インフィニット・ストラトス~紅の双剣(スカーレッドツインズ)~ (Kyontyu)
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プロローグ

 あらすじにも書いたとおりIS〈EVOLVE〉のリブート的な作品です。最初の方はほとんどそのまま使っているので読んだことがある人はそのあたりは飛ばしても構わないです。


開始

 

 球体のコックピットの360ディスプレイ(スリーシックスティディスプレイ)に映って多数の下半身の無い半人型ロボット「ドロック」とそのドロックが放つ弾丸、ミサイル一つ一つにターゲットサイトがロックされる。マルチロックオンシステム、通称MRSは対象を平面的にロックオンする訳では無く、宇宙など遠近感が掴みにくい空間での多数の対象を立体的に捉える為に作られているので通常のロックオンシステムよりも遥かに高精度、高性能なCPUとセンサーがなければ成り立たない技術だ。そしてパイロットは手慣れた操作で巧みにレバーを操りドロックの攻撃を避ける。

 そして両手に装備されている大口径高出力グロウリィア粒子ビーム砲「エクスハティオ」を両横に構え、放つ。「エクスハティオ」から放たれた2本の太いピンク色の光条は1本で2、3機のドロックを巻き込んだ。そしてビームを放った純白のの機械の巨人はビームで敵軍を薙ぐように回転する。

「全てのスペックにおいて現存するBOWNを遥かに凌駕するか……いろいろと規格外だな、こりゃ」

 気楽そうに呟くパイロットはふー、と長い息をつく。やがて光条は途切れ、遠くの方でちらちらとと爆発するドロックの光が見えた。その1つ1つが命の光だと言うが、パイロットの男にはその1つ1つに命があると微塵も感じられなかった。

 「エクスハティオ」の銃身の両側面から溜まっていた熱を排熱され、蒸気は消えずに漂う。そう、ここは生き物が外に出る事が許されない絶対零度の空間、宇宙。そこにある「蒸発」の名を持つ銃を持つ純白の巨人の名は「カラースカイゼロ」。その巨人は護る為に破壊する存在として作り出された『騎士』。カラースカイゼロの体には刻印された水色の光るラインが走っていた。そしてカラースカイゼロの頭部のセンサーアイが前方の敵『艦隊』を捕捉する。敵艦の数は5隻、全て宇宙でトップクラスのスピードを誇る細長く、先が尖った形をした宇宙用高速強襲艦グラッディウス級だった。

「じゃ、いっちょ無双しちゃいますか」

 男はパン!と手を叩き、レバーのグリップを握り締める。そしてカラースカイゼロは背中と脚部に搭載された二枚のプレートで挟まれた特殊なスラスター「ライトローダー」を出力し、宇宙に黄色い輝線を描きながら飛んだ。

 

「艦長! ドロックの第一次攻撃部隊が全滅しました……」

 旗艦の副長が艦長に信じられないといった表情で報告する。

「まさか……そんな事が……」

 艦長は茫然として立ち上がると眼の前には二丁の「エクスハティオ」の銃口をこっちに向けるカラースカイゼロの姿があった。

 

パイロットは無慈悲にもトリガーを引き、「エクスハティオ」から放たれた熱線が艦橋を溶かす。そしてそのまま下に薙ぎ、中心を斬られるような形で旗艦は爆散した。

 再び「エクスハティオ」の排熱を済ましたカラースカイゼロはもう一隻の方に向かって光の尾を引きながら跳んだ。

 

「アキレウス、撃沈!! 」

レーダーを見ていた兵士が報告する。

「くっ…旗艦がやられたか……ドロック全機緊急発進! 奴の破壊を最優先にしろッ!」

『了解!』

数で勝てると思った艦長の考えは後で良い選択では無いと誰もが認めざるおえない事態になってしまう事に誰も気づいてはいなかった。

 

 気付かぬ内に増大していた敵勢力にパイロットは驚愕した。

「…ドロックが30機!?……くっ…思っていたより展開が早い…」

 そしてあっという間にドロックに包囲されてしまった。パイロットは360ディスプレイに映るドロックを見渡し、眼を瞑りながら溜息をつく。

「はぁ…アレを使うしかないか…」

 パイロットが目の前のコンソールにある赤いボタンを押すと、360ディスプレイが赤く染まる。そして同時に自分の身体のルート・アクセス権限を使用して、自分の真のパワーを発揮させる。骨に詰まった量子演算コンピューターが目を覚まし、カラースカイゼロの視神経と、自分の視神経が繋がり世界が鮮明に見え始める。そしてカラースカイゼロの腰に腰マント状に搭載されていた12本の剣が独立稼働するビットに変わり、自由自在に飛び回り始めた。

「さぁ、来い!」

 ドロックはビットに任せてカラースカイゼロは敵艦の殲滅に向かう。敵の放つ主砲やミサイルを簡単に避け艦橋に向けて「エクスハティオ」を放つ、そして袈裟掛けに隣の艦にビームで斬る。そして排熱をすましてもう二隻の破壊に向かおうとすると急に右腕が動かなくなった。何かと思っていると四肢が動かなくなっていた。原因はドロック一機に二本搭載されているアンカーブレードによる拘束だった。

「くっ…なんのぉぉぉぉぉ!! 」

 ビットをすぐに呼び戻すも頭部のバイザー部分にもう一本アンカーブレードが突き刺さってセンサーアイが使用不可能になり、360ディスプレイが一瞬砂嵐に変わったと思うと「フルレンジ・センサー」のレーダー映像に変わり、同時にアンカーブレードを射出していた4機にビットが突き刺さり、爆発した。

 しかし頭部を拘束していたドロックが肉薄しながら右腕のアンカーブレードで頭部を引きぬく。そして頭が無くなった部分から銀色の冷却液が漏れ、同時に腹部にドロックの左アームの銃口があてられた。

「っつ!! 」

 そこで遅れて来たビットがドロックに突き刺さり、ドロックが爆発する。

 パイロットは冷や汗をかいて息を深く吸い込んだ。

『どう任務、進んでる?』

 と、そこでこの場には合わないような少女の声が通信機から聞こえてきた。

「まぁ、なんとか。残り二隻です」

『そ、じゃあ、頑張ってね』

 少女は素っ気なくそう言うと通信を切った。

「よし、残りは……え?」

 パイロットが再び意識を集中した途端、敵艦は撤退信号を出し、退却していってしまった。

『あ~撤退しちゃったのね。まぁいいわ、量子次元転送装置を積んだ艦は破壊したし、帰ってらっしゃい』

「りょ~かい」

 パイロットは付近の宙域をスキャンし、一番近場のグロウラインに乗って母艦に戻っていった。

 

「山野辺一級宇宙騎士、ただいま帰還しました」

 山野辺一級宇宙騎士、本名、山野辺タツヤはバトル・スーツを着たまま、ヘルメットを脇に抱えながら目の前でふんぞりかえっている――ひじ掛けをひたすらコンコン叩いている少女――に敬礼した。

「チッ、おっそい! あんたね、いちいち遅いのよ! なんなの!? あんたは亀? 亀なの?」

「あ、いやぁ、すいません。アハハハハ」

 タツヤは冷や汗をダラダラと流しながら頭の後ろに手をあてて苦笑いした。

 彼女、アリスは明らかにタツヤよりも年下に見えるが、彼女はタツヤの上司であり、この世界に存在する数少ない『女神』である。しかも彼女はその女神の中でも気性が一番激しく、恐ろしい女神である。彼女の逆鱗に触れて本当に亀として人生を送られざるなくなった宇宙騎士の数は数知れない。

 そもそも女神とは、量子の力を監視し、統括する存在であり、その歴史は古い。最初は一人だけだったようだが、人類が宇宙に進出するにつれ、その数を増やしていったという。本来、女神は実体を持たないが、彼女のように合成機(ファバー)で造りだしたアバターにその精神をインストールしている場合もある。

「それよりも、私達、どうやら一杯やられたらしいのよ」

 タツヤは頭にあてていた手を戻して「え?」と素っ頓狂な声を上げた。

「あの艦隊は時間稼ぎの為の囮、本丸は既に別次元に転送されてしまったわ」

「本丸って……まさか……」

 タツヤは汗を垂らしながら訊ね、アリスは深刻そうな顔で答える。

「そう、精神の強制アップローダーよ」

 その人個人の精神の全情報(記憶など)を全て量子状態に置き換え、それを体外に取り出す、それが精神のアップロードである。本来は複雑なプロセスが必要な作業を強制アップローダーは対象の頭に光ファイバーで作られたアップロード・テンドリルで穴を開け、脳髄に接触し精神を一気に量子状態に変換、そのまま自分のメモリに保存するというもので通常は一、二日は必要な作業を一分もかからずに終わらせてしまうので、それを使って通り魔的に不特定多数の人を襲い、精神を強制アップロード、アバターにインストールさせて過酷な労働に従事させるのだ。もちろん、その行為は法律で禁止されている。

「奴らは自分達の兵士を欲しがっている。これ以上戦争をながびかさせたくないし、被害も増える。そこであなたには奴らの強制アップロードを阻止、アップローダーの破壊を命じるわ。まぁ、出来ればその首謀者の抹殺もしてくれるとありがたいわ」

 タツヤはその言葉に少したじろいだ。

「抹殺……ですか……」

「そう。抹殺。本当だったらそいつのデータ全部量子化して円形牢獄(パノプティコン)で永久収監なんだから、全然あまあまな処遇よ」

「は、はぁ」

 円形牢獄(パノプティコン)で永久収監……考えただけでも恐ろしい。自分の身体も持つ事が出来ず、常に自分の心の中をモニターされ続ける……吐き気がしそうだ。

「んで、今からあなたをその別次元に転送するわけだけど、ちょっと特殊な世界でね、もう一度高校生に戻って専門学校みたいな所に通ってもらうわ」

「まぁ、高校生に戻るのはいいとしてですね……学校に通う必要、あります?」

 そうタツヤは訊ねると、アリスはいらただしげに顔を歪め、こう言った。

「だーかーらー。言ったでしょ!? 特殊な世界だって。フェイク用の兵器を所持するにはそこの学校に通った方が手続きが少なくて楽なのよ。全く、こんなことも分からないの!?」

 もう最後の方は完全なる奴当りだし……もうこれはあれだな……めっちゃイラついてるな。多分、自分が騙されたことに対してなんだろうけど。

「じゃあ、ほら、付いてきなさいよ。あなたの新しい身体をさっき合成(ファブ)してあげたから」

 

 付いて行った先には全裸の少女が横たわっていた。

「え? 女の子?」

 その少女は鮮やかな短めの赤い髪に、口元の左端に艶ぼくろがある。息はしてないと思われるほど静かに行われていた。

「ん、外見が女の子だからって舐めちゃだ駄目よ。骨には最新の量子コンピューターが詰まれているし、拡張体脳皮質(メタコルテックス)も入ってる。それに筋繊維はサイボーグ用のが使われてるから重機サイズの物でも何でも持ちあげられるわ」

「え……でも……」

 アリスは再びいらただしげに頭を縦に振って口を開く。

「ええ、ええ、分かってるわよ。『何で女の子か』でしょ。それはあなたの通う学校が女子しかいないから。髪の毛が赤いのはその世界の人類の塩基配列がこの世界のより特殊化して様々な髪の色があるからよ」

「え……はい。分かりました」

 でも……アバターの身体がちょっと小さめなのは気のせいだろうか……?

「じゃあ、新しいアバターにはもうあなたの大半の精神のコピーが既に入ってるから。後はあなたを作る本質のデータをインストールするだけだから。はい」

 そしてアリスは猫だましをするようにタツヤの目の前で手を叩いた。その瞬間、目の前が霞み始めてタツヤは意識を失った。

 

「うっ……何だか気持ち悪いな……そういえば私は……えっ!? 『私』!?」

 先ほどまで横たわっていた少女は立ち上がり、キョロキョロと周りを見渡し始める。下の方を向くとタツヤが倒れていた。

「え! じゃあ私は……」

 目の前で腕を組んでいたアリスはそれを遮るように答える。

「そ、あなたは新しい身体に入ったの。その身体の名前は『鱗咲 桜花(りんざき おうか)』よ」

 「そして」とアリスは後ろを向くとシャッターが開き始める。

「これがあなたの新しい機体」

 そこには薄いピンクで染められているパワードスーツのようなものがあった。左肩にはたくさんのピンク色の刃が付けられた盾のような物があり、右肩の装甲には筆で書いたような赤い字で「血桜」と書かれている。

「通称『血桜』」




 誤っている箇所や、何だかよく分からない部分があったりした場合には感想で教えて下さるとありがたいです。
 もちろん、感想も大歓迎です!
 では、また次回!


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第1話

血桜

 

 これは、一体どういう事なのだろうか。

 山野辺タツヤ改め鱗咲桜花はIS学園の闘技場、もとい演習場で血桜を纏い刀身がピンク色の刀『桜刀花弁』を構えているのだが、相手が何故か異様な殺気を孕んでいるような気がしてならない。

 まぁ、なんでこういう状況になったのかというと、この次元に転送されて早々、入学試験なるものが存在しているようでその試験を受けに来たのだが、それがこれだ。『本校職員との模擬戦闘』である。先ほどからずっと戦闘の様子を見ていたが、強すぎる。生徒が弱すぎるのかもしれないが、圧倒的な実力で相手を倒していく様は正に鬼神。見ている方も恐怖を覚えるくらいだ。しかもそれが目の前にいて、剣を構えている。

 ……正直、生きている心地がしない。

 桜花はマニュピレーターの中にある操縦桿に力を込めた。

 相手は確実に手練、勝負は一瞬で決まる。

「来ないんですか?」

 桜花はそう訊ねた。

「ああ、これは模擬戦闘だ。勝敗を着けるのが目的ではない。あくまで生徒の技量を測るためのものだ。だから思う存分かかって来い」

「では……」

 桜花は全神経を目の前に集中させる。フー、と息を長く吐いて大きく一歩踏み出した。

 

~数時間前~

「アジン」

 桜花となったタツヤは側にあった病衣のような服を着ながら、この船――アジンに話しかけた。

『はい、なんでしょうか?』

 アジンの声は男性のようでもなく、女性のようでもない中性的な声を発した。そして桜花は着替えを終えて、先ほどまで横たわっていたベッドに腰掛けた。

「この世界の地球にも『高校』というものがあったのか?」

『おや……知らなかったのですか?』

「あぁ。単語とどういう所だという事はさっき瞬接(ブリンク)して短期記憶として『思い出した』から、知ったんだが、あまり細かいことまでは知らないんだ」

『……確かに百ミレニアム以上前には存在していたようですね。教え方もそうですが……何もかも原始的だ』

 桜花は頷いた。

「そうか、ありがとう」

『どういたしまして』

 桜花が立ち上がろうとするとアジンが話し掛けて来た。

『それはそうと、彼女はあなたに気があるようですよ』

 立ち上がろうとした桜花は思わず上を向いて首を傾げた。

「彼女?」

『ここで彼女といったらアリスしかいないでしょう』

 アジンは当然といったような口調でそう言った。

「そうかもしれないが……アリスは『女神』だぞ?」

『ええ、ですが『女神』たちは人間と同じように感情があり、恋をするのです』

「……まぁ、その事はまた後で話せばいい。今は任務に集中したい」

『分かりました。では、お気を付けて』

 桜花は立ち上がり、「ああ、ありがとう」と言った。

 

「行きます!」

 桜花は『花弁』を構えて跳び出し、突きを放つ体勢を保ったまま、相手の目の前で右足で急制動をかけた。そしてそのまま自分の身体を回転させて背中を逆袈裟掛けに斬り付ける。しかし相手は左手にもう一本の刀を出現させ、逆手で持ってそれを防いだ。刀と刀がぶつかり、火花を散らしながら甲高い音を発した。

「……止められた……ッ!?」

 桜花は驚愕じみた声でそう言った。

「なかなかいい攻撃だが、作戦が表情に出ている」

「えっ……!」

 そう言った後、相手は『花弁』を弾き、両手の刀で二回斬り付けた。それによって桜花のシールドエネルギーは減少した。

(分かってたけどこいつ、ただものじゃあない。っていうか、表情から作戦読み取るなんてチートだろ)

 桜花は再び斬り付けるも、全て弾かれてしまう。

「ふんッ!」

そしてついに業を煮やした桜花は力任せに横薙ぎを放った。また弾かれる……と桜花が思った瞬間、弾こうとした相手の刀の当った部分から上がスッパリ切断されて大空を舞った。

 桜花は「コレはキタ!」と言わんばかりに目を輝かせながら次から次へと斬撃を放つ。相手はこちらからの斬撃を冷静にいなしながら攻撃のチャンスをうかがっているが、もはや作戦とは言えないこの攻撃に困惑しているのか、少しずつ後退していった。そしてついに相手の刀がぶれた。桜花はその瞬間を逃さず、鋭い突きを放った。刀は『花弁』に串刺しにされた状態のまま空中に制止した。

 そして試合終了を告げるブザーが鳴り響いた。

「はぁ~、なんとか勝ったか……」

 桜花は緊張から解放されるように項垂れて、大きく息を吐いた。

 この戦闘の勝利条件である「相手の武装を全て破壊する」という条件を満たしたので何とか勝つことができたが、実戦だったら……と考えると少し寒気がする。

「模擬戦とはいえ、私に勝ったことは、正直誇っていいぞ」

 すると相手の女性がそう言いながら手を差し伸べた。

「あ、どうも……」

 桜花はその手を握り返した。マニュピレーター越しでもこの人の力強さがなんとなくわかる気がした。

「私はここの教員の織斑千冬だ」

「あ、鱗咲桜花と申します……」

 そして千冬は握っていた手を離し、腕を組んだ。

「そうか、では桜花、単刀直入に訊くが、そのIS、どこで手に入れた」

「え?」

「どこで手に入れた?」

「え、え~と~」

 桜花は目を泳がせるが、千冬はさらに詰め寄る。

「どこなんだ?」

「え、エデン・エレクトロニクス……」

 その瞬間、桜花は夥しい量の冷や汗を流し始めた。

「エデン・エレクトロニクス? 聞いた事がない会社だな……」

「ま、まぁできたばかりの会社なんで……」

「そうか、分かった。もうすぐ入学式だ。準備しておけ」

 それだけ言って千冬は去って行った。

 

 そして桜花は再び大きな溜息をついたのだった。

 

 かつて木星が『あった』場所にそれは存在している。

 ガラスの結晶のようなもので形作られた球形の『それ』は惑星サイズの超大型サーバーで、その名を『エデン』という。中心には微小特異点を送り込まれて太陽化されたフォボスが輝いていた。そこには百億の量子化された精神が格納されており、各々が仮想現実(VR)で普通の日常生活を送っている。

 そしてそのシステムの中枢にはこの世界の最初の女神がいた。

 可視化されたシステムは広い庭園のような場所で、その中心にあるテーブルにはペールヴァヤが腰かけており、その膝の上にはマリアが座っていた。

 ペールヴァヤは若く見えるが、それでいて老けているようでもあった。彼女のルージュの唇は色も形もチェリーのようで完璧だ。栗色の長い髪もそよ風になびいて幻想的な雰囲気を醸し出している。それに対してマリアは子供のように無邪気に笑いながら足をブラブラさせていた。マリアの白い短めの髪も同じように風でなびいていた。

 ペールヴァヤは膝の上に座っているマリアの髪を撫でながら口を開いた。

「あらあら、マリアは甘えんぼさんなのね」

「うふふふ、だってママの所が一番落ち着くんだもん」

「私の子供の中でもこんなに私に甘えるのはあなただけよ。マリア」

 するとその時、浮遊するディスプレイがペールヴァヤの目の前に現れ、不精髭を生やした男の顔が大写しにされた。

『ペールヴァヤ、お楽しみの途中申し訳ないが、少し時間をくれないだろうか?』

 ペールヴァヤは少し溜息をついてから「いいわ。少し待っていて」と、言った。

「ママ、行っちゃうの?」

 マリアは不安げな顔をしてそう言った。

「分かってちょうだい。私は今から大事な話をしなきゃならないの」

 ペールヴァヤはペールヴァヤはそう言ってマリアを膝の上から降ろし、立ち上がった。

「気をつけてね」

 立ち上がったペールヴァヤはマリアの方を見てにっこり微笑んだ後、その場に掻き消えるようにして姿を消した。

 美しい庭園にはぽつんとたたずむ一人の少女のみが残された。




感想、アドバイス、待っています!


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第2話

 自己

 

 とりあえず入学式なるものも無事に終了し、自分のクラスである一年三組の教室に少し緊張しながらも足を踏み入れた。

 教室は女子達がたあいもない会話をしているのが数名、後は一人で何かをしている人が多数いたため、少し騒がしくなっていた。きっと慣れない環境で緊張しているのがほとんどだろう。

(それにしてもこの光景には中々なれないなぁ。周りがほとんど女性だとは……まぁ自分も女になったのだけれど)

 そう思いながら自分の拳を開いたり閉じたりしてみた。別に身体機能に何も問題は無いはずなのに、何かこう……心と体に不連続感があるというか……本当にこれは自分なのかと疑いたくなる。現在の技術での精神の量子化は完全なはずなのに、どうも新しい身体(アバター)に入るといつもこの不思議な感覚が襲ってくるのだ。

 特に時間まで何も起きそうもないので寝たふりをしながら拡張体脳皮質(メタコルテックス)を起動、量子テレポーテーション・チャンネルを使ってもとの世界に瞬接(ブリンク)し、集め足りなかった情報の収集を開始した。

その際、凄い量の情報が一気に流れ込んで来たため、頭が少し痛くなった。

 桜花は起き上がり、少し痛むこめかみをさすりながら拡張体脳皮質(メタコルテックス)から流れて来た短期記憶を『思い出した』。

 短期記憶とは、インターネットの情報からダウンロードした情報をそのまま記憶として脳内に保存するものだが所詮は一時的な物で時間が経てばすぐに忘れてしまう。本当に技術や技を覚えるには一万時間を超える時間が必要なのだ。

 とりあえず短期記憶の情報を整理してみるとこの世界でISを乗るには条件があるようでその条件とは『女性』であることだという。これで納得がいった。なぜ偽装用の身体(アバター)が女性なのか。こういう理由があったのか。

 そう一人で納得していると教室の前の方の自動ドアが開き、教師と思われる人物が入って来た。しかし桜花はその入って来た人物に目を疑った。水色のパーカーにジーンズという教師にあるまじき格好。髪は長い艶やかな黒髪だが、眼鏡に映る目はまるで死んだ魚のように光が無い。そして教壇に上がるとすぐにだるそうにうつ伏せになった。

「う~す。はい皆さん入学おめでとさん。え~と自己紹介だっけ? 私の名前はハイス・シャーンだ。ちなみに数学を担当してるから、よろしく」

 ハイスが教卓のボタンを押すと黒板にハイスの名前が表示される。

「まぁ一年間でおまいらをISのスペッシャリストにしねーといけねーんだけど、まぁあまり気張らないでいけよ。そんなに鬼レベルの訓練はするつもりはねーからな。じゃあテキトーに自己紹介してくれ……あっ、そういえば」

 そこでハイスは何かを思い出したように徐に立ちあがる。

「皆はもう知ってるだろうけどこのクラスには一人の男子生徒がいるんだが……なんか最初は二人共同じクラスとかそういう計画があったらしいけどやっぱバラバラな方がいいとかうんたらかんたら……まぁ結果的にバラバラになった訳だけど……まぁ、とりあえず自己紹介よろ~」

 先生のマイペースぶりはやはり目を疑う程だったがクラスの全員による自己紹介が名前の順で始まった。さすがに一人一人覚えることはできなかったので紹介出来るのは目立った人物だけとなる。

(まぁ、瞬接(ブリンク)すればいつでも『思い出す』事ができるのだが)

~1人目~

「僕の名前は安部 大無(あべ だいむ)です。好物は抹茶で、趣味はクレー射撃です。よろしくお願いします」

 そこでニコポが炸裂。女子の大半がこれで脳殺された。なんか見た目とオーラが超好青年だ。すげぇ。この女子だらけの空間でそんな笑顔がつくれるとは……ちなみに彼は世界初の男性操縦者のようだ。発表されたのは織斑 一夏が最初だが、それ以前に彼は起動することが出来ていて、長いこと政府に秘匿されていたらしい。え?何故知っているかって? そりゃあ、瞬接(ブリンク)したからさ。

~2人目~

「私の名前は威風月 愛無(いふづき あいぶ)です。好物は緑茶です。よろしくお願いします」

 彼女は淡々と自己紹介をした後席についた。何故覚えていたのかというと完璧なポーカーフェイス、すなわち仏頂面だったからである。他のクラスメイトはやや緊張気味の自己紹介だったが、彼女だけ表情を変えなかったのだ。脳に焼きつくのも仕方ない。彼女と大無がすごく似ているのは気のせいだろうか……あ、あと二人は日本の代表候補生らしい。これもさっき『思い出した』。

~3人目~

「ボクの名前はカーリー・スタークです。ヨロシクオネガイシマス。まだニホンに来たばっかりなのでニホンゴが少しオカシイですが、ドウカよろしくオネガイします。チナミニ好物はチーズバーガーデ、シュミは機械イジリです。」

 文では分かりにくいが女子だ。眼鏡のレンズ部分からコードのような物が制服の中まで入っている眼鏡を掛けていて、髪の毛は少し赤みがかかっていた。少しイントネーションがおかしい日本語ではあるものの意味はちゃんと通っていた。唯一の外人だったから良く覚えている。

 そして桜花の番が回ってくる。

「あー、私の名前は鱗咲桜花です。趣味は……」

 そこまで考えた所で思考が停止した。そういえば趣味といえばこの世界には無い物ばかりだった。(例えば量子サーフィン、大量の情報に流されるというのは中々気持ちがいい。)そこで最終手段を発動させた。

「……無いっす。はい」

 終わった。確実に自分に対しての評価はだだ下がりだ。この先どうやってこの学園生活を送ればいいのだろうか……

 そんなこんなで自己紹介が終了し、授業が開始された。最初の授業はISの基本的な事についてだった。瞬接(ブリンク)して事前に知ってはいたが、かなりのオーバーテクノロジーのようだ。だが、技術的にはまだまだ未熟なようだ。バススロットについても自分の世界の量子の教科書で習う基本的なことだった。しかし、まぁ、久しぶりに受ける授業も楽しいし、そういう意味では前の世界よりここは天国だ。

 しかし3時限目、事件は起きた。

「3時限目は……体育か……よし、おめえら校庭10周だ。ほらさっさと走れ」

……訂正しよう、地獄かもしれない。

 

 どうやら私のこの身体(アバター)に課せられた身体的上限はやや低めに設定されているらしく、しかもどうやらこの上限はオーバーライド出来ないようだ。髪に垂れた汗が目にしみる。もう肺がはちきれそうだ。

(アジン、この身体(アバター)へのルート・アクセス権限は?)

 桜花は待機状態になっている『血桜』の左足のアンクレット――アジン=血桜のカートゥーン・モデルのようなものだ――に向かって量子念話(キュプト)した。

(今のキミにはそんな権限ないよ。桜花)

 今度の声は少し大人びた女性のような声だった。アジンはその時その時の気分で自分の声を変えるのだ。

 しかし、参った。あと五週もしなければならないのにもう体力の限界が来てしまいそうだ。

(頑張ってね。私は数個の数学ゴースト達と問題を解くのに忙しいんだから)

 何の問題だかは言わなかったが、きっと相当厄介なものなのだろう。

 しかしこの状態を何とかして欲しい。

 

 桜花はそう切に願うのだった。



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第3話

 問題

 

 ニューヨークの中心にあるこの派手なビル――STARKと大きく書かれたオブジェクトがある――の一番上の階層ではトニー・スタークが科学者らしく研究に勤しんでいた。最近の研究はもっぱらISについてだった。

 エクストリミスの一件以来、スタークは自分に誓った通りスーツを作るのを止め、今は自分のしたい研究をしている。

 トニーがホログラム・モデルを忙しく動かしながら何やら計算しているとトニーの電子執事であるジャービスの声がフロアいっぱいに響いた。

『トニー様、お客様が一人、来ております』

 トニーは作業をしたまま答える。

「誰だ?」

『ブルース・バナー博士です』

「分かった。通してくれ」

『了解しました』

 するとエレベーターの戸が開いて黒いスーツケースを持ったブルースが入って来た。

「やあ、スターク」

「ああ、久しぶりだな」

 そう言って二人は握手をし合った。

「前は僕の話を聞いてくれてありがとう。あのおかげで自分の気持ちが整理することが出来たよ」

「それいつの話? でもとりあえず手を離して欲しいのだけれど。僕は少々、我慢弱くてね。早く話したい事があるんだ」

 トニーは少し驚きながら手を離した。

「おおっと、すまない」トニーは言った。

「でも頼むからここでハルクにはならないでくれ。大事な機材が沢山あるんだ」

「努力するよ」

 

「で、話ってなんだ?」

 バナーは黒いスーツケースのロックを外しながら口を開いた。何重にもロックがかけられているようだ――中々開けることが出来ないでバナーは少し悪戦苦闘していた。

「確か君はISの研究をしているんだったよね? 兵器産業はどうしたんだい?」

 トニーは腕を組んで壁にもたれかかった。

「止めたよ。とっくの昔にね。今は凶悪なヴィラン共を閉じ込める『ディスク』を開発中さ」

「そうか――やっと開いた。これが、僕の友達の研究者から君に渡して欲しいと頼まれたデータだよ」

 バナーはトニーに数十枚の紙が綴じられた資料を手渡した。

「これは?」

「友人が言うにはドイツの試験機のISコア内で生成されたと思われる疑似人格の断片らしい」

 その話を聞いてトニーは驚きの声をあげた。

「そんな! ありえない! 機械の中で人格を自分で生成(アセンブリ)するなんて!」

「僕はあまりこの手の事に詳しく無いけれど、恐らく搭乗者の精神モデルを解析して自分の『個性』なるものを組み上げているんじゃないかって思ってる――そういえば娘さんは?」

 トニーは資料をめくりながら「ああ」と言った。

「カーリーならニホンに行ってるよ。ジャービス、この資料のデータから作られる疑似人格を作ってみてくれ」

『了解しました』

 トニーは資料をテーブルの上に置いてコーヒーを飲んだ。コーヒーはもうすっかり冷めてしまっていた。トニーはバナーにコーヒーをさし出した。こちらも冷めてしまっていたが。

「それにしても今の時代に紙の資料とは、中々古い手法だな」

「まぁね。こっちの方が安全だし――このコーヒー、飲みかけじゃないよね?」

「大丈夫だ。それはさっきペッパーにあげようとしたんだが、断られた」

「そうかい。少し冷めているけど、いただくよ」

 そしてバナーがコーヒーを啜ろうとしたその時、警報が鳴り響いた。

「ジャービス! 何があった!?」

『トニー様、先ほどの疑似人格を作成してみた所、私に浸食してこのビルのシステムを乗っ取ろうとしてきたので隔離したのですが、恐らく長くは持たないでしょう』

 トニーはカップをテーブルに叩きつけて「ジャービス、隔離した人格を物理記憶媒体に移せ。強制的に排出しろ!」と言った。

『了解、物理記憶媒体への移動、完了しました』

 そしてコンソールから銀色のUSBが排出された。トニーはそれを荒々しく掴むと地面に落して思いっきり踏んだ。USBはバラバラに砕け、シリコンとプラスチックの屑になった。

「はぁ、危なかった。ジャービス、問題は?」

『ありません。現在、自己診断プログラムを走らせています』

「分かった。ブルース、すまないな」

「まぁいいよ。結局は無事だったんだ。それじゃあ僕はこの辺で」

 

体育が終わって、殆ど全員が机に突っ伏している教室の黒板側のドアが開き、先ほど体育の指示を出し、パラソルの下で優雅にくつろいで高みの見物をしていたハイス先生が入って来た。あの日本の代表候補生の2人もさすがに疲れたのか、汗がダラダラと垂れている。桜花は……勿論、机に突っ伏していた。

「おう、おまいら。さっきは体育ごくろうさま。少し辛かっただろうけど、ISの基本中の基本である『体力』が無ければまともに動かせやしねーかんな」

 少しじゃない!

 桜花は心の中でツッコミを入れた。クラスの大半もそう思っているに違いない。そうして朝と同じような格好で教卓に突っ伏し、めんどくさそうに出席簿等が入っているファイルを開いた。

「おい、おまいら、姿勢正せ。さっさと4時限目を始めるぞー。はいっ、起立! 礼! 着席!」

…………。

ハイス先生がピシッと号令をかけるが誰も立つ事が出来なかった。

 この人号令だけはピシッとやるんだよな……体育もそうだったけど……と桜花は突っ伏しながら心の中でぼやく。

「……まぁ、いいや」

 ずこぉぉ! 全員が漫画のワンシーンのように同時にずっこけた。そしてハイス先生が頭をポリポリ掻きながら話始める。

「えー、なんかぁ、クラス代表っつーのを決めなきゃいけねーらしんだけど、まぁ、テキトーに決めといてくれや」

 そこでカーリーが手を上げる。

「ん? なんて名前だっけ? あ~、え~、う~ん」

 ハイス先生は指先をくるくる回しながら唸り、カーリーは少し呆れながら答える。

「カーリー・スタークデス」

 ハイス先生は合点がいったように手を合わせる。

「あ! あの日本語が変な子かぁ! よし分かったぞ、ウン。で、何でしょう?」

 そ、そういう覚え方!?

 案の定カーリーも驚きを隠せないようだ。頬がちょっと引きつっている。しかしカーリーはすぐに気を取り直したのか、質問をする。

「いや、エ~ト、どうヤッテ決めるのデスカ?」

「じゃあ、推薦制で」

 即決したよ、即決したよこの人、え? 決められるじゃないか。今のやり取りは何? 時間の無駄じゃないか。

「ほら、さっさと手を挙げろよ。あ、そうそう推薦受けた人はその職務を全うするように。異論は認めましぇーん」

 そう言って胸の前で腕をバツにしてそのままの姿勢で言う。

「じゃ、よろしく」

~数分後~

 今黒板の前に並んでいるのが推薦された人だ。

 いつも笑顔を絶やさない少年。安部大無。

 常に仏頂面の「THE ポーカーフェイス」。威風月愛無。

 このクラス唯一の外国人。カーリー・スターク。

 そして、別世界からの来訪者(自称)鱗咲桜花。

  この4人には共通点があるのだが……あれ?なんか大無が推薦された時には黄色い歓声が聞こえたような気がする……

 いや、話を戻そう。この4人の共通点、それは全員が『専用機持ち』だということだ。実はISにはISを動かす為のコア、通称ISコアなる物が存在し、これが世界に467個しか無いらしく量産しようにも中身は完全にブラックボックス化しており調べる事が出来ない。だから世界に存在しているISコアは主に研究用という事で『均等』に世界中に分けられているようだ。そこで数が限られているISコア、これの大半は研究や、日本の場合には自衛隊等にその殆どが配備されており、個人でISを持つ、というのは国が認めた場合、その例は国の代表候補生等が挙げられる。つまり、専用機持ちという事は国に認められる位凄い事だというのが分かるのである。

 ちなみに『血桜』はアリスがこの世界のIS工廠に作らせた特注品らしい。今は桜の花びらの意匠が施された宝石のアンクレットとして左足を彩ってくれている。しかし、このアンクレット、たまにムカデのように動くので少し気持ち悪い。

 カーリーも専用機持ちだが、何故持っているのかはよく知らない。だがアメリカの元軍事会社の社長の娘らしい。軍事会社なら納得がいかない訳でもないが。

 後の2人については説明は不要だろう。

 そこでハイス先生が唐突に立ちあがった。

「じゃあ、明日第3アリーナに集合って事で、ヨロシクッ! 私は食堂のオバチャンの所に行ってきまぁーす」

「あっ、ハイス先生、待って下さい!」

 しかし桜花はウィンクして食堂に向かおうとするハイス先生を引きとめる。

「ん? なぁに?」

「何をするつもりですか?」

 ハイス先生はこちらに振り向き、口を開く。

「何って、決まってるじゃない。候補者による代表を賭けたバトルロワイヤルだよ」

 ハイス先生が教室を出たあと、桜花は大事な事に気づく。

「あ、明日!?」

 

 『エデン』内に作られている隠しフォルダ『黒の間』に二人のヒトの精神モデル――ペールヴァヤとアドロンが同じく黒いテーブルの椅子に腰かけていた。

「どうしたのです? あなたから呼び出すなんて」

「時は熟した。この戦争を終わらせる時だ」

「それでは、どちらの勝ちにするのです? まさかじゃんけんで決めるつもり?」

 それを冗談だと捉えたアドロンは少し笑う。

「それもいい考えですが――ここはちょっと趣向を変えて、私と賭けをしませんか?」

「賭け?」

「そうです。実は、別の次元に一人の『女神』を送りました。あなたなら気づいているのでは?」

「マリアですか。人の子を勝手に旅に出すのはあまり良い事だとは思いませんね」

 そう言って微笑むペールヴァヤの声には少し怒りが滲んでいた。

「で、内容はこの荒ぶる無邪気な『女神』を止められるか、です。彼女はきっと本能のままその世界を食い荒らすでしょう。そこで、あなたの子供がこれを止められればあなたの勝ち、出来なければ私の勝ち、どうです?」

「いいでしょう」ペールヴァヤは立ち上がった。

「私の子供たちに連絡させておきます。では、チャオ」

 と言ってペールヴァヤはその闇に溶けるようにして消えた。



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第4話

 休息

 

 あの後、普通に昼食を取りに食堂に一人で向かった。そして食堂に入り、食券機でメニューを見る。

「おお、初めてみるメニューばっかだな……ここは無難に和食定食を頼むことにしよう」

 スイッチを押して出てきた券を取って、食堂のおばちゃんに券を渡し、トレイを受け取った。そして席を探すが、見つからない。

(時間、ミスったかなぁ……)

 桜花がそう思っていると一人しか座ってない席を発見した。相席はあまり気乗りしないのだが昼食の間だけなら何も問題にならないだろうと自分に言い聞かせ、その席に向かって行った。

 

「はぁ……」

 カーリー・スタークはテーブル席に一人で座りながら溜息をついた。

(まさか、チーズバーガーが無いとは……やはり事前に作っておくべきだった。)

 テーブルにはチーズバーガー、ではなくチーズサンドイッチが載せられた皿だった。父親の影響でチーズバーガーが大好きになり、毎日しっかり三食チーズバーガーを食べているとさすがに父親に止められてしまったので昼食だけに留めていたが、まさか食べられない日が来るとは……。カーリーがそう後悔していると目の前に何か肌色の物がチラついていた。

「あの~すいません」

 その声でハッと上を見るとそこには鱗咲桜花がトレイを持って立っていた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 そしてびっくりして思いっきり後ろに飛び跳ねたカーリーはイスの背もたれに後頭部を直撃、あまりの痛さに頭を抱えて悶絶する。

「お、おい大丈夫か……」

 桜花は手を差し伸べるが、カーリーは思わず手を跳ね除け、叫ぶ。

「う、うわぁぁぁ! さ、さわるなぁぁぁぁぁ!」

「えっ、何?」

「ぎゃあああああああ! あああああああ!」

 周りの目など気にせず叫び続けるカーリーを見た桜花はトレイをテーブルに置き、カーリーの肩を掴んで揺らす。

「落ち着け! 私の目を見ろ!」

 そしてカーリーは一瞬動きを止めた、と思うとそのまま失神してしまった。

「や、やばい……と、とりあえず保健室に……」

 そこで問題が発生した。それは、どうやって運ぶかだ。できるだけ面倒事は避けたいし……でも放っておく訳にも……

 しばらく考えたあと、桜花は結論を出した。

 

 

「ここは逃げる!」

「逃げるなぁぁぁ!」

 逃げようとする桜花の目の前に立ちはだかったのは目をらんらんと光らせる女子軍団の壁だった。

「う、う、うわぁぁぁ!」

 結局おんぶして運ぶ事になってしまった。そして保健室を出た後昼食を食べて、今は屋上で横になりながら休んでいた。それにしても、結構大変だった。

「うんうん、大変だったね~」

 上を見るとこちらを見下ろす大無の姿があった。 

「おぉ! びっくりしたぁ!」

 桜花は飛びあがるように立ちあがる。

「一体なんの用?」

「いや、今度の試合で相手する人に挨拶しようと思ってね」

 大無はそう言ってにっこりと微笑んだ。

「本当か?」

「もちろんだとも」

大無は表情を変えずに言った。

「……」

「……」

(苦手だ……この人は苦手なタイプだ……)

「それじゃあね。ばいば~い」

 桜花が少し難しい顔をしていると大無は手を振って帰ってしまった。

「……なんか、何処にでもいそうな奴だったな……」

そこで昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り、つかの間の休息は、終わった。

 

そして昼休みの後なんとかその日の授業を終え、桜花は先生に職員室呼ばれた為、夕日に照らされる廊下を歩いて職員室に向かっていた。

(そういえばあのカーリーっていう女子、授業に出てなかったな……謝ってこようかな……)

 俯きながらそんな事を考えながら歩いていると人にぶつかってしまった。

「いって、あ、すいません……」

 俺が顔を上げて謝るとそこには他の人には無いただならぬオーラを纏う女性が立っていた。

「こちらこそすまなかったな……む、おまえは……」

「あ、1年3組の鱗咲です……」

「自己紹介が遅れたな、私は1年1組の担任の……」

「織斑 千冬先生、ですね」

 そう桜花が言うと織斑先生はフッ、と小さく笑った。

「わざわざ紹介するまでもなかったか」

「ええ、一応調べましたから」

「そうか……職員室には何の用だ?」

「ああ、ハイス先生に呼ばれていましてね」

 織斑先生はその言葉を聞いた途端、顔が一瞬険しくなったと思うと何も言わずに歩き始め、すれ違いざまにこう言った。

「あの女には気をつけろ」

「えっ?」

 桜花が後ろを振り向くと赤い夕陽に照らされた背中があった。

「一体……」

 と、そこで本来の目的を思い出し急いで職員室に向かった。

 

「失礼します」

 桜花は自動ドアを通って職員室の中に入り、ハイス先生の元に向かう。しかし、先生は机に突っ伏したままで動くそぶりを見せない。他の職員もいつものことのように無視している。

「あの~先生?」

 桜花が先生を指先でつつくともの凄いいびきが聞こえた。

「ぐがぁ~ぐごぉ~。も、もうお腹いっぱいでひゅ。ぐが」

 さらにつつくも反応が無い。

「先生~!?」

 業を煮やした桜花はハイス先生の頭頂部を掴み、持ち上げる。

「痛い! 痛い! 痛い!」

 桜花が手を離すと机がめり込むような勢いで額をぶつける。良かった。頭にはちゃんと脳みそが詰まっているようだ。

「いってぇ!? 貴様、先生の頭を持ち上げるとは何事じゃぁ~!」

 ブォンという音共に頭を持ち上げ、般若の形相でこちらを睨む。いや、髪が前に垂れているので貞子か。

「先生! なに寝てんですか!?」

 そして桜花の姿を認識したのか先生の顔が貞子から元に戻った。

「え? いやあ、だってぇ、あまりにも来るのが遅いんだもん。テへぺロ☆」

 そう言って必死にポーズをとって誤魔化そうとする。この先生、謝る気ゼロである。桜花は怒りも呆れも全てすっ飛ばして感情が無になる。こんな人がここの教師になれるなんて……IS委員会とはなにぞや……?

「ってゆうか、先生。何の用ですか?何も無いなら帰りますよ?」

「え?何、もう帰っちゃうの?バカだなぁ……あ、いや、別に帰ってもイイケド……帰る所無いよ?」

 その言葉を聞いた途端、自分の耳を疑った。『帰る所が無い』?いやいやまさか、わたしはは孤児じゃない。

「どういう事ですか、先生?バカでも分かるように説明して下さい!?」

 桜花はその『バカ』という言葉に特に力を入れた。

「え、いやだってここ孤島だよ?どうやって家に帰るの?」

 確かに、ここは孤島に出来た学園だが、帰る方法なんて……

「船とかは今はナイヨ?」

 くっ、ならば!

「あ、ISで……」

「法律で禁止されてマース」

「気合いで……」

「私が逃がしまセーン」

(だ、駄目だ……この先生目がマジになってやがる。勝てる気がしない)

 完全敗北した。思わず項垂れてしまった桜花をよそに、先生は……

「HAHAHAHAHAHAHA!!」

 絶賛高笑い中である。流石イライラさせ師特一級保持者(勝手に命名)。

「ん~でもぉ、桜花ちゃんがど~してもって言うんなら僚の鍵をあげてもいいけどぉ~さっき先生の頭を持ち上げたしぃ~どうしよっかな~」

 いきなりの態度の急変に桜花は悩む。ここはどうする……?ここで謝れば負けを認めた事になる。しかし、ここから先雨風がしのげない状態で生活するのは……黄金伝説にもほどがある。

「先生、すいませんでした。鍵を下さい」

 もちろんここは謝る事を選択した。しかし先生は手を耳にあて、「エ? ナンダッテ?」とふざけた態度をとる。

「ハイス先生様、本っっっ当に、申し訳ありませんでした。このとおりですので鍵を譲っていただけませんでしょうか」

 桜花は額を床につけて謝る。周りからの憐みの目が逆に痛い。先ほどとはまるで逆の画である。

「うん! そこまで言うならいいよっ!」

 先生、満面の笑み。これは成層圏を突き抜けたサディスト女だと痛感させてもお釣りがくるほどの態度だ。そしてハイス先生は僚室のカードキーと地図を渡し、俺はそれを受け取った。番号は「×××号室」と書かれていた。

「あ、それとも先生と一緒の部屋がいい?」

 照れながらそういう事を言うのだが、ここは照れる事を恥じろと言いたい。

「謹んでお断りさせていただきます。俺まだ未成年ですよ?それ、犯罪ですよ?」

 そこでハイス先生はいままで誰も見たこともないような優しそうな笑みでこう言った。

「ふっ、嘘つけ。先生はちゃーんと知ってるよ。来訪者さん。悩みなら、聞いてあげるよ?」

 その言葉を聞いて顔から血の気が引くのが分かる。

「し、失礼しましたっ!」

 桜花は駆け出した。取り敢えず外へ外へと。そして夜の涼しさが火照った両頬を冷やす。日はすっかり落ち、周りは暗くなっていた。

「と、取り敢えず部屋に行こう。うん、それがいい」

 そして地図を頼りに敷地内を歩くこと五分、ついに目的の建物に到着した。そしてドアの取っ手部分にカードキーをかざし、部屋に入る。そして部屋に入るとタンクトップ姿で何やらパソコンを弄っている人物が一名。桜花はどこかで聞いた言葉を思い出した。人生には三つの坂があるという。それは上り坂と下り坂と……

 

                       『まさか』

「か、カーリー!?」



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第5話

一日

 

あの昼休みの後なんとかその日の授業を終え、桜花は先生に職員室呼ばれた為、夕日に照らされる廊下を歩いて職員室に向かっていた。

(そういえばあのカーリーっていう女子、授業に出てなかったな……謝ってこようかな……)

 俯きながらそんな事を考えながら歩いていると人にぶつかってしまった。

「いって、あ、すいません……」

 俺が顔を上げて謝るとそこには他の人には無いただならぬオーラを纏う女性が立っていた。

「こちらこそすまなかったな……む、おまえは……」

「あ、1年3組の鱗咲です……」

「自己紹介が遅れたな、私は1年1組の担任の……」

「織斑 千冬先生、ですね」

 そう桜花が言うと織斑先生はフッ、と小さく笑った。

「わざわざ紹介するまでもなかったか」

「ええ、一応調べましたから」

「そうか……職員室には何の用だ?」

「ああ、ハイス先生に呼ばれていましてね」

 織斑先生はその言葉を聞いた途端、顔が一瞬険しくなったと思うと何も言わずに歩き始め、すれ違いざまにこう言った。

「あの女には気をつけろ」

「えっ?」

 桜花が後ろを振り向くと赤い夕陽に照らされた背中があった。

「一体……」

 と、そこで本来の目的を思い出し急いで職員室に向かった。

 

「失礼します」

 桜花は自動ドアを通って職員室の中に入り、ハイス先生の元に向かう。しかし、先生は机に突っ伏したままで動くそぶりを見せない。他の職員もいつものことのように無視している。

「あの~先生?」

 桜花が先生を指先でつつくともの凄いいびきが聞こえた。

「ぐがぁ~ぐごぉ~。も、もうお腹いっぱいでひゅ。ぐが」

 さらにつつくも反応が無い。

「先生~!?」

 業を煮やした桜花はハイス先生の頭頂部を掴み、持ち上げる。

「痛い! 痛い! 痛い!」

 桜花が手を離すと机がめり込むような勢いで額をぶつける。良かった。頭にはちゃんと脳みそが詰まっているようだ。

「いってぇ!? 貴様、先生の頭を持ち上げるとは何事じゃぁ~!」

 ブォンという音共に頭を持ち上げ、般若の形相でこちらを睨む。いや、髪が前に垂れているので貞子か。

「先生! なに寝てんですか!?」

 そして桜花の姿を認識したのか先生の顔が貞子から元に戻った。

「え? いやあ、だってぇ、あまりにも来るのが遅いんだもん。テへぺロ☆」

 そう言って必死にポーズをとって誤魔化そうとする。この先生、謝る気ゼロである。桜花は怒りも呆れも全てすっ飛ばして感情が無になる。こんな人がここの教師になれるなんて……IS委員会とはなにぞや……?

「ってゆうか、先生。何の用ですか?何も無いなら帰りますよ?」

「え?何、もう帰っちゃうの?バカだなぁ……あ、いや、別に帰ってもイイケド……帰る所無いよ?」

 その言葉を聞いた途端、自分の耳を疑った。『帰る所が無い』?いやいやまさか、わたしはは孤児じゃない。

「どういう事ですか、先生?バカでも分かるように説明して下さい!?」

 桜花はその『バカ』という言葉に特に力を入れた。

「え、いやだってここ孤島だよ?どうやって家に帰るの?」

 確かに、ここは孤島に出来た学園だが、帰る方法なんて……

「船とかは今はナイヨ?」

 くっ、ならば!

「あ、ISで……」

「法律で禁止されてマース」

「気合いで……」

「私が逃がしまセーン」

(だ、駄目だ……この先生目がマジになってる。勝てる気がしない……)

 完全敗北した。思わず項垂れてしまった桜花をよそに、先生は……

「HAHAHAHAHAHAHA!!」

 絶賛高笑い中である。流石イライラさせ師特一級保持者(勝手に命名)。

「ん~でもぉ、桜花ちゃんがど~してもって言うんなら僚の鍵をあげてもいいけどぉ~さっき先生の頭を持ち上げたしぃ~どうしよっかな~」

 いきなりの態度の急変に桜花は悩む。ここはどうする……?ここで謝れば負けを認めた事になる。しかし、ここから先雨風がしのげない状態で生活するのは……黄金伝説にもほどがある。

「先生、すいませんでした。鍵を下さい」

 もちろんここは謝る事を選択した。しかし先生は手を耳にあて、「エ? ナンダッテ?」とふざけた態度をとる。

「ハイス先生様、本っっっ当に、申し訳ありませんでした。このとおりですので鍵を譲っていただけませんでしょうか」

 桜花は額を床につけて謝る。周りからの憐みの目が逆に痛い。先ほどとはまるで逆の画である。

「うん! そこまで言うならいいよっ!」

 先生、満面の笑み。これは成層圏を突き抜けたサディスト女だと痛感させてもお釣りがくるほどの態度だ。そしてハイス先生は僚室のカードキーと地図を渡し、俺はそれを受け取った。番号は「×××号室」と書かれていた。

「あ、それとも先生と一緒の部屋がいい?」

 照れながらそういう事を言うのだが、ここは照れる事を恥じろと言いたい。

「謹んでお断りさせていただきます。俺まだ未成年ですよ?それ、犯罪ですよ?」

 そこでハイス先生はいままで誰も見たこともないような優しそうな笑みでこう言った。

「ふっ、嘘つけ。先生はちゃーんと知ってるよ。来訪者さん。悩みなら、聞いてあげるよ?」

 その言葉を聞いて顔から血の気が引くのが分かる。

「し、失礼しましたっ!」

 桜花は駆け出した。取り敢えず外へ外へと。そして夜の涼しさが火照った両頬を冷やす。日はすっかり落ち、周りは暗くなっていた。

「と、取り敢えず部屋に行こう。うん、それがいい」

 そして地図を頼りに敷地内を歩くこと五分、ついに目的の建物に到着した。そしてドアの取っ手部分にカードキーをかざし、部屋に入る。そして部屋に入るとタンクトップ姿で何やらパソコンを弄っている人物が一名。桜花はどこかで聞いた言葉を思い出した。人生には三つの坂があるという。それは上り坂と下り坂と……

 

                       『まさか』

「か、カーリー!?」

 そしてこちらを向いたカーリーは口にくわえていたアイスキャンデーを落してしまった。 



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