教師の鏡。ウチの担任とは比べ物にならないレベルの聖人ぶりだ。

 

 

 ただ、設立自体は認めるが、目に見える成果が出ない間は部室の申請も受け付けないし、部費も一切降りないとの事。

 

 まぁ、ぶっちゃけこの辺りはどうでも良い。

 部費の話になると必然、生徒会を挟まねばならなくなるし、今はクラスの違う有栖と日常的に会う為の口実程度で構わないのだ。俺も清隆も、まだ自身の能力を周囲に見せるわけにはいかない。

 まだ土台作りが終わっていないのだ。チート万歳でクラスを引っ張る立場に就いてもいいのだが、ぶっちゃけ今のDクラスリーダーには殆ど旨味が無い上、それでは安全圏から弾かれてしまう。

 

 ....なんて、この辺りの話は一旦置いておこう。俺のコレからの動きは今晩清隆と話すとして....今は【eスポーツ部】とは違い、『道化』の“菊白蓮夜”ではなく『Aクラスの才女』である“坂柳有栖”を部長とした【資格取得支援部】の方へと話を戻そう。

 この部活で大々的に活動出来るようになるのは、Dクラスの担任である“茶柱佐枝”の弱みを握ってからだ。

 教職に就いている人間には、プライベートポイントの変動が明確に分かってしまう。俺がこれからやろうとしている事を考えると、それは非常に困るのだ。

 Dクラスで単独ないしは少人数で行動する場合、最も厄介になってくるのが担任教師である茶柱の存在だ。能力的に俺と清隆が遅れを取るとは思えないが、教職に与えられる権限は決してバカには出来ない。言ってみればゲームマスターと戦争するようなものである。そんな事は黒の剣士ぐらいにしか出来ないので、一般チートオリ主である俺は、茶柱を黙らせられる程度の手札が揃うまでは表立って暴れるのは控えなければならない。

 

 その間の隠れ蓑が【eスポーツ部】である。

 【資格取得支援部】に関しては、能力の高さがモロに出る為、今は看板以上には役に立たないだろうが、【eスポーツ部】の方の活動であれば、部活動設立というそれなりに目立つ行動も含めて、ただのゲーム好きな学生程度で話を終わらせる事が出来る。

 出来れば、真面目にeスポーツで天辺を狙っているような生徒では無く、『学校内での活動の一貫としてゲームがしたい』という舐め腐ったエンジョイ勢として見られていれば尚良しだ。

 

 また、隠れ蓑ではあるものの、作った以上は有効活用しなくては勿体無い。いくつかの小さい実績を積んだ後に、ゲーム機材の為の部費としてテレビや電子機器一式を部費申請すれば、たった三人ぽっちの部活だろうと身内で回せる分の余剰なプライベートポイントが期待出来る。

 

 あん? 他の入部希望者はどうするのかって?

 んなもんイチャモン付けて追い返すんだよ。そもそもウチの部活は現在入部希望を受け付けてすらいない。

部活をする為に部活を設立したわけじゃねぇんだから他の奴に入られたら裏で糸引けねぇだろうが。

 

 

 まぁ、ゲーム部(名前だけ)の話は置いといて、身体の弱い有栖の代行という建前の下、同時に滑り込ませた【資格取得支援部】の方。これは名前の通り、将来役に立つであろう様々な資格を皆で協力してゲットしよう、といった感じの部活だ。

 

 しかし俺も清隆も、そもそも資格を取るのに今更勉強する必要などない。なら、本来買う筈だった高価な参考書や、学習環境を整える為に使う部費を丸々浮かせる事が出来る。加えて部活動は成果を出し続けていれば学校側からのボーナスも期待出来るとの話まである。後の日本を背負って立つ人間を育成する為の国立教育機関としては、生徒の資格取得は高確率で支援対象になる事だろう。後々の金策としてはうってつけだ。

 

 折を見て、他にもいくつかの部活動の新設と兼部の許された既存の部活動への多重加入も考えている....が、これは随分先の話になるだろう。

 

 

 能力的に、俺はどの部活動でもエースを張れる性能を有している。

 やろうと思えば助っ人代他、試合結果に関する裏取引など、pptを稼ぐ手段はいくらでもあるし、Aクラスへの個人移籍に関しても、有栖経由で自身の能力の高さを売り込めば、Aクラス側から大幅な支援が期待出来る。

 

 

 

 ....だが、そんな事に意味など無い。

 Aに上がるのは何時でも出来る。当たり前だ。

 だから問題はそこじゃない。見誤ってはならない。

 俺の目標は、俺と清隆がAクラスで“()()()卒業”する事なのだから。

 この時期にAクラスに上がるのは有り得ない。

 

 

「───さて」

 

 今のうちにやっておかなくてはならない事がある。今夜行う清隆との作戦会議前に出来る限りのカードを揃えておかなくては。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「せーんぱい! ボクとデート行きませんか?」

 

 

 現在、部活動紹介で二年の覇者である南雲雅と、生徒会長である堀北学は出払っている。このチャンスを逃すつもりは俺には無かった。

 というわけで三年Cクラスへと凸った俺は先輩の女子生徒にアピールマシマシで話しかけていた。

 

 この時期の三年生は、卒業を前にAクラスとBクラスの接戦状態が続き、CとDは完全に蚊帳の外となっている。本人達もその事は理解している為、俺はBより下の生徒はAクラスでの卒業を半ば諦めているような状態ではないかと予測した。故に行動を一つ。

 CとDの中から如何にも遊んでそうで、それなりにpptを残していそうな生徒に一日遊ぶ代わりに一つお願いを聞いて貰えるよう交渉しに来たのだ。

 

 んあ? ナンパした側が条件付けられるなんておかしい?

 舐めんにゃ。俺はホワイトルーム産のイケメンチートオリ主だぞ。詐術や話術、人心掌握程度のスキルは当然持ち合わせているのだ(絶対無敵

 

 故に誘った側がある程度お願い出来るという状況も、容易に作り出す事が出来る。

 

 まぁ、遣り過ぎると制御不能になったガチ恋勢にぶっすり刺されてナイスボートに突入するかもだが、その辺りの引き際は見極めている。

 

 

 ...............いや、嘘です。ぶっちゃけいくらイケメンとは言え、ナンパなんてした事なかったからメチャクチャ緊張してました。だからこそ、相手は遊んでそうな人に限定したし、pptも余ってそうな人を厳選しました。いや、流石に金無い相手から貢がれるとか、怖いし申し訳ないし。

 相手も一日で終わる関係だと分かって割り切って遊んでいるような方を選出させて頂きました。

 

 ......だって、怖いし。

 ......あんま本気にさせても申し訳ないし(思い上がり

 女の子に泣かれた時の対処法なんて、ホワイトルームで教えてくれなかったし....。

 

 う、ううぅ。....なんか鬱になって来た。

 けど、どうしても必要な事だったんや。

 許せ、先輩。そして俺とデートしておくれ。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 ─────三時間後。

 

 

「今日はありがとね~。楽しかったよ、蓮夜くん」

 

「あ、いえ、コチラこそ楽しかったデスマス」

 

「あっはは! なにそれ〜? ただ、自分からナンパするならもうちょいレベル上げしてからの方が良いかもね? 今度はエスコートしてくれる事、期待してるから♡」

 

「はいっす.......色々助かりましたです」

 

「ん。じゃあ“ソレ”有効活用してよね? この時期から動けるなんて、将来有望なんだから。大変だろうけど、頑張ってね? あ、空いてる日があったらまた誘ってねー♡」

 

 

 そう言って颯爽と去って行く先輩。

 それに対して頭を直角に下げる俺。

 はい。釣れました。ボクにもナンパ出来ました。

 目的の物も手に入りました。

 

 代わりに男としての自信を失いました。

 

 ああああああああああ!!! 恥ずかしい!!

 終始、女の子に引っ張って貰う俺、恥ずかしいぃぃぃぃぃぃ!!!

 

 うぅ....いくらチート持ちでも所詮レベル1男の俺には上手く年上女子をエスコートする事など到底不可能だったらしく、終始先輩にエスコートされっぱなしで御座いました。なんか、レストランで椅子とか引いて貰った....。さり気なく疲れてないかと心配されたり、飲み物買ってきて貰ったり....。

 

 あの先輩、男慣れしてるってレベルじゃねぇぞ!

 なんであんな対人能力高い生徒がCクラスにいんだよ! どう考えても櫛田や一之瀬より支配力有りそうだったぞ!?

 

 

 ....ううぅ。まあ、いいんや。

 俺も良い経験をさせていただきましたし、三年生とのコネも手に入った。ご飯も美味しかったし、色々と有利になりそうな情報も仄めかして貰った。

 

 いや....考えてみれば俺しか得してねぇじゃん。

 ホント、ごめんなさいです。それとありがとう御座いましたです先輩....。ホント良い人で良かった....。

 

 

 そんな事を考えながら、俺はお土産として買って貰った紙袋からブツを取り出す。

 

 ブツ───最新機種の超高性能小型ボイスレコーダーである。お値段なんと十万弱。それが三つ。流石に悪いと思って止めようとしたら、チラリと見えた端末に、優に二千万以上のpptが表示されていて無理矢理黙らされました....怖い。なんなのあの人。俺が原作未読だっただけで、もしかして主要キャラの一人だったのか? ....分からん。俺がやろうとしてた事も見抜いてそうだったし....。

 

 ま、まぁバグキャラみたいな先輩の事は置いておいて、俺が手に入れたかったのはコレだ。

 “よう実二次創作”転生オリ主御用達のボイスレコーダー。もはやスターターセットと言っても過言ではないスタンダードアイテムである。

 いやホント、ボイスレコーダーとか持ってないだけで不利になるから。証拠能力無しとか、最悪詰むし。

 

 ただ、問題なのはこういったボイスレコーダーの様なダーティーアイテムを入学初期から買っていると、明らかに面倒な奴らから目を付けられる可能性がある事だ。シスコン生徒会長とか....担任クズ教師とか。

 三時間前にも言ったかもしれないが、この学校の教員と生徒会長にはかなりの権限が付与されている。

 個々人のテストの点数からプライベートポイントの変動まで丸わかりなのだ。

 これがもし生徒会だけだったり、担任教師が他の三名だった場合であるなら、個人情報保護の観点から全く問題は無かったのだが、うちの担任はあの“茶柱佐枝”である。絶対Aクラス上がるウーマンであるうちの担任に、初動でSシステムに気付いているかのような行動を見せるのは愚の骨頂だ。見せたが最後、教員という立場を笠に骨の髄までしゃぶり尽くされ、Dクラスの人柱にされる事間違いなしである。

 

 故にこのような手を取らせて貰った。

 俺の口座額を不自然に変動させられないのであれば、他人に買って貰えば良いのだ。これなら、俺の財布はダメージを受けないし、俺の持つ端末の購入履歴にも不審な物は残らない。

 

 本当であれば持ちうる才能と幸運の限りを尽くし、部活荒らしで荒稼ぎと行きたかったが、それは長くは続かないだろう。

 初動からニ、三年生に勝負を吹っかければ、二年全体を支配下に置く南雲雅と、ポイント遍歴の見れる会長、教師陣に目を付けられる。

 加えて、現在最もpptを持っているであろう三年のABクラスは丁度最終決戦の真っ只中であり、pptを毟り取ろうとしても途中で逃げられるのがオチである。最終決戦前に自分から軍資金を捨てるような無能は存在しないのだ。

 

 既存部活への多重加入と、新規部活の大量設立も同様の理由から現時点ではナシだ。

 やれば間違いなくAクラスには上がれるが、上がれるだけで、厄介事は増すばかり。

 Aでの卒業を考えるならば三年間の足枷にしかならない。

 

 

 

 故に、俺の思う初動での最も安全な最適解の一つとは、自身のpptを一切増やす事なく、Sシステムに気付いている事を隠しながらも、将来的にpptを大量に得られるよう間接的な舞台造りに勤しむ事なのだ。

 

 

 

 

 

 




原作一巻76ページ最後の行より、新部活結成には三人の部員が必要との記述から生徒側からの部活動設立は可能であると判断しました。
詳しい設立条件は不明でしたので、この小説では学年主任の認可と顧問の取り付けで設立可能としております。


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さくせんかいぎ

 入学から二日目の夜。

 有栖と清隆に無事、部活動設立の申請が通った事を報告してからの事。

 俺の部屋にはパジャマ姿の長髪美少女が居座っていた。いや、居座っていたというか、なんというか。部屋に上げたのは俺なんだが....まぁいいや。

 いや、良くないな。やっぱおかしいわ。

 何でパジャマで来てんだよ、制服で来いよ。

 あとお前、後ろ手に持って来た枕、俺が気付いてないとでも思ってんのか? 

 流石に泊めないからな? 話し終わったらちゃんと自分の部屋戻れよ?

 

 

 ───なんだかんだそのまま部屋に泊めてしまい、後々自分の首を自分で絞め落としている光景が容易に想像出来たところで、俺は強引に思考を打ち切った。

 

 

「あー、水でいいか? そういや飲み物何も買ってなかったわ」

 

「いい」

 

 いい。

 要らないという意味の“いい”なのか。

 いいよという意味の“いい”なのか。

 俺は今までの付き合いから、後者であると判断し、コップに二人分の水を入れてくる。

 

 ───二人分。

 そう、三人ではなく二人分である。

 有栖は現在Aクラスの生徒との付き合いでこの場には居ない。恐らく二日目の段階で既に葛城派が台頭しているのだろう。

 初動で出遅れると辛いのはAもDも一緒なのだ。取り敢えず何かあったら互いに協力し合う事を確約し、有栖にはAクラスでの派閥作りの方に集中して貰っている。

 

 ─────さて。

 

「そっちは何処まで見抜けた?」

 

「─────“全部”」

 

 ────全部。

 流石過ぎるその一言に、しかし驚きは無い。

 史実の綾小路と違い、清隆は友達作りにやっきになっておらず、初期の段階からこの学校の解析に移っていた。

 加えて俺というホワイトルーム内での対抗馬があった事で、原作よりも能力値が格段に上昇している。

 当然、こっちの清隆は女の子なので、筋力値や骨格の関係から下がっている部分も存在するだろうが、頭脳系においては間違いなく高くなっているだろう。

 

 何より一番の違いは彼女が“事なかれ主義”を自称していない事だ。行動力が原作と段違いになっている。

 

 

「おk。ならお互いに学校に関する情報のすり合わせは不要だな」

 

「ん」

 

 無駄な部分は省いていく。

 俺も彼女もお互いの能力を疑っていない。

 故に、清隆が“全部”と答えたのであれば、それは全部“正しく”理解しているという事なのだ。

 であるなら、俺達の間に無駄な情報共有の時間など不要だろう。早速方針の方に話を移す。

 

 

「取り敢えず俺はAクラスでの卒業を目指す。お前はどうす「協力する」....はえーよ」

 

 

 理由とか聞かないわけ?

 

 

「......蓮夜が一番だと判断したならそれでいい。手伝う」

 

 

 そーかい。

 

 

「んじゃまず一つ。最低目標決定だ。俺とお前が卒業時にAクラスに在籍している事。これでおーけー?」

 

「おーけー」

 

「んじゃ、次。ホワイトルームをどうするか....と、いきたいところだが、ぶっちゃけ俺の方には白部屋の情報は殆ど入って来てねぇ。知ってるのは、ホワイトルーム内が派閥の乱立しまくってるカオス状態って事くらいか」

 

 

 そう。全くと言っていいいほど、俺の元には白部屋の情報が入ってきていなかった。

 二年間坂柳家に籍を置いていた俺ではあるが、奴らに対するまともな情報は何一つとしてないのだ。

 

 松雄に保護されていた筈の清隆なら何か知っているのではないかとも思ったのだが....。

 

 

「だいたい同じ」

 

「なら、考えても仕方ないな。今できるのは放置。お前の親父さんが来年度の新入生にホワイトルーム生を捩じ込んで来るのはほぼ確定だから、その時までに肉壁を何枚か用意しておくか」

 

「さんせー」

 

 

 俺と清隆には、それこそ人類最高峰の頭脳が搭載されている。しかし、ホワイトルームに関する情報は、それぞれの情勢どころか、各派閥の詳細や清隆の父親の所在についてすら回ってきていない。

 俺と彼女の頭脳を合わせれば、一の情報から百を得る事だって難しくはないだろう。しかし元の情報が零で、これ以上の情報入手も期待出来ないのであれば直接的な手を打つ事は出来ない。

 

 加えて、白部屋の勢力図に関しては、昔の俺がぶち壊して来てしまったのでもはや原作知識も役には立たない。

 故に白部屋関係は相手側からのモーションを待って、迎え撃つ形になる。

 

 

「情報が出揃っていない以上、考えても無駄な事は置いておいて、Aクラスでの卒業計画について話を戻すぞ」

 

「ん」

 

 さて、ここでDクラスに配属された転生オリ主がAクラスに上がる為に取れる手段は大きく分けて二つある。

 一つは、チートの限りを尽くし、クラスのリーダーとしてDクラスを三年以内にAクラスへと押し上げる事。

 二つ目は、2000万pptを秘密裏に貯めて個人でクラスを移籍する事。

 

 大体がこの二つになる。

 

 

 

「一応聞いておくが、お前はどっちのが楽だと思う?」

 

「....後者。Dクラスには使える駒が少ない。他クラスと戦争した時、試験の内容次第で兵力差から押し潰される可能性がある。....二人で動いた方が効率的」

 

 

 既に特別試験の存在まで把握している清隆。

 流石に試験内容までは知らないだろうが、二日でここまで辿り着くのは流石の一言しかない。

 断片的とはいえ特別試験について言及している以上、恐らく俺同様に上級生から情報を得たのだろう。

 ....俺が言えた事じゃないけど、あまりにもフットワークが軽過ぎやしませんかね。

 

 閑話休題。

 

 さて、清隆の動向は置いておいて話を進めるが、当然ながら俺の意見も彼女と全く同じものだ。

 Dクラスには役立つ兵隊が殆ど無く、性格的にも一つに纏めるのはかなり時間がかかる。

 前世では一点特化の磨けば光るクラスなどと評価されていたが、圧倒的にクラス単位での総合力が足りていないのである。

 加えて、将軍格の生徒やクラスの特色にも大きな当たり外れが存在する。当たりのクラスはAクラスとCクラスくらいだ。

 Dに関しては言わずもがなの半空位状態。Bクラスにいたっては一之瀬の影響力が強すぎるせいで、クラス全体に終始ダーティープレイの制限が入る始末だ。正攻法限定でクラス単位でAを目指すというのは全く現実的ではない。俺がもしBクラスで入学したとして尚且クラス単位でAを目指すのであれば、真っ先に一之瀬を中学時代の万引きネタで脅した後、初動のクラスカースト形成の段階から彼女を除外しなければならなかっただろう。

 

 

 と、まぁ話が少しズレてしまったが、このように高育では所属したクラスの特色により大きく初期方針を変えなければならないわけだ。

 

 ではDクラスをAクラスに持っていくにはどうすれば良いか。まず、平田の存在が邪魔になる。

 一之瀬同様、外道手段に制限をかけてくるような抑止力さんはいくら優秀だとしても害でしかない。うちのクラスには荒事に向いている生徒が須藤と三宅くらいしかいないのだ。

 俺と清隆を除外した場合、龍園からの裏工作にクラス全体が耐えられない恐れがある。

 よしんば俺や清隆が前面に出たところで、平田の存在がある以上、必然的にクラスメートを見捨てる事が出来なくなる為、下層のダメージを全て上層の生徒が請け負う事になる。龍園や有栖がそんなウィークポイントを見逃す筈もなく、ちょくちょく刺されて後退させられるのがオチだ。

 

 そう。つまりDクラスである以上、担任教師の茶柱の他に、クラス一の人気者である平田洋介を倒さなくてはならないのである。

 

 面倒くさい。ひじょーーーに面倒くさい。

 

 なので今回、俺はクラス単位でのAクラス昇格は一切狙うつもりはない。

 

 ────とは言わない。Dクラスは、謂わば俺にとって三年間の巣穴になるわけだ。申し訳ないが、俺が過ごしやすいように改造させてもらう。

 

 というわけで、クラス単位である程度Aを目指しながらも、自分自身の評判はしっかりと守りつつ、クラス内での平田の発言力を低下させ、自分は他クラスからヘイトを買わないように擬態する。それ等全てを担任含めて誰にもバレないように2000万pptを貯めながら行う───そんなハイブリッドな方法を提示しよう。

 

 

 その為に俺が最初にやる事は───

 

 

 

「取り敢えずDクラスを真っ二つに割ろう」

 

 

 

 

 



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『ドキドキ☆菊白Pのアイドル化計画☆〜高校デビュー編〜』

「クラスを割る?」

 

「ああ、真っ二つにな」

 

 

 具体的には、『平田陣営』VS『もう一つの陣営X』という形がベストだ。

 正攻法を好み綺麗事を並べる平田陣営と、グレーゾーンぎりぎりを攻める代わりに常に結果を出し続けるX陣営。こんな感じでクラスを割りたい。

 

「んじゃ、メリットモロモロ説明していこう」

 

「ん」

 

 

 まず、現段階でホワイトルームの動きが分からない事から、学校全体を敵に回すような事は避けたい。

 しかし、俺と清隆はAクラスで卒業する事が目的の為、2000万pptを二人分貯めないといけない。

 しかも、担任教師に目を付けられないように、だ。

 

 ──────さて、どうすればいい?

 

「代理を立てる?」

 

「正解」

 

 早くも気付いた清隆ちゃんに拍手。

 そう、原作序盤ではテストの点数からブラフを混ぜた綱渡りで茶柱にいいようにされていた綾小路くんだったが、彼の初動も堀北鈴音を隠れ蓑にしたものであった。

 

 それの拡大版とでも思ってくれればいい。

 俺は、代理人を矢面に立たせた傀儡派閥を作りたいのだ。

 

「でもそれじゃあ、pptが何時まで経っても貯まらない」

 

「その通り」

 

 分かっている癖に合いの手を入れてくれる清隆に感謝しつつ、俺は説明を続ける。

 担任に俺達のポイント残高が確認されている以上、能動的に派手な動きを見せなくとも、秘密裏にpptを貯めているというだけで目を付けられるハメになる。それでは折角代理を立てて黒幕を演じているのにpptを稼ぐ事が出来なくなってしまう。

 最悪稼いだ所持額をクラスの奴らの前で暴露され、Dクラス全体から総スカンを食らう可能性すらある。....いや、ホントあの人に教師としてのモラルとかないからやりかねん。

 

 

「───そこで、オススメしたいのがコチラの商品! 『クラス内貯金』で御座います!」

 

「おー」

 

 そう、BCクラスがやっていた徴税制度。Bクラスは信頼で、Cクラスは恐怖で、クラス内の生徒から今後の為の資金を同意の下で徴税していた。あれをX派閥内限定でやらせる。

 

「税率はまだ決めてないけど、収入額の三割程度は持って行きたいな」

 

「ん」

 

 これにより、クラスの動きをある程度支配しながら、影では派閥代表の生徒を通して派閥収入額の何割かがコチラに入ってくるよう仕向ける。

 『みんなの為のppt』という名目上、俺の手元には置いてはおけないが、代表代理の生徒の端末に一時的に大量のpptをプールしておく事が出来る。

 これならば、裏で稼いだpptで俺と清隆の残高が変動する事もない。要は財布の他に、新しく銀行口座を作るようなものだ。

 

 

「さて、体のいい不労所得と口座の開設に成功したとして、此処で問題になってくるのは何でしょーか?」

 

「他クラスに黒幕の存在がバレる事」

 

「正解」

 

 

 具体的に言うなら、Cクラスリーダーの龍園翔に背後に居る俺等の存在がバレる事だ。

 原作でも龍園は早期の段階から堀北の背後にいる黒幕の存在に勘付いてた。

 

 

 

「でも、隠れ蓑として使える程性能の良い駒がない.......妥協して隣の席の黒髪を使う?」

 

 

 

 隣の席の黒髪? ああ、堀北か。

 

 

 

「駄目だな。堀北に代役は務まらない」

 

 

 少なくとも“今の堀北”に代役は務まらないだろう。

 そもそも龍園に黒幕の存在を嗅ぎつかれたのは、堀北鈴音の頭が固かったからだ。成長後の堀北であれば全く問題は無かったのだが、今の時期では正直、厳しい。初期の彼女は、原作主人公から見えない所で思考誘導を受けて、ようやく他クラスのリーダー格と渡り合える程度の人物だった。

 

 そんな孤立体質と頭の固さを龍園に見抜かれ、奴に黒幕の存在を確信させた。

 最終的に、綾小路が盤面を支配する事で無理矢理握り潰していたが、遅かれ早かれ龍園は自力で綾小路の存在まで辿り着いていた可能性もある。

 

 では、黒幕として───陰の支配者として他クラスに存在を知られないよう動くのは不可能なのか。

 

 ───否。簡単だ。

 そもそも基礎スペックの高い人間を矢面に立たせれば良い。そうすれば、最初から黒幕という発想そのものが出て来なくなる。例を挙げるなら、Aクラスリーダーの“有栖”辺りか。彼女はニ大派閥の長としてAクラスの指揮を取っているが、彼女のバックにそれを操るような人間が居るかもと誰かが勘ぐるか? 答えは否で、そういう事だ。

 

 つまり、初期の段階から堀北鈴音を超える生徒を矢面に立たせる事が出来るのであれば、龍園翔からのアプローチを総スルー出来るのである。

 

 

「───でもいない。人気がある腹黒を使う? 支配力だけならギャルも使える。けど、どっちも足りてない。筋肉ダルマを動かす?」

 

 

 ん?

 腹黒? ギャル? 筋肉ダルマ?

 ああ、櫛田と軽井沢と高円寺か。

 もう値踏みしてたのね。流石です。てか名前覚えようぜ。絶対わざとだろ。

 

 まぁ、いいが。

 清隆の言う通り、櫛田も軽井沢も足りていないし、動かない高円寺は論外だ。

 

 

 

「じゃあ誰?」

 

 

 

 

 ───Dクラス、X派閥の旗印となれる人材。

 

 それは────

 

 

 

 『平田洋介』→ダーティープレイを使えないから論外。そもそも彼には敵役を担って貰わなくてはならない。

 

 『堀北鈴音』→シンプルに性能不足。初期北はそもそも扱い辛いッピ。....というか堀北には上手い事平田派閥を支持して貰いたい。何の為にボンボン演じてまで侮られるような行動を取ったと思っているんだ。

 

 『櫛田桔梗』→外道行為は賛成派だろうが、表向き善人ロールプレイをやめられない為、却下。

 

 『軽井沢恵』→女子に対する支配力なら随一だが、単純に頭脳戦を熟せない。

 

 『高円寺六助』→性能は十分だがチームプレイで唯我独尊はお呼びじゃない。

 

 

 なら、答えは一つしかないだろう。

 

 

 

「──────“松下千秋”。俺の隣席の女子生徒を派閥争いに巻き込む」

 

 

 

 

 

 入学から二日目の今なら、クラスの奴等に彼女のキャラは定着していない。現段階であれば、俺達がアシストすれば印象操作は十二分に可能だ。

 

 突出を嫌うお前には申し訳ないが、俺と清隆の“これから”の為、お前には共犯者になって貰うぞ松下。

 

 ....なぁに、ちょいとばっかし派手な高校デビューをかまして、これからの三年間、Dクラスのリーダーとして四方八方目立ちまくるだけだから気にすんな。

 

 

 



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【バレンタイン編 番外−1】『美味くもなけりゃ不味くもない、それはきっと“春の味”』

まさかホワイトルーム時代のイカレたテンションをもう一度書く事になろうとは......。

皆様ハッピーバレンタインです。
ぶっちゃけ生まれてこの方、毎年何がそんなにハッピーなのかは全く理解出来ていませんが、世間様がハッピーらしいので私はそれで良いのです。
この時期は不思議とソシャゲのログボも美味しくなりますし、悲しくなどありません。



「....ああ、今日“バレンタイン”じゃん」

 

「......“ばれんたいん”?」

 

 

 昼食時に出されたデザート兼“栄養食”である『チョコレートバー(白部屋特製ホワイトチョコレート仕様)』の摂食行為から零コンマ零秒の事。俺は今日が二月十四日である事を思い出した。

 

 そう、俺は坂柳有栖襲来事件にて、銀髪ロリから外界の暦に関する正確な情報を得ることに成功していたのである! 故にカレンダーの撲滅された白部屋内部でも正確な日付を推理する事が出来るわけだ。

 

 まぁ、西暦と日付が分かった所で、原作の進行に影響が出るわけでもなければ、そもそも白部屋には季節行事なんてのも一切ないから殆ど意味はないんスけどね!

 

 アーッハッハッハ!!

 

 

 ───────────は?

 

 

 

 いや、ホント何やってんだろ、俺......。

 

 今頃外では恋人共がキャッキャウフフしてるわけだ。それなのに僕サマときたら─────はぁーーーーーー!!!

 

 

 つっまんねぇな! オイ!

 今日も白部屋は通常カリキュラムだよクソが!

 俺ちゃん、イケメンチートオリ主やぞ!?

 何でバレンタインデーもお勉強してんだよ馬ッ鹿じゃねぇの!?

 

 普通、もっとこう、あるだろォゥン!?

 甘酸っぱいのがさァ!

 

 

 

 例えばホラ─────

 

 

 

 

『はいコレ。今年のバレンタインチョコ。何時もありがとねー』

 

『んー、さんくー。これからもよろしくなー』

 

 

 

 

 みたいな!?

 “もはやバレンタインが恒例行事と化した熟年夫婦バリのおっとり系幼馴染みに日常っぽくもちょっと甘い感じ”でチョコを手渡しをされたかったなァ!

 

 

 

 

 

 

 あとはホラ─────

 

 

『か、勘違いしないでよねっ! 別にアンタの為に作ってあげたわけじゃないんだから!

 

 で、でもその......まぁ?

 折角作ったわけだしぃ.....?

 た、食べてくれると、その............うれしい、かも』

 

 

『ん。作って貰った以上、有り難く頂くわ。ホワイトデー期待しとけよ?』

 

 

『...............言っとくけどアンタの手作りは受け取らないからね。............自信無くすし』

 

 

『ん? 何か言ったか?』

 

 

『何も言ってないわよ!』

 

 

 

 

 み、た、い、な?

 “俺より料理が下手なくせに、指とかボロボロにして何とか手作りしたツンデレ幼馴染みのチョイマズチョコレートクッキー”とかを俺は猛烈に食いたかった......!

 

 

 しかし、現実は非情だ。俺に与えられたチョコレートは、憎っくき白部屋から支給された栄養バー(チョコ味)一本のみ。

 クソが! 前世含めて、妄想するような甘々なイベントなんて一回も無かったぞ今まで!

 俺イケメンだぞ!?

 勉強も出来るんだぞ!?

 歌も上手いしダンスも出来るし運動も得意だし芸術家としての才能もあるんだぞ!?

 性格だって............まぁ、性格は置いておくとして。

 

 なんで此処までハイスペックなのに、俺にはラブコメ的なイベントが一切来ねぇんスかねぇ!?

 

 

 ────Answer ホワイトルームに居るから。

 

 

「はいクソ。もう、潰すべ......この白部屋────って、おん......? いや、いるじゃん俺にも可愛い幼馴染み。なぁ、茶髪ちゃん。お前、もしかして俺のヒロインだったりしない?(錯乱中」

 

 

「?」

 

 

 

 うーん............なさそうですねコレは。

 この娘、バレンタインが何なのかも分かってなさそうだし。

 

 俺はコテンと首を傾げると同時に、スープに浸かりそうになっていた茶髪ちゃんの長髪を一つに纏めてやりながら、一向に訪れない春に絶望した。

 

 ......見てろよ白部屋。

 あと数年の辛抱だかんな?

 直ぐにでも綾小路くん見つけて、絶対に脱出してやるから......震えて眠れ。

 

「で? 茶髪ちゃんはバレンタインが何なのか知ってるん?」

 

「....知ってる。日本のお菓子会社による大規模マーケティング戦略の一例」

 

 

 ......うん???

 

 

「....起源はキリスト司祭の処刑を背景に打ち出した複数企業の共同ミーム的「オーケー分かった。一旦バレンタインに関する認識を改めようか」............?」

 

 

 もうやだこの場所。

 

 

「....でも、そう教わった。バレンタインは企業による市場戦略」

 

 

 うん、そうだね。

 この前も、企画経営能力向上の為の授業で企業戦略の成功例として紹介されてたもんねバレンタイン。

 

 けどさ、違うだろ?

 もっとこう! ね? 年頃の女の子のバレンタインに対する認識がこれって....許されるんですかね?

 いや、ホント何でもかんでも学習教材にしてんじゃねぇよホワイトルーム!

 テメーは、もっと情操教育に力入れろや!

 

 

 はぁーーーー、ホント清隆パパ無能オブ無能。なんかムカついたし......後で意味もなく腹パンしたろ。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 〜十分後〜

 

 

 

「と、いうわけで、バレンタインはもっとこう甘いイベントであるべきなんだよ。具体的には俺に対して甘くあるべきなんだよ分かるかねチミィ!」

 

「分かった」

 

 

 ......ホントに分かってんのかなぁ、この娘。

 

 

「......けど、疑問も残る。同じ教育を受けているのに知識量に差があるのはおかしい」

 

 

 ......おっと。

 相変わらず主語をどっかに置き忘れている彼女だが、しかし言いたい事は分かる。俺の知識は白部屋生としては確かに偏りすぎているわけだし。

 

 しかし俺ちゃんにはアリバイがあるのだよ。

 

 

「俺は有栖ちゃんに聞けたからな」

 

「......“ありす”?」

 

「おう、ちょい前......つっても、もう数年前か。ほら女の子来たろ? 銀髪の杖持った可愛い子」

 

「................」

 

 

 うーん、コレは憶えて無さそうですね。

 てか、急に黙らんでくれよ。

 流石に黙られると無表情も相まって何考えてんのか読み取りにくいんだが......。

 

 

「おぼえてる。チェスの人」

 

 

 おー、憶えてたか。

 てか、毎度思うけど覚え方が雑すぎなんだよなぁ。この娘、俺の事とかちゃんと憶えてんのかね?

 流石に“白い人”とかそんな感じの認識だとショックなんですが。

 

 

「まぁ、俺はグローバルな男だからな。NO受動的、YES積極的の精神だぜ。茶髪ちゃんもなるべく自分の方から情報を取りに行くようにしたほうがいいぜマジで。世界はこんなちっさい施設の中だけで完結してないんだから」

 

 具体的には情操教育についてもっと積極的になってください切実に。

 てか、斯く言う俺も、外の世界については詳しいわけじゃないんだけどね。ただ、積極性が大事だとは心底思う。マジで何もしてないと二十年弱くらいならソッコーで終わるからな。あ、ソースは前世の俺ね。

 

 

「......のー受動的。......いえす積極的」

 

 

「そうそう、人生短いからね」

 

 

 と、なんやかんや有栖ちゃんの名前を出す事でバレンタイン他、俺の前世知識から話を逸らしつつ、人の一生が短いという事を再確認する。

 

 ......結局、生まれ変わったというのに何も出来ていないからな。折角出来た件の“友達”ともあれ以来会えてないわけだし。

 

 まったく。こんな所に居る暇は俺ちゃんには無いのだよ。まだ魔法だって使えないし、前世では出来なかった事、やりたかった事が俺には余りにも多いのだ。まぁ......残念ながらこの分だと、今世でも小学校や中学校には通えそうにないのだが。......いや、絶対高校には行ってやるかんな! 高育ではバレンタインだって絶対体験してやるんだかんな!

 

 

 ─────さて。

 

 

「......人生短い。......積極的」

 

 

 未だに何かブツブツ言っている茶髪ちゃんを他所に、俺は空になった食器を重ねてトレーの上に纏めていく。

 

 そろそろ昼食の時間も終わってしまう。

 非常に非情な事だが、白部屋は名前とは裏腹にクッソブラックなので、例え今日がバレンタインだろうと平常運転のままだ。

 夕食は基本、テーブルマナーの教材にされてしまうので、ゆっくりと食事が出来るのは実質、昼の時間だけだというのに。例え徹底的に栄養管理されたクソ不味い飯でも憩いは憩いなので、今日ぐらいは時間延ばしてくれてもいいんですがねぇ清隆パパさん?

 

 

 なんて......まぁ、あと数年の辛抱だ。何だかんだ言いながらも、結局我慢するしかないしな。

 

 

 

「さてと、んじゃ俺先行くから茶髪ちゃんも早く食っちま────────ムグゥ!?」

 

 

 

 そう言いながら立ち上がる────と同時に、俺の口内を軽い衝撃が襲った。

 

 

「ム、ムガ.....ムグ......ちょ、茶髪ちゃんさん......? 急に何......?」

 

 

 何故か俺の口元へと伸びている彼女の片手。

 

 加えて────俺の閉じかけた口には美味くもなければ不味くもない微妙な味の、ホワイトルーム仕様の真っ白な栄養バーが突っ込まれていた。

 

 

 

 

「のー、受動的............いえす、積極的」

 

 

 

 一言。俺の名状し難い現状を他所に、いつの間に食べ終えていたのか、空皿の乗ったトレーを片手に先に席を立つ茶髪ちゃん。

 

 

 

 それを見送りながら、一口で食べ切るには大き過ぎるソレを何とか噛み砕いて嚥下する。

 

 

 

 

「うん......やっぱ、微妙だわ」

 

 

 不味くはない......が。

 やはり、無理に二本も食べるような味では無い。

 

 

 ......しかも食べかけじゃねーかコレ。

 

 

 

 

「なんすかね、俺は残飯処理係ですかね......」

 

 

 柑橘系のエキスでも入っていたのか、二本目のソレは妙に甘酸っぱい。

 

 

 一本目ではそれが気にならなかったのが妙に腹立たしい。おかしいですね。俺、味覚チートも持ってたはずなんですが。

 

 

 

「あー、クソ。......まーた、外に出ないといけない理由が増えやがったじゃねぇか」

 

 

 そんな事を小さくボヤキながら、少し遅れて席を立つ。

 気付けば周りには他に誰も居なくなっていた。

 時計を見ると、既に午後のカリキュラムが始まっている時間だ。

 

 

「やーべ。こりゃ、また清隆パパに怒鳴られるわ」

 

 

 

 どうせ怒られるのは確定してるし、急ぐ理由も特に無し。走るのもみっともないし、ゆっくり時間をかけて歩く事にした。

 

 

 

 

 

 ......はぁ。にしても、返せるのは何年後のホワイトデーになる事やら。

 

 ......三倍返しに利子が付かなきゃいいんだけど。

 

 

 

 

 

 



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