蜘蛛の脚って8本だよね?五等分できないじゃん。 (通りすがりのゴキブリ)
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プロローグ
良ければ作者が別で書いている「SPIDER-MAN ~Girls band party~」も是非ご覧ください。
ここは高層ビルがひっきりなしに立ち並ぶコンクリートジャングル、日本の中でも屈指の人口を持つ都市、東京都。
時刻は午後17時程の帰宅時間と言う時間帯。
学校帰りの学生達や会社帰りのサラリーマン達も既に皆帰宅が住み、少々静かになった頃のとある裏路地にて
「いいから大人しく乗れや!」
「ちょ、ちょっと!警察呼びますよ!放して!」
そこでは一人の女子高生と30代後半であろう大柄の中年男性が揉めていた。
そこだけ聞いていたのならば良くある事であろう、ましてや男女の喧嘩なんて都会では大して珍しい事では無いのだから。
しかしそこで行われていたのは喧嘩等とは比べ物になら無い程深刻な問題だった。
何故ならそこで行われていたのは誘拐だったのだから。
男性は女子高生の腕を掴み強引に傍に停車しているワゴン車に乗せようとしており、女子高生の方は懸命に抵抗しているが筋力の差が激しくワゴン車に乗せられるのは時間の問題だ。
「くそっ!生意気に暴れやがって…!ほら、大人しくしろ!」
「…っ!誰か!」
とうとう女子高生は力負けし、ワゴン車の後部座席に無理矢理押し込まれ、組伏せられて両手をバンドで縛られてしまう。
女子高生は両手を後ろに拘束された状態でも尚抵抗する素振りを見せていたが、その目のハイライトは消えており、内心諦めているかの様だった。
だが男が一仕事終えたとため息をつき、スライド式の後部座席ドアを閉めようとした瞬間、男は動きを止めた。
否、動けなくなったと言うべきか。男性の手は確かにドアノブに触れていた、しかしその手はクモの巣の様な白く半透明な物質が付着してドアノブに張り付いており、男性の右手の自由を完全に奪っていたのだ。
「…っ!どうなってんだ?!」
何度も力を込めて手を動かそうとしたり、クモの巣を剥がそうとするが、粘着力は相当な物らしく中々上手くいかない。
「やぁ、良いワゴン車だね。でもごめん、君の手垢でドアノブ汚れちゃったかも。」
突然聞こえた軽口に男性は体をビクッと跳ね辺りを見渡して警戒する。
声の主はすぐに分かった。
先程まで人が居るなんて考えられなかったワゴン車の屋根に片膝を付いて座っている男が一人。
赤色のボディスーツと覆面を着けており、胸には大きな蜘蛛のシルエットが存在し、クモの巣を彷彿とさせる黒色のラインで色付けされている。
「…お前は…!」
男性はその男の名前を知っていた。
「…えっと…スパイダー男?」
「違うよ!スパイダーマン!スパイダーとマンの間にハイフン忘れないでね?」
ただしうろ覚えだが。
「…ん”ん”気を取り直して…見た感じさっきの女の子誘拐しようとしてるみたいだけど、それは感心できないね。今すぐ彼女を解放して。」
上手いこと咳払いをして威厳を見せるかの様な口調で話しかけるスパイダーマン、しかし先程の軽口のせいで余り威圧感を感じない。
「フン…何を言うかと思ったら…スパイダー男だか「スパイダーマンだよ!」……スパイダーマンだか知らないが…こっちは商売なんだ…悪いけどこの娘の解放は出来ないよ。」
名前を間違えた事を話の途中で指摘されたのが勘に触ったのかイラついたかのような口調で返す男性。
「……あー、そっか。じゃあお仕置き。」
「………っ!」
刹那、スパイダーマンは中指と薬指だけを折り曲げる独特なポーズを男性に向けるとスパイダーマンの手首辺りに装着されている装置から蜘蛛の糸の様なものが放出される。
それは男性の顔面に命中し、視界を完全に封じた。
「……~!!~!!」
顔に命中したため視界は塞がれなにも見えず、鼻と口も塞がれ息も出来ない。剥がそうにも右手はドアに張り付いており左手だけでは満足に力が入らずもがくしか無い男性。
「あー、こらこら暴れないの。」
スパイダーマンは車の屋根から降りるや否や後ろ回し蹴りをもがいている男性の頭部に打ち込む、その威力は強力で、一撃で先程まで激しく左手を振り回していた男性を地面に沈ませたのだった。
…さてと…おーいそこの君、大丈夫?」
男性の顔に着いたクモの巣を剥がし、呼吸が出来るようにした後、開けっ放しだったドアからワゴン車の後部座席にいる女子高生の安否を確認するスパイダーマン。
「………」
両手をバンドで拘束されている女子高生は男性にこのワゴン車に乗せられた時と同じ体勢のうつ伏せの状態のままで上体を起こしてスパイダーマンの顔ををじっとと見つめる。
「おっ!やっと目が合った!ん?どした?そんなに見つめて…もしかして僕に一目惚れしちゃった?!」
「………」
場を和ませるために冗談を言ったが、どうやら心に深刻なダメージを負っているらしく、俯いたまま怯えるばかりだ。先程まで誘拐されそうになっていたのだから、無理もない事だろう。
「これで良いかな?」
「…ありがと…」
どうにか彼女の気を晴らす方法は無いかと懸命に頭を回転させつつ、彼女の両手を縛るバンドを引きちぎるスパイダーマン、だが一向に答えが見つからない。
「ごめん、怖かったよね…今警察読んで保護して貰うから。」
これは自分の手に余ると判断し、女子高生を警察に保護して貰おうと連絡するスパイダーマン。
だが…
「待って…」
女子高生はそこでスパイダーマンの腕を掴んで静止する。
「ん?どうしたの?」
「まだ怖いの‥‥お願い、一人にしないで…」
未だに拉致られそうになっていた恐怖が残っているのか、眼は潤んでおり、声は震えて怯えている。スパイダーマンは彼女の状況を考えた末、優しい声で一つの提案を勧めた。
「それじゃ…家まで送ろうか?」
その提案に女子高生は、
「…うん…」
と俯きながらも頷くのだった。
*
その後、女性からの要望で家まで送る事になったのだが…
最初スパイダーマンは女子高生に気を遣い軽い冗談や簡単な話題を振っていたのだが、女性からは「あっそう」と帰ってくるばかり、めげずに話を続ければ「うざい」と罵られる始末だ。
気まずい沈黙が二人を包む。
「…キミさ」
「は、はい!」
急に話し掛けられ肩を跳ね上げるスパイダーマン、それを見て女子高生は嘲笑を浮かべながら続ける。
「…辛くない?」
「…え?」
彼女の質問の意味が分からず聞き返してしまう。
「あんなに強くて速ければ強盗だって犯罪だってなんでもできるじゃん?何でヒーローなんてガキみたいな事してるの?」
「…そうだね…強いて言うなら…後悔したくないからかな?」
女性からしてみれば意味不明な回答であろう、しかしスパイダーマンは明確な答えを知っているかの様な口調で答えたのであった。
「…は?馬鹿じゃないの?まじイミフ…」
「ははは、まぁそうかもね…」
「………」
「…………」
再び重い沈黙。
すると急に女性が立ち止まる。
「……ここで良いから。」
「あ、はいよ。」
どうやら家に着いたらしく、女性は大きなマンションのオートロック式の扉を開ける。自分の用は済んだとスパイダーマンは背中を向けるが、直後女子高生の声で引き留められた。
「…あのさ…」
「…ん?」
スパイダーマンは何事かと振り替えるが、
「助けてくれて…ありがとうね…」
「…うん!」
彼女は扉を向いたままだった為表情は解らなかったが、声は先程の氷の様に冷たい声色とは違い優しく、何処か温かくに感じられた。
感謝の言葉を貰ったスパイダーマンは今度こそその場を去るべく飛び上がりながら再び手首からクモの糸を放出し、近くの住宅をスイングしながら何処かへと去っていった。
背後からそれを感じ取り、振り替えってスパイダーマンが去っていった事を確認した女性は…中野二乃は静かに遠くでスイングしているスパイダーマンの背中を見つめ小さく呟く。
「本当に…馬鹿みたい…」
呟いた彼女の表情は決して無愛想な物でなく、何処か口角が少し上がり、頬が僅かに赤く染まっていた。
スパイダーマンの小説を書くことにまだ慣れておらず、少々不安ですが、何とか書ききれました。
今の所ヒロインは三玖か二乃のしようと考えています。
ご感想お待ちしております。
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初期設定
山城優/スパイダーマン
脳内cv島崎信長
身長 170cm
体重 77kg
誕生日 12月8日
血液型 AB型
年齢 17歳
性別 男性
好きな物 ジャンクフード、機械いじり、科学の研究
嫌いな物 犯罪
趣味 音楽 写真
この物語の主人公。
ご存じ1年前から突如姿を現し、自警活動を始めたヒーロー「スパイダーマン」の正体であり、17歳の高校二年生。
1年前までは何処にでも居る科学オタクの冴えない男子高校生だったが、高校の社会見学で研究ラボに行った際、遺伝子操作された蜘蛛に噛まれた事によって怪力、無機物に張り付く、超回復等と言ったクモ特有の超能力を得て、紆余曲折の末スパイダーマンとなった。
性格は気弱で優しいが基本的に人並みの欲望や怒りもある、等身大な少年。
将来の夢は物理学者であり、自分でスパイダーマンの装備であるガシェットや、ウェブシューターを開発する等、物理学、力学、工学に秀でた才能を持っている。知能指数はかなり高く、IQ250もの頭脳を持つ。
スパイダーマンとして活動する際は、普段の気弱さは陰を潜め、非常に良く喋る。だがこれは余裕がある訳でもイカレているのでもなく、ジョークで自身の恐怖を和らげると同時に、ヴィランの攻撃によって周囲に被害が出ないよう自分に向けて注意を引かせるという二つの真っ当な理由がある。
「NO ONE DIES(誰も死なさない)」の誓いを立てておりヴィランに対しても不殺を貫くが、殴って解決できることは殴って解決する場面も多い。必要があれば脅しもする。また、本気で怒るとヴィラン達を震え上がらせるほどの苛烈な攻撃性を見せる場面も。
その為アンチも多くいるがファンも多く、ヴィランの中にもスパイダーマンのファンがいると言う噂が広まる程。
またヒーローとしての知名度は非常に高く、都内の住人からも「1年前から現れたご当地ヒーロー」として認識されている。
しかし、基本は正体を隠しており、スパイダーマンの正体を知る街の住人は殆ど存在しない。
正体を隠す理由としては、知られた物の家族や友人がヴィランの被害を受けない様にする為の配慮であり、基本的に自分の私利私欲の為にスパイダーマンである事を利用する事は無い。
悲惨な過去からか、内心スパイダーマンとしての自分に対する重圧や葛藤を抱いており、悩み、迷い、苦しみながらヒーローとして成長していく。
名前のモデルは漫画版(池上版)スパイダーマンの主人公、「小森ユウ」と東映版スパイダーマンの主人公「山城拓也」から
ヒーローとしてのスペックは以下の通り
1.怪力
30t以上の重りを持ち上げることができ、感情の高ぶりによって大きく力が増大する事もあるが、同時に感情が沈んでいたり、テンションが低かったりした場合は普段以上に力が出ない場合もある。
2.跳躍力
10m以上の高台に軽々と飛び乗る事が出来る。脚力全体が鍛えられており、走力も長距離を時速320km以上(200マイル/時)で走る程
3.吸着力
分子間の結合力を高める事により、壁や天井に張り付くことができ、2tまでの物なら指一本で支えることが可能、指先だけでなく足裏を自在に対象に吸着させる事が可能。これを利用して意表を突いた攻撃や、奇襲を仕掛けることが出来る。
4.耐久力
高速鉄道の直撃を食らっても数針縫う程度で済み、拳銃を食らっても筋肉の所で弾丸が止まり致命傷にならない。他、超高圧電流や超高熱にも耐え、水中や宇宙空間でも活動可能
5.超回復
人間離れした回復力を持っており、仮に骨折等の重傷を負っても一晩で完全に回復できる他、ありとあらゆる毒(毒ガス、ウイルス、放射線、生物兵器など)を完封可能(スーツの機能のおかげもあるが、自身が直接これらに侵されても回復可能)。
6.敏捷性
常人の何倍もの素早さ、柔軟性、平衡感覚を持っており、人間離れしたアクロバティックな動きをすることが可能。どこに支点の糸をつけてどう振り子運動をしても現在位置を見失わない。
7.反射神経
常人の約40倍の速度で働き、至近距離で発射された弾丸を余裕で回避できる。また高い敏捷性と相まって抜群の回避力を誇る。
8。視覚等の感覚
戦闘時は感覚が鋭くなりすぎる為、ゴーグルやフィルター等でインプット量を抑えている。また、赤外線・紫外線が見え、不可視の相手でも対象の発する熱で感知可能。
9.スパイダーセンス
危険を察知する事の出来る”第六感”の様な感覚、精神状態により鋭敏さは変化するものの、視覚からの攻撃を予知・回避することが可能。
また、余談だが第4の壁を突破し読者の皆様に話しかけて来る事も。
ウェブシューター
スパイダーマンである山城優本人が作成したスパイダーマンの武装アイテム。
両手首に装着し、掌のスイッチでウェブを発射する。
ウェブはぶら下がり移動手段にする他、対象物の確保や引き寄せ、標的の拘束等に使用され、構造物を繋げる程抜群の引っ張り強度を誇る。
カートリッジにはウェブの原液が入っており、シューターの大きさに比してかなりの量を射出できるが、稀に粘液切れを起こしたり、装置が不調をきたしたりしてピンチになることもある。
因みにウェブは空気に触れると固まり2時間で溶ける為、地球に優しい。
物語が進行するに連れて、何回もバージョンアップを施されており、それによって発射のバリエーションも豊富になって行く。
スパイダーマンスーツ
山城優が制作したスーツ。
保護フィルターによってハイレベルの毒耐性があるだけでなく、ハッキングやコンピュータウイルスなども無効化、光学迷彩による不可視化、偵察ドローン搭載等と言ったハイテク機能が盛りだくさんであり、ただのコスチュームではない。
その他にもオートフィット機能が存在し、スイッチ一つで着脱が可能。
表情筋を反映した絞りのついたレンズは目に入る刺激物にフィルターを掛け、集中力を高める。
山城鳴(やましろ めい)
脳内cv悠木碧
優の叔母であり、現在優のたった一人の家族。
優の両親が死亡すると、夫の弁と二人で優を高校生まで育てあげた。
かなりの美人で商店街の人々からも人気、店によってはサービスしてくれる所も。
スパイダーマンの正体を優とは知らず、何時も夜遅く出かけては帰ってくる優を心配している。
また、温厚で誰に対しても博愛の心を持っているが、若いころは筋金入りの不良で、何度か逮捕経験もあったとか。
山城弁(やましろ べん)
脳内cv安本洋貴
優の叔父で物語開始時では既に故人。
正義感の強い人物であり、優がスパイダーマンになるきっかけを作った人物であり、多くの教えを残した。
優がクモに噛まれてから2週間後、強盗に遭遇して射殺された。
彼の死後も、彼の残した「大いなる力には、より大きな責任が伴う」と言う教えは今でも優の胸に刻まれている。
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1話
やぁ皆、初めまして。僕は山城ユウ。この物語の主人公でもあり、愛知県に住む旭高校の生徒でもあり、そしてこの街でたった一人のスパイダーマンだ。
僕は高校1年の春頃、都内の科学研究センターに見学に行った時、特殊な放射線を浴びた実験体の蜘蛛に噛まれて、無機物にくっ付いたり、人間離れしたスピードやパワーや超感覚を手に入れた。
力を手に入れてから今までの間は色々あった、まぁその事については少し湿っぽくなっちゃうから後で話すとして…
さて、そんな俺だけど今はあれから一年の歳月が流れ、今は高校二年になり、将来研究者になる事を夢見て、日々勉学に励みながらスパイダーマンとしての日々を過ごしている。
正直スパイダーマンと高校生活の両立は正直忙しいし、大変だ。だがその分やりがいもあるし、こんな日常でも楽しいと感じている。
そして現在―――
「焼肉定食、焼肉抜きで。」
「上杉君…今日も?」
僕は友達の上杉風太郎君と学校の食堂に来ていた。
上杉君とは1年生からの仲だ。
彼との馴れ初めは1年の中間試験の時だった。その時の僕は全教科100点を取り、学年1位になった。だが僕意外にも学年1位は存在しており、それが上杉君。どうやら上杉君は僕と同じように全教科100点を取っていたらしく、彼は同率の順位をとった僕に興味を示して話しかけて来る様になったのだ。
周りの反応からするに上杉君はあまり他人と話さないタイプらしく、彼と仲良くなった当初は周りに良く驚かれたものだ。
まぁ、僕もスパイディ業の事を有って入学してからあまり友達作れなかったし…話し掛けてくれる人が居るのは嬉しかった。
それから1年が経ち、2年生になった今では僕と上杉は仲良くなっており、今ではほぼ毎日昼飯を共にする程だ。
だが上杉君が何時も注文している「焼肉定食焼肉抜き」って…美味しいのかな?
上杉君曰く、「焼肉皿200円分を引くと味噌汁とお新香も付いて来る」らしい。…どうやら上杉君は食費の削減の為にこれを注文しているらしいが。お世辞にも豪華とは言えない。
「上杉君…それだけでお腹満足するの?」
「足りない分はお前が分けてくれるだろ?」
「う、うん…まぁそうだけど…」
そんな会話をしつつ、僕と上杉は昼食の定食を乗せたトレーを運びながら、空いている席を探す。
「どの席も埋まってるな…」
「まぁお昼時だから仕方ないよ。」
中々空いている席が見つからない。やはり今日は食堂ではなく何か買って食べた方が良かったか…
だが暫く空席を探していると、上杉君が口を開いた。どうやら空いている席を見つけたみたいだ。
「山城、あそこ空いてるぞ。」
上杉君が指さした場所は僕の真後ろで、食堂の端側の場所。片手で数える程度だが、少なからず席が空いている。
「そうだね、それじゃあ今日はあそこで食べよっか。」
「おう。」
だが上杉君がテーブルにトレーを置こうとした時、何者かが同時にトレーをテーブルに下ろし、必然的に上杉君のトレーとその人のトレーがぶつかる形になった。
…ってあれ?この子…どこかで会った様な気が…
「あの!私の方が先でした!隣の席が空いているので移ってください!」
「隣は山城の席だ。それに俺は毎日ここの席に座っている。だからあんたが移れ」
上杉君と同じ席に座ろうとした女子生徒はどうやらこの学校の生徒では無いらしい。彼女が着ているのは黒薔薇女子学園の制服。この学校の制服ではないのだ。
でも‥何故に黒薔薇女子の生徒がこの学校に…黒薔薇女子といったらかなりの名門のお嬢様学校だ。一体何故…?
「ここは俺が何時も座っている席だ。あんたが隣に移れ。」
「関係ありません。早い者勝ちです。」
おおう…何か揉めそうだぞ…止めた方が良いかな?
「はい、俺の方が早かった!ここ俺の席な」
ああ…遅かった。オロオロしている間に上杉君は強引に席に座り、食べ始めた。
「はっ?」
だが、黒薔薇女子の女の子も負けていない。何と女の子は構わず上杉君の向かい側の椅子に座ったのだ。
「そこ山城の席…」
「椅子は空いてました。午前中にこの学校を見て回ったので足が限界なんです」
この子…中々やるな。あっ、でも俺の席…仕方ない、隣の席に座ろ。
僕は何時も通り上杉君の隣の席にトレーを置き、席に座る。すると周りから「おい、上杉が女子と食ってるぜ?」とか揶揄う声が聞こえた。
「……」
それを聞いたのか、上杉くんの目の前に座る女の子は顔真っ赤に染め、俯いてしまう。もしかしてこの子、今この状況で結構無理してる?
周りに噂され顔を真っ赤にしている女の子に対して、上杉君はまったく気にしていない様だ。周りの声を気にすることも無く、小テストの用紙を片手に顔色一つ変えずに食べている。
「…行儀が悪いですよ。」
「何だよ? ながら見してた二宮金次郎は称えられているのに俺は怒られるの?」
「いや…二宮金次郎は飯食いながら勉強してたわけじゃないから…」
「そうです! 状況が違います!」
「ほっといてくれ、テストの復習で忙しいんだ。」
女の子の言い分も気にする事なく、食べながら勉強する上杉君、相変わらずマイペースだな…
「食事中に勉強なんて…余程追い込まれている様ですね…何点だったんですか?」
「お、おい!」
女の子は上杉の点数が気になったのか、半ば強引にテスト用紙を取り上げる。
あ…この流れって…
「えーっと…上杉風太郎君。特典は…100点?!
「あーあー、めっちゃ恥ずかしい!」
やっぱりね。何回もこのやり取り経験してるもん。こうなると思ったよ。
「わざと見せましたね!」
「さて、なんのことやら」
「うう…。悔しいですが勉強はできるようですね…。私はできない方なので羨ましいです…」
「そうです!私、いいこと思い付きました!せっかく相席になったんです!勉強、教えて下さいよ!」
「ごちそうさまでした。山城、腹いっぱいだから飯はいらないぞ。」
良いアイデアを思い付いた様に、手をポンと打ちながら提案する女の子。だがその声は上杉には届かなかった。
「ええっ!? 食べるの早っ…」
「ちょっと、僕が食べ終わるまで待ってよー。上杉君」
「済まないな山城、今から集中して自習したいから先に行く」
僕まだ食べている途中なのに…もう、本当にマイペース何だから…
だが背中を向て歩き出す上杉君に、女の子が有難い提案をしてきた。
「お昼、そればかりで良いんですか? 私のを少し分けましょうか?」
「いらない、そもそもお前が食べ過ぎなんだよ 太るぞ?」
「ふ、ふとっ!」
あ、やばい。女の子顔真っ赤にしてる。コレ絶対に起こってるやつじゃん。
「上杉君、流石にそれはないよ。」
「ふん…事実を言ったまでだ。先に教室に行くぞ。」
「ちょ、ちょっと!上杉君!」
上杉君は僕の言い分も聞かず、そのままからのトレーを持って教室に行ってしまった。
何時も僕のハンバーグ貰っているし、お昼絶対にあれだけじゃ足りないのに…
「貴方みたいな無神経な人初めてです!もう何も上げません!」
ほら、女の子も拗ねちゃったじゃん。仕方ない、フォローするか…
全く…女の子に「太る」なんて…上杉君もデリカシーなさすぎるよ。
大体女の子なんだからそんなにお昼も食べない…だろ…う…に…
僕は上杉君が完全に去った後、女の子の方に目を向けたが、彼女のトレーに乗った昼食の量を見た瞬間、僕は思わず言葉を失ってしまった。
なんせ女の子の昼食のメニューはうどん、トッピングに海老天×2、イカ天、かしわ天、さつまいも天。されにデザートにプリン。合計で1000円以上の量だ。これは流石に「太るぞ」と言われるのも…
「…貴方も失礼な事考えませんでしたか?」
「い、いや。そんな事ないよ。」
「そうですか…でも何なんです!あのデリカシーの無い人は!」
でもまぁ…そうだよな…女の子に「太るぞ」は…アレだよな。取り敢えず上杉君に変わって謝ろう。
「その…何と言うか…悪かったよ。上杉君が…最後のアレは流石にないよね…」
「頭を上げてください!貴方に罪は無いんですから!」
「いや、その…上杉君も悪気が有って言った訳じゃないだろうし、確かに無神経な所も有るかもだけど…悪い人じゃ無いんだ。だからお願い…さっきの事は水に流してくれるかな?」
「…わかりました、私もそこまで鬼じゃありません。今回の事はあなたに免じて水に流すことにします。」
「本当に?ありがとう!」
渋々ながらもそう言ってくれた彼女に対して僕は全力の笑顔でそう応える。
「えっと、素朴な疑問なんだけど君ってこの学校の生徒じゃないよね?その制服って確か黒薔薇女子のものだった気がするんだけど。」
「はい。そうですよ。私、今日の午後からこの学校に転入することになっているんです。」
「あーなるほど。だから食堂でご飯食べてたんだね。」
どうやら僕の記憶は正しかったようだ。黒薔薇女子は超ド級のお嬢様校として有名な学校であり、名門中の名門。
偏差値も当然高く、通っている生徒はほぼ全員がお金持ちの令嬢という筋金入り。
だがこれで合点が行った、この子転校生だったか。
そう言えば今日の朝登校した時、クラスの皆がそんな噂を聞いていたけど。どんな子が来るのか気になっていたんだ。一足先に知れてちょっと得したな…
あ、でもそう考えたら上杉くんは転校生といきなりやらかしたって事か?
「あ…そう言えば自己紹介がまだだったね。僕は2年生の山城優って言います。」
「ご丁寧にありがとうございます。私もあなたと同じ2年生の中野五月と言います!よろしくお願いしますね、山城君。」
「うん。よろしくね、中野さん。」
自己紹介を終えた僕たちは、顔を見合わせて軽く会釈をする。
落ち着いた雰囲気と言い、礼儀正しさと言い、年上でもおかしくないと思ってたんだけど…そう言えば同い年だったんだな。
「それにしても、山城君は礼儀正しいんですね…先ほど無神経な人の友人にはもったいない方だと思います!」
「あはは…あんま悪く言わないであげてね。悪いやつだったら僕も友達やってないからさ。」
水に流すとは言ったとはいえ、やっぱり「太るぞ」は結構ショックだったようだ。未だに上杉くんへ対する怒りは収まりきっていないと見える。
「そう言えばさっき…上杉君に勉強教えて貰おうとしてたけど…良かったら僕が面倒見ようか?」
「えっ? いんですか?」
「うん、俺もそれなりに勉強は得意な方だから。迷惑じゃなきゃいいけど…」
「迷惑だなんて、そんな! お願いします!」
よかった…どうやら中野さんは迷惑だと思っていないようだ。
「なら、ちょっと教科書から問題だしてみるから、解いてみてくれる?」
「は、はい。」
お昼を食べ終えた僕はノートのページを1枚切り取り、教科書から簡単な数学の問題を10問ほど書き写していく。
同じく昼食を終えた中野さんは、それを受け取ると、鞄からシャーペンを取り出し問題を解き始めた。
さて…結果は‥‥
「あれ?」
10問中正解0問? おかしいな…丸が一つもないぞ?
「べ、勉強は苦手だと言ったじゃないですか!」
頬を膨らませて訴える中野さん。一瞬だけ可愛いと思ってしまったのは内緒の話だ。
「は、ははは…まぁ苦手でも継続すればきっと得意になるよ…それに授業で解らない所が有ったら僕が何時でも教えるしさ。」
「山城君は本当にお優しいですね…ありがとうございます。」
中野さんが昼休みが残り10分だということを告げる予鈴が校内に響き渡る。
「おっと、もうこんな時間か…それじゃ中野さん!同じクラスになれたらまたよろしくね!」
「はい!」
遅刻する訳には行かない。僕はトレーを片付けると、大急ぎで教室に向かうのだった。
主人公の相棒格のオリジナルキャラクターを出そうか迷っているこの頃
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